the blue (N ignite)
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第1章 1学期編
1話 別れ、そして、出会い


「……そろそろ、行かなきゃな…。」

広い空が一望できる丘の上で、俺は隣に立つ少女に告げた。

「………うん……。」

今にも泣き出してしまいそうな顔で、少女は答える。

「おい、そんな顔をするなよ。そういうのはナシだって約束しただろ?」

「……でも、でもぉ…。」

少女の頬を伝う何かがあった。

涙だ

「ったく、しょうがないな。じゃあ、ほら。」

見ていられなくなった俺は、大事にしていたペンダントを首から外し、少女に差し出した。

「え、これって…。」

一瞬だけ、少女の涙がその勢いを止めた。

「これを預かっていてくれ、俺の大事な物だ。いつか必ず会いに行くから」

少女は再び涙を流してしまったが、その顔にはいつもの笑顔を浮かべていた。

「…うんっ!」

俺からペンダントを受け取り、自らの首に下げた。

「また、会えるよね!」

「あぁ、約束だ。必ず会おう。」

俺達は誓った。

必ずどこかで、また会うと。

この日の空は、遥か先の彼方まで、どこまでも澄み渡っていて。

上を見上げた俺達の視界を、鮮やかな蒼に染め上げていた。

 

 

 

あの頃は、怖いものなんて無かった。

絶望も、挫折も、一度もしたことが無かった。

俺はあの蒼い空に憧れ、手を伸ばした。届くことはなくても、

いつの日か、あの空を越え、どこまでも飛んでいける気がした。

でも、現実はそんなに甘くは無かった。高く積み上げた自信も、プライドも、一瞬にして打ち砕かれることを、この頃の俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 

夢を見ていた。

俺と一人の少女との約束。どこか懐かしく、俺にとってはつい昨日のことのように思える。

「……ん」

窓から差し込む朝日が俺を現実へと引き戻し、俺は自室で目覚めた。

「…朝か。」

俺はゆっくりと体を起こし、そこで違和感に気付く。やけに視界が歪んでいる。瞬きと同時に、それは頬から顎へ伝う。

俺はようやく「それ」が涙であることを理解した。

「あれ…俺、何で…。」

もう夢の内容は思い出せない。俺は諦め、目に溜まった涙を拭った。ふと壁に掛けてある時計に目を移す。その時計が示す時刻は、7時56分。寝坊だ。

「やべっ!」

俺は慌ててベッドから飛び降り、制服に着替える。朝食を取る暇もなく、俺はバッグを抱えて家を出た。

「よし、行くか。」

今から走っても始業には間に合わない。しかし、俺の秘密兵器を使えばギリギリ間に合うだろう。

俺は素早く腕時計を操作する。途端、俺の体が浮かび上がった。

これが俺の秘密兵器、「魔法」だ。

全世界で魔法が使える人間は少数で、俺はその内の一人だ。そして、俺が通う学園は、所謂「魔法学校」というやつだった。

「よし、これなら間に合う。」

俺は学園に向かって一直線に飛ぶ。法律によって飛行速度に制限があるが、十分だ。

「それにしても、何にも無いところだな、此処って。」

それもそうだ、ここは日本の最南、沖縄県の中で最も小さい島なのだから。魔法が使える人間が少ないため、都会に学園を設立する必要がないのだ。

「東京にあるっていう、国内トップの魔法学校、行ってみたいなぁ…。」

東京の魔法学校は、エリートのみが集まる名門である。そのため生徒の数も非常に少ない。

「うちはまだまだレベルが低いもんなぁ。」

などと考えながら飛んでいると、ふと道路を走る人の姿が目に写った。

「あれ、うちの制服だよな…。」

走っているのは、俺と同じ「冷泉学園」の制服に身を包んだ女子生徒だ。懸命に走っているが、このままでは間に合わない。

「仕方ないな。」

俺は降下し、女子生徒の前へ降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 




小説の投稿は初めてでしたが、いかがだったでしょうか?
誤字、脱字や分かりづらい箇所が多かったと思いますが、少しでも多くの方に読んで頂けたら幸いです。


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2話 転校生

高まる焦燥感を押さえられず、私はただひたすらに走った。

「はぁ……はぁ……、このままじゃ…、間に合わないよぉ……。」

今日は、私が「冷泉学園」に転校して初めての登校……のはずが、盛大に寝坊するという大失態を犯し、遅刻してしまいそうだ。

「ちゃんと……目覚まし時計……セットしておけば……よかったぁ……。」

今更後悔してもどうにもならないことはわかっていたが、そう思わずに居られなかった。もっと速く走って学校へ向かおうとしたその瞬間。

「大丈夫か?」

「…え?」

不意に頭上から声が聞こえ、咄嗟に声の方へ顔を向けた。

 

 

 

何で俺は、こんな柄でもないことをしているんだ……。

そう思った時にはもう遅く、俺は考えるよりも先に体が動いていた。

放っておけなかった、というのが一番の理由だった。

何でそう思ったのかは分からない。ひょっとしたら俺は、相当なお節介なのかもしれない。

まぁ、今はそんなことはどうでもいい。

「君、うちの生徒だよな?このままだと間に合わないぞ。『エアリアル・スペル』は使えないのか?」

『エアリアル・スペル』

この世界に数多く存在する魔法のうち、風を操る魔法の総称としてそう呼ばれている。比較的簡単な魔法で、使える人も多い。

因みに俺も現在、魔法によって空を飛ぶことが出来ている。

「えっと……その……。」

喉から絞り出したように女子生徒が声を出すが、まだ状況を飲み込めていない様子だ。

「自己紹介がまだだったな。俺は流川湊、冷泉学園の2年生だ。君は?」

そこでようやく、彼女ははっと我に帰り、自己紹介を始めた。

「は、はいっ!私は、花宮遥といいます!今日から冷泉学園に転校することになりました。私も同じく2年生です。よろしくお願いします!」

ぺこりと可愛らしいお辞儀をひとつしながら彼女は自己紹介を終えた。

「こちらこそ、よろしく。ところで花宮さんは魔法、使えるの?」

彼女は少し得意気な顔になり、答えた。

「はい!私はこう見えても治癒魔法が得意なんです!それ以外は少し苦手ですけど…。」

なるほど、どうやら魔法が使えない訳ではないようだ。

「なら、エアリアル・スペルで空を飛ぶことは出来る?」

「いえ…、エアリアル・スペルは使えるんですが、コントロールすることは出来なくて…。」

「そうか、じゃあ…。」

俺は一拍置いて、

「俺がサポートするから、一緒に飛んで行こう。今から飛べば、まだ学校に間に合う。」

「で、でも…。」

躊躇う彼女に俺は手を差し伸べる。

「時間がない!早く!」

「は、はいっ!」

俺の腕にしっかりと掴まり、魔法の発動を確認し、俺は

「飛ばすからしっかり掴まってて!」

「えっ?……きゃあっ!」

制限速度ギリギリまで加速し、学校の方へ一直線に飛ぶ。風を受けて、花宮さんの桃色の髪が綺麗になびいている。

「花宮さん、目を開けてごらん!」

俺の腕に両手でしがみつき、ぎゅっと目を瞑っている花宮さんは

ぶんぶんと首を振り、

「無理ですぅ!怖いですぅ!」

泣きそうな声で叫んだ。

俺は少しだけスピードを落として

「大丈夫!怖いのはほんの一瞬だけだよ!」

「うぅ……。」

やがて花宮さんはゆっくりと目を開けた。

「あ……」

そこに広がる、鮮やかな蒼に染まった海と空は、花宮さんの初めての飛行を祝福しているようだった。

「綺麗…です。」

その景色に魅了された者が必ず口にする言葉を、花宮さんは言った。

「この景色は、飛んだ人にしか分からないんだ。俺も、初めて飛んだ時は怖かったし、緊張した。でも、一度飛ぶことの楽しさを知ってしまったら、止められなくなっちゃうんだ。」

「…私も、飛べるように、なれるでしょうか?」

昔、俺が同じようなことを考えたことがあった。俺でも飛べるようになるのか、そう思っていたときに言われた言葉を、そのまま花宮さんに伝える。

「なれるさ、花宮さんなら。」

本来、俺はこんな偉そうなことを言える立場ではない。なぜなら、俺は一度、飛ぶことを拒絶していたのだから。

「……流川さん。」

「ん?」

不意に呼ばれ、俺は花宮さんの方へ顔を向ける。

花宮さんは真剣な眼差しで俺を見て、

「私に、飛び方を教えて下さいっ!」

「…………へ?」

俺の間の抜けた声は、波の音と、周りを飛ぶウミネコの声ですぐに掻き消された。

 

 

 




頭の中でストーリーを考えながら作ってるので、雑な部分がとても多いです。キャラの名前も、適当に作ったので、ご了承下さい。これからキャラはもっと登場させる予定です。


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3話 空への憧れ

1話と2話のUAが思っていたよりも遥かに多かったので、凄い嬉しいし、モチベーションも上がってきています。本当にありがとうございます。


「……花宮さん、今…何て?」

俺は戸惑いを隠しきれず、花宮さんに言った。

「ですから、私に飛び方を教えて下さい!」

「……何で俺に教わろうと思ったんだ?俺よりも適任な人がいるんじゃないの?」

花宮さんは真剣な眼差しのまま、

「流川さんは、飛ぶことの楽しさを私に教えてくれました。私は今、流川さんと一緒に飛んでて、すごく楽しいんです。だから、お願いします!」

……あぁ、そうか

あの頃の俺も、こんな感じだったんだろうな。

 

 

 

 

………………

「ねぇ、お姉ちゃん。」

7年前、当時10歳の俺は、空を飛びたがっていた普通の子供だった。

「ん?どうした、湊。」

背中までかかる長い髪をかき揚げ、その人は答える。

「俺に、飛び方を教えて欲しいんだ。」

その人は少し驚いたような表情になったが、やがて微笑を浮かべて、

「どうして、飛びたいと思ったんだ?」

俺は、真剣な表情で、

「空を飛んでる時のお姉ちゃん、凄くカッコいいし、誰よりも楽しそうな顔してるし……」

「………………。」

その人もまた、俺の言葉を真剣に聞いていてくれた。

「俺、そんなお姉ちゃんに憧れて、お姉ちゃんみたいに飛びたくて……。」

「わかった。」

「えっ……」

俺の話を聞いていた彼女は、突然俺の言葉を遮った。

「わかったよ湊、お前に、飛び方を教えてやる。」

「い、いいの!?」

俺は正直断られると思っていた。しかし、彼女は俺の願いを聞き入れてくれた。

「あぁ」

短く、でもはっきりと、彼女は告げた。

「空を飛びたいと願うなら、それだけで理由は十分だ。」

感動のあまり泣きそうになったが、なんとか涙をこらえた。

「ありがとう!お姉ちゃん!」

「でも、私の指導は半端じゃないぞ。覚悟しておけよ?」

にやっと不敵な笑みを浮かべて言うもんだから、少しビビってしまった。

「う、うん……。」

………………

7年前、俺があの人に出会わなければ、今こうして飛ぶことは絶対に無かっただろう。

そのくらい、俺にとってはあの人の存在がとても大きなものだった。

 

 

 

 

「流川さん?どうかしましたか?」

昔の自分を思い出していたが、俺はそこでようやく名前を呼ばれていることに気付いた。

「あぁ、ごめん。ちょっと昔のことを思い出しててさ。」

「昔、ですか?」

花宮さんが不思議そうに首を傾げる。

「うん、俺が空を飛び始めた頃のことだよ。」

「流川さんは、誰に飛び方を教わったんですか?」

俺は苦笑して更に言葉を繋げた。

「そうだなぁ、とにかく無茶苦茶な人だったよ。気まぐれで、破天荒で。でも、俺の成長を誰よりも喜んでくれたんだ。」

「いい人なんですね。私も会ってみたいです。」

「会えるよ、学校で。」

そこで花宮さんの頭に疑問符が浮かぶ。

「…どういうことですか?」

「その人、今は冷泉の教師をしてるんだ。風術学を教えてて、俺のクラスの担任なんだ。」

そこまで言い、俺は重要なことを思い出した。

…そういえば、今日ってあの人が校門前に立ってる日じゃ…。

「まずい!花宮さん、少しスピード上げるよ!」

「えっ、どうしたんですか?」

俺は焦りながら事情を説明する。

「今日はその先生が校門前に立って遅刻した奴がいないかチェックするんだ。もしあの人の前で遅刻でもしたら、何されるか分かったもんじゃない!」

言い終えると同時に、俺は加速した。

「うわっ!」

「ごめん花宮さん!しっかり掴まってて!」

花宮さんは再び俺の腕にしがみついた。密着しているせいで腕に柔らかい感触があるが、気にしてはいけないような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「お姉ちゃん」と呼んでいるせいで、湊の姉みたいに思えますが、実際は血は繋がっていません。当時10歳の設定なので、この呼び方の方がいいと思いました。
あ、因みに花宮さんはEの設定です(何がとは言わない)
次回から登場キャラを一気に増やす予定です。
何かアドバイス等があれば、気軽にコメントしていただけれは幸いです。


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4話 師匠

俺は腕時計で時間を確認した。

「8時23分…ギリギリだな。」

俺の腕にしっかりとしがみついている花宮さんに聞こえない程度の小声で呟く。もう少しスピードを上げようかと思ったが、どうやらその必要はないようだ。

「花宮さん、見えてきたよ、冷泉。」

「うぅ…、やっと着いたんですかぁ。」

まだこのスピードに馴れていない様子で答える。不覚にも少し怖がっている花宮さんが可愛いと思ってしまったのは内緒である。

俺は雑念を振り払って残りの距離を飛ぶ。田舎にある学校にしては大きめの校舎とグラウンド越え、校門の方へ向かう。校門では俺達のように時間ギリギリに来た生徒が駆け足で校門をくぐる。

俺達は指定された離着陸スペースまで飛んできた。

「花宮さん、着地体勢をとるから、両手を広げてバランスを取って。」

「は、はい。こうですか?」

花宮さんは覚束ない動作で両手を広げ、必死にバランスを取っている。

「そう。そのままゆっくり下降するから。」

俺はゆっくりと高度を下げ、先に花宮さんを着地させた。

「わっ…と、ふぅ…。」

着地の際に少しよろけてしまったが、なんとか体勢を立て直した。

「よっと」

俺は空中で魔法を解除し、花宮さんから少し離れた地点で着地した。

「よし、早く校舎に入ろう。花宮さん、こっち。」

辺りをキョロキョロ見渡している花宮さんに声をかけ、俺は校門へ向かった。

「あっ、流川さん、待ってくださいよ〜」

 

 

校門の前では、一人の教師が遅刻する生徒が居ないかを見張っていた。俺はその人へ向け、

「おはようございます、如月先生。」

その人が俺の存在に気付く。

「おっ、湊、遅いじゃないか。遅刻するんじゃないかと思ったぞ。」

目はキリッとしているが、優しそうな印象を与える口元。昔は背中までかかっていた髪を肩までに切り、メイクの類いは一切施していない。スーツの代わりに柄の入ったTシャツにダメージジーンズを身に付け、その上から白衣を羽織っている。

少なくとも教師には全く見えないこの人こそ、俺に飛び方を教えてくれた師匠の如月葵羽(きさらぎ あおは)さんだ。

「お、おはようございます、如月先生。」

俺に続いて花宮さんが先生に挨拶をする。

「ああ、おはよう。花宮、転校初日から遅刻するところだったぞ?」

「うぅ…、ごめんなさい。寝坊してしまって…。」

「全く、初日から私の仕事を増やさないでくれよ?」

全く、と言っているが、先生に怒っている様子は微塵も無く、愉快そうに笑顔を浮かべている。

「でもまさか、湊と一緒に飛んでくるとはな。予想外だった。」

「えっと、まあ…色々あって。」

実は俺も寝坊したとは言えない。

と考えていると、急に如月先生が真剣な表情になる。

「お前が空を飛んでいるところを見たのは、久しぶりだな。戻る気にでもなったのか?」

戻る、という言葉が何を表しているのか、俺はすぐに分かった。

「いえ……、やっぱり俺は、戻るつもりはありません」

自然と表情が暗くなってしまう。

「……そうか。飛びたくなったら、いつでも戻ってきていいんだぞ」

「………はい」

少し気まずい空気になってしまった。さて、どうしたものか…。

と、考えている俺の袖がくいくいと引っ張られた。

「あの…、」

花宮さんだった。

「えっと…、どうかした?」

「いえ、流川さんが少し難しい表情をしていたので…」

どうやら、俺を心配してのことだったらしい。

「あぁ、ごめん。別にたいしたことじゃないから。」

「それならいいんですが…」

途端、学校のチャイムが俺の耳に届く。はっと腕時計を確認した。

8時30分、どうやら遅刻はしなくて済んだようだ。

「今日も遅刻者なし、と」

如月先生がそう呟き、

「湊、お前は早く教室に行け。花宮は私と一緒に職員室に行くぞ。」

「はい」

「は、はいっ!」

俺達は同時に答え、俺は教室へ、花宮さんは如月先生と職員室へ向かった。

 

花宮さんの前を歩く如月先生の横顔は、懐かしいような、寂しいような、複雑な表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コロナウイルスの影響で、しばらく休校になってしまいました。
日本でも感染者が増えてきているようです。なるべく早く収まって欲しいですね。

次回からクラスメイトを何人か増やす予定です。
ぜひ読んで頂けたら幸いです。


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5話 愉快な仲間たち

俺は昇降口で靴を履き替え、真っ直ぐ教室へ向かう。いつもと違い、廊下は静かだ。

「そりゃそうか…」

もう既に殆どの生徒が登校して教室にいるのだから当然のことだ。

俺は少し進んだところで足を止め、目の前のドアを開ける。

「おっ、湊、今日は遅いじゃーん。」

「おはよー流川くん。珍しく寝坊?」

教室に入ってきた瞬間、会話をしていた二人が俺の存在に気付く。

「おはよう二人とも。今日はちょっと寝坊しちゃってな」

そう言って俺は席に着く。

「そう言えば湊、今日って転校生が来るらしいよ!」

俺の前の席に座っている、朝からテンションが高いこいつの名前は相沢藍(あいざわ らん)。1年のときからの同級生だ。頭が良く、常に成績は学年トップを維持。更に運動神経も良く、スタイル抜群の黒髪美人。まさに三拍子揃っていると言ってもいい。

しかし、こいつは性格に難がある。

極度のめんどくさがりとマイペース。男子からの人気は凄いのだが、女子からは良く思われていないようだ。

「転校生ってこのクラスなのかな?どんな人なんだろ?」

藍の言葉に反応したのは、藍の隣の席に座っている棗杏花(なつめ きょうか)。明るく活発で、ムードメーカー的存在である。こいつとは2年のとき同じクラスになり、藍を通じて仲良くなった。

「転校生か…、今朝会って一緒に飛んで来たけどな。どこのクラスなんだろうな」

俺は今朝の出来事を思い出しながらそう言った。その瞬間、二人は驚いたように口をぽかーんと開け、

「湊……もう会ってたの?」

藍が俺に訪ねてきた。

「どんな人?男の子?女の子?」

杏花が続けて俺に訪ねる。

「一度にそんな質問しないでくれよ……。そうだな」

そこまで言いかけて教室のドアが開く音が聞こえた。俺達はそちらに視線を向け、

「よーし、全員揃ってるな。ホームルームやるぞー」

声と共に如月先生が教室に入ってきた。全員が話を止め、前を向く。

「もう知っているとは思うが、今日、転校生が来ている。」

途端、クラス内に歓声が起こる。やはり皆転校生に興味津々らしい。

「よし、じゃあ入ってこい!」

如月先生がドアの向こうへ呼び掛けた。

やがてドアがゆっくり開かれ、彼女は教卓まで進んだ。

「よし、じゃあ自己紹介してくれ」

如月先生の声に彼女は

「はいっ!」

元気良く頷き、チョークで黒板に名前を書いた。

「花宮遥と言います。よろしくお願いします!」

再び教室に歓声が起こった。

俺にとっては二度目の自己紹介を聞き、思った。

(へぇ、まさかうちのクラスだったとはな)

花宮さんの自己紹介が終わり、

「じゃ、席はあそこ、湊の隣だ」

「はい!」

そのまま俺の隣の席に座り、

「あ…、今朝はありがとうございました」

小声そう言い、小さくぺこりとお辞儀をした。

「どういたしまして。これからよろしく」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

こうして、俺の日常に大きな変化が訪れた。

 

 

「ねぇねぇ、遥さんって湊と知り合いだったの?」

「好きな食べ物って何?」

今は休み時間。花宮さんは藍と杏花に質問攻めを受けていた。

「流川さんと会ったのは今日が初めてです。あと好きな食べ物はイチゴです」

花宮さんは二人ともすぐに打ち解け、すっかり仲良くなっているようだ。

「いやーしかし湊もたまにはカッコいいことするじゃーん」

「そーそー。『俺がサポートするから、一緒に飛んで行こう』だってさ!」

「その話は止めてくれ……」

俺は逃げるように両手で顔を覆った。

「そんなに気を落とさないで下さい!あの時の流川さん、かっこよかったですよ?」

「それはどうも……」

しばらくはこのネタでいじられそうだ。トホホ……

 

 

 

 

 




今回でクラスメイトを二人追加してみました。どちらも女子です。つまりハーレムです。


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6話 飛べるようになりたい

「で、あるからして……」

お決まりの台詞と共に教壇に立つ教師は黒板にチョークで板書をしていく。今は国語の授業をしている。俺の隣に座っている遥とその前に座っている杏花は真剣にノートをとっているが、俺の前に座っている藍は、堂々と机に伏せている。しょっちゅう寝てるのにテストでほぼ毎回100点を取っているのが不思議でならない。

などと考えつつ、俺もノートをとる。やがて授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、昼休みに入った。

「さて、飯にするか」

「流川さん、一緒に食べませんか?」

俺はバッグから弁当を取りだし、

「あぁ、もちろん。ほら藍、起きろ、飯だぞ」

未だ眠っている藍を起こした。

「んぁ〜、何?夜這い?もー湊ったら〜w」

「お前ずっと寝てろ」

藍の後頭部に軽くチョップする。

「あいたっ、ごめんごめん冗談だって」

「まったく……」

女子とは思えない発言に呆れてしまう。

俺達はそれぞれの机をくっ付け、弁当を広げる。

「湊、唐揚げ一個ちょーだい!」

「あっ、お前!俺の自信作を!」

「まぁまぁ、あたしの煮物あげるから!」

俺は苦笑し、藍と交換した煮物を口へ運ぶ。

……悔しいけど、旨い。

「流川さんは、自分でお弁当を作ってるんですか?」

隣で弁当を食べる花宮さんにそう聞かれる。

「まぁね、家は両親が忙しいから、自分の弁当くらいは自分で作らないと」

「それ全部、流川さんが作ったんですか?」

花宮さんは俺の弁当を見て驚いたように言う。

俺の弁当のおかずは、唐揚げ、卵焼き、ミニハンバーグ、プチトマト、きんぴらごぼうといった感じだ。確かに作るのが大変そうなものばかりである。

「まぁ、料理は昔からやってたから。」

そう言って俺は白米を咀嚼する。

「料理出来るなんて、女子力高いよね〜」

コンビニのサンドイッチを頬張ながら、杏花が言う。

「そうか?」

「寧ろ、普通の女子より女子力あるんじゃない?」

いつも通り雑談をしながら、俺達はそれぞれの弁当を食べる。

 

 

「さて、確か午後は風術学の実習だったな」

食べ終えた弁当を片付けながら俺は言った。

「うぇ〜、あれめんどくさいんだよね〜」

藍が気だるげに答える。

「お前は何でもめんどくさがるからな」

「流川くん、風術学得意だもんね」

俺はペットボトルのお茶を一口飲み、

「得意と言うか、慣れてると言うか」

「風術学の実習は、どんなことをするんですか?」

花宮さんが俺に訪ねた。

「そうだな、主にエアリアル・スペルを使って実習をするんだけど、空を飛んだり、物を浮かばせたりするんだ」

「何だか、大変そうです。私はまだ自力で空を飛べないので…、早く飛べるようになりたです」

「焦る必要はないよ。エアリアル・スペルを使うことに慣れたらすぐに飛べるようになるよ」

俺が花宮さんに話していると、教室のドアがガラガラと開けられた。

「あっ!いたいた、アニキ!」

声の主は教室に入るなり、俺の元へ駆け寄ってきた。

「学校でその呼び方は止めろって言ってるだろ?」

ため息混じりで俺が答える。

「え〜、いいじゃないっすか!」

「あのなぁ……」

そこで俺達の話を隣で聞いていた花宮さんが口を開く。

「お二人は、お知り合いですか?」

「あぁ、こいつは黒瀬瞬(くろせ しゅん)。俺の後輩だ」

「はじめまして!黒瀬瞬と言います!」

瞬は小柄な体でお辞儀をした。

「見ての通り、元気だけは一人前だな」

「『だけ』って何ですか!」

俺はスルーしてお茶を飲み、

「んで、何しに来たんだ?」

瞬はにかっと笑って

「何となく!」

「帰れ」

 

 

そうこうしてるうちに、チャイムが鳴り、昼休みが終了した。

瞬は自分の教室に戻り、俺達は次の授業のため、校庭へ移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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7話 本気

俺達は次の授業のため、校庭へ移動した。

「よし、じゃあ今日は前回に引き続き、エアリアル・スペルを利用した飛行技術を身に付けてもらう。」

この授業の担当である如月先生が前に出て説明をする。

「うぅ……飛べるか不安です……」

俺の隣で花宮さんが不安そうに呟く。

「大丈夫だよ。湊が教えてくれるから」

近くで聞いていた藍がいきなりそんなことを言う。

「お、おい。お前なぁ…」

俺は呆れて言葉を返す。

はあっと小さくため息をつき、

「まぁ、花宮さんが良ければいくらでも教えるけど…」

「いいんですか?是非お願いします」

確かに今の花宮さんは一人で飛ぶことすら覚束ない。故に誰かがしっかりコーチした方がいいのだろう。

「今日は速い速度で飛べるようになってもらう。そこで湊、手本を見せてやってくれ」

「………はっ?」

説明を続けていた如月先生から突然名前を呼ばれ、変な声が出てしまった。

「えっと……なんで俺なんですか?」

如月先生は涼しい顔のまま、

「なんでって、お前がこの中で一番飛ぶのが上手いだろう」

うんうんと、クラス全体が頷く。

「何でそうなるかなぁ……。分かりましたよ、やります」

俺は諦めて肩を落とす。

「じゃあ早速スタート地点まで行ってくれ」

「…はい」

俺はエアリアル・スペルを展開し、自分の体を宙へ持ち上げた。そのままスタート地点まで飛び、

「ここでいいですか?」

少し離れた位置の如月先生へ呼び掛ける。

「あぁ、そこから100メートルほど全力で飛んでくれ。いいか、全力だぞ」

「うぐっ…」

こっそり手を抜こうとしていたのがバレていたらしい。

「わ、分かりました。いつでもいけます。」

俺はそう言って如月先生の合図を待った。

「流川さんって、そんなに飛ぶのが上手なんですか?」

如月先生の近くで花宮さんが藍と杏花に訪ねている。

「かなりね。あれは異常だよ」

「そ、そんなにですか?」

藍の言葉に驚いている様子の花宮さん。

「まぁ、見てれば分かると思うよ」

杏花が続けて言う。

(やめろ、プレッシャーをかけないでくれ。)

「湊、いいかー?」

如月先生が手を振って合図を送る。

「はーい」

俺も手を振り返して返事をする。

「それじゃ行くぞ。よーい…」

俺は素早く飛行体勢をとり、両膝を軽く曲げて待機する。

「ドン!」

瞬間、俺は全力で前方に飛んだ。曲げていた膝を伸ばし、一気に加速する。

「は、速い!」

花宮さんがまたもや驚いた様子で声をあげる。

「ほう……」

ただ、如月先生だけは他とは反応が違った。

「……っ!」

俺は残りの距離を高速で飛び、あっという間に100メートルを飛び終える。

「5.8秒…、どうやら腐ってはいないようだな」

如月先生のその言葉は、誰にも聞こえることは無かった。

 

 

 

「はあ…はあ…」

こうやって全力で飛ぶのは何年ぶりだろうか。すっかり鈍ってしまった体を落ち着けるように、俺は肩で息をする。

「湊、よくやった。戻ってきてもいいぞ」

俺は呼吸を整えながら、ゆっくりと戻る。

「ふぅ……」

ようやく体を落ち着けた俺は空中で魔法を解除し、花宮さんの隣に着地した。

「よっ…と」

「ね?言ったでしょ?」

近くにいた藍がいきなりそんなことを言った。

「ん?なんのことだ?」

俺は理解ができずに聞き返すと、

「る、流川さん、凄いです…。あんなに速く…」

「そ、そうかな?」

目をキラキラさせた花宮さんが俺に迫る。

「いい手本だったぞ、湊」

如月先生が俺達に割って入った。

「あ、ありがとうございます」

先生は軽く頷き、

「じゃあ二人一組のペアを作って練習するように!」

いつも通りの凛とした声で言った。

「じゃあ杏花、組もっか!」

「おけー!」

藍と杏花がペアになり、二人で練習を始めた。

「さて、じゃあ俺も…」

俺がペアを探そうとしていると、

「湊、お前は花宮を見てやれ」

如月先生に呼び止められ、俺は咄嗟に振り向く。

「お、俺が、ですか?」

「あぁ、何か問題でもあるか?」

先生は表情を一切変えずに答える。

「その、俺なんかに教えることが出来るんでしょうか?」

「少なくとも、こいつは教わる気満々だぞ」

俺は先生の隣に立つ花宮さんに視線を向けた。期待しているような目でこちらを見ている。

俺の脳内で選択肢が発生した。

 

教えてあげますか?

→はい

いいえ

 

俺は即答で『はい』を選択。

「わ、分かりました。俺で良ければ」

俺がそう答えた瞬間、

「あ、ありがとうございます!」

同時に勢いよく頭を下げる。

「じゃあ頼んだぞ、湊」

「は、はい…」

結果、俺と花宮さんがペアを組み、俺が花宮さんに飛び方の基本を教えることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近暇な時間が多くて何しようか悩んでいます。
休校中なのでしばらくは暇な時間が続くんですよね。


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8話 守りたいものの為に

俺は花宮さんとペアを組み、飛び方を教えていた。

「最初は両手を広げてバランスをとりながら上昇してみようか」

初心者はバランスを崩しがちな為、両手を使ってバランスをとるのが一般的なやり方だ。

「えっと、こうですか?」

楽花宮さんが両手を真横に広げた。

「そんなに硬くならなくていいよ。狭い足場に乗ったとき、つい両手を広げちゃうよね。そんな感じかな」

何とも下手くそな説明だ。どうやら俺にコーチは向いてないらしい。

「じゃあ、このくらいでしょうか?」

肩の力を抜き、さっきよりも両手を少し下げて広げた。

「うん、そんな感じ。次はそのままエアリアル・スペルを展開してみようか」

「はい!」

花宮さんはその場でエアリアル・スペルを展開し、花宮さんを中心に風が吹いた。

「その調子で5メートルほど上昇してみてくれ」

花宮さんは俺の顔を見て頷き、少しずつ上昇していく。

「よし、じゃあそこで一旦止まって……わっ!」

俺は咄嗟に顔を背けた。花宮さんの周りに吹いている風の影響でスカートの中が見えそうだったのだ。

「流川さん?どうしたんですか?」

「い、いや!何でもない!」

そんなことを本人に言えるはずもなく、俺は顔を背けたまま、花宮さんと同じ高さまで上昇する。

「よ、よし。じゃあ次は……」

俺は気を取り直して説明を続けた。

 

 

 

 

「流川さん。今日はありがとうございました!」

学校も終わり、今は花宮さんと一緒に下校している。

「気にしなくていいよ。空を飛びたいっていう気持ち、俺にはよく分かるから」

花宮さんは筋が良く、言ったことをすぐに理解し、覚えてくれる。俺なんてすぐに追い抜かれそうだ。

「それにしても流川さんってとても速く飛べるんですね。今日、凄かったですよ!」

辺りは夕陽を受けて真っ赤に染まり、俺達は人気の無い道路を並んで歩いていた。

「全力で飛んだのは5年ぶりくらいかな?ずいぶんと体が鈍ってしまった」

「じゃあ、全盛期はもっと凄かったんですか?」

「あぁ、あの時の100メートルの自己ベストは4.7秒だったよ」

「なんかもう、めちゃくちゃですね……」

などと会話を繰り広げながら歩いていると、不意に花宮さんが立ち止まった。

「あ、私の家はこっちなので、ここで失礼します」

「あぁ、じゃあまた明日」

花宮さんは軽く一例し、とてとてと帰路を辿っていった。俺はその小さな背中を見送り、

「さて、俺も帰るか」

俺はそう言って一歩を踏み出した。

その時

「は、離して下さい!」

「ッ!」

この声は、花宮さんの!

俺は花宮さんがさっき進んでいった方向に目を向けた。

俺は絶句した。

花宮さんは二人のチャラい男に挟まれ、更に片方の男に腕を掴まれていたのだ。二人の男はにやにやと頬をつり上げ、花宮さんに向かって何かを話している。

一方、花宮さんは恐怖で肩が震え、目には涙が溜まっていた。

「…………」

俺は無意識に走り出した。その後の事はよく覚えていない。

 

 

 

 

私は流川さんと別れたあと、真っ直ぐ家に向かって歩きだした。

「今日の流川さん、かっこよかったなぁ」

本人の前では恥ずかしくて言えないことを呟く。今日のことを思い出しただけで自然と笑みが零れた。

「明日も、楽しみだなぁ」

私が何気なくそう言った直後、

「ねぇねぇそこの君、ちょっといい?」

目の前から歩いてきた二人の男性のうちの一人に声をかけられ、私は咄嗟に返事をした。

「は、はい!何でしょう?」

するともう一人の男性が私の背後に回った。

「え?」

私が疑問に思った、その直後。

「はい、捕まえたー」

正面に立つ男性が私の腕を掴んできた。

「へぇー、結構かわいいコじゃーん。ねぇ、俺達と遊ばない?」

私はようやく非常事態であることを察した。正面の男性に腕を掴まれ、背後にも男性が一人。どう考えても女子高生一人の力ではどうにも出来ない。

でも、抵抗しなきゃ……!

「や、止めて下さい!離して下さい!」

捕まえた手を振りほどこうとするが、男性の力に敵うはずもなく、

「暴れんなって、どうせこんな人気の無い場所なんだから叫んだって誰も来ねーよ」

「大人しく俺達と遊ぼーぜぇ、へへへ」

二人の男性が舐め回すように私の体を見る。

「っ!」

とてつもない恐怖と屈辱で、上手く声が出せない。

「うっ、うぅ……」

嗚咽と共に涙が瞼に溜まるのが分かる。

二人は頬をつり上げ、私の体にゆっくりと手を伸ばした。

(助けて……流川…さん)

私はぎゅっと目を瞑り、心の中で彼に助けを求めた。彼とはさっき別れ、来るはずが無いことは分かっていた。

しかし、いつまで経っても手は私の体に届かない。

「ぐはっ!」

その代わりに聞こえてきた、男の声。

「な、なんだてめぇ!」

ゆっくり目を開けると、正面の男は焦ったような表情を浮かべていた。どさっと大きな音をたて、男の足元にもう一人の男が転がってきた。その男は気を失っているようで、口から泡を吹いている。

「………え」

一体誰が。そう思った直後、私の腕を掴んでいた手が引き剥がされた。男が数歩後ろに下がり、私との間に入った人物を見て、私は目を見開いた。

「流川……さん……?」

こちらに背中を向けているため、表情は確認できないが、間違いなくさっき別れたはずの流川さんがそこに立っていた。私を守るように右腕を広げ、左手で拳を強く握っていて、さっきとはまるで別人のように怖い雰囲気を漂わせている。

「はっ!正義のヒーロー気取りか!?ムカつくんだよ、そーゆーのは!」

男が鬼のような形相で流川さんを睨み付け、叫んだ。

「………ない」

「はぁ!?聞こえねぇよ!」

苛立った男が再び叫ぶ。

「ゆるさない、絶対に」

流川さんは鋭く刺さるような声で言った。

「この…クソガキィ!」

逆上した男が流川さんに殴りかかろうと走ってきた。

しかし、流川さんはその場から全く動かない。

「死ねぇぇぇ!」

流川さんに向かって男の拳が飛んできた。

「流川さん!」

私はたまらず声をあげた。

しかし、男の拳は流川さんに当たることなく、空を切った。

流川さんが体を左にずらして避けたのだ。そのまま流川さんは男のがら空きな脇腹へ右拳をめり込ませた。

「が…あっ!」

鈍い音と共に男が声をあげ、その場に倒れた。

「この……クズ野郎……」

そこでようやく、流川さんの表情が確認できた。

怒りと憎しみに溢れた顔で足元に倒れている男を睨み付けている。

「流川さん!」

彼の名前を呼び、私は彼に思い切り抱きついた。

 

 

 

 

俺は……一体、何を……

「はっ!」

俺はようやく自我を取り戻した。視線を落とすと、何故か花宮さんが俺に抱きつき、胸に顔を埋めている。

「花宮……さん……?」

よく見ると肩を震わせ、すすり泣いている様だ。

俺は彼女の背中に腕を回し、彼女が落ち着くまで抱き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は少し長めにしました。
ヒロインのピンチを助けるという王道的展開になりました。これからこの二人の関係はどうなるんでしょうかねw


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9話 逃避からの脱出

「……はぁ……」

本日何度目かのため息をつき、俺は自室のベッドに横たわっていた。目を閉じ、掌で顔を覆う。しばらくして先程の光景が脳裏に浮かぶ。

あの交差点で俺と別れ、自宅に向かった花宮さんが二人の男に襲われていた。俺がその光景を目にした途端、半分自我を失い、真っ先に男に向かって走り出した。花宮さんの後ろに立つ男の横っ面を思い切り殴り、気絶させた。次に花宮さんの腕を掴んでいた男を引き剥がし、怒り狂った奴の拳を避け、脇腹に全力の拳をお見舞いした。二人とも気絶で済んだものの、俺が自我を取り戻さなければ、殺してしまっていたかもしれない。

俺がそうならずに済んだのは、すべて花宮さんのお陰だ。彼女は必死に俺の名前を呼び、俺を正気に戻してくれた。

俺は間違ったことをしたとは思っていない。あの時ああしなければ花宮さんはもっと酷いことになっていただろう。

しかし、彼女の前であんなことをしてしまっては、怖がられても仕方がないだろう。当然だ。自分が襲われて恐怖を味わい、その上俺のあんな姿を目の当たりにしたのだから。

「嫌われちまった……かな…」

正直、俺は間に花宮さんの人柄が好きだった。

素直で、努力家で、俺が何か話す度に楽しそうな顔をする。

もっとたくさん話をしたかった。もっと飛び方を教えてあげたかった。

でも、

「もう、無理かもしれないな…」

怖がられてしまったのではないか、嫌われてしまったのではないかと思ってしまう。

「明日、謝ってみよう」

俺はそう決意してから睡魔に襲われるまで、そう時間はかからなかった。

「そういえば…女子とハグしたの…初めてだなぁ……」

俺は薄れゆく意識の中、そんなことを口にして瞼を閉じた。

 

 

 

次の朝、少し早めに起きた俺は、余裕を持って家をでた。敢えて飛ばず、歩いて学校に向かうためだ。昨日、下校中に通った道を

ゆっくり歩きながら考え事をする。

 

今日学校で花宮さんに会ったら何て言えば良いんだろう?

話しかけた瞬間逃げられたらどうしよう?

そもそも昨日のショックで学校を休むかもしれない

 

そんな不安がどんどんと俺の中に募っていく。俺は気を紛らわすように頭を降り、深呼吸をした。気晴らしにとスマホとイヤホンを取り出し音楽再生アプリを開いた。

 

 

 

お気に入りの音楽を何曲か聞きながら歩いていると、昨日花宮さんと別れたあの交差点にたどり着いた。

「…っ!」

昨日の記憶が鮮明に甦る。恐怖に囚われながら喉から絞り出した

花宮さんの声。目に涙を溜め、肩を震わせていた花宮さんの顔。そして、花宮さんを恐怖へ陥れ、心と体に大きな傷を与えたあの二人の男。

それらを思い出した途端、再び怒りがこみ上げてきた。二人の男への憎しみと、花宮さんを恐怖から守れなかった俺自身への怒りが混ざり合い、行き場のない怒りへ変わる。今の俺には、イヤホン越しの音楽すら聞こえていなかった。

俺は無理やりその交差点から目を反らし、学校へ向けて歩を進めた。

 

 

 

「少し、のんびりしすぎたかな」

俺は腕時計が7時34分を指していることを確認し、そう呟いた。まだまだ登校時間に余裕はあるが、ゆっくり歩いていたせいで家を出てからそれなりに時間が経っていた。

「だらだら歩いててもしょうがない。さっさと学校行くか」

俺は自分に言い聞かせ、少し歩くスピードを上げた。

それからしばらく歩き、ようやく冷泉の校門が向こうに見えた。近付くにつれ、校門の前で立つ人影があることに気付く。肩まで切り揃えた髪と身に付けている服の上から羽織った白衣が風に揺れている。

「あれは…、如月先生か?」

爽やかな挨拶とキリッとした表情で、生徒からの人気が高い。しかし、そんな如月先生が昔、とある競技でその名を世界に轟かせていたことを知る人は限りなく少ない。少なくともこの冷泉でそれを知る人間は俺くらいしか居ないだろう。

と、考えていたら、いつの間にか俺は校門にたどり着き、如月先生と目が合った。

「お、おはようございます。如月先生」

「お、早いな、湊。今日は飛んで来なかったのか?」

涼しい顔のまま先生は答え、

「ふっ。何かあった、って顔をしてるぞ?それも花宮が関係してるな?」

「んなっ!?」

何かあったことを悟られるのは想定していたが、花宮さんが関係していることまで読まれるとは……。

やっぱりこの人には敵わないな。

「俺、そんな顔してたかな?」

自分の顔をあちこち触り、そう呟いた。それを見ていた先生は愉快そうに笑いながら、

「ははは。考えてることが顔に出やすいな、お前は。昔から変わってないよ」

「如月先生……」

きっと、先生なりに俺を元気付けようとしてくれたのだろう。その優しさも、昔と全く変わらないものだった。

「湊。お前らに昨日何があったのか、私は無理矢理聞こうとは思わない。だがな…」

先生は微笑を浮かべ、

「目を反らし、逃げることだけが解決法じゃない。ちゃんと向き合うことも、努力することも、立派な解決法だ」

「……はい!」

恐らく先生は、全てを悟った上で行ってくれているのだろう。俺の話を聞き、的確なアドバイスをするのではなく、俺自身の手で解決して欲しいのだと思う。

「いい顔つきになったな、湊。」

俺は言葉を返す代わりに、強く頷いた。

「ありがとうございました、如月先生。いや、葵羽さん」

昔、飛び方を教わっていた頃の呼び方を5年振りに口にした。先生は珍しいものを見たように口を開け、すぐに表情を元に戻した。

「湊、お前なら大丈夫だ。なんたって、私の自慢の弟子だからな」

「元弟子、ですけどね」

言い合って、互いに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 



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10話 感謝

あの出来事のあと、流川さんはようやく自我を取り戻し、家まで送ると言ってくれた。迷惑だろうから遠慮しようかと思っていたが、恐怖の余韻が残っていた私は、結局その言葉に甘えてしまった。家に着くまでの間、私達は言葉を交わすことは無かったが、それでも隣を歩く流川さんの安心感がわずかに私を癒してくれた。

お互いに無言のまま、私は家にたどり着いた。お礼をいう前に流川さんは飛んで行ってしまった。最後に見た流川さんの顔は、苦悩に満ちたような表情だった。

 

「流川さん……」

シャワーを浴び、自室のベッドに倒れこんだ私は、シーツをぎゅっと握りしめ、呟いた。

男の子にしては細い体で私を助け、泣きながら抱きついてしまった私を突き放さずに優しく受け止めてくれた胸はとても大きかった。

「流川さん……」

会いたい。

会って話がしたい。もっと飛び方を教わりたい。一緒に空を飛びたい。

しかし、その前に

「お礼、言わなきゃ」

私はそう決意し、眠りについた。

 

 

 

 

夢を見ていた。

人のような形をした影が3つ、次第に鮮明になっていく。

2つの大きな影は小さい影を挟むように佇んでいる。

やがて色を帯びた小さい影が、私自身であることに気付く。2つの影によって身動きがとれず、そのまま呑み込むように伸びていった。

その瞬間、

突如として現れた一つの光。鮮やかな緑色に輝き、閃光となって2つの影に向かった。影は光に貫かれて塵へ化し、その光は私を優しく包み込むように広がっていった。包まれた光の中、どこからともなく声が聞こえる。

 

無事で、よかった

 

もっとその声を聞きたくて、手を伸ばす。

しかし、その手は何に触れることもなく、

私の意識は、暗闇へ落ちていった。

 

 

 

「………ん」

窓から差し込む朝日、鳥のさえずりが私の意識を呼び戻した。体を起こし、胸に手を当てる。深く息を吸い、ゆっくりと吐く。高まったままの鼓動を落ち着かせ、

「学校に行って、流川さんと話をしよう」

ベッドから降り、身を包んでいたパジャマを脱ぐ。制服に袖を通し、鞄を片手に部屋を出た。

 

「はぁ…はぁ…」

息を切らし、肩で呼吸をしながら、私は走る。

肺が苦しい。

体が酸素を欲している。

それでも、私は足を止めなかった。一秒でも早く流川さんに会いたい。会ってお礼を言いたい。

そういった思いが私の原動力になっている。

自然と足が軽くなり、更に加速する。電柱を一定の間隔で追い越し、町の景色を置き去りにして走り続ける。

「あっ、見えてきた!」

冷泉の校門前では昨日と同じく如月先生が立っていた。校門をくぐる生徒達が挨拶をする度、爽やかな笑顔で答えている。

「如月先生、おはようございます!」

私も同様に挨拶をする。先生は風になびく髪を手で押さえながら答える。

「あぁ、おはよう花宮。クラスには馴染めそうか?」

私は強く頷き、

「はい!皆さんとてもいい人ばかりです!」

「そうかそうか。今日も風術学の実技があるから、しっかり学ぶんだぞ」

「はい!」

それだけの短い会話をして、私は校舎へ入った。

 

「あれ?藍ちゃんと、杏花ちゃん?」

昇降口で靴を履き替えている二人を見かけ、声をかける。

「遥じゃーん。おはよー!」

「おはよう遥ちゃん。今日は流川くんと一緒じゃないの?」

隣で靴を履き替え、答える。

「お二人ともおはようございます。今日はまだ流川さんを見てなくて」

「あれ?でももう学校に来てるよ?」

流川さんの下駄箱を覗き、藍ちゃんはそう言った。

「流川くんにしては早いね。どーしたんだろ」

「…っ!」

流川さんが、いる。

そう意識した瞬間、緊張が走った。

「わ、私、流川さんに用事があるので先に行きます!」

「えっ、ちょ、ちょっと!遥!?」

真っ先に走り出した私を呼ぶ藍ちゃんの声が聞こえるが、それには目もくれずに一人、先に教室へ向かった。

 

「すぅーっ……、はぁーっ……」

深呼吸をし、逸る気持ちを押さえて教室のドアを開いた。

「る、流川さ……あれ?」

教室の中に入るが、そこに流川さんの姿は無く、数人のクラスメートが各々会話をしたり、ゲームをしたりしていた。

私は自分の席まで行き、椅子に腰を下ろす。隣の机を見ると、流川さんのバッグが横に掛けられている。

「はぁ……」

ため息をついて視線を落とす。

「……ん?」

そこで、私の机の中に何かがあることに気付く。それを手に取り、机の上に上げる。それは一枚の紙で、こう書かれていた。

 

話したいことがある。屋上に来て欲しい。

 

「これ…、流川さんの字…?」

確証は無いが、なんとなくそう思った。

私はすぐに教室を飛び足し、屋上へ向かった。

流川さんに会うために、流川さんと話をするために。

長く続く階段を一歩ずつ、上っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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11話 turning point

だいぶ内容を考えるのが大変になってきて、投稿が遅れがちになってきていますが、変わらずに読んで頂けると幸いです。


爽やかな風が、俺の頬を撫でる。

目を閉じ、それを体全部で感じる。

この時間帯、屋上には俺以外の人影は無く、俺だけが切り離されたような空間になっている。校庭からは朝練に励む野球部の声、校門の方からは挨拶を交わす生徒達の声が聞こえる。俺はフェンスの側に立ち、道路を一本挟んだ向こうに見える海をずっと眺めていた。群れを成して飛ぶカモメや緩く波打って白んでいる海原を見ていると、自然と心が落ち着いてくる。

「すぅ……、はぁ……」

軽く息を吸い、吐く。

「花宮さん………」

まただ。

気付けば、彼女のことばかり考えている。

飛んでいる時の楽しそうな顔、会話の途中でふと見せた笑顔、俺に飛び方を教えてほしいと言ってきた時のきらきらと輝いていた目。

それら全てが、とても印象深かった。

「花宮さん、来てくれるかな……」

花宮さんの机に置き手紙を入れてきたが、花宮さんはそれに気付いてくれたのだろうか。花宮さんが学校に来るまで待って、そのあと一緒に屋上に来た方がよかったのかもしれない。

「はぁ……」

失敗したな、と思い、ため息をついた。

その時だった

ぎぃぃ、と屋上の古びたドアが開く音が聞こえた。

「ッ!」

俺は息を呑んだ。

花宮さん……なのか?

振り返って確認したい。でも、体が動かない。足が固定されたように、硬くなっている。

こつ、こつ、と足音がこちらへと向かってくるのが聞こえる。

それに比例し、俺の心臓が大きく鼓動する。

やがて、その足音は俺の後ろでぴたりと止まった。

直後、

「流川さん」

俺を呼ぶ彼女の声が、俺の耳に届いた。

意を決し、ゆっくりと振り向いて、

俺は、言葉を失った。

朝日を受けた薄い桃色の髪が風に揺れ、花宮さんがそれを手で押さえる。

えへへ、と照れくさそうに笑い、頬を僅かに赤く染めるその姿は、言葉では言い表せないほどに綺麗だった。

しばらく呆然としていたが、やがてはっと我に帰る。

「机の中に入れてたアレ、読んでくれたんだ」

なんとか平然を装い、声を出すことが出来た。

花宮さんはこくりと小さく頷く。

「はい。………あの、流川さん」

「花宮さん、待って」

花宮さんの言葉を遮って俺が言う。

「は、はい?」

咄嗟の出来事に目を丸くした花宮さん。更に俺は言葉を繋げる。

「まずは、俺から話させてもらえないかな?」

どうしても、最初に謝っておきたかった。

もし軽蔑されようが、罵倒されようが、俺に出来ることは謝ることだけだ。ならば、先に謝るのが礼儀というものだろう。

「は、はい。どうぞ…」

花宮さんから了承を得て、俺は、

「花宮さん、本当にごめん!」

勢いよく、頭を下げた。

「え、えぇ!?」

驚きと戸惑いが混ざった花宮さんの声が響いた。直後、

「ど、どうして流川さんがあやまるんですか?」

「………へ?」

間の抜けた声が俺の口から零れた。予想外の事態に対応できずに硬直する。

「ど、どうしてって、俺が花宮さんに怖い思いをさせたから…」

俺は顔を上げようとして、そこで、

一筋の光が、彼女の足下へ吸い込まれていった。

一つだけじゃない。また一つ、二つと光が生まれ、落ちて、消えた。

俺はゆっくりと顔を上げた。落ちてきた光を目で辿り、その先の花宮さんの顔が、その目に溢れていた涙が、俺の視界を奪った。

「はなみや……さん」

声が掠れ、思うように喋れない。

涙を流し、嗚咽を吐き、それでもその目には、しっかりとした意志の力が宿っていた。

「流川……さん……。わ……私……、」

弱々しい声で、途切れ途切れに、彼女は俺に何かを伝えようとする。

俺はどう言葉を掛ければよいか分からず、せめて彼女の言葉を最後まで聞こうと決めた。

「私……怖かった………。男の人に…腕を掴まれて…、逃げられなくて……、何されるか分からなくて……」

花宮さんはあの時の恐怖を思い出したのか、肩を少し震わせた。

「でも…、あの時…、流川さんが…助けてくれて……」

「………………」

俺は黙って話を聞いていた。掛ける言葉が見つからず、ただ、彼女の言葉に耳を傾けていた。

「なのに…、なのに私……流川さんに…、ありがとうも…ごめんなさいも……言えてなかったから……」

花宮さんの涙が勢いを増し、止まることなく頬に流れていく。

「……ッ!」

俺はそんな花宮さんを見ていられず、その華奢な体を自分の方へ抱き寄せていた。

「ふぇ?……流川…さん?」

俺の腕の中で花宮さんの体がびくっと跳ねる。それでも、俺は力を緩めなかった。

「ごめん…花宮さん」

彼女の耳元で、そう囁く。

「俺があの時、もっと気を付けていれば…、もっと配慮していれば……、花宮さんがあんな辛い思いをすることは無かった。あんな怖い思いをすることは無かったんだ。」

そしてもう一度、

「本当に、ごめん」

俺は、そう囁いた。

「……がう」

震えた声が、俺の耳元で微かに聞こえた。

「………ちがうんです…流川さん」

「俺は、花宮さんが無事だったことが、何より良かったと思ってる。花宮さんは何も悪くないんだ。だから、謝らないで欲しい。」

俺の言葉を聞いていた花宮さんは、遂に我慢が崩壊し、俺の胸に顔を押し付けて勢いのままに泣き叫んだ。

俺はその小さな背中を優しく撫で、花宮さんが落ち着くまで抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

「ぐすっ。す、すみません。見苦しいところを見せてしまって…」

しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻した花宮さんは、涙を拭いながら恥ずかしそうに言った。

「気にしなくていいよ。泣きたいときは泣けばいい。それに…」

俺は少しカッコつけた感じで言った。

「泣いた分、また笑えばいいよ」

「ふふっ、そうですね」

うん、やっぱり花宮さんは笑顔が一番だな。

そう思ったが、言うのは恥ずかしいので口にはしない。

「さぁ、そろそろ戻ろうか」

俺は入り口の方へ体を向ける。

「あ…、待ってください」

しかし、花宮さんが俺を呼び止めた。

「ん?どうかしたの?」

「えっと、ここから見える海を、もう少しだけ見ておきたくて」

フェンスの外を見つめ、花宮さんはそう答えた。

「……そっか」

俺はそれだけ言って、花宮さんの隣に立つ。

そのまま二人で、少しの間、海を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ杏花」

「……なに?藍」

「なんか、見てはいけないものを見てる気がする」

「奇遇だね、あたしもそう思ってたよ」

「…………戻ろっか」

「…………そだね」

 

 

 

そのあと、あの現場を覗いていた二人にさんざん弄られたのは言うまでもない。

まぁ、なんにせよ。

俺達の日常が、これから始まっていくのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そういえば、「あつまれ どうぶつの森」が発売されましたね。やりたいと思っているんですが、予約するのを忘れていて、買えるか分からない状況になってしまいました(T_T)
あつ森やりたい(切実)


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12話 新たな挑戦

今回は日常編です。
相変わらず投稿ペースが遅くて申し訳ありません。


花宮さんが冷泉に転校してきてから2週間が過ぎた頃

「そういえば、遥ちゃんは部活に入ったりしないの?」

授業の合間の休み時間。杏花が花宮さんにそう問いかけた。

「いえ…、特に決めてないです。流川さんは部活をやってるんですか?」

「いや、俺は帰宅部だよ」

缶コーヒーを啜り、ふうっと一息つく。

「花宮さんは何か部活をやろうと思ってるの?」

今度は俺が問いかける。そこで、前の席で寝ていた藍がむっくりと起き上がり、眠そうに目を擦った。

「湊〜、なんかお菓子ちょーだーい」

寝ぼけてるのかと言いたくなる台詞だ。俺は呆れてため息をつきながら、

「アメしかないぞ、ほれ、これ食って目を覚ませ」

同時にアメを取り出し、藍に手渡す。

「やったぁー」

そのままアメを口へ放り込む。

直後、藍の体がびくっと震えた。

「な、なにこれ!全然甘くない!」

飲み干したコーヒーの缶をゴミ箱に捨て、自分の席まで戻る。

「スッキリしただろ?ハッカとミントのスーパークールだ」

刺激に悶える藍を横目に、俺は同じアメを自分の口に入れる。

ハッカの刺激とミントの爽やかさが体の奥まで染みて、頭がスッキリする。

「二人も食べる?アメ」

そう言って新たに桃味とオレンジ味のアメをバッグから取り出して二人に渡す。

「何でそれを最初に出さなかったのよ!?」

藍のツッコミが聞こえたが、それには答えない。

「ありがとうございます、流川さん」

「ホント、色々入ってるよね。流川くんのバッグ」

二人がアメを受けとり、それを口の中で転がす。

「そんなに物は詰めてないつもりなんだけどな」

二人と同様にアメを舌で転がす。

「でも、こないだ体育で遥ちゃんが怪我しちゃったとき、保健室は遠いからって自分のバッグから消毒液とか絆創膏出してたじゃない」

「湿布とかガーゼも入ってましたよ?」

「用意がいいんだよ。何かあった時に使えるだろ?」

正直、自分でもよく分からないほどに色々な物が俺のバッグには入っていた。

消毒液や絆創膏といった手当て用の消耗品から、アメなどのちょっとしたお菓子まで詰まっている。

「流川くん。ある意味おかしいよ」

杏花が呆れた様子で苦笑する。

「そうか?」

俺にはその自覚が無いため、何がおかしいのかよく分からなかった。

 

 

 

「あっ!いたいた、アニキ!」

午前の授業が終わり、今は昼休み。

俺達は各々弁当を広げ、昼食をとっていた。そこへ教室のドアを開け、中に入ってきたのは俺の後輩である瞬だった。

「またうるさい奴が来やがったな」

そう言いつつも、近くの空いた席から椅子をひょいっと拝借し、瞬を俺の隣に座らせる。

「んで、お前は何しに来たんだ?」

瞬は手に下げていた弁当を掲げ、

「アニキと一緒に弁当食いに来たんすよ!」

「別に俺のところに来ることないだろうに」

自分の机のスペースを半分空け、そこに瞬の弁当を置かせた。

「それで、何の話してたっけ?」

自分の弁当をつつき、俺は女子三人に尋ねた。

「忘れないでよ湊。部活だよ、部活」

「どの部活に入ろうか悩んじゃいます」

紙パックのジュースをストローで吸い上げて飲む藍と彩りの揃ったおかずを咀嚼する花宮さん。

「そっか、そうだったな」

「皆さん、部活に入るつもりですか?」

白米を一気に口に入れ、ごくんと飲み込んだ瞬。

ちゃんと噛んでから飲み込めよ……

俺は心の中でツッコミを入れた。

「そうなんだけどさ、なんか入りたい部活がイマイチ見つかんないんだよね〜」

「もともとうちは部活が少ないからねー」

不満そうに文句を垂れる藍に苦笑しながら杏花が言う。

確かに杏花の言うとおり、うちの学校は部活が少ない。

定番の野球部やサッカー部の他、運動部は卓球部とテニス部しか無く、文化部は美術部と吹奏楽部の二つだけ。

「さて、どうするか……」

部活を探すと意気込んだはいいものの、いきなり壁にぶつかってしまった。

「そうだ、アニキ!」

「ん、どうした?」

何かを閃いた様子の瞬が声をあげた。いい案でもあるのだろうか。

「入りたい部活が無いなら、作れば良いじゃないっすか!」

「………そうか、その手があったか」

盲点だった、確かにそうだ。

無いものは、作ればいいんだ。

「えっと…、どういうこと?」

未だ理解が及ばない藍を含む三人に俺は説明する。

「俺達で部活を立ち上げればいいんだ。部活の結成に必要な人数は最低で五人、あとは顧問と部室があれば正式に部活を立ち上げることが出来る。」

「そっか!部員はあたし達で五人。顧問は……如月先生にお願いしよっか!」

「でも、部室はどうしましょう…」

困り顔の花宮さんの肩に、ぽんと手が置かれた。

「私の知り合いに生徒会の先輩がいるから頼んでみるよ」

「もし駄目だったら、俺が如月先生に頼み込むことにする。顧問の件と合わせてな」

そこまで話して、俺達は最大の難関に出くわした。

「んで、結局部活の名前はどうするんだ?」

「「「「……あ」」」」

四人が同時にハモった。この様子を見る限り、全く考えていなかったらしい。

「はぁ………」

俺の苦笑交じりのため息が零れた。

その後、俺達はあれやこれやと話し合い、結局部活は魔法の研究を目的とし、「スペルリサーチ部」と名付けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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13話 スペルリサーチ部

投稿ペースが遅くなって申し訳ないです。


「へぇ、まさか湊が部活を始める日が来るとはな」

時は放課後。

昼休みに部活について話し合った俺達は、早速行動に移っていた。

まぁ、主に動いているのは俺と杏花だけなのだが…

まず俺は如月先生のところへ行き、部活を立ち上げることについての報告、そして部活の顧問になってもらおうとしていた。

杏花は、知り合いだという生徒会の先輩のところへ部室の相談。その他のメンバーは職員室の前で待機させ、俺が代表して職員室へ乗り込んだ。

「一体どういう風の吹き回しだ?お前は今まで部活に興味を持った様子は無かったようだが?」

俺は如月先生に部活を立ち上げること、その部活は「スペルリサーチ部」と名付けたことを説明した。

「別に何かあったわけじゃないですよ。ただ、皆と何かをやろうって話し合ったんです。」

俺も以前から皆と何かやってみたいと思ったことは何度かあった。まさか、部活という形になって現れるとは想像していなかったが。

「そうか。でも、私にわざわざ報告しに来ただけじゃないだろ?」

「うっ…」

相変わらず勘の鋭い人だ。俺の考えてることが読まれてるような気分だ。

「実は、如月先生に部活の顧問をお願いしたくて」

「顧問?それはまた、何で私なんだ?」

俺は正直に、思ったことを伝えた。

「俺は、如月先生に教わりたいことがまだ山ほどあるんです。でも、俺はあの時、先生の期待を裏切った。先生が差し伸べてくれた手を、振り払ってしまった。そんな俺が、今さらこんなことを言うのは筋違いかもしれません。」

7年前、空を飛び始めた頃は、毎日が楽しかった。あの頃はエアリアル・スペルどころか、どの魔法もろくに使いこなせず、その度に如月先生に泣きついてやり方を教わっていた。日を重ねる毎に、様々な魔法を使えるようになり、それがとても嬉しかった。如月先生は俺の成長を自分のことのように喜んでくれた。

「湊……」

如月先生は真剣な顔で聞いてくれていた。俺は更に言葉を続ける。

「俺は、いや。俺達は、まだまだ成長できます。でも、俺達だけの力じゃ到底無理です。俺達は、皆で一緒に成長したいんです。だから、お願いします。」

そう言って俺は、深く頭を下げた。

「………」

訪れた静寂。

通りすぎる1秒1秒が、恐ろしいほどに長く感じる。やがて、はぁっと苦笑交じりのため息のあと、如月先生が口を開いた。

「お前は、私が思っていた以上に成長していたようだな」

優しく包まれるような声色。

俺はゆっくりと顔を上げた。

「分かった。その部活の顧問を、私が引き受けよう」

「ほ、本当ですか!?」

「お前が私の教えを求めているのなら、それに答えなければな」

如月先生はマグカップを手に取り、コーヒーを啜った。

「で、もう部室は見つけてあるのか?」

「まだ決定はしてませんけど、杏花が探してくるそうです。」

「そうか」

軽く頷き、言葉を続けた。

「なら、部室が決まり次第、またここへ来い。」

「はい。分かりました」

先生はデスクの引き出しを開け、一枚の紙を引っ張り出す。

「あと、これに部員と顧問、部室の名前を書いておけ。申請に必要だからな」

俺はその紙を受けとり、再度深く頭を下げて職員室を後にした。

 

 

 

「湊、うまくやってるかなぁ」

「流川さんならきっと大丈夫ですよ」

「花宮センパイの言うとおりっすよ!アニキはきっとやってくれます!」

「でも湊って危なっかしい部分あるじゃん?」

……俺がいない間に好き勝手言われてた。

「誰が危なっかしいだって?」

「そりゃあ湊が………って湊!?いつの間に!」

藍の背後にこっそり移動し、驚かすように声をかけた。

案の定、驚いた様子をみせる藍。

「おかえりなさい流川さん。それで、如月先生は何とおっしゃってましたか?」

「顧問は引き受けてくれたんですか?」

連続で問いかけてくる二人に、俺は答えた。

「あぁ、如月先生は顧問を引き受けてくれることになった」

そう言い、先ほど先生から渡された紙を見せる。

「じゃあ、あとは部室ですね!」

「杏花がうまくやってくれることを祈るしか無いな」

そのあと、俺達は一度教室へ戻り、杏花と合流することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今更ですが、Twitterにてこの小説の更新をツイートしています。宜しければフォローお願いします
@Nignite_syosetu


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14話 始動

コロナの影響で休校や休業になって自宅にいる時間が増えた方もいると思います。私が住んでる地域にもそろそろコロナが本格的に猛威を振るうのではないかと心配になっています。皆さんもどうか体調に気を付けてお過ごし下さい。
あ、因みに今回から次回予告を追加することにしました。是非、そちらもご覧下さい。


俺は職員室の如月先生の元へ行き、部活を立ち上げることの説明と、顧問の依頼をした。結果、如月先生が顧問を引き受けてくれることになった。

その後、職員室の前にいたメンバーと合流し、部室の交渉に行った杏花を教室で待つことにした。放課後ということもあり、教室には誰一人いなかった。

「さて、杏花には俺達が教室にいるってことをLINEで言っておいたし、あとは戻って来るのを待つだけだな」

LINEの送信ボタンを押し、俺はスマホをポケットに入れた。

「杏花が戻って来るまで暇だね〜」

椅子に座り、退屈そうに藍はそう言った。

「そんなに時間はかからないと思うけどな」

結果が良かったとしても、悪かったとしても、杏花はすぐここに来るのではないかと思っている。

「私、部活は初めてなのでなんだかワクワクします!」

キラキラと目を輝かせ、心からそう思っているであろう言葉を花宮さんは口にする。

「そうだな…、俺も正直楽しみだ」

心底楽しそうな様子の花宮さんを見ていると、自然と表情が緩み、俺まで楽しい気分になってくる。

「そういえば、部長って決まってるの?」

あまりに退屈なのか、いつの間にか藍は自分のスマホでゲームを始めていた。

「…いや、誰が部長なのかはまだ決めてなかったな」

俺は両手を腰に当て、藍の問いに応じた。

「後で決めるのも面倒だし、今決めちゃおうか。…誰がいいかな……」

顎に手を添え、考える。

 

 

 

まず、藍はあり得ないな。

真っ先に頭に浮かんだ。理由は簡単。

こいつが部長になると、部がどうなるか分かったもんじゃない。魔改造に魔改造を重ね、いずれは部が崩壊してしまいかねない。

 

次に花宮さん。

俺としては向いているのではないかと思う。本人も部活に対するやる気があり、また彼女の性格上、部が崩壊することはまず無いだろう。

しかし、彼女は部活そのものが初めてだ。そんな彼女に、いきなり部長という立場は少々荷が重いのではないだろうか。

 

そして杏花。

こいつはかなり向いてると思う。杏花はクラスで学級委員をしていて、皆をまとめたりするのは得意なはずだ。杏花も花宮さん同様真面目な性格なので、部長としての仕事も難なくこなせそうだ。

だが、杏花は学級委員としての仕事がある。杏花一人で二つの仕事をこなすのはさすがにきついだろう。

 

瞬はまだ一年生。やる気と熱意はあるが、一年生に部長を任せる訳にはいかない。

 

 

____________となると……

 

 

 

 

 

 

 

俺があれこれと思考を巡らせていると、

「はいっ!」

何かを閃いた様子で花宮さんが手を挙げた。

「ん?花宮さん。どうかしたの?」

俺は一度思考を中断し、花宮さんに視線を向けた。

「私、部長は流川さんがいいと思います!」

花宮さんは明るい表情と声色でそう言った。俺の名前が出てくるとは思っておらず、俺は目を見開き、間の抜けた声をあげて聞き返してしまう。

「お、俺?」

うんうんと二度、三度頷く花宮さん。

「俺も!部長はアニキがいい!」

俺の隣に立つ瞬まで、そんなことを言い出した。

俺はうーんとしばし考え、言った。

「皆がそれで良いなら、俺は構わないけど……」

そこで全員の視線が藍へと向かう。藍は変わらず気だるげな様子で

「良いんじゃな〜い?湊なら」

そう答え、ふわぁ〜……と欠伸をした。

 

…………こいつ、真面目に部活をする気はあるんだろうか

 

この先が思いやられるが、俺は頭を振って気持ちを切り替えた。

「まぁ、正式な決定は杏花が戻ってきたらすることにしよう」

俺の言葉に全員が頷き、賛成の意を示す。

 

 

 

 

「ごめ〜ん。遅くなっちやった!」

あれから数分、息を切らせた杏花が教室に戻ってきた。

「お疲れ、良いところに来たな」

「お帰りなさい、杏花ちゃん!」

俺達二人が杏花に労いの言葉をかける。

「良いところって、何かあったの?」

まだ息が整っていない様子で杏花は俺に尋ねた。

「あぁ、この先のことについて色々話し合ってたんだ。……それで、部室はどうなったんだ?」

額の汗を拭い、息を整えた杏花は、

「うん!とっておきの場所、ゲットしてきたよ!」

盛大なピースサインと共に、朗報を告げた。

「と、いうことは……」

確かめるように俺を見る花宮さん。俺は微笑みながら頷いた。

「あぁ、これで正式に『スペルリサーチ部』を立ち上げることが出来る」

花宮さんと瞬はだんだんと喜びの表情に変わり、

「「やったぁー!!」」

放課後の教室に、二つの歓喜の声が響いた。

輝くような眩しい笑顔を浮かべる花宮さんがハイタッチを求めて手を挙げ、俺はそれに応じ、花宮さんと喜びを共有した。

 

 

 

「━━で、その部室ってのは何処なんだ?」

しばらくして皆が落ち着きを取り戻したところで俺は杏花に尋ねた。

「それがね、運動部の部室がたくさんある建物があったよね?」

あまりピンとこない様子で杏花は答えた。

「部室がたくさん……。あぁ、『クラブハウス』か」

うちの学校には、グラウンドの近くに運動部の部室が一つの建物に集合している。俺を含めほとんどの生徒がこれを『クラブハウス』と呼んでいる。

「そうそれ!そのクラブハウスの二階にちょっと大きめの部屋があって、そこを使っていいみたい」

「なるほど、じゃあ一度行ってみるか。掃除が必要かもしれないしな」

殆どが賛成するが、藍は反対した。

「えぇ〜、めんどくさいし、明日で良くない?」

「お前は明日になってもやらないだろ。ほら行くぞ」

文句を垂れる藍を引きずって、俺達は部室へと足を運んだ。

夕日が傾きかけている中、俺の隣を歩く花宮さんが微笑を浮かべた………ように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何だったでしょうか。
しばらくはこんな感じでほのぼのとやっていくかもしれません。


〈次回予告〉
部室へと向かった少年少女達


期待と共にその扉を開く


しかし、彼らは惨劇を目の当たりにする


彼らが選ぶのは逃避か?抵抗か?



次回「魔境」




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15話 魔境

4月も終盤に差し掛かり、ゴールデンウィークが近づいて来ました。しかし、コロナの影響でどこにも出歩けないのが現状です。
という事で、今年も例年どおり家に引きこもっていようと思います。
皆さんも出来るだけ外出を控え、もし出歩く際にはしっかりと対策をとってコロナウイルスに感染しないようお過ごし下さい。


教室を後にし、グラフハウスへと向かった俺達。練習中の野球部の横を抜け、グラウンドの隅にある二階建ての建物を目指す。

「………ここだな」

そこで俺は立ち止まり、それを見上げた。

白を基調としたシンプルな造りで、一階には運動部の部室と倉庫、トイレが並んでいる。だが、二階は部屋を分けられてる様子は無く、どうやら大きな部屋が一つだけあるようだ。

側面に取り付けられている階段を上り、通路の奥にあるドアの前に立つ。

「流川くん。これ」

杏花が預かってきた鍵を俺に手渡す。俺は頷いて受けとり、鍵穴にゆっくりと差し込んだ。奥まで入ったのを確認し、手首を捻る。特有の手応えと共に、「カチッ」という開錠音が届いた。

「じゃあ、開けるぞ?」

「う、うん」

「何か緊張します…」

ドアノブを掴んで回し、手前に引いて中に入ろうと踏み出した、その時。

「……な…」

俺の口から掠れた声が漏れた。

「アニキ?どうかし……た………」

俺の後ろから顔を覗かせた瞬も、俺に続いて硬直した。

「どったの?……って、うわー。これはちょっと……」

背伸びをして奥の光景を覗いた藍は、露骨に不快な顔になった。

それも仕方ない。なぜなら、

「何で、こんなゴミ屋敷みたいになってるんだ……」

その大部屋の中は中身不明の段ボールやビニール袋などで溢れていて、足の踏み場も殆ど無い状態だったのだ。

「そ、そういえば物が多いって先輩が言ってた……」

「それを早く言ってくれ……」

目の前の光景に圧倒され、俺は力無くツッコミを入れた。花宮さんは先ほどからひきつった苦笑いを浮かべている。

「お掃除、しないとですね…」

全員が肩を落とし、俺達は部室の掃除を決意した。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「皆、準備はいいな?」

「「「「はーい!」」」」

昨日、部室になるはずの部屋を訪れた俺達は、あの悲惨な光景を目の当たりにし、掃除を行うべく準備をした。

杏花は生徒会の先輩を訪ね、部室に溢れた物の処理を依頼した。他のメンバーはこれから起こる戦闘(掃除)に備え、装備(軍手、マスク、雑巾など)の調達した。

そして今、全ての準備が整った。

再びこの部室に集った俺達は今から掃除を始めようとしていた。

「じゃあ、今から掃除を始めるぞ。まずはここの段ボールからだな」

俺と瞬で段ボールを運び出し、花宮さん、藍、杏花の三人で中身を選別する。

欲しい物は部活で使っていい。いらないものは生徒会で処理すると言われているため、使えそうな物は遠慮なく貰うことにする。

「って言っても、使えそうな物なんて何にも………あっ!」

段ボールの中身を漁っていた藍が、いきなり声を上げる。

「どうした?何かあったか?」

俺は二つの段ボールを重ねて運び出し、藍の方へ行く。

「見てよ湊!これこれ!」

興味津々な様子で段ボールの中身を俺に見せてきた。

「これは……カツラ?いや、ウィッグと言った方が正しいな」

その段ボールに入っていたのは、女装用のウィッグだった。おそらく文化祭で使った物だろう。

「これ面白くない?貰おうよ!」

「個人で引き取るのは良いが、部室には置かないぞ。部活には関係ないからな」

「えー!」

不満そうな藍を放って、俺は作業に戻った。

「あ、アニキ!」

部室の中に戻って来たら、今度は瞬が何かを見つけたようだ。

「何か使えそうな物でもあったか?」

瞬が足下の段ボールを指さす。俺は近づいてその段ボールを覗いた。

「………木刀に、模造刀?これも文化祭で使ったのか」

「アニキ!これ、俺が貰ってもいいっすか?」

目を輝かせる瞬。俺は苦笑して頷いた。

「いいけど、持ち帰るときは何かに包んだ方が良いな。銃刀法違反を疑われるからな」

それにしても、瞬がこんなものに興味があったとは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで最後だな」

あれから、大量に積み重なっていた段ボールを全て運び出し、使えそうな物を集めた。

「あぁ〜〜〜!やっと終わったぁ〜〜〜!」

だいぶ疲れた様子で伸びをする藍。他のメンバーにも疲労の色が浮かんでいる。

「皆お疲れ、今日はここで解散……と行きたいんだけど、今から部室の中を掃除するぞ。明日からは部活を始めたいからな」

俺の言葉に最も反応したのは当然の如く藍。噛みつきそうな勢いで俺の肩を両手で掴み、前後に激しく揺さぶる。

「湊ぉ!まだやるの!?もうあたし疲れちゃったよぉ!」

「ちょ!待てって、落ち着け!脳が!脳が震える!」

「………なんかどこかで聞いたことあるセリフだね」

そこで俺はようやく解放された。平衡感覚が少し曖昧になった気がする。

「あのなぁ…掃除って言っても、軽く拭いたり掃いたりするだけだぞ」

その一言で分かりやすく態度を変える藍。今度は満面の笑みを浮かべる。

「なぁんだ〜。それならそうと早く言ってよ〜」

「調子のいいやつだな……」

 

 

俺達は部室に入り、それぞれ掃除用具を手に掃除を開始した。

俺と藍は箒でゴミを掃き、杏花と花宮さんが雑巾で水拭き、仕上げに瞬が乾拭きをすることになった。

「藍、隅に埃が溜まってるぞ」

「えぇ〜、この箒じゃうまく取れないよ」

何度かやって見せるが、埃は全然取れていない。

「仕方ないな。花宮さん、ここお願いできる?」

「は〜い」

俺の呼び掛けに応じ、すぐに取りかかってくれる。流石だ。

「ここですね、よいしょっと…」

しゃがんだ状態で雑巾で隅を拭き始める。

「あれ?全然落ちない…、う〜〜ん」

なかなか埃が落ちないことに気づいた花宮さんが、体勢を変えて徹底的に埃を落とそうと試みる。

「ッ!」

体勢を変えた花宮さんは、両膝をついて屈んだ、つまり、四つん這いの体勢になっていた。しかも隅に顔を向けているため、自然とこちらにお尻を向けるような形になってしまっている。突き出されたように向けられたお尻とスカートから覗く細い足が強調されて、なんというか、エロい。

本人は全く気づいていないようで、呑気に鼻歌まで始めてしまう始末だ。

(はっ!いかんいかん。掃除に集中だ、集中。)

そこで我に帰った俺はすぐに後ろを向き、出来るだけ考えないように掃除を再開した。

 

 

「うん、だいぶ綺麗になったな」

一通り掃除を終え、部室は見違えるほど綺麗になった。もともとここに置いてあった本棚やソファー、椅子、テーブルはそのまま使うことにした。

仕上げに先ほどの段ボールの中身から使えそうな時計や小物をいくつか配置し、掃除は終了した。

皆がソファーや椅子に腰掛け、休憩をしている。俺は皆を一瞥し、呼び掛けた。

「今度こそ、皆お疲れ様。これで明日から部活が出来るな」

「今からすっごく楽しみです!」

花宮さんの言葉に頷き、続けた。

「もし、部活で使えそうだなと思ったものはそれぞれ持ち込んでもいいことにする。ただし、必要ない物だと判断したらすぐに持ち帰って貰う。いいな?特に藍」

「ちょ!何で特にあたしなのさ〜!」

納得出来ないといった様子で反論をする藍。

「理由は簡単。お前が一番やらかしそうだからだ」

ふてくされる藍を見て、皆が笑う。

(なんだかんだ、賑やかな部活になりそうだな。)

笑い合う声の中、俺はそう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 




如何だったでしょうか?
あまり進展が無く、つまらないかもしれません。その分、サービスシーンを所々に挟んでいきたいと思っていますので、どうか今後もよろしくお願いいたします。

〈次回予告〉
部活動初日、やる気を見せるメンバー約4名

マイペースでやる気が無い居眠り常習犯約1名

彼女のやる気を上げるにはどうすれば……!


新たな壁が、湊の前に立ち塞がる!


次回「意外とチョロい」



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16話 意外とチョロい

大変遅くなりました。
内容を考える→思い付かなくてゲームに逃げる→また内容を考える
の繰り返しで時間がかかってしまいました。

実はこの小説の他にもう一つ小説を投稿したいと考えています。二つの小説を同時に連載するのは難しいので、今はこの小説に集中したいと思います。


では、16話 どうぞ!




「ありがとうございます。付き合ってもらっちゃって」

「これくらい気にしなくていいよ」

部室の掃除を終え、俺と花宮さんは帰り道の方向が一緒ということで二人で帰路を辿っていた。途中で買い出しの為、花宮さんはスーパーに寄ると言い出し、俺はそれに同行した。結構な量を買い込み、パンパンになったレジ袋を両手で持ち上げようとするが、だいぶきつそうだ。俺は代わりに持つと言って花宮さんの手からレジ袋を受け取った。

スーパーを後にしてからも、花宮さんは申し訳無さそうに頭を下げてくる。俺は気にしなくていいと言っているのだが、本人はそれなりに気にしているようだ。

「本当にすみません。持って貰っちゃって……。重くないですか?」

今もまた申し訳無さそうな顔をする花宮さん。

「これくらい余裕だよ。そんなに気にしないで」

俺は軽々と持っているが、花宮さんにとってはなかなかに重労働なのだろう。そう考えると、これを花宮さんに持たせる訳にはいかない。

「そういえば、こういう買い出しっていつも花宮さんがやってるの?」

無理矢理話題を変えようとして、俺は花宮さんに尋ねた。

「いえ、普段はお母さんがやるんですが、今日は仕事が遅くなるって言ってたので今日の晩御飯は私が作らないと」

「へぇ、それはご両親も喜んでくれるんじゃない?」

花宮さんはえへへ、と照れくさそうにはにかむ。その様子が可愛らしくて、ついじっと見てしまう。

「流川さんは、お家でお料理するんですか?」

「あぁ、料理は殆ど俺がやってるよ。家は両親が忙しいからさ」

ぱっちりと目を開き、驚きと感心が入り交じった表情を見せる花宮さん。

「すごいです…!お料理、得意なんですか?」

「得意と言うか、まぁ人並みには出来る方だと思ってるよ」

そんな雑談を繰り広げながら二人で歩く。やがて花宮さんの家にたどり着き、俺達は「花宮」と書かれた表札の前で立ち止まる。「今日は本当にありがとうございました!」

俺からレジ袋を受けとり、深くお辞儀をした。

「俺で良ければ、またいつでも力を貸すから」

ぱぁっと弾けるような笑顔を浮かべる花宮さんに手を振り、俺は身を翻して歩きだした。

 

 

 

 

 

 

翌日、放課後に部室へ集合した俺達は、今後どのような活動をするのか話し合っていた。

「今後の活動方針だが…、主に二つの活動を考えてるんだ。一つ目はこの部室で各属性の魔法について調べたりまとめたりする。二つ目は実際に魔法を使って技術の向上を目指す」

「つまり座学と実習ってこと?それってめんどくさくない?」

早速文句をつける藍。こいつがめんどくさがりなのは知ってたが、まさかこれほどとは思わなかった。

「じゃあ逆に聞くが、お前は何がやりたいんだ?」

「う〜んとね、お菓子食べたい!」

「何しに来たんだお前は」

秒でツッコミを入れる。こいつは部活が何なのか理解してるのだろうか。

「えっと…、私は流川さんに賛成です」

おずおずと手を挙げる花宮さん。それに続いて瞬、杏花も手を挙げて賛成の意を示す。

「俺も、アニキに賛成!」

「と言うか、藍以外は皆賛成だけどね」

これで四対一、圧倒的にこちらが有利だ。さぁ、どうする藍。

「………………おやすみ」

ぱたんとテーブルに伏せる藍。

「……寝たな」

「……寝ちゃいましたね」

「……寝ちゃったね」

「……寝ましたね」

 

俺達四人は額を寄せあい、作戦会議を開始した。

「…どうする?藍はああなっちまったら手が付けられないぞ」

「…そもそも藍先輩ってあんなにマイペースでしたっけ」

「いや、ここまでヒドイのは始めてだよ」

「一体どうすればいいんでしょう?」

長い議論の末、俺達はある作戦を実行した。

 

「……ホントにこんな作戦でうまくいくのか?」

「でも、やってみる価値はあると思うよ」

思い付いた作戦は至って地味。

お菓子で釣る、ただそれだけである。

「じゃあ、まずはこれを使おう」

そう言って俺が取り出したのは一つの飴玉。以前藍が食べたものとは違う、ちゃんとした甘い飴玉だ。

「お〜い藍。飴やるから起きろよ」

人差し指と親指で摘まみ、横に振ってカサカサと音を鳴らす。

「……(ピクッ)」

僅かながら反応を見せる藍。しかし動きはすぐに止まり、藍は再び寝入った。

「……駄目か」

「他のお菓子も試して見ましょうか」

続いて花宮さんが桃味のグミを手に取り、藍に近づく。

「藍ちゃ〜ん。グミ食べますか〜?おいしいですよ?」

グミを藍に近づけ、匂いで釣ろうと試みる。

「……(チラ)」

「お?」

顔を微かに上げ、グミを吟味するように見る。

これはいけるんじゃないか?と思ったのも束の間、またしても藍はお菓子に飛び付かなかった。

「うぅ…、失敗してしまいました……」

しょんぼりと肩を落とす花宮さん。よしよしと杏花に慰められている姿が何とも微笑ましい。

「グミでも駄目か……。他には何か無いか?」

「ふっふっふ…。こうなったら…!」

何かを確信したように杏花が不適な笑みを浮かべている。その手に握られていたのは……。

「それは……チョコ?」

「そう、藍がチョコを前にして食らい付かなかったことは無いからね。これならいける…!」

杏花はそのまま藍の耳元へ忍び寄る。

「ら〜ん?チョコだよ〜。ほらほら〜、甘〜いチョコだよ〜」

「…………(ビクッ)」

"チョコ"という単語に分かりやすく反応を見せる藍。カクカクと機械のような動きで顔を上げ、その視線は杏花の持つチョコに真っ直ぐ向けられていた。

「あぁ…、チョコ……、チョコぉ……」

飢えた人が食べ物を求めるように手を伸ばす。しかし、チョコは藍の手に収まることなく杏花によって遠ざけられる。

「このチョコが欲しければ、ちゃんと部活に参加すると誓うのだ!」

こくこくと小刻みに頷く藍。半開きの口からは今にも涎が出てきそうだ。

「なら、よし!」

お預けをされた犬の如くチョコに手を伸ばし、包装を剥がして口の中に放り込む。

「んぐんぐ……、ん〜〜〜〜〜〜!!!」

チョコを咀嚼し、幸せそうな顔をしている。

「こいつ…、そんなにチョコが好きだったのか」

「チョコは藍の大好物、そして今は藍のお腹が空いている時間帯!そんな空腹状態の藍が大好物に釣られないわけがないよ!」

何で藍が空腹になる時間帯を知ってるのか疑問だが、口には出さない。

「チョコ、大量に用意しておかないとな…」

さすがに部費から調達するわけにもいかない。ここは俺が出費を出すしかないのか、トホホ……。

 

 

 

 

 

「何はともあれ、これで藍もやる気を出した。とりあえず今日は今後の方針を決めて、明日から本格的に活動に移るか」

「それで、今後は具体的に何をするんですか?」

「そうだな………」

 

まだまだ問題を抱えた部活ではあるが、これから少しづつ成長していくのだと考えると、頑張れそうな気がする。

「俺も、成長しなきゃな……」

誰にも聞こえないように、俺はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




如何だったでしょうか?
出来るだけ早い更新を目指していますが、なにしろ即興で内容を考えているので時間がかかってしまいます。

そういえば、キャラが多くなったので、分かりやすいようにキャラ紹介を追加した方が良いのではないかと思っています。必要であるか、そうでないか 是非コメントで教えて下さい。


〈次回予告〉

今度こそ活動を開始したスペルリサーチ部。

最初に課題としたのは「エアリアル・スペル」

少女は願った。

━━━私も、あんな風に飛べたら━━━━

伸ばした手を、優しく包み

少年は、言った


次回 17話「一人で駄目なら」


閲覧ありがとうございました!



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17話 一人で駄目なら

今回は比較的早く更新出来たのではないでしょうか?
相変わらず即興なので内容は適当ですが、読んで頂ければ幸いです。
そういえば、コロナウイルスも徐々に収まって来ましたね。しかしまだ完全に収束したわけではないのでまだまだ警戒を怠らないようにしないといけませんね。

では、17話どうぞ!


「じゃあまずは魔法の展開からやってみようか」

「はい!よろしくお願いします!」

俺と花宮さん、瞬、藍は、部室のすぐ傍にある砂浜に来ていた。この砂浜は滅多に人が来ないため、もし魔法が暴発しても平気だろうと考えたのだ。

現在、俺は花宮さんにエアリアル・スペルをマンツーマンの形で教えていた。

ちなみに他のメンバーは各々活動に取り組んでいる。瞬は火属性の魔法であるフレイム・スペル、藍は氷属性のアイシクル・スペルをそれぞれ展開させている。杏花は実技が不得手な為、座学を志願して現在部室で各属性の魔法について調べている。

「最初は俺が手本を見せるから、俺と同じように詠唱してみて」

「はいっ」

俺は左の掌を広げて前に突き出し、指先に力を集中させ、詠唱を開始する。

「コール・エアリアル。」

瞬間、俺の手を薄い緑色のオーラが包み、指先に向かって凝縮されていく。「コール」とは、魔法を展開する詠唱の最初のスペルで、どの魔法の展開にも必要な重要なスペルだ。

「フォーム・チェンジ。シェイプ・バレット」

銃の形のように人差し指を前方へ、親指を上へ向け、残りの指は拳を握るように曲げる。それと同時に人差し指の先に一つ、緑色の小さい球体が浮かび、それは銃弾のように先端が細く変形していく。

「プロジェクション・ストレート」

俺は指先を数メートル離れた的(その辺に転がってた空き缶)へ真っ直ぐに向けて狙いを定める。

「トリガー・シュート!」

最後のスペルを詠み終え、緑色に輝く弾が発射された。一筋の軌跡を描きながら空き缶に吸い寄せられていき、一瞬の後に空き缶を上空へ弾き飛ばした。

やがて砂浜に落ちた空き缶には大きな凹みがあり、あの魔法の威力を物語っている。

「……とまぁ、こんな感じかな」

身をくるりと翻し、花宮さんの方へ体を向ける。

「じゃあ、次は花宮さんがやってみて?」

「あ……、はいっ!」

数秒遅れで反応を見せる花宮さん。

体調でも悪いのかと思い、顔を近付ける。

「………?どうかした?ボーッとしてたみたいだけど」

「い、いえ!とても綺麗な魔法だなぁと思って……」

途端、火がついたように赤面する花宮さん。どうやら体調が悪いわけでは無さそうで安心する。

「慣れれば簡単だよ。さぁ、やってみようか」

俺がそう促すと花宮さんはこくりと頷き、先程の俺のように左の掌を前方へ突き出し、詠唱を始めた。

「コール・エアリアル!」

淡い緑色のオーラが花宮さんの掌に集中する。しかし、慣れていないが故か、いささかオーラが不安定だ。

花宮さんはそれをきにする様子も無く、詠唱を続ける。

「フォーム・チェンジ!シェイプ・バレット!」

手の形を銃のように変え、その人差し指の先端に浮かんだ球体が形を変えていく。

「プロジェクション・ストレート!」

そのままさっきの空き缶に人差し指を向ける。これであとは発動するだけとなった。

「(さて、どうなる?)」

詠唱を見る限り、エアリアル・スペルが苦手という様子は見られなかった。オーラが不安定だったのは恐らくコツを掴んでいないだけなのだろう。

「トリガー・シュート!」

そんな俺の心配をよそに、緑色の弾丸が放たれた。俺よりも速度は劣るものの、弾丸は真っ直ぐ目標に向かっていく。

やがて響きの良い音と同時に空き缶は宙へ打ち上げられた。

「や…、やった!やりましたよ!流川さん!」

弾けるような笑顔を向け、ぴょんぴょんと跳ねる。

「あぁ、上出来だな。合格だ!」

「合格?どういうことですか?」

急に不思議そうな表情になる花宮さんに俺は説明した。

「実は、さっきのは花宮さんがエアリアル・スペルに適正してるかをテストしてたんだ。適正してなければ、空を飛ぶのは殆ど不可能だからね。」

花宮さんはそれを聞いて二度、三度と頷く。

「なるほど!そういうことだったんですね!じゃあ、私は適正してるってことで良いんですか?」

俺が頷くと、花宮さんは再び笑顔を咲かせる。

「でも、空を飛ぶのはかなり難しいぞ。一人で安定して飛べるようになるには、二ヶ月ほどかかるだろうな」

「大丈夫です!私、頑張ります!」

俺は微笑していたが、内心ではとても心配していた。

確かに、空を飛べるようになったらとても喜びは大きいだろう。しかしその反面、飛べなくなってしまった時のショックは喜びを遥かに上回るものだ。魔力の不安定化や己の限界による挫折など、様々な理由で飛ぶことが出来なくなってしまった人を俺は何人も見てきた。

 

━そして、俺もまた、その一人だった。

 

「………さん、流川さん?」

肩を揺すられ、俺はハッと我に帰る。

「流川さん。大丈夫ですか?とても難しそうな顔でした」

やけに脈が早く、嫌な汗が背中を伝っているのが分かる。

「大丈夫だよ。ごめん、少し考え事をしてて」

なおも心配そうな目を向ける花宮さん。俺はわざと明るい声で話し始めた。

「それよりも、俺の指導は厳しいぞ?ついてこれるか?」

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「最初は離陸して上昇、次に一定の高さを維持、最後に下降からの着陸。これらの動作を完璧にこなせるようになろう。」

「はいっ!」

力強く頷き、やる気十分な花宮さん。

「飛行術は通常の魔法と違って、スペルの詠唱は必要無いんだ。その代わり、強いイメージの力が重要だ」

「イメージの力……ですか?」

ピンと来ない様子で首をかしげる。俺はうーんと唸って

「何て言えばいいのかな……。上昇するときは上向きの風、高さを維持するときは上下から同じ力の風、下降するときは下向きの風をやや強く、みたいな感じでイメージするんだ」

ふむふむと相づちをうち、俺の説明に耳を傾けている。

「なるほど!分かった気がします!」

「そ……そっか………」

「(……不安しかない。本当に大丈夫だろうか。)」

まぁ、練習していればそのうちコツを掴むだろうと思い、俺は説明を続けた。

「じゃあまずは、無詠唱でエアリアル・スペルを展開してみよう。力を集中させて、自分の周囲に風をおこしてるようなイメージをするんだ」

「はい!」

 

 

 

 

練習を開始してから、三十分が経過しようとしていた。

にも関わらず、花宮さんは一向に飛べる気配がない。

「うーん……、イメージの力は問題ないと思うんだけどな」

原因は目星がついている。

恐らく、花宮さんの持つ魔力が枯渇しているのだ。魔力の量は個人差があるため、多い人もいれば少ない人もいる。俺は比較的多い部類で、離れた所で魔法を打ち合っている藍と瞬も平均より上の筈だ。

「はぁ…はぁ……、流川…さん……」

すっかり疲弊してしまっている花宮さんが、不意に俺を呼んだ。

不安なのだろう。すがるような顔を向けてくる。

「私…、飛べないんでしょうか……?」

その問いに、俺は

「いや、そんなことはないよ。明日になれば解決してる問題だ」

「そう、なんですか?」

俺は頷き、

「あぁ、だから今日はイメージの練習をしよう」

「でも……」

花宮さんの言葉を遮るように、右手を差し出す。

「一人で駄目なら、一緒に飛ぼう。俺は今、そのためにここにいるんだ」

 

花宮さんが飛べるようになるまでは、まだ時間がかかるだろう。

でも、花宮さんならきっと、

誰よりも力強く、綺麗に飛べるだろう。

そう、俺は信じている。

 

やがて、花宮さんは俺の手を取り、

俺達は、空へと踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何だったでしょうか?
魔法の詠唱って難しくて、どうすればカッコよくなるか考えてるのですがなかなか大変です。もしアドバイス等あれば是非コメントして下さい。
それでは、また次回お会しましょう。

〈次回予告〉

魔法が飛び交うフィールド

炎が燃え盛り、氷が全てを凍らせ、雷が地を這い、風が吹き荒れる

そこはまるで、"戦場"

戦場で繰り広げられる戦い

その名は━━━


次回「spell collision」

是非、ご覧下さい!


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18話 spell collision

どういうエンディングにするかはイメージ出来てるんですが、そこまでどう繋げるかに悩む日々を送っています。
というか今のペースだと完結までに50話は余裕で越えてしまいそうです。長くなるかもしれませんが、最後までお付き合い下さい!

では、18話どうぞ!


「いいぞ!昨日よりもバランスが安定してる。……よし、一旦降りてきてくれ」

「はーい!」

俺の呼び掛けに応じ、ゆっくりと高度を下げ、両足で着地する。

「ふぅ…、どうでしたか?」

「驚いたよ。まさか三日でここまで上達出来るとはね」

飛行術の練習を始めてから今日で三日目になるが、花宮さんは驚くべきスピードで上達し、今では当初の目標である離陸から上昇、高度の維持と下降、そして着地を難なくこなせるまでに成長していた。

「やっぱり、"それ"があると安定してるみたいだね」

「はい!すごく助かってます!」

俺の言う"それ"とは、俺が今まで使っていた腕時計である。この腕時計には秘密があり、それは「モバイルバッテリーのように魔力を溜め込み、それを己の魔力として使う」ことが出来る、ということだ。花宮さんの魔力が平均より少ないという問題をこれ一つで解決することが出来たのである。

「それは良かった。その腕時計は花宮さんがそのまま持ってて良いからね」

「い、いえ!こんな高そうな腕時計、頂けませんよ!」

ぶんぶんと首を振る花宮さん。

「あはは!実はそれ、俺が作ったものなんだ」

俺は思わず笑ってしまった。

この腕時計は俺が中学の頃、一から自作したものだ。何度も失敗し、その度に作り直し、如月先生の力を借りてやっとの思いで完成させた思い出がある。

「えぇ!これ、流川さんが作ったんですか!?あまりに精巧だからお高いやつかと…」

「まぁ売り物じゃないんだし、俺にはもう必要ないから花宮さんが使ってくれた方がいいと思うんだ」

花宮さんはしばし悩む素振りを見せるが、

「分かりました。そう言ってくれるのなら、ありがたく使わせていただきます」

そう言って左の腕に着用しているそれを、優しく指先で撫でた。

「じゃあ、少し休憩したら再開しようか」

「はい!」

俺はそう言って花宮さんにスポーツドリンクのボトルを手渡す。花宮さんが受けとり、キャップを開けて中身を三分の一ほど飲む。

「よう、二人とも頑張ってるか?」

後ろから聞こえた砂を踏む音と声に気付き、俺達は揃ってそちらに視線を向ける。

「あっ!如月先生!」

花宮さんが俺よりも早く声をあげた。

相変わらず教師というイメージから掛け離れた派手な服装の如月先生がこちらに歩み寄る。

「先生、どうかされたんですか?」

普段は職員室にいるはずの如月先生がここに来るのは始めてのことで、俺はつい身構えてしまう。

「なに、一応顧問として部活の様子は見ておかないとな。それで、どうだ?飛行術の練習は順調か?」

何故俺達が飛行術の練習をしていることが分かるのか疑問であるが、如月先生の前では嘘や隠し事は通用しないことを思いだし、自分を無理矢理納得させた。

「はい、とても初心者とは思えない上達ぶりです。たった三日でハイアップ、ステイ、ローダウンを完璧にこなせるようになっています」

俺の言葉に先生は愉快そうな顔で答える。

「そうかそうか、それは凄いな。確か湊のときは一週間もかかったな」

「うっ…。せ、先生の説明が雑すぎたんですよ。ドーンとかバーンとか、訳の分からない言葉ばかりでしたから」

事実、如月先生の教え方は分かりやすいとは言えたものじゃない。逆にその説明でよく飛行術を習得出来たものだと自分を誉めたい。

「ふふっ。ほんとにお二人は仲良しですねぇ」

直後、俺達のやり取りを聞いていた花宮さんが漫才でも見ているように笑いだした。

「あぁ、私と湊は昔からの付き合いだからな」

「確かに付き合いが長いのは認めますけど。……それで先生?何か用事があったんじゃないですか?」

肩を組もうと伸ばしてくる手を避け、俺は尋ねた。

「おぉ、そうだった。すっかり忘れてたよ」

「そこはちゃんと覚えておきましょうよ…」

呆れてはぁっとため息をつく。

「あはは……」

花宮さんは俺の隣で苦笑した。

「実はな、お前たちに提案があるんだ」

「「提案?」」

俺達はぼぼ同時に同じ言葉を口にした。

「提案って、一体何のですか?」

俺の問いに先生は軽く頷き、

「お前たち、SCを知ってるか?」

"SC"というワードに俺の眉がぴくりと反応する。一方、花宮さんは分からないといった様子で先生に聞いた。

「先生、SCとはなんでしょう?」

「spell collision(スペル コリジョン)、通称SC。魔法を使ったスポーツの一つだ」

 

━━spell collision━━

 

魔法の存在が科学的に証明されてから二年後、今から30年前正式にスポーツとして認められた競技だ。通常五対五で行い、フィールドはサッカーのコートとほぼ同じ大きさで、相手を全員続行不能状態にするか試合時間20分が経過した時点で続行不能状態の人数が少ない方が勝利となる。

「……とまぁ、こんな感じだ。どうだ?やってみないか?」

先生の説明を楽しそうに聞いていた花宮さんは目をキラキラと輝かせた。

「魔法を使ったスポーツ……!やってみたいです!」

やる気十分な花宮さん。だが、一つ問題があった。

「でも、杏花は魔法の実技が不得手です。あいつはマネージャーの方が向いていると思います」

「となると、もう一人部員がいるな。」

俺はしばし考えるが、誰も心当たりのある奴はいない。

「あとで藍と瞬にも聞いておきます」

「あぁ、頼んだぞ」

それだけ言って、如月先生は身を翻した。

「じゃあ、私はまだ仕事が残ってるから行くことにする。頑張れよ、花宮」

「はいっ!」

先生は背中を向けたまま、スムーズな動作で飛び、校舎の方へ戻っていった。

 

 

 

「あの、流川さん」

少しの休憩の後、練習を再開しようとした時、花宮さんが俺を呼んだ。

「ん?どうかした?」

花宮さんは俺の目を真っ直ぐに見据え、強い視線を向けている。

「流川さん、本当はSCをするのに反対なんじゃありませんか?」

「ッ!」

俺は息を呑んだ。まさか花宮さんにそんなことを言われるとは思っていなかったのだ。

「……どうして、そう思うんだ?」

聞きたくなかった。でも、自然と口が動き、俺は無意識に聞き返していた。

「なんとなく、なんですけど、如月先生がSCの事を話し始めた時、流川さんの表情がよくなかったというか……」

「…………ははっ」

俺は自嘲するように小さく笑い、

「まさかそこまで顔に出てたなんて……。その通り、俺はSCをするのは反対なんだ。反対、というかやりたくないんだ。俺の我が儘だけどね」

「…それは、どうしてですか?」

いつもの俺なら答えることは無かっただろう。しかし、俺は吹っ切れたように言葉を繋いでいく。

「トラウマなんだよ。……実は、俺はSCの経験者なんだ。6年前、俺に飛行術を教えてくれていた如月先生に誘われて始めたんだ」

「………………」

俺の言葉を、花宮さんは静かに聞いていた。何かを聞こうとする様子も無く、ただただ俺の話に耳を傾けていた。

 

 

 

あの時の事を思い出すと、胸が痛くなる。頭が熱くなり、脳が俺に「思い出すな」と命令しているようだ。

 

もう思い出すことは無いと思っていた。

 

もう思い出したくなかった。

 

過去の記憶が鮮血のように溢れ、俺はゆっくりと口を開き、その一言を告げた。

 

 

「俺は━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何だったでしょうか?
内容の殆どは「魔法があったらこういう学校生活を送りたい」とか、「魔法でこんなことをやってみたい」といった私の妄想なので、やはり適当です。
次回の更新の前に、キャラクター紹介をまとめて投稿したいと思っています。キャラが分かりづらい、もっとこのキャラを詳しく知りたい、という方がいらっしゃると思うので、各キャラクターを出来るだけ詳しくまとめておきますので、是非そちらもご覧下さい。


〈次回予告〉
明らかになる、少年の過去━━

少女は、知らなかった。

彼の苦しみを、抱え込んだ闇を━━

少年は、知りたかった。


次回「真実」

では、また次回お会いしましょう!




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番外編 キャラクター紹介

今回は番外編として、各キャラクターの紹介をしていきたいと思います。
紹介する項目は名前、学年、性格、得意魔法、主人公との関係などです。
それではどうぞ!


No.1 流川湊(るかわ みなと)

冷泉(れいぜい)学園二年生。

この物語の主人公。

人間関係は「狭く深く」がモットー。仲間想いで優しい一面がある。面倒見が良く、仲間からの信頼が厚い。

自覚してないがかなりのイケメン。

昔、葵葉と共にSCの選手として活躍するが、僅か二年で引退の道を辿る。

身長175cm 体重62kg

得意魔法 殆ど全部(炎、水、氷、風、雷、光)

 

 

 

No.2 花宮遥(はなみや はるか)

冷泉学園二年生。

この物語のメインヒロイン。

誰に対しても礼儀正しく、誰に対しても優しい。真面目で冗談が通じにくい。表情が豊かで色々なものに興味を持つ。

童顔気味であり、美女というよりは美少女。

空を飛ぶため、湊にエアリアル・スペルを教わる。実は湊のことが気になっている?

身長166cm 体重xxkg

得意魔法 治癒(光)

 

 

 

No.3 相沢藍(あいざわ らん)

冷泉学園二年生。

大人っぽい見た目と裏腹に極度のめんどくさがり。マイペースで湊はよく振り回される。

成績優秀で常に学年トップクラス。スポーツも得意で容姿端麗、

かなりのハイスペックだが性格に難あり。

実は誰よりもウブ(?)

一年の頃から湊のクラスメート。

身長 172cm 体重xxkg

得意魔法 氷

 

 

 

No.4 棗杏花(なつめ きょうか)

冷泉学園二年生。

貴重な常識人。藍の監視兼保護者。

誰とでも打ち解け、仲良くなれる。自称お姉さん的存在。

魔法の座学は得意だが実技は不得意。

密かにメインヒロインの座を狙っているがいつまでたっても脇役止まり。

一年の頃に藍を通じて湊と関わるようになった。

身長 160cm 体重xxkg

得意魔法 なし

 

 

 

No.5 黒瀬瞬(くろせ しゅん)

冷泉学園一年生。

自称湊の弟分。湊のことを「アニキ」と呼んでいるが、血の繋がりは一切なく、実の兄のことは「兄ちゃん」と呼ぶ。

真っ直ぐな性格で曲がったことが嫌い。

小柄な体に似合わない程、強大な魔力を秘めている。

度胸と元気だけは誰にも負けない自信がある。

中学の頃、湊に助けられたことがある。

身長 156cm 体重 43kg

得意魔法 炎

 

 

 

No.6 如月葵葉(きさらぎ あおは)

冷泉学園教師。

フレンドリーな話し方と態度で生徒からの人気が高い。

その昔、SCの選手として活躍し、湊に魔法を教えていが、訳あってSCを引退。その後、冷泉高校で風術学を教えている。

実は湊が生まれた時から彼の事を知っていて、湊の両親と関わりがある。

身長 177cm 体重 xxkg

得意魔法 全部(炎、水、氷、風、雷、光、闇)

 




とりあえず現在登場している6人をまとめました!
これからキャラクターをもっと増やすつもりですが、その都度キャラ紹介を挟んでいきたいと思います。

それでは、また次回お会いしましょう!


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19話 真実

お待たせしました!今回はいつもより少し長めになっています。
そう言えば、前回のキャラ紹介、如何でしたか?
これからキャラクターをもっと増やすつもりなので、その都度キャラ紹介を挟みます。是非そちらもご覧下さい。

では、19話どうぞ!


「俺は、病気を抱えているんだ」

短く、はっきりと、

俺は言った。言ってしまった。

「え…………」

目を見開いた花宮さんの口から溢れたそれは、声になっていなかった。

「病名は『魔力衰体症』。発症したのは五年前、俺がSCの選手として葵葉さんのチームで活躍して二年目のことだった」

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

その日も俺は、葵葉さんのチームの一人として、戦っていた。

『皆、今日もいつもどおり、落ち着いていこう』

チームのリーダーである葵葉さんは、いつも皆を気遣い、まとめあげていた。

『よっしゃ!この試合に勝ったら、とうとう世界へ行けるんだな!燃えてきたぜ!』

皆よりも体が大きく、引き締まった筋肉を持つ男の人(皆からはゴリという愛称で呼ばれている)。彼もこのチームのメンバーで、頼れる兄貴的存在だ。

『楽しみなのは分かるけど、少し落ち着けよ。湊が真似したらどうするんだ』

妙なポージングをとるゴリを見ながら俺の頭に手を置き、冗談半分で話す男性。

『そんなことしないよ。藤兄は俺のことなんだと思ってるのさ』

頬を膨らませ、頭に乗った大きな手をどかす。

『ははは、すまんすまん。湊が緊張してるんじゃないかと思ってな』

『もう…』

なおも愉快そうに笑うこの人は藤川頼斗(ふじかわ らいと)。因みにゴリの本名は本田剛明(ほんだ たけあき)。どちらも22歳と俺よりも10歳年上だ。

『まぁまぁ、二人とも湊くんの緊張をほぐしてあげたかったのよ』

ゆったりとした声で話す女性の名は神田奈々美(かんだ ななみ)。優しいお姉さんといった印象が強いが、試合となると一転、とても頼もしい存在となる。

『お、俺は別に緊張なんかしてないよ!』

俺の言葉などお構い無しといった様子で執拗に俺の頭を撫でる。俺は耐えられなくなり、奈々美さんから逃げて葵葉さんの後ろに隠れる。

『皆、湊をいじめるのはこれくらいにして、そろそろ作戦の確認をするぞ』

葵葉さんの言葉に、皆の顔が一斉に引き締まった。

『相手は全国の常連だ。なめてかかると一気にやられてしまう。そこでだ』

葵葉さんは真っ直ぐ俺を見た。

『まず私と湊が突っ込んで相手を撹乱する。私が一人くらいは相手をするから、皆は特に湊のサポートをしてくれ』

『えぇ!そんな重要な役割を、俺が…?』

もし俺が失敗してしまったら、一気に差をつけられてしまう。そんなプレッシャーが俺を襲う。

『心配するな湊。俺達がお前をサポートしてやる。なぁ皆?』

『おう!俺達に任せとけ!』

『大丈夫!心配しないで!』

藤兄の問いかけに快く応じる二人、今更ながら仲間の頼もしさを改めて実感する。

『うん、わかった!俺、やるよ!』

『よし、皆』

葵葉さんの合図で皆が水平に拳を突きだす。俺は皆よりも背が圧倒的に低いため、やや斜め上に拳を付き出す形になる。

『勝つぞ!』

葵葉さんのピンと張った弓の弦のような声が響く。そして、

『『『『おう!』』』』

俺達は、一つになった。

 

 

 

 

 

 

『湊!細かい動きで相手の魔法を避けるんだ!』

『うん!』

葵葉さんの指示に従い、縦に横に蛇行を繰り返し、飛んでくる魔法を次々に避ける。

しかし、

『うっ!』

俺は魔法をかわしているのだが、それはいつもギリギリで、常に紙一重だ。

『(何で……、こんなはずじゃ……。)』

俺は内心で焦っていた。あんな程度の魔法、余裕で避けられるはずだったのに、何でこんなにギリギリなんだと理解できなかった。

『うおぉぉぉっ!!』

俺と葵葉さんが作り出した相手の隙を逃さず、ゴリが自慢の炎魔法を大規模に展開させる。

『はあぁぁぁっ!!』

それに続くように藤兄の雷魔法が地を這い、相手の選手に容赦なく襲いかかる。

『やぁぁぁぁっ!!』

絶えず魔法の標的となる俺と葵葉さんの身体を、優しい光が包む。奈々美さんの魔法によって俺達の傷付いた身体から痛みがみるみる内に消えていく。

『湊!行くぞ!』

葵葉さんが俺に合図を送る。

『う、うん!』

俺は答え、慌てて葵葉さんの隣へ並び、二人同時に風魔法の準備を始める。大きく旋回し、まとまって陣形を組んでいる相手に突撃する。

『せやぁぁぁぁっ!』

『はあっ!』

俺と葵葉さんの掛け声が重なり、俺は右手を、葵葉さんは左手を突き出した。次の瞬間、巻き起こった暴風が相手の陣形を崩し、隙を晒した身体に向かって風の刃が振り下ろされた。

轟音と共に砂煙が上がり、俺達は結末を待った。

やがて砂煙が晴れ、俺達が目にしたのは、五人の倒れている相手選手。同時にホイッスルが甲高く鳴り、電子掲示板には「WINNER 〈ETERNAL BLUE〉」、つまり俺達の勝利が写し出されていた。

『や…、やったのか……?』

疲労困憊の身体から声を絞り出す。直後、俺の肩に細い手がそっと置かれた。

そちらを見上げると、額に僅かな汗を浮かべた葵葉さんが優しい微笑を見せていた。そして、葵葉さんはゆっくりと頷いた。

『や………、やったあぁぁぁぁぁ!!』

俺の心は喜びに満ちた。両手でガッツポーズをとり、叫びだす。

『湊ぉ〜〜〜っ!』

大声で俺の名前を呼ぶゴリに続いて藤兄、奈々美さんが駆け寄ってくる。

『うおぉぉぉぉ!湊ぉぉ!』

『やったな!湊!優勝だぞ!』

号泣するゴリと爽やかな笑顔を見せる藤兄が俺の身体を持ち上げて胴上げをする。

『よく頑張ったねぇ!お疲れ様ぁ!』

ゴリ程ではないが目元に涙を浮かべた奈々美さんが俺の頭を撫でる。

俺はしばらく、仲間達と勝利の喜びを共有していた。

ふと目に写った、少し離れた場所でこちらを見守る葵葉さんの顔は、喜びと淋しさが入り交じったような複雑なものだったが、俺はまだその理由を知らなかった。

 

 

 

『湊』

大会も無事終了し、俺達はそれぞれ帰路を辿ろうとしていた時、不意に葵葉さんが俺の名前を呼んだ。

『葵葉…さん?』

俺は普段の優しい声色とは違う、少し硬い声に戸惑いながら振り向いた。正面に立つ葵葉さんの表情はとても真剣なもので、俺は思わず身構えてしまった。

『湊。今から私と病院に行こう』

『え……、えぇぇっ!』

俺は理解が出来なかった。俺はどこにも怪我をしていないというのに、何故病院へいかなければならないのか。

『葵葉さん。俺、どこも悪くないよ?』

『いいや』

葵葉さんは首を横に振って即答した。

『お前は気付いていないんだ。自分の身体に起きている異変にな』

『俺の身体の……、異変…?』

背筋のあたりがゾッとした。握りしめた拳には汗が滲んでいる。

そこで葵葉さんはいつもの優しい表情に戻った。

『何もなければそれだけのことさ。さぁ、行こう』

そう言って差し出された手を握り、俺は葵葉さんと共に近くの大きな病院へ向かった。

 

 

 

『次の方、どうぞお入り下さい』

医師に促され、俺は葵葉さんに続いて診察室に入った。

『本日は、どうされました?』

椅子に座ると同時に聞かれ、答えたのは葵葉さんだった。

『えぇ、実は……』

そこから先は、12歳の俺には到底理解できるものではなかった。俺の不安は一層強まり、医師と葵葉さんのやり取りを固唾を呑んで見ているしかなかった。

『そうですか……』

区切りがついたようで、医師は視線を葵葉さんから俺に移す。

『では、一度検査をしてみましょう』

俺は医師の隣に立つ看護婦に連れられ、数ある部屋の一つに入った。

身体のあちこちに吸盤のような電極を貼られ、力を入れたり抜いたりを繰り返した。

やがて検査が終わり、電極を全て剥がし、その部屋を後にした。

途中でトイレに寄り、用を足したあと、先程の診察室に向かった。ドアのを開けようとした時、中から医師と葵葉さんの話し声が聞こえてきた。

『もし、湊がそうだとしたら、治ることはないんですか?』

葵葉さんは焦った様子で医師に問いかけた。葵葉さんが焦っているのを見るのは始めてで、俺はドアの前で立ち尽くしていた。

『何しろまだ身体が未成熟ですからね…、治るにはかなりの時間がかかります』

『そう……ですか………』

俺は恐る恐る、ドアをゆっくりと開けた。

『湊…、検査は終わったのか?』

『うん……』

それ以外は言葉を交わすことなく、ただ検査の結果を待った。

 

 

『すみません。お待たせしました』

10分程が経過し、一枚の紙を手にした医師が戻ってきた。

『それで、結果は?』

俺よりも先に葵葉さんが反応し、医師は重々しく口を開いた。

『……やはり湊君は、魔力衰体症であることが判明しました』

聞いたことの無い単語に、俺は首をかしげる。

『そ……そんな………!』

葵葉さんはその単語を聞いた瞬間、椅子から勢いよく立ち上がり、絶望したかのように目を見開いた。

『なんとか、治らないんですか…?』

医師は首を横に振った。

『今の医療技術ではどうにも……。自然に治るのを待つしかありません』

俺は隣に立つ葵葉さんの袖をぎゅっと掴んだ。

『湊……』

すると、葵葉さんは少し落ち着きを取り戻し、再び椅子に腰を下ろした。

『そうか…、一番辛いのは……湊だもんな…』

そう呟いて、俺の頭を優しく撫でる。

『湊、よく聞いてくれ』

『う、うん』

俺の理解が追い付かないまま、葵葉さんは説明をした。

『お前は、SCを辞めなければいけない』

『えっ…………』

それは、俺にとって一番残酷な事実だった。

『な…、何で!?俺、SCを辞めたくない!』

俺は声を荒げ、否定した。

俺にとってSCは生き甲斐で、葵葉さんや皆と出会えたきっかけだ。そんなSCを手放すなんて、俺には出来ない。

『私だってそうさ……。お前と一緒にSCをしたい…。一緒に戦いたい……』

『じゃあ…何で……』

葵葉さんの視線が、俺を真っ直ぐに捉える。

『魔力衰体症。それがお前の持つ病気の名前だ。体内の魔力がだんだんと衰えてしまい、もし今のままSCを続けていたら、体内の魔力が消滅し、最悪の場合、死に至ってしまうかもしれないんだ。だから……』

一拍間を置き、

『湊、お前はSCを辞めなければいけない』

俺は、絶望した。

生まれて始めての、絶望。

胸が張り裂けそうなほど痛い。頭の中がぐちゃぐちゃで、何も考えられない。

『う…、うあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!』

俺は崩壊し、涙が止めどなく溢れてくる。

ただひたすらに泣き、叫んだ。

葵葉さんが俺の肩を抱き、背中に手を回す。

『辛いな…、湊…。私も辛いよ……』

その言葉に、俺の涙は勢いを増す。葵葉さんは、俺の涙が止まるまですっと、俺を抱き締めていてくれた。

 

『大丈夫だ、湊。私が、ずっと一緒だ』

 

俺の耳元で囁かれたその言葉は、俺の心に大きな温もりを与えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何だったでしょうか?
過去に何かしらの闇を抱えてる主人公って個人的に好きなんですよね。今後のストーリーも考えやすいし(本音)
何はともあれ、これからも更新を続けて行くので、どうぞご覧下さい!

〈次回予告〉

かつての牙を失くした少年、

しかし、その心に宿った炎は今も燃え続けている。

大切な人との約束を守るため、

己の誓いを果たすため、

少年は再び、フィールドに舞い戻る。


次回「再臨」

是非、ご覧下さい!


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20話 再臨

2月から投稿を始め、3ヶ月が過ぎました。
やっと、20話まで投稿することができ、とても嬉しく思います。
今年中に50話までの投稿を目標とし、これからも活動を続けて行くので、よろしくお願いします!

では、20話どうぞ!


「だから俺は、SCを辞めたんだ」

しばらくの沈黙の後、花宮さんは重い口を開いた。

「そう、だったんですか…。そんなことが……」

「あぁ、あの時は本当に辛かったよ。生き甲斐だったSCを辞めなければならなくなって、チームの仲間とも別れることになったんだ」

俺達は海を見ながら砂浜に座り、かれこれ一時間以上経過していた。藍と瞬は、今もなおお互いに魔法を打ち合っていた。

「あの、流川さん」

「ん?」

藍と瞬に向けていた視線を、花宮さんに向ける。

「そのチームは、その後どうなったんですか?」

俺は軽く息を吐き、

「………解散した」

短く、そう答えた。

「そ、そんな…」

「葵葉さんから聞いたんだ。世界大会を辞退し、チームは解散したってね。メンバーはそれぞれ違う所でSC関連の活動を続けているらしい。………ほんと、何でだよ…!」

俺は砂を握りしめた。

「俺なんていなくても、代わりのメンバーを探せば世界大会に行けたのに……!」

「流川さん……」

俺の手に、花宮さんが手を重ねた。

「……ごめん、取り乱して…」

俺は握った拳を緩めた。

「もう、あの時の俺達はいない。俺はSCが出来なくなり、葵葉さんは…」

「如月先生は…?」

俺は目を伏せた。

「俺と一緒に、SCを引退した」

顔を上げ、遠くを見る。

「誰よりも世界に行きたかったのは、葵葉さんのはずなのに……。俺を一人にしない為にSCを辞めてしまったんだ」

目の奥が熱くなってくる。抑えていた感情が押し出されようとしていた。

「俺のせいで……、葵葉さんの選手人生は…終わってしまった……。俺の…せいで……」

視界が歪む。俺の頬を伝う涙が、次々に溢れてくる。

目を抑え、涙を押し留めようとするが、一向に収まる様子はない。

「流川さん」

「っ!」

優しく、全てを包み込むような柔らかい声。

俺の涙が、その勢いを止めた。

「如月先生は、流川さんのせいだなんて思ってないはずです」

俺の肩に手を置き、囁く。

「でも…、でも……俺は…!」

強く握った俺の手を、花宮さんが両手で包み込んだ。

「如月先生は、待ってるんだと思います。流川さんが再びフィールドに戻って来る日を…」

俺の目を真っ直ぐに捉え、微笑む。

「だから、一緒に行きましょう。流川さんは一人じゃないんです。私が、皆がいます」

「…花宮……さん……」

俺の身体にのし掛かっていた、重りがすっと消えていくような感じがした。俺の目から涙は消えていて、心の隅に残っていた希望に再び火が着いた。

「……ありがとう。花宮さん。気持ちが楽になったよ」

小さな両手を今度は俺の手が包む。

顔を上げ、花宮さんを真っ直ぐに見る。

「俺、諦めない。あの時出来なかったことを、葵葉さんとの約束を、これから果たす!」

花宮さんは少し恥ずかしそうに、微かに頬を染めた。

そして、最大級の笑顔を浮かべた。

「…はいっ!」

すでに夕日が傾きかけて、辺りに淡い橙色の光が射し込んでいる。

俺達はしばらくの間、海を眺めながらお互いに笑いあっていた。

 

 

 

 

「行くよ!湊!」

「来い!藍!」

20メートル程距離を空け、上空に留まる俺と藍。

「うりゃぁぁぁ!!」

少々子供っぽい掛け声と裏腹に、巨大な氷が藍の手によって生成され、俺に向かって飛んでくる。

「ふっ!」

軽い動作で上昇し、氷をかわす。

「まだまだ!」

氷が軌道を変え、俺を追従する。

「くっ!」

なんとか振り切ろうとするが、氷はしつこく俺に纏う。

「(藍のやつ、いつの間にこんな技術を身につけていたんだ…!)」

俺は感心した。

だが、

「はあっ!」

俺は右手に力を集中させ、薙いだ。

瞬間、風の刃が氷を迎え撃ち、切り刻んだ。

「ふぅ…、やるな!藍!」

「湊も凄いじゃん!あんなの見たことないよ!」

俺は花宮さんの激励を受け、再びSCに戻ることを決意した。

現在は、一対一の模擬戦をしているところだ。

「次は瞬だ!かかってこい!」

「よっしゃ!行くぜアニキ!」

 

 

 

「湊、張り切ってるね〜」

「よっぽどSCが好きなんでしょうねぇ」

流川さんとの模擬戦を終えた藍ちゃんが私の隣に腰を下ろす。

「遥は、SCのこと知ってるの?」

「何度か見たことはあるんですけど、実際にやったことはないんです」

藍ちゃんはそのままごろんと寝転がった。

「じゃあ経験者は湊だけか〜」

「でも藍ちゃん、凄く魔法の扱いが上手ですよね?」

「そうかな?」

 

その後も、他愛ない会話を繰り広げていた。

 

 

 

「よし、今日はここまでにしよう」

模擬戦を終え、俺と瞬は二人の元に向かった。

「お二人とも、お疲れ様です!」

花宮さんが労いの言葉をかけてくれる。

「ありがとう。花宮さんの方はどう?」

「はい!ようやく一人で飛べるようになりました!スピードはまだまだですけど…」

やはり花宮さんの成長は早く、俺よりも短い期間でここまで技術を身につけていた。

 

「ねぇねぇ。二人とも何でお互いにさん付けなの?」

「……はっ?」

あまりにも唐突で、変な声が出てしまった。

「…別に、ずっとこうだったろ?今更どうしたんだよ」

「いや〜、せっかくの部活なんだし、お互いの距離を縮める為にもまずは呼び方から変えてみたらどうかな〜って」

「ふむ……」

確かに一理ある。

SCだけでなく、あらゆるスポーツにおいて、お互いの信頼関係というのはとても重要だ。そしてその為にも、普段からのコミュニケーションも必要になる。

もっとも、藍はそんなこと、微塵も思っていないのだろうが。

「確かにそれもそうだな。じゃあこれから花宮さんのことは遥って呼ぶことにするよ」

「じゃあ、私は流川さんのことを湊くんって呼ぶことにしますね!」

こうして、俺達の部活にちょっとした変化が起こりつつあった。

 

 

 

 

 

次の日、如月先生から大事な話があると言われ、俺達は部室に急遽集合した。

「よし、皆集まったな」

如月先生が全員集まったことを確認する。

「それで先生、話って一体?」

俺の問いかけに、如月先生は軽く頷いた。

「私からの話は二つ。一つ目は、新しいメンバーの加入だ」

「「おぉーっ!」」

遥と藍が同時に歓声を上げる。

「先生……どこから誘拐してきたんですか?」

この部活ができてからまだ間もなく、しかも今は俺達しか知らないのに、新メンバーが来るとは思えなかった。

「誘拐だなんて人聞きの悪いことを言うなよ。ちゃんと、本人の希望もある。おーい、入ってきてもいいぞ!」

「は…、はい…!」

随分と控えめな声と共に、部室のドアが開いた。

「お…、おじゃまします…」

ぴょこっと、一人の少女が顔だけを覗かせる。その姿は、兎を連想させるものだった。

「じゃ、ここに来てくれ」

如月先生に手招きをされ、そそくさと歩く。

「紹介しよう。こいつは神田希(かんだ のぞみ)、一年だ」

「神田…?」

聞き覚えのある名字に反応した。そう言えば、この少女も誰かに似ている。

「湊、察しの通りこいつは奈々美の妹だ」

「そうだったんですか、どうりで…」

穏やかで優しそうな雰囲気は、まさに奈々美さんそのものだった。

「は、はじめまして…。神田希です」

軽く自己紹介をし小さくお辞儀をする。

その後、俺達も自己紹介を済ませ、希(後輩なのでさん付けはしなくていいと言うので)を新メンバーとして歓迎した。

「そう言えば先生、もう一つの話って?」

藍の声に如月先生は腰に手を当てた。

「あぁ、実は来週の土日、他校との合同練習を予定している」

「え……、えぇぇっ!!」

全員が硬直する中、俺が声をあげた。

「ちょ、ちょっと待って下さい!唐突過ぎます!」

「大丈夫だ、既に向こうの了承は出ている」

「いや、そういうことじゃなくて……」

俺は深いため息をついた。

「俺達はまだまともな練習を一度もしてないんですよ?なのにいきなり合同練習だなんて」

先生は相変わらず、涼しげな表情のまま、

「一週間もあるじゃないか。それだけあればなんとかなるさ。それに……」

「それに…?」

俺は恐る恐る尋ねた。

「見たいんだ。まだまだ未熟なお前達が、これからどう成長していくのかを、な…」

不敵な笑みを浮かべ、先生は答える。

一瞬、俺の背中がゾッとした。

だが、それは純粋な恐怖ではなく、

所謂、武者震いというやつだった。

 

 

 

「いいか、SCは一人の力だけでは絶対に勝てない。皆の力を如何に上手く合わせられるかが重要だ」

その日の放課後、俺達は部室で如月の「SC講座」を受けていた。基本的なルールから戦略まで、SC初心者の皆は学ぶことが多い。

「まずはポジションの構成だが…。湊、お前ならどう構成する?」

「そうですね…」

俺はしばし考え、答えた。

「俺と遥が前衛、藍と瞬が中衛、そして希が後衛。俺ならこの構成にします」

「ほう…」

先生が何度か頷く。

「ねぇ湊、何でその配置なの?」

藍の問いに、俺はホワイトボードに図を書きながら説明した。

「俺と遥が飛行術で相手を撹乱でき、相手の状況を確認する。その間に藍と瞬は高火力魔法を展開、場合によっては挟み撃ちも可能だ。そして希は後方支援、という感じだ」

まさにあの頃、あのチームで戦っていた頃の戦略だ。

「なるほどね〜。じゃあその練習もしなきゃだね」

「なんせ一週間しかないからな。練習もより実戦的なものになるだろうな」

一週間という限られた時間の中で、皆をどう成長させるのかは俺に懸かっている。自然と身体に力が入る。

「そういうことだ。皆、気合い入れていけよ」

先生が立ち上がり、そう告げた。

「「「「「はいっ!」」」」」

俺達は同時に答え、練習に取り掛かった。

 

「湊……、頑張れよ…」

一人取り残された部室で、如月先生が呟いた一言を聞いた者はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




如何だったでしょうか?
魔法、やっぱり使ってみたいですね〜。皆さんはどうでしょうか?
因みに私は氷の魔法を使ってみたいです。暑いときとか便利そうw
そう言えば、最近暑くなってどんどん夏に近づいてるような気がします。皆さんも体調管理に気を付けてお過ごし下さい。


〈次回予告〉

一週間という時間が矢のように流れた。

緊張を胸に、彼らが向かった場所は

県内トップクラスの設備が整った、強豪校。

そんな強豪校が何故、冷泉との合同練習に応じたのか。


次回「廃れた栄光」

是非、ご覧下さい!


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21話 廃れた栄光

お待たせしました!

近頃、ノートパソコンを買おうと考えていますが、どのメーカーにしようか悩んでいます。なるべくスペックが高い物を選ぶつもりですが、予算オーバーにならないように気を付けます。
何に使うのかと言いますと、主にプログラムの練習に使う予定です。
おそらく買った直後はずっとパソコンをいじることになるので、もしかしたら更新が遅れてしまうかもしれませんが、出来るだけ早い更新を心がけて行くので、よろしくお願いします!

では、21話どうぞ!


「遥!ここで旋回だ!」

「はいっ!」

緑色の尾を引きながら、俺と遥は並んで大きくターンする。

「藍!瞬!いいぞ!」

遠くに立つ二人に合図を送る。

「てやぁぁぁー!!」

「おりゃぁぁー!!」

瞬間、二人が同時に魔法を展開させ、無数の炎と氷結が雨のように俺達に襲いかかる。

「うわわっ!」

その数に戸惑うも、必死に避ける遥。

「ふっ!…はっ!」

俺は降りかかる魔法を全て風の刃で切り裂き、遥のフォローに向かう。

「遥、大丈夫か?」

「は、はい!なんとか…」

今のところ魔法を食らった様子はなく、安堵する。

「次が来るぞ!気を付けろ!」

「は…はいぃっ!」

その直後、再び炎と氷結がこちらに向かってくる。

「せあっ!」

「ひいぃっ!」

俺は最低限の動きで魔法を避け、風刃で真っ二つに切断する。一方遥は、ただひたすらに逃げ回っていた。あれで一度も魔法に当たらないのだから不思議だ。

 

 

 

「じゃあ、今日はここまでにしよう」

「はーい!」

既に夕日が傾き、東の空が暗さを帯びてきた頃、俺達は今日の練習を終わろうと集合した。

「皆、凄い成長ぶりだ。ここまでよく頑張ったな」

如月先生は部活に来れないため、俺が代わりに皆を労う。

「まぁ、あたしにかかればこれくらい余裕だしね!」

「チョコがあれば、な」

ドヤ顔をする藍にツッコミを入れ、話を続ける。

「明日は全員、7時30分にここに集合だから、遅れたりしないようにな」

俺の言葉に全員が頷いた。

「……あれ、なんか忘れてるような…」

不意に藍が呟く。

「………あっ」

俺達あることを思いだし、はその"忘れていた存在"の元へ走った。

 

 

息を切らしながら部室へとたどり着き、そのまま部室のドアを開けた。そこには━

「ちょっとぉ!作者含め皆私の存在忘れてない!?最近全然登場してないし!」

半泣き状態の杏花が泣き崩れていた。

「あ、あはは……」

俺はただ苦笑することしか出来なかった。

「(すっかり忘れてたなんて、言えない……)」

口にはしないが、心でそう呟いた。

 

 

 

 

 

「いよいよ、明日なんですね」

「あぁ、皆にとっては始めての実戦だな」

隣を飛ぶ遥に、俺はそう答えた。

「うまく、出来るでしょうか?」

少しだけ不安そうな顔になる遥。

俺は小さく笑って

「なんだか、昔の俺を見てるみたいだ」

「えっ?」

遥が不思議そうな顔を向ける。

「俺も初めて試合をしたとき、とても不安だったんだ。酷いもんだったよ。飛行術もまともじゃないし、ただひたすらに相手の魔法から逃げ回ることだけで精一杯だった」

俺は、遥の顔を正面に捉えた。

「でもそんな時、葵葉さんが言ってくれたんだ。『お前は一人じゃない。仲間が、私がいる。』ってさ。だから俺は、仲間を信じる。」

「一人じゃない……。仲間がいる……」

俺の言葉を繰り返し復唱する遥。やがてその顔から不安の色は無くなっていた。

「分かりました!私も皆さんを、湊君を信じます!」

「あぁ、俺も皆を、遥を信じてる」

二人して顔を見合わせ、お互いに笑った。

 

「じゃあ、私はここで失礼します」

「うん、また明日」

遥の家の前で止まり、俺達は別れた。

身を翻し、家までの距離を飛ぶ。

そよ風に背中を押されたように、身体が軽く感じる。

俺はあっという間に家に着き、玄関のドアを引いた。

 

 

「ふぅ……」

俺は自室のベッドに転がりながら、明日のことについて考えていた。

「真良との合同練習…か……」

 

━━真良(しんら)学院━━

 

県内随一の施設が整った強豪校で、過去に何度も県大会を制し、全国へと上り詰めている。

特に注目されている選手が一人、

「雪峰凍哉……。彼は要注意だな」

 

━━雪峰凍哉(ゆきみね とうや)━━

 

俺達と同じ二年生にして、強豪真良学院のエースの座に君臨する男。

去年の県大会では、一年生でありながら選抜メンバーに抜擢され、得意とする氷と風の魔法を駆使し、真良学院を全国へ導いた強者だ。

その圧倒的な戦力から、〈ブリザード〉の二つ名を付けられている。

「俺が、皆をまとめないとな…」

そんな強豪校に対抗するには、俺の全てをもって戦うだけでは不十分だ。俺が皆を統率し、的確な指示を出す必要がある。

「作戦は明日、皆に教えるか……」

そこで眠気が俺を襲い、俺は電気を消し、布団に潜り込んだ。

それから間もなくして、俺の意識はゆっくりと落ちていった。

 

 

 

 

 

「……………遅い」

部室の壁に背中を預け、ため息をつく。

「出発まであと五分だってのに、来てるのは希だけ…。残りの奴らは何やってんだか…」

昨日、集合時間と場所を教えておいたにも関わらず、メンバーが三人遅刻状態である。

「そう言えば希、ウィザードスーツはちゃんと持ってきたか?」

「は、はい…!ここに…」

希はソファーに座り、隣に置いている大きなバッグをぽんと叩いた。

ウィザードスーツとは、SCのユニフォームのようなもので、動きやすいだけでなく、あらゆる魔法の衝撃を吸収してくれる防護服の役割も果たす。これはちょうど三日前、葵葉さんがメンバーの分を用意してくれたものだ。

「あいつらも忘れてないといいけど…。……っと、来たみたいだな」

ドタドタという音が聞こえ、ドアが勢い良く開けられた。

「ご、ごめ〜ん。遅くなった」

最初に部室へと飛び込んできたのは、息を切らし、かなり急いだ様子の藍。

「すみませ〜ん」

「遅くなったっス!」

続いて部室に入ってきたのは遥と瞬。そして二人に引っ張られている杏花。

「遅いぞお前ら、何してたんだ?」

俺の問いに、藍がびしっと手を挙げる。

「はいっ!寝坊!」

「うん…、まぁなんとなく分かってた。瞬、お前は?」

瞬も同様に手を挙げ、

「朝練してたら遅くなりました!」

瞬の家は剣道の道場で、そこの朝練に参加するのが瞬の日課となっている。

「なら仕方ないな。遥は?」

「は、はい!……あのぉ」

遥は恥ずかしそうにはにかむ。

「その…、空の散歩に夢中になっちゃって……」

「……………」

何とも怒れない理由だった。

「(まぁ、可愛いからいっか…)」

内心、ちょっと得をした気分である。

俺は小さく咳払いをして、

「何はともあれ、これで全員が揃った。皆、忘れ物は無いな?」

全員が頷いたのを確認し、俺達は部室を出た。

 

「おっ、やっと来たな。待ちくたびれたぞ」

そこには、相変わらずの奇抜な服装をした如月先生が待っていた。

「すみません。お待たせしました」

待ちくたびれたというのは恐らく冗談であろう先生は寄りかかっていた塀から離れ、服の汚れを払う。

「それじゃあ早速だが、出発するぞ。向こうの人達を待たせるわけにはいかないからな」

そのまま軽い動作で上昇する先生。それに続いて俺達も先生の後を追う。

 

「それで先生、これから行くのはどんな学校なんですか?」

少し前を飛ぶ先生に遥は尋ねた。

行き先が真良学院であることは全員知っていたのだが、詳しい情報を知っているのは俺と如月先生だけだ。

「そうだな…。真良学院は、毎年県大会の上位に食い込み、全国大会の出場回数も多い。おそらく県内でトップクラスだろうな。」

「そ、そんなに強いんですか?」

遥の表情に不安の色が宿る。

「あぁ、だがそんなに不安になることはないさ。こっちには湊がいるだろ?」

そう言って俺の方を見る先生。

「俺を過大評価し過ぎですよ。俺はもうあの頃のような実力はありませんから」

くすっと小さく笑い、

「本当にそう思うか?」

真剣な眼差しで、俺に言った。

「お前は、確実にあの頃より強くなってるよ。動きが洗練され、技のキレも増している」

「そ…、そんなことは……」

俺は目を反らし、眼下に広がる海を見下ろした。

どこまでも蒼く透き通り、微かな汚れさえ見当たらない。

日の光を受け、より一層の輝きを強く放っている。

そんな光景を見ていると、俺の存在がいかにちっぽけなものかを改めて実感する。

「なら、確かめてみればいい」

「…確かめる?」

不意に、如月先生が言い放つ。

そちらに目を向けると、先生はいつものように愉快そうに笑う。

「雪峰凍哉。うってつけの相手だと思わないか?」

「……かもしれません」

正直、今の俺がどこまでやれるのかは分からない。

だから、これは雪峰凍哉への挑戦であり、

俺への挑戦でもある。

 

「見えてきたな。真良学院」

前を飛ぶ先生が、その動きを止めた。

「……着いたか」

俺も止まり、視線を下ろす。

「あれが、真良学院……」

隣の遥が、小声で呟く。

「よし、今から降りて校門へ向かうぞ」

俺達はその場で下降し、校門の前で着地した。既に校門には真良学院の生徒が数多く並び、お待ちかねのようだった。

「遅くなって申し訳ない。冷泉学園SC部の顧問、如月葵葉だ」

いつからうちは「スペルリサーチ部」から「SC部」に変わったのか問い詰めたいと思っていると、向こうから一人の生徒が前へ出た。

「冷泉学園の皆さん、お待ちしておりました。ようこそ真良学院へ。僕は真良学院SC部の部長、月夜翔(つきよ かける)です」

続いて俺が一歩進み、自己紹介をする。

「冷泉学園SC部部長、流川湊です。この度は急な申し出にも関わらず、承諾を頂けたことに対し、部を代表して深く感謝申し上げます。」

そして、お互いの目を見たまま、握手をした。

「(この人……、強い)」

軽く握手をしただけで伝わってくる、彼の魔力。

魔力だけじゃない。精神力、頭脳、知識、どれにおいても秀でていることが分かる。

「そう言えば、顧問の藤川先生はどちらに?」

如月先生が、俺の前に立つ彼に問いかけた。

「藤川先生でしたら、先にフィールドへ向かわれました。今からご案内します」

月夜さんの先導の下、俺達は真良学院の練習場へと足を運んだ。

「うわ〜、でっかい練習場。うちにもこんなのあったらなぁ」

「うちはまだまだ弱小校だし、何より部員も少ないからな」

藍とそんなことを話しているうちに、俺達は練習場に到着した。

「これは……、すごいな」

練習場の中にはフィールドが三つ、更にはトレーニングルームやシャワー室も完備されている。まさに県内随一の施設だ。

「藤川先生。冷泉学園の皆様が到着しました」

月夜さんが、少し離れたベンチに座っている男性に声をかける。

その男性は軽く頷き、立ち上がるとこちらへ歩いてくる。サングラスをかけたジャージ姿の男性は、その手をサングラスへと伸ばし、

「ようこそ、冷泉学園の皆さん。そして、久しぶりだな、湊」

サングラスの下に隠れていた目は、真っ直ぐに俺を見据えた。

どこか懐かしい声と顔に、俺は言葉が出なかった。

「ま……、まさか…。……藤兄…?」

かつて同じチームの一員として共に活動した仲間であり、実の弟のように俺を可愛がってくれた藤兄が、俺の目の前にいる。

五年という月日を経て、さらに大人っぽい顔立ちになり、落ち着いた雰囲気を漂わせている。

「すっかり大きくなっちまったな。あの時はまだこんなに小さかったのに」

「な…なんで?どうして?」

俺は未だに理解が出来ずにいた。

「あれ?葵葉から何も聞いてないのか?」

「……え?」

二人同時に如月先生の方へと目を向ける。

「あ〜、その、サプライズってやつだよ」

「…お前、絶対忘れてただろ」

 

こうして、俺と藤兄は思わぬ形で再開を果たすことが出来た。まさか藤兄がSCのコーチをしているとは思ってもいなかったが、これなら合同練習を受け入れたことにも納得が行く。

 

 

それからの練習は、月夜さんの的確な指示の下行われた。

「……………」

しかし、俺にはどうしても気になることがあった。

「あの、少しいいですか?」

休憩の間、俺は月夜さんの所へ向かった。

「流川さん、どうされました?」

スポーツドリンクの入ったボトルを手渡され、ありがたく受けとる。

「実は、お聞きしたいことが」

「どうぞ」

では、と一拍おいて、

「今回の合同練習、反対しなかったんですか?」

単刀直入に、問いかけた。

「………」

月夜さんは暫く考え込み、やがて顔を上げた。

「正直に言うと、最初は皆が反対だったんです。…藤川先生を除いては、ですけど」

「それは、そうでしょうね」

うちは部活そのものが出来たばかりで、どこにも名が知れていない。そんな学校と合同練習だなんて、強豪の真良からすると迷惑でしかない。

「でも、藤川先生は僕にだけ、あなたのことを教えてくれたんです」

「藤兄が、俺のことを?」

月夜さんが無言で頷く。

「『あいつは強かった、あいつは天才だ』って、口癖のように言ってましたよ。もっとも、他の部員は信じていないようですけど」

確かに、周りを見渡すと、微かに不満げな表情の部員が数名いることが分かる。

「僕は、知りたくなったんです。藤川先生がそこまで言う程のあなたが、どんな選手なのか。………流川さん」

先程の穏やかな表情とは違い、敵を見据えるような目で俺を見る。俺の身体に自然と力が入り、背筋が伸びる。

「僕と、勝負をしてくれませんか?」

懐かしい感覚。ただひたすらに強くなることを願い、ただひたすらに上へ行くことを目指していたあの頃の感覚が、だんだんと戻ってきている。

「分かりました。全力でお相手します」

おそらく俺は今、笑っているだろう。

いや、俺だけじゃない。

俺に向かい合っている彼もまた、目は真剣そのものだが、口元に微かな笑みを浮かべていた。

 

 

「試合形式は1on1、どちらかが続行不能になった地点で試合終了とする」

藤兄がフィールドの真ん中に立ち、試合のルールを説明した。

今、フィールドに立っているのは俺と藤兄。

そして対戦相手の、月夜さんだけである。

俺は白と青を基調としたシンプルなデザインのウィザードスーツに、月夜さんは鮮やかなライトグリーンのウィザードスーツに身を包んでいる。

魔法の被弾を避けるため、他の部員達はフィールドの外で観戦をしている。

「では両者、準備はいいな?」

二人が同時に頷き、藤兄もフィールドの外へ移動する。

「それでは、始め!」

甲高いホイッスルの音が響き、

試合が今、始まった。

 

 

 

 

 




如何だったでしょうか?
相変わらずのガバガバな内容で申し訳ないです。
次回はバトルシーンに力を入れるつもりなので、是非ご覧下さい。


〈次回予告〉

対峙する二人

湊と翔。

互いの魔法が交差し、空間を揺るがす。

かつての少年のような、圧倒的な力が、

フィールドに、再臨した。

その姿は、まさに━━


次回「甦った鳳珠」

では、また次回お会いしましょう!







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22話 甦った鳳珠

最近はすっかり暑くなって、何事にもやる気が起きなくなっています。皆さんも、体調には十分お気をつけ下さい。

では、22話どうぞ!


「それでは、始め!」

藤兄の声に重なり、勝負の始まりを告げるホイッスルが鳴った。

「はっ!」

すぐさま短い掛け声と共に氷魔法が展開され、俺に向かって氷の槍が迫る。

「(ここまで高度な魔法を無詠唱で展開させるとは、相当の手練れだな)」

通常、魔法の展開にはスペルの詠唱が必須なのだが、熟練者は詠唱をせず、体内の魔力を操ることのみで魔法を展開させることができる。

「っ!」

こちらも無詠唱で氷魔法を展開し、巨大な盾を作り出す。

次の瞬間、槍と盾が衝突し、それらが無数の氷塊となって飛び散る。

「ふっ!」

俺はすぐさま風魔法を使い、氷塊を前方へ強く押し出し、月夜さんの方へと一直線に向かっていく。

「くっ!」

すんでのところで氷を避け、そのまま空へと逃げる。俺は追いかけるように急上昇し、隙だらけの背中に回り込んだ。

「せあっ!」

獲物を襲う獅子のように、展開させた風魔法が月夜さんを捉える。

「うあぁっ!」

10メートル程吹き飛ばされるが、すぐに体制を立て直し、距離を保ったまま、無数の氷弾を投射する。

しかし、どれも俺に的中することなく後ろへと過ぎていく。

「(あいつ、かなり焦ってるな。このままいけば、勝てる)」

俺は向かってくる氷を避け、反撃の準備をする。

そして、俺の手に魔力が集中したのを感じ、俺は突っ込んだ。

月夜さんは一瞬狼狽するが、すぐに大規模な炎魔法を展開させ、俺の目の前に燃え盛る火の玉が出現する。

誰もが月夜さんの勝利を確信した、その瞬間。

「うおぉぉぉっ!」

俺は即座に氷魔法を展開し、俺を中心に全方向を囲んだ厚い氷の鎧を作り出した。

俺は鎧を見に纏い、炎の中へと突撃した。

鎧が凄まじい速さで形を崩していくが、俺は更に加速し、炎の檻を破った。

「ば…、馬鹿な!?」

俺は風と一つになり、月夜さんへと迫る。

「ここだっ!」

月夜さんの目前で両手をかざし、風魔法を大規模に展開させる。

瞬間、鮮やかな緑色の球体が月夜さんを包み、閉じ込めた。

「!? こ、これは!」

これは昔、俺が得意としていた技の一つで、元々は如月先生の技だったのだが、無理言って教わったものだ。

風の球体が相手を捕らえ、拘束する技。

 

━━━〈魂の牢獄〉ソウル・プリズム━━━

 

俺は後ろに飛んで距離をとり、追い打ちの準備をする。

左手をかざした瞬間、そこに緑色の光が集まり、野球ボール程の大きさに形を変える。

これは風魔法と光魔法を融合させたことにより、魔法そのものの威力を増大させるだけでなく、お互いの弱点を補い合うことが出来る、という技術だ。

そして、これは俺が一から編み出した唯一無二の技。

 

━━━〈翡翠の弾丸〉エメラルド・マグナム━━━

 

「行けえぇぇぇ!!」

俺の叫びに応じるように、弾丸は一際輝きを増す。

左手を前へ突き出した瞬間、銃弾の如く打ち出された光は真っ直ぐに突き進み、一筋の長い軌跡を描いている。

弾丸は、20メートル程の距離を瞬時に駆け抜け、そのまま檻の中心まで侵入した。

やがて、檻の中から光が溢れ、轟音と共に内側から爆裂した。

 

「これが君の…、流川湊の力か……」

 

爆裂の直前、微かに聞こえた月夜さんの声には、驚きと尊敬、そして喜びの感情が込められていた。

 

 

 

「そこまで!勝者、流川湊!」

長い沈黙を破った藤兄の声が大きく響き渡った。

どよめいていたギャラリーから、次々に歓声が上がる。

俺が着地すると、目立った外傷はないが大分疲弊した様子の月夜さんがこちらへ歩いてくる。

「いやぁ、参ったよ。聞いた通り、いや、それ以上の強さだった。こっちは手も足も出なかったよ」

負けたというのにも関わらず、満面の笑みを浮かべ、握手を求めてくる。試合前とは違い、口調が柔らかくなっている。

「こちらこそ、最初の氷魔法には驚きました」

言いながら、差し出された手を握り返す。

「本当に良い経験になったよ。凍哉にも見せてやりたいくらいだ」

俺はその名前を聞いて思い出した。

「そうだ!その凍哉さんはどこに?」

「凍哉は今、特別強化選手に選ばれて都内の強化合宿に参加していてね。明日帰ってくるらしいんだけど……」

俺は身体を微かに震わせた。所謂武者震いというやつだ。

「……凍哉と、戦ってみたいと思ってるね?」

「……えぇ、すごく」

お互いに顔を見合わせ、笑った。

「君に負けた僕が言うのもなんだけど………。強いよ、凍哉は」

目は笑っているのに、どこか言葉に強い意思を感じる。

「望むところです」

月夜さんが頷き、

「明日の練習試合では、負けないよ」

真剣な眼差しを向けた。

「こちらこそ、負けません」

俺達は再び、硬い握手を交わした。

 

 

 

 

「真っ直ぐに飛ぶだけじゃ、相手の魔法に狙われやすくなる。もっと細かい複雑な動きで相手を惑わすんだ!」

昼の休憩の後、練習を再開した俺達だったが、「湊、お前の指示で練習してみたらどうだ?」

という藤兄の提案の下、俺が全体の指揮をとって練習をすることになった。俺は反対だったのだが、賛成が圧倒的に多く、押しきられてしまった。

真良の部員達は反対すると思っていたが、先程の試合を見たからか俺に練習を委ねるといった様子を見せた。

そして現在、各ポジションに分かれて練習を始め、俺は前衛練習の指揮を任されている。

因みに練習内容というのは、二人一組のペアを作り、その内の一人がひたすら逃げ回り、もう一人が相手を狙って魔法を展開させるといったものだ。一定間隔をおいて飛ぶように指示し、お互いの飛行術と魔法技術の向上を目的としている。

「よし!じゃあ五分休憩したら攻守を交代してもう一度!」

俺の指示で皆が休憩をとる。俺はその間に一つ一つペアの所へ行き、全員にアドバイスをする。

「流石だね流川くん。的確な指示とアドバイスだよ」

俺に声をかけたのは、同じく前衛の練習に参加していた月夜さんだ。

「それにしても、こんな練習方法があったなんてね。うちは殆ど試合形式ばかりだったから、皆も楽しめてるみたいだ」

「真良は部員が多いですから、試合形式の練習が出来て羨ましいですよ。こっちは五人しか選手がいませんから、こういった練習が殆どなんです」

月夜さんはふっと柔らかい笑みを浮かべた。

「うちなんかで良ければ、いつでも練習に来ると良い。藤川先生も喜ぶよ」

対し、俺は悪戯っぽく笑った。

「良いんですか?そのうち真良よりも強豪校になるかもしれませんよ?」

「そうなったら、こちらも鍛練を重ねて追い抜くだけさ」

かつての俺は、ライバルと呼べる相手がいなかった。

しかし今、俺の目の前には競い合うライバルがいる。

負けたくない、勝ちたいという思いが、これほどまでにワクワクさせるものだということを、俺は初めて知ったのかもしれない。

「それじゃあ、練習を再開しよう!」

爽やかな風に背中を押され、俺は空へと躍り出た。

それに続くように、遥が俺の隣へ飛んでくる。

俺にぴったりとついてくる遥が、純粋な笑顔を咲かせる。

その瞬間、俺の中に一つの感情が生まれた。

楽しいとも、嬉しいとも違う、謎の感情。

でも、不快感は全くない。それどころか心が安らぐような安心感がある。

この感情の、正体を、俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━都内某所━━

 

「……そうか。ついに現れたか」

「…はっ、如何致しましょうか」

「まだ焦る必要は無い。そのまま遊ばせておけ。いずれ向こうからのこのこ顔を出す」

「はっ、かしこまりました」

 

 

「クックック……。やっと…、やっと見つけたぞ。五年という長い時間をかけて、やっとな……」

 

 

to be continued....

 




如何だったでしょうか?
今回はバトルシーンが殆どだったのでちょっと短めです。(内容考えるのが難しかっただけ)
次回もバトルシーン多めでいくので、よろしくお願いします。

〈次回予告〉
圧倒的な力を見せつけた湊。

しかし、彼の前に姿を現した強敵、雪峰凍哉。

彼もまた、湊に憧れを抱いていた人間の一人であった。

彼は今、持ちうる全てを出し、少年に挑む。


次回「最強のウィザード」


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23話 最強のウィザード

大変遅くなりました!
色々と立て込んで忙しかったんです。(テストとか検定とかゲームとかゲームとかゲーム)
これからは暇な時間が増えると思うので、どんどん更新して行きます!

では、23話どうぞ!



今日の練習が終わり、俺達は皆で夕食の準備に取り掛かっていた。

男子がテーブルの設置など力仕事を、女子が料理をそれぞれ担当することになり、俺と瞬はテーブルの設置を早くに終わらせて荷物の整頓をしていた。

「遥、この野菜洗ってくれる?」

「はいっ!」

「希ちゃん、そこのお皿持ってきて頂戴」

「は...はいっ!」

離れた所では、藍が凄いリーダーシップを発揮し、スムーズに調理を進めていた。

「あいつ、練習でもあれくらいやる気を出してくれたらなぁ」

練習中とのギャップについため息が出てしまうほど、今の藍は生き生きとしている。

「藍センパイ、料理得意なんスか?」

「藍のやつ、以前ファミレスでバイトしてたって言ってたな。今はもう辞めたみたいだけど」

「ふぅん...」

それから、しばらくの沈黙の後、俺は口を開いた。

「そういえば、明日の練習試合だけど、例の技を試してみないか?」

「例の技って...まさかアニキ、アレをやるんスか?」

俺の言葉に、瞬が目を丸くした。

「あぁ、いい機会だと思わないか?」

「でも…、あの技はまだ未完成っスよ?」

俺はにやりと笑って見せ、

「望むところだ。練習で出来ないなら、試合の中で完成させれば良い、だろ?」

「無茶苦茶っスね……。でも、アニキがそういうなら俺はやるっス!」

俺達は軽く頷き合い、丁度夕食の準備が出来た遥たちと合流して皆で食事を共にした。

 

 

練習場にあるシャワー室を使って汗を流し、男女に分かれ、俺達は敷いた布団の上で横になっていた。

「流川くん。明日の練習試合、よろしく頼むよ」

俺の隣に布団を敷いた月夜さんが、消灯前に声をかける。

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします」

俺はそれだけ返し、大部屋は暗転した。

枕に頭を埋め、目を閉じる。

それから間もなくして、俺の意識は睡魔によって眠りへと誘われた。

 

 

 

 

「ん……」

微かに開いた目に、朝日が眩しく射し込む。

起床を急かすように、小鳥の鳴く声が小さく響く。

「朝か……」

俺は体を起こし、伸びをした。

回りを見渡すと、起きているのは俺だけのようだ。右隣では瞬が、左隣では月夜さんが静かに寝息をたてている。

 

それから何分かが経過し、皆が次々に目を覚ました。

一番最後まで寝ていた瞬を叩き起こし、布団を畳む。

女子と合流し、朝食を取りながら今日の作戦を皆に説明した。

「……とまぁ、こんな作戦でいこうと思う」

「ふーん、つまりはいつもの練習通りってこと?」

味噌汁をずずっと啜り、藍が訪ねる。

「あぁ、昨日の様子を見ると、真良は俺達のような練習をしていない。つまり俺達の動きは予測出来ないはずだ」

「なるほどね〜」

理解したのか分からないような返事をする藍。

「この作戦で注意する点は、藍と瞬が希のカバーをすること。後衛である希は優先的に狙われる可能性が高いからな」

SCにおいて、後衛は特に重要な役割を持っている。

後衛による治癒術や支援魔法が無ければ、勝利は困難になる。

「という訳だから、二人とも頼んだぞ」

二人が頷いたのを確認し、立ち上がる。

食器を片付け、更衣室へと向かった。

 

俺は昨日と同じく、白と青のウィザードスーツに身を包んだ。隣では、瞬が白と赤のウィザードスーツに着替え終わったところだった。

「相変わらず派手だよなぁ、赤って」

「そっスか?青だって十分派手だと思うんスけど」

そんなどうでもいい会話をしながら更衣室を出ると、

「あっ!湊君!」

丁度同じタイミングで女子も着替え終えたようで、更衣室から三人が出てきた。

遥のウィザードスーツは俺と同じデザインだが、色は白と水色で俺とそっくりだ。

対する藍は濃紺に黒という、何とも男っぽいカラーである。だが男勝りな部分があるせいか、その色はやけに似合っていた。

二人の後ろでいつも通り控えめな希は、藍とは正反対にピンクと白という女の子らしいデザインのウィザードスーツを着ている。

その希は両手を胸の前で交差させ、隠すような姿勢をとっている。

「(あぁ、そういうことか…)」

俺はその理由がすぐに分かった。

ウィザードスーツは、動きやすさを重視した設計のため、体にぴったりとフィットする素材で作られている。

つまり…

「こ…、この服……、体のラインがはっきりしてて…恥ずかしいです……」

絞りだような声が、希の口から漏れた。

体のラインが見えるというのは、男子からするとなんともないが、女子にとっては地獄だろう。

「そうかな?あんまり気にならないけど」

「私も、そこまでは気にならないです」

スタイルに自身でもあるのだろう藍と、素で気にしていない様子の遥。

「(二人ともスタイル良いんだから、少しは気にしたほうがいいと思うんだがなぁ)」  

思ったその言葉を口にすることが無いまま、俺達は練習場へと向かった。

 

 

 

「最初は、ウォーミングアップとしてフィールドランニングをしようと思う」

月夜さんの指揮の下、俺達はウォーミングアップを開始した。

 

「そういえば、雪峰さんって人はいつ来るの?」

フィールドの外周をランニングしながら、藍が尋ねる。

「月夜さん曰く、そろそろ到着するらしいけど…」

俺が口にしたその瞬間、携帯の着信音が響いた。

「おっと、電話か。……もしもし」

音の方へ目を向けると、藤兄がスマホを耳に当てている。

「そうか。俺達はいつもの練習場にいるから、お前もすぐに来てくれ」

藤兄が通話終了ボタンを押し、俺はすぐさま尋ねた。

「藤兄、今の電話って、もしかして…」

俺の言葉に、藤兄は頷いた。

「あぁ、凍也が帰ってきたんだ。ここへ来るように行ったから、すぐに着くはずだ」

一瞬、俺の背筋にぞわぞわっとした何かが広がるのを感じた。

 

喜び、期待、恐怖

 

感情が混ざり合い、複雑化し、俺の中に謎の感情が生まれる。

俺はその感情を胸に、その時が来るのを待った。

 

 

 

 

「…どうやら、来たみたいだな」

俺が小さく呟いた、その直後、

ドアの開く音、それに続いて一つの足音が微かに響いた。

「…………ッ」

思わず固唾を飲む。

ここからでも分かる、とてつもない魔力。

隣の遥もそれを感じたようで、俺のウィザードスーツの裾をギュッと掴む。

だんだんと足音が近づき、やがて、

「随分と、お待たせしてしまったようだね」

はっきりと通る声と共に、彼は姿を現した。

やや長めの落ち着いた髪、鋭いが圧を感じさせない目、余裕のある佇まい。

その全てが雪峰凍也という人間の強さのオーラを放っている。

「凍也。合同練習でお越し頂いた冷泉学園の皆さんだ」

月夜さんの紹介を聞き、彼がこちらへ歩み寄る。

俺は一歩前へ進み、

「冷泉学園SC部、流川湊です。よろしくお願いします」

言い終えると、彼は手を差し伸べた。

「真良学院SC部、雪峰凍也だ。会えて嬉しいよ、流川くん。…いや、『元日本代表』と言うべきかな」

おずおずと彼の手を握る。軽くため息をつき、

「もう五年も前の話ですよ。今の俺は、ただのSCの選手です」

しかし彼は首を横に振る。

「僕は君に憧れてSCを始めたんだ。だから、僕にとって君は特別なんだ。それこそ、神様のような…、ね」

「(神様…か……)」

あの頃の俺にとっては、神様は葵葉さんただ一人だった。

ずっと葵葉さんの背中を追いかけ、ただひたすらに練習を重ね、いつの日か葵葉さんのような選手になることを夢見ていたあの感覚が蘇る。

「僕は今日この日、君に会えたこと、そしてこれから君達と試合が出来ることを奇跡だと思っているよ。」

目の前の真剣な眼差しが、俺を真っ直ぐに射る。

だが、俺は気圧されることなく告げた。

「元日本代表として、全力でお相手します」

 

 

 

 

「両チーム、準備はいいか?」

「「はい!」」

俺と雪峰さんが同時に応え、

「それでは…始め!」

高く響いたホイッスルが、試合の開始を告げた。

 

 

━これは、ただの試合じゃない━

 

 

━━俺と彼の、全てをかけて戦う━━

 

 

━━━魂と魂の、ぶつかり合いだ━━━

 




如何だったでしょうか?
今回は時間の都合上、バトルシーンを入れることが出来ませんでした。(バトルシーンを入れようとするとさらに更新が遅くなる)
なのでバトルシーンは次回投稿しますので、是非ご覧下さい!

〈次回予告〉
ぶつかり合う魂と魂━━


交差し、空に描く軌跡━━


凄まじい力が、湊の前に立ち塞がる━━


その力こそ━━━


次回「ブリザード」

是非ご覧下さい!


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24話 ブリザード

お久しぶりです。更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
予想以上に予定(主にゲーム)が多く、執筆の時間があまり取れませんでした。
最近、猛暑が続いていますので、熱中症にならないように気を付けないといけませんね。
皆様も体調に気をつけてお過ごしください。

では、24話どうぞ!


「……くっ…!」

何だ……?

俺は、何と戦っている……?

そう思わずにいられないほど、

雪峰凍也は、強い。

 

 

序盤は、俺達がリードを握っていた。

俺の作戦通り、真良は俺達の動きについてこれなかった。そのまま早々に三人を戦闘不能にし、更なる優位を得た。

「まさか…これほどまでとはね」

彼がが不敵な笑みを浮かべ、つい身構えてしまう。

「だけど、このままでは終われない!」

「ッ!」

彼の目つきが、変わった。凍てつく眼光が、俺を射る。

「なんて気迫だ...」

握った拳にじんわりと汗がにじんでいるのが分かる。

あまりのプレッシャーに息を呑む。

…だが……

「俺達も、負けるわけにはいかない!」

遥、瞬、藍、希が一斉に頷く。

俺達五人に対して向こうは雪峰さんと月夜さんの二人。決して楽な相手ではないが、皆の力で得た優位を無駄には出来ない。

「僕の全てを、君達にぶつける」

前傾姿勢をとり、突撃のモーションに入る雪峰さん。

「来るぞ!」

俺の合図でそれぞれが構え直す。

突撃を正面から抑え、隙をついて反撃すべく魔力を集中させる。

「さぁ、勝負だ!」

瞬間、フィールドに吹き荒れたブリザードが姿を現し、真っ直ぐに俺へと襲いかかる。

「は…速い!」

速いだけじゃない、氷と風の魔力を纏い、威力を増大させている。

「(これを受けたら、ただでは済まない!)」

瞬時に悟った俺は、声を張り上げた。

「全員、回避!」

皆に指示し、俺も上へ逃れようとした、

しかし、それよりも先に俺の横を風が吹き抜けた。

 

まるで、時をも凍らせるような―――

 

「し…しまった!」

そこで風の正体に気付いた時には、もう手遅れだった。

振り返った俺の視界に映ったのは、零距離で魔法を受け、戦闘不能になった希だった。

「な……!」

「うそ……!あの一瞬で……」

俺達が驚愕する中、雪峰さんがゆっくりとこちらに向き合う。

その口元には微かな余裕の笑みが浮かぶ。

それとは対照的に焦燥感に駆られている俺。

「(一体…どう戦えばいいんだ……!)」

今も頭をフル回転させ、打開策を探す。

恐らく、俺達の作戦は通用しない。かと言って、新たな作戦を考える猶予も無い。

俺の胸を更なる焦りが浸食する。

「(もう、勝ち目は無いのか…)」

そう諦めかけた時、俺の頭にあの時の記憶が蘇る。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

『ッ……!はぁ…はぁ…』

肺が潰れそうなほどに苦しい。それでも必死に酸素を取り込む。

目の前に迫る炎の追跡弾を紙一重で躱し、よろめきながらも体制を立て直す。

『湊、大丈夫か!?』

葵葉さんの声に何とか頷くが、俺の体は蓄積された疲労とプレッシャーでかなり消耗されていた。

『無理だよ…。こんなの勝てっこないよ…!』

相手は九州代表に何度も選ばれる程の実力者だ。俺のような子供が到底勝てるような相手じゃない。

『湊、私はお前に、諦めることを教えた覚えは無いぞ』

『え……?』

一歩、ニ歩、そして三歩。葵葉さんは前へ進む。

見上げた先の背中は、いつもと違いとても頼もしい。

『よく見ておけよ、湊。勝負は、諦めない奴が勝つってことをな』

それだけ言い残し、葵葉さんは単身、敵陣へ突っ込んでいく。

『ちょっ…!』

すぐに後を追おうとするが、藤兄に制されてしまう。

藤兄は無言で首を振る。黙って見ていろ、と言いたいのだろう。

俺は諦め、遠くで一人戦う葵葉さんを見守った。

その姿はまさに獅子奮迅と言った様子で、相手との人数の差を感じさせないものだった。

相手の攻撃を確実に躱し、鋭い一撃を叩き込む。

相手が五人だろうと怯むことなく、葵葉さんは果敢に攻め続ける。

決して諦めないという、強い想いが葵葉さんの力となり、その身体に宿っている。

『湊!』

一際大きく飛んだ葵葉さんが、俺へと真っ直ぐに手を伸ばす。

『来い!』

まるで、小さな子供が友達を誘うように。

実に楽しそうに、笑う。

勝ち負けよりも大切なこと。

心から楽しむこと。

あの人は、SCを誰よりも楽しんでいる。

『ッ!』

俺はその手に引かれるように飛び立った。

その後のことはよく覚えていない。

唯一覚えてるのは、“楽しい”ということだけだ。

いつからか沸き起こっていた歓声も、相手の声も、藤兄達の声ですら、俺には届いていなかった。

ただ、楽しいという感情のままに飛ぶ。

俺達は最後の瞬間まで、一緒に笑っていた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「…そうだ」

いつだってそうだった。

俺が葵葉さんから教わったのは、単にSCの技術だけじゃない。

精神面においても、俺が学んだものは多かった。

……そのはずなのに

「すっかり忘れてたな。心がたるんでる証拠だ」

自分の落ち度にため息をつき、そのまま深呼吸をする。

「……よし」

己の恐怖心を打ち捨て、楽しむことだけに気を向ける。

次第に、俺は自然と笑う。

前へ進み、正面から向かい合う。

「…何か、策でもあるのかな?それとも、諦めて開き直ったかな」

「あぁ、諦めたさ。諦めることを、な」

俺につられたのか、雪峰さんの顔にも笑みが浮かぶ。

「今の君とは、良い勝負が出来そうだ」

同時に後ろへ飛び、互いに距離をとる。

「皆は月夜さんの相手を頼む!」

三人に指示を送り、俺は再び目の前の相手に対峙する。

足を前後に開き、軽く前傾姿勢をとる

両手に魔力を集中させ、魔力が溜まるのを感じた瞬間、強く地を蹴る。

「ッ!」

右手を後ろに伸ばし、風魔法を展開させ、ブーストをかける。

雪峰さんに避ける様子は見られない。正面から受け止めるつもりらしく、氷魔法を体に纏っている。

あの厚く硬い壁を突き破るべく、左手を握り、真っ直ぐ前に突き出す。

俺は音速の如き速さで飛び、尚も加速する。

ぶつかる風と氷。

ぶつけ合う魂と魂。

「う…おぉぉあぁぁぁぁぁっ!!!」

「は…あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

二つの声が響き、交差する。

轟音とともに発した光が、フィールドを眩く包み込んだ。




如何だったでしょうか?
個人的にこの物語は1章と2章に分けたいと思ってるのですが、どこで分けたら良いのか悩む毎日です。
分けるとしたら、そろそろ1章が終わりそうなんですよね(短すぎるのは気にしてはいけない)
あ、因みに大体のストーリーは思いついてるのでその点はご安心を(?)
そういえば最近は戦闘シーンばかりで日常シーンが少ないですね。あくまでも学園恋愛日常物語という設定なので、バランス良くやっていかないといけませんね。
と言うわけで次回からは再び日常に戻っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

〈次回予告〉

遂に決した勝者

再び同じフィールドで合間見えることを誓い、

少年は更なる高みを目指す――が、

冷泉学園SC部の前に新たな障害が姿を表す

次回「越えろ期末考査」

是非、ご覧下さい!







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25話 越えろ期末考査

N igniteです。今回の更新が遅れてしまい申し訳ありません。やろうと思っているうちにもう1ヶ月も経ってしまいました。
今回で合宿は終了となり、新たな展開へ進んでいきます。今後の更新をお待ちください。
そういえば、最近コロナウィルスがどんどん拡大していますね。私の住んでいる地域にも感染者が出始めています。皆様も十分お気をつけください!

では、25話どうぞ!


「う…おぉぉあぁぁぁぁぁっ!」

「は…あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

二つの声が重なる。

同時に、二つの力がぶつかる。

突き出した左手から凄まじい衝撃が全身を襲う。

「ぐ…うぅっ!」

「う…ぐぅっ!」

ブーストされた勢いで雪峰さんを十メートルほど押し出し、静止する。

歯をぎりぎりと食いしばり、力を絞り出す。

力の衝突によって俺たちを中心に衝撃波が生じる。

やがて、力の衝突点が眩い光に包まれ、俺の視界は白い輝きに塗りつぶされた。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「やぁっ!」

これでもう何度、魔法を撃ち出しただろう。

これまでに撃ち出したその全てが、ことごとく躱されている。

「遥!がむしゃらに撃っちゃ駄目!」

藍ちゃんが私に注意を促し、氷の追跡弾を創り出す。

追跡弾は真っ直ぐ月夜さんへと飛び、そのまま炸裂した。

しかし、ガードされたため、ダメージを殆ど負っていない。

「藍ちゃん…、一体どうすれば…」

無意識に藍ちゃんに助けを求めてしまう。今ここに湊くんの姿が無い以上、自分たちだけで戦うしかないと分かっていても、微かに残る焦りと恐怖はなかなか消えてはくれない。

「湊なら、絶対にそんな顔しないよ、遥」

いつものようなサボり魔の顔は無く、真剣な眼差しは真っ直ぐ私に向けられ、瞬時に微笑みへと変わる。

「大事なのは、何をすれば良いのかじゃなく、何が出来るのか。…って、湊みたいなこと言ってるけど、あたしもどうすれば良いのかは分かんないや」

「藍ちゃん…」

不器用な彼女なりに私を勇気付けようとしてくれているのだろう。えへへ、と小さく笑うと、再び表情を引き締める。

「だからさ、遥」

身を翻し、こちらに背を向ける。

「たまには当たって砕けても、いいのかもしれないよ」

そう言い残し、彼女は一人奮闘しているもう彼のもとへ向かう。

「瞬!一度下がって!」

背中越しに頷いた小柄の彼は大きな弧を描きながら後ろへ飛び、すかさず藍ちゃんが間へ入る。

「てやぁっ!」

両手をかざして創り出した氷塊は矢尻の形へと姿を変え、ドリルのような回転力を生み出しながら打ち出された。

飛距離に比例するように回転力を高め、一直線に月夜さんへと襲いかかる。

「なっ!?」

不意をつかれた月夜さんは一瞬目を見開くが、すぐに氷の盾を生成させる。

直後、氷の矢が盾の中心を射た。

衝突の衝撃で双方が削られ、欠片が氷の礫となって散る。

それでもなお、矢は止まらない。

その回転力は減ることなく、盾を抉る。

「いっけえぇぇぇぇぇぇ!」

高く響いた彼女の想いに呼応するように。

矢は、更に勢いを増した。

先端が欠け落ちようと、

全身に亀裂が入ろうと、

矢は、その勢いを止めない。

やがて盾の全身にも亀裂が入り、二つは同時に形を崩した。

「うあぁっ!」

無数の氷片が弾け飛び、拡散する。

その衝撃を間近で受けた月夜さんは後ろに仰け反り、大きな隙きを見せた。

「今っ!」

「よっしゃあっ!」

藍ちゃんの合図に、瞬くんが前線へ躍り出た。

身体に収まらないほどの炎を纏い、加速する。

「うおりゃぁぁぁぁぁっ!」

盛大な雄叫びをあげ、月夜さんへ突進する、

その直前。

背後から、眩い光が強く射し込んだ。

その光に、私や藍ちゃん、加速していた瞬くんも、その動きを止めた。

「この光…、まさか…」

藍ちゃんと同時に頷き、体の向きを変える。

瞬間、体全体が押されるような衝撃に襲われ、両足に力を入れて踏みとどまる。

光りの中心に見えるのは、二つの影。

「あれ…湊と雪峰さん…だよね……」

「すげぇ力…、体がビリビリする…」

隣に立つ二人が声を漏らす中、私は視線を動かすことも、声を絞り出すことも出来なかった。

先程まで向かい合っていたはずの月夜さんまでもが隣に立ち、声を上げる。

「あの二人の全力、それが正面からぶつかり合うことでこれほどまでの衝撃が生まれるのか…」

目の前の光景に戦意を削がれ、私達はただひたすらに見届けていた。

「…湊くん……」

胸の前で握った両手に、自然と力が入るのを感じながら、私は時を待った。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「…くん……みなとくん……!」

誰かが、俺を呼ぶ声。

おぼろげな意識の中、誰かが俺の名を呼び、体を揺すっている。

「湊くんっ!」

「うぉわぁっ!!」

耳元で響いたその声に、俺の体は飛び跳ねた。

その勢いのまま体を起こし、周りを見渡す。

今にも泣き出しそうな顔で側に座り込んでいる遥、その反対側に並ぶ瞬と藍。少し離れた所で腕を組む葵葉さんと藤兄。どちらにも微かな笑みが浮かんでいる。

「俺…、気を失ってたのか……」

続いて自分の体を見下ろす。

ウィザードスーツの肩や足の部分があちこち破れ、俺の素肌が露わになっている。

しかし、その肌に傷は一つも見つからない。

「花宮に礼を言っておけよ。そのボロボロだった体に治癒魔法を施したのは花宮なんだからな」

そう言いながら葵葉さんが歩み寄る。

「そーそー、泣きそうになりながらずっと湊のこと呼んでたもんねー」

「ちょ、ちょっと藍ちゃんっ!」

遥が困ったような顔をする。

…まぁ、なんというか、気を失ってて良かったと思う。色んな意味で。

「そうだったのか。ありがとうな、遥」

遥がくるりとこちらに向かったと思うと、すぐさま顔をしかめる。

「もう!ホントに心配したんですからね!」

小さな子供のように頬を膨らませる遥。本気で怒っているのかは分からないが、とりあえず素直に謝ることにする。

「はい…すみませんでした……」

 

その後、なんとか遥の機嫌を取り戻し、先に目覚めていた雪峰さんらと合流した。

藤兄の提案で、もう一泊することになった俺達は、夕食の前にシャワーを浴び、汗を洗い流した。

そして、夕食の準備をすることになったのだが…

「人手が足りない?」

俺は藍に疑問を投げかける。

女子はシャワーを浴びるのに時間がかかる上、交代でシャワーを使っているため、先にシャワーを浴びた藍を含む数名しかいないらしい。

「そうなんだよねー、どうしよう?」

「なら、俺も手伝うよ。こう見えても料理は慣れてるからな」

普段から家で料理をしているため、腕には少し自身がある。昨日は女子に任せてしまったことだし、今日は俺が腕を振るうことにした。

 

「ふわぁ〜!」

俺が調理をしているのを横から覗いていた遥が、目を輝かせる。

野菜を切り、肉を切り、それらを調味料と共に炒める。

何の変哲もない、一般家庭の料理だが、遥はそれを珍しそうに見つめる。

いや、遥だけではない。雪峰さんや月夜さんら真良の面々がこちらに視線を送っている。

「何でこんなに見られてるんだ……」

「アニキは料理が上手いからッスよ!」

そう言う瞬も、今にもよだれが落ちそうな顔をしている。

すぐに料理を完成させ、皆で手を合わせた。

疲れた体に肉の旨味が染み渡り、俺達は夢中で箸を進めた。

それぞれの大部屋に別れて布団を敷いた矢先、おやすみを言うのももどかしく、皆次々に布団に潜り込んだ。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

翌朝、昨日の疲れが嘘のように吹き飛び、俺達は校門に並び、向かい合っていた。

「この度は、大変お世話になりました」

俺が代表し、真良への感謝を述べる。

「礼を言うのはこちらの方だ。とてもいい経験をさせてもらったよ」

雪峰さんが手を差し伸べ、笑顔を向ける。

「次は、夏季大会で会おう」

「もちろん」

硬い握手を結び、誓う。

次も、必ず勝ってみせる、と。

手を離し、雪峰さんが下がる。

「湊、昨日の試合、凄かったぞ!」

続けて藤兄が俺の肩を叩きながら言葉をかけてくれる。

「お前は俺が思ってる以上に強くなっていたんだな。夏季大会が楽しみだ」

「うん、俺も凄く楽しみだよ」

「お前なら…いや、お前達なら、もっと強くなれる。あの時の俺達よりもな」

いつかそうなれるように、

俺はそう願った。

「さぁ、湊。そろそろ行くとしよう」

葵葉さんの言葉に頷き、最後に一礼をする。

身を翻し、風魔法を展開させる。

体が浮かび上がり、真良学院の姿が小さくなり、やがて視界からその姿を消した。

 

「何だか、長いようで短かった二日間でしたね〜」

冷泉までの帰り道、隣を飛んでいた遥がつぶやく。

「そうだな、この二日間でいろんなことを学んだ気がするよ」

「あの時のアニキ、凄かったッスよ!何かこう……、バーンッ!て感じで!」

なんとも語彙力が乏しいコメントだ。

だがまぁ、瞬もますますやる気が出ているようなので良しとする。

「わ、私も…もっと頑張らなきゃ…!です…!」

後ろを飛んでいた希が、己を鼓舞するように両手をぐっと握る。

「皆それぞれ思うことはあるだろうが、この合宿で身につけたことを忘れずにいるんだぞ」

先頭の葵葉さんがこの場をまとめ、皆が頷く。

「あ〜、ところで湊?」

バツが悪そうに苦笑いをする葵葉さん。どうかしたのかと聞き返すと、葵葉さんは告げた。

「明日からテスト週間なわけだが、そこんとこの対策もできてるんだろうな?」

「…………あ」

しまった、すっかり期末考査のことを忘れていた。

俺はそこまで心配するような点数を取ったことは無いし、藍はほとんど百点だろう。杏花も点数は上位だ。希も成績が悪いという話は聞いたことがない。

ただ、心配なのが二人…

そう、遥と瞬だ。

この二人が以前の中間考査で取った点数はとても褒められたものではない。瞬に至っては赤点ギリギリだ。

「勉強会、やるしかないな…」

不思議そうな顔をする二人を見ながら、俺はそう思うのだった。




如何だったでしょうか?
常に赤点ギリギリの奴ってクラスに一人は居るのではないでしょうか(笑)
次回は日常編に戻って勉強会です!因みに私は勉強会なんてやったことありません。なので殆ど私の偏見になるかと思いますが、読んでいただけたら幸いです。

〈次回予告〉
次々に襲いかかる問題

ややこしい公式

頭に浮かぶ大量のハテナ

頭を悩ませる少年少女


次回「勉強?なにそれおいしいの?」

是非、ご覧下さい!
また次回お会いしましょう!


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