転生エルフさんのスロー?ライフ~ギルド職員は今日も優雅に暮らしたい~ (寝紺ねこの)
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1話

【 まえがき 】

■スローライフっぽいようなのんびり?した異世界転生ものです。転生で転性しています。

あくまでものんびり?ゆったり?まったり?というクエスチョンマーク入りです。スローライフの皮を被ったご都合主義もりもりな物語です。
過去回想回ももりもりですわー。

のんびりと更新する予定ですので、よろしくお願いします。

2020.02.16


 王都の朝は早い。それは朝日が昇る前に行動する人間が多くいることで解ってもらえるだろうか。もちろん、オレが籍を置いているギルド――冒険者ギルドも例外ではなかった。王都故の人口の多さから起因していることであろうが、冒険者ギルドは正に朝が早いのですよ。

 

 掲示板に掲示する職員に、そこに群がる冒険者たち。併設された食堂では、冒険者に提供される朝食の準備もされる。こうして一日が始まるのだ。商業ギルドに関してはどうなのかは解らないが、おそらくは似たようなものだろう。なんていってもギルドだし。

 

 ――まあ、オレたちはそんな慌ただしい一日の始まりから遠いところにいるわけだが。そう、まだぬくぬくの布団のなかである。時間にすれば、朝日が昇って一時間ほどは経っているはずだ。冒険者にとって価値ある依頼が粗方消えたころであり、価値の低い依頼――採取依頼やそのほかの面倒臭そうな依頼が残る時間。

 

 その時間までは寝ていられる。微睡む意識であっても朝の空気をひしひしと感じるが、起こされるまでは起きませんからね。たとえ寝汚いと言われようが、睡眠は大事なことだ。

 

「お嬢様、朝にございます」

「んー……」

「ふぁあぁ! 姉様のお胸は苦しいですよぅ~」

「うえぇっ!? コンロお前どこに入ってるんだ!」

 

 かけられた声に「あとちょっとだけ」と打った寝返りに返る声に慌てて起き上がり、寝間着のボタンをひとつふたつと外す。と、()()()()から這い出た子竜――小さな小さなトカゲのような姿となっているが――は胸を張る。柔らかな胸の上で。朝の光に赤茶色の鱗を煌めかせて。「姉様のお胸のなかです!」と。

 

 いやいや、胸を張ることではないだろう、なにを言っているのかね。「変なところに入るなよ」とたしなめると、「嫌です」と竜――ドラゴンのコンロは顔を逸らした。顔というか、小さな躯全体で拒否をしている。「姉様のお胸のなかは温かいのですよ~」と続けられるが、そういう問題ではないんだよなあ。

 

「潰したくないからダメだ」

「姉様のお胸に潰されるのなら本望ですよう!」

「危ないからダメです。はい、話は終わりな」

 

 そう区切るが、コンロ自身はむううと納得していない顔になる。悪いが、終わった話を続ける気はないぞ、オレは。

 

 コンロのお蔭で完全に目が覚めてしまったために、二度寝はできそうにない。もう起きるしかないかと、傍らにいるメイド――土、というか、泥で作ったクレイゴーレム(泥で作ったものはその名のとおりに泥土(クレイ)ゴーレムと呼ばれている)であるクレイ――に視線を遣る。オレにはネーミングセンスなど欠片もないのでそのまま名づけてしまったわけだが、もっとよく考えればよかったかもしれない。もっとこうさ、どうにかならなかったのか当時のオレ! いまもってネーミングセンスはないけども!

 

 クレイの見た目はつり目ぎみの美女である。そう、美女と表せるとおりに人型だ。つり目ぎみであるがしかし、茶色の瞳は慈愛に満ち満ちているわけだが。反して、瞳と同色の長い髪を高い位置でひとつにまとめている姿は実に凛々しい。ついでに言えば、豊満な躯をメイド服が彩っていますね。

 

 そうだ、ゴーレムを作ろう! と意気込んで作ったときから人型を形作ったし、ゴーレムというよりはもう人、というか、美しい人形にしか見えなかったわけが、おそらくは女神様のお力であろう。女神様様様ですな。意思の疎通もできたのも、女神様様様です。

 

 視線がかち合えば、クレイの目尻が下がった。ううむ、こういうところを見るに、やっぱりゴーレムではなくて完全な人なんじゃなかろうかね。こんな緻密なゴーレムを作成できるなんて、女神様のお力はすごすぎるよなあ。

 

「おはよう、クレイ」

「はい、おはようございます。今朝はなににいたしましょうか?」

「丸いパンでお願いします。目玉焼きは半熟で。コンロは?」

「私も丸いパンに半熟にするです~。姉様と一緒ですよう!」

「はいはい。コンロも着替えなさい」

 

 なににしましょうかといっても、主食はパンしかないんだけどもね。オレたちの話を聞き終えたクレイは一礼し、「ではご用意させていただきます」と踵を返した。それを見送るやいなや、いつのまにやら機嫌を直して胸の上で寛ぐままだったコンロの背中を撫でてやる。と、んへへ~と機嫌よさげな声を出して小さな羽でパタタと飛んだ。クロゼットの前まで。床に着地などはせず、すぐさま人化して――下着姿の女の子になって――コンロ用のクロゼットからギルド職員の制服を取り出した。

 

 コンロの躯つきもクレイと同じように女の子を強調しているが、本人、いや、本竜はどこ吹く風だ。まあ、コンロに変な視線を送った者は、コンロのご両親たる高位竜たちに敵認定されるだけだが。親としての気持ちは解らないでもないが、コンロは大事な大事な一人娘だからか、かなり溺愛されている節がある。それでもわがまま放題や高飛車な性格になることもなく、明るく素直な元気な()に育っていた。かわいさだって外してないのは、美男美女から生まれたからであろう。

 

「姉様姉様、今日は母様たちが帰ってくる日ですよ!」

「なにか美味しいものでも作っておくかね」

 

 ローズさんたちはその辺うるさいからなあ。高位竜だからというわけではなく、疲れたときに美味しいものを食べまくりたいという至極全うな考えである。

 

「姉様姉様、今度は私たちもダンジョンに行きたいです~」

「それはギルド長に相談だなあ」

 

 話をしながらオレもベッドから下りて、クロゼットの前に立つと寝間着を脱ぎ、取り出した制服に袖を通す。鏡に映るのは、パンツスタイルの制服の皺を伸ばす女の子――すなわち、オレだ。腰まで伸びた輝かしい長い金髪を持ち、左目は紫色、右目は青色というオッドアイが目立つも目立つエルフさん。身長の低いかわいらしい女の子である。庇護欲を掻き立てるであろうことは明白だが、かといってロリっ子というわけではない。背が低いといっても、オレ自身は百六十はあると信じているので低くはない。けして低くはないはずなんだよ。ただただ人化したコンロの方が五、六センチほど背が高いので、オレが低く見られるだけであって!

 

 それにですね、周りに身長が高い人たちがたくさんいるから分が悪いというのもありますからね! ゴーレム作成において、彼ら彼女らは平気で百七十は超えるものになるからな。嫌味かと思うほどに。……うん、虚しくなるだけだから、身長のことはもう置いておこうか。もう少し伸びてくれることを願うしかあるまい。

 

 現状を理解すればするほど改めて思うが、寝ても覚めてもやっぱりこの姿――かわいらしいエルフのままなんだよなあ。いやまあ、女の子に生まれ変わったんだから、ほかに変わりようはないんだけれども。多少は慣れたしな。

 

「コンロ、髪結いな」

「はい、姉様」

 

 小物入れから差し出したシュシュ――髪飾りを恭しく受け取ると、コンロはすばやく赤茶色の髪を結った。うなじの位置のポニーテール。「どうですか?」と窺うような声に「かわいいよ」と返しつつ、オレも同じように金色の髪をまとめてしまう。コンロの金色の目が嬉しげに細められるのを見て頭を撫でてやり、部屋を出る。ベッドや着替えたものを片したりといったことや、部屋や寮の掃除――いわば一通りの家事は使用人(ゴーレム)たちに任せるのだ。言っておくが、オレもコンロも、脱いだものは畳んでいるからね。脱ぎ散らかしてそのまま、というわけではないぞ。

 

 ここは冒険者ギルドの職員用の寮ではあるが、生活補助用のゴーレム――使用人ゴーレムをいくつも配置している。どこぞのお貴族様かと思えるほどに。いや、お貴族様よりも抱える量が多いかもしれない。戦闘用と兼任した警護用のゴーレムもギルドと寮の周りに配置済みだしね。

 

 良く言って血気盛んな、悪く言って荒くれ者が多い冒険者をまとめなければならない冒険者ギルドとなると、安心と安全は切っても切り離せないだろう。職員にとって人心地着ける場所は最も重要である。オレとしても、快適な生活を送るためには全力を出す所存である。もちろん、許可を得てからだけれど。勝手にやって問題となったら、上の人たちの胃が大変なことになるかもしれないしな。そういうことは望んでないからね。

 

 食堂に顔を出すと、「朝食のご用意ができておりますよ。こちらです」とクレイに案内される。彼女は生活補助用のゴーレムの側面が大きいが、いざというときには戦闘も可能だ。いつものように返却口に近い端のテーブルに来るが、ここはオレとコンロの席となっているらしい。遅い朝食に舌鼓を打っている数人の同僚の姿もあるにはあるが、声をかけられることはない。なぜなら、食事の中断はわずらわしいということで、食堂での挨拶は不要だからだ。目と目、あるいは軽い会釈でしかしなくていいのは楽でいい。話し合いの場で使う分にはまた別であるが。

 

 テーブルの上にはスープボウルが乗った三つ切りのランチプレートがふたつ横並びに配膳されており、それぞれ腰を下ろした。向かい合わせでないのはコンロのわがままだ。誰しもある一面であろうが、彼女も気を許した相手には我を押し通すことが多々あった。この食堂で初めて食事をするときにも、肩乗りトカゲ姿のまま「姉様の隣がいいです! 隣!」と、小さなしっぽをぺちぺち叩いてきたのはいい思い出であろう。

 

 いまのところは一緒に働きたい、一緒の部屋がいい、隣に座りたいなど、実にかわいらしいわがまましかないので微笑ましくなるだけだ。もう少ししたら、こちらが困ってしまうようなわがままを言うのかもしれないなあと、思わなくもないが。けれどもすぐさま、内容次第では叶えてあげられるようにしようと考えつくほどには、オレもコンロに甘いらしい。いやだってな、コンロはかわいいからしかたがないだろうよ。

 

 そんなコンロは指定席で機嫌良さげに鼻唄を響かせながら、ランチプレートに視線をやっている。食事は果実水を持ってきてもらってからの始まりなのだ。小ぶりな果実の輪切りを浮かべた果実水を。見た目も味も甘いみかんそのものだが、いかんせん名前はエセ臭いのである。なんといっても「みみかーん」という名前だし。おそらく召喚者か転生者かであろうが、絶対面倒臭がっただろうと名づけた賢人に問い詰めたい。自分のネーミングセンスを棚上げしてしまっているけれども、もっとほかになかったのかと思ってしまうほどなんだよな。

 

 みみかーんについてうだうだ思考を巡らせていると、「お嬢様、お待たせしました」とコップに入れられた果実水がプレートの前に差し出される。「ありがとう」の言葉とともにコップに視線を遣るが、浮かぶみみかーんはやはりみかんの輪切りでしかない。いや、みかんよりは皮が厚いかな? という小さな違いはあるにはあるのだが。さてさて、果実水も運ばれてきたし、うだうだ思考を巡らせるのはここまでにして、朝食をいただこうかね。

 

 手前左側に当たる横長の窪みに乗せられているのは拳大たるふたつの丸いパンである。そのすぐ右横にはココット皿に似た小皿とバターナイフに似たカトラリーが添えられていた。オレの小皿にはバターが盛られており、コンロの小皿は木苺のジャムという違いがあるが、それだけだ。その上の丸い窪みに乗るスープボウルには野菜がふんだんに使われた野菜スープが入れられ、その隣の一番広い縦長の窪みには卵二個分の半熟目玉焼きの下にカリカリベーコンという主菜があり、飲み物は果実水という洋風スタイル。ちなみに、この世界の卵は大きめである。なにせ、鶏に似た鳥――ワトリという名前――も鶏よりも二周りほど大きなサイズをしているのだから。雌雄ほがらかなのが鶏とはまた違う証だろうか。

 

 「いただきます」と手を合わせたら、フォークを片手に目玉焼きからいただく。うん、やっぱり半熟目玉焼きは至高だ。どの固さも違った美味しさがあることは解るが、オレとしては半熟至高は譲れない。

 

「姉様、半熟は美味しいですねっ」

「そうだな。食い終わったら、厨房が借りられないか聞いてみようかね」

 

 なにを作るか考えつつ手を動かし、完食する。ランチプレートが空になると脇からすぐさま手が伸びてきて、返却口へと運ばれていく。もちろん、メイドゴーレムの早業(お仕事)だ。

 

「コンロはなにが食いたい?」

「姉様が手ずから作ったものなら、なんでも食べますよう!」

「困った。全然参考にできないぞ、これ」

 

 大量に作っても問題のないクッキーでいいかと考え直し、席を立つ。余ったとしても二、三日は持つからね。寮の食堂、果ては厨房を取り仕切る料理人である女傑――ワーノさんに話を通す。日々の食事がうまいのは彼女の頑張りのお蔭だ。寮の庭での家庭菜園(寮菜園?)にも精を出しているので少し日に焼けているのだが、健康的な肌が眩しくもある。王都の外れの街に住んでいたワーノさんは聞くところによると、仕事を求めて王都に来たらしい。そんな彼女はこの国に多くあるミルクチョコレートのような色の髪と瞳を持っていた。髪型はセミロングですね。調理の邪魔をしないようにということのようだ。

 

 茶色の髪と瞳では真っ先にクレイが当て嵌まるだろうが、ほんの少し違う。茶色は茶色なんだが焦げ茶色に近く、オレのような白に近いような金髪や、コンロのような鱗と同色の赤茶色の髪は珍しい方である。警護兼戦闘用ゴーレムを取り仕切るストーンゴーレムのかたいさんは灰色だ。石だけに()()さん。なんつって。そして石だけに灰色ね。かたいさんも珍しい寄りであろうか。――って、なんかどんどん逸れていっているよな。いまはワーノさんとの話に集中しなければ。

 

「ワーノさんワーノさん、少しの間厨房を貸してくれませんか?」

「ヨモギさんの頼みに否はありませんよ。お好きにしてくださって構いません」

「あっさりしてますがありがとうございます。仕込み時間までには終わると思うので、よろしくお願いしますね」

「姉様はなにを作るんですか?」

「クッキーだな。残っても二、三日は大丈夫だし」

「クッキーきたあああああ! 姉様のクッキーがやってきたあああああ! 私が一番に味見しますよう!」

「あ、はい」

 

 いやったああああ! と興奮覚めやらぬ状態のままのコンロに抱きつかれてしまうのは、まあいつものことだ。甘いものが好きなことは解っていたが、そこまで喜べるのは逆にすごいわ。

 

「喜んでいるところ悪いけど、コンロにも手伝ってもらうんだぞ?」

「はい姉様! 私はいつまでも姉様のお側にいますよう!」

「愛が重いなあ!」

 

 抱きついたままのコンロを引き剥がし、厨房へと足を踏み入れるべく一歩を踏み出す。

 

 ファンタジーな異世界でこんな風に過ごすことになるなんて、誰が想像しただろうか――。

 

 少なくとも、生きている間は想像は出来なかった。いや、正しく言えば、ドラマや小説や漫画、その辺りの創作物を見ては自分もこうなりたいなあと想像したことはあるが、死んで転生までは考えたことがない。オレはオレの人生にそれなりに満足していたし。

 

 そう、なにを隠そう、お嬢様や姉様、ヨモギさんと呼ばれるオレは転生者である。いまも消えないまま覚えている前世では、現代日本に生まれて育ち、学生生活を謳歌していた人並みの男子大学生であった蓬田(よもぎだ)悠斗(はると)その人だ。日々も人並みだったよね。うん、人並みだった。

 

 学生恋愛を経た両親はきっといまも元気に働いていることだろう。働くことが好きだったらしくて小さなころから鍵っ子ではあったのだが、授業参観や三者面談といった大事な日にはきちんと休んでくれたからか、両親に嫌悪はない。まあ働くことが好きな人もいるよね、と思うくらいだ。家事は姉ちゃんと妹とそれぞれ別けてやっていたし、ご近所さんや両家の祖父母とも仲良くやっていた。

 

 それが覆ったのは、子猫を助けてから。異世界を管理しているらしい女神様に出逢ってからである。

 

 これは転生者たるオレのなんでもない一日――おはようからおやすみまでの物語。この世界でも一日二十四時間、一年は十二ヶ月なのには驚いたことが懐かしくあるし、そのほか諸々地球に似ているところがあったりするのは、偉大なる先人がいたからであろうと思う。いやもう、楽をさせていただきありがとうございまーす。

 

 

 

 

 



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