異世界で世直し、元・神様達+木桜涼(現代人) (木桜 春雨)
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神達は嘆いた、だから現代人の中に
「またか」
やれやれと呟きながら男は見下ろした、術を使って異なる世界から異界の人間を召喚するのは過去において珍しい事ではない、だが、平和が訪れた今、それが必要なのだろうかと彼は考えた。
現在、この世界には魔物、モンスターと呼ばれる存在はいるが弱体化しているといってもいい、魔王と呼ばれる存在がいないからだ。
いや、数年前、魔王はその地位を自ら降りた、というのも自分を抹殺するために大勢の勇者が現れたからだ。
自分という魔王の存在がいなくなっても、それを継ぐモノが現れたら、それは永遠に途切れる事がなく続く、そのことに疲れたのかもしれない。
魔王が自分の地位を返上すると魔物やモンスター達は世界の至る所へと散らばっていった、元々、自由な生き物なのだ、種族同士で群れや家族を作る事はある、だが異種族同士、つるむこともは、滅多にない。
なのに人間はまたもや召喚を行った、他国への進軍の為だ。
モンスター、魔王の脅威から身を守る為、召喚し自分たちより強い異界の者を呼び寄せるということなら、仕方がないと思えた、だから見守ってきたのだ。
だが、自分たちの領土、国を広げるために召喚するというのは、人同士の争いになってしまうう、それはどうだろう、奢りではないか。
少し罰を与える必要があるのではないかと、男は考えた。
「皆の意見を聞きたい」
自分の周りに集まった神々は顔を見合わせた。
召喚の儀式が行われたのは十年前、今では勇者と呼ばれる異界から来た人間の存在は殆どいないといってもいい。
皆、年をとり寿命でや病気で亡くなった、中には自分の世界へ帰りたいと言って自死する者もいた。
違う世界でいくら厚遇、恋人や家族ができたとしても生まれ故郷を懐かしむのは当然だ。
「今、現在、異界から召喚された者はどれほどいる」
「十、両手の指の数もいませんわ」
女神が哀しそうに呟いたのはそれらが皆、年寄りで後は死を待つだけと知っているからだ。
「帰そう」
男が呟いた、元はといえば自分たちの責任だ、世界を作るときに配分、善と悪のバランスを間違えたのが、原因だ。
自分たちが持っている力、モノを作る創世という力を知って悩みながら世界を作った、随分と昔に、そしてどれほどの時間がたったのか。
人は村を街や国を作り、悪魔やモンスターや生まれて。そして今度は自分たちの私利私欲の為に動き出している。
それは生き物として当然のことだ、だが自分たちの世界から他所へ、外界へ出ることを始めてから崩れ始めている。
このままでは神と呼ばれる自分たちが作った世界だけではない、外の世界のバランスも崩れてしまうかもしれない。
「その兆候は現れておる」
老人が沈痛な面持ちで呟いた、そのときだ、奇妙な音が来右記を震わせた。
「召喚か、しかも、かなり大きいな」
「我らは交代すべきかもしれん」
「たとしても、どうやって」
「我らが出るのだ、術士や他の者どもに説かねばならん」
「納得するでしょうか、人は欲深い」
「してもらわねばならん」
老人の口調は断固とした響き、そして全員が出るという言葉に神達は驚いた。
「ただし、これをすると我らは、だから記憶と経験を移さねばならん、召喚の術の波動は」
「まだ、終わっておりません」
「好機を逃したらまずい、では」
「我々は一つに再び、融合する」
「はあっ、そういうことですか」
森の中で木桜涼は一人言の様に呟いた、頭の中で複数の聞こえる事は老若男女、ときに子供の声までする、最初は慣れなかったが、一日、ぼんやりと過ごしていると不思議な事に対応できるようになった。
この国の人間が召喚術を使い、自分を地球から呼び寄せたというのだ、最初はどっきり映画かと思ったものだ。
自分は死んだ事になるのだろうかというと、仮死状態だという答えが返ってきた、この世界の事がすんだら戻れるようにするというが、どれだけの時間がかかるのか正直わからない。
いっそのこと、世界を滅ぼして新たに創世すればいいのではと思ったが、折角作った世界を無にするというのは難しいものだろう。
自分の中に複数の人間の意識が存在している、まるでSF映画、スペースオペラの様な話だが、話をきいているうちに厄介なことではと思った。
今まで召喚された人間、勇者などは比較的自由な生活を送っていたらしい、だが、アル出来事から枷をつけられるようになったというのだ、自分たち、国に逆らうことがないようにという配慮らしい。
「魔法で服従させられるとか、薬を飲まされるとかでしょうか」
「色々な方法があるらしい、だが、女である君の場合は」
王族、貴族との婚姻が、もしかしたらあるかもしれない、その言葉に涼は肩を竦めた。
「お断りですよ、そんなのは」
「召喚の儀は成功したのではないのか」
王の言葉に魔法使い、術者達は困惑の表情を浮かべた、ほんの少し前まで術は完成したと思っていた、なのに今の状態は自分たちで説明がつかない、いや、少し前から術が使えない、自分たちの魔法が発動しないのだ。
一体、どうしてと理由が分からないまま、彼らは王の叱責を、ただ無言で聞く事しかできなかった。
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商人登場、薬師も
街に一人の商人が現れた、珍しい事ではない国土も人口もそれなりに大きいので諸外国から様々な人種が出入りするからだ、だが。
「おい、あれ、人間じゃない、亜人だ」
「オ、オーガ、じゃないか」
衛兵の言葉に周りの騎士達も目を凝らすようにして近づいてくる馬車を見た、中には腰の剣に手をかけていつでも抜けるように準備している者もいる、ところが近づいてくる馬車を見て兵達の目が釘付けになった、外装、車輪など全てが見たことのない作りだったからだ。
「旦那様、検問のようです」
御者台の亜人が声をかける、そのことに兵達は一瞬息を呑んだ、喋ったのだ。
亜人の中には人の言葉を理解し話す者もいる、だが、それらは知能の高い者達でオーガが人の言葉を話すことなど、目の前で見ても彼らには信じられなかった。
ドアが開き、一人の男が降りてきた。
一目でわかる仕立ての良い服、決して過度な装飾はないが、男が平民や下層階級の人間でないのは一目でわかる。
男が商人だと告げると兵達は驚いた。
「聞いてもいいか、あの男は亜人、いや、オーガか」
一人の男が商人に御者台を指さした、すると男は少し不思議そうな表情になった、何故、そんな事を聞くのかといいたげにだ。
自分たちの認識とはあまりにも違いすぎる、人間なら耳の部分、そこから白い角が生えている、黒髪を後ろで撫でつけている、肌の色は緑色だが、顔は人間と変わらないのだ。
薬師である男は城の調合室に籠もっている事が殆どで外に出る事はあまりない、欲しい薬草や材料は使いを出していたからだ、だが、それが難しくなった手伝いをしてくれていた男が国へ帰ることになったのだ、正式な助手ではなく市井の人間だったので引きとめる訳にはいかなかった。
市井の男が城へ出入りしているということで薬師もだが、その男自身も城へ来る度に冷たい目で見られていたらしい。
薬師見習いとして城に来る若い男達よりも知識はあった、これは痛手だった、国へ帰る男に十分過ぎるほどの金を渡したのは男の母親が長く煩っていた為だ。
それだけではない、男は若い頃、右腕を失っていた、森で魔物に襲われたのだ、田舎へ帰れば生活に苦労するかもしれない。
もし、何かあれば連絡するようにと伝えて男を送り出した薬師に男は何度も頭を下げた。
「田舎の方が気楽でございます、それよりもリーアム様、結婚なさって下さい、少しでも早く、それだけが心配でございます」
「いや、私は」
「もう四十です」
「いや、まだ三十」
「あと二年で四十です、普通なら妻子がいてもおかしくはないんですが」
薬師は無言になった、薬の材料をギルドや店に買い付けたりと手伝いに関しては腕がいい男なのだ、だが、これだけは自分の結婚の事に関して何度も身を固めてくれというのはいかがなものか。
心配してくれているのはわかっている、だから、言い返すことができない、時折、おまえは自分の母親なのかと聞きたくなる。
いや、実の母親がいたら、もっと口うるさく言うのだろう。
「リーアム様、自分で材料探しなどしないで、森へなど出かけないでくださいよ、命は一つなんですから」
「わかっている、近頃、モンスターや魔物が増えてきているらしいな」
「ええ、上級のランクの冒険者でも殺されてしまうんですからね」
「なのに、おまえは森へ」
「すぐに逃げるんですよ、弱そうな相手、強そうな相手だろうと、勝つ秘訣は逃げて争う事をしないことですよ」
リーアムは苦笑した、そうだ、勝負などしなければいいのだ、だが、それが若い頃の自分はわからなかった。
「リーアム殿と、あれは誰だ」
「見たことのない女性ですけど」
「何者だ」
城や廊下の通りをすれ違う人間は振り返るのも無理はない、普段から部屋に籠もりっきりの男が女性と歩く姿など。
そして、これが数日続くと噂は城中に広まり、国王の耳にも入ったのは当然のことだろう。
「国王陛下にですか」
その日、尋ねて来た女はリーアムから国王が自分に会いたがっていると聞いて、何故と不思議そうな顔になった。
「他国からの人間ということで興味があるのではと」
奥歯にものが挟まったような、すっきりとしない口調に女は両手を伸ばした。
「まあ、薬師様を困らせてしまいました、駄目ですわね、私」
「い、いや」
頭の中では様々な論議が行われていた。
これからの時代一番偉いのは商人、術士と魔法使いを排除する為の力は金だとばかりに、仕込みの男を国に出現、でも、一人だけだと頼りないので女の商人、これは自分の役。
何かあればフォローするという前提で動く。
「どうせなら美女になって、モテモテ、ハーレム生活というのもしてみたい」
頭の中で神様達は頷いた、人生楽しみも必要だと女は笑った。
主役よりもサブ、脇役が好きなのよ、それに彼は棒映画の先生にそっく
りだわと。
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