The Another World (MAXIM_MOKA)
しおりを挟む

設定資料集
設定資料集(ネタバレ注意、自己責任)


増えるかも


登場人物

 

織田 信幸(おだ のぶゆき) 31歳 男

性格:厳しい

身長:182cm

体重:79kg

顔の特徴:三白眼 赤い虹彩 黒髪 整ってはいる

 

この物語の主人公的な立ち位置。

目つきがかなり悪いためにあまり女性が近寄らない。

たまに下心丸出しで近寄ってくるときがあるが、彼は基本的に男や女に興味がないため、突っぱねている。

軍人であり、戦闘能力もかなりある。

過去にあった中東での反政府組織による紛争に日本が介入した際、彼はそれに参加。

反乱軍との戦闘の際、413人を射殺、14人を斬り捨て、32人を撲殺した。

その功績により少尉から大佐に五階級昇進するという異例の昇進をしたが、彼は「体をなまらせないため」と、後方勤務を拒否。

前線に残り続けている。

涼香とは8歳離れた従妹であり、彼女の先輩。

ボケまくる彼女にツッコんでいる。

 

峰水 涼香(みなみず りょうか) 23歳 女

性格:自由で活発

身長:159cm

体重:47kg

顔の特徴:猫のようにパッチリした目 黄色い虹彩 黒髪 二塊の猫耳のような癖毛 かわいい感じ

 

この物語のメインヒロイン的な立ち位置。

美人ではなく、かわいい系の顔。

よく猫と言われ、どこでも眠るし、どちらかといえば夜型人間。

新人であり、軍所属2年目。

信幸の後を追って軍に入った。

頭に生えた猫耳のような癖毛は治らないらしく、整えても整えても寸分の狂いなく同じ位置に復活する。

常に砕けた敬語で、信幸のことを呼び捨てにしている。

よくしゃべるため、喧しいと信幸に思われている。(仲は良い)

信幸の部隊の癒し役的立ち位置だが、実は機動力や筋肉の柔軟さがすごく、2~3m程度の木の枝に音も立てず着地し、かなり狭い隙間に楽々と入れるため偵察役としても使われている。

かなりボケまくり、その度に信幸にツッコまれている。

 

古好 成哉(ふるよし せいや) 31歳 男

性格:自由気まま

身長:179cm

体重:82kg

顔の特徴:ワイルドな風格 茶髪 茶色い虹彩 整っている

 

信幸の幼馴染で親友。

信幸と同時に軍に入隊した。

涼香とも仲が良い。

中東紛争の際は600人以上をヘッドショットで殺害したため、日本のシモ・ヘイへとも呼ばれている。

信幸の部隊の狙撃役であり、遠距離偵察役。

また、運転技術がすごく、よく信幸を助手席に乗せ、カントリーロードやサッキヤルヴェンポルカを口ずさみながら爆走している。

そのあと何かに車をぶつけ、車のほうが壊れるまでがお約束。

なお、涼香が助手席に座るときもあり、その時は車が壊れた後に何かが必ず起こる。

ツッコミ兼ボケ役であり、涼香や信幸にツッコみ、ツッコまれている。

 

ジュリー・アーガスト 121歳 女

性格:おとなしめ

身長:151cm

体重:41kg

顔の特徴:少したれ目 金髪 緑色の虹彩 長く、尖った耳 どちらかといえばかわいい系

 

異世界基地にある目的のため侵入した結果、成哉に捕まった、エルフとしては若いエルフ。

信幸に面白がられて許され、現在上記の三人と同居している。

成哉を少し恨んでおり、たまにたたいたりしている。

何方かといえばツッコミ役。

魔法に関しては超一流で、属性は無(隠密)、雷、大地。

 

 

日本国

ゲルーニャ皇国による侵攻被害者その1。

仙台事件には、政府や国民全員がぶちぎれており、異世界派遣を行うべきだというデモ行進も起きた。

ドイツとの交渉により対門同盟が結成され、新たな異世界門被害を減らすために努めているが...?

 

ドイツ

ゲルーニャ皇国による侵攻被害者その2.

ベルリンで、しかも総統官邸跡に門が開いたため、ヒトラーの呪いではないかと囁かれている。

日本との交渉により対門同盟が結成され、新たな異世界門被害を減らすために努めているが...?

 

アメリカ

対門同盟加盟国。

異世界門被害を減らそうとしている日本、ドイツに協力しており、異世界の資源豊富な土地を領土にしようとしている。

国内に門が出現しないか警戒しており、グアムやフィジーにもFBIを派遣している。

今のところ見つかっていないため、最近は楽観視しているが...。




まだまだ更新するつもりです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ 仙台事件編
仙台事件




初めまして、MAXIM_MOKA(マキシマム モカ)と申します。
今後ともよろしくお願いします。



 

 

_ゴールデンウィーク、仙台駅

 

さまざまな格好をした人が、あちこちを行き交っていた。

ある人は帰省に、ある人は旅行に。またある人は休日出勤に。

それぞれが思い思いの日常を過ごしていた。

 

その日常が、すぐにでも崩れ去ろうとしていることにも気付かず。

 

駅のホームで、一人の少女の無邪気な声が響いた。

 

「お母さん、あれ何ー?」

その声に、駅にいた人々がそれ(・・)に気が付いた。

それ(・・)は、無色透明の門のように見えた。

鬼ごっこでもしていたのだろう、走り回っていた男の子が透明な門にぶつかった。

それと関係があったのかは分からないが、男の子が門にぶつかった瞬間、種も仕掛けもないのに(どこにも通じていないのに)、門がゆっくりと開いた。

 

「この土地は、我ら〈ゲルーニャ皇国〉の土地であることを宣言する!!」

男の言葉と同時に、仙台駅に絶叫が鳴り響いた。

平穏な日常は、崩れたのだ。

 

___

 

『臨時ニュースです。仙台駅を謎の武装勢力が占拠、更に仙台市内に攻撃を行っています。目撃情報によると、翼の生えた生物や、武器を持った人物が市民を虐殺している模様です。』

 

どのニュース番組でも、ほとんど同じことを言っていた。

いつも淡々とした感じで報道していることに定評のあるニュースキャスターも、今回ばかりは非常に焦った様子で報道していた。

最初は、誰もが「冗談だろ」「番組ぐるみのドッキリか?」などと全く信じていなかった。

しかし、どの番組でも同じ内容が報道され、ネット上にも合成とは思えないほどの精密な写真が投稿された。

ここまで来ても全員半信半疑だったが、ニュースキャスターの言葉によって、信じるしかなくなった。

 

「...!!速報です!政府が軍の派遣を決定!それと同時に国家非常事態宣言を行いました!」

いつも動きが遅いはずの政府が、どこよりもいち早く行動を起こしたのだ。

それと同時に、大和町や名取市、県外の福島市や相馬市にも避難命令が出された。

 

_???_

 

「...本当に、侵略してよかったのですか?」

一人の初老の男は、目の前にいる老人にそう聞いた。

老人は玉座に座り、見るからに高そうな服を着ていた。

 

「ふん、高貴な文明を持っている我らが、蛮族を浄化して何が悪いというのかね?さらに、あいつらは技術を無駄に使っている。遅れている蛮族に正しい技術を教えるのは当然のことよ。」

その老人は、どこか狂気じみた声でそう言った。

 

「...そうですか、失礼いたしました。ゲルーニャ皇国に栄光あれ。」

初老の老人は、目の前の老人に一礼すると、その部屋...玉座の間から立ち去って行った。

 

「...かならず、私はこの世界を支配してやる。皇帝の名に懸けて。」

老人...いや、ゲルーニャ皇国皇帝は、誰もいなくなった玉座の間でそう呟いた。

その呟きは、誰にも聞かれずに空気に溶けるように消えていった。




ここだけ短いです。
長くしていくつもりですので、ご期待ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

反撃 1



今確認しましたら、二人の読者様にお気に入り登録されていました!
非常にうれしいです。


 

 

_仙台駅、日本軍到着直前

 

仙台駅は、現在武装勢力...ゲルーニャ皇国軍の侵攻拠点となっていた。

その拠点の中央で、二人の男が会話していた。

 

「司令、蛮族の都市センダイへの侵攻は上手くいっております!」

若い男は指令と呼ばれた初老の男にそう報告した。

彼はゲルーニャ皇国軍の新兵であり、足の速さを買われて伝達兵としてその職務に励んでいた。

 

「うむ、報告ご苦労。...ところで君、この都市を見て何か疑問に思わないかね?」

初老の司令は彼を労った後にそう問いかけた。

彼は狂信的に皇国を最高の文明だと思っている兵士たちとは違い、周りを見る能力があった。

だから、ある意味最も信頼できる伝達兵に問いかけたのだ。

 

「...言われてみれば、ゲルーニャのどの都市よりも発展しているように見えますね。」

伝達兵はその問いかけに対し、司令が抱いていた疑問と同じことを口にした。

彼はまだ、皇国に洗脳されていなかったのだ。

 

「やはり君もそう思うか。どうしても、嫌な予感が拭えんのでな。君に話したのだ。」

それに対し、伝達兵は「なるほど」と頷くと、再び口を開いた。

行ってしまうと、その予感は当たっていた。

 

「...実は私も嫌な予感がするのです。皇国は蛮族だと言っていましたが、実は皇国よりも発達した文明なんじゃないかと。」

彼は少し司令と見つめ合い、同時にうなずくと、門のほうへと走り寄った。

 

「司令、どうされましたか?」

門番の男は司令と伝達兵を見つけると、そう問いかけた。

すると、司令は一枚の紙を差し出す。

 

「皇国からの命令でな、護衛一名とともに、侵攻が上手くいったら新しい司令と入れ替われと言われた。彼が護衛だ。」

司令はそういうと、伝達兵のほうを見た。

それに気が付いた伝達兵は、門番に会釈をする。

ちなみにこの書類は本物である。

 

「了解です。お疲れ様でした。」

門番は書類を確認した後に、門を開けた。

 

「うむ、頑張ってくれ。」

司令はそういうと、門をくぐる直前に一つのメダルを渡した。

それをもらった門番は一瞬固まったのちに、司令に敬礼をした。

渡されたメダル。それは、皇国でもっとも高価な硬貨である、「五宝石金貨」であった。

そして、門をくぐった司令と伝達兵は、ひそかにハイタッチをした。

この二人は非常に幸運だった。あと三分遅れていたら、彼らも帰らぬ人となっていたからだ。

 

_仙台市内

 

この場所でまた、命が失われる所だった。

逃げる時に市民を守るため、殿を務めた勇気ある警察官。

銃は弾切れ、警棒はへし折れ...もう助からないであろう。

 

「死ねぇ!!」

皇国軍兵士は、もう動けない警察官に斧を振り下ろす。

 

「...!」

警察官はせめて己の血を見ないようにと目を瞑った。

しかし、その瞬間。

 

「死ぬのはお前だ。」

その声とともに、銃声と、何かが倒れる音が聞こえた。

警察官が目を開けると、そこには灰色の迷彩服を着た男達や女達がいた。

 

「我々は日本軍です!!我々が来たからには、もう奴らを好きにさせません!」

その言葉を聞いた警察官は安堵のあまり、気を失った。

日本軍が遂に現れた。

ここから、ゲルーニャ侵攻軍の悪夢(大殺戮)が始まる。




次話程度から戦闘シーンも入れていくつもりです。

さて、ここからゲルーニャ皇国はどの様に没落していくのでしょうかねぇ...


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

反撃 2

別に一日二話投稿というわけじゃないですよ?


 

「ふはははははははは!進め進めぇ!蹂躙せよ!」

新しい司令は自ら前線に出ていた。

彼は根っからの戦闘狂であり、度々前線に出ては注意されていた。

目の前には市民がおり、今にも殺そうと迫っていた。

しかし、今回ばかりは拠点にこもっていた方が良かったであろう。

 

「ふははははははは!!」

その高笑いが、彼の最期の声であった。

彼は頭から脳髄と鮮血をまき散らしながら倒れた。

その顔は、何があったのか理解できていないようだった。

 

「し、司令が!!」

彼が死んだことにいち早く気が付いた兵は、胸から鮮血を、背中から髄液をまき散らしながら倒れた。

それに場の空気が一瞬冷え込むと、

 

「こ、殺されるぞぉぉぉぉぉぉ!!」

どこかから聞こえてきたその声とともに、総勢1000人の軍勢が彼方此方に散らばり始めた。

あるものは泣きながら、あるものは叫びながら。

しかし、その声は銃声によってかき消された。

 

「...!!来た!ついに来たんだ!!」

一人の市民が、そう叫んだ。

彼らが見たのは、次々と侵略者を機関銃で撃ち殺している車両。

 

「日本軍が、ついに来たんだ!!」

そう、それは日本軍(救世主)だった。

あるものは撥ね飛ばされ、またあるものは脳髄や血液をまき散らし、そうして数は減っていく。

2分後には、最後の一人が撃ち殺された。

そして、血に濡れた車両から、ヘルメットを被った男と女が出てくる。

 

「皆さん、もうご安心ください!我々が来たからには、もう大丈夫です!」

女のほうがそう言い放つと、男のほうが日章旗(祖国)旭日旗(救世主)を掲げた。

少しだけその場を静寂が支配する。

 

「日本軍万歳!」

一人の市民がそう叫んだのを引き金に、彼方此方で万歳の叫び声が聞こえた。

 

「「「万歳!万歳!万歳!万歳!万歳!...」」」

その叫び声の中、二人は車両に乗り込み、発進させる。

すると、空からは戦闘ヘリが、陸からは戦車や戦闘トラックなどが現れ、仙台駅のほうへ向かっていく。

日本軍がその場からいなくなるまで、万歳の叫びは続いた。

 

__軍人視点

 

「...」

先ほど日章旗と旭日旗を掲げた男、織田信幸。

彼は無言で車両を走らせる。

ちなみに先ほど機関銃でゲルーニャ侵略軍を撃ち殺していたのも彼である。

 

「いやー、人を助けるって気持ちがいいですねー、信幸。万歳されるとは思いませんでしたけどね。」

先ほど車両を運転し、万歳される要因となった女、峰水涼香。

先輩であるはずの信幸に対して呼び捨てし、砕けた敬語で話しかけているが、信幸自身が見逃しているため特に問題はない。

 

「...」

しかしそれを無視して信幸は運転を続ける。

 

「...おーい信幸ー?聞こえてますかー?」

涼香は全く反応しない信幸の肩を揺らしながら問いかける。

実際は危険な行為のため、真似しないように。

 

「...」

しかし、信幸はそれも無視して運転を続ける。

彼は真面目に職務をこなしたいのだ。

 

「おーい」

涼香は、今度は信幸の腕と腕の間に頭を出す。

これも危険な行為のため、真似しないように。

 

「邪魔だ」

信幸はそう言うと、彼女の首を絞めるように、ハンドルを握ったまま両腕を内側に曲げる。

彼と涼香は従兄妹の関係であるため、互いに少し度の過ぎたことができるのであるが、しつこい様だが実際に真似しないように。

 

「ちょっ、ギブ!ギブ!苦しい!」

涼香がそう言うと、信幸は両腕を外側に戻す。

そして涼香が席に戻ると、信幸は口を開いた。

 

「運転の邪魔をすんじゃねぇよ、阿保」

信幸はそう言い軽く涼香を睨むと、正面を向いた。

横で涼香がブーブー言っているが、信幸はそれを無視し、頭の中で呟いた。

 

(さて、こんなことをしでかしたゴミカスをどうやって処理してやろうか)

信幸は車両を動かす。

仙台を、祖国の地を踏み荒した侵略者を「処理」するために。




次回も戦闘回ですよー。

信幸君は愛国主義者なのです。
しかもかなり重度の。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全滅、そして狂気

意外と読まれていて嬉しい限りです。


 

 

仙台駅周辺の空には、何匹もの翼の生えた巨大な蜥蜴(ワイバーン)が獲物を探し、羽ばたいていた。

市民を見つけては捕食し、炎を吐き...

しかし、彼らに死神の音が近付いてきた。

それにいち早く気が付いた蜥蜴(ワイバーン)は、後ろを振り向く。

それは、奇妙な形をしていた。

頭の天辺には回転する翼(プロペラ)があり、尻尾は短く、そこにも小さな回転する翼(プロペラ)がある。

さらには、頭は透き通っており、中には人間(パイロット)が見える。

左右には変な筒(機関銃)がついているようだ。

 

「グルルッ...!」

蜥蜴(ワイバーン)はそれに対し短く唸ると、口を大きく開け、炎を吐き出そうとした。

しかし、それは出来なかった。

 

「グガッ...!?」

体のあちこちに風穴が開けられたのだ。

どうやら変な筒(機関銃)の仕業らしい。

体が浮力を失い、地へと墜ちていく。

蜥蜴(ワイバーン)は意識が消えるまで、鉄の羽虫(ヘリコプター)を睨んでいた。

この直後、他の哀れな蜥蜴(ワイバーン)は、死神(ヘリコプター)によって地へと墜ちた。

 

_仙台駅

 

「おーおー、暴れてる暴れてる。俺たちもやらんとな。」

先ほど、侵略軍の司令とその側近を狙撃、殺害した男、古好成哉。

彼は信幸の幼馴染兼親友であり、同期でもあった。

そんな中、信幸が全員に通信を入れる。

その瞬間、あたりが静まり返り、信幸の声を待つ。

そして、信幸の息を吸う音が聞こえる。

 

『...3...2...1...GO!!!』

合図とともに、全員が駅内へと突撃した。

 

「な、なんだ貴様ら_」

突然現れた信幸達に驚き、思わず問いかけようとした兵士はハチの巣になった。

そして、その銃声に気が付いた兵士たちが、信幸達のいる場所に集まってくる。

 

「貴様らは何者だ!我らを偉大なるゲルーニャ皇国の者だと知ってのことか!!」

兵士の一人が高圧的な態度で信幸達に問いかけた。

すると、信幸が前に出て、こう言い放った。

 

偉大だか何だか知らねぇが、祖国の地を踏み荒らしたてめぇらにはここで死んでもらう。

同時に銃声の連続音と、絶叫が鳴り響く。

 

「ギャ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!」

そう叫んだ兵士は、体中が穴だらけとなり、絶命した。

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!俺の、俺の腕が!!」

そう叫んだ兵士は、腕を銃に千切り取られた。

様々な兵士が、今までの訓練の意味もなく次々と倒れていく。

即死したものや、神経が吹っ飛んだ者は幸運だっただろう。

この苦しさを味わわずに済んだのだから。

腕が吹っ飛んだりしただけの者は、激痛を味わいながら死んでいくのだから。

銃声が止んだ時、生きていた兵士は数えるほどしかいなかった。

 

「き、貴様ら、こんなことをしてただで済むとでも...ギィィィィィィィィィ!?!?」

何かを言いかけた兵士の声は、悲鳴に変わった。

いつの間にか近づいていた信幸が、彼の腕の骨を力ずくで圧し折ったのだ。

 

「...」

信行は無言で彼を転ばせると、今度は彼の足を踏み折った。

 

「ギャアアアアアアア!!!!!ぎ、ぎざま”っグギヒィィィィィィィィィィ!?」

また何かを言いかけた兵士を、信幸は思いっきり踏みつける。

無表情で虚ろの目のまま、何回も、何十回も。

彼は明らかにどす黒い気を放っており、敵味方関係なく近寄ることができなかった。

 

「だ、だれか、ギ!?た、たすけっ...」

彼の言葉はそこまでだった。

あばらも、骨盤も砕け散り、肉はえぐれ、血は溢れ...

物言わぬ肉塊となった彼だが、それでも、信幸はそれを踏みつけ続ける。

それを見た信幸の部隊の者は、どこか狂気を覚えた。

それを見た生き残りは、あまりの恐ろしさに気を失い、そのまま力尽きた。

 

「...やりすぎたな。」

信幸は目に光を取り戻し、周りを見ながらそうつぶやく。

そして、自分の部隊のほうに歩いていく。

軍人たちはいつもの信幸に戻ったと安堵した。

 

「多分これで全滅した。上の階に上るぞ。」

信幸は命令すると、一足先に階段のほうに歩いていく。

どこか恐怖を覚えながらも、軍人たちは信幸を追いかけた。

 

この場にいる全員の誰もがあんなことになるとは思わなかった。

まさか、異世界に派遣されるとは。




プロローグ完結です。
次話から第一章となります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 丘の戦い編
各国の反応と、軍事派遣


UVが100人を突破しました!非常にうれしいです!
では、第一章の始まり始まりー!


仙台事件や、日本軍による侵略軍撃退は、世界中にて大きく報じられた。

無論、世界はそれに反応し、十人十色の反応を見せた。

 

アメリカ合衆国

 

「我が国は、仙台にて起きた侵略者による犠牲者への追悼と、非道な侵略者に対する日本政府の迅速な行動、並びに日本軍の迅速な制圧に賞賛の意を示す。また、仙台駅に出現したと言う門については、日本政府と共に合同調査を実施することが決定した。我らは、門の「先」の世界に興味を示している。そのため、日本軍との合同派遣を提案する。」

アメリカからはかなり好意的な反応が返ってきており、日本政府はアメリカ政府とともに協議を進めている。

アメリカがこんなに好意的なのは、仙台に訪れていたアメリカ人観光客がゲルーニャ侵略軍兵士に殺されかけた際に日本軍がその兵士をすぐさま射殺し、そのアメリカ人観光客を助けたためである。

 

イギリス

 

「我が国は、仙台事件における犠牲者に対し、追悼の意を示す。我らは荒廃した仙台に多額の義援金を贈ることを決定した。日本政府の迅速な対応には賞賛の意を示す。」

イギリスからも概ね好意的な反応が返ってきているが、日本軍については伏せた。

迂闊に賞賛してしまうと、軍国主義などとメディアや野党から叩かれてしまうためだ。

 

ドイツ連邦共和国

 

「我々は仙台事件での犠牲者へ追悼の意を示すとともに、同一被害にあった日本へ同情の意を示す。我々はベルリン事件と仙台事件の関連性を調査するために日本政府との対門同盟を組むことを協議しており、話が実ればより早く門への対処ができるようになるだろう。なお、この同盟構想には枢軸国とは何も関連性がないということを表明しておく。」

ドイツからは非常に好意的な反応が返ってきている。

その理由として、仙台事件とほぼ同時刻にベルリンの総統官邸跡に門が出現し、こちらもまた甚大な被害をもたらしたからだ。

この対門同盟協議に関してはほぼほぼ実りかけており、最終段階となっている。

しかし、やはり国内からの批判が多いようだ。

 

ロシア連邦

 

「我らは、仙台に大規模な食糧支援と資金援助を実施する。」

ロシアからは中立的な反応が返ってきた。

彼らとしては余計なことにかかわりたくないようで、特に軍事支援などの話はしなかった。

 

中華人民共和国

 

「日本政府の迅速な対応について、賞賛の意を示す。仙台には大規模な食糧援助を実施する予定である。」

中国からはやや好意的な反応が返ってきたが、ロシアと同じく軍事関連については伏せていた。

国内で手いっぱいなのと、アメリカに睨まれたく無いためである。

 

大韓民国

 

「仙台事件による犠牲者には追悼の意を示すが、日本政府の対応と、日本軍の行動については遺憾の意を示す。もっと平和的に解決することはできなかったのか、それの是非を問いたい。もしや、また帝国主義に返り咲こうとしているのではないか?」

韓国からは批判的な反応が返ってきており、国際的にこれは大批判を食らっている。

いつまで反日主義でいるのか、とアメリカやイギリスから言われ、より険悪になっている。

 

____________________________________________

 

__一か月後

 

『速報です。日本政府とドイツ政府が仙台駅と総統官邸跡の門を同時に開錠。日独はそれぞれ5000名、合計1万名の軍隊を門の先へと派遣しました。また、二か月後にアメリカ軍が派遣軍の補助部隊をそれぞれ2000名派遣する予定です。』

休日の昼のニュース番組にその一報が流れると同時に、ネットが大騒ぎになった。

「異世界キタアアアアアアア!!!!」「ケモ耳を!ケモ耳を!」「あ^~心がぴょんぴょんするんじゃ~」

と、異世界への期待や不安がすべて喜びとなって大爆発したのだ。

そんなことが起こっているとは露知らず、日本軍たちは紙吹雪や歓声、万歳の叫びなどに包まれながら門を潜っていく。

 

 

 

「...憂鬱だ。」

そう呟いたのは信幸。

彼の部隊は派遣されない予定だったのだが、政府が急きょとして信幸、涼香、成哉を派遣軍に突っ込んだのだ。

 

「えー、楽しみじゃないですか。本物の異世界ですよー、異世界。人生に一度有るか無いかの経験ですよ?」

涼香はかなり楽観視しているらしく、楽しそうにそう言った。

信幸は彼女の頭をたたくと、

 

「経験したくねえよ、こんなこと。」

とツッコんだ。

 

「んー。ま、俺は車で平地を爆走できればいいんだが。」

成哉は二人の会話を聞きながらそう呟く。

どうやらそれは二人に聞こえていたらしい。

 

「そんなこともあろうかと!アコーディオンとギター、持ってきました!」

涼香はそういうと、背中に背負っていたバックを見せる。

中にはいろいろ入っているようで、アコーディオンとギターも入っているようだ。

 

「「詰め込みすぎだ、アホ!!」」

二人は同時に涼香の頭を引っ叩いた。

 

そうこうしているうちに門を通り抜ける。

そこに広がっていたのはのどかな草原...ではなく、上空から見ると一辺の長さ1km、頂点の直径20mの正十二面体の骨組みに見える大規模な基地だった。

 

「さて、しばらくはここに暮らすことになるのか...。」

信幸はそう呟いた。

 

この少し後、異世界初の戦闘がおこるとは、まだ誰も知らなかった。




2108文字...だと...


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

異世界初戦闘 直前

お気に入りしてくれた人が増えてる...うれしいです!


_日本軍が異世界基地に到着したのと同時刻、玉座の間

 

「皇帝陛下、ご報告が。」

一人の兵士が玉座で寛いでいた皇帝に跪き、話しかけた。

彼はゲルーニャ侵攻軍との連絡係であったのだが...

 

「おお、待っておったぞ。どうだ、蛮族の都市は落とせたか?」

皇帝は兵士に対し、嬉々とした様子で訊いた。

 

「...ゲルーニャ侵攻軍、全滅いたしました。」

そんな皇帝に対し、その兵士は少し顔を青くしながら答えた。

その瞬間、玉座の間が静まり返る。

 

「な...。...な、何かの間違いだ!もう一度門に派遣しろ!今度は20万だ!早くしろ!」

皇帝は顔を真っ赤にしながら叫び声にも聞こえる声で命令をした。

処刑を恐れた兵士は、ただ頷くことしかできなかった。

 

 

「...これはいいことを聞いた。」

陰に隠れていた一人の男が呟き、陰に紛れ、どこかに消えた。

 

_異世界基地、通称「RDH」

 

信幸達は後でゲート前で会う約束をし、それぞれが散策することになった。

それぞれがどこに行ったのかをみていこう。

 

~成哉~

 

「ん~...いいなぁ。」

成哉は戦車を間近で見ながらそう呟いた。

彼がいるのは兵器保管庫なのだが、博物館のようになっている場所があり、そこは立ち入り自由となっていた。

さらに、そこにはT-34やIV号戦車などの有名所からクーゲルパンツァーやツァーリ・タンクなどの珍兵器まで、様々な戦車の模型・実物が置かれていた。

 

「お、これもいいな...あれも...」

ミリオタの彼は兵器保管庫の中を彷徨っていった。

 

~涼香~

 

「~♪」

涼香は食料・娯楽区域に出店しているお店でラーメンを啜っていた。

この区域は様々な料理店や、ゲーム会社などが自由に出店することが許されており、彼女は大食い系の店にいた。

最初入ってきたときは周りから「こんなに食えんのか?」と思われていたのだが...

 

「か、替え玉20杯突破!まだまだ余裕そうだ!」

この店の店員がカウンターを持ちながらそう叫んだ。

なんと余裕で完食し、さらには店側の用意した替え玉大食い企画に参加し、その記録を伸ばし続けているのだ。

結果的に、彼女は替え玉30杯を突破したところで店側に「もうやめてくれ!」泣きつかれたため、渋々といった感じで退店した。

なお、この後他の大食い店を食い荒らしたため、大食い系の自衛官らから尊敬されることになった。

 

~信幸~

 

信幸はアパート街のようになっている居住区域にある三人の部屋に荷物を置き、広場に向かおうとしていた。

 

「...あ?」

ふと信幸が路地裏を見たときに、人影が見えた。

もしかしたら他の軍人なのかもしれないが、それにしては小さかった。

 

「...まあいいか。」

そこまで脅威にはならんだろうと思った信幸は、そう呟いた後、広場の方へと再び歩き出した。

〜広場〜

 

「おーい、信幸ー!」

信幸が広場に着くと、成哉の呼ぶ声が聞こえた。

門の近くに設置された噴水に2人が腰掛けていた。

 

「おう、遅れてすまんな。」

信幸は謝罪しながら2人に駆け寄り、噴水に腰掛けた。

 

「気にすんなって!」

成哉は笑いながらそう言うと、何処からか急に対物狙撃銃を取り出し、空に向けて一発の銃弾を撃ち込んだ。

 

<!?>

信幸や涼香を含めた、成哉を除く軍人全員が突然の銃声により動きが止まった。

 

「成哉、何を…。」

涼香が成哉に問おうとすると、それを成哉が手で制し、「まあ見とけって。」と言った。

そして3秒後、音がしたかと思うと、噴水の目の前にドラゴンの亡骸が降ってきた。

重力加速度のついた亡骸は辺り一面に散らばった。

よく見ると、それに紛れて人の手や足のばらけたパーツが見えた。

 

「んー、まあ偵察兵って所かな。」

成哉はそう呟きながら、亡骸のパーツ一つ一つを、立体パズルを組み上げるかのような感じで噛み合わせ始めた。

人間の方はバラバラになって、完全に潰れたパーツもあったが、ドラゴンの方は奇跡的に亡骸が砕け散っただけであったらしく、ほぼほぼ狙撃される前の姿に戻った。

 

「…頭がない…。」

思わず涼香がそう呟いた。

その硬い鱗に包まれていた頭は、綺麗に無くなっていた。

あの距離、およそ10kmほどの距離から当てたと考えると、もはや化け物だろう。

 

これにより、軍人達の気が急激に引き締まり、いつのまにか警戒体制になったかのように、自主的に警備区域で警備を行う軍人が現れ始めた。

 

この一つの狙撃の成功。

これが、一方的な大虐殺の合図だとは誰も知らなかった。





【挿絵表示】


地図です。
赤がゲートとその周辺の広場
黄が居住区域
青が食料・娯楽区域
緑が研究施設など
紫が訓練施設
橙が兵器保管庫
となっています。

また、これには描いてないですが、正十二角形の頂点は部屋となっており、様々なレーダーや目視による監視が行われ、各部屋は辺の中にあるエレベーターでつながっています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

異世界初戦闘 偵察

なーんか投稿遅れてますね…すみません。


成哉がドラゴンを撃ち落として数時間後…

 

成哉は暫く警備区域に置かれた司令室にて上官から説教を受けていた。

撃ち落としたことに対しては何も文句は無いらしいが、どうやら周りに警告を出さなかったのが不味かったらしい。

1時間経ってもまだ怒号が部屋から聞こえてくる。

信幸達は彼のことを置いて、上官に命令されていた偵察任務に行くこととした。

偵察といっても簡単で、基地から30kmほど進み、そこから基地を回るように一周するというだけだ。

信幸達は装甲車両を兵器保管庫から借りると、そのままゲートから基地を出た。

外は草原で、これといった起伏も少なかった。

バックミラーには異世界基地が写っていた。何もないはずの草原にこれが建っていると考えると、違和感しかないだろう。

 

「いやー、これといって何もないですね。基地から20kmも離れたんですけどねぇ...。」

涼香は何もない草原を見てそう呟いた。

木が数本生えているだけで、本当に何もないのだ。

 

「確かにそうだが、多分ここ、窪みのなかだぞ。現に上り坂になってる。...ん、ここからは下り坂か。」

信幸は彼女に返答しながらそう呟いた。

草原にあるとは言ったが、実際は高度100m程度の、丘の中央にある緩やかな盆地に基地があるのだ。

さて、軽い雑談を車内でしている二人、その雑談を聞いてみよう。

 

「この前聞いたんですけど、成哉って彼女いるらしいんですよ。20歳年下の。」

彼女はそう話を切り出した。

 

「ほう、よくその年齢差で付き合えたな。」

信幸は彼女の話に興味がかなりあるらしく、そう返答した。

ここからは一時的にナレーターは引き下がることとする。

 

「いやー、どうやら告ったのはその18歳の子らしくて。何で告ったのかはわかりませんでしたが。」

 

「なるほど。にしても彼奴に彼女がいるなんて思わなかったな。」

 

「え?何でです?」

 

「俺、仙台でずんだ巡りしてた時に、彼奴が風○に入ってく瞬間見ちまったんだよ。」

 

「マジですか?だとしたら、もしもばれたら...。」

 

「ま、良くて別れる、悪くて殺されるだろうな。」

 

「ばれない様には祈っときますが...。ところでずんだ巡りってなんです?」

 

「単純に仙台を散策して色んなずんだ料理を食べていくってやつだ。」

そんな他愛もない会話をしているうちに、どうやら30km地点に到着したらしい。

車両に搭載されていた、基地からの距離を映し出すスクリーンに30kmと表示されていた。

 

「ん、こっから時計回りで一周するぞ。目視偵察は頼んだ。」

「了解しました~。」

信幸は車両を右折させ、ある程度ゆっくりを動かしていく。

彼女は車窓から頭をだし、周囲を見渡し始めた。

 

「ん~まだ何も...ん、信幸、ここでストップ。何かが見えます。」

信幸は無言で車両を止めると、彼女はそれをじっと見つめ始めた。

2分ほど経ち、彼女は口を開いた。

 

「ん、軍の陣地みたいです。簡略的な櫓や塀があって、門番が3名いますね。兵士も何人か巡回してるようです。」

それを聞いた信幸は、それをメモにまとめ、再び車両を動かし始めた。

5分ほど進んでいると、また涼香が「ストップ」といった。

そこは森のようになっていた。

 

「ん~、集落みたいです。ツリーハウスみたいなのが30戸ほど、それぞれがつり橋でつながってますね。住人は全員耳が長い...エルフというやつでしょうね。」

再び信幸はそれをメモにまとめると、車両を動かし始めた。

ここから先は何もなく、二人は基地へと戻った。




ふう、遅れてすみません。
あと、UV200突破しました。
かなりうれしい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

異世界初戦闘 準備

やりますよー。


いつも軍務官(旧自衛官)で賑わっているはずの6区域は、すべて閑散としていた。

それもそのはず、信幸たちの偵察による情報がすぐさま軍務官達に伝えられ、なおかつ司令部から厳戒令が出されたからだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

軍務官の3割以上がホ区域に集まり、ほかの区域にも軍務官が集まり、交代制で監視を続けていた。

 

「...お前らも来てたんだな。」

 

信幸は苦笑いしながら、いつの間にか来ていた自身の30人の部下たちにそう言った。

部下たちも少し苦笑いしながら、

 

「では隊長、何か命令を。」

と言った。

 

「じゃ、警備と訓練、休憩を20分毎に交代しながらやってくれ。銃器や刀の整備も忘れるなよ。」

部下たちはその命令に「了解」と口を揃えて言うと、10人1グループに分かれてそれぞれ行動し始めた。

 

「...さて、俺も準備しますかねぇ。」

信幸はそう呟くと、銃器の整備をし始めた。

 

一方その頃、成哉は...

 

「あぁ...。」

成哉は軽く呻き声を上げながら、ホ区域に入るため、居住区域に向かっていた。

ホ区域に入るには居住区域を、ニ区域に入るには兵器保管庫を、という感じで、反時計回りの順番で通らなくてはいけないのだ。

さて、居住区域に到達し、あとはホ区域の入り口を探すだけなのだが...

 

「...うおっ!?」

成哉は後頭部に走った鈍い痛みに思わず声を上げた。

常人だったら間違いなく気絶するほどの痛みだ。

 

「な、なんで...!?」

背後からは、その痛みの犯人であろう少女の驚きの声が聞こえた。

成哉は後ろに手を伸ばし、少女の腕を掴む。

 

「ちょ、ちょっと!?」

少女がそう声を上げた時には、もうすでに成哉が彼女を取り押さえていた。

 

「さて、ホ区域の上官のところに持ってくか。」

成哉はそう呟くと、少女を担いでホ区域へ歩き出した。

 

「お、降ろしてよ!」

少女はそう叫び、足をジタバタさせるが、成哉はその足を左手で抑えると、また歩き出した。

 

一方そのころ、涼香は...

 

「ん~、何か良い車はないかな~...。」

彼女は兵器保管庫にある、車両購買部に来ていた。

どういう所かと言えば、巨大な小銭入れのない自販機だと言えば分かるだろうか。

およそ200万払えば戦車でも装甲車でも買えるのだが、なぜ彼女は車を買おうとしているのか。

 

「信幸に頼りすぎる訳にもいかないから、そろそろ自分の車が欲しいんだよねぇ...。」

彼女は独り言で答えを言ってくれた。

そう、彼女は信幸に頼りすぎたと思っているのだ。

別に買わなくても、信幸に乗せてもらえば良い。しかし、彼女は偵察役は別行動した方がいいと思っているのだ。

 

「...あっ、これにしよ!」

彼女はそう言うと、札入れに200万を入れた。

ちなみにこれは口座に入っていたものである。

 

信幸に戻って...

 

「さて、そろそろ迫撃砲とかでも引っ張り出すかねぇ...。」

信幸はそう呟きながら警備をしていると、後ろに人の気配が二つした。

振り返ると、成哉が少女を担いでいた。

 

「...お前、彼女いるんじゃ...。」

信幸は少し苦笑いしながら成哉にそう声をかけた。

成哉はそれに気が付き、信幸の方を向いた。

 

「ん?ああ、違う違う。これ侵入者。今から上官に引き渡してくんの。」

成哉がそんなことを言っていると、少女がまた暴れ始めた。

 

「おーろーせーよー!」

少女は叫びながら暴れているため、周囲からの注目を集め始める。

 

「...こいつエルフだな。」

信幸は少女を見てそう呟いた。

長い耳と金髪はエルフの特徴であるのだ。

 

「そうですよ!エルフです!何か文句でも!?」

彼女は大声で肯定したため、余計に軍務官、特にオタクの注目を集めた。

 

「よく入ってこれたなぁ、ゲートの守りはかなり厳重だったはずだがな。今日上官は非番でな、俺がその代わりなんだ。ついてこい。」

信幸は驚愕しながら説明すると、成哉に手招きをしながら歩き出した。

成哉は「あいよ」と軽く返事し、暴れる少女を抑えながら信幸を追いかけ始めた。

軍務官達は「エルフもいるんだー」程度に思い直すと、再び警備を始めた。




ドイツ編はいずれ...。
あ、丘は政府のお偉いさんたちと議会によって日本領となっています。
あと、今のところドラゴン程度しかいませんが、魔法も存在します。
ネタバレを簡単な暗号に。

①K2``8G 84TE
②J-4 XYIY 29

①はかなり後、②はもう少し先のネタバレです。
ヒントは「orimowotomet」です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エルフと魔法 1

UV300!!


 

信幸が入ったのは、長机と、二席の椅子がセットされた、簡易的な尋問室だった。

 

「よし、座らせろ。」

信幸は椅子に座り、成哉にそう指示をした。

成哉は少女を椅子に座らせるように降ろすと、扉の近くにもたれかかった。

 

「んじゃ、これから尋問を始める。まず、名前と年齢は?」

信幸はまず初歩的なことから聞き始めた。

 

「...ジュリー・アーガスト、121歳です。」

少女...といっても高校生ぐらいなのだが、彼女は少しの沈黙の後に質問に答えた。

その見た目に反して地球では老人の年齢なのは、エルフの特徴であろう。

 

「ん、ジュリーさんね。で、うちの基地にはどうやって入ってきたの?警備はかなり厳重にしてたんだけど。」

これはおそらく誰もが疑問に思っていることだろう。

サーモグラフィーカメラ、赤外線センサー、赤外線カメラ、監視カメラなど、様々な監視アイテムと軍務官達の目があるのだ。

それを突破できるということは只者ではないということだが...。

 

「?隠密魔法で簡単に突破出来ましたけど。」

流石にこれには信幸も驚いた。

この世界には魔法が、特に隠密系の魔法があるということは、もしかしたら今までの警備を見直すことになるかもしれないのだ。

 

「...あ、隠密魔法はかなり珍しいので、そこまで心配しなくていいですよ?」

彼女は冷や汗をたらした信幸を見て察したのか、安心させるようにそう言った。

 

「...悪いが、俺たちは魔法が使えなくてな。ここで使ってみてくれないか?」

信幸は半分興味でそう聞いた。

 

「別にいいですけど...。」

彼女は受諾すると、右手に小さい火を出した。

可燃物がないのに火が燃えているというのは実に不思議だ。

 

「...あなたと後ろにいる変態、あと一人は魔法の素質がありますよ?」

後ろからは「誰が変態だ!」と聞こえてきた。

しかし、この基地にいる三人が魔法の素質があるというのはどういうことだろうか。

なんとなく素質を持っている残り一人は誰か想像がつくが。

 

「Hey信幸!ここでエルフを尋問してるって聞いたんですけど!」

いきなり扉を開け放ってきたのは涼香だった。ちなみに扉の近くにいた成哉は思いっきり扉と壁に挟まれていた。

信幸はジェスチャーで「彼奴が素質持ち?」と聞くと、彼女はコクリと頷いた。

 

「おお、本物のエルフじゃないですか!!」

涼香は興奮しながらそう言った。

それを見て信幸は、「そういやコイツ異世界モノのラノベとかコミックとか大好きだったなぁ」と思い出した。

 

「うっひゃあ!?」

ジュリーはいきなり変な声を上げた。

どうやら涼香にいきなり耳を触られたことに驚いたらしい。

 

「おお、本物...。」

涼香はそう呟きながら、ジュリーをまじまじと見つめた。

 

「...魔法でも、覚えてみます?」

彼女の提案を信幸は頷いて了承した。

彼女は一足先に尋問室を出て、信幸は興奮しすぎてその場で立ち尽くしている涼香と、挟まれた衝撃で鼻血を出していた成哉を引き摺りながら尋問室を出た。




③EPTEGA C``4PZ

ヒントとして、``は濁点を表しています。
因みに次話もこれの続きです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エルフと魔法 2

ノブくんが重要なことを訊き忘れていますが、分かりますか?
あ、3つの暗号が分かった人は書き込んでもらって構いません。


簡易尋問室はホ区域の外れのほうにあったため、軍務官達はあまりいなかった。

そのため、魔法の訓練を誰にも見られずすることができた。

信幸たちは簡易尋問室の近くにある簡易訓練所の中で、ジュリーを前に椅子に座っていた。

 

「まず、魔法っていうのは想像力が大切なんです。火がランプの中で燃え上がっているイメージだったり、滝の水が滝壷に溜まっていくイメージだったりです。なので、基本的に魔法を使える人たちは想像力が豊かなんです。ここまではいいですね?」

彼女はそこでいったん区切り、理解できているかを確認した。

三人とも頷いており、信幸に至ってはメモを取っているため、ジュリーは安心して話を続けることができた。

 

「ですが、基本的に魔法を使うには才能がないといけません。ごく稀に魔力がない人でも才能がある場合があります。お三方はおそらくそれですね。では、魔法を使うために必要なことをお話ししますね。魔力回路と呼ばれるものに魔力を通し、魔力が体中にめぐるイメージをします。次に魔法の形をイメージします。これは先ほどお話ししましたね。そして、形になった魔法をどのように動かすかをイメージします。手に保っておきたいのならその場に留まるイメージを、前に飛ばしたいのなら前に飛んでいくイメージをすればいいのです。...話が長くなりましたね。とりあえず皆さんの魔力回路を開きますね。」

彼女はそう言うと、腰につけていた杖を手に持った。

 

「魔力回路を開くには、濃縮された魔力を頭に直接流さなければなりません。まあ、濃すぎる魔力は体に悪影響を与えますが...。学校では、教師が生徒一人一人の頭に魔力を流し、魔法の才能の有無を確認、クラス分けを行っているのです。では、少し目をつむっててくださいね、魔法に変換されていない、濃縮された魔力の光は体に悪いですから。」

それを聞いた三人は何の合図もなく、同タイミングで目を閉じた。

そして、信幸は頭に杖がふれる感覚と、頭が痺れる感覚がした。

痺れの感覚は段々と強くなり、軽い痛みへと変わってくる。

3秒ぐらいすると、頭の中で何かが切れる音と共に、痛みがスッと消えていった。

 

「はい、貴方は目を開けていいですよ。」

信幸はその言葉を聞き、目を開けた。

すでに彼女は信幸の前から消えており、涼香に魔力を流していた。

濃縮された魔術の色は紫色で、まるで稲妻のようだった。

 

「はい、貴女も目を開けていいですよ。」

彼女は涼香にそう言うと、今度は成哉に魔力を流し始めた。

...杖を叩きつけるように、だが。

成哉からは「いたっ」という声が漏れた。

 

「はい、貴方も目を開けていいですよ。」

彼女はそう言うと、目を開けた三人の前に立った。

 

「では、魔力回路に魔力を通してみてください。イメージするだけですよ。」

信幸は電池と型、豆電球、針金を使った、簡単な回路を思い浮かべた。

外れた電池を型にはめ、プラス極から電流が針金を通り、豆電球を光らせ、そしてマイナス極に帰っていく。

そんなイメージをすると、頭の中でバチッとスイッチが入るような音がした。

 

「お、皆さん早いですね。では、体の中に魔力が流れるイメージをしてみてください。ここで意外と躓く人がいるんですよね。」

ほかの二人も同タイミングで魔力を通せたらしい。

まるで教えたことがあるかのようにジュリーはそういった。

信幸は、今度は人体をイメージした。

心臓が脈を打ち、体中に血液が巡り、心臓に帰ってくる。

今度は全身が温かくなった。

 

「...本当に早いですね、三人とも躓いてないですし。では、その魔力を魔法に変換してみてください。魔法には火、水、雷、植物、大地、光、闇、そして身体の8つの属性があります。基本的に相反する属性を同時に持つ魔法使いはいませんし、基本的に三つ以上の属性を持った魔法使いはいませんからね。」

信幸は彼女の言葉を聞きながら、手の中ですべての魔法がとどまるイメージをした。

そうして出てきたのは、小さな火と光の玉だった。

 

「ふむ、貴方は火属性、光属性、身体属性ですね。で、貴女は...へ!?」

ジュリーは涼香の方を見て絶句した。

涼香の体の周りを、小さな魔法が七つが回転していたのだ。

 

「ぜ、全属性!?ありえません!最も多かったと言われる魔法使いでも、属性は五つだったのに!!」

ジュリーはかなり取り乱していた。

どうやら八つの魔法を持った魔法使いは本当にいなかったらしい。

 

「なんか出来ましたよ??」

涼香は適当にそういった。

それを聞いたジュリーはさらに取り乱し、

 

「なんとなく?なんとなくで史上初を成し遂げないでください!そんな軽い気持ちで八属性の魔法使いとなったら、他の魔法使いの心がへし折れますよ!」

と言った。

次に成哉を見て、

 

「あんたもさり気なく相反する属性を同時に出してんじゃねえですよ!光と闇ってなんですか!中二病ですか!!」

と口調を変えながら叫んだ。

中二病呼びがツボに入ったらしい涼香は、腹を抱えながら転げまわっていた。

 

「中...フフッ...中二病...フフフフフ...光と闇...。」

ずっと同じフレーズを吐き、変な笑い方で転げまわり、そこそこの勢いで信幸にぶつかった。

 

「てめぇ...。」

どうやらそこそこ痛かったらしい信幸は、涼香を睨んだ。

 

「...あ、隠密魔法はどの属性にも属さない、無属性と呼ばれるものです。基本的に無属性を持っている人はいないので、学校でも基本的に無属性のことを学ぶことはありません。無属性の人は無属性専用のクラスで学びます。」

彼女は何かを思い出したかのように、隠密魔法のことを話した。

信幸はそれをメモすると、目を瞑り、魔法を操作し始めた。

ジュリーが言っていた通りに、まずは可燃物に燃え広がる火をイメージする。

その火にガスが送り込まれ、酸素が送り込まれを繰り返し、火が青白くなっていく。

 

「...なんか、凄いことになってますね。」

ジュリーの声を聞いた信幸が目を開けると、青まではいかないものの、青みがかった白い火が、手の中で燃えていた。

ためしにそれを的に投げてみると、当たった瞬間に火が爆発し、的が溶けた。

 

「おお...。」

信幸は驚愕のあまり、声を漏らした。

それを見たほかの二人も、自身の魔法のイメージを膨らませながら、様々な魔法を使っていく。

 

「...そういや、お前に訊き忘れていたな。」

信幸は何かを思い出し、ジュリーにそう話しかけた。

それを聞いたジュリーは信幸の方を向き、ほかの二人も信幸の方を見た。

 

「何のためにお前はここに来たんだ?」

信幸の質問にジュリーは少し考えるような素振りを見せると、口を開いた。

 

「まあ、言っておいたほうがいいんでしょうね。いいでしょう、話します。」

彼女はそう言うと、なぜ来たのかを三人に話し始めた。





【挿絵表示】


はい、正解は何のために基地に入ってきたのか、でした。
わかった人はいますかね?
あ、書いてないですけど、11話(ここ)と12話(次)の間に、ノブくんたちがジュリーに自己紹介しています。

2722字?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

異世界初戦闘 開戦

UV400!!


 

魔法の訓練を一通り終えた信幸たちは、ジュリーと涼香を居住区域で留守番をさせ、ホ区域で警備を始めた。

「俺、迫撃砲引っ張り出してくるわ」と信幸は尋問室とは逆方向にある、簡易兵器保管庫へと向かっていったため、成哉は一人で警備を行っていた。

 

「...ん、今気付いた。もう夕暮れか。」

成哉は独り言でそう呟いた。

太陽が()へと沈み、辺りの空は一面オレンジに染まっていた。

 

「街灯とかほとんどないし、星はきれいに見えんだろうな...。」

そんな事を言いながら、成哉は異世界に来たということを再確認する。

仙台事件、ベルリン事件、異世界基地建設、ドラゴン撃墜、そして、もうそろそろで始まるであろう、この丘での戦い。

全てはたった一ヵ月前に始まったのだと思うと、この基地の建設速度を含め、全てが早く感じられた。

にしても、なぜこんな早く基地を建設できたのだろうか。

噂によると全ての建設会社を雇い入れ、急ピッチで建設したらしいが。

後、中央広場に小さな神社を作る計画があるとか。

そんな事を考えている間も、太陽はゆっくりと沈み、大きくなっていく。

そして、反対側には大量の星々と、真っ青な惑星(・・・・・・)、そして妙に滑らかな月(・・・・・・・)が姿を現していた。

 

「持ってきた。」

成哉は横から信幸に話しかけられた。

誠也が信幸の方を見ると、彼は横に連結された、1ダース程度の迫撃砲をロープで引っ張っていた。

 

「おお、並べんの手伝うわ。」

成哉はそう言うと、迫撃砲の反対側へと回り込み、信幸と共に敵陣方向へ迫撃砲を向けた。

 

「にしても、随分と星が見えんな。」

信幸は空を眺めながらそう呟いた。

明かりが必要そうなので、成哉はここで懐中電灯ではなく、LEDのランプを取り出した。

 

「そんだけ明かりが少ないんだろ。」

成哉はそう言い、ランプを点灯し、少し持ち上げた。

それと同時に、信幸は急に真剣な顔になり、敵がいるであろう方向を見た。

 

「おい、いきなりどうし...」

声を掛けようとした成哉を信幸は手で制し、10秒ほどその方向を見つめ、何かを見つけたような仕草をとった後に、全区域に通信を入れた。

成哉の通信機も起動し、ピッという音を鳴らした。

そして、信幸は息を吸い、

 

「敵襲!!!繰り替えす、敵襲!!!ホ区域正面より敵来襲!距離およそ20km!」

 

と声を張り上げた。

成哉も信幸が見ていた方向をよく見てみると、確かに丘一面を横に並んで進んでくる敵が見えた。

 

「よく見えたな、こんな暗い中。」

成哉は驚きながら信幸に声を掛けた。

 

「そんな事はどうでもいい、迫撃砲に弾を込めろ。一斉射撃だ。」

成哉は「はいはい、戦闘となると人が変わるんだから」と苦笑いしながら、迫撃砲に弾を込めていく。

数分程度で弾が込め終わると、信幸は弾着時間のずれを計算しながら迫撃砲の角度と位置をずらしていく。

 

「よし、じゃあ撃つか。」

その言葉を聞いた成哉は一瞬硬直した。

そしてその間に信幸は迫撃砲を一番離れた位置に置いたものから発射していく。

 

「ちょっ...。」

成哉はちょっと動揺していた。

明らかに早いし、全てを一人でやっているからだ。

 

「さて、見てろ。」

信幸は成哉にそう言い、敵の方を見た。

 

「3...2...1...弾着、今。」

それと同時に、敵陣が爆発した。

恐らく100人以上は死んだだろう。

 

こうして、異世界での初の戦いの火蓋が切って落とされた。

そして、異世界側にとっての悪夢が始まった。




さあ、次は本当の戦闘です。
まあ、蹂躙と言ったほうが正しいでしょうか。
では、また。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

異世界初戦闘 蹂躙

最近筆が乗るんですよね。


__ゲルーニャ第二侵攻軍side

 

「なあ、何か見えないか?」

一人の兵士があるものを見て、隣の兵士に話しかけた。

話しかけられた兵士や、その近くにいた兵士たちは月明かりを頼りにそれを見つけた。

夜空を背景に浮かび上がってきたのは、何かの立体的な骨組み。

そう、異世界基地である。

周りからは「おお...」や、「何だあれは?」などの呟きが聞こえてきた。

 

「我らの神聖なる丘にあのようなものを作るのは、身の程も知らぬ蛮族もいたものだな。丘の所有者は我らであると教えねばならぬ。男は殺せ。女がいた場合は貴様らの好きなようにさせてやろう。」

侵攻軍の総大将が周囲に響き渡る声でそういうと、兵たちは勝利と、女のことを妄想し、いやらしい笑みを浮かべ、雄叫びを上げた。

それと同時に、巨大な爆発音とともに兵士たちは意識が消え去った。

それを間近で見た総大将は絶句する。

あの一回の爆発で何十人もの兵が物言わぬ肉片となったのだ。

さらに、凶報が舞い込む。

 

「伝令!今の爆発を含め、12箇所で爆発、最低200名が死亡、10名が重軽傷です!」

「なにっ...。」

伝令兵からの報告を聞き、総大将は再び絶句する。

総大将は今まで以上に頭を回し始める。

まるで隅に追い込まれて殺されようとしているゴキブリのように。

 

「...!!あの魔法攻撃は連続でできないようだ!今だ、突撃せよ!」

空を飛ぶということを思いついたゴキブリのように、彼はその考えに行き着いた。

実際、考え方はよかっただろう。

迫撃砲は手動装填なため数秒ほどのラグがある。

だが、相手が悪かった。

このような突撃は、簡単に言えば針1000本で岩を割ろうとするようなものである。

岩に少しのダメージはあるかもしれないが、針がすべて折れてしまうだろう。

そんなことに、彼は気づいていなかった。

 

__ホ区域side

 

「先制攻撃成功っと。」

信幸はそう呟くと敵の方を数秒凝視すると、再び通信機を動かす。

 

「長篠の再来だ。三列に並べ。決して敵に弾が飛んでこない時間を作らせるなよ。」

信幸はそう指示すると、成哉の方を向いた。

 

「成哉、お前は俺と一緒に総大将を殺れ。」

「了解。二人同時射撃か。」

成哉は信幸の指示に従い、背中に背負っていた狙撃銃を取り出す。

信幸もそれに合わせて、腰のベルトに付けていた組み立て式の狙撃銃を組み立てた。

そして信幸は再び通信を入れる。

 

「撃て。弾切れになったら二列目、三列目と交代してリロードしろ。」

信幸が射撃命令を出すと同時に、銃声が辺りに鳴り響き始める。

 

「おし、やるぞ。」

「了解。」

二人は狙撃銃を構え、スコープを覗き込んだ。

敵は少し近づいてきたといっても、1kmにも満たないので、狙撃にはあまり適さないのだが...。

 

「ん、総大将発見。中央の奥。なんか台の上に乗ってるっぽい。」

成哉はものの数秒で総大将を見つけた。

これが600人以上をヘッドショットで殺害した男の実力である。

 

「了解、こちらも見つけられた。」

信幸も成哉の助言により見つけることができたようだ。

 

「「さよならだ。」」

信幸と成哉の声が重なると同時に、二発の一際大きい銃声も重なった。

 

__総大将side

 

「光の矢...。」

総大将は終わる気配がない銃弾の雨を見てそう呟いた。

自称先進国であるゲルーニャ皇国だが、銃の製造ができるほどの技術力と、種族全てを平等に扱っている平等性がこの世界での先進国の定義なため、銃の製造もできず、帝国民以外のすべてを蛮族と侮り殺戮している彼らは、実のところ後進国である。

 

「考えろ...考えるんだ...味方は3万は死んだ...敵は一人も死んでいない...。」

また彼は頭をフル回転させ、この状況から脱する方法を考え始める。

しかし、そんな彼に二発の凶弾が迫る。

 

「そうだ、思いついたぞ!」

彼はその言葉を最後に頭に二発の銃弾を受けて倒れた。

 

「!?そ、総大将が殺られたぞ!!」

側近のその言葉はみるみる内に前線まで到着し、大規模な混乱を招いた。

あるものは逃走しようとして斬り殺され、またあるものは突撃して射殺されていった。

 

「...終わった。」

その側近の兵士は、その言葉を最後に自決した。

 

__異世界基地side

 

「うっし、敵全滅!」

信幸はガッツポーズをしながらそう言った。

実際には100人ほど生きているのだが、ほぼ誤差の範囲内だろう。

また全区域に信幸は通信を入れた。

 

「敵軍全滅!我々の勝利だ!繰り返す、敵軍全滅!我々の勝利だ!

信幸のその通信とともに、辺り一面から歓声が聞こえた。

あるものは抱き合っているし、あるものはハイタッチを交わしていた。

...勝利といっても、一方的な殺戮だったのだが。

 

「ん~、お疲れ様です。」

涼香がそんなことを言いながら、区域別の壁から飛び降りてきた。

 

「お前そこ登るなよ。」

信幸は涼香の頭にチョップを食らわせた。

涼香は頭を手で押さえながら、

 

「ちょっと!痛いじゃないですか!」

と言った。

彼女としては真剣に言っているため、信幸はため息をついてまたチョップをし、居住区域へと歩き出した。

すでに夜の中央広場は軍務官で賑わっており、食糧・娯楽区域や訓練施設も賑わっていた。

 

「とりあえずジュリーでも連れて飯でも食いにいくべ。」

成哉のその提案に二人は頷くと、居住区域に向かった。

空では、青い星と月が星々とともに浮かんでいた。




UV500!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 エルフの森編
森へ 1


うぃ、新章突入です。


__丘での戦いから2日後...

 

信幸たちは全員暑さにやられてグデーッとしていた。

先日は春のように暖かかったのに対し、今日は真夏のような暑さなのは異世界ゆえだろうか。

 

「異世界って暑いんですね~...。」

涼香暑さにうなされながらそう呟いた。

室内温度は31度、外に至っては37度である。

信幸でさえも夏の暑さにやられて仰向けに倒れている。

ジュリーは案外平気そうだが。

 

「ほい、アイス。」

成哉は冷凍庫の中に入っていたアイスキャンディを取出し、ジュリー含めた三人に投げ渡した。

 

「す、すまん...。」

信幸はそう言いながら袋を開け、アイスを咥えた。

 

「???」

異世界にそういうものはないのだろう、アイスを持ちながら、ジュリーは頭にクエスチョンマークを浮かべていた。

 

「ちょっと貸してくださいね~。」

涼香はジュリーからアイスを取り上げると、その袋を開け、中身を取り出した。

 

「はい、冷たいので驚かないでくださいねー。」

涼香はそう言うと、アイスをジュリーに渡した。

 

「...はむっ。」

ジュリーは少し戸惑いながらも、アイスを口に咥える。

彼女は数秒間硬直した後に、目を輝かせた。

 

「ふふっ、気に入ったようですね。」

涼香は母親のような笑みを浮かべながらアイスを咥えた。

 

「この前商業区域*1に行った時に売ってたから買ってきたんだが、買ってきて正解だったな。」

成哉はそんなことを呟くと、アイスを咥えながら冷凍庫の扉を閉めた。

信幸は何とか復活できたようで、汗をかきながらも立ち上がっていた。

 

「暑いが、ジュリーの願いを聞いてやらんといけないな。」

信幸は少し嫌そうな顔をしながらも、銃器の軽い点検や、装備の点検などを始めた。

と言うのも、ジュリーが異世界基地に侵入してきた理由が原因であった。

 

__遡ること数日前、...

 

「私が侵入した理由なんですが、簡単に言えばゲルーニャ皇国による侵攻を食い止めるために、あなた方に協力してもらうためです。」

ジュリーはそこでいったん区切ると同時に、信幸から質問が飛んできた。

 

「ゲルーニャ皇国?」

その質問にジュリーは口を開いた。

 

「ゲルーニャ皇国というのは、私が住んでいたエルフの森と、この丘一帯を除いた地域を支配している、国土だけ巨大な帝政国家です。技術的には世界的に見て下の上、制度は下の下、数だけ列強に匹敵するようなゴミですけど。」

ジュリーはかなり恨みが溜まっているようで、軽く毒を吐きながら説明した。

 

「この際だから列強についても説明しましょう。こう言う話好きそうですし。列強というのは、ルーシー連邦、朝日帝国、スコッティング連合王国、フロッグ共和王国、リベーリャ連合の五ヵ国の総称です。ルーシーは陸軍、朝日は海空軍、スコッティングは制度、フロッグは料理や建設技術、リベーリャは観測技術や天文学、というように、各国は様々な分野で突出しており、制度的には上の中から上の上。列強よりも平和な国は辺境にある田舎国家程度だといわれています。」

ジュリーの話に三人とも聞き入っており、信幸はまたメモを取っていた。

 

「さて、話が脱線しましたね。協力といっても脅迫のようなものです。一人か二人を拉致して、従わなければこいつを殺す。帝国とあんまり変わらない手法ですけど、一番この方法が手っ取り早いらしいです。まあ、言われた通りに誰かを拉致しようと思って、そこの変態を土の塊でぶん殴ったら返り討ちにあって、今に至るわけですけど。」

ジュリーはまた毒を少し吐きながら、話を続けた。

 

「もう拉致とか無理だと思っているんで、手っ取り早く言いますね。我々エルフと協力してくれませんか?それなりの報酬...金塊10tでどうでしょう?」

彼女の提案を聞いて信幸は少し複雑そうな顔をする。

金塊と聞いた二人は既に返事は決まったようで、信幸の方をじっと見ていた。

 

「ぐぬぬ...金塊10tに加えて鉄鉱石15tだ。」

信幸は少し迷いながらも承諾する条件のハードルを少し上げた。

ジュリーは少し考えるような顔をすると、

 

「...いいですよ。これで交渉成立ですね?」

と言い、信幸に右手を伸ばした。

 

「...ああ。」

信幸は渋渋といった感じで彼女の手を握り、握手した。

横では成哉と涼香が信幸の背中越しにハイタッチをしている。

 

「...こいつら腹立つな。」

信幸は二人を見ながらそう呟いた。

 

____________________________________________

 

「ああ、忘れてました。」

涼香はとぼけたような顔をしながらそう言った。

 

「阿保ぉ!」

信幸はどこからか取り出したハリセンで涼香の脳天を叩くと、彼女の装備と銃器の点検も始めた。

 

「ああ、すみません。」

彼女は少し申し訳なさそうな顔でそういうと、信幸が点検していない装備や銃器の点検を始めた。

成哉も点検を始めると、部屋はしばらくの間静寂に包まれる。

 

「点検終わり。早く装備しろ、行くぞ。」

信幸はすぐに装備や銃器を装着し、ジュリーの手を引っ張りながら玄関の扉を開けた。

 

「うわわっ...。」

ジュリーは少し転びそうになりながらもなんとかバランスを取り戻し、歩き始める。

 

「ああ、待ってください!」

涼香は少し慌てながら信幸とジュリーの後を追いかけ始める。

 

「...ははっ。」

成哉は、少しおかしいその光景をみて笑うと、三人を追いかけ始めた。

かなり平和な風景だが、この後戦闘が起こるとは誰も予想していなかった。

*1
食糧・娯楽区域の俗称





【挿絵表示】


信幸達が通る予定のルートがオレンジ色です。
赤色は車両が通れない程度の傾斜になっているところです。
青色の線から内側は日本が領土として定めているところです。
エルフの森にある、茶色の四角は、森の入り口です。
他のところは木の間隔が狭く、車両が通れないんです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

森へ 2

UV600&700!!


__兵器保管庫

 

「おめぇら...仕事が早いぞ...。」

信幸は思わずそう呟いた。

目の前では彼の部下たちが既に戦車や装甲車両などを用意しており、何人かは車両に乗り込んでいた。

その中には、信幸と成哉が愛用している、黒と赤の縦線付きの装甲車両もあった。

 

「我々は隊長達の部屋の隣に全員で生活していますので。あとわりかし隊長達の部屋って壁薄いんですよね、会話丸聞こえでしたよ。」

信幸はそれを聞いて、「迂闊なことは出来ねえな、する気もねえけど」と苦笑した。

 

「んじゃ、俺らも乗り込むか...あれ、涼香?」

成哉は車両に乗り込もうとした時に、涼香がいなくなっていることに気が付いた。

信幸もそれに気が付き、周りを見渡すと、キュルキュルという音と共に涼香の声が聞こえてきた。

 

「私は新しくこれ買ったので、大丈夫ですよ~。」

彼女はなんと小型戦車に乗っていたのだ。

正式名称は30式小型戦車で、砲の精度が良く、足も速く、しぶとい。

そんな三拍子が揃った戦車なのだが、欠点があった。

内部の広さとキャタピラの音がひどいのだ。

小型化した機体に無理に高性能な物を積み込みすぎた結果、機体が圧迫され、中は非常に狭く、子供二人が入れるかどうか程度のスペースであり、キャタピラは制作したチームが「キャタピラの音ってなんかよくね?」という適当な理由の結果、例のキュルキュルという音が鳴るようになってしまったのだ。

 

「あー...まあいいか。」

信幸は何かを言おうとしたが、その言葉を飲み込んだ。

 

「えぇ...。」

ジュリーは車両の数*1に少し引いていた。

 

「...乗るぞー。」

成哉は車両に真っ先に乗り込み、助手席に座った。

本人は少し我慢するような顔をしていた。

それはなぜか。

簡単に言えば、運転したいが運転したら絶対に車両が壊れるから、というのが理由だ。

 

「よっし、行きますかねー...。」

信幸は独り言を呟きながら運転席に乗り込み、シートベルトをした。

戸惑いながらもジュリーが車両後部に乗り込み、出撃準備が整った。

少し通信機を操作した後に、信幸は部隊全体に通信を入れた。

 

「うぃ、涼香にも通信は繋がってんな。よし、出撃だ。兵器保管庫管理者*2から許可は取ってある。任務開始だ。」

その言葉と同時に、信幸の部隊はゲートから外の世界へと飛び出した。

 

「おー、初めて外に出たが、いい景色じゃないか。」

成哉はそんな事を呟きながら腕と足を組んだ。

青空が広がり、緑の草原が広がり、まさか数日前にあんな大虐殺があったとは思えないほどだった。

 

「ここの丘はゲルーニャやスコッティングが神聖視してますから、手が付けられていないんです。数日ぐらいかけて南下するとゲルーニャの地方都市がありますよ。」

ジュリーが後ろからそう話す。

信幸は左手で運転し、口にペンを咥えてメモを取るという無駄に器用なことをした後に、車両を左折させた。

兵器保管庫は北のほうに位置しているため、右折したほうがいいと思うだろう。

しかし、丘の北側は傾斜が酷く、登ることができないのだ。

 

「なあジュリー、なぜゲルーニャはこの丘に侵攻してきたんだ?神聖なものととらえているのなら、そんなことできないだろ?」

信幸はふと疑問に思ったことをジュリーに質問した。

 

「ああ、恐らくですが、何らかの方法で丘にある門の先に別世界があることを知って、ゲルーニャ皇帝が「神の御言葉を授かった」とか言って侵攻させたんだと思いますよ。信仰しているといっても皇国の上層部は金と女と酒のことしか頭にない、腐ったゴミのような、腐ったゴミに失礼な連中ですからね。異世界に侵攻して、女とっ捕まえてヤったり、異世界のものを売って金儲けでもしようとしてたんじゃないですかね。」

信幸の質問に、ジュリーはかなり毒を混ぜながら答えた。

余程皇国に恨みがあるのだろうか。

 

「皇国は自国以外を下に見るところがあるんですよ。それで一回、最も新しい列強である朝日帝国の外交使節団を皆殺しにしたことがあったんです。自分たちが入るはずの座を奪ったってね。それ以来、定期的に私たちに食糧なり武器なり届くようになりましたし、皇国海軍は光の矢によって全滅。さらにルーシー連邦に見返りなしの救援を要請した結果、涼香さんが乗っている奴のデカいバージョンによって陸軍の2割が壊滅。遅かれ早かれいずれ滅ぶんでしょうが、貴方達の登場によってそれが2、3年早まったと思いますよ。」

彼女の舌は止まらず、朝日帝国がミサイルを、ルーシー連邦が戦車を保有しているという爆弾発言をした。

 

「ああ、でも安心してください。恐らくルーシーや朝日との戦争状態にはならないので。」

彼女が言ったその言葉に、信幸は疑問を抱く。

それになぜか気が付いたジュリーが口を開いた。

 

「あの二ヶ国、エルフの森...まあ、私たちの土地ですね。そこに軍人を500人ほど常駐させてるんですよ。あと外交官さんもいるので、交渉してうまくいけば心強い味方になってくれると思いますよ。皇国とは違って話が分かる人たちですから。」

信幸はその話を聞いて、列強に対する考えを変えた。

列強も大して皇国と変わらないのではないかと思っていたのだが、話を聞く限り、敵味方の判別ができ、常駐してるという軍人も、住人のエルフたちに暴行などを加えていないらしい。

 

「なるほど。じゃあ、列強との交渉も任務になるな。成哉、全隊員に任務追加のことをメールで送ってくれ。」

信幸が成哉に頼むと、「あいよ」という適当な返事とともに成哉はスマホを取り出し、画面を操作する。

数秒後、信幸の携帯が着信音を鳴らした。

メールを少し見てみると、綺麗にまとめられた文章が並んでいた。

 

「どうも。...!?」

信幸が成哉に軽く感謝した直後、突然信幸がハンドルを右に切った。

 

「うわっ!...矢!?なんで!?」

後ろからはジュリーの狼狽える声が聞こえる。

おそらくハンドルを切った際に、飛んできた矢がカーテンを貫通したのだろう。

 

「くそっ!!敵襲!!敵襲!!」

信幸は焦りながら通信を入れてそう叫んだ。

 

「...皇国兵ですね。」

ジュリーは矢を見て何かを察したのか、静かな声でそうつぶやいた。

この丘で再び、日本と皇国の戦いが始まろうとしていた。

*1
およそ7両(小型戦車含めず)

*2
管理者とは、各区域の治安やゲートの通行を管理する人物。門から本土に一時帰還したい場合、管理者会議が行われる。




ふう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

残党狩り

三つある暗号のうち、②の答えは、「まほう さんにん ふよ」でした!
分かりましたか?
これで他の暗号も解読できると思いますよ。
仕掛けは非常に簡単です。
かな入力の方なら一発でわかります。


 

信幸は突然の襲撃に焦りながらも、一つの疑問を口にした。

 

「なぜこいつらがここにいるんだ?!」

その言葉に、ジュリーは、「恐らくですが...」と話し始めた。

 

「これ、この前の丘での戦いの、残党兵だと思います。敵陣地のさらに後ろのほうに待機していたところ、大将どころか全兵の首を取られて、それにビビッて森の近くで隠れてたのでしょう。そして、数()少ないこの...車両でしたっけ?の行列を見て、勝てると思って、攻撃してきたんだと思います。あいつら単純すぎて、数だけで戦況を変えられると思っているんですよね。一万本の針でドラゴン1匹を殺そうとするようなもんです。逆に針が鱗に潰されますよ。」

彼女は分かりやすいたとえを出しながら、毒入りの解説をしてくれた。

ジュリーの、質問していないところも答えてくれるところを信幸はそこそこ気に入っていた。

しかも、分かりやすい。

 

「なるほどね、要するに馬鹿共ってことか。」

信幸はそう返答すると、成哉の肩をたたく。

 

「おい、交代だ。俺は機関銃であいつら殺すから、お前運転しろ。暴れていいぞ。」

信幸の指示を聞いた成哉は、悪い笑みを浮かべた。

 

「...マジで?」

笑みを浮かべながらそう言う成哉に、信幸は「マジだ」と返し、運転席と助手席の隙間から体を出した。

 

「?」

ジュリーはどういうことか良く分かっていなかった。

信幸は、内側に開いていた車両後部のドアを閉めると、中央にあった梯子を上る。

上側には固定機関銃がついていた。

 

「さて、ぶっ放すぜ!」

成哉はそう言い放つと、アクセルを思いっ切り踏んだ。

車は急加速していき、次々と前側にいた車両を追い抜かしていく。

その時、通信機からサッキヤルヴェン・ポルカが流れ始める。

涼香が爆走する成哉運転の車両を見て、気を利かせてCDを流してくれたようだ。

成哉は調子が乗ってきたらしく、ドリフト走行をしながら車両を走らせていた。

 

「おおぶれるぶれる。」

信幸はそう呟きながら、機関銃を撃ち始める。

振り落とされないの?と皆さんは思うだろうが、彼が特殊すぎるだけである。

ダダダダダダダという連射音と、車のエンジン音に交じって、時折、衝突音が聞こえてくる。

これは爆走している車両に残党兵が撥ねられている音だ。

 

「うわわわわわ!スピード落とせぇぇー!」

ジュリーは車両内で振り回されながら成哉に叫ぶ。

成哉は聞こえてないらしく、スピードが全然落ちない。

ジュリーは揺れる車内の中、窓を見ると、涼香が砲撃をしていた。

それに巻き込まれて何人もの敵兵が吹き飛ばされる。

よく見ると他の車両も発砲していた。

 

「うわぁ...容赦ねぇ...。」

ジュリーはその光景を見て、思わず普段からはとても想像できないような口調でそう呟いた。

次に運転席のほうの窓を見た瞬間、敵兵が一人跳ね飛ばされる。

その窓はかなり赤く染まっていた。

それを見たジュリーは、思わず吐きかけ、口を押える。

 

「な、なんで...いつもはあのくらいなら吐き気も来ないのに...。」

ジュリーはそう呟く。

恐らく、彼女が吐きかけたのは、はねられた敵兵だけが原因ではない。

人を撥ねても何も反応しない、成哉に対する無意識的な恐怖と嫌悪感も原因であろう。

そうなるほど成哉は全く反応しないのだ。

 

「ん、弾切れ...げっ、流石にやり過ぎだろ...。」

信幸は梯子を下りながら運転席側の窓を見て、顔を少し青くしながらそう呟いた。

 

「ひぇ!」

ジュリーは信幸を見て、思わず変な悲鳴を上げた。

信幸は血に濡れていたのだ。

恐らく撥ねられた敵兵の飛び散った血がかかったのだろう。

 

「...エルフの森に川ってあんのか?」

信幸は自分の血生臭い匂いに不快感を覚えながら、ジュリーにそう聞いた。

ジュリーは「あ、ありますけど...」と血濡れの信幸に軽く引きながら返答した。

 

「...おい成哉、交代だ。さすがにやり過ぎだ。」

信幸はそう言いながら成哉を運転席から助手席に押し退け、ハンドルを握る。

 

「うぇ?...ぎゃああ!!」

成哉は一瞬呆然とするが、窓を見て、悲鳴を上げた。

そしてそのまま助手席で気絶した。

 

「前が見えねえ...。」

信幸はワイパーを動かし、血をふき取ると、ドアの窓を開け、運転しながら発砲する。

最初こそ1000人以上いたのが、すでに100人ほどになっていた。

そして、射殺されていく味方を見た彼らは散り散りになって逃げ出した。

しかし、無情にも彼らは射殺されていく。

 

「お、お、俺は...俺には娘がいるんだ!降伏する!」

そんな時、信幸が撃とうとしていた一人の兵士が、そう叫びながら武器を投げ捨て、頭を伏せた。

 

「...降伏した奴は殺すな。捕虜として捕まえるんだ。」

信幸は通信機を付けてそう全員に通達すると、その兵士から照準を外した。

 

「...なんで皇国兵なんかを...。」

非常に機嫌の悪そうな声で、ジュリーはそう呟いた。

 

「...うちの軍、というよりかは国際法だ。降伏した者は捕虜として人道的に保護する。異世界でもそれは健在だ。例え祖国の地を踏み荒した奴でも。」

信幸も少し機嫌の悪い声でそう言うと、ジュリーは黙った。

もしも国際法が無かったら、信幸は完全な私怨で彼を射殺していたであろう。

しかし、信幸は国際法だからというだけで彼を殺さなかったわけではない。

降伏した兵は、家族がいると言っていた。

信幸は中東の、反乱軍から占領した小さな農村にて、反乱軍に両親を殺された、少女を見た事があるのだ。

その子は一人で、村の建物の壁に寄りかかっていた。

信幸は不思議に思い、その子に、何があったのかを聞いた。

少女は「私の父親は、反乱軍に殺された。私はベットの下に隠れていたから助かったけど、どうやって生きていけばいいのかわからない。」と泣きながら言った。

信幸は少女に暖かい言葉をかけなかった。そのような言葉は勇気付けるのにはいいが、それ以外は意味がないためだ。

では何をしたのか。

彼女を養子として迎え入れてくれる人物が来るまでその子を世話したのだ。

料理を作り、服を洗い、寝かせる。

そんな生活が続いて一か月後、裕福だが、不妊であった若い夫婦が彼女を養子として迎えたいとの申し出があった。

少女にそのことを話すと、「少し寂しい」とは言ったが、喜んでいた。

その少女は夫婦に引き取られ、今は幸せに暮らしているらしい。ネット環境もあるらしく、一か月に一回、メールが届いてくる。

この少女は結果的に報われたが、世界には親を失い、養子にもなれず、そのまま死んでしまう子供もいる。

つまり、降伏した兵と少女の父親を重ねてしまったということだ。

 

結局、降伏したのはその兵士だけであり、ほかの兵士は全員射殺された。

 

「...結局、降伏したのはお前だけか。」

信幸は車両から出て、いまだに頭を伏せている兵士に声をかけた。

兵士は頭をあげ、信幸の顔を見る。

 

「...俺をどうする気だ?」

兵士は少し怯えながらも、落ち着いた声で信幸にそう訊いた。

 

「捕虜として手厚く保護する。娘にしばらくは会えないだろうが、いずれ会わせてやれるかもしれん。」

信幸がそう返答すると、兵士は「よかった...」と呟き、その場に倒れた。

手首をつかむと、脈打っていたので、緊張の糸が途切れて一気に疲れ、眠ってしまったのだろう。

兵士を運ぼうと手を伸ばすと、「マリア...」と兵士が寝言を言った。

恐らくこの兵士の娘の名前だろう。寝顔は安らかだった。

 

信幸が兵士の手足を縛り、車両に乗せると、ジュリーが助手席の上から顔を出した。

 

「さっき降伏してた奴ですか。...まあ、降伏するということはまだ若い兵士か、或いは仕事がないから兵役に就いたのでしょうね。とりあえず、成哉を起こすのを手伝ってください。」

ジュリーはそう言って頭を助手席に戻すと、ビンタする音が聞こえてくる。

信幸は苦笑いしながら兵士を座席の上に乗せると、助手席のほうに歩いて行った。

なお、成哉を起こすのに30分近くかかったのはまた別の話。




④PEEFTYEQ* SMSYGID2``'DY (54B2LS>4

今回の暗号は今までの暗号法と一緒に、もう一つ仕掛けがあります。
ヒントは「3UH``O}」です。
また、小文字も含まれているため要注意です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

”迷いの森”

UV800!

...UV1000言ったら何かアンケートでもしますかね?
ご感想お願いします。
書いてほしいエピソードをリクエストしてくださったら、番外編として執筆するかもしれません。


 

「すまねえな、こいつを基地に届けてくれ。そのあとは自由にしていいぞ。」

森に入る直前に、信幸は一人の隊員にそう言い、ゲルーニャ皇国軍の捕虜を渡す。

隊員は「了解しました!」と言うと、彼を車両に乗せ、来た道を引き返して行った。

 

「...さて、これから森へと入り、エルフ、そして朝日帝国とルーシー連邦との交渉を行おうと思う。だが、油断はするな。異世界というのは何があるのかわからない。地球感覚で物事を考えないように。」

信幸が全員に通信機を通じてそう言うと、すぐに「了解!!!」と大量の通信が入ってきた。

信幸は未だ気絶している成哉を蹴っ飛ばすと、車両を動かし、森の中へと入っていく。

それを追うように、ほかの車両や小型戦車が森の中へと入っていく。

森の中は、木が敷き詰められたように生え、木が生えていないところが道のようになっていた。

道は車両三台分で、木々の葉は深く重なり、日の光を遮っていた。

 

「ようこそ、"迷いの森"へ。歓迎しますよ、私は。迷いやすいので気を付けて下さいね、エルフでも迷って、帰ってこなくなる時もありますから。この森、毎日変形するので。」

信幸はそれを聞いて、全車両に速度を落とすように命令し、自身も速度を落とした。

 

数分ほど暗い道を進んでいると、急に三本の分かれ道が現れた。

先頭車両である信幸の車両が停止すると、後続の車両も停止していった。

 

「さて、最初にして最大の難所ですよ。ここで間違えるとほぼほぼ戻れなくなりますよ。この迷路、間違えた道の先にも分岐があるんですよ。正解の道を引けば、そこから先の分岐である程度間違えても突破できる可能性が有りますが、不正解の道を引けばどんなに進んでも、どんなに戻っても帰れなくなりますから。」

ジュリーの忠告を聞いた信幸は、目を瞑った。

思考の海に飛び込み、周囲の音や匂いを遮断する。

道はたった三つ、右、まっすぐ、左。

クラピカ理論が通用するならば右、裏をかくなら左。

道沿いに行くならまっすぐ。

当たる確率は三割。

外れたら全員死ぬ、だがあたる可能性はかなり微妙。

どうすればいい。

三手に別れたらそのうち二組が死ぬ。しかし、確実に当たる。

しかし、部下を死なせるわけにもいかない。

信幸は思考を巡らせていく。

そんな時、聞こえないはずの声が頭に響いた。

 

『左。』

幼い少女の声だった。

信幸は聞いたこともない声に軽く混乱するも、少女の声はまた頭に響く。

 

『左の道。』

そこからはもう声がしなくなった。

気が付くと信幸は、無意識のうちに左の道へと進んでいた。

その声の正体を知るまでは、少し時間がかかる...。

 

~???~

 

「...これは...。」

異世界のどこか。

異世界とは思えない機械類で埋められ、真っ白な床と壁で構成された部屋の中で、一人の若い女性が静止画が映ったモニター(・・・・・・・・・・・)を見て、声を漏らした。

 

「む、どうした?...ほう、あの丘にこんなものが...。」

後ろから来た一人の男が、モニターを見て声を漏らす。

モニターには、五角形の人工物が写っていた。

 

「よし、上に報告しよう、監視を継続しておいてくれ。」

男はコーヒーが入ったマグカップを持ちながら、どこかへと歩いて行った。

 

「...これは全てが変わりそうですね。」

女性は誰もいなくなった部屋で、一人そう呟いた。

モニターの画面に少しノイズが走ると、先ほどの人工物は消え去り、青い海が映った。

海には、灰色と薄茶色の人工物が浮かんでいた。




さあ、楽しくなってまいりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

謎の刀と謎の声

UV900!!


5分ほど道を進んでいると、急に明るい場所に出た。

半径50mほどの、円形の広場だ。

 

「お、正解の道だったようですよ。」

ジュリーのその言葉を聞き、信幸はハンドルを離し、腕の力を抜いた。

車両の天井を見上げ、額の汗を袖で拭う。

 

「…んぁ…あ、通信機付いてる。」

その時、成哉の目が覚めた。

信幸が蹴った衝撃が残っているのか、肩をさすっている。

「うわ、会話ダダ漏れかよ」と呟くと、成哉の通信機を切った。

 

「おお、すまん。…ん、どこだここ?」

成哉はそう言いながら、周囲を見渡した。

ジュリーがめんどくさそうな顔をしながら、成哉に説明する中、信幸は車両から降りた。

数分間浴びてないだけで、非常に眩しく感じる。

その時、エンジン音と共に、信幸達がきた道から一両の車両が入ってきた。

どうやら捕虜を引き渡しに行った隊員のようだ。

信幸の近くで停車すると、隊員が何かを持って降りてきた。

持っているものは布に包まれており、細長い形状をしていた。

 

「隊長、お待たせしました。…あ、これは上官から渡せと命令されたものです。どうやら部屋のドアに突き刺さっていたようですよ。」

隊員はそう言うと、手に持っていたものの布を剥いだ。

中からは網目模様の、木で作られた鞘が現れた。

 

「…日本刀?…まあ、貰っておこう。」

信幸はそれの正体を呟くと、隊員の手からそれを受け取った。

 

「にしても、よくここが分かったな。」

信幸が隊員に対してそう言うと、隊員は、

 

「ああ、タイヤの跡が残ってたんですよ。」

と返事をした。

信幸は「なるほど」と呟くと、刀を担いだ。

その時、ジュリーが歩いてきた。

 

「なんか魔力の匂いを感じましたよ。…お、これですか。ちょっとこっちに来てください。」

ジュリーは担がれた刀を見た後にそう言うと、信幸を引っ張った。

 

「うおっ!」

信幸はそのまま引っ張られていく。

 

「…少し親子に見えてしまいました。」

隊員はその光景を見て、少し微笑みながら呟いた。

 

 

 

「ちょっと貸してくださいね〜。」

ジュリーはそう言うと、信幸が担いでいた刀を掴み、持ち上げる。

刀の鞘を外すと、中からは少し青みがかった、銀色の刀身が姿を現した。

ジュリーは刀身に指を滑らせ、何かを描いていく。

魔力が込めてあるようで、指の跡は紫色に光っていた。

数分ほどそれが続くと、ジュリーは刀身を信幸に見せた。

刀身には直線と円が組み合わさった、幅一ミリ程度の模様が浮かび上がっていた。

 

「この刀、どうやら魔力をため込む性質があるようです。」

ジュリーはそう言って説明を始めた。

にしても、魔力に関するものは見ればわかるのだろうか。

 

「ああ、これは私の特技みたいなものです。周りからはよく絶対魔力感なんて言われてますけど。で、この模様は簡単に言えば武器を通して魔法を使えるようになる、魔力回路です。魔力を込めると、」

ジュリーがそこで言葉を区切ると同時に、刀の模様が紫色に光った。

 

「こうなるわけです。これだけだとただのおしゃれな光源ですが、魔法をイメージしながら振ると、」

今度は刀をジュリーが上空に向けて振ると、刀の風圧が黄色い光に変換され、空へとまっすぐ進んでいった。

数秒後には雲を真っ二つにし、そのまま進んでいった。

さすがにジュリーもこれは予想してなかったのか、少しフリーズした。

 

「ま、まあこうなるわけです。では、お返ししますね。」

ジュリーは刀を鞘に戻し、信幸に返却した。

 

「ん、どうも。」

信幸はそう返事をして刀を受け取ると、後ろを振り返った。

そこには、車の陰からこちらを除く隊員たちがいた。

 

「...はぁ...。どうなるかはわかりませんが、皆さんにも魔力流してみますか?」

ジュリーのその提案を聞いた隊員たちは無言のままこちらに近寄ってくる。

全員表情に出てはいないが、どこか嬉しそうな雰囲気があった。

 

「...はあ、相変わらずうちの部隊は自由だな。」

信幸は苦笑いをしながら独り言を呟くと、自身の車両へと戻っていく。

後ろからは、バチバチという魔力が流れる音が聞こえた。

 

 

 

「...にしても、あの声はなんだったんだ?」

信幸は誰もいない車内で一人そう呟いた。

どの道に進むべきか迷っていた時に聞こえた、少女の声。

ジュリーの声ではないし、車両の中に少女がいたなんてことは絶対ない。

そもそも、頭の中に響くように聞こえたのだ。

信幸があの声について考えていると、またあの声が聞こえた。

 

『…面白い。』

興味深そうなその声は、また頭に響く。

 

『人間、お前は面白い。』

信幸に向けられたであろうその声は、楽しそうにも聞こえる。

 

『3日後。3日後に会おう。』

最後の声は響くわけではなく、真後ろから聞こえる。

信幸が急いで後ろを振り返ると、一瞬だけ、緑色の光が視界の端に映った。

しかし、すぐにその光は消えてしまった。

 

「…何だったんだ?」

信幸は冷や汗をかきながら、そう呟いた。

光が見えた所には、一枚の木の葉が落ちていた。

綺麗な深緑色をした、本当に今千切って来たという感じのものだ。

 

「…3日後、ねぇ…。」

信幸は謎の声が言っていたことを思い出し、その言葉を呟いた。

この声の主と会えることが、なぜか少し楽しみになっている自分がいた。

その時、後ろのドアと、助手席側のドアが開いた。

そして、成哉とジュリーが入ってくる。

 

「おう信幸、行こうぜ。ジュリーも仕事終わったみたいだし。」

成哉はシートベルトをつけながら信幸にそう言った。

 

「ん、そうするか。…あ、うちの隊の奴らはどうだった?」

信幸はその言葉に頷いた。

そしてジュリーに、自身の部隊はどうだったかを聞いた。

 

「ああ、全員素質ありですよ、個人差はありますけど。…でも、あの人数だと、魔力切れを起こしましたよ…少し休ませてください…。」

ジュリーは少し疲れ気味にそう答えてくれた。

 

「ん、なるほど。じゃあゆっくり行くぞ。」

信幸はジュリーの負担を減らす為にゆっくりと車両を発進させる。

それを見た隊員達も慌てて車両に乗り込み、ゆっくりと発進した。

この次に大きな試練がある事は、ジュリー以外は誰も予想していなかった。





【挿絵表示】


うちのパソコンが寿命近いせいなのか、一回軽くデータが吹っ飛びました。

この声の主、何となく何かわかる人もいますかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

迷路突破

UV1000!!
やったゼェェェェ!!

なんかリクエストエピソードがあったらお願いします〜



広場の奥にあった道を信幸達の車両は走っていた。

 

「…。」

信幸が無言でハンドルを握っていると、今度は二つの分かれ道が現れた。

ジュリー曰く、最初の道さえ外さなければ少し間違えても大丈夫、との事なので、信幸は勘で左に進む。

 

「あ、そうそう、言い忘れてました。迷路を突破するとで…うぇぇ…。」

ジュリーが何かを思い出し、それを言いかけた。

しかし、その言葉は嗚咽によりせき止められてしまった。

 

「大丈夫か?」

成哉がジュリーの方を見ながらそう声をかける。

ジュリーは、

 

「だ、大丈夫です。魔力が回復する時はこういう事がよくあるので。」

と返事をした。

その間にも信幸は分かれ道をほとんど勘で進んでいく。

 

「随分と適当に進んでますね。まあ、特に問題はないですけど。…あ、何言おうとしたか忘れました、すみません。」

ジュリーが信幸の進み方に少し苦笑いをしながらそう言うと、今度は申し訳なさそうな声で謝罪した。

 

「んぁ、別に謝んなくてもいいぞ。思い出した時に言ってくれ。」

信幸は気にしていないようで、いつも通りの声でそう言った。

その時、また広場に出た。今度は一辺50m程の、正方形の広場だ。

 

「お、半分ほど進んだようですよ。」

ジュリーは広場に着いた事を確認すると、信幸にそう言った。

信幸は、残り半分か、と呟くと、そのまま広場の奥にある道へと車両を走らせる。

しばらく車内は静かな時間が続いた。

 

「にしても、この森、本当に深いんだな。」

奥の道をある程度進んだところで、成哉がそう呟いた。

 

「この森は魔力が非常に濃いので、空間が歪んでるんですよ。だから見た目の割にかなり深いんです。外から見るとエルフの住処なんて木の隙間から見えますけどね。だからと言って木を切り倒すと蔓に首絞められて殺されますけど。」

ジュリーの解説に、成哉は少しゾッとした。

成哉はふざけ半分でだが、「木を切り倒した方が早くね?」と提案していたからだ。

そしてまた静かな時間が続く。

そんな時、成哉が欠伸をした。

 

「ふぁ…ちょっと寝るわ。ジュリー、代わってくれ。」

成哉はそう言うと座席を後ろに倒し、後部座席に移動した。

ジュリーは溜息をつきながらも助手席に移動し、背もたれを元に戻した。

 

「隣失礼しますよ。」

ジュリーは信幸にそう言うと、シートベルトをつけた。

「ん」と信幸は短く反応した。

数分ほどの静寂の後に、ジュリーが口を開いた。

 

「…なんで信幸さんは軍人になったんですか?純粋な疑問なんですけど。」

彼女の質問に信幸は「んー」と考える仕草を見せると、

 

「まあ、過度な愛国心からかね。国のためなら命だって投げ出せるって自負してんだよ、俺は。」

と答えた。

どうやら自身の過度な愛国心は自覚していたらしい。

 

「な、なるほど。…信幸さんは、なんと言う国から来たんですか?」

ジュリーはまた信幸に質問した。

簡単な質問なので信幸は短く「日本って言う国だ」と返すと、またジュリーは質問して来た。

 

「一体どんなところなんですか?」

その質問に、信幸はまた考える仕草を見せ、

 

「んー、そうだなぁ。発展していて、程よく植物も生え、人間や動物が平和に、楽しく暮らしている。飯も美味い。そんなところかね。」

と返答した。

ジュリーは少しだけ沈黙すると、

 

「…あの、いつか連れて行ってもらうことってできますか?」

と言ってきた。

信幸はその質問を聞いて少し驚いた。

まさか日本に行きたいだなんて言うとは思っていなかったからだ。

信幸は少しだけ思考すると、

 

「…まあ、許可が取れるかは分からんが、別に良いぞ。ただし、ゲルーニャ関連が落ち着いてからだ。」

と答えた。

こんな状況の中、日本本土で休息を取るのは恐らく無理だろう。

そもそも異世界基地はかなり快適なので、本土に戻ろうとする軍務官も特にいないのだが。

 

「分かりました。今回の騒動が終わったら皆で行きましょうね!!」

ジュリーは目を輝かせながらそう言った。

なぜそこまで日本に興味を持つのかはわからないが、騒動終了後には恐らく休暇がもらえるため、まあいいかと信幸は思った。

 

「だってあの料理店で食べた食事がおいしかったんですもん!!」

...やはり彼女は、心が読めるのだろうか?

 

 

 

「結構進んだが、まだか...?」

かれこれ走って数十分。分かれ道を何回も進んだのだが、まだゴールは見えなかった。

道を間違えすぎたのだろうか。

 

「んーいや、多分次の分岐を右に進めば突破できますよ。最後の分岐は右っていうのが決まってますので。」

ジュリーは信幸の呟きに反応し、そう言った。

信幸はそれを聞き、「そうなのか」と口の中で呟いた。

そのまま三分ほど暫く静かな時間が続く。

 

そして、分かれ道がまた現れた。

信幸はジュリーが言った通りに、右に曲がる。

すると、すぐに明るく開けた場所に出た。

信幸はブレーキを掛け、通信機を付ける。

 

「ゴールだ、しばらく休んでいいぞ。」

それだけ言うと、信幸は通信を切った。

すぐにジュリーが話しかけてくる。

 

「お疲れ様でした。おそらく迷路の突破速度、最速ですよ。」

ジュリーはそう告げると、その直後に「あ...」と、何かを思い出した顔になる。

信幸が「?」と頭に疑問符を浮かべると、

 

「...そういえば、迷路を突破したらエルフの住処に着くってわけじゃないんですよ。実は、迷路の次に、謎解き地帯がありまして...。」

ジュリーは少し言いずらそうにそう言った。

信幸はそれを聞いて一瞬硬直すると、

 

「はぁ...取りあえずそれは後で考える。今は少し休ませてくれ。変わらない景色ばかりだったから少し気が狂いそうなんだ。」

と、疲れたようにそう言った。

ジュリーが申し訳なさそうな顔をすると、「気にすんな」といい、欠伸をした。

この後、何気に迷路地帯よりも疲れることになるとは思っていなかった。




次のお話で20話を遂に迎えます。
無事にここまで来れたのはうれしい限りです。
自分の中では15話程度で打ち切りになるんじゃないかって思いがあったので...。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。