サキュバスちゃんとの同棲生活 (伊茶恋 好太郎)
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1話

12月上旬の夜。

俺は風呂場で体を洗っていると―――。

 

「ダーリン!! お背中流します!!」

艶やかな黒髪とその豊満な胸を揺らしながら、サキュバスの少女、ユーリが風呂場に突入してきた。

「って、ユーリ!? どうやって入ってきたんだよ!!」

 

そう言って振り向くと―――

 

「きゃっあ!?―――にやり」

風呂場で転んだのか、俺に向かって突っ込んでくる。

にやりとした点が不気味だが受け止めないわけにはいかない。

 

どーーーん!!

 

「いてて」

 

派手にぶつかる。

 

「だ、大丈夫!! ダーリン!!」

 

「ああ、大丈夫だけど……なんでお前俺のち〇こ握ってんの?」

 

腰に巻いたバスタオル越しだががっつりと俺のち〇こを握っているユーリ。

 

少しユーリは考えるようなそぶりを見せたのち

 

「てへっ☆」

可愛さでごまかそうとした。

 

その姿勢、正直嫌いじゃない。

 

「というかなんでダーリンは腰にバスタオルをなんて巻いてるんですか!! おかげで直接つかめない―――じゃなくて! それマナー違反ですよ!!」

 

温泉とか銭湯じゃないし。 自分の家の風呂だしな。

 

「というかお前のことだし鍵かけても突入してくるかもしれないと思ったから巻いていたんだよ」

 

 

「くっ、流石、ダーリンですね!! なら実力行使です!! 今夜こそ、そのたくましくて素晴らしいち〇こを私の物にしてみせます!!」

 

そう言って、がばっと覆いかぶさるように俺にとびかかってくる。

 

「ちょ、まてよ!!」

 

最近はギャーギャーと騒がしい我が家。

そんな我が家にて、今夜もまた俺とサキュバスのユーリによる俺のち〇こ攻防戦が繰り広げられていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そんな奇妙な今から遡ること数か月前。

 

夏休み最後の日の夜。

 ―――俺、神崎 宏斗は買い物を終えて帰宅した。

 「ただいま」

以前からの癖で帰宅を告げるが返答はない。

それも当たり前だ。 この家には俺以外住んでいる人はいないからである。

別に両親が他界しているとかの重い家庭環境というわけではない。

まあ簡単に言えば両親が海外で仕事をしているからである。海外に行って5年にはなる。

それでも一年に一回は二人とも帰ってくるし、お金も一人暮らしをするには十分すぎるほどのお金をもらっているので不便はない。直樹からはラノベ主人公みたいな境遇でうらやましいとか言われたりもしたが―――

「……」

リビングで食事を済ませた後、風呂に入る。

後は寝るだけ。夏休みの宿題もとっくに終わらせている。

ベッドに入ったが何となく寝る気分にならなかったので、夕飯ついでに全巻大人買いしてきた漫画を読み始める。

最近は暇つぶしに漫画を買ってきて読むのが流行りだ。

買ってきたのは昔懐かしい漫画。

普段はスポ根系やバトル系しか読まない俺だが今日は何となくラブコメ漫画に手を出してみた。

 

「……」

夢中になって読み進めていく。

時間も忘れて。

 

 

読み終えた頃には朝になっていた。

「またやっちゃたな……」

学生の一人暮らしだとどうしても自己管理が出来ず、こういう夜更かしはよくあることだった。

身支度を終え、時計を見る。

ちょうどいい時間だ。

忘れ物がないか、ガスは止まっているかなど確認してから家を出る。

学校までは徒歩通学。

『読んだ漫画よかったなあ』

何てことを歩きながら考える。

そして読んで思ったことがある。

『恋がしたい!! 彼女が欲しい!!』

単純バカな俺はそう思った。 

今まで生きてきて恋とか愛とか興味なかったし、そういうことに縁もないし、女子を前にすると緊張してしまうチキン野郎の俺だが、素直に恋愛がしたいと思った。

そして彼女が欲しい。

 

「宏斗、おはよー、1週間ぶりー」

いつも通り友人の直樹と合流する。

そしてその友人に向かって

 

「直樹……俺は恋をするぞ!! そして今年中に彼女を作って忌々しいクリスマスとはおさらばする!!!」

そう宣言した。

 

「またいつもの?」

慣れたようにそう返してくる。

 

俺はたまにこうやって謎の発言をする時があるので、もう慣れているのだろう。

 

今回のことは本気だ。

恋をするぞ!!!

 

そう決意した日だった。

 

「あ、それとおはよう」

ついでにしっかりと直樹に挨拶は返しておいた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

その宣言から約3か月後の休み時間。

 

「で、宏斗。 結局彼女はできたの?」

 

「できましぇん……」

涙ながらに応える俺。

威勢よく宣言したものの結局、彼女はできずにいた。

「それで、この3か月間女の子に話しかけたの?」

 

「いや一切話してねえ」

 

「それで彼女なんてできるわけないでしょ!!」

 

仕方ないじゃん。チキン野郎の俺には話しかけるのもハードル高いんだよ。

 

「でも努力はしたんだぜ?」

そう。宣言したからには努力はしている。

 

「あまり期待しないでおくけど、何をしたの?」

 

「まずは見ろ!! この中間試験の結果を!! 学年20位だぞ!!」

俺の学校は一応進学校であり、中間試験で学年40位以内に入るような奴は一流大学にみんな進学する。

因みにその前にあった夏休み前の期末テストの順位は80位で半分程度だったことを考えるとかなりの躍進と言えるだろう。

 

「た、確かにすごい」

直樹も驚く。以前の学力ではこいつも俺と大差なかったからな。

 

「でもなんで恋愛のために勉強を頑張ったの? まあ勉強できるのは良い点だけどさ」

 

 

「考えてみろ。 俺が一流大学に行って、一流企業に入れば、将来安泰だろ? そういった将来設計まで考えてだなー」

 

「いや、重くない!? 付き合う前から将来設計までしているのはさすがに重いよ! ましてや学生の恋愛で!!」

 

「え? 重いの?」

こういうところは馬鹿なままだった。

マジでこれぐらいが普通だと思っていたので軽く混乱する。

 

「まあそういう将来を見据えても大事だけどさ。 一応、俺たち学生なんだぜ? 将来性よりも単純にあの人がかっこいいから~とか、あの人といると楽しいから~とかの気楽な感じで良いんじゃね?」

 

「……」

 

「じゃあわかった。 どういう子が良いの?」

 

そういえば好みの話とか直樹としたことはなかったなあ。

 

「とりあえず黒髪のロングで巨乳。 後、料理、洗濯、掃除といった家事が万能で、俺の事を溺愛していてー、初体験は結婚初夜って感じの子じゃないと―――」

 

「いや、そんな完璧女いねーよ! お前の要求高すぎんだろ!! 何、そこそこ美人なのにアラサーになっても結婚できない理想高すぎ女みたいなこと言ってるんだよ!!」

 

いや、俺は年収1000万で20代イケメン完璧野郎とか都市伝説レベルの事はいってないぞ。

 

「つーか、もう少し要求のレベル下げろよ 同学年である程度当てはまる子ならマジで俺が紹介してやるよ」

 

このクラス内においては最強の人脈を持つ直樹。 マジでこいつなら紹介してくるだろうな。

 

「じゃあさ、黒髪のロングで巨乳の初体験は結婚初夜って感じの子」

 

「いねーよ もう少し低くしろって」

 

「料理、洗濯、掃除といった家事が万能で初体験は結婚初夜って感じの子?」

 

「いない」

 

「じゃあ初体験は結婚初夜って感じの子」

 

「いない そもそも処〇がいねーよ」

 

「……」

え? まじで? この学校さ、一応進学校だろ!? このクラス、ヤリサーレベルで風紀乱れてんじゃん。

 

「え? ましで?」

 

「まじ」

 

マジだったようだ。 

 

「え、あのギャルだけどいかにも処〇ビッチぽい子達は?」

焦ってクラスの女子グループを指さす。

 

「あー、あいつらな クラスにいる斎藤君が……」

 

クラスの斎藤君とは可愛い系の男子である。見た目は可愛い系で女子の趣味にも造詣の深い、女子から愛されているクラスのマスコットの男である。 因みに俺は話したことはない。

 

「じゃああの子は?」

俺は適当にクラスの女子を指指していく。

 

「あー、あの子も斎藤君が」

 

「あの子とあの子とあの子は?」

 

「あの子たちも全員斎藤君が……」

 

おい。 クラスの女子の半分指さしたけど全部斎藤君じゃねーか。

可愛い顔して、とんだヤ〇チンじゃねーかよ。

なにがクラスのマスコットだよ。

 

「じゃああの子は?」

クラスで男と一番縁遠そうな、物静かな子を指さす。

 

「あ、あの子は俺の彼女」

 

マジかよ!!! 初めて知ったぞ。

 

「お前のことは明日からヤ〇チン野郎と呼んでやる」

 

「なんでだよ!! 俺らは清い付き合いしてんだよ!!」

 

女性経験ゼロのピュアボーイな俺からすれば彼女いる奴は全員ヤ〇チンなんだYO!!

 

「てかさ、なんでそんな処〇性求めてんだよ そんなの関係ないって」

 

「まあ確かにそうかもしれない」

 

「だろ?」

 

「でも考えてみろよ もしその子とS〇Xをするとする。 で、上気した顔しながら喘いでいてよ、裏では『うわー、前の彼氏の方がよかったわー』とか思っているかもしれない」

 

「は、はあ……」

 

「で、だ。 結果不満が募った彼女は前の男の元に行き、その子は結局元カレの性〇隷に!! そして俺はそいつらのATMに!!!」

 

ひいぃぃい!! 考えただけでも恐ろしい。初彼女がそんなのだったら俺一生引きこもりになるわ。

 

「お前の考えている女、どんなクソ女だよ!! つーかNTR漫画の読みすぎだろ!!」

 

読んだことねーよ。

 

「でもさ、宏斗。そんなことにおびえていたら一生恋愛なんてできねーぞ?」

 

「もしそんなクソ女に当たったとしてもそれも勉強だと思えよ 誰とも付き合ったこともない、ましてや女の事の接し方も分からないままだったらさ、本当に好きな人できたとき困るぞ? 恋愛だって勉強何だしさ」

 

「……」

 

確かにその通りだと思う。 

 

「さすがだな。 ヤ〇チン先生」

 

「ヤ〇チンじゃねーよ!!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「315円のおつりになります」

 

夜。俺はコンビニで買い物を終え、帰宅しようと道を歩いていた。

 

放課後、直樹のアドバイスを受け、このままでは一生彼女なんてできないと考え、適当にナンパでもしてみようかと思い、このあたりで一番大きな駅に向かったが結局できなかった。

 

俺のチキン具合も問題だったが、それ以上に駅前は仕事帰りの社会人と部活帰りの学生でごった返していたのが問題だった。

社会人の方はスタスタと足早に去っていくし、部活帰りの学生の方はグループで固まっており、どちらも声をかけられる雰囲気ではなかった。

 

「とはいえ、あんなところでナンパしてついてくる奴なんてまともじゃねーか……」

 

自分のチキンさ加減にそんな負け惜しみのような言葉が漏れる。

 

まあ直樹に言われて適当な彼女でも探そうかとも思ったが、やっぱり違うような気がする。

そもそもなんかこっちが本気じゃないみたいで失礼だし。

後、やっぱり学生だから出会いが特別な、漫画やゲームのような劇的な恋愛がしてみたい。夢物語かもしれないけど。

それこそ転校生が実は幼馴染で、とか通学途中でパンを加えた美少女とぶつかってー、とかどっちも現実的ではないのはわかっている。けど、やっぱりそんな偶然の出会いから始まる運命的な恋愛に憧れる。

 

そんなことを考えながら歩いていると家の近くにある小さな神社の前を通りかかった。せっかくなのでお参りすることにする。

別に信心深いわけではないが、たまに通りかかるとお参りするようにしている。

神社は古く、夜でも一応参拝できるようになっているが、明かりも少なく、参拝客も見たことがない。

最近の神社には防犯のため監視カメラがついているところもあるが、ここは小さな鳥居と賽銭箱、そしてあのガラガラがある程度であり、そんなものもある気配はない。

賽銭箱に5円玉を入れ、ガラガラを鳴らし、手を合わせる。

 

『とりあえず彼女ができますように 後、黒髪のロングの巨乳で料理、洗濯、掃除といった家事が万能で、俺の事を溺愛していてー、後は男性経験ない子でお願いします。 できればその子と運命的な出会いをするようにお願いします』

 

たかだか5円だが願いはできるだけ欲張っておく。

どうせ叶わないしー――――

 

「その願い、叶えます!!」

 

そんなことを思っていると上から女の子の声がした。

 

見上げると小さな社の屋根の上に立っている。

暗いため、影しか見えない。

何となく見つめていると影が急に屋根から飛び降りた。

―――って、高さは大したことないけどそれでも怪我はしそうな高さ。

慌てて女の子が着地すると思われる場所で構える。

 

しかし一向に落ちてこない。

もしかしてさっきの声は聞き間違えで、ここに人なんていなかったのではないか。

そんなことを思いながらふと上を見上げると―――

 

黒髪で豊満な胸を携えたとびきり美人のいかにも大和なでしこといった女の子だが、服装は露出度の高い服を着ていた。

そして空中で浮いていた。

漆黒の翼を広げて。

 

―――って、マジ? 人が翼を生やして、飛んでいる!!

ど、ど、ど、どうしよう!!!

よく見ると尻尾も生えているし!!!

マジで混乱。 と、とりあえず。

―――パシャッ。

 

スマホで写真を撮っておいた。

 

「後でツ〇ッターとイ〇スタにあげよーっと」

 

ザ・現代人といった行動をしておく。

 

「ちょ、ちょっと、撮らないで、ってか、SNSにあげないで!! いろんな人に怒られるから!! やめてぇええ!!」

 

地面に降り立ち、半泣きで俺に詰め寄ってくる。

 

いやだって珍しいじゃん。 これ映えるとかの次元じゃない写真じゃん。

 

「で、どちら様ですか?」

 

あまりに慌てる様子がかわいそうだったので写真は削除して、気になることを聞いた。

 

この状況で彼女の正体として考えられるのは、彼女は人間が翼をつけて飛行できる発明した発明家であり、露出度の高い服を着て、尻から尻尾を生やして、そして翼をつけて、人気のない場所で空を飛び回る変態発明家であるということ。

いやあまりに現実的じゃないけど。

 

「こほん」

咳払い一つしてから彼女は―――

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! サキュバスのユーリでーす! よろしくダーリン!!」

 

と見た目に似つかわしくない、地下アイドルのような自己紹介をしながら決めポーズでピースをする彼女。というか懐かしいな。

 

「―――って、ダーリン? 俺が?」

 

「はい!!」

とびっきりの笑顔で頷いていた。

 

え!? 最高じゃん!! 

俺の望んだ黒髪のロングで巨乳。 家事はわからないけど、大和撫子って感じで結婚初夜まではS〇X厳禁って感じの子。 

しかも出会いまで完璧。まじで最高だわー。

 

『神様ありがとう!! 賽銭追加しちゃう』

 

心の中でそう思いながら1万円を賽銭箱へ入れる。

 

「ところでダーリン お願いがあるんですけど」

 

「いやあ、なんでも聞いちゃうよ!!」

 

オールオッケー!! イエス、うぇるかむ!!

 

「じゃあ!! S〇Xしてください!! あ、先っちょだけでいいんで!! 最悪、咥えるだけでも!!」

 

そう言いながら三つ指ついて土下座してきた。

 

あれ? 清純さは? 結婚初夜までS〇X厳禁な感じは?

 

と、ふと自己紹介を思い出した。

―――サキュバス。

 

あ、そうか……。 

 

―――とりあえず神様。

 

「一万円返して!!!」

 

夜の神社に俺の切実な思いが響いた。

 




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亀更新、不定期更新です。


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