妖精王の編纂 (zumuzumu)
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序章
1話


初めまして、zumuzumuと申します。
ハーメルンデビューです。よろしくお願いいたします。


イシュガル大陸フィオーレ地方マグノリア。

ここはアースランドと呼ばれる世界。

 

人々の生活は魔法とともにある。

魔法を使い、魔法で職をなし、魔法と暮らす。

ファンタジー溢れるこの世界では「ギルド」と呼ばれるものがある。

魔法を使う魔導士たちが形成した集団のことだ。

そこに持ち込まれる依頼を魔法で解決することで得た報酬で経営する組織のことを「ギルド」と呼称する。

 

数多くのギルドが存在するこの世界の中で、現在ここマグノリアでは2つのギルドが互いを睨み合っている。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)幽鬼の支配者(ファントムロード)だ。

互いが大陸を代表する人気ギルド。

最近では幽鬼の支配者たちに妖精の尻尾がギルドを破壊され、メンバーが急襲されるという事件が相次いでいたが、今現在その2ギルド間で抗争が起きていた。

 

本来ギルド間抗争は評議会によって禁止されている。

攻撃に転じれば即脅威となり得るのが魔法だ。

集団単位になり、尚且つ戦争ともなればその危険度は推し量るべきだろう。

この世界では魔法を使える魔導士と呼ばれる存在は全人口の1割ほどだ。

残り9割の大多数の人々を魔法から守るためにも評議会はこのような取り決めを数多く作り、魔法界の秩序を守らんとしている。

 

破れば厳しい罰則もやむなし。

仲間を傷つけられ怒りに燃える妖精の尻尾と自分たちのプライドのために応戦する幽鬼の支配者。

マカロフを始め、火竜(サラマンダー)のナツ、グレイ・フルバスター、妖精女王(ティターニア)エルザ・スカーレット、エルフマン、ロキ、ほかにも腕が立つ魔導士が多数存在する妖精の尻尾。

一方ジョゼが率いる幽鬼の支配者ではエレメント4と呼ばれる火、水、土、風の魔導士に鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)である鉄のガジル。

 

雑誌や新聞などでその名を轟かせる者たちの争い。

その実力は拮抗する────かに思われた。

 

 

「……バカな! 一体何だというのだ貴様は!」

ギルドマスターというのは強者揃いばかりだ。

荒くれ者のギルドメンバーをまとめるためにも強者がマスターになるのは自然の理。

魔力が高いだけでも恐ろしいが、その中でも聖十魔導士と呼ばれる大陸で優れた10人の魔導士たちに贈られるこの称号を持つものはその比ではない。

 

妖精の尻尾のマスターマカロフ、そして幽鬼の支配者のマスタージョゼ。

先日幽鬼の支配者の支部ギルドに殴り込みをかけた際に不意を突かれ魔力欠乏症になってしまったマカロフがいない今、ジョゼを止める者はいないかと思われた。

最強のエレメント4であるアリアを下したエルザに加え元S級魔導士たるミラジェーンにグレイとエルフマンが手も足も出なかったのだ。

 

しかしそのジョゼは妖精の尻尾のある1人の魔導士により地に伏せられ追い詰められているという異常事態に直面していた。

 

「(何故だ! 何故この私が地を這い蹲っている!?)」

「……その質問にはこう簡単に答えられる」

 

おかしい。

事前に妖精の尻尾には徹底的に探りこみをかけていたはずだ。

そう頭の中で自問自答を繰り返すジョゼ。

ギルダーツは不在。

ラクサス、ミストガンも仕事で遠くにおりこの場にはいない。

エルザはアリアと戦ったことで負傷。

ミラジェーンは引退し戦闘は論外。

他にも戦力と呼ばれる魔導士たちはガジルやエレメント4に任せることでほぼ相殺できたはずだ。

 

後は自らを虚仮にしてくれた妖精の尻尾のギルドを木端微塵に破壊し、魔導士たちを殲滅する。

更には巨大財閥のハートフィリア家のルーシィ・ハートフィリアを手に入れることで得られるだろう資金を元手に再びマグノリアNo1のギルドに帰り咲く手筈だった。

 

この国で一番の魔力、一番の人材、一番の資金。

自分からそれらすべてを奪ったマカロフに絶望を与えるはずだった。

そのはずだったなのに!! 

 

自らが行使する魔法には絶対の自信を持っていた。

ここまで登り詰めてきたのだ。

それを事も無げに一蹴し、見下すこの男は一体何者だ。

 

「……アンタが俺より弱いからだよ」

「何だと貴様ァァァッ!!」

 

その何気ない一言。

虫螻を見るかのような眼に怒りが頂点に達したジョゼは魔力を開放する。

幽兵(シェイド)」と呼ばれるその魔力は禍々しさでいえばこの大陸でも5本の指に入るだろう。

伊達に聖十台魔道の称号はないということか。

 

本来であればそのあまりの禍々しさに相対する魔導士は吐き気を覚え、動けなくなり成す術はない。

だがしかし。

 

「なっ、また!?」

 

その魔法はまるで削除されたかのように掻き消えた。

魔法を使った形跡もなく、まるでなかったかのようにジョゼが放った魔法は消えたのだ。

 

この世界のどこかには魔法を無効化する魔法を使う悪夢のような魔導士がいるらしい。

だがそれにしたって何かしらのモーションがあるはずだ。

この男はその場から動かず、手をポケットに突っこんだまま魔法を消したのだ。

 

「チックショウがァァァァ!!!」

 

魔法をいくら放てどその度に掻き消える奇怪な現象。

邪悪な魔力で生成された魔法の光線も面で制圧する大規模魔法も関係ない。

全て目の前の憎き魔導士に届く前に消え去るのだ。

 

今まで自らの魔法と力ですべてを成し遂げてきたジョゼにとって理解しがたい光景であった。

気が狂いそうなその現実に何とか目を向け、考えを巡らしても答えは出ない。

何をしているのだ。

魔法を使った形跡は見られなかった。

何の素振りも見られなかった。

 

「何なのだ! 一体貴様は何なのだ! 妖精の尻尾に関する調査は完璧だったはず! お前のような魔導士がいるなんて報告になかったはずだ!」

「うっ…。……まあ俺はギルダーツのおっさんや他の奴らほどメディアには出ないし、基本クエストであんまりギルドにはいないからなぁ。そう思われるのは仕方ないか」

 

地面を這い蹲り、憔悴しきった顔で問いかけてくるジョゼの問いかけに対し、その男は朴訥とした雰囲気を崩さないまま、どこか残念そうな姿で「うーん」といった表情を浮かべながら答える。

自分がこれだけ疲弊しきっているのに対し相手はどこまでも余裕の態様。

その姿だけで自分が舐められていると感じ、頭がはちきれそうになるももう殆ど魔力が残っていない。

 

一体どうしたものかと策謀を張り巡らせているところへ一つの足音。

聞こえてくる方へ眼を見やればそこに居たのは罠にかけたはずのマカロフ。

 

「ご苦労じゃったな、ツバキよ。後はワシに任せい」

「……それは良いけど、体は大丈夫かい、マスター?」

「心配せんでもよいわ。それにうちのガキどもがここまで体を張ってくれたんじゃ。最後は親としてケジメをつけさせてくれ」

 

そういって悠然と歩きだすマカロフ。

ジョゼはツバキと言われた男のことを必死に頭の中で反芻し、そして気づく。

 

妖精女王と対をなす「妖精王(オーベロン)」の二つ名の持ち主。

妖精の尻尾最強の魔導士ギルダーツに比肩する力量。

滅多に姿を現さないため、ギルド以外の者からはその詳細を知ることは少ない。

 

「……そうか、貴様があの」

「妖精の尻尾審判のしきたりにより、貴様に三つ数えるまでの猶予を与える」

 

 

 

 

 

──―その後辺りをまるで優しい柔らかな光と魔力が包み込み、2ギルド間の戦争は終結した。

術者が敵と認識したものだけを殲滅する伝説の超魔法「妖精三大魔法」の一つである妖精の法律(フェアリーロウ)

マカロフのその魔法により今回の事件は幕切れを迎える。

 

妖精の尻尾はあるべき姿を取り戻すために壊れたギルドの再生──―にはならなかった。

全壊などしていないのだ、ギルドは。

メンバーも傷ついているものは少ない。

 

それはこの男の活躍が大きいだろう。

ミストガンとは別に各地の幽鬼の支配者の支部ギルドを潰しいち早く駆けつけ、魔導収束砲ジュピターを止めようと金剛の鎧で立ちはだかったエルザを庇い、自身の魔法によって無効化。

またマスタージョゼを瀕死に追いやるまでに健闘した。

マカロフがいなくとも、彼のお陰で妖精の尻尾は持ちこたえることが出来たのだ。

 

そんな妖精の尻尾もう一人の最強の魔導士、ツバキ・ロードレイは。

 

 

 

 

「……いや全然泣いてないし。ギルド調査されたのに名前なかったとか別にどうってことないし。ツバキさんは基本一人で外にクエストですからね。仕方ないよね」

「まぁそう悔やむな。お前のお陰で私たちもギルドも健在なのだ。誇るがよいさ」

「……くすん」

 

調査したのに自分の名前が何一つ上がってこなかったという自身の影の薄さを全力で悩んでいた。

その姿を見て苦笑いしたエルザに胸に頭を抱かれ慰められていた。

ジョゼと相対したときの姿は一体どこに。

 

 

 

 

 

これは、妖精王と呼ばれた青年が仲間とともにハッピーエンドを作り上げる物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あっ、今鎧じゃないからちょー柔らかい)」

 

おいツバキそこ代われやコラぶち殺すぞ。

 




さて、全くもってハーメルンの使い勝手が掴めません。
頑張ります。


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2話

スクロールバーが短く内容が濃密なものを目指したい。
やっぱ無理かも。


「ねー、ナツってばー。聞いてるのー?」

 

そう問いかけるのはルーシィ・ハートフィリア。

金髪で星霊を行使する星霊魔導士。

ナツとハッピーに連れてこられ妖精の尻尾に入ったばかりの新人。

ちなみに巨乳。

 

先の対幽鬼の支配者戦で人質になったものの、ナツの打倒ガジルに貢献しマカロフに諭されたことで晴れて「自分は妖精の尻尾の一員である」と誇れた少女。

 

あの後駆けつけた評議会の面々と1週間に渡る取り調べを受けたメンバーたち。

本来であれば罰則は免れない。

しかしマスターマカロフの旧友である魔法評議員のヤジマのお陰で無罪となるのは、それからすぐ後のことである。

 

 

そんなギルドメンバーたちは現在ギルド再建に勤しんでいる。

全壊は免れたものの所々壊れていたところを直しているのだ。

またそれだけではなく、幽鬼の支配者の移動型ギルドによって壊された街中も補修しているところである。

 

地域密着型でイベントを企画することもある妖精の尻尾のメンバーは、今回の事件で壊れてしまったマグノリアの街に対して無償で修理を請け負っていた。

こちらの問題に巻き込んでしまったのだ。

提供された土地を借り受けてギルドを経営している以上、筋を通すのは当然のことであった。

 

そして補修作業もある程度片付き、一同で休憩をとっていた時のこと。

 

「何だルーシィ?便秘か?」

「違うっつーの!ていうかセクハラよ!そうじゃなくて、ツバキさんのこと!」

 

怒りながらもルーシィは右手で指示した方へとナツの意識を向けさせる。

そこに居たのはツバキ・ロードレイ。

霞んで外にはねた白髪、髪と同じ色のロンTの上から羽織るパープルベストに黒のスキニー。

お前ファンタジー世界に迷い込んだ大学生かよ、という格好だ。

 

周りのメンバーと協力することなく黙々と作業を続けていた彼も一区切りついたのか、一人建築木材の上で腰を落ち着かせていた。

 

今回の一件で間違いなく大活躍した人物。

ルーシィは知らなかったが、妖精の尻尾の最強の魔導士の一人であり「妖精王(オーベロン)」の異名を付けられている彼。

聞けばあの恐ろしいマスタージョゼを赤子の手を捻るかのように叩きのめしたとのこと。

魔法を使った様子もなく、ただただ一方的に圧倒したと聞いて信じられなかった。

というか今も半信半疑である。

 

でもそんなに強い人物だったとなんて…、と思ったルーシィはその後お礼を言おうと事件以来ツバキとの接触を図っていたのだ。

しかし近づこうとすれば距離を広げられ、静かに近づこうとすればいつの間にか姿を消し、大声で名前を呼びながら近づこうとしても避けられる。

 

接点を持ったことがなく、ただ聖十大魔導の一人を圧倒できる実力の持ち主ということで半ば戦々恐々としていたルーシィ。

しかし蓋を開けてみればご覧のあり様。

 

私何かしたのかしら?と思い、やはり今回の一件は迷惑だったのかと気が滅入りそうになっていたのだ。

そこで同じチームのナツたちにどういう人物か聞いてみることにしたというわけだ。

 

「ツバキってあんまり人と一緒にいないよね。オイラはたまに話すけど」

「だな。他のギルドの皆よりかは少し雰囲気が違うっつーか、一線を引いてるっつーか」

「でもすげー強いもんな。いつか勝負してもらえねーかな!」

 

ナツだけでなく彼の相棒のハッピー。

たまたま近くにいたグレイも答えてくれた。

グレイが答えたとき一瞬後ろの方から寒気を感じた。

ここ一週間グレイといるときだけ感じるものだが、ひとまず気にしないことにするルーシィ。

この時点でナツから話を聞くことを諦めたルーシィは目線をハッピーに向ける。

 

「え、ハッピーは話すの?」

「あい!ツバキって、人とはあまり話さないけどオイラとか動物には優しくしてくれるんだよ。この間大トロくれたんだ」

 

ハッピーが涎をダラダラと垂らしながら恍惚の表情を浮かべて「幸せそうね……」と答えるルーシィ。

動物ねー、二コラを抱えたまま近づけばもしかしたら逃げないでくれるかもと考える。

 

「クエストも基本一人で行くしな。うちのバカ騒ぎにも基本顔は出さねーし。ギルドでも素性を詳しく知っている奴は一人を除いてあまりいねーな」

 

グレイが付け加える。

まとめるとこうだ。

 

①滅茶苦茶強い(聖十大魔導に名を連ねる魔導士を圧倒する力量)

②何を考えているか不明(近づこうにも避けられる)

③動物には優しい(大トロ私も食べたい)

 

結論=OK, He is the コミュ障!

彼も他の妖精の尻尾の魔導士の例に漏れず問題児!?

 

 

とガクンと項垂れるルーシィであったが

 

「ん、ちょっと待って。今『一人を除いて』って言った?」

「あぁ。お、ちょうど良い。あれ見てみろ」

 

グレイの物言いに引っかかったルーシィがグレイを見やると彼はニヤリと笑いツバキがいる方へ顎で示した。

その方を見るとボーっと空を見上げながら休憩しているツバキのほうへ歩むエルザの姿。

 

 

妖精の尻尾に入る前から憧れていた最強の女魔導士。

いつも凛としていてギルドの風紀委員長の一面を併せ持つ彼女。

 

「ご苦労様だな、ツバキ。隣空いてるか?」

「…んぁ、エルザ?どうぞー」

「そ、そうか。……では失礼する」

 

そろりと近づき声をかけたエルザはそわそわと落ち着かない印象を覚える。

彼に許可をとり隣に座るものの、よりその雰囲気は強まった。

目を凝らしてみれば少し顔が赤く緊張しているようだ。

そして彼女の手元には彼女の掌から少しはみ出るほどの大きさの直方体の物体がある。

それは可愛らしい熊の絵柄がプリントされた風呂敷で包まれていた。

そう、お弁当である。

 

「その、お弁当を作ったのだ……。お前はいつもその…ご飯は外で済ましているだろう?それだと栄養が偏っていけないと思ってだな。今回はとても助けられたし、お礼もかねてお弁当を作ってきたのだ…。だから、そのぅ……食べてくれないか?

「(え何あれ本当にエルザ!?ていうか可愛いんですけど!)」

 

顔を赤らめ下を向きもじもじしているエルザ。

意を決したものの顔を見ながら渡すことはできなかったようで、背けながら弁当を差し出す。

いつもの「騎士」然とした雰囲気は影も形もなく、そこに居るのは19歳の普通の女の子であった。

普段とのあまりのギャップに一人悶えるルーシィ。

 

「(ちょっと何よあれ!まさかエルザってもしかして……!)」

「何で声潜めてんだよ……。まぁ見ての通りだよ。ツバキに惚れてんのさ。公然の秘密だけどな」

 

このギルドに入ってから初めて感じる「恋の予感」に一人テンションが上がるルーシィ。

普段飲んで食って騒いで殴って壊して直してまた壊してがデフォなこの妖精の尻尾において、そんなピュアもピュアなものを味わえるとは思っていなかったのだ。

しかもその当事者があのエルザだというのだ。

 

これでテンションが上がらずにいられるわけないっての!

とルーシィは先ほどまで感じていたツバキへの不信感などはきれいさっぱりとほっぽり捨てた。

そんなことよりも現在目の前に起きている状況を見納めようと、ノリノリでグレイから話を伺う。

 

「キャーもう何よ!そんな楽しい話がこのギルドにもあったのね!ねえねえもっとあの2人のこと聞かせなさいよ!」

「ルーシィ急にテンションが変わったね。オイラドン引きだよ」

 

何やら隣で青猫が失礼なことを言っているが無視無視。

バンバンとグレイの背中を叩きながら続きを促す。

が、寒気が最高潮に達し殺気も感じたのですぐに手を収めることにした。

 

「別に全部知ってるわけじゃないぜ?ただいつもは俺らに隙を見せないエルザだけど、あいつの前だとあんな感じなんだよな」

「あたしは昔からあの2人を見てたけど、話すとちょいと長いんだよねぇ。まぁ、まとめると天然ジゴロなツバキが無自覚にエルザの心の壁を壊して落としたのさ」

 

いつの時代もどこの世界も恋バナというのは女子の間で盛り上がる一つのアイテムなのだろう。

カナが話に入り込んできた。

 

ある日突然妖精の尻尾にボロボロの状態でやってきたエルザ。

誰とも馴れ合わず、一人で過ごしていた彼女はある日を境にツバキに接するようになったのだ。

それを皮切りに次第にメンバーとも話すようになり笑顔も増えてきたという。

彼女が変わっていってもツバキのスタイルは昔から変わっていないようだが。

 

これ以上はエルザが可哀想だから本人から聞きなよ、とそこでカナは話し終えた。

へえ、と嘆息するルーシィ。

 

いつもは持ち前の魔法で敵を一層する彼女。

エリゴールとの一戦や幽鬼の支配者戦でも幾度もその雄姿を目にしたことだろうか。

常にギルドや仲間のことも考え自分が犠牲になり血を流すことを一切厭わない。

 

風紀委員長の一面も持つ厳しくも優しい心を持った彼女が、ただ1人ツバキの前では無防備な姿でいるのだ。

その姿を見られるのがギルドの皆は嬉しいのだという。

彼の前では一生懸命オシャレをし、振り向かせるために努力する恋に取り組む女の子なのだ。

普段は滅私奉公を地で行く彼女がその時見せる笑顔を見守るために、ギルドメンバーは敢えて弄ることはせず公然の秘密としている。

 

また一つ妖精の尻尾の良い一面を垣間見たルーシィはエルザたちの方を見やる。

その視線は好奇が入り混じったものではなく慈愛に溢れていた。

 

「お、マジかくれるの?じゃ遠慮なく」

「あっ、え本当か!?って、その前に手を拭かんか!ほらお絞りだ」

「おおうスマン。ありがとう」

 

もしかしたら食べてくれないのではと不安になっていたエルザだが、ツバキが貰おうとすると曇っていた表情はどこへやら。

パアッと輝き始めたも束の間、作業で汚れた手のまま食べようとしていたのでお絞りを手渡す彼女。

こういうときでも持ち前の風紀委員精神は出てきてしまうようだ。

 

中には白飯に梅干しが中心に据えられた一段目。

二段目にはミートボールやポテトサラダ。

プチトマトにひじき煮、そして何歳になって食べても美味しい嬉しい鶏の唐揚げ。

他にも所狭しと並べられたおかずが入っている。

 

「美味い」と普段は死んでいる目を輝かせるツバキ。

それを見てまるで花が咲き誇るかのような満面の笑みを浮かべるエルザ。

 

夢中で食べ進めあっという間に完食するツバキ。

 

「ご馳走様、ありがとなエルザ」

「お粗末さまだ。何たいしたことではない。……ないのだがその…」

「ん、どした?」

 

先ほどよりも顔を赤らめたが、今度は早く心を落ち着かせ目を見ながら口にできた。

 

「その、また作ってきても良いか?」

「え、良いのか?でも大変じゃないか?」

「そ、そんな事はない!その、自炊の練習にもなるし、食費も抑えられてメリットはたくさんある!ツバキも栄養がしっかり摂れて一石三鳥だ!」

 

材料費も手間も時間もかかるし遠慮したほうが良いのではと思うツバキだが捲し立てるエルザに気圧される。

「んー分かった。じゃ、頼むよ」

「……!あ、ああ!腕によりをかけさせてもらおう!」

 

妖精女王が妖精王を甲斐甲斐しく世話を焼く。

文字に起こせばとても神秘的な光景。

その光景は薄汚い作業現場を中心に広がっているものの、見るもの全ての心をほぐし癒していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツバキー!!俺と勝負しろー!!」

「アンタはあれ見て何も思わないの!?あっち行ってなさい!」

「ナツー、オイラでも流石に空気読むよ…」

 

ツバキに向かって走り出したナツをルーシィが回し蹴りで鎮め、ハッピーが毒づく。

今日も妖精の尻尾は通常運転です。




容姿の描写してなかったと思い、急遽混ぜ込んでできた2話。
また編集して調整するかもしれません。
いやムズイわ小説。もっと研究しよ。
あーでもエルザ可愛いなー。


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3話

ルーキー日間14位でした…!
ですがまだまだ。
目指せ総合ランキング1位!評価の基準全くわからないけど。

今回も推敲を重ねて完成しました。
まだまだ拙い文章なので上手い人の真似をするなり、研究を重ねていきます。
それではどうぞ!

ちなみに今回もあまり話は進みません。
楽園の塔編楽しみにしていた方いらっしゃったらごめんなさい!


再建工事から約1週間後。

妖精の尻尾は仕事の再開を始めた。

 

普段は中々仕事に行かないメンバーも、今回は行く者たちが多い。

再建工事中も依頼は溜まりクエストボードは埋め尽くされていたのだ。

 

早速取り掛かろうと皆が殺到する。

 

魔物討伐依頼、探し物の手伝い、学校の授業の手伝い、迷子の猫探しなど寄せられる依頼は実に多種多様である。

ミラジェーンは仮設の受付カウンターで良い笑顔で仕事の受付をしている。

 

今日も騒がしくも平和な一日が始まると思っていた──────

 

「もう一遍言ってみろ!!」

 

聞くもの全てを委縮させる怒号が響いた。

声の主はエルザ。

 

その矛先は────ラクサスに向いていた。

 

「この際だ、ハッキリ言ってやるよ。弱い奴はこのギルドにはいらねえ。幽鬼の支配者ごときに舐められやがって。外も恥ずかしくて歩けねーよ」

 

その後、ガジルにやられたレビィ・ジェット・ドロイ。

元凶であるジュード・ハートフィリアの娘であるルーシィの罵倒を続けるラクサス。

 

S級魔導士とは1年間で成果を上げ続けた魔導士が難関な試験を突破して得られる数少ない称号である。

ギルドメンバーはその昇格試験のためにも頑張って依頼をこなす面々もいる。

当然のごとくそれを身にしているラクサスは実力は申し分ないのだが、ツバキとは別方向でコミュニケーション能力が足りていなかった。

 

「ま、俺がいたらこんな無様な目には合わなかったがな」

「貴様……」

 

エルザの怒りが頂点に達したその時であった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ミラ、この依頼を頼む」

「……え? あ、良いけど……」

 

我関せずとクエスト依頼をミラに受付するツバキ。

いつものごとく一人で依頼をこなそうとしていた。

ちなみに彼も妖精の尻尾数少ないS級魔導士の1人である。

 

「おいおい、ツバキさんよ。お前というものがいながらこのザマかい?『妖精の尻尾最強の魔導士』が聞いて呆れるぜ。何なら俺が変わってやろうか?」

「ラクサスッ!!!」

 

ギルドだけでなく愛する者への侮辱もしたラクサスに対しついにエルザが限界を迎えた。

他のメンバーに取り押さえられていたが、いつも冷静な彼女がこうまで取り戻したのだ。

それだけ惚れた相手への発言を許すことが出来なかったのだろう。

 

一触即発の空気が広がる中、ツバキはここにきても一切ラクサスの方を見向きもしなかった。

無視しているのではと思い、だんだんとラクサスが不機嫌になる。

ちなみに彼は20歳。ラクサスの3つ年下だ。

 

「ツバキ、てめえ無視かコラ? 何か言ったらどうなんだ。てめえがいながらこんな惨状だなんて、妖精の尻尾の名折れだぜ?」

 

バチバチと体から電撃をはじけさせながら詰め寄り、ツバキの肩に手をやる。

いよいよ喧嘩が始まる、と周りのメンバー総出で止めにかかろうとしたのも束の間。

 

「ん? あっ、ちょっと待って。……何だよラクサスか。いたの?」

 

ツバキは片耳に手をやり振り返った。

 

手にしていたのは、小型通信ラクリマの技術を応用して作られたワイヤレスイヤホン……! 

オーダーメイドで作ることが可能! 

ゴム製でできているので所有者の耳にジャストフィットすることで、どれだけ暴れてもズレ落ちない! 

ノイズキャンセリング機能も付いているので、傍で雷系各種魔法の魔導士が何か喚いていても気にならない!

大迫力のサウンドを一切音漏れせず楽しめる!

 

 

この高性能ワイヤレスイヤホンのお値段はなんと、45000J!! 

ちょっと高いかもと思ったそこの貴方! 

つけて御覧なさい、毎日の過ごし方が、世界が変わるから。

気になった方にはこちらのサイトから申し────

 

 

「散れ」

 

そして迸る雷。

自分に向かって舐め腐った態度をとるツバキへ洗礼のつもりで浴びせたラクサス渾身の一撃。

 

その名も「レイジングボルト」

 

どんな相手も全身を麻痺させ、即行動不能に陥らせる魔法。

ラクサスの必殺技の1つだ。

だが。

 

「危ない危ない。……急に何するんだ、おっかないな。気をつけろよな」

 

どこから取り出したのか避雷針を右手に持ち、雷を防いでいた。

その避雷針は蓄電機能も付いているのか、メーターのようなものが側面についていた。

振りきれ寸前までに針が揺れている様子が窺える。

 

 

 

「ッチ……。相変わらず分けわからん魔法を使いやがって。だがどういうことだ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

そう、いつもであればノーモーションで相手の魔法を打ち消すのがツバキのスタイル。

しかし今回は避雷針をどこからか取り出してきたのだ。

いつもと違うその行動に怪訝になるラクサス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、ここ1週間仕事に行ってなかったからな。電気代節約のために」

「俺の魔法はエネ〇スか!?」

 

 

とんでもない理由で自分の魔法を防がれたラクサスは、自分のキャラを忘れて全力で突っ込む。

先ほどとの雰囲気が完全に壊れてきたその様子に何名かが噴き出している様子である。

 

普段は高収入のS級クエストや10年クエストで得た報酬で生活を切り盛りしているツバキ。

ここ1週間はギルド・マグノリアの債権で忙しかった為仕事をこなしていなかったのだ。

まぁ貯金は十分にあるのだが。

 

「そう怒るなよな。……ところでラクサス。『ノブレス・オブリージュ』って知ってるか?」

「はぁ?知るかよ。それがどうした」

 

それまでのどこかぼんやりとした雰囲気を改め、どこか真剣さを帯びた表情で見やるツバキ。

その紫焔のような瞳はラクサスを射抜いていた。

 

どうやらギルドメンバーも知っている者は少ないらしい。

普段本を読むルーシィやレビィ、それにミラジェーンは知っているのか「あ!」と声を上げていた。

エルザは先程までの怒気を収め、滅多に見られない「ツバキの表情変化 真面目ver」に目を奪われていた。

 

 

 

「『ノブレス・オブリージュ』。西の大陸『アルバレス』より更にその向こうの地域で使われている言葉だ。」

 

 

 

ノブレス・オブリージュ。

 

財産を多く所有する者、

高い社会的地位を持つ者、

そしてこのアースランドの世界では何よりも

多くの魔力を持つ者、

高い魔法技術を持つ者、

純粋に強い魔法を扱える者、

 

総じて高い身分を持つ者には果たすべき義務があるという基本的な道徳観である。

 

 

財産を多く所有する者は他者より多くの税金を、

高い社会的地位を持つ者は他者が過ごしやすい街にするために政治を

そして魔法を扱うものは魔法を持たない者を守ることを、徹底するべきだ。

 

この世界に産まれ落ちた殆どの人間はきっと誰かに守られてきたはずだ。

だからこそ今の自分がいる。

しかしその現状に甘んじることなく、利他精神の心を忘れずに奉仕すべきであるとツバキは主張する。

 

自分が供給されてそれで満足していてそれで良いのか。

与えられ続けてきた人生だったはずだ。

これからは自分たちの番ではないのか。

与えられる側から与える側になって初めて本当の意味での最高の人生、最高のギルドができるのではないのか。

 

そうツバキは語る。

 

「それができないというならばラクサス、お前の掲げる最強のギルドを目指すなんて夢のまた夢だ。他者を顧みることのできない集団がどうして最強になれる。目の前の仲間を救わずただ己の自己満足のために振り回すなど以ての外だ。」

 

 

 

 

そう強く言うツバキ。

その言葉にはラクサスを責めるというより諭す姿勢が感じられた。

 

ラクサスは今回の一件、再三の応援要請にも応じず自分の欲求ばかりを通した。

ミラやルーシィの尊厳を穢すような発言も繰り返した。

 

 

それでも彼のことを認めているからこそツバキはこの言葉をラクサスに届けたのだ。

マスターマカロフの孫であるならば感じてきたこと、思うことがたくさんあったはず。

 

 

それがラクサスにも伝わったのだろう。

彼は渋々「何だっつーんだ、全く」と不貞腐れながら姿を消した。

 

彼の突然に始まった弁論劇に皆静まり返っていた。

それにふと我にかえるツバキ

 

「あっ……。えっと。仕事行ってきまーす。……やっちまったなぁ、これ

 

下を見ながらそそくさとギルドメンバーに背を向け足早に去るツバキ。

圧倒されたものの、どうやらメンバーには届いたようで、口々にツバキを褒め称える声が上がる。

 

 

「すげーな、ツバキ!ラクサスを相手にするだけじゃなく口でも勝つなんてよ!俺なんもしてないけどスカッとしたぜ!」

「あい!オイラもそう思うよナツ!」

「そうね。ツバキさんって強いだけじゃなくって、教養もあって仲間を貴ぶ姿勢もあるから素敵ね。エルザが惚れる理由も分かるわ」

 

公然の秘密のはずだが、それでも口に出さずにはいられなかったルーシィ。

それだけに彼の姿は輝いて見えたのだ。

幽鬼の支配者が弱肉強食のギルドだったのに対しこちらは何と温かい場所なのか。

 

圧倒的な強さを持ちながらもあんなにも優しい心の持ち主が所属するギルドに入れて良かった、とそう思えたルーシィ。

そして少し不器用なだけで本当は誰よりも仲間のことを考えているのだな、とツバキの評価を上方修正した。

 

「なっ、何故そのことを……!?」

「バレバレよ、エルザ。でも本当に良い男に惚れたわね。羨ましいなぁー」

「……あいつを褒めるのはとても嬉しいが。まさかお前もかルーシィ!?」

「いや違う違う!!」

 

ルーシィもツバキに対して浅からぬ思いを抱いたのではと不安になったエルザは涙目でルーシィを睨む。

全力で否定するも、あまりの可愛さにもう少し意地悪しようかと思ってしまった。

すぐにその考えは捨てたが。

 

 

 

さて、気を取り直して仕事に行くか!

 

気持ちを新たにルーシィはナツたちと仕事に行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そしてその晩。

 

一人屋根の上で次期マスター候補に関して考えを巡らせていたマカロフのもとへミラジェーンが笑顔で凶報を持ってくる。

ツバキのお陰で妖精の尻尾の魔導士であることを誇らしくなり、若干力が入りすぎたメンバーはいつもの如く街を破壊しマカロフは始末書に追われるのであった。

 

 

「引退なんてしてられるかー!!!」

 

 

そして夜は明け、いくつかの日をまたぎ。

ナツ、ハッピー、ルーシィ、グレイ、エルザ、ツバキたちは実は星霊であったロキから貰ったリゾートホテルのチケットでアカネビーチに行くことになった。

 

 




ラクサスの部分を飛ばすのはもったいなく感じたので。
今後BOF編もありますし……。
でもちょっと雑に仕上げてしまったかもなのでまた編集するかもです。

次回から楽園の塔編に入ろうかと思います。
エルザの過去が絡んできますからね。
頑張って作りあげてやりまっしょい。


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楽園の塔編
4話


少しずつお気に入りが増えているので嬉しいですね。
そして先程見たら日間ランキング17位になってて感激……!
マジでハーメルンのシステムよく分からんのですが、多くの人に楽しんでもらえたらと思います。

前回は勢いで投稿しちゃってた部分はあったので、今回は少し時間をかけて作りました。


青い空。

白い雲。

輝く砂浜。

揺れる乳。

……失礼。

 

ここはアカネビーチ。

 

ルーシィが星霊だったロキを救い、その彼から貰ったチケットでナツたち一行はリゾートホテルに来た。

ガールフレンドを誘ってくる予定だったが、もう人間界に長居する必要性はないため譲ってくれたのだ。

気が早いエルザはクエストでもないのに浮き輪を身に着け麦わら帽子を被り多くの荷物を引いてやってきた。

 

高級ホテルということからテンションが上がったナツたちは早速水着に着替え遊びの限りを尽くしている。

スイカ割りでルーシィに悪戯をし、休んでいた筋肉ゴリゴリのおっさんの頭を叩かせたり。

その腹いせにナツをドラゴンボートに乗せ水上スキー。

魔法を使わない全力のビーチバレーなど。

 

各々がバカンスを目一杯喫していた。

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここで少し時間を巻き戻そう。

エルザがツバキに水着を見せるところからスタートだ。

 

「ツバキ!……その、どうだろうか?」

 

エルザの代名詞でもあるその緋色の髪と、普段鎧を装着し敵をなぎ倒している姿からは想像できないほど華奢で白い肌。

それらが良く映える対照的な、花柄のシンプルな黒のビキニ。

シンプルだからこそエルザの魅力を遺憾なく発揮しているように見える。

 

 

細い肩。

ポニーテールにしたことでチラリと見えるうなじ。

ほっそりとした長い手足に見事な双丘。

豊かに盛り上がった臀部。

それらを覆うわずかな布面積。

 

男なら一度見たら目を奪われること間違いなしの美貌を持つエルザは顔を赤らめ、ツバキに自信の水着の感想を聞いていた。

 

 

 

 

「ん、似合ってる。」

 

たった一言。

てめえこれだけの絶景見といてそれだけか、この野郎。

 

と思わなくもないが、どうやらそれだけで当の本人は嬉しかったご様子。

やはり好きな人から褒められると嬉しいのですね。

 

「そ、そうか!そうだろうそうだろう!よし、それではあそこに行ってみようではないか!」

 

すっかり機嫌を良くしたエルザに手を引かれ歩き出す二人。

しかしあまり表情が変わっていないように見えたツバキも心の中では。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(エルザ綺麗だな。ていうかスタイルやば。ホントに19歳?あっ、手柔らか)」

 

煩悩まみれであった。

 

 

 

 

 

日が沈んだその晩。

 

エルザはデッキチェアに座り、今日一日を思い出しながら休んでいた。

久しく普段のしがらみを忘れ思う存分に楽しんだ日。

カンカン照りの太陽の下でおかしくなったのか、少しはしゃぎすぎたなと苦笑する。

 

普段は奥手で自分の抱える揺れ動く恋情をうまく言語化できずあまりアプローチできないエルザ(初心とも言う)。

それが今日はいつもと異なり心の思うままに行動できていた。

 

ツバキの腕を引き海の家での売店メニューを一緒に食べ(焼きそば50人前かき氷30人前)、

砂浜に絵を描いたり(画力の差を見せつけられた。ちなみにツバキ>エルザ)、

とにかく連れまわしたのだ。

 

 

「(少しやりすぎたか……?もしや引かれてしまったのでは……)」

 

と不安になるエルザ。

大丈夫っす、あいつ結構煩悩まみれの思考でいっぱいだったんで。

 

そんなことを知る由もなく少々気落ちしたまま眠りに落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見知らぬ場所で見知らぬ塔をつくり上げている。

そうしているのは鎖に繋がれ一列に並ばされた者たち。

 

休むことは許されない。

少しの失敗は許されない。

感情を表すことは許されない。

 

老若男女問わず、様々な者たちが奴隷として終わりの見えない労働を強いられている。

 

醜悪な生活環境の中、衣食住も満足に甘受できないままに延々と搾取され続けている。

 

隣の仲間が命を落としたとしても、弔えないままに目の前の仕事へと没頭させられる。

 

仕事が出来ない者や遅いものは鞭を持ったものに裁かれる。

拷問部屋へと連れていかれる。

際限のない悪意に晒され続ける。

 

次は自分の番かもしれない。

その恐怖心の中、奴隷たちは只管働く。

 

血を流し、

手足が麻痺し、

飢餓で動かず、

意識は朦朧とし、

それでも働く。

 

弱肉強食なんて生ぬるい。

 

善良な者たちが、太刀打ちできない理不尽の下でその尊厳を奪われ続けている。

 

法も倫理も道徳も度外視した異常な環境で凌辱され続け続けている。

 

 

それは緋色の髪を持つ少女も同様だった。

度重なる悪意の中での労働は、年端もいかない少女にとって耐えがたい苦痛であった。

 

蓄積した疲労で倒れた少女に対し鞭が振るわれる。

あまりの恐怖に、

あまりの苦痛に、

あまりの屈辱に、

その理不尽さに、

目を閉じる少女。

 

 

 

 

『エルザ。この世界に自由などない』

 

 

 

 

「……ハッ!?」

 

そして目覚めるエルザ。

 

震える体に止まらない発汗。

時間をかけて落ち着かせることで漸く自分が悪夢を見ていたことを自覚する。

 

「(ここ最近はなかったのだがな)」

 

ツバキと出会いその心の氷を溶かしてくれてからは見ることのなかった遠い過去の記憶。

寝る直前、ツバキに対して感じていた少しの不安が思い起こさせてしまったのだろうか。

 

思い出すだけでもまた体が震えてくる。

 

そして目覚める直前に聞こえたあの声。

今もどこかで自分を縛り続ける奴の声。

評議会にいるあの男と瓜二つな顔を持つ旧い人物の顔を思い出し、

 

「エルザ?」

 

後ろから聞こえてきた、自分を安心させてくれる声。

ツバキが首をかしげながらエルザを呼んでいた。

 

「ツバキか。どうしたのだ?」

「いや、ナツたちが地下のカジノに行くって言ってたから呼びに来た。行くか?」

「そうか。では私も行こう」

 

いつの間にか体の震えは止まっていた。

我ながら現金な女だな、と苦笑しつつ換装しゴージャスなドレスに変身するエルザ。

 

背中が大胆に開き、スリットが腰の近くまで入っているその妖艶なドレスでツバキを連れて会場へ向かう。

 

「(たまには良いじゃないか。自分に優しい日があっても)」

「なぁエルザ」

「?どうしたツバキ?」

 

不意に呼びかけるツバキ。

一体どうしたのかと問いを返すが

 

ポン。

 

とエルザの頭に手が乗る。

 

「深くまでは聞かないさ。ただ……大丈夫か?」

 

頭上の掌と自分の目を見つめるその紫の瞳から感じる温かさに心が和らぐのを感じる。

心配させて申し訳ない、と思うもその心地よさにもう少し味わいたいと思い体をツバキに預けその背に手を回すエルザ。

 

「大丈夫さ、ただ少しだけこうしてても良いか?」

「お望みのままに」

 

聞こえてくる心音に耳を傾ける。

どこまでも自分を安らぎを与えてくれる存在に。

たとえこの感情がただの依存だったとしても。

どうか今だけは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(う……。エルザの為だ。我慢しろ俺いや無理だちょっと押し付けすぎじゃねやばいエルザにバレる)」

「(ふふ。少し心臓が早いな。余裕そうに見えても反応がこうではな。だがそれに喜んでいる私も私だが)」

 

 

 

 

 

 

そして暫く経ち、カジノへ向かう道中。

 

「すまない、迷惑をかけたな」

「お安い御用さ(役得ではあったし)」

 

先程へのお礼を伝えながら会場に向かう2人の雰囲気はいつも通りであった。

 

「ツバキはカジノは得意か?」

「あんまりやったことないんだよな。そういうエルザは?」

「ポーカーは得意だ。どれ、一つ勝負してみるか?『勝った方が何か一つ相手の言うことを聞く』でどうだ?」

「手加減してくれよ?」

 

両手を挙げながら首を振るツバキ。

その姿をみて笑いながら勝負に勝ったら何をお願い事をしようかと考え始める。

もう勝った気でいる様子だ。

 

浮かれ気分で軽い足取りでさぁ取り掛かろうとし、カジノ会場の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、これはどういうことだ……!?」

 

会場は騒然としていた。

騒ぎの中心はナツたちであった。

 

いつもの如く新聞記事の見出しにできそうな類の騒ぎではない。

 

ナツは口に銃を突き付けられ、

グレイは巨漢の男に背後をとられている。

ハッピーとルーシィは互いを抱きあって座り込んでいた。

 

周りの客はその異様な事態にパニックになり、既にほとんどいない。

 

ぐぇぐが!ぐぐが!(エルザ!来るな!)

「エルザ、こいつらの目的は……!」

 

ナツとグレイがこちらに向かって叫ぶ。

が、

 

 

 

 

「久しぶりだね、エルザ姉さん」

 

そう声をかけてきたのは、色黒の肌に金髪の髪のホスト風の男。

ツバキが誰か問いかけようとしたその時

 

 

 

 

 

 

 

 

「ショウ……」

 

驚愕に目を開かせたエルザがその男の方を向き硬直していた。

 

 

 

置いてきた過去。

その清算の時がエルザに迫ってきていた。

 

 

 




本格的な戦闘シーン書いたことないんでこの先不安ですがやってやりますよ。


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5話

お待たせしました。
今回は結構難産でした。
の割には内容は薄いです。ごめんなさい。

それではどうぞ。



「ショウ……」

 

驚愕の表情で、震える声で相手の男の名を口にするエルザ。

なぜここにいるのだといわんばかりに、その大きな瞳で訴える。

 

どうやら旧知の仲であるらしいということは何となく掴めたツバキ。

だが、なぜエルザがこんなにも動揺しているのかが掴めない。

 

そして

 

「ここにいたかショウ。そして……エルザ」

「久しぶりだな。すっかり色っぽくなっちまいやがってヨ」

 

また2人の男が現れた。

大柄な体躯と僧侶のような印象を抱く服とゴテゴテしたもので顔を覆う大男。

ファミコンから出てきたキャラクターのような男。

……後者は人間なのか少々怪しいが。

 

 

「シモン。そしてその声はウォーリーか…?」

「きゃあっ!?何すんのよ!?」

「っ!?ルーシィ、どうした!?」

 

そして少し離れたところにいたルーシィは縛られていた。

そのロープの持ち主は猫がそのまま人間になったかのような少女。

 

解こうにもかなり頑丈な模様で、もがけばもがくほどに強く絡まっていく。

更には魔力を封じる効果もあるのか、ルーシィは必死で鍵で星霊の扉を開こうにも何の反応もない。

 

「ミリアーナか…。お前たち全員魔法を覚えたのか…」

「驚くことはない。コツさえ掴めば誰にでもできる。なぁ、エルザ?」

 

余程肩身が狭いのか、エルザの声にいつもの覇気はない。

 

「エルザ、無事か!?」

「この野郎、テメエら何者だっ!」

 

そこへ遅れてナツとグレイ、そしてなぜか幽鬼の支配者にいたはずのジュビアが駆けつける。

グレイはジュビアに守られ無事。

ナツは銃を発射されたものの何故か無事なようだ。

 

 

いつもと様子が違うエルザを気遣うグレイに、目の前の者たちの素性を問うナツ。

油断していたとはいえ自分たちを一時力づくで抑え込んだ魔導士たち。

いつでも戦えるようにと臨戦態勢をとる。

 

「私が妖精の尻尾に来る前の仲間たちだ……」

 

グレイの問いにはエルザが答えた。

顔を俯かせたまま。

 

「『姉さんが俺たちを裏切るまでは』だけどね」

「よせ、ショウ。ダンディな男は感情を抑えるモンだぜ」

 

ショウの一言が突き刺さったのか、顔をしかめるエルザ。

 

「さぁ、エルザ。帰ろう。」

「でないと、この嬢ちゃんも……」

「ひっ……」

 

 

彼らはエルザを昔の仲間であり、連れ戻しに来たと宣う。

話が見えないまま、ルーシィを人質に交渉してくる彼ら。

 

久しぶりに会った仲間が、現在の仲間に牙を向けている。

この現状でどうにかなってしまう。

追い詰められたエルザはその脅迫に乗るしかない、と思われた。

 

 

「……断る」

「……ん?聞き間違いか?」

 

 

無関係のルーシィを救うには彼らに従うしかない。

そう判断したエルザは大人しく彼らに投降するしかない。

 

それなのにエルザの口から出たのは否定の声。

現状がうまく認識できていないのか。

 

確かに俺たちと会うのは久しぶりだ、混乱するのも仕方がない。

そう思ったシモンたちはもう一度問う。

 

「エルザ。次はない。俺たちと一緒に来い。さもないとこの嬢ちゃんの頭をぶち抜くぞ?」

 

二度にわたって脅しをかける彼ら。

しかしエルザはやっと動揺が収まったのか、少しずついつもの姿を取り戻していた。

 

 

理想像を掲げるウォーリーが、

あの優しかったショウが、

純粋無垢なミリアーナが、

真面目なシモンが、

平気で命を天秤にかける行いをする。

 

それに対して多くの疑問を頭の浮かべたエルザ。

しかし今はそれを頭の片隅に追いやり、目の前の状況を打破すべく心を持ち直す。

 

その瞳はよく目にする女魔導士エルザの瞳であるとルーシィは知っていた。

とはいえどうやって救ってくれるかは不明だが。

現に銃はしっかりと己の頭に突き付けられている。

 

 

 

 

「聞こえなかったか?ではもう一度言う。断る……!」

 

 

「正気かエルザ!この女の命が惜しくないのか?」

「どうなっても知らないよエルちゃん?」

 

なおも揺るがないエルザの決意。

おかしいと少し焦りだす彼らに対しどこまでも落ち着きを伴うエルザ。

そしてナツとグレイもその後ろから睨みを利かす。

 

こちらの方が有利なはずだ。

だというのに。

なぜこちらの要求を受け入れない。

なぜ精神的に屈服しない。

当惑の感情は彼らを支配する。

 

まさか本気で見殺しにするつもりなのか。

 

 

 

 

「お前たちも分かっているのか?」

 

 

果たしてシモンたちの浮かべた疑問にはすぐ答えが出た。

 

 

 

「妖精の尻尾に手を出したらどうなるかということを!!」

「はいよ、形勢逆転だな」

 

殺伐の空気の中で響くは二人の声。

 

凛とした佇まいで彼らに啖呵を切るのはエルザ。

ぽけーっとした声はツバキである。

 

そう、ツバキの存在がエルザたちの精神的優位の理由であった。

 

彼の手にかかればいつでもルーシィを救い出すことが可能だからである。

ツバキはルーシィを横抱きに、そして少しドヤ顔で姿を現した。

 

彼が今まで口も開かずに気配を薄め、目の前の惨状をやり過ごしていたのはなぜか。

現状を把握し、会話から想像できる限りのエルザと彼らの人間関係を整理するためだ。

 

 

まずは落ち着いて。

どんな時も常に余裕をもって優雅たれ。

戦場でもいち早く落ち着きを取り戻す。

そして自分の現状を把握し理解に努める。

次なる最善の行動をする者が最後まで生き残るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもやっぱりわからないので静観を諦めついに腰を上げ、ルーシィを助け出したのだ。

 

まぁ考えても仕方ない時はとりあえず動けば何とかなることもある。

 

「いつの間に……!」

「みゃあ!?私のロープが……」

 

切った形跡もなくいとも簡単に解いてみせたツバキに驚愕の表情を浮かべるミリアーナ。

解放されたルーシィはナツたちのところへ戻り、同じく臨戦態勢をとる。

 

「燃えてきたぜ……!!」

「よくもやってくれたわね」

「覚悟はできているんだろうな?」

 

魔法の準備に取り掛かるナツ、ルーシィ、グレイ。

エルザはこうなることが予想できていたのだろう。

その瞳に迷いはなく、彼らを見つめる。

 

こんなはずでは、と表情を歪めるシモンたち。

一気に盤面をひっくり返された彼らはどう現状をやり過ごすか、必死に考えていた。

 

「まぁ待ちんさいや」

 

 

対立する彼らの中央に歩み寄るのはツバキ。

誰もがその行動に目を見張る。

 

ツバキはなぜこんなことをしでかしたのか彼らからその理由を聞こうとしていたのだ。

 

「何やっているんだよ、ツバキ!」

「こいつらは妖精の尻尾に手を出したんだぞ!」

 

「だから手をあげるって?それは違う。俺たちはまだ何もお互いを理解していない。すべてが終わってから分かっても『もう遅い』なんてことはなくして置いた方が良いのさ」

 

安易に手をあげるなとツバキは言う。

現状、どう考えててもこのまま激突すれば軍配はナツたちに上がるだろう。

しかしそれで手を出しては意味がないのだ。

 

「俺たちは法も道徳も分からぬ子供ではない。感情のままに行動し力を振るう歳ではない。相手の立場にたって物事を考えられる大人なんだ」

 

妖精の尻尾にであることに誇りを持っているのであるならば。

その行動にも、妖精の尻尾であるという箔がつくことを覚えておくべき。

 

今俺たちは新聞の記事に載るようなバカをしようとしているのではない。

命を懸けた行いをしようとしているのだ。

 

ツバキのその言葉に振り上げていた拳を収めるナツたち。

エルザも少しバツが悪いのか難しい表情を浮かべていた。

 

「だからさ、話してくれよ。何でこんなことをしたんだ?」

 

自分たちにここまでした相手を慮る行動をとるツバキ。

その姿に毒気を抜かれたのか、楽な姿勢に戻る妖精の尻尾一同。

シモンたちは信じられないようだ。

 

 

それでも

 

 

「それでも、俺たちは姉さんを!儀式のために!理想とする世界のために連れて帰らないといけないんだああぁぁっ!!」

 

そう激昂するショウ。

そんな彼を皮切りに魔法を発動しツバキに狙いを定めるシモン、ウォーリー、ミリアーナ。

 

カードが、ロープが、闇が、ポリゴンがツバキに襲い掛かる。

 

「やれやれ、質問に答えてくれないかねぇ」

「ツバキさん危ない!」

「大丈夫さ」

 

ツバキの身を案じて声をかけるルーシィだったが、彼女を宥めるエルザ。

その間にショウの魔法によりカードの中に捕らわれたが。

 

「あいつが負けることはない」

 

 

 

「……ハハハ、大口を叩いた割にはそんなものか!!」

「面白い魔法だね。まぁ効かんけど」

「何!?」

 

あっさりとカードの中から出てきたツバキに開いた口が塞がらないショウ。

内部から出るにはショウの意思がなければ。

外部からの影響もプロテクトを施せば寄せ付けないはずのカード。

 

それをツバキはひょい、と道端に落ちた石を跨ぐように()()()()()()()()()

 

続いてミリアーナの縄が絡まり、そこへウォーリーの銃が飛んでくる。

しかし、それもツバキは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、銃弾も手を翳して掻き消した。

ロープは縛る相手を見失い地面へスルスルと落ちる。

 

本来ツバキの魔法であれば別に手を翳さなくても良いのだが、人間誰しも目前に銃弾が迫ってきたら「腕で顔を隠す」くらいの防衛本能の働きは出るものだ。

 

「どういうことだヨ!」

「みゃあ、また私のロープが!」

 

2人が理解する暇もなかった。

更に今度は闇がツバキを覆う。

視界の悪い中でツバキに殴りかかるもすぐにその闇は晴れる。

まるで()()()()()()()()()()()()()

 

「そんな……」

「ほいさ」

 

全く本気を出した様子もなく彼らをあしらうツバキ。

その姿をみて遂にシモンたちも諦めがついたようだ。

 

「さて、危害は加えないし他言もしないから話してくれ。何故こんなことをしたんだ?」

 

頭を垂れる彼らに歩み寄り、しゃがみこみ目線を合わせるツバキ。

そしてショウが口を開き

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……殺せ」

「やめろキモイ。本当に殺すよ?」

「いやオイ!」

 

 

 

それ誰得なセリフを呟いたショウに割とマジ切れするツバキ。

思わずエルザが突っ込んでしまったのも仕方がない。

さっきまで力説していたのはどこのどいつだ。

まぁ男が言っても確かにアレだが。

 

 

そしてリーダー格のシモンを中心に事情聴取することと相成った。

 

 

 

 

 

 

 

そして場所は打って変わって魔法評議会場ERA。

 

Rシステム。

話は早いが、これが楽園の塔の正体だ。

ジェラールはこれを利用して黒魔導士ゼレフの復活を試みようとしているのだ。

 

評議員の一人であるジークレインはその危険性を説明し、衛星魔法陣(サテライトスクエア)エーテリオンの使用を訴えていた。

 

辺り一帯を消し飛ばす、評議会が所有する数少ない最終兵器のうちの1つ。

Rシステムの危険性は言うまでもない。

跡形もなく消し去るにはこれしかないのだと。

 

頭を悩ませる他の評議員。

……それすらも計画のうちであると、魔法界の秩序を守らんとする評議会に潜む悪が蠢いていることに気づかないまま。

 

 

そしてその悪意の中心にいるジェラールとジークレインは、心の中での嗤いが止まることを知らなかった。

 

「(ウルティア。お前も賛成票をあげるのだ。俺たちの目的のために)」

「(はい、ジークレイン様)」

 

念話を通して口裏を合わせるジークレインとウルティア。

もう少しで計画が完成に近づくと、心を躍らせた様子で。

 

 

 

 

 

しかし、ジークレインは気付かない。

 

(ジークレイン様。貴方様の望みが叶うことはないでしょう)

 

己の思想は全て、仮初であるといこと。

 

 

 

ジークレインは気付かない。

 

その思想は、傀儡であるはずの己の側近に操られ創られたものであること。

 

 

そして……

 

(それにどうやらツバキが楽園の塔へ向かっているらしいとのことですし。……強くなっているのかしらあいつ)

 

 

 

その仮初の理想ですら叶うはずがないということを。

 

 

 

ジークレインは気づかない。

 

 

 




ツバキの魔法に少しヒントを出しました。
僕が考案したオリ魔法ですけど、これから少しずつヒントを出していければなと思います。

この時点でわかった猛者はいるのかな……。いたらドキドキです。


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6話

お待たせしました。
最新話です。
めんどいところはカットしました。
ごめんなさい。
どうぞ!


シモンたちからの事情聴取を終えた一行は楽園の塔へと向かっていた。

あまりにもかけ離れていたエルザの人格にシモンを除いた彼らは当惑していた。

 

無理もない。

ジェラールからは自分たちを裏切った、と聞かされていたのだ。

 

それでもシモンだけはジェラールを怪しんでいたようで、エルザと彼らの認識の齟齬をいち早く理解しショウたちのケアに努めた。

 

 

楽園の塔組はジェラールの裏の顔を知り、困惑したものの彼に話をつけに行かんと船は進む。

妖精の尻尾の面々は、明かされたエルザの過去の話を聞き怒り心頭になったがツバキに宥められ楽園の塔へ行くことを決意。

こうしてエルザを取り戻しに来たということは何か企んでいるに違いないとエルザは踏んだからである。

 

ナツは波に揺られ酔い潰れながら。

ルーシィは鍵の手入れをしながら。

グレイはジュビアに絡まれながら。

エルザは遠くの方を見つめながら。

シモンは座禅を組み瞑想しながら。

ショウはカードの面を憂いながら。

ウォーリーはたばこを吸いながら。

 

男たちはこの後に起こる激戦を予期しているのか、まるで決戦前の精神統一の如く。

静かに船は進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、楽園の塔組唯一の女性・紅一点のミリアーナは。

 

「げんきさいきょー!」

「さいきょー!」

「さいきょー。ほーれ、よしよし」

「「「みゃあ……( ^ω^)」」

 

ツバキとハッピーとじゃれていた。

 

動物好きなツバキは猫のハッピーだけでなく、猫を愛するあまり自分も猫みたいに行動するミリアーナも愛でていた。

それぞれの顎の下を両手で撫でながら他の者たちとは異なり、全力で和んでいた。

その撫で方は最&強らしい。

 

 

 

 

 

 

「な、なにをやっとるんだぁぁぁっっ!!!」

 

スパーンとツバキの頭に振り下ろされるハリセン。

持ち主は勿論エルザである。

換装で取り出したのか。

 

「痛っ。何をするエルザ」

「こちらのセリフだ!お前はこんなときに何を!ミリアーナと、その、いかがわしいことをしおって!ミリアーナ、貴様もだ!」

「えー。だってエルちゃん、ツバキ君すごい撫で方上手いんだよ~。気持ちよくなるのも仕方ないって~」

「ツバキオイラもオイラも!……エルザ、もしかして羨ましいの?」

「なっ、そ、そんなわけなかろう!そんなわけ……」

 

瞬間エルザの頭に繰り広げられる妄想。

「えるざ」と書かれた首輪を下げ、際どい衣装に身を包め猫のコスプレをした己の体にツバキが触れる。

頭、顎の下、おなか、脇、尻尾。

様々なところを触れられ、撫でられ、愛でられ。

そこからさらに過激なところへ手が伸びようとしたところへ遂にエルザが限界を迎える。

 

「#$%&'&$=)~*ーーッッ!!!」

「でぇきてぇるぅ」

「大丈夫か?」

 

真っ赤な顔をして倒れたエルザ。

巻き舌風にからかうハッピー。

すっかり緊張感が途切れた一同は、先程と比べ幾分かリラックスした雰囲気で船を進める。

ナツはまだ死んでいるが。

 

そんな年相応で初々しい少女のような反応のエルザを見てシモンたちは苦笑いしながら、彼らとエルザが出会えたことを喜んでいた。

 

 

そして楽園の塔に着き、ツバキの膝の上で目を覚ましたエルザはまた気絶するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

禍々しい塔。

そんな印象を覚える。

誰も寄せ付けない、入り込んだら最後、生きては帰さない。

 

労働者たちの無念か、黒魔術団体の狂気か。

ここに蔓延る空気は確かに淀んでいた。

 

そして岸に船をつけるも、違和感を感じる。

見張りも防犯カメラらしきものも何一つないのだ。

着岸した時点での襲撃を確保していたが何も起こらない。

 

「どういうことだ。ジェラールは俺たちが裏切ったことも、ここに既にいることも分かっているはずだ」

 

怪しむシモン。

他の面々も辺りを警戒する。

 

「!何だ?」

 

地面に口のようなものが生えた。

次の瞬間、辺り一面にそのくちのようなものが生え茂った。

悍ましい光景に鳥肌を立てる一同のもとに、それらの口が一斉に開いた。

 

「ようこそ皆さん、楽園の塔へ」

「俺の名はジェラール。互いの駒は揃った。」

「そろそろ始めようじゃないか」

『楽園ゲームを!』

 

一つ一つの口が喋り始め、異口同音で締めくくる。

ジェラールは落ち着いた、されど自信に溢れた口調で放送を続ける。

そして話される楽園ゲームのルール。

 

妖精の尻尾とシモンたちvs暗殺ギルド髑髏会特別遊撃部隊「三羽烏(トリニティレイヴン)

 

エルザを生贄にゼレフ復活の儀を行い楽園への扉を開けばジェラールの勝利。

それを阻止し三人の戦士、そしてジェラールを倒せばツバキたちの勝利。

 

バトルロワイヤルの開始と相成ったが、ここで凶報が一つ知らされる。

評議会は衛星魔法陣による究極魔法、エーテリオンでこの塔を消滅させる気なのだとか。

 

残り時間は不明。

しかしエーテリオンが落ちるとき=我々全員の死だということ。

 

そしてゲームスタートの合図がなされる。

 

最上階へ一気に向かうナツ。

その後を追うグレイとシモン。

そのグレイを追うジュビアと、放っておけないと追走するルーシィ。

残ったツバキ、エルザはジェラールのもとへ。

 

足手まといになるやもと思ったウォーリーとミリアーナとはここで全員の帰還を信じ、船を守りながら待つことに。

ショウもエルザについていこうとするも、エルザに説得され残ることに。

ツバキも付いているのであれば大丈夫だろう、と納得しエルザの言葉を受け止めた。

 

 

 

 

 

 

そして各戦局はというと。

 

 

scene1:ナツ・グレイvs梟

「ホーホホウ」

「あんのクソ炎…!」

 

梟に撃墜され、丸のみにされたナツとグレイ、そして後方からケガをしたため見守るシモン。

グレイが氷刃・七連舞でナツを吐き出させ、そこへ火竜の鉄拳でとどめを刺す。

 

「なに鳥に食われてんだこの野郎。ドラゴンじゃなくて鳥に食われる蜥蜴か何かかてめえは?」

「仕方ねーだろ、ロケットに捕まって酔っちまったんだから。お前がいなくても自力で這い出てこれたんだよ!」

 

見事倒すも喧嘩を始めるナツとグレイ。

 

scene2:ルーシィ・ジュビアvsヴィダルダス・タカ

 

「キャハハハ!さてどうするよ金髪ーぅ?」

「地獄地獄地獄!最低で最高な地獄を見せてやるよ!」

「ちょ、ちょっとジュビア!?」

 

ヴィダルダス・タカと操られたジュビアに相対するはルーシィ。

ジュビアが展開した水のなかで呼び出したアクエリアスで巻き返し、合体魔法(ユニゾンレイド)で打ち倒す。

 

「なんてところから出してんだてめえは。次はトイレにでも出す気か?」

「ご、ごめんなさい」

 

アクエリアスにどつかれながらも見事勝利。

 

 

 

scene3:エルザvs斑鳩

 

「(こいつ、強い……!)」

 

エルザの対戦相手は三羽烏最後の1人斑鳩。

彼女の剣技は見事なものだった。

たとえその剣が暗殺したものたちの血で塗れていたとしても。

 

様々な鎧は剣を持つエルザは剣に自信を持っている。

近距離中距離遠距離。

様々なスタイルに合わせて戦闘方法を柔軟に変えるエルザはどんな敵にも対応できる。

 

ツバキがトイレに行ってから現れた斑鳩とエルザはそのまま剣で双方から斬り合っていた。

 

が、斑鳩が圧倒していた。

 

暗殺ギルドとして数多くの仕事をこなしてきた彼女は知っているのだ。

どこを斬れば人は壊れるか。

どこを斬れば人は痛むのか。

どこを斬れば人は死ぬのか。

 

人体の急所を全くの躊躇なく傷つけられるかそうでないかの差が、この戦闘に出ているのだ。

 

天輪の鎧、

炎帝の鎧、

煉獄の鎧。

いずれもエルザが信を置く鎧たちだが、斑鳩はその悉くを斬り伏せた。

 

「(何かないか、有効な鎧は…!)」

 

次なる一手を模索するも、その間に降り注ぐ刃の嵐。

焦って鎧を展開しても上から切り伏せられるのは目に見えている。

それでもエルザの限界は近づいていた。

 

 

 

 

最早ここまでかと一瞬諦めたその瞬間、脳裏にチラつく記憶。

 

妖精の尻尾の仲間たちとの楽しい記憶。

ボロボロでギルドに入り、他人を寄せ付けなかった自分をとてもよくしてくれた。

ナツ、ルーシィ、グレイ、ミラ、カナ、エルフマン、ロキ、マスター。

他にも多くの魔導士が自分に仲良くしてくれた。

 

弱い自分と弱い心を守るために纏った鎧。

それは人と人との心が届く隙間を鎧で堰き止めていただけだった。

彼らとの出会いが、

彼らとの過ごした時間が、

エルザに人と人との距離はこんなにも近く温かいのだと教えてくれたのだ。

 

そして

 

 

 

「何泣いてんだ?」

 

涙を流す自分に傘を差してくれた愛しい人。

 

「何があったかは聞かんけどさ。ここ俺のお気に入りの場所なんだよ。ここにいる間は笑っていようぜ?」

 

深入りせずにただ自分を受け入れてくれた愛しい人。

 

「過去に何かあったのは分かるよ。忘れろなんて無責任なことは言わないさ。」

「でもきっとこれから楽しいことが必ずやってくる。そのときに上手く笑えないと勿体ないぞ?ほれ、ツバキさんと練習してみよう」

 

道を示し、一緒に歩こうと手を伸ばしてくれた愛しい人。

 

 

妖精の尻尾の仲間が、ツバキがエルザを奮い立たせ、決意の装束へと身を包む。

 

魔力など一切帯びていないその装束は、守りを捨てただ攻撃力に傾いたもの。

自分が守られてきたものを、今度は守るために力を振るう一心。

勇気をもらい、立ち上がり、この装束に着替えたエルザにもう怖いものはなし。

 

 

 

「ここまでどす!覚悟ォォ!」

「私の全てを強さに変えて討つ!」

 

果たして軍配はエルザの方に上がる。

膝をつくも、剣を支えに倒れないエルザ。

疲弊し切った彼女のもとへ響く足跡。

 

「ハァハァ……。全く待ちくたびれたぞ」

「いやすまん。腹が絶好調で」

「お前という奴は……」

 

頭に手をやり呆れ返るエルザ。

その口元は苦笑で歪んでいた。

 

改めてツバキが好きだということを思ったエルザ。

 

「迷惑料だ。頭を撫でろ」

「はい?どうしたエルザ?トイレ入ってる間轟音が聞こえたけど、やっぱり何か」

「撫でろ」

「はい」

 

言われるがままにその緋色の髪を撫でるツバキ。

船でここにくるときにミリアーナにしていたのを思い出し、急にしてもらいたくなったのだ。

 

柔らかく良い匂いがするその髪を撫でているツバキにとっては溜まったもんではないが、エルザが嬉しそうなので黙っている。

 

満足いくまでに続けてもらい、その後深呼吸し意識を切り替えるエルザ。

 

 

 

 

 

「ふぅ…。待っていろジェラール。今決着をつけに行くぞ」

「ねぇ今のどういう意味があったんだ?お望みなら全然まだやるけど」

「……後で頼む」

 

残るはジェラールただ1人。

 

 

 

 

 

 

 

魔法評議会は着々とエーテリオン発射の準備を進めていた。

 

「いよいよですねジークレイン様」

「あぁ。ようやく俺の理想が実現する」

 

ジークレインは震える。

()()()()()()()()()()()()()()()()か、武者震いか。

それでも彼の顔は嘆きの表情は一切なかった。

 

2人はこれから起こる展開にほくそ笑む。

 

しかしウルティアはその笑みの質がジークレインとは異なった。

 

「(ごめんなさいね、ジェラール。これも私の目的のため。それにツバキがいたらもう何をやっても無駄なことですし。彼の魔法には誰も敵わない)」

 

「時のアーク」と呼ばれる失われた魔法(ロストマジック)を使うウルティア。

物質の時を操る超魔法。

その彼女が畏怖するツバキの魔法。

 

ジェラールの理想はどうなるのか。

ツバキの魔法の正体は何なのか。

 

 

 

 

 

エーテリオン発射まであと15分。

 

 

 




UAがいつの間にか10000を突破し、お気に入りも増えました!
嬉しいです!
感想もお待ちしてますね!


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7話

お待たせしました。
ちょっと長いです。
ツバキの魔法も少しだけ出しました。
それではどうぞ!


全員が三羽烏を打倒した後のこと。

 

エルザは持っていた通信用ラクリマで全員を塔から離れさせることを呼び掛けた。

 

塔の全権を握っているジェラールが、塔の内部にいる者に牙を剥く可能性があるからだ。

 

「だから頼む。皆ここから離れるんだ」

「何言ってやがるエルザ!お前見捨てて行けるわけねえだろ!」

 

当然妖精の尻尾組は猛反対。

特にナツは怒り狂い今にもこちらへ飛んできそうだ。

楽園の塔組は何も言葉を発さないが気持ちはナツたちと同じであることは言わずもがな。

 

エルザは言う。

 

奴は狡猾な男。

何を仕出かしてくるかはわからない。

奴が何を考えてこんなことをしたのかわからない。

エーテリオンがあと10分強で落ちてくるこの状況で、皆を守りながらジェラールを倒すのは困難であると。

 

奴があそこまで堕ちてしまったのには自分に責任がある。

だからこそ決着をつけに行くのだと。

 

最後にエルザはこう付け加えた。

 

「それに私なら大丈夫だ。ツバキが共にいる」

 

その一言で先ほどまで激昂していた一同は鳴りを潜めた。

彼ならエルザを必ず連れて帰ってくると確信しているからだ。

 

今すぐに駆け出したいが、彼らの邪魔になることを痛感する。

渋々納得した一同は船を出し、最後にエルザに投げかける。

 

「……わかった。その代わり約束だ。必ず帰って来いよ」

「ああ、分かっている」

 

双方は約束を交わし、暫しの別れとなった。

 

 

 

 

 

 

数分前のこと。

 

「ツバキ、皆を連れて塔から離れてくれないか?」

「何で?」

 

理由はナツたちに言ったものと同じ。

それに加え、ツバキには傷ついてほしくないという思い。

 

それが混ざり合い悲痛の表情を浮かべながら懇願する。

 

「断る」

「そんな、何故……!」

「まさかとは思うが、死ぬつもりじゃあないよな?」

「!」

 

はっきり言って状況は最悪だ。

これはジェラール側にも言えることだが。

エーテリオン発射までもう間もないのだ。

残り僅かな時間でジェラールを倒し、ここから逃げる時間など残されていないのではないか。

 

そう思ってのツバキの発言だ。

 

「俺ならなんとかできる。だからここに残る」

「でも、これは私の問題だ!」

「知っているよ。でももうエルザは1人じゃない。妖精の尻尾のエルザだ。最早その命はエルザ1人のものではない。それを分かっているのか?」

 

鋭い一言を言われ押し黙るエルザ。

 

仮にここで命を落として誰が喜ぶのか。

残された者たちが悲嘆に暮れるだけだ。

後悔に襲われてしまい咽び泣くだけだ。

勝手に死ぬなんて馬鹿のすることだと、昔どこかの海の海賊王が言った。

 

それをエルザに伝えるツバキ。

 

「俺なら最悪なんとかできる。だからさ……存分にジェラールをぶん殴ってこい」

 

あくまで戦うのはエルザであると。

自分は手出ししない。

だからこそ思う存分に力を振るえと背中を押してくれるツバキ。

 

それに張りつめていた肩の力を緩め、竦めるエルザ。

 

「……お前にはいつも諭されてばかりだな。……こうなっては仕方ない。地獄の門までついてきてもらうとするかな」

「縁起でもないな」

 

先程までの悲痛な表情はどこへやら。

冗談を言い合えるくらいには余裕が出てきたのか、微笑むエルザ。

 

2人は最上階へと進みだす。

 

 

 

 

 

その道中、ツバキはエルザに疑問を投げかける。

 

「なぁエルザ。一つ聞いていいか?」

「何だ?」

「Rシステムって言ったよな、この塔の正体。……あいつ何が目的なんだ?」

 

Rシステム。

一人の生贄の生命を捧げる代わりに一人の死者を蘇らせる魔法。

評議会が使用を厳重に禁止している禁忌魔法の1つである。

 

昔、とある黒魔術教団がその狂気に魅せられ作り上げたのがこの楽園の塔。

エルザたちはその際に奴隷としてこれを作り上げさせられていたのだ。

 

「奴の目的はゼレフ復活、その為に私を生贄にしようとして────」

「それ以前の問題だ。それを行うための魔力が足りない」

 

 

そうなのだ。

この大掛かりな魔法を行使するのに必要な魔力量は実に27億イデア。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というほどの魔力である。

 

ジェラールは一体どこからその魔力を用意するというのか。

 

「確かに……。やはりあいつに直接聞かないと分からんな」

「あぁ……」

 

エーテリオンの発射は文字通り死だ。

にもかかわらず、悠然と待ち構えているジェラールに対し疑念を抱くツバキ。

 

「(さっき塔の構造を観察していたが、まさか……)」

 

彼の脳内では1つの突拍子のない仮説が立ち上がっていた。

 

 

 

 

「やれやれゲームはもう終わりか」

「人の命で遊ぶのがそんなに楽しいか?」

「楽しいさ。生と死こそが全ての感情が集約される万物の根源。逆に言えば命ほどつまらなく虚しいものはない」

 

やがて最上階に達し、物々しい部屋にて。

エルザとジェラールは会合する。

 

「あんたはどう思うよ、妖精王。まぁゲームに参加しないで一体どこをほっつき歩いていたのか。怖くて隠れていたのかい?」

「いや、ちょいと腹が痛くなってトイレ借りていた」

 

ツバキのマイペースぶりには流石のジェラールもペースを崩される。

 

「……まぁ良い。久しぶりだなエルザ。いつでも逃げられたはずだと思うが?」

「かつての仲間たちを解放しにな。あと10分足らずでエーテリオンは落とされるが何を考えている?その余裕ぶり、やはりハッタリか」

「(……)」

 

辺り一帯を消滅させる超魔法。

ツバキがいるから助かると確信しているとはいえ、それだけの魔法があと少しで撃ち込まれるのだ。

ツバキがいてもなお焦る気持ちがあるというのに、ジェラールは見たところ全くその余裕な姿勢を崩そうとはしない。

 

 

「何を考えていようが、関係ない。ここでお前を倒し、この8年間に終止符を打つ!」

「何をやろうが無駄だ!ここで朽ち果てゼレフの生贄となる、それがお前の運命(デスティニー)だ!」

 

エルザとジェラールが激突する。

ツバキはエルザの意思を尊重し、一人離れたところで見守る。

エルザなら問題ない、と信じているからこそ自分は手を出さないと決断した。

 

 

「(油断しおってからに。後で必ず貴様もエルザのもとへ送り届けてやろう)」

 

ツバキを目の端でとらえつつ、エルザに向けて魔法を発動する。

 

暗黒の魔力がその手から打ち出されエルザに向かう。

その数は多くはないものの、猛スピードでエルザを捕らえにかからんと殺到。

それを素早い身のこなしで躱すエルザ。

 

決意の装束のお陰で身軽に動けてはいるが、一度捕まり攻撃を受けると致命傷は免れないことは明白だ。

 

暗黒の魔力を切り刻み、ジェラールに差し迫ったが、ここで魔力弾がエルザの腹に直撃。

塔の外へ弾き出されてしまう。

 

が、ここで落ちることはなく落ちゆく瓦礫を足場にジェラールへと剣を上段に構え振り下ろす。

 

「せっかく建てた塔を自分の手で壊していては世話がないな!」

「柱の一本や二本などただの飾りに過ぎないさ」

「その飾りを造る為にショウたちは8年間もお前を信じ続けていたんだ!」

 

怒りの感情を露わにジェラールへの攻撃の手を一層激しくする。

ジェラールが躱し、部屋の内部の造りを壁にしてもそれごと斬る。

 

8年間も騙され続け、その身を捧げ続けたショウたちの無念を想いジェラールを責め立てる。

 

「いちいち言葉の揚げ足をとるなよ。重要なのはRシステム。その為の8年間だった。そしてそれは完成したのだ!!」

 

暗黒の魔力はエルザを縛り上げる。

両手を塞がれ成す術なく生贄になるや、かに思えた。

 

「何!?」

 

エルザの剣は、想いは。

暗黒の魔力を打ち破り。

その切っ先は遂にジェラールを捕らえた。

 

ジェラールの体の上に馬乗りになり、剣先を彼の首に狙いを定める。

勝敗は決した。

 

「お前の本当の目的は何だ?ツバキから聞いた。この塔はRシステムを作動するには魔力が全く足りない」

「……エーテリオン発射まであと3分か」

「答えろジェラール!お前の理想はもう終わっている!このまま死ぬのがお前の望みか!!」

 

ジェラールの体を己の足で、右手は自身の左腕で動かないように力を込める。

 

ツバキも見守ることはやめたのか、エルザの方へと歩み寄る。

実際もう魔力も体力も限界なのだろう。

エルザの疲弊しきった体は彼には見破られていた。

 

「……俺はゼレフの亡霊にとり憑かれた。ゼレフの肉体を蘇らすための人形なんだよ」

「とり憑かれた?」

「(亡霊?……この禍々しい気配がゼレフの?本当に?)」

 

淡々と話し始めるジェラール。

エーテリオン発射まで残り2分。

 

「あの日、拷問部屋で俺は亡霊にとり憑かれたのさ。俺は俺を救えず、仲間を救えず、仲間は俺を救えず……」

「楽園など、自由などどこにもなかった」

「全ては始まる前に終わっていたんだ」

 

悔恨の意を言葉の端々に乗せるジェラールの胸中から漏れ出た言葉。

エルザが思わず力を緩めるのには十分なほど、その言葉は重かった。

 

ツバキも警戒は緩めないものの、少し拍子抜けした顔だ。

 

「Rシステムなど完成するはずがないと分かっていた。でも体が、亡霊が止めることを許さなかった」

「お前の勝ちだ、エルザ。もう俺を殺せ。その為に来たんだろう?」

 

エーテリオン発射まであと1分。

 

エルザは先程までジェラールに対していた憎しみはもうそれほどない。

幼い頃、絶望しかなかったあの塔の中で自分たちを導いてくれたヒーローのように。

今のジェラールはあの時と同じ瞳をしている、そうエルザは感じられた。

 

残り僅かな時間で二人はあまりにもすれ違い続けた時を埋めるかの如く、互いに言葉をかける。

 

「これは俺の弱さに負けた俺の罪だ。理想と現実のあまりの差に俺の心が追い付いていなかった」

「自分の足りないものを埋めてくれるのが仲間というものではないのか?」

 

エーテリオン発射まで残り30秒。

 

「私もお前を救えなかった罪を償う。だから早くここから出るぞ」

「いや良い。俺は置いていけ。ここで天からの裁きを受ける」

「何を言っているんだ、早く!」

「頼むエルザ。今をもってやっと俺は亡霊から解放された。最期くらいは『俺』の意思を尊重してくれないか?」

 

反論できないエルザ。

知ってしまったのだ、彼もこの8年間苦しみ続けてきたということに。

 

自分たちを苦しめた黒魔術教団はもういない。

いなくなっても尚自分たちを傷つけるこの世界。

何が正解で何が間違いなのかが到底分からない。

 

少なくともこの時エルザは、ジェラールの決断を止めることが正解だとは思えなかった。

 

 

エーテリオン発射まで10秒。

 

 

 

「……ツバキ、頼む。もう時間がない、お前だけでも……」

「………………」

「ツバキ?」

 

返事をしないツバキを訝しむエルザ。

彼は険しい表情を浮かべジェラールを睨み続けている。

 

 

きっと自分の命を粗末に扱っているが故の怒りかと思ったエルザ。

自分だって納得がいっていない。

ツバキがそう思うのは無理もないだろう、とエルザは考えたのだ。

 

 

「ツバキ、すまない。私にはジェラールをどうやって止めればよいか……。奴を見捨てたいわけでは────」

「違うよ、エルザ」

 

 

 

エーテリオン発射まであと5秒前。

 

 

 

「こいつ、ここに至ってまだ────」

 

ツバキは少し後退し、片膝をつけ、左手を床につける。

 

 

 

 

 

 

 

「エーテリオン射出最終フェイズ完了」

「衛星魔法陣展開!!」

「祈りを」

「祈りを」

「祈りを……」

 

 

『聖なる光に祈りを!!エーテリオン解放!!!』

 

 

 

 

 

評議会により遂に発射されたエーテリオン。

 

光の柱は楽園の塔へ。

 

 

エルザはツバキに脱出を急かすが。

 

「理想を諦めていない。そうだろジェラール?」

「何を言って……」

 

その光が塔を包み込むその瞬間のことであった。

ツバキがポツリと呟く。

 

 

「『保存(セーブ)』」

 

 

 

ドゴオオォォン、と地平線の彼方にまで重い轟音が響き渡る。

 

 

終わった、と誰もが思った。

エルザも。

船で塔から離れていたナツたちも。

エーテリオン射出し祈りを捧げた評議会の面々も。

 

2人を除いて誰もが終焉を覚悟した。

1人はジェラール。

 

エーテリオンの衝突により凄まじい量の煙がもくもくと立ち込めるなか、彼は立ち上がり高らかに嗤う。

 

「ククク……ハハハハハハハハ!!遂に遂に遂に!このときが来た!!」

 

その声色は先程までとは打って変わり、またもや楽園の塔の主としての様相である。

 

 

 

「ジェラール……?」

「驚いたかエルザ?すまなかったなぁ、また騙して。これが楽園の塔の真の姿だ!刮目せよ!!」

 

 

さっきまで弱音を吐き出していた姿も全部が偽物(フェイク)だったということだ。

エルザに油断させエーテリオンを直撃させること自体がジェラールの目的。

 

()()()2()7()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

シモンたちもエルザもそして評議会の者たちも騙し、Rシステムはここに完成した。

 

煙が晴れ、そしてその姿が明かされる。

 

 

 

 

 

 

「ん?」

「……は?」

 

2人は思わず呆けた声を出す。

 

無理もない。

何も。

()()()()()()()()()()()()()

 

エーテリオンが直撃した痕跡はどこにもない。

あるのは物々しい部屋の造り。

エルザとジェラールが戦うことでできた瓦礫くらい。

 

果たして夢だったのかと思うくらい、何も変わっていなかった。

 

 

言うまでもなくツバキの仕業である。

彼もまたジェラールと同じく終焉を覚悟していなかった。

その必要がないからだ。

 

 

「ふぅ……何とか上手くいったな」

「貴様ァ、一体何をしたァァ!!!」

 

今までで一番の激情を見せるジェラール。

その姿を見て怯むも、ツバキが何かをしたことに気づいたエルザ。

 

「ツバキ、一体何を……?」

「こいつの目はまだ諦めていなかった」

 

 

ツバキはずっと引っかかっていた。

一体どこから膨大な魔力を調達するのかと。

それが明確でないまま8年も大掛かりな塔の建設をするはずがないのだ。

楽園の塔に着いてからこの塔の存在意義について考え続けていた。

 

エルザが斑鳩と戦っているときに徹底的にこの塔を調べ尽くした。

塔のどこにも魔力を貯蔵するタンクらしきものはない。

ゼレフ復活のための建物にしては、あまりにも非生産的で非効率的で非合理的な塔。

 

そしてジェラールがしきりにエーテリオン発射の時間を気にしているのに対し逃げようともしないその姿に違和感を感じ、一つの仮説を立てたのだ。

 

即ち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その仮説は見事的中した。

それを確信したツバキは塔全体に魔法を行使し、見事エーテリオンの猛攻を凌いだのだ。

 

 

「ちなみにこれが本当の正体だろ?『移動(ムーブ)』」

 

パチンと指を鳴らした後、塔の様相が一変した。

柱についていた豪華な装飾も、部屋の内装もない。

 

あるのは巨大な魔水晶(ラクリマ)の山。

 

ここにエーテリオンの魔力を貯蔵するつもりだったのだろう。

魔力がないため、鈍い色で発光しているが。

 

 

「よくも、よくも俺の計画を……!!死ぬ覚悟は当然できているんだよな?」

 

 

「お前こそどうなんだよジェラール。亡霊ごときに憑かれてエルザを何度も傷つけやがって……」

 

ツバキの口調は怒気に溢れていた。

己の理想のために心優しい彼女の弱みに付け込んだことに対してだ。

 

彼女がどんな思いで8年間を過ごしてきたのかツバキには推し量ることしかできない。

その苦しみを分かち合うことはできない。

 

土壇場においてなお救おうとしたエルザのその気持ちを蔑ろにするのであれば、俺が許さんとばかりに。

 

 

 

「覚悟しろよ、ジェラール。俺は身内以外には手厳しいぞ?」

「臨むところだ。俺の天体魔法の餌食にしてくれる……!」

 

 

 

 

優しき緋色の彼女を想う妖精の王と、

狂気なる理想に魅入られた天の星が

今ぶつかろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




20000UAも突破し、多くの方々に読んだもらえ嬉しさの極みです。
ランキングが上位だとニヤついてしまう自分がいます。

次回も乞うご期待ください!


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8話

お待たせいたしました。

ツバキvsジェラールです。
ツバキの魔法を少し開示します。


地獄を見た。

終わりのない地獄を見た。

苦しみから逃れられない地獄を見た。

 

次々に地に倒れて伏していく仲間たち。

体から血を流し傷ついていく仲間たち。

瞳から涙を流して死んでいく仲間たち。

 

彼ら一人一人が夢を持っていた。

実現したい心に志を掲げていた。

その為に生き抜くと決意していた。

 

皆が皆、それぞれの胸に想いを持っていた。

 

それらはすべて踏み躙られた。

 

狂気に魅入られた黒魔術教団による蹂躙。

虐げら続ける自分たちを嗤い続ける悪党。

 

この地獄からいつ抜け出せるのかが分からない。

 

 

 

 

 

 

憎い。

憎い。

憎い。

憎い。

憎い。

 

全てが憎い。

 

子ども一人救えないこの世界が憎い。

姿も見えないものを神と崇め奉るクソ共が憎い。

 

底なしの憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪。

 

 

憎め

 

拷問部屋で絶え間のない暴力に晒される自分。

痛みと恐怖の中で自分に囁く声が聞こえた。

 

憎しみこそが復活の鍵だとその見えない「声」は宣う。

もっと憎めと。

さすれば奴らの崇める神に出会えると。

 

そしてその日からジェラールは憎悪の化身に魅入られた。

 

仮初の自由などいらない。

この世界に自由などない。

本当の自由はゼレフのいる世界。

それを実現するために楽園の塔を建立する。

 

 

 

 

 

 

それこそが仮初の理想であると気づかずに。

 

 

 

 

「何があったというのだ……」

 

一触即発の空気の中、そこへやってきたのはジークレイン。

 

評議会にいたはずの彼が何故ここにいるのか。

その疑問をエルザはぶつける。

 

「ジークレイン!?何故お前がここにいる!」

「その質問は後だ、エルザ。妖精王、貴様一体何をした?」

 

エルザの質問には答えず、目線をツバキに向けるジークレイン。

彼の顔もジェラールと同じく険しい顔つきであった。

 

「簡単。俺の魔法でエーテリオンを防いだ。防いだというよりかは、()()()()()()()()()()()()()()()

「バカな!ありえない!エーテリオンだぞ!?一体何をすればあの魔法から守れるというのだ!!」

「これ以上は黙秘させてもらうよ。あんまり人に言いたくないし」

「ふざけやがって……」

 

ツバキに問い詰めるも解決の糸口が見えるわけでもなく。

飄々とした口調に怒りを滲ませるジークレイン。

ツバキは自分の魔法をあまり口外しない。

自分の手札を明かす必要はないと断じているからだ。

下手に対策を取られないようにする意味でもあるが、その隠す姿が余計にジークレインとジェラールの怒りを加速させる。

 

当然だろう。

9人の評議員の祈りにより放たれた悪魔(エーテリオン)

その魔法は周囲一帯を灰燼に帰す超魔法。

 

一度放たれたら、そこにいる生命は一切生存を許されない。

 

実に27億イデアもの魔法を食らって無事なものなどありはしない。

だというのにこれは一体何だ?

何故塔は変わらずにいる?

何故ラクリマは魔法を吸収していない?

他にも、何故ラクリマの存在に気付いたのか、

どうやって塔の装飾を一瞬で剥ぎラクリマをさらけ出したのか、

疑問は尽きることはない。

 

 

 

分かっていることはただ一つ。

ツバキにより自身の計画は破綻したという事実のみ。

 

 

 

「クソ野郎が……」

「お前……、よくも俺の8年を……!」

 

「ジークレイン!何故ここにいる!?今更ジェラールの蛮行を止めに来たわけではあるまい!」

 

エルザは再びジークレインに問う。

以前マカロフと共に始末書を提出しに評議会を訪れた際に遭遇したジェラールと瓜二つの顔の持ち主。

双子の兄と聞き、振りかぶった拳は収めたものの、ジェラールの行いを見て見ぬふりをしてきたロクデナシである。

 

その人物が評議会ではなく何故ここにいるのか。

そしてやはりお前たちは結託していたのだなと責め立てる。

 

「結託?それは違うぞエルザ」

「俺たちは元から一人だ」

「最初からな」

 

そう言いジークレインはジェラールへと溶け込む。

エルザは驚きを隠せない。

そしてジェラールから溢れ出る魔力。

2人に分かれていたことで魔力が回復したのだ。

 

自らの計画のために評議会までも騙していた事実に絶句するエルザ。

一体どこまで欺いているのかと声を荒げる。

 

 

「お前は一体どれだけの人たちを騙し続けているんだ!」

 

 

「さて、魔力が漲ってきた。……覚悟は良いな、妖精王?」

 

その目は先程までエルザに向けていたものとは違う。

必ず殺すと、怒りと憎悪に塗れた色を浮かべている。

ここまで自らを虚仮にしてくれた相手は初めてだと。

 

そのあまりの変貌ににエルザは怯むが、その肩を優しくツバキが抱く。

 

「ツバキ?」

「大丈夫だエルザ。俺に任せろ」

 

笑顔を見せ安心させようとするツバキ。

聖十大魔導の称号を持つジェラールだ。

いくらジョゼを倒したといっても、エルザはジェラールの狡猾さを改めて認識したところ。

 

不安な顔を拭い去ることはできない。

それでも大丈夫と言ってくれた彼を信じることを決めたエルザ。

 

ツバキはエルザに背を向けジェラールと向き合う。

 

「覚悟はできてるかって?それはこちらの台詞だよ」

 

その声は静かに、されど力強く。

 

ここに至るまでに感じ取れた多く嘆きと悲しみの数々。

虐げられてきた者たちの無念。

それらを嘲笑うジェラール。

そしてエルザの涙。

 

ツバキが己の裡から噴き出す激情に身を任せるのに十分だった。

 

周りの人に距離を置く自分に対し怖がることなく近づく彼女。

ズボラな生活を送る自分にため息を吐きつつ世話を焼く彼女。

ときに嬉しそうに、ときに恥ずかしそうに笑顔を見せる彼女。

 

そんなエルザの瞳から流れる涙を見て動かないほどツバキは人でなしではなかった。

 

 

「ぶっ潰す」

「良かろう、俺の天体魔法の塵にしてくれる」

 

ジェラールは魔法を行使する。

その魔法は先程までの禍々しいものではなく、煌びやかであった。

 

 

 

流星(ミーティア)!」

 

詠唱後、凄まじい速さで動くジェラール。

流星のスピードは秒速数キロから数十キロを超えるものまである。

それと同じ速さで動くジェラールのスピードは、常人の視力では捉えられることは不可能だろう。

既にツバキの視界は流星が尾を引く光の残像で埋め尽くされている。

 

 

普通の魔導士であれば、反撃する間もなく一方的に攻撃を受け続けるのみ。

 

ジェラールは幾度もツバキへと突貫する。

直撃するその寸前で何とか回避するツバキ。

しかし尚も四方八方からジェラールは飛んでくる。

 

ツバキは手を向けようとするも、ジェラールは自由自在に空中を飛び回る。

 

涼しい顔をするジェラールに対しどこまでも無表情なツバキ。

焦っているのか何かを考えているのかが判別はつかない。

いずれにせよ、今のままではジェラールに対して有効打はない。

 

 

 

ジェラールはこの速さの世界でも次なる攻撃の手を打つ。

その速さのままに空中に魔法陣を描いているのだ。

 

「もう終わる。お前に本当の破壊魔法を見せてやろう」

 

魔法陣はすぐに描き終わった。

一際大きく光る魔法陣が7つ、一繋ぎに歪な線となっている。

 

そこから漏れ出る魔力の大きさにエルサは青褪めるも、ツバキは変わらず無表情のままで突っ立っている。

その姿を見て反撃の手はなしと判断したジェラールはほくそ笑む。

さらば妖精王、潔く死ねと。

 

「七つの星に裁かれよ、七星剣(グランシャリオ)!!」

「ツバキ!!」

 

隕石に相当する破壊力。

受ければ必滅。

大地は抉れ、体は五体満足ではいられない。

 

1人の人間に向けるにしてはオーバーキルが過ぎる魔法。

さぞ愉快な死体を見せてくれるのだろうと、期待に胸を躍らせるジェラールであったが。

 

 

 

 

 

 

「……は?」

「あ」

 

 

その魔法は掻き消えた。

いつぞやのジョゼと同じくまるで存在しなかったかのように、ジェラール渾身の破壊魔法は姿を消した。

そしてツバキにはその手があったと思い出し、一人慌てていた自分を恥ずかしく感じるエルザ。

 

「またしてもか……!一体何の魔法だというのだ!!」

固定(ロック)

 

ジェラールは理解しがたい現状に動きを止めてしまった。

その瞬間を逃さずにツバキはジェラールに手を向け呟いた。

 

そこから動こうにもピクリともしない己の体に驚きを隠せず焦りの表情を浮かべる。

流星の魔法は確かに発動する。

しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「クッソ、おのれぇ!!」

「そら」

 

ツバキは向けていた手を下へと向ける。

ジェラールは猛スピードで地面へと落下した。

勢いよく激突し、チカチカと目が点滅する。

 

「カハッ……」

 

瞬きの間に状況が逆転した。

そこから動けないように見えた。

 

 

星雲龍(ネビュラブレイク)!!」

 

ジェラールは倒れ伏しながらも攻撃の手は休めない。

落下中にも次なる魔法の準備を進めていた。

 

合わせた両手の内から発生した靄の如き塊から、龍を模した星雲のレーザーが9つほどツバキに向け迸る。

グランシャリオよりも攻撃の規模は小さいが、速さが段違いだ。

 

次々にツバキへと殺到する。

それらは悉く掻き消えた。

後ろから回ったレーザーも、ツバキは振り返って掻き消す。

 

「……ん?」

 

ここでジェラールが疑問の意を孕んだ声を上げる。

 

「今度はこっちから行くぞ」

 

ツバキはそう言い手両腕を左右に広げ、掌を広げる。

次の瞬間、ジェラールの流星により砕け散っていた当たりのラクリマが浮かび始めた。

 

そのラクリマの性質が変化する。

炎水氷土光鋼風といった様々な魔力に姿を変え、それらが一斉にジェラールへと牙を剥く。

 

「『上書き保存(オーバーライト)』、そして『移動(ムーブ)』」

 

自分の属性でもない魔法をいとも簡単に操作するツバキ。

高難度の魔法を一息の間に完成するその謎の魔法理論。

 

それらを回避しながらジェラールは思考を止めることはない。

 

 

「(塔の固定、装飾の一掃、そしてなぜか消える俺の魔法。他にも空中に固定やラクリマの材質変化と来たか………)」

 

果たしてジェラールはツバキの魔法に対して一つの結論を下した。

 

 

「……成程な。これが正解かは分らんが、いずれにせよ貴様の魔法の一端は理解できたぞ」

「………」

 

何も答えないツバキにと対してエルザは興味を惹かれた。

 

彼女もツバキが行使する魔法について幾度も考察したことがある。

ツバキに聞いてもなぜか答えてくれないのだ。

聞くたびにツバキはこう答えていた。

 

曰く、これは『ハッピーエンドを作り上げるための魔法』だと。

彼はそれを目指しているのだという。

この魔法はそれを実現するために必要なものだと。

 

分けも分からずその後もはぐらかされるばかりであったのだ。

 

 

 

 

「貴様のその空間操作が如き魔法、()()()()()()()()()()()()()()()()だろう」

「………」

 

ツバキは何も答えない。

 

「恐らく視認することがお前の魔法の発動条件だ。だから俺が流星を使っている間は俺に魔法を使えない。逆に放たれた魔法は原理は分らんが、視認して掻き消しているということ」

 

この僅かな時間でジェラールはそこまで見抜いた。

驚きの表情を隠せないエルザと無表情なままのツバキ。

ジェラールの考察結果はまだ続く。

 

「そしてわざわざ後ろに振り返って俺の魔法を見てから掻き消したのもこの条件が理由なら納得がいく。エルザが斑鳩と戦っているときに姿を消したのは、エーテリオンからこの塔を守るために()()()()()()()()()()()()ということか」

「そんな魔法が……」

 

エルザは開いた口が塞がらない。

ジェラールから聞いたツバキの魔法は到底信じられないものだった。

 

だがこんなチートみたいな魔法を行使されれば、聖十大魔導士が手も足も出ないのにも納得がいく。

塔の装飾の一掃やラクリマの材質変化も視認したからこそできたこと。

魔法も見てしまえばツバキに届くことはないのだということ。

 

………強すぎないか?と目が点になるエルザであった。

 

 

 

 

「これだけの大魔法。リスクがあって然るべきだが、そこまではわからない。だがどうだ妖精王?俺の仮説は当たっているかな?」

「………ハァ」

 

ふとため息をつくツバキ。

そしてジェラールへ向ける目の色を変えた。

 

「お見事だジェラール。俺の魔法を初見でここまで理解した奴はお前が初めてだ」

「そうか、それは光栄だな」

「だが、()()()()()()()()()()()。これ以上は言うつもりはない」

 

何、といったジェラールだがすぐに口を閉じる。

彼自身も「仮説」と述べていた。

これが満点回答という自信は端からなかったのだろう。

 

 

しかしこれで攻略法が見えた。

要は流星を行使し続ければ良いだけのこと。

多少魔力は浪費するが、それでもこいつは何もできないということが分かった。

 

「まぁ良い。次で終わらせる。流星!!」

 

再び超スピードで空を駆ける。

既にツバキの視認可能速度を超えているためツバキは何もできない。

 

「キャッ!」

「!?エルザ!!」

 

ジェラールはその速さのままにエルザを捕らえ、またも空中を飛び回る。

魔力を使い続け疲弊していたエルザは抵抗する間もなく、秒速数十キロの世界に投げ出された。

 

ジェラールは平気だが、疲弊した体でこの速さの世界に急に投げ出されたエルザを襲う強烈なG。

脳内や体内をかき回されるようなその感覚に吐き気を催す。

あと数秒もあればエルザの体も壊れてしまうだろう。

 

「ハハハ、何も直接お前を倒す必要はない!こうして人質をとるなどやり方はいくらでもあるのだからなぁ!!」

「うぐぁっ!」

 

悲鳴を上げるエルザの声が四方八方から木霊する。

その声に宿る悲痛さに険しい顔をして怒りを滲ませるツバキ。

 

「そうか、それが貴様のやり方か……」

「どうした妖精王!手も出せない、仮に何らかの魔法を使ったとしてもそれはエルザに直撃するだけだ!!」

 

姑息な手段をとるジェラールはまたもや逆転した形勢に酔いしれる。

ハッキリ言って魔法ではツバキの方が格上であることは間違いない。

しかしそんな彼を歯噛みさせるような状況を作り出したことに愉悦を感じていた。

 

 

エルザは涙を零す。

それは痛みからではない。

彼の足枷になっているという事実に対してだった。

一体自分は何をしているのだ。

彼に自らの仇をとってもらっているだけでなく、その邪魔をしているではないか。

 

こんな苦しい思いをするならいっそ、と。

エルザはツバキに希う。

 

「頼むツバキ!私のことは気にするな!私ごと攻撃しろ!」

「正気かエルザ?この状態で衝撃を食らったら間違いなく死ぬぞ?まぁ最早俺はそれでもかまわないが」

 

あれほどまでにエルザを生贄に捧げるつもりだったのに。

今ではもう要らないものとして数え、処分しようとしている。

 

ジェラールのその思考に。

エルザの自己犠牲精神に。

遂にツバキは限界を迎えた。

 

 

 

 

 

「エルザ、君は後でお説教です」

 

すうっと息を吸うツバキ。

カッと目を見開いた。

 

 

 

「『最大化(マクシマイズ)』」

 

そう声に出したその時であった。

 

「何だこれは!?」

「ふぇ…?」

 

ジェラールとエルザが()()()()()

エルザは理解の範疇を超え、すんごく可愛い声を上げる。

その声に悶えそうになるも、次なる一手をツバキは出す。

 

「『切替(スイッチ)』」

 

今度はエルザとツバキの位置が入れ替わった。

ツバキは怒りの形相でジェラールにつかみかかる。

 

 

ツバキはジェラールを視認できたわけではない。

彼が飛び回るその空間ごと巨大化させたのだ。

空中ごと巨大化した弊害により、彼らの周りは歪んだ空間が広がっている。

 

ジェラールたちが巨大化したことによりツバキはその姿を捉えることが可能となったのだ。

体が大きくなり、動きが相対的に鈍くなったところへ次なる魔法を行使したというわけだ。

 

「お前がいるからエルザは涙を流す」

「離せ、クソ野郎が!!!」

 

ジェラールは振り落とそうと抵抗を試みるも、ツバキは関節を器用に決めることでその動きを封じる。

そして右手を掲げた。

 

「お前みたいなやつには何を言ったって無駄だ。話を聞き入れるスペースがない。」

 

狂気に魅入られた者には話が通じないことをツバキは知っている。

 

自分が信じる世界や思想が正しいと疑っていないからだ。

そこに他人の考えや価値観、主張が入り込む隙などありはしないのだ。

 

 

 

大きく振りかぶった右手の拳をジェラールの腹へと突き刺す。

 

ドゴン!

 

 

その衝撃は辺りにまで響いた。

その拳の重さは隕石の如く。

されど打点はツバキの拳の大きさ。

 

一点集中でつぎ込まれたその圧力はいかなるものか。

 

 

 

「ごぶほっ……」

 

ジェラールは喀血しながら勢いよく落下する。

あまりに重いその拳を無抵抗で受けたその体は全身を引き裂かれるような痛みに襲われる。

 

体中が痙攣している。

立ち上がろうとする腕に力が入らない。

 

こいつは何なんだと混乱する頭の中でも、考えるのは理想の世界のこと。

 

こちらに歩み寄るツバキの気配を察したジェラールは、執念のみで体を起き上がらせる。

 

 

 

 

 

「痛みと苦しみの中でゼレフは俺に囁いた」

 

両腕をツバキに向ける。

その腕は震えていた。

 

「真の自由が欲しいかと呟いた」

 

魔法陣を描き始める。

その魔法は煉獄砕破(アビスブレイク)

目の前に立つ憎きツバキを殺すために塔をも消滅させる魔法を行使しようとしている。

 

「俺は選ばれし者。俺がゼレフと共に真の自由国家を創るのだ……」

「人の命や自由を奪ってまで創るものでもあるまい」

「黙れ、地獄を見たことがないお前に何が分かる……!」

 

荒い息を吐きながらもその魔法を発動した。

当然ツバキによって掻き消される。

 

「亡霊に縛られているお前に何を創れる」

 

ツバキがジェラールに向ける感情は最早怒りではなく憐れみであった。

こうまで彼が狂ってしまったその背景に、ツバキは気づいていた。

彼の体から迸る禍々しい気配に、懐かしい人の姿を見たのだ。

 

 

「(ウルティア。一体何が目的だ。君は意味もなくこんなことをする奴じゃないだろう)」

 

 

彼も被害者なのだろう。

エルザと同じく奴隷としてここに連れてこられ、苦しい日々を過ごした。

そんな中で狂気に堕ちても仕方がないのかもしれない。

 

 

 

それでも彼がした行いは到底許されることではない。

彼は多くの者を虐げた。

彼は多くの者を欺いた。

彼はエルザを泣かせた。

 

許すつもりはなかった。

だがそれでは救えない。

 

ハッピーエンドを目指すためには、彼も救わねばならない。

彼は根っからの悪人ではないのだから。

 

 

だからこそツバキはこの一撃を以て、

ジェラールが狂い苦しんだこの8年間に、

エルザが涙を流し苦しんだこの8年間に、

終止符を打つ。

 

 

「自分を解放しろジェラール。『初期化(リセット)』」

 

広げた掌をジェラールの体の中心に宛がう。

彼を柔らかな光が包み込み、そして収まる。

 

その光は攻撃魔法ではない。

 

あらゆるものを浄化し、

あらゆるものを元に戻し、

あらゆるものを解放する。

 

 

 

 

 

 

この8年間で一番苦しんだであろうジェラールが少しでも救われるように。

 

ツバキのその一手はこの楽園の塔で行われた戦いの中で、最も優しかった。

 

 

 

 

 




更新遅れて大変申し訳ございません。
素人が良い作品を作り上げるには時間が必要なもので……。

それでも楽しんでくれたら幸いです!


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幕間の物語Ⅰ

更新が遅れて大変申し訳ございません。
就活がひとまず落ち着いたので、上げます。
それではどうぞ!

また今回は物語を第三者視点ではなく、ツバキ・エルザ視点で構成しました。

勝手が分からないので恐らく駄文となっているかもしれませんが、ご了承ください。





「何泣いてんだ?」

「……お前は」

 

幼少期の記憶、成程これは夢かとエルザは理解した。

ジェラールとの戦いが終わり、気を失って自分はホテルで休んでいたのだったか。

 

長年の呪縛もツバキによって解かれたためか、懐かしいものを思い出していた。

 

思い出すは初めて彼と話したときのこと。

ロブおじいちゃんから教えられた場所にたどり着き、彼の知り合いだというマスターのもとに置かせてもらえるようになったとき。

奴隷だったみんなと一緒に自由のために立ち上がるも、ロブおじいちゃんを亡くし、ジェラールに傷つけられ。

 

トラウマを思い出し、一人泣いていた私に声をかけてきてくれたのがツバキだった。

 

お前には関係ない、と言おうとした次の瞬間のことであった。

 

 

 

 

 

「そっか、見ていて鬱陶しいから早く泣き止めよな」

 

 

絶句した。

最低すぎるその台詞に思考が停止した。

なんてことないように、鼻をポリポリ掻きながら言うその姿に。

 

聞き間違いかと思ったが、しかしそうではないことは目の前のこのぽけっとした顔を見れば分かる。

 

これまで優しく接しようとしてギルドの人たちを冷たく突っぱねていたのは私だったが。

しかし、まさか泣いている女子にこうも辛辣な言葉をかけてくる男がいるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

ちなみに後でわかったことなのだが。

これは「女子が泣いている姿は見ていて気持ちの良いものではない」と伝えたかったらしい。

彼の変な方向へのコミュ障ぶりに頭を悩ませるのは割といつものことなのだが、この時はそんな事分かるわけもなく。

 

 

「何だとお前っ!!」

「えあれ何でそんなに怒って…、あ、ちょ待っ」

 

思わず炎帝の鎧で殴ってしまったのも仕方ないことだろう。

……いや思い出しても本当に酷いな、コレは。

 

 

 

 

そこからツバキと奇妙な縁ができ、私は次第に妖精の尻尾に溶け込んでいった。

 

 

明らかに過去に何かあった様子の私の様子にみんなどう接したら良いか分からなかったのだろう。

ボロボロの衣服に失明した片目でギルドにやってきてまだ間もない頃だ。

気を遣うなという方が無理だ。

ジェラールに裏切られ親しい人たちとの別れを経験していた私は、当時誰とも馴れ合うつもりなどなかった。

 

 

グレイやカナが話しかけてきてくれても一切関わろうとしなかった。

周りも私を「そう扱う」ことに慣れてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁなぁエルザ、知っているか?猫の体って本当に液状化するらしいぞ?」

 

この男には全く通用しなかった。

毎度毎度途轍もなくしょうもない話題で私にかまってきた。

 

 

私がどれだけ「近づくなオーラ」を発しても無視し私に話しかけてくる。

初めは「うるさい」「関わるな」と言葉を荒げて距離を置こうとしていた。

暫く経つと何を話しかけられても無視するようにした。

それでもあいつは私に話しかけていた。

 

初めての頃に言われた「鬱陶しい」が離れないのだ。

このころは「お前の方が鬱陶しいではないか」と常々思っていた。

口を開くと更に面倒なのは理解できたので一切聞こうとしなかった。

 

 

どれだけ冷たく突き放しても。

どれだけ厳しく睨んでも。

 

彼は私にかかわることを諦めなかった。

 

 

 

 

 

それが何百回と続いたある日。

私はふと気まぐれに問うた。

 

「……なぁ」

「ん?どした?」

 

彼は恐らくほぼ初めての私の返答だというのに驚いた様子もなく答えた。

 

「どうして私にかまうんだ?」

 

ちょっとした意地悪も兼ねていた。

こいつはどんな返答をするのだろうか。

 

もし「放っておけない」とか「同じギルドのメンバーだし」

など、他の奴も言ってきたつまらない言葉を言おうものなら金輪際口はきかないつもりだった。

さぁ、なんて答える?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そりゃー、好きだからだよ」

 

 

 

 

………………は?

 

「え何、俺が毎日意味もなく話していたと思った?なわけないじゃん、俺どんなドMよ」

 

いやいやちょっと待って………。え?

 

「初めは綺麗な髪の色した女の子だなと思ってたんだけどな?話してみたら聞く素振りもないから、こりゃー意地でも返答貰うまで話しかけ続けてやろうって思ってな?」

 

待て本当に待て整理が追い付かない。告白されたのか私はもしや。

 

「毎日続けていると何かハマっちまってな?でも意外と話聞いているんだなエルザって。甘いものの話や服の話すると耳がピクピク動いているし、眉毛もちょくちょく反応するし、あれ意外と俺の話届いているんだなって思ってからは毎日『今日はどんな話題しようかな』って思って…」

「もういい黙れ貴様ーー!!」

「ぶほぇっ」

 

思わず煉獄の鎧で殴ってしまったのは仕方ないことだろう。

それぐらいの衝撃だった。

誰が告白されることを予想できようか。

 

 

しかも堂々とギルドの中で話すとは。

お陰で私の今までの冷たいイメージは綺麗に剥がれ落ちたみたいで、それからひっきりなしにメンバーと交流を持つことになった。

 

「ツバキに告白されたの?」

「彼のどんなとこが良いの?」

「返事はどうするの?」

 

と鬱陶しいことこの上なかったが、既に手遅れだった。

 

やがて、私はあいつの滅茶苦茶な言動に振り回されるようになり、その度に鎧で殴ることが日常となった。

こうなってからはもう自棄だ、と目についたギルド内の風紀を注意していたらいつの間にか風紀委員のようなポジションになっていた。

 

 

そして私はこのギルドにいることに居心地の良さを覚えるようになっていった。

こう思うようになったのもツバキのお陰と言えるだろう。

 

 

あいつはアプローチを変えるためかそれから一切無駄話をしに来なくなったが。

 

今となっては最早私に告白したの忘れているのではないか?

……あり得るな。

 

あれからギルドの一員として過ごしていくに連れツバキに惹かれ始めている自分に気づき、そこからは私からも何度かあいつに話しかけるようになった。

……我ながらチョロいな。

呆れて出る言葉がない。

 

しかし、私の心の鎧を解き放ってくれたのはあいつだった。

今回の一件でもあいつは私のことを守ってくれていた。

 

 

 

 

もう認めよう。

隠し続けるのは無理だ。

 

 

 

 

私は、ツバキが好きだ。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

その後のことである。

簡潔にまとめると以下の通り。

 

・戦闘が終了するも楽園の塔は完全に崩壊。

・崩落する瓦礫の中でツバキはエルザと脱出。

・生還後、シモンたちとの別れ。

 

 

ジェラールだが崩落していく瓦礫のなかで何とか見つけ出した俺は彼の体をはるか彼方へ飛ばした。

方向としては評議会がある。

少々手荒な送還となってしまったが、腕の中にいるエルザが気を失ったため早く離脱する為の致し方ない措置だった。

瓦礫の材質を柔らかいものへと変化し、周辺海域に出来る限りの配慮をしたうえで脱出した。

 

そしてホテルにてエルザが目を覚ました後、シモンたちとの別れのときが来た。

初めは勘違いから一方的に襲ってしまったとはいえ、本来は味方同士。

妖精の尻尾の様式に倣い、盛大な花火を打ち上げて送別会は終わった。

互いに禍根を残すことなく彼らは旅立っていった。

 

 

この一件の後、俺の頭の中は一つの疑問に頭を悩ませていた。

ウルティアのことである。

 

昔なじみの気配をジェラールの怨念から感じ取り疑問に感じていた。

事件後エルザからいろいろ話を聞く限り、どうもジークレイン(ジェラールの思念体だったが)の側近にウルティアと思しき女性がいるらしいが、それだけだ。

 

「(仮にも側近ならなぜあのような憎悪を植え付けた?)」

 

何度も考えた疑問だが答えは出ない。

 

ジェラールを憎悪に追いやることが目的ではなく、あくまで何かの目的のための「手段」なのか。

まさか本当にゼレフを蘇らせるために?いやしかし…、と考えるも。

 

 

 

「(まいっか。わかんねーし、なんか事情があるのかもしんねーし)」

 

いろいろ考えてみて分からんもんはとりあえず放置だ放置。

意味もなく凶行に出る輩ではないと知っているし。

また、思い出して悩んで放置するのループに入るのだろうが。

 

 

 

「(今度会うことあったら一言文句言ってやるか。さて、問題はこっちの女王様だな)」

 

目をやるとそこには強張った表情で正座するも、何故このような事態になっているか全く分かっていない様子のエルザがいた。

ちなみに場所はホテルの一室である。

 

「えーと、ツバキ。何故私は正座をさせられているんだ?」

「ん、分からない?」

「ひうっ!?」

 

普段あんまし笑うことのない俺の顔にエルザは身を竦める。

冷や汗をかくエルザに思わずため息を吐く。

 

「あのねぇ、エルザ。君は些か自己犠牲の精神が強すぎるよ。今回一体何度一人で問題を背負いこもうとしたか、まさか分からないわけないよね?」

「う…それは…。だって私の問題でもあったし……」

「いやもう完全に妖精の尻尾の問題だから。ナツたちがシモン君たちに襲われた時点でそうだから。ていうかエルザの問題なら俺たちの問題でもあるから」

「そうなのだが……いやそうだな。すまない」

 

妖精の尻尾の一員である以上、メンバー一人一人が家族と同義であるとはマスターの教えの通り。

皆が心の中に傷を抱えていても互いが思いやるからこそ、同じ時を楽しく過ごせる。

家族が困っていたら手を貸すのは当たり前のこと。

 

プライドが高いのか、皆を巻き込みたくなかったのか(おそらく後者だが)。

優しいからこそそう判断したのは分からないでもないが、ちょっとカチンときたので説教していた。

 

「分かってくれたのならもう良いけど。とにかくこれからはみなを頼ること。難しいなら俺だけでも良いから」

「え、良いのか?」

「おう、じゃんじゃん頼りなさい」

 

正座していたエルザに手をやり立ち上がらせる。

 

 

「……ありがとう」

「どういたしまして」

 

「(ぬお、エルザの手柔らかっ)」

 

相も変わらず煩悩まみれのツバキである。

 

 

 

☆☆☆

 

 

そして帰ってきた妖精の尻尾。

僅か数日離れていただけなのでが、ずいぶん久しぶりに感じる。

マグノリアの街に着き、ギルドの方向へ歩きやがて到着すると驚きの光景が待ち受けていた。

 

 

 

「スッゲー!!」

「完成したのか」

 

幽鬼の支配者との抗争で壊れてしまった私たちのギルドが新しく建て直されていた。

中にはオープンカフェにグッズショップ、プールに遊技場が出来上がっていた。

 

……何だこれは、私か。

私はこんな甲冑は着ないぞ、それに肌もここまで硬くない。

 

ウェイトレスの服も新調されている。

ほう、中々可愛いな今度着てみよう。

ツバキに見せたら喜ぶだろうか。

 

「(……ツバキはどういう反応をするだろうか)」

 

ツバキの方を見やると表情はいつもの如くあまり見えないが、目線はウェイトレスたちの方へ向いていた。

あいつめ……。

 

今回の事件で一つ分かったことは意外とあいつはいやらしいことだ。

水着でいたら結構視線を感じた。

下卑た感じではなかったし、寧ろあいつに見られて嬉しくないわけでは……、いやよそう。

 

ツバキの耳を引っ張り、椅子に腰かける。

 

「痛い痛いっ。どしたのさエルザさん?」

「ポーカーフェイスで隠しているつもりか?釘付けだぞ」

「えぇ…、鋭すぎでしょこの子。仕方ないじゃん刺激的な格好してたら思わず見てしまうのが男の性だよ?」

「む」

「え、ちょっと待って痛い痛い強くしないで」

 

コイツが他の女を観ているのは腹が立つ。

もうどうしようもないくらいに惹かれているので今更否定する気はないが。

 

 

 

「帰ってきたかバカタレども」

「マスター」

 

その後マスターの紹介で新たに元幽鬼の支配者のジュビアとガジルが妖精の尻尾に加入することになったと伝えられた。

ジュビアはともかくとしてガジルか。

我々のギルドを壊した張本人だからか皆が殺気立っている。

警戒が必要だな。

 

「マスターの判断なら従いますが、しばらく監視していた方が良いでしょう」

「はい」

 

マスターは微妙そうな顔をしながらも一応は納得してくれたみたいだ。

 

 

 

その後始まったいつも通りの乱闘騒ぎに懐かしさを感じつつ、私はケーキを落とされた恨みを晴らしに行った。

 

「私のケーキィィィ!!!」

「あーほらほら。俺の分けてあげるから。…聞こえてないか」

 

 

 




話が進まず、本当にすみません。
もう少しでBOF編入ります。


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