おじいちゃん指揮官による母港運営記 (喜多見 健)
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第一章 I forgot to remember to forget.
おじいちゃんといっしょ


初投稿です。


 アズールレーン陣営のとある母港では、一人の老人が執務に励んでいる。慎重に書類を読み込む目元には深く笑い皺が刻み込まれ、フレームの細い老眼鏡をかけた彼はまさしく「おじいちゃん」という表現がぴったりで、枯れ枝のような細い指が巧みにペンを操って書類に何かを書き込んでいる。

 

 そんな「おじいちゃん」の前に、コトリと控えめな音を立てて紅茶が差し出される。

 

 彼の管轄する母港の現在の秘書艦の一人、ウォースパイトのものだ。

 

「毎日精が出るわね。そろそろ休憩にしない?」

 

「あぁ、ありがとう……夢中になっていたよ。気を遣わせてしまったね」

 

 老眼鏡を押し上げ、おじいちゃんはにこりと柔和に笑う。それにつられるようにして「オールド・レディ」たるウォースパイトも笑った。

 

 彼女はこの母港の古参の一人で、現在のところ最長の秘書艦歴をもっている。先日秘書艦に複数を指名できるようになった後では、その豊富な経験を活かして「先輩の秘書艦」として事務教育係も担当してもらっているのだ。

 

 おじいちゃんは付箋にメモを取って書類に張り付け、そしてスペースを確保すると紅茶に口をつける。同じようにしてウォースパイトも紅茶を飲み始めた。沈黙が部屋を包むが決して不快な感じではない。以前とある艦が冗談めかして言った「熟年夫婦みたい」という言葉を思い出して、おじいちゃんはくすりと笑った。

 

「そういえば、今回の秘書艦は誰だったかね?」

 

「あら、もう記憶力が衰えちゃったのね。かわいそうに……」

 

 あまりにも辛辣な言葉だが、おじいちゃんはにこにこと笑ったまま首を横に振った。

 

「失礼な……。しっかりと覚えているよ。テラー、飛龍、アリゾナ、そして君、ウォースパイトだ」

 

 この母港の秘書艦制度は少し特殊で、ある程度の期間で未経験の艦を中心としたローテーションを組んで回している。できるだけ風通しの良い環境を、ということで陣営の垣根を取っ払い、指揮官との交流を狙ってのものである。ただしウォースパイトだけは固定で、未経験の艦は彼女に倣い秘書艦として経験を積んでいく。

 

「ところで指揮官、昨日の夕食は覚えているかしら?」

 

 ウォースパイトがいたずらっぽく問いかけると、おじいちゃんの顔から笑みがゆっくりと消え、不安げな表情が浮かぶ。

 

「え、ええと……白米に焼き鮭に……」

 

 指折り数えて思い出し、なんとか続きを絞り出すとウォースパイトはからからと笑い、それにつられるようにしておじいちゃんも笑った。



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おじいちゃんスイッチ「あ」:赤城が音もなく扉を開ける

 夕日がおじいちゃんのいる執務室に柔らかく差し込む。枯れ枝のような指に握られているペンはきらきらと夕日を反射し、まるで宝石のようにきらめいていた。

 

 今、秘書艦として事務を担当しているのは飛龍だ。ウォースパイト「先輩」から秘書艦のイロハを教え込まれた彼女だが、おじいちゃんが書類仕事を担当しているため出る幕がないようだ。

 

「ぼくにも仕事くださいよ」

 

 デスクに突っ伏したまま、不満そうに飛龍が言う。

 

「それでは、君のことを話してくれないか? 好きなものとか、趣味とか、なんでもいいから」

 

 これはおじいちゃんの得意の話術のうちの一つである。ラジオや音楽の代わりに部下である彼女たちの話を聞き、距離を縮めようとしているのだ。もちろん、書類仕事と並行しながらでも相槌や返事はする。おじいちゃんにとってはマルチタスクはお手の物だ。

 

 でも、飛龍はその言葉に戸惑う。彼女が一番話したいのは最愛の姉である蒼龍のことなのに、「君のことを話せ」なんて言われたのだから。

 

「あ、はい。ええと……ぼくはこの通りの口調ですからあんまり女子力がないと自負しています。だから、もっと女の子らしくなりたいって――」

 

「君は十分に女の子だよ飛龍」

 

 彼は書類から眼を上げ、飛龍を見つめて言葉を遮る。その言葉と眼光にたまらず飛龍は硬直し、そして顔を背けるとゆっくりと赤面した。

 

「女の子らしくなりたいとおもうならば、君は女の子だ。私が保証する」

 

 眼光は消え失せ、いつもの柔和な「おじいちゃん」が笑みを浮かべた。

 

「ん……ありがとうございます、指揮官。なんだかむず痒いですけど」

 

 頬を掻いた飛龍はにっと笑みを浮かべる。その笑みを夕日が照らした。

 

 そんな夕日は気にならないように、飛龍は指揮官のデスクに両手をついた。

 

「それで! ウォースパイト『先輩』のことはどうおもってるんですか!? 噂では指揮官とウォースパイト先輩はケッコンしてるって聞いたんですけど!!」

 

 上気した顔で、いや、わくわくとした様子で尋ねる飛龍をいさめる言葉を探すが、どれもしっくりくる言葉が出てこない。無意識に自身の左手薬指の古びた指輪に目を落とす。

 

 やっと考え付いた言葉を、おじいちゃんは口にする。

 

「――戦友で、親友で」

 

「指揮官様?」

 

 音もなく飛龍の背後の扉が開かれ、声の主がその姿をあらわす。その声には聞き覚えがありすぎるのか、飛龍は声にならない声を一つもらすとゆっくりと背後を振り向いた。

 

 無敵艨艟(むてきもうどう)と讃えられる空母、赤城が静かに二人を見つめていた。

 

「あぁ、赤城か。どうしたんだい?」

 

「どうしたもこうしたもありませんわ! 飛龍の言う通り指揮官様はあの女狐とケッコンしているのですか!? もしそうなら赤城はとても悲しいです……嫉妬の炎があの女を焦がしてしまうかも」

 

 大げさに悲しむ演技をしながら、ゆっくりと赤城はおじいちゃんへと歩み寄り、飛龍と肩を並べる。

 

「あ、あ、赤城先輩!? 落ち着いてください!!」

 

「これが落ち着いていられますか。この際真偽をはっきりさせておきましょう」

 

 赤城はおじいちゃんの左手の結婚指輪を細い指でなぞる。

 

「この指輪は、誰との結婚の証なのですか?」

 

 答えようによってはただではすまないことを理解してのか飛龍は青白い顔をしていたが、彼女も興味があるのかやがてわくわくとした表情を浮かべる。そして赤城に気づかれないように静かに花札を握った。

 

 もはや逃げられないと悟ったのか、おじいちゃんは老眼鏡を外し、ゆっくりとレンズの汚れを拭き取る。

 

「私の妻とのものだよ。もう死んで何十年にもなる」

 

 



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完治しない古傷

 夜、赤城は自室で頬杖をついて大きくため息を吐いた。姉の珍しい姿に、思わず同室の加賀はため息の理由を問う。

 

 聞けば、愛しの指揮官が既に結婚していたのに妻を先に亡くしていたとのことである。それだけならば「ただの」不幸な話で終わり、赤城がこれほどまでにショックを受ける理由などみあたらない。そのことについて聞いてみると「そんなかわいそうな指揮官様に満足な慰めの言葉すらかけられなかった」というのが本当の理由らしい。

 

「それで姉さまは恋をあきらめるのですか?」

 

 加賀は赤城の分もお茶を用意して問う。赤城は息を吸い込む。

 

「諦められるわけないじゃないの。でも、指揮官様が私とケッコンしても、指揮官様は前のお嫁さんをわすれられないでしょう?」

 

 赤城のその弱気な言葉にたまらず加賀はからからと笑う。赤城はむっとしたように口をとがらせるが、加賀は笑みを崩さぬままに言葉を紡ぐ。

 

「意外です。姉さまなら『前の女を忘れさせるくらい私に夢中にさせる』とでも言うと思いましたが」

 

 確かに、今までの赤城であればそんな言葉を……いや、もしかしたらそれ以上に苛烈な言葉を口にしていただろう。赤城はゆっくりと首を横に振った。

 

「指揮官様がこの話をしたときに、とても悲しそうな……泣き出しそうな顔をしていたから」

 

 赤城も今にも泣きだしそうな顔で、そう言った。

 

 

――  ――  ――

 

 

 そのころ執務室ではウォースパイトとおじいちゃんが和やかに談笑をしている。本日分の仕事も終わったのか二人ともリラックスした表情で、室内に笑い声が響く。

 

「そういえば今日、飛龍と赤城にもこの『指輪』のことを知ってもらったよ」

 

 少しだけ悲しげな表情でおじいちゃんは指輪に目を落とす。

 

「そう……」

 

 その言葉にウォースパイトも、同じように少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。彼女だっておじいちゃんの指輪の秘密は知っているが、おじいちゃんがこの話をするときに決まって悲しい顔をするのが彼女は嫌いだった。

 

「そんな顔をするくらい苦しいなら隠せばいいじゃないの」

 

 ウォースパイトは問うが、おじいちゃんは首を横に振った。

 

「体の傷は目で見えるが、心の傷は目で見えない。それがいったいどれだけ深いのか、どれだけ重症なのかがわからないから大変なんだ。だから心の傷を癒すには、その傷と向き合わなくてはならない。そして時間をかけて傷を治すしかないんだ」

 

 まるで学者のような口調で、言い聞かせるようにおじいちゃんは言う。それがウォースパイトに言い聞かせる文句なのか、彼自身に言い聞かせるものなのかはわからない。

 

「でも」とウォースパイトは思う。何十年も昔の傷を見つめ続けていても完治しない彼の傷は、いったいどれだけ深いんだろうと。



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その女、やべーやつにつき

 秘書艦の仕事は様々だ。書類の整理、事務作業、スケジュールの把握、メールや電話の対応その他諸々……。

 

 ただし4人の秘書艦全員で取り組むほどの量ではないため、秘書艦の中でも仕事の分担を行っている。秘書艦長の名をもつウォースパイトがおじいちゃんのスケジュール管理とメール、電話などの「外交」を担当しているため、書類整理や事務作業がほかの3人の主なものである。

 

 ただいまおじいちゃんは巡回という名の休憩中で、母校をその足で歩いて回ってはKAN-SENたちと交流したり、明石の店を冷かしているのだろう。

 

 はかない印象の黒髪の女性、アリゾナと、全身にツギハギ模様のある真っ白いふわふわとした髪の毛のテラーが今日は事務作業担当のようだ。テラーは事務作業がまだ苦手なようで、アリゾナの指示を仰ぎながらゆっくりと、でも確実に書類を仕上げている。

 

 アリゾナはテラーの質問に嫌な顔一つせずに丁寧に教えている。彼女は教え方が巧い。

 

 テラーが初めて事務書類を仕上げると、アリゾナはテラーの髪をやさしく撫でてやる。テラーもまんざらでもないようで、目を細めてされるがままになっていた。

 

 

「アリゾナさんは……私が怖くないですか……?」

 

「怖くなんてないわ」

 

 髪をなで続けたまま、アリゾナは答える。アリゾナの顔にも笑みが浮かんでいる。

 

 いつも以上に平和な空気が部屋中にあふれるが、そんな平穏もあっという間に破られる。壊れんばかりの勢いでドアが開かれ、姿を現したのはおじいちゃんの艦隊の中でもぶっちぎりでやべーやつの一角、アークロイヤルであった。

 

「妹の尊い顔が見れる気がしたぞ!」

 

 部屋に「飛び込んだ」アークロイヤルの姿にテラーとアリゾナは互いに抱き合っておびえている。アリゾナのそのしぐさはどこか嗜虐心を掻き立てられると考える諸兄もいるはずだ。

 

 あわやアークロイヤルの毒牙にかかる! アークロイヤルの手がテラーに触れる寸前にアークロイヤルの背後から手が伸び、そのまま後ろ襟をつかんで背負い投げのように床にたたきつけた。もちろん顔面から落ちた。

 

 アリゾナとテラーが何事かとみれば、飛龍がまるでヒーローのようなタイミングで悪漢を制圧していた。

 

「なぜだあぁぁぁ! 私はただ妹の尊い顔が見たかっただけなのにいいいい!!」

 

 顔面から落ちたのに鼻血一つ落とさずにアークロイヤルは叫ぶ。飛龍はアークロイヤルの右足をつかむとそのままずるずると引きずり、どこかへ去っていった。大方ベルファストにでも渡すのだろう。

 

「あの人、ロイヤルの……」

 

「テラーより怖い人、です」

 

 テラーの言葉にアリゾナはくすっと笑い、テラーもまた笑みを浮かべた。



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ここまでの登場人物紹介

 メモです。よろしくお願いします。


・おじいちゃん指揮官

 重桜出身の指揮官。アズールレーンから重桜が離反してレッドアクシズに加入した際はマドラスにいた。

何も知らずに新聞を読んでいたら重桜がアズールレーンから離脱したことを知り記事を四度見した。

 現在は様々なスパイ容疑を払拭してロイヤル陣営に所属しているがマドラスのさらに辺境へ追いやられている。普段の主な仕事は書類整理と資材管理。たまに出撃する際は石橋を木槌でたたいて渡るという慎重ぶりで、今まで一隻も未帰還のKAN-SENを出したことがないのが誇り。

 

 左手の薬指には古びた結婚指輪がはめられているが、これはKAN-SENとのケッコンのものではなく、重桜でかつて結婚したことの証明。ただし妻は何十年も前に死亡し、その心の傷をまだ癒せていない。

 

 性格は極めて温厚で柔和だが、こと戦闘においては老獪。幾重にも準備して、それから物量と練度ですりつぶす戦術を好む。これは艦隊の士気を考えてのことである。

 

・ウォースパイト

 おじいちゃん艦隊のエースにして秘書艦長。ふだんの二人のやり取りから「熟年夫婦」ともあだ名されている。おばあちゃんと呼ばれるとこめかみに青筋が浮かぶ。

 艦隊の主力のうちの一人で、レベルは120。装備もできる限り良いものを詰め込むだけ詰め込んでいる。

 普段は秘書艦としておじいちゃんのスケジュール管理、外交などを行っている。

 おじいちゃんの過去を知っているうちの一人。

 

・飛龍

 重桜が誇るぼくッ子。うさ耳。いい声。

 事務作業は苦手なためしょっちゅうメモ用紙で紙飛行機を作って飛ばしている。

 爆ぜろ五光と言いながら投げたらちっちゃい艦載機が出たのであわてて帰還させた。

 アークロイヤルに裏背負い投げをくらわしてベルファストに突き出すなど、縁の下の力持ちである。

 

・テラー

 てらーちゃんかわいいいいい!!!!

 ロイヤルネイビーのモニター艦。弾幕がすごい。「沈め」。恐い

 第二艦隊旗艦を務めるロリ巨乳。帰還したときのよしよしが非常ーーーーに下半身に悪い

 

・アリゾナ

 涙もろいユニオンの大戦艦。きっと動物のドキュメンタリーとか見るとぼろぼろ泣く。ペン姉さんも泣く。

 おどおどしながら致命の艦砲射撃してるのでとても怖い。しかも味方を回復できるので強い

 

・赤城

 重桜のやべーやつ。ただし指揮官が絡まなければまともという説もある。

 指揮官様大好き。

 意外にも駆逐艦のちびっこたちからは慕われているらしい

 

・加賀

 戦闘のときにやべーやつ。頭の中の解決法は逃がすか殺すかしかない。こいつだけ頭の中falloutの世界にいる。カルマは善良

 

 

・アークロイヤル

 ご存じやべーやつ。肝心な時以外役に立たない女。

 容姿端麗にして才色兼備。月も恥じらう彼女だが性癖がクソゲボ。しょっちゅう妹たちにちょっかいをだそうとして武闘派なKAN-SENに取り押さえられている。

 ただしシリアスなシーンでの活躍と安定感は随一で、ビスマルク追撃戦では彼女がいなければおそらく歴史が変わっていたはず。




メモでした。


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演習依頼

「指揮官! 大変よ!」

 

 執務室で書類にサインをしている最中のおじいちゃんにウォースパイトが詰め寄る。よもや委託に出張った艦隊に不幸でもあったかと全身の血の気が引く感覚を覚えながら、僅かに熱の残る満杯の紅茶を一口だけ口に含む。

 

 ぬるい。まずい。でも飲める……。

 

「そんなに慌てなくても良いじゃないかウォースパイト」

 

 心の中の動揺を表に出さないようにして、おじいちゃんはにこりと柔和に笑う。

 

「これが慌てずにいられるもかしら! なんたってねぇ――」

 

 ウォースパイトの言葉に、おじいちゃんは覚悟を決める。未帰還の艦でも出そうものならば立派な葬式をしてやろうと考え、棺桶に何を入れるのかさえ考えていたおじいちゃんはウォースパイトの言葉を待つ。

 

「私たちの艦隊に演習の相手をしろって連絡がきたのよ!?」

 

 ウォースパイトの言葉におじいちゃんは数秒硬直し、そして大きくため息を吐く。その様子を見てウォースパイトはぷりぷりと怒る。だがおじいちゃんが笑いながらそれを窘めると、ウォースパイトは落ち着きを取り戻したようだ。

 

「すまないねぇ、あまりにも慌てるものだから『死人』が出たと思ったよ」

 

「馬鹿なこと言わないで頂戴。あなたの指揮下でそんなもの出たら大問題よ」

 

 おじいちゃんは今まで、たった一隻も未帰還の艦、すなわち「死人」を出したことがない。それがおじいちゃんの誇りだ。

 

「それで、演習は何日後かな?」

 

「今すぐにでも、とのことよ」

 

 おじいちゃんが怪訝な顔をするとウォースパイトが大きくため息を吐く。

 

「『あの人』、いきなりここに押しかけてきたんですもの。きっとあなたと話したほうがわかってくれるわ」

 

 ウォースパイトは踵を返して演習相手の指揮官を呼びに行く。おじいちゃんは、はて、と思いを巡らせる。

 

 彼に戦いを挑む者は少ない。

 

 考えても意味はないということに気が付いたのか、おじいちゃんは残った紅茶を飲み干す。

 

 冷たいが、おいしい。ウォースパイトが淹れてくれた紅茶だ。

 

 香りも何もないすっかりと冷めた紅茶の余韻を楽しんでいると、控えめなノックの音とともに執務室の扉が開かれる。

 

 見れば、利発そうな顔をした青年が鋭い敬礼を繰り出していた。

 

 おじいちゃんは彼の姿を見て温和な笑みを浮かべ、青年もまた、にっこりと少年のように笑う。

 

「お久しぶりです! 『先生』!」

 

「あぁ、リディ。本当に久しぶりだねぇ。何年ぶりだろうか」

 

 万が一の時にすぐにでも殺せる位置にいるウォースパイトは手にした大剣を力強く握りしめている。そんな彼女の不安をぬぐうように、柔らかにおじいちゃんは言う。

 

「ウォースパイト、演習の用意をしてくれないか? メンバーは『いつもの』子たちだ」

 

「は? ……今から?」

 

 ウォースパイトからは信じられない文句だったのだろう。しかしおじいちゃんは『命令』を述べる。

 

「戦艦『ウォースパイト』。君を旗艦として演習を行う。至急演習艦隊を編成し位置につくように」

 

 ウォースパイトは戸惑いながらもその命令に対して敬礼を以て応え、足早に執務室から立ち去る。いきなり押しかけてきた指揮官との演習が始まろうとしている。

 

 



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Belli dura despicio

 リディという若い指揮官がアポイントなしに演習をしにやってきたことに軽く注意をし、おじいちゃんと若い指揮官は演習場へと向かう。KAN-SENの姿は見えない。おそらくすでに演習場で待機しているのだろう。

 

 おじいちゃんの母港では出撃はおろか演習を行うことすら稀だ。良い所せいぜい日々の哨戒や近隣の味方の援護として陽動などが主で、艦隊総力を以て敵を撃滅するなんてことはセイレーンが積極的に攻勢に転じてこなければありえないだろう。

 

 二人は演習場の見渡せるベランダに設置された椅子に座る。かすかな潮風が二人の男の肌をなでる。

 

 二人の指揮官の準備が整ったことを確認したのか、各艦隊が演習準備よしの声を上げる。その編成の速さに若い指揮官は冷や汗を流す。押しかけ同然で訪れたのにもかかわらず、10分もしないうちに戦闘準備を整えているのだから。

 

 おじいちゃんの艦隊はウォースパイトを旗艦とし、イラストリアス、レキシントンの空母二隻を両翼に展開。前衛にはおじいちゃんの初期艦である綾波と、近接雷撃に特化した愛宕。そして援護位置につくのが非常に巧みなプリンツ・オイゲンという構成だ。

 

 若い指揮官の艦隊は主力ロドニー、大鳳、レンジャー。前衛にシグニッド、ベルファスト、ケントといった編成だ。好みが透けて見える。

 

 おじいちゃんが若い指揮官をちらりと見遣ると、彼は気恥ずかしそうにふいっと顔をそらした。

 

 審判である明石が開始を宣言すると、両艦隊の前衛が一斉に前に飛び出した。

 

 

――――  ――――  ――――

 

 

 それからはもう滅茶苦茶なことになった。特出した綾波に全砲火を向けたリディ指揮官の艦隊であったが、綾波に命中弾を与えることができない。巧みにひらひらと、空中に木の葉が舞うように綾波の体が右に左に、時には空中に浮く。ならばと大鳳とレンジャーの艦載機が飛び立つが、すべからくイラストリアスの艦載機によって撃墜される。

 

 ならばとビッグセブンの一角、ロドニーの戦艦砲が放たれるが、綾波の頭上を飛び出した愛宕の白刃により砲弾は切り裂かれる。次いで飛来した弾幕も、プリンツの破られぬ盾によって防がれる。さすがに無傷とはいかなかったようで、プリンツは盾を一瞬で剥ぎ取られたうえで小破した。

 

 リディ指揮官は艦載機と艦砲の再装填を行うために前衛を下げようとするが、綾波と愛宕がそれを許さない。

 

「鬼神流奥義……!」

 

「あらら、どういじっちゃおうかしら」

 

 両艦は浮足立つリディ指揮官の艦隊に肉薄雷撃を行い、あっという間に前衛を壊滅させる。だてに酸素魚雷を積んではいない。

 

「じょ、冗談じゃ……!!」

 

 リディ指揮官の驚愕の声をよそに、おじいちゃんはにこにことしたまま旗艦、ウォースパイトとその脇で発艦準備を整えたレキシントンを見つめた。

 

「艦載機たち、いきなさい!」

 

 容赦ない攻撃がリディ指揮官の艦隊に突き刺さり、前衛の大暴れもあって残すは旗艦、ロドニーのみとなった。

 

 そして、示し合わせたようなタイミングで前衛の3人が離脱する。リディ指揮官とロドニーにはその意図がわからないようだが、今まで攻撃に参加していなかった「オールドレディ」と、急速に飛来する艦砲に気づいたのか青い顔をしていた。

 

「Belli dura despicio!」

 

 艦砲から煙を吐き出しながら、命中を確信したウォースパイトがつぶやいた。



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リディ・フロストという男

 リディという若い指揮官は嵐のような男だ。

 

 挨拶もそこそこに演習を行い、敗れたというのに晴れ晴れとした様子でおじいちゃんの艦隊に対して目をキラキラと輝かせてあれがすごいこれがすごいといった感想を口にする。

 

 もちろん自分の艦隊に対してもフォローは忘れず、あれをこうしたらもっとよかった、とかあの時の攻撃は完璧だったと熱意をもって艦隊をほめたたえている。きっと部下をほめて伸ばすタイプなのだろう。うらやましい限りだ。

 

「あぁよかった。これで安心して先生に出撃を依頼できます。何せウチの上層部は重桜出身の先生のことを快く思っていない人もいますので」

 

 リディはそういった後で意地悪気ににやりと微笑み、おじいちゃんに、わざと周りのKAN-SENたちにも聞こえるように話しかける。

 

「でも、ぼくらは別です。あなたの教え子はみな貴方を尊敬してますよ」

 

 その言葉におじいちゃんはいつものような笑みを湛えたままだ。

 

「ちょっと待って。いきなりすぎて話が見えないわ。私たちはあなたのことさえ知らないんだもの」

 

 ウォースパイトが言うと、リディはきょとんとしたように口をつぐむ。そして自分の嵐のような行動を思い出したのかわずかに赤面した。

 

「あぁ、ええと、失礼しました。ロイヤル海軍所属の『リディ・フロスト』です。階級は准将で、先生の教え子の一人です。今回は先生のお力をお借りしたくお邪魔いたしました」

 

 准将、という言葉におじいちゃんの艦隊の面々はたまらず顔を見合わせる。目の前の嵐のような男が将官だなんておもいもしなかったのだろう。目の前の反応にも慣れっこなのか気にせずにリディは用件を切り出す。

 

「ユニオンを中心として北方連合領域のセイレーン『要塞』に攻撃を仕掛けようとしています。同じアズールレーンという同盟である以上、ロイヤルとしても傍観はできません。しかし我々が出しゃばりすぎてユニオンの面目をつぶすのも好ましくありません。なので、先生、あなたには作戦領域外での陽動を行っていただきたいのです」

 

 先ほどの子供っぽさはどこへやら、リディはそう述べる。おじいちゃんは笑みを浮かべたまま、二つ返事で承諾した。

 

「ありがとうございます。『ユニオン及び北方連合によるセイレーン要塞攻落のための陽動作戦』、作戦名『ファイアフライ』を開始します。本作戦の全指揮権及び命令系統を先生にお任せします。必要であれば要塞攻落に参加しているユニオン、北方連合とも協力をしてください」

 

「了解」

 

 おじいちゃんは空気が切り裂かれる音さえ聞こえそうなくらい鋭く敬礼する。負けじとリディ准将も返礼した。



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ファイアフライ作戦① 

 ウォースパイトを旗艦としたおじいちゃんの艦隊は「ファイアフライ作戦」のために外洋で戦闘をしていた。

 

 まだ北方連合からは遠く離れているためかセイレーンの姿は見えず、こちらに攻撃を仕掛けるのは質の悪い量産型ばかりだ。こんな敵に後れを取るほどおじいちゃんの艦隊は弱くない。実戦経験は乏しいとはいえ自主訓練と座学は欠かさなかったその艦隊は、まるで一つの生物であるかのように蠢き、敵の量産型を次々と海面から消し去ってゆく。

 

「張り合いのないことだわ」

 

 艦砲を斉射したウォースパイトがインカムに向けてため息とともにそんな言葉を吐き出す。

 

「そう? ピクニック気分で戦闘するのもなかなか楽しいわよ。見渡す限り水平線っていうのはいただけないけど」

 

 ウォースパイトの愚痴に答えたのはプリンツ・オイゲンだ。彼女は散歩にでも出かけているような調子で言う。彼女の眼前では綾波と愛宕が敵陣の真っただ中に突撃し、縦横無尽に砲撃し、雷撃し、時には手にした武器で近接戦を仕掛けている。彼女は決して、綾波と愛宕から視線を外すことはない。常に援護ができるように目を光らせている。

 

 肝心のおじいちゃんはどうしているのだろうか?

 

 ――彼は空にいた。

 

 イラストリアスやレキシントンから発艦される艦載機とは別に、一機だけ烈風が上空を高く飛んでいる。まるで海鳥のように。

 

「指揮官? そろそろ疲れてきたんじゃない?」

 

「うぅむ……やはりブランクがあると体がついてこないね」

 

 ウォースパイトがちらりとその烈風を見遣りながら問うとノイズ交じりにインカムから声が返ってくる。

 

 彼の烈風は特別製だ。外装こそ重桜の戦闘機、烈風だが、武装を外して索敵に特化している。内装は根本的に弄り回し、航続距離と機動性を両立させて耐久力を犠牲にしている。そのため制空権が確保されていない海域では持ち出せないが、イラストリアスのおかげでたいていの海域でおじいちゃんはこれに乗って細かい戦場のコントロールを行っている。

 

「ウォースパイトさん、もうじき海域の敵を一掃できます。終わったら休憩しましょう」

 

「終わったわよ」

 

 愛宕の主砲が火を噴き、その反動を打ち消すように魚雷が放たれる。すかさず次が放たれ、最後の量産型に突き刺さると爆炎を上げた。

 

 狂犬だ、と綾波は思う。もちろん彼女も「ソロモンの狂犬」と呼ばれる駆逐艦夕立のことは知っているし、仲も良い。ただ、爆炎の中で髪の毛を揺らしながら獰猛に笑う彼女をほかにどう例えて良いのか綾波は分からない。

 

 愛宕は綾波に見られていることに気づいたのか、大きく息を吐き出すと刀を納め、いつもの温和な顔で綾波に笑みを投げた。目元だけは冷たく凍り付いたままで、綾波の背に寒気が走った。

 

「付近に敵影なし。指揮官のほうからは確認できる?」

 

「いや、こちらも反応はないよ」



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ファイアフライ作戦②

 周囲の海域の安全を確認した艦隊一行は少しばかりの休息をとった後で再び陽動のために動き出していた。やはりというべきか、セイレーン側も北方連合の要塞を攻撃している本体の対応に忙しいのだろう。相も変わらずセイレーンの姿はなく量産型だけが進路を遮る。上空から周囲の索敵と艦隊の支援を行っていたおじいちゃんの無線に少女の声が割り込んだ。

 

「こちらはセイレーン要塞攻落作戦中のUSSサラトガ。貴隊の所属を述べよ」

 

 幼げなその声色には緊張感が混じる。だがこちらの艦隊は暢気なもので、特にレキシントンは笑顔さえ浮かべて妹の声に反応した。通信に答えるのは指揮官であるおじいちゃんだ。

 

「こちらロイヤルネイビー。『ファイアフライ作戦』の総指揮をとっている」

 

 いつもの温和な声とは裏腹におじいちゃんの声色も緊張を孕む。一言でも間違えればこちらに砲弾が飛んでくる。幸いにもファイアフライ作戦の内容は伝わっていたようで、サラトガの声色は幾分かほっとしたようにおちついた。

 

「あぁ! あなたが『あの』おじいちゃん指揮官なのね! 作戦を手伝ってくれてありがとう!」

 

 「あの」というのがどういう意図を孕んでいるのかおじいちゃんは少しばかり気になったようだがそんなことを訪ねている場合ではない。

 

「何をすればいい?」

 

 険しい声色で問うが、サラトガはけらけらと笑う。

 

「もうすぐ海域の掃討もできそうだから今のところは特にお願いはないかな。今後は今日みたいな感じで敵を引き付けてくれるとサラトガちゃんうれしくなっちゃう」

 

「了解。海域を確保でき次第帰還する。気を付けて」

 

 眼下の艦隊はすでに敵のほとんどを撃滅している。おじいちゃんはサラトガとの交信を終えて残存勢力の掃討に思考を巡らせる。

 

 だが現場を知っているほうが強い。おじいちゃんがあれこれ作戦を考えている間に彼女たちは完璧に作戦を遂行していた。

 

 レキシントンの支援砲撃が必死に砲撃を行う敵艦に突き刺さり、イラストリアスの艦載機がおじいちゃんのすぐそばを飛びぬけて敵艦載機を撃墜する。ウォースパイトの砲撃が敵主力に命中したのか、爆発が起こる。そんな状況でも愛宕は爆炎の中に飛び込み、残存する敵艦を一切の躊躇なく破壊してゆく。

 

 プリンツ・オイゲンと綾波はそんな愛宕の戦い方をつぶさに観察していた。

 

 遠距離からは榴弾を叩き込み、近距離では雷撃し、雷撃が不発になるであろう至近距離では白刃で息の根を止める。おおよそ完璧ともいえる攻撃の方法だ。

 

 最後の一隻から今際の言葉のように砲弾が愛宕めがけて放たれるが、その砲弾も愛宕によって切り裂かれ、決して直撃することはない。

 

 母港では決して見せないような、感情さえも凍り付いた表情のまま愛宕は最後の敵に向けて砲撃する。当然のように砲弾が敵艦にめり込み、爆発した。

 

「作戦……完了っと。指揮官のおかげね」

 

 愛宕はいつものように笑う。でも目元だけは決して笑っていない。綾波とプリンツ・オイゲンはその笑みを見て、同時に同じ感想を抱く。

 

 彼女は間違いなく狂っているんだ、と。



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ファイアフライ作戦③

 セイレーンの声に耳を傾けてはならないと言われたのがいつだっただろうか。その声を聴いてしまうと海底に引きずり込まれるなんて伝承がある地方もある。そのセイレーンと、人類が戦っている「セイレーン」が同じものなのかはわからないが、確かに言えることが一つだけある。

 

「セイレーンの声に耳を傾けてはならない」。

 

 ファイアフライ作戦として敵をちまちまと攻撃していたおじいちゃんの艦隊はサラトガとの交信を終えた後に少しばかり遠回りをして周辺海域の掃討を行う。数だけ多い低練度の敵ばかりだが、物量で攻められてはたまったものではない。だからこそ叩けるうちに叩き、敵の士気をくじく。本隊はユニオンが対応してくれるのであれば、おじいちゃんが出しゃばる必要はない。

 

 つまみ食いのように敵を沈めているとおじいじゃんの艦隊はついにセイレーンを補足。敵側もこちらに気づいたのだろう。おおよそ人類には真似できない弾幕を張ってこちらを沈めようとしている。

 

 いつものようにおじいちゃんの艦隊は敵に対して砲撃し、海中に沈める。相手が人間と似ている姿をしていようが関係はない。「あれ」は敵だ。敵は殺さなくてはならない。そうしなければ自分が殺されるから。

 

 おじいちゃんの艦隊は一切の躊躇なく敵を撃滅する。わずかばかりの損害は出たようだが、ウォースパイトの主砲が敵セイレーンに命中し、セイレーンは海上に手足を広げたまま横たわった。

 

「……もう一度会いたい人はいない?」

 

 無線に割り込んできた声に艦隊一同と、おじいちゃんは凍り付いた。今までセイレーンに話しかけられた経験なんてない。それと、その声があまりにも人間に似ていたから。

 

「会わせてあげるわよ。あなたのお嫁さ――」

 

「撃て」

 

 セイレーンの言葉を遮るようにおじいちゃんが指示を下し、それと同時にウォースパイトが砲撃する。間違いなく直撃したはずだが、死体はどこにも見つからなかった。

 

 艦隊一同は動けない。

 

「……周囲に敵の反応なし。さあ、帰ろう」

 

 おじいちゃんは努めて温和な声色でそう言う。セイレーンの声に耳を傾けてはならない。

 

「……セイレーンの声に耳を傾けてはならないよ」

 

 セイレーンの声に耳を傾けてはならない……。

 

 だが、もし会えるとしたら?

 

 セイレーンの声に耳を傾けてはならない。セイレーンの声に耳を傾けてはならない。セイレーンの声に耳を傾けてはならない……。

 

 艦隊一同は一言も発しない。ただ水音と風の音、そして飛行機のエンジン音だけが広い海域に響いていた。



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蛍の光

 ファイアフライ作戦は突如として終了が告げられた。ユニオンが「要塞」を攻め落とし、すでに陽動も必要がなくなったからだろう。詳しい説明もなしに突然上層部から電話で伝えられたそれに、おじいちゃんは怒ることも悲しむこともなく、ただいつものようにニコニコと笑っている。反対にウォースパイトは今にも頭から火が噴出しそうなほどに怒りを抑えきれずにいた。

 

「せめてご苦労様くらいの言葉はあっても良いと思わないかしら!? 私たちだって不死身で不平を言わないスーパーガールじゃないのよ!?」

 

「しかたないよ。私は戦力として見られていないのだろうからね」

 

 元重桜、元鉄血でありながら現在はアズールレーン陣営に所属する指揮官は少数ながら存在する。おじいちゃんのように何も告げられずに国から捨てられたものもいれば、自分の意志で亡命したものもいる。そしてロイヤルという国はスパイ疑惑のある彼らを中枢に近づけるつもりはなかった。

 

「私はリディからの作戦をこなし、君たちも無事に帰ってきた。それだけで十分さ」

 

 そしておじいちゃんは紅茶を口に含む。それと同じようにウォースパイトもまた、紅茶を口に含んだ。しばらくはまた、いつもの日常がやってくるだろう。

 

「……『あのとき』のことを聞かないんだね」

 

 おじいちゃんが悲しむでもなく安堵するでもなくそう言う。ウォースパイトはどきりとしたようで、少しだけ咳ばらいを落とす。セイレーンから話しかけられた言葉は第一艦隊全員が聞いていたはずだ。

 

「あなたのお嫁さんはもういないわ。『あちら』と『こちら』を行き来できる方法なんてないのよ」

 

「そうだ。そうだとも。そうだとしても……」

 

 おじいちゃんは紅茶の入ったカップを両手で包み込み、目を落とした。

 

「そうであったら、よかったな、って」

 

 おじいちゃんはそうつぶやく。ウォースパイトが彼の「お嫁さん」について知っているのは、重桜に所属していた時に結婚し、そして死んだということだけだ。それ以上のドラマなんて必要ない。あってはならないと思う。

 

「『ウォースパイト』。私の昔話を……老いぼれの戯言を聞いてくれないか?」

 

「なぜ?」

 

「それは…………」

 

 おじいちゃんは言えない。心の傷を癒すために君に卑しい思い出をぶつけるなんて。しかしウォースパイトはにこりと微笑んで、おじいちゃんの瞳をまっすぐに見つめた。

 

「冗談よ。聞いてあげる」

 

 ウォースパイトのその言葉におじいちゃんは泣き出しそうな笑みを浮かべた。

 

 そして紅茶を一口、口に含んで、震える手でカップをソーサーに戻した。

 

「私の妻について話をしたいと思う。そうだとも。私が『結婚』をしたひとについてだ」

 

 

 

 

 



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Shall We Dance

 赤城は執務室の扉に耳を押し当てて中の会話を聞いていた。少しばかりの私用のための休暇を申請しようとしたのだが、部屋の中から聞こえてきたのは彼女にとって聞くのも恐ろしい彼の過去の出来事だった。

 

 気配を消して耳を扉にあてる。中の会話は鮮明に分かる。

 

「私の妻は死んだ。惨たらしく、人の形をとどめないままに死んだ。医者と科学者と軍人の実験材料として切り刻まれて、棺を開くこともできなかった」

 

 ひっ、と声が漏れる。それが赤城自身の声だと自覚するのに数秒を要した。

 

「彼女は……あいつは……私の幼馴染だった。なあ、酒をくれないか? これ以上話すには素面では少しばかり怖い」

 

「盗み聞きとは感心しないな。赤城」

 

 びくっと赤城の背が震え、声の主を見遣る。こつこつとわざとらしく靴音を立てて歩み寄るのはロイヤルネイビーの空母、アークロイヤルだ。いつもなら憎まれ口の一つでも叩くところだが、赤城はおびえたように彼女を見遣る。アークロイヤルは赤城の手を取るとそのまま引き、つかつかと歩き出した。

 

「ちょっと!」

 

 たまらず赤城は抗議するが、アークロイヤルは意に介さない。

 

「良い天気だから。貴女も来ると良い」

 

 赤城の抵抗は気にせず、アークロイヤルは静かにそう言う。途中で駆逐艦の何人かとすれ違ったが、アークロイヤルは見向きもせずにただ前を見つめていた。

 

「アーク・ロイヤル!!」

 

「うん?」

 

 ひらりとアークロイヤルは身をひるがえし、バランスの崩れた赤城の腰を抱いて顔を近づける。普段は髪で隠されている目元さえも赤城に注がれて、たまらず赤城は目をそらした。まだ廊下だ。

 

「『人間』には秘密の一つや二つあるもんさ」

 

 耳元でアークロイヤルがささやく。赤城がぞくぞくとした感情を思うと、アークロイヤルは赤城を押しやり、それでも手は握りしめたまま、社交ダンスのように舞う。

 

「さぁさあ! 舞踏会の始まり始まり!!」

 

 アークロイヤルは大げさに言う。廊下にいたKAN-SENたちは興味をそそられたのか、食い入るようにその様子を見つめている。

 

「ふざけないで! 私には――」

 

「今は踊る時間だ。君も応えてくれたまえよ」

 

 そう言われたとて、赤城だって社交ダンスの心得がないわけじゃない。アークロイヤルの手を引いて、無理やりフォックストロットのリズムに巻き込んでいる。アークロイヤルも少しは面食らったようだが、赤城のエスコートの通りに足を差し出す。

 

「巧いな」

 

「馬鹿にしないでくれますか?」

 

「あぁ、それは失敬」

 

 アークロイヤルは赤城の手を取って、たどたどしいフォックストロットに付き合う。

 

 赤城の頬に朱がさしていたことに気づいたの、たぶん誰もいないだろう。



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ここまでの登場人物紹介

・おじいちゃん指揮官

 重桜出身の指揮官。アズールレーンから重桜が離反してレッドアクシズに加入した際はマドラスにいた。

何も知らずに新聞を読んでいたら重桜がアズールレーンから離脱したことを知り記事を四度見した。

 現在は様々なスパイ容疑を払拭してロイヤル陣営に所属しているがマドラスのさらに辺境へ追いやられている。普段の主な仕事は書類整理と資材管理。たまに出撃する際は石橋を木槌でたたいて渡るという慎重ぶりで、今まで一隻も未帰還のKAN-SENを出したことがないのが誇り。

 

 左手の薬指には古びた結婚指輪がはめられているが、これはKAN-SENとのケッコンのものではなく、重桜でかつて結婚したことの証明。ただし妻は何十年も前に死亡し、その心の傷をまだ癒せていない。

 

 性格は極めて温厚で柔和だが、こと戦闘においては老獪。幾重にも準備して、それから物量と練度ですりつぶす戦術を好む。これは艦隊の士気を考えてのことである。

 

 ロイヤルに所属する過程でアグレッサー部隊の教官をしていたことがある戦闘機乗り。今ではもはや空戦軌道はできないが、人並み以上に飛行機を飛ばすことはできる。お気に入りは重桜の烈風で、中身を散々いじくり回している。しょっちゅう整備士に「これにジェットエンジンを積んでくれ」とせがんでいる

 

・ウォースパイト

 おじいちゃん艦隊のエースにして秘書艦長。ふだんの二人のやり取りから「熟年夫婦」ともあだ名されている。おばあちゃんと呼ばれるとこめかみに青筋が浮かぶ。

 艦隊の主力のうちの一人で、レベルは120。装備もできる限り良いものを詰め込むだけ詰め込んでいる。

 普段は秘書艦としておじいちゃんのスケジュール管理、外交などを行っている。

 おじいちゃんの過去を知っているうちの一人。

 

・飛龍

 重桜が誇るぼくッ子。うさ耳。いい声。

 事務作業は苦手なためしょっちゅうメモ用紙で紙飛行機を作って飛ばしている。

 爆ぜろ五光と言いながら投げたらちっちゃい艦載機が出たのであわてて帰還させた。

 アークロイヤルに裏背負い投げをくらわしてベルファストに突き出すなど、縁の下の力持ちである。

 

・テラー

 てらーちゃんかわいいいいい!!!!

 ロイヤルネイビーのモニター艦。弾幕がすごい。「沈め」。恐い

 第二艦隊旗艦を務めるロリ巨乳。帰還したときのよしよしが非常ーーーーに下半身に悪い

 アークロイヤルの毒牙にかかりそうだったところを飛龍に救われたので、友達になってるらしい。

 

・アリゾナ

 涙もろいユニオンの大戦艦。きっと動物のドキュメンタリーとか見るとぼろぼろ泣く。ペン姉さんも泣く。

 おどおどしながら致命の艦砲射撃してるのでとても怖い。しかも味方を回復できるので強い

 アークロイヤルの毒牙にかかりそうだったので飛龍には頭が上がらない。でも飛龍はアリゾナさんなんて

眼をきらっきらさせて尊敬してるもんだから困っちゃう

 

・赤城

 重桜のやべーやつ。ただし指揮官が絡まなければまともという説もある。

 指揮官様大好き。

 意外にも駆逐艦のちびっこたちからは慕われているらしい。メンタルは弱め。

 アークロイヤルとのフラグが立ったとか立たないとか

 

・加賀

 戦闘のときにやべーやつ。頭の中の解決法は逃がすか殺すかしかない。こいつだけ頭の中falloutの世界にいる。カルマは善良。

 普段は教練したりと非常に優秀なお姉さん。そのため駆逐艦たちから好かれている。委託完了時に飯も食わせてくれる。

 

 

・アークロイヤル

 ご存じやべーやつ。肝心な時以外役に立たない女。

 容姿端麗にして才色兼備。月も恥じらう彼女だが性癖がクソゲボ。しょっちゅう妹たちにちょっかいをだそうとして武闘派なKAN-SENに取り押さえられている。

 ただしシリアスなシーンでの活躍と安定感は随一で、ビスマルク追撃戦では彼女がいなければおそらく歴史が変わっていたはず。

 おじいちゃんの艦隊では性癖はそのままに空気を読む力が少ーーーーーーしばかり上がった。ほんと駆逐艦がからまなければとんでもなく良い女

 

・綾波

 おじいちゃんの初期艦。酸素魚雷積んでる。改造もしてる

鬼神の力をこれでもかと味あわせてくれる頼もしい子

母港では部屋に閉じこもってばかりだが友達は多く、陣営の垣根を超えた交友関係をきづいている

 おじいちゃんの艦隊のエースの一人。

 

・愛宕

 重桜のやべーやつの一人。お前のとこの陣営やべーやつしかいねーのか

 おじいちゃん相手にれつじょうを催すわけにも行かず、やべーやつとの評判とは裏腹に器量、態度、戦力よしととても良い娘。重桜だけでなく他の陣営の艦からも好かれる頼もしいおねーさん。ただしたまりにたまったものが戦闘で解消されるのか自発装填を切り札に白刃を構えて肉薄雷撃する。怖い。酸素魚雷積んでる

 

・プリンツ・オイゲン

 防御のエース。カチカチ。

 皮肉屋だが間違ったことは言わない。ウォースパイトとよく衝突しているがなんだかんだ仲はいい。酒飲みだが弱い。多分最初に思いっきり飲んであとからぶっ倒れるように寝る

 自分の役割を理解しており、決して主役になれないであろう仕事も嫌な顔せず引き受ける聖人

 当然のように援護して万が一でも援護対象が大破したらお姫様抱っこで連れて帰る王子様。でもその仕草も演技だって気づいている。この世界という舞台で演技をしているんだという厭世的な性格をしている

 

・レキシントン

 艦載機たちをぶつける。侮れない制圧力を持ってる。

 太ももが目に毒

 とんでもねえ火力と航空支援まで持ち出した船。つよい。

 母港ユニオン寮のお母さん的存在。たまにチビ共にお母さんと呼ばれる

 

・イラストリアス

 こいつとプリンツのおかげでカチカチ艦隊になる。一人で制空権取れるとんでもねえ奴。

 ふだんは穏やかな淑女だが事戦闘においては抜かりなく作戦を遂行する。爆撃機を詰めない自分の枠割をようわかっているため、油圧カタパルト二段積みや耐久特価の構成をしている

 歌が好きでよく口ずさんでいる

 

・リディ・フロスト

 おっぱい星からきたおっぱい星人。とんでもねえ奴。まるで無垢な少年のようにころころ表情を変える。おじいちゃんを先生と慕う。

 こんなやつでも准将。

 ただし作戦指揮に関しては天才的で、オーケストラのように

、をモットーに指揮をしている。演習では指揮官が出せなかったのでそもそも負け戦だった。

 ロイヤル内部では少ないおじいちゃん一派の一人。



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(キャラ的に)死に至る病

 アークロイヤルと赤城という母港でも指折りのやべーやつらのダンスパーティはいつしか野次馬を巻き込んでの乱痴気騒ぎとなって幕を閉じた。どこからかぎつけたのか明石と不知火はちゃっかり出店まで用意して物販にいそしんでいた。

 

 ロイヤルメイド隊、特にベルファストはアークロイヤルが駆逐艦たちをほったらかしに赤城とダンスを踊るのか理解できないようで、頭に疑問符を浮かべたまま立ち尽くしていたことは言うまでもないだろう。

 

 翌朝の日差しとともに赤城と同室の加賀が目にしたのは頬杖をついて窓の外を見つめ、ため息を吐く一航戦、赤城の姿であった。

 

「昨日はずいぶんと楽しめたようですね」

 

 加賀がそんな様子を茶化すように、いつも通りの声色で言う。赤城はのろのろとした動作で振り返り、加賀を見つめる。目元には深くクマが浮かんでいる。寝ていないのだろうか。

 

「まさか私が、指揮官様以外とダンスをするなんてね」

 

 ふっと自嘲気味に笑い、赤城は再び窓を見つめる。ガラスに映る瞳は焦点を結んではいない。

 

 加賀も赤城の反応は予想外だったのか、ぱちくりと瞬きをすると咳ばらいを一つ落とす。

 

「眠ったほうが良いですよ、姉さま」

 

「眠くないの」

 

 ささやくように赤城が言うと、加賀は大きくため息を吐いて朝食の準備を始めた。

 

「……あなたからみて、アーク・ロイヤルとはどんな人かしら?」

 

「ロイヤルの空母としては精鋭です。ただし駆逐艦に対する性癖さえなければの話ですが」

 

 赤城の問いかけに加賀は握り飯の用意をしながら答える。赤城はその言葉に満足したのだろうか、ふふ、と笑い声を一つだけ落とした。

 

「なんであの人は私と踊ってくれたのかしら」

 

「ただの気まぐれでしょう。深く気にすることじゃありませんよ」

 

 そっけなく加賀が言うと、赤城はそれっきり黙り込んだ。

 

「恋でもしましたか?」

 

 加賀がからかうように問うが、赤城は答えない。笑うでもなく怒るでもなく、ただ窓から外の景色を見つめていた。たまらず加賀はぎょっとしたように赤城を見つめる。

 

 赤城は窓辺によりかかったまま、すやすやと穏やかな寝息を立てていた。加賀はそんな赤城の様子にたまらず笑い、握り飯を作り終えると手を洗って、赤城を彼女の布団に運ぶために彼女のもとへ向かう。

 

「……恋とは赤城姉さまをここまで狂わせるのですか?」

 

 加賀だって赤城がおじいちゃん指揮官に好意を抱き、そしてその恋が彼の亡き妻によって阻まれたことは知っている。加賀は恋を知らない。

 

「恋とは、猛毒ですね」

 

 赤城を担ぎ上げ加賀は小さく小さく、赤城に聞こえないくらいの声でつぶやいた。

 

 

 



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壁に耳ありとは言うけれど

「指揮官! 今夜は何が食べたいですか?」

 

「タコが食べたい」

 

「タコ!?」

 

 朝から飛龍が尋ね、おじいちゃんが答え、ウォースパイトが叫ぶ。

 

 この母港の食事事情は少し特殊だ。基本的には各KAN-SENたちは所属陣営の寮舎で食事や睡眠をとることになっているのだが、希望すればKAN-SENもおじいちゃんもどの陣営の食事でも食べられる。おじいちゃんはできる限り各陣営の寮社を回り、近況報告や母港の不満、改善の要望を聞いて回る。

 

 ローテーションでは今日はおじいちゃんの食事は重桜寮だ。もともと重桜出身のおじいちゃんは、やはり故郷の味が恋しいのだろう。

 

 さて、そんな望郷の念を引き裂いたウォースパイトはといえば、青い顔で信じられないというような顔でおじいちゃんを見つめている。

 

「タコって……あのタコ? 8本脚の、ぐねぐねした……」

 

「そうだよ。重桜ではよく食べたものだ。特に煮物が美味い」

 

「いいですよねぇ、タコ。刺身もいいですし、から揚げでもおいしいですし」

 

 飛龍とおじいちゃんはタコに思いをはせ、目をつむってうんうんとうなづく。ウォースパイトは青い顔のままアリゾナとテラーを見遣ると、彼女たちも信じられないという風におじいちゃんと飛龍を見つめていた。

 

「そんなに驚かなくても良いじゃないか。そうだ、君たちも今日は重桜で――」

 

「嫌よ」

 

「ごめんなさい……」

 

「無理です……」

 

 おじいちゃんの提案に、ウォースパイト、アリゾナ、テラーは即座に否定を述べた。

 

「おいしいんですけどねえ」

 

「おいしいんだけどねぇ」

 

 飛龍とおじいちゃんは残念そうに言うが、おそらくロイヤル、ユニオン陣営にはタコを食うということが理解できないだろう。

 

「さて、指揮官の希望も聞いたところでぼくは少し寮に行ってきますね」

 

 飛龍は書きかけの報告書の上にペンを置いて文鎮代わりにし、そそくさと部屋を後にした。

 

「そういえば、ここにきてからタコを食べたことなかったなぁ。もしかして市場とかでは置いてないのかな。ウォースパイト先輩たちの反応もあんなのだったし……」

 

 そんなことを考えながら飛龍は廊下を歩く。すると珍しいことに、明石も廊下を歩いていた。

 

「明石! 良い所に」

 

「にゃ?」

 

 明石は背後からかけられた声に振り向く。

 

「タコって売ってますか?」

 

「さっき赤城からも聞かれたにゃ。これから買い付けしに行くから外出許可をもらうために指揮官のとこにいくつもりだったにゃ。それで、飛龍はタコがいくつ必要かにゃ?」

 

 明石の言葉にたまらず飛龍は冷や汗を一つ落とす。

 

「あー、えーっと、赤城先輩とぼくの用事は同じだとおもうんですけど、とりあえずぼくにも1杯ください」

 

 その言葉ですべてを察したのか、明石も冷や汗を一つだけ流すと指揮官のいる部屋を見つめた。

 

「まさかにゃ……」

 

「まさかですよね……」

 

  



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食事は人生のオアシス

 夜。本日の分の仕事をすっかりと片付けたおじいちゃんは消灯と戸締りを確認して廊下を歩く。いつも付き添っているウォースパイトもこの時間までは一緒にはいない。念願のタコが食べられるとあってか、心なしかおじいちゃんの顔に浮かぶ笑みはいつもよりも深く見える。

 

 いったいどんな料理が食べられるのか期待に胸を膨らませながらおじいちゃんは重桜寮の扉を開ける。するとまっていましたと言わんばかりに赤城と加賀がおじいちゃんを出迎えた。

 

「指揮官様、お待ちしておりましたわ。今夜のお食事は僭越ながら私もお手伝いさせていただきましたのよ」

 

「皆、もうそろそろ食堂に集まるだろう。指揮官、お疲れ様」

 

「気を遣わせてしまってすまないね、赤城、加賀。何か変わったことは?」

 

「平和そのものだ。あの陽動作戦いらい出撃らしい出撃もないのだから当然だな」

 

 他愛もない話をしながらおじいちゃんたちは食堂へと向かう。今はロイヤル所属とはいえ、生まれも育ちも重桜なおじいちゃんにはやはり重桜の雰囲気があっているのだろう。

 

 加賀が食堂の扉を開けると視線が注がれる。数人から遅い、腹が減ったというクレームがあったが、おじいちゃんはそれを笑い飛ばすと彼の指定席へと腰かける。

 

 彼の指定席は扉から一番近い角の席、末席だ。そしてその横には当然といったように綾波が腰かけている。彼が重桜に所属していた時からおじいちゃんに従ってくれている初期艦だ。

 

「さて、ご飯にしましょう」

 

 にこにことした笑顔で愛宕が言うと、いただきますの声が食堂に響く。そして和やかな喧騒が周囲を包む。

 

 おじいちゃんは食事を見やる。なるほどタコが食べたいというリクエストはしっかりと聞き入れてくれたようで、タコと里芋の煮物がおかずのようだ。そして、身を大きく切ったタコ飯が茶碗によそわれている。刺身でもから揚げでもなく、タコ飯と煮物というのがニクい。

 

「綾波、最近どうだね? あまり部屋から出てこないと聞いたが」

 

「ロング・アイランドに新しいゲームを教えてもらったのです。しばらくそればかりしていたので」

 

「ピコピコも良いが、たまには日光を浴びないと体に悪いよ」

 

「ピコピコじゃないのです。日光は部屋に差し込むのを浴びているのです」

 

「まったく。昔はこんな子じゃなかったのになあ」

 

 互いに軽口をたたきあいながら二人は食事を続ける。初期艦の綾波にはさすがの赤城も強く出られないようで、口惜し気に二人の様子を見つめていたが加賀と蒼龍が赤城の注意をそらして何とか平和を維持していた。

 

 



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海上回廊

 リディ・フロスト准将とおじいちゃんは母港の応接室にいた。おじいちゃんの隣にはウォースパイトが腰かけ、リディの隣には鉄血の戦艦、フリードリヒ・デア・グローセがおじいちゃんとウォースパイトを舐め回すように見つめている。

 

 今回のリディの訪問はあらかじめアポイントを取ってのものだったためおじいちゃん指揮下のKAN-SENたちはロイヤルメイド隊を中心に歓迎の準備も整えてある。ただし意外だったのは秘書艦として演習の時の旗艦だったロドニーではなく、鉄血陣営のグローセを連れてきたことだろう。

 

 ともあれ、リディとグローセはにこにことしたまま、促されるままに応接室の柔らかな革張りのソファにその体をうずめている。

 

「まずは先日のファイアフライ作戦完遂ありがとうございました。おかげで北方連合の要塞を無力化できました」

 

「ユニオンへの恩も売れたね」

 

 おじいちゃんが若干皮肉気に言うと、リディは意地悪気ににやりと笑う。おじいちゃんはいつも通りにこにこと柔和に笑みを浮かべたままだ。

 

「それだけじゃありません。ロイヤル内部でも先生に懐疑的だった指揮官連中が先生の力を認めつつあります。いずれきっと、先生を『中央』に戻して見せます」

 

 そしてリディは一つ咳ばらいを落とす。

 

「今日は、また先生にお願いをしに来ました」

 

 リディは溌溂とした、見ているこっちがまぶしくなりそうなきらきらとした眼でおじいちゃんを見つめて「お願い」を切り出す。おじいちゃんはにこにこと微笑んだまま、リディの言葉を待つ。

 

「何かね?」

 

「ファイアフライ作戦で先生がセイレーンと会敵した海域の哨戒をお願いします」

 

 その言葉におじいちゃんの顔から笑みが溶け落ちる。リディの顔が見てわかるほどにさっと青ざめ、汗が滴る。グローセはリディの手をゆっくりと握ると、耳元で何かをつぶやいている。

 

「……あの海域に戦略的な価値を見出せないが?」

 

 おじいちゃんが凍り付きそうなほどに冷たい声色で言うと、言葉を紡げないリディの代わりにグローセが回答を述べた。

 

「あの海域をユニオン、北方、そしてロイヤルの3陣営が行き来するための安全な海路にしたいの。空中回廊ならぬ『海上回廊』っていうところね」

 

 その言葉を聞き、おじいちゃんは少しばかり考え込む。

 

 ウォースパイトは気が気でない。もしもまたセイレーンに話しかけられたなら、どうなるかわからないのだから。

 

 そんなウォースパイトの心配を知ってか知らずか、おじいちゃんはあっという間にいつものような笑みを浮かべる。

 

「わかった、やろう」

 

「え、へあ……あ、ありがとうございます……?」

 

 リディは緊張の糸が切れたのか情けない声を漏らすが、すぐさま咳ばらいをすると気持ちを切り替える。

 

「そ、それでは『海上回廊構築作戦』、作戦名『サイレントシー』を開始します。本作戦の全指揮権及び命令系統を先生にお任せします。物資など必要なものがありましたら何なりと言ってください!」

 

 ウォースパイトは思う。

 

 なんでおじいちゃんはあの海域に行くことを断らなかったのだろうかと。

 

 ひょっとしたら、またあのセイレーンと話をするつもりなのだろうか、と。

 

 



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サイレントシー作戦

 きっとセイレーンはこれを見せたかったんだと思う。

 忘れていたあの葬儀の光景を。


 ウォースパイトを旗艦とする第一艦隊とおじいちゃんが操る烈風は作戦海域を哨戒している。周りには敵の反応は一つとして無い。

 

「……良かったの? またセイレーンの声を聴くかもしれないのよ?」

 

 ウォースパイトがインカム越しにおじいちゃんに問うが、おじいちゃんは答えない。いつもなら朗らかに笑い飛ばして軽口の一つでも叩くだろうに、おじいちゃんは無言を貫く。

 

 重苦しい沈黙の気配は第一艦隊を支配している。

 

「はっきり言うけど、あなたの奥さんは――」

 

 煮え切らない態度に頭に来たのだろう。ウォースパイトが喝を入れようと声を荒げて無線に言葉をたたきつけようとするが、その言葉は紡がれることはない。プリンツ・オイゲンがウォースパイトの腕をつかみ、首を横に振っていた。

 

「……あぁ、わかっているさ」

 

 おじいちゃんは絞り出すようにそれだけ呟く。おじいちゃんの飛ぶ空は海と同じく突き抜けるような青だ。

 

「わかっていないわ」

 

 突然無線に割り込んだ声にたまらず一同に緊張が走る。さっきまで敵正反応なんて確かになかったのに、瞬きほどの一瞬の間にたった一つだけ、おじいちゃんのレーダーに輝点が増えていた。

 

 そして次に瞬きをすると、第一艦隊の輝点が消えて、キャノピーの外はおぞましい黒雲が渦巻いている。どうやら鏡面海域におじいちゃん一人だけ引きずり込まれたらしい。

 

「あなたはまだ心の奥底で願っているのよ。あなたのお嫁さんが生きているはずだって。だって死体は見られなかったんですものね。ふふっ。よく思い出して? 『本当に見なかったの?』」

 

 まるで耳元で話しかけられるような明瞭な声色が鼓膜を震わせる。途端に、おじいちゃんの記憶の奥底に封じ込めていたものが弾けた。

 

 葬儀の場で半狂乱になった軍服姿の青年が周りの制止を振り切って棺桶に走り寄り、力任せに棺桶の蓋をこじ開ける。烈風を操縦するおじいちゃんの意識だけは青年の背後に呆然と立ち尽くしている。

 

 そして、青年の視界とおじいちゃんの視界がリンクして、棺桶の中の光景が映し出される。

 

 棺桶の中には顔に真っ白な布を被された人の形が、女物の着物を着せられて横たわっていた。首から下の素肌は真っ白な布で覆われている。

 

「やめろ……」

 

 「おじいちゃん」は記憶をたどりながら声を絞り出す。だが、彼の青年時代の記憶は再生を続ける。

 

 青年は力任せに顔の部分の布を剥ぎ取る。棺桶の中の遺体と目が合った。

 

 顔の部分は真っ白な紙と布で輪郭が作られていて、かろうじてかき集めたのであろう部位が――目と、右耳と、真っ二つにちぎれた鼻と、下だけの唇と、頬肉の一部が福笑いのように真っ白なキャンバスに設置されていた。

 

 彼が心から愛した女の面影はどこにもなかった。



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決して色褪せない

 第一艦隊は混乱の只中にある。突如セイレーンから話しかけられ、おじいちゃんの姿が消えたのだから。そしてそれと同時に敵の大艦隊が現れた。

 

 ウォースパイトは努めて冷静を装いながらおじいちゃんに代わって艦隊の指揮を取る。幸いにも敵の練度はさほど高くはないが物量が多すぎる。

 

 砲身が焼け付くほど砲撃をしているが数が減る気配はない。

 

「おじいちゃんを探す前に目の前の敵を片付けるわよ!」

 

 イラストリアスとレキシントンの艦載機も空狭しと飛び回り、雷撃や爆撃を行う。前衛の3人は波しぶきを切り裂きながら敵をかく乱し、特に綾波が誘い出した敵を愛宕が仕留め、オイゲンが援護をするおじいちゃん仕込みの連携は効果的なようだ。

 

 まだまだ敵艦の数は減らない。

 

 

――  ――  ――

 

 

「思い出したよ」

 

 鏡面海域の空を飛びながらおじいちゃんは力なくつぶやく。

 

「思い出した……。■■■は……あいつは……生きてるはずはないんだ……」

 

 おじいちゃんの返答に満足したのか、セイレーンは穏やかにおじいちゃんの操る烈風を見上げている。

 

 一体セイレーンはどうしてこの光景を思い出させたかったのだろうか。そして、なぜおじいちゃんを殺さないのだろう。

 

「……以前、会わせてくれると言ったね?」

 

「えぇ。私たちについてくれば、貴方が愛した姿のお嫁さんに会わせてあげるわ」

 

 その言葉におじいちゃんは小さく息を吸い込む。

 

「断る。あいつは『死んだ』んだ」

 

「そう……」

 

 セイレーンはこころなしか残念そうに言う。一体何を考えているのだろうか。

 

「じゃあ、貴方たちの手で決着をつけることね」

 

 意味深にセイレーンは言う。おじいちゃんが操る烈風のレーダーに輝点が1つ増え、次いで6つの新たな輝点が現れた。

 

「指揮官!!」

 

 聞きなれたウォースパイトの声がおじいちゃんの鼓膜を揺らす。

 

 ウォースパイトは目の前の存在を――新しく増えた輝点の正体を見つめ、驚いたように目を見開く。そこには確かに、人間の女性がいた。

 

 艦隊一同もセイレーンともKAN-SENともことなる存在に、視線を固定しながらも動揺は隠せないようだ。とりわけ綾波ははた目から見てわかるほどに恐怖している。

 

「指揮官……報告です……奥様が……」

 

 綾波が震えた声で言うと、おじいちゃんは大きくため息を吐いた。

 

「決着をつけよう。私が命じたら、『あれ』を打て」

 

 いつもからは考えられない――今まで聞いたこともないような冷たい声色でおじいちゃんは言う。

 

「馬鹿なこと言わないで!? あなたのお嫁さんなんでしょ!?」

 

「……姿かたちは同じでも、妻はもう死んだんだよ。あれは幻影だ。そうでなくてはならない」

 

 おじいちゃんは烈風の機体をくるりとひるがえして海面に向かう。おじいちゃんも口ではそんなことを言いながら「妻」の姿を目に焼き付けようとしているのだろうか。

 

「……ああ、決めた」



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お別れの教科書

 おじいちゃんは自室の窓から外の景色を眺める。妻と同じ姿をしたものを殺せと命じ、艦隊の皆が躊躇する中でただ一人砲撃を行った愛宕は、着弾と同時に爆炎の中に刀を構えて飛び込んでいった。

 

 そして死亡を確認した彼女は、いつものような調子で笑いながら作戦の完了を報告した。

 

 一瞬が永遠にも思えるような気まずさの中で皆は無事帰還した。

 

 いつもなら和やかな談笑が始まるのだが、この時ばかりはおじいちゃんを含めて皆がそれぞれの部屋に足早に戻った。

 

「……」

 

 おじいちゃんは窓から景色を眺め続ける。目の前に広がるのは一面の海原と空だ。

 

「殺したのは私の意思だ……」

 

 おじいちゃんは自分に言い聞かせるように消え入りそうな声でつぶやく。そして目元に浮かんだ涙を指でぬぐうと、おじいちゃんは声を殺して嗚咽した。

 

「俺が殺したんだ」

 

 泣きながらもおじいちゃんの脳の冷静な部分が「もう■■■は死んだ」と述べるが、涙はとめどなくあふれる。

 

「最期に一度だけ……」

 

 窓枠に体重をかけ、おじいちゃんは膝から崩れ落ちる。

 

「話がしたかったよ……」

 

 

――――  ――――  ――――

 

 

 翌日、明石の商店をおじいちゃんが訪れていた。明石は珍しいお客に驚いたようだが、すぐに接客用の態度に切り替える。

 

「いらっしゃいませにゃ」

 

「花は売ってるかな?」

 

「にゃ? 誰かへのプレゼントかにゃ?」

 

「いいや。この基地に植えようと思ってね」

 

 おじいちゃんはいつものにこにことした顔で言う。

 

「普段売れないから買い付けに行かないといけないにゃ。何の花かにゃ?」

 

「……ネモフィラ。私と、妻が好きだったんだ」

 

 明石もおじいちゃんの過去のことは知っている。彼女も重桜時代からおじいちゃんの部下だ。

 

「ははあ、なるほどにゃ。それなら基地の遊ばせてる場所に植え付けたらいいにゃ。この基地は土が良いからあたり一面ネモフィラ畑にできるにゃ」

 

 ただしサービスはしないけど、と明石が意地悪気ににやりと笑うと、おじいちゃんもふっと笑う。

 

「そういえば、ネモフィラにも花言葉ってあるのかねぇ?」

 

「花言葉は全部の花にあるにゃ。えぇっとたしかネモフィラの花言葉は……在庫に本があったはずだにゃ」

 

 ひょいと身をひるがえして明石はぺらぺらと本をめくる。おじいちゃんも明石の背後からその本の中身をのぞき込む。

 

「ネモフィラの花言葉は、『どこでも成功』、『可憐』なんてのがあるにゃ。かわいい子揃いのこの基地にぴったりにゃ。あ、まだあったにゃ。それと……」

 

「『あなたを許す』、にゃ」



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第二章 DEWPRISM
ここまでの登場人物紹介


・おじいちゃん指揮官

 重桜出身の指揮官。アズールレーンから重桜が離反してレッドアクシズに加入した際はマドラスにいた。

何も知らずに新聞を読んでいたら重桜がアズールレーンから離脱したことを知り記事を四度見した。

 現在は様々なスパイ容疑を払拭してロイヤル陣営に所属しているがマドラスのさらに辺境へ追いやられている。普段の主な仕事は書類整理と資材管理。たまに出撃する際は石橋を木槌でたたいて渡るという慎重ぶりで、今まで一隻も未帰還のKAN-SENを出したことがないのが誇り。

 

 左手の薬指には古びた結婚指輪がはめられているが、これはKAN-SENとのケッコンのものではなく、重桜でかつて結婚したことの証明。ただし妻は何十年も前に死亡し、その心の傷をまだ癒せていない。

 

 性格は極めて温厚で柔和だが、こと戦闘においては老獪。幾重にも準備して、それから物量と練度ですりつぶす戦術を好む。これは艦隊の士気を考えてのことである。

 

 ロイヤルに所属する過程でアグレッサー部隊の教官をしていたことがある戦闘機乗り。今ではもはや空戦軌道はできないが、人並み以上に飛行機を飛ばすことはできる。お気に入りは重桜の烈風で、中身を散々いじくり回している。しょっちゅう整備士に「これにジェットエンジンを積んでくれ」とせがんでいる。

 

 彼のお嫁さんはすでに死んでいるが、それを受け入れられなかった。紆余曲折の末お嫁さんの葬儀の場面を思い出したが、いくつかの重要な記憶が欠落している。

 

・ウォースパイト

 おじいちゃん艦隊のエースにして秘書艦長。ふだんの二人のやり取りから「熟年夫婦」ともあだ名されている。おばあちゃんと呼ばれるとこめかみに青筋が浮かぶ。

 艦隊の主力のうちの一人で、レベルは120。装備もできる限り良いものを詰め込むだけ詰め込んでいる。

 普段は秘書艦としておじいちゃんのスケジュール管理、外交などを行っている。

 おじいちゃんの過去を知っているうちの一人。

 お嫁さんのことはよく知らないため、おじいちゃんのことを未練だらだら男と思っている

 

 

・飛龍

 重桜が誇るぼくッ子。うさ耳。いい声。

 事務作業は苦手なためしょっちゅうメモ用紙で紙飛行機を作って飛ばしている。

 爆ぜろ五光と言いながら投げたらちっちゃい艦載機が出たのであわてて帰還させた。

 アークロイヤルに裏背負い投げをくらわしてベルファストに突き出すなど、縁の下の力持ちである。

 非公式で行われる柔道大会では優勝経験もある武闘派。得意技は三角締めからグラウンドに持ち込んでの上四方固め

 

・テラー

 てらーちゃんかわいいいいい!!!!

 ロイヤルネイビーのモニター艦。弾幕がすごい。「沈め」。恐い

 第二艦隊旗艦を務めるロリ巨乳。帰還したときのよしよしが非常ーーーーに下半身に悪い

 アークロイヤルの毒牙にかかりそうだったところを飛龍に救われたので、友達になってるらしい。

 ロイヤルネイビーの教官係も務めており、経験の浅いKAN-SENがまず彼女の指揮下に入るのはそれほど珍しいことではない。

 

・アリゾナ

 涙もろいユニオンの大戦艦。きっと動物のドキュメンタリーとか見るとぼろぼろ泣く。ペン姉さんも泣く。

 おどおどしながら致命の艦砲射撃してるのでとても怖い。しかも味方を回復できるので強い

 アークロイヤルの毒牙にかかりそうだったので飛龍には頭が上がらない。でも飛龍はアリゾナさんなんて

眼をきらっきらさせて尊敬してるもんだから困っちゃう

 母港では親しみやすい先輩といった感じで陣営を問わず交友がある。困ったときの泣きだしそうな笑みにやられた者も多い

 

・赤城

 重桜のやべーやつ。ただし指揮官が絡まなければまともという説もある。

 指揮官様大好き。

 意外にも駆逐艦のちびっこたちからは慕われているらしい。メンタルは弱め。

 アークロイヤルとのフラグが立ったとか立たないとか

 繰り返すが指揮官が絡まなければとんでもなくいい女。こいつ守って死ぬんならべつにいい

 

・加賀

 戦闘のときにやべーやつ。頭の中の解決法は逃がすか殺すかしかない。こいつだけ頭の中falloutの世界にいる。カルマは善良。

 普段は教練したりと非常に優秀なお姉さん。そのため駆逐艦たちから好かれている。委託完了時に飯も食わせてくれる。

 普段は赤城のストッパーとして気苦労の多そうなねーちゃんだが戦闘でその鬱憤を晴らしているのかとんでもねえことになる。こいつと愛宕を組ませるとお手軽地獄絵図再現キットができる

 

 

・アークロイヤル

 ご存じやべーやつ。肝心な時以外役に立たない女。

 容姿端麗にして才色兼備。月も恥じらう彼女だが性癖がクソゲボ。しょっちゅう妹たちにちょっかいをだそうとして武闘派なKAN-SENに取り押さえられている。

 ただしシリアスなシーンでの活躍と安定感は随一で、ビスマルク追撃戦では彼女がいなければおそらく歴史が変わっていたはず。

 おじいちゃんの艦隊では性癖はそのままに空気を読む力が少ーーーーーーしばかり上がった。ほんと駆逐艦がからまなければとんでもなく良い女

 実力は本物で、ロイヤルネイビーの華とも呼ばれるがなんにせよ性癖がクソゲボ。でも駆逐艦が絡まないときの実力は本物。たぶんオイゲンと組むと少年漫画でライバルと組んだ時みたいなクッソ激熱展開になる

 

・綾波

 おじいちゃんの初期艦。酸素魚雷積んでる。改造もしてる

鬼神の力をこれでもかと味あわせてくれる頼もしい子

母港では部屋に閉じこもってばかりだが友達は多く、陣営の垣根を超えた交友関係をきづいている

 おじいちゃんの艦隊のエースの一人。

 指揮官のお嫁さんの姿を知ってる数少ないKAN-SENの一人。

 

・愛宕

 重桜のやべーやつの一人。お前のとこの陣営やべーやつしかいねーのか

 おじいちゃん相手にれつじょうを催すわけにも行かず、やべーやつとの評判とは裏腹に器量、態度、戦力よしととても良い娘。重桜だけでなく他の陣営の艦からも好かれる頼もしいおねーさん。ただしたまりにたまったものが戦闘で解消されるのか自発装填を切り札に白刃を構えて肉薄雷撃する。怖い。酸素魚雷積んでる

 加賀がFalloutだとすればこいつは殺し屋イチの世界に生きてる。たぶんうたいながら駆逐艦あやすついでに目の前の敵を躊躇なく殺す。返り血が目についても瞬きしないタイプ

 

・プリンツ・オイゲン

 防御のエース。カチカチ。

 皮肉屋だが間違ったことは言わない。ウォースパイトとよく衝突しているがなんだかんだ仲はいい。酒飲みだが弱い。多分最初に思いっきり飲んであとからぶっ倒れるように寝る

 自分の役割を理解しており、決して主役になれないであろう仕事も嫌な顔せず引き受ける聖人

 当然のように援護して万が一でも援護対象が大破したらお姫様抱っこで連れて帰る王子様。でもその仕草も演技だって気づいている。この世界という舞台で演技をしているんだという厭世的な性格をしている

 おじいちゃんに対しての態度はマジで猫。気ままにじゃれて、気が済んだら離れる。かわいい。

 

・レキシントン

 艦載機たちをぶつける。侮れない制圧力を持ってる。

 太ももが目に毒

 とんでもねえ火力と航空支援まで持ち出した船。つよい。

 母港ユニオン寮のお母さん的存在。たまにチビ共にお母さんと呼ばれる

 彼女が入れたコーヒーは絶品と評判。おじいちゃんもたまに飲む。

 

・イラストリアス

 こいつとプリンツのおかげでカチカチ艦隊になる。一人で制空権取れるとんでもねえ奴。

 ふだんは穏やかな淑女だが事戦闘においては抜かりなく作戦を遂行する。爆撃機を詰めない自分の枠割をようわかっているため、油圧カタパルト二段積みや耐久特価の構成をしている

 歌が好きでよく口ずさんでいる

 実はおじいちゃんの烈風の管制を行っているのはここ。つまりこいつがいないとおじいちゃんは盲目飛行をすることになる。大海原での盲目飛行ほどおそろしいことはねえよ。空と海の境界がわからねえ。

 

・リディ・フロスト

 おっぱい星からきたおっぱい星人。とんでもねえ奴。まるで無垢な少年のようにころころ表情を変える。おじいちゃんを先生と慕う。

 こんなやつでも准将。

 ただし作戦指揮に関しては天才的で、オーケストラのように

、をモットーに指揮をしている。演習では指揮官が出せなかったのでそもそも負け戦だった。

 ロイヤル内部では少ないおじいちゃん一派の一人。

 秘書艦は鉄血のグローセ。やっぱりおっぱい。表面上は従順な後輩キャラだが腹の底は思惑がぐるぐるしている。でもおじいちゃんに対する敬意はほんもの。

 



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平和の「足跡」

 基地の一角にネモフィラが植えられてから数日が経った。今では誰もあの戦闘のことには触れず、いつも通りの日常が母港で繰り広げられている。

 

 母港は平和そのものだ。

 

「指揮官、メールがあるわよ」

 

 秘書艦長を務めるウォースパイトがひらひらと手を振りながら指揮官あての封筒を渡すと、おじいちゃんは柔和な笑みを浮かべて謝意を述べる。差出人はロイヤルの「リディ・フロスト准将」だ。

 

 慎重に封を切り中身を見ると、数枚の便せんにびっしりと文字が書き込まれている。

 

 内容をかいつまめば、先日のセイレーンとの戦闘で起こったことの謝罪、そして「海上回廊」がうまく行きそうなこと、そして、ロイヤル陣営でおじいちゃんに懐疑的だった連中が徐々にではあるがおじいちゃんの力を認めつつあることが書かれている。

 

「リディに一杯食わされたみたいだね」

 

 おじいちゃんが笑いながら言うと、ウォースパイトは大きくため息を吐く。

 

「あの人、何なのかしらね。准将ともなれば腹芸も得意っていうのは分かるけど、それにしたってよくわからないわ。指揮官、あなたとリディって人はどういう関係なの?」

 

「あぁ、まだ話していなかったかね? まだ重桜がほかの国と一緒に戦っていたころ、私が重桜からロイヤルに派遣されたのはロイヤルで重桜の飛行技術を教えろと言われたからなんだよ。あの頃の私は国に嫌気がさしていたし、国も私が疎ましかっただろうからね」

 

 ウォースパイトは興味深げにおじいちゃんの話に耳を傾ける。

 

「今になれば、ロイヤルとしては重桜の飛び方を盗みたかったんだろう。上層部は重桜がレッドアクシズとして対立することを察知していたんだと思う。そんなわけで数年間指揮官と飛行教官を掛け持ちして、今に至るというわけさ。大勢の教え子がいたよ。リディはそのうちの一人だ。もっとも、今はKAN-SENの指揮官をしているがね」

 

 おじいちゃんは窓の外をちらりと見つめる。抜けるような快晴だ。

 

「重桜からは何人ものKAN-SENたちが私についてきてくれた。もちろんこの母港で仲間になった子たちも多い。私にとってはみな大事な仲間だ」

 

 和やかに会話が続く。

 

 一方そのころ、母港の一角では小さな地獄が生まれつつあった。

 

 地獄の正体は加賀と愛宕の二人だ。

 

 仲は悪くないのだが、こと戦闘に関してはこの二人以上の危険人物はいない。以前加賀と愛宕を同じ部隊で出撃させた際に聞くも恐ろしいことになったことはこの母港の皆が知っている。

 

 今何が起こっているのかといえば、暇を持て余している加賀と同じく暇を持てあます愛宕が出会ってしまっただけだ。二人は数秒間目を合わせる。

 

「手合わせしないか」

 

「やりましょう」

 

 そういうことになった。



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SATSURIKU☆ニューウェイブ

 愛宕と加賀は母港近くの浅瀬にて相対する。

 

 愛宕は脇差を、加賀は薙刀を構え、目の前の「敵」をまっすぐに見つめている。どちらも刃のついた、確実に殺せる代物だ。

 

「加賀さんは薙刀を使うのね」

 

「昔取った杵柄だ」

 

 二人の距離は4メートルほど。飛び込めば確実に損傷を与えられる距離で二人は互いの瞳を見つめている。審判役を務めるのは高雄だ。

 

「互いに礼!」

 

 高雄の言葉に二人は深く頭を垂れる。そして頭を上げたときには殺気が満ちた。

 

「殺し合いにならぬように注意なされよ。始め!!」

 

 高雄の号令に愛宕と加賀は同時に突っ込む。砲撃や雷撃、航空機なんて小技が通じないことをよくわかっているのか、自らの最後の武器をもって確実に仕留めるようだ。

 

 先に仕掛けたのは加賀だ。リーチの長い薙刀を大振りに横に薙ぐが、愛宕はそれを軽々と飛び越えて脇差をためらいなく加賀の脳天めがけて振り下ろす。

 

 加賀が遠心力そのままに薙刀で一太刀を防ぐと甲高い衝突音が響き、薙刀と脇差の間に火花が散る。加賀が愛宕の瞳を見つめたまま素早く足を払うと、愛宕の体が崩れる。脇差も取り落とした。

 

「もらった!!」

 

 好機とばかりに加賀が獰猛な笑みを浮かべて薙刀を愛宕の首めがけて振り下ろす。高雄は動じることなくその様子を見つめている。

 

 薙刀が首に到達する前に愛宕が足を延ばす。しなやかな足が加賀の首に巻き付き、加賀の首を軸にして愛宕が体ごと回転する。たまらず加賀の体も海面に倒れこんだ。

 

「ぶはっ!!」

 

「げほっ!!」

 

 海水が口に入ったのだろう。両者同時にせき込むが瞬きはしない。眼だけを動かして手放した武器の位置を確認する。海中だ。

 

 状況を把握して先に素手での組合いを仕掛けたのは加賀だ。愛宕の襟をつかむと体を崩して海上で背負い投げを決め、愛宕を海中に沈めると同時に薙刀に手を伸ばす。

 

 愛宕もとっさに受け身をとると、海中で目を開けたまま脇差に手を伸ばした。

 

 海上と海中から薙刀と脇差が振るわれ、ちょうど水面で激突して再び甲高い音が響く。

 

 二人が姿勢を整えて次の攻撃を行おうとする。

 

「そこまで。これ以上は殺し合いになる」

 

 脇差に手をかけた高雄が終了を宣言すると、加賀と愛宕は殺気をそのままに残心をとった。

 

「互いに礼!」

 

 始まったときと同じように深く頭を垂れ、そして上げたときには殺気は消えて互いにいつもの表情を浮かべていた。

 

「首を落としたと思ったんだがな」

 

「殺されるかと思ったわ」

 

 和やかに物騒な会話を交わす二人を見つめたまま、高雄はゆっくりと脇差から手を離した。

 

 



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ソラノカケラ

 おじいちゃんはパイロットスーツのまま烈風の座席に腰かけてキャノピー越しに大空を眺める。海とはわずかに違う青色が、彼はお気に入りだ。

 

 おじいちゃんはもしかしたらありうる出撃のための思考を回す。上層部から出撃命令なんて皆無に等しいが、以前のようにリディが気を回してくれることもありうる。そんなときに万全とはいかなくても十全くらいのコンディションを保ったままでなくては艦隊の指揮と艦隊の士気に影響する。

 

 考えがまとまったのだろう。おじいちゃんはエンジンをかけると緩やかに滑走路をタキシングする。そしてエンジンの出力を上げると滑らかに、烈風の機体が空へと吸い込まれるように宙に浮く。そのまま高度を上げて緩やかに水平飛行に移る。出撃とは正反対の、ドライブのように気楽な飛行だ。

 

「これくらいならまだできるな」

 

 誰に言うでもなく小さくつぶやくとおじいちゃんはいたずらっぽく笑う。

 

「久しぶりに空戦機動でも試してみようか」

 

 烈風の機体がひらりと反転し、海面に向けて突っ込む。強烈なGにたまらずおじいちゃんの呼吸は荒くなる。

 

 基地からおじいちゃんの飛行を見学していた数名はたまらず悲鳴を上げたり目を覆ったりするが、烈風は海面に突き刺さる前に機首を上げ、海面からわずか数十メートルのところで再び水平飛行に移った。

 

「む……ぐ……やはり体がついてこないね」

 

 緩やかに機首を上げた烈風は今度は鋭く旋回機動を行う。真っ白な飛行機雲が青い大空を切り裂く。

 

「おお、これくらいならまだできるか」

 

 少しばかりの手ごたえがあったことに満足したのか、おじいちゃんは顔をほころばせて飛び続ける。

 

 ピッチアップ、ロールとった基本的な機動をためし、やがて満足したのか離陸の時と同じように滑るように着陸する。

 

 着陸した機体に駆け寄ってきたのは飛龍だ。手には飲み物とタオルを携え、興奮を隠しきれないように目を輝かせている。

 

「お疲れ様です指揮官! 見事な飛行でした!」

 

「ありがとう。全盛期には遠く及ばないが、まだまだやれるものだね」

 

 肉体と精神の疲労のためか、おじいちゃんは手を小刻みに震わせてやっとのことでタオルと飲み物をつかむ。皺の刻まれた顔には玉のような汗がいくつも浮かんでいる。

 

「無理はしないでくださいよ。今はパイロットではなく艦隊の指揮官なんですから」

 

 心配げに飛龍が言うと、おじいちゃんはゆっくりと飲み物を嚥下し、大きく息を吐いた。

 

「わかっているさ。こんな飛び方はしないよ」

 

 浮かび上がってくる汗をぬぐいながら、いつもの笑みでおじいちゃんは笑った。



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フルカラーの思い出①

 綾波は目の前にいる客人に困惑している。綾波が淹れた茶を礼儀正しい所作で口に運んでいるのは、この母港の重桜陣営の顔役、赤城その人だ。

 

 赤城は綾波たちのように重桜所属時代からおじいちゃん指揮官に従っているわけではなく、ロイヤルに異動してから所属したKAN-SENだ。でも重桜陣営のKAN-SENでそんなことを気にするものはいない。赤城は着任直後に持ち前のフットワークの軽さを活かして立派に重桜陣営を切り盛りしている。同時期に着任した加賀と一緒に、重桜時代からおじいちゃんの指揮下だった飛龍と蒼龍を主催として熱烈に歓迎会を行ったことがつい昨日のことのように綾波には思えていた。

 

「まさか綾波、貴女がお茶を淹れてくれるなんて思わなかったわ」

 

 目元を柔らかにほころばせて、温和な声色で赤城は言う。この様子だけ見ればいつもの指揮官に向けての愛情なんて想像さえできない。

 

「恐縮です。赤城さん」

 

 綾波は赤城のことをよく知らない。もちろん戦闘方法は分かるし、指揮官に並々ならぬ恋心を抱いていることも知っている。でも、彼女の人となりだとか、世間話とか、私生活だとかを垣間見る機会なんて今までなかった。

 

 赤城はどこか緊張した面持ちの綾波に先ほど以上に温和に笑いかける。その笑顔はあまりにもまぶしく、美しい。

 

「そう緊張しないで頂戴な。何も貴女を取って食おうってわけじゃないのよ」

 

「……そのつもりなら、加賀さんもいたでしょうからね」

 

 綾波の精いっぱいの冗談に、たまらず赤城はころころと笑う。口元を袖で抑えて笑うのがこんなに似合う人がいたなんて綾波は知らなかった。

 

「今日来たのはね、指揮官のお嫁さんのことを教えてもらおうと思ったのよ」

 

 綾波はその言葉にはっとして赤城を見つめる。先ほどまでの温和な笑みの向こう側に、狂気が渦巻いていた。

 

「私は知らないわ。指揮官のお嫁さんがどんな女だったのか、どんな髪型だったのか、どうして指揮官様を射止めたのか。でも綾波、貴女なら知っているんでしょう?」

 

 綾波は震える。とっさに自らの湯飲みに手を伸ばして両手で包み込むが、震えは止まらない。掌から体の側が凍り付いてしなったような感覚を覚える。

 

「お、お、奥様は……彼岸に旅に出ました。綾波の口からは……」

 

「では指揮官様に聞いてくるわ」

 

「ダメ!!」

 

 涙をこぼして、湯飲みさえ取り落として綾波は赤城の袖をつまむ。今のやり取りが演技だったとはいえ、赤城は心底面食らう。

 

「指揮官にあの人のことを思い出させないでほしいのです……」

 

 袖をつまんだまま、綾波は涙ながらに赤城を止める。さすがにかわいそうになったのか、赤城は綾波の髪をなでた。



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モノクロームの過去より、愛だけ込めて。

 葬儀の場で半狂乱になった軍服姿の青年が周りの制止を振り切って棺桶に走り寄り、力任せに棺桶の蓋をこじ開ける。おじいちゃんの意識だけは青年の背後に呆然と立ち尽くしている。

 

 (どうしてこの思い出の前を思い出せないんだ?)

 

 そして、青年の視界とおじいちゃんの視界がリンクして、棺桶の中の光景が映し出される。

 

 (俺はなんでいつも葬式の光景ばかりなんだ?)

 

 棺桶の中には顔に真っ白な布を被された人の形が、女物の着物を着せられて横たわっていた。首から下の素肌は真っ白な布で覆われている。

 

「やめろ……」

 

 (俺の妻は鮮やかに思い出せるよ。でもなんで思い出すのはこの葬儀の記憶だけなんだ? 俺の妻の記憶は一体――)

 

 「おじいちゃん」は記憶をたどりながら声を絞り出す。だが、彼の青年時代の記憶は再生を続ける。

 

 青年は力任せに顔の部分の布を剥ぎ取る。棺桶の中の遺体と目が合った。

 

 (なんで■■■は、こんなザマになってしまったんだ)

 

 顔の部分は真っ白な紙と布で輪郭が作られていて、かろうじてかき集めたのであろう部位が――目と、右耳と、真っ二つにちぎれた鼻と、下だけの唇と、頬肉の一部が福笑いのように真っ白なキャンバスに設置されていた。

 

 彼が心から愛した女の面影はどこにもなかった。

 

 

――――  ――――  ――――

 

 

 夜更けに俺は目を覚ます。じっとりと冷や汗を掻き、枕もとの時計を見れば午前2時。起きるには早すぎる。

 

 でも、再び寝る気分にはならなかった。今の夢を記憶に残したい。

 

「思い出せ。俺は何を忘れている? 俺は何を忘れようとしていた?」

 

 乱暴にボトルの口を開けながら水を飲む。ぬるい。

 

「鮮やかに思い出せることはある。俺は確かに結婚した。指輪だってしているじゃないか。でも、俺はどこであいつと出会ったんだ? どうやって結婚したんだ? そもそもなんであいつは死んだんだ?」

 

 記憶の中の細い道筋をたどりながら、俺はぶつぶつと独り言をつぶやきながら考えを整理する。唐突に頭が割れるように痛み、たまらず俺は頭を抱えると目を瞑り痛みに耐える。何かを思い出すことを拒んでいるように、脳が思考を拒否している。

 

「思い出せ……思い出せ……」

 

 痛み続ける頭を抱えながら俺はつぶやき続ける。

 

「なんであいつは死んだんだ……? なんであんなザマになって死んだんだ……?」

 

 痛みに耐えながら俺は必死に記憶をたどる。ふと、頭の中で閃光が弾けた。

 

「末期の卵巣がんです。すでに全身に広がりつつあります。まだお若いのに――」

 

「あぁ……」

 

 耳元で囁かれたように男の声がよみがえり、それと同時に俺はすべてを思い出す。

 

「思い出した……俺が……俺があいつをあんな姿になるまで生かしてしまったんだ……」

 

 

 

 



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フルカラーの思い出②

 こぼれた茶を拭き取り、姿勢を正して赤城と綾波は再び向かい合う。

 

「指揮官の奥様に何があったのかを、すっかりと話すです」

 

 「鬼人」と讃えられている勇士の面影は目の前の少女にはない。今にも倒れそうなほどに青白い顔で目の前の赤城を見つめ、小刻みに震えてさえいる。赤城はそんな彼女の姿を少しだけ哀れに思ったが、指揮官様の過去を知ることに比べれば些末なことだ。

 

「……指揮官の奥様は、指揮官と結婚した数か月後に彼岸へ行かれました。……原因は卵巣がんでした。まだお若いのに日に日に痩せこけて、ついに枯れ枝のようにやせ細って……」

 

 綾波は目元を乱暴にぬぐうと天井を見上げ、震える声で続ける。

 

「指揮官のほうも日に日に気を病んでいきました。食べることも寝ることも忘れて病室に就いて、ついには気絶して……本当におかしくなったんじゃないかと思いました。――奥様は強かった。でも、病はもっと強かった……」

 

 綾波は目から大粒の涙が零れるのも気にせずに話し続ける。きっと彼女も、一人でこの記憶を抱え続けるのは苦しかったはずだ。

 

「指揮官はなんとか奥様を生きながらえさせようとしました。そこで目を付けたのがメンタルキューブとメンタルユニットでした。移植には成功しましたが肉体は耐えられずに崩壊と再構築を繰り返し続けて、最後まで残ったのがいくつかの肉片だけだったんです……こんなこと、綾波だけ覚えてればいいんです……綾波が……」

 

 赤城は綾波からおじいちゃんのお嫁さんについて、知っている限りを聞いた。そして赤城はやさしく綾波を抱きしめる。

 

「綾波が知っているのはこれがすべてです。だから指揮官にあの人のことを思い出させるのだけはやめてください」

 

 赤城の胸元を涙で濡らしながら綾波は懇願する。その様子に何か気づいたようで、赤城は綾波の髪をなでながら言葉を紡ぐ。

 

「綾波、貴女もしや指揮官様に恋をしている、なんてことはないわよね?」

 

 髪をなでる穏やかな笑みの奥に狂気がにじむが、綾波は悲しげにはにかむと胸元にうずめた首を横に振る。

 

「よくわからないのです。自分が指揮官に抱いていた気持ちが何なのか。でも、今となっては消えた想いです。赤城さんのように燃えるような恋もできず、大鳳さんのように寄り添う恋もできなかった。指揮官のそばにいられたらそれだけで綾波は幸せです」

 

「そんなの、寂しすぎるじゃないの」

 

 やさしく、諭すように赤城は言う。綾波は赤城の胸元で泣いた。わんわんと声を上げて、声が枯れるまで泣き続けた。



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拝啓、いつかの君へ

 おじいちゃんは古びた拳銃を裸のまま携えて基地の廊下を歩く。こつこつという靴音が夜の空気を切り裂くが、きっと聞いているものは誰もいないはずだ。ウォースパイトも、ほかの秘書艦も、きっと誰も聞いてはいないはず。

 

 窓から差し込む月光が拳銃を照らして鈍く輝く。

 

 音をたてないように玄関の扉を開けて外へと足を踏み出す。冷たい空気が潮風と混じっておじいちゃんの頬を撫でる。

 

 やがておじいちゃんはつい先日ネモフィラを植えた場所で足を止める。目の前には海が広がっているのだろうが、ちょうど月を雲が覆い隠したため何も見えない。どこから海が広がっていて、どこからが空なのかすらもわからない。

 

 おじいちゃんはふっと柔らかに微笑むが、そんな表情も闇の中では見えない。

 

 おじいちゃんは撃鉄を起こし、銃身を口に咥えた。

 

「(今いくよ)」

 

 目をぎゅっと瞑り、ほんの少し指先に力を込めようとした瞬間、おじいちゃんの背後から小さく声がかけられる。たまらず声の方向を振り返ると、月にかかっていた雲がゆっくりと晴れる。今日は満月だ。

 

「死ぬつもりなのですか?」

 

 今にも泣きだしそうな顔の綾波がそこにいた。

 

 おじいちゃんは綾波の瞳を見つめる。綾波も泣き出しそうな表情のままでおじいちゃんを見つめた。

 

「……綾波、やっと思い出したよ。妻のことを」

 

「そう、ですか」

 

 おじいちゃんは拳銃を地面に置いて胡坐をかく。月光が2人を照らす。おじいちゃんは自らの隣の地面をぽんぽんと叩くと、綾波もおじいちゃんの隣に腰かける。

 

「なんで忘れていたんだろうなぁ」

 

 おじいちゃんは満月を見つめてつぶやく。綾波はその言葉にうまく返事ができない。

 

「死ぬつもりだったよ」

 

 おじいちゃんが絞り出すように言うと、綾波はおじいちゃんを見つめる。

 

「でも、綾波を見てやめた。やりかけの仕事が残ってるし、そのうち嫌でも死ぬことになるだろうから」

 

 おじいちゃんが意地悪気ににっと笑うと、綾波もつられて笑う。目元からは涙が流れている。

 

「どうしてここまで来てくれたんだ?」

 

「……女の勘です」

 

 おじいちゃんが疑問符を浮かべる。綾波は素早く立ち上がるとスカートをたたいて土を落とし、おじいちゃんに向き直った。

 

「指揮官」

 

「うん?」

 

 綾波は涙をぬぐい、震える口元を一生懸命釣りあげて精いっぱい笑った。

 

「ずっとずっと昔に、『愛していました』」

 

 涙を流して足早に走り去る綾波の背を見つめてから、おじいちゃんは満月を見上げた。

 

「女の子を泣かせたなんて知られたら、きっと怒るよなあ。余計死ねなくなった」

 

 おじいちゃんはそのまま地面に大の字に倒れこんで空を眺める。いつの間にか空からは雲が消え、満天の星空がおじいちゃんだけに降り注いでいた。

 



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ネモフィラ

  先日のおじいちゃんの「自殺未遂」騒動を知っているのは綾波だけなので、おじいちゃんの母港にはいつも通り平穏そのものだ。綾波もおじいちゃんも互いに気を使うなんてことはなく、いつも通りの日常。いつもどおりがその母港にある。

 

 おじいちゃん指揮官と、秘書艦長のウォースパイト、そして秘書艦の飛龍、アリゾナ、テラーが時折談笑をしながら着実に書類仕事を片付ける、いつも通りの風景。そんないつも通りが大切なのだとおじいちゃんは改めて思う。

 

 ただ以前と異なるのが、おじいちゃんの机にちょこんと控えめに乗るネモフィラの鉢だ。小さいが鮮やかなその水色は、KAN-SENたちが駆ける海の色ともおじいちゃんが飛ぶ空の色とも違う。おじいちゃんのお嫁さんが大好きだったこの小さな花が執務室に彩を与えている。

 

「指揮官、そろそろ休憩にしましょう?」

 

「あ、じゃあぼくがお茶用意しますね!」

 

 ウォースパイトの提案に飛龍が素早く立ち上がる。女子力を気にしているからこそ、こういう場面をチャンスととらえたのだろう。飛龍は手際よく茶葉を用意し、お茶請けのお菓子にカステラまで用意している。

 

「いつもすまないねえ」

 

 にっこりと、目元の笑い皺を深く刻んでおじいちゃんは孫娘に向けるような深い慈愛を込めて笑う。テラーが大きく伸びをすると、アリゾナがその白髪を柔らかくかき回す。たまらずテラーは目を細めた。ネモフィラに目を落とすと、窓から差し込む日の光を浴びてきらきらと輝く。宝石のようだと思う。

 

「くすぐったいです……アリゾナさん……」

 

「ふふっ」

 

「(もし娘や孫がいたらこんな感じだったのかな)」

 

 おじいちゃんはアリゾナとテラーを見てそんなことを考え、そして思考を止めた。

 

「(いや、止そう)」

 

 後ろ向きに考えるのはもうやめようと、おじいちゃんは自殺を図ったあの夜、満天の星空の下で眠りに落ちる前に決めたのだ。そして翌朝、空はおじいちゃんに柔らかな日の光を目覚ましにプレゼントしてくれた。雲一つなく澄み渡った青い、青い空のことをおじいちゃんは決して忘れないだろう。

 

「(たとえまたセイレーンがお前の姿で出てきても、もう悩まないよ)」

 

 おじいちゃんは飛龍が淹れてくれた重桜のお茶が入った湯飲みを両手で包み込み、その水面に目を落とす。深い緑色だ。

 

「(もう悩まないから、どうかゆっくり眠ってくれよな、『小瑠璃』)」

 

 かつて愛した、たった一人のお嫁さんの名前を心の中で愛おしく呼んで、おじいちゃんはお茶を一口、口に含んだ。



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第三章 Who Watches the Watchmen?
ここまでの登場人物紹介


・おじいちゃん指揮官

 重桜出身の指揮官。アズールレーンから重桜が離反してレッドアクシズに加入した際はマドラスにいた。

何も知らずに新聞を読んでいたら重桜がアズールレーンから離脱したことを知り記事を四度見した。

 現在は様々なスパイ容疑を払拭してロイヤル陣営に所属しているがマドラスのさらに辺境へ追いやられている。普段の主な仕事は書類整理と資材管理。たまに出撃する際は石橋を木槌でたたいて渡るという慎重ぶりで、今まで一隻も未帰還のKAN-SENを出したことがないのが誇り。

 

 左手の薬指には古びた結婚指輪がはめられているが、これはKAN-SENとのケッコンのものではなく、重桜でかつて結婚したことの証明。ただし妻は何十年も前に死亡し、その心の傷をまだ癒せていない。

 

 性格は極めて温厚で柔和だが、こと戦闘においては老獪。幾重にも準備して、それから物量と練度ですりつぶす戦術を好む。これは艦隊の士気を考えてのことである。

 

 ロイヤルに所属する過程でアグレッサー部隊の教官をしていたことがある戦闘機乗り。今ではもはや空戦軌道はできないが、人並み以上に飛行機を飛ばすことはできる。お気に入りは重桜の烈風で、中身を散々いじくり回している。しょっちゅう整備士に「これにジェットエンジンを積んでくれ」とせがんでいる。

 

 彼のお嫁さんはすでに死んでいるが、それを受け入れられなかった。紆余曲折の末お嫁さんの葬儀の場面を思い出したが、いくつかの重要な記憶が欠落している。

 

 むりやりお嫁さんを延命させ、苦痛を与え続けた挙げ句に救えなかったことを思い出して死のうとしたが綾波に止められた。

 

・おじいちゃんのお嫁さん(小瑠璃)

 

 お嫁さんの死因は癌。必死に延命を懇願するおじいちゃんのために軍部はメンタルキューブとメンタルユニットを移植し、無理矢理に医学と工学による延命を繰り返した。当然肉体は耐えられずに崩壊と再構築を繰り返し続けたが、おじいちゃんはもはや止めることはできなかった。棺に入っていたのはお嫁さんの成れの果ての姿。時折おじいちゃんに話しかけるセイレーンは、移植されたメンタルキューブによって再構築されたお嫁さんとセイレーンの意思がまざりあったもの。

 ネモフィラの花が好きだった。花言葉は「あなたを許す」

 

・ウォースパイト

 おじいちゃん艦隊のエースにして秘書艦長。ふだんの二人のやり取りから「熟年夫婦」ともあだ名されている。おばあちゃんと呼ばれるとこめかみに青筋が浮かぶ。

 艦隊の主力のうちの一人で、レベルは120。装備もできる限り良いものを詰め込むだけ詰め込んでいる。

 普段は秘書艦としておじいちゃんのスケジュール管理、外交などを行っている。

 おじいちゃんの過去を知っているうちの一人。

 お嫁さんのことはよく知らないため、おじいちゃんのことを未練だらだら男と思っている

 タコを食うということが未だに信じられない。

 

 

・飛龍

 重桜が誇るぼくッ子。うさ耳。いい声。

 事務作業は苦手なためしょっちゅうメモ用紙で紙飛行機を作って飛ばしている。

 爆ぜろ五光と言いながら投げたらちっちゃい艦載機が出たのであわてて帰還させた。

 アークロイヤルに裏背負い投げをくらわしてベルファストに突き出すなど、縁の下の力持ちである。

 非公式で行われる柔道大会では優勝経験もある武闘派。得意技は三角締めからグラウンドに持ち込んでの上四方固め

 重桜時代からのおじいちゃん指揮下。ちなみに愛宕と加賀にタイマンなら勝てるやべーやつ。高雄には勝てない。

 

 

・テラー

 てらーちゃんかわいいいいい!!!!

 ロイヤルネイビーのモニター艦。弾幕がすごい。「沈め」。恐い

 第二艦隊旗艦を務めるロリ巨乳。帰還したときのよしよしが非常ーーーーに下半身に悪い

 アークロイヤルの毒牙にかかりそうだったところを飛龍に救われたので、友達になってるらしい。

 ロイヤルネイビーの教官係も務めており、経験の浅いKAN-SENがまず彼女の指揮下に入るのはそれほど珍しいことではない。

 テラーちゃん先輩とか呼ばれててほしい。

 

・アリゾナ

 涙もろいユニオンの大戦艦。きっと動物のドキュメンタリーとか見るとぼろぼろ泣く。ペン姉さんも泣く。

 おどおどしながら致命の艦砲射撃してるのでとても怖い。しかも味方を回復できるので強い

 アークロイヤルの毒牙にかかりそうだったので飛龍には頭が上がらない。でも飛龍はアリゾナさんを眼をきらっきらさせて尊敬してるもんだから困っちゃう

 母港では親しみやすい先輩といった感じで陣営を問わず交友がある。困ったときの泣きだしそうな笑みにやられた者も多い。

 かわいいのでかわいいからかわいい。

 

・赤城

 重桜のやべーやつ。ただし指揮官が絡まなければまともという説もある。

 指揮官様大好き。

 意外にも駆逐艦のちびっこたちからは慕われているらしい。メンタルは弱め。

 アークロイヤルとのフラグが立ったとか立たないとか

 繰り返すが指揮官が絡まなければとんでもなくいい女。こいつ守って死ぬんならべつにいい。

 指揮官様のお嫁さんに対して嫉妬とも哀れみともつかない感情を抱いている

 

・加賀

 戦闘のときにやべーやつ。頭の中の解決法は逃がすか殺すかしかない。こいつだけ頭の中falloutの世界にいる。カルマは善良。

 普段は教練したりと非常に優秀なお姉さん。そのため駆逐艦たちから好かれている。委託完了時に飯も食わせてくれる。

 普段は赤城のストッパーとして気苦労の多そうなねーちゃんだが戦闘でその鬱憤を晴らしているのかとんでもねえことになる。こいつと愛宕を組ませるとお手軽地獄絵図再現キットができる。ちびどものトラウマになる原因その一

 

 

・アークロイヤル

 ご存じやべーやつ。肝心な時以外役に立たない女。

 容姿端麗にして才色兼備。月も恥じらう彼女だが性癖がクソゲボ。しょっちゅう妹たちにちょっかいをだそうとして武闘派なKAN-SENに取り押さえられている。

 ただしシリアスなシーンでの活躍と安定感は随一で、ビスマルク追撃戦では彼女がいなければおそらく歴史が変わっていたはず。

 おじいちゃんの艦隊では性癖はそのままに空気を読む力が少ーーーーーーしばかり上がった。ほんと駆逐艦がからまなければとんでもなく良い女

 実力は本物で、ロイヤルネイビーの華とも呼ばれるがなんにせよ性癖がクソゲボ。でも駆逐艦が絡まないときの実力は本物。たぶんオイゲンと組むと少年漫画でライバルと組んだ時みたいなクッソ激熱展開になる

 自分がロリ化すればセーフだと思っているためアークロイヤルちゃんという毒電波が頭の中でぐるぐるしている

 

・綾波

 おじいちゃんの初期艦。酸素魚雷積んでる。改造もしてる

鬼神の力をこれでもかと味あわせてくれる頼もしい子

母港では部屋に閉じこもってばかりだが友達は多く、陣営の垣根を超えた交友関係をきづいている

 おじいちゃんの艦隊のエースの一人。

 指揮官のお嫁さんの姿を知ってる数少ないKAN-SENの一人。そしてお嫁さんの死も見届けるという過酷な思い出を秘めている。

 おじいちゃんの自殺を止めるという勲章物の働きをした。

 

・愛宕

 重桜のやべーやつの一人。お前のとこの陣営やべーやつしかいねーのか

 おじいちゃん相手にれつじょうを催すわけにも行かず、やべーやつとの評判とは裏腹に器量、態度、戦力よしととても良い娘。重桜だけでなく他の陣営の艦からも好かれる頼もしいおねーさん。ただしたまりにたまったものが戦闘で解消されるのか自発装填を切り札に白刃を構えて肉薄雷撃する。怖い。酸素魚雷積んでる

 加賀がFalloutだとすればこいつは殺し屋イチの世界に生きてる。たぶんうたいながら駆逐艦あやすついでに目の前の敵を躊躇なく殺す。返り血が目についても瞬きしないタイプ

 重桜時代からのおじいちゃん指揮下

 色恋には無頓着だが、殺すと決めた相手に愛しているとか言い始めるマジモンのやべーやつ

 

・プリンツ・オイゲン

 防御のエース。カチカチ。

 皮肉屋だが間違ったことは言わない。ウォースパイトとよく衝突しているがなんだかんだ仲はいい。酒飲みだが弱い。多分最初に思いっきり飲んであとからぶっ倒れるように寝る

 自分の役割を理解しており、決して主役になれないであろう仕事も嫌な顔せず引き受ける聖人

 当然のように援護して万が一でも援護対象が大破したらお姫様抱っこで連れて帰る王子様。でもその仕草も演技だって気づいている。この世界という舞台で演技をしているんだという厭世的な性格をしている

 おじいちゃんに対しての態度はマジで猫。気ままにじゃれて、気が済んだら離れる。かわいい。

 

 

・レキシントン

 艦載機たちをぶつける。侮れない制圧力を持ってる。

 太ももが目に毒

 とんでもねえ火力と航空支援まで持ち出した船。つよい。

 母港ユニオン寮のお母さん的存在。たまにチビ共にお母さんと呼ばれる

 彼女が入れたコーヒーは絶品と評判。おじいちゃんもたまに飲む。

 

・イラストリアス

 こいつとプリンツのおかげでカチカチ艦隊になる。一人で制空権取れるとんでもねえ奴。

 ふだんは穏やかな淑女だが事戦闘においては抜かりなく作戦を遂行する。爆撃機を詰めない自分の枠割をようわかっているため、油圧カタパルト二段積みや耐久特価の構成をしている

 歌が好きでよく口ずさんでいる

 実はおじいちゃんの烈風の管制を行っているのはここ。つまりこいつがいないとおじいちゃんは盲目飛行をすることになる。大海原での盲目飛行ほどおそろしいことはねえよ。空と海の境界がわからねえ。

 

・明石

 金さえ用意すれば花からジェットエンジンまで用意してくれる頼れるやつ。別名ユダヤ猫。

 重桜時代からおじいちゃんを助けてくれるかわいいやつ。

 戦闘力は皆無だが手先の器用さに関しては右に出るものはいない。日々商売と技術開発にいそしんでいる。

 

・高雄

 愛宕の姉。拙者ござるとまでは言っていないでござる。

 常在戦場を心がけており、常に戦いの準備を怠らない。愛宕と比べると戦闘に関してそんなに執着はないように見えるがさすがの愛宕の姉、考える前に殺す。散歩でもいってくるとでも言うように殺し合いを始める。

 愛宕と加賀を抑えられる数少ない一人。重桜時代からのおじいちゃん指揮下

 

・リディ・フロスト

 おっぱい星からきたおっぱい星人。とんでもねえ奴。まるで無垢な少年のようにころころ表情を変える。おじいちゃんを先生と慕う。

 こんなやつでも准将。

 ただし作戦指揮に関しては天才的で、オーケストラのように

、をモットーに指揮をしている。演習では指揮官が出せなかったのでそもそも負け戦だった。

 ロイヤル内部では少ないおじいちゃん一派の一人。

 秘書艦は鉄血のグローセ。やっぱりおっぱい。表面上は従順な後輩キャラだが腹の底は思惑がぐるぐるしている。でもおじいちゃんに対する敬意はほんもの。

 



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牢屋の向こうの問い

 アーク・ロイヤルはいつものように牢屋の内側から本日の看守役である高雄を見つめている。重桜の重巡洋艦、高雄。この母港の彼女はKAN-SENの中でもとびきりの武闘派で、精神に一本筋の通った高潔な精神の持ち主である。常に高みを目指して修練し続け、「最強」の座を目指している武人だ。

 

「解せないな」

 

 牢屋に据え付けられた粗末なベッドに横になりながら、アーク・ロイヤルは牢屋の扉の前で仁王立ちをして彼女を見つめる高雄に言う。

 

「何がだ」

 

 高雄は顔色一つ変えずに、アーク・ロイヤルを見つめたまま問う。アーク・ロイヤルは笑みをこぼしながら起き上がると高雄のもとへ歩み寄る。本当に、駆逐艦への性癖さえなければ演劇の男役をも立派に務まるだろう。

 

「この牢屋から逃げたりはしないのに、なぜ貴女は律義に私のことを見張っているんだ? 貴女だって暇じゃないだろうに」

 

 アーク・ロイヤルのその言葉に高雄はむっとしたような顔を作る。

 

「指揮官殿は拙者に『見張りをしてくれ』と頼んだ。ならば拙者はその言葉に従うだけのこと」

 

「『しかし、誰が見張りを見張るのか』」

 

「何?」

 

 アーク・ロイヤルは柵越しの高雄に顔を近づけてそう問う。高雄は脇差に手をかけて怪訝そうに言う。もしもアーク・ロイヤルがおかしな真似をしようとするなら、高雄ならば瞬きをするよりも早く刀を抜き放って牢屋ごと目の前の「囚人」を両断できる。

 

「誰も貴女を監視してはいない」

 

「誰も見ていないからといって拙者が指揮官殿の命令を反故にするとでも?」

 

 わずかに怒りの混じった高雄の言葉にアーク・ロイヤルはふっと穏やかに微笑む。

 

「いいや。貴女ならばそう言うだろうと思ったんだ。すまなかったな」

 

 空気が弛緩したことを感じたのか、高雄は手にかけた脇差に込める力をほんの少しだけ緩めた。

 

「そういえば、貴女は閣下と古い付き合いなのだろう? 浮いた話の一つや二つあるんじゃないか?」

 

 アーク・ロイヤルの問いに高雄は顔を真っ赤に染める。その様子を見たアーク・ロイヤルは意地悪く微笑んだ。

 

「く……あの赤城殿が貴殿に強く出られない理由がわかった気がする……。質問の答えだが、あいにく拙者と指揮官殿の間にそういう話はない。確かに拙者はここに来るより前、重桜時代から指揮官殿の部下だが恋心などは感じたこともない」

 

 本心はどうであるのか不明だが、高雄は律義にもアーク・ロイヤルの問いに答えて赤い顔のままそっぽをむいた。アーク・ロイヤルは何かに気づいたように笑みを溶け落とすと、口を開いた。

 

「そういえば、なぜ閣下はこの母港にいるんだ? どうして重桜陣営からロイヤル陣営になったのだ?」

 

「それは……」

 

 その答えは高雄にだってわからない。ある日いきなり重桜がアズールレーンから離脱したと聞いたときは彼女たち重桜陣営や鉄血陣営のKAN-SENだってこの母港にいた。それなのに重桜本国はおじいちゃん指揮官のみならず、ほかにも諸国に派遣していた指揮官たち――貴重な戦力を切り捨ててアズールレーンから離反したのだ。

 

「……拙者には解らぬ」

 

 それを考えるのは自分の役目ではないと無理やり自らを納得させたのか、高雄は目を瞑って大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 



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いってらっしゃい

 現在執務室にいるのはおじいちゃんだけだ。今日は秘書艦ローテーションの日で、今まで秘書艦を務めていたテラー、アリゾナ、飛龍の3名は任期満了に伴い秘書艦の任を解かれ、新たに3名が秘書艦に任命される。

 

 ウォースパイトが新しい秘書艦を引き連れてくるまで、おじいちゃんは机の上に載せられた小さなネモフィラの鉢を見つめる。もう悲しくはない。彼のお嫁さん「小瑠璃」との短い夫婦生活の日々はおじいちゃんの記憶に鮮やかに残っている。

 

 控えめなノック音が部屋に転がり込み、おじいちゃんの返事よりも早く扉が開かれる。現れたのはウォースパイト、加賀、アドミラル・グラーフ・シュペー、そして北方連合の新入り、パーミャチ・メルクーリヤだ。

 

「やあ、お疲れ。楽にしてくれ」

 

 おじいちゃんはにこにこと人好きのする笑みを浮かべながら目の前に整列した4名の目を見つめる。

 

「ウォースパイトから詳しい説明があると思うが、君たちに新たに秘書艦を務めてもらいたい。君たちには私と各陣営の橋渡しとして情報、指令の伝達を行い、円滑な母港運営ができるようにぜひ協力をしてほしい。君たちの力を私に貸してくれ」

 

 おじいちゃんの言葉にいつもは余裕の態度を崩さないパーミャチ・メルクーリヤでさえ緊張を浮かべる。そんな彼女に気づいたのか、おじいちゃんは笑い皺をより一層深く刻んで笑う。

 

「大層なことを言ったが、難しいことはない。ほとんど書類の処理や整理だから。それにウォースパイトが良く教えてくれるだろう?」

 

 おじいちゃんはウォースパイトに目配せすると、ウォースパイトは「当然」といった面持ちで頷く。

 

「さてそれではウォースパイト、後を頼む。もうすぐリディと会食の時間だから、今日の執務はここで切り上げさせてもらうよ」

 

「呑みすぎないようにね」

 

 ウォースパイトが言うと、おじいちゃんはあいまいに笑う。こう見えてもおじいちゃんは大の酒好きだ。普段は飲まないが、いざ酒の席になればラフィーと飲み比べ、オイゲンと加賀を潰すほどの大酒飲み。そのうえ長年の人生経験で舌も肥えているのだからタチが悪い。

 

 おじいちゃんは髪を撫でつけると真っ白い制帽をかぶり、襟元や袖を撫でつける。

 

「指揮官、ネクタイ」

 

 言うが早いかウォースパイトがおじいちゃんの首元に手をかけ、ネクタイの結び目を直す。

 

「曲がってたわよ」

 

「すまないね。助かったよ」

 

 彼女とおじいちゃんからしたら特段変なことではないのだが、そのあまりにも乙女チックな行動に新しく任命された秘書艦たちはわずかに頬を染める。彼女たちも女所帯、寮内では漫画の貸し借りが行われているし、休憩スペースにも設置してある。

 

 少女漫画は必然的に、寮内の回覧板と同じ影響力を持つに至る。

 

 ある者が週刊誌を買えば別のものが別の週刊誌を買い、また別のものが別の雑誌を買う。そんなスパイラルでこの母港の寮は娯楽を取り入れている。

 

「じゃあ、行ってくる。留守を頼んだよ」

 

「ええ」

 

 おじいちゃんは帽子を脱いで秘書艦に微笑み、扉を閉めた。

 

「……行ってらっしゃいのキスはしないの?」

 

 からかうような声色でパーミャチ・メルクーリヤがウォースパイトに問うと、ウォースパイトは一瞬で顔を真っ赤に染めた。



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男の道は修羅の道?

 夜、おじいちゃんとリディ・フロスト准将はホテルでディナーを満喫していた。おじいちゃんは堅苦しい雰囲気はあまり得意ではないのだが、ロイヤル海軍の准将たるリディが場末の居酒屋にいるというのも体裁が悪いので結局はある程度肩ひじを張った食事会になる。

 

 とはいえ、おいしい酒と料理が楽しめる以上、おじいちゃんにとって不満はない。互いにある程度食事と酒を腹に入れた後で、僅かに頬を染めてリディが切り出した。

 

「お口に会いましたか?」

 

「大満足だよ」

 

 おじいちゃんはグラスに残ったウィスキーに口をつけ、ゆっくりと口内に入れる。そして飲み込んでから大きく息を吐く。吐息にウィスキーの香りがした。

 

「それはよかった。恥ずかしい話、ロイヤルは諸国に比べて料理がまずいという評判をよく聞くので、重桜出身の先生の口に合わなかったらどうしようかと思ってたんです。あ、でもお酒は自信ありますよ?」

 

 准将という階級からは考えられないくらいに穏やかに、人懐っこくリディは話し続ける。ろれつがだんだん回ってきていないところを見ると、すでに酔っぱらっているのだろう。たまらずおじいちゃんは新しいグラスと水のボトルと、それから自分のウィスキーを注文する。

 

 ウェイターが恭しくテーブルまでやってきて、机の上をひとしきり片付けた。

 

「何か話があったんじゃないのかい?」

 

「今日は食事会ですよ。なーんも深い意図はありません」

 

 にこにこと笑いながらリディは陽気に言う。

 

「しいて相談といえば、KAN-SENとケッコンってどうかなって――」

 

 そういってからリディはしまった、といった顔をした。おじいちゃんのお嫁さんが既に亡くなっていることを、リディは知っている。おじいちゃんの「思い出」までは知らないが、そんなおじいちゃんの心の傷をえぐるようなことをしたと考えているのだろう。

 

 だが、おじいちゃんはニコニコと微笑んだまま、リディのためにアドバイスを探す。

 

「良いんじゃないか? 相手はロドニーかい?」

 

「何でもお見通しですねえ先生は!」

 

 リディは豪快に笑うと、水を飲む。この様だけ見れば誰も偉い人だとは思わないだろう。

 

「結婚式を挙げるなら是非呼んでほしいな」

 

「誰を忘れようと先生だけは忘れませんよ! うん、決めました! 母港に帰ったらロドニーに指輪渡そうと思います! 受け入れてくれると嬉しいんですが」

 

 はにかむようにしてリディが言うと、おじいちゃんは慈愛に満ちた笑みでリディを見つめる。

 

 まるでおじいちゃんが孫に向けるようなその温かい視線を浴びて、リディは水をもう一杯飲む。

 

「ささ、先生も飲んでくださいよ! 先生の好きなウィスキーもありますよ!」

 

「十分飲んでいるよ。男同士気遣いなしでいこうじゃないか」

 

 はた目からそんな二人の様子を見ていたウェイターは、おじいちゃんが6杯目のウイスキーを注文する声を聴くとひきつったように笑みを浮かべた。



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