ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編 (Rakusai)
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0.序章

 ゲッターロボに登場する、早乙女達人と言うキャラクターをご存知だろうか?

 

 その名前から分かるとおり早乙女博士の息子であり、早乙女ミチルや元気の兄に当たる人物だ。

 (作品にもよるが)割とスポットの当たる早乙女一家の中では地味な存在であり、登場作品もあまり多くは無い上にほぼ死んでいる。

 印象に残るのは、せいぜい新ゲッターにおいてプロトゲッターのパイロットとして登場し鬼になって死亡した時くらいだろうか?

 ありていに言って、敵の強大さと戦いの悲惨さ演出要員である。

 

 さてそんな脇役・早乙女達人、実は俺である。

 俺である。

 マジかよ。

 

 簡単に説明すると、父さん、つまり早乙女博士の研究中にゲッター線で爆ぜたケーブルに頭を打って昏倒、起きたら前世の記憶がカムバックしたのだ。

 いやもう、頭を抱えたね。

 先述の通り、ゲッターロボに就いて一通りの知識は有している。触れたきっかけはスパロボだったが、OVAは見たし原作漫画もだいたい読んだ。

 つまり、その、なんだ、イデオンとエヴァンゲリオンと同じくらいには来たくない世界だったよゲッター世界。

 

 一種の転生を果たしたのはゲッター線のせいだから仕方ないとして、人格的には前世の"俺"と今生の"僕"(達人)が混ざったような状況にある。

 達人の性格は、前世から客観的に見ると真面目で努力家、父を特に尊敬する家族思いの青年と言った具合だ。

 端から見ると完璧な好青年なのだが、いかんせんゲッター世界で生き延びるには爽やかすぎる(断言)。

 "俺"はイモリだかトカゲだかにたかられて父さん(早乙女博士のことである一応)に焼き殺されるのも、鬼に噛まれて鬼になるのもゴメンだ。

 

 となればこれはもう自らを鍛えるしかない。

 

 幸いにして現在の早乙女達人=僕は、中学卒業を間近に控えた年齢だ。学校に通いつつ身体を鍛える余裕も年齢的な発展性も十分にある。

 大学卒業して研究所勤めになるまでの、おそらく十年弱、それまでに最低限野犬の首を素手で引き千切れるくらいにはならないと死ぬ(真顔)

 

 

 そんなわけで、東京の学校に進学すると同時に空手の道場へ入門する事を決めた。

 そう空手の道場である。

 ちょっと師範の苗字が流って言うだけの空手の道場である。師範の息子の名前が竜馬ってだけのなっ!

 修行は死ぬほどキツかったけど、なあに、コレに耐えられなかったらどうせ死ぬ。死ななきゃ安い。死ね師範。

 ちなみに修行の一環として出場したスポーツ空手の大会は無事出禁になった。実践空手だからね。しかたないね。

 師範の現役時代と違って、僕は父さんに迷惑かかるから後遺症残るような攻撃はして無い。相手も弱かったので手加減は楽だった。

 

「達人さん、飯!」

「ちょっと待ってろ欠食児童。毎度毎度バクバク食いやがって」

「達人、飯だ!」

「おう、小学生の息子と一緒に茶碗叩くな不良道場主!!」

 

 以上、流道場の日常風景である。夜になると道場主の方は「酒!」になる。

 なお、声変わりした息子さんは神谷ボイスでした。最近、体が出来てきて道場で相手するのがスッゴイ辛い。気を抜くと容赦なく急所に拳が来る。

 まあ蹴り返すわけだが。

 

「野郎ぶっ殺してやる」

「このクソガキ」

「後ろだガキども」

「「死ねクソオヤジ」」

 

 統計的に笑顔の絶えない素敵な道場です。

 

 

 道場で飯作って修行して大学で勉強して時々早乙女研の手伝いして論文書いて、アルバイトとアルバイト(物理)でお金稼ぐ、だいたいそんな生活。

 凄いな命燃やして生きてるよ俺! クッソハードなスケジュールなのだが、鍛えた身体は揺るがない! やったぜ人体。

 

 怪しい薬(ゲッター線)やってるとか言われたら否定しきれないけど。

 

 でまあそんな生活を数年続けて、大学卒業するころには早乙女研究所の職員として恥ずかしくないスキルを身につけることに成功していた。

 息子さん……もう竜馬でいいや。竜馬も空手の全国大会に出場し無事出禁になり、現在は普通に高校生をやっている。

 ちなみに勉強は僕が教えたので成績はかなりいい。元々、学習能力は飛びぬけているので、家庭教師のバイト先と比較しても優秀なくらいだった。

 あ、クソ師範もピンピンしてます。栄養状態が改善したせいで入門当時より強くなってやがる。ヤクザいぢめ楽しそうっすね。発案したの俺だけど。

 

 とまあ、順調にゲッター世界に染まった俺は、大学を出た後に一年ちょっとの海外留学を経て早乙女研究所の研究員になった。

 所長が父さんなのであからさまなコネと言えなくもないが、あの人、人材の能力に対する判定はシビアだ。

 いくら息子とは言え、能力が足りなければ容赦なく雑用行きだろう。

 少なくとも、今目の前に張り出されている巨大な設計図……人型の"それ"に堂々と関われる程度には評価されたいものだ。

 

 

 

ゲッターロボ大決戦!

 早乙女達人編

 

 

 

 さて、"僕"が早乙女研究所に勤め始めてから一年ほどが経過した頃、ようやくにもゲッターロボの起動試験は成功した。

 いわゆるプロトゲッター、灰色のゲッター1と言うべき外見のそれの起動は、当初予定されていた三分の一の出力で行われている。

 そこから問題点を探し出して改良、さらにゲットマシン構想による分離合体変形機構を組み込んだ正規版の設計が行われた。

 そうして実機の製造が始まると、同時にパイロットの選定も行われた。

 本来なら自衛隊からの出向を要請することになるのだが……。

 

 今の時点で、父さん以外にとってのゲッターロボは宇宙開発用の大型作業機械だ。ここに軍事的な要素を加える自衛隊の要員は好ましくないとされた。

 政府筋からも予算を盾にされたため、出向の話は流れてしまう。

 そうなると研究所独自で搭乗員を探す必要があり、加えて最終手段として研究所職員による搭乗まで考慮され始めた。

 具体的には僕が航空機の操縦免許を取った。父さんも取った。大学に通いながら父さんの秘書のような事をやっていた妹のミチルも取った。

 早乙女家アグレッシブすぎませんかねえ。

 

 とは言え。

 

 まさかゲットマシンに所長と研究員と秘書が乗るわけにもいかず、父さんは年齢的な理由で長時間の搭乗が出来ないこともあり、人員募集が行われた。

 ところが、コレがまた難航する。

 民間のパイロットは、ゲットマシン用のシミュレーターに乗るとそろって音を上げたのだ。

 ちょっと超音速で飛行しながら合体変形するくらいでだらしねえな! うん感覚が麻痺している自覚はある。

 しかし、出来ないものは仕方がない。シミュレーションですら音を上げる人間を実機に乗せるわけにもいかない。死ぬので。

 

 それならどうするか。

 

「ジジイ! いきなり、こんなところに連れて来やがって! 何のつもりだ!」

 

 はい。こちら麻酔銃ぶち込んで強制連行してきた流さん家の竜馬君となります。

 高校卒業控えたちょうどいい時期だったので、もういいかなって。

 

「や、久しぶりだな、竜馬」

「! 達人さんか! くっそ、やけに手際がいいと思ったらそう言うことかよ!」

「ちなみに師範は了承済みだ。契約金チラつかせたら一発だった」

「クソ親父ィ!」

 

 今頃、高い酒でも飲んでる父親でも想像したのだろう、天に向かって吼えつつこっちに殴りかかってくる竜馬。

 ちなみに真正面から話を持っていくと言う手もあったが、変なひねくれを起こされても困るので強制連行となりました。

 試験代わりの殺し屋? 無意味に怪我人出すだけだろ。

 

「で、なんだって俺をこんな場所に連れてきたんだよ? そっちの白髪の爺さんが達人さんの親父だってのは分かったけどよ。ペッ! クソ口切った」

「ああ、竜馬に仕事を頼みたくてな。師範の道場を継ぐにしても、時間はあるだろうし……ゲホッ、本気で殴りやって。父さん、いいかな」

「う、うむ。ところで達人、お前東京で何やっとったんじゃ」

 

 そう言って案内を始めた父さんは、じゃれ合い(殴り合い)を終えて平然と会話を交わす僕たちの姿にちょっとだけ引いていた。

 大丈夫だって、まだ喉より下から血は吐いてないから。

 そうしている間にも、研究所の地下部分に存在する巨大な鉄扉が音を立てて開き、その向こう側があらわになる。

 

「……ッ! 巨大、ロボット?」

 

 さすがの竜馬も、目の前に現れたゲッター1の上半身を見て息を呑む。

 早乙女研救助地下格納庫には、他にも作業用の小型ロボットが走り回っているのだが、やはりゲッターのインパクトは大きい。

 加えて、彼が"流竜馬"である以上、ゲッターに対してなにかしら感じるものがあるのかも知れないが。

 

「流竜馬、君にはこいつに乗ってもらう。この、ゲッターロボにな」

 

 父さんの言葉を聞いているのかいないのか、竜馬はゲッター1を見上げたまま動かない。

 ただポツリと、その口から言葉が漏れる。

 

 「ゲッターロボ」と。

 

 

 

 

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1.隼人の校舎

 研究所に竜馬が来てから一月余。無事に高校を卒業して研究所勤めになった彼は、いまゲットマシンの操縦訓練を行っていた。

 基本的な操縦技能については、さすが竜馬と言うべきかわずか三日で修得。通常の空戦は、半月ほどで空自のベテランと遜色ないレベルで身に付けた。

 そして、いまはゲッターロボを用いた場合のシミュレーションを行わせている。

 対戦相手は早乙女達人。僕である。

 

「ゲッタートマホーク!」

 

 シミュレータ越しにも感じられる竜馬の突撃を気迫ごといなし、僕は自機であるゲッター2の機動性を生かして背後を取る。

 

「ゲッタードリル」

 

 振りかぶったドリルがゲッター1のマント状の飛行装置を貫きその機動を乱す。そのまま突き貫けば、コクピットを破壊するだろう。

 しかしそこは竜馬、突撃の勢いをそのままにコマのような回転を生み回し蹴りで反撃を行う。

 僕はあえてその蹴りを真っ向から受けてゲッター2を後方へと吹き飛ばさせた。

 ゲッター1が体勢を立て直して相対する、その一瞬。

 

「ジェットドリル!」

 

 射出されたドリルの一撃がゲッター1のコクピットを貫通していた。

 

「だぁぁぁぁ! また負けたぁ!」

 

 通信機から竜馬の悔しそうな声が聞こえる。

 ゲッターの扱いではまだまだ負けんよ、とでも言ってやりたいところだが、もう二、三回もやれば追いつかれるだろう。

 そんな恐ろしいまでの成長力と学習力が竜馬にはある。まさしくゲッターの申し子と呼べるほどに。

 

「シミュレーション終了。お疲れ様です。達人さん、竜馬さん」

「ああ、お疲れ様、南風くん」

「おう、渓! 喉渇いた。水くれ水」

 

 シミュレーションルームから出てきた僕と竜馬を出迎えたのは、茶色の髪を短く切った若い女性だった。

 彼女の名前は南風渓。

 工業系学校からのスカウトで早乙女研究所にやってきた新人スタッフで、各種作業用ロボットのパイロットでもある。

 ゲッターロボの予備パイロットとしても期待されているが、あいにくとまだシミュレーター訓練に合格していなかった。

 一応言っておくと、南風くんの技量は必要十分であり、戦闘機の操縦を習得後一日でゲッターシミュレーターに合格した竜馬がぶっ飛んでいるだけだ。

 

「ところで、達人さん。ゲッターに乗るのは別にいいんだけどよ、ここまで急ぐ必要ってあるのかい?」

「あ、それは私も気になってました。それに、宇宙開発用と言うには少し……」

 

 「重武装過ぎる」とまで続けることなく口ごもった南風くんに、僕は肯くことで答えどうしたものかと少しだけ考えた。

 実のところ、父さんから二人に"事情"を話すことは許可されている。だが、ただ話したところでどうしても現実感と言うか、説得力には欠けるだろう。

 これから戦っていくモノのことを考えれば、まず最初に何か強烈な印象を与えるような出来事にぶち当てたほうがいい。

 ……ここは一つ、釣りの真似事をするべきだろうか。

 

「そうだな。明日、明後日の訓練は中止だ。予定が決まったら連絡するから、研究所待機ではあるけど身体を休めててくれ」

「んだよ、回りっくどい。何かするのか?」

「なに、ちょっとしたピクニックさ」

 

 竜馬の言葉に自分でも悪い顔で笑っている自覚をしながら答えて、僕は通信機で父さんへと連絡を入れた。

 

 

 

ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編

 第一話:隼人の校舎

 

 

 

 学生運動と言う物をご存知だろうか。1950年代から1980年代に盛んに発生していた、主に大学生による政治的な運動だ。

 安保闘争だとか反戦運動だとか、そう言った理由はさておき、学生たちが徒党を組んで学内に立てこもり何かしらの主張をしていたと思って欲しい。

 "俺"の知る漫画版ゲッターロボは、ちょうどそう言った時代を舞台としていた。

 だが現在、"僕"、早乙女達人が生きているのは1990年代の後半であり、学生運動は既に過去のものという認識が大半だろう。

 ただ一箇所、とある高校を除いては。

 

「それが、通称『隼人の校舎』ですか?」

「ああ、数年前に徒党を組んで校舎を占拠。学校側も警察も対処できず、ついに新しい校舎を建てる羽目になったって話さ」

 

 大型トレーラーの運転席から、遠目に確認できる古びた校舎とそれに相対するように建つ新しい校舎を僕は南風くんに指し示す。

 警察の機動隊による介入も失敗、自衛隊による治安出動は政治的な理由で見送り。今では、解散の呼びかけが定期的に行われる程度だ。

 

「鎮圧に失敗した最大の理由は神隼人。その頭脳の切れ、自称専門家曰く知能指数300の大天才。……まあ、いろんな意味でキレ者なのは間違いない」

 

 そう、クールでニヒルで、実はゲッターチームで一番ヤバイ2号機担当、置いていかれることに定評のある神さんである。

 元々ゲッターチームの面々についてはパイロット候補として探してはいたのだが、隼人の行状は、何と言うか、うんヤバかった。

 

 おめえ、機動隊に死人出てんじゃねえか。

 

 裏回りして車両奪取からのひき逃げ祭りって何だ。戦国か、戦国武将の戦い方か。

 ぶっちゃけガチテロリストである。しかも隼人の校舎に参加してる他の面々は普通の学生なので、本気で隼人個人の頭脳とカリスマ性で動いてる。

 

 ヤバイ。

 

 何がヤバイって、調べた僕が「これ流石にアカンやろ」と持っていったのに、即採用して「いいじゃない」と笑った所長(父さん)とかが特に。

 父さん曰く、自分が暗殺された時に後継者として戦い続けてくれそうなのが特に良しとのこと。

 我が父のことながら覚悟とその他色んな物がキマっている。

 

「ええ、その神隼人さんとスカウトするのは百歩譲っていいとしても、あそこまでする理由ってあります?」

「ああ、竜馬をぶつけるのは他の人間だと殺されかねないから。ゲットマシンを持ってきたのは……釣り餌、かな?」

「釣り餌? ……あ、イーグル号が上空に到着します」

 

 南風くんの言葉に応じるように、東から爆音を立てて赤く塗装された戦闘機が市街地上空に侵入してきた。

 言わずもがなのゲットマシン1号機、流竜馬搭乗のイーグル号である。

 久々の実機飛行ではしゃいでるらしい竜馬は、『隼人の校舎』上空を二、三度旋廻してからVTOL機能を使って校庭に堂々と着陸してみせた。

 

「煽るなあ、竜馬のヤツ」

「だ、大丈夫ですかね? いきなり攻撃されたりは……」

「するだろうなあ。一応殺すなよとは言っておいたけど、勢い余らないといいなあ」

「えぇ……」

 

 「心配するところそこなんですか?」と言いたげな南風くんだが、相手は竜馬なので仕方がない。この人、ゲッターチームなんです!

 上空から雨がぱらつき始めた中、竜馬が校舎内に入っていく姿を見送った僕は、次いで傍らの計器が微小な振動を計測するのを確認した。

 

「獲物がかかった。ま、様子見か。いきなり大物が来ても困ったけど」

「達人さん?」

「いや……さ、南風くん、雨が本降りになる前にベアー号とBT(ビィート)の用意をしておこうか」

 

 天候が悪化し、黒雲が渦巻く下で、僕は戸惑いがちに付いて来る南風くんとともにトレーラーの貨物室へと向かう。

 釣れるのはどうせトカゲだ。精々噛まれないようにしようじゃないか。

 

 

 

 

 

 一方その頃、隼人の校舎内部。

 

 流竜馬は、目の前に居る痩せぎすの男の手刀によって切られた頬から流れる自らの血を指で強引にぬぐいながらニヤリと笑っていた。

 古馴染みの早乙女達人の誘いに乗ってゲッターロボのパイロットになったのはいいが、訓練漬けで多少は退屈していたところでもあった。

 そこに来て不良どもがたむろする学校の校舎に殴りこみをかけるのだと言う。

 理由はよく分からないが、思い切り暴れていいとのことだったので竜馬は二つ返事で引き受けた。

 

「いいね。周りの連中は半端者ばかりだったが、お前となら楽しめそうだ」

 

 不良どもは本当に不良どもでしかなかった。骨が折れたくらいで泣き喚く、ちょっと小突いただけで悲鳴を上げる。

 高校時代に参加した空手の大会を思い出して、そのまま三階まで来てため息を吐きそうになっていたところだった。そいつが現れたのは。

 

 神隼人。

 

 事前に目を通していた資料にあった、不良どものリーダーの名前を思い出して竜馬は笑う。

 コイツだけは"本物"だ、と。

 

「何処のどいつかしらないが、ここまで来たんだ、覚悟はできてるんだろう」

「は、御託は良いぜ隼人さんよ。顔見たら分かった、なるほど、ジジイと達人さんが目を付けるはずだ」

 

 学校を占拠して、シンパの不良を使って戦争ゴッコ、機動隊も歯が立たずに腫れ物扱い。

 退屈していたのだ、神隼人も。流竜馬と同じように。

 ニタリと、二人の男がどちらからともなく笑う。笑う。笑う。

 

「チィッ!」

「ケッ!」

 

 次の瞬間には手刀と脚が交錯した。

 頚動脈を引きちぎろうとした隼人の攻撃と、容赦なく顔面を蹴り砕こうと放たれた竜馬の攻撃は、互いに浅く掠めて空を撃つ。

 そうしてまったくもって容赦の無い、互いに相手が死ぬとか自分が殺すとか、そう言った些細なことを考えぬ一撃の応酬が始まった。

 血しぶきが飛ぶ。肉をがねじれ、骨が軋む。ソレを見て笑う獣二人。

 その時である。

 

「は、隼人さん、はや……」

 

 フラフラと死闘の舞台に乱入してきた不良学生が血をぶちまけて死んだ。

 犯人は竜馬でも隼人でもない。

 それは一匹の異形。

 トカゲを二足歩行にして、少しだけ人間の姿に近づけたようなそれは、長い舌を伸ばして不良学生の死体を二度三度と刺してもてあそんだ。

 再度、舌が伸びる。

 肉を打つ音。血が飛び散り、骨が砕ける音がする。

 

「はーん、なるほどねえ。こいつが、あのクソ科学者親子の言ってた"敵"ってヤツか」

 

 ぐしゃりと湿った音が鳴って、しかし床に落ちたのはトカゲ人間の方だった。

 竜馬は、引き千切った長い舌をぶらぶら揺らして遊びながら、大量の血を流して痙攣するトカゲの頭を踏み砕いて脳漿を散らす。

 

「ヒィーヒヒヒヒ、ヒィアー!」

 

 背後では、隠れ潜んで奇襲を仕掛けてきたもう一匹のトカゲ人間が、奇声を上げる隼人の手によってミンチになっているところだ。

 さらに今度は人型でない大型のトカゲ、恐竜にも似たそれが飛び込んできたが、竜馬はその辺に転がっていた椅子を投げつけた後に蹴り殺した。

 例外二人(竜馬と隼人)を除けば、周囲は地獄絵図になっている。

 隼人のシンパである不良生徒たちは殺され、弄られ、食われた仲間を見て狂乱の中にある。

 やがて校舎に侵入していた怪物たちは竜馬と隼人によって全滅したが、もはや物の役に立ちそうなのは隼人くらいだろう。

 血と肉とアンモニアの臭いが鼻につく空間が揺れる。同時に耳元に付いていた通信機から達人の声が聞こえてきた。

 

「竜馬、本命が来たぞ。それなりに大物だ。生身でやるなら止めないが、どうする?」

「冗談。さすがに今見えてるデカ物相手じゃあ、殺す前に俺が餌になっちまう」

「了解だ。ジャガー号を送る。神隼人はコクピットにでも入れておけ」

 

 通信が切られると同時に、校庭に大型のトレーラーが乱入してコンテナ部分が展開させ白い戦闘機、ジャガー号の姿があらわになる。

 トレーラーの傍らでは、饅頭のような形をした手足のついた人型戦車……BT(ビィート)-23が空に向かって機関砲を打ち上げていた。

 何かしらの理由がなければ、あの戦車には南風渓が搭乗しているはずだ。

 

「何なんだ、何なんだ、アイツらはッ!」

「敵さ。それより隼人、ちょっとばかり付き合ってもらうぜ」

「なに? うっ、うわぁっ!!」

 

 必死に状況を整理しているのだろう、なにやら考え込んでいた隼人を、竜馬は容赦なく三階の窓から校庭に向けて投げ捨て自分も飛び降りた。

 勢いよく投げられた隼人はそのままジャガー号の操縦席に吸い込まれ、ソレを見届けた竜馬は自分もイーグル号へと飛び乗った。

 上空では、機械と恐竜が融合した巨大で奇妙な二本首の怪物と黄色い戦闘機が交戦している。

 巨大な怪物、計器に表示される呼称によればメカザウルスは、その金属部分から小型の翼竜のような物を射出しており、BTはそれを迎撃していた。

 ベアー号はバルカンで小型翼竜を迎撃しつつ本体であるメカザウルスにミサイルを撃ち込んでいるが、さほど効果は見られない。

 大型ミサイルを積んだベアー号では小回りが利かず、翼竜相手に後手に回っているようだった。

 

「ハッ。いいね、おあつらえ向きじゃねえか。ゲッターロボの初陣にはなあ!」

 

 竜馬は、吼えるように言ってイーグル号のスロットルを全開にした。

 推進器が火を噴き、校舎の一部を吹き飛ばしながらイーグル号は一瞬で亜音速にまで加速する。

 バルカンがうなり、ミサイルが小型翼竜を爆砕し、一瞬の空隙が戦闘空域に生じた。

 真後ろからはジャガー号が来る。ベアー号は空中で弧を描き、既に最後尾。実に"分かっている"。

 

「行くぜェ!! チェンジ、ゲッタァァァァァワンッ!」

 

 後方からジャガー号が猛スピードで追いすがる。きっと今頃、隼人は前を飛ぶイーグル号のエンジン部位をドアップで堪能しているはずだ。

 衝撃、続いてベアー号がその大推力のエンジンを光らせて追いすがる。

 

「ぶ、ぶつかる、潰される!」

 

 機内無線が同期したことで聞こえてきた隼人の声を他所に、ベアー号は最高速度をそのままに連結したイーグル号とジャガー号へと突き刺さった。

 腕が伸びる。足が伸びる。内蔵フレームが展開され、それに添ってゲッター合金が伸縮して装甲を形成した。

 時間にしてわずか数秒足らず。

 連結していた三機の戦闘機は、いまや赤をメインにした塗装を施された、横に延びた二本の角を持つ巨大な人型ロボットへと姿を変えていた。

 

「やっぱり自動操縦じゃ遅すぎるな。まあいい、合体しちまえばこっちのもんだ。確かめさせてもらうぜ、ゲッターロボの力をなあ!」

「ひっ、ヒヒッ」

「ジャガー号分のフォローはこっちでする。思い切りやれ、竜馬」

 

 ベアー号の達人の言葉に、言われずともと返し、竜馬は操縦桿を押し込んだ。巨大ロボット、ゲッター1が空を舞う。

 そのエネルギーはゲットマシンとは比較にならないほどに跳ね上がり、周囲を囲む翼竜をその質量と速度で粉々にしていく。

 血と体液を浴びながら、目指す先には母艦型メカザウルス。

 敵は双首をもたげ、ゲッターロボを待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

「チェンジ、ゲッタァァァァァワンッ!」

 

 通信機越しに竜馬の雄たけびが耳に届く。ゲットマシンが激突し変形する衝撃が身体を貫き、高揚感が心を満たしていた。

 

 ここから全てが始まる。

 

 敵メカザウルスはただの一体。我々が立ち向かうべき最初の敵、恐竜帝国との争いの緒戦、局地戦に過ぎない戦い。

 しかしそれは次々に訪れる侵略者たちとの戦い、ひょっとしたら永遠に続く闘争の始まりになるかも知れない一戦だった。

 とうに覚悟は、決まっている。

 "俺"と"僕"が混ざり合い、早乙女達人として生きていくことを定めた瞬間に、そんな物は済ませていた。

 戦いの果てにある物が死でも滅びでも、あるいはゲッター線のもたらす緑色の輝きに染まった未来でも、全力で抗ってやるのだと。

 

「ゲッタートマホーク!」

 

 ゲッター炉心の出力を上げる。竜馬が振るう斧の刃が、メカザウルスの肉を引き裂き、返しの金棒が金属装甲をひしゃげさせた。

 生体である恐竜部分が断末魔を上げ、体液と爆音を撒き散らしながら落ちていく。

 翼竜に乗って脱出しようとするハチュウ人類たちを、竜馬はゲッター1で追撃し容赦なく轢き潰した。

 外部カメラごしに恐怖の表情を浮かべながら地面の染みになるトカゲ顔の兵士の姿が見える。

 哀れむまい。慈悲をかければ、次にあの表情を浮かべているのは僕自身か、あるいは家族の誰かかも知れない。

 地上では、父さんの指示でハチュウ人類のサンプル回収が行われているはずだ。

 南風くんには辛い仕事かもしれない。

 伸ばされたゲッター1の腕が逃げる翼竜を握りつぶし、全ての敵は消えうせた。

 

「敵の全滅を確認。竜馬、ご苦労さん」

 

 さて、あまり心配はしていないが隼人のスカウトもしなければな。

 初陣を終えた僕は、無性に家族の顔が見たくなっていたことに気付かないふりをしながら帰還の指示を出すのだった。

 

 

 

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2.その名は恐竜帝国

 恐竜帝国との緒戦、隼人の校舎での戦いからしばしの時間が流れた。

 元過激派集団のリーダー神隼人は、早乙女研究所のスカウトに快く応じ、ジャガー号の正規パイロットとして登録されている。

 知能指数300は眉唾にしても、その卓越した頭脳と身体能力に疑いの余地はなくマニュアルを渡して数日で実戦レベルの技術を身につけてのけた。

 竜馬ともあれで中々相性がいいらしく、暇を見つけてはシミュレーターの対戦や運動場での殴りあいで交流を深めている。

 時々、竜馬ともども矛先がこちらに向くのは勘弁してほしい。流石に二人同時は死ぬ。死ぬ。

 父さんに対しては素直に尊敬の念を抱いているらしく、ゲッター線関連には並々ならぬ研究意欲を発揮している。

 あの様子だと、近いうちに大学程度の学位は軽々と獲得してしまうだろう。

 

「達人さん! 弾薬の搬入終わりましたぜ」

「ああ、お疲れ竜二くん。悪いね、訓練で疲れてるだろうに」

「なあに、自分たちが使う武器弾薬ですからね。隼人のようにロボットにゃあ乗れねえが、せめて足元の掃除くらいしてやりてえ」

 

 で、いま僕と話しているのは神竜二。隼人の従兄弟で、同じく過激派グループに所属していた人物である。

 隼人の校舎での戦闘の後、隼人が離脱したことで学校側と警察による締め付けが強まってきたタイミングで引抜きをかけたのだ。

 当然のように離脱者も出たが、現在ではおよそ三十人程の元隼人グループが早乙女研究所の警備員として働いている。

 ライフル担いで研究所謹製のパワーアシスト付き装甲服に身を包んでいるが、警備員である。

 研究所の敷地では強面の連中が集団で丸太を担いでアスレチックコースを堪能する暑苦しい光景が繰り広げられているが、警備員である。

 大事なことなので二回言った。

 

 おかげで公安に目を付けられたものの、放置しておけば彼らを待ち受ける運命は非業の一言に尽きるし、わざわざ敵を増やす必要もない。

 隼人はこの件について何も言わなかったが、訓練の計画書を作成して渡してくる程度には受け入れているらしい。

 竜二以下のグループは、陸戦た……もとい警備としての訓練の他、率先してトレーラーや作業車両の扱いを覚えてくれており、その辺も助かっている。

 メカザウルスのデータは政府にも送りつけ、防衛庁(この世界ではまだ省になってない)も防衛計画を立案していた。

 早乙女研究所も戦闘用ゲッターロボ及び同量産計画に参画しており、僕もそちらに関わるためベアー号のパイロットとして専属でいられない状況だ。

 そんな折、ようやく探していた"三人目"の所在が判明した。

 北海道は大雪山、真冬のそこに山篭りと称して突入、この春も半ばを過ぎるまで遭難して死亡したと思われていた柔道馬鹿一代。

 

 名を、巴武蔵と言う。

 

 

 

ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編

 第二話:その名は恐竜帝国

 

 

 

 まず最初に言おう。これは酷い。

 新規加入した巴武蔵だが、その操縦技術はお粗末の一言すら生ぬるかった。シミュレーター上でベアー号を墜落させること百回に及ぶ。

 そもそもが機械オンチで余計な操作の果てに墜落。同じミスを繰り返すことも一度や二度ではない。

 竜馬や隼人からもクビにして僕、ないし南風くんかミチルがベアー号に乗れと言われることが幾度もあった。

 しかし情報管制機のコマンドマシンに武蔵を乗せるなど冗談にもならず、BTはBTで戦場で簡易修理を行うための機構が無駄になる。

 それじゃあ僕が乗れば良いじゃないかと言う話だが、新型ゲッターの開発テストのためにしばらく沖縄に行き来する予定であった。

 これを聞いた竜馬たちは、いっそ父さんを乗せようと言い出すほどであるから、着任当初の武蔵の扱いは察してほしい。

 なおこの間に武蔵は実機でベアー号を墜落させた。整備員は徹夜である。

 

 これが改善してきたのは、武蔵が来てから一週間ほどが経過した頃だ。

 パイロットたちのスケジュール管理をしていたミチルが、訓練時間の尋常でなさに気が付いたのだ。

 繰り返すが、武蔵がシミュレーターで墜落した回数は百を超える。百、百である。

 たしかに実機に比べれば負担の少ないシミュレーターであるが、ゲッターの機動を再現する上で不足は無い。

 竜馬や隼人ですら、日に数回も乗ればそれなりに疲弊するそれを、武蔵は平然とした顔で十回二十回と繰り返していたのだ。

 

 一度で改善しないなら二度三度、十回やって改善しないなら百回やる。

 

 それを実際にやってのけ、そして実際にゲットマシンの操縦を修得してしまったのだからおそれいる。

 そうしている間に幾度かの実戦……明らかに斥候であろうメカザウルスとの戦いも経験し、竜馬、隼人、武蔵の間に連帯感も生まれだした。

 これで安心して泊り込みで沖縄に飛べると考えていた矢先、研究所のセンサーが浅間山の北部山麓に多数の反応を確認する。

 ああ、来るべき時が来たかと、早乙女研究所の人々は思っただろう。

 この世界ならぬ知識を持つ僕以外は今だ名も知らぬ『恐竜帝国』、その本格侵攻の始まりだった。

 

……。

 

……。……。

 

「ゲッターロボ発進準備完了! BTとコマンドマシンも行けます!」

「よし、ゲッターチーム聞こえるか。悪いが、自衛隊は各地に出現したメカザウルスの対応に追われて増援は望み薄だ」

 

 通信機越しに状況を説明しつつ、改装したプロトゲッターを沖縄に送ってしまったことに歯噛みする。

 量産型のテストヘッドとして利用するため数日前に移送したばかりだ。

 何ともタイミングが悪い。

 

「心配するなよ達人さん。いくら数が多かろうと、トカゲごときゲッターの敵じゃねえ」

「そうそう、この武蔵様がいるんだから泥舟にドーンとまたがったつもりでいてくれよな」

「ふっ、頑丈な泥舟なのは間違っちゃいないがな」

 

 通信機からは竜馬、武蔵、隼人の順に、頼もしい返事が帰ってくる。どいつも悪い笑顔を浮かべているのはお約束だろうか。

 僕は計器をチェックしてゲットマシンに異常が無い事を確認すると、傍らの父さんに目配せをした。

 

「うむ。ゲッターチーム、出撃せよ!」

 

 号令一下、三機のゲットマシンが格納庫から出撃し、それにミチルの搭乗するコマンドマシンも続く。

 南風くんのBTは、トレーラーを使い既に出発しているが陸路を行くため戦場へは遅れるだろう。

 

「こちらミチル、メカザウルス多数確認! 映像送ります」

 

 間もなく、コマンドマシンからの映像が早乙女研究所のモニターに投影された。

 二本首の空母型メカザウルス『ギギ』と、全身に回転ノコギリを装備した『バズ』を主力に、高機動型の『バル』の姿も見られる。

 レーダー観測によれば、敵の総数は二十を超えた。

 

「頼むぞ、ゲッターチーム。勝てよ竜馬」

 

 だが今は、今は見守ることしか出来ない。

 今は、まだ。

 

 

 

 

 

 

 敵、敵、メカザウルスの姿がそこかしこに見て取れる。

 そんな状況にわずかばかりの緊張と背筋を震わせる戦意を抱きながら、竜馬はイーグル号を飛ばしていた。

 既に『ギギ』から発進した翼竜を、何匹となく機関銃で叩き落している。それでも雲霞のごとく後続が尽きる様子が見えない。

 メカザウルスの戦列を超えた後方には、複数の母艦が存在しているのだろう。

 ならば……。

 

「隼人っ! 武蔵っ! 準備は良いかァ! 突っ込むぞォッ!」

 

 竜馬が吼える、ゲットマシンが吼える、メカザウルスが吼える。

 赤白黄、三機のマシンが猛然と加速して突き進み、相対する半機半竜の異形どもが迎え撃つ。

 

「ハッハァー! 当たらねえぞ、ウスノロども!」

 

 イーグル号は、音速を超える速度で飛び、急激な速度で減速し、空中でありながら獣のように機動した。

 ミサイルが敵の肉と装甲を叩き、不規則に吹き荒れるソニックブームがその体勢を崩す。

 

「はしゃぎすぎだぜ、竜馬さんよ」

 

 そしてイーグル号に気を取られたメカザウルスの足元を、ジャガー号が地を這うように過ぎ去った。

 一歩間違えば地形と接触するような高度を、やはり音の衝撃を伴って飛翔する。

 後に残されたのは爆音、そして完全に転倒した複数体のメカザウルス。

 

「へっへっへ、最後のトドメはオイラがもらうんだけどよ」

 

 そしてベアー号。

 けっして卓越した動きではないが、危なげなく二機に追従した黄色い機影は置き土産とでも言うように大型のミサイルを見舞っていった。

 ゲットマシンが三機、ただ通り過ぎただけでメカザウルスの軍勢は撹乱され、そのうち数機は破壊されてしまう。

 そして彼らの眼前には、空母型『ギギ』が三機。盛んに翼竜を射出している。

 

《GYAOOO!!》

 

 迫るゲットマシンに威嚇の咆哮を上げる『ギギ』に降りかかったのは、ゲットマシンから放たれたミサイルの雨だった。

 ベアー号のミサイルが胴体部に命中し、ジャガー号のミサイルが左右の首に衝撃を与え、イーグル号のミサイルが艦載機の射出口に突き刺さる。

 『ギギ』は、それによって内部から爆発し地上へと落下し動かなくなった。

 突入からわずかな時間で敵陣を"突き抜けた"ゲットマシンは、イーグル号を先頭にしたフォーメーションを形成して最高速のまま天に上る。

 そして。

 

「チェェェェェンンジィッ、ゲッタァァァァァァァワンッ!」

 

 竜馬の声とともに三つの機影が一つに変わる。変わる。人型へと変わる。

 合体したゲッター1は、その勢いのまま雲を突きぬけ、宙返りをするような機動を描き残る『ギギ』へと飛翔した。

 

 激突。

 

 同時に、ゲッター1の拳、そして前腕部に装備された『ゲッターレザー』がうなり、肉が潰れ血しぶきを上げ、金属装甲が火花を散らす。

 

「おらぁ!」

 

 竜馬は、気合一声、半ば千切れた『ギギ』の首を二本まとめてゲッター1で引きちぎって投げ捨てた。

 さらに頭部を失いフラフラと浮遊する胴体に対して蹴りをくれて地面に叩きつけ破壊する。

 残る一機の『ギギ』は、その光景を前に後ずさるような格好で距離を取りにかかったが無駄だった。

 

「ゲッタートマホォォォク、ブゥゥゥメラン!」

 

 ゲッター1が肩部から射出された斧が、凄まじい勢いで飛来して胴部の装甲を断ち割ったからである。

 胴体を半ば断ち割られて苦悶する『ギギ』。

 

「オープンゲット!」

 

 その目の前でゲッターロボは再び三つに分離した。

 三方向に分散したゲットマシンは、ミサイルと機銃で『ギギ』をつるべ打ちにすると、今度はジャガー号を頂点にしたフォーメーションで合流する。

 

「チェンジ、ゲッター2!」

 

 隼人の声とともに、白い頭部を備えたドリル腕のゲッターロボ、ゲッター2が完成する。

 ちょうど『ギギ』の真上で合体したゲッター2は、そのまま砕けた背面装甲の上に降り立つと、容赦なく回転するドリルを突き刺した。

 爆煙が散って、残骸ごと地上へ向かって落ちていく。

 ようやく戦列を整えた前衛のメカザウルスたちが駆けつけ、『ギギ』の残骸とそこに居るはずのゲッターに対してミサイル等の火力を投射した。

 連続して起きる爆音。百を超えるメカザウルスのミサイルが降りそそいだそこには、一つの穴だけが残っていた。

 

《GYAOOOOO!???》

 

 次瞬、砲列を形成していたメカザウルスが、断末魔とともに足元から真っ二つになった。

 現れたのは、赤い、返り血とオイルをかぶり赤く黒く化粧をした、ゲッター2。

 地面には、巨大な、ゲッターロボが通り抜けメカザウルスによる爆撃痕と地下でつながる穴。

 

「ゲッタードリル!」

 

 再び、一機のメカザウルスの胴体に穴が穿たれ、爆音が散る。

 地上を走るゲッター2は、韋駄天のように次々にメカザウルスを傷つけ、射抜き、打ち倒していく。

 

「ドリルストーム!」

 

 襲い掛かる回転ノコギリのメカザウルス『バズ』が、空中でドリルから放たれた衝撃波に吹き飛ばされた。

 きりもみ回転をしながら地面に叩きつけられ、ほぼ同時に追従してきたゲッター2のドリルの一撃に沈む。

 残るメカザウルスは、その間に包囲網を築きゲッター2を押しつぶすように円形陣を敷き始めた。

 

「オープンゲット!」

 

 しかし、煙立ち込める場所から飛び出したのはゲットマシン。

 三機の機影は包囲網の内側でジャガー号を先頭にしたフォーメーションを形成、コンパクトな宙返りを行い、地面に向かって"落ちた"。

 

「チェェェンジ、ゲッタァスリィ!」

 

 現れるのは、無限軌道(キャタピラ)を備えた半人型半戦車とでも言うべきゲッターロボ、ゲッター3。

 円形包囲網のちょうど中央、合体したゲッター3にミサイルの雨が降りそそぐ。

 爆炎が散り、黒煙が吹き上がる。

 そして、その内側から、キュラキュラとキャタピラの鳴らす金属音が突き抜けてきた。

 

「ゲッターアーム!」

 

 猛然と出現したゲッター3の腕が伸張し、重量級メカザウルス『ズー』の首をつかみ伸縮、同時に戦車部分になっているジャガー号がエンジンを起動。

 ゲッター3が飛ぶ。

 まるでパチンコのゴムで撃ち出された石のように。

 ゲッター3の"ぶちかまし"を受けた『ズー』は、よろめいた後に噛みつきによって反撃を試みるが、次の瞬間には空を舞っていた。

 巻き上げられたゲッターアームがまるで渦のように旋廻し、恐るべきパワーで五百t近い巨体を投げ放ったのだ。

 

「大・雪・山・おろしぃ!」

 

 同時に、ゲッター3の両肩に装備されたミサイルが空中で『ズー』をとらえ、爆発する。

 さらに次なる標的が投げ飛ばされ、別のメカザウルスにぶつかり、そこにゲッター3の体当たり、あるいはやはりミサイルが炸裂して破壊する。

 乱戦の様相を呈した戦場、しかしメカザウルスは容赦なく味方ごとゲッターを打ち倒さんとミサイルを発射した。

 

「うおっと!」

 

 これは予想外と無限軌道を後進させる武蔵だが、誘導弾らしいミサイルは器用にゲッター3を追いかけてきた。

 それなりに大型のミサイルを受け止めるかどうかを武蔵が逡巡したその時、機関砲の弾丸が空を裂きミサイルを迎撃した。

 

「武蔵さん、大丈夫? 援護します」

「いやっふー、さっすがミチルさん。愛してるぅ」

 

 それはコマンドマシンの長射程機関砲による援護だった。高高度に退避するミチルに向かって、武蔵の調子はずれの声が飛ぶ。

 わずかに残っていた翼竜がコマンドマシンを追撃するも、今度は地上から放たれた機関砲によって消滅した。

 

「お待ちどうさま。南風渓、援護に入ります」

 

 ようやく戦域に到達した渓のBTによる援護射撃が、続いてゲッターの周囲を囲むメカザウルスたちに撃ち込まれて行く。

 BTの周囲には、パワードスーツをまとった竜二たち陸戦隊が機関銃とミサイルランチャーを担いで待機している。

 ゲッター3は、その段階で自慢の突破力を生かして包囲網の一角を完全に崩しきって離脱。ゲッターミサイルによって"食い残し"を始末し始めた。

 BTはその姿を確認すると、くの字型の逆脚関節を折りたたんで無限軌道形態に変形してゲッターの後衛に付いた。

 

「オープンゲット!」

「チェンジ、ゲッターワン!」

 

 再びゲッター1へと姿が変わる。メカザウルスの数は既に五機を割り、戦場の趨勢は決しようとしていた。

 

 その時である。

 

 突如として各マシンの無線機にノイズが走り、映像が出力された。

 投影されたのは薄暗い、石造りの広間。護衛だろうトカゲ顔の兵士たちが左右を固めている。

 そして広間の奥、石階段の上の玉座には異形の人影が座していた。豪奢なマントを身にまとう、キングコブラに似た頭部を持つ男。

 彼は玉座より立ち上がると、ギラリと縦に割れた瞳孔を光らせながら口を開いた。

 

《人類を名乗る諸君には、まずはお初にお目にかかると挨拶をしておこう。我が名はゴール! 恐竜帝国の帝王ゴール!》

 

 機械的な手段によって翻訳されただろうその声は、酷く耳障りなしわがれたような声だった。

 

「恐竜帝国」

「帝王」

「ゴールだってぇ?」

 

 ゲッターロボのパイロット、隼人、竜馬、武蔵が、メカザウルスを掃討しながら映し出された画面を見て声を出す。

 画面の中には、ゴールの他にも幹部格であろう姿格好をした翼竜の翼を頭部に持つ男や、小柄な老人のような姿の男が見て取れる。

 

《実を言えば、我々は驚いているのだ。かつて地上に居たときは森に住まう獣でしかなかったはずの猿が、程度は低くとも文明を築いているのだから》

 

 ゴールは、そう言ってゲッゲッゲッと見下したように哄笑して見せ、自らの、そして恐竜帝国の来歴を説明し始める。

 曰く、ハチュウ人類が人類の言う白亜紀に地上で高度文明を築いていた先住種族であること。

 曰く、自然災害によって一時的にマグマ層にまで避難し再び地上への帰還を果たしたということ。

 曰く、元々この地球は恐竜帝国のものであるから正当な権利の元に全ての土地海域空域は返還されるべきであること。

 

《諸君ら猿族は、すみやかに我ら恐竜帝国に隷属せよ。さすればこのゴールの名において選別された者の生存を特に許すものである!》

 

 瞬間、自らの寛大さを示すかのごとく両手を広げたゴールの映るゲッター1のコクピットディスプレイを、竜馬の拳が砕いた。

 そして飛び散った部品を握りつぶしながら、獰猛に笑う。

 

「ふざけやがって。何が恐竜帝国だ。化石になり損ねたトカゲもどきが偉そうにっ!」

「おいおい竜馬、物に当たるなよ。そいつを直すのは研究所の整備員たちだぜ?」

「はん! アレだけ言われて黙ってられるかよ。隼人、まさか怖気づいたわけじゃあねえよな?」

 

 通信越しの問いかけに、わずかな沈黙が返る。

 直後、竜馬は顔の見えない隼人がニタリと笑う姿を見たような気がした。

 

「ふっ、なあに、あの似非帝王を、どう始末してやろうかを考えていたところさ」

「まーったくだ! あのぶっさいくなトカゲ面、オイラのゲッター3で叩きなおしてやりたくてウズウズしてらあ」

 

 武蔵もまた、口調こそ軽いがその表情は戦意に満ち満ちている。

 研究所、特に早乙女親子の返答については聞かずとも分かる。ゴールに従うような人間ならば、こんなもの(ゲッターロボ)を作ってはいない。

 

《さて、猿族諸君へはこのくらいにして、だ。実に、実に、実に忌々しいことに、既に我が帝国に刃向かった早乙女研究所の諸君にお伝えしよう》

 

 砕けたディスプレイの向こう側で、ゴールは瞳をギラリと細め、その鋭い歯をむき出しにした。

 その視線は明らかに早乙女研究所、そして最後のメカザウルスを始末したゲッターチームへと向けられている。

 

《我らに対抗するため、ゲッターロボなる人形を作り上げたまでは先ずは見事! しかし、その考えこそ大罪である! 判決、死刑!》

 

 ゴールが腕を振ると同時に、ゲッターロボの眼前で地面が爆ぜた。

 さらに地底から出現した四足歩行で巨大な狼に似たフォルムのメカザウルスが、ゲッター1へと襲い掛かる。

 

《猿の言葉で言えばメカザウルス『ウル』が、貴様らのゲッターロボへの死刑執行人だ! 余に逆らったことを悔いながら死んでいけい!》

 

 そう言い放つと、ゴールは悠然とした調子で玉座へと座りなおす。

 そしてゲッター1は、後ろ足で立ち上がった『ウル』にのしかかられるような形で対峙し、迫る顎を眼前にしていた。

 

「なるほど、たしかにパワーがありやがる。今までの雑魚メカザウルスとは段違いってヤツだ」

「竜馬さん、援護します!」

「余計なことすんじゃねえ!」

 

 渓のBTが両腕の機関砲を『ウル』に向けた瞬間、竜馬の怒声が飛んだ。

 その気迫に、引き金を引こうとしていた渓がビクリと動きを止める。

 

「こいつは俺が、俺たちが売られた喧嘩よ。ゲッターロボ一機で返り討ちにしてこそ意味があるってもんだ」

「まったくだ。それに心配は要らんよ、大した敵じゃあない」

「そうそう、このくらいの敵に渓ちゃんの手を借りるなんて勿体無いってもんさあ」

 

 竜馬たち三人の顔に凶暴な笑顔が浮かぶ。

 両腕は封じられた。重量の差、『ウル』の動きの素早さから、抜け出すことは困難だろうと分かる。

 しかしそれがどうしたと言うのか。

 ゲッター1には武器がある。今までは"使う必要すらなかった"ために使われなかったが、実におあつらえ向きの強力な武器がだ。

 

「行くぜ! ゲッタァァァァァァビィィィィィムッ!」

 

 閃光が放たれる。

 目もくらむような、桜色にも似た輝きが閃き、『ウル』の胴体装甲を貫き機械部分を爆散させる。

 

「うげっ」

「溶けっちまったぜ!?」

 

 そして、同時に発生した現象を目にした竜馬は顔を引きつらせながら声を発し、武蔵も同様に驚きの声を上げた。

 メカザウルスを構成する生体部分。恐竜、爬虫類によく似たそれが、まるで強酸でも浴びたかのようにドロドロと融解を始めたのだ。

 

「……」

 

 その光景を前にして、その場で唯一隼人だけは何事かを考えるような風に口をつぐんでいた。

 そしてゲッター1の腕から投げ捨てられて解放された『ウル』の残骸は、地面に着く前に白骨化してしまう。

 

《まさか、いや、ばかな、しかし、間違いない、あれは! あれは!!》

 

 遠く、その光景に反応したのは、通信越しに戦闘を観測していた誰あろう恐竜帝国の首魁ゴールであった。

 傍らに控える幹部たちも、一様に驚愕、あるいは憎しみの表情を浮かべ、映し出される溶解した『ウル』の姿に見入っている。

 

《ガレリイ技術長官!》

《は、ははっ! 陛下のお考えどおりに違いありません、あれは、あれこそは、かつて我らを地底へと追いやった元凶!》

《猿め! 忌々しい猿どもめ! よもや、よもや、あのおぞましい宇宙線によって変異していたとはッ!!》

 

 凶相と評してもいいだろう。ゴールは牙をむき出しにし、目をクワと広げ、絶叫するかのごとく咆えた。

 人類がゲッター線と呼ぶ宇宙から降り注ぐ放射線こそ、恐竜帝国を地上から追いやり恐竜種族の大量絶滅を引き起こした元凶であった。

 ゴールは、再び通信機を作動させると人類全体に向かって告げる。

 

《猿ども! 聞こえているか猿ども! 貴様たちに我ら恐竜帝国の恩寵を与えんとしたこと、このゴールの不覚であった! 滅びよ! 断じて滅びよ!》

 

 まさしく怨讐。

 母なる大地である地球を穢し、猿を進化させ、またゲッターロボなる兵器となって仇をなす宇宙線。

 そしてそれを兵器として扱う呪われた種族を絶やさねばならぬと、ゴールは決意する。断じて、断じてと。

 

 

 

 

 

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3.出撃、ゲッターゼロ

 沖縄。

 

 在日米軍基地の存在が示すように軍事的な要衝であるこの地域の重要性は、今さら語るまでもないだろう。

 恐竜帝国の出現に伴い配備されていた日米の軍備は迎撃のため稼動をはじめ、また付随する研究機関にも最大限の働きが期待された。

 たとえば対メカザウルスを想定した砲弾やミサイルの開発、そしてゲッターロボ量産計画である。

 

 さてゲッターロボ。これは元々宇宙開発用に開発されたものである。

 父さん、つまり早乙女博士が恐竜帝国の存在を察知したことで武装を搭載されたが、基礎部分は戦闘用とは言い難い設計にせざるをえなかった。

 ところがこの『宇宙開発用装備を転用した』と言うお題目が、日本の政治事情として非常に便利であったのだ。

 おかげで密かに、もとい新たに設計開発されているゲッターロボではなく、現行機のゲッターロボベースで量産計画がスタートしてしまった。

 政治絡みでは国会で軍靴の足音が~などと言った議員に対する隼人と父さんの顔がすごく怖かった、とだけ言っておく。

 

 こうしてスタートした量産計画だが、実際に始動してみれば新型ではなく現行機ベースにしたのは悪くない判断だったように思う。

 と言うのも、ゲッターロボの搭乗員に求められるスペックが高すぎたのだ。

 音速飛行状態からの変形合体に対応できないでは、仮に新型を量産しても性能を持て余してしまうだろう。

 パイロット候補生の9割がシミュレーターを吐しゃ物で汚した段階で、まず人間が乗れる物を作って下さいと自衛隊から苦情が来たのだ。

 

 結果として出来上がったのは、変形合体分離機構をオミットした1・2・3各形態固定のゲッターロボ。

 炉心のほうも商用発電機として設計していた物から転用して、出力低下と引き換えに持久性と安定性を増し複雑な機構を排除して防御力も向上した。

 ゲッタービームの威力など戦闘力は低下したが、一人乗りで訓練をすればそれなりに誰でも乗れるなど利点もある。

 総じて評価は佳作と言った具合だろう。

 

 こうして多少の遅延はあったものの実機の生産とテストも行われ、僕が自衛隊の沖縄基地に出向してから一ヶ月程で実戦配備の目処が立った。

 先行量産型の三種三機のゲッターロボは、搭乗員の選定も済ませておりあとは部隊への配備を待つ状況だ。

 形状は竜馬たちのゲッターロボとほぼ変わらないが、試験用に灰色にオレンジというカラーリングで配備後は緑色に塗装されるそうだ。

 そして、そんな量産型のパイロットの一人が、いま僕と一緒に通路を歩いている巨漢だった。

 

「達人さん、いよいよですね実戦配備」

「ああ、弁慶たちも今日までよく頑張ってくれた。いや、コレからが本番か……」

 

 車弁慶。

 "原作"では武蔵亡き後のゲッターチームの一員であり、ゲッターロボGを構成するポセイドン号のパイロットだ。

 この世界では自衛隊に所属する若手の自衛官であり、量産型ゲッター3のパイロットとして選定されていた。

 僕は、そんな彼とともに量産型ゲッターロボが置かれているハンガースペースへと向かう通路を歩く。

 そうして入り口である鉄扉を開けようとしたその時、―――突如として基地全体を揺らす爆音が響き渡るのだった。

 

「っ!?」

「うおぉぉぉっ! なんだ、何がおきたんだ!」

 

 吹き付ける突風のような衝撃と粉塵に耐えながら目を開くと、整備スペースに置かれていたゲッターロボに向かって異形の影が近付いていた。

 敵。

 考えるよりも先に体が反応し、僕は傍らのツールボックスに刺さっていた大型レンチを投擲した。

 

《GIYAA!?》

 

 工具とは言え、もはや鈍器と呼んでも差し支えのない金属塊の直撃を受けた異形は、這い上がろうとしていた量産型ゲッター3から滑落していく。

 狙ったわけではないが、どうにもいい場所に当たったらしく落下した異形はピクリとも動かない。生死は不明だが、ひとまずはそれでいい。

 

「弁慶、ゲッター3に向かえ!」

「え? は?」

「敵だ! ボヤボヤするな! 死ぬぞ!」

「はいぃ!」

 

 まだ状況がわかっていない巨漢の尻を蹴って量産型ゲッター3へと向かわせた僕は、足早に作業用階段を駆け上がった。

 視線の先では量産型ゲッター1のコクピットに滑り込む歪な人影が見える。

 そして駆け上った階段から、僕はこの場における"4機目"のゲッターロボのコクピットに身を躍らせた。

 

 同時に、桜色の閃光が整備スペースの壁を突き破って基地を破壊していく。量産型ゲッター1によるゲッタービーム攻撃だ。

 量産型ゲッター2も起動し、ドリルを回転させ手当たり次第に周囲をなぎ払っている。

 

《聞こえるか、猿ども!》

 

 通信機越しに、おそらくは男性のものだろうひび割れた声が聞こえてきた。

 発信源は基地の外壁を破壊して、悠然と空中に浮かんでいる量産型ゲッター1。

 

《我が名はニオン! 恐竜帝国地竜一族が長、キャプテン・ニオン! 恐竜帝国のため、このゲッターロボはいただいていく!》

 

 再び閃光が走り、量産型ゲッター1のゲッタービームが基地に配備されていた戦車をなぎ払う。

 かろうじて稼動している対空砲では敵ゲッター1に有効な打撃を与えられず、そのまま再び走ったゲッタービームの閃光に焼かれた。

 

「達人さん! ありゃあどういうことですか?! トカゲどもはゲッター線に弱いって話じゃあ!」

「知らん! それよりも格納庫から離脱するぞ。崩れれば身動きが取れなくなりかねん」

 

 通信機越しに弁慶に対してそう言うや、僕は手元のスイッチを強く押しこみペダルを踏んだ。

 ゲッター炉心に火が入り、コクピット各部に設置された計器の数値が跳ね上がる。

 

「む、無茶だ達人さん! ゼロはまだ未調整のはず!」

「それでもやるしかないだろう!」

 

 幾つかの数値を手動で修正しながら、僕は操縦桿を押し込む。

 この機体はゲッターロボ量産計画のテストベッドであり、世界で初めて起動に成功した"始まり"のゲッターロボ。

 かつてはプロトゲッターと呼ばれ、数々の試験を経て竜馬たちが乗るゲッターロボを世に送り出した存在。

 

 故にその名はゲッターゼロ。

 

 早乙女研究所において実戦仕様への改修を受けて生まれ変わったゲッターロボ0号機。番外のゲッターだった。

 

 

 

ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編

 第三話:出撃、ゲッターゼロ

 

 

 

 起動出力をクリアしたゼロの心臓(炉心)が戦いのための唸りを上げた。

 踏み出した足が搭乗用に備え付けられたタラップを吹き飛ばし、その背から白色のマント……ゲッターウイングを展開して風を起こす。

 ゼロの姿は、竜馬が使うゲッター1のそれとほぼ同じだ。白と灰色をメインにしたカラーリングだけが大きく違う

 ただし実戦仕様に改造を受けたとは言え、性能面ではゲッター1に及ばない。

 ゲッター炉心は量産型と同じく汎用型であるし、何よりもゲッターロボの真価は三つの心を一つにしてこそ生まれるものだ。

 だけど、それでも―――。

 

「達人さん、こちら弁慶! ゲッター3起動しました!」

 

 通信機から弁慶の声が届いた。

 カメラの向こう側では、量産型のゲッター3が周辺の機材をなぎ払いながら前進しているのが見える。

 

「管制室。こちらゲッターゼロ、聞こえるか?」

 

 一方で、通信機への呼びかけは雑音だけが返答だった。

 格納施設の破孔から見える基地司令部方面では黒煙が上がっている。つまりは、『そういうこと』なのだろう。

 

「弁慶、聞こえるか? これから奪取された量産型を追撃する。できるな?」

「え、ええ?! 自分達だけでですか? ぞ、増援は?」

「待ってる暇あるか。とにかく足止めをしないと市街地に被害が出る。急ぐぞ」

 

 言ってペダルを蹴り上げ、僕はゲッターゼロを空に舞わせた。

 瓦礫と化した基地の中、灰白色のゲッターロボが4機4種対峙する。

 

《フゥン……ゲッターロボ、4機も用意していたとは忌々しい》

 

 外部スピーカーを使って、ニオンと名乗ったハチュウ人の男の嘲る声が届く。

 

「他人の物を勝手に持ち出しておいてその言い草はないだろう? それともゲッター線で日焼けでもしに来たのかい?」

 

 敵を相手に問答という趣味もないのだが、僕はあえて挑発的な言動で相手に呼びかけてみせた。

 相手の冷静さを奪えればよし程度の思惑であったが、どうにも幸いニオンはこらえ性の無い手合いであったらしい。

 

《猿が! 我等地竜一族、ゲッター線など恐れはせぬわ!》

 

 強調して口にしている地竜一族と言う言葉には、強い自負とどこかしらの劣等感が感じられた。恐竜帝国内部にも部族対立なりがあるのだろうか。

 まあ、その辺りは倒してから考えればよいことだ。

 僕は踊りかかってきた敵ゲッター1を迎撃するため、ゲッターゼロを奔らせた。

 

《ぬぅ!?》

 

 ゼロの左椀に接続された特殊鋼版製のバックラーが、敵のゲッタートマホークを受け流す。

 僕はその隙を打つべく回し蹴りを見舞い、敵ゲッター1を大きく傾がせる。

 さらに追撃をかけるために踏み込んでもよかったが、横合いの敵が動いたためにそちらへの対処を優先する。

 僕は回し蹴りの勢いをそのままに、ドリルを振りかぶった敵ゲッター2の攻撃をかわし先程は防御に用いたシールドを思い切り叩き付けた。

 

「いまだ、弁慶!」

「う、うおおおおっ!」

 

 そして体勢を崩した敵ゲッター2の背後から、瓦礫を蹴散らして猛進する弁慶のゲッター3がぶちかましをかける。

 パワーと安定性に勝るゲッター3は、敵ゲッター2に組み付いて拘束し勢いをそのままに離れていく。

 この間に敵ゲッター1も体勢を立て直していたが、僕が間に割って入ったことで味方の援護に向かう事はできない。

 

《おのれ、下等な猿の割りに……だが、どうやら貴様のゲッターロボ、マトモな武器を積んではいないらしいな!》

 

 吐き捨てるようなニオンの言葉、実のところそれはおよそ正しかった

 ゲッターゼロはゲッター1に酷似した外観をしているが、その最大の特徴であるゲッタービームを搭載していない。

 いや、それどころかゲッタートマホーク等の格納機構も有しておらず、武装はあくまで外付けや手持ちの装備に頼る方式となっていた。

 そして現在の装備は両椀のバックラーのみ。

 武器を装備するためのハードポイントはあれど、肝心の武器本体は瓦礫の下だろう。

 

《フフフ、図星のようだな!》

 

 ニオンの言葉とともに、ゲッタービームの輝きが敵ゲッター1の腹部に灯る。

 閃光が放たれるその一瞬、僕はフットペダルを思い切り踏み込んでゲッターゼロを突撃させた。

 

《捨て身になったか! ならば貴様ら自身が生み出したゲッター線の光に焼かれるがいい!》

 

 放たれるゲッタービーム。僕は、それを受け流すようにゲッターゼロの左腕のシールドで防御した。

 そうしてゲッタービームを受けた特殊鋼板が、激しい光を上げながらスパークするが装甲を貫通するには至らない。

 

《なんだと!?》

 

 ニオンの驚愕の声が響くものの、僕からすればこれは当然の結果だった。

 元よりオリジナルに比べて低出力のゲッタービーム。加えて耐ビームコーティングが施されたシールドであれば、十分に防御可能だ。

 

「悪いなニオン君。それを作ったのは僕なんだ」

 

 そう言いながら、ゲッターゼロの左の盾でビームの照射を続ける敵ゲッター1の腹部装甲を強打する。

 表面が融解した左盾をパージしてさらに右の拳を打ち込み、最後に宙返りをするように機体を舞わせながら蹴り上げの一撃。

 これによって敵ゲッター1はしりもちをつくような形で倒れ、さらに自らのゲッタービームで発射口付近を大きく破損させた。

 

《ぬぅぐっ、ぐぁ、猿があぁぁぁぁ》

 

 そして、絶叫するようなニオンの声。

 おそらくは発射口の破損でコクピット内部に漏出したゲッター線を浴びたのだろう。その声音はくぐもり、苦痛にまみれている。

 ニオンはゲッター線に耐える何がしかを持っていたようだが、それも完璧ではないようだ。

 

《死ぃねぇぇぇぇっ!》

 

 殺意を孕んだ声とともに、敵ゲッター1が二本目のトマホークを引き抜いて踊りかかってくる。

 だが……。

 

「悪いけど、今日初めてゲッターに乗った相手に負けてやるほど、僕は親切じゃない」

 

 ニオンも腕はいいのだろう。初めて扱うゲッターロボでそれなりに動けていることは評価してもいい。

 だけどそれでも、こっちは何年もゲッターと付き合ってきた自負がある。

 

《げ、ひ……》

 

 悠々とトマホークをいなして拳を打ち込み、衝撃にあえぐニオンの声を無視して足払いをかけ再び敵ゲッター1を地面に転がす。

 そして、僕はゲッターゼロの右腕をそっとコクピットの上にあてがった。

 頑丈に作った量産型、残念ながら丸腰に近いゼロが与えうる致命打は一つしかない。

 

「ゲッタースパイク」

 

 言って、引き金を引く。

 ゲッターゼロに搭載されたシールドの形状は左右で同じだが、その種類は二つである。

 一つは先程使用した対ビームコーティングシールド。これは純粋に防御用の装備であり、それ以上のものではない。

 だがもう一つは違う。

 

「一応は作業用だったんでね、杭撃ち機も積んであるんだ」

 

 ガランと音を立てて、大型の薬莢が地面に落ちる。

 コクピットを貫通した特殊鋼の杭を眺めながら、僕はニオンに向けて声をかけた。

 原型を留めているかはわからないが、彼も自分の死因くらいは知っておきたいだろう。

 

「弁慶、手伝いはいるかい?」

「いえっ! 今終わりました!」

 

 通信機からの返答にもう一つの戦場へ目を向ければ、弁慶のゲッター3が敵ゲッター2のコクピットを重量任せに押しつぶすところだ。

 さすがはゲッター3。量産仕様でもその馬力は折り紙つきというやつだ。

 僕は瓦礫の山になった格納庫周辺の基地施設を見回して、ため息を一つ吐く。視線の先では、ようやく駆けつけた救援が消火作業を始めていた。

 

 

 

 こうして量産型ゲッターロボ強奪事件は、奪取された二機の破壊と言う形で収束する。

 基地施設内部で始末が付いたために大事には至らなかったが、初期ロットの三機中二機が大破、かつ研究施設も壊滅し、計画は見直しが決定した。

 見直しと言うがゲッターロボの量産という点では実質的な凍結であり、予算と人員は従来兵器の改良に振り分けられた。

 そして……。

 

「車弁慶でありまぁす! 本日より早乙女研究所に出向となりました! よろしくお願いしまっす!」

 

 竜馬と隼人が思わず耳を塞ぐ大音声で自己紹介をしている弁慶は、言葉通りに自衛隊から早乙女研究所への出向要員として派遣されることになった。

 沖縄基地で訓練中であったパイロット候補生の全滅と、ゲッター量産計画凍結のためであり半ば厄介払いと言えなくもない面がある。

 元々ゲッターロボ部隊というキワモノの運用に消極的であった自衛隊であり、それを示すように破壊を免れた量産型ゲッター3も送られてきた。

 

 国会に置ける緊急的な法整備も完了し、これをもって早乙女研究所はゲッターロボ運用拠点として本格的な稼動を開始できる。

 なお量産計画凍結と同時期に、反対派議員のスキャンダルが噴出した上に当人は交通事故に遭ったらしいが、まあ僕には関係無いことである。

 なぜか父さんと隼人が新聞を見てニヤリとしていたが、関係無いと言ったら無いのだ。

 

 さておき、こちらの準備が整ったのと同様に、敵方もまた本格的な侵攻を行い始めるであろう。

 これまでのような小規模なものではない本格的な戦いの気配が近付いていた。

 

 

 

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4.バット将軍の挑戦・前

 恐竜帝国の地上侵攻に置いて、その標的の中心となっているのは日本である。

 日本を除く各国に対しても攻撃は行われているが、それは沿岸部への襲撃や通商破壊等の限定的な物に終始していた。

 これはハチュウ人類にとって天敵であるゲッター線及びそれによって稼動するゲッターロボの存在を重要視していると言うのが大方の予想だ。

 日本以外の国々でも戦闘用ロボットの実用化は進んでいるが、その動力はプラズマエネルギー反応炉でありゲッター炉心の導入は進んで居ない。

 たとえば同盟国であるアメリカへは技術供与も行われていたが、運用ノウハウと専門技術者の不足から本格的な導入は見送られている。

 実は大学在学中に一年と少しの間、僕はアメリカへ留学をしていた事があるのだが……これについては今後に語ることもあるだろう。

 

「だから、より高出力の炉心が必要じゃと言っとろうが!」

「無茶苦茶を言わないで下さいよ博士! そんなのポンと作れるわきゃあないでしょ!?」

 

 さて、そんなゲッター線関連技術研究の最前線の最先端である早乙女研究所の格納庫。

 そこで声を荒げて僕に食って掛かるように詰め寄ってくるのは、白衣をまとい顔に大きな古傷の残る小柄な老人。

 この人こそ我が研究所が誇るマッドサイエンティスト第二号(一号は父さん)、ゲッター線応用兵器開発のパイオニアである敷島博士だ。

 

「このゲッタービームランチャーが完成すれば、恐竜帝国なぞ一網打尽なんじゃぞ!?」

「それは分かりますけどね、ゲッターロボに乗せるサイズの半分で出力は落とすなとか言われても困ります!」

「ええい、早乙女の息子なら何とかせんかい! 親父の方は新型に夢中で話しも聞きやせん!!」

 

 ゲッタービームランチャー。敷島博士が手の平でバンバンと叩いている巨大な金属製構造物がそれだ。

 その名の通りにゲッタービームを撃ち出すための大砲で、ゲッターロボが両手で保持してちょうどいいサイズのライフル型をしている。

 問題点は敷島博士の言う通り、砲に内蔵するゲッター炉心の出力不足。

 これを解消するには量産型ゲッターロボに使われていた炉心と同程度の出力を、半分強のサイズで実現しなくてはならない。

 正直言って、今すぐに実現するにはハードルが高すぎる案件だ。

 

「うぉーっす、達人さん。飯持ってきたぜ」

「あ、ああ、武蔵。悪いね出前の真似事させちゃって。ふぅ……敷島博士、みんなも飯にしよう」

 

 格納庫のドアが開き、武蔵が岡持で定食を持ってきたことで、敷島博士も不承不承と言った様子でテーブルの上を片付けはじめた。

 どんな時でも腹がへったら飯を食うのは、早乙女研究所の職員にとって重要な決まり事なのだ。

 

「んあ? なあ達人さん、あそこの時計電池切れてないか?」

「あ、本当だ。後で換えておかないと」

 

 持ってきた食事をテーブルの上に置き終わると、武蔵はそう言って部屋の隅に置かれていた置時計を指差した。

 その言葉通り秒針は完全に止まっていて、かなり前に電池が切れたらしいことが見て取れる。

 

「面倒くさいよなあ、電池交換って。コンセントなら刺しっぱなしでいいのによ」

 

 そして、本人は何の気なしにポロリと口に出しただろうその言葉に、部屋に居た研究者全員が硬直した。

 僕もまた、無言のまま敷島博士に視線を向ける。

 

「行けますか?」

「行けるじゃろ」

 

 互いに頷きあって、目の前の食事をかき込むように胃袋の中に収めると、研究スタッフたちがバタバタと慌しく端末や書類に向かい始める。

 ものすごい勢いで食事を平らげる様子に目を白黒させていた武蔵の背中を、僕はトンと叩いてやる。

 

「ありがとう、武蔵。こんど何か奢るよ」

「へ?」

 

 首を傾げてポカンとする彼を後目に、僕もまた自分の仕事に取り掛かるのだった。

 

 

ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編

 第四話:バット将軍の挑戦・前

 

 

 恐竜帝国の軍勢、日本列島へ侵攻す。

 

 この報告が研究所にもたらされたのは、沖縄の事件からしばしの時が経過した日のことだった。

 日本近海、小笠原諸島沖に出現したメカザウルスの大群は、迎撃に出た海自空自の足止めを受けつつも伊豆半島の東に上陸した。

 首都東京をうかがう姿勢を見せつつも侵攻を停止した恐竜帝国に対し、自衛隊及び在日米軍はミサイル攻撃を継続しつつも防衛線を構築。

 一方で、要請を受け厚木基地にまで進出していたゲッターチームを主力にした攻撃が決定された。

 

「飛行可能な竜馬たちのゲッターと、僕のゼロが先行。弁慶のゲッター3と南風くんのBTは撃ち漏らしの掃除と竜二くんのトレーラーの護衛だ」

「兄さん、私は?」

「コマンドマシンは、先行組に追従しつつ索敵と通信補助を頼む」

 

 各員からの了解の返答を受け取ると、僕はゲッターゼロのフットペダルを蹴り上げてゲッターウイングを展開する。

 前方では、既に竜馬たちの乗るゲットマシンが3機、編隊を組んで飛び立っていた。

 

「よし、ゲッターゼロ、出撃」

 

 白いゲッターウイングを翻し高度を上げると、白い雲に混じって黒煙が散り、気の早い三人組みが敵の先鋒と砲火を交えているのが見えた。

 飛行型の小型メカザウルスは戦闘力こそ大したことは無いが数が多く、ゲットマシンの動きからはわずらわしさが見て取れる。

 

「各機散開!」

 

 通信機に呼びかけると、弾けるように竜馬たちのゲットマシンが急激な軌道で散開する。

 そして僕は、敵だけが居残った空間に向けてゲッターゼロの両手で抱えていた"それ"の砲門を突きつけた。

 

「ゲッター、ヘビーマシンガン!」

 

 機体越しにも感じられるような腹に響く重低音を響かせながら、巨大な回転砲身とそこに開いた四つの砲門が唸りを上げる。

 吐き出された弾丸は直撃した飛行型メカザウルスを容易く粉々に砕き、あるいは至近距離で爆発を起こしてズタズタに引き裂いていく。

 もちろん敵も回避軌道をとるが、この武器の真骨頂の前には無駄な抵抗だった。

 『空中で軌道を変えた』弾丸が逃げようとしたメカザウルスに追いすがり、その背中を穿ったからだ。

 ゲッターヘビーマシンガン。敷島博士謹製のこの武器の通称を、ミサイルマシンガンとも言う。

 

「ひゅう、ご機嫌な武器だな達人さん。あとで貸してくれよ」

「ダメ。竜馬に渡すと撃ちまくるだろ。弾が高いんだよ、これ」

 

 楽しそうなおもちゃを見つけたような竜馬の声に、僕はカラッポになったドラム型の弾倉を交換しながら応じた。

 このミサイルマシンガン、見ての通り制圧能力は恐ろしく高いのだがその分だけ弾保ちが最悪に近いのだ。

 

「ミチル、敵の状況は……」

 

 そうして露払いを済ませ、機体をさらに前進させながら後方のコマンドマシンに連絡を入れようとした時だった。

 操縦席の通信用ディスプレイにノイズが走り、映像と音声が出力されてきたのだ。

 

《聞こえているかね、ゲッターチームの諸君。私はバット、恐竜帝国地上侵攻軍のバット将軍である》

 

 画面に現れたのは、いつかの宣戦布告でゴール帝王の隣に立っていた翼竜に似た頭部を持つハチュウ人類の男だった。

 バット将軍。その姿は"原作"の知識におけるものとおおよそ一致している。

 

《この通信は私からの挑戦状である。我々の位置は既に明らかであろう? 私は、ここで万全を期して諸君を迎え撃とう》

 

 そう言いながら、画面の向こうの将軍はどこか大仰な仕草でマントを翻してみせた。

 外見の個体差の大きいハチュウ人類の中では我々の姿に似たその表情からは、強い自負が通信越しにも感じ取れる。

 

「へっ、面白ぇ……トカゲ野郎どもにも、ちったあ骨のありそうな奴が居るじゃねえか」

 

 通信に、喜悦を含んだ好戦的な竜馬の声が入り混じる。画像は出て居ないが、どうせ歯をむき出しにして悪い顔で笑っているのだろう。

 眼下遠くには多数のメカザウルスの影と、恐らくは砲台だろう構造物の姿が見て取れた。

 バット将軍の言に偽りはなく、彼等は上陸してから準備を重ねていたのだろう。ゲッターロボを待ち受けるために……。

 

《来るがいいゲッターロボ。このバット、そして恐竜帝国の精兵たちが貴様らに引導を渡してくれようぞ!》

 

 通信が切れると同時に、三機のゲットマシンがブースターを吹かして突撃を開始した。

 まったくいやになるほど息が合ったフォーメーションで、敵地に向かって最高速だ。

 

「竜馬、あまり食い過ぎると遅れてくる弁慶たちに悪いぞ!」

「そんときゃあ、謝っといてくれよ達人さん! いくぞ隼人、武蔵!! チェェェンジゲッタァァァァワン!!」

 

 どうせ止めても無駄なので発破をかけながら、合体して上昇するゲッター1とは分かれる形で僕はゼロを下降させた。

 そして地面を舐めるように低空を飛び、土ぼこりを上げながら前方で戦列を成したメカザウルスに向かってミサイルマシンガンを一斉射する。

 敵砲台からの応射を回るような軌道で回避してさらに一斉射。そこで弾丸が底を突く。

 

「チェェェェンジゲッター、ツー!」

 

 と、同時に上空から落ちてきた三つの影が一つに重なり、ミサイルの嵐で足並みを乱されたメカザウルスの群れの中で人型をとった。

 一緒に落ちてくるメカザウルスの残骸をみれば、空の上で竜馬が散々暴れたのがよく分かる。

 

「ドリルストーム! ゲッタービジョン!」

 

 声とともに敵中で嵐のような衝撃波が走り、次いで白と赤の残像がその周辺を駆け巡った。

 メカザウルスたちは吹き飛ばされ、あるいは迎撃のために発した攻撃で味方を傷つけ、隙を突かれてドリルによって風穴を開けられる。

 恐竜帝国の前衛は大混乱に陥り、そしてその合間にゼロは弾薬の交換を終えていた。

 

「オープン、ゲット!」

 

 こちらからの合図も要らず、ゲッター2がゲットマシンに分離して空に舞う。

 代わりに降りそそぐのは再びのミサイルの雨。重装甲型の敵が前に立ってこれを受け止めるが、再びの弾切れまでに敵の数は半減していた。

 上空では、ゲッター1に変形した竜馬たちが飛行型のメカザウルスと交戦している。

 流石に再度の弾薬交換は難しく、僕はミサイルマシンガンをゲッターゼロの肩部ハードポイントにマウントした。

 

「ゲッター、キャノン!」

 

 そして迫りくる敵を、後方から降りそそいだ砲弾がなぎ倒していく。

 コマンドマシンの観測による、量産型ゲッター3の肩に搭載されたキャノン砲による遠距離砲撃だ。

 

「よし、後続部隊はそのまま支援を継続してくれ! 竜馬、突っ込むぞ!」

「あいよっ! おい弁慶、味方に当てんじゃねえぞ!」

「任せといてください!」

 

 弁慶の頼もしい返事とともに、空中型の大型メカザウルスを全てなぎ倒したゲッター1がトマホークを両手に構えて敵中に踊りこんでいく。

 小型の飛行型メカザウルスはまだ残っているが、これは南風くんBTや竜二くんの歩兵隊が持つミサイルランチャーで対処可能だ。

 ミチルのコマンドマシンも、余裕を見てバルカンで翼竜型のそれを叩き落している。

 

「ゲッターマシンガン!」

 

 そして僕も、ゲッターゼロの腰にマウントしていた二挺の銃を引き抜きながら竜馬の後に続いた。

 ゼロが手にしているのは、ゲッターロボの"原作"の一つ『世界最後の日』においてゲッター1が使用していた大型機関砲だ。

 ミサイルマシンガンに比べると地味ではあるが、雨のような大口径弾はメカザウルスの装甲を引き裂くに十分な威力がある。

 

《GIYAAAAAA!》

「おっと」

 

 とは言え、重装甲型のメカザウルスの中には弾丸の雨を抜けてこちらに接近してくるものもいる。

 が、僕は慌てずそれに向かってゲッターマシンガンの銃身を一閃。

 

「ゲッターバヨネット、ってところかな」

 

 ゲッタートマホークと同様の素材で出来た肉厚の銃剣が、首長竜に似た相手の頭部を打ち砕く。

 

「大雪山おろしぃ! こんにゃろぉぅ!」

 

 血しぶきの向こう側では、武蔵のゲッター3がいま首を飛ばした相手と同じ重量級を軽々と投げ飛ばし、さらに体当たりで敵の陣地を粉砕している。

 ミサイル陣地だっただろう恐竜帝国の防御設備が、大爆発を起こして敵歩兵ごと燃えていった。

 

「オープンゲット!」

 

 武蔵は陣地の奥から押し寄せる敵増援に囲まれる前に分離、空中へと退避、そしてそこに集まった敵を弁慶の砲撃が耕していく。

 戦端が開かれてから僅かな時間で、前衛を務める2機のゲッターロボは恐竜帝国の防御陣地の半分程度に食い込んでいた。

 

「見えたぜ大将首。……しかし、なんだありゃあ、クラゲか?」

 

 そんな竜馬の言葉とともに上空から送られてきた映像は、なるほどクラゲかそうでなければ半透明のタコのような姿をした敵だった。

 僕は、周囲の敵にマシンガンを叩き込みながら目にしたその姿に、僅かな違和感を感じる。

 

《我が陣をこうも容易く食い破るとは、ゲッターロボ恐るべき力よ。そして、貴様らももはやただの猿に非ずと言うことか……》

「へっ、何なら白旗でもあげてみるかい? バット将軍さんよ」

《ふ、戯言を。帝王ゴールより使命を受けしこのバット、そして帝国の技術を結集したメカザウルス・ゲラの前に、ゲッターロボは敗れ去るのだ!》

 

 再びの通信に対して挑発的な言動をとる竜馬に、しかしバット将軍は余裕のある面持ちを崩さなかった。

 自らの登場するクラゲ型メカザウルス、ゲラと言うらしいそれに対しての絶対の自信を語る言葉。違和感がさらに強くなった。

 恐らくはゲラが"原作"にも登場していた故のものなのだろうが、その正体は判然としない。

 

「そうだよな、そうこなくっちゃ面白くねえ! 行くぜ! チェンジゲッター!」

 

 もはや遠い記憶に思考を向ける間もなく、気合一声、合体し上空から急降下したゲッター1がトマホークを振りかざしてゲラを強襲するのだった。

 

 

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5.バット将軍の挑戦・後

ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編

 第五話:バット将軍の挑戦・後

 

 

 ゲッター1の赤い影が、クラゲ型のメカザウルス・ゲラに向かって振り下ろされる。

 大上段から降下の勢いを伴って叩き付けられる一撃の威力は、生半可なメカザウルスを粉々に砕くほどのものだろう。

 だが……。

 

「ぬわっ!?」

 

 振り下ろしたトマホークはゲラの体表に傷を付けたものの、刃を半ばまで食い込ませるとそこで勢いを完全に殺されてしまった。

 ゲッター1は降下の勢いが余って転倒するところを、アクロバティックな機体制御で立て直す。

 そして再びゲラと相対する頃には、刺さり込んだゲッタートマホークが地に落ち、ゲラに与えたはずの傷が再生するところだった。

 

《ふはは、このゲラの前にはその程度のナマクラの攻撃など無駄なことよ》

「ちっ。ならこいつを受けてみな! ゲッタービーム!」

 

 響き渡るバット将軍の哄笑に、苛立ちを隠そうともしない竜馬がゲッター1の腹部に桜色の閃光を灯す。

 放たれたゲッタービームは、抵抗すらなくゲラの表皮に突き刺さる、が……。

 

《ふっ、ははは、はぁっはっはっは! どうだ、貴様らが頼りとするゲッタービームでさえ、このゲラを破ることは出来んのだ!》

 

 通信越しに、勝ち誇ったような笑い声がこだまする。

 バット将軍のどの言葉通りに、ゲッタービームはゲラの体内で霧散し何らダメージを与えてはいないようだ。

 メカザウルスに対するゲッター線、ゲッタービームの優位性、何時かはと考えていたがここに来てそれが崩れ去ったのだ。

 

「竜馬、一度下がれ! 体勢を立て直すぞ!」

「くそっ、了解」

《ふん、逃がしはせんぞ? さあ、貴様らがゲラに与えたエネルギー、己が身でとくと味わえ!!》

 

 僕は陣地の奥から押し寄せるメカザウルスをけん制しながら後退の支持をだすものの、竜馬たちの離脱よりもバット将軍の方が一手早かった。

 強烈な閃光が、空中へ退避しようとするゲッター1に向けて放たれたのだ。

 

「うわぁぁぁぁあ!??」

「ぐぅぅ……」

「うげぇっ!?」

 

 竜馬、隼人、武蔵の悲鳴が通信機を震わせる。

 周辺の瓦礫やメカザウルスの残骸をスパークさせながらぶち撒けられたその光は、強烈な電撃だ。

 響く悲鳴を聞けば、それはゲッターロボの防御すら貫通し中のパイロットにダメージを与えていることが分かる。

 

「くっ! どけっ!」

 

 妨害を試みるメカザウルスを銃剣で切り裂き、僕は勢いを失って弧を描くように落下してくるゲッター1を受け止めた。

 マシンガンを放棄して後退するゲッターゼロを、ゲラの触手とメカザウルスの攻撃が襲うも、それはかなり際どい位置に落下した砲撃が留める。

 後方を確認すると、戦場に到達した量産型ゲッター3が砲門を向けているのが見えた。

 

「竜馬、隼人、武蔵、生きてるか!?」

 

 僕は、敵の追撃が一段落するのを待って、外部スピーカーで竜馬たちに呼びかける。

 幸いにも、ゲラの機動力は極めて低いようで触手はともかく、本体は最初の位置から微動だにしていない。

 さらに先程の電撃も、連発は出来ないようだ。

 

「そんな大声出さなくても生きてるぜ、くっそ。ちょっと痺れただけだ。ゲッターもまだやれる」

 

 どうやら通信機は無事だったらしく、若干乱れた映像とともに竜馬たちの顔が再度表示された。

 データと顔色を見るに、3人とも多少のダメージがあるようだが戦闘は継続できそうだ。

 

「だけどよぉ竜馬、ゲッタービームが効かないんじゃあ、どうするってんだ」

 

 しかし、持ち前の頑丈さを発揮して既に持ち直しているらしい武蔵の口から弱気な発言が飛び出してくる。

 普段であれば反論するだろう竜馬も、やはりゲッターロボ最強の武器が通用しなかったことに思うところがあるのか、口をつぐんだ。

 

「いいや、手はあるぜ」

 

 どうにか体勢を立て直しつつも、鉄壁のゲラに対する対抗手段を見出せないでいた状況に、声を上げたのは隼人だった。

 そして一つのデータが、コマンドマシンを経由して味方の機体に送信されてくる。

 

「ゲッタービームがヤツに吸収されたとき、エネルギーの流れに不自然な部分が有った。まるで"そこにゲッター線が流れちゃ困る"見たいにな」

「そうか、コクピット!」

 

 僕の発言に、画面の向こうで隼人が頷く。

 ゲラは、バット将軍が搭乗している有人機だ。ならば、外見上は分からなくても必ずコクピットがあるはずなのだ。

 

「やっこさん、確かに頑丈だがまったく傷つかない訳じゃあない。一点突破、だけどオレたちのゲッターロボだけだと、少しばかり力不足だ」

「総がかりだな。なに、コッチにはゲッターロボだけで3機、3つの力が1つになればってやつだ」

「なんだいそりゃあ? だがまあ、そういうことさ。さあて、竜馬、武蔵、ここからはオレがやらせてもらうぜ!」

「へんっ! しくじるんじゃねえぞ、隼人! オープンゲット!」

 

 竜馬の声とともに、ゲッター1が分離してゲットマシンが3機空へと向かって駆け上がっていく。

 3つの影は、僅かに残っていた飛行型メカザウルスが対空攻撃で足止めされる間をすり抜け、形を変えて再び1つになる。

 

「チェェェンジ、ゲッターツー!」

《相談は終わったようだな! さあ、来るがいい! このゲラが相手になってやろう!》

 

 バット将軍の気迫の声とともに、ゲラの触手が荒れ狂い電撃が周辺に向けて放射された。

 しかしゲッター2は持ち前の機動性でそのことごとくを回避してのける。

 問題となるのは攻撃範囲の広い電撃であったが、どうやらこれは先程に比べて出力が低下している様子だ。

 エネルギーを吸収しないゲラ単独では、それほど高出力の放電はできないのだろう。

 

「ゲッタービジョン!」

 

 機動性の優位を活かし、残像を伴ったゲッター2がゲラを翻弄していく。

 音速を超えた速度が生み出す衝撃波が、ゲラの本体を激しく揺さぶり、また周辺のメカザウルスを吹き飛ばしていく。

 そしてまた体勢を崩したメカザウルスには、僕や弁慶の追撃が的確に突き刺さって息の根を止めていった。

 

《ぬうう、猪口才な!》

 

 味方が次々に討ち取られ、バット将軍の声には苛立ちと怒りの色が混ざりこんでいた。

 あるいは衝撃や振動は完全に打ち消せず、将軍自身に疲労を蓄積させているのかもしれない。

 

「ゲッタービーム!」

 

 その間隙を、桜色の閃光が貫いた。

 あまり知られてはいないが、ゲッター2の頭部には小型のゲッタービームが搭載されている。

 もちろんゲッター1のそれと比べれば威力は小さく射程も短いものだが、今回はそれが有意に作用する。

 ゲラは、小なりとは言えゲッタービームを吸収しその体内へと取り込んでいく。しかし、威力の小ささ故に大放電による反撃は行えない。

 そして……。

 

「解析……出ました! 隼人さん!」

 

 ミチルのコマンドマシンから、ゲラの内部を走るエネルギーの流れが送信されてくる。

 その経路は確かに"なにか"を避けるように歪曲しており、その中心がどこにあるかを示していた。

 全ての準備を終えて、ゲッター2が音の壁を3重に突破する。

 

「ゲッタードリル! そして、ドリルストーム!」

《ぬ、ぬおおおおおぉぉっ!?》

 

 圧倒的な速度を加えて放たれたドリルの一撃は、ゲラの表皮に深々と突き刺さり、回転とさらに衝撃波を伴ってその胴体を激しく揺り動かす。

 軟体の装甲は激しく歪み、波打ち、一部が千切れ飛ぶが、その全てを砕くには至らない。

 敵の被害はドリルとその周辺が落ち窪んだだけ。これまででもっとも打撃を与えはしたが、巨体を誇るゲラを破壊するほどではなかった。

 

「ゲッター、スパイク!」

 

 しかし、隼人の仕事はそれで十分。ゲッター2を入れ替わるように穿たれた破孔にゲッターゼロの腕を突き入れて、僕は思い切り引き金を引いた。

 炸裂音とともに薬莢が二発動時に吐き出され、金属性の杭が猛烈な勢いで射出された。

 同時に僕はゼロに握らせていた"それ"を手放させると、ゲラの装甲が復元されるのを待って、もう1つのスイッチを押し込む。

 

 轟音。爆発。

 

 半ばまでゲラに埋め込まれたミサイルマシンガン用の予備弾倉が、遠隔起爆されて猛火を上げる。

 そしてゲラの半透明の体内では、これまで確認できなかった球状の物体が赤くひび割れた光を発していた。

 

《ぐ、おおお、ぬ、ぐぉ……み、見事だゲッターチーム。よもや、ゲラの守りを正面から破るとは》

 

 通信機越しに届いたのは、苦悶を孕んだバット将軍の声だった。

 

《だ、だが、このバット、ただではやられん》

「へん、そんなボロボロの状態で何いってやがんだ! 今にも死にそうじゃねえか!」

 

 武蔵の言葉の通り、乱れた画面に僅かに映る映像だけでもバット将軍の傷は深く、その顔に死相を感じさせていた。

 

《ふ、ふふふ、そうだ、私はもうすぐ死ぬ……しかし、ゲラは死なぬ! 私の命を食らって、貴様らすらも食らい尽くすのだ!》

「まずい、野郎、何かするつもりだぞ!」

 

 竜馬が声を上げ、残った武器がゲラに向かって放たれるも、それらが着弾するよりバット将軍が何かのスイッチを押す方が早かった。

 

《こ、これでゲラは止められん。て、帝王ゴール万歳! 恐竜帝国に栄光あ……》

 

 将軍が上げた末期の叫びは、何かを押しつぶすような水音とともにかき消された。

 次いでゲラの半透明の胴体の中で光を放っていた球体、恐らくはコクピットだっただろう物が潰れて激しい光が放射される。

 

「全員下がれ! ゲラから離れるんだ!」

 

 激しい悪寒を感じて、僕は指示を出すとともにゲッターゼロを飛翔させた。

 

 

 

 そして、異変が訪れた。

 

 

 

「なっ!?」

 

 誰の声だろうか、驚愕の声が耳に届く。それもそうだろう、僕だって声を上げたいほどに驚いていた。

 目の前では、ゲラがその半透明の体を巨大化させていたからだ。

 元々ゲッター1よりも頭1つ大きかった姿は、今ではゲッターロボが見上げるほどに大きくなっていた。

 そして驚くべきことはそれだけではない。

 

「め、メカザウルスを食ってるぜ」

 

 震えを含んだ武蔵の声の通り、ゲラは体躯と同じように太く巨大になった触手でメカザウルスの残骸を捕獲して胴体内部に取り込んだのだ。

 やがてそれは残骸のみならず、援護に来ただろう生きたままの対象にすら及び、太い触手で叩き潰されたメカザウルスが順番に捕食されていく。

 

「ゲラのエネルギーが急速に上昇! これは……兄さん!」

 

 ミチルからデータが送られてくるとともに、ゲラの全身が発光して電撃を撒き散らすとともにまた一回りその巨大さを増した。

 

「まだ大きくなるのか……いや、待て」

 

 その時、僕の脳裏に1つの記憶が甦った。

 白黒の漫画のコマ、ゲッター1、ゲラ。薄れかけていた"原作"の記憶だ。

 

「ミチル、ゲラのデータを送ってくれ! 何とかできるかもしれない!」

「は、はい!」

 

 僕はコマンドマシンから送られてくる各種のデータに目を通し、記憶の中にある対処法が可能かどうかを精査する。

 出来れば父さんの意見も聞きたいところだが、今から研究所へ連絡をして解析を待っている時間も無い。

 

「みんな、聞いてくれ。ゲラを倒す方法が見つかった。ゲッターを、ヤツの中に突入させるんだ」

「な、なんだってぇ!? そんなことしたら、メカザウルスの残骸みたいに食われっちまうじゃねえか!」

 

 驚きの声を上げたのは武蔵だ。たしかに内部に取り込まれ溶かされていくメカザウルスの姿を見ると、突飛過ぎる発言でしかない。

 

「いや、そうか。ヤツには溜め込めるエネルギーに限界があるんだ。その限界を超えれば……」

 

 僕と同じようにデータを見ていたのだろう隼人が理解を示してくれる。

 そう、限界を超えたエネルギーを供給されればゲラは自壊する。

 

「だけど時間が無い。ゲラは大きくなるたびに蓄えられるエネルギーが増しているようだ」

「でかくなりすぎれば、ヤツを倒す前にゲッターがイカレちまうってことか」

「ああ、突入役は僕が行く。竜馬たちは外から……」

 

 そう言って、僕は肩に残していたミサイルマシンガンをパージして、ゲラに向かってゼロを進ませようとした。

 だが、その肩をゲッター2のアームが押し留める。

 

「おいおい達人さんよ、格好付けはなしだぜ? この中で一番成功率が高いのがオレたちのゲッターロボだってのは分かってるだろ?」

「隼人、だが……」

「へっ! だがもなにもねーだろが。達人さんのロートルゲッターじゃ、ヤツを倒す前に壊れるのが落ちってことだろ?」

 

 竜馬の言葉は、乱暴ではあったが正しいものだった。ゲラの体内に突入するゲッターロボの出力は大きい方が都合がいい。

 そして、内部でエネルギーを放出すると言うことを考えれば、最も適任なのはゲッター1なのだ。

 

「それに、ゲッターゼロならわざわざ研究所から運んできたアレも使えるんだから、言うことなしってやつだ」

「待て! アレって、ゲッタービームランチャーか!? 流石にそれは危険すぎる!」

「危険なんてのは今さらだぜ。オレをジャガー号に放り込む前に言って欲しかったね」

 

 ケケケと笑う隼人の声に、僕は言い返す言葉もなかった。

 画面に映る竜馬、隼人、武蔵の三人は誰も彼も歯を見せてやる気十分であり、止めても聞かないだろうことがよく分かる。

 

「ああ、くそっ! 分かったよ!! 任せたぞ?!」

 

 応! と威勢よく答える3人を置いて、僕は弁慶の量産型ゲッター3の後方に停止していたトレーラーに向かってゲッターゼロを飛ばした。

 トレーラーの荷台では、通信を聞いていた陸戦隊の手によって幌がはがされ、ゲッタービームランチャーの鋼色の銃身が顔を覗かせていた。

 

「竜二くん、君たちも準備がいいな!?」

「隼人とその同類二人なんて止めるだけ無駄でさあ! だったら思い切りやった方がいい!」

 

 笑い混じりの竜二くんの声が飛んでくる。さすが隼人の従兄弟、どうやら研究所での生活ですっかりゲッターチームの空気に馴染んでしまったようだ。

 ゼロが銃身を持ち上げゲラに砲口を向けると、南風くんのBTが量産型ゲッター3にランチャーと繋がるケーブルの一本を接続する。

 

「弁慶、エネルギーラインはそっちが1番だ」

「りょ、了解! か、確認よし!」

 

 ゲッタービームランチャーと接続した火器管制に緑色のランプを灯すと、僕もまたケーブルをゲッターゼロの腰部に接続する。

 弁慶の声は震えており、これから味方に向けて攻撃を行うことへの緊張感を孕んでいた。

 

「ミチル、ゲラの観測を密に。エネルギー飽和を迎えたらすぐに連絡を」

「了解!」

 

 一方で、コマンドマシンに乗っているミチルの方は余計な緊張を感じさせないものだった。

 我が妹ながら、肝の座り具合では一家、下手をすると研究所で一番かもしれない。

 

「竜馬! 隼人! 武蔵! 覚悟はいいな! 失敗したら恨めよ!」

「はっ! そんときゃあ化けて出てやるよ! チェェェェンジゲッター!」

 

 周辺の瓦礫を押し分けてゲッターロボ……全滅したメカザウルスに代わるエネルギーを求めるゲラに向かって、ゲッター1が突入する。

 バット将軍が操作していたときとは異なり、まるでゼリーのようにゲッターロボを飲み込んだゲラは、その場に停止して発光しはじめる。

 それを確認して、僕は握りしめたゲッタービームランチャーのトリガーに力を込めた。

 

「「ゲッタービィィィィム!!!」」

 

 奇しくも重なった2つの声とともに、ゲッター1の腹部から、そしてゲッターゼロが構えた砲口から、桜色の閃光が生まれた。

 一方はゲラの内側で渦を巻き、もう一方はその体表を流れるように走り抜けやはり渦を巻いて吸収される。

 注ぎこまれた膨大なエネルギーに、巨大なクラゲが触手をよじって暴れまわる。

 

「「「ぐうぅぅぅぅぅぅっ!!」」」

 

 だが、苦痛を感じているのはゲラだけではなかった、通信機ごしに竜馬たちの苦悶の声が漏れ聞こえる。

 コマンドマシンからの映像を見れば、ゲラの内側ではゲッター1の装甲の一部が剥がれスパークしていた。

 

「ああっ、ゲッター1のゲッタービーム、照射限界!」

「まだだぁっ!」

「バっ……」

 

 叫び声とともに、薄れていたゲッター1の腹部に再び光が灯った。竜馬がゲッターのリミッターをカットしたのだ。

 バカヤロウと叫びを上げるより先に、ゲッタービームの桜色の閃光に混じって緑色の輝きが放たれた。明らかに異常な動作を引き起こしている。

 放置すれば待っているのはゲッター炉心の暴走、すなわち"原作"で武蔵が行った自爆と同様の現象が起きる。

 

「ミチル!」

「ゲラのエネルギー飽和まで残り10・9・8......」

 

 カウントダウンがはじまると同時に、僕はゲッタービームランチャーのリミッターを強制的にカットした。

 それによってゲッターゼロと量産型ゲッター3から過剰なエネルギーが供給され、ゲッタービームランチャーがオーバーロードを引き起こす。

 

「ゲラのエネルギー、飽和します!」

 

 暴力的なまでの光の渦が巻き起こり、同時にランチャーの砲身がスパークしてゲッターゼロの腕ごと吹き飛んだ。

 コマンドマシンからの映像では、ゲラの巨体がドロドロに溶けていく様子が見て取れる。

 

「竜馬ァ! 緊急停止ボタンだ! 炉心を止めろ! 爆発するぞ!」

 

 外部スピーカーも使って呼びかけるが、通信機から応答はない。

 ゲッター1は、破損した装甲から緑色の輝きを放ちながら、ゆっくりと膝を折る。

 そしてひと際強く輝きが過ぎり……。

 

「へ、へへへっ、こちら武蔵、竜馬も隼人もぶっ倒れちまったけど、任務完了だい」

 

 無線機からはそんな声が聞こえてきた。

 ボロボロのゲッター1の腹部では、エネルギーの緊急放出を行って輝きを失ったゲッター炉心が余剰エネルギーで火花を散らしている。

 

「こちらミチル、バイタルデータを受信! 竜馬くんも隼人さんも無事よ!」

 

 コマンドマシンからの連絡に、通信を聞いていた誰もが安堵の吐息を漏らした。

 周辺にメカザウルスの反応はなく、どうやら僕たちはバット将軍による侵攻作戦を退けることに成功したようだ。

 

「みんな、お疲れ。帰って飯にしようか。武蔵、前に言った通り何か奢るよ」

「へへ、そいじゃあ特上の寿司……」

 

 そこで限界が来たらしく、武蔵の声が段々と小さくなっていき、やがてイビキが聞こえてきた。

 誰からとも無く肩の力が抜けた笑いを上げながら、ボロボロになったゲッターロボを回収して帰路に着く。

 

 

 

 そうして早乙女研究所へ帰還した僕たちを待ち受けていたのは、太平洋上に恐竜帝国の要塞が浮上したと言う急報だった。

 

 

 

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6.帝王出陣

「そうか、バットが逝ったか」

 

 薄暗い空間をオレンジ色の明かりが照らす石造りの玉座の間で、帝王ゴールは瞑目して手にした杯を掲げた。

 それから亡きバット将軍を悼むようにゆっくりと中身を飲み干していく。

 

「ガレリィ」

 

 名を呼べば、恐竜帝国の科学者である小柄な老人が頭を垂れて口を開いた。

 

「メカザウルス軍団へのゲッター線対抗処置、完了してございます。後は、帝王陛下の号令を待つばかり」

「うむ……バットが稼ぎ出した時間、ゲッターロボの戦闘不能、この機を逃すつもりはない」

 

 玉座から立ち上がったゴールは、その巨体を悠然と進ませ玉座の間に集った臣下たちを睥睨する。

 

「マシーンランドを浮上させよ! 今こそ空と大地を我が手に! 恐竜帝国軍、全軍出撃っ!」

 

 ゴールの声とともに、杯が床にたたきつけられて砕け散る。

 そして、その音を掻き消すようにハチュウ人類たちの歓声が、恐竜帝国本拠地要塞『マシーンランド』に満ち溢れていった。

 

 

ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編

 第六話:帝王出陣

 

 

 水上を行くメカザウルスの巨体が水面をゆらし、空には黒雲のように飛行型メカザウルスの群れがひしめいていた。

 早乙女研究所で両腕の修理を終えたゲッターゼロを飛ばし、僕は既に戦端の開かれている太平洋上空へと急ぐ。

 

「各機、接近戦は避けろ! ミサイルを撃ったら後退だ! ディアボロ1、FOX2!」

 

 空自の戦闘機隊が懸架していたミサイルを発射して旋回し、後退にかかる。

 切り離されたミサイルは高速で飛翔し、空中のメカザウルスに命中するも爆発に巻き込まれた小型種を除くと損害は大きくないように見えた。

 自衛隊の装備は対メカザウルスを見越してゲッターミサイルになっているのだが、これは恐竜帝国もゲッター線への対抗策を得たと見るべきだろう。

 

「自衛隊の戦闘機、聞こえますか? こちらは早乙女研究所所属のゲッターゼロ、後退を援護します」

「ゲッターロボか! 助かる! 伊豆のほうで手ひどくやられたときいたが、無事のようだな」

 

 僕は自衛隊機に通信を入れながら、戦闘機を追撃する飛行型メカザウルスに向かってゲッターマシンガンを掃射した。

 

「コンテナミサイル、発射!」

 

 そしてさらに、背中に背負った"そいつ"の発射スイッチを押し込む。

 外見は名前どおりの巨大なコンテナであり、高推力のブースターで無理やり飛ばしている姿は不恰好ですらあった。

 しかしゲッターロボの装甲板を貼り付けたそいつは中々に頑丈であり、十分に速度を乗せると迎撃をものともせず敵中に突っ込んでいく。

 

 そして爆発の花が咲いた。

 

 一定数の敵を範囲内に捕捉したコンテナミサイルはその外装を吹き飛ばし、内部に満載された小型ミサイルを花火のようにぶちまけたのだ。

 小型の敵を中心にして、飛行型のメカザウルスがミサイルの雨を浴びてぼろ切れのように吹き飛ばされていった。

 それでも撃墜に至らない敵に対しては、ゲッターマシンガンを直接撃ち込んでトドメを刺す。

 間もなくして、恐竜帝国航空部隊の先陣は壊滅した。

 

「間に合わせの武器にしては、良い具合だったな」

 

 間に合わせ、と言うのは先のコンテナミサイルのことで、アレはガワのコンテナを含めてゲッターのパーツや武器を使ってでっち上げた物だからだ。

 そして使用したものの大部分は、竜馬たちのゲッターロボのものである。

 ゲラとの戦いの影響は大きく、機体はフレームを除いて解体状態。パイロットの竜馬と隼人も、僕が出撃した時点では目を覚ましていなかった。

 

「これは、ちょっとキツイかもな……」

 

 レーダーに切れ目なく示される敵の後続を示す赤い点の数に、背を嫌な汗が伝うのが分かる。

 飛行可能で足の速いため先行したが、ゲッターゼロ単機でどこまで敵の侵攻を遅らせることができるか……。

 

「こちら護衛艦しまかぜ! メカザウルスの攻撃を受けている! 救援求む、救援求む!」

 

 通信機から飛び込む音声。レーダー画面に目を凝らして発進元を確認すると、幸いにもごく近い距離にいることが分かった。

 すぐにゲッターゼロの進路を変更すると、前方に水中から伸びた触手に対して砲火を向ける護衛艦の姿が見えた。

 相手はメカザウルス・ジガ。

 恐竜とタコを組み合わせたような奇怪な外見のメカザウルスであり、日本近海を中心に船舶を襲撃し流通を混乱させている主犯的相手だった。

 

「ゲッター、バヨネット!」

 

 僕はフットペダルを踏み込むと、ゲッターゼロを触手と護衛艦の間に割り込ませて波間に見えるジガの胴体に銃剣を突き刺した。

 そしてそのまま引き金を引き絞る。

 

《GIYAAAAA!??》

 

 胸部装甲を破壊され、体液を撒き散らしながら絶叫したジガは、ヌルリとした動きで海中へと退避した。

 

「爆雷投下!」

 

 僕はそこで、ゼロの腕に装着していた爆雷を投下。間もなく盛大な水柱が吹き上がった。

 空からは、ジガの残骸の一部と海水が雨のように降りそそぐ。

 

「こちら護衛艦しまかぜ、援護に感謝する! おかげで損害軽微!」

「まだまだ敵の増援が接近しています。無理をせずに沿岸部まで後退を」

 

 沿岸部では恐竜帝国の上陸予想地点を中心にして、陸上戦力による防衛線が敷かれている。護衛艦も組み込まれているはずだ。

 陸路で出発した早乙女研究所の戦力、弁慶のゲッター3や南風くんのBTもそろそろ到着している時間だろう。

 

「了解した。君はどうするんだ?」

「僕は、もう少し敵の数を減らしてから向かいます」

「そうか……幸運を祈る」

 

 回頭を終えて本土に向かう護衛艦を見送って、僕はゲッターゼロのフットペダルを踏み込むと東に向かって空を舞わせた。

 進路上には、再び集結した恐竜帝国の飛行型メカザウルス軍団が群れを成している。

 携行してきた火器を使いきるまでは粘れるだろうが、それでどれだけの時間を稼ぎ、どれほどの敵を減らせるものかは分からない……。

 それでも戦うしかないのだ。今は、ただ。

 

 

 

「っく! 食らえ!」

 

 弾の切れたマシンガンの銃剣でメカザウルスの首を裂き、背後から攻撃してくる敵を銃床で殴り飛ばす。

 持ってきた爆雷も使いきり、重大な損傷こそ無いものの装甲の各所には被弾の後も目立ち出していた。

 

「こちらミチル! 兄さん、補給の準備が整ったわ! 指定地点まで後退してください!」

「了解! 悪いがさっそく準備を頼む。全弾からっぽだ!」

 

 すでにかなり押し込まれ、目視で味方の歩兵の姿が見える程度にまで後退していた僕は、ゼロを大きく降下させて撤退にかかった。

 当然のようにメカザウルスの追撃を受けるが、沿岸部からミサイルなどによる味方の支援攻撃が届く距離でもある。

 

「ゲッターミサイル、じゃなくてキャノン、発射ぁ!」

 

 しかし、そんな中で、本当なら聞こえないはずの声が僕の耳に届いた。

 通信元は量産型ゲッター3。ゲッターキャノンから対空砲弾を発射しているその機体には、本当なら弁慶が乗っている、はずだった。

 

「武蔵、どうしてここにいるんだ!? 研究所で待機のはずだろう?!」

「へっへ、竜馬も隼人も寝込んじまって武蔵様まで居ないんじゃあ、みんなも寂しいと思ってよ」

「ごめんなさい兄さん、弁慶くんと入れ替わってたらしくって、気がついた時には……」

 

 ミチルから聞かされた事情に、思わず頭を抱える。武蔵のヤツ、量産型ゲッター3を乗っ取って出撃したらしいのだ。

 なお、簀巻きにされて格納庫の隅に転がされていた弁慶は、整備員によって無事発見されたとのこと。

 

「ああ、もう、馬鹿! この馬鹿っ!」

 

 あまりと言えばあまりの行動に、気付くと僕の口からは語威力が消失した罵声が飛び出していた。

 とは言え今さら帰って弁慶と交代しろとも言えない。

 

「ミチル、あと南風くんも、フォローしてやってくれ……」

「ええ、はい、分かってます」

 

 どこか疲れた様子の南風くんの声を通信機越しに聞きながら、僕は補給のために用意された整備スペースにゲッターゼロを着地させた。

 すると、すぐに陸戦隊のメンバーが補給用のコンテナから物資を運搬してく作業に取り掛かる。

 僕はその様子を眺めながら、カラカラになっていた喉を座席下から取り出した飲料のボトルで潤し、束の間の休息に体を休めた。

 

「……なんだ、あれ?」

 

 そんな折、輸送用の大型トレーラーの車列の中に、妙なシルエットをした車を一台見つけてしまった。

 基本的には普通のものと変わらないくせに、荷台の上には装甲板で雑に守られた箱が一つと、どこかで見た覚えのある砲身が乗っかっている。

 

「おお、達人! 無事じゃったか!」

「ぶっ!?」

 

 そして、またもや予想外の人間の声が通信機から飛び込んできて、僕は飲み水を噴出す羽目になるのだった。

 

「し、敷島博士! なんでここに?!

「研究所におってもやる事がなくてな。新兵器抱えて応援に来てやったぞ!」

 

 なるほど、見れば補給物資の中に幾つか見慣れない武装が存在している。

 やることは突飛だし言動はエキセントリックだが、博士が持ってきたと言うことは役に立つことは間違いないのだろう。

 

「ところで博士、そのトレーラーは?」

「おお、これはなゲッタービームランチャーの砲身と竜馬たちのゲッターのパーツで組み上げた、ゲッタービームキャリアよ」

 

 敷島博士によれば荷台の箱の中にはゲッター炉心が収まっており、移動可能なゲッタービーム砲台として機能するらしい。

 

「ただし、照準システムまでは間に合わなんだから、狙うのは渓ちゃんのBTに頼むことになるんじゃがな」

「が、頑張ります」

 

 砲手を任されて緊張がちの南風くんの声が聞こえた。BTは荷台の上に陣取って砲を操作することになるようだ。

 見た目は不恰好と言うか急造感あふれる一品だが、この状況下でゲッタービームの火力支援は非常に助かるのは間違いない。

 

「達人さん、補給終わったぜ」

「ああ、ありがとう竜二くん。悪いけど敷島博士のお守りを頼むよ、放っておくと自分で武器持って敵に突っ込みかねないから」

「あいよ。隼人が寝てる分は、俺が働かねえとな。へへっ」

 

 僕は下で補給作業をしていた竜二くんからの通信に返事をして、作業員達が退避するのを待つ。

 再出撃の準備を終えたゲッターゼロは、両腕にマシンガン用の弾帯を、両肩と両脚には使い切りのロケットポッドをそれぞれ装備していた。

 重量はかさむものの、これから押し寄せる恐竜帝国の軍勢を考えればこれでも足りないくらいだろう。

 

「コマンドマシンより各機、大規模な敵集団が接近中! 迎撃を開始して下さい」

 

 ミチルの管制を受けて、僕は格納していたゲッターウイングを展開して再びゲッターゼロを空に浮かべた。

 上空から見える沿岸の味方陣地からは、猛烈な砲火とミサイルの噴煙が走り迫り来る敵を迎撃している。

 

「南風より各機、これよりゲッタービームを発射します!」

 

 そうした迎撃をくぐりぬけメカザウルスの群れが水上に姿を現すと、ゲッタービームキャリアの砲台に収まったBTから通信が届いた。

 程なくしてゲッタービームの桜色の閃光が放たれ、さらに照射状態のまま横になぎ払う動きで敵陣を切り裂いた。

 ゲッター線への耐性を得たとは言え、単純に高威力のゲッタービームによって多数のメカザウルスが破壊されていく。

 

「ゲッタービーム照射終了! 再発射までは時間が掛かります! 皆さん気をつけて!」

 

 南風くんの言葉通りに、砲身の冷却に入ったゲッタービームキャリアを背に僕は機体を前に向けて飛ばした。

 まずは先程のゲッタービームで損傷を受けた敵にマシンガンでトドメを刺していく。

 

「ゲッターキャノン! どーだい、見たかミチルさん!」

 

 後方では武蔵の量産型ゲッター3が大雑把に砲撃を撃ち放ち、榴弾を炸裂させてメカザウルスの足止めを行っている。

 射撃が苦手なことを心配していたが、どうやらミチルが上手く誘導してくれているらしい。

 

「飛行型メカザウルス多数、高速で接近中! 兄さん!」

「了解! これより迎撃に移る」

 

 通信を受けてゲッターゼロの高度を上げれば、上空、高高度から急降下してくる敵の姿が見えた。

 巨大な翼を備えた翼竜型の敵は、その腹部に見るからに巨大な爆弾を抱えている。

 

「ロケット弾、全弾発射!」

 

 それを見て、僕はためらうことなく両肩のロケットポッドの発射ボタンを押し込んだ。

 装填されたロケットが時間差で次々に打ち出され、降下してくる敵とすれ違いざまに炸裂する。

 

「ゲッターマシンガン!」

 

 僕は空になったロケットポッドを切り離すと、回避に成功した敵に対してマシンガンの弾を集中的に浴びせかける。

 地上の陣地からも対空砲火が上がり、ロケット弾で損傷し失速した敵を破壊していた。

 

「ゲッタービームキャリア、冷却終了! ゲッタービーム、発射!!」

 

 そうしている内に再びのゲッタービームが発射され、海上の敵をなぎ払った。

 この時点での戦局は人類有利に進んでいるように思えるが、敵の勢いが衰える様子もない。

 

「!! 海中から大型メカザウルスの反応! みんな、気をつけて!」

 

 そして、激戦の最中にそれは現れた。

 ヌラリとした黄色の光沢を持つ表皮を海水に濡らし、水中から飛び上がるように出現したメカザウルス。

 その外見は、他の敵とは明らかに異質な雰囲気をまとっている。

 

「脚部ロケット、発射!」

 

 背筋にゾワリとした感覚を感じて、僕はその敵に対してゲッターゼロの脚部に搭載していたロケット弾を集中して撃ち込んだ。

 連続して爆発が連なり、黄色いメカザウルスの全身が炎に巻かれる。

 

「……敵のダメージ、軽微!」

 

 しかし、通常のメカザウルスであれば撃破ないし大きな損害を与えたはずの攻撃は、黄色いメカザウルスに大きな影響を与えてはいなかった。

 装甲……だろうヌラリとした質感の部分に若干の焦げあとが見えるが、その程度でしかない。

 

「こちら南風! 新型メカザウルスにゲッタービームを照射します!」

 

 その結果を見て、南風くんのゲッタービームキャリアが砲身を黄色いメカザウルスへと向けた。

 桜色の閃光が奔り、空を引き裂いて敵の装甲にぶつかり火花を散らす。

 

「えっ?!」

 

 だが、それでも次の瞬間には呆気にとられたような南風くんの声が通信機から届いた。

 直撃したはずのゲッタービームは、黄色いメカザウルスの体表から吸収されるようにして飲み込まれ消失してしまったのだ。

 

「げ、ゲラと同じじゃねえか……」

 

 武蔵の震えた声を耳にした早乙女研究所所属の人間は、僕を含めてきっと彼と同じ感情を共有しただろう。

 先の戦いで相手取り、決死の作戦の末に打ち破った難敵、ゲラ。

 あの黄色いメカザウルスが、そのゲラと同様の特徴を持っているかもしれないと言う恐れを。

 

《GIYOooooo!!!》

 

 必殺のゲッタービームを防ぎきったメカザウルスは、その外見に相応しい奇怪な声を上げこちらの陣地に向けて突進してくる。

 そして赤く輝く長大な爪を振りかざしマシンガンやミサイルによる迎撃を跳ね除け、真っ直ぐにゲッタービームキャリアに向かっていった。

 

「まずい! 南風くん、竜二くん、逃げろ!」

「え? あ、は、はいっ!」

 

 南風くんのBTが転がるようにゲッタービームキャリアの荷台から離脱すると同時に、メカザウルスの爪がその砲身を完全に破壊した。

 

「おい、こら、爺さん、暴れんじゃねえ!」

 

 運転席に居た竜二くんも、敷島博士を担ぎ上げて脱出に成功したようだ。

 通信機越しに、何やら「折角の惨たらしく死ぬチャンスが……」などと言う声が聞こえるが……。大丈夫だろう、たぶん。

 

「こんにゃろぉぃ! よっくも渓ちゃんを!」

 

 そこで至近に位置していた武蔵の量産型ゲッター3が、ゲッタービームキャリアを破壊する黄色いメカザウルスに組み付いていく。

 竜二くんや近場に居た陸戦隊、整備スタッフの離脱を援護するためにギリギリと相手を締め上げている。

 

「ゲッターバヨネット!」

 

 僕もまた海側の迎撃を一時中断して、黄色いメカザウルスの対処に回り武蔵のゲッター3と組み合うその背中に銃剣を突き入れた。

 

《GIOoooo!!!》

 

 振るわれたゲッターバヨネットは、黄色いメカザウルスのヌラリとした表皮を貫通しその装甲に亀裂を生むという予想外のダメージを与えた。

 だがダメージを受けたことで狂乱したメカザウルスは暴れだし、爪を振り乱し、またその口から怪しげな液体を撒き散らして抵抗を始めた。

 

「うぎゃっ!?? ば、ばっちぃ!」

 

 そうなると、当然のように飛散した液体は正面から押さえ込んでいた量産型ゲッター3に降りかかることとなる。

 武蔵の悲鳴とともに、液体をかぶった箇所の装甲が白煙を上げているのが見えた。どうやら、液体の正体は溶解液であるらしい。

 

「武蔵、離れるんだ! そのままだと溶かされるぞ!」

「うわっち、そりゃあゴメンだい! 達人さん任せたっ!」

 

 空中にゲッターゼロを退避させながら声をかけると、武蔵は敵への拘束を解き放つと同時に相手を引き倒して量産型ゲッター3を急速後退させた。

 上手い。普段から大雑把な面が目立ち、実際にそうなのだが、こと格闘戦における武蔵の機転と呼吸の名人芸は真似ができない。

 その隙を逃がさぬため、僕は倒れ伏す黄色いメカザウルスの背中に向かってゲッターバヨネットを大上段から叩きつけるように振るった。

 

《GYOGYOoooo!??》

 

 遠距離からの攻撃には強固な防御力を誇っていた黄色いメカザウルスの装甲が、バッサリと切り裂かれる。

 悲鳴を上げて爪を振り回すメカザウルスからバックステップで距離を取り、僕は敵のヌラリとした素肌の奥に金属質な光沢を見た。

 

「なるほど、そういう……」

 

 どうやら、このメカザウルスはゲラのものに似た装甲を"着込んで"いるらしい。

 加えて恐らくは技術的な制約によって、ゲラが持っていた再生能力を保持していない。少なくともヤツほど圧倒的ではないのだろう。

 また爆発の衝撃やゲッタービームへの耐性こそ強力だが、その他の物理攻撃、特に斬撃に対してはそこまで強固ではないようだ。

 対処法は、ある。

 

「行くぞっ!」

 

 こちらを振り向いて爪と溶解液を使って暴れる敵を、マシンガンのけん制射によって誘導しつつ、僕は敵の背中を取るようにゼロを宙返りさせた。

 

《GYoIIii?》

 

 そうして一瞬こちらを見失ったメカザウルスを背に着地し、ゲッターゼロを回転させ横薙ぎに銃剣の刃で襲う。

 銃剣の刃はヤツのヌラリとした質感の"皮"を僕の目論見どおりに切断し、先の物も含めて十字に引き裂くような傷が生じた。

 

「どぉっっせぇい!」

 

 直後、機械質の本体があらわになったメカザウルスにむかって、雄叫びとともに武蔵の量産型ゲッター3が突っ込んだ。

 伸縮するゲッターアームが唸りを上げ、黄色いメカザウルスをきりもみ回転させてその"皮"を剥いでいく。

 

「大・雪・山おろぉぉし!!」

《GI!? Gigigigigigigi!???》

 

 完全に機械の体を露出させられたメカザウルスが地面に向かって叩き付けられ、叫び声を上げる。

 苦痛にのたうつ姿は哀れを誘うが、当然それを見逃してやる必要はない。

 

「目標新型メカザウルス、総員撃て!」

 

 ゲッターマシンガンの号砲に続き、南風くんのBT、竜二くんたち陸戦隊の重機関銃や手持ちミサイルがメカザウルスへと降りそそぐ。

 "皮"を失って防御力を失っている敵は、猛烈な弾丸の風に吹かれて瞬く間に風化していった。

 

「敵のエネルギー消失! やったわ、みんな!」

 

 上空のミチルからも撃破の確認が届き、一息を吐く。

 幸いにも、ゲッターが抜けていた間も味方の防衛線は維持できている様子だ。

 そして、僕らが再び襲い来る恐竜帝国の軍団に向けて攻撃を再開しようとしたその時。

 

《ゲッターチーム並びに人類を名乗る諸君、まずはお久しぶりと言っておこうか》

 

 広域通信に割り込む形で流れた映像と音声が流れた。

 翻訳機械越しに聞こえるしゃがれた声と、映し出されるキングコブラに似た頭部を持つ豪奢な衣装を身につけたハチュウ人類の男。

 いつか見たその顔、忘れもしない。その名は……。

 

「帝王、ゴール……」

 

 通信機から聞こえた誰かの声に応じるように、ゴールはその鋭い牙を持つ口を笑みの形に形作ってみせた。

 あざ笑うような、あるいは挑発的な感情が、種族を隔てても理解できるように。

 

《さて、諸君が我が帝国が自信を持って送り出したメカザウルス・ピグドロンを破ったことは見事と褒めておこう》

 

 そこまで口にして間を置いたゴールは、クワッとまなじりを見開くと両腕を広げ食らい付かんばかりにその口を大きく開いてみせる。

 

《故に、様子見は終わりだ! 貴様ら猿どもを殺しつくすため、我が恐竜帝国、このゴールの全力を持って相手をしてやろう!》

 

 ゴールの言葉が終わると同時にレーダー上に幾つもの反応が現れ、海中から飛び出して来る。

 

「おいおい、嘘だろぉ?」

 

 武蔵の呆然としたような声が耳に届く。

 ……新たに出現したメカザウルスは、先ほど倒したばかりの強敵、ゴール曰くピグドロンとまったく同じ姿をしていた。

 

《クッククク、さて、ゲッターチームの諸君、このピグドロンを相手に他の猿どもをどれほど守ることができるか、お手並み拝見といこうではないか!》

 

 甲高い高笑いとともに通信が切断され、それと同時にピグドロン軍団が進撃を開始するのだった。

 

 

 

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7.新たなる力! 斬とG

 一方その頃。早乙女研究所にて。

 

「おいジジイ! なんで俺を起こさなかった!」

「おお竜馬、起きたか」

 

 怒号とともに格納庫の扉を蹴破らんばかりの勢いで駆け込んできた竜馬を見て、早乙女博士は普段と変わらぬ調子で返事をした。

 自分の息子と娘を含めた人間が戦場に身を置いているとは思えない様子に、竜馬はわずかに気勢を削がれてしまう。

 

「いや、そうじゃねえ! とにかく、俺たちのゲッターロボはどうなってんだ! 一緒に転がってた隼人のヤツもいねえしよ」

「ふむ」

 

 その言葉を聞いて早乙女博士が指先で格納庫の片隅を指し示す。

 ……そこには、鋼のムクロが鎮座していた。

 

「おい、どういうことだジジイ……ボロボロのまま、じゃねえか」

 

 装甲を剥ぎ取られ、心臓部であるゲッター炉心を失い、骨組みだけになったゲッター1の姿に竜馬は絶句した。

 命を預けてきた相棒の無惨な姿に、どこか己の半身が失われたような、そんな感覚すら感じている。

 

「ゲッターの修理は間に合わんと判断した。使えそうな部品も抜き取って武装や予備パーツにして戦場へ送ってある。直すには、まあ一ヶ月じゃな」

 

 淡々とゲッターロボの状況について説明する早乙女博士の声に、竜馬の血がカッと熱くなった。

 この男の体には血の代わりにゲッター線と機械油が通っている!

 そうした激情に任せて振り上げそうになった拳を、誰かの腕が力強く引きとめた。

 

「遅いお目覚めだな、竜馬さんよ。博士も、あまりこいつをからかってやらんでください」

「隼人!」

 

 そこでようやく、竜馬は早乙女博士の拳が自分と同じように握り締められ、かすかに震えていることに気が付いた。

 

「すまん、竜馬」

「博士……」

 

 平然として見えたのは気のせいだったのだ。

 早乙女博士の内心には、激戦の中を戦う子ども達を心配する心と、そんな場所に我が子らを送り出さざるをえない己への怒りが渦巻いていた。

 

「わしは達人とミチルたちを戦場に追いたて、また竜馬、お前たちをも……」

「俺たちを? 待てよ博士。なあ、もしかしてあるのか? 俺が、俺たちが戦うための手段が!」

「ある」

 

 竜馬からの問いに対して、早乙女博士は視線を鋭くしてカッと顔を上げた。

 そして一枚のカードキーを取り出すと、大股で歩き格納庫の奥まった位置にある一つの扉を開け放つ。

 

「だが、こいつはまだ調整が不十分。計算上は実戦に耐えうるはずだが、どんな不具合があるか分からん」

 

 そんな説明を耳にしながらも、開け放たれた扉の先。そこに見えた"それ"を目にして、竜馬の顔に闘志が燃え上がった。

 やれる。戦える。

 気が付けば竜馬の口はつりあがり、白い歯を見せて獰猛に笑っていた。

 

「はっ! そんなことはどうでもいい! いま戦いに行けるってなら、どんなボロでも乗りこなしてみせらあ!」

「最低限の調整はオレがして見せますよ。博士ほどじゃないですが、そのくらいはできます」

 

 隼人もまた、口の端を上げてニヒルな笑みを浮かべていた。

 

「よし、そうと決まりゃあ武蔵のヤツは何処だ! まだ寝てんのか?」

「あー、うむ、武蔵の馬鹿だがな……」

 

 息子とそっくりな仕草で頭痛をこらえるように首を振った早乙女博士からその行方を聞いた竜馬は、その場で思う様に武蔵を罵るのだった。

 

 

 

ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編

 第七話:新たなる力! 斬とG

 

 

 

 ピグドロン軍団による攻撃は、人類の防衛線をズタズタに引き裂いていた。

 沿岸の防衛陣地から放たれる砲火は意味をなさず、口から吹き出す溶解液とその巨体をもって次々に死者を量産していく。

 僕は、ゲッターバヨネットで手近なピグドロンの装甲を引き剥がしながらも、その戦況に焦りを隠せないでいた。

 

「兄さん、次の敵の位置を送ります!」

「了解!」

 

 ミチルからの通信を受けて、僕は操縦桿を押し込みペダルを踏む。

 飛行が可能でピグドロンの特殊な装甲に有効な武器を持つことから、僕とゲッターゼロは各戦線を飛び回りその迎撃を続けていた。

 しかし攻略法が判明した状況でも撃破には時間を有し、また被弾も完全に阻止できず機体の装甲からは白煙が生じている。

 

 竜馬たちが居れば。

 

 そんな思いが、脳裏をよぎらなかったと言えば嘘になった。

 

《Giaaaa!!》

「しまった!」

 

 そんな弱気な心の隙が招いたのだろうか、ピグドロンの一体にゲッターバヨネットが打ち払われた。

 さらに連続した酷使による疲労と溶解液の腐食が重なったのだろう、銃剣の刃は半ばから砕けるようにして失われてしまう。

 

「っちぃ!」

 

 僕は舌打ちを一つして、機体を突撃させると残ったもう一方の銃剣をピグドロンに深々と突き入れ、引き金を引いた。

 傷口から密着状態で射撃を受けて爆散するピグドロンを蹴り飛ばし、再びゼロは空を舞う。

 機体や武装もそうだが、僕自身も疲労を強く感じている。かと言って、ピグドロンに対抗可能なゲッターゼロが抜ければ戦線が保たない。

 戦い続けるほどに、ジワジワと自分たちが追い込まれていく感覚が全身にまとわりついていた。

 

「北方から高速で接近する物体あり……これは!」

「敵か!?」

 

 ミチルからの通信を受けて、僕は思わず悪い予感を口に出していた。

 しかし、そんな疑念を払うように三つの影が風をはらんで戦場の空を駆け抜けていく。

 そして三つの影は、味方の防御陣地を襲っていたピグドロンの一体に向かって突き進むと一つに重なり嵐を起こす。

 

「火斬刀!!」

 

 凜とした女性の声が響くとともに、大振りの曲刀が二本、ピグドロンをその表皮ごと横薙ぎに挟み込むようにして両断した。

 巻き起こる爆発を翼か、あるいは羽織りのようにも見える桃色の稼動装甲で防いだ剣の主は、その姿を衆目の前に現してみせる。

 

「こちらは斬! ゲッターロボ斬! ゲッター烈火、パイロットの水樹茜です! 北海道・橘研究所より、救援に駆けつけました!」

 

 レーダー上に表示される友軍を示すブルーのシグナル。その場所に重なるのは、新たなるゲッターロボ。

 烈火の名に相応しい剣さばきを見せたゲッター1タイプの機体は、曲線的な装甲と桃色基調の塗装も相まってむしろ女性的な柔らかさを感じさせた。

 

「オープンゲット!」

 

 掛け声とともに、再び三つの影が空を舞う。ゲッター烈火から分離したゲットマシンが向かうのは、次なる敵が待ち受ける場所だ。

 

「チェンジ、ゲッター! 同じく秋山椿。ゲッター斬、そして私のゲッター紫電の戦い、とくとご覧あれ」

 

 ゲッター烈火のパイロットとは対照的に、怜悧でやや感情の薄い印象の女性の声とともにゲットマシンが姿を変える。

 現れたのは頭巾をかぶった女忍者と言った風のゲッターロボ。

 右腕に搭載されたドリルに光を灯し、ゲッター2タイプらしい高速機動でメカザウルスの群れを撹乱していく。

 

「千極針!」

 

 残像を残して海面を疾走するゲッター紫電は、すれ違いざまに次々とメカザウルスに穴を開けていく。

 レーザードリル……いや、ゲッタービームドリルと言うべきだろう、エネルギーの刃が表面を伝うドリルが、敵の装甲を食い破っていった。

 しかしゲッタービーム対策を施されたピグドロンには、その攻撃力も幾分か減殺されてしまったようだ。

 

「あら、思ったよりも頑丈なのね。楓、後は任せるわよ。オープンゲット!」

 

 表皮に穴を穿たれながらも長大な爪を振りかざすピグドロンを、ゲッター紫電は悠々と振り切ってまたも分離する。

 

「ちぇーんじ、ゲッターこんごーう! どうもー、ゲッター金剛は柴崎楓ですー。よろしーく」

 

 間延びした女性の声とともに、クルリと空を舞ったゲットマシンが水しぶきとともに合体し変形した。

 ゲッター金剛は、黄色の塗装がされた上半身とたくましい両腕を持つ、金剛力士像のような印象を受けるゲッター3タイプだ。

 

「よいっしょー!」

《Giyoooo!???》

 

 金剛は、その豪腕に違わぬ張り手の一撃をもって軽いとは言えないピグドロンを吹き飛ばしてのける。

 

「大刃しゅりけーん」

 

 次いで、ゲッター金剛は背中から巨大な金属刃を取り出すと、それを八方手裏剣の形状に変形させて投げはなった。

 クルリクルリと飛翔した手裏剣は、倒れ込んだピグドロンに向かって飛びゲッター紫電が穿った胸部の傷に深々と突き刺さる。

 

『どーん!』

 

 そしてそんな間の伸びた声とともに、手裏剣が爆発した。

 体内に食い込んだ巨大な刃が爆発したピグドロンは、ひとたまりもなく内側から胴体が破裂して動かなくなる。

 

「オープーンゲーット」

「チェンジ、ゲッター烈火! 敵の新型、ピグドロンの情報は頂きました! 私たちが抑えている間に戦線の建て直しを!」

 

 再びゲッター烈火の姿に変わったゲッター斬からの通信が届く。たしかに彼女たち、特に火斬刀を持つゲッター烈火はピグドロンと相性が良い。

 空から舞い降りた新たなゲッターロボの姿は、押し込まれていた友軍にとって救いの女神だったのだろう。地上部隊の士気も回復している様子だ。

 

「こちらは早乙女研究所、ゲッターゼロの早乙女達人。ゲッター斬の救援に感謝する!」

「コマンドマシンよりゲッター斬。私からもお礼を言うわ。茜、椿に楓も助けに来てくれてありがとう」

「いえ! ミチル先輩のお役に立てたのなら私たちも嬉しいです!」

 

 通信機越しにもわかる気安げなやり取りに、僕は軽く首をひねる。

 ミチルの声音を聞いても、どうにも初対面ではないらしい。

 

「知り合いなのか? ミチル」

「あ、ええ、そうなの。高校の一年後輩で、橘研究所で働いていることは知っていたのだけど……」

 

 東京の高校に通っていた僕とは別に、ミチルは研究所に近い浅間学園高校を卒業しているので彼女たちもそこの出身と言うことになるだろう。

 ゲッターロボのパイロットだったことは初めて知ったらしいが、それにしても世間は狭いと言うべきか人材は居ると言うべきか。

 そう言えば"原作"のアニメ版では竜馬たちも普通の高校生だったなと、そんなことを思い出す。

 

「んっ、それより、ミチルも大丈夫か? お前もずっと飛びっぱなしだろう?」

「私は大丈夫よ。コマンドマシンのコンピュータに任せれば、飛びながらでも休憩はできるから」

「達人さん! 補給の準備できています。着陸はオレンジのマーカーへ!」

 

 多少の雑談を交わしながらコマンドマシンと帯同して拠点に近づくと、南風くんからの通信が届く。

 それに従って地面を見下ろすと、オレンジの線が×の字に引かれた一点が目に入った。

 

「了解。これより着陸する」

 

 そう言って外部スピーカーで警告を出してから、僕は指定された地点に向かって機体を降下させていった。

 ミチルのコマンドマシンは翼を上下に振ると、再び管制のため高高度へと上昇していく。

 着陸後に改めて確認するとピグドロンに荒らされた被害の片付けも済んでいて、BTや量産型ゲッター3を中心に防衛体制も再編できている様子だ。

 

「おかえりなさい、達人さん。ではこれから修理と補給作業を開始しますね」

 

 近づいてきた南風くんの乗ったBTの修理装置と陸戦隊によって、ゲッターゼロの装甲に付着した溶解液が洗い流されていく。

 それから破損した部分を特殊なパテで埋めていくのだが、一部は上から新規の装甲板を溶接して補強するようだ。

 唯一残っていたゲッターマシンガンも一度取り外され、新たに予備が取り出されている。

 

「!!! か、海底から超巨大エネルギー反応接近!!!」

 

 そして一通りの修理と補給を終えたその時、僕の耳には通信越しにミチルの悲鳴のような報告が届くのだった。

 

 

 

《猿どもよ、よくもここまで耐えて見せた! 忌々しくも新たなゲッターロボを作り上げたことも見事!》

 

 ゴールの声が、通信機越しにではなく直接に大気を揺らして朗々と空の下に鳴り響く。

 沸騰するように海水を泡立てて海底から浮上して来たのは、岩石と鋼鉄の中間のような奇妙な質感をもった巨大な双胴艦だった。

 

《しかし! この恐竜戦艦を前にしては全てが無駄だと知るがよい!》

 

 戦艦。

 その言葉に、僕は"原作"における恐竜帝国の最終兵器、最強のメカザウルスの姿を思い出す。

 だが姿を現した恐竜戦艦なる兵器は、生物的な要素が強かった原作の無敵戦艦ダイとは異なり、むしろ機械的な造形をしている。

 艦橋部分に似た箇所は見て取れはするし巨大な双胴艦と言う点もある意味では共通しているものの、外見的には人類側の艦船に近かった。

 

《さあ、恐怖するがいい! マグマ砲、発射ァ!》

 

 そしてゴールの叫びとともにその巨大戦艦のなかでもひと際巨大な砲塔が唸りをあげ、文字通りに火を吹いた。

 赤熱した巨大な流体が青い空を赤く焼きながら飛翔し、味方の防衛陣地の中央部に着弾して炸裂する。

 

「ちゅ、中央の防衛ラインが壊滅! メカザウルスが雪崩れ込んできます!」

 

 着弾点からは赤々と赤熱した溶岩が流れ出し、海水と接触して水蒸気爆発を引き起こしている。

 たった一撃、それでこれまで耐え続けてきた人類の防衛線はあっさりと崩壊したのだ。

 

「あっ、司令部より通信! 後退命令が出ました!」

「あの砲撃じゃあ防御陣地も役立たずだからな……よし、ゲッターチームの地上部隊は撤収! 物資は放棄していい、急げ!」

 

 味方が防衛陣地を放棄して撤退を開始する中に、恐竜戦艦から激しい砲撃が降りそそいだ。

 幸いにもそれは先のマグマ砲ではなく通常の砲弾によるものであったが、それですらけっして楽観できない破壊力を有している。

 マグマ砲を使用してこないのは連射が利かないから……と、今は考えておくしかないだろう。

 

「囮はゲッターゼロでやる! とにかくあのデカブツの砲撃を引きつけないと……」

「それなら、私達のゲッター斬が!」

「ダメだ、ゲッター斬が抜けるとピグドロンに対抗できない。味方の撤退援護は君達に頼むしかないんだ」

 

 姿を現したものは倒し切ったとは言え、ピグドロンが再出現した場合に備えるにはゲッター烈火が適任だった。

 僕は補給スペースから予備のゲッターマシンガンを取り上げてゼロに装備させると、フットペダルを踏んで前線に向かって機体を飛ばす。

 そうして陸地から幾らも離れないうちに、恐竜戦艦の巨大な姿が目に飛び込んできた。

 

《来たかゲッターロボ! 灰色のゲッター、貴様はバットの仇と聞いた! あやつの墓前にその首を捧げてくれようぞ!》

 

 ゴールの声とともに、再びマグマ砲が火を吹いた。狙いは、僕だ。

 速度は緩めない。緩めれば通常弾の餌食になる。高速を維持したまま、操縦桿を押し倒して水面ギリギリを抜けるしかない。

 

 ……。

 

 一瞬、全ての音が消え去ったような緊張感。次いで背後で巨大な爆発が閃いた。

 

《くくっ、やりおるわ! メカザウルスを発艦させい! 灰色のゲッターロボをなぶり殺しにせよ!》

 

 必殺の砲撃を回避されながらも、ゴールは余裕を崩さずに次なる指示を発していた。

 恐竜戦艦の艦橋近くの隔壁が展開され、そこから多数の飛行型メカザウルスが翼を広げて飛び出して来る。

 

「ゲッター、マシンガン!」

 

 僕は二挺持ちにしたマシンガンで迎撃を開始するものの、恐竜戦艦からの対空砲火に戦果は中々上がらなかった。

 流れ弾の一部がその甲板を打つこともあったが、目立った損害は生じていない。見た目どおりの頑強さだった。

 

《そのような豆鉄砲で何ができると思った! クワッハハハ!》

 

 ゴールの哄笑が響く中、ゲッターゼロは数を増すメカザウルスに阻まれ徐々に包囲網を狭められていく。

 そして……。

 

《終わりだな、灰色のゲッターロボ。なに寂しがることはない。他の猿どももすぐに送ってやろう》

 

 マグマ砲の砲門が、赤い光を灯してこちらを向いた。

 周囲にはメカザウルスの軍勢。もろともに撃つ気だろう。回避は、不可能だった。

 

《マグマ砲、撃……》

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 

 海中から、雄叫びとともに武蔵の量産型ゲッター3が飛び出して来たのだ。

 後部のブースターを吹かしたゲッター3は、勢いのまま恐竜戦艦の甲板まで飛び上がり、その腕でマグマ砲の砲塔にしがみついた。

 ゲッターゼロに狙いをつけていた砲は、それによって狙いをそらされ虚空を貫いて海へと落ちる。

 

「へっ! ゴール、てめえ、この野郎! この武蔵様を忘れやがって! 達人さんもだぜ水臭い!」

「武蔵、何でここに!? いや、それよりも無茶だ、早くそこから離脱するんだ!」

《や、野蛮な大猿めが! ヤツに砲撃を集中しろ!》

 

 ゴールの苦虫を噛み潰したような声とともに、マグマ砲周囲の副砲から砲弾が飛び出した。

 装甲が弾け、機関が煙を吹き、徐々に徐々に量産型ゲッター3はその守りを失っていく。

 

「へへへっ、トカゲ野郎が! こんなもんでえ、このオイラがどうにかなるもんかよ!!」

「ダメだ! やめろ! やめるんだ武蔵!」

 

 笑って啖呵を切る武蔵の声に、背筋に走る怖気を感じて僕は叫んでいた。

 ひび割れた装甲の隙間から、ゲッター炉心がその輝きを増す光景を見てしまったから。

 

「いくら達人さんの頼みでも、そいつぁ聞けねえよ……。オイラがやらなくちゃあ、誰がやるってんだ」

 

 僕はゲッターマシンガンを掃射しながら、どうにかして武蔵の元へ行こうと進路を探していた。

 周囲のメカザウルスが、放射される膨大な量のゲッター線を浴びて混乱している今であればチャンスはある。

 そう、信じたかった。

 

「それじゃあ達人さん、ミチルさんと、竜馬たちにもよろしくな!」

 

 ゲッター炉心が、量産型ゲッター3の装甲の内側で大きく光る。

 対ゲッター線コーティングがなされたはずのメカザウルスの、その生体部分が泡立っているのが見えた。

 

《い、いかん! 殺せ! ヤツを殺せぇ!!》

 

 ゴールの叫びが耳朶を打つ。マグマ砲に取り付いている武蔵の量産型ゲッター3は、艦橋に程近い。

 あの位置でゲッター炉心の暴走が起きれば、恐竜戦艦に乗り込むハチュウ人類にもどんな影響が出るか分からないからだろう。

 やがて量産型ゲッター3の残された右腕は、自らの臓腑を抉るように装甲を引き剥がそうとする。

 

 間に合わない。

 

 そんな諦めと無力感が心中を満たそうとした、その時だった。

 

 

「ゲッタァァァァァァビィィィィィイィム!!!!」

 

 

 雄雄しい叫びと桜色の閃光が、暗雲のように空を覆うメカザウルスの群れを裂き貫いて恐竜戦艦を打ち据えた。

 さらに光はそれだけに留まらず、甲板上を縦横無尽になぎ払うと副砲や対空砲、メカザウルスの発進口といった構造物を吹き飛ばしていく。

 

「ようトカゲども、どうやら俺の仲間が随分と世話になったようじゃねえか……」

 

 自信と戦意に満ちた声とともに、はるか雲の上から地上を睥睨する人型の影が姿を現した。

 両腕を組み威風堂々と現れたのは、複数の角と竜の髭にも似た意匠の頭部と持つ赤のゲッターロボ。

 

「だからよ、お返しに教えてやるぜ、俺とゲッターロボGが! ゲッターの恐ろしさってヤツをなぁっ!!」

 

 竜馬が来る。

 新たなる力、ゲッターロボGをたずさえて。

 

 

 

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8.決着! そして...

《ま、またしても新たなゲッターロボ、ゲッターロボG、だとぉ!》

 

 帝王ゴールの、血を吐くような声が辺りに響き渡った。その声音からは、ゲッターロボ……そしてゲッター線に対する憎悪がにじみ出ている。

 バット将軍とゲラ、そして今回の大侵攻、恐竜帝国がゲッターロボを作り上げた日本の攻略に重点を置いていることは明らかだ。

 ゴールの心情がその戦略にどれほど影響を与えたのか、気になりはするが今はとりあえず……。

 

「ぬわぁあああ!?」

 

 衝撃でシェイクされる武蔵の悲鳴を無視しつつ、僕はゲッターゼロで抱え込んだ量産型ゲッター3ごと海面に突入した。

 過負荷運転で異常加熱していた量産型のゲッター炉心が海水と触れて白煙を上げる。

 

「何すんだよ、達人さぁん!」

「うるっさいこのバカ! いいから早く炉心を止めろ!」

「そうだ武蔵、てめえこの野郎! 勝手に出撃した上に死に急ぎやがって、このバカ!」

 

 僕と竜馬によるバカコールを浴びて、武蔵は「ひっでぇ」と消沈した様子でゲッター炉心の緊急停止スイッチを押し込んだ。

 煌々と輝いていた炉心は、それによって徐々に輝きを失いやがて灰色になって沈黙した。

 おそらくこれで量産型ゲッター3はスクラップ行きだろうが、武蔵を失うよりはずっといい。

 

「だが、一人で出て行ったせいでゲッターGに乗り損ねちまったわけだ。反対に、お前は役得だったな弁慶」

「い、いえ、役得だなんて! とにかく武蔵先輩が無事でよかったです」

 

 ライガー号の隼人と、ポセイドン号の弁慶からそんな通信が届く。

 隼人はいつも通りの調子だが、武蔵と仲のいい弁慶は言葉通りにホッとした様子だった。

 

「ちくしょー! やい竜馬! これで負けたら承知しねえからなあ!!」

「ハッ! 誰に向かって言ってやがる。そこで達人さんと一緒に見てな! 俺とゲッタードラゴンがゴールのヤツを叩き潰す姿をな!」

 

 武蔵の激に答える竜馬とゲッタードラゴンの姿を、僕は波間に揺れるゲッターゼロのコクピットから見上げていた。

 そして、いつか見た雄姿と現実にそこにある姿を重ねてただ一言を送る。

 

「竜馬、隼人、弁慶。―――頼む」

「「「応!!」」」

 

 三つの声が重なって、ゲッタードラゴンがゲットマシンの姿に分離して散開した。

 

《ええい! 撃て、殺せぇ!!》

 

 ゴールの狂気を帯びた声とともに恐竜戦艦の火砲が火を吹き、生き残りの飛行型メカザウルスが殺到する。

 しかしそれらの攻撃がゲットマシンの影を踏むことはなく、三つの影が一つに変わる。

 

「チェンジ、ライガー! さぁて、まずは邪魔な連中の大掃除から始めるとしようか。音速を超えた先、見せてやるぜ!!」

 

 隼人の掛け声とともに細身の姿に合体変形したゲッターGの姿がぶれて、消える。

 次の瞬間には残像すら残さぬ超音速の衝撃波が駆け巡り、空を舞っていたメカザウルスが一斉に弾け飛んだ。

 いつの間にか恐竜戦艦の甲板上に着地していたゲッターライガーのカメラアイが、降りそそぐ敵の残骸のなかで怪しく光る。

 

「オープンゲット!」

 

 再び分離したゲットマシンは、恐竜戦艦の甲板上の構造物に機銃を撃ち込みながら飛び立つと、高く飛翔して再び合体の体勢を取る。

 

「チェンジ、ポセイドン!」

 

 ゲッターGは、空中でライガーと対照的な筋肉質のフォルムへと姿を変え、そのまま自由落下で海中へと突入した。

 僕は、すぐに量産型ゲッター3を抱えたまま比較的安全になった空中へと退避させる。

 と、同時に海が唸り、逆巻き、怒号を上げた。

 

「ゲッタァ、サイックロォォォン!!!」

《お、お、おおぉぉっ! い、いかん、艦の制御を密にせよ!》

 

 弁慶の叫びとともに、海神の怒りが海底に潜んでいたメカザウルスを木の葉のように空中に吹き飛ばした。

 巨大な海水の竜巻に巻き込まれた敵が無惨に砕けていく。

 恐竜戦艦はその重量と大きさ故に無事のようだったが、ゴールの声を聞く限りでは艦内も無事に済んではいないのだろう。

 

「オープンゲット!」

 

 そして竜巻に乗り、ゲットマシンが海中から飛び出す。

 螺旋を描くように竜巻にそって天へと登った三機は、中天の太陽の下で一つへと変わる。

 

「チェェェェンジ、ゲッタードラゴン!」

《マグマ砲! 合体の瞬間を狙えっ!》

 

 ゴールの命令を受けて、マグマ砲がその砲身に赤い輝きを宿した。間もなく仰角を高くとった砲弾が射出され、大気を焼いてゲッターロボGを狙う。

 砲撃が放たれたとき、竜馬は既に合体させたゲッタードラゴンを恐竜戦艦に向けて飛ばしていた。

 恐れを知らぬかのごとき速度で突進した機体が、灼熱の溶岩弾をすれ違うように回避して甲板へと降り立つ。

 

「ダブルトマホォォク!」

 

 抜き放たれた戦斧を両手に、ゲッタードラゴンはマグマ砲の天蓋に向けて一撃。一撃。一撃! 一撃!!

 繰り返す都度に装甲の破片が飛び散り、砲身が折れ曲がり、船体との接合部から赤い液体が噴き出し、黒煙を上げた。

 高熱を帯びたマグマを返り血のように散らしながら、ゲッタードラゴンは獰猛に容赦なくマグマ砲を破壊していく。

 

《恐るべしゲッターロボG……我が恐竜戦艦を、我が恐竜帝国の軍勢をここまでもズタズタにしてくれるとは》

「怖気づいて許してくれってんなら、考えなくもねえぜ。ゴールさんよ」

 

 無数にも見えたメカザウルス群は姿を消し、恐竜戦艦は必殺のマグマ砲を含めて艦の攻撃力のほとんどを喪失した。

 それ故の諦観と嘆きだろうか? 艦橋にトマホークを突きつける竜馬に対するゴールの声は、どこか感傷を帯びて聞こえた。

 

《く、くくく、このゴールに、恐竜帝国の帝王に、膝を屈しろと頭を垂れよと言うか。……だが認めよう、今はお前たちが強い》

 

 静かな笑いを口中に含みながら、ゴールは言う。

 もしやと、そう思わない訳ではなかった。だが次いで告げられたのは、"やはり"と言うほかない言葉だ。

 

《故に言おう! そのようなことは余の誇りが許さぬわっ!!》

 

 一転して叫ぶような声とともに、ゴールの声を伝えていた機械からガコンと何かを押し込む音が聞こえて、灼熱の炎が恐竜戦艦の艦橋を飲み込んだ

 

「ぐぅっ、野郎、自爆しやがったか?!」

 

 文字通り爆発的に広がる炎の熱を避けるためにゲッタードラゴンを後退させた竜馬が吐き捨てるように言う。

 恐竜戦艦の甲板ではグツグツと流血するような溶岩流が流れ、脱出してきたハチュウ人類たちが火だるまになっていた。

 

《ぐ、ぐくくく、猿どもよ恐竜戦艦の最後の咆哮を聞くがいい! 余は礎となろう、我が帝国の次なる繁栄のために……》

 

 その言葉を最後にして、ゴールの声は聞こえなくなった。赤いマグマの噴き出した艦橋の姿を見れば、末路は語るまでもないだろう。

 しかし主を喪った恐竜戦艦の船体は、溶岩流の噴出こそ止まったものの各所から赤々とした光と蒸気を噴き出し続けていた。

 

 

 

ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編

 第八話:決着! そして...

 

 

 

「まずいことになった」

 

 僕はそう言って額を伝う汗を乱暴に拭き取った。

 それからゲッターゼロの計器が指し示す恐竜戦艦のデータをゲッターGへと送信しながら、「マグマ砲だ」と続ける。

 

「マグマ砲ぉ? そいつはさっき俺がぶっ潰したじゃねえか」

「いいや、確かにコイツはまずいぜ竜馬。あの戦艦の内部で熱と圧力が高まってやがる。火山と同じで、限界まで圧力が高まれば……ドカンだ」

 

 恐竜戦艦の強固な外殻を砲身に見立て、動力炉そのものを砲弾にした超特大のマグマ砲。

 それがゴールの言い残した『最後の咆哮』の意味。

 圧力の限界を迎えて"噴火"した恐竜戦艦は、その内部で圧縮された熱と質量を舳先へと向かって噴出させるだろう。

 

「ゼロの観測機器じゃ概算程度だが、軽く見積もっても房総半島、おそらくは東京まで火の海だ。最悪は関東平野が灰になる」

「っちぃ! ゴールの置き土産ってか? なら爆発するよりも先にゲッタービームでぶっ壊してやらぁ!!」

「やめろ竜馬。いま計算したが、ドラゴンのゲッタービームだと出力が足りん。下手に突けば噴火を誘発するぞ」

 

 ゲッタービームのチャージをはじめようとした竜馬を、隼人の声が制止した。

 ライガー号から返送されてきたデータを見ると、確かにゲッタービームの威力では爆発を相殺しきれない。

 さらに現在位置からでは、どの方角に向かって爆発するにせよ大きな被害が予想されるため、あえて爆発させる手段も取り難かった。

 

「ならどうしろってんだぁ?! このまま大人しく爆発すんのを待てってか?」

 

 苛立たしげな様子の竜馬に、僕は一つの解決策を示す。

 恐竜戦艦の爆発の被害を最小限に留めるため、内部から噴出するマグマエネルギーと質量を巻き込んで消滅させるほどの力。

 ゲッターロボG最大最強の武器。その名は。

 

「シャインスパークだ」

「シャイン、スパーク?」

 

 僕の言葉に、竜馬は疑問の声をあげる。どうやら、父さんはその存在を伝えてはいなかったらしい。

 ゲッターロボGが急遽出撃したことと、その調整が不十分であることなどを考えると無理もない。

 だけど、今の状況を打破するには成功率は低くともこれしかないと言う確信がある。

 僕の内心に、科学者として、ゲッターの開発者としての忸怩たる思いがあっても、だ。

 

「ゲッター炉心のリミッターを解除して限界以上の出力を引き出す荒技だ。その威力はゲッタービームの10倍以上」

「スゲェじゃねえか! そいつならあのデカブツを吹き飛ばせるってわけだな!」

「ただし、出力が炉心の限界を0.1%でも超えれば緊急停止が起きる。そうなればエネルギーが空になって、ゲッターロボGは置物だ」

 

 緊急停止が起きればゲッタードラゴンは炉心内部のエネルギーを全て放出してしまい、再チャージが完了するまではまともに動けなくなるだろう。

 あるいは被害を覚悟してゲッタービームを撃ちこむという次善の手段も取れなくなる。

 なによりも最終調整を終えていないゲッタードラゴンでは、どのような不具合が出るかも分からなかった。

 

「チャンスは一回きり。エネルギーが上がりきった時に三人がタイミングを合わせてペダルを踏む。失敗すればそれまでだ。それでもやるか?」

「あったりまえだろうが! ようは成功させればいいのさ、そのシャインスパークってヤツをよ!!」

 

 さも当然のように、そしてきっと僕もそう期待していた通りに、竜馬はニヤリと歯を見せて笑って見せた。

 

「隼人、弁慶、腹ぁ決めろよ! 俺はやるぜ!」

「ふっ、やるならオレのサポートは必要だろう? ゲッター炉心の調整は任せな」

「じ、自分は……」

 

 竜馬の言葉に寸暇を置かずに返事をした隼人とは異なり、武蔵の代理と言う意識があるのだろう弁慶は声を詰まらせてしまった。

 

「おいこら弁慶! オイラの後輩がよお、そんなへっぴり腰でどうすんだい! 気合入れやがれ!!」

「武蔵先輩……!」

 

 そして僕が何かを言うよりも先に、量産型ゲッター3から武蔵の一喝が飛ぶ。

 すると弁慶の表情が引き締まり、眉が上がりクワッと目を見開いて自身の頬を平手で張った。

 

「男弁慶、覚悟ぉ決めましたぁ! 竜馬さん、隼人さん、やりましょう!!」

「へへっ、いいね。それでこそゲッターチームだ。よぉし、行くぜ! 隼人、弁慶!」

 

 竜馬の吼え猛る声とともに、ゲッタードラゴンが恐竜戦艦の直上に飛び、腕を十字に広げ赤く燃える巨船を望んだ。

 

「ゲッタァァァ、シャァァァァイン!!!」

 

 輝くゲッター線の渦が巻き起こり、白く白く目がくらむほどに力を高めていく。

 限界を超えて高まれば、その先にチャンスは一瞬。

 

 

 

 ……。

 

 

 

「「「シャイン、スパァァァァァァアック!!!!!!!」」」

 

 三つ重ねた声とともにペダルを踏み占める音が一つ、聞こえた気がした。

 束ねた心を一つにして、ゲッタードラゴンが真っ直ぐに、ただひたすらに真っ直ぐに飛ぶ。

 目指す先にはいまや巨大な火山と化した恐竜戦艦。

 

 

 

 光が、放たれる。

 

 

 

「げ、ゲッタードラゴンは? 竜馬たちはどうなったんだ?」

 

 同じ光景を見ていた武蔵の声が届く。ゲッターゼロの計器とカメラは、馬鹿げたエネルギーの放射でノイズまみれになっていた。

 恐竜戦艦が存在していたはずの海域は、円形にくりぬかれたように海底の地面の色が見て取れた。

 そこに沸立つマグマの色は見えず、ただ生まれた空白にむかって崩れるように波が押し寄せていく。

 

「……見つけた! 竜馬!」

 

 吹き散らされた白い雲の、蒼天が空に開いた穴のように広がる空間の中心に、ゲッタードラゴンはたたずんでいた。

 だが、通信機からの返事はない。

 やがて、ゲッタードラゴンは糸の切れた人形のように空中で体勢を崩すと、はるか下に見える水面に向かって落下していく。

 

「まずい! 落ちる!」

 

 あの高度から海に落下すれば、ゲッタードラゴンは無事でもパイロットの三人……も無事だろうが、大きな怪我の一つも負いかねない。

 僕は、ゲッターゼロをドラゴンに向かって飛ばすが、抱えている量産型ゲッター3の分もあって速度が上がらない。

 まさか武蔵を捨てていくわけにもいかず、落下する姿を見送らざるをえなかった。

 

「木の葉落としの術……なんてね」

 

 だが、水しぶきが上がるその寸前、現れた桃色の影が落下するゲッタードラゴンをふわりとした動作で抱きとめてみせる。

 それは友軍の撤退を援護していたはずのゲッター烈火だった。

 

「ゲッター烈火、水樹くんか!」

「はいっ! でもゴールとの戦いの役には立てなくて、ごめんなさい」

「そんなことはないさ。助かった。……おい竜馬、隼人、弁慶、大丈夫か? 返事をしろ」

 

 肩を貸されるような姿勢でゲッター烈火に支えられるドラゴンに向かって、僕は外部スピーカーで呼びかける。

 ゲッターGはどうにも電気系のトラブルが発生しているようだったが、やがて多少の雑音混じりに通信機が起動した。

 

「こちら竜馬。俺たちは大丈夫だけどよ、ゲッターは参っちまったらしいぜ」

「隼人だ。シャインスパークの影響でゲッター炉心が焼き付いた。今は予備バッテリーを使っている。復旧はできそうにない」

「弁慶です! 空も飛べないらしいんで、このまま運んでもらえると助かりまっす!」

 

 どうやら無事らしい三人の声にホッとしながら、僕は計器類を再起動させてゲッタードラゴンの様子を観察する。

 なるほど、隼人の言う通りエネルギーが異常に低下……いや消失していた。

 

「帰ったら炉心の設計は見直しかな。ゲッター斬、すまないけど陸地まで彼らの送迎をたのんでいいかな」

「ふふふっ、私たちのエスコートは高いわよ?」

「もう椿ったら、冗談言わないの! ゲッター烈火、了解です」

 

 軽く笑い合いながら日本への帰路に付く僕を含めたゲッターチーム。

 

 

 

 パチパチパチ、と拍手を打つ音が飛び込んだのは、そんな時のことだった。

 

 

 

「トカゲの駆除、ご苦労だったなゲッターチームの諸君。見事な活躍だったと褒めてやろう」

「誰だ!?」

 

 拍手とともに響き渡った嘲るような声に対して竜馬が声を上げると、ゲッターロボの通信機に映像が飛び込んできた。

 そこに映ったのは、巨大な角を生やした巨漢。赤い軍服を身にまとった、野獣のような男だった。

 僕は、かつてゴールの姿を目にした時と同じく、その姿に見覚えがあった。

 

「お初にお目にかかる。私の名はブライ。百鬼帝国のブライ大帝である。我が百鬼要塞島ともども、よろしくお見知りおきを……」

 

 慇懃な言葉とともに、通信機の映像が巨大構造物……百鬼要塞島と言うらしい円盤型の空中要塞を映し出した。

 見るからに重武装の要塞の周囲には、人型に角を生やした意匠を共通とする機動兵器が群れをなしている。

 

「トカゲの帝王をやっつけたら、大帝ってかあ。次から次へとよぉ」

「……我ら鬼をトカゲと一緒に扱うとは、いささか不愉快だな。ふむ、ここは一つ鬼の力を見せておくとしよう」

 

 ぼやくように言った武蔵の言葉に対して、ブライ大帝は不愉快そうに眉を跳ねさせた。

 その言葉に応じるように、要塞等の下部からは半球状の構造物がせり出してくる。

 

「重力遮断砲、発射せよ!」

 

 そして激しい稲妻にも見える光線が、海面に向かって放たれた。

 強烈な衝撃をともなって海原を激しくかき乱していた光線は、やがて海中から『何か』を浮かび上がらせてくる。

 

「あ、あれは!?」

 

 海の底から引き上げられた百鬼要塞島にも匹敵する巨大な質量体を見て、弁慶が驚きの声を上げる。

 逆さ釣りにされ空中に引き上げられた物の正体は、恐竜帝国のマシーンランドだった。

 

「見たまえ、諸君がゴールを倒すや逃げ出した臆病なトカゲどもの巣だ。どうやらまた何千年かでも溶岩の中に隠れ潜むつもりだったらしい」

 

 重力遮断砲、強力なトラクタービームによってさらし者にするように釣り上げたマシーンランドを指して、ブライ大帝はその姿を鼻で笑う。

 

「しかし、いずれ私のものとなる地球に害虫が住み付くなど不愉快極まりない。―――やれ」

 

 言葉とともに、鋭い爪を生やし分厚い毛皮に包まれたブライの手がスッと上がり振り下ろされた。

 瞬間、要塞島に設置された砲台が次々と火を吹き、宙吊りにされた無防備のマシーンランドに向かって降りそそぐ。

 

「ま、マシーンランドが!」

「く、砕けていく!」

「海に落ちてる小さいのはぁ、ハチュウ人類ぃ?!」

 

 ゲッター斬チームの震えるような声。

 映像を注視してみれば、マシーンランドの破孔からは何か黒い粒のようなものがポロポロと落下している。

 

「止めやがれブライ! そいつらに戦う力は残ってねえだろう!」

「おや、ご不快だったかな? それは失礼をした。たしかにトカゲの駆除など長々と見ていて楽しいものではかったね」

 

 一方的ななぶり殺しの光景に、竜馬が怒声を発する。

 ブライ大帝は、それに対して軽く肩をすくめて見せるとニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべて見せる。

 そして……。

 

「では一思いに始末して見せるとしよう! 重力遮断砲の出力を上げい!!」

「や、やめろっ! ブラーイ!!」

 

 竜馬の声も今度は届くことはなく、放射された無数の稲妻が恐竜帝国の本拠地を押し包んでいく。

 海面に向かって落下していた残骸が引き戻されるようにして空中へと昇り、ぐしゃりと、握りつぶされるようにしてマシーンランドは崩壊した。

 

「見たかね? この鬼の科学力が、我が百鬼メカが、諸君らのゲッターロボと各国の開発している下らぬロボットを破壊し、私の前に平伏させるのだ!」

 

 ブライの言葉とともに百鬼要塞島が高度を上げ、何処かへと姿を消していく。

 要塞島は高度なステルス能力を有しているらしく、ゲッターゼロの計器では追跡が困難だ。

 

「ふふふ、はははは、わぁっはっはっはっはっは!!!」

 

 ゲッターチームの誰もがなにも言えずたたずむなか、あとにはただ鬼の哄笑だけが響き渡っていた。

 

 

 

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9.百鬼の脅威! 出撃、ゲッターロボ號

 恐竜帝国の壊滅と、新たなる敵である百鬼帝国との邂逅から三日。

 僕たちゲッターチームは、海岸線におけるメカザウルス残党の討伐とマシーンランドが崩壊した海域の調査を終えて研究所へ帰還していた。

 

「これは、ダメじゃな」

 

 格納庫の一角では、父さんが首を左右に振りながら灰色になったゲッター炉心を廃品送りにしている。

 それはゲッターロボGに使用されていた炉心で、シャインスパークの使用に耐えられず機能停止に追い込まれた物だった。

 

「父さん、Gの炉心は?」

「おお、達人。見ての通りじゃよ。シャインスパークを使うのなら、やはり炉心の設計は見直さねばならん」

 

 それを聞いて、僕らは親子そろって難しい顔をする。

 この三日で百鬼帝国に目立った動きは見られないものの、その予兆と思われる小さな報告はすでに届き始めていた。

 この情勢で強力な戦力となるゲッターロボGを遊ばせておくわけにはいかず、かといって不安定なまま予備の炉心を搭載するわけにもいかない。

 

「それじゃあ、予定通りに?」

「うむ。橘の提案に乗ることにした。早乙女研究所並びにゲッターチームは、橘研究所と同じくNISAR(ネイサー)に所属することになる」

 

 NISAR=新国際スーパーロボット同盟会議は、元々各国の軍・研究所の技術交流を目的にした組織だ。

 これが恐竜帝国の出現に際して軍事を含む協定を加えたものへと発展、昨日付けで百鬼帝国に対しても対応可能なようにシフトしていた。

 コレに参加することで僕や竜馬たちゲッターチームが国境を越えてゲッターロボを動かすことが可能となり、また補給等も受けられるようになる。

 

「では橘研究所でゲッター斬用の炉心をゲッターGに移植。以降はNISARの指揮下に入ります」

「こちらはG型炉心をシャインスパークに耐えるよう、早急に作り直す。可能な限りサポートはするが実戦はお前たちが頼みだ。すまん」

「ゲッターロボGはシャインスパークなしでも十分に戦えるさ。"アレ"のこともあるんだから、老け込むには早いよ父さん」

 

 肩を落とした父さんに、僕はそう言って笑いかける。

 

「ふふふっ、そうだな。"アレ"のためにも戦いなど早く終わらせんといかんな。……死ぬなよ、達人」

 

 父さんが顔を上げるとともに、ガコンと音を立てて格納庫と外をつなぐ巨大な鉄扉が解放された。

 その先にある滑走路には、太陽光を浴びながら巨大な鉄のクジラが青いボディに太陽光を浴びて着陸するところだった。

 

 

 

ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編

 第九話:百鬼の脅威! 出撃、ゲッターロボ號

 

 

 

 北海道・橘研究所は、NISARの基地に隣接した日本のスーパーロボット研究開発の本拠地をなしていた。

 政治の干渉を避けるため民間の宇宙開発用という体裁で動いていた早乙女研究所よりも、より政治に寄った半官半民と言った具合の経営を行っている。

 メインとなるゲッター線研究の他、早乙女研究所でも導入しているBT-23の国内用への再設計や生産なども手がけていて自衛隊とも縁深い。

 ただしゲッターロボ開発に関して言えば、恐竜帝国との開戦まで動けないでいた。日本特有の軍事事情が足を引っ張った形である。

 

「ようこそ橘研究所へ。竜馬君、隼人君、弁慶君」

 

 超大型輸送機『クジラ』を使い、ゲッターロボGとゲッターゼロとともに北海道を訪れた僕たちを、橘博士は自ら出迎えてくれた。

 黒髪黒髭で父さん(早乙女博士)よりも若く見えるが実は同窓生であり、ともにゲッター線を発見し研究を発展させたパイオニアの一人でもある。

 下駄履きに白髪頭で髭も整えない我が父に比べると、ピッチリと整えた口髭と顎鬚が際立つダンディな外見だ。

 

「達人君も元気そうだな。早乙女のヤツは、まあ、心配せんでもいいか。どうせ研究漬けだろうからな」

「あはは……ご無沙汰しています橘博士。お元気そうでなによりです」

 

 で、まあ、その橘博士、僕にとっては大学時代の恩師に当たる方であり親子二代で縁がある。

 しかし橘研究所の設立と、僕が早乙女研究所の職員になってからは中々会う機会もなく、恐竜帝国の件があってからはなおさらとなっていた。

 

「よお、あんた等が早乙女研究所のゲッターチームだってな?」

 

 『クジラ』に残る隼人と弁慶を置いて橘博士に連れられて研究所に入ると、僕たちは黒髪を短く刈った青いパイロットスーツの青年に声をかけられた。

 青年は、口調こそ平然とした雰囲気だが、その視線はひどく挑戦的であり突き刺すような鋭いまなざしをこちらに向けてきている。

 

「おお、號か! 紹介しよう、一文字號。橘研究所で開発された新型ゲッターロボのパイロットの一人だ」

 

 攻撃的な視線に竜馬の口角が上がりきる前、橘博士が割り込んだことで一触即発だった雰囲気が霧散する。

 博士自身はおそらく意識しての行動ではなかったようだが、それで竜馬も青年……號も、この場で"じゃれあう"のは諦めた様子だった。

 

「あー、まあ、そう言うこって、よろしく頼むぜセンパイ」

「おう、こっちこそだコウハイ」

 

 言って、竜馬と號はニタリと笑い合ってギリギリと音がなるような握手を交わす。仲が良さそうで何よりだ。

 互いにヘッヘッへと笑いながらけん制しあっているが、どうせその内に勝手に格付けチェックし合うのでここは放置でいい。

 

「おい、こら號! 勝手に先に行くんじゃあない! 挨拶は一緒に行くって話しだっただろ!」

 

 そんな時、通路の奥から大股で歩いて来た男がいた。ガッシリとした大柄の体格や顔つきからは、武蔵や弁慶を連想させる。

 男は號のものとは同じ意匠で色違いの緑色のパイロットスーツを着ており、號との関係性は一目瞭然だろう。

 

「お前らがのんびりしてんのが悪いんだよ」

「この野郎ぉ……っと、すみません、おれは大道剴。こっちの號(バカ)と同じで新型ゲッターのパイロットしてます」

 

 「元はメカニックなんですけどね」と続ける大道くん。

 なんでも訓練時に本来の担当のパイロットが乗れなくなった時、たまたま近くにいた彼が號の手でコクピットに放り込まれたのがきっかけとのこと。

 ところが"乗れなくなった"パイロットがそのまま転属してしまったので、大道くんが専属になったと橘博士が補足してくれた。

 ……ところで橘博士は真面目で温厚で常識的ではあるが、うちの父さんと長年付き合えている男である。

 正規パイロットの人は何で転属しちゃったんですかねとか、そう言う問いはあるが、その、なんだ、うん。

 

「剴も、ブリーフィングルームの準備を私に任せて行くんじゃない……遅れました、橘翔です。他二名と同じく新型ゲッターの操縦を担当します」

 

 最後に現れたのは、赤いパイロットスーツを着た少し癖のある髪を長く伸ばした赤毛の女性だった。

 彼女……翔は、首を左右に振りながら號と大道くんに文句を言うと、チラリと僕の方を見て会釈をしてみせた。

 

「娘の翔だ。達人君とは久々になるかもしれんな」

「はーん、女っ気がねえと思ってたけど、達人さんも……いって!」

 

 僕はニヤニヤと笑う竜馬の後ろ頭を叩いて黙らせると、翔に向かって「久しぶり」と挨拶を返す。

 早乙女家と橘家は家族ぐるみの付き合いをしていて、翔はミチルと年が近いこともあって仲が良かったため僕にとっては妹分と言える相手だ。

 博士の言う通りここ何年かは顔を合わせてはいなかったが、季節の手紙をやり取りする程度の関係は続いていた。

 橘家と関わりが薄いのは年が離れている我が家の末っ子、元気くらいだろう。

 

「さて、こんなところで立ち話も何だ。奥へ行って今後の予定を話そう。茜たち斬チームも……」

 

 橘博士がそう言ってその場に集まった全員を促そうとしたその時、突如として爆発音と共に研究所全域に警報が鳴り響く。

 窓越しに外の様子を見れば、施設内の各所から黒煙が上がり研究所に向かってミサイルと思われる飛翔体が接近しているところだった。

 

「こちらエントランス、橘だ! 管制室、何が起きた!?」

「管制室です。周辺を警備中の船舶が何者かによって撃沈! 北方よりミサイル及び正体不明の飛来物多数!」

 

 最寄の通信機から周辺の情報が通達され、その場にいた面々の表情が険しくなる。

 正体不明とは言っているが、この情勢で橘研究所を襲撃するような相手に心当たりなど限られている。

 

「ちっ! 鬼の連中、ゲッターGが動けねえって時に来やがって!」

「へっ、それなら心配いらねえぜセンパイよ。オレたちが何とかしてやらぁ! 翔、剴、行くぜっ!」

「あ、おい、號! また勝手に!」

 

 イラついた様子の竜馬に、號はやや挑発的に言い捨てて駆け出していった。

 その後を大道くんが文句を言いながら追いかけ、翔はこちらに軽く一礼してからその後を追う。

 

「とにかく、僕らは安全な場所まで避難しよう。橘博士、すみませんが案内をお願いできますか?」

「うむ、ついて来たまえ」

 

 そうして橘博士の先導を受けながら、僕たちは先程の通信でやり取りをした橘研究所の管制室へと向かうのだった。

 

 

 

「状況は!?」

「橘博士! ご無事でなによりです。先程、ゲッター斬とゲッターゼロがスクランブル、北方から接近する敵に対して迎撃に出ています」

「ゼロのパイロットは隼人のヤツだな。くそっ、これなら俺もクジラに残ってりゃあよかったぜ」

 

 たどり着いた管制室では、大部屋に多数の職員が詰めて研究所防衛の補助を行っていた。

 外に面した強化ガラス製の窓の上には大型ディスプレイが設置され、そこには海上を飛ぶゲッター烈火とゲッターゼロの姿が映されていた。

 ディスプレイを見ると、竜馬の言葉通りにどうやらゼロには隼人が乗っているようだ。持ち込んだ武装は少ないが、隼人なら上手くやるだろう。

 

「號たちはどうした?」

「はい、新型ゲットマシンの最終調整を実施中です。ですが、その、機体コードが未設定でして……」

 

 號たちの担当らしい職員が、橘博士の質問に据付型のPCの一つを指し示しながら言う。

 なるほど、たしかにそこには本来示されているはずの機体の名前が入力されてはいなかった。

 

「なんだそりゃ、名無しのゲッターじゃ出撃できませんってか? ネオ・ゲッターでもニュー・ゲッターでもいいじゃねえかそんなもん」

 

 出撃できない状況に憮然とした表情で竜馬が言う。橘博士もそれにうなずき、職員は機体コードをネオゲッターと登録しようとした。

 その時である、新型ゲッターのゲットマシンから通信が割り込んできたのは。

 

「ちょっと待てよ! 俺たちのゲッターを、そんな適当な名前にされちゃあ困るぜ!」

 

 通信元はゲットマシン1号機の號で、その表情からはありありと不満が見て取れた。

 

「おい號、いまはそんな場合じゃないだろぉ?!」

「なんだと剴、テメエはいいのかよ! 大事なゲッターの名前を、行き当たりばったりで決められちまってよ?!」

「そ、そりゃあ、よくはないけどよぉ……」

 

 そこで状況が状況であるため號を諌めようとしたのは3号機の剴だったが、反論を受けて逆に黙り込んでしまった。

 後で聞いた話しによると、剴は新型ゲッターの開発当初からのスタッフで機体に並々ならぬ愛情を抱いているらしい。

 そんなわけで、この時も號の言葉に同意する部分があったのだろう。

 

「っだぁ! いいから早く出撃しやがれ! さもなきゃ俺と代われ!」

 

 とは言え、当然そんなことは知るはずもない竜馬は、確実に後半部の方が本音だろう声を怒り混じりに上げた。

 画面越しに、號と竜馬の鋭い視線が交差する。

 

「機体コード送信、ゲッターロボ號、ゲッターロボ翔、ゲッターロボ剴」

 

 そんな場の空気を打ち払ったのは、翔の2号機から送られてきた通信と問答無用の名称登録だった。

 ディスプレイには翔が口にした通り、號・翔・剴、三つのゲッターの名前が登録されていた。

 

「あ、ああー! てめ、翔! なんてことしやがる!」

「うるさいぞ號、そもそもゲッターの名前は三人で事前に決めていただろう。父さん、出撃の許可をお願いします」

「ふっ、よしゲッターロボ號、出撃せよ!」

 

 號と翔のやり取りに軽く頬を緩めた橘博士が、職員に指示を出して出撃を承認した。

 大型ディスプレイにはゲットマシン格納庫の様子が映し出され、青の1号機、赤の2号機、濃緑の3号機の各機が設置されたカタパルトが稼動する。

 

「くっそぅ、せっかくこの俺がビシッと名乗りを上げるつもりだったってのによ! この鬱憤は実戦で晴らしてやる! 行くぜっ! 翔、剴!」

 

 気勢を上げた號は、ゲットマシン1号機のバーニアを吹かしてカタパルトを作動させ、大空に向かって真っ先に飛び出していく。

 翔、剴のゲットマシンもそれに続き、三筋の飛行機雲が橘研究所の上空を駆け抜けた。

 

「博士、湖水内部に反応出現! 来ます!」

 

 そしてゲットマシンが出撃すると時を同じくして、橘研究所に隣接する湖の湖底から人型に角という共通の特徴をもったロボットが出現した。

 湖は海とつながっている汽水湖のため、海底を通って通って侵入してきたと思われる。空中の敵を迎撃に出たゲッター斬は無視された形だ。

 出現したのはブライが呼称していた百鬼メカと総称される百鬼帝国の兵器であり、筋肉質のフォルムをした一本角のメカだ。

 

「敵機確認、メカ一角鬼! 数、5!」

「「「了解!」」」

 

 ゲットマシンから號たちの返事が届き、空中から急降下した三機の航空機が百鬼メカの集団に攻撃を仕掛けた。

 しかしゲットマシンの機関砲では、見るからに重装甲である一角鬼に対して有効なダメージを与えられていないらしい。

 

「ちっ、やっぱこのままじゃダメか。剴、まずはお前に任せんぞ! へまするなよ!」

「分かってるよ! チェンジ、ゲッター剴!」

 

 埒があかないとみたのは戦っている號たちも同様だったのだろう、通信越しのやり取りに続いて三機のゲットマシンが弧を描いて上昇する。

 そうして三つの機影が重なり形を成そうとする時、メカ一角鬼たちがその頭部から一斉に光線を撃ち放つ。

 合体の瞬間を狙っての攻撃をが過ぎ去ると、空中から湖面に向かって巨大な影が落下して盛大な水柱を立てる。

 落着点に対してジワジワと距離を狭める一角鬼軍団。

 

「ハープーンキャノン!」

 

 そして、水煙の向こうから百鬼メカを出迎えたのは、合体したゲッター剴の下半身部から射出された金属アンカーによる洗礼だった。

 ゲッター剴はいわゆるゲッター3タイプの機体であるが、その下半身部分に搭載された砲身から戦車的なイメージを強く受ける。

 その砲身から射出されたアンカーは一角鬼の内、前衛に立っていた二機の装甲を貫くと、接続されたワイヤーをギャリギャリと巻き取っていった。

 

「うぉぉぉりゃあ!!」

 

 完全に巻き取られたアンカーにつながれた一角鬼の頭部を、ゲッター剴の巨大な手ががしりと掴み上げる。

 グシャリ。

 硬質な装甲をものともせず一角鬼の頭部が砕け散り、そのまま湖底に叩きつけられると残った部分も爆発の中に消えた。

 

「オープンゲットォ!」

 

 爆風の巻き起こす水飛沫の中から、ゲットマシンが飛び出して合体する。

 

「チェンジゲッター、翔!」

 

 現れたのは女性的な特徴を持った赤のゲッターロボ。

 全体的なフォルムと腕部のドリルから明らかな通りゲッター2系列の機体であるが、その速度は陸上ではなく空に置いて発揮された。

 百鬼メカの迎撃をすり抜けて音速で飛んだゲッター翔は、その腕からワイヤーを射出して二体の一角鬼を絡め取っていく。

 

「ストリング、アタック! ブレストボンバー!」

 

 足元に絡めたワイヤーによって転倒した一角鬼に、ゲッター翔の胸部に搭載された大型ミサイルが発射された。

 ミサイルは敵機に着弾するとそのサイズに見合った破壊力を発揮して、メカ一角鬼を破壊してみせる。

 

「オープンゲット!」

 

 そして残る一体からの追撃を回避すべく、ゲッター翔は分離して空を舞う。

 数の利を失った百鬼メカは、ゲットマシンの動きに翻弄され三機は悠々とした様子で再び一つになった。

 

「チェンジ、ゲッター號! んだよ、俺が余りもんかよ……」

 

 青い上半身に三又の角を持つゲッター號から、パイロットである號のぼやくようなセリフが聞こえてきた。

 しかし、それでやる気を失ったわけでもないらしく、色々と溜まっていた鬱憤を晴らすように苛烈に踊りかかっていく。

 

「レッグブレード!」

 

 まず放たれたのは強烈な連続蹴りであり、また脚部に仕込まれていたカッターが展開されて一角鬼の装甲を斬りつける。

 號は体勢を崩した相手に対して横合いから拳を一発。

 

「ナックルボンバー!」

 

 決め手は痛烈なアッパーカット。さらにはゲッター號の腕部に装備された、拳部分が伸び上がり威力を増すアームパンチ機構が作動する。

 ほぼ無防備の状態でそれを受けた一角鬼の首は高く飛び、湖にポチャリと落ちて沈んでいった。

 その間にもゲッター號は、なおも動こうとする一角鬼の首から下の部位に蹴りを叩き込んで完全に沈黙させていた。

 

「コウハイのやつ、中々やるじゃねえか。キックボクシング、でもねえな。ありゃあ"なんでもあり"のごちゃ混ぜで戦ってきた動きだぜ」

 

 號たちの一連の戦闘を見ていた竜馬は、その戦いぶりに機嫌を持ち直していた。

 どうやら荒っぽい格闘戦を展開した號については特に気に入った様子で、後でやる予定の『レクリエーション』について考えているようだ。

 僕も巻き込まれかねないので、その時は潔く諦めて全力で抵抗しようかと思う。最近は鈍りがちだったので、丁度いいかもしれない。

 

「號、翔、剴、ご苦労だった。初めての実戦で疲れただろう、いったん補給に戻って休んでくれ」

「博士よぉ、俺はものたりねえぜ。一匹ぶっ潰して終わりじゃ、ふかんぜんねんしょーってヤツ。もうちょっと手ごたえも欲しかったぜ」

 

 そんな號の不満に応じたわけではないのだろうが、研究所内に再び大きな警報が響き渡った。

 発信源は湖底。どうやら再び海底を通じて侵入してきたらしい敵がいるようだ。

 

「號、たったいま研究所のセンサーが敵をキャッチした。だが反応が今までのものよりもかなり大きい、注意してくれ」

「へっへ、言って見るもんだ。博士、心配しなくても大丈夫だぜ、ちょうど腹減ってた気分だったんだ、大物だったらむしろ歓迎ってな」

 

 来る敵を待ち構えるゲッター號の目前で、湖面が大きく波立ち咆哮が空に響く。

 新たに出現した敵の姿、それは巨大な竜の形をしていたのである。

 

 

 

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10.魔竜鬼の嘆き

「言って見るもんだ。ホントに大物だぜ、こいつはよ」

 

 湖から姿を現した巨大な竜型百鬼メカを前にした號は、自らのゲッターと比べて人間と大型トラックほどのサイズ差にむしろ戦意をみなぎらせていた。

 敵の武装は見るからに頑強な牙と、触手状の器官の戦端に存在する竜の頭だろう。腕部は小さく、攻撃力は低そうだ。

 竜、ドラゴンを連想させるゴツゴツとした鱗を持ち、背中にごく小さなコウモリに似た翼があるものの飛行はできそうにない。

 研究所のある咆哮に向かってじわじわと迫る様子を見ると、機動力そのものがそれほど高くはないのだろう。

 

「……!! 百鬼帝国から通信、これはブライ大帝です!」

 

 管制室の通信スタッフが声を上げるとともに、室内に設置されていた大型ディスプレイにブライ大帝の姿が映し出された。

 ブライは玉座のような、それでいて科学的機械的な装置の多数取り付けられた椅子に座って、画面の向こう側からこちらを睥睨している。

 

「ごきげんよう、橘研究所の諸君。見知った顔もあるが、私の名はブライ、百鬼帝国のブライ大帝。どうぞよろしくお見知りおきを……」

「ブライ! 通信なんざ入れやがって、何のつもりだ!?」

 

 慇懃なブライの態度に、これまでの戦いを見ているしかなかった竜馬が鬱憤を込めて噛み付いた。

 ブライは、そんな竜馬の様子を軽い笑い声で受け流すと、部下に命じてグラスに飲み物を持ってこさせる。

 

「新しいゲッターロボが完成すると聞いて、見学の手土産の一つもと思ったのでね。魔竜鬼、気に入ってもらえると嬉しいのだが」

「魔竜鬼……」

 

 湖上でゲッター號とにらみ合う竜型百鬼メカに視線を向ければ、その頭部には鬼のものか竜のものか隆立する一本の角が見て取れた。

 機械的なイメージの強い百鬼メカにしては生物的に過ぎる気がするが、何も全ての百鬼メカを覚えているわけでもない。

 それに、この世界のすべてが"原作"と同じでないことなどはとっくの昔に分かっていたことだ。

 

「魔竜鬼だかなんだか知らねえが、歯ごたえがあるってなら文句はねえ! 行くぜ!」

 

 そこで待ちきれなくなったのだろう、ゲッター號が湖の水を蹴立てて魔竜鬼へと挑みかかった。

 

「レッグブレード! オラァ!」

 

 相対する魔竜鬼は触手を伸ばして迎撃の体勢をとるが、號はこれを巧みな足さばきでまとめて両断して見せた。

 しかし先端を切り落とされた触手は、小さな虫が蠢くように肉を盛り上げて再生してしまう。

 

「ちっ、きっしょく悪い体してやがるぜ。ハンディキャノン!」

 

 號は数を増やして再び攻撃を仕掛けてきた触手をバックステップでやり過ごすと、腕部に内蔵された機関砲でけん制を行う。

 放たれた弾丸が魔竜鬼の触手や本体に着弾して肉を砕くが、その傷も何でもないように再生してしまった。

 

《Guooooo!!!》

「うあっち!? この野郎!!」

 

 そして傷を癒した魔竜鬼は、その口から大量の炎を吐き出した。湖面が赤く染まり、ゲッター號の装甲が熱に晒される。

 慌てて距離を取りながらハンディキャノンを乱射する號だが、結果のほどはさきほどと変わらなかった。

 

「號、なんなら私が代わろうか?」

「くっそ、黙ってろよ翔! これから俺が決めるんだからよ!」

 

 機内でそんなやり取りを交わしながらもゲッター號は、両手を組むと背部に搭載されたゲットマシンの回転翼を起動させ風を巻き起こした。

 風は相当な勢いで吹き付けるが、巨体をほこる魔竜鬼を足止めするには至らない。

 

「むう、マグフォースサンダーか」

「博士、マグフォースサンダーとは?」

 

 僕の問いかけに、橘博士は「うむ」と一つうなずくと説明をしてくれた。

 ゲッター號は両腕に強力なプラズマ砲『プラズマサンダー』を搭載しているが、プラズマエネルギーは地球の重力や磁気の影響を受けて直進しない。

 それを解消するために背部のローターから放たれる磁気嵐でプラズマの『道』を作り上げ、武器として完成したのがマグフォースサンダーである。

 

「威力こそはゲッタービームにやや劣るが、照射時間や連続使用回数の面では勝る」

「それならそのマグフォースなんたらじゃなくて、ゲッタービームでいいんじゃねえのか?」

 

 隣で説明を聞いていた竜馬がそう言って首を傾げた。

 そう言えば橘研究所に着いてすぐに百鬼帝国の攻撃が始まったから、竜馬はゲッターロボ號についてまったく知らないのだ。

 僕も詳細については知らないが、それでも他のゲッターロボとの最大の違いについては知悉している。

 

「ゲッターロボ號にはゲッター炉心が搭載されてない。ゲッタービームは撃てないんだよ、竜馬」

 

 そうゲッターロボ號は、ゲッター炉心ではなくプラズマエネルギー反応炉を搭載した特殊なゲッターロボである。

 装甲や機体構造にゲッター線の応用技術を用いてこそいるが、ゲッター炉心を持たないためにゲッターエネルギーを利用した兵器は搭載していない。

 そう言った意味では、ゲッターロボ號は厳密には準ゲッターロボとでも言うべきなのだろう。

 

「なんでそんな面倒くさいことしてんだよ……」

 

 竜馬の言うことも分からないではないが、まあNISAR関係で色々と理由があるのだ。ゲッターエネルギー一点への依存を危惧したとか。

 だがおそらくはゲッター線関連技術がまだまだ新しい分野で、ノウハウの蓄積があり諸外国とも技術協力がしやすい動力を求めたことが一番だろう。

 政治や組織のしがらみもある部分で、父さんがそれらと可能な限り距離を取っていた理由でもある。

 

「よし、行くぜっ、マグフォースサンダー!」

 

 そうして説明をしている間にも、エネルギーの充填を終えたゲッター號が、電撃の嵐にも見える攻撃を撃ち放った。

 荒れ狂うプラズマエネルギーは磁気を帯びた風に導かれて、魔竜鬼の巨体を打ち据えて緑色の鱗を焼き焦がしていく。

 やがてエネルギー放射が止まると、表面を黒く炭化させた巨大な塊がゆっくりと崩れ落ちた。

 

「へっ、どうだ、見やがったか。黒焦げだぜ!」

《Giooooo!!》

 

 勝ち誇った声を上げる號だったが、それから幾らも時間を置かずに魔竜鬼はサナギを破るようにして外皮を再生させて見せた。

 盛り上がりながら再生して行く肉からぬらぬらとした体液を帯びた鱗が生え、やがて完全に元の状態を取り戻してしまう。

 

「ふはは、どうやら苦戦している様子だな。どうだ、魔竜鬼は中々頑丈だろう?」

「ブライ!!」

 

 通信越しに届いたブライの嘲るような声に、號が噛み付くようにして吼えた。

 しかし画面の向こうの鬼の王は、その叫びを気にした様子もなくグラスを傾けている。

 

「このまま諸君の奮戦を眺めているのもいいのだがね、ここは一つ私からの余興をご覧にいれよう。―――やれ」

 

 ニヤリと牙を見せて笑いながら、ブライは部下に向けて何かの指示を出して見せた。

 すると間もなく魔竜鬼に変化が現れる。

 

「な、なんだ、こりゃあ」

「っ……」

「お、おえっぷ」

 

 號が呆けたような声を上げ、コクピット内で翔が映像から目を背けているのが見えた。剴などは明確に吐き気をこらえている様子だ。

 魔竜鬼の表面を覆っていた鱗がザワザワとうねり、その合間からナニカがひしめき合ってウゾウゾと蠢く肉となってはいずり出してきた。

 ナニカは奇声を発して混ざり合い、互いを喰らいあうように波打ってはまた溶け合って一つになることを繰り返す。

 肉塊のようになった魔竜鬼が吼える。その叫び声は、どこか哀しみをはらみながら響きわたるのだった。

 

 

 

ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編

 第十話:魔竜鬼の嘆き

 

 

 魔竜鬼の変貌を前に、ブライは愉しげにグラスを揺らしニヤニヤと牙を見せて笑いながら口を開いた。

 

「魔竜鬼は、トカゲどもの巣を破壊した時に回収した生き残りが材料でね。……そら、聞いてみたまえ」

 

 クツクツと笑い声をもらしながらブライが何かの機械を操作すると、一瞬のノイズが混じり魔竜鬼の咆哮が人の声へと変わる。

 

《あ、あ、イタイ、痛い、いたい!》

《なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで》

《ぐ、ぎ、ヒヒッ、ききききき》

《あー、あー、あー、あ-、あー、ああー、あー、あー、あー、あー》

 

 通信機と翻訳機を通して流れ出す苦悶と狂気、絶望の声に、管制室の職員たちの何人かが口元を抑えて目を逸らした。

 魔竜鬼の蠢く肉の中に無数の瞳がキョロキョロとさまよって、やがてその瞳たちは相対するゲッター號を一点に見据えた。

 幾つ付いているかも分からない口が、口が、口が、声を上げる。

 《殺してくれ》と。

 

「てっめぇぇぇっ! ブラァァァイ!」

「は、は、は、流行りのリサイクルとやらを意識してみたのだがね。お気に召さなかったようだ。ま、元々がゴミなのだ、好きに処分してくれたまえ」

 

 画面越しにも殺意を感じられるほどの號の声に、ブライは挑発的に肩をすくめるとそう言い残して通信を切断した。

 コクピットシートを強く叩く音がこだまする。僕の隣では、竜馬もまた行き場を失った怒りに拳を握りしめていた。

 

「クソったれ! もう一回だ、もう一回マグフォースサンダーをぶち込んでやる!」

「ダメだ號。マグフォースサンダーでは、魔竜鬼の再生力に対抗できない」

「なんだよ翔! だったらこのまま見てろってか!?」

 

 怒りに満ちた號の叫びに、翔が黙り込む。その怒りが號自身にも向けられていると気付いたからだろう。

 

「ならその役目、私達に任せてもらおうかしら!」

 

 閉塞した雰囲気を断ち切ったのは、空中から舞い降りたゲッター烈火と水樹くんの凛とした声だった。

 桃色の装甲のゲッターが、ゲッター號の隣に並び立つように浮遊して魔竜鬼と相対する。

 

「茜か! 北の敵はどうなった?」

「はい、橘博士。大部分は撃墜、残りの敵は神さんが引き受けてくれました。まさか海の底から近づかれているなんて……」

 

 そう言って悔しげに唇を噛む水樹くんだが、彼女たちが撃墜した敵の数を考えれば褒められこそすれ責める理由はない。

 それでも研究所が攻撃を受けた事実を重く受け止めているのは、水樹くんの性格からくるものだろうか。

 

「號、状況は聞いていたわ。あの魔竜鬼がハチュウ人類と言うなら、烈火の武器が有効なはずよ」

「……くそっ。頼むぜ茜」

 

 ゲッター炉心を搭載している烈火には、当然のようにゲッターエネルギー兵器が搭載されている。ハチュウ人類に有効なゲッタービームが、だ。

 號は魔竜鬼の姿と打つ手のない自分に悔しげな表情を浮かべると、前衛をゲッター烈火に譲って後方へと下がった。

 コクピットを観測する映像の中で翔は瞑目して何も語らず、剴はあからさまにホッとした様子で息を吐いている。

 

「恐竜帝国とは戦った間だけど、その姿は余りにも哀れだものね……今、楽にしてあげる。斬魔光、発射!」

 

 水樹くんの声とともに、両腕を前に突き出したゲッター烈火の胸部から桜色の閃光がほとばしり魔竜鬼へと突き刺さった。

 以前に見た資料によれば、ゲッター烈火の『斬魔光』は射程と収束率に優れた超射程型のゲッタービームだ。

 純粋な威力ではゲッタードラゴンのゲッタービームにやや劣るものの、その破壊力はマグフォースサンダーや従来のゲッタービームを上回る。

 だが……。

 

「そんな!?」

 

 斬魔光の一撃は間違いなく魔竜鬼に命中し、ハチュウ人類特有のゲッター線への脆弱性から大きなダメージを負わせた。

 その肉体はドロドロに溶け出し、背骨からほとんど真っ二つになって白骨を晒している。

 

《イタい、トける、カラだが、アツい、ヤケる、クルしい、コワい、シぬ、シにたくない、シねない、コロせ、コロして、コロさないで》

 

 だが溶解した肉に無数の瞳が浮かぶと、再び溶け合い混ざり合い叫び声を上げた。

 それは苦痛に満ちた声ではあったが断末魔ではなく、魔竜鬼の体は粘菌のように癒着して再生して見せた。

 

「そ、そんな、斬魔光が効かない!?」

「いや違う効いていないわけじゃない。それでも、ヤツの再生力の方が上回っているんだ」

 

 僕は管制室からの観測データを確認しながら、水樹くんに声をかけた。

 斬魔光は間違いなく魔竜鬼にダメージを与えてはいた。だがゲッター線と言う弱点を突いてなお、その再生力を突破できなかったのだ。

 コレを打ち破るにはシャインスパークのような問答無用の一撃を打ち込むか、あるいは相手の再生力が限界を迎えるまで攻撃を続けるかだが。

 

「斬魔光の連射にも限界がある。魔竜鬼の再生力がどこまで保つか分からないが……」

 

 同じくデータを確認していた橘博士が首を左右に振る。斬魔光の連射よりも、相手の再生が上回る可能性が高いと言うことだろう。

 現在のゲッタービームは、どうしても砲の冷却とゲッター炉心のエネルギーチャージで再発射までに時間が掛かる。

 それに連射が可能だとしても苦悶の叫びをあげてのたうつ魔竜鬼の姿に、攻撃を行う人間の精神が耐えられるかどうか……。

 

「おい茜、俺もやる」

「號? でも、あなたたちのゲッターの武器じゃあ……」

「んなこと言ってられるかよ! 使えるものは何でも使ってヤツを倒すしかねえ!!」

 

 號がそう言うとともに、再びゲッター號の背中のローターから磁気を帯びた風が吹き始めた。

 

「いいか、マグフォースサンダーを撃ち込んだらすぐに斬魔光だ! 再生する前に焼き殺してやる!」

「だけどそれで倒せる保証は!」

「保証なんてあるか! 倒せなかったら倒せるまでやるんだよ!」

 

 號の叫びとともにジワジワと前進する魔竜鬼を猛風が真っ向から迎え撃ち、両腕に蒼いプラズマエネルギーが収束した。

 プラズマ光は、バチバチと音を立てて空気を焼きながら出力を上げて行く。どうやら最初に放ったよりも出力を上昇させているようだ。

 

「行くぜっ! マグフォォォォォス! サンダァァァァッ!!」

「くっ、斬魔光!」

《Giyaaaaaaaa!???》

 

 猛烈なエネルギー放射の嵐が降りそそぐとともに、桜色の一閃が再び走った。

 魔竜鬼は絶叫を上げてのたうち、ゲッターエネルギーによって肉体を溶解され、ついに竜の形すら保てずに崩れ落ちた。

 

「くそっ、ダメか! ならもう一発だ!」

 

 號の吐き捨てるような言葉の通り、マグフォースサンダーと斬魔光の連続攻撃を受けてもなお、魔竜鬼は生きていた。

 ほとんど肉のスライムのようになりながらも既に再生をはじめ、徐々に徐々に元の姿を取り戻そうとあがいている。

 

《お、オオ、オオオォオオ……》

 

 変化が起きたのは、間髪入れずに二発目のマグフォースサンダーが放たれようとしたときだった。

 地の底から湧き上がるような、深い深い怨嗟の叫びが魔竜鬼から漏れだした。

 そして溶け落ちたその肉体から、ゴボリと泡立つようにして一つの『顔』が現れた。

 

《口オシや、口惜しや、主君の遺命を果たせず鬼などと言う胡乱なものに国を滅ぼされ! 嗚呼アア……》

 

 眼球が失われた眼窩からドロドロと肉色の粘液を血涙のように流すハチュウ人類の男。

 バット勝軍とともにゴールの宣戦布告に同席していた、側近と目されていた存在の一人。

 その名はたしか……。

 

「ガレリィ長官……?」

《そうだ人間どもよ。ワシはガレリィ、かつて偉大なる恐竜帝国の科学長官であった男。だが見よ、もはやこの魔竜鬼の一部でしかないこの姿を》

 

 ガレリィ長官の顔は、波打つように揺らぎながら自分たちに起きた出来事を語った。

 百鬼帝国に囚われ実験と改造の末に支配下に置かれたこと、多くのハチュウ人類が合成され魔竜鬼となったことを。

 その語り口からは強い悲哀と無念、絶望、そして鬼に対する底しれぬほどの憎悪がにじみ出していた。

 

《こうして話せているのは貴様たちの攻撃によって制御が緩んだからに過ぎぬ……。やがて我らは再び魔竜鬼となるだろう》

 

 何かをこらえるように、そこで言葉を区切ったガレリィ長官は、わずかに瞑目して再び空洞になった目を見開いた。

 すると彼の顔が浮かび上がった場所を中心にして無数の瞳が現れ、キョロキョロと周囲を見回し始める。

 

《今、ワシと同じく核の役割を持つ者を周りに集めた。ここを撃てば魔竜鬼は死ぬ……。頼む、ゲッターロボ。ワシを、ワシ等を、殺してくれッ!》

「っ……」

 

 誰かが息を呑む音が聞こえた。

 種族の違い、生存競争とも言える戦争を争った相手であるというのに、ガレリィの声を聞いた管制室の人々の表情には哀れみが満ちている。

 

「どうする、なんなら俺がやるぜ?」

「―――大丈夫。私がやる」

 

 最前までの怒りと闘志に満ちたものではなく低く平静な號の声に、覚悟をはらんだ水樹くんの声が答えた。

 一瞬で、少しでも苦痛なく彼らを送るには、ゲッタービーム……斬魔光しかなかったからだ。

 

「茜……」

「茜ぇ~」

 

 秋山くんと柴崎くんの気遣わしげな声を受けながら、ゲッター烈火はガレリィ長官を正面に捉えるように高度を上げた。

 ゲッタービームの輝きが、その胸元に灯る。

 

《そうだ、殺せ! 殺してくれぇ! せめて恐竜帝国の誇り高き臣として、死なせてくれゲッターロボォ!!!》

 

 ガレリィ長官の嘆きの声がこだまする。彼の近くに集まったハチュウ人類の瞳たちも、みな真っ直ぐにゲッタービームの輝きを見つめていた。

 

「斬・魔・光……ッ!」

 

 ゲッター烈火の両腕が突き出されるとともに、収束された桜色の閃光が空を裂いた。

 それは違うことなくガレリィ長官をかたどった魔竜鬼の核へと突き刺さり、彼らの命を燃やしていく。

 

《ゲッター線に地上を追われ、ゲッターロボに主君を討たれ、いままたその相手の介錯を受ける。ゲッター線とは何なのだ? 我等に何を望んでいた?》

 

 不意に聞こえた独白。苦痛から解放された静かな響きのその問いに誰かが答えるよりも先に、斬魔光の輝きが魔竜鬼の命を絶った。

 核になっていた他の瞳たちもガレリィ長官とともに光の中に消え、ゲッター線を浴びて溶け落ちる肉体は今度こそ再生することもなく朽ちていく。

 静けさを取り戻した湖面を風が駆け抜け、夕焼けが魔竜鬼であった白骨を哀れむように照らしている。

 

(分からないさ。きっと、まだ誰にも……)

 

 僕は声に出さず、ガレリィ長官の末期の問いにそう返した。

 ゲッターの意志が何を望んでいるのか、そしてもしもゲッター線の導く先に滅びがあるのなら僕たちはゲッターとどう向き合って行くべきなのか。

 

 答えは、まだ出ていなかった。

 

 

 

 NEXT 研究所を救え!



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11.研究所を救え

 北海道の橘研究所に向かった達人と竜馬たち三人を除いた早乙女研究所の面々は、恐竜帝国との決戦で受けた損害の回復に務めていた。

 とは言えゲッターゼロとゲッターロボGが不在であり、オリジナルのゲッターロボも大破状態から修復が進んではいない。

 量産型ゲッター3に至っては達人の予測通りにスクラップ行きが決定されて、再利用可能な部品を抜き取って解体されている。

 そしてそれを勝手に持ち出した武蔵は、北海道行きを希望するも却下され研究所内を雑用として走り回っているのだった。

 

「武蔵、三番のケーブルをもってこい! いいかあ、三番じゃぞ!? 三十番でも三百番でもなく三番!」

「分かってるよ! そうそうなんべんも言わんでも! 三番だろ三番! くそぅ、敷島の爺さんめ、この武蔵様を遠慮なくこき使いやがって」

 

 ブチブチと文句を垂れ流しながら、武蔵は指定されたケーブルの入った箱を資材置き場から持ち出して工作スペースへと戻った。

 本来は数人がかりで運搬する巨大な箱を軽々と担ぎながら歩く姿にも職員たちは慣れたもので、軽く挨拶を交わしながらすれ違って行く。

 そうして敷島博士の下に戻ってくると、そこでは先程まではいなかった人間が一人、博士にどやされながら工具を握っていた。

 

「竜二よぉ、お前も大変だよなあ。変な爺さんに気に入られっちまってさあ」

「やかましい! 荷運びくらいしかできん武蔵、お前と違って竜二のヤツは中々見込みがあるんじゃ!!」

「ま、まあ、教えてくれって頼んだのは俺だからよ。……ここまでこき使われるとは思わなかったけど」

 

 強面の顔に困ったような表情を浮かべているのは神竜二。隼人の従兄弟で、早乙女研究所の警備班のリーダーでもある男だ。

 それがどうにも先の戦いが縁になって敷島博士に気に入られた様子で、ここ数日はほとんど助手のように連れまわされる姿が目撃されている。

 竜二が輸送トレーラーや作業用クレーンなどの扱いも学んで、いつの間にかマルチな人材になっていたこともあるだろう。

 ……もちろん、『敷島博士係』と言う大変面倒くさい仕事を押し付けられている面もあったりする。

 

「俺はゲッターには乗れねえが、車に近いBTなら何とかなる。それで修理装置を動かせりゃあ、南風の姐さんが他に回れて皆が楽できるってもんさ」

 

 竜二はそう言って、少し照れくさそうに口元を指でこすった。

 BTは渓が専属パイロットを務めている状況だが、彼女はゲッターのパイロットもこなせるため代わりが居れば人材に余裕が生まれるのだ。

 

「姐さんとか言うと、渓ちゃんまた怒るぜ? ところで敷島の爺さん、こいつは何を作ってるんだい?」

 

 武蔵は警備班のゴツイ面々に姐さん扱いされて顔を引きつらせる渓を思い出しながら、運んできたケーブルが取り付けられた機械を手で叩いた。

 作っているのが敷島博士なので確実に武器の類なのは分かるのだが、まだまだ形になっていないので完成系は予想が出来なかった。

 

「こいつはな、修理中のゲッターロボに乗せる予定の武器じゃよ。ただ直すだけではツマランからな」

「修理中のゲッターってことは、おいらのゲッター3のことか!!」

「……まあ、そうなんじゃが。ゲッター炉心も強化型に入れ替えると言うとったし、パワーアップは間違いないわい」

 

 愛着のあるオリジナル・ゲッターロボの復活と強化を知って、武蔵は「ひゃっほーぃ」と声を上げて喜んだ。

 敷島博士は、ゲッターGから得たデータで旧来の炉心を改修して出力を向上させ、それでも不足する分の攻撃力は武装で補う計画だと語った。

 そして目の前で作られているのは、ゲッター3に搭載予定のゲッターミサイルの改良型であると。

 

「ほれ分かったらとっとと出ていかんか。お前の図体でつっ立っていられても邪魔じゃ邪魔」

「ひっでぇなあ、でも新しいゲッター3は期待してるぜ爺さん」

 

 しっしと手を振って追い出された武蔵は、鼻歌を歌いながら踊るような足取りで工作スペースを出て行こうとした。

 しかしその時、早乙女研究所に警報が鳴り響く。

 

『緊急警報! 緊急警報! 浅間山の地下より百鬼メカ出現! 目標は早乙女研究所! 繰り返す、敵の目標は早乙女研究所ッ!』

 

 敵襲を伝える放送に、武蔵は振り返って敷島博士と竜二と顔を見合わせる。

 現在の早乙女研究所には、ほとんど戦力らしいものが残されていない。防衛用の砲台やBT、警備班の歩兵装備くらいだ。

 

 そして折り悪くも、北海道の橘研究所が襲撃を受けたのはつい前日の出来事だった。

 

 

 

ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編

 第十一話:研究所を救え!

 

 

 早乙女研究所襲撃されるの報告を受けた僕は、呼び出しを受け慌てて橘研究所の管制室へと駆け込んだ。

 魔竜鬼はじめとした百鬼メカの攻撃を受けたことの後処理と、ゲッターロボGへのゲッター炉心搭載作業が始まってすぐのことである。

 

「橘博士、早乙女研究所は!?」

「来たか達人くん! 敵は地下道を使って侵攻をかけたようだ。早乙女からは籠城すると連絡が来ている」

「おそらく地上設備は捨てるつもりでしょう。研究所の地下設備は強固なので、しばらくは保つと思いますが……」

 

 それでも増援無しで立てこもれば、その内に守りを破られてしまうことは想像に難くない。

 最深部のシェルターにまで逃げ込めば相当な時間を稼げるのだが、その場合は地下設備も含めて早乙女研究所は壊滅となる。

 今後の戦いを考えてもそれは避けたいし、何より研究所は僕にとって自分の家にも等しい場所だ。

 

「博士、僕はゲッターゼロで出ます」

「うむ。哨戒任務中の茜たちも呼び戻して向かわせる。それまで無茶はするな」

 

 僕は橘博士の言葉に答えを返さず、ただ頭を下げてきびすを返した。

 竜馬たち三人は、ゲッターロボGの炉心搭載とその後の調整に立ち会うためにNISAR側の施設に行っているため不在。

 全工程終了までには、丸一日はかかる予定でどれだけ短縮しても救援には間に合わないだろう。

 

「達人さん」

「翔か。今日は休みのはずだろう?」

 

 管制室から出て通路を早足に進んでいると、後ろから追いついてきた翔に声をかけられた。

 彼女たちのゲッターロボは初陣を済ませたばかりで、その稼動データ収集のために大規模整備中だったはずだ。

 パイロットの面々も非番のはずで、実際に翔もごく簡素な飾り気のないブラウスにパンツスタイルの私服姿をしている。

 

「無茶は、しないで下さい」

「親子だな。さっき博士からも同じことを言われたよ」

「達人さんに何かあればミチルが悲しみます。……もちろん私も。どうか無事に」

 

 「帰ってきてください」とそう続けられた言葉に、僕は翔が何を思っているのかを察することができた。

 ずっと昔、僕が前世の記憶というやつを思い出すよりも前に出かけて、いまだ帰ってきていない橘家のもう一人の家族のこと。

 

「大丈夫。こう見えても鍛えてるんだ、鬼が相手でもそう簡単にはやられないさ」

 

 努めて自信を見せながら、僕はそう言って笑って見せた。

 翔もそれ以上は何も言わず、格納庫の入り口でペコリと小さく頭を下げて研究所の本棟に戻って行く。

 

「……すまない、翔」

 

 思わず口から謝罪の言葉が零れ落ちていた。

 翔が僕と重ねていた人の、幼い頃の僕にとっても兄のようだった人の、その行く末を知っていたから。

 時系列を考えればどうしようもないことだと分かりつつも、抱かざるをえない喪失感にふと"原作"の知識が恨めしくなる。

 

(とにかく今は早乙女研究所を守らないと)

 

 全てを守れるほどに僕の手は多くも長くもなく、目の前にある自分ができることを一つ一つこなして行くしかない。

 それを自分自身に言い聞かせながら僕はゲッターゼロのコクピットに乗り込み、早乙女研究所へ向けて機体を発進させるのだった。

 

 

 ……。

 

 

 北海道の北東部に位置にする橘研究所を飛び立ってから30分余り、ゲッターゼロは浅間山を望む見慣れた景色を上空から望んでいた。

 だがレーダーには百鬼メカを示す複数の赤点が表示され、早乙女研究所の特徴的なタワー型施設も倒壊して黒煙を上げている。

 やはりと言うべきか、研究所の地上の施設はその多くが破壊されていて、防衛線は地下まで引き下がって抵抗を続けている様子だ。

 

「早乙女研究所、聞こえるか! こちらゲッターゼロ、早乙女達人だ! 応答を頼む!」

 

 通信機に呼びかけるが、返ってくるのはノイズだけだった。

 一方で地上で破壊活動を行っていた百鬼メカはこちらを捕捉して、数機が迎撃のために上がってくる。

 機種は半月鬼。その名の通り半月型の胸部を持ち高い飛行能力を持つ白兵型の百鬼メカだ。

 

『百鬼ブラァァァイ!』

「邪魔だ!!」

 

 雄叫びを上げて接近してくる敵を、僕はゲッターゼロを急上昇させて回避すると即座に機体を降下させて背中に蹴りを見舞った。

 無防備な背後からの攻撃を受けた半月鬼の一体がバランスを崩して味方とぶつかり、双方ともにもつれ合うようにして地上に向かって落下していく。

 

「ゲッターマシンガン!」

 

 そうして一まとめになった敵に向かって片手のマシンガンの連射を打ち込んで破壊すると同時に、残った敵に向けてけん制射を放ち接近を防ぐ。

 落下していった二体の爆発を確認すると、僕は弾幕をくぐりぬけてきた半月鬼の胴体を銃剣で貫いた。

 飛行可能で高機動性能を持つ半月鬼だが、それと引き換えにするように他の百鬼メカに比して軽装甲で脆いという欠点がある。

 前日の戦闘でも北方から接近していた敵の主力であったため、水樹くんと隼人の手によって明らかになった情報だ。

 

「落ちろ!!」

 

 そうして串刺しにした半月鬼を、僕はそのまま残った敵に向かっての盾にして強引に押し込んで投げつけた。

 反射的に味方を受け止めてしまった残る一体の半月鬼を、至近距離からの弾丸が抱きかかえた機体と一緒に蜂の巣にする。

 

「こちら早乙女研究所、ゲッターゼロ、聞こえますか! 兄さん!」

「ミチル、無事だったか! 研究所の状況は?!」

 

 爆風を抜けて早乙女研究所に接近する中で、ようやく待ち望んでいた返信が通信機から届いた。

 発信元は地下のシェルター区画で、やはり相当に押し込まれているのだろう。

 

「お父様も、みんなも無事よ。今は通路に硬化剤を流し込んで足止めをしているわ。戦いは武蔵くんや竜二くんが頑張ってくれているけど……」

「ん、地上の百鬼メカか、よし何とか排除してみる」

「新型の百鬼メカも確認されているわ。兄さん、無理はしないで」

 

 誰も彼も似たようなことを言われる日だと苦笑しながら、僕はミチルに「了解」と返事をして機体の高度を落とした。

 近づくいてみると、早乙女研究所の地上施設が思った以上に破壊されていることがわかる。

 もっとも研究所側も無抵抗でやられた訳ではないようで、防衛用の砲台に潰された百鬼メカの残骸の数も多い。

 

「人の家を好き勝手してくれる!」

 

 僕は破壊活動を続ける一角鬼を上空から強襲してその背中を銃剣で刺し貫き、そのまま踏みつけて破壊してやる。

 その行動でこちらを発見したらしい敵、同じく一角鬼が角から発射したレーザーをゲッターウイングで弾くと接近して足払いをかけた。

 それによって倒れ込んだ敵に対して銃剣の一刺しを見舞い、コクピット部分を貫いて沈黙させる。

 

「……あれは、ミチルの言ってた新型か」

 

 地上に降下したゲッターゼロを、研究所の敷地を占拠していた百鬼メカが包囲する構えを見せ始める中で、一角鬼とは異なるシルエットを見つけた。

 特徴的な三つの頭をもったややアンバランスな人型で装甲とパワーのありそうな外見をしている。名前はとりあえず三頭鬼とでもしておこう。

 僕はまず様子見として正面からマシンガンを撃ち込んで見るが……。

 

「やっぱり硬いか」

 

 一角鬼の装甲を撃ち抜いたゲッターマシンガンの弾丸も、三頭鬼の正面装甲に対しては有効ではなく火花を散らすだけで終わる。

 こちらの攻撃を防いだ敵は両腕を振り上げて跳躍して襲い掛かる、が動作はさほど俊敏ではなく回避は容易だ。

 

「なら、こいつはどうだ!」

 

 僕は手近な場所に居た一角鬼の頭部を銃剣で破壊すると、残った胴体を三頭鬼に対して蹴りつけてやった。

 三頭鬼は一角鬼の残骸を軽々と受け止めて見せたが、そのタイミングで弾丸を見舞ってやる。

 すると動力炉を破壊された一角鬼が爆発を起こし、三頭鬼を大きく傾がせた。損傷は少ないが、それでも隙が生まれた。

 

「ゲッター、バヨネット!!」

 

 僕は叫ぶとともにゲッターゼロを宙返りさせ、三頭鬼の上を飛び越えると背後からその特徴的な三つ並んだ頭部の左右二つを貫いた。

 そして、そのままマシンガンの銃身を跳ね上げて首を飛ばすと、クルリと銃口を下に向けて接合部から無防備な胴体内部に銃弾をそそぎ込む。

 胴体内部を蹂躙された三頭鬼は、やがて機能を停止させると残った一つの頭を内部からの爆発で吹き飛ばしながら倒れ伏した。

 

「よし、次は……!? ぐっ!??」

 

 三頭鬼を撃破して次の敵へと向かおうとしたその瞬間、地面を突き破って巨大な影と衝撃がゲッターゼロに襲いかかった。

 その影はゲッターゼロよりも一回り以上も巨大で、四脚の足と肉食獣を髣髴とさせる頭部を備えた百鬼メカだ。

 その姿には、おぼろげだが覚えがある。

 たしか"原作"において高層ビルに偽装して都市部に潜伏していた機体だ。

 

「くっ、このっ!」

 

 巨大百鬼メカは、その巨体に接続された六本の節足動物のそれに似た腕でゲッターゼロを拘束していた。

 僕はどうにかそこから脱しようと試みるが、その大きさは見かけ倒しではなくゼロのパワーでは対抗できそうにない。

 六本の腕でギリギリと締め上げられるとともにフレームが軋み、装甲の一部がひしゃげて歪みだす。

 このままでは押しつぶされる!

 

『合わせ、風車っ!!』

 

 僕の背中を脂汗が伝ったその時、気合一声、縦一文字に刃が空を裂いて巨大百鬼メカの腕を切断すると地面へと突き刺さる。

 それは巨大なブーメラン状の武器であり、二本の曲刀を柄の部分で連結したものだった。

 そしてその剣の持ち主は……。

 

「達人さん、大丈夫ですか!?」

「水樹くんか! すまない、助かった!!」

 

 僕は後ろ蹴りの勢いでゼロを巨大百鬼メカの拘束から逃れさせると、降下して一角鬼を踏みつけて叩き潰したゲッター烈火に向けて礼を言った。

 機体のエラー表示を見る分にはまだ問題がないものの、あのままでは機体ごと潰されて死んでいただろう。

 

「新型の相手は私達に任せて下さい。達人さんは他の敵を!」

「すまない、頼む!」

 

 武器の制約もあり、ゲッターゼロのパワーでは巨大百鬼メカの相手は厳しいと判断して、僕は水樹くんの言葉に甘えることにした、

 すれ違うように位置を交代したゲッター烈火は、六本から四本へと減らした敵に向かって果敢に突進する。

 

「花乱舞!」

 

 敵の胴体に肩からの体当たり、そこから流れるようにサマーソルトキックを打ち込み、宙へと舞って頭部への踏みつけ。

 一連の格闘攻撃を受けた巨大百鬼メカは、衝撃に怯みながらも四脚ならではの安定性で体勢を崩すことなく両目から光線を放って反撃を行った。

 

「オープンゲット!」

 

 しかしゲッター烈火はオープンゲットによってこれを見事に回避してみせる。

 そしてバルカンでのけん制で巨大百鬼メカを撹乱した三機のゲットマシンは、地を這うように飛んで再び合体する。

 

「チェンジ、ゲッター紫電! 受けなさい、蛇旋光!」

 

 秋山くんの声と共に、ゲッター紫電のドリルから、渦を巻くように幾つものビームエネルギーの光弾が放たれる。

 球状のエネルギーは、連なって蛇のようになりながら巨大百鬼メカの脚部に向かって軌道を変えていく。

 誘導型ゲッタービーム『蛇旋光』は、巨体を支えている四本の脚を前に分裂・拡散してその基部を正確に撃ちぬいて破壊した。

 脚部を失い地響きを立てて倒れた巨大百鬼メカは、それでも頭部から光線攻撃で抵抗を続けているが既に死に体でしかなかった。

 

「余り見苦しいのは嫌いだわ」

 

 怜悧にそう放った秋山くんが、ゲッター紫電のドリルをその頭部に突き入れて回転させ巨大百鬼メカの胴体を半ばまで貫き通していく。

 ゲッターエネルギーをまとったドリルによって分割されるように穿孔された敵は、そのまま煙を吹き上げて動かなくなった。

 

「よし、百鬼メカはこれで壊滅させた。地下の敵をどうにかしないと……」

 

 ほぼ同時に、僕のほうも周囲の百鬼メカの排除も終わり研究所の地上部は解放された。

 問題は地下に避難した父さんや所員たちの救助だが、地上部を抑えてしまえば増援は防げる。あとはジワジワと押しつぶしていけばいい。

 そう考えながら百鬼兵の橋頭堡をゲッターゼロでなぎ払い、地下への道を確保した時だった。

 

「っ!? なんだ!?」

「達人さん! 周辺のゲッターエネルギーが急激に上昇しています!!」

 

 ゲッターのコクピット内部に鳴り響いた警告音とともに、水樹くんからの通信が入る。

 それを聞いて僕もゲッターゼロの計器を確認すると、確かにゲッター線の異常放射を示す数値が表示されていた。

 

「こちらミチル、聞こえますかゲッターゼロ!!」

「こちらゲッターゼロ、ミチル、何が起きている? このゲッター線の量は!?」

「ミチル、わしが代わる。達人、聞こえるか? 連中、動力炉を自爆させるつもりじゃ」

 

 父さんの言葉を聞いて、僕は自分の血の気が引くのが分かった。

 早乙女研究所のメインシャフトには、超大型のゲッター炉心が発電用として設置されている。

 これはゲッターロボに搭載されている物とは方向性こそ違うが膨大なエネルギーを産出しており、もちろん爆発すれば甚大な被害が生じるだろう。

 あくまで予想の範疇だが、最大限の出力で暴走が発生した場合の破壊力はシャインスパークに匹敵する……。

 

「わしらは最終シェルターまで避難する。あそこなら最大規模の爆発が起きても耐えられる。達人、お前達もできるだけ遠くまで避難するんじゃ!!」

 

 最終シェルターへの避難、それは早乙女研究所の地下設備も含めた施設の全壊を覚悟したことを示している。

 逃げ込めば、父さんの言う通りに動力炉の爆発にも耐えることができるだろう。

 だけどもそれはあくまで計算上であり、また爆発した動力炉が放出する膨大なゲッター線がどのような影響を及ぼすか分からない。

 脳裏をよぎるのは、"原作"で見た廃墟となった早乙女研究所。ゲッター線に飲み込まれて、誰もいなくなってしまった無人の廃墟。

 

「父さん、まだ手はあるはずだ」

「達人?」

 

 スッと脳裏が明瞭になるのを感じた。早乙女研究所の構造と、メイン動力炉の性能についての記憶が次々に思い出されてきた。

 場所はメインシャフト、ヒントとなるのは恐竜帝国の使った恐竜戦艦。

 

「動力炉のゲッターエネルギーに指向性を持たせて、メインシャフトを砲身にして宇宙に放出……これなら行けるはずだ」

「たしかにこれならば研究所周囲の被害は極限できるが、危険すぎる! 作業のためには直接動力炉に向かわねばならんぞ!!」

 

 父さんのお墨付きがもらえたことで、僕の意志は固まった。

 爆発寸前の動力炉、失敗すれば元より成功したとしても指向性を持った膨大なゲッター線……超弩級のゲッタービームが至近距離で発射される。

 

「大丈夫だ、父さん。メインシャフトにはゲッターゼロで降りられる。作業終了後にコクピットまで戻れれば問題ないさ」

「達人……無茶苦茶を言いおって。止めるつもりはなさそうじゃな」

「これで割と頑固者なんだよ。父親に似たんでさ」

 

 冗談めかした言葉を告げて、僕はシェルターとの通信を切断した。その間際に父さんが告げた言葉に目頭が熱くなる。

 頼むと。任せると。そう言って送り出してくれたことが、信頼が嬉しかった。

 

「秋山くん、頼みがある。今から指定する場所をドリルで掘削してゲッターが通れる程度の穴を開けて欲しい」

「話しは聞いていたわ。……位置情報受信、掘削開始する」

「達人さん、私達が代わりに行くわけには行かないの?」

 

 ドリルによってメインシャフト直上の鋼板と地面が破壊されて行く中で、水樹くんからの気遣わしげな通信が届いた。

 そう言ってくれる気持ちは嬉しいが、こればかりは彼女達に任せられない理由がある。

 動力炉の制御用端末にアクセスするにも、その後の操作を行うにも、研究者としての技能がいるからだ。

 それに……。

 

「これは僕の仕事だからね。少しばかり意地があるのさ。秋山くん、助かった。君達もできるだけ遠くへ避難してくれ!」

 

 そう言い残して、僕はゲッター紫電が空けてくれたメインシャフトへの侵入口にゲッターゼロを突入させた。

 そうして、シャフトに突入した僕を向かえたのはゲッター線の放つ緑色の輝きだ。最深部の動力炉の光が、既に上部まで届いている。

 徐々に徐々に強まる光を浴びながら、狭いシャフトの中にゲッターゼロを慎重に降下させて行った。

 

「見えた」

 

 最深部、鎮座する研究所の動力炉は煌々と出力を上げていて、緊急停止は間に合いそうにない。

 やはり当初のプラン通りに宇宙に向けてエネルギーを解放する必要があるだろう。

 僕はコンソールに近い位置にゲッターゼロを着地させると、パイロットスーツのヘルメットをフルフェイスの物に替えて外へと飛び出した。

 

「っぅ……これは、結構こたえるな」

 

 動力炉周辺は、超過運転によって放射される熱でサウナがマシな程度には気温が上昇していた。

 僕は体中から噴出す汗を感じながらもコンソールに取り付くと、ロック機構をIDで解除して数値の書き換えを始めた。

 作業自体はそれほど難しいものではなくすぐに終了する。後はタイマーをセットして……。

 

「まずった。限界まで思ったより短い。……ハハッ、生きて帰れるかな」

 

 僕は、乾いた笑いを漏らしながら最低限の時間を入力してすぐにプログラムをスタートさせ、自身はゲッターに向かって駆け出した。

 走る間にも動力炉内の気温は上昇し、さらにゲッター線の光も揺らめくように以上な様相を呈する。

 コクピットから垂らされた搭乗用のウインチまであと5m、4m、3m、そこまで来て背後でパキリと音が鳴るのが聞こえた。

 

 

 

 光の柱が天を撃ち貫く。膨大なゲッター線の奔流が渦を巻いて宇宙へと放出されていた。

 早乙女研究所は、メインシャフト周辺から大きな被害を受けているものの地下施設の崩壊は観測されていなかった。

 達人の作戦は成功したのだ。

 

「兄さん! 兄さん! 返事をして、兄さん!」

 

 シェルターではミチルが通信機に向けてまくし立てるが、雑音が返るばかりで返事はない。

 高熱で炙られ、蒸気を上げるメインシャフトの跡地に、避難していたゲッター烈火がゆっくりと降下していく。

 底部の動力炉は完全に機能を停止して灰色に冷えているが、周囲を見ればこの場所を膨大なゲッターエネルギーが襲ったことは想像できた。

 そして……。

 

「……ッ! こちらゲッター烈火、ゲッターゼロを発見!!」

 

 ゲッターゼロは、そこにいた。間近で放射された超弩級の威力を持つゲッタービームによって装甲は溶解し、一部はフレームをさらしている。

 まるで"コクピットを守るように"構えられた両腕は、ゲッター烈火がその場にたどり着くと煙を吹いて脱落した。

 茜はそこにゲッター烈火を慎重に近づけると、熱で歪んだコクピットハッチをゆっくりと引き剥がしていく。

 

「達人さん?」

 

 コクピットの中でグッタリとしたフルフェイスヘルメットのせいで顔色の見えない相手に、茜が呼びかける。

 反応は、ない。

 

「達人さん!」

 

 再び呼びかける。ピクリと、右腕が痙攣するように動いた。

 腕はゆっくりと上がって、ヘルメットを外して投げ捨てると再び脱力して投げ下ろされる。

 

「生きてるよ。なんとか」

 

 通信の繋がっていたシェルターから聞こえる歓声と、安堵の声、コクピットから飛び出してくる茜の姿を見ながら、達人は目を閉じる。

 彼は、『間に合わなかった』のだ。

 コクピットに飛び込むことは出来たが、ハッチを閉鎖するには何秒かの時間が足りなかった。

 そうして本来なら焼け死ぬところを救ったのは、ゲッターゼロだった。

 ゼロは操作をしていないはずなのに、勝手に両腕が動いて強引にコクピットハッチを閉鎖。そしてまるでそこを守るように身を固めてみせた。

 

(まだ、生きろってことか……)

 

 それがゲッター線の意志とやらなのか、それとも"ゲッターゼロ"自身の意志なのか、それは分からない。

 だがとりあえずは今までの戦いを共にした相棒に感謝の念を送って、達人は今度こそ意識を暗闇に落とすのだった。

 

 

 

 NEXT ファーストコンタクト




活動報告の方に、オリジナルメカについて走り書きを追加しました。
興味のある方はどうぞ。


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11.5.幕間:研究所の戦い

ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編

 第十一話・幕間:研究所の戦い

 

 

 百鬼帝国による早乙女研究所襲撃に対して、地上部施設の放棄は早い段階で決定されていた。

 これは迫る百鬼メカの軍勢に対抗可能なゲッターロボが不在であり、残るBT-23では複数の敵を相手に戦うことが困難と判断されたためだ。

 

「紙の資料は焼いとけ。機械類は撤収した後に発破かけんぞ!」

 

 警備班のリーダーである竜二は、その状況下において地下への避難を指揮するとともにバリケードの設置と迎撃の準備を整えていた。

 装甲服に身を包んだ警備班の面々はその指示を受け、恐竜帝国との決戦時につちかった経験を生かし即席ながら重厚な陣地を組み上げて行く。

 地下の重要区画につながる通路はメインとなる大通路を残して埋められ、残った唯一の道は百鬼帝国を待ち受ける殺し間へと姿を変えていった。

 

「おお、竜二、ここにおったか!」

「敷島博士!? 早乙女博士と一緒に奥に避難したんじゃなかったのか? なんでここに!」

「ばっかもん! ワシの作った可愛い武器たちの晴れ舞台の鉄火場じゃぞ! この目で見れんでどうすると言うんじゃ!」

 

 ケケケと笑う敷島博士に、竜二は頭痛をこらえながら「知るかよ」と小声でぼやいた。

 博士の背後からは、見た目は普通の物から見るからにゲテモノまで大量の兵器がリモコンカートで持ち込まれており、さながら軍事博覧会だ。

 

「ハァ……とりあえず使い方を教えてくれや。使えるもんは使わねえとな」

「ひょひょひょ、まかしとけぃ。ホントは上の方に据えつけてある砲台の様子も見てきたかったんじゃがな」

 

 「仕方ないから無人制御にしてきたわい」と博士が口にするや地上部から轟音が鳴り響き、さらにそれを連続した砲撃音が上書きしていった。

 竜二たちの現在位置は地下深くというほどではないにせよ、それなりの厚さの天井と隔壁越しの爆音に老人一人を除いて頬を引きつらせる。

 

「うむ、この音はクラスター砲じゃな。拡散する高性能爆弾を連続で撃ちだすイカしたヤツじゃ」

 

 竜二が陣地に据えられていた外の様子を映し出すためのモニターを覗くと、列を成して押し寄せていた百鬼メカが粉々になっていく場面だった。

 ついでに放棄したとはいえ早乙女研究所の施設の一部や背後の森林に丘陵が穴だらけになっている。

 もっともそれで怒られるのは敷島博士なので、竜二はとりあえず敵が減るならいいやと思って諦めた。

 

「竜二くん、今のは何の音!?」

 

 そう言って慌てた様子で顔を出したのは、大通路の中央に陣取らせたBTに乗った渓だった。

 竜二は首を左右に振ってから、傍らでカメラ越しに外の様子を見て奇声・歓声を上げている敷島博士を指差してやる。

 それで全てを察したのか、渓もまた疲れた表情になってため息を一つついた。

 

「うん、把握」

「うっす。姐さんの方の準備はどうっすか?」

「姐さんはやめてってば。BTの調子は良好よ。追加装甲も貼り付けたから、重火器相手の盾にしてね」

 

 その言葉通り、球状、あるいは饅頭のようなBTには追加で装甲が施されていた。

 元となったのはゲッターゼロが沖縄で使用した特殊鋼製のシールドであり、それを切り出してくくりつけた形だ。

 重量が増したために機動性は下がったが、百鬼メカが侵入できない場所での防衛となればさほど問題はない。

 

「渓ちゃーん、武蔵さんが応援にきたぜー。それと竜二、ついでに使えそうなもんは持てるだけ持ってきてやったぜ」

 

 浮ついた声と共に武蔵が、通路の奥からバリケードの素材に使えそうな物を抱えてノシノシと歩いてきた。

 そうやって持ち込まれた滑車付きの荷台に乗せられた鋼板などは、警備班の面々が適切な位置に据え付けていく。

 

「む、カメラがやられたぞい。地上はもうダメじゃな」

 

 そうしている内に、敷島博士がつまらなそうな表情でそう言って覗き込んでいた監視装置から離れた。

 博士はいたって軽い調子だったが、その言葉によって警備班の緊張は高まりBTもハッチを閉めて敵襲に備える。

 果たして、間もなく通路の先から爆発音とともに複数の足音が鳴り響いた。

 

 

『百鬼、ブラァァァイ!』

 

 

 大帝を称える雄叫びを上げながら飛び込んできた百鬼兵を出迎えたのは、銃弾のシャワーだ。

 並の人間に比べて頑強な鬼であったため、撃たれたとしてもしばらくは前進を続ける者もいたが、それもさらに弾丸を浴びせられると動かなくなる。

 据え付け式の重機関銃やBTの配備された大型機関砲に至っては言うまでもなく、鬼が相手でもその威力を存分に発揮して血煙を量産していた。

 

「レーダーに反応!」

 

 BTの外部スピーカーから渓の声が響き、通路の先からキャタピラの音とともに百鬼帝国の小型戦車が顔を出した。

 サイズを見れば百鬼メカには及ばないまでも、その防御力は歩兵用の小銃などでは歯が立たない。

 そこで竜二は、即座に対装甲用のロケットランチャーを持った班員に攻撃の指示を出そうとした。

 

「よし武蔵、撃てぇい!」

「任せろぉい!」

 

 出そうとした。

 ……のだが、敷島博士の合図とともに武蔵の手で放たれた拳銃のようなナニカによって、敵戦車は正面装甲を貫通されて爆発してしまった。

 戦車の周囲を固めていた百鬼兵も爆発に巻き込まれて吹き飛び、そこに半ば反射的に叩き込まれた警備班の銃撃を受けて動かなくなる。

 竜二はぎこちない動きで後ろを振り返り、銃身から吹き上がる煙を格好つけて吹き消している武蔵と、その後ろで爆笑している敷島博士を見た。

 

「どうじゃ! 特製ハンドミサイルガンの威力はぁ!」

「いきなり爆発物を撃つんじゃねえ! 言えよ、使う前に!!」

 

 トンデモ兵器の威力については諦めつつも、とりあえずいきなり使われて隙を作る危険を避けるために竜二は叫んだ。

 しかしそんな叫びの効果も虚しく、警備班の面々はこの後もたびたび敷島ウエポンの驚異に心臓を跳ね上げる羽目になるのだった。

 

 

 

 鬼が来る。鬼が死ぬ。鬼が来る。鬼が死ぬ。鬼が来る。鬼が死ぬ。

 時おり混じる装甲車両や特異な改造が施された百鬼兵も、銃砲の前に等しくその命を散らしていった。

 いまのところ早乙女研究所側に損害らしい損害はなく、幾つかのトラップと弾薬の損耗だけで切り抜けることができていた。

 

「くそ、切りがねえ」

 

 だがそれでも絶え間ない敵の襲撃にさらされることで、疲労がジリジリと味方の戦力を削いでいく。

 地上への逆侵攻は百鬼メカの存在によって妨げられており、いつ終わるとも知れない守勢は肉体だけでなく精神にも消耗を強いていた。

 そしてついに誰か、ではなく全員の集中力に隙間が出来たその一瞬を突かれる事態が発生してしまう。

 

『キシャァ!!』

 

 小柄で手足の長い奇怪な形状の百鬼兵が、天井に張り付き跳躍することでバリケードを突破してしまったのだ。

 幸いにも銃器の類を所持していなかったために被害はでなかったが、これまで破られなかった防備を抜かれたことで警備班の面々が動揺する。

 

「ひょ?」

「しまった! 敷島博士!?」

 

 そしてその動揺の合間にも、百鬼兵はその長い手足で敷島博士の皺だらけの首を捉えてしまった。

 この場に似つかわしくない老人を、重要人物と見取っての行動だろう。

 百鬼兵は、人質であることを示すようにしてニタニタと笑いながら、敷島博士の首に鋭い爪を突きつけて見せた。

 

「竜二ぃ、何しとるか、撃て、撃たんか!! ワシごと撃つんじゃ!」

「な、なに言ってんだ博士ぇ!?」

 

 敷島博士の言葉に竜二の上ずった声が重なるが、コレは別に我が身を犠牲にしようとする博士の言葉に心動かされたわけではない。

 恍惚とした表情で自分を撃てと言って笑うその姿が、極め付けに気持ち悪かったのである。

 

「ワシゃあ自分が作った武器で惨たらしく死ぬのが夢なんじゃぁ! ほらなにしとる、お前の持っておる銃なら骨も脳みそもグチャグチャじゃあ!!」

 

 そう言ってグヒョヒョと笑う敷島博士に、竜二は一瞬だが本当に撃った方がいいんじゃないかと思ってしまった。

 余りと言えば余りの姿に捕まえている百鬼兵ですらビクリと肩を揺らしたほどだから、その慄然たる雰囲気たるやお察し願いたい。

 

「ふんぬー!!」

「あっ」

 

 そして抱えていた不気味な老人に意識を取られた百鬼兵は、後ろから近づいてきた武蔵の手によって首をゴキリと回されて息絶えた。

 拘束から解放された敷島博士は、派手にしりもちをついて悲鳴を上げる。

 

「いやー、敷島の爺さんも演技派だよなあ。おいら思わず本気かと思っちまったぜ」

「なに言っとるんじゃ、ワシは本気で……」

「そうだなー、いやー、博士が無事でよかったよかった!」

 

 何とも言えない奇妙な雰囲気の中で、まったく感情のこもってない声で言う武蔵に竜二が追従する。

 敷島博士は自分の本気ぶりを訴えかけようと口を開こうとしたが、その場に居た面々が戦闘に戻るとそっぽを向いて座り込んでしまった

 こうしていったんは窮地を脱したものの、やはり疲労の蓄積は大きく徐々に負傷も増えだし一部には重傷を負って搬送される者も出てきた。

 

「ちっ、この場所はここまでだな。こちら竜二、シェルター聞こえるか? 防衛ラインを下げる」

「こちらシェルター、ミチルです。了解。さっき橘研究所からゲッターゼロが出撃したと連絡があったわ。もう少しだけ耐えて!」

 

 シェルターに設置された司令室に連絡を入れて、竜二は警備班の面々に撤収の準備を命じた。

 撤退用に設置されていた爆薬が起動され、敵の進出を一時的に押し止めるとともに各々が荷物を抱えて後方へと駆け出して行く。

 

「姐さん、しんがりを頼んます!」

「了解。みんな、気をつけてね! それと姐さんは止めてってばぁ!」

 

 そう言いながらも、渓はこれまでは固定砲台だったBTを急速前進させて敵兵を吹き飛ばしていく。

 竜二はまだ座り込んでいた敷島博士を担ぎ上げると、入れられるだけの物資を入れた輸送用カートを引っ張る武蔵とともに撤退を始める。

 肩の上では敷島博士が「最近の若いのは」とブチブチと文句を垂れていたが、気にしている余裕はなかった。

 

「こちら竜二、後退完了!」

 

 携帯通信機に叫ぶように言うと、前線に突入していたBTが脚部を折りたたんで機関砲を撃ちながら急速後退してきた。

 そして百鬼兵の軍勢が雪崩れ込むと同時に、防衛陣地だった場所の周辺が爆音とともに吹き飛んだ。

 BTが通り抜けた後には隔壁が下ろされて道を塞ぎ、そこでようやく戦闘を乗り切った警備班の面々は腰を下ろして休憩に入った。

 

「ふうー。これで時間が稼げるな。敷島博士、いつまでもいじけてないでくださいよ」

「ふんっ! まあええわい、死ぬのは次の機会まで延期にしてやるわ」

 

 竜二の肩から下りた敷島博士は、そう言うとズカズカと歩いてシェルターのある奥に向かって去って行ってしまった。

 厄介なご老人の退席によって、一同は文字通り肩の荷が下りたような気分になる。

 

「そんで、これからどうするよ。なんなら、おいらがBTかコマンドマシンで外の敵をやっつけちゃるぜ?」

「達人さんのゲッターゼロが向かってるんだから、そんな無茶する必要もねえよ。それにその二機じゃ、袋叩きにされるだけだろ」

「まあそうだよなあ。あーあ、おいらのゲッター3があればよぉ」

 

 ふんすと鼻を鳴らしての言葉を竜二に首を振って否定された武蔵は、ガックリと肩を落としてしまった。

 オリジナルのゲッターロボは今回の襲撃に際して修理が間に合っておらず、完全に封鎖された地下整備場に運び込まれている。

 そのため地下施設が完全に壊滅とでもならなければ無事であろうが、今すぐに直せるものでもなく戦力としては数えられなかった。

 

「ん?」

「おう、どうしたい竜二……おい、何か揺れてねえか?!」

 

 ふとした違和感に竜二が周辺を見回していると、それの様子を気にした武蔵もハッとして周囲を見回した。

 他の面々もそう言われて視線をさまよわせ、たしかに細かな振動が部屋全体を襲っていることに気が付く。

 

「こちらシェルター、ミチルよ! 竜二くん聞こえる?!」

「ミチルさん! 何が起きてるんです!?」

「百鬼帝国は地下への入り口を無理矢理作る気よ! 早くそこから退避して! 百鬼メカが来るわ!」

 

 ミチルの通信が終わるかどうかの一瞬に、隔壁が存在していた場所を巨大な金属の杭にも見える何かが打ち貫いた。

 やがて突き刺さっていたその金属が瓦礫を撒き散らしながら引き上げられ、天井のあった場所からは空が垣間見える。

 そして見上げた先に存在したの、は巨大な獣の頭部と節足動物のものに似た手足をもつ巨大な百鬼メカの姿。

 

「撤収! 急げ!」

 

 絶叫にも似た竜二の声とともに、その場に居た人間は奥に向かって脱兎のごとく駆け出していった。

 開口部に腕を差し込んで強引に穴を広げようとする百鬼メカが撒き散らす瓦礫を、最後尾のBTが受け止める。

 両腕の機関砲を連射して抵抗を試みもしたが、砲弾は厚い装甲に阻まれて通用していなかった。

 

「きゃっ!?」

 

 逆に百鬼メカの頭部から放たれた光線による反撃がBTを捉えるものの、こちらも幸いにして追加装甲に阻まれて被害はない。

 すると敵は再び六本の腕の一つを振り上げて叩き落とし、それによってBTを破壊しようと試みた。

 

「姐さん! 無茶だ! 早く後退を!!」

「っぅ……」

 

 悔しげな声を噛み殺しながら、渓はBTを後退させて大通路の最奥部、シェルター区画の入り口を塞ぐようにして停止させた。

 百鬼メカが開けた穴からは、その間にも百鬼兵が次々と降りてきている。

 竜二たちは、ハッチを開いて脱出した渓を迎えると隔壁が封鎖して時間を稼ぎにかかった。

 

「竜二だ。脱出には成功したが、防御用の物資は全滅。BTも放棄した」

「こちらミチル、みんな無事でよかった。とにかく奥へ避難して。避難が済み次第、通路に硬化液を流し込んで封鎖するわ」

「了解。……くそ」

 

 通信を切ってから、竜二は奥歯を強く噛みしめた。

 負傷者を支えながらシェルター区画への道を移動する面々の表情にも、無力感がにじみ出している。

 避難完了と同時に通路内に硬化液が注入されて敵の侵入を防ぐが、それも先程のような攻撃を受ければどこまで保つか分からない。

 士気が落ち込んで座り込む者も出る中で、再び竜二の通信機に着信があった。

 

「竜二くん、聞こえる? 兄さんが、ゲッターゼロが来てくれたわ!」

 

 通信機からもれる声に、皆の顔が上がっていた。

 ゲッターロボの到着を耳にして、下がりきっていた警備班の士気は僅かなりとも回復を見せる。

 

「ゲッターが来たなら鬼どもの百鬼メカだって敵じゃねえ! おいらたちも座ってる場合じゃねえぞ!」

 

 そのタイミングを見て、武蔵の声が響いて発破をかける。

 座り込んでいた面々が誰からともなく立ち上がって、前を向いて防衛のための作業に取り掛かっていく。

 

「よっし、やるぞお前ら! 俺たちの家を守るんだ!」

 

 たぶんに空元気を含みながらも、にやりと笑って見せた竜二につられて警備班のメンバーも歯を見せて笑った。

 ヒデェ顔だと、竜二は思う。どいつもこいつも悪党面で、なんとも不敵に笑っている。

 そしてそれは竜二自身にも言えることだ。きっと鏡を見れば、従兄弟と同じようにひどく悪い笑みを浮かべているだろう。

 

(そうだ。この場所を守る! 隼人や、他の誰がどうとかじゃねえ、俺自身が守りたいからだっ!)

 

 襲い来る百鬼兵に銃を向けながら、竜二は自分にとって唯一の居場所だった学び舎の思い出を振り切った。

 

(隼人よ。俺は、ようやくお前の校舎から卒業できたのかもしれねえ……)

 

 ……。

 

 早乙女研究所を巡る戦いはゲッター斬の来援と地上の百鬼メカの一掃をもって終結した。

 研究所の動力炉が暴走させられるという事態が発生したものの、エネルギーを宇宙に指向することで被害を極限することに成功。

 竜二たちは、若干名の重傷者を出しながらも最後まで敵の侵入を許さずに地下の重要設備と研究所のスタッフを守りきった。

 そしてこの後、早乙女研究所は復興とともに反撃の準備を整えていくこととなる。

 

 

 



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12.ファーストコンタクト

 早乙女研究所が襲撃を受けてから一夜明け、研究所の職員達は封鎖していた区画の解放や廃墟になった地上施設の後始末に取り掛かっていた。

 メイン動力炉が収まっていた縦坑は高濃度のゲッター線が残留したため埋められることになったが、その他の地下施設は無事に復旧が進んでいる。

 ゲッターゼロを失ったことで防衛戦力について懸念がされたものの、ゲッター斬と水樹くんたちが引き続き残ってくれたことで解消されていた。

 全体の状況を見ても、まずは順調と言っていいだろう。

 

「もう兄さん、報告書は後にしてちゃんと食べてよね。この頃、だんだんとお父様に似てきたわよ?」

「ごめんごめん。でも、父さんほど不精じゃないつもりなんだけどなあ」

 

 ため息をついて呆れた様子のミチルに謝りながら、僕は仮設されたプレハブに置かれたベッドの上で、用意された昼食と向かい合う。

 動力炉のエネルギー放射から間一髪で生き延びた僕は、全身に大小の火傷と幾つかの怪我を負っていて、目が覚めた時には点滴の世話になっていた。

 幸い後遺症が残るとか全治何ヶ月と言う類の物ではなかったのだが、医師からは怪我に加えて過労気味と診断され数日の安静が命じられてしまう。

 それでも報告書くらいは、と読んでいたらミチルに叱られた訳だが病床に研究機材を持ち込みかねない父さんよりはマシだと思うのだ。

 

「同じよ、お・な・じ。きっと、その内に靴下を履く時間が惜しいとか言って下駄履きになるわね」

 

 などと口に出したらこの言いよう。断じて言うが、僕は大臣やら長官との会談に着古した白衣羽織って下駄履いて行ったりはしない。

 いやまあ正装が窮屈だと言う父さんの弁も分からなくはないのだが、それでもTPOくらいは弁えているとは思う。

 

「だけど仕事以外のお洒落は最低限じゃない。兄さん顔はそこそこいいんだから、髪型とか眼鏡とかに気を付けたらモテるんじゃないかしら」

 

 僕としては、それでモテてもなあと言う話しで、一応は要人枠なのでハニートラップも警戒しなくてはならず面倒くさいのだ。

 なによりも戦いが続くこの状況が一段落してくれないと、恋愛だとか結婚だとかを考える余裕も生まれてこない。

 そして"この状況"がいつまで続くかなんてものは、神様仏様どころかゲッター様でもないと分からないだろう。

 

「で、僕のことはいいとして、ミチルは最近どうなんだ?」

「私? 私はまだそういうのはいいかな。最近は、そうね茜たちとは久しぶりにゆっくり話したわ」

 

 こうして自分のことはサラっと受け流しつつも、こちらの興味を引きそうな話題を振ってくるあたり、我が妹ながら中々したたかである。

 それで前にも少し聞いていたが、ミチルと水樹くんたち斬チームは高校の先輩後輩だったらしい。

 恐竜帝国との戦いの時には二言三言を交わしただけで別れてしまったが、昨日今日と旧交を温める機会に恵まれたようだ。

 僕は、せっかくなのでミチルに彼女たちについて聞いてみることにした。

 

「そうね。茜は、とても真面目で一本気な子よ。剣道が上手で、北海道でも翔とライバルだったみたいね。私は、翔が剣を習っていることに驚いたけど」

 

 通信越しに会話をする機会も多かったので、水樹くんの印象は僕の抱いていたものをおおよそ一致していた。

 付け加えるなら責任感も強い様子だったので、その辺りが斬チームのリーダーをしている理由でもあるのだろう。

 

「次は椿ね。あの子は、口数は少なめだけど頭の回転はピカイチよ。それに古武術の達人で、機械にも詳しいって聞いたわ」

 

 秋山くんに関しては、あまり進んで話をするような雰囲気でもなかったことから知らない部分が多かった。

 それでも何度かやり取りした感じでは、自分の実力に対してプライドの高い部分を持っているらしいことは印象に残っている。

 機械関係に詳しいことは初めて知ったので、今度それをきっかけに話を聞いてみるのもいいだろう。

 

「最後は楓ね。あの子は見たまま、のんびり屋さん。それと私も初めて知ったんだけど、爆弾の扱いは一番らしいわ」

 

 「意外な特技よね」と続けるミチルに、僕も同意してうなずいて見せた。

 のほほんとした雰囲気の柴崎くんが爆発物のプロフェッショナルとは、普段の様子からは連想できないだろう。

 ちなみに食べるのが大好きで、特に甘いものには目がないという点はまったく予想通りだった。

 

「女竜馬、女隼人、女武蔵って訳じゃないんだよな。当たり前だけど」

「ふふふ。でもちょっと似てるところはあるかもね?」

 

 クスクスと笑うミチルに、僕も笑みを返す。

 半分は冗談だったが、もう半分は口に出せない"原作"の話。アニメ版の竜馬たちを女性にしたら、水樹くんたちになるのではないかと言う感想だった。

 参考程度に利用している"原作"の知識からの発想だが、意外とそんなに間違ってはいないんじゃないかという感覚もあった。

 まあ、それで彼女たちとの接し方を考えるとか言ったことではなくて、単に僕の受けた印象の一つと言うだけなのだが。

 

「ふう、ごちそうさま。美味しかったよ」

「はい、おそまつさま。そうそう、後でお母様と元気が顔を出すって言っていたわ」

「了解。この年になってまでお説教を受けたくないし、ゆっくりしておくよ」

 

 そう言うと、ミチルは笑いながら空になった食器の乗ったトレイをもって病室から去っていった。

 ふと外を見ると、さきほど話していた水樹くんたちの乗るゲッター金剛が、その両腕で瓦礫を排除している姿が見えた。

 そんな光景を見ていると、ゲッターロボの元型が宇宙開発用の作業ロボットだと言うことに立ち返らされるようだ。

 僕は、窓越しに差し込む陽光に眠気を誘われ目を閉じる。

 最後にチラリと見えた青空には、三本の飛行機雲が流れていた。

 

 

 

ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編

 第十二話:ファーストコンタクト

 

 

 それから数日が経過して、しばしの休養を兼ねた療養生活から解放された僕は久々の白衣に袖を通していた。

 竜馬たち三人も戻り……防衛戦に間に合わなかったことで文句は言われたが、今は研究所復旧のため手伝いに回ってくれている。

 新しい早乙女研究所は、"原作"でも馴染み深い花弁型の構造を有する設計で、その基礎工事も既に始まっていた。

 

「だけど電力不足が解消してよかったよ。大型の機材も使えているようだし、これなら思ったより早く完成しそうだ」

「量産型ゲッターの炉心は、もともと発電機でしたもんね。ついついゲッターロボに乗せることばかり考えていましたけど」

 

 隣を歩く南風くんと会話を交わしながら、僕は研究所の敷地内に並ぶ複数の大型トレーラーに視線を向ける。

 その荷台には金属製の箱が乗せられていて、そこから延びる太いケーブルが地上のプレハブ施設や地下に向かってつながっていた。

 南風くんの言葉を聞けば分かる通り、この箱には量産型ゲッターの予備パーツだった炉心が収まっていて、今は研究所の電力をまかなってくれている。

 

「戦い続きだったからね。どうにもみんな頭が固くなっていたのかもしれないな」

「元気ちゃんには感謝ですよね」

「あー、あまり褒めると調子に乗るから、ほどほどに頼むよ」

 

 僕がそう言うと、南風くんは小さく笑って「はい」と頷いて見せた。

 そう実はこの電力供給方式を思い付くきっかけになったのは、我が家の末っ子である元気なのだった。

 母さんと一緒に僕の見舞いに来ていた時に停電が起きて、「ゲッターにコンセントをさせばいいのに」と何の気なしに言ったのがそれだ。

 そうして量産型も同系のゲッターゼロも失っていた予備の炉心にお呼びがかかり、無事に発電機として稼動して現在に至る。

 なお電力不足の救世主となった当の元気は、褒められた後で父さんに小遣いをねだって上機嫌のまま帰っていった。

 我が子を褒めたら文字通りの現金な対応をされた父さんの顔を見て、居合わせた竜馬がゲラゲラと笑っていたと言うのは余談。

 

「たしか元になったゲッタービームキャリアと一緒に、政府からも問い合わせが来てるんでしたよね」

 

 南風くんが言うように、発電トレーラーの原型は恐竜帝国との戦いで使用したゲッタービームキャリアだ。違いは砲身が付いていないだけである。

 元々の設計がシンプルで有り合せの資材と機材でも組み立てがしやすかったことと、工事中で移動式の方が取り回しやすいことからの採用だ。

 それで少し前に視察に来た政府の人、と言うよりかは自衛隊の人たちが、それを見て興味を示し問い合わせが幾つか届いていた。

 

「移動式の発電所で、いざって時にはゲッタービームを撃てるようにできる辺りが受けたみたいだね。扱いも車両そのままだし」

 

 割と真面目に正式採用があるかもしれないとのことで急造品のまま投げるわけにもいかず、今は敷島博士が再設計を行っているところだ。

 ここ最近の侵略者による戦災をさておいても自然災害の多い日本なので、なるほど案外と需要のある装備だったのだろう。

 もっとも武装以外の部分を大きく評価されたことで、開発者本人はブチブチと文句を垂れていたが。

 

「それ大丈夫なんですか? 博士のことだから、勝手に変な武器を載せたりしないかしら……」

「なに、いざって時のために竜二くんを助手に付けておいたからね。"もう"大丈夫さ」

 

 僕がそう言って乾いた笑いをもらすと、南風くんも察したように遠い目をしてそれ以上は何も言わなかった。

 まあ、なんだ。今の時点では前科一般とだけ言っておこう。隠し武器とか付けちゃダメです。

 それでおも、もとい監督役をまかせた竜二くんには気の毒かもしれないが、是非とも仕様書通りに完成するよう誘導していただきたいところ。

 

「私のBTも大丈夫かなあ? 直った時に変な改造がされてないといいんだけど」

「あ、そうそう、BTなんだけど……」

 

 修理中の愛機を思い出して切実な表情の南風くんに、僕は丁度いい機会だったので『とある事柄』を話そうと口を開いた。

 しかしその時。

 

『緊急警報! 緊急警報! 大気圏外より高速で接近する物体有り! 全職員は地下へ退避、繰り返す全職員は地下へ退避せよ!』

 

 プレハブの屋根に据えつけられたスピーカーから、甲高い警報とともに緊急事態を告げる放送が鳴り響く。

 大気圏外と言う単語に加えて放送担当の職員の声色からも、尋常ではない事態であることを察せられ、外で働いていた職員も慌てて避難を始めていた。

 

「達人さん、あれを!」

 

 地下への入り口に向けて走っていた南風くんが、並走する僕に声をかけ空の一角を指し示す。

 彼女の指先には、風を散らし大気摩擦で赤く燃えながら早乙女研究所の上空を通り過ぎていく巨大な何かの姿があった。

 やがてそれは、轟音とともに浅間山の山麓へと沈んでいく。

 僕は予想される衝撃に備えて南風くんをかばうように身を低くしながら、自分の背筋が何かの予感に冷たく震えるのを感じていた。

 

 

 ……。

 

 

「父さん!」

「博士!」

「おお達人、渓くんも、無事のようじゃな」

 

 謎の物体が落ちるのを見送った僕たちは地下に設置された仮設指揮所へと駆け込むと、既にそこに居た父さんに声をかけた。

 指揮所のモニターには、出撃したコマンドマシンから送られてくる映像が投影されており、そこには白煙を上げるクレーターが映し出されている。

 レーダー表示を確認すると、ゲッターGとゲッター斬も出撃していて六機のゲットマシンが周囲を警戒するように飛行していた。

 

「隕石、ではないですよね?」

 

 南風くんが、モニターに映るクレーターに視線を向けながら言う。

 その映像だけならば、なるほど隕石が落ちたようにも見えるだろうが、実際に落ちてくる姿を見ていれば単なる隕石とは思えなかった。

 それに一見して分かる程度には巨大な質量体が落着したにしては、衝撃も音もごくごく小さく留まったことにも違和感がある。

 結果を見ればちょっとした強風程度で、とっさに押し倒すようにしてしまった南風くんにはすまないことをしたと思うが。

 

「これを見るといい」

 

 さておき、南風くんの疑問に対して父さんは一つのデータをモニターに表示して見せた。

 それは衛星軌道上でキャッチされた反応が、どのような軌道で浅間山のふもとまで落ちてきたかを表すものだ。

 動画化された落下軌道は、自然の隕石ではありえない人工的な軌跡を描いている。

 

「見て分かる通り、対象は明らかに意図を持って軌道と速度を制御されておる。目的地は……」

「早乙女研究所」

 

 僕が継いだ言葉に、父さんは深く頷いて別のモニターに視線を移した。

 そちらの映像では、コマンドマシンから望遠レンズで撮影されたクレーター中心部が映し出されていて、何か黒い塊が存在していることが分かる。

 半ば地面に埋もれたその物体は、人工物と言い切ることこそできないが天然の隕石と言うには余りに違和感が勝ち過ぎていた。

 接近することであらわになった形状が、およそ綺麗な球状であったこともそれを助長してくる。

 

「あっ! レーダーに反応が! これは……百鬼帝国です!!」

 

 そうして観測を続ける中に南風くんの慌てた声が響くのと、画面の向こう側で高高度から百鬼メカが降下してくるのはほとんど同時だった。

 敵の構成は空戦型の半月鬼が大半だが、一機だけ指揮官と思われる角と一体化した頭部と腰に生えた多数のトゲが特徴的な機体が混ざっていた。

 

「ゲッターロボ! ブライ大帝の命により、その物体はこの一本鬼がいただいていく!」

「鬼どもが雁首そろえてお出ましか! いいぜ、相手になってやらあ! 隼人、弁慶、合わせろ! チェンジ、ゲッタードラゴン!!」

 

 一本鬼と名乗る指揮官機からの口上に、竜馬はニヤリと笑って返すとゲットマシンを加速させてゲッタードラゴンへと合体させた。

 ドラゴンはゲッター斬と同型の炉心に換装したことでシャインスパークこそ使えなくはなったが、それは性能の低下を意味するものではない。

 爆発的な出力を出せないだけで、むしろ未調整だった旧炉心よりも安定した高出力を発揮できるようになっているほどだ。

 

「スピンカッター!!」

 

 それを示すかのように、敵中に突入したドラゴンの腕部に装備された回転刃が、さっそく半月鬼を首を切り落として粉砕している。

 当然のように包囲を受ける形にはなるものの、竜馬はむしろ都合がいいとばかりに徒手格闘で次々にスクラップを量産していく。

 

「さすがゲッタードラゴン、でも私たちだって負けてないわ! 行くわよ椿、楓! チェンジゲッター、烈火ッ!」

 

 ゲッタードラゴンが乱戦を始めると間もなく、コマンドマシンの退避を援護していた水樹くんたち斬チームも戦線に加わった。

 合体したゲッター烈火は手近な敵を蹴りぬいて地面に叩き落すと、軽やかな動きで敵を翻弄しつつ一本鬼へと接近していく。

 雑魚の相手は竜馬に任せ、指揮官を叩くつもりだろう。

 

「あ、こら茜っ! そいつは俺の獲物だぞ!!」

「あら、そんな取り決めをした覚えはないわね。早い者勝ちってやつよ! 火斬刀!!」

 

 小物を押し付けられる形になった竜馬が叫ぶも、水樹くんはそんなことはお構いなしに二本の火斬刀を引き抜き機体を加速させた。

 そして護衛の半月鬼を瞬く間に両断したゲッター烈火は、一本鬼へむけて剣を振るう。

 

「ぬうぅ、猪口才な女のゲッターロボ!」

 

 だが一本鬼も指揮官を任されるだけはあり、ただ斬られるようなことはなかった。

 腰周りに生えたトゲを両手で引き抜くと、刺突剣型のサーベルとして形成し火斬刀を受け止めたのだ。

 空中で火花が散り、奇しくも二刀流同士の戦いとなったゲッター烈火と一本鬼の間で激しい剣撃戦が繰り広げられる。

 

「ぐぬぅ!」

「いい腕をしてたわよ。鬼の割りにはねっ!」

 

 そしてその戦いを制したのはゲッター烈火の方だった。

 火斬刀がひるがえり、一本鬼のサーベルは巻き上げて弾き飛ばされてしまう。

 水樹くんは無手になった相手に対し、すかさずトドメの一閃が振るう。

 

「十方剣ッッ!!」

「っ!?」

 

 だが勝負あったかに思われた状況は、一本鬼の声に反応してサーベルが舞い戻ったことで仕切り直しとなってしまう。

 どうやら一本鬼のサーベルは単なる近接武器ではなく、リモートコントロールが可能な飛び道具としても機能するらしい。

 飛来した剣を危うくも回避して距離を取ったゲッター烈火に、一本鬼は腰周りのトゲをさらに射出していく。

 

「合わせ風車!!」

 

 十方剣の名の通り十本の飛剣に襲われたゲッター烈火は、柄頭で連結させた火斬刀『合わせ風車』を回転させてそれを防いでいく。

 しかし、切り払われたサーベル群は一本鬼の制御を受けると再び勢いを取り戻して襲い掛かってくる。

 十方剣は、一つ一つを細やかに操作することは出来ない様子だが、それでも数をもって攻めるその攻撃は十分に脅威と言えるだろう。

 

「ケエェェェイ!」

 

 そうして足を止めたゲッター烈火を見て好機と思ったか、一本鬼は十方剣の内の二本を再び手にして強襲に出た。

 俯瞰した映像で見れば、飛剣もまたゲッター烈火に向かって飛翔しており、時間差攻撃を仕掛けるつもりだと言うことが分かる。

 迫る凶刃に、しかし水樹くんは退くことなくむしろ機体を高速で突進させて見せた。

 

「馬鹿が! 自分から死にに来たか!」

 

 嘲弄する一本鬼は両手のサーベルを刺突の形に構え、飛剣を集中してゲッター烈火を串刺しにせんと動いた。

 だが降りそそいだ剣の切っ先も、一本鬼が直接に振るった剣撃も、その全ては空中を切り裂いただけに終わる。

 ゲッター烈火は、敵と交錯するその直前、フワリと羽毛のように浮かび上がる軌道で十方剣の攻撃範囲から一瞬で離脱して見せたのである。

 コマンドマシンからの映像で見ていた僕たちにはそれが分かったが、実際に相対していた一本鬼にはゲッターが消えたようにも見えただろう。

 

「な、にぃ?!」

「おぼろの術、あなたには見切れなかったようね!」

 

 そのことを表すように動揺の声を上げる一本鬼に、背後に回っていたゲッター烈火が連結させたままの火斬刀を縦一文字に振るった。

 頭部から股座までを両断され、断末魔の叫びを上げる間もなく一本鬼の命が爆発のなかに消えていく。

 ゲッター烈火は、爆風を背部のウイングで防ぎ残心を解くと、連結させていた火斬刀を分離して格納した。

 

「ゲッタービームッ!」

 

 一方で多数の半月鬼を相手にしていた竜馬は、ゲッタービームを照射したまま頭部を動かすことで敵をまとめて焼き落としていた。

 最大出力での発射ではないものの、元より高出力であるドラゴンのゲッタービームを受け装甲の薄い半月鬼はひとたまりもなく落ちていく。

 やがて破壊を免れたわずかな敵も掃討され、その場に出現した百鬼メカは全てが破壊された。

 

「梅雨払いお疲れ様ね、流くん?」

「けっ!」

 

 通信を通して、水樹くんのからかうような声に竜馬がふてくされた様子で応じている。

 映像越しには散々暴れたように見えるが、大将首を取られたことも含め竜馬当人としては消化不良であったらしい。

 とまれ、状況が落ち着いたのであれば当初の目的に立ち返るべきだろう。

 一本鬼の言葉が正しければ、大気圏外から飛来した件の物体と百鬼帝国とは無関係のようだが……。

 

「ミチル、例の物体の様子はどうなっている?」

「はい、お父様、いま映像を……あっ」

 

 コマンドマシンの映像が再びクレーターに向けられると、ミチルの声に驚きの感情が混じりこんだ。

 その感情は、指揮所でモニターを見ていた僕たちにも伝染していく。

 映像の中では、巨大な黒い球体の表面にピシリピシリとひび割れが走りだしていたのだ。

 

 

《Giiiii!!!》

 

 

 そして表面にくまなくヒビを生じさせた黒い球体は、金属が軋むような音とともに内側から食い破られた。

 その『殻』を割って現れた三つの影は、ゲッターロボにこそ及ばないまでも、10mを超えるサイズだ。

 

「む、む、む、虫ぃ!??」

 

 球体の中から現れた影の姿があらわになると、通信機からは柴崎くんの裏返った声が飛び込んでくる。

 そう、出現した巨大な影は昆虫に酷似した姿をしていたのだ。しかし巨大な顎と金属質の輝きを持った甲殻は、尋常の生物とは思えない。

 そんな巨虫たちは、ギチギチと甲殻を軋ませて警戒音を鳴らしながら何かを探すように触角を動かしていた。

 

「宇宙から落ちてきて、何かと思えばアリの巣とはな」

「ただのアリとも思えんぜ。……こいつら、ゲッター線に反応してるのか?」

 

 どこかあきれたような竜馬をたしなめながらも、隼人は巨虫たちの様子に何かを感じ取ってそんな言葉を口に出した。

 映像を見ると、なるほど虫たちは撃墜された半月鬼……ゲッタービームで破壊された残骸を特に気にしているように見えた。

 そしてそうなると当然のように、その場に存在するゲッター線の源へとたどり着かない訳がない。

 やがて虫たちは、空中に浮かぶ二機のゲッターロボに向かって明確な敵意を示し始めた。

 

「まさか、虫がゲッター線を浴びて進化したってことはないですよね?」

「動力炉の件は、云わば特大のゲッタービームだ。それで急激な変化が起きるなら、シャインスパークの影響で今ごろ太平洋は巨大生物の天国さ」

「それに弁慶、宇宙にアリはいねえだろうがよ」

 

 恐る恐ると口に出した弁慶の言葉を隼人が否定し、竜馬がさらにそれを混ぜ返す。

 あるいは超超高濃度ゲッター線の直接照射であれば急激な進化の可能性も無いではないが、ただエネルギーを放出した程度では起こりえないことだ。

 メイン動力炉の爆発で生じたゲッター線の量も既知の範囲でしかなく、それも既に正常値に戻り大きな影響はないと判断されている。

 だが。

 

「放出されたゲッターエネルギーが、何かの呼び水になった可能性はある」

 

 ゲッター線による影響ではないにせよ、宇宙に向けて放出したエネルギーそのものの量は莫大な数値であった。

 もちろんあの時の選択を後悔している訳ではないが、それでも新たな"敵"を呼び込む結果になったとすれば……。

 もっと上手くやれたのではないか、そんな気持ちが心の中にあふれ出しそうになった僕の肩に、父さんの手がそっと触れる。

 

「父さん……」

「全てを完璧にこなすことなど、誰にだってできやしない。焦るなよ、達人。わしら科学者は、物事を急ぎ過ぎても恐れすぎてもいかんのだ」

 

 穏やかに語る父さんの声が、僕の冷ややかに固まり始めていた自分の心を溶かしていくのを感じた。

 それと同時に、抱え込んでいる"原作"の知識に引かれて頑なになっていた部分を自覚する。

 だけどそれは僕が一人で立ち向かうことではなく、多くの力と知恵を集めて行うべきものだ。

 なにしろ、ゲッターロボとは三つの力を一つに合わせて動かすものなのだから。

 

「ありがとう、父さん。気が楽になったよ」

「うむ」

 

 父さんは、うなずくとそれ以上何も言わずにモニターへと視線を戻した。

 僕もそれに倣って目を向ければ、現地では既にゲッターロボと巨虫たちが戦闘に突入していた。

 

「ゲッタートマホーク!」

《Giaaa!!》

 

 戦斧を手にして降下するゲッタードラゴンに、威嚇音とともに巨アリの口顎から何かの液体が放出される。

 竜馬は、その液体を警戒して攻撃を中断するとドラゴンを急上昇させて回避運動を取った。

 重力に引かれた液体は、ゲッターの装甲を捉えることなく樹木や百鬼メカの残骸に飛び散って白煙を上げる。

 

「うげっ、酸かよ!?」

 

 虫の口から吐き出されると言う見た目も相まってか、竜馬の声からはどこかげんなりとした雰囲気を感じる。

 溶解液を相手にすると、装甲を溶かされ戦闘後の処理が大変だと言うことも知っているのでなおさら受けたくはないのだろう。

 

「ひいいぃぃっ!??」

「ああ、もう、楓! 落ち着きなさいってば!」

 

 そしてゲッター烈火、と言うよりも金剛号の柴崎くんは悲鳴を上げて混乱の極みにあった。

 どうにも彼女、虫が苦手と見えて先程からほとんど絶え間なくあんな調子だ。

 もちろんそれで水樹くんが操縦ミスをすると言う訳ではないが、士気の方には多少の影響が見られるような気もした。

 

「近づいて溶かされるのも面白くねえな。ゲッタービームで一気にカタをつけるか」

 

 そうやら飛行能力をもたない巨アリを相手に、空中へ距離を取りながら竜馬が言う。

 酸の噴射も大して射程は長くないことを考えれば、判断としては適切だろう。

 

「竜馬、出来れば敵のサンプルがほしい。一匹で構わんからゲッタービーム以外で倒してくれ」

 

 とは言え敵の正体を分析すると言う点では、こんがりと焼かれてしまうと困るので父さんからの注文が入る。

 水樹くんではなく竜馬に言ったのは付き合いの長さもあるが、たぶん柴崎くんの声を聞いて虫に近づけさせるのは忍びないと思ったからだろう。

 

「へいへい、了解ですよっと。茜、ゲッタービームの後は俺がやるから、そこで見て……いや、ミチルさんの護衛を頼むぜ」

「うん、悪いけどお願いするわね」

 

 竜馬と水樹くんは、そんなやり取りを交わした後にゲッタービームと斬魔光をそれぞれ一匹ずつに撃ち込んでいく。

 収束されたゲッターエネルギーは、巨アリの甲殻をあっさりと貫いてその肉体を爆散させる。

 

「ゲッタートマホーク!」

 

 そしてすかさず降下したゲッタードラゴンは、右手に持った戦斧を振りかぶりその刃を巨アリの首に向かって叩き込んだ。

 唸りを上げるトマホークは、甲殻の継ぎ目を寸断して断頭台のようにストンと首を落としてしまう。

 それでも巨アリはしばらく足や触覚を痙攣させていたのだが、ゲッタードラゴンの足に蹴り転がされる頃には完全に動かなくなっていた。

 

「一丁上がりと。デカイだけで、アリはアリだったな。大した相手じゃなかったぜ」

 

 付着した体液をトマホークを振ることで排除しながら、竜馬が言う。

 数が少なかったのもあるが、事実、巨アリの戦闘能力は高が知れていると見てよいだろう。

 もちろん、油断をしていいと言う訳ではないにせよだ。

 

「お疲れ。残骸の回収はこっちで行うから、戻って休んでくれ。……柴崎くんは、大丈夫かい?」

「ひいぃん、な、なんとかぁ」

 

 相変わらずの泣きそうな声音ではあったが、どうやら柴崎くんも落ち着きを取り戻した様子で返事をしてくれた。

 モニターの中には、分離した六機のゲットマシンが研究所に向かって帰還していく様子が見える。

 

「ゲッター線、ゲッターロボ、その力が人類の手に余るとしても、『それでも』と言い続けねばならん。今を切り開き、未来に進むためには……」

 

 避難指示の解除と作業の再開、敵の残骸の回収のため慌しくなる指揮所で父さんが呟くように口にした独白は、不思議と僕の耳に残るのだった。

 

 

 

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13.ゲッターチーム、海を渡る

 太平洋の上空を、巨大な影が鉄の翼から飛行機雲を吐き出して東に向かって飛んでいく。

 その影の名は『クジラ』。

 NISARジャパン、橘研究所が所有する超大型輸送機で、ゲッターロボの搭載・整備が可能な移動拠点としても機能する機体だ。

 外見は名前通りに航空機の翼とエンジンを備えた青い鯨そのもので、巨体に違わぬ積載力と航続距離を誇っている。

 

「こちらイーグル号、周辺空域に異常なし」

 

 そんな『クジラ』の機体を眼下に追いながら、僕は修復されたイーグル号の操縦桿を握っていた。

 左右には同じく修理がなされたジャガー号とベアー号が並び、『クジラ』を挟んで前方にはゲッターロボ號のゲットマシンが飛んでいる。

 ゲッターロボGと斬も同行しているが、数時間前に護衛役を交代して今は格納中だ。竜馬たちも、まだ寝ているだろうか。

 

「『クジラ』よりイーグル号。アメリカ空軍よりエスコート派遣の通達あり。進路の変更はなしとのこと」

 

 そこに通信機から聞こえて着たのは、『クジラ』の機長である古田二尉の声。

 古田二尉は、階級が示す通りに自衛隊からNISARに出向している自衛官で、『クジラ』の運用を全面的に担当してくれている。

 空飛ぶ整備工場とも言える『クジラ』の運用には、技術者としての知見も持つ二尉の存在が必須だった。

 外見は眼鏡をかけた丸鼻の男性で、年齢は僕より年上で三十代前半。今回同行している主なメンバーでは最年長にあたる。

 

「イーグル号、了解。號、聞いていたか?」

「おう、アメリカさんから迎えが来るって話だろ? 聞いてた聞いてた」

 

 『クジラ』の前方を警戒している號に声をかけると、軽い感じで返事が来た。

 今までのやり取りから分かるように僕たちが向かっているのはアメリカ合衆国、詳しく言えば、その南部に位置するテキサス州。

 その目的は、日米同盟を機軸に対百鬼帝国を見据えた戦力・技術の協力体制を確立することにある。

 これは世界各地で激しさを増す鬼の侵略に対し、国境を越えて作戦を展開するための第一歩でありまた来たる反撃の布石ともなる。

 その戦力として日本から派遣されたのがゲッターロボであり、またいま僕が搭乗している初代ゲッターロボも含まれたいた。

 

「南風くん、武蔵、ジャガー号とベアー号の調子はどうだい?」

「はい、今のところ問題ありません。でも、私がゲッター2のパイロットでいいんでしょうか?」

「なに言ってんだい。渓ちゃんの腕前は、この武蔵様が保証するってんだ。っと、ベアー号も快調だぜ」

 

 そして隼人がライガー号に搭乗するために空席となったジャガー号は、南風くんが担当することとなった。

 他のマシンは先程から操縦している通りにイーグル号は僕が、ベアー号は引き続き武蔵が搭乗する。

 さらに言えば、初代ゲッターロボは単に修理された訳ではなく、ゲッター炉心の改良や武装の追加など強化改造も施された。

 これによって新鋭機であるゲッターロボGや斬には及ばないまでも、遅れは取らない程度に仕上がっているはずだ。

 こうしてクジラの護衛を担っているのには、南風くんや強化したゲッターの慣熟訓練の意味もある。

 

「あはは、ありがとうございます武蔵さん。頑張りますね」

「おうよ! いざって時は、おいらのゲッター3に任せときな!」

 

 無闇に自信満々な武蔵のいつもの調子に、南風くんもいい具合に力が抜けた様子で自然に笑えているようだ。

 研究所の防衛で乗機のBTを破壊されたことを気にしていたようだが、これを見ると大丈夫そうだ。

 ちなみに南風くんが降りて空席になったBTは、同型機が『クジラ』の内部作業用として持ち込まれ竜二くんが使用している。

 彼も何か思うことがあったのか、最近は将来を見据えて技術の習得や勉強に精を出しているらしい。

 そのことを教えてくれた時の隼人が、どこか上機嫌に見えたのはきっと僕の勘違いではないだろう。

 

「おっ? 達人さん、アメさんのお出迎えが来たようだぜ」

 

 號から声が掛かると間もなく、レーダー上にゲットマシンとは異なる友軍を示す光点が追加された。

 よくよく目を凝らすと、空の向こうには小さな黒い点が見える。おそらくは、あれがエスコート役の戦闘機だろう。

 

「あっ! 米軍機が急加速!? こちらに突っ込んできます!!」

「なにっ!?」

 

 南風くんの警告とともに、光点が猛スピードでこちらに接近するとともに空の果てに見えた黒い点が見る見るうちに大きくなった。

 やがてそれは黒い大型戦闘機の形を取ると、號たちのゲットマシンの間をすり抜けるようにして通過していく。

 そして超音速の物体が通り抜けた空域には、一瞬遅れて強烈な衝撃波が襲い掛かった。

 

「っぅ!?」

「ぬわぁ!?」

 

 翔と大道くんの声が響き、安定を失ったゲットマシンが大きく減速して高度を下げていく。

 元々が高い位置を飛んでいたことから大事には至らなかったが、最悪は海面に叩き付けられかねない危険な状況だった。

 

「あんにゃろ! いきなりなんつーことをしやがるんだ!!」

 

 位置取りと本人の野生的な反応によって失速を免れた號は、元来の短気さも相まって怒り心頭と言った様子で声を上げる。

 即座にゲットマシンが加速して、『クジラ』の後方で旋回している黒い戦闘機に向けて噛み付くように挑みかかった。

 

「號、一応は言うけど、撃つなよ?」

「わーってるよ! ちょっと追いかけっこするだけだ!!」

 

 そう言って通信機に向けて声をかけると、號もそれは承知しているようで了承の返事が届く。

 正直を言えば僕も頭にきていたが、まさかそれで叩き落せと言う訳にもいかない。相手の正体も、おおよそ検討が付いているだけになおさらだ。

 とりあえずは映像と音声の記録をおこないつつ、あとで盛大に抗議を入れてやる程度が関の山だろう。

 

『ヘイ! 猿の割りにはトロ臭い動きじゃねえか!』

「ああっ!? いまモンキーつったか、てめっ!」

 

 そしてにわかに始まったドッグファイトは、黒い戦闘機の方が終始優勢に立ち回っていた。

 號もよくよく喰らいついてはいたが、そもそもの速度で相手の側と分離状態のゲットマシンに差がありすぎた。

 純粋な速度・推力では、合体した状態のゲッター翔に匹敵、あるいは凌駕しているかもしれないほどだ。

 

「くっそう、パワーが足りねえ!」

『非力なジャップのマシーンじゃあ、このステルバーに追いつけやしないのさ!』

「うっきー! 早口でなに言ってるか分かんねえけど、とにかく馬鹿にされたのは分かったぞ、コンチクショウ!」

 

 勝ち誇る黒い戦闘機……ステルバーのパイロットの言葉に、號が悔しさに歯噛みする声が聞こえる。

 速度差で優越した相手は、その高速状態をそのままにクルリとターンしてゲットマシンの背後を取っていた。

 言動と行動は別として、あのパイロットの腕は確実にトップエースと呼んでいいレベルにあるだろう。

 

『シュワルツ! 貴様っ、何をやっているのかっ!!』

『チッ! ランバートか。なあに、エスコート役のヤツが腹を下したんでね、代わりにオレが出てやったのさ』

 

 そこでようやく事態を把握したらしい米軍側からのアプローチによって、不意の挑発から始まった一連の出来事は幕となった。

 相手側の通信では、かなり苛烈な叱責が成されているが、肝心のパイロットにはどこ吹く風だ。

 『クジラ』にも米空軍からの謝罪と、改めて飛行コースの誘導がかかり目的地に向けての移動を再開する。

 

『こちらは"テキサス"管制塔。『クジラ』は誘導電波に従って滑走路への進入してください』

『NISAR・ジャパン、輸送機『クジラ』了解。これより着陸態勢に入ります』

 

 そして数時間の飛行の後、テキサスの山岳地帯に到達した『クジラ』に米軍基地からの通信が入る。

 古田機長と管制塔のやり取りに続いて、『クジラ』は山岳に囲まれた滑走路に向けてゆっくりとその巨体を沈めていった。

 護衛機として周囲を固めていた僕たちは、その姿を見守りながらもそれぞれに着陸の誘導を待つ。

 一方で挑発行動を行ったステルバーは、専用滑走路と思われる場所の上空で装甲を展開すると人型に変形して着地して見せた。

 

「うおっ、変形しやがった!?」

「それだけじゃないぞ、號。見ろよ、同じ機体が他に二、三、全部で四機もある」

 

 変形に驚きの声を上げる號に、大道くんが上空から見つけたらしい駐機された同型の数を数えながら言う。

 人型になったステルバーは、ゲッターロボとほぼ同サイズであるが細身で鋭角的なデザインが特徴的な姿をしている。

 先の機動戦で見せつけた通りに高い推力を持つ、スーパーロボットと言って遜色ない機体を量産しているは流石アメリカだ。

 

「うぎぎぎぎ」

 

 突如としてうなり声を上げる號に何事かと驚いたが、地上を見ると例のステルバーが號の居る場所に向けて中指を立てていた。

 操縦の腕前の方はさておいて、やはりパイロットの"シュワルツ"は相当な跳ねっ返りないし問題児であることが伺える。

 

『ゲットマシン、イーグル号、滑走路へ進入どうぞ』

『了解。イーグル号、着陸態勢に入る』

 

 やがて『クジラ』の着陸が終了し、順番が来た僕は誘導に従って滑走路に進入した。

 そして着陸させたイーグル号を駐機場に固定してコクピットハッチを開けると、僕は何年かぶりになるアメリカの大地を踏みしめたのだった。

 

 

 

ゲッターロボ大決戦! 早乙女達人編

 第十三話:ゲッターチーム、海を渡る

 

 

 『クジラ』に乗っていた面々とも合流した僕たちは、基地の内部へと通されミーティングルームに案内を受けた。

 ステルバーとの一件については責任者である基地航空隊の中佐から丁寧な謝罪を受け、パイロットへの処分と再発防止を徹底することで話が付いた。

 穏便に済んだ理由は、物質的な被害がなかったこともあるが今後の協調関係を考えてと言う面が大きい。

 

「號、いつまでもむくれてるなよ。中佐さんも、しっかり謝ってくれただろう?」

「けっ、そーは言うけどな剴、あの調子じゃ後ろから撃たれかねねえぜ」

 

 とは言え、やはりどうしてもアメリカへの隔意は残ってしまっていて、当事者になった號は特に顕著だった。

 なだめていた剴にしても、號の言葉を否定できずに眉間にしわを寄せていたから、やはり思うところがあるのは間違いないだろう。

 残る翔は何かを言うでもなく静かに目を瞑っていて、少なくとも他の二人ほど苛立ちや怒りを感じてはいないように見えた。

 できるなら何かしらの問題が起きるよりも先に、どうにかしてこの感情を解消させてやりたいのだが、今のところは妙案も浮かんでこない。

 

「失礼するよ、ゲッターチームの諸君」

 

 そうしていると、ミーティングルームの自動ドアが開いて豊かな白髭をたくわえた初老の軍人が入室してきた。

 オフショーと名乗った彼は中将の階級章を身につけており、このテキサスの司令官を務めていると自己紹介をする。

 そしてこの基地の司令官であるということは、日米スーパーロボット連合の総指揮官でもあることも示していた。

 

「紹介しよう、この"テキサス"所属のスーパーロボット、テキサスマックのパイロット。ジャック・キングと、メリー・キングだ」

 

 司令の合図とともにドアの向こうから現れた顔立ちの似た男女は、僕の見知った顔だった。

 

 ジャック・キングとメリー・キング。

 

 "原作"アニメ、あるいはスパロボではおなじみのキング兄妹と僕、実はアメリカ留学時代に縁を結んだ友人同士だ。

 僕とは同年代で、二人が父親であるキング博士の下でスーパーロボット開発に関わっていたことから、似た境遇もあって意気投合したのだ。

 それで気が付けばキング博士の研究所に連れ込まれて研究の手伝いをするなど、何だかんだで濃い付き合いになっていた。

 

 兄のジャックは、濃い茶色の髪に彫りの深い顔立ちで、高身長でガッシリとした体格をカウボーイスタイルで決めた野生的な偉丈夫。

 服装からは分からないが、あれで正規の軍人でもあるので襟元には少佐の階級章が光っている。前に聞いた時は大尉だったので、昇進したらしい。

 妹のメリーの方は、オレンジ系でやや癖のあるブロンドの髪を背中まで伸ばしていて、メリハリのある健康的なスタイルを持つアメリカ的な美人。

 そんな豊満なスタイルを体の線がでる服で強調しているものだから、ゲッターチームの若干名は鼻の下を伸ばしているありさまである。

 そう、たとえば壁に寄りかかってクールな雰囲気をかもし出している隼人も、目線がチラチラとメリーの胸元に……。

 

「ジャック、それにメリーも、久しぶり。元気だったか?」

 

 数年ぶりになる再会に差し出した僕の手は、ジャックの手に相も変わらずの力強さで握り返された。

 クリスマスや年始に手紙や電話でやり取りはしていたが、互いに忙しくなったことで顔を合わせるのは本当に久しぶりだ。

 

「Hey! タッツー! ミーの心配なんてノープロブレム! テキサス魂はいつだって不滅でーす!」

 

 そして分かっちゃいたけど、そのかっ飛んだ日本語も健在だった。

 ジャックが日本語を覚えたのは僕が留学を終えてからなのだが、何を教材にしたのか次に会った時にはインチキ訛りが板に付いてしまっていた。

 おかげで後ろでは、初めてそれを聞いた時の僕と同じように竜馬や號が脱力して気の抜けた表情になっている。

 

『助かったよ、ジャック』

『やらかしたのはオレの同僚だからな。こちらこそすまん』

 

 そして再会の感激を大げさに表現するジャックと肩を組みながら、僕たちは小声の英語で言葉を交わした。

 先程の自己紹介は、ステルバーとの件でアメリカ全体に向きかけていた隔意を多少は解消してくれただろう。

 なお、それはそれとしてジャックの日本語については天然である。断じてわざとではない。

 

「Hi! 兄さんばかりずるいわ、お久しぶり、タツ! んー」

「なっ!?」

 

 ジャックとのやり取りを終えると、今度はメリーが笑みを浮かべながらハグを要求してきた。

 僕がそれに応えると、軽い抱擁の後に頬に柔らかな感触が触れて誰かの上ずった声と、竜馬の口笛の音が響いた。

 

 やられた。

 

 元々メリーはスキンシップが多い方だが、今回のこれについては完璧に僕をからかうためだ。

 それを証明するように、彼女はいたずらっぽく舌を出して見せている。

 

「メリー・キングよ。タツとは、Best Friend! 兄さんともどもよろしくネ!」

「ジャック・キングでーす! ゲッターチームの活躍はアメリカにも届いてマース! ミー達が力を合わせれば百鬼エンパイアも全滅ネ!」

 

 ジャックとメリーの挨拶に応じて、ゲッターチームもそれぞれに自己紹介を行う。

 遺憾ながら先ほどの"悪戯"の効果はてき面だったようで、初対面ながらそれなりに打ち解けた雰囲気になっていた。

 

「さて、挨拶も済んだところで、ここに集まってもらった理由を説明するとしよう」

 

 皆が一通り自己紹介を終えると、それまで口を出すことなく様子を見守っていた司令がそう言って場を引き締める。

 次いで、ミーティングルームのモニターには一つの映像が出力された。

 

「百鬼要塞島。日米が戦力を結集した最大の理由は、この移動要塞の捜索と破壊のためにある」

 

 恐竜帝国との決戦時に姿を現した百鬼帝国の本拠地要塞は、その巨大さとは裏腹に所在不明となっていた。

 海底や宇宙空間といった人類の目が届き難い場所を含めて探索は続けられていたが、優れたステルス能力を持つ相手を捕捉することは困難を極めた。

 

「また世界各地に展開する百鬼帝国の戦力を撃破するためには、展開力に優れた我々のステルバー、そして諸君らのゲッターロボが最適と判断した」

 

 NISAR・スーパーロボット同盟には多くの国が参加していたが、こと機動力という点では日米両国が突出していた。

 ステルバーの名前が出たことで號が眉をひそめていたが、実際に相対して高性能さを見せ付けられたからか何も言うことはないようだ。

 

「日米合同作戦の第一段階として百鬼帝国の……む!?」

『緊急警報、緊急警報、"テキサス"に百鬼メカの集団が接近中! 総員配置に付け、総員配置に付け!』

 

 そして司令が今後行われる作戦についての話をしようとした時だった、基地内に警報とともに百鬼帝国の襲撃を告げる放送が鳴り響いた。

 僕の携帯通信機にも『クジラ』の古田機長から、百鬼メカの部隊が空中から降下していると連絡が入る。

 

「へっ、司令さんよ、どうやら第一段階は前倒しになるようだぜ?」

「どうやらそのようだ。ジャック、メリー、テキサスマック出撃せよ。さて、ゲッターチームの諸君は……」

 

 好戦的な表情で投げかけられた竜馬の言葉を肯定した司令は、ジャックたちに出撃を命じるとゲッターチームに出撃の是非を問うた。

 これは僕たちがアメリカに到着したばかりと言うこともあってのことだろうが、まさかここでアメリカ軍の戦いを眺めているだけという選択肢はない。

 なにしろ、大半のメンバーが見てろと言っても勝手に出ていく。

 

「もちろん協力させていただきます。ゲッターチーム、出撃するぞっ!」

 

 「応」と叫ぶ竜馬の声とともに、ゲッターチームの面々は席を立って各々の機体に向かって駆け出していく。

 僕もまたイーグル号の元に向かうために足を速めると、格納庫へ向かう途中のジャックとメリーが隣に並んでいた。

 

『タッツ、お前の、お前たちのゲッターロボの力、見せてもらうぜ』

『こっちも、テキサスマックの活躍に期待させてもらうよ』

『Good Luck! タツ』

 

 メリーの投げキッスとともに、僕とジャックは互いの拳が突き合わせて通路を左右に別れた。

 外に出ると、既に各所で戦端が開かれミサイルの爆発と思われる黒煙がたなびいている。

 僕はイーグル号のコクピットに身を躍らせると、機体を垂直離陸させて戦いの中へと飛び込むのだった。

 

 

 

 NEXT テキサスの戦い



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