ウチの幼馴染は最強で最硬なんだ! (何処でも行方不明)
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プロローグ 最硬との再開

弓ってあったっけ?
……アニメであったような……なかったような?


「今日も頑張ってスニークスニーク……っと」

 

そう言いながら自室にある端末を被ろうとした時、友人から携帯にいきなり着信が入った。

 

「うげぇ……」

 

現在、実力テストが目前に控え親御さんにゲーム禁止令を言い渡されている友人。通称「リサカス」からの着信だ。

 

「もしもしクソゲーマ?」

『うっさいわよガンイモクソシューター』

 

軽口を言い合いながら通話を始める。

 

「うるさいなぁ……僕のPSだと近距離攻撃が壊滅的なの知ってるくせに」

『だからといって至近距離で飛び道具使い続けるのはどうかと思うんだけど……そういえば、この前発売された近距離限定ゲームどうしたの?』

「短剣を投げ続けることで解決した」

『……輝の近距離スキルをどうにかするためにオススメしたはずなんだけど?』

「お陰様で近距離ゲーなのに近距離しないせいで害悪プレイヤー一覧に早速名前が入ってしまったよ」

 

2人して少し品のない笑い声を上げつつ近況報告をする。

なんせ、僕とリサカスは別々の学校に通っている。

教室での与太話もこうして端末を通さないと行けない。面倒だ。

うん、実に面倒。

 

「して本題は?」

『楓にNWOオススメしたから今度3人でパーティ組んでみない?』

「……楓にアレおすすめしたの?天然で変なことやらかす未来しか見えないんだけど」

『まあ……そうなんだけどさ。それでそっちのビルドはどんなの?』

「DEXとSTR両振りの弓使い。INTとAGIも一応振ってるけど、基本的に接近される前に落とすっていう構成。回避力も結果的にあるけど、スキルの割合が攻撃系が6割特殊系が3割、残りが回避系」

『輝らしい構成ね……装備は?』

「ユニークシリーズの弓装備一式。薄緑のフード付きマントに同色系統大弓使い《アキラ》は結構有名なんだよ?」

『ユニークシリーズ持ちって……その時点でおかしくない?』

「《暴風使い(タイラントマスター)》っていう特殊スキル持ってるしね〜。おかげで風魔法限定で使いたい放題。たまに無双ゲーしてる感覚に陥ることもあるよ」

『って!検索かけたけど《アキラ》ってトッププレイヤーじゃない!』

「うん、らしいね。気がついたら攻略の最前線とか走ってたし」

『……初心者とパーティ組むのはそっちメリットある?』

「存分にあるとも。なにせ近距離は壊滅だし。装填Xがあっても矢を番える最中に麻痺系の毒を塗った短剣でズバッとやられるとなぶり殺される。だからタゲを散らす意味もあるけど、近距離を対応してくれる人とパーティ組むだけで僕には意味あるんだよ。HPとVITは捨ててるし」

『……それってつまり』

「当たったら死ぬ」

『ピーキーなキャラメイクしてるわね……』

「リスキーな分燃えたりしない?」

『わかるわ〜』

 

与太話につぐ脱線話。

割とよくあるよね。

 

※※※

 

翌日。

NewWorldOnlineというゲームに僕はアバター《アキラ》でログインする。

宿屋の一室からフル装備に換装し出ようとするけど……

ガシャン!

背中の弓が扉に引っかかる。

 

「そうだったそうだった……」

 

弓を一旦装備から外す。普段は見映えを優先して装備からあんまり外さないんだけど。

 

「アバター名は……メイプル……掲示板見てみたけど中々に痛快なことしてる……」

 

軽ーく名前検索をやってみただけでも分かったことがある。

防御力が異常だった。数匹のモンスターに囲まれて無傷だとかおかしい……

 

「このゲーム、初期の見た目が基本的に現実(リアル)とほぼ同じだから普通に楓を探せばいっか……」

 

とふと宿屋の窓から広場を見下ろすと噴水のヘリに座っている黒い鎧に身を包んだ少女のアバターが目に付いた。

……あれってユニークかオーダーメイドの装備だよね。

クロムとかが付けてるようなものだと上級者……だけど、横に置いてあるのは同じ色の大盾……黒い大盾使いの少女なんて聞いたことないんだけど……

 

「クロムにチャット飛ばそ……僕は情報とかあんまりチェックしないし」

 

早速フレンド機能でクロムにチャットを送る。内容は……

 

『黒い大盾使いの女性って最近話題になってる?』

 

っと、これでよし。

歩きながらチャット打つのはやめた方がいいけど別にいっか。

歩きスマホみたいなものだけど。

と考えてると早速返事が来た。

 

『特にはなってないぞ。ただ、初心者(ニュービー)の中で1人の大盾使いの女の子が話題にはなってると思うから、その子が持ってるって考えると腑に落ちる』

 

……多分それって楓ことメイプルだよね。

 

『ありがとう。情報戦敗者だからこれからも色々聞くと思うけどよろしく』

 

そして僕は例のアバターに話しかけるために噴水へと歩いていった。そして口を開き

 

「や、久しぶり。楓……だよね?」

 

アホ毛が特徴的な可愛らしい幼馴染にそう言った。



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最硬との食事(大嘘)

気がついたら新年度じゃないか!


「んー?……もしかしてヒカル?」

「正解。こっちではアキラって名前だよメイプル」

 

ステータス画面の名前部分だけを表示しメイプルに見せる。

アキラっていう名前しか伝わらないけど、これでも元々長年一緒に遊んできた幼馴染。

口調や外見でわかる……と願いたい。

 

「へぇ……アキラもこのゲームやってたんだ」

「うん。そこそこ長い期間やってるよ。いわゆる初期勢だからね」

「ショキゼイ?」

「ゲームが発売されてからすぐに始めた人達のこと」

「なるほど!じゃあアキラはモノシリさんなんだ!」

「……ま、それでいいか」

 

世間話のようなものを挟みながら僕はメイプルの隣に腰掛けた。

そこでメイプルの装備にパッと目を通す。

……紛れもない。ユニークシリーズです。なんで初心者が持ってるかわからないけど、恐らくはヒドラからドロップしたものだと思われます。

 

「それってユニークシリーズ?」

 

一応確認を取ってみるけど……

 

「うん。そうみたいだよ?」

 

やっぱりか……メイプルってログイン3日目とかじゃなかったっけ?

……ま、いいけど。

運とか運とか運があれば事故が発生して強キャラができるゲームっていうことは認知してるし……ペインとかほんとにいい例だよ……まあ、僕もその一例ではあるけどさ。

 

「……ゲーム初めて数日って聞いてるんだけど」

「えへへ〜少し運が良かっただけだよ〜」

「運が良いだけで取れるような代物じゃないと思うけど……ところで何しようとしてたの?」

「えっとね……スキルの発掘……かな?」

 

※※※

 

とりあえずメイプルとパーティを組み、手頃な狩場……に行こうとしたらメイプルの希望で経験値がさほど美味しくない爆弾テントウというてんとう虫型のエネミーがポップするところに来ていた。

 

「私は泊まり込みでスキル発掘するんだ〜アキラはどうする?」

「攻略ページに載ってないスキルっていうなら僕も知らないものだろうし……それに《毒竜(ヒドラ)》と《毒竜喰らい(ヒドライーター)》は欲しいかな。だから今のうちに恩を押し売りして後で取得に協力してもらっていい?」

「いいよ。私もアキラと一緒に遊べて嬉しいんだ。だって最近顔合わせること朝少しだけだし」

「ま、僕は市外の学校通ってるから仕方ないよ」

 

ちなみにこの会話をしている最中、メイプルは《挑発》スキルを使ってエネミーの攻撃を受けている。……少し気にしたら?ダメージはないと思うけどさ。

ちなみに話し相手になってるのは飽きないようにするため。

僕も《弓の心得》スキルのランクアップ作業中は正直苦行だったし……

今後のアップデートでもう少し心得系スキルは成長しやすくなって欲しい。

 

「さて、ついたよ。爆弾テントウの生息地」

「ならまずは《挑発》!」

「……へ?」

 

僕が知る限り1番密集して生息してる所を今回は選んだ。

だから……

 

「……あれ何匹いるの?」

「見た限り80はいるかな」

 

凄まじい音量の羽音が耳に届き、その次に爆弾テントウの群れが目に付いた。

 

「ま、落ち着いてやればいいよ。死んでもこのゲームデスペナ甘いし」

「わかった。《パラライズ・シャウト》!」

 

メイプルが腰につけてある短剣の鯉口を鳴らし(どう言うべきかわからない)爆発テントウを麻痺させる。

ボトボトと音を鳴らし落ちる虫たちは少しシュールだった。

 

「……で、これを食べると」

「別にアキラは普通に倒せばいいんじゃない?」

「それで取得できるスキルならもう取れてる……ここは僕も大人しくいただきますかな……」

 

麻痺しているためピクピクとまだ足を震えさせている爆弾テントウを手に取る。

……生まれて初めて虫を食べるかもしれ……いや。

わりと虫を食べるゲームはあった。

それにいなごの佃煮食べたことあるし……

ま、その虫たち全部()()()()なんて個体いなかったけどね!

口にすると早速口の中が爆発するような刺激が走る。

 

「……ぼへぇ」

 

口から硝煙を上げる……あれ?硝煙ってなんだっけか?

 

「あれ?どうしたのアキラ?」

「メイプルはなんともない?」

「別に〜。なにせ毒竜食べた後だし」

「いや、そういう物じゃ……そういう物なのかな……」

 

モグモグと口を動かしテントウムシを食べ続ける。

絵面はかなり酷いがこれもスキルのため。そして攻略のための足がかり……今は堪えて……あ、割と美味しいかも。

そして2人で合計100近くは平らげた頃……

メイプルの思惑が実った。

 

『スキル【爆弾喰らい(ボムイーター)】を取得しました』

「おおう……ほんとうに取得できた……爆発ダメ50%カット!?」

「え?そんなに驚くことなの?」

「スキルひとつで種別限定とはいえ50%カットはかなりね。なるほど、喰らい(イーター)系スキルは耐性付与系スキルってところかな?」

 

取得条件はHPドレインで倒すこと。

恐らく僕が欲しい《毒竜喰らい(ヒドライーター)》も同じ条件かな。多分。

 

「おお!これはいいスキル!」

「……いいスキル?メイプル、《爆弾喰らい(ボムイーター)》の他になにか新しいスキルゲットしたの?」

「ふっふー。《悪食》だよ!目に見えて強いスキルなんじゃないかな!」

「……初心者のメイプルがそう思うならたしかに強そう……むむ……僕も欲しい」

 

メイプル曰く食べた量で得られるスキルなんだとか。

ふーむ……これは僕も毒竜完食コース?

いや、でもな……

僕は防御捨ててるし……

 

っていうのをメイプルに伝えると……

 

「なら私が《挑発》してアキラが食べる時間稼ぐよ?」

 

と言われました……

 

※※※

 

「今までも暇な時にRTAとかしてたけど……食べに来る目的でボスに挑むのははじめてだな……」

 

頬を引っ張り顎を動かし咀嚼するための準備体操の様なものを行いながら呟く。

サクサクと道中の雑魚を倒し、週1ぐらいで殺しに来てる毒竜とボス部屋で対面した。

 

「サクッと倒すなら出来るんだけどな……」

 

何せこちらは一応ボスRTA最速タイム保持者。

行動パターンもほとんど覚えているし、メイプル級の盾がいるなら存分に輝かける。

うん、負ける要素は無さそう。

普通に戦えばだけど……

 

「それじゃいくよ〜《パラライズシャウト》!」

「……いや効かないでしょ」

 

メイプルがキィン!と音を鳴らしてスキルを放つけど、そのスキルの大元アレ(毒竜)なんだよね?

……普通、毒耐性と麻痺耐性はあると思うよ。

だって、()竜って言ってるのに麻痺毒でリンチとか毒のスリップダメージで死ぬとかイメージ崩壊もいいところじゃん。

 

「あれ!?効かない!?」

「……笑うとこかな。《飛翔》」

 

僕の足装備(というなの服)【烈風の衣】に付与されてある【飛翔】というスキルを使う。

効果は地上限定の大ジャンプ。かなりの速度で飛び上がり、スキルの効果中は風を伴うので判定の弱い攻撃は打ち消せたりする。

ま、使用方法完全に間違えて今回は毒竜とニアミスするために使うんだけどね!

 

「まずは一口目、いただきます!」

 

飛翔での移動中にガブリと毒竜に被りつく。

装備の効果で165になっているSTRはどうやら噛み付く力にも適応されるようで噛んだ部分は簡単に引きちぎることができた。

モゴモゴと口を動かし咀嚼し飲み込む。

 

「むー……生肉というよりも苦味の強い……うーん」

 

そんなことを言ってると毒竜がブレスを僕の方に向けて吐いてきた。

やだなぁ……当たるとほぼ即死だろうから……

 

「《疾風(はやて)》」

 

風を伴い一瞬でその場から姿を消す。

そして消えた時と同じく風を伴い毒竜の顔の前に現れる。

疾風(はやて)》は《飛翔》と同じく装備に付与されてあるスキル。

今度のは体装備【疾風のマント】に付与されているもの。

一日六回限定だけどかなり使い勝手がいい。なにせAGIは初期の頃に振り分けた15しかない。

だからこそ《疾風(はやて)》は重宝している。

 

「目が見えるっていうのは面倒だから削らせてもらうよ?《ソニックランス》」

 

風の槍が毒竜の三つある頭の内のひとつを吹き飛ばす。

……あー、《暴風使い(タイラントマスター)》には風魔法無償化と攻撃アップあるんだった。

目だけを飛ばすつもりだったのに……ま、いいか。

「!!」

突然悪寒を感じ飛ばした首の断面に手をかけパルクールのように毒竜の体に移動する。

DEXが高いと取得できるスキル《アクロバット》

DEXの実数値を傘増しするスキルで効果は

『ダメージが2倍になる代わりにDEXが2倍になる。常時発動』

というもの。

そもそも当たったら死ぬからカンケーないね。

 

「アキラすごーい!」

「ありがとね。タゲ取ってもらえるともっとありがたいかも!」

「あ、そうだった!《挑発》!」

 

メイプルにタゲが向かったことで僕へ攻撃しようとしていた毒竜はメイプルに目を向ける。

……このうちに食べとこ。

パクッ ブチッ!

首を回し肉を引き裂く。

……何度も食べると飽きるなこの味。

 

※※※

 

「討伐完了!……っとアキラ、スキル取れた?」

「悪食と《毒竜喰らい(ヒュドライーター)》は取れた。でも《毒竜(ヒュドラ)》は取れてない」

「そっかー……ん?」

「どしたの?」

 

戦闘が終わりひとつの宝箱を前に僕達はそんな会話をしていた。

だけど、メイプルはどこかバツが悪そうな顔をしている。

 

「ごめんね……《毒竜(ヒュドラ)》は《毒無効》がないと取得できないみたい……」

「なるほど……ま、このふたつだけでも充分チートだからいっか」

 

そしてお楽しみの宝箱タイム。

メイプルの装備と同色系統の武器が超低確率で稀にドロップするから楽しみといえば楽しみ……なんだけどさ

今まで何十回も毒竜倒したけど一回も落ちなかった……

だけど

 

「おお……おおう!?」

「ひゃあ!どうしたの?」

「出た!出た!超レアの装備!」

 

【蒼月】

大剣

STR+10 AGI+15

【破壊成長】

スキルスロット空欄

 

しかも狙っていた両手武器のだ!しかも破壊成長付きでステ振りも当たり!

 

「メイプル!これ貰っていい!」

「え……うん……いいけど……」

 

早速左手の装備スロットに追加する。

取っててよかった《破壊王》!

弓も両手カテゴリの武器だから一応残していて正解だったね!

ゴゥ!と音を鳴らし大剣を振り回す。

 

「ふひっひ〜浪漫最強!」

 

背に戻しクラ〇ドのような感じなポーズを取る。

緑系統じゃないのが少し残念だけど……これはこれでありだね。

 

「今回は収穫が今までの分帳消しになるぐらい……いや、大きなお釣りが来た!ありがとうメイプル」

「役に立てなら私も嬉しいよ」

「それでなんだけど……この後どうする?」

 

メイプルを見習い蒼月のスキルスロットに悪食を付与する。

あと1つ残ってるな……

……余分なスキルあったかな

 

「私はレベル上げをしたいかな〜。そういえばアキラのレベルって幾つ?」

「僕?46」

「高いね……私なんてまだまだだよ……」

「初めて一週間も経ってないニュービーにレベルまで抜かれたら古参が発狂するよ……そっか……ならあそこをマラソンかな?」



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天眼の第一回イベント

弓の弦を最大限に引き目測150mぐらいの位置にいるプレイヤーに矢を放つ。

とんでもない音と共に発射された矢は弾丸めいた速度でプレイヤーとの距離を詰めその頭部を寸分の狂いもなく撃ち抜く。

 

「これでやっと900か……今回のイベントは割と僕向けだな。ま、第一回だからよくわからないけど」

 

そういいながらまた矢を番えて放ちまた別のプレイヤーの頭をはじけ飛ばす。

とりあえずの目標は《遠見》以外の一切のスキルを使わないでスコアを1000まで稼ぐこと。

この調子ならまだまだ行けそう。

 

「さてさてさぁーて?お次は……っと」

 

遠見で新しいプレイヤーを見つけその距離に応じて弓に力を込める。

 

「これで902人目!」

 

正直なところ一斉に攻撃出来る《ミリオンショット》や《トリプルスティング》、移動を楽にする装備に付与されてるスキルを使わないと効率が雑魚い。

……10位以内に入れるかな。

他のプレイヤー……クロムはまだしもミィとかペインは大量にスコアを稼いでると思う。

それにドレイクやシン、それにカスミとかの近距離勢は敵が群がっていれば直ぐにスコアを伸ばせる。

だけど僕は安全圏内から一人一人を撃ち抜くしかない。

だからこそ一斉に何百と矢を放つ《ミリオンショット》や同時に三本の矢を穿つ《トリプルスティング》を個人的な趣味で封印している僕は伸びがトッププレイヤーの癖にかなり悪い。

 

「……縛りやめよ」

 

900まで稼いでイベントの開催時間3時間のうちの半分を費やした。

単純計算で6秒に一人。

これだけ稼いだならそろそろ始めようかな。

さっきから遠見を使ってる時にチラついていた集団に標準を定める。

 

「《ミリオンショット》!」

 

20人でパーティを組んでいる集団に向けて山なりに矢を放つ。

スキルにより威力は一本一本が半分になるけど空中で何百にも増える。いや、言い過ぎかな。

とりあえずたくさんに増えた。

ほとんどの矢がプレイヤーを貫きHPを全て減らし全損させ消滅させる。

 

さてと。どんどんギアを上げないとね!

 

「《疾風(はやて)》」

 

移動の足がかりにめいいっぱいの瞬間移動。

対象範囲が視界というある意味使いにくいスキルなのでさっきとはまた別の集団の直上に出現した。

 

「ごめんね〜《暴風(タイラント)》!」

 

その場に竜巻を巻き起こし集団を文字通り一網打尽にする。

一瞬で奇襲して相手が状況を把握するよりも先に倒す。

多分これが1番早いと思います。

 

「うぎゃぁぁあああ!!」

 

断末魔を上げて消滅していくプレイヤーたち。

うーん……無双ゲー。

 

※※※

 

僕による僕のための蹂躙劇が始まったきっかけ。

それを説明するために少しだけ時間を遡ろう。

メイプルとレベリングに明け暮れ……そもそもレベリング自体今日行われる第一回イベントのためのもの。

その参加者たちは所定の場所……

初めてゲームにログインした時に自キャラがポップする広場に集まっていた。

僕個人も例外ではなく、その広場で見知った人影を探し始める。

まずは……

あ、いた。

 

「おーい!」

 

赤い髪に女帝を思わせる装備を身に纏う女の子。

僕の初代パートナーであり、現在《炎帝》の二つ名を持つ《ミィ》だ。

 

「……ん?アキラか」

「やっぱりミィも出るんだ」

「当たり前だ。記念すべき第一回のイベント。それに不参加というのはゲーマーとして意地でも回避すべき事態だろう」

 

そんな会話をする僕たちの後ろから赤い装備に身を包んだ大盾使い。《クロム》が現れた。

 

「よう、アキラにミィ。お前たちが並んでるのを見るのも久々だな。一ヶ月ぶりぐらいか?」

「そうだな。互いに仰々しい二つ名で呼ばれるようになってからは気がついたら疎遠になっていたからな」

「僕はもうちょっと派手めの二つ名が良かったかな〜。ミィは《炎帝》なのに僕は《天眼》って……もっとさ、《鷹の目》とか……今なら《風皇》もありか……」

「既に《天眼》で定着したから無理があるだろ」

「クロムに同意する」

「ちくせう……」

 

少し肩を落としガックリとする。

お調子者ロールも割と疲れる。いや、まあ。

ミィのカリスマロールよりかはマシかもしれないけど。

 

「それにしてもクロムも参戦かぁ……倒すの面倒くさそう……」

「もし戦うようなことになればお手柔らかに頼むよ」

「だがアキラのことだ。いつものように遠距離攻撃しかしないのだろう?」

「それはもちろん。鳥が空中から地上を攻撃するのと同じように僕は僕の持ち味を活かして戦うよ」

 

そんな会話をしていると運営からアナウンスが入る。

ようは《そろそろ始めるから覚悟しろ》とのこと。

 

「ルールは殺して殺して殺しまくれ……か」

「十位以内を目指すのであれば死ぬのは論外だな」

「一番ポイントの損害が多く設定されてる上に被ダメのも加算するとなるとね……与ダメと撃破の倍率によってはクロムみたいなタンクは無視した方がいいかも」

 

三人でイベント開始直前にそんな話をする。

そして僕はミィと顔を見合せ……

 

「ひさびさにするか」

「だね。これを逃すと次はいつ出来るかわからないし」

 

互いに握りこぶしを突き出しコツンと当てる。

 

「「Good lack」」

 

その言葉を最後に僕達は転移の光に飲まれた。

 

※※※

 

〜イベント観覧席にて〜

複数名のプレイヤーたちはモニターに表示されているイベント参加者たちの姿を見ながら思い思いに時を過ごしていた。

イベントの順位予想で一山当てようとするもの。

シンプルに見るのを楽しむもの。

参加者たちから有用なスキルがないか漁ろうとするもの。

まさに十人十色。

掲示板に書き込みをしつつ家でパソコンを弄ってる者もいるだろう。

だが、そのほとんどがNWOのプレイヤーであることには変わりはない。

そして、そのほとんどが最強のプレイヤーが誰かという疑問に答えを出したがっていた。

 

「やっぱり優勝はペインか?ゲーム内最高レベルだから無双してるしな」

「いーや、アキラは外せねぇ。あの超射程の攻撃に気を付けるなんて無理な話だからな」

「……どっちにしろ動きが両方とも人間やめてるな。ペインは近接型だからわかりやすいが」

「アキラもアキラでゲーム内初のユニークシリーズ保持者だからな……装備で言うと互角ぐらいか?」

「ユニーク装備スキルついてるらしいからな。未知のスキルを扱えるっていう点ではアキラの方が上よ」

「だがペインは対人最強だぜ?ほら、また3人も倒した」

 

あーだこーだと言い合うプレイヤーたち。

戦闘が行われているところだけ自動的に選出してるのか勝ちを重ねているプレイヤーはわかりやすい。

 

「順当に勝ちを重ねてるのはよく聞く名前ばかりだな。ドレッド、カスミ、ミィ、ドラグ。やっぱり近距離勢が今回は有利か?」

「トッププレイヤーが強いのはそりゃ当たり前よ」

「他にはシン、マルクス、ミザリー……ほとんどが二つ名持ちだわな。さすがトッププレイヤーたちってところか」

「おっと、でもやっぱりダークホースってのがいるんだな。これが」

 

そういったプレイヤーは自身がみていたプレイヤーの画面をスクリーンショットで掲示板に貼り付けた。

それはちょうど毒竜(ヒュドラ)スキルでプレイヤーを飲み込もうとしているメイプルだ。

 

「今までの撃退数で言えばミィやドラグを超えてなおかつ被ダメゼロ。さっき頭で大剣弾き返してた」

「……は?」

 

※※※

 

イベントも残り約一時間。

30分前にギアを入れた僕にとって朗報が舞い込んできた。

それは

【現在上位3名である《ペイン》《ドレッド》《メイプル》を倒せばポイントのうち三割が譲渡される】

とのこと。

距離的にドレッドしか狙えないけど……

ま、メイプルはまず攻撃が通りそうにないし、ペインは楽に倒せるけど山超えないといけないから無理っと。

 

というわけで僕はとあるスキルを起動させる。

スキル名【天眼】

取得条件は不明。効果は相手のスキルやステータスの露呈とダメージ期待値の自動算出。《遠見》と組み合わせることでプレイヤー個人の判別を遠距離で可能にするスキル。

だから今、ドレッドが射程圏内にいるのがわかる。

そしてドレッドを確実に仕留められる術を僕は持っている。

それは……

大剣《蒼月》を弓に番え《ミリオンショット》で放つこと。

メイプルにも内緒で試した結果。武器はほぼ確定で壊れるけど扱うことができると分かった。

しかも《蒼月》は破壊成長という壊れる度に強化されて戻ってくる特性を有している。

うーん、ベストマッチ。

 

「というわけで悪いね。ドレッドとついでに大勢のプレイヤーを巻き込んでポイント乱獲と行こうか」

 

蒼月を装備スロットに追加する。

背中に装着された蒼月を弓に番えキリキリと音を鳴らしドレッドのいる方向に向かって弓を構える。

これが僕が今のところできる最大の攻撃。

 

「《ミリオンショット》!!」

 

大砲が発射されたような音が鳴り響き蒼月が発射される。

空中を飛行する間にその本数を何本にも増やしその全てがドレッドが戦闘フィールドに選んだ岩石地帯を抉る。

ドゴゴゴゴッッッ!!

と大量の掘削機でも稼働しているかのような音が僕の耳に届く。

それにより視界の端に映っていた撃墜スコアが一気に増加していく。

スコアはぐんぐん伸び1700近くだったのが一気に2000を超える。

……ドレッドはどれだけ大軍に囲まれてたんだろ。

そして……

ドレッドが倒れたのかスコアに1000近くの加算が入る。

 

『暫定二位の《ドレッド》さんが倒され順位が変動します!

1位《ペイン》さん、2位《アキラ》さん、3位《メイプルさん》です!』

「ドレッド倒してもまだペインが上か……1位は無理っぽい?でもせっかくなら……」

『なお!《アキラ》さんを倒してもポイントの譲渡は行われます!これによりドレッドさんの表示が消え、代わりにアキラさんの表示がマップに追加されます』

「うへぇ……」

 

アナウンスの言う通りこっちにゾロゾロと大軍が向かってくる。恐らくはドレッド狙いだったプレイヤーたちだろう。

おぉ……こわ……

 

「負ける気はないんだけど……さ!」

 

早速矢を番え一番近くにいるプレイヤーをヘッショして倒す。

僕は当たったら死ぬというステータス構成にしてる。

だけど僕のスキル構成は当てると死ぬ、でもある。

君たちの内の誰かが攻撃を当てるのが先か。

僕が全滅させるのが先か。

さあ、勝負といこうか!



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腐れ縁との合流

第一回イベントが終わって一日が経過した。

イベントは結局上位三名の変動がなく終わってしまい僕は無事にイベント記念メダルを取得できた。

あとでフレンドチャットを飛ばし確認したところ

ミィは4位、クロムは9位らしく1度カスミに負けたと言っていたシンですらも7位という好成績。援護系であるフレデリカは入賞を逃したことを悔しく思っており、僕により2位から15位に叩き落とされたドレッドはいつか借りを返すと言っている。

と、昨日を回想するのもこの辺りにして今僕がやろうとしていることを確認してみる。

場所は始まりの街から南に位置する地底湖。

ここにはユーザー間の噂とスポットの公式説明により何かがあると断言されている。

かく言う僕も色々探ってみたけど何も見つけてはいない。

稀に武器を釣り上げることがあるぐらいでその武器には【水中適正】というスキルが付与されていることを攻略ページに書き殴ったぐらいしかしてない。

だから今の印象は運絡みのレアアイテム釣り場。

しかも現状のNWOに水中適正が活きるようなところはこの地底湖ぐらいしか存在していない。

 

「ま、だからこそこうやって体を伸ばして水中を探ってみようというわけだけどね」

「よしわかった。私は帰る」

「ちょっと!?」

 

昨日の久々の遭遇で昔組んでたペアを懐かしみ、この探索にミィを誘ってみた。

だけど、僕の目論見がわかった瞬間踵を返し街に戻ろうとしている。

 

「なんで帰るのさ!謎が解けるかもしれないのに!」

「明日から二層が実装されるからその前準備でMPポーションを買いに行くだけだ」

「だったらあとからでもいいじゃん!」

「いや、だって……地底湖の水中にもしダンジョンがあったとしてそのダンジョンは私の【炎帝】スキルが使えない可能性が高いわけで……そういうのはちょっと……」

「ここで若干素に戻るのやめてくれない!?」

 

たしかにミィはMPとINTにステを割いてるからSTRDEX両振りの僕よりかは上手く泳げないだろう。

というか、装備のステ底上げがないと泳げない可能性もある。

 

「でも僕だけで水中ダンジョン行っても弓使いの実質墓場だから無理じゃん」

「ならイベントで使った大剣使えばいい」

「僕の近距離PS壊滅的なのよく分かってるくせに……」

 

そんな時だった。

地面を踏みこちらに歩いてくる音が聞こえてくる。

僕とミィは顔を見合せハンドサインをお互いに出し頷く。

足音がもしAGI極ぶりとかのプレイヤーのものだと僕らはカモにされやすい。

このゲーム、プレイヤーキルが出来るかどうか。

したところでメリットがあるかどうかは分からないけど、前に一緒にやったゲームの癖でつい前方警戒のハンドサインを出してしまう。

僕が弓で入口を警戒しミィは物陰に隠れてもらう。

そして……

そして……

……足音の主全然来ない

ずっと足音だけザッザッと聞こえてくる。

ザッザッ……

ザッザッ……

ザッザッ……

 

「……遅くないか?」

「アジ0のプレイヤーなのかな……」

 

そしてようやくその姿が見える。

まあ、遠見使えばもっと早くわかったんだけど……

特徴的な黒い鎧に大盾。周りをキョロキョロしながらのほほんと歩くその子はまず間違いなくメイプルだった。

アジ0のプレイヤーだね……

 

「あれ?アキラ……と誰?」

「……4位は眼中になしか。まあ、いい。私はミィ。そこのアキラとは付き合いがそれなりに長くてな。今はこうして一応パーティを組んでいる。というわけだ」

「それなりって……ニュービーの時の可愛げはどこ行ったのさ」

「私に元々そんなものはなかった。いいな?」

「ア、ハイ」

 

変な剣幕の笑顔でそういうミィに僕は首を縦に振るしか無かった……

男の子は女の子の笑顔に弱い生き物なんだよ。

うん。そうしておこう。

そうじゃないと僕の沽券に関わる。

 

「そうなんだ!私はメイプル。アキラとはリアルでも友達なんだ〜。よろしくね!」

「アキラの友人ということは私とパーティを組むこともあるだろうな。こちらこそよろしく頼む」

「うっわ……ミィがまだロール続け……なんでもないです」

 

ギラッと睨み付けられよく見るとその右手には火炎が……

当たったら死ぬからやめて……せっかく【剣の舞】っていうノーダメージ報酬スキル取れたんだから……今後も探っていきたいじゃん?絶対まだまだあるだろうし。

 

「と、とにかくさ。メイプルは何しに来たの?」

「私?私は……あ、そうだった!」

 

そう言うとメイプルはウィンドウを表示させ操作。

釣竿をアクティブにし手に握った。

 

「白い装備一式が欲しいから素材集め!」

「なるほど……ようは白魚の鱗狙いか……うん、メイプルのステ振りだと結晶の方は無理だろうし……」

「アキラは?」

「僕は海底探索……かな。ミィも道連れにして」

「よし、メイプル。私と魚釣りをしてアキラの探索が終わるのを待つことにしないか?」

「……うん、もうそれでいいや」

 

※※※

 

ゴボゴボと鳴る水をかき分け辺りを捜索する。

あちらこちらに魚が見えるから剣の練習についでに狩っておこう。

ちなみに今の僕の装備はAGIガン振りのオーダーメイド一式と小刀一本のみ。

水中で弓を射ったことはあるけど全然飛ばなかったんだよね……

僕は【遠距離特化】っていうスキルがあるから近接攻撃はダメージ-50%、遠距離に+30%のボーナスがあるからできる限り遠距離攻撃が○なんだけど……

むむ……水中銃でも実装……されないだろうなぁ……

スパスパと魚を斬りつつ辺りを見回す……

あ、何かある。

……扉かぁ

多分ダンジョンの入り口……だと思う。

……でもなぁ……水中だと弓はなぁ……産廃だからなぁ

…………とりあえず一旦戻ろう。

海底に足をつけて……と。

手早くウィンドウを操作していつもの装備に戻して……

 

「《飛翔》」

 

ザパァ!と水飛沫とともに飛び上がる。

そして……最近謎に練習していた技術を使って天井に着地!

……キャッスルヴァニアのアクションで無かったっけか。

まあ、いいか。

 

「む、戻ったか」

 

僕の飛び上がる様を見たのか……いやまあ、湖付近にいたら誰でも見えるか……

僕の飛び上がる様を見たミィがそう言った。

少し指で釣竿をトントンと叩いていることから釣果はそんなによろしくないみたい。

 

「もう一度……《飛翔》!」

 

今度はミィたちの方に向かって飛んでいく。

 

「……二つ名がついてから動きがダイナミックなったと聞いたが……噂は間違いではなかったみたいだな」

「ま、大体この装備のおかげだけどさ」

 

気分の問題でマントを絞る。

ギュゥゥゥと音を出し水を絞り出す。

 

「へくちっ!」

「あれ?ゲームでも風邪ひくの?」

「気分の問題だよ……」

 

とりあえず画面を操作して白い鱗をバラバラと排出させる。

 

「はい、上げる」

「え?いいの?」

「だってミィとやってもそんなに釣果ないでしょ?」

「いや、まあ。そうだけど……」

「だからこの間と更なる恩の押し売り〜返済期限は無期限でいいからね」

「……相も変わらずお人好しだな」

「前線級のプレイヤーが増えるのはいい事だからね〜」

 

そこでチラっと時計を確認する。

 

「あ、時間不味くない?」

「ふむ……そうだな。そろそろ落ちた方がいい」

「そうだね。それじゃあおやすみ〜」

「え?話早くない!?ゲーマーってこういう人ばかりなの!?」

 

※※※

 

というわけで翌日。

朝、楓の家の前でスマホを弄りながら待ってる。

久々に一緒に学校に行こうと誘われたから。

……と言っても、僕は途中で駅に向かうからそこでさよならだけどね。

それにリサカスも来るみたいだし……

 

「おはよう輝」

「ん?なんだリサか」

「なんだ、とは失礼ね」

「これが僕らの関係のデフォでしょ」

「まあそうだけどさ……もっと浮ついた話とかないの?年頃の男の子でしょ?」

「僕にそんなもの望まないでよ」

「……なにも言い返せない」

 

リサカスと話してると本条家の玄関が開き、やっと楓が姿を現した。

 

「おはよー……って理沙もいる!?」

「おはよう楓、遅かったわね」

「おはよう。じゃあ早速歩こうか」

 

親友トリオが揃ったことで通学路を歩き始める。

話を切り出したのは楓だった。

第一回イベントのことやNWOについて。

リサカスが割と楓がゲームにハマったことに驚いてるのを後目に僕はニヤニヤしてた。

 

「……なによニヤニヤしてキモいわよ?」

「うっさい。これぐらい別にいいでしょ。ニュービーの冒険話聞くの面白いんだから」

「そういえば輝は前のイベント何位なの?」

「僕?二位」

「やっぱり初期勢兼トッププレイヤーだとそうなるわよね……」

「そうでもないよ。僕は遠距離からピシピシ殴って姑息にポイント稼いだだけだし」

 

まあ、それ以外のコツも色々とあるけど……

ま、言わなくてもいいかな。

 

「なるほど、なるほど……じゃあ今日から三人パーティーが組めるわね!」

「許可でたんだ?」

「なんとかね……ゲームのためとはいえ久々に勉強がんばったわ~」

「日頃から勉強したらいいのに」

「優等生の輝くんにはこの苦労はわからないでしょーよ!」

「はっ!そんな苦労わかりたくもないね!」

「あわわ……」

 

楓は口喧嘩を始めた僕らを見て慌てふためく。

でもこれが僕とリサカスのデフォだから。

 

「じゃあ今日五時、はじめの広場でね!」

「あぁ!首洗って待ってろバカ!」

 

だから話も普通に進めます。

 

「あれ?喧嘩してない?」

「「してるよ!」」

「ひわわ……」

 

楓も始めてじゃないんだからいい加減に慣れてほしいものだ。

喧嘩するほど仲が良いを素で行くのが僕とリサカスの間柄ですしお寿司。

 

「じゃ、僕駅行くから」

「またね~」

「とりあえずスキル掘りは付き合ってもらうわよ」

「気が向いたらね~」



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リアフレと修正

最新刊買いました。
キャラ属性被りが著しい……まあ、アキラは奴と違ってかなり陽気でお人好しですが……


リサカスがゲーム解禁されてから数日後。

僕たち親友トリオはファストフード店で若干テンションを下げていた。

原因は……

 

「まさかメンテがイベント開始二週間前に入るなんて……」

 

そう。

メンテのこんちきちしょうが行われ数々の修正が適応されたから。

といっても、NWO始めたばかりのリサカスことサリーにはそこまで影響はなく。

どちらかというとスキルで大暴れした楓ことメイプルに大きな影響を与えた。

とりあえずわかった情報をまとめる。

 

その1

スキル修正

対象スキルは運営のアナウンスで公開されていないため、所持者のみがわかるようになっている。

例えば僕が使っていた【トリプルスティング】

これは威力の上方修正とそもそも弓の装填速度が少し早まったりしている。

……問題は楓と僕が使っていたスキル【悪食】

第1回イベントで猛威を奮った影響か1日10回制限が追加された。

その代わりMP付与効果は2倍になっているらしい。

あからさまなメイプル弱体化……

ではなく、普通に【悪食】が強すぎるからだと思う。

1回だけ試した見たんだけど、メイプルでも悪食くらったら即死だからね。

HP8分の1で捕食可能とかの条件付きにした方が良かったまであるよコレ。

 

その2

防御貫通効果を持ったスキルの実装。

これはあるあるだよね。某ハンティングゲームとかにもあるからいつかは……と思ってたけど。メイプル誕生により実装を早めたのかな?

……なぜだろう。防御を無視しても無視できない防御バフとか生まれないか心配だ。

 

その3

敵AIの強化。

メイプルの異常の原因のひとつ【絶対防御】の取得を難しくするため。

というより、実質取得不可能……いや、ヘイトを向けるスキルを所持してればいけないことはないから無問題?

どちらにせよひと手間必要になったかな。

 

「全部見事にメイプルが関係してて笑いそうになるよ」

「まあ、レベル20でトッププレイヤーを凌ぐ活躍をしたらそうなるわよね……」

 

よく考えたらそれもそうだ。

友達だからって理由で気にしてなかったけどメイプルはまだまだレベルは中堅以下。

高レベル帯にまだ到達してないのに無双してたからなぁ……

 

「とりあえず防御貫通スキルがどれくらいの種類と威力があるか探らないと……」

「武器種すべてにあるのかしら?」

「大剣の防御貫通は脅威だなぁ……その代わりスキルの攻撃係数が低かったり、取得条件が厳しかったりするかも?」

 

ゲーマー2名はツラツラと予想を並べてみる。

うーん……

弓にはあるだろうし、威力が小さいだろうけど魔法もありそう。

全員のプレイヤーにメイプルに勝てるチャンスを与えられるだろうから……

 

「ごめん!」

「……うん?」

 

楓がいきなり謝ってくる。

 

「どしたの?」

「私、ノーダメージじゃなくなっちゃったし……これじゃ3人で無敵のパーティになれない……」

「……理沙、どんな入れ知恵したの?」

「私が回避盾で楓がメイン盾。輝が接近される前に全部落とす砲台。なら、無傷で……って感じ」

「なるほど……最強の演出……でもそれならダメージエフェクト出た時が厄介じゃない?ほら、なまじ攻撃が通じると絶望感が出るけど、正真正銘のノーダメージだと先に諦めが来ると思うよ?」

 

わかりやすく言うと魔王系の少しだけHPが減るのとメタル系の無ダメージだと感じることが違うよね?ってこと。

 

「そうそう。《絶対》ノーダメージじゃなくなっただけ。大盾の扱いをマスターして、もし防御貫通攻撃を受けてもいいようにHP上昇装備とかで補えばまだまだ最強クラスになれる」

「な、なるほど……!」

 

ジュースを喉に流し込む。

プヘェと声を漏らし楓のスマートフォンにメッセージを飛ばす。

 

「……これは?」

「楓でも取得できるHP増強系スキルの一覧。上から取得しやすい順に並べてる」

「ずっとスマホ弄ってると思ったらこんなの作ってたの……?」

「情報なら僕が1番持ってるからこれぐらいはね」

「あ、私の方にも来た……【超加速】?」

「僕じゃAGI足りなくて取得できないけどリサカスならいけるかなって。回避盾に速攻アタッカー、どれをするにしても必須級のスキル」

 

今まで集めてた情報をフルで使って友達のプレイ環境を充実させる。

ある意味お人好しだけど……

 

「まだ未発掘のスキルいっぱいあるし、魔法系ならミィとかフレデリカの方が情報量は多い。それに各人が切り札にしてる【聖剣】、【崩剣】に【神速】とかは未だに情報不明瞭。僕の【天眼】に至っては取得条件がきついからおすすめはしないよ」

 

わかってる限りの情報を2人に送る。

といっても予想でしかないけど。

 

「……推定取得条件、200m以上は離れているエネミーを倒す……無理ゲーじゃない?」

「出来たから無理ゲーじゃないよ。それにその他の条件があるかもだし、今回の修正で条件緩和されてるかも」

「ヒカルはマサイ族かなにかなの?」

「楓にそれを言われるのは少し心外だけど……それなりに目はいいよ?」

 

ずっと視力Aをキープしてるのはひそかな自慢だったりする。

 

「ま、何をするにせよ1度潜ってみようか」

 

※※※

 

というわけでゲーム内。

2人がログインする前にスキル屋に直行。

なにか新しいスキルが追加されてないか確認してみる。

 

「さすがにないかな……おっと?」

 

前に来た時にはなかったし豪華な箱がある。

……非売品なのかな。触ることで見れるアイテム概要には値段が書いていない。

 

「ほっほっほっ……その書物に興味があるのかね?」

「……あー……なるほど。はい、ありますよ」

 

どうやらクエストの導入のようだ。

 

「そうじゃな……その書物は売り物では無いのだが……ふむ」

 

そういうと店の店主らしきおじいさんはお店に備え付けられてる絵の方へ歩いていく。

その絵は……多分ドラゴンを書いたもの……かな?

 

「この竜の鱗を取ってきてはくれんか?」

 

……要はドラゴン倒してこいと……まあ、別にいいですけど。

クエストだから受領したなら気が向いた時にやればいいし。

そこでウィンドウが開かれる。

なになに……?

 

「【竜の奥義:序章】?」

 

キャンペーンタイプのクエストか……あれかな、第二層に続きがあるやつかな?

……とりあえず受注して時間がある時にでも進めようかな。

 

「おお、受けてくれるのか。気が向いた時で良い。いい知らせを待っておるからの」

 

そう言ってご老人は店の奥に消えていった。

 

「……とと、早く広場に戻らないと。そろそろ2人も来るだろうし」

 

僕がそう言って後ろを振り向くと

 

トスッと軽い音が鳴り、僕の額に短剣が刺さった。

 

「もうとっくに来てるわよ。クソゲーマー」

 

額からジンジンと焼け付くような痛みが僕の体を襲う。

 

「あー!!あーーーー!!」

「メンテで痛みは緩和されてるとはいえ、頭部ダメージはやっぱりそれなりに痛いみたいね」

「いきなり人の頭にナイフ突き立てていうセリフがそれ!?性格悪いよ!」

「あらヤダ。人との約束ほっぽり出してスキル屋に行く方が性格悪くない?」

「ぐににに……」

 

腐れ縁のゲーマー友達のリサカスのアバター、サリーが短剣をクルクル回しながらそういう。

僕限定でかなーり愛想が宜しくない。

基本的にバッシングとか場外戦闘をとかがデフォルトの関係だから仕方ないといえば仕方ないのだけれど……

 

「……あれ?その装備どうしたの?」

 

ふと、視線を下げると見たことの無い装備で武装していた。

僕が見た事ないとなると……

 

「大体察しはついてるんじゃない?」

「やっぱりユニークシリーズか……ということは例のダンジョン?」

「そそ。メイプルもアキラも戦力にならないんだからソロでやってやったわよ。ま、その分かなり強力だけどね」

 

ピースサインを見せつける。

……まあ、一点物の装備をゲットできたらもちろん嬉しいよね。

 

「それでメイプルは?」

「あー……遅いから置いてきた」

「アジ0だから仕方ないと思うけどさ、それって友達としてどうなの?前みたいに背負ってえば良かったのに」

「いや、そっちじゃなくて。お風呂とか入ってから来るとか言ってたから」

「なるほどね……僕もサリーもログアウト後にシャワー派だからなぁ……」

 

とりあえず2人でスキル屋を後にして広場に行く。

 

「とりあえず……なにしようか?」

 

※※※

 

「……そこ!」

 

アキラの弓から放たれた矢は明らかに有効射程外のモンスターに対して吸い込まれるように進んでいく。

そして……

頭部に直撃し、モンスターはその体をポリゴンに変え消え去った。

……何度見ても暉の規格外級射撃PSには驚かされる。

私じゃシステム補正外の射程に対する有効な攻撃手段なんて基本的に開拓すらしない。

なのに、この腐れ縁ゲーマーと来たらどんなゲームでもほぼ即座にそれを発見し実践レベルにまで引き上げてくる。

 

「……サリー?どうかした?」

「何度見ても射撃はすごいなーって思ってたのよ。なんで近距離は壊滅的なのかねぇ……」

「ムッ、最近はそこそこ当たるようになってきたんだけど?」

「確率は?」

「……3割前後……でも、前から比べるとすごい進歩なんだよ!?」

「アキラから見て進歩だとしても、普通はそれでスタート地点だからね?」

「わかってらい!」

 

多分、暉が近距離PSを上げ始めたのはゲームを始めた友人……不本意ではあるけども私の親友、本条楓の影響だろう。

私との付き合いの方が長い癖にあのゲーマーは楓に若干お熱である。

……だからなんだという話だけど

……なにか気に食わない。

 

「そういえばそのドラゴンはどこに生息してるの?」

「えっとね……クエスト情報によれば」

 

そう言いながらアキラはズイッと近寄ってマップを見せてくる。

小さい時、まだ遊んでたゲーム機が携帯機の頃。

こうやって肩を並べて画面を見せあったのが今にも出てる。

私限定の暉の癖だ。

 

「氷山の頂上にあるダンジョンの奥地……多分新規ダンジョンかな」

「じゃあソロでやれば……」

「まあユニーク手に入るだろうね。でも、僕らには必要?」

 

そう言いながらアキラはクルリと周りマントをはためかせる。

確かにサービス開始して間もないとはいえ、サーバー毎1つしかないユニーク装備を所持してる私たちとしてはいらないと答えるところだ。

 

「まあ要らないわね。それにしてもメイプルも来ればよかったのに」

「親御さんに止められたのなら仕方ないよ……それじゃあ、今夜は頑張りますか!」



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腐れ縁とキャンペーンクエスト

サリーが腐れ縁の意地で仲良さげアンケート2位にいるのすごいなぁ……
だれだよクロムに入れたの


「さてと、来ました新マップ。道中防御貫通スキルを得られたこと以外は全部想定の範囲内だね」

「絶対私のレベル帯で来るところじゃないわ……エネミーの硬いこと……」

 

僕の言葉にゲンナリしながらサリーは愚痴をこぼした。

いつもふたりで高レベル帯に低レベルで突っ込んでる人とは思えない口振りだ。

 

「でもその分経験値は美味しかったでしょ?僕でも1レベ上がったぐらいだし」

「そりゃね……ここ付近絶対難易度高めに設定されてるわ……」

 

そう言いながらサリーは画面を操作し新たに習得したスキルの確認をしていた。

僕はさっきも言った通り、弓の防御貫通スキル【ピアースストライク】を取得。

あとは【弓の心得】がXIに上がったり……それぐらいかな。

 

「何せ今日はどう足掻いてもボス級のドラゴン討伐!これで心躍らなかったらゲーマーじゃないよ」

 

肩を解しいずれ相対するボスを想像する。

絵にはお手本のようなドラゴン。

大きな翼に鋭利な鉤爪。

しかもクエスト名は【龍の奥義:序章】

奥義と言うからにはドラゴン関連のスキルが手に入るかもしれない。

それに序章。

キャンペーン感を醸し出すタイトルに僕はさっきからワクワクしっぱなしだ。

まだ誰も知らない物が手に入るかもしれない。

それだけでゲームをやってるかいがあるってものだ。

 

「ポーションよし、各種バフ撒きアイテムよし。いちおうの経験値増加アイテムよし。じゃあ行こうか」

「はいはい。レディーファーストね」

「仕方ないじゃん。僕は遠距離が本領なんだから」

 

軽口を言いながらダンジョンへ入っていく。

出迎えてくれたのは大きな大剣と弓。

ボロボロだけど、触れることでウィンドウが表示される。

つまりは立派なアイテムだってことだ。

 

「【歴戦の大剣】と【歴戦の弓】……か。まるで何年か前の狩猟ゲームを思い出させるようなネーミングだね」

「スペックはどう?」

「一応ネームドっぽいから期待してみたけど……見た目通りにだいぶ減ってる耐久値にそこまで高くない付与効果……一応、威力は前線級だけど……わざわざ取るようなものじゃないかな」

「で、早速インベントリに入れると」

「だってこういうのって持っていたら何かあるのがゲームの常じゃん?エルダースクロールで学んだよ?」

 

というわけでふたつの武器をインベントリに放り込む。

 

「それじゃあ張り切って探索行ってみよー」

「おー!」

 

※※※

 

「ざるい!弱い!」

「私の出番全くないわね」

 

多分火力が高めに設定されてるであろうエネミーの群れをミリオンショットによるゴリ押しで突破した辺りで察した。

このダンジョンで湧く【ドラゴンベビー】なるエネミーは防御力が低い!

 

「いっそのことさ……ドラゴンゾンビとか……」

「出たら私真っ先に帰るわよ?」

「だよねー。歯ごたえ無さすぎて面白くない!」

 

そりゃあ僕の火力はそれなりに高い。

だからと言ってここまで弱いと拍子抜けしてしまう。

そして何より

一定レベルのモンスターなら僕ら2人は当たると死ぬ。

そのせいで当たらない立ち回りばかりしてるからエネミーの利点も全く関係ない。

 

「というわけでボス部屋らしき広場の前です。どうしよう」

「行くしかないんじゃない?」

「ボスもベビーみたいな性能だったらほんとに拍子抜けだよ……」

 

真っ暗闇の広場に僕達は足を踏み入れた。

よくある演出だと壁際にあかりが点ったりするんだけど……

あかりが点るよりも早く目の前に赤い目が現れた。

その瞳は大きな羽ばたき音と共に上に飛び上がり

そして……

大きな咆哮と共に天井部分が吹き飛ばされ太陽の光が僕らとボスである【アウェイクドラゴン】の姿を照らした。

 

「これは……戦いがいがありそう!」

「やっぱりこういう時は滾るわね!」

 

僕達は各々の武器を構え戦闘態勢を取る。

ギリギリと弓に矢を番えてまずは先制攻撃。

ドラゴンの鼻面を捉えた矢はまるで大砲の砲撃のような粉塵を出し直撃を僕達に知らせる。

だが、その攻撃を意に返すことなくドラゴンは僕達に向かってその腕で薙ぎ払ってきた。

 

「サリー!」

「オーライ!」

 

サリーは僕を踏み台にして飛び上がる。

そして僕はすかさず

 

「【飛翔】!」

 

天空に目掛けて飛び立つ。

途中でサリーを拾い、2人でドラゴンの攻撃を上からみている。

 

「注目すべきは咆哮かな。ギミックだけとは思えない」

「同感。それにさっきのベビーたちの長だっていうなら咆哮自体にダメージ判定あるかも」

「ところで落下ダメージとか大丈夫?」

「僕が緩衝材になれば多分」

 

瞬間移動を行う疾風は味方と接触している時に使うと明後日の方向に味方を吹き飛ばす性質がある。

だから今回みたいな状況では使えない。

 

「すみませんアキラさん」

「んー?」

「自由落下始まってます」

「知ってる知ってる」

 

着地寸前に風魔法を下方向に放てば多分ノーダメだから……

 

「あ、やっぱり空中追撃モーションあるんだ」

 

そう。ドラゴンさんは首を真上に向け、僕達の方へ一直線に飛んできた。

 

「多分アキラ専用じゃないかしら?他に空飛ぶ人私知らないし……」

「ミィは飛ぶよ。カスミも一時的に跳ぶし……まあ、一番滞空時間長いのは僕だね」

 

でもまあ、足場から向かってくるなら楽だ。

どうやらサリーも同じことを考えていた用でこっちに顔を合わせニヤッと笑ってきた。

そんな中、足場が爪をたて攻撃を行った。

 

「よい……やっと!」

 

僕は背中に背負っていた蒼月を振りかざし……

ドラゴンの腕を消し飛ばした

 

「……あ」

 

蒼月のスキルスロットに悪食付けてたんだった……

オンオフとか出来ないから勝手に悪食が発動して腕を食べたのか……

勢いのついた一撃をお見舞いしようと思いっきりぶん回したせいでグルングルンと視界が回転する。

 

「アババババ」

 

唯一の救いはドラゴンが攻撃によるノックバック判定をなぜか受けたことで追撃をキャンセルしていたことだった。

 

「【スラッシュ】!【パワーアタック】!」

 

気付いて無いのか気付いた上で放置してるのかサリーはゲシゲシとドラゴンに攻撃している。

そして不意に視界の回転が収まり、僕は地面に叩きつけられる。

 

「……蒼月が地面に突き刺さって一時的に運動エネルギーが0になったのかな……物理演算がザルで助かった」

 

ダメージは装備が受け止めHPは減ってない。

……?

でもなにかが……

 

「あ……物理演算割とまともだった?」

 

僕の手にはポッキリと折れた蒼月の柄。

どうやら衝撃のほとんどが蒼月の方に行ってしまい折れた……って感じかな。

 

「【破壊成長】がなかったら泣くところだった……とと、サリー大丈夫?」

「大丈夫……だけどやっぱり私の攻撃力だとジリ貧過ぎる!早く援護射撃お願い!」

「オーケー。じゃあ遠慮なく……」

 

ステータスパネルを出現、アイテム一覧から適当な大剣を呼び出し背中に出現させる。

 

「普通に矢を射るよりもこっちの方が断然火力出るし……【トリプルスティング】!」

 

3つの光の矢となった(多分メンテによるスキル仕様の変更によるもの)大剣はドラゴンの両目と口を穿つ。

ダメージを受けたドラゴンは吠え、サリーを意に返さず急上昇を始める。

……ふとドラゴンの体力バーを見ると4本あったバーの内、1本が消え失せていた。

ようは行動パターンの変更か特殊行動……

観察する前に自由落下してるサリーを拾わないと。

 

「右……いや、もう2歩左かな」

 

落下位置を予想しその地点に手を伸ばす。

すると予想は的中しポフッと音を立てサリーは僕の腕の中に収まった。

 

「やあ、おかえり。空の旅はどうだった」

「存外に気分はよかった。とりあえず下ろして」

 

サリーに従い彼女を地面に下ろし2人して上空のドラゴンを見据える。

 

「ギャーギャー叫んでうるさいわね……」

「あーでも叫ぶ度にHPの上にあるバフ効果増えてる……」

 

3回ほど吼えるとドラゴンは今一度地上付近までやってくる。

 

「……!!サリー、飛び退いて!」

「へ?」

「遅いよ、全く!」

 

唐突に悪寒が走り僕はサリーを巻き込みモンハン式緊急回避を行う。

次の瞬間、僕らがいた場所はゴォッ!という爆音と共に削り取られていた。

 

「予備動作なしの攻撃……多分ダメージは低めだろうけど……」

「私たちなら即死待ったナシね……」

「そういうこと。VITゼロコンビだからね」

 

でもまあ、予備動作なしとはいえ僕が悪寒を感じる=何かしらの予兆があるってことにもなる。

……いやまあ、勘だったらアレだけど。

 

「とにかく口の延長線上には立たない方がいいか……面倒な」

 

正直なところ、僕は攻撃力には自信があった。

蒼月を事故って折ってしまい、他の大剣で代用したとはいえ、火力は相当なもののはずだ。

……いやまあ、4回やればボスの体力全部弾け飛ぶ火力は十分におかしいか。

 

「タゲは僕が取るからサリーはその隙にポカスカ殴っておいて」

「そのいいかたキャリーされてるみたいで腹立つわね。仕方ないけど」

 

僕の意見に不満を少しもらしながらサリーは従う。

 

「【超加速】……【ダブルスラッシュ】!」

 

一時的にAGIを上昇させ切り込むサリー。

一瞬だけドラゴンの視線がサリーに向くけど、無防備な横っ面に僕が矢をねじ込む。

それによりタゲが僕に切り替わり、下顎ががら空きに。

 

「余所見してんじゃないわよ!【ダウンアタック】!」

 

ノックバック値が高めに設定されてる攻撃によりドラゴンは頭を大きく仰け反らせる。

 

「少しサクッと行きますか【ストロングショット】」

 

STR依存の火力高めスキルを仰け反った頭に命中させ、もうひとつゲージを消し飛ばす。

 

「簡単にHP溶ける溶ける……この調子なら……」

 

こっちを向いたドラゴンを確認し僕は例のスキル

 

「【疾風】」

 

を使い、ドラゴンの真横に転移する。

ドラゴンは例の予備動作なし攻撃をしていたのかさっきまで僕がいた場所を見ている。

 

「これはお返しだよ!」

 

破壊成長により復活した蒼月と弓を持っていた手に歴戦の大剣を構え、豪快に振り回す。

 

「さすがに僕でもこの図体と距離なら余裕!【ダブルスラッシュ】!」

 

途轍もない音と共に振り抜かれた連撃はドラゴンの顔を完璧に捉える。

2本の大剣に同時に【ダブルスラッシュ】が適用されたことにより攻撃回数は4回。

正直なところ、何気に攻撃倍率が0.8倍の矢を大量に放つ【ミリオンショット】が攻撃倍率0.5倍に下げられたりしたから今の僕の最大火力は遠距離特化を適応しない場合、この大剣二刀流が抜きん出る。

……遠距離特化消してないから随分と威力削がれてるんだけどね。

 

「よし、言うか。『やったか!?』」

「随分と楽しんでるわね……アキラの近接攻撃だとHP残るんじゃないかしら?」

「うん、知ってた」

 

本当に知ってた。【天眼】による自動ダメージ算出機能により、どう足掻いてもHPが残ることは文字通り目に見えていたからね。

 

「さて……最後の悪あがきを見てみますか……」

 

と呟いてドラゴンのHPバーを見ようとした僕の目には

 

 

 

 

 

 

4本目まで満タンのHPバーを持つドラゴンが映っていた。



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炎帝の受難

負けイベ勝つシーンが思い浮かばないんですよ……


「不完全ねんしょーだよ……」

 

ミィが拠点にしている宿屋に押しかけぐでーと机に体を預けブーたれる。

 

「文句ばかり……」

 

ミィが部屋をロックし他のプレイヤーが入れないようにした事で今は昔のような口調で……いや、素の口調で話している。

 

「でも新しいスキルは手に入れたんでしょ?」

「……まあね」

 

赤と緑のマグカップにホットドリンクを入れミィは椅子に座った。

どうやら話を聞いてくれるみたい。

 

「第二回イベントに向けての自己研鑽……じゃなくて、メンテナス後に追加されたイベント巡りの一環でやったんでしょ?

今更アキラが苦戦するようなエネミーと遭遇する方が難しいと思うけど」

「このゲームレベルキャップとか聞いたことないし多分そうなんだろうけどさ……」

 

ウィンドウを操作しとある装備をミィに見せる。

 

「これが今の僕の装備」

「あれ?あのユニーク装備から変えたんだ?」

「いや、変わってないとも言えるよ。ただねぇ……」

 

右手:轟竜(弓)【環境無視】【防御貫通強化】【覚醒成長】

左手:蒼月(大剣)【覚醒成長】【スキルスロット】【悪食】

頭装備:竜王の羽飾り【竜王】【覚醒成長】

体装備:竜王の軽鎧 【疾風】【竜化】【覚醒成長】

足装備:竜王の衣 【飛翔】【空中適性】【覚醒成長】

靴装備:竜王のブーツ 【空中歩行】【覚醒成長】

 

「……なにこの見たことないスキル群」

「イベント戦で手に入った竜王装備……」

「それは見てわかる……」

 

とりあえず僕が使ったことのあるスキルは置いておいて、概要を確認しよう。

 

【環境無視】

この武器により行われるスキルや攻撃はありとあらゆる環境による影響を受けない。

 

要は水中でも普通に矢が飛んだり、嵐の中でも真っ直ぐに飛んでいくってことなんだろう。

……チートだ。

 

【防御貫通強化】

防御貫通属性を持つスキルのダメージを上昇させる。

【覚醒成長】により強化される。

 

倍率や増加値によるけど、単純な分野限定の火力バフってだけで怖いです。

 

【竜王】

常に発動。

【覚醒成長】により強化される。

 

……まあ、とりあえずスルー

 

【竜化】

一日一回効果発動。

スキルを使用してから一時間の間、自身に【竜】特性が付与され各ステータスが1.3倍となる。

【覚醒成長】により強化される。

 

成長しなくていいんだよォ!

 

【空中適正】

両足が地面に接触していない場合、常に攻撃力+10%。

【覚醒成長】により強化される。

 

【空中歩行】

空中に不可視の足場を作り出すことが出来る。

地面に触れることで回数が回復する。

現在1回

【覚醒成長】により強化される。

 

「……で、肝心の【覚醒成長】なんだけどさ」

「もう頭痛いから見たくない……」

「ここまで来たら見てもらう」

 

嫌がるミィを無視し【覚醒成長】のスキル概要をタップする。

もし見なかったら逐一自動送信のメッセージでスキル概要が飛んで来るだろうからミィも観念して見ることにしたみたい。

 

【覚醒成長】

このスキルには必要経験値が設定されている。

必要経験値が満たされる度に武器の性能、適応するスキルの効果が上昇する。

また、このスキルは【破壊不可】を内蔵している。

 

「……レベルアップする武具ってどうなの」

「で、でもほら!エルダースクロールには似たような効果持ってるデイドラ武器あるし……FFシリーズにもちょっと違うけど、逃げた回数で性能が変わる武器あるし……」

「そういえばあったね……でも肝心なのが……」

「……もう想像ついてるから言わないで」

 

うん、だいぶ困ったことになった。

僕が保持していたユニーク装備が全部この竜王装備に置き換わってしまったのだ。

……原因は分かってる。

恐らく負けイベを僕とサリカスが意固地になって強引にクリアしたからだと思う。

毎回思うんだけど、このゲーム負けイベとか無理ゲーをもしクリアしたらそれ相応の対価があるのおかしいと思うよ。

歴戦の弓と大剣が変化し、僕とサリカスの武具を進化させたって感じに変化したんだけどさ……

サリカスも頭抱えてたよ。

しかも僕側が【竜王】でサリカスが【竜姫】

ぜぇぇぇったい対比される。

……そういうのはミィとペインだけでいいんだよ。

 

「そ、そういえば!」

 

無理に話題を変えようとミィが口を開いた。

 

「風の噂で聞いたんだけど、一層に美味しいカレー屋さんが出来たみたい。今から行かない?」

「ん?あー……あそこか。いいけどミィは変装することをオススメするよ」

「変装……?なんで?炎帝の格好が目立つから?」

「それもある。まあ、結果的に炎帝だってバレると面倒なことになるからだけど……」

「……アキラが言うならわかった。そうするよ」

 

※※※

 

ミィが髪の色を変え、服装もいつもの赤を基調とした物から一般販売品の変えて出てきた。

別に装備を変えるぐらいならゲームの仕様で服とか脱げないけど、気分の問題ってことで僕は宿屋のエントランスで待つことにされた。

 

「そういえば呼び方も変えた方がいいか。ミィでしょ……ミケ?」

「私は猫じゃない」

「やっぱりダメ?」

 

そういう僕も中盤で使ってた軽鎧を見に纏い、髪型も目元まで隠れるモノに変えた。

多分知り合いでも僕だってバレないだろう。

 

「ミノ……ミカ……ミカでいいか」

「じゃあアキラは……アキ?」

「まるで女の子の名前だね。別にいいけど」

 

というわけでアキ(偽名)とミカ(偽名)のお忍びパーティが結成された。

ちなみに言うと、全然意識してなかったし僕も指摘されるまで気が付かなかったのだけど。

この時のミィは

 

(もしかしなくてもこれってお忍びデートってやつ!?)

 

と思考をだいぶ賑やかな感じにしてたみたい。

……炎帝さん、少し落ち着いて対処しようか。素の君があれだから無理だろうけど。

件の風の噂のカレー屋さんはすぐに見つかった。

行列があることもそうだけど、そもそも一層にカレー屋さんが一軒しかなかっからね。

まあ、問題は……

 

(なんでメイプルがいるのかな……)

 

そう、メイプルがそのカレー屋の行列に並んでいたからだ。

変装を看破されそうで怖い。

僕がバレる分にはいいけど、ミィがバレると悲惨な目になし崩しでなる未来が見えるから。

 

「ね、ねえミカ。今日は別のところにしない?」

「……?」

 

ミィは察しが悪くそのまま行列に並ぼうとする。

……そして

 

「おう、アキラにミィじゃねぇか。最近よく2人一緒になってるのを見るな」

 

メイプルではなく僕らの真後ろにしたクロムにバレました……

 

※※※

 

結局あの後メイプルにもバレ4人でひとつのテーブルにつくことになった。

 

「お前たち二人が来てるから例のチャレンジをしに来たのかと思ったが……その変装の仕方からすると違うみたいだな」

「……チャレンジ?」

「僕がミカがバレると面倒だって言った原因。今の期間、このお店では激辛チャレンジがある」

 

へぇーと相槌をうつ女性陣2名。

……まあ、炎帝モードじゃないミィはこんなのだからいっか。

というか、メイプルも知らなくて来てたんだ。

 

「でもチャレンジってことはクリアしたら何か賞品が貰えるんでしょ?」

「そうだな。ポスターにも『粗品差し上げます』と書いてある。だがな……」

「確かまだチャレンジ達成したプレイヤーいないんだっけ?」

「え、そうなの?」

「ああ、そうだ。まずこの激辛カレーだが……食べると火属性の極大ダメージが入る」

「「カレーでダメージ!?」」

「そして、耐性がない場合は火傷が付与され、当たり前だがゲームの味覚エンジンギリギリの辛さ設定にされてる」

「体験した人曰く暴力を通り越した殺人的な辛さらしいね」

「ああ、それは間違いない。だが火属性ダメージだ。属性軽減スキルやVITの数値でそれなりに誤魔化すことも出来るし【不屈の守護者】とかのスキルも発動する」

「なにそのカレーとのバトル……」

「もし身バレしたらなし崩し的にミカが挑戦することになるだろうから黙ってたんだけどねぇ……どうする?する?」

 

クロムとメイプルの手前、炎帝という大層な二つ名を持つミィは引き下がりにくくなってるだろう。

多分ミィならクリアできる。

それに予測でしかないけど、このチャレンジ、食べるという目的ならもしかしたら火属性ダメージ耐性スキルを取得出来るかもしれない。

まあ、異常なVITのメイプルもいるからメイプルでもクリアできるかもだけどメイプルなら味覚の方に限界が来てギブアップしそう。

というか、多分する。

 

「僕もやろうと思ってたんだけど、ダメージが入るなら話は別。絶対即死するから無理」

「あー……なるほど。アキはVITの数値が0だから……」

「そういうこと。火属性耐性スキルなんて持ってもないね」

 

そう言うと僕は普通のカレーを注文する。

 

「クロムは挑戦するの?守護者あってもスリップダメージで死にそうだけど」

「今更デスペナ怖くてNWOやってると思うか?」

「さすがフロムムーブしてるクロムなだけあるね」

 

クロムはやる気満々で……いやまあ、怖いもの見たさもあるか。

激辛チャレンジに挑戦。

それだったらとメイプルも参戦を表明。

あとは……

 

「………」

 

黙りこくっているミィだ。

 

「無理しなくてもいいんじゃない?」

 

と一応は言って見る。

だけど……

 

「炎帝なら行けると思ったんだがな……誰もクリアしたことが無いチャレンジ結構な知名度に繋がるよな」

「……まあ、失敗したら別の知名度に繋がりそうではあるよね。メイプルを覗いて」

「なんで私?」

 

だってどう足掻いても『メイプルかわいい』で済まされるじゃん。

そんな時だった。

 

「メイプル?……あとはクロムと……なら一緒にいるのは無名のプレイヤーじゃないだろうな」

「ミィに似てる子がいるな……変装か?……それにあの軽鎧……一時期アキラが使ってたのと酷似してるな」

 

ガヤガヤと周りが賑わってくる。

……正体看破されそう。怖い。

というか、なんで鎧の形状から推察されてるの?

 

「やはり炎帝と天眼か?」

「特に天眼は顔が広いことでも有名だからな……メイプルやクロムと友好関係にあっても不思議じゃない……」

「となると、あの天眼がつるむとなると……」

 

外野は推理を続ける。

もうほとんど正解だから冷汗も止まった。

 

「フフフ……」

「……ミィ?」

「アキラがクリア出来ないというのなら私がここでクリアしてやろう!」

 

炎帝モードをONにし、変装を解いたミィはどうやら後に引けなくなったのを察していつもの装備で激辛チャレンジに挑むことにした。

結果だけ言うとね

 

 

ご馳走様でした。色んな意味で美味しかったです。




ところで仲良しアンケートはサリーがメイプルを逆転しましたね。


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