ジン「俺、実はビビりなんだ」 (レ星空)
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ジン「俺、実はビビりなんだ」
俺は、スコッチ? それは俺の心友だと前世知識抜きに思ってる人間だが、彼が件の絶体絶命状況に陥ったのを知り、マジ卍!(言葉にならない思い)と現場に向かったら──暴力的手段に頼ったものの、幸い彼の死を防ぐ助力になれた。
─が、鉢合わせてしまった実はNOCなメンツに捕まって色々尋問され、ぶち切れて「俺の一番ヤバイ秘密教えてやるから、それで満足しろ!!!」と啖呵をきったところだ。
「──俺はチキンだ」
「は」
「ちっ...びびりって意味だ」
「いやいやいや!? あ、チキンて隠語でも何でもなくそのまんまの意味なんですね??」
「まて、本当にチキンボーイならそんなことをドヤ顔で告白できないはずだ」
「...俺だって恥じを忍んでんだ。察せ」
「ほー。それが君の照れを隠す顔か」
「嘘でしょう!?」
俺(ジン)が勇気ある告白をした瞬間、ライは一見ポーカーフェイスを崩さないようでいて呼吸を止め、言葉の意味がやっと脳に浸透したバーボンは取り乱した。しかし、
「テメェら、疑ってるな?」
むしろスパイがジン(俺)のこんな自己申告を一発で信じてたら世界が廻らなくなる。頭の病院が来いというレベルだから、別に正直な事を言ったのに疑われても悲しくなんてない。
俺の否応なしに鍛えられた観察眼から、ライもバーボンも困惑を隠れ蓑に本心を隠して俺を伺っていることがわかる。『疑ってます』とあからさまな警戒を出さないのは、今まさに何だコイツ状態の俺から情報をより引き出すための様子見ポーズをとっているに過ぎないんだ...。
前向きに考えれば、内心コイツらがどう思ってようが俺にはわからないし、最初っから疑心を表面に出して突っ掛かられるのは結構クるので、その社交的に取り繕った姿勢は俺の精神衛生上有り難くはある。
さっさと教えてやるか。
─わかりやすくチキンと言ったがな、つまりそれは感受性が豊かという意味なんやで工藤。
ああ、悪いお前は心臓に毛が生えていたな。
ヤだなぁ。服部、テメーもだろ。
(俺の)緊張を解すために脳裏の一端でアホなことを考えながら溜め息をついた。
「ライ、バーボン。どちらでもいい、刃物を持っていたら貸せ」
「.....?」
意図はわからないまでも話を進めたいライが懐から弾切れ時や護身用に持っていたナイフを出すとジンに渡そうとし、手を振って断られデスクの上を指されたためその上に置く。
ゴトリと意外と重い音をたてて置かれたナイフをジンは気だるげに眺め、手を伸ばした。
のびた指が触れる直前でバチッと弾かれる。
「!!?」
ライもバーボンも思わず息を飲んだ。
静電気に触れたような反応をした手は再度伸ばされるが、軸がブレたように震え始めた。
手の震えはどんどん大きくなっていく。幾度となくナイフを掴もうとするが、その直前で止まってしまう。震えながらゆっくり近づいていく手の筋肉はビクビクと痙攣のような明らかに可笑しい暴れかたをしていた。
しかしとうとうナイフを掴んだジンは、摘まむ、というか指で作った輪に引っ掻けるようにしてどうにか持ち上げる。
ジンが口を開くのとほぼ同時に別の生き物のように反発する動きをみせた手からナイフが吹っ飛んだ。
「...................な?」
「「反応に困る」」
「ハッ!正直でよろしい。この通り、チキンなもんで拒絶反応がでてまともに刃物を持つことすらできねー」
「.........料理はどうしていたんだ」
「ああ、包丁も開けたくない扉が開くからピューラーしか使ってねぇ」
「銃火器は.....」
「種類によるが銃火器は刃物ほどは恐ろしくないのと慣れだな」
俺自身さえ気持ち悪いと思うものを見せてしまったのはほんの少し悪いと思うが、俺も見せたくて見せたわけじゃない。なんせコイツら言葉を重ねたところで絶対信じない。論より証拠。ガツンとインパクトのあるパフォーマンスを見せられたほうが疑心の払拭まではできなくても少しは信じる気持ちが芽生えるだろ。
「待ってください。俺、あんたが刃物使ってるの見たことがありますよ」
記憶を探っていたのか、俯いていたバーボンが顔を上げ咎めるような鋭い口調で追及してくる。怖い。もう笑うしかない。
「先ほどのは演技に見えたか?」
見えたなら眼医者行った方がいい。
演技を疑えないレベルというか宇宙人が寄生してるか狂犬病かってくらいアレなアレだからな...。
「見えませんでした。...だから、聞いてるんですよ。あなたもわかってるでしょう。誤魔化さないでください」
「俺も同意だ。今のあんたと俺の知るジンはあまりにも違う」
言わんとすることはわかるよドフィ。しかし結論は「俺がびびりである」と既出した答えに収束するし、下手な説明をすると俺の中にある空かずの間に触れてしまうからあまり喋りたくない。
言葉選びに思考をさきながら口を開く。
「......心の抑圧と分離が得意なだけだ」
心の防御機構その一抑圧:強い不安や不快感を無意識へと押さえ込んで表面上なかったことにし、負の感情を消して自分が壊れないようにする。
その二分離:心に本来パッと浮かぶ素直な感情と気持ちをバラッと切り離して何も感じないものとする。自分のパーソナリティの一部を一時的だが徹底的に一部変更する。
これやりすぎると心の歪みが大きくなりすぎて戻らなくなるよ。
「お前らの知るジンはびびりを押さえ込んだ俺だよ。切り替えが深すぎてほぼ二重人格だけど。...もうあっちが主人格かもな。武器も持てませんとなりゃ他の用途に消費される。舐められたら犯されて殺される。這い上がったが、そういう環境にガキの頃から身を置いてんだ」
今は殺しの手段は専ら狙撃だが、初めての時か2回目か3回目か...刺し殺す経験をしてから、まともに刃物を持つことができなくなった。
できなくても、できなくては....。
「ジン、あなたは...」
瞳を揺らすバーボンと閉じたライ。
懐かしい匂いを感じて俺は喉の奥で笑った。...そう反応されると少し嬉しいな。こいつら怖いなーと思ってたけどやっぱ真っ当だな。根っ子から黒に浸かってるやつらより全然いい。
「俺の秘密は話したぜ」
本当にこれ以上話題ないよね。椅子と俺を繋いでいた手錠を抜いて蹴り飛ばして立ち上がるとライが銃口を向けてきた。
「ほー。焦らないんだな」
「今ここで俺を喪えば窮地にたたされるのはお前らのほうだからな」
うっわライの銃口...。めちゃくちゃ感じる恐怖をいつも通り抑圧して涼しい顔をする。
そう、スリーマンセルを組んでいた一人がNOCバレし、その上こいつらも組織に入った時期は近く浅い。信頼は限りなく底辺だ。
そして適当こいてスコッチの処分(嘘)に向かった組織への忠誠厚い俺が死ねば、こいつらが協力関係を結んだNOCかスコッチへの情のために裏切りやがったかという疑いは覆せないほど深まる。
正義の味方さん? お前らはまだ──組織から手を引きたくないんだろう。
どこまでも負けず嫌いな猟犬どもめ。
「俺の秘密が担保だ。黙っててやるよ」
目の前にいるのはFBIと公安だ。俺を本当に捕まえるにしてもFBI預りにするか公安が引き取るかこの状況じゃ絶対揉める。吐き捨てるほどくだらないが、こういう手柄争いは馬鹿にならないほど拗れて後々大きな問題と化す。業種の被ったデカい組織同士はたいてい仲が悪い。
こいつらが俺をしょっぴかずにこんな所に引き留めているのも、殺害命令の出されたスコッチを助けたとかお前(ジン)も組織の裏切り者じゃん!仲間だな!(上手く利用可能?)と色々思惑を巡らせてるだけでなく、黒じゃない方の組織に属する社会人としてそこら辺の大人の事情も考慮して立ち振舞わなければいけないからだろう。
色々な利害を考慮すればとどのつまり、アグレッションの高いこいつらは俺をそのまま放つのを選ぶ。
敵に無防備な背を向けるという行為に内心恐ろしいものを感じながら予想通り引き止められずさっさとドアへ向かう俺に声がかかる。
「ジン....」
迷いを含んだ声が、それでもかけられた。
「スコッチを....いえ、ありがとうございました」
「...俺からも礼を言おう」
....敵にも恩を感じれば頭を下げるか。やるねぇ。
こいつらは、死ぬのかな。
ふと思う。俺が最後にコナンを読んだときも完結からはほど遠かったから二人の運命を俺は知らない。
「...Good Luck」
解釈はまかせた。
境界を越えた瞬間、俺は『いつもの』俺に戻る。
コートの隠しから冷たい携帯を取りだし、数コールで相手は出た。
「ウオッカ俺だ。スコッチは処分した。車をまわせ今日は後──」
何人殺すんだったか。
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・スコッチ
作者の力不足により本編で語れなかった。
ひょんなことからジンの本性を知る。ジンとは仲良し。ただそのことは諸事情から秘密(バーボンにも)にしていた。
バーボンの足音聞いて自殺しようとした瞬間、ほぼ間に合わないけど間に合った主人公(ジン)によって腕を撃たれ、怪我はしたけど死なずにすんだ。
この場にいなかったのはその怪我のため、問答無用で病院おくりにされたからである。
現れたジンとウイスキー二人の衝突緩和のため、いや!ジン俺の友達だから!!!と交友関係は既にバラした。
ジンがスコッチの処分を報告したのは、ウイスキー二人だけよりもその方が彼の死に信憑性を得られるため。
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