異世界グロンギ酒場 (hawk75)
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異世界グロンギ酒場

ここは異世界シラクラント。

イノウェイ王国の首都トシキングの城下町を一人の男が歩いている。

チュートン騎士団めいたサーコートをかっちりと着込んだいかにも堅物といった風情のイケメンであった。

通りの反対側でそのイケメンを見つけるやいなや、尻に散弾銃を撃ち込まれたアフリカ水牛の如き勢いで走ってくる一人の男。

いかにも風来坊といったくたびれた服装でありながら、野暮ったさを微塵も感じさせない溌剌としたイケメンであった。

「一条さん一条さん、知ってましたか!?」

「いきなり『知ってましたか』じゃ何の話かわからん。それと俺の名前はイチ・ジョーだ、何度言ったら分かるんだ五代!」

「<力と技の風車亭>に新しい女の子が入ったって話ですよ。これがもうチョーッ美人さんなんですよ!あと俺は五代じゃなくてゴー・ダイです!」

一日の勤務を終えて屯所を出た街の衛士であるイチ・ジョーが市民の憩いの場である中央広場の噴水の前を歩いているところを捕まえて機関銃のようにまくし立てるのは自称“二千の謎を持つ男”、冒険野郎のゴー・ダイであった。

陽はタジャドル山の陰に没する直前で、秒刻みで闇が深みを増す広場では街灯に灯が灯され、軒を連ねた屋台が食欲を刺激する匂いを漂わせている。

帯剣こそしていないが衛士服をビシッと決めたイチ・ジョーと藤岡弘探検隊に出てくる怪しい現地ガイドめいたビジュアルのゴー・ダイが掛け合い漫才的な会話を交わすという絵面を、道行く人々は(まーたやってるよあの二人)といった生暖かい視線を浴びせては通り過ぎてゆく。

実際何かとお堅いイチ・ジョーと何かとフリーダムなゴー・ダイは一致協力して「海蘊風呂健康詐欺事件」や「暴れん坊将軍対空飛ぶギロチン事件」といった数々の難事件を解決してきた二人で一人の探偵めいた街の名物コンビなのである。

「一緒に行きましょう今すぐ行きましょう、見て損はしませんよ目の保養ですよ。貴方と分かち合いたいこの幸せを、ヘイヘイミスターイイコイルヨ。あ、大丈夫ワリカンなんて言いません。ザヨゴの毛皮が高値で売れたんで今日はフトコロバーニングなんで!」

機関銃のようにまくしたてる。

「悪いがその誘いは受けられない、今日という今日は下宿に帰って溜まっている洗濯物を片づけないと明日のパンツが-」

「パンツがなければフンドシを締めればいいじゃないですか!」

イチ・ジョーの抵抗を巧みにいなしチキンウイングアームロックを決めるゴー・ダイ。

「わかった、わかったからうなじに生暖かい息を吹きかけるんじゃない。聞いてるのか五代!」

「答えは聞いてない!」

 

「想えば遠くへ来たものだ」

繁華街の一角にある適度に年季の入った大衆酒場<力と技の風車亭>のカウンターで、冴えない中年にしか見えないゴ・ジイノ・ダ(人間態)はグラスを磨きながら独りごちた。

3年前、ゲゲル完遂間際にタイムオーバーとなったジイノは爆発四散し、その存在は漫画版「仮面ライダークウガ」の世界から消滅した。

そのとき不思議なことが起こった。

木っ端微塵になったはずのジイノはなぜか、いかにも古代遺跡ですといった風情の石造りの建造物の床に描かれた魔方陣の上に立っていた。

「なるほど分からん」

ほかに何が言えたであろう。

ワルプルギスの夜に火星からサメに乗ったナチスのゾンビが攻めて来て、バイコヌールから発進した赤くて三倍速いメカプーチンと戦い始めたとしてもこれほど不条理な状況ではない。

地下迷宮の最深部にあるらしき遺跡の中をしばらく右往左往していたジイノであったが、「出口がなければ作るのみ」と手近な壁を決断的に全力パンチ。

そのとき不思議なことが起こった。

眩い閃光に包まれたゴ・ジイノ・ダは、どこぞの地下遺跡からどこぞの山奥のオークの野営地へと一瞬にして転送されたのだ。

そこでは囚われの身となった旅の商人が、今まさに土鍋で煮込まれようとしていた。

突然現れたズ・ジイノ・ダ(怪人態)を見たオークの親分は無宿者のオークがショバ荒しにやって来たと早合点し、一騎打ちを挑んできた。

指先ひとつで“ひでぶ”だった。

親分の仇を討とうと一丸となって向かってくる子分どもの侠気に答え、ジイノは真心込めて全員ブチ殺した。

結果的に命を助けられた旅の商人は、目の前で怪人態から人間態へとトランスフォームしてみせたジイノを恐れる素振りもなく「お礼に私がオーナーをしている店を任せたい」と言い出した。

世界の車窓から森羅万象を見届けてきたかの如きオーナーの、只者ではないアトモスフィアに感銘を受けたジイノは申し出を快諾。

かくして<力と技の風車亭>の無愛想だが頼れる店長ゴ・ジイノ・ダ―通称「おやっさん」―が誕生した。

そしてやはり遺跡からタジャドル山中に転送され、家畜を攫ったり畑を荒らしたりしていたズ・メビオ・ダを〆て女給として働かせ始めたのが1年前。

さらにさらに、二度あることは三度あるとばかりに遺跡から転送されたメ・ガリマ・バが廃寺の境内で太鼓を打ち鳴らすメビオと遭遇したのが二週間前のことである。

それが予定調和であるかのように、ガリマもまたジイノの店で働くことになった。

 

<力と技の風車亭>はその夜も満員御礼であった。

価格設定こそ良心的ではあるものの、酒も料理も玄人を唸らせるほどのものではさらさらない<力と技の風車亭>がこれほど繁盛する理由は至ってシンプル、みんな綺麗なオネーチャンが好きなのである。

「メビオちゃーん。お水ちょ~だい、オミズー」

「五月蠅い、スグいくから待ってろ!」

生け捕られた直後のジャングルキャットめいた猛々しさでテーブルからテーブルへと飛び回るズ・メビオ・ダは、確かに金を払っても一見の価値があった。

しなやかな肢体に纏うのはババリア地方のディアンドルを源流とし、日本のヲタク文化の洗礼を受けて独自の進化をとげた女給服である。

まず目を引くのが大きく開いた背中と胸元(鎖骨マニア大歓喜だ)。

さらに破廉恥なまでに切り詰められたスカート丈。

かてて加えてスカートと黒ストに挟まれた肌色領域にはガーターベルトの黒のラインが縦に走り、男の性欲中枢を煽りまくる。

早い話が「荒野のコトブキ飛行隊」のリリコさんのコスプレである。

そして真に恐るべきは、そのコスチュームのデザインから仕立てまでをジイノが一人でやってのけたという驚愕の事実。

凄い漢だ。

 

「やあメビオちゃん、今日もカワイイねえ!」

「ギベ!」

洗い立てのシーツのように爽やかな笑顔を向けるゴー・ダイの顔面に叩き込まれるメビオ怒りの鉄拳。

「おおぅ!相変わらず元気だなあ」

「ウルサイ!お前なんかキライだ!」

五代とゴー・ダイは別人だと頭で理解していても心が納得できないメビオは、膝を笑わせながらも立ち続けるゴー・ダイの向こう脛に地味に痛いローキックをゲシゲシと打ち込む。

「そこまでだ」

「は~なぁ~せぇ~っっ!」

ジイノに襟首を引っ掴まれ、ズルズルと引きずられていくメビオを見送ったイチ・ジョーは呆れ顔で言った。

「なんて店員だ」

「だがそれがいい!」

ニッコリ笑ってサムズアップを決めるゴー・ダイであった。

「殺す!アイツ絶対コロスッ!便所に追い詰めて息の根を止めてやるッッ!」

「いいからこれを食って仕事に戻れ」

「わーいパンケーキだぁ♡」

たちまち笑顔になるメビオ。

ジイノは無言で串に刺した砂肝を炭火で焼きはじめた。

 

ズ・メビオ・ダは常に不機嫌だ。

理由その一:ジイノに負けた。

せっかく転生先で好き放題出来ると思っていたのに速攻で捕獲され、酒場で接客業などをさせられている。

自由を愛し束縛を拒むメビオにとっては万死に値する行為であった。

なお、ジイノが捕らえたメビオを女給さんにした理由はオーナーにあった。

<力と技の風車亭>を任されるにあたり、店に客を呼ぶ方法を質問したジイノに対しオーナーはしごく簡潔に「女の子ですね」と答えたのである。

メビオにとってはご愁傷様と言うほかない。

だが良くも悪くも直情型で負けず嫌いのメビオは店を去るのはジイノを真っ向勝負で打ち負かしたときと固く心に決めていた。

最近は<力と技の風車亭>で働く傍ら、オフの日は山奥の廃寺でひたすら太鼓くという日々を送っている。

ちなみに【鍛える=太鼓】という謎の方程式がメビオの脳内で確立されている件については、異世界転生の過程で後番組の情報が転写されたのではないかという仮説が提唱されているが真偽のほどは不明である。

理由その二:ガリマが来た。

メ・ガリマ・バが現れるまでは<力と技の風車亭>における男性客の人気はメビオが独占していた。

女性店員はメビオしかいないのだから当然である。

だがガリマが店に姿を見せてからというもの、男どもはメビオ派とガリマ派に分断され、米民主党と共和党の大統領候補指名争いめいた混沌の争いを続けている。

接客業自体は気に入らないが自分をチヤホヤしていたオスが他のメスに目移りすると、それはそれで腹が立つ。

乙女心はフクザツなのだ。

理由その三:メビオが着用を義務付けられている女給服。

動きやすいのはいいが、ちょっと足を上げたり屈んだりする度に「見えた!」「見え」と大騒ぎする酔っ払いどもがウザくてしかたない。

ジイノお手製のパンケーキでいっとき幸せな気分になったとはいえ、メビオの堪忍袋はチリチリと暖まり続けていた。

タイムリミットは近い。

 

メ・ガリマ・バは恐怖した。

「待て、雄介…それはダメだ……」

「もぉサチさんったら、食わず嫌いはいけませんよ!」

ガリマの視線はにじり寄る五代の左手に握られた“酢昆布”に釘付けになっている。

「後生だ雄介、ソイツは大の苦手なんだ…」

「大丈夫!慣れたらヤミツキになりますって」

怪しい笑顔と怪しい動きでヌワジョワと距離を詰める五代雄介。

「嫌だっ!」

五代に背を向け走り出そうとするガリマだったが、いつの間にやらその眼前には赤のクウガ、青のクウガ、ドドメ色のクウガ、そして黒くてテカテカした金のラメ入りクウガがいて、ガリマの退路をガッチリと塞いでいる。

赤のクウガが言った。

「時代をテロから始めよう」

青のクウガが言った。

「愛は無くとも勃つ限り」

ドドメ色のクウガが言った。

「オンドゥルものは何もない」

黒くてテカテカした金のラメ入りクウガが言った。

「お前は“やめてそれだけは”と言う」

「やめてそれだけは……はッ!?!」

気付いたときには手遅れだった。

右手でガリマの顎を掴み、強引に開かせたその口腔内に左手に持った酢昆布を箱ごとねじ込む五代雄介。

「ほぉ~らサチさん美味しいでしょぉ~?」

「んご…うむゥ、ンぐぐうゥ……ッ!?!」

病んだ笑顔(作画:横島一)の五代雄介が喉奥まで挿入した酢昆布(箱ごと)を押し込んだり引っ張ったりする度に、苦悶するガリマの肢体がビクンビクンと跳ねる。

「いいよサチさん、もっと俺を笑顔にしてよぉ!」

「ンボおぉぉぉおおぉぉおぉおぉぉぉオ…ッ!って…夢?」

気が付けば右手を部分変身させ、ベットに大切断をかましていたガリマだった。

「酷い夢を見た……」

自らの手で真っ二つにしたベッドの亡骸に腰を下ろし、フーッと物憂げな溜息を漏らす。

ちなみにやたらファンシーなパジャマの下はスッポンポンだったりする。

「アレか、あの男に遭ったせいか?」

思い浮かぶのは五代雄介に顔も声も瓜二つ、そして五代雄介に輪をかけたお調子者で何かとフリーダムな冒険野郎ゴー・ダイの姿。

<力と技の風車亭>に客として訪れたゴー・ダイは、そこで踊り子をしていたガリマを一目で気に入りいきなり問題発言をブチかましたのである。

「すごく好みです妊娠してください」

あの時は見た目と発言の二重の衝撃で意識を因果地平に飛ばしてしまったなと苦笑するガリマ。

なお、ゴー・ダイを見るなり襲いかかろうとしたメビオはジイノに〆られた模様。

それにしても、と再びあんまりな夢の内容について真剣に考察を始めるガリマ姐さん。

ふと思い出したのは、桜の木と同化してリントの生活を眺めていたときのこと。

月夜の晩に首輪を嵌められ、リードを握った男に連れ回されている裸コートの女がいた。

リントの常識に従えば虐待を受けているはずなのだが、何故か女は嬉しそうだった。

「私も雄介に虐めてもらいたかった?……ヂガグ!」

再び右腕を一閃させるガリマ。

ベッドが四等分された。

そこに階下から野太い声がかかる。

「そろそろ頼む」

「了解した」

ガリマは営業用のコスチュームに着替えて寝室を後にする。

そして煙草と葉巻と水パイプの煙でむせる酒場へと続く階段を降りていった。

 

時刻が夕暮れ時を過ぎて宵の口ともなると一日の仕事を終えた野郎どもがひとときの潤いを求め、美人の女給さんがいると評判の酒場に続々と押し寄せる。

それを一人で裁き続けるメビオ。

流石は俊敏さが売りのヒョウ怪人である。

「そろそろ頼む」

客席が埋まった頃合いを見て天井を見上げたジイノがそう言った途端、店内の喧騒がピタリと止んだ。

沈黙の中、コツコツとヒールが床を鳴らす音が降りてくる。

「ほら、あの人ですよ一条さん!」

「だから俺はイチ・ジョーだと…美しい……」

現れたガリマの艶姿に、イチ・ジョーは思わず息を飲んだ。

メビオも十分美人だが女としての成熟度が違う。

メリハリの効いたボディにぴっちりとフィットした若草色のコスチュームは近代中国のチャイナドレスを源流とし、日本のヲタク文化の洗礼を受けて独自の進化を遂げたものであり、胸元と腹部が大胆にカットされ谷間とヘソが露わになっている。

スカート部分の両サイドには腰まで届くスリットが入っていることは言うまでも無い。

早い話が「ギャラクシーエンジェル」の蘭花・フランボワーズのコスプレ(リペイント版)である。

そして真に恐るべきは、そのコスチュームのデザインから仕立てまでをジイノが一人でやってのけたという驚愕の事実。

凄い漢だ。

4倍スロー(監督:渡辺勝也)で酒場に降りてくるメビオを見て、一斉に「ほう…」と溜息を漏らす野郎ども。

それを見て露骨に不機嫌になるメビオ。

それまで店内の男衆の視線を一身に集めていたのはメビオであった。

だが今は、全員の視線がガリマに釘付けになっていた。

厳密には一歩一歩階段を降りる度に悩ましくバウンドする二つの胸のボリュゥミィな“たわわ”に。

メビオはピョンと跳ねてみた。

揺れることは揺れた。

だがそれは、大波小波に例えるならば明らかに小波であった。

メビオは再度ガリマを見た。

紛う事なき大波であった。

無性に腹が立ったので手近な客をブン殴った。

「ありがとうございます!」

ムカついたのでまた殴った。

男は沈黙した。

 

ガリマの登場と同時に客の中で心得のあるものがてんでに持ち寄った楽器で即席の楽団を編成し、ロシア民謡に似た賑やかな、それでいたどこか哀愁を帯びたメロディーを奏でる。

ガリマは酒場の中央に置かれた8人掛けの丸テーブルに飛び乗ると、曲に合わせて踊り始めた。

異世界転生するまでは踊りなど見たことはあっても全く経験のないガリマであったが、鍛え上げたグロンギカラテと持って生まれた即興の才ででっちあげた蟷螂拳の演武とベリーダンスの融合体めいたパフォーマンスは実に優雅かつエロティックなものであり、男衆に大いにウケた。

ちなみにガリマが踊り子として鮮烈なデビューを果たした直後、当然のごとく負けず嫌いのメビオが自分にもできると主張したので試しに踊らせてみた。

ジャガーがメガネカイマンを襲う動画で御飯三杯イケるという特殊な層には需要があるかもしれなかった。

短くも激烈な説得(物理)の結果、メビオが店で踊ることは二度となかった。

 

そんなこんなで時は過ぎ、時刻が深夜帯に近づくにつれ大人しく飲んでいた連中も段々と理性のタガが緩んでくる。

27時間ぶっ通しでドラマの収録を続けるような異様なテンションに支配された男どもの中に刺激的な装いの女給さんを投入すれば面倒ごとの発生は不可避である。

そして遂に一人の勇者が行動を起こした。

「メビオちゃ~ん、俺は世界一不幸な男だぁ~」

ポーカーでスッテンテンになった男がヤケクソ気味に立ち上がり、通り過ぎようとしたメビオの肩を背後から掴んだのだ。

「慰めてくれよォ~」

そして肩甲骨をなぞって腋の下に持ってきた両手をさらに前進させようとする。

「ギベッ!」

メビオの後ろ回し蹴りが炸裂した。

「見えた!」

「黒だ!」

「パンツ!パンツです!」

囃し立てる酔っ払いどもの声を耳にして、開店以来暖まっり続けてきたメビオの堪忍袋がとうとう爆発する。

「ユ゛ル゛サ゛ン゛!」

華麗なパルクールを決めてカウンターに着地。

さらなる跳躍で天井すれすれまで舞い上がり、二倍の降下速度と三倍のスピンを加えたフライングクロスチョップ!

メビオの下着を覗いて盛り上がっていた酔っ払いどもがまとめて吹っ飛ぶ。

無関係な酔っ払いも一緒に吹っ飛んでいたが一発だけなら誤射かもしれない。

そしてこれが号砲となった。

騒ぎが起こるのを今か今かと待ち構えていた野郎どもが一斉に立ち上がる。

さあ、戦いだ!

「ヒャッハー喧嘩だぁ!」

「ウエーイッ!」

「プラウザバックさせてくれ、俺は病気なんだ!」

たちまち始まる大乱闘。

「ガリマさんは俺が守るぉぶぁ!?」

格好良く見栄を切った直後、死角から飛んできた椅子の直撃を受けてあっさり昏倒するゴー・ダイ。

「ちょっとやめないか」

流石にこれは目に余ると、機能停止したゴー・ダイをカウンターの陰に転がしたイチ・ジョーが乱闘を止めようとする。

「ああ放っといてください」

などといいつつメビオの蹴りで天井に突き刺さった酔っ払いを引っこ抜き、さりげなくモーフィングパワーで治療するジイノ。

「問題ありません、いつものことです」

実際女給さんとの過激なスキンシップは<力と技の風車亭>の名物であり、これが目当てで常連客になっている野郎どもは一定数いたりする。

なお、壊れたテーブルや割れた酒瓶は後でジイノがモーフィングパワーを使って修復するので店が潰れない程度の収益は確保できている模様。

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

メビオの真空飛び膝蹴り!

八百屋のオヤジが鼻血を吹いて倒れる!

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

メビオの転蓮華!

鍛冶屋のアニキが血反吐を吐いて倒れる!

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

「イヤーッ!」

「村田さん俺のファンだって言ってたのにーっ!」

次々と屠られていく酔漢たち。

みな一様に幸せそうな表情なのは何故なのか。

その間ガリマはメンマを肴に芋焼酎を飲みながら、どさくさ紛れに抱きつこうとする酔っ払いどもを正確無比な急所打ちで次々と寝かせていく。

当初はジイノの言いつけを守って手ひどく叩きのめしても後遺症が残るような怪我はさせないように配慮して戦っていたメビオだったが、そこは根が直情型で負けず嫌いなだけに段々と容赦が無くなっていく。

「それ以上いけない」

蹴倒した酔っ払いのマウントを取り、両目に爪を突き立てようとしたところでガリマが動いた。

首の後ろの急所に手刀を落としてメビオの意識を刈り取ると、メビオの闘気に当てられて理性を失いやみくもに殴り合いを続ける酔っ払いどもをブレイクダンスめいた殺陣でのしていく。

「よくもやったなーっ!」

そして店内を制圧し終えたところで復活したメビオがガリマに戦いを挑む。

いつもの流れであった。

「この胸が!この胸が!」

ガリマの胸に執拗に逆水平を打ち込むメビオ。

それはもう血涙を流さんばかりの憤怒に燃えて。

げに恐ろしきは女の妬みかな。

そして敢えて防御せず、メビオの攻撃を受け続けるガリマ。

観客が一番盛り上がるのは相手の攻撃を受けきってからの反撃、ズ・ザイン・ダから学んだプロレスのムーブである。

客席が十分暖まったところで反撃だ。

トップロープからフライングボディプレスを仕掛けるメビオに対し、カウンターの地獄突き。

場外に落として鉄柱攻撃。

続いて放送席の机に叩きつける。

フラフラになったメビオをリングに戻し、トドメの毒針エルボーンが炸裂、すかさずジョー樋口のカウントが入る。

メビオは轟沈した。

(雄介、ウンザリすることもあるが私は元気でやっているぞ)

完全にダウンしたメビオの後頭部を滑らかに踏みつけながら、二度と会うことはないであろう運命の人に想いを馳せるガリマ。

ウン、しんみりするのはいいからとりあえず前を隠そう。

ただでさえ際どいチャイナ服があちこち破れて凄いことになってるから。

 

「チクショー今日こそはメビオちゃんが勝つと思ったのに!」

「ガリマ姐さんに敵はない、勝敗は常におっぱいで決まるのだよ」

「いや俺はメビオたんくらいのサイズが…」

などと言いつつ二人の戦いを賭けの対象にしていた野郎どもが場外馬券売り場のノリで賭け金の分配をしている。

その様子を見たジイノはふと想った。

(そう言えばあいつも賭け事に目がなかったな)

そのとき不思議なことが起こった。

どことも知れぬ地下迷宮の最深部に位置する古代遺跡の床に描かれた魔方陣の上に一人の男が現れたのだ。

白い帽子に白スーツのガタイのいい男であった。

男は言った。

「なるほど分からん」

 

 

【挿絵表示】

 



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