妖精さんが見えるだけなのに (語部創太)
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1.転勤(主人公視点)

 すいません。以前書いていた艦これssは続きが全く思い浮かばなくてすごくつらかったので消しました。
 今回はそうなっても大丈夫なように、あらすじで保険かけまくったので大丈夫だと思います。
 ・・・失踪はしないように頑張ります。ごめんなさい。


 薄暗い室内に、老人と少年が向かい合って座っていた。

 

「キミがここに勤めて、もうすぐ3年になるね」

 

――はい

 

「たしかキミは《妖精さん》を見ることができたね?」

 

――はい

 

「ふむ……」

 

 老人は、何事か考えるような仕草をする。少年は知っている。これは考えているフリだと。こういう仕草をする時、老人の中ではすでに結論が決まっているのだ。

 

「……よし」

 

 老人は何かを確かめたようにうなずいた。

 

「キミには、来月から横須賀鎮守府に行ってもらう」

 

――イヤです

 

「駄目です」

 

――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! ! !

 

 少年の絶叫が、永田町大本営に響き渡った。

 

 


 

 

 拝啓、天国のお父さんお母さん。貴方たちが他界あそばせてボクが働き始めてから3年が経ちました。

 学歴も後ろ盾もないボクですが、ただひたすら真面目に一生懸命働いてきました。上司からの無茶ぶりにも耐え、日々かかってくる電話から聞こえる罵詈雑言にも耐え、決して出世しているわけではありませんが、少しずつお給料も増えて、老後に向けた貯蓄もできるようになってきました。

 

ですが、ボクはもう限界かもしれません。

 

 何が悲しくて男1人女性いっぱいというハーレムの中で働かなくてはならないのでしょう。しかもその男1人ってボクじゃないからね? 稀代の天才とか言われてボクと2つしか歳が違わないのに日本存続の危機を何回も救ってる英雄さんだからね? なんだよそれチートかよチーターやんけ! そんな人類最強チート持ちと一緒に働くって何それ公開羞恥プレイ? 望んでもないのに勝手に比較されて格付けされて噂話好きな女性から「同じ男なのに……」とかひそひそ話される特典付きですか? ワーステキダナー。

 

 ボクはドMじゃありませんよ?

 

 大本営で書類仕事と電話対応してるだけで良かったのに直属の上司である元帥さんに「お給料増やしてあげるから行きなさい」とか言われて最終的には辞令という名の強制命令で異動させられたボクの気持ちが分かる? いや分かるでしょうね。お二人とも生前は公務員でしたもんね。生前は役所でこんな大変な仕事をしていたのかと、ボクも働き始めてからお二人の偉大さにやっと気付きました。

 とにかくボクはもう駄目です。毎月行っている墓参りですが、今月からはボクも一緒の墓に入ることになるでしょう。いや別に仕事は大変じゃないんだよ? でもその、対人関係がね? ストレスがね? 知ってるかい? 自殺する動機のうち9割は対人関係からの悩みだって言われてるんだよ?いやもう本当、

 

ダレカタスケテ

 

 

 とか、届くはずもない手紙を書いて現実逃避していたのが昨日。

 世界滅びないかなー。滅びれば働く必要もないのになー。なんて考えながら自転車を漕いでいると、前方に大きな建物が見えてきた。

 わー、着いちゃったよ。日本最強を誇る横須賀鎮守府だよ。今日からボクが働くことになる職場だよ。

 

「止まれ」

「ここは一般人立ち入り禁止だぞ」

 

 横須賀鎮守府の周囲は巨大な塀で囲まれていて、1つしかない門から出入りすることになっている。そこには門番として昼夜を問わず24時間、交代交代で憲兵さんが立っている。

 大抵は黒塗りの高級車くらいしか通らない門に近付くと、ものすごい形相で睨みながら2人の憲兵さんが歩いてくる。

 

――あ、どうもお疲れ様です

 

 胸ポケットにしまっていた手帳から身分証を取り出す。顔写真や所属が書いてあるこのカードの中にはICチップが組み込まれていて、タイムカードとしても使える優れものだ。

 

「これは失礼した」

「軍人とは思えぬ格好だったのでつい」

 

――いいんですよ

 

 そりゃあ、ごくごく普通のスーツに身を包んだ少年が自転車に乗ってたら軍人とは思わないでしょ。ボクだってそう思うもん。ちなみにこのスーツは洋服の青〇で買いました。バーゲンセールで上下1万円という格安スーツです。スーツ業界とパン業界は「春の○○祭り」「夏の○○祭り」「秋の○○祭り」「冬の○○祭り」お前ら1年中お祭りしてんなって思うよね。

 これから毎日この格好で通勤するのでよろしく、なんて簡単な会話を交えながら敷地内へ入れてもらう。自転車置き場はないので、庁舎出入口の近くにある駐車場で適当に止めといていいらしい。そこまで行くと公用車と思しき車が数台止まっているので、そのスペースを避けて駐輪する。

 

「お待ちしていました」

 

 中から自転車を漕いでいる姿が見えたんだろうか。庁舎出入口まで歩いていくと1人の女性が立っていた。

 艦娘【大淀】さんその人だった。大本営と各鎮守府を繋ぐ連絡係である彼女とは一時期、大本営で共に働いていたこともある。現在大本営にいる【大淀】さんの前任者で、現在の横須賀鎮守府には英雄である提督が新人だった頃に、その教育係として異動した。

 

――お久しぶりです、春日です。今日からまたお世話になります。

 

「はい。一緒に頑張りましょう」

 

 にこやかに微笑むかつての上司の姿は、2年前と全然変わっていなかった。

 




 艦これの大本営がどこにあるのか分からなかったので、政治の中心Nagata-choに設定しました。主人公の実家から電車で30分くらいのところって考えてます。ちなみに主人公は通勤時間1時間以上だと耐えられない軟弱者です。うp主も軟弱者です。どうぞ罵ってください。


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2.転勤(大淀視点)

 頭の悪い人が小説書くとこうなるよってかんじのお話です。
 シリアスっぽいけどよく読んだら矛盾だらけでギャグと化しています。

 直そうと思っても直せないから諦めました。ご指摘いただいても直せないのでご了承ください。


 【提督】が、この横須賀鎮守府に着任してから2年。深海棲艦に占領されていた旧日本領海はその全てを奪還することができました。最近では深海棲艦に唯一対抗できる【艦娘】という戦力を保有していない東南アジア諸国へも国際支援と称して海域奪還作戦を出来るほどにまで、この日本という国は復活しました。

 ですが最近、日本本土近くの海域で深海棲艦が発見されることが増えているのです。幸いはぐれの駆逐艦や水雷戦隊など脅威にはならないものばかりで発見され次第すぐ出撃した艦娘によって撃沈させているので民間への被害も出ていないのですが。

 問題は、奪還したはずの海域に深海棲艦が出没しているということ。敵の基地があるのか、海軍の警戒網をどうにかして潜り抜けたのか、真相は未だ不明のままで対策らしい対策は取れていません。近海哨戒にあたる艦娘の人数を増やすことはしていますが、深海棲艦の出現頻度はますます増加するばかり。

 

 神算鬼謀の【提督】もその対応には苦慮しています。ですが、【提督】ならば必ずや正解を導き出せるはずなのです。【提督】はこれまで1回だって間違ったことがありません。常識を無視した神がかり的な作戦でもって深海棲艦の悪だくみをすべて打破してきたのです。

 

 それでもなぜここまで正解を導くことができないのか。それは【提督】が熟考する時間がないためだと思われています。

 解放した海域が増える度に、防衛や維持に関する様々な書類の量も増えていきました。近頃では書類を処理するので精一杯、訓練や戦術的指導に【提督】が顔を出す頻度は1週間に1回あればいい方になってしまいました。

 【提督】を慕う艦娘は数多く、そんな彼と顔を合わせないことが士気の低下に影響している可能性も排除しきれません。1日交代で秘書艦を務めるようローテーションを組んではいますが、それでも200近い艦娘が所属している以上、次に秘書官を務めるのが1ヶ月先なんてざらにあるのです。

 

 話が少しそれてしまいました。書類が増え執務がなかなか終わらない現状をなんとか変えようと秘書艦の数を増やしたり書類仕事に強い艦娘を優先的に秘書艦にしたりとしてみましたが、どれも結果は思わしくなく。それというのも【提督】――というより《軍人》が承認する必要がある書類や、《軍人》が自分で処理しなければならない書類が多いのです。いくら秘書艦を増やしても【提督】は1人。一度に処理できる量には限界があります。

 この状況をどうにかしなければならない。【提督】が大本営に出向いて元帥閣下に相談したところ、「事務仕事に特化した人材を派遣する」という提案がなされました。大本営で事務仕事をしていた軍人に権限を与えて横須賀鎮守府で執務処理に徹させることで【提督】が作戦立案に集中できるようにしようというのです。

 

 しかしこの提案には2つ問題がありました。1つ目は「【妖精さん】が見える人でなければならない」ということ。2つ目が「【提督】の認めた人材でなければならない」ということ。

 鎮守府に在籍するのは艦娘以外では妖精さんが見える人以外に認められません。そうでなければ妖精さんの助力を得られず艦娘を適切に運営できないからです。さらに妖精さんが見えない人が鎮守府内にいると妖精さんが姿を消す事例も過去に多く報告されています。陸軍から派遣されている【憲兵】は厳密には鎮守府外の出入りする門までしか入ることを許されておらず、鎮守府内の秩序を守るというよりは不審者が侵入しないように鎮守府を守ることが仕事となっています。

妖精さんを見ることができる人材はそれほど多くなく、そのほとんどが軍学校で提督となるべく勉強しています。鎮守府の数も無限大ではないのでその全てが提督となるわけではないのですが、提督見習いあるいは提督補佐としてすでに提督がいる鎮守府で共に働くこともあります。

 では、なぜ横須賀鎮守府には【提督】以外の軍人がいないのか。その理由が2つ目。大本営の意向と【提督】自身の意思からです。英雄である【提督】に並び立つ人材はそうおらず、それに準じる才能を持つ人材に補佐をさせるくらいなら他の鎮守府を任せた方が良いと判断されています。提督自身も大本営の意向に沿っており、また「自分以外にこの横須賀鎮守府を任せられない」という熱い想いもある、と酒の席で吐露していました。生半可な人材では【提督】が許可せず、それ以上の優秀な人材は逆に大本営が出し渋る。そんな状況でした。

 

 しかし【提督】はこの提案を快諾しました。秘書艦や大本営との連絡係である私――大淀の確認も取らず独断で、元帥との会合その場で決断してしまいました。【提督】が私たちに何の相談もせずに鎮守府全体に関わる事柄を決定するのは、この2年間で初めてのことでした。報連相を徹底してきた【提督】らしからぬ行動は、その異動する軍人が【提督】が待ち望む逸材だったのが原因だそうです。

 「共に働くならこの人しかいない」と【提督】が満面の笑みで仰るほどの逸材。元帥閣下曰く「事務仕事の速さと正確さなら大本営最高」。いったいどこにそんな才能ある人物が眠っていたのかと異動してくる人物の詳細が書かれた書類を見て、驚きました。

 驚きすぎて平時なら一切ズレることのない眼鏡が地面に落ちてしまいました。いえそんなことは今は関係ないのです。

 

 書類の右上にある顔写真。そこに映っていたのは、2年前まで大本営で仕事を教えていた後輩――春日蒼汰(かすがそうた)くんだったのです。

 




 主人公の下の名前がうp主と同じ読みです。なんとなく付けたら一緒でした。ネーミングセンスの欠片もないねぇ?
 考え直すのも面倒なのでそのままポイ。ごめんね主人公くん。でも頑張れ主人公くん。うp主は馬鹿なんだ主人公くん。許しておくれ主人公くん。


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3.案内(主人公視点)

最近ハンバーグが美味しいのです。


 かつての上司とはいくらか積もる話もあるけれど、とりあえず横須賀鎮守府の提督を待たせるわけにはいかない。早く挨拶して仕事の具体的な指示をもらいたい。こういうのは第一印象が大事なんだって元帥も言ってた。

 

 大淀さんに促されてさっそく横須賀鎮守府の庁舎へ足を踏み入れようとすると――

 

『敵が来たぞー!』

『ソコニヤツガイルゾ』

『ヤツガミエル』

『ヤツラガキタゾ』

『ヤツラガウゴイテイルゾ』

 

 完全武装した妖精さんたちが立ち塞がった。

 いやなんで?

 

『ここを守り抜くんや!』

 

 隊長らしき妖精さんが周囲の妖精さんたちに活を入れている。どうやらボクをこの鎮守府に入れたくないらしい。

ボクなんか粗相をしましたかね。

 

「あ、あの。これはいったい……?」

 

 冷静沈着で知られる大淀さんが珍しく焦っている。妖精さんたちをなだめようと手を向けるが、妖精さんたちは大淀さんを完全無視。大淀さんかわいそう。ちょっと涙目だし。

 先端に剣がついたボルトアクション銃を構える妖精さんたちがにじり寄ってくる。うん、怖い。すごく怖いです。数十の銃口を突き付けられる体験なんか人生で初めてですよ、ボク。

 

 あまりの圧力にビビッて後ずさりする。たぶんボクの顔めっちゃ引きつってると思う。

 と、今度はボクの背負っていたリュックサックから数十の小さな影が飛び出してきた。

 

『敵襲! 敵襲でーす!』

『俺は攻撃を行う!』

『ステンバーイ…ステンバーイ…』

 

 いやなんで君たちがここにいるのよ、大本営の妖精さん。

 

「えぇ!? 今度はそっちからもですか!?」

 

 ごめんなさい大淀さん。でもボクが連れてきたんじゃないんです。いつの間にかリュックの中に忍び込んでいたっぽいんです。

 横須賀鎮守府の妖精さんたちと同じように、こっちの大本営の妖精さんたちも完全武装している。甲冑に身を包んで手に持つ武器は日本刀・長槍・薙刀……戦国時代かな?

 

『行くぞぉ!』

『突撃ー!』

『バンザーイ!』

 

 戦国妖精さんたちが、飛び出した勢いそのままに横須賀鎮守府の妖精さんたちに突っ込んでいった。

 

『バーン』

『グワーッ』

『バーン』

『ギャーッ』

『バーン』

『むねんー』

『バーン』

『やーらーれーたー』

 

 うん、知ってた。

 

 そりゃあ剣が銃に勝てるわけないよね。なんなら人数も向こうの方が多かったしね。片っ端から銃弾の雨に晒されるその様子は、中学校の時に覚えた長篠の戦いを思い出したよ。

 アレかなー。昨日なんとなく点けたテレビで大河ドラマやってたから、それに影響されちゃったのかな。

 

『ひっ捕らえろー!』

 

 隊長らしき妖精さんの指示で、地面に倒れている大本営の妖精さんたちが片っ端から捕縛されていく。

 

『なにをするー』

『やめろー』

『三食おやつ付きを要求するー』

 

 なんか1人、捕虜になるのを受け入れてるのがいるんですけど。

 

「あぁ、なんてこと……」

 

 ほら見てみなよ大淀さんを。あまりにも急すぎる展開に白目剥いて泡吹いちゃってるよ。女性がしていい表情じゃないよ。長い黒髪振り乱してガックガック身体が痙攣してるの下手なホラー映画より怖いよ。

 

『さあおとなしく投降するんだ』

『仲間がどうなってもいいのか』

『『『そうだそうだー』』』

 

 いやそうだそうだーって、キミたち捕虜になってる側じゃん。勇み足で戦い挑んで無様に負けたのに、なんでそんな偉そうなの?

 

『あっこれは侮辱です』

『とうてい許される行為ではないと思う』

『わたしたちも蒼汰と戦うのです』

『よし、同胞が増えたぞ!』

 

 あっさり裏切りやがったコイツら。武士の誇りを微塵も持ち合わせていやしない。

 

『おまえみたいなチェリーボーイはお呼びじゃないのです』

『わたしたちがいるからおまえは必要ないのです』

『ばかー』

『あほー』

『クマー』

 

――金平糖ありますよ?

 

『『『どうぞこちらへ!!』』』

 

 キミたち手のひらクルックルだね。




すごく短いのです。


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4.案内(大淀視点)

お腹が減りました。


 横須賀鎮守府で仕事をお手伝いしてくれている妖精さんたちがいきなり春日くんに銃を突きつけた時にはどうなることかと思いました。さらにその後、春日くんの荷物から飛び出してきた大本営にいた妖精さんたちとの間で銃と剣による戦いが始まった時には、やはり大本営からの人材を受け入れるべきではなかったのではないかと考えてしまいました。

 大本営の中には、若くして出世街道をひた走る【提督】のことを快く思っていない人もいると聞いています。元帥閣下と【提督】が親しくしていることもあって、妬みやひがみを持つ者は決して少なくいと。

妖精さんたちが互いに争うなんて見たことも聞いたこともありませんでした。しかし目の前で戦っている光景を目撃して、妖精さんたちの間でも派閥があって相容れない間柄もあるのではないかと勘繰ってしまいました。もし大本営と横須賀鎮守府の妖精さんが不仲であるなら。それを持ち込んだ春日くんの真意とは。彼が【提督】を快く思わない派閥に属している可能性は。とっさに頭に浮かんだ悪い想像は、ずっとグルグル思考を回し続けています。

 

『金平糖は渡さないぞー』

『なにをー』

『蒼汰のものはわたしたちのものですー』

『戦力の差を忘れたかー』

『クマー』

 

――仲良くしなさい。

 

 しかし、すっかり仲良くなってしまった様子の春日くんと妖精さんたちを見ると、その心配が杞憂であったと分かりました。私が意識を失っている間に何があったのかは分かりませんが、妖精さんたちは金平糖の入ったビンをお神輿のように担いでいます。どうやら春日くんが渡したお菓子に興味を惹かれ意気投合しているようです。

 

 こういう時、妖精さんの声が聞こえれば私も親睦を深められるのに。体中に妖精さんを引っ付けている春日くんが羨ましくて小さくため息をつきます。

 

――どうかしました?

「いえ、なんでもありません」

 

 金平糖を両手に持って美味しそうに頬張る妖精さんの声を聞きたい。なんて願望を春日くんに行っても仕方ありません。

 

「それでは【提督】がお待ちしている執務室へご案内します」

 

 気持ちを切り替えて、本来の目的を果たさなければ。できる先輩として、かつての教育係として。後輩には威厳というものを見せなければならないのです。

妖精さんたちも春日くんを許してくれたようなので、庁舎の中に入ります。

 

――それなんですけど大淀さん

 

 しかし気合を入れる私とは反対に、春日くんは顔を妖精さんに引っ張られながら言いました。

 

――先に着替えたいんですが、更衣室か何かありませんか?

 

 そういえば、春日くんは軍服ではなくスーツ姿でした。【提督】と面会する以上、そのままの格好というわけにもいかないでしょう。

 先に、春日くんが仕事をすることになる部屋まで案内することにしましょう。

 

「というか、なんで軍服を着ていないんですか?」

 

――通勤中も軍服だと、それを見た民間の人たちが怯えちゃうじゃないですか

 

 有事でもないのに警戒の意識を高めさせるのはちょっと、と苦笑する春日くん。たしかに私たち艦娘も休日に外出する時には海軍指定の制服ではなく私服を着て出かけます。オシャレしたいという年頃の女性ならではの悩みからくるものですが、民間人の方たちに必要以上に気を張らせないようにという気遣いは軍服以外の服を着る理由の1つとして考えられるでしょう。

 

「なるほど。では先に春日くんが執務を行う部屋に案内しますね」

 

――はい、よろしくお願いします。

 




ご飯を食べました。


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5.原因(主人公視点)

艦娘って機械音痴だと思う。ソースは建造年月日。


『第二会議室』

 

 大淀さんに案内された部屋のドア看板には、そう書かれていた。

 

「ひとまず、この部屋で仕事をしてもらうことになります」

 

 執務室からそれほど遠くなく、会議も第一の方で事足りているせいでほとんど使われていなかった部屋らしい。会議室ということで室内が広すぎるのが難点だが、給湯室は隣接されているらしいし冷暖房も完備されているらしい。

 なかなか好条件じゃないですか! やったぜ! と喜びながらドアを開けるとそこには書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山、書類の山

 

 もうやめて! とっくにボクのSAN値はゼロだよ!!

 四角形に配置された長机の上が全部書類の山じゃないですかチクショウ! なんじゃあこりゃあ!?

 

「すいません、ここは物置としても使われていたので埃っぽいんです……」

 

 あ、そうですよねー! まさかここの書類全部片づけろとか言わないですよねー! 半分くらいは捨てるやつですよねー!

 

「未処理のものが多く溜まってしまっていますが、ゆっくり目を通していただいて大丈夫なので」

 

 こんの鬼畜メガネがぁ! まさかここまで優しかったのはこの仕事を全部ボクに押し付けるためか!

 

「ここからここまでは今日中に大本営へ提出しなければならないものなので、よろしくお願いします」

 

 書類の山4個分くらいかな? ハンバーガーショップのピエロが履いてる靴じゃないんだよ!?

 というかなんで印刷してるんですかねぇ? これをパソコンに打ち込むだけでも時間がかかるっていうのに、手書きの日誌や報告書はともかくそれ以外の書類はデータにまとめてくれてた方が良かったんじゃないかな。

 

「ペンなどの筆記用具はこちらの棚、切手や封筒はその隣のこの棚に――」

 

――え?

 

「…………え?」

 

 いやなにキョトンとした顔してるんですか。まさかこの書類を手書きでまとめろと? 大本営に郵送しろと? 冗談はメガネだけにしてくださいよ。

 

――パソコンはどこにしまってあるんですか?

 

「ぱそ、こん……?」

 

 うっせやろあんたあああああああああああああああああ!!??

 

 大本営にいる時使ってたじゃん! むしろボクに使い方を教えてくれたじゃん!! そんないきなり記憶を失うことあります!?

 

『ぱそ、こん……?』

 

 おいコラ妖精さんたち。艦娘の建造から装備の開発という人類を超越した科学技術を持つキミたちがパソコンを知らないと申すか。

 

「横須賀鎮守府では、パソコンを使っての執務はしていないので……」

 

 拝啓、大本営の元帥さま

 横須賀鎮守府の執務が滞っている理由が、着任して数分で分かりました。

 




このご時世にパソコン使わないで仕事してない奴おる~?


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6.原因(大淀視点)

 仕事が遅い
 私の執筆速度も遅い
 理由は、ゲームばかりやってるから


――誰が決めたんですか?

 

 春日くんは私の目をまっすぐ見ながら問いかけてきました。

 

――パソコンの類を使わないって、誰が決めたんですか?

 

「それは【提督】が……」

 

 言いかけて、ふと思い出しました。執務は【提督】がこの横須賀鎮守府に所属する前、先代や先々代の提督たちも取り組んでいます。2年前に【提督】の教育係として一緒に着任した私は、大本営でやっていた通りの手順で仕事を進めようとしていました。パソコンなど執務に必要な機械類も整えようと思っていたのです。

 しかし当時、深海棲艦のかつてないほどの大規模侵攻に窮地に立たされていた我が国に、海軍に、最前線で戦う横須賀鎮守府に、書類仕事のために割く経費などありませんでした。執務室にあったのは紙とペンのみ。金銭的にも戦況的にも余裕がない状況では、あるものだけで仕事をするしかなかったのです。

 

「……いえ。以前からの慣習と【提督】が着任された当初に予算が足りなかったことから、そのままズルズルと」

 

 類まれな才能を持つ【提督】は若い身でその地位まで辿り着きましたが、それ以前の提督たちは海軍でも高い地位に上り詰めた初老から老年くらいまでお年を召した方たちでした。パソコンなどの機械類に順応するよりも昔馴染みのスタイルで仕事を続けていたといいます。全国各地の鎮守府や国の中央から送られてくる膨大な資料を素早く処理するためにIT化を推し進めた大本営と違って、書類の量もそれほど多くなかったために、昔馴染みのやり方でも問題はなかったのでしょう。

 しかし、解放された海域が増えるにしたがって書類の量も昔とは段違いに増えました。昔と同じやり方では支障が出るということは考えれば分かることです。

 

――今も、予算は足りていないんですか?

 

 十分すぎるほどに足りています。海域を取り戻したことで漁業が再開され、ユーラシア大陸との航路も回復。経済は確実に回復してきています。当然、国家の収入源である税収も増えて海軍に割り振られる予算も増えました。特に戦果のほとんどを上げている横須賀鎮守府は予算面でかなり優遇されており、今年の予算はとても使いきれないだろうという量が確保されています。パソコンや大本営と通信するためのインターネット回線整備に回すだけの予算は確実に出すことができるでしょう。

 そのことを春日くんに伝えると、彼はホッとしたような顔をしました。

 

――パソコンがあれば、ボクもだいぶ仕事がしやすくなります

 

「はい。ただ【提督】にご相談して許可を得なければなりません」

 

 【提督】が許可しなければ予算は決して使うことができません。春日くんや私の一存で決めることはできないのです。

 ただそれは春日くんも大本営で働いていた経験から当然分かっているので、不満を言うようなことはありませんでした。

 その後、春日くんに着替えてもらうことにして、私は1回部屋の外へ出ることにしました。

 

 それにしても。春日くんに言われるまでパソコンの存在をすっかり忘れていたことに恥ずかしくなってきます。

 私は大本営で働いていた経験や【提督】の教育係として転属した経緯もあって、客観的な視点から判断やアドバイスができるだろうと、自分で言うのもなんですが周囲から信頼と一目を置かれています。日替わり当番制の秘書艦よりもずっと【提督】に近い立場にいる私は、他の艦娘とは違った視点で鎮守府の現状を考えることができている、と自負していました。

 

 しかし結果として、パソコン導入という簡単なことにすら思い至らなかったことに不甲斐なさを感じました。それどころか自分の後輩に気付かされるとはなんと情けない。「先輩としていいところを見せる」なんて上から目線もいいところでした。気張っていた自分が恥ずかしい。

 春日くんは2年前と同じではないのです。元帥閣下からも【提督】からも信頼を置かれる逸材に成長してこの横須賀鎮守府に配属されたのです。具体的な仕事内容は異なれど、提督の執務を補佐するという役目は私と同じなのです。後輩だからではなく、同僚として対等な立場で接しなければなりません。

 いわばそう。春日くんは『ライバル』なのです。【提督】の傍にいて助言を求められる立場に今日まであぐらをかいていましたが、春日くんにそのポジションを奪われる可能性も十分にあり得るのです。

 

負けられません。負けるわけにはいきません。【提督】の1番傍にいられるポジションを譲るわけにはいきません。ましてや自分の後輩に奪われるなんて、艦娘として仕事に邁進してきた私のプライドが許しません。

 

――お待たせしました

 

 扉を開けて出てきた春日くんは、新品同様の真っ白な軍服に身を包んでいました。

 

「では行きましょうか。【提督】もお待ちです」

 

仕事仲間として。そして【提督】の傍にいるライバルとして。春日くんに対抗心を燃やしながら。

 私は春日くんの前に立って執務室への案内を再開しました。




 大淀さんって、顔や態度には出さないけどプライドめっちゃ高そうだよね
 で、それを明石さんや夕張さんみたいに仲の良い人だけは知ってるって設定にしたいです


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7.謁見(主人公視点)

 誤字報告と評価、ありがとうございます。

 余談ですが「ありがとうございます」と打つために「あ」で予測変換したら「アダマンタイト」になりました。なんでや。


『キャー』

『生着替えよー』

『そうたさんのえっちー』

 

 やかましい。なんで大淀さんと一緒に外に出なかったのキミたち。

 

『クマンクマン♡』

 

 いやそんなイヤンイヤンみたいに言われても。両手で顔を覆ってても指の間からこっち見てるのバレバレだからね?

 そんな逞しくもないごく普通の少年の肉体を見て何が楽しいのかね。

 

――どう? 変じゃない?

 

『『『ごちそうさまです!!』』』

 

 なにが?

 とりあえず、海軍特有の真っ白な軍服姿は妖精さんたちに好評なようだ。1回大本営でサイズが合っているかの確認で袖を通しただけだから見苦しくないか不安だったけど、その心配はなさそう。

 妖精さんたちは良くも悪くも純粋で子どもみたいに遠慮なく意見を言ってくれるから、こういう時はすごく助かる。

 

『ふふん、もっと褒めるのです!』

『ご褒美を要求するのです!』

『甘いの次はしょっぱいが良いのです!』

 

――はいはい。いつもありがとうね

 

 リュックの中からお煎餅の袋を取り出すと、歓声が上がった。金平糖のビンと一緒に煎餅の袋も担がれていく。大本営も横須賀鎮守府も関係なく妖精さんたちが仲良しそうで何より。

 未だに1人でクマクマ言いながら身体をくねらせている妖精さん――通称「クマ子さん」を頭の上に乗せる。ボクが初めて見えるようになった妖精さんで、大本営で働く少し前からの付き合いになる。

 

『どうぞー』

『助かるクマー』

 

 ちょっとクマ子さんや。渡されたお煎餅を食べたいのは分かるけど、人の頭の上にボロボロ食べかすをこぼすのはやめてね?

 

――お待たせしました

 

「では行きましょうか。【提督】もお待ちです」

 

 扉を開けて外にいた大淀さんに声をかける。そして横須賀鎮守府の提督がいらっしゃる執務室へ向かう。

 とはいっても、第二会議室から執務室まではそこまで遠くなかった。通り過ぎたのは手洗い所や第一会議室、提督室くらい。廊下をまっすぐ行けばそこに執務室があった。

 他の部屋とは違って両開きの重厚な作りをした扉の前には、左目に眼帯を着けた女性が立っていた。腰には鞘、頭の両脇には固定電話の子機に似た形状の何かが浮いている。

 

「天龍さん」

「おっ来たか。入室前に簡単な身体検査をさせてもらうぜ」

 

 大淀さんが呼ぶには【天龍】さんと言うらしい。たしか巡洋艦の艦娘だったか。書類上で何度か名前を見たことはあるけど、書類には顔写真が添付されているわけではないので実際の姿を目にするのはこれが初めてだ。

 

「身体検査って……彼はそんな怪しい身の者ではありませんよ?」

「オレだってこんなダルい事やりたくねえけどよ……」

 

 大淀さんが不機嫌そうに天龍さんに詰め寄る。天龍さんもどこか面倒くさそうな雰囲気を出している。

 

『蒼汰はぜんぜん信頼されていないのです』

『ざまあみやがれ』

『私たちを見捨てた罰が当たったのです』

『ばーかばーか』

 

 いつまで言ってるのよ。先に寝返ったのはキミたちでしょうに。あと横須賀鎮守府の妖精さんたち、シンプルな暴言はやめて。普通に傷付くから。餌付け作戦は失敗だったみたいだ。

 

――構いませんよ。どうぞ

 

 何やら揉めている2人に声をかけて、両手を上げる。

 

『『『バンザーイ!』』』

 

 キミたちは上げなくていいから。身体検査されるのはボクだけだから。

 2人はキョトンとした顔をしている。なんですか、従ったのに駄目なんですか。妖精さんたちとバンザイしてる格好をジッと見られるのは恥ずかしいので、早くボディーチェックしてくださいよ。まるでボクが馬鹿みたいじゃないですか。

 いや、馬鹿だったわ。妖精さんが見えるのに提督になる才能がない、ついでに学歴もない落ちこぼれでした。

 

「お、おう。じゃあ失礼するぜ」

 

 そう言って遠慮がちに触れてくる天龍さん。随分おっかなびっくり触ってくるもんだから、くすぐったくて仕方ない。

 

「こ、これが【提督】以外の男……」

 

 おい、小声だけど聞こえたぞ。なに顔を真っ赤にしてるんですか。意識するとボクも恥ずかしくなるからやめてくれますか。

 

「ずいぶん線が細いけど、ちゃんと鍛えてんのかよ」

 

――いえ、あんまり

 

 鍛えてないよ。こちとら朝から夕方までずっとパソコンの前に座ってカタカタ指を動かしてるだけの事務職員ですよ。

 

「軍人ならちゃんと鍛えとけよ。豚みたいに太ったら見苦しいぞ」

 

――肝に銘じておきます

 

 先週見た健康番組のおかげで、年齢を重ねるにつれて基礎代謝や活動代謝が低下するのは覚えた。食生活を見直すのもそうだけど、若い頃から身体を鍛える習慣をつけておくのも大事だと思う。親切なアドバイスに感謝する。

 ボディーチェックは無事に終わったらしく「入っていいぜ」と許可をもらったのでお礼を言う。それを見た大淀さんが執務室のドアをノックする。かなり力強くノックしているのは、ドアが分厚いからだろう。

 

「入れ」

 

 中から聞こえた声を受けて、大淀さんがドアを押し開いた。

 

『敵が来たぞー!』

 

ま た お 前 ら か

 




 感想をくれると私が喜びます。2つもらいました。小躍りと腹太鼓しました。親に見られて鼻で笑われました。

 クソ……クソ……!(´;ω;`)


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8.謁見(長門視点)

 前回のあとがきで感想がもらえると嬉しいって書きました。
 感想が5コに増えました(゚∀゚)ありがとうございます。

 母親にホワイトデーのお返しでイチゴチョコレートを贈ったところ「思ったより美味い」と言われました。なにその微妙な感想(´・ω・`)


 大本営から配属された人材。元帥閣下からのお墨付きという噂の主役はどんな人物なのだろうか。興味を持った私、戦艦『長門』は【提督】への直談判によって執務室での面会に同席させてもらうことに成功した。

 もっとも、野次馬を希望していたのは私だけではなかったのだが。私の後に10以上の艦娘が同席を希望したが、大淀の「あまり人が多く押しかけても迷惑です」という一声によって、大淀と今日の秘書艦である『足柄』を除いては私のみが同席することを許された。まあ、私はビッグセブンとして、第一艦隊旗艦として鎮守府の代表と言っても過言ではない立ち位置にあるのも関係してはいると思うが。

 そんな私だが、正直に言おう。まだ会ったことのない人物にあまり良い感情を持っているわけではない。もちろん尊敬する【提督】の決定に異論を唱えるつもりはないが、不満はある。どうやら顔馴染みであるらしい大淀によれば、件の人物は大本営でずっと事務仕事をしていただけの、大した役職にもついていない平凡な少年だというではないか。作戦立案に関わったことすらない、『軍人』とは思えない経歴の持ち主。彼の何が【提督】を惹きつけたのか、私には皆目見当がつかなかった。書類に載せられた顔写真を見たのだが、その顔つきも如何にも平凡といった風貌だった。

 

 というわけで、私は執務室で待機していた。大淀は件の少年を迎えに行っており、私は【提督】・足柄と今後の海域解放について意見を交わしつつ待っていた。そんな時だった。

 

『建物入り口にいた先遣隊が敗北したぞ!』

『奴らはしょせん横須賀鎮守府妖精さん部隊の中でも最弱……』

『金平糖に釣られるとは妖精さんの面汚しよ……』

 

 突然、武装した妖精さんたちが執務室になだれ込んできたのだ。

妖精さんが武器を持つなんて見たことも聞いたこともない。いきなりの事態に常は冷静沈着な【提督】も「な、なんだ!?」と驚きに目を見開いている。

 

『九郎! わたしたちの代わりに人間を入れるなんて何考えてるです!』

『一生懸命がんばってきたのに!』

『あの日の約束は嘘だったのね!』

『断固反対! 絶対防衛! 仕事大事!』

 

「ご、誤解だ妖精さん。落ち着いてくれ」

 

 どんな大規模作戦の際にも表情一つ崩さなかったあの【提督】が、慌てて妖精さんをなだめようと机の中から金平糖の入ったビンを取り出す。

 

『お菓子だけで言うことを聞くと思うなー』

『わたしたちにも譲れないモノはあるー』

『このいけずー』

 

 しかし、いつもであれば嬉々として甘い砂糖菓子に飛びつく妖精さんたちは、なおも【提督】に抗議を続けているようだ。私たち艦娘には妖精さんの声が聞こえないので、何と言っているのかは【提督】にしか分からないのだが。

 妖精さんの声が聞こえるのは、提督候補者――つまり『妖精さんが見える者』の中でもほんの数人しかいないらしい。伝え聞くところによると元帥閣下と【提督】、それから現在士官学校に通う成績最優秀者の3人しかいないとのことだ。声が聞こえるのは妖精さんから絶大な信頼を得ている証拠で『英雄』となる者に限られているとか。あくまで艦娘の間に流れている噂話だから真偽は分からないのだが。

 

 閑話休題。そんな妖精さんが、自分たちの信頼している【提督】に抗議する内容とは何なのだろうか。まさかとは思うが――

 

 コンッ コンッ コンッ コンッ

 

 規則正しく、執務室のドアが叩かれた。どうやら大淀たちが来たようだ。

ノック音が聞こえた瞬間、妖精さんたちがドアに向かって一斉に銃を構えた。一糸乱れぬその動きは、歴戦の兵士によって構成されたエリート部隊を思わせる。

 臨戦態勢に入った妖精さんたちを見て【提督】はため息をつく。

 

「実際に会わせた方が早いか……」

 

 そう小さくぼやくと、ドアの向こうに「入れ」と入室許可を出した。

 

「失礼します」

 

――失礼します

 

 ドアを開けた向こうにいたのは、私が念のために身体検査を命じた天龍と、横須賀鎮守府の頭脳とも言われる大淀。それから、書類で顔を確認したあの少年だった。

 

『敵が来たぞー!』

 

 1人の合図で銃口を少年に突き付ける妖精さんたち。

 この瞬間、私の中で『春日蒼汰は横須賀鎮守府にとって害悪である』という決断が成された。

 




 タイトルが「謁見」なのに、まだ主人公と【提督】が出会ってないです。

 …………なんで?(どう考えてもプロット作らず行き当たりばったりで書いてるせいです本当にありがとうございます)


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9.交渉(主人公視点)

お気に入りが100件超えました(゚∀゚)とても嬉しい


 ああ、うん。さすがに銃口を突きつけられるのも2回目になると慣れてくるもんだね。庁舎の入り口で囲まれた時はビックリして固まっちゃったけど、もう慣れたもんですよハハハ。

 さて、執務室の中にいたのは3人。ボクと同じように白い軍服に身を包んだ男性。これが【提督】とみて間違いない。あと、めっちゃ背の高い女性――なにそのおへそ丸出しな露出度高い服は。痴女ですか? なるほど貴女がかの有名な痴女ですね? それに、【提督】と同じくらいの背丈の女性。ウェーブした腰まである茶髪が特徴。

 

『手をあげろー』

『ひざまずけー』

 

 うるさいぞ小人族。二番煎じは格好悪いって習わなかったのか。同じ出オチを2回もやりやがって。

 

『へへー』

『ははー』

『クマー』

 

 従うのかよ。

 ボクの身体に引っ付いたり金平糖のビンをワッショイしていた妖精さんたちが執務室の床をペロペロし始める。

 

『ひっ捕らえろー』

『なにをするー』

『金平糖と煎餅も没収だー』

『ぼくのだぞおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』

 

 なんかガチギレしてる妖精さんがいる。4人がかりで取り押さえられて鬼のような形相でお菓子を没収している妖精さんたちを睨みつけている。

 そしてめっちゃ背の高い女性も、ボクのことを憤怒の表情を浮かべて睨みつけてくる。ナンデ?

 ボクなにか変なことしちゃったかな。妖精さんたちに銃突きつけられてる被害者なんですけど。怒られる心当たりが全くないです。

 

『仲間がどうなってもいいのかー』

『おとなしく投降しろー』

『『『そうだそうだー』』』

 

 だからキミたちは捕まった側だろうに。

 

――これはつまらないものですが

 

 仕方ない。本来なら【提督】への手土産のつもりだったけど、妖精さんたちにごまをすっておこう。

 綺麗に包装された箱を妖精さんたちの前に差し出す。不思議そうな顔で近寄ってくる妖精さんたちに見せつけるように、包装紙を剥がして箱のフタを開ける。

 

『こ、これは!?』

『マドレーヌです!?』

『あの言わずと知れた名店の!』

『朝4時から並ばなければ買えないと噂の!』

『1日わずか20箱しか作られていない!』

『超レアなマドレーヌです!!』

『『『な、なんだってえええええぇぇええ!!??』』』

 

 見事なリアクション。甘いもの大好きな妖精さんたちだけど、まさか自分たちでお菓子を買いに行くわけにはいかない。こうした美味しいモノを入手するには艦娘や人間に頼むしかないってクマ子さんが言ってた。

 ほら、よだれがダラダラ流れてるよ? もう我慢できないんだろう? 今すぐその美味しいマドレーヌにかぶりつきたいんだろう?

 

 許可しようじゃないか!

 

――どうぞ皆さんで召し上がってください

 

 歓喜の悲鳴が、数十の妖精さんたちから湧きあがった。

 

 

 計 画 通 り

 

 

 思わずニヤリと、ほくそ笑んだ。

 




 名前書いちゃうと人が他界他界しちゃうマンガ。もう14年も前になるんですね。歳を取ったなあ。
 母校の小学校が徒歩5分のところにあるので、子供たちが登校している姿を見てしみじみと感傷に浸る今日この頃です。

 あんまり外に出ていると花粉のせいでくしゃみが止まらないんですけどね。ゴミ出しの時以外に外出したくないでござる。


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10.交渉(長門視点)

 なんかコレジャナイ感が漂いながらも投稿します。
 馬鹿が賢い文章書こうとしても無理ですね。矛盾だらけ穴だらけ、読みにくい文章でごめんなさい。

 あと、朝起きて「UA数増えてないかなー(゚∀゚)」なんてスマホを開いたんですね。
 「1万超えてるぅ!?Σ(゚Д゚)」ってなりました。本当にありがとうございます。


 見てしまった。私は大本営から来た少年――春日蒼汰が、ニヤリとあくどい笑みを浮かべるのを見てしまったのだ。

 

 妖精さんたちに群がられるも、すぐに手元に用意していた菓子折りを手渡しているのを見た時は、私が勘違いしていたのかと思ったのだ。

 妖精さんたちは確かに甘いモノが大好物だが、性根が腐った人間からは決して受け取らない。【提督】の前任者である人物は妖精さんたちに言うことを聞かせようとたくさんの駄菓子を庁舎のあちこちに置いていたのだが、結局その駄菓子が1つたりとも減ることはなかった。

 しかし、妖精さんたちは少年の手から直接菓子折りを受け取り美味しそうにマドレーヌを頬張っている。その可愛らしい姿に心が癒される。少年も妖精さんたちに敬意を持って接しているようだし、敵だと認定するにはまだ早計だったか。そう思った時だった。

 

 ニヤリ、と。少年が妖精さんたちを見ながら笑みを浮かべたのだ。私のように、その可愛らしい姿に癒されたというなら分かる。だが、その表情はまるで自分の計画通りに物事が進んでいることに満足しているような、そんな悪い笑みだったのだ。

 やはりそうか! この少年は、いや【コイツ】は……!

他の3人の様子を横目で確認する。しかし【提督】も大淀も足柄も、妖精さんたちの可愛らしい姿に目を奪われているようで【コイツ】の本性に気付いた様子はない。

 だが、私には分かる。いや、最前線で深海棲艦どもと戦い続け、敵意と悪意をイヤというほどこの一身に受け止めてきた私だからこそ気付けたのだろう。

 

 【コイツ】は、大本営内の横須賀鎮守府を良く思わない一派から何らかの指令を受けている。おそらく目的は【提督】の失脚。若くして『英雄』と呼ばれた青年と、それを保護する元帥閣下。2人を排除して海軍を自分たちで牛耳ろうとしているに違いない。

 なぜか【提督】と元帥閣下からは信頼されているようだが、いったいどんな卑怯な手を使って取り入ったのか。【コイツ】は相当なやり手のようだ。妹の『陸奥』から「脳みそまで筋肉で出来ている」と言われる私ではその手の内は予想すらできない。私とは対照的に「横須賀鎮守府の頭脳」と呼ばれている大淀に相談してみようか。

 いや。大淀は以前から【コイツ】と知り合いだったようだし【提督】と同じように絆されていても不思議ではない。相談はやめておこう。まだ【コイツ】が鎮守府内の艦娘と接触していない今のうちに、信頼できる何人かと警戒態勢を敷かなければなるまい。

 私が今後の方針を考えていると【コイツ】――春日が【提督】に向かって姿勢を正した。

 

――ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。本日よりこちらに配属になりました、春日蒼汰と申します。3年前より大本営で働かせていただいており、総務・経理・一般事務などを担当しておりました。こちらでは大本営に提出する報告書の作成など執務の補佐を担当させていただくと伺っております。鎮守府での仕事は初めてなのでご迷惑をおかけすることもあると思いますが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします

 

「ああ。こちらこそよろしく頼む」

 

 まるで、あらかじめ何を話すか決めていたかのように流暢な挨拶をして敬礼をする春日。【提督】も答礼して返事をする。

 

「君には、現在私が行っている書類仕事の大半をこなしてもらうこととなる。働いていく中で気付いたことや疑問に思うことがあれば、何でも言ってくれ」

 

――それでは。さっそくで申し訳ないのですが、1つよろしいでしょうか

 

「どうした?」

 

――パソコン導入のご検討をお願いしたく存じます

 

「……ふむ?」

 

――現在、大本営での事務作業はそのほとんどをパソコンによる入力作業で行っております。作業時間の効率化・短縮化のために導入されたモノですが、かなりの成果を上げています。

 

「具体的には」

 

――キーボード操作に慣れてしまえばペンで文字を書くよりもはるかに早く入力作業を進めることが可能です。さらにインターネット回線を通して文書のやり取りを行えば、郵送にかかる代金も節約できますし配達にかかる時間もはるかに短縮できます

 

「そのインターネット回線を敷く工事はどうする? 鎮守府内への民間人立ち入りは絶対禁止だ。業者は呼べないぞ」

 

――はい、仰る通りです。そこで妖精さんたちに事前相談をしたところ、大本営と横須賀鎮守府のみでの専用回線を敷くことが可能だと返答がありました

 

「それは本当か?」

 

『できますよー』

『あっちとこっちの、ぱそこん? が通信できるようにすればいいんです?』

『そんなの、ちょちょいのちょいです』

『がんばるクマー』

 

「不正アクセスやハッキングによる情報漏洩の可能性は」

 

――妖精さんの技術力を借りられれば、外部に情報漏洩する心配はないかと存じます

 

「……君は、パソコンがあった方が仕事しやすいんだな?」

 

――はい。導入していただければ、必ずや期待通りの成果を上げられるものと確信しております

 

「分かった。元帥閣下とも相談して、近日中に手配しよう」

 

――ありがとうございます

 

「ただ、数日の時間はかかるだろう。それまでは従来通りの方法で仕事にあたってもらいたい」

 

――はい

 

「他には、何かあるか?」

 

――いえ、特にはありません

 

「そうか。では本格的な仕事をしてもらう前に、庁舎内の案内をさせよう。大淀、すまないが頼めるか」

 

 マズい。いきなり【コイツ】の要望を通させてしまった。警戒するといっておきながらなんてざまだ。

 だが、私は書類仕事について詳しいことは分からない。ぱそこん? についても、そんな存在すら知らなかった。そうしたことは横にいる大淀が詳しい。何か不審点があれば大淀が指摘するだろうと考えていたが、そんな素振りは一切なかった。【コイツ】の言っていることが的を得ているのか……それとも、大淀がすでに取り込まれているのか。

 大淀が執務室を出て行ってからまだ数十分。そんな短い時間で洗脳の類が可能なのかは分からないが、やはり今は大淀を完全に信頼はしない方が良さそうだ。

 

 とにかく、これ以上大淀を【コイツ】と一緒に行動させるのは良くない。【提督】に近い大淀を味方につけることが【コイツ】の目的であるなら、それを阻止しなければならない。

 

「……待ってくれ、提督」

 

「長門、どうした?」

 

「彼の案内は私がしよう」

 

 【コイツ】にあらかじめ警戒できている私なら、そう簡単に絆されはしない。むしろ、私の目が届かないところで他の艦娘と接触されてはたまらない。特に純粋な駆逐艦の子たちが【コイツ】の毒牙にかからないように、近くでしっかり見張らなければなるまい。

 

「……だそうだが、どうだ春日くん?」

 

――私はかまいません

 

 かまわない、だと? よっぽど自分の手腕に自信があるようだな。私も簡単に自分の下に取り込むことができると考えているのならば、ずいぶんと甘く見られたものだ。私はビッグセブン、第一艦隊旗艦を任されている横須賀鎮守府最強の戦艦だぞ?

 

「よし。では長門、頼む」

 

「ああ、このビッグセブンに任せておけ」

 

――長門さん、よろしくお願いします

 

「こっちこそ、よろしく頼む」

 

 簡単にペコペコと頭を下げる。その低姿勢で相手の油断を誘っているのだろうか。

 

(……大淀から目を離すな)

(……どういうこと?)

(詳しいことは後で話す)

 

 足柄に耳打ちする。首を傾げていたが、とりあえずは頷いてくれた。裏表のない足柄なら安心して【提督】を任せられる。……洗脳された大淀が【提督】に牙をむく可能性もあるからな。いきなりそんな大胆なことをしでかすとは思えないが、万が一ということもある。

 

 大量の妖精さんを身体にくっつけた春日と執務室の外に出る。外にいた天龍にも「駆逐艦たちの傍にいろ」と耳打ちしておく。極力、【コイツ】と艦娘が会わないように案内をしなければならない。

 隣に立つ少年の様子を目の端で確認しながら、私は案内を開始した。

 




 ビッグセブンから【コイツ】呼ばわりされる主人公がいるらしい。

 当初の予定では10話で終わる予定だったお話が、まだ10%くらいしか進んでない。
 無計画に書いてたらドンドン増えてく文字数。どうしてこうなった?(震え声)


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11.案内2(主人公視点)

 昨日、無事に大学を卒業しました。
 やったね! 自由な時間が増えるよ! そう思うでしょう?

【悲報】来週から新社会人

 お仕事がんばる(´・ω・`)続き書くのさらに遅くなるかもしれないけど許してください


 や っ た ぜ

 

 妖精さんを仲間に引き入れたことで【提督】の説得は上手くいったみたいだ。これでパソコンゲットだぜ!

 いやぁ、軍人っぽい口調で話すのは緊張したなあ。先月まとめ買いしたマンガに「予想は断言した方が良い」「説明を面倒くさがらない」って書いてあったから、それを意識してみた。結果は上々、いや最上。4月だからもう予算の割り振りは決まっているだろうし、お役所仕事の大本営みたいに「来年まで待て」って言われる可能性もあったけど、どうやら【提督】は頭の柔らかい人みたいだ。

 まあ、そうじゃなきゃ深海棲艦相手に連戦連勝できる神算を生み出せないか。

 

「……ここが工廠だ」

 

 さて、内心で数週間後のパソコン到着を楽しみにしていると、隣に立つ不機嫌そうな女性――長門さんが声を発した。いや執務室を出てからここまで一言も発さずにムスッとした表情で歩くもんだから、怖くて話しかけづらいのなんのって。

 執務室でもボクのことをずっと睨みつけてきてたし、その割には案内を買って出たりと、本当になんなんだろうこの人。

 

「……何か質問は」

『おやつは300円までですか!』

『バナナはおやつに入りますか!』

『鮭はおやつに入るクマ?』

 

 入らないよ。魚はもう立派な主菜だよ。というか質問ってそういうことじゃないよ。そもそもキミたち妖精さんは艦娘さんと話せないでしょうに。

 

――明石さんはいらっしゃるんですか?

 

「……ああ」

 

 なんで睨んでくるの? 質問していいって言われたからしただけなのに。工廠といえば明石さんだよねって質問しただけなのに。そんなに虫の居所が悪いならいいよ。さっさと案内終わらせようよ。次行こう、次。

 

――そうですか。では引き続き案内をお願いします

 

 頭を下げたら鼻をフンッって鳴らされたんだけど。なんで?

 

『きっと蒼汰がヘタレだから怒ったのです』

『女の子はもっとグイグイ来てほしいのです』

 

 女の、子……? ボクより背が高くて筋肉質な体つきの女性を子ども扱いするのはちょっと。

 

『おんなごころの分からない奴め』

『そんなだから年齢=彼女いない歴なのです』

『だから童貞なんだクマ』

 

 辛辣すぎませんか? ボク泣いちゃうよ?

 

「……この先はドックだ」

 

 妖精さんたちの心ない誹謗中傷にションボリしていると、長門さんが立ち止まった。

 ドック――傷付いた艦娘たちが修理のために入渠する施設。たしか各鎮守府では入浴施設と合併されていたはず。となると気になるのは【提督】がどこで入浴しているのかだ。もしかするとボクも使うかもしれないし、場所くらいは知っておきたい。

 

――男性用のものはあるんですか?

 

「提督の自室に個人用の風呂場がある」

 

 はい解散。かいさーん!

 ムリムリ無理です。何が悲しくて男の部屋に行ってシャワー借りないといけないんですか。横須賀鎮守府にはジム設備が整ってて軍人と艦娘は使い放題だっていうからさ。天龍さんにも「身体動かせ」みたいなこと言われたし仕事終わりに使おうかと思ってたけどさ。シャワー借りられないなら別にいいかな。帰りはどうせ自転車だし、無理に運動しなくてもいいや。

 

『そんなあなたにオススメの一品!』

『サッと拭くだけで汗の臭いや体の汚れが全部とれる!』

『このボディーペーパーをご紹介!』

 

 な、なんだってー!? そんな素晴らしい商品があるんですか?

 

『それがあるんです!』

『元々は【提督】に汗臭い自分を見せたくないという健気な工作艦が開発したこの商品!』

『私たち妖精さんが量産化に成功しました!』

 

 どこぞの工作艦さんが資材と経費を私利私欲のために使ってる証言が飛び出てきたんですが。ちゃんと許可取ってるのかな?

 でも、お高いんでしょう?

 

『それが今なら特別に!』

『マドレーヌ1箱でご案内!』

 

 高いよ。

 アレでしょ、さっきあげたマドレーヌでしょ? ボクに毎朝4時から長蛇の行列に並べと仰せか。

 

『じゃあロールケーキでいいです』

『今日の帰りに買うのです』

『そしたらずっと使わせてあげるのです』

 

 あら随分と良心的だこと。マドレーヌと同じ名店が夕方から販売するロールケーキね。そしたら今日は頑張って定時で帰らないとね。

 

「……もういいだろう? さっさと次に行くぞ」

 

 妖精さんたちと茶番してたら、長門さんから鬼の形相で睨まれてしまった。もうヤダこの人、怖いよ。

 




 感想が12件に増えててウッホウッホ(ゴリラじゃないよ)
 UAとお気に入り数も増えてて笑いが止まりませんなぁ!(゚∀゚)
 アッハッハッハッハ……ゲッホゲホ!( ゚Д゚)

 頭が痛いなーって思って熱を測ったら、平熱より2度くらい低くてビックリしました。熱が高くても低くてもダメ。難儀な人間です(´・ω・`)


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12.案内2②(主人公視点)

 次は艦娘視点だと思った? 残念でしたー! 主人公視点ですー!

 いや、あのですね。艦娘視点で書こうと思ったら筆が進まなくてですね。不本意ながら主人公視点で失礼いたします。
 本当に申し訳ない(´・ω・`)


 さて、そのあと数十分かけて鎮守府内を案内してもらったわけだけども。

 

「では、案内はこれくらいで良いな?」

 

――いえ、もう1つ案内してほしいのですが

 

 長門さんには工廠・ドック(お風呂)・運動場・艦娘寮・ジムその他いろんな場所を案内してもらった。でも、おそらくボクが1番利用するだろう肝心な場所を案内してもらっていない。

 

「ダメだ」

 

 なんでよ。いいじゃん別にあと1ヵ所くらい。

 

――食堂に案内してほしいのですが

 

「別に案内しなくても良いだろう?」

 

 良くないよ。せっかく鎮守府内に食堂があるんだったら使わせてよ。

 大本営ではよく食堂で『日替わり間宮定食』を食べたもんだ。大本営の間宮さんは頼めばこっそり味噌汁の具を多めによそってくれる優しい女性だった。

 弁当を作るって手もいいんだろうけど、自分で作るよりも超一流シェフ顔負けの給糧艦『間宮』さんが作るご飯の方が100億倍美味しい。どうせ口にするなら美味しいモノ食べたいよね。

 

「いやしかし……」

 

――じゃあ、1人で行ってみます

 

「案内しよう」

 

 妖精さん顔負けの手のひらドリルやめてくれませんかね。

 

『ここの間宮は美味いぞー』

『早いぞー』

『安いぞー』

『可愛いぞー』

 

 グルメな妖精さんたちがベタ褒めじゃないですか。噂によれば、大本営と横須賀鎮守府の間宮さんは給糧艦の中でも1、2を争う腕前らしいし、これは期待しちゃいますね。

 

 

 

 なんてワクワクしながら食堂に行ったら、

 

「……なんの御用でしょうか?」

 

 毎朝吠えてくる近所の大型犬みたいに、すごく警戒した様子の間宮さんがいました。

 どうして……?

 

 いや落ち着こう。まずは状況を整理するんだ。まずボクが立っているのは横須賀鎮守府の食堂。ボクの右隣には長門さん、正面には間宮さん。そして食堂内には、食事中の艦娘さんたちが数十人。みんな一様に無言のままボクを観察するように眺めている。

 

 なにが怖いって、これだけたくさんの人がいて物音も喋り声も全然しないってことだ。正確には、ボクが食堂に足を踏み入れた瞬間からこうなった。廊下を歩いている時はガヤガヤという喧噪が聞こえていたのに。

 

――今日からココで働くことになりました、春日です。よろしくお願いします

 

 とりあえずは挨拶だ。にこやかに笑って挨拶すれば仕事上の付き合いは上手くいくって大本営時代の上司が言ってた。

 

「っ! そ、そうですか」

 

 怯えられてるじゃないかクソ上司。もうアンタの言うことは信じないからな。

 ああもう、正面に立っている間宮さんは顔を真っ青にしてるし、隣に立つ長門さんは「貴様が悪い!」とでも言いたそうに鬼の形相で睨みつけてくるし。

 

『鮭が! 焼き鮭定食があるクマ!!』

 

 頭の上の妖精さんはうるさいし。おとなしく昼まで待ってなさい。

 もういいや。ボクの要件は、艦娘じゃないボクがこの食堂を利用できるかどうか。それだけ確認しよう。

 

――昼食には食堂を利用したいと考えているんですが、いいでしょうか?

 

「……間宮」

「……少しお待ちください」

 

 長門さんと間宮さんがコソコソ内緒話を始めた。わー、感じ悪ーい。

 食堂の艦娘さんたちもこっちチラチラ見ながらザワザワ話し始めた。わー、雰囲気悪ーい。

 これだよ。これだから女性だらけの職場に来たくなかったんだよ! 絶対アレじゃんボクの悪口言ってるよね。ボクの耳までは届かないけど、たぶん「何あのブサイク」「【提督】とは雲泥の差ね」『キモーイ』『童貞が許されるのは小学生までだよねー』おいコラ小人族。さりげなく人の思考回路に乱入してくるんじゃない。

 

「……使用許可は【提督】にお伺いしてみなければなりませんので」

 

――分かりました。では昼までにこちらで確認しておきます

 

 1回執務室まで戻って【提督】に確認してから仕事を始めよう。日本人初のエベレスト登頂に成功したあの人も真っ青になるだろう超巨大な書類の山脈を片付けるには時間が惜しい。

 

 今の時間は7時50分。軍隊風に言うなら〇七五〇。始業時間まであと10分だ。急がないと。

 




 感想とUAとお気に入り数が増えてる!(゚∀゚)
 ボクの仕事での疲労も増えてる!( ゚Д゚)コシガイタイ!

 いつもありがとうございます! 励みになります!


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13.案内2(間宮視点)

 私は帰ってきた!(゚∀゚)
 研修合宿を乗り越え、満員電車を乗り越え、今日は週末じゃぁ!

 ……え? 日曜日出勤? はい……はい……



 (´・ω・`)





 春日くんの背中が見えなくなると、スッと強張っていた肩の力が抜けました。隣を見れば長門さんも、小さなため息をついています。

 

「それにしても、間宮も彼を警戒していたのは意外だったな」

「実は、大本営の『伊良湖』ちゃんから手紙が来まして」

「なに?」

「大本営の私――『間宮』は春日くんの虜にされてしまっているので、くれぐれも注意してほしい、と」

 

 つい昨日届いた手紙には、大本営の私が春日くんに積極的に話しかける様子や、休日に春日くんの自宅へ足しげく通っていた、という報告が事細かく書いてありました。

健全なお付き合いであれば構わないと思うのですが、伊良湖ちゃんの手紙には春日くんのことを「艦娘と見れば、誰彼構わず毒牙にかけている」「女たらし」「クズ」と書かれていて、あまり好意的には取れませんでした。

そのことを長門さんに話すと、長門さんは眉間に皺を寄せて唸りました。

 

「やはり、か」

「執務室でも何かあったのですか?」

「これはあくまで私の推測にすぎないのだが」

 

 前置きして長門さんは話し始めました。武装した妖精さんたちが春日くんに銃を向けたこと。【提督】の制止すら聞かなかったその妖精さんたちをあっという間に懐柔したこと。春日くんの配属は大本営内で元帥閣下、【提督】と敵対する勢力の差し金ではないか。手始めに妖精さんを、そして私たち艦娘を篭絡して鎮守府を乗っ取ろうとしているのではないか。そういった長門さんの憶測は私に送られてきた伊良湖ちゃんの手紙内容と、偶然というにはあまりにも共通する点が多すぎました。

 

「そこまで悪い子には見えませんでしたけど……」

「いや、そうやって絆されればアイツの思う壺だ」

 

 挨拶の時に向けてくれた爽やかな笑顔は、彼のことを警戒していた私でも、とても好意的に取れました。裏表ない純粋な少年に見えましたが、歴戦の猛者である長門さんがこれほどまでに警戒しているというのなら、やはり彼は【提督】を失脚されるべく送り込まれた刺客なのでしょう。

 

「どういう手を使ったのか【提督】はアイツのことを信頼している様子だったからな。食堂の使用許可は通るだろう。艦娘とは極力接触させないように注意するが――」

「はい。私の方でも、なにか取れる手段がないか考えておきます」

「そうか。頼んだぞ」

 

 こうして私と長門さんは、他の艦娘が春日くんと接触しないように細心の注意を払うことを決めたのでした。

 

「とりあえずは腹ごしらえだな! A定食、戦艦盛で頼む!」

「あら? 長門さんはあと15分で出撃じゃありませんでしたっけ?」

「忘れていたああああああああ!!」

 




 主人公のステイタスに「女好き」が追加されました!
 レベルアップどころかダウンしてない? 好感度が!

 伊良湖ちゃんはどうして手紙なんか書いたんでしょうねぇ(フラグ立てるだけ立てて回収しきれないパターン)


 誤字報告、ありがとうございます。非常に助かります(゚∀゚)
 お気に入り登録をすると、作者が笑います。
 感想を書くと、小躍りしてベッドの角に小指をぶつけます。
 足の爪割れました(´・ω・`)とても痛いです。


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14.一方その頃大本営では

 20,000UAありがとうございます!(素振り)
 20,000UAありがとうございます!(素振り)

 投稿予約してる朝10時の段階では19.890なので、お先にお礼の言葉をば。
 いつも読んでくださってありがとうございます!(゚∀゚)すっっっっごく嬉しい!!


「――そうかい。無事にそちらへ着いたかい」

『はい。おかげで作戦立案に集中できそうです』

「それは何より。キミには頑張ってもらわないといけないからねぇ」

 

 大本営、執務室。その部屋の主である老人は、受話器を左耳に当てて穏やかな笑みを浮かべている。

 

「ここ数日、単発的に日本近海で発見されていた深海棲艦の数が、パッタリと途切れた」

『ええ。奴らの目的が”偵察”であったのなら、これは非常に不味い状況にあると言わざるを得ません』

 

 《大規模侵攻》。3年前の東京大空襲から端を発した人類最大の悪夢が、いま再び始まろうとしているのかもしれない。

 

「前回は、ちょうど4ヶ月前か」

『ここ1年間の敵の戦力量は、「大規模」というにはあまりにも少なすぎました』

 

 つまり、今回のために力を蓄えていたのではないか。姫級も鬼級も、それ以前と比較して明らかにその数を減らしていた。楽観的な憶測を立てるメディアや軍の一部では、深海棲艦が疲弊している、あるいは絶滅寸前であると考えていたが。

 

「問題は、警戒網をどうやって潜り抜けて日本近海まで侵入できたのか、ということだね」

『申し訳ありません。横須賀を預かる身でありながら未だに原因解明には至っておらず……』

「いいんだ。そのために”彼”を派遣したわけだからね」

『はい。必ずやご期待に沿える成果を上げて見せましょう』

「ああ、頼んだよ。【救国の英雄】くん」

 

 受話器を置く。机の上に積まれた書類の量は、先週までのそれよりも確実に倍以上の高さとなっていた。

 

「……そうだ【大淀】くん。妻が言っていたんだが、大手町の方に新しい喫茶店が出来たらしくてね」

「閣下。現実逃避はそこまでにしていただかないと、仕事が進みません」

 

 隣で控えている秘書艦を口説こうとするも冷たく振られてしまった老人は、仕方なく書類を1枚手に取りながら、今日何度目かも分からないため息をつく。

 

「こんなことなら横須賀にやるんじゃなかったよ」

「だから私は反対したじゃないですか! 春日先輩がいなくなった総務部は大騒ぎですよ!」

「3人も増員したのに?」

「他所の官庁から引っ張ってきただけじゃないですか! 春日先輩の作ったマニュアルがなかったら書類作成すら手間取る人たちですよ!?」

 

 官庁と軍では書類の形式も微妙に異なる。海軍に媚を売るため各官庁から派遣されてきたエリートたちは苦戦を強いられているようだ。とはいえ、慣れてしまえば作業スピードは段違いに早くなるだろうが。

 

 『無駄を省く。』

 老人が元帥が着任した時に掲げたスローガンを誰よりも忠実に遂行したのは春日蒼汰だった。細かい理由付けや遠目の言い回しを徹底的に省き、短く的確な書類作成を実現・マニュアル化まで達成した春日蒼汰の功績は、大本営の文官で知らない者はいない偉大なものとなっている。

 ただ、そのマニュアル通りに制作したとしても春日蒼汰の作る書類と同様のクオリティで仕上げることはできない。旧式の方法で10ページほどの量だったモノが、春日マニュアルに従えば5ページまで短縮できる。しかし春日自身が制作したものはわずか2ページ。両面印刷すれば1枚で事足りてしまうほどまで短縮しているのだ。

 

 深海棲艦との戦いでは情報も作戦立案も鎮守府運営も、海軍のあらゆる業務を最適化・効率化しなくてはならない。そのため徹底的に『無駄』を排除してきた効率厨の元帥をもってしても、春日蒼汰の事務処理能力には度肝を抜かれる。中学校卒業から大本営で働き始め、わずか3年でここまで能力を磨き成果を残した人材を手放したくなかった気持ちは元帥も同じなのだ。

 

「まあ、いずれは軍人になってもらおうと考えていたところだったしちょうど良かったよ」

「え? 軍人じゃなかったんですか?」

「ああ、彼は先月まで雇員だったからね」

「雇員だったんですか!? 官吏ですらないじゃないですか!」

「1年目は嘱託として勤務していたんだよ」

「うそぉ!?」

 

 尊敬する先輩が正規職員ですらなかったという衝撃の過去に唖然としている大淀を見て、元帥は苦笑を浮かべる。あの時、自分が拾っていなければあの才能あふれる若者はどこかで野垂れ死にしていたかもしれない。そう考えるとゾッとする。

 

「で、でも今は軍人なんですよね? 私たち艦娘を付き従える立場になったわけですし――」

「ああ、それなんだけどねぇ」

 

 元帥である自分と准将である横須賀鎮守府【提督】が推薦したとはいえ、士官学校を卒業していない者を軍人とするのには相当な猛反発があった。雇員を判任官として登用する前例はあったが、武官として登用した事例はほとんどない。元帥がその権力を悪用して自分に都合の良い者だけ待遇を厚くしているのでは、と非難する声もあった。特に敵対派閥からの反発は凄まじく、会議室で行われた攻防の結果として「横須賀鎮守府に出入りする身分・立場を保証することに限定する」という名目でなんとか春日蒼汰の軍人――判任官としての登用が叶ったのだ。つまるところ――

 

「彼、二等兵曹なんだよね」

「士官ですらないし、下士官の中でも1番下じゃないですかああああああああああ!!!」

 

 大淀の絶叫を聞きながら見た時計はもうすぐ正午を指そうとしている。ここから40km以上離れた横須賀では、自分の机に置かれている十倍以上の書類の山に埋もれている少年がいるのだ。孫と同い年の少年がどうしているのか、少しの間、老人は思いをはせることにしたのだった。

 

 ……決して、書類仕事から現実逃避したかったからではないのだ。

 




 海軍内の役職名は、
防衛省防衛研究所の「旧日本軍における文官等の任用について」(PDFファイル)
Man On a Missionさまの【海軍階級】大日本帝国海軍の階級【1942年11月1日以後】
を参考にしています。googleで検索すれば出てくると思います。

 調べたり見たりするのが面倒くさいって方に向けて簡単な説明を。
「嘱託」→アルバイト
「雇員」→非正規雇用
「判任官」→正社員
 みたいな感じだと思います。(少なくともこの作品内ではそう)

 ただ今作では武官と文官の境目が曖昧だったり、史実とは多くの齟齬があります。(ボク専門家じゃないし……)
 まあつまり何が言いたいかって言うとですね。


※ こ の 小 説 は フ ィ ク シ ョ ン で す

 許してくださいなんでも島風(;゚Д゚)


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15.食堂(主人公視点)

 お気に入り300件!(゚∀゚)
 我歓喜!(゚∀゚)
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 我幸福!(゚∀゚)
 我感謝!(゚∀゚)


『クマー! クマー!』

 

 あら、もう12時か。

 走らせていたペンを置いて壁にかかった時計を確認する。ヒトフタマルマル、昼食の時間だ。

 

『クマー! クマー!』

 

 頭の上でアラームのように鳴いているクマ子さんを指でつまむ。

 

『クマ?』

 

 可愛らしく首を傾げても騙されんぞ。毎日毎日ボクの頭上で叫びよってからに。お腹減ったのは分かるけど、耳が痛いんだよ。もうやめてね?

 

『ちょっとなにいってるか分からない』

 

 おい語尾はどうした。

 

 

 

 拝啓、他界あそばせたお父さまお母さま。横須賀鎮守府に異動してから2日が経ちました。

 今日は4月3日。第二会議室から溢れんばかりだった書類も順調に減っていき、今では当初の半分程度にまで落ち着いています。

 仕事は非常に好調、ここ2日間は定時退勤を達成しています。「残業するべからず」と言ったのはお父さんでしたね。当時中学生だったボクに「働いたら負け」とか言い出した時は正気を疑いましたが。

 さて転勤初日から心配していた人間関係ですが、

 

(あの人って……)

(今日も来てるね……)

 

 遠目に見られてコソコソと陰口を叩かれるくらいには良好です。

 いやあ、肩身が狭いね。食堂に来たら、さっきまで楽しそうだった食事風景が途端にザワザワヒソヒソと雰囲気悪くなるんだもん。

 だけど、どうか信じてほしいマイペアレンツ。ボクは何も悪いことをしていない。

 

 そう、ボクは悪くない。

 

『球磨川がいるクマ』

 

 ボクは禊(みそぎ)じゃない。

 

 

 

 いや本当に、なんでこんな避けられてるのってくらい誰からも話しかけられない。一方で、距離を置いてチラチラ見たりヒソヒソ話したりっていうのはされる。緊急事態宣言中でもそんなに距離置かなくたっていいじゃんってくらい遠巻きにされる。

 

『おさかなクマー!』

 

 勝手に食券機のボタン押さないでくれる? 2日連続で焼き魚定食だから、今日こそはハンバーグ定食をだね、

 

『取り押さえるクマー!』

『『『ワー!!』』』

 

 おいちょっとやめろ小人族! どこから出てきたお前ら群がるな顔に張り付くなドサクサに紛れてポケットの中のチョコレート持ってくな――

 

『おさかなゲットクマー!』

 

 ああああああああああ!!! また魚だあああああああああ!!!!

 

 

 

 ここ3日間、まともに言葉を交わした相手といえば【提督】と大淀さんくらい。【提督】とは作成した書類の確認をしてもらうため執務室を訪ねた時に一言か二言交わすくらい。大淀さんとは大本営に郵送する際に必要な諸々の手続きをお願いする時に挨拶するくらい。そもそも大淀さんは仕事中の雑談に興じる不真面目な人柄じゃないし、【提督】の傍には必ず誰かしら艦娘がいてボクを睨みつけてくるから、あまり雑談しようって雰囲気にならない。

 

『私たちがいるじゃないですか』

『もっと頼れー』

『もっとお菓子よこせー』

『もっとおさかな食わせるクマー』

 

 わざわざアーンして食べさせてあげてるんだから文句言わないの。ちなみに今日のおさかな定食は鱈の照り焼きだった。大本営時代にも食べたことある一品だけど、横須賀のコレは少し冷めていてちょっぴり焦げてて苦かった。大本営の間宮さんが作ったやつの方が美味しかった。同じ『間宮』でも味に違いとか出るものなんだろうか。

 あとヒマだからってボクの頭の上で組体操するな小人族。重心変わって首がグラグラする。

 

『そうクマ。そこはクマ子専用の場所だクマ』

 

 違うよ?

 

『『『失礼しました!』』』

 

 違うって言ってるだろ。というかクマ子さん、完全に横須賀鎮守府の妖精さんたちの頂点に君臨しちゃってるよね。

 

『力こそ正義、クマ』

 

 やだこの子、恐ろしい。ところで、まだ食べるの?

 

『もっと食べないと大きくなれないクマ』

 

 え、キミたち大きくなるの? ずっとそのサイズなんじゃないの?

 

『そこにいるのくらい大きくなるクマ』

 

 そう言って指差した先に座っているのは、クマ子さんによく似た茶色い髪で頭にアホ毛がピョンッと飛び出してる艦娘さん。マジか。妖精さんって成長すると艦娘になるのか。

 って、いやいやいやいや。そんなバカなことあるわけないでしょ。適当な嘘つくんじゃありません。エイプリルフールは一昨日でしたよ。

 

『本当クマ。妖精さんは嘘つかないクマ』

 

 昨日、風呂上がりに食べようと取っておいたボクのプリン食べたのは誰だっけ?

 

『ヴッ!? ……く、クマ子さんじゃないクマ~』

 

 はいダウト。プリンの容器に顔突っ込んでる映像がスマホに録画されてました。

 

『だ、騙したクマー!?』

 

 痛い痛い。艦娘の艤装すら持ち運べる怪力でベシベシ叩くな骨が折れる。

 とかやってる間にもうすぐ13時だよ。急いで食べちゃわないと。

 そう思って目を向けたお皿の上には、千切りキャベツとミニトマトしかなかった。

 

 あれぇ! まだ半分くらい残ってたはずの照り焼きがないぞぉ!?

 

『遅いから全部食べちゃったクマ』

 

 キサマァァァァ!? ボクまだ1口しか食べてないのにぃ!!

 

 

 メインである主菜なしの定食は、非常に味気なかった。

 




 もっと評価されたいのぉん! ☆が欲しいのぉん! って友人に言ったんですよ。

「更新頻度上げれば?」

 やめてくれ友人。その正論は私に効く。


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16.食堂(陸奥視点)

 感想欄でアドバイスもらって、話を動かそうとした結果。

 あるぇ~? 全然動いてないぞぉ~?(;゚Д゚)

 しかも内容が安定のガバガバ矛盾だらけという(´・ω・`)本当に申し訳ない。
 読みづらい文章になってしまいましたが、飛ばし飛ばしでも拝見いただければ幸いです。


 納得がいかない。

 長門型戦艦二番艦『陸奥』は、切り分けたハンバーグを口に運びながら食堂の隅を睨みつけた。

 

 春日蒼汰が横須賀鎮守府に来てから3日目。彼は今日も、食堂で妖精さんたちに囲まれながら楽しそうに昼食を摂っている。【提督】は食堂に来る予定もなく、執務室で海域図とにらめっこをしながら食事をしているというのに、だ。

 そもそも春日蒼汰の配属は【提督】の激務を軽減するためではなかったのか。少なくとも、自身が秘書艦をした時に閲覧した大本営からの書類にはそう書かれていた。たしかに【提督】がペンを握る時間は減った。一方で、過去の報告書を読み漁り眉間にしわを寄せて唸り続ける時間は増えた。

 大淀は「彼の専門は作戦立案ではなく事務仕事ですから、その分野に期待はしないでください」と言っていた。たしかにここ2日間秘書艦を務めた足柄・長門によれば秘書艦がペンを持つ機会はほぼなかったらしい。書類仕事がさっぱりな姉の長門は「これは楽でいい!」とふんぞり返っていたのでお説教しておいたが。

 では【提督】が何をしているのか。それは深海棲艦の不穏な動きへの対応に間違いない。どうやってか警備の網目を潜り抜けて日本近海に出現している深海棲艦の数は、減少するどころかここ数日で倍近くにまで増えているらしい。前回の大規模侵攻から4ヶ月経ったということもあって、艦娘の間ではこんな噂が流れている。

 

 次の大規模侵攻は、過去に類を見ない規模になるのではないか。

 

 出没する深海棲艦の目的が何らかの偵察である可能性は高い。実際に昨日、第一会議室で開かれた旗艦会議では【提督】から暗にソレを示すような言葉が発せられた。

 

「体調管理の徹底と、艤装の整備を怠るな」

 

 何らかの緊急出撃が予想される、という言葉。偵察力の高い利根・筑摩や航空母艦を近海哨戒に割り当てるという指示。少しの予兆も見逃すまいという想いが【提督】からは感じられた。

 気になったのは、その【提督】の目元に隈が浮かんでいたことだ。書類仕事に追われていた頃よりも鮮明に浮かび上がる黒い染みは、会議に参加した艦娘から体調を心配されるには十分すぎた。

 

 大丈夫、問題ない。きちんと睡眠は取れている。その言葉は、隣に立つ大淀の暗く沈む表情を見れば嘘だとすぐに分かる。

 不甲斐ない。【提督】の作戦に頼り切っていて何の手助けもできていない自分が恥ずかしい。秘書艦になったとしても、作戦立案の面では神算鬼謀を持つ【提督】の力にはなれないし、かといって以前のような書類処理も大本営からの新参者に一任されたことですることがなくなってしまった。せいぜいがお茶汲みや鎮守府内の連絡、工廠での開発など。定期的に会議も開いてはいるが、毎回【提督】の立案した作戦の概要説明と各艦隊の近況報告で終始している。

 

 ようするに、羨ましいのだ。執務面で【提督】の役に立てている春日蒼汰が。

 妬ましいのだ。【提督】に一目置かれ、信頼されている新参者が。

 だというのに。やる気をみなぎらせるわけでもなく、楽しそうでもなく。ただ淡々と書類処理を進め、艦娘と触れ合おうともせず。ほとんど表情を動かすことのない少年が。秘書艦である自分たちの仕事を奪っておきながらそれが当たり前だという態度でシレッと仕事している若き軍人が。ただひたすらに恨めしいのだ。

 

 自分たちの力不足であることは自覚している。艦娘という立場上、処理できない書類があることも認識している。敬愛する【提督】の激務を肩代わりしてくれている少年を恨むのが間違いであることも分かっている。それでも、国を守る最前線の場所にも関わらず毎日定刻――一七〇〇になればさっさと帰宅してしまう彼の働く姿勢はどうにも納得がいかない。

 

 せめてもう少しやる気に満ち溢れた表情を見せてくれれば納得がいくものを。困ったような、気だるそうな表情で群がる妖精さんたちを適当にあしらう春日蒼汰を見て陸奥はため息をつく。

 秘書艦を優先的に任される艦娘に共通している点として、責任感がありリーダーシップがあることが挙げられる。足柄も、長門も、今日の秘書艦である陸奥自身もだ。他の秘書艦を任されるような艦娘たちも、長門のように『【提督】の失脚を目論んでいる』と極端まではいかずとも、春日蒼汰に対して良くない印象を持っている。故に、長門の春日蒼汰イメージダウン演説を止めようとしない。明らかに、やる気のなさそうな無表情で働く春日蒼汰の態度が心象に悪影響を与えていることは間違いない。客観的に分析できている陸奥でさえ、心の中では春日蒼汰を嫌っていることを自覚している。

 

 考え事をしている間に、いつのまにか春日蒼汰は食堂から出て行ってしまったようだ。秘書艦である陸奥も、早く食事を摂って執務室に戻らなければなるまい。賑やかな喧噪に包まれるようになった食堂の中で、慌ててハンバーグと白米を口に運ぶ。

 

 もちろん陸奥も短絡的に春日蒼汰を「鎮守府にとっての悪」と断じているわけではない。ここ数日、彼の方から積極的に艦娘に接触するような素振りは見せていないことから、姉の長門が言うように艦娘を誑かして【提督】の失脚を目論んでいるとは思えない。単細胞で頑固者の姉は「私が先手を打ったことで、奴も思うように動けていないに違いない!」と鼻息を荒くしているが。

 

 いずれにせよ、春日蒼汰とは対話する機会を設けなければなるまい。【提督】にも、どうして彼を受け入れたのかの意図を改めて確認する必要があるだろう。

 大規模侵攻が控えている大事な時期なのだ。深海棲艦の動きが不穏な今、鎮守府内で仲間割れをしている場合ではない。少しでも早く、このギスギスした空気をなくさなくては。

 頭の固い姉の代わりとして、第二艦隊旗艦として。あくまで冷静に、落ち着いて、対応していかなければなるまい。

 そう考えながら、執務室へ向かう廊下の角を曲がったところだった。

 

 

 その春日蒼汰が、駆逐艦『島風』を胸に抱き寄せていた。

 

 

 目を丸く見開いて驚いている様子の少女、春日蒼汰は陸奥に背中を向けており表情は伺えない。

 とっさの出来事に、陸奥の頭の中がカッと赤く染まり――

 

 パンッ!!

 

 廊下に、乾いた破裂音が響き渡った。




 総合評価400pt(゚∀゚)! とても嬉しいです、ありがとうございます!

 むっちゃん、秘書艦なのに【提督】と一緒にご飯食べないの何でー?って思いました。
 自分で書いてて疑問に思う作者です。
 たぶん【提督】が気を利かせて「他の娘と食堂で歓談しておいで」とでも言ったんじゃないかなと。余計なお世話ですね。
 ケッ! これだからイケメンは!


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17.窓外(主人公視点)

 マスクがなくなった友人に向かって「マスクマーン!!」と目の前でマスク装着して踊ったらビンタされました。ひどい。


 左のほっぺたが痛い。

 なんか急に背後から現れた高身長の女性に「こっの変質者ぁ!!」って言われた次の瞬間には、廊下の壁に激突してた。

 

『き、決まったー! 戦艦陸奥のビッグセブン平手だー!』

『いやいや、40cmビンタです』

『いえいえ、主砲火薬庫爆発アタックです』

『『『は???』』』

 

 なにケンカしてんのキミたち。

 

 

 

 経緯を話そう。急いでご飯を食べたボクは第二会議室に戻ろうと早歩きで廊下を移動していた。

 廊下の角を曲がったら、やけに露出の多い少女が「ばいのはやさでー」と訳の分からないことを言いながら全力疾走でボクに向かって突っ込んできた。

 ボクの胸板目がけてものすごい勢いで顔面から激突してきた少女を受け止める。ちょっと腰がグギッて変な音したけど今は気にしない。

 

「おぅ?」

 

 おぅじゃないが。

 何かにぶつかったことにやっと気付いた少女は、目を丸くしながらボクを見上げてくる。露出多いのに全然日焼けとかしてないし、むしろ肌が病的なまでに真っ白だし、なんだこの子、気味悪いな。

 まあ、前方不注意で一方的にぶつかってきたとはいえ、相手は幼気な少女。これで怪我でもしてたらボクの責任にされかねない。まさかないとは思うが、戦時で働き口が少ないこのご時世にこんなつまらない事でクビだけは勘弁してもらいたい。とりあえずは少女の無事を確認しようと思って声をかけた。

 

――キミ、怪我はない?

 

「……おぅ?」

 

 だからおぅじゃないが。

 人の話聞いてるのかな、なんて思いながらもう1回だけ聞こうと口を開いたら――

 

 

 

「こっの変質者ぁ!!」

 

 

 

 背後からガッと胸倉掴まれてビンタされました。あまりの衝撃に最初は何が何だか訳が分からなかったよ。

 露出少女はお姉さんに腕掴まれて運ばれていった。なぜかジッとボクのことを見ていたんだけど、そんなに滑稽ですか壁にぶつかってへたり込んでるボクの姿は。

 

 あー、痛いなぁ。口の中に広がるのは鉄臭く生臭い血液の味。今まで味わった中で最悪のデザートだ。

 去っていった方向を見るに、あの2人は執務室に向かったみたいだ。【提督】に直談判でもするつもりだろう。ボクはセクハラで懲戒処分されるに違いない。

 異動して3日目で不祥事とかボクの評価はダダ下がりだろう。まさかクビはないと思うけど減給処分くらいは覚悟した方が良さそうだ。

 どうも好かれてないみたいだし、波風立てないように艦娘とはなるべく距離を置いていたのにこの仕打ちはあんまりだと思う。

 

『クマ子たちがいるクマ。元気出すクマー』

 

 うるさいスモールヒューマン。今のボクは頬と腰が痛いしお金も減るしで不機嫌なんだ。ボクに元気出してほしいなら可愛い恋人の1人でも連れてこい。

 

『生意気な口はこれクマ?』

 

 ごめんなさいごめんなさい! 謝るから頬をつねらないで! せめて逆でお願いします、そっちはビンタされた方だから!

 

 クマ子さんは女性関係の冗談を言うとめっちゃ怒る。妖精さんも女性みたいな見た目してるから、たとえ冗談でもそういう類のことは聞きたくないみたい。

 すっかり拗ねてしまったクマ子さんを左手で撫でながら、右手は書類処理のため休みなくペンを走らせる。時折お菓子を盗もうと忍び寄ってくる他の妖精さんたちは、クマ子さんの鉄壁ガードで成す術なく吹き飛ばされていく。もう拗ねてないよね? これ。撫でてほしいからそっぽ向いてるだけだこの子。可愛いなあ。

 

『グマァッ!?』

 

 あら、口に出てたらしい。顔を真っ赤にしてキシャーッて威嚇してくるクマ子さんにナデナデ続行。とても癒される。

 仕事しながら癒しを得るという最高の環境に浸っていると、妖精さんのうち1人が『蒼汰、蒼汰』と肩を叩いてくる。どうした小人A。いまボクはクマ子さんを愛でるので忙しいんだ。

 

『あれ、どうします?』

 

 指差されたのは背後の窓。中庭がどうしたんだいと覗いたら

 

「おぅ? おーぅ?」

 

 何やってんだあの露出少女は。

 

 中庭に生えてる樹木の1つに向かってピョンピョンと飛び跳ねてるのは、ボクの減給処分を引き起こした疫病神だった。





 祝 ☆ 感 想 20 件 (゚∀゚) ドンドンパフパフー


 お話、動けやオラー!!(;゚Д゚)って気合入れたら動かないですかね。重いモノと違って気合じゃ動きませんか。そうですか。
 でも頑張っちゃう(゚∀゚)気合で動かしちゃう。


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21.走れ明石(明石視点)

 メロス構文ってやつを一度はやってみたかったんです。
 やっちゃったぜ☆

 あと自分がやりたいことをやったせいで内容がうっすうすのガッバガバです。いや本当にごめんなさい(´・ω・`)


 明石は激怒した。必ず、かの邪智暴虐のメガネを除かなければならぬと決意した。明石には執務がわからぬ。明石は、横須賀の工作艦である。装備を改修し、艦娘を修理して暮して来た。けれども予算に対しては、人一倍に敏感であった。おととい未明明石は追加予算申請を提出するため、開発の時間を削り慣れない提案書を作成し、苦労して完成した書類を提出した。そうして今日一〇〇〇に返ってきた書類の表紙に押された判子の文字は、

 

『却下』

 

 明石は激怒した。

 

 

 

「どういうことですかぁ!」

 

 普段は工廠に籠りきりの明石が執務室を訪れたのは、それからわずか10分後のことだ。

 

「多いんですよ。申請された金額が」

 

 呆れ半分怒り半分といった様子なのは大淀。【提督】と秘書艦である陸奥は困ったような表情に苦笑を浮かべている。

 

「このくらいの額、いつも通りじゃないですか!」

「その『いつも』が多いから言ってるんです!」

 

 大本営時代からの仲である明石と大淀。建造された時からの腐れ縁であり同部屋でもある親友を、明石は親の仇を見るような目で睨んだ。

 

「だいたい最初の予算額が少なすぎるんです! いつも足りないじゃないですか!」

「他の鎮守府どころか大本営よりも多い額を用意してるんですよ? それで少ないなんてありえないでしょう!」

「他より出撃数も遠征数も段違いじゃないですか!」

「被害状況はかなり少ないはずですが?」

 

 ここで明石が言葉に詰まった。元より弁が立つ人種ではない。口喧嘩すれば勝つのはいつも大淀である。

 

「そもそも前年度の内訳。『維持費』の項目が異様に多いですね? いったい何をそんなに維持してるんですか?」

「そ、それは……最新鋭の設備とか……」

「維持費や使用資材量が少なく済むから導入したはずですが」

「うぬ…………」

「そういえば、今年のバレンタインデー前後には『惚れ薬』なんて銘打った嘘か真か分からない液体が鎮守府内に流通していましたね。結局、首謀者は分からないままでしたが」

「!!??」

 

 マズい。明石は恐怖した。あれは完全な悪ふざけだったのだ。いや、ちょっとは「【提督】が私だけ見てくれればいいのにー!」なんて妄想をしたりはあったが。

 スクープを探していたパパラッチ『青葉』に乗せられて作成した惚れ薬は、結局ただの精を蓄える栄養ドリンクになってしまった。購入した顧客からの評価は最悪、さらに大淀や長門による犯人捜しも行われ一時は死を覚悟したほどだ。売買はすべて顔や声を介さない間接的な取引だったため、難を逃れることができた。

 

できたと思っていたのだ。助かったと思っていたのだ。

 目の前に仁王立ちしている親友は、明石の隙を少したりとも見逃さぬようにジッと静かに見つめている。眉間に刻まれたシワはここ数日でますます深くなっている。

 

「2ヶ月前のことか。他国か深海棲艦の工作員によるものかという悪い噂もあったが……」

「やっぱり、明石が犯人なのね?」

 

 【提督】は苦笑を崩さず、陸奥はゴミを見るような目で明石を見る。

 

「…………しょ、証拠はあるんですか?」

 

 言動が推理ドラマによくいる犯人のそれである。全身から冷や汗が噴き出て、目はひっきりなしにキョロキョロと動き回る。下手に言い逃れをすれば自らの首を絞めるだけ。何とかこの場から脱出しなければ。しかしどうやって? よりにもよって今日の秘書艦は第二艦隊旗艦、ビッグセブンにしてこの横須賀鎮守府最強の一角である戦艦『陸奥』だ。万に一つも逃げ場はない。

 

「今まで何度も言っていますが、明石の申請している予算額は通常ではありえないほど多いんです。こちらがお願いしている工廠の改修・修理をこなしてくれていれば口うるさくは言ってきませんでしたが」

「え?」

「え?」

「え?」

「な、なんですか!?」

 

 あれで口うるさくないつもりだったのか。唖然とした顔の3人に顔を赤くしながら「とにかくっ!」と仕切り直す。

 

「酒保の品ぞろえも一任していましたし、ある程度自由は与えてきたつもりです。しかし、それが鎮守府に悪影響を与えるのであれば、看過することはできません」

「うぐっ」

「明石、正直に言ってください」

 

 万事休す。大淀からの最終通告が告げられる。明石はガックリ肩を落とし、いままでの自分がしてきた悪事を洗いざらい吐き、裁きを受けようと決心を――

 

 

「明石は、深海棲艦のスパイではありませんよね……?」

 

 

 何を言ってるんだこのメガネは。

 

「はぇ?」

 

 うっかり口から出たのは間抜けな声。見れば大淀だけではなく【提督】と陸奥も深刻そうな顔をして自分の様子を伺っている。いや、陸奥に至ってはいつのまにか艤装を出現させていつでも主砲を発射できるようにしている。

 ハタ、と気付く。最近、日本近海で深海棲艦が出没している件。工廠に籠りっきりだった明石だが、深海棲艦が海軍内にスパイを送り込んでいるのではないか、という噂話は聞いていた。あまりにこちらの哨戒場所や巡回時間の隙を縫っているものだから、情報が筒抜けになっているのではないかという懸念があったのも噂話が広まる要因だろう。

 

(もしかして私がスパイだと思われてる……!?)

 

 あまりにも悪ふざけしすぎて、スパイ疑惑を持たれていることに明石は驚愕した。そんな馬鹿な話があるか。私がどれだけ鎮守府に貢献してきたと思っている。ちょっとおふざけしたのは悪いと思うが、そんなに不信感を持たれるようなことはしていな――

 

・ 工廠の追加予算を横領し、個人的な研究費用に充てた

・ 酒保の収支報告を偽り、個人的な研究費用に充てた

・ 青葉と共謀して鎮守府の士気低下に関わりかねない騒動を起こした

・ こうしたことを、過去2年間繰り返してきた

 

 してたわ。めっちゃしてました。ごめんなさい完全に自業自得です。

 

「ち、違いますよ! 私は断じてみんなを裏切るような真似はしていません!」

「本当ですか……? 明石を、信じてもいいんですね?」

 

 必死に否定しようとして、ふと思った。

 

(あれ? これはチャンスなのでは?)

 

 そう。すべてをうやむやにする絶好の機会。明石がやっていたのは単なる資金横領だが【提督】たちは最悪の事態――明石が深海棲艦の手の者である可能性を危惧している。ということは【提督】たちの想定よりも軽い罪であれば、看過される可能性がある。そこに目を付けたのだ。

怪しい行動をすれば1発アウト、見逃し三振。しかし逆転満塁ホームランも狙えるこの状況。過去の行いを水に流せるのなら、やるしかない!

 

「大淀……私を信じて」

「明石……」

 

 震える大淀の手を自分の両手で包み込む。

 

「これまで、大本営でもずっと一緒にやってきたじゃないですか。私が裏切ると、本当にそう思う?」

「い、いえ。思っていません。でも明石のやってることを考えると……」

「たしかに、悪ふざけとはいえやりすぎたかもしれない。でも、それはみんなの笑顔が見たかっただけなの」

 

 嘘である。この女、自分の開発欲と面白いことを見たいという欲だけで本能のままに生きている。

 

「明石……あなた、鎮守府のことをそこまで考えていたんですね」

「私は大淀みたいに頭良くないから、失敗ばかりだけど。それでも、みんなのことを少しは考えてるのよ。だから…………信じて?」

「っ! ごめんなさい明石! あなたを疑ってしまって!」

 

 チョロいもんだぜ。明石は内心でほくそ笑んだ。大淀は仲間を、友人を疑わないのだ。性分が素直で真面目。敵に対しては情け容赦ない作戦をためらいなく実行する反面、仲間想いな彼女だからこそ横須賀鎮守府の面々から信頼されているのだ。頭では「裏切り者がいるかもしれない」と考えているものの、心の奥底では「そんなはずない。仲間を信じたい!」という想いがある。それを旧知の仲である明石は分かっているのだ。

 

 もっとも、友人の苦悩を分かっているくせにそれを自分の保身のためだけに使う明石の性根は大淀と対称的に腐りきっているのだが。

 最終的に【提督】と陸奥も納得。明石の嫌疑はこれで晴れた。万々歳である。

 

「あ、そうだ明石。予算水増しの件については反省文と報告書を書いて月曜日までに提出してくださいね」

 

 明石は恐怖した。

 




 気付けばFPSゲームばかりしてるGWでした。自堕落!!


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19.善意(主人公視点)

 過去回想だと思った? 残念でしたー! 主人公視点でしたー!

 いやもうね、主人公視点だと脳みそ空っぽで書けるから楽だし楽しいし最強ですわ。
 仕事のストレスぽぽぽぽーん!!(゚∀゚)


――何やってるの?

 

「おぅ?」

 

 オットセイか何かなのかい、キミは。

 

『困ってるみたいです?』

『助けた方がいいです?』

『むしろ放置プレイというのもありです?』

『あり寄りのありです』

 

 なし寄りのなしだよ。困ってる人を助けなかったら、それはそれで寝覚め悪いじゃん。そう思ったから仕事を中断して助けに来たのに

 

「おぅ? おぅおおぅ? おーぅ?」

 

 日本語しゃべれんのかお前は。

 来るんじゃなかった。さっさと戻って仕事の続きをしよう。ボクの回りを月みたいにクルクル回る露出少女を視界の端に捉えながら決心を固め――

 

 

「私、島風!」

 

 キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!

 

 

 いや、きちんと話せるなら最初からそうしててよ。いきなり自己紹介するからビックリして手に持ってた妖精さん投げちゃったよ。

 

『もっかい! もっかい!』

『わたしも! わたしも!』

 

 なにぶん投げられて喜んでるんだ。高い高いじゃないんだぞ。

 

「私も! 私も!」

 

 なに言ってるんだこの疫病神は。そんなに投げてほしいならやってやるよ両脇に手をいれてどっせーい!!

 

「たっかーい!」

 

 ……そういえば『何とかと煙は高いところにのぼる』ってことわざがあってだね

 

「お゛ぅ゛ ?」

 

 オッケー分かった。ボクが悪かった。たしかに初対面(2回目だけど)の女の子をバカ呼ばわりはダメだね。以後改めよう。だからこちらに向けた主砲を下ろすんだごめんなさいなんでもするから許してしまかぜ。

 

「ん? いまなんでもするって言ったよね?」

 

 あっはい。

 

「じゃあ連装砲ちゃんを助けて」

 

 ……なんて?

 

「連装砲ちゃんを助けて!」

 

 ……ほうれんそうちゃん?

 

「れ・ん・そ・う・ほ・う・ちゃん!!」

 

 はいはい連装砲ね。キミの右手についてるソレね。こっちに砲口向けるのやめて?

 連装砲"ちゃん"? なに、海軍のマスコットキャラクターでそんなのいたっけ? 助けるってヒーローごっこか何か?

 

「アレ!」

 

 いやアレって指差されてもそこにあるのはさっきまでキミが跳び跳ねてた樹木じゃないですか――

 

「キュー……キュー……」

 

 なんだアレ。

 連装砲に顔と手と、浮き輪? が付いた謎の生物が、犬のようにクンクン鳴きながら枝にしがみついてた。

 

「登ったら降りられなくなっちゃったの……」

 

 あのダックスフンドみたいな短い手足でどうやって登ったんだ。

 まあいい。とりあえずあの未確認生命体なのか兵装なのかマスコットキャラクターなのかよく分からない存在を救助しよう。さっさと救助してさっさと仕事に戻ろうそうしよう。

 

「助けるの、おっそーい!」

 

 埋めるぞキサマ。人がせっかく助けてやろうとしてるのにケンカ売ってんのか。これにはガンジーもコークスクリュー放つレベル。

 しかたない。この露出少女あらため島風さんには何も期待しない。これはあくまでボクの自己満足。ボクがやりたいからやってるだけ。疫病神とはいえ女の子の頼みを断るわけにはいかないし。

 ああ、でもこの真っ白な軍服を木登りで汚すのは嫌だな。下はしょうがないにしてもせめて上着くらいは守ろう。妖精さん、悪いんだけど上着を持っててくれるかい?

 

『『『まかせろー』』』

 

 よし、任せた。

 

『『『ぐえー』』』

 

 ダメじゃん。キミたち重い艤装とか運べるのに、なんで十数人もいて軍服1つ持てないのよ。

 地面には着けてない? そう、それなら良かった。すぐに救助してくるから待っててね。これでも小さい頃は高いところが怖くて木に登ったのに降りられなくてプルプルしてたもんですよ。

 

 ……あれ? これって二次被害が生まれるやつでは?

 いや、大丈夫。大人になったボクを信じろ。がんばれがんばれできるできる。元プロテニスプレイヤーも言ってた。

 よし行くぞ。待ってろホーレンソーちゃん。いまお兄ちゃんが助けてやるからな!

 

『どっこいしょクマー!!』

「キューイ!?」

「連装砲ちゃんがー!?」

 

 何やってんのクマ子さん!?

 

 いつのまにか木の上まで登ってたクマ子さんが、枝にしがみついてた連装砲ちゃんをポーイって空中に放り投げてた。

 このおバカ! 誰が下で受け止めると思ってるんだ! 鉄の塊みたいな見た目してるんだぞ重さがどれだけあるか分かったもんじゃない! おい誰か妖精さん!

 

『あ、私たちは蒼汰の軍服で手一杯なので』

『そういうサービスは受け付けておりません』

『スーハースーハクンカクンカジュルペロッ!』

 

 ダメだ変態しかいない! 肝心なところで使えないな小人族!

 しかたない! ここはボクがセンター岡田ばりのエリア66スーパーダイビングキャッチを魅せてやる!

 冷静に着地点を見極めて…………ここだぁ!

 

「キューイ!!」

 

 な、なにぃい!? 空中で1回転、いやひねりも加えた3回転だとぉ!?

 

 ズザザー…………スタンッ!

 

「キュイッ!」

 

 人の背中に着地しておいて満足そうな鳴き声あげてるんじゃないよ。

 

「……だっさーい」

 

 連装砲ちゃんを抱きあげながらゴミを見るような目でボクを見るな疫病神。

 




 お気に入り登録350件ありがとうございます。
 ご期待に沿えるかどうかは分かりませんが、これからも頑張ってのんびり投稿していきます。


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18.善意(大淀視点)

 頭空っぽでその場の勢いで書いたら、なんかとてもシュールな話になりました
 文才ほしい


「どうして彼を着任させたの!」

 

 血相を変えて執務室に入ってくるなり【提督】に詰め寄ったのは、温厚な性格のはずの陸奥さんでした。

 

「……落ち着け、陸奥。今は報告の最中だぞ」

 

 【提督】の苦言で我にかえったのか室内を見渡す陸奥さん。そうです。今は、帰投した第一艦隊による報告の最中だったのです。

 自分の行動を恥じたのか頬を赤く染めながら俯く陸奥さんの背中を軽く叩いたのは、姉であり第一艦隊旗艦でもある長門さん。しかし、その口から出た言葉は陸奥さんをたしなめるものではありませんでした。

 

「いや、この長門も陸奥と同じ気持ちだ。どうして春日蒼汰を横須賀鎮守府に異動させたのか、教えてもらえないだろうか」

「今は報告が先だ」

「もちろん報告はする。しかし全員揃ってからだ。島風がどこかに行ってしまったからな」

 

 第一艦隊唯一の駆逐艦である島風さん。自由奔放な彼女が帰投後の報告にいないのは通例となっていましたが、本来なら許されることではありません。艦娘の自主性・多様性を重んじて許容してくださる【提督】だから見逃してくださっているだけで、艦娘側から本来の在り方を言われてしまえば反論のしようはありません。

 

「あら? 島風なら一緒に連れてき――」

「おっそーぃ……!」

「ごめんなさい。なんでもないわ」

 

 連れてきたはずの島風さんの声が遠くから聞こえてきたことで、陸奥さんは諦めたように肩を落としました。第一艦隊の面々や【提督】、私も呆れたような苦笑を浮かべているに違いありません。とはいえ仕方ありません。彼女を制御できる人などいないんですから。

 とはいえ、このギスギスした空気はあまり良くありません。【提督】が机の上で手を組み俯いているためその表情は伺い知ることはできませんが、身に纏う空気は決して穏やかとは言えませんでした。

 しかたない、ここは私が受け答えをしなければ。そう考え、幾度となく繰り返してきた説明をもう一度口にします。

 

「【提督】が春日くんの異動を認めたのは、滞っている書類処理を任せるためです。大本営からもそういった説明がされていたではありませんか」

「理由がそれだけでないことは、お前も気付いているはずだぞ大淀」

 

 頭の悪い私でも気付くくらいだからな、と言うのは長門さん。

 たしかに、ただ書類仕事を任せるのなら今までに何人も横須賀鎮守府に配属願いを出した提督候補生がいました。そうして大本営から打診された将来有望な人材を切り捨て、春日くんを選んだのは【提督】です。

 春日くんが私の自慢の後輩だとしても、どれだけ優秀だとしても、ただの文官でしかないのです。その彼に『軍人』としての身分を与えて異動させるのは、普通に考えて疑問です。

 その理由の詳細を私たち艦娘に伝えないのは【提督】のお考えあっての事だとは思います。しかし、それが私たち艦娘の不信感を募らせていることもまた確かなのです。

 

 私たちが【提督】の様子を伺っていると、ゆっくりその御尊顔を上げられました。

 

「……機密事項だ」

 

 その苦渋に満ちた表情を見て、私たちはハッと息を飲みました。

 言いたくとも言えない、伝えられない事情が【提督】にもあったのです。それを知らずになんて失礼な態度を取ってしまったのでしょうか。

この方が。横須賀鎮守府を、この国を救った英雄が。私たち艦娘のことを想ってくれている心優しい【提督】が、理由なく私たちの反感を買うような事をするわけがなかったのです。

 

「すまない【提督】。私たちの配慮が足らなかったようだ」

 

 長門さんの言葉をきっかけにして、全員で礼をすると【提督】は慌てて「顔を上げてくれ!」と仰られます。本当にお優しい人です。

 そのまま少し考えておられた様子でしたが、何かを決心したかのように頷くと、私たちに目を向けました。

 

「……だが、そうだな。春日くんと君たちとの間で信頼関係を築けていないのは、私の責任でもある」

 

 春日くんなら大丈夫だと放任してしまった、と仰る【提督】。やはり春日くんは【提督】から絶大な信頼を寄せられているようです。

 …………正直、かなり羨ましいです。

 

「このまま問題を放置していては艦隊の士気にも関わるし、作戦遂行や鎮守府運営にも影響が出てくる。そうだな? 大淀」

「は、はい! その通りだと推測されます!」

 

 急に名前を呼ばれたから思わず声が裏返ってしまいました。

 

「では、春日くんと君たちとの間で信頼関係を築くための場を設けよう」

 

 そう言うと【提督】は、第一艦隊のメンバーでもある龍驤さんに目を向けました。

 

「龍驤。春日くんを呼んできてくれるか」

「ええでー」

 

 たしか龍驤さんは、まだ春日くんと面識がなかったはず。大丈夫か尋ねると「第二会議室に行けばいいんやろー?」と言いながら執務室を出ていきました。

 

「一度、お互いにしっかり話し合った方が良いだろう」

 

 あからさまに嫌そうな顔をした何人かに苦笑しながら【提督】は長門さんに、島風と龍驤さん抜きで出来る限りの出撃報告を求めました。

 




 見きり発車、行き当たりばったりで書いているので、矛盾点とか疑問点がたくさんあると思います。ごめんなさい。


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