とある魔法と科学の交差点 (もっち~!)
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プロローグ

この子は、私の夢と希望を叶えてくれる。

 

「深夜、ありがとう」

 

「ちょっと…真夜…私の子供に何をするの?」

 

狂気に満ちた妹の表情を見て、顔が強ばる深夜。

 

「今は、何もしないわ。もう少し大きくなって、身体の構造が安定してからよ」

 

深夜の子供は、胎児の段階の検査で、最高難易度と言われている『分解』と『再構築』の能力が見つかった上、桁外れのサイオン保有量も確認された。

 

「この能力は天からの授かり物よ。これで、世界へ復讐が出来るわ。いずれ、『人工魔法演算領域」を造ってあげれば、最強の魔法師になるのよ」

 

深夜は、真夜の狂気に触れ、恐れおののいた。このままでは、自分の子供は、世界を破滅に導く道具にされかねないと。

 

 

深夜は真夜に内緒で、産まれ出る子供を兵器化させない為のストッパーを作る事にした。彼女達の四葉家は、武力においても、財力においても、技術力においても、世界有数の家柄であった。

 

「能力の一部、そうね…サイオン保有量に、リミッターを掛けられる能力を持たせたいの。出来るかしら?」

 

四葉家参加の技術スタッフに相談する深夜。魔法師の世界では、選りすぐれた魔法師を造るため、遺伝子調整技術を用いて調整体と言われる魔法師を製造していた。特定の遺伝子による組み合わせで産まれる能力、1つの受精卵を造るのに、数え切れない人数の遺伝子を掛け合わせていくので、親との血縁関係は無いに等しく、人造人間製造に値し、違法行為になるのだが、どの家系も秘密裏に研究し製造していた。

 

「そうなると、脳の一部を停止させるような、精神感応術が良いですね。では深夜様の保存卵子を使い、造ってみます」

 

深夜は精神感応術においてトップレベルの魔法師であった。

 

「お願いね。真夜の野望で、この世界を滅ぼしたくないの」

 

「わかりました」

 

 

時は同じ頃、真夜は真夜で、自分の子供が欲しくなっていた。

 

「彼との間に子供が欲しい」

 

破談した婚約者のことに思いを馳せる。どうするか。真夜は、立川にある学園都市を訪れた。ここは、最先端の科学を研究している学園都市であり、この国の国家施設でありながら、治外法権地帯であった。最先端の科学を法で縛ると、研究の妨げになるという理由であり、認可されていない医療科学技術もあった。

 

真夜はその内の1つに目をとめた。自分の細胞から万能細胞を造り、子供の産めない身体でも卵子を造れる技術である。

 

「これね。これに彼の凍結してある精子を受精させれば…」

 

真夜はその研究施設を買い取り、己の欲望に突き進んでいく。

 

 

深夜、真夜姉妹の師匠に当たる九島烈の元に、放っていた密偵より、二人の計画が届いた。深夜の計画は至極当然なことであるが、不完全な調整体は出産後20年未満しか寿命が無いのが問題であった。

 

深夜の体内にいる子供の能力にリミッタを掛けて、いざ使わせたい時に調整体がいないと、リミッタは外せず、宝の持ち腐れになる。これは不都合であり、国の為にならない。そこで、深夜の造っている調整体を完全体と呼ばれる、人間と同じ寿命を持つ身体にすることにした。方法は1つ、人間と同じ、受精をさせての出産である。深夜の造った受精卵を、極秘理に万能細胞化させて卵子に戻し、精子と受精させた。これで人間と同じ寿命を得られるはずである。

 

一方、真夜の受精卵であるが、自らの好奇心で、実験をしてみた。まず自分の精子を万能細胞化させて卵子を造り、そこに真夜の受精卵を精子に作り替えて、受精させておいた。男性の精子を卵子にして受精させたのは、初めての試みである。彼は、何らかの変化を期待した。

 

 

4月24日、深夜の体内から、男児が産まれ出た。名前は達也と命名された。

 

ソレを知った烈は、深夜の胎児を女性に、真夜の胎児を男性にした。更なる掛け合わせもしたくなったのかも知れない。

 

翌年の3月25日、借り腹より深夜、真夜の子供が生まれ、名前は深雪、真一と命名された。

 

「真夜も子供を作ったの?誰の子?」

 

「彼との子よ。能力は気にしない。スクスクと育ってくれればね」

 

あの狂気に塗れていた真夜の顔は、自分の子供を抱き締めた瞬間、優しい顔つきになったと言う。しかし…真一が3歳になる頃、事件が起きた。

 

烈が真一の能力を検査した結果、『吸収』であることが判明し、その上、脳内の魔法演算領域が膨大であったのだ。その結果、真一は誘拐された。どこかの組織に攫われたのだ。攫われた現場には達也と深雪もいたが、真一だけ連れて行かれた。真一を狙った犯行であるのは明らかだった。

 

「先生!なんで、能力検査なんかしたんですか?私は、真一が真一であれば良かったんですよ」

 

原因を知った真夜は烈に掴みかかった。

 

「検査したくなるだろ?真夜と彼の子供だぞ。それは期待出来る能力持ちに決まっている」

 

「私は、あの子を兵器にはしませんよ。あの子の成長を見ていたかっただけなのに…」

 

一旦は鎮まっていた真夜の狂気は、再度うねり上がって来た。

 

 

時は流れ、10年の時が経った。とある教会で二人の少女が話していた。

 

「お願い、火織…私は儀式の後、記憶を無くすの。あなたしか頼れない。あの子を救い出して」

 

「あの子とは?」

 

「私に移植される能力の元々の持ち主を持つ少年よ。十字軍が大漢を攻め落とした時、実験場にいたそうなの。今は、バチカンの隔離施設にいるの」

 

「元々の持ち主?能力を奪ったのか?」

 

能力を奪い取ることは、奪い取られた側の死を意味する。

 

「違うの。コピーしたの。彼の脳のクローンを造り、私に埋め込むのが、今日行われる儀式の正体よ」

 

儀式とは名ばかりの脳移植手術を行われる少女が、もう一人の少女に涙を堪えて言い寄っている。

 

「お願い…あの子を、国に返してあげたい。名前は真一って言うらしい。火織の国の名前よね?」

 

「そうだな。ありがちの名前だ」

 

「連れ戻れたら、土御門家を頼って。彼なら信用出来るから」

 

時間になったのか、司祭達が迎えに来て、涙を零した少女を連れ去って行った。

 

「火織、教皇の元へ来てくれ」

 

副教皇に連れて行かれる少女。教皇のいる部屋に連れて行かれた。

 

「火織、君を女教皇に指名した」

 

「教皇に指名?」

 

少女が驚いた声を上げた。教皇は普通、選挙で選任するのだから。

 

「教皇では無い。女教皇と言う新しいポストだ。君は聖人だし、若い。この先、教皇が変わり、道を誤りそうな時は、君が指摘し、誤りを直して欲しい」

 

驚きながらも話を聞いていた少女は、教皇の隣にいる少年が視界に入った。

 

「それで、君への初任務だが、彼を日本へ輸送して欲しい」

 

あの少女が願っていたことだ。どうして?もう用済みだからか?

 

「真一といいます。教皇達は精神感応術で操っています。記憶も書き換えたから、辻褄は問題無いです」

 

笑顔の少年の口から、驚きの言葉が飛びだした。

 

「どういうこと?」

 

「あのお姉ちゃんを救いたかった。でも、遅かったみたいだ」

 

既に手術が開始したのだろう。途中で止めれば、死に至る可能性が大である。

 

「どこで、そんな術を?」

 

「わからない。ずっと、隔離されていたから…記憶が曖昧なんだ」

 

少年を連れ、教皇の部屋を出た少女。

 

 

 



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帰国

それぞれの原作の開始より以前からのスタートなので、原作の設定はなだらかに崩れそうです(^^;;


---神崎火織---

 

真一君を帰国させ、土御門家の当主の元へ連れて言った。土御門家は、代々陰陽師を生業としている家系であるが、科学にも魔術にも知識があり、それぞれの勢力とも交流があるそうだ。

 

「彼の髪の毛からDNAを検出して、遺伝子情報を取り出し、警察のデータベースで照会してみたのだが…」

 

難しい顔の当主。

 

「もしかすると、真一君の両親は存在しないかもしれない。彼は人造人間の可能性がある」

 

人造人間…人間の作った人間。教会的にはモンスターに値する存在である。

 

「ど、どういう意味ですか?」

 

「遺伝子情報が3人分取れたんだが…その内の二人は判明した。判明したんだけどね」

 

口が重い当主。私に話すかを悩んでいるのか?

 

「聞いてはいけない話なんですか?」

 

「いや、もう訊いちゃっただろ?彼が人造人間って…」

 

それはそうだが。

 

「たぶん、10年ほど前に誘拐された四葉真夜の子供だよ」

 

「四葉?あの四葉家ですか?」

 

四葉家…現当主が幼い時に誘拐され、その報復に、事件を主導した国を滅ぼしたという、猛者揃いの家系である。教会でも四葉家には触るなと、教えられている。

 

「そう、その四葉家の当主の息子のようなんだが…彼女、子供が産めない身体なんだよ」

 

産めない…なのに、子供は居る?それは、神を冒涜する行為の末に造り出されたと言うことか。

 

「もう一人は、七草弘一だ」

 

「その方って、妻帯者ですよね?」

 

彼も有名人である。経営コンサルタントとしても、投資家としても有名な人物であるが、奥様は四葉家の者ではなかったはずだ。

 

「もしかすると、彼の知らない内に、精子バンクに預けてある精子を盗んで造った恐れがある」

 

教会的には真っ黒な事案である。だけど…彼には罪は無い。教会的には、彼を罰する対象にするだろう。四葉家の当主には触れられないから。

 

「火織君、複雑だろ?教会サイドの人間として」

 

「はい…」

 

罪に罪を重ねている。昔だったら、石打ち100回に、火あぶりの刑が妥当な線か?

 

「真一君を、殺すかい?」

 

当主が真剣な顔で、私の顔を覗いている。教会としての結論は、死罪確定であるけど…

 

「殺せません。彼女に託された命です」

 

「そうだよね。さて、どうするかな」

 

当主も結論を決めかねているようだ。真一君は今、当主の息子である元春が面倒をみているそうだ。一人にするのは、得策では無いと判断したと言う。

 

「彼の能力なんだけど…」

 

それも問題である。聖女と同じ能力を、いや、モンスターから聖女に移植したことは出せない。事実が明らかになる前に、消される運命か?

 

「インデックス君より、上だよ。多分、魔導書は勿論、大漢の呪術、教会の秘術も覚えていると思う。すでに、土御門家の秘術もかもなぁ」

 

それは、マズいでしょ。確実に消されるレベルだと思う。

 

「彼の能力は『吸収』。いままで、攻撃を吸収する能力と思われてきたが、インデックスからのメッセージによると、知識欲がスポンジで出来ているみたいだそうだよ。知ったことの総てを吸収する能力で、吸収した情報、能力、スキルは、彼が自在に使えるみたいなんだが…」

 

禁書目録と呼ばれ、インデックスと改名した彼女よりも、危険な存在では無いのか?

 

「たぶん、火織君の剣技や能力も吸収していると思う。相手に触れるだけで、吸収してしまうらしい」

 

厄介な能力である。

 

「たぶん、消される前に、殲滅しちゃうと思う。彼に対する殺意は御法度だよ」

 

「はい」

 

「それを踏まえて、どうするかな?」

 

土御門家の当主すら、消し去る能力持ちなのか?

 

「教会預かりにするには、危険だと思う。まぁ、それ故、彼は隔離施設に入れられていたんだろうね。彼の能力は、教会の上層部は知っているはずだよ」

 

だから、真一君は、記憶を書き換えたのか?自分の危険度を下げる為に。

 

「立川ベースにある学園都市の第7学区にある病院に彼を連れて行こうと思う。そこには名医がいるからね」

 

冥土帰しと呼ばれるカエル顔の医者のことだろうな。瀕死の重体でも治してしまう技術。

 

「彼の病院なら安全だよ。そこで、四葉真夜と対面だな」

 

対面って…どうなるの?真一君の運命は…

 

 



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対面

 

---神崎火織---

 

「どういうことだね。土御門殿」

 

怒りを露わにして七草弘一が、病院内の貴賓室に入って来た。

 

「あらあら、弘一さん。他の女と結婚をされて、短気になりましたの?」

 

満面な笑みを浮かべる四葉真夜。

 

「真夜…どうしてここに?土御門殿、わかる説明を希望します」

 

真夜を見て、顔に汗をかき始めた弘一。

 

「10年振りに、真夜様の息子さんが見つかり、保護をしたのですが、こちらにいらっしゃる十字教団の女教皇になられた神崎火織様に、当事者であるあなた方から、わかる説明をお願いしたいのです。あぁ、彼女が真一君を保護して、土御門家預かりにされたのです」

 

「早く、真一に会わせてください。後生ですから」

 

狂気を纏った魔女と言われている女性とは思えない。逆に母性たっぷりの女性に見える。

 

「その前に、彼を検査した結果、彼の遺伝子情報から三名の遺伝子情報が見つかりました。この説明をお願いします」

 

「誰の子だ?そのガキは?」

 

「三名?何かの間違いでは?」

 

弘一と真夜は違う反応をしめした。

 

「なるほど、お二人の反応でわかりました。この大罪の真相のカラクリがね」

 

「大罪?まさか…真夜…お前、精子バンクから俺の精子を盗んだのか?」

 

「そうよ。私は弘一さんとの子供が欲しかったの。それを実現して、何が悪いのかしら?」

 

うわぁ~、開き直っている。

 

「で、三名って、どういうことですの?」

 

「九島烈様の遺伝情報も見つかりました。何故、キメラとも言える人造人間なんか造られたのですか?老師の口から説明をお聞かせください」

 

奥の部屋から九島烈が堂々と現れた。魔法師世界では老師と呼ばれ、尊敬の念を抱く者も少なくないと言われ、真夜、弘一も烈の元で、魔法を極めていたそうだ。

 

「つい、出来心じゃよ」

 

烈の言葉で、部屋の空気の質が変容した。

 

「先生…真一に何をしたのですか?まさか、あの誘拐も先生が?」

 

先ほどの母性溢れる表情から想像も出来ない悍ましい表情になった真夜。

 

「まず、誘拐は大漢の者がやったのじゃよ。四葉家に恨みを持っているからのぅ。で、儂のしたことは、真夜と弘一の受精卵を万能細胞化させて、精子にして、儂の精子で造った卵子と受精させたのじゃ。結果、最強のウィザードが産まれたのじゃ」

 

嬉しそうな顔の烈。

 

バキ!

 

弘一が立ち上がり、烈の頬を殴った。

 

「お前…何をしてやがる。真夜の心を乱すなよ」

 

「弘一よ、四葉に優れた者が増え、ジェラシーかのぅ」

 

「そんなんじゃねぇ!精子を卵子にして、受精だと?男二人でガキを造るなんて、タブーじゃねぇか」

 

「タブー?何を言っておる。調整体製造ではありがちな手法じゃよ。結果、真一は九島、七草、四葉の力を兼ね備えたウィザード。魔法師には勝てぬぞ。或る意味、真夜の夢は叶ったじゃろ?」

 

『強奪』

 

誰かの呪文が聞こえた。ワンワード詠唱…ウィザードだ。

 

「貴様…何をしたのだ?」

 

老師と呼ばれていた男が真一君を睨んだ。

 

「バァバを虐めるヤツは、僕が許さない。お前の能力を総て奪ってあげたよ」

 

総て…どこまでやって良いかの判断基準が分からないのだろう。いや、そう思ってあげよう。

 

「真一!覚えていてくれたのね」

 

真夜が、表情を聖母のようにして、真一君に抱きつき、抱き締めた。

 

「バァバ、ネェネとニィニは?」

 

「ごめんなさいね、連れてきていないのよ。今度、連れてくるわね」

 

「うん」

 

「おい!ガキ!儂の能力を返せ!」

 

「返し方なんか知らないよ。ねぇ、コイツ、消していいかな?」

 

「ダメ!」

 

咄嗟に私は声を上げた。真一君に、簡単には人を殺させる訳にはいかない。

 

「ダメなのか。じゃ…」

 

烈に軽く触れた真一君…記憶を書き換えたのか?まさか、あんな簡単には無理だよな。

 

「ツッチーおじさんに、罪を総て告白して」

 

「はい…」

 

烈が、土御門家の当主に、罪を告白しだした。記憶の書き換えでは無く、あの軽く触れた一瞬で、烈の精神を乗っ取ったようだ…。たぶん、ニコニコして真一を見ている真夜以外の者は、驚愕な光景を見た表情になっていただろう。

 

 

九島烈の罪の告白を聞いた後、彼を魔法師協会の者達が、丁重に引き取ってくれた。いくら尊敬の的とは言え、罪は罪である。

 

「さて、次の問題なのだが、真一君をどうするかだな」

 

真一君は、再度元春が連れて部屋を出た。感情の爆発は危険である上、彼に誕生秘話を聞かせる訳にいかない、という配慮だそうだ。

 

「学校に通わせるにも、両親の名前が必要だと思うんだ。真夜様、弘一様」

 

「私達は異論ありませんわ。ねぇ、弘一さん」

 

嬉しそうな真夜、渋い顔の弘一。

 

「弘一さん、認知してくださいね」

 

「いや…それはだな。うちには年頃の娘もいるし、隠し子騒動はカンベンしてくれ」

 

まぁ、一種の隠し子である。知らないうちに、凍結保存した精子を使われた訳だし。そもそも、何故凍結保存したのかを、問い詰められる危険もある。どちらも、教会的にはアウトな事例になる。

 

真夜のプレッシャーに負けた弘一が、書類にサインをしている。認知した証拠書類だろうな。

 

「そもそも、3歳の時に攫われたんだろ?学校って、どうするんだ?」

 

この国では、小学校、中学校は義務教育であるが、現在13歳である真一君は中学2年に相当する。

 

「高校から通わせれば良いだろう。魔法師家系で、数字付きの子供は国立魔法科高校へ通わせるんだろ?。それまでは、家庭教師に教えて貰えば良い。四葉家も、七草家も、年頃の子供はいるだろ?その中で優秀な子供に丸投げしたい」

 

「なぁ、土御門殿。あの子ってウィザードだよな?」

 

「三科生に通わせれば良い。その為の三科生だろ?」

 

当主に聞いた話では、国立魔法科高校には3つのクラスがあり、優秀な魔法師の生徒を集めた一科生、普通の魔法師の生徒を集めた二科生、そして魔法師としての才能は無いが、魔法師家系の家に生まれた子供を集めた三科生があるそうだ。魔法師としての才能が無くても、他に家を継げる者がいない場合、魔法師について勉強させておくクラスだという。

 

「三科生の枠にも入らないだろ?ウイザードだぞ。言ってみれば、魔法師の上位ジョブだ。九島の老害はやってくれたな…」

 

「実戦なら真一が一番ね」

 

悩む弘一、喜ぶ真夜。対照的な二人…

 

「ミッションスクールにはどうかな、火織君」

 

当主に訊かれた。

 

「難しいですね。真一君にまず必要なのは、善悪の区別と、道徳、倫理に関してのルールだと思います。私の通うミッションスクールでは、信仰心や十字教に関係することをまず教えます」

 

十字教に隔離されていた真一君には、酷な場所だと思う。

 

 



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強襲

---四葉真一---

 

ツッチーの目を盗んで、病院内を見て回った。自動販売機のコーナーに差し掛かると、女の子が自販機に蹴りをぶちかましていた。

 

ゴーン!

 

衝撃で自販機が揺れ、ジュースが1本取り出し口に落ちて来た。凄い!この国では、お金を入れないで、蹴りでジュースが貰えるのか。

 

「ちょっと、アンタ!何を見ているの?」

 

ジュースを手にした女の子に声を掛けられた。

 

「蹴りを入れると缶ジュースが出てくる自販機って、初めて見たから…」

 

僕もマネをして、缶コーヒーを手に入れた。そんな僕を唖然とした表情で見ている女の子。

 

「なんで、出てくるの?」

 

「えっ?普通は出てこないの?」

 

「出ないわよ!私…普通じゃないから」

 

「じゃ、僕もだね」

 

女の子に抱きついた僕。

 

「いい香り…」

 

彼女のうなじの香りを嗅ぐ。

 

「ちょっと!何、馴れ馴れしく抱きついて、臭いをかいで居るのよぉぉぉぉぉ~!」

 

女の子から電撃が放たれて来た。すかさず、空気へ放電していく。

 

「なんで…効かないの?」

 

「電撃を空気放電したから…」

 

頭の上から、破裂し粉々になった蛍光灯が、細雪のように、降り注いでいた。

 

「私…御坂美琴、アンタは?」

 

「真一だよ。よろしくね、美琴ちゃん」

 

美琴ちゃんの顔が茹だったように真っ赤になっていく。熱でも出たのだろうか?彼女に治癒魔法を掛けていく。

 

「え…魔法使い…なの?」

 

キョトンとして、僕を見ている美琴ちゃん。

 

「そうだよ。美琴ちゃんって、かわいいなぁ~」

 

美琴ちゃんの額に僕の額を重ね合わせた。美琴ちゃんのこれまでの記憶が、僕の脳裏で再生されていく…これはなんだろうか?培養液で培養されている美琴ちゃんに似た少女達。『クローン』という言葉が脳裏に浮かぶ。人間に対する完全な人間体のクローンの製造は禁止されている。これは違法だ。なんだ。この数は…

 

「どうしたの?顔が蒼いよ、真一…」

 

「ゴメン、美琴ちゃんの記憶を見ちゃった。あのクローン体は何?」

 

「…見ちゃったのね…あれは、私のクローン体。妹達に当たるらしい。この街の研究者が、私の能力に目を着けて、筋ジストロフィー症の治療に役立てたいって、私の遺伝子を提供したんだけど…レベルアップ実験の糧にされているの」

 

もの凄く哀しそうな顔の美琴ちゃん。許せない。レベルアップ実験の内容は分からないけど、美琴ちゃんを哀しませることは許せない。

 

「ここで、待っていて。全員、連れ戻すから…」

 

「え?!1万体近くあるらしいけど…」

 

そんなに?

 

「全員、救い出すよ」

 

「私も行く!」

 

二人で病院を抜け出した。

 

 

研究所の場所は、美琴ちゃんの記憶を辿り、見つけた。入り方はカードリーダーにカードを挿すみたいだけど、『封印無効』を発動させて、カギを次々に撃破していく。

 

「真一…凄い…」

 

美琴ちゃんに褒められた。なんか嬉しいので、ガードロボ達には『10万ボルト』の電撃を喰らわせていく。障害を二人で乗り越え、漸く問題の部屋に到達した。ガラスの容器に収められているクローン体達、容器の外で待機しているクローン体達。

 

「10032号、いる?」

 

「はい、お姉様と、ミサカは呼び出しに応じます」

 

「みんなを解放したいの。どうすればいい?」

 

「…ミサカ総体が彼に指示を出しますと、ミサカは返答いたします」

 

美琴ちゃんがクローン体と話していると、僕の脳裏に言葉が響いた。

 

『一番幼いのと一番生育しているのを、まず助け出してください』

 

アホ毛って、言うんだっけ?頭の上に毛が立っているのって…あの子が一番幼い。後…胸が大きい子が居る。あの子かな?覆っている容器を、『レールガン』で破壊して、助け出した。

 

「10032号、服を用意して」

 

「はい、わかりましたと、ミサカはタンスを見て来ます」

 

助け出した二人の生育の良い方に声を掛けてみる。

 

「この後はどうすればいいの?」

 

「ミサカ・ネットワークによる共鳴で破壊できる」

 

ガラスを割るような音が、部屋内の至る場所からして、美琴ちゃんのクローン達が、卵から生まれるようにして、出てきた。

 

 

目立つ…目立ち過ぎる…同じ顔の少女が1万人近くいる。目立たずに病院へ帰る方法を考える。う~ん…火織お姉さんが言うには、記憶容量が大きい弊害で、思考能力が劣っていると言われた。無い頭を捻りまくる。僕を心配そうに見ている美琴ちゃんとシスターズの皆さん。

 

「真一お坊ちゃま、お困りですか?」

 

声の主を見ると、ジィジだった。あの攫われた日の前日と、変わらない姿で良かった。バァバは少し疲れた感じだったから。

 

「ジィジ…助かったよ。みんな、助けたいんだけど…」

 

「お任せください、この葉山に。皆様を安全な場所へお連れし、保護いたします」

 

ジィジはバスを大量にチャーターしてくれ、美琴ちゃんも一緒に連れて行ってくれた。って、ここはどこ?

 

 




1万人近い少女集団であるシスターズと一緒に住んだら、ハーレムになるのだろうか?(^^;?


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父と娘


少し加筆。


---七草真由美---

 

狸親父と呼ばれている父親に呼び出されて、父の書斎へと向かった。

 

「よぉ、元気にしていたか?」

 

「えぇ」

 

今年高校に入学したばかりの娘に掛ける言葉では無い。

 

「お前に頼みがある」

 

「どんな?」

 

身構える。政略結婚に向けた婚約か?

 

「身構えるな。お前、家庭教師をしてくれないか。相手は、中2の男子だ」

 

家庭教師?どこかとのコネの為か?

 

「どこの家系?」

 

「うっ…どこになるんだ?う~ん…」

 

言い淀む父。こんな姿は珍しい。

 

「まぁ、兎に角、やってくれないか?」

 

「どこの家系ですか?」

 

再度、訊いてみた。行ってみたら、既成事実を作られたでは困る。うさん臭い家系はパスしたい。

 

「まぁ、結果から見れば、俺の息子になるかな?」

 

それは…不倫の末の?愛人がいたのか?母さんがいるのに…

 

「愛人さんに泣きつかれましたか?」

 

カマを掛けてみた。

 

「アイツは泣かないだろうな。依頼主は土御門家の当主だ」

 

アイツ?誰だ?陰陽師の土御門家か…それは、大きなコネだな。だけど、娘さんがいたとは初耳である。それに、土御門家に私が行っても、家庭教師として役立てない。やはり、身体目当てなのか?

 

「その坊主の後ろ盾になっているのが、土御門家なんだが…受けてくれないか?」

 

教え子候補は、土御門家では無いのね。じゃ、どこ?でも、土御門家の申し出を断ると厄介かな?呪いを掛けられたらマズいよね。魔法師は呪いに関しては無防備である。

 

「で、誰との…いや、どこの家系の女性との子なの?」

 

「それは難しい問題だな。そうか、そういう考え方もあるな。俺の孫になるんだな、アイツは…」

 

はぁ?息子と言ったり、孫と言ったり、なんかうさん臭いんだが…

 

「真由美、他言無用で頼む。下手にバレると、俺達が消されるからな」

 

うさん臭さ満載のようだ。消すって、なんかヤバい子じゃないの?狸親父ですら消すような勢力って…マズいって。私のような小娘向きの仕事では無いかもしれない。まさか、アッチの家庭教師なのか?まだ、体験したことが無いのに…

 

「俺と四葉の女の間に生まれた子に、九島の男がやって、出来たガキだ」

 

あぁ~、目眩がする。いきなりのビッグネームである。なんか修羅場で無いのか?四葉の女との間に出来て、九島の男にやられた?魔法師を代表する家系絡みの犯罪?その犯罪で出来た子なのか?で、土御門家にバレているの?絶対にヤバいって…

 

「四葉の女って、深夜様?だとすると、ダブル不倫よね?!」

 

深夜様にも中2の子供がいらっしゃるし。

 

「そっちじゃない」

 

深夜様でないと…おいおい、当主の真夜様なのか?って、彼女って、生殖機能が事故で失われたはず。そう歴史の授業で習ったけど。

 

「どうやって?真夜様は子供が授かれない身体でしょ?」

 

「あぁ、あの女、内緒でやりやがった。俺の保存してあった精子と、自分の細胞で作った万能細胞を卵子にして、受精だってよ。俺も、今日知ったばかりだよ」

 

なんか、色々と問題がある発言である。その中でも、我が家的に問題なのは、この父はなんで精子を保存してたんだ?既に息子二人、娘が三人いるのに…

 

「なんで、精子を保存したのですか?」

 

「えっ…いや、お前達の母親が事故か病気で早死になった時、ほら…次の妻にタネを蒔けないと、ダメだろ?その保険だ…よ」

 

「ふ~ん…私達の母さんを消すの?ねぇ、新しい愛人が出来たら…」

 

「おい、待て!真由美…おちつけぇぇぇぇ~!」

 

落ち着く?私は落ち着いているわよ!

 

 

私の暴走によって、騒ぎに気づいた母、妹達、兄達までもが、知る事態になった。そのような状況に陥り、漸く狸親父は全部を自白した。

 

「教会の女教皇が、そのガキの行く末を見守っているんだ。教会としての判断も揺らいでいるんだよ。ガキには罪は無いが、教会的には大罪人に当たるってよ」

 

そりゃ、そうだろ。3歳で誘拐され、十字軍に救出されたのに、隔離施設に幽閉って…教会サイドも非を認めざる負えないだろう。それでも、大罪人認定は解除されないのか…なんか、理不尽。だから、魔女裁判みたいな事件が起きたんだろうな。

 

「まぁ、結果的に認知はした。だが…扱いに困っている。七草家には息子は二人いるし、四葉の後継でいいと思うんだが、認知をした以上、何もしないって訳には…だから、高校入学までの間、七草家で教育をサポートすることになって…真由美、家庭教師をしてやってくれ。いや、やれ!」

 

命令なのか。まぁ、私も兄達とは異母兄妹であるから、その子も異母姉弟と思えば問題は少ない。だけど、問題はそこでは無い。

 

「その子の能力は優秀なの?」

 

狸親父が、引き取らないっていうことは、能力に見込みが無いんだろう。優秀な子なら、七草家で引き取ると言いそうだし。

 

「魔法師としては最低だ。一高を受けても三科生入り決定だな」

 

えっ、そこまで…四葉と七草と九島の結晶が最低クラス?三科生って、魔法師としての価値はゼロな存在が通うクラスであるのだが。

 

「父さん、それはそれぞれの家の能力が打ち消し合ったのか?」

 

長兄の智一兄さんが訊いた。

 

「違う…アイツはモンスターだよ。魔法師キラーと言ってよい。七草家では手にあまる存在ってことだ」

 

父の顔が強ばっている。何か怖い体験をしたようだ。

 

「俺の目の前で、九島烈を簡単に潰した。もう、烈は魔法は使えない」

 

九島烈…我が国のトップランクの魔法師であり、魔法師協会の重鎮である。その人物を魔法師として潰したって…

 

「アイツは魔法師では無い。トップランクのウィザードだ。魔法師の物差しでは測れねぇ」

 

ウィザード…本物の魔法使い…魔法師が目指す先にいるジョブである。そして、物差しで測れないから、三科生入りなのか?

 

「だから、真由美は、アイツに魔法師としての常識とタブーを教えて欲しい。今のまま、暴走すると、この世界から魔法師は消えるぞ」

 

ち、ち、ちょっと…私の身は安全?

 

「注意事項は1つだ。アイツと敵対はするな。消されるぞ…」

 

父の言葉に、その場の空気は凍り付いた。この狸親父は、そんな相手から、よく生きて戻って来られたな。

 

 




真由美の口調は…反抗期ってことで(^^;;


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狂気の驚喜

---四葉真夜---

 

真一のお友達を全員収容できた。ちょうど、国立に巨大な学生寮を造っていたので、そこに収容した。

 

「奥様、ただいま戻りました」

 

執事筆頭の葉山が部屋に入ってきた。

 

「調べて来てくれたかしら?」

 

「もちろんですとも。彼女達はミサカ・シスターズと呼ばれる学園都市第3位の能力者である御坂美琴さんのクローン体でございます」

 

さすがの私もアレには驚きました。皆同じ顔って…それなのに、個別の名前持ちとは、それはそれで凄いと思います。

 

「全部で2003体が造られ、ドリーと呼ばれた初号と、1号から10031号までは、死亡が確認されております。現在、収容しておりますのは、10032号から20000号、20001体目のラストオーダーと呼ばれる者、20002体目のミサカ・ワーストでございます」

 

真一は皆、婚約者にするつもりかしら?

 

「10032号から20000号はノードとしてターミナルとして機能しており、知り得た情報、経験した記憶を、距離に関係無く共有するミサカ・ネットワークという物を構築しており、ラストオーダーはそれらのターミナルを制御、管理する権限を持ち、ミサカ・ワーストは抱いてしまった闇を吸収し、代わりに発散するなどの各ターミナルの精神を浄化する役目を持っているそうです。そして、これら総てを以て、ミサカ総体というシステムになるようです」

 

真一の助けた少女達の価値は非常に高い。真一は価値など関係無く助けたのだろうけど、情報戦略においてのジョーカーに近い存在である。

 

「尚、真一坊ちゃまは、ミサカ総体と会話出来る模様です」

 

良いお友達を持ったわ。私の心を穏やかにしてくれる。いつでも世界を蹂躙出来るシステムって、素敵♪

 

「次に本体である御坂美琴さんですが、先程お伝えした通りですが、立川の学園都市において、12歳にしてレベル5の第3位の能力者で、所有されているの能力は発電系能力である『電撃使い』です。クローン体のシスターズはレベル3程度ですが、同じ能力を保持されております」

 

う~ん、学園都市の能力者なの。彼らは魔法師よりも上の存在である。彼女の能力ならば、CADを簡単に使用不可に出来るわよね~。本当に、真一は母親想いのよい子だわ。

 

 

葉山が戻ったので、八王子にある司波家へと向かった。深夜とガーディアンである桜井穂波は、深夜の静養の為、小淵沢の四葉家にいるので、現在は達也さんと深雪さんだけしか住んでいない。

 

「叔母様、どうされましたか?」

 

突然の訪問に驚く達也さん。あら?驚く感情は持ち合わせているのね。その達也さんにより、私と葉山は司波家のリビングへと通された。そこには深雪さんがいた。

 

「あなた達二人は、真一のことを覚えているかしら?」

 

「見つかったんですか?」

 

達也さんに訊かれた。深雪さんは呆然としている。

 

「えぇ、10年振りに戻って来ましたわ。それでね、深雪さんには真一の婚約者になって欲しいのよ。どうかしら?」

 

「えっ…それは…」

 

隣にいる達也さんの顔色を窺う深雪さん。

 

「あなたがブラコンであるのは承知の上での提案よ。考えて貰えるかしら?」

 

最強クラスの魔法師と最強のウィザードとの子供…私の夢が広がるわ。

 

「お兄様はどうなりますか?」

 

「達也さんには、次期当主の候補者になっていただくわよ。真一は魔法師では無いからね」

 

「魔法師では無い?どういうことですか?」

 

達也さんが喰い付いた。

 

「現時点でも、魔法師を全員抹殺できる戦力はあるのよ。達也さんなら、これがどういう意味か、分かるでしょ?」

 

美琴ちゃんのことはまだ秘密よ。

 

「叔母様は、どうされたいんですか?」

 

「そうねぇ。達也さんに引き継いでもらったら、隠居して、真一と深雪さん、それに真一のガールフレンド達と、楽しく穏やかに暮らしたいの」

 

「私もですか?」

 

深雪さんは真一を覚えていないのかしら?

 

「何か、不都合でもあります?」

 

「真一君が、どう変貌しているか、わからない段階では、お返事は出来ません」

 

一応、覚えてくれているようだわ。まぁ、それもそうね。

 

「今度、真一が落ち着いたら、お二人を真一に会わせます。深雪さんには、よく考えてもらう時間も差し上げますわよ。ふふふ、勿論」

 

 




真夜の狂気の結末…一つのテーマですよね(^^;


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兄と妹

 

---司波深雪---

 

叔母様は帰って行かれた。その置き土産の真実…真一が生きていた…って…

 

「深雪…大丈夫か?」

 

「えぇ、大丈夫です、お兄様…」

 

少し目眩を感じ、よろけた。あの日の真一の笑顔を忘れたことは無い。

 

『僕がニィ二とネェネを護る…深雪、幸せになれよ…』

 

って…

 

「叔母様のように、狂気に染まっていなければ良いが…」

 

あの笑顔が悪魔の微笑になっていたら、怖い。そんな真一は見たくない…

 

「叔母様の表情から、真一は叔母様好みだったんだろうな」

 

魔法師を憎み、全人類を呪っている叔母様…

 

真一…私の弟…と、思っていた。だけど、事実は違っていた。真一の母親は叔母様だった。子供の産めない叔母様は、万能細胞に一縷の望みを掛けて、子供を造る決心をしたそうだ。通常の交配で生まれていない。異質な人間な真一。真実を知ってしまった私は、あの時のように接することが出来るだろうか?とても怖い…

 

「深雪…会わないと言う選択肢もあるぞ」

 

「無いでしょう。叔母様の言葉は絶対ですよ。拒否して、お兄様に害が及ぶことになるのが怖いのです」

 

自分の気持ちを偽るようなことを、お兄様に言ってしまった。今の私はお兄様のことを考えている余裕は無い。

 

真一はあの時のように、接してくれるだろうか?とっても怖い。

 

「あの時、本当はお兄様が狙われていたのに、真一がお兄様の身代わりで…」

 

『僕がニィ二とネェネを護る…深雪、幸せになれよ…』

 

あの時、初めて、名前で呼んでくれた。なのに…真一は目の前から消えた。

 

「深雪、大丈夫か?」

 

床に屈んで泣いていた私。涙が止まらない。恐怖、不安しか浮かんで来ない。どうしよう…

 

お兄様のサポートで、自分の部屋に連れて行かれた。でも、涙が止まらない。恐る恐る、本棚からアルバムを出し、真一の写真を見つめる。あの頃のことを思い出すと、楽しかった想い出、嬉しかった想い出が浮かんでは消えていく。そう、総ては過去のこと。今現在では無い。

 

「深雪…俺はアイツの代わりは出来無いぞ」

 

能力のせいで感情がうまく出せないお兄様、何の縛りも無く表情が豊かだった真一。

 

愛情を出せないお兄様、私に思いっきり甘えてくれて、私のことを大好きと言ってくれた真一。

 

そう、お兄様では真一の代わりにはならない。だけど、お兄様とは一緒にいたい。私は欲深いです。

 

「お兄様とも一緒にいたいのです。でも、叔母様の将来には私と真一はいて、お兄様はいないんです」

 

私は欲張りである。お兄様も真一も欲しい。だけど、今はお兄様しかいない。

 

「私はお兄様と添い遂げたいのです」

 

「アイツがいないからだろ?」

 

お兄様は私の総てを知っている。私の心の闇も…

 

「お兄様はずるいです。私の心を覗くばかりで、ご自分の心の内は見せないなんて」

 

「俺は読心術は持っていないぞ。覗いてはいない。深雪の行動からの判断しただけだぞ」

 

行動に出ていたのか?

 

「アイツはこの10年、どう過ごしていたんだ?俺の身代わりで、拉致された後…」

 

真一が消えた日、お兄様の姿を見て狼狽えた者達…叔母様は、真一を誘拐した者を見つけ、行方を追ったが、国外に運ばれた後だった。叔母様のように実験されたのか?叔母様のように心が壊されてしまったのか?それすら、知るのが怖い。

 

だけど…

 

「お兄様、私、会ってみようと思います。それで、その結果で、あの日の気持ちと決別します」

 

あの日、真一に、お兄様へ言ったことを言った。

 

『私、真一の傍にずっといる。だから、放れないでね。いい?真一のお嫁さんは私だけだからね』

 

って…3歳児にしては大人びていたかもしれない。だけど、あの時の私の夢は…そういうことである。お兄様と私と真一で暮らすマイホーム。そんなことを夢見ていた少女だった。

 

どこかにメールをしていたお兄様の顔が困惑している。何を聞いたのか?

 

「葉山さんにメールで訊いたんだが…真一はあの日のままらしい。姿は変わったが、アイツの記憶はあの日のままだそうだ。成長は感じられないって」

 

どこか嬉しそうなお兄様。姿が変わった?10歳も成長したんだものね。でも、記憶があの日のままって…時間が止まっていたのか?いや。止められていたのか?

 

「ニィニとネェネに会いたいと、せがまれているそうだよ」

 

その呼び方は…今だと恥ずかしいかな。

 

 



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姉と弟

---七草真由美---

 

なんで、こうなった?

 

家庭教師をするかを決めに来たのだけど…

 

「へぇ~、あなたが弘一さんの娘さんなのね。思ったより美人で良かったわ」

 

心の準備が出来ていなかったのに、呼び鈴を押すと、四葉家の当主が自ら、玄関口に現れた。

 

「さぁさぁ、入ってくださいね。まず、あなたの部屋から案内しますね」

 

フレンドリーな口調であるが、プレッシャーをひしひしと感じる。機嫌を損ねたら、今日は命日になると思う、その程度のプレッシャーを感じ捲っていた。さすが、狂気を纏った魔女である。

 

「ここがあなたの部屋よ」

 

何故だか、私の私物が既に運び込まれていた。ここに住むことは決定事項のようだ。きっと反論異論は、敵対行動になるかもしれない。

 

「で、真一の部屋は奥よ」

 

同じような部屋が並んでいて、その奥に教え子がいる。それは私まで、側室扱いか?一応、血縁関係はあるはずなんだけど…

 

奥の部屋に入ると、かわいい少女達を、侍らせている男子がいた。彼がそうなのか?私の琴線に触れそうな端正な顔ダチである。彼は私達兄妹と似ていない。いいとこ取りの遺伝子の影響なのか?

 

「あの…なんて、お呼びすれば良いですか?」

 

私を見るなり、そう訊いて来た。顔ダチとは違い、話し方には幼さを感じる。

 

「真由美でいいわよ」

 

「真由美お姉ちゃん?それとも、真由美姉さん?」

 

姉呼びかぁ~。どうするかな…

 

「姉呼びはしなくて良いわよ。それで、姓は決まったの?」

 

「『くどう』真一になりました。『く』は神宮の宮で、『どう』は藤です。本当は『九つの島』が良いのでしょうけど、狙われる恐れがあるから」

 

四葉でもなく七草でもなく、九島と同音の宮藤になったようだ。番号付きは、何かと問題があるしなぁ。

 

「じゃ、尚更、姉呼びはおかしいわよ」

 

「わかりました。真由美さん」

 

ニコニコ顔の真一。この表情を維持しないと、明日は来ないのか。義理の弟にビビる私。そもそも、うちの狸親父がビビる相手である。高校1年の若輩者がビビらない訳がない。

 

「で、その子達は?」

 

見た目が似ている少女達。姉妹か?

 

「救出したクローン体の一部です」

 

救出したクローン体?聞いていないけど…

 

「彼女が本体の御坂美琴ちゃん」

 

私を睨んでいる。何かしたかな?

 

「私もちゃん呼びはしないでいいわよ。子供じゃ無いから」

 

先ほどから私を睨んでいた子。そうか、ライバル視かな。私には未だ、その気は無いけど。

 

「で、ミニちゃんと、ラオちゃんと、ミワちゃんだよ」

 

本体は中学生のようだが、ミニは1つくらい歳上、ラオは小学生、ミワは高校生に見える。何の目的のクローン体なんだ?

 

「で、まず学力テストをするわよ」

 

試験用紙をカバンから取り出し、彼の前に置いた。

 

「口答でいいですか?日本語を書くのは苦手なんで…」

 

喋りは流ちょうなんだけど、書くのは苦手?

 

「今まで、どこに住んでいたの?」

 

興味を持ってしまったので、つい訊いてしまった。

 

「バチカンにある十字教団本部の隔離施設です」

 

聞いたらダメな情報な気がする。真一の存在は、『他言無用』の意味が理解出来た気がした。普通の人間は、そんな場所に隔離はされない。

 

「へぇ~、バチカンだとどこの言語だったの?」

 

動揺を隠し、話題を変えた。

 

「隔離されていたので、人間との会話は皆無でしたので、悪魔語と妖精語とかな」

 

絶対に他言出来無いって…悪魔とか妖精とかと会話出来るの?動揺が激しくなる。

 

「会話は出来ます。文字は辞書があれば、読み書きできるようになります。今は広辞●を学習中です」

 

読心術ができるのか。ウソは絶対に吐けない相手である。緊張が高まっていく、ソレと反比例するように動揺が収まっていった。

 

で、テストの解答は満点である。日本語の読み書き以外は。

 

「日本語は難しいです。まぁ、フランス語は複雑でしたけど、文字は数えるくらいだったし」

 

確かに、カタカナ、ひらがな、漢字の合計数は大変な数である。漢字に至っては、音読み、訓読み、当て字があるわよね。

 

「ですので、真由美さんには、国語と道徳と性教育を学びたいです」

 

最後に何を言った?性教育?聞いていない。それも私が教えるの??

 

「美琴、帰る時間じゃないのか?」

 

「そうだね。門限破っちゃうとまずいなぁ。また、週末に来るね」

 

「待っているよ」

 

「うん」

 

本体が出て行った。

 

「彼女は寮住まいなの?」

 

再度、話題を変えた。

 

「立川にある学園都市の常盤台中学の女子寮だよ」

 

立川の学園都市って、能力者育成と研究の為の学園都市である。彼女…能力者か?魔法師はCADと言うデバイスがないと、自由に能力を発揮できないが、立川の能力者達は、デバイスに頼らずに、能力を発揮できる。魔法師よりも上位なジョブである。

 

「彼女のレベルは?」

 

「確か、レベル5だったかな。ミニちゃん達はレベル3だよ」

 

レベル5って、戦略級魔法師レベルである。戦略級は、単身で国や都市を相手に出来る戦力とされている。レベル3でも、魔法師にとっては驚異である。

 

 

週末に友人の渡辺摩利をお持ち帰りした。自分の身を守るために、生け贄として。真一の住んでいる場所は、国立の駅前にある戸建てである。お屋敷と言って良い広さがある。そこに、ミニちゃんソックリのメイド、調理担当、家事担当が数名ずつ使役していた。クローン体だよな、あれ全部…

 

四葉家の当主様は、普段、小淵沢の四葉家本家本邸に住まわれているそうで、暇になると遊びに来るそうだ。

 

夕食をみんなで摂り、ミニちゃん達が手筈通りに摩利の意識を刈り取った。そして…

 

「へぇ~、女性の身体って、こうなっているんですね」

 

全裸にした摩利をベッドの上に置き、彼女の身体を使い、性教育をする。

 

「なるほど、ここにコレを入れればいいんですね?」

 

摩利の身体を堪能する真一。ゴメン…摩利…私は私がかわいいの。それに断れないから…摩利の身体で、女性の気持ちのいい部分と、ダメな部分も教えていく。更に女性特有の部位についても、知っている限りの知識を教えていった。

 

「人それぞれなんですね」

 

途中で意識を取り戻した摩利に、何かをして、発情状態にしたミニちゃん。とても、何をしたのか、なんて訊けない。それをすると、明日は我が身かもしれない。いやいや、試しますか、なんて訊かれたら、断る自信が無い。

 

「今日もありがとうございます、真由美さん。この後、復習をしますね」

 

気を利かせて、真一と摩利を二人っきりにしてあげた。

 

 

翌日…

 

「真由美…どういうことよ、あれは?!」

 

摩利を八王子まで送り、馴染みの喫茶店に入るなり、訊いて来た摩利。車中は無言だった。耳を真っ赤にして、何かに耐えるように…

 

「だって、性教育を教えてって…モデルが必要でしょ?」

 

自分がモデルでは教えられない。それが、私が縋る正当な理由である。

 

「初めてだったのよ。それを…まさか、真由美の弟と…」

 

真一と会わせる前に、真一を私の弟として説明していた。

 

「本当に弟なの?表札には宮藤って出ていたけど?『くどう』って、9の臭いがするんだけど」

 

いい勘しているわね。正解です。って、言ったら消されるんだろうな。

 

「うちの親父の愛人の子なのよ」

 

って言って良いと狸親父に言われている。消されるよりマシってレベルらしい。

 

「そうなのか…って、なんで私なの?」

 

「摩利なら妹になってくれても問題が無いし」

 

そこは正直に答えた。真一の側室ならば、私の妹枠だよね。

 

 




腹黒い真由美…原作のような度胸は無いです。まだ、高校1年ですから。

ミニは10032号
ラオはラストオーダー
ミワはミサカ・ワースト
です。名前が長いので、真一が命名しました(^^;
まだ、真一のターンでは無いので、そのシーンは描かれておりません。


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降りかかる災難を糧にして

---真一---

 

月曜の朝、美琴を連れて学校まで転移した。週末の外泊許可が下りたので、先週末から僕達の家に来ていたのだ。

 

「じゃ、また週末にね、真一」

 

「待っているよ」

 

何気ない会話をして、美琴と別れると、見知らぬ女性の集団に囲まれた。

 

「あなた!御坂さんの何かしら?」

 

瞳に星が浮かんでいる。何かの能力者か?

 

「君達は?」

 

そよ風に触れる感覚…何かの術を受けたようだ。吸収して分析して自分のものにする。精神感応術のようだが、今まで持っていた物より、低レベルのようだ。術者と思われる女性は、テレビのリモコンのようなCADを持っていた。では、フルカウンター2倍返しをプレゼントだ。

 

「えっ!」

 

驚いた顔の女性。

 

「どこか、人気の無い場所へ行こう」

 

術者の女性を先頭に、集団に囲まれて、人気の無い工事現場に着いた。

 

「じゃ、全員の初めてを捧げてね」

 

女性達は全裸になり、次々と僕と関係を持っていく。女性への罰は、これが一番効くらしい。調教って名前の刑だと言う。

 

「今後も、やりたい時にやらせてもらうよ」

 

術者の女性の耳元で囁いた。頷く女性。

 

 

 

---食蜂操祈---

 

まさか、御坂さんの彼氏に、初めてを…私の術を増幅して反射させてきた。ほんの出来心だった。御坂さんの彼氏とラブラブな姿を、御坂さんに見せようとしただけだったのだが、裏目に出た。

 

私を含めた派閥メンバー全員が、恥ずかしい姿をスマホに撮られた上で、初めてを献上していた。派閥メンバーの記憶を弄り、何も無かったことにしたが、物理的に何も無かったことには出来無い。いずれ、彼女達に彼氏が出来、その時に事態が発覚するであろう。

 

みんなで制服を着て、学校へ行くと、全員遅刻となった。

 

「ねぇ、真一にちょっかい出したのかな?」

 

休み時間、御坂さんに声を掛けられた。

 

「な、なっ、なんの事でしょうか?」

 

動揺を隠せない。あの時の行為と感覚を思い出してしまったからだ。

 

「歩き方で分かるんだよ。反撃を喰らったでしょ?2.3回かな?」

 

そう…私だけ3回も…なんで、分かるんだ?御坂さんも経験者なのか?

 

「真一はレベル5じゃ、勝て無いからね。そもそも、私の電撃も効かないし」

 

小悪魔的な笑みを浮かべた御坂さん。電磁砲が効かない?まさか…彼はレベル6に到達しているのか?

 

「3回したのなら、気に入ったんじゃ無いかな。まぁ、取り扱いには注意した方がいいよ。怒らすと消されるからね」

 

そう言い残して、目の前から去って行く御坂さん。消される?記憶?ちがうか。存在かな?マズい相手に絡んだようだ。

 

 

 

---真一---

 

ここの学園都市は、ガラが悪い。ガンを付けたとかで、やたらと路地裏に連れ込まれる。その度に、返り討ちにして、有り金を総て奪い去る。お小遣いを貯めるには良い場所である。

 

「もうその辺にしてやれよ」

 

ツッチーに見つかった僕は、ツッチーに保護された。

 

「だって、ガン付けたって、路地裏に連れ込んだんよ」

 

「お前、見た目が弱そうだからな。今日はこの後、どうする?」

 

ツッチーはこの街の中学校に通っているそうだ。

 

「学校に行きたいかな」

 

「俺の学校はダメ。見知らぬ生徒は、危険が一杯だ。そうだな、お前の姉の学校はどうだ?」

 

真由美さんの学校?

 

「それはありかな。交通費も出来たし、行ってみるよ」

 

転移術で移動出来るのは、行ったことがある場所だけである。真由美さんの学校へは、交通費が必要であった。

 

交通機関を乗り継ぎ、真由美さんのいる学校に着いた。

 

 



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受講生

---宮藤真一---

 

門には門番が立っていた。なので、塀を通り抜けて、敷地内に侵入した。真由美さんの気配を探り、居場所を確定させていく。

 

『生徒会室』と書かれた部屋から、気配を感じだ。摩利の気配も感じる。そぉ~っと気配を消して、室内に入っていくと、

 

「お前は何者だ?!」

 

入った瞬間、大きな男性に見つかった。あれ?気配を消したのに…身構える僕。

 

「真一!なんで…ちょっと、十文字君、手を出しちゃダメよ!」

 

真由美さんが僕に気づき、僕を抱き締めてくれた。

 

「こいつ、七草の何だ?」

 

「弟よ…母親が違うの…ねえ、真一、どうして、ここに来たの?」

 

「う~ん、学校に行きたかったから…美琴の学校って、女性だけの学校でしょ?」

 

「あぁ、女子中だよね。って、後1年くらい我慢出来無いの?」

 

我慢すれば、僕も高校生であるが…

 

「ねぇ、学校って、本が一杯あるんだよね?」

 

真由美さんが僕の相手をしてくれている後ろで、摩利が僕のことを真由美さんの弟だと、みんなに説明してくれていた。あと、事件被害者の為、小学校、中学校に通っていないこともだ。

 

「図書館のことかな?生徒じゃないと利用は出来無いのよ」

 

ダメなのか…う~ん…

 

「七草、この部屋の本なら読んでも大丈夫だぞ」

 

先ほどの大きな男性が、僕に手を差し伸べてくれた。

 

「十文字君、君が良くても…会長、良いですか?」

 

「あぁ、事情があって中学に行けないのは不便だよ。ここなら構わないよ」

 

一番奥の席にいる人の許可を得て、真由美さんの授業が終わるまで、ここにある本が読めることになった。

 

 

 

---七草真由美---

 

放課後…急いで生徒会室へと向かう。真一が何かやらかすとマズいからだ。でも、真一は大人しく本を読んでいた。恐ろしい速さで…背表紙をなぞるだけで、読み終えるって…何?その速読法は…

 

「七草君…君の弟は凄い!」

 

生徒会長が絶賛しているし。

 

「この問題を解決してくれたよ」

 

それは、加重系魔法の技術的三大難問の1つである、慣性無限大化による疑似永久機関の実現であった。

 

「彼は荷重系魔法を使わずに、もっと安易な方法で永久機関を実現出来ることを証明しれくれたんだ」

 

生徒会長は午後の授業をサボり、真一の傍にいてくれたようだが、『加重系魔法の技術的三大難問集』を読んだ真一の一言…

 

「なんで、加重系で解決するの?難しく考え過ぎだよ」

 

その言葉の真意を訊いたそうだ。

 

「もっとスマートに実現出来るそうだ」

 

「真一、本当なの?」

 

「うん!これ、分離系の魔法があれば可能だよ。炭酸ガスから炭素を分離させたときに生じる、分子間結合の破壊エネルギーを使い、電気エネルギーに変換して、充電するだけだよ」

 

分離系?

 

「真一は、分離系を持っているの?」

 

「僕のは分離系だと『強奪』だけど、分離系の方は魔方陣で描けるから問題は少ない。ただ、魔法師が使えるように、エネルギーコンバーターを開発しないとダメだな」

 

真一は紙に描いた魔方陣を取り出してみせた。

 

「これが炭酸ガスから炭素を分離させて、電極になる炭素棒に『強奪』する魔術式だよ」

 

更に、もう1枚魔方陣を取り出した。

 

「こっちは、精霊魔法を使った汎用的飛行魔法の魔術式。どちらもエネルギーコンバーターは必要だよ」

 

えぇっと…それって、核融合炉の問題も解決していないか?永久機関って言うよりも、炭酸ガス発電機ってことだよね?

 

「そうか、他の方法でクリアしても、実現可能なら問題は無いですよね」

 

市原鈴音、愛称リンちゃんが、頷いている。

 

「これは、研究する価値があるな。そのエネルギーコンバーターと言う物を」

 

生徒会長のヤル気が満々のようだ。

 

「飛行魔法は加重の問題よりも、空気抵抗や気流に乗ることの方が重要ですよ」

 

その場で浮遊しはじめた真一。飛行魔法も使えるそうだ。なんて、チートなウィザードだ。

 

 

翌日…生徒会の推薦で受講生という身分になった真一。授業には出られないが、校内施設の利用、生徒との交流で、三大問題へのアプローチを許されたようだ。私達の授業中、真一は工作作業室で何やら作っているそうだ。嫌な予感がする。あの子、錬金術、錬成術が使えるんじゃないの?使える場合、様々なパーツが作れ、真一の提案した機器が容易に作れてしまう。

 

昼休み、真一の分のお弁当を持って、生徒会室へと急いで向かうと…何かの機械を持っている真一がいた。

 

「真由美さん、試作機が出来たよ」

 

皆、息を飲んだと思う。炭酸ガス発電機が起動していて、蓄電池のメーターが動いていたから。

 

「まだ、電極の設計が甘いから、出力が小さいけどね」

 

出力出来ていることだけでも、驚異である。試作機は真一の両手で持てる大きさだし。

 

「もう、造ったの…」

 

リンちゃんが、発電機が起動しているのを確認している。

 

「発電用モーターが回転している。凄い…」

 

「真由美さん、考えたんですが、この電動機を小型軽量化すれば、飛行用CADになるんじゃないかな?」

 

真一の試行は、脳内でトライアンドエラーを繰り返しているのか?色々な案を口にしていた。唖然として真一を見ていると、ある事を思い出した。発電に関して、真一は知識豊富であることを。真一のバックには、あの発電系能力者の最高峰である御坂美琴姉妹がいて、遠距離でもテレパスで会話が出来ると聞いていた。

 

「凄い…彼は天才か?」

 

生徒会長が絶句している。ただ、問題は魔法師でも使用できるかである。

 

「ねぇ、真一。魔法師でも使えるの?」

 

「美琴が使えれば、ほぼ使えると思うよ。能力者と魔法師のエネルギーの質は同じだし」

 

超能力ってことだな。ノイズや発熱を考えると、無系統系が無難か?

 

「それに、これって、一度起動すれば、電極が限界を迎えるまで動くから、メンテは入らないと思う。炭酸ガスって、どこでもあるでしょ?」

 

生物が生存する地上であれば、無限にある燃料…本当の意味での永久機関である。

 

「エネルギーコンバーターを開発するまで、この技術は一高の極秘事項にする」

 

生徒会長が決断をした。現状の発電機は、電気エネルギーを魔力に変換して、分離、強奪をしている。これを魔法師の魔力に変換出来れば、問題はクリアするようだ。

 

「真一君がいれば、七草家は安泰だな」

 

と、皆口々に言うのだが、本当に安泰なのか?真一の所有権は四葉家にあるのに。

 

 




インデックスは現存する魔導書を総て記憶しているけど、真一は速読した書物を総て記憶している為、もっとチートです(^^;;


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出会いは突然に

 

---司波深雪---

 

真一に会う事無く、半年以上経ち、中学3年生になった。叔母様は会わせる気が無いのだろうか?

 

週末、お兄様と体術を習いに、九重八雲先生の寺へ向かうと、先生は見かけたことの無い男子と、手合わせをしていた。先生の放つ幻術が次々に破られ、先生が圧されていた。瞬動術で相手の背後に素早く回るも、蹴りを食らう先生。

 

「ちょっと、待った!」

 

「待ったなし!」

 

「うげっ!」

 

肩を極められて、地べたに這う先生…お兄様が驚いた表情で、そのシーンを見つめていた。

 

「何だよ。この程度か?かっちゃん、もっと強い人がいいよ」

 

先生を下した男子が、大柄な男性に声を掛けた。道場破りか?

 

「お前が強すぎるんだ。う~ん、後は剣術でもいいか?」

 

「うん、問題ないよ。火織姉さんに習っているから」

 

「九重先生、お相手をありがとうございました」

 

「ありがとうございました」

 

見かけたことのない二人は、意識を飛ばした先生に一礼をして、この場を後にした。

 

「先生、大丈夫ですか?」

 

私とお兄様が、先生に駆け寄った。お兄様のカツ入れで、意識を取り戻した先生。

 

「あ…あぁ~、大丈夫だ~」

 

全然大丈夫に見えない位、弱っていた先生。

 

「アイツら、何者ですか?」

 

「大柄な男子は十文字克人君、十文字家の次期当主で、か弱い様に見える男子は、宮藤真一君だそうだ」

 

真一?!まさか…そういえば、どこか面影が…

 

「おい!深雪!」

 

お兄様の声を背中に受けても、立ち止まらずに、真一と呼ばれた男子に走り寄る。

 

「ねぇ、真一なの?!真一!」

 

彼は歩みを止めで、振り返った。

 

「うん?誰?」

 

「深雪…覚えていない?」

 

「…もしかして、ネェネ?」

 

「その呼び方は止めて!」

 

恥ずかしい…って、真一が猛ダッシュで私にタックルをし、その衝撃で押し倒された。真一はうなじの臭いを嗅ぎ、身体を弄っている。何をしたいの?甘えているだけのような気もするけど…

 

「こんなに成長したんだね。僕の記憶の中では、ネェネって幼女だったんだけど…」

 

成長具合を確認していたの?

 

「もう中学3年生なのよ!」

 

「そうだね。あれから随分と経った…また、会おう。かっちゃん、次に行こうよ」

 

私から離れ、十文字家次期当主に近づき、この場を去って行った。

 

 

家に戻ってきて、真一のことを思い出していた。身体の成長具合を確かめていた真一。アイツはオスに成長したのだろうか?あの頃の真一を想像していた私は、多少ショックを受けていた。

 

「深雪…思い詰めるなよ」

 

「いえ、思い詰めていません」

 

言葉と裏腹に、思い詰めている。何がしたかったんだ?身体目当てなの?真一になら、いくらでも差し出すのに…唇さえも奪わなかった。どうして?

 

「深雪…」

 

お兄様が、メモを1枚、私の前に置いた。そこには住所が書かれていた。

 

「これって…」

 

「葉山さんから聞き出した。会いに行って来い。深雪だけなら、会ってくれるだろう」

 

「ありがとうございます、お兄様」

 

メモを手にして、自分の部屋に戻り、外出着に着替えていく。そうだ、下着も替えていこう。

 

真一の家は国立駅から歩いて5分ほどの場所にあった。表札には『宮藤』と掲げられている。真一って九の系譜だったのか?いや、叔母様の偽装の可能性があるか。四の系譜だとバレれば、また事件に巻き込まれるかもしれない。そんなことを考えながら、呼び鈴を押してみた。

 

応対に出てきてくれたのは、メイドさんのようだ。用件を伝えると、奥へ通してくれ、広めのリビングへ…そこで、女性達に囲まれた真一がいた。

 

「ネェネ?なんで、来たの?」

 

「真一に会いに来たのよ!」

 

「ニィニと一緒が良いんじゃなかったっけ?」

 

「真一の傍にいたいの!ねぇ、二人で話がしたいんだけど…」

 

私の言葉に素直に従う真一に連れられて、個室に入った。ベッドと机とシャワールームしか無い部屋。

 

「ちょっと…なんで脱ぐのさぁ~」

 

部屋に入るなり、着ている物を脱いでいく私に、動揺している真一。

 

「ねぇ、私、魅力無い?」

 

お兄様にも見せたことの無い、私の生まれたままの姿。生唾を飲み込む真一。

 

「どうなの?」

 

真一に抱きつき、ベッドに押し倒した。なのに、無抵抗の真一。私のやりたいように、していいのね。真一の唇に自分の唇を重ね…

 

 

「僕と一緒でいいの?」

 

ベッド中で真一と密着している。私の中に真一がいる。それだけでも幸せである。お兄様といる時よりも安堵感を感じる。お兄様にふさわしい妹を演じなくて良い分、楽なのだろう。

 

「お兄様も一緒にね」

 

私の夢はお兄様と真一の三人でのマイホームである。

 

「ガールフレンドが、沢山いるんだけど…」

 

「どの位?」

 

「1万人近く…」

 

想像出来ない人数である。きっと戯言ね。スルーしておこう。

 

「私じゃダメなの?」

 

「ダメってことは無いけど…僕、ニィニのようにかっこ良く無いよ」

 

あの頃、お兄様の仕草を真似ていた真一。だけど、全然似合わなかった。真一は真一で良いのに。

 

「知っているわ。でも、真一の前では素でいられる。これ、重要なのよ」

 

「僕の前だけ素なの?損している気分?」

 

「弟と思っているわよ。お得でしょ?」

 

弟とは、こんなことはしない。でも…真一だから…

 

「なんで、僕なのさ?」

 

「あの日…決めたの」

 

そう、遠いあの日に…

 

 

 

---宮藤真一---

 

目が醒めると、股間に顔を埋めていた。深雪の香りは好きである。だけど…大胆な女性は初めてで、どうして良いか、戸惑うばかりである。まぁ、あの頃も大胆ではあったが…男児と女児の頃は良くても、男性と女性になった今、どうなんだ、これは?今度、真由美さんに訊いてみるかな。

 

ゆっくりと深雪から離れ、シャワールームへと向かうが、

 

「どこへ行くの?他の女性に朝駆け?」

 

僕の背中に張り付くように抱きついて来た深雪。あんなに大きな乳房だったのに、肋骨感を感じる。まるで、深雪の乳房が僕の背中と一体化した感覚である。

 

「シャワーだよ…」

 

「一緒に浴びるわ」

 

恐怖を感じる。密接状態だと、深雪の能力は防げない。一気に凍り付かせる能力だったよな?あの頃もこんな状況で、機嫌を損ねた瞬間に能力が暴走し、僕と深雪は凍死寸前になった気がする。濡れている時は危険が一杯である。

 

「どうしたの?あの頃のことを思い出したのかな?」

 

頷く。部屋の中で凍死寸前はカンベンして欲しい。こういうの、無理心中って言うんだっけ?シャワーを浴びながら2回、そして部屋に戻ってからも…

 

 

朝食…シスターズのメイドが数名。

 

「まさか…みんなクローン?」

 

ミニちゃんそっくりなシスターズに囲まれ、動揺している深雪。なんか、かわいい。

 

「そうだよ。みんなガールフレンドだよ」

 

「1万に近くのガールフレンドって…」

 

「彼女達だよ」

 

「負けない…正妻の座は譲らないわよ」

 

たぶん、バァバも深雪を正妻にしたいのだろう。そこは問題は無いが…ニィニが問題である。バァバはニィニを深雪の傍に置きたがらない。あの頃も、そんな気配を感じる時があった。

 

「ネェネは宮藤家の嫁でいいの?」

 

「名前で呼んで!」

 

ネェネ呼びはダメなようだ。

 

「深雪…」

 

「はい」

 

僕にとっては、名前呼びの方が恥ずかしいんだけど…

 

「真一、モテモテだよね?」

 

美琴がニヤニヤして、僕を見ている。

 

「深雪はお姉ちゃん枠だけどね…」

 

女性にモテるって感覚がよく分からない。

 

「私が高校生になったら、添い寝してあげるからね」

 

今はダメなのか?美琴は深雪の胸の辺りを見つめていた。人間の女性はそこで優劣を決めるのかな?

 

「ふ~ん、彼女がいたんだぁ~」

 

一方、真由美さんが、興味深そうに深雪を見ていた。

 

「まさか、七草家の方が側室候補とは…」

 

深雪は驚いた表情で真由美さんを見ていたが、

 

「私は真一の姉枠なので、側室にはならないわよ」

 

と、真由美さんが切り返した。

 

「ネェネもお姉ちゃん枠だよね?」

 

無駄だと思うが確認をしておく。

 

「真一、昔のことは忘れたわ。ネェネって誰?」

 

深雪がお姉ちゃん枠を認め無い。ネェネ呼びすら認めない。

 

「真一、私は妹枠でいいよ、今はねぇ」

 

美琴は、妹枠でも良いけど…将来的には姉枠を狙っているのか?僕の姉枠争いが勃発しないことを祈ろう。

 

 




オリ主に対しての深雪の口調は崩壊しております。幼少期に弟として扱った名残ってことで…(^^;;


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千葉騒乱

---千葉エリカ---

 

道場破りに遭い、門下生、師範代である兄上、師範である父が伸された。

 

「かっちゃん、ここもダメだよ」

 

「お前が強すぎるんだ」

 

十文字家による道場破り…許せない。

 

「待て!私が相手をする」

 

去ろうとするアイツを呼び止めた。

 

「女の子?ケガすると、責任取れないよ」

 

私が怪我をする前提で、話をするアイツ。CAD一体型の特殊警棒を手に、アイツに迫った。だが…全身を貫く電撃を浴び、全身の感覚が無くなっていく。

 

「動きが直線すぎる。狙撃し放題だよ、それじゃ」

 

コイツ、剣士では無いみたいだ。何者だ…地べたに倒れた私に近寄り、私の特殊警棒を手に取り、股間に差し込んできた。奥まで突かれたら死ぬ。このままでは殺される…恐怖で身体が震え始めた。

 

「真一君…何をしているの?」

 

門下生の渡辺摩利の声だ。彼女の知り合いなのか?

 

「剣技を磨こうと思って、師範に相手をして貰ったんだけど、師範を倒したら、みんなで襲って来て…そうだよね、かっちゃん」

 

「あぁ、そうだ。一対一の試合の結果で、師範の仇討ちって、もはや、武道では無いなぁ」

 

一対一…そうだった。そうだけど、千葉流があんな弱々しい男子に負けるなんて…

 

「エリカは、まだ高校生になっていないの。その辺で止めてあげて。私が代わりにバツを受けるから」

 

摩利がアイツを抱き締めた。特殊警棒から手を離したアイツ。だけど、深く刺さったのか、特殊警棒は私から抜けない。摩利を含めた3名が、道場から遠ざかっていった。

 

 

 

---千葉寿和---

 

実家である千葉道場が襲われたと、第一報を受けて、部下達と現場へ向かった。救急車が複数台いて、怪我した門下生達をピストン輸送をしていた。見た目は大惨事であるが…

 

「非は我々にある」

 

と、親父。

 

「この私が敗れ、門下生が彼に次々に襲い掛かったんだ。修次、お前は師範代の立場で、何故止めなかったのだ?」

 

師範である父が、師範代である弟の修次を責めていた。

 

「止める?あれは、道場破りだ。道場の者、全員で対処すべきことだ」

 

修次が言うには、事件後に門下生の渡辺摩利が攫われたと言う。検問にそれらしき三人組が引っ掛かったが、修次の話と内容が違った。

 

「他の流派の者が教えを請うと、道場破りになるの?」

 

主犯格の少年。

 

「師範が倒されて、仇討ちって、迂闊に稽古に行けないだろうに」

 

その少年の保護者らしき男性。

 

「誘拐?彼とは知り合いで、未成年だし、家まで送ろうと思っていたんですけど」

 

攫われたはずの女性。

 

「まぁ、取り敢えず、全員の名前と住所を書いてくれるかな?」

 

供述調書にサインをして貰った。親父は事件にはしたく無いようだが、門下生が病院送りにされているので、修次の主張する殺傷未遂事件として、捜査を始めていた。うちの門下生は警察関係者が多いからなぁ。引くに引けない事情もある。

 

職場の警察庁に戻り、事件の供述調書を上司に見せ、決済して貰おうとした。上司の決裁がないと、勝手に送検出来無いのだ。。

 

「千葉君、この案件はマズいよ。事件にしない方がいいなぁ」

 

上司の顔が青ざめていた。ビッグネームがいたのか?改めて、被疑者を見ると十文字家の次期当主がいた。だが、彼は実行犯では無い。

 

「実行犯の少年は…まだ中学生か。家裁送りか?魔法師協会送りが妥当ですか?」

 

「そういう問題じゃないんだよ、千葉君」

 

どういう問題なんだ?

 

「十文字家から圧力ですか?」

 

「そこじゃ無い…アンタッチャブル案件だ…」

 

アンタッチャブル案件?それは四葉家絡みだが…今回の関係者には、いないはずだぞ。

 

「何故、あそこが圧力を?」

 

「後なぁ、九島家、七草家からも抗議が来ているんだ」

 

『くどう』家?あぁ、実行犯の少年が宮藤と書いて『くどう』だったなぁ。って、まさか、9の関係者なのか。

 

「更には、十字教団からもクレームが届いている」

 

9の関係者で十字教団の関係者でもあるのか?あの弱々しい少年がっ!!それとも、十文字家と十字教団が関係しているのか?四葉と七草はどう絡んで来るんだ?

 

「ですが、警察関係者が何名も病院送りにされていますので、もみ消しは難しいですよ」

 

「もみ消すのでは無い。無かったことにするんだ。話を訊けば、試合の結果に納得出来ずに、一人に対して集団で襲い掛かったそうじゃないか。非が、千葉道場サイドにある。いいな。被害者と加害者は逆転するんだぞ」

 

なんだ、その裁定は?

 

「納得出来ないです。身内うんぬん以前に、圧力に屈するのですか?」

 

上司に食い下がる俺。

 

「事実を冷静に考えろ、千葉!彼らの供述と、訴えた側の主張が違うだろう。そもそも、攫われていないに、攫われたと主張する君の弟の訴えは、信用出来無いんだ」

 

修次の供述は、確かにおかしい。更に状況を訊く為、部下と共に、主犯格の少年の家に向かうと、玄関前で黒服の男達に囲まれた。

 

「事件関係者の身内が、捜査責任者とは、警察庁もザルだな」

 

公安の裏のドンである七草弘一が、黒塗りのセダンの後部シートから現れた。

 

「どうして、あなたが出突っ張るんですか?」

 

「それは、お前らが知ることで無い。ここは大人し、引け。まぁ、調べれば分かるから、教えてやるが、アイツは俺の息子だ」

 

何?宮藤真一が七草弘一の息子だと…そうなると、愛人は九島家か…

 

「分かったら、引け。もう、手を出すなよ。大事にはしたくない」

 

七草弘一の言葉通りというか、事件は事件にならなかった。逆に親父が詫び状を書く波目になったらしい。しかし、納得出来無い一部門下生と修次が、彼の家に押し掛けて、返り討ちに遭い、今度は軽傷では済まない怪我を負わされたそうだ。

 

「アイツらは馬鹿者じゃ!相手の本質を見極められないとは…」

 

「彼は何者だったんですか?」

 

「剣も拳も使える最強のウィザードだ。魔法師程度が勝てる訳が無かろうに」

 

対峙した瞬間、相手の本質を読み取った親父は、純粋に剣術だけで戦い、それに応え純粋な剣術だけを使った彼に破れたそうだ。

 

「そんなに強かったのか?」

 

「あぁ、そうじゃ。選ばれた者しか扱えない聖剣を使っていた。あの剣の前では、私の刀は弱すぎる」

 

聖剣使い…だから、十字教団がクレームを…。俺は、『宮藤真一』なる人物に興味を持ってしまった。

 

 

その後…非番の日には国立に通う日が増えた。親父の詫び状を持ち、彼に会い、剣の相手をすることにしたのだ。彼の吸収の早さは早い。目の前で見せた技が、次々とマスターされていく。教え甲斐がありすぎるだろうに。

 

剣以外に、銃の扱いも教えていく。飲み込みが早く、俺よりも、シューティングが上手くなっていく。

 

「射撃場をつくりました。日々の努力は必要ですよね」

 

彼の住む広い敷地に、全長2キロクラスの射撃場が設置された。これって、狙撃練習場では無いのか?

 

「そうだ。寿和さんにプレゼントです」

 

真一から貰ったのは、銃一体型のCADだった。拳銃タイプのレールガンである。狙いを付けて撃てば、弾は確実に的を撃ち抜く、直進性が売りだと言う。

 

「ウィザードでもCADが作れるのか?」

 

「この国だと、ウィザードじゃ、食えないですよ」

 

まぁ、確かに。俺の知識において、本物のウィザードは真一しか知らないしなぁ。ウィザードに需要があるとも思えない。

 

 




入学編に向けて、エリカと因縁を作ってみました(^^;


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隠れ1位

---御坂美琴---

 

中学2年になると、寮の私の部屋に、後輩である白井黒子と言う少女が入居したのだが、何かと私の身体にタッチしたり、プライベートに入り込んで来ている。

 

「お姉様、週末に彼氏の家に泊まり込むのはダメですわ」

 

いいじゃないか。誰にも迷惑を掛けていないし。

 

「どうして?」

 

「それは不純異性行為ですの。私、ジャッジメントですのよ。そういう行為は取り締まりの対象になりますの」

 

ジャッジメントとは、この学園都市においての風紀委員のことである。学校ごとにあるのではなく、地域ごとに編成されていた。

 

「不純?何を以て不純と言うの?私は純粋に彼といたいだけよ」

 

大きなお世話である。

 

「異性との無闇な接触はダメですの」

 

「異性…彼は異性って感じないわよ。寧ろ、頼れるお兄さんかな」

 

週末しか真一に会えない。高校になったら、真一の家に引っ越そう。今は、毎日通うのが大変だから、寮生がベストだ。高校は真一の家の近くの学校にすれば良い。こんな嫌な想い出しか無い街から出て行きたい。

 

「血が繋がっていない異性は兄では無いのですのよ!」

 

コイツ、ウザい…私とは考え方が違いすぎる。

 

「あっ!あれは…」

 

黒子と同級の佐天さん、新春さんが不良に絡まれていた。ちょっと、躾けでもするかな。ストレス発散が出来そうね、ふふふ。

 

 

 

---土御門元春---

 

同じクラスの上やん、上条当麻と、街中をブラブラしている。俺と上やんは同じ中学に通っていて、現在帰り道であり、目的は特に無い。ここは治安の悪い街である。治外法権であり、アンチスキルという名の警備員が警察、機動隊代わりであるが、絶対数が足り無すぎ、不良程度の素行不良案件では出てこない。

 

俺の友人である上やんは、困っている人を助けたがる、ヒーロー体質である。それに対し、俺はどっちかというと、悪役体質かもしれない。困っている人を見ると、つい見なかったことにしがちである。

 

「おい!土御門!あそこで、女子中学生が絡まれているぞ!」

 

確かに絡まれてはいるが、あれって、相手が悪いだろ?学園都市第3位がいるんだが…上やんは気づいていないようだ。

 

「おい!助けに行くぞ!」

 

上やんが走って行く。ヒーロー体質であるが、相手が悪い。問題が拗れ、大事になりそうである。アイツを呼び出すか。スマホでアイツにメールした。

 

『美琴がヤバい!はよ来い』

 

と…アイツをすぐに呼び出せる、魔法の呪文である。案の定、送信した瞬間、美琴の前に転移陣が発現して、アイツが転移してきた。

 

「美琴!大丈夫か?」

 

「真一…大丈夫…だよ」

 

美琴が甘えるような声で応えた。普段聞けぬ声に、周囲にいるJK達が驚いているようだ。

 

『10万ボルト!』

 

アイツの電撃系魔法により、絡んでいた不良達の頭は全員天パーとなり、その場に昏倒していく。だが、上やんには効果無かったのか、アイツに向かって行く。アイツに殴りかかる上やん、腕をキャッチして、肩を極めたアイツ。純粋な体術で、真一に勝てる相手は少ない。

 

「おい!真一、それ以上は折れるぞ」

 

真一の肩をタップした俺。

 

「ダメなの?」

 

やることはエゲツ無く、見た目は好青年なのに、口調は幼児クラスの真一。このギャップが、不思議すぎる。隔離されていた間、人間との関わりが無かったのが原因かな。

 

「お前、美琴の前でスプラッタするつもりか?」

 

たぶん、骨折した骨が皮膚を突き破ると思う。美琴は大丈夫だろうけど、その友人達がトラウマになると思うぞ。

 

「コイツは俺が躾ける。それでカンベンしてくれないか?」

 

「わかった。ツッチーに任せるよ」

 

真一は素直なので、扱い易い。敵に回すとヤバい。一方通行への躾け光景を見たことあるが、俺だったら死ぬ自信があるレベルだった。

 

俺の言葉で、真一は上やんを解放してくれ、美琴と向き合った。

 

 

 

---宮藤真一----

 

「美琴、怪我していないか?」

 

美琴の身体を探査能力で調べた。問題は無いようだ。

 

「ありがとう…助けに来てくれて」

 

美琴が僕に抱きつき、頬を重ねて来た。このまま、お持ち帰りしたいが、まだ平日である。我慢だな。

 

「ツッチーが知らせてくれたんだよ。美琴も遠慮しないで、危ないと思ったら、連絡をくれよな」

 

「うん…」

 

「この子達は。美琴の友達?」

 

「後輩よ。佐天さん、新春さん、と、黒子」

 

「そうなんだ。初めまして…ゴメン!美琴、逃げろ!」

 

戦闘を放棄して駆けつけた為か、戦闘相手が追って来た。

 

「貴様!戦闘から逃げて、ナンパとはいい度胸だな」

 

コイツ、どうするかな。

 

「ほぉ~、第3位の御坂美琴もいるのか」

 

「おい!てめぇ~!僕の美琴に色目を使うなぁ~。『超新星爆発!』」

 

第2位の垣根提督の身体の中に、圧縮した超新星を出現させ、耐えられない圧力まで圧縮して行き…

 

ドッゴ~ン!

 

垣根提督のいた場所にキノコ雲が立ち上っていく。これで、美琴が第2位か?いや、1位のヤツはこの前潰したよな。

 

「真一の相手って、垣根提督なの?」

 

美琴に訊かれた。アイツ、有名人なのか?

 

「美琴を狙うヤツは潰す!あぁ、一方通行は、この前、入院先で潰しておいたよ」

 

首元の電子機器を直せないレベルで分解してやった。

 

「真一…無茶しなくていいんだよ」

 

「無茶も無理もしていないよ。だって、美琴の身の安全が一番だし」

 

「お前、隠れ1位って言われているぞ」

 

って、ツッチー。それは、心外だ。こんなにも、魔法師として無力な僕だぞ。

 

「僕、学園都市に所属していないよ」

 

「でも、しょっちゅう来て、一方通行を潰して歩いているよな?」

 

まぁ…あの縦シマシャツは見かけたら、まず潰す。シスターズの敵だし。だが、最近のアイツは病院にいるので、探す手間は少ない。

 

「あぁ、そうだ。窓の無いビルって、どれだっけ?」

 

「何?」

 

ツッチーの顔が強ばっていった。

 

 



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再会

---土御門元春---

 

窓の無いビルに行くだと…この街の本丸だぞ。

 

「じゃ、美琴。週末になぁ」

 

「うん…」

 

「ツッチー、案内して」

 

「あぁ、付いて来いよ」

 

連れて行って良いものか?いきなり、クライマックスか?そこには、この街を造った人物、統括理事長がいる。そこに用事があると…動揺と緊張感に侵されていく俺。一方の真一は、いつもの通りである。何かを楽しげに考えている表情。コイツ、今一わからん。

 

ビルの前に立つと、目の前にドアが現れて、俺達が入るとドアは消えた。そのままの位置で床が上昇していく。逃げ道は無いようだ。上昇が止まると、目の前にドアが現れ、そこへ入って行く。

 

目の前には奇妙な者がいた。緑色の手術衣を着て、赤い液体に満たされた巨大な円筒器に、上下逆さまで浸かっている人間。コイツがそうなのか?アレイスター・クロウリー…元世界最高最強の魔術師にして現世界最高の科学者なのか?

 

「うん?それの成れの果てだよ」

 

成れの果て?

 

「そう。あれは、ダミーだよ。つまんないことを言うからさぁ、あの装置に繋がる電源ラインを遮断したら、死んじゃったよ」

 

なんか、凄いことを真一がしゃべっていた。コイツ、殺したのか?人を殺して平然としている真一に、恐怖を抱いた。なんだ、コイツ…

 

「じゃ、あれは?」

 

動揺を隠せない。声が震えている。

 

「器だけ。中身はハーデスに差し出したよ」

 

ハーデス?冥府の王だぞ…

 

「そんなに怖くないよ。ただ、見た目が骸骨なだけ」

 

「なんで、お前が知っているんだ?」

 

「隔離施設で、精霊や悪魔達と交流を持っていたら、紹介してくれたんだよ。人間が誰も来ない隔離空間…いつ果てるとも分からない闇の世界で…ね」

 

なんで、コイツはそんな話を楽しげに話せるんだ?コイツ、精神をやられているのか?

 

「その空間で、アレイスターとも知り合いになったんだ。そして、彼の願いを叶える代わりに、彼の持つ知識を含めた財産を受け継いだのさぁ」

 

受け継いだ?この街もかぁ…確か、コイツ十字教団も手に入れていたよな?

 

「彼は僕を生み出した四葉真夜と思想は同じだよ。『この世界にある全ての位相を絶滅させる』って点においてね。だけど、僕の友人達は、それを良しとしなかった。そんなことをされたら、彼らは存在できなくなるから」

 

背筋を冷たいモノが流れ落ちていく。コイツ…人間を辞めているのか…

 

「アレイスター亡き後、このビルは、ミサカ総体に引き継いでもらったんだ。ここなら安全でしょ?地上以外の総ての位相は、僕の友人達が管理しているし、科学サイドも、魔術サイドも、手中に入っている。後は魔法師サイドだけだよ。これを手に入れれば、平和な世界が出来ると思わない?」

 

「お前は…何様なんだ?」

 

俺はコイツの出自をオヤジから聞いている。人の形をしたバケモノであることを…だけど、コイツは成りたくてなった訳では無い。大人達のエゴと興味により、生み出されただけだと。だけど、コイツの精神は人間では、もはや無いのかもしれない。

 

「僕は単なるバケモノだよ。人の姿をしたバケモノ。そして、最後に、ヒーローに倒される運命なんだろうな。あの頃見た特撮物のラストって、そんな感じだったよな」

 

真一の顔が歪んだ。初めてみた悲しそうな顔…上やんに倒される運命なのか?まぁ、バケモノとして自覚はあるのは良いことだな。そうなると、自分の出自も知っているってことか。

 

「でも、それでいいと思う。バケモノは最後に壮絶に死んだ方が感動的でしょ?問題は、アレイスターも悩んでいたけど、殺してくれそうな者が、なかなか現れないことかな。だから、僕を完全に消し去れる人材を作ることが夢かな」

 

いつもの楽しげな表情の真一に戻った。自分を殺せる人材を作ることが夢?コイツ…やはり、精神がやられているんだな。

 

 

 

---御坂美琴---

 

「あれがお姉様の彼氏ですか?」

 

黒子の問いに頷く私。

 

「彼氏の前では、あんな可愛くなるんですね」

 

佐天さんの言葉で耳が熱くなっていく。しまった。コイツらの前で、なんて恥ずかしい姿を晒してしまったんだ…後悔後を絶たずだ。

 

「御坂さんも彼氏の前では、恋する乙女なんですねぇ」

 

コイツら、私を何だと思っているんだ?!これでも、歴とした女の子だぞ!

 

「始めに言っておくが、彼に惚れるなよ!」

 

「「「えっ!」」」

 

三人から驚きの声…手遅れか?佐天さんの頬が薄らと紅い。新春さんもかな?黒子は男に興味は無いはずだから、一安心か?

 

「惚れないですよ…そんな、御坂さんから、奪おうなんて、これっぽちも…」

 

佐天さんは、私の目を見ずに、のたまっている。

 

「あんなお兄さんは欲しいかなぁ」

 

新春さん…俯いて紅くなっている。かわいい素振りである。

 

「お姉様!不純異性行為はダメですのよ!おわかりですか?」

 

いや、不純じゃないから…

 

 

 

---宮藤真一---

 

ビルで用事を済ました後、ビルを出ると、ツッチーの元気が無かった。

 

「どうしたんだ?」

 

「お前…死ぬ気か?」

 

「いや、死なないよ。まだまだ先だよ。掃除が終わっていないからね」

 

バァバをあんな目に遭わした連中は、まだ生き残っている。そもそも、魔法師サイドは1枚岩で無い。大規模な戦争の危険を排除しないとダメだ。

 

「俺に出来ることはあるか?!」

 

「う~ん、僕を助けてくれたお姉ちゃんを探して」

 

「インデックスか?確か…ねーちんが救い出したような…」

 

えっ!訊いていないよ。なんで、知らせてくれないんだ?問題が起きたのか?二人で火織お姉ちゃんの教会へ向かった。何か、言伝とか無いかな?

 

しかし教会には、不在だと思っていた火織お姉ちゃんがいた。

 

「真一君…土御門…お前、話したんだな?」

 

「いや…ポロっと…」

 

口止めされていたのか。その割には…

 

「どうして?どうして、教えてくれなかったの?」

 

「まぁ、ちょっと問題が有って…会うか」

 

「勿論…」

 

火織お姉ちゃんの態度が、なんかぎこちない。何かに動揺しているようだ。不安に包まれていく。何が起きたんだ?火織お姉ちゃんに別室へと連れて行かれると、五和と高価そうな白いシスター服を着た少女がいるだけであった。どこにもお姉ちゃんの姿が見当たらない。

 

「どこ?」

 

「そこ…」

 

火織お姉ちゃんの指差す先には、あのシスター服の少女がいるだけだ。どう見ても、僕よりも歳下に見える。僕の記憶にあるお姉ちゃんは、火織お姉ちゃんのようなスタイルで、質素な雰囲気を醸し出す聖女であった。

 

今、目の前にいる少女は、質素な雰囲気がまるで無く、ひたすらに食事を食べていた。そもそもスタイルは、幼児体型では無いのか?ラオと似た雰囲気を感じるし。

 

「そうなるだろ?だから、会わせるか悩んでいたんだ?」

 

えっ?えぇぇ~!これが、あのお姉ちゃんの成れの果て?なんで、スタイルが幼児退行しているんだ?

 

「真一の言いたいことは分かる。私もなんでって思ったからな」

 

いやいや、1万歩譲っても、これは無いでしょ?僕が目の前にいても、食べる動作を止めない少女。

 

「これでも、私と同い年なんだが…」

 

見えません。どう考えても10歳は違うでしょう。

 

「うん?あっ!真一だぁぁぁぁぁ~」

 

やっと僕に気づいたようだ。

 

「元気そうね。五和、お替わり!」

 

どうして、こうなった?あのお姉ちゃんに淡い憧れを持っていたのに…今のお姉ちゃんには、憧れなんか微塵も湧かない。

 

「なんで?ねぇ、なんで?」

 

「あの手術の時に、下垂体になんかしたみたいで、ホルモンバランスが崩れたそうだ。その上、記憶を維持する為にカロリー消費が半端ないらしく、寝る以外は食事だそうだぞ」

 

喰う寝る食う…な生活なのか。

 

「元に戻れないの?」

 

「10歳未満なら可能かもしれないが、もう成長仕切っているからなぁ、絶望的とも言え無くも無い」

 

がーーーん!ショックである。不憫にも程があるだろう。あのお姉ちゃんが…幼児体型って…脱いだとしても、想像に難くないだろう。

 

「コイツ、こんな姿だが、貰ってくれるか?」

 

「お姉ちゃんに恩返しはしたいのは、本当ですが…幸せに出来るか不安が一杯です」

 

幼児体型をどうにかして、背丈も歳相応に…いやいや、ビフォーアフターが違い過ぎる。手術内容を検分して、何をされたのか、調べないとダメだ。

 

その日、インデックスという不思議な生物を、家にお持ち帰りした。同じ体型のラオとは直ぐに打ち解けたようで、一安心…なのか?

 

 

 

 




インデックスの体型変異という設定は、原作から大きく逸脱しています(^^;

それはもはや、●ナンのような…


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初対面のはずが…

 

---宮藤真一---

 

寝ようとベッドへと向かうと、インデックスが付いて来た。

 

「お姉ちゃんの部屋はラオと一緒だよ」

 

「真一と寝るの。夢だったんだよ」

 

あれ?記憶を失ったはずだけど…そう聞いた記憶がある。

 

「僕のことを覚えているの?」

 

「うん!真一のことだけ、忘れないようにしたみたいだよ」

 

せめて、身体の維持だけしてくれれば良かったのに…目の前で、あのシスター服を脱ぐ。やはり、脱いでも凄かった。想像通りの幼児体型である。

 

「さぁさぁ、お姉さんが隣で一緒に寝てあげるのだ」

 

お、お姉さん?どう見ても、妹にしか見えないんですが…口調も僕の知っているお姉さんと別人である。その夜、全裸のインデックスが添い寝をしてくれた。

 

 

翌朝、ラオを介して、お姉ちゃんを、こんな身体にした元凶を、ネット検索で試みた。すると、都市伝説であるが、大人が子供になる薬があると出た。これを使われたのか?そうであって欲しい。下垂体を弄られてだと、もう絶望的であるが、そういう薬ってことなら、解毒剤を作れば良い訳だし。

 

『大人を子供にする薬の情報を求めています』

 

と、メールで弘一おじさん、ジィジ、バァバ、ニィニ、ツッチーに送った。これで、情報を得られればいいなぁ。目覚めたインデックスは、朝から豪快に食べていた。どこに食べた物が入るんだ?消化吸収率が抜群に良いのかな?

 

そうだ!高校の図書館で調べてみよう!

 

だけど、薬学系の書物は思ったよりも無かった。魔法師の魔法で、元に戻るのか?魔法リストなる書物を見るが、そういう魔法は無いようだ。後はなんだ?僕の記憶を検索するも、そんな薬についての情報は、あの検索結果だけだった。

 

昼休みを知らせるチャイムが鳴ったので、生徒会室んへと向かった。

 

 

「うん?大人を子供にする薬?そんなのがあるのか?」

 

生徒会の皆さんも、知らないみたいだ。インデックスの状況を聞いてもらい、他に原因がないかを考えて貰う。

 

「それって、摩利がラオちゃんになるってことよね?」

 

真由美さんが確認してきたので、頷く僕。

 

「聞いたこと無いわね」

 

「無いですか…」

 

やはり、都市伝説の薬が原因か?

 

「彼女って、記憶は残っていたわよね?」

 

昨晩、インデックスと会話した真由美さんが、再確認をしてきた。

 

「僕に関しての記憶だけ、残っていました」

 

「そうなると、真一君を助けたお姉さんってことになるけど、インデックスちゃんはお姉さんに見えないわね」

 

えぇ、見えません。あんな丸みを帯びたフォルムでは無かったです。

 

「摩利とかリンちゃんみたいなフォルムだったんですよ」

 

「俺も聞いたことが無い。そうなると、その都市伝説の真偽を探る必要はあるな」

 

その日の結論は、かっちゃんの伝手で、軍事情報を調べてくれることになった。

 

 

翌日も全裸のインデックスに抱きつかれたまま起床した。朝から滅入る。あのお姉ちゃんが、コレと思うと、嘆かわしい。昨日のインデックスは、昼寝、三時寝、就寝以外、喰っていたそうだ。エンゲル係数が高そうだ。料理の方はシスターズが交代で対処してくれているので、問題は無いそうだ。食材は、火織お姉ちゃんが寄付してくれている。十字教団の償いって意味らしい。償いなら、解毒剤を探して欲しいよ。

 

脳手術について調べてみたが、お姉ちゃんと別れたのは、ほぼ1年前である。その1年の間でホルモンバランス云々で、体型の変化はあるものの、体型の幼児化は無いようだ。そうなると、やはり、都市伝説の薬が原因か?

 

そうだ!インデックスの記憶を読めばいいのか。が…僕に関しての記憶は残っていたが、それ以外の記憶はさっぱり残っていなかった。誰に飲まされたのかが分かれば、ソイツを見つければいいんだけど…う~ん、そうだ!あぁいう場所って、来訪者の記録ってあるよね。火織お姉ちゃんに調べて貰うように頼んだ。手術後のインデックスとの面会記録と、手術決定後の来訪者記録が手に入れば、前進しそうである。

 

スマホからメール着信を知らせる音がした。弘一おじさんからだった。

 

『米花町 喫茶ポアロ 安室に訊いてみな』

 

この人が、何か情報を持っているのか。喫茶ポアロの場所を調べて、そこへと向かった。

 

 

そこはビルの1階部分にある、小さめな喫茶店である。学園都市でお小遣いを稼いできたので、コーヒーくらいは飲めそうである。バァバと弘一おじさんからブラックカードというクレジットカードを貰っているが、こういうお店では使えないだろうな。

 

カランコロン

 

ドアベルが鳴り響く中、店内に足を踏み入れた。カウンターの向こうには日焼けした男性が一人いて、僕を見て固まっていた。

 

「工藤君…」

 

「あの…安室さんですか?」

 

「そうだけど…」

 

「弘一おじさんから紹介されました」

 

「弘一?…まさか、七草弘一の紹介か?」

 

「そうです。大人が子供になる薬の情報を探しています。何か手がかりは無いですか?」

 

「…七草のオヤジ…そこまで調べていたのか」

 

「知っているんですね」

 

カランコロン

 

ドアベルが鳴り響いた。誰か入って来たようだけど…振り返ると、知らない女性が立ち尽くしていた。

 

「…新一…」

 

何故か僕の名前を知っている。誰だっけ?記憶を精査するも、記憶には無い。これが初対面のはずである。

 

「あの…誰かと、間違えていませんか?僕は宮藤真一といいます」

 

「新一…会いたかったわ…」

 

泣きながら僕に縋りついた女性。誰だ、この女性は?

 

 





オリ主の名前が『くどうしんいち』なので、展開はバレバレでしたよね?(^^;


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ソックリさん

 

---宮藤真一---

 

何故、こうなったのだろうか?あの初対面の女性に連れて行かれ、今、彼女の両親が目の前にいる。これは世に言う一目惚れってヤツか?初対面で、両親に紹介って…

 

「お前、工藤新一だよな?」

 

彼女の父親に訊かれた。

 

「えぇ、宮藤真一ですけど…僕は彼女とは初対面ですよ」

 

僕の言葉で悲しそうな顔をする女性と、その母親。

 

「記憶喪失のようだな」

 

彼女の父親は、何をもって、僕を記憶喪失と断定したんだろうか?

 

「そんな…やっと、会えたのに…」

 

「あの…誰かと間違えられて居ませんか?」

 

涙を流している女性が、スマホに画像を表示させて見せてくれたのだが、その女性と僕が楽しげに写っていた。あれ?マジ?僕って、記憶喪失なのかな?こんなシーンは覚えていないけど…

 

「新一…どうしちゃったのよ~」

 

泣きながら僕に抱きつく女性。彼女の記憶を読み込んでみた。あれ?確かに、僕は彼女と付き合っていたようだ。なんで、僕の記憶には無かったんだ?僕の記憶領域に、何か不具合が起き始めたのか?早めに帰らないと、帰れなくなるとマズいなぁ。ちょっと、お花を摘みに行き、そこから家へと転移して逃げた。

 

 

 

---毛利蘭---

 

やっと、新一に会えた。だけど、記憶喪失のようだった。

 

「おい!蘭!アイツ、いないぞ!」

 

お父さんの声、トイレに立った新一が、いつまでも戻って来なかったので、お父さんが見に行ってくれたのだ。玄関へ向かうけど、玄関には内側からチェーンロックがされていた。密室での消失になるのかな?

 

「消えた…まさか…」

 

顔面蒼白のお母さん。ここはお母さんのマンションである。外に出るには、玄関のドア以外には無い。ベランダに面したリビングには私達がいたし、そもそもトイレも内側から鍵が掛かっていたそうだ。

 

「どこに消えたの?ねぇ、お父さん…お母さん…」

 

新一は誰かに狙われていたのか?一体誰に?

 

 

 

---宮藤真一---

 

夜、弘一おじさんが安室さんを連れてきてくれた。

 

「まさか宮藤真一君とは…姿も彼にそっくりだし。こんな偶然があるんですね」

 

安室さんの言う彼とは工藤新一という、別人だった。音だけだと同姓同名で、姿が一緒では間違えられても仕方が無いか。あぁ、僕の記憶領域には問題は無く、弘一おじさんに話したら、調査して来てくれた。

 

「俺も驚いたよ。真一に瓜二つでな。違うのは年齢だな。あちらは高校2年生だよ」

 

僕は中3だし。別人である。僕の記憶領域の不備で無くて良かった。

 

「それでですね。その彼が、例の薬を飲んだ可能性があるんですよ。彼は彼女の前から消えて、たまに現れるんですが、足取りがまったく追えないんです」

 

安室さんは公安調査室の潜入捜査官だそうだ。あの薬を使う組織を調べているそうだ。

 

「で、あの薬の出所ですが…黒ずくめの組織と言われる団体が開発し運用しています。効果なんですが、体質によって2つに分かれます。1つ目は、お探しの見た目で分かる幼児退行、もう1つは検出不可能な毒薬です。組織としては後者を開発したようですが、体質によっては幼児退行してしまうらしいです」

 

それって、お姉ちゃんは誰かに殺されそうになったってことだ。誰に?

 

「おい!真一…殺気が駄々漏れしているぞ」

 

うん?弘一おじさんの声が震えている。あぁ、殺気を消さなきゃ。

 

「その捜査は、公安にして貰うから、真一は関わるなよ」

 

「解毒剤は?」

 

「無いです…」

 

無いって…そうか、検出出来無いのか。

 

「じゃ、毒薬のサンプルは?」

 

「組織の上の方のメンバーが携帯しているらしいです」

 

それを奪うか。

 

 

黒ずくめの二人組を見つけ、追い詰めた。

 

「工藤新一…生きていたのか?!」

 

工藤君も毒薬を飲まされたのか。彼は死んだのか?それとも…

 

「おい!薬を出せ!」

 

「もう一度、投与されたいのか?うっ!」

 

太った男の腿に、ミワから撃ち出された5寸釘が突き刺さった。

 

「薬を出せよ」

 

細身の男は、懐から拳銃を出して、発砲してきた。しかし、弾丸は僕にもミワにも到達しない。運動エネルギーのベクトルを地面に向けた為、総て地面に埋まっていた。

 

「薬を出せよ」

 

「お前、何者だ?本当に工藤新一なのか?」

 

顔を引きつらせた細身の男。

 

「そうだよ。宮藤真一、ウィザードだよ」

 

目の前の黒服の男達の身体に、死神が手にしたカマが通り過ぎていった。

 

 



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【メモ】主な登場人物

【魔術サイド】

インデックス(本名;不明)

真一の脳のクローンを移植され、現存する魔導書を総て記憶している聖女。真一の脳のコピーの内、能力に関わる部分だけを移植され、真一を救おうとしていた記憶を失う。発見時、真一のことだけは覚えていたが、なぜか身体が幼児化していた。膨大な記憶を維持する為に、膨大なカロリー消費をし、寝ている以外は食事をしている。

 

神崎火織

真一を助け出した聖人。十字教団の女教皇で、天草式十字清教の信仰対象。

 

土御門家当主

土御門元春の父親。真一からツッチーおじさんと呼ばれている。

 

土御門元春

土御門家次期当主。火織の弟分。

 

 

【魔法師サイド】

四葉真夜

四葉家当主。真一の戸籍上の母親。真一からバァバと呼ばれている。

 

七草弘一

七草家当主。冷凍保存したおいた精子を盗まれた上に、真一を認知した父親。原作とは違い、ダメ親父系。

 

七草真由美

弘一の娘。真一の2つ歳上。義姉として、真一の家庭教師になる。原作よりも腹黒い。

 

九島烈

九島家当主。真一が予測出来無い存在になった原因をつくる。真一により、記憶改ざんと、精神支配をされ、真一には頭が上がらない。

 

十文字克人

十文字家次期当主。真由美の同級生。真一を弟のようにかわいがり、相談にも乗っている。真一には、『かっちゃん』と呼ばれている。

 

渡辺摩利

真由美の同級生。真一への教育の為の教材にされ…

 

 

【科学サイド】

アレイスター・クロウリー

学園都市の統括理事会の理事長。元世界最高最強の魔術師にして現世界最高の科学者とされる。学園都市にある窓の無いビルににて、生命維持装置にて生き

ながらえ、都市運営において指示を出していたが、真一により殺害された。思想において四葉真夜と共通する部分もあり、真一の製造に関わった人物である。現在はミサカ総体の隠れ蓑として利用されている。

 

上条当麻

土御門元春のクラスメイト。ヒーロー体質であるが、トラブルメーカーでもあるらしい。『幻想殺し』という異能力を無かったことにする能力持ちの為、純粋な体術使いの真一と戦闘上の相性は悪い。

 

御坂美琴

病院で知り合い、真一が彼女のクローン体達を救い出し、保護してくれたことに感謝し、好意を寄せている。レベル5の能力者で、発電系能力『電撃使い』の使い手である。

 

10032号

通称はミニ。残存しているシスターズの中では一番古くに製造されたクローン。美琴とが特に目を掛けている。

 

ラストオーダー

通称はラオ。一番幼い姿で、アホ毛が特徴的。

 

ミサカ・ワースト

通称はミワ。シスターズで唯一の戦闘特化クローン。真一のガーディアン。

 

 

【魔法使いサイド】

宮藤真一(本名;四葉真一)

オリ主。四葉真夜と七草弘一との受精卵を精子化、九島烈の精子を卵子化させ、受精して出来た人造人間。魔法師としての価値は無いに等しいが、魔法使いとしては、最強レベル。能力『吸収』は、触れたり、見たり、聞いたり、体験したりしたことを総て吸収して、自らの知識、能力、スキルにする。魔法師の魔法を吸収した場合、魔法に置きかえての発動が可能であり、魔術の場合も同様である。アレイスター・クロウリーの記憶に触れ、現世界最高最強の魔法使いにして現世界最高の科学者への道を歩んでいる。見た目イメージは『名探偵コナン』の工藤新一。

 

 



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敵に一撃

---宮藤真一---

 

手に入れた毒薬を、バァバ、弘一おじさんに渡して、解毒剤を検討して貰う事にした。薬学関係の知識が乏しい上、僕の家には薬品を検査する装置も施設がないからだ。

 

「これ、お姉ちゃんが戻れるといいなぁ」

 

目の前では、一心不乱に食事をしているインデックスがいる。次に考え無いといけないのは、だれが、インデックスを殺そうとしかだ。火織お姉ちゃんのいる教会へと転移した。

 

「彼女を殺そうとしたヤツ?う~ん…バチカンにはいないかな。殺す目的で、あんな面倒な事をするとは思えないわ」

 

そうだよね。殺す気があるのなら、脳外科手術を受ける前に殺すよな。

 

「十字教って1枚岩で無いんだよね?」

 

「イギリス、バチカン、ロシアに分かれているけど、イギリスも殺す気は無いし、ロシアも賛成だった」

 

十字教にはいないのか。

 

「インデックスの能力があると困る人達って?」

 

「そうねぇ~、魔法使いとかかな」

 

僕?

 

「僕は困らないよ」

 

「真一君はそうでしょう。だって、元々は真一君の脳だもの」

 

そうだった。僕の脳のコピーした物を移植したんだった。そうなると、

 

「僕も狙われているのかな?」

 

「どうだろう?真一君の存在は、魔法使いサイドには知られていないはずよ」

 

それは、僕が魔法師サイドにいるからか。

 

「寧ろ、インデックス個人と言うより、十字教団の最強兵器として、狙われたのかもね」

 

そうなると、他の宗教か?でも、バチカンの保護施設で、毒薬を盛られたんだよな?他の宗教関係者は、入れないはずだ。

 

「来訪者記録で怪しい人物は見つかっていないんだよね?」

 

「見つかっていないわ」

 

待てよ…精神感応術で操られていたら?

 

「ねぇ、その記録で、お姉ちゃんがインデックスの保護した後に、死んだ人っている?」

 

「追跡調査が必要ね」

 

 

 

---江戸川コナン---

 

俺にソックリのヤツがいたそうだ。名前までも一緒って、あの黒ずくめの組織の罠か?本物の工藤新一をおびき出す為?

 

「新一…どうやって、消えたのかな…」

 

妃弁護士のマンションのトイレから消えたそうだ。ドアにはカギが掛かっていて、窓は無い。完全密室での消失事件かぁ。

 

「蘭お姉ちゃん、幻影だったんじゃないの?」

 

「そんな事は無いわ。だって、新一の身体の感触が手の平に残っているもの」

 

実体はあったのか。後、考えられるのは…異世界にへと召喚されたとか?無いかぁ…

 

 

 

---宮藤真一---

 

学園都市でお小遣いを稼いで帰ると、ネェネがいた。

 

「ねぇ、真一、夏休みに沖縄旅行に行かない?」

 

「夏休みって?」

 

「夏になると学校が長い休暇期間に入るのよ」

 

勉強しないでいいの?

 

「美琴も?」

 

「うん、夏休みあるよ」

 

「真由美さんも?」

 

「沖縄かぁ~。蒼い海、白い砂浜、私も行こうかな」

 

真由美さんも行く気があるようだ。

 

「どうやって行くの?」

 

「飛行機よ」

 

飛行機?随分と遠いんだな。脳裏に沖縄の地図が表示された。うん?大亜連合の海軍基地が近いのか…大亜連合は、バァバに意地悪をした大漢の生き残りがいる連合国のことで、正式名称は大亜細亜連合だったかな?先に掃除をしておくか?

 

 

翌日、気持ち良く寝ていると、真由美さんからの連絡で起こされた。

 

『直ぐに、生徒会室に来なさい』

 

って。今日は朝帰りで眠いんだけど…服を着替えて、生徒会室へ転移した。

 

「ねぇ、今日の未明、どこにいたの?」

 

「未明?」

 

「はぁ~、未明って、まだ明るくなる前よ」

 

真由美さんが頭を抱えていた。

 

「夜風を感じながら、空中をお散歩…」

 

あれ?バレているのか?なんで?

 

「どこにお散歩したの?」

 

「海の上…」

 

「ねぇ、何か落としたり、撃ったりしなかった?」

 

完全にバレている気がする。なんでだ?何かヘマをしたか?

 

「どこから持ち出したの?」

 

「USNAの潜水艦からミサイルの弾頭を2つくらい…」

 

「十文字君、犯人はコイツよ!」

 

僕を指差す真由美さん。

 

「あんたねぇ~、なんて物を落としたのよ!おかげで、沖縄旅行はパァ~よ!!」

 

「なんで?」

 

みんな、沖縄旅行を楽しみにしていたのに…

 

「目の前で、キノコ雲が上がった周辺には行けないでしょ?」

 

「そういう物?」

 

「そういう物よ」

 

常識らしい。頭を抱えている真由美さん。そうなのか。キノコ雲は学園都市で見慣れているから。

 

「なぁ、具体的には何をどうしたんだ?」

 

かっちゃんに訊かれた。

 

「上空3万メートルから、『超電磁砲』で核弾頭を撃ち出しただけだよ」

 

かっちゃんが絶句している。そんな慌ただしい午後、今度はバァバからの連絡だった。

 

『直ぐに来て!』

 

僕はバァバの元へ転移した。

 

 




学園都市のキノコ雲は、放射性物質は使われておりません(^^;;


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掃除の結果

 

---宮藤真一---

 

転移をすると、目の前のベッドで、バァバのお姉さんの深夜さんが苦しそうな呼吸をしていた。

 

「真一…直るかい?」

 

深夜さんの身体を探査をして、悪い箇所を探した。心臓近くに細かい金属片を見つけた。これかな?『強奪』で取り除き、『修復』で体内のキズを修復してみた。それにより、呼吸は静かになったが、まだどこかが痛そうだ。探査を再度行い、症状の原因を探ってみる。肺胞の先の方が火傷かな。これも『修復』で修繕してから、全身に『回復』魔法を掛けた。これで、どうかな?しばらくすると、深夜さんはスヤスヤ寝だした。

 

「真一…ありがとうね」

 

バァバに抱きつかれた。ジィジは目元を抑えている。これで、良かったのかな?

 

 

いつの間にか寝ていた。僕を包む感触がいつもと違う。インデックスの質感とは違う物が僕に接していた。

 

「真一…ありがとう…」

 

全裸の深雪に抱かれていた。こういうのは男が女を抱くのでは無いのか?何故、僕は抱かれているのだ?それも、僕まで全裸なんだけど。

 

「一生、傍にいる。いいわね。逃がさないわよ~」

 

なんか、怖いよ、ネェネ…

 

「真一のおかげで、お母様が助かったって…本当にありがとうね」

 

感謝されるのは良いけど、脅さないでください。

 

 

 

---司波達也---

 

母が危篤なのに、風間少佐の召集を受け、魔法大隊本部に向かった。危篤の母の元へは、深雪だけを送り出した。

 

「大黒特尉、よく来てくれた。用件は本日未明に起きた大亜連合の軍港2箇所への爆撃について、意見を訊きたい」

 

そう言えば、ニュースでやっていたな。レーダー反応も無く、いきなり爆撃を受け、軍港2箇所が消滅したとか。

 

「キノコ雲が上がっていましたので、魔法では無く、核弾頭による爆撃だと思います」

 

「そうか、特尉もそう思うか。あの沖縄侵攻以来、我が国とは終戦していない国が攻撃され、我が国の仕業では無いのかと、疑惑の目を持たれているのだ」

 

この国には核弾頭は無い。公式にはだ。実際には九島家辺りが持っていると噂があるのは事実である。だが、それを爆撃する為の飛行機が無いのも事実である。

 

「核弾頭の使用であれば、我が国以外の国、USNAもしくは新ソビエト連邦が有力になる」

 

いや、違う。爆撃機がレーダーに無反応なんてあり得ない。特にあの国のレーダーは、大陸式の結界も併用していたはずだ。それを掻い潜り、爆撃出来る人物は一人知っている。総ての魔法を使える真一だ。アイツの場合、大漢に恨みがあるし。

 

「で、もう1つ訊きたいんだが、宮藤真一って人物を知っているか?」

 

既に、容疑者として浮かんでいるのか。

 

「はい」

 

「どんな人物だ?」

 

「一言で言えば、バケモノです」

 

「バケモノ?どういう意味だ?」

 

「そういう意味です。九重先生の体術、幻術ともに通用しませんでした」

 

あの先生が意識を狩られていた。俺ですら勝ったことが無いのに…

 

「そうか…彼も、君と同じ様に、わが軍に協力してくれそうかね?」

 

「止めた方が良いですよ。俺と違い、飼うのは無理です」

 

「赤紙徴収でもか?」

 

国としての命令ってことか?

 

「試してみたらどうですか?この国が戦場になっても知りませんよ。アイツは、四葉真夜の後継者ですから」

 

「何?どういう意味だ!彼女は子供を産めないはずだが」

 

「ですから、試してみてください。俺程度では予測は出来ません。そういう相手ですよ」

 

用件が終わったので、母の元へと急ぐ。

 

 

 

---七草弘一---

 

真一の元に赤紙が届いたそうだ。トラブル処理は俺の役目らしい。まぁ、真夜が前に出ると、取り返しが付かなくなるもんな。秘密クラブで、魔装大隊の隊長である風間と会った。

 

「何故、あなたが出てくるのですか?」

 

俺の登場に動揺しているようだ。

 

「真一に掛かるトラブルの処理は、俺の担当だ。この紙はなんだ?こんな紙キレ1枚で、真一に何をさせる気だ?!」

 

「何故、七草家の当主が出てくるんですか?」

 

「真一は俺の息子だ」

 

「!?」

 

戸惑う風間。

 

「認知もしている。家族も知っているよ。で、なんで、真一なんだ?」

 

「彼の計りきれない能力を、我が国の為に使って欲しい」

 

「そういうのは、アイツの総てを計りきってから言え。後、アイツの手を汚させるなよ。それにだ、既にアイツは違う国の所属だ。横取りは、国際問題になるぞ」

 

「違う国?何故です?国籍は我が国で、未成年ですよね?」

 

「アイツは3歳で拉致され、13歳で救出されたんだよ。この国は、アイツの為に、なんかしてやったのか?何もしていないよな?その顔は、事件被害者ってことも知らなかったようだな。一昨日来やがれ!!」

 

真一を何だと思っているんだ?アイツも俺も被害者だぞ!

 

「いいか、アイツはやっと人並みの生活を送れるようになったんだ。そんなアイツを軍に差し出せと?ふざけるなよ!」

 

俺は、席を立ち、その場を立ち去った。

 

 

 

---宮藤真一---

 

沖縄旅行は無くなった。真由美さんが僕を睨んでいる。ネェネは夏休みの間、深夜さんに付き添うそうだ。

 

「真一…違う場所に連れて行きなさいよ」

 

違う場所?僕は僕の家と学園都市しか知らないのですが…後は、イギリスかな?でも、観光地は知らないし。バチカンも隔離施設以外、よくわからない。さて、どうしたものか?

 

「温泉に行きたいなぁ」

 

と、美琴。温泉?

 

「温泉とは地面から吹き出すお湯ですっと、ミサカは解説をいたします」

 

ミニが解説をしてくれた。真由美さんがタブレットで温泉地を検索し始めた。夏休みは温泉決定なのか?

 

「これなんか、どうかな?秘境の一軒宿」

 

「いいですね」

 

真由美さんと美琴が盛り上がっている。そこに決定か?

 

「お届け物が来ていますよ」

 

玄関から封筒を抱えた五和がやってきた。教会の仕事が無い時、家事を手伝いに来てくれていた。五和から封筒を受け取ると、ニィニからだった。封筒を開けると、フォーリーフリゾートへの招待券が入っていた。

 

「あっ!これ、今話題のスポットですよ」

 

五和が喰い付くと、真由美さん、美琴まで喰い付き、同封されていたパンフに目を通し始めた。

 

「真一、決めたわ。ここにしましょう。都心にあるし、近いし」

 

秘境の一軒宿の温泉じゃないの?真由美さんは、再度パンフに視線を向けていた。

 

 



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フォーリーフリゾート Part1

 

---宮藤真一---

 

秘境の一軒宿が、何故か都会にあるリゾート施設、フォーリーフリゾートになった。真由美さん、摩利、リンリンこと市原鈴音、かっちゃんと、真由美さ

んの後輩であるあーちゃんこと中条あずさ、はんぞーくんこと服部半蔵に、僕、美琴、ミワ、ミニ、ラオ、残念お姉ちゃんことインデックス、火織お姉ち

ゃんにツッチーと大人数で押し掛けた。大丈夫かな、この人数は?

 

「若から聞いております。お坊ちゃまは、自宅と思っておくつろぎください」

 

と、大きな部屋に案内された。

 

「流石は真一ねぇ。顔が効くわね」

 

真由美さんは上機嫌である。

 

「都会の一等地に、こんな穴場が…」

 

火織お姉ちゃんは、室内を見て回っている。この施設、『ロの字』状に宿泊棟が並び建ち、真ん中の空白部分に、温泉やら人工砂浜がある優れた施設だと

言う。

 

「流石にフォーリーフ系だな」

 

かっちゃんも感心して、はんぞーくんと共に人工海岸で泳いでいる。

 

「真一、オイルを塗ってくれない」

 

真由美さんにサンオイルを塗っていく。歳を取るとクスミやシミに原因になるなんて、言ったらダメだろうな。背中とお尻と、脚の裏を塗ってあげた。

 

「真一君、私達も頼めるかな?」

 

摩利、リンリン、あーちゃん、火織お姉ちゃんと順に塗っていく。なんで、日焼けなんかするんだ?プチ火傷だぞ。

 

その後は、砂浜でビーチボールで美琴達と遊ぶ。このビーチボールは特製で、静電気防止加工をしてある。発電系能力者でも安心だ。

 

「おい、真一。ナンパしに行こうぜ!ぎゃあぁぁぁ~」

 

何か不埒なことを言ったのか、ツッチーに方々から電撃が浴びせられた。

 

「そんな変な遊びは教えないでいいのよ!」

 

美琴がエキサイトしている。

 

「真一、ジュースを飲みに行こう!」

 

御坂軍団に連れ攫われる僕。フリードリンクコーナーに着き、みんなの飲みたい物を持って来てあげる。濡れた身体の発電能力者は、電子機器が使えない

そうだからだ。

 

「はい、美琴。後、これはミニ、ミワ、ラオの分」

 

「ねぇ、なんで、私のは無いの?」

 

インデックスに訊かれた。

 

「発電能力は無いよね?お姉ちゃん、僕より歳上のはずだよね?」

 

残念な姿になってしまったお姉ちゃんことインデックは、明らかに運動不足である。ジュースくらい取りに行く、体力は付けないと…フリーイートコーナ

ーにダッシュで行き、皿一杯の食べ物を持って来た。

 

「真一、私はコーラーがいいなぁ」

 

食べるのが忙しいようだ。どうにかならないかな、この体型…キューピーちゃん人形を見ている気分になれる。あのお姉ちゃんが、不憫だ…

 

 

 

---毛利蘭---

 

園子とフォーリーフリゾートに来た。たまには鈴木財閥系以外の場所で楽しみたいと、都会にあるリゾートにやってきた。

 

「凄いよね。温泉があって、砂浜があって、海岸まであるよ」

 

「そうね。叔父様に言って、ここよりも大規模の物を作って貰うわ」

 

鈴木財閥なら作れそうだよね。ふと、視界に新一が入った。なんで、ここにいるの?

 

「新一!」

 

「えっ!えぇぇぇ~!」

 

私の声で振り向き、驚いたように、逃げていく新一。逃がさない!新一を追う。宿泊棟に入っていく新一。誰かと泊まっているの?私を放置して?あり得

ない!兎に角、後を追いかけて…着いた先は、最上階にあるスペシャルスィートだった。ここに泊まれるって、お金、権威、名誉が揃わないと泊まれない

と聞いたことがある。ただのお金持ちでは、ここには泊まれないのだ。

 

ビリッ!

 

何かを受けて意識が飛んでいく。

 

 



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フォーリーフリゾート Part2

 

---毛利蘭---

 

いつの間に意識を飛ばしたのだろうか?全裸にされ、手首に手錠を掛けられて、天井から吊り下げられていた。

 

「目が覚めたようね。アンタ!私の真一を困らせるのは、止めてくれないかな?」

 

目の前に、中学生くらいの女の子がいる。まさか、新一はこの子と…

 

「私は新一のプロポーズを受けたの」

 

「ふっ!プロポーズ?ウソを言うヤツには躾だな」

 

鼻で笑われた上、彼女が触れると、全身を電流が駆け巡った。何、これ…ダメ…色々な体液が身体から漏れ出していく。もうやめてぇぇぇぇ~!

 

「へぇ~、私に触られた程度で、グジュグジュなのね。ここが緩いんじゃないの?!」

 

「あぁぁぁぁぁ…」

 

触らないで…大事な箇所に電流が駆け巡っていく。

 

「今後、真一に付き纏わないなら、開放してあげるけど。どう?」

 

 

 

---宮藤真一---

 

いつの間にか寝ていた。ここって、どこだっけ?部屋を出ると、ミニとラオとインデックスがいた。

 

「ミニちゃん、僕はどうして寝ていたの?」

 

「疲れたようですとミサカはご報告いたします」

 

「美琴は?」

 

「あの部屋で作業中ですとミサカは正直に答えます」

 

なんかやらかしているのか?言われた部屋に入ると、美琴とミワが、全裸の女性を甚振っていた。

 

「この子はどうしたんだ?」

 

どこかで見覚えのある女性。どこだっけかな?えぇっと…そうだ!毛利蘭って女性だ。

 

「何をしているんだ?」

 

「真一を困らせたから、躾け中」

 

また、間違われたのか。美琴とミワに、事情を説明した。

 

「そんなに似ているの?」

 

「顔も声も体格も名前もねぇ。返品してくるよ」

 

この前、逃亡したトイレの中に、記憶を改ざんした後、シャワーで洗った彼女を置いてきた。

 

 

 

---毛利蘭---

 

気が付くと、お母さんのマンションのベッドの上にいた。

 

「蘭!ねぇ、どうしたの?なんで、うちのトイレに全裸で、濡れた姿でいたのよ」

 

お母さんの目が紅い。泣いていたのかな?どうしたんだっけ?思い出せない。どうして?

 

「わからない…どうしてかな」

 

翌日、前日の私の行動が分かった。園子と二人で、フォーリーフリゾートに行ったそうだけど、私が消えたそうだ。荷物と着替えを残して…

 

「ねぇ、蘭。記憶に無いの?」

 

「うん…そうなのよ、園子…」

 

まるで記憶に無い。どうして?ねぇ、新一…

 

 

 

---妃英里---

 

翌日、前日の蘭の行動が分かった。園子さんと二人で、フォーリーフリゾートに遊びに行ったらしい。なのに、なんで、私の部屋にいたの?

 

「先生、お客様がお見えです。アポはしていないそうですが、いかがしますか?」

 

「どなたかしら?」

 

「四葉家の筆頭執事の葉山様だそうです」

 

四葉家?フォーリーフグループを司る財閥じゃないの。なんで、このタイミングで?まさか、蘭は四葉家の何を知ってしまったの?

 

「お通しして」

 

「わかりました」

 

客間にお通しして、私も向かった。

 

「妃弁護士事務所に、四葉家の方が、どの様なご用件でしょうか?」

 

顧問弁護士がいるので、弁護の仕事では無い。では何だ?

 

「くどうしんいち…その人物に付いてです」

 

新一君が、四葉家に何かしたのか?それで、蘭は巻き込まれたのか?

 

「あなたの娘さんが、勘違いをされているようで、困っているんです」

 

葉山氏は1枚の書類を手渡して来た。戸籍謄本のようだ。宮藤真一…これで『くどうしんいち』と読むのか。父親は七草弘一、母親は四葉真夜とある。七草家の当主と四葉家の当主との不倫により出来た子なのか。

 

「名前が娘の彼と同じなんですね」

 

「名前だけではありません」

 

スマホで動画を再生して、見せてくれた。四葉家当主を『バァバ』と呼ぶ『しんいち』君…顔も声も体格も同じなのか?

 

「当家の抱えた問題を分かっていただけたでしょうか?坊ちゃまを追い回すのを止めて欲しいのです」

 

坊ちゃま…四葉家の次期当主候補なのか。蘭は勘違いをして、その彼を追い回した、それが事実になるのか。

 

「坊ちゃまはまだ、中学生なんです。高校生と同じ扱いをされても困ります」

 

蘭が彼に何かをしたのだろう。高校生なら大丈夫だが、中学生だとダメなのは、色恋沙汰か?まさか、蘭は…

 

「今後、坊ちゃまに何かした場合、それ相当のバツを与えます。なので、今後は当家に近寄らないで欲しいのです。娘さんの彼氏は、私共の方で捜索いたしますから、そちらでは手を出さないでください」

 

そう言い残し、葉山氏は帰って行った。蘭…あんた、何をしたの?

 

 

 



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フォーリーフリゾート Part3

 

---宮藤真一---

 

リゾート施設、なにが楽しいのだろうか?よく分からない。みんなでワイワイするなら、家でもいいじゃないかと思うのだが、真由美さん達は、エステとかマッサージとか、ビーチサイドとかを楽しんでいる。

 

放射能を帯びた物が無くなれば、沖縄に行けたのかな?未明にあの場所に行き、放射能に帯びた物を、USNAにある火山へ総て捨てた。これでどうだ?

 

翌朝、真由美さんに起こされた。未明の散歩で眠いんだけど…

 

「真一、起きなさい!あなた、またやらかしたの?」

 

なんで、バレたんだ?痕跡は残していない筈だが。

 

「何のこと?」

 

「ハワイにある火山が噴火したのよ」

 

「羽合?知らないよ…」

 

羽合には行っていない。行ったのは大亜連合の領地である。バレていないようだ。

 

「じゃ、誰が…」

 

「大亜連合の報復かも知れないな。この前の核攻撃の」

 

「そうね。あり得るわ」

 

なんか、大事になっている。黙っておこう。

 

更に翌日…

 

「ねぇ、真一!起きなさい」

 

「なぁに?真由美さん」

 

今朝は未明に散歩していないので、目覚めが良い。

 

「大亜連合の領地に何かしていない?」

 

「していないよ」

 

「本当に?」

 

「ぐっすり寝ていたよ」

 

「そうなの…じゃ、誰が?」

 

テレビでは、大亜連合の領地のうち放射能汚染された地区だけ、標高が10メートル下がっていることが報じられている。そんなことがニュースになるのか?平和だな。

 

「ねぇ、真一なら、この現象は、どうやるかな?」

 

「それは…そうだな。放射能汚染された物を、違う場所にポイかな?」

 

「そう…わかったわ」

 

 

 

---七草真由美---

 

真一のいない部屋に十文字君達を集めた。

 

「犯人は真一だわ。放射能汚染された物を、火山の火口にポイしてのよ」

 

「なるほど、行き場の無くなった火山性ガスか、水蒸気が圧縮されて、爆発して噴火か」

 

十文字君が正解に辿り着いたのだろう。

 

「きっと、沖縄旅行を潰した原因を排除しただけなのだろうな、真一的には」

 

「そう思うわ。悪気は無いと思いたい」

 

「しっかしなぁ、それだけの能力を持っていても、三科生は決定なんですよね?」

 

はんぞー君に訊かれた。

 

「魔法科高校は、魔法師として、扱えるサイオンの量で、クラス分けするの。真一は扱えるサイオンは無いから…そもそも、魔法師では無いし」

 

「残念だが、国の方針だ。いくら戦略級魔法師レベルであっても、アイツは魔法師では無いからな」

 

この国ではウィザードは評価されない。ウィザードとして評価されたいのなら、英国に渡ることだろう。真一の軍籍は既に英国にあるそうだし。

 

 

 

---宮藤真一---

 

フリードリンクスペースで、一人でまったりしていると、

 

「くどうくん、ちょっと、こっちに来て」

 

知らない女性に声を掛けられた。ホテルの人かな?付いていくと、

 

「確保しました。これから輸送します」

 

って、僕の意識が奪われていく。

 

意識が再起動すると、病院にいた。ここはどこだ?記憶を遡っていくと、拉致されたようだ。取り敢えず、ミサカネットワークに連絡をしておく。

 

「工藤君…大丈夫か?」

 

知らない髭のおじさんに、訊かれた。

 

「ここは?」

 

「もう大丈夫だよ。記憶喪失のようだな。園子君から聞いたよ」

 

園子って、誰?僕は記憶喪失では無い。また、間違われたようだ。

 

「検査の結果、脳に異常は無いみたいだ。薬物反応も血液から出ないし。何が原因だろうな」

 

「記憶喪失じゃ無い」

 

「工藤君は気にしないで、養生しなさい」

 

髭のおじさんは病室から出て行った。僕は病室に一人で放置されるようだ。ドアには見張りの人の気配を感じる。

 

 

 

---七草弘一---

 

何をやってくれたんだ、捜査一課は…真一を保護、輸送だと?何の目的だ?手下の公安部員に探らせている。合法的に返して貰わないと面倒なことになりそうだ。

 

「わかりましたよ。また工藤君と間違われたようです。捜索依頼者は鈴木園子です」

 

鈴木財閥の小娘が、警視庁の捜一に通報したのか。面倒この上無い事態だ。真一の素性をあまり明らかにしたくは無い。あいつの素性自体が狙われる原因になり得るからだ。

 

「どうしますか?真一君が自力で脱出しちゃいますよ」

 

その可能性が大だな。ミサカネットワークで、救援を待てと伝えたが、どこまで我慢してくれるかだな。

 

 



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くどうしんいち

 

---宮藤真一---

 

救援を待てと指示が来たが、もう二日だよ。飽きてきたよ。どうするかな?あの時の女性で妄想でもするか?まず、女性をこの部屋に『強奪』して、意識を刈り取る。この部屋に結界を張らないとダメだな。余計なジャマは妄想の妨げである。下着を強奪して、女豹のポーズをしてもらおうかな?

 

う~ん、妄想が飽きてきた。帰ろうかな?逃げるなら、密室にしない方が良いらしいので、窓を開けてから、家に転移した。

 

「心配したんだよ~」

 

家に帰ると真由美さんが泣き縋ってきた。心配してくれたんだ。もっと、早く帰ってくれば良かったかな。

 

「ちょっと、顔を貸して」

 

真由美さんと感動な再会をしていると、美琴が僕を連れ出した。連れ出したと行っても、敷地内であるけど。連れて行かれたのは、『実験室』と描かれた部屋だった。僕の実験室、様々な実験をしている。何の実験って…何だっけ?まぁ、いいか。

 

中には知らない少女が台の上に拘束されていた。何故か全裸で、ラオが何かしている。

 

「やめてよ~!」

 

少女が目に涙を溜めている。ラオは少女の特定部位を指で突っついたり、棒で突っついたり、箸で摘まんだりしていた。何の遊ぶだ?

 

「彼女の記憶を読み取ってくれる?」

 

美琴に言われた。言われた通り、記憶を読み取るが…うん?少女の推定年齢と記憶した年数に開きが大きすぎる。どういうことだ?

 

「どうだった?」

 

「見た目年齢よりも、記憶した年数が大幅に多い。いや、多すぎる」

 

「じゃ、当たりだわ。コイツも、薬で小さくなったってことだよ」

 

なるほど…ラオよりも幼い少女、だけど、記憶は18年以上あった。もう一度、記憶を読み取り、薬に関して、詳細に読み取っていく。結果、彼女が薬を作り上げた張本人であり、自殺目的で飲んだ結果、幼児化したようであった。彼女が製造過程で書き上げた化学式をメモに書き、弘一おじさん、かっちゃん、バァバ、ジィジ、ニィニに、情報の呼び掛けを行った。これで解毒剤が出来るかな?

 

「ねぇね、見た目幼女だけど、子供ってつくれるの?」

 

少女に訊いてみた。

 

「物理的には無理よ…無理!入らないわよ…痛いって…裂けちゃう…よ~」

 

入らなかった。出来無いらしい。

 

「ねぇ、その子には出来て、私にはしないのは何でかな?」

 

美琴の全身に磁気嵐が発生している。何故か怒っているようだ。

 

「美琴は身内、身内とはダメなんだって」

 

「身内…血縁では無いわよ」

 

翌朝、全裸の美琴が上に載っていた。何故?

 

 

 

---江戸川コナン---

 

灰原が行方不明になったらしい。黒の組織に攫われたのか?蘭の様子もおかしい。何が闇で蠢いているんだ?

 

「ねぇ、コナン君…」

 

蘭の声で振り返ると、全裸の蘭が立っていた。

 

「私って魅力が無いかな?」

 

蘭に抱きかかえられた。マズい、子供姿の俺では、振りほどけない。

 

「乳首を舐めていいわよ。それともこっちに興味があるかな?」

 

えっ!股間に顔を埋められた。近すぎて、何も見えない…おいおい、俺の服を脱がし始めたぞ。何がしたいんだ?しっかりしろ!蘭!

 

「おい!蘭!何をしているんだ?そのガキ、窒息するぞ!」

 

おっちゃんの声…遠くへと遠ざかっていく。

 

意識が覚醒すると、俺は病院のベッドの上にいた。窒息状態でチアノーゼを起こしたらしい。危うく、蘭が殺人者になるところだったらしい。蘭は、俺の偽者を見てから、精神が蝕まれていたらしい。大丈夫か?

 

頭がぼんやりして、身体が重い。動けないか、これでは…灰原がいれば…アイツ、今どうしているんだ?

 

 

 

---毛利蘭---

 

新一に抱かれている。すっごく幸せである。

 

「もう、どこへも行かないでね」

 

「何をいっているんだ?蘭がどこにも行かなければいいんだよ」

 

「そうだね。新一の傍にずっといるよ。私の事は、好きにしていいから…」

 

新一の身体と愛を奏でていく。新一のエキスを零さずに、私がもらう。幸せである。夢だったら、覚めないで…

 

 

 

---宮藤真一---

 

工藤新一を演じる。精神を病んでしまった彼女の為に。まぁ、気持ちが良いのが報酬ってことで…

 

「魔法でどうにかならないの?」

 

美琴が怒っている。どうしてよ?

 

「肉体の損傷なら修復出来るけど、精神ダメージの回復は無理だよ。精々、記憶を弄ることくらいかな」

 

弄りすぎると、廃人になっちゃうけど…

 

あの少女の記憶では工藤新一は死んでいた。死ぬ場面の記憶は無かったけど、名前の後ろに死亡と書かれた何かのリストを見た記憶が残っていたのだ。

 

「その男の死亡は確定?」

 

真由美さんに訊かれた。

 

「死体が無いから、どうかな?幼児化して、生きながらえている可能性はあるよね」

 

幼児化して人物を見つけるのは難しい。指紋でチェックするのが手軽なのだが、幼児だと警察のデータベースに指紋の登録が無いので、チェックデータが無いのだった。なので、今は顔認証をしている。工藤新一の幼少期の顔写真を元に、監視カメラ映像から探しているのだ。

 

 



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問題児誕生

---宮藤真一---

 

毛利蘭、灰原哀は、四葉系列の病院に入院して貰った。重度の精神疾患とのことで、家族も面会謝絶であるが、僕達が面会をする分には問題は無いそうだ。彼女達の同居人には連絡をしてあるので、警察沙汰にもならないそうだし、一安心である。

 

そういう僕は、犯罪被害者保護プログラムと言うのが適用され、御坂真一となり、美琴と義兄妹ってことで同居している。

 

「真一!問題は起こさないでね」

 

僕と義兄妹になり、美琴も魔法師高校への入学を希望をするようになった。超能力も現代魔法も同じジャンルなので、転向も楽らしい。一方、僕の方は、ウィザードなので、相変わらず程遠い位置にいるそうだ。

 

ニィニこと、司波達也に師事を仰ぎ、僕と美琴は魔法師としての勉強をしていた。そして、そこに毛利蘭の姿もあった。彼女も僕と同じ高校へ入りたいそうで、魔法師としての能力開発をしていた。ここで問題なのは、学年である。美琴は僕の1つ下、蘭は僕よりも歳上であるのだった。だけど、バァバの妙案で、美琴を飛び級、蘭は中学浪人にすることで、入試が受けられることになった。

 

「あっ!」

 

「真一!」

 

ストレスによる僕の魔法の暴走…美琴が僕に電気ショックを飛ばして、難無き事態に持ち込んだ。

 

「だから、問題を起こす前に、休んでいいんだよ」

 

歳下の女子にアドバイスを貰う僕…

 

「真一、ケーキを買って来たわよ。ティーブレイクにしましょ」

 

真由美さんと深雪が帰ってきた。入試が迫っていた。受験生が受験する学校で勉強するのは、不正だと思われるってことで、家にみんなが来て教えてくれていた。

 

「国語と道徳以外は問題無いようね」

 

模擬試験の結果を見ていた真由美さんに言われた。国語は難しい…平仮名と片仮名は覚えたが、漢字が危険である。点の位置で、「おおきい」が「ふとい」にも「いぬ」にもなるし…う~ん…道徳は、立ち位置で変わると思うし。善悪もそうだよな。どこに立つかが問題である。

 

「達也君、実技は?」

 

「美琴は1科生、蘭は2科生、真一は3科生ですね」

 

真由美さんの問い掛け気に、即答するニィニ。

 

「受かることは受かりそうね」

 

 

そして、運命の試験日…筆記試験は、ミニちゃん経由で教えて貰いながら、解答した。俗に言うカンニングである。見つからなければ問題は無いらしい。実技は…

 

「で、なんでカンニングして、筆記が合格ギリギリなの?」

 

試験後、真由美さんから衝撃的な言葉を聞いた。カンニングしていたことがバレていて、しかも合格ギリギリだった事実。

 

「なぁ、これってどこの国の言語だ?」

 

かっちゃんが僕の答案用紙を持って来ていた。筆記問題が日本語で無くなっていた。長文が書けずにいらついたせいで、悪魔語で解答していたようだ。

 

「これは…悪魔語です…」

 

そこに書かれていた文字を、日本語に翻訳すると、結構良い点だったらしい。

 

「次回からは、日本語で書こうな」

 

凹んだ僕に、かっちゃんが優しく声を掛けてくれた。

 

 

入学式の日を迎えた。あの日から小学校の国語の勉強を頑張った。ようやく小学校5年生並にはなっていると思う。ニィニ、ネェネ、蘭、美琴とは違う場所で三科生の入学式が行われるそうだ。デカイ講堂に入ると、壇上にはデカイモニターがあり、一般の学生の入学式の模様が映し出されていた。能力の無い者だと、ここまで格差があるのだな。

 

モニターには生徒会会長として真由美さんが映ったり、新入生総代としてネェネが映っていた。無事に入学式が終わると、教室に行き、ガイダンスを聞き、お開きになった。一人で帰るなと言われていたので、生徒会室へと向かう。一人で帰ると、問題を起こすと思われているようだ。僕は問題児では無いのに、みんな心配性だな。

 

「おい!てめぇ~!ここは三科生が来ていい場所じゃねぇんだぞ!」

 

後ろから襟を掴まれたので、相手の手首を極めて、腕を絡め取り、肘、肩をも極めて、相手の背後に移動した。

 

ボキッ!

 

相手のどこかの骨が折れたようだ。制圧した相手を廊下に捨てると、ソイツはCADを抜き、僕にナニカの術を放ってきた。バリアで弾くと、天井が爆発して崩壊してきた。僕は咄嗟に、生徒会室に転移した。

 

「どうしたの?」

 

真由美さんに訊かれた。

 

「ここに来る途中で、暴漢に襲われたんだけど、天井が崩れてきたから、ここに逃げ込んだんだよ」

 

僕の言葉を受けて、かっちゃんとはんぞー君が部屋を出て行った。

 

「ねぇ、どこか怪我していない?」

 

「大丈夫!バリアを張って避けたから」

 

『天井が崩壊して、怪我人が多数。CADを使ったのは、一科生至上主義の森崎だ。肩の骨が粉砕しているようだ』

 

無線からかっちゃんの声が響き渡った。

 

「ねぇ、何をどうしたの?」

 

真由美さんに訊かれたので、洗いざらいを話した。

 

「三科生って、生徒会室に来ちゃダメなの?」

 

「そんなことは無いわよ。同じ学生なんだから…でもねぇ、中には差別主義者がいるから…」

 

真由美さんは僕を優しく抱き締めていた。

 

 



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過去の遺恨

 

---司波深雪---

 

入学式の後、校門へと向かう。お兄様と一緒に帰る約束をしていたのだ。友達となった光井ほのかさんと北山雫さんと向かった。お兄様もお友達を連れて、既に校門前で待っていた。

 

「お兄様、遅くなりました」

 

「真一が問題を起こしたみいたい」

 

校門に着くと、美琴がそんなことを言い出した。彼女は謎のネットワークを使い、距離に関係無く、真一、シスターズと会話の交信が出来るそうだ。

 

「どんな問題?」

 

蘭が訊いた。

 

「襲われて…結果、怪我人多数だって」

 

そういえば、遠くから救急車のサイレンが複数聞こえて来た。

 

「初日から、何をやっているんだか」

 

呆れている美琴。言葉とは裏腹に、心配そうである。

 

「達也君、真一って?」

 

お兄様のお友達の赤毛の女性が訊かれた。

 

「深雪の…婚約者だよ」

 

「「「ええぇぇぇ~!」」」

 

事情を知らない皆さんに驚かれている。

 

「まだ、高校生なのに、婚約者がいるの?」

 

「う…うん…」

 

あぁ、耳が熱い。気のせいだろうか、お兄様はの表情が笑っているようだ。真一のこと…嬉しいのだろうか。

 

「先に帰っていてって。生徒会長と一緒に帰るってさ」

 

真由美さんと一緒なら、安心ね。みんなで帰路に着いた。

 

 

 

---宮藤真一---

 

かっちゃん、はんぞー君と共に現場検証に付き合った。

 

「森崎の魔法をバリアで弾いたのか…それにしても威力がデカイなぁ。森崎はオーバースペックで撃ち込んだようだ」

 

はんぞー君が、装置を使って、魔法弾の動きを計測している。

 

「ねぇ、ここって三科生はいちゃダメなの?」

 

僕の傍に付いているかっちゃんに訊いた。

 

「ダメでは無い。三科生もうちの生徒であるんだから、生徒会室に行くことは問題は無い」

 

「僕って、問題児?」

 

「或る意味…そうかもしれない。真一のような三科生は珍しい。一科生相手にしても、お前は負けないしなぁ」

 

ウィザードが魔法師の学校に通うのが問題なのだろう。ここも僕の居場所で無いのかもしれない。

 

「だが、お前の居場所はここだぞ。いいなぁ、変な気を起こすなよ」

 

かっちゃんは僕の心を見透かしたような事を口にした。僕の理解者なんだろうな。その後、真由美さんと家へ転移して帰宅した。

 

 

翌日…学校へ通学…真由美さん、美琴、蘭と共に、学校の生徒会室へ転移で飛んだ。通学中に問題を起こさない為である。蘭は僕を元彼としてで無く、僕として認識できるようになっていた。認識した上で、一緒の学校へ通いたいと、蘭は両親を説得して今に至っている。

 

「授業が始まるまで、ここにいてね。真一は転移で移動して。学校サイドには許可を取ってあるから」

 

この学校の差別意識は強く、三科生が一科生のいる場所にいるだけで、不敬罪を口にする一科生がいるらしい。そんなヤツラがいるから、戦争も無くならないのだろうか?

 

「真一、問題が起きそうだったら、はんぞー君でも十文字君でも頼っていいからね。勿論、摩利、リンちゃん、あーちゃんでもいいし」

 

三科生ってだけで、問題が生まれ易いらしい。

 

授業中は問題は起きない。昼休みも問題は起きない。真由美とお弁当を食べる為に、生徒会室へ転移するからだ。

 

「真一、風紀委員として、差別主義者達は補導していく。だから、安心してくれ」

 

摩利の言葉に頷く沢木さん。去年、受講生をしていた関係で、生徒会の上級生には知り合いが多い。

 

「なんで、三科生の一年がここにいるんですか?」

 

知らない女性に噛みつかれた。

 

「彼は真由美の弟だ。敵にはなるなよ、カノン」

 

風紀委員の千代田花音先輩だと言う。五十里さんが小声で教えてくれた。

 

「啓!婚約者を前にして、三科生と仲が良すぎない?」

 

五十里さんの婚約者なのか…う~ん…

 

「なんだ!おい!ガン付ける気か?」

 

「いえ…その…決闘でもしますか?」

 

「バカ!やめろ~!」

 

はんぞー君が僕を抱え込んだ。

 

「おい!千代田、謝れ!死にたく無かったら、早く謝れ!」

 

はんぞー君が喚いている。僕は冷静だよ。こういうチンピラには力で示すのが良いって、ツッチーが言っていたし。

 

「服部君、何を言っているの?この私が三科生の一年に負ける訳無いでしょ?」

 

「真一君、ゴメンね。カノンて、短気だから、許してやってよ」

 

五十里さんが、彼女の代わりに頭を下げている。

 

「啓!舐められるから、止めなさい。こんなヤツは力で示すのが一番よ!七草先輩の弟ってだけで、つけあがっているだけでしょ!」

 

キャンキャン五月蠅いなぁ~。えぇ、犬っころになれよ!精神感応術で、千代田さんを子犬にしてあげた。その場で四つん這いになり、「キャンキャン」吠え始めた千代田さん。

 

「真一…お願い、術を解いて」

 

今度は真由美さんが僕に抱きついてきた。

 

「反省するのが先だよ。放課後まで、このままにする。ねぇ、お弁当は?」

 

「そうね…カノンが悪いのは明白だけど、昼休み中だけにして」

 

お弁当を背後に隠した真由美さん。お弁当を人質に取られた。真由美さんの申し出を受け入れ、漸くお昼ご飯にありつけた。

 

 

放課後…校門に転移して、みんなを待つ。

 

「真一!」

 

美琴が走ってきた。僕を一人にするのって、不安なのだろうか?

 

「授業はどうだった?」

 

僕のカバンからノートを取り出しチェックしていた。日本語だけのはずだ。

 

「所々に、英語があるのは何故?」

 

「人間の言葉として、最初に覚えた言語だからかな?」

 

ラテン語とかギリシャ語の方が先だったけど、生きた人間の言葉じゃ無かったからなぁ。あのお姉ちゃんに習った言葉が、英語だった。今は不憫な喰う寝る食う少女に成り果てたお姉ちゃん…不憫すぎる。

 

「あっ!早かったねえ」

 

蘭、ニィニ達2科生が次に来て、ネェネ達の姿も視認出来る距離にいた。

 

「あ!貴様!」

 

へ?

 

ニィニの連れの赤毛の女性が、伸縮式特殊警棒を展開して、僕に襲い掛かってきた。特殊警棒に指を当て、『10万ボルト』を撃ち込むと、その場で失禁して倒れた。

 

「うん?真一、エリカと遺恨でもあるのか?」

 

ニィニに訊かれた。

 

「えぇ~、記憶に無いけど…この子のフルネームは?」

 

「千葉エリカだ」

 

千葉?あぁ~、あの千葉道場のか…そういや、女の子がいたなぁ。

 

「以前、千葉道場に習いに行って、師範を倒しちゃったんだよ。そしたら、道場破りだって、弟子達が襲い掛かってきて、全員病院送りにしたような」

 

「あぁ、そんなことが遭ったね。家まで押し掛けてきて、返り討ちにしたことって」

 

美琴は覚えていたようだ。

 

「そうなると、今も千葉道場は、真一を狙っているのか」

 

そうなるね。

 

 

 

---千葉エリカ---

 

アイツだ。オヤジを倒したアイツが、三科生にいた。何故、三科生なんだ?私を倒した魔法力、二科生でも支障が無い位だった。一撃で意識を刈り取られ、その場で失神という醜態を晒してしまった私。

 

「アニキ、アイツだよ」

 

入院した私を迎えに来たアニキに、アイツのことを話した。

 

「警察のデータベースで調べた。アイツは犯罪被害者保護プログラムで名前を変えていた。今は御坂真一と名乗っているそうだ」

 

犯罪被害者保護?

 

「加害者じゃ無いのか?」

 

「俺もそう思って、上と掛け合ったんだが、被害者で、どんな事件かは個人情報だとさ」

 

アイツのことだ、碌な事件でも無いだろう。

 

「名前が変わってても、後ろ盾は変わらない。エリカ、詮索はするな。相手が悪すぎる」

 

「相手?後ろ盾って、どこだ?千葉家より上なのか?」

 

「あぁ、そうだよ。4,7,9,10だ」

 

なに?四葉家、七草家、九島家、十文字家だと…数字付き家系の4割が、アイツの後ろ盾だと言うのか?アイツは、何者だ…

 

「ここからは、俺の独り言だ。アイツは普通の人間では無い可能性が大だ。CAD無しで魔法が使えるそうだし、体術、剣術も達人並み。手を出すと消される可能性が大、妹には先に逝って欲しくない」

 

それは、下手を打つと、殺される可能性が大なのか…

 

 



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過去への清算

---宮藤真一---

 

週末、ツッチーに学園都市に呼ばれ、美琴、ミワと共に呼ばれた場所に転移した。

 

「見つけたぞ。ドリーの片割れをな」

 

ドリー…ミサカシスターズの初号機と呼ばれる個体であるが、2体製造されたそうだ。1体はシスターズの寿命を長くする実験に使われ、もう1体はその記憶を共有する為の実験に使われたそうだが、後者の方が生きて保存されていると言う。

 

「まだ、いたんだね」

 

悲しそうな美琴。その美琴を見つめるミワ。

 

「どうして、ソイツは、ネットワークで繋がっていないんだ?」

 

ミワがツッチーに訊いた。

 

「2体1対での実験だそうだ。それを生かして、お前らが製造されたそうだ」

 

どこか悔しそうなミワ。ミワから恨みのエネルギーを『強奪』していく。ミワを殺人鬼にはしたくない。破壊の権化にはしたくない。それは、バケモノである僕の仕事だから。お願いだよ、僕の仕事を奪わないでよ~

 

「えっ!ちょっと…真一…あなたが背負い込まないでいいのよ」

 

美琴がネットワークを通じて、僕の心打ちの半分を読み取ったようだ。

 

「さぁ、行こうよ」

 

 

発電系能力者2,ウィザード1,陰陽師1のパーティーを前にして、右往左往する学園都市理事配下の警備兵達。弾倉の銃弾に圧力を掛けて、暴発させていく僕。ガードロボを次々に撃破していく美琴とミワ、そして、トラップを解除していくツッチー。理事長にも報告が上がらない研究…ここの理事達はしたたかなのか、上に報告せず、独断で研究する輩が多い。

 

実験施設の奥…彼女の収められているカプセルと、操作コンソールだけの部屋を見つけた。ツッチーがコンソールを操作して、カプセルから彼女を取り出した。全裸で投げ出された彼女をミワが素早くたきしめて、床に降ろした。美琴は、持って来たタオルで身体を拭き、スエットスーツを着せた。下着類はサイズが不明な為、持ち込まなかったようだ。

 

「ドリー…」

 

「美琴…お姉ちゃん?」

 

「そうよ。私よ。遅くなってごめんね」

 

「大丈夫…ミーちゃんと操祈ちゃんが一緒にいてくれたから」

 

薄ら笑顔のドリー。

 

「さぁ、帰ろう。私達の家に」

 

「妹達もいるの?」

 

「私が末の妹だよ…ドリー姉さん…」

 

ミワが声を掛けると、嬉しそうな表情で、意識を失った。

 

「ミワ!生命維持装置をつなげて!」

 

「分かった」

 

ミワは上半身をはだけ、胸から生命維持装置のラインを引っ張りだし、ドリーの身体へとつなげた。

 

『ラオ、ドリーのデータは届いているか?』

 

『うん、届いているよ。システムチェックしたけど、問題は無いと思うって、ミサカはミサカは胸を張って言う。張るほどの胸が無いのは内緒ですけど…』

 

「ツッチー、撤収だ!」

 

「あぁ。取れるだけデータを取った」

 

時限式の殲滅魔方陣を仕掛けて、その場から家へと転移した。

 

 

 

---食蜂操祈---

 

御坂美琴が飛び級で国立高校へ入学したそうだ。どんな手を使ったの?実験体のクセに、この実験都市から、抜け出すなんてズルい。そういう私も実験体の一人である。この学園都市の闇に触れ、この学園都市を憎んだ。だけど、敵は巨大であり、脱走する気も起き無い程であったのに。

 

「なぁ、ここを出て、美琴と同じ学校に通わないか?」

 

私だけの部屋に、突如男性の声が聞こえた。ここは女子校、男性は立ち入り禁止なんだぞ~。

 

「どういうこと…」

 

目の前に、御坂さんの彼氏がいた。過去に3回も私を食べた肉食系男子だ。

 

「私の身体目当てかしら?御坂さんに比べて、スタイルに自信があるんだぞ~」

 

「ドリー…」

 

なんで、その単語を知っているの…遠い過去に失った大切の者の名である。

 

「今、一緒に暮らしている。ドリーが操祈と会いたいって言うんだ。一緒に来てくれない?」

 

一緒に暮らしている?だって、ドリーは…涙が零れていく、涙腺が壊れたみたいだわ。どうしたんだろう。こんなの私のキャラに合わないわ。

 

「ドリーはねぇ、記憶のリンク実験もしていたんだよ。ドリーと呼ばれる個体は二人いたんだ。一人は、妹達の延命の為の実験で命を落としたけど…君が昔…看取ったのは彼女だよ」

 

もう一人は…生きている…の?

 

「ねぇ、操祈ちゃん…操祈ちゃんだよね?会いたかったよ~」

 

目の前に、あの時よりも成長したドリーがいた。だけど、あの時のドリーの仕草が残っている気がする。パタパタと近づいて、途中でドサっと、顔面から転んでいるし。

 

「痛っ!てへへへへ~、操祈ちゃん、会いたかったよ~」

 

歩行訓練をさせた方が良い、よたよた歩きのドリーは、数回転びながらも、私の元に辿り着き、私に抱きついた。

 

「あぁ~操祈ちゃんの匂いだ~」

 

体臭で人を見極めるクセ…あの当時のままのようだ。

 

 

 

---宮藤真一---

 

ドリーと操祈を同室にした。操祈の住んでいた寮から、操祈の私物を総て『強奪』してきて、部屋に置いて上げた。後は、ミーちゃんって子を探さないと。

 

「ドリーも操祈も、ミーちゃんの本名は知らないんだな?」

 

「う~ん…」

 

「訊いたことが無いです」

 

ツッチー達に探させるかな。

 

「で、美琴と同じ学校へ入る?」

 

「入れるんですか?」

 

「たぶん…」

 

美琴と同じレベル5であるから、入学出来るはず…バァバに打診すると、入学許可が下りて、来週から編入する運びとなった。

 

そして、週が明けての月曜日、真由美さん、美琴、操祈と共に生徒会室へ転移して、操祈だけ先に職員室へと向かった。

 

「彼女もレベル5なの?」

 

真由美さんに訊かれ、頷いた。レベル5の能力者は、戦略級魔法師相当だそうだ。その為か、すんなり入学編入許可が下りたらしい。しかも飛び級で…

 

あのボディで中学生って…あ~ちゃんに謝れ!

 

 

 



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厄介事

 

---宮藤真一---

 

僕の管理下にある窓の無いビルにテロ行為をした女性がいた。その場で拘束し、牢に入れてあるそうだ。早速、ツッチーを伴って、彼女に会いに行った。彼女の名前は、警策看取。プロフィールを見て、気づいた。操祈とドリーと同じ研究所にいたことだ。看取…ミーちゃんである可能性。

 

「なぁ、単刀直入に訊くが、お前、ドリーの関係者か?」

 

「なんで、それを…ねぇ、ドリーをどうしたのよ。まだ、生きているんでしょ?」

 

ドリーの名を聞き、取り乱した女性。それまで、どんな拷問にも悲鳴すら上げなかったらしいのだが…って、ここの警備は拷問するのか?

 

「ドリーがミーちゃんって人物に会いたがっているんだ。心当たりはあるんだな?」

 

「えっ…」

 

視線が泳ぎ始めた。関係を誤魔化したいのか?

 

「どうするんだ?」

 

「お持ち帰りする」

 

「わかった。報告書はこっちで書いておく」

 

後のことはツッチーに任せて、僕は看取と共に、家へ転移した。家に着き、看取の拘束を解き、ドリーの待つ部屋へ連れて行った。万が一を考え、ドリーにはミワとミニちゃんをガードとして付けてある。同じ波長な為か、この二人といると、心地良いらしい。

 

「この部屋だよ。ドリー、入るぞ」

 

「うん、いいよ~」

 

看取を連れ、ドリーの部屋に入ると…

 

「ミーちゃん?」

 

「えっ…ドリー…ドリーなの?」

 

「ミーちゃぁぁぁぁ~ん!」

 

ドリーが看取に抱きつき、早速匂いを嗅ぎ始め、

 

「う~ん、ミーちゃんの匂いだ。懐かしいなぁ~」

 

匂いで人物判別するのって、ユニークスキルかな?美琴は匂いフェチでは無いんだけど…

 

「ねぇ、アレを見せてよ~」

 

ドリーは、広口瓶に入った液体金属を看取に渡すと、瓶の中でイルカが飛び跳ね始めた。

 

 

学校に戻ると、もう放課後だった。午前中にテロが起きて、直ぐに向かったのだが、結構時間を食ったなぁ。

 

「おい!お前、どこの家のモンだ!」

 

最近、三科生にも絡まれる。迷わず、取り巻きごと、風紀委員の部屋へ強制転移させる。後、摩利とか沢木さんがどうにかしてくれるだろう。魔法師の家系って、派閥があるらしい。それは子供でも意識して、自分よりも下位の家系には威張り散らす傾向があるようだ。三科生って、現代魔法が使えないんだろ?威張る程の者でも無いだろうに。

 

校門の前に転移すると、既にみんなが待っていた。

 

「遅かったわね。なんか問題を起こしたんじゃ?」

 

美琴に詰め寄られた。

 

「いや、ちょっとだけだって…」

 

「そのちょっとが危ないんだぞ~」

 

操祈に突っ込まれた。確かに、そのちょっとが危ない時が多い。

 

「今日は大丈夫だよ。呼び出される前に、帰ろうよ」

 

摩利に事情聴取されるかもしれない。

 

「呼び出しって…やはり、なんかやらかしたんだな」

 

ニィニは確信を突くなぁ。えぇっと…味方は…深雪だけかな。

 

「深雪、帰ろう」

 

「はい」

 

二人で歩き始めると、後ろも付いてきた。これで、校内放送は聞こえない。

 

「質問なんだけど、転移魔法が使えて、なんで三科生なの?」

 

北山雫に訊かれた。

 

「空間魔法を使える人って貴重だと聞いたことがありますけど」

 

光井ほのかが更に聞きたいみたいだ。

 

「あぁ、僕は現代魔法師ではないから」

 

「「はぁい?」」

 

「真一はウィザードなんですよ」

 

と、深雪が僕の代わりに答えた。

 

「それは、本物の魔法使いってことですか?」

 

この子は誰だっけ?ニィニのクラスの眼鏡女子だ。

 

「そうなるかな…」

 

「CAD無しで魔法の行使って出来るの?」

 

雫に訊かれた。

 

「出来るって言えば出来るよ」

 

左の手の指先に炎を浮かべた。

 

「無詠唱ですか…それってマスターウィザードってことですか?」

 

ほのかの声が裏返った。それ程、驚いているようだ。

 

「アークウィザードの資格は持っているよ」

 

英国魔法協会発行の身分証をみんなに見せた。

 

「魔法使いって、本当にいたんだ」

 

驚いている現代魔法師の皆さん。学園都市組と、ニィニ達は、魔法使いのことを知っているのか、驚いてはいないけど。

 

「魔法使いは現代魔法師で無いからねぇ」

 

 

翌日、ツッチーに呼び出された。あの~、学校は休みじゃ無いんですが…

 

「真一、吸血鬼って、いると思うか?」

 

「いるよ。ヨーロッパの片田舎に集落があるけど…」

 

「集落の場所を知っているのか?」

 

「知っているけど、教えられない。バンパイアハンターに知らせるでしょ?」

 

「まぁ…教会サイドだからにゃ」

 

教えられない。知り合いもいるし。

 

「まさか、はぐれバンパイアでも出たの?」

 

はぐれバンパイアは、吸血鬼村の村長から、狩っても良いと言われている。ルールを護れない愚か者として。

 

「いや、そうじゃ無いんだけど…『吸血殺し』って能力を知っているか?」

 

「確か、Gホイホイの吸血鬼版だよね?吸血鬼を引き寄せる香りを発して、血を吸わせて灰にするって、感じだっけ?またの名をニトロブラッドって言うんだよ。濃い聖水と同じで、輸血した人間はそのエネルギー量に耐えられずに爆発すると言われているし」

 

「そこまで危険なのか…」

 

「たしか、エリクサーの材料だったような気がする」

 

「お前の知識が怖いんだが…」

 

僕はこんなにも大人しいのに、怖いのか?

 

「まさか、その能力というか、体質の人がいるの?」

 

「あれって、体質なのか?」

 

「そうだよ」

 

ツッチーは専門家なのに、知らなすぎるなぁ~。大丈夫か?

 

「それがなぁ、学園都市のある場所に軟禁されているんにゃ」

 

「この国なら、吸血鬼はいないから安心だよ」

 

「いないって言い切れるのか?」

 

「言い切れるよ。いれば、悪魔さん達が教えてくれるし」

 

悪魔は人間の負のエネルギーを食い物にしているのだが、吸血鬼の眷属になると、食い扶持が減るのだ。よって、見かけ次第、殲滅してくれるのだった。

 

「お前、悪魔と友達なのか?」

 

「うん。呼べば、来てくれるよ。悪魔だとアモンとかレヴィアタンとか」

 

「呼ばないでいいからな…お前、規格外すぎるだろ?」

 

「一応、バケモノだからね」

 

それ位呼べないと箔が付かないらしい。と、天使のミカエルが言っていたっけ。

 

「脱線したが、あの軟禁しているヤツを救出して、その厄介な体質を改善して欲しいんにゃ」

 

体質の改善かぁ~。それは厄介だな。

 

「幻想殺しに頼めば良いのに」

 

体質改善薬は、作るのが面倒である。

 

「そうなるのか。じゃ、救出を手伝ってくれ。上やんは、戦力外だからにゃ」

 

『幻想殺し』って、最終兵器じゃ無いのか?アレイスターの記憶によると、ドラゴンの力も持っているそうじゃ無いか。僕よりもバケモノだと思うんだけど…

 

 



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