スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲 (水無月 双葉(失語症))
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第0話 プロローグ
闇の世界と鬼姫


処女作以前に文章が稚拙でくどく読む人を選びます、それでも良いよと言う方のみお読み下さい。
合わなかった方は何も言わずに閉じて下さい、なお、否定意見及び低評価等はお許し下さい、ですが誉めて頂けると小躍りして喜びます。
作者のメンタルは濡れたトイレットペーパーより弱いです、宜しくお願い致します。



 暗い、暗い、暗い闇の中に佇んでいた。

 

「ここは……?」

 

 自分の手すらも見えない闇、だが後ろから小さいが温かい光を感じて、慌てて振り返る。

 

 光の元に急いで足を進める、どの位歩いただろう……時間感覚が掴めないままやっと、光の側に辿り着く。

 恐る恐る光に触れる、触れた瞬間、手が、体が引きずられる、えっ? と思った時にはすでに遅く、光に飲み込まれた。

 

 

 

 優しく頭を触れられている感触がする、頭の後ろが温かく柔らかい、そして落ち着く香りが鼻腔をくすぐった、ゆっくりと目を開ける。

 視界の中に薄桃色の髪、紅色(べにいろ)の瞳、そして白磁のようなツノを二本生やした少女と目が合った。

 

 意識がはっきりして気が付く、膝枕されてる! 

 

「目が覚めましたか?」

 

 手は止まらずにゆっくりと頭を撫でられている、心が落ち着き、このままで居たい衝動に駆られるが、体を起こし鬼の少女に合わせ正面に座る。

 それを見た彼女はクスリと微笑むと、職人が作った最高の鈴が、軽やかに転がるような声で話しだす。

 

「いきなり驚いたと思いますが、話を聞いて頂けますか」

 

 少女は立ち上がり、真剣な眼差しでこちらを見据え伺ってくる。

 彼女に合わせ立ち上がり、気を引き締めた。聞く体制を整えたのが伝わったらしく、鬼の少女は美しい笑みを浮かべた。

 

「自分が手術中だった事は覚えていますか?」

 

 その言葉にハッとする、そうだ俺は心臓が悪くて危険度の高い手術をしていたんだ、と……言う事は……まさか……

 

「大丈夫ですよ、手術自体は成功しています、しかし貴方の魂の一部が千切(ちぎ)れてしまいました……その一部が、貴方です」

 

「手術は成功したけど、魂は千切(ちぎ)れたって事は、俺は目を覚まさないって事?」

 

 俺の言葉に、鬼の少女は儚げに首を縦に振る。

 

「ですが、一つだけ助かる方法が有ります。私が鬼の力を授け、別の世界に貴方が行けば、私の力が本体にも流れ魂を修復し目を覚まします。

 今の貴方は、もう一人の自分になって、別の世界で生きていく事になります。魂の関係で年齢は若く成りますが、その世界での常識と生活する資金と知識は用意します」

 

 話が旨すぎる、この少女の目的はなんだ……? 

 

「何故そこまでしてくれるのですか? 正直言ってしまって信じられません」

 

 正直に問う、少女は微笑むと、一度目を伏せた。

 

「行っていただく世界は危険が迫っています、その世界を救うために向かって欲しいのです。

 その世界が滅ぶと他の世界にも魔の手を広げて、いずれは貴方の世界にも迫る事でしょう。

 これから向かう世界にも戦士たちは居ますが、まだ力は弱く闇にのまれる可能性を秘めています。

 貴方には私が鬼の力を授けますので、その力を使い戦士達と力を合わせ闇を払って欲しいのです」

 

「その世界で俺が死んだら、こちらの世界の俺はどうなりますか?」

 

「力を受けた時点で、貴方とは有る意味別の人物の成りますので、どちらの世界の貴方には何の影響も有りません。

 いえ、そうですね、せめてもの礼として彼方に行った貴方が、世界の為に行動した分の善行をこちらの貴方に授け、運気を上げましょう。

 しかし、このままだと今の貴方は消滅し、もう一人の貴方も目覚める事はありません」

 

 右手で口を覆い考える、断ればどちらも死ぬようなものか……選択肢が有るようで無いな……答えは一つか。

 

「分かりました、その話お受けします」

 

 覚悟を決め頭を下げる、返事に満足したのか微笑んで俺の両肩に手を置く。

 

「我、鬼神の鬼姫の名により(ことわり)を解き新たな(ことわり)を授けましょう、今より汝は鬼人の戦士と成りて生まれ()わらん、我が使者の名は、『獣鬼』、産声を上げた、新たな戦鬼に我が祝福を」

 

 幾重もの光の渦に囲まれ、体が作り替わり、信じられない力を感じる、光がゆっくりと収まり、自分を確認する、感覚で分かる、確かに若返っている事が。

 

「通常でも十分な力を持ちますが、戦士の力を十全に使うために、こちらを使い力を解放して下さい」

 

 そう言って渡された物は、見覚えのあるアイテム『音叉(おんさ)』正確には変身音叉(へんしんおんさ)音角(おんかく)』だった。

 

「これって……あの……すみませんが……どう見ても……ねぇ」

 

 困惑する俺が面白いのか、クスクスと笑いながら、楽しそうに鬼姫が答えてくれる。

 

「いきなり鬼人の力、と言っても分からないでしょうから、貴方の記憶の中に有る、正しき力を持つ鬼を参考にしました、3人の鬼の力が使えますよ。

 それに貴方が鬼の力を使いこなせれば、姿形はもちろん、能力も変化し覚醒していきます」

 

 能力の覚醒ねぇ……しかし仮面ライダー響鬼(ヒビキ)か……確かに好きだったが、これは何と言って良いのやら。

 

「後、戦士達とその周辺の人達には、好意的に受け入れられますので、安心して友好を結んで下さい。

 では、貴方の旅に幸運を」

 

 鬼姫が手を上げると、強大な門が現れゆっくりと開く、こちらを向き門に向かう様に促される。

 一礼すると門へと向かう、この門をくぐると戦いの日々か、などと思うが足は止めない、病気が原因で色々失った、失うものはもう無い。

 こんな俺を、必要として望んで貰えるのなら嬉しい限りだ、期待に応えたい、俺は門を潜り抜けた。



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着いた街と幸運の匙

 門を抜けた先は部屋だった、振り返るが門はすでに消えていた。

 

 ぐるりと見渡すどうやらリビングのようだ、六人掛けの大きなテーブル、アイランド型のカウンターキッチン、カウンターにも椅子が置かれ、冷蔵庫は両開きの大きな物、余裕のある三つ口コンロに広いシンク。

 

 リビングには、床置きのエル字ソファーとローテーブル、極めつけは大型テレビにレコードも再生できるステレオ、風呂トイレは当然別で、室内乾燥も出来るらしい、おかれた洗濯機も、ドラム型の洗濯乾燥機。

 

 寝室は、キングサイズのベットが置かれ、ここにも壁掛けのテレビが設置されている、さらには大きなウォーキングクローゼットも併設されていた。

 後は大きめなトレーニングルームが一部屋と、こちらも広いゲストルームが二部屋あり、そこにはセミダブルベットにテレビも置かれていた。

 

「至れり尽くせりだな、おい」

 

 リビングに戻ると、机の上に先ほどは無かった箱が置かれていた、嫌な予感がしながらも箱を開けると、家の鍵と思われる物と車の鍵がひとつ。

 やや小ぶりな鍵と銀行の預金通帳にカードと印鑑、あと手紙と免許証そしてが入っていた。

 

 手紙を確認すると鬼姫からの手紙だった、内容は、預金通帳のお金は好きに使って良い事と、定期的に金額が入る事、家、車、バイクの権利は全て俺名義になっていると、書いてある。

 

 一緒に入っていた、免許証の住所を見て時が止まる、免許には、加音町と書いてあった。

 

「おい! とある世界って、プリキュアの世界かよ!? 事前説明して下さい! 俺、フレッシュ以降は仕事でほぼ見てないからどうするよ……あっそれでか」

 

 なるほど、どうして鬼の力の解放後『響鬼』の名前を使わなかったの色々察した、確かに『響鬼』は使えんなと、乾いた笑いが出る。

 

「取りあえず街でもぶらつこう、恐ろしいが確認も必要だしな……しかし本当に不味いな、こんな事ならちゃんと見ておけばよかったな……

 キャラはある程度分かるが、ストーリーはほぼ知らないぞ、あの二人と上手く付き合っていくしかないか……

 ん? と、言う事は他のプリキュアとも地続きって事になるのか? 最悪は助けて貰うか……後で調べるか」

 

 外に出てガレージを覗くと、十人乗りの青いワゴンにバイクが一台、後空いたスペースには車が二台は軽く置けそうだった、隅には物置きまで置いて有り一通り入っていた。

 

「本当にまぁ……気を使ってくれて……ありがたいやら恐ろしいやら…………」

 

 チラリとバイクを見る、大変見覚えが有った、同じバイクかよ……いや違うか、こいつルーンじゃないぞゴールドウイングだ……でも、何故サイドカーを付けた! 

 

 バイクに手を置き大きく溜め息をつく、うん、諦めようタダだしな、きっと深い理由が有るに違いない、そう決めつけてガレージを出て敷地外に出ると、閑静な住宅街でした。

 

 歩き出そうとした瞬間、一瞬頭痛が起きた、痛みが落ち着くと、自宅から街の配置、主人公の自宅やら通う学校全てが理解できた。

 これが鬼姫の話にあった、常識や必要な事ってわけか……近くのコンビニでお金をおろし、その足で主人公に一人である『北条 響』の住む家を見に行くと、あまりのでかさに圧倒された。

 さすがに響ちゃんには会えなかったが、そのままもう一人の主人公『南野 奏』の住む自宅兼店舗の『ラッキースプーン』を目指す。

 店に到着し中に入ると、色々な年齢層の男女が結構いた。

 

 

 

 

 

 店内を見回すと居たよ、亜麻色の髪の美少女が、予想以上でびっくりです、こちらに気が付いたのか「いらっしゃいませ」と素敵な笑顔を頂きました。

 

「お持ち帰りですか? こちらでお食べになりますか?」

 

 仕事とはいえ、その笑顔眩しいですよ奏ちゃん、テラスで食べる旨を伝え、ラッキースプーンDXとスイートスペシャルにコーヒーを注文してお金を払うと、番号札を渡される、どうやらテラス席まで持ってきてくれるらしい。

 はて、アニメでそんな描写あったかなどと、思いながらテラスは何席か埋まっていが普通に座れた。

 しばらくすると奏ちゃん自ら、注文の品を持ってきてくれた、ちょっと嬉しい、番号札を渡しながら「ありがとう」と言うと、また素敵な笑顔を頂けました。

 ケーキもコーヒーも大変美味しく、響ちゃんがモリモリ食べるのも分かった気がする。

 トレイを返し「ごちそうさま」といって店を出る時「ありがとうございました」と、良い声と笑顔で送り出してくれた、また来よう、絶対に来よう。



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少女の涙とピアノの調べ

 朝起きたら、ダイニングテーブルの上に、小さな箱が置いてあった、ついジト目で箱を見てしまう。

 

 何時までも、そうしても仕方が無いので、箱を開けると、中にはスマホと一枚のカードが入っており、カードには「渡すの忘れていました♡」と書いてあった。

 

 鬼姫様おちゃめだな、と思いながらもありがたく使わせてもらう事にする。

 

 コンビニで菓子やパン、飲み物などを買い込み、何となく『調べの館』に向かう。所々崩れてはいるが石造りの重厚な建物だ。

 

 様子を伺いながらホールに向かうと、少したどたどしいが、丁寧に引いているピアノの音が聞こえる。

 ホールを覗くと、ピアノを弾いていたのは何と響ちゃんだった。

 

 こちらには、気が付いて無いようなので、静かに近づき最前列に座り、その優しい旋律に聴き惚れる。

 演奏が終わり、響ちゃんが手を降ろし、大きな溜め息をつき俯く、それを見て一瞬躊躇したが拍手をする。

 無許可だけれども、良い音楽を聴かせてもらったしね。

 

「勝手に聴くなんて、失礼じゃないですか!」

 

 響ちゃんが、驚きながらこちらを振り向き、俺を確認すると、怒気を含ませ叫ぶように声を上げた。

 俺は、謝る為に響ちゃんの元に向かう。

 

「勝手に聴いたのはすまなかった、でも、あまりにも心に響くピアノだったので、失礼だとは思ったがつい聴いてしまったよ」

 

 素直に謝り、感想を言い頭を下げる。

 年上が簡単に頭を下げるとは思っていなかったのか、感想が刺さったのか、響ちゃんは顔を少し赤くしながら、謝罪を受け入れてくれた。

 

「こんな下手糞なピアノの何処が良かったのですか……気を使って褒めたんですか…………」

 

 目線を外し、口を尖がらせながら俯く響ちゃん。目の前に有る頭に、思わず手を伸ばし撫でてしまったが、響ちゃんはそのまま受け入れてくれた。

 そして俺は自分の思いを、口にする。

 

「俺は、音楽とか色々な事は巧いとか下手とかよりも、俺自身にどう響くかって事が重要なんだ。

 今、君の弾いていたピアノは、俺の心に届いたよ、実に魅力的で美しく優しい旋律だった」

 

 顔を上げた、響ちゃんの瞳には、うっすらと涙が溜まっていた。

 

 撫でていた手を離し、ハンカチを渡す。おずおずと受け取り、涙を拭うが涙は止まらずに、どんどん溢れてくる。

 その姿を見てられなくて、後頭部に手を回し撫でていると、響ちゃんの方からこちらに寄り掛かって来たので、それに合わせゆっくりと、肩口に抱きよせる。

 

 それが引き金になったのか、その小さく細い肩を震わせ嗚咽を漏らす、頭に回した腕に力を少し込め、これ以上声が漏れないようにし、響ちゃんの気が済むまでそのまま抱き寄せていた。

 

 

 

「すみません、初対面なのに泣いてしまって、あぁ、みっともないし恥ずかしい……」

 

 二人並んでホールの椅子に座り、少し気まずい空気の中話をしている。

 

「別にかまわないよ、君の心が軽くなるならね、少し目が腫れちゃったね……」

 

 つい手を伸ばし、腫れてしまっている目の下を、親指で軽く触れた。

 響ちゃんは顔を赤くしながらしばらく撫でられたが、我に返ったのか慌てて離れる。

 

「あの、恥ずかしいんですけど、あっ、そうだ名前! 名前教えて下さい! 私は北条響って言います!」

 

 恥ずかしさを誤魔化すためであろうか、後半はやたらと早口に成っている。照れている姿も可愛い、響ちゃんも奏ちゃんに負けず劣らずの美少女だ。

 

「俺は木野八雲、よろしくね北条さん」

 

 右手を差し出しながら、自己紹介をする、本当は名前で呼びたいが、流石に失礼なので名字で対応する。

 

 響ちゃんも「よろしく」などと言いながら、握手に応えてくれた。『北条 響』と握手をしていると、思うと嫌でもテンションが上がる。

 いつまでも握っていたい衝動に駆られるが、あやしくない程度で手を離す。

 

 初めて笑いかけてくれた響ちゃんの笑顔は、大変魅力的でまさに「ごちそうさまです」だった。

 

「北条さん、良ければまたピアノ聴かせてもらえるかな?」

 

 俺の問いに、響ちゃんは少し考えたが。

 

「たまになら、良いですよ……でも、期待はあまりしないで……私も色々あるから」

 

 そう言った時の響ちゃんの顔は、まるで迷子になって帰り道も何も分からなくて、黄昏の中に立ちつくす幼子のようだった。

 

 たまらなくなって、思わず手を伸ばし、優しく頭を撫でながらこちらに引き寄せる。響ちゃんは一瞬驚いた顔をしたが、小さく微笑むとそのまま身を任せてくれた。

 二人だけの静かな時間が過ぎ、やがてどちらからともなく離れる。

 

 その後、お互いの連絡先を交換して、買い込んでいた菓子パンやジュースを食べながら他愛のない話をし、時間も遅いので、自宅の前まで送り、家に入るのを見送る。

 

 玄関から上半身だけを出して、笑顔で手を振ってきたので、俺も軽く手を上げて応えると、少し顔を赤くした後に慌てる様に入っていった。



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その後の二人

 あれから響ちゃんと何度か会い、ピアノを弾いて貰っている。その後のお菓子を食べながらのおしゃべりは、俺の密かな楽しみだ、色々と響ちゃんの事も教えて貰えた。

 

 お母さんは、世界的に著名なバイオリニストで、世界中を駆け巡っていて、今は演奏旅行でパリに居るらしい。

 毎日のようにテレビ電話で話をしているから、そんなに寂しくないけれど、正直言うとそろそろ直接話したい。

 

 お父さんも、音楽の世界で天才と言われていて、今は音楽教師をしているのだが、日常会話に音楽用語を入れてくるのが嫌で、いくら言っても聞き入れてくれなくて最悪。

 更に、お父さんの勤務先は自分の通っている学校で、しかも音楽の担当教諭なので、物凄く嫌で憂鬱になる、とぼやいていた。

 

 ピアノは色々あって、小学校三年から弾いていなかったが、あの日は何故だかピアノに唐突に触りたくなって、不思議に思いながらも演奏をしていた。

 首を傾げ、不思議がっていた響ちゃんに「そんな響ちゃんのピアノを今は俺が独り占めだね」っと言ったら、顔を赤くして結構な力で肩を叩かれてしまった。

 

 他に聞いた事は、勉強はちょっと苦手だけれど、スポーツは大得意、負けず嫌いでちょっぴりおっちょこちょい、色々な運動がしたいから部活は助っ人専門、それから甘い良い物が大好き。

 

 話をしている時の響ちゃんは、表情がコロコロ変わり楽しそうに話してくれる。

 一番良い表情は甘い物を食べている時なのはちょっと笑える、そんな響ちゃんが可愛くてたまらない。

 

 そんな響ちゃんだが、一人っ子なので兄弟に憧れがあるらしく、半分冗談で『お兄ちゃん』って呼んで良いよ、と言ったら顔を真っ赤にしつつ『八雲兄』と、小さな声で呼んでくれた。

 

 それ以来俺の事を『八雲兄』と呼ぶようになり、俺も『響ちゃん』と呼び合う仲にまで仲良くなった。慣れないうちは名前で呼ぶと、ちょっと恥ずかしそうな顔をするのが最高に可愛かった。

 

 奏ちゃんに関しては『ラッキースプーン』にマメに通って顔を覚えて貰え、お互いに名前を教えあったが、店員と客なので名字呼びは仕方がない。

 

 入店した時に、名字を入れて挨拶してくれる程度だけど、ケーキを持ってきてくれた時に、学校の話をしてもらえる位には仲良くなった。

 

 スポーツはちょっと苦手だけれど、勉強とお菓子作りは大得意で、将来はパティシエールに成りたくて店の手伝いを頑張っている。

 部活もスイーツ部に所属して、毎日の様にケーキを焼いて部活が楽しい。

 最近の悩みは怒らせたら誰より怖いと、皆に言われ凹んでいるらしい。

 

 この前お店で初めて、弟の奏太君に会った時に「なに? ねーちゃんの彼氏?」って奏ちゃんに爆弾を落として追いかけ回されていた。

 

 

 

 金銭は十二分に用意して貰っているが、流石にそろそろ何かしないと不味いかなと思い、何が出来るかと考えたらどうやら俺は、ピアノの調律や楽器類の修繕調整が出来るらしい。

 

 料理は昔からしているが、腕がさらに上がった様だ、この街に住むには、音楽関係はふさわしい技術って事か、本当に鬼姫様は良く考えてくれている。

 

 

 

 奏side

 

 最近ちょっと気になるお客さんが居る。ここしばらくで常連さんになった人だけれど、ちょっぴり素敵だなって思っている、流石に王子先輩にはかなわないけれどね。

 

 何故だか話しやすくてつい、色々話してしまって、私っこんなのだっけてちょっとびっくり、パティシエールを目指してるって言ったら、将来を考えていて偉いって褒められちゃった。

 

 友達に、怒らせたらものすごく怖いって言われて嫌だって言ったら笑われた、失礼しちゃう。

 

 話をするのが楽しみで、いつもつい長話してママに注意されちゃう事もある。

 

 自己紹介し合った後に、来店時に名字を入れて挨拶したら、驚いた後にすごく優しい笑顔で挨拶を返してくれた。顔が火照って、ちょっと恥ずかしくなっちゃった、顔赤いの気が付かれたかな、少し心配。

 

 スイーツ部でケーキを焼いている時に、このケーキ食べたら、どんな感想を言って貰えるのかな、美味しいって言ってくれるかなと、そんなこと思っていた私にびっくり。

 

 そうそう、この間弟の奏太に「ねーちゃんの彼氏?」って言われて、恥ずかしくて追いかけ回したら、楽しそうに見られてしまって、更に恥ずかしくてなってしまい最悪、でも、悪い気がしなかったのは私の秘密。



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響の独白

 私は5年ぶりにピアノの演奏をしていたの、小学校3年の時、嫌な事が有ってから触る事も嫌だった。

 

 その日は不思議と鍵盤に触れたくて弾いたけれど流石にブランクが長すぎてダメダメだった。

 柄にもなく大きな溜め息を吐くと、拍手が聞こえて振りむいたら、知らない男性が立ち上がりながらしてくれていた。

 

 つい頭に来てしまって、年上らしかったけれど、怒鳴ってしまった。でも、真剣に謝れられてしまって、少し困っていたら「心に響くピアノ」って言われて、私の怒りは無くなってしまう。

 

 あの日私の聞きたかった言葉……初めて会って、初めて聴いて貰って、一番欲しかった言葉を言ってくれた。

 顔が熱くなって、つい心にもない事を言ってしまう、私は物凄く後悔した。そう、まるで奏に対する態度みたいで……私は何をしているのだろうってね。

 

 恥ずかしくなって、つい下を向いていたら、いきなり撫でられて、でも、そんなに悪い気がしなくて、撫でられるなんていつ以来だろうって、嬉しくなっちゃって少し恥ずかしい。

 

「俺は、音楽とか色々な事は巧いとか下手とかよりも、俺自身にどう響くかって事が重要なんだ。

 今、君の弾いていたピアノは、俺の心に届いたよ、実に魅力的で美しく優しい旋律だった」

 

 こんなこと言われてびっくりしたけれど、私は一字一句忘れない、忘れたくない。

 

 私の演奏が届いてくれた、魅力的で、美しくて、優しいって……

 緩んだ涙腺を我慢しながら、頭を上げてその人の顔を見たら、すごく優しい顔していて、あぁ、お世辞じゃないんだと思ったら、涙が溢れそうになった。

 

 涙を耐えてたら、ハンカチを貸して貰ったけれど、涙止まらなくて情けなくなって、どうしようもないってなっていたら、また、優しく撫でて貰えて、心が温かくなって、少しだけ甘えたくなって、本当に少しだけだからね! 

 

 思わず寄りかかったら、引き寄せられてびっくりしたけど、色々限界で涙は止まらなくて、少し声が出てしまったら、さらに強く抱きしめられてね、抑えられなくて大泣きしちゃった。

 

 その後はもう気まずい、気まずい、泣き顔見られてみっともないやら、恥ずかしいやらで困っていたら「心が軽くなるなら大丈夫」と優しく微笑んでくれた。

 今度は腫れた目の下を撫でられ、顔は熱くなるし恥ずかしくて、逃げる様に自己紹介して、名前聞き出してこれで逃げられる、と思ったら、またピアノを聞かせろって、うそでしょう? でも、ここで逃げたら女がすたる! 

 

 まぁ、言い訳半分でオーケーしたけれど、少し怖くなって不安になっていたら、また、撫でられるわ引き寄せられるわで、嬉しいやらなんやらでね。でも、悪い気はしなかった、おかしいよね初対面なのに……その後に一緒に食べたお菓子はおいしかったな。

 

 帰りも遅いし、女の子一人は危ないって送ってくれて、あっという間に家に着いちゃって、玄関に入る時に時に寂しくなって振り向いたら、笑ってくれていて、嬉しくなって手を振ったら返して貰ったけど、途端に恥ずかしくなって逃げちゃった。

 

 夜に交換した連絡先を見つめて、また会えると思うと嬉しくて、ベットの上で何度も転がったのは、私の秘密。

 

 

 

 えっと、私に兄が出来ました。

 

 まぁ、この前『調べの館』で知り合いになった男性だけどね、あれから結構ピアノを弾いていて、色々話もしたの、パパとママの事、友達や学校での出来事、部活は助っ人専門で色々やっていて試合とか手伝っているって話したら、今度応援に来てくれるって! 良い所見せないとね。

 ここで決めなきゃ女がすたる! 

 

 ピアノはここでしか弾いていない、と言ったら「独り占めだね」と、さらりと言われて恥ずかしくって、肩殴っちゃた。うん、私は悪くない。

 

 で、相談が出来るかなって思い、奏の事話したら『ラッキースプーン』によく行って奏と話してるって、ちょっとびっくり、あのお店有名だからしょうがないか、奏太にも会った話を聞いて、私は一人っ子だから兄弟欲しかったって話したら『お兄ちゃん』って呼ぶ? なんで聞かれるから、つい、呼んじゃった、ついね、つい。

 

 それから私は彼の事を『八雲兄』って呼び、八雲兄は私の事を『響ちゃん』と呼んでくれる様になったの、呼んでも呼ばれても、恥ずかしくてもしかすると顔赤くなって無いかな? 少し心配。




はい、無駄に長いプロローグが終わり、次の更新から本編になります。
読んで下さった方ありがとうございます、閲覧があるだけで小躍りしてます。

主人公の氏名は声優ネタです、名字はまんまで名前はもじりました、鬼姫のどこぞの巫女姫です、ほら大賢者がねぇ…

下手は下手なりに書いていきますので生ぬるくお付き合い頂ければ幸いです。


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第1話 誕生スイートプリキュア
調べの館にて


お気に入り登録して下さった方がいらっしゃいました、ありがとうございます。

本編第一話になります。
オリ主はまだ変身をしません、それではよろしくお願い致します。


 今日は八雲兄との約束の日、少しイライラしていたけれど、八雲兄に愚痴を聞いて貰おうと、私は足早に『調べの館』に向かう。

 

 入口のすぐ側に、八雲兄の大きなバイクが置いてあった、滅多に乗って来ないけれど、乗って来た時は必ず珍しいお菓子を用意してくれて帰りに街を一回りしてくれる、私の密かな楽しみの一つだ。

 

 少しだけ気分も上がりホールに入ると、いつも通りの優しい笑顔で私を迎えてくれた、うん、よし頑張ろう。ここで決めなきゃ女がすたる! 

 

 

 

 今日は響ちゃんとの約束の日だ、日に日に上手くなっていく響ちゃんのピアノを聴くのが楽しみだ。

 

 最近頑張ってくれるから、久しぶりに一緒にバイクで一回りしたいと思い乗って来た。

 

 響ちゃんの笑顔が見たくて、ここに来る前にちょっと遠いけど、評判の店のシュークリームを買って来てある、喜んでくれると良いな。

 

 しばらく待っていると、響ちゃんが少し駆け足で入って来る、今日も可愛いなと見ていたら笑顔を返してくれた。

 

「それでさぁ、聞いてよ八雲兄、奏ったら上から目線で欲しかったら言えとか言うの、何時も何時も余ってるのにさ~、ほんっとうに奏は石頭で、しかも私なんかに食べさせるケーキは無いってまで言うんだよ、ひどいよね」

 

 しかし、奏ちゃんが絡むといつも飽きもせずに言い争っているよな、この感じだとシュークリーム買っておいて良かった、二人が和解する方法ないのかな。

 

「一度、南野さんと話してみれば」

 

「ムリ! 奏が素直に話をするわけ無いじゃん、最近は喧嘩ばかりだしさ、昔は楽しかったのにさ…………」

 

 腕を腰に当てプリプリ怒ってる姿も、可愛くて良いけどさ、さすがに不味いだろうこれからの事考えると、しかしどうするか、露骨には出来ないし……

 

「八雲兄! 聞いてる?」

 

 覗きこんできた響ちゃんに、ドキリとしながらも曖昧に笑って誤魔化したら、拗ねられた。帰りにミートデリカモーモーの特性コロッケで手を打って貰いました。

 

「まぁ、やっぱりさ、一度話しなよ、良かったら俺も一緒に行くから、ね」

 

「少し……考える…………」

 

 頭をかきながら横を向く響ちゃんを見ながら、ちょっと厳しいかと小さく溜め息をついた。

 

「ああぁ、何でいつも喧嘩しちゃうんだろう……」

 

 響ちゃんは、そう小さく呟くと指先で鍵盤をなぞる。

 

「ここでね、いつも歌っていたんだ、もう、あの頃には戻れないのかな……八雲兄、あのね…………奏は一番の友達だったんだよ」

 

 落ち込んでいる響ちゃんの頭を撫でる、俺が言葉を発しようとした瞬間、別の女性の声がホ-ルに響いた。

 

「友達なんかいらないじゃない」

 

 二人して声のした方を見上げる。

 

 そこには、深い紫の長髪に不思議な光を宿した金色の瞳、白の長袖シャツに黒のタイトミニスカートとニーソックス、黒いラインの入った鶯色のブーツ、そして黒のノースリーブロングコートを着た少女が、足を組んで二階の手すりに座っていた。

 

「私の名はエレン、本当は友達なんかいらないって思っているでしょう?」

 

 馬鹿にしたように発せられた言葉に、イラつきを覚えながら響ちゃんの隣に立つ。

 

「そんな悲しい事思ってないよ」

 

「嘘おっしゃい」

 

 否定する響ちゃんに、かぶせる様に言われた言葉を聞き、響ちゃんの気持ちも知らない癖に、と俺は握り拳を作っていた。

 

「私はね、人の心が見えるの、ほら、もっと良く見せてごらん」

 

 そう言うと、少女(エレン)は両の手で三角を作り、片目をつむり響ちゃんを覗きこむ、その瞬間背筋が寒くなり響ちゃんの腕を取り引き寄せた。

 

「八雲兄?」

 

 いきなり引き寄せた俺に驚きながらも、俺と二階のエレンを交互に見て困惑する響ちゃん、だが、俺の行動は少し遅かったらしく。

 

「やっぱり、ト音記号の匂いがしたのよね、それが無いと楽譜は始まらない」

 

「何の話?」

 

 エレンの呟きに、響ちゃんは更に困惑を深め、俺は手遅れを悟り、知識がほぼ無い事を後悔した。

 

「あんたには関係ない話」

 

 その言葉とともにエレンはひらりと身を躍らせる、響ちゃんは危ない、と叫び身をすくませるが、ピアノの上に舞い降りたのは一匹の黒猫だった。

 

「響ちゃん! 逃げるぞ!」

 

 俺は、響ちゃんの返事も聞かずに、横抱きに抱きかかえると、外に向かって走り出す。

 

「お待ち」

 

 黒猫が、しなやかな走りで追いかけてくる、響ちゃんは俺の首に腕を回ししがみつくと切羽詰まった声を上げた。

 

「八雲兄、ネコ! ねこ! 猫に成った! しかも喋っている!」

 

 騒ぐ響ちゃんを一度見て、スロープを駆け上がり二つ並んだアーチを潜り抜け外に出る。

 

 このまま逃げようとバイクに向かうが、すでに遅く、緑、赤紫、水色と言った派手な色の髪の男達に立ち塞がれた。

 

 男たちは、お揃いのマントに同じ服を着て、違いは服の色で髪と色が同じで体のサイズは大きい、小さい、細いのだった。

 

「「「通さな~~い」」」

 

 俺は、妙にハモッた声にイラつきながらも、三人組を睨みつけた。



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ハミィ

「ねぇ、八雲兄、何……? あれ」

 

「正直分かりたくは無いが、不味い事に成っているのは分かる」

 

 響ちゃんも俺もドン引きしながらも状況が悪化したのは理解している、どう切り抜けようかと間合いを計っていると後ろから冷たい声が追い付いてきた。

 

「大丈夫よ、ちょっと胸がチックってするだけ、観念をおし」

 

 身を縮こまらせる響ちゃんを感じ奥歯を噛み締めながら腕に力を入れる、今日に限って『音角』を忘れてしまった自分に怒りを覚えた。

 

「響ちゃん必ず守るから、何が有っても守り抜くから信じてくれ」

 

 俺は努めて明るく響ちゃんに声を掛ける、響ちゃんは小さく「八雲兄」と呟きしがみつく力が強くなったがその体は少し震えていて俺の怒りに拍車をかけた。

 

「何? ナイト気どり? くだらないあんたに何が出来るのさ」

 

 黒猫が喉の奥で笑いながら馬鹿にしてくる、黒猫の距離を確認して横目で三人組を見る、まだ変身できない響ちゃんは必ず守らないと、いや、変身できてもだ、たとえ俺の命と引き換えてもだ。

 

 俺の覚悟が分ったのか響ちゃんが不安そうに見上げてくる、安心させようと笑いかけるがその顔を見た響ちゃんは首に回した腕に力がこもる。

 

「やめなさ~~~い」

 

 空から絶叫が聞こえ慌てて上を見上げると、太陽背にして何かが降って来ている、頭の片隅で戦闘機乗りかよと場違いな事思いながらも振って来るのを待つ。

 

「八雲兄! 空から猫が!」

 

 響ちゃんのその台詞を聞いて噴き出さなかった俺を褒めたい、降ってきた猫は二等身の白と所々ピンク色の丸い猫だった。

 

「ハミィ!」

 

 黒猫が驚いた声を出す、白い猫はこちらを振り向き二本足で立ちあがると右手を上げ空気も読まずに挨拶をしてくる。

 

「ハミィだニャ、怪しい者じゃないニャ」

 

「思いっきり怪しいんですけれど!」

 

 響ちゃんに叫びに応じるかのようにハミィと名乗った猫の周りにクリスタルの王冠をかぶったような七人? の小さな物体が取り囲む。

 

「なんか変なのくっ付いて来てるし!」

 

「フェアリートーン達ニャ、ハミィの大切なお友達ニャ」

 

「「「「「「「こんにちはドド」レレ」ミミ」ファファ」ソソ」ララ」シシ」

 

 七つの不思議な生物が声をそろえて挨拶をしてくる、響ちゃんの腕にさらに力がこもる、うん、分かるその気持ち知っていても実際見るとこれは引く。

 

「何しに来たのハミィ、音楽会でモタモタしてて伝説の楽譜を奪われた癖に」

 

 冷たく言い放つ黒猫にハミィはあっけらかんと答える。

 

「そんな悲しい事忘れたニャ」

 

「どんだけ前向きなのよ! どうでも良いから邪魔しないで、猫はコタツで丸くなってな」

 

「そういうセイレーンも猫ニャ」

 

「やかましいわ!」

 

 そのやり取りを見て、仲良いのか? などど思っていると困惑気味の響ちゃんがポツリとつぶやいた。

 

「なんか、私と奏みたい」

 

 何だろう、この弛緩した空気は締まらない取りあえず黒猫の名前が『セイレーン』と言うのは確認できた、今が逃げるチャンスかと思い三人組の方に振り返ろうとした時に。

 

「響……? え? お姫様抱っこ? え? 木野さん? え? え? なんで? もしかして付き合ってるの!?」

 

 タイミング悪く奏ちゃんが来てしまったのだ、軽くパニックを起こした奏ちゃんの台詞に響ちゃんも自分の体勢に改めて気が付き俺から降りると慌てて説明をしだす。

 

「これは深い事情があって、八雲兄とは付き合うとかそう言う関係じゃないから、勘違いしないでお願い」

 

 両腕を前にのばし手を振りならら首まで振って否定する姿に奏ちゃんはジト目で響ちゃんを見ながら更に追撃を掛ける。

 

「八雲兄? 何それ、やっぱり付き合っているんじゃない、あぁ、そう、私には教えられないって事ね、分かりました! 別に二人がどんな関係でも私には関係ないですから!」

 

 奏ちゃんはそう捲し立てると、小さい声で「別に教えてくれても良いじゃない、おめでとうって言ってあげるのにちょっと悔しいけれど」と呟くが聴力が強化された俺には聞こえたが響ちゃんには聞こえてないだろうと思い少し安心をし胸をなでおろす。

 

「なんで奏はいつもいつもそうやって決め付けるの? 事情があるって話してるじゃん」

 

 響ちゃんも負けずに言い返すが顔が少し赤い、響ちゃんは奏ちゃんの持っている物を見つけて驚く。

 

「奏、そのレコード!」

 

 響ちゃんの指摘に持っていたレコードを慌てて隠し、ぎこちない笑顔で返答する。

 

「うち、レコード掛けるの無いから時々聞きたくなったらここに来るの……昔みたいに」

 

 奏ちゃんは悲しそうな顔を響ちゃんに向け、ゆっくりと目線を外し色々な感情が混ざりあった声を出す。

 

「どうせ、響は覚えてないと思うけど」

 

「なにそれ! 知らない! そんなレコード」

 

 明らかにイラついている響ちゃんは怒気を含ませ声を荒げ、勢いよく顔をそむけ吐き捨てる。

 

「ひどい!」

 

「喧嘩はもうたくさんだよ!」

 

「そっちのせいでしょう! このレコードの事覚えてないなんて!」

 

 売り言葉に買い言葉、多分お互い分からなくなっているのだろうと思い、しょうがないから声を掛ける。

 

「「喧嘩は良くないぞ」ニャ」

 

 俺とハミィの声がハモッた、それに気を良くしたハミィが「ハモッたニャ」と大喜びする。

 

「良いんだよ、もっと喧嘩しな!」

 

 セイレーンがあおるように言葉を掛けると、奏ちゃんは目を丸くし。

 

「ね、猫がしゃべった~」

 

 奏ちゃんが手足をばたつかせて軽くパニックを起こす。

 

「ハミィだニャ、怪しい者じゃないニャ」

 

 ハミィは自分のペースを崩さずに奏ちゃんに挨拶をする。

 

「思いっきり怪しいんですけれど!」

 

「ありゃ、同じ事言った二人は仲良しニャ?」

 

「「全っ然!!」」

 

 二人して同時に否定するが当のハミィは「ハモッたニャ」とまた大喜びをする、その言葉を受けて響ちゃんと奏ちゃんはお互いににらみ合う。

 

 やり取りを見ていたセイレーンが「こいつもか」と呟くのを聞き逃さなかった俺は、奏ちゃんに注目する。

 

「ちょうど良い二つまとめて頂くわ! バスドラ! そっちの小娘のを奪いな、バリトンとファルセットは男の相手をしな!」

 

「「「りょ~~かい~~」」」

 

 右手を胸に置き左手を広げた三人組は一斉に動き出す。



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現れたネガトーン

「「奏!」ちゃん!」

 

 響ちゃんと俺が絶叫するがセイレーンも動き出す。

 

「あんたもよ!」

 

 何とかバリトンを掻い潜るがすかさずファルセットが立ちはだかる、セイレーンが跳躍したのが視界の隅に入る心臓が早鐘を打ち叫ぶ。

 

「「響!」ちゃん!!!」

 

 俺と奏ちゃんの声がハモッたがバスドラが奏ちゃんの後ろで腕を振り上げる。

 

「奏ちゃん! 避けろぉぉぉぉ!」

 

 響ちゃんはセイレーンに胸を突かれ、奏ちゃんはバスドラに背中を突かれるのを見た瞬間俺の中で何かが弾け、飛び後ろ回し蹴りでバリトンを蹴り飛ばしその反動に更に回転を加えファルセットに裏拳叩き込んで吹き飛ばす。

 

 だが、視界に入って来たのは二人を包む込む光とその後に吹き飛ばされるセイレーンとバスドラだった、それを見た俺は響ちゃんに駆けよる。

 

 響ちゃんと奏ちゃんはお互いを確認しあうと。

 

「「何?」」

 

 と互い見つめ合う、バスドラは茫然と座り込み、俺に攻撃された二人も打たれた場所を抑えその光景に見入っていた、吹き飛ばされたセイレーンは体勢を崩したまま、呟く。

 

「どうして? 何故奪えない?」

 

「なんでかニャ……もしかしてこの二人、特別だったりするのかニャ?」

 

 訳が分らない響ちゃんと奏ちゃんは困惑したまま、奏ちゃんが響ちゃんに近づき。

 

「何今の?」

 

 奏ちゃんの呟くような問いに、響ちゃんは両の手を腰まで上げ手を外に向け。

 

「さぁ?」

 

 と、訳が分らないと言った答えをする、その時にハミィとセイレーン何かに気が付いて声を上げる。

 

「ニャ!」

 

「ハッ!」

 

 二人の見つめる先を見ると奏ちゃんの持っているレコードのやや上の部分にピンク色の丸い眼のついた音符の様な物が見て取れた。

 

「「音符見っけ!」」

 

 二人の台詞はきれいにハモッたがセイレーンは気にいらないのか全身の毛を逆立てて怒鳴る。

 

「真似するな!」

 

 だがハミィはそんなセイレーンの言葉に耳は貸さずに奏ちゃんの持つレコードに走り寄っていく、それを見たセイレーンは。

 

「させるか! いでよ! ネガト──ン!!」

 

 セイレーンが叫ぶと全身から黒いリング状の赤い禍々しいオーラをまとった物を打ち出した。

 

 その黒い光の輪が奏ちゃんの持っているレコードを包むと音符の丸かった目がつり上がり禍々しい赤色に代わる、それに合わせるかのように奏ちゃんの持っているレコードも赤黒いオーラに包まれその手からスルリと逃げ出す。

 

「え? うわっ」

 

 奏ちゃんは小さく叫ぶと飛んで言ったレコードに手を伸ばすが間に合わなかった。

 

 レコードに付いた赤黒い音符から同じく禍々しい鳥の様な物が飛び出しレコードを包み込み巨大な黒い光の渦をまき散らしレコードを化け物、ネガトーンに変えてしまった。

 

「ネガトーン!!」

 

 ネガトーンなったレコードが叫びを上げ、奏ちゃんは泣きそうな顔で絶叫する。

 

「やめて! そのレコードは!」

 

 叫ぶ奏ちゃんを不安そうに見つめる響ちゃんは「奏……」と呟く、

 

「二人ともあのレコードは一体……?」

 

 俺のその問いに響ちゃんは一瞬躊躇したが答えてくれた。

 

「あれは…………あのレコードは…………私たち二人の思い出が詰まった大切なレコードよ……」

 

 その答えに奏ちゃんは体を震わせると「響……」と小さく呟き響ちゃんも見つめた、奏ちゃんの方に振り返った響ちゃんは不安そうに「奏」と呟く。

 

 その時ハミィと俺には二人の中で息づく新たな力を感じていた。



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プリキュア

「はにゃぁ……やっぱりこの二人は」

 

 嬉しそうな声を上げるハミィ、だがネガトーンはそんな俺達三人をあざ笑うかのように飛び越えゆっくりと街の方に進む。

 

「そうだ、そのまま街に行って悲しみのメロディを撒き散らしてこい!」

 

 セイレーンの言葉に従い街に向かうネガトーン、俺は後先考えずに走り出していた。

 

 鬼姫の言葉が思い出される「通常でも十分な力を持ちますが……」頭の中で反芻する、通常でも、力を、持つ、それだけで十分だった。

 

 響ちゃんを! 奏ちゃんを! 悲しませるものか! 全身を使ってジャンプをし、防御も何も考えずに体をそらしネガトーンの脇腹に全力で拳を叩き込んだ。

 

 ネガトーンは大きくよろめく、多少のダメージは受けたようだ、ネガトーンがこちらに振り向く。

 

「あんた一体何者だい!」

 

 セイレーンの叫びが聞こえたが無視し、ネガトーンに向かって構えを取り全身に力を漲らせ絶叫する。

 

「彼女たち二人と! 二人の育った大切な街と! 大切な思い出のレコードを守り通して見せる! 誰が何と言おうともだ! お前達の好きにはさせない! 絶対にだ!」

 

「八雲兄!」

 

「木野さん!」

 

 二人の叫びを背中に受けながら俺はネガトーンに向かって行った。

 

 

 

 

 

 二人は、ただ嬉しかった、身を呈して前に出てくれた事が、加音町に来たばかりの八雲が、この街を愛してくれて、自分たち二人と二人の大切な思い出のレコードを守り通すと叫んでくれた、好きにはさせないと叫んでくれた、その思いに、胸が心が体が熱くなる……

 

「あの大切なレコードを……」

 

 響が呟く。

 

「あんな怪物にして……」

 

 奏も続く。

 

「「街を襲うだなんて……絶対に許さない!」」

 

 二人の叫びと同時に胸から光り輝くハートの形をしたトーン記号が浮かび上がり、白を基調としたハートの形の物に変化する、それを手に取り呆然とする二人。

 

「「何これ……」」

 

「あんた達も何者……」

 

 セイレーンは茫然自失となっていたが、ハミィだけがその答えを知っていた。

 

「やっぱりそうニャ、この二人は伝説の戦士プリキュアニャ!」

 

 ハミィの言葉に驚き二人が振り向き、セイレーンは「プリキュア」と驚愕していた、ハミィの行動は止まらずにフェアリートーンを呼び寄せる、飛んできた二人のフェアリートーンを改めて見た瞬間、二人の脳裏に力ある言葉が浮かぶ。

 

「あの人が食い止めているうちに早くするニャ!」

 

 見つめ合い、戦っている八雲を見て、ネガトーンを見上げる、二人の心は決まった。

 

「八雲兄といっしょにレコード取り返そう、奏」

 

「オッケー、響」

 

 手に持った白いハートを掲げる、それに応じマゼンタと白のフェアリートーンがハートに装着される。

 

「「レッツプレイ! プリキュア! モジュレーション!」」

 

 フェアリートーンが入り込むと、白いハートは光り輝き響はマゼンタに輝く光の帯に包まれ奏は白く輝く光の帯に包まれた。

 

 光が収まると響は美しい桜色の髪に変わり髪型はボリュームのあるツインテールとなりその根元は三網で留められていた。

 

 瞳は明るい瑠璃紺色から碧眼に変わる。

 

 頭にはまるで兎の耳の様な大きなリボンのついたカチューシャを付け、着ていた服も変わり上下セパレートの格好になり上半身はノースリーブ、胸元に白いハートと大きなリボンがあしらわれスカートは多重のフリルスカート。

 

 前腕部にも同じ素材の布を巻きハイニーソックスにショートブーツを履いていた、全体の色はマゼンタと薔薇色を多用し、白のさし色が入っていた。

 

 奏もボリュームのある黄金に輝く金色のポニーテールになり響と同じく根元を三網で留め。

 

 深碧の瞳は鮮やかな若葉色となり、色違いのカチューシャを付けていた。

 

 響と対になる格好だが上下は別れておらず肩はパフスリーブに成っており、膝丈のブーツを履いていた、色は白を基調とし、所々に撫子色のさし色が入っている。

 

 響が名乗りを上げる。

 

「爪弾くは荒ぶる調べ! キュアメロディ!」

 

 奏が続く。

 

「爪弾くはたおやかな調べ! キュアリズム!」

 

 そしてついに二人のハーモニーが完成する。

 

「「届け! 二人の組曲! スイートプリキュア!」」




第1話本編終了となります。
お付き合い頂きありがとうございます。

第2話もよろしくお願い致します。


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第2話 すれ違う思い寄り添いたい心
合流


コメントを頂けたり、お気に入り登録をして貰えたりと嬉しくて泣きそうです、ありがとうございます!

大急ぎで1話ですが投稿いたしました、それではよろしくお願い致します。


 ネガトーンと対峙する、青いレコードプレーヤーを模したような姿に禍々しい鳥の様な骨が背中に付き、左右に伸びる3本づつの肋骨さらには骨で出来た手足も持ち合わせていた、その手に当たるところにレコードらしき物が見える。

 

 全力で接近するがネガトーンの間合いに入る方が早く、その巨大な腕を振り回し攻撃を仕掛けてくる。

 

 走り込んだ勢いを利用し身を縮め避けその勢いのまま足に肘を入れるがそれに構わずネガトーンが腕を上から振り下ろしてくる、寸前で避けるが微かに体に触れ体の軸がぶれる。

 

 地面が抉られ土砂が巻き上げられ体の至るところに石や泥が当たり更に視界をも塞ぐ、ゾクリとした感覚を信じ後ろに飛ぶと巨大なレコードが振りぬかれた。

 

 腕を振るった事によりネガトーンの体勢が前傾に成ったのを見逃さずジャンプし空中で斜めに前回転し横っ面に踵を落とすが、ネガトーンは体勢を崩しながらもまた腕を振り下ろしてきた。

 

 避けられないと感じた瞬間に体を丸め力を入れ防御の体勢を取る、地面に叩きつけられ物凄い衝撃を体が受けるが鬼姫の与えてくれた体は持ち堪えてくれた。

 

 追撃と言わんばかりに巨大な足で踏みつぶそうとして来たが全身のばねを使い起き上がりその勢いのまま軸足にタックルをする。

 

 地響きを立て倒れたネガトーン、俺は高く飛び上がると膝をそろえて胴体部に両膝を落とすとそのまま踏み台とし間合いを戻すがネガトーンもすぐさま立ち上がる、

 

 更に全身に力を漲らせ構えなおした時に後ろで二つの光が爆発した。

 

 

 

「爪弾くは荒ぶる調べ! キュアメロディ!」

 

 響ちゃん、いやキュアメロディが声を張り。

 

「爪弾くはたおやかな調べ! キュアリズム!」

 

 キュアリズムに成った奏ちゃんも声を張るそして。

 

「「届け! 二人の組曲! スイートプリキュア!」」

 

 二人の合わさった声が美しいハーモニーを奏でた。

 

 

 

 響side

 

 キュアメロディに成った私は奏とともに八雲兄に合流したがあまりにひどい姿に涙が出そうになった。

 

 着ていたシャツはすでに原形をとどめてなく、八雲兄の上半身はほぼ裸で鍛え抜かれた体を晒しており、体の至る所に痣を作り更に血も出していて私は頭に血が上りネガトーンを絶対に許せなかった。

 

「八雲兄! ありがとう! 後は私と奏で戦う! ここで決めなきゃ女がすたる!」

 

 私はありったけの勇気を振り絞って八雲兄の前に陣取った。

 

 

 

 奏side

 

 胸から溢れ出した光と頭に浮かんだ言葉を組み合わせたら、私はキュアリズムと言う名のプリキュアの成っていた。

 

 私達のために戦ってくれていた木野さん、ううん、もう『八雲さん』って呼ぼう、さっき『奏ちゃん』って呼んでくれたから良いよね? でも響に怒られちゃうかな? 

 

 響と一緒に八雲さんに駆けよってその姿を見て血の気が引いたの、だってシャツはボロボロで上半身は裸みたいだったし何処も彼処も痣だらけで場所によっては血も出ていたの、私達の為にここまでしてくれた八雲さんを助けたい。

 

 この気持ちには嘘偽りは無い私はネガトーンを睨みつけ力強く言葉を発した。

 

「気合のレシピ見せてあげる!」

 

 この言葉はある意味私の決意表明、負けたくない時、譲れない時、そして自分を奮い立たせる時に好んで使う、プリキュアと言う戦う力を得た、それならすごく怖いけれど戦う八雲さんを助けたい、私は響にならって八雲さんの前に出た。



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敗走

 伝説の戦士に成った二人が俺の前に立っている、共に戦うと言って勇気を振り絞って立っていてくれるその優しさが嬉しい。

 

 だが、二人は戦いの道に入ってしまったこれから辛く苦しい日々が始まってしまう、そう思うと自分の不甲斐無さが許せなかった。

 

 何故今日に限って『音角』を忘れてしまったのか、たとえ二人に怖がら嫌われようが俺が変身して戦っていれば彼女達がプリキュアに成ると言う選択肢は無かったのではないか。

 

 普通の女の子として生活が出来たのではないか、悔やんでも悔やみきれない。

 

「八雲兄! ありがとう! 後は私と奏で戦う! ここで決めなきゃ女がすたる!」

 

「気合のレシピ見せてあげる!」

 

 彼女達の力強い声を聞いて俺は悔しいが頼もしさも感じていた。

 

 響ちゃんの体が一瞬沈んだの感じ俺も動き出す、ほぼ同時にネガトーンに向けて走り響ちゃんが勢いのまま拳を入れる、俺も一拍遅れて左の拳に右の掌を添えて左肘を入れる、響ちゃんと目が合うそれが合図と成り二人同時に宙返り蹴りを入れネガトーンが高く蹴り上げる。

 

 視界の片隅に慌てて走り込んで来る奏ちゃんを捕え右腕を差し出す、意図を感じてくれた奏ちゃんが手を取ってくれたので勢いを殺さないように全身のばねを使い奏ちゃんを上空に打ち上げた。

 

 奏ちゃんはそのままネガトーンに拳を突き上げ攻撃をしきれいな着地をする、俺は二人に対して手を広げ差し出す、意味が分った二人が同時にお互いの手を叩き合い良い音を立てた。

 

「良い気に成ってるんじゃないよ! ネガトーン! しっかりしな!」

 

 セイレーンに応えその強大な腕を振り回す、各々距離を取り回避する。

 

「ネガトーン! プリキュアとその男を引き離せ!」

 

 その言葉に従いレコードを撒き散らす、俺は左右にバックステップをしながら身を躱すが二人から引き離され館の入口付近まで追い遣られてしまう。

 

 十分に距離を空けたネガトーンは今度は二人に対してレコードを打ち出す、反応の遅れた奏ちゃんを響ちゃんが支え一緒に回避する。

 

「しっかりしてよね! どんくさいんだからさぁ!」

 

 響ちゃんの一方的な物言いに流石に奏ちゃんも声を荒げる。

 

「どんくさいですって!?」

 

 ネガトーンはそんな二人を無視し攻撃を仕掛けてくる、無遠慮にレコードが撒き散らされ二人は何とか躱していく。

 

「危ない!」

 

 俺はあらん限り叫んだが既に遅く、逃げるのが精一杯でだった彼女達はお互いの背中が衝突してしまう、痛がる二人に対してネガトーンは追い打ちをかけるが何とかしゃがんで躱す。

 

「二人ともどうしたニャ、さっきと違ってばらばらニャ、もっと心を合わせて戦うニャ」

 

 木の上にフェアリートーンと一緒に避難していたハミィが声を掛ける。

 

「そんな事言ったって……」

 

 奏ちゃんの困惑気味の声が聞こえる、そして何かを考えた様に響ちゃんの手を取るが響ちゃんは明らかに不快感を表したのが見て取れた。

 

 頭の中で警鐘が鳴り行動を起こすが、ネガトーンが攻撃を仕掛け今度は二人同時に「せーのっ」で回避しようと動くが響ちゃんの動きは速く吊られる様な形に成った奏ちゃんの足に攻撃が当たり落下する。

 

「何やっているのよ! 八雲兄に合流できないじゃない!」

 

「私だってしたいわよ! そっちが早いからよ!」

 

 互いに眉を吊り上げ睨み付けがなり合う、ネガトーンが動き出したのを察し今度こそ届けとばかりに絶叫する。

 

「二人とも! 跳べぇ!」

 

 二人はまるで磁石が反発するかのように左右に飛びのきネガトーンに攻撃をするために一気に距離を詰める。

 

 俺は強引に突破するためにバイクのエンジンを始動させ二人に向かって走り出す。

 

 距離を詰めた二人はジャンプしその勢いで攻撃をするために拳を振り上げるが、セイレーンがネガトーンに指示を出す。

 

「避けて」

 

「「「避けろ~」」」

 

 セイレーンと三人組の命令に従いバックジャンプで避けるネガトーン、その空いたスペースで響ちゃんと奏ちゃんが空中で衝突し絡み合いながら明後日の方向へと飛んで行く。

 

 何とか二人に追いつくと樹木に衝突する前に手を伸ばし捕まえ、奏ちゃんをサイドカーに響ちゃんは後ろに座らせるが変身が解けてしまい二人は驚きの声を上げていた。

 

 変身が解けてしまった事により俺の心は決まり、バイクを強引に回しながらハミィの元に向かう。

 

「ハミィ! 撤退するぞ! 跳び下りろ!」

 

 ハミィは響ちゃんの頭の上に飛び降りたが「音符が……」と俺に助けを求める様な声を上げるが。

 

「駄目だ!」

 

 俺は苦々しさを覚えながら短く吐き捨てると逃走を開始する、俺達を見ながらセイレーンが笑いながら声を掛けてきた。

 

「良い様だねぇ、これに懲りたら私達の邪魔をするんじゃないよ!」



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ハートのト音記号

 自宅のキッチンでコーヒーをドリップしながらリビングに目を向ける。

 

 響ちゃんと奏ちゃんは六人掛けダイニングテーブルにお互い端っこに座って顔を背け、会話すらしていない。

 

 そんな中ハミィは俺の側で物珍しそうにドリップされるコーヒーと俺を交互に見ていた。

 

 響ちゃんと奏ちゃんはコーヒー、ハミィはミルクを用意しフェアリートーン達にはグレープジュースを準備したがタンブラーに七本のストローと言った中々見ない状態に成っている。

 

 俺は自分の分のコーヒーを持ちダイニングテーブルに向かう、口を湿らすように立ったまま口に含むとコーヒーの良い香りが鼻から抜けて行った。

 

「俺の判断で勝手に撤退させたのは悪かったとは思っている、だが状況的にベターだったはずだ」

 

 手に持ったカップをテーブルに置き二人を見るが顔は背けたままで、響ちゃんはテーブルに肘をつき頬杖をし足を組んでいる。

 

「そうだったかも知れないけどさぁ……奏、運動神経無さ過ぎ」

 

 響ちゃんの無遠慮な言い方に声を荒げる事も無く両手で大事そうに待っているカップの中身を見つめながら奏ちゃんは小さく呟いた。

 

「そう思うなら助けてよ……」

 

「助けたじゃん、奏助けるので忙しいからやられちゃったんでしょう、ちゃんと八雲兄に合流出来ていればさぁ……」

 

 響ちゃんは取り付く島も無く言い続ける、奏ちゃんは何も言い返さず思いつめた顔でコーヒーを見つめている。

 

「私と八雲兄の二人だったら絶対に勝ってた」

 

 奏ちゃんの体が強張るのが分り、このままでは駄目かと思い声を掛けようとするが先に奏ちゃんが口を開いた。

 

「私だって八雲さんとなら戦えるよ、響と違ってフォローも声もかけてくれるし」

 

 響ちゃんは眉間にしわを寄せ奏ちゃんの方を向き食って掛かる。

 

「私だってフォローしたじゃん、それになんで奏が八雲兄の事名前で呼んでるの!?」

 

「私が八雲さんを何て呼ぼうが響には関係ないでしょう、何? 響の許可が居るの?」

 

 二人のやり取りに呆れ流石に割って入る事にする。

 

「今はそういう話じゃなくて、これからどうするかって話だろう」

 

 二人同時に見上げられたので、一度づつ視線を合わせた後に言葉を続ける。

 

「別に怒っている訳ではないよ、初めての戦いなんだから戸惑う事も有るよ、ただもう少し仲良くするべきだとは思う、すまないハミィちょっと来てくれ」

 

 ハミィは俺に促されテーブルに上がる、その姿を確認し疑問に思っている事を聞く。

 

「何故、彼女達がプリキュアに成ったんだ、いや、彼女達がプリキュアでないといけない理由は何だ」

 

 少し厳しい目をハミィに向けるが、ハミィは全く気にせず会話を続ける。

 

「それは二人の心の中に同じしるしと音楽を愛する心が有ったからニャ」

 

「「しるし?」」

 

 響ちゃんと奏ちゃんが同時に声を上げる二人は視線を合わせるがすぐに外す、ハミィは体ごと二人の方に向くと説明を続ける。

 

「ハートマークのついたト音記号ニャ、それがキュアモジューレに変わったニャ」

 

「「キュアモジューレって、これの事?」」

 

 またハモッてしまい二人の間に気まずい空気が流れるがハミィはペースを崩さない。

 

「そうニャ、それはプリキュアに変身するアイテムニャだからあのト音記号はプリキュアのしるしだったんだニャ」

 

「なるほどねぇ……」

 

 俺は響ちゃんから『モジューレ』を借りると色々な角度から見てみる、この手触り『音角』に似ている気がする、響ちゃんに返しながらふと思った事を口にする。

 

「うん、良かった『モジューレ』は二人の心臓から出来ているって言われないで」

 

「八雲兄!」

 

「八雲さん!」

 

「「怖い事言わないで!」」

 

 この後二人掛りで滅茶苦茶怒られた、さっきまで喧嘩してたよね?



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重ならない思い

「で、そのマイナーランドの悪い王様のメフィストってのに楽譜が盗まれて、メイジャーランドのアフロディテ女王が音符を間一髪で此方にばらまいたのか、で『モジューレ』が伝説の楽譜のト音記号だから伝説の楽譜のために戦えって事? 響ちゃんと奏ちゃんが選ばれたからか?」

 

 ハミィの説明を確認するために簡潔に聞き直す、ハミィはウンウンと頷いた。

 

「それでハミィ、散らばった音符を集めないとどうなっちゃうの?」

 

 奏ちゃんが人差し指を頬に当て首を傾げハミィに尋ねる、その姿に可愛いななどと思っていたら響ちゃんの視線を感じたので気付かない振りをしてハミィの話に耳を傾ける。

 

「メフィストが幸せのメロディを不幸のメロディに書き換えてしまうんだニャ、そうしたら世界中の人々が不幸に成ってしまうんだニャ」

 

 響ちゃんと奏ちゃんが息をのむ、俺は実際に聞くと重いなぁと思いながらも事の重大さを再確認する、しかしメフィストって確か……。

 

「そんなの悲しい……」

 

 響ちゃんが俯き不安そうに声を上げる、だがハミィの言葉は終わらない。

 

「そうニャ、だがら早く音符を集めて世界を救わないといけないんだニャ、そのためには」

 

「響と」

 

 ハミィが響ちゃんを指さす。

 

「奏」

 

 続けて奏ちゃんを指す。

 

「二人の最高の友達の力が必要なんだニャ」

 

 ハミィの必死の訴えに二人は俯き考える、どちらからともなく見つめ「最高の……」と響ちゃんが呟く、だが奏ちゃんは一瞬つらそうな表情をすると目を背け、小さく溜め息を吐く。

 

「私、友達かどうか自信ない……」

 

 その声は小さいがはっきりと聞こえ、響ちゃんは驚愕し大きく息をのむ。

 

「奏ちゃん、どうしてそんな事を……」

 

 思わず口をはさむ、ハミィも心配そうに二人を見つめるが奏ちゃんの言葉は止まらない。

 

「だって響と私って会えばいつも喧嘩だし、プリキュアに成っても喧嘩ばかりじゃ……世界なんて救えないでしょう……」

 

 奏ちゃんの言葉に一瞬泣きそうな顔をする響ちゃん、顔を見せまいとうつむくのが見て取れる。

 

「プリキュアに成れたのは嬉しいけど、私きっと迷惑をかけるから辞退させていただきます」

 

 奏ちゃんは顔を背けてはいるが肩が小さく震え泣くのを我慢しているのが分る。

 

「そんな事言わないでニャ」

 

 ハミィも泣きそうな声を上げるが奏ちゃんは止まらない。

 

「いいよね、それで」

 

 奏ちゃんは更に不満をぶつける。

 

「響は言ったじゃん八雲さんと二人で平気だって言ったじゃん、私が居なくても勝てるって言ったじゃん! 私達もうあの頃の様な親友には戻れないよ」

 

「それ……本気で言っているの?」

 

 響ちゃんの声は震えていたが奏ちゃんは構わず続ける。

 

「本気だよ、親友の事もプリキュアの事も、だから八雲さんと二人で戦えば良いじゃない」

 

 お互いに言葉が出ず静寂が辺りを包む。

 

「そうだな、それで良いよ」

 

 俺は努めて冷たく言い放つ、奏ちゃんが体を震わせ俺を見つめてくる奏ちゃんの視線を受け止める、ハミィが騒いでいるがあえて聞かずに自分の思いを話す。

 

「そんな考えで戦うべきじゃないし戦わせはしない、奏ちゃんもだし当然響ちゃんもだ」

 

 響ちゃんは驚いて俺を見上げてくる、その表情には「なんで?」と書いてあるのが分る。

 

「ハミィ要するにだ、音符を集めつつマイナーランドの連中と戦い、最終的には幸せのメロディを完成させればいいのだろう」

 

 いきなり話を振られたハミィは驚きながらも答える。

 

「そうニャ、だからこそ伝説の戦士プリキュアの力が必要なんだニャ、世界のために響と奏にはプリキュアとして戦って欲しいニャ」

 

 二人に懇願するかのようにハミィが言うが、俺は構わずに飾り戸棚から一つの瓶を持ち出した。

 

「戦いも音符集めも俺がするって言っているだろ」

 

 ハミィの目の前に瓶を置く、瓶を見たハミィが大きな声を出す。

 

「音符ニャ! 結構入っているニャ!」

 

 その言葉にハミィの前の瓶を見つめる二人、だが二人とも眉を寄せていた。

 

「え、空でしょこれ?」

 

「何も入っていないですよ」

 

 困惑する二人、その声を聞きつけたフェアリートーン達も瓶の周りに集まり喜び勇んでいた。

 

「みんな見ていただろう、俺がネガトーンと戦ったところをさ」

 

 俺の言いたい事が分ったのか弾かれた様に響ちゃんが動き俺の胸元をつかむ。

 

「ねぇ、八雲兄、私は邪魔なの? 要らないの!?」

 

 響ちゃんの目には涙が溜まっていた、俺は響ちゃんの頭を撫でると言い聞かすように話す。

 

「今ならまだ戻れるんだよ、普通の女の子に、戦いとは無縁の日々を今まで通り普通に暮らしていけるんだ」

 

「八雲兄の馬鹿あぁ!」

 

 響ちゃんは俺の頬を叩くとそのまま家を飛び出していった、ハミィがオロオロとこっちを見て来たので頷くとフェアリートーンと共に追って行った。




ソーシロー様から誤字報告頂きました、ありがとうございます。


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奏の葛藤

タグを追加しました、よろしくお願いします。


「いいんですか? 響追わなくて?」

 

 キッチンで作業をしている俺に対して奏ちゃんがやや冷たい口調で話してくる。

 

「彼女なんでしょう? 追って行って優しくしないんですか?」

 

 流石に顔を上げ奏ちゃんを見る、その表情は冗談を言っている訳ではなく真剣そのものだった。

 

「期待に添えなくて悪いが彼女じゃないぞ、それに『調べの館』で響ちゃんも言っていただろう?」

 

 少し残念だがそう答える俺の答えが気に入らないのか奏ちゃんは複雑な表情をしている、そんな奏ちゃんの前に新しく入れたお茶を置く、そのお茶の爽やかな香りが辺りを包む。

 

「良い香り……これ、レモンバームティーですね? あぁ……本当に良い香り」

 

 カップを持って香りを楽しんでいる奏ちゃんは先ほどまでの角が取れ微笑んでいる。

 

 やはり二人には仲良くして欲しい、あっという間に飲み終わりすこし残念そうな顔をしていたのでもう一杯勧めたら喜んでくれた。

 

 ハーブティーのおかげで少し落ち着いたみたいなので疑問に思っていた事を聞いてみる。

 

「奏ちゃん、もし良かったら響ちゃんと何が有ったか教えて貰える? 前にさ響ちゃんから奏ちゃんとの仲が拗れているとは教えて貰っているが、頑なに理由を話してくれないんだ、まぁ、俺もしつこくは聞かなかったけれどね」

 

 テーブルの上で手を組む奏ちゃんの指先が力が入りすぎ白くなっている、ややあってゆっくりと顔を上げるがこちらは見てこない。

 

「私と響はそう、あの日までは大切なとても大切な親友だった……中学校の入学式の日私達は「せ~の」で一緒に校門に入り中学生活を始める約束をしていたの」

 

 そう言って小さく息を吐くと、温くなったであろうハーブティーを飲み干し、膝の上に手を置いた。

 

「待ち合わせの校門から三本目の桜の木の下で待っていたんですが響は来てくれませんでした……遅刻寸前にクラスの子が迎えに来てくれて私は後ろ髪を引かれる気持ちで桜の下から教室に向かいました、それからは最低限の会話しかしていません、響は私を一人にしたんです……ずっと、ずっと信じていました、でも……響は裏切ったんです私の事を……」

 

 下唇を噛み眉間にしわを寄せる奏ちゃん、その瞳には何が映っているのだろうか。

 

「今の響はたまにスイーツ部に来ては勝手につまみ食いをして、私と喧嘩ばかりする日々に成っているの……」

 

 俺はもしかしてという思いに駆られ事実であってほしいと祈りながら奏ちゃんに訪ねた。

 

「奏ちゃんよく思い出してごらん? 響ちゃんがスイーツ部でつまい食いをしていたのはもしかして奏ちゃんの作ったケーキだけだったんじゃないかい?」

 

 その問いに奏ちゃんは覚えが有ったのだろう膝の上に置かれた手は強く握られ、泣きそうな顔を俺に見せた後ゆっくりと俯いた。

 

「響ちゃんだって普通に分別はあるんだ、怒られるの分かっていてやっているよ、響ちゃんの不器用な思いなんだよ……」

 

「でも……でも……私」

 

 奏ちゃんの手の甲にポタポタと涙が落ち小さく肩が震える、俺は奏ちゃんの側によりハンカチを渡す、受け取ったハンカチを目に当て小さく嗚咽を漏らす。

 

「考えてもみなよ、嫌いな人間の作ったケーキを普通は食べようとする訳ないさ、奏ちゃんの作るケーキが好きだからに決まっているだろう」

 

「私……私……うぅ……」

 

 奏ちゃんは俺にしがみつくと普段は見せないであろう大きな声で泣き出した。

 

「わた、し、もしか、すると……って思って……でも……ちが、ったら……どうし……よう……だから、こわくて、怖くて!」

 

 俺は奏ちゃんの頭を腕を回し抱きかかえ軽く背中を叩く、広いリビングの中奏ちゃんの泣き声だけが聞こえていた。

 

「奏ちゃんはいつもは察しが良いけど、響ちゃんの事になると少し足元が見えなくなるね、信じているんでしょう響ちゃんの事を、響ちゃんならきっと気が付いてくれるってさ、それは多分響ちゃんも同じじゃないのかな、きっと奏ちゃんなら分かってくれるって」

 

 奏ちゃんは俺の腕の中で何度も何度も頷いている、少しだけ腕に力を入れると服を握っていた奏ちゃんの手にも力が入る。

 

「きっとどこかでボタンを掛け間違っただけなんだ、ちゃんと二人でボタンを外し掛け直さないとね、そして素直な心が人を強くし歪んでしまった関係を元に戻すさ」

 

 奏ちゃんは何度も小さく返事をする、小さく漏れる泣き声は決意を秘めている様に感じ少しだけ俺は安心した。



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響の桜、奏の桜

 私は今心が重い、昨日奏と初めてプリキュアに成った、街を守りレコードを取り返そうと戦った。

 

 最初はびっくりした体が軽く体の中から力が湧きあがってくるのが分ったし、もしかしてこれで奏と仲直りも出来るかもと勝手に感じていたしそれに……八雲兄も戦ってくれた。

 

 どうして八雲兄が戦えるかは分からないでも嬉しかった、私と奏に八雲兄これから三人で戦って行くんだと思っていた奏も八雲兄と仲良いみたいだし、でも違った……

 

 引き離された私達はもう目も当てられなかったついカッとなって奏を怒鳴ってしまう。

 

 機転を利かせた八雲兄のおかげで最悪の事態には成らなかったげれど、私は奏と罵り合ってしまい奏がプリキュアを辞退するって言って色々言いだした。

 

 私はプリキュアを辞める事を止めたかったけれど言葉が喉に詰まり何も言えずにいた、八雲兄も戦うなって言いだすし私は誰にも必要として貰えないのかな……

 

 今日は一日授業が頭に入って来なかった、ぼんやりと中庭を歩きながら『調べの館』に行こうかと思ったが今は八雲兄に対してどんな顔をしていいか分らないし奏の顔も見れない。

 

 それでも私は引き寄せられる様にスイーツ部の窓を見てしまう、奏がケーキを焼いているのを見て頭の中がぐちゃぐちゃなって、色々と考えていたら不意に奏がこちらに顔を上げ目が合ってしまうが私はすぐに視線を反らす。

 

 大きな溜め息をつきながら校門を出ると、ちらほらと蕾を付け始めた桜の木の下に小学生と思われる女の子が泣きながら立っているのを見つけた。

 

 その姿に私は入学式での自分の姿が重なり、いたたまれなくなりその子に近づいた、目線を合わすようにしゃがみ女の子に話しかける。

 

「ねぇ、どうしたの?」

 

 その小さな女の子は目に大量の涙を浮かべながら私に教えてくれた。

 

「お友達を待っているの、でも全然来なくて」

 

 女の子はまた俯いて泣き出してしまう、私は桜を見上げ一瞬あの日を思い出す。

 

「元気出して、お友達はきっと来るよ」

 

 私自身の言葉が胸に突き刺さる、この子はあの日の私だ、助けてあげないと。

 

「ううん、来ないよ、ずっと待っているもん」

 

 女の子の言葉が私の心に重く圧し掛かり暗い影を落とす、私は掛ける言葉が見つからず途方に暮れてしまう。

 

「何処で待ち合わせたの?」

 

 後ろから掛けられた声に私の心臓が縮み上がった。

 

「奏!」

 

 私は思わず奏を睨みつけてしまう、しかし奏は私の態度を気にしないのかゆっくりと女の子に近づき中腰になり話しかけた。

 

「ねぇ待ち合わせたのはどこ?」

 

「うん、三つ目の桜の木……」

 

 周りを見渡し五本植わっている桜の木のちょうど真ん中に居るのを確認し声をかける。

 

「じゃあ、ここだね」

 

 女の子とのやり取りをしていた奏は顔を上げると何か考えているようだった。 

 

「ねぇ、ちょっと来て」

 

 いきなり手を取ると私が引きとめるのも聞かずに奏は女の子を連れて行ってしまう、私の声に奏は足を止めずに振り向きしばらく此方を見た後にそのまま女の子と行ってしまう。

 

「なんだってのさ!」

 

 私は憤りを感じながらも仕方が無いので奏達を追いかけるために小走りで二人の元に向かった。

 

 いくら呼びかけても奏の歩みは止まらず結局もう一つの校門に着いてしまった、門がある事は知ってはいたが昇降口に遠い方を使おうと思った事は無く初めて足を踏み入れる。

 

「わぁ……こっちにも桜並木……」

 

 奏が女の子と話しながら歩く後を付いて行きながら私の心臓はどんどんと早鐘を打ち出す。 

 

 本数を数えながら歩いて行く奏、丁度三本目に差し掛かりそうな時に私達の良く知る人物がしゃがみ込んでいた。

 

「八雲さん……」

 

「八雲兄……どうして……」

 

 私と奏は同時に呟いた、会いたかったけれど、会いたくなかった、二つの反発する思いに胸が痛くなる、顔を上げこちらを振り向く動きがものすごく遅く感じる。

 

 何時もみたいに優しく笑いかけてくれるだろうか、ただただ怖かった、大声を上げて逃げ出したい衝動に駆られるが此方を見た八雲兄は何時もの笑顔を向けてくれる。

 

 鼻の奥がつんと痛くなり涙が溢れそうになる、嬉しい何時もの八雲兄だ良かった。

 

「やぁ、二人とも、もしかしてその子がありさちゃんかな?」

 

 八雲兄の後ろから小さな影が飛び出しそれを見たありさちゃんが駆け寄り手を握り合い喜んでいる、八雲兄も立ち上がり私達に近づくと声をかけてきた。

 

「ありがとう二人とも、ありさちゃんを連れて来てくれて、レナちゃんはどうしても約束の三本目の桜で待つって動かなかったから助かったよ」

 

 待ち合わせ、桜並木、三本目、もう一つの校門、入学式、奏を盗み見ると嬉しそうに二人を見て微笑んでいた、目線を外し八雲兄に視線を向けると私の好きな銀色の瞳が応援してくれているように感じ決意する、今踏み出さないと駄目だ、ここで決めなきゃ女がすたる。



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和解と変身

 レナちゃん達見つめていた響ちゃんが奏ちゃんに視線を向けゆっくりと俺に振り向いた、その不安を抱える瞳を見つめ大丈夫だよと視線を送る、響ちゃんは表情を改めると奏ちゃんに向かって問いかける。

 

「奏もしかして、入学式の日」

 

 響ちゃんの言葉を聞き奏ちゃんが響ちゃんを見て困ったようなそれでいて照れている様な笑顔を向ける、その瞬間響ちゃんの憑き物が取れた様に微笑んだ。

 

「なにそれ、友達ぶっちゃってさ私そういうの大っ嫌い」

 

 二人の穏やかな時間を引き裂く冷たい声が後ろから付きつけられ俺達三人は声の方に振り向いた、そこに立っていたのはセイレーンとトリオ・ザ・マイナーであった。

 

「ネガーン!」

 

 その言葉に従いネガトーンがセイレーン達の側に仁王立ちする。

 

「聞かせなさい! 不幸のメロディを!」

 

 ネガトーンは言葉に従い全身に力をため不吉な音をばら撒く、その衝撃はに飛ばされそうになった二人を支えながら俺は頭の中は冷静だったが、心の中は暴風が吹き荒れていた。

 

 音が鳴り終わると次々に生徒が倒れ嘆き悲しむ、レナちゃんとありさちゃんも同様にお互いを支えながら泣き崩れている。

 

 レナちゃん達に駆け寄り支える二人、彼女たちに任せる事にし俺はゆっくりとネガトーンに向かって歩いて行った。

 

「馬鹿な男だね、戦えると勝てるは違うのにさネガトーンとやり合うのかい?」

 

 セイレーンの馬鹿にした声を無視し、ベルトに着けたホルダーから『音角』取り出すと同時に手首のスナップを使い展開させる、ゆっくりと胸の前に『音角』を構え。

 

「黙れ! 響ちゃんと奏ちゃんの大切なレコードを使い人々を苦しめる事は許さない、お前達の好きにはさせない! 絶対にだ!」

 

『音角』を指で弾く、まわりに澄んだ美しい音が響き渡るそのまま額の前に持っていくと体が紫色の炎に包まれるが熱も恐怖も感じないむしろ内側から力が溢れはじけた。

 

 体に纏わりついた炎を片手を使い吹き飛ばす、俺はマジョーラアンドロメダの光沢のあるスーツを纏ったが歩みは止めない。

 

「八雲兄?!」

 

 響ちゃんの声を合図に一気に間合いを詰め拳を入れる、ネガトーンが浮き上がった瞬間に体をひねり回し蹴りの追撃、弾んでいくネガトーンを見ながら何事も無い様に着地をする。

 

 ネガトーンが起き上がる前に更に追撃をするためにネガトーンに向かって走り出した。

 

 

 

 慌てた様子のハミィが私達の側にやってきて戦っている八雲兄と私達を交互に見て不思議そうに聞いてくる。

 

「響! 奏! 戦っているあの人はだれニャ?」

 

 二人は顔を見合わせると確かめ合う様に呟いた。

 

「八雲兄よ……あれ」

 

「変身しちゃった……」

 

「ニャんですとー!」

 

 ハミィは混乱しながらも私達に気を使う様に問いかける。

 

「二人は戦わないのかニャ?」

 

「だってこの前八雲さんが戦うなって……」

 

 ハミィの問いに奏が弱々しく答える、奏の手を取り変身した八雲兄を見ながら自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

「多分、八雲兄は私達の決意を知りたかったんだよ、戦わせたくないってのも本音だろうけどさ、状況に流されて戦うのではなく、私達が自分の意思で戦う事を決めないから反対されたんだ」

 

 奏が手を握りかえしてくる、その力と温かさは私に何時も勇気を与えてくれる。

 

「私と奏がちゃんと決めた事ならば戦うことを認めてくれるよ、奏だって分かっているのでしょう八雲兄の事、悔しいけれど名前で呼ぶぐらいだからね」

 

 私は少しおどけて奏に笑いかける、目を丸くした後に頬を染めた奏が恥ずかしそうに呟いた。

 

「ごめんね」

 

「ううん、仲良いの聞いていたし、奏が私に気を使ってくれているのも知ってる嬉しかった、だから大丈夫」

 

 一瞬目を潤ませた奏だったけどすぐに真剣な眼差しを私に向けてくる。

 

「やっぱり私、こんな小さい子を泣かして……」

 

 奏が何を言いたいのかが直ぐに分かる、懐かしいこの感触、私が一日も忘れなかった待ち望んだ感触。

 

「人々を悲しませるあいつらを」

 

 奏の言葉に続く、私と奏は失った半身を今取り戻した。

 

「「絶対に、許せない!」」

 

 互いに手を強く握り合い『キュアモジューレ』を取り出す、フェアリートーンが『モジューレ』に装着されるのを確認し奏に語りかける。

 

「ねぇ奏、あの日の約束を覚えている」

 

「もちろん、せーので一緒に学校に入る!」

 

 どちらともなく笑い私達は頷き合う。

 

「じゃあ、行くよ」

 

 私達の繋いだ手はさらに強く結ばれる。

 

「「せ~の!」」

 

 お互いの『モジューレ』をぶつけ合い、魂を響かせ合い心の底から力ある言葉を奏でた。

 

「「レッツプレイ! プリキュア! モジュレーション!」」

 

 私達は光に包まれた、決意を固めた私達の初めての変身、ここで決めなきゃ女がすたる!



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判断と決断

 足を止め真正面からネガトーンと打ち合いを続けていると、突然二つの音が俺の隣で奏でられた、その音に押し出されるようにネガトーンが吹き飛ばされる。

 

「八雲兄、お待たせ!」

 

 左を見ると凛とした表情の響ちゃんが変身して立っていた。

 

「響ちゃん……」

 

「私と響で決めたんです、戦う事を」

 

 右を見る、姿勢を正した奏ちゃんも変身して立っている。

 

「奏ちゃん……二人とも本気なのかい?」

 

 答えなど分かっている、だが聞かずにはいられない。

 

「八雲兄、奏は言ったよ。私達で決めたって、それに私達は判断と決断が違うものだって分かっている!」

 

「八雲さん、私達は自分達の決断は間違っていないと信じています、だから……気合のレシピ見せてあげます!」

 

 二人の纏う空気から決意の大きさが分る、もう止める事は出来ない。

 

「何時までお友達ごっこしているのさ! お前達は本当になんだってのさ!」

 

 セイレーンが、全身の毛を逆立て怒りの声を上げる。

 

「黙れ! そんなに知りたかったら教えてやる!」

 

 声に力を乗せセイレーンに叩きつけると、身をすくめるセイレーン。

 

 一歩前に出ると構えを取りながら名乗りを上げる事にするが、憧れでもあるライダーは俺にはまだ荷が重い、自信を持って言えるまでは胸に秘めよう、だから今は。

 

「鬼姫の使者! 音撃戦鬼! 獣鬼!」

 

 響ちゃんが左隣に並んでくる。

 

「爪弾くは荒ぶる調べ! キュアメロディ!」

 

 奏ちゃんも同じように右側に並ぶ。

 

「爪弾くはたおやかな調べ! キュアリズム!」

 

 二人は構えると揃って声を張り上げる。

 

「「届け! 三人の組曲! スイートプリキュア!」」

 

 三人と言われ何とも言えないが嬉しい気持ちに成る、今顔を見られないのは正直ありがたい。

 

「響、八雲さん、私は運動は苦手で二人の足を引っ張るかもしれない、でも、自分の素直な心に従う事にしたの、だから……」

 

「大丈夫、そのために私と八雲兄が居る、奏は奏らしく戦えば良いよ私達は三人で戦うんだから」

 

 申し訳なさそうに話す奏ちゃんに響ちゃんが被せる様に言い放つ。

 

「強さとは己の弱さを認めるところから始まる、だから君は強くなる」

 

 奏ちゃんの肩に手を置き諭すように声をかけるが、セイレーンが行動を開始する。

 

「ネガトーン!」

 

 セイレーン声を聞きネガトーンがレコードを嵐の様に打ち出すが三人で手や足を使い弾いて行く、最後の一枚に対し三人同時に蹴りを入れネガトーンに打ち返し見事に直撃する。

 

「行くぞ! メロディ! リズム!」

 

 一瞬呼ばれた意味が分らず二人して顔を見合わせるがすぐに理解して何時もは見せない好戦的な笑みを浮かべた。

 

「「オッケー、獣鬼」」

 

 三人同時に走り出す、ばら撒かれるレコードを互いにフォローしながら躱し本体に攻撃をする。

 

 メロディが狙われれば俺とリズムがその隙を突き体勢を崩しメロディが一撃を入れ離脱する、まるで事前に打ち合わせしたかのようにネガトーンを翻弄した。

 

 メロディとリズムが同時に攻撃しようと高く飛ぶ、それを察知したネガトーンも攻撃のためにジャンプする、空中でレコードを打ち出すが、二人は手をつなぎそれぞれの力を使い回転しながら避けて行く、高い位置で交差したリズム達とネガトーン。

 

 俺はフォローするために二人に向かいジャンプして空中で二人と手を繋ぐと全身のバネを使い二人を上空に打ち上げる。

 

 メロディとリズムがネガトーンを追い抜き上空で体を捻り二人同時にネガトーンに踵落とし入れた。

 

 地上で体勢を整えていた俺はネガトーンの落下地点に走り込み地面に打ち付けられバウンドし空中で止まった瞬間に横蹴りを入れ更に弾き飛ばす。

 

 二人揃ってきれいな着地をしそのまま次の行動に移る。

 

 お互いの手を打ちつけ合い片足を軸にして左右にステップ切り背中合わせに成り手を打ち合い握り込む、軽く見つめ合いメロディが腕を上げながらリズムをくるりと回し、お返しとばかりにリズムがメロディを回す、その動きは美しくまるで踊っているようだった。

 

 二人がこれ以上ないと言った感じで背中同士が密着し組んだ手を上に上げ力を集めそのままネガトーンに向け差し出す、組んだ手の周りに光が集まり巨大なハートのト音記号が現れ高速に回転しながら一気に浄化の光を打ち出す。

 

「「プリキュア! パッショナートハーモニー!」」

 

 光に包まれたネガトーンの体の中央に黄金に輝くハートのト音記号が刻み込まれそこから取り憑いていた不幸のメロディが浄化される光に包まれ赤黒く変化していた音符も元来の音を取り戻しレコードも無事に元に戻る。

 

 ゆっくりと降りてきたレコードを丁寧につかむとメロディとリズムに差し出す、二人ははにかみながら受け取り笑い合った。

 

 ハミィの指揮の元ドリーの中に音符が収納されるとネガトーンによって苦しめられていた人々が淡い光に包まれ正気に戻る。

 

 セイレーン達は負け惜しみを言い一斉に逃げだす、それを見届けた俺達は顔を合わせて笑い合った。



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重なった思い

「思い出のレコードを聞きながら奏のカップケーキと八雲兄の淹れてくれたハーブティー、ん~最高!」

 

 伸びをしながら緩んだ顔で響ちゃんが言いローテーブルの上のカップケーキに手を伸ばす、奏ちゃんは笑いながらその様子を見ている。

 

「もう、響ったら4個目よ」

 

「だって美味しいんだもん、奏のカップケーキ」

 

 ニコニコとカップケーキを頬張る響ちゃん、年頃の女の子が頬に生クリームつけてるって如何なものか、甲斐甲斐しく世話を焼く奏ちゃんを見ながら新婚なのかななどど思う。

 

「八雲兄、お茶お代り」

 

 カップを掲げお茶の催促をする、俺もこの状況が楽しく笑いながら返事をし立ち上がると、奏ちゃんも続く様に立ち上がりながら俺に声をかけてくる。

 

「八雲さん、私もお手伝いきゃあ」

 

 奏ちゃんは響ちゃんに腰に抱きつかれバランスを崩しソファーに突っ伏す。

 

「もー、響!」

 

 身をよじり響ちゃんに文句は言うがその顔は笑っており、響ちゃんも笑っている。

 

「かーなーでーはーこーこーにーいーるーのー」

 

「分かった、分かったから、響離して」

 

「やだ、抱き心地良いからお茶が来るまで、絶対に離さない」

 

 キッチンで作業をしつつそんな二人のやり取りを見て微笑ましく思う、お茶を持っていくとそれとなく二人は離れ、奏ちゃんは姿勢を正し響ちゃんに体ごと向き合う。

 

「響、ごめんね入学んんっ」

 

 言いかけた奏ちゃんの口に響ちゃんが人差し指で蓋をし言葉を奪う。

 

「良いのお互い様、奏が待っていてくれた、それだけで十分、私の方こそごめむぎゅっ」

 

 今度は奏ちゃんの人差し指が響ちゃんの口を押さえる、ややあって声を上げて笑い合う二人、ハミィが二人の側に近づく。

 

「二人が仲良くなって良かったニャ、でもどうやって仲直りしたニャ」

 

「私達は入学式の日にボタンを掛け間違えてしまったの、私は響に本当の事を聞くのが怖くて聞けなくて」

 

「私もね、怖くて聞けなかったんだ……」

 

 二人は見つめ合い頷く。

 

「でも、私は奏と昔みたいに笑い合いたかった、今みたいにね」

 

「うん、私もだよ、それでね、素直な心が人を強くし歪んでしまった関係を元に戻すって教えてくれた人が居たの、だからあの時響見つけて追ったし、響も私を信じて着いて来てくれた、だから響も絶対に私と同じ気持ちだって自信が持てたの」

 

 響ちゃんに笑いかける奏ちゃん、響ちゃんは照れくさそうに鼻の頭をかいている。

 

「だからね、ハミィこれが本当の私と奏の姿なんだ、きっとこれからも小さい喧嘩は一杯すると思う、でも、それは奏を信じているから本気でぶつかれるんだ」

 

「大丈夫! 受け止めるから! 私も受け止めてね」

 

 自分の胸を軽く叩きながら奏ちゃんが宣言する。

 

「まかせて! 体ごとぶつかって来て! 変身していても受け止める!」

 

 両腕を奏ちゃんに向かって広げる、堪えられなくなったのか笑いだす二人、やり取りを見ていた俺とハミィも笑う。

 

「ハミィ、これからよろしくね」

 

 奏ちゃんは右腕をハミィに差し出す、ハミィもその小さい手を奏に差し出し握手をする、奏ちゃんの体がびくりと動くと両手でハミィの手を掴むと引き寄せる。

 

「きゃー、肉球! この触り心地完全にツボ! 超テンションあがっちゃう!」

 

 ハミィの肉球に頬ずりをする奏ちゃんハミィが大騒ぎしながら何とか逃げ出すが、それを見ていた響ちゃんが悪い顔をする。

 

「見た! 八雲兄見た! 奏が肉球マニアだったなんて、みんなに教えないと!」

 

「いやー奏さんたいしたフェチっぷりですなぁ、ねぇ、響さんテンションあがりますぜ!」

 

 わざと二人をさん付けで呼び、奏ちゃんをからかう奏ちゃんが顔を赤くして震えているが、俺を睨むと口を開く。

 

「これは聞かない方が良いかなって思っていましたが、あえて聞きましょう! 八雲さん!」

 

「な、何でしょう……」

 

 何を聞かれるのかと身構える、響ちゃんも興味津々で耳を傾ける。

 

「昨日逃げる時に微妙に口元がゆるんでいましたがなんででしょう? 状況的におかしいです!」

 

 響ちゃんが「本当?」などと言いながら俺達を交互に見る。

 

「そりゃぁ……決まっているだろう響ちゃんの二つの膨らみが俺の背中にぃ、げっ」

 

 思わず本音を途中まで言ってしまい恐る恐る響ちゃんを見る、目が合うと顔を赤くししていた響ちゃんが自分の両腕で胸を隠し身をよじる。

 

「八雲兄のスケベ」

 

 言葉が出てこずもたもたしていると、後ろから鼻で笑う声が聞こえ振り返ると奏ちゃんがテーブルに肘を突き頬杖をしてジト目で俺を見ていた。

 

「うわっ、さいてー」

 

 奏ちゃんに吐き捨てられた。




第2話終了となります、お付き合いくださった皆様ありがとうございます、第3話もお付き合い頂ければ幸いです。

皆様のお気に入り登録やコメントが物凄い後押しになりました、こんなにも胸に込み上げるものだとは知りませんでした、本当にありがとうございます。


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第3話 父娘の距離は
学校にて


 今日は朝から最悪だ、せっかく2度寝をしようとしたらパパの大きなクラッシック音楽で起こされるし、いくら嫌だと言っても会話に音楽用語入れるし、もう最低。

 

 学校に向かうさなか、スクールバッグの中に当然の様に入っているハミィとくだらない話をしながらも、私は今日の放課後は奏とカップケーキを持って八雲兄の所に突撃しようと考え無理やり気分を上げようとしていた。

 

 何となく気分も上がったところで王子先輩に声を掛けられて「コンサート来ないの? 指揮お父さんだよ?」ってだから行きたくないの、察して欲しい。

 

 途中であった奏に手を引っ張られながら学校に向かう私は気が付いたら何故か音楽室の前で音楽王子隊の練習を聴いていた。

 

 奏が中の様子を伺いながら私に話かける。

 

「北条先生授業の時となんか違うね」

 

 うん、奏の気持ちは嬉しい私を思っての事だ、でもまだ私はパパに対して割り切れない気持ちがある。

 

 5年前のあの出来事は今でも私の中で大きなシコリに成っている、八雲兄のお陰でピアノには触れられるし少し考え方も変わった。

 

 少し前の私なら絶対にここには来ないだろうし、きっと奏にも感謝は出来なかっただろう。

 

「響?」

 

 奏の心配そうな声で現実に引き戻される、暗くなっていく心が奏の一言で、ただ名前を呼んで貰っただけで軽くなる。

 

「ううん、何でもないよ奏ありがとう」

 

 奏に向かって笑って見せる、奏には申し訳ないがもうここには居たくない、私は奏の手を取り歩き出す。

 

「そろそろ行こう、奏」

 

「響……」

 

 心配そうな奏の声に私は気が咎められながら教室に向かう。

 

 

 

 壁に寄り掛かり腕を組みながら時間が過ぎるのを待っている。

 

 腕時計で時間を確認しながらそろそろかななどと思っていると建物中にチャイムが響く。

 

 ややあってガヤガヤと賑やかに成り、ドアが開き次々と生徒達が出てくるこちらを気にしながらも特に声を掛けられることも無く移動していくが目的の人物は出てこない。

 

 目線を感じそちらに目を向けると響ちゃんがびっくりした顔をしながらこちらに向かって来た。

 

「ちょっと、こんなところで何やっているのよ」

 

 眉間にしわを寄せながらも小さい声で尋ねてくる。

 

「仕事だよ北条さんのお父さん、北条先生に用があるんだよ」

 

 学校内しかも他の生徒が居るので名字で呼ぶ、それが気に入らなかったのか響ちゃんは少しムッとしていた。

 

「仕事してたんだ……」

 

「積極的にはしてないけどね、頼まれればだよ」

 

 肩をすくめてそんな話をしていたら奏ちゃんがこちらに気が付きやって来る。

 

「なんで居るんですか?」

 

「木野さん仕事だってさ」

 

 俺が応える前に響ちゃんが少しきつめに答え奏ちゃんは響ちゃんの顔を見て何かを感じたのだろう困ったように笑みを浮かべていた。

 

「お疲れ様です北条先生、第二音楽室のピアノの調律は終了しましたので確認をお願い致します」

 

 普段見せない姿にびっくりする二人、北条先生は楽しそうに返答をくれる。

 

「やぁ、木野君御苦労さま、いきなりすまなかったね助かるよ、確認は後でさせていただくよ」

 

「はい、お手数ですがよろしくお願い致します、このまま引き続き音楽堂の調律に入ります」

 

「ちょっと、何時から二人は知り合いだったの?」

 

 響ちゃんは信じられないと言った感じで北条先生に問い詰める。

 

「会ったの昨日だよ響、調律師を探していて音吉さんに相談したら彼を紹介して貰ったんだ」

 

 ニコニコと笑いながら答える北条先生、響ちゃんは不満そうだ。

 

「木野さん音吉さんと知り合いだったの?」

 

 奏ちゃんが割り込んでくる、説明して無かったなと少し後悔しながら答えようとするが。

 

「彼は今音吉さんと『調べの館』のパイプオルガンの修理をしているんだよ」

 

 北条先生に先に答えられてしまった、思わず苦笑いが出てしまう。

 

「ところで響は今日のコンサート来てくれるのかな?」

 

 響ちゃんが明らかに嫌そうな顔をするが北条先生は表情を変えない。

 

「分かんない……もう私行くね」

 

 響ちゃんは後ろを一度も振り向かずに小走りに行ってしまった。

 

「あ、あの、北条先生! 私誘ってみます、上手くいくか分らないですけれど……」

 

 おずおずと奏ちゃんが小さく手を上げて見上げてくる。

 

「うれしいなぁ、南野さんこれからも響の事よろしくね」

 

 北条先生は嬉しそうに笑っている、一応娘が気に成るんだなぁと頭の片隅でぼんやりと俺は思っていた。



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幼き日の演奏会

「もう、お昼だよ食べないの、八雲兄」

 

 後ろから掛けられた響ちゃんの声に作業の手を止め工具を安全な場所に置く。

 

「今丁度終わったところだよ、響ちゃん朝はちょっと冷たくしてごめんね」

 

 響ちゃんの方を向き答え、工具を片づける為に背を向けしゃがみ込んだ俺の背中に温かい感触が触れ心地よい重さが加わる。

 

「ちょっとだけこうしてくれれば許す……」

 

「学校内だよ……いや、少しだけ……ね」

 

 肩に置かれた少し震えている響ちゃんの手に自分の手を乗せる、指を動かして響ちゃんが指を絡めてくるそのまま好きにさせていると小さな声で囁いてくる。

 

「ありがとう八雲兄、あのね、私はまだパパに向き合えない、奏の時ほど信じられないよ……」

 

 指に力が入るが指の震えは止まっていない。

 

「なぁ……響ちゃん、響ちゃんは奏ちゃんと分かり合いたかったから、ずっと奏ちゃんとぶつかっていたんだよね」

 

 背中で頷くのを感じ、言葉を続ける。

 

「お父さんとはぶつかれた?」

 

 小さく、弱々しく、吐息を吐く様に「出来ないよ」と答える響ちゃん。

 

「五年前の音楽会…………か」

 

「そう……だよ、あの日急遽出演者が出れなくなって私がママのピアノを担当したの、準備不足で不安ばかりだったけれど何とか間違えずに演奏が終わってね、褒めて貰える、約束した遊園地に連れて行って貰えるって思ったけれど、違ったのパパにね、パパに音楽を奏でてないって言われて……私……」

 

 更に指に力が入り顔を背中にうずめてくる。

 

「私ね、音楽が嫌いになったのその日からピアノに触れなくなって、パパともどんどん会話しなくなってやっぱりパパは私なんて見ていないってね……」

 

 躊躇いを見せ言葉が続かない響ちゃんの絡ませた指に少し力を入れる、大丈夫信じて欲しいと思いを込めて。

 

「八雲兄に初めて会った日、触るのも嫌だったピアノに何故か触りたくなって弾いていたら、勝手に聴かれてすごく頭に来たけど真剣に謝ってくれて……初めて会って初めて聴いたのに、あの日言われたかった言葉を八雲兄はくれて、ううん、それ以上の言葉もくれて、少しだけピアノも良いかなって思う様に感じてね、だから、もっと聴きたいと言われた時は物凄く嬉しくて、音楽に少しだけ向き合えるかなってね、奏の時もそう、少し前の私じゃもっと時間がかかったと思う…………ありがとう八雲兄、私の前に現れてくれて……」

 

 目頭が熱くなる、響ちゃんは俺を信じて苦しい心の内を語ってくれている、響ちゃんの心を救いたい今俺に出来る事は……

 

「今日のコンサートさ、ピアノの調律したんだよだから音の確認にコンサートに行くんだ、夕方迎えに行くよ、練習時間も入る許可を貰っているから俺となら入れる、俺が一緒に行くからさぶつかりに行こう……昨日、響ちゃんのお父さんに合った時怒鳴りそうだったんだ、何故響ちゃんの辛さを理解できない、貴方は娘を救わないのかってね、でも……響ちゃんの大切な家族だから出来なかった、響ちゃんの事守るってあの時に約束したのに守れなくて、ごめん……」

 

 組んでない腕を俺の胸に回しきつく服を掴み大きく息を吐く響ちゃん。

 

「ううん、八雲兄は守ってくれてるよ…………パパは音楽の世界で天才だから、きっと才能の無い私にはピアノを弾いて欲しくなかったんだよ」

 

 胸に回された腕を掴む、響ちゃんの辛い心が伝わってくる、俺は…………響ちゃんには笑って居て欲しい、たとえエゴだと言われても。

 

「俺はさ響ちゃんのピアノ大好きだ毎日だって聴きたいよ、響ちゃんは自分自身の事信じられる?」

 

 自分の気持ちを伝え問い掛ける、しばらくの沈黙、響ちゃんの小さい呼吸の音だけが聞こえてくる。

 

「分からない、けど、信じたい…………」

 

「俺はね、才能とか能力はさ自分自身を信じ抜く力だと思っているんだ、響ちゃんに中に信じるものがあるなら徹底的に信じ抜け」

 

 響ちゃんの手に腕に力が入る、少しためらった後に静かにゆっくりと言葉を紡いでいく。

 

「パパの所に行くよ、だから……夕方迎えに来て、お願い、私頑張るよここで決めなきゃ女がすたるからね」

 

 体を離す響ちゃん、振り向いて顔を見ると決意を固めた美しい表情をしていた、しばらく見つめ合い響ちゃんは力強く微笑むと出入り口に向かって歩いて行った。

 

 大きく息を吐く、背中に感じていた響ちゃんが居なくなって少し寂しさを感じたが、まだやる事が残っている。

 

「出ておいで、奏ちゃん」



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甘えたい時

「えっと、あの、その……」

 

 いきなり声を掛けられて、舞台袖から苦笑いをしながら出てきた奏ちゃん。

 

「良かったね、響ちゃんが正面から出て行ってくれて、お陰で鉢合わせせずにすんだね」

 

 ベンチ型の長椅子を定位置に戻してから、奏ちゃんを見ると眉間にしわを寄せていた。

 

「他に言う事無いんですか? 何処から聞いていたんだーとか、私怒られるの覚悟していたんですけど……」

 

 腕を組み、そのまま左腕だけ立ち上げて人差し指でおいでおいでをする、しくじったと言った顔をしながら側に来た奏ちゃんは神妙な顔をしている。

 

「こらっ」

 

「へっ?」

 

 目を丸くして、びっくりして動きが止まっている奏ちゃんに笑いかけながら。

 

「ご希望通り怒ったぞ、何処から聞いていたかは知っているから別に良いよ、しかし奏ちゃんは怒られたいとかそういう趣味も持っていたとは……びっくりだ」

 

 言われた意味が分ったのか、瞬間的に顔が赤くなりワナワナと震えだす。

 

「だ・れ・が・怒られ好きですか! 誰が! もう最悪!」

 

「はい、これでおあいこだね、でも、ごめんな今日のコンサート奏ちゃんが誘うって言っていたのに俺が誘ってしまって」

 

 プリプリと怒っていた奏ちゃんだが、俺の言葉を聞いて真顔になる。

 

「いえ、ありがとうございます八雲さん、私は断られた挙げ句に逃げられてしまったので助かりました」

 

 すまなそうに頭を下げてる奏ちゃんの綺麗に流れる髪を見ながら、何故響ちゃんが行く気になったのかを理解した。

 

「いや、こちらこそ助かったよ、多分俺一人で誘っていたら響ちゃんは行く気にはならなかったよ、先に奏ちゃんも誘っていてくれたからその気になったのだろう」

 

「そうでしょうか……でも、信じるものがあるなら徹底的に信じ抜く、良い言葉ですね、いいなぁ響、ね、八雲さん私も迷ったらさっきの響みたいにしてくれます?」

 

 心配半分期待半分で聞いてくる奏ちゃん、俺は無造作に手を伸ばし奏ちゃんの頭をしばらく撫でて手を離す。

 

「当り前だろう、安心して俺は何があっても奏ちゃんも守るよ絶対にね」

 

「ありがとう……八雲さん……響共々よろしくお願いします」

 

 朗らかに笑う奏ちゃん、俺は奏ちゃんにちょっとした考えを提案する。

 

「夕方響ちゃんを迎えに行くのは聞いていたよね、もう一度響ちゃんを誘ってもらえないかな、きっと奏ちゃんにも居て欲しいはずだ」

 

「そうですね、私も響と行きたいですし誘ってみます」

 

 何か思い立ったのだろうか、奏ちゃんは俺を覗きこみながら聞いてきた。

 

「本当に響と付き合ってないんですか? さっきのどう見ても恋人同士にしか見えませんでした」

 

 思わず苦笑いをする。

 

「本当にそういう関係じゃないんだよ、色々複雑でね」

 

「ちょっと信じられませんが信じます、あとお願いがありまして」

 

 頬を少し染めて目線を外す奏ちゃん。

 

「私も、たまに辛い時に甘えても……良いですか……響が羨ましいなって……私だって甘えたい時があるんです」

 

「当り前だろう、辛い時は何時でもおいでまっているから、ね」

 

 小さく頷いてから顔を上げる奏ちゃん。

 

「後ろ向いてください」

 

 言われた通りの後ろを向くと背中にフワリと奏ちゃんが抱きついてくる。

 

「今、甘えたいです……」

 

 奏ちゃんのその声は消え入りそうだった、回された手に自分の手を添えると奏ちゃんは回した腕に力を入れてきた。

 

「ありがとう……八雲さん……」

 

 背中に顔をうずめる奏ちゃんの熱い息がかかる、少しの間だが静かな時間が過ぎ、奏ちゃんは背中から離れ俺の前に移動してきたがやはりその顔は赤かった。

 

「元気出ました、ありがとうございます、響の事誘いますね」

 

 背中に手を回しスキップする様に後ろに二、三歩下がり、いたずらっ子の様に笑うだが俺には無理やり笑っているように見えた、奏ちゃんはクルリとこちらに背中を向ける。

 

「じゃあ、行きますね夕方お願いします」

 

 それだけ言うと奏ちゃんは小走りで出口に向かって行った、声を掛けようとしたがその背中は拒絶しているようにも見え俺は声を掛けられなかった。




活動日報にて八雲の病気について設定を出すような事を書きましたが、申し訳ありません良く考えると言及する意味が無いので公表は避けます。

外見等も考えていますがそんなに出す必要も無いと考えております、既に出ましたが瞳の色に第4話で髪の毛の色が出る予定です、後は必要に応じて出していきますのでよろしくお願い致します。


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響とピアノと父親と

 夕方になりバイクで響ちゃんの家へと向かう、バイクの音を聞きつけたのだろうか、響ちゃんと奏ちゃんは門から出て二人でこちらに手を振って来る。

 

「ごめん、お待たせ」

 

 ヘルメットのシールドを上げながら二人に聞くと、二人は機嫌が良いのか笑い合っていた。

 

「大丈夫、奏がカップケーキ持ってきてくれて、二人でお茶していたから」

 

「お、良いね今度は俺も入れてね」

 

 少しおどけて言うと、響ちゃんと奏ちゃんは顔を見合わせ笑う。

 

「良いですよ、美味しいお茶淹れて下さいね。八雲さん」

 

 奏ちゃんも楽しそうに返事をする、昼間の二人の状況だと心配だったが、取り越し苦労なのかカラ元気なのかな微妙だが、響ちゃんの笑顔はやはり少し硬かった。

 

 二人は示し合わせていたのか、響ちゃんがサイドカーに座り奏ちゃんは俺の後ろに座る。

 

「コンサート楽しみだニャ! 八雲早く出発するニャ!」

 

 響ちゃんの膝の上に座ったハミィの発言に、微笑ましさを感じつつその声を合図に、俺はバイクを発進させた。

 

 

 

 しばらく走り会場の関係者駐車場にバイクを止める、ヘルメットを仕舞いながら響ちゃんを盗み見ると、少し顔が強張っていたが、奏ちゃんが声を掛けて気を使っていた。

 

 関係者出入り口に向かうと、年の若いガードマンが俺達を見つけ挨拶をしてきた。

 

「木野さんご苦労様です、みなさん第三練習室に居るはずですよ、しかしこんなに可愛い子二人も連れて羨ましいですね」

 

 年が近いせいか、ガードマンが軽口を突いてくる、俺は少し意地の悪い笑顔を浮かべ答える。

 

「羨ましいだろう、彼女達に触んなよ」

 

「ひでぇ、怨念でこの人どうにか出来ないかね、お嬢さんたち、こいつに飽きたら何時でも俺の所に来てね、大歓迎だから」

 

 ガードマンもヘラヘラ笑いながら言い返してくる、響ちゃんと奏ちゃんはその態度にドン引きしていた。

 

「お呼びじゃないってさ、そろそろ行くな」

 

 ブツブツと言うガードマンを放っておいて、俺達三人は練習室に向かう、部屋の前に着き後ろの二人を見ると、頷いてきたので静かに扉を開け中に入る。

 

 王子君が、少しやつれた感じで必死にピアノを弾いているが、北条先生は何時もの笑顔のままその旋律を聞いていた。

 

「どうですか? 先生やはりどこか悪い所が……」

 

 弾き終わった王子君が顔を上げ心配そうに、北条先生に声を掛ける。

 

「今の演奏は音楽を奏でてないねぇ」

 

 北条先生は顔色一つ変えずに言い放つ、明らかに動揺する王子君を見て響ちゃんが烈火のごとく怒りだし、北条先生に詰め寄った。

 

「あー、また言ってる! それってどういう意味!」

 

「響?」

 

 響ちゃんを一度見るが、北条先生の態度は変わらず、王子君に言葉を掛ける。

 

「王子君、君が音楽家を本気で目指しているのならその答えは自分で見つけなさい」

 

 困惑する王子君を心配そうに見ながら奏ちゃんも声を上げる。

 

「な、なんですかそれ?」

 

 響ちゃんの話、今の会話から北条先生が求めている事は分かる、分かるのだが俺は大きく一歩前に出て北条先生に問いかける。

 

「北条先生、貴方の言いたい事は分かる、が、彼らはまだ学生だ、その言い方では理解は出来ない、教育者とは教え育てる事だと思うが、今の先生はただの教師だ。貴方は自分の娘さんみたいに彼を突き離して終わりにする気か、貴方の思いも分かるが、娘さんや彼の気持ちはどこに置いた」

 

 静かな怒りをたたえ声を発する、響ちゃんと奏ちゃんが心配そうに様子を伺っているのが分る、チラリと時計を見る、まだ時間はあるので俺は行動に移す事にした。

 

「確かに音楽家としては貴方は超一流だ、そんな方に調律の依頼をされたのは自分にとっても誇らしい、だが指導者としての貴方はどうなのでしょう、出すぎた真似だが彼にアドバイスをさせて貰えないか、もちろん貴方の答えは言う気は無い、まさかここで潰れたらそれまでだとかは言いませんよね?」

 

 値踏みするように俺を見る北条先生、笑顔を崩さないその姿に俺は不信感を抱きつつある。

 

「別の人の意見も良いかもしれないね、ただ、答えは言わないでくれたまえよ」

 

 やはり表情は崩れない、響ちゃんには悪いがもはや胡散臭さしか感じなくなってきている、王子君に廊下に出る様に合図すると響ちゃんが声を掛けてくる。

 

「私も聞きたいよ、八雲兄!」

 

 響ちゃんは真剣そのものだった、俺は色々な意味で自分の後頭部を掻くと響ちゃんに声を掛けた。

 

「響ちゃんはもう答えに近づいていると思うよ、自分でも感じているんじゃないのかな、今日のコンサートが答え合わせになると思うよ、大丈夫だと思うが分からなかったら話をしよう、では、王子君行こうか、すぐ戻ってきますのでよろしくお願いしますね、北条先生」

 

 廊下に出ると、俺は一言二言王子君と話をする。彼は目から鱗が落ちたような顔をしていた、落ち着いた感じが出たので、練習室に戻ると中の空気は微妙になっており奏ちゃんは困った様に苦笑をしていた。

 

「お待たせしました。こちらは準備できました、さぁ王子君、さっきの事を忘れずに弾いてみようか」

 

 大きく息を吸い演奏を始める王子君、その旋律は先ほどまでとは違い軽やかだった、奏ちゃんがあまりの美しい旋律に表情を崩し聴き惚れている。

 

「素晴らしい……彼の持ち味がすべて出ているよ、本当に答えを言った訳ではないんだね?」

 

「はい、答えは言っていません。彼が自分で気が付きました、自分で気が付いたからこその旋律だと思いますが」

 

 初めて表情を崩し本当の意味で笑う北条先生を見て、俺は少しばかり安心した、その隣で響ちゃんは目を見開いてその旋律に耳を傾けていた。

 

「一度君とは是非ゆっくりと話をしたいね、音楽の事もそうだが、それ以上に響との関係も聞かないとね? 響は答えてくれなかったから」

 

 思わず響ちゃんを見ると、端から目線を合わせる気が無いらしくそっぽを向いている。そんなやり取りを見ていた奏ちゃんは、肩を震わせて声を押し殺していた。



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闖入者

 開演時間が近づき俺達は奥の席に座って待っていた、肘かけに無造作に置いていた俺の手の上に響ちゃんが手を重ねてたので横目で見ると顔を強張らせ舞台を見ていた。

 

 手のひらを返し手を握ると響ちゃんはこちらを見てぎこちない笑顔を向けてきたので更に強く握り頷くと響ちゃんも頷き握り返してくる。

 

 舞台に目を向けると音楽王子隊のメンバーが準備を終え指揮者である北条先生を待っている、ピアノの前に座っている王子君は余裕があるらしくいつもの笑みを浮かべていた。

 

 舞台袖から出てきたのは北条先生ではなくセイレーンだった、その姿を確認した俺達は揃って声を上げる。

 

 慌てて出てきた北条先生がセイレーンの肩を掴み止めるとセイレーンはいとも簡単に北条先生を弾き飛ばしと会場がざわめくがセイレーンは意にも介さずに舞台中央に堂々と立つと会場を見渡した。

 

「私のマイナーランドの歌姫セイレーン、今日は私のコンサートにようこそ」

 

「「「ようこそ~」」」

 

 間髪いれずにトリオ・ザ・マイナーがコーラスを入れる、舞台上の音楽王子隊は困惑の声を上げそれに気が付いたセイレーンは後ろを見回し音符を見つけたセイレーンは猫の姿に戻るとファルセットの頭に乗り悪意ある声を浴びせる。

 

「いでよ! ネガト──ン!!」

 

 王子隊の一人が持っていたチェロが禍々しいオーラに包まれるとネガトーン変わってしまう。

 

「さぁ、聴かせなさい! 不幸のメロディを!」

 

 力をため負の力を一気に解放するネガトーンを中心とし会場全体が包まれ、舞台上の王子隊はもちろんホールに居る人々も涙を流し悲しむ。

 

 俺達は弾かれた様に立ち上がると全員が怒りに満ち溢れていた。

 

「土足でコンサートを踏みにじり人々を悲しませるなど」

 

『音角』を取り出し展開させ構える。

 

「パパ達の大切なコンサートを滅茶苦茶にして」

 

「音楽を使って人を不幸にするなんて」

 

 響ちゃんと奏ちゃんも『キュアモジューレ』取り出す。

 

「「「もう、許さない!」」」

 

「「レッツプレイ! プリキュア! モジュレーション!」」

 

 二人の掛け声に合わせ音叉を振るう、二人は光に俺は紫炎に包まれた。

 

「鬼姫の使者! 音撃戦鬼! 獣鬼!」

 

「爪弾くは荒ぶる調べ! キュアメロディ!」

 

「爪弾くはたおやかな調べ! キュアリズム!」

 

「「届け! 三人の組曲! スイートプリキュア!」」

 

 三人同時に座席から舞台のネガトーンにジャンプし、メロディは体を縦回転させ勢いを付け踵を落とし、リズムは横回転を加え手刀を入れる、俺は錐揉み回転をし蹴りを入れその反動で一度距離を空け体勢を低くし重い一撃を入れるために力を溜め出す。

 

 メロディとリズムはその場に留まりネガトーンに連続蹴りを入れている。

 

 連続蹴りが終わった一瞬の隙にネガトーンが腕を振るうのを見た瞬間俺は二人を助けるべく飛び出した。

 

 ネガトーンの攻撃が彼女たちを捕えたが何とか空中で二人を捕まえると直接壁に激突しないように体を入れ換えクッションになる凄まじい勢いで壁に衝突し、しばらくの間壁に留まり俺達三人はズルリと床に落ちるメロディとリズムはしっかりと着地したが俺はダメージが大きく両膝を着いてしまう。

 

「「獣鬼!」」

 

 二人が慌てて寄って来る、何とか顔を上げると安心させるように声を掛ける。

 

「二人は大丈夫かい」

 

 二人は俺に手を貸し立ち上がらせながら感謝の言葉を言ってくる。

 

「ネガトーンその三人をとっとと倒し、もっとみんなを悲しみのどん底に叩き落としてやんなさい」

 

 セイレーンの言葉に従いゆっくりと近づき力を溜め出すネガトーン。

 

「君! やめなさい!」

 

 その存在感のある声はネガトーンを止め、さらにはセイレーン達も戸惑わせた。



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北条団とキュアメロディ

「そんな音楽では駄目だ! ちゃんと音楽を奏でなさい!」

 

 ネガトーンの前に立ちふさがる北条先生、ネガトーンが我に返り拳を振り上げ叩きつけ舞台に穴が開き埃が舞い上がる、埃が晴れると咄嗟に駆けつけたメロディに支えられ間一髪で救出されていた。

 

「君、ありがとう、でも僕は彼らに音楽を教えないといけないんだ」

 

 北条先生の目は真剣だ、メロディは下唇を噛み覚悟を決めた様に思いを口にする。

 

「音楽は……音楽とは、聴いた人の心が満たされ幸せを感じ演奏者自身の心も満たされ幸せになり、全ての人々が楽しまないといけない! 音を楽しむのだから!」

 

 メロディの叫ぶような独白を受け北条先生は目を大きく見開きた後ににこやかに笑う。

 

「すばらしい! 音楽の本質を! 音楽が何たるかを良く理解している!」

 

 メロディの肩を掴み絶賛する北条先生にやや引き気味のメロディ。

 

「早く皆さんを連れて逃げて下さい! ここは私達が対応します! 私達こう見えても強いんです!」

 

 リズムがネガトーンに蹴りを入れ吹き飛ばしメロディのフォローを入るが北条先生は「でも僕は……」と引こうとしない、たまらずメロディが叫ぶ。

 

「この怪物は私達に任せて下さい! だから逃げて下さい!」

 

 吹き飛ばされたネガトーンがメロディ達に接近し巨大な腕を振り上げた、二人は一瞬対応が遅れてしまいネガトーンの拳が振り降ろされ周りに凄まじい音と衝撃が走る。

 

「「獣鬼!」」

 

 間一髪で三人の間に割り込み腕を交差させ正面から攻撃を受け耐える、強引に一歩前に出ると同時に交差した腕を広げネガトーンを拳を吹き飛ばすとその場で打ち合いをする。

 

「この子達の言う通り早く逃げて下さい! 貴方達がこの場に居ると俺達は全力で戦えない!」

 

 ネガトーンを蹴り飛ばした俺は後ろは見ずに声を張る。

 

「すまないがお願いするよ、くれぐれも無事に」

 

 北条先生が音楽王子隊の面々を助けながら逃げて行く、俺達は胸を撫で下ろすとネガトーンに相対する。

 

 走り込んで来るネガトーンに対しメロディが一歩前に進み出て真正面から拳を振り抜きネガトーンに直撃させる、壁まで吹き飛ばされてめり込むネガトーン。

 

「すごいじゃない! メロディ!」

 

 リズムが感嘆の声を上げる、メロディは照れくさそうにしながらも嬉しそうに笑っている。

 

「パパに正直に話せた、おかしいよね変身している方が話せるって変な気分、でも、パパが私を認めてくれて嬉しい! 体中から力が溢れてくる!」

 

 両の手を握り拳にし力強く頷くメロディ。

 

「メロディが元気だと私も嬉しくて力が湧いてくる!」

 

 リズムもメロディに倣い拳を作る、そんな二人を後ろから頭を鷲掴みにするように撫でる。

 

「良し! 決めるぞ!」

 

「「オーケー」」

 

 メロディとリズムが華麗なステップとダンスを披露し力を集める。

 

「「プリキュア・パッショナートハーモニー!」」

 

 ネガトーンが浄化され音符が正しい音に還りフェアリートーンに収納される。

 

 何時もの負け惜しみを言いセイレーン達が逃げた後に、床に何かを見つけメロディが拾い上げる、それは北条先生が落としてしまった指揮棒だった。

 

 静かに成ったので様子を見に来た北条先生にメロディが指揮棒を渡す。

 

「ありがとうございました、これ、落としましたよね」

 

 指揮棒を受け取り大事そうに撫でる北条先生。

 

「このタクトは昔僕の誕生日に娘がプレゼントしてくれた大切なタクトでね、無事で良かった」

 

 メロディが少しだけ顔を赤くし所在が無さそうにしている。

 

「もし、もしもだ、君が正体を隠してこの加音町に住んでいたら僕の娘、アリア学園に通っている2年の北条響と言う女の子を訪ねてくれないか?」

 

「どうして……ですか?」

 

 いきなりの発言に動揺を隠せない俺達三人、かろうじでメロディが受け答えをする。

 

「恥ずかしい話だが僕は娘を響をちゃんと導いて上げられなかったんだ、大好きだったはずの音楽を嫌いにさせてしまった、その事に対して注意をしてくれた人が居たんだ、だがまだ私では駄目だろう、そこで君だ、君は音楽に対して造詣が深いその若さでだ、だから響が君と話せれば何かしら考えるのではないかと、まぁ、親の身勝手な思いだよ」

 

「大丈夫ですよ、娘さんきっと分かってくれてますから、こんなにも素敵なお父さんなんですから」

 

 返答に困っていたメロディの肩に手を置きリズムが代わりに答える、メロディも小さいが「そうですよ」と頷く。

 

 その言葉に北条先生は笑顔で頷く姿を見てこれが素の笑顔なんだろうと俺を安心させたが、そろそろ頃合いかと思い間に割って入る。

 

「二人ともそろそろ行くぞ」

 

 返事も聞かずに出入り口に向い走り出す、慌てながらも二人が付いてくるのを感じながら会場を去った。

 

 

 

 俺達は元の席に戻り演奏を聞いている、プリキュアの不思議な力なのか荒らされ壊れた舞台も元に戻り何事も無かったようにプログラムが消化されていく。

 

「奏、私ももっと素直に成れればパパと向き合って一緒に音楽を楽しめるかな……」

 

 奏ちゃんに語りかけるが返事がない事にいぶかしんだ響ちゃんが奏ちゃんを見ると安らかな寝息を立てていた。

 

「寝てるし……」

 

 思わず溜め息をつく響ちゃんを横目で見ながら奏ちゃんを寝顔を眺めていると俺の手の甲を響ちゃんが容赦なくつねって来る。

 

 声を上げそうになったが何とか耐えて響ちゃんを見ると少しむくれていた。

 

「練習室の八雲兄の言葉、その後の王子先輩の練習を聴いて意味が分ったの、何て楽しそうにピアノを演奏するのだろうって、私も出来るのかな……」

 

 不安そうな表情になり俺を見つめてくる響ちゃんに微笑みを返す。

 

「大丈夫だよ、響ちゃんは何時も楽しそうに、ひたむきに鍵盤に向かっているのを俺は知っているから」

 

 響ちゃんは、はにかんで笑うと手を握って来る、俺達は手を繋いだまま演奏に耳を傾けゆっくりと流れる時間を楽しんだ。




第3話終了となります、お読み頂きありがとうございます。
宜しければ第4話もお付き合い頂ければ幸いです。

第4話 奏と響の気合いのレシピ 第1節 奏の野望
よろしくお願い致します。


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第4話 奏と響と気合のレシピ
奏の野望


 とある日曜日に俺は奏ちゃんに呼び出され『ラッキースプーン』に向かっている最中に響ちゃんの姿を捕えバイクを接近させると、響ちゃんはこちらを振り向き手を振って来たので近くで止まる。

 

「八雲兄おはよう! もしかして奏に呼ばれたの?」

 

「おはようニャ、八雲」

 

 足元に居たハミィも、いつも通りの軽い感じで挨拶をしてくる、そんな中、響ちゃんはヘルメットを引っ張り出しサイドカーに座り、ハミィもその膝の上に移動しフェアリートーン達は我先にハンドルの邪魔に成らない所にへばり付き早く行けと騒ぎ立てている。

 

「そうなんだけどね、まぁ、違っても送っていくけど」

 

 俺の答えに満足したのか響ちゃんは嬉しそうに笑いかけてくる、今日も可愛いななどと思いながらもバイクを走らせ『ラッキースプーン』に向かう。

 

 駐車場に着くと響ちゃんはサイドカーから飛び出しヘルメットを俺に放ると勢いよく駆けて行きハミィ達もそれに続いて行った。

 

「八雲兄、早くね!」

 

 振り返り手を振りながらそれだけ言うと更に足を速めて店に向かって行く。

 

 店の前に行くと丁度奏ちゃんがテラス席から戻って来たらしく鉢合わせをした。

 

「おはよう、八雲さん響達も丁度今来てテラス席で待ってるよ」

 

 ニコニコと笑いながら挨拶をしてきたが、思わず正直に話す。

 

「途中で拾ったんだけどさ、駐車場に着いたら飛び出して行ったんだよ響ちゃんは」

 

 奏ちゃんは大げさに溜め息をつくとに何とも言えない表情を作る。

 

「もう響ったらしょうがないなぁ……八雲さんもテラス席で待ってて直ぐ持って行くから」

 

 奏ちゃんの背中を見送りそのままテラス席に向かうとハミィとフェアリートーン達はすでにカップケーキを食べ出しその隣で響ちゃんは天を仰ぎながらお腹をさすっていた。

 

「ハミィ達には上げといて、私にはまだぁ……」

 

 嘆く響ちゃんにお構いなしにハミィとフェアリートーン達はケーキを美味しそうに食べている、それを見ながら席に着くと響ちゃんは情けない声を上げる。

 

「あぁぁ、お腹すいたぁ……」

 

「二人ともお待たせ」

 

 奏ちゃんがトレイにケーキを二つ乗せ楽しそうにやって来た。

 

「わぁ、待ってました!」

 

 言うや否や響ちゃんはトレイの上のケーキを取ると早速食べようとする。

 

「うふふ、いっただっきまーす」

 

 俺の前にケーキを置きながら奏ちゃんが響ちゃんにストップをかける。

 

「ちょっと待った! まずケーキの色と形をしっかり見て」

 

 その言葉に従い俺を響ちゃんは目の前のケーキを見る、奏ちゃんがあまり作らないドーム状の生クリームのケーキで、上にはイチゴで出来ているらしいソースが掛けられその上にはオレンジ色のアラザンと細く削られたチョコレートにミントの葉が乗せられケーキの周りは白と桜色の生クリームで飾られていた。

 

「いつにもまして凝ってるね、奏ちゃん」

 

 その言葉に気を良くした奏ちゃんは説明を付け加えてくれた。

 

「そうでしょう分かる? 雪に覆われていた冬の森に春の息吹が芽生えた様子、それがこのケーキのテーマよ」

 

「分かった、よーく分かったから食べて良い?」

 

 少し自慢げに説明する奏ちゃんの横で響ちゃんは尻尾があったなら物凄い勢いで振られていそうな感じで奏ちゃんに懇願すると奏ちゃんも嬉しそうに答える。

 

「よーく味わって食べるのよ」

 

 そのやり取りはまるで母親と子供のように思え噴き出すのを堪えるのに苦労した。

 

「「いただきます」」

 

 俺と響ちゃんが食べる姿を楽しそうに見ている奏ちゃん、食べ終わるのを確認すると心配そうに感想を聞いてくる。

 

「どう? おいしい?」

 

「うん、普通に美味しいよ」

 

 その言葉にショックを受けたらしい奏ちゃんは錆ついた機械の様な動きで俺を見て恐る恐る答えを待っている。

 

「美味しかったけどあえて言えば、上のソースはもう少し風味が強くても良いかもしれないね、後コレは好みの問題だけれど中のイチゴは生クリームが甘いから少し酸味の効いたい物の方が俺は好みかな、今年のクリスマスのケーキに出しても良い感じがするね」

 

「なるほど……ちょっと待ってて」

 

 腕を組みしばらく考えていた奏ちゃんは何時もは見せない早さで店に入りトレイに様々なケーキを乗せて戻ってきた。

 

 目の前に置かれるケーキはロールケーキやチョコレートケーキにメロンを模した物など日ごろ奏ちゃんが作らないような物まで混ざっている、少し違和感を感じながらもいつも通り味は良く飽きも無く全て食べられた。

 

「いやー、食べた食べた」

 

 お腹をさすりながら満足そうな響ちゃんに奏ちゃんが好みを聴いて来る。

 

「で、どのケーキが美味しかった? 色とかデザインとか上に乗ったフルーツとか……」

 

 奏ちゃんの言葉に目を丸くする響ちゃん。

 

「え? 何か違いがあったの? どれもまぁまぁだったと思うけど」

 

「俺は最初が良いかな、好みだけならチョコレートのだね、一層薄く入っていたビターチョコが良かったよ、後は……同じぐらいかな」

 

 慌ててフォローするように声を掛けると奏ちゃんは引きつっていた顔が少しは納まっていく。

 

「ひーびーきー、何で響は何時もそうなのよ!」

 

 手を腰に当て響ちゃんに詰め寄る、響ちゃんも不味いと思ったらしく愛想笑いをしているが奏ちゃんは止まりそうにない。

 

「今日はやたらと気合が入っていたけど何かあったの?」

 

 少し座った目でこちらを見ると無言で一枚の紙を机に叩きつける。

 

「ん、何々」

 

 響ちゃんと一緒に覗きこむとチラシにはこう書かれていた。

 

「「デコレーションケーキコンテスト?」」

 

「ハモッたニャ」

 

 喜んでいるハミィの頭を撫でながらチラシを読むとそこには開催日は来週の土曜日になっており加音市在中でプロ以外なら参加でき年齢性別はもちろん、個人でもグループでも参加出来ると書いてあった。

 

「特別審査員に山口ヨウコ……あー、テレビでたまに見るな、それでかぁ……」

 

「そうなのスイーツ界のスター山口ヨウコが初めて審査員をするの、優勝したらそのままプロのパティシエールに……なぁんて事もありえるかも」

 

 胸の前で手を組みうっとりしている奏ちゃん、想像の翼をはためかせどこかに行ってしまいそうな勢いがある。

 

「コンテストで優勝するためにも派手で目立つケーキを作らなきゃ!」

 

 いきなり我に返った奏ちゃんに響ちゃんは少し引いていたが、奏ちゃんは気にせず握り拳を作り闘志を燃やしていた。



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晴れのち曇り

 私は今手慣れた手順でケーキを焼いていたが頭の中は響の事で一杯になっている。

 

「もう、響ったらアレだけ食べておいてろくな感想言わないんだから、せめて八雲さんぐらい言ってくれないかなぁ……」

 

 ブツブツと独り言を言いながらもその手は止まらず何種類ものケーキを作り上げ完成品を見渡すが、心の中は不安は解消されない。

 

「もっとコンテストで目立つケーキを作らないと……」

 

 私は出来あがったケーキを箱に詰めると出かける用意を済ませ自宅を後にした。

 

 道すがら他のお店に張ってあるコンテストのポスターを見て私は気合を入れ直す。

 

「気合のレシピ見せてあげるから……」

 

 口の中で呟きながら絶対に響に美味しいって言わせ八雲さんにもちゃんと認めさせてみせると誓う、二人の元に向かおうと前を見た瞬間私は人とぶつかり尻もちを着いてしまう。

 

「きゃ、いたた……」

 

「いやだぁ、ごめんなさい」

 

 声に気が付きぶつかった人を見上げるとそこには憧れの人物である山口ヨウコが立っていた。

 

 

 

 放課後スイーツ部で昨日山口ヨウコさんのアドバイスを貰った黒い生クリームを使ったチョコレート風味のケーキを焼き上げると部員達が集まって来る。

 

「すごい、こんなケーキ見た事無い!」

 

「迫力ある!」

 

「やっぱりコンテストで目立つためにはこれぐらい派手じゃないと」

 

 部員達の感嘆の声に私はちょっと自慢も含めて答える、この意欲作で響も八雲さんも唸らせて見せると息を巻いていた。

 

「南野さんもコンテストに向け頑張っていらっしゃるのね」

 

 家庭科室の入口から声を掛けられ目線を向けるとそこには見慣れた人が立っている。

 

「スイーツ姫……じゃなった! 東山部長!」

 

 東山聖歌先輩のあだ名でつい呼んでしまい、慌てて訂正をする。

 

「部長は堅苦しいからやめてって言ってるでしょう」

 

「すいません、聖歌先輩」

 

 慌てて謝る私に聖歌先輩は気にした風ではなく笑顔だった。

 

「お互い頑張りましょうね」

 

「はい! 頑張ります!」

 

 聖歌先輩は何時も涼しげに笑っていて私の憧れの先輩だ。

 

「何々? これ奏のケーキ?」

 

 いきなり響が後ろから顔をのぞかせ私の作ったケーキを興味津々に覗いて来る、もう何時の間に来たのよ。

 

「響、そうよ、食べてみる」

 

 私の渾身のケーキ、きっと響にも喜んで貰える楽しみ。

 

 ケーキを切り分け響の前に置く、響は何時も以上の笑顔だその笑顔を見ているだけで私は満たされる、早く食べて欲しい。

 

「いっただっきまーす」

 

 一口頬張り良く味わっている響にちょっとした違和感を感じる。

 

「このケーキ奏のじゃないみたい……」

 

 嬉しい分かって貰えた! もうそれだけで私は天にも昇る気分になった。

 

「そうでしょう、派手で目立つ工夫を……」

 

「そうじゃなくて、はっきり言って全然美味しくない……このケーキ、コンテストに出さない方が良いよ」

 

 頭から冷や水を掛けられたように心が凍える、何で? どうして? 

 

「全然……美味しくない……ウソだよね響……」

 

 自分でもびっくりするぐらい声が冷たく震えているのが分る。

 

「ごめん、本当に美味しくないと思ったんだもん……何時も作ってくれるイチゴのケーキの方が私は断然好き」

 

 私の中で怒りが湧いてくる、言い返してやろうかと響を見た瞬間私は言葉を失った、響は泣きそうな顔をしていたのだ全てが分からなくなる。

 

 気を抜くとへたり込みそうな足に力を入れ、私はその場を、ううん、響から逃げ出した。

 

 

 

 私は自宅に帰りケーキを焼き直してあの人の所に向かう、何時も優しく笑いかけてくれる人の所へ、きっと分かってくれる褒めて貰えるそう信じて進む足が速くなる。

 

「八雲さん……八雲さん……」

 

 最初は話しやすいってだけだった、どんな小さな話も真剣に聞いてくれたし関心もしてくれた、それが嬉しかった。

 何時からだろうこんなに気持ちになったのは、初めてお店に来た時? 自己紹介した時? 名前を叫んで貰った時? 一緒に戦う様になった時? 分からないよ、何時からあの人が気になっているのが分らないよ。

 

 ケーキの入った大切な箱を抱きしめる、いきなり行っても受け入れてくれるかな、きっと……うん。

 

「大丈夫、大丈夫、大丈夫」

 

 響は美味しくないって言った……もしかしてと考える、ううん、違う、違う違う。

 

「大丈夫、きっと私は大丈夫、それに八雲さんならきっと……だいじょうぶ」

 

 きっと八雲さんは受け止めてくれる……受け止める……受け……止める……? 

 

 

 

「まかせて! 体ごとぶつかって来て! 変身していても受け止める!」

 

 

 

 あの日の響を思い出し足が止まる、空を見上げ目に入るのは曇りの空、一面の灰色、今の私の色。

 

「響受け止めてくれ無いじゃん……」

 

 胸が痛み視界が緩む、あの日謝ろうとした私の唇を押さえてくれた響、決意は固めたけど戦いで足を引っ張るのが怖くて泣きごとを言った私に私らしくと言ってくれた響。

 

「私の才能に嫉妬……ないよ響だもん、むしろ私が嫉妬するよ響の才能に、ピアノに運動それに誰とでも仲良くなれるし…………」

 

 せっかく昔に戻れたんだからもう仲違はしたくない、ねぇ響、もう泣きながらベットに潜り込みたくないよ、声を殺して泣く淋しい夜は辛いよ……ねぇ響……




お読み頂きありがとうございます。

実はこの話には別のバージョンがありました、勢いに任せて書いていたら何と八雲と奏がくっついてしまいました、しかも物理的にも…正直焦りました。

そこでです、別のバージョンを最後にifとして載せてありますので宜しければお読み頂ければ嬉しいです。


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創作ケーキと山口ヨウコ

 訪ねて来た奏ちゃん迎え入れるべく玄関を開けると酷い顔色をした奏ちゃんが立っていた。

 

「いらっしゃい奏ちゃん、どうぞ」

 

 出来るだけ明るい声で奏ちゃん迎え入れ、ダイニングに通すと自分はキッチンに向かう。

 

「奏ちゃん、何飲む?」

「この前のハーブティーが良いです……」

「分かった少し待っていて」

 

 横目で奏ちゃんを見ると思いつめた表情をしていた、準備をしていると奏ちゃんがキッチンに入って来る。

 

「八雲さんお皿と包丁お借りします」

 

 ハーブティーを淹れダイニングに持っていくと奏ちゃんは箱からケーキを取り出す、出されたケーキは黒かった。

 

「奏ちゃん……これは……?」

 

 奏ちゃんらしくないケーキに驚いて見てしまう、奏ちゃんは俺の雰囲気が少し違うのを感じ取り自信が無さそうに声を出す。

 

「コンテスト用の試作品です、八雲さんにも試食をして貰いたいんです」

 

 切り分けられたケーキの乗っている皿を一度持ち上げて眺める、黒い生クリームのチョコレート生地のケーキ、まぁ、見た目は良いと思う、俺は好みじゃないが好きな人もいるだろう、皿を置き手を合わせ食べ出す、その姿を奏ちゃんは心配そうに見ている。

 

「どうですか、このケーキ」

 

 ダイニングで黒いケーキを食べ終わった俺に恐る恐る聞いて来る奏ちゃん、俺は思わず後頭部を掻いてしまいそれを見た奏ちゃんは更に不安そうな顔になってしまう。

 

「普通のお店で買ったケーキとしてなら美味しいよ、うん、でもこれは駄目だ、これ誰にアドバイス貰ったの」

 

 奏ちゃんを正面から見据えるとびくりと体を震わせた。

 

「このケーキは奏ちゃんのケーキじゃないよ、全てにおいてチグハグだ、この前お店で食べた試作品の方がよっぽど美味しかったよ、色々と試行錯誤があったし奏ちゃんの頑張りも見て取れた多少空回り気味だとしても美味しかった、だから響ちゃんもあの日は普通に美味しいとしか言えなかったんだ」

 

 奏ちゃんの目が大きく見開くき口を手で覆う。

 

「でも、でもコレ、山口ヨウコさんにアドバイスを貰って……私には才能があるって……」

 

 また頭を掻いてしまう、奏ちゃんの瞳にはうっすらと涙が溜まっている。

 

「うん、奏ちゃんはケーキ作りの才能あるよそれは俺も思うし、諦めなければきっとプロになると思う」

 

 俺の言葉を聞いた奏ちゃんは半泣きで笑う。

 

「俺は会ってないから何とも言えないが、その人本当に山口ヨウコ? 俺さ奏ちゃんの助けになるかなって買って来た物があるんだ」

 

 ローテーブルに置いてある本を持ってきて奏ちゃんの前に置く。

 

「これって……人気薄で手に入らないレシピ本じゃないですか……これを私のために?」

 

 本を両手でかかえ抱きしめる奏ちゃんを見て俺は自分の思いと考えを伝える。

 

「何時も一生懸命な奏ちゃんにささやかなプレゼント、俺さそれ以外にも調べたけどさ山口ヨウコの作るケーキにさっき食べた様なケーキの要素は無いと思う、奏ちゃんはファンだからちょっと考えてごらん」

 

 奏ちゃん喉を大きく鳴らすと小さく震えながら俺を見てくる。

 

「うん、確かにこう言うケーキは作らない……それにきっとあんな事は言わないはず……じゃぁ、私は誰に会っていたの……」

 

「あんな事って?」

 

 奏ちゃんは戸惑いを見せたが意を決して口を開く。

 

「友達が私の作るケーキを美味しいと思わないのは私の才能に嫉妬しているって……」

 

 その台詞を着て聞いて思わず天を仰ぎ大きく息を吐き奏ちゃんを見据える。

 

「今の様子だと、響ちゃんにもこのケーキは不評だったんだね、でだ、奏ちゃんはどう思っているの?」

 

「響は……きっと響は、絶対に嫉妬なんかしない! なのに、なのに私は一瞬響を疑ってしまった!」

 

 手で顔を覆い泣き出す奏ちゃん。

 

「響はあんなに私の事を信じてくれて、私の気持ちを汲んでくれているのに、私は、わたしはひびきをしんじることができなかった、うぅ、うぅうぅぅ」

 

 泣きじゃくる奏ちゃんを見てられず一瞬躊躇したが構わず抱きしめる、奏ちゃんは俺の服を掴むと更に大きな声で泣き出した。

 

「大丈夫、大丈夫だから、きっと響ちゃんも分かってくれる、奏ちゃんの親友なのだろう、大丈夫だよ、大丈夫……」

 

 強く抱きしめる、不安な心が俺の中に入り奏ちゃんの心が軽くなればと思いながら、少しづづ泣き声が小さくなり嗚咽に代わっていく。

 

「八雲さん、ありがとう……私八雲さんの前で泣いてばかり……恥ずかしい……」

 

 奏ちゃんは顔を埋めたまま小さく呟く、腕に少し力を入れる。

 

「平気だよ、何時でもおいでって言ったでしょう、辛い時甘えたい時何んとなくでも良い、来たい時においでまっているからね」

 

 腕の中で頷いてから離れ気まずそうにしている奏ちゃん。

 

「うん、ありがとう元気出た」

 

 無理に笑って答える奏ちゃんが痛々しい、言葉を掛けようとしたその時けたたましく呼び鈴が鳴らされた。



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奏と響

 インターフォンで確認すると響ちゃんが両膝に手を置き肩で息をしていた、よほど慌てて来たらしい、奏ちゃんも何となく察したのか表情が強張る。

 

「響ちゃんだ、良いね?」

 

 俺の問いかけに奏ちゃんは小さく頷く、一回深呼吸をしてから玄関に向かいドアを開けると響ちゃんが飛び込んできた。

 

「靴がある! 奏居るんだよね! 奏ぇ!」

 

 靴を放り脱ぐと響ちゃんは脇目も振らずにリビングに向かう、靴をそろえ鍵を掛けると急いでリビングに戻る。

 

 リビングに入ると二人は相対していたが、奏ちゃんは申し訳なさそうに少し顔を背けていた、響ちゃんが一歩近づく。

 

「奏ごめん、奏だけには嘘はつきたくない、でも、あの時の私は考えずに喋ってしまったの、あのケーキを作った奏の努力も思いも分かっていたのに感じたことだけを伝えてしまい奏を傷つけてしまった、私小さいころから奏のケーキ誰よりも食べてるのに、奏のケーキの一番のファンなのに……奏を……奏を傷つけた!」

 

 一気にしゃべると響ちゃんは口を閉ざし奏ちゃんを見つめる、背けた顔を響ちゃんに向けると、おずおずと奏ちゃんが口を開く。

 

「謝るのは私だよ響、響は私の事を思って話してくれたのに、そんな響の言葉を信じる事が出来なかった、私は響が私のケーキのファンだって知っていたはずなのに、私のケーキを一番食べてくれている響の言葉を受け止められなかった! あの日この場所で! 響の事を受け止めるって決めたのに私は! 私は……響を受け止められなかった……」

 

 咽び泣く奏ちゃんを響ちゃんがきつく抱きしめる。

 

「そんな事無い、奏は何時も私を受けてめてくれている、私は奏なら許してくれると思って甘えていたのかもしれない」

 

「違うよ響、それは私も一緒、私もきっと響なら聞いてくれるって」

 

 二人はそのまま声を上げ泣いていた、俺は胸に痛みを覚えながらも涙と共に二人の悲しい思いが全て流れてしまえば良いと思わずにいられなかった。

 

 

 

 

 

「本当に送らないで大丈夫?」

「うん、響と歩いて帰りたいから」

 

 良い笑顔で返事をする奏ちゃん、後ろでは響ちゃんも照れたように笑っている、大いに泣いた二人は思い出話しが弾んで二人で帰る事を決めたようだ。

 

 先に出た響ちゃんは楽しそうに奏ちゃんを呼んでいる、玄関を出た奏ちゃんはこちらを振り向く。

 

「いつもありがとうございます、私八雲さんに出会えて良かったです、それであの……」

 

 言い辛そうにしている奏ちゃん。

 

「さっきも言ったけれど、何時でもおいで理由なんていらないからね」

 

 笑いかけて言うと奏ちゃんは満面の笑みを浮かべ響ちゃんと手を繋いで帰っていった。

 

 

 

 

 

 響と手を繋いで夕暮れの街をのんびりと歩く、こうして響と手を繋いで帰るのは何年振りだろう、繋いだ手から響の体温を感じ私の心は満たされていく。

 

「ねぇ奏、遠回りして帰ろうか」

 

 無邪気に笑う響を見つめると更に心が満たされていくのを感じる、私は少し臆病だったのかもしれないよ響。

 

「うん、いいよ沢山道草しよう」

 

 私も笑って答える、響が強く手を握って来たので私の握り返す、目が合って思わず笑い合った。

 

 思い出すのは幼いころ、何時も二人で遊んでいた、浜辺や公園、近くの森に街の広場、響といれば何時も楽しかったもう離したくない。

 

「ねぇ、何でも話そう、あのころみたいに」

「なんでもって」

 

 唐突な私の提案にきょとんする響。

 

「んーそうだねぇ、響、八雲さんどう思う?」

 

 少し意地悪な質問、でも、響の気持ちが知りたい。

 

「えええぇ!」

 

 狼狽する響がちょっと可愛い、思わず笑みがこぼれる。

 

「そう言う奏はどうなのよ、八雲兄に対して」

 

 ちょっと悪い笑みを浮かべて響がストレートに打ち返してきた、うん、藪蛇しちゃった。

 

「優しいし、ちょっと素敵な頼れる年上の男性かなぁ、響が兄さんって呼ぶの分かるよ」

 

 嘘は付いていないのに胸が疼く。

 

「へへ、そうでしょう、私ね奏と奏太に憧れていたんだ姉弟っていいなって、だから今お兄ちゃんが出来て嬉しい」

 

 笑顔を見せ本当に嬉しそうに話す響を見て私は響が気が付いていない感情に気が付いてしまった、だから今はこの胸の疼きは胸の奥底に押込め厳重に鍵を掛けよう、響がその感情に気が付くまで、そして気が付いたら私は……響ともう一度向き合おう。

 

「そうだ響、明日練習が終わったらスイーツ部に来てとびっきりのイチゴのケーキを焼いて待っているから」

「ホント! 嬉しい奏大好き」

 

 手を離して抱きついてきた響を支えきれずに二人して倒れ込む、先に立ち上がった響が私に手を伸ばしてくるその手を取って立ち上がり私達はまた笑い合った。



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響のケーキ

 私は何時も以上に丁寧な作業を心がけながらケーキを作っていた、もう少したったら響がお腹を空かせてやって来ると思うと自然に鼻歌も出てしまう。

 

「南野さん動きが何時も以上に素晴らしいわ」

 

 聖歌先輩が私の手元を見ながら自分の事の様に嬉しそうに語りかけてくる。

 

「ありがとうございます聖歌先輩、後で部活が終わった響が食べに来るんです」

 

「まあ、それでなのね、南野さん楽しそう、良いわよね誰かのために作るのって楽しいわ、美味しそうに食べる姿を想像すると頑張れるのよね」

 

「はい、そうなんです私今すごく楽しくて、とびきりのケーキを作ろうと思っています」

 

 嬉しそうに頷く聖歌先輩に私も笑い返す。

 

「少し前の二人がウソのよう、でも、これが本当の貴女達なのかしらね、もう手を離しては駄目よ、南野さん美味しいケーキ期待しているわ」

 

 聖歌先輩の言葉に胸が熱くなる、聖歌先輩たとえ響が離すって言っても私は離しません絶対に、だから私の気合のレシピ見ててください。

 

 渾身のケーキが出来あがり私は胸をなでおろす、後は響が美味しく食べてくれれば言う事は無い。

 

「うん、これなら大丈夫、きっと喜んで貰える」

 

「なんなのコレ」

 

 後ろから声を掛けられ振り向くと山口ヨウコが立っていた、八雲さんの昨日の言葉が脳裏をよぎる。

 

「山口さん……いつからここへ?」

 

「そんな事よりこんなケーキじゃコンテストに勝てないわ」

 

 その言葉で八雲さんの言っていた疑問が私の中で確信に変わった。

 

「ケーキの事を分からない友達とは……」

 

「貴女、誰ですか」

 

 自称山口ヨウコの言葉を遮り疑問をぶつける、私の声は思った以上に低く山口ヨウコをひるませた。

 

「私の尊敬する山口ヨウコさんはそんな事言いません絶対に、貴女は何者ですか」

 

 明らかに狼狽する姿を見て私はこんな人の話を信じようとした自分が恥ずかしくなる。

 

「フン、まあいい今日はこのケーキを頂くとするわ」

 

 雰囲気が変わりケーキに手が伸びてくるのを私は寸前で捕まえる。

 

「響のためのケーキを汚い手で触らないで」

 

 思いっきり睨みつけると冷めた目で私を見てくる、一瞬恐怖を感じたが私は手を離さない。

 

「邪魔よ!」

 

 いきなり腕を振るわれ私はその動きについて行けずに尻餅を着いてしまう。

 

「本当はケーキなんてどうでもいい、私が欲しいのは音符だけよ」

 

 いきなり首元が光だし謎の人物を包むと小さい姿に代わっていく、それは見覚えのある猫になるのを確認した瞬間、私はとっさに部員の方を見ると叫んだ。

 

「みんな逃げて!」

 

「みんなしっかりして! 慌てずに急ぎましょう!」

 

 動けないでいた部員達に渇を入れたのは聖歌先輩だった、何時もからは想像も出来ない勢いで部員達をまとめて教室から出て行ってくれた、私はセイレーンを一度睨みつけると先輩達の後を追う様に教室を出る、その直後にネガトーンを呼ぶ叫びが聞こえ教室からは禍々しい光が溢れていた。

 

 

 

 

 

 跳んできたボールを渾身の力で相手コートに打ち返すと相手は一歩も動けずにボールを見送った。

 

「すっごーい響!」

 

「やったー」

 

「流石ぁ!」

 

 周りの声援が嬉しいが私はまだ満足をしていなかった、気合を入れ直し構えると途端に私のお腹が悲鳴を上げた。

 

「あぁ……お腹空いた、早く奏のケーキが食べたい……」

 

 思わず口から洩れてしまう、奏のとびきりのイチゴのケーキ今から楽しみだ。

 

 遠くから騒がしい声が聞こえ耳を澄ますとその声は悲鳴だった。

 

 慌てて声のした方角を見ると土煙が上がっており木々の隙間から逃げ惑う生徒と追いかける白くて丸い物が目に入る。

 

「あれは」

 

「ネガトーンだニャ!」

 

 コートの隅で練習を見ていたハミィが私の肩に乗りながら教えてくれる。

 

「私達も逃げましょう!」

 

 部員達を逃がし後からコートを出てネガトーンの居る所に向かうと奏も丁度こちらに走って来た。

 

「この世界もマイナーランドの様に悲しみに溢れた世界になーれ」

 

 喉の奥で笑いながら楽しそうに木の上で呟くセイレーンを睨みつける。

 

「セイレーン、もうみんなを悲しませるのは止めるニャ」

 

 少し悲しさの混じったハミィの声に気が付き奏がこちらを振り返った。

 

「うっさいハミィとっととメイジャーランドにお帰り!」

 

「セイレーンも一緒に帰るニャ」

 

 まるで遊びにでも行くような気軽さで言うハミィに私と奏は思わず苦笑いをしてしまう。

 

「なんであんたと帰るのよ!」

 

 全身の毛を逆なでながら怒鳴るセイレーンだったがハミィは何時も通り楽しそうで私は何とも言えない気分になる、その間にも生徒を追いかけ回していたネガトーンが木に衝突し物凄い音と衝撃をばら撒いていた。



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猛る八雲

「響に食べて貰う大切な私のケーキを」

 

「奏の気持ちのこもった大切なケーキを」

 

「「みんなを怖がらせる怪物にするなんて!」」

 

「「絶対に許せない!」」

 

 私と奏の怒りが爆発した。

 

「「レッツプレイ! プリキュア! モジュレーション!」」

 

「爪弾くは荒ぶる調べ! キュアメロディ!」

 

「爪弾くはたおやかな調べ! キュアリズム!」

 

「「届け! 二人の組曲! スイートプリキュア!」」

 

 キュアメロディになった私は全身に力を漲らせる。

 

「行こう! リズム!」

 

「オーケーメロディ!」

 

 ネガトーンがイチゴをミサイルの様に打ち出してくる、私達はジャンプして躱しそのまま跳び蹴り入れようとするが、ネガトーンに受け止められてしまう。

 

「捕まった!」

 

 私達は脱出しようとしたがネガトーンは激しく回転し私達を振り回す。

 

「「きゃああぁぁぁぁ」」

 

 放り出された私達は体勢を立て直す暇も無くネガトーンが放ったイチゴのミサイルが迫ってくる、かなりの量が撃ち込まれて土などが舞い散るが私は痛みを感じなかった。

 

 恐る恐る目を空けた私は自分の体を確認すると何の異常もを感じなく、舞っていた土煙が風でゆっくりと流されると頼もしい背中が私達の前に立ちはだかり守ってくれていた。

 

「「獣鬼!」」

 

「すまない、遅くなった大丈夫か」

 

 獣鬼は私達に労わりの声を掛けながらも油断なく構えている。

 

「また、あんたかい!」

 

 セイレーンが獣鬼に叫ぶがそれには取り合わず獣鬼は手に持っていたバチの様な物ををネガトーンに向けた。

 

「俺が来た以上、もうお前達の好きにはさせない!」

 

 

 

 

 

 

 

 メロディ達を襲う大量のイチゴみたいなミサイルを寸前で音撃棒を使い防ぎきり二人の無事を確認して安堵する。

 

「ケーキのネガトーンだと、まさか……リズム!」

 

 ケーキ型のネガトーンに嫌な予感がしてリズムを見ると辛そうな顔をしていた。

 

「あれは響のために作った大切なケーキなの!」

 

 言葉と共に目を伏せるリズムとメロディの悲しそうな表情を見て、俺は自分の中で抑えきれない程の怒りに心が支配される。

 

「ふざけるなあぁ! 人々を不幸にするだけじゃ飽き足らず! 響ちゃんと奏ちゃんまで悲しませるなんて! 覚悟はしているんだろうな!」

 

 瞬間的に間合いを詰め左ひざ蹴りを入れそのまま右足で蹴りあげ上空に舞い上げる、それを追う様に高くジャンプしネガトーンを追い越し上から音撃棒を叩きつけ地上に落下させる。

 

 ネガトーンに向かって落ちながら音撃鼓・火炎鼓をネガトーンに叩き込み音撃棒で連続で叩き清めの音を流し込む。

 

 打ち込むたびに巨大な音と地面が震え俺の怒りが現れているようだった、清めの音を打ち込みながらも頭の中はメロディとリズムの悲しそうな顔で一杯になっており俺は更に打ち込みの速度を上げた。

 

 清めの音で弱り切っているネガトーンに対しとどめの一撃と言わんばかりに両手を振り上げる。

 

「音撃打! 一気火勢!」

 

 清めの音で浄化されネガトーンは元のケーキと音符に戻ったが奏ちゃんの大切なケーキは崩れてしまっていた。

 

 ゆっくりと降りて来たケーキを受け止め怒りで我を忘れかけた事を激しく後悔しながら二人の元に向かう、一言言わなくてはと思い頭の変身だけ解くと二人は驚きの声を上げる。

 

「獣鬼って頭だけ変身解けるの!?」

 

「髪も瞳の色も違って別人みたい!」

 

 二人掛りで食い入るように見つめてくる、その態度に少しこそばゆさも感じるが、俺は罪悪感に押し潰されそうだった。

 

「奏ちゃん、響ちゃんごめん、大切なケーキをこんな事にしてしまって」

 

 二人は少しに間呆気に取られるがすぐに笑いかけてくる。

 

「そんな事無いよ、八雲さんが本気で怒ってくれて私嬉しかったよ」

 

「奏の言う通りだよ、ありがとう大切な奏のケーキを取り戻してくれて」

 

 優しい言葉が胸に沁み込み俺の心を少しだけ軽くする。

 

「八雲兄かっこよかったよ、今のその髪と瞳の色も似合っているね、おでこに角が二本生えているんだ、それだけ変わっていると、もうばれないからさこれからは顔は出そうよ」

 

 響ちゃんに言われ角を触りながら髪を少し引っ張り視界に入れると、そこには地毛の青銀色の髪ではなく光加減でマゼンダにも金色にも見えるマジョーラトラペジウムになっていた。

 

「うん、私もその方が良いな、髪の色、私とメロディを足したみたい、銀色の瞳も綺麗だったけれど今は虹色に輝いているね確かアースアイって言ったよね」

 

 奏ちゃんも好奇心の塊の様に瞳を覗いている、そんな中響ちゃんが何かを思いついたように声を上げる。

 

「あのさ八雲兄、今から奏と八雲兄の家に行っても良い?」

 

 変身を解きながら響ちゃんは楽しそうに提案してくる、俺と奏ちゃんも変身を解くと奏ちゃんは俺からケーキと受け取ると、響ちゃんと二人で準備しに行ってしまった。



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奏のケーキ

 家に着くなり響ちゃんは、ハーブティーをねだって来たので急いでキッチンに入り、作業を始めた。

 

 響ちゃんがカウンターに置いてある椅子に座って来ると、ハミィとフェアリートーンもそれにならうかの様にカウンターに上がる。

 

「八雲兄、少し良いかな?」

 

 俺はついに来たかと覚悟を決め、分からない様に小さく溜め息を吐く、ダイニングテーブルにケーキの箱を置いた奏ちゃんも響ちゃんの隣に座って来た。

 

「八雲兄ってさ、良く正面から戦うこと多いけど、何で足を止めて戦うの?」

 

 予想外の質問で少々驚くが自分の考えを話す。

 

「足を止めて打ち合いをするのは、敵の行動を制限出来るし周りに被害を出し辛い事と、何よりその隙に二人が攻撃が可能だからね」

 

 二人は顔を見合わせて驚く。

 

「八雲兄は私達の為に正面から戦ってくれていたの」

 

「八雲さんありがとう、でも私達の為に無理はしないで」

 

 二人の優しさが嬉しい、でも俺は彼女達の為ならこの身を犠牲にしても構わない。

 

「八雲兄?」

 

「なんだい、響ちゃん」

 

 俺の考えに気が付いたのか、響ちゃんが咎める様な目で見てくる、ひとつ溜め息を吐くと響ちゃんは身を乗り出してくる。

 

「戦いの時に使っていたあの武器は何?」

 

「あれは『音撃棒・烈火』って言って右手のが『阿』左手が『吽』でネガトーンくっつけたのが『音撃鼓・火炎鼓』あれを叩いて直接清めの音を流し込むんだ」

 

 響ちゃんの質問に答えると二人は驚いていた。

 

「じゃあ、八雲さんも私達みたいに音楽を司る伝説の戦士なの?」

 

 奏ちゃんの質問に思わず後頭部を掻く。

 

「司ると言うより「音で攻撃する」が正しいかな、それに俺は伝説の戦士じゃないよ音撃戦鬼だ、鬼だよ鬼、鬼人なんだ……角も、見たでしょう」

 

 最後の方は少し破れかぶれだった、胸が酷く傷む。

 

「「じゃぁ、良い鬼なんだ」」

 

「ハモッたニャ!」

 

 常にぶれないハミィとカウンターで遊んでいるフェアリートーン達のマイペースに少し救われる。

 

「良い鬼か……そうでありたいなぁ……」

 

「八雲兄が間違った方向に行ったら、私と奏で引きとめるから!」

 

 俺の小さな呟きに、響ちゃんは少し大きな声で返事をし、まるで応援してくれているかのようだった。

 

「響の言う通り、私達にドーンと任せて下さい!」

 

 奏ちゃんも胸を反らし、ふんすと鼻息を荒くする。

 

「なあ、二人とも怖くないのか……?」

 

 俺の言葉に二人は顔を見合わせる。

 

「え? なんで?」

 

「何でって響ちゃん……鬼だよ、俺」

 

 自分を指さしながら答えると、奏ちゃんが少し身を乗り出してくる。

 

「八雲さんって人襲うんですか?」

 

「え、いや、襲わないけど」

 

 軽く首を傾げて否定すると二人はうなずき合う。

 

「なら、怖がる理由が無いです」

 

「八雲兄は八雲兄だしね」

 

 あっさりと受け入れている二人に驚いていると、奏ちゃんが何かを思い出したように小さく声を上げた。

 

「私からもひとつ良いですか?」

 

 二人の前にハーブティーを置き、何時もの様にハミィにはミルク、フェアリートーン達にはグレープジュースを用意し、奏ちゃんに向かって頷いて見せる。

 

「結構早く助けに来てくれたけど、近くに居たんですか?」

 

 奏ちゃんからも予想外の事を聴かれ一瞬思考が止まる、だが良い機会と思いある物を見せる事にし少し待つ様に伝えそれを取りに行く。

 

 銀色のディスクを二枚ほど持ってきて二人の間に置くと、二人は一枚ずつ手に取り眺めている。

 

「何これ?」

 

「何かのディスクですか?」

 

 二人の疑問ももっともだし、少し驚くかなと思いながらも説明はしないで『音角』を近づけ指で弾く。

 

 響ちゃんの持っていた物は茜色に変わると同時に鳥の姿になり、奏ちゃんの持っていた物は瑠璃色の狼へと変わる。

 

「「可愛い! これ欲しい!」」

 

 手の中で変わった『ディスクアニマル』を撫でまわす二人を見て、女の子の可愛いは少し不思議だな、などと思いながらも話を進める。

 

「そいつの名前は『ディスクアニマル』で響ちゃんが持っているのが『茜鷹』、奏ちゃんのが『瑠璃狼』って言うんだ他にも種類はあるんだけど音符集めとかに使っているよ」

 

「ね、ね、他の種類って!」

 

 目を輝かせてカウンター越しに顔を近づける響ちゃんと奏ちゃんに少し驚く。

 

「後は、サルとかカニとか色々ね全部俺が使役している音式神になるんだ」

 

「色々な種類があるんですね」

 

「へぇ、君茜鷹って言うんだ、私響、よろしくね」

 

 挨拶をする隣では奏ちゃんが自分の鼻を瑠璃狼の鼻にくっつけて遊んでいる、微笑ましく思いながらも二人に断ってから部屋に忘れた道具を取りに戻る。

 

 持って来たディスクアニマル用のホルダーと起動用の『音角』を二人の前に並べて置く。

 

「え、八雲さんこれって変身のためのアイテムじゃ……」

 

 戸惑う奏ちゃんの横で響ちゃんは『音角』を展開させると早速鳴らし額の前にかざす。

 

「八雲兄! 変身しない!」

 

「響、それはないよ」

 

「響ちゃんは鬼じゃないから」

 

 奏ちゃんと同時に突っ込むと響ちゃんは「つまらない」と言って口を尖らせていた。

 

「そいつの近くで音叉を叩くとオンとオフで言葉は理解するから可能な限り命令には従うよ、後録音もできるから後でやり方を教えるけど悪戯に使わない様に、俺には分かるからね」

 

「ありがとう! 八雲兄大切にするね!」

 

「わぁ、ありがとうございます、奏だよ『瑠璃』よろしくね」

 

 すぐさま名前を付けた奏ちゃんに驚いていると響ちゃんが少し考えている。

 

「うん、じゃあ君は『アカネ』だね、かわいいー」

 

 ひねりの無い名前に笑いをこらえながらも『ディスクアニマル』の説明をし終わると響ちゃんが大きな声を上げた。

 

「奏のケーキ食べなきゃ!」

 

 ダイニングテーブルに置いてあるケーキを持ってくると箱から出す、出されたケーキは無残にも崩れているが響ちゃんはフォークを欲しがるので手渡す。

 

「響こんなの食べなくて良いよ」

 

「いっただっきまーす」

 

 止める奏ちゃんに構わずにケーキを一口食べると響ちゃんは嬉しそうに答える。

 

「なんで、すっごく美味しいよ!」

 

 響ちゃんは一口分すくい取るとその先を俺に向ける。

 

「はい、八雲兄にもおすそわけ、食べて」

 

 差し出されたケーキを見て一瞬考えるが、響ちゃんが早くとせがむので、覚悟を決めケーキを食べると、程よい甘さとふんわりとした食感で優し気分になる。

 

「あぁ……美味しい」

 

 言葉と笑みが自然に漏れる、俺の言葉に頷くと更にケーキをすくい奏ちゃんにフォークを差し出す。

 

「ほら、奏も食べてみなよ」

 

 響ちゃんを止めようとしたが、奏ちゃんは躊躇しながらもケーキを食べると口元がほころぶ。

 

「美味しい……」

 

 照れ笑いをしていた奏ちゃんが、気が付いてしまい石の様に固まっていた。

 

「八雲兄もう一口どうぞ」

 

 楽しそうにフォークにケーキを乗せ口元に持ってきてくれたので、断ろうとしたが響ちゃんの笑顔に負けそのまま食べると、奏ちゃんが小さく声を上げ顔を赤くしていた。

 

「奏どうしたの?」

 

 何も気が付いていない響ちゃんは、声も掛けながらもケーキを食べる手を止めない、それを見てますます赤くなる奏ちゃん。

 

「おかわり!」

 

 響ちゃんの言葉に一気に冷静になる奏ちゃん。

 

「おかわりないよ響、それに食べすぎなのよ」

 

「だってしょうがないじゃない、奏のケーキ大好きなんだもん」

 

 満面の笑みで答える響ちゃんに奏ちゃんは一瞬戸惑うがすぐに笑顔になる。

 

「ま、まぁね、当然よ……ありがとう響」




第4話終了となります、お読み頂きありがとうございます。

宜しければ第5話もお付き合い頂ければ幸いです。

第5話 二人の戦い 第1節 戦う以外の理由でね
よろしくお願い致します。


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if 晴れのち曇り もうひとつの可能性

エープリルフールですね。
という訳で、晴れのち曇りの別バージョンです。

晴れのち曇りの最後の方からの続きになります。

男女間の話となります、苦手な方はお避け下さい。




 私は自宅に帰りケーキを焼き直してあの人の所に向かう、何時も優しく笑いかけてくれるあの人の所へ、きっと分かってくれる褒めて貰えるそう信じて進む足が速くなる。

 

「八雲さん……八雲さん……八雲さん……」

 

 何時からだろうこんなにも胸が疼いていたのは、こんなにも愛おしい気持ちになったのは、初めてお店に来た時に見せてくれた笑顔? 笑いながら自己紹介した時? 一緒に戦う様になった時? 分からないよ、何時からあの人が気になっているのが分らないよ。

 

「ねぇ響、何度聞いても付き合ってないって言ったよね……なら、私が八雲さんの隣に立っても良いよね……ねぇ……響……」

 

 口から出た言葉の恐ろしさのあまりに足が止まる、頭を振って追いだそうとしたけれど……響……私、無理かもしれない……

 

 大きく深呼吸をして空を見上げると、分厚く真っ黒な雲が大空を支配していた……

 

 

 

 訪ねて来た奏ちゃん迎え入れるべく玄関を開けると酷い顔色をした奏ちゃんが立っていた。

 

「何があったの奏ちゃん、取りあえず中に寒かっただろう」

 

 奏ちゃんがダイニングの椅子に座ったので何か温かい物をと考え用意を始める。

 

「奏ちゃんお待たせ、どうぞ」

 

「ありがとうございます……」

 

 奏ちゃんはマグカップを両手で持つと何度か息を吹きかけ少しずつ飲み出す。

 

「美味しい……ココアなんて久しぶり……」

 

「うん、良かった……」

 

 奏ちゃんの呟きに答えたものの、俺は何となく座る気に成れず、やや離れた壁に寄り掛かり奏ちゃんと同じくココアを飲む。

 

 奏ちゃんは机の上に置いたカップを見たまま何も話そうとしない、テーブルの上に置いてあるケーキの箱を見て奏ちゃんを盗み見ると奏ちゃんは重苦しい雰囲気を出しながら俯いていた。

 

「……何も聞かないんですか」

 

「無理に話さないで良いよ、奏ちゃんが話せるまでいくらでも待つから」

 

 奏ちゃんが一度体を震わせ俺を凝視する。

 

「ずっと話さないかも知れませんよ……」

 

「かまわないさ、時間はいくらでもあるよ」

 

 椅子から立ち上がりゆっくりと近づいてくる奏ちゃん。

 

「ねぇ、八雲さん、八雲さんは誰にでも優しいの? …………ごめんなさい嫌な事聞いて、分かっているのにね……」

 

 真っ直ぐに見つめてくる奏ちゃんは俺の頬に手を伸ばし触って来る。

 

「……誰にでもじゃ無い」

 

「え……」

 

「俺が気に掛けているのは、奏ちゃんと響ちゃん、後は先生のお孫さんだ」

 

「……ねぇ、ウソでも良いの私だけって言ってくれる?」

 

 手を放し少し悲しそうに笑う奏ちゃん。

 

「…………」

 

「変な事言ってごめんなさい、私八雲さんに嫌われちゃうね」

 

 何も答えなかった俺に対して奏ちゃんは何とも言えない表情を作る。

 

「そんな事で嫌わないよ、何があっても嫌いになんかならない」

 

「八雲さん、ありがとう、嬉しい…………あのね、八雲さん、私ね……八雲さんが好き……」

 

「奏ちゃん……」

 

 奏ちゃんの告白、嬉しいけれど受け入れられない思い、受け入れてはいけない思い、でも、本当は……言葉が詰まる。

 

「迷惑だよね……」

 

 何か言わないと、と思いながらも言葉が出てこない。

 

「困った顔しないで、私ね、八雲さんが鬼にでも構わないの、八雲さんだから……貴方だから好きになったの」

 

「俺はてっきり、奏ちゃんは王子君が好きなんじゃないかと……」

 

 最低だ、最低の質問だ、それを聞いて俺はどうするのだろうか。

 

「私ね、気が付いちゃったの、憧れと好きは違うって八雲さんのせいだよ」

 

 物哀しそうに笑う奏ちゃんを衝動的に抱きしめる。

 

「ごめん、奏ちゃん最低な事聞いた……」

 

「ううん、良いの聞かれて当然だもの……」

 

「俺は奏ちゃんに何も話をしていないし、話をして良いのかも分からないでいる、そんな俺に人を愛する資格があるか分らない、幸せにも出来るかも分からない……」

 

 俺の腕の中で首を振る奏ちゃん、顔を俺の胸に押しつけ小さい声で話しだす。

 

「過去の八雲さんだって八雲さんだよ、人を好きになるのに資格なんて要らないよ、それに私は八雲さんが居てくれるだけで幸せだよ」

 

「ありがとう奏ちゃん、でも俺はね……独占欲が強いんだ、自分でも呆れるほどに…………」

 

「ううん、きっと私の方が強いと思いますよ」

 

 背中に手をまわしてくる奏ちゃん、こちらを見上げ微笑むと潤んでいた瞳を閉じる奏ちゃん、ゆっくりと唇を重ねる。

 

「奏……」

 

「八雲さん……」

 

 奏を抱きかかえると寝室に連れて行く、奏は頬を染め潤んだままの瞳で俺を見上げていた、俺は自分の欲望のままに奏の全てを奪った。

 

 

 

 夕方覚めると隣には小さく寝息を立てている奏が居る、奏の頬に掛かっている髪を指先で退ける指先に触れる温かい感触、愛おしさが溢れてくる。

 

「ん……ぁ……八雲さん……」

 

「おはよう、奏」

 

 目の覚めた奏を引き寄せて抱きしめる、鼻腔をくすぐる奏の甘い匂い、深く呼吸をして奏を楽しむ。

 

「八雲さん、恥ずかしいよ」

 

 頬を染めて奏が顔を上げて抗議するがその唇を奪う。

 

「ん、んん」

 

 唇を離すと2人の間を銀色の糸が引く、頬を染めた奏と目が合う。

 

「奏、順番を間違えたけどさ、俺と付き合って欲しい」

 

「はい……八雲さん、大好き……」

 

「大切にするよ奏、愛している」

 

 はにかむ奏が可愛くてまた抱きしめてキスする、布団の中で何時までもまどろんでいたいが流石にベッドから出る事にする。

 

「そろそろ起きようか、シャワー浴びたいでしょう」

 

 何気なく布団を捲るとシーツについている奏の初めての後、嬉しいやら申し訳ないやらで思わず抱きしめた。

 

「や、八雲さん?」

 

「奏、体辛かったらちゃんと言ってくれよ、じゃないと俺歯止めが利かないと思う……」

 

「大丈夫、八雲さんシャワー借りるね」

 

 奏はバスタオルを体に巻きクスリと笑うと、楽しそうに浴室に向かう、その少しだけ見える白い背中に今更ながらに実感が湧いてくる。

 

 

 

 奏の後にシャワーを浴び、2人でコーヒーを飲みながら今まで経験した事の無い穏やかな気持ちに浸っていると、奏が何かを思い出したのか身を乗り出してくる。

 

「八雲さん、見えない所だけど一杯印つけたね、驚いちゃった」

 

「ごめん、つい夢中で……」

 

 少し前の自分を思い出し頭を抱えてくなる。

 

「私も無かったけれど、あんなに余裕の無い八雲さんって初めて、一杯名前呼んでくれたし、なんかすごい必死で嬉しかった」

 

 俺を見てクスクス笑う奏は悪戯の成功した子供の様だった。

 

「何と言うか、今まで抑えていた物が一気に噴き出した、それにあんなに綺麗な奏を前にして冷静でいられる訳ないだろう……」

 

 話しているうちに恥ずかしくなり、最後の方は声が小さくなる、自分の自制心の無さに呆れているそんな俺を、奏は機嫌良く眺めており女性としての強さを痛感させられる。

 

「奏のご両親にちゃんと挨拶しないとね」

 

 俺の言葉に奏は目を丸くする。

 

「パパとママに挨拶……ですか?」

 

「うん、付き合う事を話さないといけないからね」

 

 奏は口を手で覆い驚いていた。

 

「うん……八雲さんありがとう、お願いします」

 

 奏は緊張からか少し無理して笑っているのが分る、奏に近づき頬に手を当て顔を上げると軽くキスをする。

 

 恥ずかしがっている奏の手を引くと、俺達は奏の家に向かった。




if話終了となります。
お読み頂きありがとうございます。

楽しんで頂ければ幸いです。



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第5話 二人の戦い
戦う以外の理由でね


 浜辺でクラゲのネガトーンと対峙しているが、どうにも連携がうまくいかない。

 

「メロディ! 避けろ!」

 

 大きな声で叫ぶと間一髪でメロディが躱すが別の触手がリズムに迫る、寸前で間に入り音撃棒で打ち払う。

 

「獣鬼ありがとう」

 

 一言いい浜辺を駆けて行くリズム、それに合わせる様にメロディも走り出し、同時に攻撃しようとしたが避けられてしまい二人は衝突する。

 

「「いったーい」」

 

「もう、行くよリズム!」

 

 大きく飛んで距離を取ったネガトーンに対し、鼻の頭を赤くしたメロディが、同じように鼻の頭を赤くしているリズムに合図を出す。

 

「お、オッケー、メロディ」

 

 二人は手を打ち合いステップを刻む。

 

「「プリキュア・パッショナートハーモニー!」」

 

 向けられた拳からは浄化の光は出されず二人はパニックを起こす。

 

「えっおかしいな」

 

「なんで技が出せないのかしら」

 

 ネガトーンの意識が二人に向いている隙を付き、俺はネガトーンの頭に取り付き音撃鼓を叩き付け、音撃棒で一気に清めの音を流し込む。

 

「音撃打! 火炎連打!」

 

 クラゲを覆っていた不吉な音が四散し元の姿に戻ると、ハミィがすかさず音符をフェアリートーンに入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わり日が傾き出す中、ハミィは岩の上に立ち二人に説教をしている。

 

「二人に足りないのは、ハーモニーパワーニャ!」

 

「ハーモニーパワー?」

 

 奏ちゃんは戸惑いの声を上げる。

 

「って、なに?」

 

 響ちゃんは眉間にしわを寄せ手を腰に当てている。

 

「よくぞ聞いてくれたニャ! ハーモニーパワーとはつまり」

 

「「「つまり?」」」

 

 俺達三人の声がハモッたが、珍しくハミィからの突っ込みは無くドヤ顔で説明を続ける。

 

「ハーモニーのパワーニャ!」

 

 身も蓋も無い言い方に俺達はずっこけるが、ハミィは満足しているようだ。

 

「その儘だ!」

 

「そのままじゃん!」

 

 呆れながら思わず突っ込みを入れる俺と響ちゃん、奏ちゃんは隣で茫然と立ち尽くしていた、俺達の様子を見たハミィは慌てて言葉を付け加える。

 

「つまり、お互いを信じ心を合わせる力ニャ! ハーモニーパワーを高めるには音楽の練習が一番ニャ、二人で一つの曲を演奏するニャ」

 

「「二人で一つの曲を……」」

 

 響ちゃんと奏ちゃんは同時に呟くと、お互いに見つめ合った。

 

 

 

 

 

 

 

 海が夕日に照らされ美しい茜色に染まる中、俺達は自宅へと向かう。

 

「ごめんね、響のスピードについて行けなくて……」

 

 俯きながら奏ちゃんが響ちゃんに伝え、肩にかけているスクールバックの持ち手を強く握った。

 

「私こそごめん、焦り過ぎたのかもしれない……」

 

 響ちゃんは奏ちゃんにぼやく様に答える。

 

 手を後頭部で組んでいた響ちゃんはクルリこちらを振り返るとその動きに合わせ制服のスカートが綺麗にひるがえった。

 

「八雲兄もありがとう、倒してくれて」

 

「頼りすぎちゃうよね私達、八雲さんに……」

 

 自分自身を責め続けている二人を見ていられなくなる。

 

「一緒に戦っているんだから大丈夫だよ、俺だって二人を頼りにしているんだし、それに俺達はチームなんだろう?」

 

 笑いかけると、二人が顔を見合わせ照れ笑いをし、響ちゃんは「チーム……」と嬉しそうに口ごもる。

 

「さっきのハミィの話ではないが、二人で一緒に何かをするのも良いかもな」

 

 考え込む二人、しばらく経ち奏ちゃんが響ちゃんに向き直る。

 

「響やろうよ、昔みたいに二人でピアノを弾いて……」

 

「えー、なんかヤダ」

 

 取り付く島も無く不満の声を上げる響ちゃん、奏ちゃんは悲しそうに響ちゃんに目線を向けた。

 

「ごめん、ピアノの練習が嫌な訳じゃないの、そういう理由で奏とピアノを弾くのは少し嫌だなって思っちゃって……」

 

 響ちゃんの言葉に奏ちゃんは嬉しそうに笑う。

 

「うん、そうだよね、私もプリキュアとか抜きで響とピアノを弾きたい、昔みたいに楽しく演奏したい」

 

 奏ちゃんのストレートな言い方に、照れを隠す様に鼻の頭を掻く響ちゃん。

 

「私、部活の助っ人で忙しいし、夜はご飯食べたらすぐに寝ちゃうからあんまり時間取れないけど良い?」

 

「私もスイーツ部と家の手伝いあるし、時間あまり取れないからその辺は相談しながら、ね」

 

 会話を聞きながら機嫌が良いんだろう、ハミィの尻尾はピンと立っており足取りは軽やかだ、そんなみんなの姿を後ろで見ながらこの時間が続いていけばと、思いながらも何故か胸の奥が痛かった。



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響の悩みとパイプオルガン

 学校に向かう足取りが重い、ママが変な事言うからだ、この間奏にどう思っているのって聞かれた時に、胸がちょっと疼いていたのも本当だけど……ママの言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

「奏ちゃんとよく会っているんだって? また昔みたいな仲良しにもどったのねぇ、それに聞いたよぉ最近親しくしている男性が居るんですって? 

 ママも会ってみたいわ、響ももうそんな年になるのね、帰国した時の楽しみがひとつ増えたわ、ちゃんとママにも紹介しなさいよ響。

 それとママの知り合いのテレビ局の人が……」

 

 

 

 

 

 ママの言葉がグルグルと頭を回り頬の辺りが熱くなる、火照った頬を両手で押さえる。

 

「八雲兄か……奏はどうなんだろう……素敵だし頼れるって、憧れ? それとも好き? 奏が好きって言ったら私はどうするんだろう……分かんないよそんな事……」

 

 思わず口に出してしまい慌てて周りを伺うが、幸い誰も居なかったので私は胸をなでおろした。

 

「今は目先のテレビ局の事か、私と奏でレポーター……出来るのかな……失敗したらママに恥をかかせちゃうのかな、そんなのは嫌だ」

 

 私は自分を誤魔化す様に気合を入れ直すと、足早に学校に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「「失礼しました」」

 

 奏と一緒に校長室を出て、渡り廊下を歩き教室に向かう。

 

「奏ごめんね、ママが勝手にテレビ局の人に紹介しちゃってさ、断っても良かったんだよ」

 

「でも響、一人じゃ心細いでしょう?」

 

 奏の思いが嬉しい、私はちゃんと奏にお返し出来ているのかな不安になるよ。

 

「確かに、奏が一緒なら心強いけど、でもさぁ……」

 

 奏が手を握って来る、柔らかい感触と体温を感じて私は言葉が出せなくなった。

 

「二人で頑張ろうね、この話はおしまい! 今日の夕方私時間が作れそうだけど、響は暇かな、暇だったら一度ピアノを弾きたいなって」

 

「今日は何もないよ、うん、約束したしやろう」

 

 繋いだ手に力を込める、私達はそのまま無言で教室まで向かう、私は口に出さなくても気持ちは通じると改めて感じ、歩くだけで綺麗になびく奏の髪の動きを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「先生、確認をお願いします」

 

 言葉と共に調整したパイプを渡す、先生が確認する姿を緊張して見守る。

 

「少しズレとる」

 

 差し戻されたパイプを受け取り、確認しながら再調整を開始する。

 

「のお八雲、お前さんが手伝ってくれるのはありがたいんじゃが、その『先生』はどうにかならんじゃろうか」

 

 作業をしつつ渋い顔で話してくる先生の言葉に少し思案する。

 

「色々と教わっていますし尊敬もしています、で、師匠と先生どっちが好みですか?」

 

「譲る気は無いのかお前さんは……」

 

 大きな溜め息を吐き何かを喋ろうとしたその時。

 

「おーい、おっときっちさーん、ピアノ借りるよー」

 

「ちょっと響、ちゃんとして、作業中すいません音吉さん、ピアノの練習したいんでお借りしますね」

 

 元気の良い響ちゃんの声と、やや呆れた感じ奏ちゃんの声が聞こえてた。

 

 そんな二人に先生は「いちいち断らんでええ」と気安く声を掛けている。

 

「二人とも頑張れよー」

 

 手すりの影に居たので、顔だけ出し二人に声を掛けると驚いた顔をしていた。

 

「八雲兄? 何してんの?」

 

「先生の手伝い、この前響ちゃんのお父さんが話していたでしょう、パイプオルガンの修理だよ」

 

 俺の言葉に奏ちゃんが小首をかしげる。

 

「音吉さんの事『先生』って呼んでいるんですか?」

 

「今、音吉さんを師事しているからね」

 

 先生は少し顔をしかめていたが、奏ちゃんは俺の答えに何故かやたらと関心をしていた。

 

『調べの館』の中を二人の連弾の旋律が優しく流れる、心なしか先生の表情も穏やかに成っている。

 

「少しズレとるな、だが丁寧に弾いておる」

 

「心地いい音です、優しい気分になります」

 

 俺と先生はしばらくの間、作業の手を止め二人のピアノに耳を傾けていた。



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二人の勝利

本日二度目の投稿となります。

宜しければお付き合い下さい。




 撮影をしている中央広場に向かっている、本当なら最初から行けたが思うところもありわざと遅く向かう、現場に着くとちょうど響ちゃんがストリートミュージシャンの紹介をしている。

 

 風船を配っているピエロなども紹介して上手い事やっているみたいで安心していたが、行きつけ(ミートデリカ)の肉屋(モーモー)のおかみさんが結成している音楽隊に突撃してしまいスタッフが慌てていた時に、奏ちゃんが上手くフォローしていた。

 

 音楽王子隊のインタビューの時しどろもどろに成っていた奏ちゃんに、響ちゃんが近寄り何かしたらしく、奏ちゃんはいきなり落ち着きを取り戻し、無事にインタビューを無事に済ませる。

 

 撮影がひと段落した時に近くで見ていた女の子が、ピエロに貰った風船を離してしまい空を見上げそれに気が付いた響ちゃんが、ジャンプをして取ろうとしたが届かなかったのを、奏ちゃんが確認するとすばやく腰を屈め手を組み、響ちゃんはその手を踏み台に高くジャンプしギリギリのところで風船を掴み綺麗に着地し風船を女の子に渡す、顔を見合わせた二人は自然と良い笑顔をしていて周りを和ませている。

 

 しっかりと勤めを果たす二人に安心し、何がご褒美をあげたくなりその場を離れる、しばらく歩くと現場が変に騒がしく遠目で見るとセイレーンがネガトーンを呼び出したところだった。

 

 現場に向かい、二人に気が付かれない様に建物の影に隠れ戦いを見守る、一進一退の攻防が続く。

 

「おまえさんは助けに行かんのかね?」

 

 後ろから掛けられた声に振り向くと、そのには先生が俺を値踏みするように立っていた。

 

「行かんのかと聞いておるんじゃが?」

 

 俺が返事をためらってしまったので、咳ばらいをしながらもう一度聞いてくる先生。

 

「いつも自分が居るとは限りませんし、それに何より自分はプリキュアではありません、これから先の為に二人で戦う事も必要になるでしょう、二人きりと言うのも大切と思っています、むろん危険が迫ればすぐに介入します」

 

 先生の目を正面に捕えはっきりと自分の考えを述べる。

 

「彼女達を信じとる訳じゃな、確かにそういう機会も必要じゃが、おまえさん……いや、何でもない」

 

 あえて追求はせず、二人の戦いを見守りながらも会話は続く。

 

「最近、お嬢さんが思いつめている事が多く感じます、一度国に帰らせたら……いえ忘れて下さい、自分も可能な限り気にかける様にしますが……」

 

「やはりそう思うか……すまんが頼む、あの子は辛さをあまり表に出さん、自分の中にため込んでしまう、それが心配じゃ……」

 

 先生の小さなため息が聞こえる、あれだけ可愛がっているんだ心配だろう、俺も出来るだけの事はしようと改めて心に誓った。

 

「先生……自分は彼の人も救うつもりです、たとえ彼女たちの信頼を裏切る事になったとしても、それがお嬢さんと重圧に耐えている先生の娘さんの幸せに繋がると信じています、だからどんなに細い糸でも掴んで見せます」

 

「おまえさんは思ったより欲張りじゃな……だが可能ならで良い、あやつの事も頼む……」

 

「はい、彼の事はお任せ下さい……」

 

 口の中だけで「この身に変えても」と呟いた時に戦いに動きがあった、大きく飛んだネガトーンをジャンプで追うが高さが足りず空中で動きが止まった時に攻撃を受け地上に墜落してしまう、二人は背中を強く打ってしまい苦しんでいる、反射的に出そうになる足を強引に止め大きく息を吐く。

 

 ネガトーンが迫る中、二人は体勢を整えるとメロディがネガトーンの足元に攻撃を仕掛けジャンプを誘発すると身をひるがえしてリズムへと駆けよる、先ほどの風船と同じ要領で高く飛ぶとそのまま一回転してかかと落としを決める、その姿を見た瞬間に俺は勝利を確信してその場を離れ出す。

 

「最後まで見ていかんのかね?」

 

「はい、彼女達……プリキュアの勝利です」

 

 それだけ伝えると振り返らずに歩いて行く、後ろで巨大な光が爆発したのを感じながら。



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足並みそろえて

最近はコロナの騒ぎが大きくなっていますが、皆様如何お過ごしですか?
色々と大変ですが、ご自愛下さい。

今回は全体的に短くなりました。



 二人の連弾を壁に寄りかかりながら聴いている、一曲終わった時に奏ちゃんが申し訳なさそうに響ちゃんに声をかける。

 

「ごめん響、ちょっとだけペース落として貰っても良い?」

 

 その言葉に響ちゃんは鼻の頭を掻きながら申し訳なさそうにしていた。

 

「ノッて来ると私ペース上がっちゃうからなぁ……頑張って抑えるけど奏も少し上げてね」

 

「うん、がんばるよ、もう一度最初からやろう」

 

 楽譜を確認しながら奏ちゃんが声をかけているが、何かを思い出したのか響ちゃんに体ごと向く。

 

「この間から気になっていたんだけれど、響ピアノの腕落ちてないね、ううん、むしろ昔よりいい感じがする」

 

 響ちゃんは、奏ちゃんの言葉に対して誤魔化す様な笑みを浮かべると、「さぁ、練習練習」と話題をずらそうとする。

 

「ちょっと待った、詳しく話して貰おうかしらね、響」

 

 力強く響ちゃんの肩を掴み絶対に引かないと言わんばかりの奏ちゃんの態度に、響ちゃんは笑みは引きつっていた。

 

「その……ちょっと前から八雲兄に私のピアノ聴きたいって言われて、たまに……弾いていたの……」

 

 人差し指同士をくっ付けて恥ずかしそうに話す響ちゃんを見ていた奏ちゃんは、ゆっくりと俺の方を振り向くとちょっと怒っていた。

 

「八雲さん、話をして貰いたかったと思うのは私の我がままでしょうか?」

 

 奏ちゃんの笑顔が黒く見え取りあえず笑って誤魔化そうとする。

 

「あー、その、何て言うか……ごめん」

 

 俺の答えに顔を背けた奏ちゃんの肩が小さく震え出し、しまいには声を上げて笑い出す。

 

「あははは、ウソですよ八雲さん、話して欲しかったのはありますけど、ありがとうございます、響をピアノの前に導いてくれて嬉しいです、響おめでとう、またピアノにちゃんと向かい合える様になって、五年前から私の心に刺さっていた棘だったから……」

 

 奏ちゃんは響ちゃんの方に向き直すとその手を取る。

 

「本当におめでとう響、私嬉しい」

 

 照れ笑いをしていた響ちゃんは空いている腕で奏ちゃんに抱きつく。

 

「ありがとう奏、ちゃんと教えないでごめん」

 

 繋いだ手を離し奏ちゃんも腕を回す。

 

「大丈夫だよ、今教えて貰ったし話し辛かったんでしょう気にしないで」

 

 二人のお互いを思いやるやり取りに心が温かくなる。

 

「さぁ、響もう一回弾こうよ」

 

 体を離しながら奏ちゃんが気合を入れ直す。

 

「それより先にピザ食べようよぉ、せっかく八雲兄が買って来てくれたのに冷めちゃうよぉ」

 

 響ちゃんがお腹を摩りながらもう限界と言わんばかりに泣きごとを言う。

 

「ダーメ、あと一回弾くまでは、私だって食べたいの我慢してんだから!」

 

「奏のいじわるぅー」

 

「問答無用! 意地悪でもいからもう一度! 練習あるのみ! ほらさっさと始める!」

 

 響ちゃんのお腹の音を伴奏に二人の連弾がはじまった。




第5話終了となります、お読み頂きありがとうございました。

宜しければ第6話もお付き合い頂ければ幸いです。

第6話 ミラクルベルティエ 第1節 チョコレートの行き先は

よろしくお願い致します。


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第6話 ミラクルベルティエ
チョコレートの行き先は


緊急事態宣言がついに出てしまいました。

皆さん、お互いに頑張って乗りきりましょう。



「響ちゃん、奏ちゃん、ハミィ、おはよう」

 

 俺の掛けた声に三人は振り向き、挨拶を返してくる。

 

「八雲兄おはよう!」

 

「おはようございます、八雲さん」

 

「八雲おはようニャ」

 

 朝から元気だし可愛いなと思っていると、響ちゃんが首を傾げた。

 

「八雲兄どうしたのこんなに朝早く?」

 

 手に持った工具ケース持ち上げて見せる。

 

「音楽堂で調律、あのピアノは弦を張り替えたばかりだからマメに調律しないといけないんだ」

 

……音楽堂

 

 奏ちゃんは少し顔を赤くして小さく呟く、ハミィはそんな奏ちゃんを気にせず、機嫌がよく鼻歌を歌っている。

 

「響も奏も八雲が居なくても戦える位ハーモニーパワーが強くなったし次はミラクルベルティエニャ」

 

 聞きなれない単語に響ちゃんと奏ちゃんはハミィの方を振り向き聞き直し、俺はついに来たかと一瞬目を細めた。

 

「「ミラクルベルティエ?」」

 

「って、なに?」

 

 奏ちゃんの疑問にハミィは小首を傾げ「何だったかニャ」と本当に分からないようだった、俺達三人は思わず苦笑いをしてしまう。

 

「もう、適当なんだからそんなんでこの先やっていけるの?」

 

 奏ちゃんは不安と不満が混じり合った様な声をあげていたが、響ちゃんの表情は明るい。

 

「成るように成るって、奏、少し大げさだよ」

 

 響ちゃんのあまりに軽い言い方にムッとする奏ちゃん。

 

「響は軽く考えすぎ、この間のテストも軽く考えているんでしょう」

 

 今度は響ちゃんの顔色が変わる。

 

「テストは関係ないでしょ言う? 学年トップだからって……」

 

「そこまで、いい加減にしなさい道の真ん中だよ」

 

 じゃれ合う様な言い争いを止めていると、小さな影が近づいて来たので二人に声を掛けようとしたが、すぐ後ろに迫っていた小さな影がイラついた様な声を掛けてくる。

 

「邪魔、通れないんだけど」

 

 声の主は女の子で、響ちゃんより明るい茶色のボブカットで赤いアンダーリムのメガネを掛け、ピンクの長袖Tシャツにショートのサロペットを着ていた。

 

「アコちゃん、おはよう」

 

 俺が挨拶するとその女の子、アコちゃんは面倒くさそうに挨拶を返してくる。

 

「ん、おはよ」

 

 先生と俺の三人の時はもう少し穏やかだし、多少は笑いながら会話もするのだが、外ではやはり張りつめている、その顔を見ていると胸が痛む。

 

「やーい、姉ちゃん注意されてやんの」

 

 アコちゃんの後ろから、奏ちゃんの弟の奏太が顔を出し面白そうにはやし立てる。

 

「奏太!?」

 

「ごめんね」

 

 驚きの声を上げる奏ちゃんの横で、手を合わせながら響ちゃんは謝罪の言葉を述べるが、アコちゃんのイラつきは納まっていないようだ。

 

「謝る暇があるならさっさとどいて」

 

 吐き捨てる様な言い方に流石に二人は顔色を変える、そんな二人に構わずアコちゃんは二人の間をすり抜けていく。

 

「そう言う言い方は無いんじゃない? 悪かったのは私達だけれど、年上の人にそういう口の利き方は失礼な事よ」

 

 奏ちゃんが少し怒り気味で注意をすると、アコちゃんは面倒くさそうに振り返る。

 

「口うるさ……アンタもてないでしょう」

 

 アコちゃんの言葉に激しく動揺する奏ちゃん、左手がさまよう様にスクールバックの持ち手を掴み力が入っているのが分る。

 

「そんなことないよ、この前のバレンタインデーだってちゃんと素敵な人に手作りチョコレート上げたんだから……」

 

 バッグの持ち手を左右に引っ張りながら冷静を装う様に話す奏ちゃん。

 

「素敵な人って俺?」

 

 奏太の言葉に、アコちゃんは呆れ奏ちゃんは語気が荒くなる。

 

「あんたは義理で上げたに決まっているでしょう!」

 

「もしかして王子先輩に上げたの?」

 

 響ちゃんの突っ込みに目が点になる奏ちゃん。

 

「そ、そう、王子先輩すごく喜んでくれたし、今度のホワイトデーが楽しみだわぁ」

 

「自分からチョコ上げるのは、もてるって言わないでしょう」

 

 鼻で笑いながら、奏ちゃんに突っ込みを入れるアコちゃんを流石に止めようかと見ると、その目は余計な事は言うなと雄弁に語っていた、思わずため息が出る。

 

「アハハハハハ、確かに!」

 

 奏太が爆笑を始め、奏ちゃんは怒りに体を震わせていた。

 

「まぁまぁ」

 

「そっちはチョコ上げる相手も居なさそうだけど」

 

 奏ちゃんをなだめていた響ちゃんにも毒を吐きだす。

 

「んー、私はどちらかと言うと貰う方だよ、今年は和音の方が多かったかな」

 

 響ちゃんの話にアコちゃんと奏太の動きが止まり、奏ちゃんは苦笑いを浮かべていた。

 

「何よ、結局は上げる相手なんていないんでしょう」

 

「アコちゃん、いい加減にしな」

 

 流石に度を越して来たので声を掛けると、こちらを少し睨みつけてくる。

 

「八雲うるさい、アンタには関係無い、チョコ貰ったからっていい気になるな」

 

 言いたい事だけ言うと、踵を返しそのアコちゃんは足早し去っていってしまうが、少し申し訳なさそうな顔をしていた、その後を奏太が慌てて追いかけていく。

 

「「な、なまいきぃぃ」」

 

「ハモッたニャ」

 

 怒りで体が震えている二人をよそにハミィは何時も通りだった。

 

「ところで八雲兄、チョコ私以外誰から貰ったの?」

 

 響ちゃんは問い詰める様にこちらにやってくる、隣では奏ちゃんは楽しそうな顔をして答えを待っている。

 

「あとは奏ちゃんと先生のお孫さんの三個だよ」

 

「「思ったよりつまらない」」

 

「またハモッたニャ」

 

 期待した答えと違ったのか、二人は顔を見合わせ溜め息を吐いた。




お読み頂きありがとうございます。

試しに特殊文字を利用してみました。
読み辛いですかね?ご意見ありましたらよろしくお願い致します。

ifといい特殊文字といい、また奏ちゃんが被害に合ってしまいました、奏ちゃんゴメン。


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八雲とアコに奏と奏太

皆様、お加減は如何ですか?

今度の日曜日まで毎日の更新を目指しますので、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。


 ホワイトデー数日前、アコちゃんにお返しするために自宅に行くと先生から散歩に出かけたと言われたので、アコちゃんを街に捜しに行く。

 

 時計塔広場の少し手前で、目的の人物であるアコちゃんを見つけ声を掛ける。

 

「よっ、アコちゃん捜したよ」

 

 振り返ったアコちゃんの表情は暗い、やはり少し思いつめているみたいだ。

 

「少し早いけどホワイトデーのお返し、チョコ美味しかったよ」

 

 面倒くさそうに受け取るアコちゃんにわざと明るく声を掛ける。

 

「喜んでもらえると良いんだけどね」

 

「ふーん、そう言えば八雲、他の人にも貰ったの?」

 

 ちょっと不貞腐れた感じで聞いてくる、俺はアコちゃんを正面からしっかりと見て答えた。

 

「この間の朝に会ったあの女の子二人には貰ったよ、だから全部で三個だね」

 

「そう……よかったわね」

 

 俺は後頭部を掻きながらアコちゃんに聞こえる様に呟く。

 

「来年は、アコちゃんの国まで取りに行くからよろしくね」

 

「何……言ってるの八雲、頭大丈夫? 私が帰れる訳無いの知っていてそう言う事言うの」

 

 俺の言葉にアコちゃんは気に障ったのか睨みつけてくるが、俺は気にせず続きを話す。

 

「いいや、今度のバレンタインデーまでには必ず親子三人で暮らせるようにして見せる」

 

「三人……それって……本気なの? ねぇ、本気で言ってるの?」

 

 俺の服を掴み必死に聞いてくるアコちゃんの頭を撫ぜる。

 

「本気だよ、この前先生にも掴み取ると約束した、だからアコちゃんにも約束をしに来ているんだ、その手の物と今の言葉がホワイトデーのお返しだ期待してて」

 

 服を掴む手が強くなり目に薄っすらと涙を溜めていた。

 

「期待しないで待ってる」

 

「うん、待ってて、後これも覚えていておいて、俺は何があってもアコちゃんの味方だ、それだけは忘れないで欲しい」

 

 アコちゃんは手を離し走って俺から離れると、途中で止まりこちらを振り返る。

 

「八雲ありがとう、約束だよ」

 

 少し大きな声で、それだけ伝えるとアコちゃんは走って行く。

 

 

 

 

 

 

 時計塔広場に着くとアコちゃんがボールを蹴った後に走っていくのが見えたので、そちらに向かうと響ちゃんと奏太が話していた。

 

「珍しい組み合わせだな」

 

「八雲兄」

 

「八雲兄ちゃん」

 

 声を掛けた俺に驚くと、二人は同時に声を上げた。

 

「今、アコちゃん走って行ったけど奏太は追わなくていいのか?」

 

「さっきサッカー誘ったけど断られたから、でも、珍しく機嫌が良かったなアコのやつ」

 

 俺の問いに奏太がぼやく、アコちゃんの様子に少し安堵していると響ちゃんは奏太に声を掛ける。

 

「アコちゃん何か持っていたけど、あれホワイトデーのお返し?」

 

「ホワイトデー? そんな訳ないだろ、俺姉ちゃんからしかチョコ貰えなかったし」

 

 腕を組んで不満そうに答える奏太に、心の中で手を合わせ謝る。

 

 奏太は俺達の顔を見ると、良い事を考えたと言わんばかりの顔で俺達に提案する。

 

「二人とも暇なら俺とサッカーしようぜ」

 

 俺と響ちゃんは顔を見合わせ同時に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 夕方に響ちゃんと二人で、奏太を『ラッキースプーン』連れていくと奏ちゃんが玄関先で仁王立ちで待っていた。

 

「奏太遅い! 今何時だと思っているの! パパもママもずっと心配しているのよ! お手伝いもするって約束でしょう!」

 

 俺達の前で、ここまで奏ちゃんが声を荒げるのは珍しい。

 

「別に良いだろう! それに俺やるって言ってないもん、姉ちゃんが勝手に決めたんだろう」

 

 奏ちゃんに食って掛かる奏太に思わず眉が寄る。

 

「良い訳ないでしょう! みんな心配したんだから!」

 

 腰に手を当てて鼻息も荒く怒っている奏ちゃんに奏太も少し気まずそうだ。

 

「奏! 奏太は……」

 

「響は黙っていて、遅くなるならせめて連絡しなさい、何時に帰るか誰と居るか、それぐらいは出来るでしょう……」

 

 響ちゃんの言葉を止めてまで、奏太に注意する奏ちゃん、落ち込み気味の奏太は小さく頷く。

 

「もう良いわ、パパとママに謝ってきなさい、私も響達にお礼を言ったらすぐ戻るから」

 

 落ち込んでいた奏太は、奏ちゃんの一言で明らかにホッとした顔をし家の中に駆けていく、それを見送りながら奏ちゃんは大きな声で一言を付け加えた。

 

「ちゃんと手洗いうがいするのよ!」

 

 大きく息を吐くと、奏ちゃんはしょうがないなぁと言った感じでこちらに歩いて来る。

 

「響、八雲さん、奏太を連れて来てくれてありがとう、みっともない所見せてごめん」

 

 軽く頭を下げながら、感謝と謝罪の言葉を述べる奏ちゃんに響ちゃんは少しだけ不満そうだ。

 

「そんなに怒鳴らなくても……奏、言いすぎ」

 

「分かっているの、でも家は両親が忙しくて私が面倒見ないといけないから、つい強く言ってしまって……」

 

 響ちゃんの寂しそうな顔に奏ちゃんはハッとする。

 

「響ごめん……私、響の家のこと分かっていたのに……」

 

 奏ちゃんの謝罪の言葉に、響ちゃんは悲しそうな顔で首を横に振るだけだった。

 

「心配しているのは伝わっていると思うけど、ほどほどにね」

 

 少し寄り添って来る響ちゃん、俺の言葉に奏ちゃんは下唇を一度噛み締めた。

 

「はい……響、八雲さん……ありがとう……」

 

 喉の奥から絞り出される様な奏ちゃんの声に胸に痛みを覚える。

 

「八雲さん、響の事送ってあげてね」

 

 俺達に頭を下げこちらを見た後奏ちゃんは踵を返すと家の中に戻っていた。

 

 俺は寄り添って来ていた響ちゃんの頭を撫でる、こちらを見て来た響ちゃんは泣きそうな顔をしており俺は肩に手を回す。

 

「八雲兄……」

 

「少し……遠回りして帰ろうか」

 

 響ちゃんは小さく笑いうなずく、俺は迫る夕闇から響ちゃんを守る様に引き寄せるとゆっくりと歩き出した。



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激動のホワイトデー

 ホワイトデーのお返しを渡しに行こうと、響ちゃんの家に向かっていたら、運良く響ちゃんがハミィを肩に乗せて歩いて来たのを見つけた。

 

「丁度良かったよ響ちゃん、これホワイトデーのお返し」

 

「八雲兄、ありがとう」

 

 良い笑顔で紙袋を受け取り喜んでくれる響ちゃんの笑顔に和んでいると、響ちゃんはもうひとつの紙袋に目線を向ける。

 

「そっちは奏の?」

 

「そうだよ、この後持っていこうと思っているんだ、今日はお店お休みのはずだし迷惑に成らないと思ってね」

 

「私も奏太に用事があるから一緒に行こう」

 

 響ちゃんに奏太に頼まれた用事を聞きながら『ラッキースプーン』に着くと、入口が半開きになっており俺と響ちゃんは訝しみながらも店内に入るが、店内は焦げた臭いが充満していた。

 

 俺と響ちゃんは顔を見合わせ火事を警戒する、しかし奥から奏ちゃん怒る声が聞こえ少しだけ安心したが、その尋常じゃない怒鳴り声に俺と響ちゃんは急いで奥に向かった。

 

「食べ物で遊んじゃ駄目でしょう! いっつも人に迷惑を掛けて本当に碌な事しないんだから!」

 

「姉ちゃんなんか大っ嫌いだ!」

 

 部屋から飛び出して来た奏太は泣いており、止める暇も無く出ていってしまった。

 

 俺達が部屋に入ると、厨房はかなり荒れており片付けが大変そうだった、奏ちゃんは丁度床に落ちていた店の箱を拾い上げていた。

 

「これは……?」

 

「奏へのプレゼントだよ……」

 

 奏ちゃんの独り言に響ちゃんがやや冷めた声を出す、奏ちゃんは一度体を大きく震わせるとこちらを振り向く。

 

「響……八雲さん……なんで家に……?」

 

 いきなり声を掛けられ室内に居た俺達に驚く奏ちゃん、響ちゃんの肩から作業台に移っていたハミィは何かを見つけ小さな声をあげており、俺は目線を追い箱の中に音符を発見した。

 

 響ちゃん話しかけようとしているハミィを手で制すると、此方を向いて来たので小さく首を横に振るとハミィは困った表情で見上げて来たので頭を撫でて落ち着かせる。

 

「今日、ホワイトデーでしょう、奏太バレンタインのお礼に姉ちゃんに内緒でカップケーキ作りたいって言ってた、私はそのお手伝いを頼まれて来ているんだよ」

 

 ショックを受けた奏ちゃんはゆっくりと箱の中身を確認すると唇を噛しめ、箱を持つその手は小さく震えていた。

 

「お姉さん思いの弟が居て羨ましいよ……」

 

 響ちゃんは何時もからは想像できない様な冷たい声を出すと、奏ちゃんを一瞥してそのまま奏太を追って走っていく、俺は一つ溜め息を吐き直ぐに響ちゃん達の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 後を追い浜辺に着くと、砂浜に座り泣いている奏太の姿を見つけ響ちゃんと俺はすぐに側に行くが、奏ちゃんは少し遠くて足が止まってしまいこちらを伺っている。

 

「姉ちゃんは俺が何やっても怒るんだ……」

 

「うん、厨房をちょっと散らかしただけなのに奏は怒りっぽいんだよ……」

 

 泣きながら呟く奏太に響ちゃんは声を掛けるが、奏ちゃんは思わず言い返してしまう。

 

「響、バレンタインのお返しと知らずに怒ったのは私が悪いけど、奏太を甘やかさないで!」

 

「良いじゃない! 少しぐらい甘やかしたって! 奏のためを思ってやったんだし、奏太は奏じゃないんだよ!」

 

 響ちゃんは怒鳴りながら奏ちゃんに詰め寄って行く。

 

「そんなの理由に成らないし、人の為なら何をやっても良いって訳じゃないの!」

 

 響ちゃんを睨みつけ奏ちゃんは怒鳴り返し、二人はそのまま睨み合う。

 

 久しぶりに聞く売り言葉に買い言葉だった、俺は間に入る事にした。

 

「二人ともそこまでにしよう」

 

 そんなに大きく無い俺の声に二人はびくりと体を震わせたが、それに構わず俺は奏太の隣に座る。

 

「なぁ、奏太、遊ぶんだったらさ、楽しく遊びたくないか?」

 

「そんなの……当たり前だろ」

 

 横目で奏太を見ると、奏太は涙を流しながら海を見つめていた。

 

「うん、当り前だよな、だったら少し遊ぶ時間短く成るけどさ、やることやって「いってらっしゃい」って送り出された方が良くないか」

 

「…………」

 

「誰はばかる事なく遊びに行こう、怒られるかもしれないって帰るより、笑顔で「おかえりなさい」って言われたいな」

 

「うん……」

 

「俺も一緒に行くから奏ちゃんに謝ろう、後響ちゃんにもな」

 

 奏太は、俺を見るとポカンとした表情を向けてきた。

 

「響姉ちゃんに……?」

 

 俺は奏太の頭を乱暴に撫でる。

 

「考えてみろよ、今日響ちゃんは奏太の為に時間を作ったんだぞ」

 

「あ……俺……約束してたのに……」

 

 涙を袖で拭きながら俺を見てくる奏太。

 

「響ちゃんは引きずらないから大丈夫、俺も一緒に行くって言っただろう」

 

 奏太は砂を握りしめ立ち上がると大きく深呼吸をした。

 

「俺、謝って来る、八雲兄ちゃん後ろで見ててくれよ」

 

 奏ちゃんに目線を向けた奏太の涙は乾いており、少しだけ男の顔になっていた、その姿に安心をした俺は立ち上がり奏太の少し後ろを歩く。

 

 相対する奏太と奏ちゃん、直ぐ側では響ちゃんが心配そうに俺を見て来たので頷くと、響ちゃんは柔らかく笑い奏ちゃん達に目線を向ける。

 

「姉ちゃん、俺……」

 

「もーらった」

 

 奏太の言葉に重ねる様に飛び出してきたセイレーンが、奏ちゃんが持っていた箱を奪う、その後ろにはトリオ・ザ・マイナーも立っていた。

 

「貴様ら!」

 

 俺は声を上げ奏ちゃん達の方に走り出す、箱を咥えたセイレーンに対し、何時もからは想像も出来ない速度でハミィは跳びかかり箱を奪い返す。

 

「こうなったら! いでよ! ネガトーン」

 

 セイレーンの不幸な声に反応し、ハミィが取り返したラッキースプーンの箱がネガトーンになってしまう。

 

「奏太! 逃げろ!」

 

 奏太とネガトーンの間に立ち塞がり構えながら叫ぶ、ネガトーンを見上げ動けない奏太。

 

「二人供、奏太を連れて逃げろ!」

 

「でも、八雲兄!」

 

「八雲さん?!」

 

 困惑の声を上げる二人を余所に、俺はネガトーンに立ち向かう。



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晒した心

「走れ!」

 

「姉ちゃん!」

 

 俺の叫びにいち早く動いたのは奏太だった、先程までネガトーンを見上げ動けなかったのが嘘の様に奏ちゃんと響ちゃんの手を取って走り出す。

 

「馬鹿じゃないのアンタ」

 

 走って行く奏太達を見ながらセイレーンが喉を鳴らし笑うと、ネガトーンに目線を向け直す。

 

「ネガトーン! 不幸のメロディをばら撒くのよ!」

 

 相対していた俺を無視し不幸のメロディをばら撒くネガトーン、その範囲に奏太も入ってしまい崩れ落ちたのを咄嗟に奏ちゃんが受け止める、その姿を見た俺は咄嗟に『音角』を取り出し指で弾き紫炎に包まれる、それと同じくして奏太の側でふたつの光が爆発した。

 

 一足飛びでネガトーンに近づき拳を入れそのままラッシュを始める、後ろから突っ込んで来る気配を感じ体を捻って場所を開けると、メロディが綺麗な飛び蹴りを入れる。

 

「ネガトーン! しっかりおし!」

 

 吹き飛ばされたネガトーンにセイレーンがイラついた声をかけると、よろけながらも立ち上がるネガトーン。

 

「ひとり離れているヤツから攻撃しな!」

 

 奏太を守る為に、あえて距離を取っていたリズムに向かって跳躍すると攻撃を仕掛けるネガトーン。

 

 攻撃を防いだリズムが不自然の吹き飛ばされた。

 

「「リズム!」」

 

 慌ててリズムの元に向かい、メロディと同時にネガトーンに蹴りを入れリズムとの距離を強引に開ける。

 

「リズム、大丈夫?」

 

 メロディが倒れたリズムに肩を貸しながら声を掛ける。

 

「ごめんなさい……」

 

 目を伏せ下唇を噛み締めるリズム、その姿は心ここに在らずという有り様で、俺は原因であろう奏太に目を向ける。

 

「奏太が気掛かりで集中出来ないないって事か……」

 

 俺の呟きを聞いたメロディは思案顔だった。

 

 リズムに気を取られ過ぎた俺達をあざ笑うかの様にネガトーンは行動を開始していた、広範囲に撒かれた不幸のメロディを受け奏太の大きな悲鳴が俺達の耳に入る。

 

「あーら、良い鳴き声してるじゃない、ネガトーン!」

 

 セイレーンの命令を受け、ネガトーンが奏太だけを攻撃対象とし不幸な音を浴びせる、頭を抱え苦しむ奏太にリズムは悲鳴を上げ、俺とメロディは声を荒げた。

 

「「「奏太!」」」

 

「ネガトーン! 徹底的にそいつを狙え!」

 

 セイレーンが笑いながらネガトーンに指示を出すと、ネガトーンは怪しく光る物体を奏太の周辺に撒き散らし奏太を動けないようにし、更に不幸な音を浴びせた。

 

「姉ちゃん! 姉ちゃん! 助けうわあぁぁぁ!」

 

 リズムは、泣きそうな顔で奏太を見てからネガトーンに鋭い視線を向けると力強く立ち上がる。

 

「姉ちゃん! 奏姉ちゃん!」

 

 奏太の悲鳴を聞き、眉間に皺を寄せ歯を食いしばって耐えているリズムの前に立つと、メロディも俺の隣に並び立つ。

 

「リズム! ここは私と獣鬼で相手する!」

 

「今、奏太を助けられるのはリズムだけだ!」

 

 やや背中合わせで構えを取ると、メロディが俺に目線を合わせ頷き合う。

 

 リズムは小さくごめんと呟くと、淡い光に包まれ変身を解除したがメロディの変身は保ったままだった。

 

「リズムの心が離れた訳じゃないからメロディの変身は解けて無いニャ……」

 

 ハミィの信じられないと言った呟きを聞いたメロディは嬉しそうに頷く。

 

「ありがとう二人とも、でも奏太が助けを呼んでいるのはプリキュアじゃない、キュアリズムじゃない……だから……大切な弟を助けるのは南野奏なの!」

 

「奏!」

 

「奏ちゃん!」

 

「「走れ!」」

 

 力強く走り出し奏太の元に向かう奏ちゃんを俺達は見送ると、顔を見合わせうなずき合う。

 

 奏ちゃんを追う様に動き出したネガトーンをメロディと同時に捕まえ動きを止める。

 

「ここで決めなきゃ女がすたる!」

 

「これ以上は好きにはさせない!」

 

 俺達は体を捻りネガトーンを背負うような体制になると力の限り投げ飛ばした、巨体が背中から砂浜に叩きつかれ砂煙が合い上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 私はメロディと獣鬼に送り出され奏太を捕えている不思議な物体に足を踏み込んだが、あまりの抵抗と不快感に中々進めないでいた。

 

「姉ちゃんは助けに来てくれないんだ、姉ちゃんはやっぱり俺の事なんてどうでも良いんだ! 大嫌いなんだ!」

 

 私はあらん限りの力で手を伸ばしながら奏太に声を掛ける。

 

「奏太! そんな事無いよ! 嫌ってなんかいないよ!」

 

「姉ちゃんは俺が何やっても怒るんだ! 俺なんかどうなったって良いんだ!」

 

 奏太の言葉に私は胸をえぐられる、私は歯を食いしばり決意を決めると奏太に話しかけた。

 

「どうでも良かったら怒ったりしない!」

 

 私の声が届いたのか奏太が顔を上げるこちらを見る、私は自分の思いを奏太にぶつける。

 

「大切だから、大切な弟だから怒るんだよ!」

 

「大切だから……」

 

 私の言葉に奏太が呟くと瞳に力が宿る、私は精一杯の気持ちを奏太に届ける、大切なこの思いと共に。

 

「どうでも良い人を怒ったりしないよ、奏太が大切だからだよ」

 

「でも、また怒らせちゃうよ、喧嘩もする……」

 

 弱々しく答える奏太、大切だから愛しいから本気でぶつかっていた、それが奏太の負担になるのも分からずに。

 

「そうしたら仲直りすれば良いのよ、今までだってそうでしょう! 奏太、助けに来たよ! 一緒に帰ろう!」

 

 思いを込めて手を伸ばす、奏太はしばらく私を見つめると懸命に腕を伸ばし出す、ギリギリ手を掴んだ瞬間に気を失った奏太を私は引き寄せると、大切な弟を守る為に抱きしめた。



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響の兄妹

「くぅぅ、何時の間にか仲直りしちゃって! ネガトーン!」

 

 セイレーンのイラつきの言葉と共にネガトーンの蓋にあたる部分が開き、カップケーキの様なミサイルを数発打ち出した。

 

「ネガトーン!」

 

 ミサイルが奏ちゃん達に向かう中、奏ちゃんは自分自身を盾にする様に奏太を庇う、その姿を見た俺とメロディは二人を助ける為に全力で走る。

 

「メロディ!」

 

 メロディは名前を呼んだだけで意図を察して足を揃えジャンプをする、足を縮め力を溜めたメロディの足の裏に回し蹴りを合わせ、全身のバネを使いメロディを打ち出す、二人分の力を使いミサイルに追いついたメロディは、拳と足と使いミサイルを弾き二人を守るように立ち塞がった。

 

「あんた達なんかに奏を! あの姉弟を傷つけさせない、あの二人はすごいんだよ、いつもは喧嘩しているのにいざという時は当たり前に守って守られて! 思い合っている!」

 

 メロディが日頃思っている事を口する、俺はメロディの思いの丈を聞き彼女が如何に兄妹と言う存在に憧れを抱いているのかを改めて感じ取る。

 

「それが何? て言うかアンタは他人でしょう?」

 

 セイレーンは、メロディに対して心底馬鹿にしたように言葉を投げつける、俺がメロディの肩に手を置くとメロディは一瞬視線をこちらに向けた。

 

「そうだよ、私一人っ子だから、私にはそういう相手は居なかった、でも……獣鬼が私の兄になってくれた、だから初めて分かった兄妹の気持ちが!」

 

「だから何? アンタ達血は繋がって無いんでしょう、それに後ろの二人は関係ないじゃない、放っておけば」

 

 メロディの思いに、口を歪ませて笑うセイレーン。

 

「関係無くない! 確かに私と獣鬼は本当の兄弟じゃない、だからこそ分かったんだ奏の気持ちが! 二人には寂しい思いはして欲しくない、大切に思っているからこそ私と奏は本気でぶつかるし奏も奏太と本気でぶつかっているんだ、時には喧嘩をしたって二人にはずっと仲良くして欲しいんだよ、それに私にとっても奏太は弟みたいなものなんだ!」

 

 メロディの肩に手を置いたまま一歩前に出る。

 

「セイレーン貴様は分かっているのか人を思いやる優しい気持ちが! お前にだって居たはずだ、心から信じた人が、その人の思いを踏み躙るのか! メロディは俺の可愛い妹だし、今の俺にとっては奏ちゃんも奏太も大切な妹弟なんだ、だから傷つけさせない兄として必ず守って見せる!」

 

 肩から手を放し音撃棒を取り出し構える、メロディと俺の言葉を受けセイレーンは頭を掻きむしりながら声を荒げる。

 

「全っ然、分からない! ネガトーン! みんなまとめてやっちゃいなさい!」

 

 迫ってくるネガトーンに対し走り出し向かい打つ、後ろに行かせまいと足を止め打ち合いをする。

 

「私は獣鬼の思いを、優しい気持ちを常に感じていた、だからこそ私は奏達の気持ちを、お互いを思いやる心を守りたい!」

 

 後ろで今までにない光が溢れしネガトーンを吹き飛ばす、俺は後ろを振り返り光の発生源であるメロディに目線を向ける、その光は眩しかったが、優しく温かく全てを慈しむようだった。

 

 メロディは右手を下げ一度指を鳴らし、すぐさま右手を上げ、左手は下げる、上げられた右手を鳴らすと右の掌にはオレンジ色の、左の掌にはメロディの色でもあるマゼンダに輝く音符が現れる、祈る様に両手を胸の前で合わせ、ゆっくりと離すと輝きながら『ベルティエ』が姿を現す。

 

「奏でましょう、奇跡のメロディ! ミラクルベルティエ!」

 

 紡がれたメロディの奇跡の力。

 

「おいで! ミリー!」

 

 高く掲げられた『ベルティエ』にミリーが装着されとオレンジの光が溢れる。

 

「翔けめぐれ、トーンのリング! プリキュア! ミュージックロンド!」

 

 全身を使い大きな円を描くメロディ、その軌跡を追いオレンジのリングが現れる『ベルティエ』を掲げるとリングも頭上に移動し、メロディは勢いよくネガトーンに向け振り落とす。

 

 メロディの元から放たれた美しく輝くリングはネガトーンを捕え動けなくした。

 

「三拍子! 1、2、3!」

 

 メロディが全身を使い『ベルティエ』を指揮棒の様に大きく振る。

 

「フィナーレ!」

 

 メロディの掛け声に合わせリングが爆発を起こしネガトーンを浄化させた。

 

「また新しいパワー……冗談じゃないわよ! もう」

 

 セイレーンが負け惜しみを言いトリオ・ザ・マイナーと引き連れて逃げていく、奏ちゃんは気を失っている奏太を横抱きにして、陽が傾き始めた中を俺達の元にやってくる。

 

「これは……?」

 

 手の中の『ミラクルベルティエ』見つめながら呟くメロディ。

 

「二人を思いやり守りたいというメロディの心が生み出した新しい奇跡の力ニャ」

 

 嬉しそうに俺の肩に飛び乗り説明するをハミィ、ベルティエを持ち夕陽に照らされ佇むメロディを俺は無自覚に見惚れていた。

 

「獣鬼?」

 

 メロディの優しい声色で現実に引き戻されると、メロディは不思議そうな目線を向けて軽く首を傾げる。

 

「いや、何でもないよ」

 

 メロディの肩を軽く叩くと誤魔化す様に笑い掛ける、メロディは小さく頷くと柔らかい笑顔を向けてくれ、俺の心は温かい物に満たされたいった。



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ホワイトデーのお返しは

 響ちゃんと奏ちゃんは浜辺に続く階段に腰を掛け、奏ちゃんは奏太を膝枕している。

 

「奏ちゃんこんな時になんだけれど、これホワイトデーのお返し」

 

 奏ちゃんは、差し出された紙袋を少し見つめ、嬉しそうに受け取る。

 

「ありがとうございます、中見ても良いですか?」

 

 小首を傾げ聞いてくる奏ちゃんに頷くと、奏ちゃんは紙袋の中身を確認し、綺麗に包装された物を二つ取り出す。

 

「両方とも奏ちゃんに用意した物だから、遠慮なく受け取って欲しい」

 

 片方の包装紙を見て奏ちゃんは、ちょっと慌てた様な声を上げる。

 

「八雲さん……これって『セレブ堂』のお菓子じゃないですか、すごく高いですよね、良いんですか?」

 

 奏ちゃんは包みを持ったまま困ったような声を上げる、響ちゃんは奏ちゃんの手の中の包みを確認する。

 

「ウソ『セレブ堂』ってあの『セレブ堂』? うわっ本当だ、私、お歳暮の時にママ宛てに来るの楽しみなんだよね……もしかして私が貰った中にも入っているの?」

 

 二人してこちらを見てくるので軽く笑う。

 

「そうだよ、お菓子は一緒だけれど、もうひとつは別々の物を用意してあるよ」

 

「奏、開けようよ、中身見たい、後で私のもここで開けるからさ、ね、ね」

 

 おもちゃを前にした子供の様にはしゃぐ響ちゃんに、奏ちゃんは思わず笑みを零した。

 

「しょうがないな響は、まずはお菓子から開けるよ」

 

 丁寧に包みを開き上品な白い箱の蓋を取り中身をみると二人は嬉しそうな声を上げる。

 

「すごい、マカロンとバームクーヘンの詰め合わせなんですね、マカロンも色々な種類が入っていて美味しそう」

 

「あ、イチゴクリームのマカロンだ、八雲兄ありがとう、いやー楽しみ」

 

 二人が純粋に喜んでくれるので嬉しい、奏ちゃんはお菓子の箱を仕舞うともうひとつの包みを開ける、出て来たのはプロのパティシエが参考にする様な分厚いレシピ集だった。

 

「八雲さんこれ……ありがとう」

 

 奏ちゃんの将来の夢の為に参考になればと考え用意したプロの為のレシピ集。

 

「少し早いかもしれないけどさ、知識は財産、将来奏ちゃんの武器に成る事を祈ってね、もう少しおしゃれな物って思ったけれど思いつかなかった」

 

 後頭部を掻きながら奏ちゃんに話すと、奏ちゃんは本を抱きながら首を横に振った。

 

「ううん、嬉しい大切にするね」

 

 喜んでいる奏ちゃんを、自分の事の様に嬉しそうに見ていた響ちゃんは自分の紙袋を膝の上に引き寄せる。

 

「じゃあ、次は私が開けるね、お菓子は同じって言っていたからこっちの包み開けるね」

 

 鼻歌交じりに包みを開けた響ちゃんは「うわっ」っと小さな声をあげ奏ちゃんが覗きこむ。

 

「『WIND SCALE』の新作トレーニングウェアのセットだ……八雲兄嬉しいよ」

 

 トレーニングウェアは響ちゃんの色でもあるマゼンダにラインなどのさし色は黒。

 

 立ち上がりウェアを広げて眺め嬉しそうにしている響ちゃん、上着の袖を通し俺達の前でクルリと回るとスカートとボリュームのある栗色の髪がフワリと風に舞う。

 

「響似合う、かわいい」

 

「響ちゃんがよく行くお店で店員に確認しながら買ったからサイズは大丈夫だと思うけど、具合が悪かったらお店に持ち込めば交換して貰えるからね」

 

 クルクルと回っていた響ちゃんは回るのを止め、チャックを首元まで上げると体を少し動かした。

 

「うん、ピッタリだよ八雲兄、ありがとう」

 

 俺に向かって微笑む響ちゃん見たを時に俺は鼓動は少し早くなった、何となく気まずくなった俺は視線を彷徨わせると、奏太が奏ちゃんの膝枕で気持ちよさそうに寝ているのが視線に入る。

 

「奏太起きないな、あれか奏ちゃんの膝枕が気持ちいから起きないのかな」

 

 自分の心を誤魔化す様におどけて言うと、奏ちゃんは少し頬を染め響ちゃんは噴き出した。

 

「良かったら使いますか?」

 

 奏ちゃんは、からかう様な表情で空いている太ももを軽く叩く。

 

「八雲兄こっちも空いてるよ」

 

 いつの間にか座っていた響ちゃんも、自分の太ももをペチペチと叩いて笑っている。

 

 魅力的な提案に思わず心が揺れるが、そんな自分に呆れ声をあげて笑ってしまうと、その声で奏太が起きてしまった。

 

「あれ……姉ちゃん……」

 

 目を覚ました奏太は自分の状況が掴めないのかぼんやりとしている、奏ちゃんは先程までとはガラリと変わり姉の表情になり奏太の頭を優しく撫でる。

 

「こんなところで寝ていると風邪ひくわよ」

 

 奏ちゃんの声は優しく慈愛に満ちている、ゆっくりと体を起こし座り直す奏太。

 

「姉ちゃん? そう言えばさっき俺……」

 

 自分の両手を眺めながら奏太は首を傾げると、奏ちゃんは優しい視線を向ける。

 

「悪い夢を見ていたのよ、きっと……」

 

 奏太は口の中だけで「悪い夢……」と呟くと、何かに気が付いた様に奏ちゃんに顔だけ向けた。

 

「なんでここに居るって分かったんだ……」

 

「分かるに決まっているでしょう」

 

 奏ちゃんは奏太を見ていた顔を動かしゆっくりと沈む太陽に目を向ける。

 

「昔から奏太は落ち込むとここに来ていた、何時も誰が迎えに来たと思っているの」

 

「姉ちゃん……」

 

 呟く奏太の声は小さいが気持ちはしっかりと籠っていた、奏太が用意したホワイトデーのお返しの箱を膝の上に置く奏ちゃん。

 

「奏太ごめんね、これ貰っても良い」

 

「うん、後は……はい」

 

 奏太は、中のカップケーキを二つ取り出すと響ちゃんと俺に手渡してくる。

 

「響姉ちゃんと八雲兄ちゃんには、いつも世話になってるからな」

 

 奏太は照れ笑いをしていたが満足そうだった。

 

「でも……」

 

「俺は……」

 

 俺と響ちゃんは顔を見合わせ戸惑っていると、奏ちゃんが柔らかく笑う。

 

「良いんじゃない、響も八雲さんも私達と兄妹みたいだって言ってくれたし」

 

「「ありがとう」」

 

 俺と響ちゃんの感謝の言葉が自然とハモり、皆の笑みがこぼれる。

 

「食べてみてよ」

 

「「「いただきます」」」

 

 奏太に促され一口食べる、初めて作ったのだろうちゃんと生地がしっかりと混ざって無く火入れも長かったのか少し焦げて苦みが強い、でも奏太の思いは感じ取れ美味しく感じた。

 

「ねぇ、奏太、今度お姉ちゃんと一緒に作ろうか」

 

 優しく問いかける奏ちゃんにびっくりした顔の奏太、だがその顔がみるみる笑顔に変わる。

 

「ホント! 姉ちゃん一緒にやってくれるの!」

 

「うん、約束」

 

 指きりの体勢で奏太の前に小指を出す奏ちゃん、奏太は恥ずかしそうに小指を掛ける、沈む夕陽に照らされ伸びる皆の影がユラユラと動き、まるで笑っている様だった。




第6話終了となります、お読み頂きありがとうございます。
次回からはまた週末の更新となります。

宜しければ第7話もお付き合い頂ければ幸いです。

短期間でしたが毎日更新は大変でしたが、コメントなども頂けて頑張れました、ありがとうございます。

拡大解釈の元、奏ちゃんだけ変身を解除したり、最後の奏太のケーキが普通に作ってあったりとかなり変えました。

個人的にですが、家が食べ物屋なのに食べ物で悪戯するのかな?と思った所から話を膨らましました、それに合わせ奏ちゃんに迎えに行って欲しかったと言う思いと、奏太を助けるのはミューズであって欲しいと言う願望からこう成りました。

この様な形で今回の話を終えましたが、皆さまに受け入れて頂ければ幸いです。では次回

第7話 サクラと言う名の転校生 第1節 サクラ色の朝東風
よろしくお願いします。

【セレブ堂】プリキュア5でお馴染みの高級菓子メーカー、キュアアクア事水無月かれん御用達の店 第1話の『珍しいお菓子』はここのお菓子、シュークリームの表記で気が付かれた方も居ると思います、響ちゃんは贈答用菓子しか知らなかったので気が付かなかった。
え?包装紙?そこはご都合主義でお願いします。

【WIND SCALE】仮面ライダーWに出て来た劇中ブランド、この世界では色々なアパレル展開をしていて好きなスポーツブランドは?と聞くと普通に片手に入る感じです、ちなみに八雲は好んで着用しています。


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第7話 サクラと言う名の転校生
サクラ色の朝東風


皆様、その後如何お過ごしですか? 体調等崩しておりませんか?

まだまだコロナも収まっておりません、無理をなさらないように、ご自愛下さい。

鬼人の組曲もお気に入り登録が遂に100名以上の方にして頂きました、ありがとう御座います。
ご登録下さった方、お読み頂いている皆様のビュー数の伸び、頂いた感想が創作の力に成っております。

この様な作品ですが、此からもよろしくお願い致します。


 今日、転校してきた子と親友になった。

 

 アメジストの様な瞳と濃い藤色の髪をした少し不思議な雰囲気をしたメガネの似合う女の子、私と同じ名字の『北条サクラ』ちゃん、すごく気があって八雲兄にどうしても紹介したくなって、無理を言って連れて来てしまった。

 

「響さん、どこに向かっているんですか?」

 

 周りを気にして戸惑っているサクラを安心させるために笑い掛ける。

 

「サクラに紹介したい人が居るの」

 

「紹介……?」

 

 少し困り顔のサクラに八雲兄について話す、サクラは眉を寄せて反応に困っているみたいだけど、うん、きっと大丈夫。

 

 サクラと八雲兄がどんな話をするのか楽しみ、手を繋いで家の前に着きチャイムを鳴らすとインターホンから八雲兄の声が聞こえてきた。

 

「響ちゃん? 鍵開いてるから入って来て良いよ」

 

 いつもは、玄関先まで出迎えてくれる八雲兄が出てこないって事は、多分手が放せない事をしている印、私は期待を込めながらサクラの手を取り八雲兄の家に入る。

 

 ダイニングに入ると良い匂いが充満しており、私の期待通り八雲兄はキッチンで作業をしていた、私は嬉しくなって思わず少し大きな声を出してしまう。

 

「わぁ、良い香り! 八雲兄、何作っているの?」

 

 

 

 

 

 いつも通り遊びに来た響ちゃんの第一声は食い気だった。

 

「何って、匂いで分かってるんでしょう、ビーフシチューだよ」

 

 掻き回していた手を止めて、少し笑いながら響ちゃんを見ると、隣には知らない女の子が気まずそうに立っていた。

 

「響ちゃん、新しい友達?」

 

 薄い気配に訝しみながらも、手を洗いタオルで拭きながら尋ねると、響ちゃんはニンマリと笑う。

 

「うん、越して来たばかりの北条サクラちゃん、同じ二年なんだ、で新しい親友、サクラこの人がさっき話していた八雲兄、仲良くしてね」

 

 サクラちゃんに目を向けると、緊張からか表情が強張っている。

 

「響ちゃんと同じ名字なんだね北条さん、俺は木野八雲、響ちゃん同様よろしくね」

 

 差出した右手をマジマジと見てからサクラちゃんは、恐る恐る少し冷たく小さい手で握手しつつ、やはり小さい声で挨拶をし返してくれた。

 

「北条さんって呼び辛いからサクラちゃんって呼んでも良いかな? 俺の事は好きに呼んで良いからね」

 

「私も八雲さんって呼んでも良いですか」

 

 俺が怖いのか、目が泳ぎ少し引きつった笑顔で聞いて来たので大丈夫な旨を伝え響ちゃんの方を向く。

 

「響ちゃん、紅茶でも入れるから二人でソファーで待っていてよ」

 

 響ちゃんが、サクラちゃんの手を引いてソファーに行くのを確認してから紅茶の用意を始める。

 

 

 

 

「響ちゃん、ちょっと取りに来て」

 

 ソファーに座って話している二人に対し響ちゃんだけ呼び寄せる、聞きたい事があるからだ。

 

 側に来た響ちゃんに小さな声で確認する。

 

「なぁ、奏ちゃんはどうしたんだい、家の手伝いかな?」

 

「んー、サクラちょっと複雑でさ、奏とはまだ友達じゃないよ」

 

 響ちゃんの困ったなぁという態度で、何となくサクラちゃんは独占欲が強いかなと思い、今はまだ触れない様にしよう決める。

 

 響ちゃんと一緒に紅茶と一口大のフィナンシェを持って行く、キッチンに戻り笑いながら話す二人を何となく眺める、あそこに奏ちゃんが居ればもっと楽しいのにと思い、早く三人で笑い合えたら良いなと感じていた。




お読み頂きありがとうございます。

今回は何時も以上に短くなってしましました、今まで通り明日も更新を致しますので、よろしくお願い致します。


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みんなで囲んだ食卓で

 鍋を火にかけているので、カウンターに置いてある椅子に座り、夢中でゲームをしている二人を眺める。

 

 来た時とは変わり楽しそうにしているサクラちゃんに安心していたら響ちゃんが、画面から目を離さずに大きな声を上げた。

 

「八雲兄お腹空いた、さっき作ってたビーフシチュー食べたい!」

 

 今日はそうなるよね、と思い表情を少し崩しながらも用意をすべく立ち上がりながらサクラちゃんに目線を向ける。

 

「サクラちゃんも良かったら食べていく?」

 

 声を掛けられたサクラちゃんが、一度大きく体を震わせ俺の方を向き、しどろもどろになってしまった。

 

「え、え、私もですか?!」

 

「サクラも食べようよ、八雲兄料理上手なんだよ」

 

 二人のやり取りをBGM代わりに食卓の用意を進める、響ちゃんは今日はきっと食べるだろうと量は用意したし、副菜も準備を始めていたので直ぐに準備が終わり、サクラちゃんも響ちゃんに説得されて食べる気になったところで声を掛けた、テーブルに来た二人はちょっとした喜びに声をあげてくれたので嬉しくなる。

 

「わー、美味しそう、ビーフシチューに野菜のグリル、八雲兄、このココットに入っているのは何?」

 

「ツナとアボカドをサワークリームとマヨネーズで和えて焼いた物だよ、バケットに乗せてもそのままでも良いよ、あと口直しのピクルスは俺が漬けたんだよ」

 

 響ちゃんは椅子に座るともう待ちきれないと言った様子だった、サクラちゃんもおずおずとその隣に座る。

 

「「「いただきます」」」

 

「美味しい……」

 

 一口食べたサクラちゃんが驚きの声を上げる、それを聞いた響ちゃんが満足そうに頷く。

 

「ね、サクラ美味しいでしょう」

 

「おかわりあるからね」

 

 響ちゃんとサクラちゃんに、喜んで貰えその照れを隠すようにおかわりの話をすると、響ちゃんはさらに喜んだ。

 

「そう言えば、サクラちゃんって引っ越して来たばかりなんだって」

 

 野菜のグリルをフォークで刺しながらサクラちゃんに尋ねる。

 

「はい、そうなんです、私……引っ越して来たばかりで友達も居なくって、響さんが親友になってくれて嬉しいんです」

 

 目を伏せながらビーフシチューを掬った手を止めて、小さく溜め息を吐くサクラちゃん。

 

「大丈夫だよ、サクラ良い娘だから直ぐに友達たくさん出来るよ」

 

 バケットを咥えながらモゴモゴと響ちゃんが明るく声を掛ける。

 

「私は……響さんが居てくれれば……それで良いです」

 

 そう言って薄く笑うサクラちゃんの気配に軽い違和感を覚えたが、俺は気のせいだと思い流してしまった、それが原因で響ちゃんを泣かせてしまう事になるのも分からずに。

 

「まぁ、そう言わないで友達は多い方がきっと良いし、サクラちゃんはもう俺とも友達でしょう、だから何か困ったら助けるから遠慮無く話してね」

 

「私が八雲さんの友達ですか…………あ、ありがとう……ございます…………」

 

 この時始めて、サクラちゃんは俺の目しっかりと見て少し微笑みながら答えてくれて、俺も嬉しくなり笑いかけるとサクラちゃんは少しだけ頬を赤くし慌てる様に顔を背けた。

 

「良かったサクラ、八雲兄と仲良くなれたんだね」

 

 ビーフシチューのおかわりをよそって戻って来た響ちゃんが、サクラちゃんに笑顔を向けるとサクラちゃんは驚いた様に響ちゃんを見つめた。

 

「仲良くなれたんでしょうか?」

 

「うん、ばっちり、もう八雲兄とも立派な友達だよ」

 

 響ちゃんの言葉に、サクラちゃんはさらに大きく驚き目を丸くしていたが、響ちゃんは満足そうにうなずきながらバケットに手を伸ばす。

 

「ところで、響さんは八雲さんとお付き合いしているんですか?」

 

 サクラちゃんは、話題を反らすかのように響ちゃんに爆弾を落とす、響ちゃんは顔を少し赤くしながらもスプーンの先でビーフシチューの牛肉をつつきながらぼやく。

 

「八雲兄は……うん……やっぱりお兄ちゃん…………かな……サクラから見ても付き合っている様に見えるの?」

 

「いえ、見えると言うかどうなのかなって思っただけです」

 

 会話に加わると藪蛇になりそうなので、黙って食事に精を出す。

 

「八雲さんはどうなんですか?」

 

 せっかく黙っていたのに、サクラちゃんは容赦なく聞いてくる。

 

「俺は…………うん、響ちゃんは可愛いし、大切な妹だよ……うん……」

 

 自分の答えに胸が疼くがそれを無理やり抑え込む、響ちゃんを見ると両頬を押さえ「可愛いだなんて八雲兄分ってるぅ」と身悶えしていて、噴き出すのをこらえるのに苦労した。

 

 うん、やっぱり響ちゃんは可愛い。



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奏の電話

 私は鼻息も荒く自分の部屋に戻ると、乱暴にドアを閉め、手に持っていたダンベルをテーブルに置き、勢いよくベットに飛び込んだ。

 

「奏のヤツ、親友も友達も止めるってどういう事よ……ねぇ、ハミィ! …………そっかハミィ、夜の散歩に出かけたんだっけ……」

 

 奏は私が他の子と仲良くするのが嫌なのかな…………でも、和音とか普通に接しているし、サクラに対してだけ? サクラがあの時泣いたから…………

 

「わっかんない……」

 

 考えが頭の中をグルグルと回り、訳が分らなくなっていると、私の頬に少し硬い感触が撫でる。

 

「アカネ……? どうしたの?」

 

 いつもは、フェアリートーン達と一緒に行動する事が多い、ディスクアニマルのアカネがその無機質な目で私を見ていたが、不意に勉強机に飛び乗り何かを突いている。

 

「何やってるのよ、アカネ」

 

 ベットから起き、机の側に行くとアカネは私の携帯電話を何度か軽く突き、何かを訴える様に私を見つめてきた。

 

「電話……もしかして誰かにかけろって?」

 

 アカネは、頷く様に大きく体を縦に動かし私の肩に乗ってくると、私を心配するかのように体を摺り寄せてくる、アカネの思いが嬉しくて私はしばらく頬を寄せる。

 

 大きく深呼吸をしアカネを撫でながら、携帯を操作して電話帳を呼び出す、奏の所で一瞬止まるが私は小さく首を振ると、そのまま電話帳をスライドさせ電話を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし、響ちゃん? どうしたの電話なんて珍しいね」

 

 電話の向こうで響ちゃんが話し辛そうにしているのが分る、思い当たる事があるのでこちらから尋ねる事にした。

 

「奏ちゃんの事かな?」

 

「ッ!」

 

 響ちゃんが声を呑んだのが分る。

 

「八雲兄はすごいね、分かっちゃうんだ…………うん、奏からひどい電話があって……話しいいかな」

 

『凄い』ではなく『酷い』か、少し涙声なのでよほど堪えているのだろう。

 

「さっきね、奏からの電話でもう親友も友達もプリキュアも止めるって、あと学校でも話しかけるなって……」

 

 鼻を啜りながら一生懸命に説明をしてくれている響ちゃんの話に違和感を感じる、果たして奏ちゃんが本当にそんな事を言うのだろうか。

 

「理由は聞いたのかい?」

 

「他に親友が出来て親友は一人だけで、でも誰だかも教えてくれないし、私がサクラと仲良くして居るのも嫌だって、サクラの事泣き虫だって言って、サクラはとっても良い子なのに、私どうしたら……」

 

 やはりありえない、奏ちゃんがそんな事を言うとは思えない。

 

「響ちゃん、その電話本当に奏ちゃんか?」

 

「ッ! 私が奏の声を聞き間違える訳ないじゃん!」

 

 確認したい気持ちが強すぎて、配慮に欠けた聞き方をした俺に烈火の様に声を荒げる響ちゃん、俺は言葉が少なかったと反省する。

 

「ごめん響ちゃん、言葉が足りなかった、奏ちゃんがそんな事言う訳ないと思っているから俺に電話してきたのだろう、なぁ、少し前の奏ちゃんの黒いケーキ覚えているかな」

 

「覚えてるよ、忘れる訳ないじゃん、だからそれが何よ」

 

 響ちゃんは怒りは収まっていない、俺は自分の迂闊さに呆れる。

 

「口止めされている訳ではないのだが…………あれな……セイレーンに騙されていたんだよ奏ちゃんはね、だからもしかして今回もかなって思ったんだ」

 

「何それ……奏そんなひどい目にあっていたの、何で私に言ってくれなかったの」

 

 響ちゃんの声が低くなり底冷えする様な声を出す。

 

「それは響ちゃんが奏ちゃんを受け止めて救ったからだよ、必死になって探していたでしょうあの日、あれで奏ちゃんは目が覚めたんだ、そんな奏ちゃんが響ちゃんを裏切るとは俺は思えない、だから聞いたんだ、本物の奏ちゃんかってね……だが、軽率な聞き方だった、響ちゃん、ごめん」

 

「ううん、私こそごめん……ねえ、八雲兄、私どうすれば良いんだろう」

 

 響ちゃんの吐き出すような様な声に少し思案する。

 

「そうだな……明日奏ちゃんが響ちゃんに普通に接してきたら、多分奏ちゃんは電話はしていないと考えられる、話しかけるなと言った人物が話しかけて来るのだから先ほどの響ちゃんへの電話は偽者で確定だ、もしも奏ちゃんが響ちゃんを無視してきたのなら……俺も力を貸すから、本当の理由を探そう」

 

 響ちゃんの息遣いが聞こえる、躊躇っているのか覚悟を決めているのかは分からない、だが逃げる訳は無いそんな事をしたら……

 

「うん、私頑張る、ここで決めなきゃ女がすたる、八雲兄ありがとう、お休みなさい」

 

「お休み、響ちゃん」

 

 頑張ると言った響ちゃんの声は、何時もの力強さに溢れていて自然と口角が持ち上がる。

 

 響ちゃんには話さなかったが、実を言うと話をしている最中に浮かんだ疑念もある、それは奏ちゃんがサクラちゃんの為にあえて響ちゃんと距離を取る場合だ、独占欲の強そうなサクラちゃんが慣れるまであえて悪者を演じる可能性、だが二人の力の源であるハーモニーパワーが下がる様な事をするとも考えられない、それに自惚れかも知れないが、仮にそうなら奏ちゃんは俺に連絡をくれるはずだし必ず響ちゃんにも考えを話す筈だ、可能性としてもほぼ無いと思った俺はこの馬鹿な考えを丸めて捨てる事にした。



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サクラに挟まれて

「おはよう、響」

 

 後ろから奏に声を掛けられドキリとするが、昨日の八雲兄との会話を思い出しながら決心を決め、浅くなっていた呼吸を落ち着かせる為に一度深呼吸をする。

 

「お、おはよう、奏……」

 

「どうしたの響? 元気ないよ、私で良かったら話してよ親友でしょう」

 

 いつも通りの奏がそこに居た、鼻の奥が痛くなり涙が出そうに成るのをなんとか我慢する、やっぱり昨日の電話は偽者だったの? 

 

「ねぇ奏、昨日の夜だけど……」

 

「あの、ごめんなさい!」

 

 慌てて走って来たサクラが私に頭を下げると、奏は少し驚いた顔をしたが、直ぐにサクラが話しやすいように一歩後ろに下がるのが分かった。

 

「なんでサクラが謝るの?」

 

「昨日私我がまま言ってすいません、響さんの親友は私だけだなんて、でも思い直したんです響さんの親友はやっぱり奏さん……私は響さんの友達で居られるだけで幸せだって」

 

 辛そうに必死に謝ってくるサクラを見て心が痛む、何でそんな事言うの。

 

「サクラ……」

 

「だから、これからも私の友達で居て下さい、お願いします」

 

「よしてよ、サクラと私は親友のままだよ」

 

 サクラに近づきその手を取る、サクラの手は小さく少し冷たい、私は安心させたくなる。

 

「……ホントですか?」

 

 私が微笑みながら頷くと、サクラの潤んだ紫色の瞳がアメジストの様に綺麗に輝く。

 

「嬉しいです……」

 

「涙もろいのも同じだね、やっぱり私とサクラって気が合う見たい」

 

 ハンカチでサクラの涙を拭いながら奏を見ると、心配そうな顔をしながらも大丈夫と言わんばかりに小さく頷いてくれた、やっぱり奏は奏だ、私は安心してサクラの手を引く。

 

「行こう、サクラ」

 

 今は無理かもしれない、でも私は奏とサクラも親友になって欲しい、私はみんなで大切な時間を過ごしたい。

 

 サクラと手を繋いで歩いていたら、柔道部の部長が私の姿を確認すると、慌てた表情で向かって来た。

 

「大変よ! メグミが足をくじいちゃって」

 

 慌てて走って来た、柔道部の部長が一気にしゃべり肩で息をしている。

 

「どうしよう……メンバー一人、足りなくなっちゃったよ」

 

 息を整えつつしかめっ面の部長、私の頭の中で有る事が閃きサクラに体を向けた。

 

「そうだ、サクラって柔道やっていたよね」

 

 私の問いかけに、少し目を大きくし戸惑いながらも返事をしてくれる。

 

「お願い、今日の試合に出てくれない」

 

 頭を下げ両手を合わせサクラに懇願するが、サクラは困り顔だ。

 

「私が……あ、でも、今日はちょっと……用事が…………」

 

 サクラは困ったような声をあげる、いきなりじゃ仕方がないと私は小さく溜め息を吐いた。

 

「いえ! 親友の頼みとあらば断る訳にはいきません!」

 

「ありがとう! サクラァァ」

 

 両手で握り拳を作り、力強く宣言してくれたサクラに嬉しくなり、私は思わず力いっぱい抱きしめたらサクラは目を白黒させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 北条先生との打ち合わせの後、柔道部の練習試合を見せて貰える事になり、柔道場に向かう最中に何かを手に持ち廊下に佇む奏ちゃんを見つける。

 

「よっ、柔道部の応援行かないのかい」

 

 かけられた声に奏ちゃんが、振り向くと目を丸くする。

 

「お仕事ですか、お疲れ様」

 

「今日は打ち合わせで来てね、柔道部の練習試合の見学許可貰ったから向かうところ」

 

 少し困った顔をすると、奏ちゃんは開いた窓の外を眺め、何かを飲み込む様に瞳を閉じた。

 

「ところでその手に持っているシュシュどうしたの?」

 

 奏ちゃんに訊ねながら隣に立つと、何処からともなく女子サッカー部の練習の声が微かに聞こえてくる。

 

「これ響に貸したんだけれど、机に忘れて行ってしまって……」

 

 奏ちゃんは一度も俺の方を向かず、窓を向いたまま少し寂しそうに呟く。

 

「応援ついでに持っていかないとね」

 

 あえて明るく接すると、ややあって奏ちゃんはこちらを向くと辛そうな表情だった。

 

「応援に行きたいけれど、まだ北条さんと仲良くなれてないから……響を板ばさみにしたくないよ」

 

 奏ちゃんは、自嘲するように笑みを浮かべ小さく溜め息を吐く、俺は後頭部を何度か掻くと奏ちゃんの手を取り引っ張っていく。

 

「柔道場の位置分からないから、案内お願いね」

 

「え、えぇぇぇ、ちょっと八雲さん」

 

「いやー、親切な生徒さんが居て助かるよ」

 

 最初は抵抗をした奏ちゃんだが、俺が譲らないのを理解すると、諦めて渋々と案内をしてくれた。



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サクラの気持ちと響の意地と

 柔道場の前に着くと中から歓声が聞こえる、木製の大きめのドアを開けると響ちゃんの試合が始まっていた。

 

 相手の選手は執拗に響ちゃんに足払いを掛けているが、その攻撃は足払いと言うよりも明らかに響ちゃんの足を狙い打撃を仕掛けていた。

 

 奏ちゃんと顔を見合わせると靴を下駄箱にしまい柔道場のアリア学園サイドに移動し試合を観戦する。

 

 選手の位置には何故かサクラちゃんも座っており、祈る様に手を組んで響ちゃんを見つめていた。

 

 相手の打撃に対して響ちゃんが気合を発しながら前に出ると、相手選手はそれに合わせ響ちゃんに出足払いを仕掛け、そのまま技ありを取る。

 

 響ちゃんは直ぐに起き上がろうとしたが、足のダメージが大きすぎて立ち上がれなく、蹴られた部分を手で押さえ苦悶の表情を浮かべていた。

 

「「「響!」」さん!」

 

 立ちあがれないサクラちゃんに、部員の二名が慌てて響ちゃんに駆け寄る、眉を寄せて痛みに耐える響ちゃんを目の当たりにして、俺は奥歯を噛み締め、きつく拳を握りしめる。

 

「響! 大丈夫?!」

 

「うん、大丈夫……」

 

 響ちゃんは、部員の呼びかけに意地で我慢するが、額には脂汗が珠の様に浮き出ており、見ているのが辛い程に足は赤く腫れ上がり痣も出来出していた。

 

「痛いでしょう……かわいそうに」

 

 サクラちゃんの声は今にも泣きだしそうで、響ちゃんを本気で心配しているのが分る。

 

「これじゃ試合は無理です、棄権しましょう」

 

 サクラちゃんが縋る様うに部員に提案するが、響ちゃんは信じられないと言った表情を浮かべた後、目線を反らす。

 

「そうだね……これ以上は……」

 

 悔しそうに言う部員に響ちゃんは目を伏せる、そんな響ちゃんを救いたく俺達は応急処置の準備を終え、響ちゃんに急いで近づく。

 

「響ちゃん、足診せてみろ」

 

 俺は周りに構わずに響ちゃんの足を確認し、直ぐに赤く腫れ上がっている患部に氷嚢を押しつけると、響ちゃんは戸惑いながらも治療を受けてくれた。

 

「響はやりたいんだよね」

 

「奏、八雲兄……」

 

 奏ちゃんの一言に、響ちゃんは悔しそうな表情を浮かべる、その表情を見た奏ちゃんはしゃがんでいた俺の肩を掴む。

 

「八雲さん、後は私が」

 

 包帯を持っていた奏ちゃんに頷き、俺が場所を開けると、奏ちゃんは直ぐに響ちゃんの足に包帯を巻きだす。

 

「素人の私が見ても分かったし、八雲さんなんかすごく怖い顔してたよ、あの人わざと足だけを狙っていた……響はそんな相手に負けたくないんだよね」

 

「響ちゃんが、あんな試合しかできない相手に負ける訳が無いよ」

 

 響ちゃんは、神妙な顔で奏ちゃん治療を受けているが、その瞳の闘志は萎えてはいなかった。

 

「何ですか、貴方達は! 無責任な事言わないで下さい、本当の友達ならそれに兄代わりなら止めるべきです! それが優しさと言うものです!」

 

 殺気立つサクラちゃんは、俺と奏ちゃんを睨みつけ威勢良く言い放つが、奏ちゃんはサクラちゃんの言葉に動じずに治療を続け、俺は軽く腕を組みサクラちゃんを見つめる。

 

「サクラちゃん、そうじゃないんだよ」

 

「私の知っている響はこれぐらいの事で諦めたりしない、諦めたら後で絶対に後悔する」

 

「貴方達に響さんの何が分るんですか!」

 

 サクラちゃんの声はもう悲鳴に近く、そのアメジストの様な瞳は潤み出しており響ちゃんを、本気で心配しているのを嬉しくも思っていた。

 

「でもね、サクラちゃん」

 

 鋭い眼光で、俺を見上げていたサクラちゃんに、小さく横に首を振る。

 

「「決めるのは」」

 

「響だよ」

 

「響ちゃんだ」

 

 俺と奏ちゃんの思いは一緒で、サクラちゃんは息を呑み、響ちゃんは目を大きく見開き握り拳を作る。

 

「私やるよ、柔道部のみんなの思いと、用事があったのに参加してくれたサクラのために、治療してくれた奏のために、応援に来てくれた八雲兄にカッコイイところ見せないとね」

 

 ゆっくりとだが力強く立ち上がる響ちゃんを、慌てて支え辛そうに見つめるサクラちゃん。

 

「響さん……」

 

「ありがとう、サクラ、大丈夫、痛くない、いたくない……」

 

 歯を食いしばり脂汗を掻きながらも気丈に振舞う、そんな響ちゃんにシュシュを差し出す奏ちゃん。

 

「コレお守り、教室に忘れてたよ」

 

 奏ちゃんの手からシュシュをしっかりと受け取った響ちゃんは、集まった全員を見渡し大きく頷くと髪の毛を纏め出す。

 

「奏、借りるよ、八雲兄もみんなも見ててね、ここで決めなきゃ女がすたる」

 

 いつもの調子を取り戻した響ちゃんは、晴れやかな顔をしていた。

 

 一進一退の攻防の中、足にダメージの大きい響ちゃんの動きは鈍い、相手選手の背負い投げが入りそうになった瞬間、奏ちゃんとサクラちゃんが大きな声で響ちゃんの名前を叫ぶ。

 

 瞬間的に足を外した響ちゃんはそのまま相手を払腰で投げ飛ばし一本を取った、奏ちゃんとサクラちゃんはお互いの手を握り合うと響ちゃんの勝利に喜びの声をあげた。



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サクライロノナミダ

「奏、サクラ、痛いよ~、八雲兄ぃ、勝ったよ……」

 

 勝利に沸く会場内で、響ちゃんは涙目で奏ちゃんとサクラちゃんに助けを求める、痛がる響ちゃんに奏ちゃんや部員達が集まる中、響ちゃんは俺に向かってそっと握り拳(小さくガッツポーズ)を見せてくれた。

 

「響!」

 

「すごいよ! 頑張った!」

 

「響ありがとう!」

 

 みんなに囲まれる響ちゃんに、距離を取っているサクラちゃんの背中を押し出すように叩く。

 

「え、きゃっ」

 

 驚いた顔で俺を見てくるサクラちゃんに、笑い掛け頷いて見せる。

 

「サクラちゃん混ざってきな、皆待ってるよ」

 

「でも、私は……」

 

 戸惑っているサクラちゃんに、響ちゃんと奏ちゃんは手を差し出す。

 

「サクラ!」

 

「北条さん!」

 

 部員全員の視線が集まる、俺はもう一度背中を押しだすと、サクラちゃんは一瞬よろけるが、皆の輪に向かって行き笑い合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 奏ちゃんとサクラちゃんは、響ちゃんを保健室に連れて行くと言い張り、俺の前を三人で笑顔でしゃべりながら仲良く歩いている、俺はこの時やっと三人は仲良くなれると思っていた。

 

 だが渡り廊下に差し掛かった時、事態は急転する。

 

「「「音符見つけた~」」」

 

 トリオ・ザ・マイナーが、響ちゃんを指さしいつものイラつくコーラスを披露する。

 

「お前達! 何でここに!」

 

 トリオ・ザ・マイナーに向かって、大声を出すサクラちゃんに俺達は驚く。

 

「サクラ……何であいつらの事知っているの……まさか……ウソだよね、セイレーンじゃないよね! 嘘だって言ってよ! ねぇ! サクラぁ!」

 

 響ちゃんの叫びは慟哭の様だった。

 

 サクラちゃんは、少し俯き響ちゃん達に背を向けるとゆっくりと歩きだす、俺はその姿を見てやるせない気持ちになる、瞳から零れた一滴の涕、それを隠すように更に俯くが大粒の涕がポロポロと落ちる、そして小さく動かされたその唇からは『ごめんなさい』と、紡がれたからだ。

 

「サクラの事本当の親友だと思ったのに! 奏とも仲良くなれてこれからだと思ったのに!」

 

 表情を歪ませた響ちゃんが大粒の涙を零しながら叫ぶ、一瞬、セイレーンの足が止まる。

 

「もう、私馬鹿みたい」

 

 顔を押さえ泣き崩れ落ちそうな響ちゃんの肩を抱き引き寄せると、響ちゃんは俺の服を力一杯握る、肩を震わせている響ちゃんを見た奏ちゃんは、セイレーンに憐憫の眼差しを向ける。

 

「ねぇ、セイレーン、ううん、今はあえて北条さんって呼びます。

 

 私は響から北条さんが越して来たばかりと聞いていて不安なんだろうって思っていました……

 

 だからこそ響に頼りたいのだろうと、でもいつか私とも親友になって貰えると信じていました、そう願っていましたが叶いませんでした。

 

 でも……北条さん、怪我をした響を本気で心配してくれて……ありがとう」

 

 奏ちゃんも、涙を流しながら真っ直ぐにセイレーンを見つめ、穏やかな声で思いを紡ぐ。

 

「サクラちゃん、俺は三人が笑い合えれば良いと思っていてね……一瞬でもそれが叶って……嬉しかったよ…………」

 

 響ちゃんが俺の肩に顔を埋め小さな嗚咽を漏らす、俺は抱きしめていた肩から埋められた頭に手を移動し抱え込み力を籠める。

 

「セイレーン様、何時まで遊んでいられるのですかな」

 

 バスドラがにやつきながらセイレーンに声を掛けると、セイレーンは猫の姿に戻る。

 

「いでよ! ネガトーン!」

 

 悪意を振りまくセイレーン瞳からも一筋の涕が流れ落ち、響ちゃんの髪を纏めていたシュシュが独りでに抜け落ちネガトーン変わって行く。

 

「ネガトーンよ! やっておしまい!」

 

 響き渡るその叫びが、俺には泣き声にしか思えなかった。

 

「哀しいな、セイレーン……」

 

「私は……私はサクラを信じていたのに……なんで!」

 

「どうして……響の心を踏み躙る様な事をしたの……」

 

「「答えてよ! セイレーン!」」

 

 二人の叫びも…………泣き声だった。

 

「「レッツプレイ! プリキュア! モジュレーション!」」

 

「鬼姫の使者! 音撃戦鬼! 獣鬼!」

 

「爪弾くは荒ぶる調べ! キュアメロディ!」

 

「爪弾くはたおやかな調べ! キュアリズム!」

 

「「届け! 三人の組曲! スイートプリキュア!」」

 

 変身が終わると同時に三人で跳び蹴りを入れネガトーンが倒れるが、メロディもバランスを崩す、何時に間にか人の姿に成っていた酷い顔色のセイレーンが大きく腕を振るい、紫色の光で出来た音符を連続で打ち出すが、その姿は泣きじゃくる幼子の様だった、よろけているメロディをリズムと左右から支え攻撃を躱し大きく間合いを広げる。

 

「ここは私が何とかする!」

 

 メロディの手を取り力強く宣言するリズムにメロディは驚く。

 

「でも、それじゃ」

 

「大丈夫! 怪我をしているメロディに無理はさせたくないの! 必ず私が隙を作る、だからお願い獣鬼、メロディの側に居て!」

 

「なら、俺が隙を!」

 

 言い返した俺にリズムは首を横に振る。

 

「ごめんなさい獣鬼、これはメロディの親友でもある私がすべき事なの、だから獣鬼は、メロディ(八雲さんは、お兄さんなんだから、妹)を守って!」

 

 取り付く島も無くネガトーンに向かって行くリズム、そんなリズムに対し音符を撒き散らすセイレーン、リズムは危なげなく躱しネガトーンに接近していくが、流れ弾がこちらに飛んで来る、メロディの前で仁王立ちになり全てを弾き飛ばす。

 

 ムキになって攻撃してくるセイレーンの音符を、リズムはネガトーンに弾き返しネガトーンはよろけて膝を突く。

 

「今よ! メロディ!」

 

「奏でましょう、奇跡のメロディ! ミラクルベルティエ!」

 

 リズムの声にメロディが直ぐに動き『ベルティエ』を呼び出す。

 

「おいで! ミリー!」

 

「翔けめぐれ、トーンのリング! プリキュア! ミュージックロンド!」

 

 光のリングがネガトーンを捕える。

 

「三拍子! 1、2、3!」

 

「フィナーレ!」

 

 ネガトーンは浄化に光に包まれその力を失い、元の音を取り戻した音符をハミィがドリーに預けた。

 

 セイレーンはこちらを何とも言えない表情で見つめた後、何も言わずにそのまま立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「メロディお疲れ様、獣鬼もメロディを守ってくれてありがとう」

 

「「リズムもお疲れ様」」

 

 笑い合った瞬間に、バランスを崩し倒れそうになったメロディの体に腕を回し支え倒れないようにするが、手のひらに柔らかい感触が納まる。

 

「あっ!」

 

「おっ!」

 

「ん?」

 

 俺とメロディが声をあげるとリズムが小首をかしげる、ワナワナと震えながら俺から少し離れたメロディの顔は羞恥に染まっていた。

 

「八雲兄の……スケベぇ!」

 

 胸を押さえながら叫んだメロディの声は青空に吸い込まれる。

 

「で、どうでしたか?」

 

「最高の感触……っておい」

 

 リズムの言葉に思わず正直に答えてしまい、額に手を置き悔やむ。

 

 チラリとメロディを見る、耳や首まで真っ赤にして身を縮めていた。

 

 恐る恐るリズムを見る、片方だけ口角を上げジト目で俺を眺めている。

 

「とんでもない、スケベですね」

 

 先程までの悲しい空気は何処に行ったのやら、リズムに良い笑顔で切り捨てられました。




第7話終了となります、お読み頂きありがとうございます。
次回は来週末の更新予定となります。

宜しければ第8話もお付き合い頂ければ幸いです。

最後のラッキースケベはいらなかったですかね?

 今回はひびかなの代表的な台詞でもある「絶対に許さない!」を使わない形を取りましたが、違和感は無かったですか? かなり悩みましたが、このような形にしました。

 シリアスはシリアスで終わらせた方が正解だった気もしますし、軽い雰囲気で終わった方が良い気もします、まだまだ、手探りと言った感じです。では、次回

第8話 奏がんばる 第1節 奏の悪夢
よろしくお願いします。


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第8話 奏がんばる
奏の悪夢


 薄暗い不思議な空間の中、私は一人でネガトーンに向かっていた、ネガトーンの攻撃をギリギリでしてはいるがドンドンと追いつめられてしまい、足元に来た攻撃を捌き切れずに転倒してしまいダメージを覚悟する。

 

「音撃打! 火炎連打!」

 

 何処からともなく表れた獣鬼が一瞬でネガトーンを倒してくれて、私は立ち上がり獣鬼の方を向くが。

 

「ありがとう獣鬼……あれ……?」

 

 そこに居たはずの獣鬼は居なくなり、私は誰も居ない空間に取り残されちゃって。

 

「獣鬼!」

 

 私は不安に成って大きな声で叫ぶが、獣鬼は答えてくれる事は無くて途方にくれた時、後ろからロープの様な物で縛られてしまう。

 

 体を捻り相手を確認すると、そこには別のネガトーンが立っていた、脱出しようと試みるがネガトーンの力は強くその場で耐えるのが精一杯。

 

「翔けめぐれ、トーンのリング! プリキュア! ミュージックロンド!」

 

 ネガトーンが消滅し私は崩れ落ち両手両膝をついてしまう、側に寄って来たメロディの隣にはいなくなった獣鬼も立っていて、私は泣かない様に我慢する。

 

「リズム、大丈夫」

 

「怪我はないかいリズム」

 

 二人が、私に優しい言葉を掛けてくれるが私の心は沈んだまま。

 

「ごめん、私二人に頼ってばかりで、私にベルティエがあれば……」

 

 誇らしげに『ベルティエ』を構えているメロディが羨ましい。

 

「ハミィもベルティエ持ってるニャ!」

 

 メロディの肩に乗ってきたハミィは、楽しそうに『ベルティエ』を掲げる。

 

「俺は、二本持ってるよ」

 

 いつもの優しい笑みで答える獣鬼の手には、二本もの『ベルティエ』が持っていた。

 

「私達もよ」

 

 その声に振り向くと、セイレーンとトリオ・ザ・マイナーすら『ベルティエ』を持っている。

 

「「「持って無いのはお前だけぇ~」」」

 

「姉ちゃん俺も持ってるぜ」

 

「私も……」

 

 奏太もアコも『ベルティエ』を持っており、パパにママ更には和音に王子先輩や聖歌先輩、スイーツ部の部員までもが『ベルティエ』を持って、私を囲んで来て私はパニックになってしまう。

 

「な、何で私だけ『ベルティエ』が無いのおぉぉぉ!」

 

「うわぁ! …………夢……?」

 

 跳び起きた私は、周りを見渡し安堵の息を吐く。

 

「うるせぇなぁ」

 

 ノックもせずに、部屋に入って来た奏太に注意しようとするが。

 

「先輩か兄ちゃんに振られる夢でも見たのかよ」

 

「うるさい!」

 

 奏太にカチンときた私は、力いっぱい奏太の顔面に枕を投げつけた、うん、私悪くないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 日直で早目に登校した私は、空気の入れ替えをしながら乱れている机を直し、教卓を拭き自宅から持ってきた花を飾り、拭きむらを見つけた黒板を再度綺麗にする。

 

 思い出すのは今朝の夢、メロディの放つ『ミュージックロンド』に獣鬼の『音撃打』。

 

「これ以上、響と八雲さんに迷惑を掛けられない……」

 

 廊下の様子を伺い誰も居ないのを確認すると、スクールバックから『ディスクアニマル』を取りだす、私達では変身出来ない『音角』で軽く弾くと澄んだ音が教室の中を響き渡り銀色の円盤だったのが、瑠璃色の狼へと姿を変える。

 

「ねぇ、瑠璃、ハミィの所に行って今日学校が終わった後に話したい事があるって伝えて欲しいの、あ、場所は海が見える丘の東屋ね、大変だけどよろしくね」

 

 瑠璃はしばらく私を見てから大きく頷くと、開いている窓から飛び出して行き、あっという間に見えなくなった。

 

「瑠璃、お願いね…………」

 

 私は小さく呟くと、祈る様に瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 響ちゃんと奏太に俺、珍しい組み合わせで話しながら歩いている、奏太から奏ちゃんが夢でうなされたと聞いてどんな夢を見たのだろうと興味が湧くが、奏太はそこまでは知らなかった。

 

「へぇ、私、夢でうなされた事なんて無いなぁ」

 

「俺も」

 

 響ちゃんも奏太もそんな経験は無いらしい、響ちゃんはやたらと関心にしていて、奏太はケラケラと笑っている。

 

「アンタ達、悩みなんて無さそうだもんね」

 

「まぁ、人それぞれだよ、おはようアコちゃん」

 

「ん、おはよ」

 

 アコちゃんも合流した途端、いつもの毒舌を披露する。

 

「悩みかぁ……」

 

 響ちゃんが、人差し指を頬に当て深く考えているのを見て奏太が驚く。

 

「もしかして響姉ちゃん、悩み……あるの……?」

 

 奏太の上げた声は、ウソだろうと言わんばかりだった。

 

「え、あ、無い無い」

 

 響ちゃんは、へらりと笑うと手を軽く振って否定する。

 

「響ちゃん無いの?」

 

 思わず驚きの声をあげてしまうと、隣でアコちゃんは溜め息を吐いた。

 

「そう言う八雲兄は、悩み無いの?」

 

「ん? 俺? そうだなぁ」

 

 チラリと響ちゃんを見ると、目を輝かせて答えを待っていてる姿が可愛くて、思わず頭を撫ぜてしまう。

 

「八雲兄ちゃん、いきなり何やっているんだよ」

 

 奏太にジト目で見られ、慌てて手を離して響ちゃんを見ると、顔を赤くして照れていた。

 

「八雲、そういうとこよ」

 

 溜め息混じりのアコちゃんに、視線を合わすと鼻で笑われる。

 

「そ、そう言えば奏は?」

 

「日直だから早めに出かけたよ」

 

 響ちゃんが、誤魔化す様に話題を反らし奏太に奏ちゃんの事を聞く、その後何気ない会話をしながら四人で歩いて行くと、アコちゃんが溜め息をしつつ唐突に足を止めた。

 

「ねぇ、アンタ、何時から小学生に戻ったの」

 

 小学校の校門の前で、肩をすくめ呆れ気味のアコちゃんに、眉を寄せた奏太。

 

「中学校は反対方向だよ、響姉ちゃん」

 

「ありゃりゃ……でも、八雲兄は?」

 

「響ちゃん、俺は今日、小学校でお仕事です」

 

 俺を巻き込もうとした響ちゃんの目論みは脆くも崩れ去り、頭を掻きながら逃げる様に中学校に向かって走って行く姿を見ながら、スカートって捲れないもんだなと思って眺めていたら、アコちゃんに気付かれたらしく、力の限り足を蹴りあげられた。

 

「そういうところって言ったわよ」



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奏は悩む

「うわ、うわぁ、食べても良いのかニャ」

 

 大きめの箱に詰められたカップケーキを前に、ハミィが嬉しそうに私に聞いてくる。

 

「もちろん、フェアリートーンのみんなも食べてね」

 

 ハミィに、カップケーキを手渡しながらフェアリートーン達に声を掛けると、我先に箱の周りに群がって来る。

 

 指定された物をドンドンと渡すと思い思いの所に移動して食べ出す、その姿がまるでピクニックの様で楽しい。

 

 やはりカップケーキを前にして喜んで貰えるのは嬉しい、今朝見た嫌な夢や思いが少しだけ軽くなるの感じながら、ハミィとフェアリートーンが美味しそうに食べる姿を眺め、幸せに浸る。

 

「美味しいニャ」

 

 あっという間に一個を食べたハミィが、次のカップケーキを口に運んだ時、私は躊躇いがちに尋ねた。

 

「ちょっと教えて欲しい事があるんだけど……プリキュアの『ベルティエ』ってどうすれば…………」

 

 次の言葉が出せない私に、ハミィは小首をかしげる、小さく息を吸い大きく吐き覚悟を決めて続きを話す。

 

「私『ベルティエ』がある響や、独自の戦い方をする八雲さんに頼ってばかりで、どうしたら私にも『ベルティエ』が現れるのかなって……」

 

 こんな事をハミィに聞くのは間違いかもしれない、でもあの二人なら「気にするな大丈夫」だと言ってくれるだろうけれど、だからこそ私は隣に並びたい、強く成りたい。

 

「奏はあんまり気にする事無いニャ、そんなの気の持ちようニャ」

 

「気の持ちようって、『ベルティエ』が現れるにはやっぱり切っ掛けがあるんでしょう」

 

 ハミィはやはりマイペースでのんびり屋さんだ、何時もはその性格に救われているけれど。

 

「きっかけ……んーえっと、えっと、えーっと」

 

 ハミィはハミィなりに、腕を組み何かを思い出しているのか唸り続けている、私はハミィの邪魔に成らない様に息を潜めて神妙に答えを待つ。

 

「きっと響の持っているプリキュアのパワーニャ」

 

「パワー?」

 

 予想外の台詞に、思わず繰り返して聞いてしまう。

 

「パワーニャ、そのパワーがニャーって溢れて『ベルティエ』に成ったニャ」

 

 じゃあ、私にはプリキュアのパワーが無いって事なのかと思い、思わず大きな溜め息を吐いてしまう。

 

「そんな顔してたらパワー何て出無いニャ」

 

「ハミィ、八雲さんは何であんなに強いと思う」

 

 ハミィが八雲さんの事をどう思っているのが気になる、ハミィの事だきっと予想外の事を話してくれそうだ。

 

「八雲かニャ、んー、八雲は八雲だから強いニャ」

 

「ハミィ、だからって……それ理由に成って無いよ」

 

 斜め上すぎる答えに思わずおでこを押さえてしまう、それを見たハミィはまた首をかしげる。

 

「ハミィも八雲の事はここに来て知ったニャ、アフロディテ様も知らなかったニャ、助けてくれるから良い人ニャ、でもこの前響が八雲はエッチだって怒っていたニャ」

 

 ハミィの最後のオチに思わず吹き出してしまう、この間のは事故だと思うな、でも私だったら……頬が少しだけ緩みそうに成り私は慌てて考えるのを止める。

 

「そんなに気になるんなら、八雲の所に行ってみれば良いレレ」

 

 カップケーキを食べ終わったレリーが、口の周りを拭きながら何でも無い事の様に話す。

 

「え? でも、迷惑じゃ……」

 

「何を言ってるレレ、奏はどうしたいレレ? 気になる事は何でもやってみるレレ」

 

 次のカップケーキを取り出して頬張るレリー、何かを思い出したのか、体を傾けると口の中の物を大急ぎで飲み込む。

 

「それに八雲は早い時間に良く走っているレレ、きっと何かをしているレレ、一度調べて見ると良いレレ」

 

「トレーニングでもしているのかな……」

 

 海の視線を向けると水平線に点の様な船が見える、私は上手く考えを纏められないでいた。

 

「僕が力を貸してあげるから、『モジューレ』出すレレ」

 

 言われた通り『モジューレ』を取り出すと、レリーは『モジューレ』に入り込む。

 

「奏、吹くニャ」

 

 ハミィにも急かされ『モジューレ』を拭くと辺りに澄んだ綺麗な音が響き、不思議と力が湧いてくる。

 

「僕の力は、心と体に力を与えるレジェンドメロディレレ、後は奏次第レレ」

 

 レリーはそれだけ言うと、カップケーキの続きを食べ出す。

 

 気分が切り替わった私は、大きく伸びと深呼吸をする、レリーのお陰で力も湧いたし、ハミィにも話を聞いて貰え心が軽くなる。

 

「なんだか気分が軽くなったよハミィ、レリー、よーし、こうなったら響と八雲さんのパワーの秘密探ってみるか!」

 

「その意気ニャ!」

 

「頑張るレレ」



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奏の行動力

 土曜日のまだ早い時間に私は、八雲さんの家のチャイムを鳴らすと、八雲さんが何時もの笑顔で出迎えてくれた。

 

「奏ちゃんいらっしゃい、取りあえず中にどうぞ」

 

 八雲さんの後についてリビングに向かう、八雲さんから微かにコーヒーの香りがする、リビングに入ると部屋の中はコーヒーの香りで充満しており八雲さんらしいなと私は少し笑みを浮かべてしまう。

 

「丁度コーヒー豆を挽いていたところなんだ、奏ちゃんも良かったら一緒に飲まない?」

 

「はい、お願いします」

 

 八雲さんの言葉に嬉しくなり、コーヒーを入れている姿が見たくてカウンターの椅子に座る。

 

「そう言えば奏ちゃんは、朝食は食べてきたのかな」

 

「はい、ここに来る前に家で食べてきました」

 

「俺も食べたから、一緒に食後のコ-ヒーだね」

 

 私の前に煎れ立てのコーヒーを置き隣に座って来る八雲さん、私は少し気恥ずかしさを感じながらも、コーヒーに少しだけクリームを落とす。

 

 こんなに穏やかな時間久しぶりかもと思いながら、ゆっくりとコーヒーを楽しんでいると、自分の目的を忘れそうになりそうになっても仕方ないよね。

 

「あ、あの八雲さん! 今日一日八雲さんの側に居て良いですか!」

 

 声に出しながらも私は、少しパニックになりそうで早口でまくしたてると八雲さんは驚いた顔をしていた、その顔を見て私は自分の言い方に問題がある事に気付き頬が少し熱くなる。

 

「あー、うん、別に良いけど何かあったのかな」

 

「別に何も……ただ普段どんな事しているのかなって興味が…………」

 

 半分本当で半分嘘、少し自分に自己嫌悪をしてしまう、八雲さんの銀色の瞳に見つめられ私は少し気まずくなり目線を反らす。

 

 八雲さんは何も言わないで席を立ち別の部屋に行ってしまう、もしかして機嫌を悪くしてしまったのかと心配していたら、見た事の無い青色の上着を着て腕には同じ色の服らしき物を持って私の前にやってくる。

 

「午前中は、調律の仕事に行くからこの上着を着てね、職場見学って事にするから」

 

 渡された上着を広げると背中には音叉を斜めにクロスさせたイラストと円を描く様に木野調律工房と書かれたあった。

 

「はい、分かりましたお借りします」

 

 思っていた事と違うと感じながらも、上着に袖を通すとやはり大きくて袖を捲りながら近くにある姿見の鏡で自分を確認する、八雲さんのサイズだからやっぱり大きいや。

 

 長さなんて私の履いているスカートの丈と同じぐらいまでに成ってしまっている、鏡に映る私と八雲さんを見て仕事着だけれどお揃いの上着を着ている事に気が付き嬉しさと照れくささで一杯に成ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 連れて行かれた先は私立加音幼稚園、バイクを駐車場に止めて準備をしながら八雲さんが教えてくれる。

 

「今度発表会があるんだよ、それに合わせて調律の依頼があってね」

 

 幼稚園は休みだけれど、何人かの先生は出勤しているらしくピアノに案内してくれる、早速作業を始める八雲さんを眺めながら前に音楽堂で調律していた時は、すでに作業は終わっていて八雲さんが調律している姿を見るのは初めてなのを改めて思い出す、初めて見る調律の作業は面白くて、何時までも見ていられる。

 

「奏ちゃん、音の確認したいからいつも練習している曲弾いて貰えるかな」

 

 唐突に言われ私は驚いたが、八雲さんの手伝いが出来ると思い急いでピアノの前に移動して、何時も響と練習している曲を弾き出す。

 

 腕を組み真剣に音を聞いている、八雲さんを視界の隅に入れながらもミスしない様に注意して演奏していると声を掛けられる。

 

「奏ちゃん、一小節前からもう一度お願い」

 

 言われた通りに、一小節前から弾くとストップを掛けられ八雲さんはまた作業に入る、そんな事を何度か繰り返すと作業も終わりピアノの蓋をする。

 

「よし、終わり、担当の先生に話してくるから少し待っててね」

 

 八雲さんが伸びをしながら教室から出て行くをの眺め、まだ出しっぱなしの道具を片づけながら戻って来るのを待つ。

 

「奏ちゃんお待たせ、片付けしてくれてありがとう、今日は後一件で終わるからもうちょっと頑張ってね」

 

 バイクの戻り、何処に行くのかなと思っていると何故が『ラッキースプーン』の駐車場に入る。

 

「あの、何でうちのお店に?」

 

「次の場所は仕事を紹介して貰う事あるから差し入れ、小さい女の子も居てねラッキースプーンのカップケーキ好きだって言っていたし、奏ちゃんも居るから丁度いいかなとね」

 

 私の待っている様に伝え足早に店に向かう八雲さん、戻って来た時は贈答用の少し大きめの箱を持って来て私に渡すとバイクを走らせ目的の家へと向かう、着いた家は響の家の負けないぐらいの大きな家だった、チャイムを鳴らし出てきた女性を見て私は見た事がある様な気がしたが思い出せない。

 

「おかーさーん、おにーちゃん来たのー」

 

 そう言いながら出てきた女の子と見て私は驚いた、その女の子はあの日私達が決意を持って変身した日に助けたレナちゃんだからだ。

 

「ピアノのお兄ちゃんいらっしゃい、あ! あの時のお姉ちゃんだ!」

 

「こんにちはレナちゃん、ピアノのお兄さんだよ、今日はお姉さんも一緒なんだ」

 

 私達の周りをまわっているレナちゃんを見て思わず笑みが漏れる。

 

「今日はよろしくお願いします、急遽職場見学をお許し頂きありがとうございます」

 

 八雲さんがレナちゃんのお母さんに頭を下げる姿を見て、私も慌てて頭を下げる。

 

「よろしくお願いします」

 

 私のわがままで八雲さんに頭を下げさせてしまった、私は頭を下げながらどうして良いか分からずに困惑してしまう。

 

 八雲さんにカップケーキの箱を渡す時、唇だけで「大丈夫だよ」と言ってくれたけど申し訳なくなってしまった、八雲さんは箱を手渡すと室内に入って行く、私は八雲さんを慌てて追って行くと、部屋にはありさちゃんも居て私達を見て驚いていた。

 

「ありさちゃんには内緒にしてたの、驚かそうと思って」

 

 自慢げなレナちゃんを微笑ましく思いながらも、八雲さんに促されてピアノのある部屋に向かう、作業をしているとレナちゃんとありさちゃんがドアを少し開け顔だけ入れて覗いてくる。

 

「邪魔しなければ部屋に居ても良いよ、お姉ちゃんの言う事ちゃんと聞いてね」

 

 二人は、神妙な面持ちで部屋に入ってくると私の両隣りに座って来る、しばらくの間三人で作業を見ていると私はまた八雲さんに言われピアノの演奏をし、八雲さんは調整を繰り返していく、ピアノを弾いている時に二人を見ると目を輝かせて私を見ていて、ちょっと恥ずかしい様なくすぐったい気持になった。

 

 帰りがけにレナちゃん達が騒いで大変だったけれども、お母さんにカップケーキの事を言われた途端に大人しくなって、それを見て私は声を出して笑いそうに成るのを我慢するのが大変だった、うん、二人ともかわいい。




調律はイメージです、筆者は一応調べました、と言うレベルです、ご都合主義でお許し下さい。


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奏の特訓

 帰り道八雲さんに、イタリアンレストランでご馳走をして貰って、ホンワカした気持ちで八雲さんの家に戻る。

 

 午後はトレーニングをすると言われ、私はついに八雲さんの強さの秘密が分ると期待をしたの。

 

「八雲さん、何で私に丁度いいサイズのトレーニングウェアあるの?」

 

「ほら、ここってトレーニングルームあるでしょう、ホワイトデーの後位に響ちゃんが、使いたいって言ったから念の為に用意したんだよ、シューズも合わせてね」

 

「あ、あの、八雲さん、私も使わせて貰ってもいいですか?」

 

 ドキドキしながら八雲さんの顔色を伺うが、八雲さんは何時もの優しい笑顔を向けてくれた。

 

「何時でも使って貰って良いよ、奏ちゃんのウェアも用意しておくから、何時でも手ぶらで来たい時に来れる様にね」

 

「ありがとうございます」

 

 甘え過ぎかな、と思いながらもついつい八雲さんに甘えてしまう、私ってこんなんだっけ……

 

 軽いジョギングで近くの山まで走ると、それだけで私はもう息が上がって辛かった。

 

「よし、この階段上がるから、ゆっくりで良いから出来れば足を止めない様に……いや、辛かったり足が痛くなったらちゃんと休んでね、まだ追い込む段階じゃないから」

 

 私は八雲さんの、追い込むって言葉に少し背筋が寒くなる、色々と考えていると八雲さんは一声かけると階段を駆け上りだす。

 

 あっという間に階段を上がり、見えなくなってしまった八雲さんを追い掛けるが、直ぐに足が辛くなり、途中で何度か休みながら、息も絶え絶えで上まで上がると、八雲さんは、木にぶら下がり片手で懸垂をやっていて、私に気が付くと、何でもない様にやって来る、いつもの笑顔が少し怖かった……

 

「なかなか良いペースだったよ、奏ちゃんなら直ぐにスポーツも得意になるよ」

 

 嬉しい言葉を掛けてくれるが、余裕の無い私は何とか笑う事しか出来ないぐらい辛かったの。

 

「次はタイヤ起こしだけど流石に無理かなぁ……」

 

「いえ! やります!」

 

 絶対に八雲さんの秘密を、と思いながらついて行った先にあったタイヤは、見た事の無いタイヤで私は少しだけ後悔をしちゃった。

 

「このタイヤは……車じゃないですよね」

 

「こいつはホイルローダーのタイヤでホイールもついてるから結構重いよ、本当にやるの? 奏ちゃん」

 

 後悔って後で悔やむから後悔って言うのを私は身をもって知る事になってしまう。

 

 見本として見せて貰ったのを見て、私は逃げ出したい衝動にかられる、八雲さんはタイヤを起こすと前に倒し、また起こすと倒すを繰り返し、広場の端まで行き、また同じようにして元の場所まで戻ってくる。

 

「……奏ちゃんやる?」

 

「八雲さん、気合のレシピ見せてあげる」

 

 半分捨鉢気味に即答で答え、タイヤに手を掛け力入れるがピクリとも動かず、力が無くなった私はその場に座り込んで荒い息を吐いていると、優しく背中をさすってくれて嬉しいけれど悔しい。

 

「八雲さん……次行きましょう、次」

 

「無理はしない様にね、次はあそこの小屋でやるからね」

 

 そう言って、連れて行かれた小屋の四方のシャッターを開けると、見たことも無い大きさの和太鼓が置いてあり、八雲さんはバチを四本持って来て、私に二本渡してくる。

 

「見本見せるから次にやろうね」

 

 和太鼓を叩く、八雲さんの姿は格好よく、太鼓の音も迫力があり、見とれてしまうのは仕方ないよね。

 

 私の番になり、八雲さんに手を持って貰い、叩き方を教わっている時、耳元に八雲さんの息が当たり、私は少し、うん少し、ないしょ。

 

 一人で叩きだした私は、さっきまでの幸せな気分は、直ぐに無くなり、腕は上げているのは辛いし、バチを握る手の力は無くなり膝も笑いだす。

 

「はい、そこまで」

 

 八雲さんの、言葉に私は気は抜けて、その場で崩れかけるが、優しく支えてくれる。

 

「良く頑張ったね奏ちゃん、すごいよ奏ちゃんの気合のレシピ、しっかりと見せて貰ったよ」

 

 八雲さんの言葉を聞きながら、私の意識は、ゆっくりと途切れてしまっても、しかたないかな。

 

 

 

 

 

 温かく優しい感触を感じ、ゆっくり目を開けると、私は、私は……八雲さんに膝枕をされていたの。

 

「や、や、や、や、八雲さん!」

 

「目が覚めた奏ちゃん、太鼓を叩き終わった後に気を失ったんだよ、あそこで起きるのを待つのも何だったから、家まで移動したよ」

 

 慌てて起きた私は、乱れている髪の毛を手櫛で整えながら、一つの疑問を怖いけど聞く。

 

「あの、私どうやって戻って来たの」

 

「どうしようかなって思ったけれども、おんぶさせて貰ったよ」

 

 色々と想像して頬に熱が上がってくる、気を失っていて良かったのか、悪かったのか私は少し悩む、うん、少しだけ起きて居たかったかな……

 

「お風呂沸いてるから、ゆっくり浸かって痛い所マッサージしてきな、少しぬるめで入浴剤も入れてあるし、のんびりで良いからね」

 

 八雲さんの、言葉に甘えてお風呂を借りたら、すごく広い浴室でびっくり、ゆっくりのんびりお風呂を楽しみ、言われた通りマッサージをして上がったら、八雲さんは冷え過ぎていないスポーツドリンクを用意してくれた。

 

 久しぶりに飲んだスポーツドリンクが、乾いた体にこんなに沁み込んだのは、初めてな気がして幸せ。



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奏は探る

 朝起きた私は全身の筋肉痛でベットから動けなかったの、動ける様になったのはお昼前、今日は響のパワーの秘密を探る為に痛む体を引きずりながら響の家に向かう。

 

 チャイムを鳴らして出てきた響はエプロンを付け、酷い形になったジャガイモを片手に笑っていた。

 

「響何なの? 一体……」

 

「その、パパが演奏会前で忙しそうだから、今日は私がお昼作っているの、皮むき超大変だったよ」

 

 キッチンに向かいながら響の話を聞いて私は悪い予感しかしなく、それは最悪の形で的中した。

 

 鍋に入っている玉ねぎやジャガイモは皮がまだ残っているし、大きさはバラバラで下拵えは何もしておらず、ジャガイモとニンジンが切らずに丸ごと入っている物まである。

 

 私は生まれて初めて、血の気が引く音を聞いた気がし思考を止めてしまいそうだったけど。

 

「ま、後は煮込めば美味しいカレーの出来あがり」

 

 響の台詞で、私は小さな悲鳴と共に一気に現実に戻されて、慌てて響を止める。

 

「ちょっとまった、このままじゃ駄目」

 

「え?」

 

 えって、響、ちょっと待ってよ、おかしいと思わないの?! 

 

「エプロン貸して」

 

「えぇっ」

 

 不思議そうな声を上げている響が、私は不思議だよ。

 

 響から料理を引き継いで一気に仕上げる、隣の響はずっと感嘆の声を上げ続け私はふと、確か響って交代で食事を作っていたはずと思い出すが、口には出さなかった、ううん、怖くて出せなかった……よし、煮込んでいる間に洗い物を済まそう。

 

「わぁー、やっぱすごいね奏は」

 

 洗い物をしていると、響が鍋を覗きこみ嬉しそうな声を上げる、喜んで貰えて嬉しいよ。

 

「まぁ、これぐらいはね、料理の事なら何でも聞いてよ」

 

 やっぱり私は、響の笑顔に弱いみたい。

 

「本当、奏は何時も頼りになるなぁ、このカレー良い感じじゃん、この前八雲兄の所で食べたビーフシチュー思い出すなぁ」

 

「ねぇ、響、ビーフシチューって?」

 

 私は出来るだけ笑顔で響に尋ねる、大丈夫、私は冷静、うん、冷静。

 

「奏、笑顔なんか怖い、サクラがセイレーン、違うか、セイレーンがサクラになっていた時に八雲兄に紹介したんだけど、その時にご馳走になったの」

 

「え、セイレーンも」

 

 あのセイレーンが、響と八雲さんの三人で食事? うん、想像できないよ。

 

「私さ、サクラが緊張していると思っていたけど、セイレーン正体ばれるのが怖くて緊張していたんだなって、でも食事は普通に食べてたよ、美味しいて言ってたし」

 

 敵の真ん中で食事って……しかも味わうって敵ながらすごい、セイレーンに対して見かたが変わりそう。

 

 

 

「「「いただきます」」」

 

 私と北条先生が静かに食べている隣で、響がお皿を持ち上げ物凄い勢いでカレーを食べている、何時見ても気持ちのいい食べっぷりで嬉しい。

 

「うん、美味しい流石は南野さん、お菓子もだけど料理もとてもお上手ですね」

 

「お口に合って良かったです」

 

 喜んで貰えるのも嬉しい、誰かに幸せを感じて貰えるからお菓子作りも料理も頑張れる、私の原点を思いださせてくれる。

 

「おかわり」

 

 え、もう? と思った時には響は立ち上がっており、小走りでキッチンに入って行く。

 

「次は大盛りにしよう」

 

 鼻歌を歌いつつ戻って来た響のお皿は大盛りではなく特盛りで、相変わらず何処に入っているのか不思議になる。

 

「よくそんなに食べられるわね」

 

「私のパワーの源はご飯だからね」

 

 笑いながら言う響に私は響と自分の最大の違いに気が付く、それは食べる量、あの日の会話で出たハミィの言っていたパワーって意外と単純かも、幸い筋肉痛で朝食は食べてないし、もう少しは食べられる、かな……おかわりしてみようかな…………

 

 お皿を持ち上げいつもより早いペースで食べ始める、響と北条先生が少し驚いているけど、見ないふりを決め込んで食べ進める。

 

「私もおかわり」

 

 流石に大盛りは無理だけど一人前は……

 

 席に戻り私は猛然と食べ進める。

 

「南野さんもたくさん食べるんですねぇ」

 

「どうしちゃったの奏」

 

 黙々と食べ続けていた手を止める。

 

「だって響と食べるカレーが美味しいから」



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奏の先には

 食休みの後、響がトレーニングをすると言うので、私も一緒にやる為に響のウェアとシューズを借りる、昨日の八雲さんのアレに比べたら大丈夫かな。

 

 響に目を向けるとWIND SCALEのウェアを着ていて、それはあの日のウェアである事を思い出す。

 

「響、そのウェアってホワイトデーのだよね、うん、やっぱり良く似合うよ」

 

 響は少し頬を染めハミィを肩に乗せたままクルリと一回りする。

 

「えへへ、ありがとう、でも奏、本当に一緒に走るの?」

 

「食べ過ぎた分運動しないとね」

 

 握り拳を作り気合を入れる、響のパワーって言えばスポーツもでしょう。

 

 響と一緒に土手の上を走るペースは昨日の八雲さんの時より少し遅く、河川敷に植えられている満開になっている桜を眺める余裕もある、風もさわやかで気持ち良い。

 

「よっ響ちゃん、奏ちゃん一緒なんだね」

 

 後ろから掛けられた声に振り向くと、すぐ後ろを八雲さんが走っている。

 

「八雲さん?」

 

「八雲兄、よろしくね」

 

 八雲さんは響の隣に移動すると、少しづつペースを上げ昨日ぐらいのペースになる。

 

「響、何時も八雲さんと走っているの」

 

 昨日のおかげか話しかける余裕がまだある。

 

「ううん、来週陸上部の助っ人あるから、八雲兄も誘ってみたの」

 

「今朝アカネが来た時は何事かと思ったけれど、せっかくのお誘いだから参加しようかなってね」

 

 会話しながらのジョギングは楽しい、走っていたら筋肉痛も楽になったし、私も二人のペースについて行けてるじゃん、これで『ベルティエ』が現れるのも時間の問題かもね。

 

「少しペース上げるよ」

 

 八雲さんが一言言うとかなりペースが上がる、でも、まだ何とか、何とか……辛い……

 

「奏ちゃんはそのペースを維持する様にね、ゴールは水門だから」

 

 水門って七キロ先のあの水門? このペースで? うそ? 

 

「俺と響ちゃんはインターバルで行くから慌てないでね、足が限界だと思ったら少しづつペース下げてね、響ちゃん準備良い?」

 

「良いよ、八雲兄」

 

 声を開けようとした時はもう遅く、響は八雲さんの合図で全力疾走で行ってしまい、八雲さんも一緒に走って行ってしまう、私もついて行こうと足を速めたけど直ぐに限界が来て足が止まりそうになる、やっぱり私プリキュアのパワー足りないんだ……

 

 走っているのか、歩いているのか、分からないペースで水門に到着すると、二人は土手の搬入道路の坂を使ってダッシュを繰り返していた。

 

 私の到着に気が付いた二人が、ダッシュを止め土手の上で待ってくれている。

 

「奏ちゃん、良いペースたっだよ」

 

「おぉ、すごいじゃん奏」

 

 今日も息も絶え絶えになってしまい、思わす膝と手をついて荒い息を整える。

 

「全然……すごく、なんか……無い……」

 

「何かあったの?」

 

 響が私を覗きこんで訪ねてくる、けれど私は上手い言葉が出てこない。

 

「いつもの奏と違うじゃん、カレーおかわりしたり、こんなに走ったり」

 

「ううん、別に何もない」

 

 私と響は三角座りで土手に座っており、八雲さんは片膝だけ立てて足を伸ばして座っている。

 

「昨日は俺の所に来たし、何も無い訳は無いだろう」

 

「八雲兄、そうなの?」

 

「ああ、午前は調律の仕事一緒に行ったし、午後は俺のトレーニングもやったよ、すごく頑張ってた」

 

 八雲さんは昨日の事を思い出しているのか、少し遠い目をした後に草笛を吹き出す、その姿にもう何も話さないよと言われているみたいで少しだけ安心する。

 

 今の私には頑張る事しか出来なくて、でも頑張っても二人には全然追いつかなくてやっぱり私には……

 

「なんでそんな無理してるのよ」

 

「無理なんてしてないし……」

 

 響の顔が見れなくて思わず目をつぶってしまう。

 

「何年、親友やっていると思っているのよ」

 

 響の言葉が胸に刺さる、親友だからだよ響、大切な親友だから迷惑なんて掛けたくないし、私は響の親友として胸を張って響の隣に居たいんだよ。

 

「ごめんね、響」

 

 これは私の心の問題、響や八雲さんを巻き込んではいけなかったのに、私はそんな簡単な事を忘れていたの。

 

「こんな喧嘩にもなって無い事で謝んないでよ、やっぱりおかしいよ、奏」

 

 正直に話そう正直に、響は必ず受けとめてくれるし八雲さんは手を伸ばしてくれる。

 

「私……自分が情けない……」

 

 膝の上で手を組み懺悔するように言葉を紡ぐ。

 

「奏……」

 

 響の呟きが八雲さんの草笛の音に乗り、春風と共に空にとけていった。



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奏のリズム

「なぁ奏ちゃん、いやキュアリズム……君は何を決断して『キュアモジューレ』を受け入れて、戦う事を決めたんだい」

 

 草笛を止めた八雲さんの質問が頭を回る、何の為、昨日会ったレナちゃんとありさちゃんを思い出す、楽しそうに笑っていた、幸せそうだった、私はそれを守りたかった筈なのに……

 

 今の私は響に、ううん、メロディに置いて行かれる事が怖くて、獣鬼に助けられ続けるのが悔しくて、強くなる事ばかり追い求めて、心をどこかに置いて来てしまっていた。

 

 

 

 

 

「大丈夫、そのために私と八雲兄が居る、奏は奏らしく戦えば良いよ、私達は三人で戦うんだから」

 

「強さとは己の弱さを認めるところから始まる、だから君は強くなる」

 

 

 

 

 

 二人は私をこんなにも受け入れて励ましてくれていたのに、私は何で忘れてしまっていたのだろう……二人の優しく温かい気持ちを…………

 

「本当に情けない……」

 

 頬に一粒の涙が落ちる、私はそれを拭うと二人の前に立つ。

 

「響、八雲さん、ごめんなさい、そしてありがとう、私大切な事を忘れていた、響、私の親友になってくれてありがとう、八雲さん、いつも見守ってくれてありがとう、私はもう大丈夫。

 

 私は私らしくだよね響、私は二人に比べたら全然弱いけれど、私はその弱さを受け入れます、だからこれからもよろしくお願いします」

 

 私は大きく頭を下げる、頭を上げた時、私の視界いっぱいに響の顔が迫ってきて、そのまま抱きつかれ私達は二人して土手を下まで転がって行く。

 

「奏ぇ! 私の方こそ奏が親友で嬉しいよ、奏は私の自慢の親友なんだ、何でも話そうって決めたじゃん、奏が一人で悩んでいたら私は辛いよ」

 

 響は苦しくなるほど私を抱きしめてくれる、その苦しさが今は愛おしく感じてしまう。

 

「奏ちゃん、自分自身を信じな、奏ちゃんは奏ちゃんが思っている以上に強いし勇気も持っている、この前だって足を痛めた響ちゃんを庇って一人で立ち向かったじゃないか、俺すら置いてね、だから奏ちゃんは何時でも望んだ強さを手に入れるよ」

 

「奏も涙もろいって、知らなかったよ」

 

 響が指で私の涙を拭う、その行為が嬉しいけど恥ずかしい。

 

 八雲さんに引っ張って貰い立ち上がった私達は体についた草とかを払っていた時に、お花見スポットから耳障りな音が聞こえ綺麗に咲き始めていた桜の花が一斉に散る。

 

 散ってしまった桜の木々の間からネガトーンの姿が見えた瞬間、私は走り出しながら二人に声を掛けた。

 

「響! 八雲さん!」

 

 ネガトーンの近くまで来た私は息をのむ、楽しいはずのお花見がネガトーンのせいで悲しみに包まれてしまっている、家族が支え合って泣き崩れている姿を見て私はあの日のレナちゃんとありさちゃんを思い出す。

 

「酷い、ようやく咲きだした桜の花を」

 

「家族の大切な時間を踏みにじるなんて」

 

 私は響と頷き合う。

 

「「絶対に救って見せる!」」

 

「俺達の力見せてやろう」

 

「「レッツプレイ! プリキュア! モジュレーション!」」

 

「鬼姫の使者! 音撃戦鬼! 獣鬼!」

 

「爪弾くは荒ぶる調べ! キュアメロディ!」

 

「爪弾くはたおやかな調べ! キュアリズム!」

 

「「届け! 三人の組曲! スイートプリキュア!」」

 

 私は守るんだここに居る人達を、傲慢な考えかもしれない、でも私は全てを拾い救うんだ! 

 

 全身の力を込めた拳が入った時、私は違和感を感じたがすでに遅く、ネガトーンは桜の花びらに戻ると私は通り抜けてしまい、ネガトーンに無防備な背中を晒してしまう。

 

 体をよじり後ろを見ると、ネガトーンは大きな腕を振り上げており、私は攻撃を受けると思い歯を食いしばる、だけれど目だけは瞑らないでいた。

 

「させるか!」

 

「リズム!」

 

 頼もしい二人の声と同時にネガトーンが高く蹴りあげられる、私はその場で強引に体を反転させ膝を折りたたむと全身のバネを使い大きくジャンプする。

 

「ありがとう! メロディ! 獣鬼!」

 

 体を捻り両足で蹴るが、飛ばさない様にして体を縮め、回し蹴りを入れ吹き飛ばしてから地上に降りた。

 

「リズム無茶しすぎ!」

 

 メロディが早口で私の心配をするが、私はメロディに笑顔を向ける。

 

「メロディと獣鬼が背中を守ってくれてるから、信じているから私は戦える」

 

 メロディが困った表情を浮かべ、獣鬼は後頭部を掻いている、うん、いつもの二人だ、私達は最高のチームなのを忘れていた。

 

「何時までも友情ごっこしてるんじゃないよ!」

 

 セイレーンがトリオの一人の赤髪の人の頭の毛を掻きむしって騒いでいる、私は思わずセイレーンを指さす。

 

「セイレーン! 貴女はこの輪の中に入れたはずなのにあの時逃げてしまった! 寂しかったら何時でも帰って来て良いんだからね!」

 

「馬鹿をお言い、アンタらの友達ごっこに付き合う気はないさ」

 

 ますます頭の毛を毟るセイレーンを見て、私は心の中で赤髪の人に謝った。

 

「私だって食べた事無い、八雲さんのシチュー食べたくせに!」

 

「リズムそこなの?!」

 

 メロディが思いっきり呆れた声を出すが、食べ物の恨みは恐ろしいんだからね! 

 

 ネガトーンが体勢を立て直して走ってくる、ネガトーンが腕を振り上げた瞬間、私は一歩進み出て回し蹴りをネガトーンに入れ吹き飛ばす。

 

「邪魔!」

 

「ええぇぇぇ」

 

「おいおい……」

 

 メロディと獣鬼が驚きの声を上げる、こんな物あの日のトレーニングに比べればどうって事無い! 

 

 私は改めて周りを見渡すと、その光景に怒りが湧いてくる。

 

「私は貴方達を許さない、この光景を見て何も思わない貴方達を許せない、どんな悲しみに覆われても親は子を守り、兄や姉が弟妹を抱きしめている! 

 

 私はそんな人々を守る為にプリキュアに、キュアリズムになったの! 私はみんなの心を守って見せる! プリキュアの力はその為にあるんだから!」

 

 私の思いに応えるかのように『キュアモジューレ』が輝きだす、私の心に新たな力を感じ私はそれを受け入れる。

 

 一度手を叩き力の塊のような黄金に輝く音符を召喚する、逆側でもう一度叩き人々を癒すかのように青く輝く音符を召喚するとそれを両手で支えると胸の前で一つの力にする。

 

「刻みましょう、大いなるリズム!」

 

 これは人々の希望の光、私に託された大いなるリズム! 

 

「ファンタスティックベルティエ!」

 

 人々の心を守る素晴らしい力! 

 

「おいで! ファリー!」

 

 私達の小さいけれど大きな仲間! 

 

「翔けめぐれ、トーンのリング!」

 

 全ての心と希望を乗せて! 

 

「プリキュア! ミュージックロンド!」

 

 今こそこの思い、翔け巡れ! 

 

「三拍子! 1、2、3!」

 

 私は弱い、私をそれを受け入れる! 

 

「フィナーレ!」

 

 だからもう振り向きたくない、私のスタートはここからだから! 

 

 

 

 

 

 人々が淡い光に包まれ不幸のメロディから解放され、ネガトーンによって操られていた桜の花も元に戻り、セイレーン達もいつの間にか姿を消している。

 

「私、響と八雲さんのおかげで何でプリキュアになったか思い出した、そしたらコレが……」

 

「そうニャ、それがプリキュアのパワーニャ」

 

 メロディ、獣鬼、ハミィ、フェアリートーン、ディスクアニマル、私は皆に支えられていた、そんな簡単な事も忘れて焦っていた、私は一人じゃないこんなにも素晴らしい仲間に囲まれている。

 

 私はハートのト音記号に選んで貰えて幸せだ、たとえどんなに辛く苦しい茨の道でも私は仲間となら歩いて行ける。

 

 私はキュアリズム。伝説の戦士プリキュア。




 第8話終了となります、お読み頂きありがとうございます。
 明日も更新予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

 最初に浮かんだのが最後の一行でした、そこに向かって奏ちゃんを格好良く書ければ良いなと試行錯誤したつもりです。
 奏ちゃんファンに楽しんで貰えたら筆者は小躍りします。

 遂に奏ちゃんも念願のベルティエを入手しました、と言う事で次回


 プリキュアオールスターズ 虹色の花束
 第1節 フラワーモールの即興曲(アンプロンプチュ)

 よろしくお願いします。


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プリキュアオールスターズ 虹色の花束
フラワーモールの即興曲(アンプロンプチュ)


 最近は偽親友事件とかベルティエ騒動とか色々とあって、二人をリフレッシュさせるために少し遠いが、話題の大型ショッピングモール『フラワーモール』に買い物に来た。

 

「八雲兄のあの大きい車、初めて乗ったね」

 

「いつものバイクでも良かったんじゃないですか、それにしても『ショッピングモールKANONN』より全然大きいですね」

 

 周りを楽しそうに眺めながらはしゃぐ響ちゃんと奏ちゃん、二人は少し前を歩きながら先ほど買ったソフトクリームを美味しそうに食べている、ハミィは響ちゃんの肩に乗っており時折ソフトクリームを分けて貰ってご満悦だ。

 

「ここは大きいから色々と買って荷物が増えるだろうし、だから車が良いかなってね、俺としてもバイクの方が背中が幸せなんだけれどね」

 

 響ちゃんがクルリと振り返ると、ジト目で肩に軽くパンチを入れてくる。

 

「八雲兄のスケベ」

 

 大袈裟に痛がって見せると、二人は小さく声を上げて笑う。

 

「最近八雲さん、そういうところ遠慮が無くなって来てますね」

 

 響ちゃんは怒った顔をしてはいるが目が笑っており、奏ちゃんもしょうがないと言った感じで笑っている。

 

 二人にからかわれながら歩いていると、ATMを見つけ少し軍資金を降ろそうかと二人を呼び止めた。

 

「ごめん、ちょっとお金おろしてくるよ、そう言えば今日一階でファッションショーがあるから見に行ってみる? たしか響ちゃん達と同じ年齢の子達が出てるらしいよ」

 

 ふと思い出した事を話してから列に並ぶ、二人は邪魔に成らない所で笑顔で話しており、今日は良い気分転換になると良いなと思いながら列が進むのを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 お金を降ろし二人の所に向かおうとすると、奏ちゃんが慌ててこちらに走ってくる。

 

「八雲さん大変、ハミィが興奮しちゃって下の舞台に飛び降りちゃって、響が今急いで下に向かっているの」

 

 奏ちゃんの手を掴むと吹き抜けの手すりまで移動する、下を覗くと舞台の女の子に抱かれたいたハミィが響ちゃんの頭に移動して跳ねていた。

 

「奏ちゃん、このまま反対側の舞台裏に移動して待ってて、あの二人無理やり回収してくる」

 

 奏ちゃんが走ってく姿を見てから、近くのパーティーショップで気休めに三色のかつらを買って被ると、一気に三階から舞台めがけて飛び降りる。

 

「今度は変なアフロが降って来た!」

 

「誰! 誰! 誰!」

 

 周りのざわめきを聞こえない振りをして響ちゃんの方を振り向く。

 

 言い争いしていた響ちゃんが、俺の着地音に驚きの声を上げた。

 

「うわっ! 八雲兄?! どうしちゃったのその頭?!」

 

「八雲楽しんでるニャ」

 

 二人に無言で近づくと、ハミィの首元を掴み奏ちゃんが待機している三階に向かってハミィをぶん投げる。

 

「ハニャァァァァァー!」

 

 ハミィは叫び声を上げ、ゆっくりと回転しながら三階まで飛んで行くと、手すりから奏ちゃんが両手を伸ばして、ハミィを見事にキャッチした。

 

「さすが奏ちゃん、あとは」

 

 茫然と立って見送っている響ちゃんを、横抱きに抱える。

 

「えっ?! 八雲兄?!」

 

「しっかり捕まって」

 

 響ちゃんに小さい声で伝えると、慌ててしがみ付いてくれたので頷いて見せる。

 

「あなた達、何なんですか」

 

 赤紫の髪の女の子が戸惑いながらも声を掛けてくる、その子に目を向けると俺はギクリとした、そこにはキュアブロッサムこと花崎つぼみが立っていたからだ、後ろを見るとえりかちゃんといつきちゃんも立っており、えりかちゃんは口を尖がらせていた。

 

 観客席を見渡すと知った顔が多すぎて冷や汗が背中を伝わる、良し逃げよう、響ちゃんを更にしっかりと抱きしめながらつぼみちゃんに一言謝り、壁や柱を踏み場にして奏ちゃんの所に戻る、その途中にかつらが落ちたがそれは気にしていられなかった。

 

「奏ちゃん、逃げるぞ」

 

 三階に着くと下から爆発したかのような大歓声が聞こえ、響ちゃんを降ろす暇も無く横抱きにしたまま奏ちゃんに一声かけ走り出す、慌てて走り出した奏ちゃんは俺の隣に並ぶとポツリと小さく呟いた。

 

「また、お姫様抱っこ……」




お読み頂きありがとうございます。
ついにオールスターズに突入しました、頑張って書いていきますので、お付き合い頂けると幸いです。

タイトルに使っている楽曲名はイメージと言いますか、勢いで決めました、内容と合ってなくても笑って流して下さい、ご都合主義です!と、言うわけで次の更新は来週末を予定しています。では次回

第2節 光の使者の小曲(メヌエット)

よろしくお願いします。


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光の使者の小曲(メヌエット)

 ほとぼりが冷めるまで色々な店を見ながら時間を過ごし、ファッションショーも終わりテーブルとイスが並んでいたので、ひと休みにする事にした。

 

「飲み物買って来たよ、響ちゃんがチョコドリンクで、奏ちゃんがレモンティーだったよね」

 

 確認しながら手渡し、テーブルの下に居るハミィとフェアリートーンにはオレンジジュースを渡す、俺も空いたイスに座りグレープジュースに口を付ける。

 

「いやー、一時はどうなるかと思ったよ」

 

 ストローを咥えたままモゴモゴ喋る響ちゃんを見て、奏ちゃんが少し眉を寄せた。

 

「響、行儀悪いよ」

 

 テーブルに肘を付き、組んだ手に顎を乗っけていた奏ちゃんは呆れ顔だ。

 

「さっきは奏ちゃん、ナイスキャッチだったよ」

 

「あなた達、さっき舞台に乱入した人だよね」

 

 いきなりかけられた言葉に響ちゃんはむせ込んでしまい、奏ちゃんが慌てて背中をさすっている、しょうがないので後ろを振り向くと立って居たのは美墨なぎさと雪城ほのか、九条ひかりの三人だった。

 

 まさかの人物達に声を掛けられ驚く、イメージ通り、なぎさちゃんは元気の塊みたいだし、清楚とは彼女の為にあるのだろうと思われるほのかちゃん、穏やかな水面を連想させるひかりちゃん、思わず見とれてしまう

 

「人違いじゃないですか」

 

「お兄さんさっきのジャンプすごかったね、プロのスポーツ選手?」

 

 俺の返事を聞き流したなぎさちゃんは、空いているに椅子に座りながら聞いてくる。

 

「なぎさ、いきなり失礼よ」

 

 少しだけ眉を寄せ、苦笑しているほのかちゃんの手を引き、隣に座らせるなぎさちゃん。

 

「気にしないで大丈夫、俺はスポーツ選手じゃないよ、調律師だよ」

 

「ちょーりつし?」

 

 明らかに分かっていない、なぎさちゃん。

 

「なぎさ調律師ってね、ピアノのズレてしまった音を直したり保管業務をするのよ、設計、製作をする方も居て製造技師って呼ばれる方も居るわ、それに……」

 

「ほのかストップ、もう分かったから」

 

 ほのかちゃんの説明について行けずストップをかけるなぎさちゃん、ほのかちゃんはまだ説明終わって無いのにと不服そうだ、その後ろでひかりちゃんはただ笑っていた。

 

 なぎさちゃんは、響ちゃんを見て何かを感じた様で少し側により、響ちゃんは少し警戒する。

 

「私美墨なぎさ、よろしくね、あたなは?」

 

 差し出された手を、握手する響ちゃん。

 

「北条響、なぎさ、よろしく」

 

「南野奏です、仲良くしましょう」

 

「雪城ほのかです、いきなり話しかけて驚いたでしょう、ごめんなさいね」

 

 なぎさちゃんは、後ろで空気に徹していたひかりちゃんを引っ張って来て、椅子に座らせる。

 

「ほら、ひかりも自己紹介しないと」

 

「九条…………ひかりです…………」

 

 かなり緊張しながら自己紹介するひかりちゃん、見ていて少しかわいそうになっていると、皆の視線が俺に集中する。

 

「自己紹介、八雲兄の番だよ」

 

 響ちゃんの呆れた声。

 

「あ、俺か、俺は木野八雲、なぎさちゃん、ほのかちゃん、ひかりちゃん、よろしく」

 

 まさか、こんな形で知り合いになるとは思わなく少し嬉しい。

 

「そうだ、ねえ、みんなで回らない」

 

 響ちゃんが目を輝かせながら提案をし、なぎさちゃんが直ぐに同意をする、奏ちゃんとほのかちゃんは笑い合って、ひかりちゃんも微笑んでいる。

 

「今日は、八雲兄が我がまま聞いてくれるって言ってたから、みんなでご飯食べに行こうよ」

 

「響ちゃんナイス提案、美墨さん達も予定が無かったらご馳走するから一緒に行こう、食事は大勢の方が楽しいからね」

 

 俺の言葉に響ちゃんとなぎさちゃんが喜びの声を上げ、ほのかちゃんは俺の方に体を向ける

 

「ご迷惑になりますから、私達は……」

 

「雪城さん、八雲さんは出来ない事は言いませんし、それに八雲さん自身もああ言ってます、良かったら一緒に行きませんか」

 

 ほのかちゃんとひかりちゃんは、顔を見合わせてから俺に頭を下げる。

 

「木野さん、ありがとうございます、ご馳走になりますね」

 

 俺も笑いながらうなずく、その瞬間背中に悪寒が走る、俺とひかりちゃんが弾かれた様に立ち上がると空を凝視する。

 

「二人ともどうしたの」

 

 聞いてくるほのかちゃんの声が頭に入らない、空が裂けた様に感じ頭の中の警鐘が鳴り響く。

 

「空が……世界が崩れる…………」

 

 小さく呟いたひかりちゃんの声が重々しく響く。

 

「ほのかちゃん、なぎさちゃんと協力して避難を始めて、響ちゃんと奏ちゃんを頼む」

 

 空を凝視したまま声を掛けると、異常事態に気が付いたのか、ほのかちゃんは無言で立ち上がる。

 

「八雲兄、どうしたの?」

 

「八雲さん?」

 

 俺が緊張しているのが伝わり、二人が俺に声を掛けてくるが、それには答えず話を進める。

 

「響ちゃん奏ちゃん、判断に困ったらほのかちゃん達に相談しろ、皆で考えて判断するんだ、良いね!」

 

 二人が顔を見合わせるが、それに構わず行動を開始した。

 

「俺は、ここにスタッフに避難させるように話をしてくる」

 

「八雲兄!!」

 

 走り出そうと瞬間、響ちゃんの叫ぶような大声に足が止まり振り返る、歯を食いしばり目を潤ませ何かを我慢する様な姿を見て、どうしようもないほど罪悪感に包まれる。

 

「響ちゃん、ごめん、必ず後で合流する、約束だ…………二人とも、いざとなったら……判るね」

 

 奏ちゃんが響ちゃんの肩に手を置き頷く、響ちゃんは口を歪ませたまま小さく俯く様に頷いたのを見て、出来るだけ笑顔で頷き返すと俺は踵を返し走り出した。



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響と奏の変奏曲(バリエーション)

 私は後ろ髪を引かれる思いで八雲兄とは反対方向に走る。

 その直後、私達の居た一階のホールには、吹き抜けから降って来た大量の妖精達に埋め尽くされ、私達は驚きのあまり、悲鳴を上げながら逃げ出した。

 

「ほのかすごいね、逃げ道分かるなんて」

 

 距離が開き、少し余裕の出た私はほのかに話しかける、私とその隣のなぎさはかなり余裕があるが、奏とほのかにひかりは辛そうで、声を掛けたのを申し訳なくなった。

 

「ほのかは、移動中にパンフレット見てたから、それで覚えたんだよ」

 

 辛そうなほのかに代わり、なぎさが返事をしてくれる、何となく私と奏みたいと思いながらも走っていると出口が見えてくる。

 

「奏! 頑張って出口見えたよ」

 

 奏はあの日から、少しづつだけどトレーニングを始めていてそのおかげか何とかついて来ている、私達は五人揃って外に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 外に出た私達はもう大丈夫と思い歩きながら移動を始める、途中なぎさ達の友達と合流をしながら海に面した広場に向かうが、そこで私達は信じられない光景を目の当たりにした、一言で言うなら幻想的(ファンタジー)、正確には混沌(カオス)

 

「ゆ、夢じゃ、ありませんよね……」

 

 茫然とした声を上げているつぼみの隣で目を輝かせているラブ、言葉を失っている咲、今にも飛んで行きそうなのぞみ、皆が色々な表情で入り混じった世界を見つめていて、なぎさの叫んだ「ありえない」が頭から離れなかった。

 

 私は、お菓子の国とかおもちゃの国とか時計の里とか色々聞こえて入るが受け入れられないでいる。

 

 妖精達は自由気ままに遊んでいて数名の妖精は当たり前の様に私達の側に居る、ハミィみたいなものなのかなと思いながらも、なかなか戻って来ない八雲兄が心配だった。

 

「あんた達何やっているの!」

 

 えりかが叫んだ方を見ると、なぎさと咲にのぞみが妖精と一緒にお菓子を食べていて、ラブは飛んでいるドーナツを追いかけ回しており、先程まで困惑していたなぎさと咲の切り替えの速さに言葉が出ない。

 

「ちょっとそこ! 勝手に遊ばない!」

 

 かれんさんの呆れ気味の注意に視線を動かすと、うららに祈里とせつなが妖精達とおもちゃで遊び、ひかりは何故かおもちゃの兵隊に追いかけ回されていてる。

 

「そっちも勝手に同窓会始めない!」

 

 美希の叫びに今度は何? と目線を向ける、妖精の一団が楽しそうに話していた。

 

「もう、無茶苦茶……」

 

 りんが処置なし、といった雰囲気で呟くと、くるみとゆりさんが同意し、いつきが苦笑いを浮かべる。

 

「ミルクも混ぜてミル!」

 

 言葉と同時に、くるみが煙と共に妖精の姿に成って嬉しそうに飛び出して行く。

 

「アンタもか!」

 

 りんが叫ぶ中、既に私の許容量を大幅に超えていて、奏も茫然としておりなかなか見ない表情をしている。

 

「一体どうなっているの……」

 

「何だ変わった人達ね」

 

 私と奏が呟くと、えりかが笑いながら私達にちょっかいを掛けてきた。

 

「なーに言ってんのよ、アンタ達も人の事いえないでしょうが、何よあのしゃべるネコとアンタを抱えて三階まで駆け上った男とかさ」

 

「いや、あの、それは……」

 

 えりかが意味深な笑顔を浮かべ、楽しそうに私を肘で突く。

 

「ほれほれ言っちゃいな、アンタ達も普通じゃないんでしょう、なっちゃうんでしょう」

 

「一体何の話ですか……?」

 

 奏も誤魔化そうとするが、えりかはドンドン切り込んで来て私達は反応に困ってしまう。

 

 茶色と白のモコモコした妖精が話しているのが少し耳に入る、『プリズムフラワー』って何だろうと思っているといきなり不気味な声が聞こえて来て、私達は声のした空を見上げ目を凝らす。

 

 何個もの黒い物体が、落ちて来て周りを破壊して土煙を上げる、強い風に吹き飛ばされそうになるが、私は奏と支え合いなんとか堪える。

 

「響、アレ見て!」

 

 奏の言われた方を見ると土煙の中に人影が見える、その人影の気配は禍々しく私は『キュアモジューレ』を握りしめた。

 

 私達の側に居た妖精達が、次々に名前らしき物を叫ぶ、その慌てぶりにただ事ではないのが分かり、その証拠に他の妖精達は一斉に逃げだす。

 

「響、奏ぇ!」

 

 ハミィが、慌てて私達の所にやって来て奏に向かってジャンプをし、奏は慌てて受け止める。

 

「『プリズムフラワー』を近くに感じるね」

 

 魔女みたいな恰好をした人物の呟く声を聞いて、私は得も言われぬ気分となり少しだけ込み上げて来た吐き気を我慢する、でも『プリズムフラワー』って何だろう、皆も口々に疑問の声を上げてるし……

 

「まさか世界がこんな風になったのはアンタ達の仕業なの」

 

 ラブの叫びが聞こえ視線を向けようとした時に、誰かが私の服を引っ張って来たのでそちらを見ると顔色を悪くした奏だった。

 

「響、八雲さんの言っていた、いざって……」

 

 私の服を握っている奏の手に力が籠る、私は手を重ねながら魔女を睨む、魔女が不敵な笑いをしながらこちらを見据えてくる。

 

「その通り、さお嬢さん達……いや、プリキュア」

 

 私は握りしめていた『モジューレ』を取りだす、隣で奏もすでに取り出しており、私達は頷き重ね合っていた手をきつく握り合う。

 

「貴方達の思い通りにはさせません!」

 

 強い意志を感じさせる凛とした声があがる、私と奏はそちらを見ると声の主はつぼみだった。

 

「みなさん、プリキュアに変身です!」



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光と闇の狂詩曲(ラプソディ)

 正に光の大爆発でした、私は響と一緒に力ある言葉を叫びプリキュアに変身する。

 

 一緒に居た女の子達も変身してプリキュアに変身していた、ブラック、ホワイト、ルミナス、ブルーム、イーグレット…………沢山のプリキュア、沢山の仲間達、私は心強かった。

 

「こんなにたくさんのプリキュア……すごい」

 

 私は周りを見渡し小さく呟くと、ブロッサムが首を傾げながら声を掛けてくる。

 

「あなた達あまり驚かないんですね」

 

「私達は驚いたけどなぁ」

 

 ブロッサムを見ながらピーチが腕を組み、何かを思い出しているみたい。

 

「みなさん全然動じていなかったですし、あの魔女はお嬢さん達って言っていたので、もしかするとと思いました」

 

 八雲さんみたいな人も居ますから、と言う言葉は呑み込みながら思った事を言う、やっぱりメロディも気が付いていたみたい隣で頷いている。

 

「良い洞察力ね、と言うかすごい数ね、全員で……」

 

「21人!」

 

 アクアの言葉の最後を乗っ取るかのようにドリームが片手を上げ大きな声で喜びを表現した。

 

「いつの間にかすごい数だな! プリキュア!」

 

 一歩進み出た魔女が、こちらを伺う様に喋り出したのを合図に、近くに居た妖精達が一気に距離を開ける。

 

「なんであんた達が」

 

「あなた達は私達が一度倒したはずなのに……」

 

 ブラックとイーグレットが呟くが、魔女は口を歪めて笑い、暗く何かに引きずり込まれる様な声を上げる。

 

「不思議だろう、教えてやろう、それは邪悪の神『ブラックホール』様のお力なのだ」

 

 節くれだった指を伸ばし腕を広げながら何かに酔うかの様な声、私は嫌悪感を我慢するのが精一杯で変身していなかったらと思い喉を鳴らす。

 

「ブラックホール様はこの世のすべてを飲み込む混沌(カオス)、闇の意思そのものだ、プリキュアに敗れた全ての邪悪なエネルギーが宇宙を彷徨いそこで出合い融合したのだ、そして全てを飲み込む宇宙最強の力をして復活した! それがブラックホール様だ!」

 

 どういう事? それじゃあ私達が浄化したネガトーンも……? 嫌な考えが頭をもたげる。

 

「我々だけでは無いぞ、貴様らが相手をした悪意の塊はすべてブラックホール様に生み出されたのだ」

 

 一同に動揺が走る中私は別の事を考えてた、まさかセイレーンもトリオ・ザ・マイナー達もそうだって言うの……でも、ハミィはセイレーンの事を知っていたし…………答えの出ない問題に私は拳を握りしめた。

 

「私達も同じさ、お前達に浄化された邪悪な心のみが集められ、ブラックホール様のお力で再びこの姿で甦ったのさ、私達の目的は一つプリズムフラワーを見つけ破壊すること」

 

 また『プリズムフラワー』、一体どんな力が……ブラックホール(悪意の塊)が恐れるほどの力があるって事なの……分からないよ。

 

「プリズムフラワーは、全ての世界を繋ぐ光のエネルギーココ、ココやナッツ達がこの世界に来れるのは、プリズムフラワーのお陰なんだココ」

 

 小さい妖精を庇いながら説明する薄いクリーム色の妖精ココ、小さいながらもその風格に私は目をみはる。

 

「もしプリズムフラワーに何かあったら……世界を結ぶ力が乱れてしまうんや」

 

 怪しい言葉遣いのタルトが、目を見開いて上げる声を聞きながら私は恐怖感に飲み込まれそうになる、世界を結ぶ力……それが無くなったらどうなってしまうの? 

 

「じゃあ、街が滅茶苦茶に成っているのも、もしかしてそのせいなんですか!」

 

 ブロッサムの悲痛な叫び声が辺りを包む、隣に居るメロディの体が強張る、そうだよねメロディ……絶対に許せないよね。

 

「プリズムフラワーは、どこにあるでしゅか」

 

「それはココ達にも分からないココ」

 

「『プリズムフラワー』は、その力を守るためにこの地球のどこかに隠れているナツ」

 

 ポプリの疑問にココとナッツが悔しそうに答える、妖精すらある場所の分からないプリズムフラワー、どうすれば良いの? どうすれば守れるの? 不安になった私はメロディの手を握るメロディが強く握り返してくれて、私も力を入れ少し落ち着きを取り戻す、メロディは何時も私に力をくれる。

 

「そうさ、だから私が居るのさ、さあ水晶よ、プリズムフラワーの場所を映せ」

 

 魔女が水晶を操ろうとしたその時、私達を飛び越え一つの影が敵に向かって行った。

 

「ご高説どうも! やらせねえよ!」



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鬼人の小戯曲(オペレッタ)

 プリキュア達の動揺、妖精の絶望的な声を聞いて私は繋いでいる手に力を込めた、握り返してくれるリズム、リズムが居れば大丈夫、私は戦える後は…………

 

「ご高説どうも! やらせねえよ!」

 

 私達を飛び越え躍り出た、力をくれる声、頼もしい背中を見た私とリズムは叫ぶ。

 

「八雲兄!」

 

「八雲さん!」

 

 空中からの魔女を狙った蹴り落としは、マントを付けた男に防がれた、けれど八雲兄はその場でマントの男と激しい打ち合いを始める、足を止めてのラッシュ、八雲兄がよく使う戦法。

 

 私達の為に何時も危険な戦い方をする八雲兄、今もそうだ、八雲兄は何時も何時も自分の身を平気で敵に晒す、胸に色々な物が込み上がる、現に今だって動けない私達に代わって飛び出したんだ、変身もしないで……

 

 何で私の足は動かないの、私は伝説の戦士じゃないの私の決意はこんなに軽かったの……

 

 八雲兄の戦いに息を呑む、前に生身で戦った時より強くなってる、八雲兄はやっぱり凄い、打ち合いの最中、後ろのヘルメットをかぶった巨漢が八雲兄に向かって拳を下から上に振り抜く、腕をクロスしてガードした八雲兄はこちらに飛ばされる。

 

「八雲兄!」

 

「八雲さん!」

 

 吹き飛ばされた八雲兄を見て、私とリズムは悲鳴を上げた。

 

「「「木野さん!」」」

 

「「お兄さん!」」

 

 八雲兄を知っているブラック、ホワイト、ルミナスが絶叫し、近くに居たドリームとピーチが八雲兄の身を案じる様に叫ぶ、全員の顔に焦りが見える。

 

 八雲兄は空中で姿勢を直し綺麗に着地をする、でも勢いが強く私達の側まで氷の上を滑る様に近づいてきた。

 

「なかなかの闖入者だ、だかプリキュアには遠く及ばん、無駄死にだ」

 

 マントの男が楽しそうに笑う。

 

「ムシバーンと打ち合った……」

 

「ウソ、トイマジンの攻撃を防いだの」

 

 ドリームが驚き、ピーチが信じられないと言った声を上げる。

 

「俺は勝てる勝てないで戦いを選ばない! 覚えておけ!」

 

 気合の籠った声を発した八雲兄が、『音角』の入っているホルダーに手を伸ばそうとした時、魔女が不気味な声を上げた。

 

「やはりこの近くにあるみたいだねぇ」

 

 魔女の水晶に映る、黄金に輝く美しい球体。

 

「あれがプリズムフラワー」

 

 ドリームが声を上げたその時、プリズムフラワーが嫌な音を立てて、その美しい表面に亀裂が走る。

 

「やっぱり、弱ってるナツ!」

 

 ナッツが叫び妖精達がどよめく、私はすがる様に八雲兄の背中を目線を送る。

 

「どうして! まだあいつらに奪われてないのに!」

 

 焦りを隠せないアクアの声を合図に地面が揺れ出す、禍々しい水晶柱が地面から現れ、混じり合った世界を破壊していく。

 

「ブラックホールの強大な力が、もう地球全体を覆い始めているココ!」

 

 空が荒れ、大地が裂け、ココの絶望に染まった声が木霊する、でも私は見た、揺れる大地を物ともせずに走り出したその背中を、まるで付いて来いと言っている様なその背中を。

 

「攻撃だ! あいつらを止める! プリズムフラワーを必ず守るんだ!」

 

 叫んだ八雲兄が真っ先に敵に向かう、八雲兄がいれば私は戦えるし絶望はしない。

 

「八雲兄!」

 

「はあぁぁぁ!」

 

 走り出し名前を叫んだ私と、気合を漲らせたリズムが後を追う、それを見たプリキュア達が一斉に動き各所で戦いが起きる、八雲兄はシャドウと言われた敵と戦っており、私とリズムは氷で作られた様な双子の男達とぶつかり合っていた、そんな中、トイマジンが高くジャンプする。

 

「させるか!」

 

 危険を察知した八雲兄がシャドウを何とか掻い潜り、トイマジンに向かって高くジャンプしたが、ムシバーンに阻まれてしまう。

 

「君如きに邪魔はさせぬよ」

 

 勝ち誇った笑みを浮かべるムシバーン、八雲兄は獣の様な咆哮を上げながら攻撃を開始する。

 

「どけえぇぇ!」

 

 打ち合いをする八雲兄とムシバーン、だが魔女の水晶が怪しい光を放ちだす。

 

「お前達もバラバラにしてやる!」

 

 トイマジンが絶叫と共に打ち付けた拳は地面を砕き私達は上空に吹き飛ばされる、なすすべなく飛ばされた私達はお互いがお互いの仲間を叫ぶ。

 

「二人とも手を!」

 

 八雲兄の言葉に、私とリズムは八雲兄の差し出された手に向かって力の限り手を伸ばす、お互いの指が触れあったその時、更に突風が吹いて私達は離れ離れになる。

 

「八雲兄────っ!」

 

 私の叫びは風に遮られ、届く事は無かった。




今週もお読み頂きありがとうございます。
次回の更新は来週末を予定しています、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。では、次回

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第6節 激戦の前奏曲(プレリュード)

よろしくお願いします。


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激戦の前奏曲(プレリュード)

「キャアアアアアアア」

 

 空から地面に向かって落下する、私は大した受け身も取れずに、砂漠の砂に突っ込んだ。

 

「あー、イタタタ……! 八雲兄っ!リズム!」

 

 痛む所をさすりつつも、私は八雲兄とリズムを捜すために砂漠を見渡す、周りを油断なく周りを歩いていると絶叫が聞こえ、上を見上げると、ブラック、ブルーム、ドリームにピーチが同じように降ってくる。

 

 皆を助けようと走り出したが砂に足を取られ転倒してしまい、ブラック達も砂漠に突っ込んでしまう、無事を確認しようとした瞬間、頭上に物凄い嫌な予感がし、咄嗟に腕を伸ばしながら顔を上げると、顔を引きつらせたブロッサムが目の前に振って来ていた。

 

 ブロッサムを何とか受け止め、勢いを逃がす様に抱きしめながら砂の上を勢い良く何度か転がり、砂漠の上に二人して大の字で止まる。

 

「大丈夫?」

 

 安堵の息を吐きつつ、体を起しながらブロッサムに訊ねた。

 

「はい、ありがとうございます」

 

 私の手を借りながら立ち上がったブロッサムは、花が咲いた様に微笑む。

 

「二人とも、怪我は無い!」

 

 大きな声で心配するブルームに二人して手を振って答え、皆と合流し辺りを見渡し眉を寄せた。

 

「ここって、まさかサーロインの砂漠の迷路?」

 

 辺りを油断なく確認しながらブルームが、小さく呟く。

 

「もしかすると、ムシバーンのオーブンの世界かも……」

 

 ドリームも心当たりのある世界を告げてくる。

 

「どういう事」

 

 ブラックとピーチも辺りを伺い、私も周りを見渡そうとした。

 

「どうかな諸君」

 

 声の方を慌てて見る私達、そこにはつばの広い帽子をかぶった男と八雲兄と打ち合ったマントの男が空中に立っていた。

 

「サーロイン!」

 

「ムシバーン!」

 

 ブルームとドリームがそれぞれの名前を叫ぶ。

 

「八雲兄は! リズムは! 二人をどこに飛ばしたの!」

 

 私は自分の中の怒りの感情を抑えられ無なく、自分でも信じられない様な叫び声を上げる。

 

「みんなはどこ! ここは何なの!」

 

 ピーチが今にも飛びかからない勢いで声を張った。

 

「バラバラに混ざったバトルフィールドだ」

 

「お前達もバラバラだ、そしてこいつらが」

 

 サーロインとムシバーンが、不敵な笑みを浮かべて私達を見下ろす、ムシバーンが指を鳴らすと途端に地面が揺れ、その地震とは明らかに違う揺れに私達は油断なく身構える。

 

「お前達の相手だ!」

 

 その言葉を合図に、砂漠が爆発し数え切れないほどの敵が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

「キャアアアアア」

 

 飛ばされた私は、離れ離れになった不安と、落下する恐怖に思わず両手で顔を覆ってしまう。

 

 私は、地面に叩きつけられる事を覚悟し、体に力を込めたけど体に衝撃は無く誰かに優しく受け止めて貰った。

 

「ありがとう、八雲さ、あ……あの、すみません、助かりました」

 

 落ちた私を受け止めてくれた居たのはミントで、私は自分の感違いが恥ずかしくなる。

 

 少し戸惑った私の言葉に、ミントは何も言わずに微笑みながら頷いてくれ、私は自分の頬が熱くなるのを感じた。

 

「ここって、魔女の船の墓場とフリーズンフローズンの氷の世界が混ざって……」

 

 ホワイトが直ぐに状況を確認する、私はホワイトの状況判断の速さに舌を巻く。

 

「その通り!」

 

「「ようこそ、俺達の世界へ」」

 

 またあの声、私達は声のした空へと視線を向ける、魔女とまるで氷で出来た様な瓜二つの男達、明らかに悪意を持った三人が空に浮かんでいた。

 

「あなた達!」

 

 ホワイトが構えようとしたが、海が揺れ巨大な三体の敵が海中から現れる。

 

「コワイナー!」

 

 アクアが鋭い視線で見上げるが、コワイナーは私達に圧し掛かって来た。

 

「みんな! 避けて!」

 

 いち早く回避行動を開始した、イーグレットが力の限り叫ぶ。

 

「なんなの一体! てか大き過ぎでしょう!」

 

 マリンは後も見ずに、バックステップで難破船を渡りながら叫ぶ、それぞれ回避に成功した私達は、反撃する為に各々が手近な敵に向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 俺達の目の前には、戦いの場とはいえない空間が広がっていた、空中に飛び石の様に並んでいる円盤、大きさもあり全員で乗れそうな広さがあった。

 

「なんだかワクワクします」

 

 レモネードが手を組み、瞳を輝かせている。

 

「ここはおもちゃの世界の双六かも……」

 

 パインが、周りを見渡しながら覚えがあるのだろう、皆にこの場所の説明をしていた。

 

「双六? なんか、冗談みたいか空間に出たな……」

 

 皆が一斉にこちらを振り向くと、俺が居る事に驚く。

 

「貴方、一緒に飛ばされたの?」

 

 ムーンライトは眉を寄せ思案顔だ。

 

「いきなり敵に飛び込むななんて無謀すぎよ、どうするのよまったく」

 

「巻き込まれたんだから、私達が彼を守らないと……」

 

 ローズの言葉にパッションがフォローを入れている、俺は無言でレモネードの前に移動するとレモネードは首をかしげる。

 

「キュアレモネード、君さ、春日野うらら……だよね」

 

 俺の言葉を聞いたルージュが、レモネードの盾になる様に間に入り、殺気の混じった声を上げた。

 

「何よアンタ! レモネードがうららだったら何なのよ!」

 

 ルージュの言葉を聞き流しながら、俺はレモネードに右手を差し出す。

 

「握手してくんね、応援してんだよ」

 

 俺の台詞を聞いた、レモネードが笑いながら握手をしてくれる、思ったよりも手ちっちゃいな、などど場違いな感想を思ってしまう。

 

「アンタ紛らわしいのよ! うららのファンか! ファンなのか!」

 

 ルージュが、がなり立てる中、数名が崩れ落ち数名は額を押さえていた。

 

「戦いが終わったらCD買ってくるからさ、サインお願いできる?」

 

「ハイ! 喜んで!」

 

 可愛く両拳を握ったレモネードが、良い笑顔で返してくれる。

 

「ハハッ、もう好きにしてよ、アンタ達は」

 

 ルージュが投げやりな声を出し、みんなが小さく笑う。




お読み頂きありがとうございます。

フリーズンフローズンは二人で一キャラ扱いになります、フリーズンフローズンの台詞は常に二人でひとつの台詞をしゃべります、よろしくお願いします。

明日も通常通り更新を予定しております、お付き合い頂ければ幸いです。では、次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第7節 黄色の嬉遊曲(ディヴェルティメント)

よろしくお願いします。


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黄色の嬉遊曲(ディヴェルティメント)

「ようこそ、ボクの双六へ」

 

 弛緩していた空気が、一気に引き締まる。

 

「トイマジン……」

 

「サラマンダー男爵」

 

「シャドウ」

 

 パッションとサンシャイン更にはルージュが声を上げた。

 

「さあ、サイコロを振ってゴールを目指せ、さもなくばココからは出られんぞ」

 

 サラマンダー男爵が喋っているが、俺は咄嗟に近くの柱を蹴り上がりシャドウに向かって飛び蹴りを仕掛ける。

 

「付き合っていられるか! お前らを倒せば終わりだろう!」

 

 攻撃が防がれてしまい俺は反撃される前に、ガードしている腕を踏み台にして皆の側に戻った。

 

「あらら、せっかちさんは女の子にもてないわよ~」

 

 シャドウはからかう様な声を出し、パインが慌てて俺の側に寄って来る。

 

「お兄さん、戦いは私達がします、だから隠れて居て下さい」

 

 身を重んじてくれるパインに、心の中で感謝しながらもパインを手で制し、ホルダーから『音角』を取り出し展開させながら両手を伸ばし構える。

 

「黙れシャドウ、お前達は俺を見くびり過ぎている、悪いが俺はキサマ達にもプリキュアにも後れを取るつもりはない」

 

「ん、まぁ……面白いじゃない、貴方の力を見せて貰いましょうか」

 

 明らかに馬鹿にしてくるシャドウに対して、口角を上げながら睨みつけ、気合を入れる為に普段は言わない言葉を発する。

 

「見せてやる俺の力を、鬼人……解放」

 

 言葉と同時に『音角』弾くと周囲に美しい音が響き渡る、いつも通り紫炎が俺を包み体の奥底から力が湧いてくる、力が最高潮になったのを見計らい腕を振るい炎を吹き飛ばす、俺が鬼人の力を解放すると、驚きの声を次々に上げるプリキュア達、その中に一つだけ小さな悲鳴が混じっていた。

 

「鬼姫の使者! 音撃戦鬼! 獣鬼!」

 

「あらまぁ、すごいじゃないの、でもね」

 

 シャドウは、楽しそうに拍手をしながら声を上げるが、その声は明らかに馬鹿にしていた。

 

「所詮貴様らは、この空間からは逃げられないのだからな」

 

「うんと楽しんでおくれよ」

 

 男爵とトイマジンが好きな事を言うと三人はそのまま消えてしまう、皆が思案している時に「それー」と元気の良い声が聞こえ、そちらを見るとレモネードが側に置いてあったサイコロを楽しそうに振っていた。

 

「あんた何振っているのよ!」

 

 ルージュが突っ込みを入れる中出た目は六であり、俺とパインは思わず声がでた。

 

「「やった、六」」

 

 思わずガッツポーズを取っていた俺とパインに、ルージュが呆れた様な突っ込みを入れてくる。

 

「アンタ達やったじゃなでしょ、それに鬼! じゃなった獣鬼! さっきまでの恰好良さはどこ行った!」

 

 ルージュの怒鳴り声と同時に、俺達は光に包まれマスの上を飛び跳ねていく、それに合わせレモネードが楽しそうに数を数えルージュが突っ込みを入れる。

 

 六マス目で止まった俺達の前に文字が浮かび全員が目を丸くしていた。

 

「スーパーモグラたたき、100点でクリア?」

 

 パッションの戸惑いの言葉と共に視界に光が溢れ、目が見える様になった時にはまた変な空間に飛んでいた。

 

「え、何これ、ハンマー?!」

 

 ルージュが呟く中、全員の手にピコハンが持たれており状況が飲み込めずに困惑しているメンバー達。

 

「スーパーモグラたたき、100点取ったらクリアだよ」

 

 トイマジンが嬉しそうに宣言をし、隣には男爵とシャドウも立っていた。

 

「だからゲームなんてしてる暇は」

 

「よーい、スタート!」

 

 怒鳴るルージュを気にせず、トイマジンがスタートを切ると穴からウザイナーやナケワメーケなどが、六匹ほど現れ襲ってくる。

 

「モグラじゃないじゃない!」

 

 ローズの言葉を合図に慌てて三々五々に逃げ出す一同、だが俺とムーライトだけは残っており悠然と立っていた。

 

 チラリとムーンライトを見ると、彼女も丁度こちらを見て来てお互い目で合図をし合い、敵に向かって行くムーンライトが右を狙っているので、俺は左を担当する、お互いがハンマーで一閃すると、怪物たちが場違いなハンマーの音と共に軽い音を立てながら色鮮やかな煙となり消えていった。

 

「とにかくクリアするぞ」

 

「そうすればここから出られるわ」

 

 俺はハンマーを肩に担ぎ、ムーンライトは油断なく構え声を張ると、距離を開けていた皆が納得したような笑顔になった。

 

「なるほど、そうか!」

 

 気合を入れ直すサンシャイン。

 

「じゃあ、残りはえっと……」

 

 としっかりとハンマーを構え、残りの数を確認しようとするレモネードを嘲笑うかのような数の怪物が、穴から勢いよく飛び出してくる。

 

「「多すぎ!」」

 

 レモネードとサンシャインが叫ぶ中、大量に落ちてくる怪物たち、俺達は絶叫を上げるしかなかった。




お読み頂きありがとうございます。

遂にユニークアクセスが20,000の大台になりました、応援して下さっている皆さんのお陰です。
これからも是非応援をよろしくお願いします。
では、次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第8節 相棒達の追走曲(カノン)

よろしくお願いします。


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相棒達の追走曲(カノン)

今日はレインボーフレーバー当日ですね。
この話を会場に向かう最中に読んで下さっている方、既に会場に到着されている方、サークル参加の方も一般参加の方も、是非楽しんで下さい。

また、私同様自宅にいる方も、今日一日が佳き一日でありますように。


 走る、走る、走る、ただひたすらに走る。

 

「うわぁぁあああ、何なのよもう!」

 

 私は叫び声を上げながら、ひたすらに走る。

 

「こんなのどうしたら良いのよ!」

 

「とにかくここから抜けださなきゃ」

 

 さらに叫んだ私の隣を、必死の形相で走っているブラックが合いの手を入れてくれた。

 

「うん、みんな一緒じゃなきゃプリズムフラワーは守れないよ!」

 

 ドリームがみんなの思いを代弁すると、ブロッサムとブルームも頷く、後ろから「ホシイナー」の掛け声と共に何本もの杭が打ち出され、私達はジャンプして避けるが一ヶ所に集まってしまう。

 

 私達は、お互いに背中を合わせつつも、気合を入れて構えるが、私達を取り囲むように打ちだされる幾重もの飛び道具達。

 

 ──避けられない! そう感じ取った私は少しでも抵抗しようと一歩踏み出そうとしたが、ブルームを中心に力強い何かが私達を包む。

 

「みんな! 動かないで!」

 

 両手を高々く掲げたブルームが、気合の声と共にバリアを張って私達を守りきる、私の瞳にはブルームの周りで美しい光達が踊る様に見え、その美しい舞に思わず息を呑んだ。

 

「「ありがとう! ブルーム!」」

 

 ドリームとピーチが、ブルームにお礼を言いながら敵に突っ込んで行き、ブラックは一番大きい敵に対して向かう。

 

「だだだだだだだだ!」

 

 ブラックが一撃入れる度に、激しい衝撃波を起こす拳を連撃で入れ、巨大な敵を簡単に吹き飛ばす。私も負けじと敵に向かって走り出すと、ブルームが私の直ぐ隣を低空飛行で並んで来た。

 

「行くよ! メロディ!」

 

「はい!」

 

 私は頼もしい仲間と共に敵陣に向かう、どれだけ戦っただろう、数は減るどころか増えるばかりで私達は次第に追い込まれ、一ヶ所に集まってしまう。

 

 それでも、砂の中から次々と現れてくる怪物たち、全員が何時でも戦えるように構えているとブラックが皆に指示を出す。

 

「私とメロディはこっち、ブロッサムとピーチはあっち、ブルームとドリームはそっちをお願い!」

 

 皆で一斉に返事をするが、私はある事に気が付き頭を悩ませた、ブラックそれ指示じゃないよ! 

 

「こっちってどっち?」

 

 私が思わず疑問の声を上げると、皆一斉に同じような事を言いだす。

 

「あちってどっち?」

 

 ピーチが確認する横で、ブロッサムは青い顔をしていた。

 

「そっちってこっち? どっち?」

 

 指をあちらこちらに指しながら聞いてくるブルーム、隣のドリームも困惑気味だ。

 

 この瞬間、私の中で何かが切れた。

 

「ブラックを正面に全員で真っ直ぐ突き進む!」

 

「「「「「は、はい!」」」」」

 

 ブラックと同時に走り出す私、そんな二人を先頭に包囲網を抜け、また不毛な追い駆けっこが始まった。

 

 私は、心の中で「出口有るかも分からないのに何処に走って行けばいいのよ、助けてよ八雲兄! 助けてよ奏!」と、絶叫したかったが何とか言葉を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な敵の目が光り、光線が打ち出され私達の側で爆発が起こり飛ばされる、何とか体制を整えて難破船に避難するが、さっきからずっとこの調子で私達は逃げ回っていた。

 

「強い……」

 

 アクアが絞り出すような声を出す、見下ろしてくる圧倒的な悪意の塊の怪物たち……

 

 空を自在に翔けるイーグレット一人で戦うには、空中の敵は多すぎて、どんなにアクアとマリンが援護射撃をしようとしても、海中から敵に阻まれ効果が発揮できず、ミントは皆を守るので精一杯になっている。

 

 ホワイトとベリーに私で、海中から出た敵に対応はしているが、こちらが有利になりそうだと空中の三人がちょっかいを掛けて来て、私達はじりじりと追い込まれて行く。

 

「足場が悪くて上手く戦えない」

 

「早くここから脱出しないと」

 

 ミントが悔しそうに声を出し、ベリーが焦りを隠せないでいた。

 

「そう言えば、魔女の水晶の光でこの世界に来たわよね」

 

 アクアが、魔女の水晶を睨みながら皆に確認をする。

 

「じゃあ、あの水晶を壊せば元の世界に戻れるかも」

 

 アクアの問いに、イーグレットが答える。

 

「やってみる価値はあるわね」

 

 ホワイトが姿勢を少し低くし構えを取った、私はこの状況を打開できる気がし始めていたが。

 

「よっしゃー! そうと分かれば!

 いっけ──! ブロッサム!」

 

 敵に指をさし高らかに宣言をするマリン。

 

「ピーチ!」

 

「ドリーム!」

 

 多分、ブロッサムと同じで、飛び出していく仲間の名前を呼ぶミントにベリー。

 

「「えぇっ」」

 

 お互いの顔を、見合わせる仲間達を見て、私は何かが外れた気がした。

 

「行きます!」

 

 私はそう叫ぶと飛び出していた、そう、飛び出していた……

 

 私の飛び出しは遅かったらしく、敵の攻撃が先に来てしまい私達は、爆発に巻き込まれ仲良く空を飛んでいた。

 

 空中を舞いながら、私は心の中で叫んでいた「みんなバラバラどうすれば良いの?! 教えてよ八雲さん! 助けてよ響!」でも、今は二人は居ない、頑張らなくっちゃ。




お読み頂きありがとうございます。

明日も更新を予定しております。

本編ではサラッと流された部分を、私なりにこうだったら良いなと付け加えてみました。
特に本編を見返すと、ブルームの影が薄い気がしていたので、ちょっと出番を増やしました、ちゃんとブルームらしかったら良いのですが……

全てのキャラの出番を増やせるか分かりませんが、頑張ってみるつもりです、このキャラの出番は増えるの?ってのがありましたら、教えて頂けると嬉しいです。
では、次回

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第9節 三組の受難曲(パッション)

よろしくお願いします。


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三組の受難曲(パッション)

遂に、ヒーリングっど♥️プリキュアも再開され、少しづつですが生活も戻り始めました。
ですが、毎日のように感染者の話しもあって、中々気が休まりません。
皆さんも、体調には気を付けて下さい。



「98!」

 

「99!」

 

「「「「「「「100!」」」」」」」

 

 最後の一体を全員で叩きゲームが終了する。

 レモネードとルミナスが手を叩き合い喜び、ルージュとローズは肩で息をしていた、「おめでとう100点クリア」声とともに空中に文字も浮かび、俺達は元の双六に戻される。

 

「で、次はどうなるの?」

 

「双六なんてやってる時間は無いわ」

 

 サンシャインとムーンライトが、揃って不満そうな声を上げる。

 

「何か作戦を考えないと」

 

 ルージュも二人に続く様に声を掛けるが「それ~」と、レモネードの楽しそうな声が俺達の耳に入った。

 

「だーっ! だから何で振ってるのよ!」

 

「芸能人空気読みやがった!」

 

「そんな空気読まないで!」

 

 俺とルージュが同時に叫び、ローズは俺に対して突っ込みを入れる、転がるサイコロを見ているルミナスとパインは少し楽しそうだ。

 

「しかも1だし!」

 

「「「い~ち」」」

 

 叫ぶルージュを無視し、光に包まれ移動すると同時に、数を数えるレモネードと、それに加わったルミナスとパインは楽しんでいた。

 

「ハイパーボウリング100本たおしたらクリア?」

 

 吐き捨てる様なローズの声と共に俺達はまた光に包まれ移動した。

 

「どうせまたインチキなんでしょう!」

 

 業火のごとく叫ぶルージュ、俺達の前には白い壁があると思ったら、巨大なボーリングのピンだった。

 

「ほらやっぱり」

 

「大きすぎます……」

 

 呆れを通り越して諦め出したルージュに、見上げながら感想を述べるルミナス、「ボーリングスタート」の声を共にピンが弾けて怪物たちが現れる。

 

「おまけにやっぱりデザトリアン!」

 

 小さな子供の様に首を左右に振りながら半泣きのサンシャイン、戦っているのか遊んでいるのか分からない時間がまた始まる。

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああああ、食べられちゃうよ!」

 

 恐竜のザケンナーが私に迫る、あわや食べられると思った時、ドリームが私を抱え間合いを広げてくれた。

 

「大丈夫」

 

「うん」

 

 二人して砂の上に着地するが足を取られ動けなくなってしまい、私とドリームはザケンナーに踏みつぶされた、砂に埋もれただけなので体のダメージは少ないが、心は大ダメージだ。

 

 直ぐに起き上がりドリームと共に走り出す。離れた所では、ブラックとピーチがセミのウザイナーに攻撃を受け砂漠に突っ込み、炎のザケンナーに阻まれている。

 

 誘導されてしまったブロッサムは、一対一になり攻撃を受け飛ばされ、上から振って来たコワイナーの攻撃を、咄嗟に入り込んだブルームがバリアを張って助けるが、皆を守り続けて消耗していたブルームのバリアは破られてしまう。

 

 破られたその隙に、ブルームはブロッサムを抱えて距離を開けるが、敵にまた誘導されているのを知らずに攻撃を受けてしまった。

 

 焦れば焦るほど良い考えは浮かばず、翻弄され続ける私達、私はこんなに弱かったの? 私はあの二人が居ないと何も出来ないの? 答えの出ない自問自答をしながら砕けるんじゃないかと思う程の力で奥歯を噛み締めて、ドリームと共に仲間の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 敵の攻撃をかわすために全員で高く飛んだがそれは悪手だった、空中に控えていたコワイナーが私達に同時に攻撃を仕掛け、私達はなすすべも無く攻撃を受け海へと落とされる。

 

 私とイーグレットはかろうじで船の上に着地出来たが、他の皆は海へ落とされてしまった。

 

 海に落ちた皆も自力で近くの難破船に避難したが、敵の攻撃は激しさを増す。巨大な魚の様なホシイナーが私達の側で着水し、大きな波を起こし私達は海へ投げ出された、

 

 抗い難い水流に巻き込まれ、海底に沈みそうだった私を、ミントが手を引いてくれて何とか皆と同じ難破船へたどりつく。

 

「空も海の敵だらけ!」

 

「全然魔女の水晶に近づけない!」

 

 イーグレットとマリンの言葉を聞きながら私は絶望しかけていた、こんなにものプリキュアが居るのに敵わない……

 

「やっぱり私……メロディと獣鬼が居ないと、どうしたら良いか分らないよ」

 

 意を決して飛び出しても敵の方が早く、逃げ惑ってばかり私は一体……

 

「プリキュア! エスポワールシャワー!」

 

 私の不安を吹き飛ばす様に、ベリーが迫ってきたコワイナー達を一掃すると、一歩力強く踏み出した。

 

「こんな所で負けるもんですか!」

 

 腕を大きく振り皆を鼓舞するベリー、迫って来たウザイナーをバリアで弾き飛ばしたイーグレット。

 

「そうね、早く皆と合流しないと」

 

 息を吐いたイーグレットが、全身に力を漲らせる。

 

 船体がいきなり軋みを上げ、船に巨大な物が巻き付き締めあげている、慌ててそちらを見ると巨大な蛸だった。

 

「タコ~」

 

 心底嫌そうにベリーが悲鳴を上げる。アクア、ミントにマリンが船体に巻き付いている蛸の足を蹴り飛ばし、船体がら強引に引きはがすと、ホワイトが華麗な体捌きで投げ捨てる。

 

 ホッとしたのもつかの間、空に禍々しい紫色の光が溢れる、空を見た私の視界一杯に迫りくる破壊の光球、私はなすすべも無い事に恐怖し、我慢していた言葉を発してしまった。

 

「八雲さん、たすけ……て……」




お読み頂きありがとうございます。
次回の更新は、いつも通り週末になります。

キュアベリーって少し不遇だなと思うのですが、皆さんどう思いますか?
そんな訳で、少しですが出番を増やしました。
オールスターズも中盤に差し掛かりました、これからも、応援をよろしくお願いします。
では、次回

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第10節 戦士達の夢想曲(トロイメライ)

よろしくお願いします。


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戦士達の夢想曲(トロイメライ)

嫌な天気が続きますが、皆様いかがお過ごしですか?
体調など崩されない様にご自愛下さい。

テスト実装されていた「ここすきボタン」をして頂けました、気が付いた時に絶叫しました、凄く嬉しかったです。
オールスターズ編に入ってから、お気に入りの変動が激しく色々考えていましたが、かなり救われました。
ありがとうございました。


「要はコイツ等全員転ばせば良いんでしょうが!」

 

「そう言う事!」

 

 ルージュと俺が叫びながら並行して走る、ルージュの手甲の赤い蝶が光を放ち火球を生み出す。

 

 それに合わせる様に俺は音撃棒を取り出し、力を溜め解き放つ。

 

「烈火弾!」

 

「プリキュア! ファイアーストライク!」

 

 炎を纏った音撃棒を振るい幾つもの火球を打ち出す、俺の火球を取り込むようにルージュの放ったファイアーストライクが巨大になり数体の敵を倒し煙へと成った。

 

 拳同士を打ちつけ合った俺とルージュは次の相手に走り出す。

 

「プリキュア! フローラルパワー・フォルティシモ!」

 

 ムーンライトが全身に光を纏い、縦横無尽に空を翔け空中の敵を薙ぎ倒す。その直ぐ下で、パッションが瞬間移動を繰り返しながら瞬く間に敵を撃破して行く。二人の攻撃を見ていたレモネードとサンシャインが頷き合う。

 

「そっか!」

 

「よぉし!」

 

 レモネードとサンシャインが技のモーションに入る。俺は、ウザイナーやデザトリアンに囲まれているルミナスに気が付き、力を溜めながら全速力で向かう。

 

「援護する! サンシャイィ──ン! フラッシュ!」

 

 サンシャインが俺の動きに合わせ、両手で円を描き、力を集め一気に解放する、放たれた無数の光弾が次々と敵を打ち砕く。

 

「すまない、サンシャイン!」

 

 俺は、サンシャインがこじ開けた間に入り込み、ルミナスを横抱きにして救出する。

 

「ありがとうございます」

 

 俺の腕の中で、小さくなっているルミナスが申し訳なさそうに謝ってくる、俺は顔を向け安心させようと軽く笑う。

 

「気にしない! 突破するからちゃんと捕まっていてね」

 

 俺の言葉に従い、しっかりと体を掴んで来たのを確認すると、一気にスピードを上げていく。

 

 しつこく追いすがるウザイナーに対して、ルミナスを庇う様に抱いたままジャンプをする、溜めていた力を解放し、一気に急降下をし雷を纏った蹴りを放つ、余りの加速にしがみ付いた来た、ルミナスの頭を抱えて守る。

 

「雷撃脚!」

 

 蹴りに纏わせた雷が数体のウザイナーを撃ち貫く、残った数匹が着地した俺達へと殺到するのを見てまた力を溜め出す。

 

「プリキュア! プリズムチェーン!」

 

「ミルキーローズ! ブリザード!」

 

 蒼い薔薇を纏った黄金の蝶の鎖が殺到する敵を一掃する、俺は無事に体勢を整えると残ってしまった、数体の敵に向けて雷を纏った回し蹴りで数体を纏めて倒す。

 

「レモネード! ローズ! ありがとう! 助かった!」

 

 レモネードが小さく手を振り、ローズは腕を組んでドヤ顔を見せる。俺はザケンナーが煙になったのを確認して、丁寧にルミナスを降ろす。

 

「すいません、助かりました」

 

 無事を確認し頭を乱暴に撫でると、ルミナスは頬を少し赤くした。

 

「ついて来い! 行くぞ!」

 

「は、はい!」

 

 俺とルミナスは同時に走り出す。

 

「悪いの悪いの飛んで行け! プリキュア! ヒーリングプレアー!」

 

 パインが頭の上で手を叩き力を集め両手を胸の前でダイヤの形を作り光が放たれ残りを浄化させていく。

 

「後一体!」

 

 パッションが肩で息をしながら小さくガッツポーズを取ると、ローズが頷く。

 

「さっさとこんな場所抜け出してみんなを迎えに行くわよ」

 

 ドヤ顔のローズがムーンライトの近くに居るウザイナーを見つける

 

「ちっさ……」

 

 走り回っていたのは手の平サイズのウザイナーだった、ムーンライトが足を出すと勝手にぶつかり転んで消えていった。

 

「これで100体ね」

 

 ムーンライトが大きく息を吐き呟くと、それを合図に俺達は光に包まれた。

 

「うぅー、よっしゃぁ! こうなっらトコトンやってやろうじゃないの!」

 

 戻った俺達は双六を進めていたが、双六の酷い展開にルージュが切れドミノが倒れる様に周りに伝染していく。

 

 野球対決では、チアガールの恰好をしたルミナス、パイン、レモネードは大変可愛らしく、その声援を受け先頭打者ホームランを放ったが、その後に続いたルージュ、ムーンライト、パッションも同様にホームランを放ちナケワメーケは一瞬にして撃退された。

 

 その後のプリキュア達の快進撃は続く、ダンス対決はパッションが決め、お菓子作り対決はルミナスが美味しいクッキーを作り、何故かそのままお茶会になだれ込んだ。




今回もお読み頂きありがとうございます。
明日も更新の予定ですが、息抜き的な話に成ります。
宜しければ明日もお付き合い頂ければ幸いです。

各キャラに活躍の為に敵の数を増やしました。
一丸となって敵に向かっている感じが出ていれば良いのですが、どうでしょう?
ルミナスはお姫様ポジションです!
では、次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第11節 戦士と鬼の間奏曲(インテルメッツォ)

よろしくお願いします。


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戦士と鬼の間奏曲(インテルメッツォ)

いつもお読み頂きありがとうございます。

ここすきボタンがまだ使えるようになりました、もし宜しければ、気に入ったところがありましたら教えて頂ければ幸いです。
個人的にはコメント等も入れないで済みますし、気軽に出来るかなとも思っております。
皆様からのアクションがありますと、かなりテンションが上がります、是非よろしくお願いします。



「ところでアンタ、普通に馴染んでるけど誰よ」

 

 クッキーを摘まみながらルージュがジト目で聞いてくる、皆の視線が一斉に俺に集まった。

 

「今更だな、俺はキュアメロディとキュアリズムの仲間だよ。名前は木野八雲、この姿の時は獣鬼と名乗っている、分かっていると思うけれど俺はプリキュアじゃないからね、ルミナスとはモールの中で少し話したよね」

 

 口に残ったクッキーの甘さを紅茶で流す、この紅茶はローズが淹れてくれて皆に好評だ。流石はお世話役、後で淹れ方を習おう。

 

「はい、なぎささんとほのかさんもお話してます」

 

「ツノ、触って良いかな」

 

 ルミナスと話していると、好奇心丸出しのパインが言うだけ言ってツノを触ってくる。

 

「やっぱり硬いのね、この感触骨かしら……少し違う気もするけれど……」

 

 それを聞いたレモネードが、無遠慮に手を伸ばし角を摘まむと「わぁ」と小さく嬉しそうな声を上げた。楽しそうにツノをいじくり回している二人を手で制し、何とか放して貰う。

 

「二人の知り合いってのは分かったわ。でも、何者かは話して無いわね」

 

 ムーンライトが優雅に紅茶に口を付け、隣でサンシャインが腕を組んでうなずいているが、目はツノに釘付けに成っている。

 

「俺さ、見て分かる通り鬼なんだよ、正確には鬼人ね。詳しくは勘弁して欲しいけどプリキュアの味方ってのは信じて欲しいかな、信じられなったら後ろからでも良いから撃ってくれ」

 

 クッキーを口に放り咀嚼する、優しい甘さと練り込まれた紅茶の風味が口に中一杯に広がっていく、パッションが何かを思ったのか身を乗り出して来た。

 

「詳しく言えない理由は言えないかしら、納得できればみんな気にしないと思うわ」

 

 パッションの端整な顔立ちが迫って来て、少し気恥ずかしくなり慌ててクッキーを飲み込むと、誤魔化す様に一つ咳払いをして皆を見回す。

 

「詳しい話を響ちゃんと奏ちゃんにまだ話せて無いから、彼女達より先に教えたくは無い、それだけ」

 

 周りが静かになる、沈黙が痛い。少し落ち着かなくなった俺は、心を落ち着かせる為に紅茶に口を付ける。

 

「あの、獣鬼さん? でもメロディにお兄さんって呼ばれてましたよね」

 

 沈黙を破ったルミナスが小首を可愛く傾げる。

 

「敬称はまかせるよ、あぁその事か、兄代わりだよ兄代わり、メロディもリズムも大切な妹さ、因みに妹絶賛募集中」

 

 最後の台詞は引かれるかな? と思ったが、思わず口にしてしまったのならしょうがない、大人しくルージュに怒られるかな……

 

「私も立候補します!」

 

 ビシッと手を上げるレモネードに視線が集まり、ローズが盛大に溜め息を吐きルージュがレモネードの肩を掴み前後に激しく揺さぶった。

 

「レモネードいい加減にしなさい! 鬼だよ鬼! 節分どうするのよ!」

 

 最後の節分の台詞で皆が吹き出し、ソレに気が付いたルージュが小さくなる。

 

「だって私、皆さんがお姉さんですけど、お兄さん居たら良いなって思っていたんです」

 

 レモネードが拳を作りフンスと鼻を鳴らすと笑いが起こる、その隣でルミナスが何かを考えているようだった。

 

「レモネードよろしくね、で、ルミナスもどう? 今なら無料だよ」

 

「「ソコ! 調子に乗らない!」」

 

 ルミナスを覗きこんでた俺に、ローズとサンシャインが同時に突っ込みを入れてくる。二人に対して拝むように謝っていると小さな声で「お兄さんかぁ……」とルミナスが呟いていた。

 

「そろそろ行きましょう」

 

 少々呆れ気味のムーンライトが、皆を促しながら立ちあがると、つられて皆も立ち上がりだす。

 

 パッションとムーンライトが一緒に俺の前にやってくると、少し鋭い視線を投げかけてくる。

 

「ピーチならきっと信じるから、私も信じるわ」

 

 パッションの瞳は「信じているんだから裏切らないでね」と言っている様だった。

 

「今は信じてあげる、でも、少しでもおかしな行動をしたら……撃つわ」

 

 少しの間俺を睨むと、フッと表情を緩ませ踵を返すムーンライトを見送りながら、凄んだ時と緩んだ時のギャップに少し驚く、そしてまた不毛な戦いが始まる。

 

 武術対決ではサンシャインが圧巻の強さを見せつけ、動物仲良し対決ではパインが動物達をあっという間に懐かせて子犬の世話まで始めた、勉強の対決ではムーンライトが参考書も見ずに問題を解いていく、その姿を見て響ちゃんの勉強を見てくれないかなと思わずにはいられなかった。

 

 歌唱対決では楽器も置いてあり一同が戸惑っているのを見てギターを取り掻き鳴らす、皆が驚く中レモネードの笑顔が弾けた。

 

「私の歌です!」

 

 レモネードは舞台に飛び乗るとそのまま歌い始める、時折こちらを見ては笑いか掛けてきて、ちょっと楽しい一時となってしまった、演奏が終わり皆の側に行くとルージュが呆れた声を上げた。

 

「アンタ……何処までもうららのファンなのね」

 

 ルージュの溜め息と共に俺達は光に包まれ双六に戻された。

 

「見て下さい! 後六マスでゴールです」

 

 レモネードの言葉に一同がゴールを見て喜びの声を上げる。

 

「ここから先はご遠慮願おう」

 

「もう、サイコロは振らせないもんね」

 

 ゴール前のマスにサラマンダー男爵とトイマジンにシャドウが待ち構えており、トイマジンの手にはサイコロが握られていた、それを見たローズが慌てた声を上げる。

 

「あー! ちょっとコラ! ズルイわよ!」




お読み頂きありがとうございます。
次回の更新は来週末を予定しております、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

ルミナスのお手製クッキー、食べてみたくありませんか?私は食べたいです、一緒に飛ばされたメンバーと意志疎通の為にもこのような話に成りました。

オールスターズ編の戦闘も佳境へと向かっていくと思います、多分のんびりとしたシーンはここが最後に成ると考えてます。
では、次回

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第12節 響の旋律(メロディ)

よろしくお願いします。


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響の旋律(メロディ)

 目が開けていられない閃光、耳をつんざく轟音、体を打ちつける爆風、私達の抵抗も空しく全員が砂漠に倒れる。獣鬼もリズムも居ないしここが何処だか分からない、もう……駄目なのかな。

 

 頬につく砂が気持ち悪い、何度も砂を浴びて髪の毛も酷い事になっている、体も服も酷いありさまだ、早くお風呂入りたい、薄れかける意識の中、私は場違いな事を考えていた。

 

 砂漠に降りて来た私達の敵。確かムシバーンとサーロインだったかな……あぁ、お腹空いた、ビーフシチュー美味しかったなぁ…………奏のカップケーキ食べたい…………

 

「ここから抜け出して仲間と合流するんじゃなかったのかな」

 

 眠いんだから静かにしてよ……なか、ま……? …………やくも……にぃ……かな、で…………

 

「ただ闇雲に走って抜け出せる訳ないだろう」

 

 うる、さいなぁ……そんなの…………わかって……る、よ…………

 

「では、プリキュアの諸君サラバだ」

 

 視界の片隅に強い光が入る、破壊の力が渦巻く光……私の頬を一筋の涙が濡らすが直ぐに乾いてしまう。

 

 ごめ……ん、や……も、に……か…………で……

 

「えぇい! なんだコイツ()は!」

 

 男達の周りを何かが数体飛び回り、必死に攻撃の邪魔をしている。

 

「何……アレ……」

 

 ブラックが唸る様に声を出す、私はゆっくりと顔を上げ視界の隅に入ってきた、跳んでいる物体を見て、少しだけ意識がはっきりした。

 

「ディス……ク……アニ、マ……ル……?」

 

 口から漏れ出た言葉に私の意識がドンドンとはっきりしてくる、失った力が戻ってくるようだ。

 

「じゅう……き……リ、ズム…………」

 

 小さく呟く大切な仲間の名前、こんな所で何時までも寝てられない……ゆっくりとだが確実に立ち上がりつつある私の心と体。

 

「邪魔だ!」

 

 打ち砕かれて逝くディスクアニマル達を見て、私は最後に残った一体を助ける為に飛び出した。

 

「その子に触るなあぁ!」

 

 絶叫と共にムシバーンの顔に左膝を入れそのまま右足を振るい吹き飛ばす、優しく両手で最後の一体になってしまったディスクアニマルを胸に抱くと涙が溢れる、迫って来たサーロインに対し強引に体を捻り回し蹴りを入れて同じく吹き飛ばす。

 

「「「「「メロディ!」」」」」

 

 皆が足を引きずりながら寄って来て、私の腕の中のディスクアニマルを見つめてきた。

 

「コレは?」

 

 ブルームが覗きこむように訊ね、皆がディスクアニマルを気にした、私は心を落ち着かせるために一度大きく深呼吸をする。

 

「この子はディスクアニマル、私達と一緒に戦ってくれている大切な仲間、獣鬼の……そして八雲兄の音式神」

 

「音式神? 獣鬼?」

 

 ピーチが首をかしげる。

 

「八雲兄? ……あ、もしかしてあの時一緒に居た男の人! 誰よりも先に飛び出した人だ!」

 

 ブラックが手を叩きながら思い出した事を話す。

 

「あぁ! ムシバーンと殴り合った人!」

 

 ドリームは腕を組みながらうなずく。

 

「助けてくれてありがとうございます、ディスクアニマルさん」

 

 ブロッサムがディスクアニマルに頭を下げる、その姿が少し嬉しくて微笑んでしまう。

 

「君、茜鷹かと思ったら色が少し違うね、メロディだよ。助けに来てくれてありがとう」

 

 ディスクアニマルの頭を撫でながら皆を見ると、先ほどまでの絶望的な顔は誰もしていなかった。

 

「みんな、ここから出られるよ、絶対に」

 

 私は自信を持って皆に宣言する。

 

「どうしてそんな事が?」

 

 ディスクアニマルを見ていたドリームが不思議そうに私を見つめる、私は大きく頷くと笑いながら皆の顔を見回した。

 

「この子は後から助けに来てくれたんだ、八雲兄が私達を助ける為に……きっとリズムの所にも行っているはずだし、今頃は八雲兄も変身して戦っている、だからあきらめない」

 

「八雲さん、変身するの?!」

 

 ブラックが驚きの声を上げる、私は少し自慢を含めて喋る。

 

「八雲兄は鬼人で獣鬼って名前なの、すごく強くて優しいんだ。みんなにも紹介するよ、だからここから早く出よう、ディスクアニマルの事も話さないと」

 

 皆が砕かれてしまったディスクアニマル達を確認し、顔を見合わせ頷き合う。

 

「どうやったらここから抜け出せるかはまだ分からないけど、この子が希望を運んでくれた」

 

 瞳に涙を溜めたドリームが一歩前に踏み出す。

 

「私達を守る為に砕けてしまった子達の為にも、前進あるのみ!」

 

 ブラックが握り拳を作り涙を拭う。

 

「どんなに悲しくても立ち止まってちゃ何も始まらない!」

 

 涙をこらえる様にピーチが大きく深呼吸をした。

 

「私達は何時だってそうしてきたんだから、だから私は砕けたあの子達に誓う!」

 

 ブルームが自身の両頬を叩くと、目に溜まった涙が飛び散る。

 

「さあ、みんなで出口を探して合流しましょう、ディスクアニマルさんも一緒にです」

 

 瞳を潤ませたブロッサムがディスクアニマルを指先で撫でる。八雲兄が送ってくれた数体のディスクアニマル達、最後の一体になってしまったけれど、私達の心に力をくれた。

 

 やっぱり八雲兄は……自慢の兄だ。




お読み頂きありがとうございます。
明日も更新の予定です。
宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

次回
プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第13節 少女達の子守唄(ララバイ)

よろしくお願いします。


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少女達の子守唄(ララバイ)

 目をつぶり体に力を入れる、迫ってくる光球に対してのせめてもの抵抗だ、光が爆発し暴風が吹き荒れる……

 

 たいして痛み(ダメージ)が来ず、私は恐る恐る目を開けると、信じられない物を見た。

 

 眼前に広がる無数の破片達、これが私達を守ったのだ……

 

「何があったの?」

 

 ミントが自分の体を確認し、散らばっている破片達を見ながら首を傾げる。

 

「八雲さんのディスクアニマル……」

 

 私は喉の奥がキュッと締まるのを我慢しながら、震える手でディスクアニマルの破片を一つ拾うと、胸に抱きしめ、溢れそうな涙を堪える。

 

「ディスクアニマル?」

 

 破片を見回しながら、ベリーが不思議そうに声を上げた。

 

「私とメロディと一緒に戦ってくれている八雲さんの音式神、きっと私達を助ける為に送りこんでくれたんだと思うの、今頃は変身して戦っているはず」

 

 バラバラになったディスクアニマル達を見つめ、私は下唇を噛み締める。

 

「二人と一緒に居た人ね、確か木野八雲さん、メロディのお兄さんよね、苗字が違うから親戚なのかしら」

 

 ホワイトが思い出したのだろう、一人で納得しながら話している。

 

「もしかして、私達より早くシャドウに飛びかかった人かしら」

 

 アクアが小首を傾げ、思い出す。

 

「あの無鉄砲か!」

 

 腕を組み、大きく頷くマリン。

 

「すごかったね、私驚いちゃった」

 

 イーグレットも、思い出しているのだろう、深く頷いている。

 

「ねえリズム、変身ってどういう事」

 

 ホワイトが首を傾げながらも、期待のこもった目を向けてくる。

 

「八雲さんも変身が出来て、その時の名前が獣鬼って言うの……メロディとは血は繋がって無いわ、でも、私とメロディの兄代わりなの」

 

 色々な思いを込め皆に話す。

 

「リズム、その木野さんって人もプリキュアなの?」

 

 アクアが手を頬に添えて、思案顔で聞いてくる。

 

「ちがいます、八雲さんは…………」

 

 私は一瞬言い淀む、果たして喋ってしまって良いのだろうか……

 

「で、何なのよ!」

 

 マリンが、待ちきれないと言った感じで私に迫って来て、私は観念した。

 

「八雲さんは鬼人、鬼なんです……詳しくは聞いて無いのですが鬼姫の使者って名乗っています……」

 

 いたたまれなくなり、目を伏せて下唇を噛む、皆が怖がったらどうしよう……顔が見れない。

 

「鬼? 鬼って言われても良く分からないわ、普通に喋っていたし、優しそうだったから」

 

 ホワイトが、やはり思い出しながら言葉を紡ぐ。

 

「なら、みんなでお話しましょう」

 

 ミントが手をポンと叩いて提案してくる。

 

「良いわねそれ、面白そう、異文化交流ね」

 

 ベリーも乗り気だ、でも異文化じゃないと思う、本当に良かった、皆受け入れてくれるみたいで少し安心した。

 

「そうと決まったら、早く魔女の水晶を壊しましょう」

 

 イーグレットが空を見上げて皆を鼓舞する、その横でバラバラになったディスクアニマルの破片を、思い詰めた表情で見つめているマリン。

 

「私、堪忍袋の緒が切れました! ってブロッサムがこの場に居たら大変な所だからね!」

 

 魔女を指さし宣言するマリン、その瞳は少し……潤んでいた。

 

「そうね、ピーチなら、きっとこの状況を許さないわ」

 

 ベリーが確信を持って答え、何かに耐える様にきつく下唇を噛む。

 

「ドリームだったら、真っ先に怒ってるわね」

 

「えぇ」

 

 声を震わせた、アクアとミントが頷き合う。

 

「ブルームなら、きっと私の手を取って一緒に悲しんでくれる」

 

 涙目のイーグレットが、魔女を睨みつける。

 

「私達を信じてこの子達を送ってくれた人が居る! 私達は自分のパートナーを! 皆を信じている!」

 

 大粒の涙を一粒流したホワイトが、あらん限りの叫びを上げた。

 

「たとえ目の前に居なくても、こうやって助けあう事が出来る、お互いが思う事が出来れば、気持ちは繋がる!」

 

 ミントの潤んだ瞳に力が宿る

 

「私達は、離れていても何時も一緒なの!」

 

 流れ落ち出した涙を気にもとめずに、ベリーが力強く叫ぶ。

 

「リズム! 行くよみんなが待ってる! その鬼のお兄さんにも会わないとね!」

 

 マリンが、私を見て親指を立てながらウインクをし、ディスクアニマルの破片を横目で見ると、ギリリと奥歯を噛み締め上空を睨み上げる。

 

「海より広い私たちの心も、ここらが我慢の限界よ!」

 

 力強く一歩踏み出すと、皆の気合も膨れ上がった。

 

「バラバラにするだけで私達を倒せると思ったらお生憎様! 砕けてしまったディスクアニマルの為にも、私達のやり方、見せてあげる!」

 

 ホワイトが叫ぶ、皆が砕けてしまったディスクアニマル達を思って怒って悲しんで、そして涙を浮かべ流してくれる、その事実が嬉しい。

 

「メロディも、獣鬼も、きっと頑張っている、だから私も!」

 

 砕けたディスクアニマルの破片を胸に仕舞い、服の上から手で押さえ気持ちを高めていく。

 

 大丈夫。私はまだ……戦える。




お読み頂きありがとうございます。
来週末の更新を予定しております、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

ディスクアニマルと言う援軍を得たプリキュア達の脱出への戦いが始まって行きます。
何かの犠牲の上の勝利は、プリキュアからは少し外れているかも知れませんが、お許し下さい。
では、次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第14節 双六の諧謔曲(スケルツォ)

よろしくお願いします。


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双六の諧謔曲(スケルツォ)

 閃光、爆発、そしてプリキュア達の叫び声、奮戦むなしくパイン、サンシャイン、ルージュにローズとルミナスが吹き飛ばされた。

 

 残ったのはレモネードにパッション、ムーンライトに俺の四人、数の上ではこちらが上がだ分が悪くなる一方だ、俺はシャドウと一対一で打ち合いをしながら周りの様子を伺う。

 

 レモネード達は、ギリギリでトイマジンとサラマンダー男爵と戦っており何時ひっくり返されるか分らない、焦る俺を見透かす様にシャドウが笑う。

 

「そんなにプリキュア達を気にしてちゃ、自分がやられちゃうわよ」

 

 シャドウのラッシュが早まる、早くこいつを倒して合流しないと不味い、俺の焦りは酷くなっていく。

 

 視界の片隅に攻防を繰り広げていた三人が虚を突かれる姿が映る、頭の中が真っ白になった俺はシャドウの放った蹴りを踏み台にし三人の元に飛ぶ。

 

「やらせるかあぁ!」

 

 叫びと共に強引に三人とサラマンダー男爵との間に体を入れ、両手を使い渾身の力で杖を握る。放たれる衝撃破、吹き飛ばされはしなかったが、杖を握っていた手が緩み落ちていく、パッションとムーンライトが辛そうな表情で俺の横を抜けて行き、攻撃を始めてくれた。

 

「獣鬼!」

 

 動きが止まり悲痛な声を上げるレモネード、声を掛ける暇も無く起こる爆発、彼女達の叫びが木霊する。

 

 満身創痍のプリキュア達がよろけながらも立ち上がる、俺も立ち上がると全身に力を漲らせ気合を入れ直す。

 

「やる事はシンプルなんだ」

 

 崩れ落ちそうなルミナスの腕を掴みながら、全員に聞こえる様に伝える。

 

「そうね、サイコロを振ってゴールに行ければ良いんだけれど」

 

 荒い息を吐きつつ、ムーンライトが俺の言葉に続く。

 

「数秒、アイツ等を止められたら……」

 

 腕を押さえ眉間にしわを寄せたサンシャインが苦しげに声を上げる。

 

「その役、私に任せて下さい」

 

 皆が一斉にルミナスに視線を向ける、ルミナスの瞳に決意の色が見えた。

 

「私、良い事思いつきました」

 

 ルミナスの決意に応えるかのように言葉をかける。

 

「ルミナス、隙は俺が必ず作る、待ってろ」

 

 ゆっくりと貸していた腕を離し、しっかりと立つルミナスを確認して頷くと、ルミナスは口元に小さく笑みを浮かべる、そんな彼女の頭を少し乱暴に撫でてから、敵を見据えて鋭く息を吐き走りだす。

 

「行くぞおぉ!」

 

 自身に渇を入れ走り出した俺に対してトイマジンが騒ぎながら向かって来る、サラマンダー男爵とシャドウもこちらの行動を阻止する為に迫ってきた。

 

「なんだか分からないけどさせないぞ」

 

 俺の動きに合わせパッションとローズが同時に飛び出す、俺達三人のカウンター気味の蹴りが綺麗に入る。

 

「「「ルミナスの邪魔はさせない!」」」

 

 吹っ飛んで行く三人を確認すると、俺はルミナスに向かって絶叫した。

 

「今だ! ルミナス! 決めろぉ!」

 

 サイコロの転がる音が聞こえ、同時に美しい虹色の光が溢れだす。

 

「光の意思よ! 私に勇気を! 希望と力を! ルミナス! ハーティエル・アンクション!」

 

 虹色の光がトイマジン達を包みマスの上に拘束する。

 

「ナンダ体が動かない……」

 

 動こうともがく三人、ルミナスの力はそんな事では破れない。

 

「コレ、一回休みでどうでしょうか?」

 

 人差し指を立て微笑みながら皆に提案するルミナス。

 

「なるほど」

 

 ルージュが手を叩く。

 

「すごいわ、ルミナス!」

 

 パインも握り拳を作り賞賛していると、トイマジンが泣きごとを言う。

 

「コラ! マテ! ズルイぞ!」

 

「あら、お生憎様、私達ズルはしてないわよ。だってソコ、一回休みよ」

 

 半笑いで言い聞かせる様に話してマスを指さすローズ、指されたマスには「一回休み」と書いてあった。

 

 俺が、ルミナスに向かって笑みを浮かべつつ掌を向けると、ルミナスが照れながらもハイタッチをしてくる。

 

「それじゃ、みなさん! 六が出たらゴールです! えーい!」

 

 レモネードが気合いを入れてサイコロを投げる、サイコロを見つめる九人の瞳、賽の目は六で止まる。

 

 歓声が起きるなか、近くで一緒に見ていたルミナスが感極まって抱きついてきた。

 

「「「「「「「「やった! ゴール!」」」」」」」」




お読み頂きありがとうございます。
明日も更新の予定です、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

ブラックとホワイトの影に隠れがちのルミナスを出来るだけ全面に押し出してみましたが、どうでしょう? 楽しんで頂ければ嬉しく思います。
せっかくのオールスターズなので、出来るだけ出番を増やしたいと思い書いてますが中々難しいです。
どなたか文才と才能を分けて下さい(切実)
では、次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第15節 氷の世界の七重奏(セプテット)

よろしくお願いします。


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氷の世界の七重奏(セプテット)

 フリーズンフローズンの激しい攻撃を紙一重で躱し続けながら私は焦っていた、メロディなら、獣鬼なら、どうする? どう戦う? 

 

 攻撃を掻い潜りながら皆で難破船に集まると、フリーズンフローズンは高らかに笑う。

 

「「俺達の最強のコンビネーションに、手も足も出ないようだな!」」

 

 常にハモる様に同時に喋る二人に、私はトリオ・ザ・マイナー達を連想させイラつきだしていた。

 

「足場が悪くて思う様に動けない!」

 

 空中に居るフリーズンフローズンを悔しげに見上げるアクア、私の後ろに居たマリンが自棄になった声を出す。

 

「もう、海の上を走れたら良いのに!」

 

「海の上を……」

 

 手足をバタつかせているマリンを見ながら、アクアが何かを考えるかのように呟く。

 

「「「「「「それだ!」」」」」」

 

 マリンを除いた皆が叫ぶ、どうしてもっと早く気が付かなかったのだろう。

 

「アナタ達一体どこを狙っているの!」

 

 馬鹿にしたようなアクアの声に上空のフリーズンフローズンの動きが止まる、さあ、反撃に為の作戦が始まった。

 

「最強のコンビが聞いて呆れるわ、全然当たって無いじゃない!」

 

 イーグレットが盛大に肩をすくめ、声を張る。

 

「でも、仕方ないわよ」

 

 ミントが、口を隠して少し意地悪く笑う。

 

「避けちゃう私達が完璧すぎちゃうんだもん」

 

 ベリーが、頬に手を当て首を傾げ大げさな溜め息をついた。

 

「下手な鉄砲って言うけど、数を撃ってもダメなのね」

 

 私は腰に手を当て、フリーズンフローズンに向かって指を指す。

 

「「なんだと……」」

 

 フリーズンフローズンの頭に血が上るのが分かり、ほくそ笑む。

 

「そんな事言ったら怒らせちゃうじゃん!」

 

 慌てたマリンが、私達を止めようとするが無駄に終わる。

 

「て言うか! その程度の力じゃ私達には全然通用しないわよ!」

 

 そんなマリンを尻目にホワイトが止めとばかりに小馬鹿にし、両手を広げて挑発した。

 

「「だったらお望み通り特大のをお見舞いしてやる!」」

 

 高速で迫ってくるフリーズンフローズン、手を合わせて力を溜め解き放つ。

 

「「フリージング・ブリザード!」」

 

 迫りくる輝きを見ながらホワイトはガッツポーズを取った

 

「掛かった! みんな避けて!」

 

 ホワイトの合図で一斉に上空に避難する、激しい音を立てながらザケンナー達を巻き込んで海面が凍っていく、すでに大陸と言っても言い位の大きさに成っている。

 

「なるほど! 海を凍らせちゃえば良いんだ!」

 

 両手両足を広げ、全身に風を受けているマリンが驚きの声を上げた。

 

「「しまった」」

 

 慌てるフリーズンフローズン、次々に氷の大地に足を降ろす私達、風を受けていたマリンが最後に力強く降りて来た。

 

「足場が有ればコッチのもんよ! これが私達のやり方なんだから!」

 

 腕を組みドヤ顔で叫ぶマリンに皆で苦笑いをする。

 

「この足場なら思う存分戦える!」

 

 氷上を飛ぶように走るマリンが絶叫しながら先陣を切って進んで行く、迎え撃つフリーズンフローズンの二人

 

「「それがどうした! お前達が強くなった訳ではあるまい!」

 

 七対二の状況でも私達と互角に戦ってくるフリーズンフローズン、互角と思われた攻防は一瞬の隙を突かれ崩壊する。

 

 ホワイト、マリン、ベリーが地面に叩きつけられ、その隣ではアクア、イーグレットにミントが蹴り上げられ私一人になった瞬間、目の前に突如現れた魔女。

 

 私の目の前に手のひらを向けると、躱す間も無く破壊の光を放ち私達をまとめて吹き飛ばす。

 

 吹き飛ばされながらも、私達は直ぐに体制を整える、ホワイトにアクアとベリーと私が戦いを繰り広げる、そのすぐ側ではイーグレットとミントにマリンが激しい攻防を展開する。

 

「みんな! 魔女の水晶を狙って!」

 

 バリアを造り出し敵を押さえこもうとするイーグレットを筆頭に、ホワイトとベリーがフリーズンフローズンを抑え込む、三人が作ってくれた隙を生かす為に私達四人が魔女に攻撃を仕掛けた。

 

「プリキュア! エメラルド・ソーサー!」

 

 口火を切ったのはミント、巨大で分厚い円盤が唸りを上げながら魔女に向かう、ギリギリ躱されたが体勢が大きく崩れる。

 

「マリーン! シュートッ!」

 

「プリキュア! サファイア・アロー!」

 

 マリンシュートを纏いながらサファイア・アローが水龍の如く魔女を直撃するが、寸前でバリアで止められるが魔女を釘つけにした。

 

 

 

「敵の行動を制限できるし…………攻撃が可能だ」

 

 

 

 響と感心してそれ以来注意深く周りを見る様になった八雲さんの言葉、まだまだ出来ていないけどこの瞬間は分かる。

 

 私は魔女の後ろに回り込むように走り、全身の力を使い飛翔した。魔女を足止めしている激流に獣鬼が重なる、やっぱり私は獣鬼に、ううん、みんなに頼ってばかりだ、でも! だからこそ、この隙を、この瞬間を! 希望に変えてみせる! 気合のレシピ見せてあげるわ! 

 

「フン! おしかったわね!」

 

 アクアとマリンの攻撃を防ぎ切った魔女の言葉に合わせる様に、気合の声を上げながら水晶を蹴り抜く。

 

 粉々に砕け散る水晶を見ながら私は胸に手を当てる、硬い感触が手に平に当たる、わずかに感じる温かさ、その私のではない温もりに胸が熱くなる。

 

「みんなを……助けてくれてありがとう」

 

 激しい光に包まれながら小さく呟く、ディスクアニマルに言えなかった感謝の言葉。




お読み頂きありがとうございます。
次回の更新は来週末を予定しております。

本当ならば、リズムも挑発の意味が分からずにマリンと一緒にパニックになるのですが、学年一位の学力設定がありますので、挑発組に混ぜてみました。
奏ちゃんの学力設定って余り利用されないですよね。
では、次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第16節 ピンク色の遁走曲(フーガ)

よろしくお願いします。


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ピンク色の遁走曲(フーガ)

「「「「「「やあぁぁぁぁぁ!」」」」」」

 

 気合を発しながらムシバーンとサーロインに向かって行く私達六人とディスクアニマル、先陣を切ったのはブラックとディスクアニマル。

 

 ディスクアニマルがムシバーンの視界を一瞬塞ぐ、その瞬間、ブラックの姿が消えた。

 

「誰が何と言ったって!」

 

 ムシバーンの間合いにいきなり現れたブラックが、疾呼しながら重い一撃を脇腹に入れ、ピーチがその隙を突きムシバーンに鋭い蹴りを放つ。

 

「自分たちの道は自分達で!」

 

 叫んだピーチと入れ替わり、ドリームが体を回転させながら足を振り上げ蹴り落とす。

 

「切り開くんだから! それに!」

 

 吠えたドリームから少し離れた所で、ブルームがサーロインにラッシュをねじ込む。

 

「あの子達が入って来たんだから!」

 

 絶叫したブルームの影からブロッサムが飛び出し、両足をそろえて蹴り付ける。

 

「出口もきっとあります!」

 

 声を張り上げたブロッサム。私は渾身の後ろ旋風脚をサーロインに入れ吹き飛ばす。

 

「絶対に! ここから出るんだから!」

 

 私は皆の思いを引き継ぐ様に咆哮した、飛ばされたサーロインが体勢を整える。

 

「世の中そんなに単純じゃないよ! ウザイナー!」

 

 空に向かって大声を出すサーロイン、上空から雲霞の如く振ってくるウザイナー達、私達は怯まずに輪に成って空へとジャンプし向かっていく、そんな私達の直ぐそばをディクスアニマルが飛ぶ。

 

「「「「「「プリキュア! コラボレーション・パ──ンチ!!」」」」」」

 

 私達は敵を引き裂く刃に成ってウザイナー達を切り裂いていく、上空に不思議な物を見つけた私達、私はその正体に何となく気が付く。

 

「あれって、もしかして出口?!」

 

 私の声には誰も反応が無く、あまりに酷いオチに皆して茫然としていた。

 

「空から来たから空から戻るって事ですか……」

 

 ブロッサムが誰も言えなかった事をポツリと呟くと、体を捻りサーロインを見下ろし怒りよりも呆れた声を上げた。

 

「世の中単純じゃないって、どっちの方が単純ですか!」

 

「行かせない!」

 

 サーロインが怒鳴り、ムシバーンと物凄い速度で私達を追ってくる。

 

「それはこっちの台詞よ! アンタ達に!」

 

 ブラックがムシバーンの攻撃を防ぎ声を荒げる。

 

「真っ直ぐ進む私達の! 邪魔はさせない!」

 

 サーロインの前にはピーチが出て攻撃を受け止め弾く、だが、空からはまだ大量のウザイナーやホシイナー達色々な種類の怪物が振ってくる。

 

 ドリームの手の甲が激しい薔薇色の光を放つ。

 

「プリキュア! シューティングスター!」

 

 ドリームが薔薇色の光を撒き散らしながら、その名の通り一筋の流星となり敵を貫いて行く、空に残る一筋の美しい薔薇の色、その色に私は希望の光を見出した。

 

 ドリームの希望の光に導かれる様に、次々と怪物たちを足場に出口に向かう、後方から急速に悪意の塊が私に迫る。

 

「行かせんぞ!」

 

 ムシバーンが放った光弾をブルームがバリアで防ぎきる、その隙をついて急接近してくるサーロイン。

 

「ブロッサム! シャワー!」

 

 絶妙なタイミングでのブロッサムのカウンター、桜色に輝く光弾がサーロインとムシバーンを打ち据える。

 

 私は仲間達の支援を受け出口を目指す、閉まっている扉を睨みつけジャンプして行く。

 

 目前に迫る巨大な扉、最後に全身の力を込めて飛翔する。拳を固め振りかぶると、隣を飛んでいたディスクアニマルが私の拳を守る様に形を変えた。

 

「力を貸してくれるの? ありがとう! なら! ここで決めなきゃ女がすたる!」

 

 ディスクアニマルを纏った私の渾身の拳が突き刺さると扉から溢れ出す光、その光のなか、ディスクアニマルは静かに砕けていく、光を反射してキラキラと輝きながら落ちて行く破片達。

 

 私は手の中に残った破片を見つめる。

 

「私達を救ってくれてありがとう」

 

 破片を握りしめ、祈る様に拳を額に押し付ける、私は光に包まれながら一粒の涙を流した。




 お読み頂きありがとうございます。
 明日も更新予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

 メロディ達ピンクチームも無事脱出に成功しました。
 メロディの拳を覆ったディスクアニマルですがオリジナルのディスクアニマルです。斬鬼さんの膝を保護していた黄金狼を拡大解釈してメロディの拳に纏わせました。
 少し語弊がありますがプロトタイプのアームドディスクアニマルとなります、性能的には茜鷹と浅葱鷲の中間ぐらいのイメージです。色に関しましては後々の話で出ますのでここでは控えさせて頂きます。
では、次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第17節 プリキュア行進曲(マーチ)

よろしくお願いします。


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プリキュア行進曲(マーチ)

 嫌な天気が続きますが皆様、体調などは崩されておりませんか?
 本編とは違う技を使用するチームがおります、理由は後書きで説明いたします。



 裂けた空から爆発するように現れるプリキュア達、お互いがお互いの再開に喜ぶ。

 

 長い戦いの末ようやく俺達は合流を果たしたが、奴らもこちらに戻って来てしまっている。

 

「おのれ! プリキュア! ブラックホール様の力の元にひれ伏すが良い!」

 

 魔女の体が膨張しだし巨大な姿に変わり各々が襲いかかって来た。

 

 

 

 爆風を利用し合流するブラックとホワイト、大きな水晶に二人は足を付けると力強く手を握ると魔女を見据えた、その瞳は力に溢れている。

 

「ブラックサンダー!」

 

「ホワイトサンダー!」

 

「プリキュアの美しき魂が!」

 

「邪悪な心を打ち砕く!」

 

「「プリキュア! マーブルスクリュー! マックスー!!」」

 

 ブラックとホワイトから打ち出された黒と白の巨大な稲妻がひとつの力となり魔女を包み込み一瞬で浄化させた。

 

 

 

 空から舞う様に降りて来たブルームとイーグレット、精霊の力を解放し更なる高みに登る。

 

 叫び声を上げながらサーロインが本当の姿を現しブライトとウィンディへ向かって襲いかかる。

 

「大地の精霊よ!」

 

「大空の精霊よ!」

 

「今! プリキュアと共に!」

 

「奇跡の力を解き放て!」

 

「「プリキュア! ツイン・ストリーム! スプラッーシュ!」」

 

 サーロインは精霊の光に包まれ何も出来ずに浄化された。

 

 

 

 ドリームがルージュがレモネードがミントがアクアが空を翔ける、手甲の蝶からは彼女達の思いの力とも言える5つの光が溢れている。

 

 マントを脱ぎ棄てムシバーンが手に光の剣を携え襲いかかって来た。

 

「プリキュア! サファイア・アロー!」

 

「プリキュア! エメラルド・ソーサー!」

 

「プリキュア! ファイアーストライク!」

 

 激流と化したサファイア・アローを切り裂き、巨大なエメラルド・ソーサーを弾く、迫って来たプロミネンスを吹き出しているファイアーストライクを迎撃し、ムシバーンはなおも向かって来る。

 

「プリキュア! プリズムチェーン!」

 

 アクア、ミント、そしてルージュの作った小さな隙、レモネードはその隙を逃さない、プリズムチェーンがムシバーンを捕えるが、純粋に力で引き千切られた。

 

 だが、ドリームにはそれで充分。

 

「プリキュア!」

 

 ドリームの前に希望の光が集まる、小細工無しの真っ向勝負、ドリームは何時も真っ直ぐに進む。

 

「シューティング・スタ───ッ!」

 

 正面からムシバーンを貫き後ろに着地する、消えていくムシバーンに対しドリームは目を伏せた、ドリームの懐は広くて深い、どんな敵にも悲しんで見せる、それが彼女の魅力。

 

 

 

 ピーチの胸のクローバーが輝く、彼女は何時でも全力疾走、思いを何時もストレートにぶつけ諦めない。

 

 トイマジンが巨大な姿に変わる、それを見たピーチの眼光が鋭くなる。

 

「幸せになったトイマジンの姿を利用するなんて絶対に許さないんだから!」

 

 ピーチの瞳に映るのは敵か、それとも……

 

「プリキュア・フォーメーション! レディー・ゴー!」

 

「ハピネスリーフ! セット! パイン!」

 

「プラスワン! フレアリーフ! ベリー!」

 

「プラスワン! エスポワールリーフ! ピーチ!」

 

 パッション(幸せ)パイン(祈り)ベリー(希望)、三人の思いを乗せたクローバーがピーチの元に集まる。

 

「プラスワン! ラブリーリーフ!」

 

 ありたっけの思い()を乗せて四葉のクローバーを作り上げトイマジンに打ち放つ、巨大なクローバーがトイマジンを包み込む。

 

「「「「ラッキークローバー! グランドフィナーレ!」」」」

 

 浄化される瞬間に目が笑うトイマジン、まるで感謝の言葉を述べているようにピーチは感じ、鋭い眼光を放っていた瞳が揺らぎ、柔らかな光を湛えた。

 

 

 

 ブロッサムは心に正直だ常に自分の心に従う、それが倒すべき相手であってもだ、その優しさが皆を繋ぐ。

 

「サラマンダー男爵の姿を使っての悪行の数々! 私……堪忍袋の緒が切れました!」

 

「出ました! 堪忍袋!」

 

 マリンは知っている、こうなったブロッサムはもう誰にも止められない。自分も一緒に走るだけ、それだけで良い。

 

 サラマンダー男爵が巨大な飛竜へと変わり巨大な翼を使い向かって来た。

 

「花よ! 輝け! プリキュア! シルバーフォルテ・ウェイブ!」

 

 ムーンライトから放たれた光が飛竜の足を止める。

 

「プリキュア! ゴールドフォルテ! バースト!」

 

 ブロッサムとマリンがサンシャインの作り上げた光に入る(太陽の輝きをその身に纏う)

 

「プリキュア! シャイニング!」

 

「「フォルティッシモー!」」

 

 輝く光が貫くとそこには誰も居なかった、ムーンライトは胸に手を置くと祈る様に瞳を閉じる。

 

 

 

 全力で走る、狙いはただ一人シャドウ。プリキュア5を悲しませ、手の届いたドリームの思いを踏みにじった相手。

 

 あの当時はこんな終わりって酷いと思ったものだ、少し懐かしい。そんな自分がプリキュア達と一緒に行動している。

 

 最初はプリキュアの世界に戸惑ったものだ、でも今は違う、響ちゃんと奏ちゃん(プリキュア達)は大切な仲間だ、胸を張って言える、俺は彼女達(プリキュア)と共に闘うと! 

 

 ドリームの腕の中で光になった(クリスタルに還った)ダークドリーム……眼前には原因を作ったシャドウ、なら、やる事はひとつ。

 

 シャドウの攻撃を掻い潜り、炎を纏った音撃棒で渾身(全力全開)の一撃、よろけた所にもう一撃(全身全霊の追撃)、音撃鼓をシャドウの腹部にねじ込み一気に清めの音を叩きこむ。

 

──聞こえているか? ダークプリキュア5(哀しき戦士達よ)──

 

 ───届いているか? ダークドリーム(のぞみの友よ)───

 

 俺なりのダークドリーム(彼女)達への追想曲(リコルダンツァ)

 

「音撃打! 猛火怒涛!」

 

 浄化され、消えていくシャドウを見ながら、俺はダークドリーム(水晶の中で眠り続ける乙女)達に思いを馳せた。

 

 

 

 響と奏、幼いころから仲の良かった二人、少しの行き違いで不仲になるもその時間が二人の思いを強く成長させた、今でも衝突はする、でも、二人の絆はもう揺るがない。

 

 手を取り合うメロディとリズムまだまだ戦いに不慣れで危なっかしい、でも、常に全力。人々の痛みを自分の痛みに出来る強く優しい少女達。

 

「フリージング!」

 

 フリーズンフローズンの叫びを聞いたメロディとリズムの繋いだ手に力がこもる。

 

「プリキュア!」

 

 メロディとリズムの世界を思うステップが始まる。

 

「ブリザード!」

 

 フリーズンフローズンの悪意の吹雪が二人を襲う。

 

「パッショナート! ハーモニー!」

 

 現れるハートのト音記号、彼女達の世界と音楽を愛する心の力、誰にも砕く事の出来ない思いの力が光となって溢れ出す。

 

 フリーズンフローズンの渾身の一撃とメロディとリズムの思いの力がぶつかり合う、競り合う事も無くフリージングブリザードを蹴散らしながら進む光。

 

「「何故だ! 俺達は最強のコンビだと言うのに!」」

 

 焦るフリーズンフローズン、だが光は止まらず迫りくる。

 

「「はあぁぁぁぁぁぁ」」

 

 更に力を込めるメロディとリズム、フリーズンフローズンはなすすべも無く浄化された、輝く一条の光に夜空が昼間の様に明るくなりゆっくりと夜の帳が下がる。

 

「最強のコンビは私達みんなに決まってるじゃない!」

 

 メロディの勝利宣言。伝説の戦士プリキュアはどんな困難にも……絶対に屈しない。




 お読み頂きありがとうございます。
 次回は来週末の更新予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

 本当ならスプラッシュスターの二人はスパイラル・スター・スプラッシュを使用します。ですが、出来るだけ色々な技を使いたかったと言う思いと、筆者のブライトとウィンディの姿でこの技が見たかったと言う願望でこうなりました。

 力の源が違うので使用出来るかは不明ですが、この世界のプリキュア達はフォームを変更しても全ての技を使えると筆者は独自解釈しております。

 キュアドリームが5GOGOの状態でドリーム・アタックやクリスタル・シュート等を利用出来ます、今回は上手く組み込めなかったのが残念です。

 スプラッシュスターが使用する技ですが、スパイラル・ハート・スプラッシュと悩みましたが、決め手は願望と詠唱でツイン・ストリーム(筆者はどちらの技も好きです)に軍配が上がりました。

 この様な変更は二次創作の楽しみと筆者は考えております、スプラッシュファンの方に「おっ、この技か!」と楽しんで頂けましたら筆者としましては本望です。それと、ダークプリキュア5に関しましては、完全に筆者の趣味と願望です、ダクドリちゃん達も好きなんです。
 では、次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第18節 アニマル達の幻想曲(ファンタジア)

 よろしくお願いします。


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アニマル達の幻想曲(ファンタジア)

「獣鬼!」

 

 戦いが終わり弛緩した空気の中、メロディとリズムが俺の元に駆けて来る。二人の無事の姿を確認した俺は小さく安堵の息を吐く。

 

「二人ともお疲れ、無事で何よりだ」

 

 メロディが泣きそうな顔を見せ、苦しそうに目を伏せた、その隣でリズムが思い詰めた表情で小さく首を振る。

 

「これ……」

 

 二人が手の平の小さな破片を差し出す、それを見たメロディとリズムと一緒に飛ばされたプリキュア達が近づいて来て、それぞれの手の中の破片を見せて来る。

 

「私達の為にこの子(ディスクアニマル)達が犠牲に……」

 

 言葉を詰まらせていたメロディとリズムの代わりに、戸惑いがちにホワイトが二人の言葉を代弁し俯いた。

 

「ごめんなさい……」

 

 誰かが呟いた小さな言葉がさざ波のように広がって行く、俺は小さく溜め息を吐き下を向いてしまっているホワイトの頭に手を乗せる。

 

「ごめんなさいじゃなくてありがとうと言ってやってくれよ、ディスクアニマル達は自らの意思で君達を守ったんだ、俺は合流したら出入り口まで誘導するようにしか伝えていない」

 

 ホワイトの頭に乗せていた手を降ろし、メロディの方に向き直すと、俺の姿を涙目で見上げたメロディが大きな声を上げた。

 

「でも! この子達は私達の事を守って! 助けてくれて……扉を……開ける為の力も貸してくれて…………」

 

 涙混じりの声が少しづつ小さくなり、色々な感情が入り混じった表情を見せていたメロディは俯く。

 

「そうか……助けになったか……」

 

 涙を流すメロディを見ていられなく、メロディの頭を抱え肩口に引き寄せるとメロディは力なく俺の腕を掴んだ。

 

 有る程度意志を持ち合わせているのは知っていた、だがまさかここまでとは、思考の海に潜りそうになった時にドリームが遠慮がちに俺の前に進み出た。

 

「ねぇ、獣鬼、もし良かったらこの破片ちょうだい、私、大切にしたい!」

 

 思いがけないドリームの言葉にメロディは顔を向け少し呆気に取られた表情を浮かべる。俺はドリームの真剣な眼差しを受け、その思いが嬉しく胸が熱くなっていく。

 

「ありがとうドリーム、構わないよ、いや、是非受け取って欲しい、他にも欲しい人は持っててあげて、きっとディスクアニマル達も喜ぶよ」

 

 誰も返しに来ないどころか複数もっていた人が持って無い人に渡したりしている、結局は全員に行き渡りディスクアニマル達は幸せだなと感謝する。

 

 皆の姿を見てメロディは泣きながら口元に笑みを浮かべた。

 

「ところでさ、腰についている円盤がそのアニマル達なの?」

 

 腰に残っている数枚を見つけて指を指すマリン。

 

「動かしてよ! 私動いてる姿見てない!」

 

「マリン、私見ました! 可愛かったです!」

 

 ブロッサムがマリンに対し説明すると、マリンは地団駄を踏みながら、早く動かせと口を尖らせ俺に猛アピールをする。

 

 響ちゃんと奏ちゃんも可愛いって言ってたな……そんな事を思いながら動かすぐらいならと考え手を伸ばそうとした時、恐ろしいほどの悪寒が空から圧し掛かって来た。

 

「まだだ! まだ終わっていない! 上だぁ!」

 

 俺は重圧に耐えながら絶叫し、青い顔をしながらも慌てて構えるプリキュア達、夜空が禍々しい赤色に染まり生ぬるく気持ち悪い風が吹き荒れる。俺の腕を掴んでいたメロディの手が微かに震えおり俺はその手を包み込むように手を重ねる。

 

「我が名はブラックホール、全てを闇に……全てを暗黒の世界に……」

 

 声だけでも信じられないほどの力を感じる、俺は知らないうちに生唾を飲み込んだ。放たれた悪意の塊、体中の血液が逆流する様な恐怖に耐えながら少しでもメロディとリズムを守ろうと覆いかぶさったが、その行為はまったく意味をなさずに全員が爆発に巻き込まれ吹き飛ばされる。

 

 俺の視界の片隅に入る砕け散っていく大地、砂嵐が晴れると誰も立ってはいなかった、次々に変身が解けていくプリキュア達、俺もあまりの衝撃に変身が解除されてしまう。

 

「ありえない……」

 

 自分の姿を確認して、呆然とするなぎさちゃん。

 

「プリキュアの力が……」

 

 自分の手を見て、信じられないと言った感じの舞ちゃん。

 

「変身が解けるなんて……」

 

「ココロパヒュームが……」

 

 状況を受け入れられないつぼみちゃんとシプレ、全員が絶望の底に落ちそうになったその時、俺達を優しく温かい光が包み込んだ。

 

 自然と空を見上げる全員、穏やかな光を湛えたプリズムフラワーが空に浮かんでいた。

 

「大きい……これがプリズムフラワー……雲の中に隠れていたの……?」

 

 響ちゃんの呟きに誰もが答えず、食い入る様に全員が空を見上げている。

 

「見つけたぞ……プリズムフラワー、光の力を…………消し去ってくれる」

 

 不気味な声を響かせながら、禍々しい手がプリズムフラワーに伸びる。

 

「このままじゃ世界が……何とかしないと」

 

 絶望から最初に立ち上がったのは、のぞみちゃんだった。

 

「でも、ココロパヒュームが無くなって、もうプリキュアにはなれないですぅ」

 

「そんな……黙って見て居るしかないなんて……」

 

 シプレの絞り出すような声に絶望を強くするつぼみちゃん。

 

「全てを闇に」

 

 ブラックホールの満足そうな声が俺達に圧し掛かる。

 

「世界が闇に飲み込まれるココ……」

 

 禍々しい力に覆われ出すプリズムフラワーをすすべなく空を見上げる少女達。

 

「今度こそ、本当にお終いなの……」

 

「もう……どうする事も出来ないの……」

 

 ラブちゃんと祈里ちゃんの呟きは、皆に現実を突き付ける。

 

「まだです……プリズムフラワーはまだ光を失っていないじゃないですか! きっと、まだきっと何か方法がある筈です!」

 

 つぼみちゃんが身振り手振りも使い必死に訴えかけるが、誰も答えられない。

 

「そうですよね!」

 

 涙を流しながら訴え続け、小さな希望を見つけようとするづぼみちゃん。

 

「今の私達には、プリキュアになる力は、もう……」

 

 こまちちゃんが苦しそうに答え、下唇を噛む。

 

「ひとつだけ……ひとつだけ方法があるナツ」

 

 思いつめた表情のナッツが、小さいが皆の心に届く声を出す。

 

「本当!」

 

 えりかちゃんが、ナッツの前にしゃがみ期待に満ちた表情を作る。

 

「わずかに残ったプリズムフラワーの力を使えば、最後にもう一度だけプリキュアに変身する事が出来るナツ……」

 

 皆の表情が輝き喜びの声が上がるなか、俺はそれに加わる事は出来ないでいた。

 

「だったら早く!」

 

 明るいえりかちゃんの声が皆の心に希望を与えるが。

 

「それは……駄目なんだよ」

 

 皆の心に影を落とす言葉、だが俺は……止める事しか出来なかった。




 お読み頂きありがとうございます。
 次回は明日の更新予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

「ごめんなさい……」
 誰かが呟いた小さな言葉が…………と、ありますが、その部分は読者様のお好きなキャラに呟かせて下さい。
 八雲は変身を解除しても服はちゃんと残ります、プリキュア全員の前で全裸は流石にキツいです。
 遂に黒幕ブラックホールが登場しオールスターズ編も終わりが見えてきました。
では、次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第19節 八雲の瞑想曲(メディテンション)

よろしくお願いします。


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八雲の瞑想曲(メディテンション)

「八雲兄!」

 

 咎めるような響ちゃんの声、泣きそうな表情に俺は小さく息を吐くと首を横に振る。

 

 不満と不信に満ちた視線が集まるなか、俺はナッツのそばに歩いて行く。

 

「ナッツ、今から俺が言う事が違う時だけ声を上げてくれ、正解だったら何も言わないで良い、お前の口からは言わせたくない」

 

 ざわめきが起こる、不信感が戸惑いに変わっていく、俺は一度大きく深呼吸をした。

 

「今、ここで変身をしたら、プリズムフラワーの力は無くなってしまうんじゃないのか」

 

 顔を見合わせる少女達、ナッツは下を向いているだけだ。

 

「力が無くなると言う事は、プリズムフラワーが作る繋がりが無くなる事、つまりは妖精の世界とこの世界の繋がりが無くなると言う事……」

 

 ナッツは下を向いたまま何も言わず、ココが寄り添っていた、胸が痛くなる。

 

「それは……」

 

 言葉が詰まり出てこない、間違いであって欲しい、それだけを願い話を続けた。

 

「それは、君達妖精とプリキュア達の……別れを意味する…………」

 

 静寂が耳に痛い、心が押しつぶされそうだ……

 

「チョッピ達は二度と会えなくなるチョピ……」

 

 誰も信じたくなかった言葉、俺が話していたから信じなかった話をチョッピが肯定してしまった。

 

「そんな……」

 

「うそでしょう!」

 

 ほのかちゃんと舞ちゃんが信じられない、信じたくないと言う声を上げる。

 

「そんな事って……」

 

 咲ちゃんも認めてしまう。

 

「せやかて、このままブラックホールを放っておいたら全ての世界が……」

 

「いやポポ!」

 

 タルトが付き付けるもうひとつの事実、泣きながら止めるポルン

 

「お別れいやポポ、お別れいやポポ」

 

 大泣きするポルン、妖精達に伝染していく泣き声、皆が皆、別れを悲しみ涙を流す。

 

 ハミィを抱きしめ、声を上げて泣く響ちゃんを見つめる、隣で奏ちゃんも静かに涙を流していた、胸が苦しい、痛くてたまらない。

 

 次々に上がる妖精と少女の泣き声、空を見上げると闇の力に包まれて行くプリズムフラワー。

 

 ……そうか、鬼姫が言っていた闇とはコイツ(ブラックホール)の事だったのかもしれないな……だとしたら俺は…………俺の出来る最後の方法を思い出す。

 

「ひとつだけ……プリズムフラワーに、プリキュアに頼らない方法がある…………」

 

 皆の視線が集まる、希望に縋る瞳に見つめられる。

 

「戦いは命のやり取りなんだ、だからこそ信念と決意……そして覚悟が必要になる、覚えておきなさい。俺が教えてあげられる数少ない話だ、俺はね、戦う為だけにこの世界に来た、だから…………」

 

 俺は言葉を止め、小さく首を振り全員を見渡し大きく息を吸う。

 

「ハミィ、二人の事を頼む、プリキュアの皆に会えて嬉しかったよ…………響、奏、少ない時間だが二人と過ごせて幸せだった」

 

 二人を初めて響と奏と呼び捨てにする、今まで避けていた呼び方、奏の前に行き髪の毛を一房手に取りキスをして、強く数秒間奏を抱きしめる。

 

「奏の夢、応援しているよ」

 

「八雲さん……」

 

 戸惑う奏から離れ、響の元に向かい座り込んでいる響の前でしゃがみ強く抱きしめる。

 

「奏と仲良くな、響のピアノ、大好きだよ」

 

「八雲……にい……?」

 

 体を離し見つめ合う、響の前髪を指先でそっとどかす、露わになったおでこに口づけ落とし、耳元に唇を寄せる。

 

「兄ちゃんに任せておけ」

 

 耳元で呟くと響が力の限り抱き付いてきた。

 

「八雲兄……」

 

 何度か頭を撫ぜもう一度耳元で小さく囁く、抱きついていた響の腕から力が抜けだらりと下げられると、正面から見つめ一度頷き立ち上がる。

 

『音角』を取り出すと丁寧に展開させ眺める、今のこの姿は好きだった『響鬼』を借りているだけだ、鬼姫は言っていた、使いこなせれば姿形、能力も変わると、なら今こそ、その力を。

 

『音角』を爪弾く、美しく哀しい音色を奏で響かせた。

 

 紫炎に包まれ鬼の力が解放されて行く、響鬼、威吹鬼、轟鬼、三鬼の力を合わせてひとつの姿に変わる。

 

「酒吞童子……」

 

 誰かが呟く。

 

「八雲兄……」

 

 響の声に応えず歩く。

 

「八雲兄! ……イヤだ……いっちゃイヤだ……私! ……」

 

「八雲さん……どうして……」

 

 悲痛な響と奏の声。

 

「「行かないで!!」」

 

 叫ぶ響と奏、響の動く気配。だが、直ぐに止まった。

 

「えりか! どいて!」

 

「うるさい! アンタの彼氏が男を見せようとしているんだ! 黙って行かせてやんなよ!」

 

 えりかのそれは慟哭と言って良かった、空を見上げブラックホールを睨みつける。

 

 響と奏の哀哭を背に、俺は高く飛びあがる。




 お読み頂きありがとうございます。
 次回の更新は来週末の予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

 今回も誰かが呟く。とあります、その部分は読者様のお好きなキャラに呟かせて下さい。

 さて、獣鬼の強化フォームについてですが完全にオリジナルフォームで特別編の特殊フォームです。ボディは響鬼、足は威吹鬼、腕は轟鬼をベースにしており少しごつくなっています、そして、空も飛びます、ご都合主義極まれりです。

酒吞童子と呟かれていますが正式なフォーム名は獣皇鬼です、今後出るかは不明となっております。

 響ちゃんを誰が止める?と考えた時に候補としましては、俯いて表情が見えないほのかが腕を掴む、唇を噛み締め両手を広げて立ちはだかるこまち、全てを察して溢れだす涙を拭う事無く響ちゃんの頬を叩く美希、無表情で響ちゃんの肩を掴むゆり等と考えておりましたが、書いてみたらえりかが全身を使って響ちゃんを押し止めました。
 少し前の話では「海より広い~」を入れる事も何とか出来ました。ハトプリファンの皆さんどうでしょう?

 八雲が決意と覚悟を固め一人戦いに行ってしまいました、見送る事しか出来なかった響と奏、そして大勢の少女達……果たして彼女達プリキュアはもう一度立ち上がるのでしょうか?
 では、次回。

 プリキュアオールスターズ 虹色の花束
 第20節 少女達の協奏交響曲(シンフォニアコンチェルタンテ)

 よろしくお願いします。


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少女達の協奏交響曲(シンフォニアコンチェルタンテ)

 空から聞こえるぶつかり合う音、激しく飛び散る炎、戦っている、八雲兄が一人で戦っている。

 

「八雲兄……」

 

 空を見上げ涙する、自分の無力さが悔しい。

 

「勝って……お願い、八雲さん……勝って戻って来て、私と響の所に、お願い……」

 

 奏の願う声、涙を流し空を見上げている大切な親友。

 

 空を見つめたまま立ち上がる、小さく聞こえる「勝って」の声、皆が勝利を願っている、願っている……

 

「進むんだ、進まなきゃ」

 

 願っているだけでは駄目だ、私は戦う決意をしてたはず。

 

 

 

 

 

 

 

 激しくぶつかり合い強い衝撃が地上まで届く、八雲さんが戦っている、私達の為に、世界の為に、涙が止まらない。

 

 このままじゃ居なくなってしまう、八雲さんが私達を置いて行ってしまう……

 

「八雲兄……」

 

 響の呟き、大粒の涙を零しながら悔しい様な祈る様な親友の声。

 

「勝って……お願い、八雲さん……勝って戻って来て、私と響の所に、お願い……」

 

 私は願う、どんなに酷い世界でも二人が居れば生きていける、だから……お願い、帰って来て、皆で……

 

「進むんだ、進まなきゃ」

 

 響の小さな声、けれど決意のこもった強い声、私の好きな響の声。

 

 私ってやっぱり弱い、どんなに辛くても茨の道でも進むって決めたのにね。本当に情けない。

 

 

 

 

 

 

 

「立ち止まってちゃ、何も始まらないんでしょう! 真っ直ぐ前進あるのみだって、さっきみんなが言ってたじゃない!」

 

 思いの丈を皆にぶつける、皆の心にさざ波が立つのが分る。

 

「私、奏と八雲兄が居なくてすごく心細かったけれど、みんなが私の手を取って一緒に進んでくれたから、頑張れた!」

 

 奏の瞳が大きく開かれた。

 

「そうだった……気持ちが繋がっていれば離れて居ても何時も一緒、みんながさっきそう教えてくれた」 

 

 奏がハミィの手を取って握手をする。

 

「たとえ離れ離れになったとしても心は繋がっている、そうだよねハミィ」

 

「私は黙って待っていたくない! ほんの少しだけれど私達にはまだ前に進む力が残っている、八雲兄だけじゃなくて私達も前に進まないと!」

 

 私と奏の言葉に晴れやかな顔をしている仲間達。

 

「そうね、彼一人に戦わせる訳にはいかないわ、それに私達にはまだ出来る事があるわ」

 

 月影さんの静かだけど強さを感じる声、泣きじゃくるポプリをあやすいつき。

 

「そうだよ! 前に進まなきゃ!」

 

 えりかがシプレを抱きしめて大粒の涙を落とす、ラブとタルトが抱きしめ合い声を上げる、のぞみとココが手を握り合う。

 

「のぞみ……」

 

「どんなに離れて居ても私達はずっと一緒だよ」

 

 のぞみと仲間たちの優しい視線、咲がフラッピを力強く抱きしめ、舞とチョッピが見つめ合い微笑み合う。

 

「離れていても気持ちは繋がっている」

 

「だからみんな何時も一緒よ」

 

 ほのかとひかりがポルンとルルンに気持ちを伝え、メップルとミップルがそんな二人を抱きしめる、皆が別れを惜しむのではなく、絆を確かめ合って温かい涙を流す。

 

「みんな一緒だよ!」

 

 なぎさが泣きながら笑顔でメップルにミップル、ポルンとルルンを抱きしめる。

 

「何処に居たって私達はみんな、ずっとずっと、ずーっと友達です!」

 

 つぼみの言葉が皆に広がる、泣いている人は誰も居ない、皆の決意が固まった、ここで決めなきゃ女がすたる。

 

 激しい音と炎を撒き散らしながら戦っている八雲兄とブラックホールを鋭く見上げ奏と強く手を握る、奏の体温を感じる、どんなに辛くても何時も勇気と力を与えてくれる大切な親友。

 

「心が繋がれば怖い事なんて何もない!」

 

 凛とした奏の声に顔、ここぞと言う時に聴かせてくれる声、見せてくれる顔、私の大好きな奏の表情。

 

「私達は今出来る事を! 精一杯の事を頑張ります!」

 

 つぼみの思い。

 

「私達の世界を闇に飲み込ませない!」

 

 ラブの鼓舞。

 

「私達は絶対に!」

 

 のぞみが皆に確認する。

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「諦めない!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 私達全員の決意表明。

 

「プリズムフラワー! お願い!」

 

 私は乞う、大いなる光をたたえるプリズムフラワーに。

 

「「私達に最後の力を!」」

 

 重なる私と奏と皆の思い。

 

「「私に……共に戦う力を!」」

 

 私と奏は最後の希望に手を伸ばす。




 お読み頂きありがとうございます。
 明日も更新の予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

 最後の力に手を伸ばしたプリキュア達の戦いが始まります。
 では、次回。

 プリキュアオールスターズ 虹色の花束
 第21節 プリキュア総奏(トゥッティ)

 よろしくお願いします。


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プリキュア総奏(トゥッティ)

 残酷な表現のタグの追加をしました、
そして、謝っておきます。
ごめんなさい。


「馬鹿め、もう手遅れだ、あの鬼はもう居ない」

 

 いない……? 八雲兄が……? 

 

 全身から力が抜け、膝から崩れ落ちる。

 

「……! …………!」

 

 音が聞こえない、彩の無い世界が広がって行く、おかしいな、おかしいよ、こんなに悲しくて、こんなに苦しくて、こんなに淋しいのに、涙が出ない……おかしいな………………

 

 八雲兄が昇って行った彩の無い空を見上げた、無数の何かが瞬きながら落ちている……

 

 私の頬を鋭い痛みが走る、ゆっくりと顔を向けた、奏が泣いている、奏、泣いているの? 

 

「か、なで……?」

 

「そうだよ! 奏だよ! 響お願い! しっかりしてよ! 八雲さんが! プリズムフラワーが! 響!」

 

 私の頬に熱い水滴が垂れる、奏の涙、意識がはっきりして彩が戻り世界が広がる、皆が私の周りで心配そうな顔をしている、左手が熱い、奏は手を離さないでいてくれた。

 

「もう、大丈夫……ありがとう……奏…………」

 

 奏の手を借り立ち上がり大きく深呼吸をする、心の中で「大丈夫」を何度も何度も唱える。

 

「こんな所で座ってちゃ、八雲兄に怒られちゃうよ」

 

「そうかな、八雲さんなら、きっとしょうがないなって頭を撫でてくれるよ」

 

「うん、そうかな……そうだね」

 

 奏が我慢をしているのが分かる、もしかすると私より泣き叫びたいのかもしれない、でも、歯を食いしばっている。

 

 砕け散ったプリズムフラワーが意志を持った様に世界中に散って行く、私は誓う、美しい流れ星達に。

 

 世界中の声が聞こえる、世界を守って欲しいと願う人々の声、思いが集まり優しく温かい光に包まれ……私達はプリキュアに変身した(最後の希望を受け取った)

 

 私達は皆で手を繋ぐ、私達は世界と一つになった、世界中の想いの力が溢れて来る、見ててね八雲兄、ここで決めなきゃプリキュアが……響がすたる! 

 

「私達の最後の力! 受けてみなさい!」

 

 私は全ての想いを込めて力の限り叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ブラックとホワイトにルミナス、蘇った伝説の戦士、その力は他の追随を許さない、新たな伝説は彼女達から始まった。

 

「漲る勇気!」

 

「溢れる希望!」

 

「光り輝く絆と共に!」

 

「「エキストリーム!」」

 

「ルミナリオン!」

 

 光の意思を守る光の使者、彼女達が守るのは、光りの心と輝く命。

 

 

 

 

 

 精霊と心を通わせるふたり、咲と舞と精霊の心がひとつに重なり輝く星になる。

 

「精霊の光よ! 命の輝きよ!」

 

「希望へ導け! ふたつの心!」

 

「「プリキュア! スパイラルスター! スプラッーシュ!」」

 

 大地に未来を、空に勇気を、花鳥風月と共に歩く彼女達の描く景色は美しい。

 

 

 

 

 

 輝く蝶と気高き薔薇に導かれた5人の少女達、どんなに辛く険しくとも全員揃えば叶わない願いは無い。

 

「5つの光に!」

 

「「「「「勇気を乗せて!」」」」」

 

「「「「「レインボーローズ・エクスプロージョン!」」」」」

 

 彼女達の希望の力と未来の光を携えた羽は、どんな嵐にも屈しない。

 

 

 

 

 

 青い薔薇を携えて愛する国と仲間の為に、妖精の彼女は立ち上がる。

 

「邪悪な力を包み込む、煌めく薔薇を咲かせましょう!」

 

「ミルキーローズ! メタルブリザード!」

 

 王国を守る最強たる薔薇、その存在は決して散る事も枯れる事も無い。

 

 

 

 

 

 人々の幸せを願う少女達、どんなに辛くても手を伸ばし続ける、その手が届くその時まで。

 

「「「悪いの悪いの、飛んで行け!」」」

 

「プリキュア! ラブサンシャイーン!」

 

「プリキュア! エスポワールシャワー!」

 

「プリキュア! ヒーリングプレアー!」

 

「「「フレーッシュ!」」」

 

 愛と希望を祈る少女達、彼女達の周りは常に幸せに溢れている。

 

 

 

 

 

 幸せを知らなかった少女は愛に包まれ幸せを知る。

 

「吹き荒れよ! 幸せの嵐! プリキュア! ハピネス・ハリケーン!」

 

 愛と幸せを知った彼女は高らかに歌う、真っ赤な心に情熱を乗せて、幸せの歌を。

 

 

 

 

 

 彼女達は競い咲く、大地に、海風に、陽の光に、そして月光に。

 

「「「「花よ! 咲き誇れ!」」」」

 

「「「「プリキュア! ハートキャッチ・オーケストラ!」」」」

 

 彼女達は守る心の花を、その思いは砂漠をも花畑に変える。

 

 

 

 

 

 彼女達は世界と音楽を愛している、どんな小さな音でも彼女達には立派な音楽。

 

「「駆けめぐれ! トーンのリング!」」

 

「「プリキュア! ミュージックロンド!」」

 

 彼女達は響き奏でる、時に荒ぶり、時にたおやかに、爪弾かれた幸せの組曲は、まだ始まったばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 私達の思いと世界の希望を乗せて放たれた一条の光、私は負けない、何があっても絶対に負けない。

 

 ブラックホールが悪意の塊を吐きだす、ぶつかり合う希望と悪意、力が互角なら思いと心で押し通す! 

 

「全ての光を飲み込むこのブラックホールの前では無力」

 

 圧し掛かる邪悪な意思、足を踏ん張り気合を入れ直す、勝負は……勝負はここからだ! 

 

「何があっても私達の心は暗闇に飲み込まれたりしない!」

 

 ブラックが咆哮する、闇の力に対抗するように。

 

「どんな時も私達の心の光は明日を目指して輝くの!」

 

 ブルームが叫ぶ、自分が信じる明日の為に。

 

「沢山の素敵な出会いが! 大きな成長と! 新しい旅立ちに繋がっていく!」

 

 ドリームが猛る、自分の夢を力に変えて。

 

「私達は決して立ち止まらない! たとえ大きな困難にぶつかっても!」

 

 ピーチは吼える、困難を打ち破る強い意志で。

 

「大好きなみんなと歩みたい、光輝く未来は絶対に手放しません!」

 

 ブロッサムが、良く通る声で未来を語る。

 

「くだらん! たとえそれが叶ったとしても、お前達はもうバラバラなんだぞ、あの鬼の様に」

 

 ブラックホールが私達の心を浸食しようとする、だが、誰の心も挫けない。

 

「ハミィ達妖精と私達は、お互いを思いやる心で繋がっているの! もちろん八雲さんとも!」

 

 リズムが静かに怒る、怒りの全てを声に乗せて、ただひたすらに声を張る。

 

「絶対負けない! 八雲兄の為にも! 何があったって私達は真っ直ぐ、自分達の明日へと進むんだから!」

 

 私は爪弾く、自分の心を、荒ぶる思いを希望に変えて、次会う時に胸を張れるように、自分の全てを出し切って見せる。

 

 均衡が崩れたその時、世界は美しく光り輝いた。

 

 ゆっくりと太陽が昇る、朝日にとける様に消えてしまったハミィ達、私達は泣いた、咽び泣く者、静かに涙を流す者、号泣する者、歯を食いしばり涙を流す者、私は……幼子の様に泣いた。




 お読み頂きありがとうございます。
 次回は来週末の更新予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

 なんか、こんな展開ですみません、悲劇には成りません、させません。
 私はハッピーエンドが好物です。
 では、次回。

 プリキュアオールスターズ 虹色の花束
 第22節 奏の小夜曲(セレナーデ)

 よろしくお願いします。


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奏の小夜曲(セレナーデ)

 戦いが終わった後、私達は八雲さんを待った。

 

 時間が過ぎ、一人、また一人と帰るなか、私と響は時間ギリギリまで八雲さんを待った、けれども………………帰って来てはくれなかった。

 

 私がプリキュアとしての力を失くしたあの日、八雲さんが一人で立ち向かう時に、恥も外聞もなく、泣いてすがり付いて引き止めたのなら、あの日、響にすら秘密にして心の奥底に押し込んで鍵を掛けた思いをさらけ出せば、この思いを伝えたのならば、残ってくれたのかな…………

 

 無理だよね、八雲さん何時もの笑顔で困りながら説得するのかな、ううん、多分違う、何も言わないできっと行ってしまう、だってあの時、私と響は心から「行かないで」と叫んだけれど、八雲さんの足は止まらなかったから。

 

 私は本当は気が付いていたのにずっと気が付かない振りをしていた、八雲さんを何時から気にしていたかを、初めてお店に来た時? 自己紹介した時? 名前を叫んで貰った時? 一緒に戦う様になった時? 全部違う、全然違う。

 

 

 

 私が八雲さんを気にしたのは……

 

 

 

 あの日、調べの館で響が、お姫様抱っこをされているのを見てからだ。

 

 

 

 自分の右手を見る、訳も分からず変身した日、八雲さんは私に手を伸ばしてくれた、上手く攻撃が出来た後に手を叩き合った、コンサートでは身を呈して守ってもくれた。

 

 バイクの後ろに乗った時の背中が大きかった……音楽堂で私の好きにさせてくれた……私のケーキを全力で取り返してくれた、響の応援に行けなかったあの日、八雲さんは私の手を引っ張ってくれた。

 

 私が力を欲した時も何も言わないで助けてくれた、いつも、いつも、いつもしてくれていた、私は何時も甘えていたのに、それなのに、それなのに……

 

 私の夢をずっと応援してくれていた八雲さん、最後に交わした言葉も……応援だった。

 

 コンテストの時にプレゼントしてくれたレシピ本、ホワイトデーのお返しで渡されたプロ用のレシピ集、これらの本と預けられたディスクアニマルの瑠璃、何時もそばに居てくれたはずなのに、こんなにも繋がりが薄かったなんて……

 

 フラリと私達の前に現れて、フラリと消えてしまった……その事実が怖くて夜中に声を上げて泣いてしまった。

 

 家族みんなが集まってそんな私を慰めてくれた、私が涙ながらに八雲さんが街から居なくなってしまった事を話すと、ママは何も言わずに私を抱きしめ、パパはずっと頭を撫で続けてくれて、奏太に至っては仕事で離れているだけとか、直ぐ戻ってくるってガラにも無く私を必死に慰めてくれた。

 

 その次の日から、私は何かに取り付かれたかの様にカップケーキを焼きだした、でも、一度も納得出来るものは出来なくて、私はドンドンと追い詰まっていく。

 

 何ひとつ納得出来ない日々が続いたある夜、控え目に鳴らされるノック。

 

「姉ちゃん、今良いか」

 

 何時もなら遠慮も無しにドアを開ける奏太の神妙な声に、驚きながらも声を掛けると、遠慮がちに入ってくる。

 

「どうしたの、奏太?」

 

 声を掛けるが、奏太は目線を反らし、困った顔をしながら後頭部を掻いている、その姿に八雲さんも良く後頭部を掻いていた事思いだし、少しおかしくなってしまった。

 

「なあ、姉ちゃん、余計なお世話かもしれないけれど、八雲兄ちゃんが帰ってきたら自分の気持ち話さないと、伝わらないぜ」

 

 ぶっきらぼうな言い方の中に優しさを感じ、少し気になる事を聞いてみる。

 

「ねえ、奏太は八雲さんの事、どう思っているの?」

 

「俺? 俺は八雲兄ちゃんの事好きだぜ、何でも出来るし、サッカーも教えてくれるんだぜ、響姉ちゃんもスポーツ凄いけどさ、教えるのサッパリだから」

 

 知らなかった奏太と八雲さんとの関係、楽しそうに話をする奏太の表情に、何故聞いてしまったのだろうと胸が詰まる。

 

「それに俺、兄ちゃん欲しかったから、すっげえ嬉しい。姉ちゃんが彼氏作るなら八雲兄ちゃんが良いなって思っている」

 

 途中から目が泳ぎだし、最後の方は小さくなって行く奏太の声に、八雲さんの居なくなってしまった本当の理由は教えられない。

 

 もし、もしも私が八雲さんの彼女だったら、か……足を止めてくれたのかな、ううん、多分無理、仮に止めようとしても、その時はきっとえりかが私の事を、大粒の涙を零しながら、あの小さな背中で押し留めてくれただろう。

 

 私も泣きながら響と同じで動けなくなるはず、結局は何を思っていてもタラレバだし、引き止められるイメージが湧かない。

 

 だからこそ今はせめて笑おう、響の為にも八雲さんの為にも、少しでも響を元気付けられる様に、哀しい心を胸に秘め、八雲さんと私達プリキュアが守った世界を確かめて行こう、遠い遠い未来で、八雲さんに会えた時に……沢山の話が出来る様に。




お読み頂きありがとうございます。
明日も更新予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

皆さまに何かしらを感じ取って頂けたら嬉しく存じます。
それでは次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第23節 響の哀歌(エレジー)

よろしくお願いします。


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響の哀歌(エレジー)

 私は何を守れたのだろう、ハミィを失い八雲兄を失い、こんなに苦しいのに時間だけは残酷に過ぎていく。

 

「響、おはよう」

 

「おはよう、奏」

 

 いつもの挨拶、変わったけど変わらない日常、約束した訳じゃないけれど、毎朝八雲兄の家の前で奏と会い学校に行く、帰りにも八雲兄の家に必ず寄る、主の居ない……寂しい家。

 

 夕方、ガレージに入り、置いてある八雲兄のバイクに触れる、サイドカーが私の指定席。最初は少し乗るのが怖かったけれど、今は好きになったんだよ…………

 

 シートに体を沈める、思い出すのは街を回ってくれた事、真剣にハンドルを握っている八雲兄の銀色の瞳が好きだった、すごい勢いで流れる景色が好きだった、体に伝わるエンジンの振動、頬に当たる風、八雲兄と二人で乗るバイクが好きだった……景色、振動、風、音、誰にも邪魔をされない八雲兄との二人っきりのコンサートみたいで大好きだった……

 

 シートに置いてある八雲兄のヘルメットを、一瞬躊躇したけど抱き寄せる。

 

「八雲兄、私ね、まだ……泣けないんだ…………ハミィの時はあんなに泣いたのに、八雲兄だと泣けないの……哀しいのに、何でだろうね……」

 

 ヘルメットの冷たい感触、風の匂いがするみたい、あの日に………………帰りたい。

 

 

 

 

 

 

 

「……っ! ……て! び……きて! ひび……お……て! 響、起きなさい!」

 

「んあ、ぁ、かなで、おはよ」

 

「おはようじゃないよ、響、風邪引くよ」

 

 怒ってるけど、怒って無い奏の顔を欠伸をしながら見た。

 

「口隠しなよ響、よだれ拭いて、もう子供なんだから」

 

 奏が私の口元を拭いてくれる、最近の奏は何時もこう、何かを…………八雲兄を思い出さない様にしている。

 

「とりあえず帰ろっか」

 

 手を伸ばしてながら笑う奏に合わせて笑う、最近の私達は少し無理やり笑っている気がする。

 

「響、メール見て無いでしょう。ほのかさんからメールが有ったわよ、みんなで集まるの今度の日曜日だって、今回は月影さんとうららも都合が付くみたいよ、それから………………」

 

 あれから私達は何度か会っている、住んでいる街も通っている学校も違う、人から見たら不思議な集団、でも私達は絆で結ばれている、たとえプリキュアで無くなっても……

 

 傷の舐め合いみたいになっていてもかまわない、少しの時間…………辛さを忘れるから。

 

 

 

 

 

 

 

 皆で集まる日、奏と一緒にモノレールで向かう、少し前ならきっと八雲兄が…………また、馬鹿な事を考えている自分が嫌になる。

 

 たまに乗るモノレールやバスの中、街での人混み、何時も八雲兄を探している、見つかる訳が無いのに、勝手に捜して勝手に期待して…………何時も勝手に落ち込んでいる。

 

 心が暗くなりぼんやりと景色を眺める、流れていく景色、でも、風も何も感じない、ただ速いだけ、たったそれだけ……

 

「響、ありがとうね。荷物を持つの手伝ってくれて」

 

 控え目に掛けられた奏の声に現実に戻される、息を小さく吐き気持ちを入れ替えた。

 

「大丈夫、人数多いからカップケーキの量もすごいね」

 

 少し引きつりながらも笑って見せるが、奏に軽く頬を撫でられる、目線を向けると心配そうに見つめている奏。

 

「ごめん奏、景色見てた……」

 

 言い訳だ、嫌になってくる。これ以上奏に心配をかけたくない、きっと奏だって…………

 

「うん、知ってるよ……」

 

 頬から手を降ろすとそのまま私の手を握ってくる、温かい奏の手、握り返すと沈黙が二人を包む。

 

 モノレールの窓に薄っすらと映る自分の顔、つい自分のおでこを見てしまう、あの日、八雲兄がしたおでこへの優しいキス、嬉しいはずのキス、けれども…………悲しいキス。

 

 そして耳元で呟かれた「兄ちゃんに任せておけ」と、その後に囁かれた小さな小さな「ごめん」の言葉が、今でも私の胸を焦がしている、何度も思い出す、戦いの時のあの台詞。

 

 

 

 

 

「戦いは命のやり取りなんだ、だからこそ信念と決意……そして覚悟が必要になる、覚えておきなさい。俺が教えてあげられる数少ない話だ、俺はね、戦う為だけにこの世界に来た、だから……」

 

 

 

 

 

 戦う為だけにこの世界に来た、この世界ってどういう意味だったのだろう、それにあの言葉の続きは「だから俺は命を懸ける」だったの? 私は決意はしたけれど覚悟はしていなかったの? 

 

 私は世界を、人々を、救えたけれど、何で、どうして、八雲兄もハミィもここに居ないの? どうして私は、私と奏の心は守れなかったの? 

 

 色々な事を思い出す、調べの館で出会ってピアノを聴かれて怒った事、謝られて言われて嬉しかった感想、泣いた私を優しく抱きしめてくれた事、私の兄になってくれた事。

 

 奏と仲直りを本気で考えたのも、八雲兄が居てくれたからだ、八雲兄がもう一度聴きたいと言ってくれなければ、ピアノとも向き合わなかったし、私が困っていると何時も支えてくれた。

 

 何時だって八雲兄は私の隣に居てくれていたのに、なのに、どうして八雲兄はここに居ないの、まるで窓の外を流れて行く景色の様で怖い、このまま全てを忘れてしまいそうで、嫌だ。

 

 何度も奏と遊びに行ったのに、もう、奏と一緒に八雲兄の所に行く事は出来ない、あぁ、もう一度、もう一度…………

 

「ハーブティー飲みたい……」

 

 思わず出た言葉、慌てて口を塞ぐ、恐る恐る奏を見ると奏の悲しそうな瞳、しばらく見つめ合うが奏は目線を外す。

 

「響、私ね、この間ハーブティーを淹れたの、でもね……美味しくないの…………レシピも淹れ方も教えて貰っていたのに、全然……美味しくないの…………」

 

 奏の泣きそうな顔、握っている手に力を込める、あの日以来奏から「気合のレシピ」の言葉を聞いていない、奏も辛いんだよね、なのに何時も無理して笑っている、きっと私のせいだ。

 

「奏ごめん、辛いの私だけじゃないのに……」

 

「大丈夫、響の事分かってるもん、気にしないで」

 

 奏が私の肩に頭を乗せて瞳を瞑る、私達は何かから逃げる様に寄り添い合い、目的地に着くまで何もしゃべれなかった。




お読み頂きありがとうございます。
次の更新は来週末の予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

長かったオールスターズも残すところ後一話となりました。
響ちゃんと奏ちゃんは決意は固めていましたが、覚悟は決めていませんでした。
私のミスが無い限りは、覚悟と言う単語は二人には使って無い筈です。
では次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
最終節 響と奏の譚詩曲(バラード)

よろしくお願いします。


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響と奏の譚詩曲(バラード)

 久振りに会うみんなは元気そうにしている、桜も植わっており花も満開、みんなで遊ぶには最高の広場。この広場、水無月さんの家の所有地って聞いて驚いた、しかもこんな広場が、他にも何ヶ所もあるらしい。

 

 皆が思い思いに散らばって遊ぶ、バトミントンをするグループ、一緒にダンスをするグループ、立ち話やシートに座って話をしている人達も居れば、寝転んで空を見ている人も居る。

 

 一見すると平和そう、私達の守った平和、謳歌して良いはずなのに物足りない。ハミィ、今何しているの、一人で悲しんでない? フェアリートーン達が居るから大丈夫? 何時帰って来ても良い様に、ハミィのベッド綺麗にしてあるよ、アカネもハミィとフェアリートーンが居なくて寂しそうだよ。

 

「ごめん、私少し休憩」

 

 輪から外れて桜の木の下へ腰を下ろす、ポカポカとした気持ち良い太陽、爽やかな風が私の頬を撫でる。

 

「響……大丈夫?」

 

 奏が心配そうに私の顔を覗く、私は無理やり笑って安心させようとしたけど、眉を寄せられた。

 

「ひーびきっ! 元気ないぞぅ! 笑おうよ!」

 

 のぞみが無邪気に笑いかけてくる、少し遠くにはりん、うらら、こまちさんにかれんさんも居る、覗きこんでくるのぞみの首にネックレスが見え、ペンダントトップを見て息を呑む。

 

「のぞみ……それ…………」

 

 震える指でのぞみのペンダントを指すと、のぞみはにへらと笑う。

 

「へへっー、良いでしょう。りんちゃんに作って貰ったんだ、私のお守り」

 

 のぞみが、ペンダントトップをもてあそぶ姿に私は言葉が詰まった。

 

「りんちゃーん! うららもこまちさんもかれんさんも来て~」

 

 少し間の抜けたのぞみの声に、笑いながら四人が来る。

 

「響、みんなお揃いなんだよ、コレ」

 

 のぞみに促され、皆がペンダントを胸元から取り出す。

 

「でね、ここからがすごいの、見てて」

 

 のぞみが皆のペンダントを合わせると、ひとつの形が出来あがり、私は息が止まりそうになる。

 

 出来あがる一枚の羽、紅紫色(こうししょく)の羽、名前を知らないディスクアニマル、あの日私の拳を覆い、扉を開ける為に砕けて逝った、あの子の羽がそこに有った。

 

「あの子の羽に成るんだ……」

 

 のぞみの落とした言葉が私の心に波紋を作る、その小さな波紋が大きな波となり私の心を押し流す。

 

 視界が霞み、頬に熱い物が流れ落ちる、その存在に気が付いた瞬間、私の心は決壊を起こし瞬きも出来ずに涙を溢れさせた。

 

 顔を手で覆う、目から涙が溢れて来る、あんなに泣けなかったのに、あの日、私達の為に砕けてしまったディスクアニマル、八雲兄が私達の為に送りこんでくれた小さな戦士達。

 

 八雲兄の思いの詰まったディスクアニマル、色々な思い出が涙と共に溢れだす、奏とのぞみが私を抱きしめてくれると温かい二人の体温が伝わる。

 

「響ごめんなさい、私そんなつもりじゃ……」

 

 のぞみは必死に私を慰めてくれるが、奏はそれを許さなかった。

 

「泣いて良いよ響、やっと泣けるんだね、八雲さんの事……良いよ響、私がそばに居るよ、大丈夫だよ」

 

 皆が心配して集まって来て、次々に私に慰めの言葉を言う、皆の優しさが嬉しいけど……痛い。

 

「みなさん、響さんは大切なお兄さんを失くしてしまったのです、その悲しみは響さんにしか分かりません、今……響さんを慰められるのは、八雲さんが同じく妹と言われた奏さんだけです、私達はお二人をそっとしておくべきです」

 

 ひかりの言葉に従い皆が離れていくがうららだけ残っている、うららがしゃがむと泣き続けている私に一枚のCDを握らせる。

 

「私のCDです。あの日、八雲お兄さんに……戦いの後サインを頼まれていたんです、響さんにお渡ししておきます、それじゃあ」

 

 走り去って行くうららを歪む視界で見つめCDに目を落とす、八雲兄宛のサイン入りのCD、震える手でケースを開けると入っていたもう一枚のカード、そこに書かれた「ありがとう」の文字、涙で少し歪んで滲んだうららのカード、更に溢れだしそうな思いを誤魔化す為に空の見上げると、三羽の鳥が飛んでいた。

 

 一羽の鳥が少し先を飛び残りの二羽が追いつこうと飛んでいる、まるで私達の様、小さく頑張れと呟き奏を見ると奏も眩しそうに鳥を見上げていた。

 

 やっと泣く事が出来、少しだけ心が軽くなった私は奏と共に顔を洗いに行く、冷たい水が気持ち良い、サッパリとした私はこれ以上心配をかけないように今を楽しもうと心に誓う。

 

 奏と戻って来た時に奏が空を見上げた後に私の手を引く、いきなり引かれてしまい私は奏が空に何を見たのかが分らなかった。

 

「響、空! みんな見て! 綺麗な虹よ」

 

 私の手を引っ張ったまま奏は私と皆に虹の事を教える。

 

 奏を先頭に丘の端まで走り皆で虹を眺めた。綺麗な虹と空を見ながら私は少しだけ考えを改める、私はプリキュアの一人としてこの世界を守ったんだ、確かに大きな犠牲を払ってしまったが、世界中の人々が虹を見上げられれば幸せだ、この大空に咲く七色の花を束ねた様な虹を。

 

 でも、本当は…………この大空を……美しい虹を……一緒に眺めたい。

 

「八雲兄……空も、虹も……きれいだよ…………」

 

 奏と繋いでいる手に力を入れる、奏を見ると目が合い、私は笑って見せた、久しぶりの心からの笑顔、奏も笑顔を返してくれる。

 

「ん?」

 

「は?」

 

「え?」

 

 皆が何かに気が付き小さな声を上げる、私も空を注意深く見ると違和感を感じる。

 

「あれってまさか……」

 

 祈里の言葉が希望を生む、私は凝視するとその正体に気がつき、嬉しさがこみ上げる。

 

「もしかして……」

 

 小さく呟き心の底から願う、ウソじゃないよね、夢じゃないよね、起きたらベッドの上ってないよね、そう思わずにはいられない、涙が溢れて来る、次々と帰って来る妖精達……そして、私は見つけた。

 

「ハミィ!」

 

 両手を広げてハミィを迎え入れる。

 

「響! 奏!」

 

 ハミィを力の限り抱きしめる、私の隣で泣いていた奏も抱き寄せて、私達三人はまるで一つになった様に再開の涙を流す、皆が皆、妖精を抱きしめて泣いている。

 

 抱き合って泣いていると、何の前触れも無く雷が鳴りだし、少し離れた場所に雷が落ちた。

 

 青天の霹靂のそれは、何故か衝撃は少なくビュウと一陣の風が私達の間を通り抜けると、雷の落ちた場所に()()()が燃え上がる。

 

 紫の炎…………胸が苦しくなり心臓が早鐘を打ち出す、燃え盛る炎から巨大な門が現れ炎が収まると、その巨大な門がゆっくりと開きだす。

 

 封が解かれた門から人影が見えると、私は全力で走りだす、隣で奏も必死な形相で走っている。足が絡まった様に進まない、私はこんなにも足が遅かったのかと思う程に距離が縮まらない、もどかしい時間が過ぎ、やっと目的の人物の側に寄ると、私と奏は力の限り飛び付いた。

 

「八雲兄!」

 

「八雲さん!」

 

 私と奏は八雲兄を確認するかの様に抱きつくと、八雲兄は受け止めて力強く抱きしめてくれる。

 

「ただいま、響ちゃん、奏ちゃん」

 

 ずっと聞きたかった八雲兄の声、抱きしめられた時の八雲兄の温もり、私と奏は八雲兄に顔を埋め涙が枯れるまで泣きじゃくる、そんな私達を虹は優しく見守っていた。




プリキュアオールスターズ 虹色の花束 終曲となります。
最後までお読み頂きありがとうございました。
宜しければ、感想、評価、ここすき等入れて頂ければ幸いです。
次回の更新は明日の予定となります、宜しければお付き合い頂ければ何よりの幸せです。

今度の更新は本編には入らない小話となります。
よろしくお願いします。
では次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
閑話 ひかりの歌曲(ルミナス・リート)

よろしくお願いします。


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閑話 ひかりの歌曲(ルミナス・リート)

 色々と辛く悲しい経験をしてきたつもりだった…………

 

 ──木野八雲──

 

 そう名乗った彼を始めて見たのは、つぼみさん達が参加したファッションショー……

 

 舞台に乱入してしまったハミィと響さんを迎えに三階から飛び下りて来た時でした、彼は変装のつもりか、三色に色付けされたアフロのかつらをかぶっており、流れる様にハミィを投げ、響さんを抱きかかえると、壁や柱を蹴って三階まで昇って行くその姿は、鮮烈に私の脳裏に焼き付きました。

 

 再開はその直後……ファッションショー終了後の会場整理が済んだ一階のホール。

 

響さんと奏さん(二人の少女)と楽しそうに話す彼の笑顔は優しく、私の心を温かくします。

 

 事が起こったのは自己紹介が終わり、みんなで楽しく話をしている時でした、世界が歪んだ様な気がして、空から禍々しい気配を感じた私は彼と一緒に空を見つめました、私の漏らした小さな呟きに彼は一瞬私に目線を向け、慌ただしく私達(ほのかさん)に指示を出すと駆け出しそうになりました。

 

「八雲兄!」

 

 響さんの叫びに振り返った彼は重い空気を纏っていて、何とも言えない表情をむけました、その顔を見て私は胸が締め付けられます。

 

「響ちゃん、ごめん、必ず後で合流する、約束だ…………二人とも、いざとなったら……判るね」

 

 彼は響さんをあやす様に笑いかけると走って行かれました、その時私の胸の奥が痛んでいて、この痛みが最悪な事を予見していたのを気が付いていませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 八人の悪意の塊と対峙した私達は、事態の重要性に息を呑み二の足を踏んでいました……いえ、敵の雰囲気に呑まれていたんです。ブラックやホワイトですら……

 

 事態は最悪の方向に流れそうに成り、私は自分の不甲斐無さに嘆きそうになったその時、私を一瞬、影が覆い隠しました。

 

「ご高説どうも! やらせねえよ!」

 

 私達を飛び越えて行った彼は、空気を震わすような力強い声を上げ、たった一人で敵に立ち向かいます。

 

「攻撃だ! あいつらを止める! プリズムフラワーを必ず守るんだ!」

 

 世界が崩壊して行く中、私達を鼓舞するために張りあげられた声、立ち向かっていくその姿はまるで獣が眼前の敵に襲い掛かる様な姿に見え、張り上げた咆哮は、私達の恐怖の鎖を引き千切りました。

 

 

 

 

 

 

 

 眩しい光に包まれた私は、気が付いたら少し不思議で……そう、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような世界に私達は佇んでいました。

 

 彼も一緒に飛ばされていましたが、困惑している私達に比べ余裕がある様で腕を組み柱に寄り掛かって景色を眺めていましたが、何を思ったのかレモネードに握手とサインを求め私達は何とも言えない雰囲気に成りましたが、少しだけ皆の緊張が軽くなった気がします。もしかして、彼は……

 

 現れたシャドウ、トイマジン、サラマンダー男爵、三人の悪意の塊に彼は躊躇なく飛びかかり攻撃を仕掛けますが、彼の電光石火の攻撃は防がれてしまいます。

 

 飛び出した彼に慌てる私達、蔑んだ視線を送る悪意の塊の三人、彼は慌てる事無く不敵に笑うと、なぎささん達が使う『カードコミューン』ぐらいのアイテムを取り出し、同じように展開させ彼は……変身した。

 

 ──鬼人。獣鬼……

 

 彼のもう一つの名前、戦士の名前……そして私の心に住み着いたふたつめの名前……

 

 彼と私達の共闘が始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 私が彼を強く意識したのは最初の戦い。彼は、敵に囲まれてしまった私を、サンシャインが切り開いた道を疾風の様な勢いで通り抜け、抱きかかえて救出してくれました。

 

「ありがとうございます」

 

 彼にお礼を言いながらも、余りの速さに身を縮めた私に優しく笑いかけてくれました。

 

「気にしない! 突破するからちゃんと捕まっていてね」

 

 少し恥ずかしかったですが、私は彼の言葉に従い、首に手を回し、しがみ付きました。

 

 今まで何度も仲間達に抱きかかえられた事はありましたが、彼は根本的に違っていました、……体が大きく、包み込まれる安心感を私に与えてくれます。

 

 彼は私を包み込んだまま高くジャンプすると、雷を撒き散らしながらウザイナー達に向かって急降下しながら攻撃を仕掛けます。

 

 私は、その余りの速度にしがみ付く力が強くなってしまいしたが、私の恐怖が分かったのでしょう、彼は私の頭を抱えると、幼子を守る様に抱きしめてくれました。

 

 攻撃が終わり安全を確認した彼が私を優しく下ろし、私は少し慌てて彼にお礼を言うと、彼は優しい笑顔を向けて私の頭を強く撫でます。

 

 その大きな手に私は驚きながらも、気恥ずかしさと照れくささに支配されていきました。そして、彼は私について来いと力強く言い放ち駆けて行きます、私は返事をすると慌てて彼の大きく広い背中を目指して走っていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 対決で作った大量のクッキーを食べる事になり、私達は短い休息を取る事にしました。

 

 彼が私の作ったクッキーに手を伸ばした時、私は今までにな緊張を味わいながら彼が食べている姿を見守ります。「美味しい……」彼が小さく呟いたその台詞は、私の心を温かくしました、なぎささんやほのかさんに美味しいと言って貰えた時とは少し違う幸せな気持ちです。

 

 彼は改めて私達に自己紹介をし、事も有ろうに信用できないなら後から打て、と恐ろしい事をいとも簡単に言い放ちます。その姿に私の胸は痛みましたが何も言えずにいました。

 

 パッションが詳しく聞こうとしましたが、彼は少し寂しそうに笑うと、まだ響さん達に話して無いから話したくないと溜め息混じりに答えます。

 

 そして私の心に沸いた疑問、彼は響さんの本当の兄では無く、響さんと奏さんの兄代わりだと教えて下さりました、その時の表情は二人を思い出しているのでしょう、凄く嬉しそうでした。

 

「妹絶賛募集中」

 

 彼の言葉が頭を回り、胸が少し苦しくなります……レモネードが妹を立候補をしてルージュに怒られている姿を見ながら、私はホールで見た響さん達に自分の姿を思わず重ねてしまい、物凄く恥ずかしくなりました。

 

────ルミナスもどう? 今なら無料だよ」

 

 彼の言葉に私の心臓が大きく跳ねました、アカネさんとは違った意味で楽しいかもしれません……少し、憧れます。

 

「お兄さんかぁ……」

 

 私はその時声に出して呟いていたのを知りませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 私達はその後、色々な戦いを経てもう直ぐゴールといった所まで近づきました。しかし、シャドウ達に阻まれた私達はその場での戦いに雪崩れ込みますが……

 

 敵は圧倒的でした、暫くは互角の攻防が続きましたが一瞬の隙を付かれ私とパインにサンシャイン、ルージュにローズが敵の攻撃をまともに受け戦線を離脱してしまいました。

 

 彼を筆頭にレモネードとパッションにムーンライトの四人が戦いを続けてました、ですが、何とか起き上がった時に私の視界に入った光景に息を呑みます、レモネード達がサラマンダー男爵に攻撃を受けそうなった瞬間、彼は事もあろうに三人の間に入り込み至近距離で攻撃を受けました、いえ、庇ったのです、自身の体を盾代わりにして……

 

 力なく落ちていく彼の姿が目に焼き付き、私は声に成らない叫び声を上げました、私は這う様に彼の元に近づくと、彼はまるで幽鬼の様に立ち上がり獣のような叫びを上げて気合を入れました、その声に後押しされた私達も、ゆっくりとですが立ち上がります。

 

 何とか立ち上がろうとしましたが、私はダメージが酷く崩れ落ちそうになりましたが、私の腕を力強く掴んでくれ彼が立たせてくれます、敵を見据えた虹色に輝く瞳は美しく、私は戦いの最中なのに、思わず見惚れてしまいました──……

 

 

 

 

 

 

 

「やる事はシンプルなんだ」

 

 皆に言い聞かせる様な彼の言葉に全員の瞳に力が戻ります。

 

「そうね、サイコロを振ってゴールに行ければ良いんだけれど」

 

 荒い息を押さえながらムーンライトが続き。

 

「数秒アイツ等を止められたら……」

 

 喘ぐ様にサンシャインが言葉を紡ぎます、私は衰えない三人の勇気に力を貰い、一つの方法を思いつきました。

 

「その役、私に任せて下さい。私、良い事思いつきました」

 

 皆の視線が集まるなか、彼は私に小さく笑い掛けてくれます。

 

「ルミナス、隙は俺が必ず作る、待ってろ」

 

 彼の言葉は私に決意の力を与えてくれました。

 

 その思いが嬉しく私はしっかりと立つと、彼を見上げ少し微笑みました、そんな私に彼は優しく笑いかけると、その大きな掌で私に力を分ける様に強く頭を撫でてくれました。

 

「行くぞおぉ!」

 

 獣の様な叫びを上げ走り出した彼、その後を追う様にパッションとローズが続きます、シャドウ達と接触した瞬間、三人の攻撃は鮮やかに決まり蹴り飛ばしました。

 

「今だ! ルミナス! 決めろぉ!」

 

 彼が体を捻り私に拳を突き上げました、その姿を見て私の感情は一気に高ぶります……

 

 

 今こそ、全ての力と想いを篭めて。

 

 

「光の意思よ!」

 三人が作ってくれたチャンスを……

 

「私に勇気を!」

 必ず生かせて見せます。

 

「希望と力を!」

 だから見ていて下さい! 

 

「ルミナス! ハーティエル……」

 八雲……

 

「アンクション!」

 兄さんっ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時の事は今思い出しても恥ずかしいです、あそこまで感情が高ぶったのは何時以来でしょう……

 

 優しい笑顔を向けてくれた兄さんと手を打ち合わせて、ゴールまでの目が出た瞬間、思わず私は……兄さんに抱きついてしまいました、今思い出しても信じられません。

 

 

 

 …………その後の事は正直何も思い出したくありません、ただ私は……兄を失いました。




お読み頂きありがとうございます。
次の更新は来週末の予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

もう少しだけオールスターズ関係の話が続きます。
では次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
閑話 少女達の輪舞曲(ロンド)

よろしくお願いします。


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閑話 少女達の輪舞曲(ロンド)

「うん、良いお湯だった」

 

 私、春日野うららは二日連続の仕事の関係で、ビジネスホテルに宿泊しています。

 

 食事も打ち合わせも終わり、温泉街と言う事もあり此処のビジネスホテルの売りの天然温泉を堪能した私は、誰も居ないのを良い事に下着姿のまま部屋をうろついていた。

 

 飛び込む様にベットに座ると手に台本が当たる、パラパラとページを捲って眺めるけれど、頭に入って来ない。

 

 ぐるりと部屋を見渡すと備え付けの机の上に無造作に置いてあるビニール袋がひとつ。逡巡したけど私は直ぐに机と対になっている椅子に座ると袋を開ける。

 

「…………」

 

 袋から出て来たのは新品の私のCD。

 

 

 

 

 

「キュアレモネード、君さ、春日野うらら……だよね」

 

 優しい笑顔だった。

 

「握手してくんね、応援してんだよ」

 

 真っ直ぐ見つめられて真っ直ぐ言われた、最初から私の事を知っていてくれて、握手を求められた。

 

「戦いが終わったらCD買ってくるからさ、サインお願いできる?」

 

 嬉しかった。私の事を芸能人だと知って、取り敢えずサインを、じゃなくて、春日野うららのサインを純粋に欲しいって言われた。

 

 

 

 

 

 色々な事が頭の中でぐるぐると回る。

 

 

 パインに便乗してツノを触った、少し不思議な感触がした、八雲お兄さんは困った様に笑っていた、お兄さん……お兄さんか……

 

「ねぇ、八雲お兄さん、私って八雲お兄さんの妹に入れて貰えたのかな?」

 

 一も二もなく妹に名乗りを上げたけれど……

 

 そう言えば、生の演奏で歌ったのってあの時が初めてかも、基本音源で歌を歌っているから。

 

「楽しかったな……サインしないと……」

 

 蓋を開き歌詞カードを取り出し、鼻歌交じりにサインを書く、ついでにCD本体にも書く、初回封入のカードにも……

 

 涙が落ちた、我慢していたのに、無理やり鼻歌を歌ったのに、我慢すればするほど涙が落ちた。

 

 心強かった、率先して戦ってくれた、みんなを守ってくれた、常に周りを気に掛けてくれていた……ずっと、ずっと、ずっと言いたかった言葉があった……

 

 

 

 ありがとう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひかり、ちょっと付き合って」

 

 放課後に逃げる様に帰ろうとした私を、なぎささんとほのかさんが待ち構えていました。

 

「すみません、アカネさんのてつだ──……」

 

「アカネさんからは許可を貰っているから」

 

 言い訳をしようとした私の言葉をほのかさんに遮られ、私は俯く事しか出来ませんでした。

 

「行くよ、ひかり」

 

 なぎささんは私の手を掴むと有無を言わさず私を引っ張って行きます。

 

 着いた先はほのかさんの自宅で、私は抵抗も出来ずに、ほのかさんの部屋に押し込まれました。

 

 ほのかさんがお茶を用意している間、なぎささんはちゃぶ台に両肘を付き指を組んで何かを考えています。

 

「ほら、ひかりも座って」

 

 ほのかさんが私を促しながら湯呑を置くと、そのままなぎささんの対角線上に座り、如何しても私はどちらかの正面に座らないといけなくなりました、観念してなぎささんの正面に座るとなぎささんは一度大きく息を吐きました。

 

「さてと……ねえ、ひかり」

 

 なぎささんは私の名前を呼ぶと何かを見透かす様に見つめて来て、私は目を反らしました。

 

「……そう、やっぱり好きだったんだ、木野さんの事」

 

「なぎさ!」

 

「ほのか、黙って。こう言うのは遠回りに聞いちゃ駄目……ほのかだって分かっているでしょう」

 

 なぎささんの言葉に、所在なく机の上に乗せておいた手を握り込みます。

 

「……分かりません、ただ、にいさ、木野さんの事を考えると胸が痛いんです、どうしようもない程に」

 

「お兄さんって呼んじゃうぐらい親しくなったのね、話せば少しは楽になるわ、ひかり……木野さんの事を聴かせて」

 

 ほのかさんが硬く握った私の拳を優しく包み込んで、真っ直ぐ私を見つめました、なぎささんの手も重ねられ、私は心に押し止めていた物が溢れてしまった事を理解します。

 

「好きか……分かりません。でも、あの日からずっと胸の奥が痛くって、兄さんの事を思い出すと、胸に大きな穴が空いてしまった気がして……私……」

 

「そう言うのを好きって言うのよ、私も……経験があるから……」

 

 ほのかさんの表情は優しくって、分かっているよって言ってくれているみたいで私は……

 

 一度涙を流してしまうと、もう止める事は出来なくて、私は胸の内を叫ぶように話しました、なぎささんとほのかさんは何も言わず聞いてくれて、気が付いた時には私はなぎささんとほのかさんに抱きしめられていました。

 

「ひかり、その気持ちは忘れちゃ駄目。辛くても、悲しくても、胸に秘めて置いて、ひかりが忘れない限り木野さんは存在しているのだから」

 

 ほのかさんの腕の力が強まり、私の頬を……ほのかさんとなぎささんの涙が濡らします、兄さんと私の為に泣いてくれた二人の心を感じて私は抑えきれなくなり声を上げて泣きました。

 

 

 

 ずっと、ずっと、我慢していたけれど、今日ぐらい感情に任せても良いですよね……ねぇ、兄さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰って来てくれた、メップルがミップルが、妖精の皆が戻って来てくれた。

 

 私はポルンとルルンを抱きしめながら再開の涙を流していました、でも、そんな再開をあざ笑うかのように私達の近くに落雷が起きました。

 

 私はその落雷が普通じゃない事に気が付き、直ぐになぎささん達に合流しようとしましたが、温かく、力強い風が私の直ぐ側を駆け抜けます。

 

 周りを見渡すと、うららも拭き抜けた風に驚いたらしく私と目が合うと、隣に歩いて来ました。

 

「ひかり、今の風って普通じゃない、でも、嫌な感じがしなかった」

 

「はい、私この風の雰囲気には覚えがあります、この力強い雰囲気は……兄さん」

 

 うららも同じ思いだったらしく、頷くと私と一緒に風が抜けて行った方向を見つめます、そして私達の予想は的中しました。

 

 燃え上がる紫色の炎、美しく揺らめく炎を見ていたうららが、喉を鳴らしたのが私の耳に届きます。

 

「紫の炎って、ひかり、これって……」

 

 言葉の続かないうららに変わって私は一度深呼吸をしました。

 

「この力強い炎を私は一日も忘れた事がありません、この炎は、兄さんの力の源のひとつです」

 

「力のひとつ?」

 

 うららが不思議そうな声を上げたので、私はあの時の戦いを痛む胸を我慢しながら思い出します。

 

「うららも炎と雷は見ていましたよね、兄さんは風の力も持って居ます、私を抱えてジャンプした時に風の力を感じましたし、防御などをする時も瞬間的に風で防御膜を作っていました」

 

「すごいね、三種類も力を使うんだ……」

 

「はい、体も凄く鍛えているみたいです、凄かったですから……」

 

 私は思わず抱きかかえられた事を思い出して、顔が熱くなるのを感じていました。

 

「ひかり、炎の中から門が……」

 

 うららの言葉に我に返った私は、うららの指し示す方を見ると息を呑みました、炎の中に浮かび上がった巨大な門、明らかに別の世界に繋がっているのが分かり、私は如何するべきかと悩んでいましたが、答えが出る前にゆっくりと門が開き出しましす。

 

「うそ、アレって……」

 

「まさか……」

 

 私とうららが言葉を呑み込むと同時に響さんと奏さんが走り出しました、二人の姿が揺らいでいき私の頬に熱い物が流れ、それが涙だと気が付くのに少しだけ時間が掛かりました。

 

 うららが私の手を取り歩き出します、ゆっくりとですが、私達が会いたかった人の元に、三人の再開を邪魔しない様に……

 

「八雲兄!」

 

「八雲さん!」

 

 響さんと奏さんの名前を呼ぶ叫び声、再会を喜ぶその声を聞きながら私は少しだけ悪い事を考えていました、それは、響さん達に自分の姿を重ねてしまった事です。

 

 自分がこんな事を考えるなんて不謹慎だ、と思いながらも二人が落ち着いたら兄さんと話をしたいと考えてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響さん達が落ち着いた後、私とうららはおそるおそる兄さんに近づきました。

 

「八雲お兄さん……」

 

「兄さん」

 

「「おかえりなさい」」

 

 戸惑いがちに掛けた言葉に、兄さんは柔らかい笑みを返してくれます。

 

「うん、ひかりちゃん、うららちゃん、ただいま」

 

 あぁ、この声だ、ずっと聞きたかったこの声だ、感極まった私は我慢できずに涙を落してしまいました、隣ではうららも嗚咽を漏らしていました。

 

「本当にごめんな、心配を掛けて」

 

 優しい声が私の心を揺さぶり、私は更に涙を流してしまいます、そんな私の頭に大きくて温かい手が乗せられると、ゆっくりと撫で出してくれました、その感触が嬉しくって、懐かしくって私は、心の中で響さんと奏さんに謝ると、兄さんに抱き付き声を上げて泣き出しました。

 

「兄さん、兄さん……」

 

 話したい事が一杯あった筈何に、言葉にする事が出来なくて、私はただ兄さんとしか言えずに泣き続けます。

 

「八雲お兄さん、ごめんなさい、私も……」

 

 うららが小さく叫ぶと、私の隣に飛び込んで来て一緒に泣きだしました、兄さんは一瞬驚いたみたいでしたが、直ぐに私達の頭を撫でてくれて落ち着くまで好きにさせてくれました。

 

 泣き終わった後に私とうららは皆から少しからかわれましたが、響さんと奏さんは少しだけ不満そうです。

 

「あ、あの、響さん、私は、んっ」

 

 響さんに謝ろうとしましたが、響さんは私の唇を指で押さえると、少し意地の悪い笑顔を向けて来ました。

 

「まぁ、八雲兄の事だからどうせ、自分から誘ったんでしょう、まったく……今度二人で遊びに来て、八雲兄の事を色々と教えてあげる」

 

「あの、響ちゃん、何を教える気かな?」

 

 響さんの言葉に動揺する兄さん。

 

「うふふ、内緒、楽しみー」

 

 悪い笑顔の響さんに慌てる兄さん、私達はそんな二人のやり取りを眺めていると、奏さんが兄さんの肩を叩きました。

 

「奏ちゃん、何でしょう……」

 

「八雲さん、日頃の行いって大切なんですよ」

 

 ちょっと黒い笑顔の奏さんに、頭を抱える兄さんを見てあちらこちらで上がる笑い声、私は楽しそうに笑う皆を見ながら温かい気持ちに包まれていきました。




お読み頂きありがとうございます。
明日も更新の予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

かなり蛇足的な話だと思いましたが、如何しても書きたかったので笑って許して下さい。

うららとひかりの話は最初は本編に入れておきましたが、メインは響と奏で有るべきかなと思い閑話としました、それに伴いうらら達と八雲の再会の部分も最終話から除外しました。

最初は閑話としてひかりとうららが加音町に行く話も考えていたのですが、上手く纏まらない上にくどさが10倍になったので止めました。

後、一話ですがifのお話がありますのでそちらも上げようかと思います。
では次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
if 蝶と薔薇の円舞曲(ワルツ)

よろしくお願いします。


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if 蝶と薔薇の円舞曲(ワルツ)

第2節 光の使者の小曲(メヌエット)の5GOGOバージョンになります、ある事が理由で本編から差し替えとなりました。

何故5GOGOかと言いますと、賑やかな感じになるかなと思ったからです、変更後に本編で初代になったのは最初に知り合うなら初代かなとぼんやりと考えてました。

今となってですが、最初に出会うのが咲ちゃんと舞ちゃんでも面白かったかもしれません。



「あなた達さっき舞台に乱入した人だよね」

 

 いきなりかけられた言葉に響ちゃんはむせ込んでしまい、奏ちゃんが背中をさすっている、しょうがないので後ろを振り向くと立って居たのは、満面の笑みの夢原のぞみだった。

 

 うららとこまちも笑いながら立っており、ストッパーである三人が居ない事に俺は恐怖する。

 

「ヒトチガイデスヨ」

 

「お兄さんさっき凄かったですね、アクション俳優さんかスタントマンさんですか」

 

 うららが俺の言葉など聞こえない、と言わんばかりに聞いてくる、言葉に詰まっていると更に大きな声が掛けられた。

 

「「のぞみ! うらら! 人様に迷惑をかけない!」」

 

「私の友人達がすみません」

 

 りんとくるみが腰に手を当てのぞみに食って掛かり、その横でかれんが頭を軽く下げる姿を見て俺は息を飲んだ、水無月かれん。前から美人だと思っていたが、目の前の彼女は予想を遥かに上回るほどの美人さんだった。

 

「大丈夫ですよ、話をしていただけですから」

 

 緊張しながらもかれんに答えると彼女は不思議そうに小首をかしげる、その所作すら美しく溜め息が漏れそうになる。

 

「貴方さっき舞台に飛び降りて来た人ね、すごいのね」

 

 かれんに覚えて貰っていて少し嬉しい、やっぱり綺麗で可愛い、つい見とれてしまう。

 

「八雲兄、美人だからって見過ぎ」

 

「失礼ですよ、八雲さん」

 

 響ちゃんと奏ちゃんに突っ込まれて我に戻り、自分のチョロさに呆れ頭を抱えたい衝動に駆られるがなんとか我慢する。

 

「ねえねぇ、さっきのネコ喋ってたよね」

 

「はは、考えたくない」

 

「かわいいかったです」

 

「不思議よね」

 

「どこにいったのかしら」

 

 五人一斉にしゃべりだし何が何だか分からなくなるそんな中くるみは何かを探すかのように周りを見ていた、響ちゃんと奏ちゃんも目を丸くして驚いているので誤魔化そうと努力する。

 

「あー、俺の腹話術ってことにしません」

 

「腹話術出来るんだすごい」

 

「イヤ、それはないから」

 

「芸人さんだったんですか」

 

「ネタになるかしら」

 

「今度の慰問に来てくれないかしら」

 

 俺の言葉を受け、やはり一斉に喋り出すがくるみはやはり何かを探している、くるみは何を探しているのかと思いながらも、一斉にしゃべりる姿にすごいなぁと思いつつも、つい目線はかれんに向いてしまう。

 

 かれんが視線に気が付きこちらを見る、思わず動けなくなってしまうが、俺は異常な気配に気が付いて、吹き抜けに顔を向け空を凝視した。

 

「八雲兄、どうしたの」

 

「八雲さん?」

 

 響ちゃんと奏ちゃんの声は聞こえているが頭に入って来ない、空気が禍々しく変わった様に感じて、頭の中で警鐘が強烈に鳴り響く、俺は弾かれる様に立ち上がるとかれんの両二の腕を掴む。

 

 くるみが大騒ぎしながら俺の腕を掴みかれんから引き離そうとするが、構っている暇も無くかれんに向かって怒鳴る様に声を掛ける。

 

「かれんちゃん! 今すぐ皆をまとめて避難しろ!」

 

 かれんはいきなり俺が名前で呼んだので驚いた表情を浮かべていたが、俺は構わず顔を響ちゃんと奏ちゃんに向けて強い口調で話す。

 

「二人は彼女達と一緒に行動しろ! 判断に困ったらかれんちゃんとこまちちゃんに相談しろ! 彼女達の指示は正確だ!」

 

 のぼみはすごい勢いでキョロキョロし、りんとうららは空を眺めて首をかしげて居た。

 

「こまち!」

 

「えぇ」

 

 俺の緊張の強さが伝わったのか、かれんがこまちに一声掛けながら立ち上がると、掴んでいる俺の手に自分の手を添えてくる。

 

「八雲さんでしたっけ? 任せて下さい」

 

 凛とした表情のかれんに頷くと俺は、踵を返して走り出した。

 

「八雲兄!」

 

 響ちゃんは叫ぶように俺の名前を呼ぶ、俺は足を止め振り返ると響ちゃんと目が合う、響ちゃんは何かを我慢するように顔をしかめると、無理やり笑う。

 

「必ず、必ず、戻って来て。八雲兄!」

 

「後で必ず合流する、待って居てくれ。響ちゃん、いざとなったら構わないから全力を出せ、奏ちゃんも良いね、出し惜しみは無しだ!」

 

 俺は二人に言い放つと、ホルダーから展開前の音角を取り出し見せる。一瞬驚いた顔をしたが、響ちゃんと奏ちゃんは力強く頷くと、キュアモジューレを入れてあるポケットを叩いて見せた。

 

「そうだ、それで良い、後は頼む」

 

 俺達のやり取りにかれんは眉を寄せると何かを考える素振りを見せる、顔を上げたかれんと目が合うと俺は一瞬目線で合図をする、かれんは気付いたらしく響ちゃんと奏ちゃんを一度見てから俺を見て来たので小さく頷くと、理解したかれんは小さく口元に笑みを浮かべる。

 

 気が付くと全員が立っており、皆で頷き合うと俺達は二手に分かれ一斉に走り出した。




お読み頂きありがとうございます。
次回の更新は来週末の予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

うららに対しての「握手してよ」ネタを思い付いた為に変更となったお話です。

こちらの方がスピード感がありましたかね、どうでしょう。
かれんさん美人ですよね。お気付きの方は多いと思いますが、私の名字は彼女から頂戴しました。

これにてオールスターズは完全終了となります、長い間お付き合い頂き本当にありがとうございました。

お話は本編へと戻ります、こちらもお付き合い頂ければ何よりの幸せです。
では次回。

第9話 奇妙な時間
第1節 同居?同棲?

よろしくお願いします。


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第9話 奇妙な時間
同居?同棲?


 気が重い、ひたすら重い、溜め息も出てしまう、隣を歩く奏に申し訳が無い、レポーターに続き今回も奏を巻き込んでしまった。

 

「ごめんね奏、幼稚園の歌の発表会につき合わせちゃって……」

 

 また溜め息が出る。

 

「ううん、平気」

 

 奏の声が弾んでいて思わず目を向けると奏はご機嫌だった。

 

「良いお天気でよかったね」

 

「はい、王子先輩」

 

 ピアノの演奏を頼まれている王子先輩が、誰に対しては無く言った言葉に奏がすかさず返事をする。

 

 物凄く嬉しそうだけど、最近の奏は前ほど騒がないなぁ……

 

「奏さぁ……」

 

「ん? 何? 響?」

 

 私は上手い言葉が見つからずに思わず視線を彷徨わせると、奏が不思議そうに小首を傾げる。

 

「ううん、何でも無い」

 

 私が誤魔化す様に愛想笑いをすると、奏は少し眉を寄せ何かを考える様に顎に指を添えた。

 

「そう? 変な響」

 

 私の前をフワフワと歩く奏を見ながら幼稚園の前にるくと、奏は幼稚園の前で足が止まり眉を寄せ少し困った様子を見せる。

 

「どうしたの、奏」

 

「え? 早く入りましょう」

 

 明らかに誤魔化し笑いをすると、奏は周りを気にしながら幼稚園に入って行く、そんな姿を私は首を傾げ悩んだが理由は思い当たらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日音符を集めていた帰り道に何となく裏道を覗くと、隅でうずくまっている猫を見つける。

 

 慌てて近づくと気絶している猫はセイレーンだった、注意深く近づくとセイレーンは足から血を流しており擦り傷等もあった、流石に放っておく訳にはいかず着ていた上着で包み家に連れて帰る事にする。

 

 ソファーにセイレーンを寝かせ、治療の準備を終え治療を始めようとするとセイレーンは身じろぎ、目を覚ます。

 

「目が覚めたか、セイレーン。自分の状況は分かるか?」

 

「アンタは!」

 

 俺からジャンプして離れたが、セイレーンは体の痛みに襲われ崩れ落ちてしまう。

 

「怪我しているんだ、今は我慢して大人しくしてくれ、じゃないと治療が出来ない」

 

 うずくまるセイレーンを優しく抱きかかえてソファーに運ぶと、救急箱を引きよせ中身を確認しながら話す。

 

「セイレーン、すまないが人の姿に成ってくれ、その方が治療がしやすい」

 

 セイレーンは何も言わずに人の姿に成った、俺は治療を始める前にセイレーンの膝に、奏ちゃんが何時も使っている膝掛けを掛けてからセイレーンの前にしゃがむ。

 

「少し沁みるけど我慢な」

 

 セイレーンは顔を歪ませながら傷の消毒を受ける、この傷だかなり沁みるのだろう、セイレーンは小さく声を上げ歯を食いしばっていた。

 

 患部に保護シートを張りずれない様に包帯を丁寧に巻いていく。

 

「そう言えば……こんな事が前にあったな、あの時は奏ちゃんが響ちゃんの足に包帯を巻いていたっけ……」

 

「やかましいわ、そんな事忘れたわ」

 

 セイレーンを伺うと、少し遠くを見つめ懐かしみながらも寂しそうな表情をしていた。

 

 赤く腫れ上がった患部に湿布を貼り包帯をきつめに巻く出す、包帯を巻いている時にセイレーンが話しかけてきた。

 

「なんで、助けるのよ……私達は敵同士でしょう……」

 

「怪我しているやつ放っておける訳ないだろう……それに前話しただろう、困ったら助けるから遠慮無く言えって」

 

 セイレーンが体が大きく震える、小さく息を吐く音が聞こえ。

 

「お人好し……馬鹿じゃないの……」

 

「馬鹿で良いよ、おっし終わった。さて、セイレーン、食事にしよう」

 

 救急箱を片づけながら話すと、セイレーンは戸惑った様な声を上げる。

 

「本当に馬鹿ねアンタ、私はアンタ達が嫌う不幸の象徴、黒猫よ」

 

「うるさいよ、このアンコ猫はまったく。それにね、その怪我で動ける訳ないだろう、まともに動けるようになるまでここに居ろ」

 

「やっかましいわ! 誰がアンコよ!」

 

 猫の姿なら、きっと全身の毛を逆立てているのが想像できるほどの声で怒鳴るセイレーン。

 

「セイレーンみたいな黒猫は、アンコ猫と言われて幸運を招くって言われてるの、どっかの地方じゃ病気が治るって迷信だってあるんだぜ、知らないのか? 餡子の材料は小豆で祝いの席で出される縁起物、だ・が・ら・セイレーン達黒猫は不幸の象徴じゃない福猫だよ」

 

 騒いでいるセイレーンに対して一方的に話をし、反論される前に手をヒラヒラとさせてキッチンの入る。味をしみ込ませる為に前日に作っておいたものを温めながら副菜を簡単に作りテーブルに並べ、セイレーンを呼ぶと不貞腐れながらも食卓につくセイレーン。

 

「前も思ったけど、すごいのねアンタの食事……」

 

 食事を前にして少し驚くセイレーンに少し微笑ましく思う。

 

「「いただきます」」

 

 俺と「いただきます」がハモる、セイレーンもこう言う挨拶をするんだなと感心をしながら食事に手を伸ばす。

 

「おいしい……」

 

 セイレーンはひと口、豚の角煮を食べて呟く。

 

「口に合って良かったよ、しっかり食べないと怪我治らないからな」

 

 せっかく二人で食べて居るのに静かな食卓。しょうがないと言えばしょうがないのだが少し残念、こんな時に、響ちゃんと奏ちゃんだったらどうするのかな。

 

 結局あまり会話せず終わってしまい食後のお茶を出すと、セイレーンは一生懸命冷ましながら飲んでおり、気が付かなかったのを申し訳なく思ってしまった。

 

「セイレーン、ちょっと来てくれ」

 

 セイレーンが飲み終わったのを見計らい呼ぶと、溜め息をつきながらついてくる、ゲストルームの一室に二人して入るとセイレーンに向かって話す。

 

「怪我が治るまでこの部屋を好きに使ってくれ、ベットの上のウェアは響ちゃんがよく使っている物だが、茜色の我慢して使ってほしい、直ぐにセイレーン用のを買って来るから、今だけは敵味方ではなく怪我の回復だけを考えてくれ、俺はリビングに居るから何かあったら遠慮なく言ってほしい」

 

 セイレーンが顔を合わせようとしなかったので諦めて部屋から出て行く、セイレーンは何も言わずに部屋に残った。



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マイナーランドの歌姫は

「ヤクモ、アンタ私に普通にしてるけど、私はマイナーランドの歌姫……不幸のメロディを歌って人間達を不幸のどん底に陥れるのが目的なのよ」

 

 セイレーンが睨みつけながら話してくる、余りに唐突な事を言い出したので少し驚く。

 

「不幸のどん底ねぇ……で、その後どうするの? まさか不幸にして終わりって訳じゃないよな」

 

 セイレーンは顎を触りながら考えだしてしまう。

 

「その先の計画聞いて無いのかよ、お前リーダーだろ? 把握してないの?」

 

「やっかましいわ!」

 

 図星を突かれ怒鳴るセイレーンを見ながら何となく慣れて来たと感じてきた。

 

「ところでセイレーン」

 

「なによ」

 

 俺の呼びかけに睨みつけてくるセイレーン。

 

「おかわりは?」

 

「……いただくわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴリラダンス……?」

 

 響ちゃんと奏ちゃんの話を聞いて、飲んでいたハーブティーを吹き出しそうになり、口を押さえ響ちゃんを見ると。

 

「やんちゃだし、もう大変」

 

 響ちゃんは机に突っ伏して顔を崩し情けない声を上げる。

 

「歌もバラバラだし、王子先輩も酷い目に会うしもう最悪」

 

 奏ちゃんは自分の髪の毛をいじりながら溜め息を吐く。

 

「でも、奏があそこの幼稚園で八雲兄の手伝いをしてたのはびっくりしたよ」

 

 顔だけ奏ちゃんに向け響ちゃんは崩れた顔のまま話すと、奏ちゃんは少し照れ笑いを浮かべた。

 

「ベルティエの時にちょっとね、あの時はご迷惑をおかけしました」

 

 奏ちゃんの丁寧な言葉に響ちゃんは顔を上げる、しばらく見つめ合った後笑い出す2人。

 

「ヤクモ、誰が居るの」

 

 すぐ側でいきなりかけられた知らない声に、響ちゃんと奏ちゃんは慌てて振り返る。そこに立っていたのは幅広の白いリボンで金色の髪をポニーテールにした赤い瞳の女の子が立っていた。

 

「八雲兄、誰……?」

 

 響ちゃんが俺と女の子を交互に見る、その隣で奏ちゃんも驚いた顔をしている。

 

「私はキリノ、今だけヤクモの世話になっている、それだけ」

 

「あー、お客さんの娘さんでね、ご両親が海外出張の間だけ預かっているんだよ、足怪我してるから大人しくしているんだ」

 

 響ちゃんと奏ちゃんが立ちあがり、キリノと名乗った女の子に前に行くと右手を差し出す。

 

「私、北条響、よろしくねキリノ」

 

「南野奏です」

 

 三人が握手する姿を複雑な気持ちで眺める。

 

「何を騒いでいたの……」

 

 少し冷たい感じの声で、キリノが響ちゃん達に訪ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、そんな事がね……」

 

 キリノは一言呟くと用意したアイスティーに口を付けた。

 

「教えるの、超大変だよ」

 

 食べていたマドレーヌを響ちゃん飲み込み、少し大げさに体を動かしながらキリノに幼稚園での事を話し、奏ちゃんは隣でうなずいている。

 

「歌なんて好きに歌えばいいのよ」

 

「でもそれじゃあ、発表会で楽しい思い出にならないよ」

 

 グラスの縁を指先で(なぞ)りながら吐き捨てたキリノに、奏ちゃんが少し大きな声を上げるとキリノは溜め息を吐く。

 

「言っておくわ、歌はね、好きなように歌いたい様に歌えば良いのよ。まずは歌を好きになるのが先のはず、発表会なんてその次よ、無理強いしたって良い歌は歌えないわ……」

 

 キリノの言葉に響ちゃん達は驚き、俺は目を見張る。

 

「目的の為に歌うのなら止めなさい。二人の言う発表会ってそういう物じゃないと私は思うわ、普段の努力を見て貰う場所よ、舞台の為に努力するのはプロよ、間違えないで」

 

 キリノは何かを誤魔化す様にマドレーヌに手を伸ばす。

 

「キリノすごいね、私そんな事考えた事無いよ」

 

 キリノの歯に衣着せなぬ言い方に純粋に感心する響ちゃんと奏ちゃん。

 

「私も……発表会だからって押しつけていたのかも、キリノさんって歌好きなんですね」

 

「私? ……歌なんて嫌いよ、無くなれば良いわ」

 

 奏ちゃんの言葉に水をかける様なキリノの声。

 

「キリノって歌苦手なの? もしかして下手とか」

 

 響ちゃんの少し失礼な質問にキリノは深い溜め息を吐く。

 

「歌の好き嫌いにね、上手い下手は関係ないわよ……ヤクモ、部屋に戻るわ、食事になったら教えて」

 

 キリノはそれだけ言うと付き合っていられないとばかりに、自分のグラスを持ち自分の部屋に戻って行った。

 

「すごいねキリノって」

 

「うん、本当色んな意味で、すごかったね響」

 

 二人は目を丸くしながら背中を見送るとうなずき合う。

 

「八雲兄、今日は帰る。キリノにありがとうって言っておいて、奏行こう」

 

 響ちゃんは残っていたマドレーヌを口に放ると、ハーブティーで流し込んで立ち上がる。

 

「急ごう響、北条先生直接帰るって言ってたよね、八雲さんまた来ます、それじゃあ」

 

 二人は荷物を持つと嵐の様に帰って行った。

 

「二人は帰ったの?」

 

 セイレーンが後ろから声をかけてくる。

 

「今慌てて帰って行ったよ、二人がありがとうだってさ」

 

 振り返りながら声をかけると、セイレーンはまだキリノの姿のままだった。

 

「礼なんて聞きたくないわ」

 

「セイレーン、その格好ってさ」

 

「アンタの本を参考にしたわ、何でも良かったのだけどね」

 

 腕を組みながら笑うキリノは、光りを放ちながらセイレーンの姿に戻る。



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歌姫の歌

お久しぶりです、こんにちはです。
失語症の為で入院はしましたが、言葉も漢字もまともに出来ません。
病気前の書いた物を出します、直して無い物ですが、申し訳ない。
少しずつ出します、よろしくお願いします。


 朝、セイレーンを呼ぶといつもの姿でリビングに入って来る。

 

「セイレーン、おはよう。何だ、キリノじゃないんだ?」

 

「この間は特別、二人の前でこの姿で出られる訳ないでしょう……おはよう」

 

 挨拶だけ小さく呟いたセイレーンは、席に座ると俺に合わす様にやっぱり小さい声で「いただきます」を言ってから食べ出す。

 

「響ちゃんも奏ちゃんも歌の話は感心していたよ、流石に歌姫名乗ってる事はあるな」

 

 漬物を箸で掴みながらセイレーンに話すと、セイレーンは呆れた様に鼻で笑う。

 

「私はマイナーランドの歌姫よ。あの程度の話なんてどうって事ないわ、でも、あの二人単純なのね、ハミィといい勝負よ」

 

 言い終わると大きな口で鮭の塩焼きを頬張るセイレーン、味を確認して少し嬉しそうに頷いている。

 

「でも、お前地雷踏んだからな、注意しろよ」

 

「何よ、地雷って、そんな物を踏んだ記憶は無いわ」

 

 みそ汁と格闘をしていたセイレーンが答え、熱かったのか慌てて水に口を付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後になりセイレーンの傷を確認するとほぼ治っており、動くのに支障は無いらしい。

 

「世話になったわヤクモ、もうこれで敵同士ね」

 

 セイレーンの顔は少し寂しそうであったが、指摘はしないでおく。

 

「セイレーン、帰る前にちょっと待って」

 

 俺はキッチンに入ると、飾棚の奥にしまってあった瓶を取り出しセイレーンに渡す。

 

「音符じゃない、どういうつもり」

 

 睨みつけて来るセイレーンに対して、大げさに肩をすくめて見せる。

 

「問題です、数日間リーダーが戻ってきませんでした、しかし戻って来たリーダーは何も持って帰ってきませんでした。と、戻って来たリーダーは音符を集めて帰ってきました。どっちが良いでしょう」

 

「フン、お礼は不幸のメロディで返してあげる」

 

 俺の大げさなもの言いに、鼻で笑いながら言い返すセイレーン。

 

「いいや、俺達が全て取り返して、幸せのメロディを響かせるね」

 

 数秒睨みあい、どちらからともなく声を上げて笑いだす、その直後けたたましくなるチャイムにセイレーンが驚くが、俺は思ったより来るのが遅かったな、と思いつつセイレーンに目線を向けた。

 

「セイレーン、キリノになっておいてくれ、今、朝話しておいた地雷だ」

 

 眉を寄せながらキリノに変わるのを確認し、インターフォンを見ると来ていたのは案の定響ちゃんと奏ちゃんだった、玄関を開け二人を入れると直ぐにリビングに向かいキリノの手を取る。

 

「キリノ良かった、包帯取れたんだね。悪いんだけど今から一緒に幼稚園に行こう」

 

 すごい勢いで迫る響ちゃんに、キリノはたじろいで居ると奏ちゃんも迫ってくる。

 

「お願いキリノさん、私達と幼稚園に行って子供達に歌を教えて欲しいの」

 

 奏ちゃんも手を取る、逃がす気は無い様だ。

 

「私、もう帰るから少しだけよ」

 

 キリノ(セイレーン)は響ちゃん達の勢いに負け承諾をするのを見て、俺は笑い出すのを抑えると、キリノ(セイレーン)が恨みがましい目線を向けて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君がキリノさんだね、今日はすまないね、木野君もありがとう」

 

 北条先生が、いつもの調子で挨拶して来てキリノは少し引いていた。

 

 練習が集まるまで一苦労あったが、いざ始まると合唱はバラバラだが声だけは良く出ていた。キリノはつまらなそうに教室の壁に寄り掛かり、園児達の演奏に耳を傾ける。

 

「元気はあるけど、コレは大変そうだな」

 

「でしょう、これでもかなり良くなったんだよ、キリノのおかげで」

 

 響ちゃんは頭を掻きながらぼやく、そんな中、後ろから歌声が聞こえだす。

 

 振り向いた俺達が見たのはピアノに合わせ歌っているキリノであった。子供達に合わせる様に歌いつつ、いつの間にか子供達の声を一つにまとめ上げ、そのまま歌いきる。

 

「すごい……」

 

「きれい……」

 

 感嘆の声を上げる響ちゃんと奏ちゃん、俺はキリノが歌っている事が嬉しく言葉が出なかった、そんな中ハミィだけは何か言いたげにキリノを見上げていた。

 

「みんな分かった、今みたいに歌いなさい」

 

 言い方は冷たいがキリノの目は優しく俺は色々と考えさせられる、キリノは何も言わずにそのまま教室を出て行ってしまう、追おうとした響ちゃんとハミィを手で制し俺が教室を出る。

 

「キリノ」

 

 俺の呼びかけに振り向いたキリノは、面倒くさそうな顔をしていた。

 

「なによ」

 

「ありがとうな」

 

 見つめ合ったまま少しの時間が過ぎる。

 

「別に……ただの気まぐれ……そうね、食事の礼って、言っておくわ……」

 

 キリノが自嘲気味に笑う、キリノいや、セイレーンの胸中は分からない……でも。

 

「辛かったら、何時でも帰ってこい、万が一があったら俺の所に来い、あの部屋はお前の為だけに開けておく、約束するよ……セイレーン…………」

 

「やかましいわ、お人好し……じゃあね」

 

 歩いて行く背中を見送る、セイレーンは一度もこちらを振り向かずに行ってしまった。




ここすきをありがとうございます、嬉しいです。


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素直になれなくて

お久しぶりです。
相変わらず言葉も会話は難しです。
今回も病気の前に出したものです、お読み頂いたら嬉しくて思います。
まだ、文章はありますが確認でに時間が掛かります、付き合って下さって頂ければ幸せ思います。


 発表会の日、俺は教室には入らず外の壁に寄り掛かり始まるのを待っている。

 

「やっぱり来たな」

 

「やっかましいわ」

 

 気配の方を向くと、セイレーンはキリノの姿で物陰から出て来て俺の側に歩いて来た。

 

「アンタは中に入らなの」

 

「どうせなら、お前と聞きたかったからな」

 

「来なかったらどうしたのよ、このお人好し」

 

 肩をすくめ溜め息を漏らすキリノ、俺は思わず笑いかける。

 

「でも、セイ……キリノは来てくれた。俺にとってはそれだけで嬉しいよ」

 

 キリノは一度俺を睨みつけると、何も言わずに中を伺いだす。始まる発表会、子供達の元気のいい歌声が外にまで聞こえる。

 

「ふふ、まあまあね、聞けるようになったじゃない」

 

 キリノは子供たちの歌を聞きながら嬉しそうに鼻歌を歌いだす、やはり彼女は優しいのでは無いかと思うが、俺はそれを確認する術を持ち合わせて無かったし、聞く事も憚られた。

 

「キリノと歌ってから劇的に変わったそうだよ、お前のおかげだ」

 

 キリノは俺に一瞥をくれるとまた中を覗く、その瞳は優しく慈しみに満ちており、俺は嬉しくも悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発表会が終わり園児と親達が出てくる。帰るタイムミングを逃した俺とキリノは、物陰に隠れキリノはセイレーンの姿に戻った。

 

 園児と楽しそうに話をしていた響ちゃん達、その後何故か王子君が園児を引きつれて教室に戻る。そんな中園児二人に何かを渡される響ちゃんと奏ちゃん、その手の中の物を見て俺とセイレーンは同時に呟く。

 

「「音符……」」

 

 セイレーンは二人を凝視したまま動こうとしない。

 

「行くのか?」

 

「子供達に免じて譲ってあげる、感謝しなさい」

 

 やはり基本的に優しいんだセイレーンは、では、何故こうなってしまったのだろうか、色んな事を考えていた俺はセイレーンの声で我に帰る。

 

「バスドラ……あの馬鹿」

 

 目を向けると園児から貰った小さなぬいぐるみを、バスドラはネガトーンに変えてしまっていた。

 

「ネガトーンが二体か……どうするセイレーン、俺を止めるか?」

 

 俺の言葉に対してセイレーンは目つきが鋭くなる、しかし、直ぐに目を伏せると重い雰囲気を醸し出す。

 

「バスドラが勝手にやった事よ、それに、私には関係ないわ……」

 

 セイレーンは重々しく言葉を紡ぐと、またキリノの姿に変わる。

 

「それに今の私は、アンタの家で厄介になった、ただのキリノよ、好きにしなさい」

 

「ありがとうなセイレーン、お前やっぱり良い女だな」

 

 思わず出た俺の言葉に、セイレーンは顔を赤くしそっぽを向く。

 

「やかまわしいわ、早く行きなさいよ」

 

 照れているセイレーンにうなずくと、変身して飛び出す。

 

 視界に入るのは捕まっている二人。俺は全速力で接近するとリズムを捕えているネガトーンに対し蹴りを入れ強引にリズムを引きずり出し、片手で抱きかかえ地面に下ろす。

 

「獣鬼!」

 

「烈火弾!」

 

 リズムに答える暇も無く片手で音撃棒を振るいメロディも救出したのだが、メロディはバランスを崩し尻餅をついてしまう。ネガトーンはその隙を逃さずメロディに巨大な拳を振り下ろしてきた。

 

 メロディにネガトーンの拳が入る直前に俺は間に強引に入り込みと、ネガトーンの拳に自分の拳を合わせ迎撃する、すかさず次の攻撃を仕掛けてくるネガトーン、拳同士のぶつかる激しい音と衝撃が辺りに広がる。

 

「獣鬼!」

 

「うおおおおぉ!」

 

 メロディの声を背中に受けラッシュを速めながら一歩一歩前に進みネガトーンを圧倒しだす、渾身の力を込めた拳がネガトーンを吹き飛ばす。

 

 座り込んでいたメロディに手を貸して立たせると、メロディは何故か涙を溢れさせていた。

 

「大丈夫かメロディ?」

 

 どこかが痛むのかと目視をするが特にダメージは感じられず、見えない所を痛めたのだと心配していると。

 

「大丈夫、何でもないよ、ありがとう獣鬼」

 

 メロディは涙を拳で拭いぎこちない笑みを浮かべる。

 

「ありがとう獣鬼、来てくれて嬉しい」

 

 合流したリズムも声を弾ませる姿に軽い違和感を覚えるが、ネガトーンは持ってくれずこちらに攻撃を仕掛けてきた。

 

 俺が一体をメロディとリズムが二人で一体を相手する。お互いが繰り広がる攻防戦、最初に均衡を崩したのはメロディとリズム。二人が得意としているコンビネーションでネガトーンを吹き飛ばす、ネガトーンが飛んで行く仲間に気がそれた一瞬に音撃棒を一気火勢の形の応用でネガトーンの腹部に叩き込み吹き飛ばすと、二体はもんどり打って一塊りになる。

 

「メロディ! リズム!」

 

「「オーケー、獣鬼!」」

 

「奏でましょう、奇跡のメロディ! ミラクルベルティエ!」

 

「おいで! ミリー!」

 

「刻みましょう、大いなるリズム! ファンタスティックベルティエ!」

 

「おいで! ファリー!」

 

「「翔けめぐれ、トーンのリング! プリキュア! ミュージックロンド!」」

 

「「三拍子! 1、2、3!」」

 

「「フィナーレ!」」

 

 光に包まれるネガトーンを確認しながらセイレーンに目を向けると、彼女は何とも言えない表情を浮かべ去って行く。その姿に俺は、セイレーンが泣いているように見えた。




お読みお頂きありがとうございます。
当時書いた後書きです、消そうと思いましたがそのままの状況にしました。

 八雲とセイレーンの繋がりを深めるお話しと成りました、セイレーンが轢かれる時に王子先輩が遭遇せず、間一髪で躱したが微妙に怪我をしたセイレーンを助けてみました。
 筆者なりにセイレーンの歌に対する考え方、葛藤が表現出ていれば嬉しく思います。
では、次回。

奇妙な時間 if 寂しい夜に

よろしくお願いします。


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if 寂しい夜に

お久しぶりです。
今回も病気の前に出したものです、お読み頂いたら嬉しくて思います。

同時に書いた前書きした物です。

「マイナーランドの歌姫は」と「歌姫の歌」の間のifと成ります。
飲酒及び男女間の話と成ります、苦手な方はお避け下さい。
セイレーンは現時点では妖精の為、法律に抵触しないと考えております。
尚、飲酒を助長するものではありません、お酒は20歳になってから。


「ヤクモ、アンタ酒何て飲むの?」

 

 後ろを振り向くと、風呂上がりのセイレーンが頭にタオルを乗せ、ペットボトルの蓋を捻りつつも呆れてた視線を向けていた。

 

「気分が乗った時にな、またにだよ」

 

 隣に乱暴に座ってきたセイレーンは、飲んでいたペットボトルをローテーブルに置くと、俺の手からグラスを奪い取る。

 

「おい、セイレーン」

 

「こんなのの何が良いのよ?」

 

 グラスを持ち上げ、底の方から中身を見上げるセイレーン。

 

「アンタ、さっきこうやって色見てたわね……まぁまぁ、綺麗ね」

 

「セイレーン、お前ってさ、飲んで大丈夫なの? 年齢とかって……妖精だから関係ないのか? ……」

 

 匂いを嗅いで、しかめっ面をしているセイレーンがちょっと面白い。

 

「そろそろ返して貰えないかな、俺のグラス」

 

 グラスを取ろうとした俺の手を軽く避けると、セイレーンはグラスの中身を一気に煽った。

 

「ちょっ! お前、何て飲み方を! 水飲め、水!」

 

 セイレーンは、数秒差し出されたペットボトルを見つめると、けふっと小さく息を吐き、へらりと笑いながらグラスを差し出す。

 

「結構美味しいじゃない、おかわり」

 

「セイレーン?」

 

「お・か・わ・り」

 

 ボトルに手を伸ばすセイレーンより先にボトルを引き寄せると、セイレーンは情けない顔を向けてくる、その余りの情けなさに俺は溜め息を吐く。

 

「分かったから、ストレートじゃなくて水割りな、用意するから待ってろ」

 

 勝手に注がれるぐらいなら俺が制御しようと考え、出来るだけ薄めで作る為に、ボトルを確保したまま氷と水を取りに行く。

 

「頼むから、ゆっくり飲めよ」

 

 グラスを受け取ると、セイレーンはまたにへらと笑いゆっくりと飲み出す、自分のグラスにも注ぎながら横目でセイレーンを見て、俺は色んな意味で諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

「聞いてるヤクモ?! バスドラったら毎回毎回私の邪魔しかしない癖に、直ぐにリーダーは俺だとか言うし、メフィスト様はいくら音符集めてもこれっぽっちっていじめるのよ? おかしいと思わない?! ねえ?! 驚きの白さって何よ!?」

 

 お酒と一緒に口に含んだ氷を噛み砕きながら、セイレーンの話は四度目のループに入る。

 

「セイレーンも大変だな」

 

 セイレーンは、グラスを勢いよく傾け中身を飲むと、楽しそうに息を吐く。

 

「それに比べてアンタ達は仲良いわね、ハミィは幸せ者ね」

 

 何かを懐かしむ様に呟いたセイレーンは、グラスの中身を全て喉に流し込んだ。

 

「んー、美味しい」

 

 油断すると自分で作ろうとするセイレーンからボトルを遠ざけ、出来るだけ薄めに次の杯を作り、そっと目の前に置いて置く。

 

「なあ、もし良かったら、このまま…………」

 

「ヤクモ! 飲みなさいよ」

 

 明らかに被せて来たセイレーンに思わず溜め息を吐く、クピクピと飲むその姿を見ながら、今日はもう好きにさせようと心に決め、自分のグラスを傾けた。

 

 肩の力が抜けたからだろうが、俺もリラックスしたのでかなりの杯を重ね、この時間が楽しく成っている。

 

 少し大きな音を立てて、セイレーンがグラスとテーブルに置くと、虚空を見つめる。俺は遂に吐くのかと身構えるが、セイレーンはいきなり俺の胸に頭突きをして来た。

 

「あの? セイレーンさん?」

 

 何度か俺の胸に頭突きをしたと思ったら、今度はそのまま頭を擦りつけてくる。

 

「あの? セイレーンさん?」

 

 俺の呼びかけが聞こえたのか、セイレーンの動きがしばらく止まり、ゆっくりと頭を上げるとへらりと笑う。

 

「セイレーンって、酔うとよく笑うんだな」

 

「おかわり」

 

「なぁ、そろそろ終わりに……」

 

「これで最後、おかわり」

 

 少し雰囲気が変わったかな、と思いながらもボトルに手を伸ばし、水割りを作り出す。

 

「ん」

 

 小さな呟きと共に口の横に温かく湿った感触がして、慌ててセイレーンの方を向くと唇を塞がれた。

 

 俺の口の中でセイレーンの舌が跳ね回る、戸惑った瞬間にバランスを崩してソファーに二人して倒れ込む。

 

「セイレーン、お前酔いす……」

 

「喜びなさい、初めてなんだから……」

 

 目が泳がせながら、セイレーンが洩らす。

 

「セイレーン……お前、何でこんな事を……」

 

 さっきまで口に中で暴れていた舌の感触が抜けなく、思わずセイレーンの口元を見てしまう。

 

「…………良いじゃない、別に」

 

 セイレーンは抱きついてくると、俺の首筋に頬を擦り付ける、すべすべとした肌が気持ちいい。

 

「セイレーン」

 

 顔を上げたのセイレーンに対し、首を捻り唇を奪いそのまま口の中に侵入する、お互いが貪る様に絡め合い、熱くなった吐息と共に口を離す。

 

 頬に手を伸ばし数度撫でてから、後頭部に手を回し指に掛かる髪の感触を楽しむ。

 

「……もう、止まらないからな」

 

 セイレーンがふにゃりと笑う。そんな彼女を引き寄せ再度唇を重ね、服の中に手を潜りこませた。




ifルートのお話ですか、楽しんで頂きたら幸せです。
お読みお頂きありがとうございます。
今回も当時書いた後書きです、よろしくお願いします。

正に酒の上の不埒!ニチアサとは思えない大人な関係を持った八雲とセイレーンでした。
ifでは、セイレーンはこのままマイナーランドから抜け、戦いからも遠ざかり八雲との関係を深めていきます。
ハミィとも親友に戻り、響ちゃん達ともぎこちないながらも関係を修復し良き理解者になって行きます。


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第10話 黒い女神
響と奏の音楽会


皆様お久しぶりです。
今回も病気の前に出したものです。
お読み頂いたら嬉しくて思います。


 あの戦いの後の荒んだ心はもう無い。毎日が楽しい、奏が居てハミィとフェアリートーンが居て、そして……八雲兄も帰って来てくれた。

 

 この間の戦いでは助けに来てくれた獣鬼の姿を見て、嬉しさのあまり思わず涙ぐんで心配をさせたみたい……機会を見て話をしないとね。

 

 奏とのピアノの連弾も楽しいし、奏の方も最近はますますカップケーキ作りに気合が入っている。音符集めも順調で言う事は無い、そんな中での帰り道小腹の空いた私は奏と一緒にミートデリカモーモーでホクホクじゃがの特製コロッケを買っている時に、違和感を感じて奏に声をかける。

 

「なんか、何時にも増して歌ったり演奏したりしている人多くない?」

 

「そうだね、何かあるのかな……」

 

「知らないのかい? あんた達、コレさ」

 

 私達の疑問に答えてくれたのはモーモーのおばちゃん。おばちゃんは店内に張ってあるポスターに顔ごと視線を動かした。

 

「明日、時計塔広場で『音楽自慢大会』が開かれんだよ」

 

「音楽自慢大会ってさ」

 

 喋りながら奏と視線を合わす。

 

「歌とか楽器の演奏を披露する会だよね」

 

 奏と話しながら、自分が不合格と合格の両方のイメージを浮かべ思わず笑いそうになる。

 

「加音町でやるんだ……こんなの何時から貼られていたっけ……?」

 

 ポスターも今初めて見たし、何よりパパから何も聞いて無い、パパは立場上そう言う情報は早いし話せる内容はみんな教えてくれる、疑問がちょっと湧いてくる。

 

「昨日からさ」

 

「えっ、この大会ってそんなに行き成りやるの?」

 

 私はおばちゃんの話に驚く。確かにこんなに準備期間が無いならパパも知らなくてもしょうがないか。

 

「加音町の住民たる者、音楽大会と聞いてじっとして居られないよ、みんな大会の為に練習さ」

 

 おばちゃんは脇に置いてあるヴァイオリンを手に取りながら、本当に嬉しそうに話す。

 

「ねえ、響、私達もピアノで出場してみない?」

 

「良いよ」

 

 奏のお誘い、当然快諾。

 

「やっぱ、ダメかぁ……えっ?」

 

 ちょっと驚いている奏が可愛い。

 

「奏とピアノ弾くの楽しいし、たまにはね」

 

 ウインクしながら奏に伝える、少し前の私なら取り付く島も無く断っているから驚くのも無理無いか。

 

「やったー」

 

 抱きついてきた奏を受け止める、少し細くて華奢な身体、ん……奏、育った? 

 

「ちょっ、奏ったら大げさだなぁ」

 

 色んな思いを意識の奥に追いやり、喜んでいる奏を見て私も嬉しくなる、こうなったら絶対合格貰わなきゃ、ここで決めなきゃ女がすたる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度家に帰り、準備をして響の家に向かっていると、見慣れた背中を見つけ声をかける。

 

「こんにちは八雲さん、買い物帰りですか」

 

 私の声で振りむいた八雲さんは、いつもの安心させてくれる笑顔を向けてくれた。

 

「こんにちは奏ちゃん、うん、買い物帰りだよ。奏ちゃんはどうしたのこんな所で」

 

 そう言って八雲さんは手に持った買い物袋を軽く持ち上げる。

 

「私は明日響と一緒に出る音楽自慢大会の練習に、響の家に行く途中です」

 

 私の話を聞いて感心する八雲さん、でも、何かを考えだしたみたい。

 

「そんな大会あったんだ」

 

「昨日、決まったみたいですよ」

 

 私の答えに驚く八雲さん、そうだよね、私も驚いているもの。

 

「絶対合格しますから、八雲さんも良かったら時計塔広場に来てください」

 

「大会楽しんでね、時間が上手く合えば是非行かせて貰うよ」

 

 八雲さんが話しながら何かに気が付いたみたいで私に近づいて顔に手を伸ばしてくる、八雲さんの銀色の瞳に見られ胸が苦しくなって呼吸が浅くなる、どうしよう頬が熱い。

 

 八雲さんの手が私の髪の毛に触れる。あの日、八雲さんが私の髪の毛にキスをしてくれた事を思い出して恥ずかしくて思わず目を瞑る。

 

「桜の花ももう、終わるね……さっき髪飾りみたいだったけれど流石にね」

 

 八雲さんの言葉に恐る恐る目を開けると、摘ままれている一輪の桜、思わず手を出して貰ってしまう。

 

「八雲さんは大会に出ないんですか? あの大きい太鼓を叩いている時すごかったですよ」

 

 恥ずかしさを誤魔化す為に思わず早口で尋ねる。

 

「そう、ありがとう。でも、俺のは音撃の為だし、人に聴いて貰うって訳じゃないからね」

 

「また、練習にお邪魔しても良いですか」

 

 八雲さんの太鼓もっと聴いてみたいな、思わず上目遣いで見てしまう。

 

「良いよ、何時でもおいで待ってるからね」

 

「ありがとう八雲さん、必ず行きますね」




お読み頂いたありがとうございます。
コメントやここすきをありがとうです。
まともな言葉も出来ません、皆様に心より感謝申し上げます。


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八雲の懸念

今日、スイートプリキュア♪の2月6日で10周年記念日になります。
この一年を使って「鬼人の組曲」を完成させるつもりでした。
完成させる事は出来ませんが、あるだけの原稿は時間かかりますが出します、良ければ付き合って頂ければ幸せです。

皆様が健康でありますように。
水無月 双葉


 今日、先生は急用が出来てしまい、パイプオルガンの作業が終わってしまったので、念の為あるところに確認をしたのだが……

 

「そうですか……お忙しい時間に申し訳ありませんでした、それでは失礼致します」

 

 電話を切って深い溜め息を吐く。

 

「やっぱり、そうだよな……」

 

「何がやっぱりなのよ」

 

 少し離れた所からアコちゃんに声をかけられる、どうやら俺が電話をしていたので離れて待っていてくれたらしい。

 

「音楽自慢大会の話」

 

「明日のヤツね、それがどうかしたの」

 

 アコちゃんが、近づきながら首を傾げる。

 

「今ね、大会事務局に確認したら、加音町での大会の予定は今の所無いって言われた」

 

「え? じゃ明日の大会は……もしかして!」

 

「十中八九、マイナーランドの罠だ」

 

 目線を外し何かを考えてるアコちゃん。

 

「八雲、私、明日は……」

 

 途中で言い淀むアコちゃんの頭に手を置く。

 

「大丈夫、明日からの戦いは出来るだけ俺も一緒いる、だから安心して、俺は近くの屋上から監視をするつもりだ、響ちゃん達も参加するからね見つからない方が良い」

 

「わかった、私は広場を歩いて見る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、すごい人」

 

 会場の広場についた私は大会の熱気でテンションが上がっていた、助っ人で沢山の大会に出ているけれど、何時味わっても開始前のこの雰囲気は大好きだ。

 

「みんな、出場するんだね、さすが音楽の街加音町」

 

 奏とハミィも大会の熱気に当てられ興奮している、出場者を見渡すとかなり知っている人たちがいる。

 

「王子先輩達も出るんだ、うわっ、三丁目のおじさん達も居る、あの人達プロ並みに上手いのに」

 

 スポーツの大会なら闘志が高ぶるけど、ピアノはまだそれだけの意識が持てない。

 

「私達じゃ無理かも……」

 

「人は人、誰かと比べるんじゃなくて私達なりにベストを尽くして良い演奏をしようよ、八雲さんも大会を楽しみなって言ってたよ」

 

 私の弱い心を奏が救ってくれる、そんな奏の思いが嬉しい。

 

 子供達が集まっている集団が賑やかなので、つい目を向けるとその中心には、良く知った人物が居た。

 

「聖歌先輩!」

 

 声を掛けながら奏と近づくと、聖歌先輩はこちらを振り向く。

 

「あら、南野さん、北条さん、おはよう」

 

「「おはようございます」」

 

「何してるんですか?」

 

「作ったお菓子を街の皆さんに食べて貰おうと思って」

 

 差し出された籐の籠には、袋詰めにされた可愛らしいクッキーが所狭しと並べられており、甘いに香りを漂わせ奏と一緒に覗きこむ。

 

「一人で作ったんですか、おいしそう」

 

「えぇ、良い音楽を聴くのも楽しいけど、美味しいお菓子があればもっと幸せな気分になれるでしょう」

 

「同感です!」

 

 思い出のレコードを聴きながら食べた奏のカップケーキに八雲兄のハーブティー、最高だった。

 

「街の人たちの為に……流石スイーツ姫」

 

「貴女達も出場するの」

 

「「はい」」

 

 奏の呟く様な声からの嬉しそうな声、勢いで聖歌先輩のあだ名で呼んでいるけど聖歌先輩は気にした様子も無い。

 

「良い演奏を期待しているわ、はい」

 

 差し出された籠のクッキーを一袋貰う、本当に美味しそうで食べるのが楽しみ。

 

「「ありがとうございます」」

 

 奏と顔を見合わせ笑う。聖歌先輩はまた近くに人達にお菓子を配り始め、その姿を見て私は心が軽くなっている事に気が付き、良い演奏が出来ると気合が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、なぁ、アコ出ようぜ」

 

「出ない」

 

「えー、何でだよう、一緒に出ようぜ」

 

「出ない」

 

 奏太のしつこい誘いに少しイラつく、こんな事なら八雲と屋上で見張って居れば良かった。このやり取りももう五回目だ、いい加減にして欲しい。

 

「奏太、アコちゃん」

 

 掛けられる声に振り向く、本当なら知らない振りをして行ってしまいたいが、響と奏の二人が立っているのでそうもいかない、溜め息が漏れそうになる。

 

「姉ちゃん達」

 

 しょうがないので奏太と一緒に近づく。

 

「お、たて笛を持っているて事は奏太も出るの?」

 

「うん、クラスのみんなでたて笛の合奏やるんだ、でも、アコは出ないって言うんだ」

 

「クラス皆でやるんなら、アコちゃんも出た方が良いんじゃない」

 

「自由参加なの」

 

 奏太も響うるさい、そんな暇ないの少し黙ってて欲しい。

 

「めんどくさいから私はパス」

 

「アコちゃんは音楽が嫌いじゃないんでしょう、上手く出来なくても一生懸命やる事が大事なのよ」

 

 奏の何も分かっていない言葉に流石に限界。

 

「口うるさ、そう言うアンタ達は出る訳」

 

「うん、二人でピアノ弾くんだ」

 

 響の嬉しそうな声と隣で笑っている奏……でも、ピアノって……? 

 

「ピアノ? 何処にあるの」

 

 周りを見渡すけど、ピアノなんて何処にも無い、どうやって演奏する気なんだろう。

 

「「え、あー」」

 

「「ピアノが無い……」」

 

 まさかこの二人ピアノ用意していないの、どうする気よまったく。

 

「えぇ、姉ちゃん達ピアノが無くってどうするんだよ」

 

「「どうしよう……」」

 

 驚く奏太に戸惑う二人、馬鹿みたい、溜め息が出そう。

 

「響!」

 

 響を呼ぶ大きな声、公衆の真ん中で止めて欲しい。

 

「和音、どうしたの」

 

「二人を探している人がいたから連れてきたの」

 

 二人と同じ学校の制服を着た和音と呼ばれた人、その後ろには初老の男性。

 

「もしかしてピアノが無くてお困りかな」

 

「どうしてそれを……」

 

「はい、ピアノの準備忘れてしまって」

 

「うちのピアノを使いなさい」

 

 二人の戸惑いを見ていると、どうやら知り合いじゃないみたい。

 

「え、でも……」

 

「木野君に頼まれているんだよ、君達がピアノの準備をして無かったら力を貸して欲しいとな」

 

 八雲何考えているの?! 自分で罠だって言ってたくせに……ピアノの手配とか信じられない。

 

「八雲兄が?」

 

「八雲さん……」

 

 さっきまで八の字眉だったくせにもうニコニコしちゃって、我慢していた大きな溜め息が漏れる。

 

「付き合ってられない、奏太、私用事があるから参加出来ないって伝えておいて」

 

 奏太の淋しそうな顔に胸がチクリと痛む、でも、今の私に音楽を楽しんでいる時間は無いの、奥歯を噛み締めると私はその場を後にした。




お読み頂いたありがとうございます。


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女神と従者

お久しぶりです。
今回も病気の前に書いたものですが、直して無い物ですがよろしくお願いします。
お読み頂いたら嬉しくて思います。

トロピカルージュプリキュアが始まりました。
ローラはずっと人魚状態なんでしょうか……気になります。


「アコちゃん、ご苦労様」

 

「ん、ちょっと疲れた」

 

 大きな溜め息を吐くアコちゃんに、ペットボトルのお茶を渡す。

 

「俺が下を見るべきだったな、ごめんな」

 

「良いよ別に、八雲じゃあの二人から逃げ辛いでしょ」

 

 そう言うと、小さい喉を鳴らしながらお茶を勢いよく飲むアコちゃん。

 

「まぁ、そうなんだけれどね……」

 

 下に目を向けると、ついにトリオ・ザ・マイナー達が行動を開始する。時計に併設されている人形の音楽隊に不幸の音を浴びせ女性の持っていたシンバルをネガトーンに変える。

 

「アコちゃん」

 

 下を指さしアコちゃんを呼ぶ、手摺まで来たアコちゃんと一緒に二人の戦いを見守る事にした。

 

 最初は互角と思われた戦いだが、正面に敵に気を取られ過ぎて後ろから攻撃を受けるメロディ、防戦一方のリズムはなすすべも無く吹き飛ばされる。

 

 メロディ達の心は折れずにコンビネーショで戦うが、ネガトーンの方が上手で攻撃を受けてしまう、何とか起き上がった二人は果敢に攻撃をした。

 

「打点をずらされた……今の攻撃は効いて無いぞ」

 

 案の定ネガトーンにつかまり、振り回され投げ飛ばされる、二人の悲鳴が耳に入り奥歯を噛み締める。

 

「八雲……」

 

 アコちゃんは不安そうな顔をしながらも『キュアモジューレ』握り頷いてくる、俺も二人には話していない『変身鬼笛・音笛』を取りだし二人揃って変身をすると、ミューズが用意していた黒いコスチュームを纏い俺の全身を見渡す。

 

「似ているけど違うのね、顔もちゃんと隠すんだ」

 

「あぁ、この姿はツノが3本だし、今のミューズと同じ黒系ベースでさし色が青だからな声さえ出さなければ、ばれないよ」

 

 ミューズはまだ納得がいかない様でだ、仕方ないのでもう一度声を掛ける。

 

「信用しろとは言わない、だが信頼はして欲しい」

 

「本当に良いの? あの二人を裏切る事になるんだよ……」

 

 不安そうに聞いてくる、俺は信じて欲しくはっきりと言い切る事にした。

 

「構わないと話しはしただろう、気にするなミューズ、もう決めた事だ、それに俺はお前の味方だ、それは信じろ」

 

「……ありがとう。どうする一緒に戦う?」

 

「いや、急増のコンビネーションじゃ危険だ、抜群のコンビネーションのメロディとリズムが既に破れている、俺が一対一に持ち込むから別れて戦おう、その方が得策だ」

 

 俺の提案にうなずくミューズ、やはり初めての戦闘のせいか幾分緊張をしている。

 

「絶対に合流はさせないし、ミューズ危なくなったら助けるから気を楽にして行け、それにドドリーも居る、ドドリー、この作戦の要は君だ、大変だろうがミューズの為に頑張ってくれ」

 

「分かってるドド」

 

 ミューズがドドリーに目を向けると、ドドリーは任せておけとばかりに自分の胸を叩く。

 

「では、行こう」

 

 三人でうなずき合い屋上から飛び出し広場のモニュメントの上に着地し、ミューズがモジューレを構え俺はそれに合わせ音撃管を構えた。俺達三人の戦闘がついに始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おかしい、攻撃が決まらない、当たらなくはないが手ごたえが無さ過ぎる、翻弄され続ける私とリズム。

 

 このままじゃいけない、ハミィの心配する声が聞こえる、私ってこんなに弱かったの……獣鬼。この場に居ない仲間の思う、リズムの少し怯えた顔、私が支えなきゃ、でも、体が言う事を聞いてくれない。

 

 バスドラの命令に従い迫ってくるネガトーン、私は恐怖に負けて目をつぶってしまった。

 

 八雲兄助けて…………

 

 聞こえてくる美しい笛の音、ネガトーンの気配が止まる、恐る恐る目を開けるとリズムと顔を見合わせた。

 

 続いて聞こえるのは勇ましい管楽器の音色、笛の音色で落ち着いた心が管楽器によって奮い立たせて貰える。

 

 更には笛と管楽器の合奏、体に力がみなぎる気がしてきた。

 

「上ニャ!」

 

 ハミィが叫び上を見上げると広場の中央に置かれたモニュメントの上に二人の人物が立っていた。

 

 一人は女性、黒にも見える深い紫色のスーツに同じ色のマントに仮面、私達と同じ『キュアモジューレ』を持っている、隣の男性らしき人物を見た時呼吸が止まりそうになる。

 

「獣鬼……?」

 

 リズムの呟きに落ち着いてもう一度観察する、スーツの色は黒、仮面も黒、仮面の縁取りは青、今は顔を出しているけれど昔かぶっていた獣鬼の仮面は赤い縁取りだったはず、それにスーツの色も獣鬼はもっと複雑だ、物凄く濃い紫で光加減で緑にも見える不思議なスーツの色、それに最大の違いは獣鬼はツノが二本だけれど謎の鬼はツノが三本持っていた。

 

「獣鬼じゃ……八雲兄じゃないよ……」

 

 震える声でリズムに話す。

 

「誰だが知らんが邪魔はさせん! ネガトーンやれぇい!」

 

 飛び出したネガトーンと同時にふたつの破裂音、左右に飛んで行くネガトーン、謎の鬼人の攻撃でネガトーンはいきなり分断された。

 

 私達が出来なかった一対一に簡単に持ち込んで戦い始めた。黒衣の女性が戦い始めると、鬼人は動かずモニュメントの上から正確無比な射撃を繰り出しネガトーンを圧倒する、その立ち姿に凄さと恐怖を覚える。

 

 黒衣の女性の戦い方も圧巻だった、ネガトーンの攻撃をいとも簡単に躱しカウンターの蹴りを入れ、間合いを調整し反撃の隙を与えない、まるで踊っているようだった。

 

「早い……」

 

「それだけじゃないわ、なんてリズミカルな動き」

 

 リズムと目で追っていると私達との違いが凄く分かる、ひとつひとつの動作に無駄が無い、次の攻撃の為の隙のない動き……今の私には悔しいけれど真似出来ない。

 

「ネガトーンの動きのリズムを完全に読んでるニャ!」

 

 ハミィも感嘆の声を上げる、鬼人の戦いも圧倒的だ、何時に間にか銃を仕舞い接近戦をしているが獣鬼の様に足を止めずに滑る様に動いている、ネガトーンの攻撃を受け流し面白い様に投げ飛ばし続けていた、しかも必ず離れる様に投げていて思わず声が漏れる。

 

「戦いながら距離を開けているの……」

 

「何て綺麗な投げ」

 

 リズムの言う通りだ。ネガトーンと接触した瞬間には投げ飛ばしているんだ、でも良く見ると打撃もしっかりも入れている、この人も強い。

 

 黒衣の女性が、バスドラにネガトーンを誘導しぶつけて倒すと、更に鬼人が投げ飛ばしたネガトーンもバスドラの上に落ちてもんどり打つ。

 

 ネガトーンとバスドラが離れた瞬間に、黒衣の女性が腕を振るうと虹色の鍵盤が現れ、女性の演奏に合わせ鍵盤が飛んで行きネガトーンが鍵盤で出来た球体に封印される。

 

「凄い……」

 

 呟いた私に鬼人が一瞬視線を送って来るが、即座にトランペットを模した銃のピストンバルブを手早く操作し構えると、黒衣の女性がそれに合わせ腕を振るい球体を解除し、それと同時に連続で打たれた赤い弾丸がネガトーンを捕え動きを封じる、鬼人はベルトから何かを取りだし銃に付けると出来あがったのはトランペットだった。

 

 勇ましく吹き鳴らされるトランペットの旋律、ネガトーンが鬼人の発した音に包まれると音符についていた不幸の音を浄化させていく、最後に力強くづ吹き鳴らすとネガトーンが完全に浄化され音符も元に戻り、鬼人がジャンプして空中に手を伸ばし音符を掴まえ着地する。

 

「貴方達は一体……」

 

 リズムが問いかけるが二人は何も答えずに、鬼人が私に向かって何かを投げつけてくる、慌ててキャッチしたそれは、鬼人が浄化した音符だった。

 

「音符……」

 

 手の中の音符を確認し、顔を上げるとそこに立っていた二人は居なくなっており慌てて捜すと、リズムがモニュメントを見上げ小さな声を上げる。

 

 モニュメントに視線を向けると、上に佇んでいる二人を見つけ見上げる、その脇に現れる紫色のフェアリートーン見たいのが飛んでいた。




お読み頂いたありがとうございます。

黒の女神の次の話で八雲の説明します。
名前は次の話で出ます、よろしくお願いします。
文章が読み辛いと思いますが本当に申し訳ありません。


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嵐の後は

皆様お久しぶりです。
相変わらず言葉も会話も厳しいですが、なんとか生きてます。

今日3月20日に「ヒーリングっどプリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!」がはじまりました(タイトル長いですね)プリキュア5が出てびっくりしました。

映画見て来ました。失語症でも話も分かりやすくてホッとしました。
シンエヴァは「見た」と言うだけでした、プリキュアは楽しめました。
ありがとうプリキュア!

27日からは副音声ボイスドラマも聞きに行きたいですが、少し心配です。

長々失礼しました。
続きをお読み頂きましたら幸せならです。


「フェアリートーンニャ……」

 

 ハミィの呟きは驚きに溢れていた。

 

「フェアリートーンが居るって事は、あの子もプリキュア?」

 

「じゃあ、隣の鬼人は……?」

 

 リズムと私の疑問に答えたのは紫色のフェアリートーンだった。

 

「キュアミューズと矛兜鬼ドド」

 

「ムツキ……」

 

「キュアミューズ……」

 

 リズムと同時に呟く、やっぱり獣鬼、八雲兄とは別の鬼人なの? ミューズ? 一体どうなっているの。

 

「おのれー! 良くも俺様の作戦を!」

 

 地団駄を踏みながらバスドラが騒いでいる、リズムと一緒に身構えるが、バスドラは負け惜しみを叫ぶと逃げて行った。

 

「ありがとう、キュアミューズ、ムツキ!」

 

「おかげで助かったわ」

 

「別に助けた訳じゃないドド」

 

 私達の言葉を正面から否定するフェアリートーンに驚きを隠せない。

 

「お前達はネガトーンに倒されていたドド、それでもプリキュアかドド」

 

「ミューズもプリキュアニャ、ムツキは八雲と同じ鬼人ニャ、ハミィ達の味方ニャ」

 

 こういう状況でのハミィのマイペースはありがたい、私達が口にし辛い疑問をいとも簡単に聞いてくれる。

 

「誰の味方でもないドド」

 

 否定。その言葉が終わるや否や二人は風の様に去って行ってしまう。

 

「私達のほかにプリキュア、八雲兄以外の鬼人……」

 

「キュアミューズ、ムツキあの2人は一体……」

 

 私達の疑問に答えてくれる人は居なく、後味の悪い沈黙だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変身を解いた私は、ピアノの側でやるせない気持ちを抱えていた。正体不明のプリキュアに謎の鬼人、嘘の大会……

 

 閉じられた鍵盤蓋を指先でなぞると溜め息が漏れる、八雲兄がわざわざ用意してくれたのに……

 

「響……」

 

 奏が私の肩に手を添えて心配そうな雰囲気で見つめてくる、私は奏の方を振り向き笑おうとしたけど、上手く笑えなかった。

 

「南野さん、北条さん」

 

 後ろから掛けられた声に私と奏は振り返る、柔らかい笑顔で立って居たのは。

 

「聖歌先輩……」

 

「和音」

 

 微笑んでいる聖歌先輩の後ろで、和音がニッと笑いながら手を振っていた。

 

「どうしたんですか? 聖歌先輩、それに和音も……?」

 

「『音楽自慢大会』は残念ながら何かの間違いだったらしいわね……そこで二人にお願いがあるの、楽器が有って演奏者が居るのならやる事は一つじゃないのかしら」

 

 たぶん私と奏は、間の抜けた表情で微笑んでいる聖歌先輩を見ていたと思う。

 

「もう、二人とも分からないの? 聖歌先輩はみんなで演奏しようって言っているんだよ」

 

 返事の出来なかった、私と奏に対して和音が笑いながら手に持っていたパンデイロを軽く叩くと、軽やかな音が辺りを包む。

 

「皆でセッションもきっと楽しいよ」

 

 また、後ろから掛けられた声に慌てて振り返ると、王子先輩が楽器を手に仲間と共に笑っていた。

 

「今日、僕はヴァイオリンを弾くつもりなんだ、だから二人がピアノを弾いてくれてば嬉しいな」

 

 にこやかに笑う王子先輩に頷いている音楽隊の面々、隣でポカンとしている奏がちょっと面白い。

 

「合奏……ですか……」

 

 小さく呟き王子先輩を見ると頷かれ、和音はパンデイロを小さく振っていて楽しそうだ、聖歌先輩が私の手を握ると一心に見つめてくる。

 

「聖歌先輩?」

 

「もしよろしければ、お二人のピアノで是非歌ってみたいわ」

 

 聖歌先輩の歌……滅多に聞けないが、学校でもトップクラスと言われていて、去年の発表会ではソロの女子部門で優勝を飾っていた筈だ。

 

「わ、私の、ピアノで、よけれ……ば……」

 

 驚きのあまりひり付いた喉から出た言葉は、つっかえつっかえでしかも少し裏返っていて恥ずかしい。

 

「ありがとう、南野さん、北条さん嬉しいわ、では皆さん、準備はよろしいですか?」

 

 聖歌先輩の一言で王子先輩達が楽器を構え、奏が慌てて私の隣に座る、皆を一度見渡した聖歌先輩が大きく頷くと、和音がパンデイロを頭上に掲げた。

 

 和音がパンデイロを大きく鳴らしリズムを取りだす、チラリと奏を見入ると奏も丁度私を見てくる、頷き合い私と奏は鍵盤を叩くと、王子先輩たちもタイミングを合わせ演奏を開始する。

 

 会場に戻って来た人達の視線が集まる中、両手を広げ聖歌先輩が美しい声で歌い出す、私達アリア学園生徒による小さな小さな音楽会(コンサート)が始まった。




 第10話終了となります、お読み頂きありがとうございます。

文章が読み辛いと思いますがよろしくお願いします。

①後書きです。
八雲の話です、名前出ましたが矛兜鬼と書きます、威吹鬼っぽくにしました。
矛兜鬼の理由ですがミューズの声優の大久保さんのやったキャラからです、アズールレーンか睦月からです。

響ちゃん達は炎しか気が付いてないです、理由としてオールスターズでは直後八雲が居なくなったので、みんなは話が出来ませんでした。
それとひかりちゃんは響ちゃんが知っていると勘違いしています。ひかりちゃんとうららちゃんとの話は小さな声で話をしてました、更に八雲が戻って来たので心が一杯になってます。
分かりづらくてすみません。

②当時書いた後書きです、よろしくお願いします。

 聖歌先輩の歌と和音の使用楽器は本作のオリジナル設定となります、加音町の住人ならこう言う状況でも前向きに演奏をするのではないかなと思います。
 遂に黒ミューズの登場となりました、しかも八雲がミューズ側に着くと言うこの状況です。

ありがとうございました。


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閑話 黒い女神に至る道
八雲と音吉


皆様お久しぶりです。
お読み頂きありがとうございます。
皆様の力で元気を貰ってます、いつもありがとうございました。


 響ちゃんと初めて会った次の日に、時間はさかのぼる。

 

 

 

「ありがとうございました、またのご来店お待ちしております」

 

 軽やかな奏ちゃんの声に送り出され目的の家に向かう、歩きながらも何処から話そうか、どうやったら信じて貰えるかとばかり考えていたら、目的地に着いてしまい手に持ったラッキースプーンの箱に視線を落とし溜め息を吐いた。

 

 一度深呼吸をし、肺の中の空気を入れ換え呼び鈴を押す、建物の奥からパタパタと走る軽い音が聞こえ、ガチャリとドアが開けられ顔を出した女の子の明るい茶色のボブカットがふわりと揺れた。

 

「どちら様ですか?」

 

 一言で言うなら、不審者。向けられた視線は如実に語っており、俺は少し後悔を始めていた。

 

「調辺音吉さんのお宅でお間違えありませんか?」

 

「………………そうですけど」

 

 向けられたいた視線は更にきつくなってしまう、心の中で友好的じゃ無かったのか? などど鬼姫を少し恨みながら出来るだけ笑顔を作る。

 

「最近引っ越して来ました、調律師の木野八雲と言います、調べの館の奇跡のパイプオルガンの件でご相談したい事が有るとお伝え下さい」

 

 上から下までジロリと見られ小さく「分かりました」と呟くとドアを閉められた、閉じられたドアを見ながら小さく息を吐く。

 

「これからだ、しっかりやれ」

 

 気合を入れる為小さく呟くと同時に、ドアが再度開けられた。

 

「……中にどうぞ」

 

 迎え入れてくれた時にラッキースプーンのカップケーキを渡すと軽く会釈されるが、明らかに警戒されており全身からピリピリとした気配を発しながら、案内されたのは少し重厚な造りのドアの前だった。

 

 案内してくれた女の子がノックをしドアを開けてくれると、無言で見つめられ出かけた溜め息を飲み込むと、部屋に足を進める。

 

「すみません、失礼します」

 

 通された部屋は書斎。中央に置かれたソファーに座っていた初老の男性は立ちあがると、少し険しい顔をして迎えてくれた。

 

「初めまして、最近越してきました調律を生業としている木野八雲と申します」

 

「初めましてじゃな、調辺音吉じゃ、して何の用かな?」

 

 何と言い出せば良いか思わず目が泳ぐと、音吉さんから咳払いが入った。

 

「まずは……俺、いや、自分は敵では有りません、それは信じて下さい」

 

 音吉さんに目を向けると、こちらを品定めしている様な視線を向けてくる、俺は膝の上の手に少し力を入れると少し身を乗り出した。

 

「自分は、やんごとなきお方からこの世界で戦う様に言われ別の世界から来ました、元世界については、今はお話する事が出来ません…………」

 

「戦う? 何故その様な事を話すのかな?」

 

 音吉さんの表情は変わらない、後頭部を何度か掻く。

 

「すみません、何処から話せばいいのか自分でも良く分からないので、知っている話をします、聞いて下さいますか?」

 

「分かった、好きにしなさい」

 

 音吉さんの言葉を聞いて、少しだけ気が楽になった気がした。

 

「戦う相手は、この世界に繋がる別の世界で生まれ、一度は封印されし存在、しかし復活の時期が迫っています、その敵の名は…………『ノイズ』」

 

「おぬし、何処でその名を」

 

 少し腰を浮かせた音吉さんに、曖昧に笑って見せ視線を外す。

 

「それだけじゃありません、伝説の戦士が近々蘇ります、自分は戦士達と共に戦う為にこの世界に来ました……それと、どれだけ力に成るか分りませんが、自分にも調べの館のパイプオルガンの修理を手伝わせて下さい」

 

 俺はそれだけ言うと頭を下げた、時間にしたら数秒、体感が数分経ったぐらいで音吉さんの溜め息が聞こえた。

 

「取りあえず頭を上げなさい」

 

 一瞬躊躇うが、ゆっくりと頭を上げると音吉さんと目が合う。

 

「他に知っている事が有れば、話さない」

 

「はい、自分は音吉さんの正体を知っております、メイジャーランドの元国王にて『ノイズ』を封印した方、と言う事は存じておりますし、一緒に住んでいるお嬢さんが、メイジャーランドの姫君なのも知っています、情報源は自分をこちらに送ってくれた方です」

 

 多少の嘘は混じるが、この際は仕方がないと諦め音吉さんの顔色を伺うが、正直何を考えているのかは分からない。

 

「伝説の戦士の名は知っておるのかな?」

 

「伝説の戦士プリキュア、目覚める戦士の名はキュアメロディ、キュアリズムです、適格者は北条団まりあ夫妻の一人娘北条響さんと、ラッキースプーンの看板娘の南野奏さんです、俺個人として二人とは知り合いにはなっています」

 

 一瞬話し過ぎたかと後悔し、音吉さんを見ると目を瞑り何かを考えていた。

 

「後、もうひとつ重要な事があります、自分は人ではありません、鬼です、正確には鬼人になります」

 

 言うだけ言ってポケットに無造作に入れておいた『音角』『音笛』『音錠』を机の上に置くと、音吉さんは片目だけ開け『音角』達を確認し小さく溜め息を吐く。

 

「分かった信じよう、お前さんが自分の正体をちゃんと明かしたのでな、でじゃ、お前さんの腕が見たい近々調べの館に来て欲しい」

 

『音角』達を俺の方に差し戻しながら小さく笑う。

 

「信じて頂けて良かったです。ひとつ、肩の荷が下りました」

 

 頭を下げた俺に音吉さんが声を上げて笑い、俺も釣られ笑いながら全身の力が抜ける気がした。




今回もお付き合い頂きありがとうございます。



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アコのデザイア

皆様お久しぶりです。
久しぶりに組曲の更新です。

今日はレインボーフレーバー24ですね。
会場に着いてますか、既に会場ですか?
サークル参加の方も一般参加の方も楽しんで下さい。

皆様の今日一日で佳き一日でありますように。

飲酒のシーンがありますが、飲酒を助長するものではありません。
お酒は20歳になってから。


 響ちゃんと奏ちゃんがプリキュアになる数日前の事。

 

 

「もう、おじいちゃんも八雲も飲みすぎ! 二人で二本もウイスキー空けちゃうって信じられない!」

 

 その日、パイプオルガンの修理をした帰りに先生に食事に誘われ、軽く一杯とソファーに移動し呑み出したのだが……

 

「おじいちゃん、寝るなら自分の部屋で寝てよ」

 

 アコちゃんが先生の手を引っ張るが、先生はそんなアコちゃんの頭を撫でまくっていた、その微笑ましい光景を見ながらグラスに残っていたウイスキーを傾けていたら、アコちゃんが睨みながら悲痛な声を上げた。

 

「八雲、助けて」

 

 既に先生は眠っており、アコちゃんがいくら引っ張っても起きようとしない、残っていたウイスキーを一気にあおり、先生を起こさない様にアコちゃんに手伝って貰いながら、先生を寝室に連れて行った。

 

 先生をベットに寝かしつけ、その間にアコちゃんはサイドテーブルに水を用意し、そっと扉を閉めダイニングに戻った。

 

「先生があんなに酔うのって珍しいね」

 

「はじめてよ、あんな酔い方」

 

 お互いテーブルを片付けながら話すと、アコちゃんは溜め息を吐く。

 

「先生の気分転換になったいたら良いんだけどね」

 

「だとしても飲みすぎ」

 

 俺が洗った食器を拭きながらアコちゃんは呆れた声を出していた。

 

「楽しいお酒だったと信じたいね」

 

「八雲はどうなの?」

 

 伺う様な低い声、俺は手を拭いてからアコちゃんに体ごと向き直る。

 

「楽しかったよ、多分こんなにリラックスしてお酒を飲むのはしばらく出来ないと思うからね」

 

 俺の言いたい事が分かったのだろう、アコちゃんは目を伏せながら俯いた。

 

「アコちゃん、戦う時は俺に一言声を掛けて欲しい」

 

 アコちゃんが凄い勢いで俺を睨みつけて来る。

 

「八雲?」

 

「ごめん、知っているんだアコちゃん、いや、プリンセス・アコ、貴女がキュアミューズだって事を……」

 

 アコちゃんの眼光が鋭くなり、俺に対して間合いを開けようと体重を移動しだす。

 

「先生の事も知っているし、先生もそれをご存じだ、でも、安心してミューズの話はしていない」

 

「何で? どうして?」

 

「この話は俺からするべきじゃない、アコちゃんからするべきだと思っている、だから話はしていない」

 

 緊張状態だったアコちゃんから力が抜けたのを感じ少し安堵する。

 

「戦うなら一人より二人が良いさ、でね、そろそろ新しいプリキュアが生まれると思う。俺は彼女達と戦う、でも、アコちゃんがミューズとして戦場に立つのなら俺が隣に立つよ」

 

「まだ、どうして良いのか分らないよ、だからしばらくは様子を見る」

 

 体の後ろで手を組みながらアコちゃんは絞り出すように答えた、俺はアコちゃんの前にしゃがみ目線を揃えしっかりと目を合わせた。

 

「アコちゃんとアコちゃんの大切な物は俺が守る、必ず守る、約束するよ」

 

 アコちゃんの瞳が一瞬揺らぐと、目線を外す。

 

「八雲、ありがとう」

 

「うん、まかせて」

 

 俺とアコちゃんの大切な約束。だがこの約束がのちのち俺の葛藤に繋がって行く事になるのを、俺は知らない。

 

 そして、俺は敵と戦うという事とかが理解がなく、響ちゃんと奏ちゃんをこの時は戦う事が理解して判っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少しさかのぼる、それはセイレーンの足が治り去って数日後の事である。

 

 

 その日の夕方、珍しい客人が訪ねてきた。

 

 インターフォンから画面を見ても姿が見えず訝しみながらも玄関を開けると、影に隠れるようにアコちゃんが立っていた。

 

「いらっしゃいアコちゃん、中にどうぞ」

 

 アコちゃんは頷くと何も言わずに俺の後についてくる、ソファーに座らせてから、飲み物の用意をする為にキッチンに入り紅茶の用意をしつつ顔色を伺う、とうつむき下唇を噛み締めていた。

 

「どうぞ、アコちゃん」

 

 言葉と共にアコちゃんの前に紅茶とクッキーを置き斜め前に座る、アコちゃんを促す為にまず自分で一口飲み勧めると、アコちゃんはひと口紅茶を飲むがまた俯いてしまい、何も喋ろうとしない。

 

「アコちゃんは戻されたのかな?」

 

 俺の言葉に、アコちゃんはバネ仕掛けの様に顔を上げ俺を睨みつけてくる。

 

「どうしてその事を……? 何を知っているの?」

 

 アコちゃんの鋭い視線を受けながら紅茶を一口飲み話しだす。

 

「少し長くなるが、この間………………」

 

 話し終わった俺の顔を見ながら大きな溜め息を吐くアコちゃん。

 

「信じらんない……八雲! アンタ何処まで馬鹿なのよ! もう少しで死んじゃう所だったのよ! どうりであの二人がいっつも死にそうな顔をしていた訳よ!」

 

 チラリと聞かされた響ちゃん達の様子に胸が痛むが、怒鳴り散らしているアコちゃんを手で制する。

 

「心配してくれてありがとう、で、アコちゃんはどうだったんだい?」

 

「私はおじいちゃんが何とかしてくれたけど、ドドリーが消えて心配した……」

 

 机の上でクッキーを食べているドドリーに目を向け、またアコちゃんに目を向けるとやはり思いつめている様だ。

 

「それでね、戻って来た時にドドリーがおかしなことを言ったの、今までにないほどのハーモニーパワーを感じたって……」

 

 思い浮かべるのはブラックホールとの一戦、俺が落とされた後の話を響ちゃんに色々教えて貰い考えさせられた話。

 

「別におかしい話じゃないよ、プリズムフラワーの影響で一気に潜在能力が覚醒したのだろうな、俺から見ても彼女達は格段に力を付けているんだ、ただまだその力の使い方に気が付いていないし、生かせてもいない」

 

 紅茶を一口含み喉を湿らせる、アコちゃんは眉間に深いしわを作り何かを考えている。

 

「まあ、この間戦った時はまだ残念だが引き出せていない、何か切っ掛けが必要だろうね……敵の攻撃も厳しくなっている覚醒は必須だろう」

 

「八雲はどうするつもりなのよ」

 

 アコちゃんの真剣な眼差しを受け少し考えを話す事にした。

 

「俺の存在が成長の妨げになっている可能性がある、付かず離れずだな、当分はどうしたってこちらが音符を大量に集めるか、お互いに集まらない状況を作り上げ、痺れを切らさせて誘き出さないと話にも成らないからな」

 

「私も戦う……」

 

 小さく呟かれたアコちゃんの声に、ついに来たかと覚悟する。

 

「分かった止めはしない、だが、俺もアコちゃんと一緒に戦う」

 

「八雲はメロディ達と一緒に戦っているじゃない! 私は助けるまで正体を明かす気なんてないのよ! 八雲が居たらばれるじゃないの!」

 

 怒鳴り散らすアコちゃんにデコピンをし黙らせる、おでこを押さえて涙目のアコちゃんに優しく話す。

 

「忘れたのかい、俺は何があってもアコちゃんの味方だって話しただろう、それに戦場に立つのなら俺が隣に立つとも約束したよね」

 

 どうしたらアコちゃんは納得するのだろうと思いながら後頭部を掻く。

 

「俺の正体を隠す方法はあるから安心して、後な……」

 

 小さく息を吸い大きく吐く、アコちゃんを正面から見直す。

 

「たとえ彼女達を裏切る事になったとしても、俺はアコちゃんの味方をする」

 

 猛烈な痛みが胸を襲う、俺はその痛みを抑え込む様に腕を組み、出来るだけ不敵に笑って見せるのが限界だった…………




お読みお頂きありがとうございます。
当時書いておいてあった後書きです。

 プロローグ期間とオールスターズ直後の語られなかったお話しと成りました、音吉さんとアコちゃんとの関係。

 プリキュアの世界に来たばかりで、まだ地に足が着いて居なかった時に交わされた約束、その重さに今更ながら気が付いた八雲です。


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第11話 ミューズと矛兜鬼
八雲の相談、響と奏の疑問


皆様お久しぶりです。
お読み頂きありがとうございます。


 八雲兄から連絡があって、私と奏は八雲兄の家に行くついでに、この間の話を聞いて貰う事にした。

 

 ソファーに座った私達に八雲兄は、何時も笑顔を見せてくれ私はちょっと嬉しくなる。

 

「二人ともアカネと瑠璃(ディスクアニマル)は持ってきたかな?」

 

 私は腰にぶら下げていたディスクホルダーから待機(ディスク)状態のアカネを取り出すと、奏もほぼ同じタイミングで瑠璃を差し出した。

 

「八雲兄、アカネの健康診断お願いね」

 

 私と奏からアカネと瑠璃(ディスクアニマル)を受け取りながら、八雲兄はちょっと雰囲気を変える。

 

「その事で二人に相談があるんだ」

 

 八雲兄の言葉に、私と奏はやっぱり同じタイミングで頷く。

 

「アカネと瑠璃の能力の向上も一緒にしようと思っているんだけど、一番早くて簡単なのが、新しいディスクアニマルを渡す事なん…………」

 

「嫌だ! アカネが良い!」

 

 思わず私は、八雲兄の言葉を遮って自分の意見を発してしまった。

 

「そうですよ、八雲さん、私も瑠璃のままが良いです」

 

 八雲兄は嬉しそうに頷くと、テーブルに肘を突き腕を組むと少しだけ身を乗り出す。

 

「まずは、二人ともありがとう。アカネと瑠璃を大切に思ってくれて、さっきの話は一応話しただけなんだよ」

 

 組んだ腕を外した八雲兄は、テーブルの下に隠してあった桐箱を私達の前に置いた。

 

 私と奏は頷き合うと桐箱の蓋を開ける。箱の中には丁寧に仕舞われたディスクアニマルが入っていて、その色は真っ白だった。

 

「八雲さんこれは……?」

 

「アカネと瑠璃の新しい素体だよ、二人の意識をそちらに移そうと思っている、移動が終われば待機状態は銀色になるよ。正直に話すが、アカネと瑠璃のボディは限界が近いんだ」

 

 付き付けられた事実に私は息を呑み、八雲兄の次の言葉を待つ。

 

「時間は掛かるがアカネと瑠璃をそちらに移す予定だ」

 

「八雲さん、それって……」

 

「ねえ、八雲兄、このディスクアニマルに入っている子はどうなっちゃうの?」

 

 もちろんアカネと瑠璃を助けて欲しいけど、その為に誰かを犠牲にはしたくない。

 

「大丈夫、それは何も入っていない、それに何と言ってもアカネと瑠璃の為だけに作った特別な素体だ」

 

「それじゃあ、八雲兄!」

 

「是非、お願いします!」

 

 私が八雲兄も右手を掴み、奏が左手を掴むと、二人して身を乗り出してお願いする。八雲兄はちょっと驚いた顔をしたけど、直ぐに優しい笑顔を浮かべる。

 

「少し時間はかかるけど、必ず二人の元に還す。約束だ」

 

「「待ってる!」」

 

「うん、待っていて、さて、コーヒーでも淹れるよ」

 

 八雲兄が嬉しそうにキッチンに向かう姿を見送りってから、話したい事があるので奏と一緒にカウンターに移動して椅子に座る。ドリップされるコーヒーの良い香りが辺りを包む。

 

「ミューズとムツキってさ」

 

「一体何なんだろう……」

 

 私と奏の疑問を口にすると、八雲兄の返事よりも早く、ハミィがカウンターの上に飛び乗ってくる。

 

「新しいプリキュアニャ」

 

「どうして分かるの」

 

「キュアモジューレ持ってたしフェアリートーンも居たニャ」

 

 私の問い掛けに、ハミィは明るい声で返事を返してきた。

 

「確かに、プリキュアだから私達の事助けてくれたのかな」

 

「きっとそうニャ」

 

 奏の言葉に、新しいプリキュアの存在に嬉しさを隠せないハミィ、何かが引っ掛かる。

 

「はい、コーヒー入ったよ」

 

 目の前で、薫り高い湯気を上げているコーヒーを眺める、考えが纏まらない。

 

「それにもう一つ、ムツキって鬼の存在、八雲兄以外の鬼ってどういう事」

 

「姿は似てたけど、戦い方が全然違くて鉄砲みたいなの凄く撃つし、足も止めて戦わなかっていなかったよね」

 

 コーヒーに口を付けるのが奏とほとんど同時でちょっとおかしくなる。

 

「ねえ、八雲兄以外の鬼って居るのかな?」

 

 八雲兄に目を向けると、持っていたカップをカウンターに置き、私を見てくる。

 

「俺以外の鬼……正確には鬼人か? まあ、どちらでも良いが、考えられないね、いないと思うよ」

 

「でも、八雲さん私達見たんです、八雲さん……獣鬼そっくりの鬼を!」

 

 奏が立ちあがって少し大きな声を上げる、先を越されちゃったな。

 

「もう一度言う、俺以外の鬼は考えられないよ」

 

「八雲兄が珍しく頑固だ……でも、八雲兄も見れば納得してくれるんじゃない、奏もさそんなに感情的に成らないで、それ私の役目だから」

 

 お茶請けに出されたクッキーを頬張る、うん、好みの味だ八雲兄分かってる。

 

「奏、美味しいよこのクッキー、甘いもの食べた方が良いよ」

 

 クッキーの器を奏の前に押し出す、少し不貞腐れながら奏がクッキーに手を伸ばす。

 

「あ、これ美味しい」

 

「でしょう。それにさ助けた訳じゃないとか味方じゃないとか、アレってどう言う意味、何で仮面被っているの」

 

「顔を隠すって事は、正体がばれたら困るって事?」

 

 落ち着きを取り戻した奏は、手で顔を隠し指の隙間を開け私を見てくる。

 

「きっと恥ずかしがり屋さん何だニャ」

 

「ハミィ、適当に言ってない?」

 

 今日の奏は反応が早くて私が突っ込む暇が無いよ、取りあえず私も少し突っ込みを入れてみる。

 

「て言うか、あんなの来るなんて聞いて無いよ」

 

 ハミィはミューズの存在を知っていたのかな。

 

「ハミィだって聞いて無いニャ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「本当、頼りないんだから」

 

「二人ともハミィを責めても仕方ないよ、はい、コーヒーのおかわり」

 

 少し呆れ顔の八雲兄、でもしょうがないじゃん、気になるんだもん、気になると言えば。

 

「ねえ、八雲兄、ミューズってどういう意味だろう、音楽に関する言葉だと思うんだけどさ」

 

「ミューズねえ……神話に出てくる詩神……まあ、音楽を司っている女神の名前だね」

 

「音楽の……」

 

「女神……」

 

 私と奏は顔を合わせ呟き合った。




お読み頂きありがとうございます。


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響と奏にアコと八雲

最近は暑くなっていました。
皆さまくれぐれもお体に気をつけて、健康にお過ごし下さい。


 授業が終わった後、私と奏は体育館裏でハミィと合流して、ハミィがメイジャーランドに居るアフロディテ様にミューズ達の話をしたのだけど。

 

「それで、結局何も分からなかったの?」

 

 奏の少し呆れた声を聞きながら色々と考える。

 

「いやー、だから、そのーごめんニャ」

 

 正直期待はして無かったけれど、ここまでとはね、飲んでいたジュースのストローから口を離す。

 

「でも、何者なんだろう、キュアミューズとムツキって」

 

「分かんない、でも私、ムツキは仮面被ってたから分からないけど、ミューズのあの目……何処かで見た気がするのよね」

 

「奏も、実は私も」

 

 私と奏の想像の人物か同じかは分からない、でもこれぐらいしか手掛かりが無い。

 

「もしかして意外と近くに居たりして……」

 

 奏の言葉に、ひとりの人物が浮かび上がり思わず口に出す。

 

「私、ひとり気になる人が居る」

 

「私も……よし、私ちょっとそっち当たって見る」

 

 去って行く奏の後ろ姿に頼もしさを感じ、思わず笑みが出る。

 

「じゃあ、ハミィまた後でね」

 

 一度大きく伸びをして、私も気になる人物が居る所を目指して走り出す。ここで決めなきゃ女がすたる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海の見える丘で、奏と待ち合わせをしてお互いの成果を報告し合うが、結果は芳しくなかった。

 

「私は和音がミューズだと思ったんだよね」

 

「私は聖歌先輩」

 

「やっぱ聞けないよね」

 

「だよね」

 

 お互いに眉を寄せ苦笑いをする、でも、私は少し気になる事が有る。

 

「フラワーモールの時にだけどさ、私つぼみを見た時にもしかしてって思ったんだよね、だから直接和音に会えば判るかと思っていたけど無理だった」

 

 大きく溜め息を吐く、奏が首を傾げ顎に指を添える。

 

「私は何も感じなかったな、響たまに勘が働く事あるから、聖歌先輩にも改めて会ってみる?」

 

「たまにって酷い、明日の放課後にスイーツ部に行くよ、美味しいケーキよろしくね」

 

「まかせて、久しぶりに気合のレシピ見せてあげる」

 

 本当に久しぶりの気合のレシピ、すっごく楽しみ。少し大変だけど大切な日常が戻って来たと感じる瞬間、お互いが自然と笑い合える手放したくない時間。

 

 そんな気持ちを打ち破る騒音、遠くから聞こえてくる悲鳴。ネガトーンが不幸の音を撒き散らしているのが遠目でも分かり、一気に頭に血が上る。

 

「ネガトーン! あんなに不幸の音を撒き散らすなんて!」

 

「街の人達の悲しみの声が聞こえる!」

 

「「必ず救ってみせる!」」

 

「「レッツプレイ! プリキュア! モジュレーション!」」

 

「爪弾くは荒ぶる調べ! キュアメロディ!」

 

「爪弾くはたおやかな調べ! キュアリズム!」

 

「「届け! 二人の組曲! スイートプリキュア!」」

 

「行こう! リズム!」

 

「オーケー! メロディ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アコちゃんの帰りに合わせて、いつもの坂の階段の所で待ち合わせをする。

 

「アコちゃん、おかえり」

 

「ん、ただいま」

 

 二人並んで歩きながら、何から話そうかと考えていると、アコちゃんが俺を見上げ眉を寄せた。

 

「何があったの?」

 

 顎に手を当て、少し視線を彷徨わせるていると、アコちゃんと視線が合う。

 

「ああ、響ちゃんと奏ちゃんがミューズの正体捜しに躍起になっている。二人にはミューズの名前の意味だけ聞かれた……今頃は思い当たる人物に接触していると思う……」

 

 話している内にいたたまれない気分に成り、無意識に後頭部を何度か掻いた。

 

「そう……鬼人の方は大丈夫なの」

 

「それね、俺以外の鬼人は考えられないと言って突っぱねた、奏ちゃんは負に落ちなさそうだったが、響ちゃんは完全に別人だと思っている」

 

 俺の言葉に眉を寄せ、大げさに溜め息をつくアコちゃん。

 

「八雲って結構おかしな行動するのね、前回ピアノ用意したり、自分以外の鬼人は居ないとか言ってばれたらどうするの」

 

「ピアノの件は二人を落ち込ませたくなかったし応援したかったから、後、響ちゃんに、大勢の人の前で演奏する機会をどうしても作りたかったんだよ、それに結果的に演奏できたんだ、用意して良かったと思っているよ…………まぁ……鬼人に関してはミスリードを誘った」

 

「罪滅ぼしのつもり? だとしたらそれって結構酷くない」

 

 俺を睨みつけてくるアコちゃんに、胸の痛みを誤魔化す為に腕を組む。そして、何でもない様に見せる為に笑いかける。

 

「鬼人の関しての二人のミスは「俺以外の鬼人は居るか」では無く、「あの鬼人は俺なのか」と聞くべきだったんだ。それにある意味俺は鬼人に関しては正解を答えていると思うよ」

 

「それも酷いって言ったの、そういうところよ、八雲鬼ね、あ、鬼か」

 

 ひとりで納得しているアコちゃんが可愛くて思わず声を上げて笑うと、アコちゃんは顔を真っ赤にしながら足を蹴って来た。

 

 商店街から聞こえる人々の悲鳴とネガトーンの不幸の音に、俺とアコちゃんは緊張状態に入る。

 

「アコちゃん、ここからなら俺のセーフハウスが近い、予備のミューズのオーバースーツも置いてある、こっちだ急ごう」

 

 駆けだした俺の後に続くアコちゃん、慌ててアコちゃんのペースに合わせると息を弾ませながらもアコちゃんが問いかけてきた。

 

「八雲、セーフハウスって何?」

 

「今回の為に借りたんだよ、響ちゃん達にばれない様にね二人の知らないバイクも用意してある」

 

「なんでそんな事まで!」

 

 肩で息をし始めている、アコちゃんが睨みつけてくる。

 

「なんでって、俺はアコちゃんの味方だって言ったろ、必要だから用意した。後で鍵も渡す、そこの角左! 小道に入るぞ」

 

 アコちゃんが辛そうに走る姿を見て申し訳なく思う、本当なら横抱きにしてでも移動したいが、何処で人に見られるか分からないので頑張って貰う為に、更にペースを落とす。

 

 小道に入ったすぐの小さな一軒家と隣に小さなガレージ、築は古いがよく手入れされている、中に入り直ぐに変身をしミューズは黒ミューズのオーバースーツを着込む、軽く体を動かし確認すると軽く頷くミューズ、そんなミューズを連れてガレージに入ると置いてある大型のバイク。

 

「これ使うの? なんか古臭くない?」

 

 ミューズはちょっと嫌そうな声を上げが、それに構わずエンジンを始動させる。

 

「ミューズ、早く後ろに乗って、直ぐに追うから」

 

 俺の声の声に渋々と後ろに乗るミューズ、しっかりと捕まったのを確認するとゆっくりと出発する。慣れてきた所で少しづつ速度を上げネガトーンが暴れている所に向かう。




皆さまの力で元気を貰ってます、いつもありがとうございました。
お読み頂きありがとうございます。


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届かない一手

皆様お久しぶりです。
コロナや災害で色々大変ですが皆様大丈夫でしょうか。



 ネガトーンを追って高架橋の上をリズムと全力で走る、視界にネガトーンが入ると一気に速度を上げる。

 

「待てええぇぇ!」

 

 ネガトーンにこちらの存在を知らせる為、そしてこれ以上不幸の音を撒き散らせない為に大きな声で怒鳴る。

 

「何て事を!」

 

 リズムも怒りを露わにしていた。

 

 車型のネガトーンが、バスドラの命令で私達にタイヤを飛ばしてくるが、タイミングを合わせリズムと一緒に避け地上へと降り、そのまま走り続けるがネガトーンは速度を上げながら大量のタイヤを飛ばしてくる、タイヤ自体の攻撃は怖くは無い、当たる事はまず無いだろうでも……

 

「アイツ速い!」

 

「メロディ! あそこ!」

 

 リズムが何かに気が付き私に合図をよこす。

 

「ああ! なるほどね! よぉし!」

 

 直ぐに意図が分かった私は気合を入れ直して走る速度を上げ、ネガトーンを飛び越えて誘導しだす。

 

「ネガトーン! ここまでおいで!」

 

 挑発するように手を振りながら、ネガトーンに声をかけると私を目指して走ってくる。

 

「良し! 来い、来い、来い、来い」

 

 祈る様に小さく呟きながら、目的の高架橋の柱に誘導し一気に柱に沿って跳び上がると、ネガトーンはこちらの誘いに見事に乗って来た。

 

「ナイス! メロディ!」

 

 高架橋の上で待ち構えていたリズムが、下から蹴り上げてネガトーンの体勢を見事に崩し、私と時間差をで地上に綺麗に着地をする最近のリズムの動きには目を見張るものが多く私も負けていられない。

 

「どんなに足が速くても」

 

「地面から放しちゃえば」

 

 私達の狙い通り空中でネガトーンはタイヤを空回りさせるだけで何も出来ない、大丈夫、私達は強くなっている。

 

「今よ!」

 

 リズムの合図に気合を入れて返事と共にミラクルベルティエを構える。

 

「オッケー!」

 

「「翔けめぐれ、トーンのリング! プリキュア! ミュージックロンド!」」

 

 ふたつの輝くリングがネガトーンに迫る、タイミングも何もかも文句の付け様のない、私は無意識に勝ちを意識した。

 

 私達に油断があったのか、ネガトーンがうわてだったのかは分からないけれど、私達のトーンのリングは跳ね返され眼前に迫っていた、もう駄目だと目をつぶり体に力を入れる。

 

 爆発と共に土煙が舞い私を包むのが分かる、でもダメージがほとんど無い、もしかしてと思いゆっくりと目を開けるとたくましい背中が私達の前に立ち塞がっていた。

 

「獣鬼!」

 

 力強い背中に嘆声を上げた、少しだけ後ろを振り向く気遣う気配、でも返事が返って来ない、土煙が少しだけ風に流され私達の前に立っている人物が分かると、間違えて呼んでしまい申し訳なさと、八雲兄を見間違えた事に罪悪感が生まれる。

 

「ムツキ……」

 

 リズムが小さく呟く、私達を庇っていたのは獣鬼では無く矛兜鬼だったのだ。

 

「助けてくれてありがとう……」

 

 私は下唇を噛みながらショックを隠せないでいた、矛兜鬼がこちらを一瞥しすぐさま腰から銃を抜き完全に晴れていない土煙に対してに撃ちだす、私達のすぐ側をネガトーンが横滑りしながら抜けて行った。

 

「見えない状況でネガトーンの進路を変えたの?」

 

 リズムが驚愕の声を上げている中私は悔しさで一杯になっていた、強くなったと思っていた、でも前回も今回も私達だけでは負けている、せめて獣鬼が居てくれればと考えてしまう自分が情けない、体勢を立て直したネガトーンが迫ってくると何故が矛兜鬼は銃を仕舞い両手を広げてネガトーンを迎え撃とうとする。

 

「ムツキ危ない!」

 

 大きな声を出すが、矛兜鬼は意に返さずネガトーンと交差すると、ネガトーンが宙に舞っていた。

 

「投げたの?!」

 

「ウソ……」

 

 私の驚きの声とリズムの呟きが混じり合う、空中に投げだされたネガトーンに黒い影が飛び出してくる。

 

「「ミューズ!」」

 

 私達の声に反応も見せずにミューズは、連続で空中のネガトーンに連続で蹴りを入れていく、蹴り飛ばされていくネガトーンに矛兜鬼がさらに銃撃を加え、バスドラの上に調整して落とす。

 

 何事も無い様に私達の側に立っている二人に、羨望と嫉妬の入り混じった感情が生まれそうになり、慌てて頭を振って嫌な考えだけを追いだした。




お読みお頂きありがとうございます。


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ミューズ

暑い日が続きますが皆様体調にご注意下さい。

いつもお読み頂きありがとうございます。


 ミューズのフェアリートーンが、私達に攻撃を促す。

 

「世話が焼けるドド、さあ、今のうちドド」

 

 戦う意思が無いのかミューズは腕を組み、矛兜鬼は銃を腰に仕舞い両腕をダラリと下げていた。

 

「でも、ベルティエが効かなかった……」

 

 リズムが悔しそうに、ベルティエを撫でながら呟く。

 

「当り前ドド、どんな技でも何時も同じじゃ破られるに決まっているドド」

 

「じゃあ、どうすれば」

 

「もっと頭を使うドド、ベルティエが何でそんな形をしているのかよく考えるドド」

 

 戸惑うリズムにフェアリートーンが呆れた声を出す。

 

「え、何だろう……」

 

 ベルティエの形状を見る、とどちらも同じ形をしている、という事は。

 

「あ! 分かった! どっちからでも持ちやすいようにとか?」

 

「違うドド!」

 

 フェアリートーンが私に怒っている隣でリズムが声を上げる。

 

「まさか、こっちにもフェアリートーンが入るの?」

 

「そこまで分かったなら後はやれば分かるドド」

 

「よぉし!」

 

 フェアリートーンの言葉を信じベルティエを構えなおす、ここで決めなきゃ女がすたる。

 

「おいで! ドリー!」

 

 ドリーがベルティエに装着されると、自然と使い方が分かる。

 

「ミラクルベルティエ・セパレーション!」

 

 イメージ通りベルティエを動かすと、意図も簡単にベルティエが分かれる。

 

「おわ! 割れた!」

 

 思わず変な声を上げてしまったが、分かれた形が獣鬼の音撃棒を連想させ、私は少し嬉しくなった。

 

「そう言う作りなんだドド」

 

「ええぃ! 棒が二本になったところで、怯むな!」

 

 やっと体制を整えたバスドラがネガトーンに命令をする、私の中の先ほどまでの暗い思いは無く、やる気に満ち溢れていた。

 

「なんだか分からないけど、絶対いける気がする!」

 

 獣鬼をイメージしてベルティエを振っては見たが、違和感を感じ素直に心に浮かんだ使い方をする事にする。

 

 ハンドベルをイメージしてベルティエを振ると、それに合わせ強く美しい音が溢れだす。

 

「あふれるメロディのミラクルセッション!」

 

 フェアリートーンが輝きだし、私の力がフェアリートーンに集中し新たな力が生まれているのを感じる。

 

「プリキュア! ミラクルハート・アルペジオ!」

 

 両腕で大きくハートを描くと、それに合わせマゼンタとオレンジ色で出来た炎のハートが完成し、私の合図と共にネガトーンに向かって行き完全に動きを封じ込めた。

 

「すごい!」

 

「これなら行けるよ!」

 

 リズムが驚きの声を上げる隣で、私は今度こそ勝利を確信する。

 

「リズムも!」

 

「うん」

 

 私の掛けた声に、リズムが嬉しそうに返事をしてくれた。

 

「おいで! レリー!」

 

「ファンタスティックベルティエ・セパレーション!」

 

「弾けるリズムのファンタスティックセッション!」

 

「プリキュア! ファンタスティック・ピアチェーレ!」

 

 リズムの掛け声と同時に、白銀と金色の炎のハートがネガトーンを捕え、私のアルペジオと合わさり更なる力を生み出したのが分かる。

 

「「三拍子! 1、2、3!」」

 

「「フィナーレ!」」

 

 私達の合図で、ネガトーンを包んでいたハートが弾け、巨大な光を生み出しネガトーンを浄化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々あったけれど最後はちゃんと勝てたし、新しい力も手に入れた。これもあの二人のおかげだ、二人を探すと既に高架橋の上に居て丁度去ろうとしていたところだった。

 

「ありがとう! キュアミューズ! ムツキ!」

 

 慌てて大きな声で感謝を伝えると、二人は立ち止まりこちらを少し伺って来る。

 

「ねえ教えて! 貴女達一体誰なの?!」

 

 リズムがストレートに尋ねる、私も堪らず声をかける。

 

「私達の仲間なんでしょう?!」

 

「私はまだ仲間にはなれないドド」

 

「まてぇい!」

 

 フェアリートーンがそれだけ伝え、去ろうとした二人に別の声が掛けられ慌てて振り向くと、声の主はバスドラだった。

 

「セイレーン!」

 

「「セイレーン!」」

 

 バスドラの言葉に私とリズムが同時に声を上げる、けれどその声をかき消すかのように発砲音と甲高い金属音が響く、慌てて高架橋を見上げると矛兜鬼がバスドラのすぐ前の手すりにあの銃を撃っていた。

 

「そんな物で驚くとでも思ったか! 貴様の腕も大した事が無いな!」

 

 バスドラの言葉が終わると同時に3回発砲音が鳴り甲高い金属音も3回鳴り響いた、バスドラは腰が抜けたのか這う様に逃げていきそれを見届けるとミューズたちも去って行く。

 

 

 

 

 

 日が傾く中私と奏はバスドラが居た所を調べることにしたが、調べるまでも無く矛兜鬼の放った弾はバスドラの居た手すりに全て当たっており、均等に弾の痕が並んでいた。

 

「響、これ絶対に狙っているよね」

 

「うん、そう思う……」

 

 私は矛兜鬼が敵じゃなくて本当に良かったと胸を撫で下ろした、仮に敵だったら私達は何も出来ないで倒されているだろう、背中がうすら寒くなっていると私の手に温かな感触に包まれる、不安に思っている私に気が付いて奏が手を握ってくれていた、嬉しくなって握り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人目を盗む様にセーフハウスに戻るとアコちゃんは少し不機嫌だった。

 

「ねえ、八雲、最後の行動はどういうつもり? ちゃんと教えたよね、私?!」

 

「覚えているよ、それにあの行動でミューズの正体がさらに分からなるだろう」

 

 俺の答えにアコちゃんは盛大な溜め息をつく。

 

「またミスリードってやつ?」

 

「もう少し撹乱したいが、たいした時間稼ぎにしかならないな」

 

「何か気になる事でもあるの?」

 

 アコちゃんは、何かを感じたのだろう少し心配そうだ。

 

「ハミィがきっとセイレーンに対してストレートな行動に出るだろう、確認した方が良いかもしれない」

 

「ハミィは自分の考えに正直だから……きっと何かする」

 

 何かを思い出しながら頷いているアコちゃんのランドセルを持ってくる。

 

「そろそろ帰ろう、先生が心配するだろうしアコちゃんは宿題もあるでしょう、ちゃんと学校と両立しないとね」

 

 ランドセルを差し出すと、アコちゃんは受け取るが些か気を悪くしたようだ。

 

「八雲うるさい、それなら響のテストの心配でもすれば」

 

 ジト目で睨まれた俺は額に手を置き天を仰ぐ、響ちゃん成績ばれてるよ……




当時書いた後書きです、よろしくお願いします。

 第11話終了となります、お読み頂きありがとうございます。

 遂に響ちゃん達のミューズ捜しが始まると共に、新技のアルペジオをピアチェーレを覚えました。
 矛兜鬼としての戦闘スタイルはキュアホワイトをベースにイメージしております。

 では、次回。

第12話 ハミィとセイレーン 
第1節 特訓、訓練、トレーニング

 よろしくお願いします。


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第12話 ハミィとセイレーン
特訓、訓練、トレーニング


 私は強くなったと思っていた、でも最近はネガトーンに後れを取る事が多く、私と奏は週末に八雲兄に本格的に特訓をして貰っている。

 

 

 

 

 

 最初、八雲兄は弟子を取るつもりはない、と渋い顔をした。でも、私はミューズと矛兜鬼の存在、ネガトーンの攻撃に付いて行けないと(後れを取った事実を)真剣に話をしたら、腕を組み目ときつく閉じて暫く考え込んで表情を変える事無く、唸る様に教えてくれると言ってくれた。

 

 私は何で教えたくないのかと聞いたら、渋い顔のまま後頭部を掻きながら理由を教えてくれる。

 

 ──鬼闘法── 八雲兄が戦闘時に使う体捌きから拳や蹴りの打ち方、防御と歩法、音撃法を含めた全ての闘技の総称。

 

 曰く、鬼へ至る道。鬼闘法を修め、心身ともに充実したなら、八雲兄の使っている『変身音叉・音角』で、鬼の力をその身にまとう事が出来るからだと。

 

 アカネを預かった日に私が変身をしなかったのは、それが原因だと深い溜め息と共に教えられた。その話を聞いた瞬間、私の胸は激しい熱を持ち、心は揺さぶられた……

 

 

 

 

 

 まず教えられたのは、歩き方(歩法)。奏と顔を首を傾げながら始めてみたが、これが思いの外きつい。足の踏み出し方から体重移動、腕の振り方や視線の保ち方、全てを考えながら歩くと物凄く消耗をしたし、普段使っていない筋肉もかなり酷使した、私は初めて歩くと言う行為が全身運動なのだと思い知った。

 

 しかし、効果は凄かった、陸上の記録が伸びたのだ、いとも簡単に……私自身、壁だと感じ出していた自己ベスト(県記録)を簡単に塗り替えたし、奏に至ってはもっと酷かった、今まで女子平均にギリギリ届かなかった奏の足が一秒以上縮まったのだ、それも陸上部から声が掛かるほどに、この事実は私と奏のヤル気に火を入れる。

 

 私達は登下校、移動教室、あらゆる状況でお互いを注意し合った。八雲兄も驚くほどに練習をし、結果、八雲兄も私達の真剣さを感じ取り、今まで以上に親身になって教えてくれるようになり、ついには本格的に戦い方も教えてくれるようになった、でも、戦いに関して八雲兄はややスパルタで……鬼だった…………鬼だけにボソッ

 

 そんな中での訓練の間の休憩は、何となく意見の交換会みたいになっていて少し面白い。

 

「最近、二人とも動きがかなり良くなって来たね」

 

「八雲兄、本当?」

 

 八雲兄の言葉に嬉しさがこみ上げる、隣の奏も嬉しそうだ。

 

「本当、響ちゃんは元々運動が得意だから慣れるのも早いけど、動く時少し癖があるから直さないといけないかな? 奏ちゃんはある意味真っ白だから慌てず基本を体に馴染ませよう」

 

「「頑張る!」」

 

 私と奏が同時に返事をした、自分が日々強くなっていくのが分かる。戦う事が日常になっているのは少し考えなくもないが、皆で同じ方向を向いて努力するのは好きだ。

 

 プリキュアの為とはいえ奏とこういう機会が作れるのは嬉しいし、それに奏と一緒に運動するのがこんなにも楽しいとは思わなかった。

 

「上手く力を制御すれば色々な事が出来て、戦いの幅が広がるよ」

 

「戦いの幅……どんな事が出来る様になるのかな」

 

 奏が手を開いたり閉じたりしながら悩んでいると、八雲兄が立ちあがる。

 

「たとえばミュージックロンドだけど、あそこまで力を溜めなくて途中で開放すれば、その場での攻撃も可能になるはず、ヒントになると良いけど見ててね」

 

 八雲兄が音撃棒を構え力を込める、その真剣な姿にこんなにじっくりと見れるのが嬉しくて、ちょっと頬が緩む。

 

「少し前に見せたが、火炎連打や一気火勢の応用でこんな事が出来る、烈火弾って言うんだ見ててね」

 

 音撃棒を振るい小さな火の玉を数個飛び、近くの岩に当たり小さな爆発を起こす。

 

「八雲兄すごい」

 

「やっぱり八雲さんは、変身しなくても音撃棒使えるんですね」

 

「使えるよ、って話の続きだけど、今みたいに力を解放すれば戦いの幅も広がる。パッショナートハーモニーもあそこまで溜めなくても相手の近場で放てば、牽制にも成ると思う」

 

 私は奏と手を繋いで、その場で何となくパッショナートハーモニーのポーズを取って見る。

 

「奏分かる?」

 

「んー、イメージが湧かないよ」

 

「響ちゃんは一度経験しているよ、似た様な事をね」

 

 八雲兄の言葉に奏と顔を見合わせ、思わず自分を指さす。

 

「私が経験?」

 

「響覚えある?」

 

「あんまり覚えが無いな……何かあったかな?」

 

 私の答えに八雲兄は苦笑し、奏は首を傾げている。

 

あの戦い(ブラックホール)の時さ、キュアブラック達と同時に攻撃して道を切り開いたって言ってただろ、それだよ」

 

 八雲兄の言葉に『コラボレーション・パンチ』を思い出し思わず手を打つ、隣で奏が呆れた顔をしているけど気にしない。

 

「奏ちゃんだって、即興のコンビネーションで切り抜けているんだから、響ちゃんとだったら自然に合わせられると思うし、もしかすると新しい浄化技を生み出すかもね」

 

 今度は奏が目を丸くして驚いている、奏もあの時は大変だったんだもんね。でも奏とのコンビ技に新しい浄化技……少し楽しみ。

 

「絶対って訳じゃないから、そう言った戦い方もあるって記憶の隅にでも留めて置いて、後は……ま、これは良いか、じゃあ、そろそろ続きを始めようか」

 

「どうしたの? 八雲兄」

 

「何か気になる事でもあるんですか?」

 

 八雲兄に訊ねるけど、珍しく言い辛そうにしており、目も泳いでいるので少し不思議になった。

 

「八雲兄はっきり言ってよ、気になるよ」

 

 八雲兄は明らかに誤魔化す様な笑いを浮かべ、後頭部を掻いている。

 

「言うけど怒るなよ……これだけ満遍なく鍛えているからさ、最近二人ともかなりスタイル良くなったなぁ……って正直思ってる……」

 

「「本当!」」

 

 私は奏と手を取り合い喜んだが、二人同時にある事実と視線に気付く。

 

「八雲兄?」

 

「八雲さん?」

 

 少し不躾な視線を私達に向けていた八雲兄を、奏と同時に睨みつけると八雲兄の表情が引きつる。

 

「「この……スケベ!」」

 

「怒るなって言っただろう」

 

「「五月蠅い! 問答無用!」」




 お読み頂きありがとうございます。

 今回も病気に前に書いてあった後書きです。

 鬼闘法に関してですが、この話では戦闘方法という考えになっています。
 鬼に至った結果として鬼爪や鬼火を習得する、といった感じです。
 言ってしまえば響鬼における明日夢君達みたいな修業をしていると思って下さい(正確には明日夢君は修業をしていませんが)、その中に戦い方が入っていると思っています。
 ……あれ、響ちゃん達鬼になる可能性があるのか…………まぁ、鬼人の組曲内では鬼になる予定は今の所ありません。
 結果としてこの世界のプリキュアの中では破格の戦闘能力を得ていきます、ハトプリのいつきやドキプリのありすの様に格闘経験者はこぞって戦闘能力が高いと思っていますので、完全戦闘スタイルの鬼闘法を修めていくメロディとリズムは一線を画します。
 この辺はご都合主義の拡大解釈でお許し下さい。
 では、次回

ハミィとセイレーン
第2節 落とした物は


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落とした物は

皆様、お変わりありませんか。
体調など崩されていらっしゃいませんか、ご注意下さい。


 練習の後、散々怒った二人にはシャワーを浴びて貰うが、家からは当然の様に放り出された。

 

 家に入り目にした、風呂上がりの二人の濡れそぼった髪と上気した頬は大変魅力的で目が離せなく、見惚れていたら二人に怒られながらも冷やかされ最後は三人で笑い合う。

 

 機嫌も良くなった二人に、最近見つけた取って置きのお店を教えたかったので、良い機会と考えて皆で食事を取りに行く事にした。

 

「いやー、美味しかった、あんなところにお店があるなんて、私知らなかったよ」

 

 響ちゃんはお腹をさすりながら満足そうにしており、それを見た奏ちゃんは呆れた様な笑顔を浮かべる。

 

「響ちょっと恥ずかしいよそれ、でも本当に美味しかったね、八雲さんご馳走さまです」

 

 奏ちゃんは響ちゃんは注意するが、その姿は楽しそうで見ていた俺の気分も良くなっていく。

 

 丁度公園に差し掛かった時だった、いきなり小さな影がふたつ飛び出して来て俺達は慌てて足を止めた。

 

「ハミィ?」

 

 響ちゃんが驚きながらもハミィを踏まない様に避け、奏ちゃんがハミィと一緒に居たセイレーンに気が付く。

 

「それにセイレーンも?」

 

「そんなに慌ててどうしたんだ」

 

「助けてニャ!」

 

 俺達の言葉を受け、右往左往しながらも助けを求めるハミィ、ハミィ達が逃げてきた方を見ると追ってきた猫が威嚇の声を上げていた。

 

 響ちゃんと奏ちゃんは頷き合うと、奏ちゃんが響ちゃんの後ろに回り、響ちゃんの頬を少し引っ張ると、響ちゃんは猫の様に手を上げて唸り声を上げる

 

「ふぅぎゃぁあああっぁ!」

 

 響ちゃんの表情と声に驚いた猫は一目散に逃げ出していく、その響ちゃんの姿を見た俺は笑いを堪えるのに必死だった。

 

「八雲兄声もれてる、ふぎゃぁあぁ!」

 

「いや、ごめん、ちょっと面白くって、響ちゃん止めて」

 

 堪え切れなくなった俺は声を上げて笑ってしまい、響ちゃんは何故か満足そうに奏ちゃんと笑っていた。

 

「助かったニャ、ニャッ、セイレーン?」

 

 ハミィは周りと見渡すがセイレーンの姿はすでになく、ハミィは近くに落ちていた風呂敷包みを抱えて響ちゃん達の座るベンチに持ってくる。

 

「それ何なの?」

 

「セイレーンが落として行ったニャ」

 

 大事そうにセイレーンの荷物を抱えながら響ちゃんに答えるハミィ、奏ちゃんは何かを思い出したのかハミィに顔を近づけた。

 

「聞いたの? キュアミューズかどうか」

 

「違ったニャ……セイレーンが違うって言ってたから間違いないニャ……」

 

 ハミィは、セイレーンがミューズと思っていたらしくかなり落ち込んだ声を出す。本当の事を教えてやりたくなるが、奥歯を噛み締め我慢する。

 

「仮面してる位なんだから、否定するんじゃない」

 

 響ちゃんが慰めようと声をかけるが、ハミィは首を横に振った。

 

「ハミィは、セイレーンの言う事は絶対信じるニャ」

 

 ハミィのセイレーンを思う気持ちにの強さに感心する、どうにかしてあの二人を元に戻しててやりたいと考えるが、どうにも方法が思いつかない。

 

 何か決意をしたのだろうか、ハミィが立ちあがるとかかえていた包みが落ちてしまい一枚の楽譜が広がる、拾い上げハミィに手渡すとハミィは懐かしそうにその楽譜を眺める。

 

「セイレーン……まだこの楽譜持っていてくれたニャ……」

 

 ハミィの声は少しだけ涙声で、そのつぶらな瞳には涙が溜まっており、よほど大切なものと分かる。俺は一度は聞いておこうかと考えている事を訊ねる事にした。

 

「なあ、ハミィお願いしたい事があるんだ」

 

「ハミィとセイレーンのこれまでの事聴かせてくれない?」

 

 響ちゃんも同じ事を考えていたらしく、俺の言葉を引き継いでくれ、ハミィは嬉しそうに頷く。




いつもお読み頂きありがとうございます。


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幼き日々に

お読みいただければ幸いです。

TOKYO MXでスイートプリキュアの再放送も始まりました、DVDで見るのと放送で見るのとは気分が違います。

今回で第100話になりました、いつも応援してくれてありがとうございます、感謝の気持ちでいっぱいです、これからもよろしくお願いします。


「ハミィが生まれ育ったのは音楽の都メイジャーランド、セイレーンとは幼いころからずっと大親友だったニャ。

 

 セイレーンはいつも真面目に音楽に取り組んでいて、音程、リズム、歌唱力どれをとってもハミィより上だったニャ、大音楽会で年に一度だけ歌われる幸せのメロディの歌い手にもずっとセイレーンが選ばれていたニャ、その姿は女神の様だったニャ」

 

 セイレーンの事を語るハミィは、まるで自分が音楽会で歌っているかの様に喜んでいる。確かにセイレーンの歌は美しかった、尚更何故あんな事になっているのだろうと考えてしまう。

 

「うーん、歌が上手で女神の様で……」

 

「って事は、やっぱりセイレーンがキュアミューズ……」

 

 響ちゃんと奏ちゃんが絞り出す様に呟くが、ハミィは何も答えずに続きを話しだす。

 

「そして今年の歌い手を決めるコンテストの日が発表されたニャ、ハミィはセイレーンにコンテストを受ける話をしたら、セイレーンはもうライバルだから一緒に練習は出来ないって言ったニャ、その日からハミィとセイレーンは別々に練習する事になったニャ……」

 

 わずかな気配を感じ、公園の入り口を横目で見ると、セイレーンが入って来てこちらに気が付いて慌てて物陰に入って行く。

 

「それでどうなったの?」

 

 奏ちゃんが続きを聞きたがる中、俺以外はセイレーンに気が付いていないらしく、特に何にかする訳でも無さそうなので放っておく事にした。

 

「コンテストで歌う課題の楽譜が渡される日ハミィは寝坊してしまったニャ……」

 

「「「えぇっ!」」」

 

「あぁ……ハミィらしい展開……」

 

 俺達は思わず声を上げて驚いてしまう、響ちゃんが内心思っていた事を呟き奏ちゃんはそれを聞いて苦笑いをしている。

 

「着いた時には楽譜は配り終わっていて、困っていたら別の歌い手候補から楽譜を渡されたニャ、その時に楽譜は誰にも見せちゃいけないとか練習は一人でしないとダメとか色々教えて貰って、ハミィはその言葉を信じてずっと一人で練習していたニャ」

 

 ハミィの話に少し違和感を感じてしまう、何故一人じゃないといけないのかどうにも腑に落ちない。

 

「そしてコンテスト当日、セイレーンが渡された楽譜無偽物だからと言って、セイレーンは自分が持っていた本物の楽譜を渡してくれたニャ、ハミィはその場で一生懸命練習してコンテストに挑んだニャ」

 

 相手を思いやる事の出来るセイレーンはやっぱり優しいな、隠れているセイレーンに目線を向けると辛そうな顔をしている、色々と考える事もあるよなセイレーン。

 

「ハミィは初めてのコンテストで緊張してしまって沢山の失敗をしてしまったニャ、でも、セイレーンがハミィの心に力を貸してくれてコンテストは無事に終わったニャ」

 

「そして幸せのメロディの歌い手にはハミィが選ばれたって訳ね……」

 

 奏ちゃんは少し感動しているらしく、声に熱がこもっていた。

 

「それからニャ、セイレーンが離れていったのは……」

 

 ハミィの悲しそうな声、普段聞いた事の無い寂しそうな声に雰囲気、やはり俺は、ハミィとセイレーンは一緒に居るべきなんではないかと思う。

 

「何となくセイレーンの気持ちが分かる様な……」

 

「確かにな……少し辛いな…………」

 

 響ちゃんの言葉に同意してしまう、セイレーンの言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

「私? ……歌なんて嫌いよ、無くなれば良いわ」

 

 

 

 

 

 

 

 あの言葉はセイレーンの本当の気持ちだったのか、でも、あの時のセイレーンは辛そうな顔をしていた、響ちゃんを奏ちゃんを見る、きっとハミィとセイレーンもこんな感じだったのだろう……ハミィ達にとっての三本目の桜が幸せのメロディって訳か……辛いよなセイレーン…………

 

「ハミィには分からないニャ」

 

 ハミィはすでに泣きそうになっている、純真ゆえに分からないのだろう、ハミィらしいと言えばハミィらしいが……

 

「だからアンタは天然ボケだって言うのよ」

 

 物陰から思わず出てきて声をかけてきたセイレーンに、俺以外が驚いていた。




いつもお読み頂きありがとうございます。


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ハミィの冀望は

いよいよ年の瀬も迫ってまいりました。
寒い日が続きますが、お体にお気をつけてお過ごしください。

来年も皆様が素晴らしい年になりますよう願っております。


「セイレーン」

 

 響ちゃんが驚きの声を上げる。

 

「今じゃ後悔しているわ、あの時楽譜の事を黙っておけば良かったって」

 

「なんでそんな事言うニャ」

 

 泣きそうになりながらもハミィは、セイレーンに近づいて行く。

 

「セイレーンもうやめよう、そろそろ自分でも気が付いているんだろう。俺達の元に来い、マイナーランドの連中には手は出させない、セイレーンは俺達と……ハミィと一緒に居るべきだ」

 

「やかましいわ! お人好し! 私は私の意思で動いているの!」

 

 俺の説得にセイレーンは吐き捨てるが、表情が一瞬揺らぎ目線を外した。

 

「うそニャ! セイレーンは卑怯な事が大っ嫌いだったはずニャ」

 

 ハミィが、何時もからは考えられない程の強さで主張する。

 

「私は変わったの……アンタの知っている昔の私じゃないのよ」

 

 親友のハミィと俺の言葉がセイレーンを揺さぶる、自分は変わったと言い切るセイレーンは明らかに無理をしている、だがセイレーン心は頑なだ……

 

「変わったって変わらなくたってセイレーンはハミィの親友なのニャ!」

 

 ハミィの気持ちの詰まった声に、セイレーンが目を大きく見開く。

 

「フン、天然ボケの振りしてちゃっかり良い所だけ持っていっておいて良く言うわ」

 

「セイレーン」

 

「私だって馬鹿じゃない、アンタの歌を聴けば分かるわ、いくら頑張ったって勝てない相手が居るってね……それ程アンタの歌は良かった、憎たらしいほどにね」

 

 ハミィも知らなかったであろうセイレーンの胸の内、他の人と競うと必ず現れる大きな壁、自分を信じ切れないと乗り越えられない苦痛の大海原、セイレーンはあの時(コンテスト)から

 

 囚われてしまっているんだ、これを救えるのは本人であるセイレーンともう一人……

 

「あの時うまく歌えたのはセイレーンのお陰ニャ」

 

「私の……」

 

 ハミィの告白に言葉が詰まるセイレーン。

 

「そうニャ、思いだして欲しいニャ、ドジで歌もヘタクソなハミィを励ましてずっと一緒に練習してくれたのはセイレーンだけニャ」

 

 セイレーンの目が大きく見開かれる、ハミィのセイレーンを思う気持ちは止まる事は無い。

 

「だからセイレーンは大切な親友なのニャ! これまでもこれからも! ずっと親友なのニャ!」

 

 セイレーンの金色の瞳が潤み涙があふれ出す、ハミィはついにセイレーンに手を伸ばし……届いた。

 

 自分の涙に戸惑うセイレーン、響ちゃんと奏ちゃんもうっすらと涙を溜めている。

 

「そう言えば……セイレーンが転校生を装った時に、響に親友だよって言われて……」

 

「そうか、アレも本当の涙だったのかも」

 

「響ちゃんの足の怪我を本気で心配もした、セイレーンは優しいんだよ」

 

 二人の言葉を聞き、思わず俺も思いを口にした。

 

「だとしたら、セイレーンってとっても良い子かも」

 

「やっぱりセイレーンがキュアミューズだったんだ」

 

 奏ちゃんがセイレーンをミューズだと思っている、思わず本当の事を言いそうになるのを、歯を食い縛って何とか耐える。

 

「またこの嫌な感じ、ずっと忘れていた気がするのは何故……」

 

 セイレーンの呟きにまさかと言う思いが浮かぶ、セイレーンはもしかすると……だとしたらきっと。

 

「涙が溢れた時は月を見上げるニャ」

 

「月……どこ……?」

 

 セイレーンとハミィは一生懸命に月を探すがまだ出る時間では無い、3人で顔を見合わせ苦笑いをしてしまう。

 

「相変わらず天然ボケね」

 

 呆れるセイレーンの声にいつもの角は無く、穏やかな響を持っていた、セイレーンは本当はこんなにも優しい声をしていたのかと思うと、マイナーランドに対し怒りが湧いてくる。

 

「大体それを教えたのは私じゃない」

 

「そうニャ、だからセイレーンと会えなくなってからハミィはずいぶん月を見上げたニャ、もしも音符を全部集めたらセイレーンも一緒に幸せのメロディを歌って欲しいニャ、それがハミィの夢ニャ」

 

 セイレーンの手を取りハミィが胸の奥の思いを告げる、二人の本当の姿を見る事が出来て幸せだ、きっと二人は元の親友にこれで戻れる。

 

「ハミィ……」

 

「セイレーン……」




 いつもお読み頂きありがとうございます。


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くだらない罠

昨年はお世話になりました。
何とか正月を迎えることが出来ました。
皆様は変わりなく元気でいらっしゃいますか?
今年も健康で心豊かな一年にたくさんの幸せが舞い込みますように。

水無月 双葉
2022年 元旦


「大変だー」

 

「ネガトーンが街で暴れているー」

 

「どうしたらいいんだー」

 

 突然現れた二人組の男を見て、思わずその場で殴り倒そうかと思ってしまった。どう見てもバリトンとファルセットだ、下手糞な変装をして騙せると思っているのか。

 

「おい、おま……」

 

「どこですか!」

 

 響ちゃんが二人の言葉を信じて奏ちゃんと行ってしまう、ハミィもセイレーンに一言言うと二人の後を追いだす、如何したものかと思いつつ後頭部を掻きながらセイレーンに顔を向ける。

 

「セイレーン安全な所に隠れていてくれ、マイナーランドの連中に見つかるなよ」

 

 セイレーンを気にしながら罠に飛びこんでしまった響ちゃんと奏ちゃんを追いかける、幸いな事に直ぐに追いつく事が出来たので一緒に走る。

 

 人気の居ない所に着いたのと、いい加減イラつきが押さえられなくなったので、声をかける事にした。

 

「おい! バリトンにファルセット、いい加減にしろ! こっちは既に気が付いているんだ」

 

「えぇ! 八雲兄本当?!」

 

「そうなんですか八雲さん!」

 

 純粋すぎるのも問題だなと思いながらも好ましくも思ってしまう、いつもの恰好に戻るバリトンとファルセット、後ろに嫌な気配がし振り向くとバスドラが降りて来てその後からセイレーンも降りてきたが、明らかにセイレーンの雰囲気は違っていた。

 

「「セイレーン」」

 

 ハミィと俺の呼びかけにセイレーンは眼光が鋭くなる。

 

「ハミィ、私は貴様を絶対に許さない!」

 

 困惑する響ちゃんと奏ちゃん、セイレーンは雰囲気だけじゃなくその声にも殺気が混じりハミィに叩きつけてくる、その姿を見た俺は抑えきれぬ思いだった。

 

「貴様ら! セイレーンを洗脳したな!」

 

「「洗脳?!」」

 

 俺の叫びに響ちゃんと奏ちゃんが驚きの声を上げる、ハミィはどうして良いか分らないのかオロオロとするばかりだった。

 

「そうだ! 声も気配も! 雰囲気すら塗りかけられている! セイレーン! 闇に魂を飲み込まれるな!」

 

「バスドラ、やれ」

 

 俺に一瞥をくれると、セイレーンが吐き捨てる様な声でバスドラを呼ぶ。

 

「お前達の思い出の楽譜はネガトーンにしてやるわ」

 

 バスドラが音符を楽譜に張り付けるとセイレーンの禍々しい気配が一気に膨らむ。

 

「いでよ! ネガトーン!」

 

「ちょっと待って?! セイレーンはプリキュアじゃなかったの」

 

 ネガトーンが現れた事により、響ちゃんが抱いていた思いが崩れ去って行く。

 

「セイレーンが違うって言ったら絶対に違うニャ、ハミィはセイレーンの言う事は絶対に信じるニャ、たとえ洗脳されていても信じるニャ」

 

 ハミィの思いにセイレーンは苦痛の表情を浮かべる。

 

「ええい、貴様にはもう騙されん!」

 

 セイレーンは怒鳴ると人の姿に成ると、光る音符をハミィに投げ付けてくる。俺は音符の正面に立ち腕を振るい音符を弾く、着ていたサマージャケットの袖の部分が破れ飛び散るが気にはして居られなかった。

 

「いい加減にしろ! 貴様ら(マイナーランド)! これ以上セイレーンの心を弄ぶな!」

 

「八雲兄、腕が!」

 

「あぁ……血が……」

 

 響ちゃんと奏ちゃんが悲鳴のような声を上げるが、俺は腕を振るい血を飛ばし、動くのを確かめると怒鳴った。

 

「かまうな! 行くぞぉ!」

 

「「レッツプレイ! プリキュア! モジュレーション!」」

 

「鬼姫の使者! 音撃戦鬼! 獣鬼!」

 

「爪弾くは荒ぶる調べ! キュアメロディ!」

 

「爪弾くはたおやかな調べ! キュアリズム!」

 

「「届け! 三人の組曲! スイートプリキュア!」」




お読み頂きありがとうございます。

では、次回。

ハミィとセイレーン
第6節 八雲の叫喚


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八雲の叫喚

お読み頂ければ嬉しくて思います。


 迫るネガトーンを飛び越えて躱すと、ネガトーンは直ぐに無防備な背中を晒しているリズムに腕を伸ばす。

 

「させるかよ」

 

 迫る腕を直前で蹴り飛ばしリズムを救うと、ネガトーンは今度はメロディに攻撃をする気配を見せる。

 

「メロディ! 跳べ」

 

 後ろも見ずに俺の声だけ信じたメロディは間一髪で攻撃を避ける、追撃させない様にネガトーンに攻撃を繰り出すが防がれてしまう。

 

 俺の攻撃の隙を付き攻撃を仕掛けたメロディとリズムだが逆にとらわれ地面に叩きつけらた。一瞬気がそれた隙に俺も攻撃を受けてしまうと、セイレーンはメロディとリズムの前に悠然と立ち腕を振り上げる。

 

「止めよ」

 

 二人に迫るセイレーンの音符、俺は二人の前に立ち両腕を広げる受け止める、巻き起こる爆発、舞い上がる土煙。

 

「どうせ止めると思ったわ、あの数では防げないでしょう」

 

 感情が感じられないセイレーンの声。

 

「確かに俺だけじゃ防げないな。だが、二人ならどうだセイレーン」

 

「何を……?」

 

 土煙が晴れると、俺の防げなかった位置にもう一つの影が立っていた。

 

「「キュアミューズ!」」

 

「こいつがキュアミューズか」

 

 セイレーンが品定めをする様な目付きでキュアミューズを見る、途端に聞こえる遠くからの発砲音。

 

 当たる直前に、セイレーンが身をひるがえし躱してしまうが良い牽制になった。

 

「跳び込む気配を感じて任して見たが正解だったな……キュアミューズ感謝する。しかし、噂の鬼人は遠くからスナイプか……」

 

 出来るだけ感情を出さない様に気を付けながら初対面を装う、ディスクアニマル達も上手く音撃管を使ってくれたみたいだ、内心で胸を撫で下ろす。

 

「やっぱりセイレーンじゃなかったのね」

 

 リズムは薄々違うと思っていたのだろう、驚きというよりも確認といった声質になっている。

 

「私の正体は今はどうでも良いドド、早くネガトーンを倒すドド」

 

 ミューズはフェアリートーンが話し終わると軽い身のこなしで気の上に飛び上がる、それを合図に音撃棒を振るう。

 

「烈火弾!」

 

 メロディとリズムに見せる様にあえて大きく体を動かし、多くの火球をネガトーンとセイレーンに向けて放つ、だが、火球が着弾する前にネガトーンの前に居たセイレーンは大きく間合いを取る、ネガトーンに幾つもの火球が当たり大きな爆発が何度も起きる。

 

「うわ、あの時より凄い」

 

 驚いているメロディの横に居たリズムは好機と見たのか、一気に間合いを詰めていく、舞い上がる土煙の中リズムの両足をそろえた綺麗なドロップキックが決まり、衝撃で土煙も一気に吹き飛ばす、もんどり打つネガトーン。

 

「今よ! メロディ!」

 

「オーケー」

 

「奏でましょう、奇跡のメロディ! ミラクルベルティエ!」

 

「おいで! ドリー!」

 

「ミラクルベルティエ・セパレーション!」

 

「あふれるメロディのミラクルセッション!」

 

「プリキュア! ミラクルハート・アルペジオ!」

 

「三拍子! 1、2、3!」

 

「フィナーレ!」

 

 浄化された音符を手早くフェアリートーンにしまうと、ハミィは思い出の楽譜を回収しようと手を伸ばす、途端に爆発が起き大切な楽譜が破れて散ってしまう、風で流されていく楽譜を泣きそうな顔で見送るハミィ。

 

「セイレーン!」

 

 名前を叫んだ俺をセイレーンは一瞥すると、ハミィに冷たい目線を向ける。

 

「次こそはその楽譜と同じ目に合わせてやる、覚えておけ私はマイナーランドの歌姫、悪の妖精セイレーンだ」

 

「待つニャ、セイレーン」

 

 ハミィがセイレーンを追うがセイレーンはトリオを連れて去って行ってしまう。

 

「違うだろう……セイレーン……お前は…………お前はハミィと一緒に居るべきなんだ! そうだろう! セイレェーン!」

 

 天を仰ぎ叫ぶ俺をメロディとリズムが複雑な表情で見つめてくる、そんな俺達を青々と茂る樹木の枝が、ただ揺れていた。




当時書いた後書きです、よろしくお願いします。

 第12話終了となります、お読み頂きありがとうございます。

 原作もこの辺になりますと響ちゃんと奏ちゃんが変身前に平然とネガトーンの攻撃を躱したりします、それに対する理由付けとしまして八雲との特訓を考えました。

 第13話 黒い女神たち
 第1節 正体捜しと罪悪感

 よろしくお願いします。


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第13話 黒い女神たち
正体捜しと罪悪感


お読みいただければ幸いです。


「セイレーンったらせっかく元の仲良しに戻れると思ったのにニャ……」

 

 ハミィがカップケーキを小さな手で大事そうに持ちながら呟く、いつもは見せない落ち込んだ姿に、俺達三人は顔を見合わせ眉を寄せる。

 

 まるで示し合わせたかの様に、三人同時に手に持っていたカップケーキをハミィの前に置くと、不思議そうに俺達を見てくるハミィ。

 

「ハミィにあげる」

 

 響ちゃんが優しい声で伝えると、ハミィは大喜びでカップケーキを食べ出す、その食べっぷりに驚く響ちゃんと奏ちゃん。

 

「「立ち直るの早っ!」」

 

 響ちゃんと奏ちゃんは目を丸くしながら声を上げているが、どうにも俺には無理をしている様にしか見えなかった。

 

「ようやくちょっぴり元気が出たニャ」

 

「「ちょっぴり……?」」

 

 ハミィの言葉に首を傾げる響ちゃんと奏ちゃんをしり目に、ハミィは意気揚々と音符を探しに出かけて行く。

 

「やれやれ」

 

「ハミィが元気に成って良かったけどね」

 

 奏ちゃんが少し呆れた声を出し、響ちゃんが誰に言う訳でも無く呟く。

 

「カラ元気も元気か……」

 

「八雲さんに今何て?」

 

「独り言、ハーブティー置いとくよ」

 

 俺の小さな呟きを拾った奏ちゃんに対し、何となく誤魔化す様に目の前に淹れたてのハーブティーを置く、別に話しても良かったが俺の勝手な思いなので余計な心配はさせたくない。

 

「良い香り、それにしてもキュアミューズって結局誰な訳?」

 

 香りを楽しみながらひと口飲むと、奏ちゃんは少し遠くを見る様な眼をしていた。

 

「私達と同い年位だし、やっぱさウチの中学の子なんじゃない?」

 

 響ちゃんが、カップケーキの代わりに出したシュケットを美味しそうに摘まみながら答える。

 

「うん、うん、私もそんな気がする、プリキュアなんだから音楽を愛する心を持っていて、何時も黒のパンツスタイルで、私達がピンチの時にビシッと格好良く敵を倒して……」

 

 奏ちゃんが想像の翼を広げながら、シュケットに手を伸ばし口に放る。

 

「ん、美味しい、八雲さんって結構食道楽だよね、料理も手が込んでるし……そう言えばムツキって全然分からないね、誰なんだろう……」

 

「んー、ムツキ、ムツキねぇ……私達と同じ中学の可能性もあるよね、鉄砲とトランペットみたいので戦って、ミューズと同じ黒いスーツを着ていて、私達の事よく庇ってくれるよね、それに、戦い方も凄いよね……」

 

 響ちゃんが、指を折りながらひとつひとつ上げていくと、奏ちゃんが、少し眉を寄せハーブティーを一口飲み小さく息を吐いた。

 

「確かにね、沈着冷静って言うのかな、常に先を見て戦っている感じだよね。この前も姿も見せないで遠くから鉄砲撃ってくるし、遠くから見守ってくれるみたい……」

 

 響ちゃんと奏ちゃんの会話を聞きながら過大評価されているなぁと、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「もしかして……私、ムツキ誰だか分かったの!」

 

 奏ちゃんの言葉にドキリとするが、俺の方を向いてこないので安心する。

 

「本当! 私もキュアミューズの探し方閃いちゃった!」

 

 二人して手を取り合いながら喜びあっているので、少し不安になる。

 

「明日学校で直接聞いてみるわ、本人に!」

 

 本当の事を話せない罪悪感に襲われる、きっと二人は明日別人に聞いて回って落ち込んで帰ってくるだろう、せめて美味しいお菓子でも用意しておこうと心のメモに付けくわえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し早目に登校してまで奏に付き合って着いた先は音楽室、中では王子先輩が朝の練習をしている。その姿に熱い視線を送っている奏。

 

「奏、もしかして、ムツキの正体って……」

 

「常に冷静で、先を見据えて私達を見守っていてくれそう……それに王子先輩管楽器も凄いのよ、ムツキで決まりよ」

 

「えー、でも戦うのとか苦手そう」

 

 夢見がちな奏の言葉を肯定できる理由が無く、思った事を伝えると、奏は頬を膨らませて私に言い返してくる。

 

「何言ってるの、ああいう人ほど実は鍛えてたりするものなのよ、八雲さんみたいに」

 

「でも、ムツキって鬼人なんだし、王子先輩が鬼って言われてもなんかしっくりこないよ」

 

 すでに教室の中を熱心に見つめている奏に、私の言葉は届いているかいまいち不安っていうか、絶対に届いていない。

 

「やっぱり王子先輩がムツキだったんですね!」

 

 いきなり振り向き、目を輝かせながら私に語って来ている様で実は全く語って無く、奏必殺の妄想劇が始まってしまった。

 

「ああ、僕、君達のの危ない所見て居られなかったんだよ」

 

 おでこに人差し指と中指を添えて、低い声で話しだす奏を生ぬるく見ていると、奏劇場はさらに加速して行く。

 

「そんなぁ、早く教えてくれれば良かったのに」

 

「ハハハ、君達の前だと僕も照れくさくてね」

 

 止まらないし、止められない、呼びかけても届かない、私は完全放置を選び心の中で一言謝って、奏を音楽室の前に置き去りにし教室に向かう事にした。




いつもお読み頂きありがとうございます。

第13話 黒い女神たち
第2節 響の暴走と聖歌先輩

よろしくお願いします。




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響の暴走と聖歌先輩

おはようございます。

何とか生きてます、ぼんやりとネタはあるのですが、それが文章になりません、困ったものです。

東映アニメーションが不正アクセスを受けプリキュアやダイの大冒険が放映が止まってしました、コロナも大変だし戦争も始まって色々な事を考えます。

皆様が平和な日々を送れますように。



「やあ、木野君いきなり呼び出してすまなかったね」

 

 俺は、北条先生に呼ばれ打ち合わせの為に、職員室を訊ねていた。

 

「いえ、大丈夫です、こちらこそ昼休みなってしまって申し訳ありません」

 

「そう畏まらなくって良いよ木野君、僕はもう食事は済ませたから気にしないで」

 

 北条先生は、いつもの飄々とした感じでファイルを渡しながら話しかけてくる。

 

「お願いしたい事なんだけれど、取りあえずこの書類を──……」

 

「みなさんこんにちは、私2年A組の北条響です、ミューズとムツキって名前に心当たりある人を探しています、って言うかミューズさん! ムツキさん! 今日の放課後屋上で待ってるから、だから必ず、え、あ、ちょっ、ちょー」

 

 放送用のスピーカーから流れる響ちゃんの声、言い終わる前に乱暴にスイッチが切られる音と共に放送が途切れる。職員室に居た教職員はもちろん、たまたま居合わせた生徒達もスピーカーを見上げ茫然としている。

 

 昨日響ちゃんが言っていた捜し方ってコレか、と思うと流石に言葉が出ない、どうした物かと思っていても既に賽は投げられてしまっている。昨日の時点で捜し方を聞いていなかった事を激しく後悔しつつ、父親である北条先生を盗み見た。

 

「木野君、響が何を言っているか分るかい……?」

 

 スピーカを見上げたまま絞り出された北条先生の言葉に、何と答えようかと考える。

 

「あー……多感な年ごろは、難しいですね……」

 

 考え抜いて出た答えがこの程度でしかない、北条先生と顔を見合わせると同時に小さなため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響のアイデアで屋上で待っているけど、ミューズもムツキも全く来そうにないし無関係な人ばかりが覗きに来るし、悪ふざけをする男子が自分がムツキだとか嘘も言って来た。

 

「うぅぅ……来ないじゃない」

 

 そろそろ怒ったって良いよね、私許されるよね。

 

「おっかしいなぁ」

 

 響おかしく無いよ、絶対来ないよ。

 

 扉のスライドする音と聞こえてくる声、また面白半分で覗かれる、もう数えるのも嫌になるほどの人数が来た。

 

「あ、居た居た、あれじゃない、お昼の放送の」

 

「本当にミュースさん達待っているんだ、あそこで座ってますよ」

 

 能天気な声に思わず睨みつけると、今回覗きに来た二人の女子は私達では無く廊下を向いて楽しそうに話している、話している相手は廊下に居るらしくその女子は廊下の人物に手を振ると楽しそうに行ってしまい、私は思わず眉を寄せた。

 

「二人とも少しやりすぎかな」

 

 良く知っている声に、私と響は驚きのあまり立ち上がった。

 

「八雲兄?!」

 

「どうして八雲さんが」

 

 屋上に出て来た八雲さんは、少し困った様子で私達の側に来ると優しく笑いかけてくる。

 

「丁度昼休みに仕事で来てね、作業終わったら放課後になっていたから顔出しに来たんだよ、で、二人はどうしてそんなにミューズ達の正体が気になるの」

 

 購買部で買って来てくれたジュースを、手渡しながら少し呆れ顔の八雲さん。

 

「早く仲間になりたいし」

 

「どうしても気になるもん」

 

 私と響の言葉に少し眉を寄せた八雲さん、いつもと少し雰囲気が違う気がする。

 

「八雲兄は気にならないの?」

 

 響が訊ねた時に気が付いたけど、八雲さんは余りミューズ達の事を気にしていない、何でだろう。

 

「俺か? 俺は……」

 

 言いかけた時に八雲さんが出入口に顔を向けたので、私も響も出入口を見ると影になっていて良くは分からないけど、女生徒が立っていてもしかしてと思って少し鼓動が速くなる。

 

「あらあら、まあまあ」

 

 少し楽しそうな声、手には音符が描かれた紙袋を持ち佇んでいる、その人は私の知っている人だったので期待は高まっていった。

 

「待ち人来ず、かしら」

 

「せ、聖歌先輩」

 

 やっぱりと思いう気持ちと、何で早く教えてくれなかったのかと考える気持ちとがぶつかりながらも、こちらに向かって来る聖歌先輩を見ながら軽いデジャブを感じてしまう。

 

「もしかして、先輩がミューズ?」

 

 驚きの声を上げている響の隣にいる八雲さんは、特に表情を崩しては無く何を考えているか分らない、最近の八雲さん少し変……

 

「あ、ごめんなさい、私はミューズさんじゃないのよ、放送を聞いて面白そうだから見に来ちゃった」

 

 頬に手を置き可愛らしく首を傾げる聖歌先輩。

 

「なーんだ、先輩だったら良かったのに……」

 

「勘違いさせてごめんなさいね」

 

 私の小さな呟きに少し眉を落とし謝ってくる聖歌先輩、私が勝手に期待しただけなのに胸がチクリと痛む。

 

「コレ差し入れ、一緒に食べましょう」

 

 紙袋を私達に見せる様に少し持ち上げて見せる聖歌先輩が八雲さんを見て首を傾げる。

 

「そちらの方がもしかしてムツキさんかしら、たまに校内でお見受けしますね」

 

「俺の名前は木野八雲って言います、調律師です、今日の昼の放送を聞いて様子を見に来ました」

 

「3年の東山聖歌です、よろしければ木野さんもご一緒しませんか?」

 

 柔らかく笑い合う二人を交互に見て私は少しだけ……少しだけ面白く無かった。

 

 私達三人はベンチに座り八雲さんは少し高めに出来ている手すりに背中を預けて聖歌先輩から受け取った包みを開けている。

 

「ミューズさん達は外国の方なの?」

 

「いえ、多分そうじゃないと思います」

 

「私達も彼女が誰なのか全然分からないんです」

 

 私の台詞に言葉に付けたした響が聖歌先輩のクッキーを口に放る。

 

「うん、これサクサクで超美味しい!」

 

 響が目を輝かせて喜ぶ姿に、聖歌先輩は嬉しそうだ。

 

「うん、良い甘さだ」

 

 八雲さんも笑顔を浮かべ食べている、二人があまりに美味しそうに食べているので、私もひとつ食べてみるとバターの風味に優しい甘さが口いっぱいに広がる。

 

「やっぱり聖歌先輩って凄い……」

 

 私の呟きを聞いた聖歌先輩が私を見て微笑む。

 

「南野さんのケーキも凄く美味しいわよ、最近は技術もドンドンと上げているじゃない」

 

 聖歌先輩に褒めて貰えて嬉しくて顔が緩むのを感じ、何となく八雲さんを横目で見ると、八雲さんも少し嬉しそうに微笑んでいる、私が感じていた違和感がウソの様に消えていった。




いつもお読み頂きありがとうございます。

第13話 黒い女神たち
第3節 聖歌と八雲

よろしくお願いします。


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聖歌と八雲

 おはようございます。
活動報告のコメント頂きありがとうございます。
これからもゆっくりですが書いて行きますのでよろしくお願いします。


 私と奏に聖歌先輩とそして八雲兄、四人で他愛もない話をしながらゆっくりと時間が過ぎる、時折吹く風が気持ちいい。

 

「ミューズさんとムツキさんは、何か理由があって二人の前に姿を現さないんじゃないかしら、何か事情があるのよきっと、でも、いつかその時が来たら彼女は名乗り出てくれるはずよ」

 

 いろんな話をしながら辿り着いた、ミューズの話を聞いた聖歌先輩が流れていく雲を見上げながら、何かを噛み締める様に言葉を紡ぐ。

 

「……俺も、聖歌ちゃんの意見と同じだよ、慌てる必要はないと思うよ」

 

 腕を組み自分の足元を見ながら八雲兄が同意する、少し険しい八雲兄の顔に何故だか私の胸は一瞬チクリと痛んだ。

 

「ちゃん付けなんて何年ぶりかしら、少し新鮮だわ」

 

 いつもの調子で聖歌先輩を『ちゃん』付けで呼んだ八雲兄を思わずジト目で見てしまう、でも、『ちゃん』が付かないのは少し怖い、あの時を思い出すから……

 

「ああ、失礼、少し馴れ馴れしかったね、東山さん」

 

 言い直した八雲兄に対して、聖歌先輩が少し頬を膨らます。

 

「良いですよ、ちゃん付けでその方が嬉しいわ」

 

 何時も大人びて見えている聖歌先輩が、少し幼く見えて私と奏は顔を見合わせた。

 

「そう? よろしく聖歌ちゃん」

 

「八雲さん、こちらこそですわ」

 

 楽しそうな2人を見てると胸が疼く、たまに起きるこの疼きを無理やりに胸の奥に押し込める様にクッキーを口にした。

 

「そろそろ、お暇するわ、南野さん達はまだ居るのかしら」

 

「私達はもう少し待ってみます」

 

 私達の会話を聞きながら、八雲さんが思い出した様に顔を上げた。

 

「俺もそろそろ行くよ、用事思い出したしね」

 

「あら、エスコートしてくれるのかしら」

 

 小首を傾げ、いたずらっ子の様に笑う聖歌先輩に八雲兄は少し考える素振りを見せる。

 

「昇降口まででよろしいですか、お嬢様」

 

 八雲兄も少し悪い笑顔で返すけど、聖歌先輩も負けてはいない、一瞬空気が凍った気がするが直ぐに四散する、私の眼には二人の間に火花が散っている気がした。

 

「えぇ、お願いするわ、でも、その前に少し良いかしら」

 

 聖歌先輩は八雲兄をベンチに座らせポケットから小さな整髪料を取り出すと手櫛でセットをし出す。

 

「聖歌ちゃん、何でセットをするんだい?」

 

「あら、せっかくエスコートして頂けるなら髪型ぐらい私の好きにしても良いと思いませんか」

 

 少し戸惑っている八雲兄の言葉に間髪入れる聖歌先輩、八雲兄は聖歌先輩が前に居るから見えないし、先輩は楽しそうで私は楽しくない。

 

「八雲さんはブレスレットなんか付けているんですね」

 

 聖歌先輩がセットしながら横目で見ながら呟く。

 

「最近ね、ちょっと好みのヤツだから付け出したんだ」

 

 八雲兄が腕を少し上げると、私達に見せてくれた。

 

「本当だ。今までゴツイ腕時計付けてたから気が付かなかったよ、いつ付けたの?」

 

「ちょっと前にぶつけちゃって壊しちゃった。他に持っているのが細い腕時計しか無いから、良いチャンスだから付け出した」

 

 吐息が聞こえ、目線を向けると満足した様な聖歌先輩は頷いていた。

 

「完成です、きっと南野さんと北条さんも気に入りますよ」

 

 言葉と共に八雲兄の前からずれた聖歌先輩。

 

「はぅ」

 

 変な声を上げた奏が手で口を覆って崩れ落ちた……破壊力あるなぁ、八雲兄……

 

 かき上げアップバングされた八雲兄。上げられた髪は少し太めの束感も相まってワイルドな雰囲気を纏っていてかなり格好良い。

 

 青銀髪の髪は太陽の光を受けてキラキラと輝いていて、前髪が上がった事により私の好きな銀色の瞳も強調されていた。

 

「奏ちゃん、大丈夫?」

 

 崩れ落ちた奏に八雲兄が手を貸そうとしているけど、奏は赤い顔を隠したまま首を横に振っている。

 

「奏から離れて八雲兄、奏死んじゃうから」

 

「え、死ぬって……?」

 

 駄目だこの人(八雲兄)自覚が無いや、聖歌先輩も笑ってないで助けてよ。

 

「奏、鏡借りるね」

 

 奏の上着のポケットからコンパクトミラーを取り出し無言で渡す、鏡で自分を見た八雲兄は「ほぅ」と小さな声を上げた……

 

「しかし、これは……」

 

 八雲兄も戸惑っちゃったよ……私は少し面白くない、しょうがないから助け船を出す事にした。

 

「格好良いから良いんじゃないの? 聖歌先輩がせっかくセットしてくれたんだしさ、それに何時までも聖歌先輩を待たせちゃ駄目だよ、八雲兄」

 

 目だけで八雲兄に早く行ってとお願いすると、八雲兄も気がついたらしく目で合図を返してくれた。

 

「では、お嬢様お手をどうぞ」

 

 八雲兄が聖歌先輩に腕を差し出すと、聖歌先輩は躊躇いも無く八雲兄の腕に手を通す。

 

「お願いね」

 

 聖歌先輩の言葉が合図となり、二人は腕を組んで歩いて行く。その姿を見送りながらも私はやっぱり物凄く面白くなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人を見送った後、何とか顔の熱の納まった私は、少し気が抜けてしまってのと聖歌先輩が羨ましくなり帰る事にする。

 

「響は八雲さんのブレスレットどう思った?」

 

「ん? 八雲兄の? 別に思わなかったよ」

 

 響は小さく首をかしげきょとんとした顔をした。

 

「響は何も思わなかったんだ……私は少し考えた」

 

 私は目線をぼんやりと桜の樹木を眺める。

 

「ブラックホール戦から帰って来た時に付けてたから、少し気になってるし、たまに八雲さんおかしい時あるから」

 

 私の言葉を聞いて3本目の桜の所で足を止めて、唇の下に指を当てて考える響。

 

「八雲兄がおかしい? ……奏の考えすぎだよ」

 

「それなら良いけど……」

 

「まぁ、鬼人だからって鬼の顔のブレスレットは笑いそうになった」

 

 思いだし笑いする響。

 

「それより気になるのが聖歌先輩だよ。聖歌先輩ってあんな事したっけ、もしかしてセイレーン?」

 

 屋上の事を思い出した響は少し不機嫌そうだった。

 

 響の言葉に私は少し考える、でも、はっきりと言える事はそれほど多くは無いけど決定的な事がある。

 

「あのクッキーは聖歌先輩じゃないと作れないよ、整髪料も何時も使っている無香料のヤツだったし、それに八雲さんなら直ぐに気が付くと思う」

 

「でもさ、初対面でしょう? 万が一って事もるじゃん」

 

 風で揺れる枝を見ながら、ぼんやりと考える。

 

「聖歌先輩ってさ、たまにお茶目するんだよね」

 

「お茶目って…………あそこまで八雲兄の髪をいじり倒して?」

 

 響が眉を寄せながら木に寄り掛かる、その仕草が少し八雲さんみたい。

 

「私だって腕組んだ事無いのに……あんな髪型まで……」

 

 小さく呟いているけど全部聞こえてるよ響、口尖がらして響ってばかわいー、でも、響お姫様抱っこされた事あるじゃん、私は……おんぶは気絶してたからノーカン、あ、膝枕……

 

「ドドー」

 

 フェアリートーンのドドリーとレリーが慌てて飛んでくると衝撃の言葉を伝えてくる。

 

「キュアミューズが現れたレレ」

 

「「えっ! キュアミューズが!」」




 お読み頂きありがとうございます。
日に日に文章が出なくなってます、多少は本を読んですが脳に入りません。
日頃会話が無いので何時も自分が悪くなっていき気がします。 
2ヵ所直しました、おかしくなければ良いのですが……
これからもゆっくりですがよろしくお願いします。
2~3月に文章を出します、まだ元気な時な文章ですが、直したい所もありますのでこの様になります。
宜しければこれからもお読み頂ければ幸いです。


では、次回。
第13話 黒い女神たち 
第4節 裏切りのミューズ

よろしくお願いします。


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裏切りのミューズ

お久しぶりです。
何とか生きてます。

地球規模で碌な事が続いてます、早く今までの比較的幸せな時代に戻って欲しいです。

皆さまにたくさんな幸せが舞い込みますように。


 私と奏はドリーとレリーの案内であまり人が近づかない海岸の岩場に向かう、結構な距離だけど奏も結構平気でついて来る、うん、トレーニングの成果がかなり出ていて安心する。

 

 崖下に着きミューズを探すと、岩陰に隠れていたミューズを見つけ、私は少し大きな声でミューズを呼んだ。

 

「ミューズ!」

 

 直ぐにミューズの元まで走るが、ミューズは私達を手で制する。

 

「あ……あぁ、そっか、この恰好じゃ分からないかもしれないけど、私達もプリキュアよ、私がキュアリズムで」

 

 奏がいぶかしんでいるミューズに説明と自己紹介をし、私も続いて自己紹介をする。

 

「私がキュアメロディ」

 

「私達ずっとあなたを探していたの」

 

「ええ、ハミィから聞いたわ……今までちゃんと話せなくてごめんなさい、本当は私も二人と仲間になりたいとずっと思っていたの」

 

 目を伏せがちに話をしてくれるミューズ。

 

「ミューズ……」

 

「じゃあ、私達もう今から仲間だよね」

 

「もちろんよ」

 

 私達の言葉を肯定してくれたミューズに奏と喜びの声を上げる。

 

「それより二人とも……時間が無いの!」

 

「「えっ?」」

 

 焦った声のミューズに、私達の喜びは水を差される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「音符が全部集まった?!」

 

「ええ、ハミィと私でさっき捜し終えて……」

 

「そうなんだ」

 

 奏の驚く声にミューズが状況を教えてくれる、私も思わず喜びの声を上げた。

 

「でもね、伝説の楽譜を完成させるには、貴女達の持っている『キュアモジューレ』がどうしても必要なの」

 

 ミューズの焦る声に、状況は一刻も争うのが分かる、でもそれって……

 

「でも、『キュアモジューレ』が無いとプリキュアになれないし……」

 

 何かが怖い、今『キュアモジューレ』を手放すのが物凄く怖い、嬉しさのあまり八雲兄に連絡を入れなかったのが悔やまれる。

 

「それはト音記号から生まれた物、ト音記号が無くては楽譜は完成しない、だから私急いでそれをメイジャーランドの届ける様に頼まれたの! 敵が音符を奪いに来る前に一刻も早く『キュアモジューレ』を届けなければ……」

 

 怖いけどこれで戦いが終わるのなら、良いのかな……良いんだよね、きっと……

 

 奏と見つめ合う奏も少し不安みたい、私達は覚悟を決め頷き合いミューズに『キュアモジューレ』を差し出す。

 

「そう言う事なら」

 

 ミューズがゆっくりと手を伸ばし、数度『キュアモジューレ』を触った後のまるで私達から奪うような勢いで『キュアモジューレ』を持ち去る、余りの勢いに嫌な予感が大きくなる。

 

 ミューズの手の中の『キュアモジューレ』がいきなり強い光を放ち出し、私達全員の目が眩んだ瞬間、事もあろうにミューズは『キュアモジューレ』を海に投げ捨てた。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「届けに行くんじゃ無かったの?!」

 

 ミューズの雰囲気が少しおかしい、何で? どうして? 

 

「……もう用が無いから捨てたのよ」

 

「どう言う事?」

 

 奏が私と同じ事思いミューズに訊ねる、ミューズがら殺気が溢れだしてくる。

 

「貴女達2人も、もう用は無いわね…………」

 

 奏の手を引いて逃げようとしたが、ミューズの動きは早く私達の間をすり抜けたと思ったら、赤く嫌な感じのする五線譜で私達を捕える。

 

「何をするの!」

 

「私達仲間じゃないの?!」

 

 私達の叫び、私のわずかな期待は裏切られる。

 

「仲間? フフフ……アンタ達の仲間はアレでしょう」

 

 ミューズの指さす方を見ると岩場に私達と同じ赤い五線譜で縛られているハミィがいて岩の上には笊みたいな物が逆さまに置いてあった。

 

「「ハミィ!」」

 

「さあ、みんなまとめてマイナーランドに招待するわ」

 

 ミューズが腕を振るうと海が禍々しい色に変わり、別の世界に繋がっているのが分かり私は恐怖した。

 

「マイナーランドで不幸のメロディをたっぷり聴かせてあげる、暗く哀しい調べをね」

 

 顔を歪め笑うミューズは恐ろしく、私は今更ながらミューズに騙された事を悟った、もしかすると八雲兄はミューズを疑っていたの? だとしたらミューズの正体に興味を示さなかったのも分かる、もしかして言いだせなかったの? ねえ八雲兄…………

 

 ミューズが五線譜を引っ張るが私達は何とか耐える、こっちは奏と2人、しかも戦う為のトレーニングもしているんだ、どんな状況でも諦めたくない。

 

「ミューズ貴女は敵なの? 今まで助けてくれたのは私達を信用させる為の罠だったの?!」

 

 奏が私の思いもミューズにぶつけるが、ミューズが歪んだ笑顔のまま五線譜に力を込める。

 

「『キュアモジューレ』が無ければただのか弱い人間と思ったけど、中々やるわね、でも、もう終わり」

 

 ミューズが一瞬力を緩めた為に私達はバランスを崩す、その隙を逃さずミューズは一気に五線譜を引っ張る、空中に投げだされる私と奏、視界一杯に広がる嫌な景色。

 

「八雲兄……ごめん」

 

 引きつるような私の声、血の気が引くのが分かる、内臓が持ち上げられるような嫌な浮遊感が唐突に終わる。

 

 受け止められ力強く優しい感触に包まれる、顔を持ち上げると視界に入る力強い意志を感じる銀色の瞳、変身もしないで慌てて救いに来てくれたその事実が嬉しくて、心臓が強く脈打って胸が苦しい、溢れ出しそうな涙を必死で押さえる。

 

「八雲兄!」

 

「八雲さん!」

 

 地面に着地すると、八雲兄は私と奏を優しく地面に下ろし手を離す。

 

「すまない、遅くなった」

 

 八雲兄は右腕を前に差し出すと、上から降って来た音撃棒が吸い込まれる様に手の中に納まる、でも、その音撃棒は私の知っているのとは少し違くって、鬼石から炎がまるで剣の様に伸びていた。

 

「二人とも動くな」

 

 短く鋭い声、八雲兄が私達に音撃棒を振るう、炎が軌跡が描くと私達を捕えていた五線譜がバラバラになり消えて行く。

 

「八雲さん!」

 

「八雲兄!」

 

 私と奏がもう一度名前を呼ぶ、感極まった私は思わず八雲兄に抱きつくと優しく受け止めてくれて、私の後頭部に手を回し力強く引き寄せ抱きしめてくれた。

 

「セイレーン! ミューズの真似は通用しない!」

 

 音撃棒で、ミューズを指しながら叫ぶ八雲兄に頼もしさを感じる。

 

「違う! 私は本物のミューズだ!」

 

「ハッ! なら後ろに居る奴に説明をして見せろ!」

 

 八雲兄の言葉に慌てて視線を動かすと、そこにはもう一人のミューズが佇んでいた。




いつもお読み頂きありがとうございます。

ここら辺から八雲の能力もかなり上がってます。
やっと烈火剣が出せました、最初は鳴刀・音叉剣にしようかと思ったのですが、音角を持って居るならその場で変身しろよと自分で突っ込みました。
パソコンの前で妄想しているのですが、文章と言いますか単語が出て来ません、困ったものです。
この様な作品ですが、お付き合い頂ければ幸いです。

では、次回。
第13話 黒い女神たち
第5節 ふたりの女神

よろしくお願い致します。


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ふたりの女神

皆さま、お久しぶり。
体調など変わりはありませんか、これから寒くなります、ご注意ください。

皆さまにたくさんの幸せが舞い込みますように。


「「ミューズが二人」」

 

 相対する二人のミューズに私と奏は同時に驚きの声を上げる。

 

「私の真似はやめるドド」

 

「うるさい! 私が本物だ」

 

 私達を捕えていたミューズが、もうひとりのミューズに対して攻撃を始め激しい攻防を繰り広げる中、私達三人は急いで捕らわれているハミィの元に向かう。

 

 ハミィの周りにはディスクアニマル達が集まっており、緑大猿達がハミィを捕えている五線譜や猿ぐつわを力任せに引き千切り助け出していた。

 

「ハミィ、大丈夫?」

 

 奏の問い掛けにハミィは何度も頷いて見せる、その隣で黄蘗蟹が笊に捕らわれていたフェアリートーン達を救出する。

 

「皆、無事か? 怪我は無いか?」

 

「大丈夫、ありがとう八雲兄」

 

 少し焦っている八雲兄を安心させたくて明るく返事をすると、八雲兄は大きく息を吐く。

 

「いでよ! ネガトーン!」

 

 セイレーンの声に応じ海の中からネガトーンが現れミューズを襲う。

 

「二人とも行けるか?」

 

 八雲兄が、鋭い視線をネガトーンに向けながら私達に声をかけて来る、でも今の私達には『モジューレ』無い、私は下唇をかみしめながら自分の迂闊さを後悔する。

 

「八雲さん『モジューレ』が海の中に……」

 

 奏の悔しそうな声、私はうつむいたまま何も言えなかった。

 

「大丈夫だよ、ホラ」

 

 八雲兄が海を指さすと小さな水飛沫が二つ上がり『モジューレ』が空中に投げだされ舞っていた。

 

「「『モジューレ』!」」

 

 空中の『モジューレ』に勢いよく小さな影が迫る、ひとつの『モジューレ』を弾き飛ばしもうひとつをしっかりと掴むと、私目がけて飛んで来るその小さな姿に胸が熱くなる。

 

「アカネ!」

 

「瑠璃!」

 

 アカネは『モジューレ』を私の手に置くとそのまま肩に止まる、その隣では瑠璃が『モジューレ』ごと奏に抱きしめられていた。

 

「「ありがとう、ハミィをお願い!」」

 

 私は一人じゃない、奏が、八雲兄が、ハミィが、皆が居るそれだけで私は幸せだ、だから必ずこの世界を守って見せる、ここで決めなきゃ女がすたる。

 

「ミューズになり済まして!」

 

「『キュアモジューレ』を奪おうとするなんて!」

 

「「どうしてそんな事を!」」

 

「目を覚ませ! セイレーン!」

 

 私達の怒り、思い知りなさい! 

 

「「レッツプレイ! プリキュア! モジュレーション!」」

 

「鬼姫の使者! 音撃戦鬼! 獣鬼!」

 

「爪弾くは荒ぶる調べ! キュアメロディ!」

 

「爪弾くはたおやかな調べ! キュアリズム!」

 

「「届け! 三人の組曲! スイートプリキュア!」」

 

 

 

 迫って来たネガトーンを三人同時に殴りつけてネガトーンを吹き飛ばす。

 

「一人では敵わない困難だって!」

 

「仲間と力を合わせれば打ち勝つ事が出来る!」

 

 私とリズムが叫ぶ、私達は色々経験した、悲しい事、辛い事、嬉しい事、全てが私達の糧になっている。

 

「行くぞぉ!」

 

 私と獣鬼が同時に飛び出しネガトーンにラッシュを入れる、リズムの気合の声が耳に届くチラリとそちらに視線を送ると、私達の攻撃の隙を付くリズムの動き見え

 

 私と獣鬼はまるで示し合わせた様にリズムに場所を開ける。

 

 走り込んで来たリズムが、ネガトーンを下から蹴り上げ、その反動を利用し回し蹴りを綺麗に入れた。

 

「ネガトーン飛び道具よ!」

 

 セイレーンの言葉に応じ、ネガトーンが両腕を振るい、幾つもの衝撃波が私達を襲う。

 

「舐めるなぁ!」

 

 獣鬼が私達の前に立ち塞がり、音撃棒を振るい衝撃波を打ち返して行く、土煙で舞い上がり視界を塞ぐ。

 

 風で土煙が流されると私達の姿が浮かび上がる、仁王立ちの獣鬼、無傷の私とリズム、獣鬼が腕を振るうを土煙が一気に晴れた。

 

「「獣鬼!」」

 

 私とリズムの弾む声、リズムが重心を低くして私にウインクをしてくる。

 

「よぉし、行くわよメロディ」

 

 私が頷くとリズムが一気にネガトーンに飛翔する、何度か打撃を加えるとネガトーンを捕まえ体勢を入れ替えた。

 

「メロディ!」

 

「オッケー!」

 

 リズムのやりたい事が今まで以上に分かる、特訓の成果がで出している、よし、私も! 

 

 ベルティエを召喚して構える、「ミュージックロンド」をイメージして力を溜める、私の力がドリーを介して集中させる。

 

「たあああ!」

 

 リズムが気合と共にネガトーンを放り投げた、迫って来るネガトーンに私は全てを集中する、今だ! 

 

 溜めた力を解放すると大きな爆発がネガトーンを包み吹き飛ばす、巻き起こった爆煙の中に獣鬼が飛びこみ爆煙を吹き飛ばしながら体を回転させ、ネガトーンに踵を落とし地面に叩きつた。

 

「メロディ! リズム!」

 

 獣鬼の叫びに合わせて体に力を巡らせる。

 

「おいで! ドリー!」

 

「おいで! レリー!」

 

「ミラクルベルティエ」

 

「ファンタスティックベルティエ」

 

「「セパレーション!」」

 

「あふれるメロディのミラクルセッション!」

 

「弾けるリズムのファンタスティックセッション!」

 

「プリキュア! ミラクルハート・アルペジオ!」

 

「プリキュア! ファンタスティック・ピアチェーレ!」

 

「「三拍子! 1、2、3!」」

 

「「フィナーレ!」」

 

 浄化の済んだネガトーンからハミィが音符を回収するとセイレーンの姿は既に消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が海に涼む姿を見ながら私はミューズとの会話を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

「ミューズ待って」

 

「私達ずっと貴女を探していたの」

 

「ねえ、仲間になろうよ」

 

 私とリズムの思いをミューズに伝えた。

 

「まだその時ではないドド、その時が来たら必ず貴女達の前に仮面を取って現れるドド」

 

 フェアリートーンが、ミューズの代弁をするとそのまま去ってしまう、でも、一瞬見えたミューズの瞳は何かに耐えている様に見え、私の胸を締め付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 オレンジ色に輝く太陽を見ながら、私はミューズは黒よりも太陽の様な色が似合う気がした。

 

「ま、たとえ正体が分からなくってもミューズは私達の大切な仲間」

 

「えぇ、何時かきっとミューズは私達の前にちゃんと姿を現してしてくれるわ」

 

「そうだな、その時を楽しみに待っていよう」

 

 私達の言葉が波に掻き消されていく、八雲兄に目線を送ると何かに思い巡らせている、夕日に照らされている横顔は物悲しく見えて心配になる。

 

「ハミィは早くミューズ達とカップケーキ食べたいニャ」

 

 ハミィの発言に、私達は声を揃えて笑う。

 

「よし、仕方がないからミューズの分がハミィが食べちゃうニャ」

 

 勢いよく私の頭に飛び乗って来たハミィが宣言すると、更に笑いが起こる。

 

「さ、三人とも早く帰るのニャ」

 

「バイクで来ているから家まで送るよ」

 

 八雲兄の言葉に私達は喜びの声を上げる、そうだ、せっかくだから街を一回りして貰おう、大切なこの街を。




第13話終了となります。
お読み頂きありがとうございます。
宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

では、次回。
第14話 響と奏のお泊まり会 
第1節 揺らがぬ絆

よろしくお願いします。


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第14話 響と奏のお泊まり会
揺らがぬ絆


皆様、おはようございます。
お久しぶりです、何とか生きています。

更新がかなり遅くなってしまってすみません。


 王子先輩の誕生日は、八雲が王子先輩を迎えに行ってしまったので、セイレーンが邪魔が出来ずに普通に開催されました。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の朝学校に着くと、奏が門の隣にある柵につかまって渋い顔をしていたので、私は足を速めて奏の元に向かう。

 

「奏、おはよう、何しているの?」

 

 小走りで奏の側に着くと、やはり奏は顔をしかめたままだった。

 

「どうしたの、そんな所で」

 

「何言っているの? 響が勉強教えてって言うからココでずっと待っていたんだよ」

 

「え……そんな約束して無いよ、誰かと間違えているんじゃない?」

 

 首を傾げながら奏に答えると、奏は眉を吊り上げる。

 

「は? 親友の響を誰と間違えるって言うの? 信じられない、もう絶交だからね」

 

 奏は捲し立てると、取り付く島も無く走り去ってしまい、私は茫然として動きが止まってしまった。

 

「え……意味分かんない、ちょっと待ってよ」

 

 我に帰った私は、直ぐに奏を追ったがもうどこにも居なくなっており、仕方がないので教室に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奏を追う為に早足で教室に向かい勢いよくドアを開ける、乱暴に開けられたドアに教室に居た数名が、驚いて私を見たがそれには構わずに教室を見渡すが、奏は居なく私は少しイラつき始めていた。

 

「おはよう、響」

 

 後ろから奏がのんきに声をかけて来て、思わず睨んでしまう。

 

「何笑っているの、って言うかさっき追いかけたのに何処行ってたの」

 

「え……私、今来たところだけど……」

 

 私のキツイ言い方に奏は戸惑いの表情を見る、その瞬間私の怒りは四散してしまい、代わりに猛烈な恥ずかしさに襲われる。

 

「本当? 今来たの?」

 

「どうしたの? 本当よ」

 

 奏はやっぱり嘘なんて付いていない、もう少し話をしないと駄目だ。

 

「二人とも、ちょっと来て」

 

 奏に状況を話そうとした時に、担任の道添先生に背中を押され奏共々有無を言わせず教室に連れ込まれた。

 

「はい、皆そのまま聞いてね、この前皆に投票して貰ったベストフレンド大賞覚えてますね──」

 

 先生が話す中、私と奏は顔を寄せ小さい声で会話を続ける。

 

「校門で奏に会った」

 

「私今来たとこよ」

 

「今年のベストフレンド大賞は貴女達二人よ」

 

「「はい?」」

 

 私達の肩に優しく手を添えて道添先生は宣言する、思わず奏と顔を見合わせた。

 

「「私達がベストフレンド……?」」

 

 奏と同時に呟いた言葉は思ったより教室内に響き、皆がクスクスと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと考えればセイレーンだって分かったのに……」

 

 家に来た響ちゃんは、今朝あった事をポツリポツリと話すと、見ているのが辛いほどに落ち込んでいた。

 

「今、物凄く後悔していると」

 

 小さく頷くと泣きそうな顔で俺を見てくる響ちゃん、俺は椅子に座っている響ちゃんの側に近づき頭を撫ぜると、響ちゃんは寄りかかってくる。

 

「そんなに心配する必要は無いよ響ちゃん」

 

「でも奏に酷い事しちゃって、その後も謝る機会作れなくて、放課後は助っ人の練習もあっから……私……」

 

「あのね、響ちゃんがきっと悩んでいるから助けて欲しいって、駆け込んで来た人がいるんだよ」

 

 響ちゃんは顔を上げると、虚を突かれた様な顔をしていた。

 

「響……」

 

 後ろから掛けられた声に響ちゃんは体を強張らせ俺の服を強く握り込む、その手の自分の手を添えると見上げて来たのでうなずくと響ちゃんの瞳が一瞬潤む。

 

 下唇を噛み締め数秒考えると、響ちゃんは後ろを向くが手は離さなかった。

 

「ねえ響、もし私がセイレーンに騙されて響に酷い事言ったら怒る?」

 

 奏ちゃんの質問に、響ちゃんは即座に首を横に振る。

 

「怒る訳ないじゃん」

 

 その言葉を聞いた瞬間、奏ちゃんは響ちゃんを抱きしめた。

 

「私も同じだよ響、こんな事で怒る訳ないじゃない……」

 

「奏……」

 

 服を掴んでいた手を放すと、二人はお互いを確かめる様に抱きしめ合っていた。




お読み頂きありがとうございます。

先生の名前がついてなかったので、担当した声優さんからお名前を頂きました。

宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

では、次回。
第14話 響と奏のお泊まり会 
第2節 今日のおやつは

よろしくお願いします。


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