とあるマフィアの平行移動(パラレルシフト) (梟本つつじ)
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序章:はじまり

出来れば原作の口調は崩さないつもりですが、間違っていたらゴメンなさい
出来れば感想を入れてもらえたら嬉しいです
導入部分だけですが…


 それは、沢田綱吉率いる『ボンゴレファミリー』が10年後の未来での死闘を終えて現代に帰ってきた直後の話である。

 

「んー…今日も平和だったな、相変わらず皆にはバカにされてたけど…」

 

 学校から自宅への帰り道、沢田綱吉ことツナは大きく背筋を伸ばしながら今日、授業や昼食の際に起きた事を思い返し小さくため息をついた。

 だがツナはそれが少しだけ嬉しかった、10年後の未来では白蘭率いるミルフィオーレファミリーにより並森は壊滅し、ツナの知り合いはミルフィオーレファミリーの手にかかっていたからだ。

 自分達が取り戻した日常のありがたみ、その日常へと戻る為に尽力してくれた人を思いながらツナはようやく戻ってきた自宅の扉に手をかけた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ただいまー」

 

「あら、ツっくんおかえりなさい、さっきツっくんの部屋から物音がしていたわよ?

またリボーンちゃんのお友達かしら?」

 

「どうだろ?特に何も言ってなかったけどなぁ…」

 

 ツナが自宅へ入ると母親の沢田奈々が出迎えの言葉と上に注意を向けつつ聞いてきた。

ツナは自身の家庭教師であるスーツを着た赤ん坊リボーンを思い浮かべながら、来客については何も聞いていないと返した。

 そして、来客用のお菓子を用意しようとする母親の姿を見つつツナは自分の部屋へと向かいだした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ただいま…って何!この状況は!?」

 

 ツナが部屋の扉を開け、中にいると思われるリボーンに声をかける。しかし、部屋のいたる場所に並べられた様々な銃火器を見て思わずツナは大声を上げた。

 

「帰ったか、ツナ」

 

「リボーン!?いったい何をしているんだよ!!こんなに銃を並べてさ!?ってうわ!!?」

 

 窓際に腰をかけたスーツを着た赤ん坊、リボーンがツナを見ながらいつもと変わらない口調で声をかけてきた。

説明をろくにしないリボーンにツナは部屋の惨状について問いただしながら部屋の中へ入る。その瞬間ツナは柔らかい何かを蹴飛ばしてしまう。

 蹴飛ばした事に驚きツナはバランスを崩し近くの本棚へと倒れこんでしまう。

 

「ったく、あれだけの戦いをこなしてもそのダメツナっぷりは治らねぇな」

 

「う、うるさいな、好きでダメをやってる訳じゃない、あでっ!?」

 

 倒れこむツナを見て呆れたように呟くリボーン、それに対して身体を起こしながらツナが反論すると丁度良く頭の上にマンガが降ってきて、鈍い音を立てた。

 

「まぁまぁ、リボーンさん、それも十代目の良いところかと」

 

「その声、もしかしてジャンニーニ!?」

 

「えぇ、お久しぶりですね十代目」

 

 ツナが蹴飛ばした物体からのんびりとした声が聞こえてくる聞き慣れたその声に驚きの声を上げた。

それは十年後の未来で一緒に戦ったエンジニアのジャンニーニであった。

 

「十年後の知識を得たのを試したくなったらしくてな、朝からずっとこの調子だぞ

まぁ、腕前は格段に上がってるみたいだがな」

 

「そっか、アルコバレーノのみんながくれたプレゼントだね

未来のジャンニーニの腕なら前みたいな失敗は無いよね」

 

 ジャンニーニが来た理由を説明したリボーンは、手近なライフルを構えてその具合を確かめる。

十年後の知識という言葉からツナは柔らかく笑みを浮かべ、以前起きた騒動を思い出して苦い顔をする。

 

「いやぁ、その説はご迷惑をかけました、ですがご安心を

今ではほとんど失敗はしていませんので!」

 

「それってたまには失敗してるって事じゃないのかな!?」

 

「また失敗しやがったらただじゃおかねぇぞ、ジャンニーニ」

 

 ツナの言葉にジャンニーニは申し訳なさそうにしつつも胸を張って答える。

しかし一つの単語にツナは冷や汗を流し、リボーンは脅しをかける。

 その時であった、ツナは自分の足元に転がっている武器に気づく。

 

「んなっ!?なんで十年バズーカがこんなとこに!!?」

 

「あぁそれでしたら十代目のベッドの下にありましたよ、そこにあるという事は夢中で改造してしまったようですね」

 

「えぇ…ランボの奴、なんでそんなとこに…それにしても十年バズーカか…」

 

 見覚えのある物体にツナは驚きの声を上げるとジャンニーニは、あっけらかんとした口調で返した。

放置してあった事にツナは呆れた声を出せば、懐かしむように十年バズーカに触れた。

 初めはリボーンが十年バズーカを受けた事から始まり、それから自分と仲間達は次々と未来の世界へと飛ばされそして数々の死闘を繰り広げ、今に至る。

 

「夢みたいだけど、夢じゃないんだよね…」

 

「ツナ、何寝ぼけてやがる?そのアニマルリングとオリジナルボンゴレリングはお前が手にいれたものだろ

しかもそうやって後生大事に持ってるとは、いよいよボスとしての自覚が出てきたか?」

 

「これは未来での習慣が抜けてないだけで、俺はマフィアのボスにはならないからな!?」

 

 未来での出来事を思い返すツナにリボーンは呆れたように言いながら、ツナの胸元のチェーンを通した二つのリングをさして感心したように頷く。

 リボーンの指摘にツナは慌ててチェーンを外してから、否定をした。その時であった窓が突然開かれた。

 

「ガハハッ!!油断したんだなリボーン、ランボさんが成敗してやる!!」

 

「おとといきやがれ、アホ牛」

 

 窓の外から現れたのはアフロヘヤーに牛柄の服を着た赤ん坊、ランボだった。

その手にはピンの抜いていない手榴弾が握られており、今にもリボーンへと投げつけようとしていた。

 しかし、日常茶飯事の事にリボーンは顔色一つ変えずにランボの後ろに回り込めば勢い良く蹴り飛ばした。

 本来であればそのまま床に叩きつけられる所であった、しかし今の部屋の中には銃火器が置かれており、さらにランボを蹴り飛ばした先にはツナと十年バズーカが置かれていた。

 

「えっ、ちょっ!!」

 

「うぴゃあああああああっ!?」

 

 突然の事にツナは動けずにいたそこへランボが錐揉み回転しながら飛んできて、十年バズーカへ激突した。

 それは不幸な事故かはたまた偶然か、ランボが激突した瞬間、バズーカが浮かび上がり砲口がツナの顔面に向いた。

そしてランボの手がその引き金を引いてしまう、その瞬間、ツナの視界が真っ白にそまった。

 

-----------

 

 ランボがぶつかった瞬間、爆音と煙が部屋中に広がった。

 

「ツナ…」

 

「あぁっ!?十代目が十年バズーカに!!?という事は十年後の十代目が現代に!!!?」

 

 起こった事態にリボーンは呟き、ジャンニーニは慌てながら十年後のツナがいるであろう場所を見つめる、しかし…

 

「な、誰もいない?十年バズーカが当たったのに」

 

「こいつは…やべぇかもな」

 

 煙が晴れた時、そこには音と衝撃で気絶したランボと煙が若干登っている十年バズーカしかなく、撃たれたはずのツナの姿はどこにもなかったのであった。



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第1話a:学園都市

時系列としてはとある科学の超電磁砲の1話の前日という認識でお願いします


それはあまりにも一瞬の事だった、いつものようにランボのちょっかいをいなしたリボーン。吹き飛ばされるランボ。

けれどそれが十年バズーカの引き金を引く事になるなんて思わなかった。

 カチリと軽い音がなり、バズーカから弾が発射される。至近距離だったからまず避けられる筈がなかった。

そして俺の身体は奇妙な浮遊感の中、まるで川に流れるような感覚の中で俺は思った。

 

(これって、また十年後に行く事になるの!?)

 

 前にも似たような経験を感じながら、俺は少し違和感を覚えた。

なんだか、未来に向かっているとは違うような感覚だった。

そして目の前が再び真っ白になった。

 

------------

 

「あれ、ここは…」

 

 白い景色が晴れ、ツナの視界が景色を捉える。そこは木の枝が広がっていた。その向こうには高いビルがならんでいるのが見えた。

 

「並森…じゃ、ない?」

 

 身体を起こしツナは周りを見渡す。自分が倒れていたのは公園の芝生の上だったらしく周りには荷物が散乱していた、そして視界に映りこむ街並みは自分の知るものとは全く違う場所であった。

 

「十年バズーカで撃たれたんだから十年後のはずなんだよ、な?

けれどなんだろ全然違う、まぁ十年後ならこれくらいはなってるだろうし

とりあえず、これは俺の荷物みたいだし拾っとかないともしかしたら十年後の俺の事もわかるだろうし…」

 

 どこにも並森のなごりがない景色にツナは不安を覚えつつも、ホッと息をつく。

未来で戦った時はどこもあれ放題であったため平和な世界なのだと思ったからだ。

 芝生の上にいつまでもいるわけにはいかないと思いツナは身体をおこし、散乱している荷物を集めていく。

 

「十年後って事は、24歳くらいだっけ?なんかカバンの中に入ってるの教科書、だよな?

あ、これ学生証?ってえ!?」

 

 散乱している荷物をカバンに詰めながらツナは、不思議そうに首をかしげ、最後に落ちていたカードを拾い上げて驚きの声を上げる。

そこには『柵川中学 二年 沢田綱吉』と表記されていた。

 

「並森じゃない!?というよりこれ十年後じゃなくて今の俺!?」

 

 学生証を食い入るように見ながらツナは驚きの声を上げる、添付されている写真は若干半目がちツナが写っていた。

 本来であれば自分のいる時代から十年後の自分と入れ替わるはずの十年バズーカ、時間が全く進んでいないのはおかしい事であった。

 

「もしかしてジャンニーニが弄ったせいで十年バズーカの効力が変わった!!?

って俺はどうしたら、そうだ十年バズーカなら時間が経てば元に戻るはず!!」

 

 どうしてこんなことが起きたかを考えた時、ツナの脳裏に十年バズーカ、発射前にジャンニーニが改造をしていたことを思い出した。

頭を抱えるが、十年バズーカの効力は五分間しか続かない事を思いだし安堵の息をはいた。

 

「とりあえずなにもせずにいようかな、えっと時間がわかるものは…あ、携帯があった

なんか見るからにハイテクっぽい、あれ?なんだろ腕章?」

 

 とりあえず五分経過するのを待つ為に、ツナは近くにあったベンチに腰かけ、カバンの中に時間がわかるものが無いかを確かめる。

するとシンプルなデザインの携帯を見つけツナは恐る恐る開け、時間が画面に表示された事に安堵した。そしてカバンの底に見慣れない腕章を見つけ取り出す。

 

「盾の腕章?なんか雲雀さんみたいだな、こっちの俺は」

 

 腕章の手に取り、眺めながら元の世界にいる風紀委員を思い浮かべてツナは苦笑を浮かべた。次の瞬間だった、携帯が突然鳴り響き出した。

 

「うえっ!?着信!ど、どうしよう出た方が良いのかな?けどそれだと別人だってバレてしまうだろうし…とりあえず切らなきゃ

ボタンはどれだ?これかな?」

 

《あ、繋がった、もしもし、聞こえる》

 

「んな!?間違って出ちゃった!!」

 

 画面に『固法美偉』という単語が表示され、鳴り響く携帯を持ちながらツナは慌ててどうするか考えるが着信音のせいで焦った思考で上手く考えきれず咄嗟にボタンを押した。

しかし、適当に押したそれは運悪くも通話ボタンだったようで、電話口から女性の声が聞こえてきた。

 

《もしもし?おかしいわね、通話になっているのに沢田くん?聞こえるなら返事をしてくれる?》

 

「えっと、はい!もしもし」(なんで出ちゃうんだよ、俺!?)

 

 繋がったが返答が無いことに疑問を抱いたのか、女性はツナに呼びかけた。

名前を呼ばれツナは思わず応えてしまい、内心、迂闊な行動をした自分を責めた。

 

《あぁ、良かった…ずっと繋がらないから心配したのよ

沢田くん、今どこにいるの?今日は支部の方に来てと言っていた筈だけど》

 

「あ、えっと…実は道に迷って、しまって…そのぅ」

 

 通話の相手はツナが出た事に安堵の息をつき、現在地を訪ねてきた。

しかし、この世界の状況を知らないツナはしどろもどろになりながら状況を説明する。

 

《道に迷ったって…あなたねぇ、わかったわ

初春さん、位置は捕捉出来てる?そう、わかったわ

それじゃあ白井さん悪いけど迎えに行ってくれないかしら?…そう言わないの、お願いね》

 

「え、あの…いったいなにが…」

 

《あ、ゴメンね沢田くん、その場を動かないでいてくれるかな

すぐに向かうから》

 

 電話の向こうから呆れたような口調で言われツナは苦い表情を浮かべつつ、詳しい事を聞こうとするがその場から動かないように指示を出され、向かうという単語に周りを見渡すが何かが来る様子はなかった。

 しかし、ツナを視線を離した瞬間、視界の端に何かが現れたのが見えた。

 

「失礼、貴方が沢田綱吉さんでよろしいかしら?」

 

「えっと、どちら様、というか今どこから現れたの!?」

 

 ツナがその方向に目を向けた時、今まで誰もいなかった所に制服にツナが見つけた腕章を着けたツインテールの少女が不服そうな視線を向けながら立っていた。

 口調は丁寧だが、明らかに迷惑そうに話しかけてきた少女にツナは驚きながら何が起きたかを訪ねる。

 

「貴方、何をそんなに驚いていますの?空間転移(テレポート)は珍しくないでしょうに

まぁ私程の空間転移者はそうそういないでしょうが…って何をそんな鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていますの?」

 

「いや、空間転移ってマンガじゃあるまいし、そんな」

 

「はぁ?何をおしゃっていますの?ここは学園都市ですわよ

何をそんな当たり前な事を聞いていますの?ともかく私と共に来ていただきますわ」

 

 ツナの言葉に少女は目を細めると呆れたように言う、だが空間転移と聞かされすぐに信用する事が、ツナには出来なかった。

 ツナの狼狽えに少女は若干の疑いと心配を表情に

見せながらツナの手を取った。

 

「えっ!ちょっと!?」

 

「この程度で狼狽えくださいまし、私とて好き好んで掴んではおりませんのよ、ともかく大人しくしてて下さいませ

集中できませんわ!!」

 

 いきなり少女に手を握られてツナは慌てて手を離そうとするが、強い口調で少女はツナを制止するとその瞬間、ツナと少女はその場から姿を消した。

 

-------------

 

学園都市 風紀委員 第177支部

 

「え、ここは、いったい?」

 

 目の前の光景が変わりツナは辺りを見回し、何が起きたのかを確認する。

ツナの慌てように隣にいた少女は呆れたようにため息をついた。

 

「ここは風紀委員(ジャッジメント)第177支部よ、沢田綱吉くん」

 

「えっと、電話の人ですか?」

 

「?固法 美偉(このり みい)よ?君とは何度か会った事があるんだけど覚えてないかしら?

まぁ同じ風紀委員だとしても、一緒に仕事はしてないから仕方ないわね」

 

 戸惑うツナに、別の少女が声をかけてきた。つい先程聞いたその声にツナは恐る恐る尋ねる。

 少女は首を傾げると自分の名前を告げ、見覚えが無いかを聞いてきた。

 

「風紀委員?俺が?」

 

「ちょっと本当に大丈夫?何だか全く知らないように聞こえるわよ?」

 

「先程から挙動がおかしいですわよ?貴方、本当に沢田さん本人ですか?」

 

「あ、それは…」(しまったーっ!?つい聞き返しちゃった、演技くらいしろよ俺!!?)

 

 聞き慣れていない言葉にツナは思わず驚いてしまう、その言葉に固法と少女は、疑惑の視線をツナへと向けた。

 思わず応えてしまった事に言葉を濁すツナ、その内心は焦りに焦りまくっていた。

 

「沢田くん、説明してくれないかしら、場合によっては君を拘束しなければならないわ

もしかしたら学園都市の生徒に変装した外部の人間かもしれないからね」

 

「えっと…実は!」

 

 固法の視線がツナを鋭く捉える、それはまるでツナの内側まで見通すような鋭角さを持っていた。ツナの隣いる少女も固法同等、それ以上に鋭い視線であった。

 二人の視線にツナは何とか打開策を考え、そして一つの考えが浮かんだ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「「記憶喪失??」」

 

「えっと、公園で頭を打ったみたいで、自分の名前以外何も覚えてなくて…」

 

 向かい合わせに座るようにしながらツナの言葉に固法と少女はすっとんきょうな声を上げた。

 しどろもどろになりながらツナはマンガで得た知識を振り絞りながら二人に説明していく。

 

「貴方ねぇ、嘘をつくならもう少しまともな嘘をつきなさいな!」

 

「でも何も知らないようだし、本当かもしれないわね」

 

「ちょっ!?本気ですの?固法先輩!」

 

 深いため息をつき少女はツナに疑いの視線を向ける、しかし固法は考えこむようにしながらツナの言葉に納得の意思を示す。

 ヨタ話に近い話を信じている固法に少女は驚きの声を上げた。

 

(どう聞いても信じる要素がありませんわ、直ぐに拘束すべきですわ!!)

 

(でも私が見た限り不審な物は無いみたいよ、それに本当に外部からの人間ならわざわざ風紀委員に成り済ます必要は無いと白井さんだって思うわよね?)

 

(まぁ確かに、それに透視能力(クレアボイアンス)の固法先輩なら信じられますけど…じゃあ、なんで変装などと言ったんですの!?)

 

(そこはほら、お約束かなって思って、ね?)

 

(この人は…)

 

 少女はツナに聞こえないように声を潜めて話を聞く必要が無いことを告げるが、固法は警戒する必要がない理由を教え少女、白井 黒子(しらい くろこ)はため息をついてから不安を煽ることを言ったのかを尋ねる。

すると固法は舌を小さく出して答えた。あまりにも単純な理由に白井は頭を抑えた。

 

「あの、頭を強く打ったのであれば早めに病院に向かうべきでは?」

 

「うえっ!君は!?」

 

「はい?何か私の顔についてますか?」

 

「いや、顔と言うより…頭に…」

 

「?」

 

 こそこそと話し合う二人を眺めているツナの元に、奥からセーラー服姿の少女が声をかけてきた。

ツナは少女を見て驚きの声を上げる、その少女は何故か頭に花飾りを被っていたからである。

 驚くツナに花飾りの少女は不思議そうに尋ねるが、周りが気にしていない事にツナは深く指摘するのを止めた。

というより、変わった人種ならば自分の世界も負けていないと思ったからである。

 

(主にリボーンとか、リボーンとか!?)

 

「確かにそうね、沢田くん」

 

「は、はい!」

 

 身近の変わった人種の筆頭である赤ん坊を思い浮かべていた時、固法の言葉を聞いて思わず上擦った声で返してしまう。

その反応に固法は思わず笑ってしまった。

 

「彼女の言う通り一度検査を受けるべきね、良い医師の病院を教えて上げるわ

白井さん、送ってあげてくれない?」

 

「はぁ、仕方ありませんわね、道を教えてもまた迷われて拾いにいくのは面倒ですもの」

 

「そうだ、ついでに自己紹介をしましょうか」

 

「「はい?」」

 

 検査をするという判断に固法は賛成の意思を示し、白井にツナを病院へ連れていくように頼み込む。

白井は心底面倒だというようにため息をつくが後始末をするよりはマシだと納得をした。

 そうして話がまとまった時、花飾りの少女が唐突に提案をしてきた。

いきなりの事にツナと白井は同じ反応をしてしまう。

 

「記憶が無くなっているのなら沢田さんがどう呼んだらいいかわからないじゃないですか

ですから、ね?」

 

「初春、何を呑気な事を…名前を名乗ったとしても検査次第では学園都市を離れるかもしれないですのよ?

ならそのような事、無駄でしかありませんわ」

 

「でも、大した事無いかもしれないじゃないですか、そうしたらここで一緒に仕事をするかもしれませんよ?

それに記憶喪失って事は何もわからなくて不安だと思うんですよ、ならそれを少しでも取り除く事も風紀委員の役目だと私は思います」

 

 意味がわからないという二人に花飾りの少女は得意げに語り出す。しかし白井には納得が出来ず花飾りの少女、初春に向けてその必要は無いと言う。

 それでも初春は引き下がる事なく、そうならない可能性を言い白井に向けて説得を試みる。

初春の言い分に白井は折れかけるが、それでも納得しきれずにいた。

 

「私も賛成ね、仮に風紀委員を続けるのが可能なら当分は白井さん達と一緒に行動してもらうから」

 

「はい!?なんでですの!!?」

 

「名前以外覚えてないなら風紀委員の事も一から教える必要があるわ

そうなったら少しでも面識ある方が良いと思うわ」

 

「大して変わりませんのに…まぁわかりましたわ

ここでごねるのもアレですし」

 

 二人のやりとりを見ていた固法は初春へ賛同し、白井に言葉をかけてきた。

いまいち納得のいかない白井であったか反論を続けた所で変わらないと理解し、深いため息と共に渋々了解した。

 

「それでしたら私からもう一つあるんですけどいいですか?」

 

「へぇ、面白そうじゃない、私は良いわよ」

 

「もう、この際ドンときやがれですわ」

 

 白井が納得した事に初春は手を合わせて喜べば、二人に耳打ちをしてきた。

初春の切り出してきた提案に固法は笑みを浮かべて快諾し、白井はやけくそ気味に返した。

 

「それでは、白井さんからお願いします」

 

「あぁ、はいはい…常盤台中学一年、白井 黒子ですわ、以後お見知りおきを」

 

「沢田さんと同じ柵川中学一年、初春 飾利(ういはる かざり)です

主に情報整理が担当です、よろしくお願いします!」

 

「固法 美偉よ、よろしくね沢田くん」

 

 話がまとまり三人はツナの前に並ぶとそれぞれに自己紹介をしていき、そして言い終えると三人とも腕に着けた腕章を見せるような体勢をとる。

 

「私たちはこの学園都市の治安を取り締まる」

 

「「風紀委員です(の)!!」」

 

 固法の言葉に続くように白井と初春は声を揃えて名乗りを上げた。

その一連の流れにツナはどう反応していいかわからず唖然とするばかりであった。

 

「初春、これ本当に必要ですの?」

 

「まぁ様式美みたいなものですよ」

 

「あはは、さてそれじゃあそろそろ病院にいかないと診察が明日になるわ

沢田くんの診察が終わったらそのまま帰っていいから」

 

「あ、はい」

 

 あまり受けなかった事に白井は不満を口にすると初春は意気揚々と返した。

二人のやりとりをみて固法は時計を指して病院に向かうように促した。

 時間が6時を指そうとしている為、固法は診察が終わり次第解散しても良いと告げる。

今まで呆気に取られていたツナは面を食らったように返事をした。

 

「でしたら私もついていきますね」

 

「付き添いなら私1人で良いですのよ」

 

「ダメですよ、沢田さんの住所に案内をしなければいけないのですから

それとも白井さんが案内をしますか?」

 

「わかりましたわ、それじゃあ移動しますわよ」

 

 白井がツナと共に空間転移しようとした時、初春が同行を申し出てきた。

呆れたように白井が答えると初春は端末を見せながら同行する理由を述べる。

 初春の理由を理解すれば、ツナの近くに移動し白井は空間転移することを告げた。

そして、荷物をまとめた初春とツナを連れて白井は病院へと空間転移を行った。

 一気に静けさが戻った事を感じつつ固法は風紀委員としての職務へと戻るのであった。




キャラの口調など誤字があれば指摘をお願いします


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第1話b:学園都市

この小説には独自解釈があります、これは作者の考えなので鵜呑みにはしないように


「えっと、つまり…この街の大半は学生で、しかも超能力を使う事が出来る…っていう事であってるのかな?」

 

「まぁざっくりですけどあってますよ、そして学園の治安を守る為に風紀委員と警備員(アンチスキル)なのです

沢田さんも風紀委員で活動するなら覚えておいてくださいね?」

 

 病院に移動したツナは診察を待っている間に初春から学園都市について説明を受けていた。

 初め聞いた時には信じられない単語ばかりでツナは戸惑っていたが、何とか理解した事を言うと初春は柔らかく笑いながら頷き捕捉を加えた。

 

「あのさ、超能力ってどの位あるの?ここには沢山の人がいるんだよね?白井さんや固法さんみたいな能力ばかりじゃないんでしょ?」

 

「そうですねぇ、私も全部は知りませんけども書庫(バンク)を調べればわかると思いますよ

ちなみに沢田さんは書庫の情報によるとレベル2の発火能力みたいですよ、ただあまり成績が良くなかったみたいでレベル1に近いみたいですね」

 

「俺も超能力者だったのか…」

 

「あ、ちなみに超能力者って呼び方はレベル5だけなんで不用意に口にしないでくださいね?人によってはかなり怒る方もいますから、沢田さんは異能力者、覚えておいてくださいね?」

 

 学園都市の総人口、230万という数字からツナは初春に質問を投げ掛けた。

考え込む仕草をしてから初春はすべてを把握するにはデータベースを調べれなくてないけないと言う。

 初春からこの世界の自分が超能力を扱えた事を知りツナは自分の手を見つめた。

すると初春が一度咳払いをしてから超能力者の名称について訂正を加える。

 

「レベル2、それってどうすごいの?」

 

「はっきりと申し上げれば一般人と大差ありませんわ、書庫のデータによれば沢田さんの能力は指先に火を灯すくらいで、言うならマッチ程度の役割ですわね」

 

「うへぇ…」

 

 自身が能力を使えるというのがどのくらいの事かを尋ねると、ツナの背後に座っていた白井が退屈そうに答えた。

マッチと大差が無いと言われツナはげんなりしたように声を洩らす。

 

「白井さん、そういう事を言っちゃダメですよ!火を出せるなら私より凄いと思います!」

 

「確かに物体の温度を一定に保つ定温保存(サーマルハンド)よりは熱を操る事に関して、ですが沢田さんに軍配は上がりますわね

ただ初春の能力はそれ以上にハッキング能力の方が凄いと思いますわよ」

 

「ハッキング!?」

 

 肩を落とすツナに初春はフォローを加えると、白井は保有する能力について同意をするが、初春の良さはそれでは無いと語り出す。

 不穏な単語が出た事にツナは目を丸くして声を上げる。

 

「いやいや、全然そんなことありませんよ!

それにハッキングと言っても私のやってる事は簡単な事で、ダミーサイトに適度なレベルのセキリュティウォールをかけて、そこを突破する人を通報するくらいですから」

 

「え、あの…それって十分凄いんじゃ」

 

「沢田さん、この子はこういう子ですの深く気にすると疲れますわよ」

 

 驚くツナに手をバタつかせて慌てながら初春は返事をした。そして苦笑をしながらいつもやっている事を口にする、だがサイトを作り上げて防壁まで構築することは決して簡単とは言わないのでは、とツナは白井に視線を向けつつ言う。

 白井に至ってはもう慣れていると言わんばかりに気の抜けた回答を返した。

 そうして三人が談笑しているとき、看護士がツナの名前を呼び診察室へと案内をかけてきた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

(ヤバい…これ凄く不味いよな)

 

 診察室に呼ばれたツナは、最初に外傷が無いかのチェックを受けてから、CT検査とMRI検査を行い、今は診察室で医師との問診を初める事なった。

 しかし、ツナの記憶喪失は口からのデマカセで精密な検査をすれば嘘だとバレてしまう。

 だがそれ以上に問題がツナに判明していた。

 

(もう10分以上は経っているのに、効力が全然切れない!?)

 

 それは十年バズーカによる転移の効力が無くならない事だった。

時刻は既に6時半を過ぎ7時になろうとしていた、本来の十年バズーカならば5分で効果が無くなり元の世界へ戻るのだが、そんな気配は全くなかった。

 

(ジャンニーニが改造した事で時間が伸びてるのか?けどそれっていつまでなんだ?)

 

「さて、沢田綱吉くんだったね?」

 

 ツナの内心で情報が目まぐるしくなりつつある中で、目の前に座っているカエルような顔の医師が声をかけてきた。

 

「は、はい」

 

「僕は別に警備員ではないから、特にどうしようという訳では無いが君…記憶喪失では無いよね?」

 

「うぐ…」

 

 ビクつくツナに対して穏やかな口調でカルテを手にしながらカエル顔の医師は前振りをしてから率直に尋ねてきた。

直球の問いかけにツナは反論することが出来ずに素直に頷いた。

 

「学園都市での外来をしているとね、能力の負荷とか暴発によって記憶が飛ぶ生徒がたまにいてね…

君の頭部にはそれらしい外傷が無い、よって記憶が無いと言うのは君の嘘という事になる

本来ならばこういうのは止めて欲しいと注意を促す所なんだが、その前に聞いて良いかな?」

 

「なんでしょうか?」

 

「君は本当に学園都市の生徒なのかね?」

 

「…どういう、意味ですか」

 

 ツナが頷いたのを確認してからカエル顔の医師は、カルテを見つつ過去の症例とは違う点を上げていきツナの嘘という結論をつけ、そこから更に言葉を続けた。

 

「学園都市の生徒の大半が能力を使えるのは知っているね?」

 

「はい、レベルっていう形で分けられているんですよね?」

 

「そうだよ、ちなみに超能力がどう発現しているかはわかるかね?」

 

「いえ、わかりません」

 

 カエル顔の医師はツナに質問を投げ掛けてくる、能力者について聞かれ初春から教えてもらった事を思い出しつつ答えるツナ。

 カエル顔の医師が更に質問を続けるが、超能力の発現の仕方までは教えてもらっていないので素直に首を横に振るツナ。

 

「ふむ、僕は教師では無いから詳しくは教えられないが能力を使用するには脳の演算が必要になっていてね

個人の演算の精度によって能力が強弱が変わるんだよ

更に言えば、レベル1だとしても使用者の脳内では複雑な演算処理が行われている、それだけの演算を行っている脳はどんな風になっていると思うかな?」

 

「えっと、普通の人より大きくなっているとか」

 

「残念だが外れだよ、能力を使う生徒の脳神経は同年代の子供達と比べて多いんだ

だが、君の脳内をスキャンしたものだが他の能力者に比べて少ないんだよ

あぁ、少ないと言っても一般的な子供と変わらないからそこは安心して欲しい」

 

 カエル顔の医師は少し悩むようにしてからツナに教えていき、問いかけを投げ掛ける。

 いきなりの質問にツナは戸惑いがちに応えると、首を振り医師は返した。

その上でツナの脳内が学園都市の生徒としてはありえないと言いつつフォローを入れた。

 

「だがね、書庫のデータでは君はギリギリだがレベル2となっている

この食い違いはとてもでは無いが見過ごせなくてね、仮にこの問題に強引な正解をつけるのであれば書庫に登録された能力を使えるキミ(沢田綱吉)はある日、突然に別世界の能力の使えないキミ(沢田綱吉)と入れ替わった…そう定義した方が辻褄が合いそうだ」

 

「………」

 

「その沈黙は肯定として受けとっておくよ、さて僕から君に出せる提案が二つある

一つ、記憶喪失というのを理由に学園都市を離れる。二つ記憶喪失を演じながら学園都市に残る

という選択肢だ、僕個人としては一つ目を選んで欲しいね…この都市は数年先の技術、超能力の開発という一見希望に見える場所だが本質は違う

医者として君は離れるべきだと思うよ?」

 

 カルテを机に置き、指でリズムを刻むように叩きながらカエル顔の医師は自分の仮説を口にした。

 強引と言いつつも的中している仮説にツナは顔を伏せる、その様子に医師はツナに向けて指を二つ立てて提案をし善意からツナに学園都市を離れる事を勧めてきた。

 詳しくは喋らなかったが医師の言葉の重みをツナは直感的に感じ思案を巡らせた。

重い空気の中でツナはなんとか口を開く。

 

「お、俺は…」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「あ、沢田さん!どうでした!?」

 

「初春、そんな食いぎみに為さらずとも良いのでは?それでずいぶんと時間をかけていましたが何かありましたの?」

 

 日が暮れた待合室にてツナを待つ初春と白井。ツナが診察室から出てくるを見て初春は駆け寄っていき、白井は呆れながらも診察の結果を尋ねる。

 

「あ、それなんだけど…傷とかは大した事はなかったみたいだから経過観察をしながら風紀委員を続けても良いってさ」

 

「そうなんですか、じゃあこれからよろしくお願いしますね沢田さん」

 

「全く、風紀委員を続けるのでしたらちゃんと覚悟を決める事ですわ

この仕事は甘くはありませんのよ?」

 

「まぁまぁ白井さん、そんなに脅さずに仲良くいきましょうよ」

 

 二人の問いかけにツナは苦笑を浮かべながら医師の診断を伝える。

風紀委員を続けても良いという診断に初春は手を合わせて挨拶をし、白井は再びため息をついてからツナを睨み付けつつ尋ねると初春はほんわかなした口調で言う。

 

「それじゃあ私は帰りますわ、寮の門限が過ぎてしまいましたから」

 

「えっと、なんかゴメン俺の付き添いしたからだよね?」

 

「まぁ事情は説明してありますから、多少の小言で済みますわ

それよりも沢田さん!」

 

「は、はい」

 

 初春の言葉に白井は特に反論せずにすれば帰る事を二人に告げる。

門限が過ぎたと聞き素直に謝るツナ、すると白井は髪を軽く弄りながら問題にならないと返した上で強くツナの名を呼ぶ。

 突然の事にツナは思わず身を固くしてしまう。

 

「貴方を自宅に案内するという名目で初春を同伴させますが、私の友人に何かしたら末代まで後悔させてあげますわよ」

 

「そんな事しないよ!!?」

 

「そうですよ、私だって風紀委員なんですから心配する必要ないですよ!」

 

 指を突き付けツナに詰め寄る白井。白井の気迫にツナはたじろぎながら強く返すと、すると初春は意気込むように返してきた。

 初春の言葉にツナは苦笑をし、白井は額に手を当ててため息をついた。

 その後、白井は空間転移で移動しツナと初春は病院の受付へ向かい歩き始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 ツナが診察室から出ていき、カエル顔の医師は一人レントゲン写真を眺めていた。

そして、思考を巡らせながら先ほどのツナの言葉を思い出していた。

 

❪俺はこのままこの街にいます、いなきゃいけない…そんな気がするんです❫

 

❪ふむ、止めはしないがそれはかなり困難な選択だよ?❫

 

❪覚悟は、できています❫

 

 ツナの言葉に医師は最後の確認を取るように尋ねると息を呑んでから答えた。

その表情を見て医師はそれ以上、言葉を紡ぐのを止めた。

 

「覚悟か…あの年代の子供が言えるとは思えない言葉と重みだったね、あれは」(それとは別に彼にはもう一つ聞いておきたかったけどね…)

 

 ツナの言葉に受けた印象を口にしつつ医師はレントゲンの一点を見つめていた、それはツナの額の辺りであった。

 

(傷が無いように見えるけど僅かに射創がある、しかも一回ではなく何発も…それなのに彼の脳組織に傷は無い、不思議なものだ)「彼も計画の一部なのかな?アレイスター」

 

 常人ではわからない程の痕跡から、なんの傷なのかを特定し医師は暗闇となっている外に目を向けて小さく呟いた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 病院の会計を終えてツナは、初春の案内を受けて学園都市にあるマンションまで来ていた。

 

「着きました、ここの2階212号室が沢田さんの部屋ですよ!部屋の鍵は持ってますよね?」

 

「あ、うん…カバンの中に入ってるよ…というか部屋の番号まで書庫に登録されてるの?」

 

「学園都市の生徒は大抵、登録されてますよ、例えば過去の筆記テストや能力テストも調べればわかります

見てみます?個人情報の為、見るのは沢田さんのテストですけどね」

 

「いや、遠慮しとくよ…」

 

 初春がまるでガイドのようにマンションを指してから確認をとってきた、ツナはカバンの中から部屋の鍵を取り出してふと疑問を初春に投げ掛ける。

 初春は書庫から得られる情報について話すと、ツナに尋ねてみる。別世界だとしても自分のテストの結果を聞くに気にはならずツナは首を振って返した。

 

「それじゃあ私は帰りますね、明日は学校に案内する為に迎えに来ますね」

 

「いや、流石に悪いよ!ねぇ地図か何かは無いの?」

 

「携帯の地図アプリに登録すれば可能ですけど…学園都市の交通機関って、かなり複雑で一度間違えたら別な学区に行きますけどそれでも一人で行きますか?」

 

「お願いします…」

 

「はい!わかりました、時間は7時前には来るのでちゃんと起きていて下さいね!それじゃあお疲れ様でした!」

 

 ツナを送り届けた為、初春も自宅に帰ると言いツナに明日について話し始めた。

年下に迎えにくると言われツナは照れ臭くなり、最初は断るが初春がにこやかに本当に一人で大丈夫かを尋ねてきた。

 それを聞いてツナは項垂れながら案内を頼むと、初春は向かいに来る時間を告げてバス停に向けて走り出した。

 

「あ、初春!送ってくよ!」

 

「大丈夫でーす、それでは沢田さん、また明日!」

 

 走っていく初春にツナは白井に言われた事を思い出すと、初春は手を振って返し丁度到着したバスに乗り込んでいった。そしてツナが駆け寄る前にバスは発車し、ツナは一人その場に残されてしまった。

 

「とりあえず部屋に入ろう…」

 

 短いため息をついてからツナはマンションに向けて歩きだした、暗くて全体が見えなかったがマンションはかなりの高さで部屋の数もそれなりだった。

 部屋は2階だったが疲労が溜まっていたツナは備え付けられたエレベーターへと向かいボタンを押す、しかし待っていてもエレベーターが降りてはこなかった。

 

「もしかして壊れてる?…はぁついてないな…階段を使おう」

 

 何回か押しても反応しないため、ツナは階段のマークがついた扉へと向かいに重い扉を引いて開けた。次の瞬間だった、突然目の前に白い何かが飛んできたのだった。

 

 

「へぶっ!?…なんだ?ビニール袋に入った食材?」

 

 回避することが出来ずツナは顔面で白い何かを受け止めそのまま後ろに転んでしまう。

とっさにビニール袋を抱え、痛みに耐えながら中身を確認する。

 その中にはネギやジャガイモ、卵などが入っていた。

 

「悪い!!大丈夫か?ケガとかしてないか!?」

 

「え、はい…大丈夫、ですけども」

 

 なんでビニール袋が落ちてきたのかを考えていると、階段の上から心配する声と共に人が降りてきた。

 それは、ツナよりも体格が良くだいたい高校生くらいでワイシャツにスラックスを身に付けていた、そしてその頭部はくせ毛のように尖っていた。

 黒い頭の男がツナの安否を確認してくると、ツナは呆気にとられながらも返事をした。

 

「良かったぁ、エレベーターが使えなくて階段を使おうとしたらまさか階段の上に猫がいるとは思わなくて、その尻尾をおもいっきり踏んづけて、荷物を落としちまったんだが…いやぁケガが無くて良かったよ、ほんと」

 

「そうだったんですね、あ!中身は大丈夫みたいですよ俺の顔がクッションになったみたいなんで…」

 

「マジか、特売で買ったのが初めて無駄にならなかった気がする

助かった、ありがとう!!」

 

「あ、あはは…」

 

 男は落とした経緯をツナに話していき、巻き込んだツナにケガがなかった事に安堵の息をつく。

 絵にかいたような不幸の連鎖にツナは苦笑を浮かべながらビニール袋を男に渡す。

 中身が台無しになっていない事に男は驚きながらツナに心からの礼を言ってきた。その様子にツナは若干引き気味に笑みを浮かべるしかなかった。

 

「なんか礼をしたいとこだけど、悪い!今はこの戦利品を部屋に持っていかなきゃならないんだ…悪い」

 

「良いですよ、おんなじマンションに住んでるようだしまた別の機会にでも」

 

「そっか、ありがとな!んじゃその言葉に甘えさせてもらう、じゃあな!」

 

 ビニール袋を守ってくれた事に男は礼をしようとするが、また同じ事が起こらない内に部屋に行きたいとツナに頭を下げる。

 必死な様子にツナは苦笑を浮かべて、日を改めるようにと提案をすると男は嬉しそうに笑いそのまま階段をかけ上がっていった。

 また転ばないかと心配をしつつツナは自分の部屋を目指す事にした。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ツナの自室

 

「ただいま~…って誰もいないよな…」

 

 部屋に着き鍵を開けて部屋に入るツナ、しかし一人暮らしをしていると事前に聞かされていた為、部屋からは何も返答はなかった。

 

「はぁ、疲れた…」

 

 部屋に置かれたベッドへと飛び込みツナは深い息をついてから、天井へと身体を向けた。

 

「結局戻らなかったな…いつ切れるのかな?もしかして俺、ずっと一人でこのままなのか?」

 

《ガウ、ガウ》

 

「ナッツ?そっかお前、一緒に来てたもんな」

 

 ツナが不安を口にした時、胸元のリングから動物の声が聞こえてきた。

それは自身の相棒でもあるリング化したボンゴレ匤(ボックス)、天空ライオン(レオネ・ディ・チェーリ)のナッツであった。

ツナはリングに死ぬ気の炎を灯し、ナッツを具現化させる。

 

「ガーウ、ガウ」

 

「お前、心配してくれるのか?ありがとう…そうだよな不安になっている場合じゃないよな」

 

 自身の指を舐めてから身体を擦りつけてくるナッツを見てツナはその意図を何となく察して、礼を良い決意を改めた。

 病院にて医師から選択肢を提示された際、ツナは直感的に残る事を選んだ。

今はそれが最善だと思ったからだ、きっとなんとかなる…ツナはそう考えた。

 

「とりあえず、今日は寝よう!ナッツ、悪いけど明日起こしてくれないか?」

 

「ウー…」

 

「なんだよ、自力でなんとかしろってか?はぁ…わかったよ…それじゃあおやすみ」

 

 まずはする事を決めてからツナは、ナッツに目覚ましを頼むが不服そうな表情と鳴き声をあげるナッツ。

起こして貰えないことにため息をついてからツナはそのままベッドへと潜り込み目を閉じる事にした。

 ナッツもツナの邪魔にならないように丸まり同じように目を閉じるのであった。

 




ツナが来たのはアレイスターの計画ではないです


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第2話a:超電磁砲

出来れば早く投稿したいですが、今はこれが精一杯です、良ければ見てください


朝5時 ツナの部屋

 

「んわ…あれ?ここは…ぐぇ!?」

 

 朝の日差しが窓から差し込み、ツナは目を覚ました、そして視界に映る光景を見て一瞬疑問を浮かべた。

そして、意識がはっきりしてきた時に腹に違和感を覚え身体を起こした。

 

「ナッツ!?…そっか起こしてくれって頼んだから…けどもう少し優しく、起こして欲しかったな」

 

 腹の上には寝る前に具現化させたナッツが丸まって寝ていた。

ツナは寝る前に頼んでいた事を思い出し軽く笑いながらナッツを撫でてから起こし方を別な物にしてほしいと愚痴を溢す、それと同時に腹が大きな音がなった。

 

「そういえば、何も食べてなかったな…何かあるかな?」

 

 疲れていた為かそのまま寝た事により夕食を食べ損ねていたのを思い出し、ツナは部屋の中を探し始める。

 この世界のツナも自炊が出来なかったようで、部屋にはインスタントやレトルト食品ばかりであった。

 ツナは、電子レンジにパックご飯を入れ、鍋に水を入れてからレトルトの肉じゃがを袋のまま投入した。

 

「なんだか、未来での生活を思い出すな…」

 

 自分で料理の支度をするのを懐かしむように言い、ツナは未来での戦いを思い返した。

 最初はリボーンが十年バズーカに当たった事から始まり、その後を追うようにツナ自身も十年バズーカによって未来へとタイムスリップした。

未来ではミルフィオーレファミリーによってボンゴレファミリーは壊滅の危機に陥っており、十年後のツナは殺されてしまっていた。

 そしてツナが十年後に来たのを初めに自分の仲間が次々と未来へと飛ばされてきた。突然の状況に揉める事もあったそれでも仲間と力を合わせて生活をしていった。

 しかし、今は誰一人、ツナの側には居らずまた何をどうしたらいいかわからない状況であった。

 

「…考えても今はわからない、なら動いて調べよう!多分、リボーンならそう言う」

 

 不安で心がいっぱいになりかけたが、ツナはこういう時に自分の家庭教師ならば自分に向けてこういう言葉をかけるだろうと思い、食べ終えた食器を水に浸して学校に向かう準備を始めた。

 

「あ…これ、どうするかな…」

 

 カバンの中へ教科書などを積めていた時、ツナは目についた物を手に取る。

それは死ぬ気丸を入れているケースであった、転移の際にポケットにいれていたのだがその個数は少なくたった一粒しか入っていなかった、未来での激戦を終えたのと小言弾を射てるリボーンがいた為、補充する事がなかった。

 万が一戦う事態があればこれでは心許なかった。だが困ると同時にツナは安堵した。

 

「能力者って言っても身体は普通の人なんだ死ぬ気状態で攻撃なんてしたらケガどころじゃないもんな

これは一番大事な時まで取っておこう」

 

 身体のリミッターを解除する死ぬ気モードと超死ぬ気モード、戦う事になればその状態にならざるおえないが、そうなれば確実に相手を負傷させてしまう。自分の身体であるから余計に理解しているため、ツナは使う場面は慎重に決めようとケースを強く握り決意を固めた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

マンション前

 

「あ、沢田さんおはようございます、早いんですね」

 

「ちょっと寝付けなくてさ…早く起きちゃったよ」

 

「あぁ~なんかわかります、初めての所とかだと中々寝られないですよね」

 

 部屋に置いてあった予備の制服に袖を通してツナはマンションを出る、すると外に出た時に初春がちょうどツナの迎えに来た。

 若干眠そうな初春に対してツナは苦笑をしながら話すと手を合わせて同意する初春。

 そして初春の案内の元、ツナは柵川中学へ向かうのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

柵川中学校

 

「最先端の科学って言っても中学校の外見は普通なんだね」

 

「いったいどんな想像をしていたんですか?」

 

「なんかこう全自動で動く歩道とかワープ装置みたいな」

 

 目の前にある建物を見ながらツナは感想を口に出す、隣にいた初春は不思議そうに首をかしげつつツナに尋ねる。

 すると指を立ててから近未来的な想像を話すツナ、それを聞いていた初春は考えこむような仕草をする。

 

「なるほど、なるほど…それは面白いですね…あ、それでしたら教科書も全部、電子化してタブレットにすればこうやって荷物になる事もないですよね」

 

「えっと、冗談のつもりだったんだけど…」

 

「何を言うんですか、沢田さん!技術の発展は素晴らしいものです!いつか空想も現実になりますよ!!」

 

「初春、悪いけど職員室まで案内してくれないかな?」

 

「そうです!職員室もデジタル化すればわざわざ歩いていかなかくても良いですよね、いっそ意識全部をネットに繋げる事が出来る装置を作れば或いは…」

 

 意外と乗り気に返してきた初春に、ツナは苦笑を浮かべながらなんとなく言ってみたと言うが初春は興奮気味に言い、そして強く主張してきた。

朝方のため、人がまばらであるが校門の前に立つ二人は少なくてもすれ違う人からすれば目立っていた。

 突き刺さる不審気味な視線を受けてツナは初春の背を押し、職員室へ向かう為に学校に向けて歩きだす。しかし想像がヒートアップした初春は興奮気味に次々と口にするばかりであった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

柵川中学 職員室

 

 興奮した初春をなんとか宥めてから別れ、職員室にやってくるツナ。

昨日、カエル顔の医師が診察の終わりの際に学校の方に記憶喪失になってしまった事を伝えておくと言っていたので、ツナ自身からも改めて説明をするようにと言っていたからだ。

 

「失礼します」

 

「あぁ、沢田か…大変だな記憶喪失だなんて」

 

 ツナの姿を確認し、スーツ姿の教師は神妙な面持ちてま尋ねてきた。

 実際は記憶喪失では無いため、ツナはいたたまれなくなり苦い表情を浮かべた。

 

「沢田、戸惑う事が沢山あるだろうが、しっかりやるんだぞ」

 

「は、はい」

 

「あぁ、それでな…お前の親御さんにも連絡をいれたんだが中々繋がらなくてな

家に手紙とか来ていなかったか?」

 

「いえ、特にそれらしいのはなかったです」

 

「そうか、親御さんから預かっている側としては連絡をしなければならない、何かわかったら教えて貰えるか?」

 

「わかりました」

 

 ツナの肩に手を置き、担任は励ましの言葉をかけ、そしてツナの両親に連絡が入らないことを伝えた。

 ツナの父親、沢田家光はボンゴレの門外顧問機関《CEDEF》のボスである。

 もしも連絡がつけばこの世界のボンゴレと連絡がつくかもしれない、ツナはそう考えた。

 父親に対して深い確執はあるのだが、自分が元の世界に戻る為には仕方ないと思いツナは連絡を取る為の方法を考える事にした。

 その時である、職員室の扉が開かれた。

 

「失礼します、学級委員長バジリコン、ただいま到着しました」

 

「うえ!?バジルくん?」

 

 職員室に入ってきたのは元の世界でも知り合いであったバジルであった、ツナは戸惑いながら驚きの表情を浮かべる。

 

「なんだ、沢田、バジリコンのことは覚えていたのか?

まぁ一年の頃からの付き合いだからな

バジリコンにはお前の事を説明してあるから学校生活についてはバジリコンに聞いてくれ」

 

「そうなんだ、よろしくバジルくん」

 

「はい、こちらこそお願いします沢田殿」

 

(口調はそのままなんだ、バジルくん)

 

 教師はツナが、バジルのことを知っているのを喜び学校についてバジルから教えて貰うようにと告げる。

 ツナが手を出し挨拶をするとバジルは笑みを浮かべてその手を握り返した。

バジルの手を握りながらツナは自分の世界と変わらない事に安堵した。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「それでは沢田殿、教室に向かいましょうか」

 

「あ、そうだ…バジルくん、一つ聞いて良いかな」

 

 職員室を出て、バジルはツナに教室へむかう事を提案した。

ツナは周りに人がいないのを確認してからバジルにおずおずと尋ねる。

自分の世界では家光の部下であるバジルならばボンゴレやCEDEFについて知っていると思ったからだ。

 

「実は父さんと連絡を取りたいんだ…バジルくん、協力してくれないかな?」

 

「沢田殿のお父上と連絡ですか…すみません、力にはなりたいのですが…あいにく会ったことのない相手の番号は知りません」

 

 緊張した面持ちでバジルに家光へ連絡の仕方を尋ねる、しかし返ってきた答えは予想をはるかに越えたものだった。

 

「どういうこと?バジルくんは父さんの部下でCEDEFのメンバーだよね!?」

 

「?CEDEF?聞いたことのない言葉ですね、それに拙者はイタリアから留学してきた学生ですよ

沢田殿のお父上の部下では無いですよ」

 

「…バジルくん…ボンゴレって知ってる?」

 

 ツナは慌ててバジルに問い詰める。組織の名前を挙げて尋ねるが首を傾げて自分の事をツナに説明していく。

バジルの言葉とその表情から嘘をついていないと感じ、ツナは恐る恐るボンゴレについて尋ねた。

 

「もちろん知ってますよ、貝を使ったパスタ料理ですよね?

けれど、先ほどの質問と関係していませんよね、沢田殿、大丈夫ですか?」

 

「…ごめん、記憶が混乱してて昔父さんの部下の人と間違えちゃった

その人、パスタ料理が好きでさ、ボンゴレが特に好きだったんだよ」

 

「なるほど、そうなのですか…しかしそのような状態では今日の能力検査(システムスキャン)は止めた方が良いのでは?

定期的に行うものとはいえ、能力の測定は健康である方が望ましいかと

過去にそれで事故が起きた事もありますし」

 

 バジルは特に含みなくツナに返答をする。ツナは絞りだすように笑みを浮かべながら謝り勘違いであった事を言う。

 ツナの言葉にバジルは納得したように頷くと、記憶が混乱しているのであるなら今日、柵川中学で行われる能力検査はパスした方が良いと提案をしてきた。

 しかし、思いがけないバジルの言葉にツナにはその提案は聞こえていなかった。

バジルがボンゴレを知らないという事、その事からツナの頭の中に一つの不安が浮かび上がってきた。この世界にはマフィア・ボンゴレが存在しないのでは無いかということであった。



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第2話b:超電磁砲

長くなると思い前後編したのですが、後半がかなり長くなりました
お許し下さい、筆が乗ってしまったのです


 元の世界で知り合いだったバジルから聞かされた言葉にツナは動揺を隠せずにいた。

この世界にボンゴレが無いかもしれないという不安があるからだ、それは自分が元の世界に戻る確率が低くなるとも言える。

 

「あの、沢田殿?いかがなされましたか?」

 

「え、あ…ううん、なんでもないよけれどそうだね能力検査は止めておくよ

誰に言えば良いかな?」

 

「それでしたら昼休みに保健教諭の方へ伝えておくでござる、とりあえず今は教室に向かいましょうぞ」

 

「うん、そうだね…」

 

 バジルから不安そうにしながらツナに尋ねると、胸中の不安を抑え込んでからツナは心配いらないと言い、能力検査を休むことを伝える。

 連絡についてはバジルが代行することを了承したツナは同じ口調ながら立場が全く違うバジルに寂しさを覚えるのであった。

 

 

 その後、ツナはバジルに案内され教室へと入る。他の生徒には記憶喪失になったという事は伏せてあるという説明をバジルから受けて、ツナは普通に接してくる同級生に話を合わせるようにして同級生からの会話を回避していった。

 この世界のツナも元の世界と同じで運動も勉強もダメかつ能力も微妙という事も付け加えられたダメツナという蔑称で呼ばれていた。

それから能力検査を体調不良という事で欠席をした、その結果、ツナはレベル2からレベル0という事になってしまう。

理由としてはいかなる状態でも能力を図れないのであるならレベル0として扱わなければならないからという。

 バジルからは励ましの言葉を受けたがツナ個人としては能力が使えないという事で問題にならなくて良かったと思うのであった。

 それから時間が流れ放課後になり、ツナは校門前で待っていた。

初春と別れる際に放課後になったらここで待つように言われたからである。

 

「あ、沢田さんお待たせしました」

 

「ううん、待っていないよ」

 

 初春がツナに呼び掛けながらかけよってくる。首を横に振ってからツナは答え、初春の呼吸が整うのを待つが運動が苦手なのか、初春の呼吸はなかなか整う事はなかった。

 

「あ、大丈夫?」

 

「はい、大丈夫です…待たさせたら悪いかなと思いまして急いできたんですが結果的に待たせてしまいましたね

 

 初春を心配し声をかけると、苦笑を浮かべながら初春は答えた。

 

「それでどうして校門で待ち合わせにしたの?」

 

「それはですね、今日は「うーいは、るーっ!!」…へっ…」

 

「んな!?」

 

 初春の呼吸が落ち着いたのを確認してから、ツナは本題に取りかかる。

ツナの質問にどこか得意気に初春は話そうとするしかし話を遮るように背後から少女の声が聞こえた途端、初春のスカートが勢いよく捲られた。

 いきなりの事に初春はすっとんきょうな声を出し、ツナは見えてはいなかったが顔を赤くして声を上げた。

 

「ひ、ひゃあああああっ!!?」

 

「ほうほう、今日はピンクの水玉か…うん、ナイスセンス!」

 

「さ、佐天さん!!い、いきなり何をするんですか!?」

 

「何って挨拶と確認だよ、初春が今日もパンツはいてるかなっていう「そんなこと確認しなくてもはいてますよ!!」あはは、ごめんごめん…っておやおやぁ?」

 

 捲られたスカートを押さえて初春は悲鳴を上げた。そして捲った少女はまるで値踏みするかのようにすれば親指を立てて称賛する。

 少女は初春の知り合いらしく初春は名を呼びながら抗議をした。食いかかってくる初春に佐天と呼ばれた少女は宥めるように言い、訳を話すが涙ぐみながら初春は答えた。

 やりすきだかなと謝る佐天だったがツナを見つけた途端に悪い笑みを浮かべた。

 

「どうしたんですか?佐天さん」

 

「いやいや、初春が男を連れてるなんて大人になったと思ってさ~うんうん」

 

「ち、違いますよ!沢田さんとは風紀委員で今後一緒に行動する事になったので、お付き合いとかそんなんじゃないですから!!えぇ全く!!!」

 

「おおう、何もそこまで言わなくてもいいんじゃない?言っといてなんだけどあたしでも同情するよ?」

 

 ニヤつく佐天に初春はきょとんとした表情を浮かべて尋ねると、わざとらしい態度をとって佐天は初春とツナの関係をからかう。

 交際などしていないと初春がはっきりと否定したことに佐天は苦笑いを浮かべながら言う。

 

「あう、ごめんなさい沢田さん…」

 

「あはは、大丈夫だよ気にしてないから」

 

「?ねぇ初春、この人ってうちの学校の沢田さん?」

 

 佐天の問いかけに気がついた初春は、直ぐにツナに頭を下げて謝る。

実際に事実であるからツナは大丈夫と答えるが、はっきりと言われた事に若干ショックは受けていた。

 すると佐天はツナの制服を見て、初春に尋ねてきた。

 

「そうですけど…佐天さん、沢田さんのことを知っているんですか?」

 

「いやいや、ある意味有名人だよ?この人

勉強ダメ、スポーツダメ、おまけに能力微妙のダメツナってので、噂だと風紀委員に入ったのは友達がふざけて推薦したからだとか…初春、そんな人と一緒にいるのは止めた方が良いって」

 

(なんか凄い言われ方されてる気がする…まぁなんとなく予想はつくけど…)

 

 ツナについて尋ねられ初春は不思議そうに返す。すると佐天は耳打ちをするようにツナの事を初春に伝えた。ツナにはほとんど聞こえなかったか、佐天の表情から自分のダメっぷりを話しているのだろうと思った。

 

「佐天の言う事はわかりました、けれど沢田さんが風紀委員になれた事は凄い事だと思います

風紀委員の訓練がツラいのは私が身を持って知ってますから!」

 

「初春…」

 

「それに今の沢田さんは記憶喪失なんですから、風紀委員としてサポートしなければいけませんからね」

 

「ん?ちょい待って記憶喪失って何?どういう事」

 

「あ…」

 

 佐天の言葉に初春は、ツナが風紀委員として働けているのは十分誇れる事だと言う。

初春の言葉にツナは自分の事では無いけれど嬉しさを感じた。

 だが次の瞬間、初春はうっかり口を滑らせて記憶喪失の事を口にしてしまった、佐天もその言葉を聞き逃す事無く尋ねてくるのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「なるほどねぇ、頭を打って記憶喪失…そんな漫画みたいな事あるんですのねぇ」

 

「もう、笑い事じゃないですよ?佐天さん」

 

「あはは、自分でもそう思うよ」

 

 校門では人目がつくという事もあり、初春はツナと佐天を連れて街へと出て学生が少ないのを見ながらツナの事を話した。

 話をきいた佐天はツナに笑みを見せながら問いかけると不謹慎だと初春は注意をする、ツナは軽く笑いながら佐天の言葉に同意を示す。

 

「あれ?そういえばうちの学校、今日は能力検査でしたけど受けたんですか?」

 

「ちょっと、体調が優れなくてさ…検査は受けてないんだ、そのおかげでレベル0だってさ」

 

「そうなんですか、まぁテストを受けても私みたいにレベル0ってのもいますから、気にしない方が良いですよ?」

 

 佐天は少し気になった事があり、ツナに質問を投げ掛ける。ツナは苦笑を浮かべながらレベルが下がった事を話す、すると佐天は深く気にしなくていいと指で丸を作ってフォローを入れた。

 口調は軽いが佐天の表情がどこか暗い事にツナはなんとなく感じた。

 

「んで初春はレベル上がったの?」

 

「ふぇっ!?このタイミングで聞きます?…私はレベルそのままの1でしたよ…」

 

「初春の能力でレベルが上がったらどうなるんだろう?」

 

「んー…寒い中でも体温が下がらないとか?

まぁそれはおいといて、なんで初春は沢田さんと待ち合わせしてたの?」

 

 気まずい空気を変えるように佐天は初春に話題を振る、いきなりの問いかけに初春は慌てながらレベルが変わっていない事を話す。

 初春の能力についてツナは思いだしながら、疑問を口にする。その疑問に本人では無く佐天が答えそのまま話題をすり替えてしまう。

 

「佐天さんから話題を振ったのに…今日は沢田さんに風紀委員の仕事を教えようと思ってたんです、だけど!!」

 

「「だけど?」」

 

 自由奔放な佐天に、ため息をついてから初春は今日やろうとした事を話していくが意気揚々と急に声を上げた。

穏やかな初春とは思えない変貌にツナと佐天は声を揃えて尋ねた。

 

「実は今日、白井さんからあの御坂さんを紹介して貰える事になったんです!なのでごめんなさい、沢田さん!」

 

「えっと…ミサカさんて?」

 

「常盤台が誇るレベル5ですよ、初春ってお嬢様学校に憧れてる上にミーハーなとこあるんですよねぇ」

 

「あ、佐天さんと沢田さんも一緒に御坂さんに会いにいきませんか?このまま帰るのは勿体ないですって!」

 

 初春は瞳を輝かせながらツナと佐天に訳を話し始めた。しかし御坂という名前にいまいちピンと来ていないツナは佐天に問いかけると、佐天は声を潜めながら説明をしてくれた。

 意気揚々としていた初春は興奮気味に二人に同行するのを薦めてくる。

 

「え、あたしは遠慮したいかな…常盤台でしかもレベル5でしょ?絶対小馬鹿にされるのがオチだって」

 

「俺もかな、女の子の集まりに男子が混ざるのは流石に不味いし」

 

「二人とも、そんな弱気じゃダメですよ!さぁさぁ!行きましょう!!」

 

「ちょっと、初春!?」

 

「うわわっ」(意外と力が強っ!?)

 

 乗り気な初春とは対照的に佐天とツナは遠慮がちに断る、だがそんな二人の手を引き初春は白井との待ち合わせ場所へと向かいだした。

 か細い腕からは計り知れない勢いに佐天とツナはなすがまま引かれていくのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 初春に連れられツナと佐天は、白井と待ち合わせている場所まで連れてこられた。

待ち合わせ場所にはすでに白井と同じ制服を着た短髪の少女が待っていた。

 

(あれ意外にもお嬢様っぽくないですよね、あの人が御坂さんですかね?)

 

(多分、白井さんも一緒にいるみたいだし、そうだと思う)

 

「初春、確かに私はお姉様を紹介する約束はしましたが、他にもいるとは聞いてませんでしてよ?」

 

 おしとやかというより快活的な雰囲気の少女を見て、佐天は第一印象をツナにひっそりと尋ねる。

同じく声を小さくしてツナは返すと、目の前にいた白井が咳払いをしてからツナと佐天、主にツナを睨み付けて聞いてきた。

 

(今日びお姉様とは、流石お嬢様学校!)

 

(そこ感心するとこ!?)

 

「ええっと、はじめまして!白井さんと同じ風紀委員の初春飾利です!本日はお会い出来て光栄です!」

 

(見るからに緊張してる!?)「えっと、沢田綱吉です…白井さんと初春と同じ風紀委員です、レベル5の人に会ってみたくて初春に無理を言ってきました」

 

(楽しみにしてた本人が一番ガチガチじゃん)「どーも、佐天涙子でーす、初春のクラスメイトでレベル0です、よろしくお願いしまーす」

 

「佐天さん、流石にそれは!?」

 

 白井の御坂への呼び方を聞いて佐天は拳を握って納得し思わずツッコミを入れるツナ、そして白井に名を呼ばれた初春だが、目の前にいる御坂に対して緊張しっぱなしで声が聞こえていないようであった。

 見るからに緊張してる初春に負担をかけないようにツナは着いてきた理由を話すと、白井の目が鋭くなったような気がした。

そんな中で佐天はどこか投げやりな態度で御坂に挨拶をした。

 初春が嗜めようとするが、御坂は特に気にする様子はなかった。

 

「初春さんに佐天さん、それに沢田くんね…私は御坂美琴、よろしくね」

 

「え、あ、はい…」

 

「はえ?」

 

 頷くような仕草をしてから御坂は、三人の名前を呼び自己紹介をした。

余りにも意外な行動に、初春と佐天、ツナは呆気にとられていた。

そんな中で白井はやれやれとため息をついていた。

 

「とりあえず立ち話もなんだしゲーセンにでもいかない?」

 

「ゲーセン?お嬢様なのに!?」

 

「?変かな?私はよく行くんだけど」

 

「お姉様、流石に常盤台生としてあまり軽率な行動はやめてください」

 

「いいじゃない、それに男子もいるんだしカフェに行くより楽しめるわよ?よし、それじゃあ行くわよ!」

 

 御坂は場所を変えようと提案をしてきた。そこは余りにも意外な場所で佐天は目を丸くしながら問いかけると御坂ははにかにながら、いつも行く場所だと教えてきた。

 すると白井が腰に手を当てて、御坂に注意を投げ掛ける、しかし御坂はその言葉をどこ吹く風のようにあしらい先導するように進みだした。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「なんだか、意外過ぎて言葉も出ませんね…」

 

「そうだね、あんな普通に接してくるとは思わなかったよ」

 

 御坂の隣に初春と白井がつき、佐天とツナはその後ろに続きながら二人は御坂の印象について話していた。

 二人が話す前で初春が御坂に質問をしながら、白井にどやされている。

 

「そういえば、白井さんはさん付けで初春は呼び捨てなんですね、沢田さんって」

 

「ああ、うん…昨日、どう呼んだら良いって聞いたら初春は年下だから呼び捨てにしてくださいって言われてさ」

 

「初春らしいですね、それじゃああたしも佐天で良いですよ、初春と同じ学年なんで

一応、年上なんで敬語は無くしませんけど」

 

「一応…」

 

 前を歩く三人を眺めながら佐天は、ツナに質問をする。呼び方について聞かれツナは昨日あった事を話していく。

 初春の意見に佐天は笑みを浮かべつつ、ツナに自分の呼び方を教える。

最後に付け足された言葉にツナは苦笑を浮かべる。

 

「それで白井さんはどうだったんですか?」

 

「見ず知らずの人に名前を呼ばせる気はないってさ後、まだ信用しきれていないからさんは付けて欲しいって言われた」

 

「なるほど、お嬢様学校ですし男子には警戒しますもんね」

 

「当然ですわ」

 

「「っ!!?」」

 

 それから白井の呼び方ついて尋ねるとツナは苦い顔をしながら答えた。

その理由に佐天が納得した時、ツナの隣から白井の声がした。二人が目を向けると先ほどまで御坂の隣にいた白井がツナの隣に立っていた。

 

「私はお姉様の露払いをしておりますの、佐天さんは問題ないですが…沢田さん?

不用意にお姉様に近づいた場合はこの黒子が許しませんわ、主に30mは離れて下さいまし!」

 

「それってさっさとどこかに行けって事!?」

 

「そうと言っていますわ、もしもゲーセンに行ってお姉様とあんな事やこんな事をしようものなら、どうなるかわかりますわよね?」

 

「いや、どんなことだよ!?」

 

 白井は自身の胸に手を当てて、宣言をすれば払うような仕草をしてツナに言い放つ。

明らかに邪険な態度をしている白井にツナが聞き返すと、白井は殺気を漲らせた視線をツナに向けながら忠告をしてきた。

 しかし余りにも抽象的な言い回しにツナは思わずツッコミを入れた。

 

「はぁ~?よくもぬけぬけと言いますわね?男は狼、わかっておりますのよ!?ゲームをする振りをしてお姉様と肩を並べ、手を握り、あまつさえあの慎ましやかな身体に毒牙を、へぶっ!?」

 

「あんたは、往来で何を口走っての!少しは常識を考えたらどうなの!?」

 

 ツナの言葉に、白井は声を張り上げて言うと事細かに説明を始めるが途中で御坂の拳が白井の頭に直撃した。

顔を赤くしながら御坂は街の真ん中で叫ぶ白井にキツく言いつける。たが、白井は怯む事はなかった。

 

「いいえ、お姉様!この際ですから男性の危険性を学ぶべきですの!!そして、自分の服装などにも気を付けるべきですわ!!!」

 

「ちょっ!?いきなりなにを言い出すのよ、あんたは!」

 

 ビシッと指を突き付け白井は御坂にハッキリと言い放つ。服装という単語にツナたちは首を傾げ、御坂は思わず後退りをする。

 

「お姉様には常盤台生としての品格が足りませんわ!まずスカートの下に短パン!」

 

「いいじゃないの!この方が動き易いんだから!」

 

「更にその下はキャラ物の下着!」

 

「な、なんでわかるのよ!?見せてもいないのに!!」

 

 白井はまるで裁判所の検事のように御坂へと言い放つ、指摘された瞬間、御坂は思わずスカートを押さえて反論する。

 だが白井の追及はまだ終わらず更に言葉を重ねてきた、とりあえず側にいたツナはそっと耳を塞ぎ出来るだけ聞かないようにしていた。

 

「お姉様の事ならこの黒子にわからないこと等ありませんわ!!さぁお姉様、ゲーセンなど行かずにこの黒子と魅惑のランジェリーショップへと参り、そして最後には二人が大人の階段を「だ・れ・が行くかぁああっ!!」ザッ、ヘヴン!!!」

 

 自身の顔を覆うようにして言い放つ白井、そして行き先を変えようと提案した瞬間、御坂の怒号と共に電流が発生した。

 バチンと大きな音がなり、そこには電気によって身体をヒクつかせる白井の姿があった。

 

「えっと、大丈夫なの?白井さんは」

 

「手加減はしてるわ、それに黒子にとっては日常よ…それよりもさっきのし、下着の話はすぐに忘れる事良いわね!?」

 

「は、はい!!」

 

 痺れている白井にツナは御坂へ確認を取ると、髪を払い御坂は日常茶飯事であると返してから、ツナに白井の言っていたことを忘れるようにと強く言う。

 その目には、忘れなければ次はお前だと語っておりツナは思わず背筋を伸ばして返事をするのであった。

 

「御坂さんってこんな人なんだ…」

 

「ごめんね、騒がせてそれじゃあ気を取り直して、ゲーセンに…」

 

「どうしました?」

 

 御坂と白井のやり取りを見て初春は思わず呟いた、そして気を取り直してゲーセンへ向かおうとした時、御坂は一つのポスターに目を留めた。

 張り出されているポスターをじっと見ている御坂に佐天は問いかける。

ツナも視線を追いかけてポスターを見るとそこにはクレープ屋が新装開店セールをしているという内容だった。

 

「えっと、先着100名様までに特製ゲコ太ストラップ?…なにこれカエルのマスコット?」

 

「どうやら近くでやっているようですね、御坂さん?」

 

「へぇ…近くなんだ…ふーん」

 

 ポスターの内容を読み上げて佐天は首をかしげた。初春は記載された情報から近くの広場でやっている事を告げると御坂の様子がおかしい事に気づく。

 御坂はしきり広場の方向に目を向けてソワソワしだしていた。

 

「お姉様、好きですものねぇ、ゲコ太」

 

「「「えっ?」」」

 

「なにを言ってんのよ、ゲコ太ってカエルでしょ?両生類を好きってのは無いわよね?」

 

「あ、」

 

 ソワソワしている御坂にいつの間にか復活した白井が呆れたようにため息をつきながら言う。白井の言葉に三人は声を揃えて驚く。

 すると御坂は慌てて否定するが、ツナはカバンからでているゲコ太のストラップに思わず声を上げた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 御坂の興味がゲコ太ストラップに移った為、五人は新装開店セールが行われている広場へとやってきた。

そこには既に沢山の客と多くの子供で賑わっていた。

 

「なんだか凄い子供が多くないですか?」

 

「あれじゃない?市内見学ツアーだってさ学園都市に通う予定の子供を案内してたみたい」

 

 走り回る子供を避けながら初春は困ったように言う、その隣にいた佐天は、近くに停車しているバスを指してこの人の多さを説明する。

 

「これだと座る事も難しいですわね、私と初春で場所を確保しますわ」

 

「てことはあたしと御坂さん、沢田さんと並ぶって事?」

 

「すみません、佐天さん沢田さん、お願いします」

 

 人の多さから白井は手分けをするべきだと言う。残された佐天は慌てながら聞き返すと、初春は頭を下げて白井と共に列から離れていく。

 残されたツナと佐天は顔を見合わせてから、後ろを見ると腕組みをしながら待つ御坂の姿があった。

 

「ん?なに?」

 

「「いや、なんでもないです」」

 

 少し焦るようしている御坂にツナと佐天は首を振って列に並び直した。

周りで楽しくはしゃぐ子供たちの声を聞きながら佐天はどこか居心地悪くしていた。そして前に並ぶツナに目を向け意を決してツナの袖を引いた。

 

「あの、沢田さん…」

 

「うえ?どうしたの佐天」

 

 いきなり声をかけられツナは少し驚き、後ろに目を向けた。

すると佐天は声を潜ませなが尋ねてきた。

 

「記憶喪失になってから能力って使えたんですか?」

 

「いや、使い方もさっぱりわからなくてさ…ちょっと困ってるかな」

 

「そうなんですか、こんな事聞きにくいんですけど…能力が使えなくなって何か変わりました?」

 

 佐天の問いかけにツナは首を振ってから嘘をつく、ツナの言葉に佐天はさらに言葉を続けてきた。

 正直、ツナには能力の有無の感覚はわからなかったが、それでも佐天の問いかけに真面目に答える事にした。

 

「変わらないよ、俺は俺のままだと思う」

 

「そう、ですか…すみません変な事を聞いちゃって…あ、そろそろ沢田さんの番ですよ」

 

 自分の中にある力がなくなっても自分は変わらない、ツナの言葉に佐天は苦笑を浮かべてから、列が進んだ事を伝える。

 初春と白井の分は佐天と御坂が購入するため、ツナは自分の分だけを頼んだ。

 

「お待たせしました、バナナクレープとゲコ太ストラップ、最後になります」

 

「え、これで最後?…」

 

 手渡されるクレープとカエルのマスコットがついたストラップを受けとるツナ、しかし店員の最後という言葉にツナと佐天は後ろに目を向ける。

 そこには地面に手をついて落ち込む御坂の姿があった。

 

「ゲコ太~…」

 

「あの、御坂さん?良かったらいる?」

 

「いいの!?」

 

「俺が持つより御坂さんが持っている方が良いと思うから」

 

「ありがとう!!」

 

 落ち込む御坂にツナはゲコ太ストラップを差し出す。その瞬間、落ち込んでいた御坂は顔を上げて反応する、ツナは苦笑しながら言うとゲコ太ストラップを大事に手に納めながら御坂は礼を述べた。

 その様子にツナと佐天は笑みを浮かべた、そして二人もクレープを買い初春と白井の元へ向かった。

 

楽しげに会話をしながら御坂達はそれぞれのクレープを食べ比べ等をしていた。それを見ながらツナはクレープをほお張った。

 その時、ふと向かいの銀行のシャッターがしまっていることに気がつく。

 

「初春、あそこの銀行って今日は休みなのかな?」

 

「ふえ?…んー、この辺りの銀行の休日は明日のはずでしたけど…」

 

「っ、沢田さん!腕章を腕に着けて下さいませ!」

 

 ツナは少し気になり隣にいる初春に声をかけた。クレープを食べつつ初春は首を傾げて記憶にある休みの日付を口にすると、何かに勘づいた白井はクレープを一気に食べてからツナに指示を出した。

 その時であった、突如、銀行のシャッターが内側から弾け飛んだ。

 

「銀行強盗!?」

 

「初春は警備員に連絡を、沢田さんは周りの人を近づけないようにしてください!」

 

「はい!」「わ、わかった!」

 

「黒子!「いけませんわ、お姉様!」

 

 中から出てきたのは目出し帽を被った三人組だった、ツナが声をあげると即座に風紀委員の腕章を着ける白井と初春。

 そして初春とツナに指示を出し白井は銀行強盗へ向かおうとした時、御坂が立ち上がって白井の名を呼ぶが全て言い切る前に白井は制止をかけた。

 

「お姉様が首をつっこみたがる性分は理解していますわ、けれど風紀委員でも無いのに能力を他人に使用することはいくらレベル5のお姉様でも許されません、そうなればこの黒子、たとえお姉様であったとしても確保しなければいけませんわ」

 

「黒子…」

 

「大丈夫ですの、あの程度のゴロツキ、片手でひねってきますわ!」

 

 御坂の性格から銀行強盗を捕まえようとするのを予測した白井は強い口調で言い放つ、そして余裕の笑みを浮かべ白井はテレポートを使い、銀行強盗の先へと回り込んだ。

 

「ダメです!今は危険ですから離れていて下さい!!」

 

「けれど、子供が一人いないんです、バスに忘れ物をしたから取りに行ったきり帰ってきてないんです!」

 

「わかりました、子供は私達が探してきます!沢田さん!!」

 

「わかった!」

 

「私も手伝うわ!それくらいならできるわよね?」

 

「あたしもやります!」

 

 白井を見送った御坂の耳に初春の声が聞こえてきた、視線を向けるとそこにはバスガイドを引き留めている初春の姿があった。

 バスガイドから話を聞いた初春は、風紀委員である自分達に任せて欲しいと言う。

ツナが頷いて答えると、御坂と佐天が子供の捜索に名乗りでてきた。

 初春とツナは頷いてから手分けをして子供の捜索を開始した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

side:佐天

 

 初春の迫力から思わず手伝いの名乗り出たけど、正直見つかる気配が全くしなかった。

初春と御坂さんは、バスの周辺をあたしと沢田さんはバスから少し離れた植え込みの辺りを調べる事にした。

 子供を、探しながらあたしはチラッと白井さんの方に目を向ける。自分よりも遥かに大きな体格の相手に怯みもせずに白井さんは殴りかかってきた相手を転ばし、太ももに仕込んだ杭みたいなのを空間転移で移動させて、器用に服だけを縫い付けるようにしていく。

 

あれがレベル4、大能力者…それよりも凄いのがあの御坂美琴さん。

レベル0のあたしじゃ逆立ちしても無理というかまず能力すら発現してないんじゃ土俵にすら上がれない…なんでこんな事してんだろ…

 

「ひぐ、えっぐ…」

 

「あ、いた!」

 

 暗い気持ちがあたしの中で大きくなっていく中で、近くに止まっていた車の側で泣いている 子供の姿を見つけた。

けれど安心したのもつかの間だった。

 

「ちょうど良い、お前を人質にしてやる!」

 

「ひ、おじさん誰?」

 

「良いから来やがれ!」

 

 白井さんから逃げてきた犯人の一人が子供の側へと走ってきた。たぶんだけど、あの車は犯人が逃走用に置いていたんだと思う。

 そしてお決まりのように子供の手を掴んで連れていこうとした。

あたしは慌てて沢田さんや初春達に伝えたようとするけれど直感的にそれじゃあ間に合わないと思った。

 

(おいおい、何を考えてるあたし、無茶をするんじゃない!)

 

内心では、自分の行動を止めているけども身体は既に動き出していて今にも連れ去られそうな子供の身体にしがみついていた。

 

「てめぇ!?何をしやがる!!」

 

「ダメ!行かせない!!」

 

 あたしが子供の身体にしがみつくと犯人は声を上げてきた、何をやってんだろあたし…

けれどこのままにはしておけない、そんな強い気持ちのままあたしは強く叫んだ。

 犯人が拳を振り上げるのが見えた、あたしは痛みを覚悟して目を閉じたけれど痛みがくることはなく代わりに

 

「くそ!離しやがれこのガキ!?」

 

犯人の叫び声が代わりに聞こえてきた。

 

ーーーーーーーーーーー

 

 佐天が恐る恐る目を開けるとそこには犯人に組み付くツナの姿があった。

 

「くっ…佐天、早くその子を連れてくんだ!」

 

「くそ、なんつう力だ!離せ!痛い目にあいてぇのか!?」

 

 組み付きながらツナは佐天と子供に逃げるように叫ぶ、犯人はツナを引き剥がそうとするが中学生とは思えない力に焦りながら脅しをかけてきた。

 

「今、お前を離して、二人がケガをしたら、俺は!死んでも死にきれない!!」

 

「く、くそガキが!!」

 

「がっ!?」

 

「沢田さん!!」

 

 ツナは一歩ずつ前に進みながら、腹の底から叫んだ。その気迫に怯んだ犯人は腕を振り上げてツナの顔面を強く殴りつける。

顔面に直撃した事でツナは鼻から出血をし、力を緩めてしまう。

佐天の声が響くのと同時に犯人はツナを蹴り飛ばし車へと乗り込んだ。

 

「しまった、このままでは逃がしてしまいますの!「黒子!!!」…お姉様?」

 

「悪いけど手を出させて貰うわよ?あんな事をされて黙ってる程、私は聖人君子じゃないから」

 

 逃げた犯人を追う為に空間転移しようとする白井に御坂の声が響き渡り、御坂は走ってくる前に立ちふさがった。

 そしてそこからの流れは驚く程、簡単だった。

御坂がコインを指で弾いた瞬間、コインは凄まじい速度で撃ち出された。

その一撃は地面を抉り走ってくる車を撥ね飛ばす程の威力を出した、そして自身の背後に落ちる車など気にする事なく御坂は己の髪を払い余裕を見せた。

 

「すご…ふごっ!?」

 

 その一部始終を見ていたツナは御坂の行動に素直な感想を口にした途端、コインが抉った破片がツナの頭の上に落ちてきた。打ち所が悪くツナはそのまま気絶してしまった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…あれ?ここは…」

 

「あ、起きました?沢田さん」

 

 風の音が聞こえてツナは目を開けた、そこには木の枝と茜色の空が広がっていた。

呆けながら空を見ていると視界を塞ぐように佐天が顔を覗かせてきた。

 

「佐、天?…なんで?」

 

「沢田さんが気絶したから介抱してたんです、初春と白井さんは警備員への報告、御坂さんは飲み物を買いに行ってます

強盗犯は全員捕まりましたよ」

 

「そうなんだ…あの子は?」

 

「無事です、沢田さんが身体張って助けてくれましたし」

 

 ツナは不思議そうに佐天に尋ねると、人差し指を立てて佐天は説明をしていく。

事件が解決した事に安堵しツナはいなくなっていた子供についても尋ねた。

 佐天は柔らかく笑いながらケガはしていないと返してツナの身体の上に飴玉を置いた。

 

「それ、お礼です…あの子が風紀委員のお兄ちゃんにって」

 

「そっか、良かった」

 

「凄いですね、沢田さん…全然ダメじゃなかったですよ?」

 

「そんな事ないよ、俺が頑張れたのは佐天があの子を見つけたからだよ

出なかったらあの子は拐われてた、あの子を助けたのは佐天だよ」

 

「そう、ですかね…あはは」

 

 飴玉を不思議そうに持つツナに、佐天は子供が渡してくれた事を話す。ツナは嬉しそうに飴玉を眺めていると佐天はしみじみ言うようにツナの事を称賛した。すると目を閉じてから、身体を張れた理由を話してから佐天に向けてツナは言う。

 初めはキョトンとしていた佐天だが嬉しそうにはにかみながら返した。

 

「…それはそうと、起きたならそろそろどいてもらえます?あたしの膝の上から」

 

「え?うわっ!ごめん!!」

 

 気恥ずかしくなったのか佐天は話題を変えるようにツナに向けて言う。そこで初めてツナは自分が佐天に膝枕をされていることに気付き慌てて起き上がった。

 すると佐天は少しふてくされた表情を浮かべた。

 

「どいて欲しいとは言いましたけど、そんな露骨に避けられたらいくらあたしでも傷つきますよ?」

 

「あ、ごめん…」

 

「なんて冗談ですよ、そういうとこもダメなんですね、ツナさんは」

 

「あはは…あれ?名前?」

 

 慌てるツナにやれやれと肩をすくめて佐天は言うと、肩を落としてツナは頭を下げる。

するとイタズラ子っぽく佐天は笑い冗談であるとツナに言う。

 ダメだと指摘されて苦笑を浮かべるツナは佐天が呼び方を変えた事に気付いた。

 

「命の恩人ですからね、名字呼びはなんか嫌だったんでダメツナから取ってツナさんにしました

あ、ちゃんと敬語は使うんで安心して下さい」

 

「あ、いやそれは別に構わないけど「それじゃあ私もツナって呼んでもいい?」うひゃあ!?」

 

 呼び方を変えた理由を佐天は説明し、その上で敬意は表すと言ってきた。

ツナとしてはその辺りは気にはしないと言おうとした瞬間、背後から御坂が缶ジュースをツナの首筋に当てて尋ねてきた。

 いきなりの事にツナは慌ててたじろぎそのまま尻餅をついてしまう。

 

「あてて…」

 

「ちょっと大丈夫?」

 

「御坂さん、いつの間に」

 

 倒れたツナに手を貸す御坂、特に音を立てる事なく近づいてきた事に佐天は微妙な表情を浮かべて尋ねた。

 

「少し前よ、ツナが目を覚ました辺りかな?」

 

「それ、ほとんど最初からでしょ!?」

 

「というか、なんで御坂さんも名前で?」(というか既に定着してる!?)

 

 ツナを立たせてから御坂は自分が来たタイミングを教えると佐天は思わずツッコミを入れ、ツナは御坂に呼び方を変えた理由を尋ねつつ特に問題なく言っている事に内心でツッコミを入れた。

 

「気に入ったからかな?ああやって、人の為に身体張れるのって嫌いじゃないし

だからツナって呼ぼうとしたのよ、ツナも私の事を名前で呼んでも良いわよ?確か、同い年でしょ?」

 

「いや、それだと白井さんに「…お姉様?」ひぃ!?」

 

 呼び方を変えた訳を御坂は話していき、ツナに名前で呼ぶように言ってきた。

ツナはそんな事をすれば露払いを自称している白井が黙っていないと言おうとした時、背後から白井の低い声が聞こえてきた。

振り替えるとそこには黒いオーラを出す白井と心配そうにしている初春がいた。

 

「まさか、私がいない間に名前を呼び合うまでに関係が進むとは…かくなる上は今すぐにでも既成事実を組み上げるまで、お姉様~っ!!」

 

「はぁ!?ふざけないで、私にそんな趣味は、ってこっちに来るな!!?」

 

「モーマンタイですわ、お姉様!朝まで寝かせませんですのよ!!」

 

 白井は顔を抑えながら言えば、飛び上がり御坂を押し倒そうとする。

飛びかかってきた白井を避けて、御坂は距離を開けるが白井はそれだけでは止まらず御坂を追いかけ始める。

 

「沢田さん、ケガは大丈夫ですか?」

 

「うん、まだ痛むけど大丈夫だよ初春」

 

「また記憶喪失になっちゃいますね、ツナさん」

 

「いや、流石に何度もなられても困るから」(てか本当に記憶喪失になるわけにはいかないって!)

 

 ツナに傷の状態を尋ね心配をする初春に、軽く笑いながら答えるツナ。

すると佐天が意地悪そうな笑みを浮かべながらからかってきた。

 苦笑を浮かべ、内心ではかなり焦りながらツナは返答をするとそんな二人を初春は不思議そうに見ていた。

 

「佐天さん、いつから沢田さんを名前で呼ぶようになったんです?」

 

「さっきだよ、あ、初春も名前で呼びたいんでしょ?」

 

「え!まぁ正直、名字より呼びやすそうですけどいいんですか?」

 

「俺は大丈夫だよ、初春」

 

 呼び方が変わった事について尋ねると佐天はあっけらかんとした口調で答え、初春に絡むように聞いてきた。

初春は若干目を反らしながら答えるとツナに確認をとってきた。

 それに対してツナは軽く笑いながら了承をした。

 

「わかりました、よろしくお願いしますね!ツナさん」

 

 

「こちらこそ…所で白井さん止めなくていいの?」

 

「私には無理ですね、白井さんを止めるのは」

 

 ツナから了承を貰い、初春は喜びながら頭を下げる。そして未だに追いかけっこをしている二人にツナは苦笑をしながら尋ねると、初春はキッパリと答えた。

 

「いい加減に、しろぉおおおおっ!!」

 

「あふん!!?」

 

 追いかけられ続けられついに御坂は我慢出来なくなり、電撃を白井に浴びせる。

白井は悲鳴を上げるのだがその表情はどこか誇らしく爽やかであった。

 そんな光景にツナ達はそれぞれに苦笑を浮かべるのであった。




次回予告

ツナ「御坂達と出会ってから一週間が経過した、そんな時に御坂から買い物に付き合って欲しいと頼まれる事になる
うえ?白井さんには内緒?なんかあるのかな…
次回、とあるマフィアの平行移動 第3話:記念と買い出し
女の子の買い物ってなんかやな予感がする…」


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第3話a:記念と買い出し

基本、前後編の二話スタイルでいこうと思います
アニメのAパート的な感じで進めていきます
その方が自分的にはやる気が落ちないかなという考えで、もし切らないで一つにまとめろという意見があれば少し考慮します
それでは第3話を読んで欲しいです

ちなみに時系列はとある科学の超電磁砲の二話の前日になります


ツナ自室

 

 

「あれ…もうないや…」

 

 備蓄されているインスタント麺の在庫を見て、ツナは呟いた。

学園都市に来てから一週間、未だに元の世界に変えるように兆しも無く風紀委員として活動をしていた。

そんな中で食料がなくなった事に気付いた。

 

「外食、いや…それはけっこうかかるよな…一応節約はしとかないといけないし」

 

 ツナは手頃な解決手段を取ろうとしたがすぐに首を振り自分に言い聞かせるように言い、テーブルの上に視線を向ける。そこには一枚の手紙が置いてあった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

風紀委員177支部

 

「買い出し?良いですよどんなのが必要なんです?」

 

「えっと日用品とか食料とかかな」

 

 風紀委員支部に遊びにきた佐天は、ツナが買い出しに行きたいという話を聞いて任せるように胸を張り名乗りでてきた。

 

「それよりもなんで佐天さんは風紀委員の支部に来ていますの?関係ない方は来ないで欲しいですの」

 

「まぁまぁ、良いじゃないですか!それにツナさんの話を聞いていたらいつの間にか着いてしまったのですよ」

 

 

 和気あいあいと話す二人に白井はため息まじりに佐天へ注意を促す。

すると佐天は、支部に来たのは不可抗力だと肩を竦めてわざとではないと言ってきた。

 

「はぁ、そういう方便はあまり好ましくありませんですの」

 

「あはは、白井さん…佐天さんはそういう人ですから…あまり聞いてはくれませんよ?」

 

「流石、初春!お礼に今日の色を見てしんぜよう」

 

「それはお礼じゃありませんから!?」

 

 口八丁の佐天に白井はあきれたようにため息をつく、そして支部の奥でパソコンを操作していた初春が苦笑を浮かべながら言い含めるのは諦めるべきだと言ってきた。

 佐天は指をならして答えれば手をわきわき動かし、初春のスカートに手をかけた。

座っていた事もあり、初春はなんとかスカートを捲れないように防ぐ事が出来た。

 

「まぁ今日は、緑の縞パンなのは知ってるんだけどね」

 

「いつ見たんですか!?というかバラさないで下さいよ!ツナさんに聞かれているじゃないですか!!」

 

「……」

 

 防がれたが佐天は特に悔しがる事なく下がると離れ際に初春の下着の色をバラした。

色を言い当てられ、初春はスカートを更におさえつけてツナに聞こえるような言い方はしないで欲しいと佐天に言う。

 下着の話題についてツナは出来るだけ聞かないようにして視線を反らした。

 

「とりあえず明日はツナさんの買い出しを手伝うのに初春も一緒にいく?」

 

「なんで私もなんですか?一応非番ですけど」

 

「ほら、ナビ役がいると何かと楽じゃない?だから頼むよ初春」

 

「もう、わかりましたよ…それでどこに集まるんですか?」

 

 反省そぶりもなく、佐天は初春に尋ねてきた。首を傾げつつ初春は明日は空いてあると答える。

すると佐天は笑いながら当日、買い物で巡る店をピックアップして欲しいと頼んできた。

佐天の言い分に渋々納得をすれば初春はどこに集まるかを尋ねる。

 

「そうだなぁ、とりあえず校門前に集合って事でツナさんもそれで良いですか?」

 

「うん、それについては問題ないよ」

 

「買い物に行くのは構いませんが、お三方、あまり夜更けまで彷徨くのは控えめにしてくださいね?

最近、何かと能力者が起こす事件が増えてきてますので」

 

 集合場所について佐天はメンバーを考えてから集まり易い柵川中学の前に集合することを決めて、ツナに確認をとる。

 同行してもらう為、佐天の提案に反論をせずにツナは答える。すると白井が遅くならないように忠告をしてきた。

 

「わ、かりました、気をつけて行ってきます」

 

「なんだか、お母さんみたいだね白井さん」

 

「こんな大きな子供はいりませんわよ、沢田さん風紀委員であると同時に男子であるのですからしっかりするのですのよ?」

 

「は、はい…気を付けます…」

 

 白井の忠告に、元気良く返答し初春に明日巡る場所の相談を始めた。

 その様子をため息まじりに見ている白井を見て、ツナは思わず呟くと白井ははっきりと答えて佐天と初春を護るように厳しい目で言いつけてきた。

 白井の言葉にツナは冷や汗をながしながら頷いた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

次の日 柵川中学前

 

「初春たちはまだかかるのかな…それにしても普通の授業でもわからないのに、超能力の授業はもっとわからない…なんだよ、自分だけの現実(パーソナルリアリティー)って…はぁ」

 

 授業が終わり、放課後を迎えた。一足先に校門前に着いたツナはため息まじりに今日の授業を思い返した。

基本の五科目に加えて学園都市のみのカリキュラム、超能力座学。そして超能力を扱うのに必要な技術というよりも発想に近い考え方の自分だけの現実。

 

 ツナは、教科書を見ながらげんなりした表情を浮かべる。元々勉強が出来なかった為多少答えられなくても笑い話で済んだが担当教師から明日も答えさせるから予習しておくようにと言われ仕方なく目を通していたが、さっぱり理解出来ず更にため息をついた。

 

「何してるの?」

 

「んな、御坂!?なんでここに?」

 

 教科書に集中していた為、周りを気にしていなかったツナは背後から声をかけられ驚きながら振り替えるとそこにはツナの驚きっぷりに逆に驚かされた御坂の姿があった。

 

「えっと、昨日黒子から初春さん達と一緒に買い物に行くって聞いたから私もついて行こうと思ってね」

 

「え!?なんでまた、それに白井さんはこの事知ってるの?」

 

「黒子?知らないわよ、今日は黒子に内緒で来てるの…ちょっと協力して貰いたくて、ね」

 

「協力?いったい何をするつもりなのさ…」

 

「そんな変な事じゃないから安心して、大丈夫よちゃんとツナの買い物にも協力するから」

 

 御坂は戸惑いながらもここへ来た訳を話し始める。お嬢様学校の御坂がどうしてそんなことをするのか理解出来ず、ツナは思わず聞き返し辺りを警戒した。

 

 初めて会った日に名前呼びされた事が原因でツナは白井から個人的にマークされており、もしも自分の許可なく御坂と会った場合には高層ビル並みの高さからフリーフォールすると密かに耳打ちし脅されていた。

しかも上位の空間転移者である白井なら決して死ぬこと無く、死よりも恐ろしい体験が出来ると言っていた為にツナの恐怖心は倍増していた。

 

 しかしそんなことを知るよしもない御坂は髪の毛を弄りながら照れくさそうに話してきた。

ツナは出来るだけ早めに済ませて欲しいと苦笑いを浮かべながら尋ねると、御坂は買い物する時間がなくなるのではと予想して自分も買い出しに協力すると言ってきた。

 

(出来れば一緒にいない方が俺としては、安全なんだけど…なんかほっとけないし)「俺のはただの食料の買い出しだから先に御坂の用事から済ませようよ、なんだか難しそうな感じだから」

 

「ツナさーん、お待たせしました…って御坂さん?うそ!なんでうちの中学に!?」

 

「さ、佐天さーん、置いてかないでくださーい…」

 

 御坂はの表情から本当に協力が必要性なんだと感じて、ツナは自分の用事について話してから御坂の方を先に終わらせようと提案した。

 その時である、校舎から佐天がツナの名を呼びながら駆け寄ってきた。そして近くまで来て御坂の姿を見つけツナと同じように驚きを見せた。その後ろの方では初春が息を切らせながら走って来ていた。

 そして、下校途中の生徒達の視線が徐々にツナ達に向けられていく。

 

「とりあえずここじゃ不味いから移動しよう!」

 

「そうですね、初春、キツイだろうけどもう少し頑張って!」

 

「ふえ?なんで…ってああ、置いてかないでください-…」

 

「えっ?ちょっといきなりどうしたの?」

 

 常盤台の制服と御坂という名前で注目を受け始めツナは佐天にこの場を離れることを提案する。

周りの空気を感じとり提案に乗れば、息を切らしている初春に声をかけてツナについていくように、御坂の背中を押してこの場を離れ出す。

 そして息が絶え絶えだった初春は離れていく三人を追いかけていった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 御坂を連れて柵川中学を離れたツナ達は、街中へと入りそこで止まる事にした。初春もなんとかついてきているがまるで産まれたての子鹿のように足が震えていた。

 

「ここまで来れば安心ですかね…」

 

「た、多分…」

 

「二人とも大袈裟ねぇ、ちょっと目立った程度じゃない」

 

 佐天とツナは息を切らしながら、周りを確認して呟く。そんな二人に御坂は軽く笑いながら気にしすぎだと言ってきた。

 

「甘いですよ!御坂さん!うちみたいな地味な中学に常盤台でしかもレベル5の御坂さんが来たなんて聞いたら、それはもう大惨事になりますよ!!」

 

「御坂の名前を呼んだのは佐天だけどね…結構大声で」

 

「うぐ…とにかく、御坂さんは目立ちやすいんです!」

 

 呑気な事を言う御坂に佐天はビシッと指を突きつけていい放つ、しかしツナのツッコミに言葉を詰まらせてしまうが、気を取り直して改めて言い放つ。

 

「そんなものかな?自分じゃそうは思わないんだけど…」

 

「初春を思い出して下さい!初対面でのガチガチっぷりを!大抵の人はああなりますから!更に言えばコアなファンにはもう我を忘れるくらいの事なんですから!」

 

「それは嫌ね…あれ?そういえば初春さんは?なんだかさっきから見当たらないんだけど…」

 

「「え?」」

 

 佐天の言葉に大袈裟だと苦笑しながら頬をかく御坂。すると自身の人気をいまいち理解していない御坂に、佐天は強く熱弁をしてきた。

 我を忘れると聞き、御坂は身近の要注意人物を思い出して冷や汗をかく。その時、ツナ達の背後に初春の姿が無いことに気づいた。

 御坂の問いかけに佐天とツナは同時に振り替えると地面に倒れている初春がいた。

 

「初春!?ちょっと大丈夫?」

 

「はーい、大丈夫ですよー」

 

「大丈夫じゃない、それは絶対に大丈夫じゃない奴だから出ちゃいけないものだから」

 

 佐天は慌てて初春を抱き起こすと、初春の口から何か白いモノが出て本人の代わりに返答をしてきた。

 花飾りを乗っけた白い塊にツナは慌てながらツッコミを入れる。

 

「とりあえず日陰と何か飲める場所に行くわよ!?」

 

「はっ!初春の頭の花に水をやれば復活するのでは!?」

 

「いや、そんな訳ないから!佐天落ち着いて!とりあえず運ばないと!」

 

 初春の白い塊を見て、御坂も事の重大さに気付き慌てながらも近くの店を指す。

水という単語に佐天は握り拳を作って提案をしてきたがツナは素早く否定して、落ち着くように言えば初春を抱えて御坂が指した方向へ駆け出し、佐天もそれに続いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「ぷはーっ!生き返りました!」

 

「「「それは良かった」」」

 

 喫茶店に入り水を受け取った初春はそれを一気に飲んでから元気に答えた。

一方で、ドタバタしていた三人は疲れたようにテーブルにそれぞれ突っ伏しながら答えた。

 

「とりあえず、今後は私たちの誰かに連絡してからにしましょうか…」

 

「そうね…その方がマシだと理解したわ…」

 

「それって御坂さんの連絡先を交換するって事ですか!?い、良いんでしょうか…」

 

「いや、絶対必要だから交換しとこ」

 

 腕を伸ばしながら佐天は向かいに座っている御坂に言うと手を組みその上に額を乗せている御坂は同意を口にした。

一人だけ元気になった初春は、御坂の番号を教えて貰える事にウキウキしながら尋ねると向かいのテーブルに額を押し付けながらツナは苦笑を浮かべながら答えた。

 

「それで御坂はどうして校門の所にいたんですか?」

 

「え?あぁ、忘れてた…実は」

 

 手早く連絡先を交換してから佐天は御坂に改めて校門前にいた訳を尋ねる。

 最初は不思議そうな表情を浮かべていた御坂だが、ふいに思いだし佐天達に訳を説明していく。

 

「「「プレゼント?」」」

 

「そう、明後日なんだけど黒子とルームメイトになってから1ヶ月になるのよ…多分黒子も用意してると思うのよね、絶対にロクなモノじゃないと思うけど」

 

「流石に白井さんだってそれくらいの分別はあると思いますよ?…多分…」

 

「そこは自信持とうよ初春…」

 

 声を揃えて三人は問いかけると御坂は頷いてから、数日先の記念日について話し白井の性格を予測して遠くを見ながら断言をした。

 同じ風紀委員として初春はフォローを入れるが、白井の御坂への好意の表し方を思い出して目を背けてしまう。ツナは苦笑を浮かべながら呟いた。

 

「というか、白井さんとあたしらと同い年ですよね?なんで御坂さんのルームメイトなんです?学年が違っていてもなれるもんなんですか?」

 

「始めは違う人だったんだけどある日、いきなり黒子に変わったのよね

本人は話し合いで変わってもらったって言ってたわ」

 

(脅したな、多分だけど)(絶対話し合いじゃない気がする)(相手の人、可哀想に…)

 

 佐天はふと疑問に思った事を尋ねると御坂は白井とルームメイトになった時の事を語っていく。その話にツナ、佐天、初春はそれぞれに思うのであった。

 

「という訳で黒子のプレゼントを一緒に決めて欲しいんだけど良いかな?」

 

「えっと…」

 

「そのぅ…」

 

「俺は大丈夫だよ、御坂の用事の方が大切だからね」

 

 話を終えてから御坂は佐天達に協力を頼み込む、佐天と初春はそれぞれ顔を見合わせてツナの方を見る。

するとツナは軽く笑いながら御坂の用事に協力すると答えた。

 

「わかりました、そんじゃ最高のプレゼントを用意しようじゃありませんか!」

 

「はい!私も微力ながらお手伝いします!」

 

「みんな、ありがとう…」

 

 ツナの言葉に佐天と初春は意気揚々と御坂に協力する事を告げた、快く了承してくれたことに御坂は礼を言う。

 

ーーーーーーーーーーー

 

 方針が決まりその後、喫茶店を出てから御坂達は百貨店へと向かった。

 

「ちなみに御坂さんはどんな物を贈りたいと思っているんですか?」

 

「黒子が喜びそうなモノがいいんだけど」

 

「なんか、なんでも喜びそうですよね…自販機の缶ジュースとかでも…」

 

「「あり得る…」」

 

 小物などが売られているフロアへとやってくると佐天は手近な物を見定めながら御坂に尋ねる。

御坂は顎に手を当てながら、理想を口にするが初春の呟いた言葉にツナと佐天は声を揃えて納得をした。

 

「とりあえず私達でそれぞれ白井さんが気に入りそうなモノを持ってきて、それを御坂さんに選んで貰うのはどうでしょう?

時間はきっかり一時間、集合場所はここという事で」

 

「それいいね、んじゃあたしはあっちを見てくるから」

 

「うーん、白井さんの気に入りそうなものか…」

 

 思考を巡らせていた初春は、一つの提案をしてきた。初春の案に佐天は笑みを浮かべながら答えるとキーホルダーなどが並んでいる場所へと向かっていき、ツナは悩みながらアクセサリーがある方へと向かっていく。

 

「それじゃあ私も探してきますね?あ、御坂さんはここで待っていて下さい」

 

「あ、うんわかったわ」

 

 残された初春は、御坂に笑顔を向けて言えば小物が売っている場所へ向かっていった。

残された御坂は他に何か良いものが無いか、少し前に通り過ぎたブティックへと戻っていき探し始めるのであった。




日毎に増えていくお気に入りを見て、リボーンととあるを受け入れてくれる方がいるのは嬉しいと思ってます
いつも読んで頂き誠にありがとうございます
第3話bの執筆に取りかかるのでしばしお待ちあれ


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第3話b:記念と買い出し

金曜日?というか土曜日はリアルタイムでとある科学の超電磁砲を見てから執筆をしてます
そして良いネタが降ってきたと思ったらかなり後の話だった、それが私のよくやらかす事です
時系列がまだ二話なので少し話しのペースを上げるべきかと考えつつ投稿します

作者として、日常場面で一番絡ませ易いのは佐天と初春です、御坂さんは旦那の影がちらついてあんまり絡ませて上げられてないなと思う今日この頃です。


 御坂と白井の記念日の為にプレゼントを選ぶ事になったツナ達は一時間後に集合という決め事をし、それぞれに別れて行動し、一時間が経過した。

 

「みなさん、決まりましたか?」

 

「この場合は誰から発表する?なんかみんなほとんど同じ時間だったみたいだけど」

 

「それじゃあ、あたしからいっきます!あたしが選んだのはコレだ!」

 

 全員が集まった事を確認し、初春はそれぞれに呼び掛ける。そしてツナが不思議そうにしながら発表する順番について聞いてきた。

 すると佐天が真っ先に手を上げてから、小さなキーホルダーを見せてきた。

 それは御坂が好きなゲコ太と似たようなデザインのマスコットであった。

 

「それはピョン子!?嘘、なんでここに?」

 

「えっ?御坂さん知ってるんですか?なんか御坂さんが持ってるゲコ太ってキャラに似てるから白井さんにぴったりかと思ったんですけど…」

 

 マスコットにガッと詰め寄り御坂は驚きの声を上げた。佐天は不思議そうにしながら、デザインが似ているから御坂も白井も喜ぶのでは無いかと答えると御坂は唸るような声を出し始めた。

 

「お願い佐天さん!このモデルは持ってないの!黒子にプレゼントするくらいなら私に頂戴!!」

 

「あぁ…これは…」

 

「御坂のプレゼントになったね…」

 

 佐天の手を握り懇願する御坂に、初春とツナは顔を見合せてから白井のプレゼントにはならないだろうと頷きあい、マスコットことピョン子は御坂の手に渡る事になった。

 

「まぁ仕方ないっか…それじゃあ次はツナさんと初春、どっちからにする?」

 

「あ、それなら私がいきます、私が選んだのはコレです!!」

 

 喜ぶ御坂を横目に、佐天は初春とツナにどちらがプレゼントを発表するか尋ねる。

すると初春が名乗り出てから選んだプレゼントを見せる、それは可愛らしいデザインの手帳だった。

 

「へぇ、結構良いじゃん、書き込むスペースとか大きいししかもペンを差し込む場所もある」

 

「たしかに、風紀委員の仕事をしてるとメモを取ることがあるから便利かもね」

 

「えへへ、白井さんとは長く組んでいますから任務中に良く書き込みをしているのを見かけるんですよ」

 

 機能が充実している手帳に佐天とツナはこれを選んだ初春のセンスを称賛する。

しかし、御坂はどこか難しそうに悩んでいた。

 

「ねぇ初春さん、黒子が書き込んでいた手帳の色、赤色じゃなかった?」

 

「?はいそうですけど、御坂さん?」

 

「前に私は黒子の手帳を見た事があったんだけど…書いてあったのは私とのデートプランとか、まぁ色々の悪事だったわね」

 

「うわぁ…」

 

(内容は詳しく聞かない方が良いかも…」

 

 悩んでいる御坂は、初春に確認するように尋ねてきた。初春は不思議そうに首を傾げて答えると御坂は疲れたようにため息をついてから、白井の所持していた手帳の中身を話していく。

 欲望まみれの内容に佐天は、引くような声をだしツナは目を反らして追求するのを止めた。

 

「まぁ、黒子自身に問題はあるけど、初春のプレゼントを変な事には使わないと思うしこれはアリじゃないかな?」

 

「ツナさんはどんなのを選んだんですか?」

 

「俺はこれかな」

 

 御坂は、受けとる本人にツッコミをいれたいがそれでもプレゼントは良いものだと称賛する。

初春は喜びつつツナにプレゼントは何を選んだかを尋ねる。

 ツナが自信無さげに出したのは、黒い猫のワンポイントが入ったリボンであった。

 

「女の子にプレゼントなんてした事なかったから、これくらいしか思い付かなかったよ」

 

「へぇ、可愛いじゃないですか!」

 

「私もアリだと思いますよ、御坂さんはどう思いますか?」

 

「良いんじゃない?黒子っていつも同じリボンしてたりするからたまには良いんじゃないかな」

 

 ツナは自信が無いと苦笑を浮かべながら言うと、御坂達はそれぞれに称賛をした。

特に反対する事がないのにツナは安堵の息をはいた。

 

「それで御坂さんはどんなプレゼントにしたんですか?」

 

「私はこれかな、結構可愛いと思うんだけど…」

 

 ツナのプレゼントに場が盛り上がった所で初春は、御坂がどんなモノを選んだかを尋ねる。

御坂ははにかみながら、一枚のTシャツを見せてきた、そのTシャツは『USA』という文字と共にカラフルなウサギっぽい絵柄がかかれていた。

 

「…」「…」「…」

 

「ツナさんと初春のどちらかですかね」

 

「あれ!?」

 

「私はツナさんのが良いと思います」

 

「ねぇ、ちょっと!?」

 

「初春のも悪くないと思うよ?」

 

「私のは?ねぇ!?」

 

 Tシャツのデザインに三人は言葉を無くし、佐天は話題を変えるように言い出す。そして感想を求める御坂に答えずツナと初春は、お互いのプレゼントを称賛しあった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「あー、御坂さん?そろそろ機嫌を直してもらえません?」

 

「どうせ私のセンスは子供じみているわよ…」

 

「「あはは…」」

 

 結局、御坂が決めた方が良いということで、御坂はツナと初春のを両方選び、下の階の喫茶店で休憩を取ることにしたが、三人が相手をしなかった事で御坂は不機嫌そうにしていた。

 佐天が恐る恐るいうと御坂はプイッと顔を背けて答えた、それがなんだか可愛らしく思えてツナと初春は苦笑を浮かべた。

 

「あのさ、御坂?白井さんなら御坂の選んだものなら絶対喜ぶからさ、渡してみたらどうかな?」

 

「けど…良いのかな?本当に渡して」

 

「白井さんの事は御坂さんがよくしってますよね、大丈夫ですよ」

 

 ふてくされている御坂にツナは声をかける、だが自信を無くしている御坂は少し弱気に返した。

そこへ初春が背中を押すように言葉を投げ掛けてくる。その言葉に御坂は小さく頷いた。

 

「わかった、それじゃあ初春さんとツナのに加えて私のも黒子に渡してみるわ」

 

「これで記念日のプレゼントはばっちりみたいですね!」

 

「ありがとう、凄く助かったわ三人にはなにかお礼をしないとね」

 

 二人の言葉に御坂は自分のプレゼントを含めて、三つ渡す事を決めた。

プレゼントが決まった事に喜びの声を上げる佐天、そして御坂は決めるのに手伝ってくれた礼をしたいと言う。

 

「俺はいいよ、お礼が貰いたくてやった訳じゃないから初春と佐天だけで良いんじゃないかな?」

 

「そうなの?ツナって欲が無いのね」

 

「ふふん、でしたらあたしは御坂さんの部屋に行ってみたいです

常盤台の寮なんて絶対に入る機会がありませんからね!初春はどうする?」

 

「あ、それじゃあ私も佐天さんと同じで御坂さんの部屋に行ってみたいです!!」

 

 礼をすると言われたがツナは軽く笑いながらそれを断り、初春と佐天だけにして欲しいという。

 ツナの言葉に御坂は少し呆気にとられてから、笑みを浮かべていう。

ツナが照れ笑いを浮かべていると佐天は指を立てて、御坂の部屋に行きたいと言ってきた。

初春も佐天の意見に乗り、常盤台の寮に行きたいと言い出した。

 

「二人がそれでいいなら、構わないけど…あんまり面白い物は無いわよ?」

 

「それでもです、いえむしろ家捜しします!!」

 

「佐天さん、そこは自重しましょうよ…」

 

 部屋に入りたがる二人に御坂は、照れながら楽しめるたものは置いていない事を伝えるが佐天は、無いなら探すと宣言してきた。

遠慮のない佐天に初春は恥ずかしそうにしながら呟く。

 

「ツナは本当に良いの?初春さんや佐天さんみたく私の部屋に入りたいとか言ってもいいのよ?」

 

「いやいや!流石にそれはまずいから!?というか女子寮に男子は入れないと思うけど…」

 

 盛り上がる二人を見ながら御坂はツナに本当に何もいらないのかと尋ね、佐天達と同じでも構わないと言い出した。

 するとツナは顔を赤くし断り、話題を切り替えるように言う。

 

「大丈夫よ、部屋の人間が許可したなら男子でも入れるわ」

 

「え、それって大丈夫なの?」

 

「というか常盤台の寮内でおかしな事をする勇気がある奴なんていると思う?」

 

「あ、はい…ですよねぇ…」

 

 ツナの疑問に御坂はさらりと答える、その言葉にツナは不思議そうに問いかけた。

すると御坂は笑みを浮かべながらバチバチっと電気を放った。

 常盤台には高レベルの能力者しかいないことを初春から教えて貰ったことを思いだし、ツナは顔を青くしながら頷いた。

 

「それじゃあこの後は、ツナさんの買い出しですかね?」

 

「そうね、付き合ってくれた分手伝うわよ」

 

「いや、手伝うっての言っても大した物は買わないよ?ただの食料の買い出しだから、そんなに荷物は増えないと思うけど」

 

「とりあえず、下の食材売り場に向かいませんか?話はそれからでも大丈夫だと思います」

 

 御坂の用事が終わった事で佐天は本来の用事、ツナの買い出しをしようと言う。

御坂もその意見に賛成し、手伝いを名乗り出る。しかし買う物は大した事無いためツナは困ったように呟いた。

すると初春が先ずは地下へ行ってからにしようと提案をしてきた為、ツナ達は会計をし地下へと移動を始める。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「それでツナさんって自炊出来るんですか?」

 

「全然、いつもはインスタント麺やコンビニ弁当だよ…今日は買い置きが無くなったから補充したくてさ」

 

 地下へと移動したツナ達、そして佐天はまず最初に自炊の有無をツナに尋ねた。

問いかけに大してツナは軽く笑いながらいつもは出来合いのものばかりだと答えた。

 

「うーん、作るのが面倒っての気持ちはわかりますが、自炊の方が安く済む場合もありますよ?」

 

「そうなの?」

 

「そうですね、作りおきとか日にちが持つ物を溜めたりすると一回ごとの食費は結構押さえられますね

ちなみに予算はどのくらいですか?」

 

「今は少し多めに持ってるかな、お金はその月の真ん中辺りで振り込まれる事になってるんだけど…来月は無いって書いてあったからな」

 

「?話が見えないんだけどどういう事?」

 

 自炊をしていないと答えたツナに顎に手を当てて自炊を薦めてくる佐天。

いまいち実感が持てていないツナに、初春は自炊した場合のメリットを言い予算がどのくらいあるのかを尋ねた。

 するとツナは財布の中身を確認してから三万円を見せた上で乾いた笑いを浮かべた。

ツナの話がいまいち読めない為、御坂は詳しくたずねる。

 

「実は家のポストの中に母さんから手紙が入ってて、何でも父さんの有給を目一杯使って夫婦旅行に行ってるみたいなんだ

今はオーストラリアで、次はドイツに行くとか書いてあったんだよね」

 

「えっと、ツナさんのご両親って冒険家なんですか?」

 

「一般的な家庭で平凡な役職だったと思う」

 

「まぁ夫婦の仲が良いってのは悪い事じゃないと思うわよ?うん」

 

 ツナは出来るだけ明るく御坂達に自分が知ることが出来た実家の状況を教える。

両親が外国にいると聞いて、佐天は思わず問いかけると額に手を当てながらツナは答えた。

御坂は複雑そうな表情を浮かべながらも、旅行に行くくらい仲が良いのは悪い事じゃないとフォローを入れる。

 

 

「とりあえずツナさんのご両親については置いておくとして、中学生ですからちゃんと食べないとダメですよ

ツナさん、細い…意外と筋肉ついてません?」

 

「え、まぁ風紀委員だし、筋トレくらいはしているよ」

 

「ほぉ~確かにガッシリしてますね、私も鍛えた方が良いかな?」

 

「いやあたしとしてはマッスルな初春は見たくないな、スカートを捲ったら吹き飛ばされそうだし」

 

「まず捲らないでください」

 

 佐天は話題を変えてインスタント麺などばかりじゃいけないと言ってツナの腕を掴むと見た目より筋肉がある事に驚く。

 スーツを着た赤ん坊の家庭教師に崖登りなどをやらされていたとは話せず、筋トレをしたとツナは答える。

佐天の言葉に初春もツナの腕をペタペタと触りながら自身の腕と比べて悩むように呟くと、筋肉がついた初春を想像しバッサリと反対した上で佐天はスカート捲りが出来ないと言うと、初春は不服そうにキッパリと答えた。

 

「でも筋トレをしているなら余計にちゃんと食べた方が良いですよ、手軽に作れる物をいくつか教えますよあたしが」

 

「佐天は料理は上手い方なの?なんだか沢山知っていそうだけど」

 

 一通りツナの腕を触っていた佐天は身体作りにはバランスの整った食事が必要だと言えば、ツナに幾つかレシピを教えると提案してきた。

気軽に話す佐天にツナは疑問をぶつけると佐天は若干得意気な表情を浮かべた。

 

「まぁ、人並み程度には出来ますよ、疑うんなら披露して差し上げましょうか?」

 

「うーん、レシピを実際に教えて貰っても上手く出来る気がしないから一度、作って貰えない?」

 

「おぉう、まさか冗談で言ってみたんですがまさか乗ってくるとは…良いでしょう、今度の休日に披露してしんぜます!」

 

 胸を張って佐天は答え、冗談気味にツナにご馳走すると言えば、ツナは少し考えてから佐天に頼み込む。まさかの回答に佐天は戸惑いの声を上げ、退くに退けないのか任せろと言わんばかりに答えた。

 

「あー、盛り上がってるとこ悪いけど早く買わないよとタイムセールが始まって人が沢山来るわよ?」

 

「むぅ、タイムセールは狙い目ですがあの修羅の集団にツナさんや初春を巻き込めませんね

下手したら波に飲まれてしまいそうなので」

 

「そんなに凄いんですか?佐天さん…」

 

「ぶっちゃけ戦場だね、油断してたら殉職だぜ!初春三等兵」

 

「三等兵…?」

 

 話し込んでいた二人に、御坂がタイムセールと張り出されたポスターを指でさして伝える。

初めは目をキラつかれた佐天だが、場馴れしていないメンツを連れてはいけないと断念した。

 波に飲まれるという訳のわからない単語を聞き初春が尋ねるとサムズアップして佐天は答えた。

なぜ軍隊形式で呼ばれたのかわからず初春は思わず小首をかしげた。

 

「とりあえずあんまり荷物にならない程度に買っていきましょう!」

 

「はい」「「わかった(わ)」」

 

 気を取り直して佐天は三人に号令をかけ三人はそれぞれに返した、食材売り場へと入っていき佐天の指示を受けながらツナ達は食材を入手していき、無事にタイムセール前に買い物を終える事が出来た。

 そして四人が外へ出た時には夕日が落ちようとしていた。

 

「結構、買ったけどツナ大丈夫?」

 

「う、ちょっとキツイかな…」

 

 落ちる日を背に御坂はツナの両手の買い物袋に目を向ける。

はち切れんばかりとはいかないが、かなりの量が入っているためツナの両手は少し震えていた。

 

「しっかりしてくださいよ、ツナさん!本当ならもう少し買うつもりだったのを少なくしたんですから、料理初心者に大量に買っても余すと思ったんですよ?」

 

「あはは、お気遣い、どうも…」

 

「ツナさん、大丈夫ですか?」

 

「初春、ツナさんに手を貸しちゃダメだよ!食材の買い出しってのは家に帰るまでが買い出しなんだから!」

 

「なるほど、わかりました!ツナさん頑張って下さい私、応援してます!」

 

(いや、遠足じゃないんだから!)

 

 手を震わせているツナに佐天はやれやれと肩を竦めてから、買い込んだ食材は少ない方だと言う。

感謝してくれと言わんばかりの佐天にツナは苦笑を浮かべた。

辛そうなツナに、初春は手を貸そうとするが、佐天はそれを止めてからまるで名言を言うように言い放った。

 納得をするように初春は頷くとツナに声援を送った。ツナは言い返そうとしたが、思った以上にレジ袋が重く心の中でツッコミをするしかなかった。

 

「大変ね、ツナも」

 

「でも手は貸してくれないんだ、御坂も」

 

「買い出しは帰るまでなんでしょ?ほら頑張れ頑張れ」

 

 佐天が得意気に語りそれを聞き入ってる初春の横で、重そうにしているツナに御坂が声をかけた。

見守るように隣に立っている御坂に、ツナは苦い顔で尋ねると御坂は少し意地悪そうに笑いながら声援をツナへと送った。

 

「あ、御坂さん!部屋に遊びに行く日なんですけど明日の放課後で良いですか?」

 

「良いけど、二人とも本当に私の部屋に来るだけで良いの?」

 

「はい!私はそれだけで満足します!」

 

 語っていた佐天だったがいつの間にか、初春と共に常盤台の寮に行く日取りを決めていたようで御坂に確かめるように聞いてきた。

 日にちはいつでも良い御坂であったが、本当に遊びに来るだけで良いのかと尋ねた。

すると初春は強い口調で返し佐天も同意するように頷いた。

 

「しょうがないわね、それじゃあ明日ね待ち合わせはまた後で連絡するから帰りましょうか」

 

「はーい、ツナさん、行きますよー?」

 

「わかってるよ…うひぃ」

 

 意見の変わらない二人に、御坂は納得をすれば、時間もそれなりに経っているからそろそろ帰ろうと言いだした。

御坂の言葉に佐天は元気良く答えれば荷物を持つツナへ声をかける、ツナは辛うじて返事をすれば情けない悲鳴を出しながら前を歩く三人を追うのであった。

 後日、御坂の寮へ案内された感想を初春と佐天から聞かされたツナだったが、その内容は寮監がいろんな意味で最強だったという事だけであった。




次回予告

佐天「ツナさん!自炊の極意は1に千切り2に千切り3と4が無くて5に千切りなんですよ!?」

沢田「それ、自炊っていうより料理人の修行だよね?というか次回予告しようよ…えっと、御坂と白井さんの紹介で常盤台中学がある『学舎の園』に行くんだよね?」

佐天「そうなんですよ、だけどそこでは常盤台の生徒を標的にした奇々怪々な事件が起きていたんです!」

沢田「じゃあ、御坂達が狙われてるの!?というか佐天も常盤台の制服着てない?」

佐天「それについては、次回にて!はたして乙女の園を舞台にした事件にツナさんの出番はあるのか!?」

沢田「うぐ…地味に気にしてる事を…次回、とあるマフィアの平行移動!第4話:学舎の園
お楽しみ!」

佐天「それじゃあ第4話が書き上げるまでツナさんは桂剥きをしていましょうか!」

沢田「千切りはドコにいったの!?」


次回もよろしくお願いします
あとがきの次回予告がいらないという方がいたら遠慮なく書き込んで下さい
これはあくまで作者が好きにやってるので


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第4話a:学舎の園

私の文章で戦闘シーン期待してる方、いるのかな?には申し訳ないですが日常シーンはまだまだ続きます
頑張って投稿するので楽しみにしてて下さい


 その日は朝から雨が振っていた。打ち付ける雨粒の勢いは激しくバケツをひっくり返したほど、そう表すのが妥当とも言えた。

そんな中で学園都市に住む者達は、降りしきる雨を時間を見ながら止むのを待っていた。

しかし、その雨の中を必死に走る少年の姿があった。

 

「天気予報見てなかったから油断したーっ!?早く風紀委員支部に行かなきゃ!」

 

 カバンを傘代わりにしてツナは道を駆け抜けていき、なんとか風紀委員支部へとたどり着いた。

 

第177支部

 

「お疲れ様でーす…」

 

「沢田くん?大丈夫?今タオルを持ってくるからちょっと待ってなさい」

 

 ツナが支部へ入ると中にいた固法は、ずぶ濡れのツナに驚き、奥に置いてあったタオルをツナへ手渡した。

濡れていた身体をタオルで拭きながら、ツナは苦笑を浮かべた。

 

「全然、予報とか見てませんでしたよ…学校のみんなも傘とか持ってきてなかったし…」

 

「それはみんな、雨がすぐに止むって知っていたからよ」

 

 ツナは肩を落としながら固法に、雨が振る予兆や他の生徒が何も準備していなかったことを話すと固法は窓の外を指でさしてからツナの疑問に答えた。

 ツナが固法の指した方向に目を向けると、窓の外は先程までどしゃ降りが嘘だったかのように晴れ渡っていた。

 

「嘘、さっきまであんなに降ってたのに!?」

 

「沢田くん、もしかして樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の事を知らされていないの?」

 

「樹形図の設計者?どういうものなんですか?」

 

 雨がすぐに止んだ事にツナは驚きながら、窓に近づき本当に降っていないかを確認する。

その様子を見ていた固法は、不思議そうに尋ねるとツナは聞き慣れない口調で返した。

 

「樹形図の設計者…学園都市が誇るスーパーコンピューターの名称よ、別名超高度並列演算処理器(アブソリュート=シミュレータ)とも言われているわね

25年先まで追い抜かれる事の無い程の性能で、データを入力すれば確実に結果を導きだせるのよ

今までは予報しか出来なかった事も樹形図の設計者にかかれば予知となるわ」

 

「……」

 

「えっと、沢田くん?大丈夫?ついてこれてる?」

 

 樹形図の設計者について固法は説明をしていくが、ツナはキョトンとしたまま固まっており念のために話の内容についてどのくらい理解出来たかを尋ねた。

 

「いえ…全然…なんか凄いんだなってくらいにしかわかりませんでした」

 

「そう…でも大体そんな感じだから間違っていないかな」

 

「すみません…けれど天気を予知とか出来るなんて凄いですね

なんか何でも出来そう…」

 

 ツナは頬をかきながら答えると、固法は苦笑をうかべながら間違いではないとフォローを入れた。

そしてデータを入力するすれば確実に演算し導きだせる事から、ツナは月並みの感想を口にした。

 

「そうね、けれど何でも出来るコンピューターがあるとすれば欲しがる人はいくらでもいるわ

まぁ樹形図の設計者は人が普通にいけない所にあるから余程の事がない限り、盗まれる心配はないんだけどね」

 

「普通にはいけない所?あのそれって…ふえっくし!」

 

 ツナの感想に固法は頷いてから樹形図の設計者が様々な人種から注目されていると話、その上で安全な場所にあることを話した。

その場所について詳しく聞こうとしたが身体の冷めてきた事により、ツナは大きなくしゃみをした。

 

「ちゃんと身体を拭いておいて、今暖かい物を持ってくるから

風邪を引いたりしたら、初春さん達が心配するわ」

 

「はい、お願いします…ずび」

 

 話を切り上げて、固法は支部の奥にある給湯室へ向かいながらツナに体調を崩さないようにと声をかけた。

ツナはタオルで身体を拭きながら鼻水をすすった。

 それから数分後に固法はカップを二つ手にして戻ってきた。

 

「本当なら着替えて貰いたいんだけど男子の学生服の替えは置いてないのよね

とりあえずホットミルクよ、これで少しは暖まる筈よ」

 

「着替えとか置いても良いんですか?」

 

「まぁ、たまに泊まり込みで作業するとかあるから多少はね

あ、私の着替えがあるから着てみる?」

 

「いや、流石にそれは…男の俺には似合わないと思いますよ…」

 

 固法は申し訳なさそうにしつつ、カップをツナに渡しソファーに座る。

着替えが置いてあることにツナは戸惑いながら固法に問いかけつつ、固法の向かいへと座った。

 私物化は厳禁だが必要になる場面があると固法は答え自分の予備があるから着てみないかと聞いてきた。

固法の突飛な発想にツナは若干引き気味に似合わないから遠慮しておくと答えた。

 

「そう?沢田くんって結構線が細いからスカートとか履いていても違和感が無いと思うんだけどね」

 

「あつ…勘弁して欲しいです…そういえば、今日は支部に人がいないんですね?」

 

「ええ、元々この支部は人数が少ない方だけど今日は非番の初春さんと白井さん以外はみんな外に出ているわ」

 

 遠慮するツナに、固法はからかうように笑みを浮かべながら女子制服を着ていても違和感が無いと言ってきた。

 ホットミルクの熱さに舌を軽く出しながらツナは支部が静かな事に気付いた。

初春と白井の非番は前日に聞いていたが、それでも他の風紀委員の姿が無いことに首を傾げると、他の風紀委員は外に出ていると教えた。

 

「そういえば、白井さんも気にしてましたけど最近、能力者が起こす事件が増えているんですよね?」

 

「そう、しかも大半が書庫に記録されたのより、精度があがっているのよね…」

 

 ツナは以前、白井が話していた事とここ最近、風紀委員に報告されている事件を思い出す。

固法は頷いてから登録されている能力よりも高いと唸るように呟く。

 

「能力が成長してるって事ですよね?そんなに急に上がるものなんですか?」

 

「無いとは言いきれないのよね…能力の使用は脳の演算処理で変化するって研究では証明されているから、同じ能力でも演算の仕方では今までよりも精度があがるかもと言われているわ」

 

「それって脳が計算に慣れて、考える余裕が生まれたって事ですか?」

 

 能力が成長している状態についてツナが固法に質問を投げ掛けると、その可能性は否定出来ないと返して能力が変化する原因について話す。

その言葉にツナは、自分なりの解釈を口にする。

 

「まぁ、そういう考え方もありね…さてと雑談はこれくらいにしてそろそろ仕事に入るわよ」

 

「あ、はい…わかりました、あれ」

 

 ツナの考えを肯定した上で固法は手を叩いて仕事を始める事を告げた。

若干、冷めたミルクを一気に飲んだ所でポケットに入った携帯が振動した。

 携帯を起動させるとそこにはメールの通知が入っていた、差出人は初春であった。メールを開くとそこには、何故か常盤台の制服を着た佐天とそれを怨めしそうに見る初春が写っていた。

 本文には水溜まりで転んだから着替えたと書かれておりその最後には御坂よりと書いてあった。

 

「多分だけど…佐天が面白がって言い出したのかな?まぁ楽しそうで何よりだけど」

 

「こら」

 

「あたっ!?」

 

 ツナはこれを提案してきたであろう人物について考えていると、軽い音と共に固法の声が聞こえてきた。

突然の事にツナは驚きの声を上げて振り替えると、呆れた表情の固法が立っており手には丸められたノートが握られていた。

 

「仕事するって言ったでしょ?あら?これって佐天さん…へぇ、似合ってるじゃない…」

 

「今日は非番を利用して常盤台中学を見学しに行くって言ってました」

 

「なるほどねぇ、初春さん達と仲が良いのは良い事だけど…でもそれと仕事は別よ?」

 

 驚くツナに固法は、仕方ないとため息をついてから言えば携帯の画像を見て感想を口にした。

ツナは前日に初春達から常盤台中学に行く事を聞いており、固法にそれを話すと息をついてからちゃんと公私を分けるように注意をした。

 

「はい、すみません…」

 

「わかればよろしい、けれど少し心配ね…実は昨日から常盤台中学を中心に障害事件が起きているの」

 

「え!?じゃあ御坂や白井さんも危ないんじゃ」

 

 ツナは頭を下げて謝ると固法は優しく言うと、常盤台中学の制服を着ている事を心配する。

常盤台中学の生徒が狙われている事に、ツナは頭によぎった考えを口にする。

 

「沢田くんの心配はもっともだけど、その二人なら心配いらないと思うわ

わざわざ風紀委員の白井さんを襲う理由もないし、御坂さんはレベル5の電撃使い(エレクトロマスター)なんでしょ?犯人の手口から考えて狙う必要は無いわ」

 

「そうなんですか?」

 

「犯人は相手をスタンガンで気絶させてから犯行を行うそうよ

本来なら被害者の状況を教えなくちゃいけないんだけど、これは沢田くんには見せられないわね…」

 

 ツナの言葉に固法はパソコンを起動させながらレベルの高い二人が狙われる心配が無いと言ってきた。

固法が断言してきた理由を尋ねると、パソコンの情報に目を通しながら固法は犯人が使用している手口について語っていき、被害者の情報に関してツナにだけ秘密にした。

 

「そんなに酷い状態なんですか?」

 

「というより女の子が被害者だから、風紀委員とはいえ男子の沢田くんには見られたくないと思うのよね」

 

「あ、なるほど…」

 

 ツナは息を呑んでから固法に被害者について尋ねると、軽く首を振ってから相手の事を考慮して話す事が出来ないと説明をすると、ツナは苦笑を浮かべて納得をした。

 

「犯人は捕まっていないわ、だからまた起きる可能性があるの

沢田くんは佐天さんに気をつけるように伝えてくれない?私は白井さん達に応援を要請するから」

 

「わかりました!」

 

 固法は今日も常盤台の生徒が狙われる可能性があると言い、一番危険性が高い佐天に注意をするように伝えるように指示を出してきた。

 固法は白井達へ連絡を取るのを背に、ツナは佐天に電話をかけ始める。

 

《…はい、佐天でーす》

 

「あ、ツナだけど…今いいかな?」

 

 何度かかけ直しをして、数回のコールがかかってから、不機嫌そうな声を出して佐天が電話に出た。

あまり女子と会話したことがないツナはキョドりながらも電話をしても大丈夫かと尋ねる。

 

《…大丈夫ですけど…ちょっと考えて欲しかったです》

 

「え?……あっ…ごめん…」

 

 佐天は言い淀みながらも受け答えをしてきた、不思議そうにしていたツナは、佐天の近くで聞こえる水音と妙に反響している事から佐天がどこにいるかを予測をして顔を赤くして謝った。

 

《なんだか、急いでるみたいですね…それで何かあったんですか?》

 

「あ、うん…実は今、常盤台の《あぐっ!?》…え?佐天?佐天!」

 

「どうしましたの?沢田さん!?」

 

「佐天さんに何があったんですか!?」

 

 ツナの声から佐天は不機嫌さを無くしいつもの口調で尋ねる。ツナは安堵の息をついてから用件を伝えようとした時、佐天のくぐもった声と共にバチッという音がツナの耳に聞こえてきた。

 ツナは慌てて電話に呼びかけるが、携帯の向こう側からは水の流れる音しか聞こえなかった。




PVが五千を越えました、読んでくれてる方には大変感謝しています
そこで記念短編をやりたいと思います!
一応、内容は二つ用意しようと思います、もしも読んでみたいものがあれば感想かメッセージを送って下さい

一つはカップリング小説でツナと超電磁砲のキャラがイチャコラします

二つは日常ギャグ小説、いつものメンツがワイワイする内容です

登場させるキャラは最新話まで登場しているキャラのみです、すみませんがそれだけは限定します

後は記念書いてないで続きをかけと言ってもかまいません
ではよろしくお願いします


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第4話b:学舎の園

記念小説のアンケートをやってます
期限は21日の12時までです
良かったらよろしくお願いします
少ないと思っていたのですが意外に多くてビックリしてます
最近、この小説のイメージopなんか考えてます、近い内に発表するかもしれません


 佐天が襲われた直後、白井の携帯に佐天と一緒にいた御坂から連絡が入った。ツナ達は白井の空間転移にて、常盤台中学の一室へと移動をし連続で発生している事件について整理する事にした。

 

「どうやら被害者の方達は、相手の事を襲われる直前まで気付かなかったようですね…全員が犯人の姿を確認していないと答えています」

 

「まさか婚后光子も襲われていましたとはね…」

 

「知り合い?」

 

 初春が事件の内容をまとめたデータを見ている側でツナ達は警備員が記録した被害者の事情聴取を閲覧していた。

そして昨日襲われたと思われる常盤台生の聴取映像を見ながら白井が呟くと隣にいたツナが質問を投げ掛ける。

 

「いいえ、彼女の学年は2年、お姉様と同学年ですわ

レベルは私と同じ4の空力使い(エアロハンド)、編入してきたばかりですの」

 

「そう、なんだ…うーん…」

 

「どうしたんですか?ツナさん」

 

 気の弱そうな警備員に対して額を扇子で隠しながら訴える少女について白井は簡単に説明をすると、顎に手を当てながらツナは首を傾げた。

データを整理していた初春は一旦手を止めて、ツナに問いかける。

 

「いやさ、昨日襲われた子に佐天…犯人は特定の誰かを狙っていなさそうな気がする」

 

「確かに…そうですわね、編入したばかりの婚后光子はともかく別の学校に在籍している佐天さんを狙う理由はないですわ」

 

「て事は、犯人は常盤台生なら誰でも良いって事?なんでそんなことをするのかしら…」

 

「それは犯人を捕まえてから問い詰めるしかありませんわ…わざわざ気絶した上であんな事をする理由を私達がいくら頭を捻っても思い付きませんわ」

 

 被害者の関連性を改めて見てからツナは犯人が、何を狙っているかを推測した。

その推測に対して、白井は同意をしてから今日たまたま常盤台の制服を着ていただけの佐天が狙われた理由について納得がいかないと言う。

 二人の推測から、御坂は犯人の狙いが常盤台生を限定とした無差別の犯行と考えソファーに横になっている佐天に目を向けた。

 スタンガンで気絶させらただけらしく、佐天の身体に大きな傷はなかった。ただ一点を除いて…

 

「けれどこの犯行も妙ですよね…今、監視カメラの映像を引っ張りだしてきたんですけど…」

 

「今、何気にすごい事を言ってた気が…」

 

「初春ならこのくらい軽いですわ、っとこれは婚后光子が襲われた瞬間ですわね」

 

 手早くパソコンを操作して映像を起動させながらツナ達に呼びかける。

初春の言葉に驚きの表情を浮かべながら呟くツナに、いつもの事だと白井は答えると、映像の時間帯と映っている人物を確認してから初春に尋ねる。

 

「ええ、この後に婚后さんは襲われたのですが、後ろに人がいたことに全く気づいていないんです

しかもこの後ろにいる人は数十分は婚后さんの後ろについていたんです」

 

「けど、婚后さんはその映像を見ても知らないって言っていたよね?」

 

「考えられる能力は、光学迷彩?けれどそれならカメラに映るのは考えられませんわ」

 

「そうね…光学迷彩って言うのは光を屈折させて透明になる事、だからカメラに映る事はあり得ない…」

 

「人間の視界だけから逃れる…そんな限定的な能力ってあるのかな?」

 

「ちょっと待って下さい調べてみます」

 

 婚后が襲われた状況を映像を交えながら初春は説明をしていき、不自然な点を指摘する。

ほぼ真後ろにいる犯人がそれなりの時間、一緒にいた事に対して白井は姿が見えなくなる能力について例を上げるが矛盾している事を口にする。

 御坂も同じように頷き、ツナは他に見えなくする能力は無いかを初春に尋ねると初春は素早くパソコンを操作し書庫の中から該当するものを抽出していく。

 

「ありました、視覚阻害(ダミーチェック)…対象者の視界から自身を認識しにくくなる能力です」

 

「でかしましたわ、初春!その能力なら犯人としてはうってつけですの!直ぐに使用者のアリバイを調べますわ」

 

 書庫のデータの中から引き出した能力について初春が説明をしていく。白井は直ぐに使用者の元へ行こうとするが初春はすぐに引き留めた。

 

「ちょっと待って下さい、書庫のデータによれば能力を保有しているのは重福 省帆(じゅうふく みほ)関所中学の2年生ですがレベル2なんです

しかも能力の使用時間も短いので、今回の事件の容疑者としては厳しいと思いますよ」

 

「そうですの…相手に気付かれないくらい程ならレベル2というのはおかしいですわね」

 

「う、う~ん…」

 

 能力使用者について、初春は容疑者として扱うには不十分であると説明をしてきた。

能力の精度と記録されたレベルの食い違いに白井は眉を潜めた。

 その時であった、ソファーで横になっていた佐天が目を覚ましゆっくりと起き上がった。

 

「良かった、佐天さん!目を覚まし、っ…」

 

「え?何どうしたの」

 

 佐天が目を覚ました事に気付き、初春と御坂、白井は佐天の方に顔を向けるがその顔を見た瞬間、一斉に顔を背けてしまう。

いきなりの事に驚き戸惑い、佐天は初春に問いかけるが何故か肩を震わせながら初春は答えなかった。すると、ツナが手鏡を手に持ち佐天へと近づく。

 

「佐天、身体は大丈夫?」

 

「え、あ、はい…ちょっと背中が痛いくらいですけど…初春達はどうしてこっちを見てくれないんです?」

 

「えっと…ごめん…俺からはなんとも言えない、自分で確かめて」

 

「?…っ!うぇえええええっ!?」

 

 ツナに声をかけられ不思議そうに首を傾げながら佐天は答え、初春達の様子について尋ねるとツナは言葉を濁しながら持っていた鏡を手渡す。

渡された鏡を覗き込んだ佐天は最初は理解できなかったが自分の顔の異変を理解し大声を上げた。

 佐天の眉は元の状態より太く濃く、そしてほんのり繋がった状態になっていた。

 

「なんで、あたしの眉毛がこんなオッサンみたくなってんの!?」

 

「実は数日前から常盤台生を狙った襲撃事件が発生してまして…被害者は…佐天さんみたく、みんな面白眉毛に…ぶふっ!」

 

「しかもどうやら特殊なインクを使ってるらしく、簡単には落ちなくて…ふふ」

 

 戸惑いながら佐天は初春達へと問い詰めると、白井と初春は笑いを堪えながら事情を説明した。

 

「それで今、犯人を探しているんだけど…手懸かりが無くてね…」

 

「とりあえず、これ被っておいて多少は隠せるから」

 

「つ、ツナさ~ん」

 

「ぶはっ!?」

 

「吹いた、ツナさん今、おもいっきり吹きましたよね!?」

 

「ぶほぉ!?」

 

 御坂も口元を抑え顔を反らしながら話せば、ツナは初春が用意しておいた帽子を佐天に手渡す。

笑っていないツナに、佐天は涙ぐみながら呼びかけるがツナもガマンしていたらしく盛大に吹き出した。

 佐天はツナに掴みかかりながら問い詰めるとツナは更に吹き出すのであった。

 

「こんのぉ…どこの誰だか知らないけど絶対に許すまじぃ…ってああっ!?」

 

「どうしたんです?佐天さん」

 

「コイツよ!コイツ!!あたしを襲ったのは!?」

 

 帽子を被り、佐天は顔を悔しさで一杯にしながら呟くとパソコンの画面に気付き指をさして驚きの声を上げる。

室内に響く声に初春は耳を塞ぎながら尋ねると、佐天は詰め寄るように重福省帆の写真をさして言い放った。

 

「佐天さん、あなた彼女の姿を見たんですの!?」

 

「あ、いや…直接じゃなくて、気絶する前に鏡に映っていたのを覚えていたというか…」

 

「どうやらこの人の能力は人の視界限定みたいね、鏡やカメラといった何かを通せば見つけられそうね」

 

 佐天の証言に、白井は声を上げて詰め寄ると気絶した時の事を思い返して佐天は説明をする。

 状況証拠から御坂は重福を探す方法を思い付く。

 

「なるほど、ねぇ初春!この街の監視カメラをハッキングとか出来たりしない?」

 

「あうあうあ!流石に無理ですよ!!何台あると思っているんですか…」

 

「そこをなんとか!後でチーズケーキでもなんでも奢るから!」

 

「ほほう、それは聞き逃せませんね」

 

 御坂の言葉を聞き、佐天は初春の肩を掴み揺さぶりながら尋ねた。

勢いよく揺らされ目を回す初春、そして佐天の手を払うとふてくされながら言う。

 それでも佐天は食い下がる事なく頼み込むとチーズケーキという単語に初春が食いついた。

 そして初春の指示の元、部屋の中に複数のパソコンが持ち込まれた。

いくつものモニターを前に初春は慣れた手つきでいくつもののキーボードを操作していく。

 

「うわ、すご…でもハッキング出来ないって言わなかった?」

 

「私は出来ないとは言ってませんよ?ただこのパソコン一台では処理しきれないから、無理と言ったんです

一つのパソコンで処理しきれない情報を複数のパソコンを繋ぎ並列化する事で情報処理を可能にしたんです」

 

 一切の迷いがない手つきにツナは呆気にとられながらも質問をすれば、情報処理に集中している為か若干無機質気味な声で初春は答えた。

 

「あれ?今の、どっかで聞いた事があるような…あ、樹形図の設計者だ!

固法さんから聞いていた並列演算、なんとかと似ているんだ!」

 

「確かに樹形図の設計者、というかスーパーコンピューターってそういう理論だったわね」

 

「じゃあ、沢山パソコンを繋げたら樹形図の設計者が作れるって事ですか?」

 

「あのですね…家庭用パソコンをいくら繋げてもはるか先を行く技術に追い付く事などありませんわ」

 

「それもそうか、あはは…」

 

 並列と情報処理という単語にツナは首を傾げると、ここに来る前に固法と話していた事を思い出す。

ツナの言葉に御坂は、原理としては大体合ってると答える。

 すると佐天が意気揚々と樹形図の設計者を作る事が出来ると言うが、その言葉に白井は呆れ果てたようにそんな簡単には作れないと言い放つ。

キッパリと否定され、佐天と話を切り出したツナは苦笑を浮かべるのであった。

 

「はいはい、そろそろ監視カメラの掌握が終わりますよ?

というか、完全に177支部の管轄から離れていますが良いんですか?」

 

「その点につきましては心配いりませんわ、私がちゃんと許可をとっていますから」

 

 盛り上がっている所でハッキングをしていた初春から声がかかった。

管轄外の仕事である事を心配する初春に、白井が携帯端末を見せながら上の許可を取り付けてあることを教えてきた。

 

「よぅし!初春、いっちょドーンとやっちゃって!!」

 

「はーい、それじゃあドーン」

 

 合法性が確立した事に佐天は握り拳を作り、初春に指示を出す。

初春は緩い口調でエンターを押し込むと画面が一気にローディングへと移行した。そして直ぐ様、学舎の園の監視カメラの映像がパソコンに表示されていく。

 

「約束通り、チーズケーキ奢ってくださいね?」

 

「いいよ、二個でも三個でも奢っちゃる!!「…多すぎるわね…」うえ?」

 

「大丈夫ですよ、ちゃんと残さず食べれます!」

 

「ああそうじゃないの、監視カメラはもう少し絞るべきだわ」

 

 一仕事を終えた初春は、汗を拭う仕草をしてから佐天に尋ねるとVサインをみせる。

佐天もつられてVサインをみせるが御坂が呟く、その言葉に佐天がキョトンとした表情で御坂に視線を向けると意気込むように初春は答えた。

 すると御坂は、手を振ってからパソコンに表示された学舎の園の地図を指す。

 

「多分だけど犯人は常盤台より離れた場所にはいかないと思うわ」

 

「そうですわね、うちの生徒は学校から離れた場所には行きませんからね…」

 

「それならこの大通りも外した方が良いんじゃないかな?」

 

 犯人について御坂は予測を口にする。常盤台の生徒のみを狙っている事を考えた動きに白井も同意して外周に近い部分を外すように初春に指示をだす。

すると、地図を見ていたツナが中央の道をさして尋ねてきた。

 

「確かに…犯人は人目のつかない場所で一人になった所を襲っていますわ

それにしても沢田さん、よく考えつきますわね…」

 

「あ、うん…少し前に厳しいコーチにみっちりしごかれたからね

監視カメラに見つからないようにするにはとか赤外線が張り巡らされた通路を10秒以内にくぐり抜けるとかかな」

 

「なんですの?それに軍事訓練でも受けていたんですの?」

 

「あはは…」

 

 ツナの提案に納得したように白井は頷く。するとラル・ミルチのしごきを思い出しながらツナは苦笑いを浮べて答えると白井は目を細めながら呆れたように言う。ツナは詳しくは話せずに笑うしかなかった。

 

「見つけました、どうやら次の常盤台生を狙っているようです!」

 

「どうやらあたしだけじゃなくて、他にも狙うみたい」

 

「止めますわ、流石に見えない相手には私一人では厳しいですわ…情けない事ではありますが、お姉様、佐天さん、沢田さん…お手伝いを願いますわ」

 

「わかったわ」

 

「もちろん!」

 

 御坂達のアドバイスを聞き、初春は監視カメラの範囲の絞っていた時、路地へと入っていく重福の姿を見つけた。

白井は相手の能力からいつものように一人で行動するのは得策ではないと言って、御坂達に協力を頼んできた。

 御坂と佐天は一つ返事で返した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

学舎の園 路地

 

 

 人気の無い道を友達三人と歩く常盤台生を、隠れながら重福省帆は襲撃の機会を伺っていた。

手にしたスタンガンを一度だけ起動し、動作を確認し常盤台生が一人になるのを待っていた。

 

「み~つけた…重福さんよね?」

 

「っ!?」

 

「あたしの眉毛の落とし前、つけてもらおうかしら」

 

 突然聞こえてきた声に、重福が振り替えるとそこには帽子を深く被って行く手を阻むように佇む佐天の姿があった。

イタズラ書きをされた眉毛を見せ、怒りを滲ませる佐天に重福は直ぐ様姿を消して逃げ出した。

 

 

「うそ…ホントに消えた」

 

《感心してないで追って下さい!ナビをしますので!!》

 

「わ、わかった!」

 

 目の前で煙のように消えた事に佐天が唖然としていると耳につけた小型のイヤホンから初春の声が響き渡り佐天は慌てて走り出した。

 

 重福は人混みを縫うように走り抜け、自分の姿が見える筈がないと路地へと走り込んだ。

 

《白井さん、目標接触までカウントします!3、2、1!》

 

「そこですわ!」

 

「いたっ!?」

 

「あら見事に当たりましたのね…」

 

 重福の進路の先に白井が転移をしてくれば、初春の指示を飛ばす。

カウントの終わりと共に白井は足払いをすると何かが足に触れる感触と共に地面に倒れた重福が姿を表す。

 簡単な足掛けに引っ掛かった事に白井が意外そうな声を出すと、重福は白井を睨み付けながら姿を消し再び走り出した。

 

「沢田さん、そちらに行きましたわ!」

 

「わかった!ここだ!」

 

「ひやん!?」

 

 足音の方向から白井は路地の抜けた場所にあらかじめ周り込んでいたツナに声をかける。

ギリギリで出口に回ったツナは、重福の位置を見抜き腕を伸ばして飛び込んだ。

だが、次の瞬間、重福の戸惑った声を上げ僅かながらふくよかな感触がツナを手に伝わってきた。

 

「え?…これって、ぶべっ!?」

 

「っく!」

 

 ほんのり温もりがある感触にツナが首を傾げた瞬間、ツナの頬に強烈な衝撃が走り尻餅をつく、その間に重福の走り去る足音が響き渡った。

 

「しまった!「何をしてやがりますの!!」ほげぇっ!?」

 

 重福が逃げた瞬間、ツナは慌てて身体を起こすと白井の怒号と共に先ほどよりも鈍く強い一撃がツナの後頭部に走った。

 

「セクハラをかましてる暇があるならしっかり捕まえて下さいですの!!初春、ナビを!」

 

《了解です!》

 

「えっと、いったい何が…」

 

《ツナさんサイテーです》

 

「んな!?なんで!!?」

 

《知りません、ともかく移動してください!》

 

 白井は転移でツナの頭部の上に移動し華麗なドロップキックをかまし、着地をすればツナに怒鳴り付けるとそのまま転移をしてその場からいなくなった。

 残されたツナはカメラで見ていた初春に事情を聞こうとするがイヤホンの向こうから聞こえてきた初春の声はどこか不機嫌そうで、詳しく訪ねようとしたが初春はナビだけで詳しくは話してくれなかった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

(なんで?どうして?)

 

 街中を走りながら重福は戸惑っていた、犯行を始めてから一度も見破れなかった視覚阻害が機能しておらず、まるで見えているかのように追い回されている事に納得が行かず理解出来ずにいた。

 

「はぁ、はぁ…」

 

 学舎の園にある公園へと逃げて来た重福だったが、能力を限界まで酷使したせいか姿がハッキリと現れていた。

そして、そんな彼女の前にはブランコで揺れている御坂の姿があった。

 

「さてとかくれんぼと鬼ごっこは終わりよ…重福さん」

 

「っく…どうして私の姿が…」

 

「それは企業秘密ですわ」

 

「っ!くぅ…」

 

 ブランコから降りて御坂は重福の前に立つ、後退りをしながら小さく愚痴る重福に背後から白井の声が聞こえてきた。

 振り替えるとそこには白井と佐天、そしてツナの姿があった。

重福はツナに向けて怨めしそうに睨み付ければスタンガンを取り出して御坂へと向けた。

 

「このまま捕まるくらいなら、せめてあんただけでも!」

 

「………」

 

「あれ?」

 

 破れかぶれの反撃をするために重福はスタンガンを御坂に押し付け電流を流すが、御坂は平然とスタンガンを受けていた。

御坂が全く反応しない事に、重福は冷や汗を流しながら声を出す。

 

「ごめんね、私、こういう体質だから」

 

「嘘、常盤台の『超電磁、ぎゃん!?」

 

 重福に向けて御坂は申し訳なさそうに言い指と指の間に電流を流す。

そこで初めて重福は目の前に立つ少女の正体に気づくと御坂は重福の手に触れスタンガンより弱めにそれでも意識が飛ぶ電流を流した。

 

「痛そう…」

 

「あの程度、お姉様にしてはかなり手加減しておりますわ

私がいつも折檻で受けている電圧はもっと上ですわ!いつもこの身に受けておりますから黒子にはわかるんですの」

 

「「うわぁ…」」

 

 バチンと聞こえてきた電流の音に佐天は、苦い表情を浮かべて呟くと白井はどこか誇らしげに御坂の電流が手加減されていた事を話せば、恍惚とした表情で呟く。

白井のその表情にツナと佐天はドン引きの声を出した。

 

 

「さぁて、後は警備員につき出すだけなんだけど…その前に…ふっふっふ」

 

「流石に不味いと思うよ?佐天」

 

「いいえ!面白眉毛の仕返しは面白眉毛しかありません!いざ覚悟!…あれ?」

 

 気絶しベンチの上で眠る重福に、佐天は黒い笑みを浮かべながら油性ペンを片手に近づいていく。

ツナが止めようとするが、佐天は止まる事なく重福の前髪をかきあげる。

そして、そこにあったモノを見て呆けた声を上げた。

 なんと重福の眉毛は普通の少女に比べて太いものであった。

 

「ん…あっ!……笑えば良いじゃない…変な眉毛って笑えばいいでしょ!あの人みたいに!!」

 

「えっ、ちょっと…あの人って、だれ?」

 

「良いわ、どうせこのまま警備員に捕まる訳だし、聞かせてあげるわよ!」

 

 電流の威力が弱かった為か重福はすぐに目を覚ます。そして髪を上げられ眉毛を見られた事に気付き、すぐに起き上がり前髪で隠せば、堰を切るかのように強く叫んだ。

 大人しい見た目とは裏腹の口調に佐天は戸惑いながら、尋ねると重福は力拳を作って言いはなってきた。

 

 彼女の話はこうだった、春頃に付き合っていた男性に別れを切り出され、しかも男性には既に新しい彼女がいてその彼女が常盤台の生徒であった。

そして、別れて欲しい理由が自分の眉毛が変であるという事だった。

 

「その時、私は決めたのよ…あの人が選んだ常盤台の生徒の眉毛をすべて面白眉毛にして私を振った事を後悔させてやるってね!!」

 

 

「「「………」」」

 

「んー…変じゃないよ?」

 

「「「「え!?」」」」

 

 拳を握りしめて重福は力強く言いはなった。なんとも言い難い理由にツナ達が言葉を無くす中で佐天は重福を見ながら答えた。

その言葉にツナ達だけでは無く重福も同じようにすっとんきょうな声を上げた。

 

「それも一つの個性、チャームポイントだと思うよ?あたし的には」

 

「ほ、本当に?」

 

「え、まぁ…うん」

 

 佐天は指を立ててコンプレックスではなくチャームポイントであると言えば、重福は目を潤ませて尋ねる。

意外な反応に佐天は戸惑いながら頷いた。

 その後、初春の連絡によって警備員の車が公園の前に到着した。

 

「あの、手紙…書いてもいいかな?」

 

「うえ?…まぁご自由に…」

 

 警備員の車に乗り込もうとしようとする重福は、佐天にむけて恐る恐ると尋ねると頬を指でかき戸惑いながら佐天は答えた。

 

「沢田さんも一緒に乗った方がよろしいのではありませんこと?」

 

「わざとじゃないんだって!」

 

「?ツナ…さっきから黒子に睨まれてるけどどうしたの?」

 

 重福と佐天のやり取りを見ながら白井は警備員の車を見ながらトゲのある口調で言えば、ツナは慌てながら否定をする。

事情を知らない御坂は、不思議そうに尋ねて来た。

 

「いけませんわ!?お姉様!沢田さんも所詮はお猿さんですの!!

たとえ慎ましやかな胸でも、いえ慎ましやかな胸だからこそ狙われてしまいますわ!」

 

「なんか良くわからないけど余計なお世話よ!!」

 

「ゲッダン!!?」

 

 尋ねる御坂の前に白井は移動すれば声高々に言い放ち、重福とさほど変わり無い胸部の御坂もツナに狙われると言うが御坂は拳を握りしめ白井の頭部に拳骨を落とした。

鈍い音を立てて振り下ろされた拳を受けて白井は頭を押さえながらうずくまった。

 

「それにしても、あの重福さんの能力…本当にレベル2だったのかしら?あれはそれ以上に見えたのよね…」

 

「何だか…少しモヤモヤする終わりかただね…」

 

 痛がる白井を無視して、御坂は重福の視覚阻害が本当に書庫に記録されていたものだったのかと呟くと。

完全に姿を消し、それを目の当たりにしていたツナ達はハッキリと答えを出せずにいた。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「え?落ちない?インクが?」

 

 事件解決から翌日、ツナの元に初春から佐天や常盤台の被害者達の落書きについて報告が入った。

 

《実は、重福さんが使っていたインクは研究中の試作品で最低一週間は落ちないそうです…」

 

「中和剤とかは?」

 

《もちろん、ありません…》

 

「あはは…」

 

 初春がインクについて説明する後ろでは佐天の悲痛にも近い悲鳴が聞こえており、対策が取れない以上、ツナは笑うしかなく佐天に心の内で合掌をするのであった。




次回予告

初春「ツナさん、雪駄ババアって知ってます?」

ツナ「ターボババアなら聞いた事はあるけど…なんなのそれ?」

初春「佐天さんから聞いたのですが足には雪駄を履いてあたし、キレイって聞きながら全裸で走ってくるそうですよ?」

ツナ「気持ち悪い!ていうかなんか混ざってる」

初春「ちなみに話を聞いた人は3日以内に別な人に話さないと雪駄ババアが本当に来るそうです!」

ツナ「それ、不幸の手紙!?」

初春「という訳で次回、とあるマフィアの平行移動、第5話!都市伝説
さよならさよならさようなら」

ツナ「初春…もしかして疲れてる?」


次回をお楽しみ


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第5話a:都市伝説

アンケートの結果、今回は続きを書くごとになりました

しかし、今回は回答数70と正直ビックリしました
その中ではカップリングが僅差でしたので次の一万UAにはカップリングを書きます
その相手はまたアンケートを募るので良かったらよろしくお願いします

私なりにとあるマフィアの平行移動のイメージopを考えてみました。
最初は超電磁砲かリボーンのop かなと考えたのですが、レベルアッパー事件をイメージして

谷本貴義の『君にこの声が届きますように』にしました

聞いてみたいかたは金色のガッシュベル OP2で調べたら出てきます

それでは今回も読んでもらえたら嬉しいです


これは…ある一人の男性が経験した話である。

男性は仕事の帰り道、家へと帰っている最中だった…ふと少し先の電灯のしたにスーツ姿の若い女が立っていた。

その日は風が冷たくコートを着ていても寒いくらいだったのに女はブラウスとタイトスカート、黒いタイツにパンプスのみであった。

男が「こんな寒空の下で何をしている?」と尋ねると女は細い声で「駅はどちらですか?」と聞いてきた。

男が来た方向を指でさして場所を教えた途端、女はいきなり自分のブラウスを脱ぎはらったのでした!!

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「あれ?怖くなかったですか?」

 

「怖いというより…」

 

「奇々怪々ですわね…」

 

 薄暗い中、ぼんやりと携帯のライトで自らの顔を照らしながら今の話の反応が悪い事に、不思議そうに尋ねた。

 佐天の問いかけに同じく携帯のライトで顔を照らしながらツナは言葉を濁し、その向かいにいた白井があきれたように呟く。

 

「っていうか、暑苦しいってぇの!」

 

「ふへ~」

 

 ツナ達と同じく携帯のライトで顔を照らしていた御坂はじわじわしてくる暑さに耐えきれずに立ち上がる。その瞬間、暗闇が一気に取り払われる。

 そして今まで黙っていた初春はあまりの暑さに目を回していた。

 

「なんで真っ昼間のファミレスでしかも日当たり最高の窓際で暗幕を被って怪談しなきゃいけないのよ…」

 

「私としてはお姉様のナイススメルを嗅げるのはご褒美でしたが、流石に倒れるかと思いましたわ」

 

「雰囲気作りですよ雰囲気、夏と言えば怪談ですからね!いやまぁ、この暑さは想定外でしたが…」

 

「あふ~…」

 

 黒い暗幕の中の蒸し暑さに御坂はシャツを軽く動かし空気をいれる。白井も余裕そうな表情をみせるがそれでも汗が滲んでいた。

 暗幕の中で怪談していた理由を佐天が説明をすると流石に夏場の日差しをなめていた事に肩を落とした。その隣では初春が水を一気に飲み、身体の暑さを取り払おうとしていた。

 同年代の汗だく姿にツナは目のやり場に困り目を背けた。

 

「おやや~ツナさぁん、な~に目を反らしてんですか~?」

 

「あ、いや…ちょっとね…」

 

「まさか!汗で透けたお姉様の下着を眺めようとしていますのですね!?させませんの!例えお子様下着だとしてもお姉様は黒子が守りますの!!」

 

「余計な事は言わんで言い!!」

 

「あふん!!」

 

 ツナが目を反らした事に気付いた佐天はニマニマと笑いながら、からかうように尋ねるとツナは詳しく話す訳にはいかず言葉を濁す。

 するとツナの反応に気付いた白井は自分の身体で御坂を守るように出るが、わざわざ口に出して言う白井に御坂は拳を握りしめてその頭部に制裁を下した。

 

「いやいや、わかりますよ?思春期ならわかります、あ、あたしの方を見たら目潰しですけどね

その代わりと言ってはなんですが初春の制服の透け透けを見ちゃって下さい!このラインとかオススメですよ!」

 

「説明しなくていいって!」

 

「佐天さん、いきなりなにを!あ、ツナさん!見ちゃダメですからね!?ダメですよ!!!」

 

「見ないから大丈夫だって!」

 

 いつものやり取りをしている御坂達に同意をする佐天、しかし自分の身体はしっかりガードしつつ、隣で伸びている初春を薦めてきた。

背中の辺りを推してくる佐天に、視線を反らしながらツナが答えると流石に自分が対象となった事に初春は慌てて自分の身体を隠しながら訴える。

 警戒する初春にツナは手をバタバタと動かし、手で顔を塞いだ。

 それから御坂達の汗が乾くまで待ち白井はアイスティーを飲んでから口を開く。

 

「それで先ほどの話はなんですの?佐天さん、たかが痴女をまるで怪談ような言い回しをするなんてちょっと芸がありませんわ?」

 

「都市伝説ですよ、脱ぎ女っていう都市伝説です」

 

「いやただの痴女でしょ、それは…」

 

「佐天さんってそういう噂話が好きなんです、私はこの前、雪駄ババアという話を聞きましたよ?」

 

 怪談は構わないが、内容について不満があると白井が言うと佐天は得意気に話し出した。

だが話をどう理解しても新手の痴女にしか見えないとツナが言うと、初春が冷たいカフェオレを手にしつつ佐天が都市伝説を良く調べている事を話した。

 

「他にもありますよ?謎の虚数学区とか使えばレベルが上がるレベルアッパー、未知の金属シャドウメタル…あ、これなんかは学園都市らしいですよ!どんな能力でも無力化してしまう男!」

 

「っ!?」

 

 佐天は携帯を取り出して、自分が良く利用している都市伝説が掲載されているサイトを開けば、携帯をテーブルの上に起き皆に説明をしていく。

 眉唾な情報に何も反応せずにいた御坂だが佐天が最後に見せた情報に目の色を変えて反応した。

 

「馬鹿馬鹿しい、能力なんて千差万別…全てを無力化出来るなんてありえませんわ

お姉様よりも上位の第一位くらいなら可能性はあるかもしれませんが…」

 

「確かに、全部の能力を無力化できるなら学園都市の中で最強ですよね」

 

「けれど、どんな能力を無力化するならどうやってテストをすれば良いのかわからないよね」

 

 佐天の出してきた都市伝説に対して、白井は呆れたように言えば超能力者の頂点について話す。

白井の憶測に同意をする初春、するとツナはその能力を説明するための方法について疑問をもった。

 

「やっぱ、どのくらい無力化が出来るか直接能力をぶつけるくらいしかないでしょう?」

 

「だよね…それしかないもんね」(いろんな能力をうけるなんて絶対にやりたくないよ!?)

 

「?お姉様、先ほどから黙っていますけどどうかしましたの?」

 

「あ、うん…ねぇ佐天さん、その無力化にする奴について他に情報はないの?」

 

「えっと、それらしい情報はないみたいですね」

 

 能力の証明の仕方について佐天がありきたりな方法を提示する。ツナは苦笑を浮かべて言えば内心で危険が隣り合わせのテストはやりたくないと思った。

 

 先ほどから御坂がしゃべっていない事に気付く白井。声をかけられ、御坂は都市伝説の詳細を佐天に問いかける。

しかしサイトを調べてもそれ以上はわからないとすまなそうに返した。

 

「あ、ううん…聞いてみたかっただけだから、どんな能力かわからないけれど一度勝負してみたくてね」

 

「全く、お姉様は血気盛んなんですから…」

 

「でも実際にいるなら見てみたいですね、そんな対決」

 

(御坂、なんだか知っていそうな感じがするけど…あまり深く聞かない方が良いみたい…)

 

 すまなそうにする佐天に、御坂は気にしていないと返せばシャドウボクシングをしながら戦ってみたいと言い出した。

とてもお嬢様学校の生徒には思えない言葉に白井が頭を抱えると初春は興味津々にいるなら見てみたいと言う。

 四人が都市伝説で盛り上がる中で、ツナは無力化する男について心当たりがあるのでは無いかと思ったが迂闊に聞くと面倒な事になると思い、心の中に秘めるのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「えっと…今日は街の見回りか…なんだかすっかり風紀委員に馴染んできたなぁ…そりゃそうだよね三週間はここにいるんだもんな…いや!馴染んじゃダメだろ!俺!!」

 

 風紀委員の仕事の為に、御坂達と別れたツナ。携帯に表示された日程を確認しつつ歩く。

その途中に不意に思った事を口にしそして思い返しながら叫んだ。

 

「探そうと努力はしてみたけど、そもそも自分のいるのがどんな時代なのかもわからないし、ボンゴレについて話そうとしても知ってる人は誰もいない…どうしようもないじゃん…」

 

 風紀委員として活動の合間にツナは元の世界に戻るための方法を模索していた、しかし世界を移動するなど普通に存在するはずもなく試しに白井や初春に事情を隠して話したが、白井は呆れながら一蹴し初春は本当にそうなれば面白いと言っていた。

 どうにもならない状況にツナは肩を落とした。

 

「未来にいった時にはすぐに獄寺くんが来てくれたら、大丈夫だったけど…こう一人でいるとやっぱり気が滅入るな…あれ?なんだろう…」

 

 未来での出来事を思いだし、一人で長くいるのは初めてだと思うツナ。そして改めて孤独だと自覚する度に自分の心が落ちていくのを感じた。

その時である、近くで男女の話し声が聞こえてきた。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「えっと、何か分かりやすい目印みたいな物とかありませんでしたか?」

 

「ふむ、目印か…近くに信号機があった気がする」

 

「いや、それですと大半の駐車場はそうなるんですけど…」

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

 学生服姿の青年は、目の前にいる白衣をまとった女性に向けて困りながら問いかける。

女性は少し考えてから覚えている配置物について答えると、青年は肩を落としてそれだけでは厳しいと言う。

 するとそこへ、ツナが駆け寄ってきた。

 

「ああ、風紀委員か!助かった~…あれ?どこかで見たような?」

 

「え?あ、確か前にマンションで荷物を落としてませんでしたか?」

 

「そうだ、そうだ!いやぁ、あの時は助かった…ビンボー学生にとっては死活問題だったからな

そういや礼をするって言っておいて名前を聞いてなかったな…はは」

 

「あ、沢田綱吉です、一応風紀委員やってます」

 

「上条当麻(かみじょうとうま)だ、ホントはすぐに礼をしたいんだけど、今立て込んでてさ」

 

 青年は声をかけてきたツナの腕に着けられた腕章を見て安堵の息を洩らすと、首を傾げながら質問を投げ掛けた。

どこかでと言われ、ツナは青年のツンツンとした髪型を見て、初めてマンションを訪れた際に会った青年であると思い出した。

 ツナの言葉に青年も思いだし、笑みを浮かべながら助かった事を伝え自己紹介をしていなかった事に苦笑を浮かべた。

青年、上条はツナに自身の名前を名乗りバツの悪い顔で謝ってきた。

 

「そうなんですか、それでそこの人は?」

 

「実は車を止めていた駐車場がわからなくなったそうなんだ、事情を聞いたらほっとけなくてさ

話を聞いていたとこなんだ」

 

「わかりました、じゃあ先ずは風紀委員の支部で話をっ!?」

 

「どうし、たぁっ!?」

 

 上条の名前を聞き、ツナは後ろにいる白衣の女性について尋ねる。

暑そうにしている白衣の女性の事を上条が説明していく、どういった理由でそうなったかは不明だが困っているなら風紀委員の支部で聞いた方が良いと言おうとした瞬間、ツナは驚きの声を上げる。

 顔を赤くしているツナに上条はつられて振り替えると、白衣の女性が白衣とブラウスを脱ぎだしているのを目にした。

 

「ちょっ!いきなり何をしているんです!?」

 

「ん?あぁ、すまない…あまりにも暑くてね…あぁ、私には気にせずに話をしていて構わないよ

あまり急ぐ訳では無いからね、ただ忘れては欲しくないかな」

 

「その前に服をちゃんと着て下さい!!」

 

「しかし、あまりにも暑い…それに私みたいな貧相な身体には誰も興味を示さないさ」

 

 服を脱いでいる女性のブラウスを掴み上条は隠すように押し付ける、しかし女性はダウナー気味の口調で二人に会話を続けるように言ってきた。

しかし、いきなりストリップを目の当たりにして話し所では無くツナは目を塞ぎながら女性に注意をすると、照り付ける日差しがキツイと言った上で気にする人間はいないと言ってきた。

 

「気にします!そんなご立派な物を見せられちゃ、だから早く服を!」

 

(えっ!?ちゃっかり確認してる!!?)

 

「ちょっとあんたら!こんな街中で堂々と痴漢するとは良い度胸じゃない!」

 

 貧相という単語に上条はそうではないと女性にフォローをいれる。

ツナが内心でツッコミを入れた時、聞きなれた声が背後から聞こえてきた。

 

「御坂?」

 

「げぇ、ビリビリ…」

 

「ツナ?それにあんたは!」

 

 ツナと上条が振り替えるとそこにいたのは御坂であった。

上条が眉を潜めて呟くと視線を鋭くして御坂は上条を睨み付けた。

 

「いやぁ、丁度良いとこに来てくれた…それじゃあ後は任せたビリビリ!」

 

「はぁ!?何をいきなり、ちょっと!待ちなさいよ!!」

 

「ああ、すまないけどブラウスを持っていかないでくれ…さすがに困る」

 

「え、あ!すみません!?」

 

 上条は女性の服を御坂に手渡して一気に走り出した。逃げていく上条を御坂は追いかけようとしたが、女性が呼び止め下着姿のままの女性に頭を下げてブラウスを渡した。

 

「とりあえずここを離れよう!でないと警備員を呼ばれる!」

 

「わかってるわよ、とりあえず移動!その前に服!!」

 

「ふむ、着ていないと君たちは困るのか、仕方ない…」

 

「早く走って!!」

 

「おいおい、まだ着ていないのだが…」

 

 周りからヒソヒソと話されているのを聞き、ツナは移動を提案する。

御坂も状況を察したようで、女性に服を着るように促した。

女性はのそのそと服を着て始めるが遠くから警備員が近づいてくる声を聞き、ツナと御坂は女性の背を押してその場を離れていった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ぜぇ、ぜぇ…」

 

「つ、疲れた…」

 

 涼める広場へとなんとか移動してきたツナと御坂は息を切らしながら呟いた。

その様子を見ていた元半裸だった女性はおもむろに立ち上がると自販機へ向かい、缶を三つ手にして戻ってきた。

 

「どうやら迷惑をかけたようだ、これは奢りだ、受け取って欲しい」

 

「ありがとうございます…って熱っ!?」

 

 女性が持ってきた缶を御坂はよろよろと手にすると意外な熱さに驚く。

それはツナの缶も同じだったらしく御坂と同じ反応をしていた。

 女性が買ってきた缶には『本格スープカレー』と表記されていた。

 

「二人とも頭を悩ませているようだから、飲むと良いスパイスは脳の疲労を回復させる」

 

「はぁ…なるほど」

 

(てか夏場にカレーって…)「なんで学園都市の自販機ってへんな飲み物しか売ってないんだろ…あ、そうだ…確か駐車場を探しているんでしたよね?」

 

 恐らくは善意なんだろうが、御坂はスープカレーの缶を持ちながら肩を落とす。

ツナは自販機のラインナップに疑問を持ちながら女性に確認するように尋ねた。

 

「ん?あぁ…そうだ思い出したよ、すまないが探して貰えないかい?」

 

「え、普通は忘れないものじゃ…」

 

「うっかりしていたのさ」

 

「はぁ…」

 

 ツナの言葉に女性は、忘れていたらしくゆったりとした口調で頼んできた。

女性の用件に御坂は目を丸くして言うと女性は苦笑しながら答え、思わず毒気を抜かれてしまう御坂。

 

「あれ…繋がらない…」

 

「どうしたの?」

 

「初春に検索して貰おうと思ったんだけど出なくて、そういえば午後から白井さん達と遊びに行くって言ってたからもう出かけたのかな?」

 

 携帯から耳を離してツナは首を傾げた、ツナの言葉に御坂が液晶を覗き込みながら尋ねると駐車場の位置を初春に探して貰いたかったとツナは答える。

 

「それなら黒子に…って知らないか…良いわ私がかけてあげる」

 

「ありがとう、御坂」

 

「乗り掛かった船だから見過ごせないのよ、気にしないで」

 

(というか御坂、携帯もゲコ太仕様なんだ…)

 

 初春が繋がらないのなら同行している白井の方にかけたらどうかと提案する御坂。しかしツナが首を振った為、仕方なく御坂が電話をすることになった。

礼を言うツナに、御坂は笑みを浮かべながらほっとけないと返し、カエル仕様の携帯を取り出して白井の携帯を呼び出す。

 ストラップだけでなく携帯もゲコ太である事にツナは思わず半笑いを浮かべる。

 

「あ、黒子?今いい?」

 

《お姉様?どうなされました?》

 

「近くに初春さんいる?ちょっとツナが調べて欲しい事あるみたいなのよね」

 

《お待ち下さい…お姉様、今…沢田さんと言いましたか?》

 

 御坂がコールすると二回以内に白井は電話に出た。しかし不意打ちだったらしく白井は不思議そうに尋ねると、御坂は電話した理由を話した。

 しかし、白井は御坂の頼みを聞かずに質問を投げ掛けた。

 

《ちょ~っと、沢田さんと代わって貰えます?少しお話があるので…》

 

「?良いけど初春さんへの頼みは?」

 

《そちらは本人が目の前にいますので、ご心配なく》

 

「うん、わかった…じゃあツナに代わるわ」

 

 白井は声を固くしながら御坂に頼み事をしてきた、御坂は自分の用件はどうなるかを尋ねると白井は微笑しながら大丈夫だと返した。

 御坂は首を傾げながらツナに電話を手渡した。

 

「もしもし?白井さん?」

 

《月夜ばぁかりと、思うな、でぇすぅわぁ~!》

 

「ひぃっ!?」

 

《どういう了見でお姉様と一緒にいらっしゃるのですか?沢田さん、よもや手をお出しになったりなどは?」

 

「し、してない!してないから!!」

 

 ツナが電話に出だし途端、まるで怨嗟の声のような低い声で白井が言ってきた。

その迫力に思わずツナは携帯を落としそうになるが手が固まりそれどころではなかった。

 白井が更に問いかけてきたが、ツナはブンブンと頭を振って必死に返した。

 

《ふむ、わかりましたわ…とりあえずは信じますの

それで何をお聞きになりたいんですの?》

 

「はぁ、良かった…えっと実は…」

 

 ツナの弁明に、白井は仕方なく納得をしてツナに用件を尋ねてきた。

安堵の息をつきツナは白井に一から順を追って説明していくのであった。



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第5話b:都市伝説

見て頂きありがとうございます
皆さんが見てくれたお陰で1万UA を越えたと思います
五千の時と同じでアンケートを作成するので良かったら回答お願いします
アンケートはUA が1万を越えた段階で添付するので少し時間がかかります、それだけはご了承ください


《はぁ?それでその露出魔の車を探したいと…》

 

「いや、露出魔じゃないから」

 

《人様の前で服を脱ぐ方など露出魔以外にどう呼称するんですの?

とりあえずその人に整理券の確認をとって貰えます?

駐車場に車を置いたのなら整理券を持っているはずですの》

 

 ツナの説明を聞き、白井は呆れたように返す。

見てもいない人に対して遠慮ない白井にツナは苦笑を浮かべながら返す。

 しかし白井はキッパリと言い放ち、女性の持ち物を確認するように言ってきた。

 

「えっと、整理券って持ってますか?」

 

「ん?あぁ、持ってるよこれがないと車が出せないからね」

 

「すみません、少し貸して貰えますか?」

 

「構わないよ、君は悪い事には使わない気がするからね」

 

 ツナは携帯から耳を離し、女性に尋ねた。白衣のポケットから小さなチケットを取り出しツナに見せる。

申し訳なさそうにツナは頭を下げて女性に貸して貰おうと頼み込む。

 女性は頷いてから快く了承しツナにチケットを渡した。

 

「白井さん、整理券を受け取ったよ、これからどうすれば良い?」

 

《慌てないで下さいまし、沢田さんその整理券に頭文字が英語その後に数字はありません?それを読み上げて欲しいですの》

 

「えっと…Wの48…Eの32…これの事?」

 

《…ええ、そうですか…沢田さん、今から沢田さんの携帯に目的地を記載したマップと周辺の写真を送りますわ

そこにその女性の車があるのですの》

 

 チケットを手にしたツナは、再び携帯に耳を当てて白井に指示を請う。

白井は、ツナにチケットに印刷されている番号を読み上げるように言ってきた。

ツナが番号を読み上げると、白井は誰かと受け答えをし女性の車が置かれている駐車場がある場所を教えてきた。

 

「え、もう?いくらなんでも早すぎ…」

 

《この街にはいくつも駐車場がありますの、ですから整理券にはあらかじめ駐車場の座標が印刷されるものですの

それを目の前にいる初春に伝えればその座標を調べるのは簡単ですわ》

 

「そうなんだ…そういえば、初春に連絡を取ろうとしたんだけど電話が繋がらなかったんだけど」

 

《ああ、それなら充電をし忘れていたらしく少し前にバッテリーが切れたようですわ》

 

 すぐに場所が見つかった事にツナは驚きの声を出すと白井は丁寧に調べる事が出来た理由を説明していく。

初春がいると聞き携帯に一度かけたが通話に出なかった事を尋ねると、白井は呆れながらただのバッテリー切れであると説明してくれた。

 

「そうなんだ、ともかくありがとう早速案内してみるよ」

 

《礼はいりませんわ、風紀委員として当然の行為ですもの…それとは別に、お姉様と一緒にいる理由を詳しくお聞きしたいのですけど?》

 

「ひぃ、じゃあ案内するから電話を切るから!?」

 

《あ、ちょ…》

 

 白井の言葉に納得をしツナは礼を告げる。白井は穏やかな口調で語るが、途端に口調の圧を強めて尋ねてきた。

 その迫力に怯え短く悲鳴を上げツナは、慌てて通話を切った。

受話器の向こうから白井の声が途切れ、後からの事を考えツナは冷や汗を流した。

 

「なんだか…大変な事になってるようだね…大丈夫かな?」

 

「いや…個人的な身の危険なのでお気になさらずに…」

 

「なんかごめんね、ツナ」

 

 携帯でのやりとりを耳に挟んでいた女性は、ツナの疲弊の度合いを見ながら尋ねる。

ツナは御坂に携帯を返しつつ肩を落とした、身内でしかも自分が不本意ながらも関わっていることに罪悪感を覚え、御坂は思わず謝った。

 そして、ツナの携帯に初春から駐車場を位置を添付したメールが届いた。

 

「どうやら、少し距離があるみたいですけど歩いていける距離にあるみたいです」

 

「そうか、すまないね…自分の事に巻き込んでしまったようだ…何か礼をするべきか…」

 

「いえ、白井さんの言葉ですけど、それが風紀委員の仕事ですから…えっと…」(そういや名前を聞いてない!?)

 

「ん?あぁ…そういえば名乗っていなかったね、私は木山、木山春生(きやまはるみ)だ、ただのしがない研究員だよ」

 

 添付された情報を見て、ツナは駐車場の場所を女性に伝える。

女性は笑みを浮かべてから迷惑をかけた事を謝った。すると苦笑しつつ風紀委員として当たり前の事をしたと返す。

 女性の名前を呼ぼうとしたが自己紹介をしていない事に気付き冷や汗を流すツナ。

ツナの様子から理解したのか女性、木山は自身の名前と素性を明かした。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

学園都市 喫茶店

 

「全く沢田さんときたら隙あらばお姉様に近づくなど…はっ!まさかお姉様に一目惚れして手篭めにしようと画策しているのでは!?」

 

「いやいや、ツナさんに限ってそれはないでしょ」

 

 ツナが通話を切った頃、喫茶店で初春、佐天と共にお茶を楽しんでいた白井は妄想を暴走させる。

 白井の言葉を聞き、佐天は手をパタパタと振ってあり得ないと返した。

 

「なんでそう言い切れますの?沢田さんが人畜無害とは限りませんわ!」

 

「ツナさんはバリバリの草食系ですよ!それに仮にツナさんが御坂さんに手を出そうモノなら電撃が飛んできますよ」

 

「それも、そうですわね」

 

 言い切る佐天に、白井は目を細めて尋ねると手をヒラヒラと動かしツナが御坂に襲いかかる事は無いと言う。

 自分がいつも御坂に電撃を浴びせられている事を思い出して、納得をした。

 

「それよりも、御坂さんとツナさんが一緒にいる人って突然人前で服を脱いだんですよね?」

 

「え?まぁ確かに…そう、言ってましたわね」

 

「それ…脱ぎ女ですよ!」

 

 佐天はゴクリと息を飲んでから白井に尋ねてきた、少し真剣な雰囲気の佐天に、白井は戸惑いながら返すと目を輝かせながら佐天はキッパリと言ってきた。

 

「脱ぎ女って、また都市伝説ですの?ただの露出魔ですわ

まぁ実際に服を人前で脱ぐ人がいたのは驚きですがその程度ですの」

 

「良いんですか?脱ぎ女って伝染するんですよ?」

 

「なん、ですと…」

 

 佐天の話に眉をひそめる白井、そして呆れたように大した問題ではないという。

だが、次に佐天が口にした言葉に白井は驚愕した。

 

「という事はこのまま御坂さんが脱ぎ女さんと一緒にいたら…」

 

「そう、御坂さんも脱ぎ女になってしまうんです!」

 

「そんな、お姉様があちらこちらで肌を…ヴン!ヴン!!」

 

 パソコンをスリープに移行し初春は、息をのんで佐天に尋ねる。

握り拳を作り佐天は宣言をするように言い放つ、白井は御坂が服を脱ぎだす様子を妄想しそれを振り払うようにテーブルへ自身の頭を打ち付けだした。

 

「初春!こうしてはおられませんの!!今すぐにでも脱ぎ女を退治する方法を探し出すのですの!!」

 

「わ、わかりましたから、揺さぶらないでくださ~い、あ~う~」

 

「あたしも都市伝説のサイトを調べてみますね!脱ぎ女の退治するための方法!」

 

「打倒!脱ぎ女ですわ!!」

 

 白井は目を血走らせて初春の肩を掴み、激しく前後に動かしながら頼み込んできた。

ガクガクと揺さぶられ初春は目を回しながら頷く、さらに佐天は悪のりをして脱ぎ女に調べると言い出した。

 二人の協力を得られ白井は咆哮するように叫んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「なるほど、君が御坂美琴くんか…よく知っているよ、沢田綱吉くんは…すまないあまり聞いた事が無いな」

 

「あはは、レベル2ですからね…仕方ないと思いますよ…」(まぁ能力者ですらないんだけどね…俺)

 

「そういえば、木山さん研究者って言ってましたけどどんな研究をしているんですか?」

 

 木山の自己紹介を受けツナと御坂はそれぞれに名前を名乗った。

あまり知らないと言われツナは苦笑を浮かべながら答えると、隣にいた御坂が木山に研究について尋ねてきた。

 

「ふむ、あまり詳しくは話せないが主にAIM 拡散力場などを研究している…」

 

「AIM 拡散、力場?」

 

「能力者が無意識に形成している物よ、あまり詳しい事は研究されていないらしいけど」

 

 御坂の質問に木山は、出来るだけ簡潔に説明をする。聞き慣れない単語にツナが首を傾げた、その疑問に対して御坂が答えた。

 

「ふふ、正確に言うのであれば能力者の個々によって拡散力場が違うのさ

例えば電撃使いなら身体から出る電磁波、空力使いなら周囲の気流の変化…学園都市のAIM 拡散力場を調べようと思うなら全ての能力者を調べなくてはならない、これでは詳しく研究しようがないだろ?」

 

「た、確かに…」

 

「あの研究者の方としては能力を無効化する能力ってどう思います?」

 

 御坂の言葉に木山は微笑を浮かべると、捕捉するように言い総人口の大半が学生で様々な能力があるのでは検証するには、範囲が広すぎると言う。

 納得をするツナ、すると御坂は真剣な面持ちで木山に尋ねた。

 

「面白い能力だね、具体的な例はあるかな?」

 

「えっと、聞いた話ですと…電撃が途中でかき消されたり、本当にぶっつりと…ですかね」

 

(それ自分の事なんじゃ…)

 

「ふむ、電撃が効かないのであれば身体がアースのような役割をしているが一番有効なんだが…かき消されるか…エネルギーを遮断…後は催眠による遠隔操作、いやなんらかの信号を送ったのだとしたら…電撃使いには効果が、ん?」

 

「「あ…」」

 

 御坂の質問を笑い飛ばす事無く木山は詳しい情報を求めた。

御坂は言葉を濁しながら木山に説明をする、隣で聞いていたツナはあまりにも感覚的な例えにつっこみを入れた。

 御坂からの情報を聞いて木山はブツブツと電撃が消えた原因を模索していく、その時近くにアイスクリームを持った二人組の子供たちが駆け込んできた。

その子供の一人がバランスを崩しアイスクリームを木山のスカートにぶつけてしまう。

 

「あう…」

 

「ああ、気にしなくていいよ…それより怪我をしなくて良かった」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「そうか、ちゃんと謝れて偉いな…ああ、スカートなら気にしなくていい、脱げば良いから「「ちょっ!ちょっ!!ちょ!!!」」

 

 アイスクリームをぶつけてしまった子供は怒られると思い怯えてしまうが、木山は怒る事は無く子供を心配するように言う。

 心配してくれた事に子供は素直に謝る。木山は優しく笑うと謝罪できる事を褒め、立ち上がればそのままスカートに手をかけ脱ごうとした。ツナと御坂は、声を揃えて木山が脱ごうとするのを止めに入った。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「いやぁ、すまないね…スカートを洗って貰うまでやってもらうとは」

 

「気にしないで下さい…なんかもうついでなんで…」(あれだけ羞恥心なく脱がれたらほっとけないっての…)

 

 御坂とツナは木山を連れて近くデパートまで行き、木山をトイレの個室に入れて御坂がアイスクリームに汚れたスカートを洗っていた。

 当然、ツナは外で待機していた。

 

「しかし、なかなか良い息の合い方だ…あれかな阿吽の呼吸というやつかな?」

 

「はい?誰と誰がですか?」

 

「君と外にいる彼だよ…私をここに連れてくる手際といい外で待っているといい、うん良いカップルだ」

 

「いや違いますからツナとはただの友達です!待っているのは貴女を案内するためですから!」

 

 個室の中から木山は御坂に声をかけた。いきなり聞かれ御坂はスカートを絞りながら聞き返すと木山はツナと御坂が良いカップルだと言ってきた。

 恋人扱いを受けて御坂は顔を赤くしながら誤解だと木山に答える。

 

「そうなのかい?じゃあ先ほどいなくなった彼、上条とかいったかな、君は彼が好きなのかい?」

 

「はぁ!?なんでなんですか!私は別に!!」

 

「ほらなんだったかな…好きな相手にもツンツンしてしまう…ツン、バル?ツン、ガラ?ツンドラ…なんか近い気がする…ああ、ツン「違うから!!」

 

 キッパリと言われ木山は意外そうな声を出せば、少し前に別れた上条の事を思い出して尋ねる。

すると御坂は明らかな動揺を見せて答えた。その言葉に木山は思い当たる単語を思い出すように、近い言葉を口にしていく。そしてぴったりの言葉を言おうとした瞬間、御坂の怒号と電撃が放たれると共にトイレの電気が切れた。

 

「おや?」

 

「あ、しまった!」

 

「御坂、木山さん!なんか急に店自体が停電したんだけど大丈夫?」

 

 停電した事に木山は不思議そうな声を出し、御坂は思わず強烈な電撃を出してしまった事に動揺してしまう。

 そこへツナが店内が停電した事を二人に伝える。

 

「ふむ、電気系統のトラブルかな?…む、少し湿ってるか…」

 

「と、とりあえず外に出ましょうか、なんかあったら大変だし…」

 

「そうか、まぁそうだな…すまないが案内をしてくれないか?」

 

「はい!」(これ、やっぱり御坂が何かしたんじゃ…)

 

 戸惑っている御坂の手からスカートを取り原因を考えながらスカートを身に付け、生乾きだと言う事に気付く木山。

 御坂は誤魔化すように木山の背を押してトイレを出ていく、途中でツナとすれ違い木山は駐車場への案内を頼んだ。

唖然としていたツナは急いで追いかけながら御坂の態度から停電の原因が御坂にあるのではとツナは思うのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「随分と世話になったね、ありがとう」

 

「いえ、どういたしまして…」

 

「あはは…お気をつけて」

 

 それから駐車場に案内した頃には既に空は茜色に染まっていた。

木山は青いスポーツカーに乗り込み二人に礼を言う、ツナと御坂は木山に振り回され疲れきっており覇気のない乾いた笑みを浮かべながら返した。

 そして木山の車は研究施設に向けて走りだし、その場にはツナと御坂のみが残った。

 

「とりあえず帰ろうか…」

 

「そうね、お疲れ様ツナ」

 

「いや御坂の方こそ…大変だったんじゃない?」

 

「私は、まぁ大丈夫よ…それじゃあね」

 

 疲れきったツナは御坂に笑いかけると、御坂は労うように言葉をかけた。

その言葉に軽く笑いながらツナは洗濯をすることになった御坂の方が大変だったと言う。

 ツナの言葉にトイレでのやりとりを思い出し、若干照れくさそうにしながら御坂は手を振り帰りだした。

その背を見てからツナはよろよろと自宅に向かって歩きだすのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

翌朝 マンション前

 

 

「あふぅ…眠い…あれ?上条さん?」

 

 朝日が昇り、ツナは登校するためにマンションを出た。するとマンション前で何故かグッタリしている上条を見つけた。

 

「あ、沢田か?はぁようやく帰ってこれた…」

 

「どうしたんですか?ボロボロですよ?」

 

「あぁ、野生のビリビリに出くわしてな…」

 

「ビリビリ?」

 

 所々が汚れている上条はツナを見ると安心したように声を出した。

ツナは上条に近づき分けを尋ねると、上条は疲れきった表情で呟くように答える。

意味のわからない単語にツナは思わず聞き返した。

 

「あ、いやなんでもない…ああ、徹夜だったから今すぐに寝たい、いやそれよりも風呂に入りたい…」

 

「あのぅ…今日、平日なんで今から寝たら確実に遅刻しますよ?」

 

「げぇ…そうだった…はぁ…不幸だ」

 

 聞き返すツナに上条は首を振ってから立ち上がり、欠伸をしながら部屋に帰ろうとする。

寝ていないという上条に酷な話だが今日は普通に授業がある事をツナは伝えた。

 遅刻すると聞き、上条は苦い表情を浮かべがっくりと肩を落とし仕方なくUターンして自身の学校に向けて歩きだした。

 肩を落とす上条に同情しつつツナもまた学校へ向けて歩きだした。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「あ、ツナさんおはようございます!」

 

「佐天、それに初春…あれ?なんで少し遠いの?」

 

 登校の途中、ツナは背後から声をかけられた。振り替えるとそこには佐天と初春の二人がいるのだが、何故か二人は距離を取っていた。

 

「気のせいじゃないですか?」

 

「いや、明らかに遠いよね?いったいどうしたの!?」

 

「別に、ツナさんが脱ぎ女になっているんじゃないかなってあたしら思ってませんよ?」

 

「はぁ?脱ぎ女ってそれ都市伝説でしょ?実際にいるわけ…はっ!?」

 

 遠い事を聞かれ、佐天は笑顔で返した。しかし気のせいだと言うには明らかに数メートルは離れていた。

ツナが問いかけると視線を反らしながら返してきた、何故、都市伝説の話をするのかツナは疑問に思ったが昨日、人前で服を脱いだ木山について思い出した。

 

「そうツナさんが出くわしたのは伝説の脱ぎ女!ちなみに脱ぎ女の退治方法は…パンツを被ること…」

 

「はい?」

 

「パンツを被るんです!けど乙女なあたしには出来ない…しかし風紀委員の初春なら快く貸してくれますよ!」

 

「ええっ!?」「はい!?」

 

 佐天はまるで惜しむように言いそしてツナに退治する方法を話す。

しかし、状況についていけていないツナは思わず聞き返した。

すると佐天は改めて言い放ち、自分には出来ないが初春ならやってくれると言う。

 この言葉にツナと初春は驚きの声を上げた。

 

「さぁ、初春!すぐにパンツを脱げ!だけどその前に確認させろ!!」

 

「結局それじゃないですか!?いい加減怒りますよ佐天さん!!」

 

「佐天!落ちついて!ここ通学路だから!?」

 

 佐天は直ぐ様、初春のスカートに手を伸ばし捲り上げようとした。

大義名分のような言い方をしながらもやることが変わらない佐天に初春はスカートを押さえながら叫び、ツナは慌てて止めに入った。

 この騒ぎのせいで、ツナが風紀委員の立場を利用して後輩のスカートを捲ろうとしていたという噂がたったと言う。




見て頂きありがとうございます
それと少し前からやっている次回予告ですが作者としては超電磁砲やリボーン本編のような感じでは無く、アニメ、だかしかしの次回予告のようなSDキャラが動いているイメージで書いてます
だからどうしたと言われたらあれですが、皆様の創造力の手助け出来れば良いかなと思っています
それでは次回予告をはじめます

次回予告

白井「ヌギタテダー!ヌギタテダー!!」

ツナ「白井さん?いったいどうしたの!?」

白井「んはっ!?お姉様への脱ぎ女の治療をした後遺症が…」

ツナ「御坂にやったんだ…それ…」

白井「それはともかく沢田さん?なにやら次回もお姉様と行動するようですわね?なんという羨ましい事ですの!!」

ツナ「それは白井さんが原因というか、なんというか…」

白井「ともかく、お姉様に手を出そう物ならわかってますわよね?」

ツナ「うああ、とりあえず次回!とあるマフィアの平行移動!!」

白井「風紀の時間(ジャッジメントタイム)、ですの!続きの前に拘束した方がよろしいですわね!!」

ツナ「ひぃ!?」


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10000UA記念CP小説:とある二人の電子遊戯(ツナ×御坂)

御坂といえば、というお題で考えました
個人的に、カップリング小説は本編とリンクするように書きたいです
ですからあまりデレていない御坂なら、これくらいかなという感じで書き上げました。
数多く回答ありがとうございます


第177支部

 

「休み、ですか?」

 

「そう沢田くん、記憶喪失になってからかなりバタバタしていたでしょ?だから明日は非番にしようと思ってね」

 

 それはある日の出来事、書類の整頓をしていたツナに固法が不意に提案をしてきた。

聞き返すツナに、頷いてから固法は休みを与える理由を説明する。

 

「けれど、良いんですか?非番をとってもみんなに迷惑になるんじゃ…」

 

「お言葉ですが、事件に置いては私が事務処理は初春と固法先輩がいますの

沢田さん一人くらい居なくても対処できますわ」

 

(そんな、ハッキリと…)

 

 第177支部にあまり人がいない事を考えて、ツナは休んでも大丈夫なのかと尋ねるとあきれたようにため息をついて白井は休みをとっても支障はないと、キッパリ言いきった。

 隠す事なく言う白井に苦笑を浮かべるツナ、すると奥にいた初春がツナ達の方に視線を向けた。

 

「白井さん?意地悪を言ったらダメですよ?というか元々白井さんが言い出したんですよね?沢田さんは記憶喪失なのによく、あふぃ~」

 

「初春?おしゃべり過ぎるのは身を滅ぼしますわよ?よく閉じませんとね~」

 

「いふぁいれす~ひっはらないふぇふぁさい~」

 

 にこやかな表情で初春は、今回の非番の提案者が白井であることを話しさらに言葉を紡ごうとしたが、瞬間移動し目の前に移動した白井が頬を引っ張りながら余計な事を言わないように釘を刺した。

 

「えっと…ありがとう白井さん」

 

「勘違いしないで下さいまし!同僚を労うのは当然の行為ですわ

さぁ、早く帰るのですの!!」

 

「えっでもまだ整頓が…」

 

「それくらい初春がちゃちゃっと片付けますの!?」

 

「うぇええ~そんな~」

 

 気にかけてくれた事にツナは白井に向けて礼を言うと、白井は初春の頬からバチンと手を離せばすぐに帰宅するように促した。

 いきなり帰るようにと言われツナはまだ仕事が終わっていない事を伝えるが、初春に押し付けるようにと白井は言い放ちツナにカバンを渡せばそのまま支部の外へ転移させた。

 初春の情けない悲鳴を聞きながらツナは支部の外へと出されてしまう。

 

「…とりあえず、帰ろう…」

 

 頭をかき、一度戻ろうかと考えたが白井の様子からそれは厳しいだろうと思い、仕方なくマンションへと帰る事にした。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

翌日

 

 非番を迎えたツナはとりあえず外に出てみる事にした、普段なら部屋から出ずに過ごすのだが学園都市に来てから初めての休日であるから、ただ無意味に過ごすのはもったいないと思ったからだ。

 

「とりあえず、ゲーセンにでも行ってみるかな…」

 

 無意味に過ごしたくはないと思っているが、特に何かしたい訳ではなくツナは首を傾げながらとりあえずゲーセンに行ってみようと考え、携帯のナビを使い近くのゲーセンに行く事にした。

 

「えっと、ここかな?意外と時間がかかった~…まぁ大半は道に迷ったからなんだけど…」

 

 ナビを頼りに歩き、ツナは目的のゲーセンへとたどり着いた。

思っていたより時間がかかった事にため息をつくツナ、そしてそのまま中へと入っていく。

 

「最先端の学園都市でもゲーセンの中はあまり変わらないんだな…」

 

 少し薄暗い空間へ入り中に置かれている筐体は、自分のいた世界とそこまで大差はなかった。

もの珍しく中を見て回っているとガラの悪いグループと目が合い、慌てて目を反らすツナ。

 

(やっぱりどこでもああいう人いるんだな…気をつけないと…)「あれ?なんか盛り上がってる?」

 

 絡まれないように祈りながらツナは、ゲームを見ていくと奥の方からなにやら歓声が聞こえてきた。

思わず、その方向に向けて歩きだすツナは歓声が上がっている所には人だかりが出来ていた。

 

「常盤台のお嬢様だぜ?珍しいな…」

 

「しかも結構可愛いな」

 

(常盤台?まさか…)

 

 人混みに紛れながらツナは騒ぎの中心に近付いていく、その途中でギャラリーの呟く言葉が聞こえてきた。

ツナは誰がいるのかがなんとなく予想がつき、更に奥へと進んでいく。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「よっ、ほっ、はっと!」

 

 軽快な音と共に少女は華麗なステップを踏んでいく、少女が飛び回る度にギャラリーは歓声が上がる。

 ゲームをプレイしているのが年頃の少女というのもあるがギャラリーが注目しているのはヒラヒラと揺れるミニスカートの方だった。

 

「これでフィニッシュ!」

 

「「「おおっ!!……ええ…」」」

 

 少女が高らかに宣言をし大きく跳び跳ねる、ギャラリーがその瞬間、大きくざわめくがスカートの下に見えた短パンに全員が落胆の声をだした。

 

(うわぁ、わかりやすい…)

 

「あれ?ツナじゃん、珍しいわねここで会うなんて」

 

「やっぱり御坂か…」

 

 落胆するギャラリーにツナは呆れながら踊り終えた少女に近付く。

少女、御坂はツナの姿を確認して手を振って尋ねてきた。予想通りの人物がいた事にツナは苦笑を浮かべた。

 

「ん?どうかしたの?」

 

「いや、なんでもないよ、今日は休みをもらってさ何をしようかと迷っててとりあえずゲーセンに来てみたんだよね」

 

「へえ、そうなの…あ、じゃあ少し付き合ってくれる?」

 

 苦笑を浮かべるツナに、御坂は不思議そうに尋ねる。

初めて会った時にゲーセンに行こうと誘われた事を思いだしつつ、今日が休みである事を御坂に伝える。

 ツナが暇である事を知った御坂は、何か思い付いた表情をしてにこやかに頼んできた。

 

「メダルの補充?」

 

「そ、超電磁砲を撃つ時に使うメダルがちょっと足りなくなってきてね…」

 

「メダルなら、引き換えで良いんじゃ…」

 

「確かにその方が楽だけど、けれどそれってプレイヤーとして面白くないでしょ

プレイヤーならゲームで増やすのが礼儀よね」

 

 御坂が頼んできた内容にツナは首を傾げる、御坂はポケットからメダルを見せて事情を説明する。

 御坂がかなりの資金を持っている事を考えてゲームで増やす必要があるのか?と思い尋ねると御坂は少し得意気に話し出した。

 

「…まぁ、暇だからいいけど俺、メダルゲームってあまりやった事ないんだよね…」

 

「それならやり方教えるからやってみると良いわ、大丈夫ハマれば面白いから…それに…一人でゲーセンにいるとやたら絡まれるのよね」

 

(あれ、もしかしてそっちの方が本命なんじゃ…)「まぁ、良いけど…じゃあどんなのからやればいい?」

 

 ツナ頭をかきながら、メダルゲームは経験が無い事を話す。御坂はツナの肩をバシバシと叩きながら勧めてくる、そして言葉を濁すようにしてボソリと口にした。

 苦い表情をする御坂に、ツナはなんとなく誘ってきた理由をなんとなく把握し御坂にどんなゲームをしたら良いかを聞く事にした。

 

「ツナって勘が良いわよね、他のゲームはダメだったけどスロットは調子が良いみたいね」

 

「んー、なんかタイミングがわかるんだよね」(多分、超直感のおかげだよな…超死ぬ気に比べたら大した事ないけど…)

 

 御坂の勧めでいくつかのゲームをプレイしたが、成果はマイナスであったが、その中の一つスロットゲームはそれなりの成果を出してようやく負けた分を返せたというあたりであった。

 隣でプレイを見ていた御坂が感想を口にすると、ツナは適度な言葉で返しつつ自分の中にある力だと結論を付けた。

しかし、超直感がいつも発動する訳では無くスロットの成果は横並びのままであった。

 

「流石にムリ、疲れた~」

 

「お疲れ様、とりあえずこれは驕りね…んーとりあえず一応勝ちかな…」

 

 数時間が経過した辺りでツナは筐体から離れてベンチへと座り身体をグッと伸ばした。

そこへ御坂がヤシの実サイダーを二つ手にして歩いてくる、一つをツナに手渡しメダルが入っているカップの中身を確認して少し増えた中身を見て、微妙そうな声を出した。

 

「流石に初めてじゃ、そこまでが限界だよ…」

 

「いいわよ、私は私でちゃんと稼いだから」

 

「うえっ!?いつの間に!」

 

 集中力が完全に切れた為、ツナはもうゲームが出来ないと言うと御坂は軽く返してからポケットからゲコ太をモチーフにした財布を見せる。

 恐らくメダルがギッチリに詰まっていると思われる財布を見てツナは驚きの言葉を上げた。

 

「あんたがゲームしている最中にちょこちょこっとね、私は何度かここに来てるからゲームに集中しなくてもプレイは出来るのよね」

 

「そうなんだ、とりあえずこれどうしたら良いかな?持ち歩く訳にはいかないよね?」

 

「それならカウンターに預ければ良いわ、一応、持ち出して自己管理も出来るけどかなりかさばるわよ

会員カードを作ればいつでも引き出せるから、あ、カードは預ける際に一緒に作れるわよ」

 

 驚くツナに、御坂は得意気に答えた。軽く笑いながらツナは自分の獲得したメダルはどうしたら良いかを尋ねると御坂は奥の店員が立っている場所を指して説明をしていく。

 そして会員カードを見せながら軽く説明をした。

 

「御坂に渡さなくて良いの?本当は御坂のメダル集めの手伝いなんだから」

 

「あれは建前よ、私としてはたまにゲーセンに誘える仲間が欲しかったからね

黒子もそうだけど佐天さんや初春さんは誘いづらいのよね

だから、これからもたまに一緒に遊んでくれない?」

 

「良いよ、なんだかんだで楽しかったからね、俺で良いなら付き合うよ」

 

「ありがとうね、それじゃあそろそろ…」

 

 メダルを渡さなくても良いのかとツナが問いかけると、御坂はネタばらしをするように語りだした。

御坂の説明に、佐天はともかく初春はあまりこういう場所は好まないだろうと考え、一緒にくる相手がいないのだなと思い、ツナは快く了承した。

 御坂は断らなかったツナに礼を言い、出口に向かおうとしたが一つの筐体を見て足を止めた。

 

「御坂?どうし「…ギャンブラーゲコ太…」え?」

 

「まさか、こんなタイプがあったなんてこれは手に入れるしかない!ごめん!ツナ、ちょっとやってくる!!」

 

 御坂が注目したのは、タキシード姿のゲコ太がトランプとダイスを持っているストラップだった。

戸惑うツナを置き去りにして御坂は財布を片手にゲームへと取りかかった。

 そこにあったのは、ハイ&ローというゲームで画面に表示されたカードの数字より次のカードが高いか低いかを選択するゲームであった。

 そのゲームを連続でクリアした回数によって貰える景品が変わるというゲームだった。

ちなみに御坂が欲しがったギャンブラーゲコ太という物は勝利数50回と、少し厳しめの設定だった。

 

「…学生都市の能力者ならこれくらい楽勝なのかな?けれど」

 

「あ、外した!…く!もう一回!!」

 

「すごい、見事にハマってる…」

 

 単純なゲームながらもなかなか難しいゲームだと考えながら、目の前で何度も外している御坂を見ながらツナは苦笑を浮かべた。

 外しても何度も挑戦していく御坂を見ようといつの間にか子供と大人が入り交じったギャラリーが出来ていた。

 

「すげぇぜ、あの姉ちゃん…ゲーセン四天王、連コインのタッちゃんが諦めたハイ&ローにチャレンジしてるぜ」

 

「だがムリだろ、四天王の筆頭、山勘の川原でもクリア出来なかったんだからな」

 

(なんか凄い迫力の小学生が、実況してんだけど…そして色々ツッコミたい…)

 

 ツナの前に並んだ二人の小学生が真剣な面持ちで御坂のプレイを実況していた。

ところどころ一言言いたくなったがツナは何も言わずに口をつぐみ御坂のプレイを見た。

 

「うがー、また外した!このゲーム、なんかかなり意地悪過ぎない?選んだら僅差で下だとか本当、作った奴の顔が見たいっての!

ツナ!悪いけど両替してきて!」

 

「あのさ、御坂…俺がやってみようか?」

 

 もう何度目かもわからないくらい外した御坂は、不満を口にしながら財布を開けるが既に小銭を使いきっており、ツナに千円札を差し出した。

 その時、ツナが御坂に代わりにプレイをしようかと提案してきた。

 

「うう、良いの?」

 

「まぁ見てられないってのが、一番なんだけどね…」

 

「……お願い、します」

 

 ツナの提案に御坂は、若干、涙目なりながら確認してきた。ツナは自信は無いがこのまま小銭を溶かしていくのは見てられないと思い、頷けば御坂は筐体から離れてツナに頼み込んだ。

 御坂の代わりに筐体へつくツナ、軽快な音楽と共に画面にカードが表示された。その下には制限時間が99秒と表示されていた。

 

「どうみるアイツを…」

 

「ムリだろう覇気がない、5回続くかもわからんな」

 

(なんか凄みのある言い方をしてんだけど、ホントに小学生!?)「とりあえず、これかな」

 

 後ろから聞こえてくる声に冷や汗を流しつつツナは表示された数字に対してローを選択する。すると次に表示されたのは低い数字であり、画面に赤丸が表示され右端には正解数がカウントされた。

 その後、ツナは表示された数字に対して直感的に選択し正解していく。

初めは興味のなかったギャラリーも、ツナが正解を繰り返す度にだんだんと興味を持ちそして正解数が30を越えた辺りで御坂よりも多くのギャラリーがツナのプレイを見守っていた。

 

「次は、こっち!よし、これで40だ!」

 

「あと少し、ツナ頑張れ、そして待ってなさいゲコ太!!」

 

「あはは…」

 

 40回連続を成功しツナはガッツポーズを取り、後ろにいた御坂はツナの応援をしながらもゲコ太に宣言するように言い放つ。

心なしか、自分の応援よりも力が入っている事に苦笑を浮かべるツナ。

 

「まさか、初見でここまで当てるなんて…このままクリアする気か!?」

 

「いや、まださ!ここからは時間が短くなってラスト1(ワン)にはその時間は5秒になる!」

 

(だからなんでそんなに詳しいのこの子達!?)「というか本当に早くなってる…これは焦るなぁ…」

 

 後ろにいた小学生がツナの快挙に驚きの声を上げる、もう一人が手に汗を握りながら言いはなった。

やはり小学生とは思えない事にツッコミつつ、ツナは画面に視線を戻す。

 表示された時間は今までより10秒短縮され、カウントも若干早くなっていた。そしてカウントが進むにつれてその時間は短くなっていく。

 それでもツナはなんとか正解を重ねていく。そしてゲームはとうとうラスト1を迎えた。

 

「次は…うえ!?」

 

 画面に表示された数字は1だった。これには周りのギャラリーは勝負が決まったと騒ぎ出した、ツナがここでハイを選択すれば何が出ようと勝利が決まる。

 だがツナの直感はそれだけはダメだと告げていた。

 

「ツナ!早くしないと時間が無くなるわよ!ツナ!!」

 

「っ!こっちだ!」

 

 ラスト1の場合、画面に大きく数字が表示されていった。急かす御坂とギャラリー、その中でツナはローを選択した。

 この選択に、ギャラリーがざわつくハイを選べば勝利できるのにも関わらずツナがローを選んだ理由がわからなかったからだ。

 画面に裏返しのカードが表示され、捲られる。何故かその瞬間だけツナには長い時間のように感じた、そして捲られたカードが画面に表示された瞬間、ギャラリーがシンと静まり返り次の瞬間、割れんばかりの歓声が響き渡った。

 なんと画面に表示された数字は0、1より低い唯一の数字が表示されており見事に引き当てたツナをギャラリーは大いに称賛した。

 

「やった!凄いわね!ツナ!!」

 

「いだだ!?御坂、痛いって…首がしまってる…」

 

「あ、ゴメン…」

 

 感極まった御坂はツナの首に手を回して強く抱き締めた。ギリギリと締め上げられツナは御坂の腕をタップして離すように懇願すると、タップに気づいた御坂は腕を離しツナを解放した。

 解放されたツナに向けて、ギャラリーがガッと押し寄せツナを取り囲むと一気にもみくちゃにしていく。

 

「まさか、クリアするとはな…」

 

「俺たちは伝説が生まれた瞬間に立ち会ったのかもな…」

 

 解説をしていた小学生はもみくちゃにされているツナを見ながら驚きを口にしてから不敵に笑うとゲーセンを出ていくのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「ふんふんふ~ん」

 

「ご機嫌だね、御坂」

 

「まあね、もっと時間がかかると思ったからこれだけ早く取れたのは嬉しいからね…」

 

 夕日が街を照らす中、なんとかギャラリーから解放されたツナは御坂と共に歩いていた。

 鼻歌を歌う御坂に笑いかけるツナ、御坂は嬉しそうに答えるが急に足を止めた。

 

「どうしたの?」

 

「うん、私ってハードルがあると乗り越えなきゃ気がすまないタイプなのよね…だからはい」

 

「え、なんで?せっかく手にいれたのに」

 

 立ち止まった御坂にツナが問いかけると、御坂は自身の頭をかきながら言うとゲコ太のストラップをツナに差し出した。

御坂の行動にツナは戸惑いながら尋ねる。

 

「預かっていて欲しいの、私がいつかあのゲームをクリアするまでね

自分でクリアしてからこのストラップを貰うことにするからだからお願い」

 

「わかった、いつかクリアするまで預かるよ」

 

 御坂は苦笑をしながら自分が納得して受け取れるまで持っていて欲しいと頼んできた。

ツナは御坂の頼みを聞き、ゲコ太ストラップを受け取り応えるのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

翌日

 

 

「ツナさん、おはようございます!」

 

「あ、佐天、初春、おはよう」

 

「あれ、ツナさん…ゲコ太ストラップなんて持ってましたっけ?」

 

「あ、いや…ちょっとね」

 

 休みが終わりいつも通りの朝がやってきた、通学路を歩いていた時に佐天が元気良く挨拶をしてきた。

ツナが手を上げて挨拶をすると初春がツナのカバンに取り付けられたゲコ太ストラップを見つけて尋ねてきた。

 ツナは御坂から預かった際に、どうせならちゃんとカバンとかに付けるように言われたからであった。

 

「まぁ付けないとダメですよね、こ~んなに有名なんですから!」

 

「ん?ぇえええっ!?」

 

 苦笑するツナに佐天は意地悪く笑みを浮かべながら、携帯を見せる。

ツナが目を向けるとそこには、『期待の新星、来る!?』というタイトルと共に御坂がツナに抱き着いているシーンが記事として載っていた。

 

「ツナさんがクリアしたゲーム、実はかなりの難易度だったらしくて今まで誰もクリアした事がなかったそうですよ、更に常盤台のお嬢様にこれだけ熱いハグをされてたら話題性、十分ですよね~」

 

「いや、ハグというよりスリーパーホールドに近かったんだけど…」

 

「あ、ちなみに白井さんから先程、連絡がありまして今日、事情聴取するので支部に必ず顔を出すように、との事です」

 

 有名になっている理由を佐天は語っていきからかうように言えば、ツナは状況的には全く違うと答えるが、その言葉に構う事なく初春がツナに告げてきた。

 

「あの、拒否権は?」

 

「無いと思いますよ?白井さんですからね…逃げてもどこまでも追ってきますよ」

 

「う~ん、事情聴取というより尋問だね」

 

「いや、笑い事じゃないからぁああ!!?」

 

 死刑宣告に近い言葉にツナは僅かばかりの可能性にかけて尋ねるが、初春はバッサリと答え逃げた場合の行動を言う。

 その言葉に佐天は笑いながら言うとツナは情けなく叫ぶしかなかった。

 




はい、見て頂きありがとうございます
なんとか3月までに投稿することが出来ました!
カップリングというにはデレが少ない感じでしたがいかがでしたか?
楽しんで貰えたのなら嬉しいです

ちなみにアンケートでは佐天が25白井が17初春が12、御坂が32の計92となりました
いや、すげぇなマジで…
そして白井を望む声が結構あったのが意外でした
これから話数が進めば、リボーンキャラも参戦するのでこれからも応援をよろしくお願いします
もしもリクエストがあれば基本受付します、作者としてはいろんな題材で話を考えてみたいものですから

それでは出来るだけ早めに第6話:風紀の時間を仕上げたいと思います。

それでは


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第6話a:風紀の時間

そろそろ、ほのぼの日常が終わる頃だなと思います
更新ペースが落ちるかもしれませんがこれかもよろしくお願いします


 それは街の中で突然起きた出来事だった。植木の中に置かれたぬいぐるみがまるで中心に引き込まれるように収縮していき、軽快な破裂音が辺りに広がった。

 

「虚空爆破(グラビトン)、ですか?」

 

「うん、あんまり話にはなってないけど最近騒がれてるんだ

スプーンやアルミ缶といったアルミニウムを小さなカバン、ぬいぐるみに隠して爆発みたいな事を起こしてるみたい」

 

「うわー、小さい子どもとか巻き込まれたら大変ですね」

 

 放課後の帰り道、ツナは校門前で待っていた佐天と共に歩きながら最近起きている事件について話した。

聞き慣れない単語に佐天が聞き返すと、ツナは軽く説明をしていく。

ぬいぐるみやカバンに隠されていると聞いて佐天は嫌な表情を浮かべて呟く。

 

「けど、なんであたしにその話を?普通は関係者以外は話しちゃダメですよね?」

 

「初春が、佐天なら噂を嗅ぎ付けて首を突っ込むかもしれないから注意して欲しいって言ってたから」

 

「あたしは犬かい…けれどなんでアルミ?そんな能力なんですか?虚空爆破って」

 

「えっと…本当なら量子変速(シンクロトロン)って能力でアルミを基点に加速して、周囲に放出するらしいよ

まぁ簡単に言えばアルミを簡単に爆弾に変える能力みたいって白井さんが言ってた」

 

 佐天は風紀委員のツナが無関係の自分に何故、事件の情報を話したのかを尋ねる。

不思議そうにする佐天に、初春から佐天が勝手に行動しそうだからだと言われた事を話すツナ。

 佐天はツッコミをいれながら返せば虚構爆破について尋ねる。ツナは白井から聞いた情報を佐天に説明していった。

 

「なるほど、それじゃあ一応気をつけますね…というかぬいぐるみとか気になるタイプじゃないですけどね

まぁ初春がせっかく注意しとくようにって気にかけてくれたからするだけはします」

 

「そうだね…あれ?そういえば、今日は初春と一緒じゃないんだ…なんか珍しいね」

 

「実はツナさんと一緒に帰りたくて待ってたんです…」

 

「…いや、それ嘘だよね?掃除当番だったから一緒にいなかったんだよね?」

 

「あ、バレました?」

 

 虚構爆破について理解した佐天は、軽く笑いながら趣味では無いと語っていく。

初春について、ツナはふと気になった事があり佐天に問いかけた。

 すると佐天は口元に手を当てて恥ずかしがるように言う。しかしツナは怪しむような視線を向けながら問いかけるとカラッとした態度で佐天は笑みを浮かべた。

 

「ビックリさせないでよ…もう」

 

「ツナさんなら引っ掛かると思ったんですけどねぇ…なんでわかったんです?」

 

「鼻の頭にチョークの粉がついてたからもしかしたらって思ってさ」

 

「嘘!気づかなかった!!」

 

 ケラケラ笑う佐天にツナはため息まじりに返すと、佐天は笑いながら見破られないだろうと予想をしていたと話し、ツナに気付いた理由を尋ねる。

 するとツナは自身の鼻先を指して答えた。その瞬間、佐天は慌てて腕で汚れを払うように拭いだす。

 

「気付いていたのなら言って下さいよ~…もう、なんで最先端の学園都市でアナログの掃除なんて…教育なんだか知らないけど納得出来ない…」

 

「あはは、虚構爆破もそうだけど早く帰るんだよ、いつ事件が起きるかわからないからね」

 

「わかってますよ…私は御坂さんみたく能力が使えたら良かったのになぁ、そしたら…何かできるのにな…」

 

「そうかな…俺はそうは思わないよ、能力を使えても戦う事になったら傷つく…それは嫌だな、誰も傷つかない方が俺は良い」

 

 教えてくれなかったツナに佐天は不満を口にし、そして未だに手で学校の掃除をすることに肩を落として呟いた。

 佐天に笑いかけながらツナは、気をつけて帰るように言う。すると佐天は自身の手を見つめながら能力が使えない事を悔やむ。

能力を求める佐天を見ながらツナは首を振り、傷つく事がない事を願った。

 

「ツナさん…」

 

「ゴメン、これから固法先輩と合流しなきゃならないんだ!行くね、それじゃあ!」

 

 ツナの言葉に佐天は言葉を紡ごうとするが、この前に話を切るように言い別の方向へと走りだしその場には佐天のみが残った。

 

「あたしは…それでも能力が欲しいです…どれだけ傷ついても良い…能力が使えるのなら…」

 

 走り去るツナの背中を眺めながら佐天は絞り出すように呟いた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「………」

 

「紹介するわね、沢田くん、今日の活動の手伝いをしてくれる別の支部の」

 

「御坂です、よろしくお願いします!」

 

 待ち合わせにしていたファミレスの前にたどり着いたツナ、そこには固法と何故か風紀委員の腕章を付けた御坂がそこにいた。

 言葉を濁すツナに、固法はにこやかに紹介し、御坂はまるで初めて会ったかのように接してきた。

 

「それじゃあ、沢田くん、御坂さん、最初の場所に行くわよ?」

 

「え、あ、はい!」(御坂、なんで風紀委員の腕章を!?)

 

(いや、これには深い訳があって…実は)

 

「二人とも?どうしたの?」

 

「「い、今行きます!!」」

 

 自己紹介を終えた事で、固法は二人を先導するように歩きだす。

ツナは、固法に聞こえないように御坂に事情を尋ねる、御坂も合わせて声を潜め説明しようとするが、固法が振り返り二人に声をかけてきた。

 二人は慌てて固法の後を追うことにした。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「えぇ…初春が忘れた腕章を持っていたら間違えられた?」

 

「そうなのよ、固法先輩だっけ?あの人が勘違いしちゃってね

それに、いつも黒子がお姉様は一般人なのですからとか風紀委員は大変だって遠ざけるから私がどれだけやれるか証明してやろうって思ったのよ」

 

「…あのさ、御坂…多分だけど想像している状況にはならないと思うよ?」

 

 移動しながらツナは御坂から事情を聞いて、思わず声をあげた。

腕を組みつつ御坂は頷けば、いつも白井から止めらるからこの機会を逃せないと言ってきた。

 意気揚々としている御坂に、ツナはため息をついてから言う。しかし、御坂にあまり聞こえてはいなかった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

コンビニ前

 

「それじゃあ、まずはここの掃除から始めるわよ」

 

「あの、ちょっと待って下さい…私たち風紀委員、ですよね?」

 

「?そうだけど、どうかしたの?風紀委員の研修で経験していると思ったんだけど」

 

「え、ああ!その…そうでしたね、忘れてました」

 

 ゴミが散乱しているコンビニへとたどり着いた固法はちりとりと箒を手に御坂とツナに告げる。

御坂は戸惑いながら、自分達が風紀委員である事を確認する。御坂の問いかけに不思議そうな表情で研修でやった事で当たり前の筈だと返した。

 すると御坂は、視線を泳がせながら取り繕うように答え掃除に取りかかりる、そして固法に隠れながらため息をついた。

 

「御坂さ、もしかして風紀委員がいつも事件を追っていてドッタンバッタンと悪人と戦っていると思っていたんじゃない?」

 

「ぎくっ!…まーさかー、風紀委員は治安維持が目的なんでしょ?これも立派な治安維持活動よね!うんうん」

 

(わかりやすい…あの顔は絶対に図星だったんだな…)「確かに最近は、あちこちで事件が起きているけど俺達がやる事はこういう事なんだよ」

 

 ため息をつく御坂にツナは大きめのゴミを袋に入れつつ尋ねる、すると御坂は明らかに動揺しながら掃除に力をいれていく。

 ツナは内心で呆れながら御坂に風紀委員の仕事について説明する。

 

「そうなんだ、黒子は全然話さないから知らなかったわ」

 

「多分、御坂にはあまり風紀委員に関わって欲しくないから話題にしなかった筈だよ…俺も大分しごかれたし…」

 

「それって、少し前にやってた短期特別研修の事?」

 

 御坂は箒を動かしながら白井からは風紀委員の活動を聞いた事がなかったと話した。

白井の性格と御坂の性格を考えて、ツナは答えると少し前の事を思い出して身震いをした。

 すると御坂は箒を止めてツナに尋ねてきた。この言葉にツナは思わず目を丸くした。

 

「なんで、御坂が知ってるの!?」

 

「その時期に黒子がボヤいていたのよ、変な事故で記憶喪失になった同僚の再指導なんてやってられないって…

まぁあれは独り言だったんだけど、なんか耳に残ってたのよね…」

 

「御坂、その事についてなんだけど…」

 

「言いふらしたりしないわよ、というか私になんの得があるのよ

ツナが記憶喪失だってバラすことに、それにあんたが私とあった時にはもう何も覚えてなかったんでしょ?

だったら別に何も変わらないわ、私が知ってるツナは今のツナだけなんだから」

 

 白井と二人だけで行った地獄の苦行に近い研修を何故、風紀委員でもない御坂が知っているかを尋ねると御坂はさらりと教えてきた。

 記憶喪失の件が知れ渡るのは不味いと考え、ツナは御坂に誰にも言わないように頼み込もうとするが、御坂は呆れた表情を浮かべて返し、御坂は笑みを浮かべながらツナの額を小突いた。

 

「ありがとう、あんまり大事にしたくなくてさ…」

 

「だから良いって、それよりも記憶喪失ってどんな感じなの?見たこと無かったから気になるのよね」

 

「えぇ、そのぅ…なんて言うか…えっと」

 

「こぉら!二人共!サボってたらいつまで経ってもおわらないわよ?」

 

「「は、はい!!」」

 

 御坂に礼を言うツナ、すると御坂は軽く笑いながら記憶喪失の心境などを問いかけてくる。

実際は記憶喪失でもなんでもない為、ツナは言葉を濁していると固法がサボっている二人を叱りつけた。

 二人は一緒に返事をし、掃除を再開した。すると固法の携帯が鳴りだし固法は素早く携帯に出た。

 

「はい、私だけどどうかしたの?…うん、わかったわ…それじゃあこっちで探してみるわ」

 

「何かあったんですか?固法さん」

 

「実はね、初春さん達がバックを落とした女の子を保護したの

それで外にいる私達に探して欲しいって連絡が入ったのよ」

 

 固法は頷いて携帯を切る、深刻そうな表情をしている固法に、ツナが何が起きたか声をかけた。

すると固法は初春から入った連絡をツナへと伝えた。

 

「それってかなり不味いんじゃ!」

 

「そうねぇ、子供用だから落としたら犬か何かに持ってかれるかも」

 

「犬!!?なら、早く探さないと!掃除は終わりましたから行きますよ!」

 

 固法の言葉を聞き、御坂が食いつくように聞いてきた。

焦る御坂に対して固法はのんびりとした口調でバックの行方を考える、御坂はすっとんきょうな声を出しキレイになったコンビニ前を指でさしてからすぐに探そうと提案をしてきた。

 

「そうね、わかったわ…それじゃあ沢田くん、御坂さんと二人でバックを探して貰えない?私は、交番の方に行って落とし物が無いかを確認していくわ

探す場所は初春さんが指示を出してくれる筈だから」

 

「「わかりました!」」

 

 掃除が終わった事を確認した固法は、ツナ達に指示を出せば近くの交番を目指しはしりだした。

ツナと御坂もお互いに顔を見合せると、同時にツナの携帯に初春からの指示が届いた。

 

「まずは近くの川原からだね、なんだか大分動いたみたいだ…」

 

「そうね、早く行くわよ!誰かに拾われたら大変だわ!!」

 

「う、うんわかった!とりあえずまずはこっちだよ!」

 

「よし、わかったわ!」

 

 初春から送られてきた状況と地図を確認しツナは、御坂に場所を教える。

何故か御坂は急かすようにツナに指示を促した、戸惑いながらツナは御坂を連れて川原へと向かうのであった。



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第6話b:風紀の時間

OPを決めましたが、ED は決めてませんでしたイメージED はリボーン本編で使用されてたCHERRYBLOSSOMの桜ロックにしました
すべり台とガチで迷ったのは内緒です
ちなみにあくまで推奨なので特に気にしなくていいです


第177支部

 

「ふぅ、ひとまずはツナさん達に探索する場所をおくりました」

 

「本当なら私も探しに行きたいのですが、この子を放置する訳にはいきませんもの」

 

 第177支部に設けられたソファーに座りながら初春はひとまず一息つくと、白井が話しかけてくると初春の膝で眠る少女に目を向けた。

 保護した時には泣きじゃくっており落ち着かせるまでにかなりの時間がかかった。

もし目覚めた際に泣かれでもしたら初春一人では手が足りない為、白井はバックの捜索に出る事が出来ずにいた。

 

「初春、監視カメラでこの子が通った場所を見ることはできませんの?」

 

「試したのですが、カメラの無い箇所をいくつか通っているため、ルートが特定しづらいんですよね…困りました…」

 

「沢田さんに期待するしかありませんですわね…何か飲むですの?ずっとその体勢では身動きが取りにくいでしょう?」

 

「珍しく優しいですね、それじゃあいちごおでんをお願いします」

 

 白井は初春のハッキング能力ならば探す事が出来ないかを尋ねる。すると初春はパソコンを起動させて少女が通ったと思わしきルートを表示するが、そのルートのいくつかは虫食い状態となっておりその理由を説明する。

 肩をすくめる初春に、白井はため息をつきつつ少女を膝枕したままパソコンを操作している初春に向けて尋ねる。

 初春は目を丸くしてから呟けば、冷蔵庫を開けようとしている白井に飲み物を頼んだ。

 

「自販機まで行けと申しますの?そんなのが入ってる訳が…マジでありましたわ…」

 

「ふふん、最近は冷やしいちごおでんというのがマイブームなんですよ、試してみます?甘さと出汁が凝縮されてますよ?」

 

「結構ですわ、そんなデンジャラスな真似はしたくありませんの」

 

 自販機で販売されている変な飲み物をリクエストされ白井は呆れながら返し冷蔵庫の中を確認すると、中にはわかりやすい位置にあったかいいちごおでんと表記された缶が置かれており、その下にはムサシノ牛乳が敷き詰められていた。

 驚く白井に初春は得意気に話し、その味について説明をしていく。

白井は苦い表情で断り、缶を初春の元に送れば自分は午後の紅茶を手にして口に含んだ。

 

「こんちはー、初春いますー?」

 

「はーい、いますよー…うまうま」

 

 すると外から軽快な足音が響き支部のドアが勢い良く開かれ佐天が入ってきた。

元気に呼び掛けてきた佐天にいちごおでんを口にしながら初春は答えた。

 

「また、それ食べてんだ…好きだねぇ、あれ?その子は?」

 

「甘い物は脳の栄養補給に丁度良いんですよ、ちょっと訳あって預かっている子です」

 

「なるほどねぇ、それでこの子の頭にはいつ芽が出るのかな?」

 

 初春の声が聞こえた方向へ来た佐天は、いちごおでんを見てげんなりしながら言い膝の上で寝ている少女を見て静かに尋ねると、メインの苺を頬張りながら答える初春。

 少女についての説明を聞いた佐天は意地悪く笑みを浮かべ尋ねてきた。

 

「生えませんよ!それにこの子は親戚でもなんでもないんです」

 

「ゴメン、ゴメン、それでいったいどうしたの?」

 

「バックを落としたみたいなんです、ピンクの小さいバックなんですが佐天さん、見かけませんでした?」

 

 初春は強く否定をすれば、赤の他人だと佐天に返す。軽く笑いながら佐天は謝ると改めて尋ねると初春が少女について話す。

 

「流石にバックは見なかったかな…ゴメン」

 

「いえ、聞いてみただけなので気にしないで下さい、とりあえずルートを私の方で予測しておきますか」

 

 苦笑を浮かべて佐天は道中では何も見なかったと返し謝る、すると初春は首を振り大丈夫だと返せばパソコンに目を移し素早くタイピングしていく。

 その様子を見て、佐天は疎外感を感じてしまった。

 

「今日は忙しいみたいなんで、一端帰るね初春」

 

「ちょっと待つのですの、佐天さんには初春と一緒にいてその少女の面倒をお願いしますの」

 

「うえっ!?マジすっか、ちなみに白井さんはサボタージュですかね?」

 

「そんな訳ないのですわ、私も捜索に出ますの

固法先輩に沢田さんと一応、他の支部の応援が来ていますが流石に人手が足りませんもの」

 

 そそくさと帰ろうとした佐天に、白井が瞬間移動をして周り込み少女の面倒を頼んできた。

 いきなりの事に佐天は声をあげ、冗談混じりに尋ねる。すると白井は腰に手を当てて呆れたように話せば捜索に出ている人達の事を話すのであった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

川原

 

「ふぇっくし!」

 

「御坂、風邪?」

 

 川原にてバックを捜索していたツナと御坂。するといきなり御坂が大きめのくしゃみをした。

後ろでいきなりのくしゃみにツナは驚きつつ振り返り、御坂に問いかけた。

 

「いや、そんなことは無いんだけど…誰か噂してるかな?」

 

「白井さんかな、御坂の話をするとしたら」

 

「今は黒子の話は無し、なんか口にしてたらそこの草むらからでも出てきそうだから」

 

「流石にそれは、無いと思う…多分…」

 

 鼻を軽くこすりながら御坂は答えると軽く口に出すとツナは辺りを探しながら、話をしていたと思われる人物を口にするとげんなりした表情を浮かべて御坂は、手を振りながら白井がすぐにでも現れそうだと言えばツナは軽く笑いながら否定をするが、何故かはっきりとは否定出来ずにいた。

 

「うーん…草むらには無いみたいね…」

 

「他にも候補はあるから次の場所に行こうか、御坂?」

 

「ちょっと、あの辺りを見てみるわ!あぁ、先に行っていて良いから」

 

「待って!風紀委員の腕章を着けていても有事の際以外は能力は使っちゃダメだから!」

 

 一通り探し終えてから御坂はため息をつく、ツナは初春から送られてきた情報を確認しつつ呼び掛けると御坂は鉄橋の根元を指でさしてから帯電を始める。

 御坂が帯電をし始めた瞬間、ツナは慌てて止めに入った。

 

「けど、ジャンプしても届かないわよ?肩車するくらいしか…ツナ、ちょっと来て」

 

「え、御坂…まさか…」

 

「ここにきて私を肩車してくれない?もちろんツナが下ね」

 

「は、はい…」

 

 ちゃんと確認しておかないと気がすまないらしく御坂はなんとか登る方法を模索し、ツナに視線を向ければ笑顔で呼び掛けた。

 御坂の意図を何となく察したツナに、はっきりとして欲しい事を告げる御坂。

威圧に近い言葉にツナは頷くしか無く仕方なくしゃがんだ。

 

「肩に足を乗せるけど、絶対に上を見ないでよ?スカートなんだから私」

 

「でも、御坂っていつも短パンはいてるから大丈夫なんじゃ…「なーんか、言ったかしら?ちなみに電気って流すと上から下に行くらしいわよ?まぁ当たり前の話だけど、ね」絶対に見上げないです!はい!!」

 

 しゃがんだツナの肩に足を乗せてから御坂は、キツく注意を促した。

ツナはゆっくりと立ち上がりながら、御坂がいつも短パンをはいていることを指摘する。

 すると軽く足に力を込めながら御坂は答えると軽く電気を放ってきた為、ツナは必死に宣誓をして壁に手をついた。

 

「よし、手が届いた…少し持ち上げてくれない?」

 

「わかった、気をつけてね…なんか見えた?」

 

「ちょっと、待って…ひぃ!!む、虫!?なんか足が沢山ある虫がいる!!?」

 

「落ち着いて、暴れないで御坂!!う、うわぁ!?」

 

「あぃたっ!?」

 

 何とか根元に手が届いた御坂はツナに頼んできた、ツナは壁についていた手を肩まで持っていくと、御坂は手のうえに足を乗せた。そしてそのままゆっくりとツナは腕を上げていく。

 体に力を込めながら御坂に尋ねた時、御坂が突然暴れだしてしまう。突然の事に対処出来ずにツナは倒れ二人とも地面に転がった。

 

「あたた、ゴメン…ツナ…大丈夫?」

 

「大丈夫だけど…バックは見つかった?」

 

「多分、なかったと思う…」

 

「…ちなみに、もう一度登るつもりは?」

 

「絶対、ムリ!!」

 

 打ち付けた腰を擦りながら御坂は涙目になりつつ謝る、ツナは頭を押さえつつバックの有無を確認すると、御坂は視線を反らしながら答えた。

 目を細めながら御坂に尋ねるとはっきりとした口調で御坂は返した。

 

「じゃあ別の場所に向かおうか、時間をかける訳にはいかないからね」

 

「わかった、それで次の場所にいくわよ!」

 

 ツナは立ち上がり身体の誇りを払えば、御坂に手を差し出して次の捜索場所に向かう事を告げる。

その手を握れば御坂はそのまま立ち上がり強く頷くのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

路地前

 

「えぇ、ここ?」

 

「うん、保護した子はここを近道としてここを通ったみたいだよ」

 

 かなり狭い路地を前に御坂は戸惑いつつ尋ねると、ツナは初春から送られてきた情報を教えた上で携帯をしまう。

 

「子供ならここは通り抜けられるけど、俺達じゃ結構キツイよね…どっちが行く?」

 

「私はムリよ、ほらツナと違って出るとこ出てるからね」

 

「え?」「え?」

 

 路地の狭さを確認しつつ、尋ねると御坂は首を振ってから自身の胸元に手を当てて答える。

しかし出ているとは言い難いスタイルにツナは思わず声を出すと、御坂はそれにつられて声を上げた。

 そしてそのままツナの頬を思いっきりつねった。

 

「なんか言いたそうねぇ、ツナ」

 

「はんでもないでふ」

 

 ギリギリと引っ張って問い詰める御坂にツナは涙目になりながら、結局ツナが路地へと入る事になった。

 

「理不尽すぎるぅ…」

 

「ごちゃごちゃ言わない!」

 

 所々にある凹凸に身体をぶつけながらツナは不満を口にすると後ろから御坂の怒号が飛んでくる。

 狭い路地を進んでいくと、道が二手に別れており片方は行き止まり、もう片方からは光が見えたがバックはなかった。仕方なくツナは来た道を戻る事にした。

 

「はぁ…ヒドイ目にあった…バックはなかったよ、御坂?どうしたの?」

 

「ツ、ツナ…あんた、頭にく、クモが、ついてる!」

 

「え?あ、本当だ…クモの巣にでも引っかったのかな?…御坂って虫が苦手だったりする?」

 

「え?別に、そんな事ないわよ?うん…いきなり出てこられたらビックリはするけど、心構えしていれば大丈夫なんだから!」

 

(それって心構えしてないとダメって事なんじゃ…黙っとこ)

 

 路地から出てくると御坂は、ひきつった顔で後退りした。その理由を尋ねると、御坂は目を瞑りながらツナの頭にクモがついている事を教える。

 しかし、狭い路地を通り疲労がたまっていたツナは力無くクモを払い御坂に尋ねた。

虫が苦手かと尋ねられた御坂はそっぽを向き、そんな事は無いと返すが言葉の意味についてツナはツッコミをいれようと考えたがまた頬を引っ張られては堪らないと思い黙っておく事にした。

 

「それで、他にはどんな場所があるの?その子の通ったルートは」

 

「えっと…今、固法先輩と白井さんが回っているみたいで今、初春がまとめているみたい…来た!この近くの公園だって案内する」

 

「わかった、すぐに行くわよ…ってちょっと待った!」

 

 気を取り直すように御坂は咳払いをすれば、ツナに他の情報を求めた。

ツナは初春からの情報について話せば、精査された情報を読み上げる。

 ツナが先行しようとした時、御坂はツナの背後で学生が絡まれるのを見つけ走り出した。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 少年、介旅初矢は運が悪かった。学校から家へと帰っている最中、たまたま音楽を聞きながら歩いていただけなのにいきなりガラの悪い男達に絡まれてしまった。

 男達は介旅を壁に押し付けると遊ぶ為の金を要求してきた、カツアゲだ。

介旅は知っている他人はこういう状況で見てみぬ振りをする、自分は巻き込まれたくないから被害に会いたくないから、弱い自分はこうやって搾取されるしかなかった。

 

「ちょっとあんたら!何やってんのよ!!」

 

「ちっ、風紀委員だ、面倒だから行くぞ!」

 

 金をなかなか出さない介旅に苛立ちを覚えた男の一人が腕を振り上げた瞬間、少女が声を上げて走ってきた。

有名お嬢様学校の制服に風紀委員の腕章を着けた少女に、男達は舌打ちをして介旅を解放すればそそくさといなくなった。

 

「あぁもう!逃がした!!」

 

「はぁはぁ、大丈夫ですか?」

 

 男達が逃げた事に少女が憤慨し、解放されてそのまま地面に座りこんだ介旅に後からやってきた少年が、手を安否を確認しながら手を差しのべてきた。

 介旅は、その手が哀れまれているように感じ歯を強く噛みしめると少年の手を弾き飛ばした。

 

「遅いんだよ…」

 

 自分で立ち上がった介旅は、少年を睨み付けながら呪詛のように呟けばはや歩きでその場を離れた。

遠くで少女の声が聞こえるが、介旅はすぐにヘッドフォンを当てて曲を流した為、すぐに聞こえなくなった。

 

「やっぱり風紀委員は全員、クソだ…もうすぐ、そうもうすぐだ…もう少しで恨みを晴らす事が出来る…」

 

 介旅は外界の音を遮断した上で呟いていく、そしてポケットから金属製のスプーンを取り出して笑みを浮かべる。スプーンに映りこんだその笑みは邪悪などす黒いモノであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

公園前

 

「全く、なんなのよ!アイツ!」

 

「まぁまぁ落ち着いて、御坂」

 

「だって、助けたのはこっちよ!?なんであんな態度取られなきゃならないのよ!」

 

「感謝されたくて人助けをするのは風紀委員じゃないよ、誰かを助けたいから風紀委員は動くんだよ」

 

 公園まで来たが御坂の機嫌は最悪であった、原因は先程助けた学生が礼も言わずに立ち去ったからだ。

ツナが落ち着くように諭すが、御坂は納得がいかないと反論をするがツナの言葉に思わず口をつぐんだ。

 

「って、これは初春の受け売りだから、俺も納得してる訳じゃないんだけどね…けど、助けられて良かったと思ってる」

 

「…わかったわよ…そう言い切れるだけでもあんたはスゴいわよ」

 

 すぐさま表情を崩し苦笑を浮かべながらツナはバラし、自分の気持ちを口にする。

笑って話すツナに御坂は納得をして頷けばボソリとツナを称賛した。

 

「御坂?」

 

「なんでもないわ、行くわよ!早くバックを探さなきゃ」

 

「そうだね、行こう」

 

 ツナが黙った御坂に呼び掛けると、首を振りを気を取り直し公園へ向かう事を提案してきた。

その意見に同意をして、ツナは御坂に続くように公園へと入った。

 公園の中にはありふれた遊具とそれで遊ぶ子供達がいた、子供達はツナ達の姿を見ると一斉に駆け寄ってきた。

 

「風紀委員だ、カッケー!」

 

「あれ?ダメツナじゃん、どしたー?」

 

「この姉ちゃん見たことねぇな、新人か?」

 

「新人風紀委員だー」

 

 あっという間に子供達に囲まれ、御坂とツナはもみくちゃにされていく。

そんなツナ達に構うこと無く子供達は好き好きにしゃべっていく。

 

「ちょっと!なんなの?これ!?」

 

「子供達にはパトロールとかしてたらで良く会うから、いつもこうやって絡まれるんだよ、あだだ」

 

「絡まれるって只のチビッ子でしょ?って何してんの!」

 

 一斉に来た子供達に御坂は、何とか引き剥がしながらツナに尋ねるとツナには既に子供らがまとわりついており、肩には男の子が乗り、更に頬を引っ張られたりしていた。

 そんな中で一人の子供が御坂のスカートを捲り上げた。

 

「姉ちゃん、なんで短パンはいてんだ?変なのー」

 

「パンツはいてねぇんだよ、きっと!」

 

「やーい、ノーパン風紀委員!」

 

「違うわ!ちゃんと下に履いてるつうの!!」

 

 三人組の男の子が御坂の短パンについて思い思いにふざけて言い、御坂はムキになって反論するが生意気な子供達はそれでも御坂を挑発した。

 

「ねぇ、みんな!こんなバックを見なかった?俺達、これを探しているんだ!!」

 

「なんだよ、また探し物か?ツナー、しゃあねぇな!お前ら、ダメツナの代わりにオレらがこのカバンを探すぞー!」

 

「「「「「おーーっ!!」」」」

 

 御坂が子供を追いかけ回している間に、ツナは子供達に携帯を見せて尋ねる。そこには初春があらかじめ調べておいた少女のバックと同じデザインのバックが表示されていた。

 するとリーダー格の男の子が、公園にいる子供達に呼び掛けると子供達は元気一杯に答えて一斉に散らばった。

 

「よろしくな、タイキ」

 

「任せとけって!でもツナもちゃんと探せよな?」

 

「うん、わかってるよ」

 

 ツナはリーダー格の男の子、タイキに声をかけると胸を叩いてからタイキは答えてビッと指をさしてきた。

ツナは苦笑しながら答えると、子供達を追いかけ終えた御坂が戻ってきた。

 

「良いの?子供達に手伝わせて…危なくない?」

 

「こういう探し物はよく手伝ってくれてさ、大丈夫、こういう探し物って案外子供の方が見つけてくれるんだよね

それに危ない物には近づかないように言い聞かせているから、ともかく俺達も探そう!」

 

「ああ、もう!わかったわよ!」

 

 御坂は不安を表情に出しながらツナに尋ねると、ツナは探すのは子供の方が向いていると返し自分達もバックの捜索をしようと提案してきた。

 御坂もしぶしぶ納得すれば子供達に紛れて探し始めた。

 ツナ達が探しはじめてすぐの頃だった。

 

「あった!犬がくわえてる!!」

 

 公園の中に子供の声が響き渡る、全員が一斉にその方向に目を向けるとその先にはピンク色のバックをくわえた犬がいた。

 首輪を着けいない事からその犬が野良犬である事がわかり、犬は一斉に視線を向けられた事に驚き、公園の中を走り出した。

 

「みんな!危ないから離れて!」

 

「俺たちが捕まえるから皆は犬が逃げないように入口の所に行って!!」

 

 走り回る犬に、御坂は子供達が怪我をしないように遠ざけるように言うがそれでは子供達、同士でぶつかってしまうと思いツナは、公園の入口に固まるように指示を出した。

 

「っ、追い付けない!それなら!」

 

 スペースが空いた事で犬が余計に素早く動き回りだした。御坂はなんとか追いかけながら考えを巡らせ、公園の中にある電灯が目に入った。

それを見て、閃いた御坂は軽い電撃を電灯へと放つ。電撃が直撃した時、威力に比べて大きな音が鳴り犬が驚き口にくわえていたバックを放り投げてしまった。

 

「ヤバッ!このままじゃ、噴水に!させない!!」

 

「御坂!!」

 

 バックが飛んだ方向には噴水があり、御坂は足に力を込めて走り出す。そして噴水の水にバックが入りそうになった瞬間、御坂の手がバックを掴んだ。

 しかし、バックを取る為に身を乗り出した体勢となってしまい御坂の身体がバランスを崩れだす。

 

「姉ちゃん!がんばれー!!」

 

「「「がんばれー!!!」」」

 

「ふんぐぅ…やば、ムリ…」

 

「御坂!!」

 

 体勢が崩れていく御坂にタイキをはじめとした子供達が声援を送るが、御坂の力は限界であった。そこへツナが御坂の手を掴んだ。

 

「ツナ!!」

 

「あ、これ、ムリっぽい…」

 

 手を掴んだツナに御坂は喜びの声を上げるが、駆け寄るだけで精一杯だったらしくツナは力を込めようとしたが全く力が入らずそのままツナと御坂は水の中へと落ちていった。

 

「ツナ!姉ちゃん!大丈夫か!?」

 

「…まぁ、大丈夫よ…バックは、ね」

 

「ガボボボ…」

 

 大きな水しぶきがあがり、子供達は噴水へと駆け寄っていきタイキが二人に声をかけると、そこにはずぶ濡れだがなんとかバックを守った御坂と顔面から水に沈むツナの姿があった。

 その姿を見て子供達は笑いながら歓声を上げるのであった。

 その後、バックが見つけた事を初春に知らせると公園へ白井、初春、佐天、固法とバックを無くした少女がやってきた。

 

「はい、もう落としちゃダメよ?」

 

「はあい!ありがとうお兄ちゃん、お姉ちゃん!」

 

 固法が少女にバックを渡すと少女は笑顔でツナと御坂に手を振った。

ベンチに座りタオルをかぶりながらツナと御坂は手を力無く振って返すのてあった。

 

「全く、お姉様ときたら…私が注意したからといって、まさか初春の腕章で風紀委員で活動するなんて、しかも…無くしたバックが虚空爆破かと思い込むとは…頭が痛くてたまりませんの」

 

「悪かったわ、黒子…反省してる…それとゴメンね、初春さん」

 

「いえ、元々は私が悪かった訳ですから!それに御坂さんのおかげでバックも見つかりましたし」

 

 御坂の行動に、白井は呆れたようにため息をつくと御坂は軽く笑いながら返せば、初春に謝る。

御坂の謝罪に、初春は手を大きく振って答えると握り拳を作って今回は御坂の活躍があってこそだと言う。

 

「そうですわね、確かに初春にも責任がありますわ…それに沢田さんも!!」

 

「俺も!?」

 

「当たり前ですの!そもそも風紀委員でありながらそれを示す腕章を忘れる!更に部外者を風紀委員として扱う行為!!どれも厳罰対象ですの!!!後で始末書を書いてもらいますの!」

 

 初春の言葉に白井は納得したように言えば、ベンチに座るツナにも言い放つ。

完全に蚊帳の外だと思っていたツナは慌てて反応すると、白井は声を上げて二人を叱りつけた。

 

「うわーキツそう…」

 

「そうね…やっぱり風紀委員は私には合わないかな…」

 

「お姉様?なーにを他人行儀にしていますの…お姉様には黒子が後でお説教しますのでお覚悟を!」

 

「うえ!?」

 

 叱りつけられている二人を見て、佐天と御坂は苦笑を浮かべながら同情をすると白井の視線が御坂に向けられ、後で説教があると言ってきた。

 これには御坂もげんなりしたように返した。

 

「当然ですの!本来なら拘束待ったなしの諸行を今回の一番の功労者という理由で特別に免除したのです、これくらいは当然ですわ!!」

 

「あはは、がんばれー、みんなー」

 

「「「そんな~…」」」

 

 驚く御坂に白井は指を突きつけて吠えるように言い放つ。

こってり絞られる予定の三人に、佐天は手を合わせてやる気の無い声援を送れば三人は声を揃えて肩を落とすのであった。




次回予告

御坂「足が痺れたー…まさか正座で説教しなくてもいいじゃない…」

ツナ「俺も、正座で始末書書かされた…」

御坂「お互い、大変ね…そういえば虚空爆破が深刻になってるみたいね…風紀委員にも被害者が出たそうじゃない」

ツナ「うん、何とか法則を見つけたいんだけど…全然見つからなくて…」

御坂「そんな時は気分転換しましょ…?ってどうしたの」

ツナ「あぁうん、知り合いがいたような気がしてさ…いるわけないのにね…
次回、とあるマフィアの平行移動、第7話:虚空爆破と再会?…白井さん?法則が見つかったって本当!?」


この小説を書き出して最初に考えたシナリオにようやく取りかかれます
次回をお楽しみ


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第7話a:虚空爆破と再会?

最初に報告します、今回はリボーンキャラが出てきます!
ただし元の世界とは多少の変化があります、それについては見てから判断してもらいたいですがあえて言わせて貰うのならば平行世界は可能性の世界なのです!



 それは少し前に行った事だった、学園都市の中でそれは急に行った。

 都内のある場所にて、重力の変動を感知された。

風紀委員は急ぎ出動し店の中にいた人を避難させはじめる。その時に、一人の女生徒が逃げる際に足を挫いてしまった。

すぐに風紀委員の一人が手を貸したのだが、手を貸した彼の目に映ったのは棚の下に置かれていたぬいぐるみが急激に収束し始めている光景だった。

 次の瞬間、大きな爆発音が店の中に響き渡る。幸い足を挫いた女生徒は無事であったが、彼女を守る為に手を貸していた風紀委員が怪我をおう事になってしまった。

 

この事件を皮切りに学園都市のあちこちで同じ手口で同様の爆破が起こるようになった。

 

「以上が、一週間前に起きた連続爆破事件、私達は虚空爆破事件と呼称し犯人の特定と犯行の阻止を目指し動きます

その際には出来るだけ、複数で動く事、この爆発の規模に単独で防ぐのは厳しいです

各員は一層の警戒をお願いします!」

 

「「「はい!!」」」

 

 暗室となった会議室の中で事件が起きた状況を改めて確認し、固法は会議室にいる風紀委員に告げ会議に参加していた全員、ツナ、白井、初春を含めた風紀委員は一斉に返事をするのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

柵川中学校

 

「あれから数日は経過しましたが、全く進歩しませんね…」

 

「相手がどんな目的を持ってるかがわからないからね…場所、時間、人…つながりが全然見当たらない…」

 

 時刻は昼過ぎ中学校の廊下にて、初春とツナは疲れたため息をついた。警戒を強めたが、犯人の動きや犯行の法則が見つからず完全に泥沼にハマっていた。

 疲れている二人の前にパックジュースが置かれた。

 

「奢りだよ、二人、大分参ってるみたいだからね」

 

「ありがとうございまふ…」

 

「なんか、染み渡る…」

 

 ジュースを置いたのは佐天だった、苦笑をしながら二人を心配してくる佐天に二人は気だるげに礼を言いジュースをすするが、なんとも弱々しかった。

 

「眠そうだけど…徹夜した?」

 

「いつ起きるかわかりませんからね…私は情報整理…」

 

「俺は時間ギリギリまで見回り…一回寝ただけじゃスッキリしないや…」

 

「「はぁ…」」

 

 二人の様子から佐天は思わず問いかけると、欠伸をしながら初春は答えツナは軽く舟を漕ぐように揺れていた。

そして、二人は同時に重いため息をついた。そんな二人に佐天は何も言えずに押し黙るしかなかった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

学園都市

 

「ふわぁああ…佐天には悪い事したな…心配してくれたのに」

 

 放課後となりツナは市内の見回りへと入った、大きな欠伸をしながら昼に佐天が気にかけてくれた事に申し訳無く思った。

 だが事態が好転していない事以上、これからも無理をするのだろうとツナは考えた。

 

「多分だけど…これを使う事になるんだろうな…だけど」

 

 大きくなる被害を考えツナは死ぬ気丸とXグローブを常に持ち歩いていた、しかし超死ぬ気モードになるために必要な死ぬ気丸は一回分しかなかった。もし今回で超死ぬ気モードになれば、もう超死ぬ気モードにはなることは出来ないのであった。

 

(戦う事が出来なくなるのは別にいい…けれど、これが無くなったら俺は本当に帰れなくなるような気がする…

ああもう!さっきから悪い事しか考えてない…こんな時、リボーンならなんて言うかな?…)「なさけねぇって蹴り飛ばしそう…」

 

 ケースに入っている死ぬ気丸を見つめ、ツナは表情を暗くしながらケースを握りしめるとすぐに首を振って落ち込んだ気持ちを払い、なんだかんだでいつも一緒にいる赤ん坊の事を思い出すと言いそうな口調を予想して肩を落とした。

 

(獄寺くんなら絶対戻れるって言いそうだし、山本だったらなんとかなるって笑い飛ばしそうだし、お兄さんだったら極限に~とか言うよな…)「こっちにきて一ヶ月か…みんなどうしてるかな…」

 

 なんだか首辺りが痛くなったツナは、仲間の事をおもいだし彼らが言いそうなセリフを予想して自分がこの学園都市に来てから経過した日にちを口にした。

 

(考えても解決しない!今は虚空爆破だ、新しい被害が起きない内に止めないと)「…え…あれって…」

 

 元の世界へ帰れるかどうか気になったツナだが、思考を別な事に割いていたら虚空爆破を止められないと考え、決意を固め横断歩道の前で立ち止まった時だった。

ツナは横断歩道の向かいに並ぶ人々の中にいる人物に目を向けた。

 それは、ツナにとって忘れる事が出来ない男だった。

 

「白蘭っ!?」

 

 全身を白に統一した格好に白い頭髪と目元のマーク、それは未来で死闘を繰り広げ、最後は自分が止めをさしたマフィアのボス、白蘭だった。

 ツナの声と共に赤信号が青へと変わり、待機していた人々が一斉に動きだした。ツナは後ろから押される形で進むが反対側にいる白蘭らしき人物は、人の波から出ていくように歩きだした。

 

「っく、待って!」

 

 立ち去ろうとする白蘭を呼び止めるようにツナは足を動かすが、あまりの人の多さに足が止まり向かい側についた時には白蘭らしき人物の姿はなかった。

 

(なんで白蘭が学園都市に?別人?いやそれはなんか違う気がする…本人にしては若かったみたいだし…でも俺が知ってるのは10年後だから、今は、あれくらいなのか?)「いやそもそも白蘭がここにいる訳が…ああもうワケわかんない事だらけだ…一体何がどうなってるんだ?」

 

 周りを確認し見かけた人物はいない事にツナは片手で顔を覆い思考を巡らせる、しかし情報が足りない状況では答えが出る筈が無くツナは絞り出すように呟いた。

 

ーーーーーーーーーーー

 

side:ツナ

 

 白蘭との戦いは未来の戦いが終わってもまだ鮮明に思い出す。

俺の中で、あの時の怒りはどんな状況を思い返しても比べられないくらい大きくて、あの時の悲しみはとても深くて学園都市に来てからも夢でたまに思い返す。

 

 夢の中での俺はあの時よりも無力でどれだけ手を伸ばしてもあの娘、ユニを助ける事が出来ずにいた。

 

 復活したアルコバレーノ達はユニが命をかけた事は無駄じゃないって言ってたけど、俺は納得出来なかった。

納得したくなかった、現代には戻りたいと願っていたけど誰かの命を使いたくなんてなかった…

白蘭だってそうだ、あの時はああするしかないって思って戦って…そして殺した。

 人を初めて殺したと自覚した時、俺はベッドから飛び起きてトイレで思いっきり吐いた、そうしないと自分の中にある何かに押し潰されてしまいそうだったからだ。

 白蘭のした事を許しちゃいけない、けれど、だからって命まで奪う必要はあったのだろうか?

その事は皆には話していない、勿論リボーンにもだ…皆から肯定されてしまったら俺は多分、自分を許してしまうだろう。

きっと、それはしちゃいけない事だと思う。許したら皆消えてしまいそうな気がしたからだ。

 

「ツナ!」

 

「…えっ?」

 

 白蘭に似た人を見てからずっと頭の中で考え込んでいた時、誰かに呼ばれたような気がして俺は顔を上げた。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「…え?」

 

「こっちよ!ツナ!」

 

 いきなり呼び掛けられツナは辺りを見回す、どうやら横断歩道の辺りから離れた場所へ来ていたようで周りの景色が全く違っていた。

 視線を泳がせるツナに、声が更に呼び掛けてくる。声の方向に目を向けるとそこには御坂と佐天がカフェのテーブルについている姿が映った。

 

「どうしたの?なんかボーっとしていたけど」

 

「あ、ごめん…ちょっと考え事していてさ、二人は休憩、かな?」

 

 ツナの様子が違う事に御坂は不思議そうに尋ねると、ツナは苦笑をしながら答え、二人が何をしているかを聞く。

 

「いやぁ、初春達が最近疲れてるなって話を御坂さんとしてましてね

あ、そうだ!今度の非番の日にセブンミストって店に初春達を連れてこうって企画してたんですけど、ツナさんもいきますか?」

 

「あ、ごめん…今月は初春と非番が一緒じゃないから俺は行けないや」

 

「そうなんですか…残念、せっかくツナさんにコーディネートをお願いしたかったんですか」

 

「うえっ!?俺に?」

 

 ツナに問いかけられると佐天が明るい口調で返し、ツナに今度の非番に気分転換として一緒に出かけようと誘ってきた。

しかしツナは申し訳無さそうに非番が違う事を話して一緒にいけないと答える。すると佐天は肩を落としてツナに言う、いきなりの頼み事にツナは慌てふためいた。

 

「あれ?本気にしちゃいました?冗談ですよ!それとも選んで欲しいって頼んだら本当にコーディネートしてくれます?」

 

「いや、流石にそれはちょっと…遠慮したいかな…センスないし、俺」

 

 慌てふためくツナに佐天は冗談だと返すが、少しだけ挑発気味に笑みを浮かべればツナに問いかける。

コーディネートについてツナは苦笑いをしてから自分にはそういうのは苦手だと返した。

 

「うぁああ、御坂さーん、ふられちゃいましたよー」

 

「そうねー、佐天は可哀想よねー」

 

「ちょ!二人とも!」

 

 佐天は棒読みで御坂へと泣きつく、御坂も悪乗りをして棒読みで言う。

明らかな演技にツナは思わず声を上げた、ツナの正直な反応に二人は思わず笑ってしまった。

 

「ごめんごめん、ツナも非番になったら教えてそしたら気分転換に付き合うから」

 

「あ、あたしもご一緒しますね!二人より三人って言いますからね」

 

「ありがとう、二人共!それじゃあ見回りに戻るから」

 

 笑いながらも御坂はツナに謝り、心配するようにリフレッシュがてら遊ぶ時には一緒に行くと言ってきた。

 佐天も手を上げて人が多い方が良いと言ってくる、二人の気遣いに感謝をしつつツナは都市内の見回りに戻るのであった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

数日後 第177支部

 

「お疲れ様です、あれ?白井さん?」

 

「あぁ、沢田さんお疲れ様ですの」

 

 ツナが支部へ入るとそこにはパソコンに向かう白井の姿があった、白井はツナの姿だけをチラリと確認すれば再びパソコンへと視線を戻してしまう。

 

「今日は御坂達とセブンスミストに行くんじゃなかったの?」

 

「えぇ、初春と一緒に誘われましたわ…けれどもう少しで何か法則のような物が見つかると思うのですの」

 

「でも根を詰めすぎるのは、不味いんじゃない?」

 

「その辺りはちゃんと管理していますわ…沢田さんは今日も見回りですわね?もし何かあれば連絡いたしますの…」

 

 本来なら非番の筈の白井に尋ねるツナ。すると白井は手を動かしつつも事件を解決する為に尽力を尽くしていた。

 そんな白井を心配するようにツナは無理しすぎだと忠告をすると白井は目元に手を当てて返せばツナに、虚空爆破の反応があればすぐに伝えると言う。

 白井の真剣な表情にツナは頷くしか無く、そのまま見回りへと出るのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

学園都市 市内

 

「さてと、今回は初春がまとめてくれた被害情報の場所を中心に動いてみよう」

 

「あ、ツナだ!」

 

「本当だ、風紀委員のお兄ちゃんだ!」

 

「あれ、タイキにこの前のバックの女の子、どうしたの?」

 

 ツナは携帯を開き、ここ数日の間に初春が編集した情報を表示し行き先を決める。

すると、後ろからツナの名前を呼ぶ声が聞こえた。振り替えるとそこにはバックを無くして風紀委員に保護された女の子とバックを探すのを手伝ってくれた子供達のリーダー格のタイキがツナに向けて手を振り駆け寄ってきていた。

 近くまで来た二人に視線を合わせるようにツナは屈み何か用事があるのかを尋ねた。

 

「実はさ!ミユの奴が行きたいとこあるらしいんだけど場所がわかんなくてさ、案内してくれよツナ!」

 

「ちょっと待て、ミユって誰?」

 

「こいつ」

 

「はーい、ミユです!」

 

 ツナに事情を聞かれタイキは説明をしていくが、内容がいまいちわかりづらくツナは先ずは誰の事を言っているのかを尋ねるとタイキは少女を指でさすと少女、ミユは手を上げて自己紹介をしてきた。

 

「なるほどね…それでミユちゃんは、何処に行きたいの?案内はするけど場所がわからないと連れて行けないんだよね」

 

「えっとね、セブンスミストってお店!タイキくんも行くんだよ!」

 

「俺はセブンスミストの屋上にアトラクションがあるって聞いてやってみたくなったんだけどよ、行ったことなかったから困ってたんだよな、頼むよツナ」

 

 ツナは頭が痛くなるのを感じながらミユに何処へ行きたいのかを尋ねると、ミユは元気に行きたい場所を告げてきた。

タイキも同じ場所に行くと言うが笑いながら行ったことが無いと告げ、ツナに案内を頼んできた。

 風紀委員としては案内をするべきだと考えたが、虚構爆破の見回りもしなければならないとも考えた。

 

(白井さんが手掛かりを見つけられそうだって言ってたし、今はこの子達の案内をしていた方が良いよな…それにほっとけないし)「わかった、それじゃあセブンミストに案内するから二人ともついてきてくれるか?」

 

「おー!流石、風紀委員だぜ!」

 

「レッツゴー!」

 

「慌てない慌てない、転ぶぞ?」

 

 思考を巡らせてからツナは、最終的に見過ごせないという理由から二人を案内することを決めた。

ツナが案内してくれる事に二人は喜び、はしゃぎながらツナの手を引いて歩きだした。

 案内して欲しいと言っていたのに先行する二人に、ツナは苦笑を浮かべながら転ばないように注意を促すのであった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

セブンスミスト

 

 ツナは、タイキとミユを案内をしセブンスミストへとたどり着く。休日の昼間という事もあり店の中には沢山の学生で賑わっていた。

 

「おー!すげぇな!ゲームの中みてぇ!」

 

「わぁひろーい!」

 

「こら、あんまりはしゃぐと怪我するぞ?」

 

 始めて来た場所にテンションが上がり二人は大いにもリアがていた。

今にも駆け出しそうな二人を止めようとするツナだが、好奇心旺盛な子供が言葉程度で止まる筈がなかった。

 

「よし!ミユ、探検すっぞ!」

 

「おー!」

 

「あ、二人とも!?全く…とりあえず、追いかけないと」

 

 感極まってタイキはミユへ提案すると二人は一気に店の中を駆け出した。

案内を終えて帰ろうとしていたツナは走り出した二人を放っては措けず急ぎ足で追いかけ始めた。

だが、二人を追い店の曲がり角へ入った時、曲がり角の先から人がスッと出てきた。

 

「うわ!?危ない!」

 

「きゃ!?」

 

 ツナが声を出すと、相手は短い悲鳴を上げた。ツナはぶつからないように身を捩って出てきた人を避けようとする、なんとかぶつかる事はなかったがバランスを崩した事により派手に転んでしまうツナ。

 

「あたた…」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「あ、はい…大丈夫で、す?」

 

「?」

 

 尻餅をつきツナは盛大に打ち付けた腰を押さえて痛がる、するとぶつかりそうになった相手が心配をしてツナに手を差し出してきた。

出された手を握ったツナは差し出してきた相手を見て呆けた顔になってしまった。

 黒髪のショートカットにしっぽのように長い後ろ髪、空色の瞳と左頬の花のマークが入った少女は呆けているツナを見て不思議そうに首を傾げた。

 その少女はかつて未来の戦いにおいて自らの命をかけてくれた少女、ユニであった。




閲覧ありがとうございます、以前感想にて白蘭は出るのか?という問いかけの際にはまだ出すつもりはなかったと答えましたが、それは戦闘スタイルが決まってなかったからです
ただ、あるキャラクターの戦いを見てなんとなく決まったのでなんとか出演させる事が出来ました

ただ、レベルアッパー事件には白蘭は関わりません、というか白蘭の立ち位置は科学か魔術かと聞かれたら魔術サイドです
それだけは教えられます、感想やメッセージで聞いても大丈夫ですよ
その際はネタバレしない程度に話します

それでは、また


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第7話b虚空爆破と再会?

話の最中に※があります、そこは挿入歌が入るシーンです
読者が一番盛り上がるBGMを想像してくれて構いませんが、作者としては仮面ライダー龍騎の挿入歌『Revolution』(きただにひろし)を推奨します
この小説には度々、BGMを推奨する事があります
いらないという方は感想なりメッセージで教えて貰えると嬉しいです


 それは唐突で、意外でありえない出会いだったとツナは思った。

 目の前に立つ少女は紛れもなく未来で出会った少女ユニ、未来で見た時よりも少し幼いがユニであるのは間違いと自分の直感が告げていた。

 

「えっと…大丈夫ですか?」

 

「あ!うん大丈夫…ちょっとボーっとしてただけだから…」

 

 差し出しされた手を見つめながら黙るツナにユニと思われる少女は戸惑ったように尋ねると、慌ててツナはユニの手を取り立ち上がった。

 

「良かった、怪我とかは無いみたいですね」

 

「うん、大丈夫みたい、ありがとう」

 

 すぐに立ち上がったツナを見て少女は笑みを浮かべて安堵をした。

手を貸してくれた事に礼を言い、ツナは少女に尋ねようとしたが一瞬躊躇った。

 

(いきなり、君の名前はユニですか?なんて聞いたら絶対に引かれる!明らかに初対面っぽいし…この場合はなんていう?えっとぉ…)

 

「君、何処かで会った事がある?ですか?」

 

「へ?」

 

 目の前にいる少女について確認を取ろうとしたが、ツナはこの世界で自分とユニに面識があるのかという疑問にぶつかり、尋ねようかどうしようか迷っているとまるで自分の考えを読んだかのように目の前にいる少女が話しかけてきた。それには思わず間抜けな声を出すツナ。

 

「確か、ナンパでしたっけ?こういうのは…私のお父さん、いえ兄のような人から知らない男が話す時はだいたいこういうと言っていました

まさか、本当にあるとは驚きでした」

 

「え、あ!違う!俺、ナンパとかそんなんじゃないから!ほら風紀委員だし!腕章あるし!」

 

「ふふ、わかっていますよ…あなたはなんだか安心するというか危なくないって気がしましたから」

 

「ええ!」

 

 戸惑うツナに、少女は少し思い出すような仕草をしてから、教えてくれた相手の口調を真似るように話し手を軽く合わせてからにこやかに言ってきた。

 ナンパ扱いをされ、ツナは慌てて否定をし、風紀委員の腕章を見せたりして自分がそうではないとアピールをした。

 すると少女はクスクスと笑い初めからツナはナンパではないとわかっていたと返した、からかわれていた事にツナは声を上げて必死に弁明していた事を思いだし恥ずかしさのあまり顔を落とした。

 

「おーい!ツナ!なにしてんだ!?置いてくぞー!」

 

「いくぞー!」

 

「あぁもう…先に行ったのはお前らだろうが…ごめん、俺、もう行くから」

 

 店の奥からタイキとミユが戻ってきてツナに呼び掛けてきた。

ツナは深いため息をついてから少女に謝り二人の元へ向かおうとした。

 

「あ、最後に良いですか?」

 

「え、なに?」

 

「もう少しでここは騒がしくなりますよ、ですからあの子達から目を離さないように

それとご自分の選択に自信を持ってください」

 

「それ、どういう「ツナ、おせーぞ!早くしろよー!」ちょっと待ってタイキ、あれ?いない…」

 

 すれ違った時、少女がツナに声をかけた。ツナが振り返ると少女は忠告をするように言葉をかけてきた。

少女の言葉にツナは説明を求めようとしたが、後ろから駆け寄ってきたタイキがツナの腕を引っ張ってきた。

ツナはタイキに待つように言い視線を少女へと向けるが既にそこには少女の姿はなかった。

 

「なー!ツナー!」

 

「わかったから、そんなに引っ張らないでくれって」

 

「早くー!」

 

「はいはい!」

 

 少女を探そうとするが更に腕を引いてくるタイキに仕方なく、探すのを諦めて待っているミユの元へツナは歩き出した。

 立ち去っていくツナ達の後ろ姿を、少女は離れた位置から見ていた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「姫!ここにいたのか」

 

「どうしたの?そんなに慌てて何かあった?」

 

 そんな少女の背後から少し息を切らした男の声が聞こえた。少女は少し笑ってから振り返り、声をかけてきた相手に返した。

 少女の言葉を聞き、黒いスーツ姿に金髪のオールバックの髪型の男はため息をついた。

 

「何かあったじゃないだろ、勝手にいなくなりやがってこれじゃあ何のために俺達がついてるかわからないだろうが!」

 

「仕方ないでしょ?眉間に皺寄せた人達が後ろにいたらみんな警戒して目立っちゃうじゃない、目立つ方が危ないと思うけど?」

 

 男は額に手を当てながら少女を叱りつけるように言うが、少女はまるで聞き慣れていると言わんばかりに返し、そして男に尋ねた。

 

「だからって何も言わずにいなくなる奴があるか!寿命がいくつか縮んだぞ、姫に何かあれば母親であるボスになんて詫びればいいんだよ…」

 

「多分、お母様なら良い経験になったって笑って言うだろうしお詫びなら一発殴れば済むと思うよ?」

 

「本当にやりそうだし、言いそうだ…はぁ…ともかく自由時間は終わりだ、ホテルに戻るぞユニ姫」

 

「わかったわ、そこまでよろしくねγ(ガンマ)」

 

 反省の色が無い少女に、男は勝手にいなくなった事を呆れたように言う。

すると少女は男が心配にしている事について答える。少女の言葉に力なく納得をすれば、男は気を取り直して帰る事を少女、ユニに告げ手を差し出すとユニは男、γの

手を取りにこやか答えた。

 

「どした?やけに素直じゃないか…今度は何を企んでいるんだ?」

 

「企むなんてヒドイよ、疑り深いねγは」

 

「そりゃ疑り深くもなる、数十分前に離れるなよと念を押しておいたのに逃げ出したお転婆姫がいたからな」

 

「それは大変だね」

 

 素直に帰ると答えたユニを見て、γは目を細めて尋ねるとユニは軽くむくれてから答えた。

それに対して前科があるから仕方ないとγが返すとクスクスと笑うユニ。

 

「それでこれからなにが起こる?」

 

「何が?」

 

「姫が好き勝手に動く時はかならず何か起こる前兆だ、こちとら姫が産まれた時からの付き合いだ、理解はしてるからせめて内容くらいは教えてくれ…」

 

「大きな爆発が起こる、かな?」

 

 笑みを浮かべるユニに向けてγは問いかける、急に聞かれて首を傾げて聞き返すユニ。

その上で、γは肩を竦めながらユニの行動の理由は理解していると返した。

 言葉の裏には理解はしているが納得していないという意思を感じとりつつユニは目を閉じてから答えた。

 

「爆発?どのくらいだ?」

 

「フロア一杯にくらいかな…」

 

「そうか、なら早く行くぞ…人が動き出してからじゃ遅い」

 

「止めにいかないの?」

 

 ユニの言葉に詳細を尋ねるγ、それに対してユニは曖昧な返答をするとユニの手を引いてγは歩きだした、手を引かれながらユニはγに問いかける。

 

「悪いが俺は赤の他人より目の前の姫が大事でな、それに本当になんとかして欲しいなら…俺に頼み込んでくる違うか?」

 

「ううん、当たってる」

 

「表に車を止めてある、とりあえず離れるぞ」

 

 ユニの問いかけにγは前を見据えた上で答えると、少し柔らかい口調で尋ねると、ユニは小さく頷いて答えた。

 そしてγはユニを連れてセブンミストを出れば、停めていた車にユニを乗せると運転席に座り車を出した。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

車内

 

「ちなみにだが、誰が止めるんだ?そんな爆発」

 

「爆発はするみたい、だけど人はいなかったから風紀委員が上手く誘導してくれてると思う」

 

「風紀委員?学園都市の学生で構成された自治組織か…子供に何をやらせてんだかな…」

 

 車を走らせながらγはユニに尋ねると、ユニは曖昧な口調で答えた。

ユニの言葉にγは眉を潜め、年端もいかない子供のやることではないと愚痴をこぼした。

 

「それに爆発はするけど、あの人なら大丈夫だと思うの」

 

「あの人?まさか男か!?」

 

「そう、だけど…どうしたの?」

 

 ユニは更に言葉を紡いでγに話していくが、あの人という単語にγはユニを見つけた際に一緒にいたツナの事を思いだし、強い口調で尋ねた。

 γの口調が変わった事にユニは少し戸惑いながら答える。

 

「男は危ないから近づくなって言ってるだろ!なんかあったらどうすんだ!?」

 

「もう、γは心配しすぎまるでドラマの口うるさいお母さんみたいだよ?」

 

「姫の母親が放任しすぎだから、護衛件世話役の俺が口を酸っぱくしているんだ…だいたいなぁ…」

 

 車の運転をしながらもγは心配したような口調で言えば、ユニはまた始まったと言わんばかりに呆れたようにため息をついてからからかうように言えば、実の母親が何も言わないからだと小言を言い出すが、ユニはそれをどこ吹く風というように聞き流しながらセブンスミストで別れたツナの事を考えるのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

セブンスミスト

 

「ふぇっくし!」

 

「ツナ、風邪か?ばっちーな!」

 

「ばっちー、ばっちー」

 

 エスカレーターで上へと登っていたツナは、何故か妙な悪寒を感じて大きくくしゃみをした。

前の階段に立っていたタイキは、嫌そうな顔で言えばミユは笑いながらタイキと同じ事を言い続けた。

 

「これで四階か、後何階だろ…」

 

「俺は屋上だからこのまんまだな!」

 

「ミユは次の階だよ、お服を見にきたの!今度、ママに買ってもらうからシタミにきたんだよ!」

 

 現在の階層を示す表示を見て、ツナが呟くとタイキは自慢するように言い、ミユは胸を張りながらセブンミストに来た目的を話してきた。

 

「そっか、タイキは一人でいけるか?俺は一応ミユを送ってから見回りに戻るんだけど」

 

「大丈夫だっての!ばかにすんなよな!?」

 

「はは、わかったわかった」

 

 ツナはミユの目的を聞き、タイキに向けて服屋まで案内してからの行動を説明する。

優しく聞かれタイキは力一杯に答えると、ツナ笑いながらタイキに答えた。

 

 タイキと別れツナはミユと共に五階のブティックエリアを歩いていく。

 

(周りには女物しか置いて無いからなんか、スッゴい違和感というか場違い感が…)

 

「あ、お兄ちゃん、風紀委員のお姉ちゃんがいるよ!」

 

「え?風紀委員、のお姉ちゃん?」

 

 視界の端に映る衣服などを見てツナは気恥ずかしくなり、速くミユを送り届けようと思った時だった。

ミユが手を引き、ツナに指をさして言ってくる。風紀委員と聞きツナは視線をミユの指先に目を向けるとそこには、パジャマを手にし辺りをしきりに気にする御坂の姿があった。

 

「御坂、なにしてんの?」

 

「っ!?ツナ!?な、なんでここに、見回りの筈じゃなかったの!!」

 

「お姉ちゃん、こんにちはー!」

 

「へっ?」

 

 御坂がフリルのついたパジャマを自分に当てた時に、ツナが声をかけると御坂は明らかにビックリして手にしていたパジャマを隠して上擦った声で聞いてくる。

 恥ずかしそうにしている御坂にツナが申し訳なく思っていると、ミユが元気に挨拶を御坂にしてきた。

いきなりの事に御坂はキョトンとした表情を浮かべた。

 

「あ、もしかしてこの前の子?」

 

「ミユだよー私ね、オシャレがしたくてお服を見にきたの!」

 

 御坂は少女の顔を見て尋ねると、ミユは手を上げて自分の目的を話してきた。

 

「へぇ、そうなんだエライわね、けど今の格好も十分オシャレだからね」

 

「ありがとーお姉ちゃんもお買い物なの?」

 

「え、ああそうね、買い物だよー」

 

 事情を聞いた御坂はミユの頭を撫でてからミユの服装を誉める。

撫でられて喜びながらミユは更に御坂に問いかけると、視線を反らしながら返す御坂。

 誤魔化す御坂にツナは軽く笑いを浮かべる。

 

「ミユ、俺はもう行かなきゃならないんだ、あっちがミユが行きたかった店だよ、良い服が見つかるといいね」

 

「そうなんだ…うん、ありがとうお兄ちゃん!」

 

「もう、行くの?ツナ」

 

「一応、見回りの途中だったからね、御坂がいるって事は初春もいるんだよね

俺を見かけたらせっかく休んでるのに仕事を思い出すかも知れないから」

 

 ツナはミユに目的の店がある方向を指で示すと、ミユは手を振りながら店の方向へと駆け出した。

ミユが離れてから御坂は初春達に会わないのかという意味を込めてツナに問いかける、するとツナは苦笑を浮かべながら答え、初春が安心して休めるように会わずに帰る事を告げた。

 

「そっか、気をつけなさいよ!ツナ!」

 

「いっだ!?…わ、わかったよ…じゃあね」

 

 御坂はツナに言葉に納得をすれば勢い良くツナの背中を叩きエールを送る。

思った以上に強烈な一撃にツナはよろけつつも頷けばエスカレーターへと向かいだした。

 

「確か…ユニ似た娘はここで何か起きるって言っていたな…本当に起きるのか?虚空爆破が…嘘には見えなかった…あの娘にくわしく聞いてみないと!」

 

 エスカレーターで一階を目指しながらツナは少女の言葉を思いだし、確認をする為に少女を探すことを決めた。

しかし、一階へと向かいながらセブンスミストの中を探したが少女の姿はどこにもなかった。

 

「いない…もしかして帰った?まだ近くにいるかもしれない!」

 

 一階までたどり着いたツナは少女がいない事にため息をつき、外へと出て自分の勘を信じて走り出した。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 少女の姿を探し辺りを見渡しながら走っていく、そしてセブンスミストが見えなくなった辺りでツナの携帯が鳴り響いた。

 

『沢田さん!?今、どこにいますの?すぐにセブンスミストに向かってくださいまし!!』

 

「白井さん?いったいどうしたの?」

 

 携帯に出た瞬間、白井の声がツナの耳に突き刺さる。ツナは耳を押さえつつも白井に何が起きたか説明を求めた。

 

『虚空爆破の犯人が何を狙っているかがわかりましたの、いえ正確とは言い難いですがほぼ間違いないと私は思いますの

犯人の目的は風紀委員への攻撃ですわ』

 

「風紀委員を?」

 

『そうですの…事件の被害状況をまとめていた際、被害の規模や威力に関係なく現場に居合わせた風紀委員が負傷していますの…

そして、今新しくセブンスミストにて重力収縮を確認しました』

 

「まさか、犯人の次の狙いは!」

 

『初春ですの、実際に連絡を入れたのですが客を避難させると言って通話を切られました

沢田さん、もしセブンスミストの近くにいるのでしたら初春に逃げるように伝えて欲しいですの』

 

 ツナの言葉に白井は深呼吸をしてから、資料からわかった事を伝えてきた。

そして、今まさに新たな犯行が始まろうとしていることを伝えてきた。場所がセブンスミストである事からツナは気付いたように言えば白井が真剣な言葉で言い、初春がセブンスミストにて避難誘導をしている事を伝えた。

 

「わかった、すぐに向かう!」

 

『お願いしますの、私の位置からでは直ぐには急行できません

今、一番初春に近い位置にいるのは沢田さんしかおりませんの』

 

「任せてくれ!」

 

  ツナは強く頷いてから携帯を切ろうとした時、白井が悲痛な口調でツナに頼み込んできた。

本当なら自分の手でなんとかしたいのだろうという意思を察してツナは強く返してからセブンミストへと戻りだした。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

セブンスミスト前

 

 ツナがセブンスミストの前までたどり着くとそこには多くの人だかりが出来ていた。

その人だかりの中に佐天とタイキの姿をツナは見つけた。

 

「佐天、タイキ!」

 

「ツナさん!?」

 

「ツナ!」

 

「状況は?」

 

 セブンスミストを見守る二人にツナが人を掻き分けながら呼び掛けると、二人はツナの元へ向かってきた。

近くまできた佐天にツナは事情を尋ねる。

 

「白井さんから、虚空爆破の話しが入って初春は御坂さんと店員に掛け合って店の中にいた人を避難させはじめました

あたしは風紀委員と関係無いからってすぐに避難するように言われて、詳しい事はわからないです」

 

「そっか、教えてくれてありがとう佐天…タイキ、ミユは?一緒じゃないのか?」

 

「オレが外に出た時にはいなかった、それを短パンの姉ちゃんに伝えたら姉ちゃん、中に入っちゃって!」

 

 佐天は必死に言葉を整えながら事情を説明していき、最後には絞り出すように伝えるとツナはそれだけでも十分だというように佐天に礼を言えば、ミユの姿が無いことに気付きタイキへ尋ねる。

 するとタイキは混乱しながらもツナに事情を話し御坂が店の中に戻った事を伝えた。

 

「わかった…三人を連れ戻してくる、佐天は店に誰も入らないように見ていてくれないか?」

 

「でも、あたしみたいな普通の学生が言っても意味ないし…」

 

「なら、コレを着ければ良いよ」

 

 タイキの話しを聞き、ツナはセブンスミストを見据えて二人に伝えると他に風紀委員がいない事に気付き事情を知ってる佐天に、店内に入らないように見張っていて欲しいと頼み込む。

 しかし佐天は、自傷するように小さく笑いながらツナに出来ないと伝える。するとツナは腕に着けていた風紀委員の腕章を外して佐天に手渡してきた。

 

「ダメですよ!あたしは風紀委員じゃないし、それに勝手に渡したらツナさんの違反になっちゃいますよ!」

 

「だけど誰かが入るのを止めなきゃならない、それは避難させるのと同じくらい重要だから…それを頼めるのは事情を知ってる佐天しかいないんだ

無茶苦茶を言ってるのはわかってる…けど今、出来る事をするにはこれしかない…頼む、協力してくれ!」

 

「わかりました…お預かりします!」

 

 差し出された腕章を返そうとするが、ツナは佐天に頼む訳を話して、その上で頼み込んできた。

佐天はキツく目を閉じてから、頷き強い口調で返した。応じてくれた事に頷き、ツナはセブンミストへと駆け込んでいく。

 その時に、ツナは人混みの中から離れていく学生が薄く笑っているのを見かけるが、今は初春達の元へ向かうことを優先した。

 

ーーーーーーーーーーー

 

セブンミスト 店内

 

 人がいなくなった店内を見渡しながらツナは初春とミユ、御坂を探した。

一階にいないのを確認してから停止しているエスカレーターを駆けあがっていく。

 二階にあがるが三人の姿は無く、ツナは更に上へと上がった、その時である。

 

「離れて下さい!アレが爆弾です!!」

 

 三階へたどり着いた時、初春の悲痛な声がツナの耳に届く。視線の先にはミユからカエルのぬいぐるみを奪い取りその勢いのまま後方に投げ飛ばす初春の姿があった。

 人形は既に収縮が始まっており初春はミユを抱き締めて自分の身体で守ろうとしていた。そこへ御坂が割り込むように走り込んでくる。

 

ーーー※ーーー

 

(ダメだ、間に合わない!)

 

 御坂が超電磁砲を放とうとしているのがツナには直感的に理解出来たが、それと同時に失敗すると瞬間的に悟った。

ツナはポケットから27と刺繍された毛糸の手袋を着け死ぬ気丸を手に乗せ口に含む。

 その瞬間、ツナは自分の意識がクリアになっていくのを感じ、額に炎が灯り手にはめた手袋が専用武器X 《イクス》グローブへ変化していく。

未来から帰ってきての初めての超死ぬ気モード、だがその余韻を感じる事なくツナは変化したXグローブをVer.V.Rへと切り替え、手に濃いオレンジ色の炎を発しまるでロケットように飛び御坂達の前に立つ。

 

「ナッツ!形態変化(カンビオ・フォルマ)、防御形態(モード・ディフェーザ)!一世のマント(マンテッロ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)!!」

 

 首に下げたアニマルリングへ呼び掛ける、その瞬間、ツナの左手にⅠという刻印が施された装甲が展開しツナの全身を包むマントが出現する。

 そして息着く暇も無く、凄まじい轟音と爆発がツナに襲いかかる。

 

(これが、能力による攻撃…っく!思っている以上に威力がある!)

 

 腕にかかる衝撃にツナは顔を歪ませ、足に力を込めながら右手から薄く炎を放射する。焦って強く放射すれば背後にいる御坂達を巻きこんでしまう。

 ツナは押し寄せる爆発の中で、綱渡りのような行動を取ることなる。

 

(このままじゃ押しきられる…炎が弱いからだ、覚悟が、足りない…)

 

 衝撃によりだんだん左手が押されだすのを感じるツナ。それは単純に能力が強いだけではなく、死ぬ気の炎が弱いのも原因の一つだった。

 最後の死ぬ気丸を使った事による不安が炎を弱めていた。

 

(守らなきゃ、もっと炎を強くしなきゃ!)

 

「何、グチグチ考えてんだ?ダメツナのくせに」

 

 弱い炎を強くしようとツナは強く目を閉じ自分に言い聞かせるように叫ぶ、その時だった。

聞き慣れた声が耳に聞こえ、目を開けるとそこには真っ白な世界が広がっており目の前にはよく知る赤ん坊が立っていた。

 

「リボーン?」

 

「死ぬ気の炎は口先だけじゃ強くはならねぇぞ、それはお前が身をもってわかってる事だろ」

 

「けど…」

 

「死ぬ気丸がなくなったくらいで情けねぇ奴だ、なんのためにその力を使うんだ?仲間を守る為だろ?なら迷ってんじゃねぇ」

 

(ご自分の判断を信じてください)

 

 目の前に立つ赤ん坊に手を伸ばそうとするとリボーンは拳銃を突きつけて、ツナに制止をかけると鋭い視線を向けてきた。

 ツナが言葉を紡ごうとするとリボーンはハッキリとした口調で言い放つ。それと同時にユニらしき少女の言葉を思い出した。厳しいがいつも通りの正論と不思議に後押しをしてくれる言葉にツナは笑みを浮かべ、目を閉じ再び開いた時には再び爆発の炎が視界を包む。

 

「そうだ…守りたい…ミユを、御坂を、初春を!ここで助けらなきゃ、死んでも死にきれない!!」

 

 先程の光景が自分の中で起きたかどうかわからないが、ツナは迷うなというリボーンの言葉から自分の思いを口にする。

 そしてツナの叫びに呼応し額の炎が大きくなり、今まで押されぎみだった状態を押し戻していく。

 

「ぉおおおおおっ!!」

 

 足を大きく踏み込みツナは左手を大きく振るう、その瞬間、爆発にて巻き上がった炎はすべて弾かれ、セブンスミストの外壁を吹き飛ばした。

 

「ツ、ツナ…あんた、いったい」

 

「御坂、二人を頼む…俺は犯人を追う、まだ近くにいるはずだ」

 

 炎を吹き飛ばしたツナに、御坂は戸惑いながら声をかけるとツナは視線だけを御坂に向けて犯人を追跡することを告げた。

 

「それなら、ヘッドホンと眼鏡をかけた奴が爆発したぬいぐるみと同じものを持っていたわ、多分そいつが犯人!」

 

「わかった」

 

 犯人を追うと聞き御坂は、自分が爆発前に見かけた手がかりを思いだしてツナに告げる。

ツナは小さく頷いてからマントを翻して走れば、炎を吹き飛ばした時に空いた穴から外へと飛び出していった。

 その場に残された御坂は、初春とミユがいたことを思いだし二人へ駆け寄り、その安否を確認してから安堵の息をついた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

路地裏

 

「やった、想像以上の破壊力だ…次はもっと大きな爆発を「悪いがそこまでだ」っひ!?誰だ?」

 

 巻き起こった爆発と騒ぎだす野次馬を見て、介旅初矢はその威力にうち震えていた。そして次の計画を練っている最中、背後から声をかけられた。

 誰もいなかった背後に突如現れたツナに介旅は短い悲鳴を上げて後退りをする。

 

「腕章は着けていないが風紀委員だ、今回の爆破、いや学園都市内で起きている虚空爆破事件の容疑者として確保させてもらう」

 

「な、なんの事かな?僕はただ、凄い爆発だったから避難していただけだよ

風紀委員だったら、怪我人を助けにいったらどうだい?」

 

「その心配はいらない、怪我人は出ていないからな」

 

「バカな!僕の最大出力だぞ!そんなのは、ありえな、はっ!?」

 

 警戒をする介旅にツナは射抜くような視線を向けながら介旅に宣言をする。

介旅は、キョドりながら自分は無関係だと答えるがツナは淡々とした口調で負傷者がいないことを話すと、介旅は表情を変えて言い放つ。

 しかしうかつにも風紀委員であるツナの前でしゃべってしまった事に慌てて口を塞ぐ。

 

「わざわざ自白までしてくれるなんて手間が省けた…悪いが後は支部で話してもらう」

 

「はは、誰が風紀委員なんかに!」

 

「っ!」

 

 自分が犯人である事を言った介旅に対してツナは拘束をしようとする。しかし介旅は表情を歪めて笑えばカバンに手を入れスプーンを取り出した。

そして能力によってそのスプーンを爆弾に変えようとした。しかしスプーンが爆弾に変わる前にツナは指先に炎を集中して焼き落とした。

 

「抵抗はするな、手荒な手段を取るつもりはないが…妙な真似をするつもりなら容赦はしない」

 

「ふひひ…やっぱりだ…力を持っている奴らはいつも僕の邪魔をする…こうやって力で押さえてく!

だから僕は力を手にいれて復讐をするんだ、この力でいじめた奴も、見捨てた風紀委員にもわからせてやるんだ!!」

 

「復讐?…その為にミユを利用して初春に近付けたのか?ふざけるな!」

 

 カバンの中に見えるスプーンの束を、見てツナは妙な動きをしないように釘を刺す、すると介旅は尻餅をつき自棄になったかのように言い出した。

まるで自分のしている事が正しいと言わんばかりに言い放つ介旅。

介旅が口にした言葉に対してツナは、拳を握りしめて叩きつけるように叫ぶ。

それ同時に額の炎が消え、いつも通りのツナへと戻った。

 

「自分の目的のために何も知らない子供を利用するなんて間違ってる!そんなの、貴方をいじめてきた奴らより最低だ!命をなんだと思っているんだ!!?」

 

「あ…あぁ…」

 

 尻餅をつく介旅に向けて、ツナはその考えを真っ向から否定し怒りを介旅へとぶつけた。

 超死ぬ気だった時よりも圧のある言葉に介旅は言葉を無くしそのままうつ向いてしまった。

 

 そして、遠くからサイレンが響く音が聞こえ、警備員をつれてきた白井が路地裏にいる介旅とツナを発見した。

介旅の逮捕により学園都市を騒がせていた虚構爆破事件は終了したのであった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

公園

 

 介旅が捕まった事で虚空爆破が終わり、全ての事後処理が終わった時、ツナは御坂に呼び出された。内容は十中八九死ぬ気の炎についてである。

 

「来たわね、ツナ」

 

「そりゃあね…いろいろ聞きたいことがあるんだよね…」

 

 自販機の前でツナを待っていた御坂は神妙な面持ちで待ち構えていた。

ツナは、肩を竦めながらも改めて質問をする。

 

「それもだけど、良いの?虚空爆破を防いだのは私って事になっているわ

初春さんも爆破の衝撃で気を失っていてあの爆発を防いだ事実を知っているのは私だけ…名乗り出たら私も一応証言するわ、だってやってもいない手柄なんて欲しくないからね」

 

「俺は名乗り出ないよ…このまま御坂の手柄にしといてくれないかな?」

 

 苦笑するツナに御坂は虚空爆破の顛末について尋ねてきた。

虚空爆破はその場に居合わせたレベル5の御坂美琴の能力によって爆発から風紀委員二名と子供一名を救われたという事で片付けられ、誰もそれを疑う者はいなかった。

 御坂に尋ねられたツナは苦笑を浮かべながらそのままにしてほしいと答えた。

 

「私が言うのもなんだけど、欲無さすぎじゃない?虚空爆破を解決したって知ればみんながツナを認めてくれるわよ?」

 

「俺は別に誰かに認めてもらいたくて助けた訳じゃないよ、俺が守りたかったから必死にやっただけだからね…」

 

「そう…じゃあ別な質問、あれは何?発火能力だなんて言わないわよね?」

 

 ツナの言葉に御坂は呆れたように肩をすくめながら、名声が手に入ると聞く。

だがそれでもツナはゆっくりと首を振ってから答える。

 御坂は小さく返すとツナの死ぬ気状態について尋ねてきた。

 

「ごめん、それは言えない…」

 

「意外、信用されてなかったんだ…私」

 

「違うよ、でもこれは話しちゃダメな事なんだ…それに…もう使えないんだ能力…」

 

 能力について聞かれたツナは顔を伏せて話せないと返した。

ツナの性格やこれまでの付き合いから話して貰えると考えていた御坂は意外な返答に残念そうに呟いた。

信用していないかについてツナは首を振り答えると、死ぬ気丸がなくなった事を簡単にだが答えた。

 

「だから、って訳じゃないけど…心配しないで、俺は犯人のようにレベルが書庫と合わないとも関係は無いよ、もちろん、初春達に危害なんて加えるつもりは無いから」

 

「っ!?な、んで…」

 

「それじゃあ、俺もう帰るね、また今度!」

 

 ツナは言い淀みながらも御坂を見て、言葉を紡いでいく。

その言葉に息を飲む御坂、そしてツナは話を切るように御坂に別れをし離れていく。

 残された御坂は一息ついてから、自販機によりかかったツナの言葉は自分の中で僅かに考えていた不安だった、それを言い当てられた上で否定された。

 どうしてツナが自分の考えを言い当てられたか理解出来ず、その問いに答える者はなかった。




次回予告

佐天「虚空爆破が解決して良かったね、初春!」

初春「そうですね、ただツナさんが元気が無いみたいなんですよ」

佐天「あ、それわかる!なんか暗い顔というか苦しい顔というか」

初春「何があったんでしょうか?事件解決のお祝いに苺おでんをプレゼントしたんですけど…」

佐天「うん、それが原因だね」

初春「え?」佐天「え?」

佐天「とりあえず!次回とあるマフィアの平行移動、第8話!嵐と雨がくる、お楽しみ!」

初春「今度は、冷やした苺おでんを渡してみますね」

佐天「あたし的には違うと思うな、それ…」


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第8話a:嵐と雨がくる

20000UA記念を企画してた作者です
今、確認したらUAが爆上がりしてました…どうしよ
一応、アンケートを出しとくので良かったら回答お願いします
ちなみに記念は第8話終了してからとりかかります


柵川中学校

 

 超能力を扱う事において必要な要素『自分だけの現実』についての座学が行われていた。

教師が壇上にて説明をしていく最中、佐天は退屈そうにしながら目の前の席を見つめる。

 そこには本来なら真面目に授業を受ける初春の姿があるのだが数日前からその席には誰もついていなかった。

初春は夏風邪を引き、しばらく学校には来ていなかった。連絡はとっているが、まだ熱が引かないとの事であった。

 

(あれ?ツナさんだ…体育の授業かな…)

 

 初春の事を考えつつ、佐天はグラウンドの方に目を向けるとそこにはサッカーの試合をしている学生がいることに気づく。そしてその中に見知った人物がいるのを見つけた。

 味方からパスを受けてドリブルをすればすぐに取られ、ボールを蹴ろうとすれば、空振り挙げ句の果てには顔面でボールを受けたりと運動でのダメっぷりをさらすツナ。

醜態をさらすツナを周りのクラスメイトは笑っており、佐天の教室にいる生徒も数人が小さく笑っていた。

 この学校に通う大半の生徒はツナが、勉強も運動も出来ないのを知ってる、しかも最近では能力が使えないという噂も広まりだしていた。

 

(けど、それだけじゃないんだよな…誰かの為に必死になれるし、後は人の事良く見てるっていうか…良いとこあるし…ダメじゃないと思うんだけどな…この前のアレも多分、あたしの事を気遣ったからだと思うし)

 

 嘲笑を耳にしながら佐天は、ふてくされたようにしながらツナについて考える。

そして、虚構爆破の際に腕章を貸してくれた事を思い出した。

 恐らく予測ではあるがツナは佐天が何か力になりたいと言っていたのを叶えたくて渡してくれたのだと考えていた。

 

(あの時は、特に何かが出来た訳じゃなかった…けど頼って貰えたのは嬉しかったな…)

 

 事件の事を思い出し、佐天はその際に言われたツナの言葉に小さく笑みを浮かべた。

しかし、それで佐天の望みが叶った訳ではなかった、自分が求めているのは能力が使えるようになる事である。

 

「理屈を教えるんじゃなくて手っ取り早く能力を使える方法を教えて欲しいな…」

 

 教師が話す言葉を聞き流しながら佐天は愚痴るように呟くのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

柵川中学校 校門

 

「今日は一旦支部に行ってからだな…それにしても嫌になるくらい日差しがキツイや…」

 

「ツーナさん!良かったら途中まで一緒に行きません?」

 

「いつ!?佐天…いいけど初春の所には行かなくてもいいの?」

 

 授業を終えたツナは昇降口から出ると照りつける日差しに目を細めながら呟く。

そこへ、佐天が元気よく背中を叩いて声をかけてきた。ジンジンと痛む背中を押さえながらツナは佐天に尋ねた。

 初春がここ数日休むという話は聞いていたし、佐天が毎日お見舞いに行っているのも知っていた。

 

「今日は初春の代わりに解熱剤を取りに行くので、その後からいきます

どうです?汗だくの初春を堪能しに行くというのは…」

 

「いやいや!そんな姿見られたくないだろうから遠慮しとく!それに最近の事件を考えると見回りを強化したくてさ」

 

「虚空爆破は終わりましたよね?まだ続いているんですか?」

 

 佐天は笑みを浮かべながら声を潜めてツナに尋ねてくる、一瞬だが汗だくの初春を想像し、慌てて振り払うように断るツナ。そして咳払いをして話題を変えるように話し出した。

 事件と聞いて、佐天は不思議そうに首を傾げて尋ねる。

 

「虚空爆破は解決したんだ、けど書庫に登録されている以上の力を発揮している能力が多くなって来ているんだ

…何て言うか、急にレベルがあがってるみたいな」

 

「それって…レベルアッパー、なんじゃないですか?確か都市伝説で噂になってて使えば簡単にレベルが上がったり、無能力者でも能力が使えるようになったりって話です」

 

「レベルアッパーか…かなり眉唾だけど、こんなにレベルが上がったりしてるなら本当にあるのかな…」

 

 ツナは最近、風紀委員に報告されている事件の中でおかしな点を佐天に話した。

急にレベルが上がる能力者がいると聞き、佐天は指を立てて話し出す。

 レベルアッパーという名前とその効力について、ツナは首をかしげる。

 

「レベルアッパーがあれば、ですよ…あたしやツナさんも能力が使えるようになるのかも知れませんね」

 

「そうかな?なんか話が上手すぎて俺は信じられないよ…本当にレベルアッパーっていうのがあれば学園都市の生徒の大半がレベル0なんてならない気がするんだよな…」

 

 レベルアッパーについて佐天は、同意を求めるようにツナへ尋ねてきた。

意見に賛同して欲しいという表情を浮かべている佐天に、ツナは疑問を口にして答えた。

 能力が使えるかもしれないというチャンスに乗り気ではないツナに、佐天は不服そうにしながら言葉をかけようとした。

 するとツナの携帯が急に鳴り出した。

 

「はい、沢田です」

 

『固法よ、沢田くんに少し頼みたい事があるんだけど良いかしら?』

 

「なんでしょうか?」

 

 佐天から軽く離れてツナは携帯をとる。電話をかけてきたのは固法であり、彼女はツナに用事があると言ってきた。

 固法が自分に頼むとしたら雑務か何かだろうと思い、ツナは話を聞く事にしたがすぐに後悔する事となった。

 

「不良の取引現場を検挙!?俺、一人で!!?」

 

『検挙といってもあらかじめ予測していた場所にいるかを確認してから、警備員に連絡するだけよ

なにも沢田くん一人で取り押さえろとは言っていないわ』

 

「そうですか、わかりました…じゃあ取引現場のポイントを教えて貰えますか?」

 

『わかったわ、それじゃあ沢田くんの携帯に送るから確認して』

 

 固法から聞かされた内容にツナは思わず声をあげた。すると、固法から警備員が突入する場所の下見だと告げて危険は無いことを教えてきた。

 危なくないという固法の言葉を信じてツナは取引現場に向かう事を伝える。

すると固法の言葉と共に携帯に通知が入った。ツナは電話を切りポイントの場所を確認した。

 

「ツナさん、なんだか危なそうな話じゃありません?」

 

「うん、けど固法先輩は心配ないって言ってたし…心配ないと思うよ!

佐天は初春の所に薬を届けて上げて、それじゃあ行ってくる」

 

 話が聞こえていた佐天は恐る恐る尋ねてきた。ツナは若干無理をしながら元気良く返してから、佐天と別れて指定されたポイントに向かう事にした。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

学園都市 第十一学区 倉庫街

 

 そこは学園都市の外周にある倉庫がかたまっているエリアだった。

死角の多いエリアで学生があまり立ち寄らない場所であった。何かを取引をするにはうってつけで隠れたりするには最適の場所だったのだが…

 

(いきなり、見つかって捕まったし!?)

 

「これはこれは、風紀委員がこんな場所に何かようかな?」

 

 ツナは倉庫街に入ってすぐに近くを見張っていた不良に見つかり、連絡する暇もなく捕まっていた。

周りには数人の不良がおり、ツナを逃がさないように取り囲んでいた。

 

「まさか、取引がバレてたなんてな…せっかく例のモンを買って俺らも良い思いが出来ると思ったんだがな」

 

「まぁまぁ、アレを手にいれても実際に使いこなせなきゃ意味がない、風紀委員くんには是非実験台になってもらわねぇとな!はっはっは」

 

(なんか、すごくヤバい感じがするのは間違いない…ついでに俺の命も!!)

 

 ツナの肩へ手を乗せながら不良は、笑いながら話をしていく。

ツナは身の危険を感じながらポケットに入っているXグローブに手を伸ばすが、死ぬ気丸が無くなった事を思い出して諦める。

 

(なんとか、逃げ出さなきゃ!なんとか)

 

「なんだ、お前ら…ずいぶんと速いじゃねぇか」

 

「「「チースッ!!獄寺さん!!!」」」

 

「えっ!?獄寺くん!?」

 

 隙を伺いながらツナは逃げる算段を立てていた時、聞きなれた声が不良達の背後から聞こえてきた。

 その瞬間、それぞれに過ごしていた不良達が姿勢を正して丁寧に挨拶をした。

 不良の間から現れたのは元の世界で、自分の右腕を自称しツナを慕っていた獄寺 隼人だった。

不良を率いる雰囲気は、かつてツナが獄寺と初めて会った時を思わせる刺々しい雰囲気に溢れていた。

 名前を呼ばれた獄寺は取り巻きに、タバコを持たせ火を点けさせればツカツカとツナへ寄り髪を無造作に掴んだ。

 

「気安く呼んでんじゃねぇよ、クソ風紀委員が…」

 

「いだだ!?」

 

「ったく、てめぇらもだ!せっかくアレを流すのに苦労したのに関わらず、風紀委員なんぞに嗅ぎ付けられやがって!!」

 

「「「す、すいません!!!」」」

 

 いつも自分を慕ってくれていた雰囲気など全く感じさせないくらいにドスの効いた口調で、ツナを脅す獄寺。

 ツナの髪を掴みながら後ろに控えていた、不良に向けて怒鳴り散らすと不良達は必死に頭を下げて謝ってきた。

 

「取引は無しだ、警備員がここに向かってきてるそうだからな…」

 

「獄寺さん、コイツはどうします?」

 

「ハン、オレらの取引を邪魔したからな…警備員が来るまでサンドバッグにでもなって貰うさ」

 

「ひぃ!?」

 

 獄寺はポケットから携帯を取り出して内容を確認すればそのまま携帯を地面に叩きつけて破壊し、警備員が来ている事を不良に伝えた。

 警備員が来ると聞き、不良の一人がツナをさして尋ねてくる、獄寺は鼻で笑ってからツナの胸ぐらを掴み拳を握りしめた。

獄寺の拳には多くの指輪がついており殴られれば只ではすまなかった、ツナは痛みに恐怖し短い悲鳴を上げて目を閉じた時だった。次の瞬間、少し間の抜けた音が鳴り響き獄寺が煙に包まれた。

 

「げほげほ!獄寺さん!?大丈夫っすか?」

 

「これってまさか…」

 

「十代、目?」

 

 巻き起こった煙は獄寺だけではなく、ツナと取り巻きまで包み込んだ。

取り巻きが咳込みながら離れ獄寺に声をかける、ツナはその煙に見覚えがあり目を凝らすと自分の胸ぐらを掴んでいた獄寺が聞きなれた言葉を口にした。

 

「獄寺くん?」

 

「十代目~!!お会いししたかったですー!?」

 

「「「「ぇええええっ!?!?」」」」

 

 キョトンとしている獄寺にツナが声をかけると、獄寺は涙を貯めてツナへと抱きついてきた。

この行動に、不良とツナは声を揃えて驚きの声をあげた。

 

「ちょ!獄寺さん、何をやってんすか!?」

 

「今からそいつをシメるんでしょ!?てか十代目ってなに?」

 

「あぁ?誰が誰をシメるって…つうか誰だ?お前ら…」

 

(あ、この感じ…やっぱり獄寺くんだ)

 

 ツナに抱きつく獄寺に取り巻きや不良達は声をかける、しかしその言葉にドスの効いた声で答える獄寺。

その態度の変化にツナは自分の世界の獄寺であると確信し、冷や汗を流した。

 

「こちとら«数週間ぶり»に十代目と再会出来たんだ、邪魔すんじゃねぇよ!」

 

「何を言ってんだ?獄寺さん!あんたはオレらのリーダーだろ!」

 

「はぁ?オレはこのお方、ボンゴレ十代目、沢田綱吉の守護者にして右腕の獄寺隼人だ

十代目の手前、見逃してやる!とっとと失せろ!!」

 

「だ、ダイナマイトだ!?逃げろ!!!」

 

 獄寺は威嚇をするように不良を睨み付ける、突き刺すような眼光に後退りをするが、獄寺に目を覚まして貰おうと呼び掛けるが獄寺は自分の役目と立場を話した上で、暴力を嫌うツナの意見を尊重して得物であるダイナマイトを見せつけながら吼えるように叫ぶ。

 爆弾を目にして不良達はまるで蜘蛛の子を散らすように逃げだし、その場にはツナと獄寺のみが残った。

 

「十代目、ご無事で何よりです!」

 

「う、うん…久しぶりだね、獄寺くん」

 

「えぇ、三週間の間、心配で寝るに寝られませんでしたよ」

 

「そんな大袈裟な…って三週間!?俺がここに来てから1ヶ月半は経過してるよ!?」

 

 不良がいなくなった事で獄寺は再び笑顔をツナに向けて言う。態度の急激な変化にツナは冷や汗を流しながら懐かしい気分で声をかけた。

 すると獄寺は胸を撫で下ろすように離れていた時間を口にして答えた。夜も眠れなかったという獄寺にツナは苦笑を浮かべ、そしてふと気がついた事を口にした。

 ツナが学園都市に来てからと獄寺の言う時間が大きくズレていたからだ。

 

「なるほど、リボーンさんの予想は合っていたようですね…」

 

「リボーンの?それってどういう意味なの?」

 

「えぇ、それは…?なんかこっちに来るみたいですね…」

 

「あ!警備員が来るのを忘れてた!!獄寺くん!まずは場所を変えよう!」

 

 時間がズレているという状態に獄寺は慌てる事なく、納得したように呟く。

自分の家庭教師の名前が出てきた事にツナは問いかけると遠くの方からサイレンが聞こえてきた。

 不良に捕まった事と獄寺が不意に現れた事で忘れていた事を思い出したツナは、獄寺を案内して倉庫街からの脱出を行うのだった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

第二二学区

 

 ツナは獄寺を連れて第十八学区を抜けて第二二学区へと入り、そのまま地下へと入った。

第二二学区は学園都市の学区の中では一番狭いが、その分地下街が充実している学区だった。

 

「とりあえずここまで逃げれば大丈夫かな…」

 

「ありがとうございます、十代目しっかしここは凄いですね…最先端科学の街ってのは本当みたいですね」

 

 息を切らしながらツナは追手がかかっていないかを確認しながら携帯にて固法へ適当に言い訳をして仕事を終えた事にして、見回りへ入る事を伝えた。

 移動する過程でツナから少しずつ学園都市の事を教えて貰っていた獄寺は目の前に広がる地下施設を見て納得したように呟く。

 

「獄寺くん、教えて貰えるかな?いろいろ…」

 

「そうですね、わかりました

それじゃあまず十代目がなぜこの世界に移動したかを説明しますね。

事の発端はジャンニーニの改造でしたが、その改造は実に単純な物だったんです」

 

「単純?」

 

 周りに人がいないのを確認してから、ツナは獄寺に説明を求めた。

道端で世界がどうとかマフィアがどうとか聞かれては頭がおかしいと思われるからだ。

 獄寺はツナの言葉に頷いてから、話を初めツナは相槌をうち始めた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

side:獄寺

 

 本来の十年バズーカは未来と使用した現代の人間を入れ替える物です。

ジャンニーニが施した改造はベクトルの転換、力の方向を変えたんです。

それによって本来は縦の時間軸しか移動する事しか出来ない十年バズーカが横、平行世界に行けるようになりました。

 

 十代目も気付きましたか、今のオレ達はあの白蘭と同じ事をやっているんです。

まぁオレ達はヤローのように好きに平行世界の自分と記憶や情報を共有する事は出来ませんけど…。

とりあえず、ここは数多くあるifの世界、平行世界なんです。

 

 平行世界について説明しますか?わかりました、まぁ簡単に言えばもしもの世界です、例えば、俺が産まれた時から十代目の右腕として活躍してたら、とか十代目がいきなりボンゴレ十代目に認定されているとか、そういうのですよ。

?どうしました?ああ、数多くの平行世界の中でなんでこの世界なのか…ですね…。

 これは、リボーンさんからの話なんで確認なんですが…十代目、転移する直前に十年バズーカにこう言ったんじゃありませんか?マフィアのボスにはならないと…。

 

 そうですか、いえ責めてる訳じゃないんです。ただその言葉がここに転移するきっかけになったんです。ジャンニーニはいらん機能として行き先を音声入力で指定するようにしていたんです…。

その結果、十代目はこの学園都市という場所に転移したんでしょう。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「まさか、俺が言った言葉できまっちゃうなんてな…あ、獄寺くん!俺がこの世界から戻れない原因てわかるかな?」

 

「それも一応ですが仮説が出来ています…ちょっと分かりにくいんで図で説明しますね」

 

(スケッチブックが出てきた!?)

 

 獄寺からの説明を受けてツナは自分の言葉から始まった状況にため息をつき、そして自分がまだこの世界に留まっている訳を尋ねた。

 すると獄寺は考え込むような仕草をしてから背中から小さめのスケッチブックを取り出した。

 いきなりスケッチブックを出した事にツナは驚きつつもその説明を待った。

 

「本来の十年バズーカならこういう風に縦の動きが出来るんですが、横の動きになると出来なくなるんです」

 

「え、けど俺や獄寺くんはここにいるよ?」

 

 獄寺は丸と矢印で十年バズーカの動きを説明するが、平行世界への移動に対して×をつけて不可能だということを告げた。

 しかしそれでは自分達がちゃんと転移をしてきたと答える。

 

「十年バズーカで時間移動が出来たのはその世界が同じ世界だからなんです。

けれど、平行世界になると話は代わります次元の壁というのが存在して大抵の物はそこを通り抜けることは出来ないんです」

 

「次元の壁…大抵って言ってたけど、もしかして転移が出来た俺ってそれから外れていたりするよね?」

 

「流石、十代目!そこを理解するとは!」

 

(俺としては合っていて欲しくなかったよ!?)

 

 獄寺は縦の時間を表現した所を大きく丸で囲い、横に書いた丸の間に壁のような物を描いて説明をした。

大抵と聞いて、ツナは確認をとるように尋ねると獄寺はにこやかに笑いながら答え、違っていて欲しかったと肩を落とすツナ。

 

「オレ達が移動出来た原因、それはコレです」

 

「オリジナルのボンゴレリング?これが…次元の壁を越えた理由?」

 

「横の時間軸を表すマーレリングと同等の性能面を持つボンゴレリング、恐らくですけどこれを所持をしていた、それがオレ達が転移できた理由です」

 

「え!それだけ!?じゃあ…ボンゴレリングを持ってなかったらどうなってた訳?」

 

 獄寺は自分の指にはめた嵐のボンゴレリングを示した。ツナは自分の首のチェーンにかけたボンゴレリングに目を向けて呟く。

 ボンゴレリングの有無が転移できた理由だと聞かされ、ツナはもしも持っていない場合の事を考えて、ゾッとした。

 

「アルコバレーノのヴェルデがトゥリニセッテが起こすのは解明出来ていないと言っていました…だから詳しくはわからないとしか言えないです。

転移しなかった、そんときは多少の怪我をするくらいでしたね」

 

「そんな軽く言わないでよ!?けど…ボンゴレリングを持っていないこの世界の俺や獄寺くんってまさか死んでないよね?」

 

 理由が簡単な事に対して、獄寺は未来から帰る際に言っていた事を口にすればリングがなかった場合について答えた。

 怪我するだけだったと聞きツナは驚きながら、ふと気がついた事を恐る恐る口にする。

 

「こればかりはハッキリとは言えませんが…同じ人間は一つの世界には存在できないと言われています。

おそらく、次元の壁を越える事が出来ずに世界と世界の隙間にいるのだと思います…。

ただ十代目が戻る事が出来れば、この世界に戻ってくると思われます」

 

「そう、かな…うん、そうだと良いね…」

 

「大丈夫です!リボーンさんが現代のスパナや入江の奴を呼び掛けて、オレ達をこの世界から引き上げる為の装置を作ってます!だからオレ達はオレ達で出来る事をやりましょう!」

 

 獄寺は推測としてこの世界のツナ達について語ると、その解決を方法を提示する。

自分達のせいでこの世界の自分達に迷惑をかけている事を気に病むツナ。

 すると獄寺は、戻る為の方法があると言ってきた。

 

「入江さんやスパナが!?そうなんだ、けど俺たちに出来る事なんて…」

 

「ありますよ!死ぬ気の炎です!俺がこの世界に来れたのも十代目の死ぬ気の炎を感知したからなんです!だからより強い死ぬ気の炎を出せば、帰る為の足掛かりになるんです」

 

「そうなんだ…あ、ごめん、獄寺くん…俺、死ぬ気丸がなくなったんだ…。

だから、死ぬ気の炎を強く出す事が出来くなって…」

 

 未来で力を貸してくれた技術者達の話が出て、ツナは喜ぶが自分に何か出来るのかと考える。

すると獄寺は、拳を握り締めて帰る為に死ぬ気の炎が必要だと話した。

 強い炎と聞いて虚構爆破を防いだ時の事を思い出す。しかし、ツナは自分が死ぬ気丸を使い果たし、もう超死ぬ気モードにはなれないと話す。

 

「それについても心配いりません!リボーンさんからコイツを渡すように言われました」

 

(ボックス)?けど現代に匣はなかった筈じゃ…」

 

「実は十代目がいなくなった後、ヴェルデから未来での知識を活用して作ったとリボーンさんの所に空の匣が送られてきたんです。

リボーンさんはモルモット役を押し付けられたと言ってました」

 

(やっぱり、ロクな事しないな…ヴェルデって!)

 

 死ぬ気丸が無いと聞き、獄寺はポケットから黄色い箱を取り出して渡してきた。

未来で見かけた匣を受け取り、ツナはまだ現代ではなかったのではと尋ねると獄寺は入手した経緯を話す。

 モルモット扱いされてツナは以前、ボンゴレ匣や継承の際にヴェルデにされた事を思い出す。

 

「あれ?ねぇ、これって何の属性なの?リボーンが渡してきたって言ってたけど。

匣はその対応した属性じゃなきゃ力は発揮しないよ」

 

「属性は晴れです、リボーンさんは晴れのアルコバレーノですからね。

ただ心配はいりません!十代目の大空属性なら全ての匣を開けられます!それにその中身は十代目じゃなきゃ使えない代物なんです」

 

「えぇ、なんか不安になってきた…」

 

 匣を眺めて、ツナは匣の属性について尋ね、匣の開け方についても口にした。

獄寺は、属性について教えた上でツナが開けるべき匣だと言ってきた。

 自分でないといけないと言われ、ツナはビクつきながらリングを着けて炎を灯しを匣へと押し当てて炎を注入する。

そして軽い音と共に匣が開き、ツナの手に匣の中身が飛んできた。それは死ぬ気丸のケースと同じ形をしているが細部に多少の違いがあるケースでその中にはオレンジ色のタブレットが入っていた。

 

「これって…」

 

「死ぬ気丸のタブレットタイプです、リボーンさんが多分、十代目は死ぬ気丸を使いきっているだろうと言って持たせてくれました

ただ、通常の死ぬ気丸と違って飲み込むんじゃなくて噛み砕いて使用するようにと言ってました」

 

「なんで、そんな手間を…」

 

「なんかマンネリになるから変えてみたそうです、それとそのケースは死ぬ気の炎を注入すると新しい死ぬ気丸を生成する機能があるんです」

 

 ケースを眺めているツナに、獄寺はリボーンが新しく作ったアイテムだと説明した。

何故か仕様変更されている事に対して文句を呟き、獄寺は苦笑をしながらケースに付けられた機能の説明をした。

 

「そうなんだ、助かるよありがとう獄寺くん」

 

「いえ、礼には及びませんよ!あっ…」

 

 新しい死ぬ気丸を手に入れたツナは、渡してくれた獄寺に心から礼を言う。戦う事は嫌だが虚構爆破のような事が起こるかもしれない状態なら必要になる力だからだ。

 礼を言われ獄寺は照れるように笑みを浮かべると、腹の虫が大きな音がなった。

 

「すみません、安心したら腹が減ってきました」

 

「それじゃあ、ファミレスにいこうか、案内するよ」

 

「お願いします!」

 

 獄寺は腹を押さえながら笑って話してきた。それなら一緒に夕食を食べにいこうと獄寺に誘う事にした。

久しぶりに一緒に食事が出来る事を喜びを現しツナは獄寺を連れて第七学区にあるファミレスに向かう事にした。

 

 



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第8話b:嵐と雨がくる

ようやく復活しました
アンケートですが、締め切りとさせてもらいます185人も回答頂き誠にありがとうございます
アンケート結果を踏まえて、記念小説に取りかかります



第七学区 ファミレス

 

「ご馳走さまでした!十代目!」

 

「ホント良く食べてたね…獄寺くん、大丈夫?」

 

 食器を下げられた卓上を前に獄寺は手を合わせて言う。獄寺が食べた量を見てツナは苦笑を浮かべた。

 

「後は野球バカと合流してですね、オレが来れたって事はアイツも来てる筈ですから」

 

「山本も!?そうなんだ、他の皆は?」

 

「こちらに転移をしたのはオレと野球バカだけです

恥ずかしながら、他の守護者に連絡を取ったのですが…雲雀は興味がない、芝生頭は部活の一環で山籠り、アホ牛は文字通り使えなかったので外しました

まぁ意外にクロームの奴が駆け付けたのは意外でしたけど」

 

「クロームが!?なんか嬉しいな…力を貸して貰えるなんて」

 

 食べ終えた獄寺は、一緒に来た人物について話してきた。七人の守護者の一人で親友の山本が来ている事にツナは安堵の息を付けば、他に誰か来ているのかを尋ねる。

 獄寺は転移をした数を話し、転移が可能な守護者達が軒並み来なかった事に肩を落として言えば、自分達以外で連絡のついた人物について口に出した。

自身の守護者の一人で、物静かな少女が来てくれた事にツナは驚きの声を上げる。そして、あまり自分達と関わりが少ないのに来てくれた事に嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「まぁ、街中で笹川とアホ女たちと一緒にいるとこを捕まえたんですけど、事情を話したらなんとかなりました!」

 

「それ、拉致だよね!?しかもそれだと京子ちゃんやハルにもバレてるよね!?それ!」

 

「すみません、十代目…けど笹川達は十代目がいない事に気付いていたっす

まぁ未来での出来事の直後だから当然なんですけどね、クロームも二人から頼まれて了解してくれました」

 

 クロームを見つけた時の経緯を聞きツナは思わずツッコミを入れる。更に守護者でない二人にも知れてしまった事にツナは動揺を浮かべた。

 すると獄寺は頭を下げた上で、二人がツナが行方不明である事を察していると二人がクロームに助力の交渉をした事を話した。

 

「そうなんだ、ちゃんと帰らなきゃね…皆に心配させっぱなしじゃ悪いから」

 

「はい!俺も出来るだけ力を貸します!後、山本もいますし」

 

「あはは、あれ?獄寺くん達がこっちに来たんなら向こうにいるクロームは何をしているの?」

 

 皆が協力してくれているのを知りツナは決意を新たにして言う。

獄寺もその言葉に同意をすれば胸を叩いて応え、そしてとって付け加えてきた。

 ツナは笑いながら、ふと気付いた事を口にした。

 

「アイツには十代目がいなくなったのを隠してもらう為に代わりのヤツに幻術をかけて誤魔化してます」

 

「代わりの、ヤツ?」

 

「跳ね馬です」

 

「ディーノさん!?なんでディーノさんなの!!」

 

 クロームの役目について獄寺は話していく。誰かが自分の代わりに学校に言っているのだなとツナは考えたが、獄寺が代理の人間の名前を出した途端、ツナは驚きの声を上げた。

 年の近い人間かと思っていたのに自分の兄貴分が学校に通っているとは思わなかったからだ

 

「リボーンさんが、十代目の代わりは跳ね馬しかいないと言っていたので、まぁ同じマフィアのボスだからだと思いますけどね」

 

(いや…それって、部下をつけないとディーノさんのドジが多くなるから俺の代役に選ばれたんじゃ…)

 

 ディーノが選ばれた理由を獄寺が予想を交えて説明していく、しかしツナは選ばれた理由をなんとなく察して黙っておく事にした。

 

「そういえば、獄寺くん、ちょっと聞いておきたい事があるんだけど良いかな?」

 

「なんです?」

 

「こっちの世界と俺達の世界の時間がズレている事について聞き忘れていたんだけど、確かリボーンの予想通りって言っていたし」

 

「リボーンさんの話によればアルコバレーノが時間を修復した弊害だと言っていました

白蘭が支配した八兆の平行世界、これらを一気に直したから世界毎に時間の流れがバラバラになったんじゃないかという事です

けど、それらは一定の物で時間をかければいずれ世界の時間は均一になるとも言ってました」

 

 ツナはふと気になった事があり、獄寺に世界の時間が一緒ではない理由を尋ねる。

獄寺は身振り手振りで、時間の流れが違う理由を説明した。

 

「そっか、それならまずは炎を強く出す事を優先しないとね」

 

「はい!俺もお手伝いします!それで、十代目…死ぬ気の炎を使った時の状況を教えて欲しいんです」

 

 いつか時間の流れが戻るという獄寺の言葉に頷き、ツナは今、自分がしなければならない事を口にした。

 今後の方針に獄寺も同意を示せば、ツナに質問をしてきた。

ツナは自分が学園都市で風紀委員に所属している事、学園都市の大半が学生で超能力が使えるという事、そして能力を使って騒動を起こしている事を話した。

 

「なるほど、雲雀みたいな事をしているんですね…こっちの十代目は…」

 

「まぁ、そうだね…さすがに雲雀さんみたく武装はしてないけど…

それとさ、獄寺くん…死ぬ気の炎についてなんだけどやっぱり隠してた方が良いかな?」

 

 獄寺はメモを取りながら、ワクワクと楽しみながら呟く。視線を反らしながら自分の中学校にいる風紀委員長の事を思いだして苦笑を浮かべる。そして恐る恐る獄寺へと尋ねた。

 

「オレとしては黙っていた方が良いですね、死ぬ気の炎を悪用されないとは言い切れませんから

勿論、十代目が認めている相手にそういう奴らがいないっていうのはわかりますけど!」

 

「そう、だよね…ごめん…出来れば友達に隠し事はしたくないって思ったんだけど、何かあってからじゃ遅いもんね…」

 

「十代目…よし!」

 

 ツナの問いかけに、獄寺は真摯に答えるとツナは複雑な気持ちを押し殺しつつも世界のためだと納得をする。寂しげに笑うツナに、決意を固めて頷く獄寺。

 

「十代目の状況を考えればオレもその風紀委員に参加するべきですね!」

 

「え!?でも風紀委員には正式な手続きと長期間の訓練があるし、もし風紀委員になれたとしても同じ支部には所属されないかもしれないし…」(何より獄寺くん、絶対に風紀委員の人達と意見が合わない気がする)

 

 学園都市で行動する以上、右腕としてツナの側にいるだけでなく一緒に死ぬ気の炎を隠しつつ事件を解決していこうと考え獄寺は風紀委員に入ることを宣言する。

 だが、それに対してツナは待ったをかける、本心としては別の事を考えているが風紀委員になった時のリスクを口にしていった。

 

「う、十代目がそう言うのでしたら…諦めますけど…やっぱり危険に隣り合わせの状況に十代目を置いておくのは我慢できません!」

 

「獄寺くん…それなら協力者って事でどうかな?会議とかには参加できないけど、聞き込みとか外に出る作業は出来ると思うんだ」

 

「十代目…ありがとうございます!」

 

 ツナに反対され、獄寺は渋々頷くがどうしても心配だと言い食い下がる。

さすがに自分を心配する声を無視する訳にもいかず、ツナは妥協案を提示してきた。ツナからの案に感動を浮かべつつ獄寺は頭を下げて礼を言う。

 

「とりあえず今日は厳しいから…頼むのは明日にするとして、今日は俺の家に行こうか

狭いけど、二人くらいなら大丈夫な筈だから…」

 

「うっす!それなら家の事はオレがやります!ついでに背中も流します!!」

 

「いやそこまでは良いよ…」

 

 ツナはファミレスの時計に目を向けて時間を確認してから獄寺に寝所を提供する。

今日の寝床はホテルかどこかにしようとしていた獄寺はその提案に歓喜して家事を任せるように迫ってきたが、ツナはそれをげんなりしながら断り、二人はファミレスを後にしてマンションへと向かった。

 その際、ツナの頭には獄寺を協力者にするに対して一番の障害について考えていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

第177支部

 

「却下ですの!」

 

 一晩明けてツナは獄寺を連れて風紀委員の支部へときていた。そこには風邪から復帰したばかりの初春といつものように遊びに来ていた佐天と御坂の姿もあり、そしてある意味、協力者の許可を貰う為にもラスボスと呼べる存在の白井がいた。

 そして、白井は用件を告げた瞬間、バッサリと言いはなった。

 

(うわぁ、わかってたけどやっぱりかぁ…)「白井さん、なにもそんなハッキリ「言っておきますが、別に沢田さんの意見をまるっきり否定はしておりませんの」…え?」

 

「確かに風紀委員では、昨今の書庫に登録されていない能力者への対処が足りず被害が増えているのも事実ですの

しかし人員の不足、それを外部の人間に任せては我々の面目は立ちませんの!」

 

「面目もわかるけどよ、デカイ被害が出てからじゃあ遅いだろうが、だったら部外者でもなんでも使って見せろってんだ!」

 

 白井の言葉に、予想はついていたツナはなんとか理解して貰おうとするが、その後に続いた言葉にキョトンとした表情を浮かべるツナ。

 白井は現状を話した上で、風紀委員の意味が無くなると答える。しかし話を聞いていた獄寺がまるで挑発するように言ってきた。

 

「その部外者にも問題がありますの、獄寺隼人さん?」

 

「はぁ?何を言ってんだ?」

 

「おやおや、自分がどれだけヤンチャをしているか理解していないご様子ですのね

…獄寺隼人、学園都市…第一八学区にある有名中学に所属、レベル3の原子崩し(メルトダウナー)…成長すればレベル4も間違いないと噂される程…しかし家庭の都合により学校を中退し、今ではゴロツキのリーダー…罪状で言えば暴行、恐喝、強盗…余罪も多々あり…

これだけの人物が風紀委員の捜査に協力するなど…小学生でもわかる子芝居としか思われませんわ」

 

 だが白井は負けじと獄寺を睨み付けて言い放つ。指をつけられ獄寺は若干たじろぎつつ答えると白井は机の上に置かれた資料を手にして、ツラツラと学園都市での獄寺について語り、その上で呆れたように言う。

 

「今までは悪さばかりしてたかもしれねぇけどオレはこの方、十代目に助けられて改心したんだ!もう悪さはしねぇ!!」

 

「それが誰に信じられますの?というか十代目とかB級の任侠映画でもあるまいに、ッハ!」

 

「なんだと…このチビ女…」

 

「誰がチビですの!?このタコ頭!!」

 

 この世界の自分がしでかした事に獄寺は歯を食い縛りつつも自分の決意を進言した。

すると、白井はその言葉を鼻で笑い飛ばす。白井の言葉に獄寺は頭に血管を浮かべて拳を握りしめ怒りを押さえ込む。

 自分の身体的特徴を言われ、白井はお返しとばかりに言い返した。

 

「誰がタコ頭だ、こら!!やろうってならやってやんぞ!」

 

「はぁあっ!?上等ですわ!それならこちらとしても遠慮はしませんでしてよ!」

 

「二人とも!落ち着いて!!」

 

 売り言葉に買い言葉、今にも臨戦態勢に入ろうとしている二人の間に割って入りつつ、獄寺と白井が似た者同士なのだとツナは考えた。

 

「沢田さんにお聞きしますわ、この方に脅されて協力者の話を私たちに持ち掛けたのですか?」

 

「いや、そうじゃないよ…獄寺くんは信用できる、だから協力の話を俺から出したんだ」

 

 間に割って入ったツナに向けて、白井は咳払いをしてから尋ねる。白井の問いに対してツナは真っ直ぐに返答をした。

 

「私は沢田さんをある程度は知っていますので、信用はします…

けれどこの方が、もし、なにかしらの悪事を働けば、監督責任として沢田さんを処罰する事になります、場合によってはこの方よりも重い罰になりましの…よろしいですか?」

 

「んだと!?それならオレだけで十分だろうが、なんで十代目まで!」

 

「それが、私がこの方を協力者として認める条件ですの、よろしいですか?流石にこれを譲歩には「いいよ」…はい?」

 

「その条件なら、獄寺くんを認めてくれるんだよね?なら俺からは特に無いよ」

 

 白井は息をついてから、ツナの表情を確かめながら条件について口にしていく。

自分の失態でツナに余計な迷惑がかかることに文句を言う獄寺、しかし白井は決して条件を曲げるつもりは無いと言おうとするが、ツナはその前に答え戸惑う白井に、改めて条件をのむ事を伝えた。

 

「……沢田さん、意外にも肝がすわってますのね…わかりましたですの

そこまでおっしゃるのでしたら、その人の監視と監督をしっかり全うして欲しいですの

初春!確か、何件か回って欲しい箇所がありましたわよね?そこを沢田さん達に任せます、データをまとめてくださいまし」

 

「わ、わかりました!」

 

「白井さん、ありがとう」

 

「礼はいりませんの、ただし、私が信用したのは沢田さんの人となりを見ていたから、他の風紀委員と遭遇した場合は注意する必要がありますわ

状況においては拘束される可能性がありえますわ」

 

 ツナが素直に条件を飲んだ事に、白井は驚きつつも納得すれば奥にいた初春に指示を出す。

初春がパソコンを操作し始めるのを見ながらツナは白井に礼を言うが、白井は獄寺を連れていくリスクを口にした。

 その言葉に頷いてから初春の元へ向かい聞き込みに行く場所のデータを確認しにいく。

 

「ずいぶん、十代目を見てるんだな?」

 

「まぁ、一応…風紀委員としての教育係でしたので、私の事よりご自分を気にしたらどうです?

アレだけの信頼を簡単には無下にするおつもりですの?」

 

「わかってる、信頼には信頼で答える!」

 

「まぁ、貴方のような直情バカの類人猿にそれが出来るですか見物ですわね」

 

「あんだと!?誰が直情バカだ、この蛸足女が!」

 

「タコ頭の貴方に言われたくありませんわ!!」

 

 白井の言葉を聞いていた獄寺は小さく尋ねる、すると自身の髪を弄りながら白井は返答をし獄寺に向けて挑発するように言いはなつ。

獄寺は自身の拳を受け止める仕草をしてハッキリと返す。

 白井はその言葉に、肩をすくめながら小馬鹿にするように言うと獄寺は怒りを露にして返した。

二人が再び言い合いを始めたのを聞き、ツナ達は慌てて二人の仲裁に入るのであった。

 

「ツナ!」

 

「御坂、えっと、どうしたの?」

 

 支部を出ようとした時、ツナは御坂に呼び止められた。

虚構爆破の一件から少し疎遠になっていた為、ツナは尋ねつつも何が聞きたいのか理解していた。

 

「あぁ、モヤモヤするのは趣味じゃないから、ハッキリするわね

あんたの能力についてだけど…私は誰にも言うつもりは無いから

ああやって隠してたのはなんか理由があるだろうし、何より命の恩人だから言いふらしたりはしないから」

 

「御坂…」

 

「けど知りたいのは本当!いつか話せるようになったら聞かせて」

 

「うん、わかった…話せる時がきたらね」

 

 少し言いづらそうにしてから御坂はツナに言葉をかけた。

そして、それでも能力については聞きたいとツナに言ってきた。

黙っていた方が良いという獄寺とのやりとりを思いだしながらツナは小さく頷いてから答えた。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「ったく、あの女…今度会ったら絶対に言い負かしてやる」

 

「獄寺くん、白井さんは悪い人じゃないから仲良くね?」

 

 支部を離れ、獄寺とツナは最初の聞き込みの場所へと向かって歩いていた。

仲裁をいれられた獄寺は、納得がいかない事をまだ根にもっており、ツナは苦笑を浮かべながら宥めた。

 

(二人とも、本当に似てるんだよな…雰囲気が…)

 

「そういえば、支部にいた奴ら…あいつらも風紀委員なんですか?」

 

「え、初春は同僚だけど、御坂と佐天は違うかな…御坂は白井さんと同じ学校の上級生で、佐天は初春とクラスメイトなんだ」

 

 獄寺と白井が似ている点を思い浮かべるツナ、すると話を切り替えるように獄寺が尋ねてきた。

 いきなり尋ねられツナは戸惑いつつも初春達について話していく。

そして二人は、最初の聞き込み場所へとたどり着いた。

 

ーーーーーーーーーーー

 

柵川中学校 校門

 

「まさか、最初が俺が通ってる学校からなんて…」

 

「くそぅ、なんでこっちの世界のオレは学校に通ってねぇんだ…今から転入の手続きをするか」

 

「いや、やめとこう獄寺くん」

 

 最初に初春から聞いた時にも驚いたツナだが、改めて学校の前に立ってから呟く。

その隣で獄寺は、悔しがりながら画策を始めだす。後々、面倒になると思いツナはやんわりと制した。

 

「っく、こうなりゃ変装してでも学校に紛れ込んで…」

 

「とりあえず、行こう…」(この世界に来てまで知り合いがコスプレして学校に来るなんて嫌すぎる!?)

 

 なんとかツナと同じ学校にいようと画策する獄寺の背を押し、ツナは校門を通りすぎグラウンドへと向かっていく。

 

「確か花冠の話によればここの野球部員が何か取引していたって話なんですよね?」

 

「初春だよ、野球部員かはわからないけど、目撃者によれば柵川中学のバッグを下げていたらしいからとりあえず運動系の部活から話を聞いてみよう」

 

 自分で歩きだし、獄寺はツナに柵川中学に来た理由を尋ねる。

ツナは手元の携帯に表示された情報を読み上げていき、グラウンドへとやってきたが、そこには人がほとんどいない状態だった。

 

「休み、すかね?」

 

「どうだろ、そういえば…あんまりこの学校で運動系の部活が活動しているの見てないかも」

 

「とりあえず、あそこの奴にに話を聞いてみましょう!」

 

 人気がほとんどないグラウンドを見ながら獄寺は呟く、ツナは柵川中学に通いだしてからの記憶を掘り返した上で呟く。

 すると獄寺は、野球グラウンドをトンボをかけている人影を見つけ、ツナの手を引きその人影の元へ向かった。

 

「おい、そこのお前、少し聞きたいんだが良いか?」

 

「ん?俺か?」

 

「はぁっ!?てめぇは」「んなっ!?山本!?」

 

 グラウンドに入り獄寺が人影に声をかけた、呼び掛けられた男子生徒はツナ達の方に振り替える。

トンボをかけていたのは、獄寺と共にこの世界に来たツナの親友で雨の守護者、山本 武だった。

 キョトンとしている山本に、ツナと獄寺は慌てて背を向けた。

 

「あれって俺達の世界の山本、なのかな?」

 

「わかりません、一応、オレと山本にはジャンニーニが死ぬ気の炎で動く通信機内蔵のブレスレットが渡されているんですが…持っていないようですね」

 

 ツナと獄寺は声を潜めながら後ろにいる山本がどちらの世界なのかを判別しようとする。

獄寺は自身の右手首に装着されたシンプルなデザインの銀色のブレスレットを見せる。

そして、山本の腕を確認するがいつも付けているリストバンドのみだった。

 

「じゃあ、こっちの世界の山本で…俺達の世界の山本はどこに…」

 

「十代目!落ち着いてください、大丈夫ですってアイツもボンゴレリング持ってますから、ちょっと遅れてるだけですよ!ぽわぁっとしてますからね」

 

「なぁなぁ、どうしたんだ?二人して話し込んで、仲間外れにすんなよな?」

 

「うるせぇよ!今は立て込んでんだ!つうか、何ニヤついてんだお前は!」

 

 山本が入れ替わっていないことにおたつきだすツナ、落ち着きを取り戻そうと獄寺がフォローをいれていると、トンボを持ちながら山本が寄ってきた。

初対面の筈なのに、何故かニマニマ笑っている山本に獄寺はイラつきながら返した。

 

「いやさぁ、世界が違っても二人が仲良くしてるのはなんか嬉しくてさ」

 

「はぁ?訳わかない事を…ってお前、なんつった?今」

 

 ヘラヘラ笑いながら返す山本に獄寺は頭の痛みを覚えるが一つ気になった単語があり、ツナも同じく気がついた。

 

「仲良くしてんのは嬉しい?「微妙にちげぇ!その前だ!世界が違う?お前、まさか!」

 

「俺達と同じ世界から来た!」

 

「「山本か!!?」」

 

「なぁんだ、ツナ達だったのか!そうなら早く言ってくれよな~、ビックリしたぜ」

 

 キョトンとした表情を浮かべてから山本は言葉を言うが、獄寺は素早くツッコミを入れた上で、ツナと声を揃えて言えば、当の本人はあっけらかんとした口調で返すのであった。




次回予告

山本「なんとか二人に合流出来て良かったぜ!」

獄寺「おい!なんでお前と次回予告なんだよ!ここは十代目とゲストのコーナーだろうが!!」

山本「そんな決まりは無いってよ、とりあえず次回予告だな
柵川中学で俺と合流したツナと獄寺、そしたらちょっと訳わかんない奴に襲われるんだよな」

獄寺「なんでそんなに曖昧なんだよ!お前は!!良いか?今からオレが手本をだな」

山本「わりぃ、獄寺…尺がもうないみたいだ!次回、とあるマフィアの平行移動!第9話:拭え、雨の一太刀!
楽しみにしててくれよな?」

獄寺「ちょい待てコラ!それだと俺が活躍しねぇだろ!それにその前に二万UA記念だろうが!」


獄寺と白井の会話は個人的に一番やりたかったです、二万UAは、アンケートの多かった票を書きます、それではまた


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20000UA記念CP小説:姫様、只今奔走中(ツナ×ユニ)

ユニ「注意事項です!この小説は本来は第9話以降に書く予定の物を記念小説という形でまとめました
話数的には9.5話という感じです
それでも構わない方はそのまま閲覧してください
それではどうぞ!」

※はイメージBGMとして小林正典のPerfect Triumphを推奨します
わからない人は仮面ライダーグリスで検索してください


第三学区 高級ホテル

 

「ダメに決まってるだろうが!」

 

「お願い、もう3日もホテルに缶詰めなのよ?いい加減外に出てもいいじゃない!許可だってもらったのよ!」

 

 豪華な一室にてγとユニが言い合いをしていた、頭を抱えるγに真剣に頼み込むユニ。二人の話は平行のまま一時間は経過しようとしていた。

 

「許可だぁ?いったい誰がそんな事を」

 

「太猿さん」

 

「太猿~てめぇ~」

 

「すいません、アニキ…けど姫の頼みは断り辛くて…」

 

 ユニの言葉にγは眉を潜ませる、するとユニは扉の方を指でさして答える。

扉の方には褐色の大男が立っており、γの睨みに視線をそらして答えた。

 

「ああ、それは良くわかるさ…俺だって何もなきゃホイホイきいちまうだろうさ

けどな、お前だって状況を理解してんだろうが!」

 

「確かに俺達はボスの取引で学園都市に中期滞在をしてますけども、姫は育ち盛りだ

もう少し自由に遊ばせてあげた方がいいんじゃねぇかな?」

 

 太猿の言葉にγは同意をしながらも今はダメだと言う。自分達の状況を確認するように言いつつ太猿はユニの為に自由な時間が必要だとも進言した。

 

「お前の言い分もわからんでもねぇ

だがな、育ち盛りの子供と同時に、姫は大企業ジッリョネログループの令嬢である事も変わりねぇ…本国の方からライバル会社の奴らが学園都市に向かっていると入った

今、下手に動けば誘拐される可能性もある、可哀想だが取引終了まではホテルから、出す、わ、け、には?…」

 

 太猿の言葉を理解しつつもγは万が一の事を考えて現状を維持しようとユニへ目を向けるが、そこには既にユニの姿はなかった。

その時、瞬時に気付くユニが太猿を指したのは自分が隠れていく為の陽動であった事に…

 

「太猿、てめぇ…はかりやがったな…」

 

「すいません、アニキの目を引いておくようにと頼まれまして」

 

「ちぃ、こうなったら!」

 

 肩を震わせて太猿を睨むγ、目的を達成した事もあり太猿はユニから頼まれていた事をバラしていく。

γは携帯を取り出して操作を始める。

 

《ふぁい?なに?アニキ》

 

「野猿!姫がいなくなった!そっちで見てないか?」

 

《姫?もぐもぐ、見てないかな…もぐもぐ、そっちにいないの》

 

「お前、今何を食べてる?」

 

 携帯をかけた先、それは太猿の部下の一人で部屋の外部で警備をしている野猿と呼ばれる少年へだった。

通話に出た野猿は何かを咀嚼しながらγの問いかけに答える。

野猿は単純な性格をしている為、ユニがいなくなればそれだけで大慌てするが、何故かそんな様子もない為、γは苛立ちを隠しながら野猿に尋ねた。

 

《姫からもらったクッキー、これで来た事は内緒にしてくれって、あ!秘密だったんだこれ》

 

「いーや、十分だそれだけでな…ったく頭が切れる姫様だよ、ホントに」

 

 野猿は咀嚼をしながら返し、不意に気づいて言うが既に意味は伝わっておりγは額に手を当ててから窓の外へと目を向けるのであった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

ホテル前

 

「ごめんね、γ…どうしても探さなきゃならないから」

 

 ホテルから出たユニは自分のしている事に後ろめたさを感じながらも街の方へと足を向けるのであった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

第七学区

 

「これで今日の買い出しは終わりですね、ありがとうございます!ツナさん」

 

「いや別に良いよ、当番なんだし…けどなんか個人的な物が多くない?」

 

 時刻は昼下がり、支部への道のりを初春とツナは歩いていた。

ツナの両手には大きな袋が握られており、歩く度に若干よろけていた。

 手元の備品補充リストを見ながら初春が答えると、見栄を張りつつツナは答えると、袋の中に見えるイチゴおでんやリムーバルディスクを見ながら呟く。

 

「いえいえ、これは必要経費なんですよ?それに私の分は固法先輩に比べたらマシだと思いとますよ?」

 

「まぁ、確かにムサシノ牛乳を2ケースは流石に、ね…」

 

 袋の中身について初春は得意気に語り、自分より凄い物があるという。

その言葉にツナはげんなりした表情を浮かべて答える。それは少し前での事だ、スーパーの店員に牛乳を2ケース、頼みに行くと店員は特に気にする様子もなく「いつもの所ですね?」と聞いてきたのだった。

 固法から行き付けだと聞かされていたが、場所を暗記するほどとはツナは考えてなかった。

 

「それにしても2ケースなんて置き場所あるのかな」

 

「支部の奥に業務用の冷蔵庫があるのでそこに入れてるみたいですよ」

 

「業務用!?」

 

 支部の冷蔵庫に敷き詰めるように入れられたムサシノ牛乳を思い出してツナは呟く、すると初春は配達された時の事を話す、牛乳の保存専用の冷蔵庫がある事にツナは改めて驚かされた。

 そして二人が他愛のない話しをしている時、後ろから走ってくる足音が聞こえてきた。

 

「あう!ごめんなさい…あ、あなたは」

 

「いや、大丈夫…あれ?君は…」

 

 軽い音と共にツナの背中に衝撃が走る。振り替えるとそこには以前、セブンミストにて出会った少女の姿があった。

 

「この前の、ナンパの人ですよね?」

 

「んなっ!?違うって、ナンパじゃないから!」

 

「ツナさん…それどういう事なんです?」

 

 少女はポンと手を当てて言えば、ツナは慌てて否定すると背後から初春の冷めた声が聞こえてきた。

慌てて振り替えると後ろにいた初春はツナに向けてジト目で睨み付けていた。

 

「いや、それは誤解というか、なんというか…そうだ、随分慌ててたみたいだけどどうしたの!?」

 

「誤魔化しましたよね…今」

 

「えっと!実は追われているんです!」

 

 咎められるように睨まれツナは、なんとか説明しようとするが上手く言えず、少女に事情を尋ねる。

初春からの小言を聞きながら少女は自身の状況を話す、それと同時に遠くの方からツナ達に向けて走ってくる音が聞こえてきた。

 

「初春!」

 

「わかりました、こちらです!」

 

 こちらに向かってくる人だかりを見て、ツナはすぐに初春へ呼び掛けると初春は相手を撒くために隠れられそうな場所へと誘導を始める。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「いたか?」

 

「確か、こっちのほうだと思ったんだがな」

 

「むこうの方を見てみるぞ」

 

 ツナ達がいた場所に黒服姿の男が数人、来ると何かを探すように話し合い、その場を離れていく。

男たちが離れるのを近くの路地裏から顔を覗かせて見ていたツナ達は、ホッと息をついた。

 

「なんだか、スッゴく厳つい人達でしたけど知り合いですか?」

 

「えっと…一応知り合いなんですけど…今は見つかる訳にはいかないんです」

 

「何か訳がありそうだね、良かったら話してくれないかな…その前に離れようか…」

 

「あ、ごめんなさい、重かったですか?」

 

 話し合っていた黒服達を見て、初春は顔をしかめて呟くと少女は申し訳なさそうに肩を落としてから自分の意見を口にした。

 少女の言葉にツナは何故か放っておけないと考え、少女の話を聞こうとするが少女の体勢に思わず顔を背けた。

路地裏に慌てて隠れたせいか、少女はツナに寄りかかるようになっており自分の体勢に気付いた少女は、若干照れながら離れた。

 

「大丈夫だよ、軽かったから痛くは、イッタぁああっ!?」

 

「ツナさん、騒いだら聞こえますよ?」

 

「でも今、初春が足を踏んだんじゃ?」

 

「え?そんなことしてませんよ?」

 

「ハイ、ソウデスネ」

 

 少女に対してフォローをいれた途端に、ツナの足に鈍い痛みが走る。

悲鳴を上げるツナに初春がピシャリと言ってくる、足を踏んだ経緯を尋ねようとしたが初春の圧に何も言えずにいた。

 

「とりあえず路地裏にいても仕方ないので移動しましょう!」

 

「えっと、この荷物はどうするの?」

 

「それは近くの宅配便に支部まで送って貰いましょう、それじゃあ行きますよ!」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 一度咳払いをしてから初春は、ツナと少女に提案をする。移動事態には賛成しつつも両手の荷物について尋ねた。

すると初春は手早く指示を出して先行するように歩きだしツナと少女はその後に続くのであった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

第177支部

 

「こんちは~!初春います~?」

 

「あ、佐天さん…初春さんはまだみたいよ」

 

「御坂さん?どうしたんです?」

 

 いつものように177支部の扉を開けて佐天が入ってくると、扉近くにいた御坂が声を潜めて返してきた。

様子の違う御坂に疑問を嘆かけると、御坂は黙ったままソファーが置いてある方を指でさした。

 

「では、各支部に連絡を取ってみますの…見つけた際はどうします?」

 

「ああ、それなら第三学区のホテルまで連れてきてくれるか?場所はこの辺りだ」

 

「かしこまりました、ですが警備員に連絡をいれなくても本当によろしいのですの?」

 

 ソファーに向かい合って座るように白井と黒服の男が打ち合わせをしていた。

内容を確認してから白井は改めて男に尋ねた。男は悩むようにうつ向いてから小さく頷いた。

 

「ああ、本来なら自分達だけで解決する筈だったが、恥ずかしい話を土地勘のない場所では見つけられるのは難しいと考えてな

ただ、大事にはしたくない…だから風紀委員に頼みにきた」

 

「騒ぎを大きくしたくないけど、手が足りないから助力してくれ

都合が良すぎる頼み事ですわね」

 

「耳がいたいが正にその通りだ…だがその都合良すぎる状況を使ってでも見つけなきゃならない相手を俺達は探している」

 

「わかりましたわ、警備員へはなんとかしますですの…」

 

 男は苦笑を浮かべながら事情を話していく、男の言い分に白井は額に手を当てながら返す。

男は肩を竦めて同意をしてから真剣な表情を浮かべて言う。

 その表情に白井は男の要求を飲むようにと返してから他の支部に連絡を取る為に立ち上がった。

 二人のやりとりを見ていた佐天は思わず苦い表情を浮かべた。

 

「なんだか見るからに、ヤのつく自営業の人なんですけど…」

 

「人探しだって…小さい女の子がはぐれたそうだから探して欲しいらしいわ」

 

「それってまさか、誘拐…」

 

「悪いが、見た目と違って真っ当な商売をしているんだ…あんまり誤解を招く言い方はしないで貰えるかな?」

 

 佐天は男の格好からの感想を口にすると、先に来ていた御坂は事情を説明していく。

小さな女の子という言葉から佐天は早とちりをして言葉を口にするが、いつの間にかソファーから立ち上がっていた男が近くまで来ていた。

 頭をかきながら男は佐天に頼み込んできた。間近で見ると否応なしに暴力団に見える男に佐天は思わず後退り、御坂が割り込むように前へと出る。

 

「ああ、一応確認なんだが…この子を見かけなかったかな?」

 

「探してる子、ですよね?…すみません、見たことは無いです…」

 

「そっか…やれやれうちのお姫様は本当にお転婆だな…いろんな奴に迷惑かけて」

 

 男は頭をかいてから、懐から写真を取り出して御坂達に見せる。

御坂と佐天は写真に食い入るように見てから、首を横に振ってから答える。

 男は元々、ダメ元だったが見た事が無いと改めて言われるとへこみ、写真を懐にしまいながら肩を竦めた。

 

「姫ってのはなんだか納得します、この子すんごく可愛いですもんね」

 

「だろう?赤ん坊の頃から見てるが将来はかなりの美人になる筈だ…ただ悪い虫がつかないか、心配でな…」

 

((親バカだ、すんごい親バカだ…この人))

 

 写真を見ていた佐天が少女について感想を口にすると男はまるで自分の事のように喜んで答えれば、先の事を考えて項垂れた。

 肩を落とす男に、御坂と佐天は同じ事を考えるのであった。

 

「アンタらも風紀委員か?あっちのお嬢ちゃんにも教えたが一応、教えとくな

俺はγ、この子の保護者みたいなもんだ…そしてこの子は」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「ユニ、ユニ・ジッリョネロです、助けてくれてありがとうございます」

 

 γと名乗る男が御坂と佐天に説明をしていると同じ時、ツナと初春に向けて少女、ユニは自己紹介をし礼を二人に言う。

 荷物を宅配便に預け、公園にて初春とツナはユニから事情を聞く事にした。

 

(やっぱり、ユニだったんだ…見た目が少し違うのは、獄寺くんが言ってた通りみたいだ)「俺は沢田綱吉、風紀委員をやってる」

 

「私は初春飾利です、ツナさんの同僚ですよ」

 

「沢田さんに初春さんですか…本当にお礼をしてもしたりません」

 

 少女がユニであるとわかったツナは初春と共に自己紹介をしてから、獄寺と合流した際に話した事をおもいだす。

 ツナがマフィアでないという平行世界では、本来マフィアである者達も違う人生を送っているという可能性があると獄寺は言っていた、目の前にいるユニもアルコバレーノでは無く、普通の子供として生を受けて生きてきたと思われる。

 自分達の世界より歳が違うのはそのせいでは無いかとツナは考えた。

 

(けど、良かった…ユニが普通の女の子で…)

 

「あの!ジッリョネロってあの超有名企業じゃないですか!ユニちゃんって有名人なんですか?」

 

(前言撤回、なんか凄い生き方してる!?)

 

「それはお母様です、私はただの子供ですよ…」

 

 ツナはユニがマフィアと関係のない人生を送っている事を喜ぶが、初春の言葉にすぐにその考えを撤回するのであった。

 驚く二人にユニは、照れながら自分には何も無いと返した。

 

「ねぇ、初春…ジッリョネロってどういう企業なの?」

 

「ジッリョネログループは資材の貿易を主な事業の企業なんですが、学園都市に使われている建築物や車はほとんどジッリョネログループが関わっているんですよ!

その他にも最新の警備ロボやパワードスーツにもジッリョネロ「ごめん、初春…そろそろ落ち着いて…」…わかりました…それでユニちゃんはどうして追われていたんですか?知り合いという事はあの人達は護衛ですよね?」

 

 ジッリョネロという名前は、未来の世界で聞いていたがこちらの世界ではどういうものかわからず、ツナが尋ねると初春は待ってましたと言わんばかりにジッリョネロについて話していく。

 まるで言葉が洪水の如く押し寄せてきたので、一旦中断させると初春は少し落ち込んでからユニに向けて質問を投げかける。

 

「えっと、はいそうです…先程の人達はお母様の護衛の人達なのですが…

私は学園都市でどうしても探さなきゃならない物があってそれで一人で出てきたんです」

 

「「探し物?」」

 

「オレンジ色の炎…多分、ですけどこの街にいる能力者だと思うんです」

 

 いきなり自分の方に声をかけられユニは戸惑いながらも自分の用向きを口にした。

ツナと初春が声を揃える中、ユニは少しずつ曖昧な言い方をして答える。

 

「炎…能力者でしたら発火能力ですけど…オレンジ色ですか…それだけですとなかなか厳しいですね」

 

「書庫でもわからない?」

 

「さすがに炎の色だけでは…特徴があれば特定できるのですが…炎を発現出来るのはレベル3はあるでしょうけど…ユニちゃん、他に何かないですか?」

 

「ごめんなさい、色ぐらいしかわからなくて」

 

 初春とツナはユニの言葉から該当する能力者について話し合うが、曖昧な状態では特定は出来ず本人も詳しい事を話せずにいた。

 

「どうしよう…しらみ潰しに探す訳にはいかないよね…」

 

「確かに…発火能力者だけでも学園都市には数多くはいます…けど…」

 

「けど?」

 

「ユニちゃんの顔を見ていたらなんだか、見捨てられないです

ツナさん、ちょっと付き合ってくれますか?」

 

「わかった、けど実際どうするの?」

 

 声を潜めて初春達は相談をしていく、そしてユニに協力することを二人は決める。

その上でツナが初春に尋ねると初春は笑みを浮かべた。

 

「勿論、足を使います!ユニちゃん、能力者の力を見ればあなたが探している人はわかりますよね⁉️」

 

「はい、おそらくですけど」

 

「ツナさん、少し大変ですけど一人一人、確認していきましょう」

 

「だよね、それしかないよね…よしやろう!」

 

 初春は携帯を取り出してからハッキリと答えた。ユニは背筋を伸ばしてから頷けば、今度はツナへと呼び掛ける。ツナは苦笑を浮かべながら頷いて答えた。

 

 それからツナとユニは、初春からの指示を受けて第七学区にいる発火能力者を探す事にしたが、さすがにその数は多くユニの探す能力者に出会えずにいた。

 そして数時間が経過してからツナ達は元の場所へと戻ってきていた。

 

「改めてだけど、発火能力者だけでも結構いるよね…学園都市って」

 

「そうですね…ちょっと予想外でした」

 

「あの、すみませんお二人共…けどもう良いです…これ以上はご迷惑はかけられませんし…それに、迎えもきたみたいなので…」

 

 公園のベンチに座りツナと初春は肩を落として改めて学園都市の広さと学生の多さにため息をつく。

するとユニが、苦笑を浮かべながらもう付き合う必要がないと話し公園の入り口に目を向けると、そこには黒服達が立っていた。

 ユニはゆっくり立ち上がると一礼をしてから黒服達の方へと向かって歩きだす、だが不意にその足が止まる、それはツナがユニの手を掴んで引き留めていたからだ。

 

「沢田さん?」

 

「ダメだ…その人達は違う!」

 

「えっ?…きゃっ!?」

 

 いきなり引き留めた事にユニが戸惑いながら尋ねようとするが、ツナが否定するように叫んだ。

その瞬間、黒服達がユニへ向けて突然に飛びかかってきた。

ツナは急いでユニの手を引いて、黒服達の手から遠ざける。

 

「ツナさん!」

 

「なんか、様子が変だ…初春!逃げよう!」

 

「わかりました!こっちです!」

 

 黒服達の行動に初春が声をあげた、ツナは黒服達のサングラスの奥に見える瞳が正気を失っている事に気付き、急いで決断をすれば初春は逃げるルートを決めて走り出す。

 逃げ出したツナ達を追い、黒服達はゆらりと起き上がりまるでゾンビのようによたよたを追い出した。その黒服達から離れた場所に同じ衣装を纏った男が黒服達を目で追いながら懐から携帯を取り出した。

 

「ターゲットを捕捉、これより目的地点に誘導します」

 

『わかった、くれぐれもキズをつけるなよ?楽しみが減るからな』

 

「了解しました、ターゲット以外の2名はどうしますか?」

 

『ん?あぁ、風紀委員とかいう自治組織の構成員か…消せ、こちらの目的は一つ、姫、姫、ユニ姫!

あの小娘を捕まえて私の前につれてこい、これは最優先事項だ』

 

「わかりました、グロ・キシニア様」

 

 男は無機質な口調で状況を伝えていく、携帯の向こうの相手は不気味な含み笑いをしながら指示を出していく。

そして、黒服の男は相手の名前を呼んでから携帯を切るのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

第七学区 路地裏

 

「はぁはぁ…なんだったんでしょうか…あの人達…」

 

「わかりません、ただあの服を着ていた人達は間違いなくジッリョネログループの護衛でした」

 

 黒服達から逃げて路地裏へと来た初春達は、息を切らしながら話し合う。

ユニは息を整えながら、襲ってきた黒服が自分の知り合いである事を話した。

 

「このまま逃げていても拉致があかないと思う、なんとか白井さん達と合流出来ないかな?」

 

「そういえば、白井さんから連絡がきていた気がします…あ、結構連絡がたまってました」

 

 汗を拭い、ツナは初春へ相談をすれば、初春は気が付いたように携帯を取り出して画面を見て苦い表情を浮かべるが、すぐに何かを思い付いた。

 

「ツナさん、私に考えがあります!ユニちゃんも耳を貸してもらえますか?」

 

「うん」

 

「はい」

 

 初春はこの状況の打開策を思い付き、ツナとユニへと耳打ちをした。

話を聞いた二人だが、その表情はあまり良いものではなかった。

 

「初春、その方法は止めた方がいいんじゃない?危険すぎるよ」

 

「確かに、ツナさんの懸念はわかります…けれどこのままでいるわけにはいきません!

例え危険な賭けでも今はこれが最善です」

 

 打開策に対してツナは自分の意見を口にするが、初春はそれでもやるしかないと強く言葉を放った。

初春の真剣な表情にツナは頷くしかなかった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

第七学区 

 

 隠れたユニを探す為に、黒服達は手分けを探していた時だった。路地裏から一人の少女が飛び出し黒服達の間をすり抜けていった。

 顔こそは判断出来なかったが、服装と髪型からユニであると判断した黒服達は少女の後を追いかけた。

 

「はぁ、はぁ!」

 

 少女は息を切らしながら懸命に走る、だが逃げる先に黒服が先回りをし現れた。

走っていた足を止めて別の道へと逃げ込む少女、しかしその先は行き止まりとなっており、少女は追い詰められてしまう。

 少女へにじり寄るように黒服達は距離をつめていき、後、数メートルと言った所で少女は振り替える。

 

「残念、外れです!」

 

 振り替えった少女はユニの服を着た初春であった、初春は作り物の髪を外した上で宣言をすれば黒服達の前に立ち塞がるように少女が現れた。

 

「風紀委員ですの!この場合は少女誘拐未遂で全員を拘束します!」

 

 腕章を突きつけるように白井は黒服達に向けて言い放つが、黒服は怯む事無く襲いかかってきた。

一応、警告をしたにも関わらずに向かってくる姿勢に白井はため息をついた。

 

「全く、話の通じない相手は面倒ですの…お姉様!」

 

「わかってる、わよ!」

 

 腕を組ながら白井は呟けば、真上に向かって呼び掛けると、建物の上で待機していた御坂が黒服達に向けて電撃を叩きつけるように放った。

 上から降り注ぐ雷撃は黒服達へと直撃し、全員を地面へと倒れさせた。

 

「ふぅ、一応加減したけど大の男を倒すには骨が折れたわね」

 

「お姉様!骨が折れたのでしたらこの黒子が添え木に、ぶほぉ!?」

 

「ただの比喩表現よ、だからその変な手つきで近寄らないでくれる?」

 

 全員が動かない事を確認し、御坂は肩を解すようにすると白井が指を艶かしく動かしながら抱きつこうとしたが、御坂はそれを予測し飛び付かれる前に白井の頭部を鷲掴みにしてから遠ざける、その瞬間、グキッという音が白井の首から聞こえてきた。

 

「白井さん!御坂さん!ありがとうございます!!」

 

「初春さん、怪我はない?」

 

「はい!お二人が来てくれたから無事でした」

 

 じゃれつく二人に初春が走り寄ってくる、御坂は白井の頭から手を離すと安否を確かめる。

初春は怪我が無いことを伝えると白井が首を押さえながら初春を睨み付けた。

 

「全くいきなりこの場所に不審者を誘導しますとメールを送りつけてくるんですの

あまり無茶をしないで欲しいですわ、こちらの心臓が持ちませんの」

 

「ごめんなさい、けれど援軍を呼んで、この人達を捕まえるには私がターゲットの格好をして誘き寄せるしかなかったんです

暗かったから適当でも何とかなりました」

 

「お嬢ちゃん達!大丈夫か!?」

 

 白井は携帯に表示された文を読み上げながら、肩をすくめて言えば初春は苦笑を浮かべながら立案した作戦について話し、ビニールテープで作り上げたカツラを拾いあげて答えた。

 そこへγが黒服達を避けながら駆け寄ってきた。

 

「γさん?なんでここに?」

 

「ウチの部下が子供を追い回してるって連絡が入ってな、様子を見にきたんだ…見た所、大事にはなってないみたいだな」

 

「理由を話して貰えます?流石に身内を見つけるにしてはいささかやり方に問題がありますの」

 

「確かにな、だがそれがコイツらの意思には見えねぇ、何か理由があるはずだ」

 

 駆け寄ってきたγに御坂は尋ねると、γは倒れている黒服の様子と初春や白井達の状況を確かめながら安堵を浮かべる。

 白井は鋭い視線を向けながら、γに非難をむけた。γは肩をすくめてから倒れている黒服の首を確かめる、するとそこには小さな札が貼られていた。

 

「なんですの?それは…」

 

「コイツは人間の首筋に貼り付ければ相手を操れるアンテナみたいな代物だ…まぁ、本来のモンに比べたら大分劣化してるがな…」

 

「なにそれ、まるで魔法みたい…」

 

「まぁ、近いもんだ…それよりもその服の持ち主は何処にいる?それはオーダーメイドで他には無いんだ」

 

「えっと、ユニちゃんでしたら私の同僚と一緒に第二一学区にある自然公園に避難しています」

 

 γは小さく呟いてから黒服の首筋から札を剥がす。すると札は人体から離れた瞬間、勝手に燃え尽きてしまった。更に一枚が剥がれると他の黒服達の首筋の札も同じように燃え尽きていく。

 札についてγは驚く御坂達に説明をしていく、人間を操るという科学でも出来ない事に御坂が小さく言えば、γは軽く笑ってから詳しくは喋らずに初春に質問を投げ掛けた。

 いきなりの事に初春は戸惑いながらユニがいる場所をγに伝える。

 

「悪いが案内をして貰えるか?この札を貼り付けた奴はあまり遠くにはいない

恐らく学園都市の中にいる筈だ、早くユニに合流しなきゃならない」

 

「わかりました、じゃあついてきて下さい!白井さんはこの人達を病院へ連れていって下さい!」

 

「ちょっ!初春!?」

 

 γはユニの元へ向かわなければならない理由を説明すると初春は強く頷いてから白井に指示を出してから白井の制止も聞かずに走り出す、γもそれに続いて走り出すのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

第二一学区 自然公園

 

 初春が黒服達を引き付けているのと同じ時、ツナは初春の制服を着たユニを連れて自然公園へと来ていた。

 

「とりあえず、ここまで来れば良いかな?」

 

「初春さんは大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫、ちゃんと白井さん達と合流出来る筈だから…っ、危ない!がっ!?」

 

 辺りに人がいないことを確認しながらツナはユニに言うと、ユニは初春から預かった花飾りに手を当てながら言うと安心させるように答える、その時だった、ツナは嫌な気配を感じユニを突き飛ばす。

 次の瞬間、ツナの身体に鈍い衝撃が走り後方へと吹き飛ばした。

 

「沢田さん!?」

 

「見つけた、見つけた、ようやく見つけた…ユニ・ジッリョネロの試食会場!」

 

「貴方は、誰…」

 

 吹き飛ぶツナに呼び掛けるユニの背後よりねっとりとした声が聞こえ暗闇から真っ白な服を纏った赤色のおかっぱ頭の男が歩いてきた、その手には馬術に使う鞭が握られておりリズムを刻むように打ち鳴らし近づいてくる。

 その不気味さにユニは後退りをしながら相手に素性を尋ねる。

 

「これは失礼、私はグロ・キシニア…さるお方より貴女を拐いにきた者だユニ姫」

 

「…私が狙いならなんで沢田さんを!?」

 

「ん?あぁ、そこの小僧か…なに、拐うのに邪魔だったから退けただけの事!しかし、自身が拐われる理由には検討がついているようだ、な!」

 

 男は右目の周りをヒクつかせてから、まるで執事のように頭を下げてから自身の名前を名乗る。

ユニはグロ・キシニアという男に鋭い視線を向けながら問いかける。

 グロ・キシニアは鼻で笑ってからツナへの攻撃について話せば、指を大きく鳴らす。

その瞬間、グロ・キシニアの背後から生物の触手のようなモノが現れユニの手足にまとわりついた。

触手はユニの手足を潰さない程度ながらもキツく締め上げていく。

 

「あぐっ!?…何を!!」

 

「なぁに、ちょっとした躾ですよ…私の雇い主に粗相をしては不味いのでね

貴女の目は何者にも屈しない目をしている、それは不味い、不味い、実に不味い

ひ弱なガキは怯えた目でなくちゃあな!!」

 

「く、ぅうう…」

 

 ギリギリと力がこもっていく触手にユニは表情を苦悶に歪ませる。

痛がるユニに、グロ・キシニアはさも当然のように言い放ち、鞭を強く地面へと打ちつけた。

その瞬間、触手が更に力がかかりユニの骨が軋み、その目尻に涙が滲んだ。

 

「いい、いい、実にいい!!強い目の女が己の無力を知り絶望に沈む

そそる、そそる、とてもそそるな!!」

 

「貴方なんかには、負けません…ぅう」

 

「それはお得意の予知、かな?」

 

「え…」

 

 ユニの姿に己の身体を仰け反らせて興奮するグロ・キシニア。

身体への激痛に耐えながらユニは反論をするが、グロ・キシニアの言葉に唖然とした。

 

「知っている、知っている、知っているとも!お前の能力、未来を読み、選択する!❪原石❫と呼ばれるお前の能力、雇い主はそれを求めているのさ!

今はまだ、数秒先だがその力を発展させれば必ず利益を生む!

その為には、もっと従順になって貰わなければな…その為ならば、腕の一本をへし折るのもやむ無し!!」

 

 唖然とするユニに、グロ・キシニアは高らかに言い放つと狂喜をはらんだ瞳でユニを捉え、鞭を振り下ろす。

甲高い音共に、触手がユニの右手に力を込める。迫りくる未来にユニは目をキツく閉じた、しかし、短い音共に触手の力が抜けた。

 

「な、に?」

 

「沢田、さん?」

 

「悪い、けどもう大丈夫だ…」

 

 地面に触手が落ち、グロ・キシニアは目の前に起きた事が信じられずに驚愕を顔に浮かべる。

 薄目を開けたユニの前には吹き飛ばされた筈のツナが立っており、ユニの右手に伸びていた触手をXグローブに灯した死ぬ気の炎で切り落としていた。

 ユニへ背を向けながらツナは強く言い放つとその額には大空の死ぬ気の炎が闇を照らすように燃え盛っていた。

 

「オレンジ色の、炎…」

 

「ふっ!!」

 

「あっ!」

 

 ツナの額の炎を見て、ユニは小さく呟くとツナはユニを解放するために残った触手を切り落としていく。

触手から解放されたユニはバランスを崩すが、ツナはその身体を優しく抱き留める。

 

 

「この力の事を話している時間はない、けどこれだけは信じてくれ…君は俺が守る!」

 

「はい…お願いします」

 

「離れていてくれ、危ないから」

 

「わかりました」

 

 ユニを地面に下ろしてからツナはその表情から聞きたい事について返答をすれば強く宣言をする。

ツナの言葉にユニは目を潤ませながらも強く頷いた。そしてグロ・キシニアに向けて身体を向けるツナの指示に従い、ユニは巻き込まれないように離れていく。

 

「…なんだ、なんだ!なんなんだ!!お前は!!この街の能力者か!?人の楽しみを邪魔しやがって!!」

 

「楽しみ?人を傷つける事がか…ふざけるな!!」

 

 ユニを解放された事に、グロ・キシニアは癇癪を起こして頭をかきむしり出した。

触手で人を締め上げる行為を楽しみというグロ・キシニアに対してツナは強く言い放ちながら、グローブの炎を噴射してグロ・キシニアへ殴りかかった。

 

「ふん!常識を語るか?あいにくだが常識などエロとグロの快楽を得る為に不必要なゴミだ!持ち合わせていないさ!!」

 

「まだ触手が!?」

 

 ツナの拳を空間から現れた四本の触手で防ぐグロ・キシニア、そして高らかに言い放ちながら更に二本の触手を出現させてツナへと打ち下ろすように攻撃してきた。

 ツナは当たる直前に炎を噴射して、避けながら相手の触手の数に驚く。

 

「どうだ!どうだ!!どうだ!!!私の魔術、Devastation(デヴァステーション)762!!は異界の怪物クラーケンの触手を発現させ相手を締め上げ、蹂躙する正に私にふさわしい術だ!!

たかが後付けされた能力で敵うものかよ!!」

 

(死ぬ気の炎による匣兵器とも違う…魔術…なんだかわからないが…)「その程度なら、問題ない」

 

「逃げの一手しかしていない奴がなにを、っ!?」

 

 六本の触手がツナを捉えようと迫る、しかしX グローブで小刻みに動き回るツナを捉えることは出来ずにいた。

しかし反撃もしてこないツナに、グロ・キシニアは高らかに言い放つ。回避をしながらツナは迫り来る触手に対して冷静に思考を重ねていき、断言するように言い放てば真上へと駆け上がる。

 余裕のあるツナに対して焦燥を露にすりグロ・キシニア、触手すべてをツナへと向かわせるが、それは罠だった。

 

「これだけ集まれば、一気に倒せる…ナッツ!!」

 

「グゥ、ガァアアアアアア!!」

 

 ツナ目掛けて迫り来る触手に対してツナはナッツを出現させ右手の炎で空中で制止しながら左手にはナッツを乗せるツナ。

 目の前まで迫った触手に対しナッツは咆哮と共に大空の炎をぶつける。

調和の力を持つ大空の炎は、周りの物質と同化させる能力がある、大空の炎は触手と空気を同化させ、一気に風化させていく。

 

「バカな、私の魔術が…崩れて、お前は、一体!!」

 

「お前に話す事は無い、ブッ飛べ!!」

 

 崩れ去る触手にグロ・キシニアは悲鳴まじりに叫ぶが、ツナはその問いに答えずに一気に距離を詰め、グロ・キシニアの顔面に拳を打ち込んだ。

 鋭くも重い拳を受けグロ・キシニアの身体は自然公園の奥へと吹き飛んでいった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「ふう…はぁ、はぁ…く…」

 

 グロ・キシニアを殴り飛ばしたツナの額から炎が消え、ツナは息を荒くしながら腹部を押さえる。

最初にグロ・キシニアから攻撃を受けた場所から出血していたのであった。

 傷口を塞ぐ事無く全力で戦い、そのまま超死ぬ気状態を解除した為、ツナの身体に一気にダメージが回ってしまっていた。

 

「沢田さん!」

 

「ユニ…良かった…護れ…」

 

「沢田さん?しっかりして!今、救急車を!」

 

「姫!無事か!?」

 

「ツナさん!!」

 

 駆けよってくるユニの姿を見て、ツナは安堵しそのまま地面に倒れてしまう。

ユニは慌てて、連絡を入れようとした時、γと初春が自然公園へと到着した。

 ツナの状態を見て、初春はすぐさま白井を呼びツナをカエル顔の医師がいる病院へ移送する手配をするのであった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

自然公園 奥

 

 

「ぐぅ…あの小僧…よくも、よくも、よくも私に傷をつけたな!?」

 

 初春達がツナの解放をしている最中、ツナに吹き飛ばされたグロ・キシニアは顔を抑えながら立ち上がった。

殴られた顔面は、赤黒く腫れ、その瞳は憎しみに染まっていた。

 

「私の魔術は崩れた…しかし、もう一度発動させればまた元通りだ!次こそは」

 

「ふふ、負けたプレイヤーに次なんてあるのかな?」

 

 地面を叩きながらグロ・キシニアは復讐を誓う、しかしその背後から声がかけられ表情が凍り付く。

 

「な、なんで…お前が…ここに…」

 

「ちょっと依頼を受けてね、グロ・キシニア君…君が失敗したら始末するように、って君のご主人から」

 

 まるで錆び付いた人形のように後ろを向きながら、グロ・キシニアは振り替えるとそこには真っ白な髪に真っ白な出で立ちに三白眼の瞳、その左目の下には三つの爪のマークが入った男がまるでアリを観察するようにしゃがみながら、グロ・キシニアに話しかけてきた。

 

「ま、待て!今のは油断しただけだ!もう一度チャンスをくれれば必ず!「ダメだよ」…へ?」

 

「君、ターゲットを傷つけようとしたよね?君の任務は無傷で拐う事…

依頼主も困ってたみたい、君の性癖…だからさ、死んでくれるかな?」

 

 涙を流し必死に助命を乞うグロ・キシニアに、男は笑顔で言い放てば指をグロ・キシニアに突きつけた。

その行為だけでグロ・キシニアは全てを理解し、逃げようとしたその時だった。

 

「バン」

 

 男がそう一言、呟いた瞬間、グロ・キシニアの身体はまるで何かにかき消されたかのように無くなり、そこには初めから何もなかったかのようにただ静けさだけが残った。

 

「もしもーし、こちら白蘭…後始末、終わったよー…うんわかった

それじゃあ次の仕事までのんびりしてるね」

 

 男は懐から携帯を取り出し、暢気な口調でグロ・キシニアを始末した事を報告していき笑いながら返せば、遠くの方から此方に向かってくる足音に耳を向ける。

 

「うん、楽しみは次だね…ユニちゃん、それに沢田綱吉くん」

 

 男、白蘭は笑みを浮かべながら聞こえる筈もない相手に再会の言葉を送るとそのまま闇の中へと消えていくのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

第七学区 病院

 

「あれ、ここは?」

 

「沢田さん、目を覚ましたんですか?」

 

 規則的になる音を耳にしてツナは目を開けた、場所を確認するように視線を動かしていると、ユニの声が聞こえその方向に視線を向ける。するとそこには初春の制服ではなく、元の衣服を着たユニの姿があった。

 

「えっとここは…病院かな?」

 

「はい、第七学区にあるとても腕の立つ医師かいる病院です…すみません…沢田さん巻き込んでしまって…」

 

「大丈夫、思ったよりなんともないよ!」

 

 場所を確認するように尋ねるとユニは説明をしてから肩を震わせながら謝りだした。

ツナは安心して貰おうと空元気で自分が大丈夫である事を告げるが、ユニの表情が変わる事はなかった。

 

「いえ、すべて私のせいなんです、私の能力のせいで…」

 

「予知能力だったよね?ゴメン、アイツが言ってたから…」

 

「はい、これは私の家系には予知能力があります」

 

 絞り出すようにユニは自分に非があることを話す、それについてツナは謝りつつも尋ねる。

事情を知っているツナに隠すのを止めて、ユニは自身の能力を語りだす。

 自身の一族は生まれつき勘が鋭く、その精度は代を重ねる毎に上がっていきいつしか近い未来を見通す能力へとなっていた。

 

「もしかして、一人で出歩いていた理由って」

 

「私が学園都市にいるときに何かに襲われる未来を見たからです

けど、それにはもうひとつ私を守るモノがありました

それを見つければ、きっとなんとかなると思っていましたけれど…」

 

「そうなんだ…俺は良かったと思う、ユニが探してくれたから、君を守る事ができた」

 

 ユニの言葉から一連の行動について尋ねると肩を落としながらユニは返答をしていたたまれなさから顔を俯かせる。

 そんな彼女を責める事なく、ツナは穏やかな口調で安心させるように言う。

 

「いえ、私が無事だったのは貴方がいたからです、ありがとうございます…沢田さん」

 

 ツナの言葉に涙を拭い、ユニはツナの手を取り助けてくれたことに礼を言うのであった。

 

「帰る前に貴方と話せて良かったです」

 

「帰る?」

 

「はい、お母様の商談も終了しました、更に私が襲われた事もあり学園都市から離れ帰国する事になりました」

 

「そうなんだ、じゃあお別れ、かな?」

 

 ツナの手を握っていたユニは名残惜しむように手を戻してから語りかける。

ユニの言葉にツナは意味がわからず首を傾げると、ユニは故郷に戻る理由を話し出した。

 状況を理解したツナは寂しく思いながらも引き留める事はせずに言う。

 

「はい、だけど私はまた貴方に会えると思います」

 

「それは予知?」

 

「いえ、私の願いです」

 

 別れを肯定した上で、ユニは優しくツナへと語りかける。その言葉にツナは不思議そうに尋ねるとユニは満面の笑みを浮かべて返すのであった。

 




なんとか三万前に更新できました
リボーンキャラで遠慮なくぶちのめせるキャラがいなくて苦労しました
作中の魔術や大空の炎の説明は作者の独自解釈と勝手な設定です
間違ってたらごめんなさい

時間がかかりましたが、第9話を執筆しますのでまたしばらくお待ちください

オリジナルは時間がかかるのです

途中の文が消えていた為、改めて最後のツナとユニの会話を書き直ししました
誠に申し訳ないです


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第9話a:拭え、雨の一太刀

大分、時間がかかった割に短いです
すみません、ちょっとスランプに入ってしまったようです

もう少しで三万UAですが、記念はしません
本編があまり進んでいないのに、ちょっと祝う気にはなれませんでした
一応四万UAまでにはある程度進めますのですみませんがお待ち下さい


柵川中学校 グラウンド

 

「いやぁ、元気そうで何よりだぜ!」

 

「じゃねぇーよ!?お前な、着いたらまず連絡を入れろ、つったろうが!?ブレスレットはどうした!なんでつけてねぇんだよ!?」

 

 朗らかに笑う山本に獄寺は全力で突っ込みを入れて山本に畳み掛けるように質問を投げ掛ける。

ガクガクと身体を揺さぶられている山本にツナはただ狼狽えながら見ているしかなかった。

 

「獄寺くん、落ち着いて山本が喋れないから!」

 

「そうだぜ?えっといつ来たかだったか?それはついさっきでさ

ブレスレットはグラウンドの整備をしているときに壊したらまずいかなって思ってさ、今はバックの中に入ってるぜ」

 

「なにをへらへらと笑ってやがる…お前はよ…」

 

 揺さぶる獄寺を制止するツナ、山本は軽くふらつきながら聞かれた事を答えていく。

いまいち緊張感のない山本に獄寺ら苛立ちをつのらせていく。

 

「まぁまぁ、合流出来たから良かったじゃないか

それよりも何か用事があったんじゃないのか?」

 

「あ、うん…だけど…山本じゃわからない気がする…」

 

 苛立っている獄寺に宥めるように言えば、ツナへ尋ねてきた。

しかし、自分達と同じ世界の山本に最近起きている事件について聞くわけにはいかず、ツナは肩を落とし、山本に自分達がここに来た理由と学園都市について説明をした。

 

「へぇ、超能力ねぇ…なんか面白い場所だな」

 

「ったく、ユルい奴だな…俺たちの世界とは状況が違うんだ、そこを忘れるなよ?

とりあえず、お前も捜査に協力しろよ」

 

「悪いけど手伝うのはグラウンドを整備してからでいいか?」

 

「あん?なんでだよ」

 

 学園都市について山本は笑いながら返すと獄寺はため息まじりに協力を要求する。

しかし山本はすぐに返答せずにグラウンドの方に目を向けながら返した。

 大抵はすぐに了承する山本がそう返す理由を獄寺は尋ねる。

 

「ここのグラウンド、ずいぶん放置されてるみたいでさ…野球部員としちゃ、ほっとけねぇんだ」

 

「…ったく仕方ねぇな…一緒に行動しなきゃならねぇって言ってんだろ?手伝ってやるから早く終わらせんぞ

すんません、十代目…山本の手伝いをしてから合流します」

 

「俺も手伝うよ、獄寺くんとは一緒にいなきゃならないし、それに二人より三人の方が早く終わるしさ」

 

「ありがとうな、二人とも!…そういやあっちのクラブハウスに野球部員がいたような…」

 

 山本は手入れされていないグラウンドに目を向けながら苦笑を浮かべて答える。

すると頭をかきながらグラウンドの整備をするとツナへ許可を求める獄寺、しかしツナはせっかくだから三人でやろうと提案をしてきた。

 グラウンド整備を手伝ってくれる二人に、山本は礼を言い思い出したようにグラウンドの隅にある小屋を指で指した。

 

「え!そうなの?ちなみに名前とかわかる?山本」

 

「おう、たしか笠原だったな、元の世界でも同じ野球部だったぞ

なんか良いものが手に入ったとか言ってたな」

 

「笠原…オレ達のクラスにはいなかったな…どんな奴なんだ?」

 

 他にも野球部員がいると聞きツナは、山本に詳しい情報を求める。

山本は、ハウスにいる野球部員の名前を告げ更に情報を付け足した。

 獄寺は自分達の世界のクラスメイトについて思い返すがいまいちピンと来なかった為、山本に尋ねる事にした。

 

「んー、ポジションはたしかレフトで俺と同じくらい野球が好きな奴くらいだな」

 

「それってお前と同じって相当の野球バカじゃねぇか!?」

 

「とりあえず、まだいるなら話を聞いてみよう…その良いものっていうのが気になるんだよね」

 

 山本は首を傾げつつ笠原という男について話すと獄寺はあきれたようにツッコミを入れると、ツナはグラウンドの整備より笠原に事情を尋ねようと提案をする。

 二人はツナの言葉に頷き、三人は小屋へと向かうのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「笠原ー、いるかー?」

 

「よう、山本じゃないか…なんかあったか?」

 

 小屋と着くと最初に山本が中にいると思われる笠原へと呼び掛けた。

小屋の中にはベンチがコの字のように配置されており笠原は入り口と対面するベンチに座っており、山本の方に目を向けるとゆったりとした口調で返す。

 ツナは笠原という男子生徒を見て、以前、虚空爆破の犯人、介旅と同じ雰囲気を感じ思わず身構える。

 

「実はさ、風紀、委員だっけか?話をしたいらしいんだ

聞いてくれないか?」

 

「そうか、お前…裏切ったんだな!?」

 

 山本は使いなれていない単語を口にしながら笠原に尋ねると、骨伝導型のイヤホンを外しゆらりと立ち上がる笠原、そして叫び声を上げて手の平を突きだす。

その瞬間、手の平の前に空気が急激に収束していく。

 

「山本!その人から離れて!!」

 

「っく!!」

 

 笠原の動きにツナは声を上げて忠告をする、持ち前の反射神経を活かして山本は後ろにいたツナと獄寺を連れて距離を取った、その瞬間、小屋の扉が音を立てて吹き飛んだ。

 

「コイツは!これが超能力ですか?十代目!」

 

「うん、能力名は…多分、空力使い(エアロハンド)!!」

 

「驚いたなぁ…本当に超能力ってあるんだな…」

 

 攻撃を回避し獄寺は素早く立ちあがり臨戦態勢を取る、獄寺に尋ねられツナは風紀委員として活動していた経験から能力について予測を立てる。

 空気が張り積める中で山本は一息つきながら呟いた。

 

「てめぇなぁ!!十代目の話を聞いてなかったのか!?」

 

「でもよ、いきなり超能力って言われてもピンと来なくてな

…けど、実物を見たらハッキリしたぜ、ツナ、能力ってみんなあんな威力なのか?」

 

 呑気な山本に対して叱りつける獄寺、すると山本は笑いながらも答え、その上で表情を切り替えて答えればツナに質問を投げ掛ける。

 

「ううん、鉄の扉を吹き飛ばす程の威力は滅多にない…多分だけどレベル3いや4だと思う」

 

「例の書庫との食い違いですね、たしか大能力者の数は少なくて、この柵川中学校にはそんなクラスの能力はいない…ですよね?」

 

「うん、この学校にはレベル2か1だけのはず…」

 

 山本の問いかけに首を振って返す、獄寺はその言葉から事前に把握していた情報を口にする。

確認をとるように聞いてくる獄寺に若干不安になりながら答えた。

 

「山本!お前…俺を風紀委員に売ったのか?なんでだ!お前だって、この話に乗ったじゃねぇかよ!!」

 

「…?なんの話だ?」

 

 辛うじて残っていた扉を勢いよく蹴り飛ばし笠原は外へと出ると、山本に向けて怒鳴りつけてきた。

しかし、それは入れ替わる前の山本に話していたようで今の山本には全く理解出来ずにいた。

 シラを切るように見える山本の態度に笠原は歯をきつく食い縛ると手の平へと再び空気を収縮していく。

 

「お前も同じだろう、打ちのめされたろう…なのになんでだぁああああ!!」

 

「山本!?」

 

 笠原は空気をボールのように固めれば、まるで投球するかのように腕を振りかぶると山本に向けて投げ放った。

避けるツナ達とは対象的に山本は避ける事なく迫りくる空気の球を睨み付けていた。

 そして次の瞬間、空気の球は爆発するように広がり山本の身体を包み隠した。

 

「いひゃはははっ!俺を裏切るからだぞ!?山本、さあて次はてめえらだ…風紀委員!!」

 

「なんでこんな事をしやがる!?風紀委員に恨みでもあんのか?」

 

「恨みぃ?あるに決まってんだろ!いや風紀委員だけじゃねぇ…この街に恨みを持ってんだ、って訳だ…消えてくれや!!」

 

 山本への攻撃に笠原は悪びれる事なく良い放てば、ツナと獄寺に視線を向けた。

ツナを庇うように獄寺は前に出ると笠原に向けて怒鳴り付けるように言う。

 獄寺の言葉に狂ったように首を動かしながら笠原は答えると山本に向けて放った物よりも大きい球を作り出しツナ達に向けて放った。

 獄寺は直ぐ様、自身のアニマルリングに手を伸ばすがその前に獄寺達の前に割り込む影があった。次の瞬間、青い炎がうち上がるように巻き上がり、球から獄寺達を守った。

 

「時雨蒼燕流、守式、七の型、繁吹き雨!」

 

「山本!」

 

「無事だったか!」

 

 ツナ達の前に立ったのは球の直撃を受けたと思われた山本だった、山本の左手には二本の柄を指で挟み持ち、右手には青い死ぬ気の炎が刀身となった柄が握られていた。

 無事を喜ぶツナと獄寺に対して笠原は苦虫を噛み潰したように表情を浮かべていた。

 

「いやぁ、能力って意外に凄いんだな…ちょっと手が痺れてるな

けどまぁ、大丈夫だぜ」

 

「良かった…」

 

「山本!なんなんだ?その能力はよ!驚いたぜ、いつもの水流操作(ハイドロハンド)はどうしたんだ?おっかしいぜ!

そうか、お前も使ったんだな?レベルアッパーをよ!!」

 

 攻撃を防いだ山本は手を小さく振りながら軽口を叩く、安堵するツナの言葉をかき消すように笠原が声を張り上げて叫んできた。

 レベルアッパー、その言葉にツナは驚きを浮かべた。

 

「都市伝説じゃなかったのか、レベルアッパー」

 

「レベル、アッパー?十代目なんなんですか?それは」

 

「前に佐天が話していた、レベルが簡単に上がるアイテムらしい

まさか…今までの書庫の食い違いの原因ってレベルアッパーなんじゃ!」

 

 以前、都市伝説の話をしていた際に出てきたアイテムが実際にあった事を知ったツナは、同時に今まで不可解だった問題の答えを得たような気がした。

 その瞬間、ツナに向けて笠原は空気の球を撃ち放つ。しかしその攻撃は山本が寸での所で切り裂いて防いだ。

 

「聞かれたのなら仕方ねぇよな…まぁどっちみち風紀委員は邪魔だから消さなきゃな、ひっひっひ…」

 

「笠原!お前の相手は俺だぜ、忘れんなよな」

 

「忘れてねぇよ、裏切り者が!ただ、どんくさい風紀委員からの方が楽だと思ったんだよ

良いぜ、まずはてめえからだ!山本!!」

 

 攻撃を防がれても笠原は不気味な笑みを浮かべながら言い放つ、しかし山本の言葉に激昂して標的を山本へと絞る笠原。

 

「山本!」

 

「悪いけど手を出すなよ?これは俺と笠原の問題だ、なんとかするさ!」

 

 加勢しようと獄寺が立ち上がろうとするが、山本はそれを制してからいつものように笑みを浮かべて答えた。

 ツナはそれを見ながら小さく頷いた。

 

「わかった、頼む!山本!」

 

「十代目、良いんですか?」

 

「多分、山本じゃないとダメな気がするんだ…」

 

「へへっ!ツナにそう言われると嬉しいな、んじゃ…行ってくるぜ」

 

 迷いなく託したツナに、獄寺は確認を取るように尋ねる。違う世界で相手は未知の能力、それならば全員で戦った方が良いと考えたからだ。

 しかしツナは首を横に振ってからハッキリとした口調で答える。その言葉に屈託の無い笑顔を浮かべ山本はゆっくりと踏み出したながら答えるのであった。



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第9話b:拭え、雨の一太刀

柵川中学校 グラウンド

 

「なんだぁ?一人でやるつもりかよ、山本

全員でかかってきてもいいんだぜ?」

 

「それは卑怯だろ、こういうのは一対一ってのが基本だからな」

 

「そうかい、後悔すんなよ!?」

 

 一人で戦うと宣言した山本に向けて、笠原は嘲笑うように言い放つ。

しかし山本は真剣な表情ではあるが、どころ余裕そうに答えた。

 態度を崩さない山本に、笠原は歯軋りをし空気の球を作り出して放ってきた。

迫りくる球を山本は切り払い、ツナ達を巻き込まないように柄から死ぬ気の炎を噴射して離れた場所へと移動した。

 

「なめんなぁ!?」

 

「っ!」

 

 笠原は空気をバットのように固めると移動した山本に向けて球を連続で撃ちはなった。

 三つの球が螺旋軌道を描きながら飛来する、山本は最初の一つを切り裂きつつ後ろに下がる、続けて迫る球を二つまとめて横薙ぎにて迎撃をした。

 

「山本、てめえ!時雨金時はどうした、そいつはボンゴレ匣の小刀だろうが!まさか忘れてきた訳じゃないだろうな!?」

 

「ん?あぁ、時雨金時ならグラウンドの整備の邪魔になるからベンチに置きっぱなしにしてるぞ」

 

「はぁっ!?」

 

 山本の攻撃を見ていた獄寺は、所持している武器が足りない事に気づく怒鳴り付けるように叫ぶ。

山本はチラリとグラウンドの端に目を向けてから軽く答える。

 必要としないかのように振る舞う山本に獄寺は怒りを露にして声を上げた。

 

「悪いけど、時雨金時は使わないぜ

ケンカに真剣を持ち出したら危ないだろう、それなら小刀《コレ》だけで十分だ!」

 

「お前なぁ…山本!」

 

 怒っている獄寺に山本は笑いかけながら答える。余裕な口調の山本に向けて、頭に手を当てる獄寺。

しかし、笠原が飛びかかってくる姿を確認し注意を呼び掛けた。

 手にした空気のバットを山本に向けて振り下ろす笠原、山本は小刀の刀身を伸ばして一撃を受け止めた。

 

「山本、なんだこりゃ…お前の能力と噛み合わないじゃないか…水流操作の他に発火能力もあんのか?はは、すげぇなぁ!二重能力《デュアルスキル》っやつか!?」

 

「いや、こいつは死ぬ気の炎ってヤツでな、覚悟を炎にしているんだ!」

 

「死ぬ気の炎?何をいってんだ、お前」

 

 バットに力を込め押し切ろうとする笠原だが、刀身の熱に顔を歪めて言い放つ。

山本も負けずに力を込め振り払うように笠原を押し戻しながら返した。

 聞いた事のない言葉に笠原は疑問を浮かべつつも再び空気の球を生成しバットを使い放ちだす。

山本は小刀で一つ一つを切り落として防いでいく。

 

「山本!てめぇ!死ぬ気の炎についてベラベラ喋んな!!そいつはボンゴレ、いやマフィアの中じゃ禁止されてんだよ!」

 

「えっ?そうなのか?…じゃあコイツ《小刀》もしまった方が良いのか?」

 

「おせぇよ、バカ!!見せちまったのなら仕方ねぇから

他の奴に見られないように戦闘を終わらせやがれ!!」

 

「わかったよ!それに、せっかく整備したグラウンドが台無しになるからな」

 

 簡単に死ぬ気の炎の事を口にする山本に対して獄寺は拳を握り締めて怒鳴り付けた。

空気の球を切り落としながら山本は意外そうな表情を浮かべてから手にしている小刀について獄寺に尋ねる。

 今さら聞かれた事に苛立ちながら獄寺は返すと、山本に向けて指示を出した。

 山本は微笑を浮かべて返答すれば小刀を構え直し、笠原に向かって駆け出す。しかし笠原も同じようにバットを振りかぶって山本を迎えうつ。

 

「何、ヘラヘラしてんだ?山本…なんでまだ野球を好きでいやがる!!」

 

「笠原?」

 

「この街で野球なんて意味ねぇんだよ!?こんな能力が全ての街でな!!」

 

 炎と空気がぶつかり合う中で笠原は震えた声で怒鳴り付けた。

今までと違う雰囲気に山本は笠原の顔を見る、先ほどまでは狂気を滲ませていた表情は、今にも泣き出しそうなぐしゃぐしゃなモノに変わっていた。

 笠原は乱雑に叩きつけるようにバットを振るう、山本は力任せの一撃を順々にさばいて防いでいく。

 

「どうしたんだ!?お前も野球が好きだろ!将来はプロになるって言ってたろ!!」

 

「うるっせぇ!!…山本、野球が好きならあんな試合、許せる訳無いだろ!今年の春大会をよ!!」

 

 バットを受け止め、笠原に訳を問いただす山本、すると笠原は振り払うように山本を蹴り飛ばして叫んだ。

 

 笠原が語ったのは柵川中学に入ってから初めてレギュラーを獲得して望んだ大会の出来事だった。

相手は去年からの新設校らしく人数は少なく試合の流れを見る限り、少し経験者がいる程度のチームだったらしい。

 しかし笠原と山本、他のメンバーも相手が弱くても全力でやろうと決め試合に望んだ。

 

結果はコールドゲームで、柵川中学が破れた。

 

 弱小だと思われたチームだが新たにレベル3の中能力者をメンバーに加えていた、能力としては大した力では無いが、ボールを動かすには十分で、投げたボールがでたらめな軌道で飛びホームランボールが失速し凡フライとなり柵川中学校は敗北した。

 部員達は涙を流す事なく帰り、翌日から部活に出なくなった。

笠原と山本は必死に説得したのだが、部員から

 

「頑張ったって、能力に勝てる訳ないだろ?」

 

と返され、二人はどうする事も出来なかったという。

 

 

「スポーツだろうとなんだろうと、努力するより能力を伸ばした方がマシだとさ!

ふざけんな!?真剣に目指してる奴をなんだと思っていやがる!!」

 

 自身の過去を話し、笠原はバットをグラウンドに叩きつける。

バットの一撃は地面を抉り石飛礫が吹き飛ぶ、無残にも抉れた地面を笠原は肩で息をしながら抉れた地面を眺めていた。

 

「だから俺は決めた、レベルアッパーを使って、能力を手に入れて全て潰す!

俺達の野球を台無しにしたこの街をぶっ潰してやる!!」

 

「笠原…」

 

「お前も協力してくれるよな?山本…だってそうだろ俺と同じ野球が好きなお前ならわかってくれるよな?」

 

 拳を握り締め笠原は力強く宣言をする、そして空気を解除して山本にも協力するように言ってくる。

山本には笠原の姿が、街を破壊するというより自分の中にある行き場の怒りに同調して欲しいように見えた。

 返答を待つ笠原に対して山本は小さく首を振った。

 

「悪いけど、協力はできねぇ…笠原、お前のやろうとしてんのは、逆恨みしかならない

うまく言えないけど、能力で復讐したって虚しいだけだろ?だから、止めようぜ?」

 

「止めろ、だと?お前もアイツらのように諦めるのかよ!!負けっぱなしで満足してんのか!?」

 

 山本は言葉を探しながら笠原を止めるように言葉を投げ掛けた、だが唯一の理解者と思っていた山本からの言葉は止まる所か笠原の暴走を加速させるばかりだった。

 笠原は身体に向けて今までよりも激しく風を収束させていく。

 

「ウガァアアアアア!!」

 

 集めた空気を凝縮させバットを再び生成するがそのバットからは集まり切らなかった空気がかまいたちのように溢れ出ていた。

 そして、雄叫びと共に空気の力を使い高く跳躍すれば山本に向けてバットを振り下ろそうとする、山本は刀を構える事なくただ笠原の姿を眺めていた。

 

「山本!?」

 

「あのバカ!!避けない気か!?」

 

 棒立ちの山本に向けてツナと獄寺は声を張り上げて呼び掛ける。

そして、バットが山本の頭を捉えた時だった山本の身体がまるで水のように弾けた。

 あり得ない光景に笠原は呆気にとられ足を止めた瞬間だった、背後から軽い衝撃と共に身体を青い刃が貫いた。

 

「あ…」

 

「時雨蒼燕流、攻式九の型、うつし雨…」

 

 笠原が砕いたのは薄い展開していた雨の炎に映った山本の虚像だった。

 唖然とする笠原の耳に山本の静かな声が響くと同時に身体から力が抜けていく感覚に襲われ、山本が刃を引くと同時に笠原は地面に倒れた。

 

「山本…」

 

「派手に刺したけど怪我はないぞ…それに頭も冷えたろ?俺の炎は鎮静する効果があるんだ…けど身体に影響を与えるくらいになるとしばらくは動けなくなるんだ」

 

「そっか…けどまぁ…なんか安心するわ…負けてからずっと復讐したいって考えてたから…開放された気がする」

 

 倒れた笠原を抱き起こす山本、目を薄く開けて笠原は山本に呼び掛けた。

 意識がハッキリしていない笠原に山本は自分がした事を話していく。

笠原は今までとは全く違う雰囲気でゆっくりと喋りだした。

二人の元へ獄寺とツナが駆け寄ってくると笠原はゆっくりと手を動かして顔を覆うと静かに泣き初めた。

 

「本当はわかってたんだ…能力で復讐したって結局変わらない…そんなの野球をバカにした奴らと同じだってさ

けどよ、他にどうしようもなかった…俺には野球しかなかったから…

上手い方法なんて考えつかなかった、つかなかったんだよ!」

 

「笠原…相手が能力を使って野球をしてもさ…やってる事は野球だと思うんだよな、俺は

それにこう考えられないか?今まで漫画でしかなかったあり得ないって思ってた球を自分が打てるんだぜ?それってすんげぇワクワクすると思うんだよな!」

 

「山本…それは、ちょっと…」

 

「どんだけ野球バカなんだよ!」

 

 泣きながら自身の心情を語っていく笠原に向けて、山本は優しく語りかけるとニカッと笑って答えた。

 呑気ながらも前向きに話す山本に向けてツナと獄寺は微妙な表情を浮かべながら言うと、泣いていた笠原は急に笑いだした。

 

「お前はすげぇな…俺より野球バカじゃねぇか…あーあ…ガラの悪い奴らに頼んでレベルアッパーなんて買ってないで…球の攻略を考えてりゃ良かったかな…」

 

「あの!君が使ったレベルアッパーって一体なんなの!?」

 

 前向きな山本に向けて笑みを浮かべて笠原は語っていく、レベルアッパーを手にいれた経緯についてツナが尋ねるが笠原の意識は言葉をつむぎ終えた時点で途切れており、レベルアッパーの出所についてはわからなかった。

 

 その後、気を失った笠原に救急車を手配し、風紀委員に事情を報告したツナ。

笠原は山本が看ており、獄寺は笠原の荷物を調べていた。

 

「ダメですね、それらしいのは無いみたいです

薬やアンプル、能力を強化するのはもっと別な方法なんですかね?」

 

「そう、レベルアッパーにつながる手がかりはこの人の証言だけか…」

 

 荷物を調べていた獄寺は、ツナに荷物の中身を見せながら首を振った。

笠原の荷物は教科書や財布、他には携帯と音楽プレイヤーしかなかった。

 獄寺の報告にツナは肩を落としつつ笠原に向けて目を向けるのだった。

 

「とりあえず、今は笠原を病院に運んでからだな…あ、ちなみに俺、どこに帰れば良いんだ?」

 

「はぁ、お前よ…」

 

「まあまあ、少し待って確か小屋の中に山本のバックがあったから、ちょっと中身を見るね」

 

 山本は軽く笑いながら言うとふと気付いたようにツナに尋ねる。

唐突に聞いてくる山本に、獄寺はため息をつくとツナは獄寺をなだめながら小屋の中から発見した山本のバックを取り出すとそこから一枚のカードを見つける。

 山本と獄寺はツナに近づき手の中のカードへ目を向けた。

 

「これは獄寺くんにも話した事だったんだけど、学園都市での自分の情報を記録しておく物なんだ

普段は、見ることは出来ないんだけど風紀委員ならこの情報をみることが出来るんだ」

 

「便利だな、失くさねぇようにしないとな」

 

「いちいち再発行なんてしたら、こっちの人間じゃねぇってバレる可能性がある

気をつけろよな?」

 

 カードについて説明をしたツナは携帯を使い山本の住所を検索していく、ツナの説明に笑いながら答える山本に獄寺は自分のカードを見せながら釘をさしてきた。しかし山本は軽く答えるだけであまり深くはとらえてなかった。

 

「山本の住所は…俺と同じ学生寮みたいだよ、それなら案内するのも楽かな」

 

「そうなのか、よろしくなツナ…?どうした獄寺」

 

「なんでお前は十代目とおんなじ寮なんだよ…なんでオレだけぇ…」

 

「獄寺くんは第七学区じゃないからね、だから落ち込んでいるんだと思う」

 

 住所を見つけたツナは山本に伝える、にこやかに笑う山本だが何故か隣にいた獄寺が膝をつき落ち込んでいた。

 不思議そうにする山本にツナは獄寺が項垂れている理由を苦笑を浮かべながら話した。

 

「山本、十代目の側にいるなら何かあったらしっかり守れよ!?」

 

「わかってるって、それにこれからは一緒にいるんだから助けるのは当たり前だろ?」

 

「山本も手伝ってくれるの!?」

 

 獄寺は悔しさを滲ませながら山本に指を突き付けていい放つと、親指を立てて山本は笑顔で答えた。

山本の口振りから風紀委員の活動を獄寺と共に協力してくれる事にツナは喜ぶ。

 

「帰る為に何をしたらいいかわからないし、ツナと一緒にいた方がいいと思ってな

それに笠原の様子を見る限り、レベルアッパーってのはヤバそうだからな」

 

「そうだね、二人が手伝ってくれるなら心強いよ!!」

 

「まぁオレ一人で十分なんだが、十代目がそういうなら山本も歓迎しますよ!」

 

「あはは…そうだ…獄寺くん、ちょっと良いかな?」

 

 山本は軽い口調で語るが、レベルアッパーについては真剣な表情を浮かべて呟く。

今まで御坂達の協力を受けつつもどこか緊張していたツナは見知った二人が参加するのを大いに喜ぶ、にこやかに返す山本に対して対抗心を燃やしながら答える獄寺。

 ツナは苦笑を浮かべながら、獄寺に相談を持ち掛ける。それは獄寺達が合流するまえに虚空事件にて御坂に死ぬ気の炎を見せた事だった。

 獄寺から新しく死ぬ気丸をもらった事により再び超死ぬ気モードになれる事になったツナは、このまま風紀委員で活動すればまた死ぬ気の炎を見られてしまうだろうと考えた。

 それならいっそ御坂達だけでも教えておいた方が良いのではとツナは提案をしたが、獄寺は渋い表情を浮かべる。

 

「すみません、いくら十代目の判断でも…賛成は出来ません…

御坂達を信用していない訳ではないんです…ただ、この学園都市にはかなりの監視カメラがありますし、それに多くの科学者もいます

死ぬ気の炎を悪用しないとも限りません、ですからオレは反対です」

 

「獄寺くん…ごめん、無茶言ってたね…わかったよ、死ぬ気の炎については誰にも話さない

そして見られないようにする、これで良いよね?」

 

「ありがとうございます、それと意見を挟んでしまい申し訳ありません!」

 

「いや、悪いのは獄寺くんじゃないよ…うん、誰も悪くないから…」

 

 ツナの意見に真っ先に肯定をする獄寺が表情を曇らせながら話していく。

その表情から獄寺が自分の意思を強く押し殺しているのを感じたツナは、苦笑を浮かべながら死ぬ気の炎について秘密にする事を決める。

 意見を聞き入れてくれた事、そして反論してしまった事に獄寺は深く頭を下げて謝罪する。

 その言葉は自分達を思っての事だと理解しているツナは悲しげに呟やくのだった。

 

 その後、笠原を救急車に乗せ、ツナは白井に山本が風紀委員の活動に協力する事を報告する。

最初は反対されると思ったが山本の協力はあっさり許可された。

理由としては、獄寺を許可したのだから一人、二人増えたことに今さら目くじらを立てても仕方の無い事らしい。

山本の協力があっさり許可された事に獄寺は納得していない様子だったがもめるよりはマシかとため息をつくのであった。

 

「なぁ、円陣組まないか?」

 

 報告が終わり、それぞれの帰路につこうとした時、山本が不意に提案してきた。

 

「はぁ?なんで円陣を組むんだよ?」

 

「これから一緒に事件を解決するために動くんだ、気合を入れないとな!」

 

「うん、良いかも、やろうよ!獄寺くん」

 

「十代目まで…わかりましたよ、おい!目立つからさっさとやんぞ!」

 

 山本の提案に眉を潜める獄寺、すると山本は事件に挑む為にみんなで協力するという意気込みをしたいからだと返す。

 ツナは未来やリング争奪戦を思い出して頷き円陣を促す、ツナの言葉に獄寺は言葉を濁し、やけくそ気味に返し三人は各々の肩を掴み円陣を組む。

 

「かけ声、どうするかな?」

 

「決めてねぇのかよ!言い出しっぺが!?」

 

「じゃあ、風紀委員でどうかな?」

 

「いいな、それ」

 

 円陣を組んでから山本は獄寺に尋ねる、あまりにも行き当たりばったりの行動にツッコミを重ねる獄寺に疲労

が見えてきた。

 その中でツナは風紀委員として活動するのだからかけ声を風紀委員にしようと提案してくると山本は笑いながらそれに賛同した。

 

「じゃあ行くぜ?…風紀委員~」

 

「「「ファイ、オー!!」」」

 

 暗くなったグラウンドにて山本は二人に呼び掛けてから三人は声を揃えて叫ぶのであった。

 

「そんじゃ、帰ろうぜ」

 

「帰るんなら円陣する意味あったのか?」

 

「うーん、気合は入ったから明日から頑張ろうって気になるだろ?」

 

「てめぇはよ~…」

 

 円陣を終えた山本は荷物を担いで呼び掛ける、獄寺は素朴な疑問をぶつけると呑気な口調で山本は返した。

拳を握りしめ、そろそろ限界を超えそうになりがらも獄寺はなんとか我慢をする。

 じゃれあう二人を眺めながらツナは諦めかけていた元の世界に戻るという意思に再び火を灯し二人の後を追いかけるのであった。

 

 





次回予告

白井「ハァ、疲れましたわ…」

御坂「どしたの?黒子」

白井「沢田さんが、追加でもう一人協力させてほしいと言ってきたのでその事務処理をしていたのですの
全く、ホイホイ増やすんじゃありませんの!」

御坂「ねぇ、黒子!ついでに「お姉様の協力申請は出しませんわ」速っ!?なんでよ!!」

白井「沢田さんは能力が使えませんの、ですから許可を致しましたの」

御坂「ぐぬぬぅ…」

白井「それよりも次回はまたなにやら沢田さん絡みで何か起きるようですね
あまり面倒をかけないで欲しいですの、若い内から胃薬に頼りたくはありませんのに…」

御坂「黒子…」

白井「っという訳でお姉様!胃を痛める黒子を優し~く介護してくださいまし!!」

御坂「っていつものパターンかっ!?いい加減マンネリよ!!」

白井「ドゥエフ!?じ、次回とあるマフィアの平行移動…第10話…リ・ユニオン・プリンセス、ですの…ぐふ…」

御坂「とりあえず次回まで寝てなさい」


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第10話a:リ・ユニオン・プリンセス

ただいま、超電磁砲の本編より外れてますがちゃんとレベルアッパー事件の最中なので心配しないでください



第二三学区 学園都市国際空港

 

 学園都市に設けられた外を行き来する場所、そこは連日、沢山の人間が行き交っていた。

 大抵はスーツを着た大人ばかりだが、その中に大きなキャリーケースを引く少女の姿があった。その手には小さなメモが握られており周りを気にしながら少女は人混みを進んでいく。

 

「えっと、まずは柵川中学校、という場所に向かえば良いのね…また会えましたね、沢田さん」

 

 メモをしまい携帯で少女は検索をしながら少女はそらを見上げて、嬉しそうに以前、世話になった人物を思い浮かべて嬉しそうに笑みを浮かべるのであった。

 

柵川中学校

 

 書庫との食い違いが都市伝説のレベルアッパーだという事を報告した、しかし眉唾な上に実物も見つけられなかった事もあり話し半分という結果に終わってしまった、しかしツナは今までの事件にレベルアッパーが関わっていると考え、日中は学校に通っていない獄寺に探索を頼み、夜には自分と山本を加えた三人で探索を行う事にした。

 しかし、レベルアッパーについての情報は集まらず、ツナは佐天に話を聞くために一年の教室へと来ていた。

 

「え、いない?」

 

「はい、今日は早めに帰るってなんかハイテンション気味に返して帰りました、ごめんなさいツナさん…」

 

 しかし、教室にいると思われた相手がいない事にツナは呆気にとられたように呟く。

そんなツナに、初春は申し訳なさそうに頭を下げて佐天が既に帰宅した事を告げる。

 いないのなら仕方ないとツナは渋々納得をすれば初春と共に支部へ向かう為に、学校を出る事にした。

 

「ふわぁ~…」

 

「初春、寝てない?」

 

「はひゅ!…ごめんなさい、実は遅くまでレベルアッパーについて調べてたんです

まぁ、あんまり情報は集まりませんでしたけど…」

 

 階段を下りていると隣にいた初春から少し抜けた声が聞こえてきた、目をしばしばさせている初春は急に声をかけられビックリしながら、頭を下げて成果が得られなかった事を話す。

 ツナとしては端から見れば眉唾な話に真剣に対応してくれている初春に対して申し訳なく思うと一つ思いついてカバンの中を探し始める。

 

「ツナさん?」

 

「初春、良かったらこれ飲んでよ、ずっと頭を働かせたから必要だと思うから」

 

 急に立ち止まったツナに初春は首を傾げて尋ねるとカバンからパックタイプのイチゴ牛乳を取り出したツナは、初春へ手渡してきた。

 差し出されたイチゴ牛乳に初春は不思議そうに受け取り、意味がわからず首を傾げた。

 

「さっき、山本にもらったんだ、頭を働かせてるなら糖分は補給した方が良いって言ってたから

俺より初春の方が頭を使ってるから渡した方が良いかなってさ

あ、いらなかったら返して良いから!」

 

「ふふ、お気遣いありがとうございます、じゃあ遠慮なく頂きますね!んー!染み渡ります~」

 

 ツナはもらった経緯を話し、身振り手振りで初春へと説明をしていく。

最初はキョトンとしていた初春は、小さく笑えばストローをさしてイチゴ牛乳を飲み、口に広がる甘味に顔を緩めた。

 初春が喜んだのを見てからツナは昇降口までつけばいつも通りに外靴に履き替えて外へと出た。外へ出ると夏の暑さを感じツナは顔をしかめた。

イチゴ牛乳を一気に飲み終えた初春も外へ出ると同じように顔をしかめる。

 

「そうだ、ツナさん、佐天さんが是非見せたい物があるから今度の非番に一緒に出かけませんか?」

 

「見せたい?…なんだろう…」

 

「なんだか良いものって言ってました、ただどんなものかは全然話してくれなかったんですよ」

 

 額の汗を拭い初春は佐天が話していた事を思い出して、ツナに頼み込んできた。佐天の見せたいものと聞き不思議そうに首を傾げるツナ。

 初春も教えられていないと答えると二人は揃って首を傾げるが、佐天の考えが読めずわからずにいた。

 その時である、二人は校門の辺りに人だかりとまではいかなくても少し人の歩みが遅い事に気付く。

 

「なんでしょう?誰かいるみたいですけど…」

 

「まさか、また御坂が学校に来ているって事なんて、無いよね?」

 

「んー…御坂さんが来る理由って無いような気が…白井さんならあるいは…」

 

 人の壁のせいで奥に誰がいるかまで判断出来ずツナと初春はそれぞれ予測を立てていくがあまりピンとくる物は無くとりあえず近くまで行く事にした。

 そして人だかりに近づく事で、誰が来ていたかをツナ達は理解した。

 

「あ、沢田さん、初春さん!お久しぶりです」

 

「ユ、ユニちゃん!?」

 

「な、なんでユニがここにいるの?確か故郷に帰ったんじゃ、それにその荷物は、なに?…」

 

 校門の前で待っていたのは以前、出会った少女、ユニであった。にこやかに手を振るユニに、初春とツナは戸惑いながら尋ねた。

 そしてツナ達が現れた事に周りの生徒達がざわめきだした、見かけた事のない少女が風紀委員と知り合いのならば仕方のない事であった。

 

「実は訳あって実家を離れる事になりました、それで沢田さんの家に泊めて頂けませんか?」

 

「うえっ!?」

 

「えっと、この場合は…ふつつかものですがよろしくお願いします、ですかね?」

 

 質問を受けたユニはやんわりと笑みを浮かべてから事情を話すと、ツナへと頼み込んできた。

いきなりの頼み事にツナは目を丸くして驚くとユニは少し考え込む仕草をしながら丁寧に頭を下げてくる。

 年端もいかない少女に頭を下げられている光景に、周りの生徒達からざわめきが起こりだした。そして、好奇の視線と非難の視線が向けられ始める。

 

「え、いや、なんで…全く意味がわからないから、ちゃんと説明を!」

 

「ツナさん」

 

「はい!!」

 

 周りから刺さる視線を感じ、焦りながらもユニへ事情を尋ねようとするツナ。

しかし隣にいた初春から冷めた声で呼び掛けられ萎縮しながら振り替えると、そこには携帯を手にした初春の姿があった。

 

「一応警備員に通報しときますね、大丈夫ですよ…私、ちゃんと弁明を…あ、でも無理かな…これだけ状況証拠が揃ってると…アウト…うん、ごめんなさい、多分難しいです

お勤めが早く終わるように掛け合ってみますね」

 

「なんの!?後、かなり不吉な事を言っていたよね?違うから、なんかいろいろわかんないけど違うからね!!」

 

「………」

 

「無言で目を反らさないで!いや、本当に違うから!とりあえずユニ!ちゃんと事情を話してくれる!?」

 

「いいですけど、ここでですか?」

 

 とても心苦しいという表情で初春はツナに向けて話す、白昼堂々と風紀委員の家に年端もいかない少女が上がり込む事態は、まず間違いなく警備員案件だと話すが、大勢の目撃者がいるなかなので捉え方によっては禁固もあるのではと考えた初春は、なんとか緩和するようにという。

 しかし、全く話についていけていないツナは、なんとか無実を証明しようとするが、初春はサッと視線を反らし話す余地がない事をアピールする。

仕方なくツナはユニへ説明を求めるが、ユニは周りの視線がある中で話をしても良いのかという意味で返した。

 

 どういう事情であれ、このまま話し込んでいれば教師などに見つかり後々面倒な事になると考えたツナはユニの手を取り走りだす。

 

「え?ツナさん!?」

 

「ごめん!初春!事情はちゃんと話すから今は見逃して!!」

 

 急に走り出したツナとユニに、初春は慌てて呼び掛けると人込みから離れながらツナは説明することを約束して急ぎ離れていく。

 残された初春は携帯をしまい、集まった生徒にどう事情を説明するか考え始めるのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ツナの自室

 

 ユニを連れて柵川中学校を離れたツナは、どこにいくかを考えていなかった為に仕方なく自分が住むマンションにユニを連れていく事にした。

 そして、今、ツナはユニと向かい合わせで座っていた。

 

「それで、先ずはどうしてまた学園都市に来たかを教えて欲しいんだけど…」

 

「わかりました…実は…」

 

 息を整えてからツナはユニへ事情を改めて尋ねた、ユニの話によると学園都市で起きた一件の後、ジッリョネログループの元にライバルグループから一つの連絡が入った。

 内容は学園都市に派遣していたグループ傘下の者が消息を絶ったという名はグロ・キシニア…

以前、学園都市にてユニを拐おうとした男でツナは撃破した相手だった。

 もちろんジッリョネログループのボス、ユニの母親は関与していない事を話すが相手グループにとってグロ・キシニアの失踪はきっかけにすぎず、相手はジッリョネロへの制裁を始めた。

 母親や護衛役のγらはその対応に奔走する事となり、そうなれば再びユニの身が危険に晒される可能性が出てきた。

 その為、ユニは相手グループの目から隠れて外部から隔離された学園都市へとやってきた事をツナに話した。

 

「なるほど、けど匿うのならここより警備員の方が良いんじゃないかな?」

 

「いいえ、それは出来ません…沢田さん、私の能力とグロ・キシニアが使っていた魔術という物を覚えていますか?」

 

「えっと、ユニの能力って未来予知だよね?…魔術、もしかしてあの触手みたいなものの事?」

 

 ユニの話を納得した上で解せない点があり、ツナは質問を投げ掛ける。

学園都市とかなり密接な関係を築いているジッリョネロならば警備員も協力するのではと考えたが、首を振ってキッパリと否定するユニ。

 そして、誘拐された時に見聞きした筈の事をツナに尋ねる。ツナはユニが話してくれた事とグロ・キシニアが使ってきた戦い方について口にすると小さく頷くユニ。

 

「魔術とは魔力を消費して異世界の法則を無理矢理に発動させて様々な異能を発現させる技術です

グロ・キシニアのは正確に言えば魔術の真似事で本来の魔術ではありません

けれど相手グループが私を捕らえようとするのであれば必ず凄腕の魔術師が派遣されるでしょう…そうなれば警備員には何も出来ません…」

 

「…そんな物がこの世界に…ユニの能力も魔術の一つなの?」

 

「私のは元から持っている能力で『原石』と呼ばれるものです

もっともまだ完全に覚醒している訳ではありませんが」

 

 ユニは魔術について自分の知っている範囲で語り、その上で只の人間しかいない警備員では守るのは不可能だと語る。

 死ぬ気の炎とも超能力とも違う異能があることにツナは驚きつつ、ユニの未来予知について尋ねると首を振ってから答えるとユニは表情を暗くした。

 

「お母様が話していた事ですが、私の能力は学園都市にも知られてはならないとの事です

下手をすれば相手グループと同じように拐いにくる可能性が出てくるそうです

ですから私には学園都市でも無い魔術師でも無い、けれど確かな力がある沢田さんに頼るしか無いんです…ごめんなさい…急に押し掛けた上にこんな話をしてしまって」

 

「ううん、話してくれてありがとう…ユニ、そういうことならここを好きに使っていいよ

ただ、一つだけ問題があるんだ…」

 

「なんでしょうか?」

 

 ジッリョネロのボスが学園都市にユニの予知の能力は秘匿しなければならない事を話す。

ツナはゆっくりと首を振ってからユニがツナの部屋を使う事を許した。

しかし、絞りだすようにユニに話し始めるツナ。真剣な表情に息を飲んで質問を投げ掛けるユニ。

 

「ここは一応男子寮になんだ、だから人の目に気をつけて欲しいんだ

バレたら多分、追い出されてしまうから…」

 

「わかりました、ふふ、なんだか誰にも秘密というのは不謹慎ですけど、ワクワクしますね」

 

「まぁ、それはわかるけど…普通居ないよ?年下の女の子を匿って生活する学生なんて…」

 

 ツナは指を立てて生活するのに必要な事をユニへと伝える。誰にも見つからないようにと言われ、ユニは若干、高揚しながら返してきた。

 ユニの言葉にツナは額に手を当てながら同意をすればあり得ない事だと告げる、その時、マンションの上層から大きなくしゃみが聞こえ二人は思わず首を傾げた。

 

「それと、ユニを匿う事を伝えたい人達がいるんだけど良いかな?」

 

「初春さん達にですか?」

 

「いや、初春達には伝えない、まぁユニが学園都市に住む事は伝えるけど…今回の騒動には関わらせるのは止めとこうと思うんだ…」

 

 くしゃみの正体は一時置きツナは獄寺や山本にも話しておこうと考えて、一応ユニに確認を取る。

 伝えたい人と聞き、ユニは自分が知っている人達を思い出して尋ねる。

しかしツナは首を振ってから初春達を関わらせない事を話した。

 

「…わかりました、それでその方達はどこにいるんですか?もう日が暮れ始めましたけど…」

 

「この階の隣だよ、その人達は俺と同じ能力を持っている俺の友達がいるんだよ」

 

 ユニはチラリと外を見てから少し不安げに尋ねるとツナは真横を指でさして説明をすればユニを連れて外へ出て、隣の部屋まで案内をする。

 

「多分、帰ってきてるから紹介するね、本当はもう一人いるんだけど…

なんか近くに住むとか言って住んでいた所を引き払って連絡がつかないんだよね…」

 

「そうなんですか…それにしても秘密、すぐに広まってしまいましたね…」

 

(あれ?もしかして残念だったりしてる?)

 

 山本という表札を確認してツナは後ろにいるユニへ説明すると、少し前に獄寺が引っ越しをしたという事を思い出して苦笑を浮かべる。

 山本を紹介しようとインターホンに手をかけた時に、ユニの残念そうな声にツナは疑問を抱きつつボタンを押した。

 軽い音と共に少し荒い足音が近づいてくると勢い良く扉が開かれた。

 

「見舞いに行くのにどれだけ時間かけてんだ?この野球バカが!」

 

「獄寺くん!?」

 

「十代目!!それに、てめぇは…」

 

「?」

 

 扉を開けて出てきたのは引っ越しをして連絡の取れなくなった獄寺であり、ツナとユニはいきなりの怒号に目を点にして驚きながらも獄寺の名を呼ぶツナ。

 インターホンを鳴らしたのが山本でなかった事に獄寺は思わずたじろぐと後ろにいるユニの姿を見て、驚きと悲しさを混ぜた複雑な表情を浮かべる。

 しかしこの世界のユニには関係が無いため本人は小首を傾げるばかりであった。

 

 

 




今回は二万UA記念を書いた事により、作者本来の予定より早めにユニを本編に参加させました
いわゆる早期加入フラグというやつです
ちなみに、ユニはγとじゃなきゃ嫌だという方がいるのであれば報告してもらえると嬉しいです
作者はツナユニも推奨しておりますので
ヒロインが増えてきて、ハーレムなんじゃと突っ込まれそうです
作者としては目指せマルチエンドなので、ある程度カップリング描写をしたらルート分岐に入るつもりです
入っても良いですかね?
それでは、次回をお楽しみに


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第10話b:リ・ユニオン・プリンセス

今回は科学サイドというよりは魔術サイドですかね


マンション 山本の部屋

 

「どうぞ、つまらないものですが」

 

「ありがとうございます」

 

「獄寺くん、山本の家に泊まっていたんだ、それなら話しても良かったのに…」

 

 部屋へと上がったツナとユニの前にカップに入ったお茶が置かれる。

ユニが丁寧にお辞儀をしツナは意外そうな表情で獄寺に尋ねると、獄寺は軽く笑いだした。

 

「実はこのマンションに住むまで十代目には内緒にしたくて、まさかこんな形でバレるとは思いもしませんでした」

 

「十代目?…もしかして日本の任侠映画に出てくるボスの呼び方ですか?」

 

「え、あ…まぁそれにはいろいろ理由があるんだけど…とりあえず獄寺くん、山本はどうしたの?」

 

 笑いながら説明をする獄寺にツナは額に手を当てる、すると隣にいたユニは首を傾げて先ほどからツナが呼ばれている呼び方について尋ねると、流石にマフィアのボスであると説明するわけにはいかず話題を変えるように獄寺に尋ねた。

 

「この前の笠原ってやつの所です、どうやらまだ目が覚めていないらしくて

まぁその後、飯を買って帰るって言ってましたし、もうすぐだと思います…それよりも十代目、そいつは一体…」

 

「あぁ、うん…彼女はユニ・ジッリョネロ…実は獄寺と山本に彼女の護衛を手伝って欲しいんだ」

 

 山本の所在について獄寺は軽く話すと、笠原が意識不明だという事を話す。

その言葉に今まで事件を起こしてきたレベルアッパーを使用したと思われる容疑者達が意識不明になっていると情報が入ってきていた事をツナは思い出すと、本来ならば山本にも聞いて欲しかったが、獄寺に隣に座るユニの事情を話す事にした。

 

 最初は神妙な面持ちをしていたが魔術の話を始めた途端、獄寺の目が好奇心が満ちたようにキラキラと輝きだした。

獄寺がオカルト好きである事は知っていたが、いつもとの雰囲気の違いにツナは若干引き、ユニはツナの後ろに隠れるように下がった。

 

「まさか、ガチのオカルトに触れられる日がくるなんて…」

 

「それで獄寺くん、手伝って「勿論です!こんな機会滅多にないですからね!!今から本物の魔術を見れるのが楽しみですよ!!」…いや、何も無い方が良いんだけど…」

 

「そう、でしたね…すみません…山本が来たら俺から説明しときますよ!!」

 

「あ、うん…出来れば簡単にね?」

 

 獄寺は顎に手を当てて含み笑いを浮かべる。ツナは気を取り直して協力を申し込むと話を遮るように獄寺は食い入るように迫ってくる。

 ツナは手で制するように落ち着かせながら呟くと、一応念を押すように言い、話を終わらせると獄寺に部屋に戻る事を告げる。

 

「あ、十代目…その少し良いですか?」

 

「なに?…ユニ、悪いけど先に部屋に戻って貰える?少し獄寺くんと話があるから」

 

「わかりました、じゃあお先に失礼します」

 

 帰ろうとするツナを呼び止める獄寺、その表情からユニには聞かせられない事だと感づいたツナはユニへ申し訳なさそうに頼みこむと、快く頷きユニは部屋へと戻っていった。

 ユニが部屋に入った事を確認してから獄寺は顔を近づけた。

 

「一応の確認ですが、あまりこの世界の人間に深く関わりを持つのは控えた方がいいです

姿や性格は似ていますが、この世界の人間とは一時的な付き合いです…入れ込みはほどほどにした方が良いと思います」

 

「入れ込むだなんて、俺は別に…」

 

「なら良いんですが…すみません、余計な事を言ってしまって山本の奴には伝えておくんで今日は休んでください」

 

「うん、わかった」

 

 聞かれてしまう事を考慮して声を潜めて獄寺は忠告を投げ掛ける。

獄寺の言葉をツナは強く否定出来なかった、ユニの頼みを断らなかったのは、未来にて必要な事であったとしてもユニの命を奪う形になった出来事が心に焼き付いていたからだ。

 視線を反らすツナにそれ以上追及することなく獄寺は頭を下げてから、自身の胸を強く叩いてから答えた。

ツナはその言葉を信じ小さく頷けば、部屋へと戻るのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

マンション ツナの自室

 

「?なんだろ…良い匂い…」

 

 ツナが部屋の扉を開けると部屋の中にふわりとした匂いを感じ奥へと進むとそこには夕食の支度をしているユニはの姿があった。

 

「あ、沢田さん!お話はもう良いんですか?」

 

「ああ、うん…それよりも…」

 

「ごめんなさい、もう良い時間かと思ったので少しお台所を借りました

すぐに出来ますので、座って待っていてもらえます?」

 

 手慣れた手つきで包丁を扱うユニは、ツナが帰ってきた事に気付くと手を止めて尋ねてきた。

コンロには鍋が置かれており、中身は味噌汁のように見える。まな板の横にはある程度切り揃えられた野菜がザルの中に収まっていた。

 にこやかに言われたツナはとりあえず居間の方へ行くとそこには部屋の隅においていたテーブルが準備されており、ツナは自分の家なのにも関わらず緊張しながら床に座った。

 

「うん、沢田さん出来ましたよ~、と言っても有り合わせですけど…」

 

「それは、ゴメン…最近買い出しに行ってなかったから、明日買い出しをしてくるよ」

 

「あ、いえ!こちらこそ勝手にお台所を使ってしまってごめんなさい、えっとささやかなものですが召し上がってください」

 

 味見をしたユニはテーブルの上に味噌汁とサラダ、更に白飯を二人分並べていく。

大した物がなかったというユニに、買い出しを最近していなかった事を思い出して謝るツナ。

 ユニは手を振ってから勝手に夕飯を作った事を謝り、並べた料理をすすめてきた。

ツナは漂ってくる匂いに顔を緩ませながら味噌汁に口をつける、その味は今まで味わってきた中で一、二を争う程の美味しさだった。

 

「おいしい!すごくおいしいよ!」

 

「えへへ、良かったです…私、料理はそれなりに自信があったから嬉しいです」

 

 ツナの感想に、ユニは手を合わせて喜ぶと安心したように息をつく。

 

「これって、誰かに教わったのかな?」

 

「はい、一通りはγから習いました!お母様は仕事一筋の方でして家事全般は出来ませんでしたので

γは自分達がいない時でもおいしい物を食べなさいって小さい時からコツコツとやってきたのです!」

 

 味噌汁を味わいながらユニに軽く聞いてみるツナ、すると指を立ててユニは習った相手について話していく、家事が得意である事を少し誇らしげに語る。

 γについて面識があるツナは、家庭的な一面がある事に驚きを覚えた。

 

「γさんってあんな強面なのに料理とか得意なんだね、意外というかなんというか」

 

「私に教える為に覚えたみたいですよ…あれ?沢田さんってγに会った事ありましたか?」

 

「ああ、えっと同じ風紀委員からγさんについて聞いていたからだよ!ほらご飯冷めちゃうから早く食べちゃおうか!」

 

 苦笑を浮かべながらツナが話すと、ユニはやんわりとした口調で返しふと気付いた事があり尋ねてくる。

別の世界で面識があるとは言えず、誤魔化すように夕飯を食べ出すのであった。

 その後夕食を終えたツナは作ってくれたユニを休ませて食器を洗い始める、片付けまでユニがやりたいと言ってきたが流石にそこまでに行かず先に風呂に入るように促した。

 

「沢田さん、お風呂いただきました」

 

「あ、うん…寝る場所だけどユニは俺のベッドを使ってくれるかな?

流石に女の子を床で寝せる訳にはいかないから」

 

「え、でも良いんですか?私は居候の身ですよ、家主を差し置いてベッドを使っても良いのでしょうか…」

 

「良いよ、俺は端にひいた布団で寝るから気にしないで」

 

 寝間着に着替えたユニが髪の水気を拭き取りながらツナへ呼び掛ける。

ツナは洗い物をして濡れた手をタオルで拭きながら、部屋のベッドに視線を向ける。

 ツナの言葉に若干戸惑いながらユニは遠慮をするが、首を振ってからベッドから離れた場所に配置された布団を見ながらツナは答える。

 

「わかりました、お言葉に甘えますね」

 

「俺も風呂に入ってから寝るから先に寝ていてくれるかな?」

 

「はい、それではごゆっくり」

 

 少し納得のいかない表情を浮かべるがユニは渋々ながら頷けば、浴室に向かうツナ。

ユニはそれを見届けてからツナのベッドへと入るのであった。

 手早く入浴を済ませたツナは配置された布団へと潜り、一息ついてから目を閉じ眠りに---つけずにいた。

 

(いや、なんかめっちゃ目が冴えて寝れないんだけど!?)

 

 ユニに背を向けるにしてからツナは複雑な表情を浮かべてなかなか寝付けない事にツッコミをいれた。

未来での戦いで同年代の女子と同じ建物で生活をした事はあったが、同室になった事はなかった為、緊張のあまり目が完全に冴えていた。

 後ろから寝息らしき声が聞こえてきた為、起き上がる訳にもいかずとりあえず寝るために意識を集中していくツナ、そして空が白みだした頃にようやく眠る事が出来たが、その数時間後にユニに起こされる事になるのであった。

 

--------------

 

「沢田さん、大丈夫ですか?」

 

「え、あ…うん…大分眠いけどね」

 

 学校に登校するために着替えたツナ、しかし端からみても明らかに寝不足に見え、ユニは恐る恐る尋ねると苦笑を浮かべながら答えるツナ。隣の山本や獄寺は既に外へと出たようで声をかけたが応答はなかった。

 眠気のあまり大きな欠伸をするツナへ丁寧に包まれた箱を差し出すユニ。

 

「これお弁当です、頑張って下さいね」

 

「あ、ありがとう…嬉しいよ!いつもは購買とかだったから

それじゃあ行ってくるけど何かあったら連絡いれてもいいからね?」

 

「はい、いってらっしゃい」

 

 昨日と同じく朝食を作ったユニは、一緒に作っていた弁当をツナに渡す。

自炊するようにはしていたツナだが、弁当を作る事はなかった為、ユニの心遣いに感謝すればカバンに渡された弁当を入れてからユニへ声をかける。

 ユニは笑顔で頷いてから手を振りつつツナを見送る。そして登校したのを確認してからユニは部屋へとはいるのであった。

 

「食材は沢田さんが買ってくると言ってたし…私は部屋の掃除をしようかな?」

 

 部屋の中を一通り見渡したユニはなにをしようか考える、そして今できる事を決めれば掃除用具を手にして掃除へ取りかかった。

部屋の埃を集めている際、ユニはふと窓の方に目をむけそのままベランダへと出るとそのまま手を伸ばした。

 その瞬間、ユニの腕の上に軽い衝撃と共に枕が落ちてきた。

 

「んああっ!?とうまの枕が!!」

 

「あの、枕でしたら私が受けとりました、取りに来てもらえますか?」

 

「ホント!?わかったんだよ!」

 

 枕を手にしてユニが首を傾げると上の部屋から少女の悲鳴が聞こえてきた。

枕というのが自分が手にした物だというのを理解したユニは上に向かって呼び掛けると少女がバタバタと動く音が聞こえる。

 そして数分後、部屋のインターホンが鳴り響いた。

 

「こんにちは、なんだよ!」

 

「はーい」

 

 扉の向こうから先程、上から聞こえてきた少女の声がしユニは扉を開ける。そこには白い修道服をまとった長い銀髪にエメラルドのような緑色の瞳の少女が立っていた。

少女はユニが出てきた事に少し驚いた表情を浮かべていた。

 

「えっと、あなたがとうまの枕を拾ってくれた人?」

 

「はい、これですよね?」

 

 少女はユニを見ながら恐る恐る尋ねると、ユニは落ちてきた枕を少女に差し出す。すると少女は枕を見ると沈ませていた表情を明るくする。

 

「うん!拾ってくれてありがとう、私はインデックスっていうんだよ!」

 

「私はユニといいます、この家に昨日から居候しています」

 

「そうなんだ、私もとうまの家にイソウロウ?しているんだよ!」

 

 枕をユニから受け取った少女は大事そうに枕を抱き締めながら自身の名前を告げる。

 不思議な名前だと思いながらもユニはインデックスと名乗る少女に自己紹介をする。

居候していると聞きインデックスは目を輝かせながら自分も同じ立場であると話した。するとインデックスの腹から大きな音が鳴り響いた。

 

「あう…」

 

「ふふ、良かったら上がりますか?何か作りますよ?」

 

「うん!食べる!」

 

 お腹を押さえて恥ずかしそうにするインデックスに微笑を浮かべながら部屋に招き入れようとするユニ。

食べ物と聞いてインデックスはすぐに食い付くと二人は部屋の中へと入っていく。

 インデックスを居間へと通したユニは、何か材料は無いかと探し始める。買い出しをしていなかった為、食材は少なかったが丁度ホットケーキミックスがあるのを見つけインデックスに振る舞う事を決める。

 

「どうぞ、お口に合うと良いのですけど…」

 

「おいしそうなんだよ~、?ユニは食べないの?」

 

「私は良いですよ、お腹は空いてないので」

 

 手早くホットケーキを作ったユニはインデックスへ牛乳と一緒に置くと、香ばしい匂いに頬を緩めるインデックス、しかしユニが牛乳だけなのを見て首を傾げながら尋ねるとユニは横に首を振ってから答える。

 するとインデックスはナイフでホットケーキを半分にすればユニへと差し出してきた。

 

「ご飯は一緒に食べるとおいしいんだよ!だからユニも一緒に食べよ?」

 

「…はい、わかりました!」

 

 切り分けたホットケーキをフォークで刺して自分の分を確保してからインデックスは、一緒に食べようと誘ってきた。

 最初は迷っていたユニだが、インデックスの気遣いを受けてフォークと取り皿を持ってきて二人でホットケーキを食べながら会話を弾ませた。

途中、インデックスがもっと食べたいと言ってきた為、ユニは新しくホットケーキを焼き、部屋に置いてあったホットケーキミックスをすべて使い切る事になった。

 

「おいしかった、ありがとうなんだよ、ユニ!」

 

「いえいえ、お粗末様でした」

 

「あ、その…お手伝いしてもいいかも?」

 

「良いですよ、じゃあ一緒にやりましょうか」

 

 大量のホットケーキを食べ終えたインデックスは手を合わせてユニに礼を言えば、にこやかに返答し使った食器を洗う為にシンクへと持っていく。

洗い物を始めようとした時、インデックスが少し言いにくそうにしながらも提案してきた。

 インデックスの意思を尊重し、ユニは自分の隣を開けて洗い物の仕方をインデックスへと教えていく。

 その後二人は一緒にテレビを見ながら談笑を始めだした。

 

「ふわぁ…」

 

「ユニ、なんだか眠そうなんだよ?」

 

「えっと…ごめんなさい、ちょっと昨日寝付けなくて…沢田さんにはバレないようにしていたんですが、ちょっと限界で…」

 

「そうなんだ、あ!それなら良い方法があるんだよ!」

 

 テレビを見ていた時、ユニは大きな欠伸を浮かべた。うとうととしているユニの姿にインデックスは不安げに尋ねると、目を擦りながらユニはあまり十分な睡眠が取れなかった事を話した。

 話を聞いていたインデックスは、少し考えてから手を叩き自身の膝を整え出した。

 

「あの、インデックスさん?何を?」

 

「膝枕だよ、眠いなら寝た方がいいと私は思うんだよ!だからほら、遠慮なく寝て寝て!」

 

「はぁ、それじゃあ失礼して…」

 

「はーい、おやすみなんだよ~」

 

 インデックスの行動に首を傾げるユニ、すると自身の膝で眠るようにインデックスは誘ってきた。

断ろうかと思ったが眠気には逆らえずにユニはインデックスの膝に頭を乗せるとそのまま眠りについてしまう。

 眠り始めたユニへインデックスはゆっくりとあたまを撫でながら小さく歌い始めるのであった。

 

 それから数時間が経過し、日の光が茜色に染まり出した時、ユニは目を開けた。

 

「あ、寝ちゃってたみたい…」

 

「…ほえ…」

 

 起き上がり身体を大きく伸ばすユニ、インデックスもどうやら眠っていたらしくユニが身体を起こした衝撃で目を覚ました。

 最初はお互いに寝ぼけていて呆けていたがすぐに思い出して思わず笑いあってしまう。

そして時計を見てインデックスは同居している上条が帰ってくる事を思い出して部屋に戻る事を告げた。

 

「それじゃあインデックスさん、膝を貸してくれてありがとうございます」

 

「インデックスで良いんだよ、私もユニって言ってるからそれでおあいこだよ

それで、その、また遊びに来てもいいかな?」

 

「はい!わかりましたインデックス、いつでも遊びに来てもいいですよ、私も話相手が欲しいですから」

 

 部屋に帰ろうとするインデックスを見送るユニ、膝枕の件に礼を告げるとインデックスはにこやかに返すと照れくさそうにしながら尋ねる。

 するとユニは笑みを浮かべて快諾すれば次の来訪を待っていると返すのであった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

マンション前

 

「あれ?」

 

「んお?」

 

 空がすっかり暗くなった頃、食材を買い出し終えたツナはマンションの前で上条と出会った。

 ツナの荷物はそれなりの量があったが上条も同じくらいの食材を買い込んでいた。

 

「どうもです、上条さん」

 

「おう、沢田も今帰りなのか?すんごい荷物が多いみたいだけど」

 

「ええ、まぁ…ちょっと同居人がいまして…上条さんも荷物が多いですね」

 

 軽く頭を下げてからツナは上条へ挨拶をすると、上条も同じように返事をすれば手に持った荷物に目を向ける。

苦笑を浮かべつつ言葉を濁して答えると上条の荷物の多さについて尋ねた。

 

「まぁな、うちにも同居人がいて人一倍食うんだよ、だから上条さんは日々増えるエンゲル係数に頭を悩ませてるんだよ、本当に」

 

「あはは、なんだか大変ですね…もしまた作り過ぎる事があれば差し入れをしましょうか?」

 

「マジか、それは助かるけど良いのか?」

 

「食材を無駄にするよりは良いかなって思いまして」

 

 上条はずっしりと重い買い物袋を見ながら深いため息をつく。

苦笑を浮かべながらツナは、何度か会っている内に上条の経済事情を聞いていた事を思い出し、数回ほど差し入れをしようかと提案する、上条は天の助けと言わんばかりにすぐに食いついてくる。上条の反応の早さにそんなに逼迫しているのかとツナは冷や汗を流しつつ返してから、二人はそれぞれの同居人が待っている部屋へと戻るのであった。




次回予告

インデックス「ユニ!ユニ!今日は私たちが次回予告なんだよ!」

ユニ「頑張りましょうね!インデックス、レベルアッパーについて調べていく沢田さんや御坂さん達、そんな中である科学者が捜査に加わるようですね」

インデックス「せんもんぶんやの科学者なんだよ!でもいきなり服を脱ぎだす変な人かも!」

ユニ「更にレベルアッパーを使用したと思われる能力と白井さんが遭遇するみたいです
それでは、次回、とあるマフィアの平行移動!第11話、踏み出す一歩と離れる心、お楽しみに」


インデックスの口調が迷走していました、申し訳ないです
4万UAを達成しました、一応前回飛ばしたので記念小説をやりたいと思ってます
作者の中で少し書いてみたいのがありますが、皆さんはどうでしょうか?


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第11話a:踏み出す一歩と離れる心

今回からレベルアッパー編をすすめていきます
その間にUAが達成しても記念はやらない方向でいきます、なんというか作者の気持ちやテンションが切れてしまいますし、読者も話が続いた方が読みやすいでしょうし


学園都市 第七学区

 

 佐天から見せたいものがあると聞いて、ツナと初春、そして山本は街角にて佐天を待っていた。

 

「見せたいものってなんだろうな?」

 

「全然、検討がつかないや…」

 

「右に同じです、良いものとしか聞いていませんでしたから」

 

 呼び出した佐天本人がまだ集合場所にいない為、ツナ達は首を傾げながらどんな用事で呼び出したかを考えていた時であった。

 

「やっほーい!初春!!」

 

「ひやぁあああ!?」

 

 背後から急に姿を表した佐天が豪快に初春のスカートをめくりあげた。

いつもよりも勢いのあるスカートめくりに初春は涙目になりながらスカートを抑え、不敵に笑っている佐天にポカポカと叩き始めた。

 ツナと山本は思わず目を伏せて視線をそらした。

 

「それで、一体なんのようなんですか?」

 

「怒らない怒らない、実はね…ついに手にいれたのあの噂のアイテムを!!」

 

「「?、アイテム?」」

 

 頬を膨らませながら佐天に問いかける初春、すると頬を緩ませながら佐天は得意げに語り出した。

しかしイマイチ内容を理解していない山本とツナは疑問を浮かべながら首を傾げた。

 

「いざ、刮目せよー!」

 

「「………」」

 

「ただの音楽プレイヤーじゃないですか」

 

 意気揚々と佐天はポケットに入っていた物をツナ達へと突きつける。

しかし、それは特に変哲のない携帯に表示された音楽プレイヤーのアプリであった、ツナと山本はキョトンとする中で初春は冷めた視線で佐天を睨み付けた。

 

「いやいや、重要なのは中身、これにはすんごいの入ってんだから

けど、ここじゃなんだし、どっかファミレスでも行こうよ」

 

「呼び出したのは佐天さんじゃないですか!」

 

「まぁまぁ、立ち話もなんだしね?それに暑さで倒れたらまずいでしょ?」

 

「もう、佐天さんは勝手なんですから…」

 

 疑いの眼差しを向ける初春に佐天は慌てて音楽プレイヤーの中身が重要だと言う、呼び出しておいて更に場所を変えようと言い出した佐天に、初春は文句を口にする。

 不貞腐れる初春に佐天は笑いながら、背中を押して移動を始めた。

 

「とりあえず、俺らもついていくか、良いものってのも気になるしな」

 

「そうだね、それに…」

 

「どうした?ツナ」

 

「いや、なんでも無いよ!ほら二人を追わないと」

 

 歩き出した二人を見ながら山本は朗らかに笑いながら佐天の見つけた物を見たいという。

ツナは特に反対はしなかったが、どこか神妙な表情を浮かべていた。

 心配をする山本にツナは笑みを浮かべて答えると二人を追いかけ始める。その時、ツナの頭には今朝の記憶があった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ツナの自室

 

 それはツナが佐天から指定された向かおうとした時であった。

 

「沢田さん、少しいいですか?」

 

「どうしたのユニ?」

 

 扉に手をかけた時だった、洗い物をしていたユニがツナを呼び止める。

振り替えるとユニが不安な引っ掛かりを浮かべているのが見えた、ツナは息を飲んだ。

 

「その上手く言えないのですが…近いうちに何かあるような気がするんです…」

 

「それって何かを予知したって事?」

 

「はい、けど…私の能力はとても不安定でハッキリ見えない場合があるんです

ごめんなさい、不安にさせるような事を言ってしまって…」

 

「ああ、気にしないで!何かあるってわかってるんなら心構えくらいはできるからさ」

 

 ユニは言いにくそうな表情を浮かべながら予知に出てきた事を告げるが、あまりにも不明瞭な情報にユニは申し訳なさそうに謝る。

 肩を落とすユニにツナは苦笑を浮かべながらフォローをいれた。

その後、不安げにしているユニをなんとか言い聞かせてから家を出たツナ。

 

 佐天の良いものがどういうものか全然わからなかったがユニの言葉と関係するのかと思いながらも山本と共に佐天達の後を追うのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

第七学区 ファミレス

 

 ツナ達がファミレスに向けて移動し始めたのと同じ頃、ファミレスのテーブル席にて獄寺が自前のパソコンを操作しながら昨日まで調べた情報を整理していた。

 

(レベルアッパー、なんとか情報は集まってきた…けどやっぱり実物がねぇとイマイチだな)

 

「あのぅ、すみません…お客様…」

 

「あぁ?」

 

「ひぅ、すみません相席をお願いしたかったんですがよろしいですか?」

 

「相席?まぁ…別に構わねぇけど…げ…」

 

 メガネを外し、一気に襲ってきた疲労感を感じながら獄寺はレベルアッパーについて考えていた。

その時であるファミレスの店員が獄寺に声をかけてきた、長時間もの間、パソコンを見ていた為に獄寺は目を細めながら聞き返す。

 店員にはそれが威嚇に感じたらしく思わず小さく悲鳴を上げ、若干早口で要件を伝えてくる。

相手をビビらせてしまった事に若干、罪悪感を感じながら了承をするが店員の背後に見えた姿に獄寺は嫌そうな声を上げた。

そこにいたのは初対面の時から友好的ではない白井であり、その後ろには御坂と獄寺は見たことが無い白衣姿の女性が立っていた。

 

「…で、なんでファミレスに来てんだ?良いとこのお嬢様だろ、お前ら」

 

「いろいろ事情がありますの、貴方こそファミレスで何をしているのですの?」

 

「情報整理だよ、レベルアッパーのな」

 

 獄寺は向かい座った白井と隣にいる御坂に視線を向けながら尋ねると、白井は自分の隣にいる白衣の女性に視線を向けつつ答える。

そして獄寺のパソコンを視界にいれつつも質問を投げ掛ける。答える事を面倒そうにしながらも、ツナから白井や御坂に協力するように言われていた為に獄寺は白井達に自分がしていた事を話した。

 

「すご…これだけのデータ、良く集めたわね…獄寺くん、だったわよね?」

 

「まぁ、蛇の道は蛇、っていうからな…けどまぁ、これ以上は情報は無くてな

やっぱり実物を手にいれない事にはレベルアッパーの解析は進まねぇな」

 

「かなり怪しいですが情報としてはかなり有益ですわね」

 

 パソコンにまとめたデータを見て、御坂は素直に感心をする。獄寺は集めた経緯については語らずにまだ完全ではないことを話す。

獄寺のデータに白井は複雑な表情を浮かべてながらも称賛を口にする。

 

「どれ、少し確認させて貰えるかな?」

 

「んお!?そういや誰なんだコイツは…」

 

 二人が感想を言い終えた時に、今まで黙っていた女性が獄寺のパソコンに目を通し始める。

今まで言葉を発してなかった為、獄寺は驚きつつも白井に女性について尋ねる。

 

「今回の事件に協力してくれる大脳医学研究者、木山先生ですの

レベルアッパーを使用したと思われる方達に共通している事態が起きてますの」

 

「共通?」

 

「ふむ、なかなか良いデータだ…話をする前にそこにいる子は君たちの知り合いかな?」

 

 獄寺の問いかけに特に当たり障りなく答える白井、そして木山が話をしようとした時、窓の外を指でさした。

 獄寺達がその方向に目を向けるとそこには佐天が窓に張り付くようにしながら手を振る姿があった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「いやぁ!大所帯ですんません!!」

 

「まぁ、初春や沢田さんには後で伝えるつもりでしたけど…いくらなんでも多すぎですの!?」

 

 ファミレスへと入った佐天、初春、ツナ、山本は同じ席に座ろうとしたが流石に多すぎた為、男女で別れて座り席についた佐天がおおらかに言い出す。

 白井はため息混じりに呟き、改めて人数の多さにツッコミを入れた。

 

「おや、また会ったね…えっと沢田くんだったかな」

 

「ええ、まぁお久しぶりです…木山さん」

 

「なんだ?ツナ、知り合いなのか?」

 

「少し前に道案内をしたくらいだよ」

 

 騒ぐ白井を気にせずに木山はゆったりとした口調でツナに話しかける。

以前、車のキーを無くした時に振り回された事を思いだしながらツナは苦笑を浮かべた。

 

「さてと人数が増えてしまったからどこから始めた方が良いかな?なにぶん、どこまで喋ったかを忘れてしまった」

 

「この際、初めからお願いできます?私もイマイチ、ピンときませんので」

 

 木山は話を再開しようとするが事態が転々とした為、話が飛んでしまった事を話す。

すると、白井も同じよう情報をまとめる為に提案をする。

 

「良いだろう、確か同程度の露出でも何故、水着は良くて下着はダメなのかだったかな?」

 

「「いや、違います」」

 

 木山は白井の案に乗り、自分が覚えている限りの古い情報を提示するが御坂と白井は声を揃えて否定した。

 

「私達は、昨今学園都市で起きている能力が異様に向上した人間の事件にレベルアッパーという代物が関わっている事を睨み調査していますの」

 

「ああ、そうだったね…しかしそのレベルアッパーというのはどういうシステムかな?形状は?どうやって使う?」

 

「残念ながらその辺りはわかっておりませんの、ただ」

 

 咳払いをして白井は木山に向けて、事の始まりを話だした。説明を聞いてようやく思い出した木山は、白井にレベルアッパーについて詳細を求める。

しかし、都市伝説の代物でしかないレベルアッパーについて不明な点が多い事を話し、獄寺に視線を向ける白井。

 

「レベルアッパーを使用した人間はほぼ確実に能力が向上しているというが調べた結果だな

レベル0なら能力が使用できて、レベル1や2なら4まで跳ねあがっている」

 

「それなら、なんで公にならないんだろうな?学園都市って能力開発をしてんだろ?

それだけ確実なら作った奴は表彰もんだろ」

 

「残念ですが、そう上手い話ではありませんの…使用した人間は数日、いえ早ければ使用してすぐにでも意識不明の昏睡状態になってしまいますの」

 

 獄寺は集めたデータを読み上げていく。内容としてはとても優れた代物だと山本が呟くが、白井は首を振ってから使用者の状態を話せば、脇に置いていたカバンから意識不明者のリストをツナ達に見せる。

 そこにはツナが学園都市に来てから関わってきた事件の容疑者達が表示されていた。

 

「なるほど、意識不明の原因が能力が急激に上昇した反動か、レベルアッパーを使用した副作用か

まだそこは確立していないんだね?」

 

「はい、木山先生には能力向上による脳内の調査とレベルアッパーを解析をお願いしたいのです」

 

「なるほど、確かに私は大脳医学の研究者だ…話を持ち込むのは妥当だね…むしろ是非協力したい案件だ

しかしその為には現物が必要だね」

 

「あ、それなら私「それと所有者も保護しなきゃならない…そうよね?黒子」

 

 話を聞いていた木山は少し考えながら自分なりの解説をしていくと白井は頷いてから協力を要請した。

頼んできた経緯を理解した木山はレベルアッパーの解析について快く快諾した。

 そして現物を求める木山に佐天が言葉を口にしようとしたが言葉を遮るように御坂が白井に尋ねてきた。

 

「どういう事なんです?」

 

「先ほど話した副作用もそうですが、レベルアッパーには犯罪を促進させる増長作用もあるかもしれません

他にもまだ把握していない事もありますの、ですからレベルアッパーを所持している方は使用有無に関わらず拘束しようと考えていますの」

 

「佐天、どうかしたの?…そういえば良い物があるって言ってたけど…」

 

「え、いや…その…」

 

 話を聞いていた初春が内容について、白井に尋ねると白井は肩をすくめてから説明をしていく。

話を聞いている最中に、ツナは佐天の様子がおかしい事に気付き声をかける。声をかけられた佐天は言いづらそうに言葉を濁らせ、思わず側にあった飲み物を倒してしまった。

 

「おや…」

 

「うわわわ!ごめんなさい!?」

 

「ああ、気にしなくてもいいよ、濡れたのはストッキングだけだから脱げばいいだけだからね」

 

「「「「んな!?」」」」

 

 溢れた中身は木山のストッキングにかかってしまった、佐天は慌てて飲み物を拭こうとしたが木山は手でそれを制すれば、立ち上がりストッキングに手をかけて脱ぎ始める。

 いきなりの行動にツナ達は驚きの声を上げた。

 

「会った時もそうでしたが、不用意に服を脱ぐのはお止めください!!」

 

「しかし、私のような起伏に乏しい身体に劣情を催す事など無いと思うのだが…」

 

「男性は狼ですの!?それに同性でもそういう方はいますの!もう少し危機感を持ってください!!」

 

 服を脱ぎ始める木山に白井は服を着せながら怒鳴り付ける、少し困ったようにしながら木山は返答をするが、白井は食い入るように木山へ説教をぶつけた。

 白井の発言にツナや御坂は苦い表情で眺めていた、それから日が暮れるまで御坂達は木山と共に情報交換を行った。

 木山が歩いて帰るのを見送る中で、ツナは佐天の姿がない事に気付いた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

高架下

 

(やっぱり手放したくない…まだ使ってもいないし…それにやっと手にいれたコレを手放したくないよ)

 

 初春達から離れ、佐天は人目を避けるように駆けていく。そして誰もいない事を確認してからポケットから音楽プレイヤーを取り出して守るように手で包みこんだ。

 

「佐天?」

 

「うえ!?ツナさん?」

 

「急にいなくなるから心配したよ」

 

 一息ついた時、後ろから追いかけてきたツナに声をかけられた。

びっくりした佐天はすっとんきょうな声をあげるとツナは苦笑しながら追いかけてきた理由を話した。

 その言葉に佐天はホッと息をつけばいつものように笑みを浮かべる。

 

「いやぁ、風紀委員でも無いのに話を聞いていてもあたしじゃ力にはなれませんからね

御坂さんはレベル5だし、獄寺さんはレベル3でいろんな情報を集めてる、山本さんは友達を助ける為…けれどあたしは特に何もない…それなら聞く意味ないですよ」

 

「…?佐天、何か落ちてるよ?」

 

「うえ?あ、落ちゃってましたね…これ、お母さんがこっちに来る時に渡してくれたんです、おかしいですよね

科学の街でこんな願掛けみたいな事…ホントバカみたい…」

 

 頭を軽くかいてから佐天は笑い飛ばすように言うと、肩を落として力なく呟いた。

佐天に声をかけようとしたツナは佐天の足元にお守りが落ちている事に気づく。

 お守りが落ちた事に言われてから初めて気がついた佐天は拾い上げてから苦笑を浮かべて言う。

 

「そうかな、俺もあるよ、お守り」

 

「それ、手作りですか?ずいぶんと手が込んでるみたいですけど」

 

「うん、大事な場面の時に、気のせいかもしれないけど力を貰えてるような気がするんだ…だから、佐天の言ってる事はおかしくないと思うんだ」

 

 苦笑をする佐天にツナはポケットに入れていたお守りを見せる。

ツナのお守りをジッと見ながら尋ねるとツナは頷いてから大事そうに握りしめてから答える。

 

「…たまにですけど、期待が重い時あるんですよね…いつまでもレベル0で何をやってもさっぱりで…」

 

「佐天…逃げても…逃げだしても良いんじゃないかな?期待が重くて嫌なら、無理に能力に目覚める必要とか無いんじゃないかな?」

 

「ツナさん…」

 

 ツナと同じようにお守りを握り締めながら佐天は弱々しく呟く。

今にも折れてしまいそうな姿を見て、ツナは佐天に向けて不意に尋ねた。

 佐天は視線を一度泳がせてから、小さく笑いながらツナへ手を差し出してきた

 

「じゃあツナさん…あたしと逃げてくれますか?」

 

「え?」

 

「あたしはそんな大それた事にふんぎりはつきません、けどツナさんが手を引いてくれるなら逃げ出せると思うんです

行き先はわかりませんけど、ツナさんとならどこにでもいきますよ、あたし」

 

「佐天…」「なーんて!冗談ですよ!冗談!!」

 

 弱々しくも確かな言葉で佐天はツナに尋ねてきた。自分の言葉ながらツナは驚きを表情に浮かべる。

その上で、佐天は更に言葉を紡ぎツナの答えを待った。

 手を強く握り締めてからツナは考えを巡らせる、そして意を決したように顔を上げた瞬間、佐天は先ほどまでの弱々しさを打ち払うように声をあげてツナに背を向けた。

 

「んもう、悩んでるのバレバレですよ?ツナさん、そこは佐天!黙ってついてこい!!って叫んで手を引く流れなのに、ホントにダメだな~」

 

「あ、うぅ…」

 

「けど、ありがとうございます…周りはみんな能力、能力ってばかりだったから

正直初めてでした、逃げても良いって言われたの…

ツナさんって本当に変わってますよね?能力に対して欲がないっていうか、全然興味ないっていうか…」

 

 佐天は明るく振る舞いツナに向けてダメ出しを行った。

先ほどまでの雰囲気とはうって変わって快活的な佐天にツナは驚き戸惑うと、佐天は柔らかく笑みを浮かべて自分の気持ちを口にした。

 そしてツナの背後に回れば思いっきり背中をはたいた。

 

「いっつぅ!!?」

 

「それじゃあ帰りましょうよ!流石に夜道は危ないですからね」

 

 いきなり叩かれた事にツナは思いっきり悲鳴をあげると佐天は沈んだ空をさして帰りを促すと先導するように歩きだした。

 ツナも痛がりながらそれに続くのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

翌日 第177支部

 

「獄寺さんが調べた情報とネット内に上がった情報を整理してレベルアッパーの取引をすると思われる場所をピックアップしました」

 

 日が変わり白井達はレベルアッパーを確保する為に取引現場を差し押さえ、現物を直接手にいれる事を決めて、初春はまとめ上げたリストを白井とツナに手渡した。その量は二人で割ってもそれなりの量であった。

 

「結構ありますわね…」

 

「これ、全部が取引現場なの?」

 

「すみません、十代目…取引現場は毎回転々としていて、これでもだいぶ絞り込んだ方なんです」

 

 リストの多さに白井とツナが引き気味に言えば、初春と共に情報を整理していた獄寺が申し訳なさそうに頭を下げた。

神妙にツナにだけ頭を下げる獄寺に白井は苛立ちを覚えた。

 

「何故沢田さんには謝って私にはなにもないんですの!?」

 

「てめえはテレポートがあるからマシだろうが、それとも何か?頑張れとでも言ってやろうか?ァアン?」

 

「結構ですわ、この類人猿!!」

 

「二人とも落ちついて、今はレベルアッパーの方が先だよ」

 

 獄寺に食い付く白井、すると苛立ちを露にしながら獄寺は言い返した。

悪意以外込められていない労いの言葉に白井は眼光を向けながら返した。

 そんな二人の間に割って入るようにツナは仲裁に入ると二人は同時にソッポを向いた。

 

「とりあえず、私は遠い箇所からあたりますの、沢田さんは近場をお願いできます?」

 

「わかった、気をつけて」

 

「それはこちらのセリフですわ、もし取引現場を見つけても迂闊に動かないで下さいね?」

 

 息を整えてから白井はリストの中から現在地より離れた場所へ向かう事を告げる。

近場の場所を確認してからツナが頷くと、白井は普段よりも優しい言葉をかけてからテレポートで移動をした。

 

「私達は現在、レベルアッパーの取引が無いかネットワークの監視をしましょう!獄寺さん」

 

「わかった…十代目、ちょっといいですか?」

 

「なに?獄寺くん」

 

 白井が移動したのを確認してから初春はパソコンの砲に向き、獄寺に呼び掛ける。

獄寺は初春がパソコンに向かったのを確認してから小さくツナへ呼び掛ける。

 声を潜める獄寺にツナは首を傾げながら近づくと、獄寺はツナの手に一つの匣を握らせた。

 

「移動はなにかと大変なので使ってください、大丈夫です

許可は固法って奴に取りましたから」

 

「え、あ、うん!わかった!」

 

 ツナが匣について聞こうとしたが獄寺は初春に聞かれないように答えてからツナの背を押してその場を離れさせようとした。

 中身がわからないが便利な代物だと考えツナは初春から隠れるように外へと向かうのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

第177支部前

 

「一体、何が入っているんだろ?」

 

 外へと出たツナは匣を眺めながらとりあえず開口しようと考え、リングに炎を灯して匣に差し込み開口した。

すると、匣の中からオレンジ色の炎に包まれたバイクが姿を表した。

 

「これ、もしかしてエアバイク!?デザインが違うみたいだけど…」

 

《十代目、聞こえますか!?》

 

「獄寺くん!?これって一体…」

 

 重い音を立てて地面に置かれたバイクを見て、ツナは直感的に理解をした。

 それは未来での闘い、チョイスでツナ達が使った死ぬ気の炎を動力源としたエアバイクであった、しかし未来での物と違い、ちゃんと車輪がエアバイクに装着されていた。

 ツナがエアバイクに手を触れるとバイクのコンソールから獄寺の声が聞こえてきた。

 

《それは改良型のエアバイクです、俺達の世界からもってきました

ジャンニーニや入江、スパナが改造したエアバイクXカスタムです

通常のバイクと空気圧で浮くホバーへ切り替える事が出来る代物で、十代目は風紀委員で幅広く動く必要があるかもと前々から申請してました

勿論、技術を流出しないようにしたので安心してください》

 

「ありがとう、獄寺くん…使わせてもらうよ」

 

 エアバイクの説明を聞きながら、チョイスの準備でさんざん乗り回した事を思いだすツナ、そして獄寺に礼を告げてから座席に収納されたヘルメットを被りエアバイクに乗り込む。

 軽く走らせてから身体が運転を覚えている事を確認してからスピードをあげ、リストにある最初の候補地へと向かうのであった。




佐天とのやりとりを見ていたらギャルゲーとかにある一枚絵が脳内に浮かびました
読んでくれた方にもわかってもらえたのなら嬉しいかなと思います
アンケートが続きを所望する声が圧倒的だった事に驚いた作者です
なんというかありがたいですね
それでは次回は出来るだけ早めに投稿したいですが…出来るかなぁ!


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第11話b:踏み出す一歩と離れる心

※はイメージBGM として仮面ライダーゴーストの『心の叫びを聞け!』を推奨します


第七学区

 

 177支部を離れエアバイクにてリストに記載された箇所を回っていくツナ。

怪しげな場所はいくつか存在したが、取引現場という訳では無く捜査は難航していた。

 

「こちら沢田、一枚目のリストに記載された部分が終了したよ」

 

《お疲れ様です、次はもう少し遠くにいきますか?》

 

「そうだね、コレがあるならある程度離れられそうだ…白井さんの方はどう?」

 

《今花冠がサポートしてますが、空振りだらけだそうですね》

 

 エアバイクを止めてから最初のページを終えた段階でツナは、支部に連絡をいれる。

エアバイクに取り付けられたコンソールから獄寺の声が聞こえてきた、出された提案に頷きつつツナは白井の状況を尋ねると獄寺は同じ状況だと返した。

 花冠というのが初春の事だろうと考えながら、エアバイクのエンジンをかけて次の場所へと向かう事にするのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

(消した方が良いんだよね、ううん…初春達に相談した方が…でも…そうするとコレを手放さなきゃいけない)

 

 時刻は昼下がり、人気のない高架下で佐天は携帯を見つめていた。

音楽プレイヤーのアプリを起動した画面にはNoNameと表示されていたがそれこそが今、ツナ達が必死に探しているレベルアッパーであった。

 

 佐天がそれを発見したのは偶然で、音楽ストアから曲をダウンロードした時にたまたま押した項目にレベルアッパーをダウンロードできる裏サイトへの入口だった。

 すぐにレベルアッパーをダウンロードした佐天だがあまりにも簡単に手に入ってしまった事と胡散臭さから使用を躊躇っていた。

 

 更に御坂が言っていた風紀委員がレベルアッパーを所有している人間を拘束するという言葉もあり佐天は誰にも言い出す事が出来ずにいた。

 

(やっと手入れたレベルアッパー、これがあればあたしは能力者になれる…これさえあれば)

 

 まるで呪詛のように携帯を握り締めて再生のボタンを押そうとした、しかし、佐天の脳裏にツナの言葉が浮かび指を離した。

 使えば意識不明になるかも知れないそんな物を使ってまで能力者になりたいのか?佐天の中には二つの考えがせめぎあっていた。そんな時であった…

 

「お願いだ!譲ってくれよ!!レベルアッパー!!」

 

「っ!?」

 

 いきなり聞こえてきた男の声に佐天は思わず携帯を隠すが、その言葉は自分にではなく曲がり角の先から聞こえてきた。

 息を殺しながら覗き見るとそこには小太りの男と明らかに人相が悪い三人組がいた、どうやらレベルアッパーの取引現場のようで三人組の一人が札束を手にしていた。

 

「だぁから、譲ってやるよ…けどな、あいにくレベルアッパーってのは大人気でな

ちょい値上がりしたんだ、まぁほしけりゃもう十万持ってこい

そしたら渡してやるよ」

 

「だったら…また金は用意するから今支払った分は返して「あぁん?んな事するかよ!コイツは先払いとして俺達が貰ったんだ、なんで返さなきゃなんねぇんだよ!!」

 

 小太りの男に対して男達はゲスな笑みを浮かべながら説明をすると、小太りの男は金を返すように求めるが、札束を手にした男は威嚇するように吠え、小太りの男を蹴り飛ばした。

それでも小太りの男が食い下がろうとするが、男達は殴り蹴りだした。

 佐天は目を閉じその場を早足で離れていく。

 

(どうにも出来ない、あたしなんかじゃ…そうだ!風紀委員か警備員に!)「マジ!?充電切れ?なんでこんなときに…」

 

 周りに誰もいない事を確認してから佐天は通話ボタンを押そうとするが、その瞬間、画面に電池のマークが表示される。先ほどまでアプリを開いていた為に電池が切れてしまった。

 

「しょうがないよ…向こうには見るからにヤバい三人で…あたしはついこの間まで小学生だった…何かしようって方が間違い…間違いなんだから!」

 

 佐天は小太りの男を助けようと考えている自分に向けて言い聞かせるように叫ぶ。

 無能力者がどう足掻いたって敵わない。

見ない振り聞かない振りをしていれば危険は無い、助けても何か変わる訳じゃない…そう思っても考えても…

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「やめなさいよ!!」

 

「あん?」

 

 動かずにいられなかった、助ける為に行動しなきゃと考えずにいられなかった。初めて会った時にツナが身を挺して行動していた姿を見ていたから…

 

「その人、怪我してるし、そのままだと死んじゃう…それに今に警備員や風紀委員が来るからアンタ達、全員捕まるよ…だから…」

 

「ハッ!!」

 

 佐天は不良の前へと立ち小太りの男から手を引くように言う。相手の命を奪う事の懸念と警備員が来るという出任せを口にした。

 しかし風紀の一人が佐天を近くの壁へと追い詰めると佐天の顔の近くに蹴りを放つ。

 

「上等だよ!風紀委員だろうが警備員だろうが相手になってやらぁ!

けどまぁ、バカな奴だよな…知りもしない相手を助けるなんてな!」

 

「あぐぅ!?」

 

「ガキの癖に生意気だぜ、なんの力もねぇくせによ!」

 

「っ!」

 

 蹴りが撃ち込まれた場所は大きくへこみ男の力を示しているようであった。

不良は佐天の髪を掴み未だに反撃してこない事から無能力者であると判断をして、突きつけるように言い放ってきた。

 自分でもわかっていた事を改めて他人に指摘され佐天はショックを受け目を大きく見開いた。

 

「貰い物の力で横暴な振る舞いをするあなた方に彼女を非難する権利はありませんわ」

 

「なんだ、コイツ!いつからそこに!?」

 

「風紀委員ですの!暴行と傷害の現行犯で全員拘束します!」

 

 凛とした声が響き渡り、不良達は声の方向に目を向けるとそこには白井の姿があり突きつけるように腕章を見せながら不良達へ宣言をした。

 しかし風紀委員の存在に不良達は怯む所か不敵な笑みを浮かべていた。

 

「へっ、一人で俺らの相手をする気か?ガキが舐めてんのかよ!」

 

「ナメるですか、まぁ当然ですわね…相手の力量も図れない輩には気も抜けますわ

ですが散々、無駄足を踏まされた挙げ句に友人がヒドイ目にあわされたのです」

 

「ガハッ!?」

 

「今日の黒子は容赦ありませんでしてよ?」

 

 不良の一人が白井へと威嚇しながら近付き、肩を掴み力を込める。

肩を捕まれたが、スンとした表情を浮かべながら白井は笑い飛ばすように言えば不良の胸元に手を当てれば相手の身体をひっくり返して地面へと叩きつけた。

 叩きつけた衝撃で気絶した不良を見下ろしながら白井は残りの不良を睨み付けた。

白井の言葉に反応して不良が突撃をする、それと同時に近くの廃材が不良に引き寄せられていく。

 

(サイコキネシス?いえ、磁力操作?)「なんであれ、来るのがわかっているのであれば、対処は可能ですわ」

 

 相手の能力を分析しながら白井は地面を蹴り、同時に空間転移を行い廃材をかわした上で相手の懐に飛び込み、手にした鞄で相手の頬を殴り飛ばした。

 不意を突いたその一撃は相手の意識を刈り取るのに十分であった。

 

「空間転移か、ハッ!いかにもな高能力じゃねぇか」

 

「次はあなたの番ですわ!」

 

 昏倒する不良を一瞥もせずに佐天を捕まえていた不良は白井を見ながらゲスな笑みを浮かべる。

髪を払う仕草をしてから白井は不良を見据えて宣言をした。

 

 あっという間に不良を二人倒した白井を見ていた佐天は助かったと思いながらも、大能力者(白井)と無能力者(自分)の差を痛感して顔を伏せた。

 

「佐天!大丈夫!?」

 

「ツナ、さん?…なんでここに…?」

 

 意識が沈みかけた瞬間、聞きなれた声が聞こえ佐天が顔を上げるとそこには息を切らしているツナの姿があった。

 

「白井さんから佐天が不良に絡まれてるって連絡が入ったんだ」

 

「そうなんですか…けどもう大丈夫です…白井さんがすぐにやっつけて」「あぐっ!?」

 

 倒れている佐天を起こしつつツナは自分がここに来れた理由を説明をする。佐天は顔を伏せながら力なく笑みを浮かべた瞬間、鈍い音が響き渡り白井の悲鳴が聞こえてきた。

 

「白井さん!?」

 

(どういう事ですの?確かに私は背後に周り込んだ筈なのに、相手は後ろにいた…それに!)「ぐぅっ!!」

 

 壁に叩きつけられた白井にツナが声をかける、白井は咳き込みながら立ち上がり攻撃を受けた状況を思い返し不自然な点を特定しようとするが、不良は殴りかかってくる。

 白井は鞄で拳を防ごうとするが相手の攻撃はガードをした方向とは真逆の方向から白井の身体へ打ち込まれる。

 

「げほ!げほ!!」(検討違いの方向からの攻撃…何か仕掛けがある…見極めなくては)

 

「へっ、しぶといじゃねぇか!そうでなきゃ楽しくねぇな!!風紀委員!!」

 

 咳き込みながら白井はなんとか後方へ転移し混乱しかけている頭をなんとか冷静へと戻し、対策をとろうとするが相手は更に連続で攻撃を仕掛けてきた。

 防戦一方の白井に佐天は表情を曇らせる中でツナの瞳には相手の力が何なのか理解できた。

 

(アレは骸や幻騎士みたいな霧の幻覚みたいな物で、見えているのと本体は別にある…俺ならやれる筈だ…)

 

 白井の受けている攻撃のカラクリに気付き、ツナはあらかじめ用意していたXグローブと死ぬ気丸のケースを取り出す。

 自分の超直感なら闘えると思い一歩踏み出す、しかし不意に自分の手が引かれるのを感じた。

振り替えると佐天がツナの手を引いているのが目に映りこんだ。

 

「ツナさん…ダメですよ…白井さんだって苦戦する相手なんですよ?ただじゃ、すまないですよ…あたし達は見ているしか出来ないんです…」

 

「佐天…」

 

 ツナが不良に向かおうとしたのに気付いたのか、佐天は弱音と共にツナを引き留める。

白井なら、なんとかなるだろうと考えたがツナにはそのまま見ている訳にはいかなかった。

 

 

(ゴメン、獄寺くん…)「それでも、ここで動かなきゃ…俺は、自分が許せない!」

 

 平行世界の人間に深く関わってはいけないという獄寺の言葉を思い出しつつ、ツナは心の内で謝れば佐天の手を離れ白井の元へ走り出した。

 走り出すツナの背に佐天は手を伸ばすが、その手は届く事はなかった。

 

「細い癖に、ずいぶん粘るがここまでだ!」

 

「っ!」

 

 打撃を何度も浴びせられ、白井の息は上がり始めていた。不良は拳を握り締めて大きく振りかぶる、普通ならストレートが来る場面だが攻撃の軌道がわからなかった。

 重い一撃を覚悟した白井だが、その一撃が来ることはなかった。不良と白井の間に入ったツナが攻撃を止めたからだ。

 

「なに!?」

 

「ここで助けられなきゃ…俺は、死んでも死にきれない!!」

 

 腕を交差して不良の拳を止めたツナ、自分の攻撃を完璧に止められた事に不良は驚きの表情を浮かべるとツナの手が鮮やかに光、毛糸の手袋がX グローブへと変化しツナの言葉と共に額に死ぬ気の炎が灯った。

 

「沢田さん、あなた!」

 

「悪いが…コイツは俺に任せてくれ!!」

 

「ぐぅ!?」

 

 ツナの様子が変化した事に気付き白井は声を上げるが、その問いに答える事なくツナはハッキリと返せば足に力を込めて不良を押し返した。

 距離を離したのを見てからツナはXグローブに炎をまとわせて構える。

 

「今度は発火能力かよ!けどなぁ、まぐれで防いだ位で調子に乗んなよ!?」

 

「まぐれか、どうか試してみろよ」

 

 ツナの炎に対して不良は怯む事なく蹴りを放つ、その蹴りはまるで蜃気楼のように歪み、足が三本あるように見えた。

 受け止める事に躊躇う場面だがツナその中から的確に本物を見切り肘で足を止めて言い放つ。そして攻撃を防いだ事により身体が止まった不良の腹部にツナの拳が打ち込み大きく吹き飛ばした。

 

「ガハッ!?…まぐれだ!まぐれに決まってる!てめえなんかに俺の能力がわかるわけねぇ!!」

 

「お前の能力は、周囲の光をねじ曲げて相手に虚像を見せる能力…だろう?」

 

「なっ!?」

 

 腹部を抑えながら不良は起き上がり、ツナが自分の能力を見切った事を認めずに喚きたてる。

しかし、ツナの静かな指摘に不良は驚愕を顔に出す。

 

「光の屈折…だから攻撃の軌道や動きが読めなかった…けど、たった数度で読みきるなんて」

 

「どうする?…まだ、やるか?」

 

「ふざけんな…ふざけんな!ふざけんな!!なんなんだよ!てめえは

ひょっこり現れて、全部見透かしたような顔で神様気取りか!?なめんじゃねぇえよ!!」

 

 不良の能力について白井は自分の攻撃や相手からの攻撃の謎が解けた事、そしてそれを数手で見破ったツナの洞察力に驚きを隠せずにいた。

 不良の攻撃を見抜いた上で戦いを続けるかを尋ねるツナ、不良は喚き散らしながらツナに向けて殴りかかってきた。思考が追い付いていないのか不良の身体はブレるばかりで能力をマトモに使えてなかった。

 

「っ!」

 

 戦う事を止めずに向かってくる不良に、ツナは強く歯を食い縛ると炎を噴射し、不良の真上を取れば拳を顔面へと打ち込んだ。

 轟音と鈍い音が辺りに響き渡り、後にはツナの荒々しい息遣いの他には静けさだけが残った。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 日が西へと落ち始めた頃、気絶した不良達は警備員へと引き渡された。

事情を説明した白井は手の中にある音楽プレイヤーを見つめた。

 

「まさか…レベルアッパーがこのような代物だなんて…それと…」

 

 不良に金を巻き上げられていた小太りの男から話を聞き、音楽プレイヤーを回収したが白井には音を聞いただけでレベルが上がる事が信じられずにいた。

 そして、今まで記憶喪失という事で能力が使えなかった筈のツナが明らかに能力のような炎を出した事、白井にはわからない事ばかりであった。

 

 本人に詳しい話を聞こうとしたが、ツナは話せないと答えてから白井が警備員に事情を説明している最中に姿を消していた。

更に不良の被害にあっていた筈の佐天もいつの間にかいなくなっていた。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「佐天…どこにいったんだ?」

 

 一方、白井から離れたツナは佐天を追っていた。

戦いを追えて死ぬ気の炎について問い詰められた時、走り去る佐天の姿が見え白井には誤魔化しをしてから佐天が心配になり後を追いかけていた。

 現場から大分離れた辺りで、ツナは高架下に佇む佐天の姿を見つけた。

 

「佐天!ようやく見つけた…どうしたの?いきなり離れて…白井さんも心配してたみたいだから、一度病院に…「触らないで!!」…え?」

 

 佇む佐天に呼び掛けるツナ。

そして手を伸ばした瞬間、その手を払い拒絶の言葉をツナへとぶつける佐天。

 驚くツナの目には涙に濡れた佐天の顔が薄暗闇の中でもハッキリと見えた。

 

「佐、天…?」

 

「なんで…嘘を、ついていたんですか?能力が使えないだなんて…」

 

「それは…」「あたしがレベル0だからですか?いつまでも能力に目覚めないから?同情したっていうんですか!?」

 

 佐天の行動にツナは呆然と呼び掛けるが、佐天は振り絞るように尋ねてきた。

問いかけに答えようとしたが佐天は更に言葉を重ねてくる、今まで溜め込んできた物を叩きつけるようにツナへぶつけ始めた。

 

「ツナさんは、わかってくれるって思ってた…能力が無いこと…特別でもなんでもない、あたしの事をちゃんと見てくれるって思ってたのに!」

 

「佐天!俺は!!」

 

「嫌!聞きたくない!もう何も信じたくない!!もう放っておいて!!!」

 

 自分の中にあった物が崩れ佐天は自分の中にあった感情をぶつけていく。そして耳を塞ぎツナの言葉を拒絶すればツナを突き飛ばして走り去っていくのであった。




次回予告

ツナ「自分のした事が間違いだったのか、俺にはわからなかった…
そんな中で事態は加速していく…そして譲れない物があるもの同士がぶつかり合う

次回、とあるマフィアの平行移動…第12話:譲れぬもの
それでも後悔はないって俺は思ってる」


今回は少し短い上に時間がかかりました
書きたかったけど書く気が起きなかったシナリオでしたので、人が嫌われるのは見ていて嫌ですな


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第12話a:譲れぬもの

超電磁砲、本編ではこの辺りは省略されてましたが、この辺りが一番オリジナルを挟みやすいと考えました
最近煮詰まってますので投稿が遅くて申し訳ないです
暑さもあり頭が回らないのです…


side:佐天

 

 あの人を最初に見た時の印象は、なんというか出来ない人ってこんな感じかな?だった。

けれど、そんな考えはすぐに無くなった…誰かの為に必死になって、それでいて、なんというか妙に勘の鋭い人…あたしの中であの人の存在はどんどん大きくなっていった。

だからかな?あの人が見せた能力を見た時、こう考えてしまった…あなたもあたしを置いていくの?って…

 

 そして気が付いたらあたしは走り出していた、遠くからツナさんの声が聞こえてくる…けれど今はその声がとても煩わしくてあたしはツナさんを突き飛ばした。

 ツナさんが驚きの表情にあたしは自分のした事に気付き手が震えだしてきた、そして八つ当たりと同じような事をしたいたたまれなさから逃げるように駆け出した。

 

 それからどのくらい走ったかわからなかった、ただただ走って気が付いたら人気のない所へと来ていた。

 

「あれ?涙子じゃん、どしたの?」

 

「アケミ?…ううん、なんでもないよ!暑いからちょっと参ってただけ」

 

 息をととのえるように大きく呼吸をしていると背後から聞きなれた声がしてあたしは振り替える。

そこには友達のアケミ、まこちー、むーちゃんがいた、休みだからか三人共、私服だったけどなんだか下げたバックは重たそうだった。

 話しを聞いてみたら三人共、図書館に勉強しにいく所だったらしい。レベル1で普段から能力の成長がイマイチだと嘆いているアケミ達はせめて座学の成績くらいは上げておきたいと話していた。

 あたしはなんとなく三人と一緒に図書館への道を一緒に歩いていた。このまま家に帰るのもどうかと思っていたからだ。

 

 そんな時である、アケミが煩わしそうにボヤキ始める。

 

「あーあ、なんか簡単に能力上がる方法無いかなぁ…もういっそ都市伝説の『レベルアッパー』でも良いから使いたいわぁ…

そしたら勉強しなくても良いし、高ランクの能力者の仲間入りできるし」

 

「あ…」

 

 アケミの言葉にあたしの足は止まる、高能力者と同じ御坂さんや白井さん…そして…ツナさんと…。

 

 そう考えた時、あたしは携帯をアケミ達へ見せると

 

「あたし、持ってるよ…レベルアッパー」

 

 小さく呟くように告げた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

マンション前

 

「あれ、ここは…」

 

 佐天からの言葉を受け、ツナは放心状態で歩いており不意に立ち止まると自分の居場所を確認する。

どうやら自室のあるマンションへ帰ってきたらしく、目の前には見慣れた景色が広がっていた。

 

「佐天…大丈夫かな?」

 

 そこに立ち尽くしたまま、ツナは小さく呟く。ツナの耳には佐天の悲鳴と混じった叫びが残っていた。

 

❪聞きたくない、放っておいて!!❫

 

「どうすれば良かったんだ?俺は…」

 

 ツナは耳を抑えながら、小さく呟き、その場にうずくまってしまう。

そんなツナを遠目から見る人影があった、白井である。彼女は警備員へ報告したのち一度支部に帰ったがツナが戻っていない事を知り、方々を移動しながら捜索していた。

 ツナが見せた炎について問いかける為に…

 

 うずくまる様子からただ事では無いと思いながらも、白井はツナへ手を伸ばそうとした。しかし次の瞬間、横から伸びてきた手が彼女の腕を掴み取った。

 

「そこまでだ」

 

「あなたは…」

 

 白井の手を掴んだのは獄寺であった、走って移動してきた為か獄寺の額には汗が滲んでおり息も少し上がっていた。

 

「すみませんが、今はあなたと構って遊ぶけど余裕はありませんの」

 

「奇遇だな、俺もだ…場所をかえようぜ…話はそれからでも良いだろ」

 

 白井は獄寺の手を払えば、睨み付けながら答えると獄寺はツナの方に目を向けてから指で人気の無い所を指でさして答える。

 獄寺の提案に対して、白井は短くため息をついた。

 

「確かに、沢田さんに聞かれたのは面倒ですの…それなら…」

 

 獄寺の視線に気付き白井も頷いてから答えると獄寺の胸に手を当てれば、一瞬でマンションの近くの空地へと移動をした。

そして、後方に飛び手にしていた鞄を下ろして白井は太もものホルダーから金属矢を片手に移動させて構える。

 

「ここで戦います、悪いですが先を急ぐ身ですので手早く終わらせますの!」

 

「っく!?」

 

 白井は投擲と同時に能力を発動する、金属矢は慣性が働いた状態で獄寺の上へと転移すれば一直線に飛来する、獄寺は身体をよじり金属矢を回避すれば懐からダイナマイトを取り出した。

 

「筒状の物体?データによれば彼の攻撃は曖昧なままに固定された電子をレーザーとして放つ能力で武器の類いは使わない筈…っ!」

 

「一応、顔見知りだからな、手加減をしとくぜ!果てろ!!」

 

 獄寺の取り出したダイナマイトに対して白井は獄寺の情報を思い出す中で獄寺は指の間に挟んだダイナマイトを投げ放つと、空中を舞うダイナマイトは更に火がつき白井に向けて誘導弾のように飛来する。着弾と同時に巻き上がる爆発と煙幕、獄寺は風によって乱れた髪を無造作にかきあげた。

 

 しかし爆煙が晴れた時には白井の姿はなかった、その瞬間、獄寺の背後に気配を感じて身体を捻り腕を縦代わりにすると鈍い衝撃が身体を駆け巡る。吹き飛ぶ衝撃を利用して獄寺は距離をあけた。

 

「まさか、ダイナマイトを所持していたとは驚きでしたわ

そして、一つ解せませんわ…そんなものよりあなたが使える能力の方が強力ですの、なぜ使わないんです?」

 

「能力なんて使えるかよ!お前らとは違うからな…」

 

「?それはどういう意味なんですの?」

 

 ドロップキックを放った体勢から身を翻して整えてから白井は苦い表情を浮かべてから一つ疑問を獄寺に投げ掛ける。

獄寺は新たなダイナマイトを構えた上で返答をする、自分が持っている情報との違いに白井の動きが止まる。

 それと同時に獄寺は余計な事を口走ったと表情を固くする。

 

(やべぇ、このままだと感付かれる!?)「てめぇには関係ねぇよ!?十代目と決めた事だからな!!」

 

「やはり、沢田さん…ですのね…良いですわ!それなら力ずくでも押し通ってみせますの!!」

 

「っく!」

 

「遅いですの!!」

 

 獄寺は強引に話を切るように叫ぶ、ツナの名前がでた事に白井は自分の中にある疑問がだんだんとつながっていくのを感じながら、拳を握りしめて強く一歩を踏み出せば転移で距離を積める。

 いきなり目の前に現れた白井に獄寺は驚きつつも防御をしようとするがその前に、拳が顎を捕らえ勢い良くかちあげた。

勢い良く頭を揺さぶられ獄寺は視界が揺れて、足元がふらつきだした。

 

「っ、厄介だな…空間転移ってのはよ…どうやる、どうやって攻略する…」

 

「読めませんわよ!この変幻自在の動きには!」

 

「ならよ!食らえ、片手バージョンの二倍ボム!!」

 

 顔を叩いて獄寺は意識を引き戻せば、息を大きくついてから思考を巡らせる。

予測をたてる獄寺を欺くように移動を繰り返して的を絞らせないように白井は動き、体術と金属矢を織り混ぜて攻撃を仕掛けてきた。

 白井のドロップキックをかわしてから右手で六本のダイナマイトを投げ放つ。

 

「数を増やした所で私の転移には効きませんわ!」

 

「へっ、そうか?」

 

「ッ!!」

 

 ダイナマイトが起爆する前に白井は獄寺の懐に向けて飛び込む、しかしそれは獄寺の罠だった。獄寺は残った左手の中に仕込んでいた小さなダイナマイト、チビボムを白井に向けて親指で弾き飛ばした。

 迫り来るチビボムに白井は咄嗟に腕で防御をする、短いダイナマイトであるがそれでも爆発は二人に十分巻き込む威力があり、二人は爆風によって吹き飛んだ。

 

「っつぅ…これで迂闊に近寄れなくなったろ?」

 

「っ、むちゃくちゃしやがりますわね…まさか自分ごとだなんて…」

 

 吹き飛んだ体勢から瞬時に立て直してから獄寺は不敵な笑みを浮かべて尋ねると、白井は自爆をしでかした事に悪態をついた。

 白井の言葉に獄寺は笑みを浮かべながらも再びダイナマイトを構えた。

 

「自分を巻き込んででも倒す、絶対に引かねぇって覚悟だ…

…十代目がお前の前で知らない力で戦ったからお前は十代目の所に来たんだろ?」

 

「そうですの、発火能力とは違う力…私はそれを知る必要がありますの…」

 

「それについて俺はお前の望む答えを持ってる、けど教えられねぇ!」

 

「っ!?」

 

 手の甲で頬の汚れを払い、獄寺は顔を引き締めて答えれば、マンションへ来る前にツナから弱々しくも白井と佐天の前で死ぬ気の炎を見せた事を聞いていた為、確認をするように尋ねる。

 白井は警戒を解いた上で答えると、獄寺はハッキリとした口調で答えその上で断りを入れた。

その訳を問いただそうとするが、獄寺の表情からそれが無理だと理解する白井。

 

「なら強引にでも聞き出しますの」

 

「やってみろよ…お前が勝ったらなんでも話してやるよ、負けたら黙って帰りやがれ!!」

 

「わかりましたの、その言葉!お忘れないように!」

 

 白井は今まで獄寺を適当にあしらうつもりでいたが、その表情に意識を切り替えて見据えながら言うと、獄寺はダイナマイトを構え直し白井に向けて投げ放つ。

 誘導弾のように放たれるダイナマイトに白井はピンポイントで金属矢を送り込み迎撃をした。

 

「っのやろう!」

 

「それとは別に…個人的にあなたとは上下関係をハッキリさせておきたいので、そのおつもりで!」

 

「上等!!」

 

 迫り来るダイナマイトに直接、金属矢を送り込んだ事に獄寺は悪態と共に感心をする。

巻き上がる爆煙を払う仕草をしてから白井は獄寺に宣言をし、置いてある鞄の近くに転移をすれば大量の金属矢が装填されたホルダーを取り出す。

 それに対して獄寺はリングに赤い死ぬ気の炎を灯してそれに応えた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

マンション前

 

「………」

 

 白井と獄寺がぶつかり合っている中、ツナは一人、マンション前のバス停に設けられたベンチに座っていた。

最初、部屋に戻ろうと考えたが部屋にはユニがいるため、帰れば必ず心配をかけることになる。

 それは嫌だと考えて、ツナはこの場所へと来ていた。座り込んでから考えるのは佐天の事である。

 あれで良かったのか、もっと上手くやれたのではないか、そもそも手を出さなければ良かったんじゃないか?

 頭の中ではずっとそんな考えが堂々巡りしていた。

 

「沢田さん?」

 

 顔を下げて考え込んでいた時、不意に声をかけられる。視界を上げるとそこには部屋にいるはずのユニが立っていた。



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第12話b:譲れぬもの

二週間近く遅れて申し訳ないです、なんとか書き上げる事ができました


マンション前

 

 目の前に現れた少女にツナは驚いていた、部屋で待っている筈のユニがこの場に現れたからである。

一方でユニはいつものように優しげに笑みを浮かべるとツナへと近づいてくる。

 するとツナは思わず顔を背けてしまう、理由はツナ自身にも理解出来なかったがなんとなく顔をあわせづらかったからだ。

 

「えっと、この場合はおかえりなさい、というべきなんでしょうか?」

 

「あ、うん…そうなるかも…」

 

 ユニ自身も雰囲気を感じ取ってか、どこか言いづらそうにツナへ声をかけてきた。問いかけに対して答える事が出来たツナであるがそれ以上は何も言えず黙るしか出来ずにいると小さな足音と共にユニが近づいてきた。

 

「隣、良いですか?」

 

「うん…大丈夫、だよ…ユニは寒くない?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 柔らかな口調でベンチの隣について尋ねる、ツナが許可をするとポスンと座るユニ。

その時、少しだけ生暖かい風が吹きツナは部屋着のままのユニに声をかける。

 夏場とはいえ日はすっかりと落ちていた為、風邪を引いてしまうのではと心配をするがユニは明るく笑みを浮かべて答えるのであった。

 

「沢田さんは、大丈夫ですか?」

 

「え、俺は寒くは…ううん、大丈夫じゃないかも…」

 

 ユニはジッとツナを見ながら尋ねてきた、周りの気温についてかと考えたが真剣に見つめてくるユニを見てツナは何について聞いているかを理解して、観念したように首を振ってから白状する。

 

「そうですか、私に手伝える事はありますか?」

 

「ごめん、多分、俺がなんとかしなきゃならない事だと思う…けど…」

 

「不安なんですね、正しいかどうかが」

 

 自身の胸元に手を当ててツナへと尋ねるユニ、その言葉に甘えてみたくなってしまうが顔を伏せてからツナは答えた。

すると、ユニはジッと視線を向けてから言葉を投げかけた、その言葉にツナはただただ頷く事しか出来ずにいた。

 

「沢田さん、どれだけ言葉を積み重ねても正しいか間違いかを決めるのは自分自身ですよ

誰から見ても正しいと思える事でもそれを向けられた本人がそれを認めなければ、意味はないんです…」

 

「けどそれじゃあ相手を傷つけてしまうんじゃないかな?…誰にも傷ついて欲しくない、痛いのとか苦しいのとか、そういうのは無い方が良いって思うんだ」

 

「けれど相手に本当に理解して欲しいのならちゃんとぶつかるべきです

例え、どれだけ傷つけても自分が傷ついても本当に大事だと思うならちゃんと手を伸ばすべきです」

 

 ツナを見据えながら強い口調で話すユニ。言葉を理解しつつも自分の意見を口にしていくツナ。

弱腰な返答をしたツナに向けてユニは更に言葉を重ねていく。

 本当に大事、その言葉を聞きツナは小さく頷いた。

 

「うん、不安だけど…やってみるよ、俺もこのままじゃいけないと思うから」

 

「そうですか、良かったです

どうやら力になれたみたいなので」

 

 拒絶される怖さを思いだしながらもそれでもツナは立ち上がろうと決意を固める。

その姿を見て、ユニは先ほどまでの強い表情から一変して顔を緩ませると一息つくように呟いた。

 

「ごめんね、なんか情けない所を見せてさ、なんか俺の家庭教師に叱られてるみたいだった」

 

「家庭教師、ですか?わたしのはお母様の受け売りを言っただけなんですけど…

そんなに似てました?」

 

「いや、全然似てないよ…本人は乱暴なとこあるけど、最後に俺に決めさせる感じがなんとなくそう思えただけ」

 

 苦笑をうかべながらツナは謝罪の言葉を口にすれば、少し照れくさそうに呟くとユニは不思議そうに首を傾げ先ほどの言葉をもらった相手を考えつつ、改めてツナに尋ねる。

 すると、ツナは首を振ってから小さく呟けば言葉を濁しながらも答えた。

 

「そうなんですね、なんだか嬉しいです…沢田さん、その家庭教師さんを信頼している感じがしてます

その人と同じような事が言えた事がとても嬉しいです」

 

「大げさだよ、それよりもユニはどうして俺の考えがわかったの?」

 

 表情をにへらと緩ませながらツナの信頼している相手と同じことが出来た事を話すと、苦笑をしながらツナは答えると不意に気になった事を尋ねた。

 

「一目見ればわかりました

沢田さんは、結構わかりやすいですので」

 

「うえっ!?」

 

「冗談です、以前γが教えてくれたのですが男ってのは女の前じゃ無駄に強がって弱みを見せねぇから、そういう時はきっぱり言ってやれ、って言っていたので」

 

 キョトンとした表情を浮かべるユニはさらりと答えた。自分では精一杯隠しているつもりがバレバレだと言われツナは大げさに驚くと、人差し指を立ててユニは答えてから自分が気づけた訳について話し出した。

 γの口調を真似るユニを見て、ツナは微笑ましさを感じた時、ツナの視界にが見覚えのある光が見えた。

 それは空に向けて走る赤い光、それは獄寺が匣兵器で放つ『赤炎の矢』であった。大抵の問題なら身体能力と火薬を調整し殺傷性を低くしたダイナマイトでなんとかすると言っていた事をツナは思いだし、獄寺の身に何かあったのだと理解して立ち上がる。

 

「ユニ、俺…行ってくる」

 

「はい、それじゃあご飯を作ってまってますね?遅くなるって聞いていたからまだ作ってなかったんですよ」

 

「わかった、お願いね」

 

 Xグローブと匣を携えツナは獄寺の元へと向かう事を決める。向かおうとしているツナに向けて心配などしていないようにユニは部屋に戻っている事を伝えた、いつも通りの言葉だが帰ってくる事を信じているユニに向けてツナは短く答えれば、光が見えた方向へと走り出すのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

空き地

 

 時間を数分程遡り、白井と対峙した獄寺が嵐のボンゴレリングに死ぬ気の炎を灯し手にした匣に炎を注入する。

匣が開くと獄寺の腰に複数の匣が連なったベルトと左手に口を大きく開いた髑髏のデザインの手甲が装着された。

 

(あの箱らしきものに入れたように見えた、しかも装備にも同じ色の炎が灯っている…動力源のような物?)「沢田さんの能力について知っているという言葉はブラフではなかったご様子ですね

あれだけの心酔っぷりなら沢田さんを守る為に口八丁をするとも考えてましたが、杞憂だったですの」

 

「コイツについて話さないとは言ったけど、オレが使えないとは言ってねぇからな

それにてめえと当たるのに手の内を隠しとくのは、フェアじゃないだろ?」

 

 獄寺の装備を見ながら白井は冷静に死ぬ気の炎について解釈を考えつつ、余裕を見せるように呟くと獄寺は煌々と燃え上がる嵐の死ぬ気の炎を見せながら答えると白井に向けて砲口を向けた。その瞬間、赤い光が砲口の中へと収束していく。

 

「ついでにコイツの威力も知っとけ!!赤炎の矢!」

 

「っ!?」

 

 足を踏み締めた上で獄寺は赤い炎を撃ち放つ、放たれる赤い炎は白井の頭上を通り上空へと駆け上がっていく。

 体勢から自分を狙ったものでは無いと理解していた白井だが放たれた一撃の威力に驚きを隠せずにいた。

それは威力もそうだが、白井が驚いていたのは獄寺が勝負事での基本、初手を外した事が理解出来ずにいた。

 

「どういうつもりですの?今の一撃…当たるつもりなど毛頭ありませんがそのダイナマイトと併用すれば仕留めるまではいきませんが、私に手傷を負わせる事が出来た筈ですの

まさか…私がその武器に臆して敗けを認めると思っておりますの?」

 

「いや、そんなつもりはねぇよ、お前がビビる奴じゃないってのは戦う前からわかってた事だ

けど、敗けを認めさすのに叩き潰すだけじゃねぇって考えただけだ」

 

「そうですの、ですが…こちらとしては容赦はしませんの!!」

 

 空を翔る光を横目に見ながら白井は呆れたように言えば、獄寺の真意を問い質す。

出会ってから白井の性格をある程度、理解していると答えてから自分の意思を話す獄寺。

 その言葉は、白井を傷つけるつもりがないという意味だと受け取り白井は強く踏み出すと瞬間移動で、獄寺の前から姿を消した。

 次の瞬間、獄寺の真上に鉄柱が出現し降り注いだ、数の多さと頭からの距離からダイナマイトでの迎撃を止めた獄寺は、急いで飛び退き白井の姿を探すと空き地の端に置かれた廃材の側に白井を見つけた。

 

「あまりエレガントなやり方ではありませんが、武器を使うのでしたらこちらもそれなりの物を使用しますわ!」

 

「っ!させっか!ロケットボム!!」

 

 廃材に触れると重たい廃材は一気に獄寺の真上へと移動する、地面に突き刺さる鉄柱を避ければ白井をその場から移動させようと砲口を構えるが、白井の背後にマンションが見え瞬時にダイナマイトへと切り替え投擲するが、白井は着弾前に移動し既に地面に突き刺さっている鉄柱を足場にして獄寺に向けて跳び蹴りを放ってきた。

 掠りながらも攻撃を避けた獄寺が反撃をしようとするが白井はすぐに地面を蹴って移動し、的を絞らせないように動いた。

 

「っくそ!ちょこまかと!!」

 

「その武器、中遠距離なら効果を充分に発揮するでしょうが、障害物がある状況かつ私のような空間移動系には相性が悪いですわ!」

 

「余裕あるじゃねぇか、てめえの攻撃はまだ当たってねぇのによ」

 

「ええ、更に言えばこれは余裕では無く確信です

その武器は恐らく単発式、鉄柱を凪ぎ払うのは不可能、火薬を絞ったダイナマイトでは鉄柱を破壊するどころか地面を抉る事も不可能ですの」

 

 白井の位置を予測しようとするが縦横無尽に鉄矢と格闘術で攻められ獄寺は防戦一方だった。

 攻撃を仕掛けながら白井は自分が獄寺を追い詰めている事を告げていく。

獄寺はそれを遮るようにロケットボムを放つが白井を捉える事は出来ずにいた。

 

「っふ!!」

 

「がっ!?」

 

 白井は鉄柱の上から獄寺の懐に飛び込めば防御が遅れた腹部に肘打ちを叩き込む。

飛び込んだ勢いのままに打撃を打ち込まれた獄寺は大きく吹き飛び鉄柱へと叩きつけられた。

 

「私としても叩きのめす以外で決着を着けたいと思っていますの

どうです?まだ続けるおつもりですの?私はその能力の詳細さえわかれば十分ですわ」

 

「げほ…当たり前だ…」

 

「いくら沢田さんの為とはいえ、少し考えればわかる話しですの!今はレベルアッパーによって起こる事件が多発している

貴方がたの能力ははたから見ればレベルアッパーの効果によって付与された能力とも認識されてしまいますの!

その潔白を証明するには少なくともその能力について教えてもらわなければなりませんの…そうしなければ…」

 

 連続跳躍による疲労から息を切らしながらも白井は鉄柱にもたれかかる獄寺に向けて言い放つ。

 しかし、咳き込みながらも獄寺は提案を断った、力の差を見せて更に妥協の案を提案したにも関わらず折れる事が無い獄寺に、白井は声を上げて言い放つ。そして最後にはその顔を俯かせてしまう。

 今、言った言葉は半分は建前だった、本音を口にするならこのままわからないままでいたら、いずれツナ達を疑ってしまいそうだったからだ。

 

 白井自身、ツナや獄寺にキツイ言い回しをするが嫌っている訳ではない。そこらの有象無象の男性に比べたらまだ信用できると認識していた。

 更に言うならば、このまま秘密にしていたらいずれ御坂や初春たちもツナ達の能力に気付いてしまう。

そうなれば問い質す訳にはいかない、あまり親しみのない自分ですら苦虫を噛み潰し後味の悪いのに、心優しい彼女達が同じ事をしたら傷になってしまうと考えたからだ。

 だからこそ白井はここで折れる訳には譲るわけにはいかなかった。

 

 だが、それは獄寺も同じであった。白井の提案を聞いた時、死ぬ気の炎を隠すと決めた時にツナが呟いた言葉を思い出した。

 

友達だから隠し事せずにいたい

 

 それはツナが誰も悪くないと悲しげに呟いた時に一緒に言っていた言葉だった。

獄寺はその言葉に強い罪悪感を感じていた、自分のような人間にすら信頼を寄せるツナがこの世界に来て知りあった信頼できる人々に隠し事をさせるなんてどれだけツラい事なのだろう。

 技術を守る手段とはいえ、自分が信頼を寄せる相手に押し付けた責任を取らなければ獄寺はそう考え、譲る事はできないと提案を突っぱねた。

 

「たとえ、誰にどう思われようが…オレが!破る訳にはいかねぇんだ!」

 

「そう、ですの…なら!貴方を打ち倒して沢田さんに直接問い質しますの!」

 

 足を踏み締め砲口を白井に向けてから吼える獄寺、その強い眼差しに白井は倒す他にないと決め近くの鉄柱を獄寺に向けて送り飛ばした。

 

落ちてくる鉄柱に獄寺は砲口の向きを変更し鉄柱へと赤炎の矢を放つ。

分解する特性を持つ嵐の炎は鉄柱を呑み込むと同時に塵へとかえていった。それと同時に獄寺は自身の右側にミニボムを機雷のようにバラまいた。

 それは獄寺が見出だした打開策であった。鉄柱を背後にした事により格闘術や遠隔攻撃の可能性を低くし、右側への爆撃により白井の方向を一つに絞る事にした。

 獄寺の意図は白井も理解しており、その誘いに乗り獄寺が誘導した方向へと跳び鉄矢を指に挟み相手が放つ前に飛び掛かった。

 

 白井が飛んだのと同時に獄寺の砲口が向けられた瞬間であった、二人の間にオレンジ色の炎が巻き上がり、二人の手が力強く捕まれた。

 

「そこまでだ…」

 

「十代目…」「沢田さん…」

 

 捕まれた手を振り払おうとしたが聞こえてきたツナの声に二人はその動きを止めた。

二人が止まった事を確認してからツナは手を離すと額に灯していた炎を消してから白井へ向き合った。

 

「二人とも、戦いを止めて欲しい、お願いだから」

 

「十代目…すみません…オレ」

 

「いいんだ、元を辿れば俺がバラしたんだから…」

 

 白井へ視線を向けながら後ろにいる獄寺に声をかけるツナ、このままバレる事なく終わらせようとしていたのに結局の所、ツナの介入をさせてしまった事に頭を下げる獄寺。

 しかしツナは決して責めるような言葉はかけずに決めたように白井へ視線を向けた。

 

「沢田さん…」

 

「白井さん、ごめん…謝る事が多すぎて何を言えばいいかわからないけど…まずはそれだけ言わせて欲しい

その上で聞いて欲しいんだ…この力と俺達について…」

 

 ツナが現れた事に白井は驚きつつも鉄矢をしまう、するとツナは頭を深く下げて、その上で自身や獄寺について話すと言い出した。

 突然の言葉に獄寺は止めに入ろうとしたが、ツナの覚悟に満ちた表情から言葉を呑み込み成り行きを見守る事にした。

 

 それからツナは、死ぬ気の炎、リング、そして自分や獄寺、山本の三人が別の世界、平行世界からきた異邦人である事を包み隠さずに話した。

そして、その上で自分達とレベルアッパーが関係ないと白井にむけて語っていく。

 

「荒唐無稽…あり得ない話ですの…別の世界だなんて…どう信じろというのですの?」

 

「…ごめん」

 

「どう言おうが、俺達がこの世界の人間じゃねぇとしか言える証拠はこの死ぬ気の炎と匣兵器しかねぇ」

 

 白井は混乱しかけている頭を整理しながら呆れたように呟く。

謝るツナと開き直って説明をする獄寺にため息しか白井は出せずにいた。

 

「本来ならば…風紀委員として報告するべきですが、こんな内容…良い精神科を案内させられるレベルですの…

ただ、貴方がたがレベルアッパーとは無関係、というのは理解しました」

 

「白井さん…ありがとう!」

 

「理解をしただけですの!それに、私がわかっても貴方がたはこの世界の貴方がたとして…なんかややこしいですの…

ともかく、今まで通りに過ごして下さいまし

…ただ、初春とお姉様、更に佐天さんには本当の事を話して貰いたいですの」

 

 白井は咳払いをしてから、改めて取得した情報を報告する必要が無いことを話し、事件とツナ達が無関係だと判断した。

 礼を言うツナに白井は慌てて返せば、自分やツナに近しい人物には真実を伝えるべきだと話した。

 

「わかってる…それも俺がちゃんと伝える」

 

「その言葉は信じますわ、私はこれで戻りますの…沢田さん、ついでに獄寺さんもこれからよろしくお願いいたしますの」

 

「うん」「俺はついでかよ」

 

白井の頼みにツナは真剣な表情で頷けば、白井ら優しげに笑みを浮かべた上で丁寧にお辞儀をする。

頷くツナと悪態をつく獄寺を見ながら白井は自身の鞄を回収し、そのまま空間転移でその場を離れ、空き地にはツナと獄寺が残った。

 

「獄寺くん「すんませんした!?十代目!!」

 

 声をかけようとした瞬間、ツナの言葉を遮るように獄寺は頭を下げた。

言葉の勢いからツナは思わずたじろいだ。

 

「俺が余計なことしたばかりに、お手数をかけてしまい情けない限りです!!」

 

「ううん、獄寺くんはこの世界と元の世界を考えていたんだ

むしろ破ったのは俺の方だよ、そのせいで佐天を傷つけた…」

 

「十代目…」

 

「けれど、うじうじ考えていても解決しない…佐天とはもう一度向き合うつもりだから

獄寺くん…頼りなくて約束を破っちゃった俺だけどさ…元の世界に戻るまで力を貸してくれるかな?」

 

「もちろんです!これからも右腕として力を尽くします!十代目!!」

 

 騒ぎを起こした事について謝罪をする獄寺に、ツナは首を振りつつ肩を落とす。

しかし、そこからもう一度立ち上がる事を宣言し、獄寺に改めて協力を頼み込むツナ。

 獄寺は表情を明るくして頷けば改めて答えるのであった。




次回予告

白井「平行世界に死ぬ気の炎…下手なSF小説ですわね…」

獄寺「まだ言ってんのか、しつけぇな…」

白井「こちらとしての不安が解除されたのは嬉しいですし、立場もハッキリしましたから良しとしますの」

獄寺「はぁっ!?いつ立場が決まったんだよ!!」

白井「私は貴方では無くても事情を知る事が出来ましたし、何より先ほどの勝負、明らかに私の勝ちですの!
ならば貴方は下、私は上!これからは白井様と呼ぶですの!」

獄寺「あ!?んな訳ねぇだろうが!!事情については仕方ないが、勝負はまだついてねぇだろうが!!」

白井「ほほほ、沢田さんが助けにきた時点で貴方の負けは決定的ですの!
それでは負け犬さんは次回予告をしてて下さいまし」

獄寺「てめぇ、このやろう!戻ってきやがれ決着をつけてやらぁ!!
次回、とあるマフィアの平行移動!第13話:つながり
出てこいやちび女!?」


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第13話a:つながり

待たせて申し訳ないです、20日ぶりの投稿です

携帯が壊れたり、夏バテになったりいろいろありました

追記、※は推奨BGMとして対決!グリードを推奨します


学園都市 第七学区 路地裏

 

 

 太陽がもっとも高く昇った頃、背の高いビルの間を複数の男達が駆け抜けていく。

それに続くように2つの影が追いかけるように駆け抜けた。

 

「獄寺!このままじゃ振り切られちまうぜ!?」

 

「わかってるっての!つうかお前は空飛べんだろうが!!山本!!」

 

 前を走る男達がゴミなどを撒き散らして足止めを仕掛けてくる中、獄寺と山本は器用に飛び越えていく。しかし地の利は相手にあるため、少しずつ離されていく。

 後ろを走る山本から呼び掛けられ獄寺は苛立ちを募らせながら答えると、山本がボンゴレ匣の小刀で飛べる事を指摘した。

 

「…ああ!」

 

「素で忘れてんじゃねぇ!!嫌みかてめえは!さっさと先回りしろってんだ!!」

 

 キョトンとした表情を浮かべていた山本であるが、獄寺の言葉に思い出したように声を上げる。

機を伺っていた訳では無く天然で反応したことに獄寺は声を荒げる。

 後ろにいた山本がボンゴレ匣で飛翔したのを確認してから脳内でここら一帯の地図を獄寺は思い描く。

 

(この辺りの地形と現在地、そこから通りに出るルートを特定する…その上で山本を先回りさせるには…)「あんまりやりたくねぇが、仕方ねぇ!!」

 

 頭の中で男達の動きや地形をシュミレートしていき、獄寺は一つの決意を固めれば指に着けているアニマルリングへと死ぬ気の炎を注入する。

 

「んにゃ?」

 

「わりぃが、これしか方法がねぇ行け瓜!!」

 

「にゃああああ!?」

 

 出現したのは両耳に赤い炎が灯った子猫、名称は嵐猫(ガット・テンペスタ)、名前は瓜(うり)という。

顔を洗う仕草をする瓜を掴み上げた獄寺は、勢い良く瓜を放り投げる。

 悲鳴を上げながら瓜は男達の先頭へと張り付いた。

 

「なんだ!?この猫は」

 

「うにゃにゃにゃにゃ!!」

 

「あだだ!?いきなり引っ掻くんじゃねぇ!!」

 

 張り付いた瓜を男は引き剥がそうとするがその前に瓜の爪が男の顔を傷つけ始める。

別の仲間が瓜を引き剥がそうとするが、投げられた事に腹を立て怒り狂う瓜は別な男に飛びかかり再び爪を振るいだした。

 容赦のない攻撃に男達はたまらず進路を変更しようとするがそこには既に山本が周りこんでいた。

 

「悪いけど鬼ごっこはこれで終わりだぜ!!」

 

 小刀より死ぬ気の炎で作り上げた刀身を振るい山本は男達の間を縫うように移動し、それと同時に刀身を男達に正確に打ち込んでいく。

 そして山本が切り抜けた瞬間、男達は一斉に地へと倒れるのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「とりあえず、これで良いよな…てか大丈夫か?獄寺」

 

 風紀委員から支給されている手錠を男達へとかけていく山本、そしてかけ終えてから後ろを振り返る。

するとそこでは瓜が獄寺の顔に張り付き力の限り引っ掻いていた。

 

「いでででっ!?大丈夫じゃねぇよ!!」

 

「獄寺くん!山本!大丈夫?」

 

 痛みに耐えつつ瓜を引き剥がし、なんとかリングへ押し込むように戻す獄寺。その時である、通りの方からツナが獄寺達に声をかけつつ走ってきた。

 

「おう、こっちは全員確保したぜ、ツナはどうだ?リーダーみたいな奴は捕まえたのか?」

 

「おい、山本!十代目があんなチンピラのリーダーなんざに負けるかっての!?」

 

「アハハ、念動系の能力者で少し苦戦したけどちゃんと警備員に引き渡してきたよ

やっぱりレベルアッパーを使ってるからか、レベル4と変わらなかったかな」

 

 小刀を戻してから山本はツナに尋ねる。ツナ達は初春より不良グループがレベルアッパーの取引があるという情報を受けて3人で向かった。

その際、リーダーがツナ達の前に立ちはだかり残りの手下は取引によって手に入れたレベルアッパーを持って逃げ出した。

 レベルアッパーを確保する為に山本と獄寺はツナにリーダーを任せて手下を追う事にした。

 リーダーと戦い終えたツナは相手の能力が強化されている事を話した。

 

「なんか、最近の不良…妙に強くなってないか?レベルアッパーで上がる度合いがデカイっていうかさ」

 

「多分、気のせいじゃねぇな…数週間前のデータと比較したんだが…レベル4相当が倍近く増えてる、こりゃ下手すりゃレベル5クラスが出てくるかもな…」

 

 ツナの話を聞いて山本はふとした疑問を口にする、それに対して普段は反論する獄寺が珍しく同意をし懐から折り畳み式の端末を取り出し、そしてここ一週間のデータと数週間前のデータを表示する。

 グラフで表示されたデータを見せながら一つの不安を口にした。

 

「御坂クラスの能力者か…そうなると捕まえるだけでもこっちに被害が出る、早く元を絶たないと!」

 

「しかし、音楽を聞いただけでなんでレベルが上がるんだろうな?

能力って音楽を聞くだけで上がるもんなのか?」

 

 獄寺の集計した情報を見てツナは危惧すべき事態を考えながら答える、すると山本が男達の側に転がっていた音楽プレイヤーを拾い上げて尋ねてきた。

 その疑問にはツナも同じ考えであった、ただの音だけで能力の向上や発現するのであれば学園都市の中にレベル0は存在しない筈だからだ。

 

「音はきっかけなのかもな…この街の能力についても調べてみたがオレ個人の見解としては脳の演算処理が関係している筈だ

この音はどうにかしてソレを底上げしてると思う」

 

「演算処理って事は頭の回転の事だよな、俺は頭悪い方だからそういう小難しい事は獄寺に任せるぜ!」

 

「お気楽な奴だよな…お前は…少しは分けてやりてぇよ、そしたらお前も…」

 

 考え込むツナを見ながら獄寺は自分なりの推理を口にする。すると山本は軽く笑いながら、速やかに考える事を止めて獄寺へと一任した。

 額に手を当てながら呆れたように言う獄寺。その時である、獄寺の頭の中で散り散りだった情報が一つに纏まりだした。

 

「獄寺くん?」

 

「大丈夫か?」

 

「十代目、レベルアッパーの仕組み、もしかしたら解けたかも知れません!」

 

「「ええっ!!?」」

 

 考え込む獄寺にツナと山本は心配しながら尋ねる、すると顔を上げてから獄寺は二人に向けて答えた。

はっきりと言い放たれ二人は同時に驚きの声を上げた。

 

「あくまで仮設に過ぎないので断言は出来ないのですけど、一番有力だと思います

とりあえずまずは支部に戻りましょう」

 

「なんだよ、ここで話しても良いんじゃないか?」

 

「能力に関して俺たちの中で話し合うより白井や初春と一緒に話す方が効率的だ

十代目、すみませんがそれで構わないですか?」

 

「大丈夫だよ、俺もその意見には賛成だから」

 

 獄寺は一度咳払いをしてからツナ達へと提案した、話す分ならばここでも十分じゃないかと山本が尋ねるが、専門的な意見が欲しいから支部へと戻る事を提案してきた。

 獄寺の頼みを聞き入れ、ツナ達は一度支部へと帰る事にした。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

学園都市 第177支部

 

「共感覚性、ですの?」

 

 支部へと戻ったツナ達は、白井や初春、御坂へと話をする。

獄寺が口にした単語に白井は首を傾げるようにしてから呟いた。

 

「ああ、レベルアッパーを聞く事によって思考、いや人間の演算能力を共有する事によって能力の発現と成長しているんだ

例えるならスーパーコンピューターみたいにいくつものパソコンを繫げて計算するみたいなもんだ」

 

「なるほど、けどそれなら昏睡状態になる理由はどうしてなの?」

 

「恐らくだが、脳波が変化しているからだな…

電子機器と違って人間の身体はいきなり変化した脳波に対応出来ない、その結果が昏睡状態なんだろうよ」

 

 獄寺は手持ちの端末に図面を簡易的に表示して説明をしていく。

レベルアッパーの仕組みについて御坂は使用者が意識不明になっている事を尋ねると、獄寺は頭を指でさしてから答える。

 

「それじゃあ使用者がレベルアッパー使用して昏睡するタイミングがバラバラなのはなんででしょう?」

 

「そいつは多分だが、レベルアッパーが流行りだした時期と関係してると思うな

昏睡状態になっても脳が生きてるなら演算は出来る

最初は複数回は使っても平気だったかもしれないがレベルアッパーを使った人数が増える分だけ、演算の速度と負荷は上がっていく、最近の事件で捕まった直後に昏睡状態になるのは膨大な負荷に脳が耐えきれないからだな」

 

「けどよ、レベルアッパーの仕組みがわかっただけじゃ解決にはならないだろ

元を絶たなきゃ被害は増えてく訳だし」

 

 話を聞き初春は獄寺へ昏睡が発生する瞬間が違う理由を尋ねると、端末を操作して獄寺は説明をしていき顎に手を当てながら推測を口にした。

 レベルアッパーについてわかった所で、山本がふとした疑問を獄寺に投げかける。

 

「ああ、その通りだ…けど手掛かりはある、脳波だ」

 

「?脳波?」

 

「なるほど、人間は指紋や声紋と同じで脳波も違う

逆にいえば現在、昏睡している人達と合致する脳波が犯人という訳ですね?」

 

「複数の人間の脳波をまとめるには基点となる脳波が必要だ

確か、学園都市の医療機関じゃ脳波も計測しているよな?」

 

 山本の問いかけに獄寺はハッキリとした口調で返す、しかし理屈がわからない山本は首を傾げた。

脳波という言葉から白井は特定すれば活路になると理解を示す、獄寺も補足するように頷けば確認を取るように言うと白井は肯定するように頷いた。

 

「すぐに要請しますの」

 

「ねぇ、資料を待つよりも直接行った方がいいんじゃない?」

 

「うん、それは俺も賛成…これだけの事をしているんだ多分、犯人は自分を特定されるのをわかってるかもしれない

それならスグに動いた方が良い」

 

 白井は携帯を取り出して医療機関にかけようとしたが、御坂がそれを止めて病院に向かうべきだと進言をした。

 ツナもまた同じように頷けば獄寺と山本も同じように頷いた。

 

「わかりましたの、でしたら私達で向かいましょう

初春、貴女は木山先生に今の内容を伝えて打開策を練って欲しいですの

レベルアッパーの被害を止めるには相手を特定するだけで無く、昏睡状態の人間を回復する方法も必要ですから」

 

「わかりました!」

 

 御坂の意見に白井は仕方なく賛成すれば、初春を除いたメンバーに呼びかけ初春には別の指示を出した。

 白井の意見に初春は強く頷いて応えるであった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

『なるほど、共感覚性…それは盲点だったよ、それなら対策が取れるね…すまないが犯人から押収したレベルアッパーを届けて貰えるかな?』

 

「わかりました、こちらが調べたデータと一緒に持っていきますね」

 

 ツナ達が支部を離れてすぐに初春は、木山へと連絡をとっていた。

ダウナー気味の口調で木山は初春に頼み事をすれば初春は片手でパソコンを操作しながら答えると通話を切り、パソコンへと向かう。

 既に獄寺の手によってまとめられていたデータを初春は素早いタイピングにて補填していく。

その時である、キーボードの脇に置いていた携帯が急に鳴り出した。

表示された名前を見て、初春は慌てて通話ボタンを押した。

 

「もしもし!佐天さんですか!?何していたんです?様子が変だったから心配してたんですよ?」

 

『初春…アケミやみんなが、意識不明になっちゃった…』

 

「え?」

 

 ファミレスにて木山と会話して以降、なかなか連絡がつかなかった佐天。

初春は口調を荒げながら問いかけると佐天は震えた口調で話してきた、いつもの快活的な雰囲気がまるでない佐天と伝えられた内容に初春は意味がわからず、固まってしまう。そんな初春に佐天はまるで懺悔をするように話しだした。

 

『あたし、レベルアッパーを手に入れててさ…ホントは前に会った時に教えるつもりだったんだ

けど、レベルアッパーを持ってたら捕まえるって聞いて、言い出せなくて…けどあたしは、どうしても能力が欲しかった

…だから、アケミ達と一緒に…ううん、違うホントは怖かった一人で使うのが…だからアケミ達を巻き込んだの!』

 

「佐天さん…今、家ですか?スグにそっちにいきます!!」

 

 独白に近い佐天の言葉に初春は自分を責めた、いつも側にいたのに気付いてなかった、明るく振る舞いながらもいつも能力について気にしていた佐天。

 初春は考えなかった訳じゃない、けど心の何処かで勝手に信頼していた佐天はレベルアッパーは使わないと、けれど彼女は使ってしまったそれほど追い詰められていたからだ。

データをリムーバブルディスクに保存してから初春は立ち上がり叫ぶように呼びかける。そして飛び出すように外へと駆け出した。

 

 外に出た初春は佐天のアパートへのルートを思い出しながら通話越しに呼びかける。このまま、通話を切ってしまったら佐天がいなくなってしまうような気がしたからだ。

 

『ねぇ…初春…レベル0って欠陥品なのかな?…ズルして力を手に入れようとしたから罰が当たったのかな?

あたし、なんも力のない自分が嫌で…けど憧れを捨てられなくて…』

 

 必死に佐天の元へと走る初春、その間も佐天は涙ぐみながら自分の気持ちを口にしていく。

 

ーーーーーーーーーーー

 

佐天の部屋

 

「あたしもアケミやみんなのように倒れてずっと眠ったままになるのかな…

危ない物に手を出して、友達も巻き込んだ罰として…『大丈夫です!!』っ!?」

 

 日の入らない部屋で佐天は御守を握りしめながら佐天は涙を流した、そのまま意識が無くなりそうになった時、初春の声が響き渡り一気に意識が覚醒した。

 

『もし、眠っても私が起こします!佐天さんだけじゃなくアケミさんも、他の眠ってる人たちも!ですから、どーんと私に任せて下さい!!』

 

 携帯の向こうから響き渡る初春の声は、力強くいつもの彼女とはまるで違っていた。さらに初春は言葉を重ねていく。

 

『佐天さんは欠陥品じゃありません!…能力なんて使えなくてもいつもいつも私を引っ張てくれてるじゃないですか!!

力があってもなくても佐天さんは佐天さんです!私の親友じゃないですか…だから…だから…そんな、悲しい事を言わないで…』

 

 鼻声で言葉を紡いでいく初春、佐天は今、初春がひと目も憚らずにクシャクシャな顔で呼びかけていると思い、それと同時に嬉しさがこみ上げてきて思わず笑ってしまった。

 

「初春に言われてもねぇ『わ、私だけじゃないですよ!?御坂さんや白井さん、ツナさんだっています!』…あ、うん…わかってる、ありがとうね」

 

 いつもの自分の口調で返すと初春が慌てて返してきた

、そして頼れ人間の名前を言っていく中で、佐天は小さく呟きそして素直に礼を言った。

 

「初春、迷惑かけるけどお願いね…それと、あたし、ツナさんにヒドい事言っちゃったんだ…だから謝っておいてくれるかな?」

 

『…ツナさんなら、許してくれますよ!もしダメなら、その時は私も怒っちゃいますから!!』

 

「そっかぁ…それは怖いなぁ…初春、後は任せたよ…」

 

 自分の中の心が晴れ渡ったのを狙ってか、佐天は意識が遠のいていくのを感じた。

今度こそ自分は覚めない眠りについてしまうだろう、そう思った時、最後に残っていた心残りを口にしてから通話ボタンを押して床に倒れると、そのまま静かに目を閉じた。

 

 佐天からの電話が切れ初春は力の限り走りアパートへと向かう。階段を飛ばし飛ばしで駆け上がっていき佐天の部屋へと入る、そこには御守を握り締めたまま昏睡状態へと入った佐天がいた。

 

「佐天さん…」

 

 



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第13話b:つながり

※はイメージBGMとして仮面ライダードライブから『スタートドライブ』を推奨します。


学園都市 病院

 

「なるほどね、多少のズレがあるから特定するために少し時間がかかるけどやってみるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 病院に辿り着いたツナは獄寺と共に、カエル顔の医師と会い用件を伝えた。

カエル顔の医師も昏睡状態の使用者の脳波について理解していたようで、すぐに脳波パターンを精査する事を告げる。

 あっさりと協力を取れた事に驚きつつツナは頭を下げ診察室を出る事にした

 

ーーーーーーーーーーーー

 

病院 通路

 

「…そうですの…わかりましたわ…」

 

「どうしたの?白井さん」

 

 診察室を出ると御坂と山本が悲痛な表情を浮かべ白井が声を押し殺すようにして携帯の通話を切った。

その異様な雰囲気にツナは息を飲みつつ尋ねる。

 

「初春からですの…今、佐天さんがレベルアッパーの使用した副作用によって昏睡状態になったと」

 

「っ!?」

 

 白井から伝えられた情報、その言葉にツナの身体に強い衝撃が走るのだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

病院 通路

 

 脳波パターンの集計が完了するまでの間、ツナと獄寺、山本は椅子に座ってまっていた。

御坂は白井と共に屋上へと上がっていた。恐らくレベルアッパー事件に関わりたいと御坂が話に行ったのだと獄寺達は考えるがツナはただ頭を抱え後悔をしていた。

 佐天が見せようとしていたものがレベルアッパーで、恐らく使うキッカケになったのがツナとのやりとりが原因である、佐天が昏睡状態になったのは自分のせいだとツナは考えていた。

 

「十代目…大丈夫ですよ!レベルアッパーを作った奴を縛り上げてワクチンプログラムを作らせれば目を覚ます筈ですからなんとかなりますって」

 

「ワクチンってそんな簡単に出来るもんなのか?」

 

「あのな、こんな五感に作用するプログラムを作れる奴がワクチンを用意しないでどうするんだよ

下手したら自分に影響だってでる、だから必ずワクチンは用意する筈だ」

 

 黙ったままのツナを見兼ねて獄寺が声をかけた、意気揚々と喋る獄寺の言葉に水を差すように山本が尋ねると呆れたように答える獄寺。

 

「ありがとう、獄寺くん…そうだよね…今は落ち込んでる暇はない

俺達はレベルアッパーを解決しなきゃならないんだから!」

 

「オウ!頑張ろうぜツナ!」

 

「俺も力を尽くしますよ!十代目!」

 

 獄寺の言葉に小さく頷いてから、決意を新たにすると山本と獄寺は同意をするように応える。

その時である屋上で話をしていた御坂達がツナ達へと合流してきた。

 

「ツナ!私もレベルアッパーの捜査に協力することになったから、頼むわね」

 

「うん、凄く頼もしいよ!こっちこそよろしく!」

 

 御坂が白井から参加を許可をもらえた事を話すとツナは状況的に喜ばしくはないが御坂の力を貸してくれる事を喜んだ。

 話をしているツナたちに視線を向けつつ獄寺は白井へと近付いた。

 

「俺が聞けた事じゃないが、良いのか?あいつが事件に関わるのを許してよ」

 

「仕方ありませんわ、相手の力量によっては私やあなた方だけでは手は足りませんもの

それに佐天さんが被害にあわれた以上、お姉様は黙っていられない…それならまだリード出来るようにした方が懸命と判断しました」

 

「そうかよ」

 

 獄寺の問いかけに目を細めながら白井は苦肉の策であると表情を苦ませながら答えると、獄寺は意外そうな表情を浮かべながら小さく答えた。

 

「何か言いたい事があるのでしたら遠慮せずにどうぞ、貴方のような方に気を使われる程、繊細ではありませんから」

 

「…露払いっていうから絶対に巻きこまないと思ったから意外だって思っただけだ」

 

「お姉様の行動力は私程度の言葉では止まりませんもの、悔しいですが…それに…」

 

「あん?」

 

「お姉様をリードするというのはいつもとは違い、なんとも言えない滾らせるものがありますから!」

 

 獄寺の表情に気付いた白井はため息と同時に尋ねる、挑発じみた言い方に獄寺は苛立ちを我慢しながら返答をする。

問いかけに対して白井は呆れたように肩をすくめてから返せば、途端に涎を垂らして恍惚的な表情を浮かべ出した。

 白井の変態じみた答えに獄寺は表情を引つらせるのであった、するとカエル顔の医師が診察室より姿を表した。

 

「揃っているようだね、患者の脳波パターンが集計出来たから渡しておくよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「ふむ、一応のアドバイスなんだけど書庫で比較するなら九割八分を目安にするといいよ

相手は人間だ、生きている限り完璧にパターンが当てはまるとは限らないからね」

 

「わかりました、役立てます」

 

 USBメモリをツナへ手渡すカエル顔の医師、そして調べる際に気をつける事を話していく。

医務室へと戻っていく、カエル顔の医師に頭を下げるツナ達は支部へと戻る事にした。

 

「ねえ黒子、支部まで一気にテレポート出来ない?」

 

「流石に難しいですわ、私の力では自身含めて3人が限界ですの」

 

「それならオレと山本は街の方に出るぜ

調べてる最中にまた通報があっても困るからな」

 

「だな、俺は身体を動かすならともかく頭はイマイチだからそっちのほうがありがたいぜ」

 

 病院から近くのバス停へと移動したが、まだバスが来ていない事から御坂は時間短縮の為に白井へ尋ねる。

しかし、白井は難しい顔をしてから答えると獄寺は支部には戻らない事を告げる。

獄寺の提案に山本はニッコリと笑って同意をした。

 

「わかった、それじゃあ二人共、気をつけて」

 

「そうだ、十代目、コイツを」

 

 別行動を取ると聞きツナは二人に声をかける、その時である獄寺はポケットから一枚の黒いディスクをツナへと手渡してきた。

 

「獄寺くん、これは?」

 

「エアバイクの拡張ディスクです、アレには一つ特別な機能があるんですけど十代目のは俺達のより少し複雑なのでコイツでサポートする必要があるんです

本当なら、完成した状態で渡したかったんですけど調整が不十分でしたので今まで渡せなかったんです

コイツをエアバイクのメーターに装填して下さい、そうすれば勝手に起動する筈です」

 

「わかった、使わせてもらうね」

 

 手渡されたディスクを眺めながらツナは獄寺に尋ねる、ディスクの使い方や説明を簡単にしていく獄寺。

その言葉に頷いてからツナは白井の元へと行けば、白井は御坂とツナの肩に触れてテレポートを行った。

 ツナ達がテレポートをしたのを確認してから獄寺と山本はエアバイクが収納された匣を取り出し開口をし、すぐさま乗り込むと街の方へと向かって走り出すのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

第177支部

 

「それでは今から書庫との照らし合わせを始めますの

本来なら初春にやってもらうのが早いのですが、まだ木山先生の所から戻ってないようですね」

 

「まぁまぁ、たまには良いじゃない、確かに私じゃ力不足だけど一人でやるよりマシよ」

 

 支部へと戻った白井は待機していた固法と共にカエル顔の医師が精査した脳波パターンと書庫のデータを照らし合わせを始めた。

 この場合においてもっとも役に立つ初春がいない事に白井は渋い表情を浮かべると向かい側に座り作業をしている固法が言葉を返してきた。

 

「書庫って人の脳波まで記録してあるんだね」

 

「まぁ能力の基本は脳での演算だしね、他にも医療の為に大人でも様々なデータが入ってるらしいわよ

あんまり知らないけど」

 

「プライバシーがありますからね、風紀委員でも閲覧は許可されてませんの

今回は特例中の特例ですの」

 

 パソコンが不得手のツナと協力者の御坂は離れて二人の作業を眺めており、不意に気になった事をツナが口にすれば御坂は肩を竦めながら答える。

 すると作業をしながら白井が一言付け加えてきた。

 

「俺は初春に電話をかけてみるよ、木山さんの所なら協力してもらえるかもしれないし」

 

「そうね、向こうは専門な訳だし手はいくらあっても無駄じゃないからね」

 

 手持ち無沙汰のツナは、携帯を取り出して初春に連絡を入れる事にする。

しかし、普段の初春ならば2コール以内には電話に出るのだがいくら待っても呼び出し音しか聞こえてこなかった。

 

「あれ?おかしいな…聞こえてない訳じゃないと思うんだけどな」

 

「出ないの?初春さん」

 

「うん、向こうで何かあったのかな?」

 

「ヒットしたですの!」

 

 通話を切り首を傾げるツナ、その様子を見て確認を取るように御坂が尋ねると頷きながら妙な胸騒ぎを感じていた。

 その時である検索をしていた白井が該当した人物を見つけた事に声を上げた。御坂とツナは急いで白井の側に向かい画面へと目を向けた。

 

「これ、間違いないの?黒子」

 

「一致率は九割八分…まず間違いないですの、でも」

 

「木山さん…」

 

 そこに表示されていた写真に全員が言葉をつまらせながらも、御坂は確認を取るように聞く。

白井は、検出したパターンデータと該当人物の脳波パターンを合わせた上で返す。

 一致と表示された画面を見ながらツナは小さく呟く、該当した人物、それは少し前に協力を要請した木山だった。

それと同時にツナは慌てて外に出る為に駆け出す。

 

「沢田さん!?」

 

「初春が危ない、すぐに木山さんの所に行かなゃ!!」

 

「それなら私も行くわ!向こうが黒幕ならなにかしらの妨害もあるからね

その為に一緒にいる訳だし!」

 

 駆け出すツナを白井は呼び止めると先程から初春と連絡がつかない事と関係があるのだとツナは答える。

木山の元へ行こうとするツナに御坂は同行する事を告げると二人は頷いてから外へと駆け出した。

しかし、先回りをするように白井がテレポートしてくる。

 

「待って下さいですの!今、固法先輩が警備員に連絡をしました

数分もしない内に現着します、初春も一応は風紀委員として訓練していますの

ですから、多分…いや万が一?奇跡的に?大丈夫だと思いますのよ」

 

「ゴメン、白井さん…木山さんがなんでこんな事をしたのか俺達にも知る権利はあると思うし、それに警備員だけじゃマズイ気がするんだ」

 

「沢田さん、でしたら私も同行しますの!」

 

「悪いけど黒子は支部にいてくれる?情報処理とか固法先輩だけじゃ大変だし、それに」

 

「ひぐぅ!!?」

 

 向かおうとする二人に白井は木山の元へ行くのを押し留めようとする、しかしツナは自身の超直感から事の大きさの不安を口にする。

 ツナの言葉に白井は同行を申し出るが御坂がソレを却下した。その訳を説明してから不意に白井の肩を少し強く叩くと、白井は脇腹を押さえて痛がりだした。

 

「やっぱりね、大方、レベルアッパーを使った連中と戦ってできた傷でしょ?

隠してもわかるわよ、なんだかんだで長い間一緒にいるからね」

 

「お姉様…」

 

「だからって訳じゃないけど今は私に甘えときなさい」

 

「初春は必ず助けるよ」

 

「…わかりましたの、沢田さん、お姉様…お願いいたしますの…」

 

 痛がる白井を見ながら御坂はため息をつけば傷が出来た経緯を予測していう。

心配をかけまいと黙っいたがバレていた事に白井は苦笑を浮かべると、御坂とツナは共に笑いかけてきた。

 二人の言葉に白井は一息ついてから納得をして事態を委ねる。その言葉を聞いてから二人は外へと駆け出した。

 

 屋外へと出たツナはリングに炎を灯しエアバイクの匣を開口すれば、座席に収納されていたメットを被り、更に御坂へと手渡しをした。

 

「前のアレを見たから驚かないけど、ちょっとは説明して欲しいわね

まぁ今は急いでるから聞かないけどね」

 

「ゴメン、だけどレベルアッパーが解決したら話すよ…みんなに」

 

「わかった、じゃあ今はお願いねツナ」

 

 慣れた手付きでエアバイクを起動させるツナに御坂は呆れたように言うと、事態が事態の為、言及を後回しにしメットを被ればツナの後ろに座った。

この場で事情を聞かない御坂に感謝をしつつツナは、自分達の事を話すと御坂に言う。

 真剣な口調で返してきたツナに御坂は小さく笑みを浮べればツナの腰に手を回し身体を固定する。

 御坂がしっかりと掴まった事を確認してからツナは、獄寺より渡されたディスクを言われたメーター下の挿入口に入れてから、アクセルをふかし木山の研究所へ向けて走り出した。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

『沢田くん?聞こえる?』

 

「固法先輩?はい聞こえます、けどなんでメットから?」

 

 エアバイクを走らせていると不意に右耳からノイズが聞こえ、固法の声が聞こえてきた。

どうやら御坂も同じようで右耳の方に手を当てていた。

 

『少し前に獄寺くんから申請を受けていてね、必要ならナビや情報を伝えられるようにってこっちの通信機器に登録しておいたの

まぁ、かなり眉唾な代物だったからかなり苦労したけどね』

 

「そうなんですか、それで用件は?」

 

 固法は獄寺が予め頼んでおいた事だと説明をすれば使用許可の申請が大変だった事を話す。

苦労に関してツナは聞くしか出来ず、話題をかえるように言葉をかけた。

 

『今、警備員から連絡が入ったんだけど、木山春生は既に研究室から姿を消していたそうよ』

 

「初春は!?どうなりましたか!?」

 

『なかったわ、恐らく木山春生に連れていかれたのだと思う

彼女は車で移動していると思われるわ、彼女の所持している車が見当たらない事から一番可能性が高いと思われているわ

多分だけど、一般道じゃなくて高速道路を使っている筈よ、今御坂さんの携帯に地図を転送したからソレを頼りに移動して貰える?』

 

「わかりました!」

 

 固法からの話によりツナはエアバイクを停止させて呼びかける。

希望をよせて尋ねたが、固法から返ってきたのは悪い情報だけであった。

 状況証拠から逃走経路を予測し固法は指示を出すと御坂が携帯の画面を見せてきた。

表示された地図を確認したツナは、一番近い高速道路の入口を目指そうとしたその時である。

突然、進路上の建物から大きな爆発音が聞こえ、中から数十人の集団が姿を表した。

 

「な、なに?なんだあいつら」

 

「集団で対立しているみたいだから、多分不良グループのケンカね

しかも能力の規模から考えてレベルアッパーを使ってるわね、全く!こんな時に、空気読めっての!」

 

 突然現れ出てきた集団にツナは慌てふためくと、御坂は相手を観察しながら予測を立てその上で周りの被害を見てから悪態をつく。

 

「このままじゃ高速道路に入れない…けど、このまま放っておく訳にも…」

 

「十代目!!」

 

「獄寺くん、山本なんでこっちに!?」

 

「白井から連絡が入ってな、応援に来たんだが、これはまたヒドイな」

 

 目の前で暴れている集団と木山確保に追走する、ツナはどちらを取るか迷っていると後ろから獄寺の声と共にバイク音が2つ聞こえてきた。

 振り返ると獄寺と山本がツナの元へと駆け寄ってくる。タイミング良く現れた二人にツナは問いかけると山本は事情を説明し、自分達を尻目に暴れる集団に目を向けて苦い表情を浮かべた。

 

「十代目、ここはオレ達に任せて木山を追って下さい!」

 

「でも相手はレベルアッパーを使ってるんだ、それにあんなにいたら二人でも」

 

「大丈夫だって!俺達を信じてくれよ!それに初春の事、心配なんだろ?ならモタモタしてらんないだろ!」

 

「ソッコーで、片付けて追いかけます!だから十代目!!」

 

 

「二人とも…わかった!ここは任せた!」

 

「おう!」「はい!」

 

 目の前の集団を見ながら獄寺はツナへと呼びかける。相手の数を見て乱戦になっているとはいえ二人で相手をするには危険だと言う。しかし、山本と獄寺は譲らずに応えた。

 二人の言葉にツナは覚悟を決めてエアバイクを始動させ、反転させると獄寺と山本に声をかけつつ走り出した。その言葉に声を揃えて二人は答えるとリングに炎を灯し各々の武装を展開する。

 

「とりあえず、俺が前で良いか?獄寺」

 

「あぁ?乱戦に飛び込むんだ、前も後ろもねぇよ…まとめて潰すぞ!」

 

「そっか、その方が良いよ、な!!」

 

 左手に小刀を携え、右手に長刀に青い炎を纏わせ山本は余裕そうに獄寺に呼びかける。

獄寺は不満げに返せば腰の匣よりベルト状に連なった弾倉を腕の火炎放射器に装填する。

獄寺の返しに山本は笑みを浮かべて返せば、目つきを鋭くし強く踏み出すと小刀を噴射し、乱戦の中央へと飛び込んだ。

 いきなり現れた山本に、その場にいた全員が虚をつかれる。その隙を山本は見逃さなかった。

 

「時雨蒼燕流、攻式!八の型!篠突く雨!!」

 

 巻き上げるように刀を振るうと山本の四方から青い炎が立ち昇り、集団を吹き飛ばした。

そして、山本の技から逃れた敵に向けて黄色の炎を纏ったミサイルが降り注いだ。

 凄まじい速度の弾に誰一人避ける事が出来ず直撃していく。

 

「一応、手加減…いや火加減はしたが、まだやる気かよ?」

 

「な、なんなんだ!てめぇらは!?」

 

 相手が吹き飛んだのと同時に獄寺は山本と背中合わせになるように立ち、立ち上がる相手に向けて威嚇するように言い放った。

 獄寺の言葉に対して立ち上がった一人が怒鳴るように言い放つ。それに対して獄寺と山本は不敵な笑みを浮かべる。

 

「風紀委員だよ!」

 

「臨時だけどな」

 

 奇襲を成功させたアドバンテージを取り余裕を露わにする二人に、相手は先程まで戦っていた相手と共に不意打ちをしてきた二人にむけて襲いかかるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

学園都市 一般道

 

「ツナ!次の交差点を右に曲がって!」

 

「わかった!」

 

 獄寺達に任せ、ツナは御坂のナビを受けながら高速道路を目指し走っていた。

御坂の指示に従い、交差点を曲がった時にメットの中に通信音が響き渡った。

 

『沢田くん!今、高速道路で警備員が木山を捕捉したみたい

だけど、木山から反撃を受けているみたい…』

 

「どういう事ですか!?木山さんは、能力者じゃない筈ですよね?」

 

『ごめんなさい、詳しくはわからないわ、警備員の無線が途切れ途切れで入ってきてるの』

 

「わかりました!急ぎます」

 

 焦った口調で固法が状況を伝えてきた、つげられる情報にツナは慌てて聞き返すが詳しい事がわからずにいたが、ともかく現場に向かう事を考え返答をした。

 

「ツナ!固法先輩から場所が送られてきたけど…かなり遠いわ!

相手が能力を使ってるなら急がなきゃいけないわよ!?」

 

「わかってる、けどこれ以上、スピードは出ないよ!」

 

『いや、出るぞ』

 

 返答と同時に御坂の携帯に位置情報が表示されるがその距離はかなりあり、限界まで速度を上げても間に合うかどうかという具合だった。

 ツナ自身もそれを痛感している為、強く叫ぶしかし次の瞬間、聞き慣れた声が通信機から聞こえてきた。

 

「この声、まさかリボーン!?」

 

『相変わらずダメダメな事を口走ってるな?ツナ』

 

 聞こえてきた声にツナは思わず辺りを見回して答えると先程ディスクを挿入した場所から光が出て、ホログラフィック状に展開し向こうからすれば数週間、自分からすれば数カ月ぶりに黒いスーツ姿の赤ん坊がツナの前に姿を見せた。




お久しぶりです、夏場の空気に完敗しやる気を喪失してましたさぬきです
なんとか一ヶ月以内には更新出来ました
その間も閲覧してくれた方々には大変感謝してます
暑さに負けずに頑張りたいです
今回、次回予告風はないです
いつ更新出来るかわからないので、良ければ次回も楽しみにしててください


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第14話a:多才能力

暑さとエアバイクの機能、ついでに木山戦を見直してましたらかなり時間がかかりました
待っていた方にはお待たせしましたとひれ伏しながら申し上げます
気が付いたら7万UAを超えている事におどろいている今日この頃です


学園都市 一般道

 

 

「リボーン!?なんでお前が…」

 

『チャオッス、先に言っとくがオレはお前が知ってるリボーンじゃないぞ』

 

 いきなり現れた家庭教師にツナは慌てながら呼びかけるが、映し出されたリボーンは淡白な口調で答えてきた。

ツナはその言葉の意味がわからず唖然とする、その瞬間、エアバイクのハンドルが急に動かなくなった。

 

「なんだ、これ!?」

 

『慌てんな、今はオレがこのバイクの操作権をもってるだけだ

オレについて説明してる最中に脇見運転は危ないからな』

 

「これってホログラムに投影されたAI?けど、なんで赤ん坊なの?」

 

 立て続けに起きた状況に慌てるツナに、映像のリボーンは顔色一つ変えずに答えてくる。

ツナ以上に状況が理解出来ない御坂だがリボーンの状態がどうなのかなんとなく理解できた。

 

『流石だな、オレの正体がわかるか、お前は御坂美琴だな?データとしては登録はしてはいるぞ』

 

「AIってそうなのか?リボーン!」

 

『まぁな、獄寺がお前に渡したディスクがあるだろ、アレがオレの本体みたいなもんだ

エアバイクの機能がお前のだけちょっと多いからな、ガイド役でオレの導入が決まった

まぁオレがモデルなのは1からAIを育てるより楽だからだ、ついでに情けないツラをしているツナを蹴り飛ばせると思ってな』

 

 御坂の指摘にリボーンは表情を変える事なく返せば自身が機械であるかのように振る舞った。

畳み掛けるように増えていく情報に困惑しながらツナが問いかけるとリボーンはさらりと答えると、自分が存在する理由を説明していき、最期に不吉な言葉を放ってから笑みを浮かべた。

 

『とりあえずオレについてはこのくらいで十分だな、説明を続けても良いが今はそんな状況じゃねえだろ』

 

「そうだった、リボーン!さっき、スピードが出るとか言ってたけどどうすればいいんだ?

俺達は急がなきゃならないんだ!」

 

『慌てんな、ツナ、今からオレの言う通りに操作しろ』

 

 

「わ、わかったよ!」

 

 ざっくりとした説明だけをしてきたAIリボーンは、ツナに向けて尋ねてくる。

リボーンについて詳しくは知りたい状況だが、初春の元へ向かう為には今はAIリボーンの言葉に乗るしかないと考えて、ツナは返した。

 ツナの言葉にわかっていたと言わんばかりにAIリボーンは言葉を返し、ツナは息を呑みつつ頷く。

 

『まずはクラッチレバーを引いてから右グリップの根本にある赤いボタンを一回押せ』

 

「クラッチを引いてから、ボタンを押す…」

 

『目の前のタンクに大空のリングと同じマークと匣が出てくる筈だぞ』

 

「ああ、出てきた!次は?」

 

 AIリボーンの言葉に従い、ツナはエアバイクを操作していく。

ボタンを押し込むとカチリと音が鳴り本来ならガソリンが注がれる部分がダイヤルのように稼働し〘Vongola〙という表示が現れ、更にオレンジ色の匣が迫り出してきた。

 未だに理由は明かされないがツナは何故だか少しだけ気分が高揚している気がした。

 

『匣を開けるように死ぬ気の炎を注ぎやがれ』

 

「こうだな!」

 

『最後だ、そのまま鍵を開けるみたくリングを捻ろ、そうすりゃ…』

 

 AIリボーンの言葉のままにツナは死ぬ気の炎を匣へと注入する、そしてそのまま強く手首を捻った瞬間、エアバイクが一瞬だけ浮かび上がるのを感じた。

 

「へっ?…んなぁあああっ!?」

 

「うわ、ああああっ!?」

 

『物凄いスピードが出るぞ』

 

着地と共にツナと御坂に強烈な負荷がかかりエアバイクの速度が格段に跳ね上がった。

 ツナと御坂は、いきなりの加速に悲鳴を上げAIリボーンはどこ吹く風と言わんばかりにさらりと言い放った。

 

「リボーン!なんだよ!これは!?」

 

『こいつは、予めチャージしておいた死ぬ気の炎を開放してエアバイクの強化するシステムだ

ボックスギアシステム、試作段階だがなかなかだろ?今は大空属性を開放して最高速度を上げている状態だ』

 

「予め!?ってことは、死ぬ気の炎を入れる必要なかったんじゃないか!!」

 

『まぁな、元々チャージしていた分に更に上乗せされた状態だから体感速度はかなりのもんだろ

一応、忠告するが手は離すなよ?エアバイクの周りにはツナの柔の炎と似た出力の大空の炎が展開して、本来かかるはずの衝撃を緩和しているがその範囲から出たら、簡単に腕が吹き飛ぶぞ』

 

「こ、怖い事を言うなよ!?てかリボーン!カーブが見えてきたけどこの速度で曲がれるのか!?」

 

『まぁ、まず無理だなどうやっても不可能だぞ』

 

 急激に速度を上げるエアバイクのハンドルを握りしめながらツナが叫ぶとAIリボーンは、不敵に笑いながら説明をしてきた。

 AIリボーンの説明にツナは自分が言われるがままにした事が無意味だったのでは無いかと尋ねると、悪びれる様子も無くAIリボーンは答える。

 更に付け加えてきた情報に対して反論すると目の前の道路が大きく曲がっている事にツナは気付く。

慌てながら尋ねる、それに対してAIリボーンはカーブを眺めながら他人事のように返した。

 

「じゃあ!どうしろってんだよ!?」

 

『ツナ、さっきと同じ手順でギアボックスを作動させろ、早くしねぇと諸共ツッコむ事になるぞ?』

 

「わ、わかったよ!」

 

 相手の返し方にツナは泣き言を口にするとAI リボーンは励ます事も叱咤する事もなくただ淡々と指示を出す、ツナは言われた通りに操作を行う。

 ダイヤルが回り、雨のマークが表示され青色の匣がせりでてくる。何が起こるかわからない恐怖があった、それでもツナは死ぬ気の炎を注ぎ匣を開口する。

その瞬間、緩和されながらも身体にのしかかっていた負荷が無くなり、エアバイクは速度をそのままにコーナーを曲がり走っていく。

 

「…すごい、簡単に曲がった?」

 

『高速で曲がる際にかかる負荷を雨の鎮静を利用して限りなく少なくしてコーナーをぬける

まぁ理論を説明してもいいがお前には難しいだろうから曲がり易い状態だって思っとけ

そんじゃ、そろそろ操作権を戻すぞ?』

 

「はぁ!?こんな凄いスピード扱えるわけないだろ!!」

 

『甘ったれんな、コイツの行き先はお前が決めたんだろ?なら最後までやり通しやがれ、オレ、いや本体の生徒なら出来るだろ?』

 

 速度を維持したまま悠々と走り抜けていく事にツナが呆けているとAIリボーンが説明をざっくりとしてから自動操縦を解除すると言ってきた。

 しかし出した事もない速度のエアバイクを操れるわけがないとツナが返すと、AIリボーンはきっぱりと言い放ち、その上で尋ねてきた。

AIリボーンの言葉にツナは相手が本物では無いことを改めて痛感し、その上でバイクのグリップを握りしめた。

 

『良い顔だ、ちっとはマシになったな

多少のサポートはしてやる、だから突っ走れ、ツナ』

 

「わかった!」

 

 ツナの表情を見てから激励の言葉をかけると今まで安定していた挙動がブレ始める。

自動操縦が切れた事にツナは頷いてから答えると速度を維持するためにアクセルを開けるツナ。

 

「ごめん、御坂…バタバタしちゃって…」

 

「もうなんだか慣れたわ、けど今更降りたりしないからしっかり送り届けてよね!」

 

「うん、わかった!」

 

 落ち着いて操作が出来るようになったツナは、後ろに乗る御坂に申し訳なさそうに声をかけると呆れたようにしながらも御坂は、ツナへと呼びかけた。

 相手の信頼を裏切らないようにツナはアクセルを開け高速道路を進んでいくと、数百メートル先で煙が上がっているのに気付いた。

 

「なんだろう?事故かな?」

 

「違うわ!どうやら追いついたみたいよ!!」

 

 煙の発生源についてツナは呟くと御坂はその先に見える車両から、木山達であると判断した。

 

 エアバイクを止め、御坂は直ぐに木山の車へと駆け寄り、ツナもまたエアバイクを戻してから後を追いかけた。

 

「初春さん!?大丈夫?しっかりして!」

 

「心配いらないよ、攻撃の余波で気絶しているだけだからね」

 

 車の中でグッタリしている初春に御坂が呼びかけているとダウナー気味の口調で木山が返してきた、口調こそ前と変わらないが彼女の背後には吹き飛んだ警備員や何かが叩きつけらて大きく凹んだ車両があった。

 

「木山さん!貴女がコレをやったんですか?」

 

「ん?ああ、そうだよ…銃を向けられたからね、正当防衛というヤツだ、けど殺してはいないはず

力加減がイマイチ効かないがそれほど大出力ではやってない、しいて言うなら重症と言った所かな…」

 

 佇む木山にツナが警戒をしながら尋ねると木山は背後に目を向けながら冷静に状況を説明してくる。

初春に呼びかけていた御坂は、ツナの前へ周り身構える。

 

「驚いたわね、あんた…能力者だったの?」

 

「いや、私は能力開発は受けていないよ

君たちがここに来たという事は、状況は理解しているね?コレはレベルアッパーの副産物と言った所だよ

1万人の脳をネットワークで繋いだ事により、本来は一人一つしか使えない能力を私は複数、使用できるようになったのさ」

 

「それって、多重能力者(デュアルスキル)!?実現したっていうの!」

 

 周りの惨状から木山が超常的な能力を使ったと予測し、御坂は警戒を強めながら尋ねる。

すると、木山は小さく首を振ってから仕組みを話していき証明するように左手に空気、右手に水を集めていく。

 同時に能力を使用した事に御坂は、架空とされていた呼び名を思い出した。

 

「あんなモノと一緒にしないで欲しいな、アレは一個人だけで引き起こすモノだ…私の場合は、そうだね多才能力(マルチスキル)と呼ぼうかな」

 

「どうでも良いわ!あんたを捕まえる事に変わらないんだから!!」

 

 木山は収束させていた空気と水を解除してから白衣に手を入れ、自身の力の呼称を口にする。

余裕の態度を取る相手に、御坂は先手必勝とばかりに電撃を打ち放つ。

 しかし、電撃は木山を避けるようを地面へと直撃した。

 

「おや?何を驚いている?1万と言ったろ、それなら君と同じ電撃使いがいても不思議じゃない、電撃を操れるなら自分に当たらないようにするのは簡単だ

一人一人が君よりレベルが低くても数百、数千も集まれば君と並ぶ位にはなるだろう

もしかしたら、君よりも高位になるかも知れないね」

 

「言ってくれるじゃない…けど電撃だけじゃないわよ!!」

 

 電撃が逸れた事に御坂が驚きの表情を浮かべていると木山は、当然のように返してきた。

そして余裕綽々と言わんばかりに御坂を挑発してくる、御坂は、近くに散らばる瓦礫を電気を使い引き寄せれば木山に向けて撃ち放った。

 

「なるほど、物理攻撃は有効だ…しかし」

 

 飛来する瓦礫に木山は避ける仕草は見せずに手をかざすとコンクリートが隆起し瓦礫を簡単に打ち砕いてしまう。

 

「多才だと言ったろ?…さて、学園都市に七人しかいないレベル5、君に…1万の脳を統べる私を止められるかな?」

 

「止められる?ですって止めてやるわよ!!」

 

 簡単に御坂の攻撃を防いだ木山は、改めて宣言をするように言葉を投げかける。

今まで事件に首を突っ込んできた御坂だが、ここまで圧倒的な相手はいなかった。それでもハッキリとした口調で返し、御坂は走り出した。

 だが、木山は手も動かさずに御坂の足元のコンクリートを抉りとる。

出鼻を挫かれたが御坂は体勢を立て直し木山へと接近する、だが木山はコンクリートに亀裂を走らせると自分ごと御坂を崩落に巻き込んだ。

 

「御坂!?」

 

 落ちていく御坂にツナは叫びながら、穴の方へと向かう。すると、いきなりの事に戸惑いつつも電気を柱に放ち電気磁石へと変え御坂は側面に着地していた。

 そして木山も平然と瓦礫を避けて地面の上に立っていた。

 

「ホント、なんでもアリね…その能力…」(自分を巻き込むのもお構い無しか)

 

「流石のレベル5もこの程度か、拍子抜けだよ」

 

「なにを、っ!しまった!?」

 

 平然としている木山に御坂は顔をしかめながら呟くと木山は呆れたようにため息をついた。

バカにされたような言い方に御坂は食いつくが、突然、電磁石となっているコンクリートの支柱がキレイに切り取られ、そのまま押し出されるようにせりあがったコンクリートの破片に巻き込まれ、地面へと落ちていった。

 

「もう止めにしないか?私は君や警備員と争うつもりはない…攻撃をしたのは、すまないと思っているが私には私のやらなければならない事がある、そのためには邪魔をされる訳にはいかないからだ

事が済めばちゃんと皆を解放する、そうすれば誰も犠牲にはならない筈だ…」

 

「ふざけんじゃないわよ!!あれだけ大勢の人を巻き込んでおいて、人の心を弄んでおいて!見過ごせる訳ないでしょ!!」

 

 立ち上がる御坂に目を向け木山は、小さくため息をついてから停戦を呼びかけその上で被害者の回復を持ちかける。

しかし、意識不明という状況が行っている以上、御坂は回復するから見逃すという考えはなかった。

 

「レベル5と言っても所詮は世間知らずのお嬢様か…」

 

「人前で服を脱ぎだすあんたには言われたくないわ!!」

 

「君は、この街で行われる能力開発をどう思う?」

 

 退く気のない御坂に対して木山は小さくため息をついてから言い放つ、相手の言葉に御坂は指をさして返すと木山は一つの質問を投げかけてきた。

 

「君達の能力開発が安全で人道に反していないと誰が証明した?学園都市の上層部は能力開発の核心を秘匿している、それが何かもわからずに大人達は日々、子供達の脳を開発している…」

 

「随分、興味深いけど…それはあんたを捕まえてから詳しく聞かせて貰うわ!!」

 

「悪いけど捕まる訳にはいかない、大人げないが手荒な真似をさせてもらうよ」

 

 木山は淡々とした口調で御坂に日常的になっている能力開発の異常を語っていく。

問いかけられた事に興味を示しながらも御坂は地面に手をつけば電気をまとわせた砂鉄を巻き上げ、木山に向けて矢のように放つ。

 迫る砂鉄を木山は念動力で巨大な瓦礫を動かし防ぐと、近くのゴミ箱をエアロハンドで打ち上げる。その中には大量の空き缶が詰め込まれており打ち上がった瞬間、空中へと空き缶が舞い上がった。

 

「グラビトン!?」

 

「さぁて、コレだけの爆弾を防ぎ切れるかな?」

 

「舐めんじゃないわよ!?」

 

 御坂の脳裏に以前、介旅の記憶が蘇る。恐らく多才能力者の木山が使えばあの時よりも威力が跳ね上がっていると思われた。

 木山の言葉と共に空き缶が一斉収縮を始めた。空中で爆発すれば御坂だけではなく上にいるツナや初春も巻き込む事になる、それを防ぐ為に御坂は電撃を放ち空き缶を余す事なく撃ち抜いていく。

 収縮の途中で衝撃を受けた事により、空き缶は次々と爆発していった。

 

「よし!撃ち落とした!!」

 

「いや、これで終わりさ」

 

「あ…」

 

 全て撃墜した事に御坂は安堵するが、木山の攻撃はそれだけではなかった、突きつけるように指を動かすと木山の足元から空き缶が御坂に向けて射出された。

 御坂が迎撃するよりも速く空き缶は収縮し、爆発が木山の視界を覆った。

 

「いくら電撃使いと言えどこの不意打ちはかわせないだろう、悪いね…正々堂々というやり方をしないのが大人のやり方なんだ」

 

「だったら、正々堂々、俺達は貴女を止めるだけだ」

 

「ほぅ…」

 

 自分に迫る衝撃を念動力で逸らせば、木山は小さく自傷気味に呟く。

その時である、煙の向こうから声が響き渡るとオレンジ色の炎が巻き上がり、煙を吹き飛ばした。そこには御坂を庇うように立つ外套を纏ったツナの姿があった。

 死なない程度に威力を抑えたが、それでも威力はあると思っていたが塞がれるとは思っていなかった木山は、興味深い視線を向けた。

 

「まさか、君がそれほどの能力者とは思わなかったよ、沢田綱吉くん」

 

「木山さん、貴女を止める…じゃなきゃ俺は死んでも死にきれない!!」

 

 黒い外套と黒いグローブそして手と額に燃え盛るオレンジ色の炎を見て木山が呟くとツナは、一世のマントを翻して言い放った。



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第14話b:多才能力

最近はやる気が下降し一ヶ月に一本しか上げられないことに申し訳ないと思ってます



高速道路 高架下

 

「死んでも死にきれない、か…君みたいな中学生が使うには些か早すぎると思うよ?」

 

 目の前に立つ少年が口にした言葉に木山は寂しげに呟く。ツナは一世のマントを解除してから拳を握りしめて対峙した。

 

「ツナ…その力…」

 

「ごめん、あの時は本当に最後のつもりで言ったんだ…でもこれは俺にとって必要なモノなんだ、ちゃんと話すから…今は任せて欲しい!」

 

 額と手に燃える炎を見て、御坂は小さく言うとツナは背を向けたまま言葉を返せば足に力を込めて地面を蹴る。その瞬間、御坂と木山の視界からツナの姿が消えた。

 

「っ!?瞬間移動…いやこれは」

 

 姿が消えた瞬間、木山の表情が驚きの物に変わるが次の瞬間、木山の背後から地面が柱のように隆起する。

そこには背後から木山を取り押さえようとしているツナの姿があった、ツナは相手の反撃に捕まる事を諦め、距離を大きく空ける。

 

「危ない危ない、動体感知からの自動防御が無ければ掴まっていたよ」

 

「多才能力の応用か…」

 

「そうだ、一つ一つでは驚異にはならないが組み合わせるとここまでのモノになる

しかし、不思議な能力の使用だな…炎をぶつけたりするのでは無く推進力として炎を噴射…額に灯しているのはコントロールが行き届いていないのか…いかんいかん、研究者としての考えをつい巡らせてしまうな…」

 

 離れたツナに向けて少しばかりワザとらしい口調で木山は返す、その言葉からツナは攻撃のしくみについて呟くと木山は隠す事無く返せば、ツナの能力について考察していくが直ぐに考えを払うように呟いた。

 

「それにしても、不意を突ける機動力があるにも関わらず、取り押さえにきたのは余裕の表れか?だとしたらスグに捨てる事を勧めるよ…この多才能力の前では意味が無いからな」

 

「俺は…貴女を傷つけたくはないです」

 

「これはまた…随分、不思議な事を言う…高レベルの能力を複数扱える多才能力者を傷つけたくないか…

それは実に傲慢だよ、それは本気を出せば私くらいならば一瞬で片付くと捉えるべきかな?」

 

 木山はツナの動きについて一つ、解せない点がある事を口にしどういう意図があるかを聞きつつも無意味だと言い放つ。

 しかし返ってきた答えは木山にとって意外な物で少しばかり苛立ちを見せながら返答をする。

 

「違う!貴女はこんな事を望んでいないんじゃないかって思う、俺には貴女が苦しんでいるように見えます!」

 

「おかしな事を言う…人の脳を回路のように中継してネットワークを構築し能力を上げる技術を開発したならどれほどのものか試す、研究者ならば当然だろう」

 

「だったら、自分を元にしなくても出来るんじゃないですか?機械を使ったり別の誰かを使う事も出来たはずだ!」

 

 ツナは身構えながらも木山の問いかけに返した、苦しんでいる、その言葉に木山は頭に手を当て言葉を振り払うように言い放つ。

しかしそれでも退くこともなくツナは返した。

 

「なるほどな、結論だけなら機械と人間は繋ぐ事は出来ない

絶えず変化をする脳波を合わせるには機械では厳しくてね人間を使うのが良かったんだよ

更に言えば私は出不精でね…あまり人の知り合いや協力者を探すのは技術を作るよりも大変なのさ、だから自分を使ったその方が観察と経過がわかり易いからな」

 

「それは本当、ですか?」

 

「疑り深いね、事実だよ…私は迷ってる暇はないんだ…やらなければならない事があるからね」

 

「それはなんなんですか?教えて下さい!皆で力を合わせればこんな事しなくて済むんじゃないですか!?」

 

 ツナの問いに木山は苦笑を浮かべながら返す、しかし目を細めながらツナは尋ねる。

納得のしないツナに木山は苦しげな表情を浮かべながら、突き放すように答える。

だがそれでもツナは食い下がるように言葉を投げかけた、その瞬間、言葉を遮るように地面が隆起した。

 それは木山がこれ以上、対話をするつもりがないという意思であった。

 

「君の言葉をあまり長々と聞いていたくはないな…これ以上は口を噤んでもらえるかな?」

 

「嫌だ」

 

「そうかい、なら…仕方ないね」

 

 手で顔を隠すように覆いながら木山は口に出してツナにハッキリと伝えるが、考えの変わらないツナにため息混じりに呟けば手近の瓦礫を複数浮かせると大砲のように撃ち放った。

 迫りくる瓦礫にツナは身構えるが、鉄屑の塊がツナの前にせりあがり瓦礫を防いだ。

 

「ったく、見てらんないっての…」

 

「御坂…」

 

 驚くツナの背後からの御坂の声が聞こえてきた、どうやら彼女が能力を使い鉄屑を盾がわりに操ったのだろう。

御坂はツナの隣に立てば軽くツナの肩を叩いてきた。

 

「あんたが相手の事をどう思おうと向こうが止まる気が無いなら、戦うしかないわ

それにいくら昏睡状態を直すって言ってても身体にどんな副作用があるかわからないでしょ?

それなら早い内が良いわ、話ならそれからでも良いはずよ」

 

「ああ、わかった…今は捕まえる事に集中する」

 

(前は気付かなかったけど、今のツナってまるで別人よね…能力が発動すると人格が変わる?ってそんな事は後ね)「ツナ、私に考えがあるからアイツを惹きつけてくれる?ついでにその場から動かさないようにしてくれるならなお良し」

 

 戦う事を躊躇っているツナに向けて、御坂はキツく言い放つ。

その言葉にツナは佐天や意識不明者の事を考え、頷いて答えれば拳を構え直した。

 普段との雰囲気の違いを改めて感じつつ御坂は指示を出した。

 

「わかった、なんとかしてみる」

 

「オッケー、頼んだわよ!ツナ」

 

「作戦会議は終わりかな?君たちの能力は大体把握した、二人がかりだろうと遅れはとらないよ」

 

「それは…「「やってみなきゃわからない!!」」

 

 出された指示にツナは思考を巡らせながら答える、御坂はその言葉を信じて返す。

それと同時に御坂が作り出した壁に大きな穴が空きその先から木山の声が聞こえてきた。

 木山の自信に満ちた言葉にツナから言葉を放ち、二人で宣言するように答えれば、二人は一斉に地面を蹴った。

 

(相手をその場から動けなくするには零地点突破が一番有効だけど、相手は死ぬ気の炎を使えないが多数の能力を使える多才能力者…なら!)「周りを囲う!!」

 

 木山に向かいながらツナは思考を巡らせる、そして取捨選択をしていき一つの方法を考えつけば、炎を噴射し木山の周りを高速で回転していく。

 ツナの炎は竜巻のように立ち昇り木山を覆い隠した。

 

「X(イクス)ストリーム!!」

 

「炎の竜巻か、下手に動けばダメージを受け、動かなくても熱気により力を削ぎ落としていく…悪くないが、この多才能力には効かないよ、?」(炎が、操れない?)

 

 竜巻を作り上げたツナは大きく後退する、炎の中に佇みながら木山はオレンジ色の竜巻を眺めながら振払おうと手を伸ばす。しかし、発火能力を行使して炎を霧散させようとするが炎の竜巻は揺らぐばかりで木山の意思を介そうとはしなかった。

 

「この炎は能力とは違う性質を持っているのか、マズいな…周囲と視界を遮られたか…」(彼らの会話から考えるなら御坂美琴が決め手をかけてくる、しかし彼女の電撃は通らないようにしている…それなら最大火力である超電磁砲か?)

 

 閉じ込められた事に対して木山は焦る事なく思考を巡らせていき、仕掛けてくる攻撃方法を予測する。

だが、その選択に関して少し疑問が残った。

 

(彼らは私から話を聞き出したい、ならば超電磁砲を使うのはあり得ないか…自慢じゃないが耐久性に関して一般人より劣っている、それなら彼らは…)

 

 ツナ達が必要としている事を考え超電磁砲の可能性を除外する。

その瞬間、瓦礫の塊が竜巻を突き破り木山へと迫った。

 

「これは電撃で固めた瓦礫か…確かにこれならば私に反らされる事は無いだろうな…だが!」

 

 迫りくる瓦礫に手を突き付ける木山、掌に空気が急激に収束していき瓦礫に向けて集めた空気を放つ。

その瞬間、瓦礫の塊が赤く発光していき音もなく崩れさった。

 

「空力使いで高密度まで集めた空気の壁さ、かなりの質量だったが局所的に大気圏レベルまで重ねた空気の層は超えられなかったようだな」

 

「そうね、だけどいい目くらましになったわよ」

 

「なに!?」

 

 瓦礫を崩した原理を説明していき、視線を前に向ける木山。しかしそこには御坂の姿は無く背後から声が聞こえ振り返ると御坂が木山の腰にしがみついてきた。

 

「アレでどうにかなるなんて考えてなかったわ、そして1万人の能力者を集めたみたいだけど、流石にあのバカみたいな能力者はいなかったようね

アイツには効かなかったけどあんたにはどうかしら、ね!!」

 

「ウ、ぐぁああああ!?」

 

 飛ばした瓦礫を隠れ蓑にし、御坂は木山の背後へと回っていた。

そして不敵な笑みを浮かべ0距離で木山にむけて電撃を放った。

 密着した事により電撃を受け流す事が出来ない木山は苦悶の声を上げた、激しく鳴り響く音と光に離れて見ていたツナは目を細めた。

 

 その時であるツナの頭の中にまるでテレビの砂嵐のように映像が流れ混んできた。

 

「っく、これは…いったい…」

 

《き……せん…い!きや…せんせい!》

 

 断片的かつ一方的に流れ混んでくる情報にツナは膝をつく、見たことも聞いた事もない子供の声が途切れ途切れに聞こえてきた。

 子供の声にツナはこの映像が木山の物である事に気付き、その声に耳を傾ける事にした。

 

ーーーーーーーーーー

 

 最初に見えてきたのは白衣の老人だった、その老人は木山に向けて教鞭をとるように言ってきた。

老人の言葉に木山は眉を潜めるが、学園都市の統括理事会からの実験の為だと言ってきた。

 そうして彼女に任せてきたのは、学園都市から様々な理由で捨てられた子供達、『チャイルドエラー』の詳細なデータを取る為に木山に教師を依頼してきたのであった。

 

 木山は最初は乗り気ではなかった、統括理事会からとはいえ子供が苦手な彼女に教師役は苦痛でしかなかった。だが子供達と関わっていく内に子供達の言葉を聞いていく内に認識が変わりだしたのがわかった。

 

 そしてある日の事である子供達は一つの実験を受ける事になった。

木山は、子供達に実験の為の処置をしていく、だが次の瞬間、目の前が歪みだし次々と研究者の言葉が流れ込み思考が埋め尽くすされそうになった。

 そして、まるで嵐のように過ぎ去ったあとに聞こえてきたのは無機質な機械音と

 

「木山くん、よくやってくれた…彼らには気の毒だが科学の発展にはつきものだよ」

 

老人の無慈悲の言葉であった、その瞬間ツナの意識は弾かれるように離れていく。

最期に映り込んだのら血塗れのベッドに残されたカチューシャだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「っハ!?…ハァハァ…い、今のは…」

 

 現実へと引き戻されツナは膝をつく、身体に伝わる感覚からツナは思い出したように呼吸を繰り返した。

 そして、御坂達に向けて視線をむけた。

 

「今のは…?」

 

「見られたのか?…う、ぐぅう…」

 

 電撃を放った御坂にも見えていたその表情は驚愕に満ちていた。

木山は御坂の言葉から、自分の過去が多才能力を通して流れでた事に気付き電撃のダメージに苦悶を口にする。

 

「あれは…表向きにはAIM拡散力場を制御するための実験とされていた

だが実際は暴走能力の解析用誘爆実験だった…AIM拡散力場を刺激して暴走の条件を知るのが本当の狙いだったわけさ」

 

「それじゃあ、まさか!」

 

「ああ、暴走は意図的に仕組まれていたのさ…もっともこの事実がわかったのはもっと後だったがね…」

 

「人体実験…」

 

 知られた以上、隠すことなく木山は実験について語りだした。

実験の内容を聞き、御坂は感づいたように言えば木山は吐き捨てるように答えた。

 

「あの子達は実験の後も目覚める事なく今も眠り続けている!…私達はあの子達を使い捨てのモルモットにしたんだ!!」

 

「でもそれなら警備員に「23回…」え?」

 

「あの子達を回復させる方法、事故の原因を探る為のシュミレートする為に『樹形図の設計者』の使用を申請した回数だ

『樹形図の設計者』の演算能力ならあの子達を助けられる筈だ、もう一度日の下を走らせて上げられる筈だった…だが却下された!23回全て!!」

 

 木山は今まで誰に語る事も出来ずにいた言葉を吐き出すように叫んだ。

自身の悔恨と行ってきた努力を叩きつけるように言い放つ。

 

「統括理事会もグルなんだ、奴らが関わっている以上、警備員も動かない!!」

 

「だからって!こんな事!「君に何がわかる!!あの子達を助ける為なら私はなんだってする!全てを敵に回してでも成し遂げなきゃならないんだ!!っぐ!アァア!?」

 

 学園都市にいる全てが自分の敵で、残された手段がこれしかない事を叫んだ時であった。

木山は頭を抑えて苦しみだし始めた。

 

「木山さん!?」「ちょ、ちょっと!!」

 

「ネットワーク、の暴走…!」

 

 苦しみだしその場に倒れた木山にツナと御坂は、かけ寄ろうとする。

しかし倒れた木山の首から白い糸のようなものが飛び出すと一つの形を形成していく。

 

「なにあれ…」

 

「コイツは…」

 

「御坂さん!ツナさん!」

 

 白い糸はまるで赤子のような姿をつくりだした、御坂とツナがその異色の存在に圧倒される中、背後から初春の声が聞こえてきた瞬間、赤子が真っ赤に染まった瞳を開き、衝撃波のような咆哮を上げるのであった。




閲覧ありがとうございます、次回は感想でも言われておりましたので前後編を一つにまとめてみたいとおもいます

それでは、出来るだけ来月中には完成させたいです


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第15話:AIMバースト

ほぼ1年以上放置していました、それでも待っている方々に答えようと考え書き上げました。

Twitterにて一応これまでの経過を書くつもりです
もしもこの先も続けて欲しい方、先が読みたい方は感想やリプをお願いします


 響き渡る声、それが怒りによる絶叫か威圧する咆哮か、どちらかは理解出来なかったが目の前にいるソレが()であるとツナは察した。

 

「御坂!!」

 

「っ!」

 

 ソレの周りの大気が収縮を始めた事に気付いたツナは、相手の異様な雰囲気に気圧されている御坂へ呼びかける。

 呼びかけられ御坂が意識を戻した瞬間、大気中に氷の槍が形成され御坂に向けて放たれた。

ツナは死ぬ気の炎を噴射し御坂の側へ移動すれば彼女の身体を抱えて大きく後退した。

 

「あれは、いったいなんだ?まるでわからない…なんだか酷く歪に見える」

 

「少なくとも友好的じゃないわね、いきなり攻撃をしかけてくるからには相当ね…とりあえず降ろしてくれる?」

 

「ゴメン、咄嗟だったから…」

 

「御坂さん!ツナさん!」

 

 ある程度ツナが離れるとソレは攻撃を止めてその場を漂い始めた。

ツナは呼吸を浅く繰り返しながら超直感にて感じた感覚を口にする。

 ツナの言葉に御坂は目を潜めながら相手が敵意がある事を言えば、未だに抱えられてる状況について不満を口にしてきた。

 御坂の言葉にツナはバツの悪そうにしながら地面に下ろした時である、瓦礫を避けながら初春が声をかけてきた。

 

「初春さん!大丈夫?どこかケガしてない?」

 

「私は大丈夫です!けど、これはいったいなんですか?上から見てた限りじゃわからなくて」

 

「木山さんから抜け出たってくらいしか俺達にもわからない、うく…」

 

「ツナ!?大丈夫?」

 

 駆け寄ってきた初春に向けてケガの有無を確かめる御坂、強い口調で何もない事を返し初春は目の前に浮かぶソレについて訪ねた。

 初春の問いにツナはわかっている限りの事を返した瞬間、視界がブレだし膝をつくと同時に超死ぬ気状態が解除された。

疲弊しているツナに御坂はスグに駆け寄り呼びかけると浅く呼吸をしながらツナは軽く頷く。

 

「さっき木山さんの記憶を見た影響だと思う…初めての事だったから疲れが一気に回ったのかも」

 

「無理無いわよ、他人の深層意識の情報を見るなんて高ランクのテレパシストやサイコメントリーでもなきゃ出来ないわ、多才能力とはよく言ったものね…」

 

 激しく痛む頭を押さえながらツナは答えると御坂は同意するように返しながら深い息をついた。

レベル5の御坂でも木山の追体験を見るのは負荷がかかっていたようであった。

 その時である、浮遊していたソレの真上から無数の銃弾が降り注ぎ、表面の皮膚を抉りだした。

 

「警備員!?無事だったみたいですね!」

 

「けど、銃弾くらいじゃ…?なんか大きくなってない?」

 

 橋の上からマシンガンを構えて銃弾を放つ警備員、ソレは回避する動作をせずにその身体を傷つけていく。

御坂は銃弾によって巻き上がった砂塵に目を細めつつ観察をしていく。そしてソレが銃弾を受けた箇所から一回り大きく再生している事に気付く。

 だんだんと膨れ上がったソレは自身の一部分を伸ばし橋へと取り付いた、その時にはその身体はかなり肥大化していった。

 

「あたしは警備員を逃がすわ、多分だけどアイツを刺激するのはマズイ気がする」

 

「御坂さん、なら私も行きます!!」

 

「初春さんはツナと木山を保護して、あの人から生まれたんだから何かしらわかると思うの!」

 

 肥大化していくソレを見据えながら御坂は初春とツナに向けて告げる、風紀委員として初春は御坂についていこうとするが、御坂はソレを制して倒れている木山へと視線を向けてから二人に頼みこむと、雷撃を使い高速道路の上へと移動した。

 残された初春とツナは視線を合わせてから木山の元へと向かった。

 

「う、ぐ…私は…」

 

 倒れていた木山は、ゆっくりと目を開けてから状況を確認しようとする。そして伏していた体を仰向けにすると空中に浮かぶ半透明の物体が視界に入り込んできた。

 

「まさか、あれは…ははっ…学会に発表すればさぞ大騒ぎになるだろうな…」

 

「木山さん!!」

 

 銃撃を受けながらも肥大化していく異形の存在に木山は軽く笑えば自傷するように笑えばその存在について理解をした。

するとそこへ、ツナの声が響きわたり木山の側にツナと初春が駆け寄ってきた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ、体に異常はない…が体に上手く力が入らないな…ごっそりと抜け落ちた気分だよ」

 

「木山さん、アレは何なんですか?」

 

 駆け寄ってきた初春が木山を支えるように身をよせ、安否をたしかめてくる。木山は驚きつつも自身の身体の状態ついてはなしていく。

問題がない事を確認してから、ツナは木山の身体から出てきた怪物について尋ねる。

 

「あれか…そうだな、仮に名付けるとするならばAIM拡散力場の集合体…AIMバースト…レベルアッパーによって一万人の思考から生まれたものだろうな」

 

「AIMバースト…」

 

 ツナの問いかけ木山は真上を眺めると警備員や御坂の雷撃を受けているそれの名前をつける。

木山がつけた名前をつぶやきつつツナはAIMバーストについての対策を考えるが、能力者でも研究者でもないツナにその答えは浮かばず、ツナは木山に視線を向けた。

 

「木山さん、アレを止めるにはどうすればいいですか?」

 

「なぜ私に聞く?いや生み出した張本人だものな…当然か、だが無理だ…あれは私にはどうしようもできない」

 

「どういうことですか?」

 

「あれはすでに私の制御下にないからだ、完全に独立して暴れていると思われる…もしもなんとかするのであれば」

 

 ツナの問いかけに木山は怪訝な表情を浮かべて答えるがすぐに合点がいく、しかし木山は首を横に振ってから答えた。

 何もできないと答える木山に初春が訪ねるとAIMバーストの状態を憶測を交えて説明をすると初春の手に視線を向けた。

 

「レベルアッパーのワクチンプログラム、それがあればあるいは打開策になるかもしれない」

 

「これがですか?」

 

「あれはレベルアッパーによってまとめ上げられたものだ、ならばワクチンプログラムをつかえば多少なりとも奴に影響を与えられる気がする、はずだ」

 

 初春の手の中にある小さなチップについて木山は説明をしていく。初春は手の中のチップに視線を移しながら訪ねると、少し不安げな口調で木山はにAIMバーストが発生した理由を自分なりに予測しその解決方法をは二人に提示してきた。

 

「君たちが私の言葉を信用するかどうかだが…「信じます」…ん?」

 

「木山さんは嘘は言っていないと思います、それに止めたいって考えてくれますよね?」

 

「!?」

 

 木山は自傷するように答える、するとツナはその言葉に対して間を置かずに返した。

ツナは木山をまっすぐ見据えてから言い放つ、木山はその言葉を聞き、目を丸くして驚きを浮かべた。

 

「初春、そのワクチンプログロムをなんと警備員に事情を話してそのプログラムを被害者たちに!」

 

「はい!わかり、っ!?」

 

 ツナと初春が行動をしようとした時、真上からAIMバーストの咆哮が響き渡った。三人が上を見上げると傷を回復させながらAIMバーストは高速道路とは逆の方向に向けて進み出した。

その先には大きな工場施設があり相手の進路はそちらへと向かっていった。

 

「マズイな、アレは原子発電所だ…このまま奴に暴れられては学園都市に深刻な被害が出てしまう」

 

「「!?」」

 

 AIMバーストの行先の建物を見て木山は小さく呟いた。ツナと初春は息を飲んだ。

原子施設がもしも被害を受けたのあれば学園都市の全域を巻き込むことになるレベルアッパーの被害者を治ったとしても街に被害が出てしまったのでは意味はなかった。

 ツナはAIMバーストを睨みつけながら、思考を走らせていく。AIMバーストを止める事を優先するかワクチンプログラムを警備員に届けるか。

しかし、それを考えたのは一瞬だった。

 

「初春、アイツは俺がなんとかする…だからそれを警備員に届けて欲しいんだ」

 

「な、なにを言っているんですか!レベル5の御坂さんですら倒しきれないですよ!それをツナさんだけで!「大丈夫」っ!」

 

ツナは崩れていない非常階段を指でさしてから、ポケットから匣を取り出すとボンゴレリングに死ぬ気の炎を灯した。

 

「任せて、アイツは必ず止めてみせるから…だから佐天達を頼む」

 

「わかりました、私、ツナさんを信じます!」

 

 匣を開け中から飛び出してきた死ぬ気丸のケースを手にして、ツナは確かな口調で返した。

初春は息を飲んでから応え、階段方へと駆け出した。

 

 初春の言葉を聞きツナは内心で礼を言えば死ぬ気丸を口にし、超死ぬ気モードへとなる。

 

「行くぞ、っ!!」

 

 Xグローブに炎を宿すとツナは踏み込みと同時に炎を噴射し、AIMバーストの背後から強襲をかけた。

 

ゆったりと移動していたAIMバーストだが、その動きを止めぐるりと身体の向きを変える。

しかし、その時にはツナはAIMバーストの目の前まで迫っていた。

 死ぬ気の炎を宿した拳が半透明の身体に触れようとした時であった、拳がピタリと止まってしまう。

 

「念動力か!?けど!!」

 

 拳に伝わる透明の壁のような物の正体に感づくツナ、死ぬ気の炎の出力を上げて押しきろうとするが、その瞬間背後から鈍い衝撃が走り、地面へと叩きつけられてしまう。

 

「っく!今のは、っ!?」

 

 叩きつけられたツナはすぐに起きあがり、状況を確認する。

その瞬間、肌をざわつかせる気配を感じ、その場を飛び退くとツナのいた位置に空気の弾丸が3発続けて撃ち込まれた。

 それはAIMバーストが空力使いの能力を用いた攻撃だった、ツナを空中から叩き落としたのもその攻撃であった。

 

 ツナの死ぬ気の炎を警戒してか、AIMバーストは距離を積めさせないように空気の弾丸を増やして攻撃をしかけていく、更に頭の上には氷の矢が生成され始めた。

 

「撃たせるか!なっ!?」

 

 逃げ場のない攻撃を撃ち落とそうとツナが構えた瞬間、AIMバーストは念動力にて縛り上げてきた。

動けなくしてから氷の矢を放つ、木原よりも容赦なくかつ的確に攻撃をしかけてくる状況にツナは焦りを浮かべた。

 だが、放たれた氷の矢は横からの電撃により一掃された。

 

「ツナ!」

 

「御坂、ありがとう…助かった」

 

 身を翻して地面に着地したツナの元に御坂が駆け寄ってくる。

礼をいいつつすぐに立ち上がりAIMバーストへと視線を向けた。

 

「別に良いわよ、けどどうするつもり?攻撃しても修復するし多才能力で迎撃されてちゃジリ貧になるわ」

 

「今、初春がワクチンプログラムを警備員に届けてる、そうしたら!」

 

「この状況を打開出来るって訳ね?わかったわ」

 

 ツナと同様にAIMバーストに向けて視線を向ける御坂。帯電をしながら睨み付けながら尋ねるとツナは高速道路の上に上がりきった初春を見ながら返した。

ワクチンを広げるまでAIMバーストを見据える2人、再生するにしてもその場に留める事は可能だと考えた。

 

「それじゃあ、行くわよ!」

 

「ああ!」

 

《……して……》

 

2人が攻撃を仕掛けようとした時である、突如頭の中にノイズ混じりの声が聞こえてきた、タイミングはほぼ同時でありツナと御坂は辺りを警戒しつつも見回すが、周りにはAIMバーストと自分達以外はいなかった。

 

《どうして…能力がつかえないんだ…なんで皆と、一緒じゃないんだ》《うやらましい…ねたましい…どうして僕ばかり》《レベル0だから、無能力者だからって、バカにしやがって》

 

「これって、まさか」

 

「レベルアッパーを使った人達の声?」

 

頭の中に聞こえてくる悲壮に満ちた声がだんだん、はっきりしてくる。

更に声は1つでは無く、共鳴するように複数聞こえてきた。

ツナと御坂はその声の主が今も意識を取り戻していない被害者であると気づく。

2人が動きを止めたのを見計らい、AIMバーストは無数の触手を振り上げて一斉に襲いかからせてきた。

迫り来る触手を2人は寸での所でかわすが、使用者達のテレパシーははっきりとした声になりその数も増えてきた。

 

「っく、随分やな攻撃をしてくるわね、これじゃあ集中できない!ツナ、大丈夫!?」

 

「ああ、けど…《期待が重い時あるんですよね…いつまでもレベル0で何をやってもさっぱりで…》っ!」

 

攻撃を回避しながら御坂は気休めに耳を抑えつつツナに呼びかける。使用者の声に動きを鈍らせるツナ、その時いつか聞いた佐天の言葉が響き渡る。

その時、ツナの中に1つの疑問が浮かび上がる、ワクチンを使うだけで良いのか?使用者の心が前に向いていないのであれば意味が無いのでは無いかと思った。

 

 

(けどどうすればいい?この状況でなにが出来るんだ!?)

 

拳を握りしめながら答えの無い自問をするツナ、その時に自身の死ぬ気の炎が目に入りふと案が浮かんできた。

 

(出来るのか?いや…やるんだ!)「御坂!アイツに近づきたい、援護してくれ!」

 

「ツナ!?ちょっと!」

 

自分の案に疑いを向けるが、考えている余裕や意見を求めている場合では無いと考えツナは構えながら御坂に呼びかけると、彼女の応答に答えずに炎を噴射して飛び上がる。

 

迫り来る触手を紙一重で回避しながらAIMバーストの前へと移動し顔のらしき部分に手を伸ばした、しかし触れる間際にツナの腕が念動力により止まる。

ツナは止められながらも動かそうとするが、一際強い斥力を受けて地面へと叩きつけられた。

 

「っぐ!」

 

「ツナ!!」

 

超死ぬ気モードで強化されていても高度から叩きつけられた事により、息を吐き出すツナ。

御坂はツナを助け起こそうと駆け寄るが、その好機をAIMバーストは逃さずに1本の触手を枝分かれさせ、さながら散弾銃の弾のように回避できないように広範囲にかけて一斉に放ってきた。

起き上がろうとしたツナだが、回避するよりも先に触手の散弾に呑まれてしまった。



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第16話:君にこの声が届きますように

前回の投稿から2年、最近ようやく書く意欲というものが上がり執筆いたしました。

※はこの小説のイメージopの君にこの声が届きますようにを入れてもらえればなと思います。

一応概要欄には自己解釈を入れておりますので作中の内容について作者の頭ではこう思ってる程度でお願いします


それはツナ達が10年後の未来へときて、未来から現在へと戻るために特訓を始めた頃の話である。

身体を鍛える以外にも未来での戦闘特に匣や死ぬ気の炎の属性についてラル・ミルチからレクチャーを受けたツナ、獄寺、山本。

元々頭の回転が早い獄寺はともかく座学が苦手なツナと山本、ラル・ミルチから罵声と共にこってり搾られフラフラとなっていた。

 

「ひぃ~…頭が痛い…」

 

 

「確かに何が何だかだったな」

 

ひとまずの日程を終えて自室に戻りながらツナと山本はそれぞれに呟く。

獄寺はやる事があると言って別れており、通路灯に照らされた道を歩いていた。

 

「あ、俺トイレ行くから山本は先に戻っててよ」

 

「おう、そんじゃまた明日な」

 

通路が別れ道となった時、ツナは思い出したように言うと、山本は軽い口調で返すと自室へと向かいツナは1人通路を歩き出した。

静かな室内に水が流れる音だけが響いていた、ツナは顔を洗い水が流れる洗面台をじっと眺めていた。

 

「ほれ」

 

「…ありがとう、って熱!!?」

 

不意に差し出されたタオルをそのまま受け取りツナは礼を言いつつ顔に押し付けるが、思った以上に熱を持っていたタオルに驚きそのまま身体を反らすと尻もちをついてしまう。

 

「やれやれ、絵に書いたようなダメっぷりだなツナ」

 

「リボーン!?なんの真似だよ、危ないだろ?こんなタオル渡してきてさ!」

 

尻もちを着いたツナに呆れたように声を掛けてきたのはリボーンだった。

その手にはツナが思わず手放したタオルが握られており、いきなりの事に思わず文句を言い放つツナ。

 

「京子達が洗濯していたからそっから持ってきてやったぞ、乾燥機から出したてのタオルで顔を拭くと気持ちいいだろ?」

 

「むしろ火傷するとこだったぞ!」

 

「俺なりの心遣いだぞ、それにお前も聞いておきたい事あったんじゃないか?ラルに聞いたらまた怒鳴られると思って黙ってる事があるだろ」

 

リボーンはタオルの出所について話せばいつものように聞いてくるが、ツナはすぐさま否定した。

憤りを顕にするツナに、リボーンは特に反省するよう様子も無くいうと本題を切り出した。

 

「それは…まぁあるけどさ…」

 

「言うだけ言ってみろ一応は答えてやるから」

 

「死ぬ気の炎、大空の調和ってなんなの?獄寺くんや山本はわかるけどさ、イマイチ解りづらいんだよ」

 

リボーンの問いかけに顔を渋らせながらツナは返す、そして促されてから改めて自身の死ぬ気の炎について尋ねてきた。

獄寺の嵐は分解、山本の雨は鎮静、ハッキリとした特性であるが自分の大空が掴みにくい事を話す。

 

「まぁ死ぬ気の炎は未知の部分があるしな、ツナには早いと思ってたがちゃんと教えてやるか」

 

ツナの質問にリボーンはトレードマークの帽子に指を添えながら返すのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「…ツナ…」

 

触手の攻撃により立ち上る砂塵を見つめながら御坂は小さく呟く、突き立てた触手を引き抜きながらAIMバーストは御坂へと身体を向ける。

しかし引き抜こうとした、1本の触手が止まりそれどころか逆に引かれている事にAIMバーストは気づく。

 

「…まだ、終わりじゃない!」

 

砂塵の中からハッキリとした声が聞こえ、薄れいく砂を吹き飛ばすようにオレンジ色の炎が吹き上がる。

そこには、AIMバーストの触手を右手で掴み、左手で炎を薄く噴射している姿がありツナの額に燃え盛る炎の勢いが増していた。

 

「ツナ!」

 

「御坂!少しの間だけAIMバーストから守ってくれ、やってみたいことがある!」

 

「何をするつもりなの!?」

 

砂塵から姿を見せたツナに安堵と共に呼びかける御坂。するとツナは身体の向きを変え、噴射していた左手を前へと突き出し掴んでいた右手を後ろへと引く体勢を取りつつ、御坂へと呼びかける。

守るように言われ御坂はその真意を問いただそうとする、すると右手の炎の勢いが増し触手を伝ってAIMバーストに燃え移り瞬く間にその巨体を燃やしだした。

 

「熱っ!?…?なんだろうこの火、激しく燃えてるけど痛くない暖めてくれるような火?」

 

飛び散る炎に御坂は思わず身構えるがしかし、炎には火傷させてくるような痛みなどはなくまるで優しくつつむように燃え盛っていた。

しかし、御坂が暖かさを感じるとは裏腹にAIMバーストは苦しみ火元であるツナに目掛けて氷の槍を生成し投擲してきた。

 

「っく!?」

 

「ツナ!っ!」

 

放たれた槍に対してツナは回避せずに立ち尽くしていた、直撃はしなかったが掠った部分の皮膚が裂け血が流れ出す。

呆けていた御坂は、すぐさま雷撃を放ち次弾の氷を破壊した。

その間もツナは死ぬ気の炎を燃やし、AIMバーストを包み込んでいきその全体がオレンジの炎に包まれた。

そしてツナの意識は暗闇に覆われるように落ちていき、目の前には上下すら判別のつかない空間が広がっていた。

 

(よし、上手くAIMバーストの内部に入り込めた)

 

目の前の空間にツナは驚く様子を見せずに目論見が成功した事に一先ず安堵をした。

右も左もわからない状況であるがツナは意識を集中すると自身の身体は何かに吸い寄せられるように動き出した。

流れに身を任せながらツナはリボーンから教えられた事を思い返す。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「大空の炎、コイツの調和の力だが簡単に言えば均一にするんだ」

 

「均一?…それってみんな同じにするって事?」

 

「ツナらしいな、まあそういう事だ」

 

リボーンは腕を組みながらツナへと説明をしていく、首を傾げて自分なりの回答を口にした。

ツナらしい言葉にリボーンはため息をついてから返す。

 

「大空の炎を受けた相手は周りの物質、大抵は空気だな、コイツと調和する事でその素材を脆くする、それが石化したように見えてるんだな」

 

「大抵って事は他にも出来るの?」

 

「そうだな、骸とのバトルを覚えているか?忘れてねぇとは思うが」

 

大空の炎が起こす現象についてリボーンは説明をしていき、その言葉の中から気になった部分について尋ねるツナ。

リボーンは例題として過去にツナが経験した戦いについて問いかける。

念を押すように聞かれ頷くツナ、それは初めて超死ぬ気状態で戦ったからだ。忘れようとしても無理な出来事である。

 

 

「あんときの骸は人間道を使い、お前は死ぬ気の炎で人間道を解除した

あれは骸の精神を大空の炎が調和した結果なんだ」

 

「骸の精神?」

 

「人間道の状態の骸は、マイナスの面に精神が寄っていた

一方お前は初めての超化もあって死ぬ気の状態がプラスの面になっていた、それを大空の炎がお前ら精神性を均一化してプラスの方へ持っていった

それで人間道が解除されたみたいだ」

 

「精神の均一か…」

 

そのバトルの際に起きた事をリボーンは説明をしていく、その言葉にツナは自身の手のひらを見つめながらあの時の感覚を思い出す。

どうしてああしたのか今では身体、超直感に身を委ねた結果だったから分からなかったがリボーンの説明を受けてようやく納得し、そして1つ頭の中に案が浮かび上がってきた。

 

「そいつはやめとけ」

 

「えっ!?いきなりなんだよ」

 

まるで考えを見透かしたかのようにリボーンはツナにキッパリと言い放った。

何も口にしていないのに言われツナは思わず身じろぐ。

 

「お前の事だ、大空の炎を使えば戦う気を無くせるんじゃないかって思ったろ?そしたら作戦は上手くいくし、何よりみんなが傷つかないと」

 

「うっ…」

 

ツナの反応からリボーンは考えていた内容を推理し理由を付けてから尋ねる。

一言一句違わない問いかけに思わずツナは言葉を詰まらせた。

 

「お前の炎が骸に通じたのはアイツ自身が本心じゃ望んでいなかったのと、あくまで人間道は死ぬ気の炎とは別物だからだ

そして同じ死ぬ気の炎を使う相手に使っても勝負にすらならない」

 

「それは、やってみなきゃわからないだろ!?」

 

「いや死ぬ気の炎で重要なのは覚悟の強さだ、けどな相手がどんな悪人だろうと覚悟、意思の強さは強い、それをやると決めてるからな

そんなやつに触れたら逆にお前がその精神に取り込まれて、奴らの仲間になっちまう可能性がある

だから、それだけは絶対にするんじゃねぇ」

 

 

骸の例が成功した理由を説明をしていくリボーン、ハッキリと否定されそれでもくらいつこうとするツナ。

しかし成功しない理由を話し、もしもそれを行った場合の危険性を告げるリボーン。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

(リボーンに強く言われたけど、今みんなを助けられるとしたらこれしかないんだ)

 

リボーンからの警告を思い出しながらもツナは深くへと潜るように進んでいく。

すると、何も聞こえないはずの空間にわずかだが誰かの声らしきものが聞こえてくる。

その声にツナが耳を傾けると途端に辺りに水泡のような物体がいくつも現れだした。

 

「これは?…っ!?」

 

辺りに現れだした物体に思わず手を伸ばすツナ、その瞬間、ツナの中に身に覚えのない記憶が入り込んできた。

 

それは中学生の少女。ある時、能力に伸び悩んだ後輩から相談を受けて小さなアドバイスをした。

するとその少女はつまづいていた壁を一気に飛び越え、さらには自分よりも遥かにいい記録をだした。

最初は素直に成長は嬉しかった、しかしそれと同時に小さな妬みが彼女の中に生まれた。

少女はそれを隠しながらも後輩の元へ労いの言葉と祝いを送ろうとしたがその後輩が友達の前で自分をけなし笑いものし、利用していた事を聞いてしまう。

その瞬間、強い悲しみと憎しみが湧き出し自分をドス黒い何かに変わっていくのを感じた。

 

その記憶の波を受けて思わず手を離すツナ。まるで実際に感じた感覚、痛みがツナを襲った、だがあれはツナの記憶では確実に無い事だ。それならば

 

「もしかしてこれ1つ1つがレベルアッパー使用者の記憶?」

 

自身の胸ぐらを掴み、息を整えながらツナは周りにある物体がなんなのかを理解する。

その上でそこの方に何かがいるのがわかる、おそらくそこにはレベルアッパー使用者達とAIMバーストがいると思われる。

しかしソコへ向かうにはいくつもの物体を超えていかなくてはならない全部が全部、今の少女のようか記憶では無いかもしれない、もしかしたらそれ以上かもしれない。

他人の過去のトラウマを見ることを味わうことにツナは躊躇うがそれでも意識を集中しさらに深くへと入っていく。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ぐ、うぁぁぁぁ!?」

 

「ツナ!?ちょっと大丈夫なの?」

 

「待つんだ!」

 

AIMバーストが炎に包まれた途端、ツナが苦悶の声をあげだす。突然の事に御坂は駆け寄ろうとするが木山が前を遮り行く手を阻む。

 

「なにをしてるの!どいてよ!?」

 

「ダメだ、恐らく彼は今AIMバーストと繋がっている、無理に引き探せば脳にどれだけダメージがあるかわからないし触れば君まで取り込まれてしまう」

 

「そんなじゃあどうしようもないっての!?」

 

「ワクチンプログラムが発動すればあるいは助かるかもしれない…」(あるいは彼自身が数多の人間の精神を上回る事ができれば)

 

立ちはだかる木山を押しのけようとするが、木山は御坂の肩を掴みツナの状態を説明する。

見ているしかない状況に御坂は歯噛みをすると、木山は学園都市の方に目を向けながら望みを口にし、さらに万が一の可能性を思案するが直ぐに排除した。

自分の脳波に合わせた状態ですら制御ができないのに赤の他人が入れるはずが無いと思ったからだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

闇の中、ツナは膝をついていた。レベルアッパーの使用者たちの過去を見て彼等の痛みや苦悩をまるで自分の事のように体感し押し潰されようとしていた。

消えかける死ぬ気の炎、倒れそうな脚…それでも、ツナは重い足を動かし前に進む。するとまた使用者の記憶が目の前に現れる。

その記憶はまるでツナへと吸い込まれるように入り込んできた。

 

それは、ずっと能力が発現しない少女の記憶。周りには明るく振る舞うがそれでも能力が無い事、周りから取り残されていく事が嫌だった。

そんな時に出会ったのが記憶喪失した能力者、能力の扱い方も忘れた少年に少女は嬉しくなった

自分のような、いや自分よりも不幸な目にあう人間に思わず交流を交わしていく。

けれど彼の人柄に触れていく中で、少女の中にあった優越感は無くなり徐々に心を寄せていく事になる。

しかし、彼は力を隠していた。能力以上の強力な能力(ちから)、少女は思わず彼に感情をぶつけてしまった、だが離れてから少女は思う。

その感情は勝手に彼に抱いていたものだ、勝手に仲間あつかいして違っていたら怒鳴り散らすそんなつもりじゃなかった。

そんな時に自分の手の中にレベルアッパーがある事に気づいた、コレを使えば彼や友達のようになれる。

そうなれば本当に仲間になれる、酷い事を言ってゴメンなさいと謝れるはずだ。だから少女は…

 

「っ!!」

 

少女の記憶に触れ、ツナは折れかけた脚に力を込め立ち上がるそれと同時に消えかけていた死ぬ気の炎が燃え上がった。

謝らなきゃならないのは自分だ、彼女が能力が発現しない事に悩んでいた事は知っていた。

関係ないからいずれは別れるからそれを理由に隠していた、それがこうなった原因だ

ならば折れる訳にはいかない、ちゃんと彼女に説明する為に彼女達に向き合う為に

 

 

《誰だ?》

 

立ち直ったツナの頭に複数の声が響き渡る、それと同時に目の前に異形の物体が姿をあらわした。

 

「AIMバースト…いやレベルアッパーを使った人達か」

 

《ここはお前の来る場所じゃない!》《能力者のくせに!?》《何しに来た!?また私たちを傷つけるのか》

 

「俺は、君たちを助けにきたんだ」

 

《嘘だ!》《騙されるものか!!?》《お前は敵だ!?》

 

異形の物体、思念体にツナは拳を構えることはせずに見つめていた。

使用者達の思念はツナへ近づき威嚇するように言葉を投げつける。

両手を広げツナは敵意が無いことを示せば言葉を返す、しかし思念達は強く否定すれば触手をまとめツナの腹部を貫いた。

精神の世界だから出血はしなかった、しかし激しい劇痛がツナに襲いかかる。

 

「うぐぅ…みんな聞いてくれここにいちゃいけない、学園都市に帰ろう」

 

 

《帰るものか!?》《あそこにもどりたくない!》《ここが良いんだ!!》《能力を持っているお前に俺たちの気持ちが分かるものか!?》

 

痛みに耐えながらツナは触手に手を添えながら使用者達へと語りかける、呼びかけに対し使用者達はそれぞれに拒絶の意志を示しツナを排除しようとする。

だがツナはその攻撃を防ぐ事もせずに一心にして受けた。

 

「わかるよ、俺はみんなの記憶を見てきたから…つらさが痛さがわかる」

 

《だったら何故!?》《放っておいてよ!》

 

「それは出来ない、君たちは今…1番壊しちゃいけないものを壊そうとしている…君たち自身だ」

 

攻撃を受けながらもツナはさらに言葉をかけていき、そして絞り出した言葉に触手の動きが止まった。

 

「君たちが本当に許せないもの、それは変わることが出来ない自分自身…だからAIMバーストは施設の破壊をしようとした

この街ごと自分達がいなくれば、苦しむ必要が無くなるから

けど、それはダメだ!」

 

手を添えながらツナは今まで使用者達の記憶を体験して、こうして思念達と向かい合って感じた事を口にしていく。

その上で、彼等の行動を止める為に叫ぶ。

 

「今、君たちを助けようと必死になって動いている人達がいるんだ、その人達は君たちに帰ってきて欲しいと願ってる

君たちにまた立ち上がって、日常に戻ってきて欲しいって!」

 

《けど…》《戻っても、また》《同じことを繰り返すんだ》

 

「いや、君たちはまた前に向けるよ、だって君たちは独りじゃない…同じような苦しみ、痛みを知っている人がいる、助けようとする人がいる」

 

ツナの言葉と共に彼の背後の闇がひび割れだし、そこから光が漏れ出ししていく。

不安が残る彼等にツナはさらに言葉をかけ死ぬ気の炎を燃やしていく。

それと同時にリボーンの言葉を思い出した。

 

 

「まぁ反対はするけどな…もしもお前が本当に必要ならそんときは遠慮なく使え」

 

「でも負けたらどうすんだよ…」

 

「簡単だ、負けなきゃいい」

 

リスクを説明した上でリボーンは言い放つ、散々不安にさせられてきたツナは思わず問いかけるとキッパリと言い放つリボーン。

その言葉を思い出したから自分はこの方法をとったとツナは思い返す。

 

 

「俺も助けるよ、君たちを!死ぬ気で、そうじゃなきゃ死んでも死にきれないから!!」

 

激しく燃え上がる死ぬ気の炎、それは闇に包まれた空間へと広がり遂に空間の亀裂が砕け白い光が包み込んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うぉおおおおおお!!」

 

ツナは雄叫びと共にAIMバーストの触手を引きちぎる、するとAIMバーストの身体が震えだし、まるで糸が解けるように崩れだした。

 

「まさか、勝ったのか1万を超える人の思念に?」

 

「ツナ!!」

 

互いの状態から木山は精神世界で起きた出来事を理解し、驚愕の表情を浮かべる。

AIMバーストとの接触が途切れたのを確認し、御坂はツナに駆け寄ろうとするがツナは手を伸ばしてそれを制した。

 

「まだ、終わっていない」

 

「えっ?」

 

「そうだ、どうやらワクチンプログラムも作動したようだがAIMバーストが居続ける限りまだ終わりじゃない」

 

疲弊しながらもツナは御坂へと呼びかける。脚を止めてAIMバーストに視線を戻す御坂。

木山もツナの言葉に同意をして、崩れながらもまだ完全に消滅していないAIMバーストに注目していた。

 

 

「実体化した奴は中にあるコアを破壊しなければまた再稼働するだろう」

 

「コア?壊したら使用者の方に影響とか出ないわよね?」

 

「わからない、だがコアがあるかぎり使用者の意識は戻らない、アレが使用者達をつなぎ止めているようなものだからな」

 

木山はAIMバーストを観察しながら状況を解説していく。御坂は慎重に確認をとるが、木山は首を振ってから確実に分かることを口にした。

 

「ならやろう、助けるってみんなに言ったから」

 

「わかったわ、けどあのデカさからどうやって見つけるの?時間をかける訳にはいかないみたいだし」

 

「俺がやる、何とか吹き飛ばしてみる

だから御坂はコアを撃ち抜いて欲しい、多分超電磁砲なら可能だと思う」

 

立ち直してからツナは拳を構える、未だに原型を留めるAIMバーストに御坂はコアの場所を探しながら尋ねる。

ツナは己の拳を手のひらで包みながら御坂へと指示を出した。

役割を任せられ、御坂はツナを信じポケットからコインを出して構えた。

御坂が超電磁砲の体勢をとった事を見てからツナは空中へと浮かび上がり右腕をAIMバーストへ向ける。

 

(コンタクトが無い状態では完全なシンメトリは出来ない、けれど身体に染み付いた感覚で近い威力なら出せるはず!)「オペレーションX(イクス)!!」

 

それは未来の世界で習得した必殺技、だが必要な道具が無ければ安定して使用はすることは出来ない。

それでもツナにはこれしか無かった巨大なAIMバーストに対して放つ事の出来る技。

覚悟を決め、技を放つ為のルーティンのように叫ぶツナ。

左手から柔の炎を出し支えとして固定、そして今ありったけの剛の炎を右手に集中し狙いを定める。

 

「XBURNER!!」

 

放たれるオレンジ色の高出力の炎、それは崩れていたAIMバーストの身体を一瞬にして消し飛ばした。

狙いを定めていた御坂はオレンジの炎の中に光る結晶体を見つけ、身体中に電流を迸らせる。

 

「アンタ達に言いたい事、あたしにもあるけど今はソコから帰ってきなさい!!」

 

レベルアッパー使用者達に対して、御坂は思うことはあっただが、今は彼等を助ける為に最大級の超電磁砲をうち放つ。

弾かれたコインは一瞬にして加速し衝撃波へと変わる、そして露出したAIMバーストのコアに命中し粉々に砕くのであった。

 

 



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