クソザコスカジさんとロドスの日常 (白野威)
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0・スカジさんは恋を知る

アークナイツにドハマリしたので初投稿です


 ロドスアイランド。

 表向きは薬品関係の開発会社として名をはせる設備の整った組織だが、その実態は何らかの理由で源石(オリジニウム)に接触してしまい鉱石病(オリパシー)を患った者達――所謂感染者たちを襲う偏見による差別と被害を減らそうと、日々多方面でのアプローチをかけ続けている組織だ。

 そのリーダーであるアーミヤは十代半ばもいかないような幼い少女であるが、外見の幼さからは考えられない決断力と判断力を有し、影から支えるケルシー医師や戦術指揮官として在籍するドクター・アリシアの尽力もあって、日々苦境を乗り越えている。そんなアーミヤの努力を目の当たりにして、ロドスに所属するオペレーターたちは彼女に、ひいては戦術指揮官であるドクター・アリシアに尽力を誓っているのだ。

 そんなロドスのリーダーであるアーミヤは、ある危機感を持っていた。ともすればロドスの強固な絆が木端微塵となってオリジムシに食われかねない、とても重要かつ存亡の危機だ。慣れていない隠密行動染みた行為(廊下の角からチラ見)をするのにもそれが理由である。

 それは……

 

(ドクターとスカジさんの距離感が近い……!!)

 

 ひどく個人的な感情であった。

 視線の先にはいつもの格好ではない、珍しくも白衣だけを纏い書類を片手に歩くドクター・アリシアと、彼女と並んで歩く銀髪の女性の姿があった。

 

 コードネーム・スカジ。そう名乗るオペレーターがロドスに在籍している。

 実力の高い賞金稼ぎ(バウンティーハンター)として著名らしく、現在はロドスに雇用という形で力を貸してもらっている女性だ。166cmという高めの身長に厚手のコートに包まれていてなお主張する女性らしいスタイル。身の丈はあろうかという大剣を軽々と振るってレユニオンの部隊やオリジムシ等の汚染生物を一太刀で両断する手腕。そのどれもがアーミヤ的に羨望を懐かざるを得ない、そう思いながらもアーミヤは己の胸を見下ろす。廊下の床が見えた。

 

(いえ、今はそれどころじゃないですね……)

 

 かぶりを振って煩悩を振り払う。声に出ていたならさぞ震えていただろう。

 作戦中や通常時を問わず色々と問題行動のある彼女だが、何故かドクター・アリシアのいうことには忠実というか、素直に対応する。各オペレーターからの話では口数は少ないという報告を度々聞いていたにも拘わらず、アーミヤイヤーで聞き取れる限りでは明らかにドクターとの会話だけ饒舌なのだ。これはもう完全に黒でしょう、と目に光のない闇アーミヤが囁き、アーミヤはその囁きを信じた。少しは疑うことも考えるべきではないかと光アーミヤが言うも、その意見は却下された。哀れ光アーミヤ。

 今更ながら、アーミヤはドクター・アリシアのことを物凄く慕っている。それはもうウサギ耳なのに子犬染みた懐き具合である。残念なことにアリシアは現在記憶を失っているとはいえ、アーミヤにとって必要なことを教えてくれた大恩ある人。その懐き具合は初手から親密度200を超えていると言っても過言ではない。実際は例に漏れず0%から始まるが、戦闘指揮に対するもの(それはそれ、これはこれ)なので割り切ってほしい。

 そしてアリシアとアーミヤは同性――つまり女性であるが、アーミヤは異性に抱くべき感情もまた彼女に抱いていた。ケルシーに相談した時は「面白いものを見つけた」と言わんばかりに根掘り葉掘り聞かれ、アーミヤが羞恥心で倒れかけそうなところを高そうな酒を片手に笑みを浮かべるケルシーを見て以後、彼女に相談はしていない。なにかとおもちゃにしたがる愉快犯なのだ、ケルシーは。

 

 そんな隠密行動染みた行為(廊下の角からチラ見)を続けていると、事態は急変した。

 

(あっ)

 

 足がもつれたのか、アリシアが倒れかけたところをスカジが支えたのだ。片手を引いて背後を床にしてその背中に手を添えるという、少女漫画的な支え方。しかも引いた手はさらりと恋人繋ぎ染みた握り方だった。アーミヤファイルに曰く、ドクターが私にやってほしい動きベスト1000のうちの二つであった。

 よく見ろ、ドクターはされる側だぞ。

 

(あーっ!! ずるいですスカジさんずるいです!!! そこ私のポジションですよ!!!!

 

 そんなポジションはない。

 ぐぎぎ、と羨ましげな視線を隠そうともしないアーミヤを、通り過ぎる周りのオペレーターたちは苦笑いを零して早々に立ち去る。

 この状態の時のアーミヤは、ある意味でレユニオンよりも性質が悪い上に劇薬なのだと周知されているのだ。

 そんなアーミヤ的に羨ましい光景を歯軋りして見守っていると、アリシアを立たせたスカジが急ぎ足でどこかに行った。

 

(――――どうしたんでしょう?)

 

 怪我でもしたのだろうか、と思って一瞬焦ってしまうが、怪我したとなれば流石のスカジでもアリシアを置いては行かないだろう。恐らくお姫様抱っこして医務室へ運んだに違いない。アーミヤならそうしているしそうさせている。やはり一度話をつけねばならないか、とアーミヤは決意する。どう見ても私欲が見え隠れしているが、そうツッコミを入れられるオペレーターはいない。

 とりあえず離れたらしいスカジの後ろ姿を見ながら、アーミヤはアリシアに声をかけた。

 

「ドクター……ドクター?」

 

 声をかけたものの、アリシアの反応は芳しくなかった。アーミヤの声を聴くと真っ先に反応するアリシアにしては珍しいことだ。

 不信に思いすすっとアリシアの前へ行って顔を窺ってみると、

 

「――――――」

 

 顔を真っ赤にしたアリシアが、スカジが去って行った方向を見たまま固まっていた。

 やっぱり一度話し合う(物理的に)しかなさそうですね、そう決意を新たにしたアーミヤはアリシアの再起動に勤めることにした。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 自分にあてがわれた部屋にて、スカジはベッドで横になっていた。天井を眺める彼女のトレードマークと言える帽子は枕元に置かれ、身の丈ほどもある大剣はベッドの脇に立てかけてある。

 ただボーっとするこの時間。思考を挟むのにちょうどいいこの時間は、スカジの赤くなった頬を覚ますのにちょうどいいものだった。

 

(――――手、握っちゃった)

 

 その事実を再確認するのと同時に、鼓動が一際強く打った。

 身体中の血管が熱くなり、冷めていたはずの頬が再び赤く染まるのを自覚する。

 最早疑うべくもない。スカジはアリシアを―――

 

 

 

(これはもう結婚したも同然じゃないかしら)

 

 

 

 なんて?????



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1・スカジさんは(行動は)イケメン

スカジさんの信頼度が中々上がらないので初投稿です


 

 ロドスは基本、作戦記録の枚数・各分野に明るい人材・炭などに代表される各種資材・そして資金、あらゆる分野において色々と足りない。鉱石病(オリパシー)の感染者を救うという目的のためには、これらすべてを高レベルで賄わなければならない。

 限りのある資材や資金をやりくりしてロドスの施設の稼働率をあげたり、ドローンに部屋を片付けさせることで施設の数を増やすことで効率を上げたりはできる。だがそれにはその施設の分野を得意とするオペレーターがほぼ必須であるため、人員を募集する。しかし人員を増やす為にも資金と募集用紙がいるため日ごとに指定された仕事をこなさねばならず、仕事をこなす為には各オペレーターたちの練度を上げねばならない。そのためには各種作戦記録と一定の龍門幣を与えなければならない。長くなったので要約すると。

 

 龍門幣だ。龍門幣こそがロドスという組織を回し、目的を達成するための近道なのだ。

 

「だからねアーミヤ……その手を離して」

「ドクター! お願いですから休んでください! ドクター!!」

「まだよ、まだ仕事は終わってない……! 龍門が、龍門幣が私を待っている……!!」

「ドクターダメです! それ以上働いたら理性がなくなります!」

「理性を残して仕事なんて出来ないよ!!!!」

「なにを言ってるんですかドクター?!」

 

 パフューマーの温室から取れたトマトを飲み物にしてパックに詰めた代物を摂取しながら、アリシアはアーミヤの静止を振り切ろうと力を入れる。しかし相手はロドスという組織のリーダー。十代半ばの幼い少女とは言えアーツ学を学んでいる彼女は、自身が操るアーツの応用で身体能力を強化できる。アーツへの適性が無いアリシアでは頑張って逆立ちしたところで勝てはしない。

 それでも。女にはやらねばならない時があるのだ。

 

「待ってください、本当に待ってくださいドクター! せめて10分の休息を入れてください! じゃないと倒れてしまいます!」

「時間がもったいないわ。それよりアレちょうだい、上級理性回復剤とかいうくっそ不味いやつ」

「この間貯蓄してたいくつかを全部飲み干して吐いていたじゃないですか……」

「ならチョコレートでもクッキーでもいいから食べさせてよ!! なんで購買部にないのさ!!

「私に言われても困りますドクター!! 私だって食べたいんです!!

 

 あとでクロージャに文句を言ってやる、と決意を新たにするアリシアを自室まで引っ張っていくアーミヤ。駄々をこねる指揮官を自室に閉じ込めるのもリーダーの務めであると認識しているアーミヤの前では、さしものアリシアでも逆らうことはできない。なので通りすぎるオペレーターたちに助けを求める視線を送るも、皆一同に「がんばれ」という目で見送られる。

 

 たぶんオペレーターたちは勘違いしている。

 彼女は休みたいがために駄々をこねたのではなく、働きたいがために(龍門幣を稼ぐために)駄々をこねているのだ。

 しかし言葉にしない限りそれらが伝わることはない。

 救いはないのか、絶望に打ちのめされるアリシアは、しかし諦めなかった。

 

「あんまり駄々をこねるとケルシー先生に怒られますよ!」

「ごめんなさい」

 

 諦めない心なんて怒りのケルシーの前では意味がないのだ――――後日、あるドクターが赤い狼を撫でながらそう呟いた。その眼から光は消えていた。

 まったくもう、と頬を膨らませて怒るアーミヤ。その姿は実際可愛い。

 

「ところでドクター」

「ん?」

「貿易所は活用しないのですか?」

 

 その手があったか。ドクターはひらめく。

 

 あ、地雷踏んだ。アーミヤは察した。

 

 

 

 

 貿易所の設備強化に炭が足りないことを確認したアリシアがまた駄々をこね始めたが、通りがかったチェンに気絶(峰打ち)させられたのは余談としておく。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ってことがあったんだよ! ひどくない!?」

「……そう、ね……?」

 

 僅か3分後に執務室で目覚めたアリシアは、ちょうど訪れていたらしいスカジに愚痴っていた。さすがのスカジも、大人しく休んでおけばアーミヤも何も言わなかったんじゃ……? と思ったものの、口では同意の言葉を放つ。その表情は困惑で満ちていた。

 

「まあこのところ休めてないのは事実だし……アーミヤが心配する気持ちもわかるけど……」

 

 だらりと机に伸びるドクターを横目で見ながら、スカジはコーヒーを淹れていた。普段からおちゃらけているおかげか態度でこそ表さないが、スカジはアリシアの今の心境を若干だが捉えていた。

 即ち焦燥である。そうなった原因を記憶の限りで探ってみれば、なんのことはない。考えてみれば当然の事。

 ドクター・アリシアは記憶喪失である。それ以前の経歴は大層なものばかりらしいが、今のロドスにいる(スカジが知っている)ドクター・アリシアは戦闘指揮に加えて資材・資金管理と人材雇用の最終決定権を持つ人物だ。言葉にするだけでも多忙だと容易に想像できるそれらを、記憶喪失故に詳細ややり方すら忘れている中でやりくりする。そんな彼女にかかる負担や心労の重さは、スカジには想像することさえ出来ないだろう。

 

「……ドクター」

 

 それらを思えないなら、その重さに共感できないなら。ならばせめて労いの声を――そう思いついたスカジは、慣れた手つきで二人分のコーヒーを作りアリシアに声をかける。

 だが、数秒待っても返答は来ない。不審に思い机に寄りかかっているアリシアに近づいて横から見ると

 

 

「――――むにゃ……」

 

 

 見ているこちらが眠くなるような表情で寝ていた。

 

「………………」

 

 よほど疲れを溜めていたのだな、とため息一つを零して納得する。実際秘書に拝命されているスカジから見てもアリシアは働きすぎだったので、平時の終業時刻を超えた今なら居眠りしていようと問題ないだろうと判断。ただしベッドには移す。

 スティックシュガー三本とミルクを多めに入れたコーヒーを一気飲みしてから、眠っているアリシアを軽々と抱えて(何故か置いてある)仮眠用のベッドへ移す。身の丈にも迫る大剣を軽々と振るう身体能力を持つスカジにとって、眠っているとはいえアリシア一人程度を運ぶことは造作もないことだ。横抱きに抱えたアリシアを静かにベッドへ寝かせ、優しく毛布を被せた。そこまでやって、アリシアがいつもの服を着たまま寝たことに気付く。

 

 ――――着替えさせたほうがいいのかしら。

 

 悪魔の囁き染みた誘惑が頭を過ぎるも、いくつか間を置いてからかぶりを振ってそれは駄目だろうと二度同じことを言って自制する。実に英断である。

 まあ一日ぐらい着替えないまま寝ても問題はないだろうと判断し、その場を後にしようと背中を向け

 

「………………」

 

 何を思ったか、アリシアが眠るベッドの縁に起こさないようにゆっくりと腰かける。

 そのままアリシアの顔に自身の顔を近づけ――――

 

 

 

 

 

 

「――――おやすみ、ドクター。水に追われることのない、いい夢を見られるといいわね」

 

 

 

 

 

 囁くように呟いた言葉と共に、スカジは執務室から立ち去った。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 執務室を出てしばらく。廊下を歩いていたスカジは小さくガッツポーズをした。

 心なしか、その表情はいつもより明るい。

 

(よし、図らずとも予行練習が出来たわ。この調子よ、私)

 

 なんの練習ですかねそれ……。

 

(あとはドクターが起きている時に出来れば、勝ったも同然ね)

 

 誰と戦って勝ったのあなた??

 

 

◇◇◇◇

 

 

 一方その頃。

 

「~~~~~~ッッッッッ!!!!!」

 

 密かに起きていたアリシアは一人悶えていた。



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2・謝るスカジさんとマトイマル

正座してるスカジさんが見たかったので(マトイマルを巻き込んで)初投稿です。


 

 ドクター・アリシアの執務室には、過去に"天災"に関して研究や考察が重ねられた書物が数多く存在する。記憶喪失になる前の彼女の考察が書かれたノートも数書にわたって納められているが、その中には娯楽品としての書物もあり、ニアール等の読書好きは後者を、アーススピリット等の天災研究家は前者を目当てに度々訪れる。

 そんな彼女の執務室に、珍しい客人が訪れていた。

 

「それで、今日はどうしたの? ヴァルカン。確か素材の納品なら全部渡したはずだけど……」

 

 目を通していた書類から視線を逸らし、対面に座る義足の女性へ目を向けた。

 鍛冶師を兼任する重装オペレーター、ヴァルカン。それが彼女の名だ。

 専らオペレーターたちの使う武器の修繕や調整を行う、裏方として起用されたオペレーター。昔ながらの加熱炉と鍛冶台を自室に持ち、自らを"時代遅れ"と宣言する彼女だが、その技術はとても役立っている。いわゆる鍛冶馬鹿な面はあるが、医療関係を主軸に発展するロドスとしては異色の持ち味を持つ人物であり、そんな彼女に助かっている面もある。民間企業に修理依頼を出すにしても金がかかるのだ。金がかかるのだ……!!

 そんなヴァルカンがわざわざアリシアの執務室へ来る理由は、鍛冶関係でしかないだろう。

 

「いや、今日は別件だ」

 

 おや、と疑問が出てきた。同時に珍しいという感想も湧く。

 鍛冶関係以外は関心の薄い彼女が、鍛冶関係以外の事で足を運ぶことは稀だと言っていい。彼女の自室でなにか問題でも起きたのだろうか、と身構える。加熱炉や鍛冶台の再発注を申し込まれるとなると、バカに出来ない値段の龍門幣が動くほかに、二つのどちらかを売っている――あるいは製造を請け負っている企業を探す時間も必要になるからだ。

 そんな身構え方をしていたからか、ヴァルカンがバツが悪そうにやんわりと断りを入れた。

 

「身構えてるところ悪いが、特に問題が起きたという訳でもないんだ。いやある意味問題だが」

 

 アリシアの頭に疑問符が三つほど湧く。

 

「あれ? じゃあどうしたの?」

「……私としては正直、これ以上君に負担をかけたくはないんだがな」

 

 頬を軽くかきながら、ヴァルカンが切りだす。

 

「また訓練室とマトイマルの武器が壊れたから、修復素材の申請に来たんだ」

 

 アリシアの目が死んだ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 マトイマルというオペレーターがいる。

 極東の出身であり、ヤトウやホシグマと同じ鬼という種族の出である彼女は、他のオペレーターと比べても類稀なほどの身体能力やアーツを伴わない高い治癒能力をもつ。巨大な薙刀から繰り出される防御の一切を無視した一撃は、ロドスの最高戦力の一人と名高いスカジの一撃に勝るとも劣らない、非常に強力なものだ。

 

 そんな二人が、訓練室で戦えばどうなるか。

 

 当然の如く壊れる。

 

「ドクター!! 止まってくださいドクター!!」

「離してアーミヤ!! 龍門幣が……龍門幣が私を待っている!!!」

「あぁもう! ニアールさん、少しの間ドクターをお願いします!!」

「承知した」

 

 死地へ赴かんとするアリシアを必死で止めるアーミヤは、同じくアリシアを抑えていたニアールに彼女を託す。

 そんな三人の傍では「私が暴れすぎたせいで訓練室を壊してしまいました。大変申し訳ない」という紐付きプラカードをぶら下げたマトイマルとスカジの二人が、正座という極東特有の座り方で床に座していた。

 

「あっはっはっは! いやー、またやりすぎちまった!」

「………………」

 

 参った参ったと笑いながら頭をかくマトイマルと、無言のまま正座の体勢を維持するスカジを恨めし気に見ながら、アーミヤはまたかと頭を抱える。

 

「もう……これで何度目ですかぁ……」

「んーと……五度目ぐらいか?」

「七度目ですよ!」

 

 そうだったか? と腕を組んで悩み始めるマトイマル。彼女は細かい事を気にしない主義だった。

 眩暈がアーミヤを襲うが、マトイマルという女性は基本的に子供らしい性格をした人だ。一週回って開き直ったアーミヤはマトイマルとスカジに苦言と忠告をする。

 

「前にも言いましたけど、全力で加減を覚えてください二人とも。でないと……」

 

 そっとアリシアとニアールへ目線を配る。アーミヤに合わせて二人も視線を追うと……

 

 

 

 

 

「いくら稼いでも龍門幣が足りないんだよケルシーなんでだろうね確かにうち製薬会社の面もあるから稼いだ金額の半分以上はそっちに投資するのは道理にかなってるんだけどいくらなんでも最大金額でも手取りが7500幣ってひどくない?ねぇひどくない??メテオさんやリーフの昇進すら何回も往復しなきゃいけないとか理性溶かしに来てるでしょケルシー私がどれだけ理性すり減らしてあの場に立って指揮してると思ってるの舐め腐ってるだろ龍門のアイツ等足元見やがってねぇ聞いてるのケルシー?ケルシー!?どこいったのケルシー?!」

「お、落ち着けドクター……ここにケルシー医師はいないし、金ならまた稼げばいいだろう……?」

「なにニアール私の敵になるのたかが7500幣ぽっちのためにどれだけ私が理性を溶かしてるか知らないというのねニアール分かったわ腹いせに貴方のそのご自慢の尻尾五時間かけてモフるけどいいよねモフるよ答えは聞いてない」

「ひっ!? や、やめt――――!!」

 

 

 

 

 

 怨霊染みた声で一つも息継ぎせずに独り言をつぶやくアリシアに、怨霊と化した彼女の前で失言をかましてメテオやプラチナといった同族から見てもモフモフした尻尾に顔を埋められて羞恥と困惑の極みに立たされるニアール。迂闊に振り落とそうとすればロドスの戦闘部門の総指揮官であるアリシアに怪我をさせてしまうかもしれない――そんな認識がニアールの中にある以上、彼女は黙ってモフられるしかない。

 アーミヤはそっと視線を戻す。マトイマルとスカジは震えていた。

 

「理性のないドクターの前で恥をさらすことになりますよ……」

「「ごめんなさい」」

 

 二人はその後、その体力にものをいわせ、死んだ目のまま修繕に必要な龍門幣と素材をかき集めようとするアリシアについて回った。そして完成した訓練室を見て二人して安堵の息を吐いたという。

 それを見ていたアーミヤが悔しげにハンカチを噛んでいたのは余談とする。

 

 

 

 

 

 

 それを、無機質な目で見ていた。




スカジさんは対化物戦闘は大得意だけど対人戦闘は経験不足につき不得手なので、対人戦闘経験が豊富なマトイマル相手だと若干劣勢になる。という恐らく今作のみの設定があったりなかったり。


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