マクロスΔ スイートプリキュアの軌跡 (水無月 双葉(失語症))
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戦場のプロローグ
1


機能確認の為の投稿です。
現実逃避で書いたものですので寛大なお心でお読み下さい。
作者のメンタルは濡れたトイレットペーパーより弱いで批評意見等はお許し下さい。



 2人の少女が周りを気にしながら歩いている、だが、周りは少女達の事は全くに気にしてはいない。

 

 1人は明るい茶色の長い髪を後頭部で軽くふたつに止めている、瞳の色はやや濃い青色、何故か肩に白い猫を乗せている。

 

 もう1人の少女は亜麻色の長い髪を後ろで軽く縛っており良く手入れされているのか動くたびに綺麗になびいている、瞳の色は濃い緑色。

 

「ここ何処だろう……」

 

「なんでこんな事に……」

 

 心細いのか2人は寄り添う様に歩いている、肩に乗っている白猫は好奇心が強いのかあちこちを忙しそうに周りを見ていた。

 

「絶対私達の知っている世界じゃないよ、響……」

 

「メイジャーランドに遊びに行くつもりが何でこんな事に……ハミィの幸せのメロディを楽しみにしていたのに……ハミィの為にも早く帰らないと」

 

「響あっち行こう、人が少なそうよ」

 

「うん、分かった奏」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハミィ、やっぱりメイジャーランドとは連絡付かない?」

 

「無理ニャ、何度やってもアフロディテ様ともメフィスト様とも繋がらないニャ」

 

 ハミィの言葉に大きく溜め息をつき肩を落とす響、通路の先で見張っていた奏が戻ってくる。

 

「どうだった奏」

 

「落ち着いて聞いてね響、やっぱりここ地球じゃないみたい、惑星アルハシャルって言うみたい……」

 

「なぎさじゃないけど、ありえないよこの状況」

 

 頭を抱えてうずくまる響、奏はそんな響の肩に優しく手を添える。

 

「しょうがないよ響、まだハミィとフェアリートーンが居るだけましだよ、いざとなったらプリキュアになれるんだから」

 

 落ち込んでいる響とは対照的に奏はあまり落ち込んではいない様子で答える。

 

「とりあえずどこかでバイトか何かしないとご飯も食べられ無いよ」

 

 奏の提案に響も賛成する。

 

「そうだね奏、取りあえずお金の問題何とかしないと、ここで決めなきゃ女がすたる」

 

「お金もだけどもうひとつ変な話があったの」

 

「どんな話?」

 

「突然暴れ出す病気があるみたいなんだけど、それを直すのがワルキューレって言うアイドルグループの歌で治るんだって、不思議な病気だよね、鎮圧ライブとかワクチンライブって言うみたい」

 

 奏の話に響は手の平で口を押させ考え出す、ややあって手を離すと奏に確認するように話しだす。

 

「歌で直せるって事は私達でも直せるのかな、ネガトーン浄化したみたいに、ハミィどう思う」

 

 足元に居るハミィに聞いて見るがハミィは腕を組み悩み出す。

 

「んーと、んーと、分からないニャ」

 

「「だよねー」」

 

 響と奏は顔を崩しながらも予想下通りの答えに溜め息をつく。

 

「可能性はあるドド」

 

「その現場に居合わせたらきっとが分かるレレ」

 

 フェアリートーンが自信ありげに頷き胸を叩くが響と奏の心配は尽きなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れの中響と奏は連れ立って歩いていると女の子の小さな悲鳴を聞き付け裏路地に入って行く。

 

 裏路地で押し倒されている女の子を見つけると響はまるでネコ科の動物を連想されるしなやかな動きで相手の青い髪男の腕を取り投げ飛ばしそのまま腕を極めて動けなくする。

 

「アンタ! 女の子の何してんのよ、この変態!」

 

「大丈夫、もう平気だよあんな男響がやっつけるから」

 

 押し倒されていた女の子に手を貸し座らせて奏が背中をさすり落ち着かせている。

 

「何しやがる! てめえ!」

 

「それはこっちの台詞だよ、最低男!」

 

「動くな!」

 

 凛とした力強い女性の声に振り向くと赤紫の髪をした女性が銃を向けこちらを狙っていた。

 

「え? 鉄砲? ちょっとちょっと! 待ってよ!」

 

 いきなり銃を突きつけられ響が慌てた声を上げるが女性は鋭い目つきで響達を睨む。

 

「見つけたぞ! 密航犯!」

 

「違う、違う」

 

 女性の力強い声に青髪の男は否定するが響も銃を突き付けたまま女性も耳は貸さない。

 

「密航犯じゃなくて暴行犯だよ」

 

 赤紫の髪の女性と響の主張は食い違いを見せるがここで予期せぬ声が上がる。

 

「ハイ! 密航犯は私です!」

 

 奏に背中をさすられていた少女は立ち上がると綺麗に手を上げて宣言をした、全員の動きが止まり微妙な空気となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「すいませんでした」」」

 

 事情を聴いた女性と響に奏は揃ってきれいなお辞儀を見せる、青髪の男性は響に捻上げられた手首をさすりながら不機嫌な顔をしていた。

 

「そっちの2人は観光っぽいがアンタ空港の警備員じゃないな、何者だ」

 

「ケイオス、ラグナ第三戦闘航空団デルタ小隊所属、ミラージュ・ファリーナ・ジーナス少尉です」

 

「えっ、デルタ小隊?!」

 

「苦情でしたら広報に」

 

 密航者の女の子がデルタ小隊と聞き喜びだすが、響と奏は意味が分からず顔を見合わせ首を捻っていた。

 

「デルタ小隊っひょっとしたらワルキューレと一緒に飛んどる」

 

「え……そうですが……」

 

「わーゴリゴリー」

 

 熱病にでも成ったのかのように夢心地の女の子の響達は少し引いてしまっている。

 

「ファンなんだとアンタ達の」

 

 男の子が頭を掻きながら呆れた声で説明をする中響と奏は顔を見合わせる。

 

「「じゃあ、私達はこれで失礼します!」」

 

 響と奏が同時に喋り、響が片手を軽く上げると2人は脱兎の勢いでその場を離れた。



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2

「奏!」

 

「響も聞こえた?」

 

「うん、すごく嫌な音……」

 

「「まるで不幸のメロディ!」」

 

 2人の耳に微かに聞こえた小さな歌声、彼女達には不快な音にしか聞こえなかった。

 

「一体どこから……」

 

「まるで頭に直接聞かされている様だニャ」

 

 ハミィが周りを見回しながら小さな声で呟く。

 

「そうだね、ハミィ……少し変だよこの歌……」

 

 響はハミィを抱き上げると守る様に抱きしめる。

 

『ヴァール警報が発令されました、速やかにシェルターに避難して下さい、ヴァール警報が…………』

 

 けたたましく鳴るサイレンに垂れ流される緊急メッセージ、響と奏は手を取り合い頷き合う。

 

 逃げ惑う人々、見た事も無い兵器達が暴れている、そして聞こえる美しい歌声、響と奏は歌声に導かれる様に現場へと走る。

 

 見上げると綺麗な編隊飛行をする飛行機から次々と何かが射出され、瓦礫の上がステージの様にライトアップされ誇らしげに立っている4人の女性達、逃げ惑っていた人々が彼女達に賞賛の声を浴びせるなか、響と奏はキュアモジューレを確認して近くの瓦礫に身をひそめる。

 

「どうする、響」

 

「うん、戦争って言うより暴動だよね、私達に何か出来るのかな、プリキュアに成れば助けられるのかな」

 

 謎の兵器の攻撃を歌いながら防ぐワルキューレに知らず知らずに心が高鳴ってくる響と奏。

 

「すごい……」

 

「綺麗……」

 

「あの飛行機変形している?!」

 

 飛行機からロボットに変わり突っ込んで来た兵器を止めると紫色の髪の女性が跳び移り歌を聴かせ大人しくさせる、その光景に響と奏は信じられない物を見た気分になる。

 

「本当に歌で治せるんだ」

 

「ねぇ、ハミィ、ドリー私達でも戦えるかな、私救いたい」

 

「私も同じだよ、レリーお願い力を貸して」

 

「「みんなを守るのがプリキュアの使命だよね」」

 

 ハミィは人の痛みの分かる2人を尊敬する、ハミィは考える今の状況を答えはひとつだった。

 

「響と奏が本気で助けたいなら、ハーモニーパワーは応えてくれるニャ」

 

 響と奏は見つめ合い大きく頷くとキュアモジューレを取りだす。

 

「行こう! 奏!」

 

「オーケー響!」

 

「ここで決めなきゃ女がすたる!」

 

「気合のレシピ見せてあげる!」

 

「「レッツプレイ! プリキュア! モジュレーション!」」

 

「爪弾くは荒ぶる調べ! キュアメロディ!」

 

「爪弾くはたおやかな調べ! キュアリズム!」

 

「「届け! 二人の組曲! スイートプリキュア!」」

 

 激化する戦闘にメロディとリズムは鋭い目線を送る、この戦いの元凶や理由は分からない、でも、泣いている人達が居る、戦う理由はそれだけで十分だった、まずはこの戦いを止める力があるワルキューレの手助けをする、出来る事を順番に片づけるそうやって戦って来たのだから。



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3

 1人離れて歌っていたワルキューレのメンバーにミサイルが迫る、メロディは庇う様に間に入り込むと手と足を使い彼女に危害が及ぶミサイルだけを弾いく。

 

「大丈夫ですか! 私が守ります! 歌って下さい!」

 

 紫色の髪の女性、美雲の前に立ち構えを取るメロディに美雲は少し可笑しくなった、まるでチアガールのような格好をした女の子が迫ってきたミサイルを事もあろうか素手で弾いたのだ、笑いそうになるのをこらえながら大きく息を吸う。

 

「任せるわ、守ってねお嬢さん」

 

「はい!」

 

 小気味良い返事に美雲は楽しくなる、最高のステージになりそうだと。

 

 

 

 ステージの近くで爆発が起こりレイナが爆風に煽られ落下して行くのを助けに行こうとしたマキナだったが、落下したレイナを横抱きにしてまるでチアガールかステージ衣装かといった格好のフリルが沢山ついた白い衣装の女の子が舞台にジャンプして来てレイナを丁寧に降ろす。

 

「怪我はありませんか?」

 

「レイレイ!」

 

 マキナが直ぐにレイナに駆けより抱きしめるとリズムを不思議そうに見つめてくる。

 

「貴女は……?」

 

 問いかけられたリズムは柔らかく笑うと凛とした声でマキナに答える。

 

「私はキュアリズム、手助けに来ました、ワルキューレの皆さんは歌って下さい」

 

「キュア……リズム……」

 

 リズムは頷くと近づいて来ていたリガードを蹴り飛ばす、もんどり打って転がって行くリガードをマキナとレイナは声を上げる事も出来ずに見つめていた。

 

 美雲に迫る攻撃を次々に防いぐメロディ、メロディが防ぐたびに美雲のビートは上がって行く美雲の近くで踊る様に戦うメロディ、近くで戦うバルキリーの後方から迫る敵を殴り付け吹き飛ばすと直ぐに美雲の側に戻る、横目で見るとリズムもワルキューレを守る為に気炎を吐いている。

 

 偶然が必然か大量の敵がワルキューレに殺到しだす、メロディは美雲に目だけで合図を送ると理解したのか頷く美雲、軽く頭を下げるとメロディはリズムと合流した。

 

「もう一人いた!」

 

 マキナが驚きの声を上げる中メロディとリズムは頷き合うと大量の敵の中に飛び込み次々と蹴散らして行くがいかんせん数が多すぎる。

 

 戦いながらメロディは考えていた自分達でも浄化できるのではないかと、理由は分からないけれど何故か確信があった、背中合わせで寄り添い合うメロディとリズム、リガードを蹴飛ばし殴り飛ばしながらワルキューレに居るステージに戻る、ワルキューレも必死で歌っているが数が多いのか大変そうだった

 

「やろう、リズム!」

 

「オーケー、メロディ!」

 

 メロディとリズムがステップを切りながら手を叩き合う姿に戸惑うワルキューレのメンバー、戸惑いが次の瞬間驚きに変わる。

 

「「プリキュア・パッショナートハーモニー!」」

 

 組んだ拳を敵に向けると2人の前に巨大なト音記号に似た物が現れ回転しだしたと思うと巨大な光を撃ち放ち敵を飲みこんで行くと暴れていたリガードは歩みを止め力が抜けた様に崩れ落ち、ゼントラーディの兵士は訳がわらなないと言った感じで立ち尽くしていた。

 

「フォールド反応異常検知!」

 

 数値を計っていたカナメの爪型デバイスがアラートを響かせる。

 

「ヴァール反応消滅……」

 

 力強く立つ2人の少女の存在はカナメにとってはありえない存在だった。



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覚悟のオーディション
1


 メロディとリズムのたっての希望で、救助活動がおおよそ終わった後に、簡易的に作られた休憩スペースでワルキューレとメロディとリズムは話し合いを始める。

 

 軽い挨拶のあと話し合いは始まったが。

 

「貴女達は一体何者なの? 素手でミサイルを弾き、リガードすらも蹴り飛ばす、インプラントかサイボーグなのかしら、でも、そこまでの力は持てないはずだし、仮に軍の秘密兵器にしたっておかしいわ」

 

 ワルキューレのリーダーであるカナメは鋭い視線をメロディとリズムに浴びせる、2人は愛想笑いをしてからカナメに背中を向けてコソコソと話しだす。

 

「カナカナそんなに攻めたらリズリズが可哀そうだよ」

 

 マキナがリズムを庇う様に声を上げると2人は振り返りワルキューレの方に振り返る。

 

「リズリズってリズムの事かな」

 

 メロディがリズムに訊ねると、リズムはちょっと困った声で答えた。

 

「多分」

 

 マキナの独特の言い回しに笑みがこぼれるが、リズムは直ぐに表情を改める。

 

「私達の事を話す前に先に少し質問をさせて下さい」

 

 リズムがワルキューレ全員を見渡すと、カナメが小さく息を吐き頷いた。

 

「話せる事はお話します、お互いに情報は欲しいのだからフェアに行きましょう、えっと……」

 

「私はキュアリズムです」

 

「キュアメロディ、よろしく」

 

「よろしく、キュアメロディ、キュアリズム、私はワルキューレのリーダー、カナメ・バッカニアよ、で質問は」

 

「はい、お聞きしたい事は…………」

 

 

 

「信じられないけどやっぱり違う世界だったんだ……」

 

 リズムが落胆の声を上げる、予想していた最悪の状況を確認して何とも言えない表情をする。

 

「良いんじゃないリズム全部話しても、取りあえずハミィ連れてくる説明しといて」

 

「え、ちょっと待ってメロディ! もういい加減なんだから」

 

 説明を押しつけられたリズムはメロディがハミィを連れてくるまでにあらかた説明を終わらせていた。

 

 メロディがハミィを連れてくるとハミィは何時ものペースで話しだす。

 

「ハミィの名前はハミィだニャ」

 

「喋る猫」

 

「きゃわわ」

 

「ウソでしょう……」

 

 美雲を覗く3人は騒ぐ中アラドはメロディとリズムをどうやって引き込むか考えていた。

 

「話の最中すまんね、お2人さん当てが無いならこのまま我々と行動を共にしないか、衣食住は確実に保証しよう」

 

「本当ですか!」

 

 アラドの言葉に喜びの声を上げるメロディをリズムが制する。

 

「待ってメロディ、このままついて行ったら戦争をするんだよ、そう言う事にプリキュアの力を使うのは私は賛成できないよ」

 

「そうだけどさ、当てが無いのは本当なんだし、じゃあどうするのよ」

 

「それは……」

 

 メロディの言葉に返す言葉が見つからないリズム、考えをまとめているとカナメが助け舟を出す。

 

「別に私達は戦争をしている訳じゃないわ、ただ、活動の場が戦場ってだけでヴァールの発生を防ぎ、発生した時には鎮圧し人々を助けるのが私達ワルキューレの行動理念よ」

 

 リズムが深く考えだすと同時にドアをノックする音がし入室の許可を得てミラージュが入ってくる。

 

「あの時の、お姉さん!」

 

 いきなりメロディに声を掛けられ戸惑うミラージュにリズムがフォローを入れる。

 

「すいません、ミラージュさんでしたよね、私達こんな恰好してますが暴漢騒ぎの時に居た者です」

 

 ミラージュは眉を寄せ悩んでいるが答えは出せずにいた。

 

「リズムもう良いじゃん、正体知られたってかまわないんだからそろそろ変身解こう」

 

 メロディの緊張感の無さに溜め息を吐きながら返事をしようとしたが変身という単語に周りがざわめいていた。

 

 頷き合うとメロディとリズムは淡い光に包まれ変身を解く。

 

「これが本当の姿で、私は北条響って言います」

 

「南野奏です、よろしくお願いします」

 

「ハミィだニャ」

 

「で、こっちがフェアリートーンの……」

 

「ドリードド」

 

「レリーレレ」

 

「ミリーミミ」

 

「ファリーファファ」

 

 響の言葉の後に続けて挨拶をするフェアリートーン達に言葉を詰まらせるワルキューレ達、手に持っていたタブレットを落としてしまったミラージュを見た奏は仕方ないよねと、軽く息を吐いた。




書いてあるのは此処までです、章の管理機能の確認となります。
続きは…どうなのでしょう、正直分かりません。

思うところがあり、ゆっくりとですが続きを書いていきます。


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2

なんとお気に入り登録をして下さった方がいらっしゃいました。
此方も書いていきますのでよろしくお願い致します、ただ、組曲がメインですのでゆっくりと更新になります。


「奏! 見て見て! 宇宙だよ宇宙!」

 

「本当に別の世界に来ちゃったのね、でも、こんな恰好で宇宙に出れちゃうって変な気分」

 

 響と奏はラグナに向かうアイテールの待機室の窓から外を見てはしゃいでいる、その様子を見てカナメは不思議な気持ちで見つめていた。

 

「2人の世界じゃ宇宙には行けないの」

 

 一緒になって外を眺めていたマキナはちょっとした好奇心で尋ねると響は窓を見たまま答える。

 

「おもに国家事業だし、選ばれて沢山訓練してから宇宙に出るよ戻ってくると記者会見とかもするよ」

 

「そうですね、民間企業も計画とかあるみたいですがまだまだ未定な感じです、でも、ちょっとした特例が無い訳じゃないですが、公式になると月には一度しか行けていませんし」

 

「え? 一度だけ? 非公式にはあるの?」

 

 奏の捕捉にマキナは困惑気味になる。

 

「話せる状況に成りましたら、お話しますので今は許して下さい」

 

 申し訳なさそうな顔をする奏を見たマキナは会話を切り上げると響の方に向き直る。

 

「ね、ヒビヒビ今度宇宙に出たら宇宙遊泳してみる? もちろんリズリズと一緒に」

 

「えぇっ! 良いんですか! やりたいです」

 

「響! 調子に乗らない」

 

 マキナの提案に即答した響を奏が諌めると響は口を尖がらす。

 

「良いじゃん奏、こんな事絶対に出来ないよやろうよ」

 

 奏の腕を引っ張り子供の様に駄々をこねる響に船内は笑い声に満たされる。

 

「まだ先の事だって決まっていないのに遊ぶ事考えない」

 

「奏の石頭」

 

「何ですって!」

 

 年相応に騒ぐ二人を見てカナメは先程の話の追求を諦める、つい数時間前にあれほど激しい戦闘をしていたとは思えず溜め息を吐く。

 

「カナメ心配? 良いじゃない変に緊張しているよりそれだけ修羅場をくぐっている証拠よ」

 

「美雲……」

 

 普段他人を気にしない美雲が珍しく響と奏を気にしている事にカナメは少々面喰った。

 

 

 

「海がきれい……」

 

 惑星ラグナに到着し大空から海を見た奏は感嘆の声を上げた。

 

「本当……すごくきれい……やっぱり全然知らない大陸だね」

 

 見る物すべてが新鮮で響と奏は何にでも良い反応をする、頬杖をしながら眺めているカナメは彼女達がウソをついている可能性は低いと考え出していた、もっともこの場で出来る情報収集などたかがしれているので油断する気は無い。

 

「奏! 大きいロボットが立ってる!」

 

 カナメはマクロス・エシリオンを指さしロボットと言い切った響に少し頭痛を覚えてしまう、マキナが一生懸命に説明をして入るが2人とも良く理解できなかったらしいが、話題に出た異星人の話には大いに驚いて見せたりしている。

 

「演技だとしたらよっぽどの女優ね、あの子達……」

 

 思わず口から洩れた言葉にレイナが小さく反論する。

 

「騙しているとしたら手をかけすぎ、あの2人からはジンジン感じる」

 

 相棒のマキナが2人に掛かりっきりになっているのでてっきり不機嫌に成っているかと思っていたが、レイナは案外平気そうにしているのでカナメは少々驚く。

 

 

 

 アイテールがマクロス・エリシオンにドッキングした後にワルキューレの控室に移動する最中も響と奏は何処にでもある様な物に反応しその都度マキナに説明を受けていた。

 

「とりあえず適当に座って」

 

 カナメに促され響と奏は隣り合って座りハミィも響の膝の上に座る。

 

「さてと、私達ワルキューレは出来れば貴女達キュアメロディとキュアリズムに協力をお願いしたいの」

 

 カナメの提案に顔を見合わせる2人。

 

「協力するのは構いません、一応そのつもりで来ていますし、それでですね幾つかお願いがあります」

 

 カナメを正面に見据え奏は背筋を伸ばし表情を引き締めた。



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3

 オペレーションルームでアラドは惑星アル・シャハルでの戦闘データの確認をしていると、踊る様に戦うバトロイドを確認し驚きの声を上げる。

 

「こいつ、踊ってやがる……」

 

 隣で画面を確認しているメッサーは興味が無いのか特に発言はしない。

 

 映像が終わり別の画面に切り替わるとノイズの酷い画像が何枚か表示される。

 

「全ての映像データにジャミングが掛けられています、該当データも見当たりません」

 

 メッサーの言葉にアラドは腕を組み深く考える、多少の心当たりはあるがまだ確定は出来ない。

 

 思考の海を漂っている時にオペレーションルームのドアが空気の抜ける音と共に開けられ、ワルキューレのリーダーであるカナメ・バッカニアがファイルとタブレットを持って入室してくる。

 

「ステージお疲れさん、どうだバレッタクラゲのスルメ」

 

 アラドは懐に何時も忍ばせているスルメの小袋をカナメに差し出すがカナメの反応は淡白だった。

 

「ご遠慮しておきます」

 

 短く答えるとカナメはコンソールをいじりだし数枚の画像を表示させる、その映像も先の戦闘の物であった。

 

「さっきはありがとう、メッサー君」

 

 カナメは軽く微笑むと表情を崩さないメッサーにお礼を言う。

 

「任務ですから」

 

 メッサーはカナメを一瞥すると小さく答えまた画面に目を向ける。

 

「で、見せたい物ってのは?」

 

 懐にスルメの小袋をしまいながらカナメに確認をするとカナメは一枚の画像をズームさせる。

 

「こちらです」

 

 そこに映っていた人物は戦闘中にワルキューレと共に歌っていたフレイアであった。

 

「頭で光っているアレは……?」

 

 メッサーは画像内のフレイアの頭で光っている髪飾りとは微妙に違う物に興味を示す。

 

「……ルン、ウィンダミア人か、この娘にフォールドレセプター因子が?」

 

 アラドの眼光が鋭くなり画面を見つめる横で、レセプター数値のデータが表示されていく。

 

「はい、それも異様に高い数値です、彼女の歌声に反応して美雲の数値まで……」

 

 顎に手を置きアラドは画面の美雲の数値を確認し何かを考える。

 

「それから隊長ご依頼の件」

 

 カナメは手に持っていたタブレットを操作しアラドに渡す、画面を確認するアラド。

 

「ハヤテ……インメルマンか……」

 

「次にキュアメロディが側で戦っている時に美雲の数値も異常上昇しました」

 

「歌っていないのにか?」

 

 カナメの報告に一瞬疑問を浮かべるが画面の数値を見る限り偽りでは無い事が分かる。

 

「キュアリズムでも同様に側に居た時は私達全員のレセプター数値が上昇しています」

 

 画面上に全員のデータが並べられどれも高水準の数値を指していた。

 

「彼女達はプリキュアと総称する様です、北条響が変身するのがキュアメロディ、南野奏がキュアリズム彼女達は素手でミサイルを防ぎ、リガードなども平気で打ち倒しますアレでも中に人が居る可能性を考えて手加減をしていたそうです」

 

 カナメの報告にアラドは目が回りそうになる。

 

「アレで加減ですか……」

 

 メッサーが絞り出す様に声を出しプリキュアの戦闘映像を食い入るように見ていた。

 

「はい、戦闘後の救助活動にも多大な貢献をし重機の入れない所の瓦礫除去など多岐に渡って手助けしてます」

 

 カナメは一度大きく息を吸うと一番の懸念事項について話しだす。

 

「一番の問題が彼女たちの最後に放った光の技、パッショナートハーモニーと言うらしいですが数値は計測しきれませんでした」

 

 努めて冷静に報告するカナメに流石のメッサーも眉を寄せ呟く。

 

「想定不能……?」

 

「おい、とんでも無い力じゃないか、で彼女達は?」

 

 アラドからタブレットを受け取りながらカナメは報告を続ける。

 

「今はアイテール内に用意した部屋に居ます、2人一緒に居る様です、あの喋る猫のハミィも常に側に居ますしフェアリートーンと呼ばれた謎の生物も常に一緒です」

 

 カナメの報告を聴きながら画面を操作しパッショナートハーモニーを確認するアラド、隣で見ているメッサーも鋭い目つきで画面を見ていた。

 

「協力は取り付けそうか?」

 

「数点の交換条件を出されましたが問題は無いかと」

 

 タブレットを確認しながらアラドに説明を続けるカナメ。

 

「まずは衣食住、立場の保護、ハミィ及びフェアリートーンを調べない事です、それと万が一他の仲間がこちらに飛ばされていた時も優先的に保護して欲しいそうです」

 

「意外とシンプルだな、しかしあの2人以外にもあんな力を持ったのが居るのか、恐ろしいな」

 

 彼女達は自分の力の価値を分かっていないのか条件が軽すぎてアラドは逆に不安に成る。

 

「後ですね、私達ワルキューレを守る事には協力はするがそれ以外の戦闘行為はしたく無いとの事です」

 

「ま、妥当な話だ、分かったその条件で良い彼女達に伝えてくれ艦長には俺から話す」

 

「解りました」

 

 タブレットをしまい部屋から出ようとするカナメを呼びとめる。

 

「あぁ、それとな場合によっては条件を追加して良い事も伝えてくれ、後給料も正式に支給してやれ」

 

「では、そのように」

 

 扉の前で軽く頭を下げカナメは部屋から出て行った。



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4

 ルーフバルコニーで風に当たりながらミラージュは前回の、アル・シャハルでの戦闘を思い出しイラついていた。

 

「くっ、アイツ……」

 

 小さく呟いたミラージュに被せる様に声がかけられる。

 

「ミラージュさんここに居たんですね」

 

 振り向くと北条響と南野奏が立っており響の頭の上にはハミィと呼ばれる喋る猫が乗っていた。

 

「何か用ですか」

 

 ミラージュは少しきつめに返事をしてしまい少し罪悪感を抱く。

 

「私達お世話になる事になったので良かったらロボットの中案内して欲しいなって」

 

「響、ロボットじゃなくてマクロス・エリシオンだよ」

 

「えー、どっちだっていいじゃん」

 

「いい加減なんだから、もう」

 

 きつく返してしまったのに響と奏は気にした様子も無くじゃれ合うような会話をしており、ミラージュはイラついていた心が晴れて行く気がし思わず声を上げて笑ってしまった。

 

「いいですよ、機密部分は案内できませんがそれ以外なら案内しますよ」

 

「「ありがとうございます」」

 

 2人同時に感謝の言葉を述べると響はミラージュの手を取ると引っ張り出す。

 

「早く行こう、ミラージュさん」

 

 無邪気に笑いかけてくる響に対しミラージュは悪い気はしなかった。

 

 

 

 マクロス・エリシオンから下の街に向かう吊り下げ式のモノレールの中でフレイアは落ち込んでいた。

 

 全ての情熱を傾けで挑んだはずのワルキューレのオーディション、アル・シャハルで歌ったみたいな高揚感は出なく普通に歌い普通に不合格になった。

 

 故郷であるウィンダミアに帰る事も出来ないだろうし自分の足元が深い沼に入り込んだ気がしていた。

 

 何となく外の景色を眺めここまで一緒に来た少年、ハヤテを思い出し溜め息をつく。

 

 何度目か分らない溜め息をついた時、モノレールは振動を起こし急停車し、中の乗客が騒ぎだす。

 

 車内が非常灯に変わると同時にアナウンスが流れ始める。

 

『お客様にお知らせ致します、バレッタ市内でヴァールによる暴動が発生いたしました……』

 

 ざわめきが大きくなる車内、乗客の1人が端末を使いニュースを確認すると市内では煙が上がり大規模な暴動になってしまっているらしい、不安に成り窓の外を見るが何も分からすフレイアの不安は更に大きくなって行く。

 

 いきなり苦しみ出す男、その近くの女性が気にかけるが、声を掛けた女性は恐怖に顔を歪めると苦しみ出した男に襲われ激しい血を流して倒れてしまう、車内に響き渡る悲鳴の中フレイアの思考は止まってしまっていた。

 

「ヴァールシンドローム……」

 

「何なのよ! 何なのよ!」

 

「イヤ、いやぁぁ」

 

 次々とパニックを起こす乗客たち、男がフレイアに襲いかかろうとした瞬間、椅子から飛び出した濃い紫色の長髪の女性が男性にタックルをしフレイアを救い手を引いて乗客が逃げている壁際に連れて行く。

 

「あ、ありがとう」

 

 震えながらも感謝の言葉を述べるフレイアに紫の髪の女性は笑いかける。

 

「大丈夫? どうすればアレは治せるのか貴女は知っているかしら」

 

「ワルキューレの歌があれば……」

 

「歌? そのワルキューレっての直ぐに来れそう?」

 

「ワルキューレの本拠地で今日オーディションがあったから街の鎮圧が終われば……」

 

 フレイアの言葉に紫の髪の女性はうなずき立ち上がるとヴァール化した男性の前に立つ。

 

「そう……そのワルキューレってのが来るまで私が押さえるわ」

 

「危ないんよ」

 

「大丈夫、私は強いから任せて」

 

 女性はフレイアにウインクすると懐から白いハートを取りだすと大きく息を吸った。

 

「レッツプレイ! プリキュア! モジュレーション!」

 

 女性が青い光に包まれると先ほどとはうって変わりフリルについた青いチアガールみたいな格好になる。

 

「爪弾くは魂の調べ! キュアビート!」



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5

「キュア……ビート……?」

 

 いきなり光に包まれ姿の変わった女性にフレイアは驚きを隠せないでいた、確かにワルキューレ達はステージ上で衣装が変わるが、目の前のキュアビートは明らかに違っていた。

 

 ビートは猫の様なしなやかな動きで一気に男性に近づくと動けない様に押さえ込む。

 

「ワルキューレってのが来るまで押さえててあげる、私は貴方を傷つけたくないし、貴方にもこれ以上他人を傷つけさせたりしないわ」

 

 ビートは鋭い眼光で男を睨み動けないようにすると男性に力強い声で呼びかける。

 

「正気に戻りなさい! 貴方にも叶えたい夢があるのでしょう! こんな所で終わってしまって良いの?! 心を強く持ちなさい! 自分の心のビートを信じるのよ!」

 

 フレイアはキュアビートと名乗った女性の言葉を聞いて雷に打たれた気がした、自分が何でワルキューレに憧れたのか、自分の心が押さえきれなくて密航をしてまでなりたかったワルキューレ、特別に受けさせて貰ったオーディションで委縮して何も出来なかったのではなか、こんなのは自分の人生をかけた未来じゃない。

 

 フレイアは覚悟を決め一歩前に踏み出した。

 

 小さいが力強い歌声が車内に響く、ビートが押さえている男の頬に手を伸ばしフレイアは想いの限り歌を歌う、男の顔に浮いていた血管がゆっくりと収まる、フレイアの歌が確かに届き男は救われたのだ、男の力が抜け倒れそうになるとビートが受け止めそのままシートに横たえる。

 

 周りがざわめく中1人の女性がフレイアに近づく。

 

「はいこれ」

 

 何時のまにか落としていたフレイアの音楽プレイヤーを黒い髪を高い位置でポニーテールにした女性が手渡してくる。

 

「大切な物なんでしょう」

 

 微笑む女性を見つめフレイヤは小さく呟く。

 

「あ……その声……」

 

 ポニーテールの女性は一歩下がり手を広げながらクルリと1回転し高らかに宣言する。

 

「Welcome to WALKURE World」

 

 楽しそうにその女性は近くに控えていた2人の女性の側に立つと先ほどまで広告や警報を表示をしていた床が光り出すと、3人の女性は下から輝きながら着ていた服も髪型も全てが変わる。

 

「美雲さん! ど、どう言う事かね」

 

 いきなり現れたカナメを除くワルキューレのメンバーにフレイアは混乱し状況が分からなくっていた。

 

「これが最終オーディション」

 

「さっきの声チクチク気持ち良かった」

 

 マキナとレイナが嬉しそうにフレイアに告げると美雲の隣でカナメのフォログラフィが現れる。

 

「合格よ! フレイア・ヴィオン!」

 

 カナメがワルキューレのシンボルでもあるWを指で作ると、光る床の上に居たフレイアの衣装もワルキューレの物に変化した。

 

「今日から貴女も」

 

「ワルキューレ」

 

 レイナとカナメが言葉を分けい合いフレイアを祝福する。

 

「私が……ワルキューレ……?」

 

 乗客たちが次々にフレイアに祝福の言葉を掛ける、ヴァール化した男性も大量の血を流していた女性も全員が最終オーディションのメンバーだった、ただ1人キュアビートを除いて。

 

「どう言う事かしら……?」

 

 底冷えする様なビートの声に祝福ムードは一変する、カナメが一歩前に出るとビートに対して頭を下げる。

 

「貴女がキュアビートね、ごめんなさいね巻き込んでしまって本当ならスタッフ以外は乗車させないはずだったのだけれど、どこかで手違いがあったみたいで……」

 

 ビートは周りを見渡すと盛大に溜め息をついた。

 

「要するにコレは、歌姫を決めるコンテストって訳ね、貴女達ずいぶんと性質が悪いのね」

 

 ビートは怒りを露わにし、不機嫌そうに椅子に乱暴に座り足を組む。

 

「街の騒ぎも嘘で誰も怪我とかして無いなら良いわ、コンテストって事で我慢してあげる、押さえ込んだ時全然力を感じないから不思議だったのよ」

 

 ビートは足を組み直し頬杖を突いてまた溜め息を吐いたのちに淡い光に包まれて変身を解く。

 

「キュアビート、貴女にはこのまま私達とマクロス・エリシオンに向かって貰います」

 

「行く必要は無いわ」

 

 目を細めカナメの言葉に間髪入れす答えるエレン、だが美雲が喉の奥で笑いながらエレンに声を掛ける。

 

「キュアメロディ、キュアリズム、フフ……どう? これで着いてくる気になった?」

 

 美雲の言葉にエレンはすぐさま立ち上がり鋭い視線を投げかける。

 

「響と奏に何かしてみなさい……絶対に許さないから!」




第2話終了となります。
お付き合いくださった皆様ありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。


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旋風ドッグファイト
1


 ミラージュに色々と案内して貰った響と奏は響のお願いで飛行甲板に出る事になった、最初ミラージュは悩んだ様だったが戦闘が始まらなければかまわないと判断し案内をする。

 

「すっごく広い! スポーツの試合でも出来そうだねミラージュさん!」

 

 クルクルと回りながらご機嫌の響を見てミラージュは小さく笑う。

 

「あれ? ミラージュさんあそこに居るのって隊長さんと……だれ?」

 

 奏の指さす方に目線を向けると、この間の一般人が自分の機体を触っており先程までの和んでいた雰囲気を一気に突き崩した。

 

「離れろ! 私の機体に……触るな!」

 

 怒り心頭のミラージュは大股でハヤテの元に向かう。

 

「アラド隊長! 本気でこんな奴を?!」

 

 後ろで見ていた響は腕を組み眉を寄せていた、奏は治めて欲しくてアラドに目線を送っていたが当のアラドは肩をすくめるだけだった。

 

「戦場を舐めるなと言ったはずよ」

 

「ドンパチしたい訳じゃない、俺は空を飛びたいだけだ」

 

 ハヤテの言い分にミラージュの雰囲気が変わった様に奏には感じられ無意識のうちに響の腕を握る。

 

「飛びたいだけ……そう、それじゃあ」

 

 振り返ったミラージュを見た響は余りの悪い笑顔に悪い予感を抑えきれなかった。

 

 パイロットスーツに着替えたミラージュとハヤテはミラージュの操縦で大空へと飛び立って行った。

 

 いきなり始まるアクロバティックな飛行に響は訓練しているミラージュは平気だとしても後ろのハヤテは酷い目に会っているのだろうと思い溜め息をつく。

 

「あの……隊長さん良いですかアレ……多分酷い事になると……」

 

 奏が心配しアラドに声を掛けるがアラドは良い笑顔を奏に見せる、無理だと思った奏は隣のメッサーに目線を向けたが一瞥されただけだった。

 

 

 

 バルキリーから降りたミラージュとハヤテだったがハヤテの方はすでにグロッキーに成っており、今にも吐きそうな嗚咽を漏らしている。

 

「これで分かったでしょう」

 

 冷たく言い放つミラージュに響は怒らせたらいけないタイプと思い思わず奏を見てしまう。

 

「という訳でミラージュ、お前にハヤテ候補生の訓練教官を命じる」

 

「はっ?」

 

 本来なら復唱するはずの命令だが思わす声を上げたミラージュにアラドは気にした様子は無く更なる追加注文をする。

 

「ひと月で使えるようにしておけよ」

 

「ま、待って下さい! アラド隊長!」

 

 言うだけ言ってメッサーを引きつれて戻って行くアラドに慌てて声を掛けるミラージュだったがアラドは軽く手を振り行ってしまう。

 

「俺は……絶対……空を……」

 

 ハヤテは喋っている最中に青い顔をし口を手で押さえるがミラージュはパニックになり動けなくなる。

 

 ハヤテが吐く直前に響と奏がミラージュの腕を取り一気に後ろに引っ張りハヤテの吐瀉物からミラージュを何とか回避させた。

 

「あ、ありがとぉ」

 

 先程までの凛とした雰囲気は何処に行ったのかミラージュは情けない声で響と奏にお礼を述べたのだった。



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2

 ミラージュの着替えが済んだ後3人は食堂に移動し軽い休憩をする事にした。

 

「ミラージュさんのパイロットスーツ、恰好良かったよね」

 

「うんうん、ミラージュさんスタイルも良いから何着ても似合うよね」

 

「そんな事無いですよ、2人だって可愛いのだから何でも似合いますよ」

 

 ミラージュは正面から褒められ照れながらも自分の持っていない魅力を持っている響と奏に優しい目線を送る。

 

「ミラージュさんにそう言ってもらえると嬉しいなぁ」

 

 ミラージュに褒められ響は破顔する、その姿を奏は楽しそうに見つめつつもミラージュに向き直す。

 

「ミラージュさん、私達協力する事になったのですが……」

 

「先程も話していたな、一応正式発表はまだだが話は聞いている、よろしく頼む」

 

「あ、いえ、こちらこそお願いします、それでですね、私達はどう言う立場になるのでしょう?」

 

 奏の質問にミラージュは顎に手を置き目線を泳がせながら考える。

 

「そうだな……我々デルタ小隊に入るか、もしくは別の小隊になるかもしれない、どちらにしろワルキューレの支援になるのは変わらないな、アラド隊長に任せておけば間違いは無い」

 

 ミラージュは1人で納得しながら答える、その答えを聞いた響は少しミラージュの方に身を乗り出す。

 

「デルタ小隊になると、私達もミラージュさんと同じジャケット着れるのかな」

 

「響は似合いそうだね、私はジャケットに着られちゃいそう」

 

「この制服か? どうだろうな……正式発表次第だと思うが……すまない約束はしてやれない」

 

 ジャケットの襟元を掴み眉を寄せるミラージュ、その時ミラージュの端末がけたたましく鳴り出す。

 

「はい、ミラージュです……はい……はい……はい分かりました直ぐに連れて行きます」

 

 端末をしまいながらミラージュは響と奏の方を向く。

 

「響に奏、アラド隊長が2人に合わせたい人物がいるらしい、ついて来てくれ」

 

 響と奏は顔を見合わせ頷くとミラージュの後を追う、そんな中、響はミラージュが自分達を名前で呼んでくれた事が嬉しくて鼻歌を歌いそうになるのを必死で我慢した。

 

 隊長室の前に付くとミラージュはドアの横にある端末を操作しアラドに来た旨を伝え響と奏を引きつれて入室する。

 

「ミラージュ少尉、北条響並びに南野奏を連れてきました」

 

 凛とした雰囲気を醸し出すミラージュに響と奏は大人の女性を想像させた。

 

「ああ、入ってくれ」

 

 アラドの声と同時に3人に背を向けて椅子に座っていた人物が立ちあがり振り向くと大きな声を上げる。

 

「響! 奏!」

 

「「エレン!」」

 

 手を取り合い喜ぶ3人を見るミラージュは少し面喰ったが優しく微笑んでいた。

 

「無事で良かった、心配したんだよ、2人を出迎える為に鍵盤の前で待っていたらいきなり崩れ出したから慌てて飛びこんだら知らない所で連絡も出来なくって、でも、会えて良かった」

 

「エレン、私達のせいでごめんね、ハミィもちゃんと居るし一緒に来たフェアリートーンも無事だよ」

 

 涙を浮かべるエレンに対しこちらも涙を浮かべながら響が教える。

 

「エレン、アコは無事なの?」

 

 奏も涙を浮かべながらアコの心配をしだす、エレンは一度息を整えてから話しだす。

 

「姫様は大音楽会の準備で音楽堂に居たはずだからメイジャーランドに居ると思う、ドドリーも一緒のはず」

 

「「なら良かった」」

 

 アコはこちらに来てないと分かり安堵する響と奏、落ち着くのを待ってからアラドが遠慮がちに声を掛ける。

 

「では、もう一度協力体制について話をしたが3人ともかまわないかな」

 

「「「はい」」」

 

 響に奏にエレン、3人の声が1つに重なりまるで歌声の様な返事をする、アラドは少々驚きながらも3人の絆の強さを確認出来た気分だった。

 

「ミラージュ少尉も同席し彼女達が分からない事は捕捉してくれ」

 

「はっ! 了解いたしました」



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3

 カナメに誘われ響達3人は夕方一緒に食事を取る事となった。

 

 カナメにマキナとレイナは先に店で待っていると聞かされながら、ワルキューレの新メンバーであるフレイアとデルタ小隊に入隊したハヤテ、そして何故か案内役を買って出たデルタ小隊のチャック・マスタングの7人で目的の店に向かう。

 

 途中チャックがカナメ対して積極的なアプローチを試みるが、全て不発に終わる姿を後ろから見ていた奏は、憧れの先輩に対してこれぐらい行かないといけないのかなと思いながらぼんやりと歩く。

 

 桟橋を渡った所にある店舗、その外観は絵本にでも出てきそうなデザインに響達は物珍しそうに見上げる。

 

「ようこそ、ここが俺の家であり我がデルタ小隊男子寮でもある、裸喰娘娘だ」

 

 チャックは大げさに腕を広げると得意満面で紹介する、響はチャックが一緒に居た理由はコレかと納得した。

 

「裸喰娘娘……」

 

 フレイアが確認するように呟くと、店舗の方から扉が開きその扉に付けられている鈴が軽やかな音を立てると同時にやや幼い子供達の声がした。

 

「「「兄ちゃん! おっかえりー!!」」」

 

 元気のいい声に響と奏が笑っているとフレイアは小さく呟く。

 

「あの子ら……」

「あっ! 携帯泥棒!」

 

 弟の1人がフレイアを指さし発した言葉にフレイアを除く女子4人がギョッとした顔でフレイアの方を見る。

 

「「「「泥棒?」」」」

 

 フレイア以外の女子4人の声が見事にハモるとハミィは「ハモッたニャ」と喜びの声を上げ、カナメは苦笑いを浮かべていた。

 

「違うだろ、お前らがかってに……」

 

 ハヤテがフレイアの擁護をしようとしたが店内が騒がしくなりそれどころでは無くなる。

 

 店内から飛び出してくるウミネコを追う様に妹のマリアンヌがチャックに大声で叫ぶ。

 

「チャック兄ちゃん、願い!」

「「「ウーラサー!」」」

 

 チャックと店から飛び出してきたハックとザックはウミネコを捕まえる為に闘志を燃やすが、ウミネコの方が一枚も二枚も上手であっさりと包囲網を付きやぶり桟橋に向かって来る、そのウミネコを見た奏が素っ頓狂な声を上げた。

 

「ネコ?! アザラシ?!」

 

 ウミネコは奏の叫びを気にかける事無くハヤテに向かって跳躍したが寸前でエレンが優しく受け止める。

 エレンの腕の中に納まったウミネコは驚いて咥えていた魚を落とすが地面すれすれの所で響が捕まえた。

 

 鬼の様な形相で近づいてくるチャック達を手で制するエレン。

 

「アナタこの辺のボスね、駄目じゃないこんな事しちゃ、餌が欲しいのなら私からお願いしてあげる」

 

 いつの間にかウミネコの前ひれを触りながら残念そうな表情を浮かべていた奏に苦笑しながらエレンはウミネコに言い聞かす様に話し顔を上げチャックに目線を向けた。

 

「ねえチャック、食材の切れ端や余り物で良いのこの子達に分けて貰えないかしら、そうしたらもう悪さはしなくなるわ、お願い」

 

「もう店を荒らさないってのなら別にそれぐらいは……」

 

 首のエラを掻きながらぼやいたチャックにエレンは頷いて見せる。

 

「チャック、ありがとう」

 

 エレンはチャックに軽く笑うと桟橋の端に歩いて行く。

 

「良かったわね、食事用意してくれるって、もう悪さしちゃ駄目よ」

 

 桟橋にウミネコを降ろすと一度エレンを見て小さく鳴くと直ぐに海に飛び込んで泳いで行く。

 

「おーい! 忘れ物ー!」

 

 そう叫ぶや否や響が手に持っていた魚を海に放り投げるとウミネコは綺麗なジャンプをして魚を咥える。

 

 綺麗なキャッチを見せたウミネコに喜んでいる響の直ぐ脇でハヤテが盛大なクシャミを何度もし出す。

 

「どうしたん、もしかしてネコアレルギー?」

 

 心配して声をかけるフレイアに鼻を啜りながら頷いたハヤテに奏がそっと紙を差し出すと、ハヤテは一瞬考えたが素直に受け取って鼻をかみ出す。

 

「邪魔だ」

 

 後ろから掛けられる冷たい声に一同が振り繰り帰るとそのに立っていたのはメッサー・イーレフェルトであった。

 

「メッサーお帰りなさい」

 

 マリアンヌが喜色満面で出迎えるがメッサーは特に返事はしない、それを見ていた奏の表情が曇る。

 

「おかえりって……そうかルームメイトか……」

 

 小さく呟くハヤテを一瞥するメッサー、そんなメッサーにカナメが気軽に声を掛ける。

 

「ちょうど良かった、一緒にご飯食べていかない?」

「いえ、自分は済ませて来ましたので」

「そう、また今度ね」

 

 メッサーがカナメに一言断るとカナメも軽く返答をする、メッサーが全員を避け裸喰娘娘に歩き出す。

 

「メッサーさん!」

 

 少し鋭さを含んだ声でメッサーを引き止める奏、メッサーは振り向くと冷たい目で奏を見下ろす。

 

「なんだ」

「あの子に『ただいま』って返してあげて、出迎えてくれて要るんですよ、『お帰り』と言ってくれている人がいる事は幸せな事だよ」

「……そうか……そうだな」

 

 メッサーは一言漏らすと踵を返して歩いて行く、マリアンヌの前で立ち止まると一言二言交わしたのだろう、マリアンヌは笑顔を見せておりその姿を見た奏は嬉しそうに微笑んだ。



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4

「カナカナごちになりやしたー」

 

 マキナが上機嫌で敬礼をするとそれに合わせて豊満な胸も大きく揺れる。

 

「また、明日」

 

 レイナは干物の切れ端を咥えつつ挨拶をするとマキナと一緒に歩いて行く、2人を見送りながらカナメが気を付ける様に伝え、カナメとフレイアに響達3人で女子寮へと向かう。

 

 

 

 

 

「あの2人ね、一緒に暮らしているのよ」

 

 女子寮内の案内をしながらカナメがマキナとレイナの事を教えてくれる。

 

「へー、美雲さんは何処に住んどるん?」

 

 美雲の事が気になるのかフレイアがカナメに訊ねる。

 

「さあ、私も知らないのよね」

 

 軽く答えウインクをするカナメ。

 

「流石、ミステリアスビーナス……」

 

 フレイアが腕を組んで納得していると、不思議な泣き声を上げながら部屋に黒とピンクのボーダーのスーツを着たウミネコ、キュルルが入って来る。

 

「あー、サッパリした」

 

 そう言いながら部屋に入って来たのはミラージュ、風呂上がりなのだろうラフなロングティシャツを着て髪の毛の水分を拭き取っていた。

 

「あ、ミラージュさん」

 

 一番最初に反応したのは響だった、響はミラージュに近づくと笑いながら声を掛ける。

 

「今日から私達もお世話になります」

 

「こちらこそよろしく頼む、一緒に暮らす以上ルールがあります、食事や朝のゴミ出し等、色々と当番があるが私がしっかり教えますから安心して下さい」

 

 響と話すミラージュの表情は何時もより柔らかく遠目で見ていたカナメは一応アラドに話しておいた方が良いかもしれないと考えていた。

 

「ただいま、どう、例の彼?」

 

 カナメの質問に表情が険しくなるミラージュ。

 

「ハヤテ・インメルマン……」

 

「隊長さんから直接スカウトされるなんて、凄かったんですねぇハヤテって」

 

 キュルル抱き寄せながら感慨深そうに話すフレイアにミラージュの表情は益々険しくなる。

 

「全然凄く無いです、完全に駄目です、指導を真面目に受ける気が無いのなら即刻辞めるべきです」

 

 憤慨するミラージュにカナメは苦笑いを浮かべており、響はかける言葉が見つからなかった。

 

 

 

 

 

「ハヤテ・インメルマン候補生出て来なさい!」

 

 食堂内にミラージュの怒号が響き渡る、食事を取っていた職員達はまたかと溜め息をつく者、気にしない者、面白がっている者、三者三様である。

 

「ここには居ませんよ」

 

「まーた、バックレちゃいましたか?」

 

 ミラージュは整備班の言葉を聞き眉を寄せると踵を返して食堂を出て行く、その姿を見送ったオペレーターのベス、ミズキ、ニナは声を潜めて話しだす。

 

「大変ですね、ミラージュさん」

 

「飛行実技以外ほとんどサボっているんでしょう」

 

 ミズキが同情するとニナが呆れたように答え小さく溜め息を吐く。

 

「アーネスト艦長の柔道にも出なかって……」

 

 ニナがご飯を口に入れながら思い出したように話す。

 

「ワルキューレの新人ちゃんも調子出てないみたいだし、調子が良いのは例の3人組ぐらいだよ」

 

「ね、聞いた話なんだけど、あのプリキュアの3人って変身して無くても結構出来るみたいよ」

 

 ミズキの言葉にベスとニナが少し身を寄せる。

 

「私、噂で聞いたから本当か嘘か分らないけど、響がアーネスト艦長を投げたらしいね」

 

「ウソ? 柔道で?」

 

「うん、柔道で、あの3人もミラージュさんの講義も受けてるけど、奏が座学をあっという間に覚えているみたい」

 

「「うわぁ」」

 

 ミズキの噂話にベスとニナは呆れた声を上げる。

 

「で、信じられないのが3人ともバルキリーのシュミレーションは終わってるんだって、実機でも何度か飛んだみたいでも戦闘で飛ぶ気は無いんだって、で一番上手いのがエレンだったかな」

 

「新人の彼も大変ねそんなのと一緒じゃ」

 

 3人が深いため息を吐く。

 

「でも、何でそんな事してるの? 変身すれば戦えるのに?」

 

 ニナが周りを気にしながら訊ねるとミズキがお茶を一口飲んだ後に答える。

 

「何があるか分らないから念のためだって、奏の発案らしいよ」

 

「あの3人どんだけ修羅場くぐっているのよ……」

 

 ベスの呟きにニナとミズキが大きく頷いた。



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5

 3機のバルキリーが上昇して行くのをフレイア、マキナ、レイナに奏とエレンが見上げている。

 

「VF-1EX、統合軍が初めて実戦配備した全てのVFシリーズの基礎となる機体、アップデートされたEX型は練習機として最適、つまりは……きゃわわ!」

 

 マキナの説明を聞きながら奏はぼんやりと考えていた、自分から言い出した事だがここまでの訓練をさせられるとは思ってもみなかったからだ、あのバルキリーに乗っては戦わないとは言い切ってアラドも一応納得していたが、チャックはやたらと惜しんでいたのを思い出す。

 

 響は必要以上に喜んで飛んでいるし、ついにはデルタ小隊のジャケットと制服を貰っていた、奏とエレンが着ているのはワルキューレと同じ上着だ、それぞれ制服も支給されているが上着だけでも良いと言われたので、今日はいつもの服の上から着ている、カナメ曰く基地内で行動をするのなら一目で分からないと困る時があるからと説明は受けたが、自分にはあまり似合わない気がするので最低限しか着用をしていない。

 

 奏はずいぶん遠くに来てしまったものだと空を舞っているバルキリーを見ながら周りに分からない様に小さく溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

「良いか、ひよっこ供まずは基本から、右定常旋回行くよ」

 

 ヘルメット内に聞こえるミラージュの声に響は小さく深呼吸をする。

 

「右ロール戻し、ラダー補正、ピッチアップ、推力増加」

 

 次々に出される指示に響はまるで合奏の様だと感じる、バルキリーのコンピュータに自分がしたい事を教えるだけで応えてくれる、そうでなければいくらプリキュアだとしても中学生の自分が飛行機など飛ばせる訳が無い、新しいスポーツを始めた感覚にも似ている。

 

 ワンテンポ遅れながらも何とかミラージュに着いて行く、オタオタする自分がまるで親鳥の後を必死で着いて行く子鳥の様だと思い、ミラージュの言い方も尤もだと小さく笑う。

 

「馬鹿! 早く戻して!」

 

 ミラージュの焦った声に2番機で飛んでいたハヤテが落下して行くのを見てドキリとする。

 

「今度は戻し過ぎ!」

 

「うがあああああぁぁ」

 

 ハヤテの叫び声と同時にAIコントロールが働いて墜落の危機からは逃れ、上昇し元の位置に戻って来るハヤテ機を見て響は安堵の息を吐く。

 

「だから響達を見習って講習受けなさいとあれほど! さっさと上昇反転して私の後方に着きなさい」

 

「くっ、言われなくたって!」

 

 怒気交じりのミラージュの言葉にハヤテもイラついた声を出しバルキリーを上昇させようとする。

 

「ハヤテ駄目!」

 

 響の警告は遅く、ハヤテはバランスを崩し失速し墜ちて行く。

 

「何やってる! また失速」

 

「AIのサポートが邪魔で思い通りに思い通りに動かせないんだよ!」

 

 AIコントロールで元の位置に戻るがハヤテはイラつきを抑えられないでいた、

 

「響達3人はAIを上手く使っています、それに貴方が思い通りに飛ばしたら、即墜落です」

 

「何!?」

 

「あっそ」

 

 ミラージュの小さく吐いた一言に、響はこれからハヤテに降りかかるであろう悲劇を思い浮かべる。

 

 AIサポートを切られたのであろう、途端にハヤテ機の挙動がおかしくなり墜落して行く。

 

「戦闘機は機動性上げるためワザと安定性を無にしています、身の程知らずが……」

 

 ミラージュの最後の小さな呟きを聞いた響は何故だかその言葉が、ハヤテでは無い他の誰かに向かって囁かれている気がしてたまらなかった。

 

 AIを作動されたハヤテ機が元の位置に戻る。

 

「少しは理解して、響達と一緒に講習も受けなさい」

 

 吐き捨てられたミラージュ言葉に響は不思議と優しさを感じていた。



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6

作者は、部隊や階級等詳しくありません、これはこう言う物だと思って下さい。

拡大解釈のご都合主義でお許し下さい。


「最終試験?」

 

「ハイ」

 

 アラドのやや疑問交じりの言い返しに、ミラージュははっきりと返事をした、アラドは横目でミラージュを見て眉を少し寄せる。

 

「で、相手はあの3人から選ぶのか?」

 

「最初はそのつもりでしたが、彼女達には断られました」

 

 アラドの好奇心が頭をもたげる。

 

「どう言う理由で断って来た」

 

「ハイ、彼女達曰く、自分達はバルキリーで戦う為に訓練をした訳ではないので、そんな人間と勝負しても意味は無いと、ハヤテを思うならもっとちゃんとした人物が相手をするべきだ、と断られました」

 

 ミラージュの返答に思わずアラドは声を上げて笑いそうになる、データを見るだけなら響達は既に新兵と同じレベル、いやそれ以上だ、将来のエース候補と言っても差し支え無い、カナメの提案を保留にしておけば今頃は激しい獲得合戦になったであろうと。

 

「ですので、響達の訓練は終了と考えあとは定期訓練のみとします、ハヤテ候補生とは私が戦います」

 

 アラドはミラージュの判断はどちらも妥当だと考える、チャックはこの様な試験は向いて無いし、メッサーは問題外だ、ハヤテに勝ち筋がまったく無い、本当なら響達の誰かが相手をして欲しい、それでもハヤテには厳しいが……

 

 カナメが、響達の追加条件の許可を取りに来た時に聞いた話では響はミラージュに懐いているらしい、そのミラージュの誘いを断ったのだ、自分が話しても無理だろうし、最悪出て行かれても困る、もっとも条件とは別に、響がミラージュが着ているからとデルタ小隊のジャケット等を欲しがった時は少々呆れたが。

 

 

 

 

 

 

 

「貴女達3人はこれから私達ワルキューレとの練習がメインとなります」

 

 ミラージュから訓練の終了を告げられたその日の内に響達3人は隊長室に呼び出され、そこでアラドと打ち合わせをしていたカナメにいきなり宣言され、響達は顔を見合わせた。

 

 今まではたまにカナメに誘われて、ダンスなどの練習に参加した事はあったが、それをメインにするのは話として聞いていない。

 

「ワルキューレとの練習をメインでする理由は何でですか?」

 

 響が戸惑いながらカナメに訊ねるとカナメは顔ごと目線をアラドに向ける。

 

「その事だがな、今まではデルタ小隊預かりになっていたが正式に所属が決まったのでその関係でだ」

 

「所属……ですか……」

 

 アラドの台詞に響が小さく呟く、不安に思ったのか奏が響の手を握ると響は無意識的に握り返す。

 

「デルタ小隊、スイート分隊となるスイートリーダーは北条響に任命する、通常ならコードネームがスイート1になるがお前達は既に独自に持っているのでそれを採用する、今まで通りと言う事だ、ただしチームで行動を促す時はメロディではなくスイート1になるから注意しろ」

 

「ごめん、アラドさんちょっと追いつかない」

 

 響は情けない声を上げて奏とエレンの方を向くと、奏とエレンは大げさに溜め息を吐く。

 

「あのね響、ミラージュさんの講義でも分隊の話は出たよ、アラド隊長さんの部隊に所属する形で私達3人が居るの」

 

「スイートリーダー=スイート1=キュアメロディ、で、私達全員で行動をして欲しい時はメロディじゃなくてスイート1って呼ばれるの、わかった響?」

 

 響は愛想笑いをしながら首を傾げ、説明をした奏とエレンは肩を落とす。

 

「響、スイートって呼ばれたら3人で行動するってだけで良いや」

 

 奏の言い方は既に投げやりだ、アラドはそんなやり取りを見てリーダーは奏にするべきだったかと少し後悔をする。

 

「アラド隊長、そうなると奏がスイート2で私がスイート3になるって思って良いの?」

 

「ああ、その通りだ3人ともよろしく頼む、便宜上の階級も用意した、北条、お前は分隊長でもあるから少尉だ、南野と黒川は准尉とする、下の階級の者はお前達に何も言えん安全策と思ってくれて良い」

 

 辞令を受け取りながら何かに気が付いた奏が、響に小さな声で話しかける。

 

「響ってばミラージュさんと同じ階級だよ」

 

 奏の言葉に響の目を大きく見開く。

 

「ミラージュと同じ階級なら普通に喋っていても誰も咎めん、もっともウチはそんな事に対して四の五の言うやつは居ないがな」

 

 響が嬉しそうに笑うのを見てアラドは懐からクラゲの干物を取りだすと咥える。

 

 アラドとの説明が一段落した事で静かに見守っていたカナメが一歩前に出て来る。

 

「貴女達には分隊と言う他にもうひとつ立場が生まれるの、ライブ中は貴女達にもステージに居て貰います」

 

 サラリと、とんでも無い事を言ったカナメに響達3人は動きが止まる。

 

「ライブ中いつ戦闘が起こるか分らないので、3人にはワルキューレの妹分としてデビューして貰うわ」

 

 ファイルを確認しながらカナメは更に追撃をする、顔を上げ3人を見渡したカナメは楽しそうに笑う。

 

「次のライブでフレイアと一緒にお披露目になるから、これからビシバシ特訓するからね」

 

「「「ウソ────!」」」

 

 響達が絶叫する中カナメは笑顔を崩さない、アラドは次のスルメを咥えながら肩を震わせていた。



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7

 カナメの手拍子に合わせカナメを除くワルキューレの4人と響達3人合計7人でダンスの練習をしている。

 

 響は自分の前で踊っているフレイアのタイミングがずれているが気に成っていると、案の定カナメから鋭い声が掛かった。

 

「フレイア!」

 

「す、すみません」

 

 フレイアは謝りながら頭を下げる、そこにカナメの叱責が入る。

 

「もう一度初めから、余計な事は考えないで」

 

 叱責を受けるフレイアに目線を送る奏、その奏の視界に不機嫌そうに髪をいじくる美雲が入り奏は渋い顔をした。

 

 

 

 シャワーの併設されたロッカールームで汗を流した後、思い思いが寛いでいる。

 

 エレンがシャワールームから首元を拭きながら出て来ると、下着の様な姿のマキナとレイナは寄り添いながら何かの端末を確認しており、カナメはラフな格好で化粧をしていた、部屋の隅に視線を動かすと下着姿の響が同じく下着姿の奏とダンスの振り付けを確認し合っている。

 

「フォールドレセプター、ノンアクティブ……生体フォールド波反応なし……」

 

 レイナの端末を除いているマキナがドライヤーで髪の毛を乾かしながら小さく呟く。

 

「なんでかなぁ……」

 

「フォールドレセプターは私達の精神に呼応して生体フォールド波を発生させるもの、戦場や命がけの状況で精神が高まった方がより力を発揮する……」

 

 カナメは化粧をしていた手を止めると、何かを思い出しているかのような口調で話す、その口振りにエレンはきっとカナメも辛い時期があったのだろうと感じていた。

 

「本番じゃないと駄目なタイプかもね……」

 

 自嘲気味に笑うカナメ、エレンは何か話すべきかと逡巡する。

 

「足元が見えていないのよ」

 

 言葉と共に現れた美雲は、頭と体にバスタオルを巻いたままの姿で出てきてエレンはギョッとした。

 

「空ばかり見上げていては飛べないわ」

 

 美雲は不敵な笑みを浮かべ言い切り、エレンはそんな美雲の言葉に昔の自分を思い出し自嘲する。

 

 

 

 いつもの練習室で、フレイアのフォールド波を計る為に1人で歌っている姿を見ながら響は心配していた。

 

 不運にも今日はミラージュとハヤテの勝負の日でもあり、フレイアにとっても大切な測定の日だからだ、響は覇気の無いフレイアの歌声を聞きながら、何か自分で出来る事は無いかと悩む。

 

 歌声が段々小さくなり、歌うのを止めてしまったフレイアを見て響はカナメと美雲に目線を送る、響と目が合った美雲は大げさに肩をすくめ溜め息を吐く、カナメも小さく首を横に振ると爪型デバイスを操作する、部屋中の壁がモニターになり外の演習が映し出される。

 

「ハヤテ……?」

 

 まるでフレイアの呟きに合わせる様にハヤテの乗るVF-1EXに無数のペイント弾が撃ち込まれる。

 

「ああぁ……」

 

 フレイアの小さな悲鳴を聞きながら、響はミラージュは絶対に容赦はしないと考えていた。

 

 最初、ミラージュから演習の相手を頼まれた時は彼女に認めて貰えたと感じ喜んだ、だがきっと自分は最後の最後で勝ちを譲ってしまうと考え、せっかくの申し出を断った。

 

 複雑な思いで画面を見ていたが一瞬ハヤテの機体の挙動がおかしくなる、響の脳裏に数日前のハヤテと飛んだ日を思い出す。

 

「まさか、AIを切ったの……」

 

 響は眉を寄せ小さく呟き、画面に向かって思わず叫んだ。

 

「ミラージュさん早くAIを入れて! ハヤテが墜ちちゃう!」

 

 響の叫びに部屋の中が一瞬静まり返る、フレイアは恐怖で表情を歪める。

 

「ハヤテが墜ちる……?」

 

 カナメは響の言葉とフレイアの呟きを聞き演習の音声を室内に流す。

 

「ブルー、高度急速に低下!」

 

「アンコントロールの模様です!」

 

 ブリッジ内の緊迫した雰囲気が伝わり固唾を見守る中、フレイアが震える自身の肩を抱きしめる。

 

「アン……コントロール……」

 

「ハヤテ・インメルマン候補生、ただちに脱出しなさい!」

 

「うるせえ!」

 

 ミラージュの指示をハヤテは即座に拒絶をした、フレイアは息を飲み、響達は墜ちて行くハヤテの機体から目を外せないでいた。

 

「負けたら飛べなくなる……」

 

 絞り出されたハヤテに言葉を聞いた奏は一瞬眉を寄せる。

 

「……ミラージュ! 強制脱出を」

 

 アラドの指示に安堵の息を漏らす一同、しかし響はモニターを睨みつけたままだった。

 

「了解……駄目ですサポートだけではなく遠隔操作も切られています」

 

 切羽詰まったミラージュの声が室内に響く。

 

「「あの馬鹿!!」」

 

 アラドと響の声が重なり室内が重苦しい雰囲気に包まれる。

 

「消化班及び救護班! 緊急待機!」

 

「「了解!」」

 

 アーネストの言葉を受けオペレーターが的確な指示を飛ばす。

 

 水面に吸い込まれる様に墜ちるハヤテ機を見ていた響は、奏とエレンに目線を向けると2人は当然の様に頷き3人は机の上に無造作に置いてあったキュアモジューレに手を伸ばす、響達の行動と同じくしてフレイアが部屋から飛び出そうとしたがその行動を止める声が室内に響く。

 

「何処に行くつもり」

 

 普通に発せられた美雲の声に4人の動きは止まってしまう。

 

「今はレッスン中よ」

 

 美雲の声は穏やかだが逆らう事は出来ない力を持っていた。

 

「でも、ハヤテが……」

 

 絞り出したフレイアの言葉に美雲は、フレイアから目線を外さないで言葉を続ける。

 

「彼は今自分の戦場で戦っている」

 

 美雲は腰かけていた手すりから滑る様に下の段に移動するとフレイアに向かって歩く。

 

「フレイア・ヴィオン、貴女の戦場は何処なの?」

 

 美雲の言葉に息を飲むフレイア、美雲はキュアモジューレを持ったまま立ちすくんでいた響達に目線を向ける。

 

「美雲……」

 

 エレンは小さく美雲の名前を呟くと、手に持っていたキュアモジューレを机に戻す。

 

「エレン……?」

 

 少しだけ咎める様な響の声色にエレンは辛そうに微笑む、2人を交互に見た奏は首を小さく横に振り響の肩に手を添える。

 

「響……薄々気が付いているよね……」

 

 奏の言葉に唇を噛み締め小さく頷く響、3人のやり取りを見ていた美雲は満足そうに微笑んだ。



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8

 体勢を立て直そうして呻くハヤテの声が室内に響く、墜ちて行くVF-1EXに手を伸ばしハヤテを助けようとするフレイア。

 

「フレイア、貴女の心は今、どこにあるの?」

 

 後ろからエレンに声を掛けられ、フレイアが振り向くとエレンは自分の胸に手を添えていた。

 

「私の心……」

 

 フレイアは小さく呟くと、エレンに倣い自らの胸に手を置く、ゆっくりと頭のルンに光が集まる。

 

「分かるでしょう、貴女の鼓動が…………それが貴女だけのビート、貴女の心の、貴女の魂のビートを信じなさい」

 

 エレンが見つめる中、奏がフレイアに声を掛ける。

 

「ねえフレイア、ワルキューレに夢を見る時間は終わっているのよ」

 

「夢が終わったん…………?」

 

 エレンと奏を交互に見つめ小さく呟き瞳を閉じた。

 

 瞳を閉じたフレイアの耳に響の優しい声色が届く。

 

「次は貴女が夢を見させる番だよ、フレイア……」

 

 響が諭す様にフレイアに言葉を掛けると、今までにないほどの光を見せるフレイアのルン、ゆっくりと瞳を開き、紡ぎ出されるフレイアの歌声。

 

 墜ちて行くハヤテに手を伸ばし思いを紡ぐフレイア、墜ちていたハヤテの機体が安定しだす。

 

 シンクロするフレイアの歌とハヤテのVF-1EX、その2人に寄り添う様に室内に流れ出すピアノの音。

 

 奏は音の主が響である事は直ぐに分かった、何度も一緒にピアノの演奏をしたのだ分からない訳が無い、奏はピアノを弾いている響を眩しそうに見つめた後、隣に座り響に合わせ連弾を開始する。

 

 エレンは連弾を始めた響と奏を見て口元を緩めると、側に置いてあったギターを爪弾きだす、フレイア、響、奏、エレン、4人の音が重なりハヤテの背中を押す。

 

「フォールドレセプターアクティブ」

 

 レイナが数値を確認し、一緒に数値を見たマキナが小さく喜びの声を上げる。

 

 カナメが安堵の息を吐くと、美雲がクスリと笑い響達を見てからフレイアに視線を動かし音源を流しだす。

 

 歌に演奏に熱がこもる、美雲は心地よい音に身を任せ聴いていたが体の疼きが止められずに4人の中に入っていく、美雲が歌いだしたのが分かったマキナとレイナも頷き合うと楽しそうに歌いだす、カナメは歌いだした仲間達を眺めた後、しょうがないといった表情をしつつも自らも歌いだす。

 

「まだ試験は終わってないぜ! 教官殿!」

 

 ハヤテはミラージュの後ろに着けると、一気に攻撃を開始するが、ミラージュはあっさり避けてそのまま激しいドッグファイトを繰り広げる。

 

 ミラージュがハヤテを完全に捕えたと思った瞬間、ハヤテは機体を強引に垂直に立ち上げる、機体全体で風を受けブレーキをかけると、ミラージュは一瞬攻撃をするのを躊躇してしまう、ハヤテはその隙を逃さずにガウォークに変形すると一気に上昇し、ミラージュの視界から逃れ太陽を背にしバトロイド形態でミラージュに強襲し、数発のペイント弾を見事に命中させた。

 

「ぃぃいょっしゃー!」

 

 室内がハヤテの勝利に沸いている中響は演奏を止めると、ミラージュの機体を何とも言えない表情で見つめている。

 

 奏とエレンは響の手が止まった事により演奏を止めるが誰も気が付いて無く、モニターに映るハヤテのバトロイドの踊りに見入っていた。

 

「響……」

 

「大丈夫、ちょっと悔しかっただけ、フレイアの背中押したけどね……」

 

「そうだね………………」

 

 奏は響の胸の痛みが理解出来ていたので言葉を続けられなかった、手を握り合うと響は力なく笑う、響と奏の肩にエレンが手を置くと、3人はただ踊り狂っているハヤテの機体を見つめていた。

 

「踊っている」

 

「ひらひら~」

 

 レイナの言葉に合わせマキナが上機嫌でクルリと回る。

 

「この子の歌で……」

 

「インメルマンダンスってとこかしら……?」

 

 カナメが感嘆の声を出し、美雲が両掌を踊る様に動かしハヤテの動きをトレースしていた。

 

 ハヤテの機体がバトロイドからファイター形態の戻り大空を翔ける。

 

 遥か上空からハヤテの機体にペイント弾が撃ち込まれメッサーの機体が迫って来た。

 

「何時まで踊っている」

 

 熱を感じさせないメッサーの声に室内が静まり返る。

 

「いきなり卑怯だぞ」

 

「それが戦場だ、正々堂々、一対一の戦いなど存在しない」

 

 メッサーはハヤテの後ろに受けるとそのままついて行く、やり取りを聞いていた響と奏の瞳が一瞬細められる。

 

「そっち最新鋭機だろう」

 

「死にたくなければ戦う術を身につけろ」

 

 ハヤテの機体がメッサーによって塗りつぶされていく、その姿を見た奏はカナメの側に近寄るとカナメは小首を傾げた。

 

「こちらの声を向こうに伝えられますか?」

 

「出来なくは無いわ、何処まで通信できるようにしたいの?」

 

 奏のいきなりの願いに戸惑いながらもカナメは答える。

 

「ブリッジ含め全てでかまいません、お願いします」

 

 頭を下げた奏を見て、カナメは小さく息を吐き通信を可能にすると、奏に目配せをした。

 

「メッサー中尉、そのまま撃ち続けて下さい」

 

 奏のありえない提案に室内が騒然とする、そんな奏を眺めながら響は、日ごろ「さん」付けで呼んでいるメッサーを階級で呼んだ事により、如何に奏がハヤテに対して怒っているかを理解し、響も語りだした奏の側に移動する。

 

「ハヤテ聞こえているよね、メッサー中尉の言葉は本当だよ、相手は力の差なんか関係なく攻撃してくるし、ましてやハヤテが強くなる事なんて待ってはくれない、今日ハヤテは何回墜ちたと思う?」

 

 奏は大きく息を吸うと更に目付きが鋭くなる、奏が声を出そうとした時、響が奏の肩を掴む、しばらく見つめ合うと奏は小さく頷いた。

 

「ハヤテは気が付いている? 今日、ミラージュさんは私達に教えてくれたマニューバしか使っていない事に、ミラージュさんはもっと色々な飛び方を知っているのに、ハヤテの知らない技術は使っていなかったんだよ、知らないよね! ミラージュさんの講義を碌に出て無いから、ハヤテ……いい加減目を覚まそうよ、これ以上メッサーさんやミラージュさんを悪者にしちゃ駄目だよ、アラドさんに誘われたのが原因でも入るって決めたのは……ハヤテだよ、忘れないで!」

 

 美雲は画面を睨みつけ鋭い声を出す響を眺めながら小さく笑みを漏らす、それを横目で見ていたカナメは、美雲と響は似た者同士だと感じずにはいられなかった。



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9

タイトルを変更しました。
よろしくお願いします。


「奏です、入っても良いですか?」

 

 奏の問い掛けに、ドアのロックが外され空気の抜ける音と共にドアが開く、奏はその動きを見ながら、自分が違う世界に来てしまっていると嫌でも感じてしまう。

 

「どうした、入って来ないのか?」

 

 中の人物から催促され、奏は慌てて室内に足を進める、室内に入り見渡すと、アラドにカナメ、そして目的の人物であるメッサーも居た。

 

「南野、なかなか派手にやったな」

 

 目の前に来た、奏に対して心底楽しそうにアラドが笑い掛けると、奏は一度足を止めアラドに目線を向けた。

 

「ハヤテには、思う所もあしましたし、それに響ほどじゃありませんよ」

 

「違いない、しかしすまないな、本当は俺達がしなきゃならん話だった」

 

 先程までの、気軽い雰囲気は成りを潜め、鋭い眼光のアラドに奏は小さく息を呑む。

 

「越権行為……て言うヤツでしょうか…………?」

 

「軍隊なら、な、だがここはケイオスだ、南野だってそれを踏まえた上で、ブリッジにも音声を流したのだろうが」

 

 アラドの見透かした視線に晒され、奏は少し居心地の悪さを感じる。

 

「そう身構えるな、問題が合ったのならあの時点で止めている、お前達3人には、その辺も含めて期待している、本当に不味い時はちゃんと止めるから安心しろ」

 

 アラドが、乱暴に奏の頭を撫でると、奏は少し気恥ずかしそうにする。

 

「アラド隊長、セクハラです」

 

 カナメの冷たい声に、アラドは慌てて頭の手を放すと、両手を上げて顔を引きつらせた、奏は照れを隠すかの様に、掌で髪を撫でつけるとカナメに軽く頭を下げる。

 

「響達と一緒に行かなかったの?」

 

「はい、私はこちらに用事がありましたので」

 

 カナメとやり取りしながら、落ち着きを取り戻した奏は、メッサーの前に移動すると、メッサーは目を細め奏を見下ろす。

 

「何の用だ」

 

 突き離すようなメッサーの言葉に、奏は臆した様子は無く笑みを浮かべる。

 

「今日は、無理なお願いを聞いて下さって、ありがとうございます」

 

「任務だ、礼を言う必要はない」

 

「それでも、お礼は言わせて下さい、ありがとうございます」

 

 頭を下げた奏に、メッサーは小さく息を吐く。

 

「南野の狙いは俺と同じだ、だから隊長も止めなかった、そう言う訳だ頭を下げるな」

 

 メッサーの言葉に、奏は頭を上げそのまま笑いかける。

 

「もう行け、北条達が心配する」

 

「メッサーさん、今度色々と話をさせて下さい」

 

 奏の言葉に、メッサーは眉を寄せるが、奏は気にした様子は見られずに、更に言葉を続ける。

 

「私達が、戦う時にどうやって協力し合えるか、アラド隊長さんともお話してありますが、メッサーさんのお話もお聞きしたいんです」

 

「それは北条が、考えるべき事だ」

 

 メッサーは奏を見据え言い放つが、奏は首を少し傾げる。

 

「響にお願いしても良いですが、でも響は感覚で動くから…………」

 

 目を伏せ申し訳なさそうに話す奏に、メッサーの表情は少し険しくなる。

 

「メッサー君、これは私の勘だけど、多分響は美雲と同じタイプよ、奏と話し合った方が良いかな、なんなら私も同席するし、彼女達の中では奏が一番の適任よ」

 

 カナメは、言い終わると奏に軽くウインクをする、奏はその姿に一瞬、胸がドキリとなり頬が熱くなるのを感じ、それを隠す為に笑おうとしたが、少し引きつってしまい、やり場のない感情を持て余していた。

 

「分かった、訓練の合間に時間を作る、南野以外に同席者が居ても構わない、それで良いな」

 

 奏は、メッサーの言葉を受け小さく笑い、全員に会釈をすると足取りも軽く部屋を出て行く。

 

 カナメは、そんな奏を見送りながら、まるでデートを約束を取り付けた後の姿に見え、思わす小さく吹き出した。

 

 

 

 

 

 

 日が傾きだした中、3機のバルキリーは飛行甲板に静かに佇んでいた、その側ではフレイアと整備班達がハヤテの勝利に沸いている。

 

 響は、横目でその姿を見ながら、自分の愛機から降りて来ない、ミラージュを心配してバルキリーに掛けられたタラップを昇り、キャノピーを軽くノックした。

 

 ヘルメットを外し、膝の上に置いていたミラージュが面倒くさそうに顔を上げ、目が合うと響は小さく頭を下げる。

 

 ミラージュはキャノピーを開くと、目線を反らしながら自嘲した。

 

「情けない所を見せたな」

 

 ミラージュの言葉を聞いた響は、首を横に振る。

 

「情けなくなんかない、ミラージュさんが手を抜いていないのは、私にだって分かってる…………」

 

「だが、負けは負けだ、みっともない、やはり私は…………」

 

 ミラージュはうつむくと、弱々しく答え小さなため息を吐く。

 

「そんな事ない、ミラージュさん……自分を責め過ぎちゃ駄目、お疲れ様、本当に格好良かったよ」

 

 響は、ミラージュにタオルを渡すと、タラップから飛び降りた。

 

 ミラージュは、渡されたタオルとしばらく見つめると、軽く汗を拭いバルキリーから降りる。

 

「お疲れ様」

 

 ミラージュは、エレンに飲み物を差し出され一瞬戸惑うが、小さく息を吐くと、それを受け取った。

 

「色々と考える事もあると思うけど、私は立派だと思う、響が貴女を気にする気持ちが少しは分かったわ、ミラージュ、改めてよろしく」

 

 ミラージュは、差し出されたエレンの手を取り握手する、その姿を隣で見ていた響は満足そうに笑っていた。




お読み頂きありがとうございます。

旋風ドッグファイト終了となります、お付き合い頂きありがとうございました。

宜しければ次回もお付き合い頂ければ幸いです。


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衝撃デビューステージ
1


『ワルキューレの新星フレイア・ヴィオン、そのデビューステージが明日惑星ランドールでのワクチンライブと大決定、なおチームリーダーのカナメ・バッカニアによると、別のサプライズも用意しているとの…………』

 

 流れていたニューズ番組をエリザベスが消すと、後ろを振り返り嬉しそうに声を上げて笑う。

 

「あー、思い返せばワルキューレ結成への協力を…………」

 

 アーネストの、長い挨拶に空気が白けだし、何とも言えない雰囲気になってしまう。

 

「と、言う訳で!」

 

「フレフレとハヤハヤ、あとキュアキュア達のデビューをお祝いして」

 

「「カンパーイ!」」

 

 アーネストの前に入り込んだ、マキナとニナが強引に乾杯の音頭を取る。

 

「ようこそ! ケイオスへ!!」

 

 一同の声が揃い乾杯が始まる、カナメも上機嫌でグラスを掲げ、メッサーも小さくグラスを掲げる。

 

 裸喰娘娘の店内が一気に騒がしくなる、奏はジュースに口を付けながらこんな大人数のパーティーは自宅の店舗で開催された王子(あこがれの)先輩の誕生日以来だなと感じていた。

 

「フレイア・ヴィオン、命がけで頑張ります!」

 

 滝の様に涙を流しつつフレイアは、敬礼をしながら宣言した、周りが囃し立てる中、ハヤテは呆れがながら溜め息を吐く。

 

「プリキュアの3人からも一言を!」

 

 チャックが囃し立て、周りもそれに便乗する、響達は顔を見合わせると頷き合う。

 

「えっと、音楽の街、加音町から来ました北条響です、変身後はキュアメロディです」

 

「響と同じ加音町から来ました、キュアリズムこと南野奏です、よろしくお願いします」

 

「音楽の都メイジャーランドのエレン、キュアビートよ、よろしく」

 

「セイレーン、もっと笑顔で挨拶するニャ、あ、ハミィの名前ハミィニャ」

 

 ハミィの挨拶が、一部のネコ好きの心を鷲掴みにし奇声があがる、その奇声が合図となり、歓迎会はさらに賑やかになっていく。

 

 ベスが何杯ものジョッキを空け、そのたびに小さな歓声が上がる、その直ぐ脇ではアーネストが整備班の2人と腕相撲気に興じ圧勝を重ね、チャックは弟達次々に料理を運んでいる、響はそんな喧騒を楽しんでいた。

 

「ねえ、響、奏は何処に行ったの?」

 

 エレンが手に皿を持ち、別卓に座っていた響に近づきながら聞くと、響は厨房の方を指さしながら慌てて口の中の物を飲み込む。

 

「料理手伝うってさ、あとカップケーキ焼くみたい、久しぶりの奏のカップケーキと料理が楽しみだから、少し食べる量控えてるの」

 

 エレンは既に空になりだしている大皿と、脇に置かれた取り皿の山を見ながら溜め息を吐く。

 

「響はそんなに食べて大丈夫なのか?」

 

 ミラージュが、響の食べる量に少し引きながら聞くと、響はサムズアップで答え、食べる手を止めない。

 

「リズリズって料理得意なんだ」

 

「カップケーキ……久々」

 

 マキナがレイナの手を取り喜んでいる隣で、フレイアが緊張気味の声を上げる。

 

「もう直ぐワクチンライブか…………」

 

 フレイアの言葉を聞いた響は、思わず箸を止めるが、エレンは全く動じていなかった。

 

「ランドール自治政府からの要請、最近ヴァールの発生危険率が上がってきたからって」

 

 マキナの説明に、ハヤテの眉間に皺が寄る。

 

「でも、そもそも何でライブなんだ? 録音して放送とかじゃ駄目なのかよ」

 

「多分、生歌じゃないと意味が無いのよ、じゃなければ戦場で活動なんてしてないと思うわ」

 

 グラス片手に、エレンが自分の予想を話すと、マキナはエレンに笑いかける。

 

「レンレン正解、私達が歌うと生体フォールド波って言うのが発生するの、で、それがヴァールに効くんだけど録音したりデータ化すると効力激減」

 

 マキナの説明に、響が顔を上げ天井を見上げながら何かを考える。

 

「歌声に力って事ね……幸せのメロディとは違うんだね」

 

「そうね響、幸せのメロディは楽譜そのものに力が合って、歌姫が引き出して初めて効力が出るわ」

 

 響とエレンの会話に、マキナとレイナは顔を見合わせ、フレイアとハヤテは首を傾げる。

 

「レンレン、幸せのメロディの事詳しく教えて」

 

「気になる」

 

 エレンは、マキナとレイナににじり寄られ、愛想笑いをしながらも手を顎に添える。

 

 

 

「幸せのメロディは、メイジャーランドで年一回歌われる、世界を幸せにする力を持つ楽譜なの。

 

 その楽譜の歌を歌う事により世界は幸せに包まれるわ。

 

 楽譜に書かれている音符は不安定で年に一度、その年に選ばれた歌姫が楽譜に音符を定着させていたの、それは長い間の決まりごと」

 

 エレンは一度全員を見渡すと、小さく息を吐く。

 

「だけど幸せの裏には悲しみがあって、その悲しみが力を持ち『ノイズ』という存在が生まれてしまった。

 

 当時、今もそうだけれどメイジャーランドの国王、メフィスト様がそのノイズに操られ幸せの楽譜を奪い、不幸のメロディに書き換えようとした………………」

 

 エレンはそこまで説明すると水をひと口飲み目を瞑る、響は辛そうに話しているエレンの手を握るとエレンは響を見て微笑み頷いた。

 

「不幸のメロディになる直前に、女王アフロディテ様の手により音符達は、響達の住む加音町にばら撒かれたの」

 

「レンレン、どうして世界中じゃなくてじゃなくて、街だけだったの?」

 

 マキナの質問に、エレンは少し目を伏せる。

 

「加音町には、メイジャーランドの前国王様が住んでいてノイズ復活を予見し、打倒ノイズの準備を始めていたから」

 

 ここまで話を聞いていたレイナは、首を傾げるとエレンに向き直った。

 

「なんで皆はプリキュアになったの」

 

 レイナが、抑揚の少ない声で尋ねると、ハミィがテーブルに飛び乗る。

 

「それは心の中に同じしるしと、音楽を愛する心が有ったからニャ」

 

「「しるし?」」

 

 マキナとレイナは、声を揃えていきなり説明に入り込んだハミィに訊ねるが、ハミィは「ハモッたニャ」と喜び響とエレンは顔を見合わせ笑い合う。

 

「ハートマークのついたト音記号よ、それがキュアモジューレに変わったの」

 

 エレンはハミィを抱き寄せながら説明し、机の上に響はキュアモジューレを置くと、マキナが手に取り眺め眉を寄せる。

 

「作りが全然分からない…………」

 

 呟いているマキナから、レイナがキュアモジューレを受け取ると小さく笑う。

 

「温かいピリピリする……良い気持ち…………」

 

 レイナは大切な物を守るかのように、キュアモジューレを胸に抱く。

 

「そんなかんなで色々あって、私達は幸せのメロディを完成させて戦いは終わったの」

 

 キュアモジューレを受け取りながら響は、これ以上話が進みエレンが自分の過去の話をする前に強引に話をまとめた。

 

「ヒビヒビ、ちょっと投げ遣りだー」

 

「辛い事とかもあったから、あまり話したくないよ…………」

 

 マキナが頬を膨らませて響に文句を言うが、響は誤魔化す様に愛想笑いをする。

 

「ごめんなさい、響を責めないで説明できないのは私が…………」

 

「エレン!」

 

 エレンが話そうとするのを、響が強い口調で止める、一瞬、会場が静まり返るが直ぐに元の喧騒に戻る。

 

 響は同じテーブルのミラージュ、フレイア、マキナ、レイナ、ハヤテ、そしてエレンの6人に見つめられるが、気にした素振りも見せずに眉を寄せ、エレンを見つめた。

 

「エレン、その先はダメだよ」

 

 エレンは、響の言葉を受け俯いてしまうが、響はエレンを優しく抱きしめる。

 

「エレンは凄く頑張ってる、だからお願い、もう自分を責めないで」

 

 その姿を見たミラージュ達は、何も言えないでいた。



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2

「話してる最中にごめんね、響ちょっと良いかな?」

 

 声を掛けられた響はエレンを離しながらミズキに顔を向ける。

 

「何? ミズキ」

 

 余り接点の無いミズキに声を掛けられ響は小首を傾げる。

 

 ミズキは少し酔っているのか顔が少し赤くなっており、その手にはアルコールの入ったグラスが持っていた。

 

「響って、柔道の試合で艦長を投げたって本当?」

 

「艦長? あぁ、アーネストさん? うん、投げたよ」

 

 何でも無い様に響は答え、取り分けておいた料理を口に運ぶ。

 

「本当だったのね……ね、どうやって投げたの?」

 

「どうやってって、んー」

 

 箸の先端を咥え斜め上を見ながら少し考えだす響。

 

「アーネストンさん大きいし力もあるから、懐に入り込んでアーネストさんの勢いを利用して、えいって投げた」

 

 響の話を聞き騒然とする一同、ミズキは眉間にしわを寄せながら響に顔を寄せると、響はミズキから漂って来るアルコールの匂いに驚き、取り違えない様に自分のグラスを引きよせた。

 

「えいって……そんな簡単な話し? 艦長二メートル越えよ、怖くないの?」

 

 簡単に話す響に呆れ顔のミズキ、響は自分のグラスに口を付けると半分ほど勢いよく飲む。

 

「大きいけど、戦っていた相手はバルキリーぐらいの大きさがほとんどだったし、それとアーネストさん迫力が凄かったから、かえって燃えた」

 

 響はグラスに残っていた残りを全て喉に流し込む、響の話に対してエレンも特に突っ込まない事からテーブルに居たミズキ達は何とも言えない雰囲気に成ってしまう。

 

「ねえ、みんなも歌うの?」

 

 気まずい雰囲気を打ち破ったのはチャックの妹のエリザベスだった、いつの間にかテーブルに寄って来ており無邪気に問いかけて来る。

 

「いいや、俺はエアショーをするんだ」

 

 ハヤテが、普段見せない優しい表情でエリザベスに答えると横目で響に目線を送る。

 

「私達はワルキューレの後ろで演奏するんだよ」

 

 響はエリザベスに笑い掛けながら教える、響の言葉を聞きエリザベスの目が輝く。

 

「ワルキューレと同じステージなんてすごい」

 

「エリザベス、まだ秘密だから内緒だよ」

 

 エレンが少し笑いながら話すと、エリザベスは大きく頷き嬉しそうにテーブルから移動する、小走りで走ってくエリザベスを見送った後に、ミラージュがテーブルに目線を送りながら少し雰囲気を変える。

 

「例のアンノウンが現れる可能性もあります、気を抜かず私の指示に従う様に」

 

 ミラージュの真剣な声色に響とエレンは表情を引き締めるがハヤテは何時ものペースを崩さない。

 

「ほいな、ほいな」

 

 真剣味のかける返答にミラージュは眉を寄せるがフレイアがハヤテを睨む。

 

「あー、それもしかして私の真似?」

 

「さあねえ」

 

 ハヤテとフレイアのやり取りを見ていたミラージュは表情を曇らせる、響は自分の皿に料理を乗せながらもミラージュに声を掛ける。

 

「任せてミラージュさん」

 

 響はミラージュに笑いかけると悠然と食事を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

「で、レディMは何だって?」

 

「フレイアの能力が安定するのを持っている時間は無いって…………」

 

 アラドとカナメがカウンターで少し近づきがたい雰囲気を醸し出しながら会話を始めていた。

 

「荒療治か……フォールドレセプターの話は?」

 

「今はまだ…………」

 

 アラドの問い掛けにカナメは少し俯き小さく呟く。

 

「ハヤテ君には?」

 

 俯いていた顔を上げアラドに問いかけるカナメ。

 

「こっちも、まだだ」

 

 アラドがグラスを軽く揺らすと氷の澄んだ音が踊る。

 

「あと、響達については?」

 

「可能な限り手元に置いておく様にと、報告には彼女達のDNAデータも添えてあります、彼女達と私達のDNAは変わり有りませんでした」

 

 溜め息を吐きつつアラドがグラスを傾け口を湿らせ、虚空を見つめる。

 

「異世界人って言い方で良いのか分らんな、それとプリキュア件は何か言っていたか」

 

「戦闘データも出来るだけ集めて欲しいと、前回の戦闘データを私達のも含め送ってあります」

 

「データ収集……ね、確かにあの力は野放しに出来んしな」

 

 グラスを置くとアラドの視界にメッサーが入り、半身を向けるとカナメもそれに倣いメッサーに視線を向けた。

 

「戻るのか?」

 

「たまにはゆっくりしてったら」

 

「いえ、基地で待機しています」

 

 アラドとカナメに答えるメッサーの表情は柔らかい、カナメはそんなメッサーを見ながら周りにも今の表情で付き合えばいいのにと思わずにはいられない。

 

「そうか……」

 

「お疲れ様」

 

「メッサーさん待って下さい」

 

 踵を返し店から出て行こうとしたメッサーを呼び止める声に、アラドとカナメにメッサーは声の方に振り向くとそこには奏が立っており、手に紙袋を持っていた。

 

 少し大股でメッサーに近づくと奏は手に持っていた紙袋を強引にメッサーに押し付ける。

 

「何だこれは」

 

 紙袋を手に訝しむメッサーに、奏は笑顔を向けた。

 

「サンドイッチとカップケーキです、もしかすると先に帰られると思ったので夜食です、カップケーキは甘さ控え目なのを入れてあります、メッサーさんに私の気合のレシピ見せてあげます」

 

 奏は少し胸を張りふんすと鼻を鳴らすと、取り付く島も無く厨房に戻っていく、カナメは声を殺して笑っておりアラドは肩を揺らしていた。

 

「メッサーお前の負けだ、持って行ってやれ、食ったら感想ぐらい言えよ……ククク」

 

 アラドの言葉にメッサーは憮然としながらも紙袋を手に持ち店を出て行く。

 

 少し遠くでマリアンヌが絶望的な表情をしていたのを誰も気が付かなかった。

 

 

 

 

 

「少し、良いですか」

 

 奏が、3人分の飲み物と数種類のカナッペを盛った皿を乗せたトレイを持って立っており、アラドとカナメを見ていた、アラドは席を移動しカナメとの間を開けると奏を促す。

 

「話ってのはなんだ」

 

「ミラージュさんの座学から少し気になる事がありまして、ヴァリアブルファイター(可変戦闘機の歴史)について少し調べたんです」

 

 少し眉を寄せ言葉を選んでいる奏を横目で見て、アラドは奏の持って来たグラスに口を付けた。

 

「アル・シャハルでの戦闘で上空に居た所属不明機の事ですが、少し気になる事があるんです、それは………………」

 

 

 

 

 

 

 

「ううぅぅぅ……お腹が……ゴリゴリ…………」

 

 裸喰娘娘のテラス席に移動した響達は、テーブルに突っ伏して呻いているフレイアに呆れていた。

 

「ほら、食いすぎだっつうの」

 

 ハヤテがフレイアの目の前に飲み物を置く、その脇にはカップケーキの残骸が幾つも置いてあった。

 

「あれだけ食った後に、それだけカップケーキ食べればそうなるだろ」

 

「だって美味しかったんだもん」

 

 テーブルに突っ伏したまま情けない声で言い訳をするフレイアが、のそりと起きてグラスに手を伸ばす。

 

「あんがと」

 

 ハヤテの用意した飲み物を一気に飲むフレイア、ルンが小さく光りフレイアが元気になっているのが分かる。

 

「うん、あぷじゅー!」

 

「アップルジュースな」

 

 ご機嫌なフレイアに呆れたハヤテの突っ込みが入る、2人の様子を見ていたマキナがフレイアに言葉をかける。

 

「ラグナにもなれたみたいね」

 

「ほいな、何だが私の村に似ている気がするんよ」

 

 フレイアが少し遠くを見つめ懐かしむ。

 

「それって、ウィンダミアの」

 

「風がすっごく気持ちよくって、空も大地も真っ白で雪が積もってリンゴ畑があって……」

 

 フレイアは、瞳を閉じ故郷の情景を浮かべながらひとつひとつ愛おしそうに言葉を紡ぐ、その姿を見ていた響は、今は遠い自身が住んでいた街『加音町』を思い出す。

 

「あんまり」

 

「似ている要素ないけど……」

 

 マキナとレイナが首を傾げながらぼやく。

 

「え? ……ぁ、本当だ、何でかねぇ」

 

 フレイアは後頭部を掻きながら照れ笑いを浮かべる。

 

「雰囲気が似ているのよ、きっと」

 

 後ろから掛けられた言葉に全員が振り向くと、エレンがコップを人数分乗せたトレイを片手に立っていた。

 

「雰囲気……?」

 

 フレイアの呟きを聞きながらエレンは響の前にコップを置くと、両手を出したマキナにトレイを渡しながら思案顔になる。

 

「そう、フレイアに分かりやすく言うと、多分……街の風が似ているのよ」

 

 顎に手を添え考えていたフレイアは、エレンの付け加えた言葉に大きく頷く、そのやり取りを見ていたハヤテは、会話から逃れる様に夜の海を眺め物思いに耽る。

 

「故郷か…………」

 

 小さく呟かれたハヤテの言葉は海風にかき消され誰の耳のも届かなかった。

 

 響は会話に加わらず加音町に思いを馳せていた、少し前までは嫌いだった音楽の街、生まれた事を疎ましく感じた時期もある、だが色々な経験を積んで好きになったあの街の、今は全てが懐かしい。

 

 響は、手に持ったカップケーキを一口で頬張ると、望郷の念と一緒に飲み込む。

 

 瞼に残るはアル・シャハルでの光景、街は炎に包まれ、瓦礫の影で泣いている幼子を抱きしめた、だから今はこの世界の事だけを考えよう、プリキュアの使命は人々の心を守る事なのだから。




色々とキャラ崩壊を起こしておりますが、タグ追加した方が良いですかね。

エレンがクール系に成りつつあったり、響はミラージュになついたり、しかし、一番書いていて驚いたのが、奏がやたらとメッサーに絡む絡む、此からもこのような感じて進んでいくと思いますが、お付き合い頂けましたら幸いです。

後、個人的には最後の部分が特に気に入ってます、皆さんにも気に入って頂けたら嬉しいです。


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3

『アイテール分離、重力制御異常なし』

 

『フォールドエネルギー、コンデンサより順次開放』

 

『恒星間航行モード始動、アイテール、トランスフォーメーション開始』

 

『艦内重力制御モードC、ヒートパイルクラスター接続、各部異常なし』

 

『現在フォールド航行中、デフォールド予定時刻まで30分』

 

 艦内放送が流れる廊下を響は何時もより大股で控室に向かっていた、その後ろを奏とエレンが遅れない様に早足で歩く。

 

「響、そんなに怒ったって状況は変わらないよ」

 

 不機嫌さを隠す様子も無く荒々しく歩く響に、奏は溜め息混じりに声をかけると響は勢いよく振り返る。

 

「だってアラドさんもメッサーさんも信じてくれないじゃん! 私嘘なんて言って無いのに!」

 

「いきなりあんな話を信じろと言っても無理だよ、それに私達だってひかる達から聞いた時、最初は信じられなかったでしょう」

 

 奏の発した言葉に響は一瞬言葉に詰まり、ばつの悪そうな顔をした。

 

「そうだけどさぁ、信じて貰えると思ったんだよ、ミラージュさんからあの話を聞いた時はさ」

 

「短時間で、出来る人も限られている、って言ってたでしょう」

 

 口を尖らせた響を、エレンが宥めながら奏に目線を送ると、奏は分かっているとばかりに頷いた。

 

「今日のライブが終わったら、もう一度私からも話をするからって、フレイア?」

 

 奏は思い詰めた表情で歩いていたフレイアを見つけ、響に掛けていた言葉を途中で飲み込む。

 

 いぶかしむ奏に響も奏の目線を追うが、響が見たのは、角をまがったフレイアの背中だけであった。

 

「格納庫…………」

 

「ええ、きっとそうよ」

 

 奏の発した独り言にエレンが合いの手を入れる、2人の話を小耳にはさみながら響は、格納庫に行くべきかと思案していた、きっとデルタ小隊の皆は出撃前で集中力を高めている筈だ、その邪魔だけはどうしてもしたくは無い。

 

「どうしよう…………」

 

「響?」

 

 小さく呟いた響に奏が声をかけるが響は一向に返事をしない、奏は眉を寄せると響の肩に手を置いた。

 

「わっ、びっくりした、何? 奏?」

 

「何じゃないよ、気になるんでしょう?」

 

 奏は、分かっていると言わんばかりに、響を促す。

 

「気になるけど、出撃前の邪魔はしたくないよ……」

 

「なら、むしろフレイアを止めないと不味くない?」

 

 2人の会話を聞いていたエレンが言葉をはさむと、響は一瞬虚を突かれた顔をしたが、直ぐに表情を改めて格納庫へ早足で向かいだす、その姿を見た奏とエレンは軽く笑うと、響に追いつくために小走りで足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

「飛べば飛べる! 人生30年! 考えてる暇があったら飛び続けんとやね」

 

 格納庫から聞こえたフレイアの言葉に響達の足は止まり、お互いの顔を見合わせた。

 

「……30年?」

 

 絞り出す様に奏が呟くと響が眉を寄せる。

 

 ハヤテに感謝の言葉を述べ、意気揚々と格納庫から小走りで去って行くフレイアをつい見送ってしまう。

 

「行こう」

 

 響は一度大きく深呼吸をし、格納庫へと入って行く。

 

 見た事のないカラーリングを施されたバルキリーの側に居たのは、ミラージュとハヤテ、整備兵のガイとハリーだった。

 

「ミラージュさん出撃前にゴメン、今の話ってどう言う意味?」

 

 訓練中稀に見せる表情で、話しかけて来た響にミラージュは一瞬目を伏せたが、覚悟を決め顔を上げる。

 

「良い機会だから教えておく、だが、同情はするな、良いな」

 

 ミラージュは、響達を見まわし一度咳ばらいをする。

 

「ウインダミア人は、身体能力の高さと引き換えに短命な種族、平均寿命は…………30年だ」

 

 響はミラージュの話を聞き、知らず知らずのうちに喉を鳴らす。

 

「30年って…………どうにもならないんですか? だって……ワープだってあるじゃないですか!」

 

 ミラージュに詰め寄るとその腕を掴み響は声を荒げる、その姿を見たハヤテとハリー俯きガイはきつく目を閉じた。

 

「科学技術凄いんでしょう!」

 

「同情はするな、と言ったはずだ」

 

 ミラージュの腕にすがり、懇願するような叫びを上げた響に、間髪いれずミラージュは無表情で言い放つ。

 

「響」

 

 エレンは響の肩を掴むと、強引に自分の方に体を向けさせ抱きしめた。

 

「フレイアは全てを受け入れてこの場に居るはず、その思いを、気持ちを踏みにじっては駄目」

 

「そうだよ響、響がフレイアを大切に思う様に、ミラージュさんもハヤテも、ううん、エリシオンの全ての人達がフレイアを大切に思っている筈、なら私達に出来る事をしようよ」

 

 奏の声色は優しく温かさを感じさせた、その声は側に居たハヤテやガイ達、そしてミラージュの心をも癒していく。

 

 響とエレンを抱きしめた奏の姿を見たミラージュは、温かい気持ちに包まれる、何にでも全力な響、その響を理解し、寄り添っている奏とエレン、ミラージュは如何に自分が他人と距離を取っていたのかを思い知る。

 

 ミラージュの祖父母は伝説のエースや天才と呼ばれ、響の両親も世界的な音楽家と聞いている、なのに響はそれ受け止め、自分の音楽に対して糧にしている、だがミラージュは人に頼る事も無く1人で模索していた。

 

 響達と出会う事でミラージュの心が変わりだしていたが、ミラージュ本人はその小さな変化に気が付いていなかった。



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4

「フレイア、貴女はどんな思いで歌うの?」

 

 ライブ会場上空に差し掛かる直前に、美雲からの唐突な質問。

 

「え……どんなって…………」

 

 正面から見つめてくる美雲の雰囲気にのまれフレイアの足が震えだす、逃れるかの様に目を伏せ言葉に詰まっていると、それを知ってか知らずかマキナが小首を傾げた。

 

「じゃあ、クモクモはどんな思いで?」

 

 美雲は、美しい切れ長の瞳をマキナに向けると薄く笑い、ゆっくりとフレイアに視線を戻す。

 

「そうね、今日私を満足させられたら教えてあげる、出来なければ貴女はワルキューレに必要無い」

 

 息を呑むフレイアを美雲は楽しそうに眺める、果たしてフレイアはワルキューレに必要なのか、否、自分の隣に並びうる人物足るか。

 

「それに貴女達もね」

 

 意味深な目線を響達に向けた美雲は挑発的な笑みを浮かべた、響は逃げる事無く美雲の視線を受け止める。

 

「私は難しい事は言えないよ、でもね、私は音楽を楽しむ、だって……音を楽しむのが音楽だよ、それに音楽はそれだけで雄弁に語るからね」

 

 奏は力強く宣言した響に頼もしさを感じる、音楽一家に生まれ才能を開花させる前に音楽を嫌いになった、だが色々な経験をして音楽に帰って来てくれた、才能の蕾も膨らみ出した、そんな響と喧嘩も沢山した、角付き合った時期もある、だからこそ、だからこそ響と奏は強い思いで結ばれた。

 

「音楽は音の結晶……そして空気の詩、草のそよぎにも、小川のせせらぎにも耳を傾ければそこに音楽はある」

 

 奏は響の手を握ると響も握り返してくる、奏は頭の片隅で美雲の質問に答えては無いな、と思いながらも自分の音楽に対する思いを語って見せたる。

 

「二人は歌い手って言うより演奏者だからね」

 

 エレンは、響と奏に温かい視線を向け、2人の肩に手を添えながら一同を見渡す。

 

「私は人々の幸せの為に歌う、全ての人達が平和に歌える世界の為に、人は幸せだから歌うの訳じゃないの、歌うから幸せなのよ」

 

 異世界から来た3人の思いを聞いた美雲は、得も言われぬ気持ちに包まれる、腕を組み冷静を装いつつも激しく燃え盛り出した心に酔い出していた。

 

 フレイアは息を呑んだ、3人の思いを聞いて足元がぐらつきそうになる、助けを求める様に視線を彷徨わせれば、エレンと視線が絡み合う。

 

 モノレールで行われた最終試験、恐怖で足が竦んだのを救ってくれたのはエレンだった。

 

 

 

 

 

「貴方にも叶えたい夢があるのでしょう! こんな所で終わってしまって良いの?! 心を強く持ちなさい!」

 

「貴女の鼓動が…………それが貴女だけのビート、貴女の心の、貴女の魂のビートを信じなさい」

 

「フレイア、ワルキューレに夢を見る時間は終わっているのよ」

 

「次は貴女が夢を見させる番だよ、フレイア」

 

 

 

 

 

 エレンだけじゃない、響も奏も何時も自分の背中を支えてくれていた、自分と年が変わらない3人の背中が霞むほどに遠い、でも追いつきたい、プリキュアにも、ワルキューレにも、目を瞑り一度深呼吸をしフレイアはゆっくりと瞳を開けた、その瞳からは迷いは消えており足の震えも止まっていた。

 

「さ、話はもう良い?」

 

 カナメが全員を見渡し確認すると皆が頷き円陣を組む。

 

「響、奏、エレン、貴女達もいらっしゃい、貴女達はプリキュアなのでしょうが、ステージの上では私達と同じワルキューレよ、忘れないで」

 

 カナメは、響達の返事を聞かずに皆の中央に指でWを作り差し出す、次々と差し出されるW達、最初に動いたのはやはり響だった、少し顔を赤くしながらも皆と同じように指でWを作り差し出すと、奏とエレンもそれに倣う。

 

 カナメがもう一度皆を見渡すと、大きく息を吸った。

 

「じゃあ! 行くわよ!」

 

 カナメが気合を入れる。

 

「銀河のために!」

 

「誰かのために!」

 

「今、私たち!」

 

「瞬間完全燃焼!」

 

 マキナ、レイナ、フレイア、美雲が宣言しワルキューレ全員の視線が響達に注がれ響は小さく頷いた。

 

「ここで決めなきゃ女がすたる!」

 

「気合のレシピ見せてあげる!」

 

「心のビートはもう止められないわ!」

 

「「「「「「「「GO!」」」」」」」」

 

「「「「「「「「WALKURE!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 デルタ小隊が、カラフルなスモークの尾を引きながら、華麗なアクロバット飛行を披露し、ワルキューレの乗った、専用機の後部ハッチがゆっくりと開くと、機内にエンジン音に負けない大歓声が聞こえ、フレイアは喉を鳴らした。

 

 フレイアは、緊張と恐怖に捕らわれ出していた、少しずつ早鐘を打ち出していた心臓が、今は既に全力疾走しているかのように暴れ、フレイアの視界はドンドンと狭くなっていく、そんなフレイアを知ってか知らずか、ワルキューレのメンバーは後部ハッチに移動しだす。

 

 吹き付ける風にフレイアの小さな体は煽られる、そんなフレイアの肩と背中に3本の掌が添えられた。

 

「大丈夫だよ、フレイア」

 

 奏が、安心させるような温かい声を掛ける。

 

「フレイアなら出来る、コンテスト(オーディション)を見ていた私が保証するわ」

 

 フレイアはあの日のエレン(力をくれたビート)の背中を思い出す、ゆっくりとエレンに視線を向けると、エレンは優しく微笑んだ。

 

「先に下で待っていて、直ぐに行くから」

 

 響がまるで、一緒に遊びに行く約束をするかの様な気軽さで声を掛けた。

 

 フレイアは一気に視界が広がり、五月蠅かった心臓の音も今は全く気にしなくなっている。

 

 カナメ達は、そんな4人の見ているだけで照れそうな遣り取りに胸が温かくなっていた。

 

 次々と後部ハッチを蹴って飛び出して行くワルキューレ達、フレイアは自分の番になった時に一度響達に振り向く。

 

「先に下で待っているかんね」

 

 それだけ言うと、フレイアは力一杯ハッチを蹴って飛び出して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 機内に、ワルキューレの登場により会場が爆発したような歓声が届き、続いてワルキューレの歌が流れだし、会場がにいかに沸いているかがうかがえる。

 

 大きく旋回した専用機が、再び会場の上空に差し掛かると、機内に風が入り込み、響達3人の髪が大きくはためく中、響は乱れ舞う髪を気にした様子も無く大きく伸びをした。

 

「練習の成果、見せますか」

 

 何処までも気軽な態度の響に、奏とエレンは小さく声を上げて笑い、響も声を出してしばらく笑うと、3人の顔付きが一気に変わり、3人同時に駆けだした。

 

「「「レッツプレイ! プリキュア・モジュレーション!」」」

 

 キュアモジューレが激しい光を放ち、響達はその光りと供に大空に舞った。



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5

久し振りの更新と成りました、ここ暫くはコロナや豪雨災害等色々とありましたが、如何お過ごしですか?
少しでも違和感を感じましたら無理などなされないようにして下さい。

ここすきボタンなるものが出てきました、宜しければ皆さんのお気に入りの部分を教えて頂けませんか?

よろしくお願いします。



「次の曲に行く前に、皆にもうひとつ報告する事があります!」

 

 そう宣言するとカナメは上空に戻ってきた専用機を高らかに指さした。

 

 専用機からマゼンダ、ホワイト、ブルーに輝く3つの光が飛び出す、ワルキューレのそれとは違う光に会場はざわめき、固唾呑んで見守るなか降りて来た影は、ステージの上で円を描いていたドローンの上に舞い降りた。

 

「彼女達3人は、今まで秘密にしていた私達の妹分に成ります! フレイア同様皆さん! 応援をお願いします!」

 

 両手を広げ紹介するカナメを見ながら、メロディは前に歌とダンスの国(ハルモニア)で行われたカーニバルを思い出し、程良い緊張感を楽しみだしていた。

 

「爪弾くは荒ぶる調べ! キュアメロディ!」

 

 メロディが名乗りを上げると、会場から大声援が湧く。

 

「爪弾くはたおやかな調べ! キュアリズム!」

 

 大歓声の中、リズムが名乗りを上げると更に歓声が大きくなる。

 

「爪弾くは魂の調べ! キュアビート!」

 

 大歓声に負けない声量のビートの名乗りが響き渡る、カナメはビートの名乗りが歓声に全く負けない事に驚きながらも3人の最後の名乗りに耳を傾けた。

 

「「「届け! 三人の組曲! スイートプリキュア!」」」

 

 3人がポーズを決めると更に歓声が大きくなる、あまりの歓声の大きさにリズムの笑顔が少し引きつっている。

 

 メロディ達は今日の為に作られた通常より大きいドローンに立っており、足先でボタンを踏むとそれぞれの楽器が出てくる、その楽器を掴むと3人はステージ上に飛び降りた。

 

 メロディとリズムはキーター(ショルダーキーボード)を肩に掛け、ビートはギターを肩に掛けている、当初の計画ではメロディ達は、ダンサーとしてステージに上がる予定だった、しかし、ハヤテの試験でフレイアの歌に合せた3人の合奏が原因で、急遽後ろで演奏をする運びとなったのだ。

 

 メロディはキーターを愛おしそうに撫ぜ、レイナの背中に目線を向けた。会話は少ないが常に芯の通った行動をするレイナをメロディは好ましく思う。

 

 メロディは激しく鍵盤を叩きながらも、ちょっと前の出来事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響達はダンサーではなく演奏者としてステージに立つべき」

 

 ある日の練習後、シャワーから出てきた響達を見ながらレイナが呟いた。

 

「え? 何? いきなり……」

 

 奏はレイナの発言に戸惑いの声を上げ周りを見渡す。

 

「レイレイ、ナイスアイディア!」

 

「えぇ?!」

 

 同調したマキナに、響は驚きの声を上げ美雲に助けを求る様に視線を送るが。

 

「面白そうじゃない」

 

「えぇっ!」

 

 手の甲で口元を隠し、少し悪い笑顔を響に向けた美雲が楽しそうな声で返す。

 

「楽器、決めないとね」

 

 カナメが腕を組みつつ決定事項として言い切り、響と奏は顔を見合わせる。

 

「ギターかベースなら任せて貰って平気よ」

 

 ハミィと一緒にシャワーを浴びたエレンは、熱心にハミィの体にドライヤーを掛けていたが、一瞬だけ手を止めて宣言をして言うことは言ったとばかりにドライヤーの続きに戻る。

 

「私は一番ピアノが得意だけど、一通り楽器はいじった事あるから、時間くれれば頑張るよ」

 

 響は一度エレンに恨みがましい視線を向けたが、少し観念した雰囲気で声を出す。

 

「私は……ピアノを一番練習してますが、後、ドラムを少々……」

 

 視線を彷徨わせながら奏が答えると、フレイアと視線が合う。

 

「奏ってドラム叩くんやね、少し意外なんよ」

 

「でしょう? 凄く得意って訳じゃないから、どうしても。ならね」

 

 奏は照れ笑いを浮かべ、チロリと舌を少し出した。その恥じらう様な笑みにフレイアの頬に熱が上がり恥ずかしくなる。

 

「ヒビヒビがベース、リズリズがドラム、レンレンがギター、こんな感じかな?」

 

 マキナが指折りながら確認すると、響は少し慌て、奏はやっぱりなと言った表情を浮かべた。

 

「へ? 私ベース?」

 

「ドラム……ですか」

 

「んー、どうかなとも思うけど、鉄板だよね」

 

 マキナの答えに響と奏は顔を見合わせ苦笑いを浮かべる。

 

「どうしてもってなら……うーん……」

 

 やはり腑に落ちないのだろう、響は表情を崩しながら奏に寄り掛かった。

 

「響重いって、でも、ドラムだといざって時少し動き辛いかもしれませんよ」

 

 響を支えながら奏は、確認する様に周りに意見を求める。

 

「楽器は大丈夫」

 

 唐突に宣言をしたレイナが併設されている倉庫に入って行く、その姿を見送った響達は顔を見合わせ首を傾げた。

 

 倉庫の扉が開きレイナがキャスター付きの大きな箱を引っ張って来ると、響達の前に置く。

 

「えっと、コレは?」

 

「今、開ける」

 

 戸惑いを見せた響にレイナはひと言答え箱のロックを開ける。

 

「楽器だニャ!」

 

 ドライヤーを掛け終わったハミィが、響の頭に飛び乗ると中身を見て大きな声を出す。

 

 入っていたのは、大空を切り取った様なスカイブルーのギターと美しいパールホワイトのキーター、そしてメロディを象徴するマゼンダのキーターであった。

 

「響と奏は連弾(キャトルマン)であるべき、その方が演奏が分厚くって胸の奥がチクチクして気持ち良い」

 

 笑みを浮かべて言い切ったレイナを響は思わず抱きしめる。

 

「ありがとうレイナ、デビューライブ絶対に成功させるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メロディはステージの熱気を全身に受け、その余りの熱量に笑みを浮かべる、大勢の観客の前での演奏に対して緊張をしなかった訳では無かったが、将来プロのピアニストを目指す上で、このステージが必ず糧になると考えていた。

 

『アイテールより、デルタ1、スイート1へ、アンノウン衛星軌道に出現、大気圏に突入してきます』

 

 いきなり入った緊急連絡にメロディは上空を見上げる、暗くなり始めた空に幾つもの流れ星を見つけ眉を寄せる。

 

「リズム、ビート」

 

 小さいが鋭い声色で呼ばれ、リズムとビートは直ぐに上空を見上げ状況を理解した、3人は演奏をしながらも、何時でもワルキューレを守れるように位置取りを始める。

 

 メロディの耳に嫌なノイズ音が聞こえたと思ったら、上空で舞っていたドローンが制御を失い落下しだす、落ちて来たドローンの内、3人はワルキューレに被害が及びそうな物だけを受け止めた。

 

「こっちの事は研究済みか……」

 

 美雲が鋭い視線で、飛び去った戦闘機を睨み付ける。

 

「敵ジャミング攻撃でフォールド波増幅システムが……」

 

 レイナが、デバイスを起動させドローンの状況を確認し下唇を噛んだ。

 

「ミサイル!」

 

 マキナが、小さな悲鳴を上げるのと同時に、メロディ達がワルキューレの前に出た。

 

「伏せて!」

 

 ビートが鋭く叫び、美雲以外が直ぐに伏せ、メロディとリズムが美雲を守る様に立ち塞がると同時にデルタ小隊がステージ前に集合しミサイルに対し弾幕を張り、全てのミサイルを防ぎきる。

 

 後方から聞こえた熱核タービンの(VF-31のでは無い)エンジン音に気付いたリズムが視線を向けた。

 

「……味方?」

 

 迫って来たバルキリーの集団を確認したリズムが呟き、隣に居たビートが大きく息を呑む。

 

「イケない! またあの歌が!」

 

「メロディからデルタ小隊へ! 警戒を!」

 

 必死で送ったメロディの警告は遅く、上空ではヴァールシンドロームを発症させた新統合軍がデルタ小隊に攻撃を始め、更にはワルキューレ達にも迫って来る。

 

「みんな! 集まって!」

 

 ビートが叫び、美雲とカナメは直ぐに動いたが、フレイアとマキナにレイナは戸惑ってしまう、メロディがフレイアをリズムがマキナとレイナと抱えビートの側によると、ビートは右手を鳴らし輝く音符を召喚した。

 

 新統合軍のバルキリーが容赦なくワルキューレを襲う、その光景を見たアラドが小さく舌打ちをし、煙が晴れると目を疑った。

 

「アイツ等はバリアも張るのか……だが、助かった、しかし……やむを得ないか、攻撃開始! 市民とワルキューレを守るぞ!」




報告が遅くなりましたが、jnis様から誤字報告頂きました、ありがとうございます。
本当に遅くなって申し訳ありません。


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6

 ワルキューレ達は四方に分かれながら歌を歌い続けた。ドローンが機能しなくなったがプリキュア達が側に居るお陰で何とか均衡を保っている。

 

「デルタ4! チェック6!」

 

 メッサーの警告を聞いたメロディは、ミラージュの後ろに着いた敵機を見つけミラージュ目掛けてジャンプした。

 

 すんでの所で敵機の翼の先端のブースターに蹴りを入れると、切り離されたブースターが爆発をした、敵機は回避しつつも、もうひとつのブースターを切り離すと、そのブースターが変形をしてメロディに襲い掛かってくる。

 

「この!」

 

 メロディは、小さく叫ぶと体を捻り迫って来たブースターを殴り飛ばす、ひしゃげながら落ちて行き爆発をしたブースターを確認し、切り離した敵機を見上げると既にメッサーが追っていた。

 

「メロディ!」

 

 ミラージュが名前を呼ぶと、メロディはミラージュに向かって拳を突き上げ地上へと戻って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 ビートは、迫りくる新統合軍のバルキリーに対し容赦なく手足をもぎ、翼を砕きレイナとマキナを守っていた。

 

「レンレン凄い……」

 

「貴女達二人は絶対に傷付けさせない!」

 

 気炎を吐くビートに向かって無数のミサイルが襲いかかるが、ビートは慌てずにラブギターロッドを掻き鳴らす。

 

「ビートバリア!」

 

 3人を青く輝く障壁が包み込み、全てのミサイルを防ぎきる、レイナはビートに守られながらも今自分の出来る精一杯の事をやるべく歌を紡ぎだす。

 

 ビートは、戦っているリズムに目線を向けると、リズムが必死の形相で空を掛けていた、目線を動かすとリズムの向かう先にはフレイアとカナメがおり、敵のバルキリーに襲われそうになっているのを見つける。

 

「間に合え! ビートソニック!」

 

 ラブギターロッドを掻き鳴らすと、3人の周りに輝く青い音符が複数現れ、槍の様に形を変えると意思を持つかのように飛んで行き、リズムの先に居たバルキリーの片腕を粉砕した。

 

 

 

 

 

 

 

 リズムは、カナメとフレイアを守る様に移動をしていが、自分達にミサイルが飛んで来るのを確認すると急制動を掛けその場に留まった。

 

「リズム?!」

 

「逃げて下さい! 早く!」

 

 カナメの問い掛けにそれだけ伝えると、ミサイルに向かってジャンプし迎撃をし、二人の無事を確認しようと目線を向けると血の気が引く。

 

 眼前に迫るバルキリーがガンポッドを二人に向ける、リズムはミサイルの爆風を利用し二人の元に向かうが間に合うか微妙なタイミングだった。

 

 自分の直ぐ側を青い音符が群れを成して通り過ぎ、フレイア達の前に居たバルキリーの腕を粉砕する。

 

「ビート!」

 

 体を捻りビートソニックが飛んできた方を確認すると、ビートバリアでマキナとレイナを守りながらも多方面にビートソニックを放ち奮戦するビートの姿があった。

 

 片腕を粉砕されたバルキリーが必要にフレイア達に襲い掛かろうとする、リズムは振り上げられた腕を受け止めると掴んだままジャンプしバルキリーの背中に回ると、バルキリーを一気に投げ地面に叩きつける。

 

「「投げた!?」」

 

 カナメとフレイアは声を揃えて驚きの声を上げる、しかしリズムは油断なく倒れているバルキリーに目を向けた。

 

 小さなスパークを撒き散らしながらも、攻撃を仕掛けてこようとするバルキリーの執念にリズムは小さく溜め息を吐き、完全に動かなくするしかないとゆっくりと近づくが、微かに聞こえて来た歌声に足を止める。

 

「歌?」

 

「美雲さん!」

 

 呟いたリズムに被せる様にフレイアが叫び建物の上を見上げると、メロディを伴った美雲が全身に力を溢れさせながら歌を紡いでいた。

 

 メロディが美雲の腰に手を回し、もがいていたバルキリーの直ぐ側に着地すると、メロディはバルキリーのコックピットを掴み強引に引きずり出す。

 

 美雲がパイロットに歌を聞かせると、浮き上がっていた血管が徐々に納まる、メロディに向かって頷くとメロディは美雲の腰にまた手を回し、建物の屋上にジャンプする、それを追うかのように走り出したフレイアをリズムが後ろから横抱きにすると、ジャンプし美雲の隣に下ろす。

 

 二人は競い合う様に歌い出し次々と鎮静化させていく。

 

「フレイア、フォールドレセプターアクティブ」

 

「あの二人増幅装置無しで!」

 

 信じられないと言った表情のレイナに、満面の笑みのマキナ対照的な二人の側にカナメが合流する。

 

 カナメもデバイスを起動させ数値を確認し声を弾ませた。

 

「互いの歌で刺激し合い、メロディ達の存在が後押しになっているの……」

 

 

 

 

 

 

 

「アラド少佐、やられた!」

 

 メロディの小型通信気にアーネストの切羽詰まった声が流れた。

 

「アイテールが?!」

 

 間髪いれず聞き返すアラドに、メロディはアイテールの乗組員の安否を心配する。

 

「いや、陽動作戦だ! 君達が戦っている間に惑星ボルドールの首都が敵軍に陥落された!」

 

「陥落……?」

 

 アイテールが無事なのを知り、胸を撫で下ろしながらも状況が飲み込めないメロディが戸惑いがちに呟くと、戦っていた敵の航空団が戦闘空域から離脱し編隊飛行をしながら機体にエンブレムとカラーリングが浮き出しだす。

 

 綺麗な編隊飛行をしながらスモークを吐きだし、真っ白な壁を作り出すと4枚の翼を広げた紋章が空中に浮かび上がる。

 

「あれは、空中騎士団……?」

 

 空に描かれた紋章を睨みつけりリズムが小さく呟くと、戦闘機が変形を始めバトロイド形態になり整列をする。

 

「やっぱりSvシリーズ……でも、アラドさんは開発者は散り散りになっている筈だって……何で……?」

 

 リズムの疑問をあざ笑うかのように、上空に濃いグレーの長髪に神経質そうな切れ長の目をメガネで隠した、豪華な装飾のされた外套を纏った青年が映し出された。

 

「ブリージンガル球状星団、並びに全銀河に告げる。私はウインダミア王国宰相ロイド・ブレーム、全てのプロトカルチャーの子らよ、我がウインダミア王国は大いなる風とグラミア・ネイリッヒ・ウィンダミア王の名のも元に、新統合政府に対し宣戦を布告する!」

 

「宣戦……布告……」

 

 メロディの零した言葉が、全員の心に黒い染みと成り広がった。




お読み頂きありがとうございました。

衝撃デビューステージ終了となります。
お付き合い頂きありがとうございました。

宜しければ次回もお付き合い頂ければ幸いです。


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月光ダンシング
1


 お久しぶりです。
 ご存じでの方もいらっしゃいますが、高次脳機能障害になってしまいました。

 別の文章は元気だった時に書いたものですが、この話は失語症になってから書いたものです、ある動画では字幕をありましたので、マクロスΔの話が作れました。

 色々と文章がおかしいと思いますが、お読み頂ければ幸いです。


 カナメに呼ばれて響達はオペレーションルーム移動すると、既にアラド、アーネストが待っていた。

 

 響はカナメ達を見て、少し眉を寄せる。

 

「昨日あった新統合政府に対した宣戦布告だ」

 

 重い雰囲気を出したアラドを見ながら響は、隣に居る奏とエレンの視線が合わせた。

 

「3人には先に話そうと思ってな……ウィンダミアの事と今の状況を説明する。ラグナから800光年も距離にあり──……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーネスト、アラド、カナメ、そして響、奏、エレンが部屋に入ると、全員の視線が集まった。

 

 アラドは響達に目くばせると響な小さく頷く、ワルキューレの隣に並ぶと合図する様にカナメが画面を動かした。

 

「こいつが新型機Sv‐262ドラケンⅢ」

 

 だれもが皆画面を凝視する。

 

「こいつを操るのがウィンダミアの空中騎士団。王家に仕える翼の騎士達だ」

 

 アラドが画面を確認しながら話をし出す。

 

「動きから見てこいつがダーウェントの白騎士だな、空中騎士団に代々続くエースの称号だ」

 

「白騎士? 白? 黒じゃねぇの?」

 

 チャックが当然な疑問を呟いた。

 

「昔は白銀の機体に乗っていた、腐れ縁ってやつか……」

 

 腕組みしたままアーネストが感情を感じさせない様な言葉を出す。

 

「もしかして……独立戦争の事でしょうか」

 

 後ろから声が聞こえ皆の視線が集まる。

 

「リズリズ?」

 

「歴史だけですが、統合戦争以降ですが一通り勉強しました、あ、でもここ10年の事はブリージンガル球状星団の事は結構調べました」

 

 チラリと奏を見たメッサーが手に持っていたタブレットに目線を落とす。

 

「新統合軍のパイロットが操られたのもウィンダミアの?」

 

「じゃあ、これまでのヴァールの暴動は全部?」

 

 チャックが絶望的な声をだす。

 

「いいえ。彼らが関与しているのは一部。強力か生体フォールド波が感知されたものだけと本部は見ているわ」

 

 カナメは手に持っていたタブレットを確認した。

 

「今までのは……」

 

「実験……」

 

 マキナとレイナが小さく呟く。

 

「今回ただの暴徒としててはなく統制のとれた行動をとられるまでになった、推測に過ぎんがな。だが、惑星ボルドールでも新統合軍の多くが操られほぼ無血降伏だったらしい」

 

 アラドが聞かせる様に全員の顔を確認しながら言葉を続ける。

 

「あの……良いでしょうか?」

 

 小さく手を上げた響は申し訳そうにした。

 

「今回もですけど、アル・シャハルの時も嫌な声が聞こえたんです、奏もハミィも……」

 

「やっぱり響達も聞こえたのね……ラグナに居ても聞こえたわ、とても辛そうに苦しむ様に歌っていたわ」

 

 エレンは握り拳を作ると何かを耐える様に下唇を噛んだ。

 

「天使か。悪魔か。あれだけのヴァールを一瞬で虜にしてしまうなんて感動的じゃない?」

 

 美雲は不敵の笑みを浮かべている。

 

「響達とワルキューレメンバーにだけ聴こえたのでしょうか……」

 

 ミラージュが周りのデルタ小隊に確認した。

 

「俺も聴こえたぜ。でも、聴こえたと言うより感じただけだ……」

 

 ハヤテは、アクセサリーを弄びながら声を落とす。

 

「光よりも早く時空を超えて届ける歌声……なんだか『風の歌い手』みたいやね」

 

 何かを思い出す様にフレイア。

 

「『風の歌い手』……」

 

 美雲はまるで確認する様にひとりごちる。

 

「何だそりゃ?」

 

 ハヤテが首を傾げて呟いた。

 

「伝説だ……ウィンダミアに伝わるな」

 

 アラドが教えるとハヤテが頷き、それを聞いていたエレンは厳しい表情をし腕を組む。

 

「『ルンに命の輝きを』ってちゅーてね」

 

 フレイアを見るとエレンはおもんぱかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我々は翼を繕えるのに7年もかかってしまった」

 

 豪華なバルコニー前で美しい風景を見ながらヘルマンとカシムは思いを巡らせる。

 

「私はもう23です。最後まで飛ぶ続ける事が出来るかどうか……」

 

「俺は33だ」

 

 お互いの年齢に思うと、この戦争が終わるまでに飛ぶ続けるか考えてしまう。

 

「……ッ!」

 

 空気が揺らぐとヘルマンは瞬間的にバックステップすると、上から剣閃と共にボーグがヘルマンに攻撃するが、ヘルマンは簡単に防ぐ。

 

「お見事です。マスターヘルマン!」

 

「もう、マスターでは無い。この遊び、いつまで続けるつもりだ?」

 

 ヘルマンは呆れる雰囲気で言うが、ボーグは嬉しそうな表情は見せる。

 

「もちろん! マスターから一本取るまで! ……ああ、そうだ。これを見て下さい」

 

 ボーグが自身のデバイスに画像を出すと、そのままヘルマンに手渡す。

 

「これは……ルン?」

 

「裏切者の臭い風です」

 

 イラつきを隠すつもりも無くボーグが言い切った。

 

「良い年をしてルンを抑えんか」

 

 言われると、ボーグが自分のルンを持つと、強い光を出している。

 

「ワルキューレにウィンダミア人……」

 

 呟くと、ヘルマンは何かを感じていた。

 

「それとですが……」

 

 何とも言えない表情で、もう1枚の画像を見せる。

 

「惑星ランドールの時の戦闘で取った画像です」

 

 空中から地上に落ちながら気にする様子を見せない、ボリュームのあるピンク色のツインテールの少女が睨んでいた。

 

「コイツは地上からジャンプして追い付きました、しかも俺のリル・ドラケンを蹴り倒して来ました」

 

 ボーグは表情を歪める。

 

「何だと?」

 

 ヘルマンが呟きながら、カシムと顔を見合わせた。

 

「ワルキューレのメンバーか……?」

 

 カシムが呟く、ボーグは不快感を露わにする。

 

「油断しただけです! 所詮地上の虫ケラだ! あの時だって邪魔が無ければ倒したんだ!」

 

「ボーグ」

 

 ヘルマンは溜め息を漏らした。




 お読み頂きありがとうございました。


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2

いつもお読み頂きありがとうございます。


 コンファレンス・ルームにはケイオスの全員が集まった。

 

「皆、言いたい事もあると思うが、ケイオスとしては今話した状況になる、もう一度どうするか考えてくれ」

 

 アーネストがケイオスメンバーを確認する様に見回すと、アラドが一歩前に出ると、全員の視線が集まる。

 

「今、話に居なかった3名がいないが、気にしているうと思うが説明をする」

 

 会場がざわざわとしてくるがアラドが合図をすると、ドアから響達が出てくるとアラドの隣に立つと、カナメが話を始めた。

 

「この3名は、ワルキューレメンバーになってますが、正確にはワルキューレの協力者です、皆が判りやすい為に便宜上デルタ小隊の分隊にしてます」

 

 更に一歩でると、響が皆を見まわす。

 

「私達は別に世界から来ました、なぜ私達がこの世界に来たのかは分かりません──……」

 

 響は目線を下に向けると、小さく首を振ると顔を上げると雰囲気を変える。

 

「私達プリキュアの使命は人々の心を守る事、私達はその為にこの世界に来たと思います、ワルキューレを守るケイオスの皆さんと一緒に歩いて行きたいと思います……

 人々を守ると言う事はそれは当然ウィンダミアの人々も含まれています! どんな理由があったとしても罪の無いウィンダミアの人々に攻撃をするなら私達プリキュアは戦います! たとえケイオスの皆さんと別れる事に成ったとしても……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウィンダミアは民間人の出入国にとて厳しいんですよ。それがそうして──……』

 

「フレイア。テレビの人間の都合のいい話を見るの止めなさい」

 

 後ろから話をしてきたエレンは溜め息を吐くと、フレイアのデバイスの画像を消す。

 

「おい、いたぞ!」

 

「どこだ? あー! いた!」

 

 明らかに食事に来たのでは無い人物達が、カメラを持ってフレイアを集まった。

 

「フレイア・ヴィオンさんですね?」

 

「一言お願いします!」

 

「スパイという噂が出てますが?」

 

「ワルキューレに入った目的は!」

 

「あなたがウィンダミア軍の手引きをしたと──……」

 

「黙りなさい!!」

 

 一喝が部屋全体を振るわせた。

 

「ここは食事を楽しむお店よ、貴方達は不要な人達よ!」

 

 室内の全員の視線がエレンに集まる、エレンは腕を組んだまま軽く全員を見渡す。

 

「ソコの貴方!」

 

 エレンが鋭い視線向けると、まるで全員がエレンの視線から逃げようとする。

 

「ワルキューレは唯のアイドルでは無いのは分かっている? ヴァールシンドロームから世界を助けているのよ? 分かっているの? 答えなさい!」

 

 ざわめきが信じられない様に静寂につつまれる。

 

「もし、ヴァールシンドロームになったらフレイアに助けてって言うの? 教えてもらえる?」

 

「それは……その……」

 

「ね、分かったでしょう? フレイアがどんだけ頑張っているのを、応援する方が人達も喜ぶわ」

 

 お互いに顔を見合わせると、困った様な表情を合わせた。

 

「丁度食事の時間よ、今からマキナとレイナが歌ってくれるわ。食事しながら楽しみなさい」

 

 視線がマキナとレイナに集まると確認すると、全員はいそいそとテーブルに向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 裸喰娘娘の裏側の海岸はプライベートビーチの様に関係者しか入って来ない。

 

 エレンがマスコミを受け止めたので、ハヤテはその瞬間にフレイアと海岸に移動した。

 

 フレイアはハヤテと浜辺に座ると、夜の海と月を眺めている。

 

「ワルキューレに残りたい、でも……やっぱりウィンダミアの村のみんなの事も気になるし……」

 

 浜砂を握りると、フレイアは指の隙間から下に落とす。

 

「何で……仲良くできんのかね……」

 

「フレイア、悲しくて涙が溢れたのなら月を見上げなさい、そうすれば涙を呑み事が出来るから」

 

 後ろから掛けられた言葉にフレイアとハヤテは振り返る。

 

「エレンさん……」

 

「苦しいけど、ワルキューレに残るか村に帰るか考えないとね……」

 

 下唇を噛むとフレイアは足元に視線を落とす。

 

 エレンはゆっくりと波打ち際に移動すると、両手を広げて囁く様に歌い出す。溜め息の様に可愛らしい印象を感じるが、またゆっくりと雰囲気を変えると切ない印象を感じさせる。

 

「……すごい……」

 

 フレイアが呟き、ハヤテは驚嘆した。

 

「フレイアの心は何処に行ってしまったの? 飛べば飛べるんでしょう?」

 

「怖いんよ、エレンさんが言う様にワルキューレとウィンダミアに板挟みで……」

 

 エレンは溜め息を吐くとフレイアの肩を掴むと優しい視線を向ける。

 

「フレイアは少し覚悟が足りないわ。ワルキューレはね、歌姫なのよ? 成りたくて成りたくて、でも、諦めた人達の心も受け止めるの」

 

「それフレイアに滅茶苦茶プレッシャーかけてねえか?」

 

 エレンにハヤテが睨みつけるがエレンは悲しそうに微笑んだ。

 

「でもね、そのプレッシャーも力にするの。ハヤテも同じでしょう? ミラージュの試験にプレッシャーに勝って、今空に舞い上がってるじゃない」

 

「でもよ……」

 

 口ごもるハヤテを見てエレンは笑みをこぼす。

 

「優しいのね」

 

 エレンに言われたハヤテは動転する。

 

「ハヤテは少し人の力を借りなさい、ミラージュでもメッサーさんでも、ううん、チャックでもアラド隊長でも良いの、ハヤテがフレイアを助けたいなら頭を下げなさい」

 

「メッサーが助けてくれる訳ないだろう、この前だって何も言わなかっただろう?」

 

 憮然とするハヤテに見てエレンは溜め息を吐いた。

 

「メッサーさんが教えてくれる訳ないでしょう? 技術は盗むのよ」

 

 一瞬呆気に取られると頭を抱えるハヤテ、エレンはフレイアに視線を合わせる。

 

「ついさっきの私の歌、どう思った?」

 

「すごかったんよ、私もあんな歌を歌いたんよ」

 

 フレイアは先程を歌を思い出して溜め息を漏らす。

 

「ありがとう……

 ひとつ昔話を教えてあげるわ──……これはある世界であった話。その世界は音楽で幸せで美しい都。『メイジャーランド』では毎年妖精が歌姫でコンテストして決まっていたの。その年の新しい歌姫は本当に素晴らしかった嫉妬するほどね、先代の歌姫は苦悩して追い詰められて『メイジャーランド』から消えたの、そして戻って来たの『マイナーランド』の悪の歌姫として」

 

 エレンは、雲間からゆっくりと姿を見える月を眺める。

 

「そう、私が元の悪の歌姫セイレーン。響も奏もハミィも私が何時も苦しめていた、私はプリキュアの敵だったの……」

 

「ホント?!」

 

 柔らかい風がエレンの長髪を弄ぶ、手で髪を抑えるとエレンは寂しそうに月を眺める。

 

「でも、今仲間なんでしょう?」

 

 フレイアは心配そうな表情をエレンに向けた。

 

「大切な友達。響と奏が何かあったら私は絶対に助けるわ」

 

 エレンの言葉を聞いたフレイアは満足そうに顔をほころばせる。

 

「是非善悪の歌姫だけど、ううん、もう歌姫じゃ無いけどね……こんな私の力でも歌と心は教えられるわ……」




お読み頂きありがとうございました。

月光ダンシング終了となります。
お付き合い頂きありがとうございました。


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決断のオーバーロード
1


あけましておめでとうございます

良き新春迎えられたこと心より喜び申し上げます
本年も変わらずよろしくお願い申し上げます
皆様のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます

水無月 双葉
2022年 元旦


 部屋から出ると奏は、アラドとメッサーと鉢合わせると、柔らかい笑みを見せて会釈をする。

 

「お疲れ様です」

 

「何が南野、またライブラリーに籠っていたのか」

 

 手に持っているタブレットを見ながら、アラドは呆れ返す。

 

「色々と気になるんです。結局は新統合軍の都合のいい話ばかり書いてあるので何だかなぁ、ですけど」

 

 それでも楽しそうな話をしている奏を見て、メッサーは横目で奏を眺める。

 

「ハヤテの話聞きましたよ、ここ最近ミラージュさんをちゃんと教官と呼んでるみたいですね、態度も少し良くなったみたいです」

 

「アイツはデルタ小隊に残るそうだ、フレイアが自由に歌えないなら戦争を終わらせるってな」

 

 奏はアラドの話を聞いて納得する様に頷く。

 

「フレイアも少し変わったみたいなんです、カナメさんから聞いていると思いますけど……」

 

「話は聞いている。エレンがフレイアを鍛え上げているそうだな、南野としてはどう思っているんだ」

 

「エレンは音楽に関しては真面目で努力家です。メイジャーランドの歌姫もやっていましたし……でも、歌姫の事は触れないで上げて下さい、悲しい話もありますから……」

 

 奏の表情は何も寄せ付ける様な重い雰囲気をだす。

 

「お前達は善意の協力者なんだ、突き詰めるさせる様な事はしない」

 

「ありがとうございます。でも、プリキュアの事で気に掛かる事もありますよね? 可能限り協力しますよ」

 

 会話してると後ろから声が掛けられると、奏達は視線を向ける。

 

「アラド隊長!」

 

 廊下の角から出て来たのはカナメだった。

 

「こんな物が手に入ったんですが」

 

「おっ! バレットネコクラゲ!」

 

 カラフルな袋に入っているスルメを見たアラドが、少し驚いた声を上げた。

 

「食堂で一杯やって行きませんか?」

 

「いいですねぇ」

 

 盛り上がるアラドとカナメ。

 

「メッサー君も! 奏もジュースで!」

 

「自分は明日の準備がありますので」

 

 淡々と答えるメッサーに、アラドは思わずに溜め息を落とす。

 

「ありがとうございます。一緒に行きたいんですが、これから裸喰娘娘のお手伝いを頼まれているんです」

 

 奏が申し訳なさそうに頭を下げると、カナメが優しく頷く。

 

「じゃあ、また二人共こんどね。お疲れ様」

 

「はい、お疲れさまでした」

 

 メッサーと奏が歩きながら話してる。何かを思い出した奏がタブレットをメッサーに見せると、メッサーが画面を確認すると奏が嬉しそうに答えメッサーも頷く。

 

「カナメさん……珍しいものを気分だ……」

 

「知ってます? メッサー君奏に対しては表情がやわらぐ時あるんですよ」

 

 カナメが嬉しそうに教えると、アラドの呆然とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ジーナス家のあの天才パイロットの孫娘、おじい様とおばあ様の才能を継いでいれば、さぞかし──』

 

 

 

 ミラージュは過去を思い出すと怒りが湧き上がるが、他人より自分自身が激しい感情に翻弄される。

 

 行き成り後ろから抱きしめられミラージュは思考を止めた、響は抱きしめたミラージュを離すと、目の前に移動した。

 

「いきなり何ですか?!」

 

「おっかない顔してるよ」

 

 響は両手でミラージュの頬をムニッと掴む、ミラージュは困った様に視線が彷徨う。

 

「……響。貴女のご両親は音楽の世界では天才と言われる父と、世界中のファンが居るヴァイオリニストの母との娘と聞いています」

 

 きょとんとした響は頭を掻くと、ミラージュの耳元に囁く。

 

「場所、変えよう」

 

 響は一言だけ言うと歩き出し、ミラージュは下唇を噛んだ。

 

 ルーフバルコニーに移動すると、響は身体を伸ばすと胸に詰まった息を吐く様に深呼吸する。

 

「すまない響、この話止めてください」

 

 狼狽したミラージュを見て、響は困った様に微笑んだ。

 

「私はもう大丈夫だから、私の話がミラージュさんの力になるなら嬉しいよ」

 

 ミラージュは響の表情を見ると、心から笑っているのが分かり隣に立つ。

 

「私のパパはさ、本当に天才で何やっても超一流で、良くドイツに戻れって連絡来るんだ。ママも色々な国でコンサートして数年に1日戻って来る位」

 

「寂しくないんですか?」

 

 響は腕を組むと首を捻る、そんな姿をするミラージュは不安を感じる。

 

「ママを一人占めする事出来ないし、世界中にファンが居てさ、私もそんなファンも大事だもん」

 

「響は小さいころから音楽を?」

 

「最初はね、小さい頃ママのコンサートのピアノを手伝って間違わなくてホッとしたんだ、その時パパと約束したんだ遊園地に連れって貰えるってね……でもね、パパに『今日の響は音楽を奏でてないね』って言われてさ、私は逃げだしての、で、ピアノも辞めたの」

 

 ミラージュは驚くが、響はへらへらと笑う。

 

「どうしてまた音楽に戻ったの?」

 

「プリキュアが原因だけど、奏もエレンも助けてくれた。私は凡人だから、パパとかママ見たいな超一流に成れないから。でもね、気が付いたの、私は音楽が好きだってね」

 

「好き……?」

 

「うん、大好き。それでね、私の出来る事を見つかったんだ。私ね、奏と連弾(キャトルマン)だと良い音がでたの、そこで気が付いたんだ、同じ事しても一流に成れないなら別の一流になろうって」

 

 衝撃で言葉が出てこないミラージュは、足元が崩れて行く感触を味わった。

 

「私には、そんなものは無い……」

 

 ミラージュは、こわばった表情のまま口元を押さえると、足元をじっと睨む。

 

「あるよ。ミラージュさんて、あの時私の事気にしながらもメッサーさんの動きと戦いも見ていたよね、いつも色々な方向見ながら戦っているよ。それって物凄い才能だよ」

 

 ミラージュが響を見ると、凛とした表情で真摯な瞳で見つめた。

 

「それにさ、エースって直接的に敵を倒すだけじゃなくて、色々なタイプなエースがいると思うんだよ、プリキュアの中にも1人でも戦える人もいるし、リーダー的になって仲間を強くさせる人も居るよ、どっちもエースだと思うんだ」

 

「色々なエース……」

 

 一点の曇りもない思いを感じミラージュは、強く握っていた拳を緩みと穏やかな表情をした。




お読み頂きありがとうございます。


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2

『惑星イオニデスにてヴァールシンドロームで発生!』

 

 アーネストの艦内放送を聞いた、響と奏は鋭い視線でスピーカーを睨めた。

 

『新統合軍の兵士も既に70%以上が操られ、空中騎士団も現れた──……』

 

 響の答えは分かっていたが、奏は確認する。

 

「……本当に行くの?」

 

『──アルファ、ベータ小隊はポイントチャーリーの防衛を。デルタ小隊はポイントエコーへ! これまでの借りを返しに行け!』

 

「ほら、アーネストさんが借りを返せって言ってるじゃん」

 

「ひーびーきー? 本気で怒るよ。だったら私も一緒に借りを返しに行くよ」

 

 奏は、オーバーな態度で溜め息を吐いた。

 

「さすが奏、揺らがないなぁ」

 

 うるさいなぁ。と、口の中で呟いた奏は相好を崩す。

 

「ドームの中だとバンドの行動しか出来ないから、響と奏は行って大丈夫よ。いざと成ったら私のビートバリアでワルキューレを守るから」

 

「エレン、いつもありがとう」

 

 響は、大袈裟に抱きしめると、エレンは嬉しそうな恥ずかしい様な態度をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メロディより、アイテールへ」

 

 軽く深呼吸すると、メロディは何故か一瞬言葉が出なかった。

 

『こちらアイテール。……メロディ?』

 

 何も言わないメロディに、ベスはアーネストに目線を向ける。

 

「スイート1より、アイテールへ! メロディ、リズムはポイントエコーに向かいます! ワルキューレのフォローはビートが行います」

 

『アイテール了解、ご武運を』

 

『二人共必ず戻って来いよ、信じたから行かせたんだ良いな』

 

「アーネストさん、ありがとう!」

 

 軽くストレッチしながら、メロディは貫く様な視線で宇宙を見た。

 

『スタートラインに……スターティングブロックへ!』

 

「──……スター☆トゥインクルのみんな、私も宇宙に来たよ」

 

 ぼそりと呟いたメロディは、スタートすると疾走し甲板を駆け抜くと宇宙に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦橋の隣にピラミッド形で作られたステージが昇りだす。

 

「歌は愛!」

 

「歌は希望!」

 

「歌は命!」

 

「歌は元気!」

 

「歌は絆!」

 

「聴かせてあげる、女神の歌を!」

 

「「「「「「超時空ヴィーナス! ワルキューレ!」」」」」」

 

 軽快な歌を聞きながらメロディは気分良く疾走していた。

 

「リズム、違和感なく動けるね。これなら十分やれるね」

 

「油断しちゃ駄目よ」

 

 小さく頷くと、メロディはリズムの方にアステロイドエリアを見て指で刺すと走り出す。

 

 ヴァールシンドロームを起こしていた新統合軍はワルキューレの歌を聴くと、茫然と動きを止める。

 

「隙あり!」

 

 チャックがガンポッドで武装の破壊すると、別の敵がチャックに迫るが、アラドがその敵機に向かうとバトロイド形態でアサルトナイフ二刀流で爆発しない様に両足を切り裂くと、直ぐに武装も斬った、その瞬間に別の敵機がアラドを狙った。

 

「てぃややぁぁ!」

 

 絶叫と共にメロディが、アラドの隣を駆け抜くと、敵機を殴り飛ばすとアステロイドを利用し次の敵機に向かう。

 

 メロディは、爆発させない様に中枢のみ絶えず破壊する、そんな姿を見てアラドは唸った。

 

「……プリキュア──か」

 

 

 

 

 

「直上よりウィンダミア機!」

 

 メッサーからの報告は部隊全体を共有される。

 

 お互いが獲物として死神と白騎士が激しいドックファイトを続けた。

 

「メッサーと白騎士……」

 

 呟いたハヤテは、メッサーと白騎士の動きを食い入る様に見つめる。

 

「すげえ……アステロイドを踏み台にして……」

 

 ハヤテは、動きを思い出しながら後を追うが、付いて行こうとするが自分との差の違いさが悔しく感じた。

 

 付いて行こうとばかり周りが見えなくなったハヤテ、だが、ハヤテを狙っていた敵機をミラージュが倒すと、ハヤテは自分の状況を気付くと冷や汗をする。

 

「デルタ5! 後の上方!」

 

 更にミラージュからの連絡にハヤテは慌てなかった。

 

 空中騎士団のテオとザオは、ハヤテがアステロイドが衝突しない様に、スピードを落とすと考える。

 

 ハヤテは逆に速度を上げた、正にそれは刹那の瞬間。ハヤテはメッサーや白騎士の同じ動きをさせてみたのだ、更にハヤテはインメルマンダンスも入れると、テオ達を置いてきぼりにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワルキューレの歌がヴァール状況の新統合軍がトランス状態になり、戦いが幕を下ろしそうになったが、それを許さなかった者がいた。

 

「余計な真似を……行くぞ! テオ! ザオ!」

 

「「我らの真の風。見せつけてやりましょう!」」

 

 ボーグは激怒し、わずか3機でアイテールに向かって行く。

 

 ボーグとテオをザオは、三位一体とばかりに、防衛隊のアルファ、ベータ小隊を食い千切った。

 

「くらえぇー!」

 

 ワルキューレ目指すボーグ。

 

 ボーグはワルキューレを見つけると、ありったけのミサイルを叩き込む。

 

「ビートバリアー!!」

 

 全力でビートはバリアを展開する、ワルキューレだけでなく、艦橋も防いだのだ。

 

 ステージが大きく揺らぐ、倒せそうになったフレイアはギュッと歯を噛むと耐えると直ぐに歌を続けた、美雲は負けないとばかりに歌に入る。

 

「見つけたぞ! 裏切者!」

 

 煙が晴れると、目の前にボーグのドラケンⅢが銃口をフレイアに向けたが、フレイアは歌を続けた。

 

「自分達の事しか考えない男が!」

 

 絶叫したビートは、ラブギターをソウルロッドモードにするとボーグを指したが。

 

「はあぁぁぁぁ!」

 

 叫びと共に、リズムがボーグのガンポッドを殴り飛ばずと、体を捻るとドラケンを回し蹴りで飛ばした。

 

「ワルキューレをやらせる訳ないでしょう!」

 

 リズムはキッと睨むと、ボーグに向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メーデー! メーデー! メーデ──……」

 

「ミラージュ教官!」

 

 ハヤテは叫びながら、最大速度でミラージュに向かう。

 

 ミラージュは、敵の攻撃を躱しながら攻撃をするが、相手の装甲を削る程度で相手を落とせなかった。

 

 もう一機いたが、ミラージュに攻撃はするが、撃墜はしてこない。

 

「馬鹿にしやがって!」

 

 絶叫しながら攻撃をするが躱され、逆にミラージュはガンポッドを破壊される。

 

 敵の攻撃をピンポイントバリアで防ぐが、コクピット内は警戒音が騒ぐ。

 

「くっ……まだ遠い……あっ、推進剤まで!」

 

 ハヤテは絶望的な状況に青ざめる。

 

 わずかに残っている全推進剤を使い、ミラージュに向かう、ハヤテはミラージュを助けたいと言う思いでトリガーを引く。

 

「ううぅぅ……教官あぁ!」

 

 ガンポッドが火を噴くと、ドルケンの両脚に在るエンジンが小さな爆発が何度も起きと、ドラケンは限界が近づいていた。



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3

皆様。お久しぶりです。

色々とアレですが、お読み頂きましたら幸せです。
ある技が出ますが、本家とは違う使い方をします、お許しください。よろしくお願いします。




「メーデー! メーデー! メーデ──……」

 

 ミラージュの切迫した声を聴き、メロディは肌が粟立った。

 

 全力疾走でミラージュに向かうメロディ。アステロイドだけでなく、行動不能状態の敵機すら踏み台にして向かって行く。

 

「ダメ……ミラージュさんに届かない!」

 

 ──大丈夫、ボクが助けるミミ。プリキュアに不可能はないミミ──

 

「ミリー!」

 

 キュアモジューレが強く優しい光を発すると、メロディーの腰の裏側に左右づつ二本、合計4本の帯が現れ光を発しながら、メロディは急加速する。

 

 メロディは、ミラージュに目指している別方向に、もう一機向かって来ているのを感じてメロディはハヤテだと確認したが、メロディは胸がざわりとした。

 

 

 

『響、ちゃんと聞いてた? バルキリーのエンジンは基本的に脚に中にあるの、いつもの調子で殴ると爆発するからね、私達は──……』

 

 

 

 奏の話を思い出して、メロディは自分自身を追い立てる様にミラージュに向かう。

 

 

 

『パイロットさんはスーツとEX-ギアで脱出するけど、厳しいから出来るだけエンジンは──……』

 

 

 

「要はさ──……爆発する前に破壊させればいいんでしょう!」

 

 それだけを呟くと、メロディは裂帛の気合と共に蹴りを入れた。

 

「ハーモニーキック!」

 

 ハヤテはメロディの想いを籠った様な声を感じ、同時にマゼンタの流星がドラケンは四散させた。

 

 メロディは、慌ててミラージュの前に行くと、頭部のカメラに顔を近づく。

 

「ミラージュさん! ミラージュさん!」

 

 ミラージュはあまりの状況に惚けていたが、メロディの叫び声で我に返った。

 

「あ、あぁ……助かったよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中騎士団に入団したばかりのグーラの為に、獲物を追い込みこれでグーラも一人前になる、そう考えていたが、敵機が助けに来る。

 

 奴がありったけの弾丸をグーラ機に押し込む、助けられるか分からんが手を伸ばすが、疾風がマゼンタの尾を引きながらグーラ機を四散させた、今まで経験した事状況で動きを止めてしまう。

 

 グーラを殺した敵に視線を向けると、アステロイドに立っている。数日前にボーグから見せされたマゼンタのツインテールの少女だった。

 

 少女は敵機(バルキリー)に向かうと絶叫している、その時気が付いたのだが少女がグーラを片手で抱え込んでいる。

 

 敵機の無事に確認すると、少女はグーラのヘルメットに耳を付けると、呼吸音を確認してた。

 

「助けてくれたのか、いや、捕虜にする気か……死に体の敵機(バルキリー)が2機いる、それを使えばグーラは助けられるか?」

 

 色々と考えていたら、少女は無防備に私の前に向かって来る。

 

「恐れ知らずなのか……?」

 

 少女は、友人宅に遊びに来たように私の機体にノックしてくる。

 

「早く開けて! お互いに帰れないでしょう」

 

「ええい、ままよ!」

 

 覚悟をして、コクピットを開くと少女はグーラを手渡す。

 

「ちゃんと生きてるよ……」

 

「空中騎士団、団員ヘルマン・クロースだ。グーラ小貴を助けてくれて感謝する」

 

 私の言葉に、悲しそうに少女は首を振る。

 

「ううん、ごめんなさい……脚折れてる……病院に行ってあげて」

 

「貴公の名前を教えて貰えないか」

 

「……伝説の戦士プリキュア(レジェンドプリキュア)。キュアメロディ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘルマンは惑星イオニデスの戦いを思いだすと、割り切れない心境で思いだす。

 

 

 

「キュアメロディ、何故危険を冒しながら助けてくれたんだ」

 

 メロディが首を傾げた。

 

「誰にも死んでなくて欲しかったから、味方も敵も……」

 

 メロディの言葉を聞いたヘルマンは、言葉が返せない。

 

「我々は戦争をしているんだ、グーラが復帰すれば貴女の味方を殺すかも知れないんぞ」

 

「それは嫌だなぁ……でもね。私は、ううん、リズムも、ビートも戦争をしているつもりは無いんだよ」

 

 気絶をしているグーラをメロディは視線を向けた。

 

「私達プリキュアは、ヴァールと戦っているの、だからワルキューレを助けてるの」

 

 ヘルマンは、穏やかな眼差しでグーラを見ているメロディを見て言葉を失う。

 

「軍人さんも、普通(民間人)の人もヴァールはその生活を壊すから、だから戦ってるの」

 

「だが、我々は大地を穢されたんだ」

 

「苦しいよね、悲しいよね、でも、何で関係の人を使ったの? 今は良いよ、でもこれから生まれてくるウィンダミアの子供達が苦しむんだよ、どっかで悪い縁を断ち切らないと」

 

 ヘルマンは、拳を握りを唇を噛んで耐えていた。

 

「あとね、あんな悲しい歌をさせちゃ駄目、心も胸が締め付けられるよ、『風の歌い手』ってそう言う存在じゃないよね」

 

 メロディはゆっくりとジークフリード向かって行く。

 

 ヘルマンは向かって行くメロディを見ると、キラキラと光る物を気が付く。

 

「……涙」

 

 メロディの涙にそっと触れると、ヘルマンは物思いにふけった。




お読み頂きありがとうございます。


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4

お久しぶりです、何とか生きてます。
かなりゆっくりですが書いていきますのでよろしくお願いします。

皆様本当に病気には気を付けてください。
鬼人の組曲も早く続きを書きたいです、ほぼ毎日考えているのですが難しいです。

これからもスイプリシリーズを頑張っていきますのでこれからもよろしくお願いします。


 戦闘後、響はアーネストに呼ばれ艦長室の扉の前で、小さく溜め息を漏らした。

 

「北条響です」

 

 目の前にあるドアが空気が抜ける音をしながらスムーズに開くと、響は小さく吐息をつく。

 

「早かったな」

 

 アラドは、タブレットを確認するとアーネストに渡した。

 

「呼ばれた理由は判っているな」

 

 タブレットを一度視線を向けると机の上に置くとアーネストは、腕組みをして響に視線を向ける。

 

 響は拳を軽く握り、一文字に口を結ぶ。

 

「……」

 

「お前のお陰でミラージュは無事に帰還出来た、それは感謝している。だが、なぜあそこまで強引に敵を倒した?」

 

「ミラージュさんを助けたかっ──……」

 

「ミラージュの事はわかっている。俺と艦長しか居ないんだ、本音で話せ」

 

 響は視線を下に落とすと小さく息を吐いた。

 

 響は顔を上げると、引き締まった表情でアラドとアーネストにしっかりと目線を向ける。

 

「ハヤテのため、あのままだと空中騎士団の人も死んじゃうし、ハヤテの心も壊れると思うから──……少し違うかな」

 

 響は、手を頬に置くと何無い壁を少し見つめると小さく頷いと、アラド達を見据えた。

 

「あんな形でハヤテが人をあやめてしまったら、ハヤテにもミラージュさんにも心の傷が出来るから、ミラージュさんはちゃんと戦士だけど、ハヤテは戦士じゃないよ。

 

 ハヤテは人をあやめるなら自分の意思でしないと駄目。しっかりと修羅場を越えないといけないんだよ」

 

 アーネストは椅子に背もたれるとぎしぎしと音がすると、その音はまるでアーネストの感情を表したように響は感じた。

 

「確かにな、ハヤテにはパイロットとしての才能はある、北条の言う通りアイツがくぐれるかだ」

 

 アラドは呟くと、懐の入っているスルメの小袋を響の放り投げる。

 

「一応、北条の話は納得した。艦長とデルタ小隊長としての話は終わりだ」

 

 物々しい雰囲気が霧散すると、響は肺の中の濃密になっていた空気をゆっくりと吐き出した。

 

「北条、少し雑談して良いか?」

 

 アーネストがソファーを勧めると響は頷くとアーネストとアラドも座る。

 

「プリキュアの話が聞きたいんだ──……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 甲板の隅に座っていたハヤテは、何とも言えない表情で夕陽を見つめていた。

 

「こんな所にいたの?」

 

「……」

 

 何も答えないハヤテに、奏は諦めたように溜め息を落としす。

 

「良かったじゃない。誰も死ななくて、響に感謝してね」

 

 ハヤテは奏に刺す様な視線を向けるが、奏の冷たい瞳を見てハヤテは唇を噛んだ。

 

「フレイアの為に戦争を終わらせるって言うのは立派だよ」

 

 少し大きい距離を開けると奏は座った。

 

「決意は良いよ。でもね、フレイアを理由にしちゃ駄目。もうハヤテの戦いなんだから」

 

「……なぁ、どうしてお前らは戦っているんだ、この世界に関係は無いのにさ」

 

「こんな戦争直ぐ終わらせないと駄目だからだよ」

 

 両掌を見つめた奏が悲しそうに見詰める。

 

「戦いに巻き込まれて泣いていた子が居たの──……」

 

 奏は両拳を握ると瞳を閉じると深い哀愁漂うがあった。

 

 

 

 

 

 

 

「駄目だ! この場所では重機が使えない……」

 

「子供の泣き声が聞こえるんだ! 手でも何でも良い! 瓦礫をどかすぞ!」

 

 走ってきたリズムが何も言わず瓦礫を掴むと、リズムが全身を使い瓦礫をどかす。

 

 レスキュー隊員は信じられない光景に動きが止まってしまう。

 

「早く!」

 

 リズムから喝を入れらるとレスキュー隊が親子達を安全な所に移動させ確認する。

 

「両親は……」

 

 その後言葉を続ける事が出来なかった。

 

「おかあさん……おとうさん……痛いよぉ……」

 

 リズムもレスキュー隊もこの少女の助け様が無いのが分かっておりレスキュー隊は視線を逸らす。

 

 リズムが黙ったままに膝を折ると少女を抱きしめた。

 

「……お、お母さんですよ……ずっと居ますよ、ずっとずっと抱きしめるから」

 

 声は震えていたがいつくしみを感じさせる。

 

「おかあさん……おかあさん……」

 

 少女の呼吸が細くなっていく、リズムにしがみつく腕もゆっくりと手を離して行く。

 

「おねえちゃ…………ありが……」

 

 亡骸を抱いたままにリズムは大きな涙を落した。

 

 

 

 

 

 

 

 深く深く悲しんでいる奏を見て、ハヤテは何も言えなかった。

 

「それからだよ、この世界の事を調べたのはね。艦長さん、隊長さん、メッサーさんにも色々な話を聞いたの」

 

 ハヤテはそんな奏の姿に愕然とする。

 

「しっかりと覚悟をしないと、きっとハヤテにも苦しい事が起きるからね」

 

 奏は立ち上がると、ハヤテに何も言わずに歩いて行った。

 

 ハヤテは、そんな姿を見て軽く頭を掻くと、深い溜め息を漏らす。




響は助ける事が出来ましたが奏は出来ませんでした、プリキュアとしてかなりの戦いをしてますし、助ける事が出来なかった事もあります。
かなりの経験をしていますので少し厳しいことも言いますが、よろしくお願いします。

決断のオーバーロード終了となります、お読み頂きありがとうございます。

次回潜入エネミーラインお付き合い頂ければ幸いです。
時間が掛かりますがこれからもよろしくお願いします。


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