アルゼンチン帝国召喚 (鈴木颯手)
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第一章【未知との遭遇】
第一話「転移」


第一話「転移」

2020/2/22/14:50

「……では何かね?」

 

アルゼンチン帝国帝都インペリオ・キャピタル。その中央部、行政区画にある総統府にてある会議が行われていた。議題は自治領以外の他国領の喪失である。当初は全く信じられなかったこの現象も現地の写真が届くと一気に信ぴょう性と危機感が増した。

一体何が起きたのか?海に沈んだのか?いろんな案が出されるが全て机上の空論でしかなくこの状況を分析できるほどではなかった。

そして会議が滞り一旦解散しようと言う空気になったころ、西方へと偵察に出ていた部隊から報告があった。

 

曰く“太平洋がある場所に大陸が存在し文明がある”と。

 

何を馬鹿なと当初は取り合わなかったが戦闘機パイロットが撮った写真が送られてきてからは深い沈黙が起きた。そして上記の言葉である。

 

「太平洋には誰も知らない大陸があり人が住んでたと?我々ですら今の今まで気づかなかったと?」

「……内容だけならそうなりますね」

「そんなバカな……」

 

世界が繋がり数百年が経っている。スペインの大航海時代に始まり今では地球上のありとあらゆるところが知り尽くされているだろう。未だに発見されていない者など秘境の奥底や軍事上立ち入り禁止の区域ぐらいだろう。そんな状況で大陸を見逃すなどあり得るはずがない。

 

「それともう一つの報告ですが……」

「そんなものはあり得ない。ばかげている!」

 

高官の一人が声を荒立てて否定する。それはほとんどの高官がそうだったようで同意する空気が流れていた。

 

「大体あり得ないだろう!?」

 

“ドラゴンを見たなど”

 

「これを報告した奴は麻薬でもやっているのか?それなら軍法会議で処すしかないが」

「いえ、多少内向的な性格ですが態度に問題もなくそう言った事に手を出した様な噂もありません」

 

疑われる精神的異常もすぐに否定された。ならばと別の意見を言おうとした時一人の男が手を上げる。それを見て高官たちの誰もが黙る。何故ならこの場で……いや、この国で最も権力を持っている男であるからだ。12年前に突如アルゼンチンに現れ腐敗の進んだこの国を変えた偉大なる指導者。強固な姿勢を貫き南アメリカどころか世界でも上位に食い込める強国へと生まれ変わらせた男。

総統、アイルサン・ヒドゥラーを誰もが見る。40代と政治家にしては少し若いその男は声を発した。

 

「……諸君、突然の事態に混乱するのはしょうがない。だが、決して物事を自らの物差しだけで図ろうとしてはならない。我ら以外の国が消え新大陸が現れたのなら今はそれを受け入れるべきだ」

「し、しかし!ドラゴンを見たなど……」

「確かに、信じられないだろう。私だって未だに半信半疑だ」

 

ヒドゥラーは男の言葉を肯定しつつ落ち着かせる。その男が落ち着いたのを見計らい再び話し始める。

 

「どちらにせよ今行うべきことは単純だ。この新大陸に使節団を派遣するのだ。メンディア元帥、海軍は何時でも動けるか?」

「はい、総統閣下。太平洋艦隊、大西洋艦隊どちらもすぐに抜錨可能です」

「よろしい。なら太平洋艦隊を向かわせろ。無論外交官を載せる事を忘れるなよ」

「了解しました。直ぐに準備を行わせます」

 

メンディア海軍元帥の言葉にヒドゥラーは頷く改めて全員の顔を見て話す。

 

「使節団を送って終わりではない。この謎の現象を直ぐにでも究明する必要がある。各自各々の力を十分に使い行動せよ」

「「「「「はっ!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

一方の新大陸、ロデニウス大陸にあるクワトイネ公国では先日の未確認生物に対する会議が行われていた。

 

曰くワイバーンより早く、高度が高い場所を飛び近くの町を旋回した後東の方へと消えていったとの事。

 

「皆のもの。この報告について、どう思う。どう解釈する」

 

首相カナタの言葉に情報分析部が手を上げ発言する。

 

「情報分析部によれば、同物体は三大文明圏の一つ、西方第2文明圏の大国ムーが開発している飛行機械に酷似しているとのことです。しかし、ムーにおいて開発されている飛行機械は、最新の物でも最高速力が時速350kmとの事。今回の飛行物体は、明らかに600kmを超えています。ただ……」

「ムーならば極東に位置するこの大陸までくることは出来ない、か」

 

情報分析部の言葉の続きをカナタが引き継いだ。他にも第二文明圏を相手に暴れまわる第八帝国の存在も挙げられたが第二文明圏より西方にあると思われる(本国の位置は分かっていない)第八帝国は更にあり得ないと思われた。

 

そこへ若手幹部が入って来る。通常ではあり得ない行動に会議に参加している者の視線が集中する。

 

「報告します」

 

若手幹部が話した内容は以下の通りであった。

本日早朝、クワトイネ公国の北側海上に長さ200mを超える超巨大船の艦隊が現れた。

海軍により臨検を行ったところ、アルゼンチン帝国という国の特使がおり、敵対の意思は無い旨を伝えてきた。

捜査を行ったところ下記の事項が判明した。

・曰くアルゼンチン帝国という国は、突如としてこの世界に転移してきた。

・元の世界との全てが断絶されたため周辺に調査を出していた。その際に領土侵犯を犯してしまったが敵意はない事。

・哨戒活動の一環として貴国に進入しており、その際領空を侵犯したことについては深く謝罪する。

・クワトイネ公国と会談を行いたい。

尚、これは彼らが言っている事であり本当かどうかは分からなかったが当然ながら会議は混乱した。200m超えの巨大船もそうだが転移国家など信じられるはずがなかった。

しかし、会わない事には始まらないため首相カナタは会う事に決めた。これがアルゼンチン帝国にとって初の異世界交流である。

 




転移国家であると言うのは使節が送り出された後、接触前に知ったという感じです。


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第二話「接触」

第二話「接触」

「初めまして。私はアルゼンチン帝国外交官メイアン・ゴートと申します」

 

首相カナタは目の前のアルゼンチン帝国の外交官を名乗る男を改めて見る。珍しい服装を着ている男は一国の使者と言うには貧相ななりをしていた。

 

「この度は使節の受け入れを許可していただきありがとうございます」

「いえいえ、我が国も誤解を招いたまま関係を悪くするつもりはありませんので」

 

カナタは物腰が柔らかいメイアンに好感を持った。両国の国力が対等でもない限り上なら高圧的に下なら卑屈にすり寄って来るものだ。

 

「早速で悪いのですが我が国は貴国について何も知りません。良ければ教えていただきたいのですが……」

「勿論です。先ずはこれをご覧ください」

 

メイアンはそう言うと隣に置いてあるスーツケースから紙の束を取り出しカナタへと渡す。紙を受け取ったカナタは早速見るもすぐに顔を曇らせてしまう。

 

「どうかしましたか?」

「い、いえ。実は……何が書いてあるのか分からなくて」

「分かりました。では口頭で説明させていただきます」

 

メイアンが渡した資料にはもしもの事を考えてアルゼンチン語(スペイン語)の他に英語、フランス語、ポルトガル語で書かれていたがそのどれもが読めなかったようだ。とは言えこうなる可能性は考慮されておりメイアンは慌てることなく口頭による説明を行う。

 

「まず、我が国はアルゼンチン帝国と言います。帝国を名乗っていますが実際は総統と言う地位を持つ文官による統治が行われています」

「つまり王族が国を治めている訳ではないと?」

「その通りです」

 

実際は独裁政権であるため王族のいない絶対王政と呼べるものであったがメイアンは言わなかった。反応から見て絶対王政はあまり受けが良くないようだからだ。

 

「次に我が国の領土ですが本国と四つの自治領に分かれています。全ての土地を合わせると……、900万ほどでしょうか」

「何と……!」

 

想像以上の領土にカナタは驚く。話を持っている可能性もあるため簡単に信じる訳にはいかなかったがメイアンの堂々とした態度から少なくとも騙そうとしている訳ではないように感じた。実際嘘は言っていないし自分たちより広大な土地を持つ国など元の世界では普通に存在した。

アルゼンチン帝国一の盟友であるヌナブト連邦共和国などは全領土を合わせても広大な領土を持っているし旧大陸に存在する国の中には倍以上の領土を持つ国もいたのだ。

 

「そして帝都はインペリオ・キャピタル。500万人が生活する都市です」

「こ、これは……」

 

次の内容は帝都についてである。半年前に完成した帝都の写真をカナタに見せれば驚愕に目を見開いている。実際計画されて設計された高層ビル群はカナタの目にはまるで幻想の様に映った事だろう。

そしてメイアンはその後も口頭で説明を行っていく。途中、休憩を挟みつつもアルゼンチン帝国という国をある程度は教えることができただろう。とは言えカナタはともかく他の人の中にはまだ信じられない者もいる様でありメイアンは提案を行った。

 

「どうでしょう?口や写真で聞くよりも実際に我が国を見ては?」

「それはつまり貴国に使節団を派遣すると言う事ですか?」

「ええ、そうなります」

「……分かりました。流石に私一人では決められないので会議を直ぐに行い決定する事にします」

「それで構いません。より良い返事をお待ちしています」

 

そして会議の為に会談はいったん終了した。カナタはそのまま会議を緊急で行い使節団派遣の決議を取る。

 

「私は構わないと思う。実際に見れば分かる事だ」

「流石に使節団の者に無礼を働く事端はないだろうしな」

 

こうして使節団派遣が決定し直ぐにでも派遣するものが選定された。各部門のスペシャリストたちがアルゼンチン帝国の使節に任命され帝国へと向けて旅立つことになった。

 

「クワトイネ公国使節団の方々の為に旅客船を用意しました。それに乗船いただき二日後には到着します」

 

アルゼンチン帝国外交官メイアンの言葉に使節団の一人が何とも言えない顔をする。

 

「ハンキ様、どうかしましたか?」

「ん、ヤゴウか。どうも船旅は好きになれんでのぉ。船内は暗く湿気も多く長旅となれば疫病にかかる者も出てくる」

「そうなのですか……」

「ゴート殿は二日でつくと言っておったがワシは伝達ミスだと思っておる」

「ですがそこは鉄竜を持っているアルゼンチン帝国です。何か我々とは違うものを持っているのでしょう」

 

ヤゴウは鉄竜(ジェット戦闘機)を運用するアルゼンチン帝国を高く評価していた。今回の旅もワクワクが止まらない程だ。

 

「皆様、あれがその船になります」

 

メイアンの言葉を聞きヤゴウたちは視線を向けるがそこには信じられない程巨大な鉄の船があった。しかも帆もオールも存在しないのにも関わらず進む姿に驚愕した。

 

「あ、あれが船なのですか!?」

「はい、我が国の旅客船オセウノと言います」

 

これはかつてヌナブト連邦共和国から譲り受けた旅客船アマウディを模倣して作られた船である。国内では有識者が、国外では国賓のみが乗船できるアルゼンチン帝国最高の船である。そしてそのオセウノを守るようにAZ級駆逐艦五隻が護衛として付いている。オセウノに負けず劣らずの駆逐艦にヤゴウたちは改めてアルゼンチン帝国の技術力を思い知らされるのであった。

 



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第三話「アルゼンチン帝国」

第三話「アルゼンチン帝国」

「こ、これほどの船が帆もオールもなく動くとは……」

「そして船の中とは思えない程清らかで美しい……。まるで光の妖精が住んでいるようだ」

 

使節団はオセウノの船内を見て感動していた。船に乗っているとは思えない程揺れはなく美味しい食材に様々な娯楽。使節団は想像以上の贅沢にアルゼンチン帝国が楽しみになっていた。

そして二日が過ぎた。

 

「あれが……アルゼンチン帝国」

「正確にはその自治領にあたる帝国領チリのパルバライソです」

「これほどの都市とは……」

 

初めて見る高層ビル群に使節団は驚きを現している。

そしてホテルに一泊しアルゼンチン帝国の帝都インペリオ・キャピタルへ向けて出発した。途中、大陸横断鉄道に乗った時には子供の様にはしゃぐほどだ。

インペリオ・キャピタルに付いた時には完成したばかりの帝都の様子に驚き更に建設された時期を聞き更に驚いていた。

 

「これほどの町、技術……。どれも素晴らしいですな」

「ええ、それでいて決して高圧的ではない。好感が持てます」

 

インペリオ・キャピタルの中でも一級のホテルにてハンキとヤゴウは話している。

 

「技術の輸出に関しては明日の会議で、と言われましたが様子を見るにあまり期待はしない方がいいでしょう」

「懸念はアルゼンチン帝国が何を求めているか、だな」

 

ハンキはアルゼンチン帝国が覇権国家であると言うのを薄々理解していた。そんなこの国が一体何を求めているのか。最悪の場合従属を求めてくる可能性もあった。

 

「とは言え我が国には切れるカードなど少ない。更には西から脅威も迫ってきている」

「残念ですが明日の会議で聞くしかなさそうですね」

「アルゼンチン帝国が無理な要求を求めて来ないことを祈るばかりだな」

 

そして夜は明けクワトイネ公国使節団と総統アイルサン・ヒドゥラーによる会談が始まった。

 

「早速で悪いのですが貴国は我が国に対して何を求めているのですか?」

 

ヤゴウの言葉にアイルサン・ヒドゥラーは直ぐには答えずに一拍置くと話し始める。

 

「帝都に来るまでで理解してくれたでしょうが我が国は転移国家です。この世界の事については何も知りません。故に我が国が求めるのはこの世界の情報、そして報告にあった魔法についてです」

「成程……」

 

ヤゴウはアイルサン・ヒドゥラーの言葉に理解を示す。情報は何よりも大切だ。魔法についても知らないのであれば興味がわくのは当然といえた。

 

「そして我が国は貴国に対し一定の技術の輸出を行う準備があります。武器についてはまだ未定ですがそれ以外の技術、道路の整備や港の拡張などの技術を輸出しましょう」

「……成程」

 

悪くはない内容だ。武器については仕方ないと思うがそれ以外の技術が情報と魔法を引き換えに手に入る。アルゼンチン帝国の技術を輸入すればクワトイネ公国は更なる発展を行う事が出来る。ヤゴウはある程度まとめた後話す。

 

「分かりました。それだけの事をしてもらえるのです。我が国が持つあらゆる情報と魔法を渡すことを約束しましょう」

 

こうしてアルゼンチン帝国は異世界にて最初の一歩を歩みだした。アルゼンチン帝国は直ぐに技術を輸出しクワトイネ公国の発展を手伝っていく。クワトイネ公国も自分たちが持つあらゆる情報、魔法を教えていった。

アルゼンチン帝国が覇権国家であることも判明したがアルゼンチン帝国にクワトイネ公国を従属させようという動きはなく次第に肩の荷が下りて行った。同時にクワトイネ公国の南部に存在するクイラ王国も同じように友好関係を結ぶのであった。

 

「……このようにクワトイネ公国の近代化は少しづつ行われています。十年以内に自国で生産できるようになるでしょう」

「クワトイネ公国は異世界初の友好国だ。成るべく友好関係は続けていきたい」

 

アイルサン・ヒドゥラーはあげられてきた報告に満足げに頷いた。クワトイネ公国から得られた情報や魔法はとても有効的な物が多かった。特に医療面では革命と呼べるほどだ。

 

「しかしロウリア王国か……。邪魔だな」

 

情報の中にはクワトイネ公国の隣国ロウリア王国についてのものもあった。クワトイネ公国があるロデニウス大陸の統一を狙っており同時に人間至上主義を掲げているという。その為エルフが三割を占めるクワトイネ公国とは反りが合わず年々関係は悪化してきているという。

更には軍拡を進めており数年以内に攻めてくるのではと言われていた。

 

「ロウリア王国に送った使節団は追い返されてしまいましたからね。どうやら我が国を極東に出来た新興国と侮っている様です」

「不愉快だな。だが、自分たちの物差しで決めてしまうのは仕方がない事だ」

 

実際転移当初はアルゼンチン帝国も混乱したのだ。自分たちの常識を超えた出来事と遭遇しても直ぐに受け入れられる者はそういない。特に、国家となるとそれは皆無と言えるだろう。

 

「だが幸いなのはこれで我が国の次の進出先が決まった事だ。彼ら(・・)から要求されている事も達成できるだろう」

「成程、わかりました。なら軍隊の派遣許可を貰う事にしましょう」

 

アイルサン・ヒドゥラーの言わんとしている事を受け高官は直ぐに行動に移る。この事は海を渡り大使館を通じてクワトイネ公国へともたらされた。

 




個人的に好きな日本国召喚の国(勿論日本は除く)
クワトイネ公国>グラ・バルカス帝国>ちょっと高い壁>神聖ミリシアル帝国>ムー>>>超えられない壁>>パーパルディア皇国>ロウリア王国>フェン王国>その他国々


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第四話「ロウリア王国戦1」

第四話「ロウリア王国戦1」

「アルゼンチン帝国軍の駐留許可、ですか?」

 

クワトイネ公国にあるアルゼンチン帝国の大使館にてヤゴウは驚きのあまり聞き返した。目の前には大使であるダニエル・ウェントンがいた。

 

「はい、貴国の隣国に存在するロウリア王国が軍勢を集めているのは把握しています」

「確かに……、我が国でも報告が入ってきています」

 

ヤゴウも昨日の会議で知ったばかりなのにアルゼンチン帝国も把握できていることが改めて驚く。アルゼンチン帝国が常識外の技術力を有している事は知っていたつもりがまだまだ知らなかったと思っていた。

 

「我が国は貴国を脅かすロウリア王国を滅ぼそうと考えています」

「なっ!?」

 

大使の言葉にヤゴウは驚く。それもそのはず、クワトイネ公国はあくまでロウリア王国を追い返そうと考えていたがアルゼンチン帝国は滅ぼすことまで考えていたのだから。

 

「手順は決まっています。一度ロウリア王国を滅ぼしたのちに戦争参加国で分配する。無論クワトイネ公国やクイラ王国が不利になる様な事はしないと約束します」

「それは……、ありがたいのですが……」

 

ヤゴウは不安になる。このままアルゼンチン帝国の領土拡張を見逃すのか、と。クワトイネ公国にロウリア王国と戦える戦力は存在しない。ならアルゼンチン帝国はほとんど相手する事になるだろう。そうなれば領土分配はアルゼンチン帝国が主導となって行われるだろう。クワトイネ公国にも分配するとの事だがいずれその力をクワトイネ公国に向けてるのではないか。それが心配であった。

 

「……我が国がクワトイネ公国に力を向けるのではないかと心配の様ですが安心してください。我が国は異世界初の友好国である貴国と今後も歩んでいきたいと考えています。そんな貴国に力を向けることはありません。もし、それが行われるなら」

 

貴国が我が国に矛を向けた時ですよ。

そう話す大使にヤゴウは恐怖で顔を引きつらせるのであった。

そんな事もあったが軍隊駐留自体は特に問題なく許可された。一部の者はそのまま侵略するのではと懸念を持つ者もいたがロウリア王国という差し迫った脅威があるため渋々賛成するのであった。

そして送られてきた軍勢であるがクワトイネ公国を驚愕させるものであった。

 

陸軍:60個師団(90万人)

海軍:旧太平洋艦隊

空軍:ジェット戦闘機300以上

 

ロウリア王国軍50万の二倍近い軍勢に数は少ないとはいえ200m越えの大艦隊。更にはワイバーンより早い鉄竜(ジェット戦闘機)が300と質、量ともにロウリア王国を凌駕していた。

更にこれらの軍勢は平時の軍勢の半数に辺り本気を出せば十倍近い兵力を出せる(その代り充足率が大幅に下がるが)という。アルゼンチン帝国軍の威容にクワトイネ公国は歓喜し友好国となれたことに安心するのであった。

余談ではあるがロウリア王国戦後は恩と恐怖から少しでもアルゼンチン帝国の役に立つことを考え農作物の輸出を開始した。当初はアルゼンチン帝国の方が美味であったが本格的に美味しくしようと努力した結果あっという間に追い越していきアルゼンチン帝国ではクワトイネ公国の農作物を一級品の農作物として扱いブランド化が進んでいきクワトイネ公国への親密度が大きく上がるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ついに来たか……」

 

西部方面騎士団の団長モイジはワイバーンの鬨の声(ウォークライ)を聞き表情を引き締めた。ロウリア王国軍は50万を超えワイバーンも500以上用意しているという。クワトイネ公国ではそれほどの戦力は用意できなかった。

だが、モイジは決して慌てる事は無かった。むしろ、ロウリア王国軍に同情すらしていた。何故なら、

 

「ロウリア王国軍の越境を確認次第行動を開始します。よろしいですね?」

「勿論です。よろしくお願いします、ルーガ将軍」

 

モイジは隣にいた男、アルゼンチン帝国陸軍大将アウノルド・ルーガの言葉に頷く。ギムの西方に作られた陣地には西方騎士団のみならずアルゼンチン帝国陸軍40師団、60万人がいた。モイジは数で勝る上にアルゼンチン帝国の技術力を目の当たりにして突破どころか損害も軽微で済むだろうと自信がついていた。とは言え警戒を怠ることなく訓練を続ける様子はアルゼンチン帝国軍の好感も得られ良好な関係を築けていた。中には合同演習を行い交流を行っている部隊も存在していた。

 

「まずは上空のワイバーンを排除します。その後は陸軍による遠距離からの殲滅。最後に貴殿ら騎士団による残党狩りを行う。よろしいですね?」

「勿論です」

 

自国の防衛を他国に任せる事に当初は抵抗があったモイジも残党狩りとは言え騎士団にも役目を与えてくれるルーガに好感を持ち今は頭の片隅に追いやる事にしていた。クワトイネ公国はロウリア王国と正面から戦って勝てる訳ではないのだから。

 

「ワイバーン来ました!」

「空軍と接敵します!」

 

兵士の報告に空を見れば轟音を響かせながら飛ぶアルゼンチン帝国軍の鉄竜(ジェット戦闘機)の姿があった。そして呆気なく殲滅されていく空の王者であるワイバーン。

 

「(あれほどのワイバーン、我が国では対処しきれないだろう。だが、アルゼンチン帝国軍はそれをあっさりとやってのける。……もしかしたらワイバーンは既に空の王者ではないのかもしれないな)」

 

モイジは絶対的な強さを持っていたと信じていたワイバーンが呆気なくやられていくのを見て時代の移り変わりを直に体験するのであった。

 



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第五話「ロウリア王国戦2」

第五話「ロウリア王国戦2」

「ば、馬鹿な……!」

 

ロウリア王国東方征伐軍先遣隊指揮官であるアデムは驚愕した。亜人を嫌うアデムはこれからどのように亜人を殺そうか考えながらワイバーンを向かわせた。ギムの町にて行われるであろう破壊と殺戮を考えながら。

しかしそれは越境した瞬間ワイバーンより上空から現れた鉄竜によって呆気なく覆った。鉄竜は轟音を響かせながらワイバーンを次々と撃ち落としていき数分もしないうちに全滅させていた。

クワトイネ公国にあんな事が出来るとは思えない。ならば一体何処の国が……。そこまで考えてアデムはアルゼンチン帝国という国を思いだす。当時は極東の新興国だろうと相手にしなかったがもしそうじゃなかったのなら……。

そこまで考えたアデムは直ぐに馬を方向転換して逃げ始めた。後ろで自分を呼ぶ声がするもアデムには聞こえなかった。今すぐにでも逃げないとまずい。そう思ったからだ。

アデムのその思考は正しかった。しかし、逃げるには遅かった。

 

「な、なんだ?」

 

置いて行かれた先遣隊は何かが落ちてくる音がして上空を見る。すると黒い点がいくつも落ちてきていた。そしてそれらは自分たちへと落ちてきて、爆発した。それがいくつも起こり先遣隊は悲鳴すら上がらずに一瞬で全滅した。それでも攻撃の手は止まない。先遣隊が終われば次はその後ろ、後ろへと攻撃が加えられた。上空から鉄竜が襲い掛かっても来る。圧倒的な暴力の前に50万いた東方征伐軍は僅かな生き残りを残してこの世から消え去った。そして、その生き残りの中にアデムの姿は無かった。

 

 

 

 

 

攻撃を終えたアルゼンチン帝国は約束通り残党狩りをモイジ達に任せた。モイジは予め伝えられていたが実際に見ると改めてアルゼンチン帝国の力を思い知った。そして自分たちにその力が向けられない事に安堵もした。

生き残りの殆どを捕らえるか殺したモイジの元に報告が入る。クイラ王国方面からアルゼンチン帝国の部隊が越境し侵攻しているとの報告だ。攻撃は東方征伐軍の越境と同時に行われたそうだが既に国境のロウリア王国軍は全滅させたという。

 

「(アルゼンチン帝国は本当にロウリア王国軍を滅ぼすつもりなのだな)」

 

モイジは川を超え侵攻するアルゼンチン帝国軍の戦車師団を見ながらそのように思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

一方、海軍も動き出していた。旧太平洋艦隊は四つに分かれて動き始めた。一つは王都ジンハークへと向かう本隊と要道である三つの別働隊に分かれている。

 

「こ、これほどの巨大な船にも関わらず帆船よりも早いとは……!」

 

クワトイネ公国から派遣された観戦武官ブルーアイは感嘆する。現在彼は旧太平洋艦隊旗艦グレート・ディアボロス級原子力戦艦の艦橋にいた。旧太平洋艦隊の船の中でも一際大きいこの艦を初めて見た時はブルーアイのみならず海軍提督パンカーレも腰を抜かすほどだった。

 

「如何ですかな?アルゼンチン帝国が誇る戦艦から見る景色は」

「素晴らしいですね。まるで自分が王様になったような気分がします」

 

ブルーアイは司令長官であるベイン・アウナウスにそう返した。

 

「まもなくジンハークへと到着します。到着後は艦砲射撃及び艦対地ミサイルによる飽和攻撃を行います」

「艦砲射撃?ミサイル?それらは一体……」

「司令!前方に小型艇多数!敵船と思われます!」

 

ブルーアイが聞こうとした瞬間に接敵の報が入る。その言葉を受けアウナウスは戦闘態勢への移行を命令する。

 

「ブルーアイ殿、まもなく海戦となります。貴殿の疑問はその時に解明しますよ」

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、素晴らしいな」

 

ロウリア王国海軍海将であるシャークンは自らの陣容に目を細め感動していた。シャークンの周りには4400隻もの大船団がおりその安心感はとてつもない程であった。

これほどの船をそろえているのならあのパーパルディア皇国にも勝てるのではないか?

シャークンの心に野心が大きくなっていくがふと冷静になり考える。パーパルディア皇国には大砲というものが存在し遠距離から攻撃できると。いくら大船団を整えたところで近づかなければ攻撃できない現状では勝てるはずもなかった。

シャークンが無駄な野心を切り捨てた時であった。

一番前を航行していた船がいきなり爆発し沈んだのである。更に続けて2、3と爆発し沈んでいく。

 

「な、何事だ!?」

「敵です!かなり遠いですが敵船の姿があります!」

 

見張り員の言葉にシャークンは前方を見る。すると薄っすらとではあるが敵の姿が見えた。

 

「(あの距離から攻撃したというのか!?まさか魔導兵器!?)通信士!ワイバーンの支援を要請しろ!今すぐにだ!」

 

シャークンはワイバーンの到着を待つことなく前進を命じる。この距離で敵は難なく当ててくるのだ。逃げたところで沈められるのが容易に想像できる。

 

「活路は前だ!全速で進め!」

 

 

 

 

 

 

「な、なんだこれは……!」

 

ブルーアイは目の前の光景が信じられなかった。グレート・ディアボロス級原子力戦艦の前方に付けられた巨大な物体がいきなり爆発したかと思うと遥か彼方の敵船が沈んだのだから。

 

「先ほどの質問に少し答えましょう。艦砲射撃とは船につけられている砲、この艦なら46cm三連装砲を打ち出し沿岸部を砲撃する事です」

「砲!?まさか、そんな物を使用しているとは……!」

 

しかも連射性能も命中率も優れている!明らかにパーパルディア皇国の魔導砲を超えている!

ブルーアイは心の中でそう叫ぶ。そうしている間に敵船は近づいてくるが艦隊から放たれる砲撃の前にどんどん数を減らしていく。既に数は半分ほどになっているだろう。

 

「(これが……、アルゼンチン帝国の力か)」

「飛行物体接近!ワイバーンです!」

「よし、艦対空ミサイル発射用意!……ブルーアイ殿、次はミサイルについて説明しましょう」

 

アウナウスの言葉にブルーアイの驚愕は続くのであった。

 



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第六話「ロウリア王国戦3」

第六話「ロウリア王国戦3」

ロウリア王国の大船団を助けようと近づいてくるワイバーンに向けて艦対空ミサイルが発射される。

 

「ミサイルとは遠距離から敵に向けて攻撃する兵器の事です。ミサイルには様々な種類があり今見えているのは空の敵を倒す為の者です」

「そ、空を……!それはどれくらいの命中率を?」

「迎撃でもされない限り百発百中に近いでしょう」

「ば、馬鹿な!?動き回るワイバーンすら落とせるというのですか!?」

「ワイバーンの速度は300以下でしたな?それなら楽に落とせるでしょう」

 

空の王者たるワイバーンを撃ち落とせる。それも楽に。ブルーアイはミサイルというものに恐怖しそれを扱うアルゼンチン帝国を化け物の様に感じていた。

 

「(ま、まさか古の魔法帝国……!)」

 

一瞬そんな考えが浮かぶも伝承とは違う部分もあり直ぐに否定するが魔法帝国と同等の力を持っていると考えていた。

 

「(……もしロウリア王国ではなくこの力がクワトイネに向けられたら……)」

 

ロウリア王国以上に何も出来ずにククワトイネ公国は滅ぶだろう。ブルーアイはアルゼンチン帝国が理知的で自分たちに矛を向けない事を祈るばかりであった。

そして発射された艦対空ミサイルは迫りくるワイバーンへと突き刺さる。ワイバーンは回避行動すら満足に取れずその数を減らしていった。中にはミサイルをかいくぐり接近を試みる者もいたが次弾で発射されたミサイルの前に炎の花を咲かせるだけであった。

その様子は削られていくロウリア王国大船団からも見え船員たちは絶望していた。無敵と思われたワイバーンを呆気なく落とす。それも自分たちへの砲撃の手を休めないままに。ここにきてロウリア王国は勝てないという事を悟るが既に手遅れだった。大船団も既に1000隻を下回っており今も凄まじい勢いで減っていた。

 

「……我々は、一体何を相手にしているというのだ……!」

 

シャークンは揺れる船上で茫然と見ていた。圧倒的な敵の暴力に大船団はなすすべなく蹂躙されていく。逃げようにも既に大分接近してしまっている。ここから逃げる事など出来ないだろう。近づこうにも近づく船に集中砲火を受けている。もう、どうにもならなかった。

 

「……全員船から飛び降りろ!このままでは船と共に沈んでしまうぞ!生き残った船にも伝えろ!」

 

シャークンは最後の決断を降す。シャークンの命令に従い船員は海へと飛び降りる。全員が飛び降りた事を確認し自らも飛び降りた。瞬間、シャークンの乗っていた船は爆発し沈んでいった。

ここにロウリア王国の大船団4400隻は全滅し海の底へと沈んでいった。船から飛び降りた事で生き残った者たちは廃材に掴まりながら陸へと向かっていく。中には鎧の重さで沈んでいく者もいた。シャークンは近くにあった大きめの廃材の上に乗り近くの者たちを助けていた。

 

「シャ、シャークン様!あれを……」

 

船員の言葉にシャークンが指さす方を見ると先ほどの艦隊が西へと向かっていく姿があった。どうやらこれ以上の追撃はしないようだ。

 

「まさか……、奴らの狙いは王都か!?」

 

あの艦隊が王都を攻撃すれば王都は灰燼と化すだろう。シャークンは更地になる王都を想像し冷や汗を流すのであった。

 

 

 

 

「一体どうなっているのだ!」

 

ロウリア王国王都ジンハークにてハーク・ロウリア34世は怒鳴る。東方征伐軍を起こしクワトイネ公国を併合するはずが東方征伐軍は全滅、大船団も通信が通じずワイバーンも全滅した可能性があった。更にはクワトイネ公国、クイラ王国両方の国境から敵が雪崩れ込んできていた。

 

「い、今は兵を再編しておりまして……」

「遅い!このままでは我が国は蹂躙されてしまうぞ!」

「陛下!大変です!」

 

そこへ兵士が入って来る。突然の乱入にロウリア34世の矛先がその兵士に向く。兵士は汗を流しながら声を上げる。

 

「敵の大船団がこちらに向かってきています!更に他の北部都市と南部の都市にも敵の船が来ているとの事!」

「何だと!?」

 

その瞬間であった。王城を爆炎が包み込んだ。その中にいた者は何が起こったのか分からずに炎に包まれこの世から消え去った。

 

ジンハーク城を襲ったのは旧太平洋艦隊から放たれた艦対地ミサイルであった。他にもジンハークに次々と打ち込まれ僅か数分でジンハークは灰燼と化すのであった。

そして他の都市も同じように破壊されロウリア王国の継戦能力どころか指揮能力も消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は全く現状が分からない都市が独自に兵を集めたりしていたがアルゼンチン帝国の戦車師団の前に蹂躙され一週間後には全ての領土がアルゼンチン帝国の支配下に入った。

ここにロウリア王国は滅びるのであった。

 



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第七話「戦後処理」

第七話「戦後処理」

「ゴート殿、まずはロウリア王国との戦争の勝利、おめでとうございます」

「ありがとうございます。クリタクリルク殿」

 

インペリオ・キャピタルに存在するアルゼンチン帝国のヌナブト連邦共和国大使館にてメイアンは大使であるイキアク・クリタクリルクと会談を行っていた。ヌナブト連邦共和国はアルゼンチン帝国の一番の友好国であり同じ新大陸の国という事もあり何かと協力を行ってきた国であった。特に南北アメリカ相互援助条約を結び両国の結びつきを強くしていた。

 

「それで今日はどのような要件でしょうか?」

「実は旧ロウリア王国領の一部を貴国に譲渡しようと考えています」

「何と!?」

 

クリタクリルクは驚く。それはつまり異世界にヌナブト連邦共和国が建国できることを意味している。アルゼンチン帝国の転移によりヌナブト連邦共和国の国民が十万単位で存在していた。現在は集合住宅を建設しそこに住んでもらっていた。

 

「我が国に滞在している外国人にロウリア王国領を与えようと思っています。しかし、ヌナブト連邦共和国以外ではあまり滞在している人はいませんので領土は少ないですがヌナブト連邦共和国にはロデニウス大陸以西の沿岸部をと考えています」

「それは……とてもありがたい事ですが……」

「安心してください。貴国に対して臨むことはありません。これは友好国であるヌナブト連邦共和国とよりよい関係を築きたいがための事です」

「……分かりました。貴国のありがたい申し出に深く感謝します」

 

こうしてヌナブト連邦共和国はロデニウス大陸西側に建国された。他にも神聖オーストリア・ハンガリー帝国や高天原帝国などが領土を与えられ国として独立して行くのであった。

そして戦後処理としてクワトイネ公国とクイラ王国は国境を押し込む形で拡張しアルゼンチン帝国はジンハーク等の沿岸部を直轄領として中央部に自治領である帝国領ロウリアを建国したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「これでクワトイネ公国の危機は去ったな。次はパーパルディア皇国か」

 

アイルサン・ヒドゥラーは執務室にて地図を見る。これは衛星写真をもとに作成されたものである。

 

「ロウリア王国を裏で支援していた様でワイバーンなどにその傾向があります」

「確かあの国にも使者を送っていたよな?どうなっている?」

「門前払いだそうです」

「やはりか」

 

アイルサン・ヒドゥラーは予想していたとはいえ予想以上のひどさに頭を抱える。クワトイネ公国からの情報でこの世界では国力のある国による横暴が許されておりアルゼンチン帝国の様に寄り添う形で外交する国など稀らしい。

 

「別に国交がなくても問題はないがパーパルディア皇国は領土拡張が激しいらしいからな。ロデニウス大陸に圧力をかけられてはたまらない」

「そうですね。いっそ艦隊を動かしますか?」

「それも考えるか。だがもう少し粘ってみるか。他国はどうだ?」

「アルタラス王国は友好的、ガハラ神国はクワトイネ公国以上に歓迎してくれました」

「フェン王国にはガハラ神国の口添えで今向かっているのだったな?」

「その通りです。願わくば友好的な事を祈るばかりですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがフェン王国か……」

「日本を思いだしますね」

 

アルゼンチン帝国外交官フェイルナン・デウルはフェン王国の様子に感心していた。国中が厳しく、厳格な雰囲気の国。それがフェン王国の第一印象だった。

 

「剣王が入られます」

 

その言葉に外交官は立ち上がり頭を下げる。

 

「そなた達がアルゼンチン帝国の使者か」

 

剣王の圧倒的な武の雰囲気にフェイルナンは武人というのはこういうものなんだろうなと感じていた。

 

「はい、貴国と国交を樹立したく参りました。こちらはお近づきのしるしにと持参しました」

 

アルゼンチン帝国で作られた銀製品や装飾品、更には切れ味の良い剣などがあった。

剣王は真っ先に剣を取り引き抜くとしげしげと見つめる。

 

「ほう、これは良い剣だな」

 

剣王は気を良くしアルゼンチン帝国外交官の提示条件を話す。内容は対等な国交の樹立と両国の交流等であった。

 

「ふむ、失礼だが私は貴国について何も知らない。だが、少なくとも貴国は高い技術力と礼儀を持っているのは分かる。貴国との提案も悪くない」

 

剣王の良い言葉に外交官が上手くいきそうだと考えた。

 

「しかし、国ごとの転移や海に浮かぶ鉄の船などとても信じられない。そこで提案なのだが貴国の船団を我が国に派遣してくれまいか?今年我が国の水軍船から廃棄する船が4隻出る。それで力を示してくれないか?」

「それは……」

 

用は力を見せろとの事らしい。確かに手っ取り早く国力を示せるだろうがまさか威圧外交を相手から望まれるとは思っていなかった。フェイルナンは本国に報告しますといいこの場は一旦お開きになった。

 

「……陛下」

「言うな。これも我が国の為だ」

 

宰相の言葉を剣王は遮る。現在フェン王国は存亡の危機に陥っていた。パーパルディア皇国が攻めてくる可能性が高まっていたのである。相手は列強の一つでフェン王国などとても対抗できる相手ではなかった。そんな中でやってきたアルゼンチン帝国。話が本当ならパーパルディア皇国に対抗できるかもしれない。

 

剣王はアルゼンチン帝国をパーパルディア皇国に使おうと考えていたのであった。

 




ロウリア戦後

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第八話「紛争1」

第八話「紛争1」

フェン王国が5年に1度行っている軍祭。文明圏外国の武官がたくさんやって来るこの催しにガハラ神国の風竜騎士団団長スサノウも参加していた。

そんなスサノウは上空から下の大海原を見る。そこには常軌を逸した灰色の船10隻が見える。その内2隻は風竜が着陸できそうな程広い甲板を持っていた。

東の国の新興国、アルゼンチン帝国のものらしい。

 

「眩しいな」

 

スサノウの相棒の風竜が話しかけてくる。

 

「確かに、今日は快晴だな」

 

上を見れば雲が少なくとても眩しかった。

 

「違う。あの下の船から線状の光が様々な咆哮に高速で照射されている」

「光?何も見ないけど」

「いや、人間には見えない光だ。我々が同胞と会話をする時に使う光、人間にとって不可視の光だ。それに似ている」

「へぇ、それってどのくらいまで届くんだ?」

「個体差もあるがワシは120kmくらい先まで判る。だが、あの船の光はそれよりも遥か彼方まで届くようだ。それにワシらの光より濃い」

「まさか……、あの船は魔通信以外の方法で通信できると言う事なのか?」

「そう言う事だ」

「アルゼンチン帝国、凄いな」

 

一方のアルゼンチン帝国海軍でも似たような事が起きていた。

 

「あり得ない。まさかあの竜がレーダーに似たものを使用しているとは……」

「しかし間違いありませんよ」

「流石異世界。珍しい生体の竜もいるんだな」

「ステルス戦闘機を本格的に運用し始めないといけないかもな」

 

そうこうしている内にアルゼンチン帝国軍による演習が開始される。発砲するのはグレート・ディアボロス級原子力戦艦の二番艦イービルアイである。46㎝三連装砲4基による大砲撃が行われる。廃船は一瞬で破壊され粉々になった。

 

「あれが……アルゼンチン帝国の実力……」

 

剣王は望遠鏡から見える光景に茫然とする。想像以上のアルゼンチン帝国の実力に段々と笑みが浮かんでくる。

 

「直ぐにでもアルゼンチン帝国と国交を樹立する準備に取り掛かろう。不可侵は勿論できれば安全保障条約も取り付けたいな」

 

剣王は満面の笑みでそう宣言するのであった。

 

 

 

 

 

 

グレート・ディアボロス級原子力戦艦イービルアイ

「西から飛行物体だと?」

「はい。報告によると時速は350kmほどでまっずぐここに向かってきているとの事です」

 

イービルアイ艦長オルト―・ラ・ベインダーズはその報告に眉を潜める。

 

「西にはパーパルディア皇国しかないぞ?しかし、軍祭に参加するという話は聞いていないが……」

「一応警戒態勢を取るように命令します」

「ああ、一応動けるように準備はさせて置け。それとフェン王国に確認の連絡を入れろ」

「了解しました」

 

部下は敬礼をするとその場を後にする。残されたベインダーズは艦長席に座りながら何事をない事を祈るのであった。

そしてその飛行物体、飛竜がフェン王国上空にやってきたがついぞ連絡が来ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

パーパルディア皇国、皇国監査軍東洋艦隊所属のワイバーンロード部隊20騎はフェン王国への懲罰的攻撃を加えるために首都アマノキ上空に来ていた。

フェン王国は軍祭を行っておりそこには文明圏外の各国武官が招待されている。そんな中で攻撃を行えば文明圏外の国家はパーパルディア皇国の力を改めて思い知るだろう。そう考えての行動であった。

 

「ガハラの民には構うな。目標はフェン王国王城と……あの巨大船にしよう。攻撃開始!」

 

ワイバーンロード部隊は10騎ずつの二手に分かれて王城と、旧太平洋艦隊所属のイービルアイへと向かっていく。

 

「な、なんだ!?」

「パーパルディア皇国だ……ぎゃっ!」

「あ、熱い!助けてくれ!」

 

ワイバーンロードの動力火炎弾を受け燃え盛る王城を見たベインダーズの行動は早かった。

 

「上空のワイバーンは敵である!撃ち落とせ!」

「了解!」

 

ベインダーズの指示によって艦対空ミサイルが各艦より放たれる。ワイバーンを軽く超える速度でやって来るミサイルにワイバーンロード部隊は驚愕する間もなく落とされていく。

そして20騎いたワイバーンロード部隊は呆気なく全滅し黒煙の花を咲かせるのだった。

 

「な、なんと……」

 

一瞬でワイバーンロード部隊を壊滅した様子を見た剣王は驚きのあまり固まってしまう。周りで見ていた家臣たちも同じようで誰一人として身じろぎすら出来ていなかった。

 

「まさか、パーパルディア皇国のワイバーンを一瞬で全滅させるとは……。これなら、パーパルディア皇国との戦争にも勝てるやもしれん!」

 

剣王はまるでさも今の力が自分のものであるかのようにふるまう。そこへアルゼンチン帝国の外交官がやって来る。

剣王は直ぐに場を整えると外交官を中へと入れる。入って来たのは前回の会合の時もいたフェイルナンであったが雰囲気が前回と違いとげとげしかった。

 

「アルゼンチン帝国の者よ、今回フェン王国を攻撃した者達を見事な武技で対峙してくれたことに感謝する」

 

フェン王国を代表する形で剣王が礼を言う。

 

「……いえ、奴らは完全に我が国の艦へ攻撃を加えようとしていました。それを振り払っただけの事です」

「では早速国交樹立の事前会議を……」

 

剣王がそこまで言ったときフェイルナンが手で制す。

 

「その前に、こちらの質問に答えていただきたい。先程のワイバーンはパーパルディア皇国の物と分かりましたがいきなり攻撃を加えてくるとは思えません。貴国は既にパーパルディア皇国と戦争状態なのではないですか?」

「ふむ、確かに我が国はパーパルディア皇国から最後通知を受けている。だが決して戦争になっている訳ではないぞ」

「ならば何故パーパルディア皇国の船がこちらに向かってきているのですが?返答によっては国交樹立の件は考え直させてもらう」

「奴らは非道な者たちでな。我が国に受け入れられない要求をしてきてな。断ったが今回の件は確実にそれに関する行動だろう」

「……貴国がその様な状況になっているのを知らなったのはこちらのミスですがそれならそうと初めに教えていただきたかったですな。最悪の場合船員を危険にさらした可能性すらあるのに」

「それについては謝罪するが既に貴国も当事者である。確実に我が国の次は貴国が標的となろう」

「……分かりました。残念ながらこうなっては上層部の判断を聞かなければなりません。今回はこれで失礼します」

 

ああ、それと。と立ち上がり扉の前に来たフェイルナンは最後に言う。

 

「こちらに向かってきている船は全て沈めても問題ないでしょう?あれらは我が国が対応します。それでは」

 

それだけ言うとフェイルナンは完全にその場を後にした。

 



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第九話「紛争2」

第九話「紛争2」

『問題ない。沈めろ』

 

上層部の命令は簡潔だった。フェイルナンが王城から戻り船に戻ってすぐに連絡を入れた。その結果以下の命令が数十分で届いた。パーパルディア皇国が相手というのも関係しているのだろうとフェイルナンは考えていたが上層部の命令をベインダーズに伝えた。因みに二人は軍に入る前からの友人であり気心のしれた仲であった。

 

「そうか。まあそうだろうなとは思った。詳細は伝えられているか?」

「いや、これだけだ」

「なら勿体ないがスティーグレイ・改(国産艦対地ミサイル)を使用してロングレンジで叩くか」

「情報を与えないためというのは理解できるがオーバーキルではないか?」

「この世界じゃ全ての兵装がオーバーキルだろうよ」

 

こうして艦対地ミサイルによる遠距離攻撃が開始された。上空へと撃ちだされるミサイルを眺めながらフェン王国について話し合う。

 

「しかし、フェン王国も面倒なことをするもんだな」

「そうだな。思わず感情をぶつけてしまったよ」

「外交官が感情を表に出すなよ。失格だろ?」

「そうだけどさ、明らかに俺たちとパーパルディア皇国を戦わせようという魂胆が見え見えだったんだぞ」

「気持ちは分からんでもないがな。小国が生き残るには大変な思いをしなきゃならんからな」

「それで戦わされる身にとっては不快だがな」

「それには同意するよ……と、そろそろ敵艦隊に命中するぞ」

「敵艦は確か帆船だったよな?きちんと起爆するのか?」

「安心しろ。10年前ならともかく現在の帝国の技術は高水準だぞ?木造船に命中しようときちんと作動してくれるはずさ……多分」

 

フェイルナンは最後の呟きに軽くため息をつくのであった。

 

「そう言えば敵船の救助はいいのか?」

「ああ、そこは今向かっているフェン王国の海軍がやるそうだ。流石に全て俺たちでやるのも、な?」

 

 

 

 

 

 

 

パーパルディア皇国皇国監査軍東洋艦隊の提督、ポクトアールは先ほどから通信が途絶しているワイバーンロード部隊について考えていた。

 

「(何故攻撃開始時の報告を最後に何も通信が入らない?通信機の故障か?それにしては一騎も戻ってきていない。普通何かあったのなら戻ってきても可笑しくない。予定では既に作戦を終え戻ってきている時間なのに……。まさか!全騎撃墜されたのか!?)」

 

そこまでポクトアールが考えた時であった。見張り員が叫んだ。

 

「飛行物体接近!」

「飛行物体?ワイバーンか?まさか戻ってきたのか……?」

「い、いえ!それよりも早いです!」

 

見張り員の言葉を聞きポクトアールは双眼鏡を使い確認する。そこにはワイバーンなどよりもはるかに早い飛行物体がこちらに近づいてきていた。それも今からでは回避すらできないであろう速度で。

 

「!全艦隊回避しろぉ!」

 

ポクトアールは思わず叫ぶが直ぐに動けるほど帆船は万能ではない。高速で近づく飛行物体、艦対地ミサイルが迎撃を受ける事なく各帆船の横腹へと吸い込まれていく。

そして

 

「うおっ!?」

 

とてつもない爆発が起こりポクトアールは船から投げ出され海へと落ちる。突然の事に必死に海面へと向かい顔を出す。荒い息を整えつつ周りを確認する。

 

「な、なんだこれは……!?」

 

ポクトアールが見たのは圧倒的な蹂躙であった。22隻いた皇国監査軍東洋艦隊は1隻の漏れなく炎上もしくは沈みつつあった。中には完全に吹き飛び周辺に瓦礫しか残っていないモノもあった。

ほとんどの船員は船と運命をしたのだろうが甲板などにいた運がいい船員が同じように海を漂っていた。

 

「我々は……一体何を相手にしたのだ……?」

 

ポクトアールは偶々目の前を通った流木にしがみ付き恐怖で顔を青くするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこれは……!」

 

アルゼンチン帝国がロデニウス大陸に持つ直轄領に一人の男が降り立った。男は国交樹立をしたばかりのアルタラス王国からやってきた最初の船に乗っていた。しかし、彼は決してアルタラス王国の人間ではない。

 

「確かこの国は我々と同じ転移国家と言っていると聞いてはいたが……」

 

自国より技術力は上!

その考えが頭をよぎる。何故ならかつてジンハークと呼ばれていた都市、現在はニュー・サンラファエルと名付けられたこの場所は計画都市の整備が進みつつあり高層ビル群が完成しつつあった。ニュー・サンラファエルは完成後はロデニウス大陸直轄領の中心的都市となるため優先的に建造が行われている。

しかし、後へそれを知ったとしても目の前の男は驚いただろう。自国にはこれだけの技術力はないのだから。

 

「それに港で見たあの巨大戦艦」

 

男は自国の最強の戦艦より大きかった艦、グレート・ディアボロス級原子力戦艦三番艦リヴァイアサンの圧倒的な武力に顔が真っ青になっていた。

自国と同じ転移国家を調べて来い。そうして送られてきた男だったが既にこの時点で本国に戻るなり通信するなりして報告を行いたかった。絶対にこの国とは争ってはいけない。それを教えるために。

男はその日のうちにアルタラス王国へと戻っていく。そこには男が所属するグラ・バルカス帝国の拠点があるからだ。

男が戻った後ロデニウス大陸直轄領には多数の諜報員が送り込まれやがて撤退していった。

グラ・バルカス帝国がアルゼンチン帝国に外交使節団を派遣してきたのはそれからすぐの事であった。

 



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第十話「皇国と帝国」

第十話「皇国と帝国」

「何が起きている!?」

 

パーパルディア皇国第3外務局局長カイオスは怒りを露にする。ことの始まりはフェン王国へと送った皇国監査軍東洋艦隊がなんの連絡も寄越さなくなったからだ。こちらから通信しても返信が帰って来ることはなくノイズが走るのみだった。

 

「まさか、全滅したのか?」

 

しかしそれも瞬時にあり得ないと切り捨てる。皇国監査軍はパーパルディア皇国海軍に比べれば質、量ともに低いがそれでも白兵戦しかしない文明圏外国相手なら十分に強いはずだ。更にはワイバーンを超えるワイバーンロードが付いている。フェン王国にいくつかの国が協力しようと負けるはずはない。

 

「直ぐに情報を集めるんだ!」

 

カイオスは直ぐに情報収集に入るが結局敵の正体は分からなかった。フェン王国に行って調べられればいいのだが今はパーパルディア皇国との船が完全にストップしている。仕方なく周辺国家に密偵を送り調べる事となった。

そして皇国監査軍を全滅させたアルゼンチン帝国は既にパーパルディア皇国との外交を打ち切り皇国からは完全に撤退した後であった。

 

 

 

 

 

 

 

「グラ・バルカス帝国?確かに極西で暴れまわっている国だったか?」

「はい、クワトイネ公国からの情報なので精度は低いですが西側諸国を併合しており我が国が転移する前には列強の一角を数日で落としたとか」

「そんな国が極東に位置する我々になんのようだ?」

 

アイルサン・ヒドゥラーはグラ・バルカス帝国の使者と聞いて警戒よりも疑問が先に出た。何せこちらはグラ・バルカス帝国についてほとんど知らないのだ。精々は様々な国を襲っている獣のような国という印象しかない。技術力についても列強を降すのだからそれなりにあるのだろうという程度だ。

 

「で?使者は既に向かってきているのか?」

「正確にはロデニウス大陸直轄領についたそうです。一艦隊を連れてきたとの事で今は駐留艦隊が対応しているそうです。内容は国交樹立したいそうです」

 

駐留艦隊とは旧太平洋艦隊を解体して新たに誕生した艦対でグレート・ディアボロス級原子力戦艦三番艦リヴァイアサンを旗艦として空母1、巡洋艦5、駆逐艦8からなる艦隊だ。ロデニウス大陸西側からの襲撃に備えるためにそれなりの規模となっている。

 

「艦隊で来たと言う事はそれなりの技術力はあるのか?」

「見た感じですが第二次世界大戦中の技術力と言った所でしょうか。これが一番の大型艦です」

「どれどれ……、砲塔はグレート・ディアボロス級と同じようだな。だがミサイルは搭載していないのか。実際に戦えばどうなる?」

「駐留艦隊と戦う前提なら圧勝できます。遠距離ならミサイルで近距離なら砲撃で十分でしょう」

 

グラ・バルカス帝国とアルゼンチン帝国の技術力は明らかに差が開いていたがそれでもこの世界で見た中では最強と言えるパーパルディア皇国よりも上であった。アイルサン・ヒドゥラーは少し考えた後頷いた。

 

「敵対意志はないようだし帝国領チリに案内しろ。そこからはクワトイネ公国の時と一緒だ」

「本土に乗せるのですか?」

「問題ないだろう。下手な事が出来ないように前後に船を挟めばいいし高層ビル群の大都市を見せれば相手の反応で相手の技術力について少しでも知れるだろう」

「分かりました。なら直ぐに準備を行います」

 

こうしてグラ・バルカス帝国使節団はアルゼンチン帝国本土への上陸許可が下りるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラ・バルカス帝国使節団の一人シエリアは目の前の戦艦に顔を青くしていた。

彼女が乗船するグレードアトラスターですら目の前の戦艦より小さい。これだけで相手の技術力が上というのが何となくわかる。

 

「諜報員から聞いた時はどんなジョークだと思ったが実際に見ればすさまじいな」

「それほどですか?」

 

シエリアは艦長のラクスタルの言葉に返す。ラクスタルもシエリアほどではないが顔を青くし汗を流していた。

 

「詳細は分からないが少なくとも目の前の大型艦はグレードアトラスターより同等かそれ以上だろう。諜報員によるとこの艦は三番艦、つまりグレードアトラスター以上の戦艦をアルゼンチン帝国は最低でも三隻持っている事になる」

「そんな……!」

 

シエリアは顔の色を真っ白にする。我が国最強の船を超える船が三隻も……。シエリアはアルゼンチン帝国が我が国とは遠く離れた極東にある事に深く安堵した。もし近くにあれば攻撃して怒りを買ったかもしれないからだ。

 

「艦長!アルゼンチン帝国より通信です。我々を本土へと案内し総統直々に会うそうです」

「ほお、随分と思いっ切りがいいな。分かった。感謝の報を入れろ」

「はっ!」

 

通信士からの報告にそう答える。やがて目の前の大型艦、リヴァイアサンが回頭する。どうやら先導するらしい。その動きを見てラクスタルは思う。

 

「(早い……!)」

 

グレードアトラスターより早く動く。戦艦とは鈍重な物だ。よほど高性能なエンジンか武装を軽くしないと速度は出ない。それなのに目の前の船はどうか?少なくとも武装がないか?それは違う。見るからに艦隊旗艦だ。今の今まで戦闘をしていたのなら別だが動きは無かった。つまり高性能エンジンを積んでいるだろう。それも我が国より高性能なものを。

ラクスタルはシエリアと同じように近くになくて良かったと思うのであった。

 



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第十一話「外交1」

第十一話「外交1」

「は、はは……!」

 

シエリアはアルゼンチン帝国の自治領帝国領チリの湾口都市パルパライソを見て失神しかけていた。

見上げるほど大きい高層ビル群はシエリアの、外交使節団の心を折るには十分だった。無論グラ・バルカス帝国にも高層ビル群は存在する。しかしあくまで重要な都市くらいだ。アルゼンチン帝国の、自治領の一都市にまであるわけではない。一応西側における主要な都市らしいがそれでも技術力の差を見せつけられた。

 

「これは、とても重要な外交じゃない……」

 

シエリアは今更ながらこの外交の重要性を理解する。アルゼンチン帝国との外交次第では敵に回るだろう。これだけの技術力を持つ国だ。敵に回ればグラ・バルカス帝国は滅びるかもしれない。

誰にも本土の位置は知られていない。それでは安心は出来なかった。

 

「初めまして、グラ・バルカス帝国よりお越しの皆様方。皆様方を担当させていただきますファンハ・ヒンリーと申します」

「これはどうも。シエリアといいます」

 

シエリアが代表してアルゼンチン帝国の外交官と握手をする。シエリア達外交使節団は早速都市を案内され翌日に帝都インペリオ・キャピタルに向かう事を説明される。その際に僅か半日で到着する事を訊いて更に顔から色素が抜けていたが。

そんなこんな夜となり豪華なディナーが振るまわれた。想像以上の美味にシエリア達の顔は自然と綻ぶ。

ディナーを終えホテルの部屋に案内されたシエリアたちはアルゼンチン帝国について考えていた。

 

「アルゼンチン帝国は明らかに我々より格上だ。それは分かったな?」

「ええ、まさかここまでとは思わなかったけど」

「軍事だけではなくインフラや建造能力も上……。アルゼンチン帝国は我々と同じ転移国家か?」

「その可能性は高いな。アルゼンチン帝国が表に出てから半年ほどしか経ってない。地理的に今まで隠し通せていたとは思えない」

「私達より格上の転移国家……」

「兎に角、アルゼンチン帝国と敵対はしていけない。すればグラ・バルカス帝国は亡びる」

 

外交使節団は改めて全員の意志を合わせるのであった。

そして夜が明け遂に帝都へと向か時が来た。

 

大陸横断鉄道と呼ばれるモノにのり、自国の鉄道より早く快適な乗り心地に驚いたり車内で売っているお菓子や飲み物のおいしさに驚いたりと外交使節団は終始驚きし続けていた。

インペリオ・キャピタルについた時、その驚きは頂点に達した。パルパライソ等比べ物にならない都市、それでいて計画的に作られた美しさが外交使節団を虜にしていた。

 

「我が国の帝都インペリオ・キャピタルです。まだ完成してから一年ほどしか経っていないのですよ」

「ち、因みに建造期間は……?」

「半年もかからなかったと思います」

「……」

 

ファンハの言葉にシエリアはもう驚かなくなっていた。驚き疲れたとも言うべきか。これ以上驚いていたら死んでしまう。シエリアの本能がそう言っていたように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グラ・バルカス帝国の皆さま、我がアルゼンチン帝国へようこそ」

 

インペリオ・キャピタルの総統府にて外交使節団はアイルサン・ヒドゥラーと対面していた。この国の頂点に立つ男との対面にシエリア達に緊張が走る。まさか自ら来るとは考えていなかったのだ。

歳は40代程であろうか?丁度人生の折り返し地点を過ぎた頃の様で皺が少し見える。それでも一国を預かる者らしい覇気を兼ね備えていた。

 

「は、初めまして。外交使節団代表のシエリアといいます」

「総統アイルサン・ヒドゥラーです」

 

お互いの自己紹介を行い早速外交に入る。シエリアは国交の樹立と相互不可侵等を言う。

 

「……問題はありませんが一つ良いかな?」

「な、なんでしょう?」

「貴国と我が国は遠く離れています。なのに態々我が国と国交を結びに来たのですか?」

 

シエリアは来た!と感じた。この内容は聞かれるだろうと思っておりどう話すか考えていた。だが、相手の方が国力は上なので包み隠さず言うのが一番という結論に達したためシエリアは覚悟を決めて話す。

 

「……我が国は転移国家です。そして貴国も転移国家と考えています。違いますか?」

「その通りですよ。別に隠すような事ではないので」

「……国力は貴国の方が上という事が何となくですが分かっています。その為遠い未来敵対するより今のうちに貴国と友好関係を結びたいと考えました」

「……成程」

 

アイルサン・ヒドゥラーはグラ・バルカス帝国外交使節団の率直な言葉に頭の中で意外だと思っていた。グラ・バルカス帝国の印象ははっきり言ってよくない。傲慢であり武力外交を平気で行うと考えていた。それが自国より技術力が高い事を公式に認めそのうえで態々世界の果てとも言える距離を航行する。アイルサン・ヒドゥラーの中でグラ・バルカス帝国の印象はかなり良くなってきていた。

 

「……正直に話してくれたことに感謝します。当初は貴国のふるまいから追い返すことも考えましたが実際に会ってよかった」

「……そ、それは良かったです」

 

まさかここで自国の振る舞いが足かせになるとは思っていなかった。シエリアはここまで来れた事に安堵するのであった。

 

「さて、貴国の内容ですが……」

「は、はい」

 

シエリアを含めた外交使節団がアイルサン・ヒドゥラーの次の言葉を固唾を飲んで見守る。次の言葉次第でグラ・バルカス帝国の未来は確定する。

繁栄か?滅亡か?それとも無関心か、属国化か?

そしてアイルサン・ヒドゥラーはゆっくりと口を開いた。

 



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第十二話「外交2」

第十二話「外交2」

「……問題ありません。貴国の要求を受け入れましょう」

「あ、ありがとうございます!」

 

アイルサン・ヒドゥラーの言葉にシエリアは思わず感謝の言葉を零す。少なくとも暗い未来になる事はない。繁栄するかどうかも分からないが。

 

「それで我が国の要求ですが」

「っ!」

 

シエリアは思わずしまったと思う。アイルサン・ヒドゥラーはあくまでこちらの要求、国交樹立と不可侵条約を受け入れてくれたに過ぎない。ここからアルゼンチン帝国がどんな要求を出してきてもある程度は飲まねばなるまい。シエリアの顔に緊張が戻って来る。

 

「実はここだけの話ですが我が国はとある“列強”に宣戦布告する事を決定しました。これは数日前に決まったばかりの事で知っている人はあまりおりません」

「は、はあ?」

 

シエリアはアイルサン・ヒドゥラーの言葉の意味を測りかねた。グラ・バルカス帝国も列強の一角であるレイフォル王国を降している。アルゼンチン帝国も同じような事をしたとして特に咎める事など出来ない。

 

「貴国が知っているかどうかは分かりませんが我が国は転移時に存在した友好国の国民の為にロデニウス大陸に建国しました」

「一応存じております」

 

建国されたのはヌナブト連邦共和国や高天原帝国、神聖オーストリア・ハンガリー帝国と言った国というのは知っている。しかし、ヌナブト連邦共和国以外の国はロデニウス大陸直轄領とは反対側にあるため詳しくは知らなかった。

 

「私としては友好国の為に広大な土地を用意してあげたいのです。その事を話したら神聖オーストリア・ハンガリー帝国が是非力を貸したいと申してましてな。合同で列強へと宣戦布告する事にしました」

「神聖オーストリア・ハンガリー帝国ですか……」

「幸か不幸かちょうど合同演習を行っておりましてな。軍事力なら大量に持っています」

 

合同演習はアルゼンチン帝国建国時からの友好国である神聖オーストリア・ハンガリー帝国と行っているものだ。十年に一度と歳月は長いがお互いいい刺激を与えあっていた。

 

「そこで貴国に提案ですが観戦武官を派遣してはどうでしょうか?」

「観戦武官?」

「ええ、戦争相手であるとある“列強”では一方的でしょうが我が国の力を知っていただけると思っています。そこから得られる技術もあるでしょうから、ね」

 

シエリアはアイルサン・ヒドゥラーのいいたいことを理解する。この男はアルゼンチン帝国の力を見せたいのだ。自国の軍事力はこれだけあるのだぞ、と牽制も兼ねて行いたいのだろう。絶対に逆らおうとは思わせないように。

だがシエリアにこの提案を断る事は出来ない。アイルサン・ヒドゥラーも言っていた通りアルゼンチン帝国の戦い方や力がどれほどの物なのか実際に見るべきだしもしかしたら使える技術もあるかもしれない。その事を考えれば断る理由など存在しなかった。

 

「……分かりました。貴国の提案を受け入れます。戦争の時はどうぞよろしくお願いします」

「勿論ですとも。観戦武官がいるのです。無様な戦争にはならないと約束しましょう」

 

西暦2020、中央暦1639/10/3グラ・バルカス帝国とアルゼンチン帝国は国交を樹立すると同時に不可侵条約を締結した。

そして2020、中央暦1639/10/19アルゼンチン帝国は神聖オーストリア・ハンガリー帝国と連名で列強パーパルディア皇国に宣戦布告した。この事実は東側世界に少なくない混乱と震撼を与えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルゼンチン帝国と名乗る野蛮な国が宣戦布告してきたそうだな、カイオスよ」

「そ、その通りです」

 

パーパルディア皇国第3外務局長カイオスは頭を下げ皇帝の言葉に汗を流していた。子との発端は三日前に発せられた宣戦布告である。カイオスは情報収集の結果皇国監査軍は全滅しそれを行ったのがアルゼンチン帝国である事を掴んでいた。しかし、抗議しようにもアルゼンチン帝国はパーパルディア皇国との外交を打ち切って完全に撤退しており連絡の取りようがなかった。それならばと文明圏外国に頼もうとするが関わりたくないのか要求を断っていた。ロデニウス大陸以外の国はアルゼンチン帝国に対して警戒を強めていた。

特に大東洋諸国会議ではそれが顕著でありクワトイネ公国はアルゼンチン帝国に危険性は無いと必死に伝えたが全く聞き入れてもらえず挙句に参加国からアルゼンチン帝国の属国とみなされる程だった。

そんな訳でカイオスはアルゼンチン帝国につていの情報を全く持っていなかった。これからどうやって集めていくかを考えていた時に今回の宣戦布告である。しかも神聖オーストリア・ハンガリー帝国という訳の分からない国付きで。

 

「アルゼンチン帝国については把握していましたがどのような国なのかは未だ判明しておらず……」

「それは第3外務局の怠慢ではないかね?」

 

カイオスは皇帝の追及に何も言えなくなる。実際はいろいろと考えてきたのだが皇帝は明らかに怒気を含んでおり何か言い訳などしようものなら怒声が飛んでくるだろう。

 

「急ぎアルゼンチン帝国についての情報を集めよ。些細な事でも構わない。第1、第2もいいな?」

「「はっ!」」

 

必ずや滅ぼしてくれると皇帝が思った時であった。

 

「か、会議中に失礼します!飛行物体の大軍が向かってきています!」

 

パーパルディア皇国に情報収集の時間は既に残されていなかった。

 



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第一章までの登場人物と国家

第一章までの登場人物と国家

【アルゼンチン帝国】

物語の中心国家。転移国家。帝国主義に近く自治領として植民地を大量に持っている。その傾向は転移後も強くロウリア王国を「友好国であるクワトイネ公国に圧力をかける国」と判断して徹底的に攻め上げている。一方で友好国には甘い一面もありイデオロギーが違うヌナブト連邦共和国を一番の友好国としているためロウリア王国戦後にヌナブト連邦共和国の建国を支援する。転移前と違い国際的な取り決めがないため次の領土拡張先としてパーパルディア皇国を選択。軍事力を持つ神聖オーストリア・ハンガリー帝国と連名で宣戦布告する。

アイルサン・ヒドゥラー

・アルゼンチン帝国総統。転移後も総統として活動する。クワトイネ公国、グラ・バルカス帝国の使節団と直接対面する。

メイアン・ゴート

・アルゼンチン帝国外交官。転移後はロデニウス大陸を担当する。

フェイルナン・デウル

・アルゼンチン帝国外交官。転移後は文明圏外国家担当。海軍大将オルト―・ラ・ベインダーズとは旧知の仲。

ファンハ・ヒンリー

・アルゼンチン帝国外交官。転移後は第二文明圏担当。

アウノルド・ルーガ

・アルゼンチン帝国陸軍大将。ロウリア王国戦ではクワトイネ公国の西方騎士団と共闘してロウリア王国の東方征伐軍を殲滅する。

オルトー・ラ・ベインダーズ

・アルゼンチン帝国グレート・ディアボロス級原子力戦艦二番艦イービルアイ艦長。

【ヌナブト連邦共和国】

転移前のアルゼンチン帝国一番の友好国。ロウリア王国戦後にロデニウス大陸西側に建国する。

イキアク・クリタクリルク

・ヌナブト連邦共和国在アルゼンチン帝国大使。転移後の世界でヌナブト連邦共和国を建国すると臨時大統領に就任する。

【神聖オーストリア・ハンガリー帝国】

転移前で最も関係が深い国家。10年に1度合同演習を行っている。合同演習時に転移したためアルゼンチン帝国以外で唯一軍事力を保有している。ロウリア王国戦後はロデニウス大陸南部に建国する。

【クワトイネ公国】

アルゼンチン帝国が転移後に最初に出会った国。ロウリア王国の圧迫を受けていたがアルゼンチン帝国のおかげで危機を脱し領土の拡大も成功する。アルゼンチン帝国の力と帝国主義に警戒しているが親アルゼンチン帝国路線を崩さなかったため他の文明圏外国からは属国と思われている。

カナタ

・クワトイネ公国首相。

ヤゴウ

・クワトイネ公国外務局職員。クワトイネ公国使節団の代表の一人。

ハンキ

・クワトイネ公国将軍。クワトイネ公国使節団の代表の一人。

ブルーアイ

・クワトイネ公国第二艦隊参謀。ロウリア王国戦ではグレート・ディアボロス級原子力戦艦グレート・ディアボロスに観戦武官として乗船する。

【ロウリア王国】

ロデニウス大陸西側にあった国。ロデニウス大陸統一を掲げてクワトイネ公国に攻め込むもアルゼンチン帝国の前に東方征伐軍は全滅。海軍も全滅する。その後はジンハーク城に艦対地ミサイルを受け更地と化し戦車師団に蹂躙され開戦からわずか一週間で滅亡する。その後はロデニウス大陸直轄領、ヌナブト連邦共和国、高天原帝国、神聖オーストリア・ハンガリー帝国等の国に譲渡されロウリア王国は完全に滅亡した。

ハーク・ロウリア34世

・ロウリア王国国王。ジンハーク城ごと艦対地ミサイルを受け死亡する。

シャークン

・ロウリア王国海将。4400隻の船団を率いて出撃するがグレート・ディアボロスの前に船団は全滅したが生き残る。その後の詳細は不明。

アデム

・ロウリア王国東方征伐軍副将。越境をした瞬間に攻撃を受け戦死する。

【フェン王国】

パーパルディア皇国とアルゼンチン帝国の間にある島国。5年に1度軍祭と呼ばれる軍事交流を行っている。アルゼンチン帝国の使節団が来た時にはパーパルディア皇国と戦わせるがそれが原因でアルゼンチン帝国の怒りを買い国交樹立と相互不可侵は結べていない。

シハン

・フェン王国国王(剣王)。パーパルディア皇国の懲罰攻撃に対抗する為にアルゼンチン帝国を引き込むが怒りを買ってしまう。

【ガハラ神国】

フェン王国北部にある国。アルゼンチン帝国とは比較的友好。

スサノウ

・軍祭に参加。アルゼンチン帝国の実力に気付く。

【グラ・バルカス帝国】

アルゼンチン帝国と同じ転移国家。ロデニウス大陸直轄領の発展を見てアルゼンチン帝国の技術力が自国より上と判断し使節団を送る。結果アルゼンチン帝国と国交樹立を結び相互不可侵を締結する。アルゼンチン帝国の軍事力を見るためにパーパルディア皇国戦に観戦武官を送る。

シエリア

・グラ・バルカス帝国外交官で外務省東部方面異界担当課長をしている。アルゼンチン帝国の技術力を見て顔を真っ青にしながら外交を行い見事成功する。

ラクスタル

・グラ・バルカス帝国グレードアトラスター艦長。グレート・ディアボロス級原子力戦艦三番艦リヴァイアサンを見てグレードアトラスターより性能がいい事を痛感する。

【パーパルディア皇国】

第3文明圏最強の国家。フェン王国に懲罰部隊を向かわせるが全滅。原因を探っている間にアルゼンチン帝国、神聖オーストリア・ハンガリー帝国連名で宣戦布告される。

カイオス

・第3外務局長。

ルディアス

・パーパルディア皇国皇帝。27歳。

ポクトアール

・パーパルディア皇国皇国監査軍東洋艦隊司令官。旧太平洋艦隊の艦対地ミサイルを受け艦隊は全滅。その後はフェン王国預かりとなる。

レクマイア

・本作未登場。フェン王国を襲撃したワイバーンロード部隊の一人であったが艦対空ミサイルを受け戦死。

 



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第二章【第3文明圏の消失】
第十三話「列強の落日1」


第十三話「列強の落日1」

アルゼンチン帝国空軍の爆撃隊200機はジェット戦闘機ブリューム200機に護衛されパーパルディア皇国の皇都エストシラントに向かっていた。

 

「全機に告ぐ。まもなくエストシラント上空である。爆撃用意!」

 

爆撃隊隊長の言葉を受け爆撃の用意が行われる。地上では高高度を飛ぶ爆撃隊を迎撃しようとワイバーンロード部隊が飛び上がるが限界高度より高い高度を飛ぶ爆撃隊に全く迎撃出来なかった。

 

「隊長、エストシラント上空です」

「よし、全機爆撃開始!」

『爆撃開始します』

 

隊長の言葉に一斉に爆撃が行われる。地上に落ちた爆弾は巨大な爆発を起こしエストシラントを火の海と化していく。そして爆撃は王城にも届き表面を吹き飛ばしていく。

 

「全爆弾投下完了しました」

「よし、我々の任務はここまでだ。帰投するぞ!」

 

爆撃を終えた爆撃隊は反転しアルゼンチン帝国へと戻っていく。それと入れ違いになる形でアルゼンチン帝国海軍がやって来る。

 

「見る限りエストシラントは火の海ですね」

「これなら上陸の妨害はなさそうだな。となると沿岸の船団を倒すのみだな。攻撃準備」

 

グレート・ディアボロスは46cm三連装砲の攻撃準備に入る。エストシラントにいた船団は突然の事に全く対応できいないようで出撃してくる船は皆無であった。

 

「準備完了しました」

「よし、艦砲射撃開始!」

 

艦隊が一斉に火を噴く。神聖ミリシアル帝国すら上回る巨砲の砲撃に船団は一撃で吹き飛んでいく。更には地上施設にも着弾し残っていた施設を吹き飛ばしていく。

砲撃で船団が全滅すると揚陸艦が地上へと近づく。そこから上陸部隊計2万人が一斉に上陸し、火の海と化したエストシラントの占領へと動き出す。

焼夷弾ではなく爆弾であったため火災は直ぐに収まったが生き残った住人は極僅かであった。エストシラントはアルゼンチン帝国陸軍の占領下に入った。王城も破壊しつくされ瓦礫の山と化していた。

 

「爆撃はやはり恐ろしいな。これだけの破壊になるとはな」

 

リューベル・ルックナー陸軍大佐は一日が過ぎたエストシラントの様子を見てそう呟いた。パーパルディア皇国の繁栄と栄華を象徴する皇都は瓦礫と死体の都となっていた。

リューベルが率いる部隊はエストシラントの生き残りを救助しつつ後からやって来る戦車師団の為にインフラの整備を行っていた。

生き残りはほとんどおらず中には既に虫の息で救助後すぐに死んでしまうものもいたほどだ。

 

「大佐!生き残りを発見しました!」

「よし、救助するぞ」

 

そこは貴族や皇族の住む屋敷が連なっていた場所で瓦礫に埋もれた一角に隊員が集まっていた。

 

「ここか?」

「はい、ちゃんと意識もあり怪我も見る限りはありませんが内部出血などの可能性もあるため急ぎ行っています」

「分かった。救助後は沿岸部にある救護スペースに運ぶように」

「了解しました」

 

リューベルは瓦礫などを撤去する隊員の邪魔にならないように瓦礫の傍による。瓦礫の奥からは少し苦しげな息遣いが聞こえてくる。

 

「聞こえるか?」

「……ああ」

「ふむ、意識はあるようだな。名前を言えるか?」

「……レミール」

「レミールね。救助後は怪我の状態にもよるがロデニウス大陸に運ばれる。まあ、悪い扱いはしないと約束しよう」

「……貴様等はアルゼンチン帝国の者か?」

「そうだが?」

「……エストシラントはどうなった」

「聞かない方がいいぞ、といいたいがどうせ救助した後に見えるからな。エストシラントは瓦礫と死体の山となったよ」

「……陛下は、陛下はどうなった?」

「陛下?知らないな。今のところ城からは生存者は出ていないぞ。何体かの死体は見つかったからそこにいるかもしれないな」

「……何故、こんな事に……」

「それは運が悪かったとしか言いようがないな。別にパーパルディア皇国の行いが悪かったからではない。偶々、パーパルディア皇国がアルゼンチン帝国の領土拡大先に選ばれただけさ。どちらにせよパーパルディア皇国は滅ぶ。もしかしたら属国として残る可能性もあるがな」

「……」

「俺は政治には詳しくないがパーパルディア皇国は技術力も低く領土も大きい。拡大先にはうってつけだったというだけさ。まあ、生き残った事に感謝するんだな」

 

レミールと名乗った女性は何も言わなかった。だが、泣いている事だけはリューベルにも分かった。その後彼女は救護スペースにて治療を受けロデニウス大陸にある病院に搬送されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、工業都市デュロに神聖オーストリア・ハンガリー帝国の大艦隊が向かっていた。艦隊は合同演習にやってきたもの全てを連れてきている。

編成は

陸軍が

戦車 720両 84560人

第38戦車師団

第14親衛狙撃師団

第18近衛師団

第104ロケット砲兵旅団

第108長距離砲兵旅団

第109長距離砲兵旅団

第114沿岸砲兵旅団

第302長距離防空旅団

 

で、海軍は

第14海軍歩兵旅団

第18海軍歩兵旅団

 

第104海上航空師団

大型空母1隻 戦艦1隻 ミサイル巡洋艦2隻

ミサイル駆逐艦7隻 潜水艦2隻

第14ロケット旅団

ミサイル巡洋艦3隻 ミサイル駆逐艦5隻

第115ロケット旅団

ミサイル巡洋艦2隻 ミサイル駆逐艦6隻

第034駆逐旅団

ミサイル駆逐艦6隻 対潜駆逐艦2隻

 

となっている。神聖オーストリア・ハンガリー帝国海軍の目的はデュロを破壊し部隊を上陸させる事だった。既にエストシラントの爆撃が行われているだろう。指揮系統が麻痺した状況の中工業都市の要でもあるデュロを失えばパーパルディア皇国の継戦能力は完全になくなるだろう。そう考えての行動だった。

そしてデュロ沖にたどり着くとミサイルや艦載機からの攻撃、砲撃がデュロへと向けられた。兵器工廠は破壊されそこで働いていた従業員ごと吹き飛ばされていく。

暫く攻撃が続き揚陸艦が一斉に動き出す。約八万もの大軍勢に更地と化したデュロの防衛能力は完全に失われていた。

パーパルディア皇国は宣戦布告を受けてからわずか数日もしないうちに皇都と工業都市という要を失うのであった。

 



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第十四話「列強の落日2」

第十四話「列強の落日2」

「72ヶ国連合?」

「はい、パーパルディア皇国の属領が一斉蜂起して出来た連合の様です」

 

アイルサン・ヒドゥラーは執務室にて現地からの報告を受けていた。内容はパーパルディア皇国上陸から数日後に起きた属領の一斉蜂起である。パーパルディア皇国はエストシラント大空襲で主要な人物をほぼ失っており指揮系統が麻痺していた。そこへ来て神聖オーストリア・ハンガリー帝国によるデュロ砲撃と上陸、占領で継戦能力はほぼ喪失した。アルゼンチン帝国と神聖オーストリア・ハンガリー帝国は戦車師団を使い敵領深くに浸透しパーパルディア皇国の残った戦力を叩き潰していた。アルゼンチン帝国に至っては中央部まで進出する程だ。

 

「それで、72ヶ国連合はどれ程の戦力を保有しているのだ?」

「平時のパーパルディア皇国に絶対に勝てず、今のパーパルディア皇国に何とか勝てるだろうというレベルです」

「……低いな」

 

アイルサン・ヒドゥラーは72ヶ国連合に意義を見出せなかった。アルゼンチン帝国の基本方針は帝国主義に近い。たくさんの植民地を作ろうとしている。今回のパーパルディア皇国への宣戦布告も領土拡大の為だ。

 

「……72ヶ国連合をパーパルディア皇国の独立した軍隊、と解釈して諸共併合するか」

「それがいいかもしれません。領土拡大をしないならともかく我々にとっては害悪です」

「現地部隊に報告して置け。無論神聖オーストリア・ハンガリー帝国にもな」

「かしこまりました」

「それとフェン王国の方はどうなっている?」

「エストシラントへの空爆と同時に全土空爆を行いました。防御能力が低い彼の国です。王城以外は更地となりましたよ。現在は併合する為に3個師団(4万5千)が上陸しています」

「よろしい」

 

そこへ扉がノックされる。アイルサン・ヒドゥラーが「入れ」と言うとコーヒーを入れたカップをトレイに乗せた一人の女性が入って来た。女性はアイルサン・ヒドゥラーを見ると勝気な笑みを浮かべる。

 

「よお!コーヒー持って来たぞ。休憩にしようぜ」

「そうだな。少し休憩するか」

 

女性、エミリア・スーレットの言葉にアイルサン・ヒドゥラーは肯定する。報告書を持ってきた高官は空気を読んでか「ではこれで失礼します」といい執務室を後にした。

エミリア・スーレットはアイルサン・ヒドゥラーの妻である。元はアイルサン・ヒドゥラーが党首を務める帝国白銀党の党員であり秘密の多いアイルサン・ヒドゥラーが入党した時の様子を知る唯一の女性であった(当時の党員は既にこの世にいない)。

結婚後も帝国白銀党の党員兼秘書として活躍していた。因みに彼女は31になるが見た目は一回り若く見える美貌を持っている。

アミリアは執務室のデスクに座りアイルサン・ヒドゥラーにカップを渡しながら言う。

 

「全く、こうして休憩にしようと言わないとお前は全く休憩しないよな~」

「だがこうして最愛の妻がコーヒーを入れてくれるんだ。それも悪くないかもな」

「かー!だったらきちんと夜には帰宅しろよな!執務室を何時から出てないんだ?」

「……グラ・バルカス帝国の使節団にあった後からだな」

「あー、道理で加齢臭が半端ないわけだ」

 

エミリアは鼻をつまみながらそう言った。アイルサン・ヒドゥラーはその言葉に袖や襟のにおいを嗅ぐ。確かに激臭がする。

 

「夜には帰って来いよ?シャワーくらい浴びないとな?」

「……そうだな」

「そう言えばクワトイネ公国の野菜がとても美味しくてな。今日はそれらで上手い料理を作ってやるよ」

「はは、それは必ず家に帰らないとな」

 

暫くの間執務室で二人だけの甘い空間を作り出すのであった。

アイルサン・ヒドゥラーとエミリア・スーレット。一回り以上年の離れた二人だが相思相愛であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ロデニウス大陸に設置された仮設病院にてレミールは入院していた。瓦礫と死体の山と化したエストシラントから救助されたレミールは大した怪我などもなく左腕と右足の骨折だけで済んでいた。

 

「これが……アルゼンチン帝国か」

 

既にアルゼンチン帝国にはレミールが皇族であるという事は知られている。その為他の人と違い個室が与えられ監視の目的も兼ねて部屋の前には兵士が一人付いている。

食事も毎日三食出て味に至ってはパーパルディア皇国の時よりも美味しいくらいだった。出歩くことは怪我の状況的に叶わないが新聞やテレビ等から最新の情報を見る事が出来る。テレビはパーパルディア皇国では未だ実験段階だったがここでは普通に普及している。番組も豊富であり寧ろ気になる番組がいくつも存在し時間が足りない程だった。

しかし、それらを目にする度にある情報に敏感になった。

 

『パーパルディア皇国既に虫の息!?72ヶ国連合との三つ巴状態!』

 

『皇帝死去!既にパーパルディア皇国は組織だった動きを見せていない!』

 

『現地を知る軍人にインタビュー!「パーパルディア皇国より各地を占領する方が大変」!』

 

「……陛下」

 

レミールはかつて恋焦がれた陛下の姿を思い浮かべる。彼は既にこの世にいない。そもそもあの時城にいた者はほぼ助からなかった。レミールは偶々屋敷から出るのが遅くなったために助かったにすぎずもし時間通りに入城していたら今頃は……。

 

「……アルゼンチン帝国は我が国以上に侵略し領土を拡大し続けている。72ヶ国連合は邪魔であろうな」

 

ニュースを見る限り既に一部では戦闘が行われている様であった。レミールは頭を働かせて今後の予想をする。

パーパルディア皇国は解体されかつての面影は消え失せるだろう。パーパルディア皇国民は現地民として扱われ最悪の場合奴隷になるかもしれない。自分だってただでは済まないだろう。

レミールはこれからの事を考え少しづつ、心が壊れていくのを自覚するのであった。

 



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第十五話「列強の落日3」

ランキングに入る事が出来ました!これも読んでくれる方々のおかげです!
それとアルゼンチン帝国のパーパルディア皇国の宣戦布告を早めました。


第十五話「列強の落日3」

「くそ!ふざけんな!」

 

パーパルディア皇国中央部に位置する場所にてとあるパーパルディア皇国兵士が涙を流しながら必死に銃を撃つ。彼の目の前には数えるのも億劫な72ヶ国連合の兵士たちがいた。彼らはパーパルディア皇国の都市を落としそこに保管してあったマスケット銃などを奪い武装していた。その為時折銃による反撃が行われていた。

 

「このままじゃ突破されるぞ!増援はまだ来ないのか!」

「無理だ!どこも手一杯だ!現有戦力でどうにかするんだ!」

「そんな事言ったって……!」

 

上空では72ヶ国連合に加担するリーム王国のワイバーンとパーパルディア皇国のワイバーンロードの空中戦が行われている。圧倒的な強さを見せるワイバーンロードだが一匹につき数匹ずつで対応するリーム王国のワイバーンに苦戦していた。そもそもパーパルディア皇国のワイバーンロードは数が少なくなっている。開発されていたワイバーンオーバーロードに至っては空中に出ることなく全滅している。

南部で飛び立てばアルゼンチン帝国によって撃ち落とされるかそもそも飛ぶ前に破壊され唯一戦闘らしい戦闘が起こっている72ヶ国連合相手でも苦戦していた。

 

「ダメだ!敵が入って来るぞ!」

「くそ!中央は何してるんだよ!俺たちを見捨てたのか!?」

 

兵士たちが当てにしている中央もエストシラント空爆時に既に崩壊していた。そもそもここの軍勢はまだましな方であった。他では指揮系統が存在せずバラバラに動いたり指揮権をめぐって中で争ったりしていた。そこを突かれ陥落した都市は多い。

 

「ぐぁ!?」

「突破された!もう駄目だ!」

「逃げろぉ!」

 

そしてついに防衛戦は突破されパーパルディア皇国軍は一気に瓦解する。既に兵力は押し返すだけの力も数もなくなっており突破されたとこrからじわじわと浸透されていく。

 

「パーパルディア皇国の人間を決して生かすな!」

「殺せ!仇を取るんだ!」

「絶対に生きて返さない!」

 

パーパルディア皇国に虐げられてきた元属国の72ヶ国連合の兵士たちは怒りに任せてパーパルディア皇国人を殺していく。本来なら止めるべき指揮官も同じように殺戮を行っていた。

それほどまでに属国たちの恨み、怒りは大きかった。

 

「……ん?なんだ?」

 

ふと、都市の外れ、南側の城壁で殺戮を行っていた一人の兵士が聞きなれない音を耳にする。キュラキュラと独特の音に混じって聞こえる靴音。それらは少しづつ大きく、近づいてきているようだった。

 

「まさかパーパルディア皇国の増援か!?」

 

男は思わず双眼鏡で確認する。もし予測が正しければ規模によっては撤退を考えなければいけない。男は遥か彼方から迫って来る音を確認する。

 

 

 

 

 

 

そして、見つけた。

 

 

 

 

 

 

自分たちが、72ヶ国連合がこうしてパーパルディア皇国を相手に反乱を行ええている元凶。

 

 

 

 

 

 

文明圏外のはずの、パーパルディア皇国に攻めて来るまで誰も知らなかったような国。

 

 

 

 

僅かな日数でパーパルディア皇国を圧倒し滅亡へと向かわせている国。

 

 

 

 

 

 

赤き十字を囲む深海の如き碧。

 

 

 

 

それらの間で調停を成す純白。

 

 

 

 

 

 

アルゼンチン帝国が誇る戦車部隊の姿があった。

 

 

「あ、ああ……!」

 

男は双眼鏡を落としそうになる。男にもパーパルディア皇国だけではなく自分たちにも牙を抜くアルゼンチン帝国の報告は入っている。そして、決して勝てない事も。

72ヶ国連合の兵士たちは恐怖する。パーパルディア皇国という大国を呆気なく潰す超大国が、自分たちごと滅ぼそうとやってきている。自分たちに出来るのは抵抗して死ぬか抵抗せずに死を受け入れるかの二択のみ。逃げ切る事など出来ない。必ず追いつかれ殺される。

そんなアルゼンチン帝国が遥か彼方とは言え双眼鏡で見える距離に迫ってきている。それも馬よりも早い速度で。

 

「知らせないと……!」

 

男はその場から動こうとしたがそれも一瞬だった。

男がいた城壁は戦車から放たれた砲撃により呆気なく瓦礫に変わり男も血肉へと変貌したのだから。

72ヶ国連合にとってパーパルディア皇国を超える悪魔の牙が自分たちに届いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが……、アルゼンチン帝国の戦い方ですか」

 

グラ・バルカス帝国の軍人ミレケネスは作戦参加中のグレート・ディアボロス級原子力戦艦の一番艦グレート・ディアボロスの指令室で作戦の詳細が書かれた紙を見ていた。作戦の詳細が書かれているにしては紙は二枚しか存在せずそれも片面に書かれているのみだった。

それだけアルゼンチン帝国はパーパルディア皇国を倒すのにそれだけで勝てるという表れでもあった。

 

「……祖国では難しいな」

 

グラ・バルカス帝国でもパーパルディア皇国を倒すのにそれなりの日数がかかるだろう。勿論レイフォルの様に簡単に降伏する間も知れないがその時は現在の様に元属国が独立し支配には大分時間がかかっただろう。

既に作戦の大半は終了しているらしく紙に書かれた作戦の九割が終わっている。同盟国だという神聖オーストリア・ハンガリー帝国軍も順調に侵略出来ているそうだ。

 

「……何とかしてアルゼンチン帝国の技術を手に入れられればいいが」

 

難しいだろうなとミレケネスは考える。自国の優位を失うようなことをするとは思えない。むしろ不快に感じるかもしれない。幸いなのはアルゼンチン帝国とは遠く離れている事だ。多少の失敗くらいで敵対するとは思えない。

 

「……ミレケネス殿」

「ああ、ヴィーグ大佐か」

 

ミレケネスに話しかけたのはグレート・ディアボロスの艦長メイシュ・ヴィーグ大佐だった。アルゼンチン帝国の象徴とも言えるグレート・ディアボロスの艦長を務めている事からも分かる通り優秀な人物で戦術面では海軍内でも一、二を争う実力者である。

 

「まもなく作戦が始まります。ここに留まりますか?」

「ええ、この船の事をもう少し見ておきたいので」

「分かりました。何かあったら知らせてください」

 

そう言うとヴィーグは自分の持ち場に戻る。ミレケネスは改めて前方を見る。グレート・ディアボロスを中心にした大艦隊。これらは北上し、リーム王国を焼き払うのだという。それが完了すれば立案された作戦は完了しパーパルディア皇国、リーム王国の全土併合を行うのみであった。

ミレケネスはアルゼンチン帝国の自国にも劣らぬ貪欲さと自国より優れた技術力に冷や汗をかくのであった。

 




ラヴァーナルの代わりにグランフィア出したい。


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第十六話「列強の落日4」

心優しい方よ!俺に日本国召喚の書籍1巻を恵んでくれぇ!


第十六話「列強の落日4」

「帝国臣民達よ。戦争は終わった」

 

その日、アルゼンチン帝国の総統アイルサン・ヒドゥラーによるテレビ中継が行われた。複数のカメラが向けられている中アイルサン・ヒドゥラーは淀みなく喋る。

 

「先日、パーパルディア皇国の全土併合を完了した。そして我が国に対し宣戦布告もなしに攻めてきたリーム王国(・・・・・)にも我が鉄槌が落ちた。

我らがこの世界に転移してきて既に一年近くの時が流れた。我々はこの一年で転移による混乱を収拾し影響力を確保できた。

これも全て諸君ら帝国臣民の努力の賜物である。

さて、話を戻そう。パーパルディア皇国を滅ぼしリーム王国を焦土に変え我が国を足で使おうとしたフェンと名乗る武装勢力を殲滅した。我が国の周りに脅威はなくなった。

そこで我々は友好国であるヌナブト連邦共和国、神聖オーストリア・ハンガリー帝国。我が国と関係のある高天原帝国、カンプチア連合共和国、西サハラ帝国。そしてこの世界で出来た友好国たるクワトイネ公国、クイラ王国、アルタラス王国、ガハラ神国、シオス王国と共に第一文明圏、第二文明圏、第三文明圏とは違った高度な陣営の創設を宣言する!

陣営名は【極東国家連合】でありこれ以後我らは更なる発展を遂げるだろう!」

 

 

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アイルサン・ヒドゥラーの言葉にアルゼンチン帝国の各地で大規模な歓声が上がる。中には「アルゼンチン帝国万歳!」と声を上げる者もいるが中には否定的な意見を持つ者もいた。

 

「……アイルサン・ヒドゥラーのやっている事は侵略と何ら変わらない。それでは侵略された土地に住む民族、種族があまりにも不幸だ」

 

パタゴニア労働党アンタン・ツレイキーはアルゼンチン帝国本土のとある都市にてそう呟いた。パタゴニア労働党はアルゼンチンで唯一の共産党勢力だったが十年以上前にアルゼンチン南北戦争を起こして以来過激派組織として粛清の対象となっていた。

しかし、アンタン・ツレイキー他幹部たちは外部協力者の支援のもと今の今まで捕まらずに暗躍していた。

 

「アイルサン・ヒドゥラーなどという何処の馬とも知れぬ男にこの国を好きにさせてはならない!」

「その通りだ!」

「アイルサン・ヒドゥラーなんてくそくらえだ!」

 

アンタン・ツレイキーの言葉に党員たちが一斉にアルゼンチン帝国やアイルサン・ヒドゥラーを否定する罵詈雑言を叫ぶ。そこへ一人の外部協力者が入って来た。

 

「同志ツレイキー!帝国軍の奴らが来ています!急いで避難を!」

「分かった。諸君!我らの耐え忍ぶ日々はまだ続くが今度こそ必ず革命を成功させアルゼンチンを本来の姿へと戻すぞ!」

「「「「「おおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」

「同志ツレイキー!早く!」

 

数分後帝国軍が踏み込んだ時にはアンタン・ツレイキー他幹部や外部協力者の姿もなくもぬけの殻となっているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある次元。そこに一つの大陸の姿があった。その名をラティストア大陸といいかつて異世界を支配した古の魔法帝国である。彼らは神に弓を引きその怒りを買って隕石を落とされそうになり未来へと逃げている最中であった。

その為その技術力も文明も衰えていない。そのはずだった。

しかし、大陸は見るも無残に荒れ果てかつて存在した都市は荒廃していた。中には煙が燻っているところもあった。

そんな大陸で唯一文明を残している場所があった。古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国の帝都アラスである。しかしそこも火が上がり瓦礫の山と化しつつあった。

 

「馬鹿な……!」

 

ラヴァーナル帝国の軍人、リムリアは膝をつき目の前の光景を茫然と見ていた。彼らラヴァーナル帝国の国民は全て光翼人であり他種族よりも突出した魔力量と圧倒的な魔導技術を保有していた。しかし。

 

「ば、化け物……!」

 

目の前の人間、いや人間と呼ぶには可笑しい全身を鎧の様な物で包んだ者が光翼人を虐殺していた。剣や銃を駆使し光翼人が放つ魔法を全く受け付けずに圧倒的な速度で近づき殺していく。光翼人は全く相手にならず次々とその数を減らしていった。

 

ふと、リムリアの耳に聞きなれない歌が聞こえてきた。

 

Lo,Granfia Lo,Granfia

Le feil Dohn Granfia

Lo,Maras bg Yeltol routen Lo,ten tous Granfia

Hult el sfia Hult el bizra Julk ol ven Granfia

Wog Granfia Wog Granfia

Le feil Dohn Granfia

Wog Granfia Wog Granfia

Le feil Dohn Granfia!

 

ザッザッ、と規則正しい足音が聞こえてくる。都市の外から一糸乱れずに鎧を着た者がやって来る。増援であった。数にして一万。

 

「あ、あぁ……!」

 

リムリアはその数に抵抗する気力すら失った。現在この帝都で暴れている敵は二千。たったそれだけの数に光翼人は追い込まれていたのだ。それなのに増援として一万が来た。

リムリアの周囲を敵が囲む。抵抗しないリムリアを殺す気はないのか腕を掴まれ無理やり歩かされる。その方向は帝都の中心部、巨大広場だった。

 

「うぅ、殺してくれぇ……!」

「お母ぁぁぁさん!」

「助けてくれ助けてくれ」

「くそっ!ふざけるな!俺たちは偉大なる光翼人だぞ!」

 

そこには生き残った者が集められていた。中には瀕死の者もいたが助ける気も殺す気もないようだ。リムリアもその中に放り込まれる。茫然としていたリムリアは受け身すら取れずに顔から地面に衝突する。

 

「生き残りはこれで全員か?」

「はっ!他は抵抗が激しかったため残らず始末しました」

 

そこへ鎧の敵とは違う者がやって来る。見慣れない服を着た長身の男と子供の様な体躯の男だった。子供の方に長身の男が敬意を払っている事から上官と思われる。子供の様な男はその姿からは想像も出来ない蔑みの視線をリムリアたちに向ける。

 

「数は……百はいるな。まぁ十分だな。全員拘束してロードスフィアに送るように」

「……お前は、お前らは一体……」

 

リムリアは最後の気力を振り絞り声をかける。子供は一気に眉を潜めるが直ぐに侮蔑の笑みを浮かべてリムリアの頭を掴み地面へとめり込ませる。ノーモーションで行われたその光景に生き残った光翼人たちが悲鳴を上げる。子供は力を緩めずに呟く。

 

「本来なら貴様等の様な蛮族に名乗る必要などないが特別に教えてやるよ。俺は神聖グランフィア帝国皇帝ダングレイル・レウル・ブレギルスだ。これから我々の奴隷として十分に頑張ってくれよ?」

 

子供、皇帝ダングレイル・レウル・ブレギルスは口角を上げそう言うのであった。

 



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第十七話「それぞれの動き」

第十七話「それぞれの動き」

パンドーラ大魔法公国は悩んでいた。長年パーパルディア皇国の属国となっていたがアルゼンチン帝国によってパーパルディア皇国が滅ぼされ漸く独立する事が出来た。しかし、パンドーラ大魔法公国にはアルゼンチン帝国から以下の内容が届いたのである。

 

1.パンドーラ大魔法公国はアルゼンチン帝国に貴国が持つ全ての魔法技術を提供する。

2.アルゼンチン帝国はパンドーラ大魔法公国に対し様々な技術を輸入する。

3.パンドーラ大魔法公国の国家元首たる学連長を決定する際最終確認の為にアルゼンチン帝国に許可を貰う事。許可されなかった場合別の人物を選びなおすこと。

 

他にも関税や領事裁判権についての記載があったが、要はパーパルディア皇国の代わりにアルゼンチン帝国の属国となれと言っているに等しかった。

当初、この話を聞いた時に意見は二つに割れた。容認派と反発派だ。

容認派の意見としては、アルゼンチン帝国はパーパルディア皇国を超える大国であり要求を断れば戦争となる可能性が高い。そうなればパンドーラ大魔法公国はパーパルディア皇国と同じ道を歩み滅ぼされるだろう。属国になれば魔法技術を提供しなければいけないが、アルゼンチン帝国の技術が褒賞という形で支払れる。今以上に発展する事が出来るというものだった。

対する反発派の意見は、パーパルディア皇国に一方的に攻め込んだアルゼンチン帝国が属国となったからといって牙を向けないとは思えない。技術の輸出に関しても全ての魔法技術を提供する意味があるのか?それに提供した魔法技術以下の技術が輸入される可能性もある。

というものだった。

両陣営は真っ二つに割れ何日も会議が続いたが、痺れを切らしたアルゼンチン帝国がグレート・ディアボロスを派遣すると一気に容認派に傾き、パンドーラ大魔法公国は再び属国の道を歩み始めるのだった。

因みに、パンドーラ大魔法公国は渋々ながら全ての魔法技術を提供した結果、自分たちの技術が幼稚とも言える、洗練された科学技術が送られてきた為あっという間に反発派は消え去り、パンドーラ大魔法公国はアルゼンチン帝国からもたらされた技術で科学と魔法の融合を行っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

アルタラス王国国王ターラ14世はアルゼンチン帝国がパーパルディア皇国に宣戦布告した時どっちにつくか大いに迷った。列強であるパーパルディア皇国は勿論、アルゼンチン帝国も強大な力を持っており、ターラ14世は判断できなかったのである。しかし、王女ルミエスの助言もありアルゼンチン帝国側につき様々な支援を約束した。実際は支援内容がアルゼンチン帝国から見るとあまり良い物では無かったため気持ちだけ受け取っていたがアルタラス王国のこの行動はアルゼンチン帝国から好意的に受け入れられた。

結果パーパルディア皇国が滅びた後は様々な技術が無償で提供された。一番大きいのは自治領統合軍で使用されているガルガント級駆逐艦が2隻、2B級巡洋艦が1隻譲渡されたことだろう。パーパルディア皇国の艦隊を撃滅できるその艦の無償提供を受けアルタラス王国は一気にアルゼンチン帝国を好意的に受け入れ始めた。

そしてターラ14世はこれのお礼という事で異世界国家で初のアルゼンチン帝国本土へと足を踏み入れる事となった。

アルタラス王国は今後アルゼンチン帝国との国交を深めていく事となる。特に王女ルミエスは後にアルゼンチン帝国唯一の元貴族エインズワーグ家の次男と恋に落ち嫁ぐことになる。帝国でも有数の大企業の社長を義理とは言え息子に持ったアルタラス王国にエインズワーグ家は様々な支援を行い、地球国家以外で最初に近代化に成功し技術力で言えば極東国家連合の中で上位に位置するようになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方でフィルアデス国家の中でパーパルディア皇国と同様に滅ぼされた国があった。リーム王国である。リーム王国は72ヶ国連合を支援し自らもパーパルディア皇国に攻め入っていた。しかし、それを邪魔に思ったアルゼンチン帝国により72ヶ国連合諸共殲滅させられ、本土もグレート・ディアボロスなどの艦隊により焦土と化していた。

因みに、この時点でリーム王国の正確な国境線が分かっておらず、北方に位置していたマオ王国も焦土と化していた。あくまで偶然であると言っているが真意は不明である。中にはアルゼンチン帝国に否定的だったマオ王国に対する制裁とも噂されたが、やがて沈静化していった。

フェン王国は対パーパルディア皇国でのその動きから、アルゼンチン帝国の怒りを買い、パーパルディア皇国攻めとは別に本土を蹂躙されていた。住民の大半が殺され、フェン王国の領有していた島はアルゼンチン帝国の軍事基地として利用されていく事となる。

 

 

 

そしてパーパルディア皇国は戦後処理で悲惨な結末を迎えた。

先ず中央部から東部にかけアルゼンチン帝国の支配地域となり、今回参戦した神聖オーストリア・ハンガリー帝国には西部を、様々な支援を行ったヌナブト連邦共和国にも領土が分配された。そして奥の方は両国の共同統治領フィルアデスとなった。

アルゼンチン帝国はエストシラント周辺やリーム王国領、デュロなどが存在した東部沿岸部を直轄領とし、それ以外を帝国領パールネウスとした。そして驚くべきことに自治領指導者の地位にはレミールが就任したのである。自治領はアルゼンチン帝国の臣民や帝国白銀党の党員のみが就任できるものだったが、下手に置くより心が砕かれ決して反抗する気のない元皇女を起用した方が、統治が楽なのでは?という考えの元であった。因みに新たに誕生した帝国領マオは帝国白銀党の党員が自治領指導者となっている。

アルゼンチン帝国やその周辺が極東国家連合として独立したため、第三文明圏は既に崩壊したも当然の状態となったのであった。

 




※この時点でまだ12月になってません。なのでこの後に魔王編をやります。
現在の世界地図

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第十八話「それぞれの動き2」

第十八話「それぞれの動き2」

「そうか……、アルゼンチン帝国は我々以上であったか」

 

グラ・バルカス帝国帝都ラグナの皇城にて皇帝グラルークスは観戦武官から戻ってきたミレケネス等の報告を聞き深く絶望とも言える息を吐いた。

ミレケネスはここまで自国の船で戻ってきたわけではない。グレート・ディアボロス級原子力戦艦三番艦リヴァイアサンを含む艦隊に乗艦して真っすぐ戻ってきたのである。この時現地人にすら知らせていない本土の正確な位置を知るアルゼンチン帝国にミレケネスは改めて恐怖し絶対に敵対してはならないと考えていた。

 

「はっきり言いますがアルゼンチン帝国には絶対に勝てません。技術面でもそうですが何より敵対すれば本土が焦土と化します」

「……」

「陸については分かりませんが少なくとも陸軍も勝てないでしょう」

 

ミレケネスの言葉を聞きグラルークスは頭を抱えた。全世界ユグドでも見た事がない超大国アルゼンチン帝国。彼の存在の前にこの世界を支配するというグラルークスの野望が大きな音を立てて崩れ去っていった。

 

「……ですが、一つだけ良い報告があります」

「何だ?」

「アルゼンチン帝国の弱点とも言えるものです」

「ほう?」

 

ミレケネスの言葉にグラルークスは反応した。別にこちらから敵対するわけではないが絶対に勝てない相手の弱点を知れれば多少なりとも心が落ち着く。

 

「アルゼンチン帝国は敵には容赦がありません。それは自治領を見れば分かります」

「現地人には一切自治を行わせない、だったか?」

「はい、その通りです。一方でアルゼンチン帝国は内に入ったもの、友好国と判断した国に対しては異常なほど甘くなります。パーパルディア皇国は滅ぼされましたが領土は神聖オーストリア・ハンガリー帝国とヌナブト連邦共和国という国にも提供しています。神聖オーストリア・ハンガリー帝国は分かりますが後方支援しかしていない国に大量の領土を与えています。更には統治に失敗していたという話もありますがロデニウス大陸にあった自治領も譲っています」

「それは……、いくら何でも異常ではないか?」

「ええ、ですがもしグラ・バルカス帝国がアルゼンチン帝国にとって友好国だと判断されれば……」

「かの国の恩恵が多少なりとも貰えるはずか……」

「ええ、その可能性は高いです」

「ならばやるべきことは単純だ。外交官を派遣し今以上に友好関係を築くのだ。他にも相手が望むなら我が本土に大使館の設置を許可するのだ。他にも……息子を留学という形で送るか。アルゼンチン帝国を深く知る事が出来るかもしれないし何よりアルゼンチン帝国という国を感じさせたい。この世界は彼の国を中心に動き出すだろうからな」

「はっ!」

 

グラ・バルカス帝国は即断しアルゼンチン帝国との友好関係を更に強化する為に動き出すのであった。

 

 

 

 

「……また、戻って来れるとはな」

 

パーパルディア皇国の皇女レミールは再開発が行われているエストシラント、現ラグナ―・インペリオに戻ってきた。エストシラント空襲からまだ一月ほどしか経過していない。それなのにレミールは随分と離れている気になっていた。

レミールは未だ治らない左腕と右足にギブスを付け帝国軍の女性士官に車椅子を押してもらいながらラグナー・インペリオを見る。瓦礫などは大体が撤去され今は大工の寝泊まりする仮設住宅が並ぶ何とも殺風景な物となっていた。かつてレミールが住んでいた館も、栄華を誇った街も、皇帝の居城も何もかも無くなりあのころとは全く違ったアルゼンチン帝国の都市がつくられる。

 

「(ああ、願わくばアルゼンチン帝国がこれ以上パーパルディア皇国、いや帝国領パールネウスの者たちを虐げないように祈るばかりだ)」

 

レミールは一月前と比べやせ細り生気のない体を車椅子に深々と座らせ今後を祈るのであった。

 

 

 

 

 

 

「魔王、ね」

「いかがいたしますか?」

 

インペリオ・キャピタルの総統府にてアイルサン・ヒドゥラーはトーパ王国からの使者から聞いた内容の報告を受けていた。内容はかつて封印されていた魔王が目覚めたため討伐するのを手伝ってほしいというものだった。

パーパルディア皇国との戦争(蹂躙)も終わり余裕が出来つつあるアルゼンチン帝国だが流石にこれ以上の戦争は避けたいというのが本音であった。

 

「本来なら無視する、というのが普通だがこれを見る限り、な」

「魔王とその配下の二体のオーガですね」

「ああ、恐らく我々が調べた中では一番最強だろう。更に型落ちとは言えオーガも千を超えている。配下のゴブリンも含めればフィルアデス大陸程度なら制圧できるだろうな」

 

フィルアデス大陸南部を勢力下に置くアルゼンチン帝国からすれば無視する事は出来ない。

もし、ここで援軍を派遣しなければフィルアデス大陸北部から人々が逃げてくる可能性がある。そうなれば獲得したばかりのフィルアデス大陸南部の領土は大混乱に陥るだろう。そうなるのは避けたいのが本音だった。

アイルサン・ヒドゥラーは決断する。

 

「……仕方ない。ヨルムンガンド級原子力空母を旗艦とした特殊機動艦隊を向かわせろ。決して上陸せずに海から殲滅するのだ」

「もし、それで倒せなかったら?」

「その時は負担になるが軍勢を送る必要があるな。最悪の場合……」

 

アイルサン・ヒドゥラーはその先を言わなかった。アルゼンチン帝国最大の切り札にして惑星破壊兵器。使えばその土地は死に絶える禁忌の兵器をアルゼンチン帝国は厳重に封印していた。それこそ国家機密と言えるほどに。

だからこそアルゼンチン帝国は願う。願わくば、禁忌を使わずに済む程度であるように。

 

「……そうだ、あの国にも連絡を入れて置け。恐らく喜んで向かっていくだろう」

 



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第十九話「科学技術による蹂躙」

第十九話「科学技術による蹂躙」

ヨルムンガンド級原子力空母はネームシップ、ヨルムンガンド、ファブニール、ニーズヘッグの三隻がある。この艦を旗艦とした特殊機動艦隊は奇襲作戦で用いられる。元は第二大西洋艦隊であったが転移後に艦隊の再編成を行われこのようになった。

 

「司令長官。まもなくグラメウス大陸に到着します」

「よし、攻撃機発艦用意!」

「はっ!発艦用意!」

 

ヨルムンガンド級原子力空母に搭載されたブリュームが発艦準備に入る。そして次々と飛び立ち半数はグラメウス大陸深くへと飛んでいくが半数はフィルアデス大陸北部、トーパ王国へと向かっていく。

トーパ王国を守っていた世界の扉は突破されている。そこから入り込んだ魔王軍の殲滅がメインだった。特に魔王ノスグーラ及びレッドオーガ、ブルーオーガは危険であり同個体の殲滅が優先事項だった。

 

「転移後では初の作戦行動ですね。兵士たちも士気を高めています」

「だが、精神論ではどうしようもない。今の戦争は如何に制空、制海を奪い有利な状況へと持ち込めるかにある。その点で言えばアルゼンチン帝国は空と海を制し万全な状態で戦争が行えている。この時点で我々は最大の攻撃が行える。後は敵の強度や対空能力が低い事を願うばかりだ」

 

特殊機動艦隊司令長官フェリペ・ヘル中将はそう言いながら発艦していくブリュームを眺めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、特殊機動艦隊とは違いトーパ王国の沿岸部に上陸する部隊の姿があった。ハーケンクロイツを掲げたその軍団の規模は大よそ二十万人ほどであった。

 

「大佐!先遣隊の話ではトーパ王国の北部はほぼ占領されたようです!」

「分かった。第一撃としてアルゼンチン帝国空軍の攻撃がある。その後に我々は敵の殲滅だ。場合によっては敵の頭と呼べるレッドオーガやブルーオーガとの戦闘になるだろう」

「はっ!」

 

その軍勢、ナチス・アトランタ第三帝国は戦車を先頭に北部へ向けて進軍していく。その上空をアルゼンチン帝国のブリュームが通過していく。

 

「……アルゼンチン帝国軍か。我々も負けてはいられないぞ。上陸を急がせろ!」

 

ブリュームの先行攻撃にナチス・アトランタ第三帝国も触発されしきを上げていく。ハーケンクロイツを掲げ北部へと向かうナチス・アトランタ第三帝国軍にトーパ王国民は歓喜を持って迎えた。

 

「あれが噂のアルゼンチン帝国か!?」

「いや、何でも別の国らしいぞ。ナチス……なんたらって国らしい」

「へぇー!アルゼンチン帝国以外にもあんなものを持っているんだな!」

「さっき轟音を響かせて通り過ぎた鉄竜(戦闘機)もすごかったが彼らの鉄竜(戦車)も凄いな!」

「まるで太陽神の遣いみたいだよな!」

 

 

 

一方、先行するブリュームA隊からJ隊100機は特に妨害や迎撃を受けることなく魔王軍の先陣、レッドオーガとブルーオーガのいる街に来ていた。

 

『こちらC4。町の中央部に住民と思われる人が集められている』

『A1も確認した。これより周囲の魔王軍を攻撃する!町の広場を中心に行動する!AからC隊は広場周辺の魔王軍を、それ以外は外円部の敵を攻撃しろ!』

『B隊了解!』

『E隊了解!』

 

指揮官であるA1からの指示を受け一斉に行動を開始する。街にいる魔王軍は聞きなれない轟音に思わず上空を見上げていた。

 

「……なんだ?」

 

そう言って上空を見たオーガの全身に幾つもの穴が開き肉塊へと変貌した。それがいくつも起こり魔王軍は一気に大混乱に陥る。町から逃げようとする魔王軍はミサイルの攻撃を受けミンチとなっていくため次々と数を減らしていった。

 

「落ち着けっ!敵を撃ち落とすのだ!」

「貴様等はそれでも魔王軍の一因か!?落ち着け!」

 

指揮官たるレッドオーガとブルーオーガが声を上げて落ち着かせようとするが上手くいかないばかりが察知され集中的に攻撃を受け始める。

 

「ぐっ!?ば、馬鹿な……っ!」

「があぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」

 

レッドオーガとブルーオーガはミサイルとバルカン砲の集中砲火を受け粉微塵になりこの世から消えた。

その後も暫く攻撃が続いたがやがて南方へと引き返していった。この時点で街にいた魔王軍二千はほぼ残っておらず魔王軍は敵が帰った事に安心し生き残った住民は絶望した。

しかし、直ぐにハーケンクロイツを掲げた軍勢がやってきたことで魔王軍は絶望し、住民は歓声を上げた。

結局。魔王軍は逃げる事すら出来ずにナチス・アトランタ第三帝国軍の攻撃を受け僅かな生き残りも完全に殲滅されるのであった。

 

 

 

 

 

 

別働隊が蹂躙しているころ別の戦場でも動きがあった。

そこは魔王が占拠する北方の町であったが本体の攻撃を受けていた。

 

「くそっ!偉大なる魔帝様と同じ技術力だと!?あり得ん!」

 

魔王ノスグーラは上空で暴れまわる戦闘機に攻撃を仕掛けながら叫ぶ。封印される前に戦った太陽神の遣いより洗練された戦闘機を前にノスグーラは最悪の想定をする。

 

「くっ!やつら太陽神の遣いも進化したという事か!?だが、魔帝様の為にも死ぬわけにはいかない!」

 

魔王ノスグーラは魔法をフルに使いミサイルやバルカン砲を防ぐ。そして、燃料の都合上帰還しなければいけなくなった戦闘機隊は攻撃をやめ南方へと引き返していった。ゴブリンやオーガの死体とも言えない肉塊の中、魔王ノスグーラは五体満足で立っていた。あの猛攻を防ぎきったのである。代償として魔力はそこを突きかけており次の攻撃は絶対に防げないだろう。

そう判断した魔王ノスグーラは悔しさと達成できない使命から腕を強く握りながらグラメウス大陸へと敗走するのであった。

 



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第二十話「一年」

第二十話「一年」

「漸く転移から一年か」

 

アイルサン・ヒドゥラーはインペリオ・キャピタル郊外にある自宅にて思考の海に潜っていた。内容は転移についてである。もうすぐ日付が変わる。そうなれば転移から丁度一年を迎える。アルゼンチン帝国では転移から一年が経つことに対する祭りの如き騒ぎが起きており警察や軍が治安維持の為に出動する程だった。

 

「この一年は怒涛であった……」

 

突然の転移と隣国の消失。クワトイネ公国との接触にロウリア王国との戦争。そしてフィルアデス大陸南部を領有するパーパルディア皇国との戦争に極東国家連合の設立と魔王との戦い。

あまりにもイベントが多い都市であったことは間違いないだろう。

 

「起きてるかー?」

「……ああ」

 

そこへアイルサン・ヒドゥラーの妻エミリア・ヒドゥラーが入って来る。その手には火のついた煙草を持っており偶に口に加えながらアイルサン・ヒドゥラーの元に向かうと隣に置いてある椅子にドカリと座った。

 

「何だ?考え事でもしていたか?」

「ああ、転移してから後少しで一年経つからな」

 

壁に掛けられた時計にはあと十分ほどで十二時を指そうとしていた。アイルサン・ヒドゥラーはインペリオ・キャピタルの都市ならではの音をBGMにエミリアに語る。

 

「俺は最近考えることがある。我々は何故この世界に転移したのか、とな」

「んー、そりゃ人為的な物では無いのは確かだな」

 

人類にそんな事が出来る技術力などない。それこそ技術大国の高天原帝国やナチス・アトランタ第三帝国でも無理だろう。あの二国に勝らずとも劣らないと自負するアルゼンチン帝国ですら無理なのだから。

 

「知ってるか?この世界には太陽神の遣いと呼ばれる存在がいたそうだ」

「なんだそりゃ?日本か?」

「違う。何でもかつて魔王によって種族滅亡の危機になった時に太陽神が自身の遣いを送ったそうだ」

「へぇー、ならそいつらも転移してきた可能性が?」

「ああ、だがグラ・バルカス帝国の様に違う世界からだろう。伝承では黒、赤、緑の三色の国旗の国だったらしい」

「ん?そんな国あったか?」

「伝承から察するに技術力は80年以上前のものだ。だが規模としては大国に等しい。だがやはりそんな国など聞いたことがない」

「私もないな。で、なんだ?私達も太陽神の遣いだと?」

「それは分からないがな。だが魔王が現れる前には古の魔法帝国という国が世界を支配していたらしい。そしていつかこの地に復活するともな」

「……そいつらを倒さないといけないと?」

「可能性の話だがな」

 

そこまで言うとアイルサン・ヒドゥラーはエミリアの持ってきた珈琲を口に含む。時計が十二時を示すメロディーを流す。瞬間インペリオ・キャピタルの方から大きな歓声が上がった。

 

「全く、寝ている人に迷惑だろうに」

「まぁしょうがないだろ。転移から最初の年明けなんだ。来年には落ち着くさ」

 

アイルサン・ヒドゥラーの言葉にエミリアは笑みを浮かべて答えた。静かな部屋の中にインペリオ・キャピタルの騒音が下品にならない程度に聞こえてくる。

 

「……来週、漸くまとまった休暇が取れる。その時に何処か遠出もするか?」

「お、いいねぇ!なら近場でドライブなんてどうだ?近場でもドライブは楽しいぞ」

「そうだな。そうするか」

 

アイルサン・ヒドゥラーは妻との静かな時間を噛みしめながら転移一年を祝うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「陛下!次元転移の準備がまもなく整います!」

 

アルゼンチン帝国が異類世界とは別の、地球とも違う世界に神聖グランフィア帝国はあった。その帝都ゲイルスフィアの皇城にて皇帝ダングレイル・レウル・ブレギルスは宰相から報告を受けていた。

 

「へぇ?意外と早く完成したんだね。今回はちゃんと起動するのかい?」

「理論上は、ですが。しかし、前回と違い今回は転移する先の座標が判明しています。失敗はまずないでしょう」

「それならいいけど」

 

神聖グランフィア帝国はかつてグランフィア大陸における統一王朝だった。しかし、二限の反乱や他国の介入などがあり今ではグランフィア大陸南部に追い込まれていた。取り戻そうと軍勢を出しても今やグランフィア大陸の大半を領有するアストリア合衆国の前に連戦連敗となっていた。防衛自体は出来ているがこのままでは取り戻すことは出来ない。

そこで神聖グランフィア帝国は戦力を手に入れるために別の世界から様々な技術や人的資源を奪おうと考えた。そして転移装置は完成し早速行われたが行きついた先は次元の狭間を浮遊中だったラティストア大陸だった。現在ラティストア大陸は神聖グランフィア帝国の完全な支配下にあり少しづつ要塞化や魔導兵の投入が行われている。

 

「ラティストア大陸にあった内容から察するに後数千年は浮遊していたようですがそれでは待っていられないので多少元居た場所からはずれますが一週間後には転移が可能です」

「転移させるに当たり必要な準備が整うのは後二週間後だったな。なら全ての準備が完了次第転移させろ」

「かしこまりました」

 

宰相は様々な部署に報告する為に謁見の間を出て行く。皇帝のダングレイル・レウル・ブレギルス以外の生物がいなくなった謁見の間でダングレイル・レウル・ブレギルスは抑えきれない笑みを零す。

 

「ふふふ、もうすぐだ。もうすぐで我々は異世界を支配しそこから得られるであろう力を持ってグランフィア大陸を取り戻す!そして世界を統べ余は世界に君臨する皇帝となる。ふ、フハハハハハッ!!!!!」

 

ダングレイル・レウル・ブレギルスは自らの野望を口に出し高らかに笑うのであった。

そして三週間後、次元転移が行われた。アルゼンチン帝国と神聖グランフィア帝国。両者が激突するのはまだ先であるが少しずつ近づいているのであった。

 



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第二十一話「海と陸と西方」

第二十一話「海と陸と西方」

「アルゼンチン帝国は凄まじいな」

 

クワトイネ公国の経済都市マイハークにあるとある食堂にて元ロウリア王国海将シャークンは呟いた。彼はロウリア王国の船団4400隻を率いて侵攻したが王都攻撃を狙ったアルゼンチン帝国艦隊に壊滅させられた。幸いシャークンは生き延びる事に成功し後からやってきたクワトイネ公国の船に救助され捕虜となった。シャークンは情報を引き出す為に拷問を受けるだろう事を覚悟したがそんな事はなくむしろクワトイネ公国の兵士たちはシャークンたちを憐れむような眼で見ていた。

当初こそ分からなかったが後にロウリア王国があり得ない速度で滅亡、占領されたことを知りこの意味を知る事となった。戦後はロウリア王国の将軍という事もあり収容施設に入れられたが直ぐに釈放された。いくら敵だったとはいえ彼がしたことはほとんどないため無罪となったのだ。その後シャークンは下働きをしながら現金を貯め今では一隻の船の船長として貿易に励んでいる。大抵の貿易相手はアルタラス王国やシオス王国に食料の輸出を行っている。

最近では漸く懐も温かくなる程度には儲かってきている。その為シャークンは陸にいる時はこう言った食堂で外食をするようになっていた。

 

「まだ一年も経っていないのに何年の前の様に感じるな」

 

祖国が滅びた事に何も感じなかったわけではないがそれでもアルゼンチン帝国に逆らおうと思う程に愛国心があった訳でもない。最近ではそう思うようになっていた。

ロウリア王国は主要都市を破壊され国家としては機能しなくなった。今ではクワトイネ公国、クイラ王国、アルゼンチン帝国とその同盟国によってばらばらに分割された。唯一ロウリアらしいところが残ったのはアルゼンチン帝国の傀儡となった中央部の帝国領ロウリアだけだった。それも二か月ほど前に反乱が起きてからはヌナブト連邦共和国という国に割譲され影も形も残っていないが。

 

「アルゼンチン帝国の様子から遅かれ早かれこうなっていただろうな。アルゼンチン帝国から見たらロウリア王国など丁度いいカモに見えただろうからな」

 

パーパルディア皇国ですら領土拡張先程度の認識だったのだ。それ以下の国力しか持たないロウリア王国など抵抗力の無い餌同然だったろう。

 

「幸いクワトイネ公国やクイラ王国は我々の様な者を受け入れてくれている。せめてこの国がアルゼンチン帝国の毒牙にかからないことを祈るばかりだな」

 

シャークンは漸く来た食事に手を付けながらそう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

西部方面騎士団長モイジは最近暇を持て余していた。ロウリア王国という明確な敵がアルゼンチン帝国によって滅ぼされたため西への備えが必要なくなったのだ。それでも最近までは新たに手に入れた領土の整理や騎士団の近代化に追われていた。アルゼンチン帝国の軍事力を目の前で見た西部方面騎士団は近代化に積極的であった。その為アルゼンチン帝国が無償で提供したパーパルディア皇国のマスケット銃(鹵獲品)を大量配備しその力を強化していた。他にも研究以外では必要ないとワイバーンロードすら提供してくれたため西部方面騎士団のみならずクワトイネ公国の空軍力が強化されていた(因みに帝国領パールネウスは自治領統合軍が軍関係を行っているのでクワトイネ公国よりも軍事力は高い)。

そしてつい最近それが終わりモイジは一気にやる事がなくなったのだ。妻や子と平和な時間を過ごしたり剣や新たな武器である銃の練習をしているがそれでも暇な時間が多くできた。

 

「……あら?貴方それはどうしたの?」

「これか?実は休暇を貰ってな。もしよければ一緒に行かないか?」

 

モイジが持っていた物それはアルゼンチン帝国への渡航券であった。

アルゼンチン帝国は本土への行き来を制限している。しかし、それでは国内の観光業などが衰退していますため限定的に行き来を行えるようにしていた。それが渡航券である。これがあればアルゼンチン帝国に入る事が出来る。友好国に対し多めに配っていた。

モイジは偶々ギムで売られていたのを発見し購入したのだ。

 

「まぁ!それはいいですね」

「あのアルゼンチン帝国だ。きっと見る物全てが新鮮に映るだろう」

「それは楽しみですね」

 

翌週、モイジは家族を連れアルゼンチン帝国へと渡った。最近では見慣れてきたとは言え獣人のモイジは目立ちアルゼンチン帝国の人々に改めて異世界に来たことを実感させるのであった。

 

 

 

 

 

「第三文明圏は正式に解散させよう」

 

神聖ミリシアル帝国帝都ルーンポリスにてパーパルディア皇国亡きあとの第三文明圏についての会議が行われた。

第三文明圏は元々パーパルディア皇国を中心とした文明圏だった為パーパルディア皇国が滅びた今文明圏としては存続できなくなっていた。アルゼンチン帝国を新たに第三文明圏の盟主にする事も出来たが極東国家連合という新たな文明圏ともいえる陣営を作ってしまったためにそれも出来なくなっていた。

 

「で、どうする?アルゼンチン帝国に使節団を派遣するか?」

「しかし我が国は世界最強の国だぞ?それなのに態々こちらから派遣するなど……」

「ですがアルゼンチン帝国は今後東方世界の代表的存在となるでしょう。それにパーパルディア皇国に代わり先進11か国会議に呼ぶのでその準備や指導を行うというていで行けば……」

「確かにそれなら問題ないな。検討と根回しを行うか」

 

後日、神聖ミリシアル帝国はアルゼンチン帝国に使節団を派遣する事を決定した。

 



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第二十二話「外交戦1」

第二十二話「外交戦1」

「間もなくアルゼンチン帝国の領空に入ります。先導目的のアルゼンチン帝国の戦闘機が二機来ますが戦闘の意志はないので安心してください」

 

機内アナウンスを聞き神聖ミリシアル帝国の情報局員ライドルカは漸くついたと息を吐く。彼は神聖ミリシアル帝国のアルゼンチン帝国使節団の一人として天の浮舟35型に乗っていた。彼の隣では外交官のフィアームがめんどくさそうにしている。

 

「本当に長かった。だが後数時間で極東の文明圏外国家と外交をしなければ言えないという事に頭が痛いです。しかし、戦闘機ですか。まさか文明圏外国家が持っているとは驚きですね。ムーの援助でも受けているんでしょうか?」

「分かりませんね。ただ、少なくとも列強の介入があったのは間違いなさそうですね」

 

そう話していると天の浮舟の隣を高速の何かが通過した。続いて轟音が響く。

 

「な、なんだ!?」

「まさか、戦闘機か!?」

 

二機の戦闘機は一機が先導しもう一機が片面につく。

 

「あの翼型は……なんと!後退翼か!速度が音速を超えた場合に翼端が超音速流に触れないために考えられた翼型!我が国ではまだ研究……というか、理論の段階だが、実物がまさか見られるとは!アルパナ殿、あの戦闘機は少なくとも音速を超えますぞ!」

 

興奮したように技官ベルーノが隣に座る武官アルバナに話しかける。

 

「馬鹿な……!我々の天の浮舟より早いというのか!?」

「そんなわけあるものか!我々は世界最強の国家だぞ!?我々は魔帝の遺産をどこよりも多く早く研究しているのだぞ!?なのに!我が国を凌駕する技術を持つなど……!」

 

外交官フィアームは怒りを零しながら隣を進むブリュームを見る。

やがてアルゼンチン帝国の本土が見えてくる。天の浮舟は今までの使節団の様にパラパライソから向かうのではなく直接ブエノスアイレスに向かう事になっていた。

眼下には神聖ミリシアル帝国より優れた都市がいくつも見え文明圏外国家のはずのアルゼンチン帝国の様子に一同は困惑する。

 

「確かアルゼンチン帝国には魔法がなかったんだな?」

「はい、魔法技術を集めている様ですがそれも最近のはずです」

「魔法なしでこれほどの都市がつくれるのか……?」

 

やがて天の浮舟はブエノスアイレスに到着する。そしてその奥にはブエノスアイレスを超える大規模で洗練され何処か威厳すら感じるアルゼンチン帝国の新帝都インペリオ・キャピタルの姿が見えた。

 

「っ!」

 

外交官フィアームはみじめな気持ちとなっていた。世界で最も素晴らしい都市と自負している帝都ルーンポリスより発展したインペリオ・キャピタルを見て誰もがアルゼンチン帝国をただの文明圏外国家と思う事は出来なくなっていた。

 

「神聖ミリシアル帝国の皆さまようこそおいでくださいました」

 

使節団はアルゼンチン帝国からの出迎えと挨拶をしてインペリオ・キャピタルへと車で向かう。神聖ミリシアル帝国の車より洗練され大規模に普及されているという事実に使節団は再び驚愕していた。

そしてインペリオ・キャピタルにあるホテルに一泊して会談は明日からという事になった。そのホテルすら神聖ミリシアル帝国のどのホテルよりも素晴らしい物であった。

そして一夜が明けインペリオ・キャピタル総統府にて両国の会談が行われた。先ずはアルゼンチン帝国の事を知ってもらうためにアルゼンチン帝国の歩んだ歴史に軍事力、経済などを教えていく。勿論技術を見せる一環でプロジェクターを使用した動画である。

スペイン副王領からの独立にアルゼンチン南北戦争、帝国白銀党の一党独裁と帝政への変換、そして転移。それらは分かりやすく教えていき次に軍事力の説明をする。神聖ミリシアル帝国より洗練された大規模艦隊に天の浮舟などよりも早いジェット機や爆撃機。そして一糸乱れぬ行進をする陸軍に戦車師団などが映っていく。

一旦休憩を兼ねて使節団にアルゼンチン帝国の料理がふるまわれた。

 

「おお!どれもうまいな!……ところでフィアームさん。先程の映像をどう見ましたか?私には神聖ミリシアル帝国よりあらゆる面で上だと感じましたが……」

「そんなわけあるか。転移国家というのも誠かどうか怪しいが何より科学技術でここまで出来るとは到底思えん」

「だが産業面では確実に上だぞ。大陸横断鉄道と呼ばれるものは我が国の構想上のものより洗練され何よりスペックが上だ。そして軍事面でも天の浮舟より早い戦闘機を持っている」

「海軍など特にだ。あの艦隊を見たかね?特にグレート・ディアボロスと呼ばれる艦種を。あれは確実にグラ・バルカス帝国のグレートアトラスターより能力は上だろう。それが三隻もいる」

「とは言え魔法を一切使っていないせいで国力自体は読みづらいな」

 

そんな話を会食後も続けていると一人の男が入って来る。

 

「皆さま、アルゼンチン帝国のアンデル・ベートルと申します。これから使節団の対応をさせていただきます。神聖ミリシアル帝国の担当となった事を光栄に思います」

 

ベートルはそう言うが決して光栄に思っているような雰囲気は持っていなかった。その事にフィアームは眉を潜めた。

 

「こちらこそ、初めまして。神聖ミリシアル帝国外務省外交官のフィアームと申します。ベートル殿、今後も我が国の外交担当も貴方となるという認識でよろしいか?」

 

「はい、特に政府の意向により変更が無ければ、このまま私が神聖ミリシアル帝国を担当いたします」

 

それを聞いたフィアームは邪悪な笑みを浮かべて持ってきた大きなバックから袋を取り出すと袋を外し中に入っていた物をベートルへと渡す。

 

「担当の外交官への私個人からのプレゼントです。我が国で開発された、一瞬で演算するための道具です。これを使用すれば、桁の多い掛け算や割り算であっても、一瞬で答えを導き出します。」

 

「これはありがとうございます。……ほう、結構重たいですね」

 

渡された計算機を受け取るとその重さに表情を僅かに変える。

 

「国力の発展には高度な演算が必要不可欠です。演算能力の速さが産業の発展に直結します。我が国では高価な物ですが私的にプレゼントします」

 

自信満々に言うフィアームに技官のベルーノは頭を抱える。少なくともアルゼンチン帝国は我が国より高度な演算能力をゆうしていることを先ほどの映像が察していたためだ。

 

「……確かに我が国でも同じ考えです。こちらをご覧ください」

 

そう言ってベートルはポケットからスマートフォンを取り出した。

 

「これは計算だけでなく通話やゲーム、辞書といった機能を有します。無論計算も一秒で一京回計算できます」

 

その途方もない能力に絶句するフィアーム。しかし、ベートルは次の一手を投下する。

 

「これほど素晴らしい物をありがとうございます。かつて我が国では計算機を他国から輸入しそれを元に自国で生産しました。なのでこのような骨董品は我が国ではありません。博物館に展示すれば歴史的価値が付くでしょう。ああ、そうそう我が国ではこのスマートフォンの様に軽く持ち運びができる計算機を子供のお小遣い程度で買う事が出来ます。素敵なプレゼントをありがとうございます」

 

既に外交の戦いは始まっている。フィアームが自国の力を誇示したようにベートルもアルゼンチン帝国の力の一端を見せた。如何に相手に自国の国力を見せ上だと認識させ外交を有利に進めるか。ベートルはそれに従い行動したに過ぎなかった。

 

 



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第二十三話「交わる世界」

第二十三話「交わる世界」

神聖ミリシアル帝国の使節団は総統府にて先進11カ国会議の参加要請を伝えると天の浮舟35型に乗り自国へと帰っていった。

外交を担当したベートルは直ぐに情報を纏め総統アイルサン・ヒドゥラーへと報告した。

 

「……以上の事でアルゼンチン帝国を先進11カ国会議の東方国家代表として固定参加にしたいと事です」

「成程、先進11カ国会議の参加要請か」

「他にも元列強だったレイフォルの代わりにグラ・バルカス帝国を候補にしているそうです」

「ふむ、まぁ参加国を滅ぼしたのだから代わりに参加するのは当然か。……そう言えばその皇太子は今何をしている?」

「今は本土のあちこちを周っております」

 

グラ・バルカス帝国の皇太子グラカバルはアルゼンチン帝国本土を見て回っていた。時には大学に行って知識を得たり時には陸軍などの演習を観衆に混じって見学したり時には農家や漁師の手伝いをしたりとグラ・バルカス帝国、アルゼンチン帝国両国の護衛の胃を痛めさせていた。因みにこれが原因で護衛の仲は良くなっているとか。

皇太子とは思えないフランクな姿勢からアルゼンチン帝国の臣民の間でも人気が出てきていた。

 

「……確か今はペルーの方にいたな?」

「いえ、今はガラパゴス諸島に赴いています。何でも独自の進化をした生物を直接見たかったと」

「……」

 

アイルサン・ヒドゥラーはグラカバルの計画性のない行動に頭を抱える。アルゼンチン帝国の事を良く知ってもらうには必要な事かもしれないがあまりにも自由に動き過ぎて次の行動が読めない。このままでは誘拐や暗殺が起きても対処できなくなる可能性があった。幸いなのは護衛を必ず連れて行動している事ぐらいだ。

 

「……グラ・バルカス帝国からも話が来ている。もし皇太子に何かあっても我らに責任は取らせるようなことをしないと」

「……それは、ありがたい事なのでしょうか?」

「分からん」

 

ベートルはグラ・バルカス帝国からの内容に困惑しアイルサン・ヒドゥラーは疲れがにじみ出る息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

「うむ!これも面白い姿をしているな!名前は何というのだ?」

「ガラパゴスリクイグアナという種類です」

「成程!確かにイグアナだな!む!これは何だ!?」

「ガラパゴスペンギンという種類です」

「成程!確かにペンギンだな!む!これは何だ!?」

 

その頃、グラ・バルカス帝国の皇太子グラカバルはガラパゴス諸島に上陸し専属のガイドを質問攻めにしていた。

 

 

 

 

 

 

「レミール様、銃の生産が漸く安定しました」

「そうか、分かった」

 

帝国領パールネウス首都ルーディアにてレミールは内務省からの報告を受けていた。彼女は漸く完治しつつある腕をいたわりつつ資料を読んで時にはハンコを押していく。

帝国領パールネウスはパーパルディア皇国時代の主要都市と工業都市全てを無くした状態で誕生した。しかも72ヶ国連合が壊滅した後も独立機運が各地で起きていて不安定な状態であったが自治領統合軍の到着により一気に平穏となっていた。帝国領パールネウスは一切の軍事力を自治領統合軍に委ねているため(パンドーラ大魔法公国を除くアルゼンチン帝国の自治領全てに言える事)武器の生産をする必要はない。しかもアルゼンチン帝国では骨董品としてなら価値のあるマスケット銃を。これらはロデニウス大陸などのアルゼンチン帝国友好国にほぼ無料ともいえる値段で供給されている。

 

「それとクワトイネ公国から食料の第三陣が到着しました。現在は各地に送っています」

「早急に頼むぞ。飢える者がいなくなれば帝国領パールネウスももっと安定するからな」

「はっ!それとインフラについてですが首都周辺はアルゼンチン帝国から貸し与えられた機械で何とか完了しました」

「よし、次は南方を優先的に行ってくれ。帝国直轄領間の道が整えば様々な物が入って来るうだろうからな」

「かしこまりました」

 

男は報告を終え部屋を後にする。部屋にはレミール一人だけとなり背もたれに体を預ける。

 

「……億劫だな」

 

レミールは無意識に呟く。彼女には一週間後に控えるお見合いがあった。お見合いといっても相手はアルゼンチン帝国の政党である帝国白銀党の党員であり能力も階級もそれなりに持っていた。これはアルゼンチン帝国からの楔でもあった。

レミールはデスクの引き出しからお見合い相手の写真が入った本を取り出す。決してイケメンとは言えないが醜い容姿とも言えない、むしろ穏やかそうな見た目をしている男であった。

 

「パーパルディア皇国は負け滅びた。私も本来なら敵の皇族という事で殺されても可笑しくなかった。そう考えれば好待遇だが……」

 

レミールは瓦礫に埋もれた中で救出してくれた男の言葉が忘れられない。パーパルディア皇国を呆気なく潰せる力。その力がパーパルディア皇国に向いた結果、パーパルディア皇国はずたずたに引き裂かれた上で傀儡となった。レミールをトップにして。

 

「……そう言えば北のオチデ王国がナチス・アトランタ第三帝国という国によって滅ぼされていたな。難民などの流入に気を付けないとな」

 

レミールは写真をしまうと再び業務へと戻るのであった。

 



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第二章までの登場人物と国家

連続投稿です。


第二章までの登場人物と国家

極東国家連合

【アルゼンチン帝国】

転移国家。パーパルディア皇国を滅ぼして中央部から東側にかけて領有する。帝都はインペリオ・キャピタル。転移後わずか一年で大胆な軍事行動に出て第三文明圏を崩壊させ極東国家連合を設立する。帝国領ナミビアや帝国領ブラジルなど存在しない架空国家を作ろうの世界とは微妙に差異が存在している。

アイルサン・ヒドゥラー

・アルゼンチン帝国総統。

エミリア・スーレット

・帝国白銀党員。アイルサン・ヒドゥラーの妻兼秘書。勝気な性格をしている。夫婦仲は良好。

アンデル・ベートル

・アルゼンチン帝国外交官。転移後は第一文明圏担当。神聖ミリシアル帝国の外交官フィアームのプライドを破壊しつくした。

フェリペ・ヘル

・アルゼンチン帝国海軍中将。旧第二大西洋艦隊司令長官。現特殊機動艦隊司令長官。

リューベル・ルックナー

・陸軍大佐。レミールを救助する。

 

【帝国領パールネウス】

パーパルディア皇国滅亡後にパーパルディア皇国の中央部から東部にかけて領土を持つアルゼンチン帝国の自治領。首都はルーディア。

レミール

・帝国領パールネウスの自治領指導者。元はパーパルディア皇国の皇族だったがエストシラント空襲で唯一生き延びた。アルゼンチン帝国の圧倒的な武力を前に心が折れ少しずつ憔悴している。

 

【ヌナブト連邦共和国】

アルゼンチン帝国の両世界での一番の友好国。パーパルディア皇国戦後は西部の沿岸部を領有する。

 

【神聖オーストリア・ハンガリー帝国】

アルゼンチン帝国と合同演習時に転移してきた国家。パーパルディア皇国に宣戦布告して西部を領有する。

 

【クワトイネ公国】

アルゼンチン帝国の異世界の中では一番の友好国。帝国領パールネウスから提供されているマスケット銃やワイバーンロードで軍事力の強化を行っている。

シャークン

・元ロウリア王国海将。ロウリア滅亡後は収容所に数日収容された後解放された。海将時代のコネを使い現在は貿易船の船長として活躍中。

モイジ

・西部方面騎士団団長。ロウリア王国という脅威が消えたため現在は鍛錬や軍事力の強化を中心に行っている。

 

【ガハラ神国】

フェン王国の東部に位置する国家。フェン王国と違い滅ぼされる事はなかったが燃え盛るフェン王国が見えていたためガハラ神国ではアルゼンチン帝国は悪魔に近い神の国という認識になりつつある。

 

【アルタラス王国】

フィルアデス大陸の南部の島を国土とする国。パーパルディア皇国戦ではルミエスの進言もありアルゼンチン帝国を積極的に支援する。ルミエスがアルゼンチン帝国有数の企業を営業しているエインズワーグ家の嫁いだことで様々な技術を手に入れることに成功し極東国家連合の中では上位に位置する国力と軍事力を有することに成功する。

 

【パンドーラ大魔法公国】

パーパルディア皇国の属国だったがパーパルディア皇国滅亡後は主権を回復するが直ぐにアルゼンチン帝国の属国となる。アルゼンチン帝国からもたらされた科学技術と自国の魔法技術の融合に成功し国力を高めている。

 

第一文明圏

【神聖ミリシアル帝国】

世界最強を自負する国家。異世界国家では最強だがその実態は古の魔法帝国の遺跡から発掘しているにすぎず理解度はかなり低い。その為アルゼンチン帝国やグラ・バルカス帝国から見るとちぐはぐな国力となっている。軍事力では切り札を除きアルゼンチン帝国が一方的に倒せるグラ・バルカス帝国相手に一方的に負ける程度しか持っていない。

フィアーム

・神聖ミリシアル帝国外交官。プライドが高いがアルゼンチン帝国に使節団として派遣された時にベートルにプライドを粉々に砕かれた。

ライドルカ

・神聖ミリシアル帝国情報局員。使節団の一人。

ベルーノ

・神聖ミリシアル帝国の技官。使節団の一人。アルゼンチン帝国が神聖ミリシアル帝国よりも国力が高い事に薄々気付いている。

 

第二文明圏

【グラ・バルカス帝国】

アルゼンチン帝国と同じ転移国家。帝都はラグナ。アルゼンチン帝国の実力にいち早く気付き関係を築く。パーパルディア皇国戦でアルゼンチン帝国の実力を再確認し皇太子をアルゼンチン帝国に向かわせる。アルゼンチン帝国接触後は領土拡張を行わずに現状の領土の維持に努めている。

グラルークス

・グラ・バルカス帝国皇帝。アルゼンチン帝国との関係を密接にしようと(やらかすことを覚悟で)息子を送り出す。

グラカバル

・グラ・バルカス帝国皇太子。フランクなアホ。アルゼンチン帝国本土を旅行中。護衛の兵の胃にダメージを与え続けている。しかし、そのフランクな対応からアルゼンチン帝国では人気が出てきているためグラルークスの友好関係の構築には成功している。

 

第三文明圏(パーパルディア皇国滅亡と極東国家連合の設立に伴い事実上消滅)

【パーパルディア皇国】

アルゼンチン帝国の領土拡大先に選ばれた国。列強と呼ばれていたが秘術力は低くアルゼンチン帝国からは領土が広いだけの餌と認識されていた。開戦後すぐに帝都と工業都市を占領されたためまともな抵抗が出来ずに72ヶ国連合とアルゼンチン帝国に食い荒らされて滅亡した。滅亡後はアルゼンチン帝国、神聖オーストリア・ハンガリー帝国、ヌナブト連邦共和国に分割された後唯一生存したレミールを自治領指導者とした帝国領パールネウスとなる。

 




勢力図

【挿絵表示】

フィルアデス大陸の国名

【挿絵表示】


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第二章までの登場人物と国家2

連続投稿です


第二章までの登場人物と国家2

文明圏外国

【ナチス・アトランタ第三帝国】

神聖オーストリア・ハンガリー帝国と同じように演習中の所を転移した。その際総統ヴォルフガング・ヒトラーも来ていた事で他の巻き込まれた国とは違い政治はしっかりしている。魔王討伐ではトーパ王国の魔王軍を倒した後はグラメウス大陸に向かわずにトーパ王国北部にあるオチデ王国に侵攻しそこを領有するなど独自路線を進んでいる。

 

【オチデ王国】

ナチス・アトランタ第三帝国に滅ぼされた国。名前の由来は「出オチ」。由来の通り登場はこれで終わり。

 

【リーム王国】

パーパルディア皇国北部に位置する国家。アルゼンチン帝国によるパーパルディア皇国侵攻時には72ヶ国連合に支援して南下するがアルゼンチン帝国の攻撃を受け滅亡する。

 

【マオ王国】

リーム王国北部に位置する国家。アルゼンチン帝国をパーパルディア皇国並みの脅威と認識しているがパーパルディア皇国戦時にリーム王国諸共滅ぼされる。

 

【フェン王国】

ガハラ神国の西部に存在する国家。アルゼンチン帝国とパーパルディア皇国をぶつけようとしたためアルゼンチン帝国の怒りを買う。パーパルディア皇国戦時に領土全てを爆撃され半壊した城のみが残る悲惨な状態となりアルゼンチン帝国の直轄領となる。

 

【魔王軍】

グラメウス大陸を領有する。魔王ノスグーラを筆頭にレッドオーガとブルーオーガが存在したが二体はアルゼンチン帝国の特殊機動艦隊に殲滅され魔王ノスグーラはグラメウス大陸に撤退した。

魔王ノスグーラ

・古の魔法帝国に作られた生物兵器。古の魔法帝国が復活した際に世界をよりよく魔法帝国に献上できるようにしようとしていたが太陽神の遣いと勇者に壊滅、封印され封印が解かれた後も特殊機動艦隊とナチス・アトランタ第三帝国によって軍勢は殲滅され自身はグラメウス大陸に撤退した。

 

その他

【古の魔法帝国】

正式名称はラヴァーナル帝国。かつて異世界を支配していた光翼人の国家だが神に弓を引いたことで彼らの領土であるラティストア大陸に隕石を落とされそうになる。その為転移で遥か未来へと逃げた。次元の狭間にいる時に神聖グランフィア帝国の次元転移で繋がり神聖グランフィア帝国に滅ぼされ僅かに生き残った光翼人はロードスフィア人間収容所に収容された。その後のラティストア大陸は神聖グランフィア帝国によって全土が軍事要塞と化し異世界へ転移する準備に入る。

 

【神聖グランフィア帝国】

異世界とは別の世界の魔族国家。魔族とエルフの国であり人間に人権は存在しない。その為同世界の殆どの国家とは対立ないし国交を結んでいない状態にある。かつてグランフィア大陸という大陸一つを有する統一王朝だったがアストリア合衆国などの大頭により南部へと追い込まれている。近年ではアストリア合衆国の科学技術の前に攻防が続いており打開できていない状態にある。その為異世界を侵略しそこの富と技術を手に入れアストリア合衆国戦で役立たせようとするが最初の転移では次元の狭間のラティストア大陸に繋がる(一歩でも間違えれば転移した者は全て死んでいた)。ラティストア大陸を侵略するとラティストア大陸を使い異世界に転移する。魔導兵と呼ばれる魔法石で動く機械人形を主力兵器として運用している。

ダングレイル・レウル・ブレギルス

・神聖グランフィア帝国皇帝。魔族、エルフ至上主義であり残忍な性格をしている。一見子供の様な見た目をしているが帝国最強の魔法使いである。

 

陣営と文明圏

極東国家連合

アルゼンチン帝国が主導となって設立した軍事、経済同盟。第三文明圏に代わる新たな東の文明圏と認識されている。

加盟国

アルゼンチン帝国(パンドーラ大魔法公国以外の全自治領含む)

ヌナブト連邦共和国

神聖オーストリア・ハンガリー帝国

高天原帝国

カンプチア連合共和国

西サハラ帝国

クワトイネ公国

クイラ王国

アルタラス王国

シオス王国

ガハラ神国

パンドーラ大魔法公国(アルゼンチン帝国の属国)

 

第一文明圏

中央世界とも呼ばれている。その名の通り世界の中心であり所属する国家の国力、技術力は総じて高い。アルゼンチン帝国では認識はしているが態々つながりを持とうとはしていないため神聖ミリシアル帝国以外の国と接点はない。

国家

神聖ミリシアル帝国

エモール王国

ミルキー王国

トルキア王国

リビズエラ王国

ギリスエイラ公国

アガルタ法国

中央法王国

 

第二文明圏

ムーを中心とした文明圏。科学技術に理解があるが第一文明圏よりは劣っているとされている。グラ・バルカス帝国のレイフォル併合後は緊張が高まっている。アルゼンチン帝国との接点はない。

国家

ムー

レイフォル(滅亡)

ソナル王国

ニグラード連合

ヒノマワリ王国

近隣にある国家

グラ・バルカス帝国

 

第三文明圏

パーパルディア皇国を中心とした文明圏だったがアルゼンチン帝国にパーパルディア皇国が滅ぼされたことと極東国家連合の設立で事実上消滅。

国家

パーパルディア皇国(滅亡)

パンドーラ大魔法公国(→極東国家連合)

リーム王国(滅亡)

マール王国

 



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第二.五章【ハーケンクロイツと二重帝国旗】
第二十四話「フィルアデス大陸北方戦争・Ⅰ」


第二十四話「フィルアデス大陸北方戦争・Ⅰ」

1640/2/10ナチス・アトランタ第三帝国~帝都ニューベルリン~

ナチス・アトランタ第三帝国はかつての世界ではどの陣営にも属さず独自路線を歩んでいた。そして、この異世界でもその方針は変わっていない。旧オチデ王国王都ワタオをニューベルリンと改めたヴォルフガング・ヒトラーは大々的にスピーチを行い最後にこう締めくくった。

 

「まずはこのオチデ王国を中心にフィルアデス大陸北部を領有する」

 

ナチス・アトランタ第三帝国総統ヴォルフガング・ヒトラーはそう宣言し、自国の軍勢を国境線に張り付けた。トーパ王国とその自治領であるネーツ公国は極東国家連合に加盟している。盟主であるアルゼンチン帝国との不要な戦争を避けるため、ナチス・アトランタ第三帝国はそれ以外のフィルアデス大陸北部の国々に宣戦布告した。

これを受けフィルアデス大陸最北端の国家チラプナ王国が音頭を取り、対ナチス・アトランタ第三帝国戦線を構築した。各国は連合軍でナチス・アトランタ第三帝国占領中のオチデ王国を取り囲んだ。

 

「司令!オチデ王国を完全に包囲しました!」

「よし、明日には総攻撃を仕掛けるぞ。今日は英気を養うように」

 

オチデ王国西方のダルヤ王国将軍アルマースは西部方面連合軍司令として二十万の軍勢を率いていた。大半がダルヤ王国軍だが国境を接していないゴルド公国とチラプナ王国から派遣されてきた軍勢も含まれている。因みに北部にはパーカ王国を主力とする二十万、南部にはアイア共和国を主力とする十五万、東部の海には北部諸国の艦隊2000隻が海上封鎖していた。

アルマースは明日に向けて英気を養っている軍を見て満足げに笑みを浮かべた。明日になれば戦争が開始される。敵の規模が分からない現状では何とも言えないが、少なくとも敵の規模は十万から二十万という事が分かっている。オチデ王国は北部諸国の中では一番軍事力が低く、奇襲とこの位の軍勢なら難なく全土を占領できるだろう。

 

「ナチス・アトランタ第三帝国か……。一体どんな国なのか……」

 

フィルアデス大陸は最近激動の時を迎えている。パーパルディア皇国の滅亡にグラメウス大陸で魔王の復活とトーパ王国への侵攻など。国民の中には古の魔法帝国が復活する前触れでは、と噂する者もいて不安な空気が漂っていた時に、このオチデ王国の占領と宣戦布告である。アルマースはナチス・アトランタ第三帝国を倒しオチデ王国を奪還する事で、国民の士気を上げようと考えていた。

 

ふと、前線の奥、ナチス・アトランタ第三帝国の方の山で何かが光ったように見えた。ナチス・アトランタ第三帝国は灯を一切付けず静かであった。まるでそこに誰もいないかのように。

そこまで考えた時、連合軍の陣地で複数の爆発が起こる。

 

「な、なんだ!?敵襲か!?」

「ああぁぁぁぁぁぁっ!!!!う、腕が!俺の腕が!」

「くそっ、何も見えねぇ!」

「まさか魔導砲か!?」

 

陣地は一瞬にして阿鼻叫喚の嵐となる。アルマースは必死に落ち着かせようとするが、ナチス・アトランタ第三帝国の方から聞きなれ音が聞こえてくる。

夜空にうっすらと何かが飛んでいるのが分かる。ワイバーンとは違いばばばばばっ!と凄い音を出している。

その何かは両脇から何かを射出しこちらへと放ってくる。それらは何か当たると爆発を起こし更なる被害を出していく。更に前線から銃声が聞こえてくる。どうやら敵は暗闇に乗じて近づいてきていたようだ。

 

「くっ!これではまともな応戦など出来るはずがない!撤退だ!撤退しろ!」

 

アルマースはそう叫び自らも前線を離脱する。西部方面連合軍は一体どのくらい生き残れるのか。そう考えながら馬を使わずに背を低くしながら走る。馬で逃げては敵に見つかる可能性が高くなるからだ。

結局、夜明けが続くまで攻撃は続いた。あの後はナチス・アトランタ第三帝国のジェット戦闘機の攻撃も加わり苛烈な攻撃が行われた。夜が明けると地面はクレーターと連合軍の死体で埋め尽くされていた。西部方面連合軍の被害は十五万を超え、後方の砦まで撤退できたのは五万にも満たなかった。

 

「これでは反撃どころか防衛も難しいな……」

 

逃げ切る事に成功したアルマースは前線に偵察を出すも誰一人として戻らず、敵の情報をほとんど知る事は出来なかった。唯一分かったのは自分たちでは戦いにすらならないという絶望的な事のみだった。

しかし、他戦線はもっと悲惨であった。アイア共和国はナチス・アトランタ第三帝国の戦車部隊に戦線が崩壊しまともな防衛が出来ず驚異的なスピードで領土を奪われていた。

パーカ王国軍も野砲の砲撃と戦闘機の攻撃を受け壊滅し第二前線に撤退する事となった。この時点で連合軍の死者は三十五万を超え連合軍の前線にいた軍勢の半数以上が壊滅するのであった。

これを受け海上封鎖をしていた連合軍艦隊は沿岸で防衛するナチス・アトランタ第三帝国海軍と戦闘を行い、沿岸部から侵攻する事を決定するのであった。

ロウリア王国の船団4000隻以上に比べれば半数以下だがそれでも大規模な船団はゆっくりと進み始めるのであった。

 



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第二十五話「滅亡」

遅くなりました。これから投稿速度はかなり落ちると思います。


第二十五話「滅亡」

「我ら2000隻に比べて相手は24隻しかいない。だが、陸では連戦連敗らしい。流石に負ける事はないだろうがそれなりの被害は出るだろう」

 

連合軍艦隊司令ハッキンは沿岸部に展開する敵艦隊を見てそう呟いた。2000隻の船団は北部諸国の防衛用の船を除いた全てで構成されている。しかも文明圏外国ではあり得ない戦列艦で構成されているため、火力も高かった。

その気になればパーパルディア皇国とも対等に戦えた可能性もあるだろう。尤も、パーパルディア皇国は亡びてしまったため検証のしようはないが。

 

「よし、全速前進!前方の敵艦隊を殲滅せよ!」

 

ハッキンの言葉に水兵たちは雄たけびを上げ、船を前進させていく。しかし、ある程度近づくと敵船がいきなり爆発音を出した。

 

「何だ?……まさか、魔導砲!?」

 

ハッキンはそこまで言った瞬間、乗艦していた戦列艦ごと吹き飛んだ。司令官が乗った船が真っ先に沈んだことで指揮能力は失われた。結果ある船は逃走しある船は敵艦隊に向かっていく。しかし、そんなバラバラな状態で逃げる船はともかく交戦する船はまともに戦う事も出来ずに沈められていく。そんな中五隻ほどが砲弾の雨をかいくぐり近づいていく。アイア共和国の船だ。

 

「進め!一発でもいいから敵船に当てるのだ!アイア共和国の意地を見せる時だ!」

 

五隻の船を纏める船長は声を張り上げ船首に立ち味方を鼓舞する。五隻の船は最初こそ固まっていたが直ぐに分かれてまとめて沈められないように動く。

と、右端を進んでいた船が砲撃を受け一発で沈んでいった。船の様子から水兵はほぼ戦死しただろう。砲撃は四隻の船に集中する。20隻を超える艦隊からの砲撃は激しく呆気なく船長が載る船以外が沈んでいった。しかし、四隻の犠牲を出し漸く魔導砲の射程距離に入る事に成功した。

 

「船長!射程距離に入りました!」

「よし!砲撃開s……!」

 

船長が砲撃の指示を出そうとした瞬間であった。

船に大きな振動と破壊音が響く。船長は突然の事態に床を転がりながらそれを見た。船の中央部に横一列のひびが入るのを。そしてそこから船は崩壊し船長は船の残骸と共に沈んでいった。

 

「……目標、沈没。次、敵後方の戦列艦」

「了解」

 

アイア共和国の船を沈めたUボートはその存在を察知されずに次々と船を沈めていった。艦隊より多いUボート50隻にどんどん船は沈んでいき、陽が沈むころには旧オチデ王国沿岸部には大量の木材が浮かぶのみであった。

北部諸国の連合軍艦隊2000隻は1500隻を超える損害を受け、逃げ延びた船も後日のUボートによる狩りで大半が沈められるのであった。

 

 

 

海での雌雄が決した今、北部諸国に防ぐ手立ては残されていなかった。圧倒的な戦車師団の速度と破壊力に戦線はどんどん広がると同時に手に負えなくなっていった。

 

「進めぇ!祖国を守るのだぁ!……ぎゃっ!?」

 

中には勇敢に立ち向かう者もいたが、そういった者は全て銃弾によって蜂の巣と化していった。

確かにナチス・アトランタ第三帝国の軍勢は少ないが、それを補って余りある一人一人の質と航空戦力の前に、北部諸国は呆気なく崩壊していった。

……最初に降伏したのは戦車師団が最も多く配置されていたアイア共和国であった。アイア共和国降伏後は北上しダルヤ王国へとその力を振るった。前線の砦にいたアルマースは後方を奪われたことを察して降伏した。この三日後、ダルヤ王国も降伏した。これにより戦況はナチス・アトランタ第三帝国軍によるレースと化した。ナチス・アトランタ第三帝国軍は部隊毎に主要都市への一番乗りを競い合いその速度を速めていく。途中にある砦や防衛戦など彼らの前には軽い障害物でしかなかった。更には沿岸部からナチス・アトランタ第三帝国海軍の攻撃も受け始めた。

ダルヤ王国降伏から十二日後、ゴルド公国、パーカ王国が降伏。その六日後にチラプナ王国も降伏した。チラプナ王国が降伏した事で北部諸国はナチス・アトランタ第三帝国の支配下となった。北部諸国もまた一月とたたずに新たな国によって亡びるのであった。

 

 

 

 

「ああ、なんという事だ……」

 

エモール王国は現在未曾有の大混乱に陥っていた。理由は一年に一度行われる空間の占いというものを行ったからである。空間の占いは98%の的中率を持ち、それはもはや未来予知と呼べるほどであった。しかし、その結果出たものが混乱を起こしていた。

 

神話の魔帝既に滅亡せり。魔帝を滅ぼした国、手に入れしラティストア大陸に乗り我らの元に向かわん。時も場所も分からないが、その国は我らを侵略する為に向かってきている。

 

その様な内容であったのだ。魔帝が滅亡した事に誰もが歓喜したが、その後の言葉に絶句した。自分たちですらかなわないと思わせる魔帝を滅ぼした国が今向かってきているというのだから。

 

「魔帝を滅ぼす国か……、侵略に来ているという時点でお察しだな」

 

占い師のアレースルは一人そう呟いた。今エモール王国は、鍵であると占いに出たアルゼンチン帝国への使者を厳選しているところだ。内陸国のエモール王国に船などないため神聖ミリシアル帝国に頼む事となる。その為の準備も行っていた。

エモール王国は魔帝復活などよりも世界の危機といえる事態に行動を起こすのであった。

 



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第二十六話「ペスタル大陸からの亡命者」

皆さんお久しぶりです。ぼちぼち投稿を再開します。


北部諸国を滅ぼしたナチス・アトランタ第三帝国とアルゼンチン帝国の関係ははっきり言えば微妙であった。国交樹立国であり演習をする程度には友好的であったがトーパ王国に向かって以来関係性は微妙になっていた。

ナチス・アトランタ第三帝国は手に入れた北部諸国領から様々な資源を採掘しているが唯一取れない石油をクイラ王国から輸入していた(そのおかげでクイラ王国は更に発展していた)。アルゼンチン帝国とも貿易を行っているが量は少ない。

前世界から中立政策を取っているナチス・アトランタ第三帝国はアルゼンチン帝国主導の極東国家連合と距離を置いているのだ。

 

「西サハラ帝国、高天原帝国、カンプチア連合共和国……。どれも国力が低くはんば我が国の即刻となっている中彼の国は対等の国家として付き合いたいという事か」

 

アイルサン・ヒドゥラーはそう感じたためナチス・アトランタ第三帝国とは特に変わりもなく今の距離感を貫いた。

一方、この世界ではアルゼンチン帝国の次に軍事力を有する神聖オーストリア・ハンガリー帝国は新たに手に入れたフィルアデス大陸西部の開発を行っていた。一から帝都を建設しインフラを整備し税や法の制定を行い国家として再建しつつあった。アルゼンチン帝国と協力し海域の見回りや訓練などにも精を出しその牙を鋭く研いでいた。そして定期的に休暇を取らせ士気の回復も行っていた。

ラルフ・アイヒラーもその一人であり一日だけだが休暇を貰ったため沿岸部をあるいていた。彼が所属する第14狙撃師団の兵舎があるのは帝都ウィーンは未だ建設中の為休暇を貰っても特に娯楽施設などはなかった。その為こうして散歩するくらいしかやる事がないのだ。

 

「ふぅ、そろそろ戻ろうかな」

 

昼を少し過ぎた頃、ラルフはお腹の減りを感じ来た道を引き返し始める。こうしてゆっくりと流れる時間がラルフは嫌いじゃなかった。訓練中はどうしても素早い動きが求められるためゆっくりとなんかしていられないからだ。

 

「……ん?」

 

ラルフはふと、海岸に何かがあるのを見つけた。海岸にはたまにだがいろいろな物が流れ着く。木材や船の廃材や、酷い時には水死体なんかも流れてくるときがある。そう言ったものを見つけた時には自分で撤去するか専門の部隊に知らせるのが通例となりつつありラルフも可能なら自分で、出来なくてもどんなものか把握する為にそれに近づく。

 

「……これは」

 

流れ着いていたのは女性であった。元は純白であったであろう汚れたドレスを着こんだ若い女性は下半身を海に使った状態で倒れていた。

美人だなと思いつつ何処かの令嬢か?と疑問を持つ。たかが一般兵のラルフに他国の令嬢の事など分かる筈もなく見つけた事を若干後悔しながら確認していく。

その時であった。

 

「……う、」

「!まだ生きてる!?大丈夫か!?」

 

ラルフは急いで脈を測る。か細くではあったが動いておりラルフは急いで近くの民家などに向かい女性の救助を開始した。

女性の救助で一日を費やしたラルフは上官に事情を話し兵舎へと戻る。

 

「よう、ラルフ。聞いたぜ?漂着した美少女を助けたんだってな?」

 

そう言って声をかけてきたのは同期のエミールである。誰とでも仲良くなれる素晴らしい性格をしているが少し揶揄い癖のあるラルフの困った同期である。

ラルフはうんざりしながら隣を歩くエミールに返事をする。

 

「ああ、そうだな。……毎度の事だがお前の耳はどうなってんだ?」

「へへーん。揶揄うには新鮮な情報が大事なのさ」

 

ラルフのジト目にも全く動じずに胸を張るエミール。彼に何を言っても無駄だな、と思いつつも兵舎に向かう。途中、エミールは真面目な表情となった。

 

「だけどあんな令嬢は見た事ないぞ」

「むしろ周辺国家の令嬢を大体把握しているお前が可笑しいんだからな?」

「いやいや、真面目な話だって。……見た事がない令嬢という事は余程の箱入り娘か若しくは」

「……別大陸の令嬢だと?」

「可能性はあるだろ?もしかしたらフィルアデス大陸北部の国の貴族や王族の可能性もある。その場合ナチス・アトランタ第三帝国との関係が心配になるな」

「一度は戦争を行った仲だからな」

 

神聖オーストリア・ハンガリー帝国とナチス・アトランタ第三帝国は転移する前に一度戦争を行っていた。ヌナブト連邦共和国と先住民族の間で起きた北米先住民戦争と呼ばれるものが起きた。神聖オーストリア・ハンガリー帝国は先住民族を支援したがヌナブト連邦共和国を助けるためにナチス・アトランタ第三帝国が介入してきたのである(アルゼンチン帝国は両国が友好国の為介入はせず中立に徹した)。

新大陸にやって来る神聖オーストリア・ハンガリー帝国軍を見つけては潜水艦や戦闘機により沈められていった。

結局神聖オーストリア・ハンガリー帝国は戦争から手を引くしかなく苦い思いをしていた。今回も一人の令嬢からそうなるのでは?と懸念したのである。

 

「可能性はあるがそれならパンドーラ大魔法公国の海岸につくはずだろう?恐らくアルタラス王国、ロデニウス大陸、後は少し離れているがペスタル大陸か」

「ペスタル大陸かぁ、確かあそこもかつてのロデニウス大陸みたいになってなかったか?」

 

ペスタル大陸の国々とは特に関係はなく現状では朧げな情報しか入っていなかった。

結局一般兵の二人では真相などたどり着けるはずもなく何もなければいいな、と願うのみだった。

 



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