Fate/kaleid eyes (ケリー)
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夢のかけら
夢を見た。
それも初めて見る夢ではなく何度も見たことがある夢。
とても懐かしい
悲鳴が聞こえる。
どこから?
遠くからだった気もするし、目の前からだったかもしれない。
あるいは両方か?
誰の?
赤の他人のだったような、でも身近な人のだったような・・・・
どっちもだったかもしれない。
少し靄がかかっていた視界がはっきりしてきた。
あぁそうだ。
この時の悲鳴は目の前にいる女性の声だった。
その女性はその場にいたもう一人の黒髪の男性と共に女性と似た、しかしより濃い赤銅に近い色の、髪を持った子供を抱き上げて炎の檻から脱出した。
女性と男性が焦ったように会話をしている。会話の内容までははっきりと
周りを見てみるとどこもヒドイ地獄絵図と化していた。
一面に広がる炎
崩れ落ちた建造物
真っ黒に焦げた人だったものたち。
炎から発せられる熱気が肌を刺すように痛い
酸素が焼かれ、呼吸も満足してできやしない
呼吸をしようにも熱が喉を焼いて苦しい
鼻で呼吸をしようにも僅かな酸素と共に不快な臭いが一緒に入ってくる。
あぁ、なんてヒドイ光景だ。
子供が見るようなモノじゃないだろう。
そういえば目の前で燃えているこの建造物、見覚えがあると思ったらそうか、俺の家
この時の
思い出せない・・・・そもそも何も考えてなかったかもしれない。
急な出来事に頭が真っ白だった可能性のほうが高いだろう。
しばらく呆然としていると、次の目的地が決まったのかあるいはこの場にいるのが危険と判断したのか男女は
ふと視線を二人に向けると走りながらも男女は憎々しげに空を睨みつつ文句を言っていた。
空に何かがあるのだろう、つられて子供が目を向ける。
この時に見えた光景を
簡潔に言うならばそれは黒い太陽だった。
しかし、それは色々な意味で少年を混乱させるものであった。
色もさることながらこの時は確かに夜であったはずだ。
その数時間後にたたき起こされたのだから朝という事は断じてない。
なのに太陽が見えるというのもおかしな話である。
いや、他にもおかしな箇所は色々あるし疑問に思う事も山のようにあるがそもそもの話__
アレはなんだ?
あの色はなんだ?
この炎はなんだ?
流れ出てくる見ているだけで吐き気がするような黒い泥はなんだ?
分からない。
何もかもが分からない。この状況もあの物体もこの惨事も。
分からないことだらけだが、一つだけ分かったことがある。
直感で分かった。子供ながらに理解できた
アレの
アレがこの地獄を作り出したんだ。
アレが家を破壊した。
アレがここら一体を火の海に変えた。
アレが悪いんだ。アレこそが元凶だ。
あぁ、何故
一体何故・・・・こんなことになってしまったのだろう。
_________________________________________________
アレから逃げるように走り続けたが崩れた家や逃げ惑う人たちによってうまく距離を離せないでいた。みんな必死なのだろうなりふり構わず他者を押しのけている。
体力も通常より消費が速く苦しさだけが募るばかり。
道中も地獄しか映らず見るもの全てが酷いものばかり、精神的にも子供の俺には限界が近かった。
むしろよくもったほうだと思う。
そんな
周りの人たちを置いていくような素早い動きで二人はただ走り続けていたがふと3人の頭上に影が差した。いち早くそれに反応出来たのは父親だけで、彼は俺と母親を前方へと押し飛ばした。
何故と思った瞬間飛ばされて宙を飛ぶ俺が見たものはあの忌々しく不快な泥が父親に降り注がれようとしている光景だった。母親もその光景が見えたのか叫ぶように彼の名を呼んでいる。だが間に合わない、量もそうだが焦っていて力の加減が出来なかったのだろう、かなりの距離を飛ばされているし、突き飛ばされた背中が痛い。二人はいまだに着地も出来ていない。奇跡でも起きない限り二人が彼を助ける事は不可能だろう。そもそも子供だった俺に一体何が出来るのか?
あぁ、駄目だ。
泥が落ちる、彼が飲み込まれる。
世界が遅く見える
なんでそんな顔をする、何安心したように笑っている。
何を泣きそうな顔をしている。
やめろやめろやめてくれ。
そんな光景みたくはない。こんなのは夢だ夢に決まっている。
認めないそんな事は許さない。
だが時間は進む、止まってはくれない。
泥が来る。
彼に降り注ぐ。
気持ち悪い、アレは駄目だ触れてはいけない。そんなもの
このままでは駄目だ。
あぁしかし、俺に何が出来るただミテいることしか出来ない俺に一体なにが出来る。そんな自分が腹立たしい。
俺は・・・・・
俺はっ!____
そんな
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日常
「さてっと」
「ん?早いな衛宮、部活はいいのか?」
「あぁ、今日は俺が夕食当番だからさ」
放課後の校門前で自転車にまたがろうとしていた少年、衛宮士郎は、彼の親友であり学園の生徒会長でもある
「お兄ちゃん!」
入れ替わるようにやって来た何者かによる声が士郎の耳に届いた。
士郎が知る限り、自身を兄と呼ぶ者は一人しかおらず、振り返ってみると案の定接近していたのは彼の義理の妹であるイリヤスフィール・フォン・アインツベルン(小学5年生)であった。義理の妹なので容姿は士郎と似てるところが皆無であり名前から察せるように外国人の血が流れていて見た目だけで言えば日本人には到底見えない娘である。そんな彼女ではあるがちゃんと日本人の血も流れており日本人とドイツ人のハーフであるらしい。苗字も士郎とは別であるものの士郎の苗字はイリヤの父から譲り受けたものなので特別な理由があって別々の名を名乗っているわけではないらしい。ただ単に合わないからという理由らしい。実は母親がどこかの貴族出身だからという理由も含まれているかもしれないがそこの所は士郎には詳しく分かってない。
母親譲りの綺麗な銀髪をパタパタと跳ねさせながら彼女一直線に士郎へと走り寄っていた。
普段部活で一緒に帰宅する機会が少ないからかその足はどこか嬉しそうに見えた。
そんな嬉しそうな妹の笑顔に心が温まり、士郎は軽く口元を吊り上げて近寄ってくる妹を迎える。どうやら義理ではあっても兄妹の仲は良いらしい。
「イリヤも今帰りか?」
「うん!一緒に帰ろうお兄ちゃん!」
「いいけど・・・友達はいいのか?」
ふとイリヤの後方を見ると見知ったイリヤの友人達が揃ってイリヤの後を追ってきていた。どうやら友人達を置いて真っ先に士郎の元に来たらしい。不思議そうな顔をしながら友人達はイリヤを追いかけ、その視線をイリヤ・・・の奥にいる士郎へと向けると納得したように呆れるのであった。
「イリヤ兄の言う通りだぞ、勝手に走り出してどうしたのかと思えば___なるほど、理解した」
「まぁ大体予想は出来てたけどねー」
「イリヤちゃんはお兄さんが大好きだもんね」
「おっす!イリヤの兄ちゃん!」
呆れるように言うメガネのかけた少女。
語尾を延ばし、のほほんとした糸目の少女。
苦笑気味にいうおとなしそうな少女。
元気よく男口調で挨拶する少女。
それぞれが登場と共に別々の言葉を口にし、イリヤと合流を果たすのであった。その声に反応して振り返ったイリヤは苦笑気味にそれでいて申し訳なさそうに謝罪し、友人達の事は頭のなかから抜けていたのか士郎の質問に即答できずに、『えーと、えーと』っとオロオロしながら頭を悩ませていた。
そんな妹の姿に士郎も苦笑する。自分と帰ろうと誘ってもらったのは嬉しいが、それで友人を置いていくのは士郎の望むことではない。かといって、住んでいる家も同じでせっかくの誘いを断る理由もなく友人達と帰らせることもできない。なので困ってるイリヤにこの場の年長者としてある提案をする。
「みんなも途中まで道は同じだし小学生だけで帰すのも心配だから一緒に帰るのはどうだ?」
その提案にイリヤは首を縦にふり、友人達もイリヤ同様文句もなく同意してくれた。知らない仲でもないし一人でも
士郎一人だけが自転車に乗り、小学生五人を歩かせることにも行かないので士郎は自転車を横に並走させながらイリヤ達の歩幅に合わせつつかつ歩道の内側を歩いていた。そんな小さな気遣いではあるがおとなしそうな少女、
他の少女達はと言うと男口調の少女、
そんななんてことはない平和な下校中の光景であった。
しばらくすると徐々に友人達はそれぞれの家へと向かうべく分かれ道で別れ、最終的には士郎とイリヤの二人だけになっていた。二人だけになった途端、さきほどまでの賑やかな空気はなくなりあたりも打って変わって静かなものへとなっていた。
「相変わらずタツコちゃんは元気だね」
「うーん、元気というか・・・元気すぎるというか・・・今日だってねぇ授業中に__」
士郎がそういうとイリヤも続くように感想を言い、そこから思い出すように今日起こった出来事を語り始めた。楽しそうに今日の出来事を語るイリヤを眺め、ズキリといつかの地獄の光景が頭をよぎる。今の状況とは似ても似つかない、そもそも連想するようなものが何一つとしてないのに何故かその記憶が映し出される。それはまるで虫の知らせのように、この状況とは正反対の光景がみえてしまった。
何故そんな記憶がこんな時に思い出せれたのか?
その答えを士郎は持ち合わせていない。
____________________________________
「ただいま~」
「おかえりなさいイリヤさん、士郎も一緒でしたか。」
玄関を通ると洗濯中だったのか同居人であり衛宮家の家政婦であるセラが洗濯籠を抱えながら出迎えてくれた。お手伝いさんだったり家政婦と本人に言うと何故か怒る。本人はメイドと主張しているが明確な違いがあるとは士郎には思えない。なにかプライド的な何かがあるのだろう。にしては姉妹の片割れはそんな事を気にしている様子はないが。
というか家事万能な士郎を敵視している様子もあり他の皆には礼儀正しくも士郎にだけはあたりが強い。なんでさ。
そんなセラは普段は部活で帰宅時間が違う士郎がイリヤと一緒に帰宅した所をみてそういえば今日は士郎が夕食当番だということを思い出し、同時にその事に少しばかり腹を立てていた。
困ったことに必要ないと言っても衛宮家の長男は進んで家事をやりたがる、それも完璧といっても良いほどの手際でだ。家政婦メイドとして仕事が奪われるようで納得がいかないことばかりである。これが母親であれば助かったり感謝したりもするのだろうがセラはアインツベルンのメイドでありそんな自分の仕事に誇りを持っている。なのでそんな自分の仕事を横取りされるのは許せないしそれよりも許しがたい事にこの男、料理に関してはセラよりも上であるということである。そこいらのシェフですら負かすような腕を持つセラであったとしても昔はともかく最近の士郎には勝ったことが一度もない、連戦連敗である。昔から見よう見まねが引くほどうまかったのは分かるがまさかこれほど簡単に追い越されるとは思いもしなかった。一体どこでそのようなスキルを身につけたのかは未だに謎だがそれはセラのプライドをズタズタに引き裂いていた。どこかへ修行にでも行ったわけでもないのに本当に謎である。何度勝負を挑んでもあまり乗り気ではないしたとえ乗り気でなかったとしてもやはり士郎には勝てたためしがない。昔はこちらが教える側だったのに腹立たしい長男である。
ならば家事はどうかと言えば負けたことはないが勝てたこともない。つまりは互角なのであった。ムカツクことに
もう一人のメイドであるリズに至っては居間でゴロゴロしてばかりで士郎が家事をしてくれるのを良いことに好き勝手やっている。それでいいのかメイド。
最近では士郎の夕食当番を楽しみにしていたりするまでである。それでいいのかメイド。
一度、メイドが長男に料理をやらせてあまつさえは楽しみにしているなどとはどう言う事だと強く言ってみたら_『だって士郎のほうがおいしいし』_などと言われてセラは膝から崩れ落ちたのを覚えている。
そんな士郎に対抗するためにセラは暇さえあれば士郎がこれ以上家事を出来なくするために手をつけられる家事を全て終わらし、料理の勉強を始めていた。何百と言う本を読んでは料理の腕を上げ、しかしそれでも士郎にはかなわなかった。腹立たしい
一度士郎に迫るほどの料理を完成させ後一歩のところで勝利を収められそうだった時、次の日には士郎は更に腕を上げてきてそれを見てセラが頭を抱えて暴走しそうだったことも覚えている。
無欲なことが多い士郎だがこのことに関しては割と負けず嫌いであるらしい。
リズやイリヤは料理勝負の日にはいつも以上に豪勢な夕食を毎回楽しみにしていたり、更においしくなるのであれば止める理由もなくむしろ望むところでもあるのでそんな二人の小さな争いを止める気などサラサラなかったりする。
一度セラが士郎に台所侵入禁止令を出したことがあったがそんなセラに対して士郎ではなくイリヤとリズが強く反対したためすぐに撤回された。リズならともかく仕えているイリヤにまで言われてはセラは何も言い返すことができず渋々反対意見を聞き入れた。しかしこのまま好き勝手やらせるわけにも行かないので士郎を制限させるべく料理は当番制に落ち着いた。最初は週に一回にする計画であったがまたも反対意見がでたので週に二回に落ち着いた。不満の声もあったがこれ以上はセラが譲る気がなかったので
なのでリズとイリヤは今日を楽しみにいていたりする。当然セラはこの日が嫌いである。夕食の時間にはどうしても自分との差を感じてしまうからである。なのでこのまま大人しくするつもりは毛頭ないので士郎が料理中は後ろでジッと観察して盗める技術を盗むつもりでいる。そんな視線を浴びることになる士郎はあまりいい気はしないし今でもまだ慣れていなかったりする。というより落ち着かない。
そのような理由からセラはとりあえず玄関を通る士郎に鋭い視線を浴びせておく。
本人は苦笑するだけで余り効いている気配はないが。
イリヤはと言うと夕食を楽しみにしており上機嫌で部屋へと上がろうとしていた。
「あっそういえばイリヤさん」
部屋へと上がる途中にかけられた声にイリヤは振り返る。
「先ほどイリヤさん宛てに宅配便が届きましたよ、確か品名は・・・・DVDだったと思います」
「DVD?あっもう届いたんだ!」
品名から何か心当たりがあったのかイリヤは部屋へと上がるのを中断して早足に居間へと駆け込んだ。
そんなイリヤの様子に士郎とセラはなんだろうとイリヤの後を追ってみる。
その途中、士郎がセラの隣に並んだ瞬間、未だに抱えている洗濯籠を見て士郎が「やっておこうか?」などと言ったが当然セラは不機嫌気味に「結構です!」と断った。
イリヤの後を追っていると居間からイリヤの大声が聞こえてきた。
『あぁ~!リズお姉ちゃん先に見てる!』
『おっイリヤお帰り。』
『なんで勝手に見ちゃうのさ!』
『払ったの、わたし』
『そうだけどさ~!』
居間に入ってみるとリズ(*メイド)がいつも通りお菓子を片手にアニメを見ていた。机の上に詰まれたパッケージを見るにどうやらこれが件のDVDらしい。先ほどの会話とこの状況から察するにイリヤが帰ってくる前にリズが見てしまったらしい。そんな二人が争っているのを背景に士郎は苦笑し、セラは額を抑えていた。
「何事かと思えば・・・」
「アニメのDVDか」
「あぁ、すっかりイリヤさんも俗世に染まってしまって。これでは奥様たちに顔向けできません」
「俗世って・・・いやまぁ、こういうのは個人の趣味だし。なによりイリヤの年齢だとこれが普通なんじゃないか?」
「普通って!何を言っているのですか!このままエスカレートしてしまえばどうなるか分かっているのですか!大体、義理とはいえ兄であるあなたがしっかりしていないからこういうことになるのです!」
「なんでさ・・・・(ていうかいつも通りすぎてリズに対してはノーコメントなのね)」
「いいですか貴方は長男なんですから__」
今日もセラの士郎へのあたりは強い。
リズ「だって士郎のほうがおいしいし(意味深)」
セラ「!!」
*冗談です
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少女はその日、運命に会う(笑)
「今日のご飯もおいしかったな~」
お風呂に身体を沈めると同時にそのような声が漏れてしまった。
週に二回、いつも食事を作ってくれるセラに代わってお兄ちゃんがご飯を作ってくれる日。
その日が私の一週間での楽しみになっている。
別にセラのご飯がまずいとかそういうわけではなく、セラのご飯も他の人に自慢できるほどのクオリティーを誇っている。
他の人には家政婦って言ってあるけど本当はママの家のメイドさんだとか。本人も家政婦って言われるのを余り好んでないっぽい。
あれかな? メイドのプライド的な?
それはともかくメイドと言われると確かに私に対しての接し方とか普段の振る舞いを見るとそれは本当なのだろうと分かる。
ただリズお姉ちゃんもセラと一緒でメイドらしいけどセラと違って全然そうとは思えない。
余り実感は湧かないけどママの家、つまりはアインツベルン家はドイツが誇る屈強の名家であったらしい。
だから家にはメイドがいるし、セラも私に対してはお嬢様とかイリヤさんって呼ぶ。
そもそも、らしいと言うのは昔ママに聞いたことがある程度であまり詳しく知らないからだ。どういうわけか両親は余り家の話はしたくないらしい。というのも前に説明されたことだが二人は__というよりパパ、衛宮切嗣はアインツベルン家と仲が非常に悪いらしい。
なので二人が日本に来たのも半場駆け落ちのようであり、パパもアインルベルン家に居たころは婿養子扱いで立場はあまり良くなかったんだとか。
そういうわけで私の苗字はアインツベルンだけど、日本に来てから出会ったお兄ちゃん、衛宮士郎、はパパの苗字を受け継いでいる。
お兄ちゃんは私が物心つく前から既にそばにいた。
子供の頃はずっと一緒にいたことからか余り考えたことはなかったが、年齢が上がるにつれて色々と賢くなり、私たちが本当の兄妹でないことが分かってしまった。
当時は少しばかり落ち込んだりしたものの色々考えてみた結果、お兄ちゃんは義理でも血がつながっていなくても私のお兄ちゃんであることに変わりはない。
それから更に良く考えてみたら逆に血が繋がってなくてよかったと思ってしま___
「いやいや、何考えてるの私!」
なんだか体中が熱いけどこれはきっとお風呂のせいだよね!
ちょっと半身浴にしておこう。うんきっとお風呂のせいだ。
ぶんぶんと頭を振りながら思い浮かべた考えを消し去る。
何故か上昇している心拍数だがこれもきっとお風呂のせいだろう。
きっと体温が上昇したせいだ!
とりあえず色々な意味で自分を冷やすべく、私は上半身を湯船からだす。
落ち着いてきた所でふと思う。
__なんでお兄ちゃんがいるんだろう?
別にいてほしくないわけでは決してない。お兄ちゃんがいてくれることはとても嬉しいし今ではお兄ちゃんの居ない人生なんて考えられないけどふと思ってしまった。
なんで普段家にいない両親はお兄ちゃんを引き取ったのだろうか?
私がいる時点で子供に恵まれてないわけではないし、きっと子供がほしかったからと言う理由ではないはずだ。
ということはお兄ちゃん本人に何かしらの理由があるからだろうか? 引き取らざるを得ない理由とか?
気にはなる。
だけどこの事を聞いてしまって今までの関係が崩れてしまうのがすこし__いや、とても怖い。
お兄ちゃんとの幸せな日々がなくなってしまうのはイヤだ。
だから、この事は聞かない。
好奇心は猫を殺すとも言われてるし、ここは何もしないほうがいいんだと思う。
いつか話してくれる時が来るかもしれないし、こちらから聞くにしても私が大きくなってからでも良いのかもしれない。
私が精神的に成長した後とか、もしくは二人がもっと仲が親密になったときとか……
心身ともに沈んでいた身体を上げ、溜息を吐きながら体勢を変える。
暗くなりそうだった気持ちも溜息と一緒に吐き出し、この事は忘れることにした。
とにかく話を戻そう。
セラは名家のメイドであるのだから料理がうまいのも納得できる。
事実、セラのご飯はプロの料理人が作ったものよりもおいしい。
だけど、そんなセラですらも超えるのがお兄ちゃんである。
私は小さかったからあまり覚えてないけど、セラ曰くお兄ちゃんは小さい頃からすでにそれなりに出来ていてちょっと教えただけですぐに上達したらしい。
そしていつの間にか追いつかれ、更には追い越されたことに腹を立てているのが現在である。
プロすら負かすセラよりも、それも短時間でうまくなるなんてこれはもう才能ではないのか?
才能で思い出したけど、お兄ちゃんは料理以外にも色々出来る。
炊事は勿論掃除などと言った基本的なものから専門的な家事に関するあらゆることが出来てしまう。
一度、疑問に思って聞いてみた事がある。
一体どうやってそんな技術が身についたのかと。
そしたらお兄ちゃんは困ったような表情で頬をかきながら『よくミテいたから……かな?』と言っていた。
お兄ちゃん曰くセラの動きや手際をよく見ていたら自然とうまく出来ていたらしい。
お兄ちゃんはあれかな? 天才というやつかな?
家事以外にもお兄ちゃんはスポーツとかもすぐに上達しているしすごいと思う。
実際に視力もびっくりするくらい良いらしいし観察することに関しては一般の人より得意なんだと思う。
ちょっと羨ましくはある、私もお兄ちゃんみたいに色々出来るようになりたいな。
あっでも色々出来るようになってしまうとお兄ちゃんに手伝ってもらえなくなってしまう。
勉強とかお料理とかを口実に色々と出来なくなってしまうのは惜しい
そう、例えば後ろから抱きしめられるように料理を教わったり手を握ってもらえたりしてお互いにイケナイ気持ちになってそのまま自主規制とか___
「なしなし! 恥ずかしい妄想禁止! というよりそんな事があるわけないよね! でも頼んだらちょっとエッチなこともやってくれ__じゃなくて! ないない。お兄ちゃんがアンナことをするなんてそれこそさっき見たアニメの魔法でもない限り__」
ピタっと私の動きが止まる。
先ほど騒がしくしてたのが嘘のように風呂場は一瞬で静かになった。
魔法といって思い出す。
そういえば今日は届いたアニメのDVDを見たばかりである。
作り話だって言うのは分かるけど魔法があったらなと思ってしまうのは私だってまだ子供だしおかしくはないよね。
「魔法かぁ~」
魔法があったら何ができるだろう?
自分だったら何がしたいだろうか。
宿題を終わらせたり、
空を飛んだり、
ママたちの仕事が早く終わるようにしたり、
後は__
「恋の魔法……とか」
そう呟いて浮かび上がる一人の人物、
なんでも出来て、
強くて、
かっこよくて、
優しくて、
頼りになる大好きな___
「って恥ずかしい妄想禁止なんだってば!!」
先ほどと同じように一人で騒いでしまう私。
何度かバシャバシャと動きまわると疲れて段々と落ち着いていく。
疲れてくると自然に頭も冷静になり自分がしていた色々な妄想がどれほど馬鹿げているのかが分かってしまう。それと同時にそんな恥ずかしい考えに陥った自分が恥ずかしかったりする。
「はぁ~、虚しい」
今一度湯に深く浸かると目の端にキラキラと光る何かが映った。
何だろうと振り向いてみるとそれは窓から見える空からであった。
「飛行機? じゃないよね」
それでは花火なのか? っと言っても花火特有の大きさと派手さも音もないので違う。
じゃぁ何かと色々と考えてみても分からない。
窓越しだから見にくいのかと思い、窓を開けて見てみてもやはり分からない。
「ピカピカと光ってるけど一体なんだろう? まさかUFO?」
何度か繰り返されるその光を凝視し、本当にUFOなのかと観察していると突然その光の勢いが止んでしまった。
光自体が消えたわけではなく、ただ先ほどまでの目が痛くなるような点滅が消えたにすぎない。
ポゥっと淡い光が夜空にたたずんでいる姿は不気味としか思えない。
とりあえず、幾ら考えても分からないので少し身を乗り出してみることにした。
でもよくよく考えてみるとたかが数センチ近づいたからって見えるわけがなかった。
窓を開けてからそれなりに時間が経ったせいで夜の冷たい風が私の身体を撫でる。
濡れた身体に夜風はさすがに寒いので気にはなるが光の正体は諦めることにしよう。
風呂から出たら物知りなお兄ちゃんやセラにでも聞いてみようと窓を閉めようとしたその時だった。
「あれ? 光がどんどん大きくなっ___こっちにきてるぅぅぅ!?」
ものすごいスピードで迫ってきている謎の光をギリギリのところでしゃがむことに成功し避ける。頭上を過ぎる謎の物体から生じる風でもしも自分がしゃがんでいなかったら大変なことになっていたことに恐怖し、目の前に映るその謎の物体の正体を確認すべく正面を向く。
だけど当然このようなことが突然起こって普通の小学生である私が冷静でいられるはずがなく__
「なになに!? 隕石! 宇宙人! 飛〇石!?」
軽くパニックになってしまうのは仕方がないと思う。
色々余裕がありそうにも聞こえるけどこの突然の出来事がちょっと怖く、お風呂で身体を隠すように覗き込む形になってしまう。
『あちゃぁ~、避けられましたね。ぱぱっと終わらせようと意識を刈り取ってついでに鼻血の一つでも出させるつもりでしたが失敗しちゃいましたね。まさか避けられるとは思いませんでした。いい直感をお持ちで』
その時の出来事を、私は一生忘れることはないだろう。
ここまででも十分に衝撃的な状況であるのにそれに和をかけるように現れた謎の物体。
声がすることから人だとは思ったけど人にしてはまるで機械のような特徴的な音(?)。しかしその形は人とはかけ離れておりロボットと言われてもそうではない。
天使の翼のような者が左右対称に生えていてその中心には星が描かれたソレ、
まるで吊るされているかのように宙を舞う姿はどこか生き物のようで
剣の柄のように伸びるその下部分は一体何で出来ているのかクネクネとこれまた生き物のように動いている。
しかしその姿はつい数時間前に見たあるものに酷似していて_
「魔法の……ステッキ?」
まるで魔法少女が使うステッキそのものであった。
『おぉ~! ワタシの正体を一発で見破るとは! やはりワタシの目に狂いはありませんでしたね! そうと分かれば話もはやい! あんな年増ツインテールの所有権はさっさと削除しますとして。どうでしょう? あなた魔法少女になってみません?』
杖が喋ってる。
いや、喋っているだけではなく先ほどよりも激しくクネクネと動き、喜びを全身で表そうとするその動きは正直言って気持ち悪く、気味が悪かった。
無機物で生き物ではない杖が唐突に現れて喋って更には動き回ると来たらどんな人でも固まると思う。
実際に私はこの状況についていけず数秒か、それとも数分は固まってしまっていた。
するとそんな私に気づいたのかそのステッキは器用にその翼で頭(?)をかきながら困ったように喋り始めた。
『おやおや? さすがに今のは駄目でしたかね? ならばここは王道に!』
そう言うとソレはコホンと人間くさい仕草で一度佇まいをただし。
先ほどよりも明るい声で語り始めた。
『ワタシは愛と正義のマジカルステッキ! 名前はカレイドルビー! 貴方の願いを叶える代わりに近くにいる(ワタシにとっての)悪を討ち滅ぼすべく、僕と契約して魔法少女になってよ!』
「なんでさ」
ついお兄ちゃんの口癖が出てしまったが今ほどこの台詞がこの状況にあう時もそうないであろう。
そんな私の返答が不思議だったのかそのステッキはこれまた翼を器用に折り曲げて腕を組むように悩んでいた。
『あらら~? おかしいですね? この国の魔法少女はこうやって契約まで焚きつけるはずですのに?』
「いやいや今焚きつけるって言ったよね! 怪しいよね! しかもその台詞は色々とアウトだし逆になる気なくなるから! それよりいきなり出てきてなんなの! ていうか意識がどうのこうのってどういう意味!」
ついに限界が訪れ、私は勢いよく自称魔法のステッキにツッコム。
『だからワタシは貴方が言うように魔法のステッキでカレイドルビーっていいます。あっ、これから相棒にもなるので気軽にルビーって呼んで貰っていいですよ! なんならルビーちゃまでもいいです! むしろお願いします!』
(これは…………面倒くさい)
空気が読めてないのか分かっていてあえて読もうとしないのかは分からないがこのステッキはどうやら自分の好きなように色々と話始めるらしい。言動からも分かるけどコレはかなり落ち着きがないし人の話を聞こうとしないし答えようともしない。現に先ほど聞こえた物騒な独り言の件には答えてくれなかった。
『あぁ~いまなんかいやぁ~な顔しましたね。酷いです! ショックです! ルビーちゃんショッキン!』
「えっ、うんそうだけど」
『なんともまぁ正直な方ですね。しかし、現代ではもう魔法少女に憧れる(都合のいい)少女はいないのでしょうか?』
今なんか言葉の裏に何かを感じたような気がしたけど。
「いや、憧れてないわけではないしなれるんだったらなりたいけど_」
『今! なりたいって言いましたね! ちゃんとワタシに内臓されている機能の一つで録音しましたからね! 言質確保!』
「はぁ! いや違うから今の言葉には続きがあるんだから! なれるものならなってみたいけど貴方みたいのはどうも胡散臭すぎるんだもん!」
『うさんくさって! わたしのどこが胡散臭いんですか!』
「全部だよ! 喋り方とか動きとか存在自体とか!」
『ガーン! いまわたし存在その物を否定されました! されましたね!』
「いきなり出てきていきなり悪徳商人みたいなこと言われたらそれは疑うよ!」
『いいじゃないですか~、やってみたいんでしょう? お試し期間と思ってここは一つ試してみてはいかがですか?』
「その言い方モロ悪徳商人じゃない!」
『魔法少女いいですよ~、空を飛んだり、魔法使ってヒーローみたいになれたり、恋の魔法でラブラブになったり_』
恋の魔法ですこし反応してしまった。
数分の付き合いだけどこんな反応してしまえばこの怪しいステッキは傷口をえぐるようにグイグイとつけ込んでくるだろう。
だけどルビーはそんな私を無視して魔法少女のメリットなどを述べ続けていた。
『さきほどあなたがしていた妄想なんかも実現できたりしますよぉ~』
「ちょっと待った!! えっえっ! なんで知ってるの!? ていうか私口に出してた!」
『そりゃぁもう、だからこそ、そんな妄想をするような貴方だったから次なる魔法少女にふさわしいと思ったわけで_』
「聞かれてた! なにそれ恥ずかしい! ちょっと待って! あそこから一体何キロあると思ってるの!」
『わたしをなめないで貰いたいですね。なんたってルビーちゃんは超が付くほどの魔術礼装。遠くの声を聞くこと何ざわけねぇですよ』
「あぁぁぁぁ忘れて! 今すぐ聞いたこと全て忘れてぇぇ!」
『それは出来ませんねぇ。っというわけで誰かにばらされたくなければ魔法少女になってくださいよぉ~』
「それもう悪役の台詞だよね! どこらへんが愛と正義なの!」
『へっへっへ、こうなったらもう意地でも契約してもらいますよ!』
悪魔だ! 悪魔がいる!
テレビで見るような悪役のような台詞をはきながらルビーは少しずつ私に近づいてくる。後ずさろうとするけど私は今お風呂の中にいるわけですぐに追い詰められてしまう。
『さきほども言いましたが、魔法少女になれば
そういわれて思い浮かぶのは先ほどの続き、
エプロンを身に着けた兄が料理を中断して私に目線を合わせるように跪く姿。
両手で肩を抑えられ見つめ合う二人。
次第に頬は赤く染まり互いの鼓動は早くなるばかり。
そしてついに合わさるお互いの唇。
そこから二人は自主規制自主規制自主規制自主規制自主規制_____
「えへ、えへへ~」
『おやおや、どっぷり自分の世界に沈んでいますね。まさかここまで効果覿面だとは思いませんでしたが。ていうか誰にも見せられないような酷いお顔に……一体どんな妄想をしているのやら、おっと、ヨダレがでてますよ。___認証、完了』
「はっ! 私は何を!」
口元に触れられた感覚で正気に戻った私はすぐさまその原因に目を移す。
どうやら妄想によって出てしまったヨダレを拭いてくれたらしい。
あの羽、作り物だと思ったけど普通に軟らかくてくすぐったかった。
『しかしアレですね。先ほどの恋の魔法にも反応していたこともそうですが。貴方の妄想に何度も出てくるそのお兄ちゃんとやら。さては貴方がフォーリンラヴってるのはその件のお兄ちゃんですね(まぁ聞こえてましたけど)! いやぁ~それにしても妄想の内容からしても(詳しくは知りませんけど)随分とまぁ、惚れ込んでいますねぇ。兄妹同士の禁断の愛! とってもおいしいです!』
「なっ!」
何をいきなり言ってるのかなこのステッキは!!
私がお兄ちゃんに恋!
ははは! 面白いことを言うステッキだね。
そんな事__
そんな事__
あるわけがなななななな
「ないんだからこのバカ──ッ!!」
思えばあの時、なんで私はこの怪しいステッキを掴んでぶん投げようとしたんだろう。
他にも色々_物を投げたり、お湯をかけたり、無視したり_と方法はあっただろうに何故私はこんなモノに触れようと思ったのか。
あぁ、一時の感情に身を任せるとこんなことになるんだね。
色々と勉強になったよ。
だけどね__
「命じるわ── 貴女はわたしの、奴隷になりなさい。異論や反論もなし、恨むならルビーを恨みなさい」
__こんな事に巻き込まれるとは思ってもいなかったよ。
だから一つ言わせてほしい。
反論もだめ、異論もだめ、
トントン拍子に運ばれたこの事態。
恨み言も言いたいけどまずは
「なんでさ」
お兄ちゃんの口癖を言わせてほしい。
このイリヤちゃんはおませさん
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