変わった生き物を拾いました (竜音(ドラオン))
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第33話(エイプリルフール)



エイプリルフールです。

この内容は本編とは関係ありません。

第32話から続くように書いてあります。


 

 

 

 

 背後に立つあかりに茜、葵、ゆかり、マキの表情は固くなる。

 いつのまに自分達の背後に移動したのか。

 その方法が分からず、4人の頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。

 

 

「あれ?もしかして分からなかったですか?」

 

 

 心底不思議だと言うかのようにあかりは言う。

 その言葉は世間話でもするかのように軽く。

 先ほどの移動があかりにとって些事であることの証明であった。

 

 

「今・・・・・・、なにをしたんや・・・・・・」

「なにを、と言われましても。歩いて(●●●)移動しただけですよ?」

 

 

 恐る恐ると振り返り、茜は尋ねる。

 

 分からない。

 

 それは恐怖の対象であり、知性のある生き物が恐れるものの1つ。

 その逆で知っているがゆえに恐ろしいと言うこともあるが、それでも知らないことへの恐怖の方が強いことは間違いないだろう。

 

 茜の言葉にあかりは首をかしげながら答える。

 あかりの答えに4人は叫びたくなる衝動をこらえる。

 

 歩いて移動しただけ?

 

 もしもそれが本当ならばなぜ4人で見ていたはずなのに全員が見逃してしまったのか。

 あかりがどのようにして移動したのかを4人はあかりから視線を逸らさずに思考していく。

 

 

「なるほど。先輩たちはその程度でしたか。では、正確にどの程度なのかを知るためにちょっと────」

 

 

 言葉の途中であかりの姿が再び消える。

 

 

「わぁ」

 

 

 そして聞こえてきた小さな声と同時に、ゆかりの背後へとあかりが現れた。

 

 

「────叩き潰させてもらいますね」

「え、うぐぅっ?!」

「ゆかりん?!」

「「ゆかりさん?!」」

 

 

 背後から聞こえてきたあかりの声に反応してゆかりが振り返るのと、ゆかりの頬にあかりの拳がめり込むのは同時だった。

 ゆかりが殴り飛ばされたことに驚き、3人は声をあげる。

 

 

「いきなりなにをするんや?!」

「言ったじゃないですか。先輩たちの強さを見るために叩き潰させて貰うんですよ」

 

 

 ヒラヒラと手を揺らしながらあかりは茜の声に答える。

 直後、ゆかりの吹き飛んだ先から衝撃音が聞こえてきた。

 

 

「頭に、きました・・・・・・。行きなさい!『ヴァイオレット・ムーンキャット』!」

「なるほど、スピードタイプなんですね。『スターボンド・ライト』」

 

 

 ゆかりの言葉と同時にゆかりの体から紫色の猫のような生き物が現れてあかりへと向かっていった。

 生き物はあかりの近くにいくと前足を使って連続でパンチを繰り出していく。

 その速度は早く。

 プロのボクサーですら目で追うことは難しいだろう。

 生き物のパンチを防ぎながらあかりはその特性を見抜く。

 そしてあかりの体から巨大な花が出現した。

 花は葉っぱや蔓を使って生き物を拘束していく。

 

 

「もう十分です。寝ててください」

「あぎぃっ?!」

 

 

 拘束した生き物を一瞬で絞め潰し、あかりはゆかりから視線を離す。

 生き物と痛覚が連動していたのか、ゆかりは血を口から吐き出して意識を手放した。

 

 

「さ、次です。おや?」

「いやや、うちは使いたない・・・・・・。いやや・・・・・・」

 

 

 次の獲物は誰にしようか。

 そんな調子であかりが3人を見ると、茜が座り込んで頭を抱えていた。

 その体は震えており、なにかに怯えているようにも見える。

 

 

「なにに怯えているのか分かりませんが、ちゃんとやってくださいよ」

「ぎっ?!い、いやや・・・・・・」

 

 

 花の蔓に打ち払われ、茜は短く悲鳴をあげる。

 それでも茜はなにかを嫌がるように頭を抱える。

 

 

「お姉ちゃん!」

「葵ちゃん、1人じゃ危ないよ!」

 

 

 茜に蔓が振るわれたのを見て、葵は声をあげてあかりへと向かっていく。

 その後をマキも追っていった。

 

 

「お姉ちゃんに手出しはさせない!『アクアブルー・ジェリー』!」

「ああ、もう!『ウールースフィア』!」

 

 

 葵の体から青色のクラゲのような生き物が、マキの体から黄色の毛玉のような生き物が現れた。

 2匹の生き物はあかりへと向かっていく。

 

 

「・・・・・・もう、邪魔しないでくださいよ」

「ああぁあぁあぁあっ?!」

「きゃああああああっ?!」

 

 

 無造作に振るわれた花の蔓によって2匹の生き物は壁へと叩きつけられてしまう。

 痛みへの耐性がなかったのか、葵とマキの2人は意識を失ってしまった。

 

 

「嘘や、みんな・・・・・・。嘘や・・・・・・」

「さぁ、最後はあなただけですよ」

 

 

 意識を失い、倒れている3人の姿に茜は呆然と呟く。

 そんな茜の近くへと移動し、あかりは微笑みかける。

 強者の微笑みはそれだけで弱者への威嚇となる。

 あかりの微笑みを見た茜は這いずるようにしてあかりから逃げ出した。

 

 

「・・・・・・はぁ。こうなったら誰かに死んでもらわないとダメですかね?」

 

 

 逃げていく茜の姿を見てあかりは呟く。

 戦いもせず逃げ出していく弱者。

 それは紲星あかりが嫌うものの1つだった。

 

 

「な、ま、待ってや!」

「待ちません」

 

 

 あかりの言葉が聞こえた茜は声をあげるが、あかりはその言葉を一言で切り捨てる。

 そして鋭く尖った蔓で葵に狙いを定めた。

 

 

「あなたのせいで1人死ぬんです」

 

 

 その言葉と同時に蔓が矢のように放たれた。

 

 

 ────待って!

 

 

 蔓は真っ直ぐに葵へと向かっていく。

 

 

 ────止まって!

 

 

 その一撃は簡単に葵を貫き、その命を散らすだろう。

 

 

 ────殺さないで!

 

 

 自分の目の前で妹の命が消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       それは、到底許せるものではない。

 

 

 

 

「『メルトレッド・スライミー』!!!」

 

 

 茜の言葉と同時に茜の体から液体のようなものが蔓へと向かっていった。

 液体は蔓が葵の体を貫くよりも先に蔓に到達する。

 

 

「ぐぅっ?!これはっ?!」

 

 

 ジュワリ、液体が触れた瞬間、蔓は煙をあげて完全に溶け去っていった。

 蔓が溶けたことによる痛みにあかりは顔を歪め、茜へと視線を向ける。

 

 そこにいたのは先ほどまでの逃げ腰だった茜とは似て非なるもの。

 妹を、友達を守るために覚悟をもって立ち上がった者。

 

 あかりへと真っ直ぐに視線を向け、茜は口を開く。

 

 

 

 

「覚悟はええか?・・・・・・うちはできとる」

 

 

 

 

 

 /|__________

〈  To Be Continued...|

 \| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

 

 

 

 




最近、ジョジョの五部を見て面白かったのでやってしまいました。

しばらくしたらタイトルを変えて一番上に移動します。




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UA10000突破・番外話・ヤンデレゆかりエンド


UA10000を越えたので番外話です。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。





 

 

 漫画やアニメなどではフクロウの鳴き声が聞こえてきそうな時間。

 分かりやすく言えば真夜中。

 部屋で寝ていた竜は息苦しさに声を漏らした。

 

 

「う・・・・・・」

 

 

 なにかが自分の体の上に乗っているような重さ。

 今までには一度も起きたことのなかった事態に竜は恐る恐る目を開いた。

 

 目を開いても目の前に広がるのは真っ暗な闇。

 電気もついていないうえに真夜中なのでほとんどなにも見えない。

 

 

「なにが・・・・・・」

 

 

 それでも自分の体の上に乗っているものを見ようと竜はジッと目を凝らして自分の体の上を見た。

 電気のついていない部屋。

 横になる竜の体の上でなにかがモゾモゾと動いているように見える。

 あまりにも暗いためにその姿形は分からないが、なにかがそこにいることは間違いないようだ。

 

 不意に、竜の鼻になにか甘い香りのようなものが届いた。

 それと同時に竜の意識は闇の中へと落ちていくように遠退いていった。

 どうにか意識を保とうとするものの、抗うことは叶わず。

 竜の意識は完全に落ちるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「なんや、眠そうやな」

「寝不足なの?」

「おお、2人か。いや、夜中になんか息苦しくなって目が覚めてな。その後すぐに寝た?と言うか気絶したみたいになって気がついたら朝でな。なんか体がダルいんだよ」

 

 

 教室でアクビをしていた竜に、茜と葵が声をかける。

 竜が眠そうにしていることはそれほど珍しいわけではない。

 それは茜自身もよく知っており、少し気になったから聞いただけだった。

 しかし、竜の答えた内容に茜は少しだけ驚く。

 単にゲームを遅くまでやっての寝不足かと思いきや心霊現象のようなことが竜の身に起きているとは予想もしていなかった。

 まぁ、これに関しては予想できる方がおかしいのだが。

 

 

「そ、それってもしかしてお化けってこと・・・・・・?」

「どうかな。夜中に起きたのは今回が初めてだし」

 

 

 お化けの可能性があるということにホラー系が苦手な葵は怖がりながら尋ねる。

 葵の言葉に竜は腕を組んで考え込む。

 夜中に目が覚めたのは今回が初めてで詳しいこともなにも分からないのだ。

 

 

「まぁ、どうなるかは分からんがしばらくは様子を見てみるかな」

「ヤバそうならうちに来るのもありやからな」

「ボクたちでも力になれることがあったら言ってね?」

 

 

 ひとまずどうすることもできないので竜は様子を見ることにした。

 竜の言葉に茜と葵は心配そうに竜のことを見ながら言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、ゆかりん。今日もクマがすごいよ?!」

「ああ、マキさんお早うございます。大丈夫ですよ、少し眠るのが遅くなってしまっただけなので」

 

 

 教室の片隅でそんな会話があったことに竜たちは気づいていなかった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「みゅう」

「おお、みゅかりさん。家で待ってたんだな」

 

 

 帰宅して玄関を開けた竜は、玄関で待っていたみゅかりさんを嬉しそうに撫でる。

 何故みゅかりさんが竜の家にいるのか気になるかもしれないが、これは竜がみゅかりさん用に小窓を1ヶ所開けておいているからだ。

 小窓が空いていることによってみゅかりさんは自由に竜の家に入ることができ、竜の帰宅を安全に待つことができるのだ。

 

 

「みゅかりさん、悪いけど少し眠らせてくれ。ゲームとかは好きにやってて良いから」

「みゅい!」

 

 

 眠さが限界に近かったのか、竜はみゅかりさんにそう言うと布団を敷いて仮眠をとることにした。

 竜の言葉にみゅかりさんは小さく鳴いて竜の布団の中へと潜り込む。

 

 

「一緒に寝るのか?まぁ、いいか。おやすみ」

「みゅみゅみゅみゅ」

 

 

 そして竜の意識は落ちていった。

 そんな竜の顔をみゅかりさんはじっと見つめている。

 光のないその瞳は深い闇のようで、よく見れば目元にクマのようなものもあった。

 竜の寝息が聞こえ始めた頃、みゅかりさんはそっと静かに動き出した。

 

 

「みゅう、みゅあ・・・・・・れるっ・・・・・・」

「んう・・・・・・?」

 

 

 竜の首もとを開き、みゅかりさんはヌルリと舌を這わせる。

 くすぐったいような感覚が襲ってきたことに竜は声を漏らすが起きそうには見えない。

 そのままみゅかりさんは執拗に竜の首もとを舐める。

 

 

「みゅ・・・・・・ぷぁ・・・・・・はみゅ・・・・・・」

 

 

 舐めるのを止め、終わりかと思えば今度は竜の首もとに噛みつき始めた。

 といっても歯をたてているわけではなく咥えているような感じだが。

 みゅかりさんは竜の首もとに噛みつきながら一心不乱に口内で舌を這わせ、竜の腕に前足を絡ませる。

 

 

「れるぉ・・・・・・」

 

 

 そして、みゅかりさんは舌で竜の首もとを舐めながら徐々に徐々に首をなぞって上にあがっていった。

 首もとから首、首から頬とその位置は上がっていく。

 あと数cmで竜の唇に触れるかと言うところになって、みゅかりさんは舌を離した。

 

 

「みゅう・・・・・・・・・・・・みゅ、んん。・・・・・・いけません、そこはまだ早いんですから」

 

 

 聞こえてきたのはみゅかりさんの鳴き声ではなくハッキリとした人の言葉。

 しかしここにいるのは竜とみゅかりさんだけであり、他に人は存在していない。

 では誰が話したのかと言えばそれはつまりこの部屋にいる残りの生き物、みゅかりさんしかいない。

 みゅかりさんはなるべく自然な風に竜の体を拭いていくと、最後に軽く頬を舐めて眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「ん、おはようみゅかりさん」

「みゅーみゅ」

 

 

 目が覚め、隣で寝ていたみゅかりさんの姿に竜は笑みを浮かべる。

 竜の言葉にみゅかりさんも嬉しそうに竜の頬に体を擦り寄せるのだった。

 

 

「もうこんな時間か、寝過ぎたな。悪いなみゅかりさん」

 

 

 時計を確認すると仮眠をしてからそこそこの時間が経っており、今の時間からゲームをするのは少し遅いかもしれない。

 その事に気がついた竜は寝過ぎたことも含めてみゅかりさんに謝る。

 

 

「みゅ、みゅみゅみゅ」

「うん?帰るのか?」

 

 

 玄関へと向かうみゅかりさんに竜は声をかける。

 みゅかりさんは玄関に着くと、振り返って竜を手招きした。

 不思議に思いながら竜はみゅかりさんの近くにいく。

 

 

「みゅい!」

「うおっ?!・・・・・・一緒に来てほしいのか?」

「みゅ!」

「分かったよ」

 

 

 近くに来た竜の頭の上に跳び乗り、みゅかりさんは鳴き声をあげる。

 みゅかりさんの意図が分からず、頭の上のみゅかりさんに尋ねると、みゅかりさんは肯定するように鳴き声をあげた。

 こんな時間になってしまったのも自分が寝過ぎてしまったせいということもあり、竜はみゅかりさんを家まで送ることにした。

 

 

「たしか“清花荘”に住んでるんだったよな」

「みゅうみゅう」

 

 

 “清花荘”に向かう道を歩きながら竜とみゅかりさんは会話をする。

 少し暗いが特に歩きづらいなどということはなく。

 とくに何事もなく“清花荘”に到着した。

 

 

「ここまでで大丈・・・・・・うん?」

「みゅっみゅみゅ」

 

 

 “清花荘”の前に着いてみゅかりさんを頭の上から下ろそうとするが、みゅかりさんは腕にしがみついて離れようとしない。

 どうやら、まだなにかあるらしい。

 

 

「みゅうみゅうみゅう!」

「分かった分かった」

 

 

 腕をぐいぐいと引っ張るみゅかりさんに竜はため息を吐いて“清花荘”の敷地の中へと入っていった。

 “清花荘”の敷地の中に入ると、みゅかりさんは前足で1つの扉を指し示した。

 どうやらそこがみゅかりさんの住んでいる部屋のようだ。

 

 

「みゅい」

「ん、入れって?いや、それは流石に・・・・・・」

「みゅうみゅみゅ」

 

 

 部屋の扉を開けてみゅかりさんは竜を手招きする。

 すでに部屋の扉が開いていることなど気になることはあったが、人の部屋に勝手に入るのはどうかと竜は躊躇う。

 部屋に入るのを竜が躊躇していると、みゅかりさんは竜の手を掴んで部屋の中へと引き入れた。

 みゅかりさんの予想外の引く力の強さに驚きつつ、竜は部屋の中へと入るのだった。

 

 

「みゅい」

「そっちの部屋に行けば良いんだな?」

 

 

 みゅかりさんに奥の部屋に向かうように促され、竜はみゅかりさんに確認をしつつ奥の部屋へと向かう。

 

 

「それで、みゅかりさん。俺はどうしたら────」

「ようやく、捕まえました」

「────っ?!」

 

 

 部屋に入ってみゅかりさんの方を振り向こうとした竜は耳元で囁かれた言葉と、背後から抱き締められる感触に驚いて背後を見る。

 首の動きだけで背後を見たためにうまく見ることはできないが、どうにか見えた姿からそこにいるのがゆかりだと気づいた。

 

 

「ゆ、ゆかり・・・・・・?」

「ふ、ふふ、ふふふふふふ・・・・・・」

 

 

 背後から抱き締めてくる人物の正体がゆかりだと分かり、竜は恐る恐る声をかける。

 竜の言葉にゆかりは答えず、ただただ笑っていた。

 

 

「今日から、竜くんは私のものですよ。どこにも行かせません。誰にも会わせません。私の用意したもの以外食べさせません。私以外の人の声を聞かせません。私以外の女性を見せません。私以外の女性と話させません。だから、安心して眠ってくださいね?」

「ゆか・・・・・・り・・・・・・」

 

 

 早口で言うゆかりに竜が恐怖を感じて震えると、竜の口もとに布が当てられた。

 布から逃れようとするがすでに遅く。

 竜は嗅いだ覚えのある甘い香りを感じながら意識を闇に落としていった。

 

 意識を失って倒れそうになる竜をベッドに乗せ、ゆかりはその四肢を拘束していく。

 そして拘束を終えたゆかりは最後に竜の首に首輪を取り付けた。

 首輪を取り付け終え、ゆかりは意識を失っている竜の上に跨がり抱き締める。

 

 

 

 

「竜くん、大好きですよ」

 

 

 

 ベッドに拘束されている竜の体を抱き締めながら、ゆかりはどこか引きずり込まれそうな声色で囁くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第1話

 

 

 

 

 誰にでもある代わり映えのないいつもの1日。

 

 朝起きて着替えをし、その日の授業に合わせた教科書などを持って学校に行き授業を受けて友人となんてことのない会話をする。

 

 そんな当たり前の毎日が────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ────続いていると思っていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「みゅぅ~・・・・・・」

「・・・・・・なんだこれ」

 

 

 目の前で目を回しながら倒れているよく分からない生き物を見ながら男子高校生──公住(きみすみ) (りょう)は呟くのだった。

 

 ことの始まりは、と言ってもそんなに複雑なことはなく。

 単純に竜の家のちょうど目の前でよく分からない生き物が倒れているというだけのことなのだが。

 

 なぜ生き物を明確な種類で呼んでいないのか。

 それが気になっている方がいるかもしれないが、どうにもこの生き物の種類がはっきりとは分からないからだ。

 猫のような耳はついているのだが胴体はなく。

 一番近いものとしては東方に出てくる“ゆっくり”のような見た目だろうか。

 それでも“ゆっくり”のように人のようではなく、全体的にフワフワとした体毛のようなものでおおわれている。

 そしてもう1つの特徴として2ヶ所から生えている手のようなものだろうか、アクセサリーなのかは分からないがリングのようなものがそれぞれに1つづつ着いている。

 見方によっては前足のようなものとして考えることもできるかもしれない。

 ちなみにこの生き物の体毛の色は紫色である。

 

 とにもかくにも竜が自分の家に入るにはこの生き物の近くを通らなければならないので、竜はゆっくりと近づいていく。

 

 

「起き・・・・・・ないか」

 

 

 もしかしたら倒れている演技かと警戒して生き物にゆっくりと近づいたが、予想に反して生き物はなんのアクションも起こさない。

 位置的にはすでに家の前にいるのだから気にせずに帰宅してもいいのだが、どうにも竜は生き物を放っておくことができなかった。

 

 野生の生き物だろうし、人の手が加わるのはあまり良くないのかもしれない。

 そう、理解はしている。

 理解はしているのだが・・・・・・。

 

 

「はぁ・・・・・・。独り暮らしで助かった・・・・・・」

 

 

 溜め息を吐きながら竜は生き物を抱き抱えて家の中へと入るのだった。

 ちなみに生き物の毛並みはとてもよく、なかなかに良い触り心地だったらしい。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜は生き物を一先ずは自分の部屋の布団に寝かせ、落ち着くために飲み物を用意する。

 家の前でも長々と考えていたことだが、改めて竜は生き物について考える。

 

 

「・・・・・・、というか生き物であってるよな?まさか精巧に作られたロボットなんてオチはない、よな?」

 

 

 ふと頭に浮かんだ考えに竜は思わず呟く。

 とは言っても今までに見たこともない生き物なのだからそう考えても仕方がないのかもしれないが。

 ・・・・・・まぁ、そのあたりは考え出したらキリがないので、竜はとりあえずは生き物ということにして考えることにした。

 

 

「とりあえず目を覚ましたらどこかに逃がす感じか?でもアクセサリーっぽいものを着けているから誰かのペットな可能性、も?!」

 

 

 ────ドゴォッ!

 ────みゅっ?!みゅみゅみゅみゅっっっ?!?!

 

 

 竜が拾ってきた生き物について考えているとなにかがぶつかるような音と、混乱したような鳴き声が竜の耳に聞こえてきた。

 どうやらあの生き物が目を覚ましたようだ。

 

 

「部屋を散らかさないでくれると助かるがなぁ・・・・・・」

 

 

 竜は飲み物を飲んでいたコップをテーブルに置いて生き物を寝かせた自分の部屋に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2話

 

 

 

 

 唐突ではあるが、某巨大な虫やどろどろに肉体が溶けている巨人の出てくる映画を知っているだろうか。

 あの映画の主人公は野性動物と即座に仲良くなったり、巨大な虫の幼体と心を通わせる(?)などのことをやってのけて怒り狂った巨大な虫の群れを静めたりしている。

 もしもあの主人公と同じことをやれと言われてできる人はそうはいないだろう。

 

 

 が、竜は今からそれに近いことをしなければならない。

 

 

「みゅぅうううう・・・・・・!!」

「どうするか・・・・・・」

 

 

 寝かしておいた布団の近くに畳んでおいた掛け布団に隠れるようにくるまりながら竜を見ている生き物を見ながら竜は呟いた。

 生き物は竜を見ながら威嚇するように鳴きつつ、前足(?)のような部分を(「`ω')「のようにして竜に向けている。

 誰がどう見ても警戒度マックスなのは明確です本当にありがとうございました。

 そんな状態の生き物を見ながら竜は頭に軽く手をあてる。

 

 

「みゅっ、みゅみゅっ!」

「シャドーボクシング・・・・・・?」

 

 

 どうしたものかと生き物を見ていると生き物は威嚇のポーズからまるでボクサーのように前足を動かし始めた。

 しかしその動きはどう見ても遅く、誰が見ても攻撃力は感じられないだろう。

 

 まぁ、そんな風に元気に動くことができるのだからとくに怪我の類いだとか病気の様子とかもないということで間違いないはずだ。

 

 “ふふふ、私のパンチが見えますか?”とでも言いたげな表情を浮かべている生き物を見ながら竜はそう結論付ける。

 自慢気な生き物には悪いがそのパンチを見切れない人間は小学生くらいではないだろうか。

 

 

「ほれ。窓は開けたから好きに出ていくと良い」

「みゅ?」

 

 

 竜が窓を開けると生き物は不思議そうに竜と窓をキョロキョロと見る。

 首をかしげるような動作をしていたりすることからある程度は人間の言葉を理解しているのだろうということは推測できる。

 そんなことを考えながら竜はゲームの準備を始めた。

 

 

「さて、と。今日はなにをやるか・・・・・・、モンハンはとりあえず全部のモンスターも狩ってメインで使う武器もほぼ作り終わっちゃったし・・・・・・、地球防衛軍はノーマルだけどストーリーを全部クリアしたし・・・・・・、ドットハックはソロ縛りでやるから時間かかるし・・・・・・」

 

 

 ゲームの準備をしながら竜は呟く。

 そんな竜の様子を見ながら、生き物はゲームのタイトルを聞くたびに耳をピクピクと動かしていた。

 

 

「とりあえず地球防衛軍でいいか。・・・・・・っと、先にトイレに行っとくか」

 

 

 ゲームの準備を終え電源をいれると竜は立ち上がってトイレに向かった。

 竜がトイレに向かったのを確認すると、生き物はピョコピョコと跳び跳ねながらゲーム機へと近づいていった。

 

 

「みゅ・・・・・・。みゅっみゅみゅみゅっみゅ~!」

 

 

 どこぞの青いタヌ────猫型ロボットが道具を取り出すときの音楽をセルフで言いながら生き物は竜の物とは別のコントローラーを取り出した。

 そしてそのまま馴れた様子でゲームを操作していく。

 

 

「ふぅ、さてやる・・・・・・か?」

「み゛ゅっ?!」

 

 

 トイレから戻ってきた竜は生き物がゲームをやっていることに驚き固まり、生き物は竜が戻ってきたことに驚き固まる。

 互いに相手のことを見つめ、ときおりテレビ画面をちらりと見る。

 

 

「・・・・・・えっと、一緒にやるか?」

「・・・・・・みゅう」

 

 

 このあと、2人プレイして滅茶苦茶“サンダー!強力なサンダー!”しまくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3話



目次のところにも書いてありますが、何人かの登場人物は年齢などに変更点が加えられております。
その点を留意ください。


 

 

 

 

 快晴の気持ちのよい天気。

 日当たりもよく、心地のよい暖かさにその意識は夢の世界へと旅立っていってしまうこと間違いないだろう。

 こんな日には掛け布団も敷き布団もすべて干してふっかふかにして眠るのが最高の幸せに違いない。

 

 

公住(きみすみ)、授業中に寝るんじゃない」

「ぶげらっ?!」

 

 

 後頭部への軽い衝撃と、その衝撃でバランスを崩して顔面を机に強くぶつけたことによって竜は痛みと共に夢の世界から帰還する。

 そんな竜の姿にクラスメイトたちは様々な表情を浮かべ、教師──月読(つくよみ) アイ(21歳・身長100センチメートル・体重■■(ピー)キログラム)は小さく溜め息を吐いた。

 

 

「暖かくて眠くなるのもわかるが、寝るならせめて休み時間にするんだな」

「はい・・・・・・」

 

 

 机にぶつけたことによって赤くなった額をさすりながら竜は答える。

 こればかりは授業中に眠ってしまっていた竜に非があるので、竜はなにも言えなかった。

 そしてそれからは何事もなく授業は進んでいった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 授業が終わって休み時間になり、机の上にぐてっと体を倒す竜のもとに女子生徒が1人ニヤニヤと笑いながら近づいてきた。

 さらにその後ろにはやや困ったような表情を浮かべた女子生徒もいる。

 

 

「やー、珍しいこともあるんやな?アイちゃんせんせに怒られるなんて」

「うっせー・・・・・・。ちょっと遅くまでゲームをしちまったんだよ・・・・・・」

「なんや、いつものことやん」

「でも、授業中に眠ってるのは本当に珍しいね」

 

 

 女子生徒の言葉に竜はぐてっと机に体を預けたまま答える。

 女子生徒──琴葉(ことのは) (あかね)は竜の言葉に拍子抜けしたといった様子で答えた。

 そんな茜の様子に苦笑しながらもう1人の女子生徒──琴葉(ことのは) (あおい)は不思議そうに竜を見る。

 

 茜の言うとおり竜がゲームを遅くまでやって眠そうにしているのは別に珍しいことではない。

 今までも眠っていることはなくても眠そうにしながら授業は受けていたのだから。

 

 葵の言葉に竜はポリポリと頬を掻きながら口を開いた。

 

 

「いや、予定ではそんなに遅くまでやるつもりはなかったんだよ」

「そうなんか?」

「なにか予定外のことがあったってこと?」

 

 

 竜の言葉に2人は不思議そうに顔を見合わせてから尋ねる。

 

 

「まぁな。じつは昨日、変わった生き物を拾ってな。といっても寝る前にはどっかに帰っていっちゃったんだけど」

「変わった」

「生き物?」

 

 

 2人はこてんと首をかしげながら竜の言葉の続きを待つ。

 そんな2人の姿を見ながら竜は昨日の出来事を簡単に説明した。

 

 

「紫色で1頭身の猫っぽい生き物・・・・・・」

「前足のような部位にアクセサリー・・・・・・」

「なにか知っているのか?」

 

 

 竜の説明に2人は顔を見合わせて呟く。

 2人の様子にあの生き物のことを知っているのかもしれないと思った竜は尋ねた。

 

 

「・・・・・・、いやー、うちはちょっと分からんなぁ」

「ごめんね。ボクもちょっと分からないかな」

「そうか・・・・・・」

 

 

 2人は申し訳なさそうな表情を浮かべながら答える。

 2人の言葉に竜は少しだけ残念そうな表情をした。

 そんな竜の姿を見つつ、茜と葵の2人は共通のものを思い浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第4話

 

 

 

 

 授業も終わり、なにごともないまたいつもの帰り道────

 

 

「にひひひ、バッチリ特訓はしたんや。今日こそは負けへんで!」

「お姉ちゃん、前も同じようなこと言ってなかった?」

 

 

            ────とは違うようだ。

 

 家への帰り道を歩く竜の隣に2人の女子生徒、茜と葵の姿がある。

 どうやら竜の家でゲームをやる予定のようだ。

 

 

「くはははは!返り討ちにしてくれるわ!」

「なんやとー、このパチモン・ナンデスがー!」

「2人ともあまり大きな声を出したら近所迷惑だよ・・・・・・」

 

 

 なんてことのない友人同士の会話をしながら3人は竜の家が見えるところにまで到着した。

 

 

「うん?」

「あ、あれって・・・・・・」

「・・・・・・せやな」

 

 

 ふと、3人は竜の家の前になにかがいることに気づく。

 それはまるで紫色をした“ゆっくり”のような見た目で、前足のようなものが2ヶ所から生えている生き物だった。

 

 ・・・・・・まぁ、要するに竜が昨日拾った生き物である。

 

 

「遊びに来たってとこか?」

 

 

 生き物の姿を確認した竜は嬉しそうに生き物へと駆け寄っていく。

 そんな竜のあとを茜と葵は追いかけていった。

 

 

「よ!遊びに来たのか?」

「みゅっ!」

 

 

 生き物の目の前にしゃがみこんで竜が尋ねると、生き物は肯定するように前足を挙げて答えた。

 生き物が答えてくれたのが嬉しかったのか、竜はわしゃわしゃと生き物の頭を撫でる。

 

 竜に撫でられていることによって油断していた生き物は、背後から近づいてくる人影に気づかず、気がついたときには────

 

 

「謎の生き物、捕獲やぁああああ!!!!」

「みゅあぁあぁぁぁああああ?!?!?!」

 

 

     ────体を捕まえられてしまっていた。

 

 いきなりのことに生き物は鳴き声をあげ、竜はポカンとしてしまっている。

 

 

「へっへっへ、もう逃げられへんでぇ?」

「みゅっ、みゅみゃみゅみゅっ?!?!」

「いやいやいやいや?!いきなりなにしてんの?!」

 

 

 まるで三下の悪役のようなことを言いながら茜は自身の顔の前に生き物を持っていく。

 茜の顔を確認したことによって自身が捕まったことを理解したのか、生き物は暴れて茜の手から逃れようとする。

 そんな生き物の鳴き声に呆けていた状態から戻った竜は慌てて茜の手から生き物を取り返した。

 生き物は助けて貰ったことに気がつくと、すぐに前足のような部分で竜の首もとへとしがみつき、威嚇するように茜を見る。

 

 

「みゅぅううう・・・・・・」

「すまんすまん。まさかとは思っとったんやけど、ほんまに“みゅかりさん”やったんやな」

「みゅかりさん?2人はこいつのことを知ってたのか?」

「うん。本当にみゅかりさんなのか自信がなかったから言わなかったんだ。ボクもお姉ちゃんもビックリしてるよ」

 

 

 威嚇をする生き物────みゅかりさんに謝る茜の言葉に、竜は生き物の名前を2人が知っていたのだと気づく。

 竜の言葉に葵は茜の行動に苦笑しながら答えた。

 

 

「みゅかりさんは基本的に人前に現れないし、見つけたとしてもすぐに逃げちゃうからね。だからそんな風になってる姿はボクは初めて見たかな」

「せやね。ゲームをやってるときにたまに現れるくらいやったかな」

「みゅ?」

 

 

 2人の言葉に竜はみゅかりさんを見る。

 竜の視線を感じ、みゅかりさんは不思議そうに竜のことを見つめ返した。

 竜からしてみれば自分の家の前で倒れていた謎の生き物といった印象だったので、2人の言葉は少し意外だった。

 

 

「・・・・・・まぁ、可愛いからいいか。んじゃ、ゲームやるか」

「せやなー」

「そだねー」

「みゅみゅみゅー」

 

 

 深く考える事柄でもないと判断し、竜は家の鍵を開けて全員を家の中へと迎え入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第5話

 

 

 

 

 大きめのテレビの前に竜、茜、葵の3人とみゅかりさんの1匹はゲームのコントローラーを手に持って座る。

 テレビに映るゲームのタイトルは“大乱闘スマッシュライダーズ”だ。

 このゲームはプレイヤーが好きな仮面ライダーを選択してフィールド内でバトルをするというものだ。

 仮面ライダーの種類は初代から現在放送しているまでの全てのライダーが収録されており、新ライダーが登場するたびにダウンロードコンテンツとして追加される仕様となっている。

 

 

「これでトドメやっ!」

『ファイナルアタックライド』

 

 

    ────ディメンションキック!!

 

 

「ぬわーー!!」

「みゅみゅーー!!」

 

 

 茜の勝利宣言と同時に茜の操作していたマゼンダカラーの仮面ライダーが必殺技を放つ。

 マゼンダカラーの仮面ライダーは竜とみゅかりさんの操作していた仮面ライダーに向かって10枚のカードの形をしたエネルギーを破りながら向かっていき、強力な蹴りを叩き込んだ。

 その攻撃によって竜とみゅかりさんの操作する仮面ライダーは画面外へと吹き飛ばされる。

 そしてそれぞれの残機が0になり、画面が切り替わって“3PWin!”の表示が現れた。

 ちなみに葵はすでに先にやられていたので最下位となっている。

 

 

「どうや!これが特訓をした茜ちゃんの実力や!」

 

 

 どやぁ、と言う擬音が聞こえてきそうなほどに得意気な表情で茜は竜を見る。

 そんな茜の様子に葵は苦笑していた。

 

 

「言うだけのことはあったか・・・・・・。っし、なら本気で相手をしようかね」

「ほ~ん?なんや、負け惜しみか~?」

 

 

 竜の言葉に茜はによによと笑みを浮かべながら答える。 

 しかし茜の言葉ももっともで負けたあとの言葉ではどうにも負け惜しみにしか聞こえない。

 そんな茜の言葉を気にも止めずに竜は先程とは違う仮面ライダーを選択した。

 

 

「あ、じゃあボクも変えよー」

「みゅみゅみゅー」

「なんや、うち以外はみんな変えるんか」

 

 

 竜が仮面ライダーを変えたのを皮切りに葵、みゅかりさんも仮面ライダーを変更する。

 

 

「せや、本気を出す言うたんやから負けないっちゅうことやろ?なら、最下位には罰ゲームってことでどうや!」

「俺は別に構わないぞ」

「ボクも別に良いよ」

「みゅみゅみゅ」

 

 

 茜の提案は誰も拒否をすることなく決定される。

 そして、仮面ライダーの変更も終わり、対戦が始まる。

 

 

「はっ、くっ、このっ!」

「甘い!」

「みゅあ?!」

「あ、ごめん。流れ弾」

 

 

 先程よりもさらに白熱した熾烈な争い。

 自然と全員の体にも力が入っていた。

 

 

「ここっ!」

『ファイナルアタックライド』

 

 

    ────ディメンションシュート!!

 

 

「なんやて?!?!」

 

 

 葵の操作する青色の仮面ライダーが銃口を茜の操作する仮面ライダーへと向けて必殺技を放つ。

 青色の仮面ライダーの放った弾丸は10枚のカードの形をしたエネルギーを破り、強力なレーザーとなって直撃した。

 しかし蓄積されていたダメージが少なかったからなのか、茜の操作する仮面ライダーはそこまで吹き飛ばなかった。

 

 

「まだや、まだ死んどらん!」

「みゅみゅみゅみゅっ!」

『キメワザ!』

 

 

    ────マイティクリティカルストライク!!

 

 

「こんどはみゅかりさんかい?!」

「嘘、僕を狙いながらお姉ちゃんまで?!」

 

 

 青色の仮面ライダーが必殺技を撃った直後、その一瞬の隙を突くようにみゅかりさんは必殺技を発動した。

 みゅかりさんの操作するゲームをモチーフにした仮面ライダーはまっすぐに葵の操作する仮面ライダーに向けて必殺技を放つ。

 必殺技を受けた葵の操作する仮面ライダーは吹き飛び、さらに吹き飛んだ先にいた茜の操作する仮面ライダーを巻き込んでいく。

 

 

「くっ、でも巻き込まれただけやからギリギリで生き残っとるで!」

 

 

 直撃ではなかったためにギリギリで体力の残った茜は空中ジャンプでどうにか足場への復帰をはかる。

 さらにその後ろを茜にぶつかったことによって吹き飛ばずに済んだ葵も戻ろうと空中ジャンプをしている。

 そんな2人を迎撃するためにみゅかりさんは画面の端に向かって移動した。

 

 

 

    そして────

 

 

 

 

 

 

 

「それはよかった。・・・・・・だが、無意味だ」

『メタルクラスタホッパー!』

 

 

    ────メ タ ル

        ラ

        イ

        ジ

        ン

        グ イ ン パ ク ト !!

 

 

 

 

 

            ────無情な銀色の一撃が3人の仮面ライダーへと叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第6話

 

 

 

 

 テレビ画面の中で3人の仮面ライダーが吹き飛び、画面が切り替わる。

 そして画面の中央に大きく表示されていたのは竜の操作していた仮面ライダーだった。

 

 

「さて、最下位は・・・・・・と」

 

 

 自身が勝利していることを確認すると、竜は茜たちの順位を確認していった。

 リザルトとして表示された順位は、

 

 WINNER.1P 竜

    2nd.2P みゅかりさん

    3rd.4P 葵

    4th.3P 茜

 

 となっており、先ほど勝っていた茜の順位が一気に落ちる形となっていた。

 

 

「最下位は罰ゲームだったな」

「やっぱ罰ゲームはな」

「今日1日適当なアダ名にするのはどう?」

「みゅみゅみゅ」

 

 

 竜の言葉に茜は自分にとって不都合なことが起こると理解し、とっさに罰ゲームを撤回しようとする。

 しかしそうは問屋が卸さぬとばかりに葵によって言葉の途中で遮られてしまった。

 

 

「あだ名?たとえば?」

「“橘ギャレン”はどう?」

「それはもうつけられてる人がいるのを知ってるからダメ」

「じゃあ、“ソーラン節の人”」

「それももうついてる人がいるな」

「なら“もじゃ毛”」

「それもだな」

「“ダウニー”」

「それもダメだ」

 

 

 茜のことを放置しながら竜と葵は茜への罰ゲームを話し合う。

 だが葵の挙げるあだ名はそのどれもがすでにつけられている人のいるものだった。

 挙げるあだ名がことごとくダメなことに葵は悔しそうな表情を浮かべる。

 

 

「もう、全然決められないよ・・・・・・」

「あだ名は諦めるしかないな。なにか着けるとか?と言ってもそんなものは家にないんだが・・・・・・」

「みゅい!」

 

 

 がっくりと肩を落とす葵に竜は代替案を提示する。

 とはいってもそのための道具などはないので結局は意味がないのだが。

 そんな2人の様子に茜は罰ゲームがなくなると声に出さずに喜んでいた。

 と、不意にみゅかりさんが竜と葵の前に飛び出して鳴き声をあげる。

 

 

「みゅっみゅみゅみゅっみゅみゅ~!」

「「「・・・・・・へ?」」」

 

 

 どこぞの青い猫型ロボットが秘密道具を出すときの音楽をセルフで言いながらみゅかりさんは自身の毛皮の中からピンク色の猫耳を取り出した。

 しかもご丁寧に同色の尻尾まで一緒に取り出している。

 どう見ても取り出せなさそうな光景に竜、葵、茜の3人は目を丸くして固まった。

 そのすきにみゅかりさんは茜へと猫耳と尻尾を取り付けるのだった。

 

 

「ど、どういうことだってばよ・・・・・・」

「まるで意味がわからんぞ?!」

「って、いつの間にか付けられとる?!」

 

 

 目の前で起きた不思議な光景に竜と葵は動画などでよく使われる音声素材のような言葉を漏らす。

 そして茜はいつの間にか取り付けられていた猫耳と尻尾に驚いていた。

 

 

「・・・・・・えっと、みゅかりさんには不思議があるということで納得しておこっか」

「意義なし」

「待って、葵、言葉と行動がちゃうんやけど?!なんで口ではちょっと疲れた感じやのにうちの両手を押さえとるん?!お姉ちゃん放して欲しいんやけど?!」

「だって、放したらはずしちゃうでしょ?頭のそれ」

「ま、罰ゲームだから諦めるんだな」

 

 

 竜の言葉に葵は同意しながら茜の手首をつかんで動きを封じる。

 それに加えて茜のことを押し倒してその体を完全に固定していた。

 姉妹によるそんな光景にみゅかりさんはアワアワとしていたが、竜にとっては見馴れた光景なためとくには反応も示していない。

 

 

「茜の猫だから“あかねこ”ってとこかな?」

「んなこと言うとらんで助けてくれへん?!ちょ、なんや力が強く・・・・・・?!」

「いっつもボクが振り回されてるんだもん。たまには反撃させてもらわないと・・・・・・ね?」

「みゅ、みゅみゅみゅ・・・・・・」

 

 

 目の前で起こっている姉妹の仲睦まじい光景からみゅかりさんへと視線を向けながら竜は適当に命名をする。

 そんな竜の言葉を聞きつつ茜は助けを求めるのだがその言葉に応えるものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第7話

 

 

 

 

 膝に乗る猫の頭を撫でながら竜は葵とみゅかりさんが協力プレイするゲームを見る。

 プレイしているゲームは地球防衛軍で、2人・・・・・・いや1人と1匹のコンビネーションは中々に良さそうだ。

 

 

「うわぁ・・・・・・、改めて思うけどこのゲームの虫とか本当に気持ち悪いよね・・・・・・」

「みゅみゅ」

「だな」

「せ、せやにゃ~・・・・・・」

 

 

 葵の言葉にみゅかりさんも同意するように頷く。

 これに関しては竜も同じ意見なので特に否定をするつもりはないようだ。

 

 

「そういえば難易度ノーマルでやってるけどハードとかはやらないのか?」

「う~ん、ボクの腕だとハードはちょっと難しいかな」

 

 

 難易度インフェルノで集めた武器でノーマルの敵をなぎ倒していく様子を見ながら竜は葵に尋ねる。

 正直に言えばインフェルノの装備さえあれば基本的にハードくらいならクリアはできてもおかしくはないのだが、葵は得意なゲームと苦手なゲームがハッキリと分かれているのでノーマルでちょうどいいらしい。

 

 

「にゃ、にゃ~ん・・・・・・」

「よーしよしよし」

 

 

 鳴き声をあげる猫を竜は優しく撫でる。

 竜の撫で方に猫は気持ち良さそうに目を細めた。

 

 

「・・・・・・やっておいてなんだけど。お姉ちゃん、恥ずかしくないの?」

 

 

 竜の膝に頭を乗せている猫──耳をつけた少女、“あかねこ”を見ながら葵は尋ねる。

 葵の顔はやや赤く染まっており、自分と同じ顔である茜のしていることを間接的に自分もやっているようにイメージして恥ずかしくなっているようだ。

 

 

「め・・・・・・・・・・・・・・・・・・っちゃ、恥ずいんやから言わんといて」

「葵さんや、茜と俺を繋いでおいてそれかい。俺も恥ずかしいんだが・・・・・・」

 

 

 葵の言葉に茜は顔を両手で隠しながら答える。

 しかし隠れきれていない隙間からは顔が赤くなっていることがハッキリと見えており、耳まで赤くなっていることが誰の目にも明らかになっていた。

 現在、茜はうまく身動きがとれないように拘束されており、その頭は竜の膝の上に固定するように繋がれている。

 手持ちぶさたになってしまっていてついつい茜の頭を撫でてはいるが、それでも竜も恥ずかしさは感じているようだ。

 

 

「でも、罰ゲームだし・・・・・・。絶対に嫌だって言うならはずすけど・・・・・・」

「別に嫌ってわけじゃないが・・・・・・。こう、クラスメイトが膝に頭を乗せてるのはドキドキしてな・・・・・・。・・・・・・・・・・・・しかもかわいいし」

「ッ~~~!!!そ、そういうことは言わなくていいんや!」

「うぐふぅっ?!」

 

 

 葵の言葉に竜は否定しつつ、最後に小さく付け加える。

 少し離れた位置にいた葵とみゅかりさんの耳にその言葉は届かなかったが、竜の膝の上に頭を乗せている茜の耳にはその言葉はハッキリと届いていた。

 聞こえてきた竜の言葉に茜はさらに顔を赤く染め、声にならない悲鳴をあげつつ竜の腹部へと頭突きを叩き込んだ。

 そこそこの威力の頭突きに声を漏らす竜のことなど気にせずに茜はグリグリと頭を竜の腹部に押し付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第8話

 

 

 

 

 顔を赤くして悶えている茜と、腹部に多大なダメージを負って悶える竜。

 2人はどうにか葵を説得し、お互いに離れることができるようになった。

 離れることのできた茜は一息に竜の膝から跳ね起きると、葵からコントローラーを奪うように受け取って赤い顔のままゲームをプレイし始める。

 どうやらゲームをやって恥ずかしさなどをごまかそうとする算段のようだ。

 

 

「い、いくでみゅかりさん!武器の準備は万全か?!」

「みゅっみゅみゅ!」

 

 

 そんな茜の様子に葵はクスリと笑みを浮かべて竜の隣へと移動した。

 茜と入れ替わるように葵が隣に来たことに、竜はドキリと体を揺らした。

 

 

「えへへ、お姉ちゃんにはよくからかわれてるから、巻き込んじゃってごめんね?」

「い、いや、さっきも言ったけど嫌じゃなかったからいいよ」

 

 

 ペロリと舌を出しながら葵は竜に手を合わせて謝る。

 あざとい仕草ではあるが葵のそれは非常に可愛らしく、竜は顔を赤くしながら答えた。

 

 

「みゅ~う・・・・・・」

「おわ?!みゅかりさん?」

「あれ?お姉ちゃんとゲームをやってたんじゃないの?」

 

 

 鳴き声と共に頭の上にポスンと襲いかかってきた衝撃に竜は驚き、乗ってきたものの正体に気づく。

 竜の頭の上に乗ってきたみゅかりさんの姿に葵は不思議そうに呟いた。

 葵の言葉にみゅかりさんは、やれやれといった様子で体を振りながらテレビの方を前足で指し示した。

 

 

「にゅおあぁあぁあぁあああ?!?!?!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、死ぬぅぅううう?!ちょ、今かすった?!ちょびっと被弾したで?!やられてたまるかいぃぃぁあああああ?!?!?!」

 

 

 みゅかりさんの指し示した先では、ゲームの難易度をインフェルノにした茜が叫びながら敵から逃げ回っていた。

 一緒にプレイしていたみゅかりさんの操作キャラクターは建物の上の方に吹き飛ばされて引っ掛かってしまっており、爆発武器を持ってきていなかった茜では救出することができない状態になっていた。

 唐突な茜のうるささに竜と葵の2人は思わず顔を見合わせる。

 

 

「お姉ちゃんがうるさくてごめん・・・・・・」

「うん、まぁ、茜の気持ちもわからなくはないから・・・・・・な」

「みゅ~・・・・・・」

 

 

 その後、なんだかんだで3分ほど逃げ回っていたのだが、あえなくカエルにスナイプされてゲームオーバーとなった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 楽しい時間と言うのは早く過ぎるもの。

 いつのまにやら時刻は7時。

 茜と葵の2人は帰らなくてはいけない時間になっていた。

 

 

「あちゃー、もうこんな時間かいな」

「いくら家が近いからって、ちょっと熱中しすぎちゃったね」

「楽しいと時間を忘れるってのは本当だよな」

「みゅう!」

 

 

 スマホで時間を確認した茜は葵に帰宅を促しながら立ち上がる。

 茜と葵が住んでいるのは“清花荘(せいかそう)”という名前のアパートで、竜の家から徒歩で数分ほどの距離しか離れていない。

 ゲームを片付けながら竜は葵の言葉を肯定する。

 

 

「んじゃ、うちらはそろそろ帰るわー」

「けっこう騒がしくしちゃってごめんね」

「んー・・・・・・、あー、ちょい待ち。家まで近いのはわかってるけど一応送ってくわ」

「え、でもそんなに遠くないし、大丈夫じゃないかな」

「せやせや、それにうちらを襲うやつなんておらんやろ」

「いーんだよ、俺が気になっちまうってだけなんだから」

 

 

 玄関に向かおうとする茜と葵を引き留めて、竜は手早く上着を着る。

 竜の言葉に2人は心配しすぎではないかと思ったが、悪い気もしなかったのでそのまま一緒に家を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第9話

 

 

 

 

 やや暗くなった道を3人と1匹は歩く。

 その歩調は普段のそれと比べると明らかに遅いもので、普段であればもう茜と葵の住んでいるアパートに着いているはずだった。

 

 

「そういえば普通にみゅかりさんもつれてきちゃったけど、みゅかりさんってどこに住んでいるんだ?」

 

 

 ピョコピョコと跳び跳ねながら移動するみゅかりさんを見て竜はふと気になったことを呟いた。

 ふとしたときに遊びに来て満足したらどこかに帰っていく。

 竜からしたらみゅかりさんにはそんなイメージが着いていた。

 自分を見る視線に気づいたのか、みゅかりさんは移動を止め、コテンと首をかしげながら竜のことを見た。

 

 

「それなら心配せんでも大丈夫や」

「みゅかりさんはボクたちと同じで“清花荘”に住んでるんだよ」

「だからみゅかりさんについて詳しかったんだな」

 

 

 竜の呟きに茜と葵は笑いながら答える。

 2人がみゅかりさんについて詳しかった理由がわかったことに竜は納得して頷いた。

 

 

「あ、それならみゅかりさんの飼い主にも話をしておいた方がいいか。一応、家に来てることもあるかもしれないし」

「あ・・・・・・え、えっと別に話とかはしなくても大丈夫やと思うで!」

「うんうん!それに飼い主の人もそんなに神経質な人じゃないし!」

「そ、そうか・・・・・・?まぁ、偶然会ったりしたらそのときでいいか・・・・・・」

「みゅ~?」

 

 

 みゅかりさんの飼い主がいるのならば話をしておいた方がいいのではないか。

 

 そう思った竜の言葉に茜と葵は慌てた様子で竜を引き留める。

 2人の慌てように竜は驚き、疑問に思いつつ話をすることを保留することに決めた。

 そんな話をしていると壁が緑色のアパートに着いた。

 このアパートが茜と葵、みゅかりさんの住むアパート、“清花荘”だ。

 

 

「ほな、見送りありがとなー」

「竜くんも気を付けて帰ってね」

「おう」

 

 

 “清花荘”の前で茜と葵は竜に手を振る。

 茜は大きくブンブンと、葵は体の前で控えめに小さく。

 2人の性格の出ている手の振り方に竜は思わず笑ってしまった。

 

 

「みゅ!」

「ん、みゅかりさんもまたな」

 

 

 足元で前足をあげるみゅかりさんに竜はしゃがみこんで応える。

 嬉しそうなみゅかりさんの様子に竜も自然と嬉しくなっていた。

 

 

「みゅい」

「うん?くれるのか?」

「みゅ!」

「なぁッ?!」

「みゅかりさん?!」

 

 

 

 竜が立ち上がって帰ろうとすると、不意にみゅかりさんが鳴き声をあげて竜を止めた。

 不思議に思ってみゅかりさんを見ると、みゅかりさんは前足に着けているアクセサリーのようなものを取り外して竜に差し出してきた。

 どうやら竜に貰って欲しいらしく、確認する竜の言葉に頷いて答えた。

 みゅかりさんがアクセサリーを外して渡したことが意外だったのか茜と葵の2人は驚いて声をあげる。

 

 

「んじゃ、またなー」

 

 

 みゅかりさんから渡されたアクセサリーを手に持ちながら竜は自分の家へと帰っていった。

 そんな竜の後ろ姿を茜と葵は驚いた表情のまま見つめていた。

 

 

「みゅっみゅっみゅ~」

「ちょい待ちい」

「いったい何を考えてるの」

 

 

 上機嫌で“清花荘”の中へと入ろうとするみゅかりさんを茜と葵は捕まえる。

 その声は先ほどまでの竜と話していたときとは違っており、どこか鋭さも感じられた。

 

 

「あんたはうちらの思いを知っとるはずやで」

「さっきのはつまりは宣戦布告ってことでいいのかな。ねぇ────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ────ゆかり(●●●)さん。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第10話

 

 

 

 

 みゅかりさんから貰ったアクセサリーを手で弄りながら竜は考える。

 といってもそんなに重いことを考えているわけではない。

 

 

「これ、どこに着けるかな・・・・・・」

 

 

 竜はみゅかりさんから貰ったアクセサリーをどこにつけるか悩んでいた。

 アクセサリーと言うことで手首に着けるのが無難かもしれないが、手首に着けているとどこかにぶつけたりしてしまいそうで怖く、かといってバッグなどに着けるのも不安がある。

 残った着け方としてはチェーンを通してネックレスのようにすることだが、それをするにしてはアクセサリーのサイズが大きかった。

 

 

「とりあえず手首に着けてみるかな」

 

 

 どこに着けるにしてもどんな風になるのかを確認しておかないといけない。

 そう考えた竜はアクセサリーを手首に着ける。

 アクセサリーは特に引っ掛かるようなこともなく手を通すことができ、意外なことに邪魔になるような感覚もなかった。

 これならば仮に普段から着けていたとしても特に問題はないのかもしれない。

 

 

「ん・・・・・・?」

 

 

 アクセサリーを着けた感覚がどんなものか分かって外そうとしたとき、竜は首をかしげながらアクセサリーを見た。

 着けるときにはなんの抵抗もなかったはずなのにいくら外そうとしてもアクセサリー外れないのだ。

 

 

「・・・・・・ふんっ!ぐぎぎぎぎぎ・・・・・・」

 

 

 アクセサリーが壊れたりしないように気を付けつつ、竜はアクセサリーを外そうとする。

 しかしアクセサリーはピクリとも動かず、どうやっても外すことができない。

 竜は外そうとするのを止めて改めてアクセサリーを見た。

 

 

「・・・・・・どうなっているんだ?」

 

 

 見ることのできるあらゆる方向からアクセサリーを見ながら竜は呟く。

 どこからどう見てもアクセサリーに変わったところはなく、外れない理由が分からなかった。

 仕方なく竜はアクセサリーを外すことを一旦諦めるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 アクセサリーを外すことができなくなった翌日。

 外すことを諦めた竜はアクセサリーを着けたまま学校に来ていた。

 

 

「寝て起きたら外れてないかと期待したけどダメだったかぁ・・・・・・」

 

 

 外れる様子のないアクセサリーを見ながら竜は小さくため息を吐く。

 一抹の希望を込めて外すことを諦めて寝たのだが、アクセサリーは外れることなく手首に着いたままだった。

 

 

「ゆかりん、おはよー!」

「ああ、マキさん。おはようございます」

 

 

 教室の扉が開いて1人の女子生徒────弦巻マキが入ってきた。

 マキは自分の机に荷物を置くと、友達である女子生徒────結月ゆかりのもとへと小走りに向かって挨拶をする。

 マキの挨拶に応えるゆかりを見て、竜はゆかりの姿がいつもと違うことに気がついた。

 

 

「あれ?ゆかりん、今日は髪を纏めてる輪っか1つしか着けてないの?」

「ええ、ちょっとした気分転換ですよ」

 

 

 いつもであればゆかりは髪の毛を2つのリングで左右それぞれに纏めている。

 しかし、今日の髪型は左右の髪を後ろにまとめて1つのリングで纏めていたのだ。

 

 

「・・・・・・ん?」

 

 

 聞こえてきたマキとゆかりの会話に竜はちらりとゆかりを見る。

 そこで竜は自分の手首に着いているアクセサリーとゆかりが髪を纏めているリングが似ていることに気づいた。

 

 

「偶然か・・・・・・?」

「なにが偶然なん?」

「うぉ?!」

 

 

 アクセサリーを見ながら考えていると声をかけられ、顔を上げると目の前に茜の姿があった。 

 いきなりのことに竜は驚き、思わず仰け反ってしまう。

 驚いて仰け反る竜の姿に茜はケラケラと笑い、茜のすぐ近くにいた葵も小さく笑っていた。

 

 

「にゃははは、すごい驚きようやな」

「ふふふ、ちょっとボクも驚いちゃったよ」

「お、お前らか・・・・・・」

 

 

 目の前にいたのが茜と葵だと気づいた竜は誤魔化すように頭を掻きながら姿勢を元に戻すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第11話

 

 

 

 

 驚いて仰け反った姿勢から戻った竜は改めて茜と葵を見る。

 

 

「おはようさん!ええ、朝やな!」

 

 

 元気いっぱいといった様子で茜はやや大きな声で挨拶をする。

 その声は近くにいた竜にとってはうるさいと感じられるレベルのもので、教室内にいた他のクラスメイトも何事かと茜の方に視線を向けた。

 とはいっても大きな声を出したのが茜だとわかるとすぐにクラスメイトたちは思い思いに「おはよう」と朝の挨拶を返していた。

 これは明るくて社交的な茜だからこそできることなのだろう。

 

 ちなみに茜の近くにいた葵も当然ながらクラスメイトからの視線を受けるので恥ずかしそうにしていた。

 

 

「えっと、おはよう。腕を見てたみたいだけど何かあったの?」

「おう、おはよう。まぁな」

 

 

 茜が他のクラスメイトたちに挨拶をしている間に葵は小さく竜に挨拶をしながら尋ねる。

 葵の言葉に竜は挨拶を返してから隠すことでもないと思って手首に着いているアクセサリーを見せた。

 竜の手首に着いているアクセサリーを見て葵は驚いた表情を浮かべる。

 

 

「えっと・・・・・・、これ、どうしたの・・・・・・?」

「いや、昨日みゅかりさんにこれを貰っただろ?それを試しで手首に着けてみたら外れなくなってな」

「・・・・・・なんやて?」

 

 

 竜の手首に着いているアクセサリーを指差しながら葵はやや震える声で竜に尋ねる。

 葵の言葉が震えていることに気づかぬまま、竜は困った様子で苦笑しながら答えた。

 クラスメイトたちへの挨拶を終えた茜も竜の手首に着いているアクセサリーに気づいてやや固い声を出した。

 

 

「お、挨拶(いつもの)は終わったか。おはよう」

「おー、おはようさん。・・・・・・やのうて!外れなくなった?!」

 

 

 茜のクラスメイトへの挨拶が終わったことに気づいた竜は改めて茜に挨拶をする。

 竜の挨拶に茜は普通に答えたが、すぐに机に手を着いて竜の方へと身を乗り出しながら叫んだ。

 なお、茜が叫ぶのはクラス内ではいつも通りのこととして認識されているのでそこまで気にしているクラスメイトはいなかった。

 

 

「まぁな、どんだけ引っ張っても全然抜けないんだよ。と言ってもそこまで邪魔にはならないからまだ良いんだけどな」

「な、なんてこっちゃ・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に茜は驚いた表情のままヨロリと数歩ほど下がった。

 そんな茜の隣では葵がジッと竜の手首のアクセサリーを見ていた。

 

 

「それって昨日みゅかりさんから貰ったやつだったよね」

「ん、おう2人も見てただろ?」

「ならみゅかりさんと同じようにすれば外せるんじゃないかな」

「なるほど、一理あるな」

 

 

 葵の考察に竜は頷き、昨日のみゅかりさんがアクセサリーを外しているときを思い返した。

 今さらではあるがアクセサリーの見た目は真ん中に紫色のラインがあってそれを挟むように2つのリングが取り付けられている。

 

 

「たしか・・・・・・、リングの片側を回してたような・・・・・・」

 

 

 そう呟きながらアクセサリーを弄ると、カチリという音とともに手首からアクセサリーを外すことができた。

 アクセサリーが外せた瞬間、茜と葵は嬉しそうにハイタッチをし、竜もホッとしたような表情を浮かべた。

 

 

「一生外せないかと焦ったけど、良かったぁ・・・・・・」

「最終手段では手首を落とすことも考えてたんやけど、無事に外れて良かったわぁ」

「片手がなくてもボクたちならお世話できたしね」

「おう、怖いから冗談でも止めてくれ」

 

 

 笑いながら言う茜と葵の言葉に竜は机にべしゃりと潰れながら言う。

 机に潰れていた竜は気づかなかった。

 

 

 2人の声は冗談のようでも潰れている竜を見る目には冗談の色がなかったことを・・・・・・

 

 

 そして、アクセサリーが外れたときに残念そうな表情を浮かべているクラスメイトがいたことを・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第12話

 

 

 

 

 アクセサリーを外すことのできた竜はしげしげとアクセサリーを見てから再び手首にアクセサリーを着ける。

 

 ▶️茜の視線が10強くなった!

 ▶️葵の視線が10鋭くなった!

 ▶️誰かの好感度が10上昇した!

 ▶️どこかから誰かの嬉しそうな声が聞こえたような気がした・・・・・・

 

 

「なんで外れたのにまた着けとるんや」

「せっかく外れたんだから外しておけばいいのに」

「いや、外し方は分かったし着けておいた方が失くしたりしなくて安全かな、と」

 

 

 茜と葵の2人の視線が鋭いことを疑問に思いながら竜はアクセサリーを再び手首に着けた理由を話す。

 竜の言葉に2人は納得はしないでも理解はしたのかそれ以上の追求はしなかった。

 

 

「っと、そうや忘れるとこやったわ。新しい遊☆戯☆王のパックが今日発売やろ?」

「そういや言ってたな。でも予約してないと買えないんじゃないか?」

「ちっちっち、うちがそんな初歩的なことを忘れてると思ってるんか?」

 

 

 アクセサリーのことで忘れかけていたが、茜はもともと話そうと思っていた内容を思い出して言う。

 茜の言葉に竜は気になったことを尋ねた。

 竜の疑問は最もなことで、遊☆戯☆王の最新パックはほとんどが発売日には売り切れているのだ。

 竜の言葉に茜は指を振りながら自慢げに言う。

 そんな茜の姿に竜と葵は顔を見合わせた。

 

 

「わりと宿題とかを忘れてるよね?」

「休み時間にヒーヒー言いながらやってるのをよく見るよな」

「せやねー、今日も1個だけやり忘れてるんよ。・・・・・・って、それはどうでもいいんや!」

「「いや、良くないでしょ(だろ)」」

 

 

 竜と葵の言葉に茜はやっていない宿題を取り出してノリツッコミをする。

 とは言っても宿題をやっていないのは事実なので、このあと宿題を提出する3時間目の授業に間に合わせるために必死にやることは確実だった。

 

 

「ぐぬぬ・・・・・・、まぁええわ。とにかく、最新パックをうちは予約しといたんや!」

 

 

 葵と竜の言葉は正論なので茜は悔しげに唸り、むりやり話題を元に戻した。

 茜が正論に負けてむりやり話題を変えるのはそれほど珍しくはないので竜と葵は少しだけ苦笑しながら話題を変えたことに対してなにも言わなかった。

 

 

「おー、なら放課後に買いに行くのか?」

「せやで。竜の分もいちおう予約してあるんやけど・・・・・・その、一緒に買いに行かへん?」

 

 

 先ほどまでの勢いはどこへやら。

 茜はもじもじと人差し指を合わせながら竜に尋ねる。

 パックの予約をしたのは完全に茜の独断であり、竜自身は断ることもできる。

 茜の言葉に竜は少しだけ考えるように黙った。

 

 

「そうだな。新しいカードも気になるし、茜が予約してくれたんだしな」

「ボクは今日は日直だからちょっと遅くなっちゃうし。2人で行ってきてね」

 

 

 パックを買うのは安い出費では無いが、それでも茜が自分のために予約をしてくれたもの。

 それを断る理由が竜にはなかった。

 

 そんな2人の会話に葵は少しだけ寂しそうにしながら言った。

 このクラスでは日直は男子と女子それぞれの名前の順で日毎に変わる。

 そしてそれが今日はちょうど葵の日だったのだ。

 

 

「むー・・・・・・、葵を置いていくんはちょっとなぁ・・・・・・」

「大丈夫だよ。それに明日はお姉ちゃんが日直でしょ?それと・・・・・・放課後デート頑張って」

「せ、せやね。すまんな、葵。お詫びに帰りにチョコミントアイス買ってくことにするわ」

「えへへ、お願いね」

 

 

 心配そうにする茜に葵は竜に聞こえないように小さな声で最後に付け加えた。

 葵の言葉に茜は意識をしてしまったのか顔を少しだけ赤くする。

 そして一緒に買い物に行けない葵のためにチョコミントアイスを買うと約束するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第13話

 

 

 

 

 とくに何事もなく時間は進み、午前の授業がすべて終わってお昼休みになる。

 クラスメイトたちは仲の良いグループで集まって話しながら昼食を食べたり、学食に行って食事をしたり、購買に向かうために2階から1階に向かって廊下を跳んだりと、思い思いの場所で過ごしていた。

 

 そして竜もまた昼食として買ってきておいたパンを取り出した。

 そんな竜のもとに1人の女子生徒が近づいていった。

 

 

「こんにちは、公住くん」

「ん、結月(ゆづき)?」

 

 

 声をかけられ、竜は女子生徒────結月ゆかりを不思議そうに見る。

 竜とゆかりはクラスメイトではあるものの、今まで会話らしい会話をしたことはほとんどなかったため、竜はゆかりが話しかけてきたことを珍しく思ったのだ。

 

 また、それは他のクラスメイトたちも思ったことなのか、何人かのクラスメイトたちも物珍しそうに竜とゆかりのことを見ている。

 

 

「結月が話しかけてくるのは珍しいな。なにか用か?」

「そうですね、用と言えば用になります。公住くん、一緒にお昼を食べませんか?」

 

 

 ほとんど会話をしたことのないクラスメイトが話しかけてきたのだからよっぽどの用件なのかと思いながら、竜はゆかりにどんな用で話しかけてきたのか尋ねる。

 竜の言葉にゆかりは手に持っていたお弁当箱を見せながらイタズラっぽく笑って答えた。

 

 

「え?」

「ということでこちらに来てください」

 

 

 驚いて固まる竜の手を引き、ゆかりは竜を立たせる。

 突然のことに茜や葵、クラスメイトたちも1人を除いて言葉を発せずにいた。

 

 

「ゆかり~ん、早くごはん食べよ~!」

「はいはい、ちょっと待ってください」

 

 

 手を大きく振り、胸を大きく揺らしながらゆかりの友人────弦巻マキはゆかりを呼ぶ。

 揺れるマキの胸を見る男子生徒の目線は熱く、それに比例するように女子生徒の目線は冷たくなっていった。

 そんなマキのもとにゆかりは竜の手を引きながら向かう。

 

 

「お待たせしましたマキさん。ごはんにしましょうか」

「うんうん、腹が減ってはなんとやらだし食べよー」

「え、ちょ、えぇ・・・・・・」

 

 

 マキはゆかりが竜をつれてきたのを見つつ、嬉しそうにお弁当を広げ始めた。

 楽しそうにお弁当の用意を始める2人に竜は困惑したまま近くの椅子に座るのだった。

 

 

「むぐむぐ・・・・・・それでさ、ゆかりん。なんで急に竜くんをつれてきたの?あ、竜くんって呼ばせてもらうね。私のことはマキでいいよ」

「そうですね。親睦を深めるためとでも言っておきましょうか。私もゆかりでいいですよ」

「お、おう・・・・・・」

 

 

 マキはお弁当を口に運びながら気になったことをゆかりに尋ねる。

 マキの疑問に関しては竜を含めてクラスにいる全員が思っていたことなので、その瞬間クラスの音が少しだけ小さくなったような気がした。

 マキの質問にゆかりはにこりと竜に微笑みかけながら答えた。

 ゆかりの微笑みを受け、竜は少しだけ赤くなった顔を逸らしつつパンを口に運ぶ。

 

 

「そういえば竜くんはお昼はパンだけなの?」

「まぁな。弁当を作るのはめんどくさくてな」

 

 

 ふと、マキは竜の食べているパンを見ながら尋ねる。

 マキの質問に竜は持っている食べかけのパンをフリフリと振りながら答えた。

 

 

「でも栄養バランスとか悪くない?」

「それはわかってはいるんだけどな・・・・・・」

 

 

 つれてこられた時の困惑はどこにいったのか、いつのまにか竜はマキと普通に会話をしていた。

 これはマキの持っている接しやすい雰囲気のお陰だと思われる。

 似たような雰囲気を持っているのは竜の友人では茜が挙げられるだろう。

 

 

「それなら私のおかずを分けてあげるよ。少しでも栄養をとらないとね」

「なら私も分けてあげますね」

「それはありがたいんだが、食べさせようとしないでいいんだからな・・・・・・」

 

 

 自分のお弁当のおかずを箸で摘まんで差し出してくるマキとゆかりに竜は手で制しながら答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第14話

 

 

 

 

 マキとゆかりの差し出してくるお弁当のおかずを食べ終わったパンの袋の上に置いてもらい、竜は小さく息を吐く。

 竜の指摘によって自分が何をしようとしていたのかを理解したマキの顔は赤くなっていた。

 ちなみにゆかりの方も表情になにも変化が見られないように見えて、耳がうっすらと赤く染まっている。

 

 

「えっと、次からは気をつけろよ?人によっては勘違いするやつとかもいるだろうから」

「う、うん。ごめんね」

「そうですね。次からは気をつけます」

 

 

 頬を掻きながら竜はマキとゆかりに気をつけるように言う。

 

 2人のような美少女に箸でおかずを差し出されるのは男の夢の1つに含まれそうなシチュエーションなため、大半の男子生徒が勘違いすること間違いなしだろう。

 その証拠に竜に対して嫉妬の込められたクラスメイトたちの視線が集中している。

 

 竜の言葉にマキは恥ずかしそうにしながら謝り、ゆかりは平静さを装いながら答えた。

 

 

「ん、この卵焼き美味しいな」

「ほんと?。その卵焼きは私の自信作なんだよ!」

 

 

 貰ったおかずの1つ、マキから貰った卵焼きを口に運んで竜は思わずといった様子で感想を口にした。

 竜の言葉にマキは嬉しそうにガッツポーズをとる。

 そして胸が揺れてゆかりのSAN値が減少する。

 

 たかが卵焼きと思われるかもしれないが、卵焼きこそが料理人の腕を見極めるポイントと言っても過言ではない。

 味付けの濃い薄いに甘いしょっぱい、調味料の量を間違えれば一気にその味はバランスを崩す。

 次に焼き加減、これは固めが好きな人や、内側が半熟に近いものが好みの人などがいるので一概にどれが正しいとは言えないが、それでも焼き加減によって見た目や食感は決定させられるのだ。

 

 マキの作った卵焼きはほんのりと甘さを感じられるものの卵本来の味を殺さずに見事に調和がとれており、ほどよい固さで見た目もとてもキレイな卵焼きだった。

 

 

「マキさんの作る料理はとても美味しいですからね」

「えへへ、照れるね」

 

 

 自分のことでもないのに自慢げにゆかりは(ない)胸を張る。

 ゆかりの褒め言葉にマキは照れながら頭を掻いた。

 

 

「んで、ゆかりの方は・・・・・・、うん。主婦の味方の味って感じ?」

「料理は苦手なんです・・・・・・」

 

 

 ゆかりから貰ったおかずを口に運んで竜はなんとも言えないような表情で言う。

 竜の言葉にゆかりは顔をそらしながら答えた。

 マキは2人の様子からゆかりの出したおかずが冷凍食品のものだったのだと理解し、苦笑を浮かべる。

 

 

「あはは・・・・・・、ゆかりん、ちょっと前まではご飯も炊けなか────むぐっ?!」

「ちょ、マキさん、それは言わない約束でしょう?!」

 

 

 唐突なマキの暴露にゆかりは慌ててマキの口を塞ぐ。

 とはいえもうほとんど言ってしまっていたのであまり意味はなかったのだが。

 

 

「あ、ねぇねぇ。そういえば聞きたかったんだけどさ。竜くんが腕に着けてるのってゆかりんの髪を纏めてる輪っか?」

「うん?いや、俺のこれは最近仲良くなった動物に貰ったものだよ」

 

 

 自身の口からゆかりの手をどけてマキは竜に尋ねる。

 マキの言葉に竜は自身の腕に着いているアクセサリーと、ゆかりの髪を纏めている輪っかを見てから答えた。

 竜の答えにマキは不思議そうに首をかしげる。

 マキの知っている限りではその輪っかを着けているのはゆかりだけなので、他に着けている動物がいると言うことが気になったのだ。

 

 

「そうなの?」

「おう、俺も驚いたんだよ。っと、もうすぐ昼休みも終わるか。トイレ行ってくるわ。また機会があったらお昼に誘ってくれると嬉しいかな」

「ええ、次も是非」

 

 

 マキの言葉に頷き、竜は時計を確認して立ち上がり手を振りながら教室から出ていった。

 

 

「仲良くなった動物に貰ったもの、かぁ・・・・・・」

 

 

 教室から出ていった竜の姿を確認し、マキはなにかを察したような声音でゆかりを見る。

 そんなマキの視線にゆかりはそっと顔を逸らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第15話

 

 

 

 

 ニコニコと楽しげにマキはゆかりを見る。

 そんなマキの視線に耐えられなくなったのか、ゆかりは小さく咳払いをした。

 

 

「ん、んんっ・・・・・・。なんですか・・・・・・」

「んーん、別にー?」

 

 

 ゆかりの問いにマキは生暖かい視線を向けながら答える。

 

 

「そっかそっかー、気分転換で髪型を変えたんだっけかー」

「う・・・・・・」

 

 

 マキの言葉にゆかりは小さく呻く。

 それはゆかり自身が朝に髪型の話題でマキに言った答え。

 その言葉が誤魔化しであったことがバレたことをゆかりは理解した。

 

 

「あとは、なんだっけ。親睦を深めるため、だったっけ?」

「うぐぐ・・・・・・」

 

 

 さらにマキはお昼を食べる前に竜をつれてきた際にゆかりの言った言葉を呟く。

 完全に自身の思っていることがバレてしまっていることにゆかりは顔を赤くして呻くことしかできなかった。

 

 

「ゆかりんにもついに春が来たかー。私は応援するよ?」

「・・・・・・ありがとうございます」

 

 

 顔を赤くするゆかりに向かってにっこりと微笑みかけながらマキは言う。

 マキの言葉にゆかりは小さく答えた。

 そんな2人のもとに赤と青の双子、茜と葵が近づいてきた。

 2人の姿にマキは首をかしげ、ゆかりはわずかに目を細める。

 

 

「・・・・・・お2人ともなにか御用ですか?」

「それはあんたの方が分かってると思うんやけどな。ゆかりさん」

「昨日も聞いたけど本当だったんだね」

「え、なに?3人ともどうしたの?」

 

 

 バチリッ、と電流が走るような音がクラスの中に響いた気がする。

 どこか剣呑な3人の様子にマキはキョロキョロと3人を見る。

 そして他のクラスメイトたちは遠目に様子を伺っていた。

 

 

「まぁ、ええ。とりあえずゆかりさんがライバルなことはハッキリとしたんやし」

「ボクたちは負けるつもりはないからね」

「・・・・・・私だって負けるつもりはありません」

 

 

 3人の背後にそれぞれピンク色のスライムのような生き物、青い布のような生き物、紫色の1頭身の猫のような生き物が現れ威嚇をする。

 とは言っても実際に現れているわけではなく、あくまでもイメージと言うだけなのだが。

 

 

「・・・・・・えっと、とりあえず茜ちゃんと葵ちゃんはゆかりんのライバルってことで良いのかな?」

 

 

 話に置いてけぼりになってしまったマキは3人の会話から3人がどんな関係なのかを推測する。

 マキの言葉に3人は今いる場所が教室であり、自分たちの他にクラスメイトたちがいることを思い出して静かになった。

 とくに葵はクラスメイトたちから見られていることに気づいて茜の後ろに隠れてしまっている。

 

 

「3人に思われるなんて、竜くんはモテモテだねぇ」

 

 

 ライバルだとハッキリしてからは剣呑な空気もどこかにいき、3人は普通に会話を始めた。

 ライバルの関係ではあるものの、3人が仲良くなれそうなことにマキは嬉しくなり、3人の会話に混ざるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 トイレに向かうために教室から出ていった竜は、トイレに行ったついでにお菓子も買っておこうと購買に立ち寄っていた。

 

 

「とりあえずこれでいいか」

 

 

 お昼休みの残り時間も少なく、購買でお菓子を買い終えた竜は早足で教室に戻ろうとする。

 お昼休みがもうすぐ終わりそうなこともあり、竜は少し急ぎめに廊下を走りそうで走らない、ちょっとだけ走っているような速度で移動していた。

 そして、そんな焦っている状態で廊下を移動していれば当然────

 

 

「おわっ?!」

「きゃっ?!」

 

 

         ────曲がり角で誰かにぶつかってしまうのも仕方がないことだった。

 

 出会い頭にぶつかってしまった竜は、思わず相手が倒れてしまわないように咄嗟に手を掴んだ。

 しかしここで想定外なことが起こる。

 

 1つ、相手の体が思いのほか軽く、簡単に動いてしまったこと。

 1つ、竜は咄嗟の判断で手を掴んだため、思った以上に力が出てしまっていたこと。

 

 この2点により、倒れないように手を掴んだ相手を竜が抱き締める形となってしまっていた。

 

 

「え、え・・・・・・ッ?!」

「すまん!時間がないから!これはお詫びな!」

 

 

 いきなりの事態に混乱する女子生徒を尻目に、竜は先ほど購買で買ったお菓子の一部を渡して教室へと向かう。

 そんな竜の姿を見ながら、2ヶ所を長い三つ編みにした髪型の女子生徒はドキドキと高鳴る胸をお菓子を持った手で押さえるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第16話

 

 

 

 

 お昼休みも終わり、竜もギリギリに教室に着いて午後の授業も無事に間に合うことができた。

 そのあとはとくに何事もなく・・・・・・いや、美術の授業の際に美術の教師の「それでは写生大会を始めます」の言葉に対して茜が「学校の中でなんちゅうことをするんや?!」と叫んでしまったことがあったが、他には何事もなく授業は進んだ。

 ちなみに茜の言葉を理解した生徒は苦笑いをし、よく分からなかった生徒は首をかしげ、美術の教師は茜の頭を思いきり叩き抜いた。

 

 そして時刻は流れて放課後。

 竜と茜は昇降口にいた。

 

 すでに葵は日直の仕事を始めており、教室で仕事をしている。

 

 

「それじゃあ、早速向かうで!」

「おう」

 

 

 靴を履き替え、茜は元気に腕をあげる。

 そんな茜の姿に竜も小さく腕をあげて応えた。

 

 

「それにしてもお前、美術の授業でのアレはなぁ・・・・・・」

「ううぅ、もう言わんといてや・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に茜は顔を赤くし、両手で顔を覆う。

 すでに竜以外にも葵やゆかり、マキに他のクラスメイトにまで弄られており、茜の羞恥心はかなり刺激されていた。

 どうしてこうなったのかと言えば茜の完全な自爆であり、仮に勘違いしたにしても口に出さなければ良かっただけの話なのだが。

 

 

「ま、しばらくは弄られるだろうから諦めな」

「せやねー・・・・・・」

 

 

 ガックリと肩を落としながら茜は竜の言葉に頷く。

 人の噂も七十五日。

 しばらくすればなくなるだろうがそれまでは諦めて耐えるしかないだろう。

 

 

「つっても本当に嫌なときは嫌って言えよ?なんだかんだでお前は溜め込むんだから」

「ん、そんときは頼らせてもらうわ。・・・・・・あんがとな」

 

 

 そこそこに長い付き合いから茜が溜め込んでしまう性格なことを分かっている竜は軽く肩を叩いて言う。

 竜の言葉に茜は小さくお礼を言った。

 

 そして2人は茜がカードを予約した店に到着した。

 店ではなにかイベントでもやっているのか、人だかりができている。

 

 

「なんやろ?今日はイベントがあるとかは聞いとらんのやけど」

「一応見とくか」

 

 

 興味の惹かれた竜と茜は人だかりの方へと向かっていった。

 

 人だかりの隙間から覗きこんでみるとどうやら誰かが遊☆戯☆王でデュエルをしているらしい。

 しかも近くにあるカメラなどから察するに動画の生放送をしているようだ。

 

 

「ふふん。これでトドメです!私は“プランキッズ・ロケット”でダイレクトアタック!」

「ぬわー!」

 

 

 どうやらちょうど勝負がついたらしく、頭に包丁のような髪飾りを着けた少女の宣言と同時にモンスターが攻撃をして対戦相手を吹き飛ばした。

 それと同時に対戦相手のライフポイントはゼロになり、少女の後ろにある画面に数字が現れ、7から8に数字が変化した。

 

 

「ふっふっふ、レベルに差がありすぎましたね」

 

 

 広げていたカードを片付けながら少女は自慢げに笑う。

 笑う少女の姿に竜と茜は少女が誰なのかを理解した。

 

 

「きりたんやないか。今日は遊☆戯☆王の配信をしとるんやね」

「みたいだな。ということは最後の最後でまた誰かに泣かされるんだろうな」

 

 

 生配信をしている少女の正体が分かった竜と茜はこのあとに何が起きるのかの予想をしながら見学することに決めたようだ。

 

 

「ふふふ、私の10連勝企画の次の犠牲者は誰になってもらいましょうかね」

 

 

 そう言って頭に包丁のような髪飾りを着けた少女────東北きりたんは周囲を見回す。

 しばらく周囲を見回していたきりたんは、やがて1人の客を真っ直ぐに見つめて指差した。

 

 

「次の私の対戦相手は・・・・・・、そこのあなたに決めました!」

「な、う、うちか?!」

 

 

 きりたんに指差された客、茜は自身が選ばれるとは思っていなかったため動揺しながらきりたんの前に移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第17話

 

 

 

 

 きりたんに対戦相手として選ばれた茜はきりたんの対面に移動する。

 2人の後ろには大きめのスクリーンがあり、そこに召喚されたモンスターや魔法、罠のカードなどが表示される仕組みだ。

 

 

「ふっふっふ、私の10連勝企画の次の犠牲者の登場ですね。さぁ、あなたも私の視聴率の糧となるのです!」

「いきなりのことで、よー分からんけど。負けるつもりはないで!」

「「デュエル!」」

 

 

 お互いにデッキをシャッフルし、目の前のテーブルにセットする。

 不適に笑うきりたんに茜はやや困惑しつつも、強気に言い返した。

 

 そして2人のデュエルが始まる。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

       ~少女達決闘中~

 

       

 

       ~少女達決闘中~

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 茜ときりたんのデュエルが始まってから13分30秒が経過した。

 この経過した時間を聞いて汚いと感じた人間が何人か観客の中にいたらしく、発狂染みた声をあげているが、とくに誰も気にした様子もない。

 日常風景、というよりは誰もかかわり合いたくないのだろう。

 

 

「なかなかに手強かったですが、これで終わりです!“プランキッズ・ロアゴン”で“クイーンマドルチェ・ティアラミス”を攻撃です!」

「うちの女王さまがーー!!」

 

 

 青いドラゴンの攻撃によって茜の場にいたお菓子の国の女王が破壊される。

 そしてその攻撃の余波によって茜のライフはゼロになった。

 

 

「ふふふ、これで私の9連勝です。さぁ、最後の締めは誰にしましょうか・・・・・・」

「う~・・・・・・、うちの女王さまが~・・・・・・」

「まぁ、けっこう追い詰めることはできたんだからいいんじゃないか?」

 

 

 お気に入りのモンスターを破壊されたことがショックだったのか、茜は落ち込んだ様子で竜のもとに歩いていった。

 戻ってきた茜を慰めるように竜は声をかける。

 竜の言葉に茜はガバリと顔をあげると、竜の背中をぐいぐいと押し始めた。

 

 

「雪辱戦や!仇討ちや!うちの仇をとってくれや!」

「え、ちょ・・・・・・、対戦相手はあっちが選ぶんだから・・・・・・」

「別に私は構いませんよ。それに彼女さんが倒されて彼氏さんも悔しいでしょうし」

「「彼女じゃ(彼氏や)ない!」」

 

 

 茜の声が聞こえていたきりたんは強者の余裕とでも言いたげな雰囲気を放ちながら言う。

 きりたんの言葉に竜と茜は顔を赤くしながら叫んだ。

 きりたんの許可が出たので、竜は顔が赤いままきりたんの対面に移動した。

 

 

「彼女さんの敗北をなくすことができますかね?」

「だから、もういい、・・・・・・潰す」

 

 

 ニヤニヤとお手本のようなクソガキスマイルに竜は言おうとした言葉を止めて小さく呟いた。

 そしてお互いにデッキをシャッフルし、デュエルが始まり────

 

 

「ガンドラXの効果ダメージで終わりだ。デストロイ・ギガ・レイズ!」

「そ、そんな・・・・・・」

 

 

         ────先攻1ターン目で終わりを迎えた。

 

 

 破壊し尽くされたフィールドと、1体だけ存在する黒いドラゴンの咆哮だけが響き渡っていた。

 まさかの終わりに周囲で見ていた客たちも思わず言葉を失っている。

 

 

「よし、行くか」

「いや、うちがけしかけといてアレやけど・・・・・・。先攻ワンキルするか・・・・・・?」

「・・・・・・めません。・・・・・・認めませんよ、私は!」

 

 

 デッキを片付けてカードを買うために移動しようとすると、下を向いていたきりたんが勢いよく顔をあげてテーブルを強く叩いた。

 どうやら先ほどのデュエルに言いたいことがあるらしい。

 

 

「さっきのデュエルは無効です!」

「まぁ、なんもできひんかったもんなぁ・・・・・・」

 

 

 きりたんの言葉に茜は同情しつつ竜を見る。

 さすがにあのようなデュエルでは可哀想ではないか、そんな茜の心の声が聞こえてきそうな視線に竜は仕方なく違うデッキを取り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




竜の使用したワンキルデッキに関しまして1つ。
このデッキに関してのみ禁止制限は少し前のものを適用しております。
どのように展開したのかが気になる方が多ければ番外編として投稿しておこうと思います。


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第18話

 

 

 

 

 竜ときりたん、お互いにデッキからカードを引き、モンスターを操って戦っていく。

 先ほど起きた悲劇(ワンキル)はなんだったのかと思うほどのデュエルに客達も興奮気味に見ていた。

 

 

「普通に戦えるのになんでワンキルデッキなんて使ったんですか!」

「お前が人の話を聞かないでしつこく彼女彼女と弄ってきたからだよ!」

 

 

 怒った口調のきりたんはモンスターで攻撃しながら先ほどのワンキルを批難する。

 きりたんの言葉に竜はワンキルした理由を答えながらモンスターの攻撃を罠カードで防いだ。

 そしてきりたんはターンを終わらせる。

 

 

「イングナルの素材を使って効果!場のカードをすべて手札に戻す!そしてイングナルをリリースしてスノードロップを特殊召喚!さらにスノードロップの効果で手札のヘレボラスを特殊召喚!」

「くっ・・・・・・、イングナルの効果に対して私はなにも発動することができません・・・・・・」

 

 

 竜ときりたんの場のカードが1枚を残して全て消え、1体のモンスターが残る。

 きりたんは残ったそのモンスターの効果に悔しそうに言った。

 そして残っていたモンスターが消え、傘を持った白い服装の女性と、同じく傘を持った紫色の服装の女性が現れた。

 

 

「しかも手札は効果で戻したカードだけ!竜の勝ちや!」

「スノードロップとヘレボラスで攻撃!雪恋六花(せつれんりっか)双天(そうてん)!」

「うわあぁあああ!!」

 

 

 フラグ染みたセリフを茜が言うも、特に逆転などはなく。

 それぞれの女性の攻撃力の合計はきりたんの残っているライフを越えており、あっさりときりたんのライフを消し飛ばした。

 

 

「くっ、私を倒したからといっていい気にならないでください。いずれは第2、第3の私が現れてあなたのことを・・・・・・」

「いや、お前はどこの世界の大魔王だ」

 

 

 決着がついて悔しそうにしながら言うきりたんの言葉に竜はツッコミを入れる。

 デュエルも終わり、竜は茜と合流する。

 

 

「さて、と・・・・・・。デュエルも終わったし、さっさとカードを買うか」

「せやねー」

 

 

 竜の言葉に茜は頷き、店内のレジへと向かった。

 レジに着いた茜は予約の紙を店員に差し出し、遊☆戯☆王のカードパックを出してもらう。

 そして竜と茜はお金を払ってカードパックを買うのだった。

 

 

「そ、それにしてもカップルに間違われるとは思わへんかったな?」

「そうだな。きりたんの奴にも困ったもんだ」

 

 

 カードを買い終えた帰り道、茜はやや照れた様子で呟く。

 茜の言葉に竜は同意するように頷く。

 

 

「まぁ、あのくらいの年の奴は男と女で一緒にいたら何でもかんでもカップルだなんだと言うから仕方がないのかもな」

「・・・・・・それもそうやね」

 

 

 欲しかった竜の反応とは違ったのか、茜はやや不服そうに答える。

 そんな茜の様子に気づいた様子もなく、竜は普通に歩いていた。

 

 

「別に・・・・・・、うちは本当にそうなっても良かったんやけどね・・・・・・」

「え・・・・・・?」

 

 

 竜の隣を歩く茜はポツリと言葉をこぼす。

 その言葉は少女マンガのように竜の耳に届かない、などと言うことはなく。

 しっかりと竜の耳に届いていた。

 茜の言葉に竜は驚いて茜を見る。

 

 

「うちは、きりたんが言ってた関係に本当になってもええんよ?」

「な、え・・・・・・、あ、茜?!」

 

 

 驚いて自身を見る竜に、茜はジッと目を真っ直ぐに見つめ返しながら言う。

 見つめられながら言われた言葉に竜は混乱し、上手く言葉を返すことができなかった。

 

 

「・・・・・・・・・・・・ぷっ。な~んて、冗談や。どや?ドキッとしたやろ?」

「は・・・・・・?」

 

 

 しばらく2人が見つめ合っていると、茜が思わずといった風に吹き出して言った。

 茜の言葉に竜はポカンと呆けた顔を浮かべる。

 そんな竜の顔を見て茜はさらに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第19話

 

 

 

 

 茜の言葉に呆けていた竜は、自身を見て笑う茜を見てようやく自身がからかわれたのだということを理解した。

 笑う茜をジトッとした目で竜は睨む。

 

 

「すまんすまん、だからそんな顔で見んといてや」

「ったく、本気になったらどうするんだっての・・・・・・」

「む~っ、そんなつもりもないくせに言わんでよ」

 

 

 謝る茜に竜はため息を吐きながら答えた。

 そんな竜の姿を見ながら茜は小さく呟く。

 プンスコと擬音が聞こえてきそうな表情の茜を見ながら、竜はドキドキと少しだけ強くなる胸を誤魔化すのだった。

 

 

「おっと、そうや。葵にチョコミントアイスを買ってかな」

「そういえば言ってたな。俺も晩御飯の材料とかを見とかないと」

 

 

 ふと、茜は思い出したように手を叩く。

 日直で別行動になる葵のためにチョコミントアイスを買って帰ることを約束していたのだが、店での出来事や先ほどの竜とのやり取りでうっかり忘れかけていたのだ。

 茜の言葉に竜も自身の家の冷蔵庫の中身を思い出しながら呟く。

 

 

「めんどいから麺類かな」

「んー、なんやったらうちで食べてったらどうや?葵も喜ぶと思うし」

 

 

 晩御飯のメニューを面倒と言う理由から麺類にしようとしている竜に茜は名案を思い付いたとばかりに目を輝かせる。

 

 

「いや、さすがに迷惑だろ。それに食費とかも余分にかかっちまうし」

「別に作る分には2人も3人もそんな変わらんて。と言うわけで決定や」

「おいおい・・・・・・」

 

 

 困惑する竜を尻目に、茜はスーパーへと向かっていった。

 ずんずんと進んでいく茜の姿に、竜はため息を吐いて後を追った。

 

 

「今日の安売りは・・・・・・、お肉が安いみたいやね」

 

 

 茜はスーパーに着くと、入り口に貼り付けられている広告を確認して買うものをピックアップしていく。

 茜と同じように竜も広告を確認して買うものを確認する。

 

 

「ほな買いに行こかー」

「おう」

 

 

 広告の確認を終え、茜は買い物かごを持ってスーパーの中へと入っていった。

 茜の言葉に竜も買い物かごを手に持ちながら応えた。

 

 

「そういえば、茜と葵ってどっちが家事をやってるんだ?」

「あれ?言っとらんかったっけ?」

 

 

 食材をかごに入れながら竜は気になったことを茜に尋ねる。

 竜の言葉に茜はキョトンとしながら聞き返した。

 

 

「基本的に家事で料理はうちがやっとるで。代わりに掃除なんかは葵にやってもらっとるけどな」

「へぇ、と言うか茜が料理してたのか。ちょっと意外だ」

 

 

 茜の言葉に竜は意外そうに茜を見る。

 正直なところ、竜は茜を飯マズ系女子だと勝手に思っていたので本当に意外だったのだ。

 そんな竜の心情を察したのか、茜はムッと頬を膨らませる。

 

 

「これは、うちにどんなイメージがあったのか詳しく聞く必要がありそうやな」

「おぉっと、俺はちょっと自分の方で買うものがあるから別行動かなー。ハッハッハ・・・・・・、さらば!」

「逃がすかぁ!」

 

 

 圧の込められた茜の言葉に竜はすばらしいほどの棒読みを白々しく言いながら逃げ出す。

 そんな竜を茜は全速力で追いかけ始めた。

 

 並んでいる商品の隙間を縫うように走り、所々にいる買い物客にぶつからないように2人はスーパーの中を走る。

 なにかにぶつかっては後方から追ってくる茜に捕まり。

 なにかにぶつかっては前方の追いかける竜に逃げられる。

 互いにミスを許されないデッドヒート。

 

 そして、その決着は────

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人とも高校生なんだからちゃんとしようね・・・・・・?」

「「は~い・・・・・・」」

 

 

 

       ────タカハシというネームプレートを着けた店員に捕まるという結末で終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第20話

 

 

 

 

 やや落ち込んだ雰囲気を発しながら竜と茜は買い物を再開する。

 とはいえ、落ち込む原因になったのは2人がスーパーの中を走り回るという高校生にあるまじき行動をしたことによる説教なのだが。

 

 

「この年で怒られるなんて・・・・・・」

「そうだな・・・・・・」

 

 

 落ち込みながらも2人は買い物かごに買うものをしっかりと入れていく。

 

 

「とりあえずはこれくらいで大丈夫やろ」

「こんなもんで足りるのか?そんなに入れてないみたいだけど」

 

 

 茜の言葉に竜は買い物かごの中を見て尋ねる。

 買い物かごには食材が半分にも届かない程度の量しか入っておらず、それだけで大丈夫なのか気になったのだ。

 竜の言葉に茜はニッと笑みを浮かべる。

 

 

「これでええんよ。うちにある食材も組み合わせて使うんやから」

「それならいいか」

 

 

 茜の言葉に竜は納得して頷く。

 そして2人はそれぞれ会計に向かった。

 

 

「それじゃ、まずは竜の買ったものを家に置いてくるのが先やな」

「だな」

 

 

 スーパーでの買い物を終え、2人は竜の家へと向かって歩きだした。

 そんな2人の後ろ姿を見ていた店員のタカハシはポツリと言葉をこぼす。

 

 

「・・・・・・あれで付き合ってないとかマジ?」

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 自身と茜の買ったものを手に持ちながら竜は家へと向かう道を歩く。

 竜の隣を歩きながら茜はチラチラと竜のことを見る。

 

 

「なぁ、やっぱりうちの分は自分で持つで?」

「いいんだよ。それにそんなに重くないし」

 

 

 茜の申し出を竜は首を横に振って断る。

 それでも茜は申し訳さを感じているようで、なんとも言えないような表情を浮かべていた。

 

 

「・・・・・・そや。竜、袋の持ち手を片方だけ持たせてくれへん?せめてそれくらいはさせてほしいんよ」

「・・・・・・分かったよ」

 

 

 少しだけ考えてから茜はもう一度申し出る。

 茜の言葉に竜はもう一度断ろうとしたが、茜の表情から引く気がないことを察して頷いた。

 竜の許可を得たことによって茜は竜の持っている自分の買い物袋の持ち手の片方を持った。

 

 

「竜が気を使ってくれてるのは分かるんやけど。うちはこうやって一緒に持つ方が嬉しいかなぁ」

「そうか・・・・・・」

 

 

 嬉しそうに言う茜の言葉に竜は顔を少しだけ逸らしながら答えた。

 竜からすれば重いものを女の子に持たせたくはなかったのだが、その辺りは茜にとっては少々違ったようだ。

 ちなみに1つの買い物袋を2人で持つその姿に、道行く人たちのほとんどは2人がカップルなのだと思っていた。

 

 そして2人は竜の家の前に着く。

 

 

「お、今日も来てたのか」

 

 

 家の前にいるみゅかりさんの姿に竜は嬉しそうな声をあげる。

 竜の声が聞こえたのか、みゅかりさんは2人の方を向いた。

 

 

「みゅ!」

「おっと、すごいジャンプ力だな」

「む・・・・・・」

 

 

 一気に自分の頭の上に跳び乗ってきたみゅかりさんに竜は驚きと感心混じりの声をあげる。

 そんなみゅかりさんの姿に茜は少しだけ不機嫌そうに言葉を漏らした。

 

 

「あー、でも悪いなみゅかりさん。今日は茜のとこで晩御飯を食べるって話になってて家で遊ばないんだ」

「みゅっ?!みゅー?!みゅー?!」

 

 

 竜の言葉にみゅかりさんはショックを受けた鳴き声をあげた。

 「嘘でしょ?嘘でしょ?」とでも言うかのようにみゅかりさんは竜の頭の上で鳴き声をあげる。

 みゅかりさんの鳴き声に竜は申し訳なく感じながら家の中に入って買ったものをしまっていった。

 

 

「みゃうぅぅう・・・・・・」

 

 

 涙ぐんだ悲しげな表情のみゅかりさんは竜の首もとにしがみついて鳴き声をあげる。

 そんなみゅかりさんの様子に竜は苦笑をしながら茜の方を見た。

 

 

「えっと・・・・・・、みゅかりさんも一緒で大丈夫か?」

「はぁ・・・・・・。ま、分かっとったけどね。別にええで。それにみゅかりさんも同じアパートに住んどるんやしな」

 

 

 困ったように言う竜の言葉に茜は小さくため息を吐いて許可を出した。

 茜の言葉を聞きながら竜は首もとにしがみついてくるみゅかりさんの頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第21話

 

 

 

 

 首にみゅかりさんがしがみついたまま竜は茜と一緒に歩く。

 みゅかりさんはいまだにゲームに未練があるのか、小さく小刻みに鳴き声をあげていた。

 

 

「みゅぅう・・・・・・、みゅぅう・・・・・・」

「ええかげんに諦めえや・・・・・・」

 

 

 鳴き声をあげ、みゅかりさんは竜の体にグリグリと体を擦り付ける。

 みゅかりさんのその姿に茜は少しだけ呆れたような声をあげた。

 そんなやりとりをしながら茜と葵、そしてみゅかりさんの住んでいるアパート“清花荘”に到着した。

 

 

「葵ー、帰ったでー!」

「はーい、おかえりなさーい」

 

 

 “清花荘”の茜と葵の暮らす部屋の扉を開けて茜が声をかけると、中から葵の声が聞こえてきた。

 葵がいることを確認した茜はそのまま竜を部屋の中へと招き入れる。

 

 

「ほな、ちゃちゃっと晩御飯の準備でもしよか」

「ん、ならなにか手伝うことはあるか?」

「大丈夫やで。葵んとこで待っててや」

 

 

 廊下を歩き、リビングへの扉の前で茜と竜は話す。

 どうやら葵はテレビを見ているらしく、リビングからテレビの音声が聞こえてきていた。

 そして茜はリビングへの扉を開けた。

 

 

「え゛・・・・・・」

「葵・・・・・・ちゃんとせえっていつも言っとるやろ・・・・・・」

 

 

 リビングへの扉を開き、目に入った光景に竜は驚きに、茜は呆れて言葉を失った。

 

 琴葉 葵、彼女を知っている友人たちは皆一様にしっかりもので真面目な女の子と彼女のことを評価する。

 そしてその評価は間違っておらず、制服なども着崩したりすることなくきっちりとした格好をしていた。

 

 

      学校などの家の外(●●●)では。

 

 

 まず目に入ってくるのはシワができそうな状態で脱ぎ散らかされた制服たち。

 続いて床に普通に落ちているお菓子の袋。

 もちろんお菓子の袋の口は空いている。

 そして極めつけはクッションの上でうつ伏せでだらしない体制になってテレビを見ている葵の姿だった。

 しかも部屋着なのかブカブカのシャツだけを着ており、ギリギリで下着が見えていないという状態になってしまっている。

 

 同級生の女の子のとんでもない姿に竜は言葉を失って、目を逸らすことも忘れてしまっていた。

 ちなみにみゅかりさんは特に気にした様子もなく竜の首もとにぶら下がっている。

 

 

「あ、お姉ちゃん。おかえ・・・・・・り・・・・・・」

「ただいまや。それと今日は竜とみゅかりさんも晩御飯を食べてくからなー」

 

 

 扉が開いた音で茜がリビングに入ってきたことに気づいたのか、葵はくるりと顔を扉に向け、言葉の途中で固まってしまった。

 そんな葵のことなど気にせずに茜は脱ぎ捨てられていた制服などを回収していく。

 

 

「え、あ・・・・・・、え?・・・・・・~~~ッッッ?!?!」

 

 

 ボフンッ、とでも聞こえてきそうな勢いで顔を赤くした葵は乗っかっていたクッションを体の前に動かして体を隠しながら自分の部屋へと駆けていった。

 事態に着いていけずに竜はそんな葵の様子を見ていることしかできなかった。

 

 

「・・・・・・茜、知っててやったのか?」

「せやで。うちが何っ回も言うても治らんかったからな。強行策に出させてもらったんや」

 

 

 ギギギと茜に顔を向けて竜が尋ねると、茜は悪びれる様子もなく肯定した。

 それほどまでに葵のだらしなさが酷かったということなのだろうが、それでも他にやり方があったのではないかと竜は思った。

 

 

「じゃ、うちは晩御飯を作るからテレビでも見て待っててや」

「あいよ」

「みゅい」

 

 

 エプロンを着けて茜はキッチンへと向かっていった。

 そんな茜を見送って竜は先ほどまで葵のいた場所の近くに腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第22話

 

 

 

 

 茜のトントンと料理をする音と、葵が慌てて部屋で着替える音を耳にしながら竜は気まずそうにテレビを見ている。

 竜の頭の中では先ほどの葵のとんでもない姿が思い返されており、悶々とした感情が渦巻いていた。

 下着は隠れていて見えなかったとはいえ、太ももの(なまめ)かしい様などははっきりと見えていたのでそれだけでも健全な男子高校生には十分な刺激だった。

 

 

「うぉおお・・・・・・、絶対に気まずくなるやつだろ・・・・・・」

「みゅみゅみゅ?」

 

 

 ワシャワシャとみゅかりさんの頭を撫でながら竜は呻くように言う。

 竜に撫でられるみゅかりさんはグワグワと揺れる体に少しだけ困惑していた。

 

 

「みゅかりさんや、俺はどうしたらいいと思う・・・・・・」

「みゅ~、みゅっ」

「やっぱ謝るしかないよなぁ・・・・・・」

 

 

 みゅかりさんの前足を合わせる仕草に竜は息を吐きながら呟いた。

 茜が仕掛けたこととはいえ葵のあられもない姿を見てしまったことは事実。

 そう考えているときに再び葵の姿を思い出してしまって竜は顔を赤くした。

 

 

「みゅい・・・・・・」

「忘れ・・・・・・られねぇ・・・・・・。つーか、アレを忘れるとかもったいねぇ・・・・・・」

 

 

 みゅかりさんを両手で弄りながら竜は呟く。

 頭の中で思い出しているのはもちろん先ほどの葵の姿。

 グニグニと耳を弄られたり、頬をムニムニと押されてみゅかりさんはどことなく恥ずかしそうにしているようにも見える。

 そんな竜の後ろに人影が1つ現れた。

 

 

「竜くん・・・・・・」

「ッ?!・・・・・・あ、葵か?」

 

 

 背後からかけられた声に竜はビクリと肩を震わせて答える。

 竜の背後に立つ人影、着替えを終えた葵は竜の言葉に答えずに竜の背後のすぐ近くに移動した。

 

 

「えっと・・・・・・あお──」

「ごめん、今はこっちを見ないで。恥ずかしすぎて死んじゃいそうだから・・・・・・」

「みゅあっ?!」

 

 

 竜が振り向いて葵の方を見ようとすると、葵は背後から竜の目元を隠して言った。

 葵の服装は先ほどのあられもないものから普通のものへと変わっているが、葵の顔は真っ赤に染まっていた。

 振り向こうとしていたところで目を隠され、竜は驚いてみゅかりさんを軽く放り投げてしまう。

 

 

「みゅっ!みゅみゅみゅっ!!」

 

 

 放り投げられたことにみゅかりさんはご立腹らしく、竜の膝の上で跳び跳ねながら鳴き声をあげている。

 竜はそんなみゅかりさんに構うことができず、背後に感じる葵の感触にドギマギとしていた。

 

 

「・・・・・・見た?」

「・・・・・・・・・・・・はい」

 

 

 有無を言わさぬような葵の言葉に竜は正直に答えた。

 竜の答えに葵は黙りこんでしまう。

 葵が黙りこんでしまったことに竜は不安になりながら膝の上で跳ねているみゅかりさんを手探りで捕獲した。

 

 

「みゅぅぅう・・・・・・」

「ううぅぅ・・・・・・。やっぱり見られてたぁ・・・・・・」

「えっと、すまん」

 

 

 みゅかりさんは捕獲されたことに不満そうではあるが、一応は落ち着いたらしい。

 竜の答えに葵は恥ずかしさの混じった声で呻いた。

 葵の声に竜は申し訳なく思いながら謝るのだった。

 

 

「ううん・・・・・・、ボクも家だからってあんな格好をしてたのも悪いから・・・・・・」

「茜もなんか文句を言ってたな・・・・・・」

「う・・・・・・、次からは気をつけるようにするよ・・・・・・」

 

 

 葵の言葉に竜は茜が言っていた言葉を思い出す。

 葵は茜から常日頃から言われていたことを思い出したのか渋い声音で答えた。

 いまだに葵によって目を塞がれている竜は背後にいる葵の感触をなるべく意識しないようにみゅかりさんを手探りで撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第23話

 

 

 

 

 竜の背後で悶えていた葵だったがしばらくして落ち着いたのか、竜の背後から移動した。

 葵が移動したことによって竜も隠されていた視界が開け、周りを見ることができるようになった。

 竜の背後から移動した葵は恥ずかしそうにしながらも竜の隣に座る。

 

 

「みゅう」

「わっ?!みゅかりさん?」

 

 

 竜の隣に座った葵の頭の上にみゅかりさんが跳び乗り、葵は驚いて声をあげる。

 そんな葵のことなど気にもせずにみゅかりさんは葵の頭をポフポフと叩く。

 突然のことに竜も葵も困惑してしまう。

 

 

「葵~、戻ってきたんやったらテーブルを準備してや~」

「え、あ、うん!」

「っと、俺も手伝うよ」

 

 

 不意に聞こえてきた茜の言葉に葵はみゅかりさんを乗せたまま立ち上がって答える。

 葵が立ち上がったのを見て竜も手伝うために立ち上がった。

 

 

「う、うん。じゃあ、反対側を持ってね」

「分かった」

 

 

 茜と葵は普段はテーブルを片付けており、使うときだけテーブルを出すようにしている。

 そのため食事をするときなどはテーブルを出す必要があるのだ。

 もともとテーブルのサイズはそこまで大きくはなく、葵1人でも運ぶことはできるのだが、それでも2人で協力した方が安全なことは事実なので葵は竜の申し出をありがたく受け取った。

 葵の言葉に従って竜はテーブルの反対側を持ち、葵と協力してテーブルを運んでいく。

 

 

「この辺りか?」

「うん。ここで大丈夫だよ。みゅかりさん、テーブルの上に乗らないでね?」

「みゅい!」

 

 

 テーブルを出し終え、葵は頭の上に乗っていたみゅかりさんを捕まえて言う。

 葵の言葉にみゅかりさんは前足を上げて応えた。

 まぁ、みゅかりさんは地面に直接体が触れていたのだから仕方がないことだろう。

 

 

「できたで~」

「じゃあ、ボクは食器を持ってくるね」

「あ、なら俺も・・・・・・」

 

 

 テーブルの準備が終わると、茜が料理を手に持って運んできた。

 茜が料理を運んできたことに気づいた葵はキッチンに食器を取りに向かう。

 葵に続いて竜も運ぶものがないかついていこうとしたが、移動する前に茜に制止されて向かうことができなかった。

 

 

「お客さんなんやからのんびり待っときぃ。ちゃんと竜の食器も持ってくるからなぁ」

 

 

 そう言って茜もキッチンへと向かっていった。

 茜に止められた竜は仕方なく座ってみゅかりさんを膝に乗せて撫でるのだった。

 

 

「待たせたな(イケボ)」

「スネークの物真似・・・・・・か?」

「竜くん、この食器と箸を使ってね」

 

 

 物真似をしてふざけながら戻ってきた茜に竜は何の物真似をしているのかを言う。

 そんな茜のことをスルーして葵は竜にご飯を盛った茶碗と箸を手渡した。

 葵にスルーされたことがショックだったのか、茜はガーンッ!と言った表情で葵を見るが、それすらも葵はスルーする。

 

 

「・・・・・・いいのか?」

「うん。反応すると調子に乗るから」

「みゅいみゅい」

 

 

 竜はショックを受けた様子の茜を指差して葵に尋ねると、葵は慣れた様子で自分と茜の分のご飯を茶碗に盛っていく。

 そんな茜と葵のやりとりを見てみゅかりさんはやれやれと言った様子で体を揺らしていた。

 

 

「さ、食べよう。冷めちゃうともったいないし。みゅかりさんのはこっちね」

「お、おう」

「みゅう!」

 

 

 みゅかりさん用に盛り付けられた皿をみゅかりさんの前に置き、葵は手を合わせる。

 困惑しつつもそれにならって竜とみゅかりさんも手を合わせた。

 

 

「いただきます」

「い、いただきます」

「みゅ、みゅみゅみゅみゅう」

 

 

 そう言って竜と葵、みゅかりさんは晩御飯を食べ始める。

 そのことに茜が気づいて食べ始めるのは30秒後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第24話


UA数が10000を越える毎にボイスロイドキャラたちのヤンデレエンドでも書こうかな。

とりあえず越えてから決めます。

まぁ、まだまだ先ですけどね。


 

 

 

 

 茜の作った料理、豚カツを竜は口に運ぶ。

 サクッとした衣に中から肉汁がじわりと溢れ出して口の中に広がる。

 ソースをかけずに食べてみたがそれだけでも十分にご飯の進む美味しさを竜は感じられた。

 チラリと竜は茜と葵の様子を見るが、やはり食べなれているのか竜ほど大きな反応は無いように見られる。

 

 

 

「みゅっ!みゅみゅっ!」

「おー、そんな風に食べてもらえると作った甲斐があるっちゅうもんや」

 

 

 興奮した様子でガツガツと食べていくみゅかりさんの姿に茜は嬉しそうに言う。

 葵も美味しいとは言ってくれるのだが、他の人が美味しそうに食べている姿を見るのも嬉しいものなのだ。

 

 茜のそんな様子を見ながら竜は豚カツにソースをかけて口に運んだ。

 ソースのしょっぱさが加わることによってご飯がさらに進む。

 そしてしょっぱさの口休めに千切りキャベツを口に運ぶ。

 キャベツのさっぱりとした味によって口の中をリセットすることができ、再び豚カツを楽しむことができるのだ。

 

 

「・・・・・・うまいな」

 

 

 噛み締めるように竜は呟く。

 茜から料理を担当しているとは聞いていたが、ここまでうまいとは思っていなかったために思わずこぼれた言葉だった。

 竜の言葉を聞いて茜は嬉しそうにはにかみ、葵は少しだけ口元を下げる。

 別に葵も料理ができないと言うわけではない。

 ただ、得意なものがお菓子作りの方に割り振られているというだけなのだ。

 

 

「どや、うちの実力を思い知ったか!」

「お姉ちゃん、料理が得意だもんね」

「ああ・・・・・・、マズ飯系だと思っていたが間違いだった・・・・・・」

 

 

 ドヤ顔で言う茜に竜は料理を噛み締めながら答える。

 いつの間にか豚カツは残り少なく、そのことを竜は残念に感じていた。

 

 

「安心しい。まだおかずはあるで!」

 

 

 残念そうな表情の竜の様子に気づいた茜は、そう言って立ち上がってキッチンから別の料理を持ってきた。

 

 カラッと揚げられて綺麗なオレンジ色に染まった衣。

 食べごたえのありそうな太さのその身。

 そして衣の端からとび出ている鮮やかな赤色の尾。

 

 それは、その料理の名は────

 

 

 

 

         ────エビフライだ。

 

 

 

 

 漂ってくるその香りに竜とみゅかりさんはゴクリと唾を飲む。

 それは今までに食べたエビフライとは隔絶した魅力を放っていた。

 もしも空腹の状態で目の前に現われたのならば迷うことなく口に運んで貪り喰らっていたであろう。

 ひとえに今そんな状態になっていないのは先に豚カツを食べていてお腹が少しだけ膨れていたからだ。

 

 

「あはは、お姉ちゃんのエビフライはとても美味しいよ」

「たくさん作ってあるからみんなでちゃんと分けて食べよか」

「おう」

「みゅい!」

 

 

 竜とみゅかりさんの様子に、まだ茜のエビフライに慣れている葵は苦笑しながら言う。

 とは言っても葵自身も最初の頃は竜やみゅかりさんと同じような状態になっていたのだが。

 茜の言葉に竜とみゅかりさんは行儀良く座って待つのだった。

 

 

「・・・・・・やべぇ」

「・・・・・・みゅえぃ」

 

 

 エビフライを口に運び、竜とみゅかりさんは数秒の沈黙のあとに小さく呟いた。

 

 サクリとした食感は 先ほどの豚カツと同様に素晴らしいものでさらにかじった断面からは海老の風味がブワリと溢れ出てくるのだ。

 しかもソースをかけて食べるよりもそのまま食べた方がその旨味を強く感じることができる。

 

 今までに自分が食べたものはエビフライではなかった。

 

 そう思えるほどの衝撃が竜とみゅかりさんを襲っていた。

 そんな2人の様子に満足そうに頷きながら茜と葵もエビフライを口に運んだ。

 

 

「ん~、お姉ちゃん。今まで1番美味しいできじゃない?」

「せやね。このできを毎回できるようになりたいところやな」

 

 

 葵の言葉に茜は頷きながら答える。

 これほどまでに美味しいものを作っておきながら妥協をしないその姿勢に葵はニコニコと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第25話

 

 

 

 

 茜の作ってくれた絶品のエビフライを食べ終え、竜とみゅかりさんは満足そうにお腹をさする。

 竜とみゅかりさんのお腹はどちらもポッコリとしており、それぞれが大量に食べたことを物語っていた。

 

 そんな1人と1匹の姿を見て茜はニコニコと嬉しそうに笑う。

 

 

「うんうん。満足してくれたみたいで良かったわ」

「満足どころか大満足だ・・・・・・」

「みゅぅう、みゅぅう・・・・・・」

 

 

 茜の言葉に竜は答えることすら辛そうにしながら答える。

 その隣ではみゅかりさんがユラユラと揺れながら竜と同じようにやや辛そうにしながら答えていた。

 そんなになるまで食べなければいいのではないかと思われるかもしれないが、茜の作った料理はそれほどまでに美味しかったのだから仕方がないのだろう。

 

 

「こんだけうまいなら他の料理もうまいんだろうな」

「せやねぇ、うちとしては普通にできている方やと思っとるけど・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に茜は頬に指を当てて答える。

 茜本人としては双子である葵と比べて得意という程度の認識であり、揚げ物に関してはエビフライを美味しく作るための過程で上手くなっただけなのだ。

 

 

「そうなのか。まぁ、あんだけうまかったら毎日食っても良さそうだけどな」

「ま、毎日・・・・・・」

 

 

 茜の答えに竜はお腹が楽な姿勢になりつつ笑って言った。

 竜の言葉に茜は顔を赤くしてプイッと顔を逸らす。

 

 そんな茜の様子に竜は首をかしげるが、お腹が楽な姿勢を維持することに意識がむいて、茜の顔を見る余裕はなかった。

 

 そして顔を逸らした茜はというと。

 竜の言葉を聞いて妄想が暴走していた。

 

 

「毎日っちゅうと、つまりはあれやんな・・・・・・。えへへ・・・・・・」

 

 

 小さく呟きながら茜は自分の頬に手を当ててクネクネと体を動かす。

 茜の頭の中では家に帰ってきた竜を玄関で出迎えて「ご飯にする?お風呂にする?それとも、う・ち?」と言う、まさに新婚夫婦のテンプレイメージのようなものが浮かんでいた。

 竜はそんな茜の様子に気づかずに揺れているみゅかりさんのお腹をフニフニと撫でていた。

 竜が撫でているときにときどきみゅかりさんが小さくこらえるように「みゅっ・・・・・・みゅみゅっ・・・・・・」と口元を押さえて鳴き声をあげているが、吐きそうという様子には見えないので竜は気にしなかった。

 

 

「お姉ちゃん、洗い終わったよ」

「ハッ?!あ、ありがとうな葵!」

 

 

 食器を洗い終わった葵の声に妄想の世界から戻ってきた茜は慌てた様子で葵にお礼を言う。

 慌てた様子の茜に葵は不思議そうに首をかしげるが、とくに気にすることでもないと考えて竜の近くに座った。

 

 

「ご飯も食べ終わったしゲームをやるで!」

「お、良いね。何をやるんだ?」

 

 

 茜の言葉に竜は何のゲームをやるのか尋ねる。

 晩御飯は終わってからすぐにゲームを始めようとする茜と竜に葵は呆れたようにため息を吐くのだった。

 

 

「そうやな・・・・・・。よし、バイハでもやろか」

「バイハか。たしか2人プレイもできたな」

 

 

 ゲームを用意し、ゲームを起動させる。

 茜の言葉に竜は頷きながらコントローラーを用意した。

 

 バイハ、正式名称はバイオハザード。

 ウイルスによって死体が復活し、生きた人間を襲うというアクションホラーゲームだ。

 初出はプレイステーション1で根強い人気を誇っているカプコン製のゲームである。

 また、バイオハザードに出てくるヘリコプターがよく墜落することから“カプコン製のヘリは落ちる”などの言葉も生まれた。

 

 バイオハザードは内容としてはそこまでホラー要素はないものの、ホラーが得意ではない葵は素早く竜の背後に移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第26話


徐々に徐々に読んでくれる人も増えて嬉しい限りです。




 

 

 

 

 茜との協力プレイで竜はバイオハザードを進めていく。

 ちなみに操作しているキャラはなぜか竜が女性キャラで茜が男性キャラだ。

 

 

「弾がないんやけどー?!」

「ちゃんと拾っと、け!」

「お、お姉ちゃん。う、後ろ後ろ後ろ!」

「みゅーみゅ!」

 

 

 弾を無駄に撃ちすぎて弾切れを起こした茜をフォローするように竜の操作しているキャラクターがゾンビの頭を撃ち抜く。

 茜はバイオハザードではなにかを調べる際に最初に1発撃っておく癖があるので、そのせいで弾切れを起こしてしまうのだ。

 この癖に関しては治すように竜に言われているのだが、いまだに治る気配はなかった。

 竜の背中にしがみつきながら葵は茜に弾がある場所を教える。

 騒がしくプレイする3人の姿にみゅかりさんは楽しそうに鳴き声をあげるのだった。

 

 

「できるだけヘッショして弾の消費は抑えてかないとキツくなるぞ?」

「それは、分かって、るんやけど。グラグラ揺れて狙いにくいんや!」

 

 

 竜の言葉に茜はゾンビの攻撃を避けながら答える。

 なお、竜は先に倒し終えており、茜の操作するキャラクターの後方で適当にサイドステップを繰り返していた。

 ちなみに、竜の言っているヘッショとはヘッドショット、つまりは頭を撃ち抜くことの略語である。

 ゾンビは頭を撃ち抜いた方がダメージは大きく、他の部位を狙って倒すよりも弾の消費が抑えられるのだ。

 

 

「っし、セーフエリアに着いたで!」

「だな」

「ここにはゾンビもいなくて安心だね・・・・・・」

「みゅうみゅう」

 

 

 セーフエリアに茜の操作しているキャラクターが飛び込み、その後ろを竜の操作しているキャラクターが追って入る。

 セーフエリアに入ったことで落ち着いたのか、葵もホッと息を吐いた。

 ゾンビが出ないということで竜はテレビ画面から目を離して時計をチラリと見る。

 いつの間にかかなり時間が経っていたようで、竜は今の時間を見て驚いた。

 

 

「いつの間にかこんな時間かよ」

「んお?あちゃー、ほんまや。熱中しとったからなぁ・・・・・・」

「ぜんぜん気づかなかったよ」

 

 

 竜の言葉に茜と葵も現在の時間に気づいて頭を掻いた。

 

 

「じゃあ、ちょうどセーブもできるところだし。区切りもいいから終わりにするか」

「せやね」

 

 

 そう言って茜はキャラクターを操作してデータを記録するための機械、タイプライターを操作する。

 タイプライターといえばバイオハザードのセーブとまで言われるほどに印象深いもので、シリーズや難易度によってはインクリボンというアイテムが必要だったりする。

 セーブをする際の独特なタイプ音はとても耳に残るもので、この音が好きだという人も少なくないと思われる。

 

 

「みゅかりさんもそろそろ帰らんとなぁ」

「みゅう!」

「といってもここに住んでるからそんなに心配もないけどね」

 

 

 みゅかりさんを抱えあげながら茜は言う。

 茜の言葉にみゅかりさんは前足をあげて応えた。

 その様子を見て葵は小さく笑いかけながら言った。

 

 

「そういや宿題も出て────」

「あーっ!あーっ!うちはなんも聞いとらんー!ア゛ーッ!」

「お姉ちゃん・・・・・・」

 

 

 竜の言葉を遮るように茜は耳を塞ぎながら声をあげた。

 しかも途中でなにやら汚い声も聞こえたような気がする。

 そんな茜の子供みたいな行動に葵は頭が痛いとばかりに額に手をあてた。

 

 

「普通に終わらせた方が楽だろうに・・・・・・。まぁ、好きにせい。んじゃ、また明日な」

「ほな、またなー」

「うん、また明日」

「みゅみゅみゅー」

 

 

 茜の行動に竜はため息を吐き、靴を履いて立ち上がる。

 軽く手を振る竜に茜、葵、みゅかりさんは手を振り返して見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 「わぁ」

 

 

 どこかで、小さな声が聞こえた気がした・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 



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第27話

 

 

 

 いつも通りに朝の支度を終え、家を出た竜はふと家の向かいに工事の幕がかかっていることに気がついた。

 昨日、“清花荘”から帰ってきたときにはなかったはずなので、夜のうちに設置したのだろうか。

 一般的な一軒家にしては大きすぎる幕に竜は首をかしげながら学校へと向かうのだった。

 

 

「あ、竜くん。おはようございます」

「うん?ゆかりか。おはよう」

 

 

 学校へと向かう道の途中で声をかけられ、竜は不思議に思いながら振り向く。

 するとそこには制服姿のゆかりがいた。

 登校途中でゆかりに会ったのは初めてのことで、竜は不思議に思いながら挨拶を返した。

 

 

「いつもこの道を使って登校してるのか?」

「ええ、今までは偶然時間が合わなかったみたいですね」

 

 

 竜の質問にゆかりは頷いて答える。

 ゆかりの言葉に竜は、ゆかりがいつも自分よりも先に教室にいることを思い出した。

 

 

「それなら今日はどうしたんだ?寝坊?」

「まぁ、そんなところですね。ですが、竜くんと会えましたし、これからはこの時間に登校してもいいかもしれませんね」

 

 

 なぜ今日はこの時間に登校しているのかが気になった竜は首をかしげながら理由を推測して尋ねる。

 竜の言葉にゆかりは曖昧に笑って答えを濁し、ニコリと微笑みかけながら答えた。

 ゆかりが答えを濁したことに気づきつつも、竜はゆかりの微笑みにうっすらと頬を染めつつ頬を掻くのだった。

 

 

「あ、そういえばゆかりはみゅかりさんって知ってるか?ちょっと変わった猫?みたいな生き物なんだけど」

「みゅかりさん、ですか?ええ、よく知っていますよ」

「そうか!撫で心地がよくてつい撫でちゃうんだよ。しかも結構なつっこくて可愛くてな!」

 

 

 ゆかりがみゅかりさんのことを知っていると知り、竜は嬉しそうにみゅかりさんのことを話す。

 竜はペットなどを飼っていないため、自身に懐いてくれる生き物がいて非常に嬉しいのだ。

 

 

「そ、そうなんですね」

 

 

 竜の言葉にゆかりはどこか嬉しそうに答える。

 嬉しそうなゆかりに首をかしげながら竜はスクールバッグに着けているアクセサリーを見せる。

 

 

「これもみゅかりさんに貰ったんだ、ってこれは前に言ったか?手首に着けるとなぜか茜たちが怒るからとりあえずバッグに着けてるけど」

「そうなんですか。私は気になりませし、手首に着けても良いと思うんですけどね」

 

 

 竜のスクールバッグに着けられているアクセサリーを見ながらゆかりは言う。

 手首に着けることを勧めていることに他意はない、はずだ。

 

 

「そういえばゆかりが髪に着けてるのと同じだよな」

「ええ、私も自分以外では着けてる人は見たことがないですね」

 

 

 ふと思い出したように竜はゆかりの髪を見ながら言う。

 今日のゆかりの髪型はポニーテールで、竜がスクールバッグに着けているアクセサリーと似たものによって纏められていた。

 

 

「へぇ、そうなるとみゅかりさんは数少ない同じアクセサリーを着けている仲間になるわけだな」

「ふふ、そうなりますね」

「あ、ゆかりんだ!」

 

 

 竜とゆかりが会話をしながら学校に着き、校門をくぐろうかというところで声をかけられる。

 聞こえてきた声に2人が振り向くと、マキが嬉しそうに手を振りながら駆け寄ってきた。

 その際に大きく揺れるものが視界に入ってしまい、竜は慌てて視線を少しだけ逸らした。

 

 

「おはようございます。マキさん」

「おはよう」

「2人ともおはよう!今日は2人で学校に来たの?」

 

 

 挨拶をし、マキは竜とゆかりが一緒に歩いていることを不思議そうに見ながら尋ねた。

 マキの言葉にゆかりは笑みを浮かべる。

 

 

「ええ、偶然出会いまして。そのまま一緒に来たんです」

「へぇ、うちとは反対方向だからゆかりんと一緒に登校できるのは羨ましいなぁ」

「はっはっは、羨ましかろう」

 

 

 ゆかりの言葉に不貞腐れたようにブーたれているマキに竜はふざけた調子で言う。

 3人はそんな会話をしながら校舎の中へと入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第28話

 

 

 

 

 ゆかり、マキの2人と会話をしながら竜は教室に着いた。

 教室にはすでに何人かのクラスメイトの姿も見える。

 

 

「そういえば宿題はやったか?」

「もちろんやってありますよ」

「やってきたよー」

 

 

 竜の言葉にゆかりとマキは当然と言った様子で答える。

 2人の答えに昨日の茜の様子を思いだし、竜は何とも言えない表情になる。

 そんな竜の表情を見てゆかりとマキは不思議そうに首をかしげるのだった。

 

 

「どうかしたんですか?」

「いや、昨日茜に宿題の話をしたんだがな・・・・・・」

 

 

 竜の表情が気になったゆかりは竜に尋ねる。

 ゆかりの問いに竜は少しだけ呆れた調子で昨日の出来事を話し始めた。

 

 

「茜ちゃん、宿題くらいちゃんとやろうよ・・・・・・」

「葵さんはちゃんとやっているんですけどねぇ」

 

 

 竜から昨日の出来事を聞いたゆかりとマキは呆れたような表情を浮かべながら呟いた。

 3人でそんな話をしていると、茜と葵の2人が教室に入ってきた。

 

 

「おはようやでー!」

 

 

 いつも通りの茜による朝の挨拶にクラスメイトたちが反応を返す。

 朝の挨拶をしている茜の横をなるべく目立たないように葵は移動して自分の机に荷物を置いた。

 そして竜がゆかりとマキの近くにいることに気がつくと、準備もそこそこに竜の近くへと向かっていった。

 

 

「おはよう、お姉ちゃんがいつも五月蝿くしてごめんね」

「おう、おはよう。むしろあれがないと朝って感じがしないから気にしてないよ」

「おはようございます。茜さんのあれがあるからこそ教室が明るくなるんですから大丈夫ですよ」

「葵ちゃん、おはよー。私も茜ちゃんの朝のあれは好きだから大丈夫だよー」

 

 

 謝りながら葵は普通の音量で朝の挨拶をする。

 葵の言葉に竜たちはヒラヒラと手を振りながら答えた。

 思っていたよりも茜のことは悪く思われていなかったことに葵はホッとした表情で会話に交ざる。

 

 

「さっきは何の話をしてたの?」

「茜が宿題をやらないことについてだな」

「葵さんが言ってもダメなんでしょうか?」

「いつも慌ててやってて、そのうち間に合わなくなりそうだよね」

 

 

 竜たちが何の話をしていたのかが気になった葵は竜たちに尋ねる。

 葵の問いに3人は先ほどまで話していた茜の宿題についての話をした。

 茜の話をしていたとは思ってもいなかった葵は恥ずかしそうに顔を隠す。

 

 

「ちなみに葵。茜は宿題をやってきたのか?」

「・・・・・・やってないよ」

「おはようさん!」

 

 

 恥ずかしそうにしている葵に念のために確認をすると、案の定と言うか茜は宿題をしていなかった。

 そこに朝の挨拶を終えた茜がやって来た。

 竜、ゆかり、マキの3人はやって来た茜を少しだけジトッとした目で見る。

 

 

「なんや、そんな目で見よって」

「いや、結局宿題はやらなかったんだな・・・・・・」

 

 

 3人の視線を不思議に思いながら茜は首をかしげる。

 竜の言葉に茜はギクリと体を硬直させた。

 

 

「べ、別にええやん。ちゃんと提出期限には間に合っとるんやし」

「ですがギリギリになって慌てるよりも、先にやってゆっくりできる方がよくないですか?」

「もしも間に合わなかったら大変だしね」

 

 

 目を逸らしながら鳴らない口笛を吹く茜に竜と葵は顔を見合わせてため息を吐いた。

 ゆかりとマキの言葉に茜は小さく呻いてガクリと肩を落とす。

 一応、茜自身も先に宿題をやった方がいいこと自体は理解している。

 それでも集中ができずに遊びだしてしまうのだ。

 

 

「うぅ~、だって集中できひんのやもん・・・・・・。みんなはどんな風にやっとるん?」

「私は普通にやれてますね」

「私も家の手伝いが終わってから普通にやってるかな」

「ボクは寝る前にやってるのを知ってるよね」

 

 

 茜の問いにそれぞれが順番に宿題のやり方を答えていく。

 そして茜は最後の竜の答えを待った。

 

 

「俺は、学校でやってるな。というか授業中に宿題になりそうな所を勝手にやってる」

「それは宿題をやってることにならないんじゃないかな?!」

 

 

 竜の答えに葵は思わずツッコミをいれる。

 それは茜を除いた中でもっともダメな答えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第29話


とりあえずヤンデレエンドを書く場合の人数等をタイトルだけ書いたら10個もありました。

しかもボイスロイドキャラはかなりの人数がががが・・・・・・

誰を書くにしても簡単な流れだけ先に書いてまとめておくことにします。




 

 

 

 

 竜の宿題が宿題として機能していないやり方に一悶着はあったものの、茜も宿題をやろうと言う意識は少しだけ強くなったらしい。

 それから会話を楽しんでいると担任のアイ先生が来たので全員が自分の机に移動した。

 

 

「全員出席しているな昨日の夕方辺りからうちの生徒に話しかけてくる人間がいたらしい。そこそこの人数が話しかけられたらしいからお前たちも気をつけておけ。これでホームルームを終わりにする」

 

 

 出席確認と注意事項の連絡を終えてアイ先生は教室から出ていった。

 アイ先生の言った不審者の情報に教室の中がザワザワと軽くざわつく。

 最初の授業の準備を終えた竜は周囲の声に耳を傾ける。

 

 

「ほんとほんと、俺、話しかけられたんだって」

「嘘だぁ」

 

「どんなことを話しかけられたんだろうね?」

「パンツの色とか?」

「それはホントにヤバイでしょ」

 

 

 アイ先生の話していた不審者に話しかけられたと言う者。

 不審者がどんなことを聞いてきたのかが気になる者。

 聞こえてきた声は様々で、竜はそれだけで少し疲れてしまった。

 

 そして、教室内のざわつきは最初の授業の教師が来るまで収まることはなかった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 アイ先生の注意事項でざわついた以外、とくに変わったこともなく昼休みになった。

 

 昼食のために机を動かす者。

 学食に仲の良い友人と向かう者。

 購買で昼食を買うために2階の窓から飛び降りる者。

 そのあとを追うために飛び降りるが財布を忘れて友人に頭部に投げつけられて倒れる者。

 

 等々、様々な生徒が昼食の準備を始めていた。

 

 

「失礼します!」

 

 

 ガラリ、と教室の扉が開き、1人の女子生徒が現れた。

 今さらではあるが、竜たちの着ている制服は学年毎に色があり、2年生である竜たちは黄色。

 3年生は青色、そして1年生は赤色のネクタイやリボンを着けることが決められていた。

 そして現れた女子生徒のリボンは赤色。

 つまりは1年生だ。

 女子生徒は教室の中をぐるりと見回して竜の姿を見つけると、嬉しそうに竜のもとへと駆け寄っていった。

 

 

「どうもこんにちはです!」

「お、おう?えっと、君は・・・・・・?」

 

 

 女子生徒の元気な言葉に竜はたじろぎつつ応える。

 竜からすれば見知らぬ女子生徒に話しかけられたので、どうすればいいか分からないといったところか。

 困惑しながら竜は女子生徒の名前を尋ねる。

 

 

「昨日ぶりです!先輩!」

「昨日・・・・・・?・・・・・・ああ、教室に戻るときにぶつかった子か」

「はい!」

 

 

 女子生徒の言葉に竜は少しだけ考え込み、昨日ぶつかった女子生徒だということに気がついた。

 竜が気がついたことが嬉しいのか、女子生徒は敬礼するかのように手を当てて嬉しそうに笑顔を見せた。

 

 

「改めまして自己紹介を!紲星(きずな)あかりです!よろしくお願いします!」

「元気だな。俺は公住 竜だ。好きに呼んでくれて構わない」

 

 

 元気に自己紹介をする女子生徒────紲星あかりに竜は笑いかけながら応えた。

 そんな2人の姿を遠巻きに茜、葵、ゆかり、マキの4人はどこか含みのある目で見ている。

 

 

「ゆかりさんに続いてまた竜くんに関わる女の子が・・・・・・」

「昨日の今日で違う女の子が来るとは予想できひんかったわ・・・・・・」

「年下なのに胸が・・・・・・」

「紲星って言うと、1年生に入学したっていう“紲星グループ”の令嬢さんかな?」

 

 

 昨日のお昼にはゆかり。

 そして今日はあかり。

 2日連続での出来事にクラスに残っているクラスメイトたちもかなり不思議そうに竜のことを見ていた。

 

 

「それで何のようで来たんだ?」

「えっとですね。一緒にお弁当、食べてもいいですか?」

 

 

 竜の言葉にあかりはどこからか巨大な重箱を取り出しながら聞いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第30話

 

 

 

 

 あかりが取り出したのは裕に10人分ほどは入っていそうなほどに巨大な重箱。

 あまりにも大きなサイズで広げた重箱の端が机の上からはみ出してしまっている。

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

 重箱のあり得ないほどの大きさに竜は、いやクラスにいるあかり以外の全員が呆気に取られた。

 そもそもとして先ほどまではどこにもそんなものがあるようには見えなかったはずなのに、いきなり重箱が出現していることもおかしいのだが。

 

 

「これは・・・・・・、みんなで食べてくださいとかそんな感じなのか?」

 

 

 どうやって取り出したかの疑問は置いておいて、竜は一先ず量について尋ねる。

 もしも分けて食べるように考えられた量なのであればこの多さでもおかしくはない。

 竜の問いにクラスメイトたちも納得がいったのか、一様になるほどと言った様子で頷いていた。

 そんな竜の問いにあかりは首をかしげる。

 

 

「・・・・・・?いえ、全部私のご飯ですよ?」

 

 

 竜の言葉が心底不思議だと言うかのようにあかりは答える。

 それはつまりこの重箱のお弁当を1人で食べきることが可能だと言うことに他ならない。

 あまりにも衝撃的な言葉に一瞬だがクラスの中から音が消え、無音になった。

 

 

「えっと・・・・・・、食べきれるのか?この量を・・・・・・?」

「当然じゃないですか!うちの料理人が丹精込めて作ってくれたお弁当ですよ!」

 

 

 念のための確認も込めて竜が尋ねると、あかりはエッヘンと胸を張るように答えた。

 その際に後輩だとはとても思えないほどに立派なものが体の動きに合わせて揺れる。

 しいて擬音を付けるのならば“たゆんっ”辺りが妥当ではないだろうか。

 ちなみにマキの場合は“どたぷ~ん”でいいと思われる。

 

 

「・・・・・・もげればいいのに」

「大丈夫や。あれは将来的には垂れるんや・・・・・・」

「胸なんて脂の塊なんだよ・・・・・・」

「あの子も肩凝りとか辛そうだなぁ・・・・・・」

 

 

 揺れたあかりの立派なものに対して何人かの生徒から暗いものが見え隠れする。

 また、それとは別に何人か、本当に数人ほどではあるが、あかりに対して同情するかのような視線を向けているものもいた。

 

 

「ま、まぁ、食べきれるなら良いけど・・・・・・。とりあえず食べるか」

「はい!いただきます!」

 

 

 竜の言葉に合わせてあかりは勢いよく手を合わせる。

 パンッ、と小気味良い音にクラスにいた何人かはそのままあかりが錬金術をおこなってお弁当をホムンクルスに錬成する姿を幻視したが、そんなこととは関係なしにあかりはお弁当に手をつけ始めた。

 

 

「ぅんま~い!」

 

 

 頬に手をあて、幸せそうな表情であかりはお弁当を食べていく。

 その表情からは本当にお弁当が美味しいのだろうと言うことが理解できた。

 あかりの食べる姿に竜は思わず唾を飲み込む。

 竜のお昼は今日も買ってきたパンなので、目の前で手間暇をかけられたであろうお弁当はとても魅力的に見えるのだ。

 

 

「本当に美味しそうに食べるんだな」

「はい!」

 

 

 先輩であることのプライドと、嬉しそうに食べている邪魔をするわけにはいかないと言う謎の使命感から竜はあかりのお弁当を食べたい欲を抑え込む。

 あかりの食べるスピードは落ちることはなく、どんどんお弁当を食べ進んでいく。

 この調子であれば本当に1人で食べきることは間違いないだろう。

 

 

「ん・・・・・・。竜先輩、もしよかったら食べますか?」

「・・・・・・いや、あかりのために料理人が作ったんだろ?俺はいいよ」

 

 

 竜の視線に気がついたのか、あかりは食べることを一旦止めて竜に尋ねる。

 食べたいと思っていることがバレたことを恥ずかしく感じ、顔を逸らしながらやんわりと断る。

 竜の言葉にあかりは少しだけ考える表情になると、竜へと顔を近づけた。

 

 

「竜先輩、こっちを向いてください」

「なん────むぐっ?!」

 

 

 あかりに呼ばれ竜は顔をあかりの方へ向ける。

 それと同時に竜は口の中へと何かが入ってくるのを感じた。

 口の中に広がるのはジュワッとした肉の旨味。

 そして2本の細長い棒状のものが口の中に入っているのが分かった。

 見ればその棒状のものの反対側をあかりが持っている。

 どうやらあかりはお弁当のおかずの唐揚げを竜の口へと運んだようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第31話

 

 

 

 

 口へと入れられた唐揚げの美味しさに竜は一瞬だけ固まる。

 しかし、すぐに自分の口に入れられているのがあかりの使っていた箸だということに気がつき慌てて口を離した。

 

 

「ちょ、おま、なにを・・・・・・?!」

「竜先輩、美味しかったですか?」

「旨かったけど・・・・・・」

 

 

 慌てる竜に対してあかりはワクワクとした表情で尋ねる。

 子供のように無邪気な笑顔で聞いてくるあかりに竜は勢いを削がれたのか、やや困惑した表情になりながらも頷いた。

 

 

「それならよかったです!他にも食べたいものはありますか?」

「な、ならそれをもらおうかな」

「これですね。どうぞ!」

 

 

 竜の答えにあかりは嬉しそうにしながら次に欲しいものを尋ねる。

 あかりの言葉に竜は重箱の中に入っているおかずを1つ選ぶ。

 竜がおかずを選ぶとあかりはそのおかずを箸で掴んで差し出してきた。

 なんの躊躇いもなく再び自分の使っていた箸を使っておかずを差し出してきたあかりに竜は困惑しつつ受け取ろうと手を出す。

 

 

「手で持つなんて行儀が悪いですよ。はい、あーんしてください」

「あ、ああ・・・・・・」

 

 

 おかずを受け取ろうとする竜の手におかずを置かずに竜に口を開けるように促す。

 あかりの言葉に竜は照れつつ、躊躇いがちに口を開けた。

 口を開けた竜にあかりは楽しそうに掴んだおかずを食べさせる。

 

 

「も、もう十分だからあとは自分で食べてくれ」

「はーい」

 

 

 さすがに恥ずかしさが限界になったのか、竜は顔を隠しながらあかりに言う。

 そんな竜の言葉にあかりはとくに照れなどの様子もなく、竜が口にしたことも気にせずにそのまま箸を使ってお弁当を食べるのを再開した。

 

 

「あの子、いきなりあんなことを・・・・・・」

「どうする、お姉ちゃん。処す?処す?」

「葵、落ち着きい。次の機会にうちらも竜にやるんや」

「ありゃー、なんとも修羅場だねぇ・・・・・・」

 

 

 やや暴走を始めたゆかり、葵、茜の3人の声を聞きながらマキは聞こえないように小さく呟く。

 その原因になっている竜とあかりの様子を見ながらマキは自分のお弁当を食べきるのだった。

 

 

「・・・・・・あれ?もしかして、私とゆかりんも昨日はあんな感じだったのかな?」

 

 

 食べ終わったお弁当箱を片付けながらマキはふと昨日のお昼のことを思い出す。

 昨日のお昼ではマキとゆかりも竜に対してお弁当のおかずを箸で掴んで差し出していた。

 直接食べさせてはいないとしても同じような感じになっていたのはほぼ間違いないだろう。

 そのことに思い至ったマキは恥ずかしさで顔を赤く染めるのだった。

 

 

「ごちそうさまでしたぁ!」

「おぉう・・・・・・、本当に食べきったよ・・・・・・」

 

 

 いつの間にか重箱の中はキレイになくなっており、それでもまだ余裕のありそうなあかりの姿に竜は驚きと恐れの入り交じった声で呟いた。

 クラスにいた他の人たちも同じような気持ちなのか、どこぞのピンク色のボールな悪魔や緑色の恐竜を見るかのようにあかりを見ていた。

 

 

「えへへ、お弁当はいつも美味しいんですけど今日は竜先輩と一緒に食べたから一層美味しく感じられました!」

「また・・・・・・、恥ずかしくなることを言うなぁ・・・・・・」

 

 

 ニヘラと嬉しそうに笑いながら言うあかりの言葉に竜は照れながら答える。

 あかりの言葉に似たような経験のあるリア充なクラスメイトたちは同意をするように頷き、非リア充なクラスメイトたちはどこか光のない瞳で竜に鋭い視線を向ける。

 

 

「竜先輩、また今度も一緒に食べてもいいですか?」

「ああ、俺は別に構わないけど。その時はせめて箸をもう一組用意してもらえると安心できるかな。おかずを貰うにしても貰わないにしても・・・・・・」

 

 

 少しだけ不安そうにあかりは竜に尋ねる。

 あかり自身、今日のことは少しばかり勢いに任せて押しきってしまった自覚はあるので、次からも一緒に食べることができるのかが不安なのだ。

 あかりの言葉に竜は苦笑しながら答えた。

 

 

「やった!ありがとうございます!・・・・・・お箸は洗い物が増えちゃうので私ので大丈夫ですよね。では!」

「ちょ、まっ?!」

 

 

 竜の言葉にあかりは嬉しそうに喜ぶ。

 そしていつの間に重箱を片付けたのか、椅子から立ち上がると手をあげて教室から出ていった。

 あかりの残した最後の言葉に竜が驚いてあかりを捕まえようとするも、すでにあかりは教室から出ており、手を伸ばすことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第32話

 

 

 

 

 竜のクラスから出てきたあかりは機嫌良さそうに鼻唄を歌いながら廊下を歩く。

 2年生の廊下に1年生がいることに驚かれながらも、あかりの可愛さに誰もが見惚れてとくになにかを言われることはなかった。

 そんなあかりに4人の人影が近づいていった。

 

 

「ちょい待ちぃ」

「おや?あなたたちは・・・・・・」

 

 

 4人の人影の内の1人に声をかけられ、あかりは振り返る。

 声をかけてきた4人の姿を見てあかりは予想をしていたのか、とくに驚いた様子もなかった。

 

 

「ちょっと話したいことがあるんだけど、良いよね?」

「なるほど。大丈夫ですよ」

 

 

 4人の内のさらに別の1人の言葉にあかりは頷き、近くの空き教室へと入っていった。

 空き教室へと入ったあかりと4人は真っ向から対峙する。

 

 

「たしか、紲星あかり、と言いましたね。なぜ急に竜くんに接触したのですか?」

「なぜ、ですか?そうですね。一言で言うなら一目惚れ、とでも言いましょうか」

 

 

 問われたことにあかりはやや恥ずかしそうにしながら答える。

 あかりの言葉に4人のうち3人は理解したのか小さく頷く。

 

 

「それに、私のことを言うならあなただって、結月先輩だって同じじゃないですか。昨日から竜先輩に関わり始めたって、うちの人たちに色々と調べてもらったんですよ?」

「あ、もしかしてアイ先生の言っていた話しかけてくる人間って・・・・・・」

「その通りですよ。弦巻先輩。一応、あまり目立たないようにとは言っておいたんですけどね」

 

 

 尋ねてきた1人、ゆかりを指差しながらあかりは言う。

 確かにゆかりも竜にいきなり接触をした点ではあかりと同じと言えるだろう。

 あかりの言葉に、朝のホームルームで言われたこととの関連に気づいたマキは小さく呟く。

 あかりの調べたと言う言葉に残りの2人、茜と葵は表情を強張らせる。

 

 

「警戒しないでくださいよ。別に先輩たちのことをどうしようという気はないですから」

「その言葉を、うちらが信用できると思うんか?」

 

 

 あかりの言葉に茜は警戒を解くことなく答える。

 茜の言葉に同意するように葵とゆかりも警戒を解かない。

 ちなみにマキは3人に連れてこられただけなため、とくに警戒などはしていない。

 とは言っても自身のことを調べられてということを聞いて少しだけ嫌そうな表情は浮かべているが。

 

 

「警戒されているのは寂しいんですけどねぇ・・・・・・。私も先輩たちと同じ(●●●●●●●)なんですよ?」

「私たちと同じ、ですか・・・・・・?」

「ボクたちの共通点と言えば・・・・・・」

「竜、やね」

 

 

 あかりの言葉に茜、葵、ゆかりの3人は顔を見合わせる。

 3人が顔を見合わせる中、マキはなぜ自分も含まれているのか首をかしげていた。

 

 

「ねぇ、私も含んでるの?」

「違うんですか?竜先輩と仲良さそうに話している姿を見たと聞いていたのでてっきり・・・・・・。それに今もいますし」

「いや、私は3人に引っ張られてきただけかなぁ」

 

 

 自分が含まれていることを疑問に思ったマキはあかりに尋ねる。

 マキの言葉にあかりは少しだけ驚いた表情を浮かべた。

 

 

「そうだったんですか。まぁ、でも、同じ(●●)っていうのは間違ってないと思いますけどね」

「へ?」

 

 

 マキの言葉に驚きつつ、それでもあかりはマキも同じだということを強調した。

 あかりの言葉にマキは短く疑問の声をあげる。

 

 直後、あかりの姿がかき消えた。

 

 

「えっ?!」

「なっ?!」

「はぁ?!」

「嘘っ?!」

 

 

 あかりの姿が消えたことに4人は驚きの声をあげる。

 4人の誰もがあかりの姿は確認していた。

 しかし、それでも目の前からあかりの姿が消えたのだ。

 これは催眠術だとか、超スピードだとかで片付けられるほど簡単なものでは断じてなかった。

 

 

「わぁ」

 

 

 小さな声が教室に響く。

 

 そして、4人の背後にあかりの姿が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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第33話


紲星あかり
「作者を詐欺罪と名誉毀損罪で訴えます!理由はもちろんお分かりですね?あなたが皆をエイプリルフールだからといって嘘の話を投稿し、あまつさえ私のことを悪役のように表現したからです!覚悟の準備をしておいてください。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい!作者は犯罪者です!刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!」


こちらが正しい本編となります。





 

 

 

 

 背中合わせにあかりと4人は空き教室で立つ。

 

 いつの間に自分達の背後に移動したのか。

 驚きに固まりつつ、ゆっくりと4人はあかりの方へと振り返った。

 

 

「ね?同じ(●●)でしたでしょう?」

「・・・・・・そのようですね」

 

 

 ニコリ、と笑みを浮かべながらあかりは言う。

 あかりの言葉にゆかりは先ほどの出来事と聞こえてきた声から何が起きたのかを推測し、頷いた。

 ゆかりと同じように何があったのかを推測できたらしい葵とマキも同じように頷く。

 なお、茜だけはなにも分かっていないようでゆかりたちの顔をキョロキョロと見ていた。

 

 

「なぁ、分かってないのうちだけなんか?うちだけなんか?!」

「お姉ちゃん、あとでちゃんと説明してあげるから・・・・・・」

「絶対やで?!話してくれへんかったらお姉ちゃん泣いてまうかんな?!」

 

 

 混乱している茜は葵にしがみつきながら言う。

 茜の行動によりシリアス気味だった空気は霧散し、何とも言えない空気が漂う。

 

 

「えっと、とりあえずは私も皆さんのお仲間ということでいいですよね?」

「そうですね。私は認めましょう」

「ボクも認めるよ」

「あんたが何をしたんかは分からんけど、うちもええで」

「私の方も特にはないかなー」

 

 

 霧散した空気を取り繕うためにあかりは改めて自身がここにいる4人の仲間であることを言う。

 あかりの言葉に4人は頷き、あかりが自分達と同じであることを認めた。

 なお、竜を好きと言うことに関してはマキは関係ないのでとくに触れることはなかった。

 

 

「では、お昼休みも終わるので私は1年生の教室に戻らせてもらいますね」

「もうそんなに時間が経っとったんか」

 

 

 あかりの言葉に茜は時計を確認する。

 見ればお昼休みが終わるまで数分ほどの時間しか残っていない。

 茜につられて時計を見る3人を尻目にあかりは窓の方へと向かっていき、窓を開けた。

 

 

「皆さんのこと調べてはいましたけど、話したらけっこう好きになりました。明日も教室に行きますので今度は皆さんも一緒に食べましょうね。それでは!」

 

 

 そう言ってあかりは窓から跳び降りていった。

 先ほどの出来事もあってあかりが跳び降りたことに誰も驚いてはいない。

 

 そして、4人は教室へと戻っていった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「このようにして“怪成症(かいせいしょう)”という名前がついたんだ。次に────」

 

 

 お昼休みが終わり、午後の授業が始まる授業の内容は保健で内容は最近の病気についてだ。

 お昼ご飯を食べたあとの授業は睡魔を誘い、うつらうつらとしている生徒の姿がちらほらと見られる。

 

 

「あかん・・・・・・、眠い・・・・・・」

「お姉ちゃん・・・・・・」

 

 

 カクン、カクンと首を揺らす生徒がここにも1人。

 茜の首が揺れる姿を見て葵は授業を受けながら頭に手をあてた。

 

 

「さて、では私が説明したことを復唱してもらおうか。琴葉茜!」

「は、はひぃ?!?!」

 

 

 大きな声で名前を呼ばれ、茜は驚いて立ち上がる。

 眠りかけていた茜は教師の話を全く聞いておらず、困惑した表情で教科書と教師の顔を交互に見た。

 

 

「あかん、全然分からへん・・・・・・」

「はぁ、お昼休みが終わってから最初の授業で眠いのは分かるけどな・・・・・・。座っていいぞ」

「はい、すんません・・・・・・」

 

 

 教師の言葉に茜はしょんぼりとしながら席に座る。

 その後も教師は“怪成症”についての説明などを続けていった。

 

 茜が注意されたことによって他に眠そうにしていた生徒も目が覚めたのか、それ以降の授業で眠りかける者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 



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第34話

 

 

 

 

 本日の授業もすべて終わり、下校時間になる。

 眠りかけて怒られた茜はいまだにそれを引きずっているのか、どこか元気がないように見える。

 

 

「お姉ちゃん、もう元気出しなよ」

「せやなー・・・・・・」

 

 

 葵の言葉にも上の空な様子で、竜は少しだけ心配になっていた。

 いつまで経っても元気にならない茜の様子にゆかりやマキも心配そうに見ている。

 

 

「いつまでしょげてんだ」

「わぅ?!ちょ、やめぇ?!」

 

 

 グシャグシャと頭を乱暴に撫でられ、茜は困惑しながら竜の手を掴もうとする。

 しかし茜の手が触れる直前に竜は手を引く。

 

 

「んで?なんで元気がないんだよ」

「・・・・・・笑わへん?」

 

 

 竜の言葉に茜はおずおずと尋ねる。

 茜の姿は、どこか恥ずかしがっているようにも見えた。

 

 

「内容によるな」

「う・・・・・・、せやね。・・・・・・・・・・・・んや」

 

 

 竜の答えに茜は少しだけ考え、小さく呟いた。

 茜の言葉がハッキリとは聞こえず、竜は茜に耳を近づける。

 

 

「なんて?」

「だから・・・・・・。・・・・・・・・・・・・もうたんや」

 

 

 先ほどよりは少しだけ声は大きくなったが、それでもハッキリとは聞こえない。

 竜はさらに茜に耳を近づける。

 

 

「だから!お腹が空いてもうたんや!」

「うぉ?!」

 

 

 近づけた耳元での茜の咆哮ばりの叫びに竜は思わず耳を押さえる。

 それでも完全には防げていなかったため、耳がややキーンとしていた。

 また、茜の声が大きかったので周りにいた他の人間の耳にも茜の声は届いており、葵やゆかり、マキを含めた全員に呆れたような目を向けられていた。

 

 茜の元気のなかった理由がただの空腹。

 その事実に何とも言えない空気が広がる。

 茜の元気がなかったことを心配していたクラスメイトたちは苦笑を浮かべながら教室から出ていった。

 

 

「お前・・・・・・、ただの腹減りかよ・・・・・・」

「しゃあないやん。最後の授業が体育やったんやから」

「いや、あれはお姉ちゃんだけが勝手に盛り上がって動き回ったからだよね?」

 

 

 竜は呆れた表情で茜を見ながら言う。

 竜の視線から逃れるように茜は顔を逸らし、もごもごと答えた。

 しかし茜の答えを葵はバッサリと切り捨てた。

 

 午後の最後の授業の体育で茜はする必要もないのに無駄に動き回っていた。

 そのことは同じ授業を受けていた全員が証言できるし、誤魔化しようのない事実である。

 そして同じ授業を受けている他のクラスメイトたちは誰1人として空腹を訴えていない。

 この事から茜が空腹になっているのは完全に自業自得だった。

 

 

「り、理由なんかどうでもええんや。お腹空いとるから帰りにどっかに寄らへん?」

「どっか、ねぇ?」

「この辺りだとファミレスとか?」

 

 

 茜の言葉に竜と葵は近辺に何があったかを考える。

 お腹が空いたと言っているのだから飲食店であること。

 そして、晩御飯前なのだから少量のものがあるところ。

 

 どこに行こうか頭を悩ませる3人のもとにマキとゆかりが近寄ってきた。

 

 

「やっほー、3人でどこかに食べに行くの?」

「これからマキさんの家の喫茶店に行くのですが、一緒にどうですか?」

「マキマキんちは喫茶店なんか」

「喫茶店なら小腹を満たすのにはちょうどいいのかな?」

「新規開拓も面白そうだし。一緒に行くか」

 

 

 マキとゆかりの言葉に竜たちは頷く。

 喫茶店であればレストランよりも少なめの軽食のようなものがあるイメージがあり、軽く小腹を満たすにはちょうどいいと考えたからだ。

 帰るための荷物を掴み、竜たち5人は教室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第35話

 

 

 マキの家がやっている喫茶店へと向かう道中。

 竜たちは何てことのない会話をしていた。

 

 

「うちは思うんよ。クッパって実はマリオのことが好きなんやないかって」

「どうしてそんな風に思ったんですか?」

 

 

 茜の言葉にゆかりは首をかしげて尋ねる。

 

 知らない人はいないと思うが、茜の言うクッパとはマリオシリーズの敵キャラでトゲつきの甲羅を背負った亀のことだ。

 少し前には擬人化、というか姫化をしたこともあったが。

 

 ゆかりの言葉に同意するように竜、葵、マキも茜のことを見る。

 

 

「いやな、自分でコースを作るゲームがあるやろ?」

「ああ、ありましたね」

「たしかマリオメーカーだっけ?」

 

 

 茜の言うゲームが思い浮かんだのか、マキがゲーム名を言う。

 マキの言葉に茜は頷いた。

 

 

「せやで。んでな、うちもコースを作ってみたんよ」

「ああ、昨日はそれで宿題をやってなかったんだね」

 

 

 宿題をやらなかった理由の自白に茜に白い視線が突き刺さった。

 そんな視線を気にしないように顔を逸らしつつ茜は言葉を続ける。

 

 

「あれな。うまい具合にコースを作るんが難しいんよ。マリオのジャンプする距離やら、ブロックの配置やら、アイテムの配置と使い道やら。いろいろとちゃんと考えなあかんのよ」

「あー、なるほど。簡単にクリアできるやつは作りやすいけど、ギリギリクリアできるかなって難易度にするのが難しいんだな」

 

 

 茜の言いたいことが分かった竜はしきりに頷く。

 

 

「んでな?そんなコースをクッパは作っとるわけやろ。コース1つを作るのにマリオのことをたくさん考えとるんや。これはマリオのことを好きと言っても過言ではないと思うわけや!」

 

 

 ドンッ、という効果音が聞こえてきそうなほど茜は自信満々に言う。

 そんな茜の言葉に竜たちは顔を見合わせた。

 

 

「・・・・・・どう思う?」

「すさまじいほどの極論ではないでしょうか?」

「ちゃんとクリアできるように設計されているって言う点では好ましく思っていると思えなくはないけど・・・・・・」

「お姉ちゃんが変なこと言ってごめんなさい・・・・・・」

 

 

 茜の言葉に同意を示すものはここにはいなかったようだ。

 自信満々に胸を張りながら歩く茜に、竜たちはため息を吐くのだった。

 

 

「あ、見えましたよ」

「あれがマキマキの家がやってるカフェなんやね」

「えっと、“Cafe Maki”?」

「もしかして、店の名前はマキの名前からか?」

「うん。私が生まれてから喫茶店を始めたんだって」

 

 

 しばらく歩いていくと、白い壁に黄色の文字で書かれた看板の掲げられた建物が見えてきた。

 建物の外観はシンプルな白地の壁に大きめの窓がついており、店の前には色とりどりの花が鉢植えに植えられて並んでいた。

 喫茶店の建物の後ろには別の建物が繋がっており、そちらが弦巻家の住居なのだろう。

 竜の言葉にマキは嬉しそうに笑みを浮かべながら答える。

 

 

「えへへ、うちの喫茶店“cafe Maki”へようこそ!」

 

 

 マキは照れながら笑みをこぼし、店の扉を開けた。

 喫茶店の内装は木製のテーブルに白い椅子とシンプルながら雰囲気にあった物が使われており、とても落ち着いた雰囲気を感じられた。

 

 扉を開けた際に鳴ったドアベルの音が聞こえたのか、1人の女性が歩いてきた。

 

 

「いらっしゃいませ~、って、あら?マキちゃん、おかえりなさい。そちらはお友だち?」

「ただいま、お母さん。うん、ゆかりんの他にも連れてきたんだ~」

 

 

 歩いてきたのはマキの母親だった。

 マキの母親は竜たちのことを、とくに竜のことを興味深そうに見ると、パチンと手を合わせる。

 

 

「マキちゃんのボーイフレ────」

「違うからね?!」

 

 

 自分の母親がとんでもないことを言い出しそうなことに気がついたマキは慌てて言葉を遮る。

 ただでさえお昼休みの出来事で敏感になっているのだからここで刺激を与えるのは得策ではない。

 そしてマキは誤魔化すように竜たちを席に案内するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第36話




遊戯王のBGMを聞きながら書いているとデュエルがしたくなりますね。






 

 

 

 

 マキに席に案内され、竜たちは席に着く。

 4人掛けのテーブルで座り方は竜の隣にゆかり、竜の対面に茜、そして茜の隣に葵だ。

 

 

「あれ、マキマキは座らへんの?」

「うん。私はちょっと手伝ってくるからね。座るときは椅子を持ってくるよ」

 

 

 4人掛けのテーブルではマキが座れないので、その事が気になった茜が尋ねる。

 茜の言葉にマキはヒラヒラと手を振って答えた。

 そしてマキはスクールバッグを持って店の奥へと向かっていった。

 

 

「では頼むものを決めちゃいましょうか。メニューはこちらです」

「へぇ、なかなか種類があるんだな」

 

 

 ゆかりの広げたメニューを見て竜は少しだけ驚く。

 “cafe Maki”のメニューは喫茶店にしては種類が多く、幅広い層に需要がありそうだった。

 

 

「私はこちらの紅茶とショートケーキにしますね」

「ボクはオレンジジュースとチョコケーキかな」

「うちはそうやな・・・・・・、マーマイトとスターゲイジーパイやな」

「・・・・・・本当にそれでいいのか?」

 

 

 それぞれ注文するものが決まった順に言っていく。

 茜の言葉に竜は本当にそれを頼むのか確認した。 

 

「い、いややな、冗談や冗談。それにそんなもんさすがに置いてないやろ?」

「いや、置いてあるみたいだが」

「マジか?!っと、うちは紅茶とチーズケーキにするで」

 

 

 ここでイエスと言えば竜は本当にマーマイトとスターゲイジーパイを注文する。

 茜が注文すると言えば竜は本当に注文する。

 そんな本気を茜は感じ、慌てて本当に注文したいものを言った。

 むしろマーマイトとスターゲイジーパイを注文できる喫茶店とはどういうことなのだろうか。

 

 この2品がどこへ向けた需要なのか気になるところだが。

 それを知るためには紅茶をキメてイギリスの産み出した操作性皆無の兵器を転がして来るといいだろう。

 ちなみにその操作性皆無の兵器は9回の走行テストをおこなって9回失敗していたりする。

 

 

「俺はそうだな・・・・・・、ん?なんだ、このマキ茶って」

 

 

 自分の注文するものを考えていると、竜はメニューに書かれている不思議な名前のお茶に気がついた。

 名前からして普通の飲み物とは違ってこの喫茶店のオリジナルか何かであることがうかがえる。

 

 

「面白そうだしマキ茶にしてみるか。あとは・・・・・・オススメで頼むかな」

 

 

 興味から竜はマキ茶を選択する。

 マキ茶がどのようなお茶なのかが不明なため、一緒に頼むものはおすすめにするようだ。

 まぁ、知らないものと適当に組み合わせて合わなかったら勿体ないので、初見であるならば店の店員に聞くのが1番だろう。

 

 

「あ、みんな決まったかな?」

「マキさん。ええ、決まりましたよ」

「わぁ、マキさんもお店の制服を着たんだね」

「おー、マキマキ似合っとるやん」

 

 

 荷物を置いてきて喫茶店の制服に着替えたマキがヒョコリと現れた。

 白いワイシャツに紺色のロングスカート、そして黄色のエプロンとシンプルな制服ではあるが、非常に絵になっていた。

 マキの姿にゆかりたちは似合っていると褒め、褒められたマキは照れつつ嬉しそうにしていた。

 

 

「えっと、それじゃあ注文を聞いていくね」

「では私から、紅茶とショートケーキです」

「じゃあ次はボクが、オレンジジュースとチョコケーキだよ」

「なら次はうちや。紅茶とチーズケーキで頼むで」

 

 

 慣れた様子でマキは伝票に注文を書いていく。

 そこそこ早い速度で注文を言っていってるのだが、焦ったりしている様子もない。

 

 

「最後は俺か。マキ茶とオススメで頼む」

「えっ?!」

 

 

 最後に竜が注文を言うと、マキは驚きの声をあげて注文を書くのを止めた。

 不思議に思ってマキを見ると、顔を真っ赤に染めている。

 そんなマキの様子に竜たちは首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第37話

 

 

 

 

 竜たちの注文を聞いていたマキは顔を赤くしたまま固まっていた。

 動かなくなってしまったマキを竜たちは首をかしげながら見ている。

 

 

「おーい、マキー?」

「どないしたんやろうね?」

 

 

 反応のないマキに竜は目の前で手をヒラヒラと動かす。

 しばらくすると、再起動を果たしたのかマキは動き始めた。

 それでも動きにややぎこちなさは残っているが。

 

 

「え、えっと・・・・・・、竜くん。もう1回聞いてもいいかな?」

「おう、俺が注文するのはマキ茶とオススメだよ」

「だ、だよね!・・・・・・・・・・・・焦ったぁ」

 

 

 竜の注文を再確認し、マキはようやくすべての注文を聞き終えた。

 注文内容を聞き終えたマキは慌てた様子で竜の言葉に頷く。

 その際にマキは小さく呟いていたが誰の耳にも届くことはなかった。

 

 

「それじゃ、私はお父さんに注文を伝えてくるね!」

「頼んだでマキマキ~」

「お願いね~」

「お願いしますね、マキさん」

 

 

 注文を書き終えた伝票を片手にマキはキッチンへと向かっていく。

 そんなマキの姿を竜たちは見送るのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 キッチンへとやって来たマキは竜たちから見えていないことを確認すると顔を隠してしゃがみこんでしまった。

 手で隠れているために見えにくいが、その顔は真っ赤になってしまっている。

 

 

「私はなんて聞き間違いを・・・・・・」

 

 

 マキの頭の中に先ほどの自分がしてしまった聞き間違いの言葉が甦ってくる。

 

 ────『マキちゃん』とオススメで頼む。

 

 ボンッ、と音が聞こえてきそうなほどにマキの顔はさらに赤く染まる。

 本当は『マキ茶』と言っていたのだが、マキは聞き間違えて自分のことを注文しているのかと勘違いしてしまったのだ。

 

 

「う、うああぁぁぁああぁあぁ?!」

 

 

 頭を手で左右から挟んでマキはブンブンと首を振る。

 竜のことは最近仲良くなった友だち程度にしか認識していなかったのに、いきなり自分のことを注文されたと勘違いしたことによって変に意識をしてしまっていた。

 マキの頭の中では先ほどの自分を注文した言葉が勝手に繰り返されていた。

 

 

「落ち着け、落ち着くんだ私。竜くんは友だち。それ以上でもそれ以下でもない・・・・・・、うん、大丈夫・・・・・・」

 

 

 キッチンの壁に頭を押し付けながらマキはブツブツと呟く。

 マキは竜のことを友だちだと言っているが、そもそもとしてただの友だちとしか思っていないのであればこのような状態になどならないとも言える。

 と言ってもその辺りのことは個人によって考え方が異なるので一概にそうとも言えないのだが。

 

 まだ少し顔の赤さが残っているものの、どうにか立ち直ったマキはキッチンにいた父親に伝票を手渡した。

 

 

「マキ、さっきはなにか悶えていたみたいだけど何かあったのかい?」

「お父さん。ううん、大丈夫。ちょっと私が聞き間違いをしちゃっただけだから・・・・・・」

 

 

 マキから伝票を受け取った父親は、先ほど聞こえてきたマキの声などが気になり、マキに声をかける。

 父親の言葉にマキは首を横に振りながら答えた。

 自分のさっきの声で心配させてしまったことは分かっているが、それでもそうなった理由を話すのは少しだけ恥ずかしかった。

 

 マキの言葉に父親は聞くのをやめて伝票に書かれたメニューを準備していく。

 それでも気になっているようでチラチラとマキの方を何度も見ているのだが。

 

 

「おや、マキ茶を頼んだ人がいたのかい」

 

 

 伝票を見て注文を確認していた父親はマキ茶が注文されていることに気がついた。

 なにを隠そう、マキ茶とはこの“cafe Maki”の看板メニューにするためにマキの父親が考案したメニューなのだ。

 そのため、マキ茶が注文されてることを知って嬉しそうに準備を進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第38話

 

 

 

 

 父親の用意した飲み物を受け取り、マキは竜たちのもとへと向かう。

 飲み物の用意を待っている間にある程度落ち着いたのか、赤くなっていた顔ももとに戻っている。

 

 

「はぁ、自分で聞き間違えちゃったことだけど、気をつけないと・・・・・・」

 

 

 飲み物を運びながらマキは小さく呟く。

 聞き間違いによってドキッとしてしまったが、その相手は自分の友人たちが好きな相手。

 そんな相手を好きになるわけにはいかなかった。

 まぁ、その相手を好きになっている後輩が今日増えたのだが。

 

 そんなことを考えながら竜たちの座っているテーブルに向かうと話し声が聞こえてきた。

 竜たちがなにか話しているのかとも考えたが、どうにも声の数が1つ多いように聞こえる。

 不思議に思いながらマキはテーブルに近づいていった。

 

 

「でね、マキちゃんったらこう言ったのよ。『お母さん。私スーパーグレートでウルトラファイヤーなギタリストになりたいっ!』って」

「お母さぁぁあああん?!?!」

 

 

 聞こえてきた声にマキは思わず大きな声をあげる。

 1人分多く聞こえていた声の主はマキの母親であった。

 しかも自分の恥ずかしい話を話していたらしい。

 マキは慌てて持っていた飲み物をテーブルの上に置いて母親に詰め寄った。

 

 

「ちょ、ちょちょちょっと?!なにを話してるの?!」

「なにって・・・・・・、マキちゃんの話よ?」

 

 

 詰め寄って来たマキの言葉に母親は不思議そうに首をかしげながら答える。

 母親からすれば自分の可愛い娘であるマキの話をマキの友だちと共有したいと思っての行動であり、恥ずかしいことだとは思っていないのだ。

 むしろ、自分の娘はこんなに可愛いのだと布教したいとすら思っていたりする。

 

 

「もう!お母さんはあっちに行ってて!」

「えー、でもまだマキちゃんのことを話し足りないのよ?」

「 い い か ら ! 」

 

 

 母親の背中をぐいぐいと押し、マキは竜たちから母親を遠ざける。

 少しでも自分の恥ずかしい話を聞かせないために。

 マキに押され、母親は名残惜しそうにしながらも離れていった。

 

 

「・・・・・・疲れた」

「お疲れさまです」

 

 

 母親が離れたことを確認したマキはガックリと肩を落としてポツリと言葉をこぼした。

 そんなマキにゆかりは苦笑しながら労いの言葉をかける。

 ゆかりはすでにマキの母親とは面識があったので、マキの心情をある程度は理解できたのだ。

 ゆかりの言葉にマキは小さく頷き返した。

 そしてマキはテーブルの上に置いた飲み物を各自に配っていく。

 

 

「たしか、ゆかりんと茜ちゃんが紅茶で、オレンジジュースが葵ちゃん。で、マキ茶が竜くんだったね」

「ええ」

「せやで」

「そうだね」

「合ってるな」

 

 

 竜たちは自分たちの前に置かれた飲み物を見て、自分たちが注文したものであることを確認する。

 確認のためにカップに顔を近づけると、それぞれの飲み物の良い香りがフワリと鼻に届いた。

 

 

「やっぱり良い香りですね」

「おー、マキマキの父ちゃんは紅茶を淹れるのが上手いんやな」

 

 

 紅茶の香りを感じたゆかりは柔らかく微笑む。

 紅茶にとって重要なコツが5つある。

 

1.良質な茶葉を使う

2.ふた付きのティーポットを使う

3.茶葉の量はティースプーンで正確に量る

4.お湯は新鮮な水をしっかり沸騰させる

5.時間を計り、茶葉をきちんと蒸らす

 

 これが美味しい紅茶を淹れるためのコツだ。

 また、最後の1滴がもっとも美味しいと言われており、黄金の雫(ゴールデンドロップ)と呼ばれるほどなので、最後の1滴まで入れることも大事なポイントなのだ。

 

 

「あ、このオレンジジュースもちゃんとしぼって作ったものなんだね?それでも酸っぱすぎなくて飲みやすい」

 

 

 オレンジジュースを口に運んだ葵は少しだけ驚きながら言う。

 市販のオレンジジュースとは比べ物にならない味の濃さと、それでいて酸っぱさを感じないその味に感心するように頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第39話



体調不良になりました。

読んでくださっている方々も体調に気をつけてください。


 

 

 

 

 注文したオレンジジュースを口に運ぶ葵の姿にマキはにっこりと笑いかける。

 

 

「美味しいでしょ。それ、オレンジの皮も少しだけ搾って混ぜてるんだよ」

「え?でも皮を入れたら苦くなっちゃうんじゃないの?」

「うん。だから苦くならないように調節してるの。どのくらい入れてるのかは教えてもらってないから分からないけどね~」

 

 

 オレンジジュースを美味しそうに飲む葵にマキは美味しさの秘密を少しだけ話す。

 美味しさの秘密を話して良いのかと思われるかもしれないが、分量などは言っていないので問題はない。

 それに加えて、美味しさの秘密がこれだけだとも言っていないので、仮に誰かに聞かれたとしても真似をしてこのオレンジジュースを作ることは不可能だろう。

 

 

「ん、これは・・・・・・、レモンの香りを感じる紅茶?レモンティーってやつか?」

 

 

 口に運んだ瞬間に広がるさっぱりとした爽やかな風味を感じ、竜はマキ茶がどんなものなのかを察して呟いた。

 竜の言葉にマキは嬉しそうに頷く。

 

 

「正解!お父さんが独自に比率を研究した特別な紅茶なんだよ」

「そうなのか。自信があるから独自に名前をつけたのかねぇ?」

 

 

 マキの言葉に竜はマキ茶と言う名前になった理由を考える。

 ちなみにこのレモンティーには4種類の茶葉が使われており、それぞれ“キャンディ”・“ダージリン”・“ウバ”・“ディンブラ”と呼ばれているものが使われている。

 ただしそれぞれの茶葉の比率や名称などのことを父親は誰にも明かしておらず、マキや母親ですらそのことは知らない。

 

 

「マキちゃ~ん、ケーキの準備ができたって~」

「あ、はーい。じゃあ、ちょっと待っててね」

 

 

 名前を呼ばれ、マキは竜たちに声をかけてキッチンへと向かった。

 キッチンへと着くと、母親からケーキの乗ったトレイを渡される。

 トレイに乗っているケーキの数は2つで、残りの2つは母親の持っているトレイに乗っていた。

 

 

「1人で持ってくのは危ないからお母さんも持ってくわね~」

「うん」

 

 

 母親の言葉に頷き、マキは母親と並んでケーキの乗ったトレイを持って竜たちのいるテーブルへと向かう。

 

 

「おまたせ~。えっと、ゆかりんにショートケーキ。茜ちゃんにチーズケーキ。葵ちゃんにチョコケーキで、竜くんはオススメのケーキのチョコミルクレープだね」

 

 

 先ほどの飲み物を置いたときと同じようにマキはケーキを竜たちの前に置いていった。

 目の前に並べられた美味しそうなケーキに竜たちは思わず笑みがこぼれる。

 

 

「これで全部揃ったね~」

「いえ、まだですよ」

「せやな。まだ全部は揃っとらんで」

「大事なものがまだ来てないですね」

「え?」

 

 

 ゆかり、茜、葵の言葉にマキは首をかしげる。

 そんなマキの姿に竜はただなにも言わずに笑みを浮かべていた。

 ちゃんと4人分の飲み物もケーキも運んできて、聞いたものは全て持ってきている。

 いったいなにを忘れていると言うのか。

 

 首をかしげているマキの後ろにマキの母親が移動し、マキの頭を軽く撫でる。

 

 

「マキちゃん、もうお手伝いは十分だからお友だちとお話ししてて大丈夫よ」

「あ、うん」

「それじゃあマキちゃんの分の飲み物とケーキを持ってくるから椅子を準備して待っててね」

 

 

 そう言って母親はキッチンへと向かっていった。

 キッチンへと向かっていく母親の姿を見つつ、マキはついさっき言われた『全部は揃っていない』という言葉の意味を理解した。

 

 

「これで全部揃いますね」

「えへへ、そうだね」

 

 

 マキは自分の分のことを考えてくれていた4人に笑いかけながら頷いた、

 そして近くにあった椅子を動かして自分の座る場所を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第40話

 

 

 

 

 女性が3人集まれば姦しいというが、そこに1人加わるとさらに手に負えなくなる。

 楽しそうに話す茜、葵、ゆかり、マキの4人を見ながら竜はマキ茶を口に運ぶ。

 

 ときおり竜も会話に参加できるような話題が出るものの、それでもどことなく居心地の悪さのようなものを感じていた。

 ファッションの話やメイクの話、好きな音楽の話に勉強の話。

 様々な話題が尽きることなく4人の口から溢れてきていた。

 中にはうっかり聞いてしまった体重の悩みについての話なんかもあったが、それを聞いてしまった直後に忘れるように念入りに釘を刺されてしまったりもした。

 

 

「よくもまぁ、あんなに話題が尽きないもんだ・・・・・・」

「あはは、それが女性というものなんだよ。男はそれに付き合っていくしかないのさ」

「そうかもしれないけど・・・・・・ん?」

 

 

 きゃっきゃと会話をしている4人の姿を見ながら竜が呟くと、その声に返事が帰ってきた。

 聞こえてきた声に竜はキョロキョロと辺りを見回す。

 今の声は茜たち4人の声とは全く違っており、男性の声であった。

 竜が辺りを見回すと、自分たちが座っているテーブルの隣の通路に見慣れない男性の姿があることに気がついた。

 

 

「えっと、こんにちは・・・・・・?」

「ああ、こんにちは」

 

 

 突然現れた男性に、竜は困惑しながら挨拶をする。

 男性の手もとを見ると飲み物とケーキの乗ったトレイを手に持っており、それを運んでいるところなことが分かった。

 

 

「あ、お父さん」

「お友だちと楽しそうに話してたね。マキの分を持ってきたよ」

 

 

 男性がいることに気がついたマキは嬉しそうに声をあげる。

 マキが気づいたことによって男性、マキの父親はニコリと笑いかけて持っているトレイをマキの前に置いた。

 マキの前に置かれたのはカフェオレとミルクレープだった。

 それらを見てマキは嬉しそうに目を輝かせる。

 

 

「マキさんは本当にそれが好きなんですね」

「ほへぇ、それがマキマキの好物なんやね?」

「とっても美味しそうだね。今日は別のものを頼んでるから今度来たときに頼もうかな?」

「これ、クレープ生地を焼くの大変そうだな」

 

 

 マキの前に置かれたものを見て竜たちは口々に感想を言う。

 自分の目の前に好物があるということと、自分の好物に興味を示されているということを嬉しく感じ、マキは小さく笑みを浮かべる。

 

 

「ふふふ、この2つはマキが小さい頃からの好物でね。悲しいことがあったり、落ち込んだときなんかもこれを食べたらすぐに機嫌を良くするんだよ」

 

 

 嬉しそうなマキの姿を見ながら父親は自慢げに言う。

 確かに自分の作ったものを食べて嬉しそうにしてもらえれば作った甲斐があるというもの。

 父親の気持ちが何となく分かった茜と葵は納得するように頷いた。

 

 

「それじゃあ、私は仕事に戻るよ。みんなも“cafe Maki”にこれからも来てくれると嬉しいかな」

「うん。お父さん、ありがとう」

「もちろんです」

「まだ気になるもんもあるから当然やでー」

「ボクもお姉ちゃんとまた来ます」

「常連になるかもです」

 

 

 父親の言葉に竜たちは笑みを浮かべながら答えた。

 竜たちの言葉に父親は満足そうに頷くとキッチンに向かって歩き始める。

 

 不意に父親が立ち止まって竜の方を見た。

 

 

「常連になるのは嬉しいけど・・・・・・、うちのマキを目的に来るなら話は変わってくるからね?」

「え、あ、はい・・・・・・」

「お父さん!」

 

 

 先ほどまでの雰囲気とはガラリと変わって威圧するような父親の言葉に竜は怯みながら答える。

 豹変した父親の様子に茜たちは驚き、竜とマキ、そして父親のことをキョロキョロと見回している。

 父親のこの行動はマキが男友だちをつれてくるたびにやっているため、マキは呆れ混じりに怒るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第41話

 

 

 

 

 マキは父親の持ってきたミルクレープをフォークで切って口に運ぶ。

 

 

「あむ、んむんむ・・・・・・んッ~♪」

 

 

 マキがミルクレープを口に運ぶと、マキの周囲に花びらがパァッと広がるようなイメージを竜たちは見たような気がした。

 噛み締めるようにミルクレープを食べたマキは続いてカフェオレの入ったコップを持って口に運んだ。

 

 

「んく、んく・・・・・・ぷはっ♪」

 

 

 続けてマキの周囲に太陽の光が広がるようなイメージが竜たちの頭の中に広がる。

 幸せそうなマキの表情に竜たちはニヨニヨと笑みを浮かべた。

 

 

「・・・・・・なに?」

「いえ、なんでもないですよ」

「せやせや、マキマキは気にせんと食べてええで」

「うんうん、美味しいもんね」

「・・・・・・・・・・・・これを見るための常連とかいそうだな」

 

 

 自分のことを竜たちが見ていることに気がついたマキは首を小さくかしげて尋ねる。

 マキの言葉に竜たちは顔を見合わせると、揃って首を振って答えた。

 ゆかりたちの言葉を聞いて一応は納得したのか、マキは食べるのを再開する。

 再び食べ始めたマキの姿を見ながら竜はポツリと小さく呟く。

 その際に店にいた何人かの人間がギクリと不自然に動いたことを竜たち “は” 気づかなかった。

 

 

「ん?」

「なんや?」

 

 

 不意に聞こえてきた音に竜たちは不思議そうに周りを見る。

 竜たちの耳に聞こえてきたのはなにかを殴打するような音と、なにかを引きずるような音。

 竜たちが周りを見回してみてもとくに変わったことなども見つからず、不思議そうに首をかしげる。

 何人かの客の姿がいつの間にか消えている店内で竜たちは会話を再開するのだった。

 

 

「あ、そうだ。ゆかりんとも話してたんだけどさ、『モンスターハンター』をやろうと思ってるんだけど。オススメの武器とかあるかな?」

「おお、マキマキもモンハンやるんか。ちなみにワールドで合っとるか?」

 

 

 ふと、マキが思い出したように言う。

 マキはゲームよりもバンドなどの音楽系の方に興味があったのでモンハンなどのゲームは基本的にやったことがなかったのだ。

 と言っても完全にやったことがないという訳ではなく、ポケモンなどのゲームをゆかりに誘われてやっているが。

 

 

「うん、それだったら通信で協力プレイができるって言われたから」

「未経験からワールドか。まぁ、プレイしやすいし良いかもな」

 

 

 茜の言葉にマキは頷き、ワールドを選んだ理由を答える。 

 ここでアイスボーンではないのかと疑問に思う方がもしかしたらいるかもしれないが、アイスボーンは“拡張コンテンツ”なため種類としてはワールドで問題ないのだ。

 

 

「うちらもやっとるし、とりあえず自分の使っとる武器を言っていこか」

「そうだな。俺は操虫棍と狩猟笛、あとは弓とライトボウガンだ」

「うちはヘビィボウガンや」

「ボクは片手剣と大剣、あとはスラッシュアクスかな」

「竜くんは珍しい武器を使ってるんですね?私は太刀と弓です」

 

 

 モンスターハンターワールドには大剣、太刀、片手剣、双剣、ハンマー、狩猟笛、ランス、ガンランス、スラッシュアクス、チャージアックス、操虫棍、弓、ライトボウガン、ヘビィボウガンの14種類の武器がある。

 その中からオススメの武器と言われても人によって答えは様々だ。

 そのため、茜はまずは使用している武器を言うことにした。

 使用武器を言っていくと、見事なまでに被りはなく、ある程度の使用武器についての説明はできそうに思える。

 ここで言われなかった他の武器もネットなどを見てマキに説明すればよいだろう。

 

 竜の使用武器を聞いたゆかりは少しだけ意外そうに言った。

 竜の使っている狩猟笛と操虫棍は使用率がそれぞれ最下位の14位と13位、それほどまでに使用者が少ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






竜の使用武器は作者が実際に使っている使用武器と同じものです。

モンハンで会うことがありましたらどうぞよろしくお願いします。


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第42話


モンハンの武器の話はけっこう長いのでしばらく続きます。

武器種の説明に関して「違うのではないか?」「説明は他にもあるんじゃないか?」などの意見はあるかもしれませんが、これはあくまでも茜たちの言っている説明です。

その事をご理解ください。




 

 

 

 

 竜たちの使用武器をマキは興味深そうに聞く。

 モンハン自体をやったことのないマキからすれば使用武器を聞くだけでも興味が湧くのだ。

 

 

「武器の種類が多いのは聞いてたけど見事にバラバラなんだね」

「せやね。それじゃ、誰から武器について話そうか?」

「俺は種類が多いから後で良いか」

「とりあえず使用武器が1つのお姉ちゃんからで良いんじゃない?」

「私は2種類ですしその次ですかね」

 

 

 マキの言葉に茜は誰から武器の紹介をするか尋ねる。

 竜は使用武器が4種類、葵は3種類で、ゆかりは2種類、そして茜は1種類。

 一先ずは武器種の少ない茜から説明をしていくことに決めた。

 先に言っておくと、茜たちの意見なだけであって完全にこの意見が正しいと言うわけではないことを理解しておいてもらいたい。

 

 

「そうやな。ヘビィボウガンは長距離から弾を撃って攻撃する武器や。攻撃力も高くてかなりのダメージをモンスターに与えることができるで。操作もモンスターを狙って撃つ、の簡単な操作だけや」

「名前のとおり本当に銃なんだね?」

 

 

 茜の説明にマキは軽くメモを取りながら尋ねる。

 メモを取るのは大袈裟ではないかと思うかもしれないが、まだ始めてもいないのだからちょうど良いくらいだろう。

 

 

「せやで。あとヘビィボウガンには特殊射撃っちゅう強力な攻撃もあるんや」

「特殊射撃?」

「1つは機関竜弾、これは大量の弾を連続で撃つ、要はマシンガンみたいなもんやな。んでもう1つは狙撃竜弾、こっちは1発しか撃てへんけどモンスターを貫通してその後に爆発する弾や。ヘビィボウガンにはこの2つの内どちらかが必ず撃てるようになっとるで」

 

 

 マキがイメージをしやすいように茜は特殊射撃の内容を話していく。

 マキも興味が湧いたのか熱心に話を聞いていた。

 

 

「と、ここまでがヘビィボウガンの良い点や。本当は他にもあるんやけど、さすがに長くなりそうやしな」

「パーツの説明になると長くなっちゃうしね」

「せやからこれはマキマキが使い始めたときに説明するわ。次は悪い点や。ヘビィボウガンはな、移動が遅い。これに尽きるわ」

 

 

 ヘビィボウガンは機動力を犠牲にして火力を得た武器種。

 その事を茜は簡単に一言で説明した。

 

 

「動くのが遅いからモンスターの攻撃は早めに避けなあかんし、近づかれんように距離を意識して立ち回らんといかんのや」

「けっこう大変そうなんだね・・・・・・」

 

 

 茜の言葉にマキは少しだけ表情を暗くする。

 とは言っても悪い点はどの武器にも言えることなので、このくらいで嫌がっていてはキリがないのだが。

 

 

「せやかて工藤」

「いや、工藤って誰?」

「マキさん、お姉ちゃんのボケだから気にしないで大丈夫だよ」

「モンスターとの距離を見極めて戦いやすい距離で戦うんはモンハンの基本やで?」

 

 

 マキは茜が自分ではない名前を言ったことに首をかしげる。

 唐突にいれた茜の西の高校生探偵の物真似に、葵は額に手を当てながらマキに言った。

 そんな葵とマキのやり取りを気にせずに茜は言葉を続ける。

 

「モンハンはな、どんな武器でも結局はモンスターに近づくんやから立ち回りはきっちり覚えなあかんのや」

「宿題は忘れるのにな」

「今日も宿題ありましたよね?」

 

 

 エッヘンと胸を張りながら言う茜に竜とゆかりがツッコミをいれる。

 2人の言葉に茜はガクリと転ぶようなリアクションをとった。

 

 

「せっかく・・・・・・、せっかくうちが良いこと言っとるんやからちゃちゃを入れんでくれへん?!」

「いえ、なんとなく茜さんはそんなキャラではないような気がしまして」

「とりあえずヘビィボウガンについてはそんなもんだろ。次はゆかりが説明する番だな」

 

 

 ガオー、とでも言うかのように腕を振り上げる茜にゆかりは紅茶を口に運ぶ。

 そんな2人のやり取りを横目に竜は次に説明する人の名を言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第43話



1話につき1武器になっております

それだけ説明が長くなってしまうので、すみません。





 

 

 

 

 文句あり気な茜のことを流してゆかりは軽く咳払いをする。

 茜もいつまでも怒っていては話が進まないと思ったのか、席に座って紅茶を口に運んだ。

 

 

「んん、では次は私ですね。そうですね、私が使うのは太刀と弓なわけですし、弓は私が説明しても大丈夫ですか?」

「そうだな。俺も使うけど2回も説明するのは無駄だろうし、俺の意見も間に入れていく形で良いだろ」

 

 

 太刀に関してはこの4人の中ではゆかりしかいないのだが、弓に関しては竜も使っている。

 竜の言うように2回も話をする必要性は無いのでゆかりと同時に話した方が手軽だろう。

 

 

「ではまずは・・・・・・、太刀の方から話していきましょう。太刀は広めの攻撃範囲とやや高めの攻撃力を持った武器ですね。攻撃の速度も早めですしかなり使いやすい武器と言えるでしょう」

「これも使いやすいの?」

 

 

 ゆかりの説明にマキは首をかしげる。

 茜もヘビィボウガンについて簡単な操作と言っていただけに混乱しているようだ。

 

 

「あー、とりあえず使いやすいってのは深く考えないで良いぞ。結局は使っている人間が使いやすいって言ってるだけだから。人によっては使いにくいっていう意見もあったりするし」

「そうなの?」

「まぁ、そうですね。えっと、太刀には見切りという回避からの攻撃をする技があります。これは基本的にほとんどの技を避けることが可能で、使いこなせればダメージをほとんど受けることなくモンスターに勝つことができるようになります」

 

 

 混乱しているマキに竜は助け船を出す。

 

 どの武器が強い。

 どの武器が使いやすい。

 

 こう言った考えは結局のところ操作するプレイヤーによって変わってくるもの。

 そのため使いやすい武器は自分で使ってみるまで分からないものなのだ。

 

 

「そして太刀には気刃兜割りという大技もあるんです。これはジャンプしてモンスターの上から斬りかかって大ダメージを与える強い技なんです。あとは居合斬りもありますがこちらは慣れてからで問題はないでしょう。太刀の良い点に関してはこんなものでしょうか」

「確かに始めてすぐに覚えるのはややこしいかもな」

「なのでこれらはマキさんが太刀を使うことになってから教えることにしましょう」

 

 

 太刀のアクションの1つ、特殊納刀とそれから派生する居合抜刀斬りと気刃居合抜刀斬り。

 これらも覚えて扱うことができれば太刀の扱いは万全だろうが、初心者にそこまでを求めるのは酷なもの。

 それが分かっているのでゆかりは特殊納刀などの説明を省いた。

 

 

「では次は太刀の悪い点です。太刀の悪い点は大まかに言って2点。太刀専用のゲージ、練気ゲージを赤に保たないと最高火力が出ない点。そして、マルチでプレイすると味方を思いきり攻撃して怯ませてしまう点です」

 

 

 太刀には練気ゲージと呼ばれる専用のゲージがあり、これを溜めて強力な攻撃を放つ。

 この練気ゲージの維持こそが太刀使いの上手さに直結するのだ。

 また、マルチプレイでは攻撃範囲の広さのせいで味方にも攻撃が当たって怯ませて攻撃を止めてしまうなどの事故がたまに起きることもある。

 

 

「練気ゲージに関しては慣れるしかないとしか言えないですね。そして味方を攻撃してしまうということに関しては近くに味方がいないところを攻撃すれば問題はないはずです」

「まぁ、操虫棍なら基本的に関係はないんだけどな。耐衝3は積んでるはずだし」

「3つで耳栓に耐震、風圧耐性が3も付くんやもんな」

 

 

 竜の言う耐衝とは怯み軽減スキルのことを指しており。

 このスキルを着けていると尻餅や怯みをなくしてくれるのだ。

 そしてこのスキルには操虫棍専用の追加効果があり、快適に操虫棍をプレイしたい人ならほとんどの人が着けているだろう。

 

 

「とまぁ、太刀の説明はこんなところですね」

「細かいことに関しては太刀に触れたときで問題ないだろうしな」

 

 

 ゆかりの言葉に竜は頷き、マキもメモを見返す。

 マキがメモを見返すのを終え、ゆかりは次の武器の説明のために紅茶を飲んで口を潤すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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誰44話



まだまだ武器説明が続きます。

いっそのことまとめた方が良いですかね?

このままの調子で進めて大丈夫ならこのまま続けますが、まとめた方がよければ感想にでも書いてください。




 

 

 

 

 マキがメモを見返し終え、ゆかりは次の武器の説明を始める。

 また、自分たちが使っていない武器についての興味が湧き始めたのか茜と葵もゆかりの話に興味を持ち始めていた。

 なお竜は、言っていないが片手剣以外の武器を一応は使っており、その中でもとくに使っているのが操虫棍、狩猟笛、弓、ライトボウガンだったというだけなので、ある程度は知っていることばかりだったりする。

 と言っても専門的に使っている人間ほどの知識はないのでそこまで説明はできないのだが。

 

 

「では次は私と竜くんの使っている弓についてですね。弓は・・・・・・、近距離で戦う高機動な射撃武器と言ったところでしょうか?」

「まぁ、そんなところだな」

「射撃武器なのに近距離?」

 

 

 ゆかりの言葉に竜は頷いて肯定する。

 2人の言葉にマキは首をかしげた。

 射撃武器だと言うのであれば離れて戦うのが基本的なイメージなので、マキの疑問ももっともだろう。

 なお、散弾ヘビィは除くものとする。

 

 

「弓の射程はそこまで遠くなく、連続して矢を放って戦っていくんです。そして矢を放つ際にチャージステップと言う移動をして攻撃力を上げていくんですよ」

「だから高機動の近距離射撃武器なんだよ」

「ああ、確かに竜くんがやってるときってすごく動いてるよね」

「反復横跳びみたいになっとるよな」

 

 

 ゆかりと竜の言葉に納得がいったのか、葵と茜は頷きながら言った。

 茜の言う反復横跳びは攻撃を避けながら射撃をしているところのことを言っているのだと思われる。

 

 

「弓は属性の攻撃力が高めで、攻撃速度の早い弓から放たれる属性攻撃はかなりの火力を叩き出すことができますね。また、攻撃によっては相手を気絶させてさらに追撃することもできますし」

「ジュラドドスを気絶ハメして狩ったこともあったなぁ」

「あれはモンスターが可哀想だったね・・・・・・」

 

 

 弓の属性値は高めに設定されているものが多く。

 装備さえ整えばかなりの早さでモンスターを狩ることもでき、強打の装衣と言うものを使えば簡単に気絶ループすら狙うことができる。

 気絶ループしているジュラドドスを思い出したのか、葵は少しだけ遠い目をした。

 なお、そのジュラドドスを狩った理由は葵の武器の素材集めだったのだが。

 

 

「弓専用の一矢と千々矢に関しては使うこともあまりないですし・・・・・・」

「まぁな。一矢は隙がでかいし、千々矢はスリンガーの影響をもろに受けるしな」

「とりあえず弓の良い点はここまでですね。次は悪い点になります」

 

 

 弓の強力な攻撃である“竜の一矢”と“竜の千々矢”。

 どちらも強力ではあるのだが明確な弱点があるので2人は説明をやめたようだ。

 ちなみに、一矢と千々矢のどちらもが切断属性を持っているので、尻尾を斬りたいときは使っていった方がよい。

 

 

「弓の悪い点はスタミナの消費が激しいということですかね?」

「あとは可能なら強弓珠が欲しいってところか」

「ああ、確かにそれもありますね。というか私も欲しいですし・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にゆかりは少しだけ落ち込む。

 どうやらゆかりは強弓珠を持っていないようだ。

 欲しい珠が出ないのはモンハンあるあるなのでこればかりは仕方がないだろう。

 

 

「チャージステップにはスタミナを消費する。だから体術っていうスキルが必須になってくるんだ。火力を出すためにはチャージステップをしなくてはいけない。チャージステップをするにはスタミナをきっちりと管理していかないといけない」

「うひゃぁ・・・・・・、大変そうなんだね」

 

 

 落ち込んでしまったゆかりに変わって竜が説明を引き継ぐ。

 と言ってもほとんどのことは話し終えているのだが。

 

 

「とりあえず、弓はスタミナに気を付けて扱えば良いってことを覚えておけば大丈夫だろ」

「うん、分かったよ」

 

 

 メモを書きながらマキは頷く。

 そんなマキの姿を見ながら竜は、隣で落ち込んでいるゆかりをどうしたら良いのか頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第45話

 

 

 

 

 落ち込むゆかりをどうにかもとに戻そうとあたふたする竜を見つつ、葵は自分の扱う武器の紹介を始める。

 

 

「ボクが使うのは片手剣、大剣、スラッシュアクスの3つ。アイスボーンになってからはどれも火力が出しやすくなった武器だね。一先ずは片手剣から話していくね」

 

 

 片手剣。

 そう聞いて攻撃力が低いといった印象を持つ人は少なくないだろう。

 現に竜も火力が低そうといったイメージで全く片手剣を使っていない。

 その証拠に使用回数は0である。

 

 

「片手剣は剣と盾を持った武器で攻撃力が低いイメージはあるけど、実はけっこう火力の出せる武器なんだよ。それに武器を出したままアイテムを使えるっていうのも便利なところだね。これのお陰で他の武器よりも早く回復をすることができるんだ」

「初心者向けの武器って言われてるのはそこら辺もあるんだろうな」

 

 

 初心者はちょっとのミスでモンスターにやられてしまうことが多い。

 なので武器を出したまま回復のできる片手剣はそのミスをかなり減らすことができるのだ。

 

 

「移動速度も早いし段差とかがないところでもジャンプすることができるから乗り攻撃が狙えるんだ」

「乗り攻撃って?」

 

 

 聞きなれない攻撃の名前にマキは不思議そうに尋ねる。

 

 

「乗り攻撃っていうのはその名の通りモンスターに乗って攻撃をすることだな。これを当てるとモンスターが倒れて隙だらけになるんだ」

「それを自由に狙える武器は少ないからね。あとは盾を使って打撃攻撃もできるよ。切断と打撃の両方を使える武器も少ないもんね」

 

 

 盾なのに打撃攻撃と疑問に思うかもしれないが、片手剣の盾は防具して使うことは基本的にない。

 緊急時に最終手段として使うことはあっても防御のメイン手段として使うのには向いていないのだ。

 なので片手剣はシンプルに片手剣、片手鈍器と考えてしまった方が戦いやすかったりする。

 

 

「片手剣はシンプルだから説明も少ないんだよね。次は悪い点だよ。片手剣の悪い点は攻撃距離の短さだね」

 

 

 片手剣はとてもシンプルで悪い点はたった1つしかない。

 もともとはやや火力不足気味だったのだが、アイスボーンになってからジャストラッシュが追加されて火力の問題が解消されたので、攻撃距離だけになったのだ。

 

 

「攻撃の距離が短いからかなりモンスターに近づかないといけないんだよ。同じ攻撃距離なら双剣と同じだったかな」

「逆に言うとそれだけなんだから使いやすくはあるわけだな。まぁ、俺は使わないんだけど」

 

 

 葵の言葉を肯定するように竜は頷く。

 そんな竜の言葉に葵は微妙な表情をしながら竜を見た。

 

 

「ほんと、竜くんはかたくなに片手剣の使用回数を0にしてるよね・・・・・・」

「なんでそこまで片手剣を使おうとせえへんのや?」

「もともとの火力が低そうってイメージがあったのもあるけど、ここまできたら使用回数を0のままにしておこうかと思ってな」

 

 

 他の武器はちゃんと使っているだけに片手剣の使用回数0というのがとくに浮いていた。

 竜の答えにマキを除いた全員が呆れた顔で竜を見る。

 たったそれだけの理由で1つの武器を全く使っていないのだから呆れるしかないのだろう。

 

 

「モンスターに近づかなきゃいけないっていうのはちょっと怖いなぁ」

「それは仕方がないな。まぁ、やっていけばそのうち慣れるんじゃないか?」

 

 

 片手剣のメモを終えたマキはメモを見ながら言う。

 片手剣と双剣はどちらも同じ攻撃距離で、かなりモンスターに近づかなければならない。

 その距離はもはや密着と言っても過言ではない距離だ。

 そのことを正確にイメージしたわけではないだろうが、それでもかなり近づかなくてはいけないということから目の前にモンスターがいることを想像したのだろう。

 マキの言葉に竜はマキ茶を口に運びながら軽く答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第46話

 

 

 

 

 かたくなに片手剣を使おうとしない竜に呆れた表情をうかべる茜たち。

 こればかりはどんなに勧められても使おうとしないため、もはや諦めのレベルにまでなっていた。

 

 

「んん、じゃあ次は大剣だね」

「真溜め抜刀会心エリアルや!」

「混ぜるな混ぜるな」

 

 

 葵の言葉に茜は呪文のような言葉を言う。

 茜の言った言葉はどれも大剣の戦い方を示しており、全てを混ぜて戦おうとすると逆に戦いづらくて弱くなってしまう。

 明らかに戦いづらいやり方を言う茜に竜は頭に手刀を軽く落とすのだった。

 

 

「えっと、大剣はその名前の通り大きな剣で戦うんだ。攻撃範囲は広めで攻撃力もかなり高いんだよ。それに大きな剣を盾のようにして防御することもできるんだ」

「そんなに大きいの?」

「長さだけなら太刀の方が長いと思うけど、幅とかも考えたらかなり大きいよ」

 

 

 大きいと言う言葉が多く出てきたことが気になったのか、マキは尋ねる。

 一般的にモンハンを知らない人に大剣と聞けばせいぜいが少し大きい程度の西洋剣を思い浮かべるかもしれない。

 アニメやゲームに詳しければもしかしたらどこかの死神代行の持っている刀や、自分を元ソルジャーのクラス1stだと思い込んでいる魔晄中毒者の持っている剣などを思い浮かべるかもしれないが。

 

 

「大剣はもともとの攻撃力の高さに加えて溜め斬りっていう攻撃でさらに攻撃力を高めることができるんだよ。しかも溜め斬りは連続で撃つことができるんだ。全部決まったらかなりのダメージがモンスターに与えられるんだよ」

「確かにダメージはでかいけど全部当てるのが難しいよな」

 

 

 葵の言葉に竜は自分が大剣を使ったときのことを思い出しながら呟いた。

 普通に溜め斬りから真溜め斬りまで撃つのであれば、モンスターがスタンなどをしていない限り全部当てることは不可能だ。

 しかし、アイスボーンから追加された強化撃ちによって短い時間で真溜め斬りにまで続けることができるようになったのだ。

 一応、ワールドのときからタックルを間に挟んで真溜め斬りに続けることはできていたが、タックルは前方に少し移動してしまうために狙いの修正が必要だった。

 しかし強化撃ちはその場でとどまって撃つので位置をそこまで気にする必要がないのだ。

 

 

「次は悪い点だよ。大剣はその名の通り大きな剣を持っているから動きが遅いんだ。移動も攻撃もかなり遅いの。だから攻撃するとき以外は基本的に武器を背負ったままになるかな。武器を出したり仕舞ったりする動作が多くなるのがちょっと手間かも」

「といってもそれを補う戦い方があるだろ」

「それって最初に茜ちゃんが言ってたやつ?」

「そうだね。抜刀会心っていう武器を出して攻撃するときに会心率が上がるスキルがあって、それのお陰でもともと高い攻撃力をさらに高めることができるんだ。それでモンスターがスタンしたりして動けなくなったら真溜めまで一気に続けて攻撃するって感じで」

「武器の見た目とは裏腹にモンスターの隙を突いていく立ち回り方になるんですね?」

 

 

 大剣の悪い点を聞いてマキは茜が最初に言っていた言葉を思い出す。

 

 真溜め抜刀会心エリアル。

 真溜めはそのまま真溜めきりで戦うこと。

 抜刀会心は抜刀術【技】のスキルによって会心率100%の高火力な会心攻撃を使って戦うこと。

 エリアルは段差から回避で跳び、跳んですぐに段差側に向かってジャンプ溜め斬りをおこなうという連続攻撃の戦い方を指しているが、普通にジャンプ攻撃を多めに扱って戦うことを指している場合もあるので人によって定義は様々だ。

 

 大剣は、無理やりゴリ押ししそうな見た目の武器とは裏腹に、モンスターの隙を見極めて確実に攻撃を当てていくという繊細な立ち回りが重要なのだ。

 

 

「あ、盾みたいに防御ができるって言ったけど、防御すると切れ味が落ちちゃうからあまり使えないんだよね」

「つまりはガードを使わないように立ち回らないといけないってことや」

「あと、俺が前に使ったときなんだが溜め斬りとかをやってると途中で動きをキャンセルできないから攻撃をよく受けちまうんだよな・・・・・・」

「それは竜くんが攻撃を欲張りすぎなだけだよ」

 

 

 思い出したように葵は重要なことを追加で言う。

 防御をすれば切れ味が落ちるということは迂闊に防御ができないと言うこと。

 抜刀大剣で戦うのであればそこまで関係はないだろうが、知っておいて損はない情報だった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第47話


誤字報告ありがとうございます。

紲星が絆星になってしまっていました。




 

 

 

 

 片手剣、大剣と続いて残る葵の説明する武器は1つになった。

 最後に残った武器の名前はスラッシュアクス。

 斧と剣の形体を使い分けて戦う武器だ。

 

 

「それじゃあボクが説明する最後の武器だね。最後の武器はスラッシュアクス。斧と剣を使い分けて戦う武器で、斧はモンスターを怯ませやすくて、剣は高い火力を繰り出すことができるよ」

「あれやな!っジャーンプ、ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ、ボーンッ!」

「お姉ちゃん、ボクが零距離を使うたびにそれを言ってるよね」

「いきなり何を言ってるのかと思ったらそれか」

 

 

 茜がテンション高めに擬音を口にしたことを不思議に思ったが、葵の言葉に擬音の意味が分かり、納得したように頷いた。

 ゆかりとマキはいまいち分かっていないのか首をかしげていた。

 

 

「えっと、お姉ちゃんが言ってたのは気にしないで良いから。スラッシュアクスは専用のゲージが2つあってその内の片方を使って強力な剣の攻撃を出すことができるんだ。だから剣の攻撃を主体に戦う武器って感じかな」

「実際はゲージとビンやけどややこしいからしゃーないわな」

「スラッシュアクスには必殺技があって、零距離属性解放突きって言うんだけど、剣の状態でモンスターに剣を突き刺して連続で爆発ダメージを与えるんだよ」

 

 

 茜の擬音のことは置いておいて、葵はスラッシュアクスの基本的な戦い方と必殺技を言っていく。

 スラッシュアクスには剣で攻撃するために必要なビンと、剣で攻撃をすると溜まっていくスラッシュゲージと呼ばれるものがある。

 剣での攻撃でビンを消費しつつスラッシュゲージを溜め、スラッシュゲージを溜めきると高出力状態になる。

 高出力状態になれば剣での攻撃時に追加ダメージが入り、葵の言う零距離属性解放突きを使うことができるようになるのだ。

 また、アイスボーンから追加されたクラッチクローでモンスターに捕まってから零距離属性解放突きを使うことも可能だ。

 

 

「スラッシュアクスには武器自体の属性以外にもビンの種類があるんだけど、これはややこしいから基本的には強撃ビンっていうのを選んでおくと無難かな」

「俺が気に入ってるのは減気ビンだな。睡眠属性のやつについてると眠り、疲労、スタンの3つを狙えるから」

「それ、覚醒武器以外だとドスジャグラスの武器だけだよね?」

 

 

 スラッシュアクスにあるビンの名称は滅龍ビン、減気ビン、強属性ビン、強撃ビン、麻痺ビン、毒ビンの6種類。

 これらにはそれぞれ特徴があり、一番の特徴としてはビン自体の属性は武器の属性としては扱われないと言うことだろうか。

 例えば、氷属性のスラッシュアクスに滅竜ビンが着いていたとした場合。

 この場合は剣の状態なら氷属性と龍属性の複合となり、斧の時は氷属性のみとなる。

 あくまでもビンは剣の状態で攻撃するときに付与されるものということになるのだ。

 

 

「えっと、次にスラッシュアクスの悪い点だよ。斧と剣のどっちも防御手段がなくて回避をしていかないといけないんだ。それとビンの残りが30%以下の状態で斧から剣に変えようとするとビンをリロードするモーションになって大きな隙ができちゃうんだよ」

「戦闘中にやってしまったら一気にやられてしまうかもしれないってことですね?」

「ビンの残量に気をつけて戦っていかないといけないってことだな」

 

 

 ビンの残量が30%以下の時にやってしまうリロードのモーション。

 これはビンを一気に回復できはするものの大きな隙をモンスターに晒してしまう。

 可能ならば転身を着た状態でおこなって転身の回避によるモーションキャンセルをやっていきたいところだ。

 

 

「とりあえずうちは葵がモンスターにクラッチしてドーンしてズバババのボーンッ!を見るのは好きやで」

「お姉ちゃん・・・・・・」

 

 

 茜の言葉に葵はまっすぐに見つめ返す。

 そして、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「・・・・・・擬音ばっかで何が言いたいのか分からないよ」

「なんやてっ?!」

 

 

 葵の言葉に茜は大きく声をあげるのだった。

 

 

 ちなみに、茜の擬音だらけの言葉を解説すると以下の内容になる。

 

 モンスターに出会い頭に頭にクラッチして壁に叩きつけてダウン。

 剣の形体にして連続で斬ってスラッシュゲージを溜めていく。

 スラッシュゲージが溜まりきる直前に属性解放突きを使って爆発を与え、直後にクラッチクローを使ってモンスターにくっついて零距離属性解放突きを叩き込む。

 

 開幕からかなりのダメージを稼げるコンボではあるのだ。

 茜の擬音だらけの言葉をきっちりと理解できていればの話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第48話

 

 

 

 

 茜の擬音だらけの言葉もあったが無事に葵の使用している武器の説明も終わり、残るは竜の使用している武器と誰もメインでは使っていない武器のみとなった。

 念のために振り返っておくが、茜はヘビィボウガン、ゆかりは太刀と弓、葵は片手剣と大剣とスラッシュアクスを説明している。

 そして竜の使用している武器は操虫棍、狩猟笛、ライトボウガン、弓の4つ。

 この中で弓だけがゆかりと被っていたので、弓はゆかりの時に説明してもらったが。

 

 

「それじゃ、最後は俺だな。そうだな、操虫棍も狩猟笛も独特だから先にライトボウガンから説明していくか」

「茜ちゃんの言ってたヘビィボウガンと名前が似てるね」

「まぁ、近いものではあるからな」

 

 

 ライトボウガンという名前が茜の説明してくれたヘビィボウガンと似ていることに気がついたマキは呟く。

 ライトボウガンとヘビィボウガン。

 どちらも弾を消費してモンスターに攻撃をする武器であり、軽い(ライト)重い(ヘビィ)の名の通りに違いがあるのだ。

 

 

「まず、ライトボウガンはヘビィボウガンと同じで弾を撃って戦う武器だ。そしてヘビィボウガンとの違いはその機動力。ヘビィボウガンとは比べ物にならない速度で移動することができるんだ」

 

 

 名は体を表すとは言うが、ここまでハッキリと表している武器もそうはないだろう。

 ライトボウガンは火力こそやや低いものの、その機動力で自由にフィールドを走って弱点を狙うことができるのだ。

 

 

「その代わりに攻撃力がちょっと低いが、それを補うようにライトボウガンには速射と言う機能がある。これはボウガンごとに特定の弾を1発の消費で2、3発の連続射撃をおこなうことができる機能なんだ。これによって1発の攻撃力が低かったのを補うことができるんだ」

「特に属性弾を速射してるのは見るかな」

「あとは徹甲榴弾やな。これでモンスターが気絶しとるんをよく見るわ」

「あれはハメ技でしょう・・・・・・」

 

 

 竜の速射の説明に葵と茜は竜がライトボウガンを使っているときのことを思いだし、ゆかりは野良マルチをしているときの出来事を思い出した。

 それほどまでにライトボウガンで速射を使った立ち回りは有用なのだ。

 

 

「あと起爆竜弾って言う地雷のようなものをセットすることができるな。これは攻撃を与えると爆発するもので、うまく頭に当てられればモンスターを気絶させたり部位破壊を狙えたりするな」

「ヘビィボウガンとはけっこう違うんだね?」

「パゥワーのヘビィ、テクニカルのライトっちゅー感じやな」

 

 

 どこかの像の形をした石像のような言い方で茜は言う。

 確かにヘビィボウガンは高火力の弾を用いてモンスターを殲滅していくタイプであり、ライトボウガンはモンスターに合わせて弱点の速射をおこなったり毒や麻痺、睡眠の弾を撃ってモンスターを拘束したりと搦め手を使うことも多い。

 そのため茜の表現はあながち間違っていないので竜は特に否定することもなかった。

 

 ちなみに、起爆竜弾は修正を受けており、修正を受ける前はかなりの壊れコンボを使うことができたりもした。

 

 

「じゃあ次はライトボウガンの悪い点だな。ライトボウガンは速射が攻撃力の要になる。だから属性弾の速射を撃てるやつが必要になってくるんだが、それを属性ごとに作らないといけないんだ。まぁ、狩れるやつが増えればその点も解消できるんだが」

 

 

 先にも説明していたがライトボウガンはそれぞれに対応した速射の弾が決まっている。

 狩るモンスターの弱点の属性の弾を速射で撃ち込めばかなりのダメージを稼ぐことができるので、基本的には弱点の弾を速射することになる。

 しかし2種類の属性弾を速射することができる武器は限られているため、それまではライトボウガンをいくつも使い分けていく必要があるのだ。

 属性ごとに武器を作るのはどの武器でも同じことなのだが、これは無属性運用や竜属性、爆発属性で運用のできる近接武器にはない問題だろう。

 まぁ、ライトボウガンでも徹甲榴弾を速射すればある程度は気にしなくて良いのだが、それを手に入れることができるのがアイスボーンになってからなので、あまり考えても意味はないが。

 

 

「ヘビィだけなんもあれやし、うちも使ってみようかなぁ」

「お姉ちゃんはまず拡散をぶっぱするの止めようよ」

「モンスターが倒れた瞬間に撃つもんな・・・・・・」

「茜さん・・・・・・、それ、普通なら地雷ですよ・・・・・・」

「しゃ、しゃーないんや!拡散が、拡散がうちにぶっぱせいって言ってくるんやから!」

 

 

 茜の撃つ拡散弾は威力こそ高いものの味方も吹き飛ばしてしまう弾なので、マルチではあまり使わない方がいいのだ。

 葵たちから向けられる視線に茜は慌てた様子で言い訳にならない言い訳を言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第49話

 

 

 

 

 ライトボウガンの説明が終わり、竜はマキ茶を口に運ぶ。

 竜のライトボウガンの説明を聞き、ヘビィボウガンを使っていた茜は興味を持ったのかライトボウガンを検索して調べていた。

 

 

「ほむほむ、生産で作るならガルルガとかが使いやすそうなんやね。あとは使いやすそうなんはナナとナナゼノ辺りやな」

「あとは徹甲2だけでいくんならイビジョのやつだな。それとストームスリンガーも作っとくと良いかもな」

 

 

 ライトボウガンを調べた茜は使いやすそうなライトボウガンをあげていく。

 最初から作りたいものを決めておけば余計なモンスターを狩る必要もないので、情報収集は大切なのだ。

 

 

「っと、次は操虫棍にするかな」

 

 

 うっかりライトボウガンの話を続けてしまいそうになっていたことに気がついた竜は次に説明する武器の名前を言う。

 

 

「操虫棍・・・・・・って、名前からして虫が関係してる?」

「そうだな。操虫棍はその名の通り虫を操ってモンスターと戦う武器だ。モンスターから取れる3色のエキスを集めて自身を強化して戦うんだ。一応、虫以外のやつもあることはあるぞ」

 

 

 武器の名前にある虫と言う言葉からやや引いた様子でマキは言う。

 これは虫が苦手な人には少し使いづらい武器かもしれない。

 だが操虫棍には虫ではないものが1つだけ存在しているので虫が苦手な人でもそちらを使えば問題はないだろう。

 

 

「あとは操虫棍の一番の特徴で、ある程度は自由に空中を飛び回ることができることだな。このときにできる空中攻撃にはモンスターに乗るためのダメージを溜めることができるから操虫棍は乗りダウンを狙うのが仕事とも言われてるな」

「まぁ、他の武器よりは乗りやすいですからね」

「でもたまにボクが片手剣で乗ることもあるけどね」

「うちはそこを狙い撃つだけやで」

 

 

 操虫棍は自由に好きなタイミングでジャンプをすることができ、モンスターにもっとも乗りやすい武器と言っても過言ではない。

 だが、必ず操虫棍が乗れるかと言えばそうではない。

 もうすぐ乗れそうなときに他の武器が攻撃を当ててモンスターに乗るのをかっさらっていくことなどざらにあるのだ。

 

 

「ジャンプを好きなタイミングでできるからモンスターの攻撃を3次元的に避けることができるのも強みかな。他の武器だと避けられない攻撃も操虫棍なら避けられることがあるから」

「凪ぎ払いブレスとかやね」

「でもたまに空中で攻撃を受けて撃墜されてるよね」

「空中では無防備だからしゃーない」

 

 

 操虫棍のジャンプは緊急回避として活用することも可能で、竜は攻撃を避ける際にジャンプを使い、ジャンプして避けた先にいるモンスターに向かってそのまま攻撃に移るなどをよくやっている。

 なお、モンスターのジャンプによって空中で叩き落とされることもあるので過信はできないのだが。

 

 

「んで悪い点だが、基本的にエキスによる強化がないと火力がかなり落ちることだな。特に赤色のエキスをとっておかないと攻撃のモーションとかも変わってかなり戦いにくい。だから赤エキスを必ず最優先で確保しないといけないんだ」

「エキスの色の場所を覚えないといけないのは大変そうだよね」

「虫を動かしながら走り回っとるもんな」

 

 

 操虫棍の虫によってモンスターから取れるエキスの位置はモンスターによって異なる。

 あるモンスターの腕からは赤色が取れたのに、別のモンスターからは白色が取れた。

 そんなことはよくあることなのだ。

 

 

「あとは虫の種類とかもいくつかあるけど。これは使うようになってからで大丈夫だろ」

「虫が苦手やったら1つしか選択肢はないと思うんやけどね」

 

 

 操虫棍を使ううえで切っても切れないもの、猟虫。

 この猟虫には切断属性と打撃属性があり、他にも扱う粉塵の種類やつけられる属性、さらにはそれぞれに異なるステータスがある。

 これらをすべて説明するとなるとかなりややこしくなってしまうので、この辺りの説明の追加は実際にマキが使ってからの方がいいだろう。

 

 

「と、まぁ操虫棍についてはこんなもんかな」

「自由にジャンプできて空中も飛び回れるのはカッコいいけど・・・・・・、虫かぁ・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にマキは悩ましげに声をあげる。

 やはり虫を扱うということに抵抗があるのか、マキはそこまで操虫棍に引かれるものはなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第50話

 

 

 

 

 ライトボウガン、操虫棍の説明が終わり、竜は最後の武器である狩猟笛の説明を始める。

 楽器の武器ということもあってか今までの説明を聞いてきた武器よりもマキは興味を持っているようで、説明が始まるのを今か今かとウズウズしている様子が見られた

 

 

「最後は狩猟笛だな。これは大きな笛をハンマーのように扱ってモンスターを叩く武器だ。うまく頭に当て続けることができればモンスターを気絶させて動きを封じることができるぞ」

「ねぇねぇ、笛ってことは音楽が弾けるの?」

「おう、狩猟笛では演奏する旋律も重要な要素だからな」

 

 

 マキの質問に竜が頷いて答えると、マキは目をキラキラと光らせた。

 マキはもともと楽器に興味を持っているだけに、今までの武器の説明よりも食いつきが強く感じられる。

 

 

「狩猟笛の一番のポイントはなんと言っても自己強化、及び他者の強化だ。狩猟笛は指定の旋律を揃えて鳴らすことでさまざまな効果を付与することができるんだ。攻撃力を上げたり防御力を上げたり、風圧に対して耐性を付けたり、かけられる効果は狩猟笛ごとに決まっているけどたくさんの効果があるんだよ」

「確かに狩猟笛のバフは助かるけど自分で使おうとは思えないんだよね」

「旋律を揃えるのが複雑そうなんもあるし、難しそうなんよね」

 

 

 竜の言葉に葵と茜は竜が狩猟笛を使っているときのことを思い出しながら言う。

 狩猟笛を使わない人の大半は旋律システムが複雑だと思って敬遠していることが多い。

 実際には画面の右上にガイドが出ており、左上の楽譜の部分にも次にどれを弾けばいいのかガイドも出ているのだ。

 

 

「自分や仲間を強化し、強化が終わったらモンスターの頭を積極的に殴って気絶させる。そして隙ができたら追加で演奏を重ねる。これが狩猟笛のざっくりとした戦い方かな」

「本当にざっくりとしてますね・・・・・・」

 

 

 狩猟笛の旋律で付与された強化は時間経過で消滅する。

 その強化は追加で旋律を演奏することによって強化時間が伸びるので、狩猟笛は強化が切れないように隙を見つけたら積極的に演奏をした方がいいのだ。

 

 

「悪い点は、そうだな・・・・・・。移動速度、は自分への強化でなんとかなるか。切れ味とかも強化でなんとかなるし・・・・・・。演奏をこまめにしないといけないことか?」

「ああ、大体のことは自分を強化することで補えるんですね?」

「攻撃力も防御力も上げられるし、会心率とか状態異常も対策できるもんね」

 

 

 竜は狩猟笛の悪い点をあげようとして少しだけ悩みながら答えた。

 事実として狩猟笛は自己強化である程度のことは補えるので、弱点らしい弱点としては演奏の回数くらいしかないのだ。

 まぁ、人によっては攻撃のモーションなどが気になったりするかもしれないが。

 少なくとも攻撃をしていれば自然と旋律は揃うので、そこまで意識をして旋律を揃える必要は実はそこまでなかったりする。

 最低限、攻撃強化の旋律さえ覚えてしまえば十分に戦うことが可能なのだ。

 

 

「防御ができないってのはあるけどそれは他の武器でも同じことが言えるしな」

「ボクの使っているスラッシュアクスとかだね」

「弓もそうですね」

 

 

 防御ができない武器は狩猟笛以外にも存在しているのでこれに関しては悪い点とは言いにくい。

 むしろ狩猟笛は防御力を上げることができるので、他の防御できない武器よりは防御力があるのではないだろうか。

 

 

「とりあえず狩猟笛に関してはこんなものか。あとは双剣、ハンマー、ランス、ガンランス、チャージアックスの5つか。この辺は使うことはあってもそこまで使ってないからなぁ」

「その辺はネットで調べるしかないですかね」

「んー・・・・・・。私、狩猟笛を使ってみようかな」

「「えっ?!」」

 

 

 残りの武器をどう説明しようか考えていると、マキがメモを見返しながらポツリと呟いた。

 楽器の武器であるということもあってなのか一番興味を惹かれたようだ。

 マキの呟きに茜と葵は驚きの声をあげた。

 

 

「マジか?!マジで言うとんかマキマキ?!」

「うん。聞いていて一番面白そうだったから」

 

 

 マキの肩を掴んで茜は問い詰める。

 そんな茜の言葉にマキはハッキリと頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第51話

 

 

 

 

 マキが狩猟笛を使おうかと言ったことに竜たちは驚きの表情を見せる。

 正直なところ、竜たちは狩猟笛に関しては選ばれることはないだろうと思っていたので、マキが狩猟笛を選んだのは本当に意外だったのだ。

 

 

「ま、まぁ、どの武器を使うのも自由だし。あとで別の武器を使うこともできるから良いんじゃないか?」

 

 

 マキの言葉に驚きつつ、竜は狩猟笛を使うことを止めはしなかった。

 ぶっちゃけて言えば狩猟笛を使うハンター、通称カリピストが増えることに嬉しいとも思っている。

 とは言ってもマキが狩猟笛を使い続けるのかは不明なのだが。

 

 

「そういやマキマキはもうモンハンを買ってあるんか?」

「ううん、まだだよ。だから明日の帰りにでも買ってこようかと思ってるんだ」

 

 

 茜の言葉にマキは首を横に振って答える。

 

 

「ほんならまともにプレイできるようになるんは明後日くらいになりそうやな」

「あー、確かにそうなりそうですよね」

「うん?なんで明後日?明日買うんだから明日からやれるでしょ?」

 

 

 まだモンスターハンターワールドを買っていないということから、茜はマキが実際にモンスターと戦うことができるのは明後日辺りからになるだろうと予想する。

 茜の言葉にゆかりも理解したのか納得したように頷く。

 2人の様子にマキはどういうことなのか分からず首をかしげた。

 

 

「えっと、マキは操作するキャラクターにこだわるタイプか?」

「操作するキャラクター?そうだね。自分が使うキャラクターなんだから納得のいく姿にしたいかな。それがどうかしたの?」

 

 

 首をかしげているマキに竜は尋ねる。

 質問の意味は分からなかったが、マキは素直に答えた。

 だが、この質問の答えによってマキがまともにモンハンをプレイすることができるようになるのが明後日あたりになることをほぼ確定させる。

 

 モンスターハンターワールドのキャラクター作成には細かな調整が可能で、1から細かく設定していくとなるとかなりの時間を使ってしまうのだ。

 一応、最初から作られているデフォルトもあるのだが、こだわりたい人はデフォルトではなく自分の手で作成していくだろう。

 そのため操作するキャラクターにこだわると言ったマキは時間がかかるのだろうと思われたのだ。

 

 

「まぁ、これはマキさんがやってみれば意味がわかると思うよ」

「うちらはなんも言わんとくわ」

「マキさんはどこまでこだわることができますかね?」

「時には諦めも必要だとは思うがな」

「え?え?え?」

 

 

 自分を見ながら口々に言われる言葉にマキの頭の中は疑問符で埋め尽くされる。

 とは言ってもこれに関しては実際にやらないと意味を理解することは難しいだろう。

 事実として、竜たちもキャラクターの作成くらいすぐ終わるだろうと考えて初めてその日はキャラクター作成だけで終わってしまっていた経験があるのだ。

 

 

「こだわるとキリがないからなぁ・・・・・・」

「しかもこだわって作ったやつが実際に使ってみると変に歪んだりしますしね」

「あれは罠でしょ・・・・・・」

 

 

 モンハンのキャラクター作成。

 そこには魔物が潜んでいる。

 時間をかけ、満足のいくキャラクターが作成できたとしよう。

 そこにかけた時間は言葉にできないが達成感はかなりのものがあるに違いない。

 そして、ようやくムービーが始まり、実際に動くキャラクターを見る。

 

 画面内を駆け回り、作成したキャラクターの顔が初めてあらわとなった瞬間。

 その時、1つの思いが浮かんでくるだろう。

 

 

 ────うわ、私のハンター。不細工すぎ?

 

 

 カッコよくできただとか。

 かわいくできただとか。

 そんな思いは滅多に出てこない。

 

 こだわってやればやるほどにそのダメージは大きいのだ。

 

 そんなことを知らないマキはただただ首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第52話



UAが8000を越えたので10000になった時の特別話として以前に書いたヤンデレエンドのアンケートを取ろうかと思います。

期間はUAが9000を越えるまでとします。

9000を越えた時点で一番多い票の話を書こうと思います。




 

 

 

 

 モンハン談義が続き、ふと竜は時計を見た。

 よほど会話に夢中になっていたのかいつの間にか時間は経っており、“cafe Maki”に着いてからすでに一時間ほどが経過していた。

 

 

「・・・・・・マジか、いつの間にかこんな時間かよ」

「うん?あ、ホンマや」

「ぜんぜん気づかなかったね」

 

 

 竜の言葉に茜と葵も時計を確認し、時間に驚く。

 時間に気づいた竜たちは自分たちの飲み物を飲み終えていく。

 

 

「っし、時間も時間だから帰るかな」

「それもそうですね」

「せやね」

「けっこう長くお店にいたんだね」

 

 

 全員が飲み物を飲み終えたことを確認し、竜たちは立ち上がる。

 竜たちの言葉にマキは少しだけ寂しそうな表情を浮かべる。

 帰る時間になって帰るのは普通のことなのだが、それでもマキは寂しさを感じずにはいられなかった。

 

 

「・・・・・・マキさん、また明日学校で会いましょうね」

「あ・・・・・・、うん!」

 

 

 寂しそうなマキの様子に気がついたゆかりはマキの方を見て言う。

 ゆかりの言葉にマキは嬉しそうに頷いた。

 

 

「じゃ、また明日な」

「ほななー」

「ごちそうさまでした」

「うん、みんなもまたね」

 

 

 会計を済ませ、竜たちは入り口に移動する。

 リョウたちの言葉にマキは少しだけ寂しさをにじませながらも手を振った。

 そして竜たちは店から出た。

 

 

「さて、と。とりあえずは“清花荘”に先に行くか」

「え?わざわざボクたちの方に来なくてもいいんだよ?」

「せやで。竜の家の方が先に着くんやからな」

 

 

 竜の言葉に葵と茜は首をかしげる。

 “清花荘”と竜の家では竜の家の方が近いので“清花荘”の方を先に行くとなれば竜にとっては遠回りになってしまうのだ。

 

 

「いいんだよ。女を見送るのが男の仕事だ」

「カッコつけやなぁ・・・・・・」

「もう、大丈夫なのに・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に茜は茶化すように、葵は呆れ混じりの声で答える。

 しかし、その言葉とは裏腹に表情には嬉しさがにじみ出ているように見えた。

 なお、竜は自分の言った言葉に恥ずかしくなってきたのか、2人から顔を逸らしていたので気づくことはなかった。

 

 

「そ、そういえばゆかりはどこに住んでいるんだ?」

「私ですか?私も2人と同じで“清花荘”に住んでいますよ」

「せやで」

 

 

 竜が恥ずかしさを誤魔化しながらゆかりに尋ねる。

 ゆかりの答えに茜も同意するように頷いた。

 

 

「なら、先に“清花荘”で問題はないな」

「全く、竜は心配性やなぁ」

「悪いわけではないですけどね」

 

 

 ゆかりの住んでいる場所も分かり、ひとまずは“清花荘”に向かうことが決まった。

 やや呆れ混じりな茜の言葉にゆかりは笑みをこぼしながら言うのだった。

 

 

「そういえば竜は今日は晩御飯どうするんや?」

 

 

 茜は昨日の晩御飯のことを思い出して竜に尋ねる。

 今の時間は昨日とそこまで変わらない時間。

 そのため今日も晩御飯をどうするのかが気になったのだ。

 ちなみに葵は茜の言葉に昨日の出来事を思い出して顔を赤くしている。

 

 

「んあ?いや、流石に2日目ってのはどうだよ」

「うちは気にせんで」

 

 

 竜の言葉に茜は笑いながら答える。

 食費という点で言うなら竜の考えの方が正しいのだろうが、乙女心的に言うなら少しでも一緒にいる時間は多くしたいという茜の気持ちも分からないでもないだろう。

 

 

「つってもなぁ・・・・・・」

「では、今から食材を買いに行ってその費用を全て出すのではどうです?」

「おお、ゆかりさん良いアイデアや!」

 

 

 茜の言葉に悩む竜にゆかりは1つの提案をする。

 ゆかりの提案に茜は指を鳴らした。

 

 

「可能ならば私も費用を出すので一緒にいただきたいのですが・・・・・・」

「ああ、苦手だってマキが言ってたな」

「む~ん・・・・・・、まぁ、ええで」

「ボクは作る立場にないから文句はないよ」

 

 

 申し訳なさそうに言うゆかりに竜は理由を思いだして納得する。

 竜を納得させる提案を出したこともあって、茜はゆかりも一緒に食べることを許可した。

 そんな3人のやり取りに葵は特に文句もなく言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第53話





 

 

 

 ゆかりの案で今日の食費を出すことに納得した竜は茜たちと共にスーパーに着いた。

 竜はスーパーのかごを茜が取る前に取る。

 

 

「むぅ・・・・・・、まぁええわ。食べたいものとかはあるんか?」

「そうだな・・・・・・。昨日が揚げ物だったからさっぱりとしたものが良いかな」

「そうですね。私も同じでさっぱりとしたものが良いです」

 

 

 竜がかごを取ったことに茜は少しだけ不満そうにするものの、諦めたように息を吐いて何が食べたいかを聞く。

 茜の言葉に竜とゆかりは少し考えてから食べたいものを答えた。

 ゆかりの肯定する言葉に竜は少しだけ違和感を感じたが、どうして違和感を感じたのかが分からずそのまま忘れていった。

 

 

「さっぱりしたものかぁ。肉と魚ならどっちなん?」

「魚・・・・・・、いや、肉も・・・・・・」

「私はどちらでも大丈夫ですが」

 

 

 さっぱりとしたものが食べたいと言う2人の言葉に茜は肉と魚の二択で料理の種類を決めようとする。

 肉と魚のどちらにするか。

 それは男子高校生にとって難しい質問で、竜は頭を抱え込んでしまった。

 そんな竜の隣でゆかりは質問した人が困る答えを言う。

 

 

「そこはきっちりと答えてほしいんやけどねぇ・・・・・・」

「ぐぬぬぬぬ・・・・・・」

「竜くん、ここはシンプルにどっちが食べたいかで考えたら?」

 

 

 ゆかりの答えに茜はやれやれといった様子で呟いた。

 頭を抱えながら唸りだした竜に葵は助け船を出す。

 葵は竜が昨日の晩御飯で食べたものとは違う食材にした方が良いのではないかと悩んでいることに気がついたのでそう言ったのだ。

 

 

「ぬぅ、それなら・・・・・・やっぱり肉かな」

「お肉やね。ほな、お肉コーナーに行くで~」

 

 

 葵の助け船によって竜は少しだけ言いにくそうにしながら答える。

 昨日に続いてまた肉系の晩御飯を提案することに後ろめたさを竜は感じていた。

 そんな竜の様子に茜は気づいていたが、あえてなにも言わずにお肉コーナーへと向かい始めた。

 

 

「お肉も種類はあるからなぁ・・・・・・。鶏肉あたりを使ってみよか?」

「ちなみに俺は豚か鳥が好きだな」

「私はどれも同じくらいですね。料理によって使うお肉は変わるわけですし」

「ボクはどちらかと言うとお肉よりも魚の方が好きかな。お姉ちゃんはお肉だけど」

 

 

 お肉コーナーに並んでいるお肉を見ながら茜は呟く。

 茜の目の前に並んでいるのは一般的な牛、豚、鳥のお肉。

 並んでいるお肉を見ながら竜たちは自分たちの好きなお肉の種類を言っていた。

 

 

「よっし、あとは付け合わせの材料やね」

 

 

 いくつかのお肉を竜の持つかごに入れ、次の食材を探しにスーパーの中を移動するのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 スーパーでの買い物を終え、買ったものを竜が手に持ちながら“清花荘”への道を歩く。

 昨日と同じように茜が買った袋の反対側を持とうとしたが、流石に葵とゆかりがいることもあって竜は断った。

 

 

「お肉でさっぱりやからなぁ・・・・・・」

「難しいか?」

 

 

 晩御飯のメニューを考えながら茜は歩く。

 茜の呟きに竜は申し訳なさそうに尋ねる。

 さっぱりしたものが食べたいとは言ったが、竜はお肉を使ってさっぱりとしたものが思いついていない。

 そのため難しいのであればさっぱりでなくても良いと思っていた。

 

 

「いや、大丈夫や。安心してくれて構わんで」

「お姉ちゃんなら大丈夫だから期待してくれて良いかもよ?」

「それなら良いんだが」

 

 

 竜の言葉に茜は首を振って答える。

 茜の言葉を肯定するように葵も同じように答えた。

 2人の言葉に竜は少しだけ心配そうにしながらも納得をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第54話

 

 

 

 

 買い物袋を手に持ちながら、竜たちは竜の家の前に着いた。

 竜の家の前を通ったときに工事の音が聞こえてきたことに茜たちは不思議そうにしていた。

 

 

「なんや、竜の家の前で工事しとるんか」

「そうなんだよ。いつの間にかこうなっててな」

「まぁ、気にしても仕方がないですし。行きましょう」

「・・・・・・・・・・・・あっ」

 

 

 茜の言葉に竜は頷きながら家の向かいにある工事の幕を見る。

 竜自身も家の向かいで工事をしていることに気がついたのは朝のことだったので、一切の情報を持っていないのだ。

 いつまでも工事の幕を見ている意味もないので、ゆかりの言葉に竜たちは歩きだす。

 歩きだした竜たちに遅れて、工事の幕を見ていた葵が不意に小さく言葉を漏らす。

 その声はかなり小さく、竜たちが気づくことはなかった。

 

 

「あのマークって確か・・・・・・えっと、“き────」

「葵~、どうしたん~?」

「あ、今行くよー!」

 

 

 工事の幕に書かれていたマークをどこで見たのかを思い出そうと葵は軽く頭に指を当てた。

 もう少しで思い出せるかといったところで、葵がついてきていないことに気がついた茜に呼ばれ、葵は返事をする。

 茜に呼ばれたことによって思い出そうとしていたことが中断され、葵はもう一度だけ工事の幕を見た。

 

 

「考えすぎ、かな。工事している会社がこれなだけだよね?」

 

 

 そう呟いて葵は竜たちのもとへと早足で向かうのだった。

 

 葵が気になっていた工事の幕。

 そこには、星が2つずれて重なっているマークが書かれていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜の家の前から歩いてしばらくして、竜たちは“清花荘”に着いた。

 

 

「さ、竜とゆかりさんも入ってや」

「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってお姉ちゃん!」

 

 

 茜は自分と葵の暮らしている部屋の扉を開けて竜とゆかりを招き入れようとする。

 そんな茜の行動に葵は慌てた様子で扉の前に立ちはだかった。

 

 

「なんや葵、早く2人を入れな失礼やでー(棒)」

「思いっきり棒読みなのやめて?!分かっててやってるんでしょ?!」

「・・・・・・あー、なるほど」

 

 

 白々しいほどの茜の棒読みに葵は大きな声をあげる。

 葵がなぜ怒っているのかが分からないゆかりは不思議そうに首をかしげ、昨日の出来事から何となく理由を察した竜は軽く頬を掻いた。

 

 

「とにかく!少しだけ待ってて!」

「しゃーないなぁ」

 

 

 そう言って葵は扉を素早く開けて中に入っていった。

 そんな葵に茜はやれやれといった様子で首を振る。

 

 

「えっと、葵さんはどうしたんですか?」

「あー・・・・・・、うーん、言わない方が良いだろうしなぁ・・・・・・」

 

 

 葵の行動にゆかりは不思議そうに竜に尋ねる。

 ゆかりの言葉に竜は葵の行動の理由を言って良いものかと頭を悩ませる。

 

 

「別に言っても構わへんって。ゆかりさんも昨日の(●●●)ことは(●●●)知っとる(●●●●)んやから(●●●●)

「そうなのか?」

「昨日のこと、ですか?・・・・・・ええ、葵さんが自宅ではだらしないことでしたら」

 

 

 茜の言葉に竜は少しだけ驚きながらゆかりを見る。

 昨日の葵のとんでもない姿は今でも思い出すことができる程だが、その事をゆかりが知っているとは思ってもいなかった。

 竜に見られ、ゆかりは葵が自宅でだらしないと言うことを知っていると明かす。

 

 

「あー、まぁ、知られていたとしてもだらしない要素を見られたくないんじゃないか?」

「そういうものなんでしょうか?」

 

 

 ゆかりの言葉に竜は少しだけ考えて、葵の行動の理由を推測して話す。

 竜の推測を聞いたゆかりはそれでも不思議そうに首をかしげるのだった。

 

 

「普段から脱いだものを自分の部屋に置いておかんからこうなるんよ・・・・・・」

 

 

 朝の部屋の状況を思い出しながら茜は呟く。

 昨日のことに続いてこれも常日頃から言い続けていることなので、茜はため息を吐くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第55話





 

 

 

 

 葵が“清花荘”の扉の中に消えてからしばらく、暇になっていた竜たちはスマホのアプリで遊び始めていた。

 ティン、ティン、ティン、と軽快な音と共にドロップの消えていく音がする。

 

 

「おー、リーダースキル込みで10コンボやん」

「落ちコンなしの無効貫通をやった上でここまでコンボを繋げられるのは強いですね」

「コラボキャラで闇属性だから大体のダンジョンに行けるしな」

 

 

 竜のスマホ画面にクリアの表示とチーム画面が写る。

 竜がやっているのはスマホアプリのゲーム、パズル&ドラゴンズ。

 暇なときに簡単に遊べるため、竜がメインでやっているゲームの1つだ。

 

 

「にしても葵は時間がかかっとるなぁ・・・・・・」

「といっても5分くらいですし」

「そんなに散らかしてたのか?」

 

 

 竜のスマホ画面から扉へと顔を向けて茜は呟く。

 茜の呟きにゆかりは自分のスマホを取り出して経過した時間を確認した。

 といっても5分ほどあれば簡単に片付けて誤魔化せるレベルにはなると思えるので、そう考えれば時間がかかっているとも言えるかもしれない。

 

 

「・・・・・・うし、2人とも入ってええで」

「え、良いんですか?」

「かまへんかまへん」

 

 

 待つことに飽きたのか、茜は扉を開けて手招きをする。

 茜の行動に竜とゆかりは驚いて顔を見合わせる。

 確認するゆかりの言葉に茜はヒラヒラと手を振りながら答えて扉の中へと入っていった。

 扉の中に入っていった茜の姿を見て、竜とゆかりは顔を再び見合わせる。

 

 

「えっと・・・・・・、まぁ、入るか?」

「そうですね。まぁ、葵さんには茜さんから許可を得たと言いましょうか」

 

 

 扉の前で立っていても仕方がないため、ゆかりに確認を取る。

 竜の言葉にゆかりはそこまで気にした様子もなく扉を開けた。

 そして竜たちは茜たちの暮らす部屋へと入っていった。

 

 

「ん?」

「ぅぁ~~・・・・・・っ?!」

 

 

 部屋に入ると同時に竜とゆかりの耳にどたばたと慌ただしい音が聞こえてくる。

 どうやら葵はまだなにかをやっているようだ。

 その証拠に葵の言葉にならない叫びのようなものも聞こえてきている。

 竜とゆかりが入ってきたことに気がついた茜はリビングへと続く扉の前で竜とゆかりを待つ。

 

 

「2人ともリビングで待っとってや」

「え、これ入っても大丈夫か?」

「・・・・・・ええんちゃう?」

 

 

 リビングの扉の向こうから聞こえてくる葵の声らしきものに、竜は茜に振り返って尋ねる。

 竜の言葉に茜はとくに深く考えずに答えた。

 どうせリビングに広がっているものは葵のだらしない生活によって広げられたものだけ。

 そんなことまで茜が面倒を見る義理はないのだ。

 まして常日頃からキチンとするように茜は葵に言っている。

 つまり、ハッキリと言ってしまえば葵の自業自得なのである。

 

 そして、躊躇している竜のことなど気にせずに茜は扉を開けた。

 

 

「ッッ~~!!お、おまたせ!!」

 

 

 リビングの扉が開くと同時に葵は部屋の隅へと手に持っていたものを放り投げる。

 葵が放り投げたものは部屋の隅の壁に当たって床に落ちた。

 パッと見たところ床に物は落ちておらず、綺麗な部屋に見える。

 が、そのせいで部屋の隅に放り投げられたものが逆に目立っていた。

 

 ちなみに葵が放り投げたものは黒い大きなビニール袋で、中になにが入っているのかはまったく分からなかった。

 

 

「葵~・・・・・・、あれはちゃんと片付けるんやで?」

「う、うん・・・・・・」

 

 

 部屋の隅に放り投げられたものを指差しながら茜は言う。

 茜の言葉に葵は目を軽く逸らしながら頷いた。

 

 

「ほな、うちは晩御飯の準備をするで」

「少しくらいは手伝えると思うけど・・・・・・」

「ご飯を炊くのなら任せてください」

 

 

 腕捲りをして調理の準備に入ろうとする茜に竜は手伝いを申し出る。

 食費を出すことで納得はしたが、それでも全て茜に任せてしまうのは申し訳なく思ってしまうのだ。

 

 

「大丈夫やって。2人は向こうで葵とゲームでもしててや」

「分かりました」

 

 

 茜の言葉にゆかりはあっさりと葵のもとへと向かっていった。

 あっさりとしたゆかりの行動に竜は少しだけ呆気にとられるが、すぐに意識を戻して茜を見た。

 

 

「ほれ、竜も行ってきい」

「だがなぁ・・・・・・」

「悪いと思うんやったら晩御飯を食べたときに一言言ってくれへんか?」

「一言・・・・・・?」

 

 

 なかなか納得のできない竜に茜は優しく微笑みかけながら言う。

 

 

「せや、『美味しかった』。そう言ってもらえるだけでうちは幸せなんよ」

 

 

 そう言ってにこりと笑う茜に竜は胸をドキリと高鳴らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第56話

 

 

 

 

 茜に促された竜は葵とゆかりのいるリビングへと移動する。

 手伝いをなにもしないと言うのは正直なところ、違和感と言うか、もどかしいと言うべきか、とにかく言葉にできない感覚が竜の中にあった。

 

 

「あ、戻ってきましたね。竜くん、このゲームをやってみませんか?」

「お前な・・・・・・」

 

 

 キッチンからリビングに戻ってきた竜に、ゆかりは1本のゲームを見せた。

 どうやらそのゲームは恋愛ゲームのようで、桜の花びらが舞っているパッケージに数人のヒロインらしきキャラクターが描かれていた。

 茜に晩御飯を作ってもらうことが当たり前かのように振る舞うゆかりの姿に竜はやや呆れ混じりの視線を向ける。

 

 

「ちょっとは手伝った方がいいんじゃないかとか悩まないか・・・・・・?」

「茜さんのことですか?」

 

 

 竜の言葉にゆかりはキッチンへと視線を向ける。

 キッチンでは茜が晩御飯の調理を進めており、包丁の音などが聞こえてきていた。

 

 

「そうですね。手伝いを申し出たときに大丈夫と言われましたので。それに、茜さんは料理にこだわりがある様子。それなら私は手伝わずに信じて待った方がいいと思ったんですよ」

「ゆかり・・・・・・」

 

 

 キッチンで茜に言われた言葉からそこまで読み取ることができたのか、ゆかりはハッキリと言った。

 ゆかりの言葉に竜は少しだけ驚いた表情になった。

 

 

「さ、晩御飯は茜さんに任せて竜くんはこれをやってください」

「・・・・・・分かったよ。んで、これは?恋愛ゲームっぽいが・・・・・・」

「あ、それお姉ちゃんがこのあいだ買ってきたやつだよ」

 

 

 ゆかりの言葉に竜は短くため息を吐き、受け取ったゲームを見る。

 竜は恋愛ゲームを基本的にやらないため、テレビのCMで見たことのあるやつくらいしかタイトルを知らない。

 そのため、竜は受け取ったゲーム“Voice Love Memory”を見たことも聞いたこともなかった。

 竜の持っているゲームのパッケージを見た葵は、そのゲームが茜の買ってきたゲームだということに気づく。

 

 

「まぁ、とりあえずやってみるか。葵、PS4借りるぞ?」

「うん。ボクもどんな内容か気になるから大丈夫だよ」

 

 

 恋愛ゲームを基本的にやらないだけに逆に興味が湧いたのか、竜は葵にPS4を借りて良いか確認する。

 葵自身も茜の買ってきたゲームが気になっていたため、断る理由もなかった。

 

 

「えっと、まずは主人公の名前か・・・・・・。これはデフォルトでいいか」

「それで良いんじゃないかな?」

「いえ、主人公とはプレイヤーの分身。ここは竜くんの名前にするべきなのでは?」

「え、マジで?」

 

 

 ゲームが始まり、主人公の名前設定の画面が開かれる。

 凝った名前にするのもめんどくさいので、デフォルトの名前で進めようとすると、ゆかりがそれに待ったをかけた。

 ゆかりの言葉に竜は驚いて確認をする。

 主人公を自分の名前にするということはヒロインたちに自分の名前が呼ばれるということ。

 竜はできるならそれは避けたかった。

 

 

「いいから、竜くんの名前で始めましょう」

「あ、ちょ・・・・・・。しゃーないか・・・・・・」

 

 

 主人公の名前に悩んで止まっていた竜の手からコントローラーを取ると、ゆかりは素早く竜の名前を入力してしまった。

 しかもそのまま確認決定まで進めてしまったため、修正するにはゲームを再起動するしか方法はない。

 ゆかりの行動に竜は不思議に思いながらも、ため息を吐いてそのまま進行する。

 

 

「へぇ、登場ヒロインはクール系に双子、元気系に後輩の5人なのか」

「・・・・・・ゆかりさん、もしかして分かってて竜くんの名前をつけました?」

 

 

 ゲームのオープニングに登場したヒロインの容姿を見てあることに気がついた葵はゆかりを見る。

 恐らくは茜もその事に気がついてこのゲームを買ってきたのだろう。

 葵の視線から逃れるようにゆかりは顔を逸らす。

 そんな2人の様子に気づかずに竜はゲームを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






もうそろそろでアンケートを締め切ります。

投票していない方はお早めにお願いします。


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第57話



UAが9000を越えましたのでアンケートを締め切りたいと思います。

アンケートの結果、ゆかりさんが選ばれました。

ヤンデレとは言っても私のイメージするヤンデレですので、その辺りはご了承ください。





 

 

 

 

 ゆかりに勧められた恋愛ゲームを竜は進めていく。

 ひとまずは変わったイベントもなく主人公が教室に着くところまで進んだ。

 

 

「お、選択肢が出てきたな。なになに・・・・・・?」

 

 

 ストーリーが進行して初めての選択肢。

 恋愛ゲームをほとんどやらないこともあって、竜は少しだけ興味深そうに選択肢を見た。

 テレビ画面の状況は昼休みで、画面に現れた選択肢は昼食を食べる場所のようだ。

 

 1.教室

 2.学食

 3.中庭

 4.屋上

 

 恐らくは選択した場所に各ヒロインがいるのだと思われるが、誰がどこにいるのかはまったく予想がつかない。

 

 

「これは、どこに行くべきなんでしょうね?」

「ん~、ボクなら安定の学食かな」

「ふむ、まぁ、どのヒロインがいるかは分からないんだし。葵の選んだ学食にしてみるか」

 

 

 どこにどのヒロインがいるのかは不明なのでどこを選んでも同じ。

 そう結論付けた竜は葵の言っていた学食を選択した。

 そしてテレビ画面が選択した選択肢に応じて進行する。

 

 

「お、学食にいたのはこのヒロインだったか」

「クールではありませんでしたか・・・・・・」

「双子でもなかったね」

 

 

 学食にいたヒロインは元気系のヒロインだった。

 ゆかりと葵は個人的に会って欲しかったヒロインではなかったことに少しだけ落ち込んでいた。

 ちなみに学食にいた元気系のヒロインの容姿は、金髪ロングでヒロインの中ではもっともスタイルが良い。

 

 

「まぁ、まだ最初ですし。どんどん進めましょう」

「そうだね。それに他のヒロインたちとも会えるだろうし」

 

 

 いつまでも落ち込んでいても仕方がないので、ゆかりと葵は気持ちを切り替えてゲームの進行を促した。

 2人の言葉に従って、竜はゲームを進める。

 

 

「えっと、放課後に一緒に勉強だとさ」

「む、放課後なんですからさっさと帰ってゲームを始めるのが当然のこと。なのに一緒に勉強とはあまりに不自然・・・・・・。罠ですねこれは」

 

「あ、後輩が食べ歩きに誘ってきた」

「食べ歩きはけっこうお金がかかるものだし。普通に学生ならそうそうできるものじゃないよ。だからこれも罠に違いないよ」

 

「双子が一緒に帰らないか、だとさ」

「それは了承するべきやと思うでー!」

「いえ、ここはあえて断るべきです!」

「っていうかお姉ちゃん、料理は大丈夫なの?」

 

「本屋でクールなヒロインと出会ったな」

「これはお昼に誘うべきですね」

「ううん、ここはヒロインのプライベートの時間を大切にするべきだから軽く挨拶をして終わりでいいとボクは思うよ」

 

 

 選択肢が出るたびにそれぞれが思い思いの言葉を言う。

 あるヒロインがメインの選択肢ではゆかりが身を乗りだし。

 また別のヒロインでは葵が珍しく主張をする。

 そしてまた別のヒロインでは料理中のはずの茜が竜の背中にダイブをかます。

 

 恋愛ゲームという自身のあまり触れないゲームに楽しく思うと同時に、竜はやや精神的に疲れていた。

 

 なお、茜は特定のヒロインの時のみこちらに来ており、今は料理に戻っている。

 

 

「選択肢を選ぶだけとはいえ、けっこう長かったな」

「そうですね。私もそこまでやる方ではないですが。このゲームはけっこうボリュームがあると思いますよ」

「でもほらもう終わるみたいだし」

 

 

 恋愛ゲームをやったことはないが、それでも長いと感じられるほどのボリューム。

 その長さに竜はやや疲労混じりに言う。

 残るは一番好感度の高かったヒロインの登場と告白をして終了という場面にまで到達し、竜たちはどのヒロインが来るのか少しだけ緊張した表情になっていた。

 

 そしてヒロインが登場した。

 一番好感度の高かったヒロインは・・・・・・

 

 

『竜くん、今までほんとに楽しかったよ。竜くんさえ良かったら、私とこれからも一緒にいてくれないかな』

 

 

 元気系のヒロイン、鶴見(つるみ) 小真希(こまき)だった。

 予想外のヒロインの登場にゆかりと葵、そしてキッチンから見ていた茜は思わず固まってしまう。

 そんな3人の様子を気にせずに竜はエンディングまで進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第58話



難産気味・・・・・・




 

 

 

 

 クール系のヒロイン、月見(つきみ) 結花(ゆか)

 双子の姉のヒロイン、実琴(みこと) 緋菜(ひな)

 双子の妹のヒロイン、実琴 蒼空(そら)

 

 ゆかり、茜、葵の3人は最後に出てくるヒロインがこの3人の中の誰かだと思っていた。

 しかし実際に登場したのは元気系のヒロインである鶴見 小真希。

 

 あまりにも予想外のキャラクターが出てきたことにゆかりたちはとても驚いていた。

 

 ちなみに後輩のヒロインの名前は星那(ほしな) 光里(ひかり)である。

 

 

「これで終わりかぁ。けっこう楽しかったかな」

 

 

 驚いて固まる2人を余所に、竜はゲームのエンディングを楽しんでいた。

 茜も驚いてはいたが、それでもすぐに料理の手を動かし始める。

 テレビ画面にはプレイしてきたシーンがエンディング曲と共に流れている。

 

 

「な、なぜマキさんが・・・・・・」

「好感度的には下の方だと思っていたのに・・・・・・」

 

 

 テレビ画面を見ながらゆかりと葵はおののくように呟く。

 2人からしてみれば自分たちがエンディングを向かえてほしいヒロイン以外の妨害をしていたはずなので、なぜこの結果になったのかが分からなかった。

 また、ゆかりがヒロインの名前ではなくマキの名前を言ってしまっているのはこのゲームのヒロインたちを自分たちに置き換えて考えていたからである。

 

 ちなみに、なぜこのヒロインが選ばれたのかというと、妨害をするつもりで選んだ選択肢が好感度を思ったよりも下げておらず、自分たちの選びたかったヒロインはあまり好感度の上昇しない選択肢を選んでしまっていたためだ。

 

 

「へぇ、クリアするとヒロインが追加されるのか」

 

 

 エンディングも終わり、最後の画面に表示された追加要素に竜は興味深そうに呟く。

 画面には“南西(みなにし)3姉妹が追加されました”と表示されていた。

 それを確認した竜はデータを記録してゲームを終了する。

 

 

「好感度とか正直めんどくさいけど、新鮮で楽しくはあったかな」

「竜くん!次は月見を攻略してください!」

「いや、蒼空の方を攻略して!」

「あとで構わんけど、緋菜を攻略してくれるとうちは嬉しいな~」

 

 

 ゲームの感想を言う竜に3人は自分たちが攻略してほしいヒロインの名前を言う。

 竜からすれば3人がなぜ自分で攻略しないのかが疑問なため、不思議そうに首をかしげる。

 

 

「っと、せや。晩御飯ができたで」

「おう、了解」

「あ、そんなにやってたんだね」

「なんだかんだで熱中してしまいましたしね」

 

 

 思い出したように茜は言う。

 時計を見ればそこそこに時間が経っており、茜の料理が完成しているのも納得である。

 茜の言葉に竜たちはテーブルを用意して晩御飯を食べられるように準備する。

 

 

「お姉ちゃん、今日は何を作ったの?」

「2人がさっぱりしたものを食べたい言うとったからな。鶏肉を味ぽんと水で煮込んだサッパリ煮にワカメとキュウリの酢の物や。あとはニラと卵のスープやね」

 

 

 葵の問いに茜は指折り数えながら作った晩御飯のメニューを言っていく。

 茜の作った料理はどれもサッパリとした味付けのもので、竜とゆかりの要望をキチンと叶えることができていた。

 

 

「よし、ほんなら持ってくるで。葵も手伝ってや」

「うん。2人は待っててね」

 

 

 そう言って茜と葵は晩御飯の準備のためにキッチンへと向かっていった。 

 

 

「本当にさっぱり系の料理を作れたんだな」

「お肉の料理でさっぱりは難しいかもしれないとは思ったんですけどね」

 

 

 茜が本当にさっぱり系のものを作ったことに竜とゆかりは少しだけ驚いた表情で顔を見合わせた。

 お肉でさっぱり系のものと言いはしたものの、自分たちではイメージが全然できていなかったので、茜が料理を作れたことは本当に意外だったのだ。

 

 そして2人は茜と葵が戻ってくるのを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第59話

 

 

 

 

 テーブルの上に茜の作った料理が並べられ、晩御飯の準備が終わる。

 テーブルの上に並んでいるのは味ぽんと水で煮込んだ鶏肉のさっぱり煮、ワカメとキュウリの酢の物、ニラと卵のスープ、そしてこれにご飯を加えて全部だ。

 

 

「彩りもキレイで美味しそうですね」

「そうだな」

 

 

 並んでいる晩御飯を見てゆかりは言う。

 さっぱり煮はやや薄い茶色。

 酢の物はキレイな緑色。

 ニラと卵のスープは黄色と緑。

 料理ごとに色が分かれており、見ているだけでも美味しいことが分かりそうなほどだ。

 

 

「さ、準備もできたから食べよか」

「そうだね」

 

 

 晩御飯の準備を終えてテーブルに着いた茜の言葉に葵は頷く。

 そして4人は手を合わせて食事を始めた。

 

 

「ん、この鶏肉はそこまでしょっぱくないんですね。パサッともしてなくて美味しいです」

 

 

 さっぱり煮を口に運んだゆかりは驚き混じりにさっぱり煮を食べた感想を言う。

 味ぽんを使って煮込んだと言うことでしょっぱそうなイメージが少しだけあったのだが、そんなことは全然なく。

 ほどよいしょっぱさでとても食べやすかった。

 

 

「あ~、酢の物も旨いな。簡単に作れるのは知ってるんだが、切ったり混ぜたりがめんどくさくて中々作らないんだよなぁ・・・・・・」

 

 

 ワカメとキュウリの酢の物を口に運びながら竜は呟く。

 酢の物の作り方はワカメとキュウリを食べやすい大きさに切って酢と混ぜるというとても簡単なもの。

 調理手順だけ見ればとても簡単なのだが、それでも面度臭がりには充分にやる気が削がれるレベルだった。

 

 

「ニラと卵のスープも美味しいよ。ボクとしては卵はもう少し固まりでも良かったんだけど・・・・・・」

 

 

 ニラと卵のスープを飲みながら葵は言う。

 このスープも作り方はとても簡単で、小さめに切ったニラを鍋で煮て途中でだしの素と醤油を入れ、最後に溶いた卵を流し入れるだけで完成する。

 茜はこの卵を入れたタイミングで鍋の中をかき混ぜて卵をかなり細かくするのだ。

 そのため葵はかき混ぜないでほしいなと少しだけ思っていた。

 

 

「どれも旨いな」

「ちゅーても簡単なものばっかやけどね」

 

 

 竜の言葉に茜は謙遜しながらも嬉しそうに答える。

 作った側からすれば美味しいや旨いと言ってもらえるのはとても嬉しいもの。

 しかもそれが想い人などの大切な人間からの言葉ならばさらに嬉しいものとなるだろう。

 

 

「私にはできないことですから茜さんが羨ましいです」

「練習すれば誰にでもできることやって。ゆかりさんも頑張って練習するしかないなぁ」

 

 

 少しだけ遠い目をしながら言うゆかりに茜は苦笑を浮かべながら答える。

 茜自身も最初から料理ができていたわけではなく、練習を積み重ねてきたからこそ今の茜の腕があるのだ。

 茜の言葉にゆかりは少しだけ悩むような表情を浮かべた。

 

 

「練習、ですか・・・・・・」

「せや。千里の道も一歩から、日々の積み重ねが大切なんやで」

 

 

 ゆかりの呟きに茜はウンウンと頷きながら言う。

 良いことを言ってはいるのだが、普段が宿題をギリギリにやっているだけにいまいち説得力がなかった。

 千里の道も一歩からと言うのならば宿題をキチンとやって勉強の一歩一歩をキチンと踏んでほしいものである。

 

 

「・・・・・・そう、ですね。苦手だからと避けていては成長できませんし、頑張ってみましょうか」

「その意気やで!」

 

 

 ゆかりの見せたやる気に茜はグッと手を握って応援する。

 そんな2人のやり取りを見ながら竜と葵は箸を進めていた。

 

 

「・・・・・・そういえば、葵は料理はできるんだっけ?」

「ボクはお菓子作りの方が得意かな。今度作ろうか?」

 

 

 ふと、思い出したように竜は葵に尋ねる。

 茜が家事で料理を担当しているとは聞いていたが、葵も料理をできるのかが気になったからだ。

 竜の言葉に葵は提案するように言う。

 なお、提案をしてはいるのだが葵の頭の中ではすでに作ることが決定されていたりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第60話

 

 

 

 

 晩御飯を食べ終わり、各々がのんびりと食後の余韻に浸っていた。

 すでにテーブルの上にはなにもなく、キッチンで葵が食器を洗っている。

 

 

「時間的にはまだ余裕はありそうやな。なんかやる?」

「そうですね。竜くん、先ほどのゲームの続きはどうです?」

「いやぁ、あれはもう充分かな」

 

 

 ゆかりの言葉に竜は首を横に振る。

 確かに楽しくはあったのだが、晩御飯の前に充分に楽しんだので竜は今日はもう恋愛ゲームをプレイする気はなかった。

 

 

「ん~、それなら昨日のバイハの続きでもどうや?」

「ふむ、なら被弾したら交代ってことで」

「ふっふっふ、ならばゆかりさんの完璧なコントローラー捌きを見せてさしあげましょう」

 

 

 少しだけ考える仕草をして茜は昨日のバイオハザードの続きをすることを提案する。

 茜の言葉に竜はプレイヤーの交換するタイミングを言った。

 バイオハザードのプレイヤーの人数は1人から2人。

 ここにいるのは3人で葵も含めれば4人いるのでプレイヤーの人数が多いのだ。

 とはいっても葵は絶対にプレイしたがらないので実際には3人なのだが。

 

 

「そんじゃ、始めるか」

「せやね」

「最初はお2人に譲りますよ」

 

 

 ゲームの準備を終え、竜と茜がコントローラーを握る。

 どうやら最初は竜と茜がプレイするようだ。

 2人のどちらが先に被弾するのかを待ちながらゆかりはのんびりとテレビ画面を見るのだった。

 

 

「お姉ちゃん、食器洗い終わっ・・・・・・ッ!!」

「うおっ?!ちょ、ま、あ゛ーっ?!?!」

 

 

 被弾もなくバイオハザードを進めていくと、食器を洗い終わった葵がキッチンから戻ってきた。

 キッチンから戻ってきた葵はテレビ画面を見て固まると、素早く竜の背後に移動してテレビ画面が見えないように背中に頭を押し付けた。

 昨日は普通に見てはいたが、それは最初から見ることができていたからであり、今のように不意打ち気味に見るとすぐにテレビ画面を見ないように隠れてしまうのだ。

 

 なお、ゾンビ犬とリッカーの相手をしていた竜は葵がしがみついてきた衝撃のせいで操作をミスし、リッカーからの攻撃に被弾してしまった。

 

 

「ありゃ・・・・・・、まぁ、しゃーないわな」

「では私と交換ですね」

「・・・・・・そうだな」

 

 

 竜の操作するキャラクターが被弾したことに茜は驚きつつ、周囲のゾンビたちを倒していった。

 周囲のゾンビを倒し終えると、竜はゆかりにコントローラを渡す。

 コントローラーを渡した竜はゆっくりと背中にしがみついている葵を見た。

 

 

「ご・・・・・・、ごめんね?」

 

 

 自分がしがみついたことによって竜が被弾したことが分かったのか、葵は申し訳なさそうに謝る。

 葵の言葉に竜はにっこりと笑みを浮かべた。

 竜が笑いかけてきたことに葵は許されたと思って嬉しそうにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 許 し ま せ ん 」

 

 

 

 

 

「い?! いひゃ()ひゃ()ひゃ()ひゃ()ひゃ()?!」

 

 

 ぐにー、と葵の頬を摘まんで竜は引っ張る。

 竜に頬を引っ張られて葵はバタバタと腕を動かした。

 葵は茜とゆかりに助けを求めようとするが、2人はバイオハザードに集中しており、反応を示さない。

 とはいってもバイオハザードを仮にやっていなくても助けることはなかっただろう。

 葵が頬を引っ張られているのはほとんど自業自得のようなもの。

 迂闊に助けようとしようものなら頬を引っ張られる対象が自分たちに移ってしまう可能性がある。

 そのため、2人はバイオハザードに集中するふりをしながら葵の助けをスルーしていた。

 

 

()ょっ?!ひゃ()にゃ()して?!」

「うりうり、不意打ちで見たからっていきなりしがみつくなよ」

 

 

 もがく葵の顔を見ながら竜はむにむにと葵の頬を引っ張るのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第61話

評価がつくのは嬉しいけど低評価は落ち込みますねぇ・・・・・・



 

 

 

 

 葵の頬を引っ張り、押し潰し。

 葵は竜に自身の頬をむにむにと弄られている。

 そんな2人の後ろで茜とゆかりはバイオハザードをプレイしていた。

 

 

「りょ、竜くん・・・・・・?」

 

 

 いつの間にか痛みをほとんど感じない触り方になっていることに葵は不思議そうに声をあげる。

 むにむにと頬を弄られながら葵は竜の顔を見る。

 

 

「あ、いや、なんか触り心地がよくてな・・・・・・」

「そ、そうなんだ・・・・・・」

 

 

 葵の言葉に竜は、葵の頬の感触を感じながら答えた。

 葵は竜の答えに少しだけ恥ずかしくなり、顔を赤くしながら竜の好きなように頬を触れさせる。

 

 

「えっと、ボクも竜くんの頬っぺたを触ってもいいかな?」

「ん、まぁ、構わないが・・・・・・。触り心地はよくないと思うぞ?」

 

 

 竜の触れ方が痛みを感じないものになって余裕ができたのか、葵は手持ちぶさたになって竜に尋ねる。

 葵の言葉に竜は不思議そうに首をかしげながら了承する。

 

 自分の頬など触れても楽しいものでもないだろう。

 そう思ったがゆえに竜にとって葵の言葉は不思議なものだった。

 が、それを言うのなら葵もまったく同じことを思っていたので、お互い様とでも言ったところだろうか。

 

 

「竜くんの頬っぺた、ちょっと固いね」

「まぁ、男だしな」

 

 

 ふにふにと竜の頬を触りながら葵は言う。

 その触れた感触が自分のものよりも固く感じられ、葵は少しだけ面白くなっていた。

 そんな葵の触り方に竜は少しだけくすぐったさを感じていた。

 

 

「ん、んんっ!」

「「ッ?!」」

 

 

 不意に聞こえてきた咳払いに竜と葵ははじかれるようにお互いの頬から手を離す。

 咳払いの聞こえてきた方を見れば、ジットリとした目をした茜とゆかりが2人のことを見ていた。

 テレビ画面を見れば操作キャラクターたちがセーフポイントにおり、ゲームを一時停止していることが分かる。

 

 

「2人で何をやっとるんや」

「い、いや、葵がぶつかってきたからお仕置きを・・・・・・」

 

 

 茜の言葉に竜は慌てて気をつけの姿勢になって答える。

 いつの間にか部屋の中の室温がどことなく冷たくなったように感じられた。

 竜の隣で葵も同じように気をつけの姿勢になっていた。

 

 

「それがなんでお互いに頬っぺを触ることになったんですか?」

「えっと、それは、その・・・・・・」

 

 

 続くゆかりの追求に竜は目をキョロキョロとさせて答えに詰まってしまった。

 竜自身もどうしてそうなったのかは分からないので、答えようもないのだが。

 

 

「・・・・・・まぁ、ええんやけど。答えなかった代わりにうちも竜の頬っぺを触らせてもらうで」

「私も触らせてもらいますね」

 

 

 答えられずにいた竜に茜は小さく息を吐いて竜のとなりに移動した。

 そして茜が移動した反対側、つまりは葵のいる方にゆかりも移動する。

 茜とゆかりの2人に挟まれる形となった竜は表情を強張らせる。

 

 

「えっと、なん────」

「そりゃ」

「えい」

「────うびゅ?!」

「ぷふっ・・・・・・」

 

 

 竜は左右にいる茜とゆかりを交互に見ながら何をするのか尋ねようとすると、両サイドから頬を指で押されて言葉が途中で変な風に途切れさせられてしまった。

 左右から挟まれる形でつぶれる竜の顔を見て、葵は思わず吹き出してしまう。

 竜は吹き出した葵の方を見ようとするが、左右から2人に指で押されているために顔を葵の方へと向けることができなかった。

 

 

「ほな、うちらは竜の頬っぺを触っとるから竜と葵でプレイしてや」

「私たちは竜くんの頬っぺを触ることで忙しいので」

「俺は、まぁ、良いんだが・・・・・・」

 

 

 茜の言葉に竜は少しだけ答えにくそうに言葉を濁す。

 2人の指で押す力が弱くなって顔を動かすことができるようになった竜は葵の表情をうかがうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第62話

 

 

 

 

 絶望。

 その言葉を聞いてどんなイメージをするだろうか。

 

 目の前で自分の愛する人間が死んでいるとき?

 自分の信じていた人間に裏切られたとき?

 楽しみにとっておいたスイーツが誰かに食べられていたとき?

 

 絶望とは様々な種類があり、それをどう感じるかはその人次第だ。

 

 そして、今ここにも瞳から光を失い、表情も動かなくなってしまっている少女がいた。

 もしも仮に今の少女────葵にタイトルをつけるのならば“絶望”とつけるのがもっとも正しいように思える。

 

 

「・・・・・・あ、葵?」

「ナニカナ、竜クン」

 

 

 葵の様子に竜は思わず声をかけるが、葵はやや片言の言葉で答えるのだった。

 そんな葵の様子に、茜とゆかりは竜の頬を左右から押しながらニヤリと笑う。

 

 

「さぁ、コントローラーはこちらにありますので」

「2人でがんばってや~」

「お、おう」

「ウン・・・・・・」

 

 

 茜とゆかりからコントローラーを受け取りながらテレビの前に移動する。

 竜はバイオハザードをプレイすることに問題はないのだが、葵は違う。

 すでに分かっていることだが葵はホラーが苦手で、バイオハザードレベルですら先ほど竜にしがみついたように怖がってしまう。

 そんな葵がまともにバイオハザードをプレイすることができるのかが竜は気になっていた。

 

 

「まぁまぁ、言うてもセーブはしてあるから気負わずやるとええよ」

「余程のことがないと死なないと思うので頑張ってください」

 

 

 表情のなくなった葵に茜とゆかりは竜の頬をプニプニプニプニプニプニプニプニと連打しながら言う。

 左右から頬を連打されているために微妙に顔を揺らされながら竜はバイオハザードの操作を始める。

 竜が操作を始めたことに続いて葵も操作を始めた。

 

 

「っと、先に何体かゾン────」

 

 

 竜が画面内に最初のゾンビの存在に気づき、葵に一言声をかけようとすると同時に数発の銃声が画面から発せられた。

 そして次の瞬間、現れたゾンビたちはすべて地に倒れ伏してしまう。

 

 

「────ビが・・・・・・」

 

 

 あまりにも早いゾンビの退場に、竜を含め、竜の頬を連打していた茜とゆかりも驚きで固まってしまう。

 今の銃声を出したのは竜の操作しているキャラクターではない。

 ましてやイベントが発生してNPCが射撃をしたわけでもない。

 3人は驚いた表情のままギギギギと葵に顔を向けた。

 

 

「目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・、目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・、目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・」

「あ、葵・・・・・・?」

 

 

 どこぞの汎用人型決戦兵器に乗っているパイロットの少年のような言葉を言いながら葵は画面内に映るゾンビたちの有無を確認する。

 やがて画面内にゾンビたちがいなくなったことが分かると、言い続けていた言葉を止めて竜の近くに寄っていった。

 

 

「えっと、葵・・・・・・、大丈夫なのか?」

「ん・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に葵は竜の膝を叩きながら頷く。

 葵の行動の意図が分からず、竜はひとまず叩かれた膝を伸ばした。

 

 

「ちょ、葵?!」

「あ~、あれだけでもギリギリだったんやな・・・・・・」

「まぁ、これは仕方がないのかもしれませんね」

 

 

 竜が膝を伸ばすと、葵は躊躇することなく竜の膝の上に座った。

 突然の葵の柔らかな感触に竜は驚きの声をあげる。

 そんな葵の行動に茜は仕方がないと竜の頬をつつきながら言う。

 茜の言葉に同意するようにゆかりも竜の頬をつつきながら頷くのだった。

 

 

「いや、でも、これは・・・・・・」

「竜くん、このままでお願い」

 

 

 膝に感じられる葵の体温と柔らかさ、具体的に言うなら葵のお尻の感触に竜は思わず汚れたバベルの塔が立ち上がってしまいそうになる。

 慌てて葵を膝の上からどかそうとするが、涙目でこちらを見上げてくる葵の顔を見てどかすことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第63話



UA10000突破・番外話を投稿してこっちを投稿し忘れてました。




 

 

 

 

 葵を膝の上に乗せて、両サイドから茜とゆかりによって頬を連打されながら竜はバイオハザードを続ける。

 といっても出てくるゾンビや(バイオ)(オーガニック)(ウェポン)などはすべて片っ端から葵が殲滅していっているのだが。

 そのため、竜がやることと言えば謎解きくらいのものだった。

 

 

「ひっ・・・・・・、逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ!」

「ちょ、あまり揺れないでくれ?!」

 

 

 ゾンビなどが現れるたびに驚いて揺れる葵に竜は思わず声をあげる。

 ただでさえ柔らかな葵のお尻の感触が膝に触れているのに、葵が揺れることによってその感触がさらに強くなる。

 葵が膝に乗っているだけでも汚れたバベルの塔が立ち上がってしまいそうだったのに、そこにさらに振動などが加わってしまえば大変なことになってしまうのは明白だった。

 

 

「・・・・・・手札から“フォトン・スラッシャー”を特殊召喚して“V・HEROヴァイオン”を召喚。ヴァイオンで“E・HEROシャドーミスト”を墓地に落として効果で“ディアボリック・ガイ”を手札に加え、墓地のシャドーミストを除外してヴァイオンの効果で“融合”を手札に加える。2体でエクシーズ“外神ナイアルラ”ランクアップして“外神アザトート”。そしてアザトートと手札のディアボリックを融合して“D-HEROデッドリーガイ”を融合召喚。そして墓地の・・・・・・・・・・・・」

「目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・ひうっ、目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・きゃっ、目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・」

 

 

 葵の柔らかな感触によって竜は自身のネオ・アームストロング・サイクロンジェット・アームストロング砲が起動してしまうことのないようにインフェルニティ1killの手順を暗唱し始める。

 突然始まった1killの手順に葵が驚くかと思えたが、葵自身もいっぱいいっぱいだったために竜の暗唱に気がつかずに先ほどと同じように呟きながらゾンビなどを殲滅していった。

 

 

「・・・・・・なんやこれ?」

「なにがどうしてこうなったんですかね?」

 

 

 バイオハザードをプレイしている2人が揃ってぶつぶつと呟きながらゾンビなどを殲滅していく。

 はたから見ていてまったく意味不明な状況だった。

 そんな2人の様子に茜とゆかりは竜の頬を触る手をゆるめることなく首をかしげる。

 

 

「ちゅーか、葵もなんだかんだでけっこう倒せとるな」

「と言いますか殲滅してますよね。あれって、怖いから逆に全部倒してしまおうって言うことですよね?」

「せやね」

 

 

 茜は竜の頬をふにふにと触りながら、葵のプレイングに感心する。

 ゆかりは茜とは反対側の竜の頬をむにりと摘まんで軽く引っ張りながら葵の殲滅速度の理由について呟く。

 恐怖は誰にでもあり、逃れることのできない生き物として持っている当たり前の感情。

 それへの対処法は人によって異なり、逃げ出すもの、動けなくなってしまうもの、現実逃避をしてしまうもの。

 様々な対処をする人がいる。

 そして、その中でどうやら葵は過激な方のものなようで、恐怖の対象を倒してなくしてしまうというものらしい。

 とはいっても葵がこのような状態になるのは相当に追い詰められた状態になってからなので、簡単にこんな状態になるわけではない。

 ゆかりの呟きに茜は肯定するように頷いた。

 

 ちなみに、普段の葵はホラー系のゲームをやっているときは誰かの背中に隠れて終わるまで待つタイプなので、余程のことがない限りは大丈夫だろう。

 

 

「・・・・・・・・・・・・“アマゾネスの射手”の効果でデーモンとネクロマンサーを射出。ファイアウォールの効果で手札の“インフェルニティ・ミラージュ”を特殊召喚。ミラージュの効果で墓地のネクロマンサーを2体特殊召喚。ネクロマンサー効果でデーモンを蘇生。デーモン効果でデッキからミラージュをサーチ・・・・・・・・・・・・」

「ところで竜くんは別にホラー系はそこまで苦手じゃないですよね?」

「せやで、特にバイオなんかは驚くくらいで怖いとかは特に言わんかったな」

「なら、なんでこんなことになってるんですかね?」

 

 

 葵がゾンビ絶対殲滅ガールになっている理由は分かったのだが、竜がどうしてこんなことになっているのか。

 茜とゆかりはその理由が分からずに首をかしげることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 



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第64話



昨日が1時に投稿できなかったのが悔しいです・・・・・・




 

 

 

 

 どうにかバイオハザードを終わらせ、竜と葵は一息をついていた。

 竜がプレイしている間ずっと頬を突いていたことで満足したのか、茜とゆかりもすでに竜の頬をつつくのを止めている。

 

 

「・・・・・・葵はいつまで俺の膝に座ってるんだ?」

「もう少しだけ・・・・・・、お願い・・・・・・」

 

 

 ゲームが終わったのだから降りても良いはずなのだが、葵は一向に竜の膝の上から動こうとしなかった。

 膝の上から動こうとしない葵に、竜は尋ねる。

 竜の言葉に葵は竜の腕をとって抱き込むようにしながら答えた。

 腕を掴まれて抱き込まれてしまったことによって竜の動きは封じられ、端から見れば竜が葵を抱き締めているようにも見えるだろう。

 

 

「あ、あおあおあお、葵?!」

「茜さん、離してください。ちょっと引き剥がしてきます」

「まぁ、待ちぃや」

 

 

 葵の行動に竜は驚き、腕を引き抜こうとするが、葵がガッチリと掴んでいるために引き抜くことができない。

 竜が抱き締めているような格好になったことに、ゆかりは葵を引き剥がそうとするが、茜に引き止められてしまって引き剥がすことができなかった。

 

 

「茜さん!ナズェトメルンディス?!」

「剣崎やめぇや。安心しぃ。葵は今は心が疲れているから竜に甘えとるだけやから。それにもうすぐもとに戻るはずや」

 

 

 オンドゥル語を使いながらゆかりは茜に詰め寄る。

 詰め寄ってきたゆかりの顔を押さえ、茜は葵を指差しながら言った。

 

 

「・・・・・・?・・・・・・・・・・・・ッ?・・・・・・・・・・・・ッ?!?!」

 

 

 竜の腕を抱き込んでどことなく嬉しそうにしていた葵だったが、なにかに気がついたのかキョロキョロと周囲を見回し始め、自分が抱き抱えているものを見る。

 自分が抱き抱えているものが竜の腕だと言うことに気がつくと葵の顔が一瞬で赤く染まっていった。

 もしも擬音を着けるのならばボフンッ、といったところだろうか。

 

 

「りょ、竜くん・・・・・・?」

「おう・・・・・・」

 

 

 竜の膝の上で顔を真っ赤に染めながら竜の名前を呼ぶ。

 葵が恥ずかしそう自分の名前を呼んだために、竜も改めて恥ずかしく感じてしまった。

 竜が反応したことによって葵はゆっくりと竜の腕を離す。

 

 

「な?」

「そうですね・・・・・・」

 

 

 茜の言ったとおりに葵が正気に戻って竜の腕を離したため、ゆかりは何とも言えない表情で茜を見返す。

 茜とゆかりのそんなやり取りにも気づかず、葵は竜の膝の上で固まってしまった。

 

 そして葵の頭の中に蘇ってくるのはバイオハザードをプレイし始めてからつい先ほどまでの記憶。

 竜の膝の上に座ってゲームをしていること。

 ゾンビが出るたびに竜の膝で跳び跳ねてしまったこと。

 実はお尻に膝とは違う感触のものが触れていることに気がついていたこと。

 バイオハザードが終わってからも怖くて竜の腕を抱え込んで抱きしめるような体勢にさせたこと。

 無理矢理にだが、抱きしめられたことによって深い安心感を得たこと。

 

 それらすべてが葵の頭の中に思い出されていた。

 

 

「~~~~ッ!」

 

 

 自分のお尻に感じていた膝以外の感触の正体を考えてしまった葵は、声にならない声をあげながら竜の膝の上から滑り落ちてしまう。

 膝とは違うまた別の柔らかさを持っていたソレは自分が竜の膝の上で跳び跳ねる毎に少しずつ硬度を増していたかもしれない。

 もしかしたらそれは勘違いかもしれないが、混乱状態にある葵はソレが本当のことだと思ってしまっていた。

 加えて先ほどまでは抱きしめられるような体勢になっており、膝に乗っていたときよりもさらに密着をしていた。

 竜の腕を抱き抱えていたために、葵は自身の胸に竜の腕を押しつけていたことにもなる。

 竜自身は葵の行動に驚いて気にする余裕はなかったが、葵はしっかりと自身の胸に触れる竜の腕の感触も覚えていた。

 

 驚きと恥ずかしさ、そして竜に意識をしてもらえたかもしれないと言う少しの嬉しさ。

 それらすべての感情が入り混じり、葵は茜の背後に素早く回り込んで腰の辺りにしがみつくのだった。

 

 ちなみに、ここで自身の部屋に逃げ込まないのはホラーゲームをやった影響で1人になるのが怖かったからだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第65話

 

 

 

 

 葵が膝の上から離れたことによって解放された竜は痺れかけていた膝を伸ばすために立ち上がる。

 じんわりと血液の巡る感覚に竜はむず痒いような感覚を感じた。

 ふと時間を見ればそこそこに遅い時間。

 晩御飯を食べた上にゲームをやっていたのだからそれも当然のことだが。

 

 

「時間も時間だからそろそろ帰るわ」

「まぁ、こんな時間やもんな」

「そうですね。私も自分の部屋に帰りますね」

 

 

 竜の言葉に茜とゆかりも時計を確認して頷く。

 その際も葵は茜の腰にしがみついたままで離れようとはしない。

 そんな葵の様子に竜は苦笑いを浮かべた。

 

 

「明日には普通になっとるやろうから気にせんでええで」

「それならいいんだがな。んじゃ、また明日な」

「また明日、学校で」

 

 

 腰にしがみつく葵の頭に手を置きながら茜は言う。

 茜の腰にしがみついたまま自分の方を見ない葵に竜は少しだけ寂しくなった。

 そして、竜とゆかりはそれぞれの家に帰るのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 “清花荘”から家に帰ってきた竜は、家の向かいの工事の幕を見る。

 工事の幕の上の方に骨組みらしきものが見えており、それだけでどれくらい大きい家が建つのかがうかがえた。

 

 

「こんだけデカい家か。どこの金持ちかねぇ」

 

 

 適当に目測だけで大きさを見ても普通の家の倍。

 それほどの大きさの家を建てるのは一般家庭には恐らく不可能。

 相当な金持ちがこの家を建てていることは恐らく間違いないだろう。

 そんなことを考えながら竜は家の中へと入っていった。

 

 

「たぁだいまぁ~・・・・・・っと。まぁ、誰がいるわけでもないんだがな」

 

 

 どこか気の抜けた言い方で帰宅の言葉を言いながら竜は靴を脱ぐ。

 竜の両親は父親の転勤で揃って離れた地にいる。

 そのため家に誰かがいることは基本的にはなく。

 たまに様子見で母親が帰ってくるくらいなのだ。

 靴を脱ぎ、リビングに竜は移動する。

 とはいっても晩御飯は茜のところで食べたので、とくになにかを食べたりするつもりはないのだが。

 

 

「わぁ」

「ッ?!・・・・・・・・・・・・は?」

 

 

 聞こえてきた自分以外の声に竜は驚き、慌てて声の聞こえてきた方を見る。

 そこにあったのはなんの(●●●)変哲も(●●●)ないよう(●●●●)に見える(●●●●)1輪の花だった。

 いや、あったというのは正しくはないだろう。

 正確にいえば、テーブルの上に咲いていた(●●●●●)というのが正しい表現だった。

 

 

「なんだ・・・・・・?この花・・・・・・」

 

 

 テーブルの上に咲いている花に警戒をしながら竜は近づいていく。

 今朝の時点でテーブルの上にこのような花が咲いていなかったことは確かなので、昼間か夕方の内に咲いたということで間違いはないだろう。

 

 

「わぁ!」

「しゃ、喋った?!」

 

 

 竜が近づいたことが分かったのか、テーブルの上の花は竜の方に花びらを向ける。

 そして花が竜の方を向いたと同時に先程も聞こえた声が聞こえてきた。

 声が聞こえてきたのは間違いなく花から。

 しかも竜の声に反応するかのように花の部分を揺らしている。

 

 

「わぁ、わわぁ!」

「害は・・・・・・なさそう、か?」

 

 

 今のところ花の反応は竜の声に反応して揺れることと鳴き声?らしきものを発すること。

 とくに害らしい反応も見られていない。

 テーブルの上の花に恐る恐る手を伸ばし、花びらに触れてみた。

 触れた感触は普通の花だが、普通の花よりも丈夫なように感じられる。

 

 

「わぁ、わぁ」

「・・・・・・喜んでるみたい、だな」

 

 

 嬉しそうな声が花から聞こえてきたことに、竜は少しだけホッとして息を吐いた。

 テーブルの上に咲いていることに目を瞑れば害もとくにはない花。

 まぁ、そもそもが超常的過ぎるので考えても仕方がないと思ってしまったというのもあるのだが。

 

 

「近くに水を置いておけば大丈夫か?」

「わぁ!」

 

 

 花であるということは水が必要なはず。

 しかし、テーブルに直接咲いているので普通に水を与えてはテーブルが水浸しになって終わりになってしまう。

 これでは意味がないのでどうしたものかと竜は花びらを優しく触りながら呟く。

 竜の呟きが聞こえたのか、花は肯定するように揺れながら声を発するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第66話

 

 

 

 

 テーブルの上に咲いていた花の近くに水を入れた容器を置いたあと、竜は風呂の準備をするために風呂場に向かった。

 風呂場に向かった竜を見るかのように、テーブルの上の花は花びらの部分を傾ける。

 

 

「わっ、わわぁ」

 

 

 竜が近くに置いた容器の中の水に葉の部分を入れると、水をすくって花の部分にかけていく。

 水がかかると花は嬉しそうに揺れながら声を発する。

 そんな行動を数回繰り返し、花は揺れるのを止めた。

 

 

「わぁ・・・・・・」

 

 

 どことなく寂しげな声を発し、花はしんなりと垂れてしまった。

 どうやら竜が戻ってこないことで寂しくなってしまったらしい。

 花はキョロキョロと花びらの部分を動かして周囲を見回すと、意を決したかのように花びらの部分を頷くように動かした。

 

 

「わぁ、わぁわぁわぁわぁわぁわぁわぁわぁ!!」

 

 

 謎の掛け声を発しながら花は机に潜り始めた。

 どう考えても潜ることのできないテーブルに花は潜ってその身を見えなくしていく。

 そして花は完全にテーブルに潜ってその姿を完全になくしてしまった。

 不思議なことに花の消えたテーブルに穴などはなく、ついさっきまで花が咲いていたと言われても信じられないほどに痕跡はなかった。

 そもそもとしてテーブルに花が咲いているという状況が現実的ではないのだが、この際それは気にしないことにしておこう。

 

 そして、花の消えたテーブルの上には水の少なくなった容器だけが残されていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ところ変わって竜の家の風呂場。

 ここでは竜が風呂に入るために浴槽を洗っていた。

 

 

「燃え上がるような熱い鼓動が~」

 

 

 最近になって気に入っている曲を口ずさみながら竜は浴槽を洗う。

 先ほどの花には驚かされたが、花だけあって移動などはできないはず。

 すでにテーブルの上に花の姿がないことも知らずに竜はそう考えていた。

 

 

「溶けそうなほど恋したら~」

「わわ~わ、わ~わ、わ~わわわぁ!」

「な、なにいぃッ?!?!」

 

 

 歌いながら浴槽を洗っていると、竜の歌に続いて先ほど聞いたばかりの声が聞こえてきた。

 まったくの予想外の声に竜は驚きのあまり声が裏返ってしまう。

 手に持っていたシャワーを落としそうになりながら竜は声の聞こえてきた方を見る。

 そこにいたのはテーブルの上に咲いていたはずの花。

 花が移動する。

 あり得るはずのない事態に竜は驚きのあまり固まってしまった。

 

 が、すぐに花が喋っている時点であり得ない事態だということを思い出して浴槽を洗うのを再開した。

 

 

「っし、これで終わり」

「わぁ!」

 

 

 浴槽の泡を流し、竜は洗うのを終わらせる。

 竜が浴槽を洗い終えたことが分かり、花は嬉しそうに声をあげた。

 嬉しそうな花の声に竜は小さく笑う。

 

 

「どうやって移動したのかは分からんが、わざわざこっちに来たのか」

「わ~ぁ、わぁ」

 

 

 テーブルの上で待っていても良かっただろうに、わざわざ風呂場に来た花に竜は笑いかけながら花びらの部分を撫でた。

 竜に撫でられ、花は嬉しそうにパタパタと葉の部分を動かす。

 花を撫でながら竜はチラリと花の根本を見る。

 今、花が咲いているのは風呂場に置いてあった風呂桶(●●●)の中。

 どう考えても根が生えるはずのない場所だった。

 

 

「ん~・・・・・・。まぁ、いいか」

「わ、わぁ?!」

 

 

 きっと深く考えたとしても答えはでない。

 そう理解した竜は考えることをやめた。

 竜が自身の根本を見ていることに気がついた花は恥ずかしく感じたのか、葉の部分で自身の根本を隠した。

 

 

「っと、風呂桶は使うから他のところに移動してくれるか?」

「わ?・・・・・・わぁ!」

 

 

 竜の言葉に花は花びらの部分を傾けて頷くような動きをした。

 そしてテーブルの上から移動したときと同じように風呂桶の中へと潜っていった。

 花の移動方法に竜は興味深そうに花が見えなくなるまでその様子を見ていた。

 

 

「・・・・・・ペーパーマリオのパックンフラワーみたいな移動方法なんだな」

「わぁ?」

 

 

 花の姿が見えなくなり、竜は見覚えのある花の移動方法に呟く。

 移動直後で竜の言葉が聞き取れなかったのか、花は竜の肩(●●●)で首をかしげるような動きをした。

 ちなみに肩といっても服の上であり、肩の皮膚から直接咲いているわけではない。

 皮膚から直接咲くことはできない、とも言わないでおこう。

 

 

「って、俺の肩に移動することもできるのかよ?!」

 

 

 完全に不意を突かれた竜は驚きの声をあげる。

 驚く竜の姿に花は楽しそうに揺れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第67話

 

 

 

 

 風呂のお湯はりのボタンを押し、竜は肩に花を咲かせたままリビングに戻ってきた。

 リビングに着くと、花は再び潜っていき、テーブルの上に現れる。

 花が潜っていく際になんの感覚もなかったことに竜は少しだけ驚くものの、そのまま花の前の椅子に座った。

 

 

「お前はいったいなんなんだろうな?」

「わ~ぁ!」

 

 

 ツンツンと優しく花をつつきながら竜は呟く。

 いつの間にかテーブルの上に咲いていて声を発し、自由に移動する。

 すでに分かっているだけでもこれだけの普通の花との相違点がある。

 考えても答えが出せるわけがないと分かりつつも、竜は花のことを考えてしまっていた。

 

 

「そういえば、名前とかあるんかね?」

「わぁ?」

 

 

 竜につつかれながら花はキャッキャと嬉しそうに揺れる。

 そんな花を見ながら竜はふと思ったことを言う。

 竜の声に反応したり、言葉を理解して移動する。

 明らかに普通の花とは違うこの花はいったいどんな名前なのか。

 花びらの形状も竜の知るどの花とも違っており、まったくの未知の花だった。

 竜の言葉が聞こえたのか、花はそっとテーブルの上に置いてある水の入っている容器に葉を伸ばした。

 

 

「ん、なんだ?」

「わぁ」

 

 

 花が葉を伸ばしたことに竜は不思議そうに声をあげる。

 竜に見られながら花は葉に水をつけてテーブルの上になにかを書いていく。

 どうやら書いていたのは平仮名のようで、5文字の平仮名がテーブルの上に書かれた。

 

 

「えっと・・・・・・、あ、か、り、そ、う?あかり草っていうのか」

「わぁ!」

 

 

 テーブルの上に書かれた文字を竜が読むと花────あかり草は嬉しそうに葉をピコピコと動かす。

 聞き覚えのある名前だがおそらく偶然の一致だろう。

 

 

「あかり草はなんで家に来たんだろうな?」

「わぁ?」

 

 

 ウニウニとあかり草の花の部分を親指と人差し指で優しく挟む。

 朝の時点では咲いておらず、帰宅したらテーブルの上に咲いていた。

 しかも移動が可能で移動の条件に地面がある必要がない。

 偶然かもしれないしもしかしたら必然なのかもしれないが、竜の家に咲いた理由が分からなかった。

 

 

「・・・・・・えい」

「わ゛ぁ゛ッ?!?!」

 

 

 ふと竜はあかり草の花の中心に興味本位で指を差し込んでみる。

 普通の花であれば雄しべやら雌しべのある場所だが、竜の指の先にはそれらの感触がない。

 どうやらあかり草にそれらの部分はないようだ。

 竜に指を突っ込まれ、あかり草は驚きの声をあげながら花の部分を赤く染めた。

 

 

「ん、なんかしめってる?」

「わ゛・・・・・・わ゛ぁ゛・・・・・・ぁ゛っ?!」

 

 

 差し込んだ指の先がどことなくしめっているように感じ、竜は不思議そうに指を動かす。

 竜の動かす指に合わせて小さいながらも水音のようなものが聞こえてきた。

 あかり草は竜の指の動きに合わせてビクビクと震えながら濁音混じりの声をあげていく。

 あかり草がビクビクと震えていることに気がついた竜は花の部分から指を引き抜く。

 

 

「おおぅ・・・・・・。なんか、すまん」

「わぁ・・・・・・わぁ・・・・・・」

 

 

 竜の指が引き抜かれるとあかり草はくったりとヘタレてしまう。

 ヘタレながらあかり草は荒い呼吸をするように声を発する。

 ヘタレてしまったあかり草に竜は驚きつつ謝った。

 そしてお風呂のお湯が貯まった通知音が竜の耳に聞こえてきた。

 

 

「お、お湯はりが終わったか。じゃあ、俺は風呂に入ってくるから好きに待っててな」

「わぁ・・・・・・」

 

 

 テーブルの上でヘタレているあかり草に声をかけて竜は風呂場へと向かっていった。

 一日の疲れは風呂場で汚れと共に洗い流す。

 これこそが人間の生活。 

 

 風呂場へと向かう竜の姿をあかり草はヘタレながらもジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第68話

 

 

 

 

 洗面所に着いた竜は服を脱いで入浴の準備をしていく。

 とくに変わったものもなく、なんの変哲もない普通の風呂場。

 竜はお湯をすくって体にかけていく。

 入浴する前に体にお湯をかけて汚れなどを浮かせ、石鹸で完全に体を綺麗にする。

 これはお風呂に入るのであれば必ずやるべきことであり、体を洗わずに入浴するのはマナー違反だと言えるだろう。

 

 

「とりあえず、あかり草はどうするかな・・・・・・」

 

 

 体を洗いながら竜は呟く。

 いつの間にか家に入ってきてテーブルの上に咲いていて、自由に移動することのできるあかり草。

 ハッキリと言って。動きをコントロールしたりすることは不可能だと思える生き物・・・・・・いや、植物だ。

 一応、言葉が通じるようなので入らないで欲しいところなどには口頭で説明するしかないだろう。

 

 

「・・・・・・そういえばあかり草はどうやって栄養を取るんだ?」

 

 

 体の泡を流しながら竜はふと気になったことを呟いた。

 

 普通の植物であれば根から地面の水分や栄養を補給する。

 しかし、あかり草は地面ではない場所に咲いている。

 もしかしたら栄養補給の際は地面に移動するのかもしれないが、それすらも不明だ。

 可能ならば栄養補給の手助けなどをしたい、竜はそう考えていた。

 

 そして体を洗い終えて、頭を洗い始めた竜の背後にあかり草が姿を現した。

 頭を洗うために目を閉じていた竜は自身の背後に現れたあかり草の存在に気づかず、頭を洗い続けている。

 自身が現れたことに竜が気づいていないと理解したあかり草はソッと竜に向けて花と葉を伸ばしていく。

 

 

「ぶぇっ、ぺっぺっ・・・・・・。口に泡が・・・・・・」

 

 

 頭の泡を流し、うっかり口に泡が入ってしまい、竜は唾を吐き出す。

 石鹸特有の苦味に竜は目を閉じながら顔をしかめる。

 そんな竜の頭上にあかり草の花はたどり着いた。

 

 

「・・・・・・ふぅ。・・・・・・あ?」

「わぁ!」

 

 

 頭の泡が完全になくなり、竜は置いておいたタオルで顔を拭く。

 そして顔をタオルで拭いて目を開けた。

 直後、竜の視界は闇に包まれる。

 竜がなにも見えなくなる前に最後に見えたのは巨大な花びらだった。

 

 

「むぐぅっ?!ッ~~!!ッ~~?!?!」

「わぁわぁ!」

 

 

 先ほどまでとは比べ物にならないほどに大きくなったあかり草は竜の頭に花の部分で食らいつき、葉の部分で竜の体を拘束していた。

 

 あかり草によって拘束され、竜は声をあげることしかできない。

 風呂に入る前に竜が指を差し込んでいた部分に今度は竜自身が入り込んでいる。

 なにも見えない状態で体を拘束され、ややヌルリとした液体で頭を包まれる。

 指を差し込んだときには気づかなかったが、舌のようなものが顔を舐めている感触もある。

 いきなりのこともあって状況を理解できないままに竜はなぶられていた。

 

 

「わぁっ」

「ぷぁっ・・・・・・、はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

 

 

 声を発しながらあかり草は竜の頭を花の部分から解放する。

 ヌルリと粘りけのある液体に頭を包まれながら竜は荒い息を吐く。

 あかり草の花の部分と竜の頭を繋ぐように透明な液体が橋を作っていた。

 荒い息を吐いて腰砕けになっている竜に頬擦りをすると、あかり草は風呂場の床に潜り込んで姿を消した。

 

 

「はぁ・・・・・・、はぁ・・・・・・、なんだったんだ・・・・・・?」

 

 

 どうにか息を整え、竜はあかり草の消えたところを見る。

 頭に絡み付く粘りけのある液体をぬぐいながら竜は呟いた。

 粘りけのある液体からはほのかに甘い香りが感じられる。

 もしかしたらこれがあかり草の香りなのかもしれない。

 

 その後、竜はお湯で液体をすべて洗い流してお湯に浸かる。

 流した液体によって風呂場の中が甘い香りに満たされ、竜は食らいつかれたときに顔をなぶられたことを思い出してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第69話

 

 

 

 

 自身の髪の毛から甘い香りが取れないことが気になりつつ、竜はリビングに戻ってきた。

 お風呂に入る前にあかり草がいたテーブルの上を見てみるがそこにあかり草の姿はなかった。

 あかり草がどこに行ったのかとキョロキョロとリビングを見渡すと、中心部分が膨らんでいるタオルが部屋のすみに落ちていることに気がついた。

 

 

「あんなタオルあったか?」

 

 

 不思議に思って竜がタオルに近づくと、タオルの中心の膨らみがわずかに動いているのが分かった。

 それに合わせてなにやら小さな声のようなものも聞こえてくる。

 

 

「・・・・・・ここにいたのか」

「わぁ?!」

 

 

 竜がタオルを取り上げると、そこには花の部分を赤く染めたあかり草が、まるで顔を隠すかのように葉を花の部分にあてて咲いていた。

 あかり草が見つかったことに竜はホッと息を吐く。

 

 自身の隠れていたタオルが取り上げられ、竜に見られていることに気がついたあかり草は驚きの声をあげて花の部分を葉で隠してしまった。

 恥ずかしがる人間のような仕草をするあかり草に竜は首をかしげる。

 

 

「どうしたんだ?」

「わぁ!わぁ!」

 

 

 竜があかり草を覗き込むと、あかり草はグイグイと葉で竜の顔を押し返した。

 あかり草に顔を押され、竜は首をかしげながらあかり草から離れる。

 

 竜はあかり草のことを気にかけながらコップを取り出して水を飲む。

 お風呂から出たらコップ一杯分の水分をとる必要があり、その事を知ってから竜は必ずお風呂から出たら水を飲むようにしているのだ。

 ちなみに、お風呂を出てから水分をとるのは季節に関係なくやるべきことで、夏だろうと冬だろうとお風呂に入って水分を消費することに違いはない。

 そのため、そのまま寝たりしてしまうと寝汗などで脱水症状を起こしてしまう可能性もあるのでコップ一杯分の水分補給はした方がいいだろう。

 

 

「わぁ・・・・・・」

 

 

 水を飲んでいる竜の姿をあかり草は葉と葉の間から覗くようにして見ている。

 視線・・・・・・と言っても良いのか分からないが、あかり草はジッと竜の顔を見つめ、自身の花の部分の頂点、竜が指を突き刺した部分の入り口を軽く撫でた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・わぁ」

 

 

 あかり草は小さく声を発し、先ほど竜を咥え込んだことを思い返したのか花の部分をさらに赤く染める。

 どうやら竜が指を差し込んだところはあかり草にとって大切なところだったようで、竜を咥え込んだのも大切なところに無作法に指を差し込まれたことに対する仕返しとして勢いのままにやってしまったようだ。

 そのためにあかり草は恥ずかしさで竜の顔を見れなくなってしまっていた。

 

 

「なぁ、お前ってなにか食べるのか?」

「わぁ?!」

 

 

 水を飲み終えた竜に声をかけられ、あかり草は少しだけ驚いたような声をあげつつ竜を見返す。

 竜の言葉にあかり草は考えるように花の部分を揺らした。

 

 

「・・・・・・わぁ」

「うん?」

 

 

 短く声を発してあかり草は竜の指に葉を伸ばす。

 自身の指に触れる葉に竜は不思議そうに首をかしげた。

 そしてあかり草は竜の指を葉で引っ張り、自身の花の部分に優しく押し当てた。

 

 

「・・・・・・俺がなにかを用意する必要はない?」

「わぁ!」

 

 

 竜の言葉にあかり草は肯定するように花を揺らす。

 あかり草の言葉に竜は頷きつつ、花の柔らかさを感じながら優しく撫でた。

 

 

「そっか」

「わぁ、わぁ!」

 

 

 竜に撫でられ、あかり草は嬉しそうに花を左右に揺らす。

 嬉しそうにしているあかり草の姿に竜は小さく笑みをこぼし、あかり草を撫で続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第70話

 

 

 

 

 朝、竜は布団から起きて伸びをする。

 昨日はあかり草がいなくなるまでずっと撫でたり会話をして眠るのが少しだけ遅くなってしまったため、頭がまだ少しボーッとしてしまっている。

 

 

「んっ・・・・・・、はぁ、起きるか」

 

 

 小さく息を吐いて竜は制服へと着替え始めた。

 

 朝の支度を終え、朝食も食べ終えた竜は家から出る。

 家の向かいには変わらず工事の幕がかかっており、まだしばらくは完成しそうには見えなかった。

 完成するのがまだ先なのだろうと考えた竜は工事の幕から興味を失くし、学校へと向かうために足を踏み出した。

 

 

「おはようございます、竜くん」

「お、ゆかりか。おはよう」

 

 

 学校へと向かうために足を一歩踏み出した直後、背後からかけられた声に竜は振り返って返事をする。

 そこには昨日も登校する際に出会ったゆかりの姿があった。

 ゆかりは竜の返事に嬉しそうに手を振りながら近づき、スンスンと香りを嗅ぐように竜に顔を近づけた。

 

 

「ん・・・・・・、竜くん。女の子と会いましたか?」

「いや、とくには会ってないはずだが・・・・・・」

 

 

 竜からしてきた甘い香りにゆかりは少しだけ不満そうにしながら竜に尋ねる。

 ゆかりの言葉に竜は首をかしげる。

 昨日、ゆかりたちと別れてから女性と会った覚えはなく、どうしてゆかりがそんなことを聞いてきたのかまったく分からなかった。

 

 

「すみません。なにか香水のような香りがしまして・・・・・・」

「香水?・・・・・・・・・・・・あ、もしかしてアレか?」

 

 

 ゆかりの言う香水のような香り。

 その言葉に竜はもしかして、と昨日のことを思い出す。

 竜の呟きにゆかりは竜の顔を見ながら言葉の続きを待った。

 

 

「昨日、変わった花に会ってな。もしかしたらそれの香りが残ってるのかもしれない」

「花に会った(●●●)、ですか?」

 

 

 竜の言い回しにゆかりは首をかしげる。

 普通に考えて花に“会った”という言い回しはあまり使われないように思える。

 花が対象ならば“見つけた”や“咲いていた”と言う方が一般的なはずだ。

 とは言っても“会った”という言い回しが間違っているとも言えないのだが。

 

 

「ああ、とりあえず学校に向かいながら話そう。遅刻はしないだろうけど一応な」

「そうですね」

 

 

 首をかしげるゆかりの姿に竜は歩きだしながら言う。

 まぁ、昨日のあかり草の姿を見ていなければゆかりの反応は仕方のないことだろう。

 竜の言葉ももっともなので、ゆかりも頷いて竜の後を追った。

 

 

「それで、花に“会った”とはどういう意味なんですか?」

「ん~、まぁ言葉通りの意味でな。昨日、家に帰ったらしゃべって動く花に会ったんだよ」

「・・・・・・・・・・・・えっと、冗談ですか?」

 

 

 あまりにも突拍子のない竜の言葉にゆかりは苦笑しながら聞き返す。

 ゆかりの反応に竜はポリポリと頬を掻いた。

 

 

「冗談ではないんだがな。『わぁ』としかしゃべれないらしい花でな。地面、と言うよりも自身の咲いているところに潜って移動することができるんだ」

「にわかには信じがたいですね・・・・・・」

 

 

 竜の話し方から嘘ではないのだろうと思いつつも、ゆかりは完全に信じることができずにいた。

 竜自身も実際に見せなければ信じてもらうのは難しいだろうと考えていたので、ゆかりの反応に仕方がないと曖昧に笑うことしかできなかった。

 

 

「それで、その花と竜くんからしてくる香りにどんな関係が?」

「えっとな、その花、あかり草って言うんだが────」

「ストップです」

 

 

 竜の口から聞こえてきた花の名前にゆかりは思わず待ったをかける。

 ゆかりに待ったをかけられ、竜は軽く驚きつつゆかりを見た。

 

 

「話を遮ってすみません。何て言う花の名前でしたっけ?」

「あ、ああ。あかり草って言う名前だが・・・・・・」

 

 

 確認をするように竜に尋ねれば、聞こえてきたのはやはり聞き覚えのある名前。

 名前から連想するのは1人の後輩の姿。

 頭に思い浮かんだ後輩の姿にゆかりは苦いものでも食べたかのような表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第71話

 

 

 

 

 竜の口から聞こえてきた花の名前にゆかりは苦い表情を浮かべる。

 ゆかりがなぜそのような表情を浮かべているのかが分からず、不思議そうに首をかしげていた。

 

 

「あかり草・・・・・・、ですか」

「ああ、あかりと名前が同じなんだよ。すごい偶然だよな」

 

 

 ゆかりの呟きに竜は頷きながら言う。

 竜自身もあかりの名前とあかり草の名前が同じことには気づいていた。

 といっても名前が同じだけでなんの関係もないだろうと竜は考えていた。

 

 

「そうですね・・・・・・、すごい偶然ですね・・・・・・。それで、その花と竜くんからしてくるこの香りにどのような関係が?」

「えっと、昨日あかり草にちょっかいかけてたら頭を思いきり咥え込まれてな。その時に蜜?の香りがついたみたいでな。洗い流したけど落ちなかったんだよ」

「そうでしたか・・・・・・、とりあえずその香りは私以外の方も気になってしまうと思いますので早めに落ちるといいですね」

 

 

 昨日のことを思い返しながら竜は自身について落ちない香りの理由を言う。

 時間が経てば香りも落ちるかと思っていたのだが、以外にも香りが残ってしまっているのだ。

 竜の言葉にゆかりは小さく息を吐いて納得はしてないまでも理解はした。

 

 

「そうだな。早めに落ちてくれればいいんだが」

「なんでしたら私の持っている香水でもつけますか?少なくとも私はそれで気にならなくなりますから」

 

 

 竜は自身の前髪をいじりながら自身に着いた香りのことを考える。

 そんな竜の姿にゆかりはスクールバッグの中から小さな小瓶を取り出した。

 小瓶の中に入っているのはゆかりのお気に入りの香水。

 学校に行くのだと言うのになぜ香水を持っているのかが気になるかもしれないが、体育の授業があるときには必須レベルのものであり、汗の臭いが気になる女子生徒の中ではほぼ常識のようなものなのだ。

 

 

「ん・・・・・・、まぁ、他に何人からか聞かれたら借りようかな」

「そうですか。でしたら、先に香りを知ってもらう意味も込めて・・・・・・」

 

 

 ゆかりの提案に竜は少しだけ考えて答える。

 竜の答えにゆかりは自身の手首に軽く香水をかけた。

 ゆかりが手首に香水をかけたことによって、フワリと香りが竜の鼻に届いた。

 

 

「どうですか?」

「そうだな。何て言ったらいいんだろ、月みたいな香りでゆかりにすごく似合ってると思う」

 

 

 ゆかりに尋ねられ、竜は自身の鼻に届いた香りの感想を言う。

 香りの感想としてはいまいち合ってないように感じられるかもしれないが、竜にとってはそう表現するしかできないほどにゆかりに似合っている香りだった。

 竜に似合うと言われ、ゆかりは嬉しそうに頬を薄く染める。

 

 

「あ、ゆかりんに竜くん。2人ともおはよー!」

「マキさん、おはようございます」

「おう、おはよう」

 

 

 学校の校門が近づいてきたとき、反対側の道を歩いていたマキが竜とゆかりの存在に気づいて手を振りながら駆け寄ってきた。

 マキの言葉に2人は手をあげて答える。

 2人の近くに着いたマキは不思議そうな表情を浮かべて竜に顔を近づけた。

 

 

「んぅ・・・・・・?竜くん、なにかつけてる?」

「ほら、やっぱり気になるんですよ」

「そ、そうみたいだな」

 

 

 スンスンと竜の近くで臭いをかぎ、かぎなれない香りがしたことをマキは竜に尋ねる。

 マキの言葉にゆかりは仲間を得たとばかりに頷く。

 突然マキが顔を近づけてきたことに照れながら竜は頷いた。

 

 

「あ、ゆかりんもやっぱり気づいたんだ?」

「当然ですね。こんなにハッキリとした香りならすぐに気づけますよ」

 

 

 ゆかりの言葉からゆかりも気づいていたのだとマキは理解して言う。

 マキの言葉にゆかりは自信満々に頷いた。

 

 

「だから私の香水を貸してあげるって言ってるんですよ」

「いや、でもなぁ・・・・・・」

 

 

 香水の入った小瓶をもう一度取りだしてゆかりは竜に差し出す。

 差し出される香水を竜は煮えきらない態度で見ていた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・マーキング、かな?」

 

 

 竜からしてくる香りを自分のお気に入りの香水で上書きする。

 そんな竜とゆかりのやり取りを見ながらマキはポツリと呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第72話

 

 

 

 

 竜、ゆかり、マキの3人は話しながら教室に入った。

 話の内容はマキの買うモンスターハンターワールドだった。

 ちなみに竜はまだゆかりから香水を借りておらず、あかり草の香りがいまだにしている。

 

 

「やっぱ新しく武器を作るときには下位のモンスターも狩らないといけないからちょっとめんどいんだよな」

「多めに素材を集めておかないからそうなるんですよ。私は常に素材は20は貯めておいてますから」

「素材集めかぁ。やっぱり大変なの?」

「マスター武器なら数十秒で終わる」

「攻撃で怯みまくるから即殺ですね」

「モンスターさん可哀想・・・・・・」

 

 

 無慈悲な竜とゆかりの言葉。

 装備さえ整えば下位のモンスターは基本的には相手にならないのは当然のこと。

 無情に狩られる下位のモンスターたちにマキは同情するのだった。

 といっても実際に下位からやると下位の頃に何度も殺されたりするので、可哀想とすら思わなくなるのだが。

 

 

「モンハンの世界は弱肉強食。仕方がないね」

「ある程度の防具さえ組めれば死ににくくなりますから。どんどん狩っていくのは当然ですね」

 

 

 モンスターに同情するマキに竜とゆかりは肩をすくめながら言うのだった。

 3人が話していると、茜と葵が教室に入ってきた。

 

 

「おはようやでー!」

 

 

 茜の元気な声に教室内にいたクラスメイトたちが返事を返していく。

 いつもの朝の光景に3人も茜たちの方を見る。

 竜たちに気がついた葵は、クラスメイトたちに挨拶をする茜から離れて竜たちの方に向かう。

 

 

「おはよう、ゆかりさん、マキさん。りょ、竜くんも・・・・・・お、おは、おはよう・・・・・・」

「おはようございます、葵さん」

「おはよー、葵ちゃん。竜くん、なんかあったの?」

「おはよう。まぁ、ちょっとな」

 

 

 竜への挨拶にややぎこちなさを出しながら葵は挨拶をする。

 ぎこちない葵の姿にマキは首をかしげた。

 マキの言葉に竜は曖昧に笑って答えることしかできなかった。

 そしてクラスメイトへの挨拶を終えた茜も竜たちのもとにやって来た。

 

 

「おはようや!・・・・・・・・・・・・ん?」

「おはようございます。茜さん」

「おはよー、茜ちゃん」

「おはよう。今日も元気だな」

「どうしたの?お姉ちゃん。・・・・・・・・・・・・え?」

 

 

 元気に挨拶をする茜に竜たちは同じように挨拶を返す。

 竜たちの近くに来た茜はスンスンと鼻をならす。

 そしてなにも言わずに鼻をならしながら竜へと近づいた。

 茜の行動に葵も同じように鼻をならし、不思議そうに竜に近づく。

 

 

「・・・・・・なぁ、竜。なんや変わった香りがするんやけど」

「ホントだ。竜くん、これ、なんの香り?」

「マジで気づくのな・・・・・・」

 

 

 茜と葵の言葉に竜はひきつった表情を浮かべながら呟く。

 ゆかりの言った通り本当に自身の香りに気がついたことに竜は驚いていた。

 

 

「まぁ、ゆかりには登校してるときに話したんだが。昨日、家に帰ってから花に会ってな」

「花に・・・・・・」

「会った・・・・・・?」

「竜くん、花は咲いているものだよ?」

 

 

 登校中にゆかりにも説明した昨日の出来事を竜は3人に説明する。

 竜の言葉に最初に説明を受けたゆかりのような反応を3人はした。

 そんな3人の様子にゆかりは既視感を感じて笑っていた。

 

 

「と言われてもなぁ。俺も家に帰ったらあかり草がテーブルの上に咲いていたわけだし」

「ちょい待ちぃ」

「ちょっと待って」

「待ってください」

 

 

 竜の言葉に茜たちだけではなくゆかりも反応する。

 しかしそれも仕方がないことだろう。

 ちょっかいをかけて咥え込まれたとは聞いていたが、家の中にいたとは聞いていないのだから。

 

 

「なんや、あかり草って?!テーブルの上に咲いていたってどういうことなんや?!」

「まるで意味が分からないよ?!」

「家の中にいたとは聞いてませんよ?!」

 

 

 興奮した様子で3人は竜に詰め寄る。

 そんな3人の様子にマキは何となく察した表情で苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第73話

 

 

 

 

 茜、葵、ゆかりの3人に詰め寄られ、竜は困惑した表情を浮かべる。

 あかり草が家のテーブルの上に咲いていただけなのになぜここまで詰め寄ってくるのか。

 詰め寄ってくる3人を軽く押し返して距離を作り、竜は一息をついた。

 

 

「あかり草はあかり草だよ。しゃべって移動することができる花」

「もっと意味が分からんのやけど?!」

「あ・・・・・・、もしかして・・・・・・」

「あ、葵さんは気づきましたか?」

 

 

 竜の答えに茜は吠える。

 吠える茜の隣で葵がなにかに気づいたのか小さく呟く。

 葵の呟きが聞こえたのか、ゆかりは葵を見た。

 

 

「うん、昨日の子と同じ名前だから・・・・・・」

「やっぱり、そういうことですよね?」

 

 

 ゆかりの言葉に葵は頷く。

 昨日会った後輩、紲星あかりと竜の家に咲いていたというあかり草。

 名前が同じだということに加えて普通の花とは違う特徴。

 それらのことからなにか関連があるだろうとゆかりと葵は考えていた。

 

 

「なんにしても俺は家に帰ったらテーブルの上にあかり草が咲いていただけだから、俺もよく分らないんだよ」

「そうなんか・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に茜はしぶしぶ納得したようで、少しだけ落ち着いていた。

 これに関しては竜自身も詳しいことが分からないので、本当に説明の使用もないのだ。

 

 

「まぁ、あかり草についてはええわ。んで、竜からしてくる香りとあかり草にどんな関係があるんや?」

「あ、そうだったね。あかり草っていうインパクトで忘れるところだったよ」

「つっても俺があかり草にちょっかいかけて頭を咥え込まれたってだけなんだがな」

 

 

 あかり草についての疑問は一旦置いておくことにして、茜は改めて竜からしてくる香りとあかり草の関係を尋ねる。

 茜の言葉に竜は軽く頭を掻いて答えた。

 

 

「それで竜からあかり草の香りがしてくるっちゅうことか・・・・・・」

「この香りがあかり草の香りなんだ・・・・・・」

 

 

 竜についている香りの正体が分かり、茜と葵は顔をしかめた。

 そんな2人の様子にマキは苦笑する。

 

 

「だから竜くん、その香りは気になってしまうんですよ。ですので私の香水で塗り替えましょう」

「待ちぃや、それは見逃せんで!竜、うちの香水でどうや!」

「あ、2人の香水を使うのが気が引けるならボクのはどう、かな?」

 

 

 ゆかりは取り出していた香水の入った小瓶を竜に差し出しながら言う。

 ゆかりの行動に茜も慌てて自分の持っているお気に入りの香水を取り出して竜に差し出す。

 茜に少し遅れて葵も自身のお気に入りの香水を取り出して竜に差し出した。

 3人に香水を差し出され、竜は困った表情を浮べる。

 

 

「さぁ、誰の香水をつけますか?」

「全部をつけることはできへんで」

「つけすぎると変な香りになっちゃうからね」

「え、えっと・・・・・・」

 

 

 三種類の香水を混ぜてしまえばどんなものでもいい香りではなくなってしまう。

 そのために竜はゆかり、茜、葵の誰かの香水を選ばなければならなかった。

 といってもそれしか選択肢がないわけではなく。

 

 誰の香水も借りない。

 マキも持ってきているであろう香水を借りる。

 

 などの選択肢もあった。

 

 

「なにをやっているんだ?」

「あ、アイ先生。竜くんについている香りが気になるらしくてゆかりんたちが・・・・・・」

 

 

 不意に教室に入ってきたアイ先生が竜たちの様子に気がついて声をかける。

 いつの間にか教師が教室に来る時間になっていたことにマキは驚きつつ、簡単に状況を説明する。

 

 

「公住の?・・・・・・なるほど、この香りか」

 

 

 マキの説明にアイ先生は鼻をならして竜からしてくる香りに気づいた。

 竜の香りを理解したアイ先生は小さな缶をポケットから取り出す。

 

 

「公住、こっちを向け」

「はい?うわっぷ?!?!」

 

 

 アイ先生は竜を呼び、頭に向けて缶の中身を吹きかけた。

 突然の事態に竜は驚き、思いきり転倒する。

 アイ先生の行動にゆかりたちは驚き、手に持っていた香水の小瓶を落としそうになった。

 

 

「あ、アイ先生・・・・・・?」

「まったく・・・・・・、公住、消臭スプレーくらいは持ち歩いておけ」

 

 

 驚いて転倒したまま固まる竜に、アイ先生は小さく息を吐いて教卓に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第74話

 

 

 

 

 アイ先生による消臭スプレーによって竜からあかり草の香りも消え、何事もなく学校での授業も終わった放課後。

 ゆかりとマキは一緒にマキのモンスターハンターワールドとアイスボーンを買いにゲーム屋に。

 茜と葵は教室でアイ先生に捕まって手伝いに。

 そして竜はとくに予定もないために1人で帰路についていた。

 

 

「ムフェト一式に皇金武器。カイザー3部位にテンタクルγ2部位・・・・・・、切れ味的に快適なのはカイザーの方なんだよなぁ」

 

 

 モンハンでの防具の組み合わせを思考しながら竜は歩く。

 ちなみに、ムフェト一式とはムフェトジーヴァを倒して作る防具、EX龍紋と呼ばれる防具のことを指しており、カイザーはテオテスカトルの、テンタクルγは歴戦王ネロミェールの防具のことを指している。

 どれも強力な防具だが作るのに少々骨が折れ、一番簡単なものですらテオテスカトルという古龍を狩らなければならないのだ。

 なお、慣れてしまえばアッサリと狩れてしまうので結局はプレーヤースキルに依存するのだが。

 

 

「あ、そうだ。プレイステーションストアにチャージしとかないと」

 

 

 ふと、竜はもうすぐプレイステーションプラスの期限が切れることを思い出す。

 プレイステーションプラスはオンラインでゲームをするために必須のもので、可能であるなら12ヶ月分を一気に更新した方がお得である。

 ついでにゲームを見るために竜はゲーム屋に向かうことに決めた。

 これならばゆかりたちと一緒に学校からゲーム屋に向かっても良かったかもしれないが、時すでに遅し。

 竜はそのままゲーム屋に向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ゲーム屋に到着し、竜は最初にプレイステーションストアカードを手に取る。

 あとから金額不足になっては困るので、取ったのは一番高い金額の10000円のものだ。

 

 

「狩~るんご、狩るんご~。いろんなモンスターを狩るんご~、暴れるモンスターを狩るんご~、いっぱい狩るんご~」

 

 

 頭に残っている不思議なリズムに勝手に歌詞をつけながら竜はゲーム屋の中を歩く。

 歌詞の内容がどう考えても不穏だが、歌詞的にモンハンに関連した内容の歌なのだろう。

 

 

「とくに気になるものは、・・・・・・お」

 

 

 ゲーム屋の中を歩いて置いてあるゲームを見ていくと、竜は1つのゲームの前で立ち止まった。

 そのゲームは動画で実況されているのをよく見るもので、竜も興味があったものだった。

 

 

「中古品か。でもプロダクトコード付きなんだな」

 

 

 中古品のプロダクトコード。

 これは基本的にはないものと同じで入力しても使えないものがほとんどだ。

 まぁ、中には使えるものもあるのでギャンブルとして買ってみるのもありかもしれない。

 

 

「たしかダウンロードで買うにはクレジットカードが必要だったか・・・・・・」

 

 

 竜の見ているゲームはCEROZ、つまりは年齢制限で18歳以上が対象なので普通にプレイステーションストアからダウンロードで購入することはできない。

 そのため確実にプレイするのならばここで購入した方がいいのだ。

 

 

「・・・・・・買うか」

 

 

 竜は少しだけ考え、そのゲームを買うことに決めた。

 プレイステーションストアカードの金額だけで10000円。

 さらにゲームの値段でおおよそ5000円。

 これだけでもかなり痛い出費だが、使わずに貯めていた貯金があったのでギリギリ致命傷で済んだと言えるだろう。

 

 

「・・・・・・葵は絶対にやりたがらないだろうな」

 

 

 手に持つゲームソフトを見ながら竜は小さく笑みを浮かべる。

 竜の買おうとしているゲームはホラー系のゲームで、敵から逃げてクリア条件を満たさなければならないという内容のゲームである。

 しかもプレイヤーは敵に対して攻撃する手段がなく。

 本当に逃げることしかできないゲームなのだ。

 

 竜が手に取ったゲーム、そのタイトルは“DEAD BY DAYLIGHT”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第75話

 

 

 

 

 “DEAD BY DAYLIGHT”とプレイステーションストアカードを買った竜はゲーム屋を後にする。

 そこそこに大きな出費だったのでしばらくは節約をしていかないといけないだろう。

 

 

「もやし生活の始まりかなー・・・・・・」

 

 

 ゲームを買ったことを少しだけ後悔しつつ、竜は歩く。

 それでも誰かに買われて自分が買えなくなってしまう後悔よりもマシだと竜は考えることにした。

 

 家への帰り道、竜はスーパーの前に到着した。

 普段であれば晩御飯の材料などを見たりするのだが、今日はゲームなどを買ったことによって節約をしなければならない。

 竜は小さく息を吐くとスーパーを通りすぎるのだった。

 

 

「家にはまだ食材はあったはずだから・・・・・・」

 

 

 家に残っている食材の数はそこまで多くはなく、親からの仕送りもまだ少し先。

 まだ余裕があるとはいえそれに胡座をかいていては追い詰められてしまうのは明白だ。

 ではどうすればよいか。

 その答えはとてもシンプルなもの。

 

 働いてお金を稼ぐのだ。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 家に着いた竜はさっそくプレイステーション4を起動して“DEAD BY DAYLIGHT”を読み込ませる。

 新しく買ったゲームはデータの読み込みなどで時間がかかるので、先に読み込ませておく必要があるのだ。

 そのついでに同梱されていたプロダクトコードを入力していく。

 

 

「・・・・・・っと、これで・・・・・・よっし!」

 

 

 プロダクトコードを入力し、決定を押す。

 すると問題なくプロダクトコードが使用でき、アイテムなどを得ることができた。

 正直なところアイテムが得られるとは思っていなかったので、これは嬉しい誤算だった。

 

 

「みゅう」

「お、みゅかりさん」

 

 

 プロダクトコードでアイテムが手に入ったことに喜んでいるとみゅかりさんの鳴き声が聞こえてきた。

 鳴き声の聞こえた方を見ればみゅかりさんが興味深そうにゲームのパッケージを見ていた。

 

 

「新しく買ってきたゲームが気になるのか?」

「みゅう!」

 

 

 竜の言葉にみゅかりさんは肯定するように鳴き声をあげる。

 みゅかりさんの鳴き声に竜はゲームをプレイしようかと思ったが、まだ読み込みが終わっていないことに気づいてプレイを諦めた。

 

 

「ちょっと今日はプレイできなさそうだから動画でも見ておくか」

「みゅ!」

 

 

 みゅかりさんも読み込みが終わっていないことに気づいたのか、同意の鳴き声をあげた。

 そして竜はプレイステーション4を操作してYouTubeを起動する。

 コントローラーを操作して“DEAD BY DAYLIGHT”の動画を探していく。

 

 

「お、きりたんも動画を出してるんだな」

「みゅみゅみゅ」

 

 

 動画を探していると、少し前に遊☆戯☆王で対戦をしたきりたんが“DEAD BY DAYLIGHT”をプレイしている動画があった。

 竜は少し興味が湧き、動画を再生してみることにした。

 

 

『ふふふふ、私のチェイステクを舐めないでください。これくらいの殺人鬼なんてアッサリと・・・・・・ん、なんかここに引っ掛かって、ってあぁあぁぁぁぁあああ?!?!』

 

 

 最初の方ではきりたんの操作するキャラクターが普通に逃げていたのだが、途中で操作ミスでもしたのか壁の角に引っ掛かり、殺人鬼に見事に瀕死にさせられていた。

 動画では通常状態から一撃で瀕死になっていたので、ノーワンかなにかが発動していたのだろうが、そこまで詳しくはない竜はこういうものなのだと勘違いをしていた。

 

 

「とりあえず、敵から見つからないように発電機を修理するってのが第一目標なんだな。んで、見つかっても逃げ切るか、引き付けて時間を稼ぐ、と」

「みゅいみゅい」

 

 

 動画から読み取れた内容を整理するために竜は改めて口にする。

 みゅかりさんも面白そうに動画を見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第76話

 

 

 

 

 きりたんの動画を見終えてから他にもいくつかの動画を竜とみゅかりさんは見た。

 いくつかの動画を見たことによってほんの少しではあるが“DEAD BY DAYLIGHT”の立ち回りなどを理解できた気がしていた。

 そして、チラリと確認してみればゲームの読み込みがちょうど終わったタイミングだった。

 今日はプレイできないかと思っていただけに、これには竜も少しだけ驚いた。

 

 

「意外と早く読み込みが終わったな。ならさっそくやってみるか」

「みゅ!」

 

 

 動画を止め、竜はゲームを起動する。

 初めて見る“DEAD BY DAYLIGHT”の起動画面を竜とみゅかりさんはドキドキとしながら見ている。

 

 

「とりあえずはチュートリアルをやっておかないとな」

「みゅうみゅう」

 

 

 動画を見てはいたが初めてプレイするゲーム。

 操作を理解するためにもチュートリアルはやっておいて損はないだろう。

 チュートリアルが始まり、生存者の操作説明とアクション、そして殺人鬼の操作説明とアクションを知ることができた。

 そして、竜は生存者を選択して本番に挑む。

 

 

「生存者の違いとかよく分からんし、プロダクトコードでついてきた日本人にしてみるかな」

「んみゅ」

 

 

 パーク、つまりは他のゲームでいうスキルの存在は知っているが装備の仕方を知らない竜はなにも装備しないままマッチングを始めてしまう。

 みゅかりさんも同じように知らないので、竜の行動が不味いものだと気づいていなかった。

 この辺はゲームにチュートリアルとして載っていないので初心者なら気づかないのも不思議ではないのかもしれないが、それでもかなり痛いミスだった。

 

 そして、無情にもパークを未装備のままマッチングが完了してしまった。

 ほぼ絶望的な逃走劇が今始まる。

 

 

「えっと、L1を押してダッシュだったな。お、発電機があるじゃん。修理はR1で開始だな」

「みゅみゅー!」

 

 

 自分が最悪のスタートをしているとは知らぬまま、竜はキャラクターを操作する。

 ひとまず殺人鬼に見つかることなく最初の発電機を見つけることができた。

 “DEAD BY DAYLIGHT”、通称DbDは生存者4人と殺人鬼1人でおこなう脱出ゲームだ。

 生存者はエリア内にある発電機を5個修理して脱出ゲートを開いて脱出。

 殺人鬼は生存者を全滅させる。

 それが生存者と殺人鬼のそれぞれの勝利条件だ。

 

 ちなみに、殺人鬼の方が基本的に足が速いので、普通に逃げただけでは確実に追い付かれてやられてしまう。

 それを回避するためにはパークの存在が必要不可欠なのだが、竜の使っているキャラクターはレベルが初期なこともあって所持しているパークの数が初期数の3つしかない。

 しかも竜はパークを装備していない。

 

 これらのことから竜が殺人鬼に見つかればやられることはほぼ確実と言えるだろう。

 ただし本当に上手い人はこの条件でも普通に逃げ切ったりするのだが。

 

 

「アクションが出たらL1をタイミングよく・・・・・・、っし1つ目の修理完了!」

「みゅーう!」

 

 

 運良く殺人鬼に見つかることなく竜は1つ目の発電機を修理することができた。

 それと同時に違うところで発電機の修理が完了したことを告げる音がなった。

 これで残った修理の必要な発電機の数は3つ。

 しかし、それと同時に生存者の1人が殺人鬼の攻撃を受けて倒れてしまった。

 なぜ他の生存者の状態が分かるのかというと、画面の左下に各生存者の状態が表示されているのだ。

 状態は通常、負傷、瀕死、吊られ、死亡、殺害があり、一目で他の生存者がどんな状態なのかを知ることができるので、場合によっては誰かが殺人鬼に追われているということを察して発電機の修理に集中したりすることもできる。

 

 また、殺人鬼の攻撃で瀕死になった場合は赤い人影が表示されるようになるので、その動きを見て殺人鬼のいる場所を推測できたりもするのだが、その辺りを竜はまだ理解していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第77話

 

 

 

 

 発電機を運良く修理することができ、他の生存者の修理した発電機の数も含めて2つ。

 残りの修理する発電機の数は3つ。

 しかし生存者が1人吊られてしまっている。

 状況としては良くも悪くもない、と言ったところだろうか。

 いや、1吊り目で2つの発電機を修理できているのだから生存者が優勢かもしれない。

 

 

「たしか、吊られてる味方を救出した方がいいんだったな」

 

 

 動画から得た情報を呟きながら竜は吊られた生存者のいる場所に向かう。

 一応、竜なりに隠密をして向かってはいるが、その隠密は慣れている人からしたらとてもお粗末なものだった。

 

 

「殺人鬼は・・・・・・ヒルビリーとか書いてあったっけ?」

「んみゅ」

 

 

 ロード中の画面に表示されていた殺人鬼の情報を思い出しながら竜はみゅかりさんに確認する。

 竜の言葉にみゅかりさんは肯定するように鳴き声をあげて頷いた。

 

 情報に書かれていた殺人鬼の名前はヒルビリー。

 大きなハンマーを持った殺人鬼で、通常のハンマー攻撃の他に一撃で瀕死にまでもっていかれてしまうチェーンソー攻撃を持っている徒歩型の殺人鬼だ。

 ヒルビリーのもとになっているのは“悪魔のいけにえ”と呼ばれる映画に出てくるレザーフェイスという殺人鬼。

 また、この映画にはレザーフェイスが人間をフックに吊るす場面があるため、“DEAD BY DAYLIGHT”自体のもとになったと言っても過言ではないだろう。

 

 

「っと、もうちょいで救助に・・・・・・あ、他の人が救助したか。なら別の発電機をぉっ?!?!」

「んみゃぅっ?!」

 

 

 救助に向かっていた先の生存者が他の生存者に救助されたのが分かり、竜は近くの発電機を探そうとグルリと周囲を見回す。

 

 救助をするために吊られた生存者のことを考えていた竜は、背後から近づいてくる怪しげなヒルビリーに気づかず、気がついたときにはチェーンソーによる一撃を受けて瀕死になってしまっていた。

 そのあとは怪しい毒薬などを飲まされることはなく、そのままヒルビリーに担がれてしまった。

 

 いきなりの出来事に竜とみゅかりさんは驚き、ビクリと大きく体を跳ねさせる。

 

 DbDに慣れているプレイヤーであれば心音やチェーンソーの音などでヒルビリーの接近に気づけるものなのだが、竜は初心者だということに加えてヒルビリーが接近しているときの音がさっぱり分かっていなかったのだ。

 こればかりは回数をこなして殺人鬼ごとの音を記憶するしかないだろう。

 

 

「び、ビビった・・・・・・」

「み、みみゃう・・・・・・」

 

 

 ヒルビリーに担がれている自身の操作していた生存者を呆然と見ながら竜はポツリと呟く。

 まさかヒルビリーが背後にいるとは思ってもいなかったので、その衝撃は凄まじかった。

 そして、ヒルビリーは近くのフックに竜の操作していた生存者を吊るした。

 

 

「誰か救助に来てくれるかなー・・・・・・」

「みゅみゃみゅー・・・・・・」

 

 

 フックに吊られている生存者を見ながら竜は呟く。

 正直、野良でのマッチングで救助をしてくれるかは運としか言いようがなく、場合によっては一切救助をされない時すらあるのだ。

 まぁ、そんな確率は本当に低く、だいたい1人くらいは救助に来てくれたりするので絶対に救助されない、なんてことは滅多にないので安心してもいいだろう。

 その証拠に1人の生存者が近づいてきていた。

 

 

「お、ありがたい!」

「みゅーみゅ!」

 

 

 無事に救助され、竜は救助をしてくれた生存者の後を追う。

 ようやく遭遇できた他の生存者だったので、竜としてはなるべく近くにいたかった。

 そんなことをしている間に他の生存者たちが発電機を修理していく。

 残りの修理が必要な発電機は1つにまでなっていた。

 

 

「あと1つか・・・・・・、他の人たち上手いなぁ」

 

 

 竜が修理した発電機の数は1つ。

 修理された数的に考えて、救助に来た生存者以外の2人が修理をしていたのだろう。

 ヒルビリーを撒いてから修理をしたのか、はたまたヒルビリーがいない隙をついて修理したのかは不明だが、それでも結構なハイペースだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第78話



また投稿予約を忘れてました・・・・・・


 

 

 

 

 救助してくれた生存者の後を追いかける。

 そもそもとして竜はこのエリアがどんなエリアなのかすらよく分かっていなかった。

 まぁ、初心者なのだからエリアの構成が分かっていないのも当然なのだが。

 

 

「あ、修理終わった」

 

 

 最後の発電機の修理が終わり、2ヶ所の出口が白く強調される。

 この状態になれば生存者がやることはただ1つ。

 出口のゲートを開けてそこから脱出する、それだけだ。

 ただし、この状態になれば殺人鬼側も出口に向かい始めるので、生存者は上手く殺人鬼を回避していかなければならない。

 

 

「とりあえず出口にいくぞー!」

「みゅー!」

 

 

 まぁ、そんなことも気にせずに竜は近くの出口に向かって直行するのだが。

 あまりにも無防備に向かうその姿に竜を救助してくれた生存者の人は思わず竜を二度見してしまっていた。

 

 そして、当然のことだが竜は殺人鬼、ヒルビリーに補足されてしまう。

 チェーンソーの音を鳴らしながらヒルビリーは竜の操作する生存者の後を追う。

 少しだけ離れた位置から追われたためにすぐには追いつかれていないが、この様子では追いつかれるのも時間の問題だろう。

 

 

「ぬぉおおおおおッッ?!?!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅううううッッ?!?!」

「みゅいみゅいみゅいみゅいみゅいみゅいぃいいいいッッ?!?!」

 

 

 背後から迫ってくるチェーンソーの音に竜は半狂乱になりながら必死に逃げ続ける。

 竜と同じようにみゅかりさんも叫ぶように鳴き声をあげて竜にしがみつく。

 

 小屋の周りを走り、時には小屋の中を通り抜け、さらには小屋の窓を跳び越える。

 障害物を利用することによってなんとか追いつかれずにはいた。

 しかし、それでもヒルビリーとの距離は徐々に徐々に縮まってきてしまっている。

 

 

「ヤバイヤバイヤバイヤバイッッ!!」

「みゅぁうっ!」

 

 

 今にも攻撃を受けてしまいそうな距離にまで詰められて竜は慌ててしまい、操作を間違えてヒルビリーへと向かっていってしまう。

 自分の操作ミスに気がついた竜は急いでヒルビリーから逃げようとする。

 

 

「え・・・・・・、あ、よ、避けられた?」

「みゅい!」

 

 

 竜の操作する生存者がいきなり近づいてきたことに驚いたのか、ヒルビリーは攻撃を繰り出す。

 しかし、ヒルビリーの攻撃は急いで走る向きを変えた竜の操作する生存者に運良く当たらなかった。

 予想外の事態に竜は少しだけ驚いて固まるが、みゅかりさんの鳴き声に慌ててヒルビリーから逃げていく。

 

 

「とにもかくにも、逃ぃげるんだよぉ~~!!」

「みゅみゅみゅ~!」

 

 

 一瞬だけ竜の操作する生存者の姿を見失い、ヒルビリーはキョロキョロと周囲を見回す。

 そして走り去っていく竜の操作する生存者の姿に気がつくと、すぐさま追いかけ始めた。

 直後、大きく画面が揺れて画面の上の部分にゲージが出現した。

 このゲージは2つある出口のどちらか片方が開いた合図で、このゲージがなくなる前に出口から脱出しなければならない。

 見たところ出口を開けていたであろう生存者はすでに脱出しており、残っているのは恐らく竜の操作する生存者と、救助してくれた生存者だけだろう。

 

 

「あそこに、出口って開いてなぁあああいッッ!!」

「みゅぁああああッッ?!?!」

 

 

 ようやく出口が見つかったかと思って近づいてみれば、そこは開いていない出口だった。

 出られない出口に竜とみゅかりさんは大きく声をあげる。

 そして、背後から来たヒルビリーに追いつかれてしまい、竜の操作している生存者は攻撃を受けて瀕死になってしまった。

 そのあとは救助も無理そうな状態になってしまい。

 竜の操作している生存者を除いて全員が脱出するという結果になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第79話

UA的にそろそろ次のアンケートを始めようと思います。
アンケートの内容は前回のものからゆかりさんを抜いたものとなります。
17000を越えたらアンケートは終了します。



 

 

 

 

 ヒルビリーによって吊られてしまい、処刑されてしまった竜の操作していた生存者。

 そして、マッチが終了してリザルト画面が表示される。

 修理した発電機が1つだったことと、処刑されてしまったことによって得られたポイントは他の人たちに比べてかなり低いものだった。

 

 

「あー・・・・・・、1人だけ死んだのは悔しいなぁ・・・・・・」

「みゅみゅみゅう」

 

 

 リザルト画面に表示される『処刑された』の言葉に竜は少しだけ落ち込みながら呟く。

 落ち込む竜の頭の上にみゅかりさんは移動し、ポフポフと前足で頭を軽く叩くのだった。

 

 

「そういえばこのポイントって何に使うんだろ」

「みゅーう?」

 

 

 マッチ終了時に得たポイントを見て竜は首をかしげる。

 竜の首が傾いたのに合わせて、みゅかりさんも竜の頭の上からコロリンと膝の上に落ちた。

 膝の上に落ちてきたみゅかりさんの頭を軽く撫でてから竜はメイン画面に表示されているアイコンをそれぞれ調べていく。

 

 

「・・・・・・お、このブラッドウェブってやつにポイントを使うのか」

 

 

 メイン画面を調べていくとブラッドウェブと呼ばれるものを見つけ、そこでマッチで手に入れたポイントを使うのだということが分かった。

 ポイントの使い道が分かり、竜はブラッドウェブをしっかりと確認する。

 ちなみにブラッドウェブとは他のゲームで言うスキルツリーのようなもので、伸ばしていくことによってアイテムや能力などを手に入れることができるのだ。

 

 

「ん~・・・・・・、とりあえずはパークを優先していった方がいいのかな」

「みゅみゃう」

 

 

 ひとまず現状のポイントでは中心にある始点に隣接するものくらいしか取ることはできないので、とりあえずはパークへとつながる最短のルートのものを取得することにした。

 ちなみに生存者のブラッドウェブの選択としてはパークを最優先に取得してくことが最適解と言っても問題はないだろう。

 なお、殺人鬼の場合はアドオンも選択肢に入るのでまた違う選び方になるのだが。

 

 

「とりあえずこれで。次はこっちか。ここでパークを着けるんだな」

「みゅう」

 

 

 次に竜が開いたのは生存者にパークなどを着けるための画面、ロードアウトだ。

 ロードアウトは開くと始めに初期装備として生存者の固有パークが3つ取得できるので、最初はその中から無難に使えそうなものを着けておくのが無いよりはマシだろう。

 

 

「アドオン・・・・・・、まぁ、持ってないし関係ないか」

 

 

 まだ始めたばかりでブラッドウェブから得たアドオンとアイテムは合わせても1つしか持ってないので、今のところは気にしないでもいいだろう。

 簡単にパークをつけて竜は再びマッチングを始める。

 

 

「次は脱出できるといいな」

「みゅみゅ」

 

 

 マッチングを待ちながらみゅかりさんの頭を竜はグリグリと撫でる。

 竜に撫でられて鳴き声が震えながらも嬉しそうに目を細めていた。

 そして、しばらく待っていると2回目のマッチングが完了した。

 

 

「みゅう!」

「ん、みゅかりさんがやってみたいのか?」

「みゅみゅい」

 

 

 ポフポフとコントローラーを叩きながら鳴き声をあげてきたので尋ねてみれば、肯定するように頷いた。

 竜は少しだけ考えるとみゅかりさんにコントローラーを渡す。

 竜からコントローラーを受けとるとみゅかりさんは嬉しそうに鳴き声をあげた。

 

 

「動画も見たし、俺のプレイも見てたからみゅかりさんの方が上手くできるかもな」

「みゅっみゅみゅ~」

 

 

 竜の言葉にみゅかりさんは嬉しそうに揺れながらDbDを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第80話

 

 

 

 

 なぜ朝は来るのだろうか。

 

 現実的なことを言ってしまえば地球が自転をしているからなのだが、そのような現実を突きつけられても目を逸らしたくなってしまうのが人間だ。

 

 かくいう竜も布団の中でゴロゴロとしながら少しだけ憂鬱になっていた。

 まぁ、そうなった理由は“DEAD BY DAYLIGHT”に熱中して眠るのが遅くなって寝不足だからなのだが。

 

 

「・・・・・・・・・・・・はぁ、起きるかぁ」

 

 

 布団でゴロゴロとしながらスマホを弄っていた竜は諦めたようにため息を吐いて布団から起き上がる。

 布団に寝転がったままでは二度寝を始めてしまいそうでもあったため、こればかりは仕方のないことだった。

 

 そして、竜は着替えと朝食を終えてスクールバッグを持って家を出る。

 家を出た竜は正面を向き、驚きに固まってしまう

 

 昨日の時点ではまだ工事中で幕もかかったままだったはずの向かいの家。

 それがなんと完全に幕が取れて家が完成していたのだ。

 まだ家が完成するとは思っていなかっただけに、目の前に建っている家に竜は本当に驚いていた。

 と言っても家が完成しただけでまだ住んでいるわけではないようだが。

 

 

「竜くん、おはようございます。おや、向かいの家が完成したんですね?」

「ああ、おはよう。そうなんだよ、こんなに早く建つとは思っていなかったがな。くぁ・・・・・・」

 

 

 ゆかりに声をかけられ、竜は返事を返す。

 返事をするのと同時に竜はアクビをしてしまう。

 アクビをする竜の姿にゆかりは小さく微笑んだ。

 

 

「寝不足なんですか?」

「おう、新しく買った“DEAD BY DAYLIGHT”って言うゲームが面白くてな」

「ああ、DbDですか。あれは楽しいですよね」

 

 

 眠そうな竜の姿にゆかりが尋ねると、竜は軽く首を回して少しでも眠気を飛ばそうとしながら答える。

 竜の言ったゲームのタイトルを知っていたのか、ゆかりは頷きながら肯定する。

 

 

「ゆかりも知ってたか。昨日はそれで遅くまでやっててな」

「そうなんですか。実は私も昨日初めてDbDをやったんですよ。よかったら今度一緒にやりませんか?」

「良いな。昨日は野良でやってたんだけど何回か切断で味方がいなくなってな・・・・・・」

 

 

 “DEAD BY DAYLIGHT”の野良は魔境である。

 そこまで多いというわけではないが1度吊られただけで切断して逃げ出してしまう生存者がいるのだ。

 1度吊られただけで諦める生存者を思いだし、竜は少しだけ顔をしかめた。

 

 

「ああ、それは私も経験がありますね。あれは本当に困りますよね」

「中にはすごい人もいたけどな。『BUTA860』って名前の人とか『SUKIYAKI』って名前の人がすごい逃げるのが上手くてな」

 

 

 救助や発電機の修理を素早くおこなっていく上半身裸の生存者。

 1人で開幕から出口を開くまで殺人鬼から逃げ回るどことなくアメリカンな生存者。

 

 昨日、偶然マッチングしたとても上手い生存者を思い出しながら竜は言う。

 殺人鬼から逃げる上手さは個人の技術が如実に現れるので、この2人は本当に上手かったのだろう。

 

 

「まぁ、なぜか『BUTA860』って人の方は殺人鬼に追いかけられてるときに他の生存者の方にめっちゃ向かってきてたけどな。『SUKIYAKI』って人の方は1人で他の人の近くに行かないように気をつけてたみたいなのに」

「・・・・・・それって上手い方に入れて良いんですかね?」

 

 

 救助や修理の速度が早いにしても殺人鬼から逃げる際に他の人に擦りつけようとする。

 これは本当に上手い人に入れていいのだろうか。

 竜の言葉にゆかりは曖昧な表情を浮かべながら首をかしげた。

 

 

「なんだかんだで逃げきったりしてるから上手いで良いんじゃないか?」

「そうなんですかね?」

 

 

 その後も竜とゆかりは“DEAD BY DAYLIGHT”の話をしながら学校に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第81話



フレンドとDbDをやっていて、ボックスから紫のカギを入手して最後の最後に自分が先にカギで脱出してそのあとにフレンドが脱出しました。
今のところこれが一番嬉しかった脱出でしたね。




 

 

 

 

 “DEAD BY DAYLIGHT”の話をしながら竜とゆかりは学校に向かう。

 どちらも昨日始めたばかりなのでいろいろと分からないことが多く、お互いに調べた情報を交換する意味もあった。

 

 

「とりあえず生存者はパークを優先で良さそうですね」

「だな。アイテムとかはマッチ中に拾えるわけだし」

 

 

 マッチにはアイテムを持ち込むことができるが、マッチ中のエリアにはアイテムの入ったボックスがいくつか出現する。

 このボックスは自由に開けて中のアイテムを得ることができるのだ。

 なお、ボックスを開けているときは大きな音が鳴るので、殺人鬼に気づかれないように離れた位置で開くことを心掛けておくといい。

 また、マッチ中に手に入れたアイテムを持ったまま脱出するとそのまま入手することができるので、余裕があるのなら持ち帰るといいだろう。

 

 2人が話しながら歩いていると背後から人の走る音が聞こえてくる。

 足音に気がついて2人が振り返ると、茜が元気に走りながら竜とゆかりのもとに向かってきていた。

 走ってくる茜を追うようにして葵も同じように駆け寄ってくる。

 

 

「2人ともおはようや!」

「竜くん、ゆかりさん、おはよう」

「おはよう。朝から走るとか元気だな」

「茜さん、葵さん、おはようございます」

 

 

 元気に話しかけてくる茜に竜は苦笑しながら答えた。

 茜が朝から元気なのはいつものことなので竜もゆかりもそこまで気にはしていない。

 

 

「なぁなぁ、昨日新しいゲームやっとったよな?」

「おう、“DEAD BY DAYLIGHT”を新しく買ったんだよ」

 

 

 肘でうりうりと竜をつつきながら茜は尋ねる。

 茜がなぜ竜が新しいゲームを買ったのが分かるのか不思議に思えるかもしれないが、これはプレイステーション4の機能で、フレンド登録をしているフレンドの遊んでいるゲームを知ることができるのだ。

 竜の言ったゲームのタイトルに葵はビクリと肩を震わせる。

 

 

「で・・・・・・、デッドバイ・・・・・・?」

「おう、殺人鬼から逃げながら発電機を回して脱出するゲームだ」

「あー、動画で知っとるわ。あれはうちも気になっとったんよ」

 

 

 恐る恐る確認をする葵のようすに笑いながら竜は肯定する。

 葵は茜につき合わされて“DEAD BY DAYLIGHT”の動画を見ており、殺人鬼たちの見た目がかなり苦手なのだ。

 竜の答えに茜は動画の内容を思い出してウンウンと頷く。

 

 

「けっこう楽しくてじゃっかん寝不足でな、・・・・・・くぁ」

「ああ、だから竜くん眠そうなんだ」

 

 

 眠そうな竜の様子に納得がいったのか、葵は小さく呟く。

 

 

「ゆかりも昨日始めたらしくてな今度いっしょにやろうかって話してたんだよ」

「へぇ、そうなんかぁ・・・・・・」

「イヤー、スゴイグウゼンデスヨネー」

 

 

 竜の言葉に思うことがあったのか、茜はゆっくりとゆかりの方に顔を向ける。

 茜から顔を逸らしながらゆかりは分かりやすいほどの棒読みで答えるのだった。

 

 

「うちもDbDを買おうかなぁ」

「え?!本気なのお姉ちゃん?!」

 

 

 竜とゆかりが始めたと知り、茜は自身も気になっていたこともあって“DEAD BY DAYLIGHT”の購入を考える。

 茜の呟きに葵は驚き、スゴい勢いで茜に顔を向けた。

 確かに“DEAD BY DAYLIGHT”を茜が買えば葵も竜と一緒に遊ぶことができる。

 しかし、それと同じくらいに家でやってほしくないという思いもあるので、葵としてはなんとも言えない心情だった。

 

 

「前々から面白そうとは思っとったからな。竜とゆかりさんがやり始めたならちょうどいい機会やと思うんよ」

「それは・・・・・・、そうかもしれないけど・・・・・・」

 

 

 茜の言葉に葵の中で竜と一緒に遊びたい思いと、怖いゲームをやりたくないという思いがぶつかり合う。

 まぁ、葵が悩んでいたとしても茜の中では買うことがほぼ決定事項となってしまっているので、どちらにしても葵が怖がる未来は確定してしまっているのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第82話

 

 

 

 

 4人で会話をしながら竜たちは学校に向かう。

 会話の内容は基本的には“DEAD BY DAYLIGHT”のことばかりだが、実際に映像を見ているわけではないので葵もそこまで怖がらずに会話に参加できていた。

 

 

「そういえば気になったんやけど、竜とゆかりさんは一緒に登校しとるんか?」

「そうだな。最初は偶然だったけど、ここのところはだいたい一緒になってるな」

 

 

 ふと思い出したように茜は尋ねる。

 茜の質問に竜は頷いて肯定する。

 一番最初は偶然だったが、竜とゆかりはいつの間にか一緒に登校するようになっていた。

 

 

「ええ、私の出る時間と竜くんの出る時間が偶然一緒みたいで」

「・・・・・・本当に偶然なのかな?」

 

 

 ゆかりの言葉に葵は小さく呟く。

 葵の呟きが聞こえたのか、ゆかりはソッと葵から顔を逸らした。

 

 

「まぁ、ゆかりさんが時間を見計らって家を出てるのとかは別にええわ」

「いえ、ですから偶然で・・・・・・」

「 別 に え え わ 。葵~、うちらも次からこのくらいの時間に出ようや」

「そうだね。ボクも竜くんと一緒に登校できたら嬉しいし」

 

 

 ゆかりの反論を断ち切って茜は葵に提案する。

 茜の提案に葵は嬉しそうに頷いた。

 茜に言葉を断ち切られたゆかりは少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。

 そんな3人のやり取りに竜は苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

「あ、みんなおはよー!」

「マキさん、おはようございます」

「おう、おはよう」

「おはようや、マキマキ」

「おはよう、マキさん」

 

 

 会話をしながら歩いていたので、いつの間にか竜たちは校門に到着していた。

 校門に着くと竜たちの姿を見つけたマキが手を振りながら駆け寄ってくる。

 駆けるマキの姿にゆかりはSAN値を削られつつ、挨拶を返し、竜は駆け寄ってくるマキから視線をやや上に固定しながらマキに手をあげて応えた。

 

 

「今日はみんなで登校してきたんだねー」

「せやで。今日はたまたま早くに家を出てなぁ」

「そういえばいつもはもう少し遅いですよね」

 

 

 4人が揃って登校してきた姿にマキは羨ましそうに呟く。

 マキの言葉にゆかりは茜と葵が普段より早く登校していることに気づいた。

 いつもであればもう少しあとになってから教室に入ってきているはずなので、そう考えると今日はそこそこに早い時間に登校していると言えるだろう。

 

 

「あー、今日は珍しく葵がスッと起きてくれてなぁ」

「わーッ!わーッ!お姉ちゃんなにを言ってるの?!」

 

 

 ゆかりの言葉に茜はいつもより早く登校できた理由を言う。

 茜の暴露に葵は思わず茜の口を押さえようと手を伸ばすが、ヒラリと茜に避けられてしまった。

 

 

「茜じゃなくて葵なのか」

「葵さん、寝起きが悪いんですか?」

「葵ちゃんはスッキリと起きてそうなイメージだったけどなー」

 

 

 茜の言葉に3人は意外そうな表情を浮かべながら葵を見る。

 3人から視線を向けられ、葵は恥ずかしそうにうつむいてしまう。

 正直なところ、いつも登校する時間が少し遅いのは茜が寝坊しているからだと思っていたため、茜の言葉は本当に意外だったのだ。

 

 

「みんながうちのことをどう思ってるのかは分かったわ。うちはお弁当を作るために早めに起きとるからな?」

 

 

 ポカポカと軽く竜を叩きながら茜は言うが、茜と葵の外での様子を考えればそう思われても仕方がないだろう。

 

 片や、元気に動きまわって勉強は少し苦手な姉。

 片や、おとなしく勉強のできる優等生な妹。

 

 家の外での2人はおおむねこのような評価なため、どちらが寝坊しそうかと問われれば答えはほぼ1つしか出ない。

 3人の反応から、自分がどう思われていたのかを理解した茜は不満そうに頬を膨らませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第83話

 

 

 

 

 自分のことを寝坊するような人間だと思われていたことが不満な茜は一番近くにいた竜のことをポカポカと叩く。

 そして竜を叩く茜のことを、寝坊をしているのが自分だとばらされた葵がペチペチと叩く。

 3人が並んで隣の人間のことを叩くというよく分からない光景が教室に向かう廊下で起きていた。

 

 

「そういえばマキは昨日モンハンを始めたんだっけ?どこまでできたんだ?」

「えっとねー、大きなモンスターの背中から降りて大きなトカゲから逃げて前線基地って所にまで進んだよ」

 

 

 ポカポカと叩いてくる茜の腕を防ぎながら竜はマキに尋ねる。

 攻撃を防ぐ竜に茜は少しだけフェイントを織り混ぜながら攻撃を繰り出していった。

 なお、葵から茜への攻撃は続いており、その攻撃はすべて茜に当たっている。

 3人の様子にマキは苦笑しながらどこまで進んだのかを答えた。

 

 マキの言う大きなモンスターとは開幕にハンターの乗る船にぶつかってくる超大型のモンスター、ゾラ・マグダラオスのことだろう。

 ついでに言うなら、大きなトカゲとは最初に現れて別のモンスターにボコボコにされる黄色のモンスター、ドスジャグラスのことだ。

 

 

「というかモンハンのキャラクター作成の項目さぁ、細かすぎじゃない?」

「こだわる人はかなり作り込めるからな」

「マキさんも納得がいくまで作り直したんですか?」

 

 

 モンハンのキャラクター作成の項目の多さを思いだしたのか、マキは少しだけ疲れたような表情になる。

 マキの様子からキャラクター作成でかなりの時間を使ったらしいということがうかがえた。

 

 

「うーん、さすがに時間がかかりすぎるからデフォルトのやつから軽く手を加える程度にしたよ」

「まぁ、一番無難な手やな」

「一番失敗しないで簡単にできる方法だったよね」

 

 

 さすがに何度もキャラクター作成、ムービー、データ削除を繰り返すのは大変だと理解したのか、マキは一番確実な方法でキャラクター作成をしたようだ。

 マキの答えに茜と葵はそれぞれ攻撃をするのをやめて頷く。

 そして、5人は教室に到着した。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 時間は進んで、昼休み。

 チャイムが鳴るのに合わせて竜はお昼のパンを取り出した。

 それに合わせて竜の近くに茜、葵、ゆかり、マキがお弁当を片手に集まってくる。

 

 

「あれ、竜くん。パンの量が昨日よりも少なくない?」

「ほんまや。買い忘れたんか?」

 

 

 竜の取り出したパンの量が少ないことに気がついた葵と茜は首をかしげて尋ねる。

 2人の言葉にゆかりとマキも気がついたのか、同じように不思議そうに竜を見る。

 

 

「ああ、昨日ちょっと金を使いすぎてな。しばらくは節約だよ」

 

 

 4人に自身の手もとを見られながら特に隠すことでもないため、竜はお昼のパンの量が少ない理由を話す。

 竜の言葉に4人は納得したのか、なるほどといった様子で頷いた。

 

 

「竜せんぱーい!お昼ご飯を食べましょー!」

「・・・・・・よくよく考えると先輩の教室に躊躇なく入ってくるってスゴいよな」

「せやね」

「ボクには無理かなぁ・・・・・・」

 

 

 元気に教室の扉を開けて現れたあかりの姿を確認し、竜はポツリと呟く。

 竜の呟きが聞こえたのか茜は同意するように頷いた。

 

 教室に入ってきたあかりは竜の近くの机を引っ張って寄せ、大きな重箱をデン!と置く。

 そして、重箱を置いた際にそこそこに大きな音がなったため、葵が少しだけ驚いて跳び跳ねたのを竜たちはしっかりと目撃していた。

 

 

「やっぱりスゴい量だよな。食費とかどうなってるんだ?」

「えっとですね、1度に大量に仕入れているから単価としては安く済んでるらしいですよ。それにお父さんなんて私よりも食べますから」

「え、これより多いの・・・・・・?」

「これは、一般家庭では絶対に食費を用意できませんね・・・・・・」

 

 

 ただでさえあかりの食べる量は多いのに父親はさらに食べるとあかりは言う。

 あかりの口から出てきた衝撃の事実に、竜たちはお昼ご飯を食べ始めるあかりのことを唖然と見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第84話

 

 

 

 

 パンの量が少なかった竜は早々に食べ終え、重箱のお弁当を食べているあかりをチラリと見る。

 あかりの体は太いわけではなく、むしろ一部を除いて細めでどこにその食べたものが行っているのかが気になるほどだ。

 

 

「あ、そうだ。なぁ、なんかいいバイトとか知らないか?」

「バイト、ですか?」

「ふぁんひゃ、ふぁひとふるんふぁ?」

「お姉ちゃん、食べ物を咥えながらしゃべらないでよ・・・・・・」

 

 

 竜はふとバイトをしようと考えていたことを思い出して茜、葵、ゆかり、マキ、あかりの5人に尋ねる。

 竜の言葉に2番目に食べ終わっていたゆかりは不思議そうに聞き返す。

 茜も同じように尋ねようとしていたが、口にエビフライを咥えていたためにちゃんとした言葉になっておらず、茜以外の全員が首をかしげた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・なんて?」

「えっと、たぶんだけど『なんや、バイトするんか?』って言ったんじゃないかな?」

 

 

 茜がなんと言ったのか分からず、竜は首をかしげながら聞き返した。

 竜の言葉になんとか茜の言葉を理解できたらしい葵が答える。

 どうやら葵の推測は当たっていたようで、葵の隣で茜がエビフライをモグモグと食べながら頷いていた。

 

 

「んぐ・・・・・・ごくん。んで、なんで急にバイトなんや?」

「いや、もう少し自由に使える金が欲しくなってな」

 

 

 エビフライをしっかりと尻尾まで食べてから茜は竜に尋ねる。

 茜の言葉に竜は頬を軽く掻きながらバイトを始めようと思った理由を答えた。

 “DEAD BY DAYLIGHT”とプレイステーションストアカードを買ったために少しばかり金欠気味なことも理由なのだが、その辺りは別に言う必要はないだろうと竜は判断した。

 

 

「欲しいものとかを考えるとお金はいくらあっても足りませんからね」

「モグモグ、モグモグ・・・・・・ごくん。でしたら、うちの系列のどこかでバイトを探しますか?」

紲星(きずな)グループのバイトってなんかスゴそうだな・・・・・・」

 

 

 口に含んでいたものを飲み込んでからあかりは提案をする。

 どんな人間でも知っているほどの大きな会社、紲星グループ。

 その仕事の種類は多岐にわたっており、街を歩けば紲星グループ関連のものが最低でも10個は見つかるほどだ。

 そんな大きな会社の系列のバイトと言われればまともに仕事ができるのかすら不安になってしまう。

 

 

「給料は多そうやけど、その分要求される技術とかも厳しそうなイメージはあるなぁ」

「そういえばこの校舎も紲星グループが作ったんじゃなかったっけ?」

「たしかそのはずですね。入学したときに校長先生に挨拶されましたし」

「ま、まぁ、どんなのがあるか分からないし。一旦保留で頼むわ」

 

 

 葵が思い出したように言うと、あかりは頷きながら肯定した。

 しかも校長先生が挨拶したとなれば確定で間違いはないだろう。

 そんな大きな会社である紲星グループのバイト。

 それも社長の娘であるあかりからの紹介となればプレッシャーがとてつもないものになってしまう。

 竜はあかりの紹介でバイトをした場合の未来を考えてしまい、苦笑いを浮かべながら答えるのだった。

 

 

「ん~・・・・・・。なんだったらうちで働いてみる?」

「マキの所でか?」

 

 

 少しだけ考える仕草をしていたマキが提案をする。

 マキの提案が意外だったのか、竜以外の全員は驚いた表情でマキを見ていた。

 

 

「うん。といってもお父さんに聞いてみないと分からないけどね」

「ふむ・・・・・・。知ってる所ならまだ働きやすい、か?放課後に聞きに行ってもいいか?」

「あ、でしたら私も行きます。紅茶が飲みたい気分なので」

「うちも行くでー」

「ボクも行くよ」

「マキ先輩のお家はなにかお店をやってるんですか?」

 

 

 放課後にバイトの話を聞くためにマキの家でやっている喫茶店“cafe Maki”に向かうことを決めると、ゆかりたちも一緒に向かうと言い出した。

 唯一マキの家が喫茶店をやっていると知らないあかりだけが不思議そうに首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第85話

 

 

 

 

 放課後になり、竜たちは校門に集合した。

 お昼休みのときにあかりにマキの家が喫茶店をやっていることは説明してあるので、あかりはワクワクとした表情になっている。

 

 

「さ、マキマキの家に向かうか」

「今日はなにを頼もうかなぁ」

「どれも美味しいですからね」

「先輩たちがそこまで言う料理と飲み物ですか。とても楽しみです!」

 

 

 校門をくぐり、竜たちはマキの家“cafe Maki”に向かって歩き始めた。

 バイトが可能かを聞くために向かうのだが、もともとできるかどうかも分からないので竜には特に気負った様子も見られない。

 

 

「そういえばモンハンはやってみてどうだったんだ?」

「んぅ?そうだねぇ、まだ武器はもらってないけど動かし方とかは分かったし、面白いと思ったよ。それにグラフィックもとてもキレイでビックリしちゃった」

「ワールドになってからのグラフィックの進化はスゴいですからね。私なんていまだに高いところから飛び降りるとドキッとしますし」

 

 

 竜の言葉にマキは昨日プレイした“モンスターハンターワールド”のことを思い出しながら答える。

 “モンスターハンターワールド”のグラフィックは従来のものからかなり進化をしており、狩猟をせずにエリアを歩いているだけでも十分に楽しめるほどのものになっている。

 それこそ、高所から飛び降りればバンジージャンプを疑似体験しているかのような気分さえ味わえるのだ。

 マキの言葉にゆかりも頷きながら肯定した。

 

 

「あー、たしかに分かるな。俺も高いところから飛び降りるのは避けてるし・・・・・・」

「いつの間にか飛び降りないルートを探しちゃうんですよね。それにキャンプから近ければそっちにファストトラベルしちゃいますし」

「そんなに怖いですかね?私はむしろ飛び降りていくのが楽しいんですけど」

 

 

 ゆかりの言葉に竜もしきりに頷く。

 竜とゆかりの言葉が不思議に思う人がいるかもしれないが、それほどまでにグラフィックがキレイで、慣れない人はなかなか慣れることができないのだ。

 2人の言葉にあかりは首をかしげながら呟く。

 とまぁ、あかりのように平気な人はぜんぜん平気なので、この感覚には個人差がかなりある。

 

 

「うちも葵も高いところから飛び降りるんは平気やね」

「そうだね。ボクはどちらかと言うと障気の谷に出てくるモンスターの方が苦手だし」

 

 

 葵の言う障気の谷というのは“モンスターハンターワールド”に存在するエリアの名称の1つで、このエリアに出てくるモンスターたちはどことなくホラーチックなモンスターが多いのだ。

 例えるならバイオハザードに出てきてもおかしくない見た目と言えば分かりやすいだろう。

 

 

「ヴァルハザクとかオドガロンとかか」

「ティガレックスとかラドバルキンとかは別に平気なんだけどね」

 

 

 話しながら苦手なモンスターたちのことを思い出してしまったのか、葵は少しだけ嫌そうに顔をしかめた。

 顔をしかめる葵に竜たちは苦笑するのだった。

 

 

「まぁ、苦手ってだけで狩れるなら良いんじゃないか?」

「狩猟数は一桁だけどね・・・・・・」

「・・・・・・ヴォルガノスと同じくらいに狩ってないんですね」

 

 

 ゆかりの言うヴォルガノスとは“モンスターハンターワールド”内でもっとも狩られていないモンスターの名前だ。

 ヴォルガノスと同じレベルで狩っていないということはほぼほぼ防具や武器などは作れていないと考えてもいいだろう。

 

 

「良いの!ボクはイヴェルカーナの防具で充分なの!」

「その辺は自由だから構わへんけどねー」

「あ、家に着いたよ」

 

 

 プイ、と頬を膨らませながら葵は顔を逸らす。

 まぁ、防具に関しては個人の自由なため特に文句などを言うつもりもないので、茜もなにも言うつもりもなかった。

 そして、竜たちはマキの家がやっている喫茶店“cafe Maki”に到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第86話


ギリギリの僅差でアンケートの結果が出ました。

正直、同票だったらどうしたものかと戦々恐々してましたよ・・・・・・




 

 

 

 

 “cafe Maki”に着いた竜たちはマキの案内でテーブルに、そしてマキは制服から着替えるために家へと向かった。

 テーブルに着いた竜たちはメニューを広げてなにを頼もうか考え始めた。

 

 

「わぁ、色々なものがあるんですね!」

「紅茶にコーヒー、緑茶にジュース系、それとマキ茶。飲み物だけでも種類がありますからね」

「あと、マーマイトもあるな」

「それは飲み物とは言えないんじゃないかなぁ・・・・・・」

 

 

 メニューを見てその種類の多さにあかりは嬉しそうな声をあげる。

 あかりの言葉にゆかりも頷きながら飲み物をあげていった。

 そして竜が追加であげた飲み物の名前に葵は苦笑をしながら呟く。

 

 

「飲み物だけやのうて食事も旨いんやで。このケーキとかもめっちゃ旨かったんや」

「変わり種で“星を(スター)見る(ゲイジ)パイ(ーパイ)”なんかもあるが、基本的にハズレはないな」

「むしろその辺はどんな人が頼むのかが気になるんですけど・・・・・・?」

 

 

 マーマイトやスターゲイジーパイ。

 どう考えても一般的な喫茶店にあるはずのないメニューにあかりは不思議そうに首をかしげる。

 ちなみにこの2点は特定の常連から強く要望されて店長であるマキの父親が作り始めたメニューであって、最初からメニューに並んでいたものではない。

 

 

「ま、特には気にせんと自分の食べたいものを選んだらええんとちゃう?」

「そうですね!では・・・・・・」

 

 

 茜の言葉にあかりは頷き、メニューをパラパラとめくる。

 そして、あかりの目はメニューのケーキの部分で目が止まった。

 しばらくケーキの部分を見ていたかと思うと、あかりは続けてサンドイッチなどの軽食の部分を見始める。

 

 

「ケーキを全種類3つずつ、それとサンドイッチとパフェにしますね!」

「は・・・・・・?」

「え゛・・・・・・?」

「マジかぁ・・・・・・」

「えぇ・・・・・・」

 

 

 メニューのケーキの部分を見、続けて軽食の部武運を見て少しだけ考えたかと思うとあかりは顔をあげて自分の頼むものを言った。

 あかりの頼んだものの内容に竜たちは驚き、思わず口をポカンと開けてしまう。

 “cafe Maki”のメニューの中でケーキはそこまで種類は多くないが全部で5種類。

 それを3つずつで合計15個。

 さらにそれに加えてボリュームが多めなサンドイッチとパフェの追加。

 あかりがたくさん食べることは知っているがこの時間でもそんなに食べるとは予想もしていなかった。

 

 

「飲み物は無難に紅茶ですね。先輩たちはどうしますか?」

「あ、ああ・・・・・・。俺はコーヒーだけで充分かな」

「うちは今日はオレンジジュースにしておくわ」

「ボクはメロンソーダにしておこうかな」

「私は・・・・・・、私もコーヒーにしておきます」

 

 

 あかりの言葉に竜たちはハッと口を閉じて自分たちの頼む飲み物を決めていった。

 竜たちが飲み物しか選ばないことが気になったのか、あかりはコテンと首をかしげる。

 

 

「先輩たちはケーキとかは頼まないんですか?」

「ちょっと、大丈夫かな・・・・・・」

「いやぁ・・・・・・あんたの頼む量を聞いとるだけで胸焼けになりそうやからなぁ・・・・・・」

「あかりちゃんが食べてるのを見るだけで充分そうだしね・・・・・・」

「むしろ本当に食べきれるんですか・・・・・・?」

 

 

 不思議そうに尋ねるあかりに竜たちは苦笑いを浮かべながら答える。

 竜たちの言葉の意味がわからないといった様子であかりは再び首をかしげた。

 

 

「そうですか?じゃあ、頼んじゃいましょうか。すいませーん!」

 

 

 竜たちの答えに首をかしげていたあかりだったが、注文をすることの方が優先するべきだと判断したのかちょうど近くに来ていたマキの母親に声をかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第87話

 

 

 

 

 竜たちをテーブルに案内し終えたマキは自分の部屋で学校の制服から喫茶店の制服に着替えていた。

 学校の制服を脱ぐ際にマキの体の一部が大きく揺れるが、悲しいことにそれを目撃するものは誰もいなかった。

 まぁ、それを見たら見たで“DEAD BY DAYLIGHT”のドクターのショック治療を受けたレベルの発狂をするものもいたりするのだが。

 

 

「・・・・・・よし。さてと、まずはお父さんに竜くんが働いてもいいか聞かないと」

 

 

 喫茶店の制服に着替え終わったマキは自分の部屋から出て父親のいる喫茶店のキッチンへと向かう。

 

 キッチンにマキが着くと、父親が少しだけ忙しそうにケーキを用意していた。

 父親の用意しているケーキの数がどう考えても多く、マキは少しだけ驚きつつ父親に近づいた。

 

 

「ただいま。お父さん」

「ああ、おかえり。マキ」

 

 

 マキの言葉に父親は嬉しそうに笑顔で答える。

 父親の用意しているケーキを不思議そうに見ながらマキは父親の近くに移動した。

 

 

「なんだかたくさんケーキを用意しているけど、そんなにお客さんが来てるの?」

「いや、これはマキの連れてきた後輩の子が1人で注文したらしいんだ」

「あー・・・・・・」

 

 

 マキは大量に用意されているケーキを見て首をかしげつつ尋ねる。

 マキの言葉に父親は苦笑しながら大量に用意されたケーキの理由を話した。

 苦笑する父親の顔を見ながら、誰がケーキを頼んだのかを理解したマキはポリポリと頬を掻くのだった。

 

 

「あかりちゃんなら、仕方ないかぁ・・・・・・」

「悪いけどマキも運ぶのを手伝ってくれるかい?」

「もっちろんだよ!」

 

 

 頭の中でモグモグと口を動かすあかりの姿を思い浮かべながらマキは呟く。

 そして父親に言われて用意されたケーキを竜たちの座っているテーブルへと持っていくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ────フォークを刺す

 

 

 ────刺されたケーキが浮かび上がる

 

 

 ────ケーキが消える

 

 

 まるで手品でも見ているかのような光景に竜たちは思わず飲み物を飲むことすら忘れてしまっていた。

 そんな竜たちの視線を受けている主、紲星あかりは幸せそうにケーキを食べていた。

 すでに空になった皿は10枚。

 本当に味わっているのかと聞いてしまいたくなるほどの食べっぷりだった。

 

 

「ぅんまぁ~い!とっても美味しいですね!」

「ああ・・・・・・、まぁ、嬉しそうでなによりだよ・・・・・・」

「どうしましょう。見てるだけなのに胸焼けが・・・・・・」

「これ、カロリーにしたらどんくらいなんや・・・・・・?」

「ちょっとボクは考えたくないかなぁ・・・・・・」

 

 

 マキとマキの母親によって運ばれてくるケーキもすでに15皿目がテーブルに置かれている。

 すさまじいペースで食べていくあかりの姿に喫茶店の中にいるほとんどの客が驚きの表情であかりを見ている。

 そして、それを目の前で見せられていた竜たちは食べてもいないのに胸焼けのような感覚に襲われるのだった。

 

 

「ん~・・・・・・、これだけ美味しいのですから追加で頼んじゃいましょうかねぇ」

「まだ食えるんか?!」

 

 

 余裕綽々といった様子のあかりに茜は思わずツッコミをいれる。

 これだけの量のケーキを食べたのにまだ食べられると言うあかりの言葉に竜たちは少しだけ疲れた表情を浮かべ始めていた。

 

 

「そうですね、まだまだ食べられますよ」

「これだけ食べてまだ食べられるんですね・・・・・・」

 

 

 茜の言葉にあかりは嬉しそうにフォークを揺らしながら答える。

 もはやあかりが満腹になることなどないのではないか、そんな風にすらゆかりは思い始めていた。

 

 

「あ~・・・・・・、この時間にそんなに食べて大丈夫なのか?」

「私的には大丈夫ですけど・・・・・・。そうですね、家の料理人にも悪いのでこの辺りで止めておくことにします」

 

 

 あまりにも大量に食べるあかりに竜は思わず尋ねる。

 放課後ということもあり家に帰ってしばらくすれば晩御飯の時間になるのはほぼ間違いはないだろう。

 それなのに今こんなに食べて大丈夫なのか。

 

 竜の言葉にあかりは少しだけ考えると、フォークを置いて追加で注文することをやめる。

 まぁ、それでもサンドイッチとパフェがまだあるのだが・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第88話

 

 

 

 

 何度もキッチンと竜たちのテーブルを往復していたマキは、サンドイッチとパフェをゆっくりと食べ始めたあかりの姿を見てフゥと息を吐く。

 マキはお昼休みの時のあかりの重箱を知っているだけに、もしかしたら喫茶店の食料をすべて食べ尽くしてしまうのではないかとも思っていた。

 喫茶店への売り上げとしては助かるかもしれないが、それでも他の客の迷惑になるような事態にならないで済んだことにホッとしていた。

 

 

「ちょっと大変だったね・・・・・・」

「いやぁ・・・・・・、ここまで食べるとはねぇ・・・・・・」

「本当にビックリねぇ」

 

 

 キッチンから竜たちのテーブルを見ながらマキの父親と母親はやや疲れた表情を浮かべていた。

 今までにないレベルの注文だったため、マキだけでなく両親も含めて疲れていた。

 

 

「あ、お父さん。竜くんがバイトを探してるんだけど・・・・・・、うちでどうかな?」

「竜くんって言うとあの子だろ?ううん、男を働かせるのはなぁ・・・・・・」

 

 

 運ぶものもなくなり、余裕のできたマキは父親に竜をバイトとして働かせることができるかを聞く。

 マキの言葉に父親はチラリと竜の方を見、腕を組んで唸った。

 店としては人手が増えることは歓迎なのだが、それが男となると娘をもつ父親としてはどうにも簡単には頷くことができなかった。

 

 

「あら、私は働いてもらうのは歓迎よ?」

「いや、しかしだなぁ・・・・・・」

「もう・・・・・・、ちょっと来てちょうだい」

 

 

 母親の肯定する言葉を聞いても父親は渋い表情を浮かべている。

 乗り気ではない父親にしびれを切らしたのか、母親は父親の手を引いてキッチンの奥へと行ってしまった。

 キッチンの奥に消えていってしまった両親の姿にマキはコテンと首をかしげる。

 

 

「やはり・・・・・・おと・・・・・・・・・・・・」

「いえ・・・・・・・・・・・・だから・・・・・・むしろ・・・・・・」

「なにを話してるんだろ?」

 

 

 途切れ途切れにかすかに聞こえてくる両親の言葉にマキは興味を示しつつ、店内にいる客にいつ呼ばれても大丈夫なように待機している。

 しばらくすると、母親は楽しそうにニコニコと笑みを浮かべながら、父親はまだどこか納得していないような表情を浮かべながら戻ってきた。

 

 

「マキちゃん、バイトの件はオッケーになったわよ」

「え、ホントに?!」

「・・・・・・・・・・・・ああ、本当だよ」

 

 

 母親の言葉にマキは父親を見る。

 さっきまではそこまで乗り気ではなかったのにいったいどんな心変わりがあったのか。

 マキが父親を見れば父親は少しだけ苦いような表情になりながらもしっかりと頷いた。

 

 

「ちゃんと竜くんとも話をしたいからつれてきてくれるかい?」

「うん。分かった!」

 

 

 父親の言葉にマキは嬉しそうに竜たちのいるテーブルへと向かっていった。

 小走りにテーブルへと向かっていくマキの姿を見ながら父親は小さくため息を吐く。

 やはり娘をもつ父親としては納得ができていないのだろう。

 

 

「はぁ・・・・・・」

「もう。さっきも言ったでしょう?他の変な人が近づいてくるよりも先に信頼できそうな子を近くに置いておけばマキも安全なのよ?」

「そうは言ってもなぁ・・・・・・、あぁ、マキぃ・・・・・・」

 

 

 ため息を吐く父親に母親は先ほどキッチンの奥に行ったときにした話をもう一度する。

 娘が心配であるならば先に護衛役として信頼できる人間を置いておけばいい。

 そうすれば自然と変な人間などから娘を守ることができるだろう。

 そう言って母親は竜が“cafe Maki”で働くことを認めさせたようだ。

 

 

「・・・・・・・・・・・・それに、あの子とマキちゃんってあなたと私に似てる気がするのよねぇ」

 

 

 うめく父親から顔を逸らし、竜に話しかけているマキを見ながら母親はポツリと小さく呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第89話





 

 

 

 

 両親から竜が働く許可を得たマキは竜たちの座っているテーブルに小走りで駆け寄ってきた。

 嬉しそうにマキが駆け寄ってきたことに不思議そうに首をかしげながら竜たちはマキを見る。

 ちなみに、あかりはすでにサンドイッチを食べ終えて、残りはパフェだけとなっていた。

 

 

「竜くん、お父さんがバイトとして働いてもらっても良いって!」

「マジか!」

 

 

 マキの言葉に竜は思わず立ち上がって声をあげてしまう。

 そしてすぐに目立ってしまっていることに気がついて椅子に座り直した。

 

 

「ん、んん!えっと、本当にオッケーが出たのか?」

「本当だよ。あ、でもお父さんが話したいことがあるから呼んできてほしいって」

 

 

 咳払いをして先ほどの目立ってしまったことをどうにか誤魔化そうとしつつ、竜はマキに再度確認をとる。

 誤魔化そうとする竜にマキは苦笑し、頷いて肯定した。

 そして父親に竜を呼んでくるように言われたことを説明する。

 

 

「分かった。どこに行けばいいんだ?」

「それじゃあ私についてきて!」

 

 

 マキの説明に竜は頷き、席から立ち上がる。

 今度は普通に立ち上がったのでそこまで目立つことはなく、静かに立ち上がることができた。

 そして、マキの案内のもと、竜はマキの父親の待つキッチンへと向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 マキと竜がキッチンに向かっていくのをゆかりたちは何処と無く恨めしげな瞳をしながら見ていた。

 

 

「まさか、マキさんのお父さんが許可を出すとは・・・・・・」

「この間の話を聞いた感じでは絶対に男は採用せえへんと思っとったんやけど・・・・・・」

「なにか他の理由がある、とか?」

「えっと、そんなに竜先輩がバイトできそうなことが意外なんですか?」

 

 

 唯一マキの父親の溺愛っぷりを知らないあかりはゆかりたちの言葉に不思議そうに首をかしげる。

 

 

「せやで、マキマキの父ちゃんはマキマキのことをかなり溺愛しとるんや」

「ですのでバイトとして働くことを許可したことは本当に意外なんですよ」

「そうなんですね」

 

 

 ゆかりと茜の説明に納得したのか、あかりはパフェを口に運びながら頷いた。

 どうやらこのパフェが最後だということで、あかりはゆっくりと食べている。

 

 

「でも、それならどうして竜先輩が働くことを許可したんでしょうね?」

「本当にそこなんですよね」

「普通に、『男は採用しない』とか言いそうだと思ったんやけどね」

「ぜんぜん理由が思いつかないね・・・・・・」

 

 

 説明を聞いたあかりは改めて、なぜ竜に働く許可が出たのかが不思議になって呟く。

 あかりの呟きに同意するようにゆかり、茜、葵の3人も頷くのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ゆかりたちが会話をしている頃。

 竜はマキにつれられてキッチンに来ていた。

 竜の目の前にはマキの父親が立っており、複雑そうな表情を浮かべながら竜を見ている。

 

 

「さて、とりあえず働くことは構わないんだ・・・・・・」

 

 

 竜を見ながら父親はゆっくりと口を開く。

 言葉の端からしぶしぶといった雰囲気が感じられ、竜は少しだけ表情が固くなった。

 

 

「ただし、マキに対して不埒なおこないをした場合には即座に辞めてもらうからね!これがここで働くための条件だよ!」

 

 

 バイトとして雇う際の条件を父親は言う。

 おそらくだがこれでも父親としては最大限の譲歩なのだろう。

 そんな父親の様子に母親は少しだけ困ったような表情を浮かべている。

 

 

「えっと、とりあえずマキとは普通に接していれば良いんですよね?」

「まぁ、そうなるな・・・・・・」

 

 

 父親の言う不埒がどの程度のものなのか分からず、とりあえずは普通に接してもいいか竜は尋ねる。

 竜の言葉に父親は少しだけ考え込みながら頷いた。

 

 竜としても特段セクハラ染みた行動などをするつもりもなく。

 むしろ働くことのできる環境を用意してくれたマキには感謝しかない。

 父親の出した条件を受け入れ、竜は“cafe Maki”で働くことを決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第90話

 

 

 

 

 竜が喫茶店“cafe Maki”で働くことが決まり、あかりもパフェを食べ終えた帰り道。

 竜たちは5人は会話をしながら歩いていた。

 

 

「とまぁ、とりあえずは仕事に慣れることが最優先かな」

「やはりマキさんのお父さんは相変わらずなんですね」

 

 

 マキの父親の出した“cafe Maki”で働くための条件を竜から聞き、ゆかりたちは苦笑する。

 そこでふと思い出したように竜はあかりを見た。

 

 

「そういや普通に一緒に歩いてるけどあかりの家ってどこなんだ?場合によっては送るけど・・・・・・」

「そういえばそうやな」

「自然に帰ってたからぜんぜん気づいてなかったよ」

 

 

 竜の言葉にゆかりたちもあかりの家の場所を知らないことを思い出した。

 そして、4人の視線があかりに集まる。

 

 

「私の家ですか?でしたらこのまま一緒で大丈夫ですよ」

「そうなのか?」

「へぇ、あかりもおんなじ道なんやな」

「今まで会ったことはなかったので意外ですね」

 

 

 あかりの言葉に竜たちは少しだけ驚いた表情になる。

 まぁ、今まで普通に通ってきて見かけたこともなかったので、同じだということが本当に意外だったのだ。

 3人が驚く中、葵だけは考えるような表情になりながらあかりをチラリと見る。

 

 

「・・・・・・・・・・・・絶対にあの家だ」

「うん?葵、なんか言うた?」

「ううん、なんでもないよ。お姉ちゃん」

 

 

 あることに思い至った葵はポツリと呟く。

 葵がなにかを呟いたことに気がついたのか、茜は首をかしげながら葵に尋ねる。

 茜の言葉に葵は首を横に降って誤魔化した。

 

 

「ゆかり先輩たちはどの辺りに住んでるんですか?」

「私はまだ少し先の“清花荘”に住んでますよ」

「うちと葵もやな」

「スーパーも近いから立地は本当に良いよね」

 

 

 自分だけ聞かれたことが気になったのか、あかりはゆかりたちがどこに住んでいるのかを尋ねる。

 あかりに尋ねられ、特に隠す意味もないのでゆかりたちは普通に自分たちの住んでいる場所を答えた。

 

 

「ああ、あそこだったんですね。管理人のセイカさんも良い人ですし」

「お、なんや知っとるんか?」

「ええ、まぁ、“清花荘”を管理している管理人のセイカさんってもともとは紲星グループの社員だったんですよ」

「え?じゃあ、なんで“清花荘”の管理人をやってるの?」

「どう考えても社員の方が給料とかも良さそうですよね?」

 

 

 “清花荘”の名前を聞いたあかりは頷きながら呟く。

 あかりの呟きに茜が反応し、不思議そうに尋ねた。

 

 “清花荘”の管理人である京町セイカ。

 彼女の驚きの経歴にゆかりたちは驚いてあかりに詰め寄ってしまう。

 

 アパートの管理人と超大手の企業の社員。

 どちらの方が収入が良く、安定した職種かと尋ねられたら答えは聞くまでもないはずだ。

 

 

「ええと、その辺りはお父さんと話して決めたらしくて私もそこまで詳しくは知らないんですよ」

「なんや、そうなんか」

「でも、セイカさんが紲星グループで働いていたってのは本当にビックリしたね」

「一応、今でもうちに席は残しているらしいので本当に優秀だったんだと思いますよ」

 

 

 思わぬところからの思わぬ情報に驚きつつ、竜たちは竜の家の前に到着した。

 そして、ここであかりが立ち止まり、竜の家の向かいの家に向かっていった。

 

 

「それでは、また明日です!」

「おう!・・・・・・って、ちょい待ちい?!」

「・・・・・・え、そこがあかりさんの家だったんですか?!」

 

 

 手をあげて家の中へと入ろうとするあかりに思わず茜とゆかりはツッコミをいれる。

 あまりにも自然に家に入ろうとしていたため、状況を理解するのにほんの少しだけ時間をくってしまっていた。

 

 

「やっぱり、そうだったんだ・・・・・・」

「葵は気づいてたのか?」

「まぁ・・・・・・、工事の幕を見たときから、ね」

 

 

 そこまで驚いておらず、むしろ納得したような表情の葵に竜は尋ねる。

 竜の言葉に葵は乾いた笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第91話

 

 

 

 

 竜の家の向かいの家があかりの家だと判明し、茜とゆかりは思いきりあかりに詰め寄る。

 3人のそんな様子を竜と葵は少しだけ離れた位置で見ていた。

 

 

「デカい家だとは思っていたが、紲星グループの家なら納得だわな。葵はどうして気づいたんだ?」

「えっと、工事のときにかかってる幕があるでしょ?あれに紲星グループのマークが描いてあったからもしかしたらって思ってたんだ」

 

 

 工事をしているときにも思っていたことだが、あらためて竜はあかりの家を見渡して呟く。

 一般家庭にはまず建てることが難しいと分かるほどの大きさの家だが、それも紲星グループの家だと分かってしまえばむしろ普通なようにも感じてしまう。

 一通りあかりの家を見渡した竜は葵に尋ねる。

 竜の言葉に葵は竜の家の向かいの家があかりの家だと気づいた理由を話した。

 

 

「もしかしたら建築会社が紲星グループなだけなのかとも思ったけど家の大きさ的に、ね?」

「ああ、たしかに」

 

 

 葵の言葉に納得したのか、竜はしきりに頷いた。

 いつの間にか3人の会話が終わったようであかりは家の中へと入っていった。

 

 

「終わったか。んじゃ、行くぞー!」

「ヤッデッヤデデデ、カーンッ!」

「いや、お姉ちゃん。急にボケられても困るんだけど・・・・・・」

「たまに動画とかで見ますけど元ネタはなんなんでしょうね?」

 

 

 竜の言葉に合わせて茜が効果音のようなものを言う。

 茜の言った効果音に葵は呆れた表情を浮かべ、ゆかりは茜の言った効果音の元ネタがなんなのかを考え始めた。

 

 ちなみに茜の言った効果音の元ネタは『ロマンシングサガ ミンストレルソング』に登場する『カール・アウグスト・ナイトハルト』というキャラクターのテーマ曲であり、他にも『コレガワカラナイ』や『体に触るぞ』などの名言もあったりする。

 

 そしていつものように竜は茜、葵、ゆかりの3人を送るために一緒に“清花荘”へと向かうのだった。

 

 

「モンハンもある程度やってるとやることがなくなってくるんだよなぁ・・・・・・」

「せやねぇ、メイン武器を各属性揃えたらあとはモンスターを適当に狩るくらいやもんな」

「ボクもお姉ちゃんも武器は作り終わってるし、最近はマム・タロトかムフェト・ジーヴァくらいしかやらないから倒し方もワンパターンになっちゃうしね」

「属性武器なら煌金、攻撃力重視なら覚醒武器ですからね。生産するにしても防具くらいでしょうけど、だいたいはムフェト一式かカイザーとブラキの複合ですから代わり映えもしませんし」

 

 

 歩きながら最近のモンハンについての話を竜たちはする。

 基本的に、竜たちは全員がマスターランク100に到達しており、葵はともかくとして竜たちはほとんどのモンスターを狩っているのだ。

 なお、最も狩られていないモンスター(ヴォルガノス)は除く。

 

 

「まぁ、本当にやり込んでる人なら導きの地とか珠集めとかをやるんだろうけどな」

「うちらはそこまでやり込む派でもないしなぁ」

「使いたい武器を作ってそれで戦えれば充分ですもんね」

 

 

 竜たちのプレイは楽しめればオッケーというエンジョイ勢のやり方なので、やり込んで最高の武器や防具、装飾品などを揃えている人たちに比べればはるかに装備としては不十分である。

 まぁ、それはあくまでやり込んでいる人と比べてなので、普通の人からしたら充分すぎる装備なのだが。

 

 

「そういや、近々新しいモンスターが追加だったか?」

「そういえばそんなのあったね。追加されたらボクたちも狩りにいく?」

「防具や武器も気になりますし。良いんじゃないですか?」

「どんなデザインの装備がくるのか楽しみやなぁ」

 

 

 モンハンに新しく追加されるモンスターに思いを馳せながら竜たちは帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第92話

 

 

 

 

 注文を受け、キッチンから準備された食べ物や飲み物を注文した客のもとへと運んでいく。

 客のもとに運ぶ際に気をつけることは食べ物を落としたり、飲み物をこぼしたりしないようにすること。

 しかし、落としたりしないように気を付けて運ぶのに時間がかかってしまえばせっかくの食べ物や飲み物も冷めてしまう。

 いかにバランスをとって冷まさないように素早く移動できるか。

 それが喫茶店やレストランなどでのホールのスタッフの仕事の極意といえるだろう。

 

 

「お待たせしました。“スターゲイジーパイ”です。ごゆっくりどうぞ」

 

 

 注文された料理をテーブルに運び、竜はホッと息を吐く。

 竜がマキの家の喫茶店“cafe Maki”で数日。

 初日では慣れない仕事に慌ててしまい、マキの手助けがあったお陰でなんとか乗り越えたといった感じだったが、徐々に慣れてきたのかそこまで慌てるような事態は起こらなかった。

 

 

「竜くん、お疲れー」

「ああ、マキ。お疲れさん」

 

 

 店内を見渡して空いたテーブルの片付け、空になったコップへの水のおかわり等々。

 客からの注文がなかったとしてもやることはたくさんある。

 空いたテーブルの上に置いてある食べ終わった食器を竜がキッチンに運んでいると、マキがヒラヒラと手を振りながら声をかけてきた。

 

 

「どう?バイトはけっこう慣れてきた?」

「そうだな。完璧とは言えないけどけっこう慣れてきたと思うぞ」

 

 

 竜の持ってきた食器を受けとり、マキは竜に尋ねる。

 それと同時にマキは竜から受け取った食器を洗い始めた。

 あまりにも自然で無駄のない動き。

 手もとを見ていなければ見逃してしまっていただろう。

 

 話しかけながら食器を洗うマキに驚きながら、竜はマキの質問に答えた。

 

 

「そっか、それならよかったよー」

「まぁ、慣れ始めが一番怖いんだけどな。」

 

 

 どんなことでも慣れ始めの時期がもっとも注意をしなければならない。

 慣れてきたからと手を抜いて油断して失敗する。

 これは決してやってはならないミスだろう。

 そんなことが起こらないように竜は軽く深呼吸をして意識を引き締めるのだった。

 

 

「あ、そうだ。今日はうちで晩御飯は食べてかない?」

「・・・・・・はい?」

 

 

 ふと、マキはついでとばかりに竜に尋ねる。

 マキの言葉に竜は驚き、間の抜けた声を出しながらマキを見返した。

 呆けた表情を浮かべている竜にマキは思わず吹き出してしまう。

 

 

「えっと、なんでそうなったんだ?」

「んー、特には理由はないかなぁ」

 

 

 なぜ急にそんな話が出たのか。

 意味が分からず竜はマキに尋ねた。

 竜の言葉にマキはニコリと笑いかけながら答えた。

 裏を感じさせないその笑顔から、マキが本当になんの理由もなく竜を誘っているのだろうということがうかがえた。

 

 

「まぁ、仕事が終わるまでに決めておいてよ」

「あ、ああ・・・・・・」

 

 

 いつのまにか食器を洗い終えていたマキはそう言ってホールへと向かっていく。

 残された竜はどうしたものかと頭を悩ませそうになったが、すぐに違う仕事があることを思い出してマキを追うようにホールへと向かっていった。

 

 そんなマキと竜のやり取りを見ていたものがキッチンに1人。

 マキの父親だ。

 

 父親は基本的に調理担当なためキッチンにいることが多い。

 そのために先ほどのマキと竜のやり取りを見ることができたのだ。

 

 

「くっ・・・・・・、マキ、今まで誰かを晩御飯に招くなんてしたことなかったのに・・・・・・」

 

 

 悔しさと恨めしさの入り交じった視線をキッチンからホールにいる竜へと父親は向ける。

 

 ちなみに、マキが竜を晩御飯に誘った理由だが。

 これは最近の竜の昼食や話で聞いた朝食や晩御飯の内容からちゃんとしたものを食べさせないといけないという母親のような謎の責任感からだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第93話

 

 

 

 

 トントンと包丁の音が聞こえ、それと一緒になにかを焼くような音も聞こえる。

 調理する音を聴きながら竜は椅子に座っていた。

 竜が今いるのは弦巻家の食卓。

 目の前に座っているマキの父親からの視線に竜は気まずさを感じていた。

 

 

「・・・・・・えっと」

「竜くん、仕事には慣れてきたかな?」

 

 

 ジッと見てくる父親に竜が冷や汗を流していると父親が話しかけてきた。

 バイト中にマキが聞いてきたことと同じことを父親は聞いてきた。

 まったく同じことを聞いてきたマキと父親に、竜は親子なんだなぁと思わず笑ってしまう。

 

 

「どうかしたのかい?」

「いえ、すみません。仕事をしてるときにマキも同じことを聞いてきたもんで・・・・・・」

 

 

 急に笑った竜に父親は不思議そうに声をかける。

 父親の言葉に竜は謝り、つい笑ってしまった理由を答えた。

 竜の言葉から、自分が娘であるマキと同じことを聞いたということを知り、父親は少しだけ嬉しさと恥ずかしさの混ざったような表情を浮かべて顔を逸らす。

 

 

「そ、そうかい・・・・・・」

「えっと、仕事についてですけど大分慣れてきたとは思ってます」

 

 

 マキにも言ったことと同じことを竜は父親に言う。

 竜が仕事に慣れてきていることは仕事ぶりからも理解はしていたが、それでも本人の口からちゃんと聞くことにも意味はある。

 

 なお、マキの父親が竜のことを見ていた理由はバイトとして働きが気になるから。

 というわけではなく、マキに不埒なおこないをしないかの監視として見ていたからだ。

 

 

「慣れてきたなら良かったよ。それに、マキに変なこととかもしてないみたいだしね」

 

 

 ここ数日の竜の仕事の様子からマキに対しても普通に友人として接している姿を見ており、父親の中では竜に対しての警戒心が少しだけ下がっていた。

 竜とマキの父親が会話をしていると、いつのまにか調理をしている音が聞こえなくなっていた。

 そしてマキとマキの母親が料理を持ってきた。

 

 

「お待たせー」

「マキちゃんが手伝ってくれたからとても楽だったわぁ」

 

 

 マキとマキの母親が両手にそれぞれ持ってきたのはオムライスだった。

 しれっとケチャップでハートマークが描かれている辺り、勘違いしても仕方がないだろう。

 まぁ、マキからすれば可愛いかと思って描いただけなのだが。

 

 

「私とお母さんの特製オムライスだよー」

「おお、かなり旨そうだな」

 

 

 そう言ってマキは自分と竜の前にオムライスを置いていく。

 それと同時にマキの母親も自分と父親の前にオムライスを置いた。

 

 マキが竜の前にオムライスを置いたことに父親はピクリと眉を動かしたが、とくになにかを言うことはなかった。

 

 

「ハートを描いたのか。俺じゃなかったら勘違いしてたかもな」

「えへへー、可愛いでしょー?」

「マキちゃんはオムライスだといつもハートを描くものね」

「・・・・・・・・・・・・うん。そうだ、マキにハートを描いた深い意味はないんだ・・・・・・」

 

 

 オムライスに描かれているハートに竜は思わず苦笑しながら言う。

 竜に言われ、マキは自慢気に笑った。

 どうやらマキがオムライスにハートを描くのはいつものことなようで、母親は微笑ましそうにマキのことを見ていた。

 

 その隣では父親が自分に言い聞かせるように小さく呟いていたが、誰も気にしていない。

 

 

「さ、冷めちゃう前に食べよう」

「それもそうだな」

「そうね。ほら、食べるわよ?」

「ん、ああ、分かったよ」

 

 

 そして4人は手を合わせて食事を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第94話

 

 

 

 

 マキとマキの母親の作ったオムライス。

 それは卵の部分がキレイな黄色をしていて焦げなどが見つからず、ケチャップの赤と合わさってとても鮮やかな色合いをしている。

 

 スプーンを取り、そっと卵の部分に差し込む。

 ほんの少しだけ卵の抵抗を感じたものの、あっさりとスプーンは卵の中へともぐり込んでいった。

 そして、スプーンですくったオムライスのほんのわずかな重さを感じながら持ち上げればケチャップによって赤く染められたご飯が姿を現す。

 そしてよく見ればケチャップライスの中にご飯以外のものが入っていることに気がつくだろう。

 それは細かく刻まれたニンジンやベーコン、ピーマンなど色々なものが混ぜ込まれていた。

 栄養のバランス的にご飯だけよりも良いだろう。

 

 

「うまっ!」

「喜んでくれて嬉しいわね」

 

 

 オムライスを口に運んだ竜は思わずといった様子で言葉をもらした。

 竜の言葉に母親は嬉しそうに微笑む。

 その微笑みは親子だけあってかマキとそっくりだった。

 

 

「ね?お父さんだけじゃなくてお母さんの料理も美味しいんだよ」

「でもマキも手伝ったんだろう?」

 

 

 竜の言葉にマキは頬にケチャップをつけながら自慢気に答える。

 マキの頬についているケチャップに父親は笑いながら、マキも手伝っていたことを言った。

 

 

「えー、でも私は野菜とかを切っただけだよ?」

「だけ、じゃないわぁ。食材を切るだけでも料理する人の技術は出るものなのよ?」

 

 

 父親の言葉にマキは不思議そうに首をかしげる。

 自分は野菜を切っただけで調理をしたのは母親。

 切るだけならば誰にでもできるし、切り方もちゃんと調べてしまえば間違えることもない。

 そんなマキの言葉を母親は否定した。

 

 

「そうかなぁ?」

「んー、少なくとも私とお父さんは美味しいと思ってるわよぉ?」

 

 

 不思議そうなマキに母親は微笑みながら答える。

 首をかしげるマキを微笑ましそうにマキの両親と竜は見ていた。

 

 両親だけでなく竜にまで微笑ましそうに見られていることに気づいたマキは、恥ずかしそうに頬を赤く染めてオムライスを食べることに集中するのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 マキの家での晩御飯も食べ終わり、竜はマキの家の前にいた。

 帰る竜を見送るためにマキも玄関前に出てきている。

 

 

「晩御飯のオムライス、とても旨かったよ。前にマキからお弁当を分けてもらったときにも思ったけどやっぱりマキも料理が得意なんだな」

「むぅ、竜くんまでそんなこと言って」

 

 

 竜の言葉にマキは頬を膨らませる。

 晩御飯の時に母親に言われたことのように竜にからかわれているとマキは思っていた。

 

 

「ちょっと暗くなってるから帰り道は気をつけてね?」

「ははは、そんなに心配するようなこともないと思うけどな」

 

 

 頬を膨らませていたマキだったが、すぐに頬をしぼめて周囲を見渡した。

 時間もそこそこに経っていたために周囲は暗く、ここから家へと帰る竜のことをマキは心配していた。

 マキの言葉を竜は軽く笑い飛ばしながら答えた。

 

 

「マキとか可愛い子なら兎も角、俺みたいなのは襲われたりなんかしないから大丈夫だよ」

「か、可愛い?!」

 

 

 とくに深く考えているわけでもない竜の言葉にマキは驚いてしまう。

 まさか面と向かって可愛いなどと言われるとは思っていなかったため、これはマキにとって予想外のことだった。

 

 

「も、もう!いきなりそんなこと言われたら恥ずかしいよ!」

「お、おう、すまんな」

 

 

 驚きと恥ずかしさでほんのりと赤く染まった頬のままマキは竜に言う。

 マキの言葉の勢いに押されて竜は謝った。

 

 

「んじゃ、帰るわ。また明日な」

「うん、また明日」

 

 

 そう言って竜は自宅への帰路についた

 自宅へと向かって歩く竜の姿をマキはしばらく見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第95話



最近、なぜか“カノんごの歌”とかが頭の中でリピートされてます。

他のやつも替え歌なのに中毒性ヤバくないですか?




 

 

 

 

 午前中の授業が終わった、ある日のお昼休み。

 学生たちは思い思いの場所で昼食を取り、友人たちと会話を楽しむだろう。

 それは竜たちも同様で、いつものように竜たちは集まってお弁当を広げていった。

 

 

「あ、やべ」

「ん?どうしたんや?」

 

 

 茜たちがお弁当を広げていっていると不意に竜がスクールバッグの中を見ながら声をもらした。

 竜の発した声に茜たちは不思議そうに竜を見る。

 

 

「いや、今日の朝に昼飯を買う予定だったのをすっかり忘れて学校に来ちまってな」

 

 

 うっかりといった様子で竜は頭を掻きながら今日の昼食がないことを言う。

 そして竜は昼食を買うために購買に向かおうと椅子から立ち上がった。

 

 

「あ、竜くん。待った待った」 

「うん?」

 

 

 購買に向かおうとしていた竜をマキは引き留める。

 マキに引き留められ、竜は不思議そうにマキを見た。

 また、不思議そうにマキを見ているのは竜だけではなく、茜たちも同じように竜を見ていた。

 

 

「はいこれ」

「・・・・・・え?」

 

 

 そう言ってマキが差し出してきたのは花柄の布に包まれた長方形のもの。

 マキの差し出してきたものを受け取って竜はポカンとした表情になる。

 

 

「ちょ、え、ま、マキさん?!」

「どしたの?ゆかりん」

 

 

 マキが竜に渡したものの正体を理解したのか、ゆかりは思わずマキに詰め寄る。

 ゆかりほどではないが茜と葵の2人も驚いた表情でマキを見ていた。

 ゆかりに詰め寄られ、マキは不思議そうに首をかしげる。

 

 

「マキさんが竜くんに渡したのってまさか・・・・・・」

「ああ、あれ?」

 

 

 竜の手にある花柄の布に包まれたものを指差しながらゆかりはマキに尋ねる。

 竜は受け取ったものを机の上に置き、布を広げてその中身をあらわにした。

 花柄の布の中から出てきたのは長方形の箱。

 これだけでどれだけ察しの悪い人でもマキの渡したものの正体に気づくだろう。

 

 マキが竜に渡したもの。

 

      それは────

 

 

 

 

 

 

        「あれはね。お弁当だよ」

 

 

 

 

 

 マキの口からハッキリと言われた言葉に茜、葵、ゆかりの3人は驚き固まってしまう。

 竜に対して恋愛感情はないと言っていたはずのマキの行動に3人の頭の中は疑問符で埋め尽くされてしまった。

 

 

「えっと、良いのか・・・・・・?」

「うん。最近の竜くんの食べてるものを聞いたら、ね?」

 

 

 マキから受け取ったもの、お弁当箱のふたを開いて中を確認する。

 お弁当箱の中に入っていたのはご飯と卵焼き、ブロッコリー、唐揚げなどの美味しそうなおかずだった。

 美味しそうなお弁当に竜はマキに確認をとる。

 

 

「最近って、別に普通に────」

「パンと麺類、それとコンビニとかのおにぎりばっかりでしょ。ちょっと前に注意したはずなのにぜんぜん直らないんだもん」

「────うぐぅ・・・・・・」

 

 

 マキの言葉に普通に食べていると反論しようとした竜だったが、あっさりとマキに切り捨てられてしまう。

 たしかに竜の最近のご飯はマキの言うとおりパンや麺類、コンビニのおにぎりやお弁当などがほとんどを占めている。

 ときたまちゃんとしたものを食べるときもあるが、それは基本的に茜に誘われて晩御飯を一緒にする時くらいだ。

 

 

「じゃあ、ありがたくもらうけど・・・・・・」

「そうしてよ。あ、お弁当箱は持ち帰るから気にしないでね」

 

 

 お弁当を作ってもらったことに申し訳なさを感じながら竜はマキからもらったお弁当を食べ始めた。

 竜がお弁当を食べ始めたのを満足そうにマキは見ると自分のお弁当を食べ始める。

 そして、竜とマキが食べ始めて少ししてから茜たちは動き出して自分たちの食事を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第96話





 

 

 

 

 マキに渡されたお弁当のおかずを口に運ぶ。

 最初に口に運んだのは卵焼き。

 

 以前にもマキの卵焼きは食べたことがあり、そのときの卵焼きはほんのりと甘さを感じられるものの卵本来の味を殺さずに見事に調和がとれており、ほどよい固さで見た目もとてもキレイな卵焼きだった。

 

 しかし今回の卵焼きも同じかと言われれば首を横に振るのは間違いないだろう。

 その理由として、以前の卵焼きがほんのりとした甘さだったのに対して今回の卵焼きは甘さの種類が異なっていたのだ。

 以前の卵焼きは砂糖や出汁、卵本来の甘さを使ったものだったのだろうが今回の卵焼きは違う。

 今回の卵焼きの甘さは“野菜”を使った甘さなのだ。

 卵の色を変えてしまわない程度に野菜の量を抑え、それでいて野菜本来の甘味を逃さないように調理する。

 マキは普通にお弁当に入れているが、どう考えても簡単に作れるような卵焼きではなかった。

 

 

「たぶんだが・・・・・・、ニンジンか?」

「あ、正解だよ。一応、他にも入れてるんだけど分かるかにゃぁ?」

 

 

 卵焼きの味から入っているであろう野菜を言うとマキは嬉しそうに笑った。

 食感で分かるのではないかと思うかもしれないが、どうやら野菜はすべてミキサーで細かくしているようで食感ではどんな野菜が入っているのかがまったく分からないのだ。

 マキの言葉に竜は残りの入っている野菜を当てるために目を閉じて卵焼きの味に集中するのだった。

 

 

「むむむ・・・・・・、なにやらマキさんと竜くんが良い雰囲気のような・・・・・・」

「せやね、マキマキは竜のことは友だちと思ってるって言うとったんやけど・・・・・・」

「正直、お弁当を作ってるのを見ると信じられないよね・・・・・・」

 

 

 竜とマキの会話を聴きながらゆかり、茜、葵の3人は顔を見合わせる。

 あかりに始めて会ったときに言われた言葉は否定していたが、今の状況を見るとその言葉を信じることはできなかった。

 

 

「・・・・・・とりあえず様子見、ですかね?」

「まぁ、マキマキがどう思ってるのかは分からんしな」

「それしかないよね・・・・・・」

 

 

 卵焼きに入っている他の野菜の味を探そうと目を閉じて集中している竜の頬をプニプニとつついて楽しそうにちょっかいをかけるマキを見ながらゆかりたちはひとまず様子見をすることに決めた。

 そして、3人は竜とマキの様子を見ながらお昼御飯を再開するのだった。

 

 

「ぬぅ・・・・・・、た、玉ねぎとか入ってないか?」

「うん。またまた正解だよ」

 

 

 マキに頬をつつかれながら卵焼きに入れられている野菜を考えていた竜は、先ほど挙げたニンジンとは違う野菜を言う。

 どうやらその野菜も正解だったようで、マキはパチパチと軽く拍手をした。

 はたから見るとカップルのようなやり取りにゆかりたちは思わず使っている箸を握り折ってしまいそうになる。

 まぁ、茜や葵も知らず知らずのうちに似たようなやり取りをしていることがあるのだが、本人たちにその自覚はなかった。

 

 

「正確には炒めてあめ色になった玉ねぎなんだよ。残りは1つだけど、分かった?」

「・・・・・・いやぁ、無理だな。最後って言われてもぜんぜん分かんないわ」

 

 

 チョキチョキと指を2本立てて動かしながらマキは竜に最後の野菜が分かるかを尋ねる。

 マキの言葉に竜は少しだけ考えるように首を傾けるが、最後の野菜が思い浮かばなかったのか降参して手をあげた。

 

 

「ふふふ、最後の野菜はね。でけでけでけでけでけでけでけでけ・・・・・・じゃじゃん!キャベツでした!」

「キャベツ?!」

 

 

 卵焼きにマキが入れていた最後の野菜がキャベツだと知り、竜は驚いて卵焼きをまじまじと見る。

 野菜が入っているということは分かっていたが、それでもキャベツが入っているというのは本当に予想外だったのだ。

 驚いて卵焼きを見る竜の姿にマキは嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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