変わった生き物を拾いました (竜音(ドラオン))
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第33話(エイプリルフール)



エイプリルフールです。

この内容は本編とは関係ありません。

第32話から続くように書いてあります。


 

 

 

 

 背後に立つあかりに茜、葵、ゆかり、マキの表情は固くなる。

 いつのまに自分達の背後に移動したのか。

 その方法が分からず、4人の頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。

 

 

「あれ?もしかして分からなかったですか?」

 

 

 心底不思議だと言うかのようにあかりは言う。

 その言葉は世間話でもするかのように軽く。

 先ほどの移動があかりにとって些事であることの証明であった。

 

 

「今・・・・・・、なにをしたんや・・・・・・」

「なにを、と言われましても。歩いて(●●●)移動しただけですよ?」

 

 

 恐る恐ると振り返り、茜は尋ねる。

 

 分からない。

 

 それは恐怖の対象であり、知性のある生き物が恐れるものの1つ。

 その逆で知っているがゆえに恐ろしいと言うこともあるが、それでも知らないことへの恐怖の方が強いことは間違いないだろう。

 

 茜の言葉にあかりは首をかしげながら答える。

 あかりの答えに4人は叫びたくなる衝動をこらえる。

 

 歩いて移動しただけ?

 

 もしもそれが本当ならばなぜ4人で見ていたはずなのに全員が見逃してしまったのか。

 あかりがどのようにして移動したのかを4人はあかりから視線を逸らさずに思考していく。

 

 

「なるほど。先輩たちはその程度でしたか。では、正確にどの程度なのかを知るためにちょっと────」

 

 

 言葉の途中であかりの姿が再び消える。

 

 

「わぁ」

 

 

 そして聞こえてきた小さな声と同時に、ゆかりの背後へとあかりが現れた。

 

 

「────叩き潰させてもらいますね」

「え、うぐぅっ?!」

「ゆかりん?!」

「「ゆかりさん?!」」

 

 

 背後から聞こえてきたあかりの声に反応してゆかりが振り返るのと、ゆかりの頬にあかりの拳がめり込むのは同時だった。

 ゆかりが殴り飛ばされたことに驚き、3人は声をあげる。

 

 

「いきなりなにをするんや?!」

「言ったじゃないですか。先輩たちの強さを見るために叩き潰させて貰うんですよ」

 

 

 ヒラヒラと手を揺らしながらあかりは茜の声に答える。

 直後、ゆかりの吹き飛んだ先から衝撃音が聞こえてきた。

 

 

「頭に、きました・・・・・・。行きなさい!『ヴァイオレット・ムーンキャット』!」

「なるほど、スピードタイプなんですね。『スターボンド・ライト』」

 

 

 ゆかりの言葉と同時にゆかりの体から紫色の猫のような生き物が現れてあかりへと向かっていった。

 生き物はあかりの近くにいくと前足を使って連続でパンチを繰り出していく。

 その速度は早く。

 プロのボクサーですら目で追うことは難しいだろう。

 生き物のパンチを防ぎながらあかりはその特性を見抜く。

 そしてあかりの体から巨大な花が出現した。

 花は葉っぱや蔓を使って生き物を拘束していく。

 

 

「もう十分です。寝ててください」

「あぎぃっ?!」

 

 

 拘束した生き物を一瞬で絞め潰し、あかりはゆかりから視線を離す。

 生き物と痛覚が連動していたのか、ゆかりは血を口から吐き出して意識を手放した。

 

 

「さ、次です。おや?」

「いやや、うちは使いたない・・・・・・。いやや・・・・・・」

 

 

 次の獲物は誰にしようか。

 そんな調子であかりが3人を見ると、茜が座り込んで頭を抱えていた。

 その体は震えており、なにかに怯えているようにも見える。

 

 

「なにに怯えているのか分かりませんが、ちゃんとやってくださいよ」

「ぎっ?!い、いやや・・・・・・」

 

 

 花の蔓に打ち払われ、茜は短く悲鳴をあげる。

 それでも茜はなにかを嫌がるように頭を抱える。

 

 

「お姉ちゃん!」

「葵ちゃん、1人じゃ危ないよ!」

 

 

 茜に蔓が振るわれたのを見て、葵は声をあげてあかりへと向かっていく。

 その後をマキも追っていった。

 

 

「お姉ちゃんに手出しはさせない!『アクアブルー・ジェリー』!」

「ああ、もう!『ウールースフィア』!」

 

 

 葵の体から青色のクラゲのような生き物が、マキの体から黄色の毛玉のような生き物が現れた。

 2匹の生き物はあかりへと向かっていく。

 

 

「・・・・・・もう、邪魔しないでくださいよ」

「ああぁあぁあぁあっ?!」

「きゃああああああっ?!」

 

 

 無造作に振るわれた花の蔓によって2匹の生き物は壁へと叩きつけられてしまう。

 痛みへの耐性がなかったのか、葵とマキの2人は意識を失ってしまった。

 

 

「嘘や、みんな・・・・・・。嘘や・・・・・・」

「さぁ、最後はあなただけですよ」

 

 

 意識を失い、倒れている3人の姿に茜は呆然と呟く。

 そんな茜の近くへと移動し、あかりは微笑みかける。

 強者の微笑みはそれだけで弱者への威嚇となる。

 あかりの微笑みを見た茜は這いずるようにしてあかりから逃げ出した。

 

 

「・・・・・・はぁ。こうなったら誰かに死んでもらわないとダメですかね?」

 

 

 逃げていく茜の姿を見てあかりは呟く。

 戦いもせず逃げ出していく弱者。

 それは紲星あかりが嫌うものの1つだった。

 

 

「な、ま、待ってや!」

「待ちません」

 

 

 あかりの言葉が聞こえた茜は声をあげるが、あかりはその言葉を一言で切り捨てる。

 そして鋭く尖った蔓で葵に狙いを定めた。

 

 

「あなたのせいで1人死ぬんです」

 

 

 その言葉と同時に蔓が矢のように放たれた。

 

 

 ────待って!

 

 

 蔓は真っ直ぐに葵へと向かっていく。

 

 

 ────止まって!

 

 

 その一撃は簡単に葵を貫き、その命を散らすだろう。

 

 

 ────殺さないで!

 

 

 自分の目の前で妹の命が消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       それは、到底許せるものではない。

 

 

 

 

「『メルトレッド・スライミー』!!!」

 

 

 茜の言葉と同時に茜の体から液体のようなものが蔓へと向かっていった。

 液体は蔓が葵の体を貫くよりも先に蔓に到達する。

 

 

「ぐぅっ?!これはっ?!」

 

 

 ジュワリ、液体が触れた瞬間、蔓は煙をあげて完全に溶け去っていった。

 蔓が溶けたことによる痛みにあかりは顔を歪め、茜へと視線を向ける。

 

 そこにいたのは先ほどまでの逃げ腰だった茜とは似て非なるもの。

 妹を、友達を守るために覚悟をもって立ち上がった者。

 

 あかりへと真っ直ぐに視線を向け、茜は口を開く。

 

 

 

 

「覚悟はええか?・・・・・・うちはできとる」

 

 

 

 

 

 /|__________

〈  To Be Continued...|

 \| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

 

 

 

 




最近、ジョジョの五部を見て面白かったのでやってしまいました。

しばらくしたらタイトルを変えて一番上に移動します。




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番外話・クリスマス


書く予定はなかった・・・・・・

なかったのに・・・・・・

書いちゃう、悔しい・・・・・・

書き始めたら2時間で書き上げられるとは思ってもいませんでした。

こちらが私から皆さまへのクリスマスプレゼントとなります。




 

 

 

 

 街が様々な飾りによって彩られ、イルミネーションの光がまたたく日、クリスマス。

 竜たちはあかりの家でパーティーの準備をしていた。

 あかりの家でやるのであればわざわざ自分たちで準備をする必要はないのではないかと思うかもしれないが、こういったことは自分たちの手で準備をするからこそ楽しさも増していくものなのだ。

 

 

「走れソリよ~。風のように~」

「リア充を~、跳ね飛ばしてぇ~」

「いや物騒だな?!」

 

 

 部屋の飾りつけをしながら竜がクリスマスの定番ともいえるような歌を歌っていると、かなり物騒な歌詞がつなげられた。

 いきなりがらりと雰囲気の変わった歌詞に竜は思わずツッコミを入れる。

 竜のツッコミに歌詞を変えた本人、茜は不思議そうに首をかしげる。

 

 

「何を言っとるんや。クリスマスに外を出歩いているのなんてインスタ映えを狙っている陽キャかカップルのリア充くらいなもんなんやで?」

「いや、そんなん言ってたらクリスマスパーティーをする俺たちも十分にリア充になるんじゃないか?」

 

 

 この日にインスタを開けばどこを見てもリア充集めの木(クリスマスツリー)の写真かケーキの写真、もしくは恋人と映っている写真。

 そんな見るからにインスタ映えを狙っている写真が一気に増加するのだ。

 仮に茜が好きな人と2人きりで過ごしているのであればこんな感想も出なかったのだろうが、今日はあかり、竜、茜、葵、ゆかり、マキ、イタコ、ずん子、きりたん、ついな、ひめ、みこと、ウナの合計13人でのクリスマスパーティー。

 別にパーティー自体に文句はないのだが、それでも愚痴が出てしまうのは乙女心的に仕方がないことなのだ。

 

 

「ジングルベール、ジングルベール」

「はらが~鳴る~」

「今度はあかりか・・・・・・」

 

 

 残りの飾りつけは茜に任せて良いだろうと判断した竜が別の場所に移動して歌いながら飾りつけをしていると、先ほどと同じように本来の歌詞とは違う歌詞がつなげられた。

 明らかに食い意地の張ったような歌詞に竜は振り返る。

 竜が振り返るとそこにはイタズラっぽく舌を出したあかりがいた。

 

 

「えへへ、でもクリスマスの料理ってなんだかワクワクしませんか?」

「それは分かるな。イメージ的にはチキンとかが定番だが。とりあえず洋食っていうイメージもあるな」

「ですね。でもそうなるとイタコ先生と生徒会長はどんな料理を作るんでしょうね?」

 

 

 クリスマスパーティーの料理は紲星(きずな)家で働いている料理人たちが作ってくれているものもあるのだが、それとは別にマキ、イタコ、ずん子の3人も料理をしている。

 ここで料理が得意なはずの茜がなぜ料理の方に行っていないのかが気になるかもしれないが、その理由にそこまで深いものはなく、作れる料理が紲星家の料理人と被ってしまっていたからである。

 なので茜は料理のグループではなく飾りつけのグループにいるのだ。

 

 ちなみに、きりたん、ついな、ひめ、みこと、ウナの子供グループ(?)は別室にて遊んでおり、竜たちは飾りつけに専念することができていた。

 

 クリスマスパーティーの料理が気になるのか、あかりはうっとりとした表情を浮かべながら竜に尋ねる。

 竜の中でクリスマスパーティーのイメージは、大きなクリスマスツリーがあって、テーブルには大きなチキンがドーンと置いてあり、サンドイッチなどの洋食がテーブルの上に並べられている感じとなっている。

 竜の言っているクリスマスパーティーのイメージが分かったのか、あかりはうなずいた。

 

 クリスマスパーティーとなれば基本的には洋食。

 もともとクリスマス自体が外国の催しなのでそれは当然のことなのだが、そうなってくると家的にも雰囲気的にも和風なイメージのあるイタコとずん子がどんな料理を作るのか。

 まったく想像のできないイタコとずん子の料理に、竜とあかりは飾りつけをしながら予想を言い合うのだった。

 

 

「真っ赤なお鼻の~、トナカイさんはぁ~。いっつもみんなの~」

嘲笑(ちょうしょう)のまぁと~」

「意味的に間違ってないけど悪意を感じるよ?!」

 

 

 竜があかりとの飾りつけを終えて他の場所の手伝いをしようと歩いていると、先ほどの竜と同じように歌詞を変えられた葵がツッコミを入れているところに出くわした。

 どうやら歌詞を変えたのはゆかりのようだ。

 

 

「お、こっちもほとんど終わってるのか」

「あ、竜くん!聞いてよ、ゆかりさんがトナカイを(あざけ)り笑ってるんだよ?!」

 

 

 周りを見てみればほとんど飾りつけは終わっており、手伝うことはないように見える。

 竜の言葉に葵はゆかりを指さしながら声を上げた。

 そんな葵の言葉にゆかりは素知らぬ顔で首を横に振っており、自分は何もしていませんとでも言うかのような態度をとっている。

 

 

「どういうことなのかさっぱり分からないんだが・・・・・・」

「さぁ?なんでしょうね?」

「もう!ゆかりさん!」

 

 

 竜の言葉にゆかりは首をかしげながらとぼける。

 その表情はいたずらっ子のようで、葵をからかって楽しんでいることがよくわかる表情だった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 部屋の飾りつけがすべて終わり、それと同時に部屋の中に完成された料理たちが運び込まれる。

 

 クリスマスの定番と言えるチキンに始まり、唐揚げやフライドポテト、ピザにサンドイッチ。

 そのほかにも名前が思い出せない料理やゼリーなんかが綺麗に並べられていった。

 

 

「っと、きりたんたちを呼びに行ってくるわ」

「了解やで。一応、大騒ぎとかはせんと思うけど念のために注意はしといてな?」

 

 

 並べられていく料理を見ながら、そろそろきりたんたちを呼んだ方がいいだろうと竜は判断して近くにいた茜に声をかけた。

 そして、竜はきりたんたち子供グループ(?)のいる部屋へと向かう。

 

 

「おー・・・・・・い゛っ?!」

「あ、竜お兄さんばーい!」

「おにいちゃーん!」

 

 

 きりたんたちのいる部屋の扉を開けた竜は腹部への衝撃に後方へと吹き飛ばされる。

 倒れた竜は腹部の痛みをこらえながらぶつかってきた2人を見た。

 

 

「ごほっ・・・・・・、何気ないじゃれつきと見せかけた高火力な一撃・・・・・・。この2人・・・・・・、できる!」

「いや、どこの本名不詳な主人公ですか」

 

 

 腹部に突撃をかましてきた2人、ひめとウナに咳き込みながら竜がネタを言っていると、いち早くネタの内容に気がついたきりたんがツッコミを入れた。

 その近くではついながアワアワと慌てており、その隣でみことが申し訳なさそうにペコペコと頭を下げていた。

 

 

「呼びに来たってことはクリスマスパーティーの準備が終わったってことですか?」

「あ、ああ。そうだ、よ!」

「ぬぁ?!捕まったっちゃけど?!」

「うなぁっ?!」

 

 

 きりたんの言葉に竜はうなずきながら立ち上がり、ひめとウナを小脇に抱えた。

 特にひめは放してしまわないようにしっかりと抱え込む。

 

 

「そんじゃあ、クリスマスパーティーの部屋に・・・・・・、イクゾー!」

「デッデ、デデデデッ、デデデデッ、カーンッ!」

「ええ・・・・・・、どんなノリなん?」

「さぁ、ボクにもさっぱり・・・・・・」

 

 

 竜のネタ振りにきりたんが応えながら、竜たちはクリスマスパーティーの部屋へと向かっていく。

 竜たちの様子に困惑しながらついなとみこともクリスマスパーティーの部屋へと向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜たちが部屋に戻ると、すべての準備が終わったのか、マキ、イタコ、ずん子が部屋にいた。

 扉が開いた音で竜たちが戻ってきたことに気がついたのか、茜たちは扉の方を見たが、竜がひめとウナを小脇に抱えているのを見て不思議そうに首をかしげる。

 

 

「えっと、どうしてお2人を抱えていますの?」

「いや、なんか興奮して走り出しそうな気がしたんで」

「うち、そんなことせんよ!」

「さっき竜さんに突撃したばっかりやろーもん!」

「お兄ちゃん、私もなのか?」

 

 

 竜がなぜ2人を抱えているのか、そのことが気になったイタコは代表して竜に尋ねる。

 イタコの言葉に竜はなぜこの2人を抱えているのかを簡単に答えた。

 竜の言葉が不満だったのか、ひめは抱えられながら声を上げる。

 しかしすでに先ほど興奮して竜に突撃するということをやらかしていたために信憑性はほとんどなかった。

 

 ちなみに、ウナも抱えている理由はひめだけを抱えたのではバランスが取りづらいのでついでに抱えたというだけである。

 

 

「ほらほら、もうすぐパーティーを始めるんだからさ。竜くんも2人をおろしておろして」

「おう。放すけど走ったりするなよ?」

「ボクがきちんと捕まえておきますので安心してください」

 

 

 マキの言葉に竜はうなずき、ひめとウナをおろした。

 竜の言葉にみことが素早くひめの手を掴み、簡単に移動できないようにする。

 みことの行動に竜は笑みを浮かべ、優しくみことの頭を撫でた。

 

 

「ご主人、お疲れさんや」

「ああ、いなもお疲れ様」

 

 

 ひめとウナを話した竜についなが声をかける。

 ついなは子供グループに入ってはいたが、どちらかというと子供グループの面々がなにかをやらかしたりしてしまわないか見守る役目を担っており、そのことを竜は(ねぎら)った。

 

 

「それにしてもクリスマスなぁ。なんともキラキラしてて愉快な祭事やね?」

「まぁ、楽しそうなものを全部取り込むってのも日本人の特徴みたいなもんだしな」

 

 

 ついなの言葉に竜は苦笑交じりに答える。

 クリスマスやバレンタインデー、海外の行事をなんでも貪欲に取り込み、さらには独自の文化まで発展させる。

 それこそが日本人の特徴であり、国風ともいえるもの。

 

 

「それじゃあ、クリスマスパーティーの開会を宣言しますよ!皆さん、手にコップは持ちましたか?」

「お、始まるみたいだな。えっと、コップは・・・・・・」

「ご主人、コップならここにあるで」

「準備は大変やったけど。この達成感があるからやめられんのよな」

「後片付けとかもあるけど、そのことはいまは忘れようね」

「どの料理もとても美味しそうですね」

「私もイタコ先生たちも頑張って作ったからね。ここの料理人さんたちにも負けるつもりはないよ?」

「ふふふ、こんなパーティーに呼ばれるなんて嬉しいですわね」

「そうですね。きりたんも公住くんと会えて嬉しいみたいだもんね?」

「べ、別にそんなことはないのですよ?!」

「そうなのか?ウナはお兄ちゃんと会えて嬉しいぞ?」

「うちも竜お兄さんと会えて嬉しいとよ!」

「えっと、その・・・・・・、ボクも、嬉しいです」

 

 

 あかりの言葉に竜たちは近くに置いてあったコップを手に取る。

 コップに注がれているのはジュースの方のシャンパンで、子供でも安心して飲むことができるものだ。

 

 

「それでは皆さんご一緒に・・・・・・、せーのっ!」

 

 

Merry(メリー) Christmas!(クリスマス!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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番外話・大晦日



あけましておめでとうございます。

こちら、新年最初の投稿となります。

今年も楽しく読んでいただけると嬉しいです。




 

 

 

 

 街が様々な飾りによって彩られ、イルミネーションの光がまたたいていた日からはや数日。

 その数日の間に街はまったく違う光景へとその姿を変えていた。

 

 イルミネーションによって彩られていた電信柱には赤と白の布が巻かれ、サンタクロースなどの置物が置かれていた道脇には門松が置かれている。

 ちらりと適当な店を見てみれば独楽(こま)(たこ)などの昔ながらのおもちゃが飾られていた。

 

 今日は12月31日。

 この日は1年の締めの日であり、今年1年の汚れや疲れなどを(みそ)ぎ清める日である。

 

 そんな1年の締めの日に竜たちは東北家に集まっていた。

 

 

「なんだろうなぁ、やっぱ和風建築って不思議と落ち着くよな・・・・・・」

「せやねぇ、しかもコタツでぬくぬくなんて最高やん・・・・・・」

「くぅ~・・・・・・」

「見事なまでに竜くんは溶けてますねぇ・・・・・・」

「それを言ったらゆかりさんもだよぉ・・・・・・」

「あ~、いいっすねぇ~・・・・・・」

「ふふふ、コタツは魔物なのです。一度入れば抜けることは叶わず、このまま年越しまで過ごしてしまうのですよ」

「うなぁ~・・・・・・、東北ぅ~みかん取ってくれぇ~・・・・・・」

「あ、うちもみかんが欲しいったい!」

「コタツでアイス・・・・・・、なんだか悪いことをしている気分になりますね・・・・・・」

 

 

 コタツ特有の温かさにぐてぇ、と溶けながら竜たちはポヤポヤとした口調でしゃべる。

 東北家のコタツはとても大きく、ここにはいないイタコ、ずん子、マキ、茜が座ったとしても余裕があるほどの大きさだった。

 コタツのぬくもりで溶けている竜の膝の上についなは元の姿の状態で座っており、頭の上にはイタコのキツネが乗っかっている。

 そんな竜の姿についなとキツネの姿が見えていないゆかりたちはのんびりとコタツのぬくもりを感じていた。

 竜の左右にはウナときりたんが座っており、さすがのゆかりたちでも小学生を押し退けて竜の横に座ろうとはしていなかった。

 年越しということでこんなに遅い時間なのにウナがいて大丈夫なのかと思いかもしれないが、きちんとウナの両親には説明をしており、許可も得ているので気にしなくて大丈夫なのだ。

 

 なお、あかりがどこか淫らっぽい言葉を言っているかもしれないが、これはコタツのぬくもりの感想なのでなんの問題もないのである。

 

 何の、問題もないのである。

 

 

「ふふふ、みんなしてとろけていますわね?」

「そうですね。みんな、もう少しでお蕎麦(そば)の準備ができるからコタツの上を綺麗にしておいてくれるかしら?」

「お蕎麦のつゆはイタコ先生と生徒会長、うちとマキマキの4人が作った4種類やで。あと、忘れちゃいけない天ぷらもや!」

「それぞれ少しずつ違うから楽しみにしていてね?」

 

 

 竜たちがコタツで溶けていると、台所からもう少しで年越し蕎麦の準備ができると料理をしていた4人が顔を出して言った。

 台所で料理をしているイタコの髪の色はキツネが抜けているために黒くなっており、普段の白銀の髪色とはまた違った大和撫子さを感じられ、竜は少しだけドキドキとしている。

 

 クリスマスの時とは違って、今回は茜も料理をする側に回っており、年越し蕎麦のつゆ作りと天ぷらを作っていた。

 ずん子の言葉に溶けていた竜たちは動き始め、コタツの上に広がっていたみかんの皮や、せんべいのゴミなどをゴミ箱に捨て始める。

 そうこうしているうちにイタコたちの作った蕎麦つゆが運ばれてきた。

 それと一緒に大きなざるに盛られた大量の蕎麦も運ばれてくる。

 

 

「そういえば蕎麦ってほかの麺類よりも簡単に切れるから今年1年の災厄を断ち切るって意味で食べるんだっけか」

「ほぇ?うちが知っとるんは細く長いから延命と長寿願ったものって話なんやけど」

「うんうん。長生きをするために蕎麦を食べるんだって聞いたことがあるよ?」

 

 

 ふと、竜は大晦日に年越し蕎麦を食べる理由を思い出して呟く。

 竜の言葉に茜と葵は首をかしげて、竜とは違った年越し蕎麦を食べる理由を言う。

 

 挙げられた2つの説に竜たちは不思議そうに首をかしげる。

 そんな竜たちの様子にイタコとずん子は笑みをこぼした。

 

 

「ふふふ、公住くんが言っていることも、琴葉さんが言っていることもどちらも間違いではありませんわ」

「年越し蕎麦にはいろいろな説があるんですよ。ソバは風雨に叩かれてもその後の晴天で日光を浴びると元気になる事から健康の縁起を担ぐ説や、蕎麦が体の中の毒を取ると信じられていたことに由来するとの説。家族の縁が長く続くようにとの意味であるとの説なんてのもありましたね」

 

 

 竜と茜、どちらが言った説も間違いではない。

 というよりも年越し蕎麦にはいろいろと説があるのだ。

 ずん子の説明に竜たちは感心したようにうなずく。

 

 

「あ、そういえば私もお母さんから1つ聞いたことがあったよ」

 

 

 ずん子の年越し蕎麦に関する由来の話を聞き、マキはふと自分も親から聞いた話があることを思い出した。

 マキが聞いたという話が気になり、竜たちはそろってマキの方を見る。

 

 

「えっとね、お蕎麦と(そば)にいるっていう意味の側をかけて来年も側にいようっていう意味なんだって」

「そしたらここでお兄ちゃんと年越し蕎麦を食べればウナは来年もお兄ちゃんと一緒にいれるんだな?」

「そうですね。私たち全員が側にいられますね」

「うちたちもみんなと一緒にいられるってことったいね!」

 

 

 マキの話した説にゆかりたちは頬を赤く染める。

 そんなゆかりたちの様子など気にせずにウナは竜のことを見上げながら言う。

 シレっと竜と自分だけにしているウナに、きりたんはやや口調を固くしながら訂正した。

 

 

「っと、年越し蕎麦は次の年に残してしまっては金運が逃げるとされておりますわ。そろそろ食べましょうか」

「それじゃあ、好きな蕎麦つゆを選んでいってね」

 

 

 時計を確認したイタコはそろそろ年越し蕎麦を食べようと提案をする。

 いまの時間は9時あたりで余裕はあるのだが、それでも食事を終えてから年越しを迎えたいのだ。

 

 イタコとずん子の言葉に竜たちはそれぞれ思い思いの蕎麦つゆを選んでいく。

 

 イタコの作った年越し蕎麦のつゆは(かも)肉の入った蕎麦つゆで、太い焼きネギがぶつ切りで近くに用意されている。

 

 ずん子の作った年越し蕎麦のつゆはニンジンや焼きネギ、豚肉の入っているつゆで、蕎麦つゆとして以外にも雑煮のつゆとして使えそうなものだった。

 

 マキの作った年越し蕎麦のつゆはイタコやずん子の作った蕎麦つゆと比べて色が薄く、白出汁(しろだし)を使っているのだということがうかがえ、切られたかまぼこやネギが用意されていた。

 

 茜の作った年越し蕎麦のつゆはカツオ出汁の使われた蕎麦つゆで、特にエビの天ぷらと合うように味付けをされていた。

 

 4人それぞれの特徴の出た蕎麦つゆはどれもとても美味しそうに見えた。

 

 そして、竜たちは年越し蕎麦を食べ始めるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 イタコたち4人の作った蕎麦つゆにそれぞれが舌鼓をうち、大量に作られていた蕎麦はあっさりとその姿をなくしていた。

 残ったのは空になったざると少しばかり残った蕎麦つゆだけ。

 このことから4人の作った蕎麦つゆがとても美味しかったことが分かるだろう。

 

 

「満腹、満腹・・・・・・」

「どのつゆも美味しかったねぇ・・・・・・」

「どれが一番とか決められない美味しさでしたね」

 

 

 お腹をさすりながら竜たちは年越し蕎麦を食べた余韻に浸る。

 そんな竜たちの姿に蕎麦つゆを作った4人は嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

 

「さて、年越しまでもう少しでわね」

「え、あ、本当ですね。年を越す前に片付けをしなきゃ」

「みんなでやればすぐに終わるで」

 

 

 ちらりと時計を見てみればいつのまにやら時計は11時を指している。

 食べ終わった食器などは片付けて残り時間はのんびりとみかんや煎餅なんかをつまんでいるのが乙なものだろう。

 そう言ってイタコたちは食べ終わった食器を台所へと運んでいく。

 それを見て竜たちも自分たちの使った食器を台所へと運んでいった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 片付けもすべて終わり、竜たちはコタツに足を入れてのんびりとくつろぐ。

 あと数十秒ほどで今年が終わる。

 

 

「もうすぐ年を越しますね」

「今年もほんまに色々あったなぁ」

「うん、とても楽しい年だったよね」

「来年もきっと楽しい年になるよね?」

「みんなでいればきっと楽しい年になりますわ」

「そばにいられるように年越し蕎麦も食べましたしね」

「言葉遊びみたいな説でしたけど。そうなると良いかもですね」

「来年もみなさんと美味しいものを食べたいですねぇ」

「お兄ちゃん、来年もよろしくな」

「よっし、年越しに合わせてうちらで浄化をするったい!」

「まぁ、それもよかね」

「カウントダウンはするんか?」

「残り5秒辺りからカウントしていくか」

 

 

 口々に今年あったことを思い返したりしながら自由にしゃべる。

 そして、年越しまで残り5秒となった。

 

 

 

    『5!』

 

    『4!』

 

    『3!』

 

    『2!』

 

    『1!』

 

 

 

 

    『あけまして、おめでとうございます!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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番外話・バレンタインデー




いやぁ、これも書く予定はなかったんですけどね・・・・・・

クリスマスとかを書いているわけですし、やっぱり書かないとなぁって思いまして。

けっこう遅れてしまいましたが、こちらが私から皆さまへのバレンタインとなります。






 

 

 

 

 2月14日

 

 それは女の子にとっても、男の子にとっても特別な日。

 街はどことなく桃色に淡く光っているような空気になり、誰もかれもが浮き足だっているような日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ───────ではない。

 

 今日という日は乙女にとっての一大イベントの1つ。

 このイベントに並ぶものがあるとすればそれはクリスマスというイベントのみ!

 

 そう。

 この日は、前日までに準備した自身のすべてを意中の人間に届ける日!

 

 甘い予感がする?

 

 ドキドキして恥ずかしい?

 

 否!

 2月14日、今日この日は乙女たちがチ(ョコ)でチ(ョコ)を洗うような苛烈な心理戦が繰り広げられる日。

 そんな生易しい気持ちでは意中の相手はどこぞの誰かに掻っ攫われてしまうだろう。

 

 ゆえにこそ、今日という日は自身のすべてを発揮し、思いを伝えねばならないのだ!

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ところ変わって紲星家のキッチン。

 紲星家のキッチンというだけあって設備はかなり整っており、包丁やナベなどの調理器具の類もかなり良いものがそろえられている。

 

 そんな紲星家のキッチンに茜、葵、ゆかり、マキ、あかり、イタコ、ずん子の7人がいた。

 

 

「さーて、どんなんを作ったらええんやろか?」

「全員が別々に作っちゃったらかなりの量になっちゃうし、何人かで分かれてケーキとかにしたらいいんじゃないかな?」

「それではどんなふうに分かれますか?とりあえずお菓子作りの腕の順で行くと葵さんとマキさんが少なくとも分かれた方が良いでしょうけど」

「そうだね。イタコ先生と生徒会長がどれくらいお菓子を作れるのかは分からないけど・・・・・・」

「私たちは和菓子でしたら作れますけど。洋菓子となりますと少々自信はありませんわね」

「とりあえず、ずんだ餅を作るのは得意ですよ!」

 

 

 世間一般(個人的な偏見交じりの意見)とはうって変わって、茜たちはどんなチョコを作ろうかと話し合いをしていた。

 ちなみに、ここにいないウナ、きりたん、ひめ、みこと、ついなはクリスマスのときと同じように別室で遊んでおり、今回は竜もそこに加わっている。

 

 今日はバレンタインデーということで、紲星家に集まって簡単なパーティーをしようという話になり、そこから料理のできる女性陣だけでお菓子を作ろうということになったのだ。

 イタコやずん子がいる理由は竜がウナときりたんに声をかけて、そこから保護者枠ということで参加したからである。

 

 お菓子を作ることができるのは7人。

 本来であればついなも料理をすることはできるのだが、竜だけで子供グループ(?)を相手するのは大変だということで、竜の手伝いとしてついなも子供グループに入っていた。

 

 7人で別々にお菓子を作るとなれば合計の量はかなりのものとなってしまう。

 そのことを危惧した葵は、何人かで分かれてお菓子作りをすることを提案する。

 葵の提案に反対の人は誰もいないようで、どのようなグループで分かれるかを話し合い始めた。

 

 なお、ずん子の発言に触れるものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 紲星家、子供グループ(?)のいる部屋。

 

 

「ぬあぁぁぁあああん!また妨害されてしまったばい!!」

「ふっふっふ、隙を見せたものから狩られていく。それがゲームというものですよ」

「そう言っている東北も隙ありだけどなー」

「・・・・・・騒がしいなぁ」

「そうですねぇ」

「騒いどるのはほとんどひめだけみたいやけどな」

 

 

 竜たちは部屋に置いてあった大きなテレビを使って6人でマリオカートをやっていた。

 

 つい先ほどまで先頭を走っていたひめだったが、カーブの終わりの地点にちょうどよくバナナを投げられてスリップしてしまい、そのままコースの外へと落ちていってしまう。

 そんなひめの姿にきりたんはニヤリと笑みをこぼしながら追い抜いていき、直後に不幸にも背後から迫ってきていた赤塗りの高級甲羅に追突されてしまった。

 赤甲羅を受けて止まってしまっているきりたんの横をウナは悠々と追い抜いていく。

 

 そこに続いていくのは竜、みこと、ついなののんびりと走っているメンバーだ。

 白熱した様子を見せているひめ、きりたん、ウナの3人とは違い、竜たちはとてものんびりとした様子を見せている。

 

 

「負けんったい!うちは速攻魔法発動!超高速飛行爆撃弾(キラー)!」

「私も負けませんよ!私はトラップをオープンです!無敵加速流星(スター)!」

「・・・・・・なんだろう、普通にキラーとかスターって言っているはずなのに変な漢字に聞こえた気がしたんだが」

「奇遇ですね。ボクにもそう聞こえました」

 

 

 落下して一気に順位を落としたひめと、不幸にも赤甲羅に追突してしまって順位を落としてしまっていたきりたんは同時にアイテムを使用する。

 するとひめの操作していたキャラクターが巨大な弾丸のような形状のマリオシリーズの敵キャラクター、“キラー”へとその姿を変え、きりたんの操作しているキャラクターが虹色に光り輝き始めて加速していった。

 

 マリオカート。

 

 このゲームはかなり有名なマリオシリーズのゲームの1つで、マリオシリーズのキャラクターや、任天堂で出しているゲームの他のキャラクターを操作して1位を目指してレースをするというゲームだ。

 操作しているプレイヤーの腕はもちろんのこと、落ちているアイテムボックスから出てくるアイテムを使って他のプレイヤーを妨害していくことがこのゲームでは重要になってくる。

 

 そして、ひめの発動したアイテムときりたんの発動したアイテムはどちらもとても強力な部類のもので、使用すれば一気に逆転することも夢ではないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったー!ウナがいっちばーん!」

「っと、俺が2位か」

「ボクは3位ですね」

「うちが4位かぁ。操作難しいなぁ」

 

 

    ───────まぁ、ひめときりたんに逆転(それ)ができるとは言っていないのだが。

 

 しいて言うのであればひめときりたんはそのアイテムを入手するのが一歩遅かったというところだろう。

 竜たちがゴールした後のゴールをキラーとなっているひめの操作しているキャラクターと、虹色に光り輝いているきりたんの操作するキャラクターがほぼ同時に通り抜ける。

 

 

「あ、あ、あぁぁあああんまりだぁぁぁぁぁ・・・・・・」

「そんな、ありえません!この私がっっ!!」

「なんでこの2人はジョジョネタをやっているんだ・・・・・・」

「さぁ?ウナはよく分かんないぞ」

 

 

 膝をついて声を上げるひめと、顔に手を当て驚愕の声を上げるきりたんに竜は思わずツッコミを入れる。

 そんなひめときりたんの様子にみことは呆れたような視線を向けていた。

 

 

「そういえば今日はバレンタインデーだったよな。お兄ちゃんにウナからチョコをあげよう」

「ん、ありがとうな。でも、これからみんなでバレンタインのパーティーをやるのに用意してくれたのか?」

 

 

 そう言ってウナは自分のカバンから包装された箱を竜に手渡す。

 渡された箱を落としたりしてしまわないように気をつけながら竜は自分のカバンに箱をしまう。

 

 

「うん!お母さんにちゃんと渡しておきなさいって言われたんだー!」

「そうなのか。わざわざありがとうな」

 

 

 竜の言葉にウナはニコニコと笑みを浮かべながら答える。

 笑みを浮かべるウナに、竜は微笑みかけながら優しく頭を撫でた。

 

 

「・・・・・・しれっと抜け駆けをしていますね」

「抜け駆け?なんばしよったと?」

「あ~、まぁ、ひめは気にしなくてよか」

 

 

 竜に頭を撫でられているウナのことを見ながらきりたんは小さくつぶやく。

 きりたんの呟きの意味が分からなかったのか、ひめは不思議そうに首をかしげていた。

 

 そんな風に竜たちがゲームで遊んでいると部屋の扉が開き、あかりが現れた。

 

 

「準備ができましたから来てください!」

「お、できたのか。それじゃあ行くかー」

「レッツゴーやね」

「いきますよー、1919」

「なんで“じゅうきゅう”って2回言ったと?」

「よく分からないけど汚い気がしたのはなんでだろう・・・・・・?」

 

 

 そして、あかりに連れられて竜たちはパーティーをする部屋へと向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜たちが部屋に入るとそこにはすでにいくつかのチョコレート系統のお菓子などが用意されていた。

 特に目を引くのは中央に置かれている大きなチョコレートケーキだろう。

 さらに見れば少し離れたところにチョコレートファウンテンをするためのチョコの噴水まで用意されている。

 

 ちなみに、テーブルに置かれているお菓子たちの中に一部だけ緑色のものが見えたが、竜は特に気にしないことにした。

 

 

「これは、すごいな・・・・・・」

「みんなで頑張りましたからね。でもやっぱり葵先輩が一番すごかったですね。あのケーキなんてほとんど葵先輩が作っちゃったんですよ?」

 

 

 用意されているお菓子などを見て竜は思わず言葉を漏らす。

 竜の言葉にあかりは中央に置かれているチョコレートケーキを指さしながら答えた。

 そして、部屋の扉が開いた音で竜たちが来たことに気がついたのか茜たちも集まってきた。

 

 

「おー、待っとったで!」

「えへへ、ちょっと張り切りすぎちゃったかな」

「張り切ったで済ませて良いレベルなんでしょうか?」

「んー、でも美味しそうだし良いんじゃない?」

「ちゅわ、洋菓子は少々不慣れでしたが頑張りましたわ!」

「ですね。洋菓子作りも楽しかったですね」

 

 

 口々に茜たちはお菓子作りをした感想を言う。

 お菓子作りに疲れはしただろうが、それでもとても楽しく作ることができたのだろうということが話し方からうかがうことができた。

 

 

「それじゃあ、今日はバレンタインデーですし。竜先輩、こっちに来てもらえますか?」

「うん?」

 

 

 あかりに手招きされ、竜は不思議に思いながら移動する。

 そして、竜は茜たちと向き合う形で立った。

 

 

「やっぱりこれはキチンと言っとかなあかんもんな」

「忘れちゃいけないことだもんね」

「お決まりって感じですからね」

「あ、きりたんたちも言うんだよ?」

「私たちもですか?」

「でもウナたちは作ってないぞ?」

「そんなことは気にしなくても大丈夫ですわ」

「ええ、気持ちが大切なんですよ」

「ええっと、なんて言うんやったっけ?」

「ひめ、ここにメモがあると」

「みんなで一斉に言うらしいから、まだ言ったらあかんで?」

 

 

 竜が前に移動し、茜たちはやや恥ずかしそうにうっすらと頬を染める。

 

 

「それでは竜先輩・・・・・・、せーのっ!」

 

 

Happy(ハッピー) Valentine(バレンタイン)()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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UA10000突破・番外話・ヤンデレゆかりエンド


UA10000を越えたので番外話です。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。





 

 

 漫画やアニメなどではフクロウの鳴き声が聞こえてきそうな時間。

 分かりやすく言えば真夜中。

 部屋で寝ていた竜は息苦しさに声を漏らした。

 

 

「う・・・・・・」

 

 

 なにかが自分の体の上に乗っているような重さ。

 今までには一度も起きたことのなかった事態に竜は恐る恐る目を開いた。

 

 目を開いても目の前に広がるのは真っ暗な闇。

 電気もついていないうえに真夜中なのでほとんどなにも見えない。

 

 

「なにが・・・・・・」

 

 

 それでも自分の体の上に乗っているものを見ようと竜はジッと目を凝らして自分の体の上を見た。

 電気のついていない部屋。

 横になる竜の体の上でなにかがモゾモゾと動いているように見える。

 あまりにも暗いためにその姿形は分からないが、なにかがそこにいることは間違いないようだ。

 

 不意に、竜の鼻になにか甘い香りのようなものが届いた。

 それと同時に竜の意識は闇の中へと落ちていくように遠退いていった。

 どうにか意識を保とうとするものの、抗うことは叶わず。

 竜の意識は完全に落ちるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「なんや、眠そうやな」

「寝不足なの?」

「おお、2人か。いや、夜中になんか息苦しくなって目が覚めてな。その後すぐに寝た?と言うか気絶したみたいになって気がついたら朝でな。なんか体がダルいんだよ」

 

 

 教室でアクビをしていた竜に、茜と葵が声をかける。

 竜が眠そうにしていることはそれほど珍しいわけではない。

 それは茜自身もよく知っており、少し気になったから聞いただけだった。

 しかし、竜の答えた内容に茜は少しだけ驚く。

 単にゲームを遅くまでやっての寝不足かと思いきや心霊現象のようなことが竜の身に起きているとは予想もしていなかった。

 まぁ、これに関しては予想できる方がおかしいのだが。

 

 

「そ、それってもしかしてお化けってこと・・・・・・?」

「どうかな。夜中に起きたのは今回が初めてだし」

 

 

 お化けの可能性があるということにホラー系が苦手な葵は怖がりながら尋ねる。

 葵の言葉に竜は腕を組んで考え込む。

 夜中に目が覚めたのは今回が初めてで詳しいこともなにも分からないのだ。

 

 

「まぁ、どうなるかは分からんがしばらくは様子を見てみるかな」

「ヤバそうならうちに来るのもありやからな」

「ボクたちでも力になれることがあったら言ってね?」

 

 

 ひとまずどうすることもできないので竜は様子を見ることにした。

 竜の言葉に茜と葵は心配そうに竜のことを見ながら言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、ゆかりん。今日もクマがすごいよ?!」

「ああ、マキさんお早うございます。大丈夫ですよ、少し眠るのが遅くなってしまっただけなので」

 

 

 教室の片隅でそんな会話があったことに竜たちは気づいていなかった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「みゅう」

「おお、みゅかりさん。家で待ってたんだな」

 

 

 帰宅して玄関を開けた竜は、玄関で待っていたみゅかりさんを嬉しそうに撫でる。

 何故みゅかりさんが竜の家にいるのか気になるかもしれないが、これは竜がみゅかりさん用に小窓を1ヶ所開けておいているからだ。

 小窓が空いていることによってみゅかりさんは自由に竜の家に入ることができ、竜の帰宅を安全に待つことができるのだ。

 

 

「みゅかりさん、悪いけど少し眠らせてくれ。ゲームとかは好きにやってて良いから」

「みゅい!」

 

 

 眠さが限界に近かったのか、竜はみゅかりさんにそう言うと布団を敷いて仮眠をとることにした。

 竜の言葉にみゅかりさんは小さく鳴いて竜の布団の中へと潜り込む。

 

 

「一緒に寝るのか?まぁ、いいか。おやすみ」

「みゅみゅみゅみゅ」

 

 

 そして竜の意識は落ちていった。

 そんな竜の顔をみゅかりさんはじっと見つめている。

 光のないその瞳は深い闇のようで、よく見れば目元にクマのようなものもあった。

 竜の寝息が聞こえ始めた頃、みゅかりさんはそっと静かに動き出した。

 

 

「みゅう、みゅあ・・・・・・れるっ・・・・・・」

「んう・・・・・・?」

 

 

 竜の首もとを開き、みゅかりさんはヌルリと舌を這わせる。

 くすぐったいような感覚が襲ってきたことに竜は声を漏らすが起きそうには見えない。

 そのままみゅかりさんは執拗に竜の首もとを舐める。

 

 

「みゅ・・・・・・ぷぁ・・・・・・はみゅ・・・・・・」

 

 

 舐めるのを止め、終わりかと思えば今度は竜の首もとに噛みつき始めた。

 といっても歯をたてているわけではなく咥えているような感じだが。

 みゅかりさんは竜の首もとに噛みつきながら一心不乱に口内で舌を這わせ、竜の腕に前足を絡ませる。

 

 

「れるぉ・・・・・・」

 

 

 そして、みゅかりさんは舌で竜の首もとを舐めながら徐々に徐々に首をなぞって上にあがっていった。

 首もとから首、首から頬とその位置は上がっていく。

 あと数cmで竜の唇に触れるかと言うところになって、みゅかりさんは舌を離した。

 

 

「みゅう・・・・・・・・・・・・みゅ、んん。・・・・・・いけません、そこはまだ早いんですから」

 

 

 聞こえてきたのはみゅかりさんの鳴き声ではなくハッキリとした人の言葉。

 しかしここにいるのは竜とみゅかりさんだけであり、他に人は存在していない。

 では誰が話したのかと言えばそれはつまりこの部屋にいる残りの生き物、みゅかりさんしかいない。

 みゅかりさんはなるべく自然な風に竜の体を拭いていくと、最後に軽く頬を舐めて眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「ん、おはようみゅかりさん」

「みゅーみゅ」

 

 

 目が覚め、隣で寝ていたみゅかりさんの姿に竜は笑みを浮かべる。

 竜の言葉にみゅかりさんも嬉しそうに竜の頬に体を擦り寄せるのだった。

 

 

「もうこんな時間か、寝過ぎたな。悪いなみゅかりさん」

 

 

 時計を確認すると仮眠をしてからそこそこの時間が経っており、今の時間からゲームをするのは少し遅いかもしれない。

 その事に気がついた竜は寝過ぎたことも含めてみゅかりさんに謝る。

 

 

「みゅ、みゅみゅみゅ」

「うん?帰るのか?」

 

 

 玄関へと向かうみゅかりさんに竜は声をかける。

 みゅかりさんは玄関に着くと、振り返って竜を手招きした。

 不思議に思いながら竜はみゅかりさんの近くにいく。

 

 

「みゅい!」

「うおっ?!・・・・・・一緒に来てほしいのか?」

「みゅ!」

「分かったよ」

 

 

 近くに来た竜の頭の上に跳び乗り、みゅかりさんは鳴き声をあげる。

 みゅかりさんの意図が分からず、頭の上のみゅかりさんに尋ねると、みゅかりさんは肯定するように鳴き声をあげた。

 こんな時間になってしまったのも自分が寝過ぎてしまったせいということもあり、竜はみゅかりさんを家まで送ることにした。

 

 

「たしか“清花荘”に住んでるんだったよな」

「みゅうみゅう」

 

 

 “清花荘”に向かう道を歩きながら竜とみゅかりさんは会話をする。

 少し暗いが特に歩きづらいなどということはなく。

 とくに何事もなく“清花荘”に到着した。

 

 

「ここまでで大丈・・・・・・うん?」

「みゅっみゅみゅ」

 

 

 “清花荘”の前に着いてみゅかりさんを頭の上から下ろそうとするが、みゅかりさんは腕にしがみついて離れようとしない。

 どうやら、まだなにかあるらしい。

 

 

「みゅうみゅうみゅう!」

「分かった分かった」

 

 

 腕をぐいぐいと引っ張るみゅかりさんに竜はため息を吐いて“清花荘”の敷地の中へと入っていった。

 “清花荘”の敷地の中に入ると、みゅかりさんは前足で1つの扉を指し示した。

 どうやらそこがみゅかりさんの住んでいる部屋のようだ。

 

 

「みゅい」

「ん、入れって?いや、それは流石に・・・・・・」

「みゅうみゅみゅ」

 

 

 部屋の扉を開けてみゅかりさんは竜を手招きする。

 すでに部屋の扉が開いていることなど気になることはあったが、人の部屋に勝手に入るのはどうかと竜は躊躇う。

 部屋に入るのを竜が躊躇していると、みゅかりさんは竜の手を掴んで部屋の中へと引き入れた。

 みゅかりさんの予想外の引く力の強さに驚きつつ、竜は部屋の中へと入るのだった。

 

 

「みゅい」

「そっちの部屋に行けば良いんだな?」

 

 

 みゅかりさんに奥の部屋に向かうように促され、竜はみゅかりさんに確認をしつつ奥の部屋へと向かう。

 

 

「それで、みゅかりさん。俺はどうしたら────」

「ようやく、捕まえました」

「────っ?!」

 

 

 部屋に入ってみゅかりさんの方を振り向こうとした竜は耳元で囁かれた言葉と、背後から抱き締められる感触に驚いて背後を見る。

 首の動きだけで背後を見たためにうまく見ることはできないが、どうにか見えた姿からそこにいるのがゆかりだと気づいた。

 

 

「ゆ、ゆかり・・・・・・?」

「ふ、ふふ、ふふふふふふ・・・・・・」

 

 

 背後から抱き締めてくる人物の正体がゆかりだと分かり、竜は恐る恐る声をかける。

 竜の言葉にゆかりは答えず、ただただ笑っていた。

 

 

「今日から、竜くんは私のものですよ。どこにも行かせません。誰にも会わせません。私の用意したもの以外食べさせません。私以外の人の声を聞かせません。私以外の女性を見せません。私以外の女性と話させません。だから、安心して眠ってくださいね?」

「ゆか・・・・・・り・・・・・・」

 

 

 早口で言うゆかりに竜が恐怖を感じて震えると、竜の口もとに布が当てられた。

 布から逃れようとするがすでに遅く。

 竜は嗅いだ覚えのある甘い香りを感じながら意識を闇に落としていった。

 

 意識を失って倒れそうになる竜をベッドに乗せ、ゆかりはその四肢を拘束していく。

 そして拘束を終えたゆかりは最後に竜の首に首輪を取り付けた。

 首輪を取り付け終え、ゆかりは意識を失っている竜の上に跨がり抱き締める。

 

 

 

 

「竜くん、大好きですよ」

 

 

 

 ベッドに拘束されている竜の体を抱き締めながら、ゆかりはどこか引きずり込まれそうな声色で囁くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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UA20000突破・番外話・ヤンデレあかりエンド

UA20000を越えたので番外話です。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。





 

 

 

 

 いつものように1日が始まる。

 これは誰にとっても変わることのない不変のこと。

 常に同じように1日が始まり、人それぞれにその日の終わりが来る。

 

 学校の準備を終えた竜はスクールバッグを手に家を出た。

 

 

「竜先輩、おはようございます」

「おう、おはよう。あかり」

 

 

 家の前で出会うのは竜の家の向かい側に引っ越してきた紲星グループの令嬢である紲星あかり。

 竜も最初は戸惑いこそしたものの、今では慣れて普通に一緒に登校までしている。

 

 家の前で少しばかりあかりと話していると、数人分の足音が聞こえてきた。

 

 

「おはようやー!」

「竜くん、あかりちゃん。おはよう」

「2人ともおはようございます」

 

 

 足音の聞こえてきた方に顔を向ければ、そこには茜、葵、ゆかりの3人がいた。

 最近では葵の寝坊も少なくなってきたのか一緒に登校できる回数も増えてきている。

 

 

「おう、今日も葵は起きれたんだな」

「せやね。まぁ、それでも朝は弱いからちょっと大変やけどね」

「お姉ちゃん、シーっ!」

「いや、すでに葵さんが朝に弱いことは分かってるんですから諦めましょうよ」

「茜先輩が見せてくれた動画ではっきり分かってますもんね」

 

 

 竜の言葉に茜は肩をすくめながら答える。

 茜が口走ってしまったことに葵は慌て、茜の口を塞いだ。

 しかしその行動はすでに遅く、茜の言葉を途切れさせることはできなかった。

 さらに続けられたあかりの言葉に葵は固まり、ギギギ、と油の切れた機械のようにぎこちなく首を動かしながら竜たちを見回した。

 

 ちなみに茜の見せた動画というのは葵の寝起き直後の動画で。

 内容としては寝起きでだらしない格好の葵が『あと5分~・・・・・・』やら『ふにゅぇ~・・・・・・』といった言葉をもらしているものとなっている。

 なお、当然ながらだらしない格好ということで肌色の見える範囲は多く、辛うじて下着が見えていないといったレベルのものだったりする。

 もちろん無修正なため男子生徒に見せてしまえばネオアームストロング・サイクロンジェット・アームストロング砲が起動してしまうのは確実だろう。

 

 

「・・・・・・・・・・・・お姉ちゃん?」

「 す ま ん な 」

 

 

 謝る気を感じさせない茜の謝罪に葵は思わず手に持っているスクールバッグを落とした。

 葵から感じられる威圧されるような感覚。

 竜たちは自分たちに向けられているわけでもないのに思わず硬直してしまう。

 

 

      葵 、 キ レ た ! !    

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 下駄箱に着いたあかりは学年が違うために竜たちと別れた。

 ちなみに登校中に起きた琴葉姉妹の喧嘩は葵の勝利と言う形で終わり、茜は葵の好物を3つ作るという約束をさせられていた。

 

 

「あ、あかりさん。おはようございます」

「はい。おはようございます」

 

 

 靴から上履きに履き替え、教室に向かうまでにあかりの同級生たちがあかりに声をかける。

 同級生たちにあかりは笑顔で答えながら思考する。

 

 どうすれば竜と2人だけで登校できるのか。

 いや、どうすれば竜を独占することができるのか。

 

 微笑みながら教室に向かうあかりがそんなことを考えているとは誰も思ってはおらず、微笑むあかりの姿に見惚れる男子生徒たちがそこにはいた。

 

 

「あ、あかりさん!おはようございます!」

「ああ、おはようございます」

 

 

 やや緊張した表情の男子生徒にあかりは微笑みかけながら挨拶を返す。

 間近で微笑まれた男子生徒は顔を赤くしてしまう。

 

 

「えっと、放課後に時間はありますか?!」

「放課後ですか?」

 

 

 顔を赤くしながら男子生徒はあかりに尋ねる。

 男子生徒の言葉にあかりは首をかしげる。

 あかりとしては放課後にはすぐに竜のいる教室へと向かいたいのだが、対外的にもこういった頼みはあまり無視をしない方がいいと考えている。

 どんな用件があるのかは分からないが、正直に言えばあまり時間を取りたくないのがあかりの本音だった。

 

 

「ええ、時間は空いてますよ」

 

 

 竜には連絡して少しだけ待っててもらおうと考え、あかりは男子生徒に答えた。

 あかりの答えに男子生徒は嬉しそうに目を開く。

 

 

「で、でしたら放課後に屋上に来てもらえませんか?」

「屋上ですね。分かりました」

 

 

 放課後に屋上への呼び出し。

 これだけでなんの用件なのかはだいたい察せるとは思うが、あかり自身は不思議そうに首をかしげるだけだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 放課後。

 竜は教室であかりを待っていた。

 朝、教室に着いたときにあかりから連絡があり、一緒に帰りたいと書かれていたためだ。

 

 

「竜せんぱ~い、帰りましょー!」

「ん、来たか」

 

 

 教室の扉を開けて入ってきたあかりに竜はスクールバッグを取って立ち上がる。

 茜たちはそれぞれ用事があるとかですでに教室にはおらず、そのまま竜はあかりと一緒に学校を出た。

 ちなみにあかりはちゃんと男子生徒に呼ばれて屋上に行っているが、その男子生徒の用件については触れないでおこう。

 

 

「あ、竜先輩。ちょっと食べ歩きをして帰りませんか?」

「食べ歩き?つっても俺はそこまで金はないからあまり一緒には食えないぞ?」

 

 

 学校から出てしばらく歩いてから、あかりは竜に提案をした。

 あかりの言葉に竜は自分の財布の中身を思い出しながら答える。

 

 

「いえいえ、竜先輩が一緒にいてくれるだけで私は嬉しいですから!」

「・・・・・・また、恥ずかしいことを言うなぁ」

 

 

 ニッコリと微笑みながら言うあかりの言葉に竜は軽く頬を掻く。

 そして、竜とあかりは食べ歩きに向かった。

 

 

「このたい焼きは当たりですね!」

「うん。これは旨いな」

 

 

「この焼き鳥もなかなか・・・・・・」

「へぇ、けっこう種類があるんだな」

 

 

「んむ、んむ・・・・・・。このコロッケとっても美味しいですよ!」

「むぅ、あかりが食べてるのを見てたら俺も食いたくなってきたな・・・・・・」

 

 

 目についた食べ物をあかりはどんどん買って食べていく。

 あかりの家の大きさから考えればどれも安いものばかりなのだが、それでもあかりはとても美味しそうに食べていく。

 美味しそうに食べていくあかりの姿に竜も思わずいくつかの食べ物を買い食いしてしまった。

 

 

「・・・・・・あ、竜先輩。あっちになにか美味しそうな気配がしますよ!行ってみましょう!」

「え?あっちはなにもないだろ?」

 

 

 スンスンと竜の隣で何かしらの香りでも嗅ぎとったのか、あかりは少し薄暗くなっている道を指差しながら言った。

 あかりの指差した先に食べ物関係の店があったかを記憶を辿るが、竜の記憶に該当する店はない。

 あかりは不思議そうに首をかしげる竜の手を掴むとずんずんと歩き始めてしまった。

 薄暗い道ということで後輩のそれも女の子を先に行かせるわけにはいかず、竜はあかりの前に移動して薄暗い道を歩き始めた。

 

 

「本当にこの先に行くのか?」

「もちろんです!」

 

 

 薄暗く、先の方が見にくい道を歩きながら竜は後ろを歩くあかりに声をかける。

 竜の言葉にあかりは元気に答えた。

 それから、竜とあかりはしばらく薄暗い道を歩き続けた。

 

 

「・・・・・・本当にこの先になにかあるのか?」

 

 

 しばらく歩き続けたのだが、なにか店が現れる気配もまったくなく。

 竜は不安を感じてあかりに声をかける。

 しかし、あかりの声が聞こえず、竜は驚いて振り返ろうとした。

 

 

「おい、あか・・・・・・むぐぅっ?!?!」

 

 

 

 

                   「わぁ」

 

 

 背後にいるはずのあかりの方へと振り返ろうとした竜だったが、ヌルリとした感触のなにかに飲み込まれ、呼吸ができなくなって意識を失ってしまった。

 意識を失う直前、竜の耳に聞き覚えのある声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ギヂリッ・・・・・・────

 

 真っ暗な闇の中。

 火花が散るような痛みに竜の意識は覚醒した。

 

 どうやら布団の上で横になっているようで、体を起こそうとしたが両手両足が固定されていて起き上がることができなかった。

 

 ブヂィッ・・・・・・────

 

 

「いぎぃっ?!?!」

 

 

 2回目の火花が散るような痛み。

 竜は思わず苦悶の声をあげる。

 

 ぼんやりと薄暗い部屋の中。

 2回目の痛みで気づくことができたが、固定されている右腕に誰かが噛みついているらしいということが分かった。

 

 

「だ、誰だ?」

「ん・・・・・・、はぁ、れるぉ・・・・・・、せんぱぁい、美味しいですよぉ・・・・・・」

 

 

 腕の痛みをこらえながら竜は右腕の誰かに声をかける。

 竜が声をかけると、竜の腕に噛みついていた人影は噛みキズからにじんだ血を舐めとって竜の目の前へと移動してきた。

 

 竜の腕から目の前に移動してきた人影、その正体に竜は目を見開いた。

 

 

「あ、あかり・・・・・・?」

 

 

 先ほど竜の腕に血がにじむほど噛みついた人影。

 その正体は紲星あかりだった。

 

 竜の意識が戻ったことを理解したあかりは口の端についた竜の血を舐めとると、優しく竜の頬を撫でた。

 

 

「おはようございます。竜先輩」

「これはどういうことなんだ?!」

 

 

 竜の言葉を無視してあかりはさわさわと竜の頬を撫でていた手を竜の胸元に移動させた。

 あかりの手が動くたびにくすぐったさで竜は体をピクリと動かす。

 

 

「竜先輩が悪いんですよ?こんなに美味しそうな香りをしてるからっ!」

「んん、あか・・・・・・────っづぁ?!」

 

 

 スンスンと竜の顔の横にあかりは顔を近づけた。

 あかりの顔が近づいたことによって髪の毛が触れ、くすぐったくなっていた竜だったが、肩に走った痛みに声をあげる。

 肩の感覚からあかりが肩に噛みついているのだということを理解した竜はどうにかしてあかりを引き剥がそうとするが、手足が拘束されていることによってそれは叶わない。

 

 

「はぁ・・・・・・、やっぱり素敵ぃ・・・・・・」

 

 

 ヌルリ、と噛みつかれたところをあかりの舌が這う。

 噛みつかれたことによってできた傷口にあかりの舌が這い、チリチリとした痛みに竜は顔をしかめた。

 竜の首から顔を離し、あかりは竜の顔を両手で挟んで正面から見つめる。

 

 

「本当は先輩の全部を・・・・・・、血も肉も骨も、髪の毛一本すら残さず全部全部食べたいんですよ?でも、私は理性のある賢い人間ですから、そんなことはしないんです。たしかに食べてしまえば先輩と一緒になることができます。でも、それは少しの間だけ・・・・・・。そんなひとときも素敵だとは思うんですけど、そんな刹那的なものは勿体ないと思うわけなんですよ。そこで私は考えて、思いついたんです。“先輩を閉じ込めて食べたくなったらかじれば良いんだ”って。そうすれば死ぬまでずーーっと先輩の味を楽しめますから。ね?良い考えだと思いますよね?」

 

 

 竜の顔をまっすぐに見つめながらあかりは途切れることなく言葉を続けた。

 暗く、光の見えないあかりの目を正面から見てしまい、竜は恐怖する。

 

 

「・・・・・・あら?・・・・・・ふふふ、先輩ったらもしかして喜んでくれたんですか?こんなことになっちゃってますよ?」

「ち、ちが・・・・・・」

 

 

 生物が死を悟ったとき。

 自身の種を残そうと反応してしまうことがある。

 

 あかりへの恐怖のあまり自身の死を見てしまった竜の体の反応にあかりは嬉しそうに手を這わせた。

 

 

「だぁいじょうぶですよ。ちゃぁんとこっちも食べてあげますから。上の口でも・・・・・・もちろん、下の口でも、ね?」

 

 

 圧倒的なる捕食者の目。

 その目を竜に向けながらあかりは1枚、また1枚と服を脱いでいく。

 捕食者の目を向けられた竜は、あかりが服を脱いでいくことにすら気をやれぬまま体を震わせる。

 

 

 

 もはや逃げることは叶わないのだろう。

 

 

 

 声も、音も、その部屋からそれらが一切漏れることはないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ほぼ1ヶ月で20000にいくとは思ってなかったです・・・・・・

これも読んでくださっている読者のお陰です。

ありがとうございます。


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UA30000突破・番外話・ヤンデレマキエンド



UA30000を越えたので番外話です。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。








 

 

 

 

 嬉しそうに差し出される小さな包み。

 それは、自分がそうすることが当たり前だと思っているような笑顔で差し出されていた。

 

 申し訳ないと思いつつも竜はそれを受けとった。

 竜が受け取ったことで、一層のことマキは嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 

 

「なんつーか、いつもスマンな・・・・・・」

「良いの良いの。私がやりたくてやってることだからさ」

 

 

 竜の言葉にマキはヒラヒラと手を振りながら答える。

 マキが手をヒラヒラと振るのを見て、竜はあることに気がついた。

 

 

「それって、包丁で切ったのか?」

「え?・・・・・・ああ、うん。ちょっと考え事をしててね」

「マキさんが指を切るなんて珍しいですね?」

「料理中に考え事はあかんでー?」

「少しでも気を抜いたら怪我をしちゃうもんね」

 

 

 竜が見ていたのはマキの人差し指。

 マキの人差し指には絆創膏が巻かれており、マキが怪我をしたことがハッキリと分かった。

 竜の言葉にゆかりたちも不思議そうにマキの指を見る。

 指の怪我を指摘されたマキは、どこか触れてほしくなさそうに答えた。

 

 

「そんなことは別に良いから。お弁当を食べてよ」

「よくはないと思うんだが・・・・・・。まぁ、マキが良いなら良いか。それじゃあ、いただきます」

 

 

 マキの言葉に竜は本当に気にしなくて良いのかと首をかしげる。

 それでもマキ本人が気にしなくても良いと言ったため、とりあえずは気にしないことにした。

 そして、竜たちはお昼ご飯を食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ、隠し味も入れてあるから・・・・・・おいしいよね?」

 

 

 お弁当を食べる竜を見ながらマキは小さく呟くのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

   

 なんの変哲もない一般家庭のキッチン。

 並べられているのは卵やお肉などの様々な食材。

 それと一緒に空のお弁当箱が2つ置かれている。

 

 

「ふんふんふ~ん」

 

 

 鼻歌混じりにマキは食材を調理していく。

 マキが作っているのは、ほぼ習慣となっている自分と竜のお弁当だ。

 いつも作っているだけあってその手際はよく、どうにも指を切ってしまいそうには見えなかった。

 

 

「ふふふ・・・・・・」

 

 

 料理をしながらマキの頭の中に浮かぶのは自身の作ったお弁当を食べて美味しいと言ってくれる竜の姿。

 その姿を思い浮かべるだけでマキは思わずニヤけてしまっていた。

 

 

「っと、いけないいけない。隠し味を入れないと・・・・・・」

 

 

 ふと、マキは入れ忘れたものがあったのか菜箸を置いた。

 なにを入れるのかは不明だが、マキは手早く容器を用意する。

 そして、マキは包丁(●●)を手に取った。

 

 

「秘密の隠し味・・・・・・」

 

 

 そう呟きながらマキは自身の指を包丁の刃で撫でた。

 包丁の刃が撫でたことによってマキの指に赤い線が刻み込まれ、ジワリと血が溢れてくる。

 自身の指から血が出てくるのを確認したマキは手慣れた様子で容器に血を垂らしていった。

 当然だが指を切っているので痛みもあり、マキの目の端には涙がうっすらと溜まっている。

 しかしそれ以上にマキは陶酔したような笑みを浮かべていた。

 

 

「竜くんの中に私が入り込んでいく・・・・・・。私が、竜くんのすべてを作っていく・・・・・・。ふふ、ふふふふ・・・・・・」

 

 

 自身の血を料理に混ぜ込みながらマキはお弁当を作っていく。

 

 竜のすべてを自分で染めていく。

 

 それだけを考えてマキは料理をするのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 お昼休み。

 マキはいつものように竜にお弁当を手渡す。

 竜はマキからお弁当を受けとると、代金を手渡した。

 マキからすれば好きでやっていることなのだから代金を払ってもらわなくても良いのだが、これで竜がお弁当を食べてくれるならと仕方なしに納得していた。

 

 

「今日のお弁当も美味しそうだな」

「えへへ、ありがと」

 

 

 お弁当の中身は小さめの肉巻きアスパラや卵焼きなど、いくつかのおかずがバランスを考えられて詰められていた。

 竜に誉められ、マキは嬉しそうに微笑む。

 

 

「たしかにマキマキの作ったお弁当は旨そうやな。竜、どれかおかずを分けてくれへんか?」

「そうだな。ならこの卵焼きをひと────」

「ダメだよ」

 

 

 竜の言葉にお弁当箱の中を覗いていた茜がおかずを1つ分けてくれないかと竜に言う。

 茜の言葉に竜は複数個入っていた卵焼きを1つ分けようとした。

 しかし途中でマキに腕を捕まれてしまい、腕を動かすことができなくなってしまう。

 

 

「このお弁当は竜くんのために作ってきたの。だから茜ちゃんにも、他の誰にも分けてあげることはできないかな」

「なんや、ケチ臭い。おかずの1つくらいええやん」

 

 

 マキの言葉に茜は不満そうに頬を膨らませる。

 しかしそれでもマキは竜の腕を離さなかった。

 

 

「おかずが気になるなら竜くんのやつはダメだけど、私のやつをあげるから」

「むぅ・・・・・・。まぁ、入っとるんは同じっぽいからええか」

 

 

 不満そうな茜にマキは小さくため息を吐くと、自身のお弁当箱を茜へと差し出した。

 

 叶うのならば竜から貰う、もしくは食べさせてもらおうと思っていた茜だったが、ここで駄々をこねても仕方がないのでマキのお弁当箱から卵焼きを1つ貰う。

 茜が自身のお弁当箱から卵焼きを取ったのを確認したマキは、自分の方にお弁当箱を戻して竜の腕を掴んでいた手を離した。

 

 

「さて、マキマキの作った卵焼きはどんなもんなんやろうな・・・・・・、あむ」

 

 

 そう言って茜はマキから貰った卵焼きを口に運ぶ。

 マキの作った卵焼きの美味しさを知っている竜は、卵焼きを口に運んだ茜のリアクションを期待して食べるのを止めた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・ぅんまっ!」

 

 

 卵焼きを食べた茜は驚きのあまり目を見開く。

 茜自身も料理に自信はある方だったが、それでもこの卵焼きの味を真似できるかと聞かれれば首を横に振ることしかできない。

 それほどまでに卵焼きが美味しかったのだ。

 とはいっても茜のもっとも得意としている料理は揚げ物。

 それに関しては絶対の自信が茜の中にはあった。

 

 

「あかんわ・・・・・・。こんなん食べたら、うちの作っとる卵焼きが卵に失礼なんやないかと思ってまうわ」

「え、お姉ちゃん。マキさんの卵焼きってそんなに美味しいの?」

「料理が得意な茜さんだからこそ、それほどまでに驚いたんでしょうね」

 

 

 驚きの表情のまま茜は自分のお弁当の中に入っている卵焼きを見ながら言う。

 茜の言葉に葵は驚いて茜とマキを交互に見る。

 そんな2人の様子に、マキの料理の腕を知っているゆかりはうなずきながら茜が衝撃を受けていた理由を推測する。

 

 

「茜がそんな反応をするお弁当をいつも食えてるってスゴいことだよなぁ・・・・・・」

「そう言ってもらえると嬉しいなぁ」

 

 

 茜のリアクションを見て、良いお弁当を食べさせてもらっているなと竜は改めて考えた。

 竜の言葉にマキは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 そして、竜たちはお昼ご飯を再開するのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

   

 学校の授業がすべて終わり、竜はバイトをするためにマキと一緒に“cafe Maki”にいた。

 平日の夕方ではあるものの、それでも客の人数は多く、バイトが終わる頃には竜はそこそこに疲れていた。

 

 

「ふいー・・・・・・」

「お疲れさま。今日もうちで晩ご飯を食べていきなよ」

「ん、助かるわ」

 

 

 バイトが終わり、椅子に座って休む竜にマキは苦笑しながら言う。

 マキ自身にも少しだけ疲労の色が見える辺り、今日は本当に客の人数が多かったのだということが分かる。

 マキの言葉に竜はうなずき、慣れた様子でマキの家の中へと入っていった。

 

 

「おかえりなさい。もうすぐ晩ご飯の準備を始めるから先に手を洗っておいてね」

「はーい。私は少しお母さんと話すから竜くんは先に行ってて」

「分かった。お邪魔します」

 

 

 玄関を開けた音に気がついたマキの母親がマキと竜に声をかける。

 母親の言葉にマキは返事をし、竜に先に洗面所へと向かうように言った。

 そして、竜が洗面所に向かったのを確認したマキは母親のもとへと向かった。

 

 

「お母さん。“アレ”もらえる?」

「あらまぁ・・・・・・」

 

 

 マキの言葉に母親は先ほどまでの優しそうな雰囲気からどこか蠱惑的な雰囲気へと変化する。

 その表情はマキの言葉が面白いとでも言うかのように微笑んでいた。

 そして、母親はポケットから小さな小瓶を取り出してマキに手渡す。

 母親から小瓶を受け取ったマキは大切にポケットにしまうと、何食わぬ顔で洗面所へと向かっていった。

 

 

「ふふふふ・・・・・・、やっぱり親子なのねぇ・・・・・・」

 

 

 洗面所へと向かうマキを見ながら母親は嬉しそうに呟くのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 マキの家での晩ご飯はとても楽しいもので、基本的に家では1人で食事することの多い竜にとっては家族を感じられるものとなっていた。

 ちなみに竜の両親は別に死んでいるとかではなく単に単身赴任に両親で行っているだけである。

 

 

「あ、竜くん。飲み物がないね。持ってくるよ」

「すまん。頼んだ」

 

 

 竜のコップに飲み物が入っていないことに気がついたマキは竜のコップを持ってキッチンへと消えていく。

 マキが消えていったキッチンの方を竜が見ていると、不意にマキの父親が顔を近づけてきた。

 

 

「・・・・・・悪いことは言わないから、今のうちに早く帰りなさい」

「へ・・・・・・?」

 

 

 マキに近づくなといった感じの警告でも言われるのかと思っていた竜は父親の言葉に不思議そうに首をかしげる。

 どことなく落ち着きのない様子の父親。

 いつもとは違う父親の様子に竜は言い様のない不安を感じた。

 

 

「それってどういう・・・・・・」

「早く。マキが戻ってくる前────」

「あなた?」

 

 

 竜が尋ね返すと父親は説明する暇もないといった様子で帰るように促してきた。

 しかしその言葉は途中で母親に遮られてしまう。

 父親はビクリと肩を震わせると何も言わずに椅子に戻ってしまった。

 

 いつもと違う様子の2人に竜は違和感を感じ、2人を交互に見る。

 父親は椅子に座るとうつ向いてしまったために表情は見えないが、母親はニコニコと嬉しそうに竜を見てきた。

 

 

「あの・・・・・・」

「お待たせー。新しい飲み物を探すのに時間がかかっちゃったー」

「ああ、ありがとう」

 

 

 不思議に思って竜が口を開こうとすると、ちょうどマキが戻ってきた。

 そしてマキは飲み物の入ったコップを竜に差し出してくる。

 

 喉の乾きを感じた竜はマキにお礼を言うとコップに口をつけて飲み物を飲んだ。

 

 

「・・・・・・あえ?」

 

 

 飲み物を飲んだ直後、竜はくらりと視界が揺れたことに思わず声をあげた。

 体に上手く力が入らず、テーブルに上体を投げ出してしまう。

 それと同時に体が熱く、熱を持ったように頭がボーっとしてしまった。

 竜自身は飲んだことがないために分からないが、1番近い感覚としては酒を飲んだときだろうか。

 動けなくなってしまった竜にマキは嬉しそうに近づいていく。

 

 

「しょうがないなぁ。私の部屋で休んでいくと良いよ。  明日の朝には全部終わってるからさ」

「うぁ・・・・・・、まき・・・・・・?」

 

 

 マキがなにを言っているのかすでに竜は理解ができず、ただただマキにつれられてマキの部屋へと向かっていった。

 そして、マキの部屋に入ったところで竜の意識は完全に消えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小鳥の囀ずる音に竜は目を覚ます。

 どこか倦怠感を感じる体を起こして周囲を確認すれば自分の部屋ではない部屋。

 それと同時にゆっくりと昨日の出来事が思い出されていった。

 

 

「ここは・・・・・・、マキの部屋・・・・・・か?」

「ん・・・・・・」

「・・・・・・はぁっ?!」

 

 

 不意に聞こえてきた声に竜は声の聞こえてきた方を見る。

 

 最初に見えたのはキレイなさらさらとした金髪。

 

 そして続いて見えてきたものが問題だった。

 

 

 肌色。

 圧倒的な肌色とほんの少しの薄桃色。

 

 

 声が聞こえてきた場所は竜の隣。

 そこに弦巻マキが一糸纏わぬ姿で寝ていたのだ。

 

 

「どうなって・・・・・・」

「んぅ・・・・・・、おはよう。起きてたんだね竜くん・・・・・・。ううん、あなた」

 

 

 マキの肌を見ないように顔をそらしつつ竜は自分も服を着ていないことに気がついた。

 竜が自分も服を着ていないことに驚いていると、振動が伝わったのかマキが目を覚ました。

 

 目を覚ましたマキは目を軽く擦りながら竜にニコリと笑いかける。

 マキの言葉に竜は違和感を感じ、思わずマキの顔を見る。

 

 

「あなたって・・・・・・、どういう・・・・・・」

「あれ?覚えてないの?昨日、私とあんなに愛し合ったのに・・・・・・。ほらこれが証拠」

 

 

 そう言ってマキは布団のシーツを外し、赤黒く染まった布団を見せた。

 服を着ていない男女が一緒の布団で寝ており、布団には赤黒い染み。

 これだけで何があったのかは簡単に想像できてしまうだろう。

 

 

「まさか・・・・・・」

「ふふふ、夢じゃないよ。だからね?」

 

 

 何があったのかに思い至った竜は愕然とする。

 そんな竜にマキは微笑みかけながら強く抱き締めた。

 

 そして、竜の耳元でマキは小さく、しかししっかりと聞こえるように囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 イ ッ シ ョ ウ セ キ ニ ン ト ッ テ モ ラ ウ カ ラ ネ 」

 

 

 

 どこにも離しはしないと。

 

 どこにも逃がしはしないと。

 

 固くしっかりと縛り付けるような響きがその囁きにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






書く際にざっくりと決めた流れはこんな感じでした。


マキがお弁当を作ってくる
指先の絆創膏に気がつく
竜がお弁当を食べる姿に笑みを浮かべる

調理風景
指を切って血を入れる

バイトが終わり、竜を晩ご飯に誘う
親からもらった薬を盛る




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UA40000突破・番外話・ヤンデレきりたんエンド




UA40000を越えたので番外話です。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。



 

 

 

 

 周囲を宇宙空間に囲まれ、仮面をつけた巨人が現れる。

 巨人に足はなく水晶のような形状の下半身で浮遊しているようだ。

 そして、現れた巨人は自身の顔を隠すように腕を動かし、現れたときとは異なる仮面を装着した。

 巨人の名は“ダークファルス・ペルソナ”。

 少人数で挑んでしまえば瞬く間に全滅させてしまうであろう強さを備えた“ダークファルス”の内の1体だ。

 

 普通のモンスターとは全く異なる圧倒的な存在感。

 その存在を前に2人の人間は自身の持つ武器を強く握り、強く睨み付けた。

 

 

『いきましょうか。ノーコンティニューでクリアしてやります!』

「ならこっちは・・・・・・、コンティニューしてでもクリアする!」

 

 

 気合いをいれるように“KIRIKIRI”と竜は声を出す。

 そして、“ダークファルス・ペルソナ”と“KIRIKIRI”と竜の戦いが始まった。

 

 最初に“ダークファルス・ペルソナ”がつけたのは蛾の触角のようなものがついた仮面。

 直後、竜と“KIRIKIRI”の足下に攻撃の予兆の光の輪が出現した。

 

 

「一旦離れて・・・・・・、一気に距離を詰める!」

『パリィしても良さそうですけど、ね!』

 

 

 光の輪が出現してから数秒後、竜と“KIRIKIRI”の頭上から無数の光線が降り注ぐ。

 しかし、攻撃の起こるタイミングを読んでいた2人は危なげなく回避をし、“ダークファルス・ペルソナ”の仮面へと向かって一気に距離を詰めて攻撃に転じた。

 

 

「この仮面のときはこの攻撃かレーザーグリットみたいなのが多いから対処は楽ですね」

『仮面を殴っているときはパリィで防いでしまえばそのまま攻撃を続けられますもんね』

 

 

 “ダークファルス・ペルソナ”の攻撃を回避しては攻撃し、避けきれない攻撃はパリィをしてダメージを最小限に抑える。

 これはどんなゲームでも有効に使える基本的な戦術で、味方の人数が少なければ少ないほど重要な戦い方になるだろう。

 

 それからしばらく同じように戦っていくと、“ダークファルス・ペルソナ”のつけていた仮面が砕け、“ダークファルス・ペルソナ”の本来の顔が現れた。

 すると“ダークファルス・ペルソナ”は最初のときと同じように自身の顔を隠すように腕を動かし、さっきとは異なる仮面を装着した。

 

 “ダークファルス・ペルソナ”のつけた2枚目の仮面、それは仮面というにはあまりにも大きすぎた。

 大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎる仮面だった。

 

 

「この仮面は殴ってきたり、地面を広範囲で攻撃したりでしたっけ?」

『そうですね。まぁ、この形態でも仮面に張り付いてれば問題ないでしょう』

 

 

 つけている仮面によって変化するモーションをほとんど憶えてしまっている2人は特に慌てることもなく攻撃を続けていく。

 むしろ大振りな攻撃の多いこの仮面は2人にとってはカモのようなものだった。

 そのまま2人はあっさりと“ダークファルス・ペルソナ”を攻撃していく。

 

 

「大振りがきたら・・・・・・イージーフルコネクト!!」

『エクスゥゥ・・・・・・カリバァァァアアアアーーーー!!』

 

 

 “ダークファルス・ペルソナ”がとくに大きな攻撃をして隙をさらしたのを見逃さずに竜と“KIRIKIRI”はエトワールでもっとも単発火力の高い技を放つ。

 2人の放った2振りの剣を合体させて放った切り上げは地面に大きな斬撃跡を残しながら“ダークファルス・ペルソナ”の仮面を切り裂き破壊した。

 正式な名称はコネクトという技から繋げて放つフルコネクトという技なのだが、モーションがFGOの宝具にある約束された勝利の剣(エクスカリバー)と似ているということで“KIRIKIRI”は違う技名を叫んでいた。

 

 2枚目の仮面も破壊された“ダークファルス・ペルソナ”はさらに異なる仮面を被る。

 3枚目の黒い仮面を“ダークファルス・ペルソナ”が被ると同時に、胸元の心臓の部分が開いた。

 赤く光るそれはどう見ても弱点にしか見えない。

 

 

「折り返しですね。油断せずにいきましょう」

『動きの種類も多いですしね』

 

 

 “ダークファルス・ペルソナ”の仮面が変わったことを確認した2人は回復アイテムを使って減っていた体力を回復させる。

 そして、体力を回復させた2人は“ダークファルス・ペルソナ”へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 “KIRIKIRI”と協力して“ダークファルス・ペルソナ”を攻略した翌日。

 竜はPSO2で衣装を手に入れるために必要なACを買おうか悩みながら帰路についていた。

 竜のプレイスタイルは、戦闘を楽しみつつも操作するキャラクターを色々な衣装で着飾ったりするのを忘れずにするというタイプで、新しい衣装が手に入れば戦闘をそっちのけでファッションショーのようなことをやったりするのだ。

 

 

「あんっ!」

「ん?おお、“きりいぬ”じゃないか」

 

 

 不意に聞こえてきた犬の鳴き声に竜はキョロキョロと周囲を見渡し、きりたんぽを背負って和服を着ている犬がいることに気がつく。

 この犬は“(あき)()(いぬ)”と言い、東北家で飼われている犬だ。

 少しばかり呼びにくい名前なので、竜は縮めて“きりいぬ”と呼んでいる。

 

 

「わーう、わふっ!」

「おっとっと、どうしたんだ?生徒会長やイタコ先生はどこにいるんだ?」

 

 

 竜が自分に気づいたことが嬉しかったのか、きりいぬは竜に向かって飛びつく。

 東北家の飼い犬ということでずん子かイタコ先生のどちらかが近くにいるのかと周囲を見渡してみるが、どこにもその姿は見られない。

 不思議に思いながら竜はきりいぬを顔の前にまで持ち上げて尋ねてみた。

 竜の言葉にきりいぬはキョトンと首をかしげるのだった。

 

 

「しゃーない、届けにいくか」

「わふわふっ!」

 

 

 ここでこの小さな子犬のきりいぬを置いていくというのは不安があり、竜はどうにも放っておくことができなかった。

 

 竜はきりいぬを見ながら少しだけ考えると、小さく息を吐いて東北家に向かうことを決める。

 竜の言葉にきりいぬは嬉しそうに鳴き声をあげるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ときどきイタコ先生やずん子に誘われて行っている東北家へと向かう道を竜はきりいぬを抱えながら歩く。

 イタコ先生の場合はキツネが、ずん子の場合はきりたんが主に誘われる理由となっていた。

 

 

「やっぱり衣装は欲しいしなぁ。水着とか浴衣とか夏のオシャレでは必須だし・・・・・・」

 

 

 きりいぬを抱えながら竜はいまだにACを買おうか悩んでいた。

 ACの値段は基本的にそのまま円に変換するのと同じで、学生にとってはどう考えても安い買い物ではない。

 “cafe Maki”でバイトをしているとはいえ、それでもあまり大きな金額を使いたくはなかった。

 竜がそんなことを考えていると、いつの間にか東北家の前に到着していた。

 

 

「っと、着いていたか。・・・・・・一応、ちゃんと報告しとかないと不安だな」

 

 

 東北家に着いていることに気がついた竜は、きりいぬを東北家の敷地に放して帰ろうかと考えた。

 が、よくよく考えてみれば自分の帰り道のところにまで出歩いてきてしまうのだから敷地に放すのでは不味いだろうと考え直してインターフォンを鳴らした

 インターフォンが鳴ってしばらくすると、パタパタという早足の音が聞こえてきて、ずん子が現れた。

 

 

「あら?公住くん、どうかしたの?」

「どうもです。実は家に帰る途中でこの子を拾いまして」

「この子?・・・・・・あらまぁ。そうだわ、公住くんは時間はあるかしら?良かったらきりたんと遊んでいかないかしら?」

「えっと、まぁ、大丈夫です」

 

 

 玄関から現れたずん子に竜はきりいぬを見せながら東北家に来た理由を話す。

 竜の言葉にずん子は少し驚いた表情になり、竜からきりいぬを受け取った。

 竜からずん子の手に移ったきりいぬは、素早く身を(よじ)ってずん子の手から脱出をする。

 そしてそのまま家の奥の方へと消えていってしまった。

 きりいぬが家の奥へと消えていったのを確認したずん子は竜に時間があるかを尋ねる。

 ACを買うか悩んでいた竜は思考をリセットすることも必要だと考えてずん子の言葉にうなずいた。

 

 竜が靴を脱いで東北家に入ると、ドタバタと慌てたような足音が近づいてくるのが聞こえた。

 

 

「いらっしゃいです!」

「おおっとぉ?!」

 

 

 ドタバタという足音が近づいてきて、音の主を竜が確認した瞬間、音の主であるきりたんは竜に向かって大きく飛びついていった。

 それはまるでラグビーのタックルのようで、意外にも大きな衝撃に竜は思わず大きめの声を出してしまう。

 

 

「さぁ!早くゲームをやりましょう!」

「分かった、分かったから引っ張るなって」

 

 

 目をキラキラと光らせるきりたんに手を引かれながら、竜はきりたんの部屋へと案内される。

 その後、めちゃめちゃ対戦ゲームや協力プレイゲームをやった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 きりたんの部屋でゲームを始めてしばらくすると、定位置となっている竜の膝の上に座っていたきりたんが竜を見上げた。 

 きりたんがゲームを止めて見上げていることに気がついた竜は不思議そうに首をかしげる。

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

 竜の言葉にきりたんは答えず、なにか不思議な紋様を空中に絵書き始めた。

 

 

(ばく)・・・・・・」

「っ?!か、体が・・・・・・」

 

 

 不意にきりたんが言葉を発した直後、竜は全身が動かなくなってしまう。

 突然のことに竜は困惑し、目だけを動かしてきりたんを見る。

 

 

(げん)・・・・・・。ふふふ、これで竜兄さまは私だけのものです」

「きりたん・・・・・・?!」

 

 

 続けてきりたんがなにかを発したが、とくになにかが変わったようには見えない。

 しかし、きりたんはそれで満足したのか、竜に思いきり抱きついた。

 きりたんの行動に竜は体をどうにか動かそうとしながら声をかける。

 

 

「俺に、なにをしたんだ・・・・・・?」

「えへへへ、動けないですよね?竜兄さまの魂を私が縛ったのでもう竜兄さまの意思では動くことはできないんですよ」

 

 

 どうやっても動かせない体に恐怖を感じながら竜はきりたんに尋ねる。

 竜の言葉にきりたんは竜の体に自身の体を擦り付けながら答えた。

 

 魂を縛る。

 

 きりたんはなんてことのないように言っているが、これはとても難しい霊術でイタコ先生やずん子には扱うことのできない霊術の1つだった。

 しかし東北家の麒麟児と呼ばれているきりたんにとってはそれほど難しいことではなく、あっさりと竜の魂を縛っていた。

 

 

「これからはずーっと一緒ですよ。まだ私の体は小さいのでそういったことはできませんが、ゆくゆくは姉さま方のようなボンキュッボンになるので。期待していて待っていてください」

「な、なにを言っているんだ?それに俺の姿を見ればイタコ先生や生徒会長が怒るに決まっているだろう?」

 

 

 ジッと竜の瞳を見つめながら言うきりたんを竜は恐ろしく感じつつも、イタコ先生やずん子が気づいてくれるときりたんに指摘する。

 しかしきりたんは竜の言葉に笑みを浮かべた。

 その直後、きりたんの部屋の扉が開き、イタコ先生が現れた。

 

 

「あら?きりちゃん(●●●●●)だけですの(●●●●●)?」

「はい。竜さんは用事ができたといって慌てて帰ってしまいまして」

「・・・・・・・・・・・・へ?」

 

 

 きりたんの部屋に入ってきたイタコ先生は軽く部屋の中を見回すと、まるで竜がいないかのように話し始めた。

 イタコ先生の言葉に竜はポカンと口を開けてしまう。

 

 目の前にいるのに気づいていないというのはどういうことなのか。

 きりたんと話すイタコ先生に気づいてもらおうと竜は何度も呼び掛けたが、イタコ先生は全く気づく様子もなく部屋から出ていってしまった。

 

 

「どうなっているんだ・・・・・・」

「ふふふ、これくらいの霊術を使うことくらい私には朝飯前なのです。ですから、ね?竜兄さまのことを見つけることができるのはもうこの世に私だけなんですよ」

 

 

 愕然と部屋から出ていってしまうイタコ先生の姿を見る竜にきりたんは頭を撫でながら答える。

 きりたんが使用したのはイタコ先生が髪の色を誤魔化す際に使っていたものと同じ認識阻害の霊術。

 しかしその強さはイタコ先生とは比べ物にならないほどで、目の前にいる竜の姿はおろか声すら隠蔽してしまうほどのレベルだった。

 

 

「大丈夫ですよ。竜兄さまのことを他の誰もが気づけなくても私だけがちゃんと気づいてあげますから。竜兄さまの子どもも私がちゃんと身籠ってあげますから。だから、安心して今は眠ってくださいね?」

 

 

 そしてきりたんは竜の意識を霊術で奪う。

 意識を失った竜の体を布団に移動させ、きりたんはそのまま竜の体に抱きついて眠るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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UA50000突破・番外話・ヤンデレ琴葉姉妹エンド





UA50000を越えたので番外話です。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。








 

 

 

 

 『双子』

 

 この言葉を聞いて最初に思いつくのはそっくりな2人組、だろうか。

 

 もちろんその認識は間違いではないのだが、双子には一卵性と二卵性というものがあり、それによってある違いが生じるのだ。

 

 一卵性双生児は文字通り1つの卵、つまりは1つの卵子が受精した後に2つに分かれたことによって生まれる双子で、この場合は1つが2つになっているので遺伝子はほぼ100%同じと言える。

 それに対して二卵性双生児は2つの卵、こちらは2つの卵子が同時に受精してそれぞれ育つことによって生まれる双子で、この場合は遺伝子は50%程しか同じではない。

 

 つまり、顔がそっくりな双子は一卵性で、あまり似ていない双子や男女の双子の場合は二卵性となってくるのだ。

 

 

 また、双子には特別な力がある、という話を聞いたことがある人は多いだろう。

 

 お互いがどこにいるのかが分かる。

 

 お互いの感情が分かる。

 

 お互いの考えていることが分かる。

 

 片方が怪我をすればもう片方も同じ場所を怪我する。

 

 等々、にわかには信じがたいものが挙げられる。

 これらに関して科学的な根拠はなく、また、本当にそんな能力があるという証明も不可能だ。

 もしかしたらすべての双子はこんな能力を持っているのかもしれないし、逆にすべて眉唾物なのかもしれない。

 どちらにしても双子本人でない限りそれらの真偽を知ることはできないだろう。

 

 

 

「ほれ、ちゃっちゃと買い物を終わらせてうちに向かうでー」

「お菓子とー、ジュースとー」

「うーん、明日が休みとはいえ本当に泊まるのか・・・・・・?」

「ご主人、もう諦めるしかないんやない?」

 

 

 買い物かごを持った茜の言葉に葵がお菓子やジュースのペットボトルをどんどん買い物かごに入れていく。

 今日の竜たちの予定は、明日が休みということで竜の家に集まって遊ぼうという話になったのだ。

 まぁ、その話が泊まる家の家主である竜に届いたのはついさっきの帰り道でなのだが。

 

 

「ゆかりさんとマキマキは一緒に来る言うてたから気にせんでええし。あかりは竜の家の真ん前やしな。あとはうちらが食材とかを買って帰って準備は終わりやね」

「みんなで泊まるのなんて修学旅行くらいしかないから楽しみだよね」

「いや、だとしても普通は男女は別に・・・・・・。はぁ、まぁ気にしてないなら良いか・・・・・・」

「晩御飯はうちも手伝うでー」

 

 

 晩御飯の食材、お菓子、ジュース。

 必要になるだろうと思うものをどんどん入れていった結果、かなりの量になってしまう。

 こんなに大量のものを買ってお金は大丈夫なのか気になるところだが、どうやら茜は先にあかりからお金を受け取っていたらしく、普通にレジで会計を済ませていた。

 

 後輩であるあかりからお金をもらっていることをどうかと思うかもしれないが、そもそもとしてあかりが一番多く食材などを消費するので、その辺りのことが分かっているからあかりは自発的に茜にお金を渡していたのだ。

 

 

「む、意外とあるな・・・・・・」

「あ・・・・・・、いつもありがとうな・・・・・・」

「そういうところ、すごいよね・・・・・・」

「ん・・・・・・」

 

 

 会計が終わり、竜たちは買ったものを手に持っていく。

 食材の入った袋、ジュースの入った袋、お菓子の入った袋。

 大雑把に分けて三種類の袋があり、竜はとくに話し合うこともなく食材の入った袋とジュースの入った袋を手に取った。

 竜が重い袋を自然と取ったことに茜は少しだけ驚き、葵と一緒に感謝の言葉を告げた。

 

 2人からの感謝の言葉に竜は短く答え、家に向かって歩き始める。

 竜が歩きだしたことに2人はは慌ててお菓子の入った袋をそれぞれ手に取り、笑いながら竜の後を追う。

 2人の前を歩く竜の顔は見えないが、チラリと見えた竜の耳は赤く染まっていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜の家の前。

 そこにはすでにゆかり、マキ、あかりの姿があり、それぞれの近くにはやや大きめのバッグが置かれていた。

 むしろ竜の家の向かい側に住んでいるあかりにそんな大荷物は必要ないのではないかと思えるのだが、そこはそれ雰囲気というものがあるのでバッグがあるということが重要なのだ。

 買い物袋を持った竜たちの姿に気づいた3人は軽く手を振る。

 

 

「お待たせやー」

「ちょっと買いすぎちゃったかもねー」

「ふぅ・・・・・・、いな、家の鍵を開けてくれるか?」

「りょーかいや」

 

 

 手を振るゆかりたちにお菓子の袋を持っている茜と葵は手を振り返す。

 さすがに重い食材とジュースを持っている竜は手を降り返すことができず、地面に買ったものをゆっくりと下ろして休んでいた。

 竜に言われ、ついなは鍵を取り出して玄関を開ける。

 いきなり家の玄関が開いたことに茜たちは驚くが、すぐについなが開けたのだと気づき、それぞれの荷物を手に家の中に入っていった。

 

 

「あれ、そういえば茜たちは荷物はないのか?」

「あー、うちらは置いてあるやつで充分やから」

「あはは、なんだかんだ長い付き合いだからボクたちの荷物ってこの家に結構あるよね」

 

 

 買ったものを持ち直して家に入ろうとしたとき、竜は茜たちが泊まる荷物を持っていないことに気がつく。

 普通であれば泊まる際にゆかりたちのようにやや大きめのバッグに着替えなどを入れて持ってくるのだが、茜と葵はとくに大きなバッグなども持たずに竜の家に来て買い物に行っていた。

 竜の言葉に茜は笑いながら答えた。

 茜に同意するように葵も笑う。

 

 茜と葵の言う『この家に置いてある』という言葉に疑問をもつかもしれないが、これには理由がある。

 まず、茜と葵はこの中でもっとも竜と長い付き合いがあり、その関係の始まりは竜が1人暮らしをすることになる前からとなっている。

 そして、それだけ長い付き合いとなれば、帰宅途中で雨に降られて雨宿りとして家にあげたり、買い物に行ってそのあとに家で遊び、帰るときに買った服を持ち帰り忘れたり等々。

 さまざまな理由で竜の家には茜と葵の荷物が置かれているのだ。

 一回一回の荷物の量は少なくても回数が多くなればその分荷物の量も増える。

 そしてその結果、今ではその荷物だけ泊まることができるほどにまでなったのだ。

 

 

「ああ・・・・・・。というか、持ち帰れよ・・・・・・」

「気が向いたらなー」

「結構便利だからボクとしては置いておきたい、かなぁ」

 

 

 茜と葵の言葉に竜は諦めたように項垂(うなだ)れる。

 2人の答えはどう考えてもやらない人間の受け答えだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 女性が3人寄れば姦しい、とは言うもので。

 3人の女性が集まれば会話が途切れずに話し続けるものである。

 

 まぁ、3人どころか2人でも途切れないことはあるのだが。

 

   閑話休題(それはともかくとして)

 

 3人で途切れずに話し続けるのであれば5人に増えたらどうなるのか?

 その答えが竜の家の中で起きていた。

 

 

「あー、待ちいや!それはうちが見つけたアイテムやで!」 

「へへーん、これは対戦ですからね。ゆかりさんが華麗に勝利を納めるんですよ」

「あ、マキさん。そのお菓子どう?美味しい?」

「んー、前に食べた鳥取の砂丘味と似てるかも」

「皆さんどのジュースを飲みますかー?」

「コーラで頼むで!」

「私も同じくコーラで」

「ボクはまだあるから大丈夫だよ」

「あ、私はサイダーにしようかな」

「分かりました。コーラ、青汁、サイダーですね」

「待ちい?!なんか変なもんが混じっとったんやけど?!」

「飲みませんよ?!ゆかりさんは絶対に飲みませんからね?!」

「私はサイダーだから2人のどちらかだね」

「負けた方が飲むのかな?お姉ちゃん、がんばえー」

 

 

 ゲームで対戦をする2人。

 お菓子を食べて会話をする3人

 

 それぞれの特徴が出つつも、竜の家はかなり賑やかになっていた。

 5人のそんな様子に風呂の準備から戻ってきた竜はやや疲れた表情になる。

 まぁ、疲れた表情と言いつつも嫌そうな表情ではないのだが。

 

 

「んで、どういう順番で風呂に入るんだ?」

「そこは、まぁ、家主である竜くんからで」

「うちらはあとでも気にせんよ」

 

 

 女性といえば大切なのは入浴の順番。

 男が入ったあとでは嫌なのではないかと竜は考えて確認をとる。

 すると茜たちは竜が先に入っても構わないと答えた。

 少しだけ意外だった答えに竜は驚きつつ、茜たちの言葉に甘えることにする。

 

 

「ほな、竜の次に入る人を決めよか」

「勝った人が竜くんの次だね」

「これはゆかりさんも限界を越える必要がありそうですね」

「ちょぉっと負けられないかにゃ~?」

「先輩だろうと負ける気はありませんよ」

 

 

 竜が風呂場に向かったのを確認した茜たちはバチバチと火花を散らせる。

 まぁ、そもそもとして次に入ったからなんだというところなのだが。

 そんなことを言うのは野暮というものなのだろう。

 なお、誰が勝利して竜の次にお風呂に入ったのかは秘密である。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 お風呂も全員入り終わり、それぞれ思い思いの格好でのんびりと過ごす。

 対戦ゲームをする者、ホラー映画をつける者、怯えて誰かにしがみつく者、いまだにお菓子を食べている者。

 

 

「なんつーか、いきなりの話だったけど。こういうのも悪くないな」 

「せやね。ご主人も楽しそうやったし」

 

 

 ソファーに座って茜たちの様子を見ながら竜は呟く。

 もともとは竜1人、今ではついなと2人で暮らしているが、どこか心の隅で家が寂しいと感じていたのも事実。

 そのため、今日の5人が泊まることになって騒がしくなっているのは竜にとってとても楽しいことだった。

 

 

「っと、少し涼んでくるわ」

「ん、了解や」

 

 

 ついなと話していて、寂しいと思っていたのが少し恥ずかしくなったのか竜は2階に向かう。

 2階は1階とは違ってシン、としており、1階での騒がしさが嘘のように感じられた。

 そして、そのまま竜は2階のベランダに出る。

 

 

「・・・・・・ありがとう、かな。まぁ、みんなには恥ずかしくて言えないけど」

 

 

 小さく呟いてから竜はクスリと笑う。

 1階から聞こえてくる騒がしさに耳を澄ませながら竜はのんびりと夜風に当たる。

 不意に窓が開く音がして、誰かがベランダに出てきた。

 

 

「ベランダでどうしたんや?」

「茜か。いや、少し涼もうと思ってな」

「ほーん・・・・・・」

 

 

 外を見ていた竜は背後からかけられた声にベランダに出てきたのが茜だと気づく。

 茜の言葉に竜はベランダに出てきた理由を簡単に答えた。

 竜の答えにうなずきながら茜はゆっくりと竜の背後に移動する。

 

 

「ん゛?!・・・・・・げほっ、げほっ。茜、いきなりなにすんだ?!」

「なにって・・・・・・。プレゼントやで?」

 

 

 背後からいきなり首になにかを巻き付けられ、竜は思いきり咳き込む。

 幸いにしてすぐに首の圧迫感からは解放されたが、首になにかが巻き付けられているのが分かった。

 軽く首を(さす)りながら竜は茜の方を振り向いて睨み付ける。

 

 竜の言葉に茜はとくになんてことのないように答える。

 首に触れてみれば巻き付いているのはどうやら革製品で金属のようなものがついているもののようだった。

 一番近いものとしては『首輪』のような感じだろうか。

 

 

「ふへへ、これで竜はうちらのものやで?」

「はぁ?」

 

 

 ニマニマと、どこかネットリとした笑みを浮かべながら茜は言う。

 もしかして首輪をつけたからペットになった、といった風にふざけているのだろうかと竜は考えるが、どうにも茜の言葉にふざけているような雰囲気が感じられない。

 

 

「ほぉれ、竜。ご主人様にキスせい」

「いや、何言っ・・・・・・がっ?!ぐぅっ?!」

 

 

 茜の言葉に竜が首をかしげていると、不意に竜の首に巻き付いているものが縮み始めた。

 ピッタリ巻き付いていたものが縮むことにより、竜の首は問答無用で締め付けられ呼吸ができなくなる。

 

 

「言うこと聞かんワルイ子にはお仕置きやで?」

「あ、お姉ちゃん。もうやってたの?」

「げほっ、げほっ・・・・・・なにが・・・・・・?」

 

 

 首を締め付けられることによって苦しんでいる竜を見下ろしながら茜は言う。

 いつの間にか、茜の後ろから葵がベランダに出てきていた。

 葵は苦しんでいる竜とそれを見下ろしている茜を見て、少しだけ残念そうな表情を浮かべる。

 

 

「さっき言うたやろ?竜はもう、うちらのものなんや」

「その首のやつはボクたちの特別製でね?ボクたちの意思でいつでも小さくすることができるの。もう経験したみたいだから詳しくは説明しなくてもいいよね?」

「何を言っているんだ・・・・・・。それに、こんなものを着けていればそのうち誰かが・・・・・・」

「せやから気づかれないように頑張りいや?」

「気づかれたら竜くんのことをお仕置きしないといけないもんね」

 

 

 気づかれれば首輪を外されて竜に逃げられる。

 それならば竜本人に首輪のことが周囲に気づかれないようにさせればいい。

 クスクスと笑いながら茜と葵は竜に左右から抱きつく。

 

 

 

 

「竜、うちと────」

「ボクから────」

 

 

 

 

 

 

 

「「 ニ ゲ ラ レ ル ナ ン テ オ モ ワ ナ イ デ ネ ? 」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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UA60000突破・番外話・ヤンデレイタコエンド




UA60000を越えたので番外話です。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。






 

 

 

 

 いつ頃から彼のことが気になっていたのか。

 

 

 ふと、そんなことが頭をよぎる。

 

 彼の学年が入学してきた最初の頃は普通の男の子だと思っていた。

 それこそ、自分のような普通の人にはない力など知らない、ただの男の子だと思っていた。

 

 それが少し変わってきたのは彼らの学年が学校生活になれてきた頃。

 女性にとって男性の視線というのはどうしたって気づいてしまうもので、男性のチラ見は女性にとってのガン見とも言えるほどに気づくことができる。

 そのため、自分のことを見る男子生徒たちや他の先生たちがいることにもすぐに気がついた。

 そして、そんな男子生徒や先生たちがなにかと理由をつけて保健室に来ることも。

 

 正直に言えば大きな怪我でもないのに保健室に来るのはやめてほしかった。

 彼らがいるために本当に処置の必要な生徒が入ってこれないことが時たまあったのだ。

 

 そんな日々が続いていたある日、彼は膝から血を流しながら保健室に来た。

 彼が言うには体育の授業で思いきり転んだとのことだったが、そのときの私は彼も他の生徒たちと同じように保健室に来るために怪我をしたのではないかと思ってしまっていた。

 しかし、彼は怪我の処置が終わるとお礼を言ってアッサリと保健室から出ていってしまったのだ。

 あまりにもアッサリと保健室から出ていってしまった彼の姿が私の中でとても強く印象に残っていた。

 

 それからも彼はたまに怪我をして保健室に来るものの、他の生徒たちのように頻繁に保健室に来ることはなかった。

 

 

 そして、彼のことが決定的に気になり始めたのは彼に霊力についての話をするために家に招いたときだった。

 霊力についての話をする前に私の中にいるキツネが彼のことを気に入り、その感情が私に流れ込んできたのだ。

 そのときはキツネの感情だけだと思っていたのだが、時間が経ってしばらくしてからも彼のことを見るたびに私の中の奥の方でなにかが(うず)くような感覚があった。

 私の中の奥の方で疼くような感覚、これが“恋”という感情だと知ったのはそれから少し後のことだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「竜、なんや体調悪そうやけど大丈夫なんか?」

「んー?ああ、なんか朝からダルくてな・・・・・・。寝不足とかではないはずなんだが・・・・・・」

 

 

 どこかフラフラとした様子の竜に茜が声をかける。

 竜の顔色などは悪くなさそうに見えるのだが、それでもどこかぼんやりとしているように見えた。

 

 

「体調が悪いなら保健室に行ってきたらどう?」

「そうだな・・・・・・。ちょっと行ってくるよ・・・・・・」

「キツそうやし、うちらも付き添うで」

 

 

 あまりにも竜の体調が悪そうに見え、葵は竜に保健室に行ってはどうかと提案する。

 葵の言葉に竜は少しだけ考え、うなずいて保健室に向かうことに決めた。

 そして、茜と葵の付き添いのもと、竜は教室を出た。

 

 

「にしてもほんまにどうしたんやろうね?ここんとこずっとそんな調子やない?」

「うんうん。それで今日は特にひどく見えるよね」

「そうなんだよな・・・・・・。とくに身に覚えもないんだが・・・・・・」

 

 

 どことなくフラフラとした足取りの竜の両手を茜と葵がそれぞれ取りながら保健室に向かう。

 保健室に向かって歩きながら茜はここ最近の竜の体調を思い出しながら尋ねる。

 茜の言葉に葵も同意してうなずく。

 

 茜の言うとおり、ここ最近の竜はどこか体調が悪そうで、普段とは少し様子の違う竜にアイ先生やクラスメイトたちも不思議そうにしていた。

 茜の言葉にうなずきながら竜は体調が悪くなっていることに対してとくに身に覚えがないことを答える。

 

 そして、竜たちは保健室に到着した。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「失礼します。イタコ先生はいますか?」

「体調不良を搬送してきたでー」

「あー・・・・・・、失礼しまーす・・・・・・」

 

 

 保健室の扉を開け、茜たちは保健室に入る。

 茜たちが保健室に入ると、扉を開けた音に気がついたイタコ先生がちょうど振り向いていた。

 

 

「あらまぁ、公住くんが体調不良ですの?」

「はい。ここのところ最近も体調は悪そうだったんですけど、今日はとくによくないように見えたので保健室にお姉ちゃんと私が付き添いで来ました」

「竜のこと、お願いするで!」

 

 

 フラフラとした様子の竜に気がついたイタコ先生は少しだけ驚いたような表情になりながら葵からどういった用件で保健室に来たのかを聞く。

 竜も軽く説明しようとしていたのだが、保健室に着いてからとくに体調が悪くなったのか、しゃべることすら辛いような状態になってしまっていた。

 そのことにいち早く気がついた茜は、イタコ先生に確認をとる前に素早く竜のことをベッドに寝かせる。

 そして竜をベッドに寝かせた茜は汗をぬぐうような動きをしてからイタコ先生に向かって親指を立ててキメ顔をした。

 

 普通であれば勝手に保健室のベッドに寝かせていることをイタコ先生は注意をしなければいけないのだが、竜が辛そうにしているのはハッキリと分かっていたので目をつむることにした。

 

 

「それじゃあ、竜くんのことをお願いします」

「ええ、もちろんですわ。そろそろ授業も始まりますから、廊下は走らないように戻りなさいな」

 

 

 イタコ先生に頭を下げ、茜と葵は保健室を後にした。

 2人が保健室から出ていき、姿が見えなくなるところまで確認したイタコ先生は素早く保健室に戻ると静かに保健室の扉の鍵を閉める。

 それと同時に竜と一緒にいるついなに気づかれないように術を発動する。

 

 

「イタコ、ご主人は大丈夫なんかなぁ?」

「ええ、私が見ているんですもの。すぐに良くなりますわ」

 

 

 イタコ先生がベッドに横になっている竜の近くによると、竜の制服のポケットから出てきたついなが不安そうにしながら尋ねてきた。

 ついなの言葉にイタコ先生はニコリと微笑みながら答える。

 イタコ先生の言葉についなは少しだけ安心したのか、竜の頬を優しく撫でてベッドの枕の近くに座り込んだ。

 

 

「それにしても・・・・・・・・・・・・。ここまで耐えるとは思いませんでしたわ・・・・・・」

「くー・・・・・・」

 

 

 竜の横になっているベッドから離れ、自分の机の上の書類整理を始めながらイタコ先生はボソリと小さく呟く。

 イタコ先生の言葉にキツネもひょこりと顔を出して同意するようにうなずいた。

 

 

「ですが、それも今日までですわね。彼を守っている子たちもすでに手は打ちましたし、あとはついなさんだけ。そうすれば・・・・・・、ふふふ・・・・・・」

 

 

 書類の整理をしながらイタコ先生は人が見れば見惚れそうな笑みを浮かべる。

 そして、イタコ先生は笑みを浮かべながらチラリと竜の横になっているベッドに視線を向けた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜が保健室に着いてからどれ程の時間が経っただろうか。

 保健室のベッドの上で竜はパチリと目を開く。

 多少なりとも眠ったことで回復したのか、教室にいたときよりも竜の体調は良くなっていた。

 ベッドの上で体を起こし、保健室にいるであろうイタコ先生を探す。

 

 

「ああ、起きましたのね」

「あ、はい。今は・・・・・・」

「今は午後の授業中ですわ。お腹は空いていないかしら?」

 

 

 竜が起きたことに気がつき、イタコ先生は竜に声をかける。

 自分がどれぐらい眠っていたのかがきになり、竜はイタコ先生に尋ねた。

 

 イタコ先生の言葉に竜は驚きつつ、自分のお腹が空腹をうったえていることに気がつく。

 それと同時に竜の腹からぐぅ~という音が聞こえてきた。

 

 

「えっと、空いています・・・・・・」

「あらあら、元気な音ですわね。お昼休みに弦巻さんが持ってきてくれたお弁当がありますから、そちらを食べると良いですわ」

 

 

 竜のお腹から聞こえてきた音にイタコ先生はクスクスと笑いながら1つのお弁当箱を差し出す。

 お腹の音をイタコ先生に聞かれたことに竜は恥ずかしさを感じつつ、イタコ先生からお弁当を受け取った。

 

 

「いつも弦巻さんにお昼を作ってもらっているんですか?」

「ええ、まぁ、申し訳ないとは思っているんですけどね」

 

 

 竜がマキの作ったお弁当を食べているのを見てイタコ先生は尋ねる。

 イタコ先生の言葉に竜はお弁当を食べながら答えた。

 

 空腹だったこともあり、竜は一気にマキの作ってくれたお弁当を食べ終わる。

 そして、竜が食べ終わったタイミングでついながお茶を差し出してきた。

 

 

「ご主人の体調がよくなったみたいでひと安心や」

「そうですわね。でも、念のためにもう少し休んでいくと良いですわ」

「はい、そうさせてもらいます」

 

 

 ついなからお茶をもらい、竜は一息をつく。

 眠ったお陰で体調は回復したようだが、それでも万全というわけではないので念のためにまだ寝ているようにイタコ先生は言う。

 イタコ先生の言葉に竜はベッドに横になった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 時間は進み、ベッドで寝ていた竜は違和感を感じて目を覚ました。

 目を開いて最初に気づくのは保健室の暗さ。

 そして続いて感じるのはどことなく冷えた空気だ。

 

 今の時期はたしかにやや冷えを感じる時期ではあるのだが、それでもいま竜が感じている冷えた空気はそれとは違ったもののように感じられた。

 

 

「イタコ先生・・・・・・?ついな・・・・・・?」

 

 

 ベッドから起き上がり、竜は寝る前にいたはずの2人の名前を呼ぶ。

 しかし竜の呼び掛けに答える声は聞こえず、冷えた空気も合わさっていままでに感じたことのないほどの静けさを感じられた。

 

 

「どうなっているんだ・・・・・・?」

 

 

 いきなりの異常事態に竜は周囲を警戒しながら保健室から顔を出した。

 保健室の外も中と同じように暗く、一切の音が聞こえなかった。

 まるで自分以外に生き物がいないかのような事態に竜は表情を強張らせながら廊下を歩いていく。

 

 教室、図書室、職員室、中庭、屋上。

 

 思いつく限りの校内を歩いて調べてみたが、そのどこにも人の姿はなかった。

 そして、竜は落ち着いて考えるために保健室に一旦戻ることに決めた。

 

 

「・・・・・・ふぅ。落ち着け。見た限りで校内に人の姿はなし。それと中庭に梅の木はあったがひめとみことはいないみたいだったな」

 

 

 ここで混乱してしまっても事態は解決しない。

 それが分かっているからこそ竜は発狂しそうな感情を無理矢理押さえ込んで状況の整理をする。

 

 

「とにかく、落ち着いて冷静に行動しよう」

 

 

 保健室に戻る際に自販機で買ったジュースを飲み、竜はもう一度校内を探索することに決めた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

『ここにもなにもない、か・・・・・・』

「ふふふふ・・・・・・」

 

 

 月明かりの差し込む自室でイタコ先生は笑みを浮かべる。

 イタコ先生が見ているのは1つの鏡。

 その鏡には竜の姿が映り込んでいた。

 

 

「ああ、ああ・・・・・・。怖がりながらも探索をするその表情が。脱出できることを信じているその表情が。とても、とてもとても・・・・・・愛しいですわ」

 

 

 鏡に映る竜を撫でながらイタコ先生は艶かしい声で囁く。

 その吐息は熱を帯びているかのように熱く、嬉しそうに竜の姿を見ながら自身の指を軽く噛んでいた。

 

 

「はぁ、はぁ・・・・・・。公住くん、いいえ、旦那さま(竜くん)。あなたの感情、表情、肉体、精神。その全ては私の、“私たち”のものですわ。だから、安心してくださいませ?心が壊れても、狂ってしまっても“私たち”はずっと旦那さま(竜くん)のことを愛し続けますから・・・・・・。うふふふふ・・・・・・」

 

 

 熱く、荒い吐息を吐きながらイタコ先生は自らの秘所に手を伸ばしていく。

 そして、イタコ先生の部屋から水音のようなものと艷声が聞こえてくるのだった。

 

 

 

 

 しばらくして、1人の男子生徒の捜索願いが出されるのだが、その行方は依然として掴めないままだったらしい・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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UA70000突破・番外話・ヤンデレずん子エンド




UA70000を越えたので番外話です。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。





 

 

 

 

 生徒会長。

 

 私がその立場になったのは周りから推薦されたからという理由もあったのだが、それ以外にもう1つ理由があった。

 

 私には姉と妹がそれぞれいて、どちらもとても自慢の存在だ。

 でも、2人と比べて私には自信の持てるものがなにもなかった。

 

 姉であるイタコ姉さまは自身の身に九尾のキツネを宿すことのできるほどの器を。

 

 妹であるきりたんは年齢に見合わぬほどに強大な霊力とそれを扱うだけの技術を。

 

 2人と比べて私はそれほど多くはない霊力しか持っていなかった。

 しかも私にできることといえば“霊視”や簡易的な“結界”を張ったりする程度。

 一応、得意なことになる弓もイタコ姉さまときりたんの“霊術”による徐霊と比べてしまえばほとんど効果の無いようなものだった。

 

 だから、私はいつの間にか私にしかできないことを、私のことを見てくれる人を探していたのだと思う。

 東北家の三姉妹の中のイタコ姉さまでも、きりたんでもなく、東北ずん子である私のことを見てくれる人を・・・・・・。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜たちの通っている学校の廊下。

 竜は教室でアイ先生に頼まれた紙の山を生徒会室に運んでいた。

 最初はついなも手伝おうとしていたのだが、ついなが手伝ってしまうと空中に浮かぶ紙の山か、部外者が校内に侵入しているという騒ぎになってしまうため、手伝うことができていなかった。

 

 

「うーっし・・・・・・、生徒会室にとうちゃーく。いな、扉を開けてもらっていいか?」

「了解や。んっしょ」

 

 

 竜の言葉についなは竜の制服のポケットから飛び出してもとの大きさに戻る。

 そして、生徒会室に入れるように扉を開けた。

 

 竜が生徒会室に入ると、生徒会室の中には1人しか人がいなかった。

 

 

「あら。公住くん、なにか生徒会に用事かしら?」

「あ、えっと、アイ先生に頼まれてこれを運んできました」

 

 

 生徒会室にいた人、東北ずん子は扉の開いた音で手元の書類から顔をあげて竜に声をかけた。

 ずん子の言葉に竜は手に持っている紙の山を見せながら答える。

 

 ちなみについなは扉を開けた後にすぐにまた小さくなって竜の制服のポケットに戻っていた。

 

 

「そうだったのね。その紙ならそっちの机の上に置いておいてもらえるかしら」

「ここですね。んっ、しょと・・・・・・。ふぅ・・・・・・」

 

 

 竜の持っている紙の山を見てずん子は近くにある机の上に置くように指示する。

 ずん子の言葉に竜は机の上に紙の山を置き、背中を伸ばすように体を仰け反らせた。

 

 紙の山を置いた竜は生徒会室の中を見渡す。

 生徒会室の中はなにやら色々な紙で溢れており、それほど生徒会室に来たことのない竜でも分かるくらいに散らかっていた。

 

 

「そんなに忙しいんですか?」

「そうね。いまは色々とあって、ちょっとだけ忙しいですね。ああ、でも大丈夫よ。私は生徒会長なんだから」

 

 

 竜の言葉にずん子は両手でガッツポーズをしながら答えた。

 一見、元気でお茶目なような雰囲気を出しているずん子だが、その目の下にはうっすらとクマができており、竜の目にはそれが虚勢にしか見えなかった。

 

 

「・・・・・・手伝いますよ。まぁ、自分にできることはそんなにないとは思いますけど」

「そんな、気にしなくても大丈夫よ?」

 

 

 ずん子の顔をジッと見た竜は小さく息を吐いて近くの机に座る。

 一先ずできることとすれば書類をまとめることくらいだろうか。

 

 竜の言葉にずん子はパタパタと手を振りながら手伝わなくても大丈夫だと言う。

 

 

「自分がしたいからするんで。・・・・・・それと、目元をもう少し隠した方がいいですよ」

「え、あ?!・・・・・・ありがとう」

 

 

 ずん子の言葉に竜は書類を同じ種類ごとに分けながら答える。

 

 竜にとって、どう見ても疲れている様子の女の子を放っておくというのはどうにも落ち着かないものなので、こればかりは誰に言われても譲るつもりはなかった。

 

 竜の言葉にずん子は慌てて手鏡で自分の目元を見て、クマの存在に気がついた。

 そして、恥ずかしそうにしながら手伝いを始めた竜にお礼を言うのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 それから、竜は手が空いているときは生徒会の仕事を手伝うようになった。

 竜が手伝うようになったお陰なのかは不明だが、ずん子の目元からもクマは消え、余裕があるように見える。

 

 そして、竜が生徒会の仕事を手伝うようになって一番変わったことが1つある。

 

 

「公住くん、お姉さんとお昼ごはんを食べましょう」

「あら、生徒会長はまた来ましたね」

「というかここんとこ毎日やない?」

「なんか、頻度がおかしいよね?」

「んー・・・・・・。ていうかナチュラルにお姉さんって言っていることには誰もツッコまないの?」

 

 

 竜たちの教室の扉を開け、ずん子がお弁当を片手に現れた。

 ずん子が竜たちの教室に来るようになったのは竜が生徒会の手伝いをするようになってしばらくしてからのことで、いまでは基本的に毎回来るようになっていた。

 

 教室にやって来たずん子の姿にお昼ごはんを食べる準備をしていた茜たちは首をかしげながら呟く。

 

 逆にいえば教室に来て一緒にお昼ごはんを食べるようになった以外にとくに変化はなく。

 ずん子の行動は茜たちにとって不可解の一言につきていた。

 

 

「あ、そうだ。公住くん、ちょっと手伝ってほしいことがあるからお昼ごはんを食べ終わったら生徒会室に来てもらってもいいかしら?」

「手伝いですか?わかりました」

 

 

 お昼ごはんを食べる準備が終わり、早速お昼ごはんを食べようかというときにずん子は思い出したように竜に生徒会室に来てほしいということを言う。

 ずん子の言葉に竜はうなずき、お昼ごはんを食べはじめるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 お昼ごはんを食べ終わり、ところ変わって生徒会室に竜とずん子はいた。

 ずん子からは手伝ってほしいとしか言われておらず、竜はなにを手伝うのかはまだ分かっていなかった。

 

 

「それで、手伝ってほしいことってなんですか?」

「えっと、その前に・・・・・・。(ふう)、それと(すい)

「な?!んえ・・・・・・?」

 

 

 ずん子の言っていた手伝ってほしいこととはなんなのか。

 それが気になった竜はずん子に尋ねた。

 竜の言葉にずん子は答えず、竜の制服のポケットに入っているついなに向けて“霊術”を使った。

 突然のずん子の行動についなは驚きの声をあげるが、すぐに眠りに落ちてしまう。

 

 

「なにを・・・・・・?!」

「ごめんなさいね?ちょっとだけ眠ってもらったの」

 

 

 ついなが眠ってしまったことに驚く竜にずん子はペロリと舌を出しながら謝る。

 さらにずん子は竜の体に抱きつき、その動きを封じてしまう。

 ずん子に抱きつかれた竜はずん子から香ってくる甘いような香りと、触れている体の柔らかさに思わず体を硬直させてしまった。

 

 

(さい)

「あ・・・・・・」

 

 

 耳元で告げられた言葉を竜が認識した瞬間、竜の意識は闇の中に落ちていってしまった。

 しかし、意識はないはずの竜の体は倒れずにそのまま立っている。

 竜に“霊術”をかけたずん子は満足そうにうなずきながら竜の体から離れる。

 

 

「ふふふ。それじゃあ、いつも(●●●)みたいにお願いね?」

 

 

 ずん子の言葉に竜は生徒会長の椅子に座る。

 普通に動いているように見えるのだが、その動きはどこかぎこちなく、まるで操り人形のようにも見えた。

 竜が椅子に座ったのを確認したずん子は生徒会室の扉の鍵を閉め、竜のもとに向かう。

 

 

「お姉ちゃん、頑張ったよ?いっぱい、いろんなことを頑張ったの。だから、ね?」

 

 

 ポスン、とずん子は椅子に座っている竜の膝の上に座る。

 そして上目遣いで竜を見ながら竜の手を撫で始めた。

 

 

「がんばったね・・・・・・。おつかれさま・・・・・・。がんばっているおねえちゃんがすきだよ・・・・・・」

「えへへへ。嬉しいなぁ」

 

 

 意識のないはずの竜の口が動き、どこか抑揚のない声が発せられる。

 それに合わせて竜の手も動いてずん子の頭を撫で始めた。

 竜の言葉を聞き、ずん子は嬉しそうに体を委ねている。

 

 

「うん。私はお姉ちゃんなの。だからりょーくんのことはちゃんと私が守ってあげるの。ううん。お姉ちゃんだからりょーくんの彼女のことも考えないといけないよね。ゆくゆくは私の義妹になるんだし。あ、でも彼女とかができてもりょーくんの一番は私だよね」

「おねえちゃんが、いちばんだよ・・・・・・。むりはしないでね・・・・・・。がんばらなくてもいいんだからね・・・・・・」

 

 

 抑揚のない声で喋りながらずん子の頭を撫でる竜はどこか人形かロボットのようにも見え、それが普通の状態ではないことは誰の目にも明らかだった。

 しかし、今ここにいるのはずん子と竜、そして眠らされてしまっているついなだけ。

 竜の周りには動物霊たちがいるのではないかと思うかもしれないが、彼らはすでにずん子の手によって封印されてしまっており、竜のことをもとに戻すことはできなかった。

 

 

「それじゃあ、次はぎゅってしてほしいな。強く、私のことを離さないように・・・・・・」

「うん・・・・・・」

 

 

 ずん子の言葉に竜は強くずん子のことを抱き締め始めた。

 竜に抱き締められ、ずん子は恍惚とした表情を浮かべる。

 そんなことが残りのお昼休みの時間のあいだ続けられるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 お昼休みがもうすぐで終わろうかという時間になり、ずん子は少しだけ着崩れてしまった服をしっかりと着直す。

 

 

(かい)

「んぇ?くぁ・・・・・・、なんやいつのまに寝てもうたんや・・・・・・?」

「うん?っと、こんな時間なのか」

 

 

 ギリギリの時間まで竜に抱きついていたずん子は竜の体から離れて“霊術”を解除する。

 “霊術”が解除された竜とついなは少しだけキョロキョロとしていたが、とくになにかに不信がることもなく時計を見て驚いていた。

 どうやら、2人の記憶は生徒会室に来た辺りから改竄をされているようで、なにもないはずの机の上を見ながらやっていないはずの書類の話をしている。

 

 

「っと、そろそろ戻らないと不味そうか。それじゃあ、先に戻りますね!」

「はい。廊下は走らないようにしてくださいね」

 

 

 そう言って竜は生徒会室から出て自分の教室に向かっていった。

 そんな竜の姿をずん子はジッと見送る。

 

 

「ふふふ・・・・・・。お姉ちゃん、頑張っちゃいますね?」

 

 

 竜の姿を見送りながら、ずん子は小さく呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







正直、投稿する3時間前に書いている途中の2000文字を消して500文字から書き直すとは思ってもいなかったです・・・・・・。

でも、書き直した方が私のイメージするずん子っぽさは出せたかな、と。




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UA80000突破・番外話・ヤンデレハーレムエンド




UA80000を越えたので番外話です。

ハーレムと言ってもこの時点でのヤンデレエンドを向かえた、ゆかり、あかり、マキ、きりたん、茜、葵、イタコ、ずん子の8人のみとなっています。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。






 

 

 

 

 高い壁に囲まれた一軒の家・・・・・・、いや、それはもはや屋敷と言っていいほどの大きさの建物だった。

 壁の高さは目測でおおよそ10メートルはあり、壁の上の方にはまるでネズミ返しのようにつるつるとした素材の壁が反り出ている。

 また、家を囲っている壁には一切の隙間などはなく、唯一開いているところが出入り口となる正面の門のみとなっていた。

 

 そんな屋敷の一室。

 そこで竜は目を覚ました。

 

 

「ううん・・・・・・」

 

 

 寝起きゆえにうまく働かない頭で、竜は部屋の中を見渡す。

 部屋の中に置かれている家具はどれも見覚えはなく、普段家で使っているものよりも高そうなものに見える。

 

 ジャラリ・・・・・・――――

 

 眠っていたベッドから起き上がり、部屋の中を調べてみようと考えた竜の耳になにか金属が擦れるような音が届く。

 それと同時に竜は自分の首になにかが巻き付いていることに気がついた。

 

 

「なんだ、これ・・・・・・?」

 

 

 竜は首に巻き付けられているものを外そうと試みてみるが、ロックでもされているのか一向に外せない。

 触れている感触から革製品のように思えるが、これがどういったものなのかはまったく分からなかった。

 

 首に巻き付けられているものを触っていると、首の後ろのあたりから鎖のようなものが伸びていることが分かる。

 伸びている部分を掴んで見えるように前に持ってくると、首の後ろの部分から伸びていたものが鉄製の鎖だということが分かった。

 

 

「鎖・・・・・・、ぐえっ?!」

 

 

 自分の首に鎖がつながっていると理解した竜は驚き、思わずベッドから転げ落ちる。

 ベッドから落ちた竜がぶつけたところをさすっていると、部屋の扉が開いた。

 

 

「あ、起きたんですね。おはようございます」

「ゆかり・・・・・・?」

 

 

 部屋の扉を開けて入ってきたのはゆかりだった。

 

 見知らぬ場所に首につながれた鎖。

 理解の追いつかない状況下で現れた自分の知っている人物に竜は逆に怪しさを感じてしまう。

 

 やや警戒しながら竜がゆかりのことを見ていると、ゆかりは嬉しそうに笑みを浮かべながら竜に近づいてきた。

 

 

「ふふふ。寝ぐせで髪の毛がぼさぼさですよ?ちょっと動かないでくださいね」

「ここはどこなんだ・・・・・・?それにこの首の鎖は・・・・・・」

 

 

 竜の髪型は寝起きということもあって寝ぐせでぼさぼさになっている。

 ゆかりは竜の後ろに移動すると、クシを取り出して竜の髪型を整え始めた。

 ゆかりにされるがままになりながら竜はゆかりにここがどこなのか、首につながっている鎖がなんなのかを尋ねる

 しかしゆかりは竜の言葉に答えず、鼻歌を歌いながら竜の髪型を整えていくのだった。

 

 

「さて、それじゃあ行きましょうか」

「ま、説明を・・・・・・、うぐっ・・・・・・」

 

 

 竜の髪型を整え終えたゆかりは竜の首に繋がっている鎖を持ち、部屋から出ようとする。

 部屋から移動しようとするゆかりを引き留めようとするが、鎖を引かれたことによって首を引かれて言葉が途切れてしまった。

 

 ゆかりによって鎖を引かれながら竜はゆかりの後を追う。

 道中の廊下も見覚えはなく。

 なぜゆかりが迷いなく歩いていくことができるのかが不思議で仕方がなかった。

 

 

「皆さん、竜くんが起きましたよ」

「あ、起きたんやね。おはようさんや!」

「おはよう。ちょっとお寝坊さんだったね」

「竜くんおはよう。朝ごはんはできてるよー」

「竜先輩、おはようございます!」

「おはようございます。小学生よりも起きるのが遅いのはどうかと思いますよ?」

「きりちゃんは夜更かしをしていて寝ていないだけでしょう?」

「まぁまぁ、これからみんなで暮らすのが楽しみで仕方がなかったみたいですし」

 

 

 ゆかりがある部屋の前で止まり、大きな扉を開けて中に入ると茜、葵、マキ、あかり、きりたん、イタコ、ずん子の姿があった。

 茜たちの姿に竜が困惑していると、ゆかりが鎖を引いて空いている椅子へと竜を誘導した。

 

 

「これは、どういう・・・・・・」

 

 

 ここはどこなのか。

 どうして茜たちがここにいるのか。

 

 解消されない疑問に竜の頭の中はハテナマークで埋め尽くされていく。

 

 

「はい。竜くんの朝ごはんだよ」

「お昼はうちが担当するからなー。楽しみにしとってな!」

「晩ごはんは私とずんちゃんが担当ですわ。頑張っちゃいますわね?」

「姉さまたちのごはんはとても美味しいですからね。期待してくれても良いのですよ」

「うーん。そんなにハードルを上げられるとちょっと不安になっちゃうわね」

 

 

 竜の前にマキの作った朝ごはんが並べられる。

 茜たちの言葉に困惑しながら竜は朝ごはんを食べ始めた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 朝ごはんを食べ終わり、竜は改めて茜たちを見渡す。

 茜たちはそれぞれ椅子に座って会話をしていたり、飲み物を飲んだりして思い思いに過ごしているように見える。

 ふと、竜は今の時間が気になり、時計を探した。

 

 

「時計はどこに・・・・・・、あれか。って、9時?!」

「なんや、どうしたん?」

 

 

 時計を見つけて時間を確認した竜は思わず声を上げる。

 

 竜の記憶違いでなければ今日は月曜日であり、今の時間は確実に遅刻をしている時間帯だった。

 

 竜の言葉に茜が不思議そうに首をかしげる。

 

 

「いや、今の時間!遅刻だろ!」

「あ、問題ないですよ」

 

 

 慌てた様子の竜にあかりがのんびりと紅茶を飲みながら答える。

 どう考えても遅刻の時間帯なのに問題ないとはどういう意味なのか。

 あかりの言葉の意味が分からず、竜は首をかしげた。

 

 

「だって、私たちみんな学校を辞めてますから」

「・・・・・・・・・・・・は?」

 

 

 なんてことないことかのように告げられたあかりの言葉に竜は思わず口を開ける。

 そのまま茜たちのことを見回すが、誰一人として訂正することはなく、あかりの言葉が嘘ではないのだろうということがうかがえた。

 

 

「どういう・・・・・・ことだ・・・・・・?」

「どういうもなにも言葉通りの意味ですよ?」

「うちらはみんな学校を辞めとるんや」

「そうそう。それでこの家にみんなで暮らすんだよ」

 

 

 あかりの言葉がうまく理解できず、竜はまるでどこかのオレンジ髪の死神のような表情で聞き返した。

 竜がどうして理解できないのか分からず、不思議そうにあかりは首をかしげる。

 あかりの言葉を肯定するように茜と葵も学校を辞めていることを肯定する。

 

 

「なんで?!いや、そもそもとしてそんな勝手に・・・・・・!」

「仕方がないんだよ。だって、竜くんってばすぐに女の子と仲良くなっちゃうんだもん」

「そうですよね。学校の梅の木の精に始まり、最近では3年生の方たちとも交流ができたとか・・・・・・」

「だから公住くんが私たち以外の誰とも仲良くならないようにするにはこうするしかなかったの」

「ご安心くださいませ。騒ぎになったりしてはいけませんから私ときりたんで認識の阻害やつじつま合わせなんかもしてありますので」

 

 

 竜の言葉を遮るようにマキが座っている竜の肩に手を置きながら答える。

 さらに反対側の肩に手を置きながらゆかりも言葉を続ける。

 ここで、ようやく竜は全員が談笑したりしていながらも自分から目線を外していないことに気がついた。

 全員から見られていることに気がついた竜は思わず体を強張らせる。

 

 

「いや、でもきりたんは小学校が・・・・・・」

「問題ないです。勉強の方はタコ姉さまに教えてもらえますので。それに学校なんかよりも竜兄さまの方が大切です」

 

 

 少しでも学校を辞めたことを撤回させようとする竜だったが、バッサリとその抵抗は切り捨てられる。

 きりたんの言葉に竜は思わずがくりと項垂れた。

 

 

「ですので。私たちはみんな学校を辞めてここでずっと一緒に暮らすんです。ここには私たちしかいません。だから竜先輩が他に誰かと仲良くなることもないんです」

「料理の方はマキさんたちに任せておけますし、防犯やら食費やらはあかりさんが何とかしてくれます。なのでなにも気にすることはないんです」

「皆でごはんを食べて皆でテレビを見て感想を言って。皆で家族みたいに暮らせるって素敵なことだよね」

「竜のことは皆でちゃんと守ってやるさかい、なんも不安にならんでええんよ」

 

 

 項垂れた竜に言い聞かせるようにあかりたちは口々に言う。

 その声音にはどこか暗いものが感じられ、けっして竜を逃がすことはないと宣言しているようにも感じられた。

 

 

「ああ、言い忘れていました。竜先輩はこの家から出ようとしても出られませんからね?竜先輩の首につけているソレには仕組みがありまして。ソレをつけている人が家から出ようとするとすべての扉が閉じて完全に封鎖されるようになっているんです」

 

 

 ふと、あかりはうっかりといった様子で竜の首に巻きつけられているものを指さしながら言った。

 何でもないことかのように告げられたのは、竜が決してこの家から出ることは叶わないということ。

 

 

「さぁ、それでは今日も1日、皆で仲良く。竜くんを共有しましょうか」

「ですね。それじゃあ、まずはゲームをして勝った人から竜先輩になにかやってもらいましょうか」

「ええやん。その勝負、のったで!」

「それじゃあゲームをしている間にボクはおやつでも作っておこうかな」

「ちゅわ。私も手伝いますわ」

「ゲームなら私も負ける気はありませんよ」

 

 

 竜の首につながる鎖を持ち、ゆかりたちはゲームの置いてある部屋へと向かう。

 

 これから竜に待ち受けるのは自身のことを病むほどに好いている人間との共同生活。

 

 

 もしかしたら誰かが欲求を爆発させて竜のことを襲うかもしれない。

 

 もしかしたら誰かが暴走して竜のことを食べてしまうかもしれない。

 

 もしかしたら誰かが竜に薬を盛って襲わせてしまうかもしれない。

 

 

 共同生活をしてどんなことが起こるかは誰にも予想ができず、その生活が幸せになれるものなのかも誰にも予想はできない。

 しいて言うのであれば、彼女らの存在は世間から消え、ごく一部の人たちにしか知られなくなったということだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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UA90000突破・番外話・ヤンデレIFマキエンド




UA90000を越えたので番外話です。

マキの母親が死んでいる世界線での話となっております。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。





 

 

 

 

 私が幼稚園の頃、お母さんがいなくなってしまった。

 それは離婚でいなくなったのではなく、病気で死んでしまったからだ。

 

 むしろ離婚でいなくなったであった方がどれだけよかったか・・・・・・

 離婚であったのなら会おうと思えばいつでも会える。

 

 でも、お母さんは死んでしまった。

 死んだ人はもう会うことはできない。

 それは成長した今の私なら分かる当たり前のこと。

 

 でも、幼稚園に通っていて小さかった私はお母さんが死んでしまったことが分からず、お父さんに『どうしてお母さんは寝てるの?』と聞いてしまっていた。

 そのたびにお父さんはさみしそうに笑って『ちょっと、お母さんは遠いところに行くために眠っているんだよ』って言っていた。

 

 それから少しして、家には私とお父さんしかいなくなってしまった。

 私はなにかあるとすぐにお父さんに『お母さんに会いたい!』って言って困らせてしまっていた。

 けっこう頻繁に言っていたと思うから当時のお父さんには相当なストレスが溜まってしまっていたのではないかなと思う。

 それでもお父さんは私に優しくしてくれて、そんなお父さんが私は大好きだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「はい!今日の分のお弁当!」

「おう、ありがとうな」

 

 

 いつものようにマキは竜にお弁当を手渡し、竜はお弁当の材料費としていくらかのお金をマキに渡す。

 もはやこの光景も見慣れたもので、最初の頃のようにクラスメイトたちに驚かれるようなこともなくなっていた。

 

 

「今日のお弁当も自信作だからね!」

「それ毎日言っとるやんな?」

「つまりマキさんは毎日自信作を作れているってことなんじゃないかな?」

 

 

 マキの言葉に茜がツッコミを入れ、葵が推測交じりにマキの言いたいことを言う。

 茜と葵の言葉にマキはやや頬を赤く染めつつ、ふにゃりと笑みをこぼす。

 

 

「えへへ、誰かに食べてもらえるのが嬉しくて張り切っちゃうんだよね。家だとお父さんが食べてくれるんだけど、次の日の料理の準備とかで一緒のタイミングでは食べられないから料理の感想も聞けないからさ・・・・・・」

「マキさん・・・・・・」

 

 

 マキの家はカフェをやっており、店の名前は“cafe Maki”と言って、マキの父親がいかにマキを大切にしているかが分かる店名となっている。

 カフェなのだから仕込みなどが必要なものは少ないのではないかと思うかもしれないが、食器を洗うのはもちろんのこと、店内の清潔さの最終チェック、次の日に出す飲み物を作るための水の確認、調理器具の不備がないかのチェックなどなど、やらなくてはいけないことがなかなかに多いのだ。

 そのため、マキは父親と一緒に晩ご飯を食べることがほとんどできず、少しだけ寂しい思いをしていた。

 

 マキの言葉にゆかりはどう声をかけたらいいか分からず、名前を呼ぶことしかできなかった。

 

 

「あ、ごめんね!しんみりとさせちゃって!ほらほら、お昼ご飯を食べよ~!」

「そう、だな。それじゃあ食べようか」

「ですね」

「せやね、ご飯やご飯や~!」

「失礼しまーす!って、あれ?まだ食べ始めてなかったんですか?」

 

 

 竜たちがやや落ち込んだような雰囲気になってしまったことに気がついたマキは空気を切り替えるようにパチンと手を叩き、お昼ご飯を食べ始めようとうながす。

 マキの言葉に竜たちもうなずき、お昼ご飯を食べ始めた。

 それと同時に今日は少しだけ教室に来るのが遅くなっていたあかりが教室に入ってくるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 時間は進んで放課後。

 竜はマキと一緒にバイトをするために“cafe Maki”に向かっていた。

 竜と一緒に歩いているマキは鼻歌を歌っており、だれがどう見ても上機嫌なことが分かる。

 

 

「そういえばマキはどうして今も俺にお弁当を作ってくれるんだ?」

「どうして、って、それは前に言ったでしょ?」

 

 

 ふと、竜は気になっていたことを尋ねる。

 竜の言葉にマキは鼻歌を歌うのを止めて竜の疑問に答えた。

 

 

「パンとかばっかで栄養バランスが悪いって話だろ?でも今はいなに作ってもらってるから栄養バランスはそこまで悪くないと思うんだよな・・・・・・」 

 

 

 マキが竜にお弁当を作るようになった理由、それは竜がパンや麺類、コンビニなどのおにぎりばかりをお昼ご飯として食べていて栄養バランスが悪いとマキが気になったからである。

 しかし今は竜の家にはついながおり、多少なりとも竜の食生活は改善されていっていた。

 

 そのことからお昼をまたパンとかに戻していいのではないかと竜は考えたのだ。

 

 

「だから、もう無理してお弁当を作らなくても――――」

 

「 ダ メ だ よ 」

 

 

 ビクリ、と思わず竜は体を強張らせる。

 お弁当を作るというマキの手間を減らそうと考えていた竜は自分の言葉を遮ったマキの言葉に体を強張らせつつ、隣を歩いているマキを見た。

 

 

「無理してお弁当を作っているわけないんだよ。私が作りたいから竜くんにお弁当を作ってるの。本当なら毎日3食私が全部作りたいのに我慢してるんだよ?それなのに無理して作らなくてもいい?だめ、だめだめだめだめだめだめ。竜くんのお弁当は私が作るの私だけが作るの。もしかして他の誰かからお弁当を貰う約束をした?誰?誰なの?私から竜くんにお弁当を作る権利を奪おうとするのは誰なの?許さない。私からそれを奪おうとするなんて絶対に許さないんだから・・・・・・」

「ま、マキ・・・・・・?ひぇっ・・・・・・」

 

 

 ぶつぶつと小さな声で呟き続けるマキに竜は恐怖を感じつつ、声をかける。

 呟いているマキは目を見開いており、その瞳は暗く、光がないようにも見える。

 

 竜に名前を呼ばれ、マキはグリンと顔を回して竜を見る。

 

 

「なーに?どうしたの竜くん」

「い、いや、何でもない。それにマキのお弁当は美味しいからな。食べられなくなると困るしこれからも作ってくれると嬉しいかな」

「ほんとっ!」

 

 

 マキの視線に冷や汗を流しつつ、竜は誤魔化すようにマキのお弁当を褒め、これからも作ってほしいということを伝える。

 竜の言葉を聞いた瞬間、マキの瞳には光が戻り、いつも通り、いやいつも以上にキラキラとした瞳で嬉しそうにしていた。

 マキの様子が元に戻ったことに竜はホッと息を吐き、“cafe Maki”へと歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 とくに何の問題もなく、むしろ上機嫌のマキがいつも以上に働いてスムーズに“cafe Maki”でのバイトは終わった。

 

 

「それじゃあお父さん、竜くんと一緒に家に行ってるね!」

「うん。お店の方が終わったら帰るから家の方は頼んだよ」

 

 

 店の中の清潔さの最終チェックをしている父親に声をかけ、マキは竜の腕を掴んで家へと向かう。

 竜がマキの家に行くのは“cafe Maki”でバイトを始めてから恒例となっており、抵抗しても意味はないと理解している竜は抵抗することなく弦巻家へと連れ込まれていった。

 

 

「それじゃあ晩ご飯を作るけど、竜くんはなにか食べたいものとかある?」

「食べたいもの・・・・・・、食べたいものかぁ・・・・・・」

 

 

 マキの言葉に竜は腕を組んで頭を悩ませる。

 食べたいものを聞かれてどれくらいの人がすぐに答えられるのかは分からないが、少なくとも竜はすぐには答えられなかった。

 

 

「うーん・・・・・・。決められないからマキのオススメで頼むよ」

「オススメ?んー、まぁ分かったよ。ちょっと待っててね」

 

 

 竜の言葉にマキは少しだけ考えるような仕草を見せ、冷蔵庫から食材を取り出していった。

 そんなマキの後ろ姿を竜は見つめる。

 

 

「・・・・・・エプロンを着けた後ろ姿ってのもいいもんだよなぁ」

 

 

 もしかしたら新婚とかはこんな気持ちなのかなぁと考えながら竜はマキの作る料理を楽しみに待つのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜の視線を感じながらマキは料理を作っていく。

 作っていくのはハンバーグで、ひき肉に様々な材料をマキは混ぜ込んでいった。

 

 

「・・・・・・っと、いけない。いつもの隠し味を忘れるところだった」

 

 

 ひき肉をかき混ぜる手を止め、マキは竜から見えない角度で小さめのナイフを取り出した。

 ナイフはとても鋭く砥がれており、軽く触るだけでも切れてしまいそうに見える。

 

 

「えっと、お父さんの分のお肉はこっちに。私の分はこっちに。それで、竜くんの分はここに、っと」

 

 

 秘密の隠し味を入れるのは竜のハンバーグだけ。

 間違えてしまわないように気をつけつつマキはひき肉を三等分にしていった。

 そして、竜の分のひき肉が入ったボウルにナイフを持った手を近づける。

 

 

「ッ・・・・・・」

 

 

 プツリ、とマキの指にナイフが刺さり、血が流れだす。

 うっかり声が漏れてしまわないように気をつけつつ、マキは竜の分のひき肉が入ったボウルに出てきた血を流し込んでいった。

 

 

「ふふふ、秘密の隠し味。私入りの料理をおいしいって言ってくれているんだもん。これって、運命だよね」

 

 

 自分の血を入れたことを竜に気づかれないようにしながらマキはハンバーグを作っていく。

 そうしてできたハンバーグは竜の前に並べられ、それを竜は知ることなく食べるのだ。

 

 その光景を思い描きながらマキは笑みを浮かべる。

 自分から出たものが相手を作っていく。

 それがなによりも嬉しいことだと感じながら。

 

 やがて、マキの料理を食べ続けた竜はいつしかマキの料理以外では物足りなくなってしまうだろう。

 

 マキの作った料理を。

 

 マキの血液が混ぜ込まれた料理を。

 

 気づかぬうちに竜の味覚はマキに侵されていく。

 

 じわじわと広がる毒のように。

 

 このことに竜が気付くことは・・・・・・、おそらくないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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UA100000突破・番外話・ヤンデレついなエンド




UA100000を越えたので番外話です。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。







 

 

 

 

 もしもあのとき、ご主人と出会えていなかったら。

 

 

 ご主人の朝ごはんを準備しながらうちはふと考える。

 

 うちとご主人が出会ったのはうちが東北家に預けられて逃げ出した夜のこと。

 そのときはご主人はバイトから帰っているところだった。

 

 

 もしも、うちがあの日に逃げ出していなかったら。

 

 もしも、あの日ご主人がバイトをしていなかったら。

 

 もしも、ご主人が霊を見ることができていなかったら。

 

 

 そんなどれか1つのもしもがあったらうちとご主人が出会うことはなかっただろう。

 だからこそ、うちはご主人のことを大切にしていきたいと思っている。

 

 

「くぁ・・・・・・、おはよう」

「おはようさんや。もうちょいで朝ごはんができるから待っとってなぁ」

 

 

 うちが朝ごはんを準備しているとあくびをしながらご主人がリビングに入ってきた。

 うがいや顔を洗ったりは済ませているようだけど、それでも眠気がやや残っているらしい。

 

 

「なんや、また遅くまでゲームしてたんか?早く寝ないとあかんで?」

「それは分かってはいるんだけどな・・・・・・。ついつい茜たちとゲームを続けちゃうんだよ・・・・・・」

 

 

 うちの言葉にご主人はバツの悪そうに答える。

 まぁ、こんなやり取りもよくあることなのでそこまで細かく言うつもりはないのだが、それでも健康のために夜更かしはあまりしないでほしいものだ。

 

 そして、ご主人はうちの作った朝ごはんを食べて学校に向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 お昼休み。

 ついなを制服のポケットに入れながら竜は学校の廊下を歩く。

 竜は飲み物を買ってくるということで茜たちを先に保健室に向かわせていた。

 

 

「とりあえず無難にお茶かなぁ・・・・・・」

「せやね。それでええと思うで」

 

 

 自販機に並んでいる飲み物の中から竜は無難ということでお茶を選んで買う。

 不意に、ついなは不快ななにかを感じてポケットから顔を出して周囲を見渡した。

 

 

「どうかしたのか?」

「・・・・・・いや、なんでもないで。ご主人、うちはちょっと散歩してくるわー」

 

 

 竜の言葉についなは首を振って答え、竜のポケットから飛び出して元の大きさに戻る。

 散歩してくるというついなの言葉に竜は首をかしげるが、ずっとポケットにいたから体を伸ばしたくなったのだろうと考えて引き留めることはしなかった。

 

 

「そっか。なら俺は先に保健室に行ってるな」

「分かったでー」

 

 

 そう言って竜は保健室に向かっていく。

 保健室に向かっていく竜の姿を見送り、ついなは先ほど感じた不快なものの出所へと顔を向ける。

 不快なものの出所へと顔を向けたついなの表情からは感情というものが消えており、その瞳は普段とは違って縦に大きく瞳孔が開いていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 時間は進み放課後。

 竜の頭の上に乗ったついなは上機嫌に鼻歌を歌っていた。

 

 

「なにか良いことでもあったのか?」

「んー、そんなところやね。ご主人、今日はなんか食べたいものとかあるかぁ?」

 

 

 上機嫌なついなに竜はなにがあったのか尋ねる。

 竜の言葉についなはニヘラと柔らかく笑い、晩ご飯になにが食べたいかを尋ねた。

 

 このとき、竜は気づけなかった(●●●●●●●)が、近くの家電屋に置かれたテレビからは数人の男子高校生が外傷の見当たらない意識不明の重体になっているというニュースが放送されていた。

 そして、その数人の男子高校生が発見されたのは、竜の通っている学校の校舎裏だったらしい。

 

 

「ふふふ・・・・・・」

 

 

 そんなニュースが放送されているテレビをチラリと見たついなは小さく、竜に気づかれないほどに小さく暗い笑みをこぼすのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜の家に帰ってきたついなは、手洗いうがいを素早く終えると手始めにご飯の準備をしていく。

 先にお米を研いで炊飯器に入れておけばあとはボタンを押すだけで炊けるのを待つだけだし、晩ご飯のおかずを作るときにご飯の準備をする必要がなくなるからだ。

 

 ご飯の準備を終えたついなはお茶の用意をして椅子に座っている竜の近くに移動する。

 

 

「ほんと、いつもありがとうな」

「べつにええって、うちがご主人にしたくてしとることなんやから」

 

 

 ついなが竜の家に来てからそこそこに日数は経ってはいるのだが、いまだに竜はついなに対して食事の準備をしてもらうことに申し訳なさを感じていた。

 風呂の掃除など手伝えることはキチンと竜もやってくれているのでついなはそこまで気にしていないのだが、竜が自分のことを考えてくれているということをついなは嬉しく思っていた。

 

 

「そういえばさっきニュースで見たんだが、うちの学校でなんかあったらしいな。茜たちからメッセージが届いて、ちょっと調べてみたんだよ」

「へぇ、そうなんや?怖いことがあったもんやねぇ」

 

 

 話題を変えるために竜は先ほどスマホで茜たちから届いたメッセージから調べたことをついなに話す。

 自分たちの通っている学校で起きた事件ということもあって、茜たちは気になったらしい。

 

 竜が調べた内容は竜の帰宅途中で家電屋に置かれたテレビから放送されていたニュースと同じ内容で、男子高校生の名前や学年なんかは調べても出てくることはなかった。

 

 竜の言葉についなは少しだけ驚いた表情を見せる。

 

 

「となると学校もなにが起こるか分からんなぁ。ご主人。ご主人のことはうちが守るから絶対に離れたらあかんで?」

「そうだな。もしもなにかありそうだったら頼むよ。でも、ついなが危なくなりそうなら俺もついなのことを助けるからな?」

 

 

 むん、と両手を握ってついなは竜のことを守ると宣言する。

 そんなついなの言葉に竜は笑いながら答え、自分もついなのことを守ると答えるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 夜の(とばり)が下り、暗くなった家の中。

 ついなはリビングの椅子に座っていた。

 

 

「・・・・・・なんか言いたいことでもあるんか?」

 

 

 ポツリとついなが誰もいない空間に声をかける。

 ついなの言葉に答えるものはそこには誰もおらず、シンとした空気が漂っていた。

 

 

「ちぃと前まではあんたらのことは全然気づけへんかった。でも、ご主人から霊力をもらうことができてうちもだいぶ力を得ることができたんや」

 

 

 不意に、ついなの周囲の空気の温度が一気に低下する。

 しかし、不思議なことについなの正面の空気だけは逆に温度が上昇していった。

 

 

「ご主人のことを守ってきたであろうあんたたちでも、うちの邪魔は さ せ へ ん で ? 」

 

 

 直後、ついなに向かって風の刃と槍のようになった枝が出現して放たれる。

 自身に向かって飛んでくるそれらに対し、ついなはいつの間にか取り出した槍で切り払う。

 

 そして次の瞬間、ついなの姿がリビングから消えるのだった。

 それと同時に変化していた温度も、ついなに向かって放たれていた槍のような木の枝も消えていた。

 先ほどまでの環境の変化はなんだったのかと思えるほどに、リビングからは音が消えて静かになるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 もうすぐ日が昇るのではないかという時間。

 ふと、竜はなにかの気配を感じて目を覚ました。

 

 

「んん・・・・・・?ついな・・・・・・?」

「ああ、起きたんやなぁ。ご主人」

 

 

 眼を開いた先に広がっているのは暗闇。

 まだ日の出も出ておらず、ぼんやりとした闇の中でついなの影らしきものだけが竜には見えていた。

 竜の言葉についなは嬉しそうな声を上げて竜へと近づいていく。

 

 

「ご主人のことを守るんはうちだけなんやで?うちだけがずぅっとご主人の近くにいてご主人のことを守るんや。ご主人のことを傷つけるような(やから)はうちがみぃんな排除したる。ご主人に危険が近づいてくるっちゅうなら、それをうちが真っ向からぶっ壊したる。ご主人が誰かに取られるっちゅうなら・・・・・・・・・・・・うちが先にご主人を奪って誰にも見つからないところに隠したる」

「つ、ついな・・・・・・?」

 

 

 暗闇の中、どこかうっとりと陶酔しているかのような口調でついなは言う。

 いつもと違うついなの様子に竜は困惑したまま声をかける。

 

 

「でもなぁ、どんなに考えてもうちはご主人がいなくなってしまいそうで不安で不安で仕方がないんよぉ。せやからな、こうすることに決めたんよ。()(がれ)に在りしその身は汝なりや、()(たれ)に在りしその身は我なりや。我は汝、汝は我。混じりて溶けおち(かた)となれ」

「ぐ・・・・・・?!つい、な・・・・・・?!」

 

 

 なにか呪文のようなものを呟きながらついなは竜の顔になにかを押しつける。

 直後に竜が感じたのは自分の中になにかが入り込んでくる熱いとも冷たいともとれる奇妙な感覚と、頭が割れそうなほどのすさまじい痛み。

 

 あまりにも凄まじい頭の痛みに竜の意識は闇の中へと落ちていき、それから竜の意識が目覚めることはなかった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 どこかの山に、鬼が現れたという噂が立ち始めたのはいつ頃からだったか・・・・・・

 

 

 その山は山頂に向かうにつれて木々に大きな破壊跡がついており、その形跡を見た登山客たちが言い出したらしい。

 その山では狩猟などをやっていたのだが、いつの日からかまったく獣たちが現れなくなり、地面に大きな足跡のようなものが残されていたらしい。

 

 

 その山に、その山に、その山にその山にその山に・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 いくつも存在するある山には怖ろしい何かがいるのではないかという噂話。

 しかしその噂の出所を知る者は誰もおらず、またその山がどこにあるのかを知る者もいない。

 

 よくあるオカルト話だと一蹴する者もいれば、興味を持って調べ出す人もいる。

 

 ただし1つ、気をつけなければならないことがある。

 

 この噂を聞いたり、調べたりしたものは必ず山に向かって頭を下げなければならない。

 

 山に向かって頭を下げなければ、怖ろしい何かが現れてその人のことを殺してしまうから・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴ

 シ

 ュ

 ジ

 ン

 ノ

 コ

 ト

 ヲ

 シ

 ラ

 ベ

 タ

 ン

 ハ

 オ

 マ

 エ

 カ

 ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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UA110000突破・番外話・ヤンデレウナエンド






UA110000を越えたので番外話です。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。






・ 

 

 

 

 

 ジュニアアイドルである“UNAユーナ”に思い人がいる。

 

 

 そのニュースが放送されたとき、放送をしたテレビ局には詳細を聞きたいという電話が相次いでかかってきたらしい。

 それもそのはず、“UNA”といえばかなり有名なジュニアアイドルであり、ドラマや映画、番組のメインコメンテーター、果てにはアニメの声優などなど幅広くテレビに出ていてかなりのファンが存在しているのだ。

 

 そんな“UNA”に思い人、分かりやすく言うのであれば好きな人がいるというのはファンにとって────いや、ファンでなかったとしてもすさまじい衝撃となるのは想像するのも難しくはない。

 

 

「お兄ちゃん、早く行くぞー!」

「おいおい、落ち着けって・・・・・・」

「あんなニュースがあったとは思えんほど元気やねぇ・・・・・・」

 

 

 まぁ、そんな噂の渦中の人物である“UNA”ことウナは上機嫌に竜とお出かけをしているのだが。

 

 ぴょんぴょんと元気良く飛び跳ねながらウナは竜のことを呼ぶ。

 思い人がいるなどというニュースで騒がれているというのに元気なウナの姿に竜とついなは苦笑しながらウナのもとへと向かって行く。

 

 ウナが竜と遊びたいということで、竜たちはいまウナの家の近くの公園に来ていた。

 

 

「いくら変装しているにしてもバレる可能性はあるんだから気をつけろよ?」

「あははー、分かってるよー」

 

 

 元気があふれて楽しくて仕方がないというウナの様子に、竜は落ち着かせるために少しだけ注意をする。

 いまのウナの格好はボーイッシュ寄りとなっており、パッと見ではウナと気づけないような格好となっている。

 それでもよく見ればウナだと気づくことはできるだろうし、人によっては声で気づく可能性もある。

 そのため、竜はウナと遊びつつも周囲をさりげなく警戒していた。

 

 竜の言葉にウナは竜のお腹へと抱き着きながら答える。

 

 

「大丈夫。お兄ちゃんには絶対に近づかせないから・・・・・・」

「うん?いまなにか言ったか?」

 

 

 竜のお腹にぐりぐりと頭を押しつけながらウナは誰にも聞こえないような小さな声で呟く。

 自身のお腹にウナの頭が当たっていたため、なにかしゃべっているような振動を感じた竜がウナに尋ねるが、ウナはニッコリと笑みを浮かべるだけで答えることはなかった。

 

 そして、竜たちは公園で疲れるまで遊ぶのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 お兄ちゃんと出会ったのはウナが1人でお出かけをしようと思って外に出た日だった。

 

 外に出てすぐにウナの────ううん、“UNA”のファンに見つかってしまい、隠れていることしかできなかったウナのことをお兄ちゃんは助けてくれたのだ。

 それからお兄ちゃんはウナと一緒にご飯に行ったり、行きたいと思っていたところに連れていってくれて、普通の子みたいなことができてとても嬉しかった。

 

 それからもお兄ちゃんはウナのことを“UNA”じゃなくてウナとして見てくれて、ジュニアアイドルをしているウナじゃなくて普通の子みたいにウナのことを扱ってくれた。 

 それがなによりもウナにとって嬉しかったのだ。

 

 

 

 

 だから────

 

 

 

 

 

「ふふ、ふふふ・・・・・・。“UNA”ちゃぁん、この写真をバラされたくないよね?この男の子なんでしょぉ?“UNA”ちゃんがぁ、好きな人っていうのはぁ?」

 

 

 

 

 

       ────こういう人間には絶対に手加減なんてしてやらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 『成人男性が小学生の女の子を襲ったとして逮捕されました。犯人は「俺はなにもしていない」などと供述しておりますが、現場に残されていたとされる女の子の破れた衣服などから有罪は確実なのではないかとのことです』

「はー・・・・・・。ロリコンとか救いようがないなぁ・・・・・・」

「自分の子どもも作れんような幼い子を襲うとか意味が分からんなぁ。子孫を残す気とかないんやろか?」

 

 

 朝のコーヒーを飲みながら見ていたテレビで流れたニュースを見て竜は呟く。

 同じようについなも呆れたような声を出しているが、微妙にズレているように感じられるのはついなが九十九神だからだろう。

 

 ロリコン。

 正式名称はロリータ・コンプレックスであり、一般的には幼い少女を性的に好んでいる人間のことを指していることが多いのだが、本来の意味合い的には性的な意味はほとんどなかったりする。

 そのため、普通に男性を好きな女性がロリータ・コンプレックスであるということも大いにあり得るのだ。

 

 ちなみに、ロリータ・コンプレックスと聞くと1桁かそれに近い年齢の少女を好きな人間だというイメージがあるかもしれないが、厳密に分けるとロリータ・コンプレックスは12歳~15歳の少女を対象とした言葉であり、それ以下の年齢になると7歳~12歳がアリス・コンプレックス、7歳までの少女がハイジ・コンプレックス、0歳あたりの赤ちゃんがベビー・コンプレックスとなっている。

 また、ペドフィリアという言葉もあるが、こちらは10歳以下の子どもに対しての性愛や性的嗜好を持つ者のことを指しており、男の子女の子に関係なく好む者に対して使う言葉なのでロリータ・コンプレックスとはまた微妙に違ってくるのだ。

 

 

「っと、なんだ?・・・・・・ウナからメッセージか」

 

 

 不意に自身のケータイが振動し、不思議に思いながら竜は画面を確認する。

 ケータイの画面に表示されているのはウナの名前で、短くメッセージが送られてきていた。

 

 

「ウナちゃんから?なんて送られてきたん?」

「『今日も一緒に遊ぼう!』だってさ。普段がアイドルの仕事で忙しいから遊べるときにめいっぱい遊びたいんじゃないか?」

 

 

 ウナから送られてきたメッセージが気になったついなは竜になんと送られてきたのかを尋ねる。

 ついなの言葉に竜はウナから送られてきたメッセージを読み上げた。

 ウナとは昨日も一緒に遊んだのだが、ウナに対して甘くなっている竜は笑いながら遊びに行く準備を進めていく。

 そんな竜の様子についなも笑みを浮かべつつ、竜が使っていたコップなどを片づけていくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 遊びに行く準備を終えた竜は家を出てカギを閉める。

 ついなもいつものように小さくなって竜の頭の上に乗っており、遊びに行く準備は万端だ。

 

 

「遊ぶにしてもなにするかなぁ」

「昨日は公園で遊んだんやし、読書とかでもええと思うんやけどなー」

 

 

 ウナの家へと向かいながら竜とついなはウナとなにをして遊ぶかを相談する。

 昨日はウナと公園で疲れるまで遊んでおり、今日も同じように公園で遊ぶというのはなんだか味気ないような気がしたのだ。 

 

 不意に、竜は後ろから車が近づいてきている音に気がついた。

 いま竜が歩いている道は少しだけ狭いため、竜は危なくないように道の端に移動する。

 

 

「けっこう道が狭いから危ないんだよなぁ、・・・・・・うわっ?!」

「せやねぇ。・・・・・・なんやなんやなんやっ?!」

 

 

 道の端を歩いていた竜の隣に車が来たのを見ながら竜は呟く。

 この道の幅はそこそこに狭く、横を車が通るだけでも地味に危なさを感じられるのだ。

 

 竜とついなが話をしていると、いきなり車の扉が開いて竜の体を車の中へと引きずり込んでいく。

 あまりにもいきなりのことに竜は対応することができず、あっさりと車の中へと連れ込まれてしまった。

 

 

「は?!ちょっ?!なにっ?!」

「静かにお願いします。“UNA”ちゃん、いえ、ウナさんのためにも」

 

 

 驚き困惑する竜に車の中にいた1人が答える。

 聞こえてきた声に竜は困惑しつつも静かにし、車の中を確認した。

 

 

「あ、あなたは確か・・・・・・」

「どうも、“UNA”のマネージャーをしているものです」

 

 

 竜の隣に座っていた女性は竜の言葉にぺこりと頭を下げながら答える。

 見れば隣に座っている女性以外にも見覚えのある人たちが車に乗っており、竜はどういう状況なのかよく分からなくなってしまう。

 

 

「あの、どうしていきなりこんなことを?」

「いま、“UNA”ちゃんがニュースでいろいろと大変なことになっているのは知っていますね?その関係で彼女に一番近い人間としてあなたがあげられそうなんです」

 

 

 車の中にいるのがウナの関係者であるということを理解して竜は落ち着きを取り戻し、どうしてこんなことをしたのかを尋ねる。

 竜の言葉にウナのマネージャーは竜のことが世間に明るみになりそうになっていることを伝えた。

 あまりにも予想外な事態に竜は思わずポカンと口を開けてしまう。

 

 

「は?え、どうしてそんなことに?」

「昨日、あなたが“UNA”ちゃんと遊んでいるところを目撃した人がいるんですよ。幸さいわいなことにすでにそちらに手は打ちましたが、それでもネットにあげられてしまった画像に関してはどうにもできなかったんです」

 

 

 どうやら昨日のウナと竜が公園で遊んでいる姿を目撃した人間がいたらしく、変装しているウナの正体に気がついたらしい。

 そこから、竜のことを守るために車で竜のことを捕獲したようだ。

 

 

「ですので、今後はあなたの出迎えを我々がして“UNA”ちゃんの家まで送ることになります」

「は、はぁ・・・・・・?」

「なんやよう分からん事態になっとるなぁ・・・・・・」

 

 

 女性の言葉に竜は曖昧にうなずく。

 そして、竜たちの乗っている車はウナの家の前に止まった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜が車から降りると車はとくに何かを言うこともなく走り去ってしまう。

 本当に送り迎えだけをするためだけに来たのだろう。

 

 竜がウナの家のインターフォンを鳴らすと、勢いよく玄関が開いて家の中からウナが飛び出してきた。

 

 

「お兄ちゃん!」

「うぉっと、今日も元気だなぁ」

「っはー、今日も可愛いかっこしとるんやねぇ」

 

 

 飛びついてきたウナを受け止め、竜はポフポフとウナの頭を軽く叩く。

 竜に頭を軽く叩かれ、ウナはくすぐったそうに竜のお腹に頭をぐりぐりとこすらせる。

 

 そして、ウナに手を引かれて竜は家の中へと入っていった。

 

 

「それで?今日はなにをして遊ぶんだ?」

「えっとねー・・・・・・。監禁ごっこ」

「ほぇっ?」

 

 

 ウナの家の中に入った竜はウナになにをして遊ぶのかを尋ねる。

 竜の言葉にウナは笑顔を浮かべ、ポケットから取り出したお札を竜とウナに貼りつけた。

 お札を貼りつけられた竜とついなは体の自由が利かなくなり、床に座り込んでしまう。

 

 

「う、ウナ・・・・・・?」

「う、動けへん・・・・・・」

「えへへー、お兄ちゃんだぁ。東北から護身用にってもらったお札だったけど効果抜群だなー」

 

 

 座り込んだ竜の膝に向かい合わせになるように座りながらウナは満足そうにうなずく。

 どうやら竜とついなに貼りつけたお札はきりたんが作ったもののようで、かなり強力な術式が込められていたようだった。

 

 

「お兄ちゃんのことを利用しようって考えてる大人がいっぱいいるからさー。だからウナは頑張って兄ちゃんを守るんだよ。ウナはお兄ちゃんの妹なんだからずっと一緒にいるんだもんね。だからさ、ずっとここでウナと一緒にいてね」

 

 

 どろりとした瞳を向けられ、竜は身動きできない体を強張らせる。

 自力では剥がすことのできないお札に、竜はウナの好きにさせることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、芸能界の重鎮やらアイドルたちの不祥事なんかが連日のように取り上げられるようになったのだが、それにウナが関与しているのかは不明のままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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UA120000突破・番外話・ヤンデレ鳴花姉妹エンド





UA120000を越えたので番外話です。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。








 

 

 

 

 うち(ボク)たちがいまのうち(ボク)たちになったのはいまとなっては覚えていないほどに昔のこと。

 

 太宰府天満宮のご神木“飛梅(とびうめ)”の精であるうち(ボク)らはいつも平和と繁栄を望みながらいろんな人たちの姿を“飛梅”から見ていた。

 

 その生活が変わったのはある学校が創設されたときったい。

 

 その学校の創設者が言うには、ご神木であるうち(ボク)らの木の枝を分けてもらって自分たちの学校を見守ってもらいたいということだった。

 最初、“飛梅”を管理している宮司さんは肯定的ではなかったっちゃけど、創設者さんの思いを聞いて最終的にはその学校に“飛梅”の枝を分けて挿し木をすることを認めたったい。

 

 そして、その学校に植えられた“飛梅”はいまもなお枯れることなく綺麗な花を咲かせている。

 

 

「それにしても、相変わらずキレイな梅の花だよなぁ・・・・・・」

「というかどの季節でもずっと咲いてるってどういうことなん?」

 

 

 学校の中庭に植えられているうち(ボク)らの木、“飛梅”を見ながら竜お兄さん/竜さんは呟く。

 “飛梅”はうち(ボク)らの木ということもあってキレイと褒められるのはとてもうれしくて、おもわず顔がにやけてしまいそうになる。

 

 

「えへへぇ~、そんなキレイなんて言われてもなんもでんよ~?」

「いや、出てる出てる。梅の花びらが舞ってるから」

 

 

 なんとかボクはにやけるのを我慢していたが、あっさりとひめが身体をくねくねとくねらせながら周りに梅の花をポンポンと咲かせていた。

 ひめのそんな様子に竜さんは思わず軽いツッコミを入れていた。

 

 

「んん!・・・・・・ええっと、この梅の木の花が散らない理由でしたっけ?」

「せやね。普通の木やったら枯れてるような季節でも、この梅の木は咲いとるから気になっとったんよ」

 

 

 軽く咳払いをしてボクは首をかしげていたついなさんの疑問を確認する。

 たしかにボク(うち)たちの梅の木、“飛梅”は他の一般的な植物とは違って枯れることはなく、花が散るようなこともない。

 といっても最初からこのように枯れないわけではなく。

 ある程度成長してからボク(うち)たちが移動することによってようやく枯れたりしなくなるのだ。

 

 

「えっと、簡単に言ってしまうとこの梅の木は太宰府天満宮にあるご神木である“飛梅”の枝から挿し木されたもので、ボクたちが宿っている特別な梅の木なんです。それで、ボクたちが宿ることによってこの梅の木には霊力が流れて循環し、いつまでも花を咲かせ続けることができるようになるんです」

「ほーん。そんな理由があったんやねぇ」

 

 

 ボクの説明についなさんは納得したのか、うんうんとしきりにうなずく。

 それから、ボク(うち)たちは竜お兄さん/竜さんたちと一緒に梅の木をしばらくの間見ているのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 学校の中庭でのんびりと梅の花を見た翌日。

 竜はついな、ひめ、みことの4人で町を歩いていた。

 

 

「天気が良くて心地いいっちゃね~」

「風もそんなに強くないし、絶好のお散歩日和ですね」

 

 

 竜の手をそれぞれ掴みながらひめとみことは気持ちよさそうに目を細めながら言う。

 これまでは太宰府天満宮か学校の周囲くらいにしか出歩くことができなかったために、こんな普通の散歩ですら2人にとっては楽しいものに感じられるのだ。

 

 

「ん、この辺にはこんな花が咲いているのか」

「おー、ちいちゃくてかわええなぁ」

 

 

 ちらりと竜が道の端に目をやると、そこには何種類かの花が可愛らしく植えられていた。

 色とりどりの花の姿に竜とついなは表情を和らげる。

 

 不意に、植えられている花を見ていた竜の手をひめとみことが強く引っ張る。

 

 

「うぉ?どうしたんだ?」

「んー、早く行くっちゃよー!」

「はい。立ち止まっているなんてもったいないですから」

 

 

 急に手を引っ張ってきた2人に竜が尋ねると、2人は竜の手を引きながら早く先に行こうと答える。

 2人の急かす様子に竜とついなは顔を見合わせ、苦笑して先に向かって歩き始めた。

 

 前を向いて歩き始めた竜とついなは気づかなかった。

 先ほど竜とついなが見ていた花をひめとみことが冷たい目で見ていたことに。

 

 

 

 

 

   後日、この辺り一帯の花が枯れるという事件が起こったのだが、ついぞその原因が分かることはなかったらしい。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ついな、ひめ、みことをつれて竜は公園へと到着する。

 公園には家族連れやカップル、老夫婦などさまざまな人たちの姿があった。

 

 

「うんうん。やっぱり元気な人の姿があるのは良いもんったいね」

「公園だといろいろな人が見れて良いね」

 

 

 周囲を歩いている人たちの姿を見ながらひめとみことは嬉しそうに言う。

 やはりご神木に宿っている精霊ということで元気な人の姿を見ることが好きなのだろう。

 

 公園に着いてからついな、ひめ、みことの3人は竜の霊力を使って実体化しており、誰の目からでも見えるようになっていた。

 

 

「竜お兄さん、ちょっとあっちの方に行ってみんー?」

「あっちって・・・・・・、植物の迷路か。いいぞ」

 

 

 ひめが指さした先にあったのは植物でできた壁の迷路。

 この迷路はこの公園に設置されている遊具の1つであり、植物でできた迷路を抜けて遊ぶというシンプルな遊具だ。

 

 ひめの提案に竜はうなずき、植物の迷路へと向かって行く。

 その後を追うようについなとみことも歩いて行った。

 

 

「こっちは・・・・・・、行き止まりか。意外と面白いなこの迷路」

「せやね。ご主人でも先が見えないような高さの壁やし、なかなかに楽しめる遊具やと思うで」

 

 

 植物の迷路に入って数分後。

 竜たちは出口を目指して迷子になっていた。

 公園の遊具なのだから簡単に脱出できてしまうのではないかと思っていたのだが、予想に反して簡単に脱出ができないでいた。

 

 

「けっこう難しいっちゃね~?」

「ううん。どの道が正解かな・・・・・・」

 

 

 コテンと首をかしげながらひめとみことが呟く。

 どうやら2人もどの道が出口につながっているのかが分からないらしい。

 

 

「とりあえず適当に歩いて行ってみるかー」

「それしかなさそうやね」

「頑張って歩くったーい!」

「まぁ、立ち止まっているよりもいいですよね」

 

 

 どの道に進むかを考えるのを止め、竜は歩き始める。

 この場にとどまって頭を悩ませるよりも歩き回って道を調べた方が有益だと竜は判断したのだ。

 

 歩き出した竜の後をついな、ひめ、みことの3人も追いかけていく。

 

 それから、竜たちが迷路から脱出できたのは10分ほど経った後だった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ひめたちと出かけた日の夜。

 竜はなにか不思議な香りを感じて目を覚ました。

 

 

「これは・・・・・・、花の香り・・・・・・?」

 

 

 竜が鼻で息を吸うと、なにかしらの花の香りを感じることができた。

 どこかで嗅いだ覚えのある花の香りに首をかしげながら竜は香りの出所を探りに行く。

 

 客間やリビング、トイレなんかも調べながら竜は匂いの出所を探っていくのだが、どこからも花の香りはしてこなかった。

 

 

「どこから・・・・・・、ん?」

 

 

 花の香りの出所を探っていた竜は、不意に玄関の方がわずかにだが香りが強いことに気がついた。

 警戒をしながら竜は玄関へと近づいていく。

 

 

「これは・・・・・・、梅の木?!」

 

 

 玄関に着いた竜の目に飛び込んできたのは、玄関の扉を埋めるように生えた巨大な梅の木だった。

 

 直後に梅の木から伸びた枝が竜の足に絡みつく。

 

 

「竜おにーいさん」

「竜さん、ボクたちに身をゆだねてください」

「ひめとみこと?!」

 

 

 絡みついてきた枝をどうにか剥がそうとしていると、梅の木からひめとみことの姿が現れた。

 ひめとみことの姿が現れたことに竜は驚き、声を上げる。

 

 

「えへへ~、竜お兄さんはうちらのことだけをキレイって思ってたらええんよ~?」

「ですからボクたちの中にいれてずーっと一緒になりましょう?」

 

 

 どこかドロリとした暗い目を竜に向けながらひめとみことは言う。

 どうやら昼間に竜が植えられている花のことを見ていたことが気に入らなかったらしい。

 

 そのまま、竜の足に絡みついた枝はずりずりと竜のことを引っ張っていく。

 

 体を引かれながら竜はどうにか足に絡みついている枝を引き剥がそうとするのだが、がっちりと絡みついているために引き剥がすことができずにいた。

 

 

「くっ、やめ・・・・・・」

「ふふふ、これで、ずっと一緒っちゃね?」

「これからずっと永遠に竜さんはボクたちと一緒ですよ」

 

 

 抵抗むなしく竜の体がひめとみことのいる梅の木に到達する。

 竜が近くに来たことを確認したひめとみことは嬉しそうに竜の体に抱き着く。

 そして、2人が竜の体に抱き着くと、そのまま梅の木の中へと竜ごと沈んでいくのだった。

 

 翌朝、学校の中庭に植えられている梅の木の根元に大きなこぶのようなものができていたのだが、それがなんなのか分かる人間はどこにもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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UA130000突破・番外話・ヤンデレアイエンド





UA130000を越えたので番外話です。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。


 

 

 

 

 月読(つくよみ)アイ。

 

 竜たちのクラスの担任である彼女のことを生徒に尋ねた場合、ほぼ全員が全員口をそろえてこういうだろう。

 

  『妹みたいなお姉さん』と。

 

 月読アイ(以降アイ先生と表記)、のことを一言で表すのであれば“幼女”だろうか。

 彼女の身長は100センチメートルとかなり小さく、その見た目通りにかなり体重も軽い。

 そんな見た目のために夜に出歩いていると補導されることもしばしばあるようだ。

 

 学校の生徒や同僚である先生たちからは可愛らしいと言われているが、本人的にはあまり嬉しいことではないらしく、可愛いと言われると複雑そうな表情を浮かべることが多い。

 また、保険医であるイタコ先生とは学生時代の同級生であり、“アイちゃん”という愛称で呼ばれたりしている。

 まぁ、アイ先生としてはその呼び名は不服なものなので呼ばれるたびに訂正をしているのだが。

 ちなみに、イタコ先生がアイ先生のことを“アイちゃん”と呼んでいるために、一部の生徒からも“アイちゃん先生”と呼ばれるようになってしまったことがアイ先生の最近の悩みだったりする。

 

 授業をすべて終え、アイ先生は職員室へと向かう。

 放課後ということもあって校舎内は部活のある教室の近く以外はとても静かになっている。

 

 

「・・・・・・はぁ」

 

 

 職員室へと向かいながらアイ先生は小さくため息を吐く。

 教師という仕事は悩みが尽きない仕事であり、生徒のこと、授業のこと、私生活と仕事のことなどなど悩みに関してはキリがないほどにあるのだ。

 

 そんな教師という仕事についているアイ先生が悩んでいること、それは・・・・・・

 

 

「もう、これ以上身長は伸びないのかなぁ・・・・・・」

 

 

 生徒や授業、学校のことなどとは全く関係のない悩みだった。

 

 念のために言っておくとアイ先生の年齢は21才なのだが、一般的な同年代の女性の身長が150センチメートル後半なのに対して100センチメートルとかなり小柄なため、なかなかにコンプレックスとなっているのだ。

 なお、女性の成長期は10歳~14歳あたりまでで、16歳には完全に止まるとされている。

 まれに20歳あたりに身長が伸びる人もいるが、それも本当にごくわずかの人なため気にしなくても良いだろう。

 

 まぁ、つまりなにが言いたいのかをハッキリというと、『月読アイの身長がこれ以上伸びることはない』ということだ。

 

 そんな叶わぬ夢を願いながらアイ先生は職員室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜が“cafe Maki”でのバイトを終えた帰り道。

 

 とくにいつもと違ったようなことはなかったはずなのだが、竜の耳になにやらうめき声のようなものが聞こえてきた。

 チラリと頭の上にいるついなを見てみるが、ついなは首を横に振っているのでついなではないのだろう。

 不思議に思いつつ竜はどこからうめき声が聞こえてきているのかを調べてみることにした。

 

 

「う゛う゛う゛う゛う゛ぅ・・・・・・う゛う゛ぇ゛・・・・・・」

 

 

 うめき声に交じってなにやら吐いているような声まで聞こえてきたことに竜は思わず顔をしかめる。

 そして、竜がうめき声の主を探し始めて少ししてから、竜は電信柱の影になにやら小さな人影があることに気がついた。

 その人影はかなり小さく、パッと見では子どもの人影にしか見えない。

 しかしこんな時間────“cafe Maki”でのバイトが終わり、マキの家で晩ご飯をいただいてから家に向かっているような時間帯に子どもが出歩いているはずがなかった。

 

 もしかしたら相手は人間ではないかもしれない。

 

 そう警戒しながら竜は人影に近づいていく。

 そして、竜は人影の姿を確認した。

 

 

「・・・・・・なにしてるんですか、アイ先生」

「う゛ぁ゛あ゛・・・・・・?あ゛ー、公住かぁ・・・・・・」

 

 

 電信柱の影でうめき声をあげていた小さな人影。

 その正体は竜のクラスの担任である月読アイだった。

 

 竜の言葉にアイ先生はぼんやりとした表情になりながら竜のことを見る。

 

 

「いったいなにやって・・・・・・、ってうわ、酒くさっ?!」

「これは完全に酔っとるなぁ・・・・・・」

「あははぁ、大人の女性に向かってくさいとはなんだぁー?」

 

 

 アイ先生に近づいた竜は鼻についたアルコールの匂いに思わず声をあげる。

 

 アイ先生からはかなりのアルコールの匂いがしており、アイ先生がお酒をかなり飲んでいたのだろうということが推測できた。

 

 竜の言葉にアイ先生はケラケラと笑いながら立ち上がる。

 

 立ち上がったアイ先生はふらふらとどこか足元がおぼつかなく。

 いまにも倒れてしまいそうな足取りをしていた。

 

 

「ちょ、大丈夫ですか?」

「あー、まぁ、大丈夫だろぉ・・・・・・」

 

 

 ふらふらとしているアイ先生の姿に竜は思わず声をかける。

 竜の言葉にアイ先生はどこかぼんやりとしながら答えた。

 

 電信柱の影でうめき声をあげていた姿を見ているだけにアイ先生の言葉には不安しかなく、竜はどうしたものかと頭を悩ませる。

 

 竜としても酔っている担任をここで見送っても良いものかという思いがある。

 しかし、竜はアイ先生の自宅を知らず、いまの酔っている状態のアイ先生に道案内をさせるというのも不安があるのだ。

 

 竜がそんなことを考えているとも知らずにアイ先生はふらふらと歩き始める。

 そして、3歩、4歩と歩いていった先でいきなりカクンと脱力してしまう。

 いきなり脱力したアイ先生を竜は慌てて抱き止める。

 

 

「おお?おー、公住は力持ちだなぁ」

「あー、もう!家はどこですか。ふらふらしてて見てらんないです!」

「まぁ、こんな状態やと危ないもんなぁ」

 

 

 竜に抱き止められたアイ先生は感心したように言う。

 あまりにも酔っているアイ先生の姿に竜は声をあげ、アイ先生を家まで送ることに決めるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 月読アイの住むマンション。

 

 竜は酔っぱらっているアイ先生の案内のもと、どうにかアイ先生が生活をしているマンションにたどり着くことができた。

 

 タクシーを使えば良いのではないかと思うかもしれないが、アイ先生がマトモに道を教えられる状態ではないことと、その見た目のせいで竜が女児誘拐犯と間違われてしまう可能性があるためにタクシーは止めておいたのだ。

 まぁ、その代わりとしてアイ先生(酔っぱらい)の道案内だったためにかなり道に迷って時間がかかってしまったのだが。

 

 

「ほら、マンションに着きましたよ。何階ですか?」

「めっちゃ時間かかったなぁ・・・・・・」

「んー・・・・・・、4階ぃー・・・・・・」

 

 

 アイ先生のマンションに行く途中で歩きたくないとアイ先生が駄々をこねたためにおんぶをすることになった竜は背中にいるアイ先生にマンションの何階なのかを尋ねる。

 竜の言葉にアイ先生は眠そうな声で自分の部屋がある階を答えた。

 

 アイ先生から部屋の階を聞いた竜はアイ先生をおんぶし直し、エレベーターに乗り込むのだった。

 

 

「えっと、つくよみつくよみ・・・・・・っと、ここか。アイ先生、カギを出してください」

「んぅー?カギー?」

 

 

 4階に着いた竜は1つづつ部屋の名前を確認していき、アイ先生の部屋を見つける。

 さすがに部屋の扉が開いているわけがないので、竜はアイ先生に部屋のカギを出すようにお願いする。

 竜に言われ、アイ先生はごそごそと自分の服のポケットを探っていく。

 そして、部屋のカギを見つけたアイ先生は竜にそのカギを手渡した。

 

 

「開けろってことか・・・・・・」

 

 

 アイ先生が自分の背中から降りずにカギを渡してきたことから自分でカギを開ける気がないのだということを理解し、竜はがくりと肩を落とす。

 降りるつもりのなさそうなアイ先生の様子に竜は溜息を吐きつつ、部屋のカギを開けるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 アイ先生の部屋のカギを開け、中に入った竜はおんぶしているアイ先生を下ろそうとする。

 しかしアイ先生は竜の背中にしがみついたままで降りようとしない。

 まったく降りようとしないアイ先生に竜はどうしたものかとついなを見る。

 

 

「まぁ、ベッドかなんかがあるやろうしそこまで運ぶしかないんやない?」

「そうなるかぁ・・・・・・」

 

 

 ついなの言葉に竜は諦めたようにアイ先生のマンションの部屋に入っていく。

 

 マンションの部屋の中を調べ、竜はアイ先生が寝ているであろう布団を発見した。

 布団の近くにしゃがみ込み、竜は背中にくっついているアイ先生に声をかける。

 

 

「っと、この部屋だな。アイ先生、布団ですから降りてください」

「あぃー・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にアイ先生はようやくポテリと布団に向かって落ちる。

 アイ先生が背中から離れたのを確認した竜はそのまま部屋から出ようと立ち上がる。

 

 と、不意に竜の腕がアイ先生に捕まれた。

 

 

「こんな時間なんだ。泊っていきな」

「へ、なん・・・・・・?!」

「ご主じ────くぅうっ?!」

 

 

 不意打ち気味に腕を掴まれた竜はそのままアイ先生の布団に倒れ込んでしまう。

 竜は自分を引っ張って倒したアイ先生を何事かと思いながら見、固まってしまう。

 

 竜がアイ先生を見て固まってしまった理由。

 それは、いつの間にかアイ先生が自身の服を緩めて下着が見えてしまっているような姿になっていたからだ。

 アイ先生の姿で下着が見えていたとしても興奮はしないのではないかと思うかもしれないが、お酒を飲んで赤く上気した表情は幼い見た目からは感じられないほどの色っぽさを醸し出していた。

 

 竜が倒されたことについなが驚いて近づこうとするが、その前にアイ先生が投げたものによって弾き飛ばされてしまい、そのままアイ先生が投げたものの中に吸い込まれていってしまった。

 

 

「悪いな。これでもイタコとは同級生だったんだ。対霊へのアイテムなんかは充実しているんだ」

「アイ先生、なにを・・・・・・?!」

「なにを?そうだなぁ・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にアイ先生は少しだけ考えるような仕草を見せる。

 

 

「公住、知ってるか?大人っていうのはな、いろいろとストレスがたまるんだ。だからな?お前でたっぷりと発散させてくれ?」

 

 

 その幼い姿からは想像できないほどの力でアイ先生は竜の体を押し倒し、素早く竜の四肢を拘束していく。

 そして、竜の言葉など無視してアイ先生は竜の体を使ってストレスを発散していくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 朝。

 

 アイ先生はスッキリとした表情で玄関にいた。

 

 

「いやぁ、公住のおかげでかなり助かったな。これからも頼むよ」

「んー!んんー!」

 

 

 アイ先生の視線の先には体を拘束されてボールギャグを噛まされている竜の姿。

 体を拘束されているために立ち上がることはできず、さらには尻尾のようなものが竜に取り付けられていた。

 

 

「それじゃあ私は行ってくる。いい子にして待ってるんだぞ?退屈にならないように“これ”の電源も入れておいてやるからな」

「んんんーーー?!」

 

 

 そう言ってアイ先生はなにか小さなスイッチを取り出して電源を入れる。

 アイ先生がスイッチの電源を入れた直後、竜の方からなにやらヴヴヴヴという音が聞こえてきて、竜がもだえるような声をあげる。

 

 そんな竜の姿を見てアイ先生は恍惚とした表情を浮かべながら玄関を閉めるのだった。

 

 アイ先生の部屋の中に響き渡るのはヴヴヴヴというなにか機械が動くような音と竜のもだえる声。

 防音がしっかりとしているこの部屋の中から他の部屋にその音が聞こえることはなく、アイ先生が帰ってくるその時まで竜は外に聞こえない声をあげ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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UA140000突破・番外話・ヤンデレイアエンド




UA140000を越えたので番外話です。

ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。

それでもよろしければ読んでください。

なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。








 

 

 

 

 竜くんと出会ったのは私とオネちゃんがこの学校に来てからすぐのときだった。

 自慢のように聞こえてしまうかもしれないが、私とオネちゃんはどちらも見た目がとても可愛い。

 そのため、休み時間やお昼休みにクラスメイトたちに囲まれて質問責めなどになってしまったのだ。

 それに気がついたクラスメイトのずん子ちゃんが保健室でお昼ご飯を食べることを提案してくれ、そこで私たちと同じように保健室でお昼ご飯を食べている竜くんたちと出会ったのだ。

 

 

「あのときは驚いたなぁ。保健室で竜くんたちに出会ったと思ったらいきなりあの子たちが保健室の扉を勢いよく開けて入ってくるんだもん」

 

 

 あの子たち、というのは竜たちが通う学校の中庭に植えられている梅の木に宿っている精のひめとみことのことを指している。

 ひめとみことの存在は基本的に隠されてはいないのだが、その名前だけは霊能力者が知れば使役されてその力を悪用されてしまう可能性があるために秘密になっているのだ。

 そのため、イアとオネはいまだにひめとみことの名前を知らず、基本的には“あの子”や“その子”といった曖昧な呼び方になっていた。

 

 

「でもあの子たちもけっこうかわいい子たちだよね。茜ちゃんの作ってくるお弁当をいつも美味しそうに食べていたし。竜くんにもかなり懐いているみたいでよく手をつないだり抱き着いたりもしていたよね」

 

 

 イアの頭の中に思い浮かぶのは保健室でのひめとみことの姿。

 2人はいつも茜から受け取ったお弁当を食べ終わると、保健室のベッドでゴロゴロしたり、竜の近くに移動して抱き着いたり手をつないだりしているのだ。

 やっている2人の姿が子どもの姿だということもあって茜たちはとくになにかを言うこともなくその光景を微笑ましく思っていた。

 なお、ひめとみことはときおり大人の姿になって竜に抱きついたりすることもあるので、その際には素早く全員によって引き剥がされることとなっている。

 

 

「ああ、あとはあの子たちもいたよね。あの、変わった生き物の・・・・・・、みゅかりさん、けだまきまき、セヤナー、ダヨネー、あかり草、秋り田ん犬、ずん(どり)だったかな?他にもいそうだけど、いろいろな生き物たちにも好かれているよね」

 

 

 イアの言う変わった生き物たちはどれもが竜の家に遊びに行った際に出会った生き物たちで、その生き物たちは皆一様に竜に懐いていた。

 

 竜にしがみついてくっつくものや竜の腹部に突撃するもの、竜の腕に自身の体を巻きつけるものや竜の体から生えてくるもの。

 

 そのどれもが竜に対しての愛情表現としての行動だった。

 

 

「やっぱりすごいよね。小さな子どもからいろいろな生き物たちに好かれているんだから。だから・・・・・・、ね?」

 

 

 

 

 

    ────────私が竜くんのことを好きになっちゃうのも仕方がないことなんだよ?

 

 

 

 

 そう言って、イアは自身が腰かけているベッドに拘束されている竜の頬を優しく撫でる。

 

 なぜ竜がイアのベッドに拘束されているのか。

 

 その答えはたった1つ。

 たった1つのシンプルな答え。

 

 イアが竜のことを誘拐した。

 

 ただそれだけのことなのだ。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ベッドの上に拘束されている竜はどうやら意識を失っているようで、目を閉じたまま起きるようなそぶりが見えない。

 そんな竜のことをイアはベッドに腰掛けながらじっと見ていた。

 

 

「ふふふ、可愛いなぁ。こんなに可愛いんだから、竜くんはみんなに好かれているんだよね」

 

 

 竜の頬を撫でながらイアは微笑む。

 その微笑みは慈愛に溢れているように見え、他の人が見れば思わず見惚れてしまうほどのものだろう。

 

 

「姉さん、そろそろ晩ご飯が・・・・・・、ヒィッ?!」

「 オ ネ ち ゃ ん ? 」

 

 

 不意に部屋の扉が開き、オネが顔を覗かせる。

 オネが顔を覗かせた瞬間、先ほどまで微笑んでいたイアの表情が急変し、光の消えた瞳でオネを見た。

 イアの表情にオネは思わず悲鳴をこぼしてしまう。

 

 

「この部屋には勝手に入って来ないでって言ったよね?」

「ご、ごめんなさい!で、でもそろそろ晩ご飯ができるから・・・・・・」

 

 

 イアの言葉にオネは頭を下げて謝る。

 そんなオネの姿にイアは小さくため息を吐き、腰かけていたベッドから立ち上がった。

 そして、竜の頬をもう1度撫でるとそのまま部屋のカギを閉めて晩ご飯を食べに向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 少し時間が経過して、晩ご飯を食べ終えたイアはお湯の入ったバケツとタオルを持って部屋に戻ってきた。

 ベッドに拘束されている竜はいまだに起きてくるような様子もなく眠り続けている。

 

 そして、イアはバケツとタオルを床に置くと竜の服を脱がし始めた。

 どうやらイアは竜の体を拭くつもりのようだ。

 

 

「さーて、脱ぎ脱ぎしちゃいましょうねー」

 

 

 そう言いながらイアは竜の服を1枚、また1枚と脱がしていく。

 意識のない人間を脱がせるのはなかなかに大変なはずなのだが、イアは鼻歌交じりに竜の服を脱がしていた。

 

 

「んー、やっぱり外に出たりしてないからそこまで汚れたりはしていないかな?」

 

 

 竜の体を拭きながらイアは呟く。

 

 ちなみに人間は外に出たりして土などの汚れを体に付ける以外にも、汗や皮脂を分泌することによって体が汚れる。

 そのため、外出をしていなかったとしても人間は体が汚れるのだ。

 

 竜の体をある程度まで吹き終わったイアは最後に竜の下着へと手を伸ばしていく。

 

 

「ここはとくに念入りにキレイにしておかないと大変だもんね。ほーら、恥ずかしくないですよー?」

 

 

 そう言ってイアは竜の下着を脱がせる。

 あらわとなった竜の下着の内側にイアは少しだけ頬を染めつつも嬉しそうにそこも拭いていくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜の体を綺麗に拭き終えたイアは汚れてしまったお湯を捨て、タオルを洗濯機へといれる。

 

 

「あ、私の服も一緒に洗っちゃえばいいよね。このままお風呂に入っちゃお」

 

 

 そう呟くとイアは自分がいま着ている服を脱ぎ始めた。

 そして、着ている服をすべて洗濯機へと入れたイアは、お風呂場の扉を開けて中へと入っていった。

 

 

「ふんふんふーん。あ、そういえばもうすぐお薬もなくなっちゃうなぁ」

 

 

 アワアワと泡を立てながらイアは自分の身体を洗っていく。

 きめ細かくて色白で滑らかなその肌を覆うようなその泡はまるでショートケーキのクリームのようにも見える。

 

 体を洗いながら、不意にイアが呟く。

 イアの言う薬というのがなにのことを言っているのかは不明だが、おそらくは竜が眠ったままになっていることと何か関係があるのだろう。

 

 そして、イアは自分の身体と髪の毛を念入りにキレイにしてからお風呂から出るのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 お風呂で体もキレイになり、イアは上機嫌で部屋に戻ってきた。

 部屋のベッドでは変わらずに竜が眠っており、他にとくになにか変わった様子もない。

 

 

「ふふふ、さーて、と。今日も一緒に寝ようね?」

 

 

 そう言ってイアは竜が寝ているベッドの上に横になる。

 イアが横を向けばそこにはベッドに拘束されている竜の顔があり、それだけでイアは嬉しそうに頬を緩めていた。

 

 

「可愛いなぁ、可愛いなぁ・・・・・・。可愛いかわいいカワイイkawaiiカワイイかわいいかわいい可愛いかわいいカワイイ可愛いkawaii可愛いかわいいカワイイ可愛いかわいいカワイイkawaiiかわいいカワイイかわいいカワイイかわいいカワイイkawaiiかわいいカワイイかわいい可愛いかわいいカワイイ可愛いかわいいカワイイkawaii可愛いかわいいカワイイkawaiiカワイイかわいいかわいい可愛いかわいいカワイイ可愛いkawaii可愛いかわいいカワイイ可愛いかわいいカワイイkawaiiかわいいカワイイかわいいカワイイかわいいカワイイkawaiiかわいいカワイイかわいい可愛いかわいいカワイイ可愛いかわいいカワイイkawaii可愛いかわいいカワイイkawaiiカワイイかわいいかわいい可愛いかわいいカワイイ可愛いkawaii可愛いかわいいカワイイ可愛いかわいいカワイイkawaiiかわいいカワイイかわいいカワイイかわいいカワイイkawaiiかわいいカワイイかわいい可愛いかわいいカワイイ可愛いかわいいカワイイkawaii可愛いかわいいカワイイkawaiiカワイイかわいいかわいい可愛いかわいいカワイイ可愛いkawaii可愛いかわいいカワイイ可愛いかわいいカワイイkawaiiかわいいカワイイかわいいカワイイかわいいカワイイkawaiiかわいいカワイイかわいい可愛いかわいいカワイイ可愛いかわいいカワイイkawaii可愛いかわいいカワイイkawaiiカワイイかわいいかわいい可愛いかわいいカワイイ可愛いkawaii可愛いかわいいカワイイ可愛いかわいいカワイイkawaiiかわいいカワイイかわいいカワイイかわいいカワイイkawaiiかわいいカワイイかわいい可愛いかわいいカワイイ可愛いかわいいカワイイkawaii────」

 

 

 ジッと竜の横顔を見ながらイアが口にするのは“かわいい”という単語。

 その狂気じみた言葉を聞かないで済んだのが眠ったままの竜にとって唯一の救いだったのではないだろうか。

 

 

「────ああ、本当に竜くんは可愛いなぁ・・・・・・。大好きだよ。ずっと、ずっと ワ タ シ ノ モ ノ ダ カ ラ ネ ? 」

 

 

 誰に聞かせるつもりもなくイアは呟く。

 

 

 決して誰にも渡さないように・・・・・・

 

 

 竜が自分だけのものなのだと主張するように・・・・・・

 

 

 そう言って、イアは自身の体を竜へと絡みつかせながら眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第1話



間違えて消してしまったので書き直しました。

以前のものとは内容が少し変わっておりますが、全体の流れとしては変わっていません。


 

 

 

 

 学校から帰ってきた自宅の前。

 そこに転がっているものを見て男子学生────公住(きみすみ) (りょう)はどうしたものかと固まってしまっていた。

 

 

「・・・・・・なんだこれ?」

 

 

 見たところボールのように丸く、呼吸をするかのように膨らんだり萎んだりをしている。

 このことからどうやら生き物ではないか、ということが想像できた。

 正直に言えばよく分からないものなので近づきたくはないが、よりにもよって“それ”が転がっているのは竜の自宅の目の前。

 これではどうやっても近づかなければならない。

 

 

「動か・・・・・・ない・・・・・・よな?」

 

 

 実は転がっているのは演技で近づいた瞬間に襲いかかってくるのではないか。

 そう考えて竜は警戒しながら“それ”に近づいていく。

 

 残り20歩・・・・・・15歩・・・・・・10歩・・・・・・

 

 ゆっくり、ゆっくりと竜は近づいていく。

 そして、竜は“それ”の隣にまでたどり着いた。

 

 

「みきゅぅ~・・・・・・」

「気絶、してるのか?」

 

 

 ここまで近づいても動かないことを不思議に思い。

 竜は思いきって持ち上げてみた。

 

 フワフワとした体毛で覆われており、転がっていたものが生き物だということが確定した。

 触り心地の良い毛並みに竜は思わず撫で回したくなる気持ちを必死に抑える。

 

 “ゆっくり”と呼ばれる生き物のような見た目をしているが、紫色のフワフワとした体毛が全体的に生えており、恐らくは耳であろう部位が2ヶ所ピョコンと生えている。

 そして、前足のよう部分が左右から生えており、そこには輪っかのようなアクセサリーが着けられていた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・はぁ、仕方がないか」

 

 

 このまま外に放置してなにかがあれば寝覚めが悪い。

 そう考えた竜はため息を吐いてその生き物を家の中へと運ぶのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 生き物を家の中に運んだ竜は、一先ず自分の部屋に布団を敷き、そこに生き物を寝かせることにした。

 この生き物がどんなものかは分からないが、それでも適当にどこかに置いておくことは竜にはできなかった。

 

 

「さて、と。とりあえず寝かせたけどどうするかなぁ・・・・・・」

 

 

 冷蔵庫からジュースを取り出しながら竜は呟く。

 

 触れた感触などから生き物だとは思っているのだが、それでもあんな生き物は見たことも聞いたこともない。

 動物病院などにつれていってまともに診察をしてくれるのかすら竜には分からなかった。 

 

 

「まさか精巧なロボットとかではないだろうし・・・・・・」

 

 

 ジュースをコップに注ぎながら竜はまさかとは思いつつも思い浮かんだことを呟く。

 が、すぐに首を横に振ってその考えを否定する。

 

 家の中に運んだときに触れた体温は機械的に再現したものとは思えず、触れた柔らかさも機械とはとても思えないものだった。 

 そのために竜はその考えをすぐに否定したのだ。

 

 

「・・・・・・まぁ、考えても仕方がないな」

 

 

 どんなに考えたとしても結局は答えは出せない。

 そう考えた竜は生き物のことを考えるのを一旦止めて、漫画を読み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『みゅみゅみゅみゅみゅいーーーーー?!?!?!?!?!』

 

 

 不意に驚いたような大きな鳴き声が竜の部屋の方から聞こえてきた。

 それと同時になにかが崩れる音やなにかが壁にぶつかる音が聞こえてくる。

 いきなりのことに竜は一瞬だけ驚いたが、すぐに先ほどの生き物が目を覚ましたのだということに気がつく。

 

 

「あんまり散らかさないでくれると助かるんだがなぁ・・・・・・」

 

 

 聞こえてくる音と鳴き声に竜はため息を吐きながら自分の部屋へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2話

 

 

 

 

 唐突ではあるが、某巨大な虫やどろどろに肉体が溶けている巨人の出てくる映画を知っているだろうか。

 あの映画の主人公は野性動物と即座に仲良くなったり、巨大な虫の幼体と心を通わせる(?)などのことをやってのけて怒り狂った巨大な虫の群れを静めたりしている。

 もしもあの主人公と同じことをやれと言われてできる人はそうはいないだろう。

 

 

 が、竜は今からそれに近いことをしなければならない。

 

 

「みゅぅうううう・・・・・・!!」

「どうするか・・・・・・」

 

 

 寝かしておいた布団の近くに畳んでおいた掛け布団に隠れるようにくるまりながら竜を見ている生き物を見ながら竜は呟いた。

 生き物は竜を見ながら威嚇するように鳴きつつ、前足(?)のような部分を(「`ω')「のようにして竜に向けている。

 誰がどう見ても警戒度マックスなのは明確です本当にありがとうございました。

 そんな状態の生き物を見ながら竜は頭に軽く手をあてる。

 

 

「みゅっ、みゅみゅっ!」

「シャドーボクシング・・・・・・?」

 

 

 どうしたものかと生き物を見ていると生き物は威嚇のポーズからまるでボクサーのように前足を動かし始めた。

 しかしその動きはどう見ても遅く、誰が見ても攻撃力は感じられないだろう。

 

 まぁ、そんな風に元気に動くことができるのだからとくに怪我の類いだとか病気の様子とかもないということで間違いないはずだ。

 

 “ふふふ、私のパンチが見えますか?”とでも言いたげな表情を浮かべている生き物を見ながら竜はそう結論付ける。

 自慢気な生き物には悪いがそのパンチを見切れない人間は小学生くらいではないだろうか。

 

 

「ほれ。窓は開けたから好きに出ていくと良い」

「みゅ?」

 

 

 竜が窓を開けると生き物は不思議そうに竜と窓をキョロキョロと見る。

 首をかしげるような動作をしていたりすることからある程度は人間の言葉を理解しているのだろうということは推測できる。

 そんなことを考えながら竜はゲームの準備を始めた。

 

 

「さて、と。今日はなにをやるか・・・・・・、モンハンはとりあえず全部のモンスターも狩ってメインで使う武器もほぼ作り終わっちゃったし・・・・・・、地球防衛軍はノーマルだけどストーリーを全部クリアしたし・・・・・・、ドットハックはソロ縛りでやるから時間かかるし・・・・・・」

 

 

 ゲームの準備をしながら竜は呟く。

 そんな竜の様子を見ながら、生き物はゲームのタイトルを聞くたびに耳をピクピクと動かしていた。

 

 

「とりあえず地球防衛軍でいいか。・・・・・・っと、先にトイレに行っとくか」

 

 

 ゲームの準備を終え電源をいれると竜は立ち上がってトイレに向かった。

 竜がトイレに向かったのを確認すると、生き物はピョコピョコと跳び跳ねながらゲーム機へと近づいていった。

 

 

「みゅ・・・・・・。みゅっみゅみゅみゅっみゅ~!」

 

 

 どこぞの青いタヌ────猫型ロボットが道具を取り出すときの音楽をセルフで言いながら生き物は竜の物とは別のコントローラーを取り出した。

 そしてそのまま馴れた様子でゲームを操作していく。

 

 

「ふぅ、さてやる・・・・・・か?」

「み゛ゅっ?!」

 

 

 トイレから戻ってきた竜は生き物がゲームをやっていることに驚き固まり、生き物は竜が戻ってきたことに驚き固まる。

 互いに相手のことを見つめ、ときおりテレビ画面をちらりと見る。

 

 

「・・・・・・えっと、一緒にやるか?」

「・・・・・・みゅう」

 

 

 このあと、2人プレイして滅茶苦茶“サンダー!強力なサンダー!”しまくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3話



目次のところにも書いてありますが、何人かの登場人物は年齢などに変更点が加えられております。
その点を留意ください。


 

 

 

 

 快晴の気持ちのよい天気。

 日当たりもよく、心地のよい暖かさにその意識は夢の世界へと旅立っていってしまうこと間違いないだろう。

 こんな日には掛け布団も敷き布団もすべて干してふっかふかにして眠るのが最高の幸せに違いない。

 

 

公住(きみすみ)、授業中に寝るんじゃない」

「ぶげらっ?!」

 

 

 後頭部への軽い衝撃と、その衝撃でバランスを崩して顔面を机に強くぶつけたことによって竜は痛みと共に夢の世界から帰還する。

 そんな竜の姿にクラスメイトたちは様々な表情を浮かべ、教師──月読(つくよみ) アイ(21歳・身長100センチメートル・体重■■(ピー)キログラム)は小さく溜め息を吐いた。

 

 

「暖かくて眠くなるのもわかるが、寝るならせめて休み時間にするんだな」

「はい・・・・・・」

 

 

 机にぶつけたことによって赤くなった額をさすりながら竜は答える。

 こればかりは授業中に眠ってしまっていた竜に非があるので、竜はなにも言えなかった。

 そしてそれからは何事もなく授業は進んでいった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 授業が終わって休み時間になり、机の上にぐてっと体を倒す竜のもとに女子生徒が1人ニヤニヤと笑いながら近づいてきた。

 さらにその後ろにはやや困ったような表情を浮かべた女子生徒もいる。

 

 

「やー、珍しいこともあるんやな?アイちゃんせんせに怒られるなんて」

「うっせー・・・・・・。ちょっと遅くまでゲームをしちまったんだよ・・・・・・」

「なんや、いつものことやん」

「でも、授業中に眠ってるのは本当に珍しいね」

 

 

 女子生徒の言葉に竜はぐてっと机に体を預けたまま答える。

 女子生徒──琴葉(ことのは) (あかね)は竜の言葉に拍子抜けしたといった様子で答えた。

 そんな茜の様子に苦笑しながらもう1人の女子生徒──琴葉(ことのは) (あおい)は不思議そうに竜を見る。

 

 茜の言うとおり竜がゲームを遅くまでやって眠そうにしているのは別に珍しいことではない。

 今までも眠っていることはなくても眠そうにしながら授業は受けていたのだから。

 

 葵の言葉に竜はポリポリと頬を掻きながら口を開いた。

 

 

「いや、予定ではそんなに遅くまでやるつもりはなかったんだよ」

「そうなんか?」

「なにか予定外のことがあったってこと?」

 

 

 竜の言葉に2人は不思議そうに顔を見合わせてから尋ねる。

 

 

「まぁな。じつは昨日、変わった生き物を拾ってな。といっても寝る前にはどっかに帰っていっちゃったんだけど」

「変わった」

「生き物?」

 

 

 2人はこてんと首をかしげながら竜の言葉の続きを待つ。

 そんな2人の姿を見ながら竜は昨日の出来事を簡単に説明した。

 

 

「紫色で1頭身の猫っぽい生き物・・・・・・」

「前足のような部位にアクセサリー・・・・・・」

「なにか知っているのか?」

 

 

 竜の説明に2人は顔を見合わせて呟く。

 2人の様子にあの生き物のことを知っているのかもしれないと思った竜は尋ねた。

 

 

「・・・・・・、いやー、うちはちょっと分からんなぁ」

「ごめんね。ボクもちょっと分からないかな」

「そうか・・・・・・」

 

 

 2人は申し訳なさそうな表情を浮かべながら答える。

 2人の言葉に竜は少しだけ残念そうな表情をした。

 そんな竜の姿を見つつ、茜と葵の2人は共通のものを思い浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第4話

 

 

 

 

 授業も終わり、なにごともないまたいつもの帰り道────

 

 

「にひひひ、バッチリ特訓はしたんや。今日こそは負けへんで!」

「お姉ちゃん、前も同じようなこと言ってなかった?」

 

 

            ────とは違うようだ。

 

 家への帰り道を歩く竜の隣に2人の女子生徒、茜と葵の姿がある。

 どうやら竜の家でゲームをやる予定のようだ。

 

 

「くはははは!返り討ちにしてくれるわ!」

「なんやとー、このパチモン・ナンデスがー!」

「2人ともあまり大きな声を出したら近所迷惑だよ・・・・・・」

 

 

 なんてことのない友人同士の会話をしながら3人は竜の家が見えるところにまで到着した。

 

 

「うん?」

「あ、あれって・・・・・・」

「・・・・・・せやな」

 

 

 ふと、3人は竜の家の前になにかがいることに気づく。

 それはまるで紫色をした“ゆっくり”のような見た目で、前足のようなものが2ヶ所から生えている生き物だった。

 

 ・・・・・・まぁ、要するに竜が昨日拾った生き物である。

 

 

「遊びに来たってとこか?」

 

 

 生き物の姿を確認した竜は嬉しそうに生き物へと駆け寄っていく。

 そんな竜のあとを茜と葵は追いかけていった。

 

 

「よ!遊びに来たのか?」

「みゅっ!」

 

 

 生き物の目の前にしゃがみこんで竜が尋ねると、生き物は肯定するように前足を挙げて答えた。

 生き物が答えてくれたのが嬉しかったのか、竜はわしゃわしゃと生き物の頭を撫でる。

 

 竜に撫でられていることによって油断していた生き物は、背後から近づいてくる人影に気づかず、気がついたときには────

 

 

「謎の生き物、捕獲やぁああああ!!!!」

「みゅあぁあぁぁぁああああ?!?!?!」

 

 

     ────体を捕まえられてしまっていた。

 

 いきなりのことに生き物は鳴き声をあげ、竜はポカンとしてしまっている。

 

 

「へっへっへ、もう逃げられへんでぇ?」

「みゅっ、みゅみゃみゅみゅっ?!?!」

「いやいやいやいや?!いきなりなにしてんの?!」

 

 

 まるで三下の悪役のようなことを言いながら茜は自身の顔の前に生き物を持っていく。

 茜の顔を確認したことによって自身が捕まったことを理解したのか、生き物は暴れて茜の手から逃れようとする。

 そんな生き物の鳴き声に呆けていた状態から戻った竜は慌てて茜の手から生き物を取り返した。

 生き物は助けて貰ったことに気がつくと、すぐに前足のような部分で竜の首もとへとしがみつき、威嚇するように茜を見る。

 

 

「みゅぅううう・・・・・・」

「すまんすまん。まさかとは思っとったんやけど、ほんまに“みゅかりさん”やったんやな」

「みゅかりさん?2人はこいつのことを知ってたのか?」

「うん。本当にみゅかりさんなのか自信がなかったから言わなかったんだ。ボクもお姉ちゃんもビックリしてるよ」

 

 

 威嚇をする生き物────みゅかりさんに謝る茜の言葉に、竜は生き物の名前を2人が知っていたのだと気づく。

 竜の言葉に葵は茜の行動に苦笑しながら答えた。

 

 

「みゅかりさんは基本的に人前に現れないし、見つけたとしてもすぐに逃げちゃうからね。だからそんな風になってる姿はボクは初めて見たかな」

「せやね。ゲームをやってるときにたまに現れるくらいやったかな」

「みゅ?」

 

 

 2人の言葉に竜はみゅかりさんを見る。

 竜の視線を感じ、みゅかりさんは不思議そうに竜のことを見つめ返した。

 竜からしてみれば自分の家の前で倒れていた謎の生き物といった印象だったので、2人の言葉は少し意外だった。

 

 

「・・・・・・まぁ、可愛いからいいか。んじゃ、ゲームやるか」

「せやなー」

「そだねー」

「みゅみゅみゅー」

 

 

 深く考える事柄でもないと判断し、竜は家の鍵を開けて全員を家の中へと迎え入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第5話

 

 

 

 

 大きめのテレビの前に竜、茜、葵の3人とみゅかりさんの1匹はゲームのコントローラーを手に持って座る。

 テレビに映るゲームのタイトルは“大乱闘スマッシュライダーズ”だ。

 このゲームはプレイヤーが好きな仮面ライダーを選択してフィールド内でバトルをするというものだ。

 仮面ライダーの種類は初代から現在放送しているまでの全てのライダーが収録されており、新ライダーが登場するたびにダウンロードコンテンツとして追加される仕様となっている。

 

 

「これでトドメやっ!」

『ファイナルアタックライド』

 

 

    ────ディメンションキック!!

 

 

「ぬわーー!!」

「みゅみゅーー!!」

 

 

 茜の勝利宣言と同時に茜の操作していたマゼンダカラーの仮面ライダーが必殺技を放つ。

 マゼンダカラーの仮面ライダーは竜とみゅかりさんの操作していた仮面ライダーに向かって10枚のカードの形をしたエネルギーを破りながら向かっていき、強力な蹴りを叩き込んだ。

 その攻撃によって竜とみゅかりさんの操作する仮面ライダーは画面外へと吹き飛ばされる。

 そしてそれぞれの残機が0になり、画面が切り替わって“3PWin!”の表示が現れた。

 ちなみに葵はすでに先にやられていたので最下位となっている。

 

 

「どうや!これが特訓をした茜ちゃんの実力や!」

 

 

 どやぁ、と言う擬音が聞こえてきそうなほどに得意気な表情で茜は竜を見る。

 そんな茜の様子に葵は苦笑していた。

 

 

「言うだけのことはあったか・・・・・・。っし、なら本気で相手をしようかね」

「ほ~ん?なんや、負け惜しみか~?」

 

 

 竜の言葉に茜はによによと笑みを浮かべながら答える。 

 しかし茜の言葉ももっともで負けたあとの言葉ではどうにも負け惜しみにしか聞こえない。

 そんな茜の言葉を気にも止めずに竜は先程とは違う仮面ライダーを選択した。

 

 

「あ、じゃあボクも変えよー」

「みゅみゅみゅー」

「なんや、うち以外はみんな変えるんか」

 

 

 竜が仮面ライダーを変えたのを皮切りに葵、みゅかりさんも仮面ライダーを変更する。

 

 

「せや、本気を出す言うたんやから負けないっちゅうことやろ?なら、最下位には罰ゲームってことでどうや!」

「俺は別に構わないぞ」

「ボクも別に良いよ」

「みゅみゅみゅ」

 

 

 茜の提案は誰も拒否をすることなく決定される。

 そして、仮面ライダーの変更も終わり、対戦が始まる。

 

 

「はっ、くっ、このっ!」

「甘い!」

「みゅあ?!」

「あ、ごめん。流れ弾」

 

 

 先程よりもさらに白熱した熾烈な争い。

 自然と全員の体にも力が入っていた。

 

 

「ここっ!」

『ファイナルアタックライド』

 

 

    ────ディメンションシュート!!

 

 

「なんやて?!?!」

 

 

 葵の操作する青色の仮面ライダーが銃口を茜の操作する仮面ライダーへと向けて必殺技を放つ。

 青色の仮面ライダーの放った弾丸は10枚のカードの形をしたエネルギーを破り、強力なレーザーとなって直撃した。

 しかし蓄積されていたダメージが少なかったからなのか、茜の操作する仮面ライダーはそこまで吹き飛ばなかった。

 

 

「まだや、まだ死んどらん!」

「みゅみゅみゅみゅっ!」

『キメワザ!』

 

 

    ────マイティクリティカルストライク!!

 

 

「こんどはみゅかりさんかい?!」

「嘘、僕を狙いながらお姉ちゃんまで?!」

 

 

 青色の仮面ライダーが必殺技を撃った直後、その一瞬の隙を突くようにみゅかりさんは必殺技を発動した。

 みゅかりさんの操作するゲームをモチーフにした仮面ライダーはまっすぐに葵の操作する仮面ライダーに向けて必殺技を放つ。

 必殺技を受けた葵の操作する仮面ライダーは吹き飛び、さらに吹き飛んだ先にいた茜の操作する仮面ライダーを巻き込んでいく。

 

 

「くっ、でも巻き込まれただけやからギリギリで生き残っとるで!」

 

 

 直撃ではなかったためにギリギリで体力の残った茜は空中ジャンプでどうにか足場への復帰をはかる。

 さらにその後ろを茜にぶつかったことによって吹き飛ばずに済んだ葵も戻ろうと空中ジャンプをしている。

 そんな2人を迎撃するためにみゅかりさんは画面の端に向かって移動した。

 

 

 

    そして────

 

 

 

 

 

 

 

「それはよかった。・・・・・・だが、無意味だ」

『メタルクラスタホッパー!』

 

 

    ────メ タ ル

        ラ

        イ

        ジ

        ン

        グ イ ン パ ク ト !!

 

 

 

 

 

            ────無情な銀色の一撃が3人の仮面ライダーへと叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第6話

 

 

 

 

 テレビ画面の中で3人の仮面ライダーが吹き飛び、画面が切り替わる。

 そして画面の中央に大きく表示されていたのは竜の操作していた仮面ライダーだった。

 

 

「さて、最下位は・・・・・・と」

 

 

 自身が勝利していることを確認すると、竜は茜たちの順位を確認していった。

 リザルトとして表示された順位は、

 

 WINNER.1P 竜

    2nd.2P みゅかりさん

    3rd.4P 葵

    4th.3P 茜

 

 となっており、先ほど勝っていた茜の順位が一気に落ちる形となっていた。

 

 

「最下位は罰ゲームだったな」

「やっぱ罰ゲームはな」

「今日1日適当なアダ名にするのはどう?」

「みゅみゅみゅ」

 

 

 竜の言葉に茜は自分にとって不都合なことが起こると理解し、とっさに罰ゲームを撤回しようとする。

 しかしそうは問屋が卸さぬとばかりに葵によって言葉の途中で遮られてしまった。

 

 

「あだ名?たとえば?」

「“橘ギャレン”はどう?」

「それはもうつけられてる人がいるのを知ってるからダメ」

「じゃあ、“ソーラン節の人”」

「それももうついてる人がいるな」

「なら“もじゃ毛”」

「それもだな」

「“ダウニー”」

「それもダメだ」

 

 

 茜のことを放置しながら竜と葵は茜への罰ゲームを話し合う。

 だが葵の挙げるあだ名はそのどれもがすでにつけられている人のいるものだった。

 挙げるあだ名がことごとくダメなことに葵は悔しそうな表情を浮かべる。

 

 

「もう、全然決められないよ・・・・・・」

「あだ名は諦めるしかないな。なにか着けるとか?と言ってもそんなものは家にないんだが・・・・・・」

「みゅい!」

 

 

 がっくりと肩を落とす葵に竜は代替案を提示する。

 とはいってもそのための道具などはないので結局は意味がないのだが。

 そんな2人の様子に茜は罰ゲームがなくなると声に出さずに喜んでいた。

 と、不意にみゅかりさんが竜と葵の前に飛び出して鳴き声をあげる。

 

 

「みゅっみゅみゅみゅっみゅみゅ~!」

「「「・・・・・・へ?」」」

 

 

 どこぞの青い猫型ロボットが秘密道具を出すときの音楽をセルフで言いながらみゅかりさんは自身の毛皮の中からピンク色の猫耳を取り出した。

 しかもご丁寧に同色の尻尾まで一緒に取り出している。

 どう見ても取り出せなさそうな光景に竜、葵、茜の3人は目を丸くして固まった。

 そのすきにみゅかりさんは茜へと猫耳と尻尾を取り付けるのだった。

 

 

「ど、どういうことだってばよ・・・・・・」

「まるで意味がわからんぞ?!」

「って、いつの間にか付けられとる?!」

 

 

 目の前で起きた不思議な光景に竜と葵は動画などでよく使われる音声素材のような言葉を漏らす。

 そして茜はいつの間にか取り付けられていた猫耳と尻尾に驚いていた。

 

 

「・・・・・・えっと、みゅかりさんには不思議があるということで納得しておこっか」

「意義なし」

「待って、葵、言葉と行動がちゃうんやけど?!なんで口ではちょっと疲れた感じやのにうちの両手を押さえとるん?!お姉ちゃん放して欲しいんやけど?!」

「だって、放したらはずしちゃうでしょ?頭のそれ」

「ま、罰ゲームだから諦めるんだな」

 

 

 竜の言葉に葵は同意しながら茜の手首をつかんで動きを封じる。

 それに加えて茜のことを押し倒してその体を完全に固定していた。

 姉妹によるそんな光景にみゅかりさんはアワアワとしていたが、竜にとっては見馴れた光景なためとくには反応も示していない。

 

 

「茜の猫だから“あかねこ”ってとこかな?」

「んなこと言うとらんで助けてくれへん?!ちょ、なんや力が強く・・・・・・?!」

「いっつもボクが振り回されてるんだもん。たまには反撃させてもらわないと・・・・・・ね?」

「みゅ、みゅみゅみゅ・・・・・・」

 

 

 目の前で起こっている姉妹の仲睦まじい光景からみゅかりさんへと視線を向けながら竜は適当に命名をする。

 そんな竜の言葉を聞きつつ茜は助けを求めるのだがその言葉に応えるものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第7話

 

 

 

 

 膝に乗る猫の頭を撫でながら竜は葵とみゅかりさんが協力プレイするゲームを見る。

 プレイしているゲームは地球防衛軍で、2人・・・・・・いや1人と1匹のコンビネーションは中々に良さそうだ。

 

 

「うわぁ・・・・・・、改めて思うけどこのゲームの虫とか本当に気持ち悪いよね・・・・・・」

「みゅみゅ」

「だな」

「せ、せやにゃ~・・・・・・」

 

 

 葵の言葉にみゅかりさんも同意するように頷く。

 これに関しては竜も同じ意見なので特に否定をするつもりはないようだ。

 

 

「そういえば難易度ノーマルでやってるけどハードとかはやらないのか?」

「う~ん、ボクの腕だとハードはちょっと難しいかな」

 

 

 難易度インフェルノで集めた武器でノーマルの敵をなぎ倒していく様子を見ながら竜は葵に尋ねる。

 正直に言えばインフェルノの装備さえあれば基本的にハードくらいならクリアはできてもおかしくはないのだが、葵は得意なゲームと苦手なゲームがハッキリと分かれているのでノーマルでちょうどいいらしい。

 

 

「にゃ、にゃ~ん・・・・・・」

「よーしよしよし」

 

 

 鳴き声をあげる猫を竜は優しく撫でる。

 竜の撫で方に猫は気持ち良さそうに目を細めた。

 

 

「・・・・・・やっておいてなんだけど。お姉ちゃん、恥ずかしくないの?」

 

 

 竜の膝に頭を乗せている猫──耳をつけた少女、“あかねこ”を見ながら葵は尋ねる。

 葵の顔はやや赤く染まっており、自分と同じ顔である茜のしていることを間接的に自分もやっているようにイメージして恥ずかしくなっているようだ。

 

 

「め・・・・・・・・・・・・・・・・・・っちゃ、恥ずいんやから言わんといて」

「葵さんや、茜と俺を繋いでおいてそれかい。俺も恥ずかしいんだが・・・・・・」

 

 

 葵の言葉に茜は顔を両手で隠しながら答える。

 しかし隠れきれていない隙間からは顔が赤くなっていることがハッキリと見えており、耳まで赤くなっていることが誰の目にも明らかになっていた。

 現在、茜はうまく身動きがとれないように拘束されており、その頭は竜の膝の上に固定するように繋がれている。

 手持ちぶさたになってしまっていてついつい茜の頭を撫でてはいるが、それでも竜も恥ずかしさは感じているようだ。

 

 

「でも、罰ゲームだし・・・・・・。絶対に嫌だって言うならはずすけど・・・・・・」

「別に嫌ってわけじゃないが・・・・・・。こう、クラスメイトが膝に頭を乗せてるのはドキドキしてな・・・・・・。・・・・・・・・・・・・しかもかわいいし」

「ッ~~~!!!そ、そういうことは言わなくていいんや!」

「うぐふぅっ?!」

 

 

 葵の言葉に竜は否定しつつ、最後に小さく付け加える。

 少し離れた位置にいた葵とみゅかりさんの耳にその言葉は届かなかったが、竜の膝の上に頭を乗せている茜の耳にはその言葉はハッキリと届いていた。

 聞こえてきた竜の言葉に茜はさらに顔を赤く染め、声にならない悲鳴をあげつつ竜の腹部へと頭突きを叩き込んだ。

 そこそこの威力の頭突きに声を漏らす竜のことなど気にせずに茜はグリグリと頭を竜の腹部に押し付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第8話

 

 

 

 

 顔を赤くして悶えている茜と、腹部に多大なダメージを負って悶える竜。

 2人はどうにか葵を説得し、お互いに離れることができるようになった。

 離れることのできた茜は一息に竜の膝から跳ね起きると、葵からコントローラーを奪うように受け取って赤い顔のままゲームをプレイし始める。

 どうやらゲームをやって恥ずかしさなどをごまかそうとする算段のようだ。

 

 

「い、いくでみゅかりさん!武器の準備は万全か?!」

「みゅっみゅみゅ!」

 

 

 そんな茜の様子に葵はクスリと笑みを浮かべて竜の隣へと移動した。

 茜と入れ替わるように葵が隣に来たことに、竜はドキリと体を揺らした。

 

 

「えへへ、お姉ちゃんにはよくからかわれてるから、巻き込んじゃってごめんね?」

「い、いや、さっきも言ったけど嫌じゃなかったからいいよ」

 

 

 ペロリと舌を出しながら葵は竜に手を合わせて謝る。

 あざとい仕草ではあるが葵のそれは非常に可愛らしく、竜は顔を赤くしながら答えた。

 

 

「みゅ~う・・・・・・」

「おわ?!みゅかりさん?」

「あれ?お姉ちゃんとゲームをやってたんじゃないの?」

 

 

 鳴き声と共に頭の上にポスンと襲いかかってきた衝撃に竜は驚き、乗ってきたものの正体に気づく。

 竜の頭の上に乗ってきたみゅかりさんの姿に葵は不思議そうに呟いた。

 葵の言葉にみゅかりさんは、やれやれといった様子で体を振りながらテレビの方を前足で指し示した。

 

 

「にゅおあぁあぁあぁあああ?!?!?!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、死ぬぅぅううう?!ちょ、今かすった?!ちょびっと被弾したで?!やられてたまるかいぃぃぁあああああ?!?!?!」

 

 

 みゅかりさんの指し示した先では、ゲームの難易度をインフェルノにした茜が叫びながら敵から逃げ回っていた。

 一緒にプレイしていたみゅかりさんの操作キャラクターは建物の上の方に吹き飛ばされて引っ掛かってしまっており、爆発武器を持ってきていなかった茜では救出することができない状態になっていた。

 唐突な茜のうるささに竜と葵の2人は思わず顔を見合わせる。

 

 

「お姉ちゃんがうるさくてごめん・・・・・・」

「うん、まぁ、茜の気持ちもわからなくはないから・・・・・・な」

「みゅ~・・・・・・」

 

 

 その後、なんだかんだで3分ほど逃げ回っていたのだが、あえなくカエルにスナイプされてゲームオーバーとなった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 楽しい時間と言うのは早く過ぎるもの。

 いつのまにやら時刻は7時。

 茜と葵の2人は帰らなくてはいけない時間になっていた。

 

 

「あちゃー、もうこんな時間かいな」

「いくら家が近いからって、ちょっと熱中しすぎちゃったね」

「楽しいと時間を忘れるってのは本当だよな」

「みゅう!」

 

 

 スマホで時間を確認した茜は葵に帰宅を促しながら立ち上がる。

 茜と葵が住んでいるのは“清花荘(せいかそう)”という名前のアパートで、竜の家から徒歩で数分ほどの距離しか離れていない。

 ゲームを片付けながら竜は葵の言葉を肯定する。

 

 

「んじゃ、うちらはそろそろ帰るわー」

「けっこう騒がしくしちゃってごめんね」

「んー・・・・・・、あー、ちょい待ち。家まで近いのはわかってるけど一応送ってくわ」

「え、でもそんなに遠くないし、大丈夫じゃないかな」

「せやせや、それにうちらを襲うやつなんておらんやろ」

「いーんだよ、俺が気になっちまうってだけなんだから」

 

 

 玄関に向かおうとする茜と葵を引き留めて、竜は手早く上着を着る。

 竜の言葉に2人は心配しすぎではないかと思ったが、悪い気もしなかったのでそのまま一緒に家を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第9話

 

 

 

 

 やや暗くなった道を3人と1匹は歩く。

 その歩調は普段のそれと比べると明らかに遅いもので、普段であればもう茜と葵の住んでいるアパートに着いているはずだった。

 

 

「そういえば普通にみゅかりさんもつれてきちゃったけど、みゅかりさんってどこに住んでいるんだ?」

 

 

 ピョコピョコと跳び跳ねながら移動するみゅかりさんを見て竜はふと気になったことを呟いた。

 ふとしたときに遊びに来て満足したらどこかに帰っていく。

 竜からしたらみゅかりさんにはそんなイメージが着いていた。

 自分を見る視線に気づいたのか、みゅかりさんは移動を止め、コテンと首をかしげながら竜のことを見た。

 

 

「それなら心配せんでも大丈夫や」

「みゅかりさんはボクたちと同じで“清花荘”に住んでるんだよ」

「だからみゅかりさんについて詳しかったんだな」

 

 

 竜の呟きに茜と葵は笑いながら答える。

 2人がみゅかりさんについて詳しかった理由がわかったことに竜は納得して頷いた。

 

 

「あ、それならみゅかりさんの飼い主にも話をしておいた方がいいか。一応、家に来てることもあるかもしれないし」

「あ・・・・・・え、えっと別に話とかはしなくても大丈夫やと思うで!」

「うんうん!それに飼い主の人もそんなに神経質な人じゃないし!」

「そ、そうか・・・・・・?まぁ、偶然会ったりしたらそのときでいいか・・・・・・」

「みゅ~?」

 

 

 みゅかりさんの飼い主がいるのならば話をしておいた方がいいのではないか。

 

 そう思った竜の言葉に茜と葵は慌てた様子で竜を引き留める。

 2人の慌てように竜は驚き、疑問に思いつつ話をすることを保留することに決めた。

 そんな話をしていると壁が緑色のアパートに着いた。

 このアパートが茜と葵、みゅかりさんの住むアパート、“清花荘”だ。

 

 

「ほな、見送りありがとなー」

「竜くんも気を付けて帰ってね」

「おう」

 

 

 “清花荘”の前で茜と葵は竜に手を振る。

 茜は大きくブンブンと、葵は体の前で控えめに小さく。

 2人の性格の出ている手の振り方に竜は思わず笑ってしまった。

 

 

「みゅ!」

「ん、みゅかりさんもまたな」

 

 

 足元で前足をあげるみゅかりさんに竜はしゃがみこんで応える。

 嬉しそうなみゅかりさんの様子に竜も自然と嬉しくなっていた。

 

 

「みゅい」

「うん?くれるのか?」

「みゅ!」

「なぁッ?!」

「みゅかりさん?!」

 

 

 

 竜が立ち上がって帰ろうとすると、不意にみゅかりさんが鳴き声をあげて竜を止めた。

 不思議に思ってみゅかりさんを見ると、みゅかりさんは前足に着けているアクセサリーのようなものを取り外して竜に差し出してきた。

 どうやら竜に貰って欲しいらしく、確認する竜の言葉に頷いて答えた。

 みゅかりさんがアクセサリーを外して渡したことが意外だったのか茜と葵の2人は驚いて声をあげる。

 

 

「んじゃ、またなー」

 

 

 みゅかりさんから渡されたアクセサリーを手に持ちながら竜は自分の家へと帰っていった。

 そんな竜の後ろ姿を茜と葵は驚いた表情のまま見つめていた。

 

 

「みゅっみゅっみゅ~」

「ちょい待ちい」

「いったい何を考えてるの」

 

 

 上機嫌で“清花荘”の中へと入ろうとするみゅかりさんを茜と葵は捕まえる。

 その声は先ほどまでの竜と話していたときとは違っており、どこか鋭さも感じられた。

 

 

「あんたはうちらの思いを知っとるはずやで」

「さっきのはつまりは宣戦布告ってことでいいのかな。ねぇ────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ────ゆかり(●●●)さん。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第10話

 

 

 

 

 みゅかりさんから貰ったアクセサリーを手で弄りながら竜は考える。

 といってもそんなに重いことを考えているわけではない。

 

 

「これ、どこに着けるかな・・・・・・」

 

 

 竜はみゅかりさんから貰ったアクセサリーをどこにつけるか悩んでいた。

 アクセサリーと言うことで手首に着けるのが無難かもしれないが、手首に着けているとどこかにぶつけたりしてしまいそうで怖く、かといってバッグなどに着けるのも不安がある。

 残った着け方としてはチェーンを通してネックレスのようにすることだが、それをするにしてはアクセサリーのサイズが大きかった。

 

 

「とりあえず手首に着けてみるかな」

 

 

 どこに着けるにしてもどんな風になるのかを確認しておかないといけない。

 そう考えた竜はアクセサリーを手首に着ける。

 アクセサリーは特に引っ掛かるようなこともなく手を通すことができ、意外なことに邪魔になるような感覚もなかった。

 これならば仮に普段から着けていたとしても特に問題はないのかもしれない。

 

 

「ん・・・・・・?」

 

 

 アクセサリーを着けた感覚がどんなものか分かって外そうとしたとき、竜は首をかしげながらアクセサリーを見た。

 着けるときにはなんの抵抗もなかったはずなのにいくら外そうとしてもアクセサリー外れないのだ。

 

 

「・・・・・・ふんっ!ぐぎぎぎぎぎ・・・・・・」

 

 

 アクセサリーが壊れたりしないように気を付けつつ、竜はアクセサリーを外そうとする。

 しかしアクセサリーはピクリとも動かず、どうやっても外すことができない。

 竜は外そうとするのを止めて改めてアクセサリーを見た。

 

 

「・・・・・・どうなっているんだ?」

 

 

 見ることのできるあらゆる方向からアクセサリーを見ながら竜は呟く。

 どこからどう見てもアクセサリーに変わったところはなく、外れない理由が分からなかった。

 仕方なく竜はアクセサリーを外すことを一旦諦めるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 アクセサリーを外すことができなくなった翌日。

 外すことを諦めた竜はアクセサリーを着けたまま学校に来ていた。

 

 

「寝て起きたら外れてないかと期待したけどダメだったかぁ・・・・・・」

 

 

 外れる様子のないアクセサリーを見ながら竜は小さくため息を吐く。

 一抹の希望を込めて外すことを諦めて寝たのだが、アクセサリーは外れることなく手首に着いたままだった。

 

 

「ゆかりん、おはよー!」

「ああ、マキさん。おはようございます」

 

 

 教室の扉が開いて1人の女子生徒────弦巻マキが入ってきた。

 マキは自分の机に荷物を置くと、友達である女子生徒────結月ゆかりのもとへと小走りに向かって挨拶をする。

 マキの挨拶に応えるゆかりを見て、竜はゆかりの姿がいつもと違うことに気がついた。

 

 

「あれ?ゆかりん、今日は髪を纏めてる輪っか1つしか着けてないの?」

「ええ、ちょっとした気分転換ですよ」

 

 

 いつもであればゆかりは髪の毛を2つのリングで左右それぞれに纏めている。

 しかし、今日の髪型は左右の髪を後ろにまとめて1つのリングで纏めていたのだ。

 

 

「・・・・・・ん?」

 

 

 聞こえてきたマキとゆかりの会話に竜はちらりとゆかりを見る。

 そこで竜は自分の手首に着いているアクセサリーとゆかりが髪を纏めているリングが似ていることに気づいた。

 

 

「偶然か・・・・・・?」

「なにが偶然なん?」

「うぉ?!」

 

 

 アクセサリーを見ながら考えていると声をかけられ、顔を上げると目の前に茜の姿があった。 

 いきなりのことに竜は驚き、思わず仰け反ってしまう。

 驚いて仰け反る竜の姿に茜はケラケラと笑い、茜のすぐ近くにいた葵も小さく笑っていた。

 

 

「にゃははは、すごい驚きようやな」

「ふふふ、ちょっとボクも驚いちゃったよ」

「お、お前らか・・・・・・」

 

 

 目の前にいたのが茜と葵だと気づいた竜は誤魔化すように頭を掻きながら姿勢を元に戻すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第11話

 

 

 

 

 驚いて仰け反った姿勢から戻った竜は改めて茜と葵を見る。

 

 

「おはようさん!ええ、朝やな!」

 

 

 元気いっぱいといった様子で茜はやや大きな声で挨拶をする。

 その声は近くにいた竜にとってはうるさいと感じられるレベルのもので、教室内にいた他のクラスメイトも何事かと茜の方に視線を向けた。

 とはいっても大きな声を出したのが茜だとわかるとすぐにクラスメイトたちは思い思いに「おはよう」と朝の挨拶を返していた。

 これは明るくて社交的な茜だからこそできることなのだろう。

 

 ちなみに茜の近くにいた葵も当然ながらクラスメイトからの視線を受けるので恥ずかしそうにしていた。

 

 

「えっと、おはよう。腕を見てたみたいだけど何かあったの?」

「おう、おはよう。まぁな」

 

 

 茜が他のクラスメイトたちに挨拶をしている間に葵は小さく竜に挨拶をしながら尋ねる。

 葵の言葉に竜は挨拶を返してから隠すことでもないと思って手首に着いているアクセサリーを見せた。

 竜の手首に着いているアクセサリーを見て葵は驚いた表情を浮かべる。

 

 

「えっと・・・・・・、これ、どうしたの・・・・・・?」

「いや、昨日みゅかりさんにこれを貰っただろ?それを試しで手首に着けてみたら外れなくなってな」

「・・・・・・なんやて?」

 

 

 竜の手首に着いているアクセサリーを指差しながら葵はやや震える声で竜に尋ねる。

 葵の言葉が震えていることに気づかぬまま、竜は困った様子で苦笑しながら答えた。

 クラスメイトたちへの挨拶を終えた茜も竜の手首に着いているアクセサリーに気づいてやや固い声を出した。

 

 

「お、挨拶(いつもの)は終わったか。おはよう」

「おー、おはようさん。・・・・・・やのうて!外れなくなった?!」

 

 

 茜のクラスメイトへの挨拶が終わったことに気づいた竜は改めて茜に挨拶をする。

 竜の挨拶に茜は普通に答えたが、すぐに机に手を着いて竜の方へと身を乗り出しながら叫んだ。

 なお、茜が叫ぶのはクラス内ではいつも通りのこととして認識されているのでそこまで気にしているクラスメイトはいなかった。

 

 

「まぁな、どんだけ引っ張っても全然抜けないんだよ。と言ってもそこまで邪魔にはならないからまだ良いんだけどな」

「な、なんてこっちゃ・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に茜は驚いた表情のままヨロリと数歩ほど下がった。

 そんな茜の隣では葵がジッと竜の手首のアクセサリーを見ていた。

 

 

「それって昨日みゅかりさんから貰ったやつだったよね」

「ん、おう2人も見てただろ?」

「ならみゅかりさんと同じようにすれば外せるんじゃないかな」

「なるほど、一理あるな」

 

 

 葵の考察に竜は頷き、昨日のみゅかりさんがアクセサリーを外しているときを思い返した。

 今さらではあるがアクセサリーの見た目は真ん中に紫色のラインがあってそれを挟むように2つのリングが取り付けられている。

 

 

「たしか・・・・・・、リングの片側を回してたような・・・・・・」

 

 

 そう呟きながらアクセサリーを弄ると、カチリという音とともに手首からアクセサリーを外すことができた。

 アクセサリーが外せた瞬間、茜と葵は嬉しそうにハイタッチをし、竜もホッとしたような表情を浮かべた。

 

 

「一生外せないかと焦ったけど、良かったぁ・・・・・・」

「最終手段では手首を落とすことも考えてたんやけど、無事に外れて良かったわぁ」

「片手がなくてもボクたちならお世話できたしね」

「おう、怖いから冗談でも止めてくれ」

 

 

 笑いながら言う茜と葵の言葉に竜は机にべしゃりと潰れながら言う。

 机に潰れていた竜は気づかなかった。

 

 

 2人の声は冗談のようでも潰れている竜を見る目には冗談の色がなかったことを・・・・・・

 

 

 そして、アクセサリーが外れたときに残念そうな表情を浮かべているクラスメイトがいたことを・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第12話

 

 

 

 

 アクセサリーを外すことのできた竜はしげしげとアクセサリーを見てから再び手首にアクセサリーを着ける。

 

 ▶️茜の視線が10強くなった!

 ▶️葵の視線が10鋭くなった!

 ▶️誰かの好感度が10上昇した!

 ▶️どこかから誰かの嬉しそうな声が聞こえたような気がした・・・・・・

 

 

「なんで外れたのにまた着けとるんや」

「せっかく外れたんだから外しておけばいいのに」

「いや、外し方は分かったし着けておいた方が失くしたりしなくて安全かな、と」

 

 

 茜と葵の2人の視線が鋭いことを疑問に思いながら竜はアクセサリーを再び手首に着けた理由を話す。

 竜の言葉に2人は納得はしないでも理解はしたのかそれ以上の追求はしなかった。

 

 

「っと、そうや忘れるとこやったわ。新しい遊☆戯☆王のパックが今日発売やろ?」

「そういや言ってたな。でも予約してないと買えないんじゃないか?」

「ちっちっち、うちがそんな初歩的なことを忘れてると思ってるんか?」

 

 

 アクセサリーのことで忘れかけていたが、茜はもともと話そうと思っていた内容を思い出して言う。

 茜の言葉に竜は気になったことを尋ねた。

 竜の疑問は最もなことで、遊☆戯☆王の最新パックはほとんどが発売日には売り切れているのだ。

 竜の言葉に茜は指を振りながら自慢げに言う。

 そんな茜の姿に竜と葵は顔を見合わせた。

 

 

「わりと宿題とかを忘れてるよね?」

「休み時間にヒーヒー言いながらやってるのをよく見るよな」

「せやねー、今日も1個だけやり忘れてるんよ。・・・・・・って、それはどうでもいいんや!」

「「いや、良くないでしょ(だろ)」」

 

 

 竜と葵の言葉に茜はやっていない宿題を取り出してノリツッコミをする。

 とは言っても宿題をやっていないのは事実なので、このあと宿題を提出する3時間目の授業に間に合わせるために必死にやることは確実だった。

 

 

「ぐぬぬ・・・・・・、まぁええわ。とにかく、最新パックをうちは予約しといたんや!」

 

 

 葵と竜の言葉は正論なので茜は悔しげに唸り、むりやり話題を元に戻した。

 茜が正論に負けてむりやり話題を変えるのはそれほど珍しくはないので竜と葵は少しだけ苦笑しながら話題を変えたことに対してなにも言わなかった。

 

 

「おー、なら放課後に買いに行くのか?」

「せやで。竜の分もいちおう予約してあるんやけど・・・・・・その、一緒に買いに行かへん?」

 

 

 先ほどまでの勢いはどこへやら。

 茜はもじもじと人差し指を合わせながら竜に尋ねる。

 パックの予約をしたのは完全に茜の独断であり、竜自身は断ることもできる。

 茜の言葉に竜は少しだけ考えるように黙った。

 

 

「そうだな。新しいカードも気になるし、茜が予約してくれたんだしな」

「ボクは今日は日直だからちょっと遅くなっちゃうし。2人で行ってきてね」

 

 

 パックを買うのは安い出費では無いが、それでも茜が自分のために予約をしてくれたもの。

 それを断る理由が竜にはなかった。

 

 そんな2人の会話に葵は少しだけ寂しそうにしながら言った。

 このクラスでは日直は男子と女子それぞれの名前の順で日毎に変わる。

 そしてそれが今日はちょうど葵の日だったのだ。

 

 

「むー・・・・・・、葵を置いていくんはちょっとなぁ・・・・・・」

「大丈夫だよ。それに明日はお姉ちゃんが日直でしょ?それと・・・・・・放課後デート頑張って」

「せ、せやね。すまんな、葵。お詫びに帰りにチョコミントアイス買ってくことにするわ」

「えへへ、お願いね」

 

 

 心配そうにする茜に葵は竜に聞こえないように小さな声で最後に付け加えた。

 葵の言葉に茜は意識をしてしまったのか顔を少しだけ赤くする。

 そして一緒に買い物に行けない葵のためにチョコミントアイスを買うと約束するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第13話

 

 

 

 

 とくに何事もなく時間は進み、午前の授業がすべて終わってお昼休みになる。

 クラスメイトたちは仲の良いグループで集まって話しながら昼食を食べたり、学食に行って食事をしたり、購買に向かうために2階から1階に向かって廊下を跳んだりと、思い思いの場所で過ごしていた。

 

 そして竜もまた昼食として買ってきておいたパンを取り出した。

 そんな竜のもとに1人の女子生徒が近づいていった。

 

 

「こんにちは、公住くん」

「ん、結月(ゆづき)?」

 

 

 声をかけられ、竜は女子生徒────結月ゆかりを不思議そうに見る。

 竜とゆかりはクラスメイトではあるものの、今まで会話らしい会話をしたことはほとんどなかったため、竜はゆかりが話しかけてきたことを珍しく思ったのだ。

 

 また、それは他のクラスメイトたちも思ったことなのか、何人かのクラスメイトたちも物珍しそうに竜とゆかりのことを見ている。

 

 

「結月が話しかけてくるのは珍しいな。なにか用か?」

「そうですね、用と言えば用になります。公住くん、一緒にお昼を食べませんか?」

 

 

 ほとんど会話をしたことのないクラスメイトが話しかけてきたのだからよっぽどの用件なのかと思いながら、竜はゆかりにどんな用で話しかけてきたのか尋ねる。

 竜の言葉にゆかりは手に持っていたお弁当箱を見せながらイタズラっぽく笑って答えた。

 

 

「え?」

「ということでこちらに来てください」

 

 

 驚いて固まる竜の手を引き、ゆかりは竜を立たせる。

 突然のことに茜や葵、クラスメイトたちも1人を除いて言葉を発せずにいた。

 

 

「ゆかり~ん、早くごはん食べよ~!」

「はいはい、ちょっと待ってください」

 

 

 手を大きく振り、胸を大きく揺らしながらゆかりの友人────弦巻マキはゆかりを呼ぶ。

 揺れるマキの胸を見る男子生徒の目線は熱く、それに比例するように女子生徒の目線は冷たくなっていった。

 そんなマキのもとにゆかりは竜の手を引きながら向かう。

 

 

「お待たせしましたマキさん。ごはんにしましょうか」

「うんうん、腹が減ってはなんとやらだし食べよー」

「え、ちょ、えぇ・・・・・・」

 

 

 マキはゆかりが竜をつれてきたのを見つつ、嬉しそうにお弁当を広げ始めた。

 楽しそうにお弁当の用意を始める2人に竜は困惑したまま近くの椅子に座るのだった。

 

 

「むぐむぐ・・・・・・それでさ、ゆかりん。なんで急に竜くんをつれてきたの?あ、竜くんって呼ばせてもらうね。私のことはマキでいいよ」

「そうですね。親睦を深めるためとでも言っておきましょうか。私もゆかりでいいですよ」

「お、おう・・・・・・」

 

 

 マキはお弁当を口に運びながら気になったことをゆかりに尋ねる。

 マキの疑問に関しては竜を含めてクラスにいる全員が思っていたことなので、その瞬間クラスの音が少しだけ小さくなったような気がした。

 マキの質問にゆかりはにこりと竜に微笑みかけながら答えた。

 ゆかりの微笑みを受け、竜は少しだけ赤くなった顔を逸らしつつパンを口に運ぶ。

 

 

「そういえば竜くんはお昼はパンだけなの?」

「まぁな。弁当を作るのはめんどくさくてな」

 

 

 ふと、マキは竜の食べているパンを見ながら尋ねる。

 マキの質問に竜は持っている食べかけのパンをフリフリと振りながら答えた。

 

 

「でも栄養バランスとか悪くない?」

「それはわかってはいるんだけどな・・・・・・」

 

 

 つれてこられた時の困惑はどこにいったのか、いつのまにか竜はマキと普通に会話をしていた。

 これはマキの持っている接しやすい雰囲気のお陰だと思われる。

 似たような雰囲気を持っているのは竜の友人では茜が挙げられるだろう。

 

 

「それなら私のおかずを分けてあげるよ。少しでも栄養をとらないとね」

「なら私も分けてあげますね」

「それはありがたいんだが、食べさせようとしないでいいんだからな・・・・・・」

 

 

 自分のお弁当のおかずを箸で摘まんで差し出してくるマキとゆかりに竜は手で制しながら答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第14話

 

 

 

 

 マキとゆかりの差し出してくるお弁当のおかずを食べ終わったパンの袋の上に置いてもらい、竜は小さく息を吐く。

 竜の指摘によって自分が何をしようとしていたのかを理解したマキの顔は赤くなっていた。

 ちなみにゆかりの方も表情になにも変化が見られないように見えて、耳がうっすらと赤く染まっている。

 

 

「えっと、次からは気をつけろよ?人によっては勘違いするやつとかもいるだろうから」

「う、うん。ごめんね」

「そうですね。次からは気をつけます」

 

 

 頬を掻きながら竜はマキとゆかりに気をつけるように言う。

 

 2人のような美少女に箸でおかずを差し出されるのは男の夢の1つに含まれそうなシチュエーションなため、大半の男子生徒が勘違いすること間違いなしだろう。

 その証拠に竜に対して嫉妬の込められたクラスメイトたちの視線が集中している。

 

 竜の言葉にマキは恥ずかしそうにしながら謝り、ゆかりは平静さを装いながら答えた。

 

 

「ん、この卵焼き美味しいな」

「ほんと?。その卵焼きは私の自信作なんだよ!」

 

 

 貰ったおかずの1つ、マキから貰った卵焼きを口に運んで竜は思わずといった様子で感想を口にした。

 竜の言葉にマキは嬉しそうにガッツポーズをとる。

 そして胸が揺れてゆかりのSAN値が減少する。

 

 たかが卵焼きと思われるかもしれないが、卵焼きこそが料理人の腕を見極めるポイントと言っても過言ではない。

 味付けの濃い薄いに甘いしょっぱい、調味料の量を間違えれば一気にその味はバランスを崩す。

 次に焼き加減、これは固めが好きな人や、内側が半熟に近いものが好みの人などがいるので一概にどれが正しいとは言えないが、それでも焼き加減によって見た目や食感は決定させられるのだ。

 

 マキの作った卵焼きはほんのりと甘さを感じられるものの卵本来の味を殺さずに見事に調和がとれており、ほどよい固さで見た目もとてもキレイな卵焼きだった。

 

 

「マキさんの作る料理はとても美味しいですからね」

「えへへ、照れるね」

 

 

 自分のことでもないのに自慢げにゆかりは(ない)胸を張る。

 ゆかりの褒め言葉にマキは照れながら頭を掻いた。

 

 

「んで、ゆかりの方は・・・・・・、うん。主婦の味方の味って感じ?」

「料理は苦手なんです・・・・・・」

 

 

 ゆかりから貰ったおかずを口に運んで竜はなんとも言えないような表情で言う。

 竜の言葉にゆかりは顔をそらしながら答えた。

 マキは2人の様子からゆかりの出したおかずが冷凍食品のものだったのだと理解し、苦笑を浮かべる。

 

 

「あはは・・・・・・、ゆかりん、ちょっと前まではご飯も炊けなか────むぐっ?!」

「ちょ、マキさん、それは言わない約束でしょう?!」

 

 

 唐突なマキの暴露にゆかりは慌ててマキの口を塞ぐ。

 とはいえもうほとんど言ってしまっていたのであまり意味はなかったのだが。

 

 

「あ、ねぇねぇ。そういえば聞きたかったんだけどさ。竜くんが腕に着けてるのってゆかりんの髪を纏めてる輪っか?」

「うん?いや、俺のこれは最近仲良くなった動物に貰ったものだよ」

 

 

 自身の口からゆかりの手をどけてマキは竜に尋ねる。

 マキの言葉に竜は自身の腕に着いているアクセサリーと、ゆかりの髪を纏めている輪っかを見てから答えた。

 竜の答えにマキは不思議そうに首をかしげる。

 マキの知っている限りではその輪っかを着けているのはゆかりだけなので、他に着けている動物がいると言うことが気になったのだ。

 

 

「そうなの?」

「おう、俺も驚いたんだよ。っと、もうすぐ昼休みも終わるか。トイレ行ってくるわ。また機会があったらお昼に誘ってくれると嬉しいかな」

「ええ、次も是非」

 

 

 マキの言葉に頷き、竜は時計を確認して立ち上がり手を振りながら教室から出ていった。

 

 

「仲良くなった動物に貰ったもの、かぁ・・・・・・」

 

 

 教室から出ていった竜の姿を確認し、マキはなにかを察したような声音でゆかりを見る。

 そんなマキの視線にゆかりはそっと顔を逸らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第15話

 

 

 

 

 ニコニコと楽しげにマキはゆかりを見る。

 そんなマキの視線に耐えられなくなったのか、ゆかりは小さく咳払いをした。

 

 

「ん、んんっ・・・・・・。なんですか・・・・・・」

「んーん、別にー?」

 

 

 ゆかりの問いにマキは生暖かい視線を向けながら答える。

 

 

「そっかそっかー、気分転換で髪型を変えたんだっけかー」

「う・・・・・・」

 

 

 マキの言葉にゆかりは小さく呻く。

 それはゆかり自身が朝に髪型の話題でマキに言った答え。

 その言葉が誤魔化しであったことがバレたことをゆかりは理解した。

 

 

「あとは、なんだっけ。親睦を深めるため、だったっけ?」

「うぐぐ・・・・・・」

 

 

 さらにマキはお昼を食べる前に竜をつれてきた際にゆかりの言った言葉を呟く。

 完全に自身の思っていることがバレてしまっていることにゆかりは顔を赤くして呻くことしかできなかった。

 

 

「ゆかりんにもついに春が来たかー。私は応援するよ?」

「・・・・・・ありがとうございます」

 

 

 顔を赤くするゆかりに向かってにっこりと微笑みかけながらマキは言う。

 マキの言葉にゆかりは小さく答えた。

 そんな2人のもとに赤と青の双子、茜と葵が近づいてきた。

 2人の姿にマキは首をかしげ、ゆかりはわずかに目を細める。

 

 

「・・・・・・お2人ともなにか御用ですか?」

「それはあんたの方が分かってると思うんやけどな。ゆかりさん」

「昨日も聞いたけど本当だったんだね」

「え、なに?3人ともどうしたの?」

 

 

 バチリッ、と電流が走るような音がクラスの中に響いた気がする。

 どこか剣呑な3人の様子にマキはキョロキョロと3人を見る。

 そして他のクラスメイトたちは遠目に様子を伺っていた。

 

 

「まぁ、ええ。とりあえずゆかりさんがライバルなことはハッキリとしたんやし」

「ボクたちは負けるつもりはないからね」

「・・・・・・私だって負けるつもりはありません」

 

 

 3人の背後にそれぞれピンク色のスライムのような生き物、青い布のような生き物、紫色の1頭身の猫のような生き物が現れ威嚇をする。

 とは言っても実際に現れているわけではなく、あくまでもイメージと言うだけなのだが。

 

 

「・・・・・・えっと、とりあえず茜ちゃんと葵ちゃんはゆかりんのライバルってことで良いのかな?」

 

 

 話に置いてけぼりになってしまったマキは3人の会話から3人がどんな関係なのかを推測する。

 マキの言葉に3人は今いる場所が教室であり、自分たちの他にクラスメイトたちがいることを思い出して静かになった。

 とくに葵はクラスメイトたちから見られていることに気づいて茜の後ろに隠れてしまっている。

 

 

「3人に思われるなんて、竜くんはモテモテだねぇ」

 

 

 ライバルだとハッキリしてからは剣呑な空気もどこかにいき、3人は普通に会話を始めた。

 ライバルの関係ではあるものの、3人が仲良くなれそうなことにマキは嬉しくなり、3人の会話に混ざるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 トイレに向かうために教室から出ていった竜は、トイレに行ったついでにお菓子も買っておこうと購買に立ち寄っていた。

 

 

「とりあえずこれでいいか」

 

 

 お昼休みの残り時間も少なく、購買でお菓子を買い終えた竜は早足で教室に戻ろうとする。

 お昼休みがもうすぐ終わりそうなこともあり、竜は少し急ぎめに廊下を走りそうで走らない、ちょっとだけ走っているような速度で移動していた。

 そして、そんな焦っている状態で廊下を移動していれば当然────

 

 

「おわっ?!」

「きゃっ?!」

 

 

         ────曲がり角で誰かにぶつかってしまうのも仕方がないことだった。

 

 出会い頭にぶつかってしまった竜は、思わず相手が倒れてしまわないように咄嗟に手を掴んだ。

 しかしここで想定外なことが起こる。

 

 1つ、相手の体が思いのほか軽く、簡単に動いてしまったこと。

 1つ、竜は咄嗟の判断で手を掴んだため、思った以上に力が出てしまっていたこと。

 

 この2点により、倒れないように手を掴んだ相手を竜が抱き締める形となってしまっていた。

 

 

「え、え・・・・・・ッ?!」

「すまん!時間がないから!これはお詫びな!」

 

 

 いきなりの事態に混乱する女子生徒を尻目に、竜は先ほど購買で買ったお菓子の一部を渡して教室へと向かう。

 そんな竜の姿を見ながら、2ヶ所を長い三つ編みにした髪型の女子生徒はドキドキと高鳴る胸をお菓子を持った手で押さえるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第16話

 

 

 

 

 お昼休みも終わり、竜もギリギリに教室に着いて午後の授業も無事に間に合うことができた。

 そのあとはとくに何事もなく・・・・・・いや、美術の授業の際に美術の教師の「それでは写生大会を始めます」の言葉に対して茜が「学校の中でなんちゅうことをするんや?!」と叫んでしまったことがあったが、他には何事もなく授業は進んだ。

 ちなみに茜の言葉を理解した生徒は苦笑いをし、よく分からなかった生徒は首をかしげ、美術の教師は茜の頭を思いきり叩き抜いた。

 

 そして時刻は流れて放課後。

 竜と茜は昇降口にいた。

 

 すでに葵は日直の仕事を始めており、教室で仕事をしている。

 

 

「それじゃあ、早速向かうで!」

「おう」

 

 

 靴を履き替え、茜は元気に腕をあげる。

 そんな茜の姿に竜も小さく腕をあげて応えた。

 

 

「それにしてもお前、美術の授業でのアレはなぁ・・・・・・」

「ううぅ、もう言わんといてや・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に茜は顔を赤くし、両手で顔を覆う。

 すでに竜以外にも葵やゆかり、マキに他のクラスメイトにまで弄られており、茜の羞恥心はかなり刺激されていた。

 どうしてこうなったのかと言えば茜の完全な自爆であり、仮に勘違いしたにしても口に出さなければ良かっただけの話なのだが。

 

 

「ま、しばらくは弄られるだろうから諦めな」

「せやねー・・・・・・」

 

 

 ガックリと肩を落としながら茜は竜の言葉に頷く。

 人の噂も七十五日。

 しばらくすればなくなるだろうがそれまでは諦めて耐えるしかないだろう。

 

 

「つっても本当に嫌なときは嫌って言えよ?なんだかんだでお前は溜め込むんだから」

「ん、そんときは頼らせてもらうわ。・・・・・・あんがとな」

 

 

 そこそこに長い付き合いから茜が溜め込んでしまう性格なことを分かっている竜は軽く肩を叩いて言う。

 竜の言葉に茜は小さくお礼を言った。

 

 そして2人は茜がカードを予約した店に到着した。

 店ではなにかイベントでもやっているのか、人だかりができている。

 

 

「なんやろ?今日はイベントがあるとかは聞いとらんのやけど」

「一応見とくか」

 

 

 興味の惹かれた竜と茜は人だかりの方へと向かっていった。

 

 人だかりの隙間から覗きこんでみるとどうやら誰かが遊☆戯☆王でデュエルをしているらしい。

 しかも近くにあるカメラなどから察するに動画の生放送をしているようだ。

 

 

「ふふん。これでトドメです!私は“プランキッズ・ロケット”でダイレクトアタック!」

「ぬわー!」

 

 

 どうやらちょうど勝負がついたらしく、頭に包丁のような髪飾りを着けた少女の宣言と同時にモンスターが攻撃をして対戦相手を吹き飛ばした。

 それと同時に対戦相手のライフポイントはゼロになり、少女の後ろにある画面に数字が現れ、7から8に数字が変化した。

 

 

「ふっふっふ、レベルに差がありすぎましたね」

 

 

 広げていたカードを片付けながら少女は自慢げに笑う。

 笑う少女の姿に竜と茜は少女が誰なのかを理解した。

 

 

「きりたんやないか。今日は遊☆戯☆王の配信をしとるんやね」

「みたいだな。ということは最後の最後でまた誰かに泣かされるんだろうな」

 

 

 生配信をしている少女の正体が分かった竜と茜はこのあとに何が起きるのかの予想をしながら見学することに決めたようだ。

 

 

「ふふふ、私の10連勝企画の次の犠牲者は誰になってもらいましょうかね」

 

 

 そう言って頭に包丁のような髪飾りを着けた少女────東北きりたんは周囲を見回す。

 しばらく周囲を見回していたきりたんは、やがて1人の客を真っ直ぐに見つめて指差した。

 

 

「次の私の対戦相手は・・・・・・、そこのあなたに決めました!」

「な、う、うちか?!」

 

 

 きりたんに指差された客、茜は自身が選ばれるとは思っていなかったため動揺しながらきりたんの前に移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第17話

 

 

 

 

 きりたんに対戦相手として選ばれた茜はきりたんの対面に移動する。

 2人の後ろには大きめのスクリーンがあり、そこに召喚されたモンスターや魔法、罠のカードなどが表示される仕組みだ。

 

 

「ふっふっふ、私の10連勝企画の次の犠牲者の登場ですね。さぁ、あなたも私の視聴率の糧となるのです!」

「いきなりのことで、よー分からんけど。負けるつもりはないで!」

「「デュエル!」」

 

 

 お互いにデッキをシャッフルし、目の前のテーブルにセットする。

 不適に笑うきりたんに茜はやや困惑しつつも、強気に言い返した。

 

 そして2人のデュエルが始まる。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

       ~少女達決闘中~

 

       

 

       ~少女達決闘中~

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 茜ときりたんのデュエルが始まってから13分30秒が経過した。

 この経過した時間を聞いて汚いと感じた人間が何人か観客の中にいたらしく、発狂染みた声をあげているが、とくに誰も気にした様子もない。

 日常風景、というよりは誰もかかわり合いたくないのだろう。

 

 

「なかなかに手強かったですが、これで終わりです!“プランキッズ・ロアゴン”で“クイーンマドルチェ・ティアラミス”を攻撃です!」

「うちの女王さまがーー!!」

 

 

 青いドラゴンの攻撃によって茜の場にいたお菓子の国の女王が破壊される。

 そしてその攻撃の余波によって茜のライフはゼロになった。

 

 

「ふふふ、これで私の9連勝です。さぁ、最後の締めは誰にしましょうか・・・・・・」

「う~・・・・・・、うちの女王さまが~・・・・・・」

「まぁ、けっこう追い詰めることはできたんだからいいんじゃないか?」

 

 

 お気に入りのモンスターを破壊されたことがショックだったのか、茜は落ち込んだ様子で竜のもとに歩いていった。

 戻ってきた茜を慰めるように竜は声をかける。

 竜の言葉に茜はガバリと顔をあげると、竜の背中をぐいぐいと押し始めた。

 

 

「雪辱戦や!仇討ちや!うちの仇をとってくれや!」

「え、ちょ・・・・・・、対戦相手はあっちが選ぶんだから・・・・・・」

「別に私は構いませんよ。それに彼女さんが倒されて彼氏さんも悔しいでしょうし」

「「彼女じゃ(彼氏や)ない!」」

 

 

 茜の声が聞こえていたきりたんは強者の余裕とでも言いたげな雰囲気を放ちながら言う。

 きりたんの言葉に竜と茜は顔を赤くしながら叫んだ。

 きりたんの許可が出たので、竜は顔が赤いままきりたんの対面に移動した。

 

 

「彼女さんの敗北をなくすことができますかね?」

「だから、もういい、・・・・・・潰す」

 

 

 ニヤニヤとお手本のようなクソガキスマイルに竜は言おうとした言葉を止めて小さく呟いた。

 そしてお互いにデッキをシャッフルし、デュエルが始まり────

 

 

「ガンドラXの効果ダメージで終わりだ。デストロイ・ギガ・レイズ!」

「そ、そんな・・・・・・」

 

 

         ────先攻1ターン目で終わりを迎えた。

 

 

 破壊し尽くされたフィールドと、1体だけ存在する黒いドラゴンの咆哮だけが響き渡っていた。

 まさかの終わりに周囲で見ていた客たちも思わず言葉を失っている。

 

 

「よし、行くか」

「いや、うちがけしかけといてアレやけど・・・・・・。先攻ワンキルするか・・・・・・?」

「・・・・・・めません。・・・・・・認めませんよ、私は!」

 

 

 デッキを片付けてカードを買うために移動しようとすると、下を向いていたきりたんが勢いよく顔をあげてテーブルを強く叩いた。

 どうやら先ほどのデュエルに言いたいことがあるらしい。

 

 

「さっきのデュエルは無効です!」

「まぁ、なんもできひんかったもんなぁ・・・・・・」

 

 

 きりたんの言葉に茜は同情しつつ竜を見る。

 さすがにあのようなデュエルでは可哀想ではないか、そんな茜の心の声が聞こえてきそうな視線に竜は仕方なく違うデッキを取り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




竜の使用したワンキルデッキに関しまして1つ。
このデッキに関してのみ禁止制限は少し前のものを適用しております。
どのように展開したのかが気になる方が多ければ番外編として投稿しておこうと思います。


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第18話

 

 

 

 

 竜ときりたん、お互いにデッキからカードを引き、モンスターを操って戦っていく。

 先ほど起きた悲劇(ワンキル)はなんだったのかと思うほどのデュエルに客達も興奮気味に見ていた。

 

 

「普通に戦えるのになんでワンキルデッキなんて使ったんですか!」

「お前が人の話を聞かないでしつこく彼女彼女と弄ってきたからだよ!」

 

 

 怒った口調のきりたんはモンスターで攻撃しながら先ほどのワンキルを批難する。

 きりたんの言葉に竜はワンキルした理由を答えながらモンスターの攻撃を罠カードで防いだ。

 そしてきりたんはターンを終わらせる。

 

 

「イングナルの素材を使って効果!場のカードをすべて手札に戻す!そしてイングナルをリリースしてスノードロップを特殊召喚!さらにスノードロップの効果で手札のヘレボラスを特殊召喚!」

「くっ・・・・・・、イングナルの効果に対して私はなにも発動することができません・・・・・・」

 

 

 竜ときりたんの場のカードが1枚を残して全て消え、1体のモンスターが残る。

 きりたんは残ったそのモンスターの効果に悔しそうに言った。

 そして残っていたモンスターが消え、傘を持った白い服装の女性と、同じく傘を持った紫色の服装の女性が現れた。

 

 

「しかも手札は効果で戻したカードだけ!竜の勝ちや!」

「スノードロップとヘレボラスで攻撃!雪恋六花(せつれんりっか)双天(そうてん)!」

「うわあぁあああ!!」

 

 

 フラグ染みたセリフを茜が言うも、特に逆転などはなく。

 それぞれの女性の攻撃力の合計はきりたんの残っているライフを越えており、あっさりときりたんのライフを消し飛ばした。

 

 

「くっ、私を倒したからといっていい気にならないでください。いずれは第2、第3の私が現れてあなたのことを・・・・・・」

「いや、お前はどこの世界の大魔王だ」

 

 

 決着がついて悔しそうにしながら言うきりたんの言葉に竜はツッコミを入れる。

 デュエルも終わり、竜は茜と合流する。

 

 

「さて、と・・・・・・。デュエルも終わったし、さっさとカードを買うか」

「せやねー」

 

 

 竜の言葉に茜は頷き、店内のレジへと向かった。

 レジに着いた茜は予約の紙を店員に差し出し、遊☆戯☆王のカードパックを出してもらう。

 そして竜と茜はお金を払ってカードパックを買うのだった。

 

 

「そ、それにしてもカップルに間違われるとは思わへんかったな?」

「そうだな。きりたんの奴にも困ったもんだ」

 

 

 カードを買い終えた帰り道、茜はやや照れた様子で呟く。

 茜の言葉に竜は同意するように頷く。

 

 

「まぁ、あのくらいの年の奴は男と女で一緒にいたら何でもかんでもカップルだなんだと言うから仕方がないのかもな」

「・・・・・・それもそうやね」

 

 

 欲しかった竜の反応とは違ったのか、茜はやや不服そうに答える。

 そんな茜の様子に気づいた様子もなく、竜は普通に歩いていた。

 

 

「別に・・・・・・、うちは本当にそうなっても良かったんやけどね・・・・・・」

「え・・・・・・?」

 

 

 竜の隣を歩く茜はポツリと言葉をこぼす。

 その言葉は少女マンガのように竜の耳に届かない、などと言うことはなく。

 しっかりと竜の耳に届いていた。

 茜の言葉に竜は驚いて茜を見る。

 

 

「うちは、きりたんが言ってた関係に本当になってもええんよ?」

「な、え・・・・・・、あ、茜?!」

 

 

 驚いて自身を見る竜に、茜はジッと目を真っ直ぐに見つめ返しながら言う。

 見つめられながら言われた言葉に竜は混乱し、上手く言葉を返すことができなかった。

 

 

「・・・・・・・・・・・・ぷっ。な~んて、冗談や。どや?ドキッとしたやろ?」

「は・・・・・・?」

 

 

 しばらく2人が見つめ合っていると、茜が思わずといった風に吹き出して言った。

 茜の言葉に竜はポカンと呆けた顔を浮かべる。

 そんな竜の顔を見て茜はさらに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第19話

 

 

 

 

 茜の言葉に呆けていた竜は、自身を見て笑う茜を見てようやく自身がからかわれたのだということを理解した。

 笑う茜をジトッとした目で竜は睨む。

 

 

「すまんすまん、だからそんな顔で見んといてや」

「ったく、本気になったらどうするんだっての・・・・・・」

「む~っ、そんなつもりもないくせに言わんでよ」

 

 

 謝る茜に竜はため息を吐きながら答えた。

 そんな竜の姿を見ながら茜は小さく呟く。

 プンスコと擬音が聞こえてきそうな表情の茜を見ながら、竜はドキドキと少しだけ強くなる胸を誤魔化すのだった。

 

 

「おっと、そうや。葵にチョコミントアイスを買ってかな」

「そういえば言ってたな。俺も晩御飯の材料とかを見とかないと」

 

 

 ふと、茜は思い出したように手を叩く。

 日直で別行動になる葵のためにチョコミントアイスを買って帰ることを約束していたのだが、店での出来事や先ほどの竜とのやり取りでうっかり忘れかけていたのだ。

 茜の言葉に竜も自身の家の冷蔵庫の中身を思い出しながら呟く。

 

 

「めんどいから麺類かな」

「んー、なんやったらうちで食べてったらどうや?葵も喜ぶと思うし」

 

 

 晩御飯のメニューを面倒と言う理由から麺類にしようとしている竜に茜は名案を思い付いたとばかりに目を輝かせる。

 

 

「いや、さすがに迷惑だろ。それに食費とかも余分にかかっちまうし」

「別に作る分には2人も3人もそんな変わらんて。と言うわけで決定や」

「おいおい・・・・・・」

 

 

 困惑する竜を尻目に、茜はスーパーへと向かっていった。

 ずんずんと進んでいく茜の姿に、竜はため息を吐いて後を追った。

 

 

「今日の安売りは・・・・・・、お肉が安いみたいやね」

 

 

 茜はスーパーに着くと、入り口に貼り付けられている広告を確認して買うものをピックアップしていく。

 茜と同じように竜も広告を確認して買うものを確認する。

 

 

「ほな買いに行こかー」

「おう」

 

 

 広告の確認を終え、茜は買い物かごを持ってスーパーの中へと入っていった。

 茜の言葉に竜も買い物かごを手に持ちながら応えた。

 

 

「そういえば、茜と葵ってどっちが家事をやってるんだ?」

「あれ?言っとらんかったっけ?」

 

 

 食材をかごに入れながら竜は気になったことを茜に尋ねる。

 竜の言葉に茜はキョトンとしながら聞き返した。

 

 

「基本的に家事で料理はうちがやっとるで。代わりに掃除なんかは葵にやってもらっとるけどな」

「へぇ、と言うか茜が料理してたのか。ちょっと意外だ」

 

 

 茜の言葉に竜は意外そうに茜を見る。

 正直なところ、竜は茜を飯マズ系女子だと勝手に思っていたので本当に意外だったのだ。

 そんな竜の心情を察したのか、茜はムッと頬を膨らませる。

 

 

「これは、うちにどんなイメージがあったのか詳しく聞く必要がありそうやな」

「おぉっと、俺はちょっと自分の方で買うものがあるから別行動かなー。ハッハッハ・・・・・・、さらば!」

「逃がすかぁ!」

 

 

 圧の込められた茜の言葉に竜はすばらしいほどの棒読みを白々しく言いながら逃げ出す。

 そんな竜を茜は全速力で追いかけ始めた。

 

 並んでいる商品の隙間を縫うように走り、所々にいる買い物客にぶつからないように2人はスーパーの中を走る。

 なにかにぶつかっては後方から追ってくる茜に捕まり。

 なにかにぶつかっては前方の追いかける竜に逃げられる。

 互いにミスを許されないデッドヒート。

 

 そして、その決着は────

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人とも高校生なんだからちゃんとしようね・・・・・・?」

「「は~い・・・・・・」」

 

 

 

       ────タカハシというネームプレートを着けた店員に捕まるという結末で終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第20話

 

 

 

 

 やや落ち込んだ雰囲気を発しながら竜と茜は買い物を再開する。

 とはいえ、落ち込む原因になったのは2人がスーパーの中を走り回るという高校生にあるまじき行動をしたことによる説教なのだが。

 

 

「この年で怒られるなんて・・・・・・」

「そうだな・・・・・・」

 

 

 落ち込みながらも2人は買い物かごに買うものをしっかりと入れていく。

 

 

「とりあえずはこれくらいで大丈夫やろ」

「こんなもんで足りるのか?そんなに入れてないみたいだけど」

 

 

 茜の言葉に竜は買い物かごの中を見て尋ねる。

 買い物かごには食材が半分にも届かない程度の量しか入っておらず、それだけで大丈夫なのか気になったのだ。

 竜の言葉に茜はニッと笑みを浮かべる。

 

 

「これでええんよ。うちにある食材も組み合わせて使うんやから」

「それならいいか」

 

 

 茜の言葉に竜は納得して頷く。

 そして2人はそれぞれ会計に向かった。

 

 

「それじゃ、まずは竜の買ったものを家に置いてくるのが先やな」

「だな」

 

 

 スーパーでの買い物を終え、2人は竜の家へと向かって歩きだした。

 そんな2人の後ろ姿を見ていた店員のタカハシはポツリと言葉をこぼす。

 

 

「・・・・・・あれで付き合ってないとかマジ?」

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 自身と茜の買ったものを手に持ちながら竜は家へと向かう道を歩く。

 竜の隣を歩きながら茜はチラチラと竜のことを見る。

 

 

「なぁ、やっぱりうちの分は自分で持つで?」

「いいんだよ。それにそんなに重くないし」

 

 

 茜の申し出を竜は首を横に振って断る。

 それでも茜は申し訳さを感じているようで、なんとも言えないような表情を浮かべていた。

 

 

「・・・・・・そや。竜、袋の持ち手を片方だけ持たせてくれへん?せめてそれくらいはさせてほしいんよ」

「・・・・・・分かったよ」

 

 

 少しだけ考えてから茜はもう一度申し出る。

 茜の言葉に竜はもう一度断ろうとしたが、茜の表情から引く気がないことを察して頷いた。

 竜の許可を得たことによって茜は竜の持っている自分の買い物袋の持ち手の片方を持った。

 

 

「竜が気を使ってくれてるのは分かるんやけど。うちはこうやって一緒に持つ方が嬉しいかなぁ」

「そうか・・・・・・」

 

 

 嬉しそうに言う茜の言葉に竜は顔を少しだけ逸らしながら答えた。

 竜からすれば重いものを女の子に持たせたくはなかったのだが、その辺りは茜にとっては少々違ったようだ。

 ちなみに1つの買い物袋を2人で持つその姿に、道行く人たちのほとんどは2人がカップルなのだと思っていた。

 

 そして2人は竜の家の前に着く。

 

 

「お、今日も来てたのか」

 

 

 家の前にいるみゅかりさんの姿に竜は嬉しそうな声をあげる。

 竜の声が聞こえたのか、みゅかりさんは2人の方を向いた。

 

 

「みゅ!」

「おっと、すごいジャンプ力だな」

「む・・・・・・」

 

 

 一気に自分の頭の上に跳び乗ってきたみゅかりさんに竜は驚きと感心混じりの声をあげる。

 そんなみゅかりさんの姿に茜は少しだけ不機嫌そうに言葉を漏らした。

 

 

「あー、でも悪いなみゅかりさん。今日は茜のとこで晩御飯を食べるって話になってて家で遊ばないんだ」

「みゅっ?!みゅー?!みゅー?!」

 

 

 竜の言葉にみゅかりさんはショックを受けた鳴き声をあげた。

 「嘘でしょ?嘘でしょ?」とでも言うかのようにみゅかりさんは竜の頭の上で鳴き声をあげる。

 みゅかりさんの鳴き声に竜は申し訳なく感じながら家の中に入って買ったものをしまっていった。

 

 

「みゃうぅぅう・・・・・・」

 

 

 涙ぐんだ悲しげな表情のみゅかりさんは竜の首もとにしがみついて鳴き声をあげる。

 そんなみゅかりさんの様子に竜は苦笑をしながら茜の方を見た。

 

 

「えっと・・・・・・、みゅかりさんも一緒で大丈夫か?」

「はぁ・・・・・・。ま、分かっとったけどね。別にええで。それにみゅかりさんも同じアパートに住んどるんやしな」

 

 

 困ったように言う竜の言葉に茜は小さくため息を吐いて許可を出した。

 茜の言葉を聞きながら竜は首もとにしがみついてくるみゅかりさんの頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第21話

 

 

 

 

 首にみゅかりさんがしがみついたまま竜は茜と一緒に歩く。

 みゅかりさんはいまだにゲームに未練があるのか、小さく小刻みに鳴き声をあげていた。

 

 

「みゅぅう・・・・・・、みゅぅう・・・・・・」

「ええかげんに諦めえや・・・・・・」

 

 

 鳴き声をあげ、みゅかりさんは竜の体にグリグリと体を擦り付ける。

 みゅかりさんのその姿に茜は少しだけ呆れたような声をあげた。

 そんなやりとりをしながら茜と葵、そしてみゅかりさんの住んでいるアパート“清花荘”に到着した。

 

 

「葵ー、帰ったでー!」

「はーい、おかえりなさーい」

 

 

 “清花荘”の茜と葵の暮らす部屋の扉を開けて茜が声をかけると、中から葵の声が聞こえてきた。

 葵がいることを確認した茜はそのまま竜を部屋の中へと招き入れる。

 

 

「ほな、ちゃちゃっと晩御飯の準備でもしよか」

「ん、ならなにか手伝うことはあるか?」

「大丈夫やで。葵んとこで待っててや」

 

 

 廊下を歩き、リビングへの扉の前で茜と竜は話す。

 どうやら葵はテレビを見ているらしく、リビングからテレビの音声が聞こえてきていた。

 そして茜はリビングへの扉を開けた。

 

 

「え゛・・・・・・」

「葵・・・・・・ちゃんとせえっていつも言っとるやろ・・・・・・」

 

 

 リビングへの扉を開き、目に入った光景に竜は驚きに、茜は呆れて言葉を失った。

 

 琴葉 葵、彼女を知っている友人たちは皆一様にしっかりもので真面目な女の子と彼女のことを評価する。

 そしてその評価は間違っておらず、制服なども着崩したりすることなくきっちりとした格好をしていた。

 

 

      学校などの家の外(●●●)では。

 

 

 まず目に入ってくるのはシワができそうな状態で脱ぎ散らかされた制服たち。

 続いて床に普通に落ちているお菓子の袋。

 もちろんお菓子の袋の口は空いている。

 そして極めつけはクッションの上でうつ伏せでだらしない体制になってテレビを見ている葵の姿だった。

 しかも部屋着なのかブカブカのシャツだけを着ており、ギリギリで下着が見えていないという状態になってしまっている。

 

 同級生の女の子のとんでもない姿に竜は言葉を失って、目を逸らすことも忘れてしまっていた。

 ちなみにみゅかりさんは特に気にした様子もなく竜の首もとにぶら下がっている。

 

 

「あ、お姉ちゃん。おかえ・・・・・・り・・・・・・」

「ただいまや。それと今日は竜とみゅかりさんも晩御飯を食べてくからなー」

 

 

 扉が開いた音で茜がリビングに入ってきたことに気づいたのか、葵はくるりと顔を扉に向け、言葉の途中で固まってしまった。

 そんな葵のことなど気にせずに茜は脱ぎ捨てられていた制服などを回収していく。

 

 

「え、あ・・・・・・、え?・・・・・・~~~ッッッ?!?!」

 

 

 ボフンッ、とでも聞こえてきそうな勢いで顔を赤くした葵は乗っかっていたクッションを体の前に動かして体を隠しながら自分の部屋へと駆けていった。

 事態に着いていけずに竜はそんな葵の様子を見ていることしかできなかった。

 

 

「・・・・・・茜、知っててやったのか?」

「せやで。うちが何っ回も言うても治らんかったからな。強行策に出させてもらったんや」

 

 

 ギギギと茜に顔を向けて竜が尋ねると、茜は悪びれる様子もなく肯定した。

 それほどまでに葵のだらしなさが酷かったということなのだろうが、それでも他にやり方があったのではないかと竜は思った。

 

 

「じゃ、うちは晩御飯を作るからテレビでも見て待っててや」

「あいよ」

「みゅい」

 

 

 エプロンを着けて茜はキッチンへと向かっていった。

 そんな茜を見送って竜は先ほどまで葵のいた場所の近くに腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第22話

 

 

 

 

 茜のトントンと料理をする音と、葵が慌てて部屋で着替える音を耳にしながら竜は気まずそうにテレビを見ている。

 竜の頭の中では先ほどの葵のとんでもない姿が思い返されており、悶々とした感情が渦巻いていた。

 下着は隠れていて見えなかったとはいえ、太ももの(なまめ)かしい様などははっきりと見えていたのでそれだけでも健全な男子高校生には十分な刺激だった。

 

 

「うぉおお・・・・・・、絶対に気まずくなるやつだろ・・・・・・」

「みゅみゅみゅ?」

 

 

 ワシャワシャとみゅかりさんの頭を撫でながら竜は呻くように言う。

 竜に撫でられるみゅかりさんはグワグワと揺れる体に少しだけ困惑していた。

 

 

「みゅかりさんや、俺はどうしたらいいと思う・・・・・・」

「みゅ~、みゅっ」

「やっぱ謝るしかないよなぁ・・・・・・」

 

 

 みゅかりさんの前足を合わせる仕草に竜は息を吐きながら呟いた。

 茜が仕掛けたこととはいえ葵のあられもない姿を見てしまったことは事実。

 そう考えているときに再び葵の姿を思い出してしまって竜は顔を赤くした。

 

 

「みゅい・・・・・・」

「忘れ・・・・・・られねぇ・・・・・・。つーか、アレを忘れるとかもったいねぇ・・・・・・」

 

 

 みゅかりさんを両手で弄りながら竜は呟く。

 頭の中で思い出しているのはもちろん先ほどの葵の姿。

 グニグニと耳を弄られたり、頬をムニムニと押されてみゅかりさんはどことなく恥ずかしそうにしているようにも見える。

 そんな竜の後ろに人影が1つ現れた。

 

 

「竜くん・・・・・・」

「ッ?!・・・・・・あ、葵か?」

 

 

 背後からかけられた声に竜はビクリと肩を震わせて答える。

 竜の背後に立つ人影、着替えを終えた葵は竜の言葉に答えずに竜の背後のすぐ近くに移動した。

 

 

「えっと・・・・・・あお──」

「ごめん、今はこっちを見ないで。恥ずかしすぎて死んじゃいそうだから・・・・・・」

「みゅあっ?!」

 

 

 竜が振り向いて葵の方を見ようとすると、葵は背後から竜の目元を隠して言った。

 葵の服装は先ほどのあられもないものから普通のものへと変わっているが、葵の顔は真っ赤に染まっていた。

 振り向こうとしていたところで目を隠され、竜は驚いてみゅかりさんを軽く放り投げてしまう。

 

 

「みゅっ!みゅみゅみゅっ!!」

 

 

 放り投げられたことにみゅかりさんはご立腹らしく、竜の膝の上で跳び跳ねながら鳴き声をあげている。

 竜はそんなみゅかりさんに構うことができず、背後に感じる葵の感触にドギマギとしていた。

 

 

「・・・・・・見た?」

「・・・・・・・・・・・・はい」

 

 

 有無を言わさぬような葵の言葉に竜は正直に答えた。

 竜の答えに葵は黙りこんでしまう。

 葵が黙りこんでしまったことに竜は不安になりながら膝の上で跳ねているみゅかりさんを手探りで捕獲した。

 

 

「みゅぅぅう・・・・・・」

「ううぅぅ・・・・・・。やっぱり見られてたぁ・・・・・・」

「えっと、すまん」

 

 

 みゅかりさんは捕獲されたことに不満そうではあるが、一応は落ち着いたらしい。

 竜の答えに葵は恥ずかしさの混じった声で呻いた。

 葵の声に竜は申し訳なく思いながら謝るのだった。

 

 

「ううん・・・・・・、ボクも家だからってあんな格好をしてたのも悪いから・・・・・・」

「茜もなんか文句を言ってたな・・・・・・」

「う・・・・・・、次からは気をつけるようにするよ・・・・・・」

 

 

 葵の言葉に竜は茜が言っていた言葉を思い出す。

 葵は茜から常日頃から言われていたことを思い出したのか渋い声音で答えた。

 いまだに葵によって目を塞がれている竜は背後にいる葵の感触をなるべく意識しないようにみゅかりさんを手探りで撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第23話

 

 

 

 

 竜の背後で悶えていた葵だったがしばらくして落ち着いたのか、竜の背後から移動した。

 葵が移動したことによって竜も隠されていた視界が開け、周りを見ることができるようになった。

 竜の背後から移動した葵は恥ずかしそうにしながらも竜の隣に座る。

 

 

「みゅう」

「わっ?!みゅかりさん?」

 

 

 竜の隣に座った葵の頭の上にみゅかりさんが跳び乗り、葵は驚いて声をあげる。

 そんな葵のことなど気にもせずにみゅかりさんは葵の頭をポフポフと叩く。

 突然のことに竜も葵も困惑してしまう。

 

 

「葵~、戻ってきたんやったらテーブルを準備してや~」

「え、あ、うん!」

「っと、俺も手伝うよ」

 

 

 不意に聞こえてきた茜の言葉に葵はみゅかりさんを乗せたまま立ち上がって答える。

 葵が立ち上がったのを見て竜も手伝うために立ち上がった。

 

 

「う、うん。じゃあ、反対側を持ってね」

「分かった」

 

 

 茜と葵は普段はテーブルを片付けており、使うときだけテーブルを出すようにしている。

 そのため食事をするときなどはテーブルを出す必要があるのだ。

 もともとテーブルのサイズはそこまで大きくはなく、葵1人でも運ぶことはできるのだが、それでも2人で協力した方が安全なことは事実なので葵は竜の申し出をありがたく受け取った。

 葵の言葉に従って竜はテーブルの反対側を持ち、葵と協力してテーブルを運んでいく。

 

 

「この辺りか?」

「うん。ここで大丈夫だよ。みゅかりさん、テーブルの上に乗らないでね?」

「みゅい!」

 

 

 テーブルを出し終え、葵は頭の上に乗っていたみゅかりさんを捕まえて言う。

 葵の言葉にみゅかりさんは前足を上げて応えた。

 まぁ、みゅかりさんは地面に直接体が触れていたのだから仕方がないことだろう。

 

 

「できたで~」

「じゃあ、ボクは食器を持ってくるね」

「あ、なら俺も・・・・・・」

 

 

 テーブルの準備が終わると、茜が料理を手に持って運んできた。

 茜が料理を運んできたことに気づいた葵はキッチンに食器を取りに向かう。

 葵に続いて竜も運ぶものがないかついていこうとしたが、移動する前に茜に制止されて向かうことができなかった。

 

 

「お客さんなんやからのんびり待っときぃ。ちゃんと竜の食器も持ってくるからなぁ」

 

 

 そう言って茜もキッチンへと向かっていった。

 茜に止められた竜は仕方なく座ってみゅかりさんを膝に乗せて撫でるのだった。

 

 

「待たせたな(イケボ)」

「スネークの物真似・・・・・・か?」

「竜くん、この食器と箸を使ってね」

 

 

 物真似をしてふざけながら戻ってきた茜に竜は何の物真似をしているのかを言う。

 そんな茜のことをスルーして葵は竜にご飯を盛った茶碗と箸を手渡した。

 葵にスルーされたことがショックだったのか、茜はガーンッ!と言った表情で葵を見るが、それすらも葵はスルーする。

 

 

「・・・・・・いいのか?」

「うん。反応すると調子に乗るから」

「みゅいみゅい」

 

 

 竜はショックを受けた様子の茜を指差して葵に尋ねると、葵は慣れた様子で自分と茜の分のご飯を茶碗に盛っていく。

 そんな茜と葵のやりとりを見てみゅかりさんはやれやれと言った様子で体を揺らしていた。

 

 

「さ、食べよう。冷めちゃうともったいないし。みゅかりさんのはこっちね」

「お、おう」

「みゅう!」

 

 

 みゅかりさん用に盛り付けられた皿をみゅかりさんの前に置き、葵は手を合わせる。

 困惑しつつもそれにならって竜とみゅかりさんも手を合わせた。

 

 

「いただきます」

「い、いただきます」

「みゅ、みゅみゅみゅみゅう」

 

 

 そう言って竜と葵、みゅかりさんは晩御飯を食べ始める。

 そのことに茜が気づいて食べ始めるのは30秒後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第24話


UA数が10000を越える毎にボイスロイドキャラたちのヤンデレエンドでも書こうかな。

とりあえず越えてから決めます。

まぁ、まだまだ先ですけどね。


 

 

 

 

 茜の作った料理、豚カツを竜は口に運ぶ。

 サクッとした衣に中から肉汁がじわりと溢れ出して口の中に広がる。

 ソースをかけずに食べてみたがそれだけでも十分にご飯の進む美味しさを竜は感じられた。

 チラリと竜は茜と葵の様子を見るが、やはり食べなれているのか竜ほど大きな反応は無いように見られる。

 

 

 

「みゅっ!みゅみゅっ!」

「おー、そんな風に食べてもらえると作った甲斐があるっちゅうもんや」

 

 

 興奮した様子でガツガツと食べていくみゅかりさんの姿に茜は嬉しそうに言う。

 葵も美味しいとは言ってくれるのだが、他の人が美味しそうに食べている姿を見るのも嬉しいものなのだ。

 

 茜のそんな様子を見ながら竜は豚カツにソースをかけて口に運んだ。

 ソースのしょっぱさが加わることによってご飯がさらに進む。

 そしてしょっぱさの口休めに千切りキャベツを口に運ぶ。

 キャベツのさっぱりとした味によって口の中をリセットすることができ、再び豚カツを楽しむことができるのだ。

 

 

「・・・・・・うまいな」

 

 

 噛み締めるように竜は呟く。

 茜から料理を担当しているとは聞いていたが、ここまでうまいとは思っていなかったために思わずこぼれた言葉だった。

 竜の言葉を聞いて茜は嬉しそうにはにかみ、葵は少しだけ口元を下げる。

 別に葵も料理ができないと言うわけではない。

 ただ、得意なものがお菓子作りの方に割り振られているというだけなのだ。

 

 

「どや、うちの実力を思い知ったか!」

「お姉ちゃん、料理が得意だもんね」

「ああ・・・・・・、飯マズ系だと思っていたが間違いだった・・・・・・」

 

 

 ドヤ顔で言う茜に竜は料理を噛み締めながら答える。

 いつの間にか豚カツは残り少なく、そのことを竜は残念に感じていた。

 

 

「安心しい。まだおかずはあるで!」

 

 

 残念そうな表情の竜の様子に気づいた茜は、そう言って立ち上がってキッチンから別の料理を持ってきた。

 

 カラッと揚げられて綺麗なオレンジ色に染まった衣。

 食べごたえのありそうな太さのその身。

 そして衣の端からとび出ている鮮やかな赤色の尾。

 

 それは、その料理の名は────

 

 

 

 

         ────エビフライだ。

 

 

 

 

 漂ってくるその香りに竜とみゅかりさんはゴクリと唾を飲む。

 それは今までに食べたエビフライとは隔絶した魅力を放っていた。

 もしも空腹の状態で目の前に現われたのならば迷うことなく口に運んで貪り喰らっていたであろう。

 ひとえに今そんな状態になっていないのは先に豚カツを食べていてお腹が少しだけ膨れていたからだ。

 

 

「あはは、お姉ちゃんのエビフライはとても美味しいよ」

「たくさん作ってあるからみんなでちゃんと分けて食べよか」

「おう」

「みゅい!」

 

 

 竜とみゅかりさんの様子に、まだ茜のエビフライに慣れている葵は苦笑しながら言う。

 とは言っても葵自身も最初の頃は竜やみゅかりさんと同じような状態になっていたのだが。

 茜の言葉に竜とみゅかりさんは行儀良く座って待つのだった。

 

 

「・・・・・・やべぇ」

「・・・・・・みゅえぃ」

 

 

 エビフライを口に運び、竜とみゅかりさんは数秒の沈黙のあとに小さく呟いた。

 

 サクリとした食感は 先ほどの豚カツと同様に素晴らしいものでさらにかじった断面からは海老の風味がブワリと溢れ出てくるのだ。

 しかもソースをかけて食べるよりもそのまま食べた方がその旨味を強く感じることができる。

 

 今までに自分が食べたものはエビフライではなかった。

 

 そう思えるほどの衝撃が竜とみゅかりさんを襲っていた。

 そんな2人の様子に満足そうに頷きながら茜と葵もエビフライを口に運んだ。

 

 

「ん~、お姉ちゃん。今まで1番美味しいできじゃない?」

「せやね。このできを毎回できるようになりたいところやな」

 

 

 葵の言葉に茜は頷きながら答える。

 これほどまでに美味しいものを作っておきながら妥協をしないその姿勢に葵はニコニコと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第25話

 

 

 

 

 茜の作ってくれた絶品のエビフライを食べ終え、竜とみゅかりさんは満足そうにお腹をさする。

 竜とみゅかりさんのお腹はどちらもポッコリとしており、それぞれが大量に食べたことを物語っていた。

 

 そんな1人と1匹の姿を見て茜はニコニコと嬉しそうに笑う。

 

 

「うんうん。満足してくれたみたいで良かったわ」

「満足どころか大満足だ・・・・・・」

「みゅぅう、みゅぅう・・・・・・」

 

 

 茜の言葉に竜は答えることすら辛そうにしながら答える。

 その隣ではみゅかりさんがユラユラと揺れながら竜と同じようにやや辛そうにしながら答えていた。

 そんなになるまで食べなければいいのではないかと思われるかもしれないが、茜の作った料理はそれほどまでに美味しかったのだから仕方がないのだろう。

 

 

「こんだけうまいなら他の料理もうまいんだろうな」

「せやねぇ、うちとしては普通にできている方やと思っとるけど・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に茜は頬に指を当てて答える。

 茜本人としては双子である葵と比べて得意という程度の認識であり、揚げ物に関してはエビフライを美味しく作るための過程で上手くなっただけなのだ。

 

 

「そうなのか。まぁ、あんだけうまかったら毎日食っても良さそうだけどな」

「ま、毎日・・・・・・」

 

 

 茜の答えに竜はお腹が楽な姿勢になりつつ笑って言った。

 竜の言葉に茜は顔を赤くしてプイッと顔を逸らす。

 

 そんな茜の様子に竜は首をかしげるが、お腹が楽な姿勢を維持することに意識がむいて、茜の顔を見る余裕はなかった。

 

 そして顔を逸らした茜はというと。

 竜の言葉を聞いて妄想が暴走していた。

 

 

「毎日っちゅうと、つまりはあれやんな・・・・・・。えへへ・・・・・・」

 

 

 小さく呟きながら茜は自分の頬に手を当ててクネクネと体を動かす。

 茜の頭の中では家に帰ってきた竜を玄関で出迎えて「ご飯にする?お風呂にする?それとも、う・ち?」と言う、まさに新婚夫婦のテンプレイメージのようなものが浮かんでいた。

 竜はそんな茜の様子に気づかずに揺れているみゅかりさんのお腹をフニフニと撫でていた。

 竜が撫でているときにときどきみゅかりさんが小さくこらえるように「みゅっ・・・・・・みゅみゅっ・・・・・・」と口元を押さえて鳴き声をあげているが、吐きそうという様子には見えないので竜は気にしなかった。

 

 

「お姉ちゃん、洗い終わったよ」

「ハッ?!あ、ありがとうな葵!」

 

 

 食器を洗い終わった葵の声に妄想の世界から戻ってきた茜は慌てた様子で葵にお礼を言う。

 慌てた様子の茜に葵は不思議そうに首をかしげるが、とくに気にすることでもないと考えて竜の近くに座った。

 

 

「ご飯も食べ終わったしゲームをやるで!」

「お、良いね。何をやるんだ?」

 

 

 茜の言葉に竜は何のゲームをやるのか尋ねる。

 晩御飯は終わってからすぐにゲームを始めようとする茜と竜に葵は呆れたようにため息を吐くのだった。

 

 

「そうやな・・・・・・。よし、バイハでもやろか」

「バイハか。たしか2人プレイもできたな」

 

 

 ゲームを用意し、ゲームを起動させる。

 茜の言葉に竜は頷きながらコントローラーを用意した。

 

 バイハ、正式名称はバイオハザード。

 ウイルスによって死体が復活し、生きた人間を襲うというアクションホラーゲームだ。

 初出はプレイステーション1で根強い人気を誇っているカプコン製のゲームである。

 また、バイオハザードに出てくるヘリコプターがよく墜落することから“カプコン製のヘリは落ちる”などの言葉も生まれた。

 

 バイオハザードは内容としてはそこまでホラー要素はないものの、ホラーが得意ではない葵は素早く竜の背後に移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第26話


徐々に徐々に読んでくれる人も増えて嬉しい限りです。




 

 

 

 

 茜との協力プレイで竜はバイオハザードを進めていく。

 ちなみに操作しているキャラはなぜか竜が女性キャラで茜が男性キャラだ。

 

 

「弾がないんやけどー?!」

「ちゃんと拾っと、け!」

「お、お姉ちゃん。う、後ろ後ろ後ろ!」

「みゅーみゅ!」

 

 

 弾を無駄に撃ちすぎて弾切れを起こした茜をフォローするように竜の操作しているキャラクターがゾンビの頭を撃ち抜く。

 茜はバイオハザードではなにかを調べる際に最初に1発撃っておく癖があるので、そのせいで弾切れを起こしてしまうのだ。

 この癖に関しては治すように竜に言われているのだが、いまだに治る気配はなかった。

 竜の背中にしがみつきながら葵は茜に弾がある場所を教える。

 騒がしくプレイする3人の姿にみゅかりさんは楽しそうに鳴き声をあげるのだった。

 

 

「できるだけヘッショして弾の消費は抑えてかないとキツくなるぞ?」

「それは、分かって、るんやけど。グラグラ揺れて狙いにくいんや!」

 

 

 竜の言葉に茜はゾンビの攻撃を避けながら答える。

 なお、竜は先に倒し終えており、茜の操作するキャラクターの後方で適当にサイドステップを繰り返していた。

 ちなみに、竜の言っているヘッショとはヘッドショット、つまりは頭を撃ち抜くことの略語である。

 ゾンビは頭を撃ち抜いた方がダメージは大きく、他の部位を狙って倒すよりも弾の消費が抑えられるのだ。

 

 

「っし、セーフエリアに着いたで!」

「だな」

「ここにはゾンビもいなくて安心だね・・・・・・」

「みゅうみゅう」

 

 

 セーフエリアに茜の操作しているキャラクターが飛び込み、その後ろを竜の操作しているキャラクターが追って入る。

 セーフエリアに入ったことで落ち着いたのか、葵もホッと息を吐いた。

 ゾンビが出ないということで竜はテレビ画面から目を離して時計をチラリと見る。

 いつの間にかかなり時間が経っていたようで、竜は今の時間を見て驚いた。

 

 

「いつの間にかこんな時間かよ」

「んお?あちゃー、ほんまや。熱中しとったからなぁ・・・・・・」

「ぜんぜん気づかなかったよ」

 

 

 竜の言葉に茜と葵も現在の時間に気づいて頭を掻いた。

 

 

「じゃあ、ちょうどセーブもできるところだし。区切りもいいから終わりにするか」

「せやね」

 

 

 そう言って茜はキャラクターを操作してデータを記録するための機械、タイプライターを操作する。

 タイプライターといえばバイオハザードのセーブとまで言われるほどに印象深いもので、シリーズや難易度によってはインクリボンというアイテムが必要だったりする。

 セーブをする際の独特なタイプ音はとても耳に残るもので、この音が好きだという人も少なくないと思われる。

 

 

「みゅかりさんもそろそろ帰らんとなぁ」

「みゅう!」

「といってもここに住んでるからそんなに心配もないけどね」

 

 

 みゅかりさんを抱えあげながら茜は言う。

 茜の言葉にみゅかりさんは前足をあげて応えた。

 その様子を見て葵は小さく笑いかけながら言った。

 

 

「そういや宿題も出て────」

「あーっ!あーっ!うちはなんも聞いとらんー!ア゛ーッ!」

「お姉ちゃん・・・・・・」

 

 

 竜の言葉を遮るように茜は耳を塞ぎながら声をあげた。

 しかも途中でなにやら汚い声も聞こえたような気がする。

 そんな茜の子供みたいな行動に葵は頭が痛いとばかりに額に手をあてた。

 

 

「普通に終わらせた方が楽だろうに・・・・・・。まぁ、好きにせい。んじゃ、また明日な」

「ほな、またなー」

「うん、また明日」

「みゅみゅみゅー」

 

 

 茜の行動に竜はため息を吐き、靴を履いて立ち上がる。

 軽く手を振る竜に茜、葵、みゅかりさんは手を振り返して見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 「わぁ」

 

 

 どこかで、小さな声が聞こえた気がした・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 



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第27話

 

 

 

 いつも通りに朝の支度を終え、家を出た竜はふと家の向かいに工事の幕がかかっていることに気がついた。

 昨日、“清花荘”から帰ってきたときにはなかったはずなので、夜のうちに設置したのだろうか。

 一般的な一軒家にしては大きすぎる幕に竜は首をかしげながら学校へと向かうのだった。

 

 

「あ、竜くん。おはようございます」

「うん?ゆかりか。おはよう」

 

 

 学校へと向かう道の途中で声をかけられ、竜は不思議に思いながら振り向く。

 するとそこには制服姿のゆかりがいた。

 登校途中でゆかりに会ったのは初めてのことで、竜は不思議に思いながら挨拶を返した。

 

 

「いつもこの道を使って登校してるのか?」

「ええ、今までは偶然時間が合わなかったみたいですね」

 

 

 竜の質問にゆかりは頷いて答える。

 ゆかりの言葉に竜は、ゆかりがいつも自分よりも先に教室にいることを思い出した。

 

 

「それなら今日はどうしたんだ?寝坊?」

「まぁ、そんなところですね。ですが、竜くんと会えましたし、これからはこの時間に登校してもいいかもしれませんね」

 

 

 なぜ今日はこの時間に登校しているのかが気になった竜は首をかしげながら理由を推測して尋ねる。

 竜の言葉にゆかりは曖昧に笑って答えを濁し、ニコリと微笑みかけながら答えた。

 ゆかりが答えを濁したことに気づきつつも、竜はゆかりの微笑みにうっすらと頬を染めつつ頬を掻くのだった。

 

 

「あ、そういえばゆかりはみゅかりさんって知ってるか?ちょっと変わった猫?みたいな生き物なんだけど」

「みゅかりさん、ですか?ええ、よく知っていますよ」

「そうか!撫で心地がよくてつい撫でちゃうんだよ。しかも結構なつっこくて可愛くてな!」

 

 

 ゆかりがみゅかりさんのことを知っていると知り、竜は嬉しそうにみゅかりさんのことを話す。

 竜はペットなどを飼っていないため、自身に懐いてくれる生き物がいて非常に嬉しいのだ。

 

 

「そ、そうなんですね」

 

 

 竜の言葉にゆかりはどこか嬉しそうに答える。

 嬉しそうなゆかりに首をかしげながら竜はスクールバッグに着けているアクセサリーを見せる。

 

 

「これもみゅかりさんに貰ったんだ、ってこれは前に言ったか?手首に着けるとなぜか茜たちが怒るからとりあえずバッグに着けてるけど」

「そうなんですか。私は気になりませし、手首に着けても良いと思うんですけどね」

 

 

 竜のスクールバッグに着けられているアクセサリーを見ながらゆかりは言う。

 手首に着けることを勧めていることに他意はない、はずだ。

 

 

「そういえばゆかりが髪に着けてるのと同じだよな」

「ええ、私も自分以外では着けてる人は見たことがないですね」

 

 

 ふと思い出したように竜はゆかりの髪を見ながら言う。

 今日のゆかりの髪型はポニーテールで、竜がスクールバッグに着けているアクセサリーと似たものによって纏められていた。

 

 

「へぇ、そうなるとみゅかりさんは数少ない同じアクセサリーを着けている仲間になるわけだな」

「ふふ、そうなりますね」

「あ、ゆかりんだ!」

 

 

 竜とゆかりが会話をしながら学校に着き、校門をくぐろうかというところで声をかけられる。

 聞こえてきた声に2人が振り向くと、マキが嬉しそうに手を振りながら駆け寄ってきた。

 その際に大きく揺れるものが視界に入ってしまい、竜は慌てて視線を少しだけ逸らした。

 

 

「おはようございます。マキさん」

「おはよう」

「2人ともおはよう!今日は2人で学校に来たの?」

 

 

 挨拶をし、マキは竜とゆかりが一緒に歩いていることを不思議そうに見ながら尋ねた。

 マキの言葉にゆかりは笑みを浮かべる。

 

 

「ええ、偶然出会いまして。そのまま一緒に来たんです」

「へぇ、うちとは反対方向だからゆかりんと一緒に登校できるのは羨ましいなぁ」

「はっはっは、羨ましかろう」

 

 

 ゆかりの言葉に不貞腐れたようにブーたれているマキに竜はふざけた調子で言う。

 3人はそんな会話をしながら校舎の中へと入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第28話

 

 

 

 

 ゆかり、マキの2人と会話をしながら竜は教室に着いた。

 教室にはすでに何人かのクラスメイトの姿も見える。

 

 

「そういえば宿題はやったか?」

「もちろんやってありますよ」

「やってきたよー」

 

 

 竜の言葉にゆかりとマキは当然と言った様子で答える。

 2人の答えに昨日の茜の様子を思いだし、竜は何とも言えない表情になる。

 そんな竜の表情を見てゆかりとマキは不思議そうに首をかしげるのだった。

 

 

「どうかしたんですか?」

「いや、昨日茜に宿題の話をしたんだがな・・・・・・」

 

 

 竜の表情が気になったゆかりは竜に尋ねる。

 ゆかりの問いに竜は少しだけ呆れた調子で昨日の出来事を話し始めた。

 

 

「茜ちゃん、宿題くらいちゃんとやろうよ・・・・・・」

「葵さんはちゃんとやっているんですけどねぇ」

 

 

 竜から昨日の出来事を聞いたゆかりとマキは呆れたような表情を浮かべながら呟いた。

 3人でそんな話をしていると、茜と葵の2人が教室に入ってきた。

 

 

「おはようやでー!」

 

 

 いつも通りの茜による朝の挨拶にクラスメイトたちが反応を返す。

 朝の挨拶をしている茜の横をなるべく目立たないように葵は移動して自分の机に荷物を置いた。

 そして竜がゆかりとマキの近くにいることに気がつくと、準備もそこそこに竜の近くへと向かっていった。

 

 

「おはよう、お姉ちゃんがいつも五月蝿くしてごめんね」

「おう、おはよう。むしろあれがないと朝って感じがしないから気にしてないよ」

「おはようございます。茜さんのあれがあるからこそ教室が明るくなるんですから大丈夫ですよ」

「葵ちゃん、おはよー。私も茜ちゃんの朝のあれは好きだから大丈夫だよー」

 

 

 謝りながら葵は普通の音量で朝の挨拶をする。

 葵の言葉に竜たちはヒラヒラと手を振りながら答えた。

 思っていたよりも茜のことは悪く思われていなかったことに葵はホッとした表情で会話に交ざる。

 

 

「さっきは何の話をしてたの?」

「茜が宿題をやらないことについてだな」

「葵さんが言ってもダメなんでしょうか?」

「いつも慌ててやってて、そのうち間に合わなくなりそうだよね」

 

 

 竜たちが何の話をしていたのかが気になった葵は竜たちに尋ねる。

 葵の問いに3人は先ほどまで話していた茜の宿題についての話をした。

 茜の話をしていたとは思ってもいなかった葵は恥ずかしそうに顔を隠す。

 

 

「ちなみに葵。茜は宿題をやってきたのか?」

「・・・・・・やってないよ」

「おはようさん!」

 

 

 恥ずかしそうにしている葵に念のために確認をすると、案の定と言うか茜は宿題をしていなかった。

 そこに朝の挨拶を終えた茜がやって来た。

 竜、ゆかり、マキの3人はやって来た茜を少しだけジトッとした目で見る。

 

 

「なんや、そんな目で見よって」

「いや、結局宿題はやらなかったんだな・・・・・・」

 

 

 3人の視線を不思議に思いながら茜は首をかしげる。

 竜の言葉に茜はギクリと体を硬直させた。

 

 

「べ、別にええやん。ちゃんと提出期限には間に合っとるんやし」

「ですがギリギリになって慌てるよりも、先にやってゆっくりできる方がよくないですか?」

「もしも間に合わなかったら大変だしね」

 

 

 目を逸らしながら鳴らない口笛を吹く茜に竜と葵は顔を見合わせてため息を吐いた。

 ゆかりとマキの言葉に茜は小さく呻いてガクリと肩を落とす。

 一応、茜自身も先に宿題をやった方がいいこと自体は理解している。

 それでも集中ができずに遊びだしてしまうのだ。

 

 

「うぅ~、だって集中できひんのやもん・・・・・・。みんなはどんな風にやっとるん?」

「私は普通にやれてますね」

「私も家の手伝いが終わってから普通にやってるかな」

「ボクは寝る前にやってるのを知ってるよね」

 

 

 茜の問いにそれぞれが順番に宿題のやり方を答えていく。

 そして茜は最後の竜の答えを待った。

 

 

「俺は、学校でやってるな。というか授業中に宿題になりそうな所を勝手にやってる」

「それは宿題をやってることにならないんじゃないかな?!」

 

 

 竜の答えに葵は思わずツッコミをいれる。

 それは茜を除いた中でもっともダメな答えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第29話


とりあえずヤンデレエンドを書く場合の人数等をタイトルだけ書いたら10個もありました。

しかもボイスロイドキャラはかなりの人数がががが・・・・・・

誰を書くにしても簡単な流れだけ先に書いてまとめておくことにします。




 

 

 

 

 竜の宿題が宿題として機能していないやり方に一悶着はあったものの、茜も宿題をやろうと言う意識は少しだけ強くなったらしい。

 それから会話を楽しんでいると担任のアイ先生が来たので全員が自分の机に移動した。

 

 

「全員出席しているな昨日の夕方辺りからうちの生徒に話しかけてくる人間がいたらしい。そこそこの人数が話しかけられたらしいからお前たちも気をつけておけ。これでホームルームを終わりにする」

 

 

 出席確認と注意事項の連絡を終えてアイ先生は教室から出ていった。

 アイ先生の言った不審者の情報に教室の中がザワザワと軽くざわつく。

 最初の授業の準備を終えた竜は周囲の声に耳を傾ける。

 

 

「ほんとほんと、俺、話しかけられたんだって」

「嘘だぁ」

 

「どんなことを話しかけられたんだろうね?」

「パンツの色とか?」

「それはホントにヤバイでしょ」

 

 

 アイ先生の話していた不審者に話しかけられたと言う者。

 不審者がどんなことを聞いてきたのかが気になる者。

 聞こえてきた声は様々で、竜はそれだけで少し疲れてしまった。

 

 そして、教室内のざわつきは最初の授業の教師が来るまで収まることはなかった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 アイ先生の注意事項でざわついた以外、とくに変わったこともなく昼休みになった。

 

 昼食のために机を動かす者。

 学食に仲の良い友人と向かう者。

 購買で昼食を買うために2階の窓から飛び降りる者。

 そのあとを追うために飛び降りるが財布を忘れて友人に頭部に投げつけられて倒れる者。

 

 等々、様々な生徒が昼食の準備を始めていた。

 

 

「失礼します!」

 

 

 ガラリ、と教室の扉が開き、1人の女子生徒が現れた。

 今さらではあるが、竜たちの着ている制服は学年毎に色があり、2年生である竜たちは黄色。

 3年生は青色、そして1年生は赤色のネクタイやリボンを着けることが決められていた。

 そして現れた女子生徒のリボンは赤色。

 つまりは1年生だ。

 女子生徒は教室の中をぐるりと見回して竜の姿を見つけると、嬉しそうに竜のもとへと駆け寄っていった。

 

 

「どうもこんにちはです!」

「お、おう?えっと、君は・・・・・・?」

 

 

 女子生徒の元気な言葉に竜はたじろぎつつ応える。

 竜からすれば見知らぬ女子生徒に話しかけられたので、どうすればいいか分からないといったところか。

 困惑しながら竜は女子生徒の名前を尋ねる。

 

 

「昨日ぶりです!先輩!」

「昨日・・・・・・?・・・・・・ああ、教室に戻るときにぶつかった子か」

「はい!」

 

 

 女子生徒の言葉に竜は少しだけ考え込み、昨日ぶつかった女子生徒だということに気がついた。

 竜が気がついたことが嬉しいのか、女子生徒は敬礼するかのように手を当てて嬉しそうに笑顔を見せた。

 

 

「改めまして自己紹介を!紲星(きずな)あかりです!よろしくお願いします!」

「元気だな。俺は公住 竜だ。好きに呼んでくれて構わない」

 

 

 元気に自己紹介をする女子生徒────紲星あかりに竜は笑いかけながら応えた。

 そんな2人の姿を遠巻きに茜、葵、ゆかり、マキの4人はどこか含みのある目で見ている。

 

 

「ゆかりさんに続いてまた竜くんに関わる女の子が・・・・・・」

「昨日の今日で違う女の子が来るとは予想できひんかったわ・・・・・・」

「年下なのに胸が・・・・・・」

「紲星って言うと、1年生に入学したっていう“紲星グループ”の令嬢さんかな?」

 

 

 昨日のお昼にはゆかり。

 そして今日はあかり。

 2日連続での出来事にクラスに残っているクラスメイトたちもかなり不思議そうに竜のことを見ていた。

 

 

「それで何のようで来たんだ?」

「えっとですね。一緒にお弁当、食べてもいいですか?」

 

 

 竜の言葉にあかりはどこからか巨大な重箱を取り出しながら聞いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第30話

 

 

 

 

 あかりが取り出したのは裕に10人分ほどは入っていそうなほどに巨大な重箱。

 あまりにも大きなサイズで広げた重箱の端が机の上からはみ出してしまっている。

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

 重箱のあり得ないほどの大きさに竜は、いやクラスにいるあかり以外の全員が呆気に取られた。

 そもそもとして先ほどまではどこにもそんなものがあるようには見えなかったはずなのに、いきなり重箱が出現していることもおかしいのだが。

 

 

「これは・・・・・・、みんなで食べてくださいとかそんな感じなのか?」

 

 

 どうやって取り出したかの疑問は置いておいて、竜は一先ず量について尋ねる。

 もしも分けて食べるように考えられた量なのであればこの多さでもおかしくはない。

 竜の問いにクラスメイトたちも納得がいったのか、一様になるほどと言った様子で頷いていた。

 そんな竜の問いにあかりは首をかしげる。

 

 

「・・・・・・?いえ、全部私のご飯ですよ?」

 

 

 竜の言葉が心底不思議だと言うかのようにあかりは答える。

 それはつまりこの重箱のお弁当を1人で食べきることが可能だと言うことに他ならない。

 あまりにも衝撃的な言葉に一瞬だがクラスの中から音が消え、無音になった。

 

 

「えっと・・・・・・、食べきれるのか?この量を・・・・・・?」

「当然じゃないですか!うちの料理人が丹精込めて作ってくれたお弁当ですよ!」

 

 

 念のための確認も込めて竜が尋ねると、あかりはエッヘンと胸を張るように答えた。

 その際に後輩だとはとても思えないほどに立派なものが体の動きに合わせて揺れる。

 しいて擬音を付けるのならば“たゆんっ”辺りが妥当ではないだろうか。

 ちなみにマキの場合は“どたぷ~ん”でいいと思われる。

 

 

「・・・・・・もげればいいのに」

「大丈夫や。あれは将来的には垂れるんや・・・・・・」

「胸なんて脂の塊なんだよ・・・・・・」

「あの子も肩凝りとか辛そうだなぁ・・・・・・」

 

 

 揺れたあかりの立派なものに対して何人かの生徒から暗いものが見え隠れする。

 また、それとは別に何人か、本当に数人ほどではあるが、あかりに対して同情するかのような視線を向けているものもいた。

 

 

「ま、まぁ、食べきれるなら良いけど・・・・・・。とりあえず食べるか」

「はい!いただきます!」

 

 

 竜の言葉に合わせてあかりは勢いよく手を合わせる。

 パンッ、と小気味良い音にクラスにいた何人かはそのままあかりが錬金術をおこなってお弁当をホムンクルスに錬成する姿を幻視したが、そんなこととは関係なしにあかりはお弁当に手をつけ始めた。

 

 

「ぅんま~い!」

 

 

 頬に手をあて、幸せそうな表情であかりはお弁当を食べていく。

 その表情からは本当にお弁当が美味しいのだろうと言うことが理解できた。

 あかりの食べる姿に竜は思わず唾を飲み込む。

 竜のお昼は今日も買ってきたパンなので、目の前で手間暇をかけられたであろうお弁当はとても魅力的に見えるのだ。

 

 

「本当に美味しそうに食べるんだな」

「はい!」

 

 

 先輩であることのプライドと、嬉しそうに食べている邪魔をするわけにはいかないと言う謎の使命感から竜はあかりのお弁当を食べたい欲を抑え込む。

 あかりの食べるスピードは落ちることはなく、どんどんお弁当を食べ進んでいく。

 この調子であれば本当に1人で食べきることは間違いないだろう。

 

 

「ん・・・・・・。竜先輩、もしよかったら食べますか?」

「・・・・・・いや、あかりのために料理人が作ったんだろ?俺はいいよ」

 

 

 竜の視線に気がついたのか、あかりは食べることを一旦止めて竜に尋ねる。

 食べたいと思っていることがバレたことを恥ずかしく感じ、顔を逸らしながらやんわりと断る。

 竜の言葉にあかりは少しだけ考える表情になると、竜へと顔を近づけた。

 

 

「竜先輩、こっちを向いてください」

「なん────むぐっ?!」

 

 

 あかりに呼ばれ竜は顔をあかりの方へ向ける。

 それと同時に竜は口の中へと何かが入ってくるのを感じた。

 口の中に広がるのはジュワッとした肉の旨味。

 そして2本の細長い棒状のものが口の中に入っているのが分かった。

 見ればその棒状のものの反対側をあかりが持っている。

 どうやらあかりはお弁当のおかずの唐揚げを竜の口へと運んだようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第31話

 

 

 

 

 口へと入れられた唐揚げの美味しさに竜は一瞬だけ固まる。

 しかし、すぐに自分の口に入れられているのがあかりの使っていた箸だということに気がつき慌てて口を離した。

 

 

「ちょ、おま、なにを・・・・・・?!」

「竜先輩、美味しかったですか?」

「旨かったけど・・・・・・」

 

 

 慌てる竜に対してあかりはワクワクとした表情で尋ねる。

 子供のように無邪気な笑顔で聞いてくるあかりに竜は勢いを削がれたのか、やや困惑した表情になりながらも頷いた。

 

 

「それならよかったです!他にも食べたいものはありますか?」

「な、ならそれをもらおうかな」

「これですね。どうぞ!」

 

 

 竜の答えにあかりは嬉しそうにしながら次に欲しいものを尋ねる。

 あかりの言葉に竜は重箱の中に入っているおかずを1つ選ぶ。

 竜がおかずを選ぶとあかりはそのおかずを箸で掴んで差し出してきた。

 なんの躊躇いもなく再び自分の使っていた箸を使っておかずを差し出してきたあかりに竜は困惑しつつ受け取ろうと手を出す。

 

 

「手で持つなんて行儀が悪いですよ。はい、あーんしてください」

「あ、ああ・・・・・・」

 

 

 おかずを受け取ろうとする竜の手におかずを置かずに竜に口を開けるように促す。

 あかりの言葉に竜は照れつつ、躊躇いがちに口を開けた。

 口を開けた竜にあかりは楽しそうに掴んだおかずを食べさせる。

 

 

「も、もう十分だからあとは自分で食べてくれ」

「はーい」

 

 

 さすがに恥ずかしさが限界になったのか、竜は顔を隠しながらあかりに言う。

 そんな竜の言葉にあかりはとくに照れなどの様子もなく、竜が口にしたことも気にせずにそのまま箸を使ってお弁当を食べるのを再開した。

 

 

「あの子、いきなりあんなことを・・・・・・」

「どうする、お姉ちゃん。処す?処す?」

「葵、落ち着きい。次の機会にうちらも竜にやるんや」

「ありゃー、なんとも修羅場だねぇ・・・・・・」

 

 

 やや暴走を始めたゆかり、葵、茜の3人の声を聞きながらマキは聞こえないように小さく呟く。

 その原因になっている竜とあかりの様子を見ながらマキは自分のお弁当を食べきるのだった。

 

 

「・・・・・・あれ?もしかして、私とゆかりんも昨日はあんな感じだったのかな?」

 

 

 食べ終わったお弁当箱を片付けながらマキはふと昨日のお昼のことを思い出す。

 昨日のお昼ではマキとゆかりも竜に対してお弁当のおかずを箸で掴んで差し出していた。

 直接食べさせてはいないとしても同じような感じになっていたのはほぼ間違いないだろう。

 そのことに思い至ったマキは恥ずかしさで顔を赤く染めるのだった。

 

 

「ごちそうさまでしたぁ!」

「おぉう・・・・・・、本当に食べきったよ・・・・・・」

 

 

 いつの間にか重箱の中はキレイになくなっており、それでもまだ余裕のありそうなあかりの姿に竜は驚きと恐れの入り交じった声で呟いた。

 クラスにいた他の人たちも同じような気持ちなのか、どこぞのピンク色のボールな悪魔や緑色の恐竜を見るかのようにあかりを見ていた。

 

 

「えへへ、お弁当はいつも美味しいんですけど今日は竜先輩と一緒に食べたから一層美味しく感じられました!」

「また・・・・・・、恥ずかしくなることを言うなぁ・・・・・・」

 

 

 ニヘラと嬉しそうに笑いながら言うあかりの言葉に竜は照れながら答える。

 あかりの言葉に似たような経験のあるリア充なクラスメイトたちは同意をするように頷き、非リア充なクラスメイトたちはどこか光のない瞳で竜に鋭い視線を向ける。

 

 

「竜先輩、また今度も一緒に食べてもいいですか?」

「ああ、俺は別に構わないけど。その時はせめて箸をもう一組用意してもらえると安心できるかな。おかずを貰うにしても貰わないにしても・・・・・・」

 

 

 少しだけ不安そうにあかりは竜に尋ねる。

 あかり自身、今日のことは少しばかり勢いに任せて押しきってしまった自覚はあるので、次からも一緒に食べることができるのかが不安なのだ。

 あかりの言葉に竜は苦笑しながら答えた。

 

 

「やった!ありがとうございます!・・・・・・お箸は洗い物が増えちゃうので私ので大丈夫ですよね。では!」

「ちょ、まっ?!」

 

 

 竜の言葉にあかりは嬉しそうに喜ぶ。

 そしていつの間に重箱を片付けたのか、椅子から立ち上がると手をあげて教室から出ていった。

 あかりの残した最後の言葉に竜が驚いてあかりを捕まえようとするも、すでにあかりは教室から出ており、手を伸ばすことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第32話

 

 

 

 

 竜のクラスから出てきたあかりは機嫌良さそうに鼻唄を歌いながら廊下を歩く。

 2年生の廊下に1年生がいることに驚かれながらも、あかりの可愛さに誰もが見惚れてとくになにかを言われることはなかった。

 そんなあかりに4人の人影が近づいていった。

 

 

「ちょい待ちぃ」

「おや?あなたたちは・・・・・・」

 

 

 4人の人影の内の1人に声をかけられ、あかりは振り返る。

 声をかけてきた4人の姿を見てあかりは予想をしていたのか、とくに驚いた様子もなかった。

 

 

「ちょっと話したいことがあるんだけど、良いよね?」

「なるほど。大丈夫ですよ」

 

 

 4人の内のさらに別の1人の言葉にあかりは頷き、近くの空き教室へと入っていった。

 空き教室へと入ったあかりと4人は真っ向から対峙する。

 

 

「たしか、紲星あかり、と言いましたね。なぜ急に竜くんに接触したのですか?」

「なぜ、ですか?そうですね。一言で言うなら一目惚れ、とでも言いましょうか」

 

 

 問われたことにあかりはやや恥ずかしそうにしながら答える。

 あかりの言葉に4人のうち3人は理解したのか小さく頷く。

 

 

「それに、私のことを言うならあなただって、結月先輩だって同じじゃないですか。昨日から竜先輩に関わり始めたって、うちの人たちに色々と調べてもらったんですよ?」

「あ、もしかしてアイ先生の言っていた話しかけてくる人間って・・・・・・」

「その通りですよ。弦巻先輩。一応、あまり目立たないようにとは言っておいたんですけどね」

 

 

 尋ねてきた1人、ゆかりを指差しながらあかりは言う。

 確かにゆかりも竜にいきなり接触をした点ではあかりと同じと言えるだろう。

 あかりの言葉に、朝のホームルームで言われたこととの関連に気づいたマキは小さく呟く。

 あかりの調べたと言う言葉に残りの2人、茜と葵は表情を強張らせる。

 

 

「警戒しないでくださいよ。別に先輩たちのことをどうしようという気はないですから」

「その言葉を、うちらが信用できると思うんか?」

 

 

 あかりの言葉に茜は警戒を解くことなく答える。

 茜の言葉に同意するように葵とゆかりも警戒を解かない。

 ちなみにマキは3人に連れてこられただけなため、とくに警戒などはしていない。

 とは言っても自身のことを調べられてということを聞いて少しだけ嫌そうな表情は浮かべているが。

 

 

「警戒されているのは寂しいんですけどねぇ・・・・・・。私も先輩たちと同じ(●●●●●●●)なんですよ?」

「私たちと同じ、ですか・・・・・・?」

「ボクたちの共通点と言えば・・・・・・」

「竜、やね」

 

 

 あかりの言葉に茜、葵、ゆかりの3人は顔を見合わせる。

 3人が顔を見合わせる中、マキはなぜ自分も含まれているのか首をかしげていた。

 

 

「ねぇ、私も含んでるの?」

「違うんですか?竜先輩と仲良さそうに話している姿を見たと聞いていたのでてっきり・・・・・・。それに今もいますし」

「いや、私は3人に引っ張られてきただけかなぁ」

 

 

 自分が含まれていることを疑問に思ったマキはあかりに尋ねる。

 マキの言葉にあかりは少しだけ驚いた表情を浮かべた。

 

 

「そうだったんですか。まぁ、でも、同じ(●●)っていうのは間違ってないと思いますけどね」

「へ?」

 

 

 マキの言葉に驚きつつ、それでもあかりはマキも同じだということを強調した。

 あかりの言葉にマキは短く疑問の声をあげる。

 

 直後、あかりの姿がかき消えた。

 

 

「えっ?!」

「なっ?!」

「はぁ?!」

「嘘っ?!」

 

 

 あかりの姿が消えたことに4人は驚きの声をあげる。

 4人の誰もがあかりの姿は確認していた。

 しかし、それでも目の前からあかりの姿が消えたのだ。

 これは催眠術だとか、超スピードだとかで片付けられるほど簡単なものでは断じてなかった。

 

 

「わぁ」

 

 

 小さな声が教室に響く。

 

 そして、4人の背後にあかりの姿が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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第33話


紲星あかり
「作者を詐欺罪と名誉毀損罪で訴えます!理由はもちろんお分かりですね?あなたが皆をエイプリルフールだからといって嘘の話を投稿し、あまつさえ私のことを悪役のように表現したからです!覚悟の準備をしておいてください。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい!作者は犯罪者です!刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!」


こちらが正しい本編となります。





 

 

 

 

 背中合わせにあかりと4人は空き教室で立つ。

 

 いつの間に自分達の背後に移動したのか。

 驚きに固まりつつ、ゆっくりと4人はあかりの方へと振り返った。

 

 

「ね?同じ(●●)でしたでしょう?」

「・・・・・・そのようですね」

 

 

 ニコリ、と笑みを浮かべながらあかりは言う。

 あかりの言葉にゆかりは先ほどの出来事と聞こえてきた声から何が起きたのかを推測し、頷いた。

 ゆかりと同じように何があったのかを推測できたらしい葵とマキも同じように頷く。

 なお、茜だけはなにも分かっていないようでゆかりたちの顔をキョロキョロと見ていた。

 

 

「なぁ、分かってないのうちだけなんか?うちだけなんか?!」

「お姉ちゃん、あとでちゃんと説明してあげるから・・・・・・」

「絶対やで?!話してくれへんかったらお姉ちゃん泣いてまうかんな?!」

 

 

 混乱している茜は葵にしがみつきながら言う。

 茜の行動によりシリアス気味だった空気は霧散し、何とも言えない空気が漂う。

 

 

「えっと、とりあえずは私も皆さんのお仲間ということでいいですよね?」

「そうですね。私は認めましょう」

「ボクも認めるよ」

「あんたが何をしたんかは分からんけど、うちもええで」

「私の方も特にはないかなー」

 

 

 霧散した空気を取り繕うためにあかりは改めて自身がここにいる4人の仲間であることを言う。

 あかりの言葉に4人は頷き、あかりが自分達と同じであることを認めた。

 なお、竜を好きと言うことに関してはマキは関係ないのでとくに触れることはなかった。

 

 

「では、お昼休みも終わるので私は1年生の教室に戻らせてもらいますね」

「もうそんなに時間が経っとったんか」

 

 

 あかりの言葉に茜は時計を確認する。

 見ればお昼休みが終わるまで数分ほどの時間しか残っていない。

 茜につられて時計を見る3人を尻目にあかりは窓の方へと向かっていき、窓を開けた。

 

 

「皆さんのこと調べてはいましたけど、話したらけっこう好きになりました。明日も教室に行きますので今度は皆さんも一緒に食べましょうね。それでは!」

 

 

 そう言ってあかりは窓から跳び降りていった。

 先ほどの出来事もあってあかりが跳び降りたことに誰も驚いてはいない。

 

 そして、4人は教室へと戻っていった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「このようにして“怪成症(かいせいしょう)”という名前がついたんだ。次に────」

 

 

 お昼休みが終わり、午後の授業が始まる授業の内容は保健で内容は最近の病気についてだ。

 お昼ご飯を食べたあとの授業は睡魔を誘い、うつらうつらとしている生徒の姿がちらほらと見られる。

 

 

「あかん・・・・・・、眠い・・・・・・」

「お姉ちゃん・・・・・・」

 

 

 カクン、カクンと首を揺らす生徒がここにも1人。

 茜の首が揺れる姿を見て葵は授業を受けながら頭に手をあてた。

 

 

「さて、では私が説明したことを復唱してもらおうか。琴葉茜!」

「は、はひぃ?!?!」

 

 

 大きな声で名前を呼ばれ、茜は驚いて立ち上がる。

 眠りかけていた茜は教師の話を全く聞いておらず、困惑した表情で教科書と教師の顔を交互に見た。

 

 

「あかん、全然分からへん・・・・・・」

「はぁ、お昼休みが終わってから最初の授業で眠いのは分かるけどな・・・・・・。座っていいぞ」

「はい、すんません・・・・・・」

 

 

 教師の言葉に茜はしょんぼりとしながら席に座る。

 その後も教師は“怪成症”についての説明などを続けていった。

 

 茜が注意されたことによって他に眠そうにしていた生徒も目が覚めたのか、それ以降の授業で眠りかける者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 



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第34話

 

 

 

 

 本日の授業もすべて終わり、下校時間になる。

 眠りかけて怒られた茜はいまだにそれを引きずっているのか、どこか元気がないように見える。

 

 

「お姉ちゃん、もう元気出しなよ」

「せやなー・・・・・・」

 

 

 葵の言葉にも上の空な様子で、竜は少しだけ心配になっていた。

 いつまで経っても元気にならない茜の様子にゆかりやマキも心配そうに見ている。

 

 

「いつまでしょげてんだ」

「わぅ?!ちょ、やめぇ?!」

 

 

 グシャグシャと頭を乱暴に撫でられ、茜は困惑しながら竜の手を掴もうとする。

 しかし茜の手が触れる直前に竜は手を引く。

 

 

「んで?なんで元気がないんだよ」

「・・・・・・笑わへん?」

 

 

 竜の言葉に茜はおずおずと尋ねる。

 茜の姿は、どこか恥ずかしがっているようにも見えた。

 

 

「内容によるな」

「う・・・・・・、せやね。・・・・・・・・・・・・んや」

 

 

 竜の答えに茜は少しだけ考え、小さく呟いた。

 茜の言葉がハッキリとは聞こえず、竜は茜に耳を近づける。

 

 

「なんて?」

「だから・・・・・・。・・・・・・・・・・・・もうたんや」

 

 

 先ほどよりは少しだけ声は大きくなったが、それでもハッキリとは聞こえない。

 竜はさらに茜に耳を近づける。

 

 

「だから!お腹が空いてもうたんや!」

「うぉ?!」

 

 

 近づけた耳元での茜の咆哮ばりの叫びに竜は思わず耳を押さえる。

 それでも完全には防げていなかったため、耳がややキーンとしていた。

 また、茜の声が大きかったので周りにいた他の人間の耳にも茜の声は届いており、葵やゆかり、マキを含めた全員に呆れたような目を向けられていた。

 

 茜の元気のなかった理由がただの空腹。

 その事実に何とも言えない空気が広がる。

 茜の元気がなかったことを心配していたクラスメイトたちは苦笑を浮かべながら教室から出ていった。

 

 

「お前・・・・・・、ただの腹減りかよ・・・・・・」

「しゃあないやん。最後の授業が体育やったんやから」

「いや、あれはお姉ちゃんだけが勝手に盛り上がって動き回ったからだよね?」

 

 

 竜は呆れた表情で茜を見ながら言う。

 竜の視線から逃れるように茜は顔を逸らし、もごもごと答えた。

 しかし茜の答えを葵はバッサリと切り捨てた。

 

 午後の最後の授業の体育で茜はする必要もないのに無駄に動き回っていた。

 そのことは同じ授業を受けていた全員が証言できるし、誤魔化しようのない事実である。

 そして同じ授業を受けている他のクラスメイトたちは誰1人として空腹を訴えていない。

 この事から茜が空腹になっているのは完全に自業自得だった。

 

 

「り、理由なんかどうでもええんや。お腹空いとるから帰りにどっかに寄らへん?」

「どっか、ねぇ?」

「この辺りだとファミレスとか?」

 

 

 茜の言葉に竜と葵は近辺に何があったかを考える。

 お腹が空いたと言っているのだから飲食店であること。

 そして、晩御飯前なのだから少量のものがあるところ。

 

 どこに行こうか頭を悩ませる3人のもとにマキとゆかりが近寄ってきた。

 

 

「やっほー、3人でどこかに食べに行くの?」

「これからマキさんの家の喫茶店に行くのですが、一緒にどうですか?」

「マキマキんちは喫茶店なんか」

「喫茶店なら小腹を満たすのにはちょうどいいのかな?」

「新規開拓も面白そうだし。一緒に行くか」

 

 

 マキとゆかりの言葉に竜たちは頷く。

 喫茶店であればレストランよりも少なめの軽食のようなものがあるイメージがあり、軽く小腹を満たすにはちょうどいいと考えたからだ。

 帰るための荷物を掴み、竜たち5人は教室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第35話

 

 

 マキの家がやっている喫茶店へと向かう道中。

 竜たちは何てことのない会話をしていた。

 

 

「うちは思うんよ。クッパって実はマリオのことが好きなんやないかって」

「どうしてそんな風に思ったんですか?」

 

 

 茜の言葉にゆかりは首をかしげて尋ねる。

 

 知らない人はいないと思うが、茜の言うクッパとはマリオシリーズの敵キャラでトゲつきの甲羅を背負った亀のことだ。

 少し前には擬人化、というか姫化をしたこともあったが。

 

 ゆかりの言葉に同意するように竜、葵、マキも茜のことを見る。

 

 

「いやな、自分でコースを作るゲームがあるやろ?」

「ああ、ありましたね」

「たしかマリオメーカーだっけ?」

 

 

 茜の言うゲームが思い浮かんだのか、マキがゲーム名を言う。

 マキの言葉に茜は頷いた。

 

 

「せやで。んでな、うちもコースを作ってみたんよ」

「ああ、昨日はそれで宿題をやってなかったんだね」

 

 

 宿題をやらなかった理由の自白に茜に白い視線が突き刺さった。

 そんな視線を気にしないように顔を逸らしつつ茜は言葉を続ける。

 

 

「あれな。うまい具合にコースを作るんが難しいんよ。マリオのジャンプする距離やら、ブロックの配置やら、アイテムの配置と使い道やら。いろいろとちゃんと考えなあかんのよ」

「あー、なるほど。簡単にクリアできるやつは作りやすいけど、ギリギリクリアできるかなって難易度にするのが難しいんだな」

 

 

 茜の言いたいことが分かった竜はしきりに頷く。

 

 

「んでな?そんなコースをクッパは作っとるわけやろ。コース1つを作るのにマリオのことをたくさん考えとるんや。これはマリオのことを好きと言っても過言ではないと思うわけや!」

 

 

 ドンッ、という効果音が聞こえてきそうなほど茜は自信満々に言う。

 そんな茜の言葉に竜たちは顔を見合わせた。

 

 

「・・・・・・どう思う?」

「すさまじいほどの極論ではないでしょうか?」

「ちゃんとクリアできるように設計されているって言う点では好ましく思っていると思えなくはないけど・・・・・・」

「お姉ちゃんが変なこと言ってごめんなさい・・・・・・」

 

 

 茜の言葉に同意を示すものはここにはいなかったようだ。

 自信満々に胸を張りながら歩く茜に、竜たちはため息を吐くのだった。

 

 

「あ、見えましたよ」

「あれがマキマキの家がやってるカフェなんやね」

「えっと、“Cafe Maki”?」

「もしかして、店の名前はマキの名前からか?」

「うん。私が生まれてから喫茶店を始めたんだって」

 

 

 しばらく歩いていくと、白い壁に黄色の文字で書かれた看板の掲げられた建物が見えてきた。

 建物の外観はシンプルな白地の壁に大きめの窓がついており、店の前には色とりどりの花が鉢植えに植えられて並んでいた。

 喫茶店の建物の後ろには別の建物が繋がっており、そちらが弦巻家の住居なのだろう。

 竜の言葉にマキは嬉しそうに笑みを浮かべながら答える。

 

 

「えへへ、うちの喫茶店“cafe Maki”へようこそ!」

 

 

 マキは照れながら笑みをこぼし、店の扉を開けた。

 喫茶店の内装は木製のテーブルに白い椅子とシンプルながら雰囲気にあった物が使われており、とても落ち着いた雰囲気を感じられた。

 

 扉を開けた際に鳴ったドアベルの音が聞こえたのか、1人の女性が歩いてきた。

 

 

「いらっしゃいませ~、って、あら?マキちゃん、おかえりなさい。そちらはお友だち?」

「ただいま、お母さん。うん、ゆかりんの他にも連れてきたんだ~」

 

 

 歩いてきたのはマキの母親だった。

 マキの母親は竜たちのことを、とくに竜のことを興味深そうに見ると、パチンと手を合わせる。

 

 

「マキちゃんのボーイフレ────」

「違うからね?!」

 

 

 自分の母親がとんでもないことを言い出しそうなことに気がついたマキは慌てて言葉を遮る。

 ただでさえお昼休みの出来事で敏感になっているのだからここで刺激を与えるのは得策ではない。

 そしてマキは誤魔化すように竜たちを席に案内するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第36話




遊戯王のBGMを聞きながら書いているとデュエルがしたくなりますね。






 

 

 

 

 マキに席に案内され、竜たちは席に着く。

 4人掛けのテーブルで座り方は竜の隣にゆかり、竜の対面に茜、そして茜の隣に葵だ。

 

 

「あれ、マキマキは座らへんの?」

「うん。私はちょっと手伝ってくるからね。座るときは椅子を持ってくるよ」

 

 

 4人掛けのテーブルではマキが座れないので、その事が気になった茜が尋ねる。

 茜の言葉にマキはヒラヒラと手を振って答えた。

 そしてマキはスクールバッグを持って店の奥へと向かっていった。

 

 

「では頼むものを決めちゃいましょうか。メニューはこちらです」

「へぇ、なかなか種類があるんだな」

 

 

 ゆかりの広げたメニューを見て竜は少しだけ驚く。

 “cafe Maki”のメニューは喫茶店にしては種類が多く、幅広い層に需要がありそうだった。

 

 

「私はこちらの紅茶とショートケーキにしますね」

「ボクはオレンジジュースとチョコケーキかな」

「うちはそうやな・・・・・・、マーマイトとスターゲイジーパイやな」

「・・・・・・本当にそれでいいのか?」

 

 

 それぞれ注文するものが決まった順に言っていく。

 茜の言葉に竜は本当にそれを頼むのか確認した。 

 

「い、いややな、冗談や冗談。それにそんなもんさすがに置いてないやろ?」

「いや、置いてあるみたいだが」

「マジか?!っと、うちは紅茶とチーズケーキにするで」

 

 

 ここでイエスと言えば竜は本当にマーマイトとスターゲイジーパイを注文する。

 茜が注文すると言えば竜は本当に注文する。

 そんな本気を茜は感じ、慌てて本当に注文したいものを言った。

 むしろマーマイトとスターゲイジーパイを注文できる喫茶店とはどういうことなのだろうか。

 

 この2品がどこへ向けた需要なのか気になるところだが。

 それを知るためには紅茶をキメてイギリスの産み出した操作性皆無の兵器を転がして来るといいだろう。

 ちなみにその操作性皆無の兵器は9回の走行テストをおこなって9回失敗していたりする。

 

 

「俺はそうだな・・・・・・、ん?なんだ、このマキ茶って」

 

 

 自分の注文するものを考えていると、竜はメニューに書かれている不思議な名前のお茶に気がついた。

 名前からして普通の飲み物とは違ってこの喫茶店のオリジナルか何かであることがうかがえる。

 

 

「面白そうだしマキ茶にしてみるか。あとは・・・・・・オススメで頼むかな」

 

 

 興味から竜はマキ茶を選択する。

 マキ茶がどのようなお茶なのかが不明なため、一緒に頼むものはおすすめにするようだ。

 まぁ、知らないものと適当に組み合わせて合わなかったら勿体ないので、初見であるならば店の店員に聞くのが1番だろう。

 

 

「あ、みんな決まったかな?」

「マキさん。ええ、決まりましたよ」

「わぁ、マキさんもお店の制服を着たんだね」

「おー、マキマキ似合っとるやん」

 

 

 荷物を置いてきて喫茶店の制服に着替えたマキがヒョコリと現れた。

 白いワイシャツに紺色のロングスカート、そして黄色のエプロンとシンプルな制服ではあるが、非常に絵になっていた。

 マキの姿にゆかりたちは似合っていると褒め、褒められたマキは照れつつ嬉しそうにしていた。

 

 

「えっと、それじゃあ注文を聞いていくね」

「では私から、紅茶とショートケーキです」

「じゃあ次はボクが、オレンジジュースとチョコケーキだよ」

「なら次はうちや。紅茶とチーズケーキで頼むで」

 

 

 慣れた様子でマキは伝票に注文を書いていく。

 そこそこ早い速度で注文を言っていってるのだが、焦ったりしている様子もない。

 

 

「最後は俺か。マキ茶とオススメで頼む」

「えっ?!」

 

 

 最後に竜が注文を言うと、マキは驚きの声をあげて注文を書くのを止めた。

 不思議に思ってマキを見ると、顔を真っ赤に染めている。

 そんなマキの様子に竜たちは首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第37話

 

 

 

 

 竜たちの注文を聞いていたマキは顔を赤くしたまま固まっていた。

 動かなくなってしまったマキを竜たちは首をかしげながら見ている。

 

 

「おーい、マキー?」

「どないしたんやろうね?」

 

 

 反応のないマキに竜は目の前で手をヒラヒラと動かす。

 しばらくすると、再起動を果たしたのかマキは動き始めた。

 それでも動きにややぎこちなさは残っているが。

 

 

「え、えっと・・・・・・、竜くん。もう1回聞いてもいいかな?」

「おう、俺が注文するのはマキ茶とオススメだよ」

「だ、だよね!・・・・・・・・・・・・焦ったぁ」

 

 

 竜の注文を再確認し、マキはようやくすべての注文を聞き終えた。

 注文内容を聞き終えたマキは慌てた様子で竜の言葉に頷く。

 その際にマキは小さく呟いていたが誰の耳にも届くことはなかった。

 

 

「それじゃ、私はお父さんに注文を伝えてくるね!」

「頼んだでマキマキ~」

「お願いね~」

「お願いしますね、マキさん」

 

 

 注文を書き終えた伝票を片手にマキはキッチンへと向かっていく。

 そんなマキの姿を竜たちは見送るのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 キッチンへとやって来たマキは竜たちから見えていないことを確認すると顔を隠してしゃがみこんでしまった。

 手で隠れているために見えにくいが、その顔は真っ赤になってしまっている。

 

 

「私はなんて聞き間違いを・・・・・・」

 

 

 マキの頭の中に先ほどの自分がしてしまった聞き間違いの言葉が甦ってくる。

 

 ────『マキちゃん』とオススメで頼む。

 

 ボンッ、と音が聞こえてきそうなほどにマキの顔はさらに赤く染まる。

 本当は『マキ茶』と言っていたのだが、マキは聞き間違えて自分のことを注文しているのかと勘違いしてしまったのだ。

 

 

「う、うああぁぁぁああぁあぁ?!」

 

 

 頭を手で左右から挟んでマキはブンブンと首を振る。

 竜のことは最近仲良くなった友だち程度にしか認識していなかったのに、いきなり自分のことを注文されたと勘違いしたことによって変に意識をしてしまっていた。

 マキの頭の中では先ほどの自分を注文した言葉が勝手に繰り返されていた。

 

 

「落ち着け、落ち着くんだ私。竜くんは友だち。それ以上でもそれ以下でもない・・・・・・、うん、大丈夫・・・・・・」

 

 

 キッチンの壁に頭を押し付けながらマキはブツブツと呟く。

 マキは竜のことを友だちだと言っているが、そもそもとしてただの友だちとしか思っていないのであればこのような状態になどならないとも言える。

 と言ってもその辺りのことは個人によって考え方が異なるので一概にそうとも言えないのだが。

 

 まだ少し顔の赤さが残っているものの、どうにか立ち直ったマキはキッチンにいた父親に伝票を手渡した。

 

 

「マキ、さっきはなにか悶えていたみたいだけど何かあったのかい?」

「お父さん。ううん、大丈夫。ちょっと私が聞き間違いをしちゃっただけだから・・・・・・」

 

 

 マキから伝票を受け取った父親は、先ほど聞こえてきたマキの声などが気になり、マキに声をかける。

 父親の言葉にマキは首を横に振りながら答えた。

 自分のさっきの声で心配させてしまったことは分かっているが、それでもそうなった理由を話すのは少しだけ恥ずかしかった。

 

 マキの言葉に父親は聞くのをやめて伝票に書かれたメニューを準備していく。

 それでも気になっているようでチラチラとマキの方を何度も見ているのだが。

 

 

「おや、マキ茶を頼んだ人がいたのかい」

 

 

 伝票を見て注文を確認していた父親はマキ茶が注文されていることに気がついた。

 なにを隠そう、マキ茶とはこの“cafe Maki”の看板メニューにするためにマキの父親が考案したメニューなのだ。

 そのため、マキ茶が注文されてることを知って嬉しそうに準備を進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第38話

 

 

 

 

 父親の用意した飲み物を受け取り、マキは竜たちのもとへと向かう。

 飲み物の用意を待っている間にある程度落ち着いたのか、赤くなっていた顔ももとに戻っている。

 

 

「はぁ、自分で聞き間違えちゃったことだけど、気をつけないと・・・・・・」

 

 

 飲み物を運びながらマキは小さく呟く。

 聞き間違いによってドキッとしてしまったが、その相手は自分の友人たちが好きな相手。

 そんな相手を好きになるわけにはいかなかった。

 まぁ、その相手を好きになっている後輩が今日増えたのだが。

 

 そんなことを考えながら竜たちの座っているテーブルに向かうと話し声が聞こえてきた。

 竜たちがなにか話しているのかとも考えたが、どうにも声の数が1つ多いように聞こえる。

 不思議に思いながらマキはテーブルに近づいていった。

 

 

「でね、マキちゃんったらこう言ったのよ。『お母さん。私スーパーグレートでウルトラファイヤーなギタリストになりたいっ!』って」

「お母さぁぁあああん?!?!」

 

 

 聞こえてきた声にマキは思わず大きな声をあげる。

 1人分多く聞こえていた声の主はマキの母親であった。

 しかも自分の恥ずかしい話を話していたらしい。

 マキは慌てて持っていた飲み物をテーブルの上に置いて母親に詰め寄った。

 

 

「ちょ、ちょちょちょっと?!なにを話してるの?!」

「なにって・・・・・・、マキちゃんの話よ?」

 

 

 詰め寄って来たマキの言葉に母親は不思議そうに首をかしげながら答える。

 母親からすれば自分の可愛い娘であるマキの話をマキの友だちと共有したいと思っての行動であり、恥ずかしいことだとは思っていないのだ。

 むしろ、自分の娘はこんなに可愛いのだと布教したいとすら思っていたりする。

 

 

「もう!お母さんはあっちに行ってて!」

「えー、でもまだマキちゃんのことを話し足りないのよ?」

「 い い か ら ! 」

 

 

 母親の背中をぐいぐいと押し、マキは竜たちから母親を遠ざける。

 少しでも自分の恥ずかしい話を聞かせないために。

 マキに押され、母親は名残惜しそうにしながらも離れていった。

 

 

「・・・・・・疲れた」

「お疲れさまです」

 

 

 母親が離れたことを確認したマキはガックリと肩を落としてポツリと言葉をこぼした。

 そんなマキにゆかりは苦笑しながら労いの言葉をかける。

 ゆかりはすでにマキの母親とは面識があったので、マキの心情をある程度は理解できたのだ。

 ゆかりの言葉にマキは小さく頷き返した。

 そしてマキはテーブルの上に置いた飲み物を各自に配っていく。

 

 

「たしか、ゆかりんと茜ちゃんが紅茶で、オレンジジュースが葵ちゃん。で、マキ茶が竜くんだったね」

「ええ」

「せやで」

「そうだね」

「合ってるな」

 

 

 竜たちは自分たちの前に置かれた飲み物を見て、自分たちが注文したものであることを確認する。

 確認のためにカップに顔を近づけると、それぞれの飲み物の良い香りがフワリと鼻に届いた。

 

 

「やっぱり良い香りですね」

「おー、マキマキの父ちゃんは紅茶を淹れるのが上手いんやな」

 

 

 紅茶の香りを感じたゆかりは柔らかく微笑む。

 紅茶にとって重要なコツが5つある。

 

1.良質な茶葉を使う

2.ふた付きのティーポットを使う

3.茶葉の量はティースプーンで正確に量る

4.お湯は新鮮な水をしっかり沸騰させる

5.時間を計り、茶葉をきちんと蒸らす

 

 これが美味しい紅茶を淹れるためのコツだ。

 また、最後の1滴がもっとも美味しいと言われており、黄金の雫(ゴールデンドロップ)と呼ばれるほどなので、最後の1滴まで入れることも大事なポイントなのだ。

 

 

「あ、このオレンジジュースもちゃんとしぼって作ったものなんだね?それでも酸っぱすぎなくて飲みやすい」

 

 

 オレンジジュースを口に運んだ葵は少しだけ驚きながら言う。

 市販のオレンジジュースとは比べ物にならない味の濃さと、それでいて酸っぱさを感じないその味に感心するように頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第39話



体調不良になりました。

読んでくださっている方々も体調に気をつけてください。


 

 

 

 

 注文したオレンジジュースを口に運ぶ葵の姿にマキはにっこりと笑いかける。

 

 

「美味しいでしょ。それ、オレンジの皮も少しだけ搾って混ぜてるんだよ」

「え?でも皮を入れたら苦くなっちゃうんじゃないの?」

「うん。だから苦くならないように調節してるの。どのくらい入れてるのかは教えてもらってないから分からないけどね~」

 

 

 オレンジジュースを美味しそうに飲む葵にマキは美味しさの秘密を少しだけ話す。

 美味しさの秘密を話して良いのかと思われるかもしれないが、分量などは言っていないので問題はない。

 それに加えて、美味しさの秘密がこれだけだとも言っていないので、仮に誰かに聞かれたとしても真似をしてこのオレンジジュースを作ることは不可能だろう。

 

 

「ん、これは・・・・・・、レモンの香りを感じる紅茶?レモンティーってやつか?」

 

 

 口に運んだ瞬間に広がるさっぱりとした爽やかな風味を感じ、竜はマキ茶がどんなものなのかを察して呟いた。

 竜の言葉にマキは嬉しそうに頷く。

 

 

「正解!お父さんが独自に比率を研究した特別な紅茶なんだよ」

「そうなのか。自信があるから独自に名前をつけたのかねぇ?」

 

 

 マキの言葉に竜はマキ茶と言う名前になった理由を考える。

 ちなみにこのレモンティーには4種類の茶葉が使われており、それぞれ“キャンディ”・“ダージリン”・“ウバ”・“ディンブラ”と呼ばれているものが使われている。

 ただしそれぞれの茶葉の比率や名称などのことを父親は誰にも明かしておらず、マキや母親ですらそのことは知らない。

 

 

「マキちゃ~ん、ケーキの準備ができたって~」

「あ、はーい。じゃあ、ちょっと待っててね」

 

 

 名前を呼ばれ、マキは竜たちに声をかけてキッチンへと向かった。

 キッチンへと着くと、母親からケーキの乗ったトレイを渡される。

 トレイに乗っているケーキの数は2つで、残りの2つは母親の持っているトレイに乗っていた。

 

 

「1人で持ってくのは危ないからお母さんも持ってくわね~」

「うん」

 

 

 母親の言葉に頷き、マキは母親と並んでケーキの乗ったトレイを持って竜たちのいるテーブルへと向かう。

 

 

「おまたせ~。えっと、ゆかりんにショートケーキ。茜ちゃんにチーズケーキ。葵ちゃんにチョコケーキで、竜くんはオススメのケーキのチョコミルクレープだね」

 

 

 先ほどの飲み物を置いたときと同じようにマキはケーキを竜たちの前に置いていった。

 目の前に並べられた美味しそうなケーキに竜たちは思わず笑みがこぼれる。

 

 

「これで全部揃ったね~」

「いえ、まだですよ」

「せやな。まだ全部は揃っとらんで」

「大事なものがまだ来てないですね」

「え?」

 

 

 ゆかり、茜、葵の言葉にマキは首をかしげる。

 そんなマキの姿に竜はただなにも言わずに笑みを浮かべていた。

 ちゃんと4人分の飲み物もケーキも運んできて、聞いたものは全て持ってきている。

 いったいなにを忘れていると言うのか。

 

 首をかしげているマキの後ろにマキの母親が移動し、マキの頭を軽く撫でる。

 

 

「マキちゃん、もうお手伝いは十分だからお友だちとお話ししてて大丈夫よ」

「あ、うん」

「それじゃあマキちゃんの分の飲み物とケーキを持ってくるから椅子を準備して待っててね」

 

 

 そう言って母親はキッチンへと向かっていった。

 キッチンへと向かっていく母親の姿を見つつ、マキはついさっき言われた『全部は揃っていない』という言葉の意味を理解した。

 

 

「これで全部揃いますね」

「えへへ、そうだね」

 

 

 マキは自分の分のことを考えてくれていた4人に笑いかけながら頷いた、

 そして近くにあった椅子を動かして自分の座る場所を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第40話

 

 

 

 

 女性が3人集まれば姦しいというが、そこに1人加わるとさらに手に負えなくなる。

 楽しそうに話す茜、葵、ゆかり、マキの4人を見ながら竜はマキ茶を口に運ぶ。

 

 ときおり竜も会話に参加できるような話題が出るものの、それでもどことなく居心地の悪さのようなものを感じていた。

 ファッションの話やメイクの話、好きな音楽の話に勉強の話。

 様々な話題が尽きることなく4人の口から溢れてきていた。

 中にはうっかり聞いてしまった体重の悩みについての話なんかもあったが、それを聞いてしまった直後に忘れるように念入りに釘を刺されてしまったりもした。

 

 

「よくもまぁ、あんなに話題が尽きないもんだ・・・・・・」

「あはは、それが女性というものなんだよ。男はそれに付き合っていくしかないのさ」

「そうかもしれないけど・・・・・・ん?」

 

 

 きゃっきゃと会話をしている4人の姿を見ながら竜が呟くと、その声に返事が帰ってきた。

 聞こえてきた声に竜はキョロキョロと辺りを見回す。

 今の声は茜たち4人の声とは全く違っており、男性の声であった。

 竜が辺りを見回すと、自分たちが座っているテーブルの隣の通路に見慣れない男性の姿があることに気がついた。

 

 

「えっと、こんにちは・・・・・・?」

「ああ、こんにちは」

 

 

 突然現れた男性に、竜は困惑しながら挨拶をする。

 男性の手もとを見ると飲み物とケーキの乗ったトレイを手に持っており、それを運んでいるところなことが分かった。

 

 

「あ、お父さん」

「お友だちと楽しそうに話してたね。マキの分を持ってきたよ」

 

 

 男性がいることに気がついたマキは嬉しそうに声をあげる。

 マキが気づいたことによって男性、マキの父親はニコリと笑いかけて持っているトレイをマキの前に置いた。

 マキの前に置かれたのはカフェオレとミルクレープだった。

 それらを見てマキは嬉しそうに目を輝かせる。

 

 

「マキさんは本当にそれが好きなんですね」

「ほへぇ、それがマキマキの好物なんやね?」

「とっても美味しそうだね。今日は別のものを頼んでるから今度来たときに頼もうかな?」

「これ、クレープ生地を焼くの大変そうだな」

 

 

 マキの前に置かれたものを見て竜たちは口々に感想を言う。

 自分の目の前に好物があるということと、自分の好物に興味を示されているということを嬉しく感じ、マキは小さく笑みを浮かべる。

 

 

「ふふふ、この2つはマキが小さい頃からの好物でね。悲しいことがあったり、落ち込んだときなんかもこれを食べたらすぐに機嫌を良くするんだよ」

 

 

 嬉しそうなマキの姿を見ながら父親は自慢げに言う。

 確かに自分の作ったものを食べて嬉しそうにしてもらえれば作った甲斐があるというもの。

 父親の気持ちが何となく分かった茜と葵は納得するように頷いた。

 

 

「それじゃあ、私は仕事に戻るよ。みんなも“cafe Maki”にこれからも来てくれると嬉しいかな」

「うん。お父さん、ありがとう」

「もちろんです」

「まだ気になるもんもあるから当然やでー」

「ボクもお姉ちゃんとまた来ます」

「常連になるかもです」

 

 

 父親の言葉に竜たちは笑みを浮かべながら答えた。

 竜たちの言葉に父親は満足そうに頷くとキッチンに向かって歩き始める。

 

 不意に父親が立ち止まって竜の方を見た。

 

 

「常連になるのは嬉しいけど・・・・・・、うちのマキを目的に来るなら話は変わってくるからね?」

「え、あ、はい・・・・・・」

「お父さん!」

 

 

 先ほどまでの雰囲気とはガラリと変わって威圧するような父親の言葉に竜は怯みながら答える。

 豹変した父親の様子に茜たちは驚き、竜とマキ、そして父親のことをキョロキョロと見回している。

 父親のこの行動はマキが男友だちをつれてくるたびにやっているため、マキは呆れ混じりに怒るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第41話

 

 

 

 

 マキは父親の持ってきたミルクレープをフォークで切って口に運ぶ。

 

 

「あむ、んむんむ・・・・・・んッ~♪」

 

 

 マキがミルクレープを口に運ぶと、マキの周囲に花びらがパァッと広がるようなイメージを竜たちは見たような気がした。

 噛み締めるようにミルクレープを食べたマキは続いてカフェオレの入ったコップを持って口に運んだ。

 

 

「んく、んく・・・・・・ぷはっ♪」

 

 

 続けてマキの周囲に太陽の光が広がるようなイメージが竜たちの頭の中に広がる。

 幸せそうなマキの表情に竜たちはニヨニヨと笑みを浮かべた。

 

 

「・・・・・・なに?」

「いえ、なんでもないですよ」

「せやせや、マキマキは気にせんと食べてええで」

「うんうん、美味しいもんね」

「・・・・・・・・・・・・これを見るための常連とかいそうだな」

 

 

 自分のことを竜たちが見ていることに気がついたマキは首を小さくかしげて尋ねる。

 マキの言葉に竜たちは顔を見合わせると、揃って首を振って答えた。

 ゆかりたちの言葉を聞いて一応は納得したのか、マキは食べるのを再開する。

 再び食べ始めたマキの姿を見ながら竜はポツリと小さく呟く。

 その際に店にいた何人かの人間がギクリと不自然に動いたことを竜たち “は” 気づかなかった。

 

 

「ん?」

「なんや?」

 

 

 不意に聞こえてきた音に竜たちは不思議そうに周りを見る。

 竜たちの耳に聞こえてきたのはなにかを殴打するような音と、なにかを引きずるような音。

 竜たちが周りを見回してみてもとくに変わったことなども見つからず、不思議そうに首をかしげる。

 何人かの客の姿がいつの間にか消えている店内で竜たちは会話を再開するのだった。

 

 

「あ、そうだ。ゆかりんとも話してたんだけどさ、『モンスターハンター』をやろうと思ってるんだけど。オススメの武器とかあるかな?」

「おお、マキマキもモンハンやるんか。ちなみにワールドで合っとるか?」

 

 

 ふと、マキが思い出したように言う。

 マキはゲームよりもバンドなどの音楽系の方に興味があったのでモンハンなどのゲームは基本的にやったことがなかったのだ。

 と言っても完全にやったことがないという訳ではなく、ポケモンなどのゲームをゆかりに誘われてやっているが。

 

 

「うん、それだったら通信で協力プレイができるって言われたから」

「未経験からワールドか。まぁ、プレイしやすいし良いかもな」

 

 

 茜の言葉にマキは頷き、ワールドを選んだ理由を答える。 

 ここでアイスボーンではないのかと疑問に思う方がもしかしたらいるかもしれないが、アイスボーンは“拡張コンテンツ”なため種類としてはワールドで問題ないのだ。

 

 

「うちらもやっとるし、とりあえず自分の使っとる武器を言っていこか」

「そうだな。俺は操虫棍と狩猟笛、あとは弓とライトボウガンだ」

「うちはヘビィボウガンや」

「ボクは片手剣と大剣、あとはスラッシュアクスかな」

「竜くんは珍しい武器を使ってるんですね?私は太刀と弓です」

 

 

 モンスターハンターワールドには大剣、太刀、片手剣、双剣、ハンマー、狩猟笛、ランス、ガンランス、スラッシュアクス、チャージアックス、操虫棍、弓、ライトボウガン、ヘビィボウガンの14種類の武器がある。

 その中からオススメの武器と言われても人によって答えは様々だ。

 そのため、茜はまずは使用している武器を言うことにした。

 使用武器を言っていくと、見事なまでに被りはなく、ある程度の使用武器についての説明はできそうに思える。

 ここで言われなかった他の武器もネットなどを見てマキに説明すればよいだろう。

 

 竜の使用武器を聞いたゆかりは少しだけ意外そうに言った。

 竜の使っている狩猟笛と操虫棍は使用率がそれぞれ最下位の14位と13位、それほどまでに使用者が少ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






竜の使用武器は作者が実際に使っている使用武器と同じものです。

モンハンで会うことがありましたらどうぞよろしくお願いします。


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第42話


モンハンの武器の話はけっこう長いのでしばらく続きます。

武器種の説明に関して「違うのではないか?」「説明は他にもあるんじゃないか?」などの意見はあるかもしれませんが、これはあくまでも茜たちの言っている説明です。

その事をご理解ください。




 

 

 

 

 竜たちの使用武器をマキは興味深そうに聞く。

 モンハン自体をやったことのないマキからすれば使用武器を聞くだけでも興味が湧くのだ。

 

 

「武器の種類が多いのは聞いてたけど見事にバラバラなんだね」

「せやね。それじゃ、誰から武器について話そうか?」

「俺は種類が多いから後で良いか」

「とりあえず使用武器が1つのお姉ちゃんからで良いんじゃない?」

「私は2種類ですしその次ですかね」

 

 

 マキの言葉に茜は誰から武器の紹介をするか尋ねる。

 竜は使用武器が4種類、葵は3種類で、ゆかりは2種類、そして茜は1種類。

 一先ずは武器種の少ない茜から説明をしていくことに決めた。

 先に言っておくと、茜たちの意見なだけであって完全にこの意見が正しいと言うわけではないことを理解しておいてもらいたい。

 

 

「そうやな。ヘビィボウガンは長距離から弾を撃って攻撃する武器や。攻撃力も高くてかなりのダメージをモンスターに与えることができるで。操作もモンスターを狙って撃つ、の簡単な操作だけや」

「名前のとおり本当に銃なんだね?」

 

 

 茜の説明にマキは軽くメモを取りながら尋ねる。

 メモを取るのは大袈裟ではないかと思うかもしれないが、まだ始めてもいないのだからちょうど良いくらいだろう。

 

 

「せやで。あとヘビィボウガンには特殊射撃っちゅう強力な攻撃もあるんや」

「特殊射撃?」

「1つは機関竜弾、これは大量の弾を連続で撃つ、要はマシンガンみたいなもんやな。んでもう1つは狙撃竜弾、こっちは1発しか撃てへんけどモンスターを貫通してその後に爆発する弾や。ヘビィボウガンにはこの2つの内どちらかが必ず撃てるようになっとるで」

 

 

 マキがイメージをしやすいように茜は特殊射撃の内容を話していく。

 マキも興味が湧いたのか熱心に話を聞いていた。

 

 

「と、ここまでがヘビィボウガンの良い点や。本当は他にもあるんやけど、さすがに長くなりそうやしな」

「パーツの説明になると長くなっちゃうしね」

「せやからこれはマキマキが使い始めたときに説明するわ。次は悪い点や。ヘビィボウガンはな、移動が遅い。これに尽きるわ」

 

 

 ヘビィボウガンは機動力を犠牲にして火力を得た武器種。

 その事を茜は簡単に一言で説明した。

 

 

「動くのが遅いからモンスターの攻撃は早めに避けなあかんし、近づかれんように距離を意識して立ち回らんといかんのや」

「けっこう大変そうなんだね・・・・・・」

 

 

 茜の言葉にマキは少しだけ表情を暗くする。

 とは言っても悪い点はどの武器にも言えることなので、このくらいで嫌がっていてはキリがないのだが。

 

 

「せやかて工藤」

「いや、工藤って誰?」

「マキさん、お姉ちゃんのボケだから気にしないで大丈夫だよ」

「モンスターとの距離を見極めて戦いやすい距離で戦うんはモンハンの基本やで?」

 

 

 マキは茜が自分ではない名前を言ったことに首をかしげる。

 唐突にいれた茜の西の高校生探偵の物真似に、葵は額に手を当てながらマキに言った。

 そんな葵とマキのやり取りを気にせずに茜は言葉を続ける。

 

「モンハンはな、どんな武器でも結局はモンスターに近づくんやから立ち回りはきっちり覚えなあかんのや」

「宿題は忘れるのにな」

「今日も宿題ありましたよね?」

 

 

 エッヘンと胸を張りながら言う茜に竜とゆかりがツッコミをいれる。

 2人の言葉に茜はガクリと転ぶようなリアクションをとった。

 

 

「せっかく・・・・・・、せっかくうちが良いこと言っとるんやからちゃちゃを入れんでくれへん?!」

「いえ、なんとなく茜さんはそんなキャラではないような気がしまして」

「とりあえずヘビィボウガンについてはそんなもんだろ。次はゆかりが説明する番だな」

 

 

 ガオー、とでも言うかのように腕を振り上げる茜にゆかりは紅茶を口に運ぶ。

 そんな2人のやり取りを横目に竜は次に説明する人の名を言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第43話



1話につき1武器になっております

それだけ説明が長くなってしまうので、すみません。





 

 

 

 

 文句あり気な茜のことを流してゆかりは軽く咳払いをする。

 茜もいつまでも怒っていては話が進まないと思ったのか、席に座って紅茶を口に運んだ。

 

 

「んん、では次は私ですね。そうですね、私が使うのは太刀と弓なわけですし、弓は私が説明しても大丈夫ですか?」

「そうだな。俺も使うけど2回も説明するのは無駄だろうし、俺の意見も間に入れていく形で良いだろ」

 

 

 太刀に関してはこの4人の中ではゆかりしかいないのだが、弓に関しては竜も使っている。

 竜の言うように2回も話をする必要性は無いのでゆかりと同時に話した方が手軽だろう。

 

 

「ではまずは・・・・・・、太刀の方から話していきましょう。太刀は広めの攻撃範囲とやや高めの攻撃力を持った武器ですね。攻撃の速度も早めですしかなり使いやすい武器と言えるでしょう」

「これも使いやすいの?」

 

 

 ゆかりの説明にマキは首をかしげる。

 茜もヘビィボウガンについて簡単な操作と言っていただけに混乱しているようだ。

 

 

「あー、とりあえず使いやすいってのは深く考えないで良いぞ。結局は使っている人間が使いやすいって言ってるだけだから。人によっては使いにくいっていう意見もあったりするし」

「そうなの?」

「まぁ、そうですね。えっと、太刀には見切りという回避からの攻撃をする技があります。これは基本的にほとんどの技を避けることが可能で、使いこなせればダメージをほとんど受けることなくモンスターに勝つことができるようになります」

 

 

 混乱しているマキに竜は助け船を出す。

 

 どの武器が強い。

 どの武器が使いやすい。

 

 こう言った考えは結局のところ操作するプレイヤーによって変わってくるもの。

 そのため使いやすい武器は自分で使ってみるまで分からないものなのだ。

 

 

「そして太刀には気刃兜割りという大技もあるんです。これはジャンプしてモンスターの上から斬りかかって大ダメージを与える強い技なんです。あとは居合斬りもありますがこちらは慣れてからで問題はないでしょう。太刀の良い点に関してはこんなものでしょうか」

「確かに始めてすぐに覚えるのはややこしいかもな」

「なのでこれらはマキさんが太刀を使うことになってから教えることにしましょう」

 

 

 太刀のアクションの1つ、特殊納刀とそれから派生する居合抜刀斬りと気刃居合抜刀斬り。

 これらも覚えて扱うことができれば太刀の扱いは万全だろうが、初心者にそこまでを求めるのは酷なもの。

 それが分かっているのでゆかりは特殊納刀などの説明を省いた。

 

 

「では次は太刀の悪い点です。太刀の悪い点は大まかに言って2点。太刀専用のゲージ、練気ゲージを赤に保たないと最高火力が出ない点。そして、マルチでプレイすると味方を思いきり攻撃して怯ませてしまう点です」

 

 

 太刀には練気ゲージと呼ばれる専用のゲージがあり、これを溜めて強力な攻撃を放つ。

 この練気ゲージの維持こそが太刀使いの上手さに直結するのだ。

 また、マルチプレイでは攻撃範囲の広さのせいで味方にも攻撃が当たって怯ませて攻撃を止めてしまうなどの事故がたまに起きることもある。

 

 

「練気ゲージに関しては慣れるしかないとしか言えないですね。そして味方を攻撃してしまうということに関しては近くに味方がいないところを攻撃すれば問題はないはずです」

「まぁ、操虫棍なら基本的に関係はないんだけどな。耐衝3は積んでるはずだし」

「3つで耳栓に耐震、風圧耐性が3も付くんやもんな」

 

 

 竜の言う耐衝とは怯み軽減スキルのことを指しており。

 このスキルを着けていると尻餅や怯みをなくしてくれるのだ。

 そしてこのスキルには操虫棍専用の追加効果があり、快適に操虫棍をプレイしたい人ならほとんどの人が着けているだろう。

 

 

「とまぁ、太刀の説明はこんなところですね」

「細かいことに関しては太刀に触れたときで問題ないだろうしな」

 

 

 ゆかりの言葉に竜は頷き、マキもメモを見返す。

 マキがメモを見返すのを終え、ゆかりは次の武器の説明のために紅茶を飲んで口を潤すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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誰44話



まだまだ武器説明が続きます。

いっそのことまとめた方が良いですかね?

このままの調子で進めて大丈夫ならこのまま続けますが、まとめた方がよければ感想にでも書いてください。




 

 

 

 

 マキがメモを見返し終え、ゆかりは次の武器の説明を始める。

 また、自分たちが使っていない武器についての興味が湧き始めたのか茜と葵もゆかりの話に興味を持ち始めていた。

 なお竜は、言っていないが片手剣以外の武器を一応は使っており、その中でもとくに使っているのが操虫棍、狩猟笛、弓、ライトボウガンだったというだけなので、ある程度は知っていることばかりだったりする。

 と言っても専門的に使っている人間ほどの知識はないのでそこまで説明はできないのだが。

 

 

「では次は私と竜くんの使っている弓についてですね。弓は・・・・・・、近距離で戦う高機動な射撃武器と言ったところでしょうか?」

「まぁ、そんなところだな」

「射撃武器なのに近距離?」

 

 

 ゆかりの言葉に竜は頷いて肯定する。

 2人の言葉にマキは首をかしげた。

 射撃武器だと言うのであれば離れて戦うのが基本的なイメージなので、マキの疑問ももっともだろう。

 なお、散弾ヘビィは除くものとする。

 

 

「弓の射程はそこまで遠くなく、連続して矢を放って戦っていくんです。そして矢を放つ際にチャージステップと言う移動をして攻撃力を上げていくんですよ」

「だから高機動の近距離射撃武器なんだよ」

「ああ、確かに竜くんがやってるときってすごく動いてるよね」

「反復横跳びみたいになっとるよな」

 

 

 ゆかりと竜の言葉に納得がいったのか、葵と茜は頷きながら言った。

 茜の言う反復横跳びは攻撃を避けながら射撃をしているところのことを言っているのだと思われる。

 

 

「弓は属性の攻撃力が高めで、攻撃速度の早い弓から放たれる属性攻撃はかなりの火力を叩き出すことができますね。また、攻撃によっては相手を気絶させてさらに追撃することもできますし」

「ジュラドドスを気絶ハメして狩ったこともあったなぁ」

「あれはモンスターが可哀想だったね・・・・・・」

 

 

 弓の属性値は高めに設定されているものが多く。

 装備さえ整えばかなりの早さでモンスターを狩ることもでき、強打の装衣と言うものを使えば簡単に気絶ループすら狙うことができる。

 気絶ループしているジュラドドスを思い出したのか、葵は少しだけ遠い目をした。

 なお、そのジュラドドスを狩った理由は葵の武器の素材集めだったのだが。

 

 

「弓専用の一矢と千々矢に関しては使うこともあまりないですし・・・・・・」

「まぁな。一矢は隙がでかいし、千々矢はスリンガーの影響をもろに受けるしな」

「とりあえず弓の良い点はここまでですね。次は悪い点になります」

 

 

 弓の強力な攻撃である“竜の一矢”と“竜の千々矢”。

 どちらも強力ではあるのだが明確な弱点があるので2人は説明をやめたようだ。

 ちなみに、一矢と千々矢のどちらもが切断属性を持っているので、尻尾を斬りたいときは使っていった方がよい。

 

 

「弓の悪い点はスタミナの消費が激しいということですかね?」

「あとは可能なら強弓珠が欲しいってところか」

「ああ、確かにそれもありますね。というか私も欲しいですし・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にゆかりは少しだけ落ち込む。

 どうやらゆかりは強弓珠を持っていないようだ。

 欲しい珠が出ないのはモンハンあるあるなのでこればかりは仕方がないだろう。

 

 

「チャージステップにはスタミナを消費する。だから体術っていうスキルが必須になってくるんだ。火力を出すためにはチャージステップをしなくてはいけない。チャージステップをするにはスタミナをきっちりと管理していかないといけない」

「うひゃぁ・・・・・・、大変そうなんだね」

 

 

 落ち込んでしまったゆかりに変わって竜が説明を引き継ぐ。

 と言ってもほとんどのことは話し終えているのだが。

 

 

「とりあえず、弓はスタミナに気を付けて扱えば良いってことを覚えておけば大丈夫だろ」

「うん、分かったよ」

 

 

 メモを書きながらマキは頷く。

 そんなマキの姿を見ながら竜は、隣で落ち込んでいるゆかりをどうしたら良いのか頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第45話

 

 

 

 

 落ち込むゆかりをどうにかもとに戻そうとあたふたする竜を見つつ、葵は自分の扱う武器の紹介を始める。

 

 

「ボクが使うのは片手剣、大剣、スラッシュアクスの3つ。アイスボーンになってからはどれも火力が出しやすくなった武器だね。一先ずは片手剣から話していくね」

 

 

 片手剣。

 そう聞いて攻撃力が低いといった印象を持つ人は少なくないだろう。

 現に竜も火力が低そうといったイメージで全く片手剣を使っていない。

 その証拠に使用回数は0である。

 

 

「片手剣は剣と盾を持った武器で攻撃力が低いイメージはあるけど、実はけっこう火力の出せる武器なんだよ。それに武器を出したままアイテムを使えるっていうのも便利なところだね。これのお陰で他の武器よりも早く回復をすることができるんだ」

「初心者向けの武器って言われてるのはそこら辺もあるんだろうな」

 

 

 初心者はちょっとのミスでモンスターにやられてしまうことが多い。

 なので武器を出したまま回復のできる片手剣はそのミスをかなり減らすことができるのだ。

 

 

「移動速度も早いし段差とかがないところでもジャンプすることができるから乗り攻撃が狙えるんだ」

「乗り攻撃って?」

 

 

 聞きなれない攻撃の名前にマキは不思議そうに尋ねる。

 

 

「乗り攻撃っていうのはその名の通りモンスターに乗って攻撃をすることだな。これを当てるとモンスターが倒れて隙だらけになるんだ」

「それを自由に狙える武器は少ないからね。あとは盾を使って打撃攻撃もできるよ。切断と打撃の両方を使える武器も少ないもんね」

 

 

 盾なのに打撃攻撃と疑問に思うかもしれないが、片手剣の盾は防具して使うことは基本的にない。

 緊急時に最終手段として使うことはあっても防御のメイン手段として使うのには向いていないのだ。

 なので片手剣はシンプルに片手剣、片手鈍器と考えてしまった方が戦いやすかったりする。

 

 

「片手剣はシンプルだから説明も少ないんだよね。次は悪い点だよ。片手剣の悪い点は攻撃距離の短さだね」

 

 

 片手剣はとてもシンプルで悪い点はたった1つしかない。

 もともとはやや火力不足気味だったのだが、アイスボーンになってからジャストラッシュが追加されて火力の問題が解消されたので、攻撃距離だけになったのだ。

 

 

「攻撃の距離が短いからかなりモンスターに近づかないといけないんだよ。同じ攻撃距離なら双剣と同じだったかな」

「逆に言うとそれだけなんだから使いやすくはあるわけだな。まぁ、俺は使わないんだけど」

 

 

 葵の言葉を肯定するように竜は頷く。

 そんな竜の言葉に葵は微妙な表情をしながら竜を見た。

 

 

「ほんと、竜くんはかたくなに片手剣の使用回数を0にしてるよね・・・・・・」

「なんでそこまで片手剣を使おうとせえへんのや?」

「もともとの火力が低そうってイメージがあったのもあるけど、ここまできたら使用回数を0のままにしておこうかと思ってな」

 

 

 他の武器はちゃんと使っているだけに片手剣の使用回数0というのがとくに浮いていた。

 竜の答えにマキを除いた全員が呆れた顔で竜を見る。

 たったそれだけの理由で1つの武器を全く使っていないのだから呆れるしかないのだろう。

 

 

「モンスターに近づかなきゃいけないっていうのはちょっと怖いなぁ」

「それは仕方がないな。まぁ、やっていけばそのうち慣れるんじゃないか?」

 

 

 片手剣のメモを終えたマキはメモを見ながら言う。

 片手剣と双剣はどちらも同じ攻撃距離で、かなりモンスターに近づかなければならない。

 その距離はもはや密着と言っても過言ではない距離だ。

 そのことを正確にイメージしたわけではないだろうが、それでもかなり近づかなくてはいけないということから目の前にモンスターがいることを想像したのだろう。

 マキの言葉に竜はマキ茶を口に運びながら軽く答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第46話

 

 

 

 

 かたくなに片手剣を使おうとしない竜に呆れた表情をうかべる茜たち。

 こればかりはどんなに勧められても使おうとしないため、もはや諦めのレベルにまでなっていた。

 

 

「んん、じゃあ次は大剣だね」

「真溜め抜刀会心エリアルや!」

「混ぜるな混ぜるな」

 

 

 葵の言葉に茜は呪文のような言葉を言う。

 茜の言った言葉はどれも大剣の戦い方を示しており、全てを混ぜて戦おうとすると逆に戦いづらくて弱くなってしまう。

 明らかに戦いづらいやり方を言う茜に竜は頭に手刀を軽く落とすのだった。

 

 

「えっと、大剣はその名前の通り大きな剣で戦うんだ。攻撃範囲は広めで攻撃力もかなり高いんだよ。それに大きな剣を盾のようにして防御することもできるんだ」

「そんなに大きいの?」

「長さだけなら太刀の方が長いと思うけど、幅とかも考えたらかなり大きいよ」

 

 

 大きいと言う言葉が多く出てきたことが気になったのか、マキは尋ねる。

 一般的にモンハンを知らない人に大剣と聞けばせいぜいが少し大きい程度の西洋剣を思い浮かべるかもしれない。

 アニメやゲームに詳しければもしかしたらどこかの死神代行の持っている刀や、自分を元ソルジャーのクラス1stだと思い込んでいる魔晄中毒者の持っている剣などを思い浮かべるかもしれないが。

 

 

「大剣はもともとの攻撃力の高さに加えて溜め斬りっていう攻撃でさらに攻撃力を高めることができるんだよ。しかも溜め斬りは連続で撃つことができるんだ。全部決まったらかなりのダメージがモンスターに与えられるんだよ」

「確かにダメージはでかいけど全部当てるのが難しいよな」

 

 

 葵の言葉に竜は自分が大剣を使ったときのことを思い出しながら呟いた。

 普通に溜め斬りから真溜め斬りまで撃つのであれば、モンスターがスタンなどをしていない限り全部当てることは不可能だ。

 しかし、アイスボーンから追加された強化撃ちによって短い時間で真溜め斬りにまで続けることができるようになったのだ。

 一応、ワールドのときからタックルを間に挟んで真溜め斬りに続けることはできていたが、タックルは前方に少し移動してしまうために狙いの修正が必要だった。

 しかし強化撃ちはその場でとどまって撃つので位置をそこまで気にする必要がないのだ。

 

 

「次は悪い点だよ。大剣はその名の通り大きな剣を持っているから動きが遅いんだ。移動も攻撃もかなり遅いの。だから攻撃するとき以外は基本的に武器を背負ったままになるかな。武器を出したり仕舞ったりする動作が多くなるのがちょっと手間かも」

「といってもそれを補う戦い方があるだろ」

「それって最初に茜ちゃんが言ってたやつ?」

「そうだね。抜刀会心っていう武器を出して攻撃するときに会心率が上がるスキルがあって、それのお陰でもともと高い攻撃力をさらに高めることができるんだ。それでモンスターがスタンしたりして動けなくなったら真溜めまで一気に続けて攻撃するって感じで」

「武器の見た目とは裏腹にモンスターの隙を突いていく立ち回り方になるんですね?」

 

 

 大剣の悪い点を聞いてマキは茜が最初に言っていた言葉を思い出す。

 

 真溜め抜刀会心エリアル。

 真溜めはそのまま真溜めきりで戦うこと。

 抜刀会心は抜刀術【技】のスキルによって会心率100%の高火力な会心攻撃を使って戦うこと。

 エリアルは段差から回避で跳び、跳んですぐに段差側に向かってジャンプ溜め斬りをおこなうという連続攻撃の戦い方を指しているが、普通にジャンプ攻撃を多めに扱って戦うことを指している場合もあるので人によって定義は様々だ。

 

 大剣は、無理やりゴリ押ししそうな見た目の武器とは裏腹に、モンスターの隙を見極めて確実に攻撃を当てていくという繊細な立ち回りが重要なのだ。

 

 

「あ、盾みたいに防御ができるって言ったけど、防御すると切れ味が落ちちゃうからあまり使えないんだよね」

「つまりはガードを使わないように立ち回らないといけないってことや」

「あと、俺が前に使ったときなんだが溜め斬りとかをやってると途中で動きをキャンセルできないから攻撃をよく受けちまうんだよな・・・・・・」

「それは竜くんが攻撃を欲張りすぎなだけだよ」

 

 

 思い出したように葵は重要なことを追加で言う。

 防御をすれば切れ味が落ちるということは迂闊に防御ができないと言うこと。

 抜刀大剣で戦うのであればそこまで関係はないだろうが、知っておいて損はない情報だった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第47話


誤字報告ありがとうございます。

紲星が絆星になってしまっていました。




 

 

 

 

 片手剣、大剣と続いて残る葵の説明する武器は1つになった。

 最後に残った武器の名前はスラッシュアクス。

 斧と剣の形体を使い分けて戦う武器だ。

 

 

「それじゃあボクが説明する最後の武器だね。最後の武器はスラッシュアクス。斧と剣を使い分けて戦う武器で、斧はモンスターを怯ませやすくて、剣は高い火力を繰り出すことができるよ」

「あれやな!っジャーンプ、ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ、ボーンッ!」

「お姉ちゃん、ボクが零距離を使うたびにそれを言ってるよね」

「いきなり何を言ってるのかと思ったらそれか」

 

 

 茜がテンション高めに擬音を口にしたことを不思議に思ったが、葵の言葉に擬音の意味が分かり、納得したように頷いた。

 ゆかりとマキはいまいち分かっていないのか首をかしげていた。

 

 

「えっと、お姉ちゃんが言ってたのは気にしないで良いから。スラッシュアクスは専用のゲージが2つあってその内の片方を使って強力な剣の攻撃を出すことができるんだ。だから剣の攻撃を主体に戦う武器って感じかな」

「実際はゲージとビンやけどややこしいからしゃーないわな」

「スラッシュアクスには必殺技があって、零距離属性解放突きって言うんだけど、剣の状態でモンスターに剣を突き刺して連続で爆発ダメージを与えるんだよ」

 

 

 茜の擬音のことは置いておいて、葵はスラッシュアクスの基本的な戦い方と必殺技を言っていく。

 スラッシュアクスには剣で攻撃するために必要なビンと、剣で攻撃をすると溜まっていくスラッシュゲージと呼ばれるものがある。

 剣での攻撃でビンを消費しつつスラッシュゲージを溜め、スラッシュゲージを溜めきると高出力状態になる。

 高出力状態になれば剣での攻撃時に追加ダメージが入り、葵の言う零距離属性解放突きを使うことができるようになるのだ。

 また、アイスボーンから追加されたクラッチクローでモンスターに捕まってから零距離属性解放突きを使うことも可能だ。

 

 

「スラッシュアクスには武器自体の属性以外にもビンの種類があるんだけど、これはややこしいから基本的には強撃ビンっていうのを選んでおくと無難かな」

「俺が気に入ってるのは減気ビンだな。睡眠属性のやつについてると眠り、疲労、スタンの3つを狙えるから」

「それ、覚醒武器以外だとドスジャグラスの武器だけだよね?」

 

 

 スラッシュアクスにあるビンの名称は滅龍ビン、減気ビン、強属性ビン、強撃ビン、麻痺ビン、毒ビンの6種類。

 これらにはそれぞれ特徴があり、一番の特徴としてはビン自体の属性は武器の属性としては扱われないと言うことだろうか。

 例えば、氷属性のスラッシュアクスに滅竜ビンが着いていたとした場合。

 この場合は剣の状態なら氷属性と龍属性の複合となり、斧の時は氷属性のみとなる。

 あくまでもビンは剣の状態で攻撃するときに付与されるものということになるのだ。

 

 

「えっと、次にスラッシュアクスの悪い点だよ。斧と剣のどっちも防御手段がなくて回避をしていかないといけないんだ。それとビンの残りが30%以下の状態で斧から剣に変えようとするとビンをリロードするモーションになって大きな隙ができちゃうんだよ」

「戦闘中にやってしまったら一気にやられてしまうかもしれないってことですね?」

「ビンの残量に気をつけて戦っていかないといけないってことだな」

 

 

 ビンの残量が30%以下の時にやってしまうリロードのモーション。

 これはビンを一気に回復できはするものの大きな隙をモンスターに晒してしまう。

 可能ならば転身を着た状態でおこなって転身の回避によるモーションキャンセルをやっていきたいところだ。

 

 

「とりあえずうちは葵がモンスターにクラッチしてドーンしてズバババのボーンッ!を見るのは好きやで」

「お姉ちゃん・・・・・・」

 

 

 茜の言葉に葵はまっすぐに見つめ返す。

 そして、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「・・・・・・擬音ばっかで何が言いたいのか分からないよ」

「なんやてっ?!」

 

 

 葵の言葉に茜は大きく声をあげるのだった。

 

 

 ちなみに、茜の擬音だらけの言葉を解説すると以下の内容になる。

 

 モンスターに出会い頭に頭にクラッチして壁に叩きつけてダウン。

 剣の形体にして連続で斬ってスラッシュゲージを溜めていく。

 スラッシュゲージが溜まりきる直前に属性解放突きを使って爆発を与え、直後にクラッチクローを使ってモンスターにくっついて零距離属性解放突きを叩き込む。

 

 開幕からかなりのダメージを稼げるコンボではあるのだ。

 茜の擬音だらけの言葉をきっちりと理解できていればの話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第48話

 

 

 

 

 茜の擬音だらけの言葉もあったが無事に葵の使用している武器の説明も終わり、残るは竜の使用している武器と誰もメインでは使っていない武器のみとなった。

 念のために振り返っておくが、茜はヘビィボウガン、ゆかりは太刀と弓、葵は片手剣と大剣とスラッシュアクスを説明している。

 そして竜の使用している武器は操虫棍、狩猟笛、ライトボウガン、弓の4つ。

 この中で弓だけがゆかりと被っていたので、弓はゆかりの時に説明してもらったが。

 

 

「それじゃ、最後は俺だな。そうだな、操虫棍も狩猟笛も独特だから先にライトボウガンから説明していくか」

「茜ちゃんの言ってたヘビィボウガンと名前が似てるね」

「まぁ、近いものではあるからな」

 

 

 ライトボウガンという名前が茜の説明してくれたヘビィボウガンと似ていることに気がついたマキは呟く。

 ライトボウガンとヘビィボウガン。

 どちらも弾を消費してモンスターに攻撃をする武器であり、軽い(ライト)重い(ヘビィ)の名の通りに違いがあるのだ。

 

 

「まず、ライトボウガンはヘビィボウガンと同じで弾を撃って戦う武器だ。そしてヘビィボウガンとの違いはその機動力。ヘビィボウガンとは比べ物にならない速度で移動することができるんだ」

 

 

 名は体を表すとは言うが、ここまでハッキリと表している武器もそうはないだろう。

 ライトボウガンは火力こそやや低いものの、その機動力で自由にフィールドを走って弱点を狙うことができるのだ。

 

 

「その代わりに攻撃力がちょっと低いが、それを補うようにライトボウガンには速射と言う機能がある。これはボウガンごとに特定の弾を1発の消費で2、3発の連続射撃をおこなうことができる機能なんだ。これによって1発の攻撃力が低かったのを補うことができるんだ」

「特に属性弾を速射してるのは見るかな」

「あとは徹甲榴弾やな。これでモンスターが気絶しとるんをよく見るわ」

「あれはハメ技でしょう・・・・・・」

 

 

 竜の速射の説明に葵と茜は竜がライトボウガンを使っているときのことを思いだし、ゆかりは野良マルチをしているときの出来事を思い出した。

 それほどまでにライトボウガンで速射を使った立ち回りは有用なのだ。

 

 

「あと起爆竜弾って言う地雷のようなものをセットすることができるな。これは攻撃を与えると爆発するもので、うまく頭に当てられればモンスターを気絶させたり部位破壊を狙えたりするな」

「ヘビィボウガンとはけっこう違うんだね?」

「パゥワーのヘビィ、テクニカルのライトっちゅー感じやな」

 

 

 どこかの像の形をした石像のような言い方で茜は言う。

 確かにヘビィボウガンは高火力の弾を用いてモンスターを殲滅していくタイプであり、ライトボウガンはモンスターに合わせて弱点の速射をおこなったり毒や麻痺、睡眠の弾を撃ってモンスターを拘束したりと搦め手を使うことも多い。

 そのため茜の表現はあながち間違っていないので竜は特に否定することもなかった。

 

 ちなみに、起爆竜弾は修正を受けており、修正を受ける前はかなりの壊れコンボを使うことができたりもした。

 

 

「じゃあ次はライトボウガンの悪い点だな。ライトボウガンは速射が攻撃力の要になる。だから属性弾の速射を撃てるやつが必要になってくるんだが、それを属性ごとに作らないといけないんだ。まぁ、狩れるやつが増えればその点も解消できるんだが」

 

 

 先にも説明していたがライトボウガンはそれぞれに対応した速射の弾が決まっている。

 狩るモンスターの弱点の属性の弾を速射で撃ち込めばかなりのダメージを稼ぐことができるので、基本的には弱点の弾を速射することになる。

 しかし2種類の属性弾を速射することができる武器は限られているため、それまではライトボウガンをいくつも使い分けていく必要があるのだ。

 属性ごとに武器を作るのはどの武器でも同じことなのだが、これは無属性運用や竜属性、爆発属性で運用のできる近接武器にはない問題だろう。

 まぁ、ライトボウガンでも徹甲榴弾を速射すればある程度は気にしなくて良いのだが、それを手に入れることができるのがアイスボーンになってからなので、あまり考えても意味はないが。

 

 

「ヘビィだけなんもあれやし、うちも使ってみようかなぁ」

「お姉ちゃんはまず拡散をぶっぱするの止めようよ」

「モンスターが倒れた瞬間に撃つもんな・・・・・・」

「茜さん・・・・・・、それ、普通なら地雷ですよ・・・・・・」

「しゃ、しゃーないんや!拡散が、拡散がうちにぶっぱせいって言ってくるんやから!」

 

 

 茜の撃つ拡散弾は威力こそ高いものの味方も吹き飛ばしてしまう弾なので、マルチではあまり使わない方がいいのだ。

 葵たちから向けられる視線に茜は慌てた様子で言い訳にならない言い訳を言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第49話

 

 

 

 

 ライトボウガンの説明が終わり、竜はマキ茶を口に運ぶ。

 竜のライトボウガンの説明を聞き、ヘビィボウガンを使っていた茜は興味を持ったのかライトボウガンを検索して調べていた。

 

 

「ほむほむ、生産で作るならガルルガとかが使いやすそうなんやね。あとは使いやすそうなんはナナとナナゼノ辺りやな」

「あとは徹甲2だけでいくんならイビジョのやつだな。それとストームスリンガーも作っとくと良いかもな」

 

 

 ライトボウガンを調べた茜は使いやすそうなライトボウガンをあげていく。

 最初から作りたいものを決めておけば余計なモンスターを狩る必要もないので、情報収集は大切なのだ。

 

 

「っと、次は操虫棍にするかな」

 

 

 うっかりライトボウガンの話を続けてしまいそうになっていたことに気がついた竜は次に説明する武器の名前を言う。

 

 

「操虫棍・・・・・・って、名前からして虫が関係してる?」

「そうだな。操虫棍はその名の通り虫を操ってモンスターと戦う武器だ。モンスターから取れる3色のエキスを集めて自身を強化して戦うんだ。一応、虫以外のやつもあることはあるぞ」

 

 

 武器の名前にある虫と言う言葉からやや引いた様子でマキは言う。

 これは虫が苦手な人には少し使いづらい武器かもしれない。

 だが操虫棍には虫ではないものが1つだけ存在しているので虫が苦手な人でもそちらを使えば問題はないだろう。

 

 

「あとは操虫棍の一番の特徴で、ある程度は自由に空中を飛び回ることができることだな。このときにできる空中攻撃にはモンスターに乗るためのダメージを溜めることができるから操虫棍は乗りダウンを狙うのが仕事とも言われてるな」

「まぁ、他の武器よりは乗りやすいですからね」

「でもたまにボクが片手剣で乗ることもあるけどね」

「うちはそこを狙い撃つだけやで」

 

 

 操虫棍は自由に好きなタイミングでジャンプをすることができ、モンスターにもっとも乗りやすい武器と言っても過言ではない。

 だが、必ず操虫棍が乗れるかと言えばそうではない。

 もうすぐ乗れそうなときに他の武器が攻撃を当ててモンスターに乗るのをかっさらっていくことなどざらにあるのだ。

 

 

「ジャンプを好きなタイミングでできるからモンスターの攻撃を3次元的に避けることができるのも強みかな。他の武器だと避けられない攻撃も操虫棍なら避けられることがあるから」

「凪ぎ払いブレスとかやね」

「でもたまに空中で攻撃を受けて撃墜されてるよね」

「空中では無防備だからしゃーない」

 

 

 操虫棍のジャンプは緊急回避として活用することも可能で、竜は攻撃を避ける際にジャンプを使い、ジャンプして避けた先にいるモンスターに向かってそのまま攻撃に移るなどをよくやっている。

 なお、モンスターのジャンプによって空中で叩き落とされることもあるので過信はできないのだが。

 

 

「んで悪い点だが、基本的にエキスによる強化がないと火力がかなり落ちることだな。特に赤色のエキスをとっておかないと攻撃のモーションとかも変わってかなり戦いにくい。だから赤エキスを必ず最優先で確保しないといけないんだ」

「エキスの色の場所を覚えないといけないのは大変そうだよね」

「虫を動かしながら走り回っとるもんな」

 

 

 操虫棍の虫によってモンスターから取れるエキスの位置はモンスターによって異なる。

 あるモンスターの腕からは赤色が取れたのに、別のモンスターからは白色が取れた。

 そんなことはよくあることなのだ。

 

 

「あとは虫の種類とかもいくつかあるけど。これは使うようになってからで大丈夫だろ」

「虫が苦手やったら1つしか選択肢はないと思うんやけどね」

 

 

 操虫棍を使ううえで切っても切れないもの、猟虫。

 この猟虫には切断属性と打撃属性があり、他にも扱う粉塵の種類やつけられる属性、さらにはそれぞれに異なるステータスがある。

 これらをすべて説明するとなるとかなりややこしくなってしまうので、この辺りの説明の追加は実際にマキが使ってからの方がいいだろう。

 

 

「と、まぁ操虫棍についてはこんなもんかな」

「自由にジャンプできて空中も飛び回れるのはカッコいいけど・・・・・・、虫かぁ・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にマキは悩ましげに声をあげる。

 やはり虫を扱うということに抵抗があるのか、マキはそこまで操虫棍に引かれるものはなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第50話

 

 

 

 

 ライトボウガン、操虫棍の説明が終わり、竜は最後の武器である狩猟笛の説明を始める。

 楽器の武器ということもあってか今までの説明を聞いてきた武器よりもマキは興味を持っているようで、説明が始まるのを今か今かとウズウズしている様子が見られた

 

 

「最後は狩猟笛だな。これは大きな笛をハンマーのように扱ってモンスターを叩く武器だ。うまく頭に当て続けることができればモンスターを気絶させて動きを封じることができるぞ」

「ねぇねぇ、笛ってことは音楽が弾けるの?」

「おう、狩猟笛では演奏する旋律も重要な要素だからな」

 

 

 マキの質問に竜が頷いて答えると、マキは目をキラキラと光らせた。

 マキはもともと楽器に興味を持っているだけに、今までの武器の説明よりも食いつきが強く感じられる。

 

 

「狩猟笛の一番のポイントはなんと言っても自己強化、及び他者の強化だ。狩猟笛は指定の旋律を揃えて鳴らすことでさまざまな効果を付与することができるんだ。攻撃力を上げたり防御力を上げたり、風圧に対して耐性を付けたり、かけられる効果は狩猟笛ごとに決まっているけどたくさんの効果があるんだよ」

「確かに狩猟笛のバフは助かるけど自分で使おうとは思えないんだよね」

「旋律を揃えるのが複雑そうなんもあるし、難しそうなんよね」

 

 

 竜の言葉に葵と茜は竜が狩猟笛を使っているときのことを思い出しながら言う。

 狩猟笛を使わない人の大半は旋律システムが複雑だと思って敬遠していることが多い。

 実際には画面の右上にガイドが出ており、左上の楽譜の部分にも次にどれを弾けばいいのかガイドも出ているのだ。

 

 

「自分や仲間を強化し、強化が終わったらモンスターの頭を積極的に殴って気絶させる。そして隙ができたら追加で演奏を重ねる。これが狩猟笛のざっくりとした戦い方かな」

「本当にざっくりとしてますね・・・・・・」

 

 

 狩猟笛の旋律で付与された強化は時間経過で消滅する。

 その強化は追加で旋律を演奏することによって強化時間が伸びるので、狩猟笛は強化が切れないように隙を見つけたら積極的に演奏をした方がいいのだ。

 

 

「悪い点は、そうだな・・・・・・。移動速度、は自分への強化でなんとかなるか。切れ味とかも強化でなんとかなるし・・・・・・。演奏をこまめにしないといけないことか?」

「ああ、大体のことは自分を強化することで補えるんですね?」

「攻撃力も防御力も上げられるし、会心率とか状態異常も対策できるもんね」

 

 

 竜は狩猟笛の悪い点をあげようとして少しだけ悩みながら答えた。

 事実として狩猟笛は自己強化である程度のことは補えるので、弱点らしい弱点としては演奏の回数くらいしかないのだ。

 まぁ、人によっては攻撃のモーションなどが気になったりするかもしれないが。

 少なくとも攻撃をしていれば自然と旋律は揃うので、そこまで意識をして旋律を揃える必要は実はそこまでなかったりする。

 最低限、攻撃強化の旋律さえ覚えてしまえば十分に戦うことが可能なのだ。

 

 

「防御ができないってのはあるけどそれは他の武器でも同じことが言えるしな」

「ボクの使っているスラッシュアクスとかだね」

「弓もそうですね」

 

 

 防御ができない武器は狩猟笛以外にも存在しているのでこれに関しては悪い点とは言いにくい。

 むしろ狩猟笛は防御力を上げることができるので、他の防御できない武器よりは防御力があるのではないだろうか。

 

 

「とりあえず狩猟笛に関してはこんなものか。あとは双剣、ハンマー、ランス、ガンランス、チャージアックスの5つか。この辺は使うことはあってもそこまで使ってないからなぁ」

「その辺はネットで調べるしかないですかね」

「んー・・・・・・。私、狩猟笛を使ってみようかな」

「「えっ?!」」

 

 

 残りの武器をどう説明しようか考えていると、マキがメモを見返しながらポツリと呟いた。

 楽器の武器であるということもあってなのか一番興味を惹かれたようだ。

 マキの呟きに茜と葵は驚きの声をあげた。

 

 

「マジか?!マジで言うとんかマキマキ?!」

「うん。聞いていて一番面白そうだったから」

 

 

 マキの肩を掴んで茜は問い詰める。

 そんな茜の言葉にマキはハッキリと頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第51話

 

 

 

 

 マキが狩猟笛を使おうかと言ったことに竜たちは驚きの表情を見せる。

 正直なところ、竜たちは狩猟笛に関しては選ばれることはないだろうと思っていたので、マキが狩猟笛を選んだのは本当に意外だったのだ。

 

 

「ま、まぁ、どの武器を使うのも自由だし。あとで別の武器を使うこともできるから良いんじゃないか?」

 

 

 マキの言葉に驚きつつ、竜は狩猟笛を使うことを止めはしなかった。

 ぶっちゃけて言えば狩猟笛を使うハンター、通称カリピストが増えることに嬉しいとも思っている。

 とは言ってもマキが狩猟笛を使い続けるのかは不明なのだが。

 

 

「そういやマキマキはもうモンハンを買ってあるんか?」

「ううん、まだだよ。だから明日の帰りにでも買ってこようかと思ってるんだ」

 

 

 茜の言葉にマキは首を横に振って答える。

 

 

「ほんならまともにプレイできるようになるんは明後日くらいになりそうやな」

「あー、確かにそうなりそうですよね」

「うん?なんで明後日?明日買うんだから明日からやれるでしょ?」

 

 

 まだモンスターハンターワールドを買っていないということから、茜はマキが実際にモンスターと戦うことができるのは明後日辺りからになるだろうと予想する。

 茜の言葉にゆかりも理解したのか納得したように頷く。

 2人の様子にマキはどういうことなのか分からず首をかしげた。

 

 

「えっと、マキは操作するキャラクターにこだわるタイプか?」

「操作するキャラクター?そうだね。自分が使うキャラクターなんだから納得のいく姿にしたいかな。それがどうかしたの?」

 

 

 首をかしげているマキに竜は尋ねる。

 質問の意味は分からなかったが、マキは素直に答えた。

 だが、この質問の答えによってマキがまともにモンハンをプレイすることができるようになるのが明後日あたりになることをほぼ確定させる。

 

 モンスターハンターワールドのキャラクター作成には細かな調整が可能で、1から細かく設定していくとなるとかなりの時間を使ってしまうのだ。

 一応、最初から作られているデフォルトもあるのだが、こだわりたい人はデフォルトではなく自分の手で作成していくだろう。

 そのため操作するキャラクターにこだわると言ったマキは時間がかかるのだろうと思われたのだ。

 

 

「まぁ、これはマキさんがやってみれば意味がわかると思うよ」

「うちらはなんも言わんとくわ」

「マキさんはどこまでこだわることができますかね?」

「時には諦めも必要だとは思うがな」

「え?え?え?」

 

 

 自分を見ながら口々に言われる言葉にマキの頭の中は疑問符で埋め尽くされる。

 とは言ってもこれに関しては実際にやらないと意味を理解することは難しいだろう。

 事実として、竜たちもキャラクターの作成くらいすぐ終わるだろうと考えて初めてその日はキャラクター作成だけで終わってしまっていた経験があるのだ。

 

 

「こだわるとキリがないからなぁ・・・・・・」

「しかもこだわって作ったやつが実際に使ってみると変に歪んだりしますしね」

「あれは罠でしょ・・・・・・」

 

 

 モンハンのキャラクター作成。

 そこには魔物が潜んでいる。

 時間をかけ、満足のいくキャラクターが作成できたとしよう。

 そこにかけた時間は言葉にできないが達成感はかなりのものがあるに違いない。

 そして、ようやくムービーが始まり、実際に動くキャラクターを見る。

 

 画面内を駆け回り、作成したキャラクターの顔が初めてあらわとなった瞬間。

 その時、1つの思いが浮かんでくるだろう。

 

 

 ────うわ、私のハンター。不細工すぎ?

 

 

 カッコよくできただとか。

 かわいくできただとか。

 そんな思いは滅多に出てこない。

 

 こだわってやればやるほどにそのダメージは大きいのだ。

 

 そんなことを知らないマキはただただ首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第52話



UAが8000を越えたので10000になった時の特別話として以前に書いたヤンデレエンドのアンケートを取ろうかと思います。

期間はUAが9000を越えるまでとします。

9000を越えた時点で一番多い票の話を書こうと思います。




 

 

 

 

 モンハン談義が続き、ふと竜は時計を見た。

 よほど会話に夢中になっていたのかいつの間にか時間は経っており、“cafe Maki”に着いてからすでに一時間ほどが経過していた。

 

 

「・・・・・・マジか、いつの間にかこんな時間かよ」

「うん?あ、ホンマや」

「ぜんぜん気づかなかったね」

 

 

 竜の言葉に茜と葵も時計を確認し、時間に驚く。

 時間に気づいた竜たちは自分たちの飲み物を飲み終えていく。

 

 

「っし、時間も時間だから帰るかな」

「それもそうですね」

「せやね」

「けっこう長くお店にいたんだね」

 

 

 全員が飲み物を飲み終えたことを確認し、竜たちは立ち上がる。

 竜たちの言葉にマキは少しだけ寂しそうな表情を浮かべる。

 帰る時間になって帰るのは普通のことなのだが、それでもマキは寂しさを感じずにはいられなかった。

 

 

「・・・・・・マキさん、また明日学校で会いましょうね」

「あ・・・・・・、うん!」

 

 

 寂しそうなマキの様子に気がついたゆかりはマキの方を見て言う。

 ゆかりの言葉にマキは嬉しそうに頷いた。

 

 

「じゃ、また明日な」

「ほななー」

「ごちそうさまでした」

「うん、みんなもまたね」

 

 

 会計を済ませ、竜たちは入り口に移動する。

 リョウたちの言葉にマキは少しだけ寂しさをにじませながらも手を振った。

 そして竜たちは店から出た。

 

 

「さて、と。とりあえずは“清花荘”に先に行くか」

「え?わざわざボクたちの方に来なくてもいいんだよ?」

「せやで。竜の家の方が先に着くんやからな」

 

 

 竜の言葉に葵と茜は首をかしげる。

 “清花荘”と竜の家では竜の家の方が近いので“清花荘”の方を先に行くとなれば竜にとっては遠回りになってしまうのだ。

 

 

「いいんだよ。女を見送るのが男の仕事だ」

「カッコつけやなぁ・・・・・・」

「もう、大丈夫なのに・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に茜は茶化すように、葵は呆れ混じりの声で答える。

 しかし、その言葉とは裏腹に表情には嬉しさがにじみ出ているように見えた。

 なお、竜は自分の言った言葉に恥ずかしくなってきたのか、2人から顔を逸らしていたので気づくことはなかった。

 

 

「そ、そういえばゆかりはどこに住んでいるんだ?」

「私ですか?私も2人と同じで“清花荘”に住んでいますよ」

「せやで」

 

 

 竜が恥ずかしさを誤魔化しながらゆかりに尋ねる。

 ゆかりの答えに茜も同意するように頷いた。

 

 

「なら、先に“清花荘”で問題はないな」

「全く、竜は心配性やなぁ」

「悪いわけではないですけどね」

 

 

 ゆかりの住んでいる場所も分かり、ひとまずは“清花荘”に向かうことが決まった。

 やや呆れ混じりな茜の言葉にゆかりは笑みをこぼしながら言うのだった。

 

 

「そういえば竜は今日は晩御飯どうするんや?」

 

 

 茜は昨日の晩御飯のことを思い出して竜に尋ねる。

 今の時間は昨日とそこまで変わらない時間。

 そのため今日も晩御飯をどうするのかが気になったのだ。

 ちなみに葵は茜の言葉に昨日の出来事を思い出して顔を赤くしている。

 

 

「んあ?いや、流石に2日目ってのはどうだよ」

「うちは気にせんで」

 

 

 竜の言葉に茜は笑いながら答える。

 食費という点で言うなら竜の考えの方が正しいのだろうが、乙女心的に言うなら少しでも一緒にいる時間は多くしたいという茜の気持ちも分からないでもないだろう。

 

 

「つってもなぁ・・・・・・」

「では、今から食材を買いに行ってその費用を全て出すのではどうです?」

「おお、ゆかりさん良いアイデアや!」

 

 

 茜の言葉に悩む竜にゆかりは1つの提案をする。

 ゆかりの提案に茜は指を鳴らした。

 

 

「可能ならば私も費用を出すので一緒にいただきたいのですが・・・・・・」

「ああ、苦手だってマキが言ってたな」

「む~ん・・・・・・、まぁ、ええで」

「ボクは作る立場にないから文句はないよ」

 

 

 申し訳なさそうに言うゆかりに竜は理由を思いだして納得する。

 竜を納得させる提案を出したこともあって、茜はゆかりも一緒に食べることを許可した。

 そんな3人のやり取りに葵は特に文句もなく言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第53話





 

 

 

 ゆかりの案で今日の食費を出すことに納得した竜は茜たちと共にスーパーに着いた。

 竜はスーパーのかごを茜が取る前に取る。

 

 

「むぅ・・・・・・、まぁええわ。食べたいものとかはあるんか?」

「そうだな・・・・・・。昨日が揚げ物だったからさっぱりとしたものが良いかな」

「そうですね。私も同じでさっぱりとしたものが良いです」

 

 

 竜がかごを取ったことに茜は少しだけ不満そうにするものの、諦めたように息を吐いて何が食べたいかを聞く。

 茜の言葉に竜とゆかりは少し考えてから食べたいものを答えた。

 ゆかりの肯定する言葉に竜は少しだけ違和感を感じたが、どうして違和感を感じたのかが分からずそのまま忘れていった。

 

 

「さっぱりしたものかぁ。肉と魚ならどっちなん?」

「魚・・・・・・、いや、肉も・・・・・・」

「私はどちらでも大丈夫ですが」

 

 

 さっぱりとしたものが食べたいと言う2人の言葉に茜は肉と魚の二択で料理の種類を決めようとする。

 肉と魚のどちらにするか。

 それは男子高校生にとって難しい質問で、竜は頭を抱え込んでしまった。

 そんな竜の隣でゆかりは質問した人が困る答えを言う。

 

 

「そこはきっちりと答えてほしいんやけどねぇ・・・・・・」

「ぐぬぬぬぬ・・・・・・」

「竜くん、ここはシンプルにどっちが食べたいかで考えたら?」

 

 

 ゆかりの答えに茜はやれやれといった様子で呟いた。

 頭を抱えながら唸りだした竜に葵は助け船を出す。

 葵は竜が昨日の晩御飯で食べたものとは違う食材にした方が良いのではないかと悩んでいることに気がついたのでそう言ったのだ。

 

 

「ぬぅ、それなら・・・・・・やっぱり肉かな」

「お肉やね。ほな、お肉コーナーに行くで~」

 

 

 葵の助け船によって竜は少しだけ言いにくそうにしながら答える。

 昨日に続いてまた肉系の晩御飯を提案することに後ろめたさを竜は感じていた。

 そんな竜の様子に茜は気づいていたが、あえてなにも言わずにお肉コーナーへと向かい始めた。

 

 

「お肉も種類はあるからなぁ・・・・・・。鶏肉あたりを使ってみよか?」

「ちなみに俺は豚か鳥が好きだな」

「私はどれも同じくらいですね。料理によって使うお肉は変わるわけですし」

「ボクはどちらかと言うとお肉よりも魚の方が好きかな。お姉ちゃんはお肉だけど」

 

 

 お肉コーナーに並んでいるお肉を見ながら茜は呟く。

 茜の目の前に並んでいるのは一般的な牛、豚、鳥のお肉。

 並んでいるお肉を見ながら竜たちは自分たちの好きなお肉の種類を言っていた。

 

 

「よっし、あとは付け合わせの材料やね」

 

 

 いくつかのお肉を竜の持つかごに入れ、次の食材を探しにスーパーの中を移動するのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 スーパーでの買い物を終え、買ったものを竜が手に持ちながら“清花荘”への道を歩く。

 昨日と同じように茜が買った袋の反対側を持とうとしたが、流石に葵とゆかりがいることもあって竜は断った。

 

 

「お肉でさっぱりやからなぁ・・・・・・」

「難しいか?」

 

 

 晩御飯のメニューを考えながら茜は歩く。

 茜の呟きに竜は申し訳なさそうに尋ねる。

 さっぱりしたものが食べたいとは言ったが、竜はお肉を使ってさっぱりとしたものが思いついていない。

 そのため難しいのであればさっぱりでなくても良いと思っていた。

 

 

「いや、大丈夫や。安心してくれて構わんで」

「お姉ちゃんなら大丈夫だから期待してくれて良いかもよ?」

「それなら良いんだが」

 

 

 竜の言葉に茜は首を振って答える。

 茜の言葉を肯定するように葵も同じように答えた。

 2人の言葉に竜は少しだけ心配そうにしながらも納得をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第54話

 

 

 

 

 買い物袋を手に持ちながら、竜たちは竜の家の前に着いた。

 竜の家の前を通ったときに工事の音が聞こえてきたことに茜たちは不思議そうにしていた。

 

 

「なんや、竜の家の前で工事しとるんか」

「そうなんだよ。いつの間にかこうなっててな」

「まぁ、気にしても仕方がないですし。行きましょう」

「・・・・・・・・・・・・あっ」

 

 

 茜の言葉に竜は頷きながら家の向かいにある工事の幕を見る。

 竜自身も家の向かいで工事をしていることに気がついたのは朝のことだったので、一切の情報を持っていないのだ。

 いつまでも工事の幕を見ている意味もないので、ゆかりの言葉に竜たちは歩きだす。

 歩きだした竜たちに遅れて、工事の幕を見ていた葵が不意に小さく言葉を漏らす。

 その声はかなり小さく、竜たちが気づくことはなかった。

 

 

「あのマークって確か・・・・・・えっと、“き────」

「葵~、どうしたん~?」

「あ、今行くよー!」

 

 

 工事の幕に書かれていたマークをどこで見たのかを思い出そうと葵は軽く頭に指を当てた。

 もう少しで思い出せるかといったところで、葵がついてきていないことに気がついた茜に呼ばれ、葵は返事をする。

 茜に呼ばれたことによって思い出そうとしていたことが中断され、葵はもう一度だけ工事の幕を見た。

 

 

「考えすぎ、かな。工事している会社がこれなだけだよね?」

 

 

 そう呟いて葵は竜たちのもとへと早足で向かうのだった。

 

 葵が気になっていた工事の幕。

 そこには、星が2つずれて重なっているマークが書かれていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜の家の前から歩いてしばらくして、竜たちは“清花荘”に着いた。

 

 

「さ、竜とゆかりさんも入ってや」

「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってお姉ちゃん!」

 

 

 茜は自分と葵の暮らしている部屋の扉を開けて竜とゆかりを招き入れようとする。

 そんな茜の行動に葵は慌てた様子で扉の前に立ちはだかった。

 

 

「なんや葵、早く2人を入れな失礼やでー(棒)」

「思いっきり棒読みなのやめて?!分かっててやってるんでしょ?!」

「・・・・・・あー、なるほど」

 

 

 白々しいほどの茜の棒読みに葵は大きな声をあげる。

 葵がなぜ怒っているのかが分からないゆかりは不思議そうに首をかしげ、昨日の出来事から何となく理由を察した竜は軽く頬を掻いた。

 

 

「とにかく!少しだけ待ってて!」

「しゃーないなぁ」

 

 

 そう言って葵は扉を素早く開けて中に入っていった。

 そんな葵に茜はやれやれといった様子で首を振る。

 

 

「えっと、葵さんはどうしたんですか?」

「あー・・・・・・、うーん、言わない方が良いだろうしなぁ・・・・・・」

 

 

 葵の行動にゆかりは不思議そうに竜に尋ねる。

 ゆかりの言葉に竜は葵の行動の理由を言って良いものかと頭を悩ませる。

 

 

「別に言っても構わへんって。ゆかりさんも昨日の(●●●)ことは(●●●)知っとる(●●●●)んやから(●●●●)

「そうなのか?」

「昨日のこと、ですか?・・・・・・ええ、葵さんが自宅ではだらしないことでしたら」

 

 

 茜の言葉に竜は少しだけ驚きながらゆかりを見る。

 昨日の葵のとんでもない姿は今でも思い出すことができる程だが、その事をゆかりが知っているとは思ってもいなかった。

 竜に見られ、ゆかりは葵が自宅でだらしないと言うことを知っていると明かす。

 

 

「あー、まぁ、知られていたとしてもだらしない要素を見られたくないんじゃないか?」

「そういうものなんでしょうか?」

 

 

 ゆかりの言葉に竜は少しだけ考えて、葵の行動の理由を推測して話す。

 竜の推測を聞いたゆかりはそれでも不思議そうに首をかしげるのだった。

 

 

「普段から脱いだものを自分の部屋に置いておかんからこうなるんよ・・・・・・」

 

 

 朝の部屋の状況を思い出しながら茜は呟く。

 昨日のことに続いてこれも常日頃から言い続けていることなので、茜はため息を吐くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第55話





 

 

 

 

 葵が“清花荘”の扉の中に消えてからしばらく、暇になっていた竜たちはスマホのアプリで遊び始めていた。

 ティン、ティン、ティン、と軽快な音と共にドロップの消えていく音がする。

 

 

「おー、リーダースキル込みで10コンボやん」

「落ちコンなしの無効貫通をやった上でここまでコンボを繋げられるのは強いですね」

「コラボキャラで闇属性だから大体のダンジョンに行けるしな」

 

 

 竜のスマホ画面にクリアの表示とチーム画面が写る。

 竜がやっているのはスマホアプリのゲーム、パズル&ドラゴンズ。

 暇なときに簡単に遊べるため、竜がメインでやっているゲームの1つだ。

 

 

「にしても葵は時間がかかっとるなぁ・・・・・・」

「といっても5分くらいですし」

「そんなに散らかしてたのか?」

 

 

 竜のスマホ画面から扉へと顔を向けて茜は呟く。

 茜の呟きにゆかりは自分のスマホを取り出して経過した時間を確認した。

 といっても5分ほどあれば簡単に片付けて誤魔化せるレベルにはなると思えるので、そう考えれば時間がかかっているとも言えるかもしれない。

 

 

「・・・・・・うし、2人とも入ってええで」

「え、良いんですか?」

「かまへんかまへん」

 

 

 待つことに飽きたのか、茜は扉を開けて手招きをする。

 茜の行動に竜とゆかりは驚いて顔を見合わせる。

 確認するゆかりの言葉に茜はヒラヒラと手を振りながら答えて扉の中へと入っていった。

 扉の中に入っていった茜の姿を見て、竜とゆかりは顔を再び見合わせる。

 

 

「えっと・・・・・・、まぁ、入るか?」

「そうですね。まぁ、葵さんには茜さんから許可を得たと言いましょうか」

 

 

 扉の前で立っていても仕方がないため、ゆかりに確認を取る。

 竜の言葉にゆかりはそこまで気にした様子もなく扉を開けた。

 そして竜たちは茜たちの暮らす部屋へと入っていった。

 

 

「ん?」

「ぅぁ~~・・・・・・っ?!」

 

 

 部屋に入ると同時に竜とゆかりの耳にどたばたと慌ただしい音が聞こえてくる。

 どうやら葵はまだなにかをやっているようだ。

 その証拠に葵の言葉にならない叫びのようなものも聞こえてきている。

 竜とゆかりが入ってきたことに気がついた茜はリビングへと続く扉の前で竜とゆかりを待つ。

 

 

「2人ともリビングで待っとってや」

「え、これ入っても大丈夫か?」

「・・・・・・ええんちゃう?」

 

 

 リビングの扉の向こうから聞こえてくる葵の声らしきものに、竜は茜に振り返って尋ねる。

 竜の言葉に茜はとくに深く考えずに答えた。

 どうせリビングに広がっているものは葵のだらしない生活によって広げられたものだけ。

 そんなことまで茜が面倒を見る義理はないのだ。

 まして常日頃からキチンとするように茜は葵に言っている。

 つまり、ハッキリと言ってしまえば葵の自業自得なのである。

 

 そして、躊躇している竜のことなど気にせずに茜は扉を開けた。

 

 

「ッッ~~!!お、おまたせ!!」

 

 

 リビングの扉が開くと同時に葵は部屋の隅へと手に持っていたものを放り投げる。

 葵が放り投げたものは部屋の隅の壁に当たって床に落ちた。

 パッと見たところ床に物は落ちておらず、綺麗な部屋に見える。

 が、そのせいで部屋の隅に放り投げられたものが逆に目立っていた。

 

 ちなみに葵が放り投げたものは黒い大きなビニール袋で、中になにが入っているのかはまったく分からなかった。

 

 

「葵~・・・・・・、あれはちゃんと片付けるんやで?」

「う、うん・・・・・・」

 

 

 部屋の隅に放り投げられたものを指差しながら茜は言う。

 茜の言葉に葵は目を軽く逸らしながら頷いた。

 

 

「ほな、うちは晩御飯の準備をするで」

「少しくらいは手伝えると思うけど・・・・・・」

「ご飯を炊くのなら任せてください」

 

 

 腕捲りをして調理の準備に入ろうとする茜に竜は手伝いを申し出る。

 食費を出すことで納得はしたが、それでも全て茜に任せてしまうのは申し訳なく思ってしまうのだ。

 

 

「大丈夫やって。2人は向こうで葵とゲームでもしててや」

「分かりました」

 

 

 茜の言葉にゆかりはあっさりと葵のもとへと向かっていった。

 あっさりとしたゆかりの行動に竜は少しだけ呆気にとられるが、すぐに意識を戻して茜を見た。

 

 

「ほれ、竜も行ってきい」

「だがなぁ・・・・・・」

「悪いと思うんやったら晩御飯を食べたときに一言言ってくれへんか?」

「一言・・・・・・?」

 

 

 なかなか納得のできない竜に茜は優しく微笑みかけながら言う。

 

 

「せや、『美味しかった』。そう言ってもらえるだけでうちは幸せなんよ」

 

 

 そう言ってにこりと笑う茜に竜は胸をドキリと高鳴らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第56話

 

 

 

 

 茜に促された竜は葵とゆかりのいるリビングへと移動する。

 手伝いをなにもしないと言うのは正直なところ、違和感と言うか、もどかしいと言うべきか、とにかく言葉にできない感覚が竜の中にあった。

 

 

「あ、戻ってきましたね。竜くん、このゲームをやってみませんか?」

「お前な・・・・・・」

 

 

 キッチンからリビングに戻ってきた竜に、ゆかりは1本のゲームを見せた。

 どうやらそのゲームは恋愛ゲームのようで、桜の花びらが舞っているパッケージに数人のヒロインらしきキャラクターが描かれていた。

 茜に晩御飯を作ってもらうことが当たり前かのように振る舞うゆかりの姿に竜はやや呆れ混じりの視線を向ける。

 

 

「ちょっとは手伝った方がいいんじゃないかとか悩まないか・・・・・・?」

「茜さんのことですか?」

 

 

 竜の言葉にゆかりはキッチンへと視線を向ける。

 キッチンでは茜が晩御飯の調理を進めており、包丁の音などが聞こえてきていた。

 

 

「そうですね。手伝いを申し出たときに大丈夫と言われましたので。それに、茜さんは料理にこだわりがある様子。それなら私は手伝わずに信じて待った方がいいと思ったんですよ」

「ゆかり・・・・・・」

 

 

 キッチンで茜に言われた言葉からそこまで読み取ることができたのか、ゆかりはハッキリと言った。

 ゆかりの言葉に竜は少しだけ驚いた表情になった。

 

 

「さ、晩御飯は茜さんに任せて竜くんはこれをやってください」

「・・・・・・分かったよ。んで、これは?恋愛ゲームっぽいが・・・・・・」

「あ、それお姉ちゃんがこのあいだ買ってきたやつだよ」

 

 

 ゆかりの言葉に竜は短くため息を吐き、受け取ったゲームを見る。

 竜は恋愛ゲームを基本的にやらないため、テレビのCMで見たことのあるやつくらいしかタイトルを知らない。

 そのため、竜は受け取ったゲーム“Voice Love Memory”を見たことも聞いたこともなかった。

 竜の持っているゲームのパッケージを見た葵は、そのゲームが茜の買ってきたゲームだということに気づく。

 

 

「まぁ、とりあえずやってみるか。葵、PS4借りるぞ?」

「うん。ボクもどんな内容か気になるから大丈夫だよ」

 

 

 恋愛ゲームを基本的にやらないだけに逆に興味が湧いたのか、竜は葵にPS4を借りて良いか確認する。

 葵自身も茜の買ってきたゲームが気になっていたため、断る理由もなかった。

 

 

「えっと、まずは主人公の名前か・・・・・・。これはデフォルトでいいか」

「それで良いんじゃないかな?」

「いえ、主人公とはプレイヤーの分身。ここは竜くんの名前にするべきなのでは?」

「え、マジで?」

 

 

 ゲームが始まり、主人公の名前設定の画面が開かれる。

 凝った名前にするのもめんどくさいので、デフォルトの名前で進めようとすると、ゆかりがそれに待ったをかけた。

 ゆかりの言葉に竜は驚いて確認をする。

 主人公を自分の名前にするということはヒロインたちに自分の名前が呼ばれるということ。

 竜はできるならそれは避けたかった。

 

 

「いいから、竜くんの名前で始めましょう」

「あ、ちょ・・・・・・。しゃーないか・・・・・・」

 

 

 主人公の名前に悩んで止まっていた竜の手からコントローラーを取ると、ゆかりは素早く竜の名前を入力してしまった。

 しかもそのまま確認決定まで進めてしまったため、修正するにはゲームを再起動するしか方法はない。

 ゆかりの行動に竜は不思議に思いながらも、ため息を吐いてそのまま進行する。

 

 

「へぇ、登場ヒロインはクール系に双子、元気系に後輩の5人なのか」

「・・・・・・ゆかりさん、もしかして分かってて竜くんの名前をつけました?」

 

 

 ゲームのオープニングに登場したヒロインの容姿を見てあることに気がついた葵はゆかりを見る。

 恐らくは茜もその事に気がついてこのゲームを買ってきたのだろう。

 葵の視線から逃れるようにゆかりは顔を逸らす。

 そんな2人の様子に気づかずに竜はゲームを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






もうそろそろでアンケートを締め切ります。

投票していない方はお早めにお願いします。


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第57話



UAが9000を越えましたのでアンケートを締め切りたいと思います。

アンケートの結果、ゆかりさんが選ばれました。

ヤンデレとは言っても私のイメージするヤンデレですので、その辺りはご了承ください。





 

 

 

 

 ゆかりに勧められた恋愛ゲームを竜は進めていく。

 ひとまずは変わったイベントもなく主人公が教室に着くところまで進んだ。

 

 

「お、選択肢が出てきたな。なになに・・・・・・?」

 

 

 ストーリーが進行して初めての選択肢。

 恋愛ゲームをほとんどやらないこともあって、竜は少しだけ興味深そうに選択肢を見た。

 テレビ画面の状況は昼休みで、画面に現れた選択肢は昼食を食べる場所のようだ。

 

 1.教室

 2.学食

 3.中庭

 4.屋上

 

 恐らくは選択した場所に各ヒロインがいるのだと思われるが、誰がどこにいるのかはまったく予想がつかない。

 

 

「これは、どこに行くべきなんでしょうね?」

「ん~、ボクなら安定の学食かな」

「ふむ、まぁ、どのヒロインがいるかは分からないんだし。葵の選んだ学食にしてみるか」

 

 

 どこにどのヒロインがいるのかは不明なのでどこを選んでも同じ。

 そう結論付けた竜は葵の言っていた学食を選択した。

 そしてテレビ画面が選択した選択肢に応じて進行する。

 

 

「お、学食にいたのはこのヒロインだったか」

「クールではありませんでしたか・・・・・・」

「双子でもなかったね」

 

 

 学食にいたヒロインは元気系のヒロインだった。

 ゆかりと葵は個人的に会って欲しかったヒロインではなかったことに少しだけ落ち込んでいた。

 ちなみに学食にいた元気系のヒロインの容姿は、金髪ロングでヒロインの中ではもっともスタイルが良い。

 

 

「まぁ、まだ最初ですし。どんどん進めましょう」

「そうだね。それに他のヒロインたちとも会えるだろうし」

 

 

 いつまでも落ち込んでいても仕方がないので、ゆかりと葵は気持ちを切り替えてゲームの進行を促した。

 2人の言葉に従って、竜はゲームを進める。

 

 

「えっと、放課後に一緒に勉強だとさ」

「む、放課後なんですからさっさと帰ってゲームを始めるのが当然のこと。なのに一緒に勉強とはあまりに不自然・・・・・・。罠ですねこれは」

 

「あ、後輩が食べ歩きに誘ってきた」

「食べ歩きはけっこうお金がかかるものだし。普通に学生ならそうそうできるものじゃないよ。だからこれも罠に違いないよ」

 

「双子が一緒に帰らないか、だとさ」

「それは了承するべきやと思うでー!」

「いえ、ここはあえて断るべきです!」

「っていうかお姉ちゃん、料理は大丈夫なの?」

 

「本屋でクールなヒロインと出会ったな」

「これはお昼に誘うべきですね」

「ううん、ここはヒロインのプライベートの時間を大切にするべきだから軽く挨拶をして終わりでいいとボクは思うよ」

 

 

 選択肢が出るたびにそれぞれが思い思いの言葉を言う。

 あるヒロインがメインの選択肢ではゆかりが身を乗りだし。

 また別のヒロインでは葵が珍しく主張をする。

 そしてまた別のヒロインでは料理中のはずの茜が竜の背中にダイブをかます。

 

 恋愛ゲームという自身のあまり触れないゲームに楽しく思うと同時に、竜はやや精神的に疲れていた。

 

 なお、茜は特定のヒロインの時のみこちらに来ており、今は料理に戻っている。

 

 

「選択肢を選ぶだけとはいえ、けっこう長かったな」

「そうですね。私もそこまでやる方ではないですが。このゲームはけっこうボリュームがあると思いますよ」

「でもほらもう終わるみたいだし」

 

 

 恋愛ゲームをやったことはないが、それでも長いと感じられるほどのボリューム。

 その長さに竜はやや疲労混じりに言う。

 残るは一番好感度の高かったヒロインの登場と告白をして終了という場面にまで到達し、竜たちはどのヒロインが来るのか少しだけ緊張した表情になっていた。

 

 そしてヒロインが登場した。

 一番好感度の高かったヒロインは・・・・・・

 

 

『竜くん、今までほんとに楽しかったよ。竜くんさえ良かったら、私とこれからも一緒にいてくれないかな』

 

 

 元気系のヒロイン、鶴見(つるみ) 小真希(こまき)だった。

 予想外のヒロインの登場にゆかりと葵、そしてキッチンから見ていた茜は思わず固まってしまう。

 そんな3人の様子を気にせずに竜はエンディングまで進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第58話



難産気味・・・・・・




 

 

 

 

 クール系のヒロイン、月見(つきみ) 結花(ゆか)

 双子の姉のヒロイン、実琴(みこと) 緋菜(ひな)

 双子の妹のヒロイン、実琴 蒼空(そら)

 

 ゆかり、茜、葵の3人は最後に出てくるヒロインがこの3人の中の誰かだと思っていた。

 しかし実際に登場したのは元気系のヒロインである鶴見 小真希。

 

 あまりにも予想外のキャラクターが出てきたことにゆかりたちはとても驚いていた。

 

 ちなみに後輩のヒロインの名前は星那(ほしな) 光里(ひかり)である。

 

 

「これで終わりかぁ。けっこう楽しかったかな」

 

 

 驚いて固まる2人を余所に、竜はゲームのエンディングを楽しんでいた。

 茜も驚いてはいたが、それでもすぐに料理の手を動かし始める。

 テレビ画面にはプレイしてきたシーンがエンディング曲と共に流れている。

 

 

「な、なぜマキさんが・・・・・・」

「好感度的には下の方だと思っていたのに・・・・・・」

 

 

 テレビ画面を見ながらゆかりと葵はおののくように呟く。

 2人からしてみれば自分たちがエンディングを向かえてほしいヒロイン以外の妨害をしていたはずなので、なぜこの結果になったのかが分からなかった。

 また、ゆかりがヒロインの名前ではなくマキの名前を言ってしまっているのはこのゲームのヒロインたちを自分たちに置き換えて考えていたからである。

 

 ちなみに、なぜこのヒロインが選ばれたのかというと、妨害をするつもりで選んだ選択肢が好感度を思ったよりも下げておらず、自分たちの選びたかったヒロインはあまり好感度の上昇しない選択肢を選んでしまっていたためだ。

 

 

「へぇ、クリアするとヒロインが追加されるのか」

 

 

 エンディングも終わり、最後の画面に表示された追加要素に竜は興味深そうに呟く。

 画面には“南西(みなにし)3姉妹が追加されました”と表示されていた。

 それを確認した竜はデータを記録してゲームを終了する。

 

 

「好感度とか正直めんどくさいけど、新鮮で楽しくはあったかな」

「竜くん!次は月見を攻略してください!」

「いや、蒼空の方を攻略して!」

「あとで構わんけど、緋菜を攻略してくれるとうちは嬉しいな~」

 

 

 ゲームの感想を言う竜に3人は自分たちが攻略してほしいヒロインの名前を言う。

 竜からすれば3人がなぜ自分で攻略しないのかが疑問なため、不思議そうに首をかしげる。

 

 

「っと、せや。晩御飯ができたで」

「おう、了解」

「あ、そんなにやってたんだね」

「なんだかんだで熱中してしまいましたしね」

 

 

 思い出したように茜は言う。

 時計を見ればそこそこに時間が経っており、茜の料理が完成しているのも納得である。

 茜の言葉に竜たちはテーブルを用意して晩御飯を食べられるように準備する。

 

 

「お姉ちゃん、今日は何を作ったの?」

「2人がさっぱりしたものを食べたい言うとったからな。鶏肉を味ぽんと水で煮込んだサッパリ煮にワカメとキュウリの酢の物や。あとはニラと卵のスープやね」

 

 

 葵の問いに茜は指折り数えながら作った晩御飯のメニューを言っていく。

 茜の作った料理はどれもサッパリとした味付けのもので、竜とゆかりの要望をキチンと叶えることができていた。

 

 

「よし、ほんなら持ってくるで。葵も手伝ってや」

「うん。2人は待っててね」

 

 

 そう言って茜と葵は晩御飯の準備のためにキッチンへと向かっていった。 

 

 

「本当にさっぱり系の料理を作れたんだな」

「お肉の料理でさっぱりは難しいかもしれないとは思ったんですけどね」

 

 

 茜が本当にさっぱり系のものを作ったことに竜とゆかりは少しだけ驚いた表情で顔を見合わせた。

 お肉でさっぱり系のものと言いはしたものの、自分たちではイメージが全然できていなかったので、茜が料理を作れたことは本当に意外だったのだ。

 

 そして2人は茜と葵が戻ってくるのを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第59話

 

 

 

 

 テーブルの上に茜の作った料理が並べられ、晩御飯の準備が終わる。

 テーブルの上に並んでいるのは味ぽんと水で煮込んだ鶏肉のさっぱり煮、ワカメとキュウリの酢の物、ニラと卵のスープ、そしてこれにご飯を加えて全部だ。

 

 

「彩りもキレイで美味しそうですね」

「そうだな」

 

 

 並んでいる晩御飯を見てゆかりは言う。

 さっぱり煮はやや薄い茶色。

 酢の物はキレイな緑色。

 ニラと卵のスープは黄色と緑。

 料理ごとに色が分かれており、見ているだけでも美味しいことが分かりそうなほどだ。

 

 

「さ、準備もできたから食べよか」

「そうだね」

 

 

 晩御飯の準備を終えてテーブルに着いた茜の言葉に葵は頷く。

 そして4人は手を合わせて食事を始めた。

 

 

「ん、この鶏肉はそこまでしょっぱくないんですね。パサッともしてなくて美味しいです」

 

 

 さっぱり煮を口に運んだゆかりは驚き混じりにさっぱり煮を食べた感想を言う。

 味ぽんを使って煮込んだと言うことでしょっぱそうなイメージが少しだけあったのだが、そんなことは全然なく。

 ほどよいしょっぱさでとても食べやすかった。

 

 

「あ~、酢の物も旨いな。簡単に作れるのは知ってるんだが、切ったり混ぜたりがめんどくさくて中々作らないんだよなぁ・・・・・・」

 

 

 ワカメとキュウリの酢の物を口に運びながら竜は呟く。

 酢の物の作り方はワカメとキュウリを食べやすい大きさに切って酢と混ぜるというとても簡単なもの。

 調理手順だけ見ればとても簡単なのだが、それでも面度臭がりには充分にやる気が削がれるレベルだった。

 

 

「ニラと卵のスープも美味しいよ。ボクとしては卵はもう少し固まりでも良かったんだけど・・・・・・」

 

 

 ニラと卵のスープを飲みながら葵は言う。

 このスープも作り方はとても簡単で、小さめに切ったニラを鍋で煮て途中でだしの素と醤油を入れ、最後に溶いた卵を流し入れるだけで完成する。

 茜はこの卵を入れたタイミングで鍋の中をかき混ぜて卵をかなり細かくするのだ。

 そのため葵はかき混ぜないでほしいなと少しだけ思っていた。

 

 

「どれも旨いな」

「ちゅーても簡単なものばっかやけどね」

 

 

 竜の言葉に茜は謙遜しながらも嬉しそうに答える。

 作った側からすれば美味しいや旨いと言ってもらえるのはとても嬉しいもの。

 しかもそれが想い人などの大切な人間からの言葉ならばさらに嬉しいものとなるだろう。

 

 

「私にはできないことですから茜さんが羨ましいです」

「練習すれば誰にでもできることやって。ゆかりさんも頑張って練習するしかないなぁ」

 

 

 少しだけ遠い目をしながら言うゆかりに茜は苦笑を浮かべながら答える。

 茜自身も最初から料理ができていたわけではなく、練習を積み重ねてきたからこそ今の茜の腕があるのだ。

 茜の言葉にゆかりは少しだけ悩むような表情を浮かべた。

 

 

「練習、ですか・・・・・・」

「せや。千里の道も一歩から、日々の積み重ねが大切なんやで」

 

 

 ゆかりの呟きに茜はウンウンと頷きながら言う。

 良いことを言ってはいるのだが、普段が宿題をギリギリにやっているだけにいまいち説得力がなかった。

 千里の道も一歩からと言うのならば宿題をキチンとやって勉強の一歩一歩をキチンと踏んでほしいものである。

 

 

「・・・・・・そう、ですね。苦手だからと避けていては成長できませんし、頑張ってみましょうか」

「その意気やで!」

 

 

 ゆかりの見せたやる気に茜はグッと手を握って応援する。

 そんな2人のやり取りを見ながら竜と葵は箸を進めていた。

 

 

「・・・・・・そういえば、葵は料理はできるんだっけ?」

「ボクはお菓子作りの方が得意かな。今度作ろうか?」

 

 

 ふと、思い出したように竜は葵に尋ねる。

 茜が家事で料理を担当しているとは聞いていたが、葵も料理をできるのかが気になったからだ。

 竜の言葉に葵は提案するように言う。

 なお、提案をしてはいるのだが葵の頭の中ではすでに作ることが決定されていたりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第60話

 

 

 

 

 晩御飯を食べ終わり、各々がのんびりと食後の余韻に浸っていた。

 すでにテーブルの上にはなにもなく、キッチンで葵が食器を洗っている。

 

 

「時間的にはまだ余裕はありそうやな。なんかやる?」

「そうですね。竜くん、先ほどのゲームの続きはどうです?」

「いやぁ、あれはもう充分かな」

 

 

 ゆかりの言葉に竜は首を横に振る。

 確かに楽しくはあったのだが、晩御飯の前に充分に楽しんだので竜は今日はもう恋愛ゲームをプレイする気はなかった。

 

 

「ん~、それなら昨日のバイハの続きでもどうや?」

「ふむ、なら被弾したら交代ってことで」

「ふっふっふ、ならばゆかりさんの完璧なコントローラー捌きを見せてさしあげましょう」

 

 

 少しだけ考える仕草をして茜は昨日のバイオハザードの続きをすることを提案する。

 茜の言葉に竜はプレイヤーの交換するタイミングを言った。

 バイオハザードのプレイヤーの人数は1人から2人。

 ここにいるのは3人で葵も含めれば4人いるのでプレイヤーの人数が多いのだ。

 とはいっても葵は絶対にプレイしたがらないので実際には3人なのだが。

 

 

「そんじゃ、始めるか」

「せやね」

「最初はお2人に譲りますよ」

 

 

 ゲームの準備を終え、竜と茜がコントローラーを握る。

 どうやら最初は竜と茜がプレイするようだ。

 2人のどちらが先に被弾するのかを待ちながらゆかりはのんびりとテレビ画面を見るのだった。

 

 

「お姉ちゃん、食器洗い終わっ・・・・・・ッ!!」

「うおっ?!ちょ、ま、あ゛ーっ?!?!」

 

 

 被弾もなくバイオハザードを進めていくと、食器を洗い終わった葵がキッチンから戻ってきた。

 キッチンから戻ってきた葵はテレビ画面を見て固まると、素早く竜の背後に移動してテレビ画面が見えないように背中に頭を押し付けた。

 昨日は普通に見てはいたが、それは最初から見ることができていたからであり、今のように不意打ち気味に見るとすぐにテレビ画面を見ないように隠れてしまうのだ。

 

 なお、ゾンビ犬とリッカーの相手をしていた竜は葵がしがみついてきた衝撃のせいで操作をミスし、リッカーからの攻撃に被弾してしまった。

 

 

「ありゃ・・・・・・、まぁ、しゃーないわな」

「では私と交換ですね」

「・・・・・・そうだな」

 

 

 竜の操作するキャラクターが被弾したことに茜は驚きつつ、周囲のゾンビたちを倒していった。

 周囲のゾンビを倒し終えると、竜はゆかりにコントローラを渡す。

 コントローラーを渡した竜はゆっくりと背中にしがみついている葵を見た。

 

 

「ご・・・・・・、ごめんね?」

 

 

 自分がしがみついたことによって竜が被弾したことが分かったのか、葵は申し訳なさそうに謝る。

 葵の言葉に竜はにっこりと笑みを浮かべた。

 竜が笑いかけてきたことに葵は許されたと思って嬉しそうにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 許 し ま せ ん 」

 

 

 

 

 

「い?! いひゃ()ひゃ()ひゃ()ひゃ()ひゃ()?!」

 

 

 ぐにー、と葵の頬を摘まんで竜は引っ張る。

 竜に頬を引っ張られて葵はバタバタと腕を動かした。

 葵は茜とゆかりに助けを求めようとするが、2人はバイオハザードに集中しており、反応を示さない。

 とはいってもバイオハザードを仮にやっていなくても助けることはなかっただろう。

 葵が頬を引っ張られているのはほとんど自業自得のようなもの。

 迂闊に助けようとしようものなら頬を引っ張られる対象が自分たちに移ってしまう可能性がある。

 そのため、2人はバイオハザードに集中するふりをしながら葵の助けをスルーしていた。

 

 

()ょっ?!ひゃ()にゃ()して?!」

「うりうり、不意打ちで見たからっていきなりしがみつくなよ」

 

 

 もがく葵の顔を見ながら竜はむにむにと葵の頬を引っ張るのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第61話

評価がつくのは嬉しいけど低評価は落ち込みますねぇ・・・・・・



 

 

 

 

 葵の頬を引っ張り、押し潰し。

 葵は竜に自身の頬をむにむにと弄られている。

 そんな2人の後ろで茜とゆかりはバイオハザードをプレイしていた。

 

 

「りょ、竜くん・・・・・・?」

 

 

 いつの間にか痛みをほとんど感じない触り方になっていることに葵は不思議そうに声をあげる。

 むにむにと頬を弄られながら葵は竜の顔を見る。

 

 

「あ、いや、なんか触り心地がよくてな・・・・・・」

「そ、そうなんだ・・・・・・」

 

 

 葵の言葉に竜は、葵の頬の感触を感じながら答えた。

 葵は竜の答えに少しだけ恥ずかしくなり、顔を赤くしながら竜の好きなように頬を触れさせる。

 

 

「えっと、ボクも竜くんの頬っぺたを触ってもいいかな?」

「ん、まぁ、構わないが・・・・・・。触り心地はよくないと思うぞ?」

 

 

 竜の触れ方が痛みを感じないものになって余裕ができたのか、葵は手持ちぶさたになって竜に尋ねる。

 葵の言葉に竜は不思議そうに首をかしげながら了承する。

 

 自分の頬など触れても楽しいものでもないだろう。

 そう思ったがゆえに竜にとって葵の言葉は不思議なものだった。

 が、それを言うのなら葵もまったく同じことを思っていたので、お互い様とでも言ったところだろうか。

 

 

「竜くんの頬っぺた、ちょっと固いね」

「まぁ、男だしな」

 

 

 ふにふにと竜の頬を触りながら葵は言う。

 その触れた感触が自分のものよりも固く感じられ、葵は少しだけ面白くなっていた。

 そんな葵の触り方に竜は少しだけくすぐったさを感じていた。

 

 

「ん、んんっ!」

「「ッ?!」」

 

 

 不意に聞こえてきた咳払いに竜と葵ははじかれるようにお互いの頬から手を離す。

 咳払いの聞こえてきた方を見れば、ジットリとした目をした茜とゆかりが2人のことを見ていた。

 テレビ画面を見れば操作キャラクターたちがセーフポイントにおり、ゲームを一時停止していることが分かる。

 

 

「2人で何をやっとるんや」

「い、いや、葵がぶつかってきたからお仕置きを・・・・・・」

 

 

 茜の言葉に竜は慌てて気をつけの姿勢になって答える。

 いつの間にか部屋の中の室温がどことなく冷たくなったように感じられた。

 竜の隣で葵も同じように気をつけの姿勢になっていた。

 

 

「それがなんでお互いに頬っぺを触ることになったんですか?」

「えっと、それは、その・・・・・・」

 

 

 続くゆかりの追求に竜は目をキョロキョロとさせて答えに詰まってしまった。

 竜自身もどうしてそうなったのかは分からないので、答えようもないのだが。

 

 

「・・・・・・まぁ、ええんやけど。答えなかった代わりにうちも竜の頬っぺを触らせてもらうで」

「私も触らせてもらいますね」

 

 

 答えられずにいた竜に茜は小さく息を吐いて竜のとなりに移動した。

 そして茜が移動した反対側、つまりは葵のいる方にゆかりも移動する。

 茜とゆかりの2人に挟まれる形となった竜は表情を強張らせる。

 

 

「えっと、なん────」

「そりゃ」

「えい」

「────うびゅ?!」

「ぷふっ・・・・・・」

 

 

 竜は左右にいる茜とゆかりを交互に見ながら何をするのか尋ねようとすると、両サイドから頬を指で押されて言葉が途中で変な風に途切れさせられてしまった。

 左右から挟まれる形でつぶれる竜の顔を見て、葵は思わず吹き出してしまう。

 竜は吹き出した葵の方を見ようとするが、左右から2人に指で押されているために顔を葵の方へと向けることができなかった。

 

 

「ほな、うちらは竜の頬っぺを触っとるから竜と葵でプレイしてや」

「私たちは竜くんの頬っぺを触ることで忙しいので」

「俺は、まぁ、良いんだが・・・・・・」

 

 

 茜の言葉に竜は少しだけ答えにくそうに言葉を濁す。

 2人の指で押す力が弱くなって顔を動かすことができるようになった竜は葵の表情をうかがうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第62話

 

 

 

 

 絶望。

 その言葉を聞いてどんなイメージをするだろうか。

 

 目の前で自分の愛する人間が死んでいるとき?

 自分の信じていた人間に裏切られたとき?

 楽しみにとっておいたスイーツが誰かに食べられていたとき?

 

 絶望とは様々な種類があり、それをどう感じるかはその人次第だ。

 

 そして、今ここにも瞳から光を失い、表情も動かなくなってしまっている少女がいた。

 もしも仮に今の少女────葵にタイトルをつけるのならば“絶望”とつけるのがもっとも正しいように思える。

 

 

「・・・・・・あ、葵?」

「ナニカナ、竜クン」

 

 

 葵の様子に竜は思わず声をかけるが、葵はやや片言の言葉で答えるのだった。

 そんな葵の様子に、茜とゆかりは竜の頬を左右から押しながらニヤリと笑う。

 

 

「さぁ、コントローラーはこちらにありますので」

「2人でがんばってや~」

「お、おう」

「ウン・・・・・・」

 

 

 茜とゆかりからコントローラーを受け取りながらテレビの前に移動する。

 竜はバイオハザードをプレイすることに問題はないのだが、葵は違う。

 すでに分かっていることだが葵はホラーが苦手で、バイオハザードレベルですら先ほど竜にしがみついたように怖がってしまう。

 そんな葵がまともにバイオハザードをプレイすることができるのかが竜は気になっていた。

 

 

「まぁまぁ、言うてもセーブはしてあるから気負わずやるとええよ」

「余程のことがないと死なないと思うので頑張ってください」

 

 

 表情のなくなった葵に茜とゆかりは竜の頬をプニプニプニプニプニプニプニプニと連打しながら言う。

 左右から頬を連打されているために微妙に顔を揺らされながら竜はバイオハザードの操作を始める。

 竜が操作を始めたことに続いて葵も操作を始めた。

 

 

「っと、先に何体かゾン────」

 

 

 竜が画面内に最初のゾンビの存在に気づき、葵に一言声をかけようとすると同時に数発の銃声が画面から発せられた。

 そして次の瞬間、現れたゾンビたちはすべて地に倒れ伏してしまう。

 

 

「────ビが・・・・・・」

 

 

 あまりにも早いゾンビの退場に、竜を含め、竜の頬を連打していた茜とゆかりも驚きで固まってしまう。

 今の銃声を出したのは竜の操作しているキャラクターではない。

 ましてやイベントが発生してNPCが射撃をしたわけでもない。

 3人は驚いた表情のままギギギギと葵に顔を向けた。

 

 

「目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・、目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・、目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・」

「あ、葵・・・・・・?」

 

 

 どこぞの汎用人型決戦兵器に乗っているパイロットの少年のような言葉を言いながら葵は画面内に映るゾンビたちの有無を確認する。

 やがて画面内にゾンビたちがいなくなったことが分かると、言い続けていた言葉を止めて竜の近くに寄っていった。

 

 

「えっと、葵・・・・・・、大丈夫なのか?」

「ん・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に葵は竜の膝を叩きながら頷く。

 葵の行動の意図が分からず、竜はひとまず叩かれた膝を伸ばした。

 

 

「ちょ、葵?!」

「あ~、あれだけでもギリギリだったんやな・・・・・・」

「まぁ、これは仕方がないのかもしれませんね」

 

 

 竜が膝を伸ばすと、葵は躊躇することなく竜の膝の上に座った。

 突然の葵の柔らかな感触に竜は驚きの声をあげる。

 そんな葵の行動に茜は仕方がないと竜の頬をつつきながら言う。

 茜の言葉に同意するようにゆかりも竜の頬をつつきながら頷くのだった。

 

 

「いや、でも、これは・・・・・・」

「竜くん、このままでお願い」

 

 

 膝に感じられる葵の体温と柔らかさ、具体的に言うなら葵のお尻の感触に竜は思わず汚れたバベルの塔が立ち上がってしまいそうになる。

 慌てて葵を膝の上からどかそうとするが、涙目でこちらを見上げてくる葵の顔を見てどかすことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第63話



UA10000突破・番外話を投稿してこっちを投稿し忘れてました。




 

 

 

 

 葵を膝の上に乗せて、両サイドから茜とゆかりによって頬を連打されながら竜はバイオハザードを続ける。

 といっても出てくるゾンビや(バイオ)(オーガニック)(ウェポン)などはすべて片っ端から葵が殲滅していっているのだが。

 そのため、竜がやることと言えば謎解きくらいのものだった。

 

 

「ひっ・・・・・・、逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ!」

「ちょ、あまり揺れないでくれ?!」

 

 

 ゾンビなどが現れるたびに驚いて揺れる葵に竜は思わず声をあげる。

 ただでさえ柔らかな葵のお尻の感触が膝に触れているのに、葵が揺れることによってその感触がさらに強くなる。

 葵が膝に乗っているだけでも汚れたバベルの塔が立ち上がってしまいそうだったのに、そこにさらに振動などが加わってしまえば大変なことになってしまうのは明白だった。

 

 

「・・・・・・手札から“フォトン・スラッシャー”を特殊召喚して“V・HEROヴァイオン”を召喚。ヴァイオンで“E・HEROシャドーミスト”を墓地に落として効果で“ディアボリック・ガイ”を手札に加え、墓地のシャドーミストを除外してヴァイオンの効果で“融合”を手札に加える。2体でエクシーズ“外神ナイアルラ”ランクアップして“外神アザトート”。そしてアザトートと手札のディアボリックを融合して“D-HEROデッドリーガイ”を融合召喚。そして墓地の・・・・・・・・・・・・」

「目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・ひうっ、目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・きゃっ、目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・」

 

 

 葵の柔らかな感触によって竜は自身のネオ・アームストロング・サイクロンジェット・アームストロング砲が起動してしまうことのないようにインフェルニティ1killの手順を暗唱し始める。

 突然始まった1killの手順に葵が驚くかと思えたが、葵自身もいっぱいいっぱいだったために竜の暗唱に気がつかずに先ほどと同じように呟きながらゾンビなどを殲滅していった。

 

 

「・・・・・・なんやこれ?」

「なにがどうしてこうなったんですかね?」

 

 

 バイオハザードをプレイしている2人が揃ってぶつぶつと呟きながらゾンビなどを殲滅していく。

 はたから見ていてまったく意味不明な状況だった。

 そんな2人の様子に茜とゆかりは竜の頬を触る手をゆるめることなく首をかしげる。

 

 

「ちゅーか、葵もなんだかんだでけっこう倒せとるな」

「と言いますか殲滅してますよね。あれって、怖いから逆に全部倒してしまおうって言うことですよね?」

「せやね」

 

 

 茜は竜の頬をふにふにと触りながら、葵のプレイングに感心する。

 ゆかりは茜とは反対側の竜の頬をむにりと摘まんで軽く引っ張りながら葵の殲滅速度の理由について呟く。

 恐怖は誰にでもあり、逃れることのできない生き物として持っている当たり前の感情。

 それへの対処法は人によって異なり、逃げ出すもの、動けなくなってしまうもの、現実逃避をしてしまうもの。

 様々な対処をする人がいる。

 そして、その中でどうやら葵は過激な方のものなようで、恐怖の対象を倒してなくしてしまうというものらしい。

 とはいっても葵がこのような状態になるのは相当に追い詰められた状態になってからなので、簡単にこんな状態になるわけではない。

 ゆかりの呟きに茜は肯定するように頷いた。

 

 ちなみに、普段の葵はホラー系のゲームをやっているときは誰かの背中に隠れて終わるまで待つタイプなので、余程のことがない限りは大丈夫だろう。

 

 

「・・・・・・・・・・・・“アマゾネスの射手”の効果でデーモンとネクロマンサーを射出。ファイアウォールの効果で手札の“インフェルニティ・ミラージュ”を特殊召喚。ミラージュの効果で墓地のネクロマンサーを2体特殊召喚。ネクロマンサー効果でデーモンを蘇生。デーモン効果でデッキからミラージュをサーチ・・・・・・・・・・・・」

「ところで竜くんは別にホラー系はそこまで苦手じゃないですよね?」

「せやで、特にバイオなんかは驚くくらいで怖いとかは特に言わんかったな」

「なら、なんでこんなことになってるんですかね?」

 

 

 葵がゾンビ絶対殲滅ガールになっている理由は分かったのだが、竜がどうしてこんなことになっているのか。

 茜とゆかりはその理由が分からずに首をかしげることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 



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第64話



昨日が1時に投稿できなかったのが悔しいです・・・・・・




 

 

 

 

 どうにかバイオハザードを終わらせ、竜と葵は一息をついていた。

 竜がプレイしている間ずっと頬を突いていたことで満足したのか、茜とゆかりもすでに竜の頬をつつくのを止めている。

 

 

「・・・・・・葵はいつまで俺の膝に座ってるんだ?」

「もう少しだけ・・・・・・、お願い・・・・・・」

 

 

 ゲームが終わったのだから降りても良いはずなのだが、葵は一向に竜の膝の上から動こうとしなかった。

 膝の上から動こうとしない葵に、竜は尋ねる。

 竜の言葉に葵は竜の腕をとって抱き込むようにしながら答えた。

 腕を掴まれて抱き込まれてしまったことによって竜の動きは封じられ、端から見れば竜が葵を抱き締めているようにも見えるだろう。

 

 

「あ、あおあおあお、葵?!」

「茜さん、離してください。ちょっと引き剥がしてきます」

「まぁ、待ちぃや」

 

 

 葵の行動に竜は驚き、腕を引き抜こうとするが、葵がガッチリと掴んでいるために引き抜くことができない。

 竜が抱き締めているような格好になったことに、ゆかりは葵を引き剥がそうとするが、茜に引き止められてしまって引き剥がすことができなかった。

 

 

「茜さん!ナズェトメルンディス?!」

「剣崎やめぇや。安心しぃ。葵は今は心が疲れているから竜に甘えとるだけやから。それにもうすぐもとに戻るはずや」

 

 

 オンドゥル語を使いながらゆかりは茜に詰め寄る。

 詰め寄ってきたゆかりの顔を押さえ、茜は葵を指差しながら言った。

 

 

「・・・・・・?・・・・・・・・・・・・ッ?・・・・・・・・・・・・ッ?!?!」

 

 

 竜の腕を抱き込んでどことなく嬉しそうにしていた葵だったが、なにかに気がついたのかキョロキョロと周囲を見回し始め、自分が抱き抱えているものを見る。

 自分が抱き抱えているものが竜の腕だと言うことに気がつくと葵の顔が一瞬で赤く染まっていった。

 もしも擬音を着けるのならばボフンッ、といったところだろうか。

 

 

「りょ、竜くん・・・・・・?」

「おう・・・・・・」

 

 

 竜の膝の上で顔を真っ赤に染めながら竜の名前を呼ぶ。

 葵が恥ずかしそう自分の名前を呼んだために、竜も改めて恥ずかしく感じてしまった。

 竜が反応したことによって葵はゆっくりと竜の腕を離す。

 

 

「な?」

「そうですね・・・・・・」

 

 

 茜の言ったとおりに葵が正気に戻って竜の腕を離したため、ゆかりは何とも言えない表情で茜を見返す。

 茜とゆかりのそんなやり取りにも気づかず、葵は竜の膝の上で固まってしまった。

 

 そして葵の頭の中に蘇ってくるのはバイオハザードをプレイし始めてからつい先ほどまでの記憶。

 竜の膝の上に座ってゲームをしていること。

 ゾンビが出るたびに竜の膝で跳び跳ねてしまったこと。

 実はお尻に膝とは違う感触のものが触れていることに気がついていたこと。

 バイオハザードが終わってからも怖くて竜の腕を抱え込んで抱きしめるような体勢にさせたこと。

 無理矢理にだが、抱きしめられたことによって深い安心感を得たこと。

 

 それらすべてが葵の頭の中に思い出されていた。

 

 

「~~~~ッ!」

 

 

 自分のお尻に感じていた膝以外の感触の正体を考えてしまった葵は、声にならない声をあげながら竜の膝の上から滑り落ちてしまう。

 膝とは違うまた別の柔らかさを持っていたソレは自分が竜の膝の上で跳び跳ねる毎に少しずつ硬度を増していたかもしれない。

 もしかしたらそれは勘違いかもしれないが、混乱状態にある葵はソレが本当のことだと思ってしまっていた。

 加えて先ほどまでは抱きしめられるような体勢になっており、膝に乗っていたときよりもさらに密着をしていた。

 竜の腕を抱き抱えていたために、葵は自身の胸に竜の腕を押しつけていたことにもなる。

 竜自身は葵の行動に驚いて気にする余裕はなかったが、葵はしっかりと自身の胸に触れる竜の腕の感触も覚えていた。

 

 驚きと恥ずかしさ、そして竜に意識をしてもらえたかもしれないと言う少しの嬉しさ。

 それらすべての感情が入り混じり、葵は茜の背後に素早く回り込んで腰の辺りにしがみつくのだった。

 

 ちなみに、ここで自身の部屋に逃げ込まないのはホラーゲームをやった影響で1人になるのが怖かったからだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第65話

 

 

 

 

 葵が膝の上から離れたことによって解放された竜は痺れかけていた膝を伸ばすために立ち上がる。

 じんわりと血液の巡る感覚に竜はむず痒いような感覚を感じた。

 ふと時間を見ればそこそこに遅い時間。

 晩御飯を食べた上にゲームをやっていたのだからそれも当然のことだが。

 

 

「時間も時間だからそろそろ帰るわ」

「まぁ、こんな時間やもんな」

「そうですね。私も自分の部屋に帰りますね」

 

 

 竜の言葉に茜とゆかりも時計を確認して頷く。

 その際も葵は茜の腰にしがみついたままで離れようとはしない。

 そんな葵の様子に竜は苦笑いを浮かべた。

 

 

「明日には普通になっとるやろうから気にせんでええで」

「それならいいんだがな。んじゃ、また明日な」

「また明日、学校で」

 

 

 腰にしがみつく葵の頭に手を置きながら茜は言う。

 茜の腰にしがみついたまま自分の方を見ない葵に竜は少しだけ寂しくなった。

 そして、竜とゆかりはそれぞれの家に帰るのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 “清花荘”から家に帰ってきた竜は、家の向かいの工事の幕を見る。

 工事の幕の上の方に骨組みらしきものが見えており、それだけでどれくらい大きい家が建つのかがうかがえた。

 

 

「こんだけデカい家か。どこの金持ちかねぇ」

 

 

 適当に目測だけで大きさを見ても普通の家の倍。

 それほどの大きさの家を建てるのは一般家庭には恐らく不可能。

 相当な金持ちがこの家を建てていることは恐らく間違いないだろう。

 そんなことを考えながら竜は家の中へと入っていった。

 

 

「たぁだいまぁ~・・・・・・っと。まぁ、誰がいるわけでもないんだがな」

 

 

 どこか気の抜けた言い方で帰宅の言葉を言いながら竜は靴を脱ぐ。

 竜の両親は父親の転勤で揃って離れた地にいる。

 そのため家に誰かがいることは基本的にはなく。

 たまに様子見で母親が帰ってくるくらいなのだ。

 靴を脱ぎ、リビングに竜は移動する。

 とはいっても晩御飯は茜のところで食べたので、とくになにかを食べたりするつもりはないのだが。

 

 

「わぁ」

「ッ?!・・・・・・・・・・・・は?」

 

 

 聞こえてきた自分以外の声に竜は驚き、慌てて声の聞こえてきた方を見る。

 そこにあったのはなんの(●●●)変哲も(●●●)ないよう(●●●●)に見える(●●●●)1輪の花だった。

 いや、あったというのは正しくはないだろう。

 正確にいえば、テーブルの上に咲いていた(●●●●●)というのが正しい表現だった。

 

 

「なんだ・・・・・・?この花・・・・・・」

 

 

 テーブルの上に咲いている花に警戒をしながら竜は近づいていく。

 今朝の時点でテーブルの上にこのような花が咲いていなかったことは確かなので、昼間か夕方の内に咲いたということで間違いはないだろう。

 

 

「わぁ!」

「しゃ、喋った?!」

 

 

 竜が近づいたことが分かったのか、テーブルの上の花は竜の方に花びらを向ける。

 そして花が竜の方を向いたと同時に先程も聞こえた声が聞こえてきた。

 声が聞こえてきたのは間違いなく花から。

 しかも竜の声に反応するかのように花の部分を揺らしている。

 

 

「わぁ、わわぁ!」

「害は・・・・・・なさそう、か?」

 

 

 今のところ花の反応は竜の声に反応して揺れることと鳴き声?らしきものを発すること。

 とくに害らしい反応も見られていない。

 テーブルの上の花に恐る恐る手を伸ばし、花びらに触れてみた。

 触れた感触は普通の花だが、普通の花よりも丈夫なように感じられる。

 

 

「わぁ、わぁ」

「・・・・・・喜んでるみたい、だな」

 

 

 嬉しそうな声が花から聞こえてきたことに、竜は少しだけホッとして息を吐いた。

 テーブルの上に咲いていることに目を瞑れば害もとくにはない花。

 まぁ、そもそもが超常的過ぎるので考えても仕方がないと思ってしまったというのもあるのだが。

 

 

「近くに水を置いておけば大丈夫か?」

「わぁ!」

 

 

 花であるということは水が必要なはず。

 しかし、テーブルに直接咲いているので普通に水を与えてはテーブルが水浸しになって終わりになってしまう。

 これでは意味がないのでどうしたものかと竜は花びらを優しく触りながら呟く。

 竜の呟きが聞こえたのか、花は肯定するように揺れながら声を発するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第66話

 

 

 

 

 テーブルの上に咲いていた花の近くに水を入れた容器を置いたあと、竜は風呂の準備をするために風呂場に向かった。

 風呂場に向かった竜を見るかのように、テーブルの上の花は花びらの部分を傾ける。

 

 

「わっ、わわぁ」

 

 

 竜が近くに置いた容器の中の水に葉の部分を入れると、水をすくって花の部分にかけていく。

 水がかかると花は嬉しそうに揺れながら声を発する。

 そんな行動を数回繰り返し、花は揺れるのを止めた。

 

 

「わぁ・・・・・・」

 

 

 どことなく寂しげな声を発し、花はしんなりと垂れてしまった。

 どうやら竜が戻ってこないことで寂しくなってしまったらしい。

 花はキョロキョロと花びらの部分を動かして周囲を見回すと、意を決したかのように花びらの部分を頷くように動かした。

 

 

「わぁ、わぁわぁわぁわぁわぁわぁわぁわぁ!!」

 

 

 謎の掛け声を発しながら花は机に潜り始めた。

 どう考えても潜ることのできないテーブルに花は潜ってその身を見えなくしていく。

 そして花は完全にテーブルに潜ってその姿を完全になくしてしまった。

 不思議なことに花の消えたテーブルに穴などはなく、ついさっきまで花が咲いていたと言われても信じられないほどに痕跡はなかった。

 そもそもとしてテーブルに花が咲いているという状況が現実的ではないのだが、この際それは気にしないことにしておこう。

 

 そして、花の消えたテーブルの上には水の少なくなった容器だけが残されていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ところ変わって竜の家の風呂場。

 ここでは竜が風呂に入るために浴槽を洗っていた。

 

 

「燃え上がるような熱い鼓動が~」

 

 

 最近になって気に入っている曲を口ずさみながら竜は浴槽を洗う。

 先ほどの花には驚かされたが、花だけあって移動などはできないはず。

 すでにテーブルの上に花の姿がないことも知らずに竜はそう考えていた。

 

 

「溶けそうなほど恋したら~」

「わわ~わ、わ~わ、わ~わわわぁ!」

「な、なにいぃッ?!?!」

 

 

 歌いながら浴槽を洗っていると、竜の歌に続いて先ほど聞いたばかりの声が聞こえてきた。

 まったくの予想外の声に竜は驚きのあまり声が裏返ってしまう。

 手に持っていたシャワーを落としそうになりながら竜は声の聞こえてきた方を見る。

 そこにいたのはテーブルの上に咲いていたはずの花。

 花が移動する。

 あり得るはずのない事態に竜は驚きのあまり固まってしまった。

 

 が、すぐに花が喋っている時点であり得ない事態だということを思い出して浴槽を洗うのを再開した。

 

 

「っし、これで終わり」

「わぁ!」

 

 

 浴槽の泡を流し、竜は洗うのを終わらせる。

 竜が浴槽を洗い終えたことが分かり、花は嬉しそうに声をあげた。

 嬉しそうな花の声に竜は小さく笑う。

 

 

「どうやって移動したのかは分からんが、わざわざこっちに来たのか」

「わ~ぁ、わぁ」

 

 

 テーブルの上で待っていても良かっただろうに、わざわざ風呂場に来た花に竜は笑いかけながら花びらの部分を撫でた。

 竜に撫でられ、花は嬉しそうにパタパタと葉の部分を動かす。

 花を撫でながら竜はチラリと花の根本を見る。

 今、花が咲いているのは風呂場に置いてあった風呂桶(●●●)の中。

 どう考えても根が生えるはずのない場所だった。

 

 

「ん~・・・・・・。まぁ、いいか」

「わ、わぁ?!」

 

 

 きっと深く考えたとしても答えはでない。

 そう理解した竜は考えることをやめた。

 竜が自身の根本を見ていることに気がついた花は恥ずかしく感じたのか、葉の部分で自身の根本を隠した。

 

 

「っと、風呂桶は使うから他のところに移動してくれるか?」

「わ?・・・・・・わぁ!」

 

 

 竜の言葉に花は花びらの部分を傾けて頷くような動きをした。

 そしてテーブルの上から移動したときと同じように風呂桶の中へと潜っていった。

 花の移動方法に竜は興味深そうに花が見えなくなるまでその様子を見ていた。

 

 

「・・・・・・ペーパーマリオのパックンフラワーみたいな移動方法なんだな」

「わぁ?」

 

 

 花の姿が見えなくなり、竜は見覚えのある花の移動方法に呟く。

 移動直後で竜の言葉が聞き取れなかったのか、花は竜の肩(●●●)で首をかしげるような動きをした。

 ちなみに肩といっても服の上であり、肩の皮膚から直接咲いているわけではない。

 皮膚から直接咲くことはできない、とも言わないでおこう。

 

 

「って、俺の肩に移動することもできるのかよ?!」

 

 

 完全に不意を突かれた竜は驚きの声をあげる。

 驚く竜の姿に花は楽しそうに揺れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第67話

 

 

 

 

 風呂のお湯はりのボタンを押し、竜は肩に花を咲かせたままリビングに戻ってきた。

 リビングに着くと、花は再び潜っていき、テーブルの上に現れる。

 花が潜っていく際になんの感覚もなかったことに竜は少しだけ驚くものの、そのまま花の前の椅子に座った。

 

 

「お前はいったいなんなんだろうな?」

「わ~ぁ!」

 

 

 ツンツンと優しく花をつつきながら竜は呟く。

 いつの間にかテーブルの上に咲いていて声を発し、自由に移動する。

 すでに分かっているだけでもこれだけの普通の花との相違点がある。

 考えても答えが出せるわけがないと分かりつつも、竜は花のことを考えてしまっていた。

 

 

「そういえば、名前とかあるんかね?」

「わぁ?」

 

 

 竜につつかれながら花はキャッキャと嬉しそうに揺れる。

 そんな花を見ながら竜はふと思ったことを言う。

 竜の声に反応したり、言葉を理解して移動する。

 明らかに普通の花とは違うこの花はいったいどんな名前なのか。

 花びらの形状も竜の知るどの花とも違っており、まったくの未知の花だった。

 竜の言葉が聞こえたのか、花はそっとテーブルの上に置いてある水の入っている容器に葉を伸ばした。

 

 

「ん、なんだ?」

「わぁ」

 

 

 花が葉を伸ばしたことに竜は不思議そうに声をあげる。

 竜に見られながら花は葉に水をつけてテーブルの上になにかを書いていく。

 どうやら書いていたのは平仮名のようで、5文字の平仮名がテーブルの上に書かれた。

 

 

「えっと・・・・・・、あ、か、り、そ、う?あかり草っていうのか」

「わぁ!」

 

 

 テーブルの上に書かれた文字を竜が読むと花────あかり草は嬉しそうに葉をピコピコと動かす。

 聞き覚えのある名前だがおそらく偶然の一致だろう。

 

 

「あかり草はなんで家に来たんだろうな?」

「わぁ?」

 

 

 ウニウニとあかり草の花の部分を親指と人差し指で優しく挟む。

 朝の時点では咲いておらず、帰宅したらテーブルの上に咲いていた。

 しかも移動が可能で移動の条件に地面がある必要がない。

 偶然かもしれないしもしかしたら必然なのかもしれないが、竜の家に咲いた理由が分からなかった。

 

 

「・・・・・・えい」

「わ゛ぁ゛ッ?!?!」

 

 

 ふと竜はあかり草の花の中心に興味本位で指を差し込んでみる。

 普通の花であれば雄しべやら雌しべのある場所だが、竜の指の先にはそれらの感触がない。

 どうやらあかり草にそれらの部分はないようだ。

 竜に指を突っ込まれ、あかり草は驚きの声をあげながら花の部分を赤く染めた。

 

 

「ん、なんかしめってる?」

「わ゛・・・・・・わ゛ぁ゛・・・・・・ぁ゛っ?!」

 

 

 差し込んだ指の先がどことなくしめっているように感じ、竜は不思議そうに指を動かす。

 竜の動かす指に合わせて小さいながらも水音のようなものが聞こえてきた。

 あかり草は竜の指の動きに合わせてビクビクと震えながら濁音混じりの声をあげていく。

 あかり草がビクビクと震えていることに気がついた竜は花の部分から指を引き抜く。

 

 

「おおぅ・・・・・・。なんか、すまん」

「わぁ・・・・・・わぁ・・・・・・」

 

 

 竜の指が引き抜かれるとあかり草はくったりとヘタレてしまう。

 ヘタレながらあかり草は荒い呼吸をするように声を発する。

 ヘタレてしまったあかり草に竜は驚きつつ謝った。

 そしてお風呂のお湯が貯まった通知音が竜の耳に聞こえてきた。

 

 

「お、お湯はりが終わったか。じゃあ、俺は風呂に入ってくるから好きに待っててな」

「わぁ・・・・・・」

 

 

 テーブルの上でヘタレているあかり草に声をかけて竜は風呂場へと向かっていった。

 一日の疲れは風呂場で汚れと共に洗い流す。

 これこそが人間の生活。 

 

 風呂場へと向かう竜の姿をあかり草はヘタレながらもジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第68話

 

 

 

 

 洗面所に着いた竜は服を脱いで入浴の準備をしていく。

 とくに変わったものもなく、なんの変哲もない普通の風呂場。

 竜はお湯をすくって体にかけていく。

 入浴する前に体にお湯をかけて汚れなどを浮かせ、石鹸で完全に体を綺麗にする。

 これはお風呂に入るのであれば必ずやるべきことであり、体を洗わずに入浴するのはマナー違反だと言えるだろう。

 

 

「とりあえず、あかり草はどうするかな・・・・・・」

 

 

 体を洗いながら竜は呟く。

 いつの間にか家に入ってきてテーブルの上に咲いていて、自由に移動することのできるあかり草。

 ハッキリと言って。動きをコントロールしたりすることは不可能だと思える生き物・・・・・・いや、植物だ。

 一応、言葉が通じるようなので入らないで欲しいところなどには口頭で説明するしかないだろう。

 

 

「・・・・・・そういえばあかり草はどうやって栄養を取るんだ?」

 

 

 体の泡を流しながら竜はふと気になったことを呟いた。

 

 普通の植物であれば根から地面の水分や栄養を補給する。

 しかし、あかり草は地面ではない場所に咲いている。

 もしかしたら栄養補給の際は地面に移動するのかもしれないが、それすらも不明だ。

 可能ならば栄養補給の手助けなどをしたい、竜はそう考えていた。

 

 そして体を洗い終えて、頭を洗い始めた竜の背後にあかり草が姿を現した。

 頭を洗うために目を閉じていた竜は自身の背後に現れたあかり草の存在に気づかず、頭を洗い続けている。

 自身が現れたことに竜が気づいていないと理解したあかり草はソッと竜に向けて花と葉を伸ばしていく。

 

 

「ぶぇっ、ぺっぺっ・・・・・・。口に泡が・・・・・・」

 

 

 頭の泡を流し、うっかり口に泡が入ってしまい、竜は唾を吐き出す。

 石鹸特有の苦味に竜は目を閉じながら顔をしかめる。

 そんな竜の頭上にあかり草の花はたどり着いた。

 

 

「・・・・・・ふぅ。・・・・・・あ?」

「わぁ!」

 

 

 頭の泡が完全になくなり、竜は置いておいたタオルで顔を拭く。

 そして顔をタオルで拭いて目を開けた。

 直後、竜の視界は闇に包まれる。

 竜がなにも見えなくなる前に最後に見えたのは巨大な花びらだった。

 

 

「むぐぅっ?!ッ~~!!ッ~~?!?!」

「わぁわぁ!」

 

 

 先ほどまでとは比べ物にならないほどに大きくなったあかり草は竜の頭に花の部分で食らいつき、葉の部分で竜の体を拘束していた。

 

 あかり草によって拘束され、竜は声をあげることしかできない。

 風呂に入る前に竜が指を差し込んでいた部分に今度は竜自身が入り込んでいる。

 なにも見えない状態で体を拘束され、ややヌルリとした液体で頭を包まれる。

 指を差し込んだときには気づかなかったが、舌のようなものが顔を舐めている感触もある。

 いきなりのこともあって状況を理解できないままに竜はなぶられていた。

 

 

「わぁっ」

「ぷぁっ・・・・・・、はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

 

 

 声を発しながらあかり草は竜の頭を花の部分から解放する。

 ヌルリと粘りけのある液体に頭を包まれながら竜は荒い息を吐く。

 あかり草の花の部分と竜の頭を繋ぐように透明な液体が橋を作っていた。

 荒い息を吐いて腰砕けになっている竜に頬擦りをすると、あかり草は風呂場の床に潜り込んで姿を消した。

 

 

「はぁ・・・・・・、はぁ・・・・・・、なんだったんだ・・・・・・?」

 

 

 どうにか息を整え、竜はあかり草の消えたところを見る。

 頭に絡み付く粘りけのある液体をぬぐいながら竜は呟いた。

 粘りけのある液体からはほのかに甘い香りが感じられる。

 もしかしたらこれがあかり草の香りなのかもしれない。

 

 その後、竜はお湯で液体をすべて洗い流してお湯に浸かる。

 流した液体によって風呂場の中が甘い香りに満たされ、竜は食らいつかれたときに顔をなぶられたことを思い出してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第69話

 

 

 

 

 自身の髪の毛から甘い香りが取れないことが気になりつつ、竜はリビングに戻ってきた。

 お風呂に入る前にあかり草がいたテーブルの上を見てみるがそこにあかり草の姿はなかった。

 あかり草がどこに行ったのかとキョロキョロとリビングを見渡すと、中心部分が膨らんでいるタオルが部屋のすみに落ちていることに気がついた。

 

 

「あんなタオルあったか?」

 

 

 不思議に思って竜がタオルに近づくと、タオルの中心の膨らみがわずかに動いているのが分かった。

 それに合わせてなにやら小さな声のようなものも聞こえてくる。

 

 

「・・・・・・ここにいたのか」

「わぁ?!」

 

 

 竜がタオルを取り上げると、そこには花の部分を赤く染めたあかり草が、まるで顔を隠すかのように葉を花の部分にあてて咲いていた。

 あかり草が見つかったことに竜はホッと息を吐く。

 

 自身の隠れていたタオルが取り上げられ、竜に見られていることに気がついたあかり草は驚きの声をあげて花の部分を葉で隠してしまった。

 恥ずかしがる人間のような仕草をするあかり草に竜は首をかしげる。

 

 

「どうしたんだ?」

「わぁ!わぁ!」

 

 

 竜があかり草を覗き込むと、あかり草はグイグイと葉で竜の顔を押し返した。

 あかり草に顔を押され、竜は首をかしげながらあかり草から離れる。

 

 竜はあかり草のことを気にかけながらコップを取り出して水を飲む。

 お風呂から出たらコップ一杯分の水分をとる必要があり、その事を知ってから竜は必ずお風呂から出たら水を飲むようにしているのだ。

 ちなみに、お風呂を出てから水分をとるのは季節に関係なくやるべきことで、夏だろうと冬だろうとお風呂に入って水分を消費することに違いはない。

 そのため、そのまま寝たりしてしまうと寝汗などで脱水症状を起こしてしまう可能性もあるのでコップ一杯分の水分補給はした方がいいだろう。

 

 

「わぁ・・・・・・」

 

 

 水を飲んでいる竜の姿をあかり草は葉と葉の間から覗くようにして見ている。

 視線・・・・・・と言っても良いのか分からないが、あかり草はジッと竜の顔を見つめ、自身の花の部分の頂点、竜が指を突き刺した部分の入り口を軽く撫でた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・わぁ」

 

 

 あかり草は小さく声を発し、先ほど竜を咥え込んだことを思い返したのか花の部分をさらに赤く染める。

 どうやら竜が指を差し込んだところはあかり草にとって大切なところだったようで、竜を咥え込んだのも大切なところに無作法に指を差し込まれたことに対する仕返しとして勢いのままにやってしまったようだ。

 そのためにあかり草は恥ずかしさで竜の顔を見れなくなってしまっていた。

 

 

「なぁ、お前ってなにか食べるのか?」

「わぁ?!」

 

 

 水を飲み終えた竜に声をかけられ、あかり草は少しだけ驚いたような声をあげつつ竜を見返す。

 竜の言葉にあかり草は考えるように花の部分を揺らした。

 

 

「・・・・・・わぁ」

「うん?」

 

 

 短く声を発してあかり草は竜の指に葉を伸ばす。

 自身の指に触れる葉に竜は不思議そうに首をかしげた。

 そしてあかり草は竜の指を葉で引っ張り、自身の花の部分に優しく押し当てた。

 

 

「・・・・・・俺がなにかを用意する必要はない?」

「わぁ!」

 

 

 竜の言葉にあかり草は肯定するように花を揺らす。

 あかり草の言葉に竜は頷きつつ、花の柔らかさを感じながら優しく撫でた。

 

 

「そっか」

「わぁ、わぁ!」

 

 

 竜に撫でられ、あかり草は嬉しそうに花を左右に揺らす。

 嬉しそうにしているあかり草の姿に竜は小さく笑みをこぼし、あかり草を撫で続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第70話

 

 

 

 

 朝、竜は布団から起きて伸びをする。

 昨日はあかり草がいなくなるまでずっと撫でたり会話をして眠るのが少しだけ遅くなってしまったため、頭がまだ少しボーッとしてしまっている。

 

 

「んっ・・・・・・、はぁ、起きるか」

 

 

 小さく息を吐いて竜は制服へと着替え始めた。

 

 朝の支度を終え、朝食も食べ終えた竜は家から出る。

 家の向かいには変わらず工事の幕がかかっており、まだしばらくは完成しそうには見えなかった。

 完成するのがまだ先なのだろうと考えた竜は工事の幕から興味を失くし、学校へと向かうために足を踏み出した。

 

 

「おはようございます、竜くん」

「お、ゆかりか。おはよう」

 

 

 学校へと向かうために足を一歩踏み出した直後、背後からかけられた声に竜は振り返って返事をする。

 そこには昨日も登校する際に出会ったゆかりの姿があった。

 ゆかりは竜の返事に嬉しそうに手を振りながら近づき、スンスンと香りを嗅ぐように竜に顔を近づけた。

 

 

「ん・・・・・・、竜くん。女の子と会いましたか?」

「いや、とくには会ってないはずだが・・・・・・」

 

 

 竜からしてきた甘い香りにゆかりは少しだけ不満そうにしながら竜に尋ねる。

 ゆかりの言葉に竜は首をかしげる。

 昨日、ゆかりたちと別れてから女性と会った覚えはなく、どうしてゆかりがそんなことを聞いてきたのかまったく分からなかった。

 

 

「すみません。なにか香水のような香りがしまして・・・・・・」

「香水?・・・・・・・・・・・・あ、もしかしてアレか?」

 

 

 ゆかりの言う香水のような香り。

 その言葉に竜はもしかして、と昨日のことを思い出す。

 竜の呟きにゆかりは竜の顔を見ながら言葉の続きを待った。

 

 

「昨日、変わった花に会ってな。もしかしたらそれの香りが残ってるのかもしれない」

「花に会った(●●●)、ですか?」

 

 

 竜の言い回しにゆかりは首をかしげる。

 普通に考えて花に“会った”という言い回しはあまり使われないように思える。

 花が対象ならば“見つけた”や“咲いていた”と言う方が一般的なはずだ。

 とは言っても“会った”という言い回しが間違っているとも言えないのだが。

 

 

「ああ、とりあえず学校に向かいながら話そう。遅刻はしないだろうけど一応な」

「そうですね」

 

 

 首をかしげるゆかりの姿に竜は歩きだしながら言う。

 まぁ、昨日のあかり草の姿を見ていなければゆかりの反応は仕方のないことだろう。

 竜の言葉ももっともなので、ゆかりも頷いて竜の後を追った。

 

 

「それで、花に“会った”とはどういう意味なんですか?」

「ん~、まぁ言葉通りの意味でな。昨日、家に帰ったらしゃべって動く花に会ったんだよ」

「・・・・・・・・・・・・えっと、冗談ですか?」

 

 

 あまりにも突拍子のない竜の言葉にゆかりは苦笑しながら聞き返す。

 ゆかりの反応に竜はポリポリと頬を掻いた。

 

 

「冗談ではないんだがな。『わぁ』としかしゃべれないらしい花でな。地面、と言うよりも自身の咲いているところに潜って移動することができるんだ」

「にわかには信じがたいですね・・・・・・」

 

 

 竜の話し方から嘘ではないのだろうと思いつつも、ゆかりは完全に信じることができずにいた。

 竜自身も実際に見せなければ信じてもらうのは難しいだろうと考えていたので、ゆかりの反応に仕方がないと曖昧に笑うことしかできなかった。

 

 

「それで、その花と竜くんからしてくる香りにどんな関係が?」

「えっとな、その花、あかり草って言うんだが────」

「ストップです」

 

 

 竜の口から聞こえてきた花の名前にゆかりは思わず待ったをかける。

 ゆかりに待ったをかけられ、竜は軽く驚きつつゆかりを見た。

 

 

「話を遮ってすみません。何て言う花の名前でしたっけ?」

「あ、ああ。あかり草って言う名前だが・・・・・・」

 

 

 確認をするように竜に尋ねれば、聞こえてきたのはやはり聞き覚えのある名前。

 名前から連想するのは1人の後輩の姿。

 頭に思い浮かんだ後輩の姿にゆかりは苦いものでも食べたかのような表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第71話

 

 

 

 

 竜の口から聞こえてきた花の名前にゆかりは苦い表情を浮かべる。

 ゆかりがなぜそのような表情を浮かべているのかが分からず、不思議そうに首をかしげていた。

 

 

「あかり草・・・・・・、ですか」

「ああ、あかりと名前が同じなんだよ。すごい偶然だよな」

 

 

 ゆかりの呟きに竜は頷きながら言う。

 竜自身もあかりの名前とあかり草の名前が同じことには気づいていた。

 といっても名前が同じだけでなんの関係もないだろうと竜は考えていた。

 

 

「そうですね・・・・・・、すごい偶然ですね・・・・・・。それで、その花と竜くんからしてくるこの香りにどのような関係が?」

「えっと、昨日あかり草にちょっかいかけてたら頭を思いきり咥え込まれてな。その時に蜜?の香りがついたみたいでな。洗い流したけど落ちなかったんだよ」

「そうでしたか・・・・・・、とりあえずその香りは私以外の方も気になってしまうと思いますので早めに落ちるといいですね」

 

 

 昨日のことを思い返しながら竜は自身について落ちない香りの理由を言う。

 時間が経てば香りも落ちるかと思っていたのだが、以外にも香りが残ってしまっているのだ。

 竜の言葉にゆかりは小さく息を吐いて納得はしてないまでも理解はした。

 

 

「そうだな。早めに落ちてくれればいいんだが」

「なんでしたら私の持っている香水でもつけますか?少なくとも私はそれで気にならなくなりますから」

 

 

 竜は自身の前髪をいじりながら自身に着いた香りのことを考える。

 そんな竜の姿にゆかりはスクールバッグの中から小さな小瓶を取り出した。

 小瓶の中に入っているのはゆかりのお気に入りの香水。

 学校に行くのだと言うのになぜ香水を持っているのかが気になるかもしれないが、体育の授業があるときには必須レベルのものであり、汗の臭いが気になる女子生徒の中ではほぼ常識のようなものなのだ。

 

 

「ん・・・・・・、まぁ、他に何人からか聞かれたら借りようかな」

「そうですか。でしたら、先に香りを知ってもらう意味も込めて・・・・・・」

 

 

 ゆかりの提案に竜は少しだけ考えて答える。

 竜の答えにゆかりは自身の手首に軽く香水をかけた。

 ゆかりが手首に香水をかけたことによって、フワリと香りが竜の鼻に届いた。

 

 

「どうですか?」

「そうだな。何て言ったらいいんだろ、月みたいな香りでゆかりにすごく似合ってると思う」

 

 

 ゆかりに尋ねられ、竜は自身の鼻に届いた香りの感想を言う。

 香りの感想としてはいまいち合ってないように感じられるかもしれないが、竜にとってはそう表現するしかできないほどにゆかりに似合っている香りだった。

 竜に似合うと言われ、ゆかりは嬉しそうに頬を薄く染める。

 

 

「あ、ゆかりんに竜くん。2人ともおはよー!」

「マキさん、おはようございます」

「おう、おはよう」

 

 

 学校の校門が近づいてきたとき、反対側の道を歩いていたマキが竜とゆかりの存在に気づいて手を振りながら駆け寄ってきた。

 マキの言葉に2人は手をあげて答える。

 2人の近くに着いたマキは不思議そうな表情を浮かべて竜に顔を近づけた。

 

 

「んぅ・・・・・・?竜くん、なにかつけてる?」

「ほら、やっぱり気になるんですよ」

「そ、そうみたいだな」

 

 

 スンスンと竜の近くで臭いをかぎ、かぎなれない香りがしたことをマキは竜に尋ねる。

 マキの言葉にゆかりは仲間を得たとばかりに頷く。

 突然マキが顔を近づけてきたことに照れながら竜は頷いた。

 

 

「あ、ゆかりんもやっぱり気づいたんだ?」

「当然ですね。こんなにハッキリとした香りならすぐに気づけますよ」

 

 

 ゆかりの言葉からゆかりも気づいていたのだとマキは理解して言う。

 マキの言葉にゆかりは自信満々に頷いた。

 

 

「だから私の香水を貸してあげるって言ってるんですよ」

「いや、でもなぁ・・・・・・」

 

 

 香水の入った小瓶をもう一度取りだしてゆかりは竜に差し出す。

 差し出される香水を竜は煮えきらない態度で見ていた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・マーキング、かな?」

 

 

 竜からしてくる香りを自分のお気に入りの香水で上書きする。

 そんな竜とゆかりのやり取りを見ながらマキはポツリと呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第72話

 

 

 

 

 竜、ゆかり、マキの3人は話しながら教室に入った。

 話の内容はマキの買うモンスターハンターワールドだった。

 ちなみに竜はまだゆかりから香水を借りておらず、あかり草の香りがいまだにしている。

 

 

「やっぱ新しく武器を作るときには下位のモンスターも狩らないといけないからちょっとめんどいんだよな」

「多めに素材を集めておかないからそうなるんですよ。私は常に素材は20は貯めておいてますから」

「素材集めかぁ。やっぱり大変なの?」

「マスター武器なら数十秒で終わる」

「攻撃で怯みまくるから即殺ですね」

「モンスターさん可哀想・・・・・・」

 

 

 無慈悲な竜とゆかりの言葉。

 装備さえ整えば下位のモンスターは基本的には相手にならないのは当然のこと。

 無情に狩られる下位のモンスターたちにマキは同情するのだった。

 といっても実際に下位からやると下位の頃に何度も殺されたりするので、可哀想とすら思わなくなるのだが。

 

 

「モンハンの世界は弱肉強食。仕方がないね」

「ある程度の防具さえ組めれば死ににくくなりますから。どんどん狩っていくのは当然ですね」

 

 

 モンスターに同情するマキに竜とゆかりは肩をすくめながら言うのだった。

 3人が話していると、茜と葵が教室に入ってきた。

 

 

「おはようやでー!」

 

 

 茜の元気な声に教室内にいたクラスメイトたちが返事を返していく。

 いつもの朝の光景に3人も茜たちの方を見る。

 竜たちに気がついた葵は、クラスメイトたちに挨拶をする茜から離れて竜たちの方に向かう。

 

 

「おはよう、ゆかりさん、マキさん。りょ、竜くんも・・・・・・お、おは、おはよう・・・・・・」

「おはようございます、葵さん」

「おはよー、葵ちゃん。竜くん、なんかあったの?」

「おはよう。まぁ、ちょっとな」

 

 

 竜への挨拶にややぎこちなさを出しながら葵は挨拶をする。

 ぎこちない葵の姿にマキは首をかしげた。

 マキの言葉に竜は曖昧に笑って答えることしかできなかった。

 そしてクラスメイトへの挨拶を終えた茜も竜たちのもとにやって来た。

 

 

「おはようや!・・・・・・・・・・・・ん?」

「おはようございます。茜さん」

「おはよー、茜ちゃん」

「おはよう。今日も元気だな」

「どうしたの?お姉ちゃん。・・・・・・・・・・・・え?」

 

 

 元気に挨拶をする茜に竜たちは同じように挨拶を返す。

 竜たちの近くに来た茜はスンスンと鼻をならす。

 そしてなにも言わずに鼻をならしながら竜へと近づいた。

 茜の行動に葵も同じように鼻をならし、不思議そうに竜に近づく。

 

 

「・・・・・・なぁ、竜。なんや変わった香りがするんやけど」

「ホントだ。竜くん、これ、なんの香り?」

「マジで気づくのな・・・・・・」

 

 

 茜と葵の言葉に竜はひきつった表情を浮かべながら呟く。

 ゆかりの言った通り本当に自身の香りに気がついたことに竜は驚いていた。

 

 

「まぁ、ゆかりには登校してるときに話したんだが。昨日、家に帰ってから花に会ってな」

「花に・・・・・・」

「会った・・・・・・?」

「竜くん、花は咲いているものだよ?」

 

 

 登校中にゆかりにも説明した昨日の出来事を竜は3人に説明する。

 竜の言葉に最初に説明を受けたゆかりのような反応を3人はした。

 そんな3人の様子にゆかりは既視感を感じて笑っていた。

 

 

「と言われてもなぁ。俺も家に帰ったらあかり草がテーブルの上に咲いていたわけだし」

「ちょい待ちぃ」

「ちょっと待って」

「待ってください」

 

 

 竜の言葉に茜たちだけではなくゆかりも反応する。

 しかしそれも仕方がないことだろう。

 ちょっかいをかけて咥え込まれたとは聞いていたが、家の中にいたとは聞いていないのだから。

 

 

「なんや、あかり草って?!テーブルの上に咲いていたってどういうことなんや?!」

「まるで意味が分からないよ?!」

「家の中にいたとは聞いてませんよ?!」

 

 

 興奮した様子で3人は竜に詰め寄る。

 そんな3人の様子にマキは何となく察した表情で苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第73話

 

 

 

 

 茜、葵、ゆかりの3人に詰め寄られ、竜は困惑した表情を浮かべる。

 あかり草が家のテーブルの上に咲いていただけなのになぜここまで詰め寄ってくるのか。

 詰め寄ってくる3人を軽く押し返して距離を作り、竜は一息をついた。

 

 

「あかり草はあかり草だよ。しゃべって移動することができる花」

「もっと意味が分からんのやけど?!」

「あ・・・・・・、もしかして・・・・・・」

「あ、葵さんは気づきましたか?」

 

 

 竜の答えに茜は吠える。

 吠える茜の隣で葵がなにかに気づいたのか小さく呟く。

 葵の呟きが聞こえたのか、ゆかりは葵を見た。

 

 

「うん、昨日の子と同じ名前だから・・・・・・」

「やっぱり、そういうことですよね?」

 

 

 ゆかりの言葉に葵は頷く。

 昨日会った後輩、紲星あかりと竜の家に咲いていたというあかり草。

 名前が同じだということに加えて普通の花とは違う特徴。

 それらのことからなにか関連があるだろうとゆかりと葵は考えていた。

 

 

「なんにしても俺は家に帰ったらテーブルの上にあかり草が咲いていただけだから、俺もよく分らないんだよ」

「そうなんか・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に茜はしぶしぶ納得したようで、少しだけ落ち着いていた。

 これに関しては竜自身も詳しいことが分からないので、本当に説明の使用もないのだ。

 

 

「まぁ、あかり草についてはええわ。んで、竜からしてくる香りとあかり草にどんな関係があるんや?」

「あ、そうだったね。あかり草っていうインパクトで忘れるところだったよ」

「つっても俺があかり草にちょっかいかけて頭を咥え込まれたってだけなんだがな」

 

 

 あかり草についての疑問は一旦置いておくことにして、茜は改めて竜からしてくる香りとあかり草の関係を尋ねる。

 茜の言葉に竜は軽く頭を掻いて答えた。

 

 

「それで竜からあかり草の香りがしてくるっちゅうことか・・・・・・」

「この香りがあかり草の香りなんだ・・・・・・」

 

 

 竜についている香りの正体が分かり、茜と葵は顔をしかめた。

 そんな2人の様子にマキは苦笑する。

 

 

「だから竜くん、その香りは気になってしまうんですよ。ですので私の香水で塗り替えましょう」

「待ちぃや、それは見逃せんで!竜、うちの香水でどうや!」

「あ、2人の香水を使うのが気が引けるならボクのはどう、かな?」

 

 

 ゆかりは取り出していた香水の入った小瓶を竜に差し出しながら言う。

 ゆかりの行動に茜も慌てて自分の持っているお気に入りの香水を取り出して竜に差し出す。

 茜に少し遅れて葵も自身のお気に入りの香水を取り出して竜に差し出した。

 3人に香水を差し出され、竜は困った表情を浮べる。

 

 

「さぁ、誰の香水をつけますか?」

「全部をつけることはできへんで」

「つけすぎると変な香りになっちゃうからね」

「え、えっと・・・・・・」

 

 

 三種類の香水を混ぜてしまえばどんなものでもいい香りではなくなってしまう。

 そのために竜はゆかり、茜、葵の誰かの香水を選ばなければならなかった。

 といってもそれしか選択肢がないわけではなく。

 

 誰の香水も借りない。

 マキも持ってきているであろう香水を借りる。

 

 などの選択肢もあった。

 

 

「なにをやっているんだ?」

「あ、アイ先生。竜くんについている香りが気になるらしくてゆかりんたちが・・・・・・」

 

 

 不意に教室に入ってきたアイ先生が竜たちの様子に気がついて声をかける。

 いつの間にか教師が教室に来る時間になっていたことにマキは驚きつつ、簡単に状況を説明する。

 

 

「公住の?・・・・・・なるほど、この香りか」

 

 

 マキの説明にアイ先生は鼻をならして竜からしてくる香りに気づいた。

 竜の香りを理解したアイ先生は小さな缶をポケットから取り出す。

 

 

「公住、こっちを向け」

「はい?うわっぷ?!?!」

 

 

 アイ先生は竜を呼び、頭に向けて缶の中身を吹きかけた。

 突然の事態に竜は驚き、思いきり転倒する。

 アイ先生の行動にゆかりたちは驚き、手に持っていた香水の小瓶を落としそうになった。

 

 

「あ、アイ先生・・・・・・?」

「まったく・・・・・・、公住、消臭スプレーくらいは持ち歩いておけ」

 

 

 驚いて転倒したまま固まる竜に、アイ先生は小さく息を吐いて教卓に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第74話

 

 

 

 

 アイ先生による消臭スプレーによって竜からあかり草の香りも消え、何事もなく学校での授業も終わった放課後。

 ゆかりとマキは一緒にマキのモンスターハンターワールドとアイスボーンを買いにゲーム屋に。

 茜と葵は教室でアイ先生に捕まって手伝いに。

 そして竜はとくに予定もないために1人で帰路についていた。

 

 

「ムフェト一式に皇金武器。カイザー3部位にテンタクルγ2部位・・・・・・、切れ味的に快適なのはカイザーの方なんだよなぁ」

 

 

 モンハンでの防具の組み合わせを思考しながら竜は歩く。

 ちなみに、ムフェト一式とはムフェトジーヴァを倒して作る防具、EX龍紋と呼ばれる防具のことを指しており、カイザーはテオテスカトルの、テンタクルγは歴戦王ネロミェールの防具のことを指している。

 どれも強力な防具だが作るのに少々骨が折れ、一番簡単なものですらテオテスカトルという古龍を狩らなければならないのだ。

 なお、慣れてしまえばアッサリと狩れてしまうので結局はプレーヤースキルに依存するのだが。

 

 

「あ、そうだ。プレイステーションストアにチャージしとかないと」

 

 

 ふと、竜はもうすぐプレイステーションプラスの期限が切れることを思い出す。

 プレイステーションプラスはオンラインでゲームをするために必須のもので、可能であるなら12ヶ月分を一気に更新した方がお得である。

 ついでにゲームを見るために竜はゲーム屋に向かうことに決めた。

 これならばゆかりたちと一緒に学校からゲーム屋に向かっても良かったかもしれないが、時すでに遅し。

 竜はそのままゲーム屋に向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ゲーム屋に到着し、竜は最初にプレイステーションストアカードを手に取る。

 あとから金額不足になっては困るので、取ったのは一番高い金額の10000円のものだ。

 

 

「狩~るんご、狩るんご~。いろんなモンスターを狩るんご~、暴れるモンスターを狩るんご~、いっぱい狩るんご~」

 

 

 頭に残っている不思議なリズムに勝手に歌詞をつけながら竜はゲーム屋の中を歩く。

 歌詞の内容がどう考えても不穏だが、歌詞的にモンハンに関連した内容の歌なのだろう。

 

 

「とくに気になるものは、・・・・・・お」

 

 

 ゲーム屋の中を歩いて置いてあるゲームを見ていくと、竜は1つのゲームの前で立ち止まった。

 そのゲームは動画で実況されているのをよく見るもので、竜も興味があったものだった。

 

 

「中古品か。でもプロダクトコード付きなんだな」

 

 

 中古品のプロダクトコード。

 これは基本的にはないものと同じで入力しても使えないものがほとんどだ。

 まぁ、中には使えるものもあるのでギャンブルとして買ってみるのもありかもしれない。

 

 

「たしかダウンロードで買うにはクレジットカードが必要だったか・・・・・・」

 

 

 竜の見ているゲームはCEROZ、つまりは年齢制限で18歳以上が対象なので普通にプレイステーションストアからダウンロードで購入することはできない。

 そのため確実にプレイするのならばここで購入した方がいいのだ。

 

 

「・・・・・・買うか」

 

 

 竜は少しだけ考え、そのゲームを買うことに決めた。

 プレイステーションストアカードの金額だけで10000円。

 さらにゲームの値段でおおよそ5000円。

 これだけでもかなり痛い出費だが、使わずに貯めていた貯金があったのでギリギリ致命傷で済んだと言えるだろう。

 

 

「・・・・・・葵は絶対にやりたがらないだろうな」

 

 

 手に持つゲームソフトを見ながら竜は小さく笑みを浮かべる。

 竜の買おうとしているゲームはホラー系のゲームで、敵から逃げてクリア条件を満たさなければならないという内容のゲームである。

 しかもプレイヤーは敵に対して攻撃する手段がなく。

 本当に逃げることしかできないゲームなのだ。

 

 竜が手に取ったゲーム、そのタイトルは“DEAD BY DAYLIGHT”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第75話

 

 

 

 

 “DEAD BY DAYLIGHT”とプレイステーションストアカードを買った竜はゲーム屋を後にする。

 そこそこに大きな出費だったのでしばらくは節約をしていかないといけないだろう。

 

 

「もやし生活の始まりかなー・・・・・・」

 

 

 ゲームを買ったことを少しだけ後悔しつつ、竜は歩く。

 それでも誰かに買われて自分が買えなくなってしまう後悔よりもマシだと竜は考えることにした。

 

 家への帰り道、竜はスーパーの前に到着した。

 普段であれば晩御飯の材料などを見たりするのだが、今日はゲームなどを買ったことによって節約をしなければならない。

 竜は小さく息を吐くとスーパーを通りすぎるのだった。

 

 

「家にはまだ食材はあったはずだから・・・・・・」

 

 

 家に残っている食材の数はそこまで多くはなく、親からの仕送りもまだ少し先。

 まだ余裕があるとはいえそれに胡座をかいていては追い詰められてしまうのは明白だ。

 ではどうすればよいか。

 その答えはとてもシンプルなもの。

 

 働いてお金を稼ぐのだ。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 家に着いた竜はさっそくプレイステーション4を起動して“DEAD BY DAYLIGHT”を読み込ませる。

 新しく買ったゲームはデータの読み込みなどで時間がかかるので、先に読み込ませておく必要があるのだ。

 そのついでに同梱されていたプロダクトコードを入力していく。

 

 

「・・・・・・っと、これで・・・・・・よっし!」

 

 

 プロダクトコードを入力し、決定を押す。

 すると問題なくプロダクトコードが使用でき、アイテムなどを得ることができた。

 正直なところアイテムが得られるとは思っていなかったので、これは嬉しい誤算だった。

 

 

「みゅう」

「お、みゅかりさん」

 

 

 プロダクトコードでアイテムが手に入ったことに喜んでいるとみゅかりさんの鳴き声が聞こえてきた。

 鳴き声の聞こえた方を見ればみゅかりさんが興味深そうにゲームのパッケージを見ていた。

 

 

「新しく買ってきたゲームが気になるのか?」

「みゅう!」

 

 

 竜の言葉にみゅかりさんは肯定するように鳴き声をあげる。

 みゅかりさんの鳴き声に竜はゲームをプレイしようかと思ったが、まだ読み込みが終わっていないことに気づいてプレイを諦めた。

 

 

「ちょっと今日はプレイできなさそうだから動画でも見ておくか」

「みゅ!」

 

 

 みゅかりさんも読み込みが終わっていないことに気づいたのか、同意の鳴き声をあげた。

 そして竜はプレイステーション4を操作してYouTubeを起動する。

 コントローラーを操作して“DEAD BY DAYLIGHT”の動画を探していく。

 

 

「お、きりたんも動画を出してるんだな」

「みゅみゅみゅ」

 

 

 動画を探していると、少し前に遊☆戯☆王で対戦をしたきりたんが“DEAD BY DAYLIGHT”をプレイしている動画があった。

 竜は少し興味が湧き、動画を再生してみることにした。

 

 

『ふふふふ、私のチェイステクを舐めないでください。これくらいの殺人鬼なんてアッサリと・・・・・・ん、なんかここに引っ掛かって、ってあぁあぁぁぁぁあああ?!?!』

 

 

 最初の方ではきりたんの操作するキャラクターが普通に逃げていたのだが、途中で操作ミスでもしたのか壁の角に引っ掛かり、殺人鬼に見事に瀕死にさせられていた。

 動画では通常状態から一撃で瀕死になっていたので、ノーワンかなにかが発動していたのだろうが、そこまで詳しくはない竜はこういうものなのだと勘違いをしていた。

 

 

「とりあえず、敵から見つからないように発電機を修理するってのが第一目標なんだな。んで、見つかっても逃げ切るか、引き付けて時間を稼ぐ、と」

「みゅいみゅい」

 

 

 動画から読み取れた内容を整理するために竜は改めて口にする。

 みゅかりさんも面白そうに動画を見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第76話

 

 

 

 

 きりたんの動画を見終えてから他にもいくつかの動画を竜とみゅかりさんは見た。

 いくつかの動画を見たことによってほんの少しではあるが“DEAD BY DAYLIGHT”の立ち回りなどを理解できた気がしていた。

 そして、チラリと確認してみればゲームの読み込みがちょうど終わったタイミングだった。

 今日はプレイできないかと思っていただけに、これには竜も少しだけ驚いた。

 

 

「意外と早く読み込みが終わったな。ならさっそくやってみるか」

「みゅ!」

 

 

 動画を止め、竜はゲームを起動する。

 初めて見る“DEAD BY DAYLIGHT”の起動画面を竜とみゅかりさんはドキドキとしながら見ている。

 

 

「とりあえずはチュートリアルをやっておかないとな」

「みゅうみゅう」

 

 

 動画を見てはいたが初めてプレイするゲーム。

 操作を理解するためにもチュートリアルはやっておいて損はないだろう。

 チュートリアルが始まり、生存者の操作説明とアクション、そして殺人鬼の操作説明とアクションを知ることができた。

 そして、竜は生存者を選択して本番に挑む。

 

 

「生存者の違いとかよく分からんし、プロダクトコードでついてきた日本人にしてみるかな」

「んみゅ」

 

 

 パーク、つまりは他のゲームでいうスキルの存在は知っているが装備の仕方を知らない竜はなにも装備しないままマッチングを始めてしまう。

 みゅかりさんも同じように知らないので、竜の行動が不味いものだと気づいていなかった。

 この辺はゲームにチュートリアルとして載っていないので初心者なら気づかないのも不思議ではないのかもしれないが、それでもかなり痛いミスだった。

 

 そして、無情にもパークを未装備のままマッチングが完了してしまった。

 ほぼ絶望的な逃走劇が今始まる。

 

 

「えっと、L1を押してダッシュだったな。お、発電機があるじゃん。修理はR1で開始だな」

「みゅみゅー!」

 

 

 自分が最悪のスタートをしているとは知らぬまま、竜はキャラクターを操作する。

 ひとまず殺人鬼に見つかることなく最初の発電機を見つけることができた。

 “DEAD BY DAYLIGHT”、通称DbDは生存者4人と殺人鬼1人でおこなう脱出ゲームだ。

 生存者はエリア内にある発電機を5個修理して脱出ゲートを開いて脱出。

 殺人鬼は生存者を全滅させる。

 それが生存者と殺人鬼のそれぞれの勝利条件だ。

 

 ちなみに、殺人鬼の方が基本的に足が速いので、普通に逃げただけでは確実に追い付かれてやられてしまう。

 それを回避するためにはパークの存在が必要不可欠なのだが、竜の使っているキャラクターはレベルが初期なこともあって所持しているパークの数が初期数の3つしかない。

 しかも竜はパークを装備していない。

 

 これらのことから竜が殺人鬼に見つかればやられることはほぼ確実と言えるだろう。

 ただし本当に上手い人はこの条件でも普通に逃げ切ったりするのだが。

 

 

「アクションが出たらL1をタイミングよく・・・・・・、っし1つ目の修理完了!」

「みゅーう!」

 

 

 運良く殺人鬼に見つかることなく竜は1つ目の発電機を修理することができた。

 それと同時に違うところで発電機の修理が完了したことを告げる音がなった。

 これで残った修理の必要な発電機の数は3つ。

 しかし、それと同時に生存者の1人が殺人鬼の攻撃を受けて倒れてしまった。

 なぜ他の生存者の状態が分かるのかというと、画面の左下に各生存者の状態が表示されているのだ。

 状態は通常、負傷、瀕死、吊られ、死亡、殺害があり、一目で他の生存者がどんな状態なのかを知ることができるので、場合によっては誰かが殺人鬼に追われているということを察して発電機の修理に集中したりすることもできる。

 

 また、殺人鬼の攻撃で瀕死になった場合は赤い人影が表示されるようになるので、その動きを見て殺人鬼のいる場所を推測できたりもするのだが、その辺りを竜はまだ理解していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第77話

 

 

 

 

 発電機を運良く修理することができ、他の生存者の修理した発電機の数も含めて2つ。

 残りの修理する発電機の数は3つ。

 しかし生存者が1人吊られてしまっている。

 状況としては良くも悪くもない、と言ったところだろうか。

 いや、1吊り目で2つの発電機を修理できているのだから生存者が優勢かもしれない。

 

 

「たしか、吊られてる味方を救出した方がいいんだったな」

 

 

 動画から得た情報を呟きながら竜は吊られた生存者のいる場所に向かう。

 一応、竜なりに隠密をして向かってはいるが、その隠密は慣れている人からしたらとてもお粗末なものだった。

 

 

「殺人鬼は・・・・・・ヒルビリーとか書いてあったっけ?」

「んみゅ」

 

 

 ロード中の画面に表示されていた殺人鬼の情報を思い出しながら竜はみゅかりさんに確認する。

 竜の言葉にみゅかりさんは肯定するように鳴き声をあげて頷いた。

 

 情報に書かれていた殺人鬼の名前はヒルビリー。

 大きなハンマーを持った殺人鬼で、通常のハンマー攻撃の他に一撃で瀕死にまでもっていかれてしまうチェーンソー攻撃を持っている徒歩型の殺人鬼だ。

 ヒルビリーのもとになっているのは“悪魔のいけにえ”と呼ばれる映画に出てくるレザーフェイスという殺人鬼。

 また、この映画にはレザーフェイスが人間をフックに吊るす場面があるため、“DEAD BY DAYLIGHT”自体のもとになったと言っても過言ではないだろう。

 

 

「っと、もうちょいで救助に・・・・・・あ、他の人が救助したか。なら別の発電機をぉっ?!?!」

「んみゃぅっ?!」

 

 

 救助に向かっていた先の生存者が他の生存者に救助されたのが分かり、竜は近くの発電機を探そうとグルリと周囲を見回す。

 

 救助をするために吊られた生存者のことを考えていた竜は、背後から近づいてくる怪しげなヒルビリーに気づかず、気がついたときにはチェーンソーによる一撃を受けて瀕死になってしまっていた。

 そのあとは怪しい毒薬などを飲まされることはなく、そのままヒルビリーに担がれてしまった。

 

 いきなりの出来事に竜とみゅかりさんは驚き、ビクリと大きく体を跳ねさせる。

 

 DbDに慣れているプレイヤーであれば心音やチェーンソーの音などでヒルビリーの接近に気づけるものなのだが、竜は初心者だということに加えてヒルビリーが接近しているときの音がさっぱり分かっていなかったのだ。

 こればかりは回数をこなして殺人鬼ごとの音を記憶するしかないだろう。

 

 

「び、ビビった・・・・・・」

「み、みみゃう・・・・・・」

 

 

 ヒルビリーに担がれている自身の操作していた生存者を呆然と見ながら竜はポツリと呟く。

 まさかヒルビリーが背後にいるとは思ってもいなかったので、その衝撃は凄まじかった。

 そして、ヒルビリーは近くのフックに竜の操作していた生存者を吊るした。

 

 

「誰か救助に来てくれるかなー・・・・・・」

「みゅみゃみゅー・・・・・・」

 

 

 フックに吊られている生存者を見ながら竜は呟く。

 正直、野良でのマッチングで救助をしてくれるかは運としか言いようがなく、場合によっては一切救助をされない時すらあるのだ。

 まぁ、そんな確率は本当に低く、だいたい1人くらいは救助に来てくれたりするので絶対に救助されない、なんてことは滅多にないので安心してもいいだろう。

 その証拠に1人の生存者が近づいてきていた。

 

 

「お、ありがたい!」

「みゅーみゅ!」

 

 

 無事に救助され、竜は救助をしてくれた生存者の後を追う。

 ようやく遭遇できた他の生存者だったので、竜としてはなるべく近くにいたかった。

 そんなことをしている間に他の生存者たちが発電機を修理していく。

 残りの修理が必要な発電機は1つにまでなっていた。

 

 

「あと1つか・・・・・・、他の人たち上手いなぁ」

 

 

 竜が修理した発電機の数は1つ。

 修理された数的に考えて、救助に来た生存者以外の2人が修理をしていたのだろう。

 ヒルビリーを撒いてから修理をしたのか、はたまたヒルビリーがいない隙をついて修理したのかは不明だが、それでも結構なハイペースだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第78話



また投稿予約を忘れてました・・・・・・


 

 

 

 

 救助してくれた生存者の後を追いかける。

 そもそもとして竜はこのエリアがどんなエリアなのかすらよく分かっていなかった。

 まぁ、初心者なのだからエリアの構成が分かっていないのも当然なのだが。

 

 

「あ、修理終わった」

 

 

 最後の発電機の修理が終わり、2ヶ所の出口が白く強調される。

 この状態になれば生存者がやることはただ1つ。

 出口のゲートを開けてそこから脱出する、それだけだ。

 ただし、この状態になれば殺人鬼側も出口に向かい始めるので、生存者は上手く殺人鬼を回避していかなければならない。

 

 

「とりあえず出口にいくぞー!」

「みゅー!」

 

 

 まぁ、そんなことも気にせずに竜は近くの出口に向かって直行するのだが。

 あまりにも無防備に向かうその姿に竜を救助してくれた生存者の人は思わず竜を二度見してしまっていた。

 

 そして、当然のことだが竜は殺人鬼、ヒルビリーに補足されてしまう。

 チェーンソーの音を鳴らしながらヒルビリーは竜の操作する生存者の後を追う。

 少しだけ離れた位置から追われたためにすぐには追いつかれていないが、この様子では追いつかれるのも時間の問題だろう。

 

 

「ぬぉおおおおおッッ?!?!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅううううッッ?!?!」

「みゅいみゅいみゅいみゅいみゅいみゅいぃいいいいッッ?!?!」

 

 

 背後から迫ってくるチェーンソーの音に竜は半狂乱になりながら必死に逃げ続ける。

 竜と同じようにみゅかりさんも叫ぶように鳴き声をあげて竜にしがみつく。

 

 小屋の周りを走り、時には小屋の中を通り抜け、さらには小屋の窓を跳び越える。

 障害物を利用することによってなんとか追いつかれずにはいた。

 しかし、それでもヒルビリーとの距離は徐々に徐々に縮まってきてしまっている。

 

 

「ヤバイヤバイヤバイヤバイッッ!!」

「みゅぁうっ!」

 

 

 今にも攻撃を受けてしまいそうな距離にまで詰められて竜は慌ててしまい、操作を間違えてヒルビリーへと向かっていってしまう。

 自分の操作ミスに気がついた竜は急いでヒルビリーから逃げようとする。

 

 

「え・・・・・・、あ、よ、避けられた?」

「みゅい!」

 

 

 竜の操作する生存者がいきなり近づいてきたことに驚いたのか、ヒルビリーは攻撃を繰り出す。

 しかし、ヒルビリーの攻撃は急いで走る向きを変えた竜の操作する生存者に運良く当たらなかった。

 予想外の事態に竜は少しだけ驚いて固まるが、みゅかりさんの鳴き声に慌ててヒルビリーから逃げていく。

 

 

「とにもかくにも、逃ぃげるんだよぉ~~!!」

「みゅみゅみゅ~!」

 

 

 一瞬だけ竜の操作する生存者の姿を見失い、ヒルビリーはキョロキョロと周囲を見回す。

 そして走り去っていく竜の操作する生存者の姿に気がつくと、すぐさま追いかけ始めた。

 直後、大きく画面が揺れて画面の上の部分にゲージが出現した。

 このゲージは2つある出口のどちらか片方が開いた合図で、このゲージがなくなる前に出口から脱出しなければならない。

 見たところ出口を開けていたであろう生存者はすでに脱出しており、残っているのは恐らく竜の操作する生存者と、救助してくれた生存者だけだろう。

 

 

「あそこに、出口って開いてなぁあああいッッ!!」

「みゅぁああああッッ?!?!」

 

 

 ようやく出口が見つかったかと思って近づいてみれば、そこは開いていない出口だった。

 出られない出口に竜とみゅかりさんは大きく声をあげる。

 そして、背後から来たヒルビリーに追いつかれてしまい、竜の操作している生存者は攻撃を受けて瀕死になってしまった。

 そのあとは救助も無理そうな状態になってしまい。

 竜の操作している生存者を除いて全員が脱出するという結果になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第79話

UA的にそろそろ次のアンケートを始めようと思います。
アンケートの内容は前回のものからゆかりさんを抜いたものとなります。
17000を越えたらアンケートは終了します。



 

 

 

 

 ヒルビリーによって吊られてしまい、処刑されてしまった竜の操作していた生存者。

 そして、マッチが終了してリザルト画面が表示される。

 修理した発電機が1つだったことと、処刑されてしまったことによって得られたポイントは他の人たちに比べてかなり低いものだった。

 

 

「あー・・・・・・、1人だけ死んだのは悔しいなぁ・・・・・・」

「みゅみゅみゅう」

 

 

 リザルト画面に表示される『処刑された』の言葉に竜は少しだけ落ち込みながら呟く。

 落ち込む竜の頭の上にみゅかりさんは移動し、ポフポフと前足で頭を軽く叩くのだった。

 

 

「そういえばこのポイントって何に使うんだろ」

「みゅーう?」

 

 

 マッチ終了時に得たポイントを見て竜は首をかしげる。

 竜の首が傾いたのに合わせて、みゅかりさんも竜の頭の上からコロリンと膝の上に落ちた。

 膝の上に落ちてきたみゅかりさんの頭を軽く撫でてから竜はメイン画面に表示されているアイコンをそれぞれ調べていく。

 

 

「・・・・・・お、このブラッドウェブってやつにポイントを使うのか」

 

 

 メイン画面を調べていくとブラッドウェブと呼ばれるものを見つけ、そこでマッチで手に入れたポイントを使うのだということが分かった。

 ポイントの使い道が分かり、竜はブラッドウェブをしっかりと確認する。

 ちなみにブラッドウェブとは他のゲームで言うスキルツリーのようなもので、伸ばしていくことによってアイテムや能力などを手に入れることができるのだ。

 

 

「ん~・・・・・・、とりあえずはパークを優先していった方がいいのかな」

「みゅみゃう」

 

 

 ひとまず現状のポイントでは中心にある始点に隣接するものくらいしか取ることはできないので、とりあえずはパークへとつながる最短のルートのものを取得することにした。

 ちなみに生存者のブラッドウェブの選択としてはパークを最優先に取得してくことが最適解と言っても問題はないだろう。

 なお、殺人鬼の場合はアドオンも選択肢に入るのでまた違う選び方になるのだが。

 

 

「とりあえずこれで。次はこっちか。ここでパークを着けるんだな」

「みゅう」

 

 

 次に竜が開いたのは生存者にパークなどを着けるための画面、ロードアウトだ。

 ロードアウトは開くと始めに初期装備として生存者の固有パークが3つ取得できるので、最初はその中から無難に使えそうなものを着けておくのが無いよりはマシだろう。

 

 

「アドオン・・・・・・、まぁ、持ってないし関係ないか」

 

 

 まだ始めたばかりでブラッドウェブから得たアドオンとアイテムは合わせても1つしか持ってないので、今のところは気にしないでもいいだろう。

 簡単にパークをつけて竜は再びマッチングを始める。

 

 

「次は脱出できるといいな」

「みゅみゅ」

 

 

 マッチングを待ちながらみゅかりさんの頭を竜はグリグリと撫でる。

 竜に撫でられて鳴き声が震えながらも嬉しそうに目を細めていた。

 そして、しばらく待っていると2回目のマッチングが完了した。

 

 

「みゅう!」

「ん、みゅかりさんがやってみたいのか?」

「みゅみゅい」

 

 

 ポフポフとコントローラーを叩きながら鳴き声をあげてきたので尋ねてみれば、肯定するように頷いた。

 竜は少しだけ考えるとみゅかりさんにコントローラーを渡す。

 竜からコントローラーを受けとるとみゅかりさんは嬉しそうに鳴き声をあげた。

 

 

「動画も見たし、俺のプレイも見てたからみゅかりさんの方が上手くできるかもな」

「みゅっみゅみゅ~」

 

 

 竜の言葉にみゅかりさんは嬉しそうに揺れながらDbDを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第80話

 

 

 

 

 なぜ朝は来るのだろうか。

 

 現実的なことを言ってしまえば地球が自転をしているからなのだが、そのような現実を突きつけられても目を逸らしたくなってしまうのが人間だ。

 

 かくいう竜も布団の中でゴロゴロとしながら少しだけ憂鬱になっていた。

 まぁ、そうなった理由は“DEAD BY DAYLIGHT”に熱中して眠るのが遅くなって寝不足だからなのだが。

 

 

「・・・・・・・・・・・・はぁ、起きるかぁ」

 

 

 布団でゴロゴロとしながらスマホを弄っていた竜は諦めたようにため息を吐いて布団から起き上がる。

 布団に寝転がったままでは二度寝を始めてしまいそうでもあったため、こればかりは仕方のないことだった。

 

 そして、竜は着替えと朝食を終えてスクールバッグを持って家を出る。

 家を出た竜は正面を向き、驚きに固まってしまう

 

 昨日の時点ではまだ工事中で幕もかかったままだったはずの向かいの家。

 それがなんと完全に幕が取れて家が完成していたのだ。

 まだ家が完成するとは思っていなかっただけに、目の前に建っている家に竜は本当に驚いていた。

 と言っても家が完成しただけでまだ住んでいるわけではないようだが。

 

 

「竜くん、おはようございます。おや、向かいの家が完成したんですね?」

「ああ、おはよう。そうなんだよ、こんなに早く建つとは思っていなかったがな。くぁ・・・・・・」

 

 

 ゆかりに声をかけられ、竜は返事を返す。

 返事をするのと同時に竜はアクビをしてしまう。

 アクビをする竜の姿にゆかりは小さく微笑んだ。

 

 

「寝不足なんですか?」

「おう、新しく買った“DEAD BY DAYLIGHT”って言うゲームが面白くてな」

「ああ、DbDですか。あれは楽しいですよね」

 

 

 眠そうな竜の姿にゆかりが尋ねると、竜は軽く首を回して少しでも眠気を飛ばそうとしながら答える。

 竜の言ったゲームのタイトルを知っていたのか、ゆかりは頷きながら肯定する。

 

 

「ゆかりも知ってたか。昨日はそれで遅くまでやっててな」

「そうなんですか。実は私も昨日初めてDbDをやったんですよ。よかったら今度一緒にやりませんか?」

「良いな。昨日は野良でやってたんだけど何回か切断で味方がいなくなってな・・・・・・」

 

 

 “DEAD BY DAYLIGHT”の野良は魔境である。

 そこまで多いというわけではないが1度吊られただけで切断して逃げ出してしまう生存者がいるのだ。

 1度吊られただけで諦める生存者を思いだし、竜は少しだけ顔をしかめた。

 

 

「ああ、それは私も経験がありますね。あれは本当に困りますよね」

「中にはすごい人もいたけどな。『BUTA860』って名前の人とか『SUKIYAKI』って名前の人がすごい逃げるのが上手くてな」

 

 

 救助や発電機の修理を素早くおこなっていく上半身裸の生存者。

 1人で開幕から出口を開くまで殺人鬼から逃げ回るどことなくアメリカンな生存者。

 

 昨日、偶然マッチングしたとても上手い生存者を思い出しながら竜は言う。

 殺人鬼から逃げる上手さは個人の技術が如実に現れるので、この2人は本当に上手かったのだろう。

 

 

「まぁ、なぜか『BUTA860』って人の方は殺人鬼に追いかけられてるときに他の生存者の方にめっちゃ向かってきてたけどな。『SUKIYAKI』って人の方は1人で他の人の近くに行かないように気をつけてたみたいなのに」

「・・・・・・それって上手い方に入れて良いんですかね?」

 

 

 救助や修理の速度が早いにしても殺人鬼から逃げる際に他の人に擦りつけようとする。

 これは本当に上手い人に入れていいのだろうか。

 竜の言葉にゆかりは曖昧な表情を浮かべながら首をかしげた。

 

 

「なんだかんだで逃げきったりしてるから上手いで良いんじゃないか?」

「そうなんですかね?」

 

 

 その後も竜とゆかりは“DEAD BY DAYLIGHT”の話をしながら学校に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第81話



フレンドとDbDをやっていて、ボックスから紫のカギを入手して最後の最後に自分が先にカギで脱出してそのあとにフレンドが脱出しました。
今のところこれが一番嬉しかった脱出でしたね。




 

 

 

 

 “DEAD BY DAYLIGHT”の話をしながら竜とゆかりは学校に向かう。

 どちらも昨日始めたばかりなのでいろいろと分からないことが多く、お互いに調べた情報を交換する意味もあった。

 

 

「とりあえず生存者はパークを優先で良さそうですね」

「だな。アイテムとかはマッチ中に拾えるわけだし」

 

 

 マッチにはアイテムを持ち込むことができるが、マッチ中のエリアにはアイテムの入ったボックスがいくつか出現する。

 このボックスは自由に開けて中のアイテムを得ることができるのだ。

 なお、ボックスを開けているときは大きな音が鳴るので、殺人鬼に気づかれないように離れた位置で開くことを心掛けておくといい。

 また、マッチ中に手に入れたアイテムを持ったまま脱出するとそのまま入手することができるので、余裕があるのなら持ち帰るといいだろう。

 

 2人が話しながら歩いていると背後から人の走る音が聞こえてくる。

 足音に気がついて2人が振り返ると、茜が元気に走りながら竜とゆかりのもとに向かってきていた。

 走ってくる茜を追うようにして葵も同じように駆け寄ってくる。

 

 

「2人ともおはようや!」

「竜くん、ゆかりさん、おはよう」

「おはよう。朝から走るとか元気だな」

「茜さん、葵さん、おはようございます」

 

 

 元気に話しかけてくる茜に竜は苦笑しながら答えた。

 茜が朝から元気なのはいつものことなので竜もゆかりもそこまで気にはしていない。

 

 

「なぁなぁ、昨日新しいゲームやっとったよな?」

「おう、“DEAD BY DAYLIGHT”を新しく買ったんだよ」

 

 

 肘でうりうりと竜をつつきながら茜は尋ねる。

 茜がなぜ竜が新しいゲームを買ったのが分かるのか不思議に思えるかもしれないが、これはプレイステーション4の機能で、フレンド登録をしているフレンドの遊んでいるゲームを知ることができるのだ。

 竜の言ったゲームのタイトルに葵はビクリと肩を震わせる。

 

 

「で・・・・・・、デッドバイ・・・・・・?」

「おう、殺人鬼から逃げながら発電機を回して脱出するゲームだ」

「あー、動画で知っとるわ。あれはうちも気になっとったんよ」

 

 

 恐る恐る確認をする葵のようすに笑いながら竜は肯定する。

 葵は茜につき合わされて“DEAD BY DAYLIGHT”の動画を見ており、殺人鬼たちの見た目がかなり苦手なのだ。

 竜の答えに茜は動画の内容を思い出してウンウンと頷く。

 

 

「けっこう楽しくてじゃっかん寝不足でな、・・・・・・くぁ」

「ああ、だから竜くん眠そうなんだ」

 

 

 眠そうな竜の様子に納得がいったのか、葵は小さく呟く。

 

 

「ゆかりも昨日始めたらしくてな今度いっしょにやろうかって話してたんだよ」

「へぇ、そうなんかぁ・・・・・・」

「イヤー、スゴイグウゼンデスヨネー」

 

 

 竜の言葉に思うことがあったのか、茜はゆっくりとゆかりの方に顔を向ける。

 茜から顔を逸らしながらゆかりは分かりやすいほどの棒読みで答えるのだった。

 

 

「うちもDbDを買おうかなぁ」

「え?!本気なのお姉ちゃん?!」

 

 

 竜とゆかりが始めたと知り、茜は自身も気になっていたこともあって“DEAD BY DAYLIGHT”の購入を考える。

 茜の呟きに葵は驚き、スゴい勢いで茜に顔を向けた。

 確かに“DEAD BY DAYLIGHT”を茜が買えば葵も竜と一緒に遊ぶことができる。

 しかし、それと同じくらいに家でやってほしくないという思いもあるので、葵としてはなんとも言えない心情だった。

 

 

「前々から面白そうとは思っとったからな。竜とゆかりさんがやり始めたならちょうどいい機会やと思うんよ」

「それは・・・・・・、そうかもしれないけど・・・・・・」

 

 

 茜の言葉に葵の中で竜と一緒に遊びたい思いと、怖いゲームをやりたくないという思いがぶつかり合う。

 まぁ、葵が悩んでいたとしても茜の中では買うことがほぼ決定事項となってしまっているので、どちらにしても葵が怖がる未来は確定してしまっているのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第82話

 

 

 

 

 4人で会話をしながら竜たちは学校に向かう。

 会話の内容は基本的には“DEAD BY DAYLIGHT”のことばかりだが、実際に映像を見ているわけではないので葵もそこまで怖がらずに会話に参加できていた。

 

 

「そういえば気になったんやけど、竜とゆかりさんは一緒に登校しとるんか?」

「そうだな。最初は偶然だったけど、ここのところはだいたい一緒になってるな」

 

 

 ふと思い出したように茜は尋ねる。

 茜の質問に竜は頷いて肯定する。

 一番最初は偶然だったが、竜とゆかりはいつの間にか一緒に登校するようになっていた。

 

 

「ええ、私の出る時間と竜くんの出る時間が偶然一緒みたいで」

「・・・・・・本当に偶然なのかな?」

 

 

 ゆかりの言葉に葵は小さく呟く。

 葵の呟きが聞こえたのか、ゆかりはソッと葵から顔を逸らした。

 

 

「まぁ、ゆかりさんが時間を見計らって家を出てるのとかは別にええわ」

「いえ、ですから偶然で・・・・・・」

「 別 に え え わ 。葵~、うちらも次からこのくらいの時間に出ようや」

「そうだね。ボクも竜くんと一緒に登校できたら嬉しいし」

 

 

 ゆかりの反論を断ち切って茜は葵に提案する。

 茜の提案に葵は嬉しそうに頷いた。

 茜に言葉を断ち切られたゆかりは少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。

 そんな3人のやり取りに竜は苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

「あ、みんなおはよー!」

「マキさん、おはようございます」

「おう、おはよう」

「おはようや、マキマキ」

「おはよう、マキさん」

 

 

 会話をしながら歩いていたので、いつの間にか竜たちは校門に到着していた。

 校門に着くと竜たちの姿を見つけたマキが手を振りながら駆け寄ってくる。

 駆けるマキの姿にゆかりはSAN値を削られつつ、挨拶を返し、竜は駆け寄ってくるマキから視線をやや上に固定しながらマキに手をあげて応えた。

 

 

「今日はみんなで登校してきたんだねー」

「せやで。今日はたまたま早くに家を出てなぁ」

「そういえばいつもはもう少し遅いですよね」

 

 

 4人が揃って登校してきた姿にマキは羨ましそうに呟く。

 マキの言葉にゆかりは茜と葵が普段より早く登校していることに気づいた。

 いつもであればもう少しあとになってから教室に入ってきているはずなので、そう考えると今日はそこそこに早い時間に登校していると言えるだろう。

 

 

「あー、今日は珍しく葵がスッと起きてくれてなぁ」

「わーッ!わーッ!お姉ちゃんなにを言ってるの?!」

 

 

 ゆかりの言葉に茜はいつもより早く登校できた理由を言う。

 茜の暴露に葵は思わず茜の口を押さえようと手を伸ばすが、ヒラリと茜に避けられてしまった。

 

 

「茜じゃなくて葵なのか」

「葵さん、寝起きが悪いんですか?」

「葵ちゃんはスッキリと起きてそうなイメージだったけどなー」

 

 

 茜の言葉に3人は意外そうな表情を浮かべながら葵を見る。

 3人から視線を向けられ、葵は恥ずかしそうにうつむいてしまう。

 正直なところ、いつも登校する時間が少し遅いのは茜が寝坊しているからだと思っていたため、茜の言葉は本当に意外だったのだ。

 

 

「みんながうちのことをどう思ってるのかは分かったわ。うちはお弁当を作るために早めに起きとるからな?」

 

 

 ポカポカと軽く竜を叩きながら茜は言うが、茜と葵の外での様子を考えればそう思われても仕方がないだろう。

 

 片や、元気に動きまわって勉強は少し苦手な姉。

 片や、おとなしく勉強のできる優等生な妹。

 

 家の外での2人はおおむねこのような評価なため、どちらが寝坊しそうかと問われれば答えはほぼ1つしか出ない。

 3人の反応から、自分がどう思われていたのかを理解した茜は不満そうに頬を膨らませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第83話

 

 

 

 

 自分のことを寝坊するような人間だと思われていたことが不満な茜は一番近くにいた竜のことをポカポカと叩く。

 そして竜を叩く茜のことを、寝坊をしているのが自分だとばらされた葵がペチペチと叩く。

 3人が並んで隣の人間のことを叩くというよく分からない光景が教室に向かう廊下で起きていた。

 

 

「そういえばマキは昨日モンハンを始めたんだっけ?どこまでできたんだ?」

「えっとねー、大きなモンスターの背中から降りて大きなトカゲから逃げて前線基地って所にまで進んだよ」

 

 

 ポカポカと叩いてくる茜の腕を防ぎながら竜はマキに尋ねる。

 攻撃を防ぐ竜に茜は少しだけフェイントを織り混ぜながら攻撃を繰り出していった。

 なお、葵から茜への攻撃は続いており、その攻撃はすべて茜に当たっている。

 3人の様子にマキは苦笑しながらどこまで進んだのかを答えた。

 

 マキの言う大きなモンスターとは開幕にハンターの乗る船にぶつかってくる超大型のモンスター、ゾラ・マグダラオスのことだろう。

 ついでに言うなら、大きなトカゲとは最初に現れて別のモンスターにボコボコにされる黄色のモンスター、ドスジャグラスのことだ。

 

 

「というかモンハンのキャラクター作成の項目さぁ、細かすぎじゃない?」

「こだわる人はかなり作り込めるからな」

「マキさんも納得がいくまで作り直したんですか?」

 

 

 モンハンのキャラクター作成の項目の多さを思いだしたのか、マキは少しだけ疲れたような表情になる。

 マキの様子からキャラクター作成でかなりの時間を使ったらしいということがうかがえた。

 

 

「うーん、さすがに時間がかかりすぎるからデフォルトのやつから軽く手を加える程度にしたよ」

「まぁ、一番無難な手やな」

「一番失敗しないで簡単にできる方法だったよね」

 

 

 さすがに何度もキャラクター作成、ムービー、データ削除を繰り返すのは大変だと理解したのか、マキは一番確実な方法でキャラクター作成をしたようだ。

 マキの答えに茜と葵はそれぞれ攻撃をするのをやめて頷く。

 そして、5人は教室に到着した。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 時間は進んで、昼休み。

 チャイムが鳴るのに合わせて竜はお昼のパンを取り出した。

 それに合わせて竜の近くに茜、葵、ゆかり、マキがお弁当を片手に集まってくる。

 

 

「あれ、竜くん。パンの量が昨日よりも少なくない?」

「ほんまや。買い忘れたんか?」

 

 

 竜の取り出したパンの量が少ないことに気がついた葵と茜は首をかしげて尋ねる。

 2人の言葉にゆかりとマキも気がついたのか、同じように不思議そうに竜を見る。

 

 

「ああ、昨日ちょっと金を使いすぎてな。しばらくは節約だよ」

 

 

 4人に自身の手もとを見られながら特に隠すことでもないため、竜はお昼のパンの量が少ない理由を話す。

 竜の言葉に4人は納得したのか、なるほどといった様子で頷いた。

 

 

「竜せんぱーい!お昼ご飯を食べましょー!」

「・・・・・・よくよく考えると先輩の教室に躊躇なく入ってくるってスゴいよな」

「せやね」

「ボクには無理かなぁ・・・・・・」

 

 

 元気に教室の扉を開けて現れたあかりの姿を確認し、竜はポツリと呟く。

 竜の呟きが聞こえたのか茜は同意するように頷いた。

 

 教室に入ってきたあかりは竜の近くの机を引っ張って寄せ、大きな重箱をデン!と置く。

 そして、重箱を置いた際にそこそこに大きな音がなったため、葵が少しだけ驚いて跳び跳ねたのを竜たちはしっかりと目撃していた。

 

 

「やっぱりスゴい量だよな。食費とかどうなってるんだ?」

「えっとですね、1度に大量に仕入れているから単価としては安く済んでるらしいですよ。それにお父さんなんて私よりも食べますから」

「え、これより多いの・・・・・・?」

「これは、一般家庭では絶対に食費を用意できませんね・・・・・・」

 

 

 ただでさえあかりの食べる量は多いのに父親はさらに食べるとあかりは言う。

 あかりの口から出てきた衝撃の事実に、竜たちはお昼ご飯を食べ始めるあかりのことを唖然と見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第84話

 

 

 

 

 パンの量が少なかった竜は早々に食べ終え、重箱のお弁当を食べているあかりをチラリと見る。

 あかりの体は太いわけではなく、むしろ一部を除いて細めでどこにその食べたものが行っているのかが気になるほどだ。

 

 

「あ、そうだ。なぁ、なんかいいバイトとか知らないか?」

「バイト、ですか?」

「ふぁんひゃ、ふぁひとふるんふぁ?」

「お姉ちゃん、食べ物を咥えながらしゃべらないでよ・・・・・・」

 

 

 竜はふとバイトをしようと考えていたことを思い出して茜、葵、ゆかり、マキ、あかりの5人に尋ねる。

 竜の言葉に2番目に食べ終わっていたゆかりは不思議そうに聞き返す。

 茜も同じように尋ねようとしていたが、口にエビフライを咥えていたためにちゃんとした言葉になっておらず、茜以外の全員が首をかしげた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・なんて?」

「えっと、たぶんだけど『なんや、バイトするんか?』って言ったんじゃないかな?」

 

 

 茜がなんと言ったのか分からず、竜は首をかしげながら聞き返した。

 竜の言葉になんとか茜の言葉を理解できたらしい葵が答える。

 どうやら葵の推測は当たっていたようで、葵の隣で茜がエビフライをモグモグと食べながら頷いていた。

 

 

「んぐ・・・・・・ごくん。んで、なんで急にバイトなんや?」

「いや、もう少し自由に使える金が欲しくなってな」

 

 

 エビフライをしっかりと尻尾まで食べてから茜は竜に尋ねる。

 茜の言葉に竜は頬を軽く掻きながらバイトを始めようと思った理由を答えた。

 “DEAD BY DAYLIGHT”とプレイステーションストアカードを買ったために少しばかり金欠気味なことも理由なのだが、その辺りは別に言う必要はないだろうと竜は判断した。

 

 

「欲しいものとかを考えるとお金はいくらあっても足りませんからね」

「モグモグ、モグモグ・・・・・・ごくん。でしたら、うちの系列のどこかでバイトを探しますか?」

紲星(きずな)グループのバイトってなんかスゴそうだな・・・・・・」

 

 

 口に含んでいたものを飲み込んでからあかりは提案をする。

 どんな人間でも知っているほどの大きな会社、紲星グループ。

 その仕事の種類は多岐にわたっており、街を歩けば紲星グループ関連のものが最低でも10個は見つかるほどだ。

 そんな大きな会社の系列のバイトと言われればまともに仕事ができるのかすら不安になってしまう。

 

 

「給料は多そうやけど、その分要求される技術とかも厳しそうなイメージはあるなぁ」

「そういえばこの校舎も紲星グループが作ったんじゃなかったっけ?」

「たしかそのはずですね。入学したときに校長先生に挨拶されましたし」

「ま、まぁ、どんなのがあるか分からないし。一旦保留で頼むわ」

 

 

 葵が思い出したように言うと、あかりは頷きながら肯定した。

 しかも校長先生が挨拶したとなれば確定で間違いはないだろう。

 そんな大きな会社である紲星グループのバイト。

 それも社長の娘であるあかりからの紹介となればプレッシャーがとてつもないものになってしまう。

 竜はあかりの紹介でバイトをした場合の未来を考えてしまい、苦笑いを浮かべながら答えるのだった。

 

 

「ん~・・・・・・。なんだったらうちで働いてみる?」

「マキの所でか?」

 

 

 少しだけ考える仕草をしていたマキが提案をする。

 マキの提案が意外だったのか、竜以外の全員は驚いた表情でマキを見ていた。

 

 

「うん。といってもお父さんに聞いてみないと分からないけどね」

「ふむ・・・・・・。知ってる所ならまだ働きやすい、か?放課後に聞きに行ってもいいか?」

「あ、でしたら私も行きます。紅茶が飲みたい気分なので」

「うちも行くでー」

「ボクも行くよ」

「マキ先輩のお家はなにかお店をやってるんですか?」

 

 

 放課後にバイトの話を聞くためにマキの家でやっている喫茶店“cafe Maki”に向かうことを決めると、ゆかりたちも一緒に向かうと言い出した。

 唯一マキの家が喫茶店をやっていると知らないあかりだけが不思議そうに首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第85話

 

 

 

 

 放課後になり、竜たちは校門に集合した。

 お昼休みのときにあかりにマキの家が喫茶店をやっていることは説明してあるので、あかりはワクワクとした表情になっている。

 

 

「さ、マキマキの家に向かうか」

「今日はなにを頼もうかなぁ」

「どれも美味しいですからね」

「先輩たちがそこまで言う料理と飲み物ですか。とても楽しみです!」

 

 

 校門をくぐり、竜たちはマキの家“cafe Maki”に向かって歩き始めた。

 バイトが可能かを聞くために向かうのだが、もともとできるかどうかも分からないので竜には特に気負った様子も見られない。

 

 

「そういえばモンハンはやってみてどうだったんだ?」

「んぅ?そうだねぇ、まだ武器はもらってないけど動かし方とかは分かったし、面白いと思ったよ。それにグラフィックもとてもキレイでビックリしちゃった」

「ワールドになってからのグラフィックの進化はスゴいですからね。私なんていまだに高いところから飛び降りるとドキッとしますし」

 

 

 竜の言葉にマキは昨日プレイした“モンスターハンターワールド”のことを思い出しながら答える。

 “モンスターハンターワールド”のグラフィックは従来のものからかなり進化をしており、狩猟をせずにエリアを歩いているだけでも十分に楽しめるほどのものになっている。

 それこそ、高所から飛び降りればバンジージャンプを疑似体験しているかのような気分さえ味わえるのだ。

 マキの言葉にゆかりも頷きながら肯定した。

 

 

「あー、たしかに分かるな。俺も高いところから飛び降りるのは避けてるし・・・・・・」

「いつの間にか飛び降りないルートを探しちゃうんですよね。それにキャンプから近ければそっちにファストトラベルしちゃいますし」

「そんなに怖いですかね?私はむしろ飛び降りていくのが楽しいんですけど」

 

 

 ゆかりの言葉に竜もしきりに頷く。

 竜とゆかりの言葉が不思議に思う人がいるかもしれないが、それほどまでにグラフィックがキレイで、慣れない人はなかなか慣れることができないのだ。

 2人の言葉にあかりは首をかしげながら呟く。

 とまぁ、あかりのように平気な人はぜんぜん平気なので、この感覚には個人差がかなりある。

 

 

「うちも葵も高いところから飛び降りるんは平気やね」

「そうだね。ボクはどちらかと言うと障気の谷に出てくるモンスターの方が苦手だし」

 

 

 葵の言う障気の谷というのは“モンスターハンターワールド”に存在するエリアの名称の1つで、このエリアに出てくるモンスターたちはどことなくホラーチックなモンスターが多いのだ。

 例えるならバイオハザードに出てきてもおかしくない見た目と言えば分かりやすいだろう。

 

 

「ヴァルハザクとかオドガロンとかか」

「ティガレックスとかラドバルキンとかは別に平気なんだけどね」

 

 

 話しながら苦手なモンスターたちのことを思い出してしまったのか、葵は少しだけ嫌そうに顔をしかめた。

 顔をしかめる葵に竜たちは苦笑するのだった。

 

 

「まぁ、苦手ってだけで狩れるなら良いんじゃないか?」

「狩猟数は一桁だけどね・・・・・・」

「・・・・・・ヴォルガノスと同じくらいに狩ってないんですね」

 

 

 ゆかりの言うヴォルガノスとは“モンスターハンターワールド”内でもっとも狩られていないモンスターの名前だ。

 ヴォルガノスと同じレベルで狩っていないということはほぼほぼ防具や武器などは作れていないと考えてもいいだろう。

 

 

「良いの!ボクはイヴェルカーナの防具で充分なの!」

「その辺は自由だから構わへんけどねー」

「あ、家に着いたよ」

 

 

 プイ、と頬を膨らませながら葵は顔を逸らす。

 まぁ、防具に関しては個人の自由なため特に文句などを言うつもりもないので、茜もなにも言うつもりもなかった。

 そして、竜たちはマキの家がやっている喫茶店“cafe Maki”に到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第86話


ギリギリの僅差でアンケートの結果が出ました。

正直、同票だったらどうしたものかと戦々恐々してましたよ・・・・・・




 

 

 

 

 “cafe Maki”に着いた竜たちはマキの案内でテーブルに、そしてマキは制服から着替えるために家へと向かった。

 テーブルに着いた竜たちはメニューを広げてなにを頼もうか考え始めた。

 

 

「わぁ、色々なものがあるんですね!」

「紅茶にコーヒー、緑茶にジュース系、それとマキ茶。飲み物だけでも種類がありますからね」

「あと、マーマイトもあるな」

「それは飲み物とは言えないんじゃないかなぁ・・・・・・」

 

 

 メニューを見てその種類の多さにあかりは嬉しそうな声をあげる。

 あかりの言葉にゆかりも頷きながら飲み物をあげていった。

 そして竜が追加であげた飲み物の名前に葵は苦笑をしながら呟く。

 

 

「飲み物だけやのうて食事も旨いんやで。このケーキとかもめっちゃ旨かったんや」

「変わり種で“星を(スター)見る(ゲイジ)パイ(ーパイ)”なんかもあるが、基本的にハズレはないな」

「むしろその辺はどんな人が頼むのかが気になるんですけど・・・・・・?」

 

 

 マーマイトやスターゲイジーパイ。

 どう考えても一般的な喫茶店にあるはずのないメニューにあかりは不思議そうに首をかしげる。

 ちなみにこの2点は特定の常連から強く要望されて店長であるマキの父親が作り始めたメニューであって、最初からメニューに並んでいたものではない。

 

 

「ま、特には気にせんと自分の食べたいものを選んだらええんとちゃう?」

「そうですね!では・・・・・・」

 

 

 茜の言葉にあかりは頷き、メニューをパラパラとめくる。

 そして、あかりの目はメニューのケーキの部分で目が止まった。

 しばらくケーキの部分を見ていたかと思うと、あかりは続けてサンドイッチなどの軽食の部分を見始める。

 

 

「ケーキを全種類3つずつ、それとサンドイッチとパフェにしますね!」

「は・・・・・・?」

「え゛・・・・・・?」

「マジかぁ・・・・・・」

「えぇ・・・・・・」

 

 

 メニューのケーキの部分を見、続けて軽食の部武運を見て少しだけ考えたかと思うとあかりは顔をあげて自分の頼むものを言った。

 あかりの頼んだものの内容に竜たちは驚き、思わず口をポカンと開けてしまう。

 “cafe Maki”のメニューの中でケーキはそこまで種類は多くないが全部で5種類。

 それを3つずつで合計15個。

 さらにそれに加えてボリュームが多めなサンドイッチとパフェの追加。

 あかりがたくさん食べることは知っているがこの時間でもそんなに食べるとは予想もしていなかった。

 

 

「飲み物は無難に紅茶ですね。先輩たちはどうしますか?」

「あ、ああ・・・・・・。俺はコーヒーだけで充分かな」

「うちは今日はオレンジジュースにしておくわ」

「ボクはメロンソーダにしておこうかな」

「私は・・・・・・、私もコーヒーにしておきます」

 

 

 あかりの言葉に竜たちはハッと口を閉じて自分たちの頼む飲み物を決めていった。

 竜たちが飲み物しか選ばないことが気になったのか、あかりはコテンと首をかしげる。

 

 

「先輩たちはケーキとかは頼まないんですか?」

「ちょっと、大丈夫かな・・・・・・」

「いやぁ・・・・・・あんたの頼む量を聞いとるだけで胸焼けになりそうやからなぁ・・・・・・」

「あかりちゃんが食べてるのを見るだけで充分そうだしね・・・・・・」

「むしろ本当に食べきれるんですか・・・・・・?」

 

 

 不思議そうに尋ねるあかりに竜たちは苦笑いを浮かべながら答える。

 竜たちの言葉の意味がわからないといった様子であかりは再び首をかしげた。

 

 

「そうですか?じゃあ、頼んじゃいましょうか。すいませーん!」

 

 

 竜たちの答えに首をかしげていたあかりだったが、注文をすることの方が優先するべきだと判断したのかちょうど近くに来ていたマキの母親に声をかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第87話

 

 

 

 

 竜たちをテーブルに案内し終えたマキは自分の部屋で学校の制服から喫茶店の制服に着替えていた。

 学校の制服を脱ぐ際にマキの体の一部が大きく揺れるが、悲しいことにそれを目撃するものは誰もいなかった。

 まぁ、それを見たら見たで“DEAD BY DAYLIGHT”のドクターのショック治療を受けたレベルの発狂をするものもいたりするのだが。

 

 

「・・・・・・よし。さてと、まずはお父さんに竜くんが働いてもいいか聞かないと」

 

 

 喫茶店の制服に着替え終わったマキは自分の部屋から出て父親のいる喫茶店のキッチンへと向かう。

 

 キッチンにマキが着くと、父親が少しだけ忙しそうにケーキを用意していた。

 父親の用意しているケーキの数がどう考えても多く、マキは少しだけ驚きつつ父親に近づいた。

 

 

「ただいま。お父さん」

「ああ、おかえり。マキ」

 

 

 マキの言葉に父親は嬉しそうに笑顔で答える。

 父親の用意しているケーキを不思議そうに見ながらマキは父親の近くに移動した。

 

 

「なんだかたくさんケーキを用意しているけど、そんなにお客さんが来てるの?」

「いや、これはマキの連れてきた後輩の子が1人で注文したらしいんだ」

「あー・・・・・・」

 

 

 マキは大量に用意されているケーキを見て首をかしげつつ尋ねる。

 マキの言葉に父親は苦笑しながら大量に用意されたケーキの理由を話した。

 苦笑する父親の顔を見ながら、誰がケーキを頼んだのかを理解したマキはポリポリと頬を掻くのだった。

 

 

「あかりちゃんなら、仕方ないかぁ・・・・・・」

「悪いけどマキも運ぶのを手伝ってくれるかい?」

「もっちろんだよ!」

 

 

 頭の中でモグモグと口を動かすあかりの姿を思い浮かべながらマキは呟く。

 そして父親に言われて用意されたケーキを竜たちの座っているテーブルへと持っていくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ────フォークを刺す

 

 

 ────刺されたケーキが浮かび上がる

 

 

 ────ケーキが消える

 

 

 まるで手品でも見ているかのような光景に竜たちは思わず飲み物を飲むことすら忘れてしまっていた。

 そんな竜たちの視線を受けている主、紲星あかりは幸せそうにケーキを食べていた。

 すでに空になった皿は10枚。

 本当に味わっているのかと聞いてしまいたくなるほどの食べっぷりだった。

 

 

「ぅんまぁ~い!とっても美味しいですね!」

「ああ・・・・・・、まぁ、嬉しそうでなによりだよ・・・・・・」

「どうしましょう。見てるだけなのに胸焼けが・・・・・・」

「これ、カロリーにしたらどんくらいなんや・・・・・・?」

「ちょっとボクは考えたくないかなぁ・・・・・・」

 

 

 マキとマキの母親によって運ばれてくるケーキもすでに15皿目がテーブルに置かれている。

 すさまじいペースで食べていくあかりの姿に喫茶店の中にいるほとんどの客が驚きの表情であかりを見ている。

 そして、それを目の前で見せられていた竜たちは食べてもいないのに胸焼けのような感覚に襲われるのだった。

 

 

「ん~・・・・・・、これだけ美味しいのですから追加で頼んじゃいましょうかねぇ」

「まだ食えるんか?!」

 

 

 余裕綽々といった様子のあかりに茜は思わずツッコミをいれる。

 これだけの量のケーキを食べたのにまだ食べられると言うあかりの言葉に竜たちは少しだけ疲れた表情を浮かべ始めていた。

 

 

「そうですね、まだまだ食べられますよ」

「これだけ食べてまだ食べられるんですね・・・・・・」

 

 

 茜の言葉にあかりは嬉しそうにフォークを揺らしながら答える。

 もはやあかりが満腹になることなどないのではないか、そんな風にすらゆかりは思い始めていた。

 

 

「あ~・・・・・・、この時間にそんなに食べて大丈夫なのか?」

「私的には大丈夫ですけど・・・・・・。そうですね、家の料理人にも悪いのでこの辺りで止めておくことにします」

 

 

 あまりにも大量に食べるあかりに竜は思わず尋ねる。

 放課後ということもあり家に帰ってしばらくすれば晩御飯の時間になるのはほぼ間違いはないだろう。

 それなのに今こんなに食べて大丈夫なのか。

 

 竜の言葉にあかりは少しだけ考えると、フォークを置いて追加で注文することをやめる。

 まぁ、それでもサンドイッチとパフェがまだあるのだが・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第88話

 

 

 

 

 何度もキッチンと竜たちのテーブルを往復していたマキは、サンドイッチとパフェをゆっくりと食べ始めたあかりの姿を見てフゥと息を吐く。

 マキはお昼休みの時のあかりの重箱を知っているだけに、もしかしたら喫茶店の食料をすべて食べ尽くしてしまうのではないかとも思っていた。

 喫茶店への売り上げとしては助かるかもしれないが、それでも他の客の迷惑になるような事態にならないで済んだことにホッとしていた。

 

 

「ちょっと大変だったね・・・・・・」

「いやぁ・・・・・・、ここまで食べるとはねぇ・・・・・・」

「本当にビックリねぇ」

 

 

 キッチンから竜たちのテーブルを見ながらマキの父親と母親はやや疲れた表情を浮かべていた。

 今までにないレベルの注文だったため、マキだけでなく両親も含めて疲れていた。

 

 

「あ、お父さん。竜くんがバイトを探してるんだけど・・・・・・、うちでどうかな?」

「竜くんって言うとあの子だろ?ううん、男を働かせるのはなぁ・・・・・・」

 

 

 運ぶものもなくなり、余裕のできたマキは父親に竜をバイトとして働かせることができるかを聞く。

 マキの言葉に父親はチラリと竜の方を見、腕を組んで唸った。

 店としては人手が増えることは歓迎なのだが、それが男となると娘をもつ父親としてはどうにも簡単には頷くことができなかった。

 

 

「あら、私は働いてもらうのは歓迎よ?」

「いや、しかしだなぁ・・・・・・」

「もう・・・・・・、ちょっと来てちょうだい」

 

 

 母親の肯定する言葉を聞いても父親は渋い表情を浮かべている。

 乗り気ではない父親にしびれを切らしたのか、母親は父親の手を引いてキッチンの奥へと行ってしまった。

 キッチンの奥に消えていってしまった両親の姿にマキはコテンと首をかしげる。

 

 

「やはり・・・・・・おと・・・・・・・・・・・・」

「いえ・・・・・・・・・・・・だから・・・・・・むしろ・・・・・・」

「なにを話してるんだろ?」

 

 

 途切れ途切れにかすかに聞こえてくる両親の言葉にマキは興味を示しつつ、店内にいる客にいつ呼ばれても大丈夫なように待機している。

 しばらくすると、母親は楽しそうにニコニコと笑みを浮かべながら、父親はまだどこか納得していないような表情を浮かべながら戻ってきた。

 

 

「マキちゃん、バイトの件はオッケーになったわよ」

「え、ホントに?!」

「・・・・・・・・・・・・ああ、本当だよ」

 

 

 母親の言葉にマキは父親を見る。

 さっきまではそこまで乗り気ではなかったのにいったいどんな心変わりがあったのか。

 マキが父親を見れば父親は少しだけ苦いような表情になりながらもしっかりと頷いた。

 

 

「ちゃんと竜くんとも話をしたいからつれてきてくれるかい?」

「うん。分かった!」

 

 

 父親の言葉にマキは嬉しそうに竜たちのいるテーブルへと向かっていった。

 小走りにテーブルへと向かっていくマキの姿を見ながら父親は小さくため息を吐く。

 やはり娘をもつ父親としては納得ができていないのだろう。

 

 

「はぁ・・・・・・」

「もう。さっきも言ったでしょう?他の変な人が近づいてくるよりも先に信頼できそうな子を近くに置いておけばマキも安全なのよ?」

「そうは言ってもなぁ・・・・・・、あぁ、マキぃ・・・・・・」

 

 

 ため息を吐く父親に母親は先ほどキッチンの奥に行ったときにした話をもう一度する。

 娘が心配であるならば先に護衛役として信頼できる人間を置いておけばいい。

 そうすれば自然と変な人間などから娘を守ることができるだろう。

 そう言って母親は竜が“cafe Maki”で働くことを認めさせたようだ。

 

 

「・・・・・・・・・・・・それに、あの子とマキちゃんってあなたと私に似てる気がするのよねぇ」

 

 

 うめく父親から顔を逸らし、竜に話しかけているマキを見ながら母親はポツリと小さく呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第89話





 

 

 

 

 両親から竜が働く許可を得たマキは竜たちの座っているテーブルに小走りで駆け寄ってきた。

 嬉しそうにマキが駆け寄ってきたことに不思議そうに首をかしげながら竜たちはマキを見る。

 ちなみに、あかりはすでにサンドイッチを食べ終えて、残りはパフェだけとなっていた。

 

 

「竜くん、お父さんがバイトとして働いてもらっても良いって!」

「マジか!」

 

 

 マキの言葉に竜は思わず立ち上がって声をあげてしまう。

 そしてすぐに目立ってしまっていることに気がついて椅子に座り直した。

 

 

「ん、んん!えっと、本当にオッケーが出たのか?」

「本当だよ。あ、でもお父さんが話したいことがあるから呼んできてほしいって」

 

 

 咳払いをして先ほどの目立ってしまったことをどうにか誤魔化そうとしつつ、竜はマキに再度確認をとる。

 誤魔化そうとする竜にマキは苦笑し、頷いて肯定した。

 そして父親に竜を呼んでくるように言われたことを説明する。

 

 

「分かった。どこに行けばいいんだ?」

「それじゃあ私についてきて!」

 

 

 マキの説明に竜は頷き、席から立ち上がる。

 今度は普通に立ち上がったのでそこまで目立つことはなく、静かに立ち上がることができた。

 そして、マキの案内のもと、竜はマキの父親の待つキッチンへと向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 マキと竜がキッチンに向かっていくのをゆかりたちは何処と無く恨めしげな瞳をしながら見ていた。

 

 

「まさか、マキさんのお父さんが許可を出すとは・・・・・・」

「この間の話を聞いた感じでは絶対に男は採用せえへんと思っとったんやけど・・・・・・」

「なにか他の理由がある、とか?」

「えっと、そんなに竜先輩がバイトできそうなことが意外なんですか?」

 

 

 唯一マキの父親の溺愛っぷりを知らないあかりはゆかりたちの言葉に不思議そうに首をかしげる。

 

 

「せやで、マキマキの父ちゃんはマキマキのことをかなり溺愛しとるんや」

「ですのでバイトとして働くことを許可したことは本当に意外なんですよ」

「そうなんですね」

 

 

 ゆかりと茜の説明に納得したのか、あかりはパフェを口に運びながら頷いた。

 どうやらこのパフェが最後だということで、あかりはゆっくりと食べている。

 

 

「でも、それならどうして竜先輩が働くことを許可したんでしょうね?」

「本当にそこなんですよね」

「普通に、『男は採用しない』とか言いそうだと思ったんやけどね」

「ぜんぜん理由が思いつかないね・・・・・・」

 

 

 説明を聞いたあかりは改めて、なぜ竜に働く許可が出たのかが不思議になって呟く。

 あかりの呟きに同意するようにゆかり、茜、葵の3人も頷くのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ゆかりたちが会話をしている頃。

 竜はマキにつれられてキッチンに来ていた。

 竜の目の前にはマキの父親が立っており、複雑そうな表情を浮かべながら竜を見ている。

 

 

「さて、とりあえず働くことは構わないんだ・・・・・・」

 

 

 竜を見ながら父親はゆっくりと口を開く。

 言葉の端からしぶしぶといった雰囲気が感じられ、竜は少しだけ表情が固くなった。

 

 

「ただし、マキに対して不埒なおこないをした場合には即座に辞めてもらうからね!これがここで働くための条件だよ!」

 

 

 バイトとして雇う際の条件を父親は言う。

 おそらくだがこれでも父親としては最大限の譲歩なのだろう。

 そんな父親の様子に母親は少しだけ困ったような表情を浮かべている。

 

 

「えっと、とりあえずマキとは普通に接していれば良いんですよね?」

「まぁ、そうなるな・・・・・・」

 

 

 父親の言う不埒がどの程度のものなのか分からず、とりあえずは普通に接してもいいか竜は尋ねる。

 竜の言葉に父親は少しだけ考え込みながら頷いた。

 

 竜としても特段セクハラ染みた行動などをするつもりもなく。

 むしろ働くことのできる環境を用意してくれたマキには感謝しかない。

 父親の出した条件を受け入れ、竜は“cafe Maki”で働くことを決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第90話

 

 

 

 

 竜が喫茶店“cafe Maki”で働くことが決まり、あかりもパフェを食べ終えた帰り道。

 竜たちは5人は会話をしながら歩いていた。

 

 

「とまぁ、とりあえずは仕事に慣れることが最優先かな」

「やはりマキさんのお父さんは相変わらずなんですね」

 

 

 マキの父親の出した“cafe Maki”で働くための条件を竜から聞き、ゆかりたちは苦笑する。

 そこでふと思い出したように竜はあかりを見た。

 

 

「そういや普通に一緒に歩いてるけどあかりの家ってどこなんだ?場合によっては送るけど・・・・・・」

「そういえばそうやな」

「自然に帰ってたからぜんぜん気づいてなかったよ」

 

 

 竜の言葉にゆかりたちもあかりの家の場所を知らないことを思い出した。

 そして、4人の視線があかりに集まる。

 

 

「私の家ですか?でしたらこのまま一緒で大丈夫ですよ」

「そうなのか?」

「へぇ、あかりもおんなじ道なんやな」

「今まで会ったことはなかったので意外ですね」

 

 

 あかりの言葉に竜たちは少しだけ驚いた表情になる。

 まぁ、今まで普通に通ってきて見かけたこともなかったので、同じだということが本当に意外だったのだ。

 3人が驚く中、葵だけは考えるような表情になりながらあかりをチラリと見る。

 

 

「・・・・・・・・・・・・絶対にあの家だ」

「うん?葵、なんか言うた?」

「ううん、なんでもないよ。お姉ちゃん」

 

 

 あることに思い至った葵はポツリと呟く。

 葵がなにかを呟いたことに気がついたのか、茜は首をかしげながら葵に尋ねる。

 茜の言葉に葵は首を横に降って誤魔化した。

 

 

「ゆかり先輩たちはどの辺りに住んでるんですか?」

「私はまだ少し先の“清花荘”に住んでますよ」

「うちと葵もやな」

「スーパーも近いから立地は本当に良いよね」

 

 

 自分だけ聞かれたことが気になったのか、あかりはゆかりたちがどこに住んでいるのかを尋ねる。

 あかりに尋ねられ、特に隠す意味もないのでゆかりたちは普通に自分たちの住んでいる場所を答えた。

 

 

「ああ、あそこだったんですね。管理人のセイカさんも良い人ですし」

「お、なんや知っとるんか?」

「ええ、まぁ、“清花荘”を管理している管理人のセイカさんってもともとは紲星グループの社員だったんですよ」

「え?じゃあ、なんで“清花荘”の管理人をやってるの?」

「どう考えても社員の方が給料とかも良さそうですよね?」

 

 

 “清花荘”の名前を聞いたあかりは頷きながら呟く。

 あかりの呟きに茜が反応し、不思議そうに尋ねた。

 

 “清花荘”の管理人である京町セイカ。

 彼女の驚きの経歴にゆかりたちは驚いてあかりに詰め寄ってしまう。

 

 アパートの管理人と超大手の企業の社員。

 どちらの方が収入が良く、安定した職種かと尋ねられたら答えは聞くまでもないはずだ。

 

 

「ええと、その辺りはお父さんと話して決めたらしくて私もそこまで詳しくは知らないんですよ」

「なんや、そうなんか」

「でも、セイカさんが紲星グループで働いていたってのは本当にビックリしたね」

「一応、今でもうちに席は残しているらしいので本当に優秀だったんだと思いますよ」

 

 

 思わぬところからの思わぬ情報に驚きつつ、竜たちは竜の家の前に到着した。

 そして、ここであかりが立ち止まり、竜の家の向かいの家に向かっていった。

 

 

「それでは、また明日です!」

「おう!・・・・・・って、ちょい待ちい?!」

「・・・・・・え、そこがあかりさんの家だったんですか?!」

 

 

 手をあげて家の中へと入ろうとするあかりに思わず茜とゆかりはツッコミをいれる。

 あまりにも自然に家に入ろうとしていたため、状況を理解するのにほんの少しだけ時間をくってしまっていた。

 

 

「やっぱり、そうだったんだ・・・・・・」

「葵は気づいてたのか?」

「まぁ・・・・・・、工事の幕を見たときから、ね」

 

 

 そこまで驚いておらず、むしろ納得したような表情の葵に竜は尋ねる。

 竜の言葉に葵は乾いた笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第91話

 

 

 

 

 竜の家の向かいの家があかりの家だと判明し、茜とゆかりは思いきりあかりに詰め寄る。

 3人のそんな様子を竜と葵は少しだけ離れた位置で見ていた。

 

 

「デカい家だとは思っていたが、紲星グループの家なら納得だわな。葵はどうして気づいたんだ?」

「えっと、工事のときにかかってる幕があるでしょ?あれに紲星グループのマークが描いてあったからもしかしたらって思ってたんだ」

 

 

 工事をしているときにも思っていたことだが、あらためて竜はあかりの家を見渡して呟く。

 一般家庭にはまず建てることが難しいと分かるほどの大きさの家だが、それも紲星グループの家だと分かってしまえばむしろ普通なようにも感じてしまう。

 一通りあかりの家を見渡した竜は葵に尋ねる。

 竜の言葉に葵は竜の家の向かいの家があかりの家だと気づいた理由を話した。

 

 

「もしかしたら建築会社が紲星グループなだけなのかとも思ったけど家の大きさ的に、ね?」

「ああ、たしかに」

 

 

 葵の言葉に納得したのか、竜はしきりに頷いた。

 いつの間にか3人の会話が終わったようであかりは家の中へと入っていった。

 

 

「終わったか。んじゃ、行くぞー!」

「ヤッデッヤデデデ、カーンッ!」

「いや、お姉ちゃん。急にボケられても困るんだけど・・・・・・」

「たまに動画とかで見ますけど元ネタはなんなんでしょうね?」

 

 

 竜の言葉に合わせて茜が効果音のようなものを言う。

 茜の言った効果音に葵は呆れた表情を浮かべ、ゆかりは茜の言った効果音の元ネタがなんなのかを考え始めた。

 

 ちなみに茜の言った効果音の元ネタは『ロマンシングサガ ミンストレルソング』に登場する『カール・アウグスト・ナイトハルト』というキャラクターのテーマ曲であり、他にも『コレガワカラナイ』や『体に触るぞ』などの名言もあったりする。

 

 そしていつものように竜は茜、葵、ゆかりの3人を送るために一緒に“清花荘”へと向かうのだった。

 

 

「モンハンもある程度やってるとやることがなくなってくるんだよなぁ・・・・・・」

「せやねぇ、メイン武器を各属性揃えたらあとはモンスターを適当に狩るくらいやもんな」

「ボクもお姉ちゃんも武器は作り終わってるし、最近はマム・タロトかムフェト・ジーヴァくらいしかやらないから倒し方もワンパターンになっちゃうしね」

「属性武器なら煌金、攻撃力重視なら覚醒武器ですからね。生産するにしても防具くらいでしょうけど、だいたいはムフェト一式かカイザーとブラキの複合ですから代わり映えもしませんし」

 

 

 歩きながら最近のモンハンについての話を竜たちはする。

 基本的に、竜たちは全員がマスターランク100に到達しており、葵はともかくとして竜たちはほとんどのモンスターを狩っているのだ。

 なお、最も狩られていないモンスター(ヴォルガノス)は除く。

 

 

「まぁ、本当にやり込んでる人なら導きの地とか珠集めとかをやるんだろうけどな」

「うちらはそこまでやり込む派でもないしなぁ」

「使いたい武器を作ってそれで戦えれば充分ですもんね」

 

 

 竜たちのプレイは楽しめればオッケーというエンジョイ勢のやり方なので、やり込んで最高の武器や防具、装飾品などを揃えている人たちに比べればはるかに装備としては不十分である。

 まぁ、それはあくまでやり込んでいる人と比べてなので、普通の人からしたら充分すぎる装備なのだが。

 

 

「そういや、近々新しいモンスターが追加だったか?」

「そういえばそんなのあったね。追加されたらボクたちも狩りにいく?」

「防具や武器も気になりますし。良いんじゃないですか?」

「どんなデザインの装備がくるのか楽しみやなぁ」

 

 

 モンハンに新しく追加されるモンスターに思いを馳せながら竜たちは帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第92話

 

 

 

 

 注文を受け、キッチンから準備された食べ物や飲み物を注文した客のもとへと運んでいく。

 客のもとに運ぶ際に気をつけることは食べ物を落としたり、飲み物をこぼしたりしないようにすること。

 しかし、落としたりしないように気を付けて運ぶのに時間がかかってしまえばせっかくの食べ物や飲み物も冷めてしまう。

 いかにバランスをとって冷まさないように素早く移動できるか。

 それが喫茶店やレストランなどでのホールのスタッフの仕事の極意といえるだろう。

 

 

「お待たせしました。“スターゲイジーパイ”です。ごゆっくりどうぞ」

 

 

 注文された料理をテーブルに運び、竜はホッと息を吐く。

 竜がマキの家の喫茶店“cafe Maki”で数日。

 初日では慣れない仕事に慌ててしまい、マキの手助けがあったお陰でなんとか乗り越えたといった感じだったが、徐々に慣れてきたのかそこまで慌てるような事態は起こらなかった。

 

 

「竜くん、お疲れー」

「ああ、マキ。お疲れさん」

 

 

 店内を見渡して空いたテーブルの片付け、空になったコップへの水のおかわり等々。

 客からの注文がなかったとしてもやることはたくさんある。

 空いたテーブルの上に置いてある食べ終わった食器を竜がキッチンに運んでいると、マキがヒラヒラと手を振りながら声をかけてきた。

 

 

「どう?バイトはけっこう慣れてきた?」

「そうだな。完璧とは言えないけどけっこう慣れてきたと思うぞ」

 

 

 竜の持ってきた食器を受けとり、マキは竜に尋ねる。

 それと同時にマキは竜から受け取った食器を洗い始めた。

 あまりにも自然で無駄のない動き。

 手もとを見ていなければ見逃してしまっていただろう。

 

 話しかけながら食器を洗うマキに驚きながら、竜はマキの質問に答えた。

 

 

「そっか、それならよかったよー」

「まぁ、慣れ始めが一番怖いんだけどな。」

 

 

 どんなことでも慣れ始めの時期がもっとも注意をしなければならない。

 慣れてきたからと手を抜いて油断して失敗する。

 これは決してやってはならないミスだろう。

 そんなことが起こらないように竜は軽く深呼吸をして意識を引き締めるのだった。

 

 

「あ、そうだ。今日はうちで晩御飯は食べてかない?」

「・・・・・・はい?」

 

 

 ふと、マキはついでとばかりに竜に尋ねる。

 マキの言葉に竜は驚き、間の抜けた声を出しながらマキを見返した。

 呆けた表情を浮かべている竜にマキは思わず吹き出してしまう。

 

 

「えっと、なんでそうなったんだ?」

「んー、特には理由はないかなぁ」

 

 

 なぜ急にそんな話が出たのか。

 意味が分からず竜はマキに尋ねた。

 竜の言葉にマキはニコリと笑いかけながら答えた。

 裏を感じさせないその笑顔から、マキが本当になんの理由もなく竜を誘っているのだろうということがうかがえた。

 

 

「まぁ、仕事が終わるまでに決めておいてよ」

「あ、ああ・・・・・・」

 

 

 いつのまにか食器を洗い終えていたマキはそう言ってホールへと向かっていく。

 残された竜はどうしたものかと頭を悩ませそうになったが、すぐに違う仕事があることを思い出してマキを追うようにホールへと向かっていった。

 

 そんなマキと竜のやり取りを見ていたものがキッチンに1人。

 マキの父親だ。

 

 父親は基本的に調理担当なためキッチンにいることが多い。

 そのために先ほどのマキと竜のやり取りを見ることができたのだ。

 

 

「くっ・・・・・・、マキ、今まで誰かを晩御飯に招くなんてしたことなかったのに・・・・・・」

 

 

 悔しさと恨めしさの入り交じった視線をキッチンからホールにいる竜へと父親は向ける。

 

 ちなみに、マキが竜を晩御飯に誘った理由だが。

 これは最近の竜の昼食や話で聞いた朝食や晩御飯の内容からちゃんとしたものを食べさせないといけないという母親のような謎の責任感からだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第93話

 

 

 

 

 トントンと包丁の音が聞こえ、それと一緒になにかを焼くような音も聞こえる。

 調理する音を聴きながら竜は椅子に座っていた。

 竜が今いるのは弦巻家の食卓。

 目の前に座っているマキの父親からの視線に竜は気まずさを感じていた。

 

 

「・・・・・・えっと」

「竜くん、仕事には慣れてきたかな?」

 

 

 ジッと見てくる父親に竜が冷や汗を流していると父親が話しかけてきた。

 バイト中にマキが聞いてきたことと同じことを父親は聞いてきた。

 まったく同じことを聞いてきたマキと父親に、竜は親子なんだなぁと思わず笑ってしまう。

 

 

「どうかしたのかい?」

「いえ、すみません。仕事をしてるときにマキも同じことを聞いてきたもんで・・・・・・」

 

 

 急に笑った竜に父親は不思議そうに声をかける。

 父親の言葉に竜は謝り、つい笑ってしまった理由を答えた。

 竜の言葉から、自分が娘であるマキと同じことを聞いたということを知り、父親は少しだけ嬉しさと恥ずかしさの混ざったような表情を浮かべて顔を逸らす。

 

 

「そ、そうかい・・・・・・」

「えっと、仕事についてですけど大分慣れてきたとは思ってます」

 

 

 マキにも言ったことと同じことを竜は父親に言う。

 竜が仕事に慣れてきていることは仕事ぶりからも理解はしていたが、それでも本人の口からちゃんと聞くことにも意味はある。

 

 なお、マキの父親が竜のことを見ていた理由はバイトとして働きが気になるから。

 というわけではなく、マキに不埒なおこないをしないかの監視として見ていたからだ。

 

 

「慣れてきたなら良かったよ。それに、マキに変なこととかもしてないみたいだしね」

 

 

 ここ数日の竜の仕事の様子からマキに対しても普通に友人として接している姿を見ており、父親の中では竜に対しての警戒心が少しだけ下がっていた。

 竜とマキの父親が会話をしていると、いつのまにか調理をしている音が聞こえなくなっていた。

 そしてマキとマキの母親が料理を持ってきた。

 

 

「お待たせー」

「マキちゃんが手伝ってくれたからとても楽だったわぁ」

 

 

 マキとマキの母親が両手にそれぞれ持ってきたのはオムライスだった。

 しれっとケチャップでハートマークが描かれている辺り、勘違いしても仕方がないだろう。

 まぁ、マキからすれば可愛いかと思って描いただけなのだが。

 

 

「私とお母さんの特製オムライスだよー」

「おお、かなり旨そうだな」

 

 

 そう言ってマキは自分と竜の前にオムライスを置いていく。

 それと同時にマキの母親も自分と父親の前にオムライスを置いた。

 

 マキが竜の前にオムライスを置いたことに父親はピクリと眉を動かしたが、とくになにかを言うことはなかった。

 

 

「ハートを描いたのか。俺じゃなかったら勘違いしてたかもな」

「えへへー、可愛いでしょー?」

「マキちゃんはオムライスだといつもハートを描くものね」

「・・・・・・・・・・・・うん。そうだ、マキにハートを描いた深い意味はないんだ・・・・・・」

 

 

 オムライスに描かれているハートに竜は思わず苦笑しながら言う。

 竜に言われ、マキは自慢気に笑った。

 どうやらマキがオムライスにハートを描くのはいつものことなようで、母親は微笑ましそうにマキのことを見ていた。

 

 その隣では父親が自分に言い聞かせるように小さく呟いていたが、誰も気にしていない。

 

 

「さ、冷めちゃう前に食べよう」

「それもそうだな」

「そうね。ほら、食べるわよ?」

「ん、ああ、分かったよ」

 

 

 そして4人は手を合わせて食事を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第94話

 

 

 

 

 マキとマキの母親の作ったオムライス。

 それは卵の部分がキレイな黄色をしていて焦げなどが見つからず、ケチャップの赤と合わさってとても鮮やかな色合いをしている。

 

 スプーンを取り、そっと卵の部分に差し込む。

 ほんの少しだけ卵の抵抗を感じたものの、あっさりとスプーンは卵の中へともぐり込んでいった。

 そして、スプーンですくったオムライスのほんのわずかな重さを感じながら持ち上げればケチャップによって赤く染められたご飯が姿を現す。

 そしてよく見ればケチャップライスの中にご飯以外のものが入っていることに気がつくだろう。

 それは細かく刻まれたニンジンやベーコン、ピーマンなど色々なものが混ぜ込まれていた。

 栄養のバランス的にご飯だけよりも良いだろう。

 

 

「うまっ!」

「喜んでくれて嬉しいわね」

 

 

 オムライスを口に運んだ竜は思わずといった様子で言葉をもらした。

 竜の言葉に母親は嬉しそうに微笑む。

 その微笑みは親子だけあってかマキとそっくりだった。

 

 

「ね?お父さんだけじゃなくてお母さんの料理も美味しいんだよ」

「でもマキも手伝ったんだろう?」

 

 

 竜の言葉にマキは頬にケチャップをつけながら自慢気に答える。

 マキの頬についているケチャップに父親は笑いながら、マキも手伝っていたことを言った。

 

 

「えー、でも私は野菜とかを切っただけだよ?」

「だけ、じゃないわぁ。食材を切るだけでも料理する人の技術は出るものなのよ?」

 

 

 父親の言葉にマキは不思議そうに首をかしげる。

 自分は野菜を切っただけで調理をしたのは母親。

 切るだけならば誰にでもできるし、切り方もちゃんと調べてしまえば間違えることもない。

 そんなマキの言葉を母親は否定した。

 

 

「そうかなぁ?」

「んー、少なくとも私とお父さんは美味しいと思ってるわよぉ?」

 

 

 不思議そうなマキに母親は微笑みながら答える。

 首をかしげるマキを微笑ましそうにマキの両親と竜は見ていた。

 

 両親だけでなく竜にまで微笑ましそうに見られていることに気づいたマキは、恥ずかしそうに頬を赤く染めてオムライスを食べることに集中するのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 マキの家での晩御飯も食べ終わり、竜はマキの家の前にいた。

 帰る竜を見送るためにマキも玄関前に出てきている。

 

 

「晩御飯のオムライス、とても旨かったよ。前にマキからお弁当を分けてもらったときにも思ったけどやっぱりマキも料理が得意なんだな」

「むぅ、竜くんまでそんなこと言って」

 

 

 竜の言葉にマキは頬を膨らませる。

 晩御飯の時に母親に言われたことのように竜にからかわれているとマキは思っていた。

 

 

「ちょっと暗くなってるから帰り道は気をつけてね?」

「ははは、そんなに心配するようなこともないと思うけどな」

 

 

 頬を膨らませていたマキだったが、すぐに頬をしぼめて周囲を見渡した。

 時間もそこそこに経っていたために周囲は暗く、ここから家へと帰る竜のことをマキは心配していた。

 マキの言葉を竜は軽く笑い飛ばしながら答えた。

 

 

「マキとか可愛い子なら兎も角、俺みたいなのは襲われたりなんかしないから大丈夫だよ」

「か、可愛い?!」

 

 

 とくに深く考えているわけでもない竜の言葉にマキは驚いてしまう。

 まさか面と向かって可愛いなどと言われるとは思っていなかったため、これはマキにとって予想外のことだった。

 

 

「も、もう!いきなりそんなこと言われたら恥ずかしいよ!」

「お、おう、すまんな」

 

 

 驚きと恥ずかしさでほんのりと赤く染まった頬のままマキは竜に言う。

 マキの言葉の勢いに押されて竜は謝った。

 

 

「んじゃ、帰るわ。また明日な」

「うん、また明日」

 

 

 そう言って竜は自宅への帰路についた

 自宅へと向かって歩く竜の姿をマキはしばらく見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第95話



最近、なぜか“カノんごの歌”とかが頭の中でリピートされてます。

他のやつも替え歌なのに中毒性ヤバくないですか?




 

 

 

 

 午前中の授業が終わった、ある日のお昼休み。

 学生たちは思い思いの場所で昼食を取り、友人たちと会話を楽しむだろう。

 それは竜たちも同様で、いつものように竜たちは集まってお弁当を広げていった。

 

 

「あ、やべ」

「ん?どうしたんや?」

 

 

 茜たちがお弁当を広げていっていると不意に竜がスクールバッグの中を見ながら声をもらした。

 竜の発した声に茜たちは不思議そうに竜を見る。

 

 

「いや、今日の朝に昼飯を買う予定だったのをすっかり忘れて学校に来ちまってな」

 

 

 うっかりといった様子で竜は頭を掻きながら今日の昼食がないことを言う。

 そして竜は昼食を買うために購買に向かおうと椅子から立ち上がった。

 

 

「あ、竜くん。待った待った」 

「うん?」

 

 

 購買に向かおうとしていた竜をマキは引き留める。

 マキに引き留められ、竜は不思議そうにマキを見た。

 また、不思議そうにマキを見ているのは竜だけではなく、茜たちも同じように竜を見ていた。

 

 

「はいこれ」

「・・・・・・え?」

 

 

 そう言ってマキが差し出してきたのは花柄の布に包まれた長方形のもの。

 マキの差し出してきたものを受け取って竜はポカンとした表情になる。

 

 

「ちょ、え、ま、マキさん?!」

「どしたの?ゆかりん」

 

 

 マキが竜に渡したものの正体を理解したのか、ゆかりは思わずマキに詰め寄る。

 ゆかりほどではないが茜と葵の2人も驚いた表情でマキを見ていた。

 ゆかりに詰め寄られ、マキは不思議そうに首をかしげる。

 

 

「マキさんが竜くんに渡したのってまさか・・・・・・」

「ああ、あれ?」

 

 

 竜の手にある花柄の布に包まれたものを指差しながらゆかりはマキに尋ねる。

 竜は受け取ったものを机の上に置き、布を広げてその中身をあらわにした。

 花柄の布の中から出てきたのは長方形の箱。

 これだけでどれだけ察しの悪い人でもマキの渡したものの正体に気づくだろう。

 

 マキが竜に渡したもの。

 

      それは────

 

 

 

 

 

 

        「あれはね。お弁当だよ」

 

 

 

 

 

 マキの口からハッキリと言われた言葉に茜、葵、ゆかりの3人は驚き固まってしまう。

 竜に対して恋愛感情はないと言っていたはずのマキの行動に3人の頭の中は疑問符で埋め尽くされてしまった。

 

 

「えっと、良いのか・・・・・・?」

「うん。最近の竜くんの食べてるものを聞いたら、ね?」

 

 

 マキから受け取ったもの、お弁当箱のふたを開いて中を確認する。

 お弁当箱の中に入っていたのはご飯と卵焼き、ブロッコリー、唐揚げなどの美味しそうなおかずだった。

 美味しそうなお弁当に竜はマキに確認をとる。

 

 

「最近って、別に普通に────」

「パンと麺類、それとコンビニとかのおにぎりばっかりでしょ。ちょっと前に注意したはずなのにぜんぜん直らないんだもん」

「────うぐぅ・・・・・・」

 

 

 マキの言葉に普通に食べていると反論しようとした竜だったが、あっさりとマキに切り捨てられてしまう。

 たしかに竜の最近のご飯はマキの言うとおりパンや麺類、コンビニのおにぎりやお弁当などがほとんどを占めている。

 ときたまちゃんとしたものを食べるときもあるが、それは基本的に茜に誘われて晩御飯を一緒にする時くらいだ。

 

 

「じゃあ、ありがたくもらうけど・・・・・・」

「そうしてよ。あ、お弁当箱は持ち帰るから気にしないでね」

 

 

 お弁当を作ってもらったことに申し訳なさを感じながら竜はマキからもらったお弁当を食べ始めた。

 竜がお弁当を食べ始めたのを満足そうにマキは見ると自分のお弁当を食べ始める。

 そして、竜とマキが食べ始めて少ししてから茜たちは動き出して自分たちの食事を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第96話

 

 

 

 

 マキに渡されたお弁当のおかずを口に運ぶ。

 最初に口に運んだのは卵焼き。

 

 以前にもマキの卵焼きは食べたことがあり、そのときの卵焼きはほんのりと甘さを感じられるものの卵本来の味を殺さずに見事に調和がとれており、ほどよい固さで見た目もとてもキレイな卵焼きだった。

 

 しかし今回の卵焼きも同じかと言われれば首を横に振るのは間違いないだろう。

 その理由として、以前の卵焼きがほんのりとした甘さだったのに対して今回の卵焼きは甘さの種類が異なっていたのだ。

 以前の卵焼きは砂糖や出汁、卵本来の甘さを使ったものだったのだろうが今回の卵焼きは違う。

 今回の卵焼きの甘さは“野菜”を使った甘さなのだ。

 卵の色を変えてしまわない程度に野菜の量を抑え、それでいて野菜本来の甘味を逃さないように調理する。

 マキは普通にお弁当に入れているが、どう考えても簡単に作れるような卵焼きではなかった。

 

 

「たぶんだが・・・・・・、ニンジンか?」

「あ、正解だよ。一応、他にも入れてるんだけど分かるかにゃぁ?」

 

 

 卵焼きの味から入っているであろう野菜を言うとマキは嬉しそうに笑った。

 食感で分かるのではないかと思うかもしれないが、どうやら野菜はすべてミキサーで細かくしているようで食感ではどんな野菜が入っているのかがまったく分からないのだ。

 マキの言葉に竜は残りの入っている野菜を当てるために目を閉じて卵焼きの味に集中するのだった。

 

 

「むむむ・・・・・・、なにやらマキさんと竜くんが良い雰囲気のような・・・・・・」

「せやね、マキマキは竜のことは友だちと思ってるって言うとったんやけど・・・・・・」

「正直、お弁当を作ってるのを見ると信じられないよね・・・・・・」

 

 

 竜とマキの会話を聴きながらゆかり、茜、葵の3人は顔を見合わせる。

 あかりに始めて会ったときに言われた言葉は否定していたが、今の状況を見るとその言葉を信じることはできなかった。

 

 

「・・・・・・とりあえず様子見、ですかね?」

「まぁ、マキマキがどう思ってるのかは分からんしな」

「それしかないよね・・・・・・」

 

 

 卵焼きに入っている他の野菜の味を探そうと目を閉じて集中している竜の頬をプニプニとつついて楽しそうにちょっかいをかけるマキを見ながらゆかりたちはひとまず様子見をすることに決めた。

 そして、3人は竜とマキの様子を見ながらお昼御飯を再開するのだった。

 

 

「ぬぅ・・・・・・、た、玉ねぎとか入ってないか?」

「うん。またまた正解だよ」

 

 

 マキに頬をつつかれながら卵焼きに入れられている野菜を考えていた竜は、先ほど挙げたニンジンとは違う野菜を言う。

 どうやらその野菜も正解だったようで、マキはパチパチと軽く拍手をした。

 はたから見るとカップルのようなやり取りにゆかりたちは思わず使っている箸を握り折ってしまいそうになる。

 まぁ、茜や葵も知らず知らずのうちに似たようなやり取りをしていることがあるのだが、本人たちにその自覚はなかった。

 

 

「正確には炒めてあめ色になった玉ねぎなんだよ。残りは1つだけど、分かった?」

「・・・・・・いやぁ、無理だな。最後って言われてもぜんぜん分かんないわ」

 

 

 チョキチョキと指を2本立てて動かしながらマキは竜に最後の野菜が分かるかを尋ねる。

 マキの言葉に竜は少しだけ考えるように首を傾けるが、最後の野菜が思い浮かばなかったのか降参して手をあげた。

 

 

「ふふふ、最後の野菜はね。でけでけでけでけでけでけでけでけ・・・・・・じゃじゃん!キャベツでした!」

「キャベツ?!」

 

 

 卵焼きにマキが入れていた最後の野菜がキャベツだと知り、竜は驚いて卵焼きをまじまじと見る。

 野菜が入っているということは分かっていたが、それでもキャベツが入っているというのは本当に予想外だったのだ。

 驚いて卵焼きを見る竜の姿にマキは嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第97話

 

 

 

 

 マキからもらったお弁当を食べ終わり、竜はお弁当箱をもとのように閉じて花柄の布で包んだ。

 竜がお弁当箱を包んだのを確認したマキは竜からお弁当箱を受けとると自身のスクールバッグの中にしまう。

 

 

「ごちそうさま。本当に美味しかったよ。こんだけ美味しいなら将来結婚する相手とか幸せだろうな」

「にゃっ?!にゅにゃにゃにゃっ?!にゃにをっ?!?!」

 

 

 何気ない竜の言葉がマキの言語機能を崩壊させた。

 竜からしてみればもらったお弁当や自身の体調を気遣うようなマキの優しさから思ったことを言っただけなのだが、不意打ち気味に言われたマキは目をグルグルと回して見事に混乱をしていた。

 

 

「え、えっと・・・・・・、ありがと」

「いや、お礼を言うのはこっちだよ。本当にありがとうな。飲み物買ってくるけどリクエストとかあるか?」

 

 

 顔を赤くしながらマキは誉められたことに対してお礼を言う。

 お礼を言うマキに竜は笑いかけながら椅子から立ち上がった。

 お弁当のお礼としては安すぎるかもしれないが、それでも少しでもお返しがしたいと思ったのか竜はマキになんの飲み物が欲しいかを尋ねた。

 

 

「あ、じゃあC.C.レモンでお願いするね?」

「うちは午後ティーで頼むでー」

「ボクはポカリスエットでお願いー」

「私はファンタグレープでお願いします」

「・・・・・・うん?」

 

 

 マキに聞いたはずなのに聞こえてきた声の数は4つ。

 竜は思わずマキ以外の声が聞こえてきた方、ゆかりたちを見る。

 しかし、ゆかりたちは竜の視線から逃げるように顔を逸らしていた。

 その表情はどこか不機嫌そうに見え、逆らってはいけないような威圧感を竜は感じ取った。

 

 

「はぁ・・・・・・。んじゃ、行ってくるわ」

「い、行ってらっしゃい」

「頼んだでー」

「お願いねー」

「間違えないでくださいね」

 

 

 小さく息を吐いて竜は諦めて飲み物を買いに教室から出る。

 竜と同じようにゆかりたちを見てしまったマキは何も言わずに竜を見送ることしかできなかった。

 

 そして、竜が教室から出た直後、マキの周りにゆかりたちは移動してきた。

 3人に囲まれてしまい、マキはキョロキョロと視線を動かす。

 

 

「マキさん、前に竜くんのことは友だちだと思っていると言っていませんでしたか?」

「う、うん・・・・・・」

 

 

 ジッとゆかりに目を見つめられながら尋ねられ、マキはやや詰まりつつもうなずいた。

 少しでも逃げるような素振りを見せれば左右にいる茜と葵が素早く捕まえるのだろう。

 茜と葵もジッとマキの様子を見ている。

 

 

「で、でもさ、あんなことを言われちゃったら誰でも照れちゃうでしょ・・・・・・?」

「まぁ、マキマキの言うことも分かるわな」

「ボクもあんなことを言われたら嬉しくて照れちゃうもん」

 

 

 マキの言葉に茜と葵は納得したのかウンウンとうなずく。

 2人の様子から穏便に終わりそうだとマキは考えているようだが、そうは問屋が卸さない。

 マキの肩にゆかりが手を置く。

 

 

「でもマキさん。前に似たようなことをお店のお客に言われたときは普通に流してましたよね?」

「なん・・・・・・やて・・・・・・?」

「ゆかりさん、その話をkwsk」

「え゛・・・・・・?!」

 

 

 まるで万力で締めるかのようにマキの肩を押さえながらゆかりは気になっていたことを尋ねる。

 ゆかりの言う、似たようなことをお客に言われたとき、というのはゆかりが喫茶店の方に遊びに行ったときに偶然遭遇した事態で、そのときのマキはニコリと微笑みながら普通にお礼を言って流していたのだ。

 ゆかりの言った情報に茜と葵は驚きのあまり作画が崩壊し、茜はオサレ漫画のような作画に、葵は2ちゃんねるのアスキーアートのような作画になってしまっていた。

 また、自身のことであるはずなのにマキも驚いてゆかりを見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第98話

 

 

 

 

 マキの肩を掴むゆかり、作画の崩壊した茜と葵、そして驚いた表情でゆかりを見るマキ。

 異様な雰囲気を発し始めた4人にクラスに残っていた他の生徒たちはソッと4人から距離を置く。

 

 

「え、まって、ゆかりん、それ本当?」

 

 

 ゆかりの口から聞かされた事実にマキは驚きながらゆかりに聞き返す。

 どうやらマキ自身にとっても予想外のことだったようで、本当に混乱しているということがうかがえた。

 

 

「・・・・・・え?もしかして気づいてなかったんですか?」

「う、うん・・・・・・。今ゆかりんに言われて気づいたし・・・・・・」

 

 

 混乱するマキの様子にゆかりは驚いた表情でマキを見る。

 ゆかりに言われるまで気づいてなかったようで、マキはうなずきながらゆかりを見返した。

 

 

「・・・・・・それって、そのお客に対してなんの感情もないってことなんじゃ・・・・・・?」

「聞いた感じやとそう思えるなぁ・・・・・・」

 

 

 ゆかりとマキの様子から、マキがお客に似たようなことを言われても普通に流していた理由を葵は考察する。

 葵の考察に茜も同意見のようで、ウンウンとうなずいていた。

 

 

「ということは、マキさんも竜くんのことを少なからず意識していると言うことに・・・・・・?」

「え、いや、そんな、私は別にそんなことは・・・・・・」

 

 

 葵と茜の言葉にゆかりはジトッとした目をマキに向ける。

 ゆかりのジトッとした視線にマキは思わず顔を逸らしながらワタワタと手を動かしながら答える。

 

 

「えっと、だって、私は、その、竜くんが食事に無頓着なのが気になっただけで・・・・・・」

「まぁ、たしかにあれは気になるわなぁ」

「お昼なんていつもパンばっかりだもんね」

 

 

 モジモジと人差し指を合わせながらマキはお弁当を作った理由を言い。

 竜に対して特別な感情はないと証明しようとする。

 パンや麺類、おにぎりばかりの生活は炭水化物ばかりに偏ってしまってビタミンなどがほとんど取れずに病気になりがちになってしまうのだ。

 マキの言っていることも理解できるので、とくに料理を作っている茜は同意するようにうなずいた。

 

 

「ただいま。全部で5本を持ち歩くの地味にキツかったんだが・・・・・・」

「あ、おかえりなさい」

「待っとったでうちの午後ティー」

 

 

 不意に、買ってきた飲み物を両腕でかかえながら竜が戻ってきた。

 竜の姿を確認した途端、茜と葵が誤魔化すように竜の近くに駆け寄る。

 茜と葵の反応を見てゆかりは素早くもとの座っていた位置に移動した。

 

 

「ほれ、ファンタグレープとC.C.レモン」

「ありがとうございます」

「あ、ありがと竜くん」

 

 

 先に駆け寄ってきた茜と葵に頼まれたジュースを渡した竜はゆかりとマキの近くの机の上にジュースを置いた。

 竜の置いたジュースを見てゆかりはお礼を言う。

 マキは先ほどまでのゆかりたちとのやり取りから、竜を見ることに恥ずかしさを感じてしまい、どこかぎこちない返事となってしまっていた。

 

 

「今日は帰ったら久々にモンハンでもやろうかなぁ」

「それもええかもね。最近はDbDばっかやったし」

「ボクとしては普通にモンハンの方が怖くなくて良いんだけどね」

 

 

 先ほどまでの4人のやり取りを知らない竜は普通に会話を再開する。

 わざわざ竜がいるところで先ほどのやり取りをやる必要もないため、茜と葵は自然に会話を始めた。

 しかし、竜から見えない位置で茜はスマホを操作している。

 

 それと同時に葵、ゆかり、マキのスマホが振動した。

 スマホの振動に気がついたマキは少しだけ嫌な予感を感じつつスマホを開いた。

 

 

アカ『話の続きは放課後にマキマキの家でするで』

アオ『異議無しだよ』

紫月『オッケーです』

 

 

「・・・・・・うへぇ」

 

 

 スマホのトークアプリに届いたメッセージにマキは疲れたようにため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第99話

 

 

 

 

 放課後。

 今日はバイトもなく、茜たちと一緒に帰ろうかと考えていた竜だったが、茜たちはなにか用があるようで竜は1人で帰ることになっていた。

 茜たちがいなくてもあかりなら一緒に帰れるのではないかと思うかもしれないが、あかりは教室にやって来たと同時に茜たちに捕まって一緒にどこかに行ってしまったので一緒に帰っていないのだ。

 

 とくにどこかに寄るような用事もないため、竜は帰ったらなにをしようかと考えながら歩いている。

 

 

「久々にモンハンをやるとして、なにを狩るかなぁ・・・・・・」

 

 

 何度も言っているようだが竜はほとんどの武器や防具の作りたいと思ったものを作り終える程度にはモンハンをやっており、残りの作りたいものにしても集めるのがめんどくさい素材ばかりなので気まぐれにやるには向かないのだ。

 また、適当なモンスターを狩るにしても武器や防具を作る過程でだいたいのモンスターを狩ってしまっているので1人で狩るとなると新鮮味も感じられない。

 そんな理由から、竜はモンハンをやるときは基本的には茜たちとマイクを繋げて会話をしながらプレイしていた。

 

 そして、竜は何事もなく家に着いた。

 

 

「・・・・・・んぁ?“KIRIKIRI(キリキリ)”さんがログインしてるな・・・・・・。声をかけてみるか」

 

 

 プレイステーション4を起動した竜はフレンドの1人がモンハンをやっていることに気がついた。

 そして少しだけ考えるとフレンド欄からセッションに参加するを選んで同じ集会所へと移動し、集会エリアに移動するのだった。

 “KIRIKIRI”のいる集会所の集会エリアに移動した竜はプレイステーションボタンを押してメインメニューに戻り、パーティーを作成して“KIRIKIRI”を招待した。

 これによって竜と“KIRIKIRI”はマイクで会話をすることが可能になる。

 竜がマイクとヘッドフォンを準備していると“KIRIKIRI”がパーティーに参加したという通知が届いた。

 

 

『どもですー。けっこう久しぶりですね“D-Ragon”さん』

「ですねー。最近だとDbDばっかりやってましたからー」

 

 

 ヘッドフォンから聞こえてきたのはどこか幼さを感じるような女性の声。

 それと同時に集会所にかなりゴツめの男性キャラクターが現れた。

 これが“KIRIKIRI”の操作しているプレイヤーキャラクターだ。

 

 “KIRIKIRI”の言葉に竜は最近モンハンをプレイしていなかった理由を答える。

 幼さを感じられる相手なのに敬語なのは不思議に思うかもしれないが、どんな相手でも敬語で会話をするのはマナーとして当然のこと。

 もちろん長い付き合いのフレンドや、リアルの友だちなどが相手であれば敬語である必要もないだろうが。

 

 

『ああ、DbDですか。そういえば最近はそっちをプレイしているって履歴が出てましたね。私もDbDはやってるんで楽しさは分かりますよ』

「“KIRIKIRI”さんもやってたんですね。なら今度一緒にやりますか?といってもこっちはランクがまだ2桁なんですけどね」

 

 

 “KIRIKIRI”の言葉に合わせて操作しているキャラクターがうなずきのモーションをしている。

 うなずきのモーションをしているキャラクターに竜は笑いつつ“KIRIKIRI”をDbDに誘う。

 といっても今からやるのはモンハンなのでDbDをやるのはまた次の機会になるのだが。

 

 

『いいですね。適当にモンスターを狩りながら予定でも決めますか』

「ですねー。とりあえずイベントクエでもやってきますかー」

 

 

 どう考えてもモンスターを狩りながらできることではないのだが、とくに気にすることもなく竜と“KIRIKIRI”は狩りに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第100話

 

 

 

 

 “KIRIKIRI”の操作するキャラクターが双剣でモンスターの尻尾を切断する。

 そして、尻尾が切れたことによって前方に駆け出していったモンスターの目の前に竜の操作するキャラクターが狩猟笛を振りかぶりながら待ち構えていた。

 

 

「ぶっと、べぇっ!!」

『やった!スタンナイスです!』

 

 

 狩猟笛によって思いきり顔面を打ち抜かれたモンスターはクルクルと頭の上にいくつかの星を出現させて地面に倒れこむ。

 これはハンマーや狩猟笛などの打撃攻撃、徹甲榴弾による爆発、榴弾ビンのチャージアックスによる超出力と超高出力、強打の装衣を着た状態での攻撃などなど、いくつかの攻撃によって起きる状態で、しばらくの間モンスターが倒れてもがくだけのサンドバッグとなるのだ。

 ちなみにこの状態は基本的には気絶、もしくはスタンと呼ばれている。

 

 

『ぼっこぼこタイムです!』

「叩き潰す!」

 

 

 “KIRIKIRI”の操作するキャラクターが胴体に、竜の操作するキャラクターが頭部にそれぞれ攻撃を叩き込んでいく。

 

 胴体に連続で叩き込まれる斬撃の乱舞。

 頭部に連続で叩き込まれる重撃の回転。

 

 弱点となる部位を攻撃することによってさらに高い威力を叩き出していた。

 

 

「そういえば、また技名とかは言わないんですか?」

『んな?!あ、あれは別にテンションが上がってしまっただけでして・・・・・・。いつも言っているわけではないのですよ!』

 

 

 ふと思い出したように竜は“KIRIKIRI”に尋ねる。

 竜の言う技名と言うのは、前に“KIRIKIRI”と一緒にプレイしたときに“KIRIKIRI”がモンスターを攻撃しながら叫んでいた言葉のことだ。

 竜の言葉に“KIRIKIRI”は動揺してしまったのか、盛大に攻撃をスカしてしまう。

 

 

「こっちは狩猟笛だからそういう系はないんですよねぇ」

『なら次の狩りは双剣とかで来てくださいよ。それなら問題なく言えますから・・・・・・』

 

 

 竜の操作するキャラクターの攻撃がモンスターの頭部にヒットしてふたたびのスタン。

 そこからの2人がかりによる攻撃にモンスターは倒れた。

 狩猟笛という変わった武器がマンガなどで使われていることは基本的にはなく。

 竜の知っている限りでは見たことも聞いたこともない。

 竜の呟きに“KIRIKIRI”は恨みがましく次に使う武器をよく使われているものにするように言った。

 

 

「ふむ。んじゃ、次は久々に太刀でも使っていきますかね」

『太刀ですか。ならこっちは耐衝を着けないといけませんね』

 

 

 モンスターを狩り終わって集会エリアに戻った竜はアイテムボックスを操作して武器と防具を違うものに変えていく。

 竜が武器だけでなく防具も変えていることを不思議に思うかもしれないが、モンハンではスキルが防具ごとに着いているので、それを使う武器ごとに変えていった方が戦いやすいのだ。

 といってもそれは序盤から中盤辺りにかけてのことで、終盤辺りからになると防具はほとんど変わらず防具につける装飾品をいくつか入れ換える程度で終わることも少なくはないのだが。

 

 

「っし、準備オッケー。そんじゃ、このクエに行きますか」

『これですか?ふむ、であれば武器の属性を変えないといけませんね』

 

 

 竜の貼ったクエストを確認して“KIRIKIRI”は武器を持ち変える。

 モンハンではモンスターごとに弱点属性があり、それに合わせた属性の武器を使うことで狩りやすくなるのだ。

 “KIRIKIRI”が武器を持ち変えている隣で竜も持ち物の最終確認をしている。

 回復アイテムなどを持ち込み忘れたとしてもクエストに向かった先でアイテムを補充することはできるのだが、ときどき狩猟ターゲットのモンスターの目の前に落とされることがあるので可能ならばクエストに出発する前に持ち物を確認しておいた方が良いのだ。

 そして、準備を終えた竜と“KIRIKIRI”はクエストに出発するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第101話

 

 

 

 

 太刀。

 

 それは日本人にはもっとも馴染み深く、明確に生き物を殺すための形をした武器。

 長さごとに名称が少しづつ異なり、小太刀、大太刀、野太刀と呼ばれる。

 漫画や創作などで10キロはある、などと言ったりすることもあるがそんなものは実際には存在せず。

 重いものでも2~3キロほどしかなかったりする。

 とは言っても実際にその重さのものを何度も何度も振り回せるかと言えば首を横に振ってしまうだろうが。

 

 そんな、生き物を殺すためだけの得物を、竜は目の前の生き物に向けて振り下ろした。

 

 

「っし、開戦じゃあぁぁあああ!!」

『どこぞのポメ蔵さんみたいに始めないでくださいよ?!』

 

 

 武器を構えたままモンスターに突っ込んでいった竜に“KIRIKIRI”は思わずツッコミをいれながら双剣を構えて竜のあとを追う。

 なお、普通にモンハンでモンスターと戦うのであれば最初は不動の装衣などを装備して咆哮を防ぎつつ壁に叩きつけた方がダメージを稼げるので、暇潰しのクエストやソロでのクエスト以外では適当に突っ込んでいくのはやめた方がいいだろう。

 

 

「さーて、じゃんじゃん技名を適当に言っていきますよー」

『なんでそんなにノリノリなんですか?』

 

 

 モンスターの攻撃を回避し、反撃として斬りつけながら竜は言う。

 竜が技名を言うことに対して乗り気なことに“KIRIKIRI”は不思議そうに尋ねる。

 

 

「いやぁ、ネタとして考えてもソロとか野良で1人で叫んでるのって寂しくないですか?」

『あー・・・・・・、なんとなく・・・・・・分かるような?』

 

 

 1人、部屋の中で誰に言うでもなく必殺技を叫ぶ。

 気にしない人は気にしないかもしれないが、竜は反応してくれて笑ってくれるような人間がいないと寂しさを感じてしまうので今までとくにはそういったことをしてこなかったのだ。

 竜の言ってることが少しだけ理解できたのか、“KIRIKIRI”は微妙そうな声で答える。

 ゲームを通しての会話なために顔は見えないが、実際に目の前にいたらおそらくは曖昧な表情を浮かべているのは確かだろう。

 

 

「っと、“(りゅう)の呼吸・壱之型・龍絶嵐(りゅうぜつらん)”」

『あー、それ連載終わっちゃいましたよねー』

 

 

 モンスターの攻撃を後方に下がることで回避し、直後に斬り返しながら竜は技名を言う。

 竜の言った技名の元ネタに気づいた“KIRIKIRI”はモンスターを攻撃しながら残念そうな声をあげた。

 

 

「まだまだ!“弐之型・瞬龍(しゅんりゅう)”から繋いで“参之型・穿龍(うがちりゅう)”」

 

 

 モンスターの攻撃の合間をぬって居合(いあい)のように腰に鞘を持ってきて納刀する。

 そして、竜の動きが止まったことによって竜に向かってモンスターが攻撃を仕掛けてくる。

 モンスターの攻撃が当たる寸前、竜は抜刀して斬りつけながらモンスターの背後へと移動した。

 さらに竜の攻撃は止まらず、モンスターの背中に向けて突きを放った。

 

 

「からの、“(つい)之型・頸堕迅(くびおとし)”」

『・・・・・・本当に太刀の使用回数2桁なんですか?』

 

 

 モンスターに突き刺した太刀を支点にモンスターを駆け上がり、上空で太刀を振りかぶる。

 そして落下の勢いと同時にモンスターの首に向けて太刀を振り下ろした。

 流れるように繋げられたコンボに“KIRIKIRI”はクエストを受ける前に聞いていた竜の太刀の使用回数が本当なのか内心で首をかしげていた。

 

 

「ちぃっ、やっぱまだ狩れないかぁ。ならさらに繋げて“弐之型・別龍(わかちりゅう)”!」

『あれ?弐之型は瞬龍でしたよね?』

「えっと、特殊納刀は△ボタンとR2ボタンでそれぞれ違う技を出せるんで、型は同じでも名前は別にしたんですよ」

 

 

 太刀による必殺とも呼べる一撃を受けても倒れないモンスターに竜は小さく舌打ちをしてふたたび納刀をする。

 そしてモンスターが動き出すよりも速く抜刀し、素早い2連撃を叩き込んだ。

 それが致命傷になったのかモンスターは倒れ、クエストクリアの文字が表示される。

 

 倒れたモンスターから素材を取るために近づきつつ、“KIRIKIRI”は弐之型が先ほどと名前が違うことについて尋ねる。

 “KIRIKIRI”の疑問に竜はモンスターから素材を取りながら名前が違う理由を答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第102話

 

 

 

 

 竜が“KIRIKIRI”と一緒に技名を叫びながらモンハンをやっていた頃。

 ゆかり、茜、葵、あかり、マキの5人は学校近くのファミレスに集まっていた。

 なぜマキの家がやっている喫茶店“cafe Maki”ではなく学校近くのファミレスに来ているのか不思議に思うかもしれないが、“cafe Maki”でこれからする話をした場合、話を聞いて暴走する可能性のある人物があかりを除いた4人の頭の中に浮かんだからだ。

 ちなみに言わなくても分かるだろうが、マキの父親のことである。

 

 

「さて、それでは学校での話の続きを────」

「あ、すいません。ここからここまでのメニューを。あと、ドリンクバーは5人分でお願いします。それと食後のデザートは全種類をお願いします」

「・・・・・・・・・・・・はい?」

 

 

 話を始めようとするゆかりの言葉を遮ってあかりは近くにいた店員を呼んで注文をする。

 あかりの注文した料理の量に驚き、店員は思わず動きを止めてあかりを凝視してしまう。

 

 話を遮られたことにゆかりは少しだけ不満そうにあかりを見るが、ドリンクバーを注文してくれたこともあってとくになにかを言うことはなかった。

 

 

「・・・・・・ですから、ここからここまでのメニューです。あとドリンクバーを5人分。それと食後にデザートを全種類です。同じことを2度も言わせないでください。聞き返すという行為は無駄なんです。3度目は言わせないでください。無駄なことは・・・・・・私、嫌いなんですよ?」

「わ、分かりました!ちゅ、注文を確認させていただきます!ええと、こちらのページのメニューとドリンクバーを5人分、それとデザートを全種類ですね?」

「ええ、間違いありませんよ」

 

 

 驚いて固まってしまった店員にあかりは少しだけムッとした表情になりながらもう一度注文をする。

 穏やかに言ってはいるが、あかりから発せられる雰囲気に店員は思わず姿勢を正し、慌てて注文を確認した。

 そして逃げるようにキッチンの方へと向かっていくのだった。

 

 

「あ、すみません。家だと1回言うだけで用意してくれているもので・・・・・・」

「・・・・・・あかりさん、もしかしてジョジョとか読んでます?」

 

 

 先ほどのあかりの言い回しに聞き覚えのあったゆかりはもしかしてと思いながらあかりに漫画のタイトルを尋ねる。

 無駄という言葉を使いつつ説教する、通称“無駄説教”だっただろうか。

 ゆかりの言葉にあかりはしっかりと頷いた。

 

 

「はい!かっこいいなと思うセリフとかがたくさんあるのでお父さんと一緒に読んでるんですよ」

「はぇ~・・・・・・、紲星グループの社長でも漫画とか読むんやなぁ~・・・・・・」

「ちょっと意外だよね」

 

 

 あかりの言ったお父さんと一緒に読んでいるという言葉に茜と葵は思わずといった様子で声を漏らす。

 漫画を読むかアニメを見るかはしているだろうと思ってはいたが、それはあかりだけだと思っていたからだ。

 正直、イメージだけでの話になってしまうが社長という人間は漫画とかではなくなにか難しい本を読んだりしているイメージがあったため、本当に意外だったのだ。

 

 

「無駄無駄とかオラオラの印象は強いよね」

「そうですね。あれはもうほぼ代名詞と言っても過言ではないと思いますよ」

 

 

 あかりの話から自然と漫画の話に持っていけるようにマキは然り気無く話題を広げようとする。

 マキの言葉にゆかりもうなずき、ジョジョの有名な攻撃をするときの言葉を頭に思い浮かべていた。

 

 

「5部も良いけど4部も私はけっこう好きなんだよね。自分以外のものを治せる能力っていうところがとくにお気に入りでさぁ」

「うちはやっぱり3部やな。時間停止とかやっぱり最強やろ!」

「んー、ボクは5部かな。というか1部と2部は見たことがないし」

「やっぱり3、4、5に偏っちゃうのかな?ゆかりんは?」

 

 

 マキの言葉に茜と葵はそれぞれが好きなジョジョの話をあげる。

 目論み通りに話題が変わりそうなことにマキは笑いそうになるのをこらえつつゆかりにも尋ねた。

 

 

「私の好きなジョジョの部、ですか・・・・・・?」

「うんうん」

「まぁ、そうですね。私も好きな部はありますし、それについて語るというのも悪くないかもしれませんね・・・・・・」

 

 

 勝った!

 これで自分はゆかりたちから追求をされずに済む!

 

 ゆかりの言葉にマキは自身の勝利を確信する。

 これで自分は助かる、と。

 

 そんなマキの希望は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが、断ります。私たちがここに来た理由。それはマキさんに話を聞くためですから」

 

 

 ────無惨にも砕かれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第103話

 

 

 

 

 どこぞの漫画家のようなゆかりの言葉にマキはピシリと表情を固まらせる。

 ゆかりの言葉にファミレスに来た本来の目的を思い出したのか、茜たちはポンと手を叩いてゆかりを見た。

 

 悟らせるような行動はしておらず、自然に話題を誘導できていたはずなのに失敗した。

 

 

  なぜ?

 

  どうして?

 

 

 マキの頭の中をその2つの言葉が埋め尽くしていく。

 

 

「なん・・・・・・で・・・・・・」

「マキさんとはとくに長い付き合いですからね。あなたの考えていることくらいはそこそこ読めるんですよ」

 

 

 思わずこぼれたマキの言葉にゆかりは水を一口飲んで答えた。

 

 マキの話題の誘導が失敗した理由はたった1つ。

 たった1つのシンプルな答え。

 

 マキとゆかりは親友だった。

 

 

「コホン・・・・・・。さて、それでは改めてマキさんに聞きましょう。竜くんのこと、どう思ってますか?」

「えっと、それは、その・・・・・・」

 

 

 小さく咳払いをしたゆかりは改めてマキに尋ねる。

 当然のことだが、ゆかりの言う『どう思っているか』というのは恋愛感情としての好きかどうかのことだ。

 ゆかりの言葉にマキは視線をキョロキョロと動かしながら言い淀んでしまう。

 

 しかし、マキが言葉に悩んでしまうのも無理はないだろう。

 本人が気づいていなかったことをお昼休みに気づかされ、頭の中で整理する間もなくファミレス(ここ)までつれてこられたのだから。

 

 ワチャワチャと手を動かし、どうにかゆかりの言葉に答えようとするマキの姿に、ゆかりたちはなんとなく察したような表情になった。

 

 

「私は、そんな、竜くんの食生活が心配で、好きとかそんな・・・・・・。で、でも美味しいって褒められたら嬉しくて、えっと・・・・・・、だから・・・・・・」

「・・・・・・なんちゅーか、マキマキが混乱してるっちゅーのは分かったわ」

「ねぇ、ゆかりさん。もしかしてマキさんってまだ・・・・・・」

「・・・・・・ええ、私の知る限りでは初恋はまだですね」

 

 

 混乱しながらもどうにか自分の思いを伝えようとするマキの言葉を聞きつつ、ゆかりたちは声を潜めて話す。

 マキの様子からもしかして、とあたりをつけた葵は思いきってゆかりに尋ねた。

 どうやら葵の勘は当たっていたようで、ゆかりはうなずいて答える。

 

 

「それってかなり珍しくないですか?普通に生活していれば初恋くらい・・・・・・」

「マキさんは・・・・・・ほら、お父さんが・・・・・・」

「せやったな・・・・・・」

「あ~・・・・・・」

 

 

 初恋なんてものは早ければ保育園や幼稚園で起こるもの。

 マキの初恋がまだだということにあかりは不思議そうにゆかりに尋ねる。

 

 たしかに今まで初恋をする機会がなかったというのは普通に考えればあり得ないと誰もが思ってしまうだろう。

 しかし、マキの父親は誰もが知っているほどの親バカ。

 

 ゆかりの言った、ただそれだけのことだけで茜たちは納得ができてしまった。

 

 

「・・・・・・マキさん。ゆっくりと、落ち着いてください」

「ゆかりん・・・・・・?」

 

 

 混乱しながらも必死に答えようとしているマキの手を取り、ゆかりは落ち着くように言う。

 ゆかりの言葉にマキは少しづつ落ち着きを取り戻していった。

 

 

「マキさん。私たちのことだとか、他のことは考えないで良いんです。ただ、マキさんが竜くんのことをどう思っているのか、自分の心に聞いてみてください」

「私の・・・・・・心に・・・・・・」

 

 

 そっと、優しく言い聞かせるようにゆかりはマキに言う。

 今、一番大事なことはマキが竜に対してどのような感情を抱いているのか。

 ゆかりの言葉にマキは目を閉じ、自分の心の中に浮かんだ言葉を口に出した。

 

 

「私は・・・・・・、竜くんに料理を食べてもらって嬉しかったんだ・・・・・・、美味しいって褒めてくれて・・・・・・、たまに胸に視線が来ることもあるけど、それでも目を見てちゃんと話してくれて・・・・・・」

 

 

 心を落ち着かせ、自分の中にある思いと向き合うことでマキは竜に対して思っていることを言っていく。

 胸の話になったときにゆかりと茜、葵の視線がやや怖くなったが、目を閉じているマキは気づいていない。

 

 

「・・・・・・うん。ゆかりん、私、竜くんに私の作った料理をもっと食べてもらいたいんだ。これがゆかりんたちが欲しかった答えなのかは分からないけど・・・・・・。私の思いなんだ」

 

 

 自分の中にあった思い。

 それに触れることができたマキは目を開いてゆかりたちにその思いを伝えた。

 

 マキの中に生まれたその思い。

 その思いの本当の意味をマキが知る日は近い、かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第104話

 

 

 

 

 まだ完全に芽生えていないとはいえ、自覚したマキの思いを聞いたゆかりたちはそれぞれ顔を見合わせた。

 ゆかりたちが顔を見合わせていることにマキは不安そうな表情を浮かべる。

 ちなみに竜は自宅でフレンドの“KIRIKIRI”さんと一緒にモンハンで双剣を装備して『2人は狩りキュア!』ごっこをしているが、気にしなくてもいいだろう。

 

 

「ゆ、ゆかりん・・・・・・?」

 

 

 不安そうな表情になりながらマキは恐る恐るゆかりの名前を呼ぶ。

 マキに名前を呼ばれたゆかりはゆっくりとマキに顔を向ける。

 それと同時に茜たちもマキへと顔を向けた。

 

 

「・・・・・・一先ず、私たちからマキさんに言うようなことはないですね」

「マキマキの竜への思いも分かったしなぁ」

「それが今後どうなっていくのか、だね」

「モグモグ・・・・・・ふぉれまふぇふぁ、ングング・・・・・・いふもふぉおひにふぃまふぉうふぁ」

「・・・・・・ごめん。あかりちゃん、なんて?」

 

 

 ゆかり、茜、葵の3人の言葉は普通に聞き取れたが、運ばれてきた料理を食べ始めてしまったあかりの言葉は人語としてまったく理解ができなかった。

 あかりの言ったことがまったく分からなかったマキは思わず謝って聞き返す。

 しかし、あかりは言うだけ言ったら食事に集中してしまったのか、先ほどの言葉を言い直すことはなかった。

 

 

「えぇ・・・・・・」

「まぁ、あかりさんですし・・・・・・」

「うちらもなんか頼むか?」

「え?あかりちゃんから分けてもら・・・・・・、えそうにないね。なにを頼もっか」

 

 

 料理を食べることに集中してしまっているあかりの姿にマキは思わず声を漏らす。

 お昼休みのお弁当などからあかりが食事に対して並々ならぬ思いを持っているであろうことは推測できていたため、ゆかりは小さくため息を吐きながらマキに言うのだった。

 

 あかりの食事する姿に食欲を刺激されたのか、茜はメニューを手に取りながらゆかりたちに尋ねる。

 ドリンクバーはあかりが先に頼んでいてくれたので、頼むのならば軽食などの晩御飯に影響のないようなものになるだろう。

 茜の言葉に葵は、すでにあかりが頼んである料理を指差しながら言う。

 しかし葵が提案をした直後、唸るようなあかりの声が聞こえてきたので葵はすぐに提案を取り下げた。

 

 

「とりあえずフライドポテトでも頼んでみんなで摘まみましょうか。あかりさんは自分のやつを食べてくださいね?」

「やっぱりシェアできるやつを頼んだ方がええもんな。ならうちはこの唐揚げでも頼んどこか」

「フライドポテトと唐揚げかぁ。油ものばかりだし、ボクはサッパリとしたスティックサラダも頼んでおこうかな」

「晩御飯もあるわけだし私は頼まないで十分かな?」

 

 

 ゆかりはフライドポテト、茜は唐揚げ、葵はスティックサラダ。

 3人はそれぞれシェアできるような料理を注文していく。

 マキもなにかを注文しようかと考えたが、時間的にも晩御飯が食べられなくなる可能性を考えて注文をやめた。

 

 

「そういえば竜先輩はなにをしてるんですかね?」

「1人で帰っていたのが少し寂しそうではありましたね」

「今日はうちでのバイトもなかったしね」

「まぁ、家でなんかゲームでもやっとるんとちゃうか?」

「モンハンとか地球防衛軍とか、あとはDbDとか?」

 

 

 あかりは料理を口に運ぶのをやめてポツリと呟いた。

 あかりの呟きにゆかりは竜が学校から自宅へと帰る後ろ姿を思い出した。

 家に帰った竜がなんのゲームをするのか予想しながら茜たちは会話を膨らませていく。

 

 ちなみに、話題の中心になっている竜は“KIRIKIRI”と一緒に『ブラキディオ(DIO)ス』に対して双剣を装備してどこぞのスタンド使いのようにオラオ乱舞(らんぶ)をしているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第105話



実際のモンハンでは男性キャラの装備の中に魔法少女のような格好はさすがにありません。

その辺りはご容赦ください

ゆかりさんやきりたんでの読み上げの存在に気づき、ついつい読ませてしまう・・・・・・
ハーメルンすごいですね




 

 

 

 

 注文した料理が届き、ゆかりたちもフライドポテトなどを摘まみながら会話に花を咲かせる。

 そんな中であかりの食べる食事の量とスピードだけおかしなことになっているが、なれてしまったゆかりたちはまったく気にしていない。

 その代わりと言ってははなんだが、周囲の客たちはあかりの食べる食事の量とスピードに驚いて自分たちの注文したものが冷めてしまい、店員たちは慌ただしくキッチンとテーブルを行ったり来たりしていた。

 

 

「・・・・・・あかりさん、次からは前もってお店に連絡して貸し切りとかにした方が良いんじゃないですか?」

「せやねぇ、店員さんらもめっちゃ急がしそうやし」

「・・・・・・普通に納得しかけたけど貸し切りとか簡単にできるものなのかな?」

「どうなんだろ?でも紲星グループならできそうなイメージもあるよね」

 

 

 嬉しそうに食事をするあかりの姿と、急がしそうに動き回る店員の姿を見てゆかりは思わず提案をする。

 貸し切りとまでいくのは極端かもしれないが、前もってお店に連絡をしておけばお店側も準備なり覚悟なりをできるだろうから良い案だとも思える。

 

 普通の一般人であればお店の貸し切りなんかはできないだろうが、ここにいるのは天下の紲星グループの令嬢、紲星あかり。

 お店の貸し切りくらい簡単にできてしまいそうなイメージがマキの中にはあった。

 

 

「んぉ?」

「あ、竜くんからですね」

 

 

 不意にゆかりたちのスマホが振動し、メッセージが届いたことを通知する。

 画面を見るとメッセージの送り主は竜だった。

 いったいなんのメッセージが届いたのか気になり、ゆかりたちは自分のスマホを操作してメッセージを確認する。

 

 

竜『2人は狩りキュア!』

 

 

 そんなメッセージと一緒に1枚の写真が添付されていた。

 写真にはどこか魔法少女のような格好をした“男女”が狩猟したモンスターの前で双剣を構えてポーズをとっていた。

 女性キャラで魔法少女のような格好はまだギリギリ分かる。

 しかし男性キャラでの魔法少女のような格好はまんまテロのようなものだった。

 あまりにも醜悪で吐き気すら起こりそうな写真に、ゆかりたちはSANチェック《1/1D3》です。

 

 

「なんやこれ・・・・・・」

「この男性キャラには見覚えがありますね・・・・・・」

「えっと、たしか“KIRIKIRI”さんの操作してるキャラだったよね・・・・・・」

「こんな格好のハンターに倒されたモンスターさん可哀想・・・・・・」

「竜先輩ってたまにとんでもないことしますよね。茜先輩もですけど・・・・・・」

 

 

 思わず口もとに手をあてながら茜は呟く。

 髭を生やしたワイルドな感じの男性キャラが魔法少女のような格好をする

 誰がどう見ても地獄のような絵面だが、ゆかりはどうにか男性キャラに見覚えがあることを思い出した。

 どうやら葵はそこまで気持ち悪くもなっていないようで、男性キャラの顔から誰の操作しているキャラクターかを当てていた。

 まぁ、それでも男性キャラの顔だけしか見ないようにはしているのだが。

 

 

アカ『ちょぉっ!なんやねんこの写真は!』

竜『ふざけてやったら想像以上に地獄絵図になってな。反省はしている。だが、後悔はしていない』

アオ『ちゃんと後悔して?!』

紫月『というか“KIRIKIRI”さんもよくその格好になりましたよね・・・・・・』

黄玉『モンスターが可哀想になってくるよ・・・・・・』

 

 

 ふたたび気持ち悪くなってしまわないように極力写真を見ないようにしながら茜はメッセージを送る。

 ちなみに、今回は竜がふざけたが、こういったことは茜も時たまにやるのでお互い様とも言える。

 その後、竜から“KIRIKIRI”も一緒にDbDをやるというメッセージが届き、詳しい日付などを確認していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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第106話

 

 

 

 

 茜たちにメッセージを送り終えた竜はプレイステーション4のコントローラーを手に取る。

 テレビ画面では竜の操作している女性キャラと、“KIRIKIRI”の操作している男性キャラがポーズをとった状態で静止していた。

 

 竜は茜たちにメッセージを送るよりも前に“KIRIKIRI”と一緒にプリキュアのような格好をしてモンスターを狩る『2人は狩りキュア!』ごっこをしたり、ブラキディオスの顔面を強打の装衣を装備した状態で交互に殴って連続スタンを狙ったりシビレ罠や落とし穴で動きを封じてオラオ乱舞をしたりと、かなりふざけてモンハンをプレイしていた。

 

 ちなみに、『2人は狩りキュア!』ごっこの提案をしたのは“KIRIKIRI”の方からである。

 

 『2人は狩りキュア!』ごっこの提案をしたのは、竜ではなく“KIRIKIRI”の方からである。

 大事なことなので2回言っておいた。

 

 

「お待たせですー。んじゃ、次はなにいきます?」

『あ、おかえりなさいです。そうですね、“狩りキュア”は継続するとして・・・・・・ベヒとかはどうですか?』

「おお、普通の個体なら2人でもクリアできると思いますし、良いですね」

 

 

 “KIRIKIRI”の提案に竜はうなずき、武器を交換するためにアイテムボックスの前に移動した。

 ちなみにベヒーモスはモンハンとファイナルファンタジーのコラボによって追加された大型モンスターのことで、その見た目や技は見事にファイナルファンタジーのベヒーモスを再現している。

 また、アイスボーンの追加前に登場した極ベヒーモスという強化個体のモンスターもいるのだが、マスターランクの追加された今でも極ベヒーモスの眼前には倒れ伏したハンターたちの姿があったりする。

 

 なお、“KIRIKIRI”の言っているように竜と“KIRIKIRI”の操作しているキャラクターは『2人は狩りキュア!』ごっこをしたときのままの格好で、どちらも魔法少女のような格好をしているという地獄のような絵面だ。

 そんな状態なのに竜と“KIRIKIRI”がなぜ普通にプレイできているのかが不思議で仕方がない。

 

 

『ベヒってたしか弱点は龍でしたよね?』

「そうですね。とりあえず開幕に睡眠落石はいれます?その場合、こっちは最初にちょっとライトボウガンを使いますけど」

『まぁ、大団長も使えるものはなんでも使えって言ってますし』

「んじゃ、最初はライトでエリア移動したら武器を持ち替えに飛びますね」

『了解です。こっちはひたすらに龍属性で殴りまくりますよ』

 

 

 狩りに行く対象、ベヒーモスの弱点や戦い方などを話しながら竜と“KIRIKIRI”は準備を進めていく。

 ベヒーモスの初期地点には落石をぶつけられるポイントが2ヶ所あるので、どちらも外さずに当てていきたいのだ。

 ついでに言えば眠らせて落石を当てればダメージも跳ね上がるので、最初に眠らせて落石を当てるか、落石は普通に当てて最後に眠らせて爆弾を当てるかは他の人たちと相談すると良いだろう。

 

 

「っし、準備オッケー。行きますか!」

『さぁ、スーパーヒロインタイムの始まりです!』

 

 

 準備を終え、竜と“KIRIKIRI”の操作するキャラクターは翼竜に掴まって戦うエリアへと移動する。

 しいて1つ言うのであれば、“KIRIKIRI”の操作しているキャラクターは髭を生やしたワイルドな男性キャラなので、絶対にヒロインではないということだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第107話

 

 

 

 

 天が裂けんばかりの咆哮。

 

 大地は火を噴き、旋風が巻き起こる。

 地を白い稲光が駆け、天からは巨大な岩石が押し潰さんと降り注ぐ。

 

 一度でも油断をすればその瞬間に命は刈り取られ、物言わぬ(むくろ)が作り出されるだろう。

 いや、骸が残ればマシな方かもしれない。

 今、ここに作り出されたのは生命が生き残るには過酷すぎる地獄。

 

 この地獄のような世界を駆け回る2人の影があった。

 

 1人は2本の短い剣をその手に駆け回り、この地獄を作り出した魔獣に果敢に斬りかかる。

 1人は大型の銃のようなものを手にある程度の距離を維持しながらこの地獄を作り出した魔獣に爆発する弾丸を撃ち込んでいく。

 

 火を噴く大地を駆け抜けることによって回避し、旋風が巻き起こる直前に横っ飛びに跳ねることによって旋風を壁近くに寄せる。

 地を走る稲光をときに大きく避け、ときに間を縫うように走り、降り注いでくる岩石を勢いよく飛び込むことによって回避する。

 

 日本の短い剣、双剣を持つ人間が近くで斬りかかり続けることによって敵視を集め、大型の銃、ライトボウガンを持つ人間が爆発する弾丸や水のような冷気を感じさせる弾丸を撃ち込んでいく。

 

 

「そろそろ1回眠らせますよ!」

『了解です!誘導しますね!』

 

 

 ライトボウガンを持つ人間がそう言うと、双剣を持った人間は最初に指定されていた位置へと敵視を向けられながら移動する。

 双剣を持った人間を追うように、この地獄を作り出した魔獣はその紫の巨大な体躯を動かして威圧感を放ちながら移動していった。

 自動車やトラックなんかとは比べ物にならないほどに巨大なその紫の体躯。

 そしてその巨体を覆うような分厚い筋肉。

 棘のついた禍々しい尻尾を振るいながら目につくものを破壊し、喰らう魔獣。

 そう、これこそがこの地獄を作り出した魔獣の姿。

 

 その魔獣の名は“ベヒーモス”・・・・・・

 

 

「これで・・・・・・、眠れ!」

 

 

 双剣を持った人間を追っていたベヒーモスが予定していた地点に到達した瞬間、ライトボウガンを持っている人間は先ほどまでとは違う弾丸をベヒーモスに撃ち込んだ。

 

 1発・・・・・・2発・・・・・・3発・・・・・・

 

 弾丸が撃ち込まれるごとにベヒーモスの動きは鈍くなり、徐々にその威圧感も減っていく。

 そして、最後の1発を撃ち込んだとき、ベヒーモスは地面へと崩れ落ちた。

 しかしこれは別にベヒーモスが死んだとかそういうわけでない。

 先ほどからベヒーモスに撃ち込んでいた弾丸。

 それは撃ち込んだ相手を眠りにつかせる特殊弾、睡眠弾だ。

 といっても眠っている時間はそれほど長くはなく、急いで手はず通りに動かなければまったくの無意味になってしまうだろう。

 

 

「生きているのなら・・・・・・、古龍だって爆殺してみせる!」

『これね、ミキプルーンの苗』

 

 

 そう言いながら2人はベヒーモスの近くに大きなタルを置いていく。

 これをただのタルと思うなかれ。

 このタルの中には大量の火薬が詰まっており、爆発すればかなりのダメージをベヒーモスに与えられることは間違いないだろう。

 さらに続けてライトボウガンを持っている人間は地面に地雷のような弾丸を撃ち込んでいく。

 これは衝撃を受ければ爆発をする特殊弾で、タルの爆発によってさらにダメージを与えることができるのだ。

 

 

『よし、起爆をお願いします!』

「了解です!」

 

 

 その言葉に合わせてライトボウガンが弾丸を放つ。

 しかし、その弾丸はタルに当たることはない。

 

 外した?

 

 いいや、そんなことはない。

 弾丸はしっかりと撃ち抜いている。

 

 “ベヒーモスの眠る頭上に存在している天井の岩”をしっかりと。

 

 今にも崩れそうだった岩は撃ち抜かれたことによってバランスを崩し、ベヒーモスへと向かって落下していく。

 さらに言えば岩の落ちる地点には先ほど設置していた大きなタルと特殊弾が存在している。

 そして、落下してきた岩と大きなタルの爆弾、特殊弾の爆発によってすさまじい衝撃が周囲を駆け巡っていく。

 

 それによって着ている服がバタバタとあおられてしまう。

 魔法少女のようなスカートを履いていたためにそれはまくり上がってしまい、その中身を隠すことなくあらわにしてしまっていた。

 

 予想以上の突風に驚くも、ベヒーモスの生死が分からない以上スカートのことを気にしている暇もない。

 そう考えた“彼”はスカートの中身の黒い下着を晒しながら双剣を構え、爆煙をまっすぐに見つめる。

 自身の髭に土埃が着くことも気にせず、“KIRIKIRI”という名の“男性”はゴクリと唾を飲むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第108話


最近はPSO2にハマっている作者です。

やっててわかるモンハンのグラフィックのキレイさ。

まぁ、戦闘とかも楽しいから良いんですけどね。

ベヒーモス戦はまだしばらく続きます。





 

 

 

 

 テレビ画面の中。

 巻き起こった爆煙に竜は思わず苦笑いをする。

 

 

「・・・・・・ベヒとの戦闘以外のところで地獄絵図が生まれてないですか?」

 

 

 竜の言う地獄絵図とは大地が火を噴き、旋風が巻き起こり、地を稲光が走って、天から岩石が降り注いでいた先ほどの光景のことではない。

 むしろその地獄絵図を作り出したのは一緒に戦っていた“KIRIKIRI”の操作する男性だった。

 

 いったいどこへ向けての需要か分からない髭を生やしたワイルドな顔つきの男性の魔法少女のような格好と、その格好から繰り出されたパンチラ。

 正直に言って胃もたれでも起きそうなほどに絵面が酷かった。

 

 

『録画してますけど』

「いらないです!」

 

 

 からかうような“KIRIKIRI”の言葉に竜は即答した。

 

 直後、広がっていた爆煙をかき消すように咆哮と突風が巻き起こる。

 そしてかき消された爆煙の中から唸り声をあげるベヒーモスの姿が現れた。

 

 ベヒーモスの目からは抑えきれないような殺意のようなものを感じられ、ゲームだというはずなのに竜は冷や汗を垂らしていた。

 落石による影響か、はたまた竜と“KIRIKIRI”の設置した大きなタルの爆弾の影響か。

 ベヒーモスの頭部から生えていた立派な角はへし折れてしまっていた。

 

 

「いやぁ、何回挑んでもこの緊張感は歴戦王とかよりきますね」

『ですね。マスター装備で狩りやすくなったとはいえ、油断すれば一気に持っていかれますし』

 

 

 竜と“KIRIKIRI”の操作するキャラクターを見たベヒーモスはもう一度咆哮をあげると、隣のエリアへと移動を始めた。

 強者であるはずのベヒーモスがまるで逃げるように移動することに不思議に思うかもしれない。

 だが、そもそもとしてベヒーモスは最初のエリアではハンターたちのことを敵としてハッキリとは認識していないのだ。

 それこそ、自分の近くに虫が飛んできたから叩き落とすように。

 

 しかし、ハンターたちはベヒーモスに大きなダメージを与えた。

 いや、与えてしまった

 それによってベヒーモスはハンターたちを敵として認識し始めた。

 そのため、ベヒーモスは自分が戦いやすい場所へとエリアを移動した。

 つまり、次の戦いからが本当のベヒーモス戦の始まりとなるのだ。

 

 エリアを移動するベヒーモスの姿を確認した竜はマップを開き、ベヒーモスに一番近いキャンプへと移動する。

 竜がライトボウガンをかついできたのは最初のエリアで睡眠落石爆破をするため。

 ベヒーモスがエリアを移動した今、ライトボウガンをかついでいる意味はほとんどなくなったのだ。

 そして、竜はライトボウガンをしまって“KIRIKIRI”と同じように双剣を装備した。

 

 

『早めに戻ってきてくださいね!ダメージを稼がないと終わりますから!』

「装備替えとアイテムの入れ換えは終わったんですぐに向かいますよ!」

 

 

 “KIRIKIRI”の言葉に竜はキャンプから走りながら答える。

 ベヒーモスは戦闘をしていないと体力を回復していってしまうために装備とアイテムの変更を竜がしている間は“KIRIKIRI”が1人でベヒーモスと戦っていなければならないのだ。

 

 

「お待たせです!」

 

 

 ベヒーモスのいるエリアに着いた竜は走る勢いのままベヒーモスへと接敵する。

 双剣という武器の都合上、それほどまでに接近しなければ攻撃は当てられない。

 しかし、そこまで接近するということは必然的にベヒーモスからの攻撃も苛烈になるということ。

 

 前足による叩きつけ。

 肩を叩きつけることによる広範囲の攻撃。

 腕を振るう出の早い薙ぎ払い。

 くるりと体を一回転させることによる全方位への薙ぎ払い。

 

 そのどれもを超至近距離で回避しなければならないのだ。

 

 

「“削三連(けずりさんれん)”!ちょっとのミスで落とされるこの緊張感────」

『“一双(いっそう)燕返(つばめがえ)し”!多彩な攻撃と高い体力────』

「『────だからこそ燃えるものがある!』」

 

 

 竜の攻撃によってベヒーモスの前足が傷つき、ダメージが通りやすくなる。

 さらに竜が傷つけた前足に張りついて“KIRIKIRI”が攻撃を繰り出した。

 

 ベヒーモスの攻撃を掻い潜りながら竜と“KIRIKIRI”は同時に叫ぶのだった。

 

 

 ちなみに、竜も“KIRIKIRI”も装備を縛ったりしてクリアできるほどに上手いわけではない。

 あくまでもマスターランクの装備で楽しくモンスターを狩っていくことを重視していることを言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第109話

 

 

 

 

 (ふところ)に潜り込む。

 

 先ほどまでいた場所に紫の分厚い筋肉でおおわれた巨大な腕が叩きつけられる。

 

 数回胴を斬りつけ、身を屈めながら横方向にステップを踏む。

 

 直後にベヒーモスの正面方向へと火柱が数本走る。

 

 

 ライトボウガンからうって変わってほぼゼロ距離とも言える戦闘。

 ベヒーモスの放つ攻撃すべてを竜はギリギリのところで回避していた。

 

 

「っ~!・・・・・・良いねぇ。最っ高に楽しい!」

 

 

 このエリアは坂道と段差があり、坂道では斜面であることによる移動の暴発。

 段差では乗り越える動作での強制的な隙に気をつけなければ安定して戦うことは難しいのだ。

 

 辛うじて攻撃モーションに気づいて回避ができているが、それでもいつ被弾するか分からないギリギリの戦い。

 ドキドキと五月蝿くなってくる心臓の音を感じながら竜は忙しなくコントローラーを操作していく。

 

 

『・・・・・・やりますか?』

「・・・・・・ですね。やりますか!」

 

 

 長く会話をする余裕もないために短い言葉で“KIRIKIRI”は竜に尋ねる。

 “KIRIKIRI”の操作するキャラクターが装備しているのは双剣。

 そしてそのキャラクターがいる場所を素早く確認した竜は“KIRIKIRI”の言葉の意味を理解し、ほどほどにベヒーモスに攻撃を与えてから“KIRIKIRI”のいる坂の上側近くへと移動した。

 

 

「双剣ならこれはやっておかないとですからね」

『当然ですね。技名はどうしますか?』

「“KIRIKIRI”さんが前に言っていたやつで」

『オッケーです』

 

 

 坂の上側へと移動し、ベヒーモスから距離を置いたことによって会話をする余裕ができた竜と“KIRIKIRI”は次に(おこな)うことの話し合いを軽くする。

 そして、ベヒーモスがこちらに向かってきているのを確認した竜と“KIRIKIRI”はほぼ同時に坂道を滑ってスライディングを始めた。

 

 スライディングをしていた竜と“KIRIKIRI”は、ベヒーモスの目の前で跳び上がり、その体を回転させていく。

 2人は体を回転させ、スライディングの勢いのままベヒーモスへと向かっていった。

 2人が回転していることも気に止めず、ベヒーモスは咆哮をあげながら2人に向かっていった。

 直後、回転していた2人の双剣がベヒーモスの顔面に直撃する。

 

 

「『“双刃(そうは)流螺旋(りゅうらせん)”!!』」

 

 

 次の瞬間、ベヒーモスに直撃した双剣の片方を軸に、2人は体勢を整えてベヒーモスの頭から尻尾へと体をなぞるように回転しながら進んでいった。

 加えて言うと、回転しながら双剣も振るっており、ベヒーモスの体には無数の斬撃が叩き込まれている。

 ズザザザザザザザザッ、という長い斬撃音を出しながらのスタイリッシュな攻撃に、竜は満足そうにうなずく。

 そして、2人の攻撃がベヒーモスの体の後ろの方へと到達した瞬間。

 

 ブツンッ!と言う音とともに巨大ななにかが飛んでいく。

 それと同時にベヒーモスが大きく鳴き声をあげながら前方へと走っていった。

 

 飛んでいったものの方を見ると、そこにはベヒーモスの体表と同じ紫色のなにかが落ちていた。

 落ちていたものの確認もそこそこに、ベヒーモスを見ると、明らかに先ほどと変わった部分がある。

 

 先ほどまで回転攻撃で猛威を振るっていたベヒーモスの尻尾が根本の辺りからバッサリとなくなっているのだ。

 どうやら2人がかりによる回転連続攻撃“双刃・流螺旋”によってベヒーモスの尻尾が切断されたようだ。

 

 尻尾が切れたことによる怒りからなのか、ベヒーモスはめちゃくちゃに岩石を降らせる。

 そのうちのいくつかが壊れずにフィールドに残った。

 

 

『これは・・・・・・』

「きますね・・・・・・」

 

 

 壊れなかったいくつかの岩石。

 それらを確認した竜と“KIRIKIRI”は警戒しながらベヒーモスを見る。

 

 直後、今までとは比べ物にならないほどに天が赤く染まった。

 雲が大きく渦巻き、それと同時に何本もの雷が雲の中を走っている。

 

 天が赤くなったのを確認した2人は急いで先ほど壊れなかった岩石の後ろに身を潜めた。

 そして、ベヒーモスが一際大きく鳴き声をあげ・・・・・・

 

 

 

      ・・・・・・世界は轟音と光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第110話

 

 

 

 

 轟音と光がおさまり徐々にテレビ画面は周囲の光景を映し始める。

 

 最初に目につくのは悠然と立ちながらハンターたちを見据えるベヒーモスの姿。

 先ほど竜たちは天から降ってきた岩石の後ろに身を潜めたはずなのになぜベヒーモスの姿が見えるのか。

 その理由はとても分かりやすいもので、ベヒーモスがいくつもの岩石を降らせたあとの最大の大技“エクリプスメテオ”によって身を潜めていた岩石が跡形もなく消し飛んだからだ。

 もしもこの威力を防ぐものがない状態で受けたのならば、間違いなく先ほどの身を潜めていた岩石と同じようにその身を消し飛ばされていただろう。

 

 自身の肉体へのダメージも気にせずに大技“エクリプスメテオ”を放ったベヒーモスは、忌々しそうに竜と“KIRIKIRI”を睨むと身を(ひるがえ)してさらに奥のエリアへと走り去っていった。

 ベヒーモスが奥のエリアに移動したことを確認した竜と“KIRIKIRI”は小さく息を吐くと砥石を取り出して双剣を研ぎ始める。

 

 

「傷つけとかで切れ味をなるべく下げないようにしてたのにギリギリかぁ・・・・・・」

『こっちも同じ感じですね。達人芸が多目に発動してくれたお陰で緑程度には抑えられましたけど・・・・・・』

 

 

 砥石を使いながら竜が確認しているのは画面左上に表示されている切れ味ゲージと呼ばれているもの。

 これはその名の通り装備している武器の切れ味を表しているもので、最高で紫色から最低で刃こぼれの状態にまで段階的に変化する。

 この切れ味というものは近接武器を使う上では切っても切れない重要な要因で、紫や白などの状態であれば基本的にはほとんどのものを斬ることが可能になり、反対に刃こぼれやオレンジ色の状態になってしまえばほとんどの攻撃が弾かれてしまうのだ。

 ただし、『心眼』と呼ばれるスキルを着けていれば切れ味がどんな色になろうと弾かれることはないので安全に戦いたいのであれば『心眼』を着けるのも手の内だろう。

 

 砥石を使ったことによって緑にまで落ちていた切れ味が白にまで戻る。

 そしてベヒーモスとの戦闘中に使用したアイテムの補充のためにキャンプへと竜と“KIRIKIRI”は移動した。

 

 

「っと、被弾ごとに秘薬を使ってたからギリギリだったな」

『回復薬グレートとか持たないんですか?』

「飲む時間が勿体ないのと回復に時間がかかるんで(持た)ないです」

 

 

 持ち物で補充をするのは秘薬とその材料になるもののみ。

 普段であれば罠なども持っているのだが、あいにくとベヒーモスに罠は効かないので無駄なアイテムは減らしたのだ。

 アイテムを補充し終えた2人はキャンプから出てベヒーモスのいるエリアへと向かう。

 

 

「みゅい!」

「んぉわっ?!」

『うん?どうかしましたか?』

 

 

 勢いよく頭の上に降ってきた衝撃に竜は頭を揺らされ、思わず声を漏らした。

 それと同時に聞こえてきたのは聞きなれた生き物の声。

 竜の声が聞こえたのか“KIRIKIRI”は不思議そうに竜に尋ねる。

 

 

「みゅっ、みゅみゅっみゅ!」

「いきなり乗ってくるのは止めてくれよ・・・・・・。っと、ああ、すみません。頭の上に遊びにきた生き物がいきなり跳び乗ってきたので」

『そ、そうなんですか・・・・・・?』

 

 

 動物が遊びにくるとはどういうことなのか。

 竜の言葉に“KIRIKIRI”は困惑した声を出すことしかできなかった。

 

 

「わぁ!」

「今度はあかり草かい・・・・・・」

「みゅぅあ!」

 

 

 竜の座っている足の間から生えてきたあかり草に竜は思わず声を出す。

 あかり草は顔を向けるように竜へと花を向けると嬉しそうに揺れ始めた。

 あかり草が急に生えてきたことにみゅかりさんは驚き、小さく竜の頭の上で跳び跳ねる。

 

 

「あー・・・・・・、あまり揺れんでくれ。その、なんだ、振動がくるから」

「わぁわぁ、わ?・・・・・・・・・・・・わぁ」

 

 

 竜の言葉にあかり草は不思議そうに花の部分をかしげ、自分がどこに生えているのかを見た。

 あかり草が生えているのはゲームをするために座っている竜の足の間。

 あかり草が揺れるたびにその振動が、わずかにだが竜の体のもっとも大事な部分に届いていた。

 

 自分の体がどこから生えてしまっているのかを理解したあかり草の花の部分はほんのりと赤く染まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第111話

 

 

 

 頭の上にみゅかりさんを乗せ、座っている足の間からあかり草を生やしながら竜はモンハンを進める。

 すでに“KIRIKIRI”はベヒーモスのいるエリアの入り口におり、竜の到着を待っていた。

 

 

「すみません。お待たせしました」

『いえ、そこまで待ってないので大丈夫ですよ。それじゃあ、行きましょうか!』

 

 

 竜の言葉に“KIRIKIRI”は問題ないと答えた。

 そして、2人はベヒーモスの待ち構えるエリアに足を踏み入れる。

 

 ベヒーモスとの3回目の戦闘をするエリア。

 ここもまた斜面の多いエリアで、先ほどのエリアよりも急な斜面が複数存在しているために斜面の裏にベヒーモスが隠れてしまったり、斜面によって視界が遮られている状態からの奇襲を受けてしまうことがある。

 それに加えて先ほどのエリアと同じように斜面による移動の暴発にも気をつけなければならない。

 それによってこのエリアは先ほどよりも戦いにくいエリアとなっていた。

 

 2人がエリアに足を踏み入れた瞬間、黒い大きな影が2人の頭上に現れる。

 影に気づいた2人は反射的に急いで前方に大きく飛び込み、影の下から逃れた。

 2人が影の下から逃れた直後、なにか大きなものが落ちてきた音がし、それと同時に土煙が周囲に舞う。

 飛び込んだ体勢から立て直した2人は頭上から落ちてきたものの姿を確認し、自身の装備している双剣を引き抜いた。

 

 

「これは・・・・・・なんともハデな歓迎ですね」

『それだけ私たちのことを思ってるんですね・・・・・・』

 

 

 土煙の奥、そこから聞こえてくるのは何度も聞いてきた唸り声。

 そして咆哮によって土煙が吹き飛ばされ、土煙の中にいたものの姿があらわになる。

 土煙の中にいたのは、聞こえてきた咆哮からも分かっていたことだがベヒーモスだ。

 どうやらベヒーモスは竜と“KIRIKIRI”がエリアに入ってきたと同時に跳び上がり、奇襲を仕掛けてきていたらしい。

 2人が反射的に前方に飛び込んでいなければ、間違いなくベヒーモスによって踏み潰されていただろう。

 

 

「みゅみゅみゅっ?!」

「わわわわぁっ?!」

 

 

 ベヒーモスが跳びかかってきていたことを理解したみゅかりさんとあかり草は声をあげて大きく驚く。

 まぁ、あれほどまでに大きな体で跳びかかってくるとは予想もできなかったのだろう。

 

 そして、ベヒーモスは咆哮をあげながら竜と“KIRIKIRI”へと襲いかかってきた。

 

 

「っと、最初の狙いはこっちか!」

『なら敵視取りは任せました!閃光玉の準備もしてあるのでガンガンいきましょう!』

 

 

 自身に向かって振るわれるベヒーモスの太い腕を回避しながら竜と“KIRIKIRI”は左右に分かれる。

 ベヒーモスを挟撃するような位置取りをしつつ、竜と“KIRIKIRI”はベヒーモスに攻撃を叩き込んでいく。

 分散してから集中的に狙われ始めた竜はベヒーモスの攻撃を回避し、大きな隙ができたときに数回斬りつける程度に抑え、可能な限り攻撃を受けないように立ち回っていた。

 

 反対にベヒーモスから狙われずに自由に動ける“KIRIKIRI”はベヒーモスの後ろ足に傷つけをして連続で斬りかかっている。

 ベヒーモスから狙われていないということで“KIRIKIRI”が警戒するべき攻撃は、一回転して周囲を攻撃する回転攻撃、上空から岩石を降らせるコメット、ハンターを包むように竜巻が展開されるミールストームなどだった。

 また、狙われている竜の近くに行けばサンダーボルトなどの範囲攻撃に巻き込まれる可能性もあるので他のハンターとの位置関係には注意が必要だろう。

 

 

「みゅっ、みゅみゅ、みゅいぃっ!」

「わぁわぁわぁ!」

 

 

 ベヒーモスの攻撃を回避していく竜にみゅかりさんとあかり草は興奮した様子で声をあげていた。

 楽しそうな2匹?・・・・・・1匹と1本?の声に竜は思わず口もとがゆるみそうになるが、ベヒーモス戦に集中するためになんとか堪える。ベヒーモスとの後半戦は始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第112話

 

 

 

 

 ベヒーモスの太い腕が振るわれ、風切り音とともに地面に衝撃が起こる。

 それだけでもベヒーモスの力の強さが理解でき、竜は一層のこと気を引き締めてベヒーモスの攻撃を回避していった。

 

 

 右腕による出の早いパンチを左にステップして避ける。

 

 左腕によるパンチからの横薙ぎへの連続攻撃をあえてベヒーモスの懐に飛び込むことによって避ける。

 

 背後にいる“KIRIKIRI”の存在にもイラついてきたのか、全身を使っての回転攻撃を後方に飛び退くことによって避ける。

 

 降り注ぐ岩石は走り回ることによって避ける。

 

 地を走る稲光は稲光の隙間に入り込むようにステップを踏んで回避する。

 

 周囲に竜巻を起こそうとしたのなら素早く攻撃を叩き込んで怯ませるか、閃光玉を撃って強制的に止める。

 

 

 今までにもベヒーモスとの戦いは経験があったために竜はベヒーモスの攻撃をある程度は回避できていた。

 それでもたまに対応が遅れて吹き飛ばされたり、攻撃がかすったりしているのだが。

 

 

「みゅっ、みゅみゅ!」

「わっ、わわぁわわぁ!」

 

 

 ベヒーモスの威圧感のある攻撃にみゅかりさんとあかり草は驚きつつも楽しそうに声をあげる。

 そして、先ほどと同じように壊れない岩石がいくつか降り始めた。

 そのことに気がついた竜は急いでベヒーモスから距離をとり、岩石の降る位置を調整する。 

 このときに降ってくる岩石の位置が悪いとエリア移動直前の大技、エクリプスメテオを避けるのがかなり難しくなってしまうのだ。

 ちなみに、エクリプスメテオは防御で耐えることは不可能で、攻撃範囲は隣接するエリアまでの広範囲という、まさに最強の大技である。

 

 

「ちょっと離れたとこに置きました!」

『了解です。こっちも大丈夫そうです!』

 

 

 お互いに岩石の降る位置の調整を終え、竜と“KIRIKIRI”は確認の声かけをした。

 岩石の位置の調整が終われば、次は岩石から少しだけ離れた位置に移動してベヒーモスとの戦闘を再開する。

 このときに気をつけなければならないのは、岩石は何回か攻撃を当ててしまうと壊れてしまうということ。

 

 ベヒーモスの攻撃が岩石に当たってしまって壊れてしまい、続けて放たれたエクリプスメテオを回避できずに死んだ。

 

 なんてことはよくあることなのだ。

 そのため、岩石の位置を調整したあとは岩石にベヒーモスの攻撃が当たらないように戦いつつ、ベヒーモスがエクリプスメテオを放つ構えをした瞬間に岩石の後ろに隠れられるような位置にいなければならない。

 これを簡単だと思う人もいるかもしれないが、ベヒーモスには近接攻撃以外に火柱をあげる攻撃や、稲光を走らせる攻撃、岩石を落とす攻撃、竜巻を起こす攻撃がある。

 これらは攻撃の範囲も広く、流れ弾が当たることもあり得るのだ。

 

 

「“双刃・流螺旋”!」

『ここのエリアも斜面があるから出しやすくはあるんですよね』

 

 

 岩石から離れるのとベヒーモスに攻撃を与えるために竜は先ほどのエリアでもやったように回転攻撃をベヒーモスに叩き込む。

 これによって竜はベヒーモスに攻撃を与えつつ、ベヒーモスの背後へと移動することができた。

 ベヒーモスの背後に着地した竜はそのままベヒーモスを見つつ、一番近い岩石の位置を確認する。

 幸いなことに“KIRIKIRI”が位置調整をしていた岩石が近くにあることが確認できたので、エクリプスメテオを回避することは可能だろう。

 

 

「モンスターの背後をとりながらダメージを与えられるんだからかなり便利だな」

「みゅう、みゅみゅ」

 

 

 ベヒーモスの攻撃を回避しつつ、竜は先ほどの回転攻撃の感想を言う。

 とは言ってもこの攻撃は斜面、もしくは段差がなければ使えないのでそこまで使い勝手が良いとは言えないのだが。

 

 そして、ベヒーモスがエクリプスメテオを放つ構えをとった。

 しかしすでにベヒーモスの行動を読んでいた竜と“KIRIKIRI”は慌てることなく岩石の後ろに隠れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第113話

 

 

 

 

 先ほどのエリアでのエクリプスメテオと同じように、周囲を轟音と光が包み込む。

 自身を巻き込みながらの大技の発動。

 逆に言えばそれほどまでにベヒーモスが追い詰められているということになるだろう。

 

 そして、ベヒーモスは唸り声をあげながら最後のエリアに向かっていった。

 

 

「とうとう次が最後か・・・・・・」

「みゅみゅみゅう」

「わぁ、わわぁ」

 

 

 竜の呟きにみゅかりさんとあかり草はパチパチと拍手をするような動きをしながら楽しそうな声をあげている。

 そんな1匹と1本の様子に、竜は砥石で武器を研ぐのを選択してからコントローラーから手を離して優しく撫でた。

 竜に撫でられ、みゅかりさんとあかり草は嬉しそうに体を揺らす。

 

 

『いよいよ次で最終決戦ですね。こちらは準備は終わってますが、そちらはどうですか?』

「こっちも大丈夫ですよ。それじゃあ、行きますか」

 

 

 武器を研いで切れ味も白に戻り、“KIRIKIRI”は竜に確認をとる。

 ベヒーモスの移動した次のエリアは行き止まりのエリアで、これ以上どこにも移動することはできないエリア。

 つまりはこのエリアですべての決着が着くということ。

 そのため、エリアに入る前の持ち物などの最終チェックはとても大切なのだ。

 仮に、補充もなにもせずにエリアに入って回復アイテムが足りなくて戦闘中に倒されでもすれば目も当てられないことになってしまう。

 所持している回復アイテムを確認し、補充の必要が無さそうなことを確認した竜は最後のエリアへと向けて歩き始めた。

 それに続くように“KIRIKIRI”もベヒーモスを狩猟するために歩きだす。

 

 ベヒーモスとの最後の戦闘をするエリア。

 そこは本来であればモンスターハンターワールドの看板モンスターであるネルギガンテの寝床なのだが。

 ベヒーモスという強大なモンスターが現れた影響なのか、いまはベヒーモス以外になにもいない。

 

 

「このエリア、地形ダメージはないけど上から降ってくるトゲが鬱陶しいんですよね」

『ですね。張りついて傷つけとかをやろうとしているところにちょうど降ってきて何度邪魔をされたことか・・・・・・』

 

 

 ネルギガンテの寝床であるこのエリアの特徴を言うのであれば、まずあげられるのが同じ地点に何度も降ってくるトゲだろう。

 このトゲは受けるダメージこそ1と低いものの、ダメージを受けたモーションで行動がキャンセルされてしまうのだ。

 

 竜の言葉に“KIRIKIRI”はその時の光景が頭に浮かんだのか、少しだけ言葉に苛立ちが混じっていた。

 

 ちなみに、今回はこのエリアに来ているが、ベヒーモスは他にも溶岩地帯の方に移動するパターンもある。

 これは2回目のエリア移動までにある程度の部位破壊をしていない場合に移動するルートで、こちらのルートの場合は熱による継続ダメージと、エリア全体が赤いためにベヒーモスの一部の攻撃が見えづらくなるのだ。

 どちらのが戦いやすいかは人によって異なるので、自分が戦いやすいエリアに向かわせられるようにするといいだろう。

 

 

「見えた・・・・・・」 

『では、やりましょうか!』

 

 

 エリアに入ってすぐの細い道を抜けた先。

 そこでベヒーモスは量と“KIRIKIRI”のことを待ち構えていた。

 

 今、ベヒーモスとの最後の戦いが幕をあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第114話

 

 

 

 

 最初のエリアでの戦闘はベヒーモスにとっては虫を払うような気にも止めないようなもの。

 ベヒーモスからしてみれば自身よりも小さい生き物が寄ってきた程度の認識で、振るった攻撃も蚊を潰すような感覚でしかなかった。

 

 2番目のエリアでの戦闘で、ベヒーモスはハンターたちをようやく敵として認識し始めた。

 最初のエリアで自身の角を折られ、小さいものとはいえ体に傷もつけられたため苛立たしそうにベヒーモスはその腕を振るい、ハンターたちを攻撃していった。

 

 3番目のエリアでの戦闘で、ベヒーモスは本気でハンターたちを殺そうと先手を打って奇襲を仕掛ける。

 2番目のエリアで尻尾を根本から切り落とされ、ボロボロになりながら撃ったエクリプスメテオも避けられ、なりふり構わずに目の前のハンターたちを殺そうとしていた。

 どれだけ攻撃を振るってもハンターたちは死なず、反対に自身の体が傷ついていく。

 その事実にベヒーモスの脳裏には知らず知らずにある思いが蓄積されていった。

 

 4番目のエリア。

 もはや他に続く道もなく、通ってきた道からはハンターたちがやって来ている。

 であれば、残された道はハンターたちをすべて殺すこと。

 後のないベヒーモスはすべての力をもちいてハンターを殺そうと大きな咆哮をあげた。

 

 

 響き渡るのは敵意と殺意の込められた咆哮。

 とっさに耳をおさえたために鼓膜が破れることはなかったが、それでも全身に叩きつけられる衝撃に竜たちは思わずよろめいてしまう。

 咆哮をあげたベヒーモスは、よろめいた竜たちの隙を見逃すことなく竜たちに飛びかかっていった。

 

 

「う、おぉおおぉおおぉおッッ?!?!」

『あっぶなぁッッ?!?!』

 

 

 ベヒーモスによって踏み潰されるかと思ったその直前、どうにか立て直すことのできた竜と“KIRIKIRI”は横に大きく飛び込むことによってベヒーモスに踏み潰されるのを回避する。

 しかし、咄嗟に大きく飛び込んでしまったために体勢が不安定で、着地が取れずに地面に倒れ込んでしまった。

 倒れ込んでしまった2人のうち、竜に狙いをつけたベヒーモスは大きく腕を振り上げる。

 

 

「くそっ、間に合え!」

 

 

 ベヒーモスの腕が振り下ろされるよりも早く立ち上がらなければ殺られてしまう。

 それが分かりきっているために竜は急いで立ち上がろうとする。

 そして、無情にも竜の頭上に影が迫ってきていた。

 

 

『まだです!』

 

 

 瞬間、“KIRIKIRI”の声と同時に強烈な光がベヒーモスを襲う。

 完全に竜への攻撃に集中していたベヒーモスは目が眩み、後ずさってしまった。

 その隙に竜は立ち上がり、ベヒーモスから距離をとって武器を手に取る。

 

 

「あ、危なかった・・・・・・」

『今のうちに体勢を整えましょう!』

 

 

 腕に着けている投石機(スリンガー)に閃光玉を装填しながら“KIRIKIRI”は言う。

 目が眩んでいるとはいえ、それも短い時間だけ。

 予定とは違う閃光玉の使用に“KIRIKIRI”は少しだけ苦い表情を浮かべた。

 

 

『調合分まで持ってきているとはいえあまりミールストーム以外では使いたくなかったんですけどね・・・・・・』

「まぁ、極ベヒとは違って耐性つかないんで切り替えていきましょう」

 

 

 竜の言う極ベヒとはベヒーモスの強化個体のことで、その攻撃力と体力は通常個体のベヒーモスを遥かに上回っており、閃光玉も数回撃てば耐性がついてしまうというとても強力なモンスターなのだ。

 それと比べてしまうと通常個体のベヒーモスは大変でも楽しく戦える相手といった認識になってしまうだろう。

 

 そして、竜と“KIRIKIRI”は武器を構えてベヒーモスに攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第115話


マリオを書いて以来、戦闘シーンなんてほとんどなかったから地味に書くのが楽しいです。




 

 

 

 

 竜と“KIRIKIRI”がベヒーモスと戦い始めてどれほど時間が経っただろうか。

 1つのエリアでの戦闘時間はそこまで長くないとしても、それが合計で4回もあるだけに必然的に時間もかかってしまっている。

 もしも“モンスターハンターワールド”がアイテム補充を途中でできない過去の作品と同じ仕様であったのならば、間違いなくこのクエストでは心が折れていただろう。

 

 

「っと、だりゃあ!」

『危ないですね・・・・・・。粉塵揉むですよ』

 

 

 ベヒーモスの攻撃がかすり、竜の体力が減少したことに気がついた“KIRIKIRI”は念のために持ち込んでおいた広域回復アイテム、“生命の粉塵”を使う。

 それによって竜の体力が少しだけ回復する。

 正直なところ“生命の粉塵”程度では回復してもほとんど誤差のようなもので、使うのであれば上位互換の“生命の大粉塵”の方が生存率も高まるだろう。

 とは言っても回復をしてくれたことに変わりはないので、きちんとお礼は言うべきなのだが。

 

 

「ありがとうございます!」

『いえいえ。あ、そろそろ乗りを狙えるんじゃないですか?』

「そうですね。これまでにもちょこちょこ乗り攻撃は当ててますし」

 

 

 “生命の粉塵”を使ってもらったことにお礼を言った竜は、“KIRIKIRI”の言葉にベヒーモスの背中を見る。

 最後のエリアに来るまで乗りは1度もしておらず、最後のエリアであるここにはちょうど段差が存在している。

 ここで乗りダウンをすることができればかなりのダメージを稼げるであろうことは間違いなかった。

 そう考えた竜は、ベヒーモスから離れすぎないように距離に気をつけながら段差の近くへと移動を始めた。

 

 

「みゅみゅみゅ、みゅーみゅ!」

「わぁあ、わぁあ、わわわわぁ!」

 

 

 息の合った竜と“KIRIKIRI”の連携を見ながらみゅかりさんとあかり草は前足と葉の部分でパチパチと拍手をしながら興奮気味に声をあげる。

 みゅかりさんとあかり草の声に竜は少しだけ得意気になりつつ、油断をしてしまわないように気をつけながらベヒーモスの攻撃を避けつつ反撃していく。

 テレビ画面に集中していた竜は気づかない。

 言葉では楽しそうにしているみゅかりさんとあかり草が、まっすぐにジッと“KIRIKIRI”の操作しているキャラクターを見ていることに。

 なお、“KIRIKIRI”の操作している男性キャラクターは魔法少女のような格好をしているために少しだけ気持ちが悪そうにしていた。

 

 

「よっし、乗れた!」

『やりましたね!倒れる前でもダメージは稼げるので殴っちゃいますね!』

 

 

 ベヒーモスの背に乗れたことを確認し、竜は嬉しそうに声をあげる。

 竜の言葉とベヒーモスの背に乗っていることを確認した“KIRIKIRI”は素早くベヒーモスの足もとに移動し、ベヒーモスの足に大きく傷をつけた。

 足を傷つけられ、ベヒーモスは大きく鳴き声をあげる。

 傷をつけた“KIRIKIRI”の存在も気になるが、ベヒーモスが一番気になっているのは背に乗っている竜の存在。

 背に乗っている竜を落とそうとベヒーモスは大きく跳び跳ねたり、壁に向かって突撃したりと大きな衝撃を与えて竜を落とそうとする。

 しかし竜はベヒーモスの背中を跳んで移動してその衝撃をすべて避けていった。

 

 

「そろそろ、落ちろ!“破裏剣武(はりけんぶ)”!!」

 

 

 ベヒーモスが疲れて動きを止めた瞬間、竜はベヒーモスの首もとへと移動する。

 そして、体を大きく独楽(こま)のように回転させて何度も斬撃を叩き込んでいった。

 連続で叩き込まれる斬撃にベヒーモスは耐えられず、大きく鳴き声をあげてその体を地面に倒れさせた。

 

 

『ナイスです!一気に畳み掛けますよ!』

「オッケーです!」

 

 

 “KIRIKIRI”の言葉に竜は倒れるベヒーモスの体に巻き込まれないように飛び降りながら答える。

 そして地面に落ちるよりも先に倒れ込んだベヒーモスに向けてクラッチくローを伸ばした。

 伸びたクラッチくローはガッチリとベヒーモスに食い込むと、そのまま竜の体をベヒーモスの元へと引き寄せていった。

 

 

「“一双・燕返し”!」

『やりますね!こちらも、“旋風(せんぷう)滅双刃(めっそうじん)”!』

 

 

 地面に降りることなくベヒーモスの体にしがみついた竜の連続攻撃に“KIRIKIRI”は楽しそうにしながら張り合うようにベヒーモスに連続攻撃を叩き込んだ。

 まるで旋風のような連続攻撃にベヒーモスの体に無数の傷がつけられていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第116話




ようやくベヒーモス戦が終わります。
なんだかんだで長かったですね・・・・・・





 

 

 

 

 地に倒れてもがくベヒーモスに竜と“KIRIKIRI”は途切れることなく連続攻撃を叩き込んでいく。

 

 皮膚を削ぎ────

 

 肉を斬り────

 

 爪を砕く────

 

 2人の繰り出す攻撃にベヒーモスの体はどんどん傷つき、ボロボロになっていく。

 

 

「“削三連”!からの“破裏剣武”!そして“旋風滅双刃”!」

『傷つけナイスです!“旋風滅双刃”!』

 

 

 竜の攻撃でベヒーモスに傷がつき、そこからさらにダメージを与えられるようになれば、“KIRIKIRI”も合わさって同時にそこを攻撃する。

 2人の連続攻撃にベヒーモスも大きなダメージを受けているのか、一際大きな鳴き声をあげた。

 鳴き声をあげたベヒーモスは跳ねるように起き上がり、2人から大きく距離を取る。

 

 

「みゅみゅみゅ?」

「わぁわぁ?」

 

 

 ベヒーモスが距離を取ったことに不思議そうにみゅかりさんとあかり草は首をかしげる。

 といってもあかり草の場合は花の部分を傾けているのだが。

 

 不思議そうにしているみゅかりさんとあかり草に竜はなにも答えず、ベヒーモスの動きに集中していた。

 そして、ベヒーモスは岩石を降らせ始める。

 ベヒーモスの行動からなにが来るのかを理解した竜は素早く岩石の後ろに移動した。

 

 

「恐らくはこれで・・・・・・」

『終わり、ですね』

 

 

 

 

 

 

 ベヒーモスは咆哮する。

 自身を襲う得体の知れない感覚を振り払うように。

 

 ベヒーモスは強者だった。

 強者であった、はずだった。

 

 そのはずなのにたった2人のハンターを倒すことができず、すでに2発のエクリプスメテオを放ってしまっていた。

 そしていま、3発目のエクリプスメテオを放とうとしている。

 

 いままでにエクリプスメテオを耐えたものをベヒーモスは知らなかった。

 いままで自身の体をここまで傷つけた生き物をベヒーモスは知らなかった。

 いままで、このような得体の知れない感覚に陥ることはなかった。

 

 だが、それもこれで終わる。

 

 残された力を振り絞っての最後のエクリプスメテオ。

 これを放てばいくらハンターといえどただで済むことはないだろう。

 

 そして、エクリプスメテオが放たれ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ────直後に、自身の頭上から双剣の柄頭の部分を踏みながら双剣の切っ先を向けて落ちてくるハンターの姿がベヒーモスの最後に見たものになった。

 

 

 

 

 

 

「っし、ジャンプ成功!」

『やっぱりこれは決めておきたいですもんね』

 

 

 倒れ伏し、動かなくなったベヒーモスを背に竜と“KIRIKIRI”は勝利の余韻に浸る。

 マスターランクの武器と防具を装備しているということもあって極端に辛いということはなかったが、それでもなかなかに楽しむことができた。

 

 

「みゅーみゅ、みゅみゅみゅーい!」

「わぁわぁ、わわわぁわぁ!」

 

 

 竜と“KIRIKIRI”がベヒーモスを倒したことに、みゅかりさんとあかり草も興奮しながら声をあげている。

 興奮した様子のみゅかりさんとあかり草に、竜は笑いながらそれぞれを撫でた。

 

 

『それじゃあ次はどこに────』

『きりちゃ~ん?もうすぐお夕飯ですの。はやくピコピコをやめてこっちにいらっしゃ~い』

「・・・・・・今のは」

『タコ姉さま・・・・・・、すみません。夕飯のようなので私は今日は落ちますね』

「あ、はい。分かりました」

 

 

 “KIRIKIRI”の声に被せるように聞こえてきたどこか聞き覚えのある声に竜が首をかしげていると、“KIRIKIRI”は残念そうにため息を吐きながら手を振るアクションをした。

 というか正直に言って魔法少女のような格好の男女2人組のハンターに狩られたベヒーモスが不憫に思えて仕方がない。

 

 

『あ、そうだ。今日の狩りなんですけど、動画で使いたいので使っても大丈夫ですか?そちらの音声はキチンとカットしますので』

「動画にですか?まぁ、大丈夫ですよ」

 

 

 今日の狩りの様子を動画で使うということは“KIRIKIRI”の操作していた男性キャラクターの魔法少女コスを配信するということだろうか。

 一先ず竜は自身の声をカットしてくれるということなので許可を出した。

 

 

『ありがとうございます。それでは失礼しますね』

「お疲れさまです。また今度、時間が合えばー」

 

 

 そして、“KIRIKIRI”はゲームからログアウトする。

 “KIRIKIRI”がログアウトしたのを確認した竜もゲームを終了するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第117話


お気に入りが減るのは寂しいけど内容が合わなかったということで仕方がないですね・・・・・・

UAが25000を越えたのでアンケートです。

締め切りは28000までになっております。


 

 

 

 

 プレイステーション4の電源を落とした竜は頭の上に乗っているみゅかりさんを両手で掴み、あかり草にぶつかってしまわないように気をつけながら膝の上に移動させる。

 竜に掴まれたみゅかりさんはくすぐったそうに体を動かすが、竜にしっかりと掴まれているために竜の手から落ちることはなかった。

 

 

「みゅあ、みゅみゅう」

「というか以外とバランス感覚あるのな」

「わーあ、わぁわぁ!」

 

 

 モンハンをプレイしている間ずっと頭の上に落ちずにいたみゅかりさんのバランス感覚に竜は少しだけ驚きつつ、みゅかりさんをグシグシとやや強めに撫でる。

 モフモフなみゅかりさんの触り心地に竜は笑みを浮かべた。

 竜がみゅかりさんばかりを構っていることが不満なのか、あかり草は鳴き声をあげながら竜の腕に絡みついていく。

 あかり草が竜の腕に絡みついたことにみゅかりさんは驚き、思わずあかり草を凝視してしまった。

 

 

「そういや“KIRIKIRI”も夕飯みたいだし、俺も準備するかな・・・・・・」

「み゛ゅ゛っ?!」

「わ゛ぁ゛っ?!」

 

 

 “KIRIKIRI”がモンハンをやめた理由を思い出した竜は、みゅかりさんを膝の上からどかし、あかり草を踏まないように気をつけて立ち上がって戸棚をあさり始めた。

 戸棚をあさる竜の姿にみゅかりさんとあかり草は首をかしげていたが、竜が戸棚から取り出したものを確認すると驚いたように鳴き声をあげた。

 

 竜が戸棚から取り出したもの。

 それはお湯を注いで数分待つだけで完成する誰にでも作ることのできる即席携帯麺、カップラーメンだ。

 

 

「やっぱ、簡単なこれに限る・・・・・・って、うわ?!」

「みゅいっ!」

「わぁっ!」

 

 

 竜がカップラーメンの包装を破ろうとすると、紫色の影がカップラーメンを奪い取って竜の反対側に着地した。

 カップラーメンを奪い取った紫色の影、みゅかりさんはカップラーメンをチラリと見ると眉をしかめた。

 そんなみゅかりさんの横にあかり草も現れる。

 

 

「ちょ、それを返してくれよ」

「み゛ゅ゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛う゛っっ!!」

「わぁ!わぁわぁわぁ!」

 

 

 カップラーメンを返してもらおうと手を伸ばす竜にみゅかりさんはやや低めの鳴き声をあげて威嚇する。

 その隣であかり草も葉をパタパタと動かしながらなにかを訴えていた。

 聞きなれないみゅかりさんの威嚇する鳴き声に竜は驚き、思わず手を引っ込めてしまう。

 

 

「みゅっ!」

「わぁっ!」

 

 

 竜が手を引っ込めた瞬間、みゅかりさんはカップラーメンを開いている戸棚へと放り投げてしまった。

 放物線を描いたカップラーメンは正確に戸棚に飛び込み、戸棚の前に移動していたあかり草によって戸棚の扉が閉じられてしまう。

 みゅかりさんとあかり草のコンビネーションに竜はただ見ていることしかできなかった。

 

 

「ええと・・・・・・、カップラーメンは食うな、と?」

「みゅい!」

「わぁ!」

 

 

 それぞれの行動から言いたいことを推測して尋ねてみれば、肯定するように鳴き声をあげる。

 しかもキチンと頷くような仕草をしているので間違いだということはないだろう。

 

 

「つってもそうすると晩御飯がなぁ」

「みゅぅ・・・・・・。みゅい、みゅみゅみゅ」

「わぁ?わぁ・・・・・・、わぁ!」

 

 

 みゅかりさんたちの訴えでカップラーメンを食べることを諦めた竜は晩御飯をどうするか考え始める。

 考え始めた竜の姿を見てみゅかりさんは短く鳴き声をあげ、あかり草に向かってなにかを言った。

 みゅかりさんの言葉にあかり草は少しだけ考えるように花の部分を傾け、短く鳴き声をあげて床に潜っていく。

 そして、あかり草が床下に消えてから数分後、竜の家のインターホンが鳴った。

 

 

「うん?誰が来たんだ?」

 

 

 インターホンの音に気がついた竜は不思議に思いながら玄関に向かう。

 そんな竜の後ろをみゅかりさんはピョコピョコと跳び跳ねながら着いていった。

 

 

「先輩、来ちゃいました」

「あかり・・・・・・?」

 

 

 玄関を開けるとそこには食材の入った袋を持ったあかりの姿があった。

 あかりの姿に竜は不思議そうに首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第118話


UAが25000を越えていたのでアンケートを始めています。



 

 

 

 

 インターホンの音で誰かが来たのは分かっていたが、それがあかりだとは思っていなかった竜は不思議そうにあかりを見る。

 そんな竜の視線に食材の入った袋を持ったあかりはニコリと笑いかけると、玄関の中に入ってきた。

 

 

「えへへ、マキ先輩たちから話を聞いて、先輩がちゃんと晩御飯を食べていないんじゃないかなぁって思ったので来ちゃいました」

「みゅみゅみゅっみゅ、みゅみゅみゅ・・・・・・」

 

 

 食材の入った袋を見せながらあかりは言う。

 あかりの言葉にみゅかりさんは「なに言ってんだ、こいつ・・・・・・」といったニュアンスの鳴き声をあげた。

 

 

「食材・・・・・・、ってことは作りに来てくれたってことか?」

「はい!」

 

 

 あかりの見せた食材に竜はあかりの意図を確認する。

 竜の言葉にあかりは自信満々に頷いた。

 

 

「それは、助かるが・・・・・・良いのか?」

「良いんですよ~。私がやりたくて来たんですから!」

 

 

 確かに晩御飯を作ってもらえるなら助かるが、本当に良いのか。

 竜は悩みつつあかりに確認をする。

 というよりも、そもそもとして竜が料理を作ることをめんどくさがらずに作ればいいことなのだが。

 そんなんだから茜に甘やかされて晩御飯をご馳走になったり、マキにお昼のお弁当を作ってもらうことになったりするのだ。

 

 

「というか、あかりって料理できるのか?正直、シェフに作ってもらうだけで料理の経験はほとんど無いってイメージなんだが」

「みゅいみゅい」

 

 

 竜の言葉に同意するようにみゅかりさんも頷きながら鳴き声をあげる。

 まぁ、お金持ちの家の娘のイメージなんて基本的にはそんなものだろう。

 もしくは習い事が多くてピアノやらバイオリンやらを弾けたりしそうなイメージだろうか。

 どちらにしても料理ができそうなイメージはほとんどない。

 

 竜とみゅかりさんの様子にあかりは少しだけ頬を膨らませた。

 

 

「むぅ、そのイメージはちょっと心外ですね。私だって料理くらいしますよ?」

「そうなのか?」

「そうなんです。それじゃあ、晩御飯を作っちゃいますね」

 

 

 そう言ってあかりは食材の入った袋を持って台所に移動した。

 包丁やまな板、鍋やフライパンなどの置いてある場所を説明するために竜も台所に移動する。

 

 

「包丁とまな板はここ。鍋とかはここの戸棚に入ってるから。菜箸とかお玉とかはここの引き出しに入ってるから」

「了解です。それじゃあ先輩はそちらの部屋で待っててください」

「ああ、じゃあ頼んだよ」

 

 

 あかりに言われ、竜は台所からリビングに移動する。

 そこで竜はいつのまにかあかり草の姿がないことに気がついた。

 

 

「あれ?みゅかりさん、あかり草がどこに行ったか知ってるか?」

「みゅう?みゅ~、みゅあ~?」

 

 

 ピョコピョコと足元で跳び跳ねていたみゅかりさんをタイミングよくキャッチして竜は尋ねる。

 竜の言葉にみゅかりさんはとぼけるように鳴き声をあげて、竜の腕に前足を絡ませるのだった。

 

 

「分からない、って感じかな?まぁ、けっこう自由に出入りしてるし大丈夫、か?」

 

 

 みゅかりさんの様子に竜は少しだけ心配そうに部屋の中を見回しながら呟く。

 自由に家の中に入ってきたりしているあかり草のことだから大丈夫だろうとは思いつつも、いつの間にかいなくなっていたことを竜は少しだけ心配していた。

 

 

「みゅみゅみゅう。みゅーい」

 

 

 竜があかり草のことを考えていると察したのか、みゅかりさんは鳴き声をあげて竜の気を引く。

 腕に絡みついているみゅかりさんの鳴き声に竜は苦笑し、ワシャワシャとみゅかりさんの頭を撫でた。

 

 

「んー?どうしたんだよ?」

「ふみゅみゅみゅみぃー」

 

 

 竜に撫でられややメチャクチャな鳴き声になるも、みゅかりさんは嬉しそうに竜に撫でられるのを受け入れていた。

 そして、竜はあかりの作る料理ができるまでみゅかりさんを構い倒すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第119話

 

 

 

 

 あかりが料理を作り終えるのを待ちながら竜はみゅかりさんを構う。

 竜に撫でられ、みゅかりさんはくすぐったそうにしながらも嬉しそうに頬を弛めていた。

 

 

「ふみゅみゅみゅ、みゅみゅい!」

「おー、ここか。ここが良いんか」

 

 

 気持ち良さそうなみゅかりさんの鳴き声に、竜は鳴き声をあげた際に触れていた場所を重点的に撫でていく。

 重点的に同じ場所を撫でられたみゅかりさんはだらしなく口を開けてくったりと脱力し、竜の膝の上で完全に身を任せていた。

 

 

「んみゅっ・・・・・・、みみゅ・・・・・・、みゅあぅ・・・・・・」

「あらま、液体みたいになってら」

 

 

 竜の手が動くたびにビクビクとみゅかりさんは体を震わせる。

 普通の猫は脱力すれば液体のように体をグンニャリとさせるが、みゅかりさんも同じように脱力していることに竜は笑いながら呟いた。

 竜は笑いながらだらしなく開いているみゅかりさんの口の近くに指を近づける。

 

 

「んみゅ・・・・・・、はみゅっ!」

「うおっ」

 

 

 目の前で揺れる竜の指にみゅかりさんはピョコンと食らいつく。

 といっても歯をたてずに優しく咥え込むような感じだが。

 みゅかりさんにいきなり指を咥え込まれた竜は少しだけ驚きつつ、軽く指を引っ張った。

 

 

「みゅ・・・・・・、ちゅっ・・・・・・、ちゅっ・・・・・・」

「スゴい吸いつきだな・・・・・・」

 

 

 竜の指をそこそこに強い力でみゅかりさんは吸う。

 吸う力によってみゅかりさんの体が軽く浮いているといえばその強さが分かるだろうか。

 

 みゅかりさんの吸いつきに竜は苦笑しながら指を引っ張るのを止めた。

 竜が指を引っ張るのを止めたことによって、吸いついていたことによって軽く浮いていたみゅかりさんの体も戻り、ポフリと竜の膝の上に降りた。

 

 

「んみゅ、れりゅ・・・・・・、ちゅぱ・・・・・・・・・・・・み゛ゅ゛っ゛?!」

 

 

 竜が指を引っ張るのを止めたために吸いつく必要のなくなったみゅかりさんは口の中の竜の指に舌を這わせる。

 みゅかりさんの舌が指に触れ、竜の背筋にゾクゾクとした感覚が走った。

 ゾクゾクとした感覚に驚いて竜が指を曲げてしまうと、みゅかりさんの頬の内側にぶつかってしまい、ぽっこりとみゅかりさんの頬が膨らんでしまった。

 

 

「す、すまん!」

「みゅい!みゅみゅみゅう!」

 

 

 いきなり頬を内側から押されたことに驚いたのか、みゅかりさんは抗議するように竜の腹部をポフポフと前足で叩く。

 それでも竜の指を咥えたままなのだが。

 

 

「竜先輩、晩御飯ができまし・・・・・・。どうかしたんですか?」

「いやぁ、ちょっとみゅかりさんに怒られてて」

「みゅぷっ・・・・・・、みゅあー!」

 

 

 晩御飯を作り終えたらしいあかりがリビングに現れ、竜とみゅかりさんのやり取りを見て首をかしげる。

 みゅかりさんの口から指を引き抜きながら竜はあかりに答えた。

 口からいきなり指を引き抜かれたことが気にくわなかったのか、みゅかりさんは大きく跳び上がって竜の頭にしがみついた。

 

 

「あははは、とりあえず晩御飯は作り終わったので手を洗ってきてくださいね?」

「ん、分かったよ。みゅかりさんも手を洗おうな」

「みゅーい」

 

 

 竜の頭にしがみつくみゅかりさんの姿にあかりは笑いつつ、手を洗ってくるようにうながす。

 あかりの言葉に竜はみゅかりさんを頭にしがみつかせたまま洗面所に向かった。

 みゅかりさんは前足を使って食事をするわけではないのだから手を洗う必要はないのでは、と思うかもしれないが、その辺りは念のため程度なので気にしなくてもいいだろう。

 

 そして、竜とみゅかりさんはキチンと手を洗ってリビングに戻ってくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第120話

感想も待ってますので、気になることとかがあれば書いてくれると助かります。
また、普通に「面白い」などの感想も嬉しいので仕方ないなぁと思った方はお願いします。
といっても強要はしませんので。




 

 

 

 

 手を洗い終えた竜はみゅかりさんを頭に乗せたままリビングに戻ってきた。

 竜がリビングに戻ってくると、テーブルの上には料理が並べられており、美味しそうな香りが鼻をくすぐる。

 テーブルの上を見た竜は自分とみゅかりさんの分しか料理が置いてないことに気がつき、不思議そうにあかりを見る。

 

 

「あかり、自分の分はどうしたんだ?」

「えっと、私ってけっこう食べるじゃないですか?だから料理を作るとなると時間がかかり過ぎちゃいまして・・・・・・」

 

 

 竜の問いにあかりは恥ずかしそうに頬を掻きながら答える。

 どうやらあかりは自分の食べる量から竜の家で作るには時間がかかる、ということで自分の分の料理を作らなかったようだ。

 

 

「ですので、私は家に帰ってから食べるんで大丈夫ですよ。どうぞ食べてください!」

「それならありがたく食べるよ。あかりだって晩御飯を食べたいだろうに悪いな」

 

 

 食べることが好きなあかりがそう言ってくることに申し訳なさを感じながら竜は椅子に座る。

 みゅかりさんも竜の頭の上から飛び降りて料理の前へと移動した。

 

 あかりの作った料理、それは刻み玉ねぎの乗せられたビーフとチキンのステーキだった。

 さらに汁物として長ネギとジャガイモのお味噌汁が用意されている。

 竜はご飯の盛られた茶碗を片手に、ビーフステーキを一切れ箸で掴んだ。

 

 

「柔らかっ?!」

「みゅいっ?!」

 

 

 ビーフ、つまりは牛肉のステーキということで固めの歯応えをイメージしていた竜は予想に反して柔らかい歯応えに驚きの声をあげた。

 竜の隣で同じようにステーキを口に運んでいたみゅかりさんも同じように驚きの声をあげている。

 竜とみゅかりさんの驚く様子にあかりは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

 

「え、もしかして高い食材を使ってるとかじゃないよな?もしもそうなら申し訳なさ過ぎるんだが・・・・・・」

「みゅみゅみゅ・・・・・・」

 

 

 今までにも試しでステーキ肉を買って自分で焼いて食べたことはあったが、それでもこんなに柔らかく美味しいと思ったことはなかった。

 ということは、それだけ良い食材を使っているということではないのか?

 そう考えた竜とみゅかりさんは恐る恐るあかりを見た。

 

 竜とみゅかりさんの視線にあかりはイタズラが成功した子供のような表情になった。

 

 

「ふふふ、高い食材を使っても良かったんですけど、それだと先輩が気にしてしまうかと思ったので、普通にスーパーに売ってる食材しか使っていませんよ。まぁ、うちの人たちに買ってきてもらったんで細かい値段とかは分からないですけど」

「そ、そうなのか?それにしては俺が自分で買ったときと全然違うんだが・・・・・・」

 

 

 あかりの言葉に竜とみゅかりさんはマジマジとステーキを見る。

 確かにあかりの言うとおりステーキは普通の物のように見える、といっても竜もみゅかりさんもお高いステーキなんてものはテレビぐらいでしか見たことがないためにほとんど分からないのだが。

 

 

「えっとですね、ステーキ肉を焼く前に切れ込みをいれて刻み玉ねぎを刷り込んでおいたんです。玉ねぎの成分のお陰でステーキ肉が柔らかくなるんですよ。それと、刷り込んだ玉ねぎもそのまま塩ダレとソースにそれぞれ使ってますから無駄もないんです」

 

 

 あかりの言う玉ねぎをステーキ肉に刷り込む手法はシャリピアンステーキと呼ばれるステーキを作る際に使われるものだ。

 どうやらあかりはこの手法を自身の家のシェフから聞いていたようで、それを今回は使用したらしい。

 しかも刷り込んだ玉ねぎはちゃんとソースに使用するという無駄のなさ。

 お金持ちの娘というイメージとは違ってとても美味しい料理を作ったあかりに竜とみゅかりさんは驚きつつ、箸を進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第121話


ううん・・・・・・
上手く書けなかった気が・・・・・・


 

 

 

 

 あかりの作った晩御飯、シャリピアンステーキと長ネギとジャガイモのお味噌汁を食べ終えた竜とみゅかりさんは満足そうにお腹をさする。

 みゅかりさんにいたっては完全にひっくり返ってしまった状態でお腹をさすっているが、可愛いので問題はないだろう。

 

 

「いやぁ、文句のつけようもないほどに旨かったよ」

「みゅみゅみゅーみゅ」

 

 

 お腹をさすりながら竜は対面に座るあかりに料理を食べた感想を言う。

 竜の言葉に同意するようにみゅかりさんも鳴き声をあげた。

 そんな2人の言葉にあかりは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 

「美味しいお肉の焼き方とかはうちのシェフに聞いて知ってましたからね。満足そうでなによりです」

 

 

 どのようにして美味しいお肉の焼き方を学んだのか、その方法を言いながらあかりは竜とみゅかりさんの食べ終えた食器を回収していく。

 食器を集めていくあかりの姿に竜は自分で食器を洗おうとするが、それよりもはやくあかりが食器を洗い始めたためになにもできなくなってしまった。

 手持ち無沙汰になってしまった竜はテーブルの上でひっくり返って転がっているみゅかりさんのお腹を撫でる。

 

 

「みゅみゅみゅう・・・・・・」

「なんというか・・・・・・、至れり尽くせりで申し訳ないなぁ」

 

 

 あかりに晩御飯を作ってもらい、食器も洗ってもらう。

 いろいろとあかりにやってもらってしまっていることに竜は申し訳なさを感じつつ、呟いた。

 そして、竜はあかりが食器を洗い終えるまでみゅかりさんのお腹を優しく撫でるのだった。

 

 

「ふぅ、食器を洗い終わりましたよ」

「おお、晩御飯も作ってもらって本当にありがとうな」

 

 

 食器を洗い終わったあかりは濡れている手をハンカチで拭きながら竜の隣に座る。

 隣に座ったあかりに竜は改めてお礼を言った。

 

 

「いえいえ、私がやりたくてやったことですから」

「それでも助かったのは事実だからな。なにかしてほしいこととかあるか?可能な限りは叶えようと思うんだが」

 

 

 お礼を言う竜にあかりは微笑みながら答える。

 あかりの言葉に竜は晩御飯を作ってもらったお礼として、何でもとは言わないが可能なことを叶えようと尋ねる。

 竜の言葉にあかりは思わず動きを止め、考え込むように黙り込んでしまう。

 

 

「そうですね・・・・・・」

「あ、あまり無茶なことは言わんでくれると助かるかな」

 

 

 考え込んでしまったあかりに竜はなにを言われるのか不安になりながら、あかりのことだからそこまで無茶なことは言わないだろうとは考えていた。

 そして考え込んでいたあかりは口を開いた。

 

 

「えっと、でしたらこんどのお休みに一緒に遊園地に行きませんか?」

「遊園地にか?それは別に構わないけど」

「みゅっ?!」

 

 

 あかりが竜へと望むお願い。

 それはこんどの休みの日に一緒に遊園地に行くということ。

 簡単に言ってしまえばデートのお誘い。

 そんなあかりのお願いにみゅかりさんは驚きのあまり鳴き声をあげた。

 デートだということに気づくことのなかった竜は普通に頷き、あかりのお願いを了承する。

 

 

「それならどこの遊園地に行くのかとか色々と話し合わないとだな」

「そうですね」

 

 

 あくまでも友だちと遊園地に遊びに行くといった感覚の竜は決めなくてはいけないことを挙げていく。

 竜の言葉にあかりは頷き、スマホを操作してカレンダーを開いた。

 

 そして、2人の話し合いはしばらく続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第122話

 

 

 

 

 あかりに晩御飯を作ってもらった翌日、竜は学校の体育の授業を受けていた。

 お昼休みの昼食後の満腹感で眠くなる五時間目の授業ということもあって竜はどことなくぼんやりとしたまま校庭で立っていた。

 

 

「くぁ~・・・・・・、ねむ・・・・・・」

 

 

 あくびをこぼしながら竜はサボっているように見られないようにどうにか体を動かし始める。

 といっても他の元気なクラスメイトに比べると全然動いていないのだが。

 

 体育の授業は男女で分かれてやっており、ゆかり、茜、葵、マキの姿はここにはない。

 ちなみに、マキの姿がないことにクラスメイトの男子のほぼ全て・・・・・・というよりも全員が残念そうにしていたのは当然のことだった。

 男子がマキの姿がないことを残念に思っていた理由については、体育の授業でマキのマキマキが大きく動く様子が見れるから、とだけ言えば理解できるだろう。

 

 

「避けろぉっ、公住!」

「ふぁ?────ナッパぁっ?!」

 

 

 クラスメイトのヒデノリの声に竜はゆっくりと振り向く。

 直後、竜の顔面にサッカーボールが直撃した。

 どうでもいいことだが、竜が叫ぶべきだったのは避けた方の名前ではなく、それを指示した方の名前だったのではないだろうか。

 

 サッカーボールが直撃した竜は不意打ちだったこともあり、踏ん張ることができずに転んでしまう。

 転んでしまった竜の近くに頭を掻きながらクラスメイトが集まってきた。

 

 

「おーい、大丈夫かー?」

「ミツオくん、強く蹴りすぎじゃね?」

「いや、あれはヒデノリがはじいたボールだからヒデノリだろ?」

「ッつ~・・・・・・、いてぇ・・・・・・」

 

 

 どうやらミツオの蹴ったサッカーボールをキーパーをやっていたヒデノリがはじき、それがちょうど竜に直撃したようだ。

 サッカーボールがぶつかったところを押さえながら竜は立ち上がる。

 それと同時にタラリと水気のあるものが鼻から垂れるのを竜は感じ取った。

 

 

「ちょ、鼻血が出てんじゃねぇか。保健室行ってこい保健室」

「そうだな。ミツオくんには俺とヨシタケが制裁を加えておくから気にせず行ってこい」

「待て待て待て!」

「ん、まぁ、とりあえず頼んだわ」

 

 

 タダクニ、ヒデノリ、ヨシタケ、ミツオの言葉を深く考えずに竜は頷き、保健室へと向かう。

 ちなみに、この後ミツオはフリーキックをことごとく止められて、最終的にサッカーボールを抱えて泣きながらゴールに走り込むことになるのだが、些細なことだろう。

 

 

「すいません、イタコ先生いますか?」

「ちゅわ?どうしたんですの?あらあらまぁまぁ・・・・・・」

 

 

 保健室の扉を開け、中に入った。

 竜が保健室の中に入ると中にいた保険医の教師────東北イタコが不思議そうに竜を見る。

 しかし竜が鼻から血を出していることに気づくと口もとに手をあてて驚いた表情になる。

 

 

「鼻血が出てしまったんですのね。キレイにしちゃいましょう」

「お願いします」

 

 

 竜を椅子に座らせ、イタコ先生は鼻血の血をキレイに拭いていく。

 

 ちなみに、鼻血の対処として上を向く、首もとを軽く叩くなどの方法があるかもしれないが、これらは対処としては間違いである。

 正しい対処法は、やや下を向いて血が喉に行かないようにし、鼻の根本近くを5分~10分ほど圧迫することだ。

 このさいに冷やすことができればさらに効果的である。

 また、鼻にティッシュを詰めたりすることもあるかもしれないが、これも鼻の中を傷つけてしまうので、どうしても詰めるのならば柔らかい綿球にしておいた方がいい。

 

 向かい合うように座るイタコ先生の姿に竜は少しばかり恥ずかしくなってしまい、それによって鼻血の出る量が少しだけ多くなってしまう。

 まぁ、これに関しては美人でスタイルの良い女教師が目と鼻の先にまで近づいているために仕方のないことだろう。

 

 

「これで、よしですわ。あとは鼻血が治まるまで座って待っててくださいまし」

「はい、ありがとうございます」

 

 

 竜の鼻血をキレイに拭き、イタコ先生は氷のうを渡しながら竜に鼻血の対処法を教える。

 イタコ先生の教えてくれた鼻血の対処法をやりながら竜は鼻血が治まるのを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第123話

 

 

 

 

 なかなか鼻血の治まらない竜はキョロキョロと保健室の中を顔を下に向けないように気をつけながら見回す。

 

 体調の悪い生徒が横になるためのベッド。

 身長を計るための身長計。

 体重を計るための体重計。

 他にも見覚えのあるものから見覚えのないものまで、様々なものが保健室には置いてあった。

 

 保健室にはそこまで頻繁に来ることもない竜は、それだけで物珍しく感じてしまうのだ。

 

 

「どうかしましたの?」

「いえ、ちょっと保健室の中が珍しくて・・・・・・」

 

 

 竜がキョロキョロと保健室の中を見ていることに気がついたイタコ先生は不思議そうに竜に声をかける。

 イタコ先生に声をかけられ、竜は自分がそんなに保健室の中を見回していたのかと思い、少しだけ恥ずかしくなった。

 

 

「それにしても、公住くんが保健室に来るのは珍しいですわよね?」

「あー、まぁ、なるべく怪我はしたくないですからね」

 

 

 竜が保健室を利用した回数は今まででおおよそ2桁にもいかない程度。

 それほどまでに利用回数が少ないために、イタコ先生は逆に竜のことを記憶していた。

 

 

「ほぼ毎日のように保健室に来る子もいますのに。偉いですわ」

「それ、先生のことを目的として通ってる生徒ですよね?」

 

 

 大したことのない怪我で保健室に来る正直に言って迷惑な生徒たちのことを思い出しながらイタコ先生は竜の頭を撫でる。

 年上の美人な保険医の先生であるイタコ先生に頭を撫でられ、竜はさらに恥ずかしそうに顔を赤く染めた。

 

 

「私を目的として、ですの?」

「そこで首をかしげますか・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にイタコ先生は不思議そうに首をかしげる。

 

 事実として、イタコ先生に治療してもらうことを目的とした生徒がほぼ毎日のように保健室に来ることがあり、ときには教師ですら保健室に来ることもあるのだ。

 これだけでイタコ先生を目的として保健室に通っている生徒がいると理解できるだろう。

 しかし、どうやらイタコ先生からしてみれば怪我をすることの多い生徒としてしか認識していなかったようだ。

 

 

「そういえば、前から気になってたんですけど・・・・・・」

「なんですの?」

 

 

 ほぼ毎日通っているのに理由を理解されていなかった生徒のことを記憶から消し去り、竜はイタコ先生を、正確にはイタコ先生の頭を見る。

 

 

「えっと、なんで頭にキツネの耳(●●●●●)を着けてるんですか?」

「へ・・・・・・?ちゅわぁっ?!?!」

 

 

 竜の質問の内容が意外だったのか、イタコ先生は驚いて飛び上がり、慌てて近くのベッドに敷いてあった掛け布団を頭にかぶった。

 イタコ先生の反応に竜は驚き、聞いてはいけなかったのかと考える。

 

 

「き、公住くん?本当にこれが見えていますの?」

「え?ええ、まぁ、先生の髪の色と同じキレイなキツネの耳ですよね」

 

 

 掛け布団のすき間から、イタコ先生は恐る恐るといった声色で竜に尋ねる。

 イタコ先生の言葉に竜は不思議に思いながら答えた。

 竜の言葉にイタコ先生はブツブツと掛け布団の中でなにかを呟いている。

 

 

「髪も・・・・・・いえ、まだ・・・・・・でも・・・・・・」

「イタコ先生?」

 

 

 掛け布団の中でブツブツとなにかを呟いているイタコ先生に竜は首をかしげる。

 どうやら竜の聞いたキツネの耳はイタコ先生にとって重要な事柄だったらしい。

 

 と、ここで竜は自分の鼻から血が垂れなくなっていることに気がついた。

 

 

「ん、止まったか。授業に戻って・・・・・・良さそうかな?」

 

 

 掛け布団を頭からかぶってしまっているイタコ先生をちらりと見、竜は小さく呟く。

 一先ず鼻血も止まっており、授業も終わっていないため、竜は保健室を後にした。

 

 

「コホン・・・・・・。公住くん、ちょっとお話が・・・・・・って誰もいないですわ?!」

 

 

 竜が授業に戻ってからしばらくした後、保健室にイタコ先生の驚く声が響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第124話



もうそろそろでアンケートは締め切ります。

投票がまだの方は早めに投票してください。




 

 

 

 

 授業がすべて終わり、竜たちはいつものように帰路についていた。

 1つだけいつもと違う点があるとすれば、その中に弦巻マキの姿があることだろう。

 

 

「やっぱりみんなと歩くのはそれだけで楽しいよねぇ~」

「マキマキの家は反対方向やもんな」

「今日はマキさんが定期的にしているゆかりさんの部屋のそ────」

「わー!わ、私の部屋でマキさんと遊ぶんですよ!」

 

 

 マキを含めた6人で歩いていると、マキは嬉しそうに言う。

 普段が1人で家に帰っているか、ゆかりと一緒に帰っているかなので、新鮮で嬉しいのだろう。

 なぜマキが一緒に歩いているのかを葵が言おうとしたが途中でゆかりに遮られてしまい、最後まで言うことができなかった。

 

 

「あ、せや。聞きたかったんやけど。体育の授業が終わってからミツオくんに元気がなかったやん?なんかあったんか?」

「あー、俺も途中で保健室に行ってたから詳しくは知らないんだが。なんでもヒデノリがヨシタケと一緒になんかやったっぽい」

「え、竜くん。保健室に行ったの?」

「先輩、どこか怪我をしたんですか?」

 

 

 ふと茜が思い出したのは教室で真っ白に燃え尽きて椅子に座っていたミツオくんの姿。

 体育の授業が男女別なので竜ならば理由を知っているのではないかと茜は考えたのだ。

 茜の質問に竜は答えようとするが、授業の途中で保健室に行っていたために詳しくは説明できなかった。

 竜が保健室に行ったということに5人は驚いた表情になって竜を見る。

 

 

「お昼を食べた後だったから眠くてサッカーボールを避けられなくてな。鼻血が出た程度だし、もう治まったから」

「それなら良いんですけど・・・・・・」

「っていうか、お姉ちゃんも眠そうにしてたよね」

「いやぁ、5時間目の体育はしゃあないと思うんよ」

「保健室ですか。クラスの男子が保険医の先生のことを話してましたけど・・・・・・」

「イタコ先生は人気があるもんね」

 

 

 5時間目というお昼ご飯を食べ終えてお腹も膨れた時間帯。

 満腹感によって眠くなり始め、教師の言葉が睡眠呪文となるのは学生たちの共通認識だろう。

 

 竜が保健室に行ったということを聞いてあかりはクラスの男子たちが話していたことを思い出した。

 

 

「イタコ先生はスタイルも良いもんね」

「うちらも大人になったらあんなスタイルになりたいもんやな」

「・・・・・・少なくともマキさんはなりそうですよね」

「ええ~?そうかにゃあ~?」

「毎日通うって息巻いている人もいましたね」

 

 

 茜と葵は自分たちも大人になったらイタコ先生のようにスタイル抜群になりたいと願い。

 ゆかりは少しばかりマキの体を悔しそうに睨みながら言う。

 ゆかりの言葉にマキは照れながらも嬉しそうに答えた。

 

 また、女子のスタイルの話と言うことで竜は会話に混ざることができずにいた。

 

 

「あ、あとやっぱりイタコ先生といったらやっぱりあのキレイな髪の毛だよね」

「確かに、あんなに艶のある髪の毛はそうそうないですよね」

「いったいどんなお手入れをしてるんだろうね?」

「せやね。うちもあんなにキレイな“黒髪”は見たことないで」

「そうなんですか?まだ保健室に行ったことがないので先輩たちがそれほどまでに言うのは気になりますね」

 

 

 話の内容がスタイルから髪の毛の話に変わり、茜たちは自身の髪の毛を触りながら言う。

 茜の言った『キレイな“黒髪”』という言葉に竜は首をかしげそうになったがどうにか堪える。

 

 竜の目にはイタコ先生の髪の毛はキレイな“白銀色”に見えているのだが、なぜか他の人たちには“黒髪”に見えているのだ。

 最初の頃は認識の齟齬に引っ掛かりを感じていたのだが、今ではどうにかリアクションを抑えられるほどにまでなっていた。

 どうして竜の目にだけイタコ先生の髪の毛の色が違って見えるのか。

 その理由が明らかになるのはまだ先のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第125話




UAが28000を越えましたのでアンケートを締め切ります。

KIRIKIRIが2番目に食い込むとは・・・・・・

ちなみに、イタコさんはヒロインに入れた方が良いんですかね?

一応、次のアンケートからは追加する予定です。




 

 

 

 

 学校からの帰り道。

 ふと、葵は道に落ちている棒に気がついた。

 そこそこに長さがあり、太さも片手で握れるほど。

 杖と言われても違和感のない棒が道の真ん中に落ちていた。

 

 

「なんでこんなところに棒が・・・・・・ッ!!」

 

 

 葵は道の真ん中に落ちていた棒を拾い、不思議そうに棒を眺める。

 直後、背後から感じた気配に咄嗟に棒を構え、横薙ぎに棒を振り抜いた。

 

 

「バカな・・・・・・。完全に不意を着いたはずやのに・・・・・・」

「こうして、勇者アオイの冒険が始まるのだった・・・・・・」

「お姉ちゃん。毎回毎回、いきなり襲いかかってこないでよ・・・・・・。それと、竜くん。そんな冒険は始まらないからね」

 

 

 葵の横薙ぎに振り抜いた棒の一撃を受けた茜は膝をつき、驚いた表情を浮かべた。

 驚いた表情の茜の近くに竜は移動し、壮大な冒険の始まりそうなモノローグを入れる。

 茜に襲いかかられた葵は、呆れた表情で茜を見つつ、きっちりと竜に釘を刺した。

 茜の突然の凶行にゆかり、マキ、あかりの3人は驚いた表情になって固まってしまう。

 

 

「ちょ、茜ちゃん?!」

「いきなりなにをしているんですか?!」

「あー、気にしないで大丈夫ですよ。今回はお姉ちゃんでしたけど、お姉ちゃんと竜くんってたまにいきなりこうやって襲いかかってくるんで。まぁ、本当に攻撃はしてこないんで安全ですけど」

 

 

 驚きから復活したマキとゆかりは慌てて茜に詰め寄る。

 そんな2人の様子に葵はやや疲れたような表情になりながら説明をした。

 

 

「武器はちゃんと装備せんと意味はないで?」

「冒険なんてやらないって言ってるでしょ」

「 アオイ は 5 の ダメージ を 受けた 」

 

 

 膝をついている茜の横を葵が通り過ぎると、茜が葵の服を掴みながらRPGのようなセリフを言った。

 そんな茜に葵はめんどくさそうにしながら適当にあしらう。

 

 

「それにしても、なんであんなところにこんな棒が落ちてたのかな?」

「 アオイ は 5 の ダメージ を 受けた 」

 

 

 どこか適当なところで棒を捨てるために手に持ったままの棒を眺めながら葵は不思議そうに呟く。

 そもそもとして道の真ん中にこんな棒が落ちていることが不自然なため、誰かがここまで持ってきたと考えた方が自然だろう。

 そんな葵、茜、竜の3人のことをゆかりたちは困惑した表情で見つめながらついていく。

 

 

「 アオイ は 5 の ダメージ を 受けた 」

「・・・・・・なんでさっきからダメージを受けてるの。ボクは?!」

 

 

 いい加減に無視をし続けるのが限界になったのか、葵は竜に向かって声をあげた。

 先ほどからずっと葵にダメージが入っていることを言い続けていた竜は不思議そうに葵を見る。

 

 

「なにを言うとるんや。武器はちゃんと装備せんと意味はないって言うたやん」

「え?!そしたらボク、ずっと刃の方を持ってたの?!設定が細かいよ?!」

 

 

 葵の言葉に茜はなぜダメージが入っていたのかを説明した。

 茜の説明に葵は珍しく大きな声でツッコミをいれる。

 といっても、珍しいというのは他の人たちがいるところでこのようにツッコミをいれることに対してなのだが。

 もともと、竜と茜がボケ倒しているときは葵がツッコミをいれることが多かったので、大きな声でツッコミをいれること自体はそこまで珍しくもないのだ。

 

 葵が大きな声でツッコミをいれる姿にゆかりたちは意外そうに葵を見た。

 

 

「葵さんってあんなツッコミもするんですね?」

「大人しい印象しかなかったからちょっと意外だったね」

「でも、それだけ仲良くなれたってことなんじゃないですか?」

 

 

 竜たち3人の掛け合いを見ながらゆかりたちも話をする。

 見たことのない姿を見せてくれた葵。

 それはそれだけ仲良くなれているということの証拠。

 その事実にゆかりたちは嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第126話

 

 

 

 

 しばらく竜と茜に対して大きな声でツッコミをいれていた葵は、小さくため息を吐いて肩を落とした。

 同じようなことは過去にも何回かあり、そのたびに葵がツッコミをいれているのだが、竜と茜がやめる気配はまったくと言って良いほどに感じられなかった。

 まぁ、そもそもとして自覚のあるなしは不明だが、葵自身もツッコミをいれながらも楽しんでいる節があるので、問題はなさそうだが。

 ため息を吐いた葵が諦めて歩き出そうとすると、茜が目の前に移動して腕組みをしながら電信柱に寄りかかっていた。

 

 

「おおっと待つんや。京の町に行くんやろ?だったらうちを連れていくんや」

「それはいったいなんの物真似なの・・・・・・」

 

 

 どことなく強者感を出そうとして失敗した茜の言葉に葵は呆れながら尋ねる。

 

 

「うちの名はアカネ。魔王が狙っているという3人の姫を守るべく、最強の肉か・・・・・・げふんげふん、盾となれる素質をもった人間を探している」

「無駄に話のスケールを広げようとしないで?!というか今、肉壁って言おうとしたよね?!そんなんで帰るまでに本当に終わるの?!」

 

 

 今、竜たちがいるところは学校と竜の家とのちょうど中間辺り、普通に歩いていれば10分かそこらで竜の家に着いてしまうだろう。

 なぜここで竜の家なのかが気になるかもしれないが、この遊びは竜、茜、葵の3人が揃って始められる遊びであり、3人でなくなった時点で終了になるのだ。

 そのため、竜の家に着くまでがタイムリミットとなっている。

 

 

「えっと、BGMはっと・・・・・・」

 

 

 茜はそう言いながらスマホを操作して音楽を流す。

 どことなくレトロなファミコンの音楽が流れ、少ししてから音楽が終わった。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 アカネ が 仲間 に 加わった ! 」

「長くないですか?」

「今の音楽ってあれかな?ほら、ゲームで仲間が増えたときに鳴る曲」

「あー、たしかにそれっぽいですね」

 

 

 曲を止めてから少し無言の時間が経過し、茜はゲームで表示されていそうなことを言った。

 茜の溜めにあかりは思わず首をかしげ、マキとゆかりは一連の流れがゲームでいうなにを表しているのかを当てていた。

 

 

「では、行くで!肉か・・・・・・勇者よ!」

「 アカネ は 5 の ダメージ を 受けた 」

「ちゃんと装備して、装備」

 

 

 意気揚々と歩き始めようとした茜に、竜はダメージが入ったことを告げる。

 再び肉壁と言いそうになっている茜に対してのツッコミを放棄した葵は呆れながら2人に付き合って茜に装備を促した。

 

 

「それで?次はどうするの?」

「決まってるやろ。お城に行って姫に会いに行くんや」

 

 

 疲れた表情で葵は茜に尋ねる。

 葵の言葉に茜は自信満々に答えた。

 そんな2人の前に、今度は竜が移動してきた。

 

 

「 モンスター が 現れた 」

「あ、今度は竜先輩がやるんですね」

「まぁ、茜ちゃんが仲間になってるならそうなるよね」

「とりあえず茜さんはどう対処するんですかね?」

 

 

 竜がモンスターのような構えをとったことに、3人の掛け合いを見るのが楽しくなってきたゆかりたちは茜の行動を見守る。

 

 

「モンスターが出たわけだけど、どうするの?」

「無視する」

「無視ぃ?!」

 

 

 モンスターの対処をどうするのか聞かれた茜はあっさりと言いのけてモンスター役をやっている竜の隣を通り抜けた。

 普通に戦うものとばかり思っていた葵は茜の行動に驚きつつ、その後を追っていく。

 

 

「着いたで、ここが城や」

「 よくぞ 来たな 勇者 よ 」

「なんで王様もモンスターと同じポーズをとってるの?!」

 

 

 少し歩いて茜は立ち止まって言った。

 先ほどのモンスターとまったく同じポーズをとった竜が目の前で王様のような言葉で出迎える。

 その近くにはゆかりたちも並んでおり、どうやら3人の姫として参加させられたようだ。

 

 

「あんたが中ボスやな!」

「いや、中ボスじゃなくて王様でしょ?!」

「よくぞ見破ったな。俺が中ボスだ」

「中ボスだった?!」

 

 

 王様だと言っていたはずなのに茜は普通に構えて戦闘に入ろうとする。

 いきなりのことに葵がツッコミをいれるが、あっさりと竜は自身が中ボスだと認めた。

 急すぎる展開に葵だけでなくゆかりたちも同じように驚いてしまっていた。

 

 

「ふん!」

「やられた~」

「いや、展開早くない?!竜くんの家が近いからって展開早すぎるでしょ!」

 

 

 茜の手刀一発でドサリと竜は倒れ込む。

 中ボスだのと言っていたのはなんだったのかと言いたくなるほどの急展開だ。

 倒れた竜はふとあることに気がつき、ガバリと起き上がる。

 

 

「ヤバい!さっきのところにスクールバッグ忘れた!」

「うちもや!」

「そういえばさっきから2人とも手ぶらだったね・・・・・・」

「大丈夫ですよ。お2人のバッグでしたらちゃんと持ってきてますから」

 

 

 スクールバッグを道に置いてきてしまったと考えた竜と茜は慌てて道を戻ろうとする。

 そんな2人の様子に苦笑しながらゆかりとマキは回収しておいた2人のスクールバッグを渡すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第127話

 

 

 

 

 月明かりの射し込む部屋。

 明かりはついておらず、光源となるものは月明かり以外にはない。

 射し込む月明かりに照らされる畳や(ふすま)によって、この部屋が和室であることと、2人の人影があることが確認できた。

 

 

「霊術で隠蔽してあるはずのイタコ姉さまの髪の色とその耳を見ることができた・・・・・・。それはつまり・・・・・・」

「ええ、恐らく間違いないはずですわ」

 

 

 人影の1人が驚いたように口もとに手を当てながら言う。

 その言葉にもう1人の人影────イタコも頷いた。

 

 

「ですので、明日の放課後に家に来てもらいましょう。知らないままですと本人も危ないですし、周りにも被害が出てしまうかもしれませんわ」

「わかりました。明日、私が教室に行って家に来てもらいますね」

 

 

 どうやらイタコたちは誰かを家に呼ぼうとしているらしい。

 それがどういった意図によるものなのかは不明だが、話の内容的に悪いことではなさそうだが。

 

 不意に、襖が開き小さな人影が現れる。

 そして近くにあった電気のスイッチを入れた。

 

 

「姉さまたち、わざわざ暗い部屋でなにをしているんですか?」

「ああん?!きりちゃん、今、けっこう良い雰囲気でしたのよ?!」

「イタコ姉さま。私もちょっと目に悪いかなぁーって、思ったんですよ・・・・・・」

「ずんちゃんまで?!」

 

 

 暗い部屋から一気に明るくなったことによって目が眩んでしまったイタコは思わず目をつむりながら悲鳴のような声をあげた。

 そんなイタコの姿に電気をつけた小さな少女────東北きりたんは小さくため息を吐く。

 普段は頼りになるし、美人で誇らしい姉なのだが、こういった時々する雰囲気に凝った遊びに関してだけは呆れてしまうものがあった。

 きりたんの言葉に同意するように最初から部屋にいたもう1人の人影────東北ずん子もきりたんの言葉に同意するように苦笑しながら言った。

 部屋の中で一緒に話をしていたことから味方だと思っていたずん子の言葉にイタコはショックを受けた表情になる。

 

 

「もう、晩ご飯を食べたと思ったらいきなりこっちの部屋に来るんですから。なにを話していたんですか?」

「やっぱり雰囲気は必要だと思うんですのよ?えっと、学校で私の髪の色とこの耳を見ることのできた生徒がいましたの。ですので、明日ずんちゃんにその生徒を家に呼んでもらおうと思いましたの」

 

 

 暗い部屋でどんな話をしていたのかが気になったきりたんはイタコに尋ねる。

 きりたんの言葉にイタコはずん子にした説明と同じ内容を話した。

 イタコの説明にきりたんは少しだけ興味深そうに眉を動かした。

 

 

「タコ姉さまの髪の色とかが見えるって・・・・・・。一般人なんですよね?だとしたらスゴいですね」

「そう思うわよね。私もイタコ姉さまから聞いて驚いたもの。それに同じ学校の生徒っていうのも驚きだったわ」

 

 

 どうやらイタコの髪の色とキツネの耳を見ることができるのは本当にすごいことのようで、きりたんはイタコの髪を見ながら呟いた。

 きりたんの言葉にずん子も頷きながら言う。

 

 

「まぁ、私にはあまり関係のないことみたいですね。では、私はフレンドさんとDBDをやる予定がありますので」

「お待ちなさい。きりちゃん?ちゃんと宿題は終わらせていますの?」

「そういえば私が帰ってきたときからゲームをやっていたような・・・・・・」

 

 

 部屋から出てDBDをやろうとするきりたんを引き留め、イタコは尋ねる。

 きりたんは小学生であり、宿題の出ていない日は基本的にはない。

 そして、イタコは家に帰ってきてからきりたんが宿題をやっている姿を見ていなかった。

 イタコの言葉にずん子もきりたんが宿題をやっている姿を見ていないことを思い出す。

 2人の言葉にきりたんは曖昧な表情を浮かべながら部屋から逃げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第128話

 

 

 

 

 お昼休み。

 それは学生にとっての至福の時間。

 例えるのならば本当に天使と言ったところだろうか。

 

 仲の良い友人たちとお昼を囲み、何てことのない話から授業での気になった点などを自由に話しながら食事を楽しむ時間。

 マキからお弁当を受け取った竜もいつものメンバーでお昼ご飯を食べようとしていた。

 

 

「なぁ、やっぱり材料費ぐらいは出したいんだが・・・・・・」

「んー、でもおかずに使った材料は私が自分で買ってきたやつだし、気にしなくても良いんだよ?」

 

 

 お弁当箱を開ければ中に入っているのはバランスを考えて作られたであろうおかずたちの姿が目に入ってくる。

 正直なところ、ここまでのクオリティのお弁当をただ貰うだけというのを竜は申し訳なく思っていた。

 竜の言葉にマキはお弁当の材料は自分が買ってきたものだから気にしなくて良いと言う。

 マキは気にしなくても良いと言うが、誰が買ってきたものにしても材料費や調理をする過程で電気代などがかかってしまっているので、その時点で竜が申し訳なく思ってしまうことに変わりはないのだ。

 

 

「なぁ、マキマキ。竜が気兼ねなくお弁当を食べるためにも少しでもお金を貰っときぃ」

「そうですね。多少なりともお金を払えれば竜くんも気分は楽になるでしょうし」

「ううん、そうなのかなぁ?」

 

 

 茜とゆかりの言葉にマキは納得がいかなそうに首をかしげる。

 マキからすれば自分が勝手に作っているという認識なために対価を貰うという考えがないのだろう。

 それでも竜が気兼ねなく食べるためという言葉に仕方ないといった様子で竜から少しだけお金を受け取った。

 

 

「別に良いのに・・・・・・。それじゃあ、食べよっか」

 

 

 受け取ったお金を財布にしまいながらマキは小さく呟く。

 そして、竜たちはお昼ご飯を食べ始めた。

 

 

「んむ・・・・・・。やっぱ旨いな」

「えへへ~、そうでしょ~」

「むぅ・・・・・・」

「むむむ・・・・・・」

 

 

 お弁当のおかずを口に運び、竜はしみじみと呟く。

 当然のことだがマキの料理の腕は竜よりも上であり、竜が自分で作る料理よりも数段は上の旨さを持っている。

 竜に誉められ、マキは嬉しそうにはにかむ。

 マキの嬉しいという感情に連動しているのか、マキの頭の頂点から生えているアホ毛がピョコピョコと揺れていた。

 

 竜がマキの料理を誉めたことに、茜とあかりは少しだけ頬を膨らませた。

 

 

「うう・・・・・・、ボクもお菓子さえ作っていれば・・・・・・」

「葵さんは私よりマシですよ・・・・・・。私なんてなにも・・・・・・」

 

 

 料理ができる組の様子にお菓子作りの方が得意な葵は披露するタイミングがなかったことを悔やんでいた。

 といっても葵は披露するものがあるだけまだマシなのではないだろうか。

 このメンバーの中でもっとも料理のできない人物、ゆかりは暗い影を背負いながらもそもそとお昼ご飯を食べるのだった。

 

 

「なぁ竜、うちのこれも食べてみぃ」

「うん?・・・・・・うん。茜の料理も旨いな」

 

 

 そう言って茜は自分のお弁当に入っているおかずを竜の持っているお弁当に入れた。

 茜の行動に首をかしげつつ、竜はもらったおかずを口に運ぶ。

 食べなれた美味しい茜の料理に竜はうなずきながら言った。

 

 

「・・・・・・なぁ、マキマキとうち、どっちが旨かったんや?」

「え゛・・・・・・」

 

 

 竜が茜の作った料理を食べ終えると、茜はどっちの料理が美味しかったのかを聞いた。

 茜の言葉にマキだけでなくゆかりたちも竜の顔をジッと見る。

 全員に見られ、竜は思わず表情が強張ってしまう。

 茜やマキからすれば自分の方が美味しかったと言われたいのかもしれないが、それを聞かれた竜からすれば答えにくいことこの上なかった。

 茜とマキ。

 どちらも料理が得意で、竜からすればどちらも美味しいと答えられるほどの腕を持っている。

 そのため、仮に同じ料理を作って食べ比べたとしてもどちらが美味しいかの答えを出すことはできないのだ。

 もしも出すことができる答えがあるとすれば、それはどちらの味つけなどが好みかぐらいだろう。

 

 

「・・・・・・どっちも美味しくて優劣をつけらんないわ」

「むぅ・・・・・・。まぁ、竜ならそう答えるかぁ・・・・・・」

 

 

 竜の答えに茜とマキはは小さくため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第129話

 

 

 

 

 茜の言葉で少しだけピリッとした空気になったものの、しばらくすればそんな空気も霧散していつものお昼ご飯となっていた。

 話題に上がるのは最近やっているゲームや気になっている漫画や小説などの様々なもの。

 

 

「そろそろ久しぶりに地球でも防衛しようかなぁ」

「お、ええやん。最近はモンハンやら“DEAD BY DAYLIGHT”やらばっかやったし」

「ボクとしてもそっちの方が気が楽かなぁ」

 

 

 竜の呟きに茜がまず反応し、それに続いて葵も反応した。

 最近は基本的にマキのクエストの手伝いや、“DEAD BY DAYLIGHT”で殺人気から逃げ回ることばかりが多かったので、気分転換をしようと考えたのだ。

 葵からしてみればモンハンは問題ないにしてもホラーゲームである“DEAD BY DAYLIGHT”をプレイされるのは怖くてしかたがないので、それだったらまだ虫が気持ち悪いだけのゲームの方が精神的にまだマシなのだ。

 

 

「“地球防衛軍”ですか。これは私の神エイムを見せるときですね?」

「え、でもゆかりん。この前モンハンでライトボウガンを使って1発もモンスターに当てられなかったよね?」

「それで途中で武器を持ち換えてモンスターに突っ込んでいったんだよな」

「むしろ、ゆかり先輩の撃った弾がほとんど私に当たっていたんですけど・・・・・・」

 

 

 ニヤリと不適な笑みを浮かべながらゆかりは自信満々に言う。

 そんなゆかりの言葉にマキは、少し前のモンハンでのゆかりのプレイを思い出して首をかしげる。

 使い慣れていない武器だということを加味したとしても1発も当てられないという酷さ。

 しかも撃った弾があかりの操作しているハンターに当たってしまっている。

 正直、これらのことからゆかりが神エイムだとは誰も信じていなかった。

 

 不意に教室の扉が開き、1人の女子生徒が現れた。

 

 

「こんにちわ、公住 竜くんに用があって来たんですけど・・・・・・」

「ずん・・・・・・、やのうて生徒会長やん。竜、なんかやったんか?」

「いや、とくに覚えはないけど・・・・・・」

 

 

 女子生徒────東北ずん子の胸元に揺れるリボンの色は(ずんだ)色。

 その事からずん子が上の学年、つまりは先輩だということが分かる。

 ずん子の姿に茜は思わず違うことを口走りそうになったが、慌てて言い直して竜に尋ねた。

 竜からしてみれば生徒会長に呼ばれるようなことをした覚えはないので、首をかしげながらずん子のもとに向かう。

 

 

「ええと、自分になにか用ですか?」

「あなたが・・・・・・、ふむ・・・・・・」

「あの・・・・・・?」

 

 

 竜が声をかけると、ずん子はしげしげと興味深そうに竜を見る。

 ずん子に見つめられ、竜はどうしたら良いのかわからずに困惑した声をあげた。

 

 

「ああ、ごめんなさい。じつはイタコ姉さまが公住くんに用があるので、放課後に家に来てもらえないかと思って来たの」

「イタコ先生が、ですか?学校じゃダメなんですか?」

「イタコ姉さまの用事は学校よりも家の方が都合が良いのよ。だから手間をかけて申し訳ないけど家に来てほしいの」

 

 

 ずん子の言葉に竜は首をかしげる。

 軽く思い返してみても、やはりイタコ先生に呼ばれる心当たりが思い浮かばなかった。

 

 イタコ先生の用が学校で終わらせることができないかを竜は聞いてみたが、その答えは否。

 家の方が都合が良い用事とはいったいどんな用事なのだろうか。

 ずん子の言葉に竜はもう一度首をかしげた。

 

 

「それじゃあ、私は自分の教室に戻るわね。放課後に迎えに行くから待っていてね?」

「あ、はい。分かりました」

 

 

 そう言ってずん子はヒラヒラと手を振って教室から出ていった。

 イタコ先生の用事がどんなものかは分からないが、家に呼ぶということはそれくらいには重要な用事なのだろう。

 とりあえずはそう納得して竜は椅子に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第130話



もうすぐUA30000にいきそうでヤンデレマキエンドを慌てて書いています。
正直、ここまで早く20000から30000にいくとは思ってなかったです。
読んでいただき、本当にありがとうございます。





 

 

 

 

 ずん子との会話が終わった竜が椅子に座ると興味津々といった様子でゆかりたちの視線が竜に集まった。

 しかもそれに加えて教室にいるクラスメイトたちの視線も竜は感じ取れた。

 

 

「んで?ずんだ会長はなんの用で来たんや?」

「もう、お姉ちゃん・・・・・・」

 

 

 ずん子がいなくなった瞬間に生徒会長と言い直すのをやめた茜に葵は思わず呆れたような声をあげた。

 茜の言うずんだ会長というのは、すでに分かっているだろうがずん子のことを指している。

 なぜずん子がそんなあだ名で呼ばれているのか。

 それは山よりも深く、海よりも高い理由があった。

 

 ずん子がずんだ会長というあだ名で呼ばれている理由。

 それはずん子本人が、ずんだ餅が好きだと生徒会立候補の際に公言したからだった。

 

 

「なんでもイタコ先生が個人的に用があるらしくて、家に来てほしいんだと」

「家に、ですか?学校ではダメなのでしょうか?」

「わざわざ竜先輩を家に呼ぶっていうのは不思議ですよね」

 

 

 茜の言ったずんだ会長という言葉に竜は苦笑しながらずん子に言われた話の内容を簡単に説明した。

 竜の話した説明にゆかりたちは不思議そうに顔を見合わせる。

 

 普通に放課後に保健室の呼ぶのではダメなのか。

 イタコ先生が保険医であるということから放課後は基本的に暇のはずなので、そのときに用事を済ますことはできないのだろうか。

 

 そんな考えがゆかりたちの頭の中に浮かんだが、すでに竜はイタコ先生の家に行くと約束をしているために意味のないことだった。

 

 

「まぁ、俺を呼ぶんだからきっとそんなにたいしたことじゃないだろ」

 

 

 自己評価が高くない竜はとくに気にした様子もなくお昼ご飯を進めていく。

 そんな竜の姿にゆかりたちもゆっくりとお昼を再開するのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 お昼休みも終わり、とくに大きな問題もなくすべての授業が終わった。

 しいて午後の授業で起きたことがあるとすれば、現代国語の授業で羅生門をやっているときに、羅生門に出てくるお婆さんを美少女にしてイラストで描いた生徒がいて、それが思いのほか教師に受けていたことだろうか。

 ちなみにどうでも良いことだが、羅生門のお婆さんを美少女に描き換えたこの生徒は、他の授業でも似たようなことをやっている。

 走れメロスの登場人物をすべて女性にしたり、もちもちの木のお爺さんを未亡人風に描いたりなどなど、様々な作品がこの生徒の毒牙にかかっていた。

 

 そしてホームルームも終わり、竜は教室でずん子を待っていた。

 

 

「周回でもするか」

「スカディは出してあるでー」

 

 

 ずん子を待っている間、暇になった竜は“FATE Grand Orded”、通称FGOを起動する。

 竜がFGOを起動したことを確認した茜は自分のサポート編成を思い出しながら言った。

 茜の言うスカディとは、メインで戦うキャラクターではないが、サポート性能が群を抜いて高いキャラクターで、いわゆる人権と呼ばれるキャラクターだった。

 フレンドのスカディと自分の持っているスカディの2人体制でアタッカーを強化するダブルスカディシステム、もしくはスカスカシステムと呼ばれるものが周回においてほぼ最高効率となっているのだ。

 

 

「竜くんは誰をアタッカーで使ってるんだっけ?」

「ダブルスカディなら大体はボイジャーを使ってるな。最近だとライネスもNPを配れるようになったから他のアタッカーでもかなり快適だよな」

「葵がよく使っとるアーツパの周回でも活躍しとるもんな」

 

 

 葵の言葉に竜は必要なスキルを使いながら答える。

 システムと呼ばれる編成は基本的に使うべきスキルなどがハッキリしているため、なにか他の作業をしているときについでにやったりしても良いだろう。

 

 そのまま、ずん子が来るまで竜たちはお気に入りのサーヴァントや編成、宝具などの話をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第131話

 

 

 

 

 竜が教室でFGOの周回をし始めてから数分後、ずん子が教室の扉を開けて入ってきた。

 ちなみにスカスカシステムを使っていたために周回自体は数回ほどできていた。

 短時間でぐるぐると周回できるのがスカスカシステムの利点である。

 

 

「お待たせ。ごめんなさい、少しだけホームルームが長引いちゃったの」

「いえ、そんなに待ってませんので」

 

 

 ずん子は教室に入って竜の近くに行くと、手を合わせて軽く謝った。

 FGOを止め、スクールバッグを手に取りながら竜は答える。

 教室間だけの移動にしては時間がかかるなとは思っていたが、ホームルームが長引いたのであれば教室に来るのに時間がかかってしまったのも仕方がないだろう。

 

 

「それで、ええと・・・・・・。公住くん、そちらの子たちは?」

「えっと、それぞれイタコ先生に聞きたいことがあるらしくて・・・・・・」

 

 

 竜の後ろで自分たちのスクールバッグを持ったゆかりたちを見ながらずん子は竜に尋ねる。

 ずん子の言葉に竜は言いにくそうに答えた。

 竜自身、ゆかりたちに帰る様子がないことは気になっていたが、まさかついてくるつもりだとは思ってもいなかったのだ。

 

 

「イタコ先生の美容の秘訣とか聞いてみたいんよ」

「あ、ボクもお姉ちゃんと同じです」

「肩こりの相談を少ししたいかなー」

「美味しい地方の食べ物を聞いておきたいなぁと思いまして」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・胸を大きくするための秘訣を」

「そうね。イタコ姉さまの用事が終われば話を聞く時間もとれるでしょうし。一緒に行きましょうか」

 

 

 ずん子の視線を受け、ゆかりたちは順番についていきたい理由を言っていく。

 ゆかりの声だけ異様に小さく、竜たちの耳にはなにも聞こえなかったが、ずん子の耳には聞こえていたらしく、どことなく納得したような表情を浮かべた。

 そんなずん子の表情にゆかりは少しだけ不満そうな表情を浮かべるのだった。

 

 そして、竜たちは東北家へと向かうために学校をあとにした。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 いつもと違い、ずん子がいるということで竜たちはどことなくぎこちない空気になりながら歩く。

 ずん子自身もなんとなくそれを察しているが、どうしたら良いのかは思いついていないようだ。

 

 

「ごめんね?いきなり家に誘ったりして。ビックリしてしまったでしょ?」

「まぁ、そうですね。とくに呼ばれるような憶えもありませんでしたし」

 

 

 歩きながらずん子は竜にいきなり家へと誘ってしまったことを謝る。

 大切なことであるとは分かっているのだが、それでもいきなり過ぎたとはずん子も思っていたのだ。

 それでも早い段階で呼んでおいた方が良いのも事実。

 それが分かっているからこそずん子とイタコは竜を家に誘ったのだ。

 

 

「お、猫だ」

「ほんまや。首輪もないし野良なんかな?」

「え、でもそれにしては毛並みがキレイじゃない?」

 

 

 ふと、竜は近づいてきた猫に気がつき、しゃがんで頭を撫でた。

 竜に撫でられて猫は気持ち良さそうに目を細める。

 竜の言葉にゆかりたちも猫に気づいて近くに移動した。

 茜の言うように猫に首輪は着いていないのだが、そのわりには汚れなどもほとんどなく、とても野良には見えなかった。

 

 

「ああ、この子はここら辺の家を渡り歩いている子ね。いろんな家でご飯をもらったりしているから人懐っこいのよ」

「だから竜先輩の方に近づいてきたんですかね?」

「おー、毛並みも良いけどお肉もフニフニだぁ」

 

 

 見覚えのある猫にずん子は軽く猫の説明をする。

 ずん子の説明にあかりは猫が近づいてきた理由に納得し、マキは猫のお腹を触って嬉しそうに喜んでいた。

 

 そして、ひとしきり猫を堪能した竜たちは改めて東北家へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第132話



うっかり1話を消してしまったので書き直します。

バックアップとか残しておけばよかった・・・・・・


 

 

 

 

 ずん子の案内のもと、竜たちは東北家へと到着した。

 平屋の大きな和風建築で、坪数などは分からないがそれでもかなりの広さの敷地だということが分かる。

 加えて言うと庭の方には池のようなものも遠目に見えていた。

 

 

「ただいまー」

「おかえりなさいなのです。・・・・・・あーっ!!」

 

 

 ずん子が玄関を開けると1人の少女が現れた。

 見覚えのあるその少女は竜を指差すと大きく口を開けて声をあげる。

 

 

「あのときのワンキル男!」

「間違ってはおらんけど、どんな覚え方しとるんやこの子」

「というか、きりたんって生徒会長の妹だったんですね」

 

 

 まるで転校生の女の子と登校中に曲がり角でぶつかって下着を覗いてしまったことをホームルームで暴露したかのような叫び方をするきりたんに茜は思わずといった感じにツッコミを入れる。

 きりたんの叫びを無視して竜はずん子に確認をした。

 

 

「そうだけど・・・・・・。きりたんのことを知っているの?」

「ええ、まぁ。きりたんが動画を投稿していて、それ関係で偶然出会いまして」

 

 

 きりたんのことを竜が知っていることが意外だったのか、ずん子は竜にきりたんのことをどうして知っているのか尋ねた。

 ずん子の質問に、とくに隠すことでもないので竜はざっくりと説明をした。

 

 

「そうだったのね。それじゃあ改めて妹の東北きりたんよ」

「東北きりたんなのです。ワンキル男以外の皆様、どうぞよろしくお願いします」

 

 

 竜の説明で納得したのか、ずん子は改めてきりたんを紹介する。

 ずん子の言葉に続けて、きりたんは竜以外の全員に頭を下げた。

 ここまでくるといっそ清々しいほどのきりたんの態度に竜たちは思わず苦笑してしまう

 

 

「うちは琴葉茜やでー」

「ボクは琴葉葵だよ」

「私は結月ゆかりです」

「私は弦巻マキだよー」

「私は紲星あかりです」

「ええと、茜お姉ちゃん、葵お姉ちゃん、ゆかりお姉ちゃん、まきお姉ちゃん、あかりお姉ちゃんですね?」

 

 

 名前と顔を頑張って一致させようときりたんは順番にゆかりたちを見る。

 頑張って名前を覚えようとしているきりたんの姿にゆかりたちは微笑ましそうに見ていた。

 

 

「あ、俺は公住竜な」

「あなたはワンキル男で十分です。お姉ちゃんたちの名前を覚えるのを邪魔しないでください」

 

 

 最初の挨拶の時点で覚えるきはなさそうだなと思いつつ、竜も一応名前を言う。

 しかしやはりと言うべきかなんと言うべきか。

 きりたんはジロリと竜を睨むとそのままゆかりたちの名前を覚えることを再開した。

 

 

「もう、きりたんったら・・・・・・」

「あはは・・・・・・。まぁ、自分は気にしてないんで」

「そう?でも、きりたんがごめんなさいね?」

 

 

 きりたんの様子にずん子は少しだけ怒りながら注意をしようとする。

 そんなずん子を引き留めて竜は気にしていないと伝えた。

 結局は小学生の子供のやることで、しかもあだ名がついている分早めに覚えることもできるだろう。

 それらのことから竜はこのままでも構わないと考えていた。

 竜の言葉にずん子は申し訳なさそうにしながら謝った。

 

 

「それじゃあ、きりたん。私は公住くんをイタコ姉さまのところに案内するから、みんなを居間の方に案内してくれるかしら?」

「分かりました!どうぞこちらに来てください!」

「元気やねぇ」

 

 

 ずん子の言葉にきりたんは張り切ってゆかりたちを居間へと案内し始めた。

 ピョコピョコと跳び跳ねるきりたんの姿にゆかりたちは一層のこと微笑ましそうに見る。

 

 

「それじゃあ、私たちも行きましょうか」

「はい」

 

 

 そして、竜とずん子もイタコの待つ部屋へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第133話



ヤンデレエンドを書く際に琴葉姉妹は合わせた方がいいんですかね?
一応、アンケートを出しておきますね。
期限はUAが31000になるまでです。






 

 

 

 

 ずん子を先頭に、竜は東北家の廊下を歩く。

 和風建築だということもあって一歩を踏み出すたびに独特の音がなり、それが逆に風情を感じられた。

 

 

「イタコ姉さまから聞いているんだけど・・・・・・。本当に公住くんはイタコ姉さまの耳と髪の色が見えていたの?」

「え、あ、はい。キレイな白銀色のキツネみたいな耳ですよね?」

 

 

 廊下を歩きながらずん子は竜に尋ねる。

 イタコ先生から竜が耳と髪の色を見ることができるとは聞いていたのだが、それでも念のためにずん子は確認をした。

 ずん子の言葉に竜は驚きつつもうなずきながら肯定する。

 自分以外にイタコ先生の髪の色と耳のことを知っている人がいることに竜は驚いたが、よくよく考えればイタコ先生とは姉妹なのだから知っていてもおかしくはないのだろう。

 

 

「本当に見えているのね。イタコ姉さまから聞いてはいたけどちょっとだけ信じられなかったの」

「・・・・・・やっぱり、珍しいことなんですか?自分以外はイタコ先生の髪の色は黒色に見えているらしくて・・・・・・、それに耳も見えてないみたいで・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にずん子は改めて竜がちゃんとイタコ先生の髪の色と耳が見えているのだと納得した。

 ずん子の言葉に竜はずっと感じてきていたことを尋ねる。

 

 どうして自分の目にはイタコ先生の髪の色が白銀色に見えるのか。

 どうして自分の目にはイタコ先生のキツネのような耳が見えるのか。

 

 誰かに相談したくても誰もがイタコ先生の髪の色はキレイな黒髪だと言っているので、誰にも相談ができずにいたこと。

 そんな思いががずん子という同じイタコ先生の髪の色と耳を見ることができる人の登場によって解放された。

 

 

「そうね。イタコ姉さまの髪の色と耳は普通なら私たち家族にしか見ることができないわ。だから、その事を話すためにイタコ姉さまは公住くんを家に呼んだの」

「そうだったんですね」

 

 

 他の人に見えないものが見えているという竜の不安が分かったのか、ずん子は優しく竜を家に呼んだ理由を教えた。

 ずん子の言葉に竜はイタコ先生の髪の色や耳が見えている理由が分かると知り、少しだけ安心する。

 そして、2人はある部屋の前に到着した。

 

 

「イタコ姉さま。公住くんをつれてきましたよ」

「ちゅわ?!ちょ、ちょっと待ってくださいまし!ああ、もう!どこに行ってしまいましたの?!」

「イタコ姉さま・・・・・・?」

「どうしたんですかね?」

 

 

 部屋の襖に向かってずん子が声をかけると、イタコ先生の驚いた声が部屋の中から聞こえてきた。

 聞こえてきた声から察するにどうやらイタコ先生はなにかを探しているようだ。

 竜とずん子は思わず顔を見合わせて首をかしげる。

 

 

「えっと、なにを探しているのか分からないけど私も手伝ってくるわね?申し訳ないけどちょっと待っていてちょうだい」

「あ、はい。分かりました」

 

 

 困惑しながらずん子はそう言って部屋へと入っていった。

 ずん子が部屋に入る際に襖が開いて部屋の中が見えたが、色々なものがひっくり返ってしまっており、チラリと見えてしまったが、黒い三角形の布のようなものがあったようにも思えた。

 

 

「何があったんだ?・・・・・・・・・・・・ん?」

 

 

 一先ず部屋の中が見えてしまった際の黒い三角形の布のようなものは置いておくことにして、竜は呼ばれるのを待つことにした。

 不意に、竜は自分の服が引っ張られていることに気がつく。

 不思議に思って引っ張られている方を見ると、そこにはイタコ先生と同じ白銀色のキレイな毛並みのキツネがいた。

 

 

「おー、スゴい美人さんなキツネだ」

「コン!」

 

 

 竜がしゃがんで目線を合わせると、キツネは嬉しそうにその体を竜に擦り寄せた。

 サラサラとした感触のキツネの毛皮に竜はそっと手を当て、優しく動かす。

 竜の手が動くたびにキツネは気持ち良さそうに目を細めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第134話

 

 

 

 

 ずん子が部屋に入ってから数分、竜は白銀色の体毛をしたキレイなキツネを撫でたりしながら待っていた。

 イタコ先生がなにを探しているのかは分からないが、よっぽど小さいものかなにかで見つけにくいものなのだろう。

 

 

「なにを探してるんだろうなー?」

「クー?」

 

 

 キツネの首もとから背中にかけてを優しく撫でながら竜はキツネに話しかける。

 キツネの顔を見ながら竜が首をかしげると、キツネもそれを真似するように首をかしげた。

 不思議そうに自分の動きを真似るキツネに竜は笑みをこぼす。

 

 

「コン!」

「おわっ?!」

 

 

 不意にキツネが竜に勢いよく跳びかかる。

 いきなりのことに竜は驚き、尻餅をついてしまった。

 尻餅をついてしまった竜のことを気にせずに、キツネは竜の服の隙間から服の中へと潜り込んでいってしまう。

 竜の体と服の間はほとんど隙間がないようなもの。

 そんなところになんの苦もなく潜り込んでしまったキツネに竜は驚き、慌てて胸元を引っ張って中を覗いた。

 

 

「コン!」

「ええ・・・・・・?」

 

 

 中を覗くと先ほど潜り込んだキツネが普通に鳴き声をあげていた。

 普通の動物としてはあり得ない事態に竜は0/1D6のSANチェックをおこなう。

 

 

「・・・・・・大丈夫、なのか?」

「クー!」

 

 

 こんな隙間に入っているのだから息苦しいなどはないのか。

 それが気になった竜はキツネに尋ねる。

 するとキツネは嬉しそうに鳴き声をあげると、竜の服の端から尻尾を出してパタパタと振った。

 嬉しそうに揺れる尻尾を見る限り、どうやら狭いとか苦しいだとかは感じていないらしい。

 

 竜が服の中を覗いてキツネを見ていると、襖が開いてずん子が部屋から顔を出した。

 それと同時にキツネは竜の服の端から出していた尻尾を服の中にしまいこむ。

 

 

「待たせてしまってごめんなさい。少しだけ予想外のことが起きちゃっていて・・・・・・。とりあえず話をする分には問題はないから部屋に入ってもらえるかな?」

「あ、はい。分かりました」

 

 

 部屋から顔を出したずん子は竜が服の中を覗いていることに首をかしげるが、とくに気にせずに待たせてしまったことを謝った。

 ずん子の言葉に竜は服の中を覗くのを止め、部屋の中へと入った。

 

 

「ちゅわ、お待たせしてしまってすみませんでしたわ」

「・・・・・・えっ?」

 

 

 部屋の中に入った竜は謝るイタコ先生の姿を見て驚いて固まってしまう。

 驚きに固まる竜の姿にずん子とイタコ先生は苦笑を浮かべた。

 

 

「く、黒・・・・・・?」

 

 

 イタコ先生を見ながら竜は、思ったことを言う。

 黒といっても先ほどずん子が部屋に入る際に見えてしまった黒い三角形の布のようなもののことではない。

 竜が見ていたのはイタコ先生の顔。

 より正確に言うのならイタコ先生の髪の毛を見て竜は驚いていた。

 

 昨日、竜が保健室でイタコ先生を見たときはキレイな白銀色の髪色をしてキツネのような耳を生やしていた。

 しかし、今竜の目の前にいるイタコ先生は、カラスの濡れ羽のようなキレイな“黒色”の髪の毛でキツネのような耳を生やしていなかった。

  今まで見てきたものからいきなり変わったイタコ先生の姿に竜は思わずずん子へと視線を向ける。

 

 

「やっぱり驚くよね。大丈夫、髪の色は違うけどイタコ姉さまで間違いはないから」

「は、はあ・・・・・・」

 

 

 竜の視線の意味に気がついたずん子は苦笑しながらちゃんとイタコ先生本人であると説明をする。

 家族であるずん子が言うのであれば本当にイタコ先生で間違いないのだろう。

 改めて竜はイタコ先生を見た。

 

 

「驚かせてしまって申し訳ないですわ。ちょっと予想外の事態が起きてしまったもので・・・・・・」

「えっと、予想外っていうのはその髪の色に関係が・・・・・・?」

 

 

 イタコ先生の言葉に竜は、黒色の髪の毛のイタコ先生という見慣れない姿に戸惑いながら尋ねるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第135話




UAが31000を越えたのでアンケートを締め切ります。

番外話を書くときは今後は茜と葵は分けずに、琴葉姉妹として書くことになりました。





 

 

 

 

 今までは白銀色のキレイな色をしていたイタコ先生の髪の毛。

 それがどうして黒色になってしまっているのか。

 戸惑いながら尋ねた竜にイタコ先生はうなずいて答える。

 

 

「そうですわね。まず、そもそもとそして私の髪の色が他の人には黒く見えていることは知っておりますわよね?」

「ええ、まぁ・・・・・・」

 

 

 自分と他の人との認識の違いはずっと感じていたこと。

 イタコ先生の言葉に竜はうなずいた。

 

 

「少しばかり信じられないような話をしますが・・・・・・。私の中には強い力を持ったキツネ、九尾がおりますの」

「・・・・・・・・・・・・人柱力ですか?」

 

 

 突拍子もないイタコの言葉に竜はキョトンとしてしまい、思わず連想してしまった言葉を言った。

 竜の言葉にイタコ先生とずん子は苦笑を浮かべる。

 人柱力、それは漫画“NARUTO”に出てくる強大な力を持った生き物を体内に宿した人間の総称。

 ある意味ではイタコ先生も人柱力とも言えるのかもしれない。

 

 

「あながち間違いではありませんわね。それで、私の髪の色は九尾の体毛の色が表に出てきていたものなんですの」

「・・・・・・え?」

 

 

 イタコ先生の言葉に竜は部屋の前で出会って服の隙間に潜り込んできたキツネの姿を頭の中に思い浮かべた。

 あのキツネの体毛の色も白銀色をしていた。

 それだけで無関係だとは思えないだろう。

 しかしイタコ先生は竜の呟きを違う意味に捉えたのか、神妙な表情を浮かべながらうなずいた。

 

 

「分かってしまいましたか。そうなんです。今、九尾は私の中におりませんの・・・・・・。今の彼女は本来のものよりも弱まってしまっていて・・・・・・」

「いや、そうじゃなくて・・・・・・」

「ああ、心配ですわ・・・・・・。本当にどこに行ってしまったのかしら・・・・・・」

 

 

 心配そうにイタコ先生は言う。

 いつもは自分の中にいる九尾のキツネがいないと言うことで心配なのだろう。

 そんなイタコ先生に竜は部屋の前で出会ったキツネについて話そうとするが、イタコ先生は九尾のキツネのことが気になってしまっていて話を聞いていなかった。

 

 

「かわいい子ですし、もしも外に出てしまっていたら・・・・・・。もしかしたら誘拐?!そんなことになってしまっていたら私は!」

「あの!イタコ先生!」

「ちゅ、ちゅわ?!」

 

 

 イタコ先生はそう言って巫女さんが持っているようなお祓い棒、正式名称は大幣(おおぬさ)を手に持って震え始めた。

 思考が暴走し始めていたイタコ先生に竜は驚き、大きな声で呼びかける。

 竜の声に驚いたイタコ先生は驚いた表情を浮かべながら竜を見た。

 

 

「ちょっと見てもらいたいものがあるんですが・・・・・・」

「ちゅわ?!なにをしていますの?!」

「き、公住くん?!」

 

 

 イタコ先生が自分の方を見たことを確認した竜は、服の隙間に潜り込んできていたキツネを見せるために思いきって服を捲り上げた。

 竜がいきなり服を捲り上げたためにイタコ先生とずん子は驚いて思わず顔を隠す。

 ずん子はともかくとして、イタコ先生は保険医なのだから診察とかで見慣れているはずように思えるが、どうやらいきなりのことで心構えもなにもできていなかったらしい。

 

 竜が服を捲り上げたために、服の隙間に潜り込んできていたキツネの姿が現れるが、顔を隠してしまっていたイタコ先生とずん子は気づいていなかった。

 

 

「き、公住くん?!いきなり肌を見せるというのは色々と早いと思いますの!そういうことはもっとお互いのことを知って夜にお布団の上でするべきだと思いますわ!」

「公住くんにはそういった趣味があったんですか?!まだ外でやる勇気がないから私たちの前で見せてるんですか?!はっ!もしや私たちも一緒にやろうというお誘いのつもりで?!」

 

 

 顔を隠したままイタコ先生とずん子は妄想が暴走してしまっている。

 そんな2人の姿に竜はため息を吐いて体にしがみついているキツネを見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第136話



番外話なんですけど私の小説ではマキのお母さんは生きているわけですが
お母さんが死んでいる場合の話を読みたいという方もいますかね?
一応、次のアンケートの時に追加しておきますね


 

 

 

 

 顔を隠して妄想が暴走してしまっているイタコ先生とずん子。

 自分の方を見ようとしない2人に竜はどうしたものかとため息を吐く。

 

 

「あの・・・・・・」

「やはりキスなどは二回目のデートからで、それ以上のこととなるならばもう少しデートをしてからというのがいいと思いますわ。あ、ですが我慢が辛いというのであればお手伝いをするのもやぶさかではなく・・・・・・」

「家の中で服を脱いで生活するというのが悪いわけではないですが、それでも自分の家以外ではやらない方がいいと思うんです。うちでもきりたんがたまに下着で生活してますけど、それだって家の中だけですし・・・・・・」

 

 

 妄想の中に囚われてしまっている2人に話しかけようとするが、まともに話を聞いてくれずに2人は妄想を垂れ流してしまっている。

 というかとんでもない情報が混じっていた気がするが、竜は一先ず置いておくことにした。

 

 竜が2人を見て疲れたような表情を浮かべていることに気がついたキツネはトトトッと竜の頭の上に移動する。

 キツネが服の中から移動したため、竜は捲り上げていた服をもとに戻した。

 

 

「・・・・・・コーンッ!」

「ちゅわ?!」

「えっ?!」

 

 

 竜の頭の上に移動したキツネは、小さく息を吸い込むと大きな鳴き声を上げた。

 キツネの鳴き声にイタコ先生とずん子は驚き、妄想の世界から戻ってくる。

 

 2人は竜の頭の上にいるキツネの存在に気がつくと慌てて竜に近づいていった。

 

 

「どこに行っていたんですの?!心配しましたのよ?!」

「き、公住くん!どこでこの子を見つけてきたの?!」

「えっと、さっき生徒会長が部屋に入ったあとに現れたんですけど・・・・・・」

 

 

 キツネが見つかった驚きが強かったのか、イタコ先生は竜に抱きつきそうな勢いでキツネに近寄った。

 あまりに勢いがつきすぎたため、イタコ先生の胸は竜にぶつかってむにゅりと潰れてしまっている。

 イタコ先生の胸が体に触れていることから意識を逸らそうと、竜はずん子の言葉に答えた。

 

 

「ほら、降りてらっしゃい」

「コン!」

「あだだだだだだだっ?!」

 

 

 イタコ先生が竜の頭の上からキツネを降ろそうとすると、キツネは思いきり竜の頭にしがみついて抵抗をした。

 キツネがしがみついた際に爪が出たのか、竜はいきなり襲いかかってきた痛みに思わず声をあげる。

 

 イタコ先生の胸の感触をどうにか意識しないようにしていた竜は痛みによって一瞬だけ胸の感触を忘れることができたが、すぐにイタコ先生がキツネを引き剥がすためにさらに強く密着してきたために強く意識してしまうことになった。

 

 

「ふんっ!ぬぬぬ・・・・・・。ダメですわ・・・・・・」

 

 

 全く離れようとしないキツネにイタコ先生は引っ張るのを止めて、竜から少しだけ体を離す。

 それによって竜は少しだけ残念に思いつつもネオアームストロング・サイクロンジェット・アームストロング砲が起動しなくて助かったと内心で安堵の息を吐いていた。

 

 頭の上から降りようとしないキツネの胴体に手を回し、竜はそっとキツネを持ち上げる。

 すると先ほどまでの抵抗はなんだったのかと聞きたいほどにあっさりとキツネの体は竜の頭から離れた。

 そしてそのまま竜はキツネを自分の前に移動させる。

 

 

「いや、イタコ先生の中にいるキツネってお前のことなんかい」

「クー!」

 

 

 九尾と言っていたはずなのにこのキツネの尻尾の数は普通の1本。

 なにか関係があるだろうとは思ってはいたがまさかの本人・・・・・・、いや本狐だとは竜も思っていなかった。

 竜の言葉にキツネは前足を上げて返事をした。

 

 

「あれ、でもさっき九尾の狐って言ってませんでした?」

「ええ、間違っていませんわ。本来は九尾なんですけど、今は力が弱まっていて尻尾の本数が減ってしまっていますの。いい加減こちらに来なさい。公住くんにはまだ説明しないといけないことがありますのよ!」

「・・・・・・、クー・・・・・・」

 

 

 竜の疑問にイタコ先生はキツネの尻尾をむんずと掴みながら説明する。

 どうやら本来の力に戻ればその分だけキツネの尻尾が増えるらしい。

 イタコ先生の言葉にキツネはチラリと竜を見て少しだけ寂しそうな鳴き声をあげると、イタコ先生へと向かって大きく跳躍した。

 そしてそのままイタコ先生の中に染み込むように消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第137話

 

 

 

 

 イタコ先生の中に染み込むようにキツネが消えていった次の瞬間、イタコ先生の体に変化が起きる。

 先ほどまで美しい黒色だった髪の毛が、竜にとって見慣れていた白銀色へと変わっていったのだ。

 そしてイタコ先生の髪の毛の色が完全に白銀色に変化すると、最後にキツネの耳がピョコンと生えてきた。

 

 イタコ先生の姿が見慣れたものになったことに竜はホッと小さく息を吐く。

 

 

「・・・・・・ちゅわぁ」

「イタコ姉さま、どうかしたんですか?」

 

 

 キツネが自身の中に消えていく際に目を閉じていたイタコ先生は困ったような声を上げて顔を隠してしまう。

 イタコ先生の行動にずん子は不思議そうに尋ねた。

 

 

「実はこの子の感情が少しばかり流れ込んできてしまいましたの・・・・・・。公住くんはどうやら動物にかなり好かれるみたいですわ・・・・・・」

 

 

 ずん子の言葉にイタコ先生は顔を隠してしまった理由を答えた。

 どうやらキツネはかなり竜に対して懐いていたようで、その感情がイタコ先生にまで流れ込んでしまっていたようだ。

 手で顔を隠してしまっているためにハッキリとは見えていないが、イタコ先生の耳はほんのりと赤く染まっていた。

 

 

「ん、んん!・・・・・・さて、改めて話をしましょうか」

「あ、はい」

 

 

 軽く咳払いをしてイタコ先生は竜を家に呼んだ理由を話し始めた。

 イタコ先生はどうにか普通にしようとしているが、それでも頬がやや赤くなっているために竜は何とも言えない気持ちになってしまった。

 

 

「公住くん。私の髪の毛の色と耳が他の人には見えていないことはもう分かっておりますわよね?」

「はい。他の人には黒髪に見えていて、耳は見えていないんですよね?」

 

 

 イタコ先生は話をする前に自身の髪の毛と耳についてのことを簡単に竜に確認する。

 竜の目にはイタコ先生の髪の毛は白銀色に、そしてキツネの耳が生えているように見えるが、他の生徒たちには普通の黒髪に見えており、キツネの耳も見えてはいない。

 イタコ先生の言葉に竜はうなずきながら答えた。

 

 

「そうですわ。私はこれを霊力をもちいた術、“霊術”でおこなっておりますの。これは普通の人にはなんの違和感もなく隠蔽する術なのですが・・・・・・」

「なぜか俺には効いていないんですね?」

 

 

 イタコ先生の口から霊力というオカルト染みた発言が出てきたが、すでにキツネがイタコ先生の中に消えていくのを見ていた竜はとくに疑問も持たずにそのまま話を聞く。

 

 

「まぁ、その原因もすでに分かっておりますの」

「本当ですか?!」

「ええ。“霊術”の隠蔽はある程度の霊力を持っている人間には効果がありませんの」

 

 

 どうして竜には“霊術”による隠蔽が効いていないのか。

 その理由は、竜に霊力が宿っているというものだった。

 

 霊力、それは巫女や宮司などがお祓いをしたりする際に使われる力で、これを多く持っている人間はいわゆる霊感というやつが強い人間だったりする。

 

 

「公住くん、心霊現象とかに出会ったことはありませんか?」

「心霊現象、ですか?」

 

 

 イタコ先生の言葉に竜は記憶を振り返った。

 竜の姿をイタコ先生は自信満々に見ており、キツネの耳はピコピコと動いている。

 

 

「・・・・・・とくにはないですね」

「ちゅわ?!」

 

 

 竜の言葉にイタコ先生は驚いて声をあげる。

 それに合わせてキツネの耳もピーンッと固まってしまった。

 

 “霊術”による隠蔽を突破できるほどの霊力を持っているのならば霊感があるのは確実。

 そのはずなのに心霊現象に会ったことがないというのはイタコ先生からすればあり得ないことだった。

 

 

「ほ、本当にないんですの?!こう、うっすらと半透明な人がいた、とか。絶対に人がいるはずがない場所に人がいた、とか」

「ない・・・・・・です・・・・・・ね!・・・・・・」

 

 

 心霊現象に会ったことがないという竜の言葉に驚いたイタコ先生は竜の肩を掴んでガクガクと前後に揺らす。

 イタコ先生に揺らされ、途切れ途切れになりながらも竜はハッキリと答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






霊力に関しては独自の解釈ですので、この小説ではそうなんだくらいに考えてください。




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第138話

 

 

 

 

 心霊現象に会ったことがないという竜の言葉に驚いたイタコ先生が竜の肩を掴んでガクガクと揺らす姿に、ずん子は苦笑しながら竜を“視た”。

 普通の人ならば目で見えるのはそこに実際にあるものだけ。

 しかし霊力を持っている人間は意識をすることで霊などを“視る”────つまりは“霊視”をすることができる。

 意識をしないでも見える霊は確かにいるが、ある程度の力を持っている霊であれば“霊視”をしない限りは見えない状態になることができるのだ。

 

 

「うそ・・・・・・」

「どうかしましたの?」

 

 

 竜を“視た”ずん子は驚いた表情を浮かべて口もとに手を当てた。

 竜のことを揺らしていたイタコ先生はずん子の様子に気がつき、竜から手を離して不思議そうにずん子に声をかける。

 一方で、イタコ先生から解放された竜は膝をついて体調をもとに戻そうとしていた。

 

 

「い、イタコ姉さま・・・・・・。公住くんのことを“視た”ことはありますか・・・・・・?」

「“視た”って、“霊視”ですの?いえ、とくには“視た”ことはありませんわね」

「“視た”方がいいです。絶対に・・・・・・」

 

 

 ずん子はイタコ先生に竜のことを“霊視”したことがあるかを尋ねる。

 ずん子の言葉にイタコ先生は首を横に振って答えた。

 イタコ先生の言葉に、ずん子は竜の周囲の空間に手を向けながら“霊視”をすることを勧めた。

 

 

「いったいどうしたというんですの?・・・・・・ちゅわぁ」

 

 

 ずん子に言われてイタコ先生は竜を“視る”。

 “視た”瞬間に飛び込んできた光景にイタコ先生は思わずといった様子で言葉を漏らした。

 イタコ先生とずん子が“視た”光景、それは竜の周りに大量に集まってきている動物霊たちがジッと観察するようにこちらを見ている光景だった。

 

 通常、動物霊というものは現世に残り続けることはほとんどなく。

 だいたいが死んでからすぐに転生をするために死後世に向かうため、ここまで動物霊が集まっているというのは滅多にないことだ。

 しかもそのすべてが1人の人間に集約しているとなれば異常事態と言っても過言ではないだろう。

 

 

「これは、いったいどういうことですの・・・・・・?」

「分かりません。私もついさっき“視て”知ったので・・・・・・」

 

 

 竜の肩に乗りながら2人を見る二股の尻尾を持った猫。

 時おり火の粉を散らしながら竜の近くで羽の手入れをしている赤い鳥。

 角に樹の蔓や蕾などをつけた薄い緑色の鹿。

 竜の腕に絡み付きながらチロチロと舌を動かす薄い青色の蛇。

 竜の近くで丸くなりつつも、しっかりと周囲を見ている灰色の大きな狼。

 竜の頭の上で耳をピクピクと動かして周囲の音を聴いている白いウサギ。

 

 これらが竜の周囲に集まってきている動物霊たちの中でもとくに強い力を感じとることができる存在だった。

 ただでさえ動物霊というのは数が集まると手に負えないことがあるので、2人はもはや泣きたいような気持ちになっていた。

 

 

「・・・・・・ふぅ。どうかしたんですか?」

 

 

 どうにかイタコ先生に揺らされたことから回復した竜は、2人が驚いた表情で自分を見ていることに気がついた。

 “霊視”のやり方を知らない竜はとくに気にした様子もなく2人に話しかける。

 

 

「ええと・・・・・・、ちょっと竜くんのことを“視て”みたのですが。どうやら公住くんを守ってくれている霊がたくさんおりますの」

「守ってくれる・・・・・・。守護霊、みたいなものですか?」

 

 

 イタコ先生の言葉に竜は聞き覚えのあった言葉で確認をする。

 守護霊とはその名の通り守ってくれる霊のことで。

 竜のことを守ってくれる動物霊たちも一応はここに含んでも良いのではないだろうか。

 竜の守護霊という言葉が嬉しかったのか、動物霊たちは思い思いに鳴き声をあげ始めた。

 1匹1匹の鳴き声は小さいものの、数が集まればそれは大きなものになる。

 動物の鳴き声にイタコ先生とずん子は思わず耳を押さえた。

 いきなり耳を押さえた2人に竜は首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第139話



もうそろそろしたら番外話のアンケートを始めようと思います。




 

 

 

 

 竜の周りに集まってきていた動物霊たちの鳴き声が収まり、イタコ先生とずん子は耳から手を離す。

 どうやら動物霊たちは竜に対して細心の注意を払っているようで、竜にはその姿や声などは聞こえないようにしているらしい。

 その証拠に竜は動物霊たちの鳴き声に耳を塞いでいたイタコ先生とずん子のことを不思議そうに見ている。

 どのような手段をもちいたのかは不明だが、竜の耳には動物霊たちの鳴き声が届いていなかったのは間違いないだろう。

 

 

「あの・・・・・・?」

「す、すみませんでしたわ。ちょっと霊たちの声が大きくて・・・・・・」

「でも、これほどまでの霊でしたら心配はなさそうですね」

 

 

 不思議そうに尋ねる竜にイタコ先生とずん子は少しだけ疲れた表情になりながら答えた。

 

 本来の予定としては、竜に霊力と霊感についての説明をしてそういったことへの対策を軽く教えるつもりだったのだが、予想外に竜が動物霊たちに守られており、その必要性がまったく無くなってしまったのだ。

 むしろわざわざ見えるように“霊視”を教えたりすることの方が竜にとって危険かもしれない。

 

 竜と竜の周囲の動物霊たちを見たイタコ先生とずん子はそう結論づけた。

 

 

「ですわね。公住くんはむしろこのままでいた方が良いのかもしれませんわ」

「じゃあ、公住くんへの用件も終わりましたし、次は他の子たちの番ですね」

「ちゅわ?」

 

 

 竜への話が終わり、ずん子は立ち上がってそう言った。

 ずん子の言葉にイタコ先生は首をかしげる。

 確かに竜を家に呼んだ用件は終わったが、他の子たちの番とはどういうことなのか。

 不思議そうに自身を見るイタコ先生にずん子は竜以外にも来ていることを伝えていなかったことを思い出した。

 

 

「すみませんイタコ姉さま。実は公住くん以外にも、イタコ姉さまに聞きたいことがあるということで家に来ている子たちがいるんです」

「そうでしたの。では、少しばかり待たせてしまいましたのね」

 

 

 イタコ先生に伝え忘れていたことを謝りながら、ずん子は公住の他にも生徒が家に来ていることを説明する。

 ずん子の言葉にイタコ先生は竜との話に時間をかけてしまったことを申し訳なさそうにしていた。

 

 

「では次の子を呼んできますね。公住くんは次の子と入れ替わりだから一緒に行きましょうか」

「あ、はい」

 

 

 正直、霊に関してなど竜にはよくわからないことの方が多かったが、それでもイタコ先生の髪の毛の色とキツネ耳の理由が分かっただけで竜は充分だった。

 そして、竜とずん子はゆかりたちのいる居間へと向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 その頃、居間でゆかりたちはゲームで遊んでいた。

 遊んでいるゲームは“大乱闘スマッシュブラザーズSP”で、それぞれが自分の好きなキャラクターを選んで戦っている。

 

 

「あー!うちを掴んだまま飛び降りるんはやめてーや!」

「お姉ちゃんの残機はボクより少ないもんね。だからね、一緒に落ちよっか」

「あれ?なんか外に向かって飛んでっちゃった」

「マキさん、操作ミスしてますよ?」

「きりたんをモグモグー」

「げぇ?!タマゴにして落とされました?!」

 

 

 全員分のコントローラーがあることに不思議に思うかもしれないが、これはスイッチのコントローラーがイタコ先生、ずん子、きりたんの3人分あって、それを分割して使っているからだ。

 詳しく説明すると、ゲーム機である“ニンテンドースイッチ”は1つのコントローラーを2つに分けて使うことができ、それが東北家三姉妹の人数分、つまりは3つあったため、ちょうど6人でプレイすることができたのだ。

 当然だがコントローラーのサイズは小さくなってしまうので、慣れていないと操作ミスなどを起こしてしまう。

 その後も、ゆかりたち6人はゲームを続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第140話



UAが33000を越えたら番外話のアンケートを始めようと思います。





 

 

 

 

 イタコ先生との話を終えたずん子と竜が居間に到着する。

 2人の姿を確認したゆかりたちはゲームを一旦止めて2人を出迎えた。

 

 

「イタコ先生との話は終わったんか?」

「ああ、とりあえずは終わりっぽい」

 

 

 茜の言葉に竜は座布団に座りながら答える。

 詳しく話をしてもいいのだが、それをした場合に確実に1人は怖がりそうなため、竜はイタコ先生との話の内容を言うのを止めた。

 

 

「公住くんとの話が終わったから次はみんなの番よ。きりたんは公住くんと待っていてね」

「ずん姉さまが言うのでしたら仕方がないですね。分かりました」

 

 

 竜の用件が終われば次はゆかりたちの番になる。

 ずん子の言葉にゆかりたちは立ち上がった。

 そしてずん子はきりたんに竜のことを任せてイタコ先生のいる部屋へと向かっていった。

 ずん子が部屋からいなくなり、きりたんはジトリと竜を見る。

 

 

「それで、なにかしたいものはありますか?」

「したいものと言われてもなぁ」

「一応、私が動画配信をしているので色々とゲームはありますけど」

 

 

 竜に対して良い印象はないものの、それでもちゃんともてなそうとはしてくれるらしい。

 きりたんの言葉に竜は頭を悩ませる。

 ある程度はきりたんの動画を見ていたため、どんなゲームがあるかなどを竜は少しだけ知っていた。

 

 ゲームをやるにしても本体だけで、先ほどゆかりたちがやっていた“ニンテンドースイッチ”や“プレイステーション4”、少し古いものであれば“ニンテンドー64”や“スーパーファミコン”なんてものまであった。

 本体だけでも充分にあるというのに、ゲームソフトともなればさらに種類が多くなってしまうだろう。

 

 

「んー・・・・・・。あ、そうだ。ファンタシスターオンライン2ってきりたんはやっているか?」

PSO(ぷそ)2ですか?一応、やっていますけど」

 

 

 何をやろうか考えていた竜は、ふと思い出したようにきりたんに尋ねる。

 協力してプレイするゲームや対戦するゲームを言うと考えていたきりたんは竜の言葉に首をかしげながらもうなずいた。

 

 

「いやな?動画をいろいろと見てたらどんな感じのゲームなのか気になってな。だからどんな感じなのかを見せてもらおうかと思ってな」

「ふむ。確かに動画で見ると気になりますよね。良いでしょう。私の華麗なプレイを見せつけてやりましょう!」

 

 

 首をかしげたきりたんに竜はどうしてファンタシースターオンライン2をやっているのかを聞いたのか理由を話した。

 竜の言葉に納得がいったのか、きりたんは自信満々にプレイステーション4の準備をしていく。

 

 動画で見るのときりたんがプレイするのを見るのでは同じなのではないかと思うかもしれないが、動画とは違って気になったことをすぐに聞けるので竜はきりたんがプレイするのを見たかったのだ。

 

 

「あ、動画用ではなくプライベートのアカウントを使うので、少しの間、テレビ画面は見ないでくださいね」

「へぇ、動画用と分けてるのか。それは良いけど、レベル上げとか大変そうだな」

「それは仕方がないですね。常に動画用のアカウントを使っていたらいろいろと大変ですから。・・・・・・もうテレビ画面を見て良いですよ」

 

 

 きりたんの言葉に竜はテレビから顔を逸らしながら言う。

 

 動画用とプライベート用のアカウント。

 大変そうに思えるかもしれないが、動画を撮影していないときに快適に遊ぶためには必要なことなので、こればかりは仕方のないことだった。

 

 そして、きりたんはログインを終えてファンタシースターオンライン2を起動した。

 

 

「オープニングとかは飛ばしちゃっても良いですよね。」

「そうだな。俺もオープニングとかはそこまで興味ないし」

 

 

 オープニングが始まるときりたんはコントローラーを操作してオープニングをスキップする。

 竜もとくには気にならなかったようで、とくに文句を言うことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第141話



UAが33000を越えたので番外話のアンケートを始めます。

UAが36000にいったら締め切りますので、それまでに投票はしてください。




 

 

 

 

 “ファンタシースターオンライン2”、通称PSO2、もしくは“ぷそ2”と呼ばれるゲームで、プレイヤーはログインをする際に割り振られた宇宙船で活動をして様々な惑星に降り立って冒険をしていくアクションゲームだ。

 ちなみに最初に割り振られた宇宙船以外のプレイヤーとの交流は基本的に不可能で、一緒にパーティーを組んで冒険に行くのは同じ宇宙船に割り振られたプレイヤーだけとなる。

 とはいっても後から別の宇宙船に移動することは可能なので、うっかりフレンドのいる宇宙船と違うところに行ってしまったとしても合流することは可能である。

 

 

「というか男性キャラを使ってるんだな」

「ええ。やっぱり武器を持って戦うなら男性でないと」

 

 

 きりたんの操作するキャラクターを見て竜は呟く。

 操作するキャラクターを自分自身の性別とは違うものにするのは別段珍しいことではないが、それでもきりたんのような小学生の女の子が男性キャラを使っているということが意外だった。

 

 

「どうします?まずは戦闘でも見ますか?」

「それもいいけど、まずは装備について教えてくれないか?」

 

 

 アクションゲームの醍醐味の1つといえばなんと言っても戦闘。

 きりたんが竜に最初に戦闘を見るかを尋ねると、竜は少しだけ考えてまずは装備を見せてほしいと答えた。

 戦闘に行くと答えるとばかり思っていたきりたんは意外そうな表情になりつつも、メニューを開いて装備を見せた。

 

 

「私のクラスは“エトワール”っていう上位クラスですからね。普通のクラスとはちょっと違うんですよ」

「そうなのか?」

 

 

 きりたんの言葉を聞きながら竜は開かれた装備の画面を見る。

 見たところ武器の名前の後ろには『+35』、防具であるユニットの名前の後ろには『+10』という数字がついていた。

 武器やユニットの良し悪しなんかは竜には分からなかったが、それでも表示されている星の数から結構なレアリティだということが分かる。

 

 

「この『+○○』っていうのは強化した回数とかそんなところか?」

「はい。そうですね。一応、どれも最後まで強化は終わっています」

 

 

 『+○○』という数字が強化を表しているのだろうと当たりはつけているが、竜は念のためにきりたんに確認をする。

 竜の言葉にきりたんはうなずいて肯定した。

 なお、ファンタシースターオンライン2で武器の強化は他の武器を合成しての強化で失敗することはないのだが、ユニットの強化に関しては素材となるアイテムを消費して確率で強化をするというものになっている。

 つまりはユニットに関しては強化に失敗することがあり得るということである。

 ちなみに強化に失敗すると『+○○』の数字が減って強化の段階が下がってしまうので、可能な限りは失敗したときのマイナスを軽減するアイテムや、強化成功率を上げるアイテムを使った方が良いだろう。

 

 

「へぇ、ちゃんと武器によって見た目も変わるんだな。この辺りはモンハンとほとんど同じか」

「まぁ、モンハンよりはグラフィックが悪いですけどね」

 

 

 きりたんが武器を持ち帰ることによって武器の見た目が変化するのを見ながら竜は言う。

 最近のゲームではほとんどあり得ないことだが、ゲームによっては武器を持ち変えても見た目が変わらないこともあるのだ。

 

 

「他には見たいものはありますか?」

「そうだな・・・・・・。とりあえずは今のところは大丈夫かな」

「そうですか。では、さっそく戦闘の方に行きましょう」

 

 

 一先ずは竜の気になることもなくなったようで、きりたんの言葉に竜は首を横に振って答えた。

 そしてきりたんは適当なクエストを選択して移動用の小型宇宙船、キャンプシップに移動する。

 次にきりたんが竜に見せるのは戦闘。

 ややレベル上げ中毒の気がある竜はきりたんの言葉にワクワクとしながらテレビ画面を見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第142話

 

 

 

 

 きりたんの操作するクラス“エトワール”のキャラクターによってモンスターたちが蹂躙されていく。

 レベルにあった難易度に挑んでいればそんなことは滅多に起きないのだが、きりたんは格好をつける為だけに2つほど低い難易度に来ていた。

 

 持ち手の前後に刃のついた武器“ダブルセイバー”が振るわれることによって無数の光剣が発生してモンスターたちを切り刻む。

 

 両手に1本づつ剣を持った双剣“デュアルブレード”がモンスターを切り裂いたかと思えば1振りの巨大な剣へと合体してモンスターを一刀のもとに切り裂く。

 

 T字型ではないハンマーのような短杖“ウォンド”が光を発しながらモンスターを吹き飛ばすと追撃をするように光線がモンスターを撃ち抜く。

 

 次々と繰り出される攻撃と、倒されていくモンスターたちに竜は楽しそうにテレビ画面を見ていた。

 

 

「おー!」

「ふふふふ、どうですか?」

 

 

 モンスターが倒されるたびに聞こえてくる竜の声にきりたんは自慢気に言う。

 そもそもとして、竜のことを“ワンキル男”と言って嫌そうにしていたのに普通にプレイして見せていることに違和感を感じるかもしれないが、これには簡単な理由があった。

 

 まず、前提としてきりたんは他の人よりも自分の方がゲームなどは上手いと思っており、自分より上手いと認めたか一緒にプレイしていて楽しいと思える相手以外には基本的にクソガキムーブをする。

 まぁ、そのせいで最終的に敗北するまでがきりたんの動画での様式美になっているのだが。

 

 閑話休題(それはともかくとして)

 

 今回は竜が気になっていたゲームと言うことで、きりたんに聞くような形で話しかけていた。

 このことからきりたんの中では、少なくとも“ファンタシースターオンライン2”に関しては自分の方が上だという構図になる。

 そしてプレイして見せれば竜のリアクションがとても心地よいものだったために、気分よく解説などをするようになったのだ。

 

 これが、きりたんが普通に竜にプレイしているところを見せた理由だった。

 

 

「100000とか普通にデカいダメージが出てくるのは爽快感があって良いな!」

「そうでしょうそうでしょう!この爽快感はモンハンとかとは違ったものがあるので私も気に入っているんですよ!」

 

 

 竜の言葉にきりたんはニンマリと嬉しそうに笑みを浮かべながら答える。

 その姿からは竜のことを“ワンキル男”と言って嫌そうにしていたとはとても思えなかった。

 不意にきりたんのお腹が小さく鳴る。

 時計を見ればたしかに小腹が空いてくるような時間を指し示していた。

 

 

「少しお腹が空きましたね。ずん姉さまのずんだ餅があるので食べましょうか」

「生徒会長の?それって勝手に食べて大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。暇があれば勝手に作ってるんで少しでも消費したいんです」

 

 

 ちなみに、東北家にはずんだ餅が基本的に常備されているのだが、これはきりたんの言っているようにずん子がいつの間にか作ってしまっているからである。

 ずん子にとってずんだ餅を作るのはもはや日常なので、これに関しては誰に言われても止まることはないだろう。

 

 そして、きりたんはずんだ餅をいくつかお皿に乗せて台所から戻ってきた。

 

 

「へぇ、これを生徒会長が作ってるのか」

「そうですよ。あ、すみませんがそこに座ってもらえますか」

「ん?ああ、分かった」

 

 

 お皿に乗ったずんだ餅はとても美味しそうで、とても手作りには見えなかった。

 ずんだ餅を見ていた竜にきりたんは座る場所を指示する。

 きりたんの言葉に竜は不思議そうに首をかしげたが、とくに断る理由もなかったので指示された場所に座った。

 

 そして、きりたんはずんだ餅を座った竜の隣に置く。

 

 

「よ、っと・・・・・・」

「ちょ、きりたん?!」

 

 

 ずんだ餅を置いたきりたんは、とくに躊躇うことなく胡座(あぐら)を組んでいた竜の膝(●●●)に座った。

 いきなりのきりたんの行動と、膝に感じるきりたんの重さと体温に竜は驚いて声をあげる。

 

 

「じゃ、私はゲームを続けるんでずんだ餅を私に食べさせてください」

 

 

 驚く竜のことなど知ったことかと言わんばかりの態度できりたんはゲームを再開する。

 竜が東北家に着いたときの態度はなんだったのだろうかと思える光景がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第143話

 

 

 

 

 口を開いたきりたんの小さな口に緑色の和菓子、ずんだ餅を運ぶ。

 口の近くに運ばれたずんだ餅に気づいたきりたんはテレビ画面を見ながらずんだ餅にかじりつき、ずんだ餅を少しだけ噛み千切った。

 もにゅもにゅと動くきりたんの口を見ながら、次にジュースの入ったコップを手に取りストローをきりたんの口に近づける。

 口の中のずんだ餅を飲み込んだきりたんはストローを咥えてジュースを飲んだ。

 

 

「んく、んく・・・・・・、ぷはぁ」

 

 

 きりたんがジュースを飲むのを止めたのを確認した竜はずんだ餅を取り、今度は自身の口に運んだ。

 柔らかな餅の弾力とずんだの甘さが口の中に広がり、気がつけば竜は手に取ったずんだ餅をペロリと食べてしまっていた。

 

 

「ずん姉さまのずんだ餅はそこら辺で売っているものよりも美味しいですからね。味わって食べると良いですよ」

「そうだな。ありがたくそうさせてもらうよ」

 

 

 テレビ画面を見ながらきりたんは竜がずんだ餅を食べたことに気がついたのか、テレビ画面から目線を逸らすことなく言った。

 きりたんの言葉に竜は次のずんだ餅を手に取りながら答えるのだった。

 

 

「ところで・・・・・・、なんで膝に座ってるんだ?」

「だって他の場所だと食べさせてもらいにくいじゃないですか」

 

 

 きりたんがいきなり膝に座ったことによって生じた驚きから回復した竜は努めて冷静にきりたんに尋ねる。

 

 膝に感じる子供特有のやや高めの体温と、プニプニとした柔らかな感触。

 そして茜や葵よりも軽いその体重。

 

 それらのことからきりたんが膝に座っていることは苦ではなかったのだが、それでも気になったために竜はきりたんに尋ねたのだ。

 

 竜の言葉にきりたんはあっさりと竜の膝に座った理由を答えた。

 

 

「・・・・・・そうか」

「そうなんです」

 

 

 あまりにもきりたんがアッサリと理由を言ったため、竜は少しだけ脱力して呟いた。

 まぁ、仮に竜がきりたんに膝の上から退くように言ったとしても、きりたんがそれに従うかどうかは不明なのだが。

 

 きりたんの答えに脱力した竜は、ずんだ餅によって少しだけ汚れた手をウェットティッシュでキレイに拭き取る。

 キレイに拭き取ったことによって手についていたずんだが他のものについてしまう心配がなくなった。

 

 そして、キレイになった手を竜はきりたんの頭の上にポムリと乗せた。

 竜の手が自身の頭の上に乗っているというのにきりたんはとくに反応らしい反応も見せない。

 

 

「すごいサラサラだな」

 

 

 きりたんの髪の毛を手櫛(てぐし)で触りながら竜は呟く。

 竜に髪の毛を触れられ、きりたんはピクリと小さく体を揺らすが、とくになにかを言うことはなかった。

 

 きりたんの髪の毛はとてもサラサラとしており、竜の膝に座っているということもあってきりたんの頭はとても触りやすい位置にあった。

 

 

「あの、ずんだ餅をお願いします」

「ん、分かった」

 

 

 竜がきりたんの頭を撫でていると、不意にきりたんがずんだ餅を要求してきた。

 きりたんの言葉に竜は撫でていない方の手でずんだ餅を手に取り、きりたんの口へと運んだ。

 運ばれてきたずんだ餅にかじりつきながら、きりたんは徐々に体から力を抜いて竜の方へと寄りかかっていく。

 膝に座っていただけよりも更に密着してきたきりたんに竜は少しだけ驚くものの、とくに怒ったりする理由もなかったためきりたんの好きにさせていた。

 もしも自分に妹がいたのならばこんな感じなのだろうかと考えながら竜はきりたんの頭を撫でる。

 

 

「・・・・・・にぃ・・・・・・」

「うん・・・・・・?」

 

 

 ふと、きりたんが小さくなにかを呟いたような気がして竜はきりたんを見る。

 そんな竜の視線から逃れるようにきりたんは“ファンタシースターオンライン2”で大きな必殺技を連発するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第144話

 

 

 

 

 きりたんが完全に脱力して竜に寄りかかりながらゲームをしていると、イタコ先生との話が終わったのかゆかりたちが居間に戻ってきた。

 居間に戻ってきたゆかりたちは竜の膝の上にきりたんが座っていることに気がつくと、驚いた表情で竜ときりたんを交互に見る。

 まぁ、ゆかりたちが困惑するのも仕方がないだろう。

 玄関で出会ったときにはかなり竜に対して敵対的だったのに少し目を離していた内に膝に座るまでに仲良くなっていたのだから。

 

 

「あ、おかえりなさいです」

「イタコ先生との話は終わったみたいだな」

 

 

 出現しているモンスターを倒し終えたきりたんはゆかりたちが戻っていることに気がつき、声をかける。

 きりたんの言葉にテレビ画面の方を見ていた竜も同じようにゆかりたちに気がついた。

 

 

「え、ええ。さすがに人数が人数でしたので少し時間がかかってしまいましたが・・・・・・」

「それぞれが聞きたいことを聞けたなら良いんじゃね?」

 

 

 イタコ先生との話が予想以上に長引いてしまったことにゆかりは申し訳なさそうに言う。

 ゆかりの言葉に竜はヒラヒラと手を振りながら答えた。

 不意に、きりたんが竜の腕をクイクイと引っ張る。

 

 

「すみません。トイレに行きたいです」

「ん、ああ。行っておいで」

 

 

 きりたんの言葉に竜は腕を左右に広げてきりたんが立ち上がりやすいようにする。

 しかしきりたんは立ち上がらず、広げた竜の腕を引っ張って自身の体を抱えるような位置にまで移動させた。

 きりたんの行動に竜は首をかしげてきりたんを見る。

 

 

「どしたよ?」

「トイレまで運んでください」

「・・・・・・はい?」

 

 

 見上げるような形で竜を見たきりたんは、どうしてほしいのかを竜に伝えた。

 きりたんの言葉に竜は首をかしげて聞き返した。

 

 竜が聞き返したことが少しだけ不満なのか、きりたんは竜の腕を更に強く抱き締めた。

 

 

「・・・・・・なにがあったんでしょうかね?」

「うちにはさっぱり分からんわ」

「ボクもぜんぜん分かんないよ」

「んー、でも2人が仲良くなれたのなら良いことなんじゃない?」

「いや、あの、仲良くなったって言うレベルなんでしょうか?」

 

 

 竜ときりたんのやり取りを見ながらゆかりたちは小さな声で話し合いをする。

 話し合いの内容は目を離した隙に急に仲良くなっている竜ときりたんのことだ。

 2人がいきなり仲良くなったことに対して、マキ以外の全員が首をかしげており、マキは竜ときりたんが仲良くなっていることを喜んでいた。

 

 

「・・・・・・はぁ。ちょっと立つから1回どいてくれ」

 

 

 ジッと膝の上に座るきりたんに見つめられ、竜は小さくため息を吐いた。

 そして、きりたんが膝の上からどき、竜は立ち上がる。

 立ち上がった竜の前にきりたんは移動し、抱き上げやすいように両腕を上げてTの字のような体制になった。

 

 

「東北家のトイレの場所を知らな・・・・・・」

「私が案内しますのでお願いします」

 

 

 せめてもの抵抗としてトイレの位置が分からないと竜は言ったが、言葉の途中できりたんによってその言い訳も潰されてしまい、きりたんを抱き上げるしか選択肢がなくなってしまった。

 観念した竜はきりたんの脇の下に腕を通して腕で輪っかを作り、そこにきりたんを引っかける形できりたんを抱き上げた。

 

 

「それではトイレに行きますよー」

「あいよ」

 

 

 竜に抱き上げられたきりたんは足をプラプラと揺らしながら竜に言った。

 きりたんの言葉に竜は仕方がないといった様子で、きりたんの指示のもとトイレへと向かっていく。

 そんな竜ときりたんの姿をゆかりたちはただただ見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第145話

 

 

 

 

 きりたんの案内のもと、竜は東北家のトイレに到着した。

 さすがにきりたんでもトイレの中へと運ばれるのは恥ずかしいようで、竜の腕から降ろしてもらおうとワチャワチャと体を動かし始めた。

 きりたんが動き出したのを確認した竜はきりたんを床にそっと降ろす。

 

 

「ありがとうございました。ちょっと待っててください」

 

 

 一方的にそう言ってきりたんはトイレの中へと入っていった。

 きりたんがトイレの中に入っていくのを見送った竜は軽く肩を回す。

 そして、竜はキョロキョロと周囲を見渡した。

 東北家の家に限らず初めて来た家というのはいろいろと気になるもの。

 きりたんに待っているようには言われたので移動することはできないが、その代わりとして周囲を見渡してどんなものがあるのかを竜は見ていた。

 

 

「やっぱり和風建築ってのは良いな」

 

 

 自分の家が和風建築ではないことから新鮮さを感じている竜はしみじみと呟く。

 もともと、竜は和風のものを好むことが多く、急須で淹れたお茶やお煎餅などを食べながらテレビや本をのんびりと見たりするのも好きなのだ。

 といってもお茶を飲むのは基本的に冬、もしくは早くても秋の終わり近くのやや寒くなってきてからなため、それ以外の季節ではほとんど関係ないのだが。

 

 

「この家のことを気に入ってくれたのでしたら私としても嬉しいですわ」

「おわ?!い、イタコ先生?!」

 

 

 キョロキョロと周囲を見ていた竜は不意にかけられた声に驚いて肩をビクリと震わせる。

 人の家の中を見回すのがあまり良いことではないと理解しているため、竜は恐る恐ると声をかけてきた人物、イタコ先生の方を見た。

 

 

「えっと、すみません」

「いえいえ、盗もうだとかそういった悪い視線でしたら咎めましたが、公住くんは純粋に家のことを見ていたようなので構いませんわ」

 

 

 イタコ先生の姿を確認した竜は少しだけ目を泳がせてから頭を下げた。

 頭を下げた竜にイタコ先生はとくに怒っているわけではないと伝える。

 

 

「そういえば公住くんはどうしてここにいますの?他のみんなは居間にいるようですけど」

「あ、俺はきりたんを運んできたので」

「きりちゃんを、ですの?」

 

 

 イタコ先生は竜がなぜトイレの近くにいるのかが気になり、理由を尋ねる。

 まぁ、その理由を聞いてもどういうことなのかいまいち分からなかったのだが。

 イタコ先生が竜の答えに首をかしげていると、トイレから水の流れる音が聞こえてきた。

 

 

「あ、タコ姉さま」

「なるほど、きりちゃんが入っていましたのね」

「うん?」

 

 

 トイレから出てきたきりたんはイタコ先生に気がついて名前を呼んだ。

 きりたんがトイレから出てきたのを見たイタコ先生は竜の言っていた意味をようやく理解できたのかしきりにうなずいた。

 

 きりたんの呼んだ“タコ姉さま”という呼び方と、イタコ先生の呼んだ“きりちゃん”という呼び方。

 どちらも最近聞いたような気がした竜はどこで聞いたのかを思い出そうと首をかしげる。

 

 

「どうかしましたか?」

「ん、いや、なんでもない」

 

 

 首をかしげている竜の姿を見たきりたんは不思議そうに尋ねる。

 きりたんに尋ねられ、竜は首を軽く横に振って考えるのを一旦止めた。

 そして、居間に戻るためにきりたんを持ち上げて今度は肩に乗せた。

 

 

「おー、いつもの視点より高いです!」

「それはよかったなー」

「・・・・・・ちゅわぁ」

 

 

 おとなしく竜の肩に乗ったは普段よりも高い場所から見える景色に楽しそうな声をあげる。

 楽しそうなきりたんの声が聞こえた竜は小さく笑みを浮かべながら答えた。

 

 仲の良さそうな2人の姿にイタコ先生はポカンとした表情を浮かべてしまう。

 ずん子からきりたんが竜のことを嫌っているようだと聞いていたため、きりたんが竜に肩車をされている姿を見るとは思いもしなかったのだ。

 

 そして、イタコ先生が呆けている隙にイタコ先生の中からキツネが現れて竜に飛び付いた。

 飛び付いてきたキツネの姿に竜は少しだけ驚いたが、優しくキツネの頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第146話

 

 

 

 

 竜に飛び付いてきたキツネの姿にきりたんは少しだけ驚いた表情を浮かべるが、落ちそうになったわけでもなかったのでとくにはなにも言わなかった。

 竜ときりたんが仲良くなっていることに呆けていたイタコ先生は竜にキツネが飛び付いていることに気がつくと、諦めたようにため息を吐いた。

 

 

「はぁ、またですの?」

「なんというか・・・・・・、すみません」

 

 

 とくに竜が悪いというわけではないのだが、それでも竜は申し訳なく感じてしまってイタコ先生に頭を下げる。

 そんな竜のことなど気にもせずにキツネはスリスリと竜の体に自身の体をすり付けるのだった。

 

 

「いえ、むしろいる場所がハッキリとしてるだけまだマシだと思うことにしますわ。家にいる間は任せしてしまってもいいかしら?」

「イタコ先生が良いなら自分は構いませんけど・・・・・・」

「コンッ!」

 

 

 フルフルと頭を横に振って思考を切り替えてイタコ先生は言う。

 キツネがどこかに行ってどこにいるかわからなくなるよりは竜の近くにいて好きにさせている方が所在も把握できるのでまだ安心ができる。

 そう考えることにしたイタコ先生は竜に尋ねた。

 イタコ先生の言葉に竜はチラリとキツネを見て答える。

 その間もキツネを撫でる手は止まっておらず、キツネは嬉しそうに竜に撫でられながら鳴き声を上げた。

 

 

「それじゃあ、こちらの家にいる間は預かっていますね」

「ええ、お願いしますわ。この家の中でしたら“結界”も張ってありますのでよっぽど強い霊でもない限り安全ですし」

「家の“結界”を破ってくる霊なんて私も見たことがないので心配することはないですよ」

 

 

 竜の言葉にイタコ先生はうなずく。

 それと同時にイタコ先生の髪の毛の色が白銀から黒色へと変わり、頭から生えていたキツネ耳が消えた。

 どうやら先ほどまではまだイタコ先生とキツネとの間に繋がり(パス)があったようで、いま完全に繋がりを一時的に解除したようだ。

 家に張られている“結界”があればなにも心配入らないときりたんは言う。

 きりたんの言葉が竜にはフラグのようにも思えたが、とくにできることもないためになにも言わなかった。

 

 

「そういえばタコ姉さまはどうしてこちらに?」

「あ、そうでしたわ。ちょっと前に預かったお面の様子を見に行こうと思っていましたの」

 

 

 トイレの近くで話し込んでしまっているが、イタコ先生はトイレに入ろうとしていたのではないのか。

 そう考えたきりたんはイタコ先生に尋ねる。

 きりたんに尋ねられてイタコ先生は元々の目的を思い出したのか、向かう予定だった部屋を指差した。

 

 

「お面って・・・・・・、ああ、あれですか」

「ええ、とくには強い力も感じなかったから持ち主さんの気のせいだとは思うのですけど、一応はね?」

 

 

 イタコ先生の言うお面を思い浮かべたきりたんは納得したようにうなずく。

 東北家は代々強い霊力を持っている者が多く、その関係で徐霊などの副業をして生活をしていた。

 イタコ先生の言うお面もそれ関係で持ち込まれたものだった。

 

 お面がどんなものかを知らない竜は2人の言葉に首をかしげる。

 

 

「霊関連ならこの子は一緒にいた方が良いのでは?」

「いえ、本当に強い力もなにも感じなかったので大丈夫ですわ」

 

 

 強い力を感じなかったとは言っても油断は禁物ではないのかと考えた竜は体にくっついているキツネを指差しながらイタコ先生に尋ねる。

 竜の言葉にイタコ先生はヒラヒラと手を動かしながら答えた。

 イタコ先生が大丈夫だと言うのなら本当に大丈夫なのだろう。

 そう考えた竜はお面が保管されているという部屋にイタコ先生が入っていくのをきりたんとキツネと一緒に見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第147話

 

 

 

 

 イタコ先生がお面の保管されている部屋に入っていくのを見届けた竜は、肩車をしているきりたんの位置を調整するように軽く上に跳ねる。

 それによってきりたんの体は少しだけ上に跳ね、軽い衝撃と共に竜の肩に着地する。

 突然の衝撃にきりたんは驚いた表情を浮かべるが、肩車をしている竜には見えていなかった。

 

 

「んじゃ、居間に戻るか」

「ですね。さぁ、行くのです!リョウンゲリオン発進!」

「コンッ」

 

 

 イタコ先生が入っていった部屋から視線を戻し、竜は居間に向かって歩きだす。

 歩き始めた竜の頭をペシペシと軽く叩きながらきりたんはどこかで聞いたことのあるような名前で竜を呼ぶ。

 竜に飛び付いていたキツネはイタコ先生と話す前の時のように竜の服の中へと潜り込み、胸元からヒョコリと頭を出していた。

 

 

「それにしても、タコ姉さまのキツネがそこまで懐いているのは意外でしたね」

「うん?そんなに珍しいことなのか?」

 

 

 イタコ先生とずん子も驚いてはいたが、それは竜とキツネが一緒にいたことが理由だと思っていた竜はきりたんの言葉に不思議そうに聞き返す。

 竜の言葉にきりたんはチラリと竜の胸元から頭を出しているキツネを見る。

 

 

「そうですね。というか、そもそもとしてこの子に気づける人自体がかなり希少なんで」

「あー、イタコ先生の使ってる“霊術”で気づけないのか」

「ですです」

 

 

 キツネが懐いていることが珍しいとかそれ以前にイタコ先生の“霊術”を突破できる人の存在がそもそも珍しい。

 事実として、きりたんが知っている中でイタコ先生の“霊術”を突破できるのは竜以外には両親くらいしか記憶にはない。

 ちなみに、東北家の両親はそれぞれ霊能者と“いたこ”として全国を巡ったり、ときおりテレビに出演していたりする

 とくに夏場はテレビ番組によく呼ばれているため、学校でも話題になるのだ。

 

 

「まぁ、それでもここまでくっついているのはタコ姉さま以外には本当に珍しいですね。私やずん姉さまも撫でたりはできますけどそこまでですし」

「そうなのか」

 

 

 普通にくっつくどころか服の中に入り込んで密着をする。

 きりたんやずん子ですら撫でるくらいしかできないというのにここまで懐くとなれば驚き以外にないのだ。

 きりたんの言葉に竜はキツネの頭を撫でながら答えた。

 

 

「っと、ただいま戻りましたー」

「戻りました!」

「あら、おかえりなさい。2人ともとても仲良くなったのね?」

 

 

 居間に入るときにきりたんが頭をぶつけてしまわないように中腰になりながら竜は居間に入る。

 ゆかりたちと話をしていたのか居間にはずん子の姿もあった。

 ずん子は居間に戻ってきた竜ときりたんの姿を見ると嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 

 

「って、あら?」

「あ、イタコ先生に頼まれたんで一緒にいるんです」

「私たちよりも懐いていますよね」

 

 

 居間に戻ってきた竜ときりたんを見たずん子は、竜の胸元から見えるキツネの姿に気づいて不思議そうに竜とキツネを交互に見る。

 ずん子の視線に気がついた竜は、自身の胸元にキツネが入っている理由を答える。

 竜の言葉にずん子は納得し、竜たちが何について話しているのかが分からない首をかしげた。

 

 

「あの、なんの話をしているのですか?」

「一緒にいるとか、懐くとか言うとったけど生き物なんか?」

 

 

 竜たちの話の内容が気になったのか、ゆかりは尋ねる。

 さらに竜たちの会話の内容が聞こえていたのか茜も尋ねた。

 

 2人の言葉に竜はチラリとずん子を見る。

 キツネに関して話して良いのかが分からないため、竜はずん子が口を開くのを待った。

 

 

「そうね・・・・・・。聞いた内容を誰にも話したりしないって約束できるのなら教えてあげるわね?」

 

 

 少しだけ脅すように威圧感を放ちながらずん子は言う。

 そんなずん子の様子に軽い調子で聞いていたゆかりたちは驚いたように顔を見合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第148話



なんとなく納得のいかない出来・・・・・・




 

 

 

 

 少しだけ脅すようなずん子の言葉にゆかりたちは顔を見合わせる。

 ずん子が脅すように言った理由を理解した竜ときりたんは揃ってキツネを見る。

 竜ときりたんに見つめられ、キツネは嬉しそうに体を竜にすり寄せた。

 

 

「誰にも話してはいけないって、さすがにここにいる人たちとは話しても大丈夫なんですよね?」

「はい、それは大丈夫ですよ。でもこの家以外ではなるべく話さないようにしてほしいですけどね」

 

 

 ゆかりの質問にずん子は東北家以外ではなるべく話さないようにしてほしいと答える。

 ずん子の言葉にゆかりたちは顔を見合わせ、コクリとうなずいた。

 

 

「分かりました。ここにいる人以外には決して話しません」

「せやから話してくれへんか?」

「話の内容は分からないけど皆と話せるならまだ大丈夫だと思うし」

「一応、私たちも口は固い方だと思ってるし。大丈夫だよ」

「それに竜先輩との共通の秘密ってなんだか良い気がしますしね」

 

 

 そう言ってゆかりたちはずん子から詳しく話を聞くことを決めた。

 ゆかりたちの言葉にずん子は納得したようにうなずき、少しだけ発していた威圧感を止める。

 

 

「そうですか。それじゃあちゃんと話しましょう。えっと、まずみんなは幽霊とかって信じているかしら?」

「幽霊、ですか?」

「んー、うちは見間違いとかだと思っとるけど」

「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ、幽霊なんて寝ぼけた人が見間違えたんだよ!」

「テレビとかで取り上げられているのは見るけど、本当だとはとても思えなかったかなぁ」

「これまで幽霊なんて見たことありませんでしたからちょっと信じられないですね」

 

 

 ずん子の言葉に1人を除いてゆかりたちは幽霊の存在を信じていないと答える。

 葵は幽霊などのホラー系が苦手で、そのためゆかりたちよりも大きく反応をしてしまうのだ。

 ゆかりたちの言葉にずん子はうなずき、竜の胸元にいるキツネを捕まえた。

 

 

「信じられないかもしれないけど、幽霊は存在しているの。この子みたいにね。まぁ、この子は幽霊と言うよりも妖怪なんだけどね?」

「ええ?!」

「い、いきなりキツネが現れた?!」

「なんやこれ?!」

「うわぁ、とってもキレイなキツネだね」

「なるほど。キツネの幽霊ってことなんですね?」

 

 

 ゆかりたちに見やすいようにキツネを移動させながらずん子は言う。

 それと同時にゆかりたちにもキツネの姿が見えるように“霊術”を使う。

 “霊術”によって見えるようになったキツネがいきなり現れたことによって、ゆかりたちはほぼ強制的に幽霊の存在を信じさせられることになった。

 

 

「ゆ、幽霊が本当にいるなんて・・・・・・」

 

 

 ホラー系が苦手な葵は幽霊なんていないと思っていたかったのに、幽霊がいるというのにたしかな証拠を見せられて泣きそうな表情になっていた。

 ホラー系が苦手な人間にとって幽霊の姿がキレイなキツネだろうが血まみれの人間だろうがそこまで関係がなく、どちらにしても幽霊というだけで恐怖の対象でしかないのだ。

 茜の後ろに隠れながら葵はビクビクとキツネを見る。

 

 

「クー!」

「うひゃうっ?!」

 

 

 キツネがいきなり鳴き声を上げたことに驚いた葵はビクリと肩を震わせる。

 そんな葵のことなど気にもせずにキツネは竜のもとへと大きく跳んで移動した。

 

 

「この子はイタコ姉さまの子なんだけど、公住くんにとっても懐いちゃったのよね」

「あー、竜はなぜか動物に好かれるからなぁ。幽霊もそこに含まれるんは予想外やったけど」

 

 

 竜のもとへと移動したキツネの姿にずん子はクスクスと笑いながら言う。

 普段から竜が動物に好かれることを知っていた茜は、そこに幽霊までも含まれるとは思わなかったと苦笑しながら呟いた。

 

 そんな茜たちの視線を受けながら竜はキツネのことを優しく撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第149話

 

 

 

 

 竜の撫でているキツネを見たゆかりたちはあらためてずん子に視線を戻す。

 幽霊という存在については分かったが、どうして東北家以外では話すことを禁じているのか。

 あのキツネが幽霊だというのであれば基本的には見えないのだから話しても問題はないのではないか、とゆかりたちは不思議に思っていた。

 

 

「あの、竜くんの撫でているキツネが幽霊とのことですけど・・・・・・。普通の人に見えないのなら東北家(ここ)以外で話しても良いんじゃないんですか?」

「それがそうもいかないの・・・・・・」

 

 

 竜に撫でられて嬉しそうにしているキツネの姿を見て怖さが少しだけ収まったのか、葵はずん子に尋ねる。

 ゆかりたちもちょうど同じことを考えていたために葵の言葉に同意するようにうなずく。

 葵の言葉にずん子は頬に手をあてながらため息を吐く。

 ため息を吐いたずん子の姿にゆかりたちは顔を見合わせる。

 

 

「それは、どういう・・・・・・?」

「そうね・・・・・・、九尾の狐って、知っているかしら?」

「あれやろ?尻尾が9本ある狐のことやろ?」

「お姉ちゃん、たしかにそうだけどそのまますぎるよ・・・・・・」

「えっと、たしか栃木県で討伐されていて、殺生石っていう石に封印されているんだったかな?」

「あとは安倍晴明の母親、でしたっけ?」

 

 

 九尾の狐。

 

 その名前に聞き覚えのない日本人はほとんどいないだろう。

 とくに有名なものでは“NARUTO”に出てくる九喇嘛(くらま)や“ポケットモンスターシリーズ”に出てくるキュウコンなどなど、モチーフとして使われているものがいくつも存在している。

 ちなみに、マキの殺生石に封印されているというものは間違いで、正しくは死んだ九尾の狐が大きな石に変わり、周囲に毒気を撒いて生き物を殺してしまうその石のことを殺生石と呼ぶようになった、というのが本当の伝承である。

 

 

「それだけ知っているなら充分かしら?とにかく、九尾の狐はそれくらい有名な存在だってことは分かった?」

「ええ、それはまぁ・・・・・・」

「それは分かったんやけど・・・・・・、それがいったいどうしたんや?」

「っていうか、お姉ちゃん。先輩なんだから敬語を使おうよ・・・・・・」

「尻尾が9本もあったらモフモフがスゴそうだよね」

「でも抜け毛もスゴそうじゃないですか?」

 

 

 ゆかりたちが九尾の狐の有名さを理解しているかをずん子は確認する。

 ずん子の質問の意味が分からないままゆかりたちはうなずく。

 

 

「それじゃあ教えるけど・・・・・・、竜くんに懐いているあの子、九尾の狐なの」

「・・・・・・はい?」

「・・・・・・なんて?」

「・・・・・・え?」

「そうなんだー?」

「マキ先輩は驚きませんね?」

 

 

 竜に撫でられて喜んでいるあのキツネが九尾。

 ずん子の言葉にゆかり、茜、葵の3人はポカンと呆けた表情になる。

 なぜかマキとあかりは驚いていないが、おそらくは九尾の狐の話をし始めたことから推測はしていたのだろう。

 

 

「え、でも、あのキツネ、尻尾は1本ですよ?」

「せやせや!あれじゃあ一尾の狐やん?!」

「一尾の狐って、それ普通の狐なんじゃない?」

 

 

 竜にじゃれつくキツネを指さしてゆかりは尋ねる。

 ゆかりの言葉に続けて茜もツッコミをいれる。

 茜のツッコミにマキは首をかしげながら言った。

 

 

「本来は九尾なの。今は力が弱まってしまっていて・・・・・・、だから他の霊能者に(さら)われてしまうかもしれないのよ。九尾っていうだけで狙ってくるような悪い霊能者もいるわけだから・・・・・・」

「そうなんですね・・・・・・」

 

 

 

 ゆかりたちの言葉にずん子は狐の尻尾が1本な理由を答える。

 事実として、今のところ無理やりキツネを拐おうとするような霊能者はいなかったが、それでも大金を積んで九尾を手に入れようとする霊能者はいたのだ。

 そのことを思い出してしまったずん子は嫌そうに顔をしかめる。

 

 ずん子の言葉と表情からキツネのことを大切にしているのだと理解したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第150話


アンケートがもうすぐで締め切りです。

投票がまだの人はお早めにお願いします。




 

 

 

 

 東北家の白銀色のキツネの正体が九尾の狐で、その力を狙う人間がいる。

 ずん子から聞かされた事実にゆかりたちは東北家以外ではこの話をしないようにしようと決めた。

 

 

「そういえば、あの子ってなんて名前なんですか?」

「あー・・・・・・。ごめんなさい、あの子の名前はイタコ姉さましか知らないの」

「へ?なんでイタコ先生しかあのキツネの名前を知らないんや?」

 

 

 キツネを指さしながらゆかりは名前を尋ねる。

 今後も会うことがあるかもしれないのだから名前を知っていて損はないと思ってずん子に尋ねたのだが、ずん子は申し訳なさそうに謝りながら答える。

 ずん子の言葉に茜は不思議そうにさらに尋ねる。

 

 

「妖怪や幽霊にとって名前はとっても重要なものなの。名前を知ることが出来れば簡単な命令を聞かせたりすることもできるのよ」

「なるほど、守るために必要なことなんですね」

 

 

 名前というものは特別な力を持っている。

 幽霊や妖怪ではなくても名前を知られるだけで呪詛をかけられたりすることもあるのだ。

 そのため、キツネが万全の状態になるまでは名前で呼ばないようにするために、イタコ先生はキツネの名前を誰にも教えていないのだ

 

 

「他に聞きたいことはないかしら?」

「えっと、とりあえずは大丈夫です」

「うちもとくにはないで」

「ボクも大丈夫です」

「私もないかなぁ」

「今のところは私も大丈夫ですね」

 

 

 ゆかりたちを見てずん子は他にも聞くことはないかを聞く。

 ずん子の言葉にゆかりたちは少しだけ考えて答えた。

 

 

「あ、いつの間にかこんな時間・・・・・・」

「ほんまや。そろそろ帰らんとアカンな」

 

 

 ふと時計を見たゆかりの言葉に茜も同じように時計を見て驚く。

 時計はいつの間にか7時を指しており、東北家に着いてからかなりの時間が経っていることを表していた。

 ゆかりと茜の言葉に葵たちも今の時間を理解し、帰る準備を始めた。

 

 

「竜くん、時間が・・・・・・」

「うん?・・・・・・うお、マジか」

 

 

 キツネのことを撫でていた竜は、葵に言われて時計を見て驚いた表情を浮かべる。

 竜が驚きの声を漏らしたことが気になったのか、キツネはキョトンとした表情を浮かべて竜を見た。

 

 

「クー?」

「ああ、すまんな。そろそろ帰らないといけないんだよ」

 

 

 ペチペチと竜の膝を叩きながらキツネは鳴き声をあげる。

 キツネの放った猫パンチを受け、竜はキツネを抱き上げる。

 キツネなのに猫パンチを放つというのは不思議な感じがするが、とくにおかしなところもないため気にしなくても良いのだワン。

 竜の言葉にキツネはイヤイヤとでも言うかのように首を横に振る。

 

 

「こんな時間ですし、仕方がないですね」

「コン・・・・・・」

 

 

 居間に着いてから竜の肩から降りてゲームをやっていたきりたんは竜たちの会話が聞こえていたのかゲームを一時停止して、竜たちの方を見た。

 きりたんの言葉にキツネはしょんぼりといった様子で鳴き声を上げる。

 

 

「ちゅわ?みなさん、そろそろお帰りですの?」

「あ、イタコ姉さま。はい、もうこんな時間ですから」

 

 

 ヒョコリと居間の入り口から部屋の中を覗き込んできたイタコ先生は帰る準備をしている竜たちの姿に気づき、ずん子に声をかける。

 イタコ先生の言葉にずん子は時計を指さして答える。

 

 

「そうですのね。ではちょっとだけ待っていてほしいですわ」

 

 

 ずん子の言葉にイタコ先生はうなずくと、パタパタと早足で廊下を歩いていった。

 イタコ先生の言葉に竜たちは首をかしげつつ、自分たちが使ったコップや小皿をまとめていく。

 そして、一通りの片付けが終わったタイミングでイタコ先生は戻ってきた。

 

 

「こんな時間で危ないですからね、送っていきますわ」

 

 

 そう言ってイタコ先生は車のキーを揺らす。

 

 

「でも、この人数だと家の車じゃ乗りきれませんよ?」

「そこは2回に分けるしかないですわ。あとになる子たちは少しばかり遅くなってしまいますが・・・・・・」

 

 

 竜たちの人数を数えたきりたんはイタコ先生に尋ねる。

 東北家の車は4人乗りの軽自動車で、6人もいる竜たち全員を一度に乗せることは不可能だ。

 きりたんの言葉にイタコ先生は申し訳なさそうに竜たちを見る。

 

 

「いや、送ってもらえるだけでも助かるので文句とかはないですよ」

「せやね」

「この時間でも、ちょっと薄暗いもんね」

 

 

 申し訳なさそうなイタコ先生に竜たちは気にすることはないと答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第151話



アンケートを締め切りました。

次の番外話はヤンデレきりたんエンドとなります。

アンケートに参加していただきありがとうございました。




 

 

 

 

 イタコ先生の好意で車に乗せてもらえるということを聞き、ゆかりたちの脳内に1つの欲求が現れる。

 

 竜の隣の席に座りたい。

 

 そう考えたゆかりたちは勢いよく他の4人を視界に収めて身構えた。

 5人がいきなり身構えたことに竜は驚き、思わず固まってしまう。

 

 

「えっと・・・・・・、どうしたんだ・・・・・・?」

「ちゅわぁ・・・・・・、私、なにか余計なことを言ってしまったのかしら・・・・・・?」

 

 

 身構えるゆかりたちに竜は恐る恐る声をかける。

 ゆかりたちの様子にイタコ先生は余計なことを言ってしまったのかと不安になり、やや涙目になってしまっていた。

 

 

「ほら、マキさんはご両親が心配してしまいますから。先に送ってもらってはどうですか?私は遅くなっても大丈夫なんで竜くんと待たせてもらいますから」

「いやいや、ゆかりん。ゆかりんこそ先に送ってもらいなよ。私はお父さんに竜くんも一緒にいたことを説明する必要があるからさ」

「ほら、うちらはあれや。竜の晩御飯も作る必要があるからな。せやから後のことは任せてあかりもマキマキたちと一緒に送ってもらったらどうや?」

「そうそう。それに竜くんの家からならボクとお姉ちゃんを竜くんが送ってくれるから危険なこともないしね」

「いえいえ、それだったら私の家は竜先輩の家の目の前なわけですからイタコ先生の負担も少ないですし。私と竜先輩が一緒に送ってもらいますよ」

 

 

 バチバチと散る火花を幻視させながらゆかりたちは自分は竜と一緒に車に乗るのだと主張する。

 そのころ、5人の様子にどうしたら良いのか分からなくなっていた竜は、頭の上にキツネを乗せてきりたんを猫可愛がりしていた。

 

 

「話は平行線・・・・・・ですね」

「まぁね。分かりきってたことだけどね」

「うちも皆も、譲れんもんがあるからなぁ」

「とくにこのことに関しては、ね」

「あ・・・・・・」

 

 

 誰も譲ることはないのだろうと、分かりきっていたことではあったがあらためて再確認したゆかりたちは身構えていた体勢を解き、普通に立つ。

 不意にあかりがなにかを思いついたのか、ポンと手を叩いた。

 あかりの仕草にゆかりたちは視線を向ける。

 

 

「私が家に連絡をして私と竜先輩を乗せてもらえば────」

「それはズルいと思いますよ?!」

「それが通るなら私もお父さんに電話しちゃうよ?!」

「ずっこいわー。あかり、それはずっこいわー」

「ダメだよ、あかりちゃん。そんなズルは誰も認められないよ?」

 

 

 あかりの言葉にゆかりたちは非難をあびせる。

 あかりの思いついた方法は竜と2人でイタコ先生に送ってもらわないというもの。

 この方法はマキ自身もすでに思いついていたことだったのだが、正々堂々と決めるために言わずにいたのだ。

 まぁ、あかりは良い考えだと思ったのか普通に言ってしまったのだが。

 

 

「うにゃにゃにゃにゃにゃ・・・・・・」

「よーしよしよしよし」

 

 

 そのころ、竜にワシャワシャと撫でられていたきりたんは猫のような鳴き声をあげながら竜の好きにさせていた。

 きりたんのそんな姿にずん子とイタコ先生は、ゆかりたちのことを意識から逸らすようにしながら微笑ましそうにきりたんと竜のことを見ていた。

 そんなきりたんの様子に竜の頭の上のキツネはクスクスと小さく笑い声をあげる。

 

 

「いつまでかかるかなぁ」

「まだしばらくは続くんじゃないですか?」

 

 

 話し合いが終わらないゆかりたちを見ながら竜はポツリと呟く。

 このままでは家に帰るのが遅くなってしまうなぁ、と竜はボンヤリと考え始めていた。

 

 

「あの、皆さんの家の位置とかを聞いても良いですか?」

「うん?良いぞ」

 

 

 きりたんの言葉に竜は不思議そうに首をかしげるも、とくに隠すことでもないため、正直に話す。

 竜に全員の住んでいる場所を聞いたきりたんは少しだけ考え始める。

 

 それから数分後、いつまで経っても平行線な話を続ける5人にしびれを切らしたきりたんが、どんな組み合わせでイタコ先生の運転する車に乗るのかを一方的に提案して話は強制的に終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第152話

 

 

 

 

 イタコ先生が戻ってくるのを待っている間、竜はきりたんと一緒に遊戯王カードを見ていた。

 

 今、東北家に残っているのは竜、マキ、あかり、ずん子、きりたんの5人で、このことから先にイタコ先生に送ってもらっているのがゆかり、茜、葵の3人だということが分かるだろう。

 ちなみになぜこの組み合わせになったのかをきりたんに尋ねたところ、ゆかりたち3人は同じ場所に住んでいることから送ることが楽なため、この組み合わせが最適解になったらしい。

 

 きりたんの持っている遊戯王カードのうち、何枚かは竜の知らないカードもあったので効果を読んでどんなコンボが出来るかを考えるので大いに盛り上がっている。

 

 

「やっぱりこの“LLナイチンゲールダイレクトアタック6レンダァ”が面白くないか?」

「上手くやれば一発でゲームエンドになりそうですけどそこにいくまでが難しくないですか?」

「それならこの辺のカードで防御したりすれば・・・・・・」

 

「・・・・・・あかりちゃん。2人の話してる内容、分かる?」

「いえ、私も遊戯王はそこまで詳しくなくて・・・・・・」

 

 

 何枚ものカードを手に取ったり置いたりを繰り返しながら竜ときりたんはコンボや構築などについてを話す。

 楽しそうにしている竜の姿にマキとあかりは声をかけて良いのかを悩んでしまっていた。

 

 しかし、いつまでも竜がきりたんにばかり構っているというのもなかなかに気に食わないものがある。

 やがて我慢が限界に達したのか、マキとあかりは竜に声をかけにいくのだった。

 

 

「竜くん、それってそんなに楽しいの?」

「ん?マキは遊戯王を知らないのか?」

「知らないわけじゃないんだけど、やったことはないからねぇ」

 

 

 “ヌメロン1キル”をするために必要なパーツを考えている竜にマキは声をかける。

 マキに声をかけられた竜は一時的に考えるのを止めてマキに尋ねる。

 マキは遊戯王に関してはかなり有名なカードゲームといった認識しかなく、当然ながら遊んだこともない。

 まぁ、遊戯王というかほとんどのカードゲームに言えることだが、カードゲームは基本的に男の子の遊びというイメージがあるように女性プレイヤーというのは本当に少なく、マキが遊んだことがないというのも仕方がないのだが。

 

 

「私も一応は遊んだことはありますけど、ルールが複雑すぎて・・・・・・」

「ああ・・・・・・、コンマイ語はしゃーない」

「コンマイ語?」

 

 

 珍しいことにあかりは遊戯王を遊んだことがあったようだが、ルールが複雑なためにそこまで深くは遊んではいないようだ。

 遊戯王のルール、というよりも効果の処理だが、これに関しては大人であっても(さじ)を投げるほどに複雑なものがあるので、あかりが遊ぶのをやめてしまったのも無理はない。

 

 例としては、【“~時に~できる“と”~場合に~できる”の違い】【“捨てる”と“墓地に送る”の違い】【“する”と“できる”の違い】などなど、パッと読んだだけでは違いの分かりにくいものがいくつもあるのだ。

 こればかりは気になる部分を調べて憶えていくしか手はない。

 

 竜の言ったコンマイ語という言葉にマキは首をかしげる。

 コンマイ語とは、コンマイ(KONMAI)というコナミ(KONAMI)の誤字から生まれた呼び名で、複雑すぎる効果の裁定や“調整中です”といった雑な対応などもろもろを含めた意味で竜は使っている。

 実際にその使い方で合っているのかは知らないが、とくに困ることはないので竜はそのまま使っているのだ。

 

 

「少し調べるだけで混乱してしまったりしますからね。慣れるまでは他の人がやっているのを見るくらいにした方がいいと思いますよ」

「うん。まずは見るだけにしておくよ・・・・・・」

「私も見て楽しむことにします・・・・・・」

 

 

 竜ときりたんの持っているカードを1枚手に取って効果の複雑さに目を回し始めていたマキとあかりはきりたんの言葉に素直にうなずく。

 それから少しして、ゆかりたちを送ったイタコ先生が戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第153話

 

 

 

 

 イタコ先生の運転する車の中。

 竜は助手席に、マキとあかりは後ろの席に座っていた。

 車に乗る前はマキとあかりのどちらが竜と一緒に後ろの席に乗るかを争いそうになっていたのだが、多少は慣れている茜や葵ならともかくとしてマキやあかりと並んで座ることに照れを感じてしまった竜がいち早く助手席に乗ったため、その争いが起きることはなかった。

 

 

「それにしても、きりたんはスゴかったね」

「ですね。竜先輩にしがみついていましたし・・・・・・」

 

 

 車に乗っている4人の頭の中に浮かぶのはイタコ先生が帰ってきたので車に乗るために外に向かおうと竜が立ち上がったときのきりたんの行動。

 

 どんな行動をきりたんがしたのかというと、きりたんは竜が立ち上がった瞬間に素早く立ち上がると、勢いよく竜の腰にしがみついたのだ。

 聞けば竜を送るのについていきたいということでしがみついたらしい。

 しかし、学校で出た宿題が終わっていないということでずん子から許可が降りず、無理やり引き剥がされてしまう。

 引き剥がされたきりたんはジタバタと手足を動かして逃れようとしたが、そこは姉妹ということで慣れているずん子に軍配が上がり、逃れることは叶わない。

 逃げられないと理解したきりたんは竜に向かって手を伸ばして無言の(うった)えをする。

 そんなきりたんの姿に竜は苦笑し、連絡先を教えることで落ち着かせるのだった。

 

 まぁ、連絡先を教えた結果が今もなお鳴り続けている竜のケータイなのだが。

 

 

「それにしても、なんで急にきりたんに好かれたんだろうね?」

「私たちがイタコ先生と話をして戻ってきたときにはもうあんな感じでしたよね」

 

 

 きりたんから送られてくるメッセージに返事をする竜の姿を見ながらマキとあかりは竜がここまできりたんに好かれた理由を考える。

 2人が考えているといつの間にか車はマキの家“cafe Maki”に着いていた。

 車が止まったことに気がついたマキは自身の荷物を手に取ると車から降りる。

 

 

「送ってくれてありがとうございました。2人ともまたね」

「いえいえ、どういたしましてですわ」

「おう、またな」

「はい。おやすみなさいです」

 

 

 手を振るマキに竜たちも手を振って応える。

 そして、マキが家に入ったのを確認したイタコ先生は車を発進させる。

 

 

「お2人はこちらの道で合ってましたわよね?」

「はい、合ってますよ」

 

 

 ゆっくりと車を走らせながらイタコ先生は道が合っているかを確認する。

 イタコ先生の言葉にケータイの音が鳴り止んだ竜はうなずいて肯定した。

 きりたんからのメッセージが止まったことから考えるに、おそらくはずん子に見つかってケータイを没収されたのではないだろうか。

 

 

「あ、そうですわ。今後もうちの子が公住くんのところに行くかもしれませんから、連絡先を教えてくれませんか?」

「あー、その方が楽ですもんね」

「たしかに見ていた感じだとかなりの確率で竜先輩のところに行きそうですよね」

 

 

 運転をしながらイタコ先生は思いついたように竜に言う。

 たしかにイタコ先生の言うように、イタコ先生のキツネは竜のもとに来ることが多くなると考えられるので連絡先を交換しておくに越したことはないだろう。

 また、東北家でのことを考えるにきりたんも竜のところに来る可能性もあるので、その点でも連絡先の交換は重要なことだと考えられるので。

 

 

「っと、着きましたわね」

 

 

 竜とあかりの家の前に車を止め、イタコ先生は竜と連絡先を交換する。

 ちなみに、学校関連でイタコ先生が連絡先を交換したのは教師間での連絡が必要なときのための交換を除けばこれが初であるのだが、とくに気にすることではないだろう。

 そして、竜と連絡先の交換を終えたイタコ先生は手を振って帰っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第154話



少し遅れてしまいました・・・・・・


 

 

 

 

 背後から迫ってくる心音。

 それに合わせて鳴り響くギャリギャリという耳にこびりついて離れない異様な駆動音。

 背後から聞こえてくる音を気にしつつ、竜は全力で廃病院を走る。

 

 途中にある窓枠を飛び越え────

 

 立てかかっている板を倒して道を塞ぎ────

 

 複雑に曲がる道を利用して背後からの追跡者の視線から姿を隠す────

 

 思いつくことすべてを使って竜は走る。

 

 

「はっはっはっはっ・・・・・・。撒いた、か・・・・・・?」

 

 

 荒くなった呼吸を整えつつ、竜は周囲を確認する。

 いつの間にか背後から聞こえていた音は聞こえなくなっており、逃げ切ることが出来たのだろうと竜はホッと息を吐く。

 追跡者から逃れることが出来たのであれば次に竜がやるべきことは1つ、出口を開くために行動をすること。

 

 呼吸を整えた竜は目的の場所に向かうために移動を開始する。

 

 

「たしか、こっちのほうに・・・・・・。よし!」

 

 

 なるべく音を立てぬように気をつけつつ、竜は廃病院の中を歩く。

 もしも迂闊に走ろうものならば追跡者に見つかってしまい、なにをされるか。

 

 廃病院の中を移動していた竜は目的としていた機械を見つけ、急いで駆け寄った。

 

 駆け寄っ(●●●●)てしまった(●●●●●)

 

 

「・・・・・・へっ?」

 

 

 竜が機械に駆け寄った直後、ちょうど曲がり角の影になっていたところから現れたチェーンソーを持った男に切りつけられてしまう。

 全く予想していなかった事態に竜はなんとも気の抜けた声を漏らす。

 そして、執拗に何度も何度もチェーンソーで切りつけられ、その光景が竜の見た最後の光景となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあーーーっっ!!メメモリされたぁーー!!!」

 

 

 テレビ画面に映される自身の操作するキャラクターの死亡表示に竜は大きく声をあげる。

 

 メメモリ、正式名称は“メメント・モリ”。

 これは消費型のアイテムで、これを使うことによって逃走者を殺すことができるようになるという、条件はあるがかなり強力な能力のことだ。

 レアリティの低いものであれば1人しか殺すことはできないが、最高レアリティのものになれば全員を殺すことも可能になる。

 

 竜が一番最初に死んだため、残っている逃走者は3人。

 今後はこの3人のみでこの廃病院から脱出をしなければならなくなってしまった。

 

 

『マジか?!残りの発電機をうちらで直さないかんのか?!』

『残りの発電機は・・・・・・、3個ですか。ちょっと厳しいかもですね』

『こちらはもう少しなので残りは2個になりますね』

 

 

 竜の操作するキャラクターが死んだことに気がついた茜、ゆかり、“KIRIKIRI”は驚きの声をあげる。

 “DEAD BY DAYLIGHT”において逃走者の人数は生命線であり、1人減るだけで基本的には致命傷と考えても良いだろう。

 まぁ、ときたまかなりうまい人がいて、ほとんど1人で終わりまで追跡者を引き付けたりすることもあるのだが。

 

 操作するキャラクターが死んでしまって暇になってしまった竜は、茜たちの視点を見ていく。

 

 

「“赤青”の後ろを追いかけてきてるぞ!今のうちに発電機の修理を進めるんだ!」

『うおぉぉおお!捕まるわけにはいかんのやぁあっっ!!』

『了解です!』

『ちょっと間に合うかは不安ですけど・・・・・・』

 

 

 茜────プレイステーション4におけるプレイヤーネーム“赤青”の操作するキャラクターが追跡者に追われていることに気がついた竜はゆかりと“KIRIKIRI”に発電機の修理をするように言う。

 竜の言葉に2人は急いで発電機のもとに移動し、修理を進めていく。

 その間、追跡者に追われている茜は声をあげて逃げ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第155話

 

 

 

 

 先の見えない道を4人の人間が走る。

 どこまで行っても光は見えず、終わりのない闇。

 終わりがないのが終わり。

 

 

「・・・・・・ふぅ」

 

 

 コントローラーを置き、竜は短く息を吐く。

 殺人鬼、今回はヒルビリーから逃げている間は緊張のあまり呼吸が荒くなっており、落ち着くために竜は目を閉じる。

 思い返されるのは廃病院の中をヒルビリーに追い回されてチェーンソーで切り裂かれたこと。

 

 

「さっきはすぐに死んで悪かったな」

『ええって、それを言うたらうちらも殺されとるし、遅いか早いかの違いしかないんやから』

『そうですね。見たところランクも1つ上の殺人鬼だったみたいですし』

『ランクが近くても異様に上手い人とかいますからね』

 

 

 先ほどまでのことを思い返した竜は一番最初に死んでしまったことを他の3人に謝る。

 “DEAD BY DAYLIGHT”の生存者は、初期人数の4人から1人減るごとに脱出できる可能性が一気に下がっていく。

 そのためなるべくなら死なないような立ち回りを心がける必要があるのだ。

 とはいっても上手い人が殺人鬼の場合はそんなこと関係ないといわんばかりに殲滅されたりするのだが。

 

 

「それじゃあ、次いってみようか」

『そうですね』

『せやなー』

『いきましょうか』

 

 

 入手したブラッドポイントを確認した竜は、いつまでも引きずっていても仕方がないと気持ちを切り替えてリザルト画面を進める。

 竜の言葉に他の3人も答えて画面を進めた。

 

 

「えっと、ポイント的にこの辺が取れそうか・・・・・・」

『次はどんな構成で行ってみましょうかねぇ・・・・・・』

『うっし、次は青の番やでー』

『うぇっ?!ほ、本当にボクがやるの?!』

『青さんはホラーが苦手なんでしたっけ。大丈夫なんですか?』

『問題ないで。それに少しずつでも慣れていった方がええと思うしな』

 

 

 先ほど手にいれたブラッドポイントで竜はブラッドウェブから取得できそうなものを選んでいく。

 それと同時にゆかりは装備する能力の選択を始め、茜は葵にコントローラーを手渡した。

 コントローラーを手渡された葵は怯えたような声をあげる。

 葵の声の調子から“KIRIKIRI”は大丈夫なのかが気になり、声をかける。

 “KIRIKIRI”の言葉に茜が答える。

 

 

「これで、準備はオッケーかな。取りたかったパークが取れて良かった」

『“D-ragon”はどんな構成にしたんですか?』

「俺はサボタージュとキズナ、突破を使ったフック破壊構成だな」

 

 

 竜の言葉にゆかりはどんなパーク構成にしたのかを尋ねる。

 竜の言うサボタージュ、キズナ、突破という3つのパークは固有パークと呼ばれるもので、少しばかり特殊なものになる。

 “DEAD BY DAYLIGHT”においてパークとは全キャラに共通のものと固有のものがあるが、固有のものも条件を満たせば他のキャラでも使えるようになる。

 そして先ほど挙げた3つのパークはどれも固有パークとなっており、最低でも2キャラ分の条件を満たしているということになるのだ。

 

 

『ううぅ、本当にボクがやらないといけないの・・・・・・?』

『せやで。諦めてパークを選ぶんやな』

『頑張ってください、青さん』

 

 

 竜とゆかりがパークの構築について話している裏で、葵はいまだに嫌そうにしていた。

 嫌そうな葵の言葉を茜は無情にも切り捨てる。

 どうあっても葵にプレイさせたいのだろうという茜の意思を言葉から読み取ったのか、“KIRIKIRI”は葵のことを応援することしかできなかった。

 

 

「そんじゃ、ま。あとは青だけかな?」

『そうみたいですね』

『うう、わかったよ!やれば良いんでしょ?!』

『がんばりやー』

 

 

 葵以外の3人の準備が終わり、とうとう逃げ場のなくなった葵は叫びながら準備完了を押すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第156話

 

 

 

 

 竜たち全員の準備が終わり、殺人鬼がマッチングされる。

 どの殺人鬼が選ばれているのかは竜たちには分からず、逆に殺人鬼は逃走者の姿をきっちりと確認することができる。

 そのため逃走者側は殺人鬼に見つからないように気をつけつつ、殺人鬼の情報を得て対抗策を探っていかなければならないのだ。

 

 

「ここは・・・・・・、中心にデカイ工場がある場所だったか?」

 

 

 読み込みが終わり、テレビ画面の左下に出てくる名称と周囲の様子から竜はどんなマップなのかを推測する。

 “DEAD BY DAYLIGHT”にはいくつかのマップがあり、障害物の多いマップ、かなり狭いマップ、背の高い草が生い茂っているマップなどなど、マップにはそれぞれに特徴がある。

 そして今回の竜たちのいるマップは“アイアンワークス・オブ・ミザリー”の“マクミラン・エステート”という名前のマップだ。

 このマップには大きめの建造物があり、その建造物を利用したり建造物の周囲にある木箱などを利用することによって殺人鬼から逃げることができるかもしれない。

 ただし、殺人鬼によっては壁を越えて攻撃を当ててきたりするので、逃げやすいかと聞かれて簡単にうなずくことはできないのだが。

 

 

「近くにはいなさそうか。とりあえず俺は真ん中の方の発電機を目指すわ」

『了解です。こちらは地下室近くの発電機を優先的に修理しますね』

『でしたら私も地下室近くを優先しましょう』

『それならボクはぁぁぁあああああっっ?!?!』

 

 

 マップの中心に近い発電機を探しながら竜は他の3人にどう動くのかを伝える。

 竜の言葉にゆかりと“KIRIKIRI”は地下釣りを避けるために地下室近くの発電機を修理することを決める。

 ゆかりと“KIRIKIRI”の言葉に続いて葵もどう動こうかを答えようとしたが、葵はいきなり悲鳴のような声をあげる。

 葵のあげた大きな声に竜たちは一瞬だけ驚きつつ、周囲の警戒をする。

 

 

『やだやだやだぁ!追いかけてこないで!』

「あー、どうやら殺人鬼に見つかったっぽいな」

『でしたら今のうちに発電機を修理した方がいいですね』

『青さん、殺人鬼の引き付けお願いしますね』

 

 

 葵の言葉から殺人鬼に見つかったのだろうと理解した竜たちは急いで発電機へと向かう。

 誰か1人が追われているということは残りの3人がフリーになっているということ。

 なのでこの隙に1つでも多く発電機を修理できれば逃走者側の勝利に繋がるだろう。

 

 

「ところで殺人鬼はなん────」

『チェーンソーの音が怖いぃぃいいい!!』

「────だったか、聞こうとしたけど。チェーンソーならカニバルかヒルビリーだな」

『使われる多さではヒルビリーの方が可能性はありますね。今、修理が半分までいきましたので頑張ってください』

『やっぱり2人がかりで片方が有能の証明とリーダーをつけていると早いですね』

 

 

 チェーンソーを使う殺人鬼は竜の言うとおりカニバルかヒルビリーしか存在しない。

 チェーンソーの攻撃は当たれば一撃で倒されてしまうので、殺人鬼がどちらにしてもチェーンソーの攻撃を受けてはいけないのだ。

 葵が追われ始めてまだそれほどまで時間は経っていないというのにゆかりと“KIRIKIRI”の修理している発電機が半分ほど修理が進んでいる。

 竜の修理している発電機が2割ほどの進行に比べてかなり早いように思えるが、これは2人がかりでやっていることと“KIRIKIRI”の言っている有能の証明とリーダーの効果によるものが大きい。

 有能の証明とリーダーはどちらも修理の速度などを早める効果を持っているため、これによって2人の修理している発電機の修理速度が加速されていたのだ。

 それから少しして、ゆかりと“KIRIKIRI”の2人は葵が攻撃を受ける前に修理を終えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第157話

 

 

 

 

 逃げ回る葵の悲鳴をBGMに竜は発電機の修理を進める。

 竜のつけているパークの1つ、キズナの効果は一定の範囲内の他のプレイヤーを見えるようにするというもの。

 それによって竜はときどき範囲内に入ってくる走り回っている1人のプレイヤーの姿を確認していた。

 

 

「けっこう粘っているな。っと、直ったな」

『こっちも2個目を修理し終わりましたよ』

『グレート無しでこの速度ですからね。そろそろ殺人鬼も焦ってくるんじゃないでしょうか?』

『なんでも良いから早くボクを助け・・・・・・、いったぁ?!』

 

 

 竜の直していた発電機がつくのと同時に別の場所の発電機もつく。

 1人で1つを直している間に、2人で移動も含めて2つを直すのだから有能の証明とリーダーによる強化の高さがうかがえる。

 発電機が直って移動をしながらのんびりと会話をする竜たちに、葵は殺人鬼から逃げながら助けを呼ぶ。

 その途中で殺人鬼の攻撃を受けてしまったのか、葵は自分自身は痛くないはずのに悲鳴をあげる。

 

 

「あ、殴られた。んじゃ、俺は運ばれそうなフックを壊す準備をしに行くわ」

『お願いします。さて、発電機がまとまってしまわないように少し離れたところを修理しに行きましょうか』

『そうですね、たしかこの近くには1つしかなかったはずですから。それは残すようにしましょう』

 

 

 葵の操作するキャラクターが殴られたのをキズナによって確認した竜は殺人鬼に見つかってしまわないように気をつけながら葵のいる方へと向かっていった。

 葵のことを竜に任せたゆかりは“KIRIKIRI”と話して次の発電機へと向かう。

 キズナによって葵の位置を把握している竜はときに避け、ときにしゃがみ、ときに走って葵が逃げ回っている場所を見ることができる場所に移動する。

 

 

「ふむ・・・・・・。フックに運ぶならここか?」

 

 

 逃げ回る葵に一番近いフックにたどり着いた竜は、キズナで葵の位置を把握しつつフックに細工をしていく。

 少しして、フックに細工の終わった竜は逃げ回っている葵の近くに移動する。

 

 

「お、見えた。殺人鬼は・・・・・・カニバルなのか。意外だな」

 

 

 殺人鬼の攻撃を避けながら逃げ回る葵の操作するキャラクターの姿を見ることのできた竜は殺人鬼の姿を確認する。

 ここで確認するよりも早く殺人鬼の姿は知りたかったのだが、葵が悲鳴をあげて逃げるばかりで詳しいことがわからなかったため、ここでようやく殺人鬼の姿を確認することができた。

 

 カニバルはチェーンソーを振り回して攻撃をする殺人鬼で、その攻撃には連続で当たり判定が存在している。

 これはヒルビリーにはない特徴で、複数人のキャラクターが固まっていた場合はカニバルの方が一気にまとめて薙ぎ倒すことが可能である。

 まぁ、その代わりにヒルビリーはチェーンソーを使って高速ダッシュができるので、どちらのチェーンソーも一長一短なのだが。

 

 

「ふむ・・・・・・。ん、んん・・・・・・」

 

 

 逃げ回る葵の操作するキャラクターを見ていた竜は小さく咳払いをして喉の調子を整える。

 

 

「さぁ、いよいよ始まりました第1のレース。トップを走るのは青、次にカニバルです。カニバルくん頑張ってください」

『りょ────じゃなくてドラくんがなんか始めたんですけど・・・・・・』

『運動会ですかね?』

 

 

 いきなりボケ始めた竜にゆかりと“KIRIKIRI”は困惑したような声をあげる。

 

 

「カニバル選手が追い上げてきました。あーッと!ここでカニバル選手ルール無用のダイレクトアタック!青選手はこれをギリギリで回避しましたが、これにはオーディエンスからも動揺の声が!」

『ボクのことを見える位置にいるんだから・・・・・・、見つけた!!』

 

 

 カニバルの攻撃をギリギリで避けることのできた葵はカニバルに板をぶつけて時間を稼ぎ、竜の操作するキャラクターを探す。

 そして、少し離れた木の後ろに隠れている竜の操作するキャラクターを見つけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第158話

 

 

 

 

 走る

 

 

 走る

 

 

 走る

 

 

 積まれた木箱を避け、窓枠を飛び越え、何かにぶつかることがないように気をつけながら竜は背後から迫ってくる2つの足音から逃げる。

 

 

「いっけな~い、窮地(きゅうち)窮地♪私、“D-ragon(ドラゴン)”。今、人間をチェーンソーで切り裂く殺人鬼と、怒らせちゃった美少女に追われているの!」

『けっこう余裕はありそうですね』

『というか少女マンガですか?』

『嫌な少女マンガやなあ・・・・・・』

『絶対に逃がさないからね!!』

 

 

 背後から迫ってきている葵とカニバルの姿をときおり確認しながら竜は少女マンガのオープニングのようなセリフを言う。

 竜の言葉にゆかりと“KIRIKIRI”は発電機の修理を進めながら呆れたように言う。

 ゲームをプレイしていないはずの茜も思わずツッコミをいれてしまった。

 そんなゆかりたちの言葉も耳に入っていないのか、葵は脇目もふらずに竜に向かって走っていく。

 

 

「カニバルだしなぁ・・・・・・」

 

 

 迫ってくる殺人鬼、カニバルを見て竜は呟く。

 カニバルの攻撃は多段ヒットのチェーンソー。

 このまま葵と一緒に走っていればいずれはチェーンソーでまとめて切り裂かれてしまうだろう。

 で、あるならば葵をどうにか説得して別々の方向に分かれた方が得策だ。

 

 

「あー、青?提案なんだが、別々の方向に分かれないか?」

『そう言ってまたボクをからかうんでしょ?!』

『あ、怖さとりょ────やのうて、ドラの悪ふざけのせいで頑なになっとるわ。今の青になにを言っても無理やから諦めた方がええで』

 

 

 竜の言葉に聞く耳など持たないというように葵は構わず竜を追いかける。

 葵の様子からどうにもならないと察した茜は竜に諦めるように言う。

 そして、そんな会話をしている間にもカニバルとの距離が徐々に徐々に詰められてきている。

 

 

「・・・・・・しゃーないか、きっちり逃げろよ?」

『え、ちょ・・・・・・?!』

 

 

 短くため息を吐いた竜は急旋回をしてカニバルに向かっていく。

 竜がいきなりカニバルに向かっていったことに葵は驚き、思わず動きを止めてしまう。

 

 

「っと、あぶねっ!さっさと逃げろ!」

『あ・・・・・・。う、うん?!』

 

 

 竜がいきなり走る方向を変えて向かってきたことに驚いたのか、カニバルは攻撃のタイミングをミスして空振(からぶ)ってしまう。

 自身の目の前を攻撃が通りすぎたことに竜は驚きつつ、動きを止めていた葵に声を飛ばす。

 竜の行動に驚いていた葵は竜の言葉に弾かれたように走り出した。

 葵が走り出したことも確認せずに、竜も同じように走り出しカニバルの横をすり抜けていく。

 どうやらカニバルは近くを走り抜けていった竜をターゲットに選んだらしく、竜の後を追いかけ始めた。

 

 

『・・・・・・なんだか離れたところでドラマチックなことが起きてますね』

『でもあれって半分くらい自業自得じゃないですか?』

『せやなー・・・・・・』

 

 

 発電機の修理をしながら聞こえてきていた竜と葵の声にゆかりたちは呟く。

 竜たちの声は最初から聞こえていたのだが、カニバル追われている現場にいなければ疎外感が半端なくあるのだ。

 

 

『とりあえず青さんは負傷してるので私が治しに向かいますね。ここの修理の続きはお願いします』

『了解です。青さん、今から“パープルハート”さんが向かいますので位置情報をお願いします』

『うう、私のせいでドラくんが・・・・・・。え、あ、私のいるとこ?えっと・・・・・・』

「さっきまで一番でかい建物の近くで逃げてたからな。たしか最後に見たのは小屋の近くだったと思うぞ」

『逃げとるのに話す余裕はあるんやな?』

 

 

 葵が負傷をしたままでいるのはあまり良くないのでゆかりが治療のために葵のもとに向かおうとする。

 “KIRIKIRI”の言葉に葵が現在地を答えようとすると、逃げているはずの竜が最後にいた場所を答えた。

 カニバルから逃げているはずなのに話す余裕のある竜に茜は不思議そうに尋ねる。

 

 

「や、すまん。引き付けるつもりだったのに撒いちまった」

『ちょっ?!それだと殺人鬼の居場所が分からなくなるんですけど?!』

「一応、キズナで誰もいない方には逃げてきたんだがな・・・・・・」

『とりあえずドラくんは殺人鬼を見つけてください。私は青さんを治すので』

「りょーかい」

 

 

 竜がカニバルを引き付けてから数分も経っていないのに竜はすでにカニバルを撒いてしまっていた。

 “DEAD BY DAYLIGHT”は殺人鬼から隠れることも重要だが、殺人鬼の居場所を把握することも重要なポイントである。

 ゆかりの言葉に竜は走り回って音を立てながらカニバルを探すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第159話


まだもう少しだけDBDの話は続きます。




 

 

 

 

 カニバルから逃げるために走っていたところを逆走し、撒いてしまったカニバルを竜は探す。

 完全に野良でマッチングをしているのであればこのまま発電機の修理に行っても良いのだが、これは4人全員が知り合いのマッチング。

 であるならば、なるべく早めにカニバルを見つけてその位置を把握しておいた方が他の3人との連携に繋がるのだ。

 

 

「迷子の迷子のカニバルくん。あなたの姿はどこですか~、と」

『それ、犬のお巡りさんが死ぬやろ』

『対象が殺人鬼ですもんね』

 

 

 即興で適当な歌を歌いながら竜はカニバルを探す。

 すでにそこそこの距離を隠れることなく走っているのだから見かけても良いはずなのだが、カニバルの姿は一向に見つけられない。

 カニバルの姿が一向に見つからない竜は近くに板が立て掛けられていることに気がつく。

 

 

「そういえばパレットを倒すと殺人鬼に通知がいくんだったか・・・・・・」

『そのはずやけど・・・・・・、わざわざパレットを倒すんは勿体ないんやない?』

 

 

 離れた位置に殺人鬼がいるときに板を倒すと殺人鬼側に通知がいく。

 他には治療をしているときや発電機の修理中に出現するスキルチェックを失敗しても通知がいき、他には窓枠を勢いをつけて飛び越えたりしても通知がいくのだ。

 殺人鬼に通知を届かせて気を引くだけなら窓枠やスキルチェックミスで良いのではないかと茜は竜に言う。

 

 

「ああ、普通なら倒したパレットは再利用できないな。でも、俺なら再利用できる」

『うわぁ・・・・・・、わざわざあんなパークをつけてきたんか』

 

 

 竜の言葉から竜がつけている4つ目のパークを理解したのか茜は呆れたような声を出す。

 通常であれば倒した板はどうやっても動かすことはできず、飛び越えるか殺人鬼に壊されるかしかない。

 しかし、竜のつけてきた4つ目のパーク、強硬手段によってその前提は(くつがえ)される。

 

 強硬手段、このパークの効果は最短で2分のクールタイムで倒れた板をもとに戻せるというもの。

 これによって倒した板でも戻して殺人鬼にもう一度ぶつけることができるようになるのだ。

 

 ここまで聞けば充分に有用なパークに聞こえるかもしれないが、このパークには決定的な問題がある。

 それはクールタイムの時間が長いとか板をもとに戻すのに4秒かかるだとかいう小さな問題ではなくもっと大きな問題だ。

 むしろこの問題のせいで使用率はかなり低くなっていると言っても良いだろう。

 

 その問題とは・・・・・・

 

 

       ・・・・・・倒した板は基本的に壊されてしまうという点だ。

 

 全部の板を壊されるとは言い切れないが、それでも進むのに邪魔であれば殺人鬼たちは板を壊していくだろう。

 そのため、倒した板がそのまま残っていることの方が(まれ)なのだ。

 そもそもとして、倒れた状態で放置されている板はあまり意味のないものが多く、戻しても有効に活用できることが少ないためそれをわざわざ戻す利点もほとんどないと言える。

 まぁ、そうは言っても板が立て掛けられているだけで多少は殺人鬼への牽制になるので完全に無意味とも言えないのだが。

 

 

『青さんの治療は終わったのでこれから3人で修理に向かいますね』

『3人ならもっと早くなりますね。こちらも終わるので“D-ragon”さんは早めに殺人鬼をお願いします』

『そんならドラは他の発電機に向かってミスをした方がええんやない?それなら釣れなくても発電機の修理を進められるんやし』

「それもそうか・・・・・・。まぁ、ここの板は使わなそうだから倒していくけどな」

『なんでや?!』

 

 

 竜と茜が話をしているうちに葵の治療が終わったのかゆかりが声をかけてきた。

 どうやらそのまま葵を含めた3人で発電機の修理をするらしい。

 3人で1つの発電機を修理するのであればかなりの速度になるだろうから殺人鬼に妨害をされないように注意を引くのはかなり重要になるだろう。

 茜の言葉に竜はうなずき、近くの板を倒してから発電機に向かう。

 竜がわざわざ板を倒して行ったことに茜はツッコミをいれる。

 

 

「少しでも陽動になれば、てきな?」

『絶対にパレットを倒してから考えたやろ・・・・・・』

 

 

 茜の言葉に竜は移動しながら答える。

 茜の言うとおり竜の行動は思いつきでやったものだ。

 だがしかし、どうやらきちんと殺人鬼に通知はいっていたらしく、竜がそのまま移動をしていると本当に殺人鬼が釣れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第160話

 

 

 

 

 板を倒したことによって竜の存在に気がついたのか現れたカニバルから竜は逃げる。

 カニバルから追われるのは2度目で、竜はカニバルの挙動がどことなくぎこちないことに気がついた。

 ぎこちない・・・・・・、具体的にどこがぎこちないかと言われると困るところだが、ぎこちないのだ。

 

 

「そういえばもう発電機はラストなんだったっけ?」

『せやで。3人で有能の証明とリーダーつきやからかなりの速度で直っとるわ』

 

 

 カニバルの挙動がぎこちないことによって話す余裕がある竜は茜に現状を確認する。

 竜の問いに茜はテレビ画面を確認して発電機の修理具合を見て答える。

 どうやら葵たちはなるべく早く発電機を修理することに集中しているようで返事は聞こえてこなかった。

 

 

「もしかしたらなんだが・・・・・・、このカニバルって練習できてるんじゃないか?」

『なんでそう思うん?』

「なんつーか、動きにぎこちなさを感じて・・・・・・」

 

 

 カニバルに追われながら感じたぎこちなさから、竜はこのカニバルは練習をしているのではないかと推測する。

 竜の言葉に茜はなぜそう思ったのかを尋ねる。

 竜自身もしかしたらそうなのではないかという感覚で言ったため、ハッキリとした理由はないのだが、それでもそう思った理由を茜に伝えた。

 

 

「まぁ、俺の所感だから本当にそうかは分からんけどね。って、いったぁっ?!」

『あ、ドラくんが殴られた』

『インガオホーやな』

『最後の発電機が終わりましたよ』

『離れた出口を開けに行きましょう』

 

 

 油断して茜と会話をしていた竜はいつの間にかカニバルに距離を詰められており、攻撃を受けてしまう。

 竜の声からカニバルに攻撃を受けたのを察した茜はどこかで聞いたことのあるような言葉を言った。

 カニバルから攻撃を受けた竜は、攻撃を受けたことによって前方に(はじ)かれたのを利用してカニバルから距離をとる。

 そして、竜が攻撃を受けたのと同時に最後の発電機の修理が終わり、2ヶ所の出口が光って強調された。

 

 

「開けるならどっちを開けるのか教えてくれなー」

『殴られたのに余裕やんな?』

「いや、なんか感覚を掴み始めたのか追いかけるのが上手くなってる気がするしもう少ししたら殺られる気がするわ。HA()HA()HA()!」

『なにわろてんねん』

『ちょっと急いだ方がいいみたいですね』

『出口を開けちゃうのでもう少し頑張ってください』

 

 

 脱出に関して諦めているわけではないのだが、それでもこのままでは脱出はできないのではないか、そう思えるほどにカニバルの動きが変わっていっているのを竜は感じ取っていた。

 やや諦めも含まれた竜の言葉に茜はツッコミをいれ、ゆかりと“KIRIKIRI”は出口を急いで操作して早く開けようとするのだった。

 

 

『お姉ちゃん。なんか光ってるのがあったんだけど、これってなんだっけ?』

『うわぁ・・・・・・、このタイミングで光っとるとか、ノーワンやん』

 

 

 最後の発電機を修理し終わってから葵はどうやら別ルートで移動していたようで、茜に気になったものを尋ねていた。

 葵の言葉に茜はテレビ画面を確認し、あちゃあといった調子で言葉を漏らした。

 

 ノーワン、正式名称は“呪術・誰も死から逃れられない”であり、これは発電機の修理が終わった瞬間に発動するパークで、効果は殺人鬼が攻撃を当てれば無傷の状態でも一撃で重症状態にまで持っていかれてしまうというものだ。

 呪術というパークはマップ上に点在する頭蓋骨のオブジェクト“トーテム”があることによって発動し、発動している場合はマップ上のどこかのトーテムが光を放つようになる。

 これを解除するにはトーテムを破壊するしか方法はないので、光っているトーテムを見つけた場合はなるべく破壊することをおすすめしたい。

 まぁ、トーテムを破壊したときにノーワンの状態を付与するトラップのパークもあったりするので、全部破壊するのが正解とも言えないのだが、その辺りは個人の判断に任せるべきだろう。

 

 

『とりあえずそれは壊しとき。ドラが吊られたときに救助しやすくなるんやから』

『うん』

 

 

 出口に関してはゆかりと“KIRIKIRI”に任せておけば問題ないと判断した茜はトーテムを破壊するように葵に伝える。

 茜の言葉に葵はトーテムを壊すためにしゃがみこんだ。

 そして、それと同時に出口の開く音と共に画面の上部にタイムリミットが表示されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第161話

 

 

 

 

 テレビ画面の上部に残り時間を表すメーターが出現した瞬間、竜を追っていたカニバルは残り時間が時間が少ないことを理解したのかチェーンソーを鳴らすようになる。

 竜はすでに1度殴られて負傷状態になっているのでチェーンソーで攻撃をする意味はないのだが、それでもたしかな威圧感を発していた。

 

 チェーンソーの音が聞こえてきたことに竜は顔をしかめる。

 どの攻撃を受けても重症状態になってしまうのだが、それが分かっていてもチェーンソーの音などの殺人鬼特有の音は聞いていて気持ちの良いものではなかった。

 

 

「とりあえず出口に向かう!小屋の近くか遠くのどっちだ?!」

『ここは・・・・・・、小屋と離れてる方やね。ドラはどの当たりにいるんや?』

「そっちか!今は小屋の方に向かってた!」

 

 

 聞こえてきたチェーンソーの音に竜は慌てながら空いている出口の位置を聞く。

 マップ上に出口は必ず2つあり、そこにあるスイッチを起動させることによって出口のゲートが解放される。

 つまりは殺人鬼に追われた状態では出口のゲートを開けることはできないのだ。

 それを理解している竜はとりあえず逃げる方向として小屋の近くの出口を目指していたのだが、どうやら当てが外れたようで開けられていた出口のゲートはもう片方の方だったらしい。

 茜の言葉に向かう方向を間違えていたことに気がついた竜は慌ててもう片方の出口へと向かおうとする。

 

 

『いえ、そのまま小屋の方に来てください(●●●●●●)!』

『ん、そんなら青は“KIRIKIRI”と合流やね。ドラが捕まった場合にすぐに救助できるようにするんや』

『トーテムもちゃんと壊したから安全・・・・・・、だよね?』

『カニバルということで不安はありますが分かりました。ひとまずはマップの真ん中の大きな建物で合流しましょう』

 

 

 ゆかりの言葉から意図を理解した茜は、葵に次の行動を指示する。

 茜の言葉に葵はうなずき、移動をする前にチラリと壊したトーテムの跡を見てから呟く

 葵の呟きに“KIRIKIRI”は答え、合流場所を決めた。

 

 

「小屋が、見え・・・・・・、ぐべらっ?!・・・・・・っあー、すまん。やられた」

『やられましたね。キャンプをされなければ良いんですけど・・・・・・』

『出口の解放まで1人も吊れていないわけですし、殺人鬼からしたら1人は確実に持っていきたいでしょうし・・・・・・』

『ま、キャンプはほぼ確定やろうね』

『どうにか救助できれば良いんだけど・・・・・・』

 

 

 もう少しで小屋が見えるかといったところで竜はカニバルに攻撃されて倒れてしまった。

 

 

 

『そういえばドラくんが倒れた周辺のフックは壊していないんですか?』

「この辺は・・・・・・、壊してないな。無理そうなら脱出してくれー」

 

 

 ゆかりの言葉に竜は周囲を見渡し、この辺のフックを壊してないと答える。

 竜を担ぎ上げたカニバルは一番近くのフックへと移動する。

 すでに残り時間も半分ほどになっており、ここから竜を救助するのは難しいのではないだろうか。

 

 

「とりあえずはもがいているけど・・・・・・。無理っぽいなぁ・・・・・・」

 

 

 殺人鬼によって担ぎ上げられたとしてもフックに吊られる前にもがくことによって逃げることができる可能性がある。

 これはフックから距離のある場所で捕まったりした場合に助かることのできる仕様なのだが、どのフックからも離れているというのはほとんどないことなので、もがいて脱出できる可能性は限りなく低いと言えるだろう。

 

 

『来たで!』

『うん!』

 

 

 もう少しでフックに到着する諦めてもがくのをやめようとした竜の耳に茜と葵の声が届く。

 それと同時に強力な光が起こる。

 光の出所を見れば、葵の操作するキャラクターが懐中電灯を片手にそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第162話



ようやくゲームが終わります。




 

 

 

 

 懐中電灯を持った葵の操作するキャラクターが現れた瞬間、カニバルはフックに向かうのを止めて警戒するように葵の操作するキャラクターを見ていた。

 “DEAD BY DAYLIGHT”を知らない人間からすればたかだか懐中電灯になにを警戒しているのか不思議に思うかもしれないが、これにはちゃんと理由がある。

 

 “DEAD BY DAYLIGHT”において懐中電灯は殺人鬼を妨害するためのアイテムで、殺人鬼の顔を正確に照らすことによって殺人鬼の目を(くら)ませて数秒ほど視界を塞ぐことができるのだ。

 ただし動き回る殺人鬼の頭部に正確に光を当てることができなければただの懐中電灯なので無策で使うとあっさりと避けられて攻撃を受けてしまうのだが。

 

 

『ボクの光をくらえー!』

『まぁ、案の定当たっとらんわな。まぁ、それでも問題はないんや。なんせ・・・・・・、こっちの役割は時間稼ぎやからな』

 

 

 狙いをつけられていない葵の懐中電灯の光はカニバルの顔面に当たることはなく、見当違いの場所を照らしていた。

 しかし茜は葵が懐中電灯を外すことを想定していたのか、不適に笑みを浮かべながら答える。

 直後、カニバルに担がれてもがいていた竜が一際(ひときわ)大きく体を動かす。

 竜の体が大きく動いたことによってカニバルは担いでいた竜を取り落とした。

 

 

「助かった!ありがとう左乳首ライトアップマン!」

『ぶふぉっ・・・・・・、た、たしかにカニバルの左胸に・・・・・・くく、当たっとったな・・・・・・』

『もう!そういうことは言わなくて良いの!』

 

 

 カニバルに担がれているときにもがきながら葵がカニバルのどこを照らしているのかが見えていた竜はお礼を言いながら小屋のある方へ向かって走り出す。

 竜の言葉に葵の横でテレビ画面を見ていた茜は思わず吹き出してしまう。

 竜がカニバルから逃れることができたのを確認した葵は文句を言いながら竜と同じように走り出す。

 

 

『来ましたね。ここのゲートも開けてあるので先に行ってください』

『負傷している“D-ragon”さんは先に行って、私たちが肉壁になります』

「頼んだ!」

 

 

 カニバルから逃げた竜と葵がどうにか小屋までたどり着くと、ゆかりと“KIRIKIRI”が待っていた。

 2人も竜の救助のために行動はしていたのだが、葵1人で救助ができそうだと分かってすぐに次の行動に移っていたのだ。

 そのため、この2人は別になにもせずにここで待っていたわけではないのだ。

 

 カニバルから逃げる竜と葵の姿を確認したゆかりと“KIRIKIRI”は竜の後ろにつくように移動して走り出す。

 これは負傷している人間が攻撃を受けないように無傷の人間が壁になっているのだ。

 これによって負傷者は逃げ切れる可能性が高まり、犠牲者を減らすことに繋がる。

 

 

『くっ・・・・・・残り時間ギリギリ。でも、これなら!』

『痛っ・・・・・・脱出完了です!』

『うひゃあ?!』

「3人が防いでくれなかったら殺られてたな・・・・・・」

 

 

 攻撃を受けた人間はダメージを受けた衝撃で前方に飛び出し、自動的に次の人間がカニバルの前に肉壁として現れる。

 これによって竜たちはどうにか全員が出口から脱出することができた。

 竜が脱出して最後に見たのは、走っていく竜たちを寂しそうに見つめるカニバルの姿だった。

 

 

「ふぅ、どうにか全員が脱出できたな」

『そうですね。それも誰も吊られることなく』

 

 

 リザルト画面で竜は短く息を吐きながら呟く。

 正直、ここまでスムーズに脱出できたのはほとんど経験がなかった。

 竜の呟きに入手したブラッドポイントを確認していたゆかりが答える。

 そして、それからも何度か装備するパークを入れ換えたりしながらゲームを続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第163話


ちょうど1ヶ月でUAがさらに10000を越えるとは思ってもいませんでした。

読んでくださる皆様、ありがとうございます。

今後もよろしくお願いします。





 

 

 

 

 今日も今日とて“cafe Maki”で竜はバイトをする。

 今日は土曜日で天気もよく、窓から差し込む日の光に竜は眠気を誘発されていた。

 

 

「やっべ、眠い・・・・・・」

「あはは、こんなに良い天気だもんね」

 

 

 竜の呟きに近くにいたマキがうなずく。

 今の時間はちょうどお客の人数も少なくてやることがほとんどないため、動いて眠気を誤魔化すということもできなかった。

 

 

「ん・・・・・・、ふぅ。ちょっと外を掃除してこようかな」

「分かった。お願いするね」

 

 

 軽く伸びをして竜は店の外を見る。

 そこまでゴミが落ちていたりするわけではないが、それでも掃除をして動いていれば眠気もどうにかできるだろう。

 竜の言葉にマキはうなずき、ホウキとチリトリを手渡した。

 

 

「外に出ると一層のこと日の光を感じられるな」

 

 

 マキからホウキとチリトリを受け取った竜は店の外に出て全身に暖かな日の光をあびる。

 軽く落ちているゴミや、葉っぱなんかを掃除し終えた竜は、ゴミなどをゴミ箱に入れると、店の中に戻った。

 簡単な掃除しかしていないとはいえ、それでもそこそこに時間は経っており、店の中にマキの姿はなかった。

 

 

「休憩に行ったのかな?」

 

 

 店の中を見渡してマキの姿が見えないことに気がついた竜はマキが休憩に行ったのだろうと1人で納得し、店の中をやることがないか考えながら歩く。

 店の中を歩いてしばらくすると、不意に竜の耳に不思議な音が聞こえてきた。

 

 

「ぎゅーん・・・・・・ぎゅーん・・・・・・」

「・・・・・・なんの音だ?」

 

 

 “cafe Maki”でバイトを始めてからしばらく経つが、こんな不思議な音を聴いたのは初めてだった。

 首をかしげながら竜は音の聞こえてきた方へと向かう。

 どうやら音が聞こえてきたのは店の奥の方の席からのようで、竜はそこの席をヒョイと覗き込んだ。

 

 

「ぎゅんぎゅーん・・・・・・」

「・・・・・・なんだこれ?」

 

 

 席を覗き込んだ竜はそこにいた生き物?らしきものを見て思わず首をかしげる。

 

 店の奥の方の席にいたもの。

 それは黄色の体毛をした毛玉のような生き物のようだった。

 その生き物はどうやら寝ているようで、さっきから聞こえてきていたのはどうやらこの生き物の寝言のようなものだったらしい。

 

 

「変わった生き物だな・・・・・・。ふぅん、けっこう毛はさらさらとしてるんだな」

 

 

 眠っている生き物に興味が湧いたのか、竜は生き物を起こしてしまわないように気をつけながら優しく生き物に触れる。

 生き物を触った感触は、さらりとしたものでとても触り心地の良いものだった。

 竜が触れたことによって生き物は軽く体を動かすが、それでも目を覚ますことはなかった。

 

 

「ぎゅー・・・・・・ん・・・・・・」

「なんつーか、マスコットみたいな可愛さがあるな」

 

 

 寝息をたてる生き物を優しく抱き上げて竜は呟く。

 生き物はとても軽く、まるで雲でも抱えているかのようだった。

 

 

「とりあえずマキのお父さんかマキにどうしたら良いのかを聞いてみるか」

 

 

 この生き物がどういった存在なのかは不明だが、どちらにしても店の中にいたのだから店長であるマキの父親かマキに確認をとった方がいいだろう。

 ここでマキの母親に聞かないのはなぜかと思うかもしれないが、マキの母親は竜がバイトに入っているために今日は家でお休みなのだ。

 そのため、この生き物について聞くのはマキの父親かマキということになる。

 

 

「ぎゅー・・・・・・ん?・・・・・・ぎゅぎゅん?!」

「あ、起きたか」

 

 

 抱き上げて歩いている振動で目が覚めたのか、生き物はキョロキョロと周囲を見渡して自分が抱き上げられていることに気がつき驚いたような鳴き声をあげた。

 生き物が目を覚ましたことに気がついた竜は、いったん生き物を落ち着かせるために椅子に座らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第164話

 

 

 

 

 “cafe Maki”の椅子で寝ていた生き物が目を覚ましたので近くの椅子に座らせた竜は、生き物のことがよく見えるように顔の高さを生き物に合わせる。

 椅子に座らされた生き物は突然のことに驚いているようだったが、自身を椅子に座らせたのが竜だと気がつくと、ジッと竜の顔を見つめた。

 

 

「お前は何て生き物なんだろうな?」

「ぎゅんぎゅーん!」

 

 

 当然ながら生き物に聞いてみても答えるはずがなく。

 竜の言葉に生き物は鳴き声をあげるだけだった。

 

 

「ぎゅーう・・・・・・、ぎゅーん!」

「うぉっと、けっこう人懐っこい生き物なのか?」

 

 

 竜が生き物を見ていると、生き物はなにを思ったのか勢いをつけて竜に向かって飛びついた。

 生き物がいきなり飛びついてきたことに竜は驚きつつも、どうにか反応して優しく抱きとめることができた。

 抱きとめられた生き物はそのまま竜の腕をよじ登っていき、竜の頭の上に到着した。

 竜の頭の上に到着した生き物は嬉しそうに体を動かす。

 自身の頭の上で嬉しそうにしている生き物に、竜は首を動かさないように気をつけながら立ち上がった。

 

 

「よっ・・・・・・と。大丈夫か?」

「ぎゅん!」

 

 

 頭を動かさないように気をつけたといってもそこは機械ではなく人間。

 まったく首を動かさずに立ち上がるというのはどうやっても不可能なこと。

 少しだけ動いてしまって揺れたことを竜は生き物に確認をする。

 竜の言葉に生き物は竜の頭にしがみつきながら返事をした。

 

 

「とりあえず店長にどうしたら良いかを聞くか」

「ぎゅんっ?!」

 

 

 立ち上がった竜がマキの父親のいるキッチンに向かおうと歩き始めると、生き物は驚いたような鳴き声をあげた。

 生き物の鳴き声を聞きつつ、竜はキッチンの入り口にまで移動した。

 そのままキッチンに入ろうとしたところで竜はふと立ち止まる。

 

 

「・・・・・・毛玉みたいな生き物なわけだし、料理を作るキッチンに入れたらまずいか?」

 

 

 毛玉のような生き物と言うことは抜け毛の可能性があり、そんな生き物をキッチンに入れて良いのかと竜は考えた。

 普通の人間ですらキチンと手を洗ってからでないとキッチンに入ることは許されないのだから、毛玉のようなこの生き物がキッチンにはいるのも許せるものではないだろう。

 

 

「あの、店長ー!」

「うん?どうかしたのかい?」

 

 

 キッチンに入るのをやめた竜は頭の上に生き物を乗せたままキッチンにいるマキの父親を呼ぶ。

 竜がキッチンに向かって声をかけると、マキの父親が不思議そうにしながらキッチンから出てきた。

 

 

「どうかした・・・・・・。あー、この子はどこで見つけたのかな?」

「えっと、店内の奥の方の席で寝ているのを見つけました」

「ぎゅぎゅん・・・・・・」

 

 

 キッチンから出てきたマキの父親は、竜の頭の上に乗っている生き物に気がついて困ったような表情を浮かべた。

 マキの父親の表情の変化に竜は首をかしげそうになるが、頭の上に生き物が乗ったままなことを思い出して首をかしげるのを止める。

 マキの父親に見つめられ、生き物は気まずそうな鳴き声をあげる。

 

 

「そうかいそうかい。とりあえずこの子に関しては店の中を自由にさせていて良いよ」

「あ、分かりました」

「ああ、ちょっと待った。少し気になることがあるからこの子は一旦ここに置いていってくれるかい?」

「ぎゅんっ?!」

 

 

 そう言ってマキの父親は竜の頭の上から生き物を持ち上げた。

 マキの父親の言う気になることと言うのがなんなのかが気にはなったが、新しいお客の来店があったため、席に案内するために竜はお客のもとへと向かっていった。

 

 

「ぎゅー、ぎゅー、ぎゅーん・・・・・・」

「・・・・・・日差しが暖かいからって気を抜きすぎだよ?知られたくはないんだろう?」

「ぎゅん・・・・・・」

「それじゃあ、仕事に戻ってね。それと、眠っちゃっていたことは今回だけは見逃してあげるからね」

 

 

 マキの父親の言葉に生き物はしょんぼりとした様子で鳴き声をあげる。

 そして生き物を床に降ろしたマキの父親はキッチンに戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第165話

 

 

 

 

 新しく来店してきたお客の案内も終わり、竜は空いているテーブルを拭いていく。

 いつの間にかマキも戻ってきており、お客から注文を受けていた。

 

 

「そういえばさっきの生き物はどうなったんだろう・・・・・・」

 

 

 テーブルを拭きながら竜が思い出すのは先ほど店の奥の方の椅子で寝ていたぎゅんぎゅんと鳴く生き物のこと。

 今までに見たことのない生き物だったが、どことなくみゅかりさんと似ているように感じられ、竜は先ほどの生き物のことが無性に気になっていた。

 

 

「いつの間にかいなくなってたし・・・・・・、マキに聞いてみるか」

 

 

 新しく来店してきたお客の案内が終わってから竜は先ほどの生き物の方に行こうとしていたのだが、いつの間にかその姿はなく、仕方なく竜はテーブルを拭いていたのだ。

 “cafe Maki”の椅子に座っていたことや、マキの父親が知っていたこともあってこの店に関係があると考えて間違いはないだろう。

 そう考えた竜はマキの手があくのを待って話を聞くことにした。

 

 

「なぁ、さっき変わった生き物を店の中で見つけたんだが。なにか知っているか?」

「変わった生き物?」

「ああ、黄色い毛に(おお)われていて、ぎゅんぎゅんって鳴くんだ」

 

 

 竜の言葉にマキは不思議そうに首をかしげる。

 不思議そうなマキの言葉に竜はうなずき、簡単に生き物について説明をした。

 

 

「それは確かに不思議な生き物だね。とりあえず次の休憩の時にでも探してみたらどうかな?」

「そうだな」

 

 

 テーブルを拭いたりしながら生き物を探したりもしてみてはいたが、仕事をしながらのためにキチンと探すことはできずにいたため、竜はマキの提案にうなずいて仕事に戻った。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 前半の仕事が終わって竜は休憩に入り、さっそく先ほどの生き物を探し始める。

 先ほど見つけたのが店の奥の方の席だったのでそちらを確認してみたがそこにはおらず、竜は少しだけ残念そうに肩を落とした。

 

 

「ここにはいない、か。本当にいったいどこにいったんだ?」

 

 

 生き物の姿が見つからないことに竜は少しだけ落ち込みそうになったが、とりあえず気分を変えるために適当な替え歌である『白毛兎胸肉特上鍋御膳18000円』を鼻歌で歌い始めた。

 まぁ、替え歌といっても鼻歌でしかないのでけっきょくはもとの曲である『黒毛和牛上塩タン焼680円』となんの変化もないのだが。

 

 ちなみに白毛兎という部分に関してはとくに理由はないペコよ。

 

 

「竜くん、それなんの曲?なんか聞き覚えはあるんだけど・・・・・・」

「この曲か?『黒毛和牛上塩タン焼680円』だよ」

 

 

 竜が歌っている鼻歌が気になったのか、近くに来ていたマキは不思議そうに竜に尋ねる。

 マキの問いに竜は普通に聞けば曲のタイトルとは思えないタイトルを答える。

 

 

「・・・・・・お腹が空いたの?」

 

 

 竜の言った曲のタイトルにマキは首をかしげながら竜がお腹が空いたのかと勘違いをする。

 まぁ、曲のタイトルが紛らわしいのだから仕方がないだろう。

 

 

「いや、曲のタイトルが『黒毛和牛上塩タン焼680円』なんだよ。まぁ、鼻歌で分からなかっただろうけど替え歌のつもりだったんだがな」

「へぇ、そんなお腹の空きそうな曲名なんだ?」

「曲の内容は恋愛系だけどね。あとアニメのブラックジャックのエンディング曲だったな」

 

 

 竜の説明にマキは曲名からの印象で答える。

 

 ところでマキが仕事をしていないことが気になるかもしれないが、すでに店の中にいるお客の注文は聞き終えて運ぶのも終わっており、やることはすべて終わっているのだ。

 

 

「そういえばさっきの生き物が見当たらないんだけど・・・・・・」

「あー・・・・・・。ならあとで私が休憩に入ったら見つけておくから竜くんはちゃんと休憩しておきなよ」

「ん、なら頼むわ」

 

 

 竜の様子にマキは竜に休憩に行くように促す。

 マキの言葉に竜はうなずき、休憩をするために移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第166話



ところで『白毛兎胸肉特上鍋御膳18000円』の歌詞とか知りたい人っているんですかね?





 

 

 

 

 休憩が終わった竜はバイトに戻る。

 それでも先ほどの生き物のことが気になるようで暇さえあればチラチラと店の中を見回しているのだが。

 

 

「また会うのは諦めた方がいいんかねぇ・・・・・・」

 

 

 そう呟いて竜はため息を吐く。

 ぎゅんぎゅんと鳴いて触り心地も悪くない生き物だったので竜としてはもう一度会っておきたかったのだが、ここまで探しても見つからないということは諦めた方が良いということではないかと竜は考え始めていた。

 入れ替わりで休憩に入ったマキが見つけておくとは言っていたが、それも本当に見つかるとは限らないので、竜の中では(なか)ば諦めが入り始めていた。

 

 

「ぎゅぎゅぎゅーん!」

「この鳴き声は!」

 

 

 生き物を探すのを諦めて仕事に集中しようと竜が考えた直後、竜の背後でついさっき聞いたばかりの鳴き声が聞こえてきた。

 聞こえてきた鳴き声に竜は慌てて振り返り、声の主を探す。

 竜が振り返ると、先ほど見つけた生き物が竜の方を見ながらそこにいた。

 

 

「おー、ようやくまた会えた!」

「ぎゅん!」

 

 

 生き物にようやく会うことができた竜は嬉しそうに生き物に近づいていく。

 竜が近くに来ると、生き物は1枚の紙を竜に向かって差し出した。

 生き物の差し出してきた紙を、竜は不思議そうに首をかしげながら受けとる。

 

 

 

「これは・・・・・・、マキから?」

「ぎゅーん」

「ええと・・・・・・?」

 

 

 生き物から受け取った紙を見てみればマキからのメッセージが書かれていた。

 紙に書いてあったメッセージは簡単に言ってしまえば生き物が見つかったということを教える内容と、探すのに疲れたから休んでいるという内容のものだった。

 

 

「なるほど。こいつを見つけてくれたマキには感謝しかないな」

「ぎゅぎゅん!」

 

 

 紙の内容からマキがこの生き物を探すのに苦労したのだろうと考え、竜はしゃがみこんで生き物の頭を優しく撫でながら呟いた。

 竜に撫でられて生き物は嬉しそうに鳴き声をあげる。

 

 

「そういえば、こいつって名前とかあるのかな?」

「ぎゅん?」

 

 

 生き物の頭を撫でながら竜はふと思ったことを言う。

 竜の言葉に生き物は不思議そうに首?をかしげる。

 

 はっきりと首と言わないのは、生き物の体が毛で(おお)われているために首の場所がよく分からないからだ。

 

 

「お前って名前とかあるのか?」

「ぎゅー・・・・・・、ぎゅんぎゅーん」

「ふむふむ、ほーん・・・・・・、なるほどなー。・・・・・・ぜんぜん分かんねえや」

「ぎゅんっ?!」

 

 

 竜の言葉に生き物はなにかを伝えようとジェスチャーを(まじ)えながら鳴き声をあげる。

 といっても竜はこの生き物の鳴き声や動きからなにかを読み取ることなどできるはずもなく、相づちを打っていたかと思えばアッサリと諦めたように良い笑顔で答えた。

 良い笑顔で答えた竜の言葉に生き物は驚いた表情を浮かべる。

 

 

「んー、“cafe MAKI”にいる毛玉だし・・・・・・。“けだまきまき”かな」

「ぎゅーん・・・・・・」

 

 

 安直な竜の名づけに生き物“けだまきまき”はやや不満そうに鳴き声をあげる。

 けだまきまきの鳴き声が不満そうなことは竜も気づいてはいたが、それよりも呼び名がないことの方が不便なので、竜は気づかなかったことにした。

 

 

「っと、仕事に戻らないとか。またな」

「ぎゅんぎゅーん!」

 

 

 店の中にいるお客の様子からいつまでもけだまきまきに構っていられないと気づいた竜は立ち上がる。

 叶うならばもう少しばかりけだまきまきと遊んでいたかったのだが、それをしてしまってはバイトとして雇ってもらっているマキの父親に申し訳ないので、竜は心の中で涙をこぼしながらけだまきまきに手を振った。

 竜の言葉にけだまきまきは鳴き声を上げ、仕事に戻る竜のことを見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第167話

 

 

 

 

 バイトが終わり、竜はグッと伸びをする。

 バイトに慣れてきたからなのか、最初の時に比べて疲労などもそこまでなく、少しだけ疲れたかな程度のものだった。

 

 

「バイト、おつかれさま。今日も食べていくでしょ?」

「うぉ・・・・・・お、おつかれ。ああ、まぁ、お邪魔させてもらうよ・・・・・・」

 

 

 伸びをする竜の背後にいつの間にか現れたマキは当然のことのように竜を晩御飯に誘う。

 いつの間にか背後にいたマキに竜は驚きつつ、申し訳なさそうにうなずいた。

 

 マキが晩御飯に誘ってくるのはバイトの日の恒例のようになっており、何度か竜も断ろうとはしていたのだが、毎回いつの間にか晩御飯をご馳走になることになっていた。

 そのため、申し訳ないと思いながらもマキの誘いを断ることは基本的になくなっているのだ。

 

 ちなみに晩御飯をご馳走になるばかりでは申し訳ないということで、マキには内緒でバイト代から晩御飯分の金額を引いてもらっていたりする。

 まぁ、それでも晩御飯を作ってもらうという時点で申し訳なく思ってしまうのだが。

 

 

「っと、そうだ。マキ、探してた生き物を見つけてくれてありがとな」

「え?・・・・・・ああ、どういたしまして」

 

 

 バイトが終わって掃除をしようかと考えていた竜は、マキがけだまきまきを見つけてきてくれたことを思い出してお礼を言う。

 竜の言葉にマキは不思議そうに首をかしげたが、すぐにけだまきまきを見つけたことに対するお礼だということに気がついて応えた。

 

 

「それにしてもよく見つけられたよな。俺なんてぜんぜん見つけられなかったし」

「えへへ、運が良かったんだよ」

 

 

 竜がどれだけ探しても見つけることのできなかったけだまきまきを見つけることのできたマキに、竜は感心混じりに言う。

 竜に褒められたことにマキは嬉しそうに笑みを浮かべながら答える。

 

 そして、2人は店の中を軽く掃除していくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 店の中の掃除を終えた竜はマキにつれられてマキの家にいた。

 

 マキはマキの母親と一緒にキッチンにおり、竜はマキの父親と一緒にリビングにいる。

 最初の頃は緊張したこの状態も、今では普通にマキの父親と会話をしながら待つことができるようになってしまっている。

 

 

「────で、マキにけだまきまきを見つけてもらったんですよ」

「けだまきまき?えっと・・・・・・、それは昼間に見つけたあの子のことかな?」

 

 

 竜との会話の中に聞きなれない名前があることに気がついたマキの父親は不思議そうに竜に尋ねる。

 少なくともここ最近でそのような名前がつくものは見たことも聞いたこともなく、竜が始めて見たものであろう昼間の生き物のことかとマキの父親は推測する。

 

 

「あ、はい。“cafe MAKI”にいた毛玉なんで“けだまきまき”って名前をつけたんですけど・・・・・・。もしかしてちゃんと名前とかありましたか?」

「いや、そんなことはないから大丈夫だけど・・・・・・。なかなかにユニークな名前をつけたなぁって思ってね」

 

 

 マキの父親の言葉に竜はもしかしてすでに名前があったのではないかと尋ねる。

 竜の言葉にマキの父親は首を横に振って名づけに関してとくに問題はないことを答えた。

 事実として、マキの父親もあの生き物に対しては特に特別な呼び名などはつけておらず、今までそれで特に不便なことはなかったのだ。

 まぁ、それはマキたち弦巻家だから不便でなかっただけで、竜にとっては不便なため呼び名が必要になったのだが

 

 そのまま、けだまきまきの触り心地を思い出しながら竜はマキの父親と会話を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第168話

 

 

 

 

 弦巻家での晩御飯も普通になにごともなく終わり、竜は帰路を歩いている。

 もはや弦巻家で晩御飯を食べるのが恒例になってしまっており、マキの父親ですら受け入れ始めていた。

 

 

「・・・・・・そういえば、けだまきまきってどこに住んでるんだろう?」

 

 

 帰り道を歩きながら竜はふと思ったことを呟く。

 “cafe MAKI”にいたのだから普通に弦巻家に住んでいるのかと思ったのだが、そのわりには晩御飯の時にはけだまきまきの姿はなかった。

 もしかしたら個別でご飯をあげたりしているのかもしれないが、それでも姿を見れなかったのが少しだけ残念だった。

 

 

「うっ・・・・・・うっ・・・・・・」

「え、なんか泣いてる子がいる・・・・・・」

 

 

 けだまきまきのことを考えながら歩いていると、道の端で泣いている女の子がいることに竜は気がついた。

 今の時刻は7時を過ぎており、こんな時間に女の子が1人で出歩いているのはどう考えても不自然だった。

 

 まぁ、もしかしたら両親が共働きで帰ってくるのが遅くて晩御飯を買ってくる必要がある女の子の可能性もあるが。

 とはいえ、少なくともこれまで帰り道であのように泣いている女の子を見かけたことはないのでその可能性はほとんど無いと言えるだろう。

 

 

「うううっ・・・・・・、なんでうちがこんな目に・・・・・・」

 

 

 少しだけ女の子に近づいてみれば、女の子が和服のような格好で頭に鬼のお面のようなものを着けていることが分かった。

 さすがにこの時間帯で泣いている女の子を見捨てて帰るのも鬼畜が過ぎるような気がしてしまい、竜はどうしようか歩くのを止めて考え始めた。

 

 

「・・・・・・一応、声をかけてみるか」

 

 

 時間も時間なのでそこまで長く考えずに竜は結論を出す。

 どんな理由にしても女の子を放っておくことの方が心情的に辛いものがあるので、竜は女の子に声をかけることを決めた。

 

 

「キツネは怖いし・・・・・・、緑はずんだに変えてくるし・・・・・・、しかも一番ちっこいのは近くに行くだけでなんか削られるような感覚があるし・・・・・・、そりゃあうちの力はそんなに強くはないんやけど・・・・・・」

「えっと・・・・・・、こんな時間に出歩いているけどどうかしたんですか?」

 

 

 ぶつぶつとなにかを呟き始めた女の子に少しだけ恐怖を感じつつも、竜は女の子に声をかけた。

 

 

「あ、すんません。ちょっと辛いことがあってしもうて・・・・・・」

「そうなんですか」

「ええ、そうなんですぅ。もう少ししたら帰ろうかと・・・・・・あれ?」

 

 

 竜の言葉に女の子はペコペコと頭を下げながら泣いていた理由を答える。

 ちなみに竜が自分よりも年下に見える女の子にわざわざ敬語で話している理由は、少しでも警戒されないようにという思いと、知らない女の子だということで若干の人見知りを発動しているからである。

 

 竜に声をかけられて女の子は普通に返事をしていたが、答えている途中でなにかに気づいたのか竜の顔を驚いた表情で見た。

 女の子が驚いた表情で自分を見てきたことに竜は不思議そうに首をかしげる。

 

 

「あんた・・・・・・、うちのことが見えるん・・・・・・?」

「え、そりゃあ、まぁ・・・・・・」

 

 

 竜のことを見ながら女の子は恐る恐る尋ねる。

 女の子の行っている意味がよく分からず、竜は首をかしげたまま答えた。

 

 

「あんな?驚かせてしまうかもしれんのやけど・・・・・・。うちは人間ではないんや・・・・・・」

「あ、幽霊だったの?」

 

 

 少しだけ溜めを作って女の子は自分が人間ではないと竜に教える。

 恐らくは驚かせたりしないようにするためにゆっくりと竜に教えたのだろうが、イタコ先生の前例があったために竜はそこまで驚くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第169話

 

 

 

 

 女の子の自分が人間ではないという普通の人が聞けば鼻で笑うような言葉に竜は特に驚いた様子もなく対応する。

 人間ではないという発言に竜が驚かなかったことに、女の子は少しだけ驚いた表情になる。

 

 

「お、驚かないんか・・・・・・?」

「前までなら驚いたんだけど、そういった存在がいるっていうのを少し前に教えてもらってね。だから、そこまで驚くってほどでもないかな。それになんか俺のことを守ってくれている霊たちもいるらしいし」

 

 

 竜が驚く様子を見せなかったことに逆に驚いた女の子は竜になぜ驚かなかったのかを尋ねる。

 女の子の言葉に竜はイタコ先生から話を聞く前でなければ驚いていたであろうことを女の子に伝える。

 それに加えて竜はイタコ先生やずん子から自身のことを守ってくれている霊のことを聞いていたため、それによってそこまで恐怖感もなかったのだ。

 

 

「守ってくれる霊・・・・・・?悪いんやけどうちな。霊としての力が弱すぎて隠れている霊のことは見えんのよ。だからあんたのことを守ってくれている霊もぜんぜん分からへんねん」

「そうなのか。まぁ、俺も霊力のある人に聞いただけでどんな霊が守ってくれているのかとか知らないんだけどね」

「・・・・・・それってほんまにおるん?」

 

 

 竜の言葉に女の子は竜の周囲を見ながら答える。

 どうやら女の子は霊としてはかなり弱い部類に入るようで、竜の周囲を頑張って見ようとしてもなにも見えないらしい。

 女の子の言葉に竜は自分も守ってくれている霊の姿は見たことがないことを教える。

 竜も自身のことを守ってくれている霊の姿を見たことがないという言葉に、女の子は本当に竜のことを守っている霊がいるのかと心配そうに竜を見る。

 

 ちなみに、竜も女の子も見えていないが、竜のことを守っている動物霊たちはしっかりと女の子のことを観察しており、女の子が悪霊などの(たぐ)いではないと判断したために観察するだけにとどめている。

 

 

「イタコ先生が言ってたんだし、大丈夫だと思ってるけど・・・・・・」

「イタ・・・・・・コ・・・・・・?」

 

 

 女の子の言葉に竜は特に心配はしていないということを伝える。

 竜がイタコ先生の名前を出すと、女の子は驚いた表情で動きを止めた。

 女の子の様子に竜は不思議そうに首をかしげる。

 

 

「う、うちの勘違いかもしれんけどな?・・・・・・イタコって、東北イタコのことか?」

「そうだけど・・・・・・。知ってるの?」

「知っとるもなにも、うちはそこから逃げてきたんよ・・・・・・」

 

 

 竜の口から聞こえてきたイタコ先生の名前に、女の子は確認するように聞き返す。

 女の子がイタコ先生のことを知っているのが意外だった竜は驚いた表情になる。

 女の子の言葉に竜はふとあることを思い出した。

 

 

「もしかして・・・・・・、東北家に預けられたっていう鬼のお面?」

「うちのこと知っとるんか?」

「あれ、でもそのお面にはとくに強い力も感じなかったって聞いた気が・・・・・・」

 

 

 竜が思い出したのはイタコ先生に呼ばれて東北家に言ったときに聞いた預かっているお面のこと。

 しかしその時に聞いたのはお面からはとくには強い力を感じないということで、このような女の子の幽霊がついているのであればイタコ先生が気づくはずなのではないかと竜は首をかしげる。

 

 

「せやから、うちは力が弱すぎるんよ・・・・・・」

「あー・・・・・・、つまりは力が弱すぎるからイタコ先生たちに気づかれなかったってことか・・・・・・」

 

 

 落ち込んだ様子で女の子はイタコ先生たちに存在が気づかれなかった理由を答える。

 

 

「それに霊能者たちに見つかったらどんな目に遭うか・・・・・・。そんな恐ろしいことうちには無理や!」

「イタコ先生たちなら悪いことをしないって約束すれば大丈夫だと思うんだがなぁ・・・・・・」

 

 

 イタコ先生たちの姿を思い出したのか、女の子は自身の体を抱くようにしながら声を上げた。

 そんな女の子の様子に竜は大丈夫だろうと伝えるのだが、その声は女の子の耳には届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第170話



すでに正体は分かっているでしょうが、女の子もこの小説独自の設定となっております。

その辺りはご了承ください。





 

 

 

 

 イタコ先生の名前を聞いてから怯えるように震え始めた女の子の姿に竜は困ったように頬を掻く。

 竜からすればどうしてそこまで怖がっているのかが分からないので、不思議でしかなかった。

 

 まぁ、霊としての力の弱い女の子からすれば自分よりも明らかに強い霊力を持っている人間は恐怖の対象でしかないのだろう。

 

 

「ううぅ・・・・・・」

「あー・・・・・・、そんなにイタコ先生のとこに帰りたくないのか・・・・・・?」

「当然や!霊が好んで霊能者のとこに行きたいなんて思うかぁ!」

 

 

 女の子があまりにも帰りたくなさそうにしているので、竜は念のために確認をする。

 竜の言葉に女の子は感情が暴走し始めたのか、大きく声を上げる。

 

 

「何でもかんでも祓ったりするわけではないと思うんだがな・・・・・・。なら、うちに来るか?」

「うちに・・・・・・、って、あんたの家にか?」

 

 

 女の子の様子がなんだか不憫に思えてきた竜はとりあえずの案として女の子に提案をする。

 あまりにも突拍子のない案に女の子は驚き混じりの表情で竜を見る。

 もしもここにイタコ先生やずん子、きりたんの東北家の誰かがいれば即座にその案を却下していただろう。

 それほどまでに霊を家に招くという行為は危険なことが多いのだ。

 

 

「あんたが良いなら行ってもええとは思うんやけど・・・・・・、本当にええんか?もしかしたらうちが、イタコたちを欺くことができるほどに強くて危ない霊かもしれんのよ?」

「本当に悪い霊ならそんなことは言わないだろ。それに、今少し話しただけでも悪い子じゃなさそうに感じたし」

 

 

 無警戒に霊を家に誘う竜に女の子は心配そうに聞き返す。

 この場合、女の子が心配しているのは自分の身のことではなく、無警戒すぎる竜に対してである。

 

 女の子の言葉に竜は笑いかけながら答える。

 竜のあっさりとした言葉に女の子は思わず言葉を失ってしまった。

 

 

「・・・・・・本当に大丈夫なんか?」

「おう、遠慮はしなくて良いよ」

 

 

 女の子の呟きが聞こえた竜は、家に来ることは問題はないともう一度女の子に伝える。

 

 なお、女の子の呟きの意味は、こんなに簡単に幽霊のことを信じてしまう人間がこれからも普通に生活ができるのかという心配からの言葉であり、竜の捉えていた言葉の意味とはぜんぜん違うものとなっていた。

 

 

「そういえば君の名前は何て言うんだ?」

「うん?ああ、そういえばまだうちの名前を言うてなかったな」

「まぁ、それは俺もだけどね」

 

 

 竜の言葉に女の子はお互いに自分の名前を言っていなかったことを思い出す。

 そして2人は改めて向かい合う。

 

 

「えっと、公住(きみすみ) 竜だ。幽霊については少しだけ知ってるってところかな」

「うちは(えんの)ついなや。一応はこの鬼の面の九十九神、なんやけど・・・・・・、まぁ幽霊でも同じようなもんやね」

「いや、幽霊と九十九神は違くないか?」

 

 

 頭に着けている鬼のお面を竜に見せながら女の子────ついなは自分の名前とどういった存在なのかを竜に教えた。

 

 幽霊は死んだ人間の魂。

 それに対して九十九神は物が長い年月を経て妖怪化したもの。

 あきらかに別物なのだが、ついなはとくに気にした様子もなくあっけらかんと笑いながら答えた。

 そんなついなに、竜は自分の知っている知識から幽霊と九十九神の違いにツッコミをいれる。

 

 まぁ、そもそもとしてついなのことを幽霊だと言ったのは竜なのだが。

 

 

「というか九十九神ならもしかして俺よりも年上・・・・・・?」

「んー?そうは言うても、うちはたかだか140年程度の九十九神やし気にせんでもええよ?」

「むしろ人間からすれば一生以上の年月なんだが・・・・・・」

 

 

 どう見ても小学生か中学生程度にしか見えない外見のついなの年齢が100を越えているということに竜は驚く。

 とはいえ、九十九神からすれば100年を越えてようやく九十九神となれるので、その点から考えればついなもまだまだ九十九神としては若輩者ということになるのだろう。

 

 互いに名前を教えた2人は、そのまま竜の家に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第171話



うまく書けなかった気が・・・・・・





 

 

 

 

 竜の家に到着した竜とついなは、手洗いうがいをしてリビングに移動する。

 リビングについた竜は自分とついなの分の飲み物を用意して椅子に座った。

 

 

「ほんまに家にあげるんやね・・・・・・」

「まぁ、自分から言い出したことだしね」

 

 

 竜の言葉から家にあげるんだろうな、とついなは思ってはいたが、本当に家にあげられると改めて呆れのような感情が込み上げてきた。

 ついなの言葉に竜は飲み物を口に運んでから答える。

 

 飲み物を飲むついなを見ながら竜は考える。

 

 東北家に帰りたくなさそうにしていたから家につれてきたが、この場合はイタコ先生に連絡をいれた方がいいのだろうか

 しかし、家に来る前に見た怯えようを考えると勝手に連絡を入れるのもよくないように感じる。

 

 連絡をした方が良いのか悪いのか。

 いくら考えても出てこない結論に竜はどうしたものかと頭に手を当てる。

頭に手を当てた竜の姿についなは不思議そうに首をかしげて声をかける。

 

 

「頭を抱えてるみたいやけど、どうしたん?」

「あー・・・・・・、そのだな・・・・・・、うーん・・・・・・」

 

 

 ついなの質問に竜はどう答えたものかと頭を悩ませる。

 少しだけ悩んだ竜は考えることを諦め、ついなに決めてもらった方が早いという結論になった。

 

 

「えっとだな。ついなのことをイタコ先生に連絡しておこうかと思うんだけど・・・・・・」

「いやや」

「即答か」

 

 

 竜の言葉についなは食い気味に拒否の意を示す。

 あまりにも早いついなの言葉に竜は苦笑を浮かべる。

 

 

「つってもここにいるってことだけでも連絡しておかないと後々めんどくさくなりそうだけど・・・・・・」

「う・・・・・・」

 

 

 竜の言っている内容も理解はできるのか、ついなは悩ましげな表情を浮かべて黙り混んでしまった。

 

 ついなが悩み始めてから数分後、ようやくついなはイタコ先生に連絡を入れるかどうかの結論を出したようだ。

 

 

「・・・・・・わかった。とりあえずイタコに連絡はしてもろても構わへん。ただ、東北家に戻ることになるんだけはやめてくれ」

「わかった。それじゃあイタコ先生に電話するわ」

 

 

 イタコ先生に連絡を入れてもいいという結論を出したついなは、念を押すように東北家に戻りたくないということを竜に言う。

 真剣な表情で念を押してくるついなの姿に竜はうなずき、スマホを操作してイタコ先生に電話を掛けた。

 

 

「も、もしもし・・・・・・」

『公住くんですの?申し訳ないのですが、いま少し立て込んでいまして・・・・・・』

 

 

 電話に出たイタコ先生は、何やら急いでいるようで、竜と会話らしい会話もせずにそのまま通話を切ってしまった。

 イタコ先生が会話をする前に通話を切ってしまったことに竜は驚き、慌ててイタコ先生にもう一度電話を掛けた。

 

 

『あの、先ほど言いましたわよね?いまは立て込んでいますの。あとでお願いしま────』

「すみません。帰宅途中で九十九神の女の子に会いまして・・・・・・」

 

 

 先ほどの電話で立て込んでいると言ったのにもう一度電話をかけてきた竜に、イタコ先生は少しだけ怒ったような声音で言う。

 イタコ先生が最後まで言葉を言えばまた電話を切られてしまうと考えた竜は、イタコ先生の言葉を遮るようにしながら帰宅途中でついなと出会ったことを伝える。

 竜の言葉にイタコ先生は、しゃべるのを止めた。

 

 

「えっと、東北家には戻りたくないそうで、いまは家にいるんですが・・・・・・」

『まぁ、とりあえず見つかって良かったですわ。東北家(こちら)に戻りたくないと言うのであれば仕方がないですわね。公住くん、その子のことをしばらくの間任せてしまっても良いでしょうか?』

 

 

 竜の説明から、イタコ先生は探している対象が竜の家にいることを知る。

 そして、竜についなのことを任せても良いか確認をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第172話



UA50000の番外話のアンケートを始めます。

期限はUAが46000になるまでです。




 

 

 

 

 イタコ先生に電話をし、ついなを東北家に戻らせなくても良い許可を得た竜は電話を切って向かいにいるついなを見る。

 竜がイタコ先生から許可をもらったことを知らないついなは不安そうに竜を見ていた。

 

 

「ど、どうやった・・・・・・?」

「うん。とりあえずは東北家に戻らずに家にいてくれて良いらしい」

「はふぅう・・・・・・。良かったぁ・・・・・・」

 

 

 竜の言葉についなはホッと息を吐いてテーブルにベチャリと脱力して垂れてしまう。

 まぁ、もともとついなは東北家に戻りたくないと言っていたのだからその緊張は相当なものだったのだろう。

 テーブルに垂れてしまったついなに竜は苦笑し、コップに残っていた飲み物を飲み干した。

 

 

「ん・・・・・・ふぅ。とりあえず心配事もなくなったしゲームでもするか」

 

 

 飲み物を飲み干して空になったコップをシンクに置いた竜はいまだに垂れているついなのことをチラリと見てから何をするのかを決める。

 竜がゲームの準備を始めると、ついなが顔だけを上げて興味深そうに竜の準備をするゲームを見ていた。

 

 

「なぁなぁ、それってなんなん?」

「うん?ゲームだけど・・・・・・、知らないのか?」

「げぇむ?」

 

 

 竜の準備しているものが気になったついなは竜に尋ねる。

 ついなの言葉に竜はついながゲームを見たことがないのかと驚いて聞き返す。

 竜の言葉についなは首をかしげながら竜の言葉を繰り返した。

 

 

「そ、ゲーム。現実ではない場所で色々なものと戦ったり、育成したりすることができるものだよ」

「へぇ、テレビは知っとるけどげぇむは知らんかったなぁ」

 

 

 竜の説明についなは興味深そうに竜の準備したゲームを見る。

 そんなついなの様子に苦笑しながら竜はゲームの電源をいれた。

 

 

「とりあえずはPSO2でもやるか」

「どんなやつなんかなぁ」

 

 

 モンハンやDBDなんかをプレイしても良かったのだが、ついながゲームを知らないという事で驚かせ要素の強いものや、狩猟を題材としたゲームは避けた方がいいのではないかと判断した結果だった。

 そこまで考えるのであればどうぶつの森やポケモンなんかのゲームをやればいいのではないかと思うかもしれないが、そういったゲームをやる気分ではなかったのだから仕方がないだろう。

 テレビ画面に映されるゲームの映像に、ついなは目を輝かせて楽しそうにしていた。

 

 

「えっと、ファントムとエトワールがレベル90まで上げたからヒーローのレベル上げだったな」

「おー!テレビの中でいろんな人が動いとる!」

 

 

 興味があるからときりたんに聞いてその翌日にPSO2をダウンロードした竜は一気に暮らすのレベルを上げていた。

 竜が次にレベルを上げるクラスの確認をしている画面を見ながらついなは興奮気味に声を上げた。

 

 ついなの反応は大袈裟に思えるが、生まれて初めてゲームを見るのであればこんな反応をしてしまうのも無理はないだろう。

 

 

「ほんで、これはどんなげぇむなん?」

「このゲームは武器や防具を装備して色々なモンスターと戦うアクション、つまりは動き回るゲームだな」

 

 

 ついなの疑問に答えながら竜はクラスに合わせた武器と防具を装備していく。

 PSO2を始めてからそれほど日数も経っていないはずなのにどうしてここまで装備が整っているのか疑問かもしれないが、この辺りはPSO2のレアリティの高い装備を集めやすいという特徴と、連続して配られているボーナスキー【虹】というアイテムのお陰である。

 ちなみに、竜が説明の途中でアクションという言葉を言い換えたのは、ついながアクションと言っても分からないのではないかと思ったからだ。

 

 そして、装備の準備を終えた竜はクエストを受けてフィールドに移動した。

 

 

「わっわっ、なんかいっぱい出てきたで?!」

「これが敵だな。他にもまだまだ種類はいるぞ」

 

 

 竜の操作するキャラクターがフィールドを歩いていると、地面から虫のような姿の生き物が現れる。

 現れた虫のような生き物の多さについなは驚き、少しだけテレビから距離を置いた。

 そんなついなの動きに竜は気づかれないように笑いつつ、現れた虫のような生き物を倒していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第173話



最近、VTuverとかやってみたいなぁとか思ったりしてます。

まぁ、まずはパソコンとか買わないとなんですけどね。





 

 

 

 

 心地よい微睡(まどろ)みの中。

 あまりの心地よさに竜の瞳は開かず、再び心地よい闇にへと飲み込まれていきそうになる。

 

 

 この温もりは人々の希望。

 

 命を癒す夢の証。

 

 眠るが良い。 

 

 

      『約束された2度目の眠り』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、この世に永遠に続くものなどどこにも存在しない。

 当然、竜を包み込んでいるその心地よい微睡みが続くこともないのだ。

 

 

「ほれ、起きぃいいいっっ!!」

「うわっ?!わわわっ?!?!」

 

 

 バッサァと思いっきり掛け布団を剥ぎ取られ、竜は驚きのあまり身を(ちぢ)こませてしまう。

 いきなりのことでかなり驚いた竜は目が完全に覚め、驚かせてきた下手人をジットリとした目で見た。

 

 

「ほれほれ、朝なんやからさっさと起きんと」

「起きろって・・・・・・、まだ大分早い時間じゃないか・・・・・・、くぁ・・・・・・」

 

 

 竜の掛け布団を剥ぎ取った下手人、ついなは竜が起きたのを確認すると、布団から出てくるように言った。

 ついなの言葉に竜は時計を確認しながら渋々と布団から起き上がる。

 スマホを操作して時間を確認すれば、普段の竜が起きる時間よりも早い時間だった。

 

 

「なんでこんなに早く・・・・・・」

「そんなに早くはないんやない?うちはいつもこんなもんなんやけど」

 

 

 竜の言葉についなは不思議そうに首をかしげる。

 不思議そうにしているついなの様子から、ついなが本当にこの時間帯で起きるのを早いと思っていないということが理解できた。

 

 ひとまず、目が覚めてしまったから仕方がないということで竜はパジャマから制服にへと着替えをした。

 なお、剥ぎ取った掛け布団を早々に畳んでいたついなはすでに部屋にはおらず、竜の着替えを見てしまって悲鳴を上げるといったイベントが起こることはなかった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 パジャマから制服に着替え終えた竜は洗面所に行き、顔を洗う。

 ついなに驚かされてある程度は目は覚めていたが、冷たい水によって竜の頭はさらにハッキリと覚醒した。

 そして顔を洗ったついでに軽く寝癖などを整える。

 いつもであれば眠れるギリギリまで布団にいるので寝癖に関してはほとんどノータッチなのだが、ついなによって早く目が覚めたために寝癖を整える時間が生まれていた。

 

 寝癖を整え終え、竜は洗面所からリビングに移動する。

 

 

「おはようさん。朝餉(あさげ)はできとるから座って待っとってな?」

「朝餉?・・・・・・ああ、たしか朝御飯のことだったっけ」

 

 

 台所にいたついなに言われて竜は椅子に座る。

 ついなの言った聞きなれない言葉に竜は首をかしげるが、すぐに小説で読んだことのある情報と擦り合わせて意味を理解することができた。

 

 竜が椅子に座ってしばらく待っていると、ついながご飯とお味噌汁、おかずを運んで竜の前に並べていく。

 お味噌汁はネギと豆腐とワカメのとてもシンプルなもので、おかずは焼いた鮭と玉子焼きという、これぞ日本の朝食とでも言うかのようなメニューだった。

 

 

「スゴい手が込んでいるな。それに旨そうだ。いったい何時に起きたんだ?」

「えへへ、でも、そんなに難しいものは作っとらんよ?ほらほら、冷める前に食べてや」

 

 

 並べられた朝食に竜は素直に思ったことをついなに言う。

 竜の言葉についなは嬉しそうにはにかみ、朝食を食べるように促す。

 

 ついなに促され、竜は箸を手に取って朝食を食べ始めた。

 

 ついなの作ったお味噌汁を一口、口に含む。

 それは茜やマキの料理とはまた異なった落ち着きのある味だった。

 

 確かに、茜やマキの料理はとても美味しくていくらでも食べられそうなほどなのだが。

 ついなの料理はなんと言うべきか、田舎の祖母の作ってくれた料理のような、そんなとても落ち着いて休むことのできる味わいなのだ。

 

 ついなの作ってくれた料理を竜はのんびりと、味わうようにゆっくりと食べていく。

 そんな竜の姿についなは微笑みながら温かいお茶を用意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第174話






 

 

 

 

 ついなの用意してくれた朝食を食べ終え、竜はお茶を口に運ぶ。

 落ち着く優しい味わいの朝食に加えてホッとするような温かいお茶。

 これだけで竜は起きたばかりとは思えないほどにとても穏やかな気持ちになっていた。

 

 

「そういえば、ついなは朝ご飯を食べないのか?」

「ああ、うちのご飯はこういう物理的なもんとは違うんよ」

 

 

 お茶を飲んで落ち着いていた竜は、ついながなにも食べていないことに気がついて尋ねる。

 竜の言葉についなはヒラヒラと手を振りながら答えた。

 ついなの言葉に竜が首をかしげていると、ついなは立ち上がって竜の近くに移動する。

 

 

「うちはご主人(●●●)の霊力を貰えれば充分やからな」

「へぇ、霊力を・・・・・・、うん?」

 

 

 竜の近くに移動したついなが竜の手を握ると、繋いだ手が淡く光を放ちだした。

 どうやらこの光は竜からついなに霊力が移動することによって発生しているらしい。

 ついなの言葉に竜は感心し、聞きなれない単語が聞こえたことに首をかしげる。

 

 

「・・・・・・ご主人って?」

「ご主人はご主人や。呼び方が気になるっていうんなら主様(ぬしさま)とか主様(あるじさま)なんてのもあるで?」

 

 

 聞き間違いか何かだと思って竜は聞き返したが、その思いをついなはあっさりと叩き落とす。

 竜の言葉についなは呼び方が気になったのかと思い、他の呼び方の方が良いのか確認をとる。

 まぁ、代替案として挙げた2つはどちらも読み方が違うだけで全く同じ文字なのだが。

 

 

「いや、呼び方よりも・・・・・・、なんで俺がご主人なんだ?」

「だってご主人はうちのことを家に置いてくれるんやろ?そんならうちはご主人の所有物になるっちゅうことになるやん」

 

 

 呼び方よりもどうしてそう呼ぶことになったのかを竜が尋ねると、ついなは腰に手を当てて胸を張りながら答えた。

 どうやらついなの中では・・・・・・

 

 東北家に返したりせずに家に置いてくれる。

      ↓

 自分の所有者となってくれる。

      ↓

 自分の所有者=ご主人

 

 という風に考えられたらしい。

 

 

「え、でももともとの持ち主がいたんじゃ・・・・・・」

「もともと?・・・・・・あー、ちゃうちゃう。うちを東北家に持ってきたんは中古に出されてしもうとったうちを買った人なんよ。買ってくれたことに感謝はしとるけどご主人として認められるかと言われたらそれは別の話になるんや」

 

 

 もともとついなは依頼によって東北家に運ばれてきていた。

 そのため、本来の持ち主がいるのではないかと竜は気になったのだが、ついなは首を横に振って持ち主としては見ていないと答えた。

 ついなの言葉に竜は思わず頭を抱えたくなってしまう。

 

 

「イタコ先生に何て説明しよう・・・・・・」

 

 

 ついなが満足するまでは家に置いてあげようとしか考えていなかった竜はどうしたものかと呟く。

 しばらくすればイタコ先生がついなときちんと会話をして解決するだろうと考えていただけに、ついなに持ち主として認識されるとはまったく予想もできなかった。

 

 

「ほれ、そろそろ家を出る時間なんやない?」

「ん、ああ、そうだな」

 

 

 ついなの主人になるという想定外の出来事にどうしたら良いのかを竜が考えていると、時計を見たついなが家を出る時間なのではないかと竜に言う。

 ついなに言われて時計を見れば、確かにもう少しで家を出る時間になっていた。

 ひとまずついなについては学校で考えることにして竜は学校に向かう準備をしていく。

 

 竜が学校に向かう準備をしていると、何を考えたのかついなは自分の本体ともいえる鬼のお面を差し出してきた。

 

 

「えっと・・・・・・?」

「ご主人のことはうちが守るから持ち歩いてくれへん?」

 

 

 どうやら竜についていくために鬼のお面を竜に持ち歩いてほしいらしい。

 ついなの言葉を聞いて竜は差し出される鬼のお面を見る。

 お面と言うだけあってその大きさは顔を隠すには充分なほどの大きさをしており、正直に言えば持ち歩くには不便な大きさだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第175話

 

 

 

 

 ついなの差し出してきた鬼のお面を見て、改めてついなを見る。

 竜が鬼のお面を受け取ってくれないことで不安になってしまったのか、ついなはほんの少しだが泣きそうな表情になってしまっていた。

 

 

「えっと、さすがにこのサイズを持ち歩くのは目立つし不便なんだが・・・・・・」

「う・・・・・・」

 

 

 竜の言葉についなはソッと目を逸らす。

 どうやらついな自身もサイズ的に大きいかもしれないとは思っていたようだ。

 目を逸らしながらついなは差し出していた鬼のお面を自身の顔にあてて顔を隠してしまった。

 

 

「で、でも、もしも万が一のことがあったらこのお面を目印にしてすぐにうちが駆けつけることができるんやで・・・・・・?」

「それは、まぁ、心強いんだが・・・・・・。やっぱりサイズがなぁ・・・・・・」

 

 

 それでも竜に鬼のお面を持ってほしいのか、ついなは鬼のお面を持ち歩いた場合の利点を竜に伝える。

 まぁ、そもそもとして霊、というよりも九十九神としての力がそこまで強くないついなが駆けつけて何ができるのかが疑問なところだが。

 

 ついなの九十九神としての力がそれほど強くないことはついな自身から聞いていて知っているのだが、それをわざわざ指摘するほど竜は空気が読めないわけではないので、やや濁し気味に答えた。

 

 

「サイズ・・・・・・、サイズかぁ・・・・・・」

 

 

 竜の言葉についなはジッと自身の本体である鬼のお面を見る。

 そして、何を思ったのかいきなり鬼のお面に力を入れ始めた。

 竜はついなの突然の行動に驚き、慌ててついなの動きを止める。

 

 

「ちょいちょいちょい?!なにをしてるんだ?!」

「これを・・・・・・!押し潰せば・・・・・・!小さく・・・・・・!」

「ならないからな?!ただ壊れるだけだからな?!」

 

 

 どうやらついなは鬼のお面を潰して小さくしようという発想に至ったらしく、竜に拘束されながらもどうにか鬼のお面を押し潰そうともがいていた。

 大きさの問題を解決するのに物理的な手法を取ってしまう辺り、九十九神としての年期がまだまだなことの証明だろう。

 

 

「せやかてここでこれを小さくできな、ご主人のことを守れないやん!」

「だとしてもそれを潰したらついなが危ないだろう?!」

 

 

 もがくついなをどうにか宥めながら竜はついなの手から鬼のお面を取り上げる。

 その際についなのいわゆる女の子の部分に触れてしまったりもしていたのだが、2人とも冷静さを欠いていたのでその事に気づくことはなかった。

 

 竜に鬼のお面を取られてしまい、ついなはしょんぼりとしつつもどこか嬉しそうにしている。

 おそらくは小さく潰そうとしたことを防がれてしまったことの落ち込みと、所有者である竜に持ってもらったことによる九十九神としての喜びが入り交じった結果だろう。

 

 不意に竜の手から淡い光が発せられ、鬼のお面に流れ込んでいく。

 

 

「あえ?!な、なんやこれっ?!」

「これは・・・・・・、霊力の移動?」

 

 

 いきなりのことについなは自身の体に起こっている変化に戸惑い声を上げる。

 ついなの様子も気になるところだが、竜は自身の手の光り方がついなが霊力を吸っているときの光と似ていることに気がついた。

 やがて、光が全て鬼のお面に流れ込むと、鬼のお面は一際強い光を発した。

 

 

「うお、まぶしっ・・・・・・」

 

 

 強い光に竜は思わず手で光を遮る。

 強い光が起きたのは数秒ほどで、光が収まったのを確認した竜は手をどかして鬼のお面を確認した。

 

 

「・・・・・・なんか小さくなってる」

「おー!これなら持ち歩いても邪魔にならんやん!」

 

 

 光が収まり、竜が手に持っていた鬼のお面を確認すると、鬼のお面の大きさがかなり小さいものに変化していた。

 急な鬼のお面の大きさの変化に竜は戸惑い、ついなは嬉しそうに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第176話



歌ったりとかの活動をしたいという欲求が・・・・・・

まぁ、まだYouTubeのチャンネルすら作ってないんですけどね。





 

 

 

 

 小さくなったついなの鬼のお面をスクールバッグについているみゅかりさんから貰ったアクセサリーの横につけて竜は家を出る。

 竜と同じタイミングで向かいの家からあかりも出てきたので、竜は軽く手を上げながらあかりに近づいていった。

 

 

「竜先輩、おはようございます!」

「ああ、おはよう。あかり」

 

 

 元気よく挨拶をするあかりの姿にどことなく犬っぽさを感じ取った竜は思わず笑いながらあかりに挨拶を返す。

 竜が笑ったことにあかりは不思議そうに首をかしげるが、とくに答える必要もなさそうだったため竜は笑った理由を答えることはなかった。

 朝の挨拶を終えたあかりは竜のスクールバッグに見なれない物がつけられていることに気がついた。

 

 

「それは・・・・・・、鬼ですか?」

「ん、まぁな。お守り、みたいなものだよ」

 

 

 あかりの視線と言葉からあかりが何のことを聞いているのかを理解した竜はあかりに見えやすいようにスクールバッグを持ち変えて答えた。

 竜がお守りのようなものと答えた瞬間、竜の制服のポケットがモゴモゴと動き始める。

 

 

「ぷぁっ!えへへへ・・・・・・、お守りだなんてそんな・・・・・・」

 

 

 竜の制服のポケットが動いたかと思えば、中からかなりサイズの小さくなったついなが現れた。

 ついなは竜の言ったお守りという言葉が嬉しかったのか嬉しそうにしながら照れていた。

 

 いきなり竜のポケットから現れたついなの姿に竜はあかりが驚くのではないかと思ったが、あかりはとくに驚いたような様子もなく、それどころかまったく気づいた様子もなく鬼のお面をしげしげと眺めていた。

 ついなの存在に気がつかなかったことから、あかりには霊感がないのだということがわかる。

 

 

「鬼のお面でお守りって珍しいですね?」

「そうだな。まぁ、でも鬼が自分のことを守ってくれるって考えたら心強いものがないか?」

 

 

 鬼と聞けば基本的には桃太郎や一寸法師などの昔話の悪役や、鬼畜などの悪い意味で使われる言葉というイメージが多くあるだろう。

 そのため、あかりは竜が鬼のお面をお守りと言ったことに不思議そうに首をかしげていた。

 あかりの言葉も理解できるので、竜はとくに否定もせずに自分の考えをあかりに教えた。

 

 

「ご主人の期待に応えるためにうちはがんばるでー!」

「ああ、期待してるよ」

「?・・・・・・竜先輩、何か言いましたか?」

 

 

 竜の制服のポケットでやる気を出しているついなは大きく両手を上げながら言う。

 ついなの言葉に竜は小さく笑いかけながらあかりに聞こえないように小さな声で呟いた。

 

 可能な限り小さな声で呟いたはずなのだが、それでもあかりは何かが聞こえたらしくキョロキョロと周囲を見回しながら竜に尋ねる。

 

 

「いや、俺はなにも言ってないよ。茜たちが来たみたいだからそれじゃないか?」

「おはようさんや!」

「竜くん、あかりちゃん。おはよう」

「2人ともおはようございます」

 

 

 あかりの言葉に竜は誤魔化しながらこちらに向かってきていた茜たちを見る。

 竜に言われてあかりが茜たちを見るのと、茜たちが挨拶をするのはほぼ同時だった。

 

 

「おう、3人もおはよう」

「茜先輩、葵先輩、ゆかり先輩、おはようございます」

 

 

 茜たちの挨拶に竜とあかりも応える。

 そして、いつもの人数が集まったことによって学校へと向かって歩き始めた。

 

 

「お、竜が寝癖が立ってないなんて珍しいやん」

「そういえばそうだね。いつもは勝手に直るって言って立ったままなのに」

「ああ、今日は少し早く目が覚めてな」

 

 

 竜の髪型がちゃんとしていることに気がついた茜は感心したように言う。

 茜の言葉に葵も少しだけ驚いた表情を浮かべながら竜の頭をペタペタと触った。

 葵の好きにさせながら竜は寝癖を直す時間がとれたことを答えた。

 

 

「へぇ、ほんなら明日からも同じくらいに起きればちゃんと寝癖を直せるっちゅうわけやな?」

「その辺はうちがキッチリ起こすから気にせんでええでー!」

 

 

 ニヤリと笑みを浮かべる茜に、聞こえないだろうとは分かりつつも、ついなは自分がいるから平気だと言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第177話

 

 

 

 

 竜たちはいつものように学校に着き、いつものように校門でマキと出会う。

 繰り返される同じような日々だが、全く同じだということは一切なく。

 常に何かしらに変化の起こるもの、それが世界というものだ。

 

 

「みんな、おはよー!」 

「おう、おはよう」

「マキマキもおはようや」

「マキさん、おはよう」

「おはようございます。マキさん」

「おはようございます。マキ先輩」

 

 

 元気に手を振るマキに竜たちは挨拶を返す。

 マキの元気な挨拶についなも挨拶を返すのかと思ったが、どうやらイタコ先生の気配に気がついたのか学校に近づいた時点で隠れるように竜の制服のポケットに潜り込んでしまっていた。

 竜はお昼休みにでも話をするために保健室に向かおうと考えているので、こんな調子で大丈夫なのかと心の中で苦笑するのだった。

 

 

「ふふふ・・・・・・皆さん、おはようございます」

「あ、生徒会長。おはようございます」

「今日は生徒会が校門に立つ日だったんですね」

 

 

 竜たちのやり取りが微笑ましかったのか、ずん子が笑みをこぼしながら朝の挨拶をしてきた。

 ずん子が声をかけてきたことによって今日は校門に生徒会に所属している生徒たちが並んで挨拶運動をする日だったことを竜たちは思い出した。

 

 ちなみに、今日は生徒会に所属している生徒たちが校門に並んでいるが、昨日は茶道部に所属している生徒たちが校門に並んでいたし、一昨日はまた別の部活に所属している生徒たちが校門に並んでいた。

 これはこの学校独自の挨拶週間の活動で、1日1つの部活が校門に並んで登校してくる生徒たちに挨拶をするという内容のものだった。

 なお、2つの部活を兼任している生徒や、生徒会に所属している生徒はどちらか片方で活動をすればよく、帰宅部の生徒は一番最後に順番が回ってくるようになっている。

 これだけを聞けばサボる生徒がいるのではないかと思うかもしれないが、この学校においてとくに重要視されているものは成績ではなく、授業態度や学校行事や活動に積極的に参加しているかなのでサボる生徒というのは基本的にはいないのだ。

 

 

「あら?公住くん、その鬼のお面・・・・・・」

「あ、これに関しては今日のお昼に保健室に行く予定です」

 

 

 挨拶をしたずん子は竜のスクールバッグに小さな鬼のお面がつけられているのを見つけた。

 東北家に持ち込まれたものということで当然ずん子も鬼のお面を確認しており、東北家からなくなった物と竜がスクールバッグにつけているものが大きさ以外全く同じだということに気がついていた。

 

 

「いきなりなくなったから気になっていたけど、それなら大丈夫ね」

「は、はい・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にずん子はホッとしたように息を吐きながら竜に笑いかける。

 ずん子の笑顔に竜は少しだけ照れくさくなって目線を逸らしながら答えた。

 それから少し話した後、ずん子は挨拶運動をするために戻っていった。

 

 

「ほなうちらも教室に向かうでー」

「そうだね。竜くんも行こう」

「いつまでもここで話しているわけにもいきませんしね」

「教室で荷物を置いてから話したいしねー」

「私としてはココくらいでしかお昼休みまで話す時間がないんですけど、1年生の教室は少し遠いですし諦めますね」

 

 

 竜がずん子に照れているのが面白くなかったのか、茜たちは口々にそう言って竜の手を引きながら下駄箱まで移動する。

 あかりだけは1年生ということで教室で話すことはできないのだが、2年生と1年生の教室の位置の関係から諦めることにしたらしい。

 そして、靴から上履きに履き替えた竜たちはあかりと分かれて教室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第178話

 

 

 

 

 授業が進み、昼休みになる。

 昼休みになればお腹を空かせた生徒たちが食料を求めて食堂や購買へと押し寄せ、ヨダレでヨダレを洗うような苛烈な争いが起こるだろう。

 そんな恐ろしき戦士たちの行軍を横目に竜はマキからお弁当を貰うのだった。

 

 

「毎度のことながら食堂とか購買に走っていくやつらは学校に来る前に買おうとか思わないんかね?」

「せやね。あんなに慌てて走ったら危ないんやし」

「でも誰かが怪我をしたっていう話は聞いたことないよね?」

「そういえばそうですね。誰かしら怪我をしてもおかしくはなさそうなんですけど」

「でも食堂でしか食べられないものとか、購買じゃないと買えないものもあるから仕方がないんじゃないかな?」

 

 

 走っていく生徒たちを眺めながら竜たちは思ったことを口々に言う。

 日によって人数に増減が多少はあるものの、それでもかなりの人数の生徒たちが食堂と購買に向かっており、この光景はもはやこの学校の名物のようなものになっていた。

 なお、この時に誰がお昼を買えるかの賭け事がおこなわれていたりすることもある。

 まぁ、結局は廊下を走っていたりするということと、賭け事をしたということから全員が教師に怒られるのだが。

 

 

「うん?」

 

 

 ふと、竜は廊下を走っていく最後の生徒たちの中に小さな子どもの姿があったように感じる。

 見間違いかと思って同じところを見るがすでに生徒たちが走り去ったあとで誰の姿もない。

 気にはなったがここは高校なので子どもがいるはずがないと竜は首を横に振った。

 

 

「どうかしたんか?」

「ちょっと気になるものが見えたんだが・・・・・・、たぶん気のせいだろ」

 

 

 竜が首を横に振ったことが気になった茜が竜に尋ねる。

 茜の言葉に竜は、おそらくは見間違いだろうしとくに言う必要もないだろうと考え、首を横に振った理由を答えなかった。

 

 そして、マキのお手製弁当を食べ終えた竜は保健室にいるイタコ先生に会うために保健室に向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 保健室に向かう竜はチラリと中庭に目を向ける。

 この学校の中庭には太宰府天満宮から分けて貰ったという梅の木が植えられており、なぜか四季を通して散ることなく梅の花が咲き誇っていた。

 

 

「なんであの梅の木は枯れないんだろうな・・・・・・?」

「んー?」

 

 

 入学してから常々気になっていたことを竜は呟く。

 普通であれば春に咲いて秋ごろから枯れ始めるというのにこの学校の梅の木は枯れることなく雪の中ですら咲き誇っていた。

 しかもその事を誰も疑問に思っている様子がないのだ。

 その割には学校以外で冬に植物が生えていれば珍しいと驚く始末。

 

 竜の言葉についなは竜の制服のポケットから顔を出して梅の木を見た。

 

 

「おー、キレイな梅の花やなぁ」

「そうだな」

 

 

 梅の木を見たついなは嬉しそうに声を上げる。

 ついなの反応に竜は笑いかけながら保健室に向かって歩みを進めた。

 

 そんな竜とついなのことを見つめている2人分の視線に気づかぬまま。

 

 

「失礼します」

「あら、いらっしゃいませですわ」

 

 

 竜が保健室に入ると、お茶を飲んでいたイタコ先生が気づいて返事をした。

 イタコ先生が振り向いたのを確認した竜はスクールバッグから外しておいた鬼のお面をイタコ先生に見せる。

 

 

「あら?こんなに小さかったかしら?」

「えっと、よく分からないんですけど、朝、自分の霊力が流れ込んだと思ったらいきなり小さくなりまして」

 

 

 竜の見せた鬼のお面の大きさが小さいことにイタコ先生は首をかしげる。

 イタコ先生の言葉に竜は簡潔に今朝あったことを説明した。

 それと同時に制服のポケットからついなを手に乗せてイタコ先生に見せる。

 イタコ先生の前に出されたついなは怯えるように竜の手にしがみつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第179話

 

 

 

 

 竜の見せた鬼のお面を見たイタコ先生は続いて竜の手にしがみついているついなを見る。

 イタコ先生の視線を受け、ついなは竜の手にしがみつく力をさらに強くした。

 

 

「あらまぁ、こんなに可愛らしい子がついていたんですのね」

「あれ、ついなのことを見たことはなかったんですか?」

「ええ、ですが九十九神ということとこの鬼のお面で分かりますから」

 

 

 そっとついなの頭を撫でながらイタコ先生は微笑む。

 イタコ先生の言葉に、竜はイタコ先生がついなの姿を見たことがないと知り、少しだけ驚いた表情を浮かべる。

 竜の言葉にイタコ先生はうなずいた。

 

 

「そういえば・・・・・・、この子の名前を知っているんですのね?」

「はい、お互いに自己紹介をしまして」

 

 

 竜がついなの名前を呼んでいることに気がついたイタコ先生は不思議そうに竜とついなを見る。

 イタコ先生の言葉に竜は何か気になることでもあったのかと思いながら、ついなと顔を見合わせた。

 

 

「えっと、霊や妖怪などにとって名前とは特別な意味を持っていると言ったのは憶えています?」

「あ、はい。たしか、名前を知ればある程度自由に操ることができ、る・・・・・・とか・・・・・・。あ゛・・・・・・?!」

 

 

 イタコ先生に言われ、竜はイタコ先生から聞かされたことを思い出しながら答えた。

 霊や妖怪などにとって名前は特別であり、それを利用して悪用されないようにするためにイタコ先生は自身に宿しているキツネの名前を誰にも明かさないようにしている。

 そこまで思い出した竜は自分が普通についなの名前を呼んでしまっていることに気がついた。

 

 

「もしかして、マズイ・・・・・・ですかね?」

「まぁ、不可抗力としておきましょうか」

「なんやご主人。なんかマズイことでもしてもうたん?」

 

 

 自分がついなの名前を呼んでいることに気がついた竜は、ギギギ、と錆びた機械のようにぎこちなく首を動かしてイタコ先生を見る。

 竜がうっかりでついなの名前を呼んでしまっていたのだろうということを理解したイタコ先生は、小さく息を吐いて仕方がないといった様子で答えた。

 竜とイタコ先生の様子に、ついなは首をかしげながら尋ねる。

 ついなが竜のことをご主人と呼ぶと、イタコ先生は驚いた表情でついなと竜を見た。

 

 

「ちゅわぁ・・・・・・。もしかして公住くんにはそういった趣味がありますの?」

「いや、違いますよ?!」

 

 

 ついなの竜の呼び方が竜の指定したものではないのかと勘違いしたイタコ先生は、恥ずかしそうに顔を赤らめながら尋ねる。

 イタコ先生の勘違いに気づいた竜は慌てて否定する。

 竜とイタコ先生が慌てている原因が自分だとは思っていないついなは、2人の様子に首をかしげる。

 

 

「ご主人はうちの所有者になってくれるんやからご主人であっとるやろ?」

「え、でもこの鬼のお面は依頼されて来たものですし・・・・・・」

 

 

 ついなの言葉にイタコ先生は困惑した表情で竜とついなを見る。

 ついなの中ではすでに鬼のお面の所有者は竜として認識されており、東北家に持ってきた依頼主に関してはすでに記憶から削除されていた。

 困惑した表情のイタコ先生に竜はなんと言ったら良いのか分からず、ポリポリと頬を掻く。

 

 

「えっと、その、すみません・・・・・・」

「・・・・・・はぁ、仕方がありませんわね」

 

 

 おそらく何を言ってもついなの意思を変えることはできないだろうと察してしまった竜はイタコ先生に謝る。

 竜の言葉にイタコ先生は息を吐いて依頼者にどう説明しようか考え始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第180話

 

 

 

 

 イタコ先生についなと、ついなの鬼のお面についての話をし終えた竜は保健室から出て教室に向かう。

 昼休みの残り時間も少なく、少しばかり早足気味に竜は廊下を歩いていた。

 

 

「とりあえずつい・・・・・・じゃなくて、“いな”のことはなんとかなって良かったな」

「せやね。これで心置きなくご主人って呼べるっちゅうもんやなぁ」

 

 

 竜の制服のポケットからちょこんと顔を覗かせているついなのことを見ながら竜は言う。

 竜が聞きなれない名前を呼んでいることが気になるかもしれないが、これは九十九神であるついなの名前を簡単には知られないようにするためにつけた愛称(ニックネーム)のようなものだ。

 なお、愛称(ニックネーム)だからといって4文字や5文字の文字数制限などはないので安心してほしい。

 

 

「ねぇねぇ、お兄さんは視える人なん?」

「ちょ、なにいきなり話しかけとるん?!」

「・・・・・・はい?」

 

 

 渡り廊下を歩いていた竜は不意にかけられた声に首をかしげながら声のした方を見る。

 

 分かっていることだが、竜がいるのは平日の学校であり、竜よりも年下の存在は基本的には1学年下の後輩くらいしかいない。

 そのため、竜のことをお兄さんと呼ぶような存在は基本的にはいないのだ。

 まぁ、もしかしたら後輩で1つしか年が違っていなくてもお兄さんと呼ぶような生徒がいるかもしれないが。

 

 

「・・・・・・聞き間違い、か?」

「え、でもさっきの声はうちにも聞こえたで?」

 

 

 声のした方を見てみたがそこには誰もおらず、キレイな梅の木がヒラヒラと花びらをこぼしている光景が広がっていた。

 昼休みの終わりが近づいてきているのは分かっているのだが、それでも目の前に広がる光景に竜は思わず足を止めてしまう。

 

 先ほど耳に届いた声は聞き間違いだったのかと竜は首をかしげるが、同じように声が聞こえていたついなはそれを否定する。

 仮に竜の聞こえた声が気のせいや幻聴の(たぐ)いであればついなには聞こえていないはずなので、それらの可能性は限りなく低いといえるだろう。

 

 

「・・・・・・ご主人、はよ教室に戻らな」

「あ、そうだな」

 

 

 竜が歩くのを止めて梅の木に見惚れていることに気がついたついなは、竜に教室に戻るように言う。

 ついなとしてもこのままここで竜と一緒に梅の木を見てのんびりとするのも悪くはないのだが、それをしてしまっては竜が教師に怒られてしまうと分かっているのでしなかった。

 

 ついなに言われ、竜は教室に戻っている途中だったことを思い出して歩き始めた。

 

 

「ありゃー、行っちゃったばい。なして止めたと?」

「むしろなんで止めんと思ったと・・・・・・」

 

 

 歩いていく竜の後ろ姿を梅の木の枝の上から2つの影が見ている。

 片や桃色、片や青色の2つの影の大きさは小さく、どう見ても竜たちと同じ学生には見えなかった。

 

 

「むぅ、でもあのお兄さんは大丈夫と思うんよ」

「それを決めるんは僕らじゃなか。そのへんはイタコさんに聞いてみんと」

「それじゃあ、聞きに行ってみるばい!」

「あ、ちょっ・・・・・・」

 

 

 桃色の影の言葉に青色の影は呆れたようにため息を吐きながら言う。

 青色の影の言葉からこの2つの影がイタコ先生と関わりのある存在だということがうかがえた。

 そして、2つの影は溶けるように梅の木に消えていくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 

「公住、遅刻だぞ・・・・・・」

「すみません。梅の木を見てたら遅れました・・・・・・」

「間に合わんかったかぁ・・・・・・」

 

 

 梅の木を見ることに時間をかけてしまっていた竜は見事に授業にギリギリのところで遅刻をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第181話



パソコンを買って、動画の作り方を学んで、イラストを考えて・・・・・・

大変そうだけど楽しそうですよね。






 

 

 

 

 学校の授業がすべて終わり、竜は帰る準備をする。

 竜が帰る準備をしているのを見たついなも他の人に見えないように気をつけながら帰る準備を手伝っていた。

 パッと見でお手伝い妖精とでも言えるような動きだろうか。

 

 

「っし、帰るかな」

「あ、帰りに食材を買いに行ってほしいんやけど」

 

 

 帰りの準備が終わり、竜がスクールバッグを手に持って立ち上がる。

 それと同時についなは竜の制服のポケットに潜り込み、帰りに買い物に行くように竜にお願いした。

 

 

「ほな、帰るでー」

「うおっ?」

「お姉ちゃん、バッグを持たないでどこに帰るの?」

 

 

 ドン、と立ち上がった竜の背中に衝撃が走る。

 振り返るとそこにはニヤニヤとした表情の茜が肩からぶつかった体勢でそこにいた。

 その後ろでは茜のスクールバッグを持った葵が呆れたような表情を浮かべている。

 どうやら茜はスクールバッグを持たずに竜に突撃してきたようだ。

 

 

「んじゃ、帰るか。自分のバッグは自分で持てよー?」

「わ、ちょ、やめぇ!」

 

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべている茜の髪の毛をグチャグチャにかき混ぜながら竜は言う。

 竜に髪の毛をグチャグチャにされ、茜は声を上げる。

 竜と茜にとってはじゃれあいのようなやりとりだが、普通の女性に対して髪型を乱すような行為は基本的には嫌われる要因なので、相当に仲の良くて怒られない関係性の女性以外には決してやらないようにすることをオススメする。

 

 

「ほら、お姉ちゃん。バッグ」

「おー、ありがとうなぁ」

 

 

 竜によって乱された髪型をて櫛で整える茜に葵はスクールバッグを手渡す。

 手櫛で髪型を整える茜の表情はどこか嬉しそうで、竜とのやり取りを楽しんでいるのだろうということがうかがえた。

 そんな茜の様子に葵は少しだけ羨ましそうな表情を浮かべる。

 

 

「・・・・・・・・・・・・ぃぃ…ぁ」

「うん?葵、なんか言うたか?」

「・・・・・・あ、ううん。なにも言ってないよ」

 

 

 葵がなにかを呟いたような気がし、茜は葵の顔を見て尋ねる。

 茜に尋ねられ、葵は少しだけ慌てた様子で否定した。

 慌てた様子の葵に茜は不思議そうに首をかしげるものの、そこまで気にすることでもないだろうと考えて竜の近くに移動した。

 

 

「葵ー、帰るでー」

「うん。今行くよ」

 

 

 茜に呼ばれ、葵も竜の近くに移動する。

 そして、3人は帰路についた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 学校から家への帰り道。

 竜と茜はゲームの話や漫画の話などで盛り上がっており、その1歩後ろを葵は歩いていた。

 これは別に竜と茜に葵をハブろうなどという考えがあるわけではなく、話をしている内に葵が自然とフェードアウトしていってしまったのだ。

 

 

「あ、せや。葵ー、今日はなにか食べたいもんとかあるかー?」

「うーん、しいていうならお肉系統のものかな」

 

 

 ふと思い出したように茜は葵に尋ねる。

 茜の言葉に葵は少しだけ考え、一番食べたいと思う系統のものを挙げた。

 葵の答えがお肉系統とフワッとした答えに思えるかもしれないが、「なんでもいい」と答えられるよりははるかに良い答えなので、料理を作る側としては系統が決まるだけでもかなり助かるものとなる。

 

 

「なぁなぁ、ご主人は食べたいものとかあるん?」

「ん、そうだな。基本的には肉系が好きなんだが・・・・・・、今日は魚の気分だな」

 

 

 茜と葵のやり取りから今日の晩御飯について聞きたくなったのか、ついながピョコリと顔を出して竜に尋ねる。

 普段は肉系統のものを好んで食べる竜だが、ときどき無償に魚や野菜、麺類など他の系統のものが食べたくなるときがある。

 竜の言っていることに共感できたのか、ついなはうんうんと何度も頷く。

 

 そして、竜の言葉についなは竜に買ってもらう食材をどれにするか考え始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第182話



感想はいつでも待ってますので気楽にお願いします、




 

 

 

 

 スーパーについた竜たちはそれぞれ必要なものを選んで買い物かごに入れていく。

 茜は葵の食べたいものである肉類を重点的に見ていき、竜は魚類を重点的に見ていく。

 料理をしている茜はどのお肉を選べば良いのかが分かっているのだが、基本的に料理をしない(できないとは言っていない)竜は茜レベルまでに目利きはできていなかった。

 

 

「これは・・・・・・微妙な気が・・・・・・。これが良さそう、かな」

 

 

 慣れないながらも竜は自分で見て良さそうな魚を選んで買い物かごに入れていく。

 竜の入れていくものを見てついながなにも言わない辺り、とくにひどい食材もないということだろう。

 

 

「これくらいあれば充分かな」

「んー、ご主人1人ならこれで大丈夫やね。お客さんを呼ぶとかなら足りひんけど・・・・・・」

 

 

 買い物かごの中にそこそこの量の食材を入れたのを確認して竜は一度買い物かごの中身を確認する。

 竜の言葉についなも買い物かごの中身を確認して頷く。

 必要な食材の量としては基本的に竜1人分だけで済むので、茜と葵の2人分よりも少しだけ安く済むのだ。

 

 

「お、竜も買うものは取りおわったんやね」

「まぁな。・・・・・・あれ、葵はどうしたんだ?」

 

 

 竜がレジに並んでいると、同じように買い物かごの中に食材を入れた茜が並んできた。

 茜は先に並んでいた竜に気がつくと、買い物かごを持っていない方の手を上げて竜に声をかける。

 茜に声をかけられた竜は後ろに茜が並んできたことに気がついた。

 茜の方を見た竜は、葵が一緒にいないことに気がつき、どうしたのか尋ねる。

 

 

「あー、なんや見たいものがあるとか言って別行動中や」

「スーパーで見たいものって・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に茜は葵が別行動をしているのだと答える。

 スーパーで葵の見たいものというのがなんなのかまったく見当がつかず、竜は不思議そうに首をかしげる。

 

 スーパー、正式に呼ぶのであればスーパーマーケットには基本的には食材が多く。

 食材以外には筆記用具やティッシュなどの日用品が置かれており、売られているものに関してはそこそこの種類があるだろう。

 とはいえ、筆記用具などを買うのであれば文具店で買った方が好みの物を見つけやすくなるし、日用品もドラッグストアの方が選択肢は多いだろう。

 

 

「お姉ちゃん、これ!」

「あー・・・・・・、なるほど」

 

 

 竜と茜が会話をしていると、葵がやや興奮気味に商品を持って走ってきた。

 店内で走るのはあまり、いやかなり良くないのだが、すでに1度店内で走って怒られてしまっている竜と茜は注意をすることができなかった。

 葵が茜の持っている買い物かごに入れたものを見て、竜は納得したように声を上げる。

 

 

「新作が出たんだって!それで安売りしてたの!」

「せやかて10個もいらんやろ・・・・・・。半分戻してきい」

「えー・・・・・・」

 

 

 葵は買い物かごの中に入れたものがセールをしていて安かったと茜に伝える。

 まぁ、セールでいくら安くなっていようともそれで量を買っていたらあまり意味がないので、茜は入れたものをせめて半分にするように葵に言った。

 茜の言葉に葵は不満そうに唇を尖らせる。

 

 

「あー、いくつかもらっても良いか?葵がオススメするなら外れってことはないだろうし。それに遊びに来たときに食えるだろうしな」

「良いの?!」

「もう、竜はそうやって葵を甘やかすんやから」

 

 

 渋々といった様子で買い物かごの中から入れた数の内の半分を取り出した葵に竜は声をかける。

 竜の言葉に葵は嬉しそうに竜の買い物かごに持っていたものを入れた。

 竜の言っているように、葵の持ってきたものは葵がもっとも好きな食べ物で、これに関する嗅覚で葵が外れと呼べるようなものを引き当てたことは1度もないのだ。

 竜と葵のやり取りに茜は呆れたように言う。

 

 

 葵が持ってきた食べ物。

 

 

 それは冷たくて爽やかなのにとても甘く。

 

 色合いも蒼くキレイ。

 

 

 葵(いわ)く、とてもかわいいお菓子。

 

 

 

     それは、チョコミントアイスだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第183話




UAが46000を越えたのでアンケートは締め切ります。

結果は琴葉姉妹ということになりました。

アンケートに参加してくださった皆さまありがとうございます。






 

 

 

 

 スーパーで葵が持ってきた新作のチョコミントアイスを含めた買い物袋を手に持ちながら竜たちは帰路につく。

 アイスが入っているということもあってその歩調はやや早く。

 葵に至ってはスキップまでしているほどの喜びっぷりを見せていた。

 

 

「そういえば今さらなんやけど、竜も食材を買ったんやね?」

 

 

 歩きながら竜の手にある買い物袋を見て茜は尋ねる。

 普段の竜を知っている茜からすれば、竜がここまで食材を買うことが珍しいことなことに気がつく。

 まぁ、滅多にないことなのだが、竜もたまに自分で料理をしようと考えるときがあるので絶対に無い、というわけではないのだが。

 

 

「まぁ、ちょっと必要になってな」

「ほーん?」

 

 

 ついなのことを説明してもいいのか分からず、竜はとりあえず適当にごまかす。

 竜の言葉に、茜はどこか納得のいかないような表情になりながら首をかしげた。

 

 

「まぁ、そのへんは竜にもなにか事情があるんやろうから聞かんでおくわ」

「お姉ちゃん、竜くん!早く帰らないとチョコミントアイスが溶けちゃうよー!」

 

 

 竜が言葉を濁したことに何となく気がついた茜は竜から話してくれるのを待つと言う。

 竜と茜の歩みが少しだけ遅くなっていることに気がついた葵が元気に手を振りながら2人を呼ぶ。

 正直、葵がここまで感情を前面に出して元気よく声を出している姿は珍しく・・・・・・、珍しく・・・・・・。

 いや、チョコミントアイスの新作が出るたびに似たような状態になっているのでそこまで珍しいものではないか。

 

 葵に呼ばれ、茜は少しだけ歩くスピードを上げた。

 

 

「ご主人、うちのことを言っても良かったんやないか?」

「うーん・・・・・・、まぁ、ずっと黙っているわけにもいかないだろうしな・・・・・・」

 

 

 竜の制服のポケットから顔を出してついなは尋ねる。

 今朝、体が小さくなってからずっと竜のポケットにいるのだが、これが意外と居心地がよく。

 竜の体が近くにあるということでポケットの中にいながら霊力の供給をすることも可能なのだ。

 

 ついなの言葉に竜は頬を掻きながら答えた。

 

 今すぐついなのことを話してもいいのかは竜には判断ができないので、あとでイタコ先生に確認をしてからにしようと考え、竜は茜と葵に追いつくために歩くスピードを早めるのだった。

 

 

「うーん、確かに竜くんが食材を買ってるなんて珍しいよね」

「せやろ?まぁ、もしかしたら自分で料理がしたくなっただけかもしれへんけどな」

 

 

 葵のもとに先に追いついていた茜は、竜について葵と話をする。

 茜に言われ、チョコミントアイスの新作のことで頭が一杯になっていた葵も不思議そうに首をかしげる。

 

 

「あ、もしかしたら道ばたで女の子を拾ったとか」

「お?そんならその子が家に住み込んで家事をやってくれるっちゅう展開か?」

 

 

 パン、と手を合わせて葵は思いついたことを言う。

 葵のまるで漫画のような展開に、茜はその後どのような展開になるのかを茶化し気味に言った。

 まぁ、まさかその予想が本当のことだとは2人は思ってもいないのだが。

 

 

「家事をやるって言ったら・・・・・・、メイドさんとか?」

「あー、おかえりなさいませ、ご主人様。やねぇ」

 

 

 中身のない適当な会話がだらだらと2人の間で交わされる。

 まぁ、姉妹による会話なんて大体どこでもこんなもんだろう。

 そんな会話をしていた2人に竜が合流する。

 

 

「竜も追いついてきたなー。今日は帰ったらなにやろかー?」

「俺は・・・・・・、ひとまずはPSO2でレベル上げだな」

「あ、それならボクたちもやろうかな。まだレベルは80くらいで止まってるし」

 

 

 家に帰ったらなにをするかを話しながら竜たちは家に向かって歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第184話

 

 

 

 

 家に到着した竜は、買った食材を冷蔵庫に入れ、手洗いうがいをする。

 竜が手洗いうがいを終えると、次はもとの大きさに戻ったついなも手洗いうがいをした。

 

 

「みゅい!」

「ん?おー、みゅかりさん。遊びに来たのか」

 

 

 竜が洗面所からリビングに戻ると、いつのまにか家の中に入り込んでいたみゅかりさんが元気よく鳴きながら前足を上げた。

 みゅかりさんに気がついた竜は早足で駆け寄り、みゅかりさんを抱き上げる。

 

 

「これから茜と葵の2人とPSO2をやるんだが、見てるか?」

「みゅ~・・・・・・、みゅみゅ!」

 

 

 竜は今からやるゲームが1人プレイしかできないゲームであることをみゅかりさんに伝える。

 竜の言葉にみゅかりさんは少しだけ考えるような仕草をし、元気よく鳴き声を上げた。

 どうやら竜のプレイを見ていくことにしたらしい。

 

 

「うん?ご主人、その猫(?)はどうしたん?」

「ああ、この猫はみゅかりさんって言ってな。よく家に遊びに来るんだ」

「みゅう?」

 

 

 手洗いうがいを終えてリビングに戻ってきたついなは、竜が抱き抱えているみゅかりさんに気がつき、首をかしげながら竜に尋ねる。

 ついなに聞かれ、竜はみゅかりさんについて簡単についなに説明をする。

 竜がついなにみゅかりさんのことを説明していると、みゅかりさんは不思議そうに竜を見た。

 みゅかりさんが目の前にいるついなのことに気づいている様子が見られないことから、みゅかりさんはついなのことを見ることができていないことがうかがえた。

 

 猫といえば幽霊や人には見えないものが見えるという話を聞いたことがあったため、竜は少しだけ意外そうにみゅかりさんを見る。

 

 

「みゅみゅみゅい?」

「どうやらこの子、みゅかりさんにはうちのことは見えないみたいやね」

「みたいだな。えっと、見えないみたいだけどそこに九十九神の子がいるんだよ」

 

 

 不思議そうに首をかしげているみゅかりさんの姿から見えていないのだろうということを理解したついなはみゅかりさんの前に移動してジッと見つめる。

 ついなの言葉に竜は頷き、みゅかりさんについなが目の前にいることを伝えた。

 

 

「み・・・・・・?みゅみ・・・・・・?・・・・・・み゛ゅ゛あ゛う゛?!」

「うぉわっ?!」

 

 

 竜の説明にみゅかりさんはしばらく無言でキョロキョロと竜とついなのいる方向を見ると、悲鳴のような鳴き声を上げて竜の首もとに飛びついた。

 そしてみゅかりさんはガッシリと竜にしがみつき、どうやっても離れなくなってしまった。

 みゅかりさんがいきなり飛びついてきたことに驚き、竜もやや大きな声を上げてしまう。

 

 

「だ、大丈夫なんか?!」

「あ、ああ。俺はみゅかりさんが飛びついてきたことに驚いただけで、とくに痛みとかもなかったから・・・・・・」

「みゃうぅぅううう・・・・・・」

 

 

 みゅかりさんが飛びついたことによって大きな声を上げた竜に、ついなは驚きつつも心配して声をかける。

 ついなの言葉に竜は軽く手を振りながらとくに怪我もしていないことを伝える。

 竜がしゃべったことからまだ近くについながいることを理解したのか、みゅかりさんは震え声の鳴き声を上げた。

 

 

「まぁ、みゅかりさんは力もそこまで強くなくて軽いし、このままでも大丈夫だろ」

「いや、それでもせめて首からは移動してもらった方がええんやない?」

 

 

 みゅかりさんの力が弱いことから首につけたままでも大丈夫だろうと考える竜についなは心配そうに言う。

 一般的に首を絞めると呼吸が苦しくなって気を失い、最終的には死に至ると考えられている人が多いかもしれないが、首を絞められて死ぬ要因は呼吸困難だけではない。

 

 1つは最初に言ったように呼吸をするための気道を絞められることによるもの。

 実はこれが一番大変なものだったりする。

 

 次に動脈を絞められたことにより、脳に血液が行かないことによるもの。

 

 そして、静脈を絞められてたことによって血液が止められ、血液が循環しないことによって脳に多大なダメージを与えるというもの。

 

 最初の気道を絞められて呼吸ができないというのはイメージがしやすいだろうが、残りの2つはややイメージがしにくいかもしれない。

 ちなみに、気道を絞める場合は15kg、動脈を絞める場合は3.5~5kg、静脈を絞める場合は2~3kgほどの力を込めることができれば良いらしいので、じゃれあいなどで首を絞めるにしてもあまり力はいれない方が良いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






首を絞める行為は本当に危険ですので、本当にやらないでください。




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第185話

 

 

 

 

 どうにかみゅかりさんを首からお腹にへと移動させ、竜はテレビの前のソファーに座る。

 地味に首から移動させるときにしがみつく力が強くなって竜の首が絞まりかける事態も起こったが、少し咳き込む程度で済んでいた。

 

 

「っと、茜はもうログインしてたか」

「みゅうぅぅう・・・・・・。みゅうぅぅう・・・・・・」

 

 

 ソファーに座った竜は、プレイステーション4を起動してフレンドのログイン状態を確認する。

 見たところ茜と葵はすでにPSO2にログインしているらしく、他にも“KIRIKIRI”もログインしているようだ。

 茜と葵がログインしているのを確認した竜は会話をできるようにするためにパーティーを作成し、招待をかける。

 

 竜の呟きを聞きながら、みゅかりさんは体を震わせながらグリグリと竜の腹部に頭を押し付けていた。

 

 

『おー、やっと来たんか』

『ちょっと時間がかかってたみたいだけどなにかあったの?』

「ちょっと待たせたみたいだな。みゅかりさんが来ていてな」

 

 

 ザザッ、という接続音がすると、茜と葵の声が聞こえるようになった。

 これで2人とは普通に会話をしながらゲームをすることができるようになったので、竜は改めてPSO2を始める。

 

 

『なんや、みゅかりさんが来とったんか。まぁ、ほんならしゃあないんかな』

「みゅあぁうぅぅうう・・・・・・」

『・・・・・・なんだか、みゅかりさんが泣いてるみたいな声なんだけど・・・・・・』

「あー・・・・・・、まぁな・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に茜が納得しかけていると、みゅかりさんが少しだけ大きな声で鳴き声を上げた。

 その鳴き声はどうやら2人にも聞こえたらしく、みゅかりさんの鳴き声がいつもと少し違うことに気がつき竜に尋ねた。

 葵の言葉に竜は腹部にくっついているみゅかりさんの頭を撫でながら答える。

 

 

「えっとだな、みゅかりさんは新しく家に住むことになった九十九神に怯えててな・・・・・・」

『九十九神・・・・・・?あおいー、九十九神ってなんやったっけ?』

『えっと、九十九神っていうのは道具とかが長い年月をかけて変化した妖怪のことだよ』

『ほーん、さすが葵ぺディアや』

 

 

 竜はひとまず簡単にどうしてみゅかりさんがこのような状態になったのかを茜に教える。

 竜の言葉に葵は九十九神がどういったものか知らなかったのか、葵に尋ねる。

 茜に尋ねられた葵は思い出しながら簡単に九十九神についてを茜に説明する。ホラー系を苦手としている葵が九十九神について知っていることが不思議に思うかもしれないが、ホラー系が苦手なこととホラーについての知識があることは別物なので、葵と似たような人は何人かはいるだろう。

 

 

「あ、うちは晩御飯の準備をしてまうなー」

「ああ、お願いするよ」

「みゅういっ?!」

『ひっ?!』

『なんや?・・・・・・ノイズ?』

 

 

 竜の操作するゲームを見ていたついなだが、時計を確認して晩御飯の準備をした方がいいと考え、みゅかりさんを優しく撫でてキッチンへと向かっていった。

 みゅかりさんからすればまったく姿の見えない相手に撫でられたので、恐怖心がさらに高まってしまったらしく、短く悲鳴を上げて一層強く竜にしがみついていく。

 それと同時に葵が短い悲鳴を、茜が不思議そうな声を上げた。

 

 

「どうかしたのか?」

『ご、ごめん。なんかいきなりザザザザッ、って聞こえてきて・・・・・・』

『なんやよう分からんけど大きめのノイズが聞こえてきてな。竜には聞こえへんかったんか?』

「いやぁ、とくには聞こえてないかな」

 

 

 みゅかりさんが驚いた理由はなんとなく分かったが、茜と葵の反応がどういうことなのか分からず、竜は不思議そうに2人に尋ねる。

 竜の言葉に葵はやや声を震わせながら、茜は不思議そうにしながら竜に確認をとる。

 葵の言うザザザザッ、という音はおそらく茜の言うノイズと同じものなのだろう。

 どちらにしてもそのような音は竜の耳には聞こえていなかったので、首をかしげながら竜は茜の問いに答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第186話

 

 

 

 

 茜と葵の言うノイズとやらがまったく分からないまま竜はゲームを進めていく。

 竜がアイテムの整理や装備の調整をしていると、茜も同じように準備を始めた。

 茜と葵は1つのキャラクターを2人で操作しており、それぞれ好きなクラスが違っているので、それぞれのクラス用に装備を変える必要があるのだ。

 

 

『っし、準備万端や。ガンガン殴りにいくでー!』

「とりあえずはオススメの消化からだな」

 

 

 竜と茜はそれぞれ準備を終え、キャンプシップに移動する。

 竜が今回使うクラスは様々なペットを操って敵を倒していくサモナーと呼ばれるクラスで、茜は打撃、射撃、法擊の3種類の攻撃を使いこなすヒーローと呼ばれるクラスだ。

 

 竜の扱うクラス、サモナーはペットを操る関係上、フィールドの端ややや離れた位置で武器を振っていることが多く。

 そのため他のプレイヤーからはサボっていたりするように見られたりすることが多い。

 しかし、実際にはまともに戦うためには普通に武器を強化するよりも手間がかかり、ペットの強化には専用のアイテムを手に入れる必要があったりと普通に戦っているクラスよりもよっぽど戦えるようになるまでには時間のかかるクラスである。

 これに納得ができない人はどのペットでも良いから1匹をレベル最大にした上でキャンディーボックスを完全解放してまともに戦えるように組んでみてほしい。

 そしてその後、ペットの体力や要求などを見ながら戦ってみればサモナーの苦労が少しは分かるだろう。

 

 次に茜の扱うクラス、ヒーローは近接攻撃のソード、射撃攻撃のツインマシンガン、魔法攻撃のタリスを使い分けて戦う万能クラス、他のゲームで言う勇者などのような立ち位置のクラスだ。

 

  とくにヒーローの特徴としては攻撃をしながら武器を持ち換えることができる点が挙げられる。

 他のクラスで武器を持ち換える場合はいちいち操作して変更をする必要があるのだが、ヒーローの場合は対応する攻撃を発動した後にそのままボタンを長押しをすれば対応する武器に持ち換えることができるのだ。

 そのため、ヒーローのクラスを使うのであれば3種類の武器を満遍なく強化した方が状況に応じて戦えるので、ヒーローとしての強みをとくに生かせるのではないだろうか。

 まぁ、1つの武器が使いやすくて持ち換える気がないのであれば無理に強化する必要はないのだが。

 

 

「お、茜はチェーンソーの武器迷彩ゲットしたのか」

「みゅい!」

 

 

 茜の背負っている武器の見た目が大きなチェーンソーの剣になっていることに気づいた竜はポツリと呟く。

 竜の言葉にみゅかりさんはガバリと顔を上げ、ジッと茜の背負っている武器を見た。

 どうやらみゅかりさんはチェーンソーやそれに似た武器が好みのようで、そういった武器がゲームで出ると嬉しそうにその武器を見ているのだ。

 

 

『ふふーん、竜が持っとるのを見て欲しくなってなー』

『そのせいでもともと欲しかったやつを買うのが遠のいたけどね』

 

 

 竜の言葉に茜は得意気にくるくると自身の操作するキャラクターを回転させる。

 茜の動きからその武器迷彩をかなり気に入っていることがうかがえた。

 

 

『そういえば今日は竜のキャラクターは海賊風の格好なんやね』

『ちょっと前は和服に垂れた猫耳の格好だったよね』

「PSO2は俺は着せ替えゲーだと思ってるからな」

 

 

 自身の横でフワフワと浮かんでいる“兎田”と名付けられているメロンという種類のペットを眺めながら竜は2人の言葉に答えた。

 ちなみに竜のキャラクターはクエストが始まった瞬間にカットインと共に「AHOY(アホーイ)!」と叫んでいたりする。

 

 

『たしかに衣装やアクセサリーは多いんやけど・・・・・・、めんどうやない?』

『ボクも衣装ぐらいで充分かな』

「いやいや、アクセサリーの位置とか大きさを変えられるのが楽しいんだろ。同じアクセサリーでも手を加えるだけでかなり変わるんだからな」

 

 

 2人の衣装だけで充分という言葉を竜は首を振りながら否定する。

 竜はアクセサリーの位置などを微調整したりすることにこだわるタイプなので、そういったことができるPSO2をかなり楽しんでいた。

 

 そして、竜は“兎田”から“佩克拉”と名付けられているマロンという種類のペットへと入れかえてフィールドを進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第187話

 

 

 

 

 竜が茜とPSO2をプレイしている様子をみゅかりさんは竜の膝に乗りながら見る。

 遠隔対多数攻撃を得意とする“桐生”と名付けられているレドランという種類のペットを操り、敵の数が減れば“兎田”と“佩克拉”による【メロン(兎田)/マロン(佩克拉)ストライク】という名の自爆特効が叩き込まれる光景は動物愛護的に考えればどう考えても虐待のワンシーンにしか見えなかった。

 

 そんなペット虐待の戦い方をしている竜とは対照的に、茜は敵の攻撃を回避してからの反撃というカウンターを主体とした堅実な立ち回りをしていた。

 ヒーローのクラスの特徴として攻撃後の武器の持ち替えは説明したが、ヒーローにはもう1つ意識して使えればかなり強力な攻撃となる要素がある。

 それが敵の攻撃をステップで回避して即座に反撃するカウンター攻撃だ。

 ヒーローの通常攻撃は他のクラスの必殺技と同じくらいの火力があり、カウンター攻撃で繰り出すことでさらに火力を高めることが可能となるので、敵が攻撃の予兆を見せたら積極的に狙っていくと良いだろう。

 

 ちなみに、ヒーロー以外にもファントムやエトワールも通常攻撃が他のクラスの必殺技とほとんど同じくらいの威力になっており、ファントムならカウンターで複数の光弾を放つことができ、エトワールならばガードやパリィなどを使ってダメージを減らすことができたりする。

 

 

「っし、とりあえず殲滅完了だな」

『竜の連れとる“桐生”はホンマに強いなぁ・・・・・・』

 

 

 残っていた数体の敵を“桐生”の放った光弾で一掃し、竜と茜は一息をつく。

 しばらく待ってみても敵が湧かないことからしばらくは安全だろう。

 

 

「みゅみゅみゅーみゅ」

 

 

 竜と茜が敵を殲滅したのを見て、みゅかりさんは楽しそうに前足を使って拍手をする。

 嬉しそうにしているみゅかりさんの様子に竜は少しだけ気分がよくなり、ワシャワシャとみゅかりさんの頭を撫でた。

 竜に頭を撫でられ、みゅかりさんは気持ち良さそうに目を細める。

 

 

「みゅーい」

『クリアランクをSにするための戦闘はこんなもんで充分やったっけ?』

『たぶん大丈夫だと思うよ』

『そんならもうさっさと最深部に向かっても良さそうやな』

 

 

 竜がみゅかりさんを撫でていると、茜が確認するように葵に聞いた。

 クリアランクとは受注したクエストをクリアしたさいに表示されるランクのことで、このランクがSかAであれば報酬としてアイテムをもらうことができるのだ。

 ちなみに、報酬をもらうことができるのはオススメクエストになっている4つのみで、それぞれ最初にA以上のランクを取ったときだけもらうことができる。

 つまりは報酬のアイテムをもらうことができるのは1日最大4つまでということになるのだ。

 

 このクリアランクはクエストのクリアタイム、倒してきた敵の数、死亡回数から導き出されている。

 なので、A以上のランクを目指したいのであれば死なないことを第一として、ある程度の敵の殲滅も必要となってくるだろう。

 なお、クリアタイムに関してはよっぽど寄り道などをしていない限りはマイナス要因になったりはしないので気にしなくても大丈夫だ。

 

 

「さーて、そんならさっさと、イクゾー!」

『でっでっでででで・・・・・・』

「みゃーん!」

 

 

 茜と葵の言葉を聞きながらペットの回復などを終わらせていた竜は最深部に向かって移動を開始する。

 移動を始めた竜の言葉に茜は竜の後を追いながらお約束とも言える言葉を繋げた。

 普通のお約束であれば「でっでっでででで」のあとは「カーンッ!」なのだが、茜から繋げたのがみゅかりさんだったため、ちょっとだけ変わったものになってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第188話

 

 

 

 

 竜と茜がクエストのクリア条件である最深部の探索、つまりはボスの討伐を終えて最初のエリアに戻ると、茜の操作しているキャラクターがクラスを変更するためにクラス変更カウンターへと走っていった。

 それを追うように竜も同じようにクラス変更カウンターへと向かっていく。

 

 

『それじゃあ次はボクだね。このクラスでこのマイセット~』

「サモナーの次はなにをやるか・・・・・・、うん?」

 

 

 茜からコントローラーを受け取った葵は自分の好きなクラスと装備に変更し、同じように竜も装備とクラスを変更しようとしていると、不意にアナウンスが聞こえてきた。

 

 

【現在、局所地域のエネミーに対して、全アークス一斉参加の大規模な作戦を準備中です】

 

 

 それと同時にテレビ画面上部に【緊急警報発令。月および地球にてエーテルの異常励起を検知。現在、作戦準備中です】という文字が流れる。

 聞こえてきた音声と流れている文字を見て竜は何が来るのかを理解し、装備とクラスを整えていく。

 

 

「みゅみゅみゅい」

「ん、緊急クエストが来たみたいだな」

『それなら少し待とっか』

『月ってことはマザーとデウスやっけ?』

 

 

 緊急クエスト、それは時間によって発生する突発的な高難易度系のクエストのことで、慣れていなければクリアすることは難しいが、その分リターンが大きいクエストのことである。

 ちなみに、この告知の緊急クエストは、エスカファルス・マザーとデウスエスカ・グラーシアという2体のボスを討伐する緊急クエストで、難易度としてはそこまで難しいものではないだろう。

 といっても人数が揃っていなかったり、レベルの低い人や装備の整っていない人が集まると普通に負けてしまうのだが。

 

 

「ふぅ、ご主人。ご飯の用意とかがだいたい終わったで。あとはご飯が炊けるのに合わせてお魚を焼いたり味噌を入れるだけや」

「お、ありがとうな」

『・・・・・・竜、ノイズ混じりの中に、ご主人って聞こえた気がするんやけど?』

『ひゃうっ・・・・・・?!そ、そうなの・・・・・・?』

 

 

 竜たちが緊急クエストが始まるのを待ちながら会話をしていると、晩御飯の用意がほとんど終わったのかついながキッチンから戻ってきた。

 ついなの言葉に竜はテレビ画面から振り向いて応える。

 

 どうやらまたノイズが聞こえたのか、葵が小さく悲鳴を上げ、茜も疑問混じりの言葉を竜に投げ掛けた。

 茜の言葉に竜は首をかしげる。

 

 

「ご主人・・・・・・、もしかしてノイズってつい────じゃなくて、いなの声なのか?」

『いなっちゅうのが誰なんかは分からへんけど、声っぽいのは聞こえたなぁ』

 

 

 茜の言葉から、茜と葵の2人が聞こえていたというノイズの正体がついなの声ではないかと竜は思い至った。

 その証拠についなの言っていたご主人という言葉が聞こえていたらしい。

 もしかしてと思いつつ、竜はついなを手招きする。

 

 

「どうしたん?」

「みゅう・・・・・・、みゅみゅう・・・・・・」

「ちょっとこれに話しかけてみてくれないか?」

 

 

 風の動きからついなが近づいてきたことに気がついたのか、みゅかりさんは竜の体にしがみついて震えだしてしまった。

 近づいてきたついなに竜は着けていたヘッドフォンを差し出してマイクに向かって喋りかけるように言う。

 竜の注文についなは首をかしげつつ、マイクに向かって話しかけた。

 

 

「あー、あー、聞こえとるか~?」

『うひゃぅっ?!』

「えっと、分かったか?」

『あー、やっぱり声っぽいなぁ』

 

 

 ついながヘッドフォンに話しかけると、やはりノイズが聞こえてきたのか、葵が悲鳴を上げる。

 ついなが話しかけた後、再びヘッドフォンを装着した竜は茜に確認をする。

 竜の言葉に茜は聞こえてきたノイズを分析しながら答えた。

 

 

「ふむ、まぁ、たぶん九十九神と機械の相性が悪いんだろ。明日辺りに紹介するよ」

『う・・・・・・、こ、怖いけどお願いね?』

『まぁ、竜が紹介するんなら安全なんやろ。ほれほれ、緊急が始まったで』

 

 

 ついなの声がなぜノイズになってしまうのかの理由は分からないが、とりあえずは相性が悪いのだろうと竜は結論付ける。

 九十九神という人ではない存在を紹介するという竜の言葉に葵は怯えつつ、茜は大丈夫だろうと考えながら緊急クエストが始まったことを言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第189話

 

 

 

 

 晩御飯の準備が終わったついなは竜の隣に座ってテレビ画面を楽しそうに見ている。

 現在、竜と葵が戦っているのはマザー、正式名称『エスカファルス・マザー』という緊急クエストの討伐対象であり、4つの腕を破壊してから本体を攻撃しなければならないというボス敵だ。

 ちなみにこの緊急クエストはマザーを倒しても終わらず、中休みを挟んでデウス、正式名称『デウスエスカ・グラーシア』を倒さなければクリアとはならない。

 

 

「おー!めっちゃ周りがキレイな宇宙やぁ!」

「たしかに、周りの!景色はキレイだよ、なっ!」

 

 

 ついなの言葉に竜はマザーの放ってくる攻撃をパリィしながら答える。

 パリィ成功時の独特な音を聴きながら竜はサッと周囲を見渡す。

 どうやら葵がマザーの攻撃に被弾してしまったのか、パーティーとして表示されている葵の体力が半分ほど削られていた。

 

 

『う~、やっぱりファントムはダメージが痛いなぁ・・・・・・』

『しっかり回避してかんとワンパンお陀仏やでー』

「オバドラ使っとくぞー」

 

 

 聞こえてきた葵の声から回復する余裕がないだろうと判断し、竜はパーティーメンバー全員が回復できるスキルを使用する。

 このスキル、『オーバードライブ』はエトワール固有のもので、クエスト開始からカウントが始まって一定の時間が経過するとカウントが溜まり、それを使用することで床ペロ、つまりは体力が0になっていなければ完全に回復ができるのだ。

 ちなみに最大で2つまでストックをしておくことができ、気がつけば貯まっていることが多いのでどんどん使っていっても問題はないだろう。

 むしろエトワールは自力で回復する以外では1しか回復できなくなってしまうので、回復アイテムの節約的にも重要なスキルとなっている。

 

 

『あ、ありがと~!』

「ファントムの耐久力の低さは致命的だからなー、っと、危ねっ!」

 

 

 竜に体力を回復してもらい、葵はマザーの攻撃を避けながらお礼を言う。

 葵の受けるダメージの多さの原因、それは葵の使っているクラス、ファントムの耐久力の低さが挙げられるだろう。

 

 葵の使っているクラス、ファントムは魔法攻撃を主軸とした戦い方をするクラスで、多彩な属性で弱点を突くことによる高火力が特徴と言える。

 まぁ、その代わりとして防御力や体力が低いので、回避をミスるだけで一気に窮地に陥ったりするのだが。

 

 

『やっぱ、エトワールは固いんやねぇ。結構余裕をもって回復しとるみたいやし』

『そういえば、ボクと同じタイミングで攻撃受けたときも全然減ってなかったよね』

 

 

 竜の受けているダメージ量と葵の受けているダメージ量の差に茜はポツリと呟く。

 ファントムの防御手段は回避、エトワールの防御手段はパリィやガードということからも分かるように、エトワールは真っ向から攻撃を防ぐタイプのクラスで防御力も高めのクラスとなっている。

 とはいえ、高い耐久力の代わりに遠距離の攻撃手段がかなり限られているので一長一短とも言える。

 

 

「もともとの防御力の高さとクラススキルでさらに固くなってるからな。代わりに葵の回復とかを受けても1しか回復しなくなってるけどな」

「みゅみゅみゅ?」

 

 

 いつのまにかマザーの討伐が終わっており、次の討伐対象、デウスの所に移動する前の地点に移動していた。

 戦闘のないセーフティエリアなので、ここで次のデウス戦に向けてきっちりと回復や装備の確認なんかをしておくと良いだろう。

 

 

「っと、これが終わったらゲームは終わりかな」

『せやねぇ。うちも晩御飯の準備をせんといかんし』

 

 

 次のデウス戦への準備も終わり、区切りとしてちょうどいいのでこの緊急クエストが終わったらゲームをやめると竜は言う。

 竜の言葉に茜も時計を確認し、納得したように答えた。

 そして、竜と葵は他のプレイヤーたちと共にデウス戦に挑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第190話

 

 

 

 

 緊急クエストのデウスエスカ・グラーシアも倒し終わり、竜はPSO2からログアウトしてゲームを終了した。

 竜がゲームを終わらせたのを確認したついなは炊飯器の炊き上がりの時間を確認しにキッチンへと向かっていった。

 

 

「みゅーみゅ、みゅみゅみゅいー!」

「あー、いなの姿が見えないんだもんな」

 

 

 ついなの姿が見えなくてもなんとなく気配のようなものを感じていたのか、みゅかりさんはついながキッチンに向かったのと同時に竜に強く飛びついた。

 みゅかりさんが飛びついてきたことに竜は少しだけ驚きつつも、その理由に納得して優しく背中を撫でる。

 

 

「だいじょぶだからなー」

「みゅみゅー・・・・・・」

 

 

 竜に撫でられ、みゅかりさんはじょじょに落ち着きを取り戻していった。

 そんなみゅかりさんを見ながら竜は考える。

 

 茜たちに明日ついなのことを紹介するとは言ったが、ついなのことを見ることができるのかどうか。

 一番の問題点としてはやはりそこになるだろう。

 

 

「ご主人、ご飯はもう少し時間がかかりそうやったで」

「ん、分かった。いな、みゅかりさんに姿を見せるのってできるか?」

「みゅうっ?!」

 

 

 キッチンから戻ってきたついなは晩御飯までにはもう少し時間がかかるということを竜に言う。

 ついなが晩御飯の準備を始めたのは竜がゲームを始めたのとほとんど同じタイミングなので、それほど時間はかからないと思われる。

 ついなから話を聞いた竜はうなずき、みゅかりさんに姿を見せることができるのかの確認をする。

 

 竜とついなが普通に会話をしているために忘れそうになるかもしれないが、ついなは基本的に霊力のある人間にしか見ることはできない存在だ。

 その証拠にみゅかりさんにはついなの姿がまったく見えておらず、今現在の怯えて竜にしがみつく姿になってしまっているのだが。

 

 

「見えるように、見えるようにかぁ・・・・・・。できなくはないと思うんやけど、あまり長時間は維持できなさそうなんよねぇ」

「そうなのか?まぁ、短い時間でも見えるようになるなら充分だろ」

 

 

 竜の言葉についなは申し訳なさそうな表情を浮かべながら答える。

 どうやらみゅかりさんに見えるようにすることはできるようだが、短い時間しか見えるようにはなれないようだ。

 といってもついなを紹介するだけならそこまで長い時間姿が見えるようになっていてもらう必要もないので問題はないだろうが。

 

 

「よし、それじゃあとりあえずみゅかりさんに見えるようになってくれるか?。姿が見えればみゅかりさんも怖がらなくなるだろうし」

「なるほど。分かったで。ん・・・・・・」

「みゅうっ?!」

 

 

 竜の言葉についなはうなずき体に力を入れ始めた。

 竜の目からはとくについなに変化があるようには見えないが、みゅかりさんが驚いていることからおそらくは見えるようになったのだろうということが分かった。

 

 

「みゅいっ?!みゅみゅみゅっ?!?!」

「ちゃんと見えるようになったみたいだな。この子が九十九神の子だよ」

「みゅかりさんって言うんよな?よろしゅうなー」

 

 

 唐突に目の前に現れたついなの姿にみゅかりさんは驚き、竜とついなのことを交互に見る。

 そんなみゅかりさんの姿に竜は笑いながらついなのことを紹介した。

 竜に紹介され、ついなはみゅかりさんに向けてヒラヒラと手を振りながら自己紹介をする。

 

 

「みゅ、みゅみゅみゅ・・・・・・?」

「うん、よろしゅうな」

 

 

 ついなの言葉にみゅかりさんは困惑しつつも前足を差し出す。

 みゅかりさんの行動についなは微笑みかけ握手をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第191話

 

 

 

 

 ついなと握手をしたみゅかりさんは困惑した表情で竜とついなを交互に見る。

 まぁ、いきなり目の前に女の子が現れれば誰でも驚くのは当然のことなので、みゅかりさんの反応も仕方がないことだろう。

 

 

「みゅ・・・・・・、みゅみゅ・・・・・・?」

「ご主人、みゅかりさんが困っとるみたいなんやけど・・・・・・」

 

 

 困惑したまま固まって鳴き声を発するみゅかりさんに、ついなは握手をしていない方の手で頬を掻きながら竜の声をかける。

 

 

「それは仕方がないだろ。さて、と。これで少しは怖くなくなったかな?」

「みゅう・・・・・・、みゅみゅうみゅ・・・・・・」

 

 

 ついなの言葉に竜はみゅかりさんと目線を合わせて尋ねる。

 

 さっきまでは姿が見えず、みゅかりさんにとってただただ恐怖の対象だったついなだが、今はその姿が見えるようになっている。

 これだけでも怖さが減るのではないかと竜は考えていた。

 

 竜の言葉にみゅかりさんは短く鳴き声をあげ、少しだけためらうように鳴き声をあげたかと思うと一息についなの頭の上に飛び乗った。

 みゅかりさんの行動についなは驚いて大きく目を開き、竜はホッと息を吐く。

 

 

「みゅ、みゅーみゅみゅ!」

「え、ちょ、なんやなんや?!」

「大丈夫、みたいだな」

 

 

 ためらうようにしていたみゅかりさんだったが、ついなの頭の上に飛び乗ったことによって触れられるということを改めて認識したのかペチペチとついなの頭を軽く叩き始めた。

 みゅかりさんがついなに慣れた一方で、みゅかりさんが頭の上に乗ってきたついなは慌てた様子で混乱してしまっていた。

 そんな1人と1匹の様子に竜は安心した声を出す。

 

 これでみゅかりさんが怖がって家に来なくなってしまったら寂しいと竜は思っていたので、みゅかりさんがついなのことを怖がらなくなったのは本当に嬉しいことだった。

 

 

「あ、まず・・・・・・。そろそろ力が・・・・・・」

「みゅぅあっ?!」

「うん?」

 

 

 みゅかりさんが頭の上に乗って混乱していたついなだったが、不意に動きを止めると自身の手を見始めた。

 ついなが手を見始めたことに竜が首をかしげていると、ついなの頭の上に乗っていたみゅかりさんが驚いたように鳴き声をあげてついなを見ていた。

 そして、少しするとみゅかりさんは慌てたように前足をバタバタと動かし始めた。

 みゅかりさんの慌てように竜は驚きながらついなの頭の上からみゅかりさんを回収する。

 

 

「どうしたんだ?」

「みゅい!みゅみゅみゅう!」

 

 

 みゅかりさんがいきなり前足を動かし始めた理由がわからず、竜はみゅかりさんに尋ねた。

 竜に尋ねられ、みゅかりさんは前足でついなのいる場所を指し示した。

 

 

「あー、ご主人。たぶんみゅかりさんはうちの姿が見えなくなって驚いとるんやと思うんよ」

「見えなく?・・・・・・ああ、時間切れか」

「みゅうぅ・・・・・・」

 

 

 竜がみゅかりさんに尋ねていると、ついながみゅかりさんが慌て出したであろう理由を言う。

 ついながみゅかりさんに姿を見せる前にも言っていたが、ついなが他の人にも見えるようになるのは短い時間しか維持することができない。

 まぁ、つまりは見えるようになっていられる時間のタイムリミットを越えてしまい、みゅかりさんについなの姿が見えなくなってしまったということだ。

 

 ついなの言葉に竜はみゅかりさんが慌ててしまった理由を理解し、納得したようにうなずいた。

 

 

「大丈夫だぞー、見えなくてもちゃんとここにいるからなー」

「みゅ、みゅみゅみゅ・・・・・・」

 

 

 みゅかりさんを安心させるために竜はみゅかりさんの前足を優しく掴んでついなの方に差し出した。

 竜が掴んで差し出してきたみゅかりさんの前足をついなは優しく掴んで握手をする。

 見えなくなってしまっているついなの手の感触にみゅかりさんは少しだけビクリと体を震わせたが、手を握っているのがついなだと分かったのかホッとしたような表情に変化していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第192話

 

 

 

 

 みゅかりさんとついなが知り合った翌日。

 竜は保健室で茜、葵、ゆかり、マキ、あかりと向かい合って正座をしていた。

 竜たちの様子に保健室の主であるイタコ先生は苦笑しており、ついなはおろおろと竜たちのことを見ていた。

 

 

「えっと、なんで俺は正座を・・・・・・?」

「分からへんか?」

 

 

 なぜ自分が正座をすることになったのか。

 その理由が分からず竜は茜たちに尋ねる。

 

 ついなのことを紹介したときは確かに驚かせてしまったかもしれないが、それでも正座をするほどの要因にはならないだろう。

 しかしそうなると竜には正座をしなければいけない理由がこれっぽっちも浮かんでこない。

 

 竜の言葉に代表として茜が聞き返す。

 

 

「・・・・・・全然わからん」

 

 

 茜に言われて理由を考えてみるも、それでもピンと来る理由はまったく思い付かず竜は首をかしげた。

 竜の答えに茜たちは短く息を吐き、ビシィッと効果音のなりそうな速度でイタコ先生の隣でおろおろと竜たちのことを見ているついなを指差した。

 

 

「女の子と暮らすっちゅうのはあかんと思うんやけど?!」

「い、いくら九十九神だとしても女の子と2人きりっていうのは不味いよ!」

「なにかの間違いがあってからでは遅いと思いますし・・・・・・」

「それにご主人呼びはどうかと思うなぁ」

 

 

 ついなを指差しながら茜たちは口々に思ったことを言う。

 

 茜たちに指差され、ついなはビクリと肩を震わせてイタコ先生の後ろに隠れてしまった。

 

 イタコ先生どころか東北家から逃げ出すほどにイタコ先生たちを怖がっていたついなだったが、今はそんなことを気にしていられないほどに困っているらしく、イタコ先生を壁のようにして隠れている。

 まぁ、自己紹介をしていきなり竜が正座をさせられ、そのあといきなり指差されれば隠れてしまうのも仕方がないだろう。

 

 

「えっと、つまり、いなが一緒に暮らしているのは問題があるのでは、ってことか?」

「まぁ、そういうことやね」

 

 

 茜たちの主張を簡単にまとめて竜は確認をする。

 

 九十九神とはいえついなは女の子で、竜は若さの溢れる学生。

 この2人が一緒に暮らすことになればどんなことが起きてしまうのか。

 

 おそらくはそういったことを考えてしまったのだろう。

 ハッキリと言ってしまえば茜たちの想像力が豊かすぎてセンシティブな方向に考えてしまったのだろう。

 

 

「ちゅわぁ・・・・・・、まぁ、学生さんですし、そういう風に考えてしまっても仕方がありませんわよ、ね?」

「え、え、うちがご主人と一緒に暮らすんはあかんの?」

 

 

 茜たちのセンシティブな考えにイタコ先生はやや頬を赤く染め、ついなは竜と一緒に暮らすことがなぜダメなのか分からずにキョロキョロと全員の顔を見回していた。

 茜たちの言葉を聞けばどういった意味で一緒に暮らすのが不味いと言っているのかは分かると思うのだが、ついなは九十九神ということで人間の考え方がいまいち分からないところがあるのだろう。

 

 

「それに、誰かと暮らしたいなら前からうちで暮らせばええって言うたやん!」

「もしくはボクとお姉ちゃんが交互に竜くんの家に泊まるとか」

「それに関しては私たちも混ぜて少し話し合いましょうか」

「あ、なんだったら私の家でも良いと思うよ。それにうちで働きやすくもなるし」

「いえいえ、ここはやはり向かいに住んでいる私が。家も大きいので生活できる部屋もありますし」

 

 

 実は茜は何度か竜に1人暮らしは寂しくないかを聞いており、その度に一緒に住まないかの提案をしていた。

 といってもそれはそこそこ前のことであり、最近は一緒に遊んだりして竜が楽しそうにしているため聞く頻度はほとんどなくなっていたのだが、ついなが一緒に暮らすということになってそのときの思いが再発したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第193話

 

 

 

 

 茜たちの主張を聞いていた竜はじょじょに正座をしているのが辛くなり────というよりも正座をし続けている理由もなかったのだが、足を崩して近くの椅子に座る。

 竜が正座をやめたことに茜たちは気づいていたが、茜の言った一緒に暮らすという発言の話し合いをしていてとくになにかを言うことはなかった。

 

 ちなみに、竜が正座をしているときから何回か保健室には他の生徒たちも来ていたのだが、竜と茜たちの様子に気がつくとなにも言わずにそっと保健室の扉を閉めてどこかに行ってしまっていた。

 何人かはイタコ先生を目的とした生徒だったのだが、中には本当に体調の悪そうな生徒もおり、彼らがどうなったのかが竜は気になっていた。

 

 

「イタコ、どうやったら見えるようになっていられる時間が増えるんやろうか?」

「ちゅわ?」

 

 

 竜たちのやり取りを見ながらついなは気になっていたことをイタコ先生に尋ねる。

 ついなは九十九神としての力が弱いため、そこまで長い時間一般人にも見えるようになってはいられない。

 見えるようになっていられる時間が延びても意味がないように思うかもしれないが、この見えるようになっていられる時間の長さが一番分かりやすい力の目安となるので長時間見えるようになっていられるというのはそれだけで力のある存在ということになるのだ。

 ちなみに、イタコ先生の中にいるキツネは今の状態でもやろうと思えば1日は余裕で保つことができるので、それだけで本来が相当の強さを持っているということがうかがえた。

 

 ついなの言葉にイタコ先生は不思議そうについなを見る。

 

 

「いなさんの場合は無理に時間を伸ばす必要はないんじゃないかしら?」

「どういうことや?」

 

 

 イタコ先生の言葉についなは首をかしげる。

 

 『無理に時間を伸ばす必要はない』

 

 それはつまり力を強くする必要がないということ。

 少しでも力を強くしてご主人である竜の助けになりたいついなはイタコ先生の言っている意味がよく分からなかった。

 

 

「いえ、公住くんから霊力をもらってそれを使って見えるようになれば良いのではないかと思いまして」

「なるほど、ご主人の力を借りるって訳やな」

 

 

 イタコ先生の説明に納得がいき、ついなはうなずく。

 竜から霊力を借りることができれば総合的についなの力は倍になるので、普通に力を強くするよりも簡単に短時間で強くなることができるのだ。

 

 不意に、イタコ先生の頭の狐耳がピクピクと動き出す。

 

 

「っこーん!」

「ちゅわっ、また勝手に!」

「な、イタコの中のキツネか!」

 

 

 鳴き声と共にイタコ先生の頭の上に白銀色の体毛のキツネが出現した。

 イタコ先生はキツネが勝手に自身の中から出てきたことに少し声を荒げ、ついなは突然現れたキツネの姿に驚いて後ずさる。

 そんな2人のことなど気にも止めずにキツネは竜に向かって飛びかかっていった。

 

 

「ん?おっと・・・・・・」

「こんっ!」

 

 

 飛びかかってくるキツネの姿に気づいた竜は腕を広げてキツネを受け止める。

 どうやらキツネは見えるようになっていないらしく、竜がいきなり腕を広げたことに茜たちは不思議そうに首をかしげていた。

 

 

「まったくもう、また公住くんのところに行って・・・・・・」

 

 

 竜に飛びついたキツネを見ながらイタコ先生はガックリと肩を落とす。

 イタコ先生からすれば、竜のところに行くのは別に構わないけれどもう少し落ち着いて行動してほしいと思っているのだが、まだまだキツネには難しいことのようだ。

 

 

「こん?」

「あ、またキツネさんが出てたんだね?」

「こんなに可愛いのに見えないっちゅうのも不便やなぁ」

 

 

 竜から漏れている霊力を使って見えるようになったのか、茜たちも竜に飛びついているキツネの姿に気がついた。

 キツネは茜たちの方をチラリと見、そしてすぐに竜の服の中へと潜り込んでいってしまう。

 竜の服の中に潜り込んでいってしまったキツネの姿に茜たちは少しだけ残念そうに声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第194話

 

 

 

 

 服の中に潜り込んでいったキツネが動くたびに竜はくすぐったさで体を動かす。

 キツネは竜の体に触れるようにして服の中を動いており、動くたびにキツネの体────とくに尻尾がさわさわと竜の体を撫でていくのだ。

 くすぐったさから漏れそうになってしまう声を竜は口を押さえてなんとかこらえようとする。

 

 

「ん・・・・・・く・・・・・・、ちょ・・・・・・止ま・・・・・・」

 

 

 くすぐったいのであればキツネを捕まえれば良いのではないかと思うかもしれないが、キツネの動きが意外と素早いのとくすぐったさが結構大きいという理由から竜はキツネを捕まえることができずにいた。

 くすぐったさをこらえる竜の姿に茜たちは話し合うのを止め、ジッと竜のことを見る。

 

 

「なんちゅうか・・・・・・・・・・・・、エロない?」

「わかる」

「同意します」

「異論はないよ」

「エッチですね」

 

 

 くすぐったさから時おり漏れる声と荒くなっていく呼吸。

 そして赤く染まっていく顔色。

 それらを見て茜は思わずといった様子で呟いた。

 茜の呟きに葵、ゆかり、マキ、あかりは間髪入れずに肯定して頷いた。

 

 男子高校生の姿を見ての反応としてはおかしいかもしれないが、その辺りはそういったことに興味のある年頃の女子高校生ゆえ仕方のないことなのだろう。

 まぁ、そもそもとしてついなと一緒に暮らすということに対してそっち方面にことを考えてしまうレベルなので、この発言も当然と言えるかもしれないが。

 

 

「ちゅわぁ、ほら、公住くんが困っていますから出てきなさい?」

「くー・・・・・・」

 

 

 くすぐったさに耐える竜とそれを見る茜たち。

 さすがに止めなければいけないと思ったイタコ先生は竜に近寄り、竜の服の中に潜り込んでいるキツネに声をかけた。

 イタコ先生の言葉にキツネは竜の服の首もとから顔を出して不服そうに鳴き声をあげる。

 そんな不服そうなキツネの鳴き声を気にも止めずにイタコ先生はキツネを捕まえて竜の服から引きずり出した。

 

 

「こーんっ!」

「ダメですわ!もう、大人しく、しなさい!」

 

 

 竜の服の中から引きずり出されたキツネはジタバタと四肢を動かしてイタコ先生の手から逃れようとする

 そんなキツネの動きにイタコ先生は絶対に離すものかと押さえ込んでいた。

 

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・、くすぐったさで、死ぬかと、思った・・・・・・」

「だ、大丈夫なん?」

 

 

 首もとから無理矢理キツネが引き抜かれたことによってボタンが取れてしまい、首もとが大きく開いた状態の竜はどうにか呼吸を整えながら床に座り込む。

 座り込んだ竜を心配してついなはそっと近づきながら確認をとる。

 近づいてきたついなに竜は呼吸を整えながら手をヒラヒラと軽く振った。

 

 

「サー、マタハナシヲシヨカー」 

「ソウダネー」

「ハナシアイハタイセツデスモンネー」

「ウンウン、タイセツタイセツー」

「ハナシアイノサイカイデスネー」

 

 

 竜がキツネから解放されて周囲のことを見る余裕が生まれた途端、茜たちはどこか棒読みで話しながら竜から顔を逸らした。

 といっても顔は別の方向を見ていながら、しっかりと目線だけは竜の開いている首もとに向けられているのだが。

 この辺は男女を入れ換えて考えればどういう考えで茜たちが顔を逸らして誤魔化しながら竜のことを見ているのかが分かるだろう。

 

 

「いい加減に、戻りなさ────ちゅわぁっ?!」

「くーっ!」

「え、ちょっ・・・・・・」

 

 

 ジタバタと暴れるキツネをイタコ先生はどうにか自身の中に戻そうとするが、どうやらキツネが拒否をしているのかキツネの姿がイタコ先生の胸に埋まるだけになってしまう。

 イタコ先生の胸に埋まったことが気に障ったのか、キツネはイタコ先生の胸を力強く蹴りつける。

 予想外の強さの蹴りを受け、イタコ先生は驚きの声をあげながら体勢を崩してしまう。

 そして、体勢を崩したイタコ先生は床に座り込んでいた竜を巻き込んで転んでしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第195話

 

 

 

 

 ────ふんわりとした柔らかな感触

 

 ────ずっしりとした確かな重量感

 

 

 相反しているような2つの感触を顔に感じながら竜は視界が真っ白に染められていた。

 どうにか体を動かそうと試みてみるが、うまく体を動かすことができない。

 

 否、むしろ感じられている柔らかさと重量感に動こうという意思を溶かされていっているように感じられた。

 また、それらの感触を感じられているのは顔だけではなく、お腹や腰回りにも似たような感触があることに竜は気づく。

 

 

「いたたた・・・・・・。ちゅわぁ、ごめんなさい、公住くん」

ふぃ()ふぃふぇ(いえ)・・・・・・」

 

 

 キツネに蹴られて体勢を崩したイタコ先生は顔をあげ、転んでしまった際に巻き込んでしまった竜に謝る。

 イタコ先生が顔をあげたことによって竜の視界は開け、真っ白に染められていた視界からイタコ先生の顔が見えるようになった。

 なお、イタコ先生が顔をあげたとしても竜の顔の下半分、分かりやすくいうと鼻の辺りから下は柔らかくて重量感のあるものに包まれており、竜の答えはどこかくぐもったものになってしまっていた。

 

 

「こんっ!」

「ちゅわっ?!このタイミングで戻りますの?!」

 

 

 不意に、キツネが短い鳴き声をあげてイタコ先生に向かって飛びかかっていく。

 キツネの様子から自分の中に戻ろうとしているのだということに気がついたイタコ先生は驚きの声をあげる。

 先ほどまでは絶対に戻らないという鋼のような意思を感じさせる行動をしていただけに、イタコ先生は自分の中に戻っていったキツネに不思議そうに首をかしげていた。

 

 

「い、イタコ先生、とりあえず立ち上がっては?」

「そうですわね・・・・・・、あら?」

 

 

 イタコ先生が竜を巻き込んで転んだことの驚きで固まってしまっていた茜たちがようやく再起動し、ゆかりがイタコ先生に立ち上がるように言う。

 ゆかりの言葉にイタコ先生はうなずき、竜の上から退こうと力を入れる。

 しかし、イタコ先生の意思に反して腕は動かず、竜の上からイタコ先生の体が動くことはなかった。

 

 

「なんや?」

「どうしたんだろ?」

 

 

 イタコ先生がなかなか竜の上から退かないことに茜たちは不思議そうに首をかしげる。

 その間もイタコ先生はどうにか自分の体を動かそうとするのだが、それでも体が動くことはなかった。

 そして、イタコ先生は顔を茜たちの方に向けて助けてほしそうな表情を浮かべた。

 

 

「あの・・・・・・、すみませんが助けてくれませんか・・・・・・?」

「よう分からんけど分かったで」

「普通に起き上がれないのかな?」

「とりあえずイタコ先生を起こしましょうか」

「そうだね。竜くんも苦しいだろうし」

「それにしてもイタコ先生はどうしたんでしょうか?」

 

 

 イタコ先生の言葉に茜たちは顔を見合わせる。

 普通に立ち上がればいいはずなのに助けが必要とはどういうことなのか。

 不思議そうに首をかしげながら茜たちはイタコ先生の体を起こすために近づいた。

 

 

「ひっぱるでー」

「え、動かない?!」

「あの、イタコ先生、動かないように力を入れてませんか?」

「ぜんっぜん、動かないよ?」

「もしかして、体じゅ・・・・・・いえ、なんでもありません」

 

 

 5人でイタコ先生の体を動かそうとするが、それでもイタコ先生の体は動かない。

 あまりにもイタコ先生の体が動かないので、5人はイタコ先生が力を入れて動かないようにしているのではないかと疑いはじめた。

 また、あかりがなにやら不穏なことを言いかけたが途中で悪寒を感じ、顔を逸らしてごまかしていた。

 

 そんな5人とイタコ先生のやり取りをしり目に、イタコ先生の頭の上のキツネ耳はピコピコと嬉しそうに動いているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第196話




いやはや、もうUA50000を突破しました。

ここまで早いのは本当に予想外です。

読んでくださる皆様、本当にありがとうございます。






 

 

 

 

 竜の上からイタコ先生を動かそうと茜たちが手を尽くすが、ピクリともイタコ先生の体は動かない。

 さすがにここまでイタコ先生の体が動かないと、なにかがおかしいと茜たちは思い始める。

 

 

「あの、ここまで動かないとなるとなにか原因がありそうなんですが・・・・・・」

「原因と言いまして・・・・・・も・・・・・・、あ゛・・・・・・」

 

 

 ゆかりに言われ、イタコ先生は原因となるものが思い浮かばないと答えようとするが、そこでキツネが不自然なタイミングで自分の中に戻ってきたことを思い出した。

 しかもよくよく考えてみれば、体が動かなくなったのもキツネが体の中に戻ってからである。

 むしろここまでハッキリとした原因になりそうな要素に気づかなかったことにイタコ先生は少しだけ恥ずかしそうに顔を赤く染めた。

 

 

「えっと・・・・・・、恐らくなのですが私の中の子が体を無理矢理止めているのだと・・・・・・」

「中の子っちゅうと・・・・・・、あのキツネか?」

「あの子も竜くんのことを大好きだったよね」

「そういえば転んだあとにイタコ先生の中に戻ったって言ってましたね」

「でも原因が分かっても動かせないんじゃねぇ・・・・・・」

「少なくとも私たちの力で動かせませんでしたしね」

 

 

 原因に気づくことのできなかった恥ずかしさで顔を赤くしながらイタコ先生は体を動かすことのできない原因を茜たちに伝える。

 イタコ先生の言葉に茜たちは納得したようにうなずく。

 しかし原因が分かったとしてもイタコ先生の体を動かすことのできない現状を打破することはできず、茜たちは再び考え込みはじめた。

 

 

ふぉ()ふぉ()()ふぉ()()()()ふぃ()()ふぁ()()ふぇ()ふぃ()ふぁ()()ふぁ()ふぁ()・・・・・・」

「ん・・・・・・、き、公住くん・・・・・・、あまり・・・・・・ん、喋らないでいただけると・・・・・・」

 

 

 口をイタコ先生の柔らかいものに塞がれて呼吸が安定しない竜はやや顔色を悪くさせながらうったえる。

 鼻で呼吸ができると思うかもしれないが、鼻で呼吸をすればイタコ先生の香りがダイレクトに脳に届き、くらくらとしてしまうのだ。

 

 まぁ、イタコ先生の柔らかさに包まれて意識を失う、もしくは最悪死んだとしても男なら本望だろうとは思えるのだが。

 

 竜が喋ったことによって振動が胸に届き、イタコ先生はやや艶っぽい声をあげた。

 

 

「・・・・・・とりあえず、はよイタコ先生をどかそか」

「賛成」

「とりあえず思いっきりどつきますか?」

「悪質●大タックルいっとく?」

「蹴りたい背中・・・・・・」

 

 

 艶っぽい声をあげたイタコ先生に茜たちは少しイラっとしたのか、なかなかに物騒なことを言い始める。

 しかし、今の時間は昼休みで、もうすぐ午後の授業が始まる時間になってしまうのも事実。

 授業に遅刻するわけにもいかないので、少々手荒い手段になってしまっても仕方がない・・・・・・、仕方がないのだ、たぶん、おそらく、きっと・・・・・・。

 

 聞こえてきた茜たちの不穏な言葉にイタコ先生は思わず怯えたような表情を浮かべ、体を小刻みに震わせてしまう。

 

 

「ちゅ、ちゅわぁ・・・・・・」

 

 

 瞳に涙を溜めながらイタコ先生は茜たちに懇願するように視線を送る。

 

 どうか、手荒いことはしないでほしい。

 

 どうか、痛いことはしないでほしい。

 

 イタコ先生の今にも泣きそうな声と視線を受け、茜たちは少しだけ落ち着いたのか小さくため息を吐いた。

 昼休みが終わるまで、残り・・・・・・10分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第197話

 

 

 

 

 竜がイタコ先生に巻き込まれて転び、押し倒されてから数分。 

 事態はとくに進展もなく停滞をしていた。

 竜が自力で抜け出せばいいのではないかと思うかもしれないが、逆に聞こう。

 

 この状況で抜け出したいと思う男はいるだろうか?

 いや、いない。

 

 逆に抜け出せると言える人間は好きな人が他にいるか、同性愛者かのどちらかの可能性がかなり高いだろう。

 まぁ、これに関してはかなり極論だとは思うが、それほどまでにイタコ先生の柔らかいものの誘惑は強いのだ。

 

 休み時間の残りの時間の都合も考え、遅くても5分以内くらいには竜を救出したいところである。

 

 

「ふんっ!ぐぬぬぬ・・・・・・!」

「・・・・・・やっぱりぜんぜん動いてへんな」

 

 

 イタコ先生を竜の上からどかすために、茜がイタコを横から押す。

 しかしイタコ先生の体は揺れることもなく動かない。

 まったく動かないイタコ先生の様子に、イタコ先生の隣で見ていたついなはどうしたものかと首をかしげる。

 

 生半可な力で押しても動かないことはすでに分かっており、さらに強い力でイタコ先生を押そうかと茜たちは考えていたのだが、その方法があまりにも乱暴が過ぎるということでイタコ先生が涙目になり、仕方なしにその考えは破棄となっていた。

 なお、その考えに至った理由に私怨がなかったかと聞かれれば茜たちは全員顔を逸らすだろうが。

 

 

「あ、そうだ」

「なんや、なんか思いついたんか?」

「時間も時間だし、思いついたことがあるならどんどん試していこうよ」

 

 

 茜が押してもびくともしないイタコ先生の姿を見ていたあかりがふとなにかに気づいたように声を出す。

 あかりの声に茜たちの視線が集まる。

 今は早く竜をイタコ先生の下から救出しなければならない状況。

 そのため、試せることがあるのならどんどん試して竜を救出する手がかりを見つけたいところだ。

 

 まぁ、竜をイタコ先生の下から救出したい理由は休み時間の残り時間が少ないこと以外にもあるのだが。

 

 

「それで?あかりさんは何を思いついたんですか?」

「えっと、イタコ先生を動かすんじゃなくて竜先輩を引っ張り出すことはできないかな、と」

「なるほど。動かせないイタコ先生じゃなくて竜くんを動かすんだね。試してみよっか」

 

 

 ゆかりはあかりに言葉の続きを促す。

 ゆかりに促され、あかりはイタコ先生の体ではなく竜の体の方を動かしてみるのはどうかと提案をする。

 確かにさっきまでは竜の上のイタコ先生を動かすことにばかり意識がいっており、竜の方を動かそうという考えはまったく浮かんでいなかった。

 あかりの言葉に茜たちは顔を見合わせてうなずき、竜の肩の辺りを掴んだ。

 

 

「竜、今から引っ張るから痛かったら言うんやで」

「それじゃあ、引っ張るよ?」

 

 

 そして茜たちは竜の肩を掴んで引っ張り始める。

 すると、先ほどまでまったく動かなかったイタコ先生とは違い、意外なほどにすんなりと竜の体を引っ張ることができた。

 倒れた状態で引っ張られているので竜の背中はかなり汚れてしまうが、そのあたりは必要な犠牲、いわゆるコラテラルダメージとかいうやつなので竜には諦めてもらう。

 

 

「ぷはっ・・・・・・。窒息しかけるとは思わなかった・・・・・・」

 

 

 茜たちに引っ張られ、竜の顔がイタコ先生の柔らかいものから解放される。

 竜の顔が出てきたことを確認した茜たちはさらに力を入れて竜の体を引っ張っていく。

 

 さて、ここで1つ思い出してほしい。

 竜の体はイタコ先生の下にあり、柔らかさと重量感に包まれていた。

 そして竜の体が引っ張り出されたことによって、その柔らかさと重量感の触れている位置も微妙に移動する。

 まぁ、もうハッキリと言ってしまうが、イタコ先生の胸がずりずりと竜の体が移動するたびに竜の体を擦りあげていた。

 

 茜たちが性に関して興味のある年頃であることはすでに言ってあるが、同様に同じ学年の竜もそういったことに興味のある年頃だ。

 では、そういった年頃の男子高校生が自分の体の上を大きな胸が擦りあげていると理解したとき、どういったことが起こるのかは簡単に想像がつくだろう。

 

 

 端的に言えば、イタコ先生が顔を赤くして竜のことをチラチラと見て、イタコ先生の下から引っ張り出された竜はターミネーターの登場シーンのような体勢でしばらく動くことができなくなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第198話



 物語のネタが・・・・・・




 

 

 

 

 保健室での一悶着も無事に竜だけが授業に遅刻をするということで解決をした。

 まぁ、ターミネーターの登場シーンのような体勢になってしまったのだから仕方がないことだろう。

 そして時間は進み、放課後になる。

 

 

「竜せーんぱーいっ、帰りましょー!」

 

 

 教室の扉を開けて元気に教室に入ってくるのは、この教室に来すぎてもはやクラスメイトたちも慣れてしまったあかり。

 教室にいたクラスメイトたちは誰も驚いたりする様子はなかった。

 

 

「ん、あいよー」

「毎回思うんやけど、あかりの教室ってホームルーム終わるの早ない?」

「だよね。ボクたちがホームルーム終わったのはほとんどついさっきだし」

「んー、でもホームルームの終わる時間ってどこもほとんど同じなんじゃないのかな?」

「というかあかりさんの場合は、ほら、あれで・・・・・・」

 

 

 教室の扉を開けて入ってきたあかりの姿に竜たちは自分たちのスクールバッグを手に取って立ち上がる。

 手を振るあかりのもとに向かいながら茜は思ったことを呟く。

 茜の言葉に葵も同意し、茜と葵はまったく同じ動きで首をかしげた。

 

 竜たちの通う学校ではすべての授業の終わった放課後に、教師から簡単な話などを聞くホームルームの時間が基本的にはあり、あかりの教室でも竜たちと同じようにホームルームがおこなわれている。

 しかし、あかりはいつも竜たちの教室に来ており、そのタイミングは毎回竜たちの教室のホームルームが終わったタイミングなのだ。

 あかりの教室は1年生ということで竜たちの教室からはやや離れており、移動の時間を考えても茜はあかりの教室のホームルームの終わるタイミングが早いのではないかと考えていた。

 

 茜の言葉にマキは口もとに指を当てて言う。

 マキの言うようにホームルームの時間はそこまで極端に違うということはほとんどない。

 まぁ、その辺りはそれぞれの教室の教師に一任されているので、もしかしたらあかりの教室の担任教師が物凄くホームルームの短い教師だったというパターンもあり得るのだが。

 

 茜たちの言葉を聞きながら、あかりがなぜこんなに早く教室に来ることができるのかを推測できていたゆかりはハッキリとその手段は言わずにボカシた表現で言った。

 

 

「あー、せやね」

「たしかにあれならすぐにこっちに来れるよね」

「そういえばそんな方法を持ってたね」

「あれ?」

 

 

 ゆかりの言葉に納得がいったのか、茜たちはしきりにうなずく。

 唯一『あれ』とやらが分かっていない竜だけは不思議そうに首をかしげていた。

 

 

「んー、くぁ・・・・・・」

「お、起きたのか」

 

 

 不意に竜の制服のポケットがモゾモゾと動き、中からアクビをしながらついなが顔を出した。

 どうやら授業中に退屈になって眠ってしまっていたようだ。

 

 

「ありゃ、もう帰るとこなんやね。ほな、帰りに晩御飯の材料を買うのを頼むなー?」

 

 

 竜の制服のポケットから顔を出したついなはキョロキョロと周りの様子を見て授業がすべて終わったことを知る。

 ついなの言葉に竜はついなの頭を優しく撫でることによって応えた。

 

 

「どうかしたんですか?・・・・・・あ、いなさんですか?」

「ああ、さっきまで寝てたんだけど起きたみたいでな」

 

 

 竜がいきなり制服のポケットに手を伸ばして動かし始めたことにあかりは首をかしげたが、すぐにポケットについながいることを思い出して竜に確認をとる。

 あかりの言葉に竜はうなずき、ついなが今起きたということを伝えた。

 

 

「まぁ、いなにとっちゃあ授業なんて興味ないやろうしなぁ」

「そこはまぁ、仕方がないよね」

「正直、羨ましくはありますね」

「うん。たしかに羨ましいよね」

 

 

 ついなが寝ていたということを聞き、茜たちは少しだけ羨ましそうに竜のポケットを見る。

 といってもついなが見えるようになっていないので竜の制服のポケットしか見えないのだが。

 

 茜たちが竜の制服のポケットを見るなか、マキだけはジッと竜のスクールバッグに付けられているついなのお面を見ているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第199話

 

 

 

 

 竜たちは揃って校門を出る。

 と、ここで竜はマキが同じ方向に向かおうとしていることに気がついた。

 

 

「ん?どうかしたの?」

「ああ、いや、ゆかりと遊ぶのか?」

 

 

 竜が見ていることに気がついたマキは首をかしげながら竜に尋ねる。

 マキに尋ねられ、竜は頬を掻きながら同じ方向に向かって歩く理由を推測して答えた。

 

 

「え・・・・・・?」

「え?」

「あ゛・・・・・・」

 

 

 竜の答えにマキは驚いた表情で聞き返す。

 マキが驚いている理由が分からず、竜は首をかしげる。

 竜とマキが会話をしていると、不意に茜が声を漏らした。

 聞こえていた茜の声に竜とマキだけでなく、葵、ゆかり、あかりの視線が茜に集まる。

 全員の視線が集まり、茜はだらだらと汗を流し始めた。

 

 

「ねぇ、茜ちゃん。もしかしてなんだけど・・・・・・」

「もしかして、というよりも竜くんの反応を見る限り確定なのでは?」

「お姉ちゃん・・・・・・。何回か話すチャンスはあったはずだよね?」

「これは・・・・・・、ちょっと擁護できませんね」

 

 

 茜の様子からやるべきだったことをやっていなかったのではないかとマキたちはジットリとした視線を向ける。

 全員の視線を受けるというのはなかなかに圧のあるもので、茜は忙しなく目を泳がせていた。

 

 

「えっと、その・・・・・・。す、すマーン!」

「お姉ちゃん、謝る気ないでしょ?」

「は?」

「ちょっとなに言ってるか分からないです」

「はい?」

 

 

 全員の視線の圧に耐えられなくなったのか、キョロキョロと目を泳がせていた茜は動画でネタにされていたデビルでマンなヒーローのように仁王立ちのポーズで動きを止めた。

 どう見てもふざけた様子の茜の謝罪に、竜は苦笑し、他の4人は凍てつくような視線を向ける。

 まぁ、普通に謝っていればまだ許された可能性もあったというのにこのタイミングでふざけた茜の自業自得なのだが。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「んで?結局どういうことなんだ?」

 

 

 お仕置きとして竜以外の全員のスクールバッグを持つことになってしまい、荒い息を吐きながら歩く茜の姿を苦笑いを浮かべながら見つつ竜はマキたちに尋ねる。

 なお、竜が自分のスクールバッグを茜に持たせていないのは単純に茜が、葵、ゆかり、マキあかりのスクールバッグを持つだけで限界ギリギリのような状態だったからだ。

 結局、マキが同じ方向に向かって歩いている理由は答えてもらってはおらず、ゆかりと遊ぶのでないならなにがあるのかが気になっていた。

 

 

「えっとですね?今日はみんなで竜くんの家に遊びに行けないかと思いまして」

「俺の家に?」

「うん。それで茜ちゃんに確認をとってもらおうと思っていたんだけど・・・・・・」

「それをお姉ちゃんが聞き忘れちゃってたの」

 

 

 竜の問いにゆかりたちは本来の今日の予定を話す。

 本来であれば茜が竜に家に行っても良いかの確認をし、ダメであれば報告という流れだったのだが、よりにもよって最初の最初、竜に確認をとるというところを忘れてしまっていたのだ。

 ダメだったら報告ということで、茜がなにも報告をしなかったことからOKが出たのだとゆかりたちは考え、そのまま今に至ったということになる。

 ゆかりたちの答えに竜は頬を掻きながら呆れた視線を茜に向ける。

 

 

「・・・・・・はぁ。まぁ、大丈夫だけど。帰りにスーパーに寄らせてくれ」

「それくらいは別に大丈夫かな」

「ボクたちもスーパーに寄る予定だったしね」

「竜くんの家に遊びに行くわけですし。お菓子も買わないといけませんね」

「私も自分で食べるものを買っておかないといけませんね」

 

 

 小さくため息を吐いて竜は許可を出す。

 その代わりに家に帰る前にスーパーに寄るということを伝えた。

 竜の答えにゆかりたちはホッと安心したように息を吐き、スーパーに向かって歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第200話

 

 

 

 

 スーパーに到着し、竜たちは各自が買いたいものを選ぶために自由行動をすることにした。

 

 竜は晩御飯の食材のために肉類のあるところに。

 マキとゆかりはお菓子とジュースを買うためにお菓子コーナーに。

 あかりは自分が食べるためのゆかりたちとは別枠のお菓子を買うために大袋のお菓子が置いてあるコーナーに。

 そして茜と葵は、スクールバッグを運ぶことによってダウンした茜の介抱として休憩のスペースに。

 

 一組だけ買い物とは違うような気がするが気にしなくてもいいだろう。

 

 

「今日はお肉の気分なん?」

「そうだな。まぁ、魚の方が安かったらそっちにするけど」

 

 

 竜がお肉のパックを手に取ったのを見てついなは晩御飯のおかずを考え始める。

 お肉やお魚はどちらも基本的におかずとして採用されることが多いもので、買うお肉やお魚の種類によってもかなりの料理が作れる。

 ついなの言葉に竜はとりあえず一番安いお肉のパックをかごに入れた。

 そしてそのまま魚類の売っているコーナーに移動する。

 

 

「こっちもそこまで値段に差はない、か」

「そんならお肉で決まりでええか?」

「ああ、そうだな」

 

 

 お魚の値段を確認してお肉とそこまで差がないことを確認した竜はお肉とお魚を入れ換えることなくその場を後にする。

 竜がお肉とお魚を入れ換えなかったことから、おかずの種類はお肉で考えてもいいのかついなは竜に確認をとった。

 すでにかごの中に入っているのはお肉なのだから当然だろうと思うかもしれないが、この辺りの確認はきちんとしておいた方がお互いのためになるので、めんどくさがらずにやっておいた方がいいだろう。

 そのまま竜は野菜の売っているコーナーに移動し、安くなっている野菜をいくつかかごに入れていった。

 

 

「こんなもんか?」

「うん。こんだけあれば充分やな」

 

 

 お肉と野菜の入ったかごをついなに見えるようにして竜はついなに尋ねる。

 晩御飯を作るのはついながやってくれるため、必要になってくる食材などはついなに確認をしなければならないのだ。

 竜の言葉についなはかごの中を覗き込み、かごの中に入っている食材を確認していく。

 そして、かごの中に入っている食材を確認し終えたついなは満足そうにうなずいた。

 安くなっている野菜やお肉を中心に適当にかごに入れていたのだが、どうやらそれで大丈夫だったらしい。

 

 

「あ、そうだ。豆腐とワカメの味噌汁が俺はけっこう好きなんだけど・・・・・・」

「ほぉ。んーと・・・・・・、そんなら豆腐と乾燥ワカメも入れなあかんね。たしか豆腐はなかったはずやし、ワカメの方は家にあったとしても買い置きに回せるしなぁ」

 

 

 ふと、思い出したように竜はついなに飲みたいお味噌汁を言う。

 竜の言葉についなは冷蔵庫の中を思い出して追加でかごに入れる必要のあるものを挙げていった。

 豆腐とワカメのお味噌汁。

 それはその名のとおり豆腐とワカメの入ったお味噌汁のことで、とてもシンプルで簡単に作ることのできるお味噌汁だ。

 しかしシンプルであるからこそ奥が深く、お味噌汁の温度、具材である豆腐とワカメを入れるタイミング、お味噌を溶くタイミングがとくに重要となってくる。

 つまり、シンプルな料理であればあるほど料理をした人の腕前がハッキリと現れるのだ。

 

 ちなみに、竜の料理の腕に関しては可もなく不可もなくといった、いわゆる普通といった位置付けとなっている。

 

 

「やはりこれは外せませんよ」

「いいね。あ、でもこっちのも欲しくない?」

「いっそのこと食べたいと思ったものを全部入れてしまいましょうか」

 

「これと、これも。あ、これは入れておけば先輩たちも食べられるかな」

 

「うー、まだちょいと体に重さを感じるんやけど・・・・・・」

「もう、言ってくれればボクが買いに行くって言ったのに」

 

 

 お菓子やジュースをかごに入れるゆかりとマキ。

 いくつもの大袋のお菓子をかごに入れるあかり。

 ややフラフラとしながら買い物かごの中に食材を入れていく茜と葵。

 

 それぞれの姿をチラリと見てから竜は豆腐と乾燥ワカメの置いてある場所に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第201話

 

 

 

 

 買ったものを手に持ち、竜たちは歩く。

 さすがに今回の買い物では買ったものの量が多かったため、各自が自分たちの買ったものを持つ形となっていた。

 

 

「けっこう買ったんだな?」

「ええ、6人分となればさすがに多くなりますね」

「ジュースも種類がほしいしねー」

「私としてはもう少し買っても良かったかなって思いますけどね」

「いやぁ、さすがに多すぎるよね?」

「スクールバッグはなくなったんやけど買ったものが充分に重いわぁ・・・・・・」

 

 

 ゆかりたち5人の手にある買ったものを見て竜は呟く。

 竜の言葉にゆかりはうなずいて手に持っている袋を軽く上にあげる。

 ポテトチップスなどのスナック菓子や、グミなどのお菓子、ちょっと変わったところで煎餅や饅頭などの和菓子系のもの。

 袋の中にはなかなかの量のお菓子が詰められていた。

 その隣でマキは何本かのジュースが詰められている袋を持っており、あかりはいくつもの大袋のお菓子を、葵はチョコミント味のお菓子を、茜は晩御飯の際に使う食材の入った袋を持っている。

 

 さすがに買ったものを持った状態で茜にスクールバッグを持たせるのは酷だろうということで、今は全員がそれぞれ自分のスクールバッグを持っていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 スーパーから歩き、竜たちは竜の家に到着した。

 家に着いた竜はゆかりたちから買ったものを受け取り、冷蔵する必要のあるものを冷蔵庫に入れていく。

 

 

「んで?うちに来たわけだが・・・・・・」

「せやねぇ、ゲームでもしよか?」

「でもいつもゲームばっかりじゃない?」

「まぁ、ゲームは一番手軽にできる遊びですからね」

「あ、なら『桃鉄』か『ドカポン』をやりたいなー」

「なんで友情破壊ゲームの代表格なんですか・・・・・・」

 

 

 遊ぶためとは聞いていたが、なにをして遊ぶのかを聞いていなかった竜はゆかりたちを見ながら尋ねる。

 竜の言葉に茜は近くに置いてあるゲームを指さす。

 ゲームはとくに複雑な準備が必要なこともなく、手軽に遊ぶことができるので遊びの提案としてゲームが一番に浮かんでしまうのは仕方がないことだろう。

 ゆかりたちの言葉にマキは気になっていたらしいゲームのタイトルを挙げる。

 

 『桃鉄』、正式名称は『桃太郎電鉄』で、電鉄という名のとおりプレイヤーは電車に乗って日本を走ってゴールを目指すというすごろくのゲームだ。

 このゲームは他のプレイヤーを妨害する要素が多く、そのことから友情破壊ゲームとして有名でもあった。

 

 『ドカポン』、こちらも『桃鉄』と同じように妨害などをすることができるすごろくのゲームで、唯一違うとすればモンスターなどの敵や、他のプレイヤーと戦って倒すことができるという点だ。

 倒されたプレイヤーはアイテムか装備、お金、のどれかを奪われるか、名前を強制的に変更させられてしまうかのどれかを受けてしまう。

 

 そういった点からどちらのゲームも同じくらいに友情破壊をするゲームだと言われているのだ。

 

 

「別や別。せやね・・・・・・ワードウルフでもやってみんか?」

「ワードウルフってーと・・・・・・、人狼ゲームみたいなやつだったか?」

 

 

 マキの提案をあっさりと切り捨て、茜は遊びを提案する。

 

 ワードウルフとは、簡単にいえば仲間外れを探し当てるゲームのことで、仲間外れの人はバレないように考えてしゃべっていかないといけないのだ。

 といってもワードウルフの特徴として自分が仲間外れなのかどうかを最初に知ることが大切なのだが。

 

 

「うん。面白そうだしやってみるか」

「 や っ た ぜ 」

「お姉ちゃん、ワードウルフをやりたいってちょっと前から言ってたもんね」

「ふふふ、ゆかりさんのポーカーフェイスが見破れますかな?」

「自分がどっちなのかも分かんないし。ここは適当にいってみようかなー」

 

 

 お菓子をパーティー開きにしてテーブルに置き、竜たちはワードウルフの準備に取りかかる。

 ちなみに、どれが仲間外れなのかを分からないようにするために、ワードウルフに必要なお題を書いた紙はついなが作るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第202話

 

 

 

 

 ついなに頼んで作ってもらったワードウルフ用の紙をシャッフルし、全員の前に配っていく。

 お互いに配られた紙が他の人に見えないようにしながら中に書いてあるものを確認した。

 

 

「ふむ・・・・・・」

「これかぁ・・・・・・」

「へぇ・・・・・・」

「ふーん?」

「なるほど」

「むむむ?」

 

 

 それぞれ紙に書かれてるものを見て少しばかり考えるような動きをする。

 そして、ここからワードウルフのもっとも楽しいところ、仲間はずれ探しの話し合いの始まりとなる。

 

 

「そうだな・・・・・・。『これ』に文字は書いてあるか?」

「そりゃあ、あるやろ。むしろ無いわけがあらへん」

「そうだね。文字が書いてなかったら困っちゃうよ」

「でも、文字だけじゃなくて絵もありますよね」

「まぁ、絵と文字があるのが基本かにゃ~?」

「大体の人は『これ』を見ますよね」

 

 

 スマホで5分後にアラームが鳴るようにセットし、竜たちは話し合いを始める。

 お互いに誰が仲間はずれなのかは分からないので、やや警戒をしながら最初に竜が口を開いた。

 

 この時点で紙に書いてあったものに関して分かった情報は2つ。

 

 ・文字が書いてあること

 ・絵が書いてあること

 

 といっても仲間はずれが嘘をついて分かりにくいような言い方をしている可能性もあるので、情報をそのまま信用するというのも危ないのだが。

 

 

「んー、と。ぶっちゃけ、本屋に置いてあるよ、な?」

「あるでー」

「本屋だけじゃなくて自分で持ってる人も多いと思うよ」

 

 

 全員の答えから似たようなものであると理解し、竜は思いきって情報をさらに詰めていく。

 新しく追加された情報は『これ』が本屋に置いてある、ということだ。

 

 

「これは・・・・・・。あの、恐らくですけど、本ですよね?」

「そうだな」

「せやなー」

「そうだねー」

「うん」

「同じくです」

 

 

 本屋にあって、文字や絵が書いてあるもの。

 ここまで情報が出れば『これ』の大まかな区分が分かるというもの。

 確認するようなゆかりの言葉に全員はうなずいた。

 

 

「あ、ちなみにさぁ、みんなは時間をかけて読む派?それとも一気に読む派?」

「俺は一気に読んじゃうな」

「うちもやね」

「ボクはあまり一気には読まないかな」

「私は続きが気になってしまうので一気に読んじゃいますね」

「私も一気派ですね」

 

 

 本という分類が確定したので、マキは質問をする。

 本にも種類があり、読む時間から本の種類を推測しようと考えたのだろうが、あまりヒントになりそうな情報は出てこなかった。

 全員の答えにマキは少しだけ残念そうに肩を落とした。

 

 

「あ、せや。『これ』に美味しそうなご飯とか出てくると食べてみたいー!ってならん?」

「なるなる!」

「分かる。それで再現できそうなやつとかだとちょっと真似したくなってな」

「ですね。美味しそうに書かれていると見えなくてもヨダレが出そうになりますもん」

「そうだねぇ、私も・・・・・・うん?」

「あれ、いま・・・・・・?」

 

 

 茜の言葉に葵はうなずき、竜も同じような経験があるのか同意するようにうなずく。

 竜と葵の言葉にあかりもうなずき、自身の経験を言った。

 さらに続けてうなずいていたマキだったが、あかりの言葉に引っ掛かりを覚えたのか首をかしげてあかりを見る。

 同じようにあかりの言葉が気になったゆかりもあかりを見ていた。

 

 

「マキさん・・・・・・」

「あ、ゆかりんも気になった?」

 

 

 マキとゆかりはお互いに引っ掛かりを覚えたことに気づいたのか、顔を見合わせてうなずく。

 その間に茜たちはいつの間にか美味しそうだった本の食べ物の話を始めており、ゆかりたちの様子に気づいていなかった。

 

 

「とりあえず、まだ時間はあるのでもう少し情報を集めましょう」

「そうだね」

 

 

 気になる点はあったが、まだ確証を得るのには至らないとして、ゆかりとマキはさらに情報を集めることにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第203話

 

 

 

 

 ワードウルフが始まって数分。

 この時点で集まった情報は『これ』が本であるということ。

 単純に本と言っても小説やマンガ、雑誌にエッセイ誌などなどいくつかの種類がある。

 つまりは残りの数分で仲間はずれの1人の本の種類を当てなければいけないのだ。

 

 

「残り時間も少ないみたいですし、次あたりが最後の質問になりそうですね」

「んーっと、誰か聞きたいこととかあるか?」

「うーん。まだ誰がオオカミなんか分からへん・・・・・・」

「そうだよね、たぶん仲間はずれも本なんだろうけど・・・・・・。結局、本って基本的には同じようなものばかりだし」

「私もちょっと分からないんですよね・・・・・・」

 

 

 残り時間を確認したゆかりの言葉に竜は全員を見回して尋ねる。

 竜の言葉に茜、葵、あかりは悩ましげに首をかしげた。

 どうやら竜を含めた4人は誰が仲間はずれなのかの予想すらもできていないようだ。

 

 

「あ、なら私から良いかな?」

 

 

 竜たちが悩んでいるのを確認したマキは手を挙げる。

 マキの言葉に竜たちはとくに却下をする理由はなかったのでうなずいて応えた。

 

 

「えっとねぇ・・・・・・、あかりちゃん、“料理の絵が見えていなくてもヨダレが出そうになる”んだよね?」

「はい。え、なにか変ですか?」

「うん・・・・・・?」

「あれ?絵が見えていない・・・・・・?」

「・・・・・・あー、なるほどなぁ」

「っと、アラームがなりましたね」

 

 

 ジッとあかりのことを見ながらマキは確認するようにあかりに尋ねる。

 マキの質問の意味が分からず、あかりは不思議そうに首をかしげて聞き返す。

 マキとあかりの会話から違和感に気づいた竜、茜、葵は納得したようにあかりを見た。 

 その直後、設定していた時間が経過したためスマホからアラーム音が鳴り始める。

 鳴り始めたスマホを操作してアラームを止め、話し合いを止める。

 

 

「さて、それでは誰がオオカミなのか投票しましょうか」

「まぁ~、最後のやつでハッキリと分かったわなぁ」

「そうだね」

「完全に答えが出てたもんな」

「私としても確信を得られたしね」

「え、皆さん分かったんですか?」

 

 

 5分間の話し合いが終わり、投票タイムが始まる。

 まぁ、すでに誰が仲間はずれなのかは分かり切ってしまっており、誰に投票が集結するのかはほぼ明白になっていた。

 

 

「では、私から・・・・・・、あかりさんですね」

「私ですか?!」

「私もあかりちゃんかなー」

「うちもやね」

「ボクも」

「俺もだな」

 

 

 ゆかりの投票を皮切りにマキ、茜、葵、竜もあかりに投票していく。

 自分に集中していく票にあかりは驚き、ワタワタと手を動かし始めた。

 

 

「え、いや、なんで私に?!」

「いやぁ、まぁ、ほぼ確定っぽいし」

「え、じゃ、じゃあ私はゆかり先輩に投票します!」

「別に構いませんが・・・・・・」

 

 

 困惑するあかりの様子に竜は頬を掻きながら答える。

 あかりは自分の票をゆかりに入れると言うが、この時点であかりに票が集結してしまっているためにほとんど意味はなく。

 ただの苦し紛れの行動となっていた。

 

 

「では紙に書いてあったものを見せてください」

「えっと、私の紙には『小説』と書いてありましたけど・・・・・・、え、違うんですか?!」

「あ、やっぱり小説だったんだ」

「マキの質問でようやく気づけたな」

「うちらの紙に書いてあったんは別もんやでー」

「でも同じ本だからちょっと難しかったね」

 

 

 ゆかりに言われてあかりは自身の紙を広げて竜たちに見せる。

 その紙に書いてあったのはかなり達筆に書かれた『小説』の文字だった。

 あかりの紙を確認した竜たちはそこで完全にあかりが仲間はずれだと理解し、自分たちが勝利したことを確信したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第204話

 

 

 

 

 テーブルの上に広げられているのは先ほど竜たちがやっていたワードウルフに使っていたお題の書かれた紙。

 6枚の紙の内、1枚はあかりの持っていた仲間はずれのお題である『小説』と書かれた紙で、残りの5枚の紙には『マンガ』と達筆に書かれていた。

 

 

「小説とマンガってちょっと仲間はずれを見つけるのは難しかったな」

「まぁ、分類的に本っていう点で同じだしね」

「あかりの“見えていなくても”っていうのがやっぱり重要なポイントやったね」

「うー、それだけで仲間はずれだと分かるなんて・・・・・・」

 

 

 テーブルの上に置かれている6枚の紙を見ながら竜は言う。

 事実として、小説とマンガの違いなんて文字がメインになっているか絵がメインになっているかの違いくらいしかなく、あかりがうっかり漏らした“料理の絵が見えていなくてもヨダレが出そうになる”という言葉がなければあかりが仲間はずれだと気づくことはほぼ不可能だったのではないかとすら思えた。

 

 テーブルの上に置かれている6枚の紙を見ながらあかりは悔しそうに呟く。

 あかりからしてみれば、ここまでの会話で自分は仲間はずれではないと思っていただけに本当に予想外だったらしい。

 

 

「むぅ、悔しいので次にいきましょう!」

「さて、次は誰が仲間はずれになるのやら・・・・・・」

 

 

 そして、2回戦目となるワードウルフの紙が全員にもう一度配られた。

 1度目の時と同じようにそれぞれ自分に配られた紙に書かれているお題を確認する。

 

 

「ふむ、そうだな・・・・・・。『これ』って映画とかでよく見るよな?」

「あー確かによく見るなぁ」

 

 

 お題を確認した竜はスマホのアラームをセットしてから会話を始めた。

 竜の言葉に茜はうなずいて同意をする。

 映画でよく見るということは題材にしやすいものということ。

 これはお題を絞り混むのにはなかなかに重要そうなポイントだろう。

 

 

「んっと、とりあえず『これ』ってけっこう大きいですよね?」

「そうだね。とりあえず人よりは大きいよね」

「たしかに大きくて乗れそうなくらいですよね」

「あー、ボクもちょっと乗ってみたいかも」

 

 

 ワードウルフにおいて仲間はずれを見つけるために重要なのはいかに自然に仲間はずれであろう情報を引き出すことができるか、という点になる。

 ワードウルフは場合によっては仲間はずれとして見つかったとしても、多数派のお題を答えることができれば仲間はずれ側の勝利となるというルールがある場合がある。

 今回の竜たちのルールには無いが、そういったルールがある場合もあるので迂闊に情報を出しすぎて負けるということもあるのだ。

 

 

「あ、ちなみに皆さんはどこで『これ』を見たことがありますか?ちなみに私は図鑑ですけど」

「俺はテレビだな。映画で出てきたのを見た」

「うちはゲームやね」

「ボクもお姉ちゃんと同じだよ」

「私は竜くんと同じでテレビかな」

「私もテレビですね。アニメでもよく出ますし」

 

 

 当たり障りのないような質問に思えるかもしれないが、これはこれでなかなかに重要なポイントになることもあるので、どんどん会話をしていくことがワードウルフを楽しむということにも繋がるだろう。

 あかりの質問に竜たちはどこで『これ』を見たことがあるのかを答えていく。

 

 図鑑、テレビ、ゲーム、アニメ。

 

 どれも普通に見ることができるものばかりで、今のところはまだ誰が仲間はずれなのかは判別がつかないところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第205話

 

 

 

 

 今のところ会話の中で出てきた情報はどれも当たり障りのないものばかり。

 映画でよく見て、大きくて乗りたくて、図鑑やテレビ、ゲームなんかにも出てくるもの。

 しかし、少しばかり考え方を変えてみれば、これらの情報だけでも多少は絞り込むことができる。

 

 例えば、“映画でよく見る”という情報ならば、逆に考えて“映画にしやすいもの”ということになる。

 

 次に“乗れそうなほどに大きくて乗ってみたい”という情報も、“乗れ()()()”ということから“本来は乗り物として使われていない”ということが分かる。

 

 そして最後の“図鑑、テレビ、ゲーム、アニメで見かける”という情報では、“誰もが知っているもので分かりにくいものではない”と、考えることもできるのだ。

 

 まぁ、とはいってもここまで考えていてはこじつけのようになってしまったりもするので、あまり深くは考えずに自分の情報は小出しにして回りから情報を抜き取るようなやり方をした方が良いのかもしれないが。

 

 

「んー・・・・・・。葵先輩、“乗れそうな”ってことは乗っても大丈夫なほどに頑丈なものってことですかね?」

「え、あ、ボク?うん、そうだね」

「そうだな。乗って潰れたりするような感じではないよな?」

「せやね。わりと大きめやから安定感もあるやろうし」

「そうですね」

「むしろ3、4人くらいなら普通に乗れそうなくらいだよね」

 

 

 どうやら葵の言葉が気になったのかあかりが踏み込んで葵に尋ねた。

 あかりに尋ねられた葵は少し驚くが、すぐにうなずいて肯定をする。

 葵の言葉に続けて竜たちも互いに顔を見合わせてうなずいた。

 

 

「えっと、でも“乗ってみたい”ってことはもともと乗り物ではないってことで良いですか?」

「あー、まぁ、そうだね」

「ゲームやったら普通に乗り物やけど、ゲームじゃあまり意味はないしなぁ」

「乗るにしてもあまり強く乗ったりはできないだろうな」

「そうなんですね。強く乗れない、ということは動物なんですかね?」

「え、ちょ、なんか急に怖いよ?」

「急にぐいぐい聞いてきますね」

 

 

 いきなりいろいろと聞くようになったあかりの様子に竜たちは驚き、思わずあかりを見る。

 あかりがこうまでいきなり聞くようになったのは、おそらく先ほどの負けが悔しかったことから今回は負けないという思いの現れなのだろう。

 

 

「えっと、竜先輩たちは動物ですか?ちなみに私は動物なんですが・・・・・・」

「そこそこ情報としてでかそうなものを一気に出してきたな。俺も動物だよ」

「うちも動物やで」

「ボクもそうだよ」

「私も動物ですね。マキさんはどうですか?」

「うん、私も動物だよ」

 

 

 あかりは少しだけ悩むようなしぐさを見せると、思いきった質問をした。

 乗り物になりそうな動物となれば種類としてはかなり少なくなってくるので、あかりの質問は場合によっては仲間はずれの1人に対してもかなりのヒントになってしまうだろう。

 

 

「あとは・・・・・・、そうだな。牙がスゴいな」

「たしかに特徴的やもんな」

「そうだね。けっこうな特徴だよね」

「でも個体によっては牙とかないですよね」

「私は牙がない方をイメージしてたよー」

「ううん。誰が仲間はずれなのかぜんぜん分からないですね・・・・・・」

 

 

 竜の言う“牙がスゴい”という言葉に茜たちはとくに異論もなく同意をしていることから、多数派も仲間はずれもどちらも牙のある動物だということがうかがえた。

 あまりにも全員の出す情報が一致しすぎているため、あかりは困ったように頭を抱えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






さてさて、なるべく分かりにくいように書いていますが、誰が仲間はずれでどのようなお題なのか分かってる人っているんですかね?
とりあえず、分かったとしても感想などには書かないで、そっと心の中にしまっておいていただけると助かります。





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第206話



もうUAが53000を越えたのでアンケートを始めます。

締め切りは56000を越えた時点となりますので、回答の方をよろしくお願いします。




 

 

 

 誰が仲間はずれなのかは分からなくてもワードウルフは進行する。

 そのため、悩んで思考停止をして会話を止めたりしてしまうのはもっとも避けなければいけない行動だろう。

 

 

「んー、動物で牙があって人が乗れそうなほどに大きなやつ、か」

「これはだいぶ絞れてきたんとちゃうか?」

「たしかに対象になる動物は少ないかもしれないけど、誰が仲間はずれなのかはぜんぜん分かってないよ?」

「全員が全員、確信に迫るような情報だけはキッチリと伏せてますからね」

「ううん、今回は難しいねぇ」

「決定的ななにかがあればすぐにでも仲間はずれは見つかるんですけどね・・・・・・」

 

 

 あかりの“動物”という情報や、竜の“牙がすごい”という情報も充分に大きな情報ではあるのだ。

 大きな情報ではあるのだが・・・・・・、これだけでは仲間はずれを特定するためには少々足りない情報だった。

 そのため、竜たちは次に何を話せば良いのか頭を悩ませていた。

 

 

「あ、そうだ。映画とかで見たならなんの映画とかで見たんですか?ちなみに私はテレビで“クレヨンしんちゃん”ですね」

「俺も同じで“クレヨンしんちゃん”だな。映画とかにけっこう出てくるし。あー、でも最近は出てきてないか?」

「あー、たしかに“クレヨンしんちゃん”で出とるわな。うちは“パラサイトイヴ”っちゅーゲームやで」

「あのゲーム怖いからやらないでほしかったんだけどね・・・・・・。ボクもお姉ちゃんと同じゲームだよ」

「私は“ドラえもん”の映画だよ。こっちでもけっこう出てくるよね」

「私はその動物が出てくる図鑑を見ただけですね」

 

 

 ゆかりは、あかりの質問で全員が異なる媒体で『これ』を見たと言っていたことを思いだし、なにで見たのかを尋ねた。

 ゆかりの質問に竜も同じく“クレヨンしんちゃん”で見ていたことを答え、茜と葵は茜のプレイしていたゲーム“パラサイトイヴ”で、マキはアニメではあるのだが“ドラえもん”で、あかりは図鑑のためハッキリとはなんの図鑑かは言わなかったが答えた。

 竜たちは他の人の言った回答を聞き、少しだけ考え込んだ。

 

 “クレヨンしんちゃん”“パラサイトイヴ”“ドラえもん”“図鑑”。

 

 図鑑に関してはハッキリと言ってしまうと仲間はずれへのヒントになってしまうかもしれないので仕方ないとして、残りの情報からかなり対象を絞ることができるようになったのではないだろうか。

 

 と、ここでスマホのアラームが鳴り響いた。

 

 

「話し合いは終わりだな。どうだ?誰が仲間はずれかは分かったか?」

「ダメや。ぜんぜん分からへん」

「もう少し時間の延長とかは・・・・・・、ダメだよねー」

 

 

 スマホのアラームを止めた竜の言葉に茜はお手上げといった様子で手を上げながら答えた。

 茜の言葉に続いて葵が時間の延長を願おうとしたが、竜が首を横に振ったのを見てガックリと肩を落とす。

 

 

「さて、それじゃあ誰がオオカミなのかの投票だ。俺は・・・・・・、マキかな。あ。理由とかは投票した後でな」

「すぐにでも理由は聞きたいけど・・・・・・。私は竜くんだよ」

「投票をやり返しているわけではないですよね?私も竜くんですね」

「なんや、2人は竜なんか。うちはあかりやね」

「ボクはお姉ちゃんとは違ってマキさんかなぁ」

「竜先輩とマキ先輩で分かれてる状態なんですね。えっと、私はゆかり先輩なんですけど・・・・・・」

 

 

 選んだ理由は答えずに、誰が仲間はずれなのかを先に投票していく。

 投票の結果、竜とマキに2票、ゆかりとあかりに1票という状態になった。

 

 

「そんじゃ、まぁ、投票の理由を言っていくか。俺が“牙がスゴい”って言ったときに牙がない方をイメージしてたって言っていたのが気になってな。それでマキに投票したんだ」

「むぅ、私が竜くんに入れた理由はさっきの“クレヨンしんちゃん”で最近は出ていないっていう言葉が気になったからだよ。このお題なら出てないときはあんまりないと思ったんだよね」

「あ、私もマキさんと同じ理由ですね」

 

 

 竜の答えた投票理由に納得がいかず、マキは不満そうに頬を膨らませる。

 そして、むくれた表情のまま竜に投票した理由を答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第207話

 

 

 

 

 竜、マキ、ゆかりがそれぞれ投票した理由を言っていく。

 残るはあかりに投票した茜、マキに投票した葵、ゆかりに投票したあかりだ。

 

 

「ほーん、竜たちはそんな理由で投票したんやね。うちがあかりを選んだ理由やけど、途中でいろいろとめっちゃ聞いてきたやん?それがちょっと気になったからや」

「あー、そういえば急にグイグイ聞いてきてたね」

 

 

 茜があかりに投票した理由を聞き、マキはうなずく。

 たしかに茜の言うとおりあかりは途中で前のめり気味にいろいろと聞いてきていた。

 どうやらその姿勢が茜には不審に見えたらしい。

 

 

「じゃあ、次はボクだね。えっと、ボクがマキさんに投票した理由だね。お姉ちゃんと同じタイミングなんだけど、あかりちゃんがものすごく聞いてきたときがあったよね?その時にあかりちゃんに聞かれてマキさんが動揺していたように見えたからだよ」

「そういえばあかりさんに聞かれてちょっと腰が引けてましたね」

「でも、いきなりあんなに聞かれたら仕方なくない?」

 

 

 茜に続いて葵がマキに投票した理由を答える。

 葵の答えたマキに投票した理由に、ゆかりはそのときのことを思い出したのかクスリと小さく笑った。

 そしてまだ話していない投票した理由は、あかりを残すだけとなった。

 

 

「残るはあかりやね。さて、どんな理由なんや?」

「あれだけグイグイ聞いてきたんだからちゃんとした理由があるんだよね?」

「えっとぉ・・・・・・、そのぉ・・・・・・」

 

 

 あかりがどんな理由でゆかりを選んだのか。

 茜の言葉に全員の視線があかりに集まる。

 全員の視線が集まり、あかりは何処と無く気まずそうな表情になりながら視線をキョロキョロと動かし始めた。

 

 

「どうしたんだ?」

「なんだか(うめ)いてるね?」

「はやく私に投票した理由を言ってくださいよ」

「ううぅ・・・・・・」

 

 

 なかなかゆかりに投票した理由を話し始めないあかりに竜たちは首をかしげる。

 ゆかりに急かされ、あかりはさらに呻き声をあげた。

 

 

「その、ですね・・・・・・?」

「おう」

「なんや」

 

 

 ようやく観念したのか、あかりがゆっくりと口を開く。

 あかりがゆかりに投票した理由を話すということで竜たちは口を閉じて耳を傾ける。

 

 

「実は・・・・・・勘、だったんです・・・・・・」

「・・・・・・はい?」

「勘・・・・・・?」

「ええ・・・・・・?」

「ちゅーことは理由はないんか・・・・・・?」

「勘はダメじゃない・・・・・・?」

 

 

 消え入りそうなほどに小さな声だったが、竜たちの耳にはしっかりとあかりの言葉が届いていた。

 あかりがゆかりを選んで投票した理由、それは会話の中から推測した結果からではなく、まさかの勘からだった。

 

 あかりの答えに竜たちはジトっとした視線を向ける。

 ワードウルフの醍醐味はプレイヤー同士の会話から仲間はずれ、つまりはオオカミを推測して見つけ出すことだと言える。

 そのため、勘でオオカミを見つけ出そうなどという行為は邪道とも言えるだろう。

 

 

「すみません・・・・・・。理由はないんですが、ゆかり先輩なんじゃないかと思ってしまいまして・・・・・・」

 

 

 勘で選ぶのはワードウルフにおいて邪道。

 それを分かってはいたのだが、あかりは勘でゆかりを選んでしまっている。

 とはいえ、会話から誰がオオカミなのかが推測できなかったのだろうから、勘に頼ってしまうのも仕方がないのかもしれないが。

 

 なんにしてもなるべく会話から推測してオオカミだと思った人に投票した方が、投票された方もまだ納得ができるので、勘に頼ったり、面白そうだからといった理由で投票をするのはやめた方がいいだろう。

 

 そして、あかりが投票した理由を話したことによって全員の投票先と理由が開示されたことになる。

 全員の投票先と投票理由が開示されたら何が始まる?

 

 

 

    答え合わせが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第208話

 

 

 

 

 全員の投票先と投票した理由を開示し終わり、竜たちは静かに顔を見合わせる。

 投票された中で票が多く集まったのは竜とマキの2票。

 この場合は投票された人間以外のプレイヤーがどちらかにもう一度投票して1人を決めるのだ。

 

 

「竜かマキマキのどちらかを選んで投票するんやね?」

「そうなりますね。とりあえず私は投票先は変えずに竜くんのままですね」

「ボクも変えずにマキさんのままかな」

「となると私と茜先輩の投票で決まるわけですか・・・・・・。偶数だから難しくないですか?」

 

 

 ゆかりは竜に、葵はマキに投票したのをそのまま変えず。

 茜とあかりはどちらに投票しようか頭を悩ませていた。

 ここで2人がそれぞれ竜とマキに投票してしまった場合、またそれぞれ2票づつになってしまうのでそれだけは避けなくてはならないのだ。

 

 

「んー、あかり、ここはうちとあかりの2人で1票にせえへんか?」

「そうですね。ちなみに茜先輩はどっちだと思ってますか?」

 

 

 このまま投票をしてしまっては票が分散してしまうかもしれない。

 そのことに気がついた茜があかりに提案をする。

 茜の提案にあかりはうなずき、茜がどちらに投票するつもりなのかを聞いた。

 

 

「せやねぇ、竜とマキマキなら竜の方が怪しそうに思えるんやけど・・・・・・」

「俺かぁ・・・・・・」

「そーだそーだ!竜くんに入れるんだー!」

 

 

 茜の言葉に竜は少しだけ困った表情を浮かべ、マキは楽しそうに腕を動かしている。

 マキからすればここで竜に投票してもらえれば勝てると思っているので、是非とも竜に投票をしてほしいのだ。

 

 

「私は選べなくて勘になっちゃいましたので、茜先輩が選んでください」

「ええんか?そんなら竜に投票やね」

 

 

 あかりは先ほどの投票で自分が勘で選んでしまっていたことを気にして、茜にどちらに投票するかの選択を委ねた。

 あかりの言葉に茜はあっさりと竜に投票する。

 

 これで竜に票が2票入ったことになり、竜が仲間はずれとして(つる)し上げられることになった。

 

 

「とりあえずこれで竜くんが2票ということでお題の書いてある紙を見せてください」

「あいよ。俺の紙に書いてあったお題はこれだ」

 

 

 ゆかりに促され、竜はお題の書いてある紙を広げて全員に見えるようにする。

 竜の広げた紙をゆかりたちは覗き込んだ。

 

 

「えっと・・・・・・?お題は・・・・・・『ぞう』ですか」

「たぶん仲間はずれだと思っているんだが・・・・・・」

「せやね」

「うん。仲間はずれだね」

 

 

 竜の広げた紙に書いてあったお題は『ぞう』。

 なんとなく自分が仲間はずれだろうと思っていた竜は頬を掻きながら呟く。

 竜の呟きに茜と葵が肯定するようにうなずいた。

 

 

「“クレヨンしんちゃん”にぞうなんて・・・・・・。ああ、あれですか・・・・・・」

「あれですね」

「たしかに最近では見ないよね」

 

 

 竜が映画で『ぞう』を見ていたと言っていたことを思い出しながらゆかりは首をかしげていたが、すぐになんのことを言っていたのか察し、あきれたような表情でうなずいた。

 ゆかりの言葉にあかりやマキも納得がいったのかうなずく。

 

 

 

「ちなみに多数派のお題はなんだったんだ?」

「私たちのお題は『恐竜』だよ」

 

 

 竜の言葉にマキは自身の持っているお題の紙を竜に見せた。

 そこには『ぞう』の文字と同じように達筆な字で『恐竜』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第209話

 

 

 

 

 2回目のワードウルフも終わり、竜たちは思い思いにくつろいでいた。

 

 竜、茜、ゆかり、あかりの4人は64のマリオカートをやり、それを見ながら葵とマキは応援をしていた。

 なぜ今さら64なんていう古いゲーム機で遊んでいるのか疑問に思うかもしれないが、これにはとくに深い理由もなく。

 単に64を見つけた茜が懐かしさから対戦をしようということになったからだ。

 ちなみに4人がプレイしている内容はそれぞれが持っている3つの風船を割りあう“バトル”と呼ばれるモードだ。

 

 

「うっし!赤甲羅ゲット!誰でもいいから当たれぇええ!!」

「いや適当に撃ったせいで壁にぶち当たっとるんやけど?!」

 

 

 ?ボックスから他のプレイヤーを追跡する甲羅、赤甲羅を手に入れた竜は即座に赤甲羅を撃ち出す。

 が、赤甲羅が他のプレイヤーを追跡するにはある程度広い場所で撃ち出す必要があり、壁の近くで竜が赤甲羅を撃ち出してしまったことによって赤甲羅は壁にぶつかり、そのまま消えてしまった。

 

 その様子を竜のいる場所の上から見ていた茜は思いっきりツッコミを入れる。

 

 

「あの、一番下に来てみたらものすごく緑甲羅が跳ね回ってるんですけど・・・・・・」

「あははは、緑甲羅のおかわり入りまーす!」

 

 

 他の3人の背後をとるために別の階に移動していたゆかりは大量に跳ね回っている緑甲羅に思わず固まってしまう。

 そんなゆかりの言葉を聞きながら緑甲羅を大量に撃ち出している犯人、あかりは笑いながら緑甲羅を適当に撃ち出しまくっていた。

 

 

「これは、誰が残るのかなぁ・・・・・・?」

「うーん、今のところ誰も風船は減ってないし分からないね」

 

 

 壁に赤甲羅を撃ち出す竜。

 カートを動かさずにツッコミを入れる茜。

 大量に跳ね回る緑甲羅に固まるゆかり。

 竜たちを狙うことなく適当に緑甲羅だけを撃ち出し続けるあかり。

 

 64という古いゲーム機本体で操作を忘れかけていたということを含んだとしても酷い光景がそこには広がっていた。

 

 そんな4人のプレイしている様子を見ながら葵はマキに誰が勝つのか聞いてみる。

 葵の言葉にマキは近くに置いてあったお菓子を口に運びながら答えた。

 

 

「あまりお菓子とか食べ過ぎたらあかんよ?まだ晩御飯もあるんやから。ご飯を残してしもたら悲しまれるで?」

「わっ、いなちゃん」

「ううぅ・・・・・・」

 

 

 お菓子をつまむマキの背後からついなが現れて軽く注意をする。

 ついなが現れたことにマキは小さく驚き、葵は思わず固まってしまう。

 ついなのことはきちんと説明をされているのだが、それでもまだ不意打ち気味に現れたりされた場合に葵は軽く驚いてしまうのだ。

 

 

「ゴー、シュート!」

「それはベイブレードやし、古いわ!」

「あれ、バックってどうやるんでしたっけ?」

「偽?ボックスは邪魔ですねー」

「・・・・・・なんやこれ」

 

 

 あまりにも混沌としている4人の様子についなは思わず言葉を失ってしまう。

 まぁ、ここまで人数が揃って竜が遊んでいる姿をついなが見るのは初めてなので、困惑してしまうのも仕方がないのかもしれない。

 

 

「あはは、ボクとお姉ちゃんが竜くんと遊ぶとだいたいこんな感じになるんだよ」

「私も最初は驚いたよ。しかもゆかりんがすぐに適応してたし」

「そ、そうなんやね・・・・・・?」

 

 

 困惑してしまっていたついなの姿に葵は驚きからもとに戻り、笑いながら軽く説明をした。

 葵の説明にマキも初めて竜と茜が遊んでいるのを見たときのことを思い出したのか、苦笑しながら頬を掻く。

 

 

「てててーん!てててーん!てててーん!てててーん!」

「スターの音を口で言いながらうちを追ってくんな?!」

「ちょ、あかりさん?!私を狙ってきてますね?!」

「あははは!みんな死んじゃえー!」

「・・・・・・まぁ、でも。ここまで混沌としているのは見たことないかなぁ」

 

 

 状況が変化してさらに混沌としていく光景に葵は苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第210話

 

 

 

 

 あまりにも混沌としていたマリオカートもいつの間にか茜とゆかりの一騎討ちとなっていた。

 お互いに残っている風船は1つづつ。

 勝負に決着がつくのも時間の問題だろう。

 

 

「さぁて、どうやって倒したろうかな」

「ふふふ、それはこっちのセリフですよ?」

 

 

 2人はお互いに対角にくるように位置取りながらカートを走らせていた。

 

 

「あっはっは。いやぁ、死んだ死んだ」

「えへへへぇ、うっかりしちゃいましたねぇ」

「いや、2人ともやられ方が情けなさすぎない?」

「どっちもほとんど自爆みたいな感じだったよね?」

 

 

 互いに相手を牽制して状況が膠着してきている茜とゆかりを見ながら竜とあかりは笑う。

 笑いながらお菓子をつまんでいる竜とあかりに葵とマキは呆れたような視線を向けながらツッコミを入れた。

 

 ちなみに、竜が敗北することになった最後の攻撃は自分の撃った赤甲羅が急角度で反転してぶつかってきたことによるもので、どう足掻いても回避のできないものだった。

 他のプレイヤーを追跡するはずの赤甲羅が急角度で反転する意味が分からないかもしれないが、これには理由がある。

 

 赤甲羅の特徴は他の“一番近い”プレイヤーを追跡すること。

 つまり、その追跡する対象が赤甲羅を撃ち出した竜の真後ろにいた場合、急角度で反転して他のプレイヤーを追跡しようとするのだ。

 そしてその結果、他のプレイヤーにぶつかる前に竜にぶつかることになってしまうのだ。

 

 これが竜が自分の撃ち出した赤甲羅に倒されることになってしまったことの詳細だった。

 

 さらにおまけで言っておくと、あかりは大量に撃ち出していた緑甲羅が予想外に大量に自分の方に戻ってきたことによる完全な自爆だったりする。

 

 

「いやぁ、俺のあれは仕方がなくないか?」

「んー、まぁ・・・・・・、そう、かな?」

「私だって仕方がないですよね?」

「いや、あかりちゃんのあれは自業自得だよ?」

 

 

 葵とマキの言葉に竜は頬を掻きながら答える。

 仕方がないとは言うが、竜も笑いながら赤甲羅を手に入れた瞬間に撃ち出していたので、少し落ち着けば回避できた事態なのだが。

 竜の言葉に葵は苦笑しながら言う。

 竜と葵のやり取りに自分がやられてしまったのも仕方がないことだとあかりは主張する。

 そんなあかりの主張をマキはバッサリと切り捨てた。

 

 

「なんでですか」

「だってあかりちゃんの場合は自分で大量に緑甲羅を撃ち出してたからだし」

 

 

 あまりにもアッサリとマキが切り捨てたことにあかりは不満そうにしながら聞き返す。

 不満そうなあかりにマキは少し困ったような表情を浮かべながら切り捨てた理由を答えた。

 

 

「ぐぬぬぬ・・・・・・」

「よし、お菓子補充かんりょー。あかりー?」

「あ、はーい」

 

 

 マキの答えにあかりは悔しそうに呻き声をあげる。

 そんなあかりの姿を見ながら竜は食べていたお菓子のゴミをまとめた。

 

 竜に名前を呼ばれ、あかりはうなずいて64のコントローラーを手に取った。

 あかりの名前を呼んだ竜も同じように64のコントローラーを手に取る。

 

 すでに風船をすべて失っている竜とあかりがコントローラーを持っても意味はないように思えるかもしれないが、64のマリオカートのバトルモードには倒されたあとにも“ある要素”があるのだ。

 

 それは、風船をすべて失ったプレイヤーが爆弾カートとして動くことができるというものだ。

 これによって風船をすべて失った竜とあかりも操作をすることができるのだ。

 

 そして、“爆弾”カートということで、当然ながらできることが1つある。

 まぁ、これは名前から察することができるだろう。

 

 爆弾カートのできること、それは他のプレイヤーに突撃すること。

 つまりは“神風特攻(ニッポンばんざい)”だ。

 

 ちなみに、爆弾カートは1度爆発すると復活することはできず、エリア外や溶岩に落ちたり、スター状態のプレイヤーにぶつかったりしても破壊されてしまうので、他のプレイヤーにぶつかりに行く場合は気をつけなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第211話

 

 

 

 

 お菓子をつまむ量を抑えながら竜たちは雑談をする。

 64のマリオカートはすでに終わっており、今は大乱闘スマッシュブラザーズをゆかりたちがプレイしていた。

 

 

「うーん。スイッチでのスマブラも良いけど。64のスマブラも良いもんだな」

「なんていうか、独特の味があるよね」

「前にご主人が似たようなゲームをやってるのを見たけど、それと同じゲームなんか?そのわりには、なんちゅーか・・・・・・、カクカクしとるけど」

 

 

 ゆかりたちのプレイしている様子を眺めながら竜はウンウンとうなずく。

 64の大乱闘スマッシュブラザーズは一番最初の作品ということもあって、ニンテンドーSwitchで出ているものに比べると画像のクオリティや登場キャラクターの人数などなど劣る部分はたしかに多いのだが、それでもこの64の雰囲気とでも言えばいいのか、味わい深いものを竜は感じていた。

 竜の言葉に同意するように隣に座っていた葵もうなずく。

 

 葵とは反対側の竜の隣に座って同じようにテレビが面を見ていたついなは不思議そうに竜に尋ねる。

 64とSwitch。

 そのクオリティの差があるのでついなが疑問に思ってしまうのも仕方がないだろう。

 それほどまでに技術の進歩というものがあるのだ。

 

 

「ああ、同じゲームだよ。といっても一番最初の作品と数年を経てからの作品だからその分の差があるけどな」

「本体のスペックの差とかもあるよね」

「んっと、とりあえず同じ種類のゲームなんやね」

 

 

 竜と葵の言葉についなはなんとなく同じゲームだということを理解して納得したようにうなずいた。

 

 

「ほーれ、吹っ飛びぃ!」

「そんな横スマには当たりませんよ」

「マキ先輩をモグモグです!」

「あー、あかりちゃんに飲まれたー!」

 

 

 茜の操作するキャラクターの横スマッシュ攻撃をゆかりの操作するキャラクターがひらりと回避し、別の場所ではあかりの操作するキャラクターがマキの操作するキャラクターを口に含んでゴクリと飲み込んでいた。

 

 “大乱闘スマッシュブラザーズ”は特定の条件の対戦でない限り、基本的には相手を画面から叩き出してバーストさせることによって勝利をすることができる。

 このルールは有名なので知らない人はほとんどいないだろう。

 

 

「今のところは・・・・・・、茜が優勢っぽいか?」

「ちゃんと数えてなかったから分からないけどたぶんそうだと思うよ」

 

 

 茜たちが今やっている対戦のルールはタイム制乱闘。

 これは制限時間内にどれだけ多く他のプレイヤーを落とすことができたかによって勝敗が決まるルールだ。

 テレビ画面の中を動き回るキャラクターたちを見ながら竜は誰が勝ちそうなのかを予想する。

 竜の言葉に葵もうなずき、茜が優勢かもしれないと言う。

 

 

「そういえば、何時くらいまでいるんだ?もうけっこう時間は経ってるけど」

「あ、本当だ。それならそろそろ帰った方がいいかも。みんな晩御飯の準備とかあるだろうし」

「なかなかに暗くなってきとるんやけど・・・・・・、大丈夫なん?」

 

 

 ふと竜は茜たちが何時に帰る予定なのかを尋ねる。

 竜の家で遊び始めてからすでにそこそこの時間が経っており、そとはやや薄暗くなってきてしまっている。

 外の様子を見たついなはここまで薄暗くて大丈夫なのかが気になって葵に尋ねた。

 

 

「たしかにちょっと薄暗いけど、ボクはお姉ちゃんとゆかりさんと一緒だから大丈夫だと思うよ」

「3人でも心配は心配なんだが・・・・・・。でも、一番心配なのはマキなんだよなぁ」

 

 

 葵は茜とゆかりの3人で帰るから危ないことはなにもないという。

 そんな葵の言葉に竜は心配そうにしながらゲームをプレイしているマキを見た。

 

 マキの家は学校のさらに向こうで、竜の家から帰るとなればなかなかに長い距離となってしまう。

 しかもその距離をマキは1人で歩いていかなければならないのだ。

 マキの帰り道の安全性のことを考えながら竜は小さく溜め息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第212話

 

 

 

 

 茜たちによる64のスマブラは意外なことにマキの勝利という結末で終わり、茜たちはのんびりとジュースを飲んでいた。

 ちなみにマキが勝利した要因はあかりに襲われつつもそこまで死なず、他の3人が互いに落とし落とされ自爆しての激戦を繰り広げてマイナス点が多くなっていたからである。

 

 どうやら時間も時間なので、茜たちはもうなにかゲームをしたりするつもりはないようだ。

 

 

「っと、けっこうお菓子は残ったな。これはそれぞれが持ち帰るのか?」

「んー、どないしよか?もともとはあかりから渡してもらったお金やし、あかりが持ち帰るか?」

「いえいえ、そんな気にしなくても大丈夫ですよ」

 

 

 そこそこの量のお菓子を食べ、ジュースを飲んだにも関わらず残っているお菓子たちを指差して竜は尋ねる。

 竜の言葉に茜は少しだけ考え、あかりに残ったお菓子を持ち帰るか尋ねた。

 茜に言われあかりは残っているお菓子を見、パタパタと手を振る。

 

 

「ちゅーてもうちらもそない頻繁にお菓子を食べるわけでもないからなぁ・・・・・・」

「お菓子を食べるのなんてこういうみんなで遊んだりするときくらいだもんね」

「それに、やはりもともとがあかりさんのお金というのもありますからね

「私たちはほとんどお金を出してないから。あかりちゃんがこのお菓子をどうするかは決めていいよ?」

 

 

 あかりの言葉に茜と葵は顔を見合わせて持ち帰ってもあまり食べないと答える。

 やはりお菓子を買うお金をあかりが出したということが一番気になるポイントで、ゆかりとマキも茜たちと同じようにお菓子をどうするかをあかりの決定に委ねた。

 

 

「そうですか?んーっと、でしたらこのまま竜先輩の家に置いておいてもらっても良いですか?それで次にみなさんで遊ぶときにまた食べるという風にしたいんですけど・・・・・・」

「ん、置いておくのは別に構わないよ」

 

 

 茜たちに言われ、あかりはお菓子を見て考える。

 そして、竜にお菓子を置いていっても良いかを尋ねた。

 あかりの言葉に竜はうなずき、お菓子を置いていっても問題ないと答える。

 

 

「んじゃ、お菓子をどうするかも決まったことやし帰るかー」

「もうけっこう暗くなってきちゃってるもんね」

 

 

 残っていたお菓子をどうするかも決まり、茜は軽く伸びをして立ち上がる。

 真っ暗というほどではないが、それでも暗くなってきている外の景色に全員が帰る準備を始めていく。

 

 

「それじゃあ、帰りましょうか」

「せやね」

「あ、でもマキさんは・・・・・・」

「マキは俺が送っていくよ。さすがに1人で帰らせるのは心配だからな」

 

 

 帰る準備が終わり、茜たちは自分たちの荷物を持って玄関に移動した。

 ここで葵はマキの家が1人だけ遠く、1人で帰ることになってしまうことを心配する。

 心配そうな葵に竜は手をヒラヒラと振りながら自分が家まで送ると答えた。

 

 

「え、そんな悪いよ。それによく歩いてる道だから大丈夫だって」

「よく歩いている道だとしても心配なんだよ。なにが起こるかなんて誰にも分からないしな」

「そっか・・・・・・。えへへ、そっか」

 

 

 竜が自分を送るということにマキは申し訳なさそうにしながら断る。

 しかしそんなマキの言葉に竜は首を横に振って応える。

 

 マキはゆかりとよく遊ぶため、この辺りの道もよく通っており、そこそこにこの辺りのことは分かっているつもりだ。

 しかしよく知っている道だとしても今の時間ではなかなかに暗い道になってしまっている。

 今まではなにも起こらなかったかもしれないが、それでも今日もなにも起こらないという保証はないのだ。

 

 竜にそこまで心配されていることにマキは申し訳なさを感じつつも、心配してくれることを嬉しく思っている自分がいることを感じているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第213話



こそこそ裏話

この小説「変わった生き物を拾いました」はもともとはボイロクリーチャーをどんどん拾って家で飼っていく物語でした。
しかし、書き始めてからゆかりさんたちを出したくなり、今の形になったのです。

タイトルを変えた方がいいんですかね?




 

 

 

 

 やや薄暗くなった道を竜とマキは歩く。

 外灯があるとはいえ道はそこそこに暗く、物影や道の先には見えないなにかがいるような錯覚さえ感じられた。

 

 

「家を出てからここまで暗くなるとはな・・・・・・」

「これはちょっとビックリだね。竜くんが来てくれて良かったよ」

 

 

 一気に暗くなった周囲の景色に竜は少しだけ嫌そうな表情になりながら呟く。

 家にいる時点でもそこそこに暗かったのがマキを送るために歩いているだけでもう夜になったのかと思えるほどに暗くなっていた。

 

 月明かりや街灯なんかがあるとはいえここまで暗くなるとはマキも思っておらず、竜が一緒に来てくれなければこの状態の道を1人で歩いて帰らなければいけなかった。

 そう考えたマキはブルリと体を軽く震わせて竜にお礼を言う。

 

 

「う~ん・・・・・・。ここまで暗くなるならお父さんに連絡をした方がよかったのかな・・・・・・。でもそうしたら竜くんとこうして歩けなかったわけだし・・・・・・」

 

 

 小さく、隣を歩く竜に聞こえないように声を細めながらマキは呟く。

 

 この時間の時点でここまで暗くなるのであれば竜の家にいるときに父親に連絡をして迎えに来てもらった方が良かったのではないか。

 しかし、父親に迎えに来てもらった場合は竜と帰り道を歩くことはできず、もしかしたら竜はゆかりたちの方を送りに行っていたかもしれない。

 そう考えると父親に連絡をしなくて正解だったのではないか、と思える自分がマキの中にはいた。

 しかし、逆に考えると父親に連絡をした場合、自分は父親の車で安全に、ゆかりたちは竜が送ることで安全になったのではないか、という風にも考えられた。

 

 どちらの選択が正しかったのか、その答えをマキはハッキリとは出せなかった。

 

 

「どうかしたか?」

「あ、ううん。なんでもないよ」

 

 

 マキの呟きは聞こえなかったのだろうが、マキの表情から何かあったのかと感じ取った竜はマキに声をかける。

 竜に声をかけられ、マキは首を横に振って応えた。

 

 不意に竜とマキのスマホから着信音が鳴り始める。

 

 

「うぉ、茜から・・・・・・?」

「私の方はゆかりんだね」

 

 

 着信音が鳴り始めたスマホを2人が確認すると、竜は茜から、マキはゆかりからの着信だということが分かった。

 急にかかってきた電話に首をかしげながら竜とマキはスマホに出る。

 

 

「もしもし?」

『お、出たな?いやぁ、この暗さヤバない?』

「なんだ、暗くて怖くなったのか?」

『え~っと、うちじゃなくて葵がなぁ・・・・・・』

 

 

 竜が電話に出ると、茜の声が聞こえてきた。

 茜の言葉に竜はからかうように尋ねる。

 いつもであれば軽く怒ったような声で掛け合いが始まるのだが、竜の言葉に茜は歯切れの悪い言葉で答えた。

 

 

「葵・・・・・・?ああ、もしかして物影とかか?」

『まぁ、予想はつくわなぁ・・・・・・。そうなんよ、今はうちやのうてゆかりさんにしがみついとるんやけどね』

「ゆかりに?」

 

 

 茜の言葉から葵がどのような状態になっているのかを予想できた竜は苦笑する。

 

 どうやら葵が電信柱などの物影や、わき道の奥の暗闇などを怖がってしまい、今はゆかりにしがみついてしまっているようだった。

 

 ゆかりの名前が聞こえてきたことに竜は少しだけ驚き、マキにゆかりからの電話がかかってきていたことを思い出してマキの方を見た。

 

 

「ゆかりん?!どうしたの?!言葉になっていないよ?!」

『~~~~~~~ッッッ?!?!』

「・・・・・・葵ってどこにしがみついてるんだっけ?」

『ゆかりさんの“首もと”に、やで』

 

 

 スマホに向かって慌てた様子で声をかけるマキの姿に、竜は葵がゆかりのどこにしがみついているのかを尋ねる。

 

 竜と茜。

 

 互いに別々の場所にいるわけなのだが、なぜかお互いの様子が頭に浮かぶようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第214話

 

 

 

 

 茜とゆかりからの電話を受けてから数分後、どうにか葵が落ち着くことができたのかマキがゆかりと会話をする声が聞こえてきた。

 先ほどまでのマキの慌てようからゆかりと葵が大変なことになっているのだろうと推測できていた竜はホッと息を吐く。

 

 

「葵は落ち着いたみたいだな?」

『あー、まぁ、落ち着いたっちゃ落ち着いたなぁ』

 

 

 マキとゆかりが普通に会話を始めたことから葵が落ち着いたのだろうと考えて竜は茜に尋ねる。

 しかし、竜の言葉に茜はなんとも曖昧に答える。

 茜の答えに竜は不思議そうに首をかしげた。

 

 

「どうかしたのか?」

『いや、そんな気にするほどのことでもないから気にせんでええよ。・・・・・・ほ・・・、ぅ・・・・・・・か・・・・・ぃ・・・・・・ぃ・・・・ゃ・・・・・・・・っ・・・・・・ぃ・・・・・・』

 

 

 茜の反応からなにか気になることでもあったのかと竜は尋ねるが、茜は気にしなくてもいいと答える。

 竜の言葉に答えた後に茜がなにかを言っていたようにも聞こえた気がしたが、竜の耳にはなんと言っているのかまったく聞こえなかった。

 そして、そのまま電話は切れるのだった。

 

 

「・・・・・・なんだったんだ?」

「あ、竜くんの方も電話は終わったんだね」

 

 

 通話の切れたスマホを見ながら竜は首をかしげながら呟く。

 竜がスマホを眺めていると、先に通話の終わっていたマキが声をかけてきた。

 マキの声に竜はスマホをポケットにしまいながら軽く手を挙げて応える。

 

 

「そっちの方が先に話し終わってたんだな」

「うん。葵ちゃんに首を絞められてて声が出せなかったんだって」

 

 

 竜の言葉にマキは苦笑を浮かべながらフリフリと見えるようにスマホを揺らしながら竜に答える。

 葵がゆかりの首にしがみついていたことは茜から聞いていて知っているのだが、それでも改めて聞くと葵とゆかりが喧嘩をしているようにも聞こえた。

 

 

「葵はホラー系が苦手だからなぁ。正直に言うと俺も今の時間のこの道はけっこう怖いし」

「街灯はあってもけっこう薄暗いもんね。私も竜くんがいなかったらヤバかったかなぁ・・・・・・」

 

 

 葵がゆかりの首にしがみつくことになってしまった理由を理解している竜は苦笑しながら言う。

 ホラー系のゲームに関しては葵よりは耐性のある竜でも怖いと感じられる道。

 それだけでもかなり薄暗いということがうかがえた。

 

 

「お、学校だ」

「うひゃあ、やっぱり夜の学校って不気味だよね」

 

 

 マキの家に向かう途中、竜は学校が見えてきたことに気づいて呟いた。

 竜の呟きにマキはチラリと夜の学校を見る。

 

 夜の学校。

 それはホラーゲームや映画の題材としてはよく使われる舞台の1つで、敷地の中に入ったわけでもないのに言い様のない不気味さを感じることができる場所だ。

 

 弱い風によってサラサラと揺れる木の葉。

 道路にある街灯の光が届かずに真っ暗な校庭の(はじ)

 街灯の光が中途半端に届いているせいで不気味に光っているように見える石像。

 校舎の窓から見える非常口を示している緑色の非常灯。

 

 どれか1つでも不気味さを感じられるというのに、それらの要素がすべて集まることによって相乗的に不気味さが倍増されていた。

 

 

「そういえばうちの学校って七不思議とかあるんかね?」

「あー、たしかに学校って言ったら七不思議はつきものなイメージあるよね。どうなんだろ、私は聞いたことないなぁ」

「イタコ先生にでも聞いてみるか?葵は逃げそうだけど」

「えー、でも七不思議って7つ全部知ったら不幸なことが起こるとかなかったっけ?」

 

 

 夜の学校の不気味さを肌で感じながら、竜はなるべく学校の方を見ないようにしつつマキと話す。

 

 夜の学校を見たことから竜はふと思ったことをマキに聞いてみた。

 学校といえば七不思議は基本的にセットとも言えるような組み合わせ。

 マンガやドラマなんかで見るような七不思議が自分たちの通っている学校にもあるのかが竜は気になったらしい。

 

 竜の言葉にマキは少なくとも自分は聞いたことがないと答えた。

 マキの答えに竜はイタコ先生に七不思議があるのかを聞いてみるか提案するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第215話



関係ないですが、“うたわれるもの 二人の白皇”を久しぶりに見て泣きました





 

 

 

 

 不気味さを感じられる学校の前を横切り、竜とマキはマキの家に向かって歩く。

 学校の前を歩いているときに竜は笑っている子供の声や鈴の音のようなものが聞こえたような気がしたが、こんな時間に学校に子供がいるはずもなく、隣を歩いているマキは聞こえていない様子だったので気のせいだと忘れることにした。

 

 

「七不思議の定番だとしたら校庭にある石像が動くとか、一段増えている階段とかか」

「あとは~、音楽室のベートーベンの目が動くとか?」

 

 

 視界の端に流れていく学校にチラリと視線を向け、竜とマキは思いつく七不思議を挙げる。

 

 丑三つ時に動き出す校庭の二宮金次郎像。

 階段を数えながら上り、同じように数えながら下りると段数が変化している。

 音楽室の壁にかけられているベートーベンの写真の目が動く。

 

 どれもかなり有名な七不思議で、自分の通っている学校の七不思議は知らなくても知っているほどのものだった。

 

 

「あ、トイレの花子さんも有名だよな」

「でもさぁ、あれって女子トイレ限定の怪談なのになんで男の子たちにも知られてるんだろうね?」

 

 

 続けて竜は日本で知らない人はいないであろう怪談を挙げる。

 

 “トイレの花子さん”

 

 それはその名の通りトイレにいるとされる怪談で、正確に言うなら4階女子トイレの3番目のトイレにいる少女の幽霊という怪談だ。

 

 竜の言葉にマキはポツリと疑問に思ったことを呟く。

 

 マキが疑問に思ったのはトイレの花子さんという怪談が女子トイレを舞台にしているのに男の子にも知られているということ。

 女子トイレを舞台としているのだから広まるにしても女子の間だけのはずなのだが、それがなぜか普通に男の子の方にまで広まってしまっているのだ。

 まぁ、そうなった理由として考えられるのは、やはり怪談がマンガや小説、映画やアニメなどの題材として使われているからだろう。

 そういったものに使われているから普通は女子トイレに入ることができないはずの男の子が“トイレの花子さん”を知っているのだ。

 

 

「えっと、動く石像に増える階段、目が動くベートーベンにトイレの花子さんで4つか」

「あと3つはどんなのがあったかな?」

 

 

 すでに学校は見えない位置にまで歩いてきているのだが、一般的に知られている七不思議にどんなものがあるのかが気になってきた竜とマキは七不思議談義をする。

 竜とマキがパッと思いついたのは七不思議のうちの4つ。

 残りの3つがどんなものがあったのかを竜とマキは考える。

 

 

「んーっと、校舎を動き回る人体模型、もしくは白骨標本?」

「そうだなぁ、桜の木の下には死体が埋まってるとかも七不思議だっけ」

 

 

 記憶をあさり、学校に関連していそうな怪談を竜とマキは挙げる。

 竜とマキの挙げた怪談が本当に七不思議に含まれているのかは分からないが、それでもこういうものは雰囲気が大事なのだ。

 ちなみに、竜たちの通っている学校には桜の木は植えられておらず、梅の木しか植えられていないので、マキの挙げた桜の木の下の死体という怪談は七不思議には含まれていなかったりする。

 

 

「美術室のモナリザが動くってのもあったよな。というか七不思議って物が動く系が多いよな」

「そういえばそうだね。やっぱり学校っていうことで物系の方が多くなっちゃうのかな?」

 

 

 竜は追加でさらに怪談を挙げ、物が動く系統の怪談が多いことに気がつく。

 竜とマキが挙げたものの中で物が動く系統の怪談は、動く石像、目が動くベートーベン、校舎を動きまわる人体模型、モナリザの4つ。

 七不思議のうちの半分以上が物が動く系統の怪談だった。

 

 なお、物が動く系統の怪談が多くなってしまっているのは他の怪談を思いつくことができない竜とマキが原因なのだが、2人はそのことにはまったく気がついていない。

 そして、七不思議の話に夢中になっているといつのまにかマキの家に着いているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第216話

 

 

 

 

 いつのまにかマキの家に到着していたことに竜とマキは気がつき、顔を見合わせる。

 七不思議についての話をしていたにしてもあまりにも早く着いたことに竜とマキは少しだけ驚いていた。

 

 

「もう家に着いちゃったんだね。なんか学校からあっという間だったね」

「本当だな」

 

 

 マキの言葉に竜はうなずく。

 どんな話の内容でも楽しく話すことができればいつの間にか時間が経っているもの。

 竜の家からマキの家までの距離はそこまで近いものではない。

 むしろ間に学校があるので遠いくらいの距離なのだが、そんな距離などなかったかのような感覚でいつのまにかマキの家に着いていたのだ。

 

 

「家まで送ってくれてありがとね。ちょっと飲み物でも飲んでく?」

「んー、ありがたいけど遠慮しておくよ。家でいなが晩御飯の用意をしてくれてるだろうしね」

 

 

 玄関に手をかけながらマキは竜に声をかける。

 ここまでわざわざ送ってきてくれたのだから飲み物ぐらいは、そう考えてマキは声をかけたのだが、マキの言葉に竜は申し訳なさそうな表情を浮かべながら手をヒラヒラと振って断った。

 

 見えない状態のついなの姿は竜やイタコ先生などの霊感のある人にしか見えないため、マキはついなが家に残っているということに少しだけ驚いた表情を見せた。

 ついなのことを紹介されたときからなんとなく気づいていたが、ついなは霊力が弱いと言いながらも竜のことを守ろうとしている。

 そのため、今も一緒に来ていると思っていたのだ。

 

 

「まぁ、そんなわけだから遅くなって心配はかけられないんだ」

「そっかぁ。それなら仕方がないね」

 

 

 帰るのが遅くなればその分ついなが心配してしまう。

 過保護と思われるかもしれないが、ついなからしてみれば自分のことを見ることのできる初めてのちゃんとした持ち主ということで、それだけ執着心のようなものが強くなってしまっているのだ。

 とはいっても、霊力が弱いことと基本的に善性の性格なので、せいぜいが息子を溺愛する母親程度の状態で落ち着いているのだが。

 まぁ、逆に言えば・・・・・・、ついなの霊力が強くなれば落ち着いている今の枷が外れてしまう可能性もあるということなのだが。

 

 竜の言葉にマキは残念そうに少しだけ肩を落とす。

 そんなマキの様子に竜は申し訳なく思いつつも小さく手を振って家に向かって歩き始めた。

 歩き始めた竜の姿に、マキはその姿が見えなくなるまで外で見送るのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 マキの家から自分の家に向かって竜は歩く。

 マキの家に向かうときはマキと2人だったこともあって気にならなかったのだが、今は1人で完全に暗くなってしまった道を歩いており、些細なことでも気になってしまう状態になっていた。

 

 街灯で照らされている電信柱の後ろの真っ暗な影。

 

 切れかけているのか点滅を繰り返す街灯。

 

 時おり聞こえてくるなにか動物の鳴き声。

 

 そのどれもが竜の中の恐怖心を刺激していた。

 

 

「みゅかりさんとかがいてくれたら心強いんだがなぁ・・・・・・。うん?」

 

 

 別に人でなくても生き物がいるだけで恐怖心などはかなり抑えられるもので、無い物ねだりだとは分かっているのだが、それでも竜は呟かずにはいられなかった。

 そして、竜は学校の前にまで到着した。

 マキの家に向かっているときにも見ていたが、暗さがさらに増したことによって不気味さもさらに拍車がかかっているように思える。

 

 ふと、学校に視線を向けていた竜は視界の端に誰かがいたような気がしてそちらを見る。

 

 こちらに向かって手を振っているように見えるのは白い着物に身を包んだ1人の女性。

 距離が離れているからなのかその女性の顔はハッキリとは見えず、竜は不思議に思いながら首をかしげた。

 さらに不思議なのは、その女性が明かりのない暗闇(●●●●●●●●)にいるはずなのにハッキリと姿が見えているということ。

 

 どちらにしても女性がいるのは竜の家に向かう道。

 不思議に思いながらも竜は自分の家に帰るために歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第217話



UAが56000を超えたのでアンケートを締め切ります。

投票ありがとうございました。

結果はイタコ先生となりました。





 

 

 

 

 街灯はついているものの、それでも薄暗さを感じられる道。

 そんな道の奥、街灯の光の届かない闇の中にその女性はいた。

 顔は見えないのだが、白い着物姿で竜に向かって手を振っている。

 普通であればそんな暗がりにいれば姿などほとんど見えないはずなのだが、その女性の姿はなぜかハッキリと竜の目に写っていた。

 

 

「着物・・・・・・。白いものとなるとイタコ先生くらいしか浮かばないんだが、別人っぽいしなぁ」

 

 

 正直に言えば女性は怪しすぎるので近づきたくはないのだが、最悪なことに女性がいるのは竜の家に向かうための道なので、どうしても近づかなければならないのだ。

 白い着物を着た女性ということで思いつく知り合いかと考えてみるが、当てはまりそうな知り合いはイタコ先生しかおらず、イタコ先生と道の奥に見えている女性は顔は見えなくてもまったく似ても似つかないことは分かった。

 

 恐らくは知り合いではないだろうと怪しみながら竜は道を進んでいく。

 当然のことだが、竜が一歩踏み出せば女性との距離が縮まる。

 しかし、不思議なことにどれだけ近づいても女性の顔はボンヤリとしており、その顔を見ることはできなかった。

 

 竜が歩みを進め、女性との距離が縮まる。

 距離にしておおよそ100メートルほどにまで近づいただろうか。

 そこで、不意に女性の動きに変化が起きた。

 

 

「ふふふふふふ・・・・・・」

 

 

 女性は手を振るのを止め、妖しく笑い始める。

 女性の変化に竜は足を止め、さらに警戒を強めた。

 

 

「なんなんだ・・・・・・、ッッ?!」

 

 

 いきなり笑いだした女性に竜が困惑していると、女性が前傾姿勢をとって走り出してきた。

 いや、走り出してきた、という表現は間違いだろう。

 女性は足を一切動かしておらず、滑るようにして竜へと向かってきていた。

 笑いだした女性に困惑していた竜は突然の女性の動きに対応できず、驚いて動きを止めてしまった。

 

 

 (せま)

 

 迫る

 

 迫る

 

 

 竜が動きを止めてしまったのはほんの数秒ほど。

 しかし、その数秒で女性は一気に距離を詰めてきており、10秒どころか次の瞬間には竜にぶつかっているのではないかと思える位置にまで来ていた。

 

 

「くっ・・・・・・!」

 

 

 避けることはできない。

 そう考えた竜はとっさに腕を交差して防御の体勢をとる。

 この動きに意味があるのかは分からないが、とっさに出た行動がそれだった。

 

 女性がぶつかる、そう竜が思った瞬間。

 

        ────チリーン・・・・・・

 

 竜の耳に鈴のような音が聞こえてきた。

 

 

「お兄さんは魅力的なん、気いつけんといけんよ?」

「夜の学校はこういった(やから)が集まりやすいけん。お兄さんは近づかん方がよかよ」

「え・・・・・・?」

 

 

 いつのまにそこにいたのか。

 

 竜を挟むようにして2人の少女がそこに立っていた。

 左右に立つ少女に竜は思わず呆けた声を出してしまう。

 

 突然現れた少女たちに竜は驚いていたが、自分に向かってきていた女性のことを思い出して慌てて女性の方を見た。

 

 

「これは・・・・・・、木?」

「うちらの力ならこんくらいは簡単に倒せるばい!」

せからしか(うるさい)。こんな時間やけん静かにせんと」

 

 

 竜が女性の方を見ると、そこには木によって拘束されている女性の姿があった。

 どことなく女性を拘束している木には見覚えがあるのだが、それがどこで見たのかは思い出せなかった。

 そして、2人の少女たちがなにかを握るように手を動かすと、それに連動するように木が動き、女性を一気に押し潰していった。

 普通の人間であれば押し潰されて血や内蔵なんかが飛び散るであろう状態なのだが、女性は光となって消えていった。

 

 消えていく女性の姿を竜はただただ見ていることしかできなかった。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第218話

 

 

 

 

 木に押し潰され、光となって消えていった女性。

 普通の人がそんな風に消えるはずもないので、そのことから女性が人ではないということがハッキリと分かった。

 

 しばらく女性が消えていった場所を見ていた竜だったが、2人の少女たちがいたことを思い出して2人のいる方を見た。

 

 

「えっと・・・・・・。君たちが助けてくれた、ってことで良いのかな?」

「そうったい。夜の学校には危険がいっぱいで危ないんよ?」

「とくにお兄さんみたいに霊力が高くて霊に対する対抗手段を自分で持っていない人は狙われやすいけん。あまり夜の学校には近づかん方がよかよ。・・・・・・まぁ、そこまで心配する必要はなかったみたいっちゃけど」

 

 

 先ほどの女性を押し潰した木。

 その動きが少女の手の動きと連動していたことから女性を押し潰した木は2人の内の片方、桃色の少女がやったのだろうと竜は考えていた。

 竜の言葉に桃色の少女は(無い)胸を張りながら答え、もう片方の少女、青色の少女はチラリと竜の周囲に目線を向けながら答えた。

 

 

「まぁ、俺としてもここまで暗くなった時間に出歩くつもりはなかったんだけどな・・・・・・。そういえば君たちは・・・・・・」

「うちは“鳴花 ひめ”ったい。こっちは“みこと”!」

「んなっ?!ひめ、なんば言いよっと?!」

 

 

 桃色の少女の言葉に竜は頬を掻きながら答える。

 2人の少女たちがどのような存在なのかが気になって竜が尋ねると、桃色の少女────鳴花 ひめがアッサリと自分と青色の少女────鳴花 みことの名前を答えてしまった。

 ひめがアッサリと名前を言ってしまったことにみことは驚き、ガクガクとひめの肩を揺らす。

 霊的な存在の名前を知るということはその対象を縛ることができるようになるということ。

 そのことを竜はイタコ先生から何度も聞かされていたため、ひめが名前を教えてくれたことに驚いてしまう。

 竜からすれば名前を聞くつもりはなく、どういった存在なのかが聞きたかっただけだったのだが意図せずに知ってしまった2人の名前にどうしたものかと頭を悩ませた。

 

 

「ええと・・・・・・、ひめとみこと、で良いのかな?俺は公住 竜だよ」

「なら竜お兄さんやね!」

「はぁ・・・・・・。まぁ、言ってしまったものは仕方なか。竜さん。よろしくお願いしますね」

 

 

 ひとまず名前を聞いてしまったことにはあまり触れず、あくまで自己紹介的な感じで竜は自分の名前を2人に教えた。

 竜の名前を聞き、ひめは嬉しそうにピョンピョンと跳びはね、みことは小さくため息を吐いて応える。

 

 

「んー、念のためにこれを渡しとくばい」

「大丈夫だろうとは思うけど念のためやね」

「これは・・・・・・。梅の枝?」

 

 

 ひめが少しだけ考えるように頬に手をあて、竜に1本の枝を差し出した。

 ひめの差し出した枝を見てみこともうなずきながら答える。

 

 ひめの差し出してきた枝を受け取り、竜は枝に咲いていた花を見て小さく呟いた。

 そして、竜はそこでようやくひめの出していた枝が、学校の中庭に植えられている梅の木と同じ木だったことに気がついた。

 

 

「うちらの力が宿っている枝やけん。帰り道もこれで安心ばい!」

「できれば家に着いたら庭に植えてもらえると枯れないで済むので・・・・・・」

「なるほど。ありがたく貰っていくよ」

 

 

 どうやらこの枝にはひめとみことの力が宿っているらしく、魔除けの効果があるらしい。

 ひめからもらった枝に咲いている花をしげしげと眺めながら竜は答える。

 そして、2人に手を振って家に向かって歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第219話



次のアンケートには鳴花姉妹も追加しますね。





 

 

 

 

 ひめから貰った梅の枝を見ながら竜は自分の家に向かって歩く。

 ひめから受け取った時には気づかなかったが、梅の枝はほんのりと発光をしており、どことなく暖かさのようなものを感じられた。

 おそらくだが、この光が魔除けの効果のあるものなのだろう。

 

 

「スンスン・・・・・・。枝の状態でもやっぱりちゃんと梅の香りはするんだな」

 

 

 梅の枝を見ていた竜は枝に咲いている花に顔を近づける。

 すると、枝に咲いている花からフワリと梅の香りが竜の鼻をくすぐった。

 なんとなく学校の中庭に咲いている梅の香りよりも甘いような気がしたが、おそらくは気のせいだろう。

 

 それから、先ほどの女性のような存在に出会うことなく平穏無事に竜は自分の家に到着した。

 

 

「っと、植えないといけないんだったな」

 

 

 家に着いた竜は家の玄関を開ける直前にみことから言われたことを思い出す。

 植えれば枯れないで済むということなので、どこかちょうど良さそうな場所に植えた方がいいだろう。

 しかし、ただ適当に植えれば良いというわけでもないのも事実。

 今は枝ということでかなり小さいが、それでも地面に植えればゆくゆくは学校の中庭に咲いている梅の木と同じくらいには大きくなってしまうと考えられる。

 そのため、将来的に大きくなるであろうことを見越した場所に植えなくてはいけないのだ。

 まぁ、本当に学校に咲いている梅の木と同じくらいの大きさに成長するかどうかは不明なのだが、それでも想定をしておいて損はないはずだ。

 

 

「うーん・・・・・・。でもなぁ、さすがに木を植えるのを勝手にやるわけにもいかないか・・・・・・」

 

 

 将来的に大きくなるであろう木を勝手に庭に植えてしまうのは、いくら今は竜しか家にいないとしてもやって良いものではないだろう。

 家のことということで、その辺りはキチンと両親とも話し合って決めた方がいいはずだ。

 

 そう考えた竜はしばらくの繋ぎとして物置にしまわれていた植木鉢に土を入れ、梅の木の枝をそこに植えた。

 大きく成長してからはどこかに植え替えなくてはいけないだろうが、それまではこの植木鉢で我慢してもらうしかないだろう。

 

 

「とりあえずこうしておこう。許可が出たら植えてやるからな」

 

 

 植木鉢に梅の木の枝を植えた竜は植木鉢を下駄箱の上に置き、梅の木の枝を優しく撫でてから靴を脱いで洗面所に向かう。

 そんな洗面所に向かう竜の後ろで、梅の花は風もないのに揺れるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 手洗いうがいを終えた竜は、ついなの待つリビングに移動する。

 竜がリビングに着くとちょうどついなが晩御飯の用意をしているところだった。

 どうやら竜が玄関を開けた音を聞いて晩御飯の用意を始めていたようだ。

 

 

「おかえりや。もうすぐ晩御飯の用意はできるで」

「ああ、ただいま」

 

 

 ついなは竜がリビングに入ってきたことに気づくと、ニコリと微笑みながらもうすぐ晩御飯が食べられると言った。

 ついなの言葉に竜はうなずき、晩御飯が並べられている椅子に座る。

 

 

「なんや、帰ってくるのにちょい時間がかかっとったみたいやけど・・・・・・。なんかあったん?」

「まぁな。なんか変な霊に襲われそうになったみたいで」

「ほんま?!だ、大丈夫なん?!」

 

 

 晩御飯の用意を終え、竜の帰りが少し遅かったことが気になったついなは何かあったのかを尋ねる。

 ついなに尋ねられ、竜は簡単に帰り道で何があったのかを答えた。

 竜からすれば解決したことなのだが、ついなにしてみれば竜のことを守りたいと考えているため、竜が霊に襲われたと聞き、慌てて竜の体をペタペタと触りながら尋ねた。

 

 

「ああ、なんか2人の女の子たちが助けてくれてな。たぶん、梅の木の精みたいな存在だと思うけど」

「ご主人が無事なら良かったわ・・・・・・」

 

 

 ペタペタと体を触ってくるついなに竜は苦笑しつつ、とくに怪我もしていないと答える。

 竜が怪我らしい怪我もしていないことを聞き、ついなはホッと息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第220話

 

 

 

 

 竜が霊的な存在に襲われて、ひめとみことに助けられた翌日。

 自分の部屋の布団で目を覚ました竜は、玄関の下駄箱の上に置いておいたはずの植木鉢が部屋にあることに気がついた。

 植木鉢は間違いなく下駄箱の上に置いたはずで、仮に寝ぼけたにしても自分の部屋にまで持ってくることはまず無いはずだ。

 

 

「・・・・・・植木鉢が自力で動いた、とか?・・・・・・いや、あり得ないか。ふわぁ・・・・・・」

 

 

 寝起きで働いていない頭で首をかしげながら竜は呟く。

 そして、あくびをして竜はパジャマから着替えていった。

 

 パジャマから着替え終わり、竜はスクールバッグを手に持ってリビングに向かう。

 学校に持っていく教科書などは前日の寝る前に終わらせているので、あとは朝御飯を食べるだけで家を出ることができるのだ。

 

 

「ご主人、おはようや。顔は洗ったん?」

「おはよう。いや、まだこれから洗面所に向かうところ」

 

 

 竜がリビングに着くと、すでに朝御飯の用意を始めていたついなが振り向いて声をかけてきた。

 ついなの声に竜はスクールバッグを床に置き、手を上げて応える。

 

 ついなの声に応えた竜は、そのままリビングから出て洗面所に向かっていった。

 どこか眠そうに洗面所に向かっていく竜の姿についなはクスリと笑みをこぼし、朝御飯の用意を再開するのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 朝の気温がやや下がってきた今日この頃。

 もう少し朝の気温が下がれば顔を洗わなくても寒さで目が覚めることになるだろう。

 まぁ、寒くなったら寒くなったで布団から出てくるのが遅くなるので一概に良いとは言えないのだが。

 

 竜はややヒンヤリとした水で顔を洗う。

 冷たいというレベルではないがそれでも充分な冷たさの水が顔に触れ、その刺激で寝ぼけていた頭がスッキリとクリアになっていく。

 さらに手洗いうがいなども終わらせればすっかり眠気もなくなっていた。

 

 

「ぷぁっ・・・・・・」

 

 

 顔を洗ったことによって濡れた顔をタオルで拭き、竜は一息つく。

 そして頭がスッキリしたことによって頭の中に浮かんでくるのはいつの間にか部屋の中に移動していた植木鉢のこと。

 少なくとも自分で部屋に運んできたということはないだろうし、ついながわざわざ玄関から部屋にまで持ってきたというのも考えづらい。

 スッキリした頭で部屋に植木鉢があったことの原因を考えてみるが、その原因はまったくと言っていいほど思いつかなかった。

 

 

「・・・・・・うん、あれだ。もしかしたら見間違いかもしれないしな」

 

 

 寝ぼけていたことによる見間違いかもしれない。

 

 タオルで顔や手の水気を取り終えた竜は部屋の中に植木鉢があったのは寝ぼけていたことによる見間違いかもしれないと考える。

 そして、確認のために竜は自分の部屋に戻ろうと洗面所を出た。

 

 

「・・・・・・って、やっぱり下駄箱の上にあんじゃん」

 

 

 洗面所から出て自分の部屋に向かおうとしていた竜は、途中で下駄箱の上に植木鉢があることに気がついて足を止めた。

 下駄箱の上に植木鉢があるということは、やはり起きたときに部屋にあった植木鉢は見間違いだったのだろう。

 

 下駄箱の上に植木鉢が置いてあることを確認した竜は、軽く伸びをして自分の部屋に戻るのを止めて、リビングに向かっていった。

 リビングに向かって消えていく竜の後ろで、植木鉢に植えられた梅の木は、緑色の葉(●●●●)を揺らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第221話



なんだかんだ、すでにマリオの方のUAを超えてるんですよね・・・・・・




 

 

 

 

 ついなの用意してくれた朝御飯を食べ終え、竜は食後のお茶を口に運ぶ。

 自分で入れたときは普通に思っていたお茶だったのだが、ついなが淹れてくれたお茶はなぜか味や香りがとても強く感じられ、とても美味しく感じられた。 

 このお茶を飲みながら縁側などでお茶請けなどを片手にのんびりできれば最高なのではないかと思えるほどについなの淹れてくれたお茶は美味しかった。

 

 

「・・・・・・ふぅ」

「ご主人、のんびりしてるとこ悪いんやけどもうすぐ時間やで?」

「ん、分かったよ」

 

 

 お茶を飲み、喉を通りすぎたあとの鼻から抜けていく香りの余韻を竜は楽しむ。

 そうしてお茶の余韻を楽しんでいる竜に、ついなはチョンチョンと肩をつついて声をかける。

 ついなの言葉に竜はうなずき、湯呑みに残っていた残りのお茶を飲んで立ち上がった。

 

 

「そんじゃ、行くか」

「了解や」

 

 

 スクールバッグを手に取り、竜はついなに声をかける。

 竜の言葉についなは竜の飲み終えた湯呑みを水に浸けながら答えた。

 そして、慣れた様子でついなは小さくなり、竜の制服のポケットへと入っていく。

 

 まぁ、制服のポケットに入る際に頭から入ろうとして下着が見えそうになってしまっているのだが、本人がポケットに入ったあとに満足そうな表情で顔を出すため、竜は指摘をできずにいた。

 ちなみに、竜はついながポケットに入ろうとしているときに何回か下着を見てしまったことがあったりする。

 

 

「よっしゃ、準備オッケーやで」

「うし、いってきまーす」

 

 

 竜の制服のポケットからピョコンと顔を出してついなは元気よく腕を上げる。

 そんなついなの姿に竜はクスリと笑みをこぼし、下駄箱の上に置いてある梅の木の枝を植えた植木鉢に向かって声をかけるのだった。

 

 なお、梅の木の枝に声をかけてすぐに家を出た竜は気づかなかったが、梅の木は竜の言葉に答えるように枝を伸ばしてゆらゆらとそれを揺らしていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜とついなが家を出ていってからしばらくして、下駄箱の上に置かれている植木鉢が、正確に言うなら植えられている梅の木の枝がブルブルと震え始める。

 そして、しばらく震えていたかと思えば一気にその大きさを増していった。

 大きくなっていく梅の木の枝は、枝と呼べるような大きさから、もはや盆栽とでも呼べそうなほどのような大きさにまで成長してしまう。

 

 一気に大きく成長した梅の木はある程度の大きさにまで成長するとそれ以上は大きくならなくなり、やがて小さなつぼみをつけていく。

 そのつぼみもすぐに開いていき、わずか数分後には満開の花が咲いている梅の木の盆栽がそこにはできていた。

 

 

「ふう、やっぱり竜お兄さんの持ってる力はスゴいっちゃねぇ」

「まさかこんなに早く育つなんて・・・・・・。驚きったい」

 

 

 いつの間にか、盆栽の目の前には2人の少女、ひめとみことが立っていた。

 2人は感心するように梅の木を見ており、その表情はとても嬉しそうに見える。

 

 

「これだけ育っていればいつでも来れるけんね」

「うん。まぁ、イタコさんの許可も貰っとるしそれも良いんじゃなか?」

 

 

 梅の木の花を撫で、ひめはニコニコと笑みを浮かべながら言う。

 どうやらひめとみことは梅の木を媒体として移動をすることができるらしい。

 とはいっても移動することのできる梅の木に制限はあるようだが。

 

 ひめの言葉にみことも興味なさそうな風にしてはいるが、みことの周りに梅の花びらがヒラヒラと出現している辺り嫌な気はしていないようだ。

 

 

「っと、どうやら竜お兄さんが学校に着いたみたいっちゃね」

「ん、みたいやね。ならボクらも戻るばい」

 

 

 しばらく嬉しそうに植木鉢の梅の木を見ていた2人だったが、突然ひめがピョンと小さく跳び跳ねた。

 ひめの言葉にみこともうなずく。

 ひめの言葉を信じるのであれば、学校の中庭に植えられている梅の木を介して竜が学校に着いたことを察知したということになるだろう。

 

 そして、現れたときと同じようにいつの間にか2人の姿は消えているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第222話

 

 

 

 

 昨日の出来事を話すために竜は保健室に向かう。

 ここのところ保健室に向かう頻度が多いような気がするが、そういったことの専門家であるイタコ先生が保険医なのだから仕方がないのだろう。

 

 ちなみに、竜は気づいていないのだが、竜が保健室に行っている頻度が多いことは他の生徒たちも気づいており、ほとんどの生徒たちは竜がイタコ先生に異性としての好意を持っているのではないかと思っていたりする。

 そのため“IFC”、つまりは“イタコ先生()ファン()クラブ()”に所属している生徒、ならびに教師たちから警戒されていた。

 当然ながらこのファンクラブはイタコ先生からの許可はもらっておらず、非公認ゆえに決して気づかれてはいけないという掟があったりするのだが、所属していない竜にはなんの関係もなかった。

 

 

「失礼します」

「あら、いらっしゃい。どうかしましたの?」

 

 

 竜が保健室に入ると、イタコ先生は微笑みながら応える。

 そして、竜は慣れた様子で保健室にあるソファーに座った。

 

 

「えっと、昨日の夕方・・・・・・、いや、夜?にちょっと出掛けていて女性の霊に襲われたんですよ」

「そうなんですの?!怪我は、ないみたいですわね・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にイタコ先生はついなと同じように驚き、慌てた様子で竜の体を見る。

 しばらく竜の体を見ていたイタコ先生だったが、竜の体に怪我らしい怪我が見当たらないことが分かると、ホッと息を吐いた。

 

 

「はい。2人の女の子に助けてもらいまして」

「2人の女の子、ですか?」

 

 

 イタコ先生が落ち着いたタイミングで竜はひめとみことに助けて貰ったことを教える。

 竜の言葉にイタコ先生は霊への対抗手段を持っている2人の女の子を考え始めた。

 竜が夜に出歩いていたということからこの近辺で活動しているものたちであることは確定として、2人の女の子となると当てはまるものは数えるほどしか思いつかない。

 

 

「ええ、まぁ・・・・・・、その・・・・・・、それで、女の子たちの名前を知っちゃったんですよね・・・・・・」

「えーっと、もしかしなくても、“あの子たち”ですわよね?」

 

 

 竜が名前を知ってしまったことを言ってくるということは2人の女の子は霊的な存在ということ。

 これが仮にイタコ先生と同業の霊能者であるならば名乗るのは偽名がほとんどだとイタコ先生は竜に教えているので、ここまで困った様子で言うことはないだろうとイタコ先生は考えた。

 そして、この近辺で2人の女の子の霊的な存在というのはこの学校にしかいない。

 

 竜が名前を知ってしまったと聞き、イタコ先生は中庭に植えられている梅の木を指差しながら言った。

 

 

「たぶん・・・・・・。帰りに魔除けとして梅の木の枝をもらいましたし」

「なら間違いありませんわね。とりあえず、あの子たちの名前も人前などでは呼ばないようにしてくださいね?」

 

 

 帰りに梅の木の枝を貰ったことを竜が言うと、イタコ先生は思っていた2人で間違いないと確信を得た。

 そして、ついなと同じように人前ではあまりひめとみことの名前を呼ばないようにと軽く注意をする。

 

 

「ですが、あの子たちもなかなか安心して話せるような人がいませんでしたからね。どうか、仲良くしてあげてくださいね」

「それは、もちろんです」

 

 

 イタコ先生の言葉に竜はひめとみことの姿を思い浮かべる。

 どう見てもその見た目は小学生くらいの女の子たちで、話した感じで精神的にもそのくらいの年齢のように思えた。

 

 そんな2人に安心して話せる人間が少なかったと知り、竜はしっかりとうなずいて応えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第223話

 

 

 

 

 昼休み。

 竜は中庭に植えられている梅の木のもとに来ていた。

 すでにお昼御飯は食べ終わっており、竜の後ろには茜たちの姿もある。

 

 

「ほんで?なんで急に中庭に来たんや?」

「ボクたちは中庭に1年生のときにけっこう来たもんね?」

 

 

 竜がどういった理由で中庭に来たのかを知らない茜たちは不思議そうに竜を見る。

 葵の言っているように竜、茜、葵の3人は1年生のときに中庭でお昼を食べたり、日の光を浴びながら話をしたりしていた。

 そのため、中庭に関してはそこまで新鮮さというものは感じていなかった。

 

 

「まぁ、ちょっとな。2人とも、聞こえてるかな。昨日はありがとうな。話し相手が欲しかったりするならいつでも声をかけてくれていいからな」

 

 

 茜の言葉に竜は曖昧に答え、梅の木にそっと手をあてる。

 そして、昨日助けて貰ったお礼を梅の木に向かって言った。

 竜が急に梅の木に向かって話しかけたことに、茜たちは困惑した表情を浮かべる。

 

 まぁ、事情をなにも知らない人間からすればかなり不思議な、というよりも意☆味☆不☆明な行動にしか見えないので、茜たちが困惑してしまうのも無理はないだろう。

 

 不意に、竜のことを包むかのように穏やかな風が巻き起こり、梅の花びらがヒラヒラと舞っていく。

 

 

「わぷっ?!」

「なんやなんや?!」

 

 

 風の中心部にいる竜は気づかなかったが、風の外側にいた茜たちは舞い上がった花びらが顔などに飛んできて驚いてしまう。

 茜たちが驚いていると、いつの間にか竜の左右に2人の女の子たちが現れていた。

 

 

「やったー!竜お兄さんとお友だちになれたばい!」 

「喜びすぎったい。ほら、花びらもこんなに舞っちゃって・・・・・・」

「うお、またいきなり現れたなぁ」

 

 

 竜の左側に現れた女の子、ひめは嬉しそうに跳び跳ねて竜に抱きつく。

 そんなひめの様子に竜の右側に現れた女の子、みことは落ち着くように声をかける。

 まぁ、そう言いつつみことも竜の制服の裾を指でつまんでいるのだが。

 

 いきなり現れたひめとみことに竜は驚きつつ、ひめとみことの頭に軽く手を乗せる。

 

 

「ありゃー、思ったより風が起こったったいね」

「はぁ・・・・・・。皆さんも驚かせてしまったみたいで、ごめんなさい・・・・・・」

 

 

 ヒラヒラと降ってくる花びらにひめはケラケラと笑う。

 笑うひめにみことはジトリとした視線を向け、ため息を吐いて茜たちに向かって頭を下げた。

 

 

「え、は、え?」

「い、いきなり女の子が現れた・・・・・・?」

「これは、いなさんと同じような存在でしょうか?」

「竜くんが梅の木に話しかけたら出てきたよね?」

「・・・・・・竜先輩を見ていると驚きの連続ですね」

 

 

 笑うひめと頭を下げるみことを見て、茜たちは驚きの表情を浮かべる。

 茜と葵は驚いたままだったが、ゆかり、マキ、あかりの3人はいち早く驚きから回復し、ひめとみことがどんな存在なのかを考え始めた。

 

 

「あー、驚かせて悪いな。この2人には昨日の帰り道で助けて貰ったんだ」

「え?!」

 

 

 茜たちに向かって、竜は驚かせてしまったことを謝る。

 

 昨日の帰り道で助けてもらわなければいけないことが起きた。

 竜の言葉に家まで送ってもらったマキは驚いて竜の顔を見る。

 昨日の夜、竜が外に出歩く原因になってしまったのは自分が歩いて帰ることを選んだため。

 つまり、自分が親に電話をして迎えに来てもらえば起こらなかったことだということ。

 

 それを理解したマキは申し訳なさそうに竜を見る。

 

 

「ん?気にしなくていいんだぞ?」

「でも・・・・・・」

 

 

 マキが申し訳なさそうにしているのに気づいた竜はヒラヒラと手を振りながら気にしなくてもいいと言う。

 

 

「それに、もしかしたらマキが襲われてた可能性もあったしな。だから気にしないでくれ」

「う、うん」

 

 

 まだなにかを言いたそうにしているマキに竜は、もしかしたらの可能性を言い、無理矢理にでも納得させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第224話



呼札だけで☆4と5を引いたりするとあとあと悪いことが起きそうな気がしますのね。





 

 

 

 

 学校の授業。

 それは日本に住んでいる人間であればほぼ必ずと言っていいほどに経験のあるもの。

 そして、学校の授業を受けているときはめんどくさいなどと考えてしまうのだが、成長して過去を振り返ってみるとちゃんと授業を聞いていればよかったと後悔をするものだ。

 

 

「竜お兄さん、あーそびーましょ!」

「ちょ、なにしとー?!今は授業中ったい?!」

「ぐぁっ?!」

 

 

 まぁ、今が授業中だろうが人間ではないひめとみことには関係がないのだが。

 お昼休みが終わって午後の授業が始まり、竜は眠さを我慢しながら授業を受けていたのだが、いきなり現れたひめに後ろから突撃をくらい、思いきり机に頭をぶつけてしまった。

 

 ひめの行動にみことは驚き、竜のことを心配するようにおろおろとしている。

 

 ひめとみことの姿はクラスメイトたちには見えておらず、周囲から見れば竜が眠りかけて机に頭をぶつけたように見えていた。

 

 

「ッつぅ~・・・・・・」

「あやぁ、ごめんったい・・・・・・」

「ほら、迷惑をかけたらいかんけん。戻るばい」

 

 

 机にぶつけたところを手で押さえながら竜は顔をあげる。

 竜が顔を上げると、前に移動していたひめが申し訳なさそうな表情になりながら謝った。

 謝るひめに竜はヒラヒラと小さく手を振って応える。

 

 

「んで、どうしたんだ?」

「誰もいなくて退屈だったから遊んでほしくて来たっちゃけど・・・・・・」

「授業中だからダメだってボクは言ったったい」

 

 

 ひめとみことの姿がクラスメイトたちに見えていないことを意識して竜は小声でここに来た理由を尋ねる。

 竜に尋ねられ、ひめはチョンチョンと人差し指を合わせながら授業中の教室に来た理由を答えた。

 ひめの言葉にみことはジトッとした視線を向けながら呟く。

 

 どうやら、午後の授業が始まって生徒の姿が見えなくなって退屈になり、竜のもとに遊びに来たらしい。

 まぁ、普通に考えれば生徒が授業中なのだから竜も授業を受けていると気づけそうなものなのだが、ひめはそこまで思い至らなかったらしい。

 

 

「つってもなぁ・・・・・・。というか今までも授業で誰もいないときなんてあったんじゃ・・・・・・」

「そうなんけど・・・・・・。そうなんけどぉ・・・・・・」

「ごめんなさい。ボクたち、イタコさんたち以外にちゃんと話せる人がいるのは久しぶりで・・・・・・」

 

 

 授業で生徒の姿が見えなくなるのは今にはじまったことではない。

 今までにも授業で生徒たちが中庭からいなくなることはあっただろうと竜は2人に尋ねる。

 竜の言葉にひめは今にも泣き出してしまいそうなほどに顔をくしゃりと歪める。

 そんなひめを宥めるようにみことは背中をさすり、ひめがどうして授業中の教室にまで来ようと思ったのかを答えた。

 

 おそらく、ひめは久しぶりに話せる人が現れたことに嬉しくなり、その嬉しさの勢いのまま教室にまで来てしまったのだろう。

 イタコ先生から2人は安心して話せる人が少なかったと聞いていたことが頭の中によみがえってくる。

 

 

「そうか・・・・・・」

 

 

 みことの言葉に竜は同情と思われてしまうかもしれないが悲しくなり、そっと2人の頭に手を乗せた。

 

 

「まぁ、授業中だから静かにしていればここにいていいからな」

「うん、ありがと」

「ありがとうございます」

 

 

 竜の言葉にひめとみことはうなずき、竜の席の左右に木の椅子を生やして座るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第225話

 

 

 

 

 竜の左右に生やした木の椅子に座りながらひめとみことは教室の中を見渡す。

 2人はこれまで数えるほどしか教室に来たことはなく、それもそこそこに昔のことで今の教室には興味を示していた。

 過去に見た教室といえば木の椅子に木の机で壁も木製のものだったり、教室の前の方にやや大きめのストーブがあったりと年代を感じさせるようなものばかりだった。

 そのため、教室の天井に取りつけられているエアコンなどに目新しさを感じているのだ。

 

 

「はやぁ・・・・・・、どんどん新しくなっていくんやねぇ」

「便利になるのは良いことっちゃけど寂しくもあるけんね」

 

 

 ポカンと口を開けてエアコンを見るひめに、みことはやや寂しそうな表情を浮かべながら言う。

 みことの言うように便利になるということは古いものがなくなって新しいものが増えるということ。

 そのことをみことは少しだけ寂しく感じていた。

 

 

「んや?・・・・・・ご主人、この2人はどちらさんや?」

「お、起きたのか。この2人は昨日の夜に俺を助けてくれた女の子たちだよ」

 

 

 不意に、竜の制服のポケットがモゾモゾと動き、中から目をクシクシと擦りながらついなが顔を出す。

 ついなは竜の左右に座るひめとみことに気がつくと、不思議そうに首をかしげながら竜に尋ねる。

 実はついなは竜が家を出てしばらくしてからポケットの中で眠ってしまい、今の今まで起きてこなかったのだ。

 ちなみに「こん中(ポケットの中)がほどよく暗いから眠くなってしまうんは仕方ないんや」というのがついなの主張だった。

 

 竜の言葉についなは驚いた表情でひめとみことを見る。

 

 

「この2人がか?えと・・・・・・、ご主人を助けてくれてありがとうな」

「気にせんでよかよー」

「ええ、たまたま竜さんに気がついただけでしたので」

 

 

 昨日の夜に霊に襲われた竜のことを助けてくれたと聞き、ついなは頭を下げて感謝の言葉を言う。

 ついなの言葉にひめとみことは笑みを浮かべながら答えた。

 

 竜の制服のポケットから出てきた小さなついなのことをひめとみことは興味深そうに見る。

 2人に見つめられ、ついなは恥ずかしそうに視線を泳がせた。

 

 

「ふんふん。霊力で大きさを変えとるみたいっちゃね」

「これくらいならボクたちでもできそう、かな」

 

 

 興味深そうについなのことを見ていたひめとみことは顔を見合わせる。

 そして、ポンッという音とともに2人の体がついなと同じくらいにまで小さくなった。

 

 

「うん。これなら場所もそこまで取らんと便利ったいね」

「そうやね。それにこの大きさならボクたちも竜さんのポケットに入れるかもしれんね」

 

 

 小さくなった自分たちの体を見ながらひめとみことは満足そうに言う。

 いきなり小さくなったひめとみことに竜とついなは驚き、思わず目を見開いてしまった。

 ひめとみことは竜の机の上に立ち、パタパタと机の上を走り回って面白そうに竜の書いているノートを見たりしている。

 

 

「えっと、なにか書くか?」

「書く書くー!」

「えっと、ボクもちょっと書きたいです」

「あ、うちも書きたいんやけど」

 

 

 机の上で動き回っているひめとついなに竜は筆箱の中に入っているペンをひめ、みこと、ついなに渡し、ルーズリーフを一枚だした。

 ペンを受け取り、3人は思い思いにルーズリーフに好きなことを書いていく。

 楽しそうに書いていく3人の姿に竜は微笑み、授業に集中していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第226話


感想はいつでもお待ちしてます。




 

 

 

 

 竜から借りたペンを使ってひめ、みこと、ついなの3人は思い思いに色々なものを書いていく。

 ひめはさまざまな動物を、みことはさまざまな花を、ついなは竜たちの似顔絵を書いていた。

 

 犬や猫、ウサギに鳥。

 種類を問わず、さまざまな動物たちがルーズリーフの中を駆け回る。

 

 桜や百合、金木犀や紫陽花。

 季節を問わず、さまざまな花がルーズリーフの中で咲き誇っている。

 

 竜たちが、動物や花に囲まれながら楽しそうな笑顔を浮かべている。

 

 3人が思い思いに書いているルーズリーフの中はまるで1枚の絵のようにその表情を変えていく。

 ときどき誰かと誰かが書いているもの同士が被ってしまいそうになるのだが、そんなときは特に喧嘩などもせずにお互いに譲り合って書いていた。

 

 

「・・・・・・公住、もしかしてだがそこに“いる”のか?」

「えっと、“いる”ってのはなんのことですか?」

 

 

 授業を聞きながらひめたちのことを見ていた竜は不意に教師であるアイ先生に尋ねられて首をかしげる。

 竜の言葉にアイ先生はグシャグシャと自分の髪を掻き回し、ため息を吐いた。

 竜とアイ先生のやりとりにクラスメイトたちは不思議そうに竜とアイ先生を見る。

 

 

「まぁ、私には見えていないんだがな。とりあえず、私とイタコは同級生だったと言えば伝わるか?」

「あー・・・・・・。もしかしてイタコ先生のときにも?」

「んー、そういえばイタコのときにも教室(ここ)には来たっちゃね」

「まぁ、その時と今の内装は変わっとるけんね」

 

 

 竜の机に置かれているルーズリーフを指差しながらアイ先生は言う。

 アイ先生の言葉に、竜はアイ先生が何を言いたいのかを理解し、ひめとみことを見た。

 竜とアイ先生の言葉を聞きながらひめとみことは懐かしむように教室を見回しながら呟く。

 ひめとみことがイタコ先生に会うために教室に来たのがいつのことなのかは不明だが、学生のときのことなのでそれほど昔ということでもない。

 ついでにいうなら、竜たちがいる今の教室の内装はけっこう最近新しくなったので、それでひめとみことはこの教室に来たことがあることに気づくのが遅れたのだろう。

 

 

「そういうことだ。・・・・・・あのときはイタコが大変そうでな。一応、今の先生たちは理解があるからな、職員室で連絡をしておくよ」

「えっと、ありがとうございます・・・・・・?」

 

 

 懐かしむようにアイ先生は言う。

 いったいイタコ先生のときに何があったのか。

 そのことが気になりつつも竜はアイ先生にお礼を言うのだった。

 

 なお、竜とアイ先生がなんのことを話しているのかが分からないクラスメイトたちは一様に頭の中を?マークで埋め尽くしていたりするのだが、気にしなくてもいいだろう。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 授業が終わり、アイ先生は早足で保健室に向かう。

 教室でも言っていたように、イタコ先生とアイ先生は同級生で親しい友人関係にあり、竜がひめとみことに気に入られているのかの念のための確認をしに向かっていた。

 

 

「おい、イタコ。ちと聞きたいことがあるんだが」

「あら、アイちゃん。どうかしましたの?」

 

 

 ノックもせずに保健室の扉を開けてアイ先生はイタコ先生に声をかける。

 いきなり扉を開けたアイ先生の姿にイタコ先生は驚くことなく尋ねる。

 普通であればいきなり扉を開ければ驚くのだろうが、この学校でノックをせずに保健室の扉を開けるのはアイ先生しか今のところおらず、そのためノックをせずに扉を開けた時点でイタコ先生はアイ先生が来たのだと理解しているのだ。

 

 

「ちゃんづけは止めろ。お前がちゃんづけで呼んでいるせいで生徒の中にも私をちゃんづけで呼ぶ奴がいるんだ。まぁ、今はそんなことを言いに来たんじゃない。公住は“あの子たち”に気に入られているのか?」

「アイちゃんはアイちゃんですから止めるのは無理ですわ。ええ、公住くんは“あの子たち”に気に入られておりますわね」

 

 

 アイ先生の言葉をさらりと流しながらイタコ先生はうなずく。

 イタコ先生がうなずいたことにアイ先生は頭痛でもするかのように頭を押さえる。

 

 

「イタコぉ・・・・・・。そういうことはきちんと連絡してくれ。“あの子たち”に何かあったらこの学校だけじゃなくて太宰府天満宮にも影響が出るんだぞ?」

「それは分かっていますわ。でも、公住くんならきっと大丈夫だと思いましたの」

 

 

 イタコ先生の答えにアイ先生は疲れたように苦言を言う。

 そんなアイ先生にイタコ先生はにこりと微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第227話

 

 

 

 

 すべての授業が終わり、竜はバイトをするために“cafe MAKI”に向かって歩く。

 当然ながらマキも一緒で、どことなく嬉しそうに見えた。

 

 

「茜ちゃんたちは制服から着替えたら来るっていってたね」

「そうだな。もう日が暮れるのも早くなってきてるから平日に来ない方がいいと思うんだがなぁ・・・・・・」

 

 

 制服から普段着に着替えるために走って帰っていった茜たちの姿を思いだし、マキは呟く。

 マキの言葉に竜はうなずき、少しだけ困ったような声音で答えた。

 

 茜たちの住んでいる“清花荘”から“cafe MAKI”までの距離はなかなかに離れており、制服から普段着に着替えてから来るとなればそこまで長く“cafe MAKI”にいられないだろう。

 日が暮れて暗くなってしまえば帰り道でなにかが起きてしまうかもしれない、そのことを竜は心配していた。

 

 

「心配ならお父さんに送ってもらおうか?そうなると逆にうちで待っててもらうことになっちゃうけど」

「俺的にはそっちの方が安心できるんだがな。でも、それは迷惑になるんじゃないか?」

 

 

 日が暮れて帰り道が暗くなるのが心配なのであれば車で送ってもらえばいいのではないか。

 心配そうにしている竜にマキは案を挙げる。

 マキの提案は竜からしてみれば助かるのだが、それはマキの父親に迷惑になるのではないか竜は気になった。

 

 

「大丈夫大丈夫。たまにゆかりんを送っていくこともあるからね。なんだかんだで慣れてるから気にしなくてもいいよ」

「そう、なのか?・・・・・・まぁ、茜たちにどうするかを聞いてみてからだな。それで送ってもらいたいってことになったら頼むよ」

 

 

 送ってもらうことが迷惑になるのではないかと心配する竜にマキはヒラヒラと手を振りながら答える。

 マキからすれば話し込んだりして帰るのが遅い時間になってしまったゆかりのことを父親に頼んで家まで送ってもらうことが何回かあったので、そこまで気にしなくていいと思っているのだ。

 

 マキの言葉に竜は首をかしげながらどうするのかを決めた。

 マキの父親に送ってもらうにしても、自分が一緒に歩いて送っていくにしても茜たちにどうするかを聞いてから判断すればいいだろう。

 

 

「あ、そうだ。今日ももちろん晩御飯を食べていくよね?」

「んー、でも茜たちを送るのなら晩御飯を食べている時間はないんじゃないか?」

 

 

 “cafe MAKI”でのバイトの日は基本的に竜はマキの家で晩御飯をごちそうになっているので、今日も晩御飯を食べていくかの確認をマキはする。

 マキの言葉に竜は少し考え、茜たちを送るのであれば晩御飯をマキの家で食べることはできないのではないかと聞き返した。

 

 マキの父親が茜たちを送っていく場合、この場合はマキの父親だけが晩御飯を食べるタイミングがズレてしまい、基本的に家族全員で晩御飯を食べるという弦巻家の決まりを守ることができなくなってしまう。

 

 竜が歩いて茜たちを送っていく場合、こちらの場合でも結局は茜たちと一緒に竜が帰るため、弦巻家で晩御飯を食べるというタイミングがなくなるのだ。

 

 竜の言葉にマキは驚いた表情になり、思わず竜のことをじっと見てしまう。

 

 

「え?」

「え?」

 

 

 驚くマキの言葉に竜も思わず首をかしげる。

 どうやらマキの中では竜が自分の家で晩御飯を食べていくのはほぼ確定事項のような考えだったらしく、本気で驚いた様子だった。

 

 

「いや、俺が送っていく場合は普通に食べられないし、マキのお父さんが送っていく場合も全員がそろってないから晩御飯を食べられないだろ?」

「あ、あー・・・・・・、大丈夫。お父さんとはお母さんが一緒に晩御飯を食べるから。だから食べていっても大丈夫だよ」

 

 

 竜の言葉にマキは竜がどういった考えをしているのかを理解する。

 そして、にっこりと笑みを浮かべながらもう一度晩御飯に誘うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第228話

 

 

 

 

 “cafe MAKI”でのバイトも慣れたもので、なかなかに要領よく竜は店内を動き回っていた。

 そんな竜の頭の上には小さくなったついなが乗っており、まるで巨大ロボットでも操作しているかのように竜の進む方向を指差している。

 

 

「ご主人、あっちのテーブルの人のコップが空や!」

「お、あっちか。ありがとうな」

 

 

 竜が見ていない方向のお客さんの様子をついなが教えてくれるため、竜が店内を見渡す時間が短縮され、竜1人で作業するよりも効率は良くなっていた。

 “cafe MAKI”でのバイトに慣れてきた竜と、竜の頭の上でお客さんの様子を教えてくれるついな。

 この2つの要素が噛み合うことにより、現時点での竜が働く最高効率を出していた。

 

 竜が、見えていないはずのお客の対応をしていることにマキは少しだけ驚きつつも、仕事の手を止めることなく動いていく。

 そして、店の扉が開いて新しくお客さんが入ってきた。

 

 

「いらっしゃいませ・・・・・・っと、茜たちか」

「やぁやぁ、お邪魔しに来たでー」

 

 

 扉の開いた音に気がついた竜は扉の方を向いて挨拶をする。

 竜の言葉に茜は手をあげて応えた。

 茜の後ろには葵、ゆかり、あかりの姿がある。

 4人は制服姿ではなく普段着の姿をしており、学校で会っていたときとはまた違った雰囲気をしていた。

 

 

「邪魔するなら帰ってくれー」

「りょーかいやー・・・・・・、って、なんでやねん!」

「あはは・・・・・・」

「まぁ、いつものやつですね」

「小腹が空いたので早く席に行きましょう」

 

 

 手をあげて応えた茜に竜は外を指さしながら軽口を言う。

 竜の言葉に茜は扉へと体を向けて外に出ようとする。

 そして扉に手をかけたところで勢いよく振り返って竜にツッコミをいれた。

 

 茜のノリツッコミに葵は苦笑し、ゆかりはやや呆れた表情を浮かべ、あかりはマイペースに自分の欲を言っていた。

 

 

「んじゃ、席の方にご案内します」

「頼むでー」

「お願いするね」

「丁寧に見せかけてけっこう普通な感じで案内してますよね」

「私的には親しい特別感があるので、ヨシ!ですね」

 

 

 竜と茜のいつものじゃれあいが終わり、言葉は丁寧なのだが態度的には普通な様子で竜は茜たちを席に案内しはじめた。

 案内を始めた竜に茜はヒラヒラと手を振りながら答え、竜の案内のもと席についた。

 

 

「それじゃあ、注文が決まったら呼んでくれ」

「りょーかいや」

「今日は何を頼もうかなぁ」

「私はいつものやつにしておきましょうかね」

「私は────」

「全部やろ」

「全部だよね」

「全部でしょう」

 

 

 そして、竜はメニュー表を差し出して他のテーブルの片付けなどに向かっていった。

 竜からメニュー表を受け取った茜はパラパラとメニュー表を開いて何を頼もうか考えはじめる。

 茜が開いたメニュー表を葵とゆかりも同じように眺め、何を頼もうか考えはじめた。

 

 茜、葵、ゆかりが何を頼もうか考えはじめたのに続くようにあかりも何を頼もうかを言おうとしたのだが、3人にバッサリと遮られてしまった。

 3人の言葉にあかりは反論しようと思うも、全部を頼もうとしていたのも事実なので反論をすることができなかった。

 

 

「あ、あかりはたぶん全部だろうから先に頼んでおくなー」

「竜先輩まで?!」

「まぁ、今までの来店するたびに頼んでるもんを考えたら当たり前やね」

「むしろそれ以外を考えられる人はいないんじゃないかな?」

「因果応報、はちょっと違いますかね?」

 

 

 何を注文しようか考えている茜たちの席の近くを通りかかった竜が、あかりの注文はすでにしてあることを言って通りすぎていった。

 茜たちだけでなく竜にまでそんな風に認識されていたことにあかりは驚きの声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第229話



やらかしたぁ・・・・・・

久々に予約投稿を忘れてました・・・・・・




 

 

 

 

 ガツガツという擬音が聞こえてきそうな勢いで注文された食べ物が消えていく。

 着実に積み上がっていくのはなにも乗っていないキレイになった皿。

 どことなく不機嫌そうな表情を浮かべつつもあかりはどんどん運ばれてきた料理を食べていた。

 

 

「もぐもぐ・・・・・・ゴクン。まったく・・・・・・、モグモグ・・・・・・、失礼、しちゃいますよ。んく、んく・・・・・・、ぷはぁー。私だって・・・・・・、ちゅるるる・・・・・・。女の子なんですから・・・・・・、ごくん。メニューを選ぶ楽しさだって味わいたいんですよ?!分かりますよね。茜先輩!」

「お、おう・・・・・・。せ、せやな・・・・・・」

「不機嫌そうでも食べるペースは変わらないんだね・・・・・・」

「というか、食べながら話すのはやめた方がいいと思うんですが・・・・・・」

 

 

 料理を食べながらあかりは不満に同意をしてもらおうと茜に問いかける。

 あかりの言葉に茜は困った表情になりながら一先ずうなずいた。

 

 あかりの言いたいこと、『メニュー表を見てメニューを選びたい』という思いは分からなくはないのだが、結局は全部を頼むのではないか?という思いが茜の中にはあった。

 

 不機嫌そうにしながらも料理を食べるペースが普段と変わっていないことに葵は呆れたような表情になり、食事をしながら話をしているあかりの姿にゆかりは注意をするのだった。

 

 

「ほい、追加だ。それと茜たちの注文した料理も持ってきたぞ。間違ってあかりに食べられないようにな」

「あ、ありがとう。わーい、チョコミントケーキー!」

「あかりさんの食べっぷりを見ていてお腹が空いてたのでちょうどいいタイミングでしたね」

「お、ありがとさん。ちゅーか、竜の言葉が原因なんやからなんとかしいや」

「自分が注文してないものにまで手を出したりはしませんよ!」

 

 

 どんどん消えていく料理に軽く驚いたような表情を浮かべながら竜が追加の料理を運んできた。

 運ぶ料理の多さに普段では使っていない料理を運ぶ台車まで使ってしまっている。

 キレイに料理のなくなった皿を回収し、交換するように料理の乗った皿を並べていく。

 そして、あかりの前に料理を置き終えると、続けて茜たちの前にも注文した料理を並べていった。

 

 自分たちの前に料理が並べられ、茜たちもようやく料理を食べることができるようになる。

 同じテーブルということであかりに食べられないように気をつけるように、と竜はふざけた調子で言う。

 料理が並べられたのを確認すると、茜はあかりのことを指さしながら竜に苦言を言った。

 それと同じタイミングであかりは自分の頼んでいないものには手を出さないと叫ぶ。

 

 なお、茜たちの注文したものは当然ながら“全部”を注文しているあかりと被っているものであり、同じ料理ということはあかりが注文したものと同じものなのではないかとも考えられたりするのだが、気にしないでおいた方がいいだろう。

 

 

「なんとか、つってもなぁ?」

「なにかないんですか?ほら、竜先輩の言葉で傷ついた可愛い後輩の女の子がここにいるんですよ?」

「自分で可愛いとか言う辺り図太いわなー・・・・・・」

「これ、本当は不機嫌な演技だったんじゃない?」

「もう、気にしないでもいいんじゃないでしょうか?」

 

 

 茜の言葉に竜はめんどくさそうに頬を掻く。

 そんな竜にあかりは食べるのを止めてグイグイと体を近づけていった。

 そんなあかりの様子に茜たちは注文したものを味わうようにゆっくりと食べながら呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第230話



最近は“ま●もとさん×た●きくん”のカップリングに萌えています。

普通の恋愛系のものも好きなのですが、こういったBLGLものも好きなんですよねぇ。

Vの活動を始めたらそういった雑談もしていきたいですね。





 

 

 

 

 グイグイと体を近づけてくるあかりの頭を押さえ、竜はそれ以上あかりが近づいてこないようにする。

 頭を押さえられているあかりはその行為が面白いのか、ニコニコと笑みを浮かべながら竜に近づこうとしていた。

 

 

「ほらほらー、なにかないんですかー?」

「だぁあ!離れろ!」

 

 

 竜が思いっきり押しているにも関わらず、あかりの体はまったく後ろに下がることはない。

 そんな竜とあかりの様子に茜たちは小さくため息を吐いた。

 

 

「なんやろうなぁ、こんなやり取りをどっかで見たような覚えがあるんやけど・・・・・・」

「ほら、あれじゃない?よく屋上とかで騒いでるっていう先輩たち」

「ああ、たぶん桜井先輩たちですね。たしか、同じ学年で別のクラスの宇崎っていう子が一緒になって騒いでるとかなんとか」

 

 

 竜とあかりのやり取りにどことなく見覚えを感じた茜は側頭部に指を当てながら記憶を辿る。

 茜の言葉に葵は茜がなんのことを言っているのかを理解し、自分の知っている情報を出した。

 茜の竜たちのやっているやり取りと似たようなことをしているという情報と、葵の屋上などで騒いでいるという情報から誰のことをいいたいのかが分かったゆかりはそのやり取りをしている人物たちの名前を挙げる。

 

 

「ああ、せやせや。たしかめっちゃ目付きが悪いとかで有名な先輩やったな」

「ボクは噂くらいでしか聞いたことがないんだけど・・・・・・。ゆかりさんは見たことある?」

「ええ、ありますよ。それに、たしかに目付きは怖かったですけどそこまで悪い人でもないみたいでしたね」

 

 

 ゆかりの言葉に茜は納得したように手を叩く。

 噂でしかその先輩たちのことを知らない葵は茜たちにその先輩のことを見たことがあるのかを尋ねた。

 葵の言葉に茜は首を横に振り、ゆかりはうなずいてその先輩についてを軽く説明した。

 ゆかりの説明に茜と葵は少しだけ意外そうな表情を浮かべる。

 

 

「へぇ、そうなんやね。てことは噂は噂でしかなかったってわけやな」

「みたいだね。でもたしかに、本当に怖い先輩だったらボクたちと同じ学年の子が会いに行くわけないもんね」

「ちょ、その先輩とかの話はいいからあかりを離してくれないか?!」

 

 

 ゆかりから聞いたその先輩の説明に茜と葵は自分たちの知っていた噂が噂でしかなかったことに安心したように笑みをこぼした。

 3人がのんびりと会話をしている横でいまだにあかりと一進一退の攻防を繰り広げていた竜は思わず声をあげる。

 

 

「やー、それは別に竜がなにかを言えば満足して止まるやろ?」

「それにボクたちじゃ引き剥がすのは難しそうだしね」

「もう諦めたらいいんじゃないでしょうか?」

 

 

 どう考えても今のあかりに関わるのはめんどくさいことになる。

 それを理解しているからこそ茜たちは竜のことを助けずにいたのだ。

 茜たちの反応に竜は諦めたように頭を下げ、改めてあかりを見た。

 

 

「あー、もう・・・・・・。どうすりゃいいんだよ」

「そうですねぇ、でしたらこんど私と出かけてもらいましょうか。前に約束したのにまだ行けてませんでしたからね」

 

 

 あかりの頭を押さえながら竜はどうしたものかと頭を悩ませる。

 そんな竜にあかりは1つの提案をする。

 それは少し前に竜と約束をして行く機会を作ることができなかった約束。

 あかりの言葉に竜は申し訳ないという表情になる。

 

 

「あー・・・・・・、すまん。ならこんどは絶対に出かけようか」

「はい!約束です!」

 

 

 竜の言葉にあかりは嬉しそうにうなずく。

 そんな竜とあかりのやり取りに茜たちは興味無さそうにしながらも、静かにしながらしっかりと耳を傾けているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第231話

 

 

 

 

 注文したものを食べ終わり、食後の飲み物を茜たちは楽しんでいた。

 “cafe MAKI”の全メニューを食べたというのにあかりの体型に変化したような所は見られず、ある意味で怪奇現象が起きているのだが、そのことを気にするような人間はいなかった。

 まぁ、気にするような人間はいなくても、戦慄している九十九神はいたのだが。

 

 

「あんだけ食べたもんはどこに消えたんや・・・・・・?!」

「あー、まぁ、気にしない方がいいんじゃないか?あまり気にしすぎているとハゲるぞ?」

「もしもそれでハゲるんやったら原因はあかりやね・・・・・・」

 

 

 自身の頭の上であかりを見ながら戦慄しているついなに竜は苦笑しながら答える。

 あかりが大量に食べることと、それだけ食べても体型がまったく変化しないことは竜や茜たちの中ではもはや当たり前の認識だったため、ついなほどの衝撃はもう感じないのだ。

 

 

「そんで?茜たちは何時までいるんだ?」

「うん?もうちょいのんびりしたいなぁとは思っとるんやけど・・・・・・。なんかあったんか?」

「え、でもお客さんとかは待ってないよね?」

 

 

 近くのテーブルを片付けたついでに竜は茜たちに何時まで店にいるのかを尋ねた。

 あかりの注文した料理を作る時間と、食べる時間で茜たちが店に来てからそこそこに時間は経っており、店の外はやや赤色に染まってきている。

 竜の言葉に茜たちは不思議そうに首をかしげながらもう少し店でのんびりしていたいと答える。

 

 

「ああ、別にテーブルを空けてほしいとかではないんだよ」

「そうなんか?・・・・・・・・・・・・はっ!まさかうちらがここにいるのが邪魔になったんか?!」

「そうなの、竜くん?!」

「そんな、邪魔になったらポイだなんて・・・・・・。あんまりですよ?!」

「ええと・・・・・・」

 

 

 葵の言葉に竜は手をヒラヒラと横に振りながら答える。

 竜の言葉に茜は少しだけ首をかしげ、なにかに気がついたかのように目を見開いた。

 さらに茜の言葉を聞いて葵、あかりも続くように声を上げる。

 そんな3人の様子にゆかりは困ったような表情を浮かべて竜を見ていた。

 

 

「おう、昼ドラみてーなドロドロ展開にしようとすんな。そうじゃなくて、たんに最近は暗くなってくるのが早くなってきたから大丈夫なのか気になったんだよ」

「えへへ。すまんすまん」

「ああ、なるほど。そういうことですか。たしかに外の景色を見るとけっこう暗くなり始めていますね」

 

 

 茜たちがドラマのような展開に持っていこうとしていることに竜は茜の頭に軽くツッコミを入れ、いつまで店にいるのかを聞いた理由を答えた。

 竜にツッコミという名のチョップを受け、茜は嬉しそうにニヘラと頬を緩ませる。

 茜にとって竜からのツッコミもじゃれあいの1つなため、こういったことも嬉しく感じるのだ。

 

 竜の言葉にゆかりはうなずき、店の外の景色を見た。

 それに続くように茜たちも店の外を見る。

 

 

「暗くなってから帰るのだと危ないだろうからな。そのことが気になってたんだよ」

「なるほどなぁ。んー、どないしよか?」

「ボクとしてはもう満足してるよ」

「私も今のところは小腹も満たせたので満足ですね」

「竜くんの言うようにあまり暗くなってから帰るのは怖いですしね」

 

 

 外の様子を見た茜は葵たちの方を見て声をかける。

 茜の言葉に葵は飲み終わったコップをテーブルに置きながら答えた。

 同じようにあかりもお腹を軽く叩きながら答える。

 

 

「ところで、竜くんはまだバイトなんですよね?竜くんこそ暗い道を歩くことになって危ないのでは?」

「まぁな。でもゆかりとかよりは安全だろ」

 

 

 夜道を歩く男性と女性。

 そのどちらの方が危険度が高いかと聞かれればほぼ間違いなく女性と答えるだろう。

 

 茜、葵、ゆかり、あかりのことは心配しているのに自分の危機管理に関してはとことんにまで軽視する。

 自分の帰り道も危ないはずなのに軽く笑って答える竜に、ゆかりたちはややジットリとした視線を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第232話

 

 

 

 

 ゆかりたちから向けられるジットリとした視線を顔を逸らすことによって竜は無視する。

 竜からすれば男の自分よりも女性である茜、葵、ゆかり、あかりを優先して危険から遠ざけたいのだが、それはゆかりたちも似たような考えなため、この話はどこまでいっても平行線なのだ。

 まぁ、ゆかりたちが竜のことを心配するのは竜が前日に霊に襲われたということも関係しているのだが。

 

 

「はぁ・・・・・・、やはり竜くんも危ないですよね」

「せやね」

「でも、ボクたちは幽霊とかに対抗する手段はないよ?」

 

 

 自分たちの視線を無視する竜にゆかりはため息を吐く。

 ゆかりの言葉に茜も同意するが、2人の言葉に葵が疑問を投げ掛けた。

 

 ゆかりたちは霊のことを基本的に見ることはできず、それらに対抗する手段を持たない。

 そういった点で考えるとゆかりたちが竜と一緒に帰ったところでそれほど意味があるようには思えなかった。

 葵の言葉にゆかりたちはどうしたものかと考え始める。

 

 

「つーても俺の方は守ってくれてるのがいるから。そこまで不安はないんだがな」

「うちのことやな!」

「わ、いなちゃん。ずっとそこにいたの?」

 

 

 竜の言葉についなは元気よくテーブルに着地して胸を張る。

 どうやら着地をすると同時に見えるようになったらしく、ゆかりたちは驚いた表情を浮かべた。

 

 

「ご主人のことはうちがちゃんと守るから安心してや!」

「ふむ・・・・・・。まぁ、いなさんがいるのであれば大丈夫、なんですかね?」

「でも昨日は中庭の子たちに守ってもらったんよな?」

「そういえばそうですよね」

「ああ、あのときは家で晩御飯の準備をしていてもらったからな」

 

 

 ついなの言葉にゆかりは首をかしげながら考える。

 と、ここで茜が昨日の竜が霊に襲われたときに助けたのはついなではなかったことを指摘する。

 茜の言葉にあかりもそのことを思い出したのか、竜とついなを交互に見る。

 そんな茜の疑問に竜はヒラヒラと手を振りながら答えた。

 

 

「ま、そんなわけだから俺のことは心配いらないよ」

「・・・・・・そのようですね」

「まぁ、今回は納得したるわ」

「それでも竜くんが危ないことに変わりはないんだから気をつけてね?」

「なんでしたら私の護衛の人を残していきましょうか?」

 

 

 竜の言葉にゆかりたちは渋々といった様子で納得をする。

 それでも心配なことには変わりはないので、気をつけるように声をかけた。

 それと同時にあかりが手を叩くと数人の黒服を着た人間があかりの背後に現れる。

 

 

「いや、普通に気まずいからやめてくれ?」

「そうですか。あ、もう大丈夫ですよ」

 

 

 いきなり黒服を着た人間が現れたことにより、店にいた他のお客さんたちから驚きの声が聞こえてくるが、すでに慣れている竜たちに驚いた様子はない。

 あかりの呼び出した黒服の人たちを見て竜は頬を掻きながらあかりの申し出を断る。

 竜の言葉にあかりはうなずき、黒服の人たちに解散するように指示を出す。

 あかりの指示を聞き、黒服の人たちは解散していった。

 

 

「んじゃ、今日のところはこれで帰ろかー」

「そうですね」

 

 

 そして、ゆかりたちは注文した料理の代金を払って帰っていった。

 外の明るさもやや赤く染まっている程度で、このくらいであればゆかりたちが家につくまでに真っ暗になることはないだろう。

 

 

「ご来店ありがとうございましたー」

「また来てねー」

 

 

 帰っていく茜たちに向かって忙しくて話すことのできなかったマキが手を振る。

 

 

「さ、これでなんの心配もなくなったよね。これならうちで晩御飯を食べていけるでしょ?」

「おう、そうだな・・・・・・」

 

 

 ゆかりたちを見送ったマキはクルリと竜の方を向いて言う。

 竜を晩御飯に誘うことを諦めていなかったマキの言葉に竜は苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第233話

 

 

 

 

 もう何度目かも分からないほどに来ている弦巻家のリビング。

 そこで竜は晩御飯を御馳走になっていた。

 ここまでお世話になっているのであれば、もはや家族といっても過言ではないのかもしれないほどに竜は弦巻家で晩御飯を食べていた。

 

 

「ふむふむ。うちが作っとるのとは違う料理やね。うちが得意なんは和食やから勉強になるわぁ」

 

 

 料理に触ってしまわないように気をつけながらついなは竜が食べているテーブルに立つ。

 そして興味深そうにテーブルに並べられている料理を見ていった。

 弦巻家では和食と洋食、そのどちらもを食べているのだが、気持ち洋食の方が比率的には多い。

 まぁ、今日の弦巻家の晩御飯は野菜たっぷりのアヒージョや、パエリアなどのスペイン料理なのだが。

 

 

「アヒージョってけっこう手間がかかりそうなんだがな」

「んー、でも慣れればそんなでもないよ?」

「そうね。お野菜や海老なんかの海産系を食べやすい大きさに切ってニンニクとオリーブオイルで煮込むだけだからそれほど手間もないわね。それに多めに切った具材を使ってパエリアも作っているわけだし」

 

 

 アヒージョのオリーブオイルにフランスパンを浸しながら竜は呟く。

 竜の言葉にマキはパエリアを取り分けながら答えた。

 マキの言葉に同意するようにマキの母親も微笑みながら簡単に料理の手順を説明した。

 

 

「へぇ、見た目のイメージよりも作りやすい方なのか」

 

 

 マキとマキの母親の言葉に竜は少しだけ驚いた表情を浮かべる。

 

 正直、竜のアヒージョに対するイメージは油を大量に使って野菜などを焦げないように素揚げしているようなものという認識だったため、以外と簡単な作り方なことが驚きだったのだ。

 

 そして、竜は弦巻家の晩御飯に舌鼓を打ちながら晩御飯を食べ進めていくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「ふぅ・・・・・・、ちょっと食べすぎたかも・・・・・・」

「あはは、そんなになるまで食べてくれたのなら嬉しいな。はい、お茶」 

「ふふふ、ここまで食べてくれたのなら私もマキちゃんも作った甲斐があるというものだわ」

「うんうん。自分の作った料理を美味しく食べてもらえるっていうのは料理人じゃなくても嬉しいことだからね」

 

 

 ふくれたお腹をさする竜の姿にマキたちは笑みをこぼす。

 作った料理を美味しそうに食べてもらえるというのは料理人だけではなく料理をする人間であれば誰もが嬉しくなること。

それが分かっているからこそ料理を作ったマキとマキの母親だけでなくマキの父親も嬉しそうに竜のことを見て笑みを浮かべていた。

 

 3人から見られていることに気がついた竜はマキからもらったお茶を口に運びながら気恥ずかしさを誤魔化すように目線を泳がせる。

 

 

「そういえば、けっこう暗くなってきているけど帰り道は大丈夫かい?なんだったら家まで送るけど?」

「あ、そうだね。その方が安全だもん!」

「え、でも良いんですか?」

 

 

 ふと思い出したようにマキの父親が竜に尋ねる。

 すでに時間も遅く、外もけっこう暗くなってしまっていた。

 夕方とはとても言えないような暗さで、もはや夜と言えるほどに外は暗い。

 

 父親の言葉にマキはナイスアイデアだと手を叩く。

 マキとマキの父親の言葉に竜は2人の顔をキョロキョロと見ながら確認をとる。

 

 

「問題ないさ。それにいつもバイトを頑張ってくれているからね。これくらいはしないと」

「そういうことそういうこと!」

「えっと、ありがとうございます・・・・・・」

「ふふふ、私たちも竜くんが安全に家に帰れるのかが心配なのよ。だから、こういうときはどんどん頼ってちょうだいね?」

 

 

 晩御飯を御馳走になったのに家にまで送ってもらう。

 そのことに竜は申し訳なさとありがたさを感じながらお礼を言う。

 そんな竜の姿に微笑みながらマキの母親は言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第234話



一気に冷えてきました。

皆さまも体調に気をつけてください。





 

 

 

 

 マキの父親の運転する車の中、竜は家にまで送ってもらっている。

 竜を家にまで送るのにマキもついてこようとしていたのだが、学校で出された宿題があるために父親と母親に止められて泣く泣く手を振って竜のことを見送っていた。

 女友達の父親と2人きりという普通の人であればなかなかに気まずいような状況だったが、竜はバイトをしているのと、何回か家で晩御飯を御馳走になっていることからそれほど気まずさは感じていなかった。

 

 

「そういえば、ちょっと聞きたいことがあるんだけど良いかな?」

「聞きたいこと、ですか?」

 

 

 不意にマキの父親が口を開いて尋ねる。

 マキの父親の言う聞きたいことというものがなんなのか分からず、竜は首をかしげながら聞き返した。

 

 

「うん。竜くんは学校を卒業したらやりたいこととかはあるのかな、って思ってね」

「やりたいこと、ですか・・・・・・」

 

 

 マキの父親の言葉に竜は少しだけ考える。

 

 学生時代において将来の夢というものをハッキリと考えているものはそれほど多くはない。

 むしろ、明確になにかをやりたいと思っている人間はすでにその夢に向かって止まることなく努力をし続けているだろう。

 

 では、そういったことを踏まえた上で竜はどうかと聞かれれば、将来の夢に関してそれほど考えていない人たちの部類に入るのだ。

 

 まぁ、それが悪いというわけではなく、そういったやりたいことなどがなくても結局は大人になればやりたいこと、やりたくないことに関係なく仕事をしなくてはいけない。

 それでも少しでも楽しく、快適に仕事をしたいのであれば自分のやりたいと思えることを仕事にできるように努力をした方がいいだろう。

 

 

「えっと、いまのところはとくにないですね」

 

 

 将来のことを考えるよりもいまは友だちと楽しく遊んでいる方が楽しい。

 やりたいと思えることがまだ思いつかないから友だちと遊びながらそれを見つけられたらいいかな。

 

 そういった考えから竜は卒業してからやりたいことはいまのところないと答えた。

 竜が、というよりも竜ぐらいの年齢の学生がそういった答えを出すのだろうと予想していたのか、マキの父親は静かにうなずく。

 

 

「そうかい。なら、そうだね・・・・・・。選択肢の1つとして考えてもらえたらいいんだけど、学校を卒業したらうちで働いてみないかい?」

「“cafe MAKI”でですか?」

 

 

 竜の答えを聞いたマキの父親は1つの提案を竜にした。

 マキの父親の思わぬ勧誘に竜は驚き、念のための確認のために聞き返す。

 竜の確認にマキの父親はしっかりとうなずく。

 

 

「うん。竜くんさえ良ければ、だけどね」

「えっと、でも・・・・・・、俺、男ですよ?男がマキと一緒に働くのは嫌だったんじゃ・・・・・・?」

 

 

 困惑しながら竜はマキの父親がバイトを始めてしばらくしてから言っていたことを思い出しながら言う。

 マキの父親はマキがどこの馬の骨とも言えるような男がマキの近くで働くことを嫌っていた。

 そのことを竜は覚えていたためにマキの父親の言葉は本当に意外だったのだ。

 

 

「そうだね。その考えはいまも変わっていないよ。でもね、竜くんがバイトに入っている日のマキはとくに嬉しそうな表情をするんだ。その表情を見たら、ね」

 

 

 竜の言葉にマキの父親は嬉しそうなマキの表情を思い出したのか、嬉しそうに口角を上げながら答えた。

 バイトとして採用してもらったときの警戒されていたときとはまったく違うマキの父親に、竜は思わずポカンと口を開けてしまう。

 

 

「こんなことを言うなんて意外だったかな?でも、君にならマキを任せてもいいかもしれない。そう思えたんだよ。っと、ここかな?」

「あ、はい。ここです・・・・・・」

「それじゃあ、おやすみ。さっきも言ったけど、卒業後のことは選択肢の1つとして考えてくれると嬉しいかな。それじゃ!」

 

 

 そう言ってマキの父親は帰っていった。

 残された竜は思考がうまくまとまらず、しばらくのあいだ家の玄関の前で立ち尽くすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第235話

 

 

 

 

 マキの父親の予想外の言葉による衝撃からどうにか歩ける程度にまで回復した竜はいまだに混乱した頭のまま家の鍵を開ける。

 

 正直に言ってしまえば、マキの父親が卒業したら“cafe MAKI”で働かないかと言ってくれて悪い気はしなかった。

 しかし、自分がまだ学生だということと、自分のやりたいと思えることがまだハッキリとしていないことからすぐに答えることができなかったのだ。

 

 

「おかえりなさーい!」

「だいぶ遅いお帰りだったんですね。外ももうだいぶ暗いですけど」

「・・・・・・は?」

「・・・・・・え?」

 

 

 玄関を開けて最初に目に飛び込んできたのは桃色と青色。

 続いて耳に届くのはお昼休みや授業中にも聞いた覚えのある声。

 あまりにも予想外のことに、竜は思わず家に入らずに玄関をそのまま閉じてしまった。

 

 

「・・・・・・見間違い、か?」

「いやぁ、あんなハッキリとした見間違いはないと思うんやけど・・・・・・」

 

 

 玄関を閉じた竜はポケットから顔を出していたついなの方を見て確認をとる。

 竜の言葉についなは困惑した表情のまま答えた。

 

 そして、呼吸を整えた竜は改めて家の玄関を開けた。

 

 

「もー、おかえりって言われたらちゃんとただいまって言わにゃいけんのよ!」

「ひめ、近所迷惑になるったい。もうちょい静かにせんと」

「見間違いじゃなかったかー・・・・・・」

「みたいやね・・・・・・」

 

 

 竜が玄関を開けると、学校にいるはずの少女、ひめがプンスコ!という擬音が聞こえてきそうなほどに頬を膨らませていた。

 ひめが少し大きな声を出したことに、同じく学校にいるはずの少女、みことが注意をする。

 ひめとみことの2人がいるのが見間違いではないと認識し、竜はガックリと肩を落とす。

 

 

「えっと、とりあえず・・・・・・ただいま。それで、2人はどうして、というかどうやって家に?」

「遊びたくなったから遊びにきたばい!」

「ひめだけを行かせたらなにが起こるか分からないので」

 

 

 とりあえず竜は靴を脱いでひめとみことに向き直って家に来た理由を尋ねた。

 竜の言葉にひめは元気よく手を上げながら答え、みことは落ち着いた様子で答える。

 

 

「そんで家に入った方法はこの梅の木ばい!」

「ボクたちは、ボクたちの宿っている梅の木を使うことによって移動できるけん。今回はこの梅の木を使って竜さんの家に入ったったい」

 

 

 続いてひめは下駄箱の上に置いてある植木鉢に植えられている梅の木を指差した。

 ひめの言葉に続けるようにみことが詳細な説明をする。

 

 と、ここで竜はようやく植木鉢に植えられている梅の木が朝と姿が変わっていることに気がついた。

 

 

「なんかめっちゃ育ってる?!」

「なんやこれ。家を出るときは普通に植えられている枝やったやん?」

 

 

 朝、竜が最後に見たときは多少の枝は伸びて緑色の葉をつけてはいたが、それでもまだ枝と呼べそうな見た目だった。

 しかし、いまの梅の木は盆栽と呼んでもおかしくないようなほどに成長をしており、学校の中庭に植えられている梅の木と同じように小さな花を咲かせている。

 

 まぁ、夜にもらって朝起きたら枝が伸びて緑色の葉がついている時点でかなりおかしいのだが。

 

 

「竜お兄さんから溢れている霊力を糧にしてここまで育ったばい。イタコでもここまでの速度では育たんとよ?」

「といってもイタコさんは意識して霊力を抑えているところもあるっちゃ。一概に言えんよ?」

 

 

 驚いて植木鉢を見る竜にひめとみことは梅の木が急成長した理由を答えた。

 どうやらひめとみことの話を聞く限りではとくになにか悪いことが起こるとかそういうわけではないらしい。

 2人の言葉に竜はホッと息を吐いて安心するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第236話

 

 

 

 

 下駄箱の上に置いてある植木鉢に植えておいた梅の木の枝の急成長の驚きから回復した竜はひめとみことを連れてリビングに移動する。

 また、家に入ったためについなは竜の制服のポケットから飛び出して元のサイズに戻っていた。

 

 

「そんで?遊びに来たとは聞いたけど何かしたいとかあるのか?」

「んー・・・・・・」

「そうですね・・・・・・」

 

 

 リビングに移動した竜はひめとみことをソファーに座らせ、何をやりたいのかを尋ねる。

 竜の質問にひめとみことは腕を組んで考え始めた。

 どうやら、とくになにかをしたいという考えはなくて、暇だったから遊びに来たような感じらしい。

 

 

「あ、それなら気になっとるものがあったばい!」

「気になってるもの?」

「ううぅ・・・・・・」

 

 

 ポン、と手を叩いてひめがやや大きな声をあげる。

 いきなりひめが大きな声を出したことに驚いたのか、ひめの隣に座っていたみことの体がビクリと小さく跳ねた。

 

 小さく跳び跳ねたみことの姿に竜は思わず笑みをこぼしつつ、ひめがなにを気になっているのかを尋ねる。

 竜の表情から驚く姿を見られたことに気がついたのか、みことは恥ずかしそうにうつ向いてしまった。

 

 

「そうそう、たまーに学生の子たちがやっとるのを見て気になっとったんよ」

「あー・・・・・・、あれのことったいね」

 

 

 ひめの言葉からなんのことを言っているのかを理解したのか、みことも納得したようにうなずく。

 言いたいことを伝えられたと満足そうな2人だが、竜からすれば結局なにをしたいのかが分からずじまいなため、首をかしげることしかできなかった。

 

 ちなみに、ひめとみことが考え始めた辺りでついなはお茶の用意をするために台所に向かっていた。

 もうしばらくすればホッと安心できるお茶が用意されることだろう。

 

 

「学生がやってるって・・・・・・、結局なにをやりたいんだ?」

「ピコピコったい!」

「ピコピコ、ですね」

 

 

 改めて竜は2人に何をやりたいのかを尋ねる。

 竜の言葉に2人は顔を見合わせ、何をやりたいのかを答えた。

 まぁ、その答えた内容がどうにも子供のような見た目の2人とはあまり噛み合わないような・・・・・・、ハッキリと言ってしまえばお年寄りのような答えだったのだが。

 

 

「ピコピコ・・・・・・、ってーとゲームのことか?」

「うん!」

「そうですね」

 

 

 念のために確認をすると、2人はしっかりとうなずき返す。

 2人の言っているピコピコがゲームのことで間違いないと分かった竜はゲームの準備を始めた。

 

 そこにお茶の用意を終えたついなが台所から戻ってきた。

 

 

「なんや、ゲームするんか?」

「ああ、2人がやってみたいって言ってね」

「おー、これがそうなんね?学校で見たんとはけっこう違うったい?」

「ひめ、学校で見てるのはきっと持ち歩けるやつったい。きっとこっちが本当のやつけん」

 

 

 竜がゲームの準備をしていることに気がついたついなはお茶の用意をテーブルの上に置き、不思議そうに竜に尋ねる。

 ついなからしてみればお茶をしながら会話を楽しむものだと思っていたので、ゲームの準備をしているのは少しだけ意外だったのだ。

 

 ついなの言葉に答えながら竜がゲームの準備をしていくと、興味深そうにひめとみことが準備しているゲームを覗き込んできた。

 やはりというべきか、2人が学校で見ていたゲームは携帯ゲーム機のようで、据え置き型のゲーム機にとても興味深そうにしていた。

 

 そして、ゲームの準備を終えた竜は人数分のコントローラーを持ってソファーに座った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第237話

 

 

 

 

 竜からゲームのコントローラーを受け取ったひめとみことは興味深そうにスティックを動かしたり、ボタンを押したりしている。

 そんな2人の様子に竜は笑みをこぼしつつ、ゲームの電源を入れた。

 

 

「うちもやるんか?」

「まぁな。人数が多い方が楽しいだろ?」

「うちはなんでもいいったい!」

「ボクもよく分からないのでお任せします」

 

 

 自分にもゲームのコントローラーを渡されたことについなは不思議そうに首をかしげながら竜に尋ねる。

 ついなの言葉に竜はうなずきながら起動したゲーム“大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL”を準備していく。

 竜がスマブラを選んだ理由は、まだ持っているゲームの中では操作も分かりやすく、複数人でプレイすることができるからだ。

 

 

「うし。んじゃ、まずは好きなキャラクターを選んでくれ。一応、いまのところ出ているキャラクターは全部出してあるはずだから」

「ふむ。ならうちはピカチュウを使ってこかな」

「んー、よく分からんっちゃけど・・・・・・。うちはこの緑色の恐竜にするばい!」

「ひめ、ヨッシーって名前が出てるったい。ボクは・・・・・・、このシズエさんっていうのにしようかな」

 

 

 竜の言葉についなはピカチュウ、ひめはヨッシー、みことはシズエさんを選択していく。

 ちなみに竜は無難に使い慣れているカービィを選択していた。

 そして、まずは操作になれる必要があるということで、障害物もなにもない“終点”と呼ばれるステージでゲームが始まった。

 

 

「それじゃあ、さっそく説明を・・・・・・、って、オイィィィィイイイイッッ?!」

「おー!走る走る!みこと走ってるったい!・・・・・・あ、落ちた」

「ひめぇッッ?!」

「えー・・・・・・、なにしとるんや・・・・・・」

 

 

 ゲームが始まってキャラクターを自由に動かせるようになったのを確認した竜が説明をするために口を開いた瞬間、ひめの操作している緑色の恐竜、ヨッシーがすさまじい勢いで走りだし、そのまま止まることなくステージの足場から飛び下りて画面外に消えていった。

 あまりにも突然のことに竜とみことは驚き、ついなは困惑している。

 そんな3人のことなど気にもせずに、自分の操作するキャラクターが落ちていったことが面白かったのか、ひめはケラケラと笑っていた。

 

 

「・・・・・・よし、まずはいったんコントローラーを落こうか」

「えー、もっと動かしたいっちゃけど・・・・・・」

「このままやったらひめが落ち続けるだけばい。やけんもっと操作を覚えるまでコントローラーに触るのは禁止ったい」

「ゲームを始めて最初に教えることがコントローラーを触らないこととか前代未聞やと思うんやけど・・・・・・」

 

 

 ひめの奇行に頭に手を当てていた竜だったが、少しだけ落ち着いたのかひめにコントローラーを置くように指示を出す。

 竜の指示にひめは不満そうにしながらコントローラーを置いた。

 

 ゲームを教えるためにコントローラーを置く。

 なかなか聞かないワードについなは呆れたような視線をひめに向ける。

 ついなのそんな視線にみことはソッと目を逸らした。

 

 

「まず大前提だ。このゲームは落ちたり、画面外に飛ばされたりしたら負けになる」

「へー・・・・・・、あり?とゆーことはいま、うちは負けとるん?」

「そういうことになるったいね」

「まぁ、操作になれてへんのやから仕方ないんやない?」

 

 

 竜の説明にひめはコテンと首をかしげながら聞き返す。

 ひめの言葉にみことはうなずき、ついなは苦笑しながら頬を掻いた。

 まぁ、誰も始まってすぐにいきなり走り出してステージから飛び降り、消えていくなんてことは予想できないはずなので、ついなが苦笑してしまうのも当然の反応だろう。

 

 

「これなら壁のあるステージにした方がよかったかもなぁ・・・・・・」

 

 

 選択したステージに若干の後悔を覚えながら竜はスマブラの操作の説明を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第238話

 

 

 

 

 竜からゲームと操作の説明を受け、ようやくステージから飛び下りないと判断されたひめは楽しそうに自分の操作キャラクターであるヨッシーを走り回らせる。

 今度は先ほどいきなり飛び下りていったときとは違い、ステージ端で方向転換をしてキチンと落ちてしまわないようにしていた。

 

 

「そんじゃ、次は実際に動かしながらの説明だな」

「はーい!」

「返事はいいから動くのを止めるったい」

「返事だけは良いんよね。返事だけは・・・・・・」

 

 

 ステージ内を走り回るひめのヨッシーの姿にみことは注意をする。

 スマブラは分かりきっていることだが対戦ゲームなため、普通に動き回っているだけでも他のプレイヤーの操作しているキャラクターにぶつかる。

 そのため、ひめのヨッシーが近くに来るたびに竜たちはジャンプするボタンを押して回避しなくてはいけないのだ。

 ちなみに、みことは最初はジャンプの仕方を知らなかったため、1度だけひめに押し出されてステージから落とされていっていたりする。

 

 

「まず、Aボタンで普通の攻撃だ。3回連続で押すと連続攻撃が出るぞ。あと、スティックを倒しながらボタンを押すと攻撃の動きも変わるから」

「おー、攻撃しとる!」

「ふむふむ」

 

 

 竜の説明にひめとみことは同時にAボタンを押す。

 すると2人の操作しているキャラクター、ヨッシーとシズエさんがそれぞれ向いている方向に向かって通常攻撃をし始めた。

 なお、カービィを含めた一部のキャラはAボタンを連打することによってまた違った挙動になったりするのだが、その辺りのことはまだ教えなくてもいいだろう。

 

 

「で、次にBボタンの必殺技。これはキャラクターによって違うから自分が使いやすいと思うものを見つけた方がいいな」

「お?おー?!みことみこと!この恐竜、バリ舌が長いっちゃけど!」

「恐竜っていうよりもカエルみたいっちゃね。こっちは、手を前に出しとう?」

 

 

 次に竜が説明したのはキャラクターによって違う技を持っている必殺技を出すことのできるBボタン。

 これは竜の扱っているカービィならば吸い込み、ついなの扱っているピカチュウならば電気ショック、ひめの扱うヨッシーならば舌伸ばしという名の捕食、みことの扱うシズエさんならば飛び道具をしまう、などなど本当にキャラクターによって多種多様にあるのだ。

 

 ヨッシーが舌を伸ばしたことにひめは楽しそうに笑い、みことはシズエさんの必殺技の動きの意味が分からずに首をかしげていた。

 

 

「そんでXとYのボタンでジャンプだ。とりあえずはこれで大丈夫だろ」

「まぁ、ガードとか投げなんかは慣れてきてからでええやろうしな」

 

 

 残りのボタンの説明をざっくりと説明し、竜は実演としてカービィを操作し始める。

 

 素早い左右へのダッシュ、大きくジャンプしてからの下必殺によるストーン攻撃、からの空中キャンセルをして上必殺のカッター攻撃、着地してからの後方回避をして横必殺のハンマー攻撃。

 

 流れるように簡単な移動と攻撃をおこなう竜の操作にスマブラ初心者であるひめとみことは目を点にしていた。

 なお、竜自身スマブラの腕としては一般人レベルなため、うまい人からすればそこまで驚くような操作ではないのだろう。

 

 

「んじゃ、まぁ、自由に動かしてみてくれ。とにかくやっていけば慣れるだろうしな」

「分かったばい!」

「分かりました」

「そんなら、その間はうちとご主人でバトルでもしてよか」

 

 

 竜の言葉にひめとみことはうなずき、それぞれ自由に操作の練習を始める。

 そして、2人が練習を始めたのを確認した竜とついなは2人で勝負を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第239話

 

 

 

 

 ひとまず一戦目の勝負が終わり、リザルトに画面が変更される。

 操作の練習をしていたひめとみことは除くとして、竜とついなの勝負は竜の勝利となって終わっていた。

 

 

「むー、動きを読み負けたわぁ」

「なかなか危なかったな・・・・・・」

 

 

 リザルトに表示されている戦績で竜とついなの差は1ポイント。

 少しのミスでもしかしたら竜とついなの勝敗は入れ替わっていたかもしれない。

 

 

「んで、操作には慣れてきたかな?」 

「うん!大丈夫ばい!」

「その自信はいったいどこから来てるったい。一応、普通に動かせるようにはなったかと・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にひめは元気よくうなずき、そんなひめの様子にみことは呆れながら答えた。

 ついなとの勝負をしていた竜だったが、それでもひめとみことの動かしている様子はチラチラと見えていたため、2人の言葉がそれほど間違っていないのだと分かった。

 

 

「それじゃあ、1回やってみるか」

「おー!竜お兄さんのことをボッコボコにしたるったい!」

「胸を借りるつもりで挑みますね」

「ご主人、今度はうちが勝ったるからな?」

 

 

 2人が操作に慣れたのであれば一度ちゃんとした勝負をしてみた方がいいだろう。

 そう考えた竜はステージ選択をランダムに変更しながら言う。

 これによってどんなステージが選ばれるかは分からなくなり、ステージ選択の有利不利が運次第になるのだ。

 

 

「そんじゃ、次はこのキャラにしようかな」

「お姫さま?」

「またピンク色のキャラクターなんですね?」

「以外とご主人はそのキャラクターも使い慣れとるよな?」

 

 

 そう言って竜は操作キャラクターをカービィから別のキャラクターに変える。

 竜が選択したキャラクターに3人は不思議そうに首をかしげた。

 スマブラに登場するキャラクターでピンク色のお姫さまと言えば国民的に有名な毎回拐われるあのキャラクターしかいない。

 

 そう、ピーチ姫だ。

 

 ちなみに、なぜ竜がピーチ姫を使いなれるほどになるまで使っていたのかというと、一時期流行っていた“クッパ姫”が理由だったりする。

 “クッパ姫”とは、クッパが特殊な条件でピーチ姫によく似た姿に女性になるという二次創作のキャラクターなのだが、そのキャラクターが一時期とても流行っていたのだ。

 

 その時に竜も“クッパ姫”のことを気に入っており、ピーチ姫の色を黒系統にして“クッパ姫”のような感覚で操作をしていた。

 最初の頃はネタのような感覚でピーチ姫を操作していたのだが、ピーチ姫の操作に慣れていくにつれてだんだんと普通に戦えるようになっていき、いつの間にか竜は自分が扱えるキャラクターの中で1、2を争うほどになるまでピーチ姫を扱えるようにまでなっていたのだ。

 ついでに言っておくと1、2を争っているもう片方はカービィだったりする。

 

 

「なんだかんだ使い勝手がよくてな。そっちは変えないのか?」

「うちはこのままピカチュウや」

「うちもよう分からんしこのままでいくったい」

「ボクも変えません」

 

 

 不思議そうな表情の3人に竜は笑いつつ、3人は操作するキャラクターを変えないのかを確認する。

 竜の言葉に3人は少しだけコントローラーを操作するものの、結局キャラクターを変えなかった。

 全員の準備が終わったことを確認した竜はそのまま準備完了のボタンを押す。

 準備が完了し、戦うステージが選出されてカウントダウンが始まった。

 

 

「3!」

「2!」

「1!」

「ファイト!」

 

 

 ゲームのカウントダウンに合わせて竜たちは同じようにカウントダウンをする。

 そして、勝負が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第240話

 

 

 

 

 竜、ついな、ひめ、みことのスマブラ対戦が何回か繰り返され、竜は少しだけ休憩をしていた。

 竜の目の前ではコンピューターを含めた4人での対戦が繰り広げられており、コンピューターの強さは普通ぐらいとはいえなかなかに良い勝負をしている。

 ついなが用意してくれていたお茶を飲み、竜はあることを思い出して立ち上がる。

 

 

「っと、風呂洗ってくるわ。そろそろ風呂に入っておかないと」

「あ、了解や」

「はーい!」

「いってらっしゃいです」

 

 

 竜が思い出したのはお風呂を洗っていないということ。

 朝御飯の用意などをついながやっているのだからお風呂の掃除もついなにやってもらっているのではないかと思うかもしれないが、さすがに竜も全部の家事をやってもらうのは気が引けるということでお風呂掃除だけは竜がやっているのだ。

 

 竜の言葉についなは一瞬だけ竜の方を向いて答え、ひめとみことはテレビ画面から目線を外すことなく答えた。

 そして、竜はお風呂を洗うためにお風呂場へと向かっていった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 お風呂を洗うといってもそれほど時間がかかるというわけでもなく、それほど時間はかからずに竜はお風呂の掃除を終えてリビングに戻ってきた。

 あとはお湯はりをしてお風呂が沸くのを待つだけである。

 

 

「お、みことが勝ったのか」

「はい。拾った爆弾を2人とコンピューターの戦いが激しくなっていたところに投げ込んだらちょうど全員倒しまして」

 

 お風呂場から戻ってきた竜はテレビ画面を見てみことが一位になったことに気がつく。

 どうやらみことが言うにはついな、ひめ、コンピューターの3人のバトルが途中で激しくなり、そのときにちょうどよく拾っていたボム兵を投げ込んだら一気にワンスロースリーキルゥをしたということらしい。

 確かに1度に3ポイントものキルポイントを得たのならば一位になってもおかしくはないだろう。

 みことが操作しているキャラクターが表示されているテレビ画面をついなとひめは悔しそうに見ていた。

 

 

「ぐぬぬぬぬ・・・・・・。次は負けんったい!うちが必ず一位をとっちゃる!」

「いいや!次はうちが勝つんや!負けへんで!」

「どっちも負けず嫌いですね・・・・・・?」

「ひめの方はそうっぽいけど、ついなもここまで負けず嫌いだったかな?」

 

 

 テレビ画面を見て悔しそうにしていたひめとついなは、それぞれ次こそは負けないと宣言する。

 ひめが負けず嫌いっぽそうなのは雰囲気から感じ取れてはいたのだが、ついなまで同じように負けず嫌いだったのかと竜は首をかしげた。

 

 まぁ、竜がついなの様子に不思議に思ってしまうのも無理はないだろう。

 ついなはもともと、見た目と同じように精神的にもどこか幼い部分があった。

 それはイタコ先生たちのことが怖くて隠れたりしてしまっていることからもなんとなく分かっていたことなのだが、竜の食生活などのだらしなさから自分がキチンとしなくてはならないという思いが強くなったのだ。

 そのため、竜の家に来てからのついなは子供っぽさよりも親のような思考の方が強くなっており、竜の前では子供っぽさよりもちゃんとした姿の方が多く見られるようになったのだ。

 といっても竜の制服のポケットに潜り込むなどの子供っぽさは残っていたのだが。

 

 そして、そんなついなだったが、今回のひめとみこととの対戦によってもともとの性格が出てきたということなのだ。

 

 

「・・・・・・まぁ、楽しそうだし良いか」

 

 

 いつもとはまた違った笑顔を見せているついなに竜は笑みを浮かべる。

 そして、竜はついなたちの対戦を見ながらお風呂が沸くのを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第241話

 

 

 

 

 しばらくついなたちの勝負を眺めていた竜だったが、途中でお風呂が沸いたという通知音が聞こえてきたため、ついなたちに一言言ってお風呂場に移動した。

 需要的にまったく無さそうではあるが、竜は服を脱ぎながら考える。

 

 竜が考えているのはバイト中にあかりと約束をした出かける約束のこと。

 一度守ることができなかった約束なだけに竜はしっかりと考えるようにしていた。

 

 

「出かける、つってもなぁ・・・・・・」

 

 

 普段、竜が一緒に出かけているのは男友達か、基本的には茜と葵の琴葉姉妹である。

 当然ながら男友達と同じようなところに出かけるというのは論外だろうし、茜と葵の2人と出かけているところは2人の好みの場所であることがほとんどなため、参考にするには少しばかり合わないだろう。

 最近ではついなと2人でいることが多いのだが、それでもついなは基本的には服のポケットにいるか、竜の頭の上に乗っているかなので、基本的には竜の行きたい場所になってしまっている。

 

 と、このようにあかりと出かけるのに参考になりそうなものがほとんどないのだ。

 

 

「どうしたものか・・・・・・」

 

 

 頭を悩ませながら服を脱ぎ終えた竜はお風呂場の中へと入る。

 人によっては先にお風呂に入ってから体を洗う人などがいるらしいが、竜は先に体を洗ってからお風呂で温まる派なので、先に体を洗い始めた。

 

 竜が体を洗い始めてしばらくすると、なにやらドタバタという音がお風呂場の外から聞こえてきた。

 家の中でそんな音が聞こえてくるのだとしたら原因はついなたちの誰かであろうことは明らかだ。

 聞こえてきた音に竜は思わず頭に手を当てる。

 

 

「なにをやってるんだ・・・・・・。おーい!家の中で暴れたりするなよー!」

 

 

 しばらくすれば音が止むかとも思ったが、ドタバタという音は収まることがない。

 頭に手を当てたまま固まっていた竜だったが、あまりにも音が止まないため、お風呂場の扉を開けて大きく声を出した。

 すると、竜の声が聞こえたのか、ピタリと音は止まった。

 

 

「ひめ辺りがなんかやったのかねぇ・・・・・・」

 

 

 ついな、ひめ、みこと。

 この3人の中で1番なにかをやらかしそうなのは1人しかおらず、口ではボカしたように言っているが竜の頭の中ではほとんど確信のようなものがあった。

 

 そして、体を洗い終えた竜は頭を洗い始める。

 シャンプーを手に出してワシャワシャと頭を洗い始めれば大量に泡がたち始め、竜は泡が目に入らないように目を閉じた。

 

 頭を洗う際には爪を立ててしまわないように気をつけ、指の腹の部分でマッサージをするように洗うと良いだろう。

 爪を立ててしまえば頭皮が傷つき、炎症などを起こしてしまったりする。

 当たり前だがそれは頭皮にとっても良くないので、可能ならば避けた方がいいだろう。

 

 不意に、竜の耳にお風呂場の扉が開いた音が届いた。

 お風呂場の扉を背にするように座っていることと、頭を洗っているために目を開くことのできない竜は頭を洗う手を止めて首をかしげる。

 ついながなにか補充のために扉を開けたのかと考えたが、とくになにかが残り少なくなっているというものはなかったはずだ。

 

 

「外の風が入って寒いから閉めてくれー」

「分かったばい!」

「・・・・・・うんッ?!」

 

 

 聞こえてきた返事に竜は思わずぐるりとお風呂場の扉の方に顔を向ける。

 といっても目は閉じているのでその姿は見えないのだが。

 

 竜の驚きなど気にした様子もなく、お風呂場の扉は閉められ、ペタペタと2人分の足音が聞こえてきた。

 足音の量からもう1人もいるのだと理解した竜は泡だらけのままの頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第242話



UAが63000を越えたのでアンケートを始めます。

UAが66000を越えましたら締め切りますので、それまでに投票をお願いします。




 

 

 

 

 竜がお風呂で頭を洗っている最中にお風呂場の扉を開けて入ってきた2人分の足音。

 それに加えて竜の言葉に答えたその声はどう考えてもひめのものだった。

 そのことからもう1人分の足音が誰のものなのかは自然と分かるだろう。

 

 

「・・・・・・なんで入ってきたんだ?」

 

 

 驚きで叫びそうになるのをこらえながら、竜は努めて冷静に尋ねる。

 ラッキーと言って良いのかは分からないが、竜は頭を洗っていて目を閉じていたために、ひめたちの姿を視界に納めずに済んでいた。

 

 

「遊んでくれたお礼ばい!うちらが竜お兄さんの背中を流したるっちゃね!」

「すみません。ひめに無理矢理・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にひめはドヤァという擬音が聞こえてきそうな声の調子で答える。

 そのあとにみことが申し訳なさと恥ずかしさの混ざったような声で答えた。

 

 

「あー・・・・・・。お礼とか大丈夫だからさ、とりあえずここから出ていってくれ」

「えー!竜お兄さんがよくてもうちらは良くないっちゃけど!」

 

 

 どうにか2人をお風呂場から出そうと、竜は手を振りながらお風呂場から出るように促す。

 しかし、お礼ができないことが不満なのか、ひめはプンスコと声をあげる。

 

 

「とにかく!うちらはお礼をするったい。まずはその頭の泡を流さにゃいけんね」

「は、ちょ・・・・・・うわぷっ?!」

 

 

 お礼として竜の背中を流すのだから、ひとまず頭の泡を流さなくてはいけない。

 そう考えたひめは素早く風呂桶を取ると、浴槽からお湯をすくって竜の頭に流しかけた。

 どうすれば2人をお風呂場の外に出せるのかを考えていた竜は、ひめの不意打ち気味の行動に驚きの声をあげる。

 

 

「ひ、ひめ?!さすがに今のはやっちゃダメなことったい!」

「ほにゅ?」

 

 

 ひめの行動に驚いて固まってしまっていたみことは、ひめの肩を掴んでガクガクと揺らしながら言う。

 慌てているみこととは対照的に、ひめはみことがなにに慌てているかのが分かっていないらしく、不思議そうに首をかしげていた。

 

 一方でひめに頭からお湯をかけられた竜は、1回お湯をかけたくらいでは流れきっていない泡を手で払い、簡単に視界を確保していた。

 

 

「はぁ・・・・・・。とりあえず完全に流すか・・・・・・」

 

 

 あまりにも突飛なひめの行動に怒るよりも呆れの方が出てきてしまった竜は、ため息を吐いて頭に残っている泡を流していった。

 頭に残っていた泡を流し終えた竜は、ひめとみことを見ないようにする。

 

 

「それじゃあ竜お兄さんの背中を流すばい!ほれ、みこともやるったい」

「ひ、ひめぇ・・・・・・」

「いや、女の子なんだから出ろって・・・・・・」

 

 

 竜の頭の泡が完全になくなったことに気がついたひめはみことの手を引いて竜の背中を流そうとする。

 

 お風呂場から出ようとしないひめとみことに竜はがくりと肩を落としながら呟いた。

 そんな竜の言葉にひめとみことは不思議そうに首をかしげる。

 

 

「竜お兄さん。うちら、別に女の子じゃなかとよ?」

「あ、でも男の子と言うわけでもないですからね?」

「・・・・・・は?」

 

 

 首をかしげながらひめは竜に自分たちが女の子ではないと言う。

 それに続いてみことは男の子でもないと言った。

 矛盾している2人の言葉に竜は意味が分からず、首をかしげながら2人の方を見た。

 

 

「え、なにも・・・・・・ない・・・・・・?」

「だから言うとるばい」

「ボクらに性別はないんです」

 

 

 竜の目に映ったひめとみことの肉体は、人の形をしてはいるものの、人ならば当然ついているはずのものたちがなにもついていなかった。

 具体的に言うならば、乳首やおへそ、性器といったものがなにもなく、まるで精巧な人形のようなのだ。

 ひめとみことが女の子だと思っていた竜は驚き、2人の体を見たまま思わず固まってしまう。

 

 

「あ、でも別に女の子になれんってわけじゃなかよ?」

「いや、ならんでいい!ならんでいい!!」

 

 

 そう言ってひめの肉体に変化が起こり始めた。

 胸が少しだけ膨らみ、その頂点に薄い桃色が集まり始め、お腹の部分には小さなへこみが生まれ、股の部分にもなにやら変化が起きようとしている。

 ひめの肉体が少女のものに変化しようとしていることに気がついた竜は、慌てて顔を逸らしてひめに止まるよう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第243話

 

 

 

 

 ひめとみことには性別がなく、自由に性別を変えることができるという衝撃の事実。

 中途半端に女の子の体に変化している途中で止まったひめは不思議そうに首をかしげる。

 ひめからすれば女の子の体になった方が竜にとって嬉しいのかと考えて変化していたため、竜に止められたのが意外だったのだ。

 

 

「なして止めると?」

「いや、普通にそういったものは簡単に見せて良いものじゃないからな。・・・・・・ん?」

 

 

 微妙に女の子の体に変化をしているひめの体を見ないように顔を逸らしながら竜は止めた理由を答える。

 完全に変化していないとはいえ、それでも女の子の体に違いはないわけで、そう簡単に異性に見せても良いものではないと竜は考えていた。

 と、ここで竜はみことの声が聞こえないことに気がつく。

 

 

「みこ・・・・・・と・・・・・・ッ?!」

「あうぅ・・・・・・」

「ありま、コントロールできんくなったと?」

 

 

 竜がひめからみことへと視線を向けると、そこにはどうにか自分の腕で体を隠そうとしているみことの姿があった。

 

 みことは必死に体を隠そうとしているのだが、腕だけで体を隠せるはずもなく、その隙間から可愛らしいおへそなどが見えてしまっている。

 ひめだけでなくみことまで女の子の体に変化しているとは思っていなかった竜は驚きのあまり顔を逸らすことも忘れて固まってしまった。

 

 顔を赤くしてしゃがみこんでしまったみことに、ひめは少しだけ意外そうな声を出した。

 

 

「あの、竜さん・・・・・・。恥ずかしいので・・・・・・、その、見ないでいただけると・・・・・・」

「ッ!す、すまん!」

「みことは恥ずかしがりさんったいねぇ」

 

 

 恥ずかしそうに顔を赤くしながらみことは竜に言う。

 みことの言葉を受け、竜はみことの体を見続けてしまっていたことに気がついて慌てて顔を逸らす。

 

 そんな2人の様子にひめはケラケラと笑っていた。

 

 

「み、みことまでなんで女の子になってるんだ・・・・・・?」

「いえ、その・・・・・・」

 

 

 顔を逸らしながら竜はみことになぜ女の子の体になっているのかを尋ねる。

 竜の言葉にみことは答えづらそうに視線を泳がせる。

 

 

「みことは竜お兄さんの体を見て興ふ────」

「わーっ!わーっ!わーっ!何を言おうとしとう!いや、言わんでよか!むしろ言ったらいけん!!」

 

 

 みことがなかなか答えないことにひめは不思議そうに首をかしげて理由を答えようとする。 

 しかし、途中でみことによって口を塞がれてしまい、最後まで理由を答えることはできなかった。

 

 ひめとみことのやり取りに顔を逸らしながら竜は首をかしげる。

 みことの声によって遮られて竜はひめの言葉がほとんど聞こえず、みことが女の子の体に変化してしまった理由が分からないままだった。

 

 

「まぁ、そんなことは置いておいて竜お兄さんの背中を流すばい!」

「そんなこと、なのか・・・・・・?」

 

 

 竜の体を洗うタオルを手に取り、ひめは石鹸を擦り付けて泡をたてていく。

 どうやらひめはみことが女の子の体に変化してしまった理由を理解しているようだが、それほど気にしていないようだった。

 

 もう何を言ってもひめがお風呂場から出ていくことはないのだろうと竜は理解し、気が済むまで背中を流させることにした。

 

 

「恥ずかしいならみことは先に出ていて良いからな?」

「・・・・・・ううん。ボクも、竜さんの背中を流します・・・・・・」

「お、みこともやる気ったいね!」

 

 

 恥ずかしそうにしていたみことに竜は声をかける。

 竜の言葉にみことは首を横に振り、竜の後ろに移動した。

 体を洗うタオルはひめが持っているので、みことは自分の手で石鹸を擦って泡をたてていった。

 石鹸を擦って泡をたて始めたみことの姿にひめは嬉しそうに言いながら、負けじとタオルの泡の量を増やしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第244話



親の背中、いつでも洗えるからってやらないでいると後悔するかもしれませんよ?

もしもそんな機会があったのなら、やっておくことをオススメします。





 

 

 

 

 ひめとみことの2人によってゴシゴシと背中を擦られる。

 2人で1人の背中を洗うのは難しいのではないかと思うかもしれないが、ひめとみことの体が小さいこともあって並んで洗うことができていた。

 体を洗うタオルが1つしかないため、ひめはタオルで、みことは手のひらで洗っているが、それでも誰かに背中を洗ってもらうというのは心地の良いもので、竜は気持ち良さそうに目を細めている。

 

 

「んっしょ、んっしょ。ふぃー・・・・・・」

「やっぱり、大きな背中ったいね」

「うひゃぅっ・・・・・・?!」

 

 

 少しだけ疲れたのか、ひめは竜の背中を洗う手を止めて汗をぬぐうように(ひたい)を手の甲で拭いた。

 その隣でみことは竜の背中を洗う動きとは違う動きで撫でている。

 みことの手の動きがくすぐったかったのか、竜は体をよじった。

 

 

「背中を流すのは意外と大変っちゃねー?」

「でも、ひめはタオルを使っているんだからボクよりは楽なんじゃなか?」

 

 

 タオルの泡が減ってきたので、クシクシとタオルを揉んで泡立てながらひめは言う。

 親の背中を洗った経験のある人なら分かるかもしれないが、人の背中を洗うというのは意外と大変なものである。

 洗われている方はどこが洗えていないのかが感覚で分かるのだが、洗っている方はそれを目視で確認して洗っていかなければならず、それに加えてほどよい強さでまんべんなく背中を洗わなければいけない。

 ついでに言うなら、そういったことを経験するのは基本的に親と一緒にお風呂に入っている子供時代なため、なおのこと力を入れながら洗うというのが大変になってくるのだ。

 

 親からすれば自分の子供に背中を洗ってもらうのは夢の1つなのかもしれないが、背中をちゃんと洗えない可能性もあることをキチンと理解しておいてほしい。

 まぁ、じつは子供も子供で親の背中を洗うというのはなかなかに楽しいことなので、そこまで気にしなくても良いのかもしれないが。

 

 

「あ、そういえばイタコの読んでた本のやつをやるったい!」

「ああ、あれったいね」

「・・・・・・待て、何をする気だ?」

 

 

 ふと、ひめはなにかを思い出したのか、ボディーソープを手に出した。

 ひめの言葉にみこともうなずき、同じようにボディーソープを手に出す。

 

 先ほどまでのひめたちの行動から、嫌な予感を察知して竜は慌てて振り返った。

 その際に女の子の体のままのみことの体を見てしまうのだが、それよりも気にしなくてはいけないことがあった。

 

 

「何って、イタコが読んでた本みたいにうちらの体で竜お兄さんの背中を洗おうと思っちょったけど・・・・・・?」

「ひめ、たしかあの本では女の人がやってたばい」

「そういえばそうやったね」

「待って?!」

 

 

 竜の言葉にひめはキョトンと首をかしげて何をしようとしていたのかを答える。

 その隣でみことが自分の体にボディーソープを垂らしていた。

 みことの言葉にひめも自分の体を女の子に変えようとする。

 

 どう考えても普通ではない背中の洗い方をしようとする2人に竜は思わず声をあげて止めた。

 

 

「なぁん?なんか間違っとう?」

「本に書いてあったから間違ってないと思ったんですけど・・・・・・」

「うん、間違ってるな。とりあえず背中を洗うのはもう良いから、そのまま自分の体を洗っちゃいな」

 

 

 竜に止められ、ひめとみことは不思議そうに竜を見返す。

 不思議そうにしている2人に竜は思わず頭に手を当てる。

 そして、竜は自分の体にお湯をかけて泡を流した。

 

 竜にどうして止められたのかが分からない2人は不思議そうにしながらも竜に言われた通り自分たちの体を洗っていくのだった。

 

 

 ちなみに、イタコ先生の名誉のために言っておくが、ひめとみことが言うイタコ先生の読んでいた本というのはイタコ先生が生徒から没収したものであり、イタコ先生の持ち物というわけではない。

 といっても、保健室で顔を赤くしながらも自分の胸を触りながらコッソリと没収した本を興味深そうに読んでいたりしたのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第245話

 

 

 

 

 ひめとみことが体を洗っているのを見ないようにしながら竜はお湯に浸かる。

 お湯に浸かるという行為はただ温まるためだけのものではなく、体をリラックスさせる効果もあるのだ。

 

 

「ふぅ・・・・・・」

 

 

 お湯に浸かりながら竜は一息をつく。

 ひめとみことがお風呂に入ってきたことで少しばかり慌ただしくはなったものの、それでもお湯に浸かることで竜はリラックスすることができた。

 

 

「あひゃひゃひゃ!みことみこと!あわあわったい!」

「ちょ、そんなに動いたら泡が飛ぶっちゃけど?!」

 

 

 想像以上に泡がたったことに、ひめは楽しそうに笑いながら腕を振るう。

 ひめが腕を振るたびに泡が軽く飛び、それをみことは注意した。

 

 さいわいなことにひめが腕を振るう高さが低かったお陰か、浴槽の方に泡が飛んでくることはなかった。

 

 

「こーら。ちゃっちゃと体を洗わないと風邪ひくんじゃないか?」

「あう。えへへへ。はーい」

 

 

 ペチリと軽くひめの頭を叩き、竜はひめが腕を振るのを止める。

 竜に頭を叩かれたひめは一瞬だけキョトンとしたものの、嬉しそうに元気よく返事をして体を洗うのを再開する。

 そんな竜とひめのやり取りをみことはジッと見ていた。

 

 

「・・・・・・えいえい」

「みこと?なにしとう?」

 

 

 ひめが体を洗うのを再開するのとほぼ同時にみことがソッと泡のついた腕を振り始める。

 いきなりのみことの行動にひめは体を洗いながら不思議そうに首をかしげる。

 

 腕を振りながらみことは竜の方を見るのだが、竜は目を閉じてお湯に浸かっており、静かに腕を振っているみことに気づいていなかった。

 竜が見ていないことに気づいたみことはどことなくしょんぼりとした雰囲気を出しながら腕を振るのを止める。

 

 

「どしたん?」

「・・・・・・なんでもなか」

 

 

 どこか気落ちしているみことの様子にひめが声をかけるが、みことは首を横に振って理由を答えようとしなかった。

 そんなみことにひめは首をかしげるが、みことが答えたくないのであれば仕方がないと納得し、体を洗うのだった。

 

 ひめとみことの2人が体を洗い、全身が泡に包まれる。

 もともと、竜の背中を自分たちの体を使って洗おうとしていたため、それ相応の量のボディーソープが出されており、それらすべてが泡立ってしまえばこうなるのは当然ともいえた。

 

 

「なんか、泡のキグルミみたいになってるな?」

「あわあわ怪獣ったいね!」

「その場合、水に触ったら一瞬で消えそうっちゃね」

 

 

 ひめとみことの体がかなりの量の泡に包まれていることに気がついた竜は少しだけ驚き混じりの声で呟く。

 竜の言葉にひめは楽しそうに腕を上に振り上げて、まるで怪獣のようなポーズをとった。

 ひめは怪獣と言っているが、2人の頭から生えている角と、泡だらけでモコモコとした姿に見える今の状態は、怪獣というよりも羊のように見える。

 

 

「ほれ、流すぞ」

「うん!」

「はい」

 

 

 風呂桶を使ってお湯をすくい、竜は2人に一言声をかける。

 量の言葉にひめはうなずきながらお湯を待ち、みことは自分の胸などを隠しながら竜を見た。

 

 そして、竜によってお湯をかけられ、2人の体から泡が流れ落ちていった。

 

 

「ふー、めっちゃサッパリしたっちゃね!」

「うん。ボクたちの体は基本的には汚れないけどこういうのもたまには良さそうったい」

 

 

 自分の体に泡が残っていないかを確認し、ひめとみことは楽しそうに会話をする。

 

 みことの言っている通り、ひめとみことは基本的によっぽどのことがなければ汚れるということは起こり得ない。

 そのため、これまでお風呂というものは数える程度しか入ったことがなかったのだ。

 さっぱりした様子の2人に竜は思わず笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第246話

 

 

 

 

 お風呂に入ってサッパリとした竜はひめとみことの2人をタオルで体を拭いて水気をしっかりと取り除いていく。

 竜は2人よりも先にお風呂から出て先にパジャマを着ていた。

 

 ある程度は本人たちに体を拭かせてはいたのだが、ひめとみことの2人は背中の方がうまく拭けず、そこは竜が拭いてあげた。

 

 

「そういえば2人は服とかどうするんだ?」

 

 

 あまりにも普通にお風呂に入ってきていたために竜は今さら気づいたのだが、ひめとみことは最初に着ていた服以外になにも持っていなかったはずだ。

 その事に気がついた竜は2人に服をどうするのかを尋ねる。

 さすがに同じ服を着るというのはお風呂に入った意味がなくなってしまうので避けておきたいところなのだが。

 

 竜の言葉に2人は少しだけ考えるような仕草を見せた。

 

 

「んー、竜お兄さんの服は借りれんと?」

「さすがに下着とかはいいですけど。大きめのシャツでも借りられれば・・・・・・」

「まぁ、それは別に構わないが。・・・・・・もしかして泊まるのか?」

 

 

 そう言ってひめとみことは竜の顔を下から覗き込む。

 身長差があるために自然と2人の目線は上目使いになっており、竜は頬を掻きながら答えた。

 

 服を貸すことに許可を出した竜は、もしかして2人が家に泊まるつもりなのではないかと確認をとる。

 そんな竜の言葉に2人はためらうことなくうなずいた。

 

 

「・・・・・・あいよ。んじゃ、ちょっと適当な服を取ってくるから。寒くなりそうならもう一回お風呂に入って温まっておきな」

 

 

 2人がためらいなくしっかりとうなずいたことに竜は軽く頭に手を当てる。

 そして、2人の着れる服を探すためにお風呂場をあとにした。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 自分の部屋から適当なシャツを2枚手に持ちながら竜はお風呂場に向かう。

 2階の自分の部屋から階段を降りてきたところで、竜はついなの声が聞こえないことに気がついた。

 

 いつもというわけではないが、ついなは時おり鼻唄を歌ったりしながら家事をしていたりするので、ここまで声が聞こえないというのは少しばかり不思議だった。

 

 

「ついな~?」

 

 

 声が聞こえないことが気になった竜は2人分のシャツを持ちながら先ほどまでのついなたちがいたはずのリビングを覗いてみた。

 リビングの電気は点いているのだがどこにもついなの姿は見つからず、不思議そうに竜は首をかしげる。

 

 と、ここで竜の耳になにかが動いているかのような音が聞こえてきた。

 それはゴソゴソというような音で、どうやら台所の方から聞こえてくるようだった。

 聞こえてきた音に警戒をしながら、竜は台所へと向かう。

 

 

「・・・・・・ついなっ?!」

「むー!むむむー!」

 

 

 竜が音の聞こえてきた台所を覗き込むと、そこには両手両足、そして口を木で拘束されたついなが転がされていた。

 予想外の状況に竜は慌ててついなの口を塞いでいる木を外す。

 

 

「ぷはぁ・・・・・・。助かったぁ・・・・・・」

「なんでそんな状態になったんだ?」

 

 

 ついなのことを拘束していたものが木だったことからひめかみことがついなのことを拘束したのは明白。

 竜はどうしてそのような状態になったのかをついなに尋ねた。

 

 

「いや、あの子らがご主人と一緒にお風呂に入る言うとったから注意をして止めたんやけど・・・・・・」

「そのまま捕まって拘束されたのか・・・・・・」

 

 

 ついなの腕と足を拘束している木を取り、竜は呆れたように頭を抱える。

 

 そして竜は2人分のシャツを持ってお風呂場へと向かっていった。

 竜がお風呂場に戻ってからすぐのこと、2人分の短い悲鳴などが聞こえてきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第247話



ひめたちのお泊まりの話が長くなってしまっている・・・・・・

ここまで長くなる予定はなかったのですが・・・・・・





 

 

 

 

 お風呂から出てパジャマを着た竜と、竜から借りたシャツを着たひめとみことはリビングにいた。

 ひめとみことはブカブカとはいえ竜のシャツを着ており、可愛らしい素足がシャツの端から覗いていた。

 3人がお風呂から出たということで今はついながお風呂に入っている。

 

 リビングで竜は腕を組んでひめとみことを見る。

 竜の視線を受けながらひめとみことの2人は頭を押さえていた。

 

 

「う~・・・・・・。みことぉ、うちの頭へこんでなか・・・・・・?」

「ごめん・・・・・・。ボクも痛くて見てる余裕ないったい・・・・・・」

「はぁ・・・・・・、ついなにひどいことしたんだから甘んじてその痛みを受けておけ・・・・・・」

 

 

 頭を押さえながらひめは自分の頭をみことに見せる。

 しかし同じように頭を押さえて痛みを耐えていたみこともひめの頭を見る余裕はなかった。

 少しだけ目の端に涙を溜めている2人の姿にほんの少しだけ強くげんこつをしてしまったかもしれないと罪悪感を感じながら竜は溜め息を吐いた。

 

 

「とりあえず、2人はどこで寝るかな・・・・・・」

 

 

 2人から目を逸らして竜は2人にどこで寝てもらうかを考える。

 

 まず第一に竜の部屋は選択肢に入れないのは当然のこととして、残っている部屋は両親の部屋とついなが寝ている部屋、そしてこのリビングくらいだ。

 ちなみについなが寝ているのはこの家で唯一畳の和室で、1番落ち着くからという理由からだったりする。

 

 こうなると1番安牌と言えるのはいま竜たちがいるリビングで寝てもらうことだろうか。

 ひめとみことの2人は小さいので、ある程度片づければリビングでも充分に寝られるはずだ。

 次案として、ついなが寝ている部屋で寝てもらうこともできるかもしれないが、先ほどのこともあってついなと2人を一緒の部屋にすることに竜は少しだけ拒否感があった。

 

 

「う?うちらは竜お兄さんと一緒に寝るんじゃなかと?」

「ボクたちなら一緒に寝てもそこまで狭くならないと思いますけど・・・・・・」

「いや、さすがに3人は狭いし、姿が小さいといっても男女で寝るのはダメだから」

 

 

 竜の呟きが聞こえたのかひめは首をかしげながら竜に尋ねる。

 それに続いてみことも援護するように言葉を続けた。

 

 やや上目使いでおねだりをするかのような2人の言葉に竜は手を左右に振りながら切り捨てる。

 竜があまりにもアッサリと切り捨てたことにひめは不満そうに頬を膨らませる。

 また、微妙に分かりにくいので竜は気づいていないが、みことも眉尻と肩が下がっており、残念そうにしていることがうかがえた。

 

 

「むー!でもバラバラで寝とったら泊まる意味がないっちゃよ!」

「ボクも、その・・・・・・」

「そう言われてもな・・・・・・」

 

 

 時間が少し経ったおかげで頭の痛みが治まったのか、ひめは腕を大きく振り上げながら言う。

 ひめが大きく腕を振りあげたことによってブカブカなシャツが上にふわりと浮かんでしまい、シャツに隠されている中身が見えてしまいそうになる。

 ひめとみことの性別がないことは分かっているのだが、いまのひめが本当に性別のない状態なのかは不明で、もしかしたらいつの間にかひめが女の子の体に変化している可能性があり、さらに言えば男の子の体に変化している可能性もあった。

 そのため、竜はシャツの中身をうっかり見てしまわないように目線をひめやみことの顔の方に固定していた。

 

 

「とにかく、うちらは竜お兄さんと寝るったい!」

「ですです」

「出たでー。・・・・・・なにを騒いどるん?」

 

 

 自分たちの意思を変えるつもりはないとひめとみことは言う。

 そんな2人に竜がどうしたものかと考えていると、リビングの扉を開けてついなが戻ってきた。

 リビングに戻ってきたついなは腕を振り上げているひめに気がつくと不思議そうに首をかしげる。

 

 

「いやな?2人が俺と一緒に寝るって言っていて・・・・・・」

「ご主人と?ちゅうてもご主人の布団やと3人では寝れんとちゃうん?」

 

 

 ついなに援護をしてもらおうと竜はひめとみことがどこで寝たいと言っているのかを言う。

 竜の言葉についなは竜の布団の大きさを思い出しながら首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第248話



おかころの小説を書きたい欲がががが・・・・・・

歌ってみたを聞いてるとストーリーが自然と浮かんできますよね。

まぁ、ホロライブの小説を書くには制約みたいなものがあった気がしますが・・・・・・






 

 

 

 

 竜と一緒に寝ると主張するひめとみことに竜とついなは困ったように頬を掻く。

 念のために言っておくと、これは竜が2人に手を出す可能性があるとかそういった理由で悩んでいるのではなく、恋人でもない男女が一緒に寝るというのはどうなのかという点で問題だと竜は考えていた。

 

 

「せっかくのお泊まりなん。竜お兄さんと寝るまでおしゃべりしたいんよ!」

「それに、竜さんの近くはとても落ち着くけん眠り心地が良さそうったい」

 

 

 竜の家に泊まるのだから寝落ちするまで布団で横になりながら話をしたい。

 

 ひめとみことは基本的に今までどこかに泊まるとすればイタコ先生の家、つまりは東北家にしか泊まることはなかった。

 そんな状態で新しく竜の家にも泊まることができるようになればこのようになってしまうのも納得がいく。

 それに加えて竜は動物霊たちに好かれており、それが理由になっているのかは不明だがひめとみことの2人も竜に対して安心感のようなものを感じていた。

 

 2人の言葉に竜はどうしたものかとついなの方を見る。

 するとついなも同じような表情を浮かべながらちょうど竜の方を向いていた。

 

 

「・・・・・・ご主人の部屋で寝させるわけにはいかんよね?」

「まぁ、な。見た目が小さいといってもな。それに俺の使っている布団も3人じゃさすがに狭くて寝れないだろうし」

 

 

 諦めて一緒に寝るしかないのではないか、やや諦めを含みはじめながらついなは念のために竜に確認をとる。

 ついなの言葉に竜は自分の部屋で一緒に寝ることは無理だと答える。

 

 

「あー・・・・・・、えっとな?うちが使わせてもらってる部屋で全員で寝るんはどうや?たしかお客さん用の布団はまだあったはずやし・・・・・・」

 

 

 竜の答えについなは1つの提案をする。

 ついなが寝ている部屋は和室で、大人2人が横になったとしても余裕があるほどの広さをしている。

 そのため、客用の布団を敷けばひめとみことの2人と竜が一緒に寝ることができるのではないかとついなは考えたのだ。

 

 ついなの提案にひめとみことは期待するように目を輝かせる。

 

 

「竜お兄さん!」

「竜さん・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ゛~~~、もう!わぁったよ!」

 

 

 期待するような目でジッと見てくるひめとみことに根負けし、竜は頭をがしがしと掻き回しながら声をあげる。

 もしかしたら人によってはこの視線を無視することができるのかもしれないが、少なくとも竜には無視することはできなかった。

 

 竜の言葉にひめとみことは嬉しそうにハイタッチをする。

 

 

「いえーい!」

「はぁ・・・・・・。とりあえず歯磨きにいくぞー」

「分かりました」

 

 

 喜ぶ2人の姿に竜は溜め息を吐いて2人を連れて歯磨きに向かう。

 そんな3人の姿を見送ってついなは布団の準備をするために和室に向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 洗面所にて、竜たちは歯を磨く。

 

 

「・・・・・・磨き方がきったないなぁ」

「ほぇ?」

「すみません・・・・・・」

 

 

 口の回りを歯磨き粉の泡で汚しているひめの姿に竜は呆れながら呟く。

 ひめ自身には歯磨きの仕方が汚いという自覚はないらしく、竜の言葉に不思議そうに首をかしげている。

 そんなひめの様子にみことは顔を赤くしながら謝ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第249話

 

 

 

 

 竜たち全員の歯磨きが終わってから、そのままスムーズに寝ることができたかと言えばそれは否と言える。

 

 まず最初に、敷かれている布団の上でひめがゴロゴロと転がり始め、存分に転がったかと思えばいきなり枕投げを始めたのだ。

 寝るまでおしゃべりをしたいと言っていたのにいきなり枕投げを始めたひめに竜はひめの投げる枕を避けながらひめを捕獲することになった。

 

 次に、枕を投げ始めたひめを捕獲してからみことも真似をするように竜に枕を軽く投げてきたので、ひめと同じようにみことも捕獲することになった。

 

 そして、最後に誰がどこで寝るのかで竜以外の3人が一歩も引かない事態になった。

 

 これらのことが起きたために竜が眠れるようになった頃にはかなりの疲労感が蓄積されていた。

 ちなみに、誰がどこで寝るかの最終的な行方は、互いに主張を言い合っているひめとついなが寝落ちしたところを、みことがちゃっかりと竜のとなりをかっさらっていくという結末となっていた。

 

 

「・・・・・・まぁ、最終的に静かに寝たから、ヨシ!」

「やけくそったいね・・・・・・」

 

 

 寝落ちしたついなとひめをそれぞれ布団に寝かせた竜は疲労からかどこかで見たことのあるようなポーズを取りながらついなとひめが寝ていることをそれぞれ指差し確認しながら言う。

 そんな竜の様子にみことは申し訳なさそうにしながら呟いた。

 

 少しふざけたことで落ち着いたのか、竜はそのまま自分が寝る布団に横になる。

 

 

「ふぅ・・・・・・」

「うちのひめが騒いでスミマセン・・・・・・」

 

 

 横になって短く息を吐いた竜に、同じように横になったみことが竜のとなりで謝る。

 みことの言葉に竜はてをヒラヒラと振って応えた。

 

 

「そんで?いきなり泊まることになったわけだが・・・・・・、楽しめたか?」

「それはもちろん。むしろいきなり泊まるなんて言ってしまって・・・・・・」

 

 

 みことの方に顔を向け、竜は楽しかったかどうかを尋ねる。

 いきなりひめとみことが泊まることになったために、もてなしたりする準備などはまったくと言っていいほどできておらず、2人が楽しめたのかどうかが竜は気になっていたのだ。

 

 竜の言葉にみことはしっかりとうなずき、少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 竜も言っているように、ひめとみことが泊まると言ったのは本当にいきなりのことで、落ち着いてきたいまになってみことは申し訳なさを感じ始めていた。

 

 そんなみことの表情を見て、竜は手を持ち上げてみことの頭の上に軽く乗せる。

 

 

「りょ、竜さん・・・・・・?」

「いいんだよ。こんな風に関われるのがいままでイタコ先生たちだけだったんだろ?なら、思う存分甘えてくれ。俺にはそんくらいしかできないしな」

 

 

 竜に頭を撫でられ、みことは困惑した様子で竜を見る。

 サラサラとしたみことの髪の毛はとても撫で心地がよく、竜の表情は自然と柔らかいものになっていた。

 

 

「ありがとう・・・・・・、ございます・・・・・・」

 

 

 気恥ずかしさからか、みことは顔を赤くしながらお礼を言った。

 恥ずかしそうにしているみことの様子がとても可愛く、竜は思わずニヤニヤとした笑みを浮かべてしまう。

 

 竜が自分の様子を見て笑みを浮かべていることに気がついたみことは顔を隠すように布団の中に頭まで潜り込んでしまった。

 

 

「くくくっ・・・・・・。おやすみ」

「・・・・・・おやすみなさい、です」

 

 

 布団の中に完全に潜り込んでしまったみことの姿に竜は声を可能な限り殺して笑う。

 そんな竜の笑い声が聞こえたのかみことは布団越しに竜のことをポカポカと叩く。

 

 そして、竜はみことから与えられるそこまで強くない衝撃を受けながら目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第250話

 

 

 

 

 ひめとみことが泊まった翌日。

 竜は腹部への衝撃によって目が覚めた。

 衝撃といってもそこまで強いものではなく、強いて言うなら仔猫が飛び乗ってきたか程度のものだった。

 

 

「朝ったーい!」

「ひめ、いくらなんでも飛び乗るのはやりすぎばい・・・・・・」

 

 

 腹部への衝撃と同時に聞こえてきた声からひめが飛び乗ってきたのだということを竜は理解する。

 竜が目を開けると、そこには竜のお腹の上で横になっているひめの姿と、その隣で立ってオロオロとしているみことの姿があった。

 首を動かして周囲を確認したところ、ついなの姿が見えないので竜は自分が1番最後な

まで寝ていたのだと分かった。

 

 と、ここで竜は自分の上に乗っているひめの重さがそこまで感じられていないことに気がついた。

 よくよく思い返してみれば腹部に感じた衝撃もひめが飛び乗ったにしては軽すぎるもので、竜は不思議そうにひめを見る。

 

 

「うん?どしたと?」

「いや、なんか、あまり体重を感じないのが不思議でな」

 

 

 竜の視線にひめは首をかしげながら尋ねる。

 そんなひめに竜は疑問に思っていることを答えた。

 

 

「それは、まぁ、ボクたちも梅の木の精ですから。体重を軽くしたりするくらいなら自在ったいね」

「ほーん。そんなもんなの、かっ?!」

 

 

 竜の疑問にひめを竜の上からどかそうとしながらみことが答える。

 みことの答えに竜は納得して軽くうなずいていると、いきなりひめの重さが大きくなった。

 いきなり感じられる重さが増えたことと、不意打ち気味に腹部に重さがかかったことによって竜は一瞬だけ呼吸が止まってしまう。

 しかし呼吸が止まったのは一瞬だけだったため、すぐに竜は自分の上に乗っているひめを捕まえて腹部から持ち上げた。

 

 

「げほっ・・・・・・げほっ・・・・・・、いきなりなにすんだ・・・・・・」

「お腹が空いて、(ちから)が抜けるったい~・・・・・・」

「ボクも、少しお腹が空いてきたっちゃね」

 

 

 腹部への衝撃から咳き込みながら竜はひめを見る。

 ひめは竜の言葉に答えずに、クッタリと体から力を抜いて倒れてしまっていた。

 どうやらお腹が減ったことによって体の重さを軽くするコントロールが利かなくなったようだ。

 同じようにみことも自身のお腹をさすりながら言う。

 

 

「お腹、っていうことは霊力か?」

「そうったいね。一応、近くにいるだけでも少しずつお腹は膨れるっちゃけど・・・・・・」

「できれば直接もらった方が早くお腹は膨れますね」

 

 

 竜はついなが自分の霊力を吸収することで食事をしていたことを思いだし、もしかしたらと思って2人に尋ねてみた。

 竜の言葉に2人はうなずき、体に触れて霊力を送ってもらった方が早くお腹が一杯になると答えた。

 2人の答えに竜は2人の手を取る。

 

 

「っと、こんな感じだったかな」

「ふぇ?ふぁ、ああぁぁぁっぁあぁああぁ?!」

「え?んぅ、うううぅうぅううっぅうぅ?!」

 

 

 そして、いつもついなに霊力を与えているのと同じような感覚でひめとみことに霊力を流し込んだ。

 竜が2人に霊力を流し込んだ直後、2人は大きな声をあげながら座り込んでしまった。

 2人がいきなり大きな声をあげたことに竜は驚き、思わず2人から手を離す。

 

 

「だ、大丈夫か・・・・・・?」

「はぁ・・・・・・、はぁ・・・・・・。竜お兄さん・・・・・・、いきなりは・・・・・・、ダメったい・・・・・・」

「ボクたちは・・・・・・、竜さんの霊力に・・・・・・ん、慣れて・・・・・・、ないったい・・・・・・」

 

 

 大きな声をあげた2人に竜は大丈夫なのかを尋ねる。

 竜の言葉にひめとみことは荒い呼吸をしながら答えた。

 どうやらついなに霊力を与えるのと同じ感覚で2人に霊力を与えたのが原因だったようだ。

 

 

「す、すまん・・・・・・」

 

 

 荒い呼吸をしながら恥ずかしそうに顔を赤くする2人に竜は謝ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第251話



アンケートは今日で締め切りになりそうですね。

まだ、投票していない方は忘れないうちにしておいてくださいね。






 

 

 

 

 恥ずかしさで顔を赤くし、荒い呼吸をしているひめとみことの姿に竜はどうしたものかと頬を掻く。

 といってもこればかりは当人が落ち着くくらいしか解決策はないのでどうしようもないのだが。

 

 

「あー、とりあえず俺は着替えてくるから」

「はぁ・・・・・・、はぁ・・・・・・、はぁーい・・・・・・」

「ん・・・・・・、はぁ・・・・・・、分かり、ました・・・・・・」

 

 

 ひとまず、竜はパジャマから着替えるために和室から自分の部屋に向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜がパジャマから着替え終えてリビングに着くと、どうやら先ほどの状態から回復したらしいひめとみことの姿があった。

 2人は竜の姿を確認すると恥ずかしそうに顔を赤くして隠れてしまった。

 

 

「ご主人、この2人になにしたんや?」

「いや、ついなと同じように霊力をあげたらやり過ぎちゃったみたいで・・・・・・」

 

 

 竜の朝御飯を運んできたついなは隠れてしまった2人を指差しながら竜になにをしたのかを尋ねる。

 ついなの言葉に竜は和室で2人にしたことを簡単に説明した。

 竜の言葉についなは納得がいったのか、困ったような、呆れたような、なんとも言えない表情を浮かべながらうなずいた。

 

 

「まぁ、そんならしゃあないな。うちは慣れとるけど、この2人は初めてやったんやろ?」

「そうだな。・・・・・・と、いただきます」

 

 

 隠れてしまっている2人を見ながらついなは竜の前に朝御飯を並べていく。

 並べられた朝御飯はどれも湯気がたっており、出来立てであることがうかがえた。

 そして、並べられた朝御飯を前に竜は手を合わせる。

 

 

「うん。今日も旨いな」

「えへへへ、そう言ってもらえると作った甲斐があるっちゅうもんやね」

 

 

 おかずを口に運び、竜は味わうように噛み締める。

 

 ついなが朝御飯を作ってくれるようになってから毎日のように竜は“旨い”や“美味しい”といった言葉を口にしていた。

 そんなに頻繁に言う必要はないと思うかもしれないが、思っていることをキチンと言葉にして伝えるということはとても大事なことである。

 いくら自分がそう思っていようとも言葉にしなくては誰にも伝わることはない。

 なので、誰かとの関係を長く、良好に続けたいのであれば自分の思いをキチンと、相手に伝わるように言葉にするのが1番なのだ。

 

 まぁ、中には言葉ではなく態度で示したり、行動で示したりする人もいるので、一概に言葉だけが正解というわけではないのだが。

 その辺りは自分が1番やり易い方法で相手に自分の思いを伝えていくといいだろう。

 

 そして、いつものようについなは美味しそうに朝御飯を食べる竜のことを見ながら微笑むのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ついなの用意してくれた朝御飯も食べ終わり、竜は学校に行く準備をする。

 

 今日の授業に必要な教科書類の確認、教科書類以外で必要になりそうなものの確認、授業で提出する宿題をスクールバッグに入れているかの確認などなど。

 どれも昨日のうちに済ませてはおいたのだが、それでも念のために確認をしておく。

 

 

「忘れ物は・・・・・・、なさそうだな」

「ほな行こかー」

 

 

 荷物の確認を終えた竜はスクールバッグを手に持った。

 竜がスクールバッグを持ったのを確認したついなは竜の制服のポケットに慣れた様子で飛び込んだ。

 

 

「2人は一緒に歩いていくか?」

「えっと、うちらは自分たちで飛ぶから気にせんでよかよ」

 

 

 ひめとみことの2人も歩いて学校に向かうのかを竜が尋ねると、ひめは梅の木が植えられた植木鉢を指差しながら答えた。

 どうやら2人は来たときと同じように梅の木を介した移動を使うようだ。

 ひめの答えに竜は昨日の帰ったら家の中にいたひめとみことのことを思い出す。

 

 

「まぁ、それなら玄関の鍵は閉めていくから、開けないでくれよ?」

「分かったばい!」

 

 

 そして、竜は玄関の鍵を閉めて学校に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第252話



アンケートを締め切ります。

結果は東北ずん子となりました。

投票ありがとうございました。





 

 

 

 

 家から出た竜は向かいの家からちょうど出てきたあかりに手を振った。

 竜の姿を確認したあかりは嬉しそうに竜へと駆け寄る。

 

 

「竜先輩、おはようございます!」

「おう、おはよう」

 

 

 元気よく朝の挨拶をしてくるあかりに竜は手を上げて応えた。

 そして、あかりと合流してからしばらくすると茜、葵、ゆかりの3人もやってくる。

 これが竜たちのいつもの朝の光景で、慣れ親しんだ日常だった。

 

 いつもの5人全員が集まると、竜たちは誰かが言うこともなく学校に向かって歩き始める。

 歩きながら話す話題は美味しかった食べ物やゲーム、最近読んで面白いと思った漫画や小説などなど、多岐にわたっていた。

 

 そんな竜たちのことをひめとみことは竜の家から見送っていた。

 

 

「いってらっしゃーい!」

「さ、ボクたちも学校に戻らないけんね」

 

 

 学校に向かって歩いていく竜たちに向かってひめは手を振る。

 ひめの隣でみことはグッと背筋を伸ばすように伸びをした。

 

 

「その前に竜お兄さんの家に守りば張らんといけんよ」

「ああ、そういえばそうったいね。むしろあんな体質でよくいままで無事だったとも言えるばい」

 

 

 下駄箱の上に置かれている植木鉢の梅の木を介して移動しようとするみことの服を掴んでひめは言う。

 ひめの言葉にみことは思い出したと言うかのように手を叩いた。

 そして、2人は家から出て敷地内の角に向かっていく。

 

 

「あり?みことみこと、ここになんかあるばい」

「ん、本当やね。これは・・・・・・、術式?」

 

 

 1つ目の角に着いたひめはそこになにかがあることに気がつき、指を差してみことに教えた。

 ひめに言われ、みことは顔を近づけて何があるのかを確認する。

 

 そこにあったのはなにかの紋様が刻み込まれた正方形の小さな石だった。

 刻み込まれている紋様と、わずかに感じられる力から、この石がなにかの術に使われていることが分かる。

 

 

「もしかしたら他にもあるかもしれんね。ちょっと探してみるばい」

「いやな感じはせんから害はないとは思うっちゃけど、やっぱり気になるけんね」

 

 

 わざわざ敷地内の角にあった紋様の刻まれた石。

 角にあるということから他の場所にもあるのではないかとひめとみことは考える。

 そして、2人は竜の家の敷地の中を調べていった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「んーっと、全部で4つ?」

「そうったいね。この家の敷地の四角にあったばい」

 

 

 敷地内を調べ終え、最初に紋様を刻まれた石を見つけた場所に戻ったひめとみことはいくつ見つけたかを確認する。

 2人が見つけた紋様の刻まれた石の数は全部で4つ。

 それぞれ敷地内の四角に異なる紋様を刻まれて置かれていた。

 

 

「んで、この石がどんなものかは分かったと?」

「それはもちろん。どうやらこの石はどれも霊力に反応するみたいばい」

 

 

 目の前にある石を指差してみことはこの石がどういったものなのかを簡単に説明する。

 ひめとみことの見つけたこの石は、霊力に反応する性質があるようで、それぞれ刻まれている紋様によって異なる効果を持っているようだった。

 

 

「まぁ、簡単に言うとこの石とかはどれも竜さんを守るために置かれたものってことっちゃね」

「そうなんやね」

 

 

 みことの説明にひめは少しだけ、感心したようにうなずく。

 

 

「んむ?となるとうちらがわざわざ守りを張る必要はないったい?」

「そうかもしれんけど、あって損はなか」

 

 

 すでに竜を守るための術式が張られているのであれば自分たちが張る必要はないのではないか。

 そう考えたひめはコテンと首をかしげる。

 そんなひめの言葉にみことは石を見ながら答えた。

 

 

「それもそうっちゃね。そんならさっそく守りを張るったい」

「一応、ボクの方で先にあった術式に干渉しないように調節するったい」

 

 

 パチン、と大きくひめが手を叩くと地面から梅の木が生えていった。

 どうやらこれを使って竜のことを守る術式を張るつもりらしい。

 

 そして、ひめとみことによって竜の家に守りの術式が張られるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第253話

 

 

 

 

 土曜日の朝。

 

 普段であればまだ布団で横になってゴロゴロとしていて、ついなに思いっきり布団をひっぺがされて強制的に起こされている時間。

 そんな時間に竜は着替えを終わらせてリビングでコーヒーを飲んでいた。

 

 

「普段からこのくらいに起きていた方が健康的やと思うんやけどなぁ」

「いやぁ・・・・・・、ちゃんとした予定があるなら準備とかのために早起きはできるけどね・・・・・・」

 

 

 コーヒーを飲む竜についなはやや呆れたような視線を向ける。

 普段からもこのくらいの時間に起きていれば平日に学校に行くために起きるのもスムーズになり、休日だとしても布団でゴロゴロとしているよりも有意義に時間を使うことができるのではないか。

 別に竜のことを起こすことが嫌というわけではないのだが、それでも平日に布団でゴロゴロとしているのはあまり健康的ではないとついなは考えていた。

 

 

「っと、そろそろ時間か。ついな、悪いな今日は連れていけなくて」

「ううん。今日はあかりとの約束やろ?そんならしゃーないわ」

 

 

 時計を確認した竜は財布などの必要なものをまとめて玄関へと向かう。

 いつもなら竜のポケットか頭の上に小さくなったついなが移動するのだが、今日は小さくならずに玄関まで見送るだけとなっていた。

 見送りをするついなに竜は申し訳なさそうにしながら言う。

 

 そう。

 今日は以前にあかりと約束をして行くことができなかった遊園地に行くという約束を改めて果たすのだ。

 そのため、ついなは着いていかずに竜とあかりの2人だけで出掛けるのを見送っているのだ。

 本音を言うならついなも着いては行きたかったのだが、あかりから直々にお願いをされてしまったのだから仕方なく家で待つことにしていた。

 

 

「それじゃあ、いってきます。なにかお土産になりそうなものがあったら買って帰ってくるからな」

「そんなに気にせんでもええよ?気ぃつけてなぁ」

 

 

 靴を履き終え、竜はヒラヒラと手を振って玄関を出た。

 竜の言葉についなも手を振って答えるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 家から出た竜はそのまま向かいにあるあかりの家へと向かう。

 そこは女の子と2人で出掛けるのだからどこかで待ち合わせかなにかをするのではないかと思うかもしれないが、できる限り竜と早く会って一緒にいたいというあかりの考えから家で集まってから遊園地に向かうということになったのだ。

 

 

「竜先輩、おはようございます!」

「お、おう・・・・・・。おは・・・・・・よう」

 

 

 竜があかりの家のインターホンを鳴らすと、少ししてから玄関を開けてあかりが姿を現した。

 元気よく話しかけて来たあかりに竜は少しだけ驚く。

 そして、あかりの姿を見て竜は思わず言葉に詰まってしまった。

 

 それは別にあかりの姿がクソださいだとかそういうことではない。

 むしろとても可愛らしく、普段の格好とはまた違った魅力を放っていたのだ。

 

 竜が言葉に詰まったことに気がついたあかりは不思議そうに首をかしげる。

 

 

「どうかしましたか?」

「いや、その・・・・・・。なんでもない」

 

 

 竜の様子にどこか違和感を感じたあかりが尋ねるも、竜は頬を掻きながら適当に誤魔化す。

 竜の答えにあかりは首をかしげることしかできなかった。

 

 

「と、とにかく遊園地に向かうとするか」

「まぁ、そうですね。それではこちらの車に乗ってください」

 

 

 あかりの視線を受けながら竜は話題を変えるために遊園地に向かおうと提案する。

 竜の言葉にあかりはいつの間にか用意されていた車を指し示す。

 運転席には普段あかりの護衛をしているであろう人が乗っており、どうやらその護衛の人が運転をするようだ。

 

 そして、竜とあかりを乗せた車はエンジンを鳴らして走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜たちを乗せた車が走り出した後。

 

 少し離れた電信柱の影に複数の影がいたことに竜たちが気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第254話


マリオの方のお気に入り登録者数に並びそうで驚いています。

登録していただいている方には感謝しかありません。


ずん子ってまだ竜とそこまで関わってないんですよねぇ・・・・・・

番外話どうしよう・・・・・・


少しだけ後半部分を修正いたしました。



 

 

 

 

 あかりの護衛である黒服の人の運転する車に乗って竜とあかりは遊園地へと向かう。

 やはり紲星グループという大きな会社の家というだけあってか、走っている車のはずなのに振動やエンジン音といったものがほとんど感じられなかった。

 かなり快適な車内ということもあって竜はキョロキョロと車内を見ていた。

 

 

「どうかしましたか?」

「いや、いままでに乗ってきたどの車よりも快適で驚いてな」

 

 

 不思議そうに尋ねるあかりの言葉に竜はキョロキョロと車内を見ていたことを少しだけ恥ずかしそうにしながら答えた。

 竜の答えにあかりはキョトンと首をかしげる。

 

 

「・・・・・・車ってどれもこんな感じじゃないんですか?」

「え?」

「え?」

 

 

 あかりの言葉に竜が驚くと、あかりも同じように驚いたような表情になる。

 

 まぁ、あかりがそう思ってしまうのも仕方がない理由がある。

 あかりは生まれてからこれまでいま乗っている車と同じようなランクの車にしか乗ったことがないのだ。

 小学校などのイベントでバスなどに乗るのではないかと思われるかもしれないが、そういったイベントのときはあかりの父親が学校に根回しをして使用するバスなどのランクを上げていたのだった。

 それに加えてタクシーなども利用することはないので一般的な車がどのくらいのものなのかを知る機会がなかったのだ。

 

 ちなみに、マキの父親に車で送ってもらったのではないかと思うかもしれないが、マキの父親も家族には快適に車に乗って欲しいという思いからかなり良い車に乗っているので、そういった点からもあかりが一般的な車を知る機会がなかったとも言える。

 

 

「・・・・・・うん。まぁ、一般的な車にあかりが乗ることはほとんどないだろうから気にしなくて良いな」

「そんなに違うんですか?」

「まぁな」

 

 

 よくよく考えればあかりがいま乗っているランクの車よりも下のランクのものに乗る機会などほとんどないだろうと竜は考え、ヒラヒラと手を振りながら呟いた。

 竜の言葉をよく分かっていないあかりは首をかしげながら竜に尋ねる。

 はっきりと言って、この車に乗ってしまえば他の車は少し乗りたくないと思ってしまうほどに快適なのだ。

 それをわざわざ教える必要もないだろうと竜は考え、簡単に答えるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「みゅみゃぅ、みゅー!」

「ぎゅんぎゅーん!」

「セヤナー」

「ダヨネー」

 

 

 2つのややいびつな影が動く。

 その2つの影をよく見てみればそれぞれがなにか2つのものが重なっている影なのだということが分かるだろう。

 

 

「ぎゅぎゅぎゅん、ぎゅんぎゅーん?」

「みゅう・・・・・・。みゅーみゅみゅ!」

「アッチヤネー」

「オ姉チャン、重イー・・・・・・」

 

 

 頭部から生えているアホ毛のようなものを回転させて空を飛ぶ黄色の毛玉に、2本のやや大きな前足を持った猫のような紫色の生き物がしがみついている。

 その隣では布のようにヒラヒラとした青い生き物?が、ピンク色のスライムのような生き物を掴んで飛んでいた。

 

 黄色の毛玉────“けだまきまき”と紫色の猫のような生き物────“みゅかりさん”がなにかを探すようにキョロキョロと周囲を見ていると、ピンク色のスライムのような生き物が触手を伸ばして一台の車を指し示した。

 ピンク色のスライムのような生き物が指し示した車を確認したけだまきまきとみゅかりさんは嬉しそうに鳴き声をあげる。

 嬉しそうにしている3匹を他所に、布のような青い生き物はポツリと呟いていた。

 

 そして、ピンク色のスライムのような生き物が指し示した車のことを追いかけるようにけだまきまきと布のような青い生き物は飛んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




念のためのボイロクリーチャー情報

・みゅかりさん
紫色の1頭身の猫のような生き物
2本の前足のようなものが生えており、それを使って物を掴んだりゲームをしたりすることができる。

・けだまきまき
黄色の毛玉
“cafe MAKI”にいた毛玉ということで竜が名前をつけた。

・????
ピンク色のスライム
やや聞き取りにくいが会話をすることが可能で、触手を伸ばして細かい作業をしたりすることもできる。
まだ竜とは出会っていない。

・????
青色の布のようなクラゲ
????と同じく会話をすることが可能。
クラゲではあるものの水の中ではなく空中を泳ぐ。
まだ竜とは出会っていない。





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第255話

 

 

 

 

 車に揺られて・・・・・・、いや、揺れるほどの振動を感じさせない車なのでその表現は間違いか。

 あかりの護衛である黒服の人の運転する車に乗ってしばらくして、竜とあかりはかなり大きな遊園地に到着した。

 

 黒服の人は車を置いた後はあかりの護衛に戻るようで、遊園地の入り口付近で竜とあかりを下ろした後に頭を下げて駐車場に向かっていった。

 

 

「ここの遊園地か。名前は知っていたけど来たことはなかったな」

「そうなんですね。なら竜先輩の初めての“ヴァーチャルランド”を楽しみましょうか!」

 

 

 遊園地“ヴァーチャルランド”の入り口の門を見上げながら竜はここに初めて来たことを呟く。

 “ヴァーチャルランド”はその名の通りVR、つまりはヴァーチャルリアリティを売りにしている遊園地で、園内のアトラクションはすべてVRと組み合わさっており、そのどれもがとても人気なのだ。

 

 竜の呟きが聞こえたあかりは竜の腕を引いて入り口である門に向かっていった。

 

 

「学生2人でお願いします」

「こ、これは紲星さま!こちらのリングを腕に着けていただければ大丈夫ですので!」

 

 

 竜が門やその周りをキョロキョロと見ていると、いつの間にかあかりが入り口の受け付けで2つのリングを受け取っていた。

 どうやら受付の職員の反応から紲星グループがなにやら関係ありそうだが、門などを見ていた竜は気づいていなかった。

 

 

「竜先輩、このリングを着けたら“ヴァーチャルランド”に入れますよ」

「あ、すまん。周りを見ててうっかりしてた。金額はいくらだったんだ?」

 

 

 あかりから渡されたリングを受け取り、竜は財布を取り出す。

 竜よりもあかりの方がお金を持っているということはハッキリとしているのだが、それでも後輩の女の子に払ってもらうというのは気が引けるのだ。

 

 

「あ、大丈夫ですよ。“ヴァーチャルランド(ここ)”って紲星グループ(うち)の系列なので私と一緒ならお金を払う必要がないんです」

「そう、なのか・・・・・・」

 

 

 普通ならいくら運営している親会社の令嬢が来たからといってお金を払う必要がないということはないだろう。

 しかし、紲星グループはそれができてしまう。

 このことからも紲星グループが改めてかなり大きな会社だということがうかがえた。

 

 あかりから聞いたお金を払う必要がないという事実に竜は驚きつつ、少しばかり申し訳なさを感じて入り口を通る際に受付の方に向かって小さく頭を下げるのだった。

 

 

「さて、それじゃあどのアトラクションに行きますか?」

「そうだなぁ、さっき入り口でもらったパンフレットを見るとどれも面白そうだしな・・・・・・」

 

 

 入り口を通り抜け、あかりはどのアトラクションに行くかを竜に尋ねる。

 あかりの言葉に竜は入り口を通る際にスタッフからもらったパンフレットを広げて中を見る。

 

 遊園地の定番とも言えるジェットコースターやお化け屋敷、観覧車があるのは当然として、VRを使ったシューティングゲームや、リズムゲームなんかもあるようだ。

 アトラクションの種類はとても多く、適当に遊んでいくのではすべてを回りきるのはほぼ不可能と言えるだろう。

 

 

「なんでしたら今日は私がオススメするアトラクションを回りましょうか?」

「んー、それも助かるといえば助かるんだが、それだと一緒に遊んでるんじゃなくて案内みたいになっちゃうからな。だからあかりのオススメを回りつつ、俺も気になるやつがあったら言うようにするよ」

 

 

 竜は“ヴァーチャルランド”に来たのは初めてということで、どのアトラクションがどんなものなのかはほとんど分からない状態。

 そのことを理解したあかりは自分がオススメするアトラクションを回るか提案をする。

 その際に『今日は』と言っている辺り次も来ようとしていることがうかがえた。

 

 あかりの言葉に竜は少しだけ考え、答えた。

 確かにあかりのオススメのアトラクションを乗っていけば悩んだりすることなく楽しむことはできるだろう。

 しかし、それではあかりに案内をしてもらっているようなもので、一緒に遊ぶというのとは違うのではないかと竜は考えたのだ。

 

 竜の言葉にあかりは少しだけ驚いたような表情を浮かべ、すぐに嬉しそうにうなずくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第256話




“ヴァーチャルランド”の元ネタにしているのは有名なあの遊園地です。





 

 

 

 

 竜とあかりが“ヴァーチャルランド”の中に入ってしばらくしたあと。

 “ヴァーチャルランド”の入り口の門の上に4つの影が降り立った。

 

 

「ぎゅぎゅん?」

「みゅあぅ・・・・・・」

「忍ビ込ムー?」

「ソレハ犯罪ー」

 

 

 門の上から“ヴァーチャルランド”の中を眺めながら4匹は相談するかのように鳴き声をあげる。

 どうやら“ヴァーチャルランド”の中に入りたいようだが、お金を払わずに忍び込むことは悪いことだと認識しているようだった。

 

 

「ぎゅん!ぎゅんぎゅぎゅぎゅーん!」

「みゅぅ・・・・・・。みゅーみゅみゅ」

「シャーナイナー」

「ソレシカナイネー」

 

 

 コテンと首をかしげていたけだまきまきが不意になにか提案をしたのか、みゅかりさんたちはコクリとうなずいた。

 そして、4匹は向かい合ってそれぞれの手やそれに類似している部位を出す。

 

 

「ぎゅんぎゅん!」

「みゅみゅあぅ!」

「ジャーンケーン!」

「ポンー!」

 

 

 けだまきまきは頭部から生えているアホ毛のようなものを、みゅかりさんは前足を、ピンク色のスライムのような生き物は触手を、青色の布のような生き物は自分の体の端の部分を使ってじゃんけんを始めた。

 けだまきまきと青色の布のような生き物はじゃんけんができないのではないかと思うかもしれないが、意外なことに器用に広げる大きさなどを調節してグーチョキパーを表現していた。

 

 

「ぎゅんぎゅぎゅー、ぎゅーん!」

「みゅーいぃぃぃ・・・・・・」

「ウチトミュカリンカー・・・・・・」

「オ願イネー」

 

 

 どうやら熾烈なじゃんけんの勝負に勝利したのはけだまきまきと青色の布のような生き物のようで、嬉しそうに鳴き声をあげていた。

 嬉しそうな2匹とは対照的にみゅかりさんとピンク色のスライムのような生き物はガックリと落ち込んだ様子を見せていた。

 そして、じゃんけんを終えた4匹は門の上から降りて少し離れたところにある物陰に消えていくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 “ヴァーチャルランド”の園内。

 竜とあかりは最初にあかりのオススメするアトラクションに乗るために移動していた。

 

 

「やっぱり遊園地と言ったらジェットコースターは外せないと思うんですよね」

「わかる。乗っておかないとなんか物足りない感があるよな」

 

 

 竜とあかりの会話から分かるように、2人はいまジェットコースターに向かって移動している。

 異論はあるかもしれないが、ジェットコースターは遊園地においてもっとも人気のあるアトラクションであり、乗らないという人はほとんどいないのではないだろうか。

 

 

「まぁ、やっぱりけっこう並んでいるよな」

 

 

 アトラクションの入り口近くに着いた竜とあかりの前に広がっているのは順番待ちで並んでいる人たちの姿。

 入り口近くと言っていることから分かるように、順番待ちで並んでいる人たちは入り口から外にまで並んでおり、このアトラクションがかなり人気なことが分かる。

 アトラクションの入り口にはどのくらいの時間を待たなくてはいけないのかが分かるように看板が置かれており、そこには『おおよそ1時間待ち』という文字が書かれていた。

 

 

「こりゃあすぐには乗れなさそう、か」

「すごいですよねー」

 

 

 並んでいる人たちの多さに竜は困ったように頬を掻く。

 どちらにしても並ばなくてはアトラクションに乗れないので、竜は並んでいる人たちの最後尾に向かおうとする。

 

 

「あ、竜先輩、大丈夫ですよ」

「え?」

 

 

 並んでいる人たちの最後尾に向かおうとしていた竜の腕を掴み、あかりは入り口の方へと向かっていった。

 

 このアトラクションに乗るのであれば並ばなくてはいけないのではないか。

 迷いなくアトラクションの入り口に向かうあかりの姿に竜は首をかしげる。

 

 

「すみません。お願いしますね」

「これは!はい、確認いたしました!こちらへどうぞ!」

「ええぇ・・・・・・」

 

 

 “ヴァーチャルランド”ではどのアトラクションの入り口にもスタッフがおり、そのスタッフにあかりは自分と竜の腕に着けてあるリングを見せた。

 あかりと竜の腕に着いているリングを確認したスタッフは驚いた表情を浮かべると、すぐに専用の入り口らしき場所を開放して2人を迎え入れる。

 

 順番待ちすらしないで済むという事実に竜はただただ困惑することしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第257話

 

 

 

 

 “ヴァーチャルランド”で人気のアトラクションの1つ、ジェットコースターの“グレートエレキファイアーマウンテン”。

 これは2つの大きな山を凄まじい速さで昇ったり降ったりするジェットコースターで、走っている最中にVRによるとてもリアルな壁を突き抜けたり、巨大な落石から逃げたりととてもスリルのあるアトラクションである。

 

 ちなみに、“グレートエレキファイアーマウンテン”の隣には子どもや絶叫系が得意ではない人用に“パープルキャットリトルマウンテン”という、2つのほぼ平地と呼べるような山をゆったりと走りながらVRを楽しむことのできるアトラクションもあったりする。

 

 

「ちゃんと並んでいる人たちには悪いと思うが・・・・・・。まぁ、ありがたく享受させてもらうか」

 

 

 先を歩くあかりの後を追いながら竜は小さく呟く。

 ちらりと竜が横に視線を向けると、そこには“グレートエレキファイアーマウンテン”に乗るために並んでいる人たちがいる。

 彼らがこのアトラクションに乗るためにどれくらい並んでいるのかは分からないが、自分とあかりは並んで待つことなくこのアトラクションに乗れてしまう。

 そのことに竜は少しだけ申し訳なさを感じつつも、それと同じくらいに優越感を感じてしまっていた。

 

 

「それにしても・・・・・・、入り口の外にも並んでいるとは思ったが中でもかなりの長さで並んでいるんだな」

「逆に言うと中で並んでいるから外での列があれくらいで済んでいるとも言えますよ?」

 

 

 延々と続いているのではないかと思えるほどに並んでいる人たちの量に竜は驚き混じりの声で呟いた。

 このアトラクションの入り口の時点でもそこそこ並んでいるように思えたのだが、入り口の中に入ると外以上に人が並んでおり、それが竜にはとても驚くべきことだった。

 竜の呟きにあかりは、アトラクションの中にこれだけ並んでいる人たちがいるからこそアトラクションの外が進行の邪魔にならない程度の列で済んでいるのではないかと言う。

 

 

「それよりも竜先輩、乗るところに着きましたよ。ついさっき走り出したみたいなんで私たちが乗るのは次ですね」

「へえ、乗るところはなんて言うか遺跡みたいな感じなんだな」

 

 

 竜とあかりが会話をしているといつの間にか2人はジェットコースターに乗るところに着いていた。

 どうやら2人が着く少し前に走り出してしまったようで、コースターの姿はそこにはなかった。

 

 自分たちが乗るのがまだ少し先なのだと聞き、竜はキョロキョロと周囲を見渡す。

 本当に石でできているのか、はたまた石に見えるように加工した別の素材なのかは分からないが、上の方から差し込む光とデコボコとした質感をした壁や石柱。

 それらが合わさってコースターへの乗り場は遺跡のような雰囲気を醸し出していた。

 

 キョロキョロと乗り場を見回す竜の姿にあかりは微笑ましそうに笑みを浮かべているのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 黄色の毛玉を抱き抱えた少女と、青色の布のようなものを頭に乗せた少女が“ヴァーチャルランド”の中を歩いている。

 2人の少女はどこか落ち込んでいるように見え、その足取りもどこか重そうに見えた。

 

 

「ぎゅーん!ぎゅーん!」

「くっ・・・・・・、あそこで負けなければ逆の立場だったはずでした・・・・・・」

「後悔シテモナンノ意味モナイー」

「なー、うちお腹空いてきたんやけどー・・・・・・」

 

 

 抱き抱えている毛玉から聞こえてくる鳴き声に少女は悔しそうな声をあげる。

 そんな少女にもう1人の少女の頭の上に乗っている青色の布のようなものから声が投げ掛けられた。

 青色の布のようなものからかけられた言葉に少女はガックリと肩を落とし、もう1人の少女は近くにある飲食物を見ているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第258話



お気に入りが増えてかなり嬉しいです。

感想も待っておりますので、気軽に書いてくださいね。






 

 

 

 

 風を切る音が耳に届き、それと同時に自分の体が風を突き抜けていく感覚を竜とあかりは感じている。

 いま、2人は“グレートエレキファイアーマウンテン”のコースターの1番前の席に座って風になっていた。

 

 

「おおおおおおーーーーーっっっ!!」

「わあああああーーーーーっっっ!!」

 

 

 ときに目の前にいきなり現れる壁をコースターが突き破り、ときに左右に立っている石像の腕が動いて石剣が振り下ろされる。

 さらには後方から巨大な岩が転がってきたり、山が噴火して燃え盛る岩が降り注いできたり、とさまざまなハラハラドキドキとさせてくる要素に竜とあかりは楽しそうに声をあげていた。

 “グレートエレキファイアーマウンテン”のコースターに乗る前にVRを使用していることは知っていたのだが、それでもあまりにもリアルな質感の壁や、熱さを感じてしまいそうなほどにリアルな燃え盛る岩などかなりの驚きに満ちていた。

 

 

「・・・・・・っはぁ~、VRだって分かってても驚くし面白かったな」

「ですよね!この面白さがあるからこそ私はいつも“グレートエレキファイアーマウンテン”は必ず乗るようにしているんです!」

 

 

 “グレートエレキファイアーマウンテン”の出口、竜とあかりは興奮冷めやらぬといった様子でアトラクションの中から出てきた。

 2人が話しているのは当然ながら“グレートエレキファイアーマウンテン”に乗った感想。

 

 まだ1つ目のアトラクションだというのに2人のテンションはかなり上がってきていた。

 

 

「っと、次のアトラクションに移動しながら話すか」

「そうですね。私が次にオススメするのはシューティングゲームの“グリーンビーンズMOTIアーチェリー”ですけど。竜先輩は気になるものはありますか?」

 

 

 自分たちの後ろから他の人たちが出てきたことに気がついた竜は邪魔にならないように次に乗るアトラクションに移動しながら話そうと提案する。

 竜の言葉にあかりはうなずき、次にオススメしたいアトラクションの名前を挙げた。

 

 ちなみに、どうでも良いことだが“グリーンビーンズ”とは枝豆のことである。

 

 

「そうだな・・・・・・。この“フォックストーク”?ってやつが少し気になるかな。アトラクションの名前的にキツネと話すのかなとは思うんだが」

「ああ、そのアトラクションですね。でしたらそっちに行きましょうか」

 

 

 あかりの言葉に竜はパンフレットをあらためて見て気になったアトラクションの名前を言う。

 竜が気になっている“フォックストーク”というアトラクションは、動物の言葉が分かるようになるという特殊なマイクを使って森にいるキツネと会話をするというアトラクションだ。

 ちなみにキツネ以外にもかなりしゃべるリスや、のんびり屋のクマなんかも出てきたりする。

 

 竜の言葉にあかりはうなずき、“フォックストーク”のアトラクションへと竜のことを案内するのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「どこにいるんでしょうね?」

「ぎゅぎゅん・・・・・・」

 

 

 周囲をキョロキョロと見回しながら少女は首をかしげる。

 少女はどうやら誰かを探しているようで、少女の言葉に同意するように抱き抱えられているけだまきまきも鳴き声をあげた。

 

 

「おーい、チュロス()うてきたでー!」

「プレーン、ストロベリー、シナモン、チョコレート・・・・・・。ドレモオイシソー」

 

 

 首をかしげていた少女のもとにもう1人の少女がなん本かのチュロスを手に持ちながら駆け寄ってきた。

 チュロスを持った少女の頭の上で青色の布のような生き物は、どうやら買ったチュロスの味を言っているようだった。

 

 

「ありがとうございます。では、私はストロベリーを・・・・・・」

「オッケーや。んで、どないする?2人のことを見失ってしもうたし・・・・・・」

 

 

 買ってきたチュロスを1本渡しながら少女はどうするかを尋ねる。

 “ヴァーチャルランド”の敷地はかなり広く、ここでやみくもに動いたとしても探し人を見つけることはほぼ不可能と言えるだろう。

 

 少女の言葉にもう1人の少女はチュロスを食べることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第259話

 

 

 

 

 “フォックストーク”をはじめ、“グリーンビーンズMOTIアーチェリー”や他にもいくつかのアトラクションを楽しんだ竜とあかりはお昼ごはんを食べるためにレストランに来ていた。

 なお、レストランに向かう前にあかりは近くにいたスタッフにどこのレストランに行けば良いかを確認しており、今現在2人のいるレストランは完全に貸し切りの状態となっていた。

 2人のために貸し切りにしてしまっては売り上げがでないのではないかと思われるかもしれないが、あかりがどこかのレストランに入った時点でその店の1日の売り上げに相当する分の金額が“紲星グループ”から支払われるため、基本的にマイナスになることはないのだ。

 

 

「ここは・・・・・・、不思議の国のアリスがモチーフになっているのか」

「はい。まぁ、遊園地のレストランのモチーフとしてはややありきたりな感じもありますけどね」

 

 

 レストランの壁に貼られているトランプのマークや、入り口にいた時計を持ったウサギに天井近くでニヤニヤと笑みを浮かべているネコなどの飾りから竜はこのレストランが不思議の国のアリスをモチーフにしているのではないかと考えた。

 竜の言葉にあかりはうなずいて竜の考えが当たっていることを肯定する。

 

 そして、あかりは店員を呼んだ。

 

 

「すみません。とりあえずこのページに載っているものをお願いします。竜先輩は何にしますか?」

「んーっと、俺はこの“レッドクイーンスパゲティ”と“ワンダーランドデザート”っていうやつにするよ」

「注文承りました。こちらのページの料理と“レッドクイーンスパゲティ”と“ワンダーランドデザート”ですね。でき次第お持ちしますので少々お待ちください」

 

 

 しれっとあかりが開いたメニューのページに載っているものすべてを頼んでいるが、特に誰かが驚くこともなく注文が済まされていった。

 竜があかりの注文に驚かないのは慣れているからの一言で済んでしまうのだが、どうやらそれはこのレストランも同じだったようで、むしろお互いに驚いている様子がなかったことに少しだけ意外そうな表情を浮かべていたくらいだった。

 

 注文を確認した店員はペコリと頭を下げると、そのままキッチンの方へと向かっていく。

 キッチンへと向かっていく店員を見ながら、“cafe MAKI”でバイトをしている竜はバイトをしているときの自分とは比べ物にならないほどに洗練されている店員の所作に尊敬の念を抱くのだった。

 

 

「お昼を食べ終わったらどのアトラクションに行くか」

「そうですねぇ。午前中は比較的激し目なアトラクションが多かったですし、午後はのんびりとしたアトラクションを回ってみましょうか」

 

 

 竜とあかりが午前中に回ったアトラクションは最初に乗った“グレートエレキファイアーマウンテン”と同じようにいわゆる絶叫系に位置するアトラクションが多かった。

 一応、“フォックストーク”や“グリーンビーンズMOTIアーチェリー”などそこまで激しくないアトラクションも回ってはいたのだが、それでも比率で見れば激し目のアトラクションの方が多いのだ。

 

 たしかに絶叫系はとても楽しいのだが、それと同じくらいに疲労も知らず知らずのうちに溜まってしまう。

 そのため、楽しく遊園地を遊びたいなら絶叫系ばかりではなくときどき落ち着いた種類のアトラクションに乗って体を休めたりした方が遊園地を楽しむことができるだろう。

 

 

「そうだな。のんびり系ってどんなのがあったかな・・・・・・」

「えっと、この川下りのやつとかはスピードもゆっくりで周囲を見渡すこともできますよ」

 

 

 “ヴァーチャルランド”ののんびり系のアトラクションはどんなものがあるのかが気になり、竜はパンフレットを開いて調べてみる。

 竜の開いたパンフレットを横から覗き込みながらあかりはのんびりできる種類のアトラクションを説明していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第260話

 

 

 

 

 お昼ご飯を食べ終えたらどのアトラクションに行くのかを竜とあかりが話していると、注文した料理が運ばれてきた。

 当然のことだが、全部を作るのに時間がかかるあかりの料理の方が先に運ばれてきており、竜の料理が運ばれてくるのはもう少し先のことになるだろう。

 

 

「へぇ、どれも旨そうだな」

 

 

 テーブルの上に並べられた料理を見て竜は呟く。

 

 美味しそうな焼き加減でちょうどよい焦げ目のお肉。

 いくつかの種類の海鮮が一口大にカットされてご飯と一緒にパラッと炒められているチャーハン。

 野菜やウインナーが食べやすい大きさに刻まれて黄金色のスープに揺れているポトフ。

 

 運ばれてきている料理はどれも見ただけで美味しいだろうということが分かるほどに美味しそうだった。

 さらに竜の鼻をくすぐるのは並べられた料理から届く香り。

 料理の見た目と鼻に届く香りが合わさることによって竜のお腹は空腹を主張してきていた。

 

 

「もちろん美味しいですよ。なんでしたら少し分けましょうか?」

「良いのか?なら少しだけもらおうかな」

 

 

 竜の言葉にあかりは頬に指を当てて少し考えたかと思うと、竜に少しだけ食べるか尋ねた。

 あかりが料理を少し分けてくれるということに竜は少しだけ驚きつつ、本当にもらっても良いのか確認をとる。

 

 自分の発言で竜が少しだけ驚いているということにあかりは気づき、むぅ、と頬を膨らませる。

 たしかにあかりは普段、自分の食事の量的に誰かに分けるということはほとんどしないのだが、それでもこういった所では誰かと料理を分けたりする楽しみもあることをあかりは知っている。

 とはいえ、結局は普段の自分のおこないの結果なので、特に文句などを言うことはなかった。

 

 

「んむ・・・・・・。うんま・・・・・・!」

「そうですよねそうですよね!なんてったってこのお肉はこのレストランの目玉メニューですから!」

 

 

 あかりから分けてもらったお肉を口に運び、竜は思わずといった様子でお肉を食べた感想を言う。

 料理の美味しさに驚く竜の姿にあかりは嬉しそうに微笑んだ。

 どうやら自分が美味しいと思っているものを竜も美味しいと思ってくれたことが嬉しいらしい。

 

 

「っと、俺の注文した料理も来たか」

「たしか注文したのは“レッドクイーンスパゲティ”と“ワンダーランドデザート”でしたよね」

 

 

 店員が運んでくるあかりの料理とは別に、スパゲティが竜の前に置かれた。

 スパゲティは全体的に赤く染まっており、ほのかに酸味のある香りもしている。

 “レッドクイーンスパゲティ”という名前でどんなスパゲティなのかは不明だったが、見た目と香り、そして入っている具材から“レッドクイーンスパゲティ”がナポリタンだということが分かった。

 

 “ワンダーランドデザート”はまだ届いていないのでどんなデザートなのかは不明だが、それでもこれまでに運ばれてきた料理から“ワンダーランドデザート”も同じくらいに美味しそうなのだろうということは推測できた。

 

 

「それじゃあ、俺も自分の料理が届いたことだし、食べはじめるか」

「そうですね。あ、でももしも気になる料理があったら言ってくださいね?」

 

 

 自分の前に置かれた“レッドクイーンスパゲティ”を見て、お昼ごはんを食べはじめた。

 そんな竜の姿にあかりは食べたい料理があったら言って欲しいと言い、お昼ごはんを食べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第261話



なんというかいまいちうまく書けていない気が・・・・・・




 

 

 

 

 運ばれてきた料理を食べつつ、竜とあかりは会話をする。

 お昼ごはんを食べ終わったあとにどんなアトラクションに乗るかはざっくりと決まっており、2人はこれまでに乗ってきたアトラクションについて会話をしていた。

 

 

「にしても、“フォックストーク”で俺が選ばれたのは驚いたなぁ」

「そうですよね。えっと『山と海のどっちが好き?』って聞かれたんですよね?」

 

 

 竜は“レッドクイーンスパゲティ”を食べながら“フォックストーク”で声をかけられたことを思い出す。

 竜の言葉にあかりは“フォックストーク”で竜が聞かれたことを思い出して確認する。

 

 竜が“フォックストーク”でキツネに聞かれたのは『山と海のどっちが好き?』というありきたりな質問だった。

 

 

「そうだな。俺はどっちかって言うと山の方が好きだったから山って答えたんだが・・・・・・。まさか、画面にキツネが飛びついてくるとは思わなかったな」

「あはは・・・・・・。あれにはスタッフさんも驚いていましたもんね」

 

 

 そう。

 竜がキツネの質問に山と答えるとキツネは嬉しかったのか大きくジャンプして目の前の画面に飛びついてきたのだ。

 しかも飛びついた勢いが強すぎたのか、大きく画面が揺れるおまけ付きである。

 

 キツネの動きに他のお客さんたちは驚きつつも笑っていたのだが、あかりは周囲にいたスタッフも一緒になって驚いていることに気がついていた。

 

 

「あとはアトラクションから出るとき最後まで手を振ってたのも可愛かったよな」

「ですね。私と竜先輩が最後に手を振ったら思いっきり手をブンブンと振ってましたし」

 

 

 アトラクションが終わって出口に向かう際、“フォックストーク”に出てきたすべての動物たちが現れて手を振りながら見送りをしてくれていたのだ。

 その時に他のお客さんたちも手を振ったりしていたのだが、なぜか竜とあかり、特に竜が手を振ったときにはすべての動物たちが嬉しそうに手を振ったり跳び跳ねたりしていた。

 そのときの光景を思い出したのか、竜は思わず笑みをこぼす。

 

 

「あー、あと“グリーンビーンズMOTIアーチェリー”ではそこそこにしか当てられなかったな。弓ってやっぱ難しいわ」

「シューティングゲームで弓を使うっていうのは珍しいですよね」

 

 

 次に話し始めたのは“フォックストーク”の次に行った“グリーンビーンズMOTIアーチェリー”で遊んだときのこと。

 “グリーンビーンズMOTIアーチェリー”は普通のシューティングゲームとは違い、弓を使って的を狙うという一風変わったシューティングゲームとなっていた。

 ちなみに、的に矢が当たると当たった証明として的がずんだ餅に変化する。

 

 そのため、普通の銃で狙うタイプのシューティングゲームとは違い、的を狙うのがじゃっかんではあるが難しいのだ。

 

 

「当てられたのは後半からだったしな。そのわりにはあかりはけっこう当ててたみたいだったけど」

「ええ、私は色々と習い事とかをしていましたからね。護身術とかの関係で弓も多少は心得があるんですよ」

 

 

 銃とは違いまっすぐに飛ばない弓の扱いに慣れるまで竜はほとんど的に当てることができなかったのだが、なぜかあかりはほとんどの矢を的に当てることができていた。

 そのことを竜が聞くと、あかりはその理由を習い事をしていたからだと答える。

 まぁ、護身術などの習い事をしていたとしても弓の扱いまで習っているのはいささか普通ではないようにも思えるのだが。

 

 

「護身術・・・・・・。護身術かぁ・・・・・・」

「はい」

 

 

 あかりの答えに竜はハテナマークを頭の中に浮かべながら答えることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第262話

 

 

 

 

 午前中に楽しんできたアトラクションの話や、あかりの習得している謎の護身術の話をしながらお昼ごはんを食べ進めていくといつの間にかテーブルの上に運ばれてきていた料理のほとんどがなくなっていた。

 会話を楽しんでいたというのもあったが、それと同じくらいに料理が美味しくて意識していなくても食べ進めてしまっていたのだ。

 

 

「少しずつあかりの頼んだ料理も食べさせてもらったけど、どれも美味しかったな」

「喜んでもらえてよかったです。あとはデザートですね」

 

 

 空になった皿を簡単にまとめながら竜は自分のお腹を軽く叩く。

 あかりから少しずつ分けてもらっただけなのにそんなに満腹になるのかと不思議に思うかもしれないが、これにはきちんと理由がある。

 

 少しずつあかりの料理を分けてもらったといってもあかりの頼んだ料理の量はかなりのもので、1つの料理から少しずつだとしても量が集まればそれはぜんぜん少しじゃなくなるのだ。

 

 

「デザートは“ワンダーランドデザート”だったか。名前から考えるとやっぱり不思議の国のアリスなんだよな。まぁ、それは他の料理の名前もそうだったけど」

「ふふふふ、どんなデザートかは届いてからのお楽しみですよ」

 

 

 “ワンダーランドデザート”

 その名前をそのまま考えるのなら不思議の国のデザートと言ったところだろうか。

 レストランのモチーフとなっているのが不思議の国のアリスなため、それ自体は別におかしいというわけではないが、それでも他のメニューの名前と比べてどんなデザートなのかを想像しづらくはあった。

 

 そして、竜がどんなデザートなのかを考えていると、店員が竜とあかりのデザートを運んできた。

 

 

「こちら、“ワンダーランドデザート”と“マーチラビットテイル”“マッドハットパフェ”“スリーピングマウスドルチェ”“レッドチェリークイーンパイ”となります」

「へぇ、トランプのハート、スペード、ダイヤ、クラブの形をした4種類のケーキなのか」

「そうなんですよ。しかもちゃんと全部味が違うんですよ」

 

 

 竜の前に置かれたのは赤いハート、黒いスペード、オレンジ色のダイヤ、緑色のクラブの形をした4つのケーキだった。

 とても可愛らしい見た目のケーキに竜は嬉しそうな声をあげる。

 

 そして、竜の前に“ワンダーランドデザート”が置かれた後に、あかりの前に4種類のデザートが置かれていった。

 

 白くてふわふわとした見た目の、丸くてまるでウサギの尻尾のような形をしたケーキ“マーチラビットテイル”

 

 赤色のベリージャムと茶色のチョコレートソースがかけられた帽子の形のチョコの乗ったパフェ“マッドハットパフェ”

 

 半分に割れたティーポットのような皿に寝ているネズミ(ヤマネ)をイメージするようなティラミス“スリーピングマウスドルチェ”

 

 真っ赤なさくらんぼがふんだんに使われ、まるで王冠のような形をしているパイ“レッドチェリークイーンパイ”

 

 竜の前に置かれた“ワンダーランドデザート”と同じようにあかりの前に置かれたデザートたちもとても可愛らしく、とても美味しそうだった。

 

 

「これは写真に撮っておかないとだな」

 

 

 そう言って竜はスマホを取り出して写真を撮りはじめた。

 竜はそんなに頻繁に写真を撮る方ではないのだが、それでもこのデザートたちは写真に残しておきたいと思ったのだ。

 写真を撮っている竜を見ながらあかりはフォークを片手にジッとデザートを見ていた。

 

 

「っと、時間をとって悪いな。それじゃあ食べようか」

「わーい!」

 

 

 写真を撮り終わった竜の言葉にあかりは嬉しそうに声をあげ、デザートを食べはじめる。

 嬉しそうにデザートを食べはじめるあかりの姿に竜は笑みを浮かべつつ、竜自身もデザートを食べはじめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第263話

 

 

 

 

 赤色のハート型のケーキにフォークを刺し、少しだけ削り取って口に運ぶ。

 直後に口の中に広がるのは甘酸っぱい酸味とクリームの甘さの合わさった味。

 一口食べただけで竜はハートのケーキになにが使われているのかが分かった。

 

 

「ハートはイチゴのケーキなんだな。表面はこう、なんていうか・・・・・・、ジャムみたいなやつで包まれてて中はクリームとスポンジの」

 

 

 ハート型のケーキの削れた部分から中を覗いてみればクリームとスポンジが見える。

 赤色のハート型ということで赤色から連想されたイチゴが使われたのだろう。

 

 続けて竜は黒色のスペード型のケーキにフォークを刺し、少しだけ削り取って口に運んだ。

 黒色のケーキが口に入った瞬間に最初に感じたのは強い苦味。

 しかしそれは一瞬のことですぐに苦味は甘味にへと変化した。

 

 

「これはビターチョコレートか?でも苦いだけじゃなくて甘さもある・・・・・・」

 

 

 口の中に広がる苦味と甘さの絶妙なバランスにどんなチョコレートを使っているのかが気になった竜は興味深そうにスペード型のケーキを見る。

 スペード型のケーキの削れた部分からは生地と一緒に中に入っていたらしいチョコレートソースが垂れてきていた。

 微妙に外側のチョコレートと色が違うので違う種類のチョコレートなのだろうということが分かった。

 

 次に竜はオレンジ色のダイヤ型のケーキにフォークを刺して少しだけ削り取った。

 削り取ったケーキを食べようと口に近づけると、不意にふわりと柑橘系のさっぱりとした香りが竜の鼻をくすぐる。

 

 

「ふむふむ。オレンジがメイン・・・・・・かな?あと苦味もあるしマーマレードっぽい感じかな」

 

 

 さっぱりとした甘味の中にほのかに感じる苦味に気づいた竜はオレンジを使ったジャム、マーマレードに近いものが使われているのではないかと考える。

 ダイヤ型のケーキの削れた部分から見えた中はいくつもの層になっており、ミルクレープのようなケーキだということが分かる。

 

 そして、竜は最後のケーキ、緑色のクラブ型のケーキにフォークを刺して少しだけ削り取った。

 

 

「緑色は・・・・・・、やっぱり抹茶味か。でもそこまで抹茶っぽさは感じないな。むしろ食べやすいから苦手な人でも食べられそうな・・・・・・」

 

 

 緑色のケーキということで味の予想が少しだけできていた竜はケーキを口に運んで納得したようにうなずく。

 竜が予想していた通りクラブ型のケーキは抹茶味のケーキで、口に入れた瞬間に抹茶の風味が一気に口の中に広がっていった。

 しかし、それでいて抹茶の風味はそこまで強くないようにも感じられ、竜は不思議そうに首をかしげた。

 

 

「どのデザートも美味しいですよね。作り方は企業秘密らしいので私も知らないですけど」

「そうなのか。というか食べるの早いな・・・・・・」

 

 

 竜が“ワンダーランドデザート”のケーキを一つ一つ味わって食べていることに気がついたあかりがフォークを軽く振りながら言う。

 そんなあかりの前に並べられていたデザートたちはすでにほとんど形は残っておらず、どれももう最後の一口レベルにまで小さくなっていた。

 

 いつの間にかあかりがデザートのほとんどを食べ終えていたことに気がついた竜は驚いた表情を浮かべつつ、自分の前に並んでいるケーキにフォークを刺していく。

 

 

「たしかに食べるのは早いかもしれませんけど、これでもちゃんと味わってますからね?」

「うん。まぁ、そこに関しては別に疑っていないよ」

 

 

 竜の言葉にあかりは少しだけ頬を膨らませながら言う。

 どうやら竜の言葉がちゃんと味わって食べていないのではないかと言われたように感じたらしい。

 

 あかりの言葉に竜はヒラヒラと手を横に振りながら答える。

 竜の頭の中に思い浮かぶのは食事をしているあかりの姿。

 食事をしているときのあかりはとても嬉しそうで、料理一つ一つの味を堪能しているのだなと分かるほどに嬉しそうに見えるのだ。

 

 少しだけ頬を膨らませるあかりのことを見ながら竜はデザートを食べ進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第264話



ずん子さんのヤンデレエンド難しい・・・・・・






 

 

 

 

 竜があかりと“ヴァーチャルランド”で遊んでいる頃。

 竜の家でついなはお茶を飲みながらテレビを見ていた。

 

 

『私は、私はあなたのことを信じてたんだよ・・・・・・?』

『ちが・・・・・・、ボクは・・・・・・!』

 

 

 テレビ画面に映っているのは町のパン屋で働いている犬のような看板娘と大学に通っているネコのような学生による恋愛ドラマ。

 どうやら今の場面はかなりシリアスな場面のようで、学生が同じ大学に通っている女の子と歩いているところを看板娘の女の子が目撃してしまったというところのようだ。

 

 

「あわわわ・・・・・・、どうなってしまうんや・・・・・・」

 

 

 お茶請けのおせんべいを片手に持ちながらついなはドキドキとした表情でテレビを見る。

 それほどまでにドラマに集中してしまっていたのか、ついなの手元に置いてある湯飲みの中に入っているお茶はほとんど冷めて温くなってしまっていた。

 

 

『もう、うちには来ないで・・・・・・。さよなら・・・・・・』

『待って・・・・・・!』

 

 

 涙をこぼし、看板娘の女の子は逃げるように走り去ってしまう。

 走り去ってしまった看板娘の女の子に学生は手を伸ばしながら声をかけるが、その声に女の子が答えることはなかった。

 

 

「・・・・・・ふぅ。まぁ、・・・ムグムグ・・・これは、しゃーないわなぁ・・・・・・ボリボリ。もしも、うちも・・・ムグムグ・・・同じことがあったらショックやしな」

 

 

 看板娘の女の子が走り去ってしまったのを見たついなは息を吐いて手に持っていたおせんべいを食べながら呟く。

 ものを食べながらしゃべるのはあまり良くはないのだが、今は家にはついなだけしかいないということで少々ダラけた状態になっていた。

 

 

「っと、ドラマはここで終わりなんか。これは続きが気になる終わりやね」

 

 

 ついながお茶を飲んでいるとテレビからドラマのエンディング曲が聞こえてきた。

 エンディング曲は恋愛の駆け引きなどを裁判として表現している曲で、歌っているのはヒロインであるパン屋で働いている犬のような看板娘の女の子と、ネコのような大学生の2人である。

 

 聞こえてきたエンディング曲についなはチラリと時計を確認する。

 時計の針はもうすぐお昼を指そうかというところだった。

 

 

「遊びに来たばーい!」

「だから、いきなり大きな声を出したらいけんって・・・・・・、あれ?」

 

 

 不意に元気な声とともにリビングに2人の少女たちが入ってきた。

 リビングに入ってきた少女、みことはリビングについなしかいないことに気がつき、不思議そうに首をかしげる。

 

 

「ついなさんだけ?竜さんはどうしたんですか?」

「ご主人ならあかりとお出かけちゅうやで」

「ありゃー、そうなん?」

 

 

 みことの言葉についなはお茶を飲みながら答える。

 ついなの答えにひめとみことは少しだけ意外そうについなを見た。

 基本的についなは竜と一緒にいるというイメージがあったため、ついなが家で待っているということが意外だったのだ。

 

 

「むぅ、竜お兄さんがいないのは予想外ったいね」

「そもそもとして今日はお休みなんだからなにかしら予定はあると思うっちゃけど・・・・・・」

 

 

 竜がいないと聞いたひめは腕を組んでどうしたものかと首をかしげる。

 まぁ、ひめからすれば退屈になったから竜のところに遊びに行こうという考えしかなかったので、竜がいないというパターンを考えていなかったのだ。

 

 そんなひめの様子にみことはため息を吐いていた。

 

 

「むー!むー!」

「えっと、とりあえずどうするんや?」

「すみません。ひめの気が済むまでいても良いですか?」

 

 

 膨れっ面になりながらゴロゴロと転がり始めたひめの姿についなは困惑しながらみことに声をかける。

 ついなの言葉にみことは顔を赤く染めながら頭を下げることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第265話

 

 

 

 

 VR技術によって作られた薄暗い森の中。

 竜とあかりは懐中電灯を片手に歩いていた。

 

 お昼ごはんを食べ終わったあとはのんびりとしたアトラクションに行くのではなかったのかと思うかもしれないが、すでに竜たちはいくつかののんびりとできるアトラクションを遊んだ後にいまいるアトラクションに来ていた。

 なので充分に体を休めることはできているのだ。

 

 

「なかなかに視界が悪いんだな・・・・・・」

「雰囲気ありますよね。実際の森だったら危なくてこんなことできませんけど、ヴァーチャルなら安心ですしね」

 

 

 竜とあかりのいるアトラクションは“ザ・フォレスト”という名前のアトラクションで、薄暗い森の中を懐中電灯を持って脱出するという内容のホラー系統のアトラクションだ。

 もちろん、ただ薄暗い森の中を普通に脱出すればいいというわけではなく、さまざまな驚かしや異形の化け物などから逃げながら脱出をしなくてはいけないのだ。

 ちなみにこのアトラクションの脱出成功率は30%ほどで、脱出するのはなかなかに難しいレベルとなっている。

 

 

「ん?・・・・・・露骨に怪しいものが出てきたな」

「これは、井戸ですか」

 

 

 しばらく歩いていた竜たちの前に小さめな井戸が現れた。

 ホラー系のアトラクションで井戸が出てくると連想してしまうのはどうしても世界的に有名とも言えるあの女性の幽霊だろう。

 

 井戸を見た竜は嫌そうに顔をしかめる。

 

 

「・・・・・・無視しよう」

「まぁ、触らぬ神になんとやらとは言いますしね」

 

 

 井戸を確認するかどうかを少しだけ考えた竜は井戸を無視することに決め、先に進むことにした。

 竜の決定にあかりもとくに不満はないようで、うなずいて歩きだした。

 

 なお、この井戸は覗き込んだ瞬間に中から女性の幽霊が現れて執拗に追いかけ回され、捕まってしまえば即座にゲームオーバーというなかなかに嫌らしいトラップだったりする。

 追いかけられるくらいなんてことないと思う人もいるかもしれないが、目を血走らせて髪を振り乱した女性に追いかけられながらまともに薄暗い森の中から脱出できるのかを冷静に考えてみるといいだろう。

 

 竜たちが井戸を無視して歩いていると、道の先に1人の人間がたたずんでいることに気がついた。

 薄暗いために性別までは分からないが、それでも人間であることは間違いないように見える。

 

 

「あれも逃げなきゃいけない敵ですかね?」

 

 

 正体の分からない人影を指差しながらあかりは竜に声をかける。

 しかし、竜はあかりの言葉に答えずに人影を見ていた。

 竜の様子がおかしいことにあかりは不思議そうに首をかしげる。

 

 そして、人影に動きがあった。

 竜たちの声が聞こえたのか、人影はゆっくりと顔を竜たちの方に向ける。

 顔を向けられたことによって最初に目に入るのは真っ赤な瞳。

 白目も黒目もなく、ただただ赤い瞳にあかりは小さく悲鳴をあげた。

 

 

「ひっ・・・・・・?!」

「マジか・・・・・・。ホラー系のアトラクションだからって本物(●●)まではさすがにいらねえぞ?!」

 

 

 VRで作られているとは到底思えないほどにリアルなその姿に竜は思わず悪態をつく。

 

 聞いたことはないだろうか。

 お化け屋敷には本物の幽霊が集まってくる、という話を。

 これは、幽霊がお化け屋敷のお化けを仲間だと勘違いして集まってくるからだとか、幽霊を題材としているアトラクションだから引き込みやすいだとかいろいろな説がある。

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 竜たちの目の前に現れたこの本物の幽霊も、恐らくはそういった理由でこのアトラクションの中に入ってきたのだろう。

 

 竜は霊を見ることしかできず、あかりはそもそもとして霊に対抗する手段がない。

 2人は近づいてくる霊から距離を取りつつ、警戒をしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第266話



ううむ・・・・・・。

不完全燃焼・・・・・・。





 

 

 

 

 迫ってくる霊の姿に竜とあかりは体を強張らせる。

 すでに2人は下がることのできる限界にまで下がっており、これ以上後ろに下がることはできなかった。

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・・・・」

 

 

 呻き声をあげながら近づいてくる霊に、竜はあかりを庇うようにして前に出る。

 対抗する手段はないが、それでもあかりが逃げる時間稼ぎくらいはできるだろうと考えたからだ。

 

 まぁ、自己犠牲で助けられてもそれが本当に助けられた人にとって救いになるかといえばうなずくことはできないのだが。

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・・・・う゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛っ?!?!」

「間に合いましたわ!」

 

 

 そして、もう少しで竜に霊が触れるかというところで、不意に霊は苦しむように悶え始める。

 それと同時に聞き覚えのある声が霊の後ろから聞こえてきた。

 

 

「ちゅわ?公住くんに紲星さん?」

「え、イタコ先生・・・・・・?」

「えっと、とりあえず助かったんですかね?」

 

 

 悶え苦しんでいる霊の後ろからひょこりと顔を出した女性、東北イタコは霊に襲われていたのが竜たちだと気づき、驚いたような表情を浮かべる。

 見知った人が現れたことによって気が抜け、竜とあかりは思わずへたりこんでしまうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 イタコ先生によって悶え苦しんでいた霊もきっちりと徐霊し、竜たちは“ザ・フォレスト”の外にあるベンチに座っていた。

 竜とあかりが知りたいのは“ザ・フォレスト”にいた先ほどの霊についてだ。

 

 

「それで、さっきの霊はなんだったんですか?」

「イタコ先生が来ているってことはこの“ヴァーチャルランド”から依頼を受けたってことですか?」

「そうですわ。えっと、少し前からここの遊園地でヴァーチャルとは思えない幽霊が出るって話を相談されておりましたの」

 

 

 竜とあかりの質問にイタコ先生は近くの自販機で買ったお茶を一口飲み、答える。

 どうやらイタコ先生は先ほどの霊について少し前から遊園地から相談を受けていたようだ。

 

 

「ですが、今日まであの霊を見つけることができていなくて・・・・・・。お2人を助けることができたのは幸運でしたわ」

「そうだったんですね」

「う~ん。紲星グループ(うち)としてはそういうこともきちんと報告してほしいんですけどねぇ・・・・・・」

 

 

 イタコ先生でも見つけることが難しかったということは隠れることに特化でもしていたのだろうか。

 イタコ先生は竜とあかりのことが助けられて良かったと安心したように息を吐いた。

 

 イタコ先生の話を聞き、あかりは頬に指を当てて報告が挙がってきていなかったことに対してぼやく。

 もしかしたら現場の方でこんな心霊現象のことを報告しても信じてもらえないと判断して独自に解決しようとしたのかもしれないが、それでも報告として挙げてもらえればなにかしらの対応がもっと早くできたかもしれなかった。

 

 

「えっと、とりあえずこれで今後は大丈夫になったんでしょうか?」

「そうですわね。私の気づける限りでは徐霊をしておいたので大丈夫だとは思いますけど」

 

 

 報告が挙がってきていなかったことに対してぼやいていたあかりだったが、すぐに頭を切り替えて今後は霊的な問題が起こったりしないかの確認をイタコ先生にする。

 あかりの言葉にイタコ先生は少しだけ考えるような仕草を見せ、問題はないだろうと答えた。

 

 イタコ先生の言葉にあかりはホッと安心したように息を吐いた。

 

 

「それでは、私もお仕事が終わりましたので帰りますわ。公住くん、近いうちに遊びに来てくれるとこの子も喜びますのでお願いしますわね?」

「あ、はい。わかりました」

「ありがとうございました」

 

 

 そう言ってイタコ先生は竜へと飛びつこうとしていたキツネを手早く捕まえて歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第267話

 

 

 

 

 お化け屋敷“ザ・フォレスト”での出来事が終わってから、竜とあかりは一旦落ち着くために近くのカフェに入ることにした。

 お化け屋敷の近くにあるカフェということで、カフェの内装もややホラー寄りとなっている。

 

 

「ううむ。いなが近くにいない場合でも大丈夫なようになにか教わ・・・・・・。駄洒落じゃないからな?」

「ふふふ。まだ、私はなにも言ってませんよ?」

 

 

 自分の言葉がいつの間にか駄洒落のようになってしまっていることに気がついた竜は、言っていた言葉を途中で切って否定した。

 すぐに否定をした竜にあかりは思わず笑みをこぼす。

 

 

「そ、そういえばここのカフェはどんなメニューが・・・・・・、うわぁお・・・・・・」

「まぁ、お化け屋敷の隣で内装もこうですからね。当然メニューもこうなってますよね」

 

 

 笑みをこぼすあかりに気恥ずかしさを感じた竜は話題を変えるためにメニュー表を開く。

 そうして開いたメニュー表から飛び込んできたのはどう見ても食欲などに繋がらなさそうなメニュー名の数々。

 あまりにもやりすぎなのではないかという思いから竜は思わず言葉を失ってしまう。

 そんな竜の様子にあかりも自分が初めてこのカフェに入ったときのことを思い出したのか、苦笑をしていた。

 

 

「ええっと・・・・・・?“眼球アイス”に“生き血(トマトジュース)”、“人指ホットドッグ”・・・・・・」

「あはは・・・・・・。名前はちょっとあれですけどちゃんと料理は美味しいんですよ?」

 

 

 メニュー表に書かれている内容を適当に竜は読んでいく。

 しかも書いてあるメニューの下にはちゃんと出される料理の写真までつけられていた。

 メニューの名前と料理とは思えないレベルでリアルなその写真に、竜はどうしても顔をしかめてしまう。

 一応、一応は料理としては美味しいということで、あかりはやんわりと店のフォローをしていた。

 まぁ、そんなフォローをするよりも“紲星グループ”から“ヴァーチャルランド”に対してなにかしらの対応をした方がはるかに良いと思えるのだが。

 

 

「ああ、まぁ・・・・・・。じゃあ、この“(グレープ)ジュース”でいいわ・・・・・・」

「それじゃあ私は“ポーション(メロンソーダ)”にしますね」

 

 

 お昼ごはんを食べてからそこそこ時間が経っているとはいえ、正直このお店では食欲がそこまでわかなかった竜は適当に見た目的にもまだマシなジュースを選択した。

 “毒”はその名前の通り映画などで出てくるような分かりやすいほどにドクロマークの描かれた瓶に入った紫色のジュースで、このカフェでは(見た目的にまだマトモなため)多く頼まれているメニューだ。

 竜の注文するものが決まると、あかりはその隣に書かれている“ポーション”を頼んだ。

 “ポーション”という名前からゲームの回復アイテムのような見た目を想像するかもしれないが、このカフェでのポーションは三角フラスコやメスフラスコに入れられている完全に薬品のような見た目なのだ。

 念のために言っておくと飲み物を入れている容器はきちんと洗ってあるため、なんの心配もない。

 とはいっても薬を飲んでいる気分になる、というからあまり“ポーション”は頼まれていないのだが。

 

 

「お土産とかも見ておきたいし、あと何個かアトラクションに乗ったら売店の方に行こうか」

「そうですね」

 

 

 竜の言葉にあかりはうなずく。

 そして、2人は頼んだ飲み物を飲みながら少しだけ雑談をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第268話

 

 

 

 

 お化け屋敷近くの独特なカフェでの休憩を終えた竜とあかりが次のアトラクションで遊んでいる頃。

 けだまきまきと青色の布のような生き物を抱えた少女たちは“ヴァーチャルランド”の園内をフラフラと歩いていた。

 少女たちの手もとにはポップコーンの容器や、ジュースのカップなどが握られており、“ヴァーチャルランド”を楽しんでいることがうかがえた。

 

 

「なんちゅーか、普通に楽しんでしもうてるなぁ」

「ですね。というか、これなら2人も戻ってしまっても良かったかもしれませんね」

 

 

 “ヴァーチャルランド”に来た目的も忘れて普通に遊んでしまっていることに、青色の布のような生き物を頭に乗せている少女が呟く。

 一番最初の目的だった誰かを探すということも早々に頓挫しており、少女たちはだいぶ早い段階で“ヴァーチャルランド”を楽しみ始めていた。

 

 少女の言葉にもう1人の少女もちらりとけだまきまきを見ながら答えた。

 

 

「ぎゅぎゅ、ぎゅーん」

「まぁ、それもそうなんですけどね・・・・・・」

 

 

 けだまきまきがなにかを言ったのか、少女は苦笑を浮かべる。

 そして、少女たちは次のアトラクションへと向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 アトラクションに乗り終わり、竜たちはお土産売り場に来ていた。

 お土産売り場には“ヴァーチャルランド”にあるアトラクションをモチーフにしたお土産がたくさんあり、“グレートエレキファイアーマウンテン”をモチーフにした山の岩のようなチョコレートや、“フォックストーク”をモチーフにした動物の形のクッキーなどがあった。

 

 

「いなには・・・・・・、このおせんべいにしておくか」

 

 

 並んでいるお土産の中から竜はついなに買って帰るお土産を選んで手に取る。

 竜が選んだお土産は“ヴァーチャルランド”の名前などが描かれたおせんべいだ。

 恐らくはついなが九十九神だということと、いつも和服を着ていることからおせんべいを選んだのだろう。

 

 ちなみにあかりは家族へのお土産などを買うために別行動中だ。

 

 

「茜たちには・・・・・・、無難にお菓子か?渡す・・・・・・、というよりも配る方向じゃないと金額がちょいとなぁ」

 

 

 小さめのお土産を見て、次にやや大きめのお菓子の詰め合わせのお土産を見て竜は呟く。

 “ヴァーチャルランド”に限らず遊園地のお土産というものは基本的に値が張るものばかりで、交通手段や入園料があかりのお陰で0円だったとしても全員に個別にお土産を買うのは学生にはなかなかに響くものなのだ。

 

 

「竜先輩、お土産は選び終わりましたか?」

「ん、まぁ、一応は決まったかな。あとは会計をするだけだよ」

 

 

 竜がついなや茜たちへのお土産を決め、会計をするためにレジに向かおうとしていると、お土産を買うために別行動をしていたあかりが戻ってきた。

 あかりの言葉に竜は手に持っているお土産をあかりに見せながら答える。

 

 

「うん?家族へのお土産を買うんじゃなかったのか?」

 

 

 ふと、竜はあかりがなにも持っていないことに気がつく。

 お土産を買うために別行動をしていたので、てっきりお土産を抱えて戻ってくると思っていたのだが、その予想に反してあかりはなにも持たずに戻ってきたのだ。

 

 

「もちろん買いますよ。ただ、量が多いので郵送してもらうんです」

「あー、なるほど」

 

 

 あかりの言葉に竜は納得したようにうなずく。

 

 そして、竜はレジにて会計を、あかりはレジのスタッフに頼むお土産を順番に言っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第269話

 

 

 

 

 お土産を買い終わった竜とあかりは“ヴァーチャルランド”の出入り口の門に向かって歩く。

 竜が買ったお土産はあかりの護衛をしている黒服の人に先に車にまで運んでもらっており、あかりのお土産の方は量が多いために別の車で配送するという形になっている。

 

 

「いつのまにやらこんな時間かー」

「きれいな夕焼けですね」

 

 

 空の色は赤く染まってきており、遠くではカラスが数羽飛んでいる。

 竜たち以外にも帰ろうとしている人はおり、その誰もが楽しそうに笑みを浮かべていた。

 

 

「夜までいればパレードも見れたんですけど・・・・・・。そこまでいると帰り道が大変なんですよね」

「パレードを見たらほとんど同じタイミング辺りで帰る人が一気に来そうだしな。まぁ、今の時間でも帰る人は結構いるみたいだけど」

 

 

 “ヴァーチャルランド”では夜になってから園内をさまざまなキャラクターや乗り物、仮装をしたスタッフたちが練り歩くパレードもおこなわれており、とても人気のある催しの1つだ。

 また、このパレードは季節や時期によって仮装などの種類も違っており一年を通して楽しむことができると有名なのだ。

 

 

 なので

 

 

 夜になればどこから現れたのかと言いたくなるほどにカップルや家族などがパレードの移動するルートに集まり、リア充の空気を作り出すのだ。

 それに加えてパレードによって普通なら通れる道も封鎖されて遠回りを余儀なくされたりもする。

 そして極めつけはパレードが終わったあとに一斉に出入り口に向かい始める人、人、人。

 しかも出口に向かっているのは自分たちの近くだけではなく他の場所でパレードを見ていた人たちも含まれるので、単純に考えて出入り口に向かう人の数は自分たちの周囲にいる人数のおおよそ数倍はいるのではないだろうか。

 

 つまり、簡潔に言うのであればパレードを見たいのであれば近くのホテルかどこかに宿泊をすることを考えておいた方がだいぶ楽だということだ。 

 

 まぁ、パレードを見ていたら帰るのが遅くなるという考えから早めに帰ろうとする人もいるので、一概に早めに帰るのが正解というわけでもないのだが。

 

 

「竜先輩、今日は楽しんでもらえましたか?」

「そりゃあもちろん。そもそもとして俺、遊園地とかなかなか行かないしな」

 

 

 歩きながらあかりは竜に今日一緒に遊んで楽しかったかを尋ねる。

 竜が楽しむことができたのか、自分は空回りしていなかったか、おどけたようにあかりは尋ねているが実際にはそんな不安が胸中にはあった。

 

 あかりの言葉に竜は笑みを浮かべながら答える。

 竜の頭の中に浮かんでくるのは今日の楽しかった思い出たち。

 そのどれもがとても楽しく、思い出すだけで笑顔が浮かんでくるものだった。

 

 

「んー・・・・・・。なぁ、今度はみんなで来ないか?」

「みんな、というと。茜先輩たちですか?」

 

 

 顎に手を当て、少しだけ竜は考えるような仕草をすると、1つの提案をする。

 竜の言う『みんな』が誰のことを言っているのか理解したあかりは確認をするように聞き返した。

 

 

「そうそう。この今日の楽しさをあいつらにも教えたくてな」

 

 

 あかりの言葉に竜はうなずいて肯定する。

 『みんな』それはあかりの言った茜を初めに、葵、ゆかり、マキの4人のことを指している。

 

 自分は今日“ヴァーチャルランド”に来てこんなに楽しかった。

 

 それを仲の良い4人にも知ってほしいと竜は考えたのだ。

 

 

「なるほど・・・・・・、そうですね。では今度の長期休暇にでもみなさんで来ましょうか」

「だな」

 

 

 竜の言いたいことを理解したあかりはいつ辺りに来るかをざっくりと決める。

 そして、出入り口の門を潜り抜けた2人は今日の楽しかった思い出などを話ながら車に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第270話

 

 

 

 

 竜の家の前。

 帰りの車の中では“ヴァーチャルランド”での楽しかったことや気になったことなどを話しており、気がついたらいつの間にか竜の家の前にまで到着していた。

 家の前に着いていることに気がついた竜は自分の買ったお土産を手に取って車を降りる。

 

 

「なんかあっという間な感じだったな」

「楽しいと時間を忘れるって言いますけど、本当ですね」

 

 

 車から降りた竜は軽く背中を伸ばしながら呟く。

 そんな竜の言葉に同じように車から降りたあかりが答える。

 2人が車から降りると、護衛の黒服の人はそのまま車を家の中へと移動させていった。

 

 

「というか、車の中でも聞いたんだが・・・・・・。本当に“ヴァーチャルランド”の入園料とかお昼ご飯代とか良いのか?」

「竜先輩はマジメですねぇ。良いんですよ。それに、お金は持っている人がどんどん使って経済を回した方が良いっていうのがお父さんの考えですから」

 

 

 確認をするように竜はあかりに尋ねる。

 竜が気にしているのは“ヴァーチャルランド”の入園料と、お昼ご飯の代金のこと。

 これらはどちらもあかりが払ってくれており、帰りの車の中であかりにいくら払えば良いのかを聞いたところ払わなくて良いと言われたのだ。

 一般的な人がこういったことを言われた場合の反応は分からないが、竜は後輩の女の子に払ってもらうということが気になってしまい、何度も確認してしまっていた。

 

 そんな竜の言葉にあかりは笑いながら気にしなくて良いと答えた。

 

 

「まぁ、そこまで言うなら・・・・・・」

「ふふふ、そういうところが竜先輩の良いところなんですけどね」

 

 

 渋々といった様子で竜はあかりの言葉に甘えることにする。

 どこか納得のいかなさそうな竜の様子にあかりはニコリと笑みをこぼし、ムニッと竜の頬を指でつつくのだった。

 

 

「さて、いなも待っているだろうし。帰るかな」

「今度は茜先輩たちやいなちゃんも一緒に行きましょうね」

「だな。ああ、ちょい待った」

「はい?」

 

 

 ぼちぼちそれぞれの家に帰ろうかという話になり、あかりが竜に向かって手を振ると、不意に竜がなにかを思い出したようにあかりを見た。

 竜の言葉にあかりが首をかしげていると、竜がポケットから小さな紙袋を取り出してあかりに向かって差し出してきた。

 紙袋にはVLという文字が書かれており、これが“ヴァーチャルランド”で買ったものだろうということが分かる。

 

 

「これは・・・・・・?」

「えっと、まぁ、なんだ・・・・・・。今日は楽しめたからそのお礼?みたいな感じかな」

 

 

 首をかしげているあかりの手に紙袋を渡し、竜はざっくりと簡単にどういった理由で渡したのかを答えた。

 

 

「それを見たときにあかりっぽいなぁって思ってな。もしかしたらもう持ってたかもしれないけど」

「星の・・・・・・、キーホルダーですか?」

 

 

 竜の言葉を聞き、あかりは紙袋の中身を取り出して確認する。

 紙袋の中から出てきたのはオレンジ色の2つの星がずれて重なった形をしたキーホルダーだった。

 その形は紲星グループのマークにも似ているように見え、あかりはキーホルダーをまじまじと見た。

 

 

「竜先輩、ありがとうございます。大切にしますね」

「そうしてくれると俺も嬉しいよ」

 

 

 キーホルダーを両手でしっかりと握りしめ、あかりは竜にお礼を言う。

 あかりの言葉が本心なのか、はたまたお世辞なのかの判別は竜にはできなかったが、それでもあかりならば大切にしてくれるだろうと竜は考え、あかりの言葉にうなずいて応えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第271話

 

 

 

 

 あかりに手を振り、竜は家の扉を開けて中に入る。

 玄関に入るとリビングの方からテレビの音が聞こえてきたので、ついながテレビを見ているのだろうと竜は理解した。

 

 

「ただいまー、って、あれ?」

「あ、おかえりなさい。竜さん」

 

 

 洗面所で手洗いうがいをしてリビングに入った竜は、そこにいた意外な人物に少しだけ驚いた声をあげる。

 リビングでソファーに座ってテレビを見ていた人物、それは鳴花みことだった。

 

 みことの手にはお茶の入った湯呑みがあり、おせんべいなどが置かれていることからお茶を飲みながらテレビを見ていたのだということが分かる。

 

 

「どうしてみことが?」

「えっと、ひめが退屈だって言って昼間に遊びに来たんです。それでそのまま・・・・・・」

 

 

 みことがなぜ家にいるのかが気になり、竜は首をかしげながら尋ねる。

 竜の言葉にみことは自分の頬を軽く掻きながら答えた。

 

 

「ふぅん?えっと、ならひめは・・・・・・。あ、あれか?」

「はい。ついなさんと騒いで、それであそこに・・・・・・」

 

 

 みことがいるのだからひめもいるはずだろうと竜はみことに尋ねながら部屋の中を見渡す。

 そして、みことに尋ねながら竜はテーブルの影から誰かの足が出ていることに気がついた。

 竜がテーブルの影から出ている足に気がついたのだと理解したみことはうなずき、手で指し示す。

 テーブルの影から出ている足の持ち主を確認するために竜はテーブルの反対側に移動する。

 

 

「ああ、ここについなもいたのか」

 

 

 テーブルの反対側に移動した竜は、そこに足が見えていたのとは別にもう1人いたことに気がついた。

 テーブルの影にいた2人はどちらもぐっすりと眠っており、大きく口を開けて間抜けなような表情で可愛らしく寝息をたてていた。

 

 

「完全に寝てるな。まぁ、自然に起きるまで寝かせておくか」

「あはは・・・・・・、ゲームで対戦したりで結構騒いでしまったのでそれで疲れたんだと思います」

 

 

 大きな声を出してしまわないように気をつけつつ、竜はみことの座っているソファーの方に移動する。

 よく見ればテレビの前にはゲーム機が置かれており、コントローラーが3つ置かれていることから3人で遊んだのだということが分かる。

 

 

「んーっと、ならみことに渡しておくか。ほい、お土産」

「あ、ありがとうございます。“ヴァーチャルランド”っていうところに行ってきたんですね」

 

 

 眠っているついなとひめのことをちらりと見て、竜は少しだけ考えてみことにお土産を手渡した。

 竜がみことに渡したお土産は小さなお菓子の詰め合わせで、中のお菓子の形が花びらの形になっている。

 竜からお土産を受け取ったみことは嬉しそうにお土産を抱き締める。

 

 

「んん・・・・・・。なぁん・・・・・・?」

「お、起きたか?」

 

 

 不意に、小さな呻き声のようなものがひめから聞こえてくる。

 見ればひめが目元をくしくしと擦っており、起きたのだということが分かった。

 

 

「んー・・・・・・。んぅ・・・・・・?」

 

 

 どこかぼんやりとした表情でひめは竜を見、コテンと首をかしげる。

 どうやらまだ頭がハッキリとはしていないようだ。

 そんなひめの様子に竜は思わず笑みをこぼす。

 

 そして、ひめは竜のことを見ながらしばらく目をパチパチとさせる。

 

 

「・・・・・・・・・・・・!竜お兄さん、お帰りったい!」

「ちょ、ひめっ?!」

「うごぁっっっ?!?!」

 

 

 しばらく目をパチパチとさせていたひめだったが、竜が帰ってきたのだと理解した途端にすごい勢いで竜に向かって飛びついていった。

 いきなりのひめの行動にみことは驚き、竜は上手くひめのことを受け止めることができずに鳩尾にひめの突撃を受けることになった。

 

 

「なぁん、もう。みこと?なして起こしてくれんかったとー」

「2人がぐっすり寝とったけん。起こすんは悪いと思ったんよ。それよりひめ、竜さんが・・・・・・」

「おごごごごごごご・・・・・・」

 

 

 竜の鳩尾にしがみつきながらひめはみことにどうして起こしてくれなかったのかを尋ねる。

 そんなひめの言葉にみことは起こさなかった理由を答える。

 ひめとみこと、2人の会話を聞きながら、竜は鳩尾の痛みに呻き声をあげることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第272話

 

 

 

 

 竜がひめによる腹部へのダイレクトアタックを受けてヤ無茶しやがってな状態になった翌日。

 竜は気まぐれでゲームセンターに来ていた。

 土曜日に“ヴァーチャルランド”に行って体には少なくない疲労も溜まっているはずなのになぜゲームセンターに来たのか、これが分からない。

 

 “ヴァーチャルランド”でお土産を買うのにお金を使っているのだから遊べないのではないかと思うかもしれないが、竜は銀行ではなく貯金箱にお金を貯めるタイプで、家を出る前に貯金箱からそこそこのお金を取り出していた。

 

 

「んー、やっぱクレーンゲームかな。・・・・・・って、うわぁお。あの人の指の動きヤバ・・・・・・」

「ほんまや。なんであんなスピードで動かせるんやろね?」

 

 

 竜は基本的にゲームセンターに来ると、クレーンゲームのあるエリアに向かう。

 たまにシューティングゲームなんかもやったりするのだが、それでもハッキリとゲットしたものが分かるクレーンゲームの方が竜としては好みだった。

 

 クレーンゲームに向かう途中、7つの鍵盤を叩いてディスクを回すタイプのコントローラーのリズムゲームをやっている男性に気づき、その指の動きに竜は思わず声を漏らした。

 画面を見ればかなりの速度でノーツが大量に落ちてきており、そのすべてに男性は反応しているようだった。

 ちなみに、ノーツとはリズムゲームで流れてくるオブジェクトのことで、分かりやすい例を挙げるのなら“太鼓の達人”の『ドン』や『カッ』のようなものと考えれば良いのではないだろうか。

 

 竜の言葉に竜の頭の上に乗っていたついなも男性の手もとを見て驚きの声をあげた。

 そして、そのまま竜はクレーンゲームのあるエリアに向かうのだった。

 

 なお、竜たちが通りすぎてからしばらくしたあと。

 この男性はプレイしているリズムゲームの中でも最難関と言われている、フルコンボを達成している人が0.8%しかいない曲をフルコンボして雄叫びをあげていたりするのだが、竜たちの耳にその声が届くことはなかった。

 

 

「ふむふむ。フィギュアにぬいぐるみ、あとはコップとかか」

「いろいろ女の子のキャラクターのものが多いんやね。ご主人はどれを狙うん?」

 

 

 竜は並んでいるクレーンゲームの中にある景品を一通り眺める。

 クレーンゲームの中にある景品は基本的にアニメやゲームなんかのキャラクターのものが多く、たまに携帯充電器やイヤホンなんかもあった。

 

 いろいろと並んでいる景品たちについなはどれを狙うのかを竜に尋ねる。

 

 

「んー、俺はどれかを狙うってよりは取りやすそうなやつを見つけてそれに挑戦するって感じなんだよ」

 

 

 ついなの言葉に竜は自分はクレーンゲームをやる場合は景品で選ぶのではなく、取りやすいかどうかで選んでいることを答える。

 まぁ、そのやり方で遊んでいるためにゲットしている景品自体は多いのだが、その中には特に欲しかったわけでもないけれど取りやすそうだったからという理由でゲットされているものもあった。

 

 

「これは、ちょっと角度が微妙だな。こっちのは・・・・・・、少し外れてていけそう?保留かな」

「ふむふむ。景品の位置とかを見とるんやね」

 

 

 並んでいるクレーンゲームの景品を確認し終えた竜はどのクレーンゲームが取りやすそうかを見ていく。

 

 初期位置に置いてあるもの、少し動いていて斜めになっているもの、誰かが先に挑戦してみたのか箱が立っているもの。

 

 基本的に狙い目だとすれば景品が下に落ちかかっているものだろうが、そんなものはそう都合良くあるものではなく。

 むしろだいたいの人がそういった状態の景品を狙うはずなので、運良く見つけることができたのならば挑戦してみても良いだろう。

 とはいえ、下に落ちそうに見えて実はぜんぜん動かない、なんてこともあり得るのでその辺りの判断も重要なのだが。

 

 

「さて、とりあえずこれをやってみるかな」

 

 

 そして、挑戦するクレーンゲームを決めた竜は100円をクレーンゲームに入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第273話



久々にエペとかやると操作忘れますよね。

モンハンとかPSO2ばっかやってたので操作がぜんぜん思い出せません。






 

 

 

 

 赤い色の髪をした錬金術師、和服を着たケルベロス、ひよこを乗せた皇女のデフォルメされた人形をゲットした竜は1度休憩をするために自販機へと向かう。

 3つの人形を手に入れるのに使用した金額は2000円で、金額的に考えればそこまでかからなかったほうだろう。

 

 

「なんだかんだすんなり取れて良かったな」

「でも、ご主人。これ、どこに置くん?」

 

 

 自販機で適当にジュースを買い、竜は満足そうに人形の入った袋を見る。

 欲しかった、というよりは取りやすい位置にあった人形たちだったから取ったものだったが、それでもキチンと成果として手に入っているので満足していた。

 

 満足そうにしている竜に、ついなは竜の肩に移動して人形をどこに置くのかを尋ねる。

 竜の部屋の一角には竜が今までにゲームセンターでゲットしてきた景品の他にも、一番くじでゲットしてきたものや、お祭りでのビンゴ大会などによる景品なんかも積まれていた。

 その量はかなりのもので、地味に部屋を圧迫してきているのだ。

 

 

「・・・・・・ま、まぁ、取れて満足だから」

「いや、聞きたいのは置く場所なんやけど・・・・・・」

 

 

 ついなの言葉に竜はソッと目を逸らしながら答える。

 竜自身も自分の部屋に人形などを置ける場所が少なくなってきていることは自覚しているのだが、それでもクレーンゲームや一番くじなどをやめることができないのだ。

 答えになっていない竜の答えについなは小さくため息を吐いた。

 

 

「とりあえず、置く場所もギリギリなんやからもう終わりにした方がええんやない?」

「そうだな。まぁ、3つも取れたんだし充分か」

 

 

 すでに竜の部屋に人形などを置ける場所は残り少なく、これ以上増やすのは止めておいた方がいい。

 ついなにそう言われた竜はチラリと人形の入っている袋を見てうなずく。

 

 3つも景品が取れたのだからここで満足しておいて問題はない。

 むしろここからさらに取れると勘違いして無駄にお金を消費する可能性すらあり得るのだ。

 

 クレーンゲームをやる上で気をつけるべき大切なことは主に3つ。

 

 1.景品の位置。

 

 2.アームの強さ。

 

 3.引き際の見極め。

 

 上記の3つ以外に取り方のテクニックなんかも大切な要素ではあるのだが、それらはやっている人の慣れなどによって左右されるので、誰でも簡単に気をつけることができるのは主にこの3つと言えるだろう。

 

 そして、竜は人形の入った袋を片手にクレーンゲームのエリアから移動するのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 クレーンゲームのエリアから移動した竜は次にシューティングゲームへと向かう。

 “ヴァーチャルランド”でもシューティングゲームはやったのだが、やはり遊園地とゲームセンターでやるシューティングゲームは別物で、どちらも同じくらいに楽しいのだ。

 

 

「ほえぇ、このゲームはいろいろな銃とかが使えるんやね?」

「ああ、やってみるか?」

 

 

 シューティングゲームの前に並べられている何種類もの銃の形をしたコントローラーについなは驚きの声をあげる。

 シューティングゲームといえば基本的にハンドガンかアサルトライフルのようなコントローラーを思い浮かべるかもしれないが、ここのゲームセンターにはスナイパーライフルやショットガン、はたまた弓なんかも並べられていた。

 

 並べられている銃の形をしたコントローラーの中から気に入っている銃、スナイパーライフルを手に取りながら竜はついなに尋ねる。

 基本的に竜は隠れながら狙撃をして敵を倒していくのが好みなため、高倍率のスコープを付けたスナイパーライフルがどんなゲームでもお気に入りなのだ。

 

 ただしエペのスナイパーライフル、テメーはダメだ。

 

 

「んー、ならうちもやってみようかな」

 

 

 竜の言葉についなはもとの大きさに戻り、銃よりもまだ普通に使うことができると思われる弓を手に取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第274話



はやくあの子も出したいんですけどねぇ。





 

 

 

 

 スコープを覗き、撃ち抜くべき場所を確認する。

 

 狙うべきは1発の弾丸で殺すことのできる部位の頭部。

 

 スコープの中心の位置が銃口から放たれた弾丸の着弾点と重なるので、それを意識して狙いを定めていく。

 

 息を止め、意識を集中してトリガーに指をかける。

 

 狙撃をする上で大切なのは銃口をブレさせないこと。

 

 銃口がブレてしまえば、撃ち出されたときのズレが小さくても最終的にはかなりズレた位置に着弾してしまうことになる。

 

 ハンドガンやアサルトライフル、ショットガンなんかであればかなり近い位置から撃つことの方が多いのでそこまで気にはならないのだろうが、スナイパーライフルとなれば銃口を一切動かさずに撃つということは基本中の基本になるのだ。

 まぁ、そのブレすらも計算に入れて撃つことができるのであればなんの問題もないのだが。

 

 

「ッスゥー・・・・・・・・・・・・、シッ」

「ナイスや、ねっ!」

 

 

 頭部を撃ち抜かれて倒れていく敵。

 それに喜ぶことなく竜は次に撃ち抜くべき敵を素早く、そして正確に狙っていく。

 このシューティングゲームでは頭部を撃ち抜いた際にダメージがかなり跳ね上がるように設定されており、正確に頭部を撃ち抜くことができればほぼすべての敵を確殺できるほどのダメージが出せるので、いかに無駄なく正確に狙えるかが重要となっている。。

 

 “ヴァーチャルランド”でのシューティングゲームは弓を使っていたために微妙な結果になってしまっていたが、一番得意としているスナイパーライフルを使うことができれば竜はかなり安定して敵を倒していくことができていた。

 

 倒れていく敵の姿に竜がいる場所とは別の場所にいるついなは感心したような声をあげる。

 ついなが扱っている武器は銃ではなく弓。

 ついなの手から放たれた矢はまっすぐに飛び、正確に敵の喉を貫いていった。

 

 銃ではなく弓。

 どう考えても弓よりも銃の方が射程も威力も上で、弓を使う利点はないように思われるかもしれないが、弓には銃にはない強みがある。

 

 それは静音性。

 

 銃は火薬を扱う以上どうしても火薬の爆発音が付きまとってしまう。

 それに対して弓は火薬を扱わず、あるとすれば風切り音のみ。

 そのため普通に銃を使うよりも敵に気づかれにくいのだ。

 

 

「・・・・・・とりあえず一通りは倒せたみたいんだな」

 

 

 スコープを覗いて周囲に敵の姿がないことを確認した竜は、スナイパーライフルを肩に担ぎながら場所を移動する。

 スナイパーライフルを扱う上で位置取りというのもかなり気をつけていかなければならない要素の1つだ。

 ずっと同じ場所で狙撃を続けていれば跳んでくる銃弾の向きから狙撃をしている場所が割り出され、背後をとられてしまう可能性がある。

 そのため、1発撃ったら移動するくらいの考えでいた方が安全なのだ。

 

 

「ん、ボスが出てきたか」

「うへぇ、全身ガッチガチやん・・・・・・」

 

 

 しばらく移動していると、離れた位置に全身をガッチガチの鎧に身を固めた敵が出現した。

 出現したボスの姿を確認したついなは嫌そうに顔をしかめる。

 敵の着ている鎧には隙間がほとんどなく、弓で狙うのであれば鎧の頭部に空いている穴を狙うくらいしかないだろう。

 

 

「いなは周りから湧いてくる雑魚の方を頼む。あいつは俺が狙ってみる」

「りょーかいや。頼んだで、ご主人」

 

 

 ボスの出現がトリガーとなったのか、周囲から何体かの雑魚敵が出現し始めた。

 どうやら雑魚敵はボスを倒すまで無限湧きのようで、ついなが倒してもすぐに追加で雑魚敵が出現してしまう。

 

 雑魚敵が無限湧きなことに気づいた竜は、まだスナイパーライフルの方が鎧のボスと戦いやすいと判断して雑魚敵の処理をついなに任せた。

 

 

「ッスゥー・・・・・・・・・・・・」

 

 

 深く息を吸い、呼吸を静めていく。

 狙うべきは鎧の頭部に空いている視界を作るための穴。

 近づいてくる雑魚敵の処理は完全についなに任せ、竜はボスの頭部を撃ち抜くことにだけ意識を集中させていった。

 

 

「シッ・・・・・・」

 

 

 ただ狙い、ただ頭部を撃ち抜く。

 特別なことはなに1つない。

 ただ当然のことをして当然に敵を撃ち抜く。

 

 

 そして、竜の放った弾丸は正確にボスの頭部を撃ち抜くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第275話

 

 

 

 

 撃ち抜かれたボスの頭部が大きく後ろに弾かれ、そのまま後ろに倒れていく。

 できることなら一息を入れたいところなのだが、あいにく周りには雑魚敵が残っており、そんな暇もない。

 

 

「マジか。一撃でいけるもんなんやね」

「というよりもスナイパーライフルはヘッドショットにかなりのダメージ補正が追加されるんだよ。だから、きっちり狙えればだいたいの奴にかなりのダメージを与えられる。まぁ、あのボスが序盤のボスで体力が低かったおかげもあるけどな」

 

 

 周囲の雑魚敵を弓で撃ち抜きながらついなはボスが一撃で倒れたことに驚きの声をあげる。

 驚くついなに竜はボスを一撃で倒すことができた理由を答えた。

 

 基本的にだいたいのゲームにおいて敵には弱点が設定されていることが多い。

 そして、その中でも人の姿をした敵となればほぼほぼ頭が弱点となっているのだ。

 それに加えてスナイパーライフルにはリロードが遅いなどのデメリットを帳消しにできるほどのダメージ補正があった。

 これらが組み合わさったことによって序盤とはいえボスを一撃で倒すことができたのだ。

 

 ボスを一撃で倒すことのできた理由を答えながら竜も周囲の雑魚敵を撃ち抜いていく。

 とはいえ、扱っているのがスナイパーライフルなので、雑魚敵を処理する速度はついなよりも劣っていた。

 

 

「とりあえずボスを倒したからこれ以上雑魚が湧いてくることもないな」

「そうみたいやね。そうすると次のステージになるんかな」

 

 

 ボスの出現によって無限湧きになっていた雑魚の出現も終わり、最後の一体をついなが撃ち抜く。

 すると景色が変化し、次のエリアへと移動させられた。

 

 そして、竜とついなは協力をしてシューティングゲームを進めていくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「っかぁー!クリアできんかったー!」

「あれはキツかったなぁ・・・・・・」

 

 

 シューティングゲームを終わらせ、ゲームセンターから出てきた竜は悔しそうに言う。

 しばらくは順調にステージを進めていくことができていたのだが、途中でスナイパーライフルと弓ではどうしても処理しきれない量の敵が出てしまい、そこでゲームオーバーとなってしまったのだ。

 もしもクリアを考えるのであればアサルトライフルを使っていれば可能だったのではないだろうか。

 

 悔しそうにしている竜の頭の上で小さくなったついなが慰めるように竜の頭をポスポスと優しく叩いていた。

 

 

「うん?ご主人、なんや騒がしない?」

「確かに。なんかあったのかね?」

 

 

 ふと、ついなはなにやら周囲が騒がしいことに気がついた。

 ついなの言葉に竜も同じように周囲が騒がしいことに気がつく。

 見ればなにやら何処かに向かって走っている人たちの姿があり、そのどれもが興奮したような表情を浮かべていた。

 

 

「おい!それって本当なんだろうな!」

「まちがいねーって!速く行くぞ!」

 

 

 口々に声をあげながら走っていく人たちに竜は思わずついなと顔を合わせて首をかしげた。

 聞こえてきた声から考えるになにか珍しいものかなにかが現れた、といったところだろうか。

 情報が少なすぎてなにがあるのかはまったく分からないが、それでも竜は走っている人たちの姿に興味を引かれていた。

 

 

「ふむ。気になるし行ってみるか」

「いったいなにがあるんやろうね?」

 

 

 あそこまで慌てて走っていくほどのものがいったいなんなのか。

 それが気になった竜は走っていった人たちの向かっていった方に向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第276話



12月になりました。

寒さも厳しくなってきますので皆さまも体調に気をつけてください。





 

 

 

 

 慌てて走っていった人たちの後を追い、竜はついなを頭の上に乗せたまま歩く。

 向かう先の方を見ると、なにやら人が集まっていることが分かる。

 しかし、見たところなにかイベントをやっているというような感じはなく、慌てた様子で集まっている人たち以外に変わったことはないように見えた。

 

 

「なんかイベントでもやってるのかと思ったけど・・・・・・。そうでもないのか?」

「見た感じ慌ててるのは集まってきている人たちだけみたいやね」

 

 

 目の前に広がっている光景を見ながら竜とついなは首をかしげる。

 竜が首をかしげた際についなが少しだけ滑って竜の頭から落ちそうになったが、すぐに竜の頭にしがみついたので落ちることはなかった。

 

 

「本当にここで見たんだろうな?!」

「俺も聞いただけだから知らねーって!」

「“UNA(ユーナ)”ちゃーーん!!」

 

 

 この人たちはどうして集まってきたのかと竜とついなが首をかしげながら見ていると、言い争うような声が聞こえてくる。

 よく見れば集まってきていた人たちはなにかを探すように周囲を見回していることに竜とついなは気づいた。

 

 

「“UNA”?なんだっけ、なんか聞き覚えが・・・・・・」

「ご主人はドラマとかあんま見いひんからなぁ。たしか、有名なジュニアアイドルのはずやで」

 

 

 聞こえてきた誰かの名前らしきものに竜が首をかしげていると、ついなが誰の名前なのかを答えた。

 ついなはときどきドラマなどを見ており、そのときに出演していたジュニアアイドルである“UNA(ユーナ)”の名前を見て知っていたのだ。

 

 

「となると、ここにいる人たちはその“UNA”って子を見かけたから集まってきたってことか?」

「まぁ、聞こえた限りではそういうこっちゃな」

 

 

 どう見てもなにかの撮影とかをしている様子のない周囲の景色と慌てた様子の人たち。

 これらのことから誰かしらが“UNA”の姿を見かけてそこから騒ぎが大きくなったということなのだろう。

 ジュニアアイドルである“UNA”を探すために集まってきた人たちの姿は一言で言うのなら、『このロリコンどもめ!』といったところだろう。

 

 ジュニアアイドルにそこまで興味のない竜はここにいる意味はないと判断し、お昼ご飯を食べるために別のところに向かうことに決めた。

 

 

「ん・・・・・・?」

 

 

 ふと、竜は視界の端になにやら青いものが揺れていることに気がついた。

 不思議に思って少し近づいて観察してみれば、路地の影に隠れるようにしてなにやら青いものがはみ出しているのだということが分かった。

 

 

「なんだあれ?」

「よう分からんけど、なんか隠れとるみたいやね?」

 

 

 よく分からない青いものがはみ出している光景に竜とついなは首をかしげる。

 しばらく竜とついながはみ出している青いものを見ていると、なにやら小さな音が聞こえてきた。

 

 

「ついな、じゃないか。となると・・・・・・?」

「まぁ、そこに隠れとる人なんやろなぁ」

 

 

 竜とついなの耳に届いた小さなキュクルゥ~という音。

 聞こえてきた音に竜はチラリとついなを見たが、ついなは首を横に振って否定し、目の前の路地に隠れているであろう人の方を指差した。

 

 

「あの・・・・・・、大丈夫ですか?」

 

 

 聞こえてきた音の主が目の前で隠れている人なのだろうとあたりをつけ、竜は声をかける。

 すると、隠れていた人がチラリと顔を覗かせた。

 

 

「えっと、すみません。できれば騒がないでもらえたら・・・・・・」

「ふむ?よく分からないけど分かったよ」

 

 

 隠れていた人、いや隠れていた少女は竜にお願いをする。

 その声はかなり困っているようにも聞こえ。

 竜はよく分からないままにうなずくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第277話



ついにパソコンを買えるだけのお金が!

これでパソコンを買えば更新のしやすさだけでなくヴァーチャルな肉体を得ることも!

まぁ、その前にいろいろとパソコンの使い方とかを覚えないとなんですけどね。





 

 

 

 

 隠れていた少女は竜の言葉にホッと安心したように息を吐く。

 安心した様子の少女の姿に、ついなはあることに気がついた。

 

 

「ご主人。この子が“UNA(ユーナ)”ちゃんやで」

「あ、この子がそうなのか」

 

 

 青色の髪の毛に大きなツインテール、そして頭に乗せた大きな楕円形のような帽子。

 赤い縁のメガネをかけた可愛らしい少女が、集まってきている人たちの探している“UNA”だということに気がついたついなは竜にその事を教える。

 ついなに目の前の隠れている少女が“UNA”だということを教えられ、竜は少しだけ驚いた表情になる。

 それと同時に先ほど少女が言った騒がないでほしいという言葉にも納得がいった。

 

 

「なぁ!そこのあんた!“UNA”ちゃんを見てないか!?」

「え、俺ですか?」

「ひゃうっ・・・・・・」

 

 

 不意に背後から“UNA”を探していた男に声をかけられ、竜は首をかしげながら振り返る。

 男の声に驚いたのか、“UNA”は慌てて路地の影に身を隠す。

 

 

「えっと、すみませんが見てないですね。自分はちょっと猫がいたので見てただけですので」

「そうか。っと、とりあえず“UNA”ちゃんを見かけたら教えてくれよ!」

 

 

 騒がないでほしいということは誰にも気づかれたくないということ。

 それを理解した竜は咄嗟に“UNA”のことは見ていないと答えた。

 竜の答えに男は残念そうな表情になると、すぐに何処かに走り出していく。

 恐らくは“UNA”をしらみ潰しに探すために移動をするのだろう。

 

 男が去ってしばらくすると、ひょこりと“UNA”が顔を出す。

 

 

「すみません。ありがとうございます・・・・・・」

「いや、このぐらいなら別に構わないけど・・・・・・。これからどうするんだ?」

 

 

 顔を出した“UNA”は自分の存在を誤魔化してくれた竜にお礼を言う。

 “UNA”の言葉に竜は軽く手を振りながらこの後はどうするのかを尋ねる。

 今のところはなんとか隠れていることはできているが、いつかは見つかってしまうだろう。

 

 竜の言葉に“UNA”は困ったように目を伏せた。

 

 

「私を探してる人たちがいなくなった隙を見て帰ろうかと・・・・・・。やっぱり、私が出掛けるなんて無理だったんですよね・・・・・・」

 

 

 ジュニアアイドルとして有名になってはいるが、アイドル以前に“UNA”は小学生である。

 寂しそうにうつむいてしまっている“UNA”に竜は思わず自分の頭をグシャグシャにかき回しそうになるが、直前で自分の頭の上についなが乗っていることを思い出して堪えた。

 

 

「・・・・・・はぁ、しゃーないな。よっ、と」

「へ?え?うなぁっ?!」

 

 

 ため息を吐き、竜は“UNA”の頭に乗せられている帽子を取り上げ、クレーンゲームで取った人形を入れていた袋の中に入れた。

 突然のことに“UNA”は驚き、思わず声をあげてしまう。

 しかしそんな“UNA”のことなど気にせずに竜は次の行動に移る。

 

 

「とりあえずツインテールをやめてポニーテールに変えておくか。服装は・・・・・・、俺の上着を着るので我慢してくれな」

「え?え?え?」

 

 

 “UNA”の特徴的な大きなツインテールをほどき、竜はそれをひとまとめにしてポニーテールに変える。

 女の子の髪型を変えた経験は竜にはないのでやや不格好だが、それでも“UNA”だとは分かりにくくなっただろう。

 さらに竜は自分の着ていた上着を脱いで“UNA”に手渡した。

 

 

「まぁ、これで少しはバレにくくなったんじゃないか?」

「な、なにを・・・・・・?」

 

 

 竜によって髪型や格好まで変えられ、“UNA”は混乱したまま竜のことを見つめ返す。

 そんな“UNA”に竜は手を差し出した。

 

 

「子どもがそんな寂しそうな顔してんなよ。俺なんかで悪いけど今日だけは俺の妹ってことにして自由に遊んでみないか?」

「あ・・・・・・。はい!」

 

 

 差し出された手と竜の言葉に“UNA”は嬉しそうに笑みを浮かべながら竜の手を取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第278話



 UAが73000を越えましたので番外話のアンケートを始めます。

 期限はUAが76000を越えるまでです。

 投票の方をよろしくお願いします。





 

 

 

 

 髪形を変え、一目では“UNA(ユーナ)”だと分からないように変装した少女と手を繋いで竜は歩く。

 途中、何度か“UNA”を探している人たちの横を通ることはあったが気づかれることはなかった。

 

 

「とりあえずさっきの場所からは離れたし、この辺りなら少しはマシかな」

「えっと、ありがとうございます・・・・・・」

 

 

 先ほどまでの“UNA”のファンたちが集まっていた場所から離れ、周囲が落ち着いてきたところで竜は足を止める。

 いま竜たちがいる周囲では“UNA”がいたという騒ぎをしている人たちはおらず、少しだけ安心することができた。

 

 回りが静かになったことで落ち着いてきたのか、“UNA”は竜と繋いでいる自分の手を見て頬をやや赤く染める。

 

 

「んー、“UNA”って呼んでたらバレるよな。えっと、(ユー)(エヌ)(エー)で“UNA(ユーナ)”だったよな?」

「そうやで」

 

 

 バレないように姿を変えているのだからそのまま名前を呼ぶわけにはいかない。

 そう考えた竜はついなに“UNA”の名前の表記を確認する。

 ジュニアアイドルとしてテレビでは“UNA”としか名前は出ておらず、そもそもとして竜は“UNA”自体をまったくと言って良いほどに知らない。

 そのため、竜はなにかちょうどいい呼び名を考えることにした。

 

 

「そうだな・・・・・・。“UNA”をそのままローマ字読みにして“ウナ”って呼ぶことにするか」

「え・・・・・・?」

 

 

 竜が思いついたのは“UNA”をそのまま読み変えるというとても安直なもの。

 竜の思いついた名前に“UNA”改めウナは驚いたような表情になった。

 

 

「ん?気に入らなかったなら別の名前を考えるけど・・・・・・」

「あ、いえ、大丈夫です・・・・・・。ちょっと驚いただけなんで」

 

 

 ウナから聞こえてきた声に竜はウナという名前が気に入らなかったのかと考え、別の名前にするか確認をとる。

 竜の言葉にウナは首を横に振り、この名前でいいと答えた。

 

 

「そんじゃまぁ、まずはお昼を食べに行くか。なにか食べたいものとかはあるか?」

「食べたいもの、食べたいもの・・・・・・」

 

 

 呼び名も決まり、これで少しは安心して行動することができる。

 いまの時刻はもうすぐお昼になろうかというところ。

 お昼ちょうどに飲食店に入ってしまえば時間がかかってしまうので、いまから飲食店にはいればちょうどいいくらいだろう。

 竜に食べたいものを聞かれたウナは自分がなにを食べたいのかを考え始めた。

 

 

「えっと、最近お仕事で忙しくて食べられなかったから回るお寿司を・・・・・・」

「ん、回転寿司だな。ちょっと待ってろ近くの店を調べるから」

 

 

 少しだけ恥ずかしそうにしながらウナはお昼ご飯に食べたいものを言う。

 ジュニアアイドルの仕事の差し入れなどでたまに高いお寿司などを差し入れとしてもらうことはあるのだが、ウナからすれば高いお寿司よりも回転寿司などにあるハンバーグ寿司などの方が好みなのだ。

 上目使いで答えるウナに竜はポンと軽く頭を叩いてケータイで近くの回転寿司の店を探し始めた。

 

 

「近いのは・・・・・・ここか。予約もできそうだな。それじゃあ、向かうぞー」

「うなぁー、おっ寿司ー、おっ寿司ー」

 

 

 いまいる場所から一番近い回転寿司点を見つけ、ついでに予約もいれた竜はウナと手を繋いで歩き出す。

 竜の対応がウナに甘いように思えるかもしれないが、それは竜がウナに対して父性や母性のような、兄性?のようなものを感じているからだ。

 見るからに年下の小学生くらいの女の子がまともに外も歩けず、落ち込んで家に帰らなければいけないということと、先ほどの嬉しそうな表情を見たことによって竜の中でウナがしたいと思っていることを叶えなければいけないという使命感のようなものが生まれてきているのだ。

 

 まぁ、言ってしまえば実際の妹ではないのにシスコンのような精神状態になってきていると言えば分かりやすいだろう。

 

 そんな竜と手を繋ぎながらウナは嬉しそうに歩くのだった。

 

 

 

 

 

 



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第279話



そういえばアイ先生をアンケートに入れ忘れてたような・・・・・・

アイ先生のヤンデレエンドも見たい人はいるんですかね?





 

 

 

 

 どこにでもあるチェーン店の回転寿司店。

 その店の中のテーブル席に竜とウナは座る。

 ついなは竜の頭の上からテーブルの上に広げて置いたハンカチの上に飛び降りており、テーブルの上に直接立たないように気をつけていた。

 

 

「予約のお陰で楽に座れたな。それじゃあ、頼もうか」

「うん!えっとね、ハンバーグと、コーンと、サーモン!」

 

 

 回転寿司店ということで竜たちが座っているテーブルの隣にはお寿司が乗った皿が流れていくレーンがあり、さまざまな種類のお寿司が流れていっている。

 それをチラリと見てから竜は席に取りつけられているタッチパネルを操作していった。

 横を流れているのだからそれを取ればいいのではないかと思うかもしれないが、レーンの上を流れているお寿司は流れ始めてからどれくらい経っているのかも分からないのと、流れている間になにかがついている可能性があるかもしれないということで、竜は基本的に流れているものは取らないようにしていた。

 

 竜がタッチパネルを操作していくと、回転寿司店に来れたことでテンションが上がったのか、子どもっぽさの増した口調でウナが食べたいものを言っていった。

 そんなウナの様子に竜は微笑みながら注文を入力していった。

 

 

「俺は光り物を頼んでいくかな。・・・・・・いなはどれが食べたい?」

「んー、そんなら鉄火巻きをお願いするで」

 

 

 ウナが食べたいものの注文を手早く終え、続けて竜は自分が食べたいものを入力する。

 それと同時にウナに聞こえないように小さな声で竜はついなに食べたいものを確認する。

 竜の言葉についなは少しだけ考えるようにメニューを見て、食べたいお寿司を言った。

 

 本来であればついなは食事を必要としないことを知っているのだが、それでも食事をする楽しさを忘れるのは寂しいことなので定期的に食事をとるようにしているのだ。

 

 

「食べ終わったらどこかに行きたいとかはあるか?」

「んむぅ?んみゅ、んみゅ・・・・・・」

「あー、悪い。口の中がなくなってからでいいから」

 

 

 席に届いたお寿司を食べながら竜は次にどこに行きたいのかを尋ねる。

 竜の言葉にちょうど竜が聞いたタイミングでお寿司を口に入れてしまったウナは困った表情になりながら口を動かすスピードをあげていった。

 

 ウナの様子から自分が声をかけたタイミングが悪かったのだと理解し、竜はウナに落ち着いて食べるように言う。

 

 

「いやはや、さすがはジュニアアイドルをしとるだけあって食べてる姿もかわええんやねぇ」

「そうだな」

 

 

 モグモグとお寿司を食べているウナの姿を見てついなは感心するように言う。

 そんなついなの言葉に竜も同意する。

 まぁ、竜の場合はシスコンのような状態になっていることによるフィルターも多少はありそうだが。

 

 

「モグモグ・・・・・・ゴクン。んく、んく・・・・・・、ぷはぁ」

 

 

 口の中のお寿司を飲み込み、お茶を飲んだウナはホッと一息をつく。

 幸せそうなその表情は年相応に幼く、とても可愛らしく見えた。

 

 

「そんで?行きたいところは?」

「あ、えっと。今日は本屋さんとお洋服屋さんに行きたいと思ってたの」

 

 

 一息をついてしばらく動きを止めていたウナに竜は再度どこに行きたいのかを尋ねる。

 竜に声をかけられ、お茶の余韻に浸っていたウナはどこに行きたいと思っていたのかを答えた。

 

 

「本屋と服屋だな。そんじゃ、お昼を食べ終わったら向かおうか」

「やったー!」

 

 

 ウナから聞いた行きたいところを記憶し、竜はお昼ご飯を再開する。

 竜の言葉に自分が行きたいと思っていた本屋と服屋に行けるのだと理解したウナは嬉しそうに声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第280話



ふとしたときに別の小説を思いついたりしますよね。

仮面ライダーの話とか思いついたのをメモしてるとなかなかの量になってたりします。





 

 

 

 

 竜たちの前に積まれた空になった皿。

 ウナの方は6枚、竜の前には12枚の皿が置かれている。

 ちなみに竜の皿の中にはついなの食べたものも含まれており、竜が10枚、ついなが2枚となっている。

 

 

「うなぁ、お腹いっぱい・・・・・・」

「満足したみたいで良かったよ」

「幸せそうな顔しとるなぁ」

 

 

 幸せそうに自分のお腹をさするウナの姿に、竜は笑みを浮かべつつ会計をするためのバインダーをウナに気づかれないように手に取った。

 お腹がいっぱいになったのと、お茶を飲んだりしたことによって体が暖まったのか、ウナは少しだけ眠そうにしているように見える。

 そんなウナの姿を見ながらついなはテーブルの上から竜の頭の上へと移動した。

 

 

「さて、と。本屋と服屋に行くんだろ?そろそろ行こうか」

「そうだった!行くー!」

 

 

 竜の言葉に眠そうにしていたウナはガバリと立ち上がり、自分の持ち物をちゃんと全部持ったかを確認し始めた。

 お昼を食べる前のやや緊張をしていた姿からは想像ができないほどに砕けた様子のウナに竜は少しだけホッと安心する。

 

 

「あ、そうだお昼のお金・・・・・・」

「ん、ああ、気にしなくていいよ。ウナは今日は俺の妹なんだ。妹からお金は貰えんよ」

 

 

 いま竜たちがいるのは回転寿司店で食事をしたのであれば代金を払う必要がある。

 そのことを思い出したウナは竜に自分の食べた分のお金を渡そうと財布を取り出す。

 しかし竜はウナが財布からお金を取り出す前にヒラヒラと手を横に振りながら気にしなくても良いと答えた。

 

 竜の言葉にウナは困惑したような表情になるが、竜は気にせずにバインダーをレジにまで持っていってお昼の代金を払ってしまった。

 

 ぶっちゃけて言ってしまえば、ジュニアアイドルをしているウナの方がバイトをしている竜よりもお金を稼いでおり、おそらくはいまの手持ちの金額も竜よりも多いだろう。

 それでも今日だけはウナは竜の妹であり、妹の食べたものも兄である自分が払うものだと竜は考えていた。

 

 

「だだ甘やなぁ・・・・・・」

「・・・・・・うっせぇ」

 

 

 竜とウナのやり取りを竜の頭の上で聞いていたついなは、やたらとウナのことを甘やかす竜に対して苦笑まじりに言う。

 そんなついなの言葉に竜もウナのことを甘やかしている自覚はあったのか、少しだけでも反論するかのように小さく呟くのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 お昼の代金も払い終わり、竜とウナはふたたび手を繋いで歩き出す。

 お腹も膨れて次に向かうのはウナが行きたいと言っていた本屋だ。

 

 

「ウナは普段どんな本を読んでるんだ?」

「えっとねぇ、友達から勧められた漫画とかテレビでやってる漫画とかをよく読んでるよ」

「ふーん。あ、じゃあ“恋愛Judgment(ジャッジメント)”とかも読んでるのか?」

「最近ドラマ化した漫画だよね!もちろん読んでるよ!」

 

 

 本屋へと向かいながら竜とウナは他愛もない会話をする。

 話の内容はどんな本を読んでいるのか、だ。

 ウナの言うテレビでやっている漫画という言葉に竜はふと少し前についなが話していたドラマのことを思い出して聞いてみた。

 竜の言葉にウナは嬉しそうに答え、“恋愛Judgment”のどんなところが面白いのかを話し始めた。

 

 

「えっとね。やっぱり主人公の犬っぽい看板娘の女の子と猫みたいな大学生のやり取りがとっても面白いの!ドラマだとまだ先の方の展開だと思うんだけどね。2人が一緒に出かけたりするところとかとっても、こう、何て言うか・・・・・・。胸にくるの!」

「むぅ、うちはドラマの方しか知らんからなぁ。漫画の方も読んでみたいなぁ・・・・・・、チラリ」

「・・・・・・少し興味が湧いたから漫画も買ってみるか」

 

 

 どうやらウナにとって“恋愛Judgment”という漫画はとくに好きなものに入っているようで、語彙力が死にながらも必死に面白さを伝えようとしていた。

 ウナの言葉にドラマでしか内容を知らないついなはわざとらしく竜に聞こえるように擬音まで含めて言う。

 語彙力が死にながらも熱弁するウナと、頭の上から原作を読んでみたいという圧をかけてくるついなに竜は苦笑しつつ、漫画を買ってみることに決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第281話



感想とかはいつでもお待ちしておりますので、気楽に書いてくださいな。





 

 

 

 

 とくに大きいわけでも小さいわけでもない一般的な本屋。

 竜は漫画を探しているウナの後をついて歩いていた。

 ついなとウナの話から“恋愛Judgment(ジャッジメント)”の漫画を買う予定はあるのだが、それよりもまずはウナの探しているものを見つける方が先だろう。

 

 

「探し物はなんですか~、なんてな」

「なぁに、その歌?」

 

 

 小さい頃にアニメで使われていてなんとなく憶えていた歌を竜は口ずさむ。

 まぁ、実際には本当にアニメで使われていたのかすら怪しいレベルで歌以外のことは憶えていないのだが。

 竜の口から聞こえてきた聞いたことのない歌にウナはコテンと首をかしげる。

 

 竜がこの歌を聞いたのは竜が小学生になるかならないかの頃。

 それだけ昔であるのであればもしかしたらウナはまだ生まれていなかった可能性すらある。

 そのため、ウナがこの曲を知らないということに竜は少しだけ歳をとったのだなぁと感じてしまった。

 

 

「昔、俺がテレビを見てたら流れてきた歌だよ。まぁ、俺が小学校くらいの時に聞いたやつだからウナは知らないだろうな」

「うなぁ、そんなに前だったら聞いたことないや・・・・・・。でもちょっとどんな歌なのか気になるかも」

「えっと、たしか歌のタイトルは・・・・・・」

 

 

 首をかしげるウナに竜は簡単に歌の説明をする。

 竜の言葉にウナは竜が口ずさんでいた歌がどんなものなのかが気になり始めたようだ。

 ウナが歌に興味を持ったということで竜は歌のタイトルを手早く調べ始めた。

 

 

「あ、あったあった。えっと、“夢の中へ”ってタイトルだな」

「“夢の中へ”だね。お家に帰ったら聞いてみよ~」

 

 

 竜から聞いた歌のタイトルをメモしてウナはうなずく。

 そこでふとウナは自分のケータイと竜のケータイを見る。

 

 

「そういえばなんの本を探してるんだっけ?」

「え、あ、えっと、“恋愛Judgment”の最新刊と面白そうな本がないかを見に・・・・・・」

「最新刊なら目立つところに置いてありそうやね」

 

 

 ふと、竜はウナからどんな本を探しているのかを聞いていなかったことを思い出す。

 竜の言葉にウナは慌てた様子で竜のケータイから目線を逸らし、探している本を答えた。

 ウナの答えに竜の頭の上でついなが“恋愛Judgment”の最新刊がどこに置いてありそうかを言う。

 ついなと同じことを考えていた竜はついなが落ちてしまわないように気をつけて小さくうなずき、新刊がまとめて置いてあるコーナーを探した。

 

 

「っと、あそこか。あっぶな、最後の一冊じゃないか・・・・・・」

 

 

 さまざまな新刊がまとめて置いてあるコーナーを見つけた竜は早足でそこに向かい、“恋愛Judgment”の最新刊を探した。

 いくつかの新刊が並べられている中で、一冊だけ残っていた“恋愛Judgment”の最新刊を見つけた竜はホッと息を吐きながらそれを手に取る。

 たしかに他の売れてはいるのだが、それでも置かれている漫画が最後の一冊になるまで売れているのは“恋愛Judgment”だけだった。

 

 

「ほい。見つけてきたぞ。まさか最後の一冊になってるとは思わなかったけどな」

「わわ、ありがとう!あ、でも・・・・・・」

 

 

 本を探しているウナを見つけた竜はポスンと軽くウナの頭の上に“恋愛Judgment”の最新刊を乗せる。

 自分の頭の上に乗っている本が探していた漫画だということに気がついたウナは嬉しそうに竜にお礼を言う。

 しかし続けて聞かされた竜の最後の一冊だったと言う言葉に表情を曇らせる。

 どうやら最後の一冊しかなかったのに自分が買っても良いのかを気にしているようだ。

 

 

「細かいことは気にすんな。それにまだ一冊も“恋愛Judgment”の漫画を持ってないからな。最新刊を買うのが遅れたとしても誤差だ誤差」

「わ、ちょ、うなぁぁあ?!」

 

 

 申し訳なさそうにしているウナに、竜はそう言ってウナの頭をグシャグシャと撫でる。

 乱暴に、しかし優しく竜に頭を撫でられ、ウナは思わず声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第282話



日が出ていればそこまで寒くないんですけど、天気が悪かったりすると本当に凍えますよね。

読んでくださっている皆さまも体調には気をつけてください。





 

 

 

 

 グシャグシャとウナの頭を撫でた竜は目の前の棚に並べられている“恋愛Judgment(ジャッジメント)”の漫画を手に取る。

 “恋愛Judgment”はいまのところ最新巻の15巻まで出ており、全部を一気に買うのはなかなかに痛い巻数だった。

 

 

「そうだな・・・・・・。とりあえずは4巻までを買っておくか」

「漫画1冊もそこそこにいい値段はするからなぁ。しゃーないわな」

 

 

 適当にまだ財布に痛くない巻数までを手に取りながら竜は呟く。

 漫画1冊の値段はものにもよるがだいたい700円ぐらいで、高いものならば1000円ほど。

 そして“恋愛Judgment”の値段は700円なので、仮に最新巻まで買うとなれば700円×15冊で10500円となってしまうのだ。

 しかもこの金額はざっくりと計算したもので、ここにさらに消費税が加わるので金額としてはさらに大きなものとなってしまう。

 それが分かっているからこそついなもとくに文句を言うことはなかった。

 

 

「俺の方はこんなもんかな。ウナはそれ以外になにかあったか?」

「んーっと・・・・・・。とくにはなかったかなぁ」

「そっか。それじゃあレジに行くか」

 

 

 “恋愛Judgment”以外にとくに欲しい漫画が見つからなかった竜はウナに他に買うものがあるのかを尋ねる。

 竜の言葉にウナはキョロキョロと周囲の本棚を見て、とくに欲しい漫画はなかったと答えた。

 ウナの答えに竜はうなずき、買う漫画を手に持ちながらレジに向かっていった。

 

 

「ほれ、それも一緒に買っちゃうから」

「ううん、大丈夫。お昼ご飯を出してもらったんだもん。これくらいなら自分でちゃんと買えるよ」

「そうか・・・・・・?」

 

 

 レジに並ぶ直前、竜はウナに向かって手を差し出しながら言う。

 どうやらウナが持っている“恋愛Judgment”の最新巻も一緒に買ってしまおうと言う考えのようだ。

 そんな竜の言葉にウナは首を横に降って断る。

 ウナの言葉に竜は少しだけ気落ちした様子でレジに並んだ。

 そして竜とウナはそれぞれ自分たちの漫画を買うのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜とウナのそれぞれが漫画を買い終え、竜たちは次の目的地、服屋へと向かう。

 歩きながらウナはチラリと竜のことを見る。

 しかしウナからの視線に気がついて竜がそちらを見ると、ウナは慌てた様子で正面を向いてしまう。

 不思議なウナの行動に竜は思わず首をかしげてしまっていた。

 

 

「どうかしたのか?」

「ふぇっ?!」

 

 

 なんどもチラチラと視線を向けられていてはさすがに気になるもので、竜はウナになにかあるのかと尋ねてみた。

 竜の言葉にウナは驚いたような声をあげる。

 そして自分が竜のことを見ていたことがバレているのだということに気がつき、顔を赤くしてうつむいてしまった。

 

 

「えっと・・・・・・、その・・・・・・」

 

 

 うつむいてしまったウナのことを見ていると、ウナはモジモジと人差し指を合わせながらなにかを言いたそうにしていた。

 ここで変に急かしてしまっても良いことはないので、竜はウナが自分から言いたいことを言えるようになにも言わずにウナの言葉を待つ。

 

 

「あの・・・・・・、連絡先を聞いてもいいですか?」

 

 

 上目使いで恥ずかしそうにしながらウナは竜に連絡先を尋ねる。

 ウナの言葉に竜はどうしたものかと頬を掻いた。

 

 

「ダメ、かなぁ・・・・・・?」

「いや、ダメではないんだが・・・・・・」

 

 

 困ったような様子の竜にウナは不安そうな表情になる。

 竜としては別に連絡先の交換をすることに拒否感とかはないのだが、それとは別に本当に連絡先を交換してもいいのかという不安もあった。

 

 

「・・・・・・分かったよ。とりあえずこのメッセージアプリのやつでいいか?」

「うん!」

 

 

 不安そうに瞳を潤ませてきていたウナの表情に竜はガックリと肩を落として連絡先を教える。

 竜から連絡先を聞くことのできたウナは嬉しそうにケータイに登録された竜の名前を見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第283話



他の出したい子たちはウナの番が終わったらですかねぇ・・・・・・。

どのくらいの長さになるかは未定ですけど。






 

 

 

 

 ウナと連絡先を交換した竜は歩きながらどうしたものかと頭を悩ませる。

 

 竜としてはジュニアアイドルである“UNA(ユーナ)”と出会うという今日の出来事は奇跡のようなものであり、今日が終わればもう会うようなことはないものと考えていた。

 そのため連絡先などを聞くつもりはなかったし、本名のことも聞くつもりはなかったのだ。

 

 しかし、ウナにお願いされて連絡先を交換したことによっていつでもウナと連絡がとれるようになってしまう。

 一般人である自分とジュニアアイドルであるウナがそう簡単に連絡を取り合ってもいいのか、そのことが竜は気になっていた。

 

 そんなことを竜が考えていると、いつの間にか目的地である服屋に到着していた。

 ちなみに、ついなはお昼を食べてから時間が経って眠くなったのか、竜の服のフードの部分に潜り込んで寝息を立てている。

 

 

「っと、着いたか」

「どんなお洋服が置いてあるかなぁ」

 

 

 いつの間にか着いていた服屋を見てウナは嬉しそうに声をあげる。

 そして、竜の手を掴んで服屋の中に入っていった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜の手を引っ張り、ウナは自分が着れるサイズの服が置いてあるコーナーに向かう。

 竜としてはウナが向かっている先が女性物の服が置いてあるコーナーの近くなのでできれば行きたくはないのだが、手を振り払うのも悪い気がして引かれるがままになっていた。

 

 そんな竜たちに1人の人影が近づいてくる。

 

 

「いらっしゃいませ~。どのようなお洋服をお探しですか~?」

 

 

 竜たちに声をかけてきたのは服屋の店員だった。

 店員はまず手を引かれている竜を見、続いてウナを見る。

 

 

「あら、とても可愛らしい。でもどこかで見覚えがあるような・・・・・・?」

「ッ・・・・・・!」

 

 

 ウナを見た店員は不思議そうに頬に手をあてながら首をかしげる。

 どうやらウナに対して見覚えのようなものを感じているらしい。

 店員に見つめられ、ウナは咄嗟に竜の後ろに隠れた。

 

 

「あらら、隠れちゃった」

「あはは、見覚えがあるのだとしたら“UNA(ユーナ)”じゃないですかね。うちの妹も“UNA”のファンで真似をよくしているんですよ」

「“UNA”ちゃん?あー、たしかに!よく似ていますね!」

 

 

 竜の後ろに隠れてしまったウナのことを見ている店員に竜は適当に誤魔化しながら説明をする。

 

 基本的にジュニアアイドル本人が店に来るという発想はなかなか起こらないもの。

 それに加えて本人が来ているというよりもアイドルのファンで似たような格好をしているという説明の方が信憑性は高いだろう。

 

 竜の説明に店員はウナが“UNA”の真似をしている女の子だとすっかり信じていた。

 

 

「えっと、自分たちでいろいろと見ていこうと思いますので、いまのところは大丈夫なんで」

「あ、そうですか?では、ごゆっくりどうぞ~」

 

 

 いつまでも店員がいてはウナが自由に服を見づらいだろうと考え、竜は店員にいまは手伝いなどは必要ないということを伝えた。

 竜の言葉に店員はうなずき、竜の後ろに隠れているウナに向かって手を振って仕事に戻っていった。

 店員が離れていったのを確認すると、ウナが竜の後ろからゆっくりと出てくる。

 

 

「さて、それじゃあ服を見ていこうか?」

「うん。あ、その、もし良かったらお洋服を選んでもらっても良いかなぁ?」

「それぐらいなら別に構わないよ」

 

 

 自分で洋服を選ぶのも良いが、誰かに洋服を選んでもらうというのも新しい自分を見つける切っ掛けになるというもの。

 ウナは竜の手を掴みながら恐る恐る尋ねる。

 そんなウナの言葉に竜は笑いかけながら答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第284話



アンケートの結果がどうなるのかが本当に気になるところです。

まだ答えていない人は是非どうぞ。





 

 

 

 

 服屋の少女服のコーナー。

 少しだけ居づらいような感覚を受けながら竜はウナに似合いそうな洋服を見ていく。

 並べられている洋服や置かれている洋服などは少女向きということもあって可愛らしいものが多く置かれていた。

 また、ちらほらとキャラクターがプリントされている、いわゆるキャラものと呼ばれる洋服が置かれているのも少女服のコーナーの特徴だろう。

 

 

「どれが似合うかな・・・・・・」

 

 

 近くに並んでいる洋服を見ながら竜は頭を悩ませる。

 別に、ウナに似合う服を見つけることが難しいとかそういうわけではない。

 むしろウナなら基本的にどんな洋服でも着こなすことができるだろう。

 しかしウナが着こなすことができるのと、自分が似合うと思えるものを選ぶというのはまた別の話になるのだ。

 

 ウナが着こなすことができるのだから適当に選んでもいい?

 そんな思いで洋服を選ぶというのはウナに対して失礼というものだろう。

 そのため、竜は真面目にウナの洋服を選んでいた。

 

 

「とりあえずこの白いワンピースは似合うだろうな。それとこっちの桜色のニットと緑のチェック柄のスカートの組み合わせも良さそうか?これならベレー帽も合わせると良さそうかもしれないな。黒のズボンに白と青のシャツを合わせて活発さを出すのも良いか?」

「うなぁ・・・・・・。想像以上に真面目に考えてくれてる・・・・・・」

 

 

 竜が選んで並べていく洋服にウナは思わずポカンとした表情になってしまう。

 ウナとしては誰かに選んでもらうということだけでも嬉しかったのだが、竜がここまで真剣に洋服を選んでくれるというのは予想外だったのだ。

 

 

「とりあえずはこの辺りかな。どうだろう?」

「すごい選んでくれたね。じゃあ、試着をしてくるから待ってて!」

 

 

 洋服を選ぶのが落ち着いたのか、竜はウナに声をかける。

 並べられた洋服の多さにウナは驚きの表情を浮かべるが、それだけ自分のことを考えてくれたのだと考え、嬉しそうにしながら洋服を持って試着室へと向かっていった。

 

 ウナが試着室に入ってからしばらくすると、試着室の扉が開いて服を着替えたウナが現れる。

 

 

「どうかなぁ?」

 

 

 最初にウナが着たのは白のワンピースという非常にシンプルな洋服だった。

 しかしシンプルだからと侮るなかれ、白いシンプルなワンピースだからこそ無垢さや清純さがとても際立つのだ。

 ウナの姿に竜はうなずきつつ、そっとポニーテールにしているウナの髪型をほどいた。

 ポニーテールがほどけたことによってウナの髪型はストレートなロングヘアーになる。

 ウナの髪型がポニーテールからストレートのロングヘアーになったことにより、洋服と合わさってまるで清純なお嬢様のようにも見えてくる。

 

 

「うん。とても似合っているよ」

「えへへへ。ありがとう!」

 

 

 竜の答えにウナは嬉しそうに笑みを浮かべ、次の洋服へと着替え始めた。

 そして、次にウナが着て出てきたのは桜色のニットとチェック柄のスカートだった。

 桜色と緑色の組み合わせということで、どことなく春のような雰囲気を感じられる。

 

 

「じゃーん!」

「うん。似合ってる似合ってる」

 

 

 試着室から出てきたウナは楽しそうにクルリと体を回転させる。

 それに合わせてスカートがヒラリと広がる。

 春を感じさせられる桜色のニットと緑色のチェック柄のスカート。

 そんな可愛らしいウナの姿に竜はうなずきながら褒めた。

 

 

「えっとねー、次はぁ・・・・・・」

「けっこう選んだからな。まだありそうだな」

 

 

 次の洋服を試着するためにウナはふたたび試着室の中へと入っていく。

 そして、竜の選んだ洋服をすべて試着し終えるまでウナによるファッションショーは続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第285話




やはりこの時期は鍋物が美味しくなりますね。

すき焼き、水炊き、きりたんぽ

どれも美味しいですよね。






 

 

 

 

 白のワンピース、桜色のニットと緑色のチェック柄のスカート、黒のズボンに白と青のシャツ、黒のシャツに白いサロペットなどなど。

 ウナによるファッションショーが竜の目の前でおこなわれている。

 

 少女らしい可愛らしい洋服もあれば、活発そうに見える洋服もあり、中にはボーイッシュな洋服もある。

 そのどれもがウナによく似合っており、竜は飽きることなく見ていることができた。

 

 

「えっと、さっきので終わりだよ」

「・・・・・・うん。やっぱりウナはどれも似合うな」

 

 

 そう言いながらウナはもとの服装に戻って試着室の中から出てきた。

 ウナが試着室から出てきたのを見ながら竜は先ほどまでのファッションショーを思い出しながら呟く。

 

 

「えへへへ、ありがとう。どれが1番似合ってたかなぁ?」

「う、うーん・・・・・・。難しいことを聞くな・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にウナは少しだけ恥ずかしそうに頬を赤らめながらお礼を言う。

 そして、ファッションショーをした洋服の中でどれが1番似合っていたのかを竜に尋ねた。

 ウナの言葉に竜は腕組みをして困り顔を浮かべる。

 

 はっきり言ってどの洋服もウナに似合っていて、どれが1番と決めるのはとても難しい。

 それに加えてそれぞれの洋服は清純だったり、ボーイッシュだったりと方向性が異なっているものばかりで、それぞれにそれぞれの良さがあるのだ。

 そういった理由から竜はウナの言葉になかなか答えられずにいた。

 

 

「1番・・・・・・、どれが1番・・・・・・?ううーん・・・・・・」

「もしかして・・・・・・、本当は似合ってなかった・・・・・・?」

「いや、そんなことはないぞ。ただ、どれも本当に似合っていて1番が決められないんだよ」

 

 

 なかなか竜が答えないことにウナは不安になったのか、悲しげな表情になりながら竜に尋ねる。

 不安そうにしているウナに、竜はすぐに答えられなかった理由を答えた。

 

 

「・・・・・・本当?」

「ああ、本当だ」

 

 

 確認するように聞き返すウナの目をしっかりと見て嘘ではないと竜は伝える。

 そこまでしてようやく不安が解消されたのか、ウナはホッとしたように笑みを見せた。

 

 

「良かったぁ。えっと、どのお洋服も似合ってるって思ってくれたんだよね?」

「ああ。どこかのお嬢様に見えるような服とか、春っぽさを感じられる可愛らしい服とか、ボーイッシュで今にも走り出しそうに見える服とか、どれも似合っていて1番とか決められないんだよ」

「そっかぁ」

 

 

 竜の頭の中に浮かんでくるのは先ほど見たウナのファッションショーと、それを見たときの感想。

 ウナが試着していた洋服はどれもとても似合っており、そこに優劣をつけることはほぼ不可能と言っても過言ではなかった。

 竜の言葉を聞き、ウナは嬉しそうにうなずきながら試着した洋服を買い物かごに入れていく。

 

 

「それじゃあレジに行ってくるね!」

「え、まさか全部買うのか?!」

 

 

 試着した洋服を買い物かごの中に入れたウナは、そのままレジに向かおうとする。

 1着も服を戻さずにレジに向かおうとするウナに竜は思わず声をかけた。

 竜の声にウナは不思議そうに首をかしげながら竜を見る。

 

 

「だって、どれも似合っていたんだよね?」

「いや、それにしたって全部は多くないか?」

「このくらいなら大丈夫だよ」

 

 

 どれも似合っていて1番を選べないのであれば全部を買えばいい。

 かなりの力技(ちからわざ)な解決方法に竜がツッコミをいれるが、ウナはニコリと笑みを浮かべてなんてことないかのように答えた。

 そして、ウナは竜の選んだ洋服をすべてレジに持っていって会計をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第286話



ううむ・・・・・・

いまいちうまく書けなかった気が・・・・・・





 

 

 

 

 ウナが竜の選んだ洋服を持ってレジに向かったあと、竜はふとあるものに目がいった。

 少しだけ考えるような仕草を見せ、竜はチラリとウナの様子を確認する。

 ウナの持っていった洋服の量はなかなかに多く、どうやらレジが終わるのにまだ少しだけ時間がかかりそうに見える。

 ウナの様子を確認した竜は、目に留まったあるものとウナに気づかれたときに誤魔化すため用に靴下を持ってレジに向かうのだった。

 

 

「うなぁ、買ったものが多くてちょっと大変かも」

 

 

 服屋から出たウナは買った洋服の入った袋を手に持ちながら呟く。

 竜が選んだ洋服には小物なんかも含まれており、合計の値段もそうだが量もかなりのものとなっている。

 しかし、重そうにしながらもウナはどこか嬉しそうにしており、小さく鼻歌も聞こえてきていた。

 

 嬉しそうにしているウナの隣を歩きながら竜はケータイで現在の時間を確認する。

 

 

「っと、なんだかんだでこんな時間か・・・・・・。ウナ、門限とかは大丈夫なのか?」

「門限?えっとねぇ、お母さんには5時までに帰ってきなさいって言われてるよ?」

 

 

 時間を確認した竜はウナに門限は大丈夫なのかを確認する。

 竜の言葉にウナは家を出るときに親に言われたことを思い出しながら答えた。

 ウナの答えに竜はもう一度ケータイの時計を確認し、困ったように頬を掻いた。

 

 

「あー・・・・・・、もうすぐ5時になりそうなんだが・・・・・・」

「うなぁっ?!」

 

 

 竜の言葉に慌ててウナもケータイで時間を確認する。

 しかしどれだけ確認しようとも表示されている時間が変わることはなく、刻一刻と門限の時間が迫ってきていた。

 

 

「まぁ、まだ時間はあるし、今から帰れば間に合うだろ」

「う、うん。そうだよね」

 

 

 もうすぐ5時になるといってもそんな数分で5時になるというほどではなく、せいぜい10分から20分ほど余裕はある。

 ウナの家がどの辺りにあるのかは不明だが、それでも門限までに家に着く可能性はまだあった。

 

 

「んーっと・・・・・・、家まで送っていっても大丈夫なのか?」

 

 

 ゲームセンターでゲットした人形を入れている袋に一緒に入っているウナの帽子を返してここで分かれて帰ってしまってもいいのだが、それをすればおそらくウナが家に帰れる可能性がかなり低くなってしまうだろう。

 しかし、だからといって現役のジュニアアイドルの自宅にまで一緒に行くというのもいろいろと問題があるようにも考えられる。

 

 送らなければウナが帰れない可能性があり、送ればウナの自宅を知ってしまう。

 その事に竜はどうしたものかと頭を悩ませる。

 

 

「えっと、今日のこととかをお母さんに教えたいから一緒にお家に来てくれると嬉しいかなぁ」

「・・・・・・オーケー、分かった。家まで送るよ」

 

 

 上目使いで一緒に帰ってほしいというウナの言葉に竜は白旗をあげる。

 竜の答えにウナは嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。

 

 

「そんで?ウナの家はどの辺りなんだ?」

「えっとねぇ、あっちだよ」

 

 

 送ると約束をしてしまったのだからここからは切り替えていく。

 そう考えた竜はウナに家がどの辺りにあるのかを尋ねた。

 もともと歩きで近辺にまで来ていたのだから、家も近いのだろうと考えて竜はウナに尋ねる。

 竜に尋ねられ、ウナは自分の家がある方をまっすぐに指差した。

 

 

「あっちか・・・・・・。それじゃあ、ウナの家に向かうとするかぁ」

「おー!」

 

 

 竜の言葉にウナは元気よく声をあげる。

 そして、竜たちはウナの家に向かって歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第287話



PSO2やらオリジナルの仮面ライダーやら・・・・・・

1つの作品をずっと書いていると他のジャンルのものを書きたくなってきたりしますよね



 


 

 

 

 

 ウナが服屋で買った洋服を手に持ちながら、竜はウナの案内のもとウナの家に向かう。

 アイドルの家に一般人が行くという時点で問題がありそうなのに、『異性』で『ジュニアアイドル』の家に向かうとなればもはやそれは犯罪と言っても過言ではないのではないだろうか。

 ウナが変装をしているため気づかれる可能性は低いとは思うのだが、それでも竜はどことなく不安を感じていた。

 

 

「あとはそこの道を曲がって少し歩いたらお家だよ」

「あー、こっちの方に住んでるんだな」

 

 

 ウナの指差す道に見覚えを感じた竜は思わず呟く。

 ウナが歩きでゲームセンターの近くにまで来ていたことからけっこう近くに住んでいる可能性があると考えていたとはいえ、まさかここまで見覚えのある場所の近くに住んでいるとは竜も予想外だった。

 

 

「あ、あとね、うちの近くにとっても大きなお家があって友だちが住んでるの」

「大きな家?この辺りだとそんなに大きな家はなかったはずだけど・・・・・・」

 

 

 竜と会話をすることが楽しいのか、ウナは笑顔を浮かべながら竜に話しかける。

 ウナの言葉に竜は今いる近辺で見たことのある大きな家を頭の中に思い浮かべていく。

 竜が記憶している限りではとくに大きな家が一件と、他に少し大きいかなというレベルの家が数件あるくらいだった。

 

 

「すっごく大きいんだよ。庭には池もあって、とっても和風なの」

「和風で大きい・・・・・・。もしかして友だちってきりたんのことか?」

 

 

 和風建築で大きく、庭に池がある。

 そしてウナと同年代の子どもが住んでいる家。

 

 聞き覚え、どころではなく見覚えがかなりある情報に竜はもしかしてと思いながらウナにきりたんの家、つまりは東北家のことなのかを尋ねた。

 竜の言葉にウナは驚いたように口を開ける。

 

 

「うなぁっ?!なんで分かったの?!」

「お、合ってるのか。いや、ときどき家に行ってゲームしたりしてるんだよ。だからウナの言っていた家がきりたんの家と同じだなーって思ってな」

 

 

 驚くウナに竜はウナの言っていた情報からきりたんの家だと気づけた理由を答える。

 竜がきりたんとときどき遊んでいるという言葉にウナはさらに驚いたのか、ポカンと口を開けたままになってしまった。

 そのまま竜たちが歩いていると、かなり広い敷地の和風建築、東北家が見えた。

 

 

「あの家が見えたってことはもうすぐかな?」

「あ、うん。東北の家が見えたからお家もすぐに着くよ」

 

 

 先ほどウナは自分の家の近くに大きな家があると言っていた。

 そのことからこの近辺にウナの家があるのだろうと竜は考え、キョロキョロと周囲を見渡す。

 竜の言葉にウナはうなずき、少し先の家を指差した。

 どうやらそこがウナの家のようだ。

 

 

「・・・・・・けっこう、普通の家なんだな?」

「うゆ?どんな家を想像してたの?」

 

 

 目の前に建っているのはなんの変哲もない普通の一軒家。

 どこかしら変わっているといったところもなく、アイドルの家だとすぐに気づくことは難しいだろう。

 

 ちなみに竜はアイドルの家ということで庭に木が生えていてペットの犬を放し飼いにしている家をイメージしていた。

 

 

「ただいまー!」

「おかえりなさい。あら・・・・・・?」

 

 

 元気よく玄関を明け、ウナは家の中に声を向かって大きく声を出す。

 ウナの声が聞こえたのか、家の奥から1人の女性が早足で玄関にまで出てきた。

 ウナが帰ってきたことを確認した女性は笑みを浮かべてウナを見、となりに竜がいることに不思議そうに首をかしげる。

 

 

「えっと、あなたは?」

「あ、えっと、自分は公住(きみすみ)(りょう)と言います」

 

 

 大切な1人娘が知らない男と帰ってくる。

 これがもし家から出てきたのが父親だったのであれば殴られていたのではないかと思えるほどの状況に竜はやや緊張しながら自身の名前を名乗るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第288話



パソコンが使えるようになれば・・・・・・

周回をしながら執筆をできるように・・・・・・!





 

 

 

 

 ウナの家の玄関で竜は緊張した面持ちでウナの母親と対峙していた。

 ウナの母親は不思議そうに竜を見ており、いまのところ悪い印象は持たれていないのだろうということはうかがえた。

 

 

「えっと・・・・・・、公住 竜くん?はどうしてウナちゃんと一緒に帰ってきたのかしら?」

 

 

 確認するように竜の名前を呼びながらウナの母親はなぜ竜が一緒になって家に帰ってきたのかを尋ねる。

 

 朝、ウナの母親はウナが家を出るときにどこに行くのかは聞いていたが、誰かと一緒だという話は聞いておらず、ましてや見るからに年の離れた異性と帰ってくるというのはまったくもって予想外だった。

 

 

「ええと、“UNA(ユーナ)”さんを1人で帰らせるとファンに見つかる可能性があると考えて、一緒にここまで来たんです。・・・・・・って、うん?・・・・・・『ウナ』ちゃん?」

「うん。そーだよ?だから最初にお兄ちゃんにそう呼ばれて驚いちゃった」

 

 

 ウナの母親の質問に竜は一緒に帰ってきた理由を答え、聞き流してしまいそうになっていた名前に気がついてウナを見る。

 竜の視線にウナはうなずいて応える。

 応えながらしれっと竜のことをお兄ちゃんと呼ぶウナに、竜とウナの母親は驚いた表情を浮かべた。

 

 

「お兄ちゃん?えっと、詳しく話を聞いてもいいかしら?」

「ア、ハイ。分カリマシタ」

 

 

 どういった経緯で出会ったのか。

 どうしてお兄ちゃんと呼ばれるようになったのか。

 

 大切な娘のことということで、ウナの母親は口調は柔らかく、しかし雰囲気は拒否させないとばかりに圧を放ちながら竜に言う。

 ウナの母親の圧に竜は思わずカタコトになりながら答えるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ウナの家、リビング。

 まるで取り調べかのように竜とウナの母親は向かい合って椅子に座っていた。

 ウナの母親にどのような経緯で出会い、一緒に行動していたかを説明している最中にフードの中で寝ていたついなが目を覚ましたのだが、周囲の雰囲気を読んで静かにしている。

 

 

「・・・・・・なるほど。街でファンから隠れているウナちゃんを見つけて、そのあと格好を簡単に変えて一緒に行動した、ということなのね?」

「はい。その通りです」

「おー、なんだかドラマの取り調べみたいだね?」

 

 

 竜から聞いた説明を確認するようにウナの母親は繰り返す。

 繰り返された内容に間違いはないため、竜は訂正することなくうなずいた。

 そんな竜と自分の母親のやり取りを見ていたウナはのんびりと竜の隣に座りながら呟く。

 

 

「ふむふむ、なるほど。ウナちゃんがあなたに助けてもらったってことがよく分かったわ。ウナちゃんのことを助けてくれて、ありがとう」

「うん。お兄ちゃんのお陰で今日はとっても楽しかったよ!」

「えっと、どういたしまして?」

 

 

 竜がウナのことを助けてくれたのだということを理解したウナの母親はニコリと微笑みながらお礼を言う。

 母親に続くようにウナも今日一日が楽しかったということを伝えた。

 2人からの言葉に竜はなんと答えていいのか分からず、困惑しながら答えた。

 

 

「ところで、まだ教えてもらっていないことがあるのだけれど・・・・・・?」

「う゛・・・・・・、えっと、そのー・・・・・・」

 

 

 ウナの母親の言葉に竜は思わず言葉を詰まらせる。

 

 実は竜はウナの母親に説明をする際に、意図的にあることだけ言わずにいた。

 それはウナに言った『今日だけは俺の妹』という言葉。

 おそらくウナがお兄ちゃんと呼んだ理由はこれなのだろうと察した竜は、意図的にこのことを説明の中で言わなかったのだ。

 

 まぁ、結局はバレてしまっているのだが。

 

 

「仕方がないわね。ウナちゃん、どうして公住くんのことをお兄ちゃんって呼んでいるのかしら?」

「えっとね。お兄ちゃんが『今日は俺の妹になって自由に遊ばないか』って言ってくれたの!」

 

 

 なかなか答えない竜にウナの母親はため息を吐き、ウナに竜のことをお兄ちゃんと呼んでいる理由を聞くことにした。

 母親の言葉にウナは少しだけ改変された竜の言葉を答える。

 一言一句間違えずに完璧に記憶するというのは難しいものだし、ある程度は仕方がないのだろう。

 ウナの言葉にウナの母親は困惑した表情で竜を見る。

 

 まぁ、ウナの言った言葉だけを聞けば誰だって困惑するだろう。

 ウナの説明とウナの母親から向けられる視線に竜は思わず頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第289話



もしかしたら今年中にUA80000を突破できるかもなーと思っております。

まぁ、どうなるかは私しだいてすかね。






 

 

 

 

 ウナから聞いた『今日は俺の妹になって自由に遊ばないか』という言葉にウナの母親は困惑した表情を浮かべながら竜を見る。

 正直な話、そんな言葉を言われたと聞けば言った人間は妹萌えの変態なのではないかと思ってしまっても仕方がないだろう。

 

 念のために弁明するならば、竜は別に妹萌えだとかそういった性癖はなく、ウナが自由に動き回れるようにするための理由として自分の妹ということにした方が楽なのではないかと考えたために出てきた言葉なのだ。

 

 まぁ、そんな考えで言った言葉だとはウナの母親はもちろん知らないので、困惑するのも当然なのだが。

 

 

「えっと・・・・・・、そういった趣味が・・・・・・?」

「いえ、違うんです・・・・・・」

 

 

 困惑した表情を浮かべながらウナの母親は確認するように竜に尋ねる。

 ウナの母親の言葉に竜は頭を抱えながら答える。

 

 そう思われても仕方がないことを言ったとはいえ、それでも竜は妹萌えだと勘違いはされたくなかった。

 

 

「私にそういった趣味はなくてですね?えっと、単純に自分の妹ということにしておけば誰かに聞かれたとしてもそっくりな子が“UNA”に憧れて同じ格好をしているのだということにできると思ったんですよ・・・・・・」

「ああ、なるほど・・・・・・」

 

 

 竜の説明に納得がいったのか、ウナの母親は軽くうなずきながら呟く。

 少なくとも竜の様子からその言葉に嘘はなさそうだということと、ウナが懐いている様子から悪い人間だということではなさそうだという判断からの納得だった。

 

 

「というか、ウナを家まで送ってきちゃったんですけど大丈夫ですか?こう、なんというか、アイドルとかの家ってパパラッチが張っているイメージがあるんですけど・・・・・・」

 

 

 ウナの言葉による誤解も解け、竜は気になったことを尋ねる。

 アイドルの家といえば基本的にはパパラッチの餌場と言っても過言ではないほどの印象を受ける場所。

 ウナが軽く変装していたとはいえ、それでも一緒に帰ってきて大丈夫だったのかが竜は気になっていた。

 

 

「まぁ、普通ならダメでしょうね。でも、その辺りはちゃんと対策しているから大丈夫なんですよ」

「対策を・・・・・・?」

「ええ、私含めてウナちゃんのことを“UNA”だとは認識できなくなるという結界というものを東北家の皆さまと貴身純(きみすみ) 咲良(さくら)さんにお願いしたんです」

 

 

 竜の言葉にウナの母親は少しだけ得意気に答える。

 常識的に考えれば結界なんていう話は胡散臭いものなのだが、東北家が関わっているとなればそれは話が変わってくる。

 霊に対しての知識などに詳しく、霊力というものに対してもかなりの知識を持っている東北家の人たちならばそういった結界を張ることも可能なのだろうと竜は納得する。

 と、ここで竜は東北家以外にもう1人の名前が呼ばれていたことに気がつく。

 

 

「きみ・・・・・・すみ・・・・・・?」

「あれ?お兄ちゃんと同じ名字?」

 

 

 竜が知っている限りでは自分以外に“きみすみ”という名字は聞いたことがなく、不思議そうに首をかしげる。

 文字として紙に書かれていれば読みだけが同じだと分かったかもしれないが、ウナの母親が口頭で述べただけだったためにウナは竜の名字と同じものだと勘違いしていた。

 

 しかし竜が不思議そうにしていた理由はもう1つある。

 

 

「というか名前の“咲良”っていうのもうちの母親と同じ名前なんだが・・・・・・」

 

 

 何とも言えない一致に竜は困惑することしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第290話



アンケートの結果が2つ選ばれている状態なため、どちらかが多くなった時点で締め切ることにします。

まさかこうなるとは・・・・・・





 

 

 

 

 ウナの母親の口から聞こえてきた“貴身純(きみすみ) 咲良(さくら)”という名前に竜は困惑した表情を浮かべる。

 口頭であり、文字として書いているわけではないので竜はその名前がどういった漢字なのかは分からなかったが、それでも自分の母親と同じ名前だということになんと言っていいのか分からなかった。

 

 

「名前まで一緒だなんて凄い偶然なのね。えっと、たしか名刺がこの辺りに・・・・・・、あったあった。はい、これが咲良さんの名刺ですよ」

 

 

 そう言ってウナの母親は1枚の名刺を出す。

 その名刺には『貴身純 咲良』とシンプルに名前が書かれており、名刺の右下の辺りには電話番号が書かれていた。

 

 

「名字の方は違うけど、名前の字は同じなのか・・・・・・。まぁ、名字が違うなら偶然か?」

 

 

 竜の名字は(おおやけ)に住むと書いての“公住”だが、咲良という人物の名字は(とうと)き身を純化させると書いての“貴身純”で、名字に関してはまったく違う漢字となっている。

 名字が違うことからおそらくは別人なのだろうと竜は考える。

 名前に関しては完全に同じ漢字だったのだが、“さくら”という名前はそう珍しいものでもないため偶然の一致だろう。

 

 

「・・・・・・あまり長居をしてもアレですし、自分はそろそろお(いとま)させてもらいますね」

「えー!部屋で持ってる本のお話とかしたいと思ってたのにぃ・・・・・・」

 

 

 ウナとどう出会ったかなどの話だけをするつもりだったのにいつの間にか違う話になっていたことに気がついた竜は、椅子から立ち上がる。

 そんな竜の言葉にウナは不満そうに声をあげる。

 

 ウナは竜と母親の話が終わったら竜と遊ぼうと思っていたため、竜が帰ろうとしたことが不満のようだ。

 

 

「えっと・・・・・・」

「ウナちゃん。公住くんとは今日会ったばかりなんでしょう?だからそんな簡単に自分の部屋に入れちゃダメよ?」

「むぅ~・・・・・・」

 

 

 ウナの言葉に竜は困り顔になりながらウナの母親に助けを求めるような視線を向ける。

 竜とウナは今日出会ったばかりであり、いくらウナが安全だと思っていてもそう簡単に今日出会ったばかりの人間を部屋に入れていいものではない。

 竜の視線にウナの母親はうなずき、やんわりとウナを説得した。

 母親の言葉にウナは不満そうに頬を膨らませ、まるでフグのように膨らんだ顔になってしまった。

 

 そんなウナの顔を見て竜は思わず吹き出し、指で優しくその頬をつついた。

 

 

「ぷひゅうっ。なにするのさぁ?」

「いや、なんか膨らんでるのを見て、つい・・・・・・」

 

 

 竜の指によって膨らんでいた頬が潰され、ウナの口から空気が漏れる。

 膨らんでいた頬を潰されたウナは、頬に竜の指を当てたまま尋ねる。

 指先に触れるウナのプニプニとした頬の感触を感じながら竜はウナの問いに答えた。

 

 

「まぁ、なんだ。ウナのお母さんも言っているように簡単に男を部屋に入れちゃいけないってことだ」

「でも今日1日はお兄ちゃんだよ?」

「お兄ちゃんでもダメなものはダメですー」

 

 

 今日1日はお兄ちゃんで妹なのだから別になんの問題もないのではないかとウナは竜に言う。

 そんなウナの言葉に竜は頬をつついたまま答えた。

 

 まぁ、家庭にもよるだろうが兄であっても部屋に入れたくない妹もいれば、気にせずに部屋に入れる妹もいる。

 その辺りは本当に人によるとしか言えないだろう。

 

 なお、竜とウナは本当の兄妹というわけではないので、そういった理由から竜はウナの言葉を却下していた。

 

 

「まぁ、いつでも連絡はとれるんだからいつでもメッセージを飛ばしてくれ。えっと、それじゃあ、お邪魔しました」

「うん!絶対にメッセージ送るね!」

「ええ、さようなら」

 

 

 部屋に入ったりすることはできないが普通にメッセージのやり取りをすることはできる。

 竜の言葉にウナはうなずき、手を振るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第291話



アンケートが決まりました。

これまでヤンデレエンドをむかえた全員によるエンドとなります。






 

 

 

 

 “UNA(ユーナ)”もとい音街ウナの家からの帰り道。

 近くに東北家があることから、普段のきりたんと遊んだ際の帰り道と然程の違いはなく、道に迷ったりすることもないだろう。

 

 

「それにしてもアイドルの女の子と会うのは驚きやったね?」

「そうだな。しかも連絡先まで交換しちまったし・・・・・・」

 

 

 竜の服のフードの中から肩へと移動したついなは竜へと話しかける。

 ついなの言葉に竜は周囲に聞こえないように声を潜めながら答える。

 なぜ竜が声を潜めているのかというと、もしもジュニアアイドルであるウナの連絡先を知っているということが誰かに聞かれでもすれば、それを聞き出そうとする人間や、無理矢理ケータイを奪おうとする人間が現れるかもしれない。

 そういったことを警戒して竜は声を潜めているのだ。

 

 

「別に連絡先くらいならええんやない?ご主人が誰かに教えたりとかせんかったらええんやし」

「それもそうなんだがねぇ・・・・・・」

 

 

 自分が誰かに教えたりしなければ良い。

 ついなが言っていることはもっともで、分かってはいるのだが、それでも竜は不安に思ってしまう。

 なにかしらうっかりをして口走ってしまう可能性もあるし、もしかしたら偶然ケータイを覗き込まれて見られてしまう可能性もある。

 まぁ、そんなことを言い続けていればキリがないので、何事もほどほどがちょうど良いだろう。

 

 

「あ、せや。今日の晩御飯はなにが食べたいとかはあるんか?」

「晩御飯か。そうだな・・・・・・、お昼が寿司だったから肉系かな」

 

 

 ふと、ついなが竜に今日の晩御飯のリクエストがあるかを尋ねる。

 どうやらついなの中では先ほどのやり取りでウナの連絡先についての話は終わったようだ。

 ついなの言葉に竜は少しだけ考え込み、晩御飯として食べたい食材の種類を答えた。

 

 

「お肉系やね。たしか家にまだお肉はあったはずやからとくになんかを買って帰る必要もないなぁ」

「どんな肉があったかは分からんが頼んだよ」

 

 

 冷蔵庫の中の食材は基本的についなが把握しており、豚肉、牛肉、鶏肉、そのどれがあるかは不明だがそれでもついななら冷蔵庫にあるお肉を使って美味しい肉料理を作ってくれることだろう。

 

 

「あ、そうだ。帰ったら“恋愛Judgment(ジャッジメント)”を読んでみないとだな」

「そんならうちはあとで読ませてもらうわ」

 

 

 本屋で買った“恋愛Judgment”の漫画をちらりと見て竜は呟く。

 竜は“恋愛Judgment”がドラマになっているということしか知らず、猛烈に“恋愛Judgment”のことを推していたウナの言葉に少しばかり期待していた。

 竜とは違い、ドラマを見ていておおまかな内容は知っているついなだが、漫画をそのままドラマにするのはけっこう難しく、どのような違いがあるのかがついなは気になっていた。

 

 

「ウナがあそこまで推してるんだからつまらないってことはないだろ。そのうち続きも買うかもな」

「おー、楽しみやなぁ」

 

 

 竜の頭の中に甦ってくるのは“恋愛Judgment”についての話をしているときにウナの姿。

 “恋愛Judgment”についての話をしているときのウナはとても楽しそうに笑みを浮かべながら話をしていた。

 つまりはそれだけ“恋愛Judgment”が面白いということで、竜はほぼ確定で続きを買うことになるんだろうなぁと考えながら家に帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第292話



寝違えの痛みがなかなか消えない・・・・・・

長引くと本当に辛いです。


 

 

 

 

 ウナと出会った翌日の朝。

 竜はやや眠い頭を働かせながら学校へ向かう準備を終えて家から出た。

 

 

「くぁ・・・・・・。まさかあそこまで面白いとは思わなかったな・・・・・・」

「せやね。さすがにドラマになっただけはあるってもんやったわ」

 

 

 あくびをしながら呟く竜の言葉についなも竜の制服のポケットから顔を出しながらうなずく。

 2人が話しているのはウナが猛烈に推していた漫画である“恋愛Judgment(ジャッジメント)”について。

 昨日、家に帰ってからさっそく“恋愛Judgment”を読み始めた竜だったのだが、その内容の面白さから買った分である4巻までを一気に読んでしまったのだ。

 しかも読み終わってからも何回も読み返しており、そのせいで竜は眠るのが遅くなってしまっていた。

 

 

「4巻まででここまで面白いとか、これは早く続きを買いたいところだな」

「うんうん。ドラマとの違いも面白かったし、続きがはよ読みたいもんなぁ」

 

 

 “恋愛Judgment”の最新巻は昨日ウナが買った15巻で、竜が買ったのが4巻まで。

 半分どころか3分の1にすら届いていない量でここまで面白いと思える漫画に出会えるというのは本当に幸運で、“恋愛Judgment”を買う切っ掛けをくれたウナに頭の中で感謝の言葉を送った。

 

 

「おーっす!おはようさんやー!」

「竜くん、おはよう」

「おはようございます。今日は1人なんですね?」

「おう、おはよう。ああ、なんかあかりはやることがあるから早めに行かなくちゃいけないんだと」

 

 

 竜とついなが会話をしているといつものように元気の良い茜の声が聞こえてきた。

 茜の声のした方を見れば、茜、葵、ゆかりの3人が向かってきていることが確認できた。

 3人の姿を確認した竜は軽く手を振りながら応える。

 

 竜の家の前に竜しかいないことに不思議に思ったゆかりが尋ねると、竜は朝にあかりから送られてきたメッセージを見せながら自分しかいない理由を教えた。

 竜の言葉に茜たちは納得し、4人は学校に向けて歩き始めた。

 

 

「いやぁ、昨日“恋愛Judgment”の漫画を凄い勢いで推されてな。それで興味が湧いて4巻まで買ってみたんだよ。そしたらかなり面白くてさ。何回も読み返しちまったよ」

「お、竜も読み始めたんか。ええよな、漫画とドラマでも違う面白さもあるし」

「だからちょっと眠そうだったんだね?」

「あれ?ですが昨日は1人で出歩いていたのでは?」

 

 

 学校へ向かう道を歩きながら、竜は茜たちにも“恋愛Judgment”が面白かったということを伝える。

 竜の言葉に茜は同意するようにうなずき、葵は少しばかり眠そうにしている竜に納得したように苦笑する。

 

 ふと、ゆかりは竜が昨日、メッセージアプリに『1人でゲーセンー』と呟いていたことを思い出して尋ねる。

 まぁ、正確には1人ではなくついなを含めた2人で行動していたのだが、その辺りは結局は見えない人にとってなんの関係もないのだった

 

  閑話休題(それはともかくとして)

 

 竜が1人で出歩いていたのであれば“恋愛Judgment”を推されるということはほとんどないはずだ。

 もしかしたら店員がおすすめとして紹介をしたのかもしれないが、それでも凄い勢いで推すということはほとんどしないだろう。

 

 そういった点からゆかりは竜が本当に1人で出歩いていたのかを疑問に思ったのだ。

 

 

「あー、まぁ、途中で仲良くなった子がいてな。その子が“恋愛Judgment”を大好きだったんだよ」

「ほぉ・・・・・・」

「へぇ・・・・・・」

「なるほど・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に3人は少しだけ低い声が漏れ出てしまう。

 そんな3人の様子に気づかずに竜は学校への道を歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第293話



寒さが厳しい・・・・・・

朝の布団は魔物ですよ。





 

 

 

 

 竜、茜、葵、ゆかりの4人が会話をしながら歩いていると、不意に近づいていた学校の方から大きな声で挨拶の声が聞こえてきた。

 聞こえてきた挨拶の声はなかなかに多く、何人いるのかいまいち分からない。

 しかし、その聞こえてきた声の中に聞き覚えのある声も混じっているように聞こえた。

 

 

「おはよーございまーす!」

「あれは・・・・・・、あかり?」

「朝の挨拶をしているみたいですけど・・・・・・。今週は挨拶週間なんてありましたっけ?」

「いや、うちは聞いてへんな」

「ボクもちょっと分からないかな」

 

 

 学校の校門が見えるところにまで着いた竜たちは、何人かの生徒に混ざってあかりが大きな声で挨拶をしている姿を見つける。

 

 なぜあかりたちは校門で挨拶をしているのか。

 

 そのことに竜たちはそろって不思議そうに首をかしげる。

 少なくとも竜たちのクラスでは挨拶週間のようなものがあるという話は聞いていないし、それに類似するような話も聞いていない。

 ゆかりの言葉に茜と葵はそろって首を横に振り、そんな話は聞いていないと答えた。

 

 

「あ、先輩がた!おはようございます!」

「おう、おはよう。あかり」

「あかりさん、おはようございます」

「おはよーさんやでー」

「おはよう。あかりちゃん」

 

 

 あかりたちの姿に不思議に思いながら竜たちが校門に近づくと、竜たちの姿に気がついたあかりが元気よく挨拶をしてきた。

 元気の良いあかりの挨拶に竜たちはそれぞれ応える。

 

 

「朝のメッセージはこれのことだったのか。しかし、なんでまた挨拶運動?」

「あー、えっとですね・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にあかりは言いづらそうに頬を掻きながら視線を動かす。

 どうやら少しばかり言いにくい事情があるようだ。

 

 

「同じ学年の恥と言いますか・・・・・・。なんか、休みの間に問題を起こした1年生がいたらしいんです。それで連帯責任ってことで私たちも一緒に朝の挨拶をしているんですよ」

「なるほど。となるとあそこで先生が見張っているのがその問題を起こした生徒ですか」

「なんちゅーか、完全にとばっちりやん」

「あはは・・・・・・、他の生徒が同じようなことをしないようにって意味もあるんだろうけどね」

 

 

 あかりの口から説明された内容にゆかりは問題を起こしたであろう生徒たちに呆れた視線を向け、茜は肩をすくめた。

 そんな2人の反応に葵は苦笑を浮かべつつ、他の生徒まで一緒になって挨拶をしている理由を推測していた。

 

 

「まぁ、まさか毎日やるって訳じゃないんだろ?」

「そうですね。問題を起こした生徒以外は1日だけやって終わりですので、明日からはまた一緒に登校できますよ!」

「ま、罰なんやからその辺は当然やね」

「そうだね。それじゃあ、僕たちは行くね」

「挨拶運動、頑張ってくださいね」

 

 

 竜の言葉にあかりはうなずいて答える。

 あかりが校門に立って挨拶をするのは今日だけで、明日からはまたいつものように一緒に登校をすることができるようになるようだ。

 そして、竜たちはあかりに手を振って学校の中へと入っていった。

 

 

「あ、みんな、おはよー」

「おはようございます。マキさん。どうかしたんですか?」

 

 

 どことなく元気がないように感じられるマキの声にゆかりは不思議そうに首をかしげながら尋ねる。

 ゆかりの言葉にマキは困ったような表情になりながら答え始めた。

 

 

「えっとね、なんだか最近肩が凝っちゃっ──────」

「はい、それじゃあ教室に向かいましょうか」

「せやなー」

「そだねー」

 

 

 不思議そうにしていたゆかりに元気がなかった理由をマキは答えようとしたのだが、話の途中でゆかりたちがはや歩きになって歩き出してしまった。

 いきなりはや歩きになった3人をマキは慌てて捕まえる。

 

 

「ちょっと、なんで教室に行こうとするのさ!」

「理由なんて分かってるでしょうが、このおっぱいお化け!」

「せやせやー、その乳をうちらに分けろやー!」

 

 

 ゆかりたちの行動にマキはプンスコと怒りながら文句を言う。

 そんなマキの言葉にゆかりと茜が同じようにキレ気味に答えた。

 まぁ、ゆかりたちからすれば自分たちと無縁そうな悩みを相談されたのだから、イラッとしてしまっても仕方がないだろう。

 

 

「肩が凝ってるってなんでだろ?疲れてるとか?」

「あー、そうだな。“つかれてる”かもなぁ」

 

 

 マキとゆかりのやり取りを見つつ、葵はマキが肩が凝っていると言っていた理由を考える。

 そんな葵の言葉に竜はマキの“肩に乗っている女性”を見ながら答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第294話



空気が乾燥して喉が・・・・・・

加湿器は必須ですね。





 

 

 

 

 ゆかり、茜、マキの3人によるじゃれあいの喧騒を聞きながら、竜はどうしたものかと頭を悩ませる。

 悩みの対象はマキの肩凝り・・・・・・の原因となっているであろう肩に乗っている女性について。

 竜以外に誰も反応をしていないことから女性が人間ではないということは明確であり、霊的な存在なのだろうということはうかがえた。

 

 ちなみに葵は3人を落ち着かせようとアワアワとした表情で困っている。

 

 

「・・・・・・いな、あれは」

「せやね、憑かれとるわ。でも、なんやあの女の霊、普通の霊とはちぃと違わへん?」

 

 

 自分の制服のポケットを軽く叩き、竜はついなの名前を呼ぶ。

 竜の声についなはマキを見ながらうなずき、少しだけ不思議そうな表情になった。

 

 

「普通の霊と違う?まぁ、たしかに今までに見た霊よりも表情が柔らかいというか、血色が良さそうに見える、かな?」

「霊に血色とかあるんか?」

 

 

 ついなの言った普通の霊とは違うという言葉に、竜は今までに見てきた霊と違う点を挙げていく。

 今までに見てきた霊たちはどれも恐ろしいような恨めしいような眼をしたものばかりで、それらと比べるといまマキの肩に乗っている女性の霊からはそういった雰囲気を感じられなかった。

 まぁ、竜の言う血色が良さそうというのはちょっとなに言ってるのか分からないが。

 

 

「うん?ご主人、あれを見てみい」

「あれ?・・・・・・なんかあの女の人の足から紐みたいなのが伸びてるな?」

 

 

 そう言ってついなは女性の霊の足を指差す。

 見れば女性の霊の足からはなにか紐のようなものが伸びており、それが校舎の中へと向かっていた。

 紐のような、とは言っているが本当に紐というわけではなく、なんと表現すれば良いか。

 よくあるお化けのイラストの足の方のニョロっとした部分が女性の霊の足から細長く伸びているとでも言えば良いのだろうか。

 

 

「なんだあれ?掃除機の電源コードみたいだな」

「まぁ、電源と言えば電源かもしれんわな。あの女の霊、生き霊や」

「生き霊?」

 

 

 女性の霊の足から伸びているものに気がついた竜は首をかしげながら呟く。

 そんな竜の言葉についなは苦笑し、女性の霊の正体を見抜いた。

 

 生き霊。

 それは読んで字の(ごと)く生きている人間の霊体である。

 生きているのに霊体、つまりは魂が出ていて大丈夫なのかと思うかもしれないが、この生き霊というのは厳密には魂そのものではなく、強い思いによって生じた魂の欠片のようなものといったところだろうか。

 そのため、生き霊が何をしているのかを本体である人間は基本的には知らないのだ。

 

 まぁ、なかには生き霊と繋がって情報収集をしたり、寝ている間に生き霊の記憶を読んだりする人間もいたりするのだが。

 

 

「生き霊、生き霊か・・・・・・。しかも見た感じ先輩、だよな」

 

 

 ついなの言葉に竜は女性の霊の服装を見ながら

 女性の霊の格好はアレンジこそ加えられているものの、ゆかりたちが着ている制服とほとんど同じであり、唯一違うところがあるとすれば学年を表しているリボンの色だろう。

 

 

「まぁ、とくになんかしら害を与えようって霊ではなさそうやし、放っといてもええんちゃう?」 

「いや、でもマキに被害が出てるし。とりあえず無理やり引き剥がしてみるか」

 

 

 大きな害のようなものもないし、悪いことをしようという雰囲気も女性の霊からは感じられないため、ついなは放置しても良いのではないかと竜に言う。

 ついなの言葉に竜は首を横に振り、マキの肩に乗っている女性の霊へと近づくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第295話



ついにパソコンが買えました!

これで書く効率が上がるに違いない!




 

 

 

 

 マキの肩に乗っている女性の霊を引き剥がすため、竜はマキへと近寄る。

 いままで竜は幽霊から基本的に逃げることによって対処していたため、自分から近づいていくことに疑問を覚えるかもしれないが、これにはちゃんとした理由がある。

 

 まず第1に、この女性の霊は生き霊であり、いままでに出会った幽霊とは違ってそこまで危険性が高くないということ。

 次に、この女性の霊からはいままでの幽霊から感じたような怨みなどの暗い感情を感じられないということ。

 そして最後に、この女性の霊が同じ学校の先輩ということでそこまで恐怖感を感じられないからということ。

 

 この3つの理由から竜はこの女性の霊をどうにかしようと考えたのだ。

 

 

「大きくたって良いことなんてないんだよ?重いし、肩が凝るし、蒸れるからかぶれることもあるし!」

「はーっ?!それは持ってるもんの言い分やん!そんなん持つもん持っとる必要経費みたいなもんやろ!」

「そうですそうです!マキさんは1度その大きなものを切り落とすべきなんです!」

 

 

 いまだに続いている3人の言い争いに竜は思わずため息を吐き、マキの肩に手を置いた。

 肩に手を置かれたマキは驚き、竜を見る。

 

 

「3人ともいったん落ち着け。んで、マキはちょっとしゃがんでくれると助かる」

「え、うん。分かったよ」

「まぁ、いつまでもここで騒いでてもしゃーないわな」

「仕方がないですね。この話はまたいずれ」

 

 

 竜の言葉に3人は渋々といった様子で言い争いを止める。

 そして竜に言われた通りにマキはしゃがみこんだ。

 これによってマキの肩に乗っている女性の霊の高さが低くなり、マキから引き剥がしやすくなっただろう。

 

 

「うし。これでいけるかな」

「これからなにが始まるの?」

「第三次世界対戦や」

「いや、ずいぶん小さい大戦ですね・・・・・・」

 

 

 竜の呟きに何をするのかを分かっていないマキは首をかしげ、そんなマキの言葉に茜がボケた。

 茜のボケにゆかりがツッコミをいれているが、そんなことを気にせずに竜は女性の霊の脇の下から腕を入れて引き剥がしにかかった。

 

 

「竜くん、なにしてるの?」

「なんかを捕まえたみたいにも見えるんやけど・・・・・・、パントマイムの練習なんか?」

「でもそれだとマキさんをしゃがませた理由がわかりませんよ?」

 

 

 竜の眼にはマキの肩に乗っている女性の霊の姿がハッキリと映っているのだが、生き霊にしてもなんにしても霊ということで一般人にはまず見ることはできない。

 そのため、竜の行動はマキの後ろで変な動きをしている程度にしか思われていなかった。

 

 

「まぁ、ちょっと、な!」

「ご主人、頑張るんや!」

 

 

 ジタバタと竜から逃げようとする霊をどうにか押さえつつ、竜は茜たちの言葉に答える。

 竜によって引っぱられ、女性の霊はじょじょにマキから引き剥がされていく。

 しかしそれでも女性の霊は諦められないのか、もがく動きを大きくさせた。

 

 

「この、暴れんな。暴れんなよ・・・・・・、ん?」

 

 

 むにゅり。

 

 女性の霊を引き剥がそうとしていた竜の手になにやら柔らかい感触があたる。

 その直後、女性の霊は体を硬直させて動きを止めた。

 

 自分の手に触れている柔らかい感触はなんなのか、それが気になった竜はちらりと自分の手を確認した。

 どこか、触れた覚えのある柔らかい感触。

 その正体は女性の霊の胸だった。

 

 

「あ、やっべ・・・・・・」

 

 

 自分の手が女性の霊の胸を掴んでしまっているのだということに気がついた竜は思わず呟く。

 直後、女性の霊は自分の体を守るように胸を抱えながら竜から距離を取り、顔を赤く染めながら逃げるように飛んでいってしまう。

 そんな女性の霊の姿を竜はただただ見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第296話




パソコンのキーボードにまだ慣れないですけどなかなか書きやすいです。

関係ないですが1年歳をとりました。

二十歳を越えた辺りから自分の年ってあまり気にならなくなりますよね?





 

 

 

 

 意図せずしてマキの肩に乗っていた女性の霊の胸を揉んでしまった竜は逃げるように飛んで行ってしまった女性の霊を見送る。

 女性の霊は生霊だったので、もしかしたら本人のところに戻った可能性もあるが、それは竜には分からないことだった。

 

 

「ご主人、今のはあかんと思うんよ・・・・・・」

「だよなぁ・・・・・・」

 

 

 ついなの言葉に竜はガクリと肩を落としながら答える。

 竜としても女性の霊の胸を触ってしまったのは事故であり、意図してのことではなかったために罪悪感が湧いていた。

 マキの後ろで竜がなにやら変な動きをしていたかと思えば肩を落としてどこか落ち込んでいるような雰囲気を出している。

 ころころと変わる竜の様子に茜たちは首をかしげることしかできなかった。

 

 

「結局、竜はマキマキの後ろでなにをしていたんや?」

「あー、えっと・・・・・・」

 

 

 茜の問いに竜は言葉を濁らせる。

 正直にマキに女性の生霊が憑いていたことを言ってもいいのだが、それをすればまず確実に1人は怖がる人間がいる。

 それが分かっているからこそ竜は茜の問いに答えてもいいものか悩んでいた。

 

 

「あれ?なんだか肩が軽くなったような・・・・・・?」

 

 

 竜が茜の問いにどう答えようか悩んでいると、しゃがんでいたマキが立ち上がり、肩を軽く回しながら言った。

 どうやら肩に乗っていた女性の霊がいなくなったことによって肩凝りが解消されたらしい。

 

 なお、マキが肩を回すたびにその立派な胸が揺れており、その光景を茜とゆかりは恨めしそうに、葵は羨ましそうに見ていた。

 

 

「もしかして、私の肩凝りが治ったのってさっき竜くんがなにかしてくれたお陰?」

「あー、うん。まぁ、・・・・・・そんな感じ?」

 

 

 肩凝りが治り、治った要因として一番有力そうなものが先ほどの竜の行動だったため、もしやと思いながらマキは尋ねる。

 確かに竜はマキから女性の霊を引き剥がしたので治したともいえるのだが、それでも女性の霊の胸を触ったことによって治したとは答えづらく、頬を掻きながら曖昧に答えることしかできなかった。

 

 

「マキさんの肩凝りと竜くんの謎の動き・・・・・・、もしかしてお化け?」

 

 

 マキの肩凝りが治ったという情報と、マキの後ろで竜がとっていた奇妙な行動。

 この2つの情報から葵はお化け、つまりは幽霊が関わっていたのではないかと、顔をやや青くしながら推測した。

 葵の言葉に竜はギクリと肩を震わせる。

 一番気づかせたくなかった人物が真っ先に気づいてしまったことに竜は思わず額に手を当てた。

 そんな竜の様子に自分の推測が間違っていなかったのだと理解した葵は素早く竜の制服を強く掴んだ。

 

 

「ふむ。確かにお化けが憑りついて肩が重くなるという話はけっこう聞きますね」

「え、でもそうなると竜はお化けを力技で無理やり引っぺがしたってことにならんか?」

「でも実際に私の肩は軽くなってるし、そういうことなんじゃない?」

 

 

 葵の言葉が聞こえていたゆかりは納得がいったとうなずく。

 うなずいているゆかりに茜はお化けに触れることができるのかが疑問になり首をかしげる。

 

 ちなみに竜が霊に触れることができた理由は、ついなに霊力を送るのと同じ要領で霊力を手に回して霊力で手を覆っていたからである。

 

 

「えっと、まぁ、とりあえずマキに憑いていた霊はいなくなったから安心してくれ」

「本当だよね?!」

 

 

 自分の制服を掴んで軽く震えている葵を落ち着かせるために竜は女性の霊がもういないことを伝える。

 竜の言葉に葵は竜の制服を強く掴んだまま聞き返す。

 

 

「ああ、本当だ。だからもう教室に行くぞ」

「う、うん・・・・・・」

「あ、いつの間にかけっこう時間経ってたね。ちょっといそごっか」

「本当ですね。遅刻まではしないでしょうけど急ぎましょう」

「りょーかいや!」

 

 

 ちらりと時計を確認してみれば学校についてからそこそこに時間が経っている。

 そのことに気がついた竜は、女性の霊を引き剥がしたときのことを聞かれないように話を切り上げ、教室に向かうことを提案する。

 かくして、竜の思惑通りに女性の霊についての話題を切り上げて教室に向かうことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第297話



うむうむ。

パソコン使うと本当に書きやすいです。

これは本当に買って良かった。

あとは動画の作り方とかを調べたいなぁ・・・・・・





 

 

 

 

 なんてことのないいつも通りの普通の授業。

 しいて挙げるのであれば茜が居眠りをしそうになって教師に怒られたくらいだろうか。

 

 

「やっほー、遊びに来たばーい!」

「竜さん、おはようございます」

 

 

 2時間目の授業が終わって授業と授業の間の短い休み時間になった瞬間、ひめとみことが教室にやってきた。

 みことは普通に歩いて近寄ってきてくれたのだが、ひめが思い切り走って竜に突撃したため、竜は思い切り机に体をぶつけることになり教室にいるクラスメイトたちの視線を集めることになってしまった。

 

 

「ぐぉおおお・・・・・・」

「ありゃ、ごめんったい・・・・・・」

 

 

 ひめが突撃してきたことによってぶつけた部分を押さえながら竜はうめき声をあげる。

 うめき声をあげている竜の姿にさすがに悪いことをしたと理解したのか、ひめは申し訳なさそうに竜に謝った。

 そんな竜とひめの様子にみことは呆れたように頭に手を当てるのだった。

 

 

「りょ、竜・・・・・・?大丈夫なんか?」

「けっこうな音がしたよね?」

「なかなかな勢いで机にぶつかりましたね・・・・・・」

「い、痛そうだね・・・・・・」

 

 

 竜がいきなり机に体をぶつけ、うめき声をあげ出したことに竜の近くに行こうとしていた茜たちは困惑しながら声をかける。

 まぁ、ひめとみことの姿は基本的には霊力を持っている人間にしか見えないので、はたから見ていれば意味不明な状況なのは仕方がないことなのだろう。

 とはいえ茜たちはひめとみことの存在を知っているので、少し驚く程度で済んでいるのだが。

 

 

「だ、大丈夫だ・・・・・・。不意打ちで対応できなかった・・・・・・」

「ごめんなさい。ほんっとひめにはきつく言っておきますんで・・・・・・」

「あだだだだだっっっ?!?!みこと?!うちの角はそんな方向に曲がらんとよ?!みこと?!みことぉっっ?!?!」

 

 

 茜たちの言葉に竜は手を上げながら答える。

 そんな竜の隣でみことはひめの頭から生えている角を掴んで無理やりねじりながら謝った。

 ひめとみこと、2人の頭からはそれぞれ2本の角が生えており、それを見ただけでも2人が人間ではないと簡単に分かるだろう。

 

 

「ご主人も災難やったね・・・・・・?」

「お、おう。いなも大丈夫そうでよかった」

 

 

 ひめが竜にぶつかる直前に竜の頭の上から机の上に飛び降りていたついなは、痛そうにぶつけたところを押さえている竜に声をかける。

 机の上に飛び降りたのでは竜が机にぶつかった衝撃で危ないのではないかと思うだろう。

 実際にその通りでついなは竜が机にぶつかった際の衝撃で机から落ちそうになっていた。

 別に机の上から落ちたとしても問題はないのだが、それでも竜の頭の上や制服のポケットに入るのであればなるべく地面や床に足をつけたくなかったのだ。

 

 ぶつけたところを押さえながら竜はついなが床に落ちていなかったことに安心したように声を出した。

 

 

「それにしても竜は大変やね?幽霊やらここの学校の梅の木の精、さらにはイタコ先生のキツネやろ?めっちゃ好かれとるやん」

「お姉ちゃん、九十九神のいなちゃんを忘れてるよ」

「改めて考えると本当にすごいですね」

「でもそのお陰で私は朝助かったけどね」

 

 

 先ほどの光景や朝の出来事などを思い出しながら茜はしみじみと呟く。

 茜の言葉に葵は九十九神であるついなのことが抜けていると茜に伝える。

 

 まぁ、竜が霊を見たりすることができるお陰でマキは女性の生霊から助かることができたので、茜の言葉にマキは笑いながら答えた。

 

 

「いつつつ・・・・・・。っと、トイレ行ってくるわ」

「りょーかいや」

「はーい」

「分かりました」

「いってらっしゃーい」

 

 

 どうにか回復した竜は短い休み時間の間にトイレに行っておこうと立ち上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第298話



もうすぐ今年も終わりですか・・・・・・

年を取ると雪が降らないことにホッとしますよね?





 

 

 

 

 時間は進み、お昼休み。

 竜たちは保健室でお昼ご飯を食べようとしていた。

 

 ちなみに、保健室に病気やケガではない生徒がいるというのはあまり歓迎できることではなく、健康で元気な生徒は基本的に保健室に来るのはお断りとなっている。

 

 では、なぜ竜たちが保健室でお昼ご飯を食べることができているのか。

 その理由を簡単に説明するなら、ひめとみことが理由といえるだろう。

 

 竜たちも別に最初から保健室でお昼ご飯を食べようとしていたわけではない。

 最初は普通に教室でいつものようにお昼ご飯を食べようとしていた。

 しかし、少し前にひめとみことが竜たちの食べているお昼ご飯に興味を持ったのでそれを食べさせたところ、美味しいと喜んで教室で実体化をしてしまったのだ。

 その結果、教室にいた女子生徒がひめとみことを猫可愛がりしたり、小児性愛者(ロリコン)な男子生徒が気持ち悪い笑みを浮かべながらにじり寄ってきたりしたため、落ち着いて教室でお昼ご飯を食べることが難しくなってしまったのだ。

 そしてそれを担任であるアイ先生に相談したところ、保健室でお昼ご飯を食べる許可が下りたのである。

 

 

「おー、とっても美味しそうったい!」

「せやろ?なんせうちが作ったんやからな!」

 

 

 ひめは自分の前に置かれたお弁当箱の中を見て目をキラキラとさせながら嬉しそうに声を上げる。

 そんなひめの言葉にお弁当を作った本人である茜はドヤ顔で答えた。

 

 

「わざわざボクたちの分までありがとうございます」

「かまわへんよ。2つ作るのも4つ作るのもそこまで変わらへんからな」

 

 

 お昼ご飯を食べたそうにしていたひめだけではなく、自分の分まで用意してもらえたことにみことは茜に感謝の言葉を伝える。

 みことの言葉に茜はニッと笑みを浮かべる。

 

 

「そこまで変わらないって・・・・・・、この2人のお弁当はやや小さいにしても、4つも作るのは普通にすごいと思うぞ?」

「ちゅーてもなぁ、作るのに慣れてまえば誰でもできると思うんやけど・・・・・・?」

 

 

 2つを作るのも4つを作るのも変わらないという茜の言葉に竜はやや呆れを含ませながら言う。

 竜の言葉に茜は首をかしげ、不思議そうに呟いた。

 まぁ、この辺りはどれくらい料理に慣れているかといった要因も関わってくるので、どちらの考えが合っているかを答えるのは難しいだろう。

 

 

「はい。竜くんには私の作ったお弁当だよー」

「ああ、ありがとうな。はい、食材代」

「なんだかんだこの光景にも慣れましたね・・・・・・」

「別にうちが作っても良かったんやけどなぁ」

「あ、ボクはデザートに簡単なお菓子作ってきたから、お昼ご飯を食べ終わったらみんなで食べよう」

 

 

 嬉しそうにしているひめとみことの様子を見ていた竜にマキが作ってきたお弁当を手渡す。

 マキからお弁当を受け取った竜はお弁当を作る際に使用した食材の代金をマキに渡した。

 

 

「ちゅわぁ、なんだかすごい量のお料理ですわね?」 

「まぁ、この並んでいる料理のうちの大半はあかりのものなんですけどね・・・・・・」

 

 

 自分の食べるお弁当の準備を終えたイタコ先生が竜たちの方を見、並べられている料理の量に思わず声を漏らす。

 イタコ先生の言葉に竜は思わず苦笑しながら答える。

 竜たちの前にはそれぞれのお弁当が広げられているのだが、竜たちは1つなのに対して唯一あかりだけが残りの空いたスペースを埋め尽くす勢いでお弁当を広げていた。

 

 

「うちの料理人の自慢の料理ですからね。いくらでも食べられるんですよ」

「いや、それでもこの量は多すぎると思うけどな・・・・・・」

 

 

 美味しい料理はいくらでも食べることができる。

 謎の理論を振りかざしながらあかりはイタコ先生に向けて笑みを浮かべる。

 そして、竜たちはお昼ご飯を食べ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第299話



このペースなら完全に年末かその辺りに番外話の可能性が出てきました。





 

 

 

 

 楽しく会話をしながらお昼ご飯は進み、残るは葵の作ってきたデザートを残すのみとなっていた。

 葵が作って持ってきたデザート、それはチョコチップの練り込まれたパウンドケーキだった。

 ちなみに、葵が食べているパンケーキだけ鮮やかな水色をしているのだが、そのことにツッコミを入れるものは誰もいなかった。

 

 

「うん。やっぱりお菓子作りは葵の方が上手やなぁ」

「えへへ、こればっかりはお姉ちゃんには負けない自信があるからね」

「こんなに美味しいならうちで出してもいいレベルだよね」

「これだけ見ればかなりの女子力なのに家ではどうしてあんな・・・・・・」

 

 

 パウンドケーキを摘まんで口に運びながら茜たちはパウンドケーキの感想を言う。

 ふんわりとした触感と、口に含んだ瞬間に広がるチョコレートの甘さとほのかな苦み。

 店売りのものと言っても納得ができそうなほどのクオリティのパウンドケーキがそこにはあった。

 

 

「あむ。そういえば、同級生が問題を起こしたから朝の挨拶運動をする羽目になったんだったよな?」

「あ、はい。そうですよ」

 

 

 パインドケーキを摘まみながら、竜はふと今朝のことを思い出してあかりに尋ねる。

 竜の言葉にあかりはチラチラと葵の前に置かれている水色のパウンドケーキに向けていた視線を戻してうなずいた。

 

 

「それってなにをやらかしたとか分かってるのか?」

「たしか説明はされましたね。えっと・・・・・・」

 

 

 いったいどんなことをやらかせば朝の挨拶運動をやらされることになるのか。

 そのことが気になった竜は(くだん)の1年生がどんなことをやらかしたのかをあかりに尋ねる。

 葵から水色のパウンドケーキを1つ受け取りながらあかりは教室で聞かされた内容を思い返す。

 

 

「ああ、そうそう。えっとですね?なんでも昨日のお昼ごろにアイドルを見かけたとかで騒いで、そのアイドルを見つけるためにいろいろなところに迷惑をかけたって話でしたね。そこらへんにアイドルが出歩いているとは思えないので見間違いなんじゃないかって私は思ってるんですけどね」

「昨日のお昼ごろ・・・・・・、あー、あれか」

 

 

 あかりの説明に竜は昨日の出来事を思い出し、納得する。

 おそらくはやらかしたという1年生は“UNA(ユーナ)”のことを見かけたのだろう。

 もしかしたらすれ違ったりしたのかもなぁ、と思いながら竜は曖昧な表情を浮かべることしかできなかった。

 

 

「ありゃ、先輩もその人を見かけたんですか?」

「たぶんだけどな。他にも同じようなことをしている人を見かけたから相当な人気アイドルでもいたんじゃないか?」

「実際にいたんやけど教えるわけにはいかんもんなぁ」

 

 

 竜の様子からそのやらかした1年生を見かけたのかと考えたあかりは竜に尋ねる。

 そんなあかりの問いに竜はもしかしたらその1年生を見たかもしれないと答えた。

 さすがに1年生の顔を覚えているわけがないので、“UNA”のことを探していた人たちの中の誰なのかはさっぱり分からないが。

 竜の言葉にテーブルの上に置いたハンカチの上に座っていたついなはうなずきながら呟いた。

 

 

「まぁ、先生たちにしっかりと怒られたらしいので、もう同じことは繰り返さないんじゃないですか?」

「それなら良いんだけどな・・・・・・」

 

 

 あかりの言葉に竜は微妙に信頼しきれないまま答える。

 正直に言って、アイドルである“UNA”のことを探すためにいろいろなところに迷惑な行為をする1年生なので、先生に怒られた程度で本当に反省するのかが竜は気になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第300話



クリスマスですねぇ。

今年も残りわずか、もうすぐ寒いのも終わりますかね?





 

 

 

 

 すべての授業が終わり、竜たちは下校の準備をする。

 不意に竜のケータイが振動し、メッセージの着信を知らせる。

 

 

おたま『お兄ちゃん!もしかして今日、東北と遊ぶ予定ない?』

竜『おお、その予定だけど・・・・・・。一緒に遊ぶか?』

おたま『いくぅっ!』

 

 

 届いたメッセージの送り主は“おたま”。

 これはウナのメッセージ上の名前だ。

 

 ウナから届いたメッセージに、竜は今日の予定を思い出しながら返信する。

 竜がメッセージを返信すると、すぐにウナから返事が返ってきた。

 

 もともと、竜は今日きりたんと遊ぶ予定があったのだが、そのことをウナはどこからか、といってもおそらくはきりたんから知ったのだろう。

 そしてその裏付けとして竜に確認のメッセージを送ってきたのだと思われる。

 

 

「うっし、竜も帰ろうや」

「あ、悪い。俺、今日はきりたんと遊ぶ約束してるんだわ」

「そうなんか?なら、しゃーないか・・・・・・」

 

 

 帰りの準備を終えた茜が竜に声をかけてくるが、竜はきりたんと遊ぶ予定がすでに入っているため、茜の言葉に申し訳なさそうに答えた。

 竜の答えに茜は残念そうに肩を落とす。

 その少し後ろでは同じように帰りの準備を終えた葵がおり、同じように残念そうにしていた。

 

 ちなみに、ゆかりはマキとあかりを連れてどこかに行く予定があったようで、すでに教室にはいない。

 

 

「また明日な」

「ほななー」

「うん。また明日ね」

 

 

 下駄箱まで一緒に歩いてきた茜、葵に上履きから靴に履き替えた竜は手を振りながら声をかける。

 竜の言葉に茜たちも同じように手を振りながら答えるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 学校を出た竜は東北家へと到着する。

 道中では特筆して何か起こるということもなく、平和に東北家へと着くことができた。

 

 

「なぁ、東北ぅ?なんでお兄ちゃんと遊ぶことを黙っていたんだぁ?」

「べ、別に黙っていたわけではありませんし?言う必要はないかなぁって思っていただけですし?」

 

 

 東北家へと到着した竜は家の玄関の前でなにやら話をしている2人の小学生、東北きりたんと音街ウナの姿に首をかしげる。

 見たところウナがきりたんに詰め寄っているように見えるが、話している会話の内容までは竜の耳には聞こえなかった。

 なんにしてもいつまでも外にいる意味もないので、竜は2人へと向かって歩き始めた。

 

 

「おっす、2人とも。なにを話しているんだ?」

「あ、お兄ちゃん!」

「こんにちはです。いえいえ、別に大したことは話してないので」

 

 

 竜が声をかけると、2人は同時に竜の方を向き手を上げて応えた。

 そして、きりたんが家の玄関を開け、竜とウナを家の中へと招き入れるのだった。

 

 

「さて、と。なにするか?」

「そうですね。無難にマリオカートはどうですか?」

 

 

 家の中に入った竜は邪魔にならない場所に荷物を置き、なにをするのかをきりたんに尋ねる。

 竜の言葉にきりたんは少しだけ考えこみ、何のゲームをするか答えた。

 

 

「おー、ならマリオカートで東北をぼこぼこにしてやるぞー」

「ふふふ、そう簡単に私が負けるとお思いですか?逆にぼこぼこのぼこにしてやりますよ」

「よく分らんがなんか燃えてるなぁ」

 

 

 マリオカートの準備をしていくきりたんの姿を見ながらウナは元気よくきりたんに勝つと宣言する。

 そんなウナの言葉にきりたんは不敵な笑みを浮かべながら答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第301話



1時に間に合わなかった・・・・・・

遅れたのが悔しいなぁ・・・・・・





 

 

 

 

 カートに乗った恐竜や亀、配管工がアイテムを拾い一位を目指して争う。

 そんな危険なレースを竜たちはプレイしていた。

 

 

「さぁ、この赤甲羅を食らうがいいのです!」

「甘いぞ!そんな攻撃はウナの緑甲羅で防げるんだぞ!」

「とりあえずキノコ使っとくか」

 

 

 竜の前方、一位と二位をウナときりたんが熾烈な争いをしている。

 きりたんが操作する緑色の配管工の投げた赤色の甲羅を投げれば、それを防ぐようにウナの操作しているピンク色の恐竜が後ろに緑色の甲羅を設置して赤甲羅を防ぐ。

 少しでも気を抜けばその順位は一気に入れ替わるだろう。

 

 

「あ、抜けた」

「あー?!?!」

「ええええっ?!?!」

 

 

 2人が争っている横を竜の操作している緑色の恐竜がキノコによる加速で一気に追い抜いていき、そのままゴールに入り込んだ。

 まさかの事態にきりたんとウナは驚きの声を上げる。

 そして、そのままレースが終了となった。

 

 

「おおう、まさかの勝利」

「ぐぬぬぬ・・・・・・」

 

 

 勝てると思っていなかったために竜は驚いた表情のままコントローラーを置く。

 そんな竜にきりたんは抜かれたことが悔しかったのか、歯を食いしばっていた。

 

 

「もう一回!もう一回勝負です!」

「ウナももう一回!」

「おう、次も勝てるかは分らんがやるぞ」

 

 

 よほど負けたことが悔しかったのか、きりたんは竜の膝を叩きながら再戦を要求する。

 きりたんの言葉に同意するようにウナも反対側の竜の膝を叩く。

 2人の言葉に竜はもう一度コントローラーを手に取り、ゲームを再開するのだった。

 

 

「バニャーニャッ!!」

「なんでピンポイントで当てられるんですか?!」

「ええ、ウナには無理だなぁ」

 

「ふはははは!私のキラーの餌食になるのはどこのどいつですかー?」

「でもこれって端にいると当たらないんだよな」

「ウナは後ろにいるから関係ないなぁ」

 

「お、スターだ。行くぞ東北ー!」

「ちょ、なんで私だけを狙うんですか。って、うわぁあああっっ?!?!」

「いや、スター状態で2人で落ちていくんかい・・・・・・」

 

 

 竜たちがゲームをしていると、不意に玄関が開く音が聞こえてきた。

 どうやら誰かが帰ってきたらしい。

 

 

「あら、きりたん。公住くんたちと遊んでいたのね」

「あ、ずん姉さま。おかえりなさい」

 

 

 帰ってきたのはどうやらずん子だったようで、ゲームをしているきりたんたちに気がつき声をかけてきた。

 ふと、竜がずん子の後ろを見ると制服を着ている人たちがいることに気がついた。

 

 

「会長の妹さんですか?」

「へぇ、とても可愛らしいですね」

 

 

 そういって2人はきりたんのことを興味深そうに見る。

 制服につけられているリボンの色はずん子と同じ、つまりはこの2人はずん子と同じ学年ということなのだろう。

 知らない人が来て驚いたのか、ウナは竜の後ろに隠れてしまった。

 

 

「ん・・・・・・?」

 

 

 きりたんのことを見ている2人のうちの1人の顔を見て、竜はふと見覚えのようなものを感じる。

 どこで見た覚えがるのか、それが思い出せず、竜は腕を組みながら首をかしげる。

 

 

「えっと、そっちの子は・・・・・・。あ、ああああああっっ!!!」

「ちょ、どうしたのよ」

 

 

 きりたんを見るのに満足した2人が顔を上げ、竜の方を見る。

 直後、2人のうちの1人が竜のことを指さして大きな声を上げた。

 いきなり大きな声を上げたことにもう1人は不思議そうに尋ねる。

 

 

「この子!この子なんだよ。朝、教室で話した子!」

「ええ?朝話したって、あなたが夢の中で胸を揉まれたって話でしょ?きっと偶然よ」

「・・・・・・あー、思い出した。今朝、マキに憑いていた生霊の人だ・・・・・・」

 

 

 2人が話している内容を聞き、竜はようやく目の前にいるのが今朝、胸を掴んで追い払うことになった女性の生霊の本体なのだということに気がつく。

 そんな竜たちの様子にきりたんたちは不思議そうに首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第302話



クリスマスの番外話でUAが増えて80000を越えるのが早まりそうです。

年末だと投稿できるかも怪しかったから助かりました。





 

 

 

 

 竜のことを指さしながら興奮した様子を見せる女性と、それをなだめている女性。

 2人の姿を見ながら竜はどうしたものかと考えていた。

 

 そんな竜の後ろにウナは隠れたままで、竜の服を掴みながら2人の女性のことを警戒するように見ていおり、ウナのことを落ち着かせるためにきりたんもウナの近くに移動していた。

 

 

「さっき聞こえてきた“夢の中で胸を揉まれた”ってのはどう考えても今朝のことだよなぁ・・・・・・」

「うちもいま思い出したけど、たしかにあの時の生霊と同じ顔やもんね」

 

 

 興奮している女性のことを落ち着かせようとしている女性の言っていた“夢の中で胸を揉まれた”という言葉。

 その言葉から竜は、今朝の学校でマキの肩に乗っていた女性の霊の胸を触ってしまったことなのだろうなと推測をする。

 

 しかし、ここで1つの疑問が浮かぶ。

 たしかに竜は女性の生霊の胸を触ってしまったのだが、それはあくまで生霊であり、そのことが女性に伝わることは基本的にはないはずだ。

 

 一度、生霊に関して説明はしてあるがもう一度。

 

 生き霊というのは厳密には魂そのものではなく、強い思いによって生じた魂の欠片のようなものであり、生き霊が何をしているのかを本体である人間は基本的には“知らない(●●●●)”のだ。

 

 そのため、女性が胸を揉まれたと言っているのは普通の人間では知りえないことなのだが、なぜかこの女性は夢という形で生霊にあったことを知っている。

 このことからこの女性が少々普通とは言い難い人間だということがうかがえるだろう。

 

 

「あの、生徒会長。この先輩って強い霊力があったりします?」

「え?いいえ、そんなことはないはずだけど・・・・・・。なにか気になることがあるのかしら?」

 

 

 2人の女性のことを一旦置いておいて、竜はずん子に確認をする。

 もしも強い霊力を持っているのであれば生霊を通じてあったことを知ることができてもおかしくはないのだ。

 しかし、竜の言葉にずん子は首を横に振り、女性からは強い霊力を感じないことを答える。

 竜の言葉からなにか思い当たることがあるのかとずん子は気になり、竜に尋ねる。

 

 

「えっと、まぁ、はい・・・・・・。説明をしたいんですけど・・・・・・」

 

 

 女性の様子と今朝の出来事。

 黙っていることはできるかもしれないが、それでもこの女性のことは放置していてはいけないだろうと竜は考え、今朝の出来事を話すことに決めた。

 しかし、いまだに興奮した状態の女性を見て竜は言葉を濁らせる。

 正直に言ってこんな状態で説明をしてもまともに話を聞いてくれるのかが竜にとって懸念事項だった。

 

 

「そうなのね。んん、ささらさん。“落ち着いて(●●●●●)くれますか(●●●●●)?”」

「あ、はい・・・・・・。すみません、会長」

「やっぱり会長の言葉は不思議ね。あんなに興奮していたささらが落ち着くなんて」

 

 

 竜の様子から興奮している女性──さとうささらに向けてずん子が声をかけると、ささらは先ほどまでの興奮した様子が嘘のように大人しくなった。

 一気に落ち着いたささらの様子にもう1人の女性──すずきつづみは感心したようにうなずく。

 ずん子がささらを落ち着かせることができたのはずん子の声がささらのことを落ち着かせたから、というわけではない。

 

 ずん子は自分の声に霊力を乗せて、ささらの魂に直接言葉を届けたのである。

 これによって普通に言っただけでは落ち着くことはなかったであろうささらも落ち着かせることができた、ということなのだ。

 

 ちなみに、声に霊力を乗せて魂に直接言葉を届ける技術は悪用すれば軽い洗脳なんかもできたりしてしまうので、すぐに落ち着かせたりしたいとき以外にずん子は使わないようにしている。

 また、この技術はある程度の霊力を持っている人間には効果はなく、基本的には一般人にしか使うことができない技術である。

 

 といっても隔絶したレベルで霊力に差がある相手には無理やり魂に言葉を届けられたりするので、霊力を持っているからといって安心してはいけなかったりするのだが。

 

 ささらが落ち着き話をすることができると判断した竜は、今朝の出来事から説明するために口を開くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第303話



グレンラガンとか久々に見ると胸が熱くなります。

あんな熱いバトルを書きたいときもあるんですよねぇ・・・・・・





 

 

 

 

 今朝の学校であったことを竜はずん子たちに説明する。

 

 マキの肩にささらの生霊が乗っていたこと。

 その生霊を引き剥がす際に胸を触ってしまったこと。

 

 竜の説明にささらはやっぱりと言いたそうな表情を浮かべるが、生霊についての知識を持っているずん子ときりたんは考えるような表情でささらを見た。

 

 

「ほら、やっぱりそうだったよ!」

「ええ、そうみたいね。でも会長たちはなにか気になることがあるみたいよ?」

 

 

 竜のことを指さしながらささらは自分の言っていたことが嘘ではなかったと主張する。

 そんなささらの言葉につづみはずん子ときりたんの表情からなにかありそうだと気づき、また興奮しそうになっているささらを落ち着かせる。

 

 

「・・・・・・そうですね。ひとまず気になることとしては、そちらの・・・・・・、えっと、ささらさん?は夢の中で胸を触られたんですよね?」

「そうだよ。ちゃあんとこの後輩君の顔も憶えてるし、触られた感触も憶えてるんだから」

 

 

 考えるような表情を浮かべていたきりたんは確認をするようにささらに尋ねる。

 その際にささらから強い霊力などを感じられるかを調べてみたが、とくに強い霊力などを感じられることはなかった。

 

 きりたんの言葉にささらは強くうなずき、自分の胸を抱えるようにしながら竜を見た。

 

 

「まず、大前提として説明をしておくのだけど・・・・・・。普通は生霊になにかあったとしても本体である人はなにも気づくことはないはずなの」

「え、でもささらは・・・・・・」

「そうなんです。だからその時点でささらさんはちょっと普通とは違うのですよ」

 

 

 自分たちがなにに対して疑問を持っているのかを教えるため、ずん子は簡単に生霊について説明をする。

 生霊の説明を聞き、ここでつづみはささらの話がおかしいことに気がついた。

 

 普通では知るはずもない生霊の体験したこと。

 そんなことを知れるということはどういうことなのか。

 つづみは心配そうにささらのことを見る。

 

 

「・・・・・・なぁ、お兄ちゃん。話が難しくてよく分からないぞ?」

「もうちょっと待っててくれな。けっこう大変なことなのかもしれないから」

 

 

 竜たちの話している生霊のことがよく分からない一般人(ジュニアアイドル)なウナは竜の服を引っ張りながら尋ねる。

 ウナの言葉に竜は頭を撫でながらもう少し待っていてもらうように言った。

 

 

「そもそもとしてなんでマキに先輩の生霊が憑いていたのかも疑問なんですけどね。最近“cafe Maki”に行ったりしました?」

「“cafe Maki”?そこなら昨日行ったよ。私の家の近くだし、料理も美味しいもん」

「となるとお店に行ったときにマキお姉さんに対して何かを強く思って、それによって生霊が憑いたと考えるのが妥当みたいですね」

 

 

 ふと竜は気になったことを呟く。

 基本的に生霊とは強い思いを抱いたことによって生じるものであり、人に対して憑く場合ほとんどが異性に憑りつくことが多い。

 その点からもささらと同性であるマキに憑いていたことが不思議なのだ。

 

 竜の言葉にささらは昨日“cafe Maki”に行ったことを答える。

 別に生霊が憑りつく条件として憑りつく対象の人が近くにいる必要はないのだが、それでも対象となる人、今回の場合はマキのことを見たであろう“cafe Maki”に行ったことがマキに生霊が憑りついた理由なのだろうときりたんは推測する。

 

 

「まぁ、マキに生霊が憑いたことは置いておいて。あとはどうして先輩が生霊の体験したことを知ることができたのか、かな」

「霊力は調べてみましたけど普通みたいですしね」

「本当に理由が不明なのよね」

「え、もしかしてけっこうマズイことだったり・・・・・・?」

「もしかしなくてもなかなかな異常事態みたいよ」

 

 

 竜たちの様子から自分が実はけっこうマズイ状態なのではないかと理解し始めたささらは顔色を悪くし始める。

 そんなささらの様子につづみは呆れたような声を出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第304話



ううむ。

ハーレムの表現はやはり難しかったです・・・・・・





 

 

 

 

 どうしてささらが生霊の体験したことを知ることができたのか。

 

 竜たちがなにに対して悩んでいるかを一言で言うならこれだけだ。

 霊力の量も一般人並みで幽霊などが見えるわけでもなく、当然ながら“霊術”なんかも使えるわけがない。

 そんな人間にどうしてこんなことができるのか。

 

 一向に答えの見えない謎に竜たちは頭を悩ませていた。

 

 

「ただいま帰りましたわー」

「あ、イタコ姉さま。おかえりなさい」

「おかえりなさいです」

 

 

 不意に玄関が開く音が聞こえ、イタコ先生の声が聞こえてきた。

 イタコ先生の声にずん子ときりたんがいち早く反応をする。

 

 

「あら、さとうさんにすずきさん、公住くんにウナちゃんまで。遊びに来てましたの?」

「あ、えっと生徒会の話し合いと勉強をしようっていうことになってお邪魔してます」

「お邪魔してます。イタコ先生」

「はい。きりたんと遊ぶ約束をしていたので」

「うん。東北がお兄ちゃんと遊ぶって聞いたから遊びに来たの」

 

 

 部屋の中を覗き、竜たちの姿を確認したイタコ先生は少しだけ驚いたような表情になり、竜たちに声をかける。

 イタコ先生の言葉に竜たちは東北家に来た目的を話していった。

 

 

「あ、そうだ。イタコ先生、こちらのささら先輩なんですけど。生霊の体験した出来事を知ることができるみたいなんです。原因とか分かりますか?」 

「ちゅわ?生霊が体験したことを、ですの?」

 

 

 ふと、竜はイタコ先生にもささらが生霊の体験したことを知ることができる原因などに心当たりはないかを尋ねる。

 竜やずん子、きりたんでも分からなかったが、イタコ先生であるのならば分かるのではないか。

 そんな一縷の希望のもと、竜たちはささらのことを見ているイタコ先生のことを見ていた。

 

 

「そうですわね・・・・・・」

「え、えっと・・・・・・」

 

 

 イタコ先生にじっと見つめられ、ささらは恥ずかしそうにしながら目線をキョロキョロとさせる。

 美人からまっすぐに見つめられるというのは同性であってもドキドキとしてしまうもの。

 ささらは恥ずかしさに耐えるように顔を赤くしながらうつむいてしまった。

 

 ――――ッポン・・・・・・

 

 直後、そんな軽い音とともにささらの生霊が発生する。

 突然のことに竜、ずん子、きりたんは慌てるが、イタコ先生だけは落ち着いた様子でささらとささらの生霊を見つめていた。

 

 

「なるほど。ちょうどよく生霊が生じたおかげでだいぶ分かりましたわ」

 

 

 東北家に張られている結界によって動くことができなくなっている生霊を見ながらイタコ先生は言う。

 イタコ先生の言葉に竜たちは互いに顔を見合わせた。

 

 

「えっと、ささら先輩がどうして生霊の体験したことが分かるのかが分かったんですか?」

「ええ。おそらくはという推測ですけど。これで間違いないと思いますわ」

 

 

 竜の言葉にイタコ先生はうなずき、近くで固まってしまっている生霊を掴んだ。

 そして、イタコ先生によるささらがなぜ生霊の体験したことを知ることができたのかの説明が始まった。

 

 

「普通、生霊というものは強い思いによって生じた魂の欠片のようなもので、魂そのものではありませんわ。ですが、さとうさんの生霊はこの時点で違っておりますの」

「えっと、生霊として違っていることがある、と」

 

 

 イタコ先生の言葉に竜はささらの生霊を見ながら呟く。

 普通の生霊は強い思いによって生じた魂の欠片のようなものなのだが、ささらの生霊はどういったところが違うのか、イタコ先生の言葉の続きを竜たちは待つ。

 

 

「さとうさんの生霊なのですが・・・・・・。こちらは完全にさとうさんの魂の欠片が本当に生霊として生じておりますの」

「え、魂自体が?!」

 

 

 思いによって生じた普通の生霊ではなく、ささら本人の魂の欠片によって生じた生霊。

 似ているようでいて全く違う生霊に竜たちは驚いた表情のままささらの生霊を見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第305話




ささら、つづみ、アイ先生

この3人のヤンデレエンドを見たいという方はおりますかね?

一応、アンケートをしておこうと思います。





 

 

 

 

 思いによって生じた生霊は強い思いが固まったことによって疑似的に魂の欠片のような状態になって生まれるもの。

 それに対してささらの生霊はささら本人の魂自体が欠片となって生まれている。

 つまり、普通の生霊とささらが生み出した生霊は似ているようで全く違うものなのだ。

 

 

「えっと魂自体が生霊になっているって言いましたけど、それって大丈夫なんですか?」

「そうですわね・・・・・・。私もなにぶん初めて見た事例ですし、ハッキリとは答えられませんが・・・・・・」

 

 

 イタコ先生が掴んでいるささらの生霊を見ながら竜はささら本人になにか問題は起こらないのかを尋ねる。

 霊などについて専門的なイタコ先生の言葉なので間違いではないのだろうが、それで不安が消えたわけではない。

 竜の言葉にイタコ先生は少しだけ考えるようなしぐさを見せた。

 

 

「見たところ魂の欠片と言っても安定はしているみたいですし。生きている人間特有の霊力も纏っているみたいなので悪霊なんかに害されることもなさそうですわ。ですので、そこまで気にしなくてもよろしいかと」

「よ、よかったぁ・・・・・・。えっと、見えないんですけどそこに私の生霊がいるんですか?」

「ええ、いますよ。さすがに家に張られている結界で動けないみたいですけど」

 

 

 イタコ先生の言葉にささらは安心したのか、ホッと胸をなでおろす。

 まぁ、自分が知らないうちに魂が分かれてどこかに飛んでいたと聞けば誰でも不安にはなってしまうだろう。

 

 

「でも、どうしてささら先輩だけそんなことが?普通はありえないことですよね?」

「まぁ、そうですわね。ですが、どうやらさとうさんの魂はもともと分かれやすかったみたいなんですわ」

「魂が分かれやすい?なんていうか、ハガレンの映画のアルフォンスみたいですね?」

 

 

 ささらの生霊が普通と違うことや、ささら本人に何の問題もないことは分かったが、そうなった原因が分かっていない。

 そのことを竜が尋ねると、イタコ先生はささらの胸のあたりを指さしながら原因を答えた。

 イタコ先生の言葉にきりたんは思わずある映画に出てきた主人公の弟の魂の特徴を思い出して呟いた。

 

 

「あれとは違ってなにかに定着させる必要はないみたいだけどな。たぶん、本人の魂を使っているから戻った時に体験したこともフィードバックされてるんだろうな」

「本人が生霊を操作したりできるわけでもなさそうやし、あんまし役にはたたそうやね?」

 

 

 ささらが生霊の体験したことを知ることができた理由が分かり、竜は納得したようにうなずく。

 竜の頭の上でついなはささらから生じた生霊を見ながら呟く。

 

 事実としてささらは霊力が一般人レベルなので霊を見ることはできず、生霊を操作することもできない。

 つまりは完全に使いどころのない能力だ。

 いや、むしろ生霊が体験したことをフィードバックされるという点で考えると使いどころがないというレベルですらないかもしれない。

 

 

「とりあえず、ささらになんの問題もないって分かって良かったわ」

「えへへ、心配させちゃってごめんね?」

 

 

 イタコ先生の言葉からささらの生霊に関して何の問題もないということを知れたつづみはホッと安心したように息を吐く。

 クールで落ち着いている印象を持たれることの多いつづみだが、友人であるささらのことをとても心配しており、内心では不安でいっぱいだった。

 そんなつづみの内心を友人として理解していたささらは心配させてしまったことを謝った。

 

 ちなみに、すでにささらの頭の中からは竜が自分の生霊の胸を触ったという記憶は忘れ去られているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第306話



ついに今年も終わりですね。

残りわずかですが、よいお年をお過ごしください。





 

 

 

 

 魂が分かれることによって生霊になっていたという問題も無事に解決し、ささらは安堵の息を吐く。

 竜やきりたんはささらとはついさっき知り合ったばかりだが、それでも問題が解決したことにホッと息を吐いていた。

 

 

「そういえば先輩方はどうしてここに?」

「あ、私たちは生徒会の話し合いをするために来たんだよ。私の、体質?のせいでぜんぜん話せなかったけど・・・・・・」

「今から話し合うのはさすがに遅すぎるから、話し合いは明日に変更ね」

「まぁ、たしかにイタコが帰って来とる時間やもんなぁ」

 

 

 ふと、竜はささらとつづみがどんな用事で東北家に来たのかが気になり、2人に尋ねる。

 竜の質問にささらは東北家に来た理由を答えたが、途中で窓の外を見て言葉を途切れさせてしまった。

 時計を見ればいつの間にやら短針が6時を指しそうな時刻で、この時間から話し合いをするとなればなかなかに遅い時間となってしまうだろう。

 ささらの言葉につづみも今から話し合いをするのは無理だと判断し、明日に変更することを提案した。

 

 

「お兄ちゃん。ウナももう帰らないとだ・・・・・・」

「そっか、小学生だとけっこう遅い時間だもんな。なら、帰るついでに家まで送っていくよ」

 

 

 竜たちが時間についての話題を出すと、ウナが竜の服の端を引っ張りながら自分も帰る時間だと言った。

 東北家とウナの家が近いとはいえ、そこそこに遅い時間に小学生を1人で出歩かせるというのは不安があるもの。

 そう考えた竜は帰りに自分が一緒に家まで行くことを約束するのだった。

 

 ちなみに、竜が家まで送ると言った後にウナはきりたんの方を見て少しばかり勝ち誇ったような表情を浮かべており、それを見てきりたんは悔しそうにしていた。

 

 

「それじゃあ、こんな時間ですし。私が車で送っていきましょうか?」

「いえ、そんな、イタコ先生の手を煩わせるわけには・・・・・・」

「良いじゃない。送ってもらえるということなのだからお言葉に甘えましょうよ」

 

 

 今の時間と外がやや暗くなり始めていることに気がついたイタコ先生はささらとつづみに提案をする。

 イタコ先生の提案にささらは手をぶんぶんと振りながら断ろうとするが、それをつづみが止めて提案を受けようと言う。

 2人の家は“cafe Maki”の近くであり、東北家から向かうとなれば少しばかり距離がある。

 そのため、イタコ先生に送ってもらった方が安全なのは確実なのだ。

 

 

「え、でも・・・・・・」

「そんなに気にしなくても大丈夫ですわ。それよりも自分の学校の生徒が暗くなり始めの時間帯に外を歩いていることの方が心配ですし。私の精神的な安心のためにも送らせてくださいませ?」

 

 

 それでもイタコ先生に送ってもらうことに申し訳なさを感じているらしいささらに、イタコ先生は送らせてほしいと言い方を変える。

 イタコ先生のその言葉に観念したのか、ささらはおずおずとうなずいてイタコ先生に家まで送ってもらうことに決めた。

 

 

「ところで、こちらの生霊はいつまで出しておくのですか?」

「そういえばずっと出たまんまだったな」

「え、私の生霊ってまだ残ってるの?!」

 

 

 竜やささらたちが帰りについて話していると、きりたんがついさっき生じた生霊を指さしながら尋ねた。

 先ほどささらから生じた生霊は東北家に張られている結界によって動けなくなっており、きりたんはそれが気になったのだ。

 きりたんの言葉に竜は思い出したように生霊を見る。

 そんな竜たちのやりとりに自分の生霊がまだそこにいるのだということに驚いたささらが声を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第307話



大晦日で更新がないと思いましたか?

残念!

更新しております!





 

 

 

 

 生霊が残っているにしても東北家の中だから万が一で危険なことになることもないだろうということになり、ささらの生霊は東北家に置いていかれることになった。

 そして、ささらとつづみはイタコ先生によって家まで車で送られていき、竜はウナと一緒に帰路に着く。

 

 

「さっきまで東北たちと話していたことから考えると、お兄ちゃんはお化けが見えるのか?」

「お化け・・・・・・、まぁ、そうだな。お化けを見ることができるよ」

 

 

 お化けと幽霊、似たようなものだと思われるかもしれないがハッキリとした違いがある。

 それは人間の魂かそうでないかの違いだ。

 

 幽霊は人間の魂が成仏することなく現世にいる状態。

 それに対してお化けというのは基本的に人のイメージや恐怖する心などから生まれた存在なのだ。

 分かりやすい例で挙げるのであれば“トイレの花子さん”や“動く人体模型”、あとは“動く二宮金次郎像”といったいわゆる学校の怪談などで語られるものだろうか。

 

 こういった存在は人間の魂ではなく噂話が根底にあり、その話を聞いた人たちが潜在的に抱いた“怖い”といった感情が集まって産み出されるのだ。

 

 ウナの言葉に竜は幽霊とお化けが違うとは思いつつもとりあえず肯定する。

 

 

「おー、お化けが見えるっていうことは砂かけばばあとかも見えるのか?」

「え、うーん・・・・・・、砂かけばばあとかは妖怪だからどうなんだろう?」

 

 

 お化けが見えるということで砂かけばばあも見えるのかとウナは尋ねる。

 ウナに尋ねられ、竜は少しだけ考え込む。

 

 砂かけばばあはお化けや幽霊ともまた異なり、妖怪と呼ばれるものに分類される。

 妖怪とは人間の理解を超える奇怪で異常な現象や、あるいはそれらを起こす、不可思議な力を持つ非日常的・非科学的な存在のことを指しており、お化けや幽霊ともまた別のものなのだ。

 ちなみに九十九神であるついなも妖怪の枠に入っているのだが、竜はその事をすっかり忘れていた。

 

 

「っと、着いたか」

「あ、本当だ。お兄ちゃんと話してたらすぐに家に着いちゃったなぁ・・・・・・」

 

 

 気づけばウナの家の前に到着していた。

 竜の言葉にウナは寂しそうにしながら呟く。

 まぁ、現実的なことを言ってしまえばウナの家と東北家はそこまで離れていないので、もともとすぐに着いたりするのだが。

 

 

「あー、っと、そうだな。俺と一緒にいるお化けの子を見せてあげるよ。いな、大丈夫か?」

「問題ないで!」

「本当?!」

 

 

 寂しそうにしているウナの表情を見た竜はついなにウナの前に姿を見せることは可能かの確認をとる。

 竜の言葉についなは竜の頭の上から飛び降りてもとの大きさに戻る。

 竜がお化けを見せてくれるということにウナは驚きつつも眼をキラキラとさせて竜を見た。

 

 

「ああ。いな、頼む」

「了解や」

「あ、女の子が出てきた?!この子がお化けなの?」

 

 

 ウナの言葉に竜はうなずき、ついなに実体化をするように頼む。

 ついなが実体化するとウナは驚きつつも興味津々についなのことを見始めた。

 

 

「この子が俺と一緒にいるお化けの子でいなって言うんだ」

「よろしゅうな!ウナちゃんのことはテレビでも見てたから知っとるで!」

「おー!お化けにもウナは知られているのか!」

 

 

 ついなが自分のことを知っているということにウナは嬉しそうに声をあげる。

 どうやらお化けを見れたということと自分が知られているということでかなり嬉しかったらしい。

 

 

「お兄ちゃんはすごいな!お化けの子も一緒にいるなんて!」

「俺がすごいんじゃなくて、いなが一緒にいてくれているんだよ。俺もいなに助けられているからね」

「えへへ、うちは好きでご主人と一緒にいるだけやから」

 

 

 竜の言葉についなは少しだけ照れながら答える。

 そして、竜とついなに手を振りながらウナは家の中に帰っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第308話




ささら、つづみ、アイ先生のヤンデレエンドを見たいという方が多いみたいなので、次のアンケートの時に選択肢に追加しておきますね。

といっても投票先の枠の数が足りないので1人づつ追加になりそうですけども。





 

 

 

 

 ウナの家から特に何事もなく竜とついなは家に着く。

 もちろん何事もないに越したことはないのだが、それでも最近はよく分からない霊に襲われたりしたこともあったために少しばかり拍子抜けもしていた。

 

 

「・・・・・・ん?」

「ご主人、どうしたんや?」

 

 

 家の玄関のカギを開けようとしたとき、不意に竜の耳になにやら音が聞こえてきた。

 聞こえてきた音に竜は首をかしげ、耳を澄ませて音が聞こえてきた方を探る。

 目を閉じて静かにし始めた竜についなは不思議そうに尋ねた。

 

 

「いや、なにか音が聞こえた気がしてな・・・・・・。ちょっと静かにしてもらっていいか?」

「ほーん?うちの耳にはなんも聞こえへんかったけどなぁ。とりあえず、分かったわ」

 

 

 ついなの言葉に竜は静かにし始めた理由を答え、ついなに少しだけ静かにしてもらえるように頼む。

 竜に静かにしてほしいと頼まれたついなは首をかしげつつも言われた通り口を閉じて静かにした。

 

 

「・・・・・・ゅ・・・・・・み・・・・・・!」

「ぎ・・・・・・ん・・・・・・ゅん・・・・・・!」

 

 

 途切れ途切れでかすかに聞こえるレベルだったが、竜の耳にはたしかにその音が届いた。

 聞こえてきた音の方向は目の前。

 つまりは玄関の向こうであり、それはつまり音を出しているものが家の中にあるということになる。

 

 

「家の中に誰かいるのか・・・・・・?」

「なんやて?!まさか泥棒なんか?!」

 

 

 家の中から聞こえてきた音。

 それは声のようにも思え、竜はもしかしてと思ったことをポツリと呟く。

 竜の呟きについなは驚いて声を上げ、玄関を強く睨みつけた。

 

 

「ついな、中の様子を見てこれるか?」

「了解や。この家に勝手に入ったやつをうちが成敗したる!」

「いや、姿の確認だけで・・・・・・」

 

 

 ついなの姿は基本的に霊力を持っていなければ見ることはできない。

 そのため、偵察をするうえでかなりの安全性を誇っているので、竜は玄関を指さしながらついなに家の中の偵察を頼んだ。

 竜に偵察を頼まれたついなは両手をこぶしにしてガッツポーズをとり、やる気満々で家の中へと入っていった。

 明らかに偵察以外のこともしてしまいそうなついなに竜は落ち着かせようとするが、竜の言葉の途中でついなは家の中へと入って行ってしまった。

 

 ちなみに、ついなは自分の体を小さくして郵便ポストから家の中へと侵入している。

 

 ついなが家の中へと消えて行ってから少しして、ついなのものであろう足音が聞こえてきた。

 

 

「ご主人、家の中にいたんは泥棒やなかったで」

「そうなのか?」

 

 

 カギを開けて玄関を開け、竜を玄関の中に入れながらついなは家の中を見て分かったことを伝える。

 ついなの言葉に竜は意外そうな表情を浮かべながら聞き返す。

 泥棒でないのであれば聞こえてきた音は何だったのか。

 そのことが気になりながらも竜は家の中へと入っていった。

 

 

「ただいま~・・・・・・、おっと?」

「みゅぅみゅみゅ~!」

「ぎゅぎゅーん!」

 

 

 洗面所で手洗いうがいを終えた竜がリビングの扉を開けると、見慣れた紫と黄色の塊が竜に向かって飛び込んできた。

 飛び込んできた2つの塊を受け止めて見てみれば、それはみゅかりさんとけだまきまきだった。

 竜に抱き止められ、2匹は嬉しそうに鳴き声を上げている。

 

 

「なるほど、みゅかりさんとけだまきまきが遊びに来てたのか。帰ってくるのが遅くなって悪かったな?」

「みゅぅみゅ、みゅみゅーい」

「ぎゅんぎゅん、ぎゅーん」

 

 

 おそらくは2匹とも竜がきりたんと遊んでいるときに家に来たのだろう。

 竜が2匹に早く帰らなかったことを謝ると、2匹は気にしなくてもいいと言っているかのように鳴き声を上げた。

 

 

「ご主人が聞こえたって言っとったのはこの子らの鳴き声だったみたいやね」

「そうみたいだな。泥棒とかじゃなくてよかったよ」

 

 

 竜が玄関で聞こえたという音。

 その正体がみゅかりさんとけだまきまきだということが分かり、竜とついなはホッと息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第309話



PSО2をやってると着せ替えだけで普通に時間が過ぎていたりします。

可愛い恰好だったりかっこいい恰好だったり、別のキャラクターの格好に似せてみたり。

衣装の自由度が高くて本当に楽しいです。





 

 

 

 

 みゅかりさんとけだまきまきを抱きかかえながら竜はリビングを見渡す。

 リビングは微妙に散らかっており、ところどころに紫色や黄色の毛が落ちていることから2匹が部屋の中で動き回りでもしたのだろうということがうかがえた。

 

 

「2匹とも、散らかしたな・・・・・・?」

「みゅ、みゅ~みゅ~・・・・・・」

「ぎゅん。ぎゅ~んぎゅ~ん・・・・・・」

 

 

 抱きかかえている2匹に竜がジトリとした視線を向けると、2匹はまるで口笛でも吹くかのような鳴き声を上げながら目を逸らした。

 目を逸らすということは部屋の中を散らかした自覚があるということ。

 まぁ、そもそもとして竜とついなが家に帰ってくるまでみゅかりさんとけだまきまきしか家にいなかったはずなので、落ちている抜け毛と合わせて誰が部屋の中を散らかしたのかは明らかなのだが。

 

 鳴き声を上げながら目を逸らす2匹に竜は溜息を吐いた。

 

 

「はぁ、部屋の方は俺とみゅかりさん。けだまきまきで片づけるから晩ご飯の方をお願いしてもいいか?」

「ええよ。そんなら後は頼むなぁ?」

「みゅ~・・・・・・」

「ぎゅ~ん・・・・・・」

 

 

 散らかしたのだから片付けも手伝うようにと竜は2匹が手伝うことを決めて言う。

 竜に手伝うように言われ、2匹は「えー・・・・・・」とでも言っているかのような鳴き声を上げる。

 竜の言葉についなは頷き、台所へと向かっていった。

 

 

「ほれ、そんじゃあ片づけを始めるぞ」

「みゅーみゅみゅ」

「ぎゅんぎゅーぎゅん」

 

 

 そう言って竜はみゅかりさんとけだまきまきを床に下ろす。

 床に下ろされた2匹は諦めたように鳴き声を上げると、リビングの片づけへと手をつけるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 片づけといっても本格的に片づける必要はなく。

 軽く散らばっているゴミ箱のゴミや、ところどころに落ちているみゅかりさんとけだまきまきの抜け毛の片づけ、動いてしまっていたソファーなどを元の位置に戻す程度で部屋の中の片づけは終わった。

 ちなみに、竜が2匹の抜け毛を片づけようとするとどちらか片方が必ず竜の腹部にすてみタックルをして止めており、竜は腹部に地味にダメージが蓄積されていた。

 というよりも自分たちの抜け毛を片づけられるのが恥ずかしいのであれば先に片づけておけばよかっただろうに、これが分からない。

 

 

「おらおらおらおらおらおらおらおら!!」

「みゅみゃみゅみゃみゅみゃみゅみゃ?!?!」

 

 

 リビングのソファーに座り、竜はみゅかりさんの頬をムニムニと弄る。

 竜に頬を弄られ、みゅかりさんは変な鳴き声を上げることしかできない。

 そんな竜とみゅかりさんの様子にけだまきまきはソファーの陰に隠れながら「おそろしい子っ!」とでも言いたそうな表情を浮かべていた。

 

 

「ふぅ、さてと。次は・・・・・・、お前だぁぁぁぁああ!!」

「ぎゅぎゅぎゅーん?!?!」

 

 

 竜によって弄り回された頬を押さえながらみゅかりさんはソファーに崩れ落ちる。

 一仕事を終えたとでも言うかのような表情を浮かべた竜は、素早くソファーの陰に隠れていたけだまきまきを捕獲した。

 竜に捕獲され、けだまきまきは大きな悲鳴を上げる。

 

 

「ぎゅん!ぎゅぎゅぎゅんっ!!」

「みゅ・・・・・・あぅ・・・・・・」

 

 

 助けを求めるようにけだまきまきはみゅかりさんに鳴き声をかけるが、みゅかりさんは頬を押さえたままぼーっとした鳴き声を返すことしかしなかった。

 

 

「ふっふっふ、さぁて・・・・・・。俺の腹にすてみタックルしてきたお仕置きの時間だべぇ~」

「ぎゅーーーーーんっっっ?!?!」

 

 

 まるでどこかの女性1人と男性2人の悪役の親玉のような言い方で竜はけだまきまきに宣告する。

 そして、それからすぐにけだまきまきの変な鳴き声が聞こえてくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第310話



ほとんどの人が今日から仕事始まりですかね?

かくいう私も仕事ですが。

仕事が始まる方は頑張って下さい。





 

 

 

 

 ソファーに崩れ落ち、やや荒い息をしている紫色の猫――――みゅかりさんと黄色の毛玉――――けだまきまき。

 そんな2匹の前で何かをやり遂げたようなスッキリしたような表情を竜は浮かべていた。

 

 

「みゃう・・・・・・、みゃう・・・・・・」

「ぎゅん・・・・・・、ぎゅう・・・・・・」

「ふぅ、お仕置き完了」

 

 

 荒い息をしているみゅかりさんとけだまきまきだが、これは別に何かイヤらしいことをしたから荒い息をしているとかではない。

 たんにみゅかりさんとけだまきまきはお仕置きとして竜に頬をムニムニと弄り回されただけなのだ。

 まぁ、その時の触り方が2匹の琴線に触れたのか、想像以上に2匹が反応をしたのだ。

 

 

「ご主人、みゅかりさんたちの声が台所にまで聞こえてきてたで?」

「あ、すまん。俺の腹に何回か突撃してきたからお仕置きしてたんだよ」

 

 

 みゅかりさんとけだまきまきの鳴き声が五月蠅(うるさ)かったのか、台所からついなが顔を出して竜に言う。

 ついなの言葉に竜は謝り、どうしてそうなったのかの理由を答えた。

 竜がお腹に2匹からの突撃を受けたという言葉についなは少しだけ驚いた表情を浮かべたが、何んともなさそうにしている竜に何も言わずに台所へと戻っていった。

 

 

「みゅーみゅ、みゅみゅーい!」

「ぎゅんぎゅぎゅ、ぎゅぎゅーん!」

「あ、復活した」

 

 

 しばらくの間ソファーの上でくったりとしていたみゅかりさんとけだまきまきだったが、少し時間を置いたことによって回復したのか、元気な鳴き声をあげた。

 2匹が元気よく鳴き声をあげたことに、ゲームの準備をしていた竜はポツリと呟く。

 

 

「みゅ、みゅみゅみゅ?」

「ぎゅぎゅん、ぎゅんぎゅーん」

「ああ、ちょっとPSО2でデイリーとかを終わらせちゃおうと思ってな」

 

 

 竜が準備しているゲームを見てみゅかりさんとけだマキマキは鳴き声をあげる。

 なんのゲームをやるのか気になっているかのような鳴き声に、竜はどのゲームをやろうとしているのかを答えた。

 竜の答えに2匹は楽しそうに飛び跳ね、竜の膝と頭の上にそれぞれ着地する。

 どうやらそこで竜のプレイするゲームを見ることにするようだ。

 

 

「とりあえずオススメクエストの一番上のスーパーハードを選んで・・・・・・、デイリーオーダーを3つ全部だな。あとはクエスト前にドリンクを飲んで、トライブースト50%を使って完了、っと」

 

 

 慣れた動きで竜はデイリークエストをすべて終わらせられるように操作する。

 デイリークエストは『ドリンクを飲む』『経験値などのブースト系アイテムを使う』『スーパーハード以上の難易度のフリークエストなどをクリアする』『デイリーオーダーをクリアして報告する』の4つと、『他のデイリークエストをすべてクリアする』の1つによって固定されており、基本的にはオススメクエストの一番上を難易度スーパーハード以上で選んでいれば1回のクエストクリアでデイリークエストをすべてクリア可能なのだ。

 

 

「ファントムヒーローエトワールラスター・・・・・・。ヒーロー使うか」

 

 

 強いと言われている後継クラスをすべて挙げ、竜はどのクラスを使うかを決める。

 後継クラスはどれもとても強力で、通常攻撃は他のクラスの(フォトン)(アーツ)と呼ばれる必殺技とほぼ同威力であり、攻撃力という点でも優秀なことが分かった。

 

 

TMG(ツインマシンガン)の連続撃ち楽しいな」

 

 

 ヒーローの武器の1つ、ツインマシンガン。

 竜はこの武器をボタンを押したままにすることによって弾を連射し、目の前に現れる敵を一気に殲滅させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第311話




ゲームをやっていて知らない人とわちゃわちゃ話したりするのも楽しいものですよね。

グループの人たちと話しながらクエストが特に楽しくて。





 

 

 

 

 自分のキャラを操作し、竜は目の前の敵を殲滅していく。

 後継職であるヒーローの武器の1つ、TMG(ツインマシンガン)

 その武器から発射される弾丸は一発で敵を撃ち抜いていった。

 

 

「やっぱりTMGは爽快感がいいな。PPの回復もしやすいし」

「みゅい、みゅみゅみゅみゅみゅみゅっっ!!!」

「ぎゅぎゅーん!」

 

 

 竜の膝の上に座っていたみゅかりさんは銃を撃つかのように前足を上げ、けだまきまきに向かって銃を撃つような真似をする。

 みゅかりさんの行動に竜の頭の上に乗っかっていたけだまきまきはまるで撃たれたかのようなリアクションをとると、そのまま竜の頭の上からソファーの上にポテリと落下した。

 自分から受け身をとれるように落下したことと、柔らかいソファーの上に落下したということでけだまきまきに怪我らしい怪我はなく、楽しそうにみゅかりさんと笑いあっている。

 

 

「大丈夫だとは思うけど気をつけろよ?っと、緊急か」

「みゅんみゅう」

「ぎゅんぎゅう」

 

 

 竜の言葉に2匹は同じような鳴き声をあげて返事をする。

 その直後、ゲームの画面に警報音が鳴り響いた。

 見れば画面の上部に文字が流れており、そこには【これより、アークス総動員によるマザーシップ・シバへの突撃作戦を開始します。アークス各員は出撃の準備をお願いします。】という文字が流れていた。

 

 

「このアナウンスは・・・・・・。原初の闇だったか」

 

 

 流れてきた文字と聞こえてきたアナウンスからどの緊急かを判断し、竜は持ち物を見直していく。

 原初の闇は実装されてからすでにそこそこの期間が経っているので、人数さえいればとくに苦労することなく倒すことができるだろう。

 完璧にヒーローというクラスを使いこなせているわけではないが、それでも死ぬことはほとんどないはずだ。

 

 

「そしたらこの緊急をクリアしたら終わりかな」

「みゅーみゅみゅー!」

「ぎゅんぎゅー!」

 

 

 竜の言葉にみゅかりさんとけだまきまきは応援するように鳴き声をあげる。

 みゅかりさんとけだまきまきの応援を受け、竜は気合を入れて緊急クエストに向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 無事に原初の闇も倒し終わり、竜はついなのいる台所に向かう。

 みゅかりさんとけだまきまきは原初の闇との戦いの興奮が抜けないのか、ソファーの上でケガをしないレベルのじゃれあいをしている。

 

 

「ついな、なにか手伝うことあるか?」

「あ、ご主人。手伝うことはとくには・・・・・・、あ、そんならテーブルの片づけを頼むわ」

 

 

 台所に来た竜に尋ねられ、ついなは少しだけ考えるような仕草をして竜にテーブルの片づけを頼む。

 ついなに言われ、竜はテーブル拭きを手に持ってリビングに戻った。

 

 

「みゅー・・・・・・、みゅみゅっ!」

「ぎゅいんっ!ぎゅんぎゅぎゅん!」

 

 

 一拍溜めたみゅかりさんの攻撃をけだまきまきはギリギリのところで回避し、隙のできたみゅかりさんの背後から攻撃を当てる。

 PSО2であればカウンター成功の音がなってそうな見事なカウンター攻撃にみゅかりさんは堪えることができず、ソファーの上から床へとポテリと落下してしまった。

 

 

「あんまり暴れてホコリをたてないでくれよ?」

「みゅーみゅみゅー」

「ぎゅんぎゅーん」

 

 

 テーブルの上を片づけ、テーブル拭きで拭きながら竜はみゅかりさんとけだまきまきに軽く注意をする。

 これから晩ご飯を食べるのだから竜の言葉は当然のものだろう。

 竜の言葉にみゅかりさんは前足を上げ、けだまきまきは頭のてっぺんに付いているアホ毛をブンブンと揺らしながら返事をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第312話




期間限定のものってなんだかんだで忘れることってありますよね。

自分はそこそこの頻度で忘れてしまうことがあります。





 

 

 

 

 ついなの作ってくれた晩ご飯も食べ終わり、竜たちはのんびりと食後の余韻に浸っていた。

 例えて言うなら、ついなの料理には田舎のおふくろの味とでも言うかのような、そんな心を温めてくれるようなものがあるのだ。

 竜と一緒に晩ご飯を食べていたみゅかりさんとけだまきまきもどこかポヤンとした表情を浮かべており、ついなの料理に満足していることがうかがえた。

 

 

「今日の晩ご飯も美味かったよ」

「やー、そう言ってもらえると作った甲斐があるっちゅうもんや。でもご主人、べつにご飯を食べるたびに言わんでもええんよ?」

「いやいや、毎回ご飯を食べるたびに思っていることだからな」

 

 

 普段から竜がついなの作ってくれたご飯を食べた後に必ず言っていることなのだが、ついなはそのたびに嬉しそうに笑顔で答える。

 そんなに頻繁に言っていては言葉に重みがなくなってしまうと思うかもしれないが、やはりこういったことはキチンと伝えていくことが大切なのだ。

 

 竜がついなに晩ご飯の感想を言っていると、みゅかりさんとけだまきまきがジッと竜のことを見ていた。

 2匹の視線に気がつき、竜は不思議そうに首をかしげる。

 

 

「みゅーみゅみゅ・・・・・・、みゅみゅみゅぅあ・・・・・・」

「ぎゅんぎゅぎゅ、ぎゅんぎゅーん!」

「どうかしたのか?みゅかりさんはなんか落ち込んでるみたいだけど・・・・・・?」

 

 

 竜のことをジッと見ていたみゅかりさんはどこか落ち込んだ様子で、けだまきまきは気合いを入れるように鳴き声をあげた。

 2匹がそれぞれ違った反応をしていることが気になった竜は2匹に向かって声をかける。

 

 

「みゅみゅい・・・・・・。みゅあーう、みゅあぁぁあ・・・・・・」

「ちょ、おわ?!どうしたんだよ?」

 

 

 竜に声をかけられ、落ち込んだ様子を見せていたみゅかりさんが竜の首元に飛びつく。

 みゅかりさんがいきなり飛びついたことに竜は驚くが、竜はみゅかりさんをなんとか受け止めることができた。

 竜の首元に飛びついたみゅかりさんは、そのまま竜の首に前足を回してしがみつくと悲しげな鳴き声をあげる。

 どうやら竜がついなに晩ご飯の感想を言っていたことからなにか悲しいことを考えてしまったらしい。

 みゅかりさんがいきなり悲しそうに鳴き始めたことに竜は驚きつつ、みゅかりさんを落ち着かせるように背中の部分を撫でるのだった。

 

 

「いったいどうしたんだ?」

「ぎゅんぎゅぎゅ、ぎゅんぎゅーん」

 

 

 みゅかりさんを落ち着かせるために撫でながら竜は首をかしげる。

 そんな竜にけだまきまきが説明をするように鳴き声をあげながら体を動かし、アホ毛をブンブンとうごかす。

 

 

「ふむふむ」

「ぎゅぎゅん、ぎゅぎゅんぎゅぎゅんぎゅーん」

「え、ご主人は何を言っとるか分かるんか?」

 

 

 けだまきまきの動きと鳴き声に竜がうなずいている姿に、ついなは驚きながら竜に尋ねる。

 ハッキリ言ってけだまきまきの鳴き声は完全に「ぎゅんぎゅん」と言っているようにしか聞こえず、ついなには何を言っているのかはまったく分からなかった。

 ついなの言葉に竜はキリっとした表情になり、ついなを見る。

 

 

「いや、まったく分からん」

「分かっとらんの?!」

「ぎゅぎゅん?!」

「みゅふっ・・・・・・。みゅ、みゅみゅ・・・・・・」

 

 

 キリっとした表情の竜の口から発せられた「まったく分からない」という言葉についなは思わずツッコミを入れる。

 このやり取りは竜がけだまきまきと出会ったときにもやっていたのだが、その時と同じようにけだまきまきはガビンッという擬音が聞こえてきそうな鳴き声をあげた。

 

 そんな竜たちのやり取りに、みゅかりさんは思わずといった様子で笑うような鳴き声を漏らした。

 それから、竜はみゅかりさんの気が済むまで背中を撫でるのだった。

 

 

 

 ちなみに、みゅかりさんを撫でている途中でけだまきまきも飛びついてきたので、竜は2匹を抱きかかえながら撫でることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第313話




2DLIVEの書き方とか調べてみるとかなりややこしいですねぇ・・・・・・

しかも動かすには有料のやつが必要みたいだし・・・・・・

これなら立ち絵で妥協も視野に入れた方が・・・・・・?





 

 

 

 

 みゅかりさんとけだまきまきを撫で始めてからしばらくして、2匹は満足したのか竜の上から降りる。

 2匹の重さは軽い方ではあるのだが、それでも地味に長い時間2匹を抱きかかえて撫でていたため、竜は軽く疲れてしまった体をほぐすために大きく伸びをした。

 

 

「んっ・・・・・・、ふぅ・・・・・・。軽いは軽いんだけど同じ体勢ってのがきつかった・・・・・・」

「みゅみゅみゅーみゅ、みゅーみゅあ」

「ぎゅんぎゅん」

 

 

 伸びをしている竜の姿にみゅかりさんは少しだけ申し訳なさそうな鳴き声をあげる。

 そんなみゅかりさんの様子にけだまきまきも同じような鳴き声をあげた。

 

 

「んぁ?あー、気にすんな。べつに辛かったとかじゃないから、な?」

「うみゅみゅみゅ・・・・・・」

「んぎゅぎゅぎゅ・・・・・・」

 

 

 伸びをしている自分を見て申し訳なさそうにしている2匹に気がついた竜は、自分のことを見上げている2匹の頭をわしゃわしゃとやや強めに撫でる。

 わしゃわしゃと強く撫でられた2匹は変な鳴き声を漏らしながら竜に撫でられている。

 

 

「みゅみゅーみゅ、みゅうあ、みゅみゅみゅ」

「ぎゅぎゅん?ぎゅんぎゅーん」

「え、どうしたんだ・・・・・・?」

 

 

 竜に撫でられて気分ももとに戻ったのか、みゅかりさんは鳴き声をあげて小さくジャンプした。

 そして、けだまきまきにみゅかりさんが何かを言うと、けだまきまきはスッと体を真っ直ぐにして動きを止めた。

 いきなりけだまきまきが動きを止めたことに、竜は不思議そうに首をかしげる。

 

 

「みゅうーあ、みゅみゃーみゅ、みゅみゅみゅー」

「ぎゅんぎゅーん。ぎゅぎゅんぎゅーん」

「ああ、帰るの・・・・・・って飛んだ?!」

 

 

 鳴き声をあげながら前足を振ったみゅかりさんは、真っ直ぐな体勢になっているけだまきまきの体にしがみつく。

 みゅかりさんの鳴き声にけだまきまきも鳴き声をあげ、そのまま頭のてっぺんに生えているアホ毛を回転させ始めた。

 けだまきまきがアホ毛を回転させ始めると、そのままふわりと空中に飛び上がった。

 

 けだまきまきがいきなり飛び上がったことに竜は驚き、思わず口をポカンと開けてしまう。

 

 

「みゅーみゅー」

「ぎゅんぎゅーん」

「え、あ・・・・・・、ま、またな・・・・・・?」

 

 

 けだまきまきにしがみついているために手を振ることはできないが、それでもみゅかりさんは「またね」とでも言うかの様に鳴き声をあげた。

 同じようにけだまきまきも鳴き声をあげる。

 鳴き声をあげた2匹が空を飛びながら帰っていく光景に、竜は唖然としたまま手を振ることしかできなかった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 みゅかりさんとけだまきまきが飛んで帰ってからしばらくして、台所で食器を洗っていたついながリビングに戻ってくる。

 

 

「あ、みゅかりさんとけだまきまきは帰ったんやね?」

「お、おう・・・・・・」

 

 

 飛んだけだまきまきのインパクトが強く残りすぎていた竜はついなの言葉にぼんやりとしながら答える。

 そんな竜の様子についなは首をかしげる。

 

 

「どないしたん?」

「あ、いや、けだまきまきが空を飛んでな・・・・・・」

 

 

 不思議そうにしているついなに竜は理由を答えるのだが、実物を見ていないついなにはどういうことなのかまったく伝わらず、頭の中にハテナマークを増やすだけとなってしまった。

 竜の言葉の意味が分からなかったついなは、不思議そうに首をかしげたまま、自分と竜の分のお茶を用意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第314話



参加できそうな生放送があるとつい参加したくなりません?

私はPSО2の生放送をしているところにすぐに参加しに行っちゃいますね。





 

 

 

 

 学校の保健室にて、竜はいつものようにマキからお弁当を受け取る。

 そしてお昼ご飯の代金として竜はマキにお金を手渡した。

 

 

「今日もありがとうな」

「ううん。私がやりたくてやってることだからね」

 

 

 いつも通りのやりとりをしている竜とマキを横目に、茜たちも保健室のテーブルの上にお昼ご飯の準備をしていった。

 当然ながらひめとみことの姿もあり、2人の前には茜の作ったお弁当が置かれている。

 

 

「おっひるーおっひるー」

「すみません。本当ならボクたちは食事をする必要はないんですけど・・・・・・」

「そんな気にせんでええよ。材料費もそんなにかかっとらんし、なにより美味そうに食べてるのを見るんは気分がええからな」

 

 

 上機嫌に謎の歌を歌うひめの隣でみことは茜に向かって頭を下げる。

 ひめとみことは本来、ついなと同じように霊力をもらうだけでよく、食事をする必要はない。

 しかしひめが竜たちの食べているものに興味を持ち、食べたいと騒ぎ始めたのが事の発端だった。

 それから少し話し合い、最終的に茜がひめのお昼ご飯を作るということになったのだ。

 ちなみにひめだけでなくみことの分のお昼ご飯も用意しているのは、仲間外れは可哀想だという茜の考えによるものだった。

 

 みことの言葉に茜はヒラヒラと手を振りながら笑顔で答える。

 茜としては自分と葵の分の料理を作るのと小さなお弁当が2個増えただけでそこまで手間とは考えておらず、むしろ自分の作った料理で2人の喜ぶ顔が見れることの方が嬉しかった。

 

 

「むむむむ・・・・・・。やはり私も料理を・・・・・・」

 

 

 各々がお昼ご飯の準備を進める中、ゆかりは竜とマキのことを見ながら考え込むような表情を浮かべていた。

 ゆかりも一応お弁当を作ってきてはいるのだが、その中身は主婦の味方である冷凍食品が大半を占めており、それ以外のものはご飯とプチトマトくらいしか入っていない。

 まぁ、つまりはゆかりは料理ができないタイプの女の子なのだ。

 ちなみに竜たちの料理の腕前を順番にするとおおよそ以下のものになる。

 

ついな≧マキ≧茜>あかり>竜>葵(お菓子作りを除く)>ゆかり

 

 なお、お菓子作りの腕に関してのみ葵はついなと同等かそれ以上の腕前を持っている。

 

 

「さて、それじゃあお昼ご飯を食べるとするか」

「わーい!」

「今日はどんなおかずなんだろ」

 

 

 竜の言葉にひめは嬉しそうに大きく腕を上に突き上げ、みことはうずうずとした表情でお弁当箱のふたを見ていた。

 なんだかんだ言いつつ、みことも茜の作ったお弁当を楽しみにしていることが分かるみことの様子に竜たちは思わず笑みをこぼした。

 

 

「いただきます。っと、お?なんだか今日はいつもよりも手が込んでいるような?」

「えへへ、ちょっと思うことがあってね」

 

 

 手を合わせてきちんと食事に対する感謝の言葉を言い、竜はお弁当のふたを開ける。

 お弁当の中を見て竜は、今までに作ってもらってきたお弁当と今日のお弁当はなにかが違うように感じ、不思議そうに首をかしげる。

 竜の言葉にマキは頬を掻きながら竜が感じたものが合っていると答えた。

 

 

「そうなのか。あむ・・・・・・、むぐむぐ・・・・・・。うん、今までのお弁当も美味かったけどそれを上回るレベルで美味いな!作るの大変だったんじゃないか?」

「そんなことないよ。それに竜くんが美味しいって喜んでくれるだけで私は嬉しいからさ」

 

 

 お弁当のなかからおかずを1つ摘まみ、竜は口に運ぶ。

 これまでにマキが作ってくれたお弁当ももちろん美味しかったのだが、いま食べたおかずはそれ以上に美味しいと竜は感じた。

 

 竜の言葉にマキは小さくガッツポーズをとる。

 そして、にこにこと嬉しそうな表情を浮かべながらマキは竜に答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第315話




PSО2で鯖を変えるとアイテムの共有ができないのキツイ・・・・・・

まぁ、ゼロからやり直しと思えばまた違った楽しさも感じられるんですけどね。





 

 

 

 

 時間は進んで放課後。

 竜は“cafe Maki”にバイトに行くためにスクールバッグに荷物をまとめていた。

 

 

「おーし、そんじゃあ行くかー」

「おー!」

「頑張ってや―」

「いってらっしゃーい」

 

 

 荷物をまとめ終えた竜の言葉にマキが腕をあげて応え、家に帰る茜と葵が手を振りながら竜とマキのことを見送っていた。

 教室を出て、“cafe Maki”に行くために下駄箱に向かう竜とマキに早足でゆかりが近づいてくる。

 ゆかりの表情はどことなく固く、なにやら緊張しているように見える。

 

 

「マキさん。ちょっとお願いがあるのですが・・・・・・」

「ん、ゆかりん。どしたの?」

 

 

 ゆかりに声をかけられ、マキは不思議そうに首をかしげる。

 どうやらゆかりはマキになにか頼みごとがあるようだ。

 

 

「えっとですね・・・・・・。その、なんといいますか・・・・・・」

「あ、もしかして・・・・・・。竜くん、先に下駄箱の方に行っててもらえるかな?」

「ん、ああ。分かった」

 

 

 チラチラと竜のことを見ながら、ゆかりはどんな頼みごとがあるのかをなかなか言い出さずにいる。

 ゆかりの様子からマキは竜がいてはできない話なのかと考え、竜に先に下駄箱に向かっていてもらうように言う。

 マキの言葉に竜はうなずき、下駄箱へと向かっていった。

 

 

「それでどうしたの?話しにくそうだったから竜くんには先に行っててもらったけど・・・・・・」

「ありがとうございます。そのですね?マキさんに・・・・・・、料理を教われないかな、と思いまして・・・・・・」

 

 

 竜が先に下駄箱に行ったのを確認したマキは改めてゆかりに尋ねる。

 マキが気を利かせてくれたことにゆかりはお礼を言い、声をかけた理由を答えた。

 ゆかりの言葉にマキは驚き、思わず大きく目を開く。

 

 

「料理・・・・・・、え、ゆかりんが料理・・・・・・?!」

「そこまで驚きますか・・・・・・?」

 

 

 ゆかりの口から出てきた料理を教わりたいという言葉。

 そのことにマキはとても驚いた表情を浮かべ、思わず少しだけ後退(あとずさ)ってしまう。

 

 あまりにもあんまりなマキの反応にゆかりは少しだけムッとしたような表情になりながら言う。

 

 

「そりゃあ驚くよ!だってゆかりん、炊飯器の使い方も分かってなかったじゃん!」

「あ、あれは別に出来合いのものを買っていればご飯を炊く必要がないと思っていて憶えてなかっただけです!それに電子レンジさえ使えれば大体何とかなるんですよ!」

 

 

 炊飯器の使い方が分からなかったというマキの言葉にゆかりは反論する。

 出来合いのもの、つまりは総菜やお弁当などを買っていれば確かに炊飯器を使う必要はないかもしれない。

 しかし、それにしたって炊飯器の使い方が分からないという人間はそうそういないはずだ。

 

 そんな人間が料理を教えてほしいと言ったのだからマキが驚いてしまうのも当然のことだろう。

 

 

「・・・・・・分かった。なんにしても料理に対してやる気を持っているならちゃんと教えてあげるよ」

「ありがとうございます!」

 

 

 ゆかりが急に料理を教わりたいと言い出した理由を察したマキは、しっかりとうなずいてゆかりを見る。

 これまでも何度かマキはゆかりに料理を教えようとしていた。

 しかしそのたびにゆかりは料理をすることを諦め、料理を練習しなくなってしまっていた。

 だが今回はゆかりが自分から言い出したことと、これまでにないやる気を感じられた。

 

 マキの言葉にゆかりは強く頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 ちなみに、竜は下駄箱にたどり着く前にアイ先生に捕まり、生徒会室に書類を運ぶのを手伝わされていたりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第316話




今更ですけどアンケートをやっております。

締め切りはUAが86000を超えたときになります。

投票していない方はぜひお願いします。





 

 

 

 

 下駄箱に向かっている最中にアイ先生に捕まった竜は生徒会室に資料を運ぶ手伝いをしていた。

 アイ先生に捕まったことはすでにマキに連絡をしており、“cafe Maki”に一緒に行くことができないことも伝えてある。

 

 

「先生、俺以外に頼む人いなかったんですか?」

「いや、ちょうどよく目に入ったのが公住だったからな。まぁ、運がなかったと諦めてくれ」

 

 

 資料を運びながら竜は思わずアイ先生に尋ねる。

 竜としても普通に下駄箱の前でマキを待つ予定だったので、いきなりアイ先生に捕まるのは予想外のことだったのだ。

 竜の言葉をアイ先生は資料を抱えながらバッサリと切り捨てる。

 

 

「それにしても・・・・・・、手伝いが必要なほどの量の資料ってなんなんですか?」

「この資料か?えっと、学校祭の予定の資料に体育祭の予定の資料、音楽祭の資料に留学生の資料だな。他の先生たちからもついでにと頼まれたものが多くてな」

 

 

 運んでいる資料を見て竜は首をかしげながらアイ先生に尋ねる。

 基本的に生徒会室に運ぶ資料というのは教師などがそこまで関わる必要のないものばかりであり、部活動からの嘆願や学校で使う備品の注文、過去の学校祭などの大きなイベントの詳細などとなっている。

 そのため、ここまで大量の資料というのはなかなかないのだ。

 

 竜の言葉にアイ先生はどうしてこんなに資料の量が多いのかを答えた。

 

 

「頼まれすぎじゃないですかねぇ・・・・・・」

「部活動の方に急いでいく必要があるとか言われてな。それでこんな量になってしまったんだ」

 

 

 おそらくはアイ先生が運ぶだったはずの資料はどれか1つで少なかったはずなのだ。

 しかしそれが何人かの他の先生たちからの頼まれごとのせいでここまで増えてしまっていた。

 頼まれすぎたせいで資料の量が多くなってしまっているアイ先生のお人好しさに竜は思わず呆れたような声を出してしまうのだった。

 

 

「失礼するぞ」

「あら、アイ先生と公住くん。資料を持ってきてくれたんですか?」

「あ、はい。下駄箱のところでアイ先生に捕まったので」

 

 

 生徒会室の扉を開け、アイ先生は近くの空いている机の上に持っていた資料を置いた。

 生徒会室で書類の処理をしていたずん子はアイ先生と竜の持ってきた紙の束を見て資料を持ってきたのだと気づく。

 

 

「あらら、それは災難だったわね。でも資料を持ってきてくれてありがとう」

「いえ。えっと、それじゃあ、俺はバイトがあるんで失礼します」

「ああ。手伝わせて悪かったな」

 

 

 竜の言葉にずん子は苦笑を浮かべ、資料を持ってくる手伝いをしてくれたことにお礼を言う。

 ずん子の言葉に竜は短く答え、下駄箱に向かうために生徒会室の扉に手をかけた。

 生徒会室から出ていく竜にアイ先生は声をかけるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 下駄箱に向かいながら竜はケータイを確認する。

 ケータイにはマキからの連絡が入っており、先に“cafe Maki”に向かっているという内容だった。

 

 

「バイトの時間には間に合いそうやけど。ホントに災難やったね」

「そうだな。そういえば資料について聞いたときにアイ先生が興味深いことを言ってたな?」

 

 

 ついなの言葉に答えながら竜は先ほどのアイ先生の言葉を思い返す。

 竜が気になったのは留学生についてという資料。

 竜たちの通っている学校にはいまのところ留学生は1人もいない。

 つまり先ほど竜とアイ先生が運んでいた資料の中にはこれから来る留学生の資料も混ざっていたということになるのだ。

 

 

「留学生ってのがどんなのなのか。ちょっと楽しみだな」

「外国の子かぁ。うちも気になるなぁ」

 

 

 留学生というものを漫画などでしか見たことのない竜は、少しだけワクワクとしながら“cafe Maki”に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第317話




お気に入りが減るのを見ると合わなかったんだろうなぁと少し寂しくなります。

まぁ、自分が書きたいものを書いているので合う合わないがあるのは当然なんですけどね。





 

 

 

 

 “cafe Maki”に着いた竜は荷物を置き、制服に着替える。

 制服に着替える際、ついなは竜の制服のポケットに潜り込み、竜の着替えを覗かないようにしていた。

 

 

「おはようございます」

「ああ、おはよう。それじゃあさっそくだけど空いているテーブルの片づけを頼むよ」

 

 

 制服に着替え終えた竜はキッチンで料理をしていたマキに父親に挨拶をする。

 時間帯的に考えるとどう考えても「おはよう」という時間帯ではないのだが、そういうものなので気にしても仕方がないのだ。

 

 マキの父親に言われ、竜は空いているテーブルの片づけに取り掛かることにした。

 

 

「おはようございます。・・・・・・えっと、マキはいないんですか?」

「あら、おはよう。ええ、ちょっとやることがあるからって言っていたわ」

 

 

 テーブルを片づけながら店内をぐるりと見まわした竜は、先に“cafe Maki”に着いているはずのマキの姿がないことに気がつく。

 マキの姿がないことに気がついた竜は、ちょうど近くを通りかかったマキの母親に挨拶をしつつマキがどこにいるのかを尋ねる。

 竜の挨拶にマキの母親は応え、少なくともマキが帰ってきてはいることを答えた。

 まぁ、マキは厳密には別にバイトとして働いているというわけではなく、私用で突発的に仕事を休むことができるのでなんの問題もないのだ。

 

 マキの母親の言葉にとりあえずマキが家に帰ってきてはいるのだということを知れた竜はホッと息を吐いた。

 

 

「やることってのが少し気になるけど、帰ってきているのなら心配することもなさそう、かな」

「せやね」

 

 

 マキのやることというのがなんなのかは気になるが、気にしすぎて仕事が(おろそ)かになってしまってはいけないため、竜は思考を早々に切り替えてテーブルの片づけを進めていった。

 竜が片づけているテーブルの上ではついなも走り回っており、食器をまとめたり落ちているゴミを集めたりと竜の手伝いをしていた。

 まぁ、はたから見れば食器が勝手に動いていたり、ゴミが勝手に集まっていたりとホラーに耐性のない人が見れば顔を真っ青にさせること間違いなしな光景となっているのだが。

 

 そして、竜はテーブルの片づけや店内の掃除、完成した料理を届けたりとバイトに(いそ)しむのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜が“cafe Maki”でバイトをしている頃。

 場所は変わって弦巻家のキッチンにマキとゆかりの姿はあった。

 

 

「さて、ゆかりん。手はきちんと洗ったね?」

「もちろんです。手首まできっちりと洗いましたよ」

 

 

 神妙な表情を浮かべながらマキはゆかりに確認をとる。

 マキはゆかりがキチンと手を洗っていることをちゃんと見ていたのだが、それでも念のためということで確認をとっていた。

 ゆかりの言葉にマキはうなずき、ニンジン、ジャガイモ、玉ネギを取り出して並べる。

 

 

「それじゃあ、まずはニンジンからやっていこうか。包丁で皮を剝くのはまだ難しいと思うからゆかりんはピーラーを使ってね」

「分かりました。材料からして・・・・・・、カレーですか?」

「うん。カレーなら具材の切り方を失敗しても問題ないし、味付けに関しても基本的に失敗することはないからね」

 

 

 用意した材料の中からマキはニンジンを取り、自分とゆかりの前に置く。

 並べられている材料からゆかりは今から作るものがカレーだと推測しマキに尋ねた。

 ゆかりの言葉にマキは肯定し、カレーを選んだ理由を答えた。

 

 カレーは基本的に具材を切ってルーと一緒に煮込むことによって完成する。

 具材を切るにしてもどんな形でもよく、味付けに関しても手作りでカレールーを作りたいとかでもない限り市販品のカレールーを使えばいい。

 

 つまり、よほどのことがなければ失敗することのない料理で、初心者などが練習として手を出すにはちょうどいい料理なのだ。

 

 まぁ、キチンと安全に包丁を扱うことができるという条件が付くのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第318話



某こんこんきーつねさんもアークスらしいですね。

個人的なイメージですが原初の闇のビームにやられて「なんでなんだよ~!」と叫んでいる姿が思い浮かびます。

鯖が一緒だったら嬉しいけどその可能性は限りなく低いんだろうなぁ・・・・・・





 

 

 

 

 慣れた手つきで包丁を使い、マキはニンジンの皮をするするとむいていく。

 その手際の良さはかなりのもので、これを見るだけでマキがいかに普段から料理をしているかが分かるだろう。

 

 そんなマキの隣でゆかりは皮むき器(ピーラー)を使いながらぎこちなくニンジンの皮をむいていた。

 

 

「くっ・・・・・・、ぬっ・・・・・・」

「ゆかりん、落ち着いて。ゆっくりと安全にやって大丈夫だから」

 

 

 マキのニンジンの皮をむく速度に焦り、危なっかしい手つきになっているゆかりにマキは落ち着くように言う。

 すでにマキはニンジンの皮をむき終えており、あとはゆかりが皮むきを終えるだけの状態だ。

 

 マキの言葉に慌てる必要はないと理解はしているのだが、それでも待たせてしまっているということにゆかりは無意識に焦りを感じてしまっている。

 そして、危なっかしい手つきではあったものの、ゆかりは無事にニンジンの皮をむき終えることができた。

 

 

「ふぅ・・・・・・」

「お疲れ様ー。さ、ニンジンを切っちゃおっか」

 

 

 ニンジンの皮をむき終え、緊張から解放されたゆかりは軽く息を吐く。

 料理を基本的にしないゆかりにとってたかがニンジンの皮むきでも相当に緊張し、疲れが溜まってしまう。

 そんなゆかりにマキは包丁の準備をしながらゆかりに声をかけた。

 ちなみに、ゆかり用として準備してあるのは子供が使うような先端が丸くなっている包丁である。

 

 

「とりあえずニンジンは上のヘタと下の先っぽのところを切り落として、あとは一口大に切れば大丈夫だからね」

「わ、分かりました」

 

 

 トントンと手早くニンジンの上下を切り落としながらマキはゆかりに説明をする。

 どのくらいの大きさを一口大とするかは人によるだろうが、それでも食材を切る練習としてはちょうどいいだろう。

 マキの言葉にゆかりは両手で包丁を握る。

 

 

「うん。待って」

「な、なんですかマキさん。集中したいのですが・・・・・・」

「それは分かるけどね。包丁は両手で持つものじゃないんだよ。それと上に振り上げようとしないでね。普通に危ないから」

 

 

 ニンジンを切るために包丁を両手で持ち、振り上げようとするゆかりをマキは止める。

 普通に考えて食材を切るための動きとは程遠いゆかりの動きにマキは思わず(ひたい)に手を当てながら言う。

 そもそもとして、隣でマキが片手で包丁を扱っているのを見ているのではないかと思うかもしれないが、ゆかりはニンジンの皮をむくことに集中していたため、マキの手もとを見る余裕はなかったのだ。

 

 

「食材を切るときはね?片方の手で押さえながら切るの。その時に押さえる手はにゃんこの手にするんだよ」

「にゃんこの手・・・・・・、はっ!」

「うん。ゆかりんがいま思っていることは絶対に間違いだから、絶対に実行しようとしないでね。毛が入っちゃうから」

「え、ですがにゃんこの・・・・・・」

「 し な い で ね 」

「はい・・・・・・」

 

 

 まるで小学生に初めて料理を教えるかのような説明をマキはゆかりにする。

 マキの説明になにかを閃いたゆかりが行動に移そうとするが、ゆかりの考えたことを察したマキによって止められる。

 マキに考えたことを止められたゆかりはしょんぼりと消沈し、マキに教わった通りにニンジンを切っていった。

 

 

「そうそう、いい感じだよ。これで少しは食材を切ることに慣れられたかな?」

「どうなんでしょうか・・・・・・。自分ではよく分かりませんね」

 

 

 ニンジンを一口大に切り終え、マキはゆかりに尋ねる。

 最初のまったく食材を切った経験のない状態から少しだけ食材を切ったことのある状態になり、ほんの(わず)かとはいえ経験を積むことができた。

 

 0と1というのは小さな差のように見えてそこには大きな差がある。

 この小さな経験を積み重ねていくことによって人間は成長していくのだ。

 

 その後も、ゆかりはマキの教えのもと、玉ネギを切る際に号泣したり、ジャガイモの芽を取り忘れかけたりとドタバタしながらも楽しさを感じながら料理を教わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第319話



感想はいつでも待っておりますので気軽に書いてください。

感想があると私が喜びます。





 

 

 

 

 “cafe Maki”に来ていた最後のお客も帰り、もう少しでバイトも終わる時間となっていた。

 竜はお客のいなくなったテーブルを片づけている。

 

 

「ああ、そうだ。今日も晩ご飯を食べていくだろう?」

「え、あ、はい」

「確認しとるみたいな言葉やけどほぼ確定になっとらん?」

 

 

 使った食器や料理道具などを洗い終えたマキの父親がテーブルの片づけをしていた竜に声をかける。

 晩ご飯を食べるかどうかの確認をしているはずの言葉なのだが、マキの父親の表情と口調からすでに結論が出ているように竜とついなは感じた。

 

 

「ええと、ご馳走になります」

「といっても今日はちょっとだけいつもと違うのよねぇ」

 

 

 マキの父親の言葉に竜が頭を下げると、マキの母親がにこにこと楽しそうに笑みを浮かべながらなにやら意味深なことを言う。

 マキの母親の言葉に竜は不思議そうに首をかしげるが、マキの母親は答えるつもりはないようで、そのまま店内の掃除に取りかかってしまった。

 

 

「どういう意味だったんだろう?まぁ、とりあえず外掃いてきちゃいますね」

「冷えてきてるからあまり長い時間やらなくていいからね」

 

 

 マキとゆかりがマキの自宅で料理をしていることなど知らない竜は首をかしげることしかできない。

 そして気にしていても仕方がないと頭を切り替え、店の前を箒で掃くことをマキの父親に伝えて外に出るのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 “cafe Maki”の前。

 箒を持って竜は落ち葉やゴミなどを集めていた。

 

 

「やっぱ冷えるな・・・・・・」

「暗くなってきとるんもあるかもなぁ」

 

 

 ふいている冷たい風に体をブルりと震わせながら竜はつぶやく。

 季節的に寒いというのもあるのだろうが、それに加えて日が落ちてきて暗くなってき始めているというのも寒さの原因の1つなのだろう。

 

 

「うん?あれは・・・・・・、ウナ?」

「あ、ほんまや。撮影をしとるみたいやね」

 

 

 ふと、なにやら機材を持った人たちが歩いている姿を見かけた竜は、その中にウナの姿があることに気がつく。

 マイクを持って何かを話しているウナの様子から、何かの撮影をしていることがうかがえる。

 

 

「こんな時間でも撮影があるとか大変だな・・・・・・、ん?」

 

 

 ジュニアアイドルとして活動をしているウナではあるが、年齢的には間違いなく小学生であり、そのハードな生活を想像した竜は少しだけ同情的な思いを抱いてしまう。

 不意に、竜はウナの視線が自分に向いたような気がした。

 撮影をしているウナたちとは少しばかり離れており、なにを言っているかまではさすがに分からない。

 しかし、それでも顔の向きくらいは分かることができた。

 

 

「まぁ、声をかけたりするわけにはいかんし。軽く手を振る程度にしておくか」

「スキャンダルはあかんもんね」

 

 

 ウナが自分のことに気がついたのかは不明だし、声をかけるなんていうことは(もっ)ての(ほか)

 もしも仮にスキャンダルになんてなってしまえばウナに迷惑がかかることは間違いない。

 それを理解して竜は軽くウナに向かって手を振る程度にした。

 

 

「あ、反応したわ」

「してもうたな」

 

 

 竜が手を振るのが見えたウナは嬉しそうに笑顔を見せて手を振り返す。

 ウナの反応にウナの周囲にいた機材などを持っているスタッフたちは不思議そうに首をかしげ、ウナが誰に手を振っているのかを探そうとした。

 (さいわ)いなことに竜の周囲にはウナが撮影をしていることに気がついた野次馬たちであふれており、竜が目立つことはないだろう。

 そして、竜はもう一度ウナに向かって手を振り、“cafe Maki”の中へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第320話



アンケートがどうなりますかねぇ。

どうやら2つが争っているみたいですが・・・・・・

誰になるのか楽しみですね。





 

 

 

 

 外の掃き掃除も終わり、“cafe Maki”での仕事もすべて終わった竜はマキの母親とともに弦巻家に来ていた。

 なぜマキの父親が一緒ではないのか不思議に思うかもしれないが、マキの父親は最後にすべてのカギやガスなどのチェックをしてキチンと店の施錠をしてから帰宅するため、少しだけ帰るタイミングが遅れてしまうのだ。

 

 

「ただいまー」

「お邪魔します。って、うん?マキの靴以外にも靴がある?」

 

 

 すでに家にはマキがいるため、カギを開けることなくマキの母親は玄関を開ける。

 マキの母親に続いて玄関に入った竜は玄関にある靴が1人分多いことに気がついた。

 玄関に複数の靴がある家庭もあるが、弦巻家ではその日に履く靴以外はすべてきちんとしまっているので人数分の靴しか玄関には置かれていないのだ。

 

 1人分多い靴に首をかしげながら竜は洗面所に向かい、手洗いうがいを済ませる。

 

 

「あ、おかえりなさーい」

「竜くん、おかえりなさい」

「あれ?ゆかり?」

 

 

 竜がリビングに入ると、マキとゆかりが声をかけてきた。

 マキが家にいるというのはマキの母親から聞いていたので驚くようなことではなかったのだが、ゆかりがここにいるとは思っていなかった竜は少しだけ驚いた表情を浮かべてゆかりを見た。

 

 

「えっと、ただいま・・・・・・?どうしてゆかりがここに?」

「あー、うーん・・・・・・。ゆかりん、教えても大丈夫?」

「ええと、はい、結局は知られてしまうことですし・・・・・・」

 

 

 困惑したまま竜はマキとゆかりに返事をし、どうしてゆかりがいるのかを尋ねる。

 竜の言葉にマキは少しだけ悩まし気な声を出してゆかりに確認を取る。

 マキの確認の言葉にゆかりは躊躇いながらもうなずき、竜になぜ自分がここにいるのかを教えることにした。

 

 

「えっと、ゆかりんが家にいるのはね私に料理を教えてほしいって頼んできたからなんだ」

「マキに料理を?」

「ええ、ちょっと思うことがありまして・・・・・・」

 

 

 マキの口から明かされたゆかりが弦巻家にいる理由に竜は驚き、マキとゆかりを交互に見る。

 竜の驚いている姿にマキは苦笑し、ゆかりは恥ずかしそうにほんのりと頬を赤く染めた。

 

 

「ってことはマキのお母さんが言ってたマキのやることってのはゆかりの料理教室のことだったんだな」

「ええ、そうなのよ。驚いたかしら?」

「あ、やっと出てきた」

「ずっと扉の陰でこちらを見てましたよね?」

 

 

 ここで竜は“cafe Maki”で働いているときにマキの母親が言っていた言葉の意味を理解する。

 竜が納得して頷いていると、不意に竜の背後からマキの母親が現れる。

 背後からいきなり聞こえてきた声に竜は驚き、焦った様子で飛び退いてしまう。

 竜からは見えていなかったが、竜の反対側にいたマキとゆかりからは扉の陰に隠れている姿が見えていたようで、とくに驚いた様子はなかった。

 

 

「び、びっくりしたなぁ・・・・・・」

「ふふふ、ごめんなさいね?」

 

 

 驚いた様子の竜にマキの母親は笑みを浮かべながら謝る。

 マキは自分の母親がイタズラをしているということに思わず苦笑いを浮かべた。

 

 

「えっとね、そんなわけで今日の晩ご飯は私とゆかりんで作ったんだよ」

「マキさんの料理と比べると劣っているかもしれませんが・・・・・・、食べてくれますか?」

 

 

 自分の母親が同級生にイタズラをしたという何とも言えない空気を切り替えるためにマキは話を変えた。

 マキの言葉に続くようにゆかりはもじもじと不安そうに指を動かしながら竜に尋ねる。

 

 

「劣っているとかは気にしなくていいさ。もちろん食べるよ」

「よっし、それじゃあもうすぐお父さんも帰ってくるだろうし晩ご飯の準備をしちゃおっか!」

「はい!」

 

 

 竜の言葉にゆかりは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 そして、竜たちは晩ご飯を食べるための準備をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第321話




料理はできるけどめんどくさくてあまりやらないんですよねぇ・・・・・・

可能な限りやって忘れないようにしておいた方がいいんでしょうけどね。





 

 

 

 

 でこぼこといびつに切られたニンジンやジャガイモ。

 大きさが一定ではなく大きいものや小さいものが入り混じった玉ネギ。

 完全に切れておらず、少しだけ長く繋がってしまっているお肉。

 ルーと水の比率を間違えたのか、やや水っぽさを感じられるカレールー。

 

 弦巻家での食事ではまず見られることのないような料理を竜、ゆかり、マキ、マキの両親で食べる。

 

 

「ううぅ・・・・・・。やはりこんなできでは・・・・・・」

「もー、ゆかりんは気にしすぎなんだってば」

 

 

 マキが手伝ってくれたにも関わらずお世辞にも上手いとは言えないようなできとなってしまったカレーにゆかりは落ち込んだ様子で呟く。

 落ち込むゆかりにマキは肩をやや強めにバシバシと叩きながら言う。

 そんな2人の様子にマキの両親は微笑ましそうに笑みを浮かべながらカレーを食べていた。

 

 

「そんなに落ち込むことはないと思うわよ?」

「そうそう。料理は経験を積むことでどんどん上手くなっていくからね」

 

 

 カレーを食べながらマキの両親はゆかりに言う。

 上手くできなかったとゆかりは落ち込んでいるが、最初から上手くできる人など多くはない。

 むしろ誰もが失敗を経験したからこそ上手くなるように(かて)として自分の中に取り込み、成長につなげるのだ。

 

 マキとマキの両親の言葉にゆかりは顔をあげ、カレーを食べている竜を見る。

 

 

「・・・・・・そうだな。具材の大きさもバラバラだし、お肉が切れていないものもあった」

「あうぅ・・・・・・」

 

 

 カレーを食べ、気になった点を竜は言う。

 スプーンで適当にすくっただけでも大きさがバラバラな具材が乗っかっており、これだけ大きさがバラバラなのでは食感はめちゃくちゃなものだろう。

 

 竜の言葉にマキはがくりと肩を落として下を向いてしまう。

 ゆかりが本当に欲しかった言葉とは反対の言葉に、ゆかりの心は暗く沈みそうになってしまう。

 

 

「・・・・・・でも、これはこれで手作りってのが伝わってきて俺は好きだぞ?」

「え・・・・・・?」

 

 

 続けて言われた竜の言葉にゆかりは顔を上げて竜を見る。

 ダメなところばかりだと思っていたカレーを竜が好きだと言ってくれたことにゆかりは驚いた表情を浮かべた。

 

 

「ゆかりは別に料理人ってわけじゃないんだからすぐにでも美味しいものが作れるようにならなくちゃいけないとか考える必要はないんだよ。自分のペースできちんと料理を学んでいくってのが大切だと思うぞ?」

「自分のペースで、ですか・・・・・・」

「うんうん。焦ってやってもちゃんと身につかないからね」

 

 

 料理にしてもなんにしても積み重ねというのはとても大切なもの。

 それに気づけずに焦って一足飛びに難しいことなどに挑戦しても失敗してしまうことは明白。

 だからこそ何かを学びたいのであればまず最初に落ち着き、それから目の前のことを1つずつ学んでいくことこそが一番の近道となるのだ。

 

 

「そうですね・・・・・・。少しずつ、覚えていきたいですね。マキさん、今後もどうかよろしくお願いしますね」

「うん!任せてよ!」

 

 

 竜とマキの言葉にゆかりはうなずき、マキの方を見る。

 そして、今後も料理の指導をしてほしいということをマキに伝えた。

 ゆかりの言葉にマキは嬉しそうにうなずき、自分の胸を強く叩くのだった。

 

 なお、その際にマキの胸が大きく揺れてしまい、竜はとっさに顔を逸らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第322話




少ししたら“しきしん”さんの短編を書きます。

内容はざっくりと決まっておりますので、“しきしん”さんを知っている方が読んで楽しんでもらえるように頑張りますね。






 

 

 

 

 弦巻家での晩ご飯も終わり、竜とゆかりはマキの父親の運転する車に乗っていた。

 竜だけであれば大丈夫だと言って歩いて帰っていたのだが、ゆかりがいるということで一緒に車で送ってもらうことになったのだ。

 

 ちなみに、マキもついてこようとしていたのだが宿題があるということを竜からばらされてしまい、マキの母親に言われて家で宿題をやっている。

 

 

「すみません。マキさんに料理を教わる関係で今後も送ってもらうかもしれません・・・・・・」

「気にしなくても大丈夫だよ。料理を学びたいって思うのは悪いことでもないからね。それに今までにも家まで送ってたしね」

 

 

 車を運転するマキの父親にゆかりは頭を下げる。

 ゆかりの言葉にマキの父親は笑みを浮かべながら答えた。

 

 マキの父親がゆかりを家まで送るということはなにもこれが初めてというわけではない。

 ゆかりがマキと遊んでいて遅くなってしまったときは女の子1人の帰り道は危ないからということで送ってもらっているのだ。

 

 

「ゆかりだけじゃなくて俺まで送ってもらって・・・・・・」

「1人送ってくのも2人送ってくのもそんなに変わらないから気にしないでいいよ」

 

 

 ゆかりに続いて竜もマキの父親に頭を下げる。

 竜の言葉にマキの父親はゆかりの時と同じように笑みを浮かべながら答えた。

 

 それからしばらくの間、料理についての話などをしているとマキの父親の運転する車が竜の家の前で停車した。

 

 

「本当にありがとうございました。ゆかりもまたな」

「どういたしまして。それじゃあ」

「竜くん、おやすみなさい」

 

 

 車から降り、竜はもう一度マキの父親に頭を下げる。

 そんな竜にマキの父親は苦笑しつつ手を上げて応えた。

 

 気にしすぎではないかと思ってしまうかもしれないが、竜はどうしても気になってしまうため何度もお礼を言ってしまう。

 そして、竜に向かって手を振るゆかりを乗せながら、マキの父親の運転する車は走っていった。

 

 

「さて、と。とりあえず風呂を洗ってのんびりと、かな」

「せやね。お仕事を頑張ったんやからしっかりと体を休めなあかんもんね」

 

 

 玄関のカギを開け、家の中に入りながら竜はつぶやく。

 すでに“cafe Maki”でのバイトには慣れてきており、バイトを始めたばかりのころよりも疲労感は少なくなってきている。

 しかしあくまでも少なくなってきているだけであり、完全にないというわけではない。

 そのため、体の疲れをしっかりと癒すためにお風呂などを洗ってのんびりとできるようにした方がいいだろう。

 

 竜の言葉についなもうなずき、竜の頭の上から跳び下りる。

 

 

「そんならうちはお茶の準備でもしておくなぁ?」

「ああ、たのむよ。俺も風呂をさっさと洗ってくるから」

 

 

 廊下に着地したついなは元の大きさに戻り、竜にお茶の準備をすると言ってリビングに向かっていった。

 リビングに向かうついなに声をかけ、竜はお風呂を洗うためにお風呂場に向かう。

 

 

「わぁ」

「うぉっと、あかり草か。遊びに来たんだな」

 

 

 不意に聞こえてきた声に竜は驚き、声のした方を見る。

 そこにはいつの間にかあかり草が生えてきており、竜に向かって花を揺らしていた。

 

 

「今から風呂を洗ってくるから終わったらリビングでお茶でも飲みながら遊ぼうな」

「わぁ!わぁ!」

 

 

 竜の言葉にあかり草は嬉しそうな鳴き声をあげてゆらゆらと揺れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第323話




寒かったり温かくなったり。

気温の変化が激しい日が続いておりますので読者さま方も体調に気をつけてください。






 

 

 

 

 お風呂を洗い終わり、竜はついなの待つリビングに移動する。

 リビングではついながお茶の準備をしており、テーブルの上にはお茶うけとしておせんべいが用意されていた。

 

 

「お、あかり草が来たんか?」

「ああ、風呂を洗う前に会ったんだよ」

「わぁ」

 

 

 お湯を入れたポットを持ちながら台所からリビングに戻ってきたついなは、竜の肩から生えている花に気づいて声をかける。

 あかりの言葉に竜が答えていると、竜の肩から生えていたあかり草が潜り込み、テーブルの上から生えてきた。

 あかり草は基本的に竜の家で食事などはしないが、それでも何も用意しないのは可哀想だと思ったのかついなはあかり草の前に食べやすいサイズに割ったおせんべいを置く。

 

 

「いつもなんも食べてへんけど、気分だけでもなー」

「わぁわぁ!」

「よかったな」

 

 

 ついなの言葉にあかり草は嬉しそうに鳴き声をあげてゆらゆらと揺れる。

 あかり草の前におせんべいを置いたついなは、急須に茶葉を入れていく。

 このとき急須に入れる茶葉の量は入れすぎても少なすぎてもダメであり、この辺りはお茶を淹れてきた経験が大切だろう。

 

 

「ほい、お茶を淹れたで」

「ああ、ありがとうな。ふぅ、落ち着くなぁ・・・・・・」

 

 

ついなが淹れてくれたお茶を受け取り、竜はそれを口に運ぶ。

 淹れたばかりのお茶はたしかに熱いのだが、それでも全く飲めないという温度ではない。

 じんわりと広がるお茶の温かさをお腹に感じながら竜はホッと息を吐いた。

 

 

「なんでこう、お茶って落ち着くんだろうな?」

「飲んだら落ち着くってしか思っとらんかったけど、たしかに不思議やね」

 

 

 お茶うけのおせんべいをかじり、竜はふと思ったことを呟く。

 

 お茶には主にカテキン、カフェイン、ビタミンC、テアニンが含まれている。

 

 まずカテキン、カテキンには抗酸化作用があるとされ、カテキンの摂取が糖尿病の改善や認知症の予防、脳梗塞リスクの低下などを防ぐ効果があるのではないかとされている。

 続いてカフェイン、こちらは眠気覚ましなどコーヒーの成分としてよく知られているだろう。

 次にビタミンCだが、これは基本的に知られているものと特に変わったところはないため割愛とする。

 

 最後にテアニン、これはうまみ成分であるアミノ酸の一種で、お茶の甘みを構成する要素の一つだ。

 そしてテアニンにはリラックス効果があるとされており、カフェインの覚醒作用を穏やかにするといわれている。

 

 つまり、お茶を飲んで落ち着くのは主にテアニンという成分が作用しているのだ。

 また、テアニンには抗ストレス作用があるとされており、ストレスを和らげて老化が早まるのを抑えている可能性があるともされているのだ。

 

 まぁ、そんな小難しいことを知っているものはこの場には誰もいないため、竜の呟きはそのままホッと吐き出された息とともにどこかに消えていくのだった。

 

 

「わーあ、わーあ」

「うん?せんべいでなにかしてるのか?」

 

 

 鳴き声をあげながらあかり草はついなが置いてくれたおせんべいを並べ替えていく。

 食べやすいサイズに割られたおせんべいの形はバラバラで、あかり草はそれを器用に並べながらなにかの形を作っていった。

 

 

「わぁ!」

「おー、ハート形に並べ替えたんやね。あかり草は頭がええんやね」

 

 

 おせんべいをハートの形に並べ替え、ついなに褒められたあかり草は嬉しそうに揺れる。

 食べやすいサイズに適当に割られていたおせんべいをハートの形に並べ替えられるということは相応に知能があるということ。

 ついなはあかり草のことを褒めながらよしよしと花の部分を優しく撫でた。

 

 

「食べ物で遊ぶなって注意するべきなんだろうけど・・・・・・、まぁいいか」

 

 

 そんなついなとあかり草の姿を見ながら竜はお茶を飲むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第324話




ふとしたときに見返したくなるアニメってありますよね。

クレヨンしんちゃんの映画とか地味に見返したくなります。






 

 

 

 

 学校からの帰り道、竜は茜と葵の2人と歩いていた。

 あかりはなにやら家の用事で、ゆかりはマキと遊ぶ約束があるということでこの場にはいない。

 

 

「そんでなぁ、“UNA(ユーナ)”ちゃんが誰に向かって手を振ったのかって少しだけ騒ぎになったらしいんや」

「うんうん。あの人気のジュニアアイドルが笑顔を向けた相手とは?!って話題になったんだよね」

「へー、そんなに騒がれてるのか―」

「さすがはウナちゃん、もとい“UNA”ちゃんやなぁ・・・・・・。ご主人に手を振り返しただけでこんなに話題になるんやから」

 

 

 茜が話しているのはつい先日の“cafe Maki”の近くで撮影していたウナこと、ジュニアアイドルである“UNA”のこと。

 あの時の撮影はどうやら生放送だったらしく、多くの人たちが“UNA”が笑顔で手を振っている姿を見たらしい。

 茜の言葉に竜はやや棒読みになりながらもどうにか反応を返す。

 

 撮影中のウナの姿を見かけたから手を振るだけに済ませていたのだが、ここまで騒がれるのであれば手を振るのも止めておくべきだったかもしれない。

 茜と葵の言葉を聞きながら竜は軽率にウナに向かって手を振ったことに悩んでしまう。

 

 

「なんでもいろいろな番組とかで誰に手を振ったのかを聞かれてるらしいで?」

「でも聞かれるたびに内緒にしなきゃいけないって言われてるから答えられないって言ってるよね」

「小学生相手にそこまでいろいろなところの人間が聞いてるのかよ・・・・・・」

 

 

 ウナが色々な番組で誰に手を振ったのかを聞かれているということに、竜はやや不機嫌になりながら呟く。

 たしかに“UNA”はジュニアアイドルで芸能人なのだが、それでも小学生であることに変わりはない。

 そんな小学生のプライベートまで明らかにしようとしているテレビの出演者たちに竜は苛立ちを感じていた。

 

 しかし、それと同時に竜の中にあるのは自分が原因でそうなってしまったという後悔の念。

 ウナがこんな状態になってしまったのはひとえに自分が手を振ったことが原因。

 そのことから竜はウナに対して申し訳なさを感じていた。

 

 

「それにしてもジュニアアイドルが笑顔で手を振る相手なぁ・・・・・・。相当好きな人なんやろうな」

「たしか“cafe Maki”の近くで撮影をしてた時だったよね?」

「ああ、あの時は野次馬も多かったから誰に向かって手を振ってたのかは分からなかったな」

 

 

 茜と葵の言葉に竜は少しでも自分ではないかと思われる可能性を低くするために、さりげなく自分に向かってではないかのように言う。

 竜の言葉に2人はとくに疑問に思うことはなかった。

 

 

「なんにしても小学生にだってプライベートはあるんだからそんなに根掘り葉掘り聞くもんじゃないと俺は思うがな・・・・・・」

「それもそうだよね」

「せやねー。ところで根掘り葉掘りってどういうことなんやろうね?」

 

 

 竜の言うことももっともだと思ったのか、茜と葵は同時に頷く

 そして、話題を切り替えるのか、茜は竜の言った根掘り葉掘りという言葉に対して首をかしげた。

 茜の言葉に竜は茜がなにをしたいのかを察し、静かに口を閉じる。

 

 

「根堀りっちゅうのはまだ分かるんや。すっごく分かるんや。根っこは地面の中に埋まってるんやからな。でもな?葉掘りってどぉゆぅことやぁー?!葉っぱはぜんっぜん掘れへんやろうがぁー!!」

「お姉ちゃん、ちょっとネタに持ってくの無理やり過ぎない?」

「このネタもけっこう好きなんだよなぁ。まずキャラの時点で面白かったし」

 

 

 唐突な茜のキレ芸だが、葵と竜は特に驚いた様子もなく茜を見ている。

 茜の言っている根掘り葉掘りを使ったこのネタはジョジョの奇妙な冒険の第5部に出てくるキャラクターのもので、葵と竜はそのことを理解しているからこそ驚くことはなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第325話




UAが86000を超えましたのでアンケートを締め切ります。

投票してくださりありがとうございました。






 

 

 

 

 茜によるジョジョの奇妙な冒険の第5部に出てくるキャラクターのものまねに笑いながら竜たちは歩く。

 話している内容は茜のものまねからつながってジョジョの話となっている。

 

 

「やっぱあのキャラの言い回しが面白いんだよな。言われてみれば確かにって思うことをキレながら言っててな」

「せやせや。あとは、パリとヴェネツィアの呼び方の違いにもキレとったよな」

「というよりもジョジョって基本的にセリフの言い回しがとてもすごいよね」

 

 

 ジョジョに登場するキャラクターたちはどれも簡単には表現できないような言い回しをするものが多い。

 そんな魅力のあるキャラクターたちのことを話していると自然と笑ってしまっている。

 

 

「だな。んーと・・・・・・。あ、あれもあったな」

「あれ?」

「あれっちゅうと?」

 

 

 葵の言葉に竜はうなずく。

 そして、少しだけ考えるような仕草をし、何かを思い出したのか指を立てた。

 竜の言葉に茜と葵は首をかしげる。

 

 

「あれあれ。えっと・・・・・・、あなたを詐欺罪と器物損壊罪で訴えます!理由はもちろんお分かりですね?あなたが皆をこんなウラ技で騙し、セーブデータを破壊したからです!覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい!貴方は犯罪者です!刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!ってやつ」

「いや、長い長い!」

「一息で言ったね・・・・・・」

 

 

 どこか迫真めいた口調の竜の言葉に茜は思わずツッコミを入れ、葵はやや呆れたようにつぶやいた。

 

 竜の言った『あなたを~(以下略』というのはジョジョの奇妙な冒険で実際には使われた言葉ではない。

 まぁ、その点はセーブデータなどと言っている時点で分かっていることだろう。

 このセリフはワザップと呼ばれるサイトに投稿された嘘の情報を信じて実行し、ゲームのデータを消してしまった人が投稿した文章なのだ。

 本来はジョジョとは何の関係もなかったはずなのだが、この投稿をされた時期にちょうどジョジョの第5部がやっており、ジョジョっぽい言い回しであることと、覚悟などの言葉があるということからワザップジョルノなどと呼ばれている。

 

 

「これ内容を少し変えて陳宮バージョンとかもあるんだよな」

「あー、そういえばそんなんもあったなぁ」

「えっと、3ターンで12人殺す人間って呼ばれてたりするよね」

「あとはゲステラとかだな」

 

 

 ワザップジョルノには内容を書き換えた派生バージョンがいくつかあり、その中にはFGOのサーヴァントの1人、陳宮のものもあった。

 陳宮とは味方1人を犠牲として高火力のダメージをたたき出す低レアリティのサーヴァントであり、(ダーク)(ダイブ)(ボンバー)やカタパルトタートル、キャノンソルジャー、他人の命で撃つ流星一条(ステラ)などなど、基本的に外道戦法のようなあだ名がつけられている。

 

 まぁ、結局のところその戦術をやらせているのはマスターであるプレイヤーなわけで、一番の悪は誰かと聞かれたらマスターだと言えるのだが。

 

 

「まぁ、あれは火力が出てコストが軽いのが悪いんや。とくに術アルトリアなんちゅうもんも実装しとるんやしな」

「まぁなぁ・・・・・・。NPを50も配れてしかも火力バフ、NP効率アップ、アーツバフがつくもんな・・・・・・」

 

 

 陳宮の話題が出たことによりジョジョからFGOへと話題が移行する。

 竜たちの言っている術アルトリアというのは、いわゆる人権と呼ばれるような強いサーヴァントであり、このサーヴァントを所持しているだけでクエストの周回が格段に楽になるのだ。

 しかも術アルトリアが強化する内容はどれも陳宮にとって助かるものばかりで、これによって陳宮を愛用しているマスターたちは歓喜をしていた。

 

 ころころとか変化する話題に竜たちは笑いながら家に帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第326話




学校の体育館ってなんであんなに冷えるんですかねぇ・・・・・・

しかも夏になるとかなり暑くなりますし。

剣道とかやってると寒さで地獄でしたね。






 

 

 

 

 学校の体育館。

 珍しく全校朝会があるということで竜たちを含む全生徒たちは体育館に集合していた。

 

 

「朝会があるなんて珍しいこともあるもんやね?」

「とくにどこかの生徒が問題を起こしたとかも聞いてないよね?」

「あかりたちの学年の生徒が問題を起こしたってのもそこそこ前のことだから今更やる必要もないしな」

 

 

 学年別クラスごとに並びながら竜、茜、葵は話をする。

 基本的に朝会や体育祭、音楽祭などのイベントごとなどで並ぶ際には名前の順で男女別で2列に並ぶ。

 そのため、名字が“公住(きみすみ)”である竜と、“琴葉(ことのは)”である茜と葵はちょうど近くに並ぶことになるのだ。

 

 

「ご主人、ご主人。ちぃと前に先生の手伝いをしたときに見たあれと違うんか?」

「あれ?・・・・・・ああ、あれなのか?」

 

 

 竜たちの会話を聞いていたついながポケットから顔を出して竜に言う。

 ついなの言葉に竜はなんのことを言っているのかを思い出すために考え込み、もしかしてと思うものを思い出した。

 

 

「んぅ?なんや、なんの朝会なんか分かったんか?」

「そうなの?」

「あー、うん。まぁ、たぶん?」

 

 

 竜の様子から朝会をする理由に気づいたのかと思い、茜は首をかしげながら尋ねる。

 茜の言葉に葵も竜の方を見ながら確認するように尋ねる。

 茜と葵、2人の視線に竜は曖昧にうなずいた。

 

 たしかに竜はもしかしてと思うものを思い出した。

 しかし、それはハッキリとそれだという確信が得られているものではない。

 そのため、竜は曖昧に答えることしかできなかったのだ。

 

 

「えっと、ちょっと前にアイ先生の手伝いをしたんだよ。そのときに留学生の資料ってのがあってな。もしかしたらそれなんじゃないかなぁって思ってな」

「留学生?!マジか!」

「お姉ちゃん、静かに叫ぶってどうやってるの・・・・・・?」

 

 

 確証はないものの、もしかしたらそうなのではないかという予想を竜は言う。

 竜の言葉に茜は静かに叫ぶという器用なことをし、葵は茜に対してやや驚いた表情を浮かべた。

 

 

「確証はないからな?」

「分かっとるよ。っと、先生が出てきたみたいやで」

 

 

 念を押すように言う竜の言葉に茜はうなずく。

 そして、茜の言う通り、朝会を始める準備が整ったのか、壇上に先生が現れた。

 

 

『え~、皆様おはようございます。今日は天気も良くて中庭の梅の木が綺麗によく見えますね。え~、朝から集まってもらったのはいろいろと生徒の皆様に教えておきたいことがあるからでしてね。え~・・・・・・(以下略)』

 

 

 朝会をする先生特有の長い話が始まり、生徒たちの間にややげんなりとした空気が流れる。

 なぜかは不明だが、朝会をやる先生というのは長い話をする人が多いように感じられる。

 そのため、話の短い先生が壇上に上がった時は生徒たちも心なしか嬉しそうな雰囲気を出しているのだ。

 

 

「いつものことやけど話なっがいなぁ・・・・・・」

「そうだな・・・・・・」

 

 

 げんなりとした様子で茜は先生の言葉を聞きながら呟く。

 茜の言葉に竜も同じようにやや疲れたような表情でうなずいた。

 

 

『・・・・・・~なんですね。え~、ですので本校の生徒としてきちんとした生活をしてほしいと思っております。え~、そして今日の朝会では、今年から卒業まで皆さんと一緒に勉学に励む留学生のことを紹介したいと思います』

「あ、本当に留学生がくるみたいだよ?」

「ちゅうか、本題の留学生の話に入るまでが長すぎるんとちがうかなぁ・・・・・・」

 

 

 長い先生の話の中から聞こえてきた留学生という言葉に葵は反応し、竜を見る。

 というよりも先生の話ぶりからもともとの朝会の目的は留学生の紹介だったらしい。

 あまりにも本題に入るまでの話が長すぎることに、茜はがっくりと肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第327話




学生の頃に留学生が来たことのある人ってどれくらいいるんでしょうね?

とりあえず私にはそんな経験はないですね。





 

 

 

 

 ダンジョン・・・・・・ではなく壇上で先生が留学生である2人の生徒を呼び寄せる。

 どうやら留学生の2人はどちらも女子だったらしく、2人の姿が壇上に現れると同時に男子生徒たちからざわざわという音が聞こえてきた。

 

 

『え~、彼女たちが本校に留学してきてくれた“イア・アリア・オン・ザ・プラネテス”さんと“オネ・アリア・オン・ザ・プラネテス”さんです。え~、お2人は日本語の勉強をすでにしていらっしゃるようで、日本語での会話が可能だそうです』

「はぁ~、なっがい名前やなぁ・・・・・・」

「聞いた感じだと、最初の“イア”と“オネ”っていうのが名前なのかな?」

「名字が同じってことは姉妹なんだろうな」

 

 

 あまりにも長い名前に茜は思わずポカンと口を開けてしまう。

 

 イアと呼ばれた方の女子は、髪の色はベージュがかった灰色で、光の当たり具合によりピンクだったり、青くも見えるロングヘア―。

 オネと呼ばれた方の女子は、癖毛のあるグラデーションのかかったショートヘアの金髪で、前髪が真っ直ぐ真横に切られている

 

 どちらもかなりの美少女で、芸能人と言われても納得ができるレベルだった。

 

 

『え~、それではお2人からなにか挨拶でももらえたらと思います』

『挨拶・・・・・・?』

『えっと、私が先にやる?それとも姉さんが先にやる?』

 

 

 先生に言われ、イアはきょとんと首をかしげる。

 どうやらイアの様子から考えるに突発的に先生が言い出したことのようだ。

 きょとんとしているイアにオネはどちらが先に挨拶をするかを尋ねた。

 

 

『それなら私からやるよ』

『それじゃあ、お願い』

『うん。コホン・・・・・・、イア・アリア・オン・ザ・プラネテスです。この中に宇宙人、未来人、超能力者、それに類似する人がいたら私のところに来なさい。以上!』

『姉さんっ?!?!』

 

 

 オネの言葉にイアは自分から挨拶をすると言い小さく咳払いをする。

 そして、救難信号でもあげているのかと思えるような名前の団の団長のようなセリフを一気に言い切った。

 

 普通に挨拶をすると思っていたオネは驚き、思わず大きく声を上げる。

 

 

『姉さん?!姉さんなんで?!』

『え、だって日本の挨拶ってこうなんじゃないの?』

 

 

 ガクガクとイアの肩を揺らしながらオネはどうしてそんな挨拶をしたのかを尋ねる。

 オネの言葉にイアは揺らされながらも不思議そうに首をかしげて答えた。

 どうやら小説などから間違った挨拶を覚えてしまっていたらしい。

 

 

「なんや、けっこうおもろい留学生やねぇ」

「あはは、妹さんの方は大変そうだけどね・・・・・・」

「ま、まぁ、間違いは誰にでもあるだろ」

 

 

 壇上でわちゃわちゃと騒ぐ2人に茜はけらけらと笑う。

 そんな壇上の2人の様子に葵は同じ妹ということで苦労をしていそうなオネにやや同情的な視線を向けていた。

 

 しばらくイアの肩を揺らしていたオネだったが、落ち着いたのかイアの肩から手を放して生徒たちの方を見た。

 

 

『はぁ・・・・・・。オネ・アリア・オン・ザ・プラネテスよ。姉さんともどもよろしく』

『オネちゃん、ため息を吐いていると幸せが逃げるって聞くよ?』

『それはいったい誰のせいだと・・・・・・』

 

 

 ため息を吐き、オネは簡潔に挨拶をする。

 そんなオネの様子にイアは小説を読んで知った知識を言う。

 オネがため息を吐いた原因などまったく気づいていない様子のイアにオネは思わず頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第328話




小説でも漫画でもそうなんですけどどんな風に終わるのかが気になる反面、いつまでも続きを読み続けたいって思ったりしますよね。

まぁ、長すぎると読むのに疲れてきちゃったりするんですけどね・・・・・・





 

 

 

 

 全校朝会が終わり、竜たちは教室へと戻る。

 教室へと戻る生徒たちの話題となるのはもちろん留学生の2人、“イア・アリア・オン・ザ・プラネテス”と“オネ・アリア・オン・ザ・プラネテス”についてだ。

 

 

「可愛い子たちが留学生とかやばすぎるだろ!」

「それな!小説のセリフを言い出したのは驚いたけど、天然っぽくていいよな!」

 

「すごい綺麗な姉妹だったわね」

「うんうん。まるでモデルみたいだったよねぇ」

 

「妹のオネさんの方はやや苦労性みたいに見えたよね?」

「ええ、イアさんが天然っぽいからそのフォローとかをしてるんじゃないかしら?」

 

 

 イアとオネの壇上でのやり取りから2人がどんな姉妹なのかをなんとなく感じ取れた生徒たちは口々に話しながら廊下を歩く。

 

 2人の芸能人と言われても納得のできる美少女さについて話すもの。

 突拍子もない挨拶をしたイアについて話すもの。

 イアにツッコミを入れていたオネについて話すもの。

 

 それぞれ話している相手は違うものの、話の内容はほぼ全員がイアとオネの2人についてのものだった。

 

 ちなみに、2人のことを話していない生徒の内の1人は、“教習所で頭が車の男をぼこぼこにしたら高級車のフェラーリになって売ろうとしたけれど乗っていた田楽が漏らしたせいで売れなくなり、最終的に飛行機になった”という理解のできない話をしていたりする。

 もちろんその話を聞いて即座に理解できたものはごく少数だった。

 

 

「にしてもなっがい名字やったなぁ・・・・・・」

「まだ言ってるの?」

「たしかに長かったは長かったが、そんなに気になるかね?」

 

 

 廊下を歩きながらいまだにイアとオネの名字である“アリア・オン・ザ・プラネテス”について言っている茜に葵は呆れたように言う。

 たしかに名字としてはかなりの長さだが、茜以外に名字の長さを気にしている生徒はどこにもいない。

 茜の言葉にうなずきながら、竜はそんなに気にするほどかと茜に尋ねた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・いや、べつにそんなでもないな」

「ないのかよ・・・・・・」

「ならなんで言ってたのさ・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に茜は竜の顔を見ながらやや長めに溜めて答えた。

 どこが気になるのかが聞けると思っていた竜と葵は茜の答えに思わずガクリと躓いてしまう。

 

 

「どうかしたんですか?」

「なんか茜ちゃんの言葉にガックリしてたみたいだったけど?」

 

 

 竜と葵が肩を落としていると、ゆかりとマキが話しかけてきた。

 名字が“結月(ゆづき)”であるゆかりと“弦巻(つるまき)”であるマキは竜たちとはやや離れており、教室に戻る今になってようやく合流できたのだ。

 

 

「いや、茜が留学生の名字を気にしているようだったからそんなに気になるのかって聞いたんだよ。そしたら・・・・・・、なぁ?」

「うん・・・・・・。べつにそこまで気にならないってあっさり答えたんだよね・・・・・・」

 

 

 不思議そうにしているゆかりとマキに竜と葵はどうしてこうなったのかの経緯を話す。

 竜たちから聞いた内容にゆかりとマキは呆れた視線を茜に向けた。

 

 

「なにをやっているんですか・・・・・・」

「反省は少しだけしとる。でも後悔はしとらんで!」

 

 

 呆れながらのゆかりの言葉に茜はグッと親指を立てながら答える。

 なお、反省が少しだけなので、今後も似たようなことをやるであろうことが予想できる。

 

 茜の答えに竜たちは思わずため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第329話




イアがなんだかんだでネタを出しやすくて動かしやすいです。

まぁ、本来の性格だと無口とからしいのですが・・・・・・

とりあえずここでのイアはこんな性格です。





 

 

 

 

 時間は進み、お昼休み。

 竜たちはいつものように保健室に集まる。

 しかし、ここでいつもとは少しばかり違うことが起きていた。

 

 

「こんにちは。私たちもここでお昼を食べてもいいかしら?」

「ドーモ。皆=サン。イア・アリア・オン・ザ・プラネテスです」

「アイエエエ?!留学生?!留学生ナンデ?!」

「お姉ちゃん、うるさいよ?ええと、琴葉葵です」

「あー、えっと・・・・・・。どーも、イアさんオネさん。公住竜です」

「挨拶ができていないから茜さんはショッギョムッジョですかね?あ、結月ゆかりです」

「あはは・・・・・・、でもたしかに驚いちゃうのも分かるなぁ。えっと、弦巻マキです」

「でもどうして保健室(ここ)に来たんでしょう?あ、紲星あかりです」

 

 

 いつもと違うこと。

 それは留学生であるイアとオネが保健室に来ていたこと。

 オネの方は普通にお昼を一緒に食べてもいいか聞いてきたのだが、なぜかイアはニンジャスレイヤーの挨拶をかましてきており、そのことに驚いた茜は発狂してしまう。

 発狂している茜のことは放置して、竜たちはそれぞれ自分たちの名前を名乗る。

 

 竜たちの頭に浮かぶのはどうしてイアとオネが保健室にいるのかということ。

 留学生なのだから普通は教室でクラスメイトたちとお昼ご飯を食べるのではないかという疑問が竜たちの中にはあった。

 

 

「姉さん、あんまり漫画とかのセリフを言わないでよ・・・・・・」

「えへへ、つい言いたくなっちゃうんだ」

 

 

 ニンジャスレイヤーのセリフを言ったイアにオネは疲れたような声で注意をする。

 オネに注意されたイアはペロリと舌を出してイタズラっぽく謝った。

 そこまで反省している様子が見られないことから、普段から同じようなことをしているのだろうということがうかがえる。

 

 

「それで、どうして保健室に来たんですか?クラスメイトとの交流を深めるために教室でお昼を食べると思っていたんですけど・・・・・・」

「あー・・・・・・、私たちも最初はそう考えていたのだけどね・・・・・・」

 

 

 竜の疑問にオネは頬を掻きながら微妙な表情で言葉を濁す。

 どうやら最初は2人も教室でクラスメイトとお昼ご飯を食べる予定だったらしいが、何らかの理由で保険室でお昼ご飯を食べることになったようだ。

 

 

「同じクラスの人たちだけじゃなくて同じ学年の人たちが集まってきちゃったのよ。姉さんは3年生の人たちが、私は2年生の人たちがね」

「へぇ、そんなことになっとったんか?」

「ボクたちはすぐに保健室に来てたから全然知らなかったね?」

 

 

 オネの説明に葵と茜はやや驚いた表情を浮かべる。

 たしかにイアとオネはかなりの美少女だとは思っていたがそこまでのレベルになっているとは思ってもいなかったのだ。

 

 

「まぁ、そんな状態なら落ち着いてお昼を食べるのも難しいですしね」

「そうなの。ところで、あなたたちはどうして保健室でお昼を食べているの?東北先生に聞いたのだけれど、保健室では基本的に食事の許可を出していないって言われたのだけれど」

「あー、まぁ、私たちもいろいろと事情がありますので・・・・・・」

「おっ昼ばーい!」

「ああ、ほら!勢いよく扉ば開けちゃいけんよ!」

 

 

 竜の言葉にイアはうなずく。

 そして、竜たちがどうして保健室でお昼ご飯を食べるのかを尋ねた。

 イアの言葉にどう説明したものかと悩んでいると、保健室の扉が勢いよく開き、ひめとみことが入ってきた。

 

 勢いよく開いた保健室の扉と、2人の子供の姿にイアとオネは驚き、目を丸くするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第330話





雪が降るともう綺麗とか嬉しいとか思えなくなってきました。

そう思えるのは小学生くらいまででしたねぇ・・・・・・






 

 

 

 

 勢いよく開けられた保健室の扉。

 思い切り開けられた扉はそのまま大きく開き、レールの端まで行ってぶつかって止まる。

 そんな勢いで扉を開いてしまってはかなり大きな音が鳴ってしまうように思えるが、予想に反して一切の音がしなかった。

 扉がぶつかる大きな音が聞こえなかったことに竜たちは不思議そうに扉を開けた本人、ひめを見る。

 

 

「ありゃ?どーしたと?」

「そりゃあれだけ勢いよく扉を開けたらみんなから見られて当然ばい。ボクが音ば消してなかったらどうなってたか・・・・・・」

 

 

 竜たちの視線にひめは不思議そうに首をかしげる。

 不思議そうに首をかしげているひめに、みことはやや疲れた表情を浮かべながら扉の反対側に網のように設置していた木を消した。

 どうやらひめが勢いよく扉を開けた瞬間にみことが素早く扉の反対側に木を網のように広げて音が立たないようにしたようだ。

 

 

「ええと?この子たちはいったい・・・・・・?」

「かわいい子たちだけどどう見ても学生じゃないよね?」

 

 

 保健室の扉を勢いよく開けて現れたひめと、それに続くようにして保健室に入ってきたみことを見て、イアとオネは驚きながら竜たちに尋ねる。

 梅の精であるひめとみことの姿がなぜ2人に見えているのかと思うかもしれないが、ひめとみことはお昼休みの際は茜からお弁当をもらうために実体化をして保健室に来ているのだ。

 そのため、イアとオネの2人もひめとみことの姿を見ることができたというわけだ。

 

 

「あー、えっと、この子たちは・・・・・・。どう説明したらいいか・・・・・・」

「およ?なんか知らん人ばいるっちゃけど?」

「ん、本当やね。お姉さんたちは誰と?」

 

 

 イアとオネの疑問に竜はどう答えようか頭を悩ませる。

 とくにイアは体育館での全校朝会で本気なのかネタなのかは不明だがあんなセリフを言っていた。

 そのため、正直にひめとみことのことを説明してもいいのか分からなかった。

 

 そんな風に竜が悩んでいるとはつゆ知らず、ひめとみことは不思議そうにイアとオネを見ていた。

 

 

「ええっと、私たちは今日からこの学校に通うことになった留学生なの。あなたたちは・・・・・・?」

「りゅーがくせー?なぁなぁ、りゅーがくせーってなんやったっけ?」

「なして忘れると・・・・・・。ほら、あればい。外国の学生さんが別の国の学校に通うことったい」

 

 

 竜が悩んでいるのを横目に、オネは自分たちが留学生であることをひめとみことに告げる。

 しかしひめは留学生という言葉の意味を忘れていたらしく、みことに留学生について尋ねた。

 

 

「おー!外人さん!この学校に外人さんが来てくれたっちゃね!」

「そんなに興奮しちゃいけんよ。あ、ボクたちはこの学校に住んでるんです」

「学校に・・・・・・、住ん・・・・・・?」

「それってどういう・・・・・・?」

「あーっと、このお2人のことはそこまで気にしなくても大丈夫ですわ」

 

 

 みことから聞いた留学生の説明にひめは嬉しそうに飛び跳ねる。

 飛び跳ねるひめをたしなめつつ、みことは簡単に自分たちが学校に住んでいることを答えた。

 

 みことの言葉をイアとオネは上手く理解することができず、首をかしげる。

 まぁ、普通に考えてひめとみことのような小さな子供が学校に住んでいると言われても理解はできないだろう。

 

 首をかしげながらひめとみことに詳しい話を聞こうとしているイアとオネの言葉を遮るようにイタコ先生は強制的に話を終わらせる。

 

 

「ほら、お2人は茜さんからお弁当をもらってしまいなさいな」

「そうだったばい!うちのお弁当ー!」

「はい、分かりました」

 

 

 イアとオネの言葉を遮ったイタコ先生は、ひめとみことに茜からお弁当をもらうように言う。

 イタコ先生の言葉にひめは茜のもとへと駆け寄っていき、みことはそのあとを追うのだった。

 

 

「さ、イアさんとオネさんもお昼ご飯を食べてしまいなさいな」

「あ、はい。分かりました」

 

 

 ひめとみことのことが気になりつつも、イアとオネはお昼ご飯を食べ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第331話



モンハンは個人的にXXの系列は苦手なのでライズも微妙なんですよねぇ・・・・・・

いまだにアイスボーンをやっておりますよー






 

 

 

 

 お昼ご飯を食べながらイアとオネはチラチラとひめとみことを見る。

 イタコ先生に気にしなくてもいいとは言われたが、それでも自分たちの通う学校に明らかに通える年齢ではない子供がいるというのは気になってしまうもの。

 ひめとみことのことを見ながら食べるお昼ご飯にイアとオネは食べているものの味がいまいち分からなくなってしまっていた。

 

 

「いつも美味しいっちゃね!ほんにありがとうったい!」

「ええよええよ。そうやって美味しそうに食べてもらうんが嬉しいからなぁ」

「そういえば、この2人のお弁当を作ってる食材費とか貰ってるのか?」

 

 

 お弁当を食べながら茜にお礼を言うひめと、にこにこと笑みを浮かべながらそれに応える茜の姿を見ながら竜はふと疑問に思ったことを尋ねる。

 たしかにひめとみことの食べるお弁当のサイズは小さく、2人合わせてだいたい1人分ていどの大きさなのだが、それでも食材を使っていることに変わりはない。

 そのため、学生である茜にお弁当を作ってもらっているのだからきちんと食材費を貰っているのかが気になったのだ。

 

 

「食材費ならもちろん貰っとるで。まぁ、うちらも学生やし、“清花荘”で暮らしとるわけやしな。その辺はきちんとイタコ先生から受け取ってるんや」

「ええ、といってもどのくらいの金額が必要かは分からないのでけっこうざっくりとした金額ですけど」

「へぇ、そうだったのか」

 

 

 竜の言葉に茜はお弁当を作る際の食材費をイタコ先生から貰っていると答える。

 ちなみに、イタコ先生が茜に渡している食材費は1週間に2000円で、かなり余裕をもってひめとみことのお弁当を作ることのできる金額を受け取っていた。

 

 

「まぁ、十分な金額を貰っとるからな。絶対にお弁当を作るのに手は抜かんで?」

「それはまぁ、今までのお弁当を食べているので疑ってないです」

「これからも美味しいお弁当を楽しみにしてるっちゃね!」

 

 

 ふふん、とドヤ顔を浮かべながら茜は自信満々に言った。

 茜の言葉にいつの間にかお弁当を食べ終えていたみことは食べて空になった自分とひめのお弁当箱を片づけながら言う。

 みことのとなりではひめが笑顔を浮かべながらうなずいていた。

 

 

「姉さん、この子たちってなんなのかしら・・・・・・?」

「分からないね。学校に住んでるって言ってたけど・・・・・・」

 

 

 お昼ご飯を食べ終え、お弁当箱を片づけながらオネはイアにこっそりと声をかける。

 ここまでの会話を聞いている限りでは、ひめとみことは学校に住んでいるということ、ひめとみことの2人は茜にお弁当を作ってもらっていること、茜は2人にお弁当を作るときの食材費をイタコ先生に貰っているということの3つが分かっていた。

 

 しかしそれ以上の情報はなにもなく、そもそもとしてイアとオネはひめとみことの名前すら分かっていなかった。

 

 

「それじゃあうちらは戻るっちゃね。バイバイばーい」

「ごちそうさまでした。明日もお願いしますね」

 

 

 そう言ってひめとみことは手を振りながら保健室から出ていった。

 結局、ひめとみことについての疑問が解けないまま2人がいなくなってしまい、イアとオネはもやもやとした気持ちになってしまう。

 

 

「あの、今の2人って・・・・・・」

「ごめんなさいね?あまりあの2人のことを誰かに詳しくは教えたくないんですの」

「教えたくないっていったい・・・・・・」

 

 

 イアはイタコ先生にひめとみことのことを尋ねようとするが、言葉の途中でイタコ先生に謝られてしまい、詳しいことを聞けなかった。

 

 そんなイタコ先生とイア、オネのやり取りを聞きながら、竜たちは余計なことを言ってしまわないように口を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第332話




ユーチューブの生配信を見ていると夜更かししてしまうなぁ・・・・・・

睡眠時間とかを考えるとやめておいた方がいいんでしょうけどね。





 

 

 

 

 お昼ご飯を食べ終わり、竜たちは飲み物を片手に雑談をする。

 雑談の内容は最近やったゲームや読んだ漫画、テレビなどなど様々だ。

 

 

「やっぱPSO2ばっかりやってるとモンハンでの回避が微妙に辛くなってなぁ・・・・・・」

「あー、せやねぇ。PSO2はジャスト回避とかがかなり甘めになっとるもんな。あれに慣れてもうたら他のゲームでは辛くなるわな」

「モンハンといえば、歴戦王のイヴェルカーナって誰か狩れた?」

 

 

 PSO2とモンハン。

 どちらもアクションゲームではあるのだが、攻撃の速度や回避の挙動、レベル制の有無などなどかなりの違いがある。

 そのため、どちらか片方のゲームばかりをプレイしていると地味に違っている部分でミスをしてしまうことがたまにあるのだ。

 

 モンハンの話題になったことにより、葵がふと気になったことを竜たちに尋ねる。

 

 

「王カーナは無理・・・・・・」

「私は一応狩れましたね」

「私はそもそもまだ参加できるマスターランクじゃないよー」

「うちと葵も勝てへんかったもんな」

 

 

 葵の言葉に竜はげんなりとした表情で答える。

 竜の答えに続くようにゆかりもやや疲れた表情を浮かべながら答えた。

 

 葵の言った歴戦王イヴェルカーナ、通称、王カーナ。

 このモンスターはモンスターハンターワールド・アイスボーンに最後に追加された歴戦王であり、これまでに追加された歴戦王とはレベルの違う強さを誇っていた。

 そのため、竜たちの中ではゆかりだけが狩猟することができているようだ。

 

 

「なんなんですかね、あの高火力のブレスは・・・・・・。あれだけで即死することがあるんですけど・・・・・・」

「防具とか重ね着のために狩りたいんだけどなぁ・・・・・・」

「転身とか不動を着ててもはじかれるとかきつすぎると思うんやけど・・・・・・」

「そ、そんなに強いんだ・・・・・・?」

 

 

 やや暗い表情で歴戦王イヴェルカーナへの文句を口々に呟く。

 高火力で素早く動き、攻撃の範囲が広く、体力は歴戦王ということで4万近くある。

 そんな簡単に倒せない強敵に竜たちは疲れ果てていた。

 

 ちなみに、歴戦王イヴェルカーナ以外にも簡単には狩れないモンスターとして“アルバトリオン”と“ミラボレアス”が存在しており、竜たちはこの3匹にかなりの苦戦をしている。

 

 

「歴戦王イヴェルカーナは大変だよねぇ」

「そうね。私と姉さんもそんな簡単には狩れないもの」

「お2人もモンハンをやってるんですか?」

 

 

 竜たちの言葉に納得するようにイアとオネが答える。

 2人がモンハンをやっているということに竜たちは少しだけ驚きの表情を浮かべる。

 竜の言葉に2人はうなずいた。

 

 

「え、っていうか大変とかそういう言い方だと何回か狩れている口ぶりなんですが・・・・・・」

「そうね。私と姉さんはそれぞれ防具を作れるくらいには狩れているわね」

「・・・・・・強者だぁ」

 

 

 イアとオネの口ぶりから歴戦王イヴェルカーナを何回か狩れているのではないかとゆかりが尋ねると、オネは普通に歴戦王イヴェルカーナを何度か狩猟していると答えた。

 さらりと答えたオネの様子に、竜は思わず声を漏らしてしまう。

 

 

「そうでもないわよ。それに救難できた人が強かったってのもあるでしょうし」

「それでも少なくとも自分たちよりは強いと思いますけどね・・・・・・」

 

 

 謙遜するように言うオネに竜はそれでも自分たちよりは強いだろうと言う。

 留学生であるイアとオネが以外にもかなりゲームが得意だということが分かり、竜たちは少しだけ親近感を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第333話




けっこう気温は温かくなってきたけど突発的に寒くなったり・・・・・・

温かい恰好をしてると暑く感じる時もあったりで着る服を考えるのが大変ですね・・・・・・





 

 

 

 

 時間は進み、放課後。

 竜はバイトをするために、茜たちはマキと遊ぶために“cafe Maki”にいた。

 茜たちが来ているということでマキは手伝いをせずに遊んでいていいと父親から許可を得ている。

 

 

「ほい、注文したドリンクと食べ物だ」

「お~?なんやなんや、店員にしては態度が悪いんちゃうか~?」

 

 

 茜たちの注文したメニューを届けるということでかなり気安い調子でドリンクと食べ物を置いていく竜に、茜がニヤニヤとイタズラっぽい笑みを浮かべながら言う。

 そんな茜の様子にゆかりたちは呆れたような困ったような視線を向けていた。

 

 

「あ、あはは・・・・・・。でもまぁ、茜ちゃんの言っていることにも一理ある、かな。竜くん、バイトとはいえお仕事なんだから私たちが相手でもゆるくし過ぎたらあまりよくはないよ?」

「なぁ~?ちゅうわけでもう一回キチンとやってーや」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ。わぁったよ」

 

 

 苦笑しながらもマキは竜の接客態度に少しだけ注意をする。

 マキによる援護を受け、茜はさらに調子づきながら竜に言う。

 ニヤニヤと笑みを浮かべながら言う茜に竜はしぶしぶといった様子で答えた。

 

 

「えっと、注文された飲み物と料理をお持ちしました。こちらで注文されたものはすべてそろいましたでしょうか?」

「だ、大丈夫やで・・・・・・」

「では、伝票を置いていきますね。それではごゆっくりどうぞ」

「・・・・・・ぶふぅっ!」

 

 

 きっちりと普通のお客様に対応するように竜は茜たちに言う。

 そんな竜の接客に茜はなにかをこらえるようにしながら答えた。

 持ってきた料理とドリンクを並べ終え、運び忘れたものがないかを確認する。

 そして、最後にお客様が不快にならないように笑顔を見せつつ伝票を置いていく。

 

 接客をするうえでとくに何の問題もない一連の流れ。

 しかし、竜が笑顔を見せて伝票を置いた瞬間に茜が思い切り吹き出してしまう。

 その後も茜はケラケラとお腹を抱えて笑っていた。

 

 

「ははははっ、あっははははは!あかん!無理や!普段の時との落差でこらえきれん!」

「お、お姉ちゃん・・・・・・」

「ちょ、茜さん、その辺で・・・・・・」

 

 

 ケラケラとお腹を抱えて笑う茜に、近くに座っていた葵とゆかりが落ち着くように声をかける。

 しかし茜が笑うのは止まらない。

 

 

「あっはははは!・・・・・・ふぁ?」

「笑い過ぎだこんにゃろう!!」

ふぃ()ふぃ()ひゃ()ひゃ()ひゃ()ひゃ()ひゃ()ひゃ()?!?!」

 

 

 ぐにりと茜の頬を掴み、竜は思い切り左右に引っ張る。

 竜に頬を引っ張られ、茜は痛みに大きな声を上げた。

 そんな竜と茜のやり取りにゆかりたちは苦笑いを浮かべていた。

 

 

「ったく。こうなると思ったから茜に普段の接客をしたくなかったんだよ・・・・・・」

「ううぅ、葵ぃ。お姉ちゃん、竜に傷ものにされたでー・・・・・・」

「ぜんぜん傷はないでしょ。それにさっきのはお姉ちゃんの自業自得だよ」

 

 

 竜に引っ張られてやや赤くなった頬を押さえながら茜は葵に泣き真似をしながら抱き着く。

 抱き着いてくる茜に葵は呆れた口調で答える。

 

 

「そんじゃ、俺はバイトに戻るから。あまり暗くならないうちに帰るようにしろよ?」

「はい。分かっていますよ」

「もしも遅くなったらお父さんにお願いするね」

 

 

 そして、竜は茜たちに暗くならないうちに帰るように伝え、バイトに戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第334話




小説のネタが・・・・・・

いろいろと漫画とかを読んでネタの補充をしないと・・・・・・





 

 

 

 

 新しく入店したお客を空いている席に案内し、メニュー表を出す。

 お客の注文が決まるまでに他の空いた席のテーブルの上に置いてある食器を片づけ、テーブルを台拭きで綺麗に拭く。

 食器をキッチンへと運んだら完成している料理とドリンクを注文したお客のところにこぼしたりすることなく素早く運ぶ。

 注文が決まったお客がいたらすぐに席に向かい、間違いのないように注文を確認し、キッチンへと運ぶ。

 

 このすべての仕事をいかに効率よく、お客の不快にならないような動きでおこなえるか。

 それがカフェやレストランなどの飲食店で働く際に重要となるポイントだろう。

 ただし、このポイントはホールスタッフ、分かりやすく言えば料理を運んだり注文を聞いたりするスタッフのみのポイントであり、料理をする人たちはまた別の重要なポイントがあるので間違えてはいけない。

 

 竜が空いたテーブルを片づけていると、“cafe Maki”の扉が開いて新しいお客が入ってきた。

 

 

「っと、いらっしゃいませ。空いている席にごあんな・・・・・・、先輩たち?」

「あ、後輩くんだ。ここでバイトしているの?」

「あら、本当ね」

「お昼休みぶりだね」

「すごい偶然があったものね」

 

 

 新しく入ってきた4人のお客、さとうささら、すずきつづみ、イア・アリア・オン・ザ・プラネテス、オネ・アリア・オン・ザ・プラネテスの姿に竜は少しだけ驚いた表情になる。

 竜の先輩という言葉にささらは店員が竜だということに気がつく。

 ささらの言葉にささらの後ろに並んでいたつづみたちも竜に気がついた。

 

 

「ええっと、空いている席に案内しますね」

「うん。お願いするね」

「これまでにも何回か来ているはずなのだけれど、ぜんぜん気づかなかったわね」

「ここがささらちゃんのオススメのカフェなんだよね。どんなのがあるかなぁ」

「クラスの子たちも話していたからちょっと楽しみではあるわね」

 

 

 先輩であるささらたちが来るとは思ってもいなかった竜は困惑しつつも空いている席へとささらたちを案内する。

 竜は忘れているが、ささらとつづみは“cafe Maki”の近くに住んでおり、むしろいままで気づかなかったことの方が不思議なくらいだった。

 まぁ、2人のことを知ったのはけっこう最近のことなので気づかなくても無理はないのだが。

 

 竜がイアとオネ、さらには知らない2人の女性と親し気(他者視点)に話している様子に、茜たちはちらちらと視線を向けながら声を潜める。

 

 

「なぁ、あれ誰か知っとる?」

「ううん。ボクはちょっと見覚えないかな」

「イアさんとオネさんは分かりますけど、あのお2人は分かりませんね」

「いったいどこで知り合ったんだろうね?」

「制服のリボンを見た感じ3年生の先輩ですよね?」

 

 

 ささらとつづみは生徒会に所属をしているのだが、基本的にずん子が目立っているため生徒会の他のメンバーの認知度はそこまで高くはないのだ。

 そのため、茜たちはささらとつづみの顔を見ても生徒会に所属しているメンバーだということは分からず、首をかしげることしかできなかった。

 

 親し気(茜たち視点)にささらたちと話す竜の姿に茜たちはもやもやとした感情を覚えながら頼んだ料理を食べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第335話




もうすぐ2月になるけどやっぱり雨が降ると寒くなるぅ・・・・・・

そういえば主人公の名字の由来とか気づいている人いるんですかね?






 

 

 

 

 ささらたちを空いている席に案内した竜は再び空いている席のテーブルを片付けたり、注文された料理を運んだりしていく。

 なかなかささらたちの席から注文が決まった様子が見られず、竜は不思議そうにそちらを見る。

 

 どうやらささらとつづみの注文するものは早々に決まっているみたいだが、イアとオネが何を注文するかで悩んでいるようだ。

 

 

「むむむむ・・・・・・。こっちのケーキも気になるけどこっちのサンドイッチも・・・・・・。でも、こっちのパフェも美味しそう・・・・・・」

「飲み物も注文する料理に合わせたいわよね・・・・・・」

「あははは、べつに今日しか来れないわけじゃないんだから・・・・・・」

「でも、どれを頼もうか悩んでしまうのも分かるわ。“cafe Maki(ここ)”の料理は味だけじゃなくて見た目もとても美味しそうだもの」

 

 

 メニューを見ながら悩んでいるイアとオネの姿にささらは苦笑する。

 べつにイアとオネは今日だけしか“cafe Maki”に来れないということは一切なく。

 今日以外にもいつでも来ることはできる。

 

 しかし、それが分かっていてもどれを頼もうか悩んでしまうのが人間というもの。

 どの料理も美味しそうで初めて来た店での最初の注文というのはどうしても悩んでしまうのだ。

 

 そのあたりの感覚はすでに何度も“cafe Maki”に来ているささらとつづみには分からない感覚なのだろう。

 

 

「そんなに悩むならオススメを聞いてみるのはどうかな?そうすれば料理に合った飲み物も教えてくれるだろうし」

「オススメ・・・・・・。どうする?」

「うん、良いと思うわ。このままだとぜんぜん決められなさそうだし」

「じゃあ、呼ぶわね。注文いいかしら?」

「あ、はーい」

 

 

 あまりにもイアとオネが悩んでいるので、ささらはオススメを聞いてみてはどうかと提案した。

 ささらの提案にイアはオネに確認をとる。

 イアの言葉にオネはうなずき、自分たちではまだまだ決めるのに時間がかかると判断してオススメを聞くことにした。

 

 イアとオネが注文をどうするのかを決めたのを確認したつづみは手を上げて店員、竜を呼ぶ。

 

 

「っと、注文が決まりましたか?」

「ええ。私がコーヒーとサンドイッチのセットを」

「私はホットミルクとパンケーキのセットだよ」

「えっと、オススメって何があるのかを聞いてもいいかな?」

「私と姉さんだとどれを頼むか決められなさそうなのよ」

 

 

 竜に聞かれ、つづみとささらはそれぞれの注文を言う。

 2人が注文を終え、続いてイアとオネの注文になる。

 

 

「オススメですか。それならこの紅茶とショートケーキですね。どちらもとても美味しいですよ。あとはチーズケーキもオススメなので、紅茶とこの2種類のケーキでどうですか?」

「ショートケーキ・・・・・・、私はそっちにしようかな」

「じゃあ、私がチーズケーキを頼むからちょっとずつ交換しましょうか」

「えっと、それでは注文の方を繰り返します。コーヒーとサンドイッチのセットが1つ。ホットミルクとパンケーキのセットが1つ。そして、紅茶とショートケーキのセットと紅茶とチーズケーキのセットがそれぞれ1つずつですね」

 

 

 注文をすべて聞き終えた竜は、注文に聞き間違えがなかったかの確認をする。

 竜の確認にささらたちはうなずき、注文があっていると応えた。

 

 

「それでは注文された料理ができ次第持ってきますね。飲み物はどのタイミングで持ってきますか?」

「飲み物は・・・・・・、先に持ってきてもらって大丈夫かな?」

「ええ、飲みながら料理を待ちましょう」

「分かりました。それでは先に飲み物の方を持ってきますね」

 

 

 竜の言葉にささらは飲み物を先に持ってきてもらうかの確認をする。

 ささらの言葉につづみたちはうなずき、飲み物を先に持ってきてもらうことにした。

 飲み物をどうするかを聞いた竜はキッチンへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第336話




ホロライブの曲を聴いているとなんだか元気が出てきます。

お気に入りの曲があるとなにをするにしても助かることがありますよね。

自分は仕事をしているときにお気に入りの曲を口ずさみながら仕事してます。







 

 

 

 

 つづみのコーヒー、ささらのホットミルク、イアとオネの紅茶を持って竜は席に向かう。

 ここで焦ったりしてしまえば飲み物がこぼれてしまうのは確実。

 そのため、焦らず揺らさずに、そして素早く席へと向かう。

 

 

「お待たせしました。ええと、コーヒーとホットミルク、それと紅茶です」

「ありがとう。・・・・・・うん、良い香りね」

「つづみちゃんはそんな苦いものよく飲めるよね」

「ふわぁ・・・・・・、いい匂い・・・・・・」

「本当ね。この香りは私たちじゃ出せないわね」

 

 

 竜の運んできた飲み物を受け取りささらたちはそれぞれ反応を見せる。

 

 つづみは最初になにも入れていない状態のコーヒーの香りを楽しみ、素の状態の味を楽しむ。

 ささらはホットミルクのカップを両手で持ち、そのぬくもりを手に感じながらゆっくりとホットミルクを飲む。

 イアとオネは運ばれてきた紅茶の香りのよさにまず驚き、続いてその味に驚く。

 

 イアとオネの2人は自分たちでもたまに紅茶を淹れているのだが、自分たちの淹れている紅茶よりもはるかに味が良いのだ。

 まぁ、そのあたりはお店で出しているものなのでそうでなければ困るともいえるのだが。

 

 

「砂糖とミルクはこちらからご自由にお使いください。それでは料理ができ次第持ってきますのでしばらくお待ちください」

 

 

 そう言って竜は頭を下げて他の仕事へと向かう。

 仕事に戻っていった竜の姿を見送り、ささらたちは会話を始める。

 

 

「それで、留学初日はどうだった?」

「そういえばお昼休みには同じ学年の人たちがイアさんのことを探しているのは見かけたけど。どうやら見つからなかったらしいのよね」

「あ、あはは・・・・・・。人が集まりすぎてたから私たちは保健室でお昼ご飯を食べてたの」

「物珍しいというのは分かるのだけれど・・・・・・。少し抑えてほしいわね」

 

 

 ささらが尋ねるのは留学して1日目の感想。

 授業の内容などは自分たちでは普通に思っているのだが、それが留学生であるイアとオネにとってはどうだったのかが気になったらしい。

 

 ささらの言葉にイアは苦笑しつつ、お昼ご飯を保健室で食べたことを答えた。

 イアとオネが保健室でお昼ご飯を食べたということに、ささらとつづみは驚きつつも呆れたような表情を浮かべる。

 

 

「保健室は普通なら怪我をしているとき以外は入っちゃダメなんだけどね・・・・・・」

「逆に言うとそれだけの人数が2人のことを追いかけていたってことなのよね・・・・・・」

 

 

 保健室にはケガをしているとき以外は基本的に入ってはいけない。

 そのことは誰もが知っていることであり、怪我をしていないのに保健室に入れるというのはかなり珍しいことなのだ。

 

 

「イタコ先生にも特別だって聞いたよね」

「ええ、生徒たちが落ち着くまでは保健室でお昼ご飯を食べてもいいと言ってくれたわ」

 

 

 ささらとつづみの言葉にイアは確認をするようにオネに尋ねる。

 イアの言葉にオネはうなずき、どのようなことを言われて許可をもらったのかを答えた。

 

 

「あ、そういえば私たち以外にも保健室でお昼ご飯を食べている子がいたよね」

「そうね。1人はさっきの店員さんだったけれど、どんな経緯で保健室でお昼ご飯を保健室で食べる等になったのかしら」

 

 

 ふと、イアは自分とオネ以外にも保健室でお昼ご飯を食べていた生徒がいたことを思い出す。

 イアの言葉にオネはうなずき、保健室でお昼ご飯を食べていた生徒のうちの1人が竜であったことを答えた。

 

 いったい竜がどのような経緯で保健室でお昼ご飯を食べることができるようになったのか。

 そんなお題のもと、様々な推測が飛び交うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第337話




動画を見ているとその内容の小説を書きたくなってきますよね。

まぁ、それよりも先に私は“しきしん”さんの小説を書き上げないといけないんですけどね。





 

 

 

 

 ささらたちの注文した料理ができるまでの間、竜は他のお客の注文や、空いた席のテーブルの片づけなどをする。

 テーブルの上にこぼれている飲み物や料理などを拭き取るのはもちろんのこと、お客が座っていた椅子やテーブルの下の床にゴミなどが落ちていないかなどの確認もきちんと忘れずにやらなければいけない。

 もしかしたらテーブルの下の床であれば手を抜いてもいいのではないかと思うかもしれないが、意外とテーブルの下というのは人の目に付くもので、そういった油断はお店への悪い評価へと繋がってしまうため、油断せずに掃除をしていくべきだろう。

 

 

「そういえばご主人。あのお客さん、ささら先輩?やったっけ?生き霊の問題はどうなったんかな?」

「あー、そういえば聞いてないな。たぶんイタコ先生とか生徒会長が何とかしてくれてると思うけど・・・・・・。気にはなるよな」

 

 

 椅子の上のゴミなどを見ていたついなが、ふと思い出したように竜に尋ねる。

 ついなの言う生き霊の問題というのは、ささらの魂が分かれやすくて生き霊が生まれやすいことについてだ。

 厳密に言うとささらの生き霊は本来の生き霊とは別物なのだが、最終的に本人の意思とは無関係に発生するという点では同じなので生き霊ということにしている、

 

 

「生き霊が生まれとってもなんの問題もないっちゅうのはイタコに聞いてるから生き霊の方はそこまで心配はないんやけど。マキにとり憑いていたことがあったわけやし・・・・・・」

「まぁ、憑いていたらまた無理やり引き剥がせば良いんだろうけど。毎回それをやるのも手間だしな・・・・・・。後で聞いてみるか」

 

 

 ささらから生まれる生霊に関しては別の霊に襲われるとかそういった心配はなく、そこまで心配する必要はない。

 しかし、ささらの生霊はマキに憑りついていたという前例がある。

 そのため、ついなはささらの生霊の問題がどうなったのかが気になったのだ。

 

 ついなの言葉に竜もささらの生霊がマキに憑りついていたことを思い出す。

 一応、前回は無理やり引き剥がすことができたので、また憑りつくようなことがあれば同じように無理やり引き剥がせば問題はないだろう。

 だが、毎回無理やり引き剥がすのは明らかに手間でしかないので、そのためにもささらの生霊の問題を解決した方があとあと楽になるのだ。

 

 

「竜くん、注文された料理が作り終わったから運んでくれるかい?」

「あ、はい。分かりました。えっと、これはあそこの席のものであってます?」

 

 

 空いた席のテーブルの片づけを終え、竜が空になった食器を運んでいると、ちょうど注文された料理が完成したのかマキの父親に料理を運ぶように頼まれた。

 頼まれた料理はサンドイッチ、パンケーキ、ショートケーキ、チーズケーキの4つ。

 料理の内容から竜はこれがささらたちの席に運ぶものだと理解した。

 まぁ、理解したとしても確認をせずに運んでもしも間違いだったとしたら問題になってしまうので、きちんとマキの父親に確認をいれる。

 竜の言葉にマキの父親は竜の運んできた食器を洗いながら、うなずいて間違っていないと応えた。

 

 料理を運ぶ席が間違っていないと分かった竜は料理をお盆に乗せ、落としてしまわないように気をつけながらささらたちの座っている席へと運んでいった。

 

 

「お待たせしました。サンドイッチとパンケーキ、ショートケーキとチーズケーキになります」

「きたわね。・・・・・・相変わらずささらはクリームのすごいパンケーキね」

「えへへー、だって美味しいんだもん」

「うわぁ、すごい美味しそうなケーキ。それに乗っているイチゴがキラキラ光ってるみたい」

「姉さん、こっちのチーズケーキも美味しそうだよ」

 

 

 運ばれてきた料理に4人は嬉しそうな声を上げる。

 そして、竜は注文されたものがすべて届いたかを確認し、伝票を置いて別の仕事に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第338話




“しきしん遊戯”のほうが書き終わりましたー!

興味の湧いた方は読んでいただけると嬉しいです。

いやぁ、やはり締め切りがないと書けないのは治したいですねぇ・・・・・・





 

 

 

 

 竜の運んできたサンドイッチをつづみが、パンケーキをささらが、ショートケーキをイアが、チーズケーキをオネが美味しそうに口に運ぶ。

 4人の表情は見ているだけで美味しいのだということが伝わってきそうなほどにゆるんでおり、4人の様子を見た他のお客たちもちらほらと同じメニューを頼み始めていた。

 

 

「竜くん、休憩に入っちゃっても大丈夫よ」

「あ、分かりました」

 

 

 マキの母親に言われ、竜は休憩するために奥の部屋に向かおうとする。

 そんな竜の腕を掴み、マキの母親は飲み物とケーキの乗ったお盆を竜に手渡した。

 手渡されたお盆に竜は首をかしげるが、そのあとに茜たちのいる席を指さされたことによってマキの母親の意図を理解する。

 

 

「お、休憩なんか?」

「ああ。お邪魔してもいいか?」

「いいよいいよ。私たちもちょっと聞きたいことがあったからさー」

 

 

 飲み物とケーキを持った竜が近づいてきたことに気がついた茜は休憩に入ったのかと竜に尋ねる。

 茜の言葉に竜はうなずき、テーブルの上に飲み物とケーキを置いた。

 

 

「それでさー、さっきイア先輩たちと一緒に入ってきた人たちって誰なのか竜くんは知ってるの?」

「ボクたちはぜんぜん分からなかったんだけど・・・・・・」

「リボンの色から3年生の人だってことは分かるんですけどね」

「うん?ささら先輩とつづみ先輩のことか?」

 

 

 ニコニコと笑みを浮かべながらマキは竜に尋ねる。

 マキに続くように葵、あかりも言葉を続ける。

 口には出していないが茜とゆかりも同じように知りたそうな雰囲気を出していた。

 

 

「そうそう。その2人の先輩。竜くんがなんだか仲良さそうに話してたから気になったんだ」

「普通に学校に行っとったら学年の違う先輩と関わることなんて部活か委員会くらいやしな」

「あー、まぁ確かにそうかもな。あの2人の先輩とはきりたんと遊んでいるときに知り合ったんだよ。なんでも生徒会に所属しているらしくって生徒会長と話をするために家に来たってことで」

 

 

 竜の言葉にうなずき、マキたちは2人のことが気になって仕方がないという空気を(かも)し出す。

 そんなマキたちの様子に竜は気づくことなく、ささらとつづみの2人と出会ったときのことを簡単に説明した。

 まぁ、竜からすれば2人は普通に同じ学校の先輩ていどの認識なのでべつに隠すようなことは何もないのだ。

 それはささらとつづみの2人も同様で、仮にマキたちに竜のことを聞かれたとしても普通に生徒会長の家で生徒会長の妹と遊んでいるところで出会って知り合ったと答えるだろう。

 

 

「へーそうだったんだぁ。じゃあべつにただの知り合いなんだね」

「そうだな。それに俺は生徒会に所属しているわけじゃないしそこまで関わることもないだろうしな」

「・・・・・・あかん。どう聞いてもフラグが立ったようにしか聞こえんわ」

「あ、茜さんもですか・・・・・・」

「ボクもそう聞こえたよ。こう、竜くんが生徒会に所属しそうな・・・・・・」

「ご安心ください。私の方から竜先輩を生徒会に所属させないようにお願いしておきますので」

 

 

 竜の答えに逆に竜が生徒会に所属するような事態になってしまいそうな予感を感じた茜はポツリと小さくつぶやく。

 茜の言葉に同意するようにゆかりと葵もうなずいた。

 イヤな予感に茜たちが頭を抱えていると、あかりが声を潜めて茜たちに安心するように言う。

 あかりの言葉に茜たちはそれなら大丈夫かと少しだけ不安を残しつつもホッと息を吐いて自分たちの飲み物を口に運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第339話



ギリギリ!

かなりのギリギリで番外話と本編を投稿できました!!





 

 

 

 

 “cafe Maki”にささらたちがやって来た翌日。

 竜はささらの生霊の件がどうなったのかを聞くために保健室に向かっていた。

 ずん子に聞いてもよさそうではあったのだが、あいにくと生徒会の仕事で忙しそうだったため、保健室のイタコ先生に話を聞くことに決めたのだ。

 

 

「すみません。公住です。聞きたいことがあってきました」

「ちゅわぁっっ?!?!」

 

 

 保健室の扉をノックし、竜は声をかける。

 普通に職員室に入るときと同じように扉を開けて声をかければいいのではないかと思うかもしれないが、ここは職員室ではなく保健室。

 その時点で職員室に入るのとはまた違うのだ。

 

 竜が声をかけると、保健室の中からガタガタっという音と、保健室の先生――――イタコ先生の驚くような声が聞こえてきた。

 

 

「え~っと・・・・・・、入っても大丈夫ですか?」

「は、はい!大丈夫ですわ!」

 

 

 保健室の中から聞こえてきた音と声から入っても大丈夫なのかが不明なため、竜は確認のために声をかける。

 竜の言葉に保健室の中からイタコ先生の声が聞こえ、保健室に入ってもいいと答えた。

 保健室の中から聞こえてきた音と声に首をかしげながら竜は保健室の扉を開ける。

 

 

「・・・・・・なにしてるんですか?」

「き、気にしないでくださると助かりますわ」

 

 

 保健室に入った竜の視界にまず入ったのは白い塊。

 それはよく見れば保健室に置かれているベッドのシーツだった。

 さらによく見ればそのシーツの中からイタコ先生の顔が飛び出していた。

 どうやらイタコ先生がシーツにくるまっているらしい。

 

 竜の言葉にイタコ先生は顔を赤くしながらそっと目線を逸らした。

 

 

「そ、それでどういった用件で来ましたの?」

「・・・・・・まぁ、いいか。えっと、ささら先輩の生霊の件がどうなったのかと思いまして」

 

 

 シーツにくるまっていることに対して触れてほしくなさそうにしているイタコ先生の様子に、竜はイタコ先生の姿を気にしないことにする。

 そして、竜は保健室に来た要件をイタコ先生に伝えた。

 

 

「じつはささら先輩の生霊がマキに憑りついていたことがありまして、それでその辺りの対策とかはどうなったのか、と」

「なるほど、そうでしたのね。一応さとうさんには生霊の活動範囲を狭めるように結界を張るお守りを渡しましたので、心配しなくても大丈夫ですわよ」

 

 

 竜の疑問にイタコ先生はうなずき、念のための生霊対策がしてあることを答えた。

 ささらの生霊は東北家に張られている結界によってかなり抑制されていたので、その点から考えてもかなり効果があるものなのだろう。

 イタコ先生の言葉に竜はホッと息を吐く。

 

 

「それならよかったです。マキに憑りついていた時にマキが肩凝りをうったえていたので気になっていたんですよ」

「ふふふ、お友達思いですわね」

 

 

 安心した様子の竜にイタコ先生は笑いかける。

 そこだけ見ればいい先生に見えるのだが、今のイタコ先生はシーツにくるまって頭だけを出している姿。

 どう頑張ってもその姿ではギャグにしか見えないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第340話




少し遅れましたぁ・・・・・・

ツイッターを始めたのですが楽しいですね!






 

 

 

 

 ささらの生霊についての話を聞き、竜は安心する。

 少なくとも霊に関しての専門家であるイタコ先生の言葉なら間違いなどもないだろう。

 

 

「えっと、とりあえず聞きたいことはそれだけだったんで・・・・・・」

 

 

 イタコ先生がなぜシーツにくるまっているのか。

 どうしてそんなことをしているのか気になるのだが、イタコ先生が聞いてほしくなさそうにしているために聞くことはできず、竜はそのまま保健室を出ようとする。

 

 竜が保健室の扉を開けて廊下に出ようとしたとき、竜が扉を開けるよりも早く扉が開いた。

 

 

「イッタコ―!遊びに来たばーい!」

「あーもう!せからしい!もうちょい静かにできんと!」

「うぉわっ?!」

 

 

 保健室の扉を開けて入ってきたのはひめとみことだった。

 どうやらイタコ先生と遊ぶために保険室に来たらしい。

 

 保健室の扉を開けて飛び込んできたひめに竜は驚き、とっさにひめを避ける。

 竜に避けられたひめはそのまま止まることなくイタコ先生へと向かっていった。

 

 

「え、ちょ、まっ・・・・・・、ちゅわぁぁあああっっ?!」

「いぇーいっ!」

「ちょ、ひめ!危なか!」

 

 

 自身に向かって止まることなく突進してくるひめにイタコ先生は困惑し、慌てた表情になる。

 そして、そのままひめはイタコ先生にぶつかっていくのだった。

 

 ひめにぶつかられ、イタコ先生は思い切り後ろに倒れてしまう。

 いつもの状態であれば普通にひめを受け止めることもできたかもしれないが、あいにくと今のイタコ先生はシーツにくるまっている状態であり、ひめを受け止めることはできなかった。

 

 

「ちょっ、大丈夫で・・・・・・、ッッ?!」

「ちゅわぁ・・・・・・。はっ、ち、違いますの!これは違いますのよ?!」

 

 

 ひめがぶつかって倒れてしまったイタコ先生を心配し、竜は少しだけ急ぎ足でイタコ先生に近づく。

 イタコ先生に近づいた竜は、ひめがぶつかって倒れてしまったことによってあらわとなってしまったシーツの中を見て思わず声を失ってしまう。

 ぶつかった衝撃で少しだけふらふらとしていたイタコ先生だったが、すぐに意識がはっきりとし、自分の体がシーツによって隠されていないことに気がついた。

 

 竜が驚き、イタコ先生が隠していたかったシーツの中身。

 

 それは、チアガール姿のイタコ先生だった。

 

 大人の女性であり、かなりのスタイルの良さを誇るイタコ先生のチアガール姿はそれだけで素晴らしいとしか言えないものであり、女子生徒たちにはない色気があった。

 

 イタコ先生のチアガール姿を見てしまった竜は無駄のないスムーズな動きでターミネーターが未来からやって来た時の姿――――膝立ちに移行する。

 

 

「えっと、その恰好は・・・・・・」

「ええと、もう少しでスポーツ大会があるでしょう?それの応援用にどうですかって言われてしまいまして・・・・・・。恥ずかしいからお断りはしたんですのよ?!でも、せっかく衣装を用意してもらったのに一度も着ないというのは、その、もったいないと思ってしまいまして・・・・・・」

 

 

 膝立ちをしながら竜はイタコ先生にどうしてチアガールの格好をしているのかを尋ねる。

 竜の言葉にもう隠すことは不可能だと思ったのか、イタコ先生はチアガールの格好をすることになった経緯を説明し始めた。

 どうやら学校行事であるスポーツ大会の際に応援するときの衣装として誰かに用意されたらしい。

 チアガールの衣装を用意したのが同僚の先生なのか、はたまた生徒なのかは不明だが、竜は心の中でチアガールの衣装を用意した人物に親指を立てるのだった。

 

 ちなみに、イタコ先生に突撃をかましたひめはみことに捕まり、こんこんとお説教を受けていたりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第341話




ツイッターはフォロワーとかの増やし方は分からないけど仲のいい人と話をするだけでも楽しいです。

むしろ1000とかそれ以上の人数がいる人たちはどうやって増やしているのかさっぱり分かりませんね。

まぁ、そこまで増やしたいとも思いませんが・・・・・・






 

 

 

 

 チアガール。

 

 正式名称はチアリーダーであり、女性を指すチアガールや、男性を指すチアマンという言葉はどちらも和製英語であり、スポーツ競技の応援に携わるものという一般的な意味では、英語圏で用いられることはない。

 また、チアリーダーとは応援(チア)先導(リード)するチームのことを指しており、応援をするチームのリーダーのことを指し示している言葉ではない。

 

 そんなチアガールの衣装をイタコ先生は着ている。

 

 竜やずん子、霊的に力を持っているひめやみことの目にはイタコ先生の髪の毛は綺麗な白銀色に見えており、頭部にはキツネの耳が生えていることが確認できる。

 しかし、他の生徒たちの目にはイタコ先生の発動している霊術によってカラスの濡れ羽のようなキレイな黒髪に見えている。

 そのためなのか、イタコ先生の着ているチアガールの衣装はキレイな黒色の髪の毛を映えさせるために純白のものとなっていた。

 

 

「ええっと・・・・・・。どう、かしら。似合っているかしら・・・・・・?」

「えっと、その・・・・・・」

 

 

 くるまっていたシーツがはがれてしまい、チアガールの衣装姿を見られてしまったイタコ先生はひめによって開け放たれていた保健室の扉を閉めて竜に尋ねる。

 いまだに恥ずかしそうに顔を赤く染めてはいるが、先ほどまでのようにシーツで体を隠そうとはしていない。

 どうやら隠していた姿が見られてしまったことによって、恥ずかしいとは思いつつも隠すことをやめたようだ。

 

 イタコ先生の言葉に竜はいまだに膝立ちのままどう答えたらいいものかと目を泳がせる。

 

 イタコ先生の着ているチアガールの衣装の上は左右の肩の部分から伸びている布が胸の部分を交差して通り、背中の方でまた交差して肩の部分に戻ってくるという形となっており、下はミニスカートとなっている。

 下がミニスカートな時点で普段はあまり見えないイタコ先生の真珠のようにキレイな肌が隠すことなくあらわとなっており、この時点で女性としての色気が出ている。

 そしてそれに加えての上だ。

 左右の肩の部分から伸びている布が胸の部分で交差しているということはそこ以外が隠されていないということ。

 腹部に小さくあるおへそや、左右の肩の部分から伸びている布によってまとめられてできた胸の谷間など、もはや暴力と言っても過言ではないほどの大人の色気がそこにはあった。

 

 先ほどイタコ先生のチアガール姿を見てしまっただけで膝立ちに移行してしまった竜にとってその刺激はかなりのものだった。

 

 

「ちゅわ・・・・・・、やっぱり、似合っていなかったかしら・・・・・・」

「い、いや、そんなことは!」

 

 

 膝立ちの姿のまま竜が答えないことにイタコ先生は不安そうな声を上げる。

 イタコ先生の不安そうな声に竜は顔を上げて否定する。

 しかし、顔を上げてしまったことによってふたたびチアガール姿のイタコ先生を見てしまい、慌てて目線を下に向けた。

 

 

「えっとですね・・・・・・。その・・・・・・」

 

 

 キョロキョロと目を泳がせながら竜はイタコ先生になんと説明したらいいのかを悩む。

 チアガールの姿が似合っていないわけではないのだ。

 むしろ見えてしまっている胸の谷間やおへそなどと合わさってすさまじい色気が出てしまっている。

 だがそれをイタコ先生にどう教えればいいのかがまったく分からないのだ。

 

 

「なーなー、みことー。イタコはあんなエロエロな格好でなんばしよーと?」

「さぁ?でもチアガールって言っていたからあの格好で運動を応援するんじゃなか?」

「ちゅわっ?!」

 

 

 竜がイタコ先生にどう説明すればいいか頭を悩ませていると、いつの間にか説教が終わったのか、ひめがイタコ先生のことを指さしながら竜が言い悩んでいたことをあっさりと言ってしまう。

 そんなひめの言葉にイタコ先生は驚き、自分の胸を隠すようにしながら竜とひめのことを交互に見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第342話




イタコ先生の着ているチアガールの衣装のデザインを詳しく知りたい方はクロスチアガールと検索すれば出てくるかと思います。





 

 

 

 

 顔を赤く染め、自分の胸を隠すようにしながらイタコ先生は竜とひめを見た。

 どうしてイタコ先生がそんな行動をとったのか分からないひめとみことは首をかしげる。

 

 

「ぬーん?誰かを応援するんにこげな格好が必要と?」

「え、えっと・・・・・・。そう言われましたわ・・・・・・」

 

 

 不思議そうに首をかしげながらひめはイタコ先生に尋ねる。

 ひめの言葉にイタコ先生は恥ずかしそうにしながらうなずく。

 事実として、イタコ先生はこのチアガールの衣装を受け取った時に応援をするときには絶対に必要ですという力説を受けていた。

 そのため、ひめの言葉を否定することなくうなずいたのだ。

 

 

「そんならどんな風に応援するのか見せてほしか!」

「え、ええ?!いまここでですの?!」

 

 

 興味津々といった様子のひめの言葉にイタコ先生は困惑した声を上げる。

 どうやらみことも同じように気になっているのか、ひめのことを止める気はないらしい。

 ひめとみことの2人から向けられる視線に、イタコ先生は竜へと助けてほしそうな視線を向けるが、いまだに膝立ちの姿な竜はイタコ先生の視線に気づく余裕はなかった。

 

 

「わくわっく、わくわっく」

「変な掛け声はやめるったい」

「う、ううう・・・・・・」

 

 

 おそらくは楽しみにしているという意味合いの擬音“わくわく”のことを言っているのであろうひめはジッとイタコ先生を見る。

 そんなひめの視線にイタコ先生は顔を赤くしているが、ひめが諦めることはないと分かっているため、近くに用意してあったポンポン(スズランテープを細く裂いてまとめたもの)を両手にそれぞれ持った。

 

 

「えっと・・・・・・、その・・・・・・。がんばれ!がんばれ!・・・・・・あうぅぅ」

 

 

 両手にポンポンを持ち、イタコ先生は小さく飛び跳ねながら応援をする。

 数回飛び跳ねて応援の掛け声を発したイタコ先生は恥ずかしそうにうつむいて顔を隠し、しゃがみこんでしまう。

 本物のチアリーダーとは比べ物にならないほどに稚拙な応援なのだが、それでも恥ずかしそうにしながら応援をする大人の女性というものの破壊力はすさまじいものがあった。

 

 その証拠として、イタコ先生が応援する姿を見ていた竜はもはや膝立ちではなく、保健室の床にうつぶせで寝転がってしまっている。

 

 

「おー、バルンバルンしてたばい」

「小さくジャンプしてるだけでもかなり揺れとったね?」

 

 

 応援していたイタコ先生のことを見ていたひめとみことが特に注目してみていたのはイタコ先生が飛び跳ねるたびに大きく揺れていたその胸。

 イタコ先生が飛び跳ねた勢いはそれほど大きなものではないのだが、それでも振動として伝わったエネルギーはかなり大きくイタコ先生の胸を揺らしていた。

 

 ひめとみことの言葉が聞こえ、イタコ先生はさらに顔を赤くする。

 顔を隠してしまっているのでどれくらい赤くなっているのかは正確には不明だが、それでも耳まで真っ赤になる程度には赤くなっていることが分かった。

 

 

「あー・・・・・・、その・・・・・・。イタコ先生、その恰好はできれば今後しないでもらえると助かります・・・・・・」

「ちゅわっ?!や、やっぱり似合っていませんでしたの?!」

 

 

 うつぶせで寝転がったまま、竜はイタコ先生にチアガールの衣装を今後着ないでほしいとお願いする。

 竜の言葉にイタコ先生は着ないでほしいと思うほどに似合っていなかったのかと思い、思わず竜の近くに詰め寄った。

 

 

「違うんです・・・・・・。イタコ先生のその恰好・・・・・・、男には刺激が強すぎるんです・・・・・・」

「へ?・・・・・・えええぇぇぇえぇえぇえええ?!」

 

 

 遠回しな言い方では伝わらないだろうと考えた竜は、言葉に詰まりながらもチアガールの衣装を着ないでほしいといった理由を答えた。

 竜の言う刺激が強すぎるという言葉の意味。

 それを理解したイタコ先生は大きく驚いた声をげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第343話



イタコ先生のチアガール姿だけでここまで話が続くとは・・・・・・

ちょっと驚きですね。






 

 

 

 

 竜の言葉の意味を理解し、驚きの声を上げたイタコ先生は顔を赤くしたままうつぶせで倒れている竜を見る。

 

 男に刺激が強すぎる。

 

 その言葉の意味が分からないほどイタコ先生は初心(うぶ)ではなく、なぜかは不明だがイタコ先生の視線は自然と竜のお尻の方に向いてしまっていた。

 

 

「ちゅわぁ・・・・・・」

 

 

 いったいナニを想像したのか。

 イタコ先生は両手を頬に当て、顔を赤くしながら小さく声を上げる。

 それと同時にどことなく左右に体を揺らしており、そんなイタコ先生の様子にひめとみことは首をかしげていた。

 

 

「やっと、立ち上がれる・・・・・・」

「そういえば、竜お兄さんはなして寝てたと~?」

 

 

 うつぶせで倒れていたことにより、床の冷たさでナニかが落ち着いたのか竜がようやく立ち上がる。

 保健室の床はイタコ先生がこまめに掃除をしているのでそこまで目立った汚れなどはないのだが、それでも床であることに変わりはなく、竜の着ている制服は少しばかり汚れてしまっていた。

 

 竜が途中から、正確に言うのであればイタコ先生が応援をしてからうつぶせで倒れていたことが気になったひめは、竜にどうして倒れていたのかを尋ねる。

 

 

「あー・・・・・・、うん。それは、その・・・・・・な?」

「ぬーん?さっぱり分からんよ?」

 

 

 ひめの質問に竜は言葉を濁す。

 すでにイタコ先生には竜がうつぶせで倒れていた理由はばれてしまっているのだが、それでも竜は答えたくはなかった。

 竜の言葉にひめは首をかしげる。

 

 

「えっと、とりあえずイタコ先生は男がいるような場所でそういった格好はしないようにお願いします・・・・・・」

「は、はい。以後気をつけますわ・・・・・・」

 

 

 ちらちらとイタコ先生に視線が行ってしまいながらも竜はイタコ先生に男を興奮させるような衣装を着ないでほしいということを伝えた。

 もちろんイタコ先生も竜の視線には気づいており、顔を赤くしながら竜の言葉にうなずく。

 

 どうしてそんなことになっているのかが分からないひめとみことは、2人の様子に首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 保健室ではささらのことについて聞いてすぐに帰る予定だったはずなのに予想外に時間をくってしまった竜は少しだけ足を速める。

 今日の帰ってからの予定は“KIRIKIRI”とゲームをするというものであり、約束した時間までもう少しという時間になっていた。

 

 

「ぎーりぎりで間に合うか・・・・・・?」

「どうやろね?家まではもうちょいやし」

 

 

 竜の呟きにポケットに入っていたついなが答える。

 先ほどの保健室ではついなはどこにいたのかと思われるかもしれないが、じつは保健室に置かれているテーブルの上にいたので竜がうつぶせに倒れた際につぶされるようなことはなかった。

 

 ふと、竜は足を止める。

 目の前に落ちているのは桃色をした不定形のなにか。

 何かが落ちているのは竜の家の前で、近づかなくては家に入ることはできなさそうだ。

 

 

「・・・・・・なんだ、これ?」

「見た感じゼリーとかみたいやけど、よう分からんな?」

 

 

 恐る恐る竜は桃色の不定形の物体に近づく。

 どうやらこの物体は生き物のようで、呼吸をしているかのように小さく膨らんだりしぼんだりを繰り返していた。

 

 

「・・・・・・まぁ、みゅかりさんを拾ったりしたわけだしな。今更これが増えても変わらない、か?」

 

 

 そう言って竜は桃色の不定形の物体を拾う。

 そして、そのまま竜は家の中へと入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第344話




ウェブカメラに2Dを動かすためのソフト・・・・・・

あとはスチーム。

これさえそろえばVやるための準備は体を描いてもらうだけに!





 

 

 

 

 桃色の不定形の生き物。

 かなり前に拾ったみゅかりさんと同じように今までに見たことのない生き物が竜の目の前で眠って(?)いる。

 

 

「この生き物は・・・・・・、スライム?」

「みたいやねぇ。見たところ怪我らしい怪我はしとらんみたいやけど」

 

 

 寝ているように見える桃色の不定形の生き物、スライムを見ながら竜とついなは首をかしげる。

 見たところ目の前のスライムに怪我のようなものは見当たらず、どうして竜の家の前に落ちていたのかは分からなかった。

 

 

「ヤ、ヤデー・・・・・・」

「ん、起きたか?」

 

 

 鳴き声(?)にしてはやや甲高いような声を上げてスライムが体を揺らす。

 寝ていたスライムが鳴き声をあげたことに、竜は目が覚めたのかと顔らしき部分をのぞき込む。

 竜がスライムをのぞき込んでいると、パチリとスライムの目が開いた。

 

 

「・・・・・・ンナー?!」

「うぉっと?!」

 

 

 竜がのぞき込んでいることに気がついたスライムは大きな声を上げて後ろに素早く下がる。

 目が覚めてすぐに意外と素早い動きを見せたスライムに竜は驚き、思わず声を上げた。

 竜から離れたスライムは混乱した様子でキョロキョロと竜の家の中を見回す。

 

 

「ナ、ナンヤココー!」

「しゃべった?!」

「これはびっくりやな」

 

 

 人間の声よりもだいぶ高い声でスライムは言葉を発する。

 まさかスライムがしゃべるとは思っていなかったため、竜は驚いて固まってしまった。

 そんな竜とは対照的についなはどこかのほほんとしており、そこまで驚いた様子は見られていない。

 

 

「えっと、ここは俺の家だよ。君が家の前で倒れていたから家の中に入れたんだ」

「・・・・・・ホンマカー?」

 

 

 驚きつつも竜はスライムにどうしてここにいるのかの説明をする。

 その際に警戒をさせてしまわないように間違っても近づくようなことはしない。

 竜の言葉にスライムは少しだけ考えるような仕草を見せ、確認するように竜に尋ねた。

 スライムの言葉に竜はうなずくことによって応える。

 

 

「・・・・・・アンナー?ウチナー、“セヤナー”イウンヤー」

「セヤナー?少しだけ変わった名前だな?」

「せやね。うちや茜の言葉にちょっと似とるし」

 

 

 竜のことを少しだけ信頼したのか、スライム――――セヤナーは竜に自分の名前を言う。

 そして、セヤナーはゆっくりと竜に近づいていった。

 

 

「ウチノイモートハイッショニオランカッター?」

「妹?いや、見ていないかな」

「うちらが見つけたんは倒れとったセヤナーだけやね」

「だよなぁ・・・・・・、うん?」

 

 

 セヤナーの言葉に竜はセヤナー以外の生き物は見ていないと答える。

 答えた後に確認するようについなを見るが、同じようについなも他に生き物を見ていなかった。

 

 よくは分からないがセヤナーは妹のことが心配なのだろう。

 そう考えた竜はどうしたものかと頭を悩ませる。

 

 不意に、窓になにかがぶつかるような音が竜の耳に届いた。

 とくに風が強いというわけでもなく、なにかが飛んでくるような場所も近くにはない。

 聞こえてきた音に竜は首をかしげながら窓に目を向けた。

 

 

「・・・・・・青い布?」

 

 

 窓に目を向けた竜の目に映ったのは窓にへばりついている青い布のようなものだった。

 どこから飛んできたのかは分からないが、先ほどの音はこの布がぶつかった音だったのだろう。

 

 

「アオ・・・・、ヤナクテ“ダヨネー”!」

「だよねー?」

「もしかしてあの窓にへばりついとる布のことなんかな?」

 

 

 窓にへばりついている布をはがそうと竜が窓に近づくと、セヤナーが驚いたような声を上げる。

 その際になにやら名前のようなものを言っており、竜とついなは交互にセヤナーと窓にへばりついている青い布を見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第345話




もうすぐバレンタインデーですか・・・・・・

どうしようかなぁ・・・・・・





 

 

 

 

 桃色のスライム、セヤナーの言葉に首をかしげながら竜は窓にへばりついていた青い布のようなものを掴み、じっくりと観察してみる。

 青い布のようなものにはなにやらリボンのようなものがついており、その近くにはセヤナーと同じように顔のようなものがあるように見える。

 

 

「ウ、ウーン・・・・・・。オネーチャン・・・・・・」

「こっちもしゃべった?!」

 

 

 どうやら窓にぶつかった衝撃で目を回していたのか、青い布のようなものはうめき声をあげる。

 声を出したことから分かるように、どうやらこの青い布のようなものは生き物だったようだ。

 青い布のような生き物が声を出したことに驚きつつ、うっかり落としてしまわないように両手でしっかりと青い布のような生き物を持った。

 

 

「ソノコナー、ウチノイモートー」

「この生き物が・・・・・・?」

「似とらん妹さんやね?」

 

 

 竜の持っている青い布のような生き物に向かって自身の体を伸ばして触手のようにして指さしながらセヤナーは言う。

 セヤナーの言葉に竜とついなは少しだけ驚いた表情で竜が手に持っている布のような生き物を見る。

 

 セヤナーと竜が手に持っている青い布のような生き物。

 どう見てもその姿は似ておらず、とても姉妹だとは思えなかった。

 

 

「ウーン・・・・・・、ハッ?!」

「お、起きたか。・・・・・・っと、こっちは飛べるのか」

 

 

 目を回していた状態から回復したのか、青い布のような生き物は目を開けて先ほどのセヤナーと同じように驚いたような声を上げた。

 そして、青い布のような生き物は竜の手からふわりと飛び上がると、ふわふわと飛んでセヤナーの後ろに隠れてしまう。

 自分の手からふわふわと飛んでいった青い布のような生き物の姿に竜は少しだけ驚くが、以前にけだまきまきが空を飛んでいる姿を見ていたことからそこまで驚きは大きくなかった。

 

 

「オネーチャン、ドウシテ―?」

「ヤ―、チョットサンポシトッタラニャンコニオソワレタンー」

 

 

 セヤナーの後ろに隠れながら青い布のような生き物はどうしてここにいるのかを尋ねる。

 妹である青い布のような生き物はに尋ねられたセヤナーはどうして竜の家にいるのかを答えた。

 

 どうやらセヤナーは散歩をしている途中で猫に襲われ、竜の家の前で倒れてしまったらしい。

 セヤナーの言葉にどうしてここにいるのかを納得したのか、青い布のような生き物は竜とセヤナーのことを交互に見た。

 

 

「アラタメテナー。コノコ、ウチノイモートノ“ダヨネー”ヤー」

「エ、エット・・・・・・、ダヨネーデスー」

「セヤナーとダヨネーか。俺は公住 竜っていうんだ。よろしくな」

 

 

 青い布のような生き物の様子が落ち着いたことを理解したのか、セヤナーはあらためて青い布のような生き物――――ダヨネーの名前を竜たちに言った。

 姉であるセヤナーに紹介され、ダヨネーは恥ずかしそうにしながら竜に向かって挨拶をする。

 ダヨネーの挨拶を聞き、竜はセヤナーとダヨネーの2匹に自分の名前を教えた。

 

 

「リョウー。ヨロシュー」

「ヨロシクー」

「ああ、よろしくな」

 

 

 そう言ってセヤナーは触手のように自分の体を伸ばして、ダヨネーは布のような体の端の部分を竜に向かって差し出す。

 おそらくは握手をしようということなのだろう。

 

 2匹の意図を理解した竜はためらうことなく差し出された部分を握るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第346話




文字数が少ない・・・・・・

スランプというのはおこがましいかもですが、そんな感覚が・・・・・・






 

 

 

 

 セヤナーとダヨネーの2匹と握手をした竜はゲームの準備をしていく。

 もともと“KIRIKIRI”とゲームで遊ぶ約束をしており、そのための準備だ。

 竜がゲームの準備をしているのをセヤナーとダヨネーは興味深そうに見ている。

 

 

「ゲームスルンー?」

「ナニヤルノー?」

「うん?“KIRIKIRI”っていう友達とPSO2とかモンハンとかをやる約束をしてたんだよ」

 

 

 セヤナーとダヨネーがゲームを知っていることに竜は少しだけ不思議に思いつつ、どうしてゲームの準備をしているのかを答えた。

 

 

「みゅーみゅ!」

「んお。みゅかりさん、遊びに来たのか」

 

 

 不意に聞こえてきた鳴き声に竜は顔を上げる。

 見るといつの間にかソファーにみゅかりさんが座っており、竜のことを見ていた。

 みゅかりさんの姿を確認した竜はひらひらと軽く手を振る。

 

 

「ミュカリサンヤー」

「アソビニキタノ―?」

「みゅい?!」

 

 

 ソファーに座っていたみゅかりさんの近くにセヤナーとダヨネーが移動し、みゅかりさんに声をかける。

 2匹に声をかけられたみゅかりさんは驚きの声を上げた。

 

 

「みゅみゅーみゅ!みゅいみゅいみゅみゅみゅみゅ?!」

「ヤー、ノラネコニオソワレテタオレトッタトコヲリョウニタスケテモラッタンヤ」

 

 

 おそらくみゅかりさんはどうしてセヤナーとダヨネーがここにいるのかを聞いたのだろう。

 みゅかりさんの言葉にセヤナーはうなずき、どうしてここにいるのかを答えた。

 セヤナーの説明に納得がいったのか、みゅかりさんはふーんといった様子でうなずく。

 

 

「みゅかりさんと知り合いだったんだな。そうなるとけだまきまきとかあかり草とも知り合いなのかな?」

 

 

 セヤナーとダヨネー、みゅかりさんの様子から3匹が知り合いなのだろうということが分かり、竜は他にも自分が知っている生き物、けだまきまきとあかり草とも知り合いなのかもしれないと呟いた。

 そんな竜の呟きが聞こえたのか、セヤナーたちは一斉に竜へと顔を向けた。

 

 

「ケダマキマキトアカリソウノコトモシットルデー」

「みゅみゅい!」

「ミンナトモダチダヨー」

 

 

 そう言ってセヤナーとダヨネーはみゅかりさんのことを持ち上げる。

 セヤナーは触手で持ち上げ、ダヨネーは空に飛んでみゅかりさんの腕を掴んで持ち上げていた。

 2匹に持ち上げられたみゅかりさんは楽しそうに鳴き声をあげており、持ち上げられて嫌そうにはしていなかった。

 

 

「ほーん。まぁ、仲がいいのは良いことだな」

 

 

 セヤナーとダヨネーの言葉に竜はうなずき、簡単な感想を言った。

 そしてゲームの準備が完了し、竜はゲームの電源をつける。

 

 

『こんにちはです。さっそくですけどどのゲームをしますか?』

「そうだなぁ、緊急がもうすぐ来るみたいなんでPSO2をやりません?」

 

 

 ゲームの電源を入れた竜は、そのまま“KIRIKIRI”に通話を入れる。

 そして、手早く遊ぶゲームを決めてゲームを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第347話






なんだかUAの伸びが良いような?

寒暖差がすごくなっているらしいので体調に気をつけてください。




 

 

 

 

 竜の操作するキャラクターと、“KIRIKIRI”の操作するキャラクターが画面内を駆ける。

 2人の操作するキャラクターの目の前にいるのはいまにも大穴から抜け出そうとしている巨大な眼を持つ巨体の化け物――――ゴモルス。

 2人はゴモルスの攻撃を避けながら、それぞれ左右のエリア端に存在する触手についている眼を攻撃していく。

 

 

『さすがに、2人だと厳しいですかね・・・・・・!』

「どうかね。とりあえずやれるだけやってみ、よう!」

 

 

 左右にある眼の数は合計で4つ。

 そして、いまここでゴモルスと戦っているのは竜と“KIRIKIRI”の2人だけ。

 このクエストは通常であれば12人で挑むクエストであり、平均的に半々ほどで眼に攻撃が集中するので適正レベルのメンバーがそろっているのであればほとんど時間をかけずにすべての眼を破壊することができるだろう。

 しかし、2人だけで挑んでいるということによって必然的に火力が落ちてしまっているのだ。

 眼から放たれる火炎、氷塊、落雷、旋風を回避しつつ、竜と“KIRIKIRI”は着実にダメージを与えていった。

 

 

「ガンバッテヤ―!」

「イケルイケルー!」

「みゅーみゅみゅー!」

 

 

 そんなゴモルスとの戦闘を繰り広げている竜のことをセヤナーたちは応援する。

 さすがに挑んでいる相手が相手なだけに邪魔をしてはいけないということは分かっているようで、その応援は竜の邪魔にならないように少しだけ離れた場所からおこなっていた。

 

 そして、竜と“KIRIKIRI”の攻撃により、左右に展開されていた4つの触手についていた眼が破壊された。

 

 

「っし、第一段階終了!」

『次は第二段階ですね。隙を見つけたらすぐにフルコネクトを撃ち込まないと・・・・・・』

 

 

 4つの触手についていた眼が破壊されたゴモルスはわずかに大穴の中へと落下する。

 しかし、ゴモルスはすぐに近くの壁にしがみついて落下を止めてしまう。

 直後、ゴモルスの後を追うようにして竜たちの操作しているキャラクターたちが一段下のエリアに飛び降りた。

 

 

『原初ビームは・・・・・・、左から!』

「おけ、右の腕に向かうぞ!」

 

 

 “KIRIKIRI”が言うのと同時に、ゴモルスは正面から見て左の方から薙ぎ払うようにしながらビームを吐き出した。

 このビームの火力はかなりのもので、被弾すれば間違いなく一撃で倒されてしまうほどのダメージを受けてしまう。

 それが分かっているからこそ竜たちはビームの範囲外である一番右端のエリアに向かい、そこにあるゴモルスの腕を攻撃し始めた。

 

 

「フェルカァァー・・・・・・モルトォッ!!」

『セイバーデストラクション!セレスティアルコライド!シューティングスタァァー!!』

 

 

 竜の操作するキャラクターが目の前にエネルギーの塊を作り出し、ゴモルスの腕に多段ヒットさせる。

 その隣では“KIRIKIRI”の操作するキャラクターが自身の周囲にエネルギーの刃を生み出して回転させてゴモルスの腕を切りつけ、直後にかかと落としと武器による一撃を決めてさらに大きなエネルギーの刃を作り出して蹴り放つ。

 さらに“KIRIKIRI”はついでとばかりにエネルギーの刃を4本作り出し、流星のようにゴモルスの腕に突き刺した。

 

 高速で多段ヒットする攻撃の竜と、単発火力の高い技を連続でつなげて放つ“KIRIKIRI”。

 そんな2人の攻撃を受けてもゴモルスにはほとんど堪えた様子は見られない。

 

 それどころか力強く竜たちの操作するキャラクターたちのいる足場を破壊したり、拘束する追加効果を持つ咆哮をあげたりと竜たちを苦しめる攻撃を何度も繰り出してくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第348話




ゲームの配信をする際の使用許可とかいろいろと調べるのが大変ですねぇ。

基本的にPSO2とかモンハンを考えているんですけども。






 

 

 

 

 竜と“KIRIKIRI”。

 2人の連携によってゴモルスの第二形態、第三形態は突破される。

 すべての形態が倒されたゴモルスはそのまま大穴の底へと落下していった。

 

 

「まずは一段落、か」

『ですね。支援は・・・・・・、マトイからにしましょう』

 

 

 大穴の底に落下した衝撃でぐしゃぐしゃとなってしまっているゴモルス。

 かなりの高さから落ちたのだからこれで死んだのではないかと思うかもしれないが、竜たちはいまだに緊張した表情でコントローラーを握っている。

 

 そして、竜たちの他にいる3人のヒロインたちの内の1人、マトイに話しかけた竜と“KIRIKIRI”はゴモルスに向かって足を進めるのだった。

 

 

「さぁて、原初の闇の後半戦、ソダム戦の始まりだ」

『ここからは細かい攻撃が増えますからね。油断せずに行きましょう』

 

 

 竜たちがゴモルスに近づいた瞬間、ゴモルスのもっとも大きな眼から人型のなにかが飛び出してきた。

 黒い体に一対の翼、そして背後には左右に3本づつ結晶のようなものがついたリングのような装飾らしきもの。

 しかし、それらよりも特に目がいってしまうのはその人型の顔だろう。

 いや、その場所を顔と呼ぶのはいささか間違いかもしれない。

 なぜなら人であれば顔のある場所、そこが完全な空洞となっているからだ。

 

 なお、人数がそろって慣れている人たちにとってはそこまで脅威でもなくなってしまっているため、「ドーナッツ」やら「羽根のない扇風機」などなどラスボスらしからぬあだ名がつけられている。

 ついでに言っておくとゴモルスに至っては「ゲロ」やら「酔っ払い」といったあだ名ばかりなので、それと比べるといくらかマシなのかもしれない。

 

 

「カタナデイクンヤネー」

「カウンターネライー?」

「みゅみゃみゃう、みゃーみゃ」

 

 

 竜の操作しているキャラクターの持っている武器を見てセヤナーは不思議そうに言う。

 竜が使っているクラスは後継職である“ファントム”。

 このクラスはロッド、アサルトライフル、カタナの3種類の武器を用いて戦うクラスなのだが、その中でもカタナだけは使用率が他の2つよりもやや劣っているのだ。

 べつにカタナが弱いというわけではないのだが、それでもロッドによる魔法攻撃の多彩さや、アサルトライフルによる遠距離からの安定した攻撃などと比べてしまうと見劣りしてしまうのだろう。

 

 ちなみに、葵もPSO2で遊ぶときは“ファントム”を好んで使っており、メイン武器として使っているのはアサルトライフルだったりする。

 

 

「まぁな。こっから最後のとどめの状態になるまではカタナでいった方が安定しててな」

「カタナハムズカシイー」

「ウチハヒーローシカツカワンー」

「みゅーみゅ、みゃみゅみゃー」

 

 

 セヤナーの言葉に竜はうなずき、カタナを使っている理由を答える。

 竜は“ファントム”を使うときは基本的にカタナを使っており、雑に戦いたいときはロッド、適当に雑魚を倒したいときはアサルトライフルと武器を使い分けている。

 そのため、カタナの扱いに関しては少しだけ自信があるのだ。

 

 そして、デュアルブレードを持った“KIRIKIRI”とともにゴモルスから飛び出してきた人型の敵、ソダムへと斬りかかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第349話




UA93000を超えるのでアンケートを始めます。

期間はUAが96000になるまでとなります。






 

 

 

 

 竜の操作するキャラクターが武器をふるい、それに合わせていくつもの光弾がソダムに向かって発射される。

 この光弾は“ファントム”のスキルによって放つことのできるもので、ファントムの攻撃手段の中ではなかなかの威力を持っているため、可能な限りは狙っていきたい攻撃の1つではある。

 ちなみに、この光弾を撃つためには敵の攻撃を回避して『キィンッ』という音を鳴らす必要がある。

 そしてこの光弾は1つしかストックできないので、ストックできたらすぐに攻撃して敵に放ったほうが良いだろう。

 この光弾は基本的にターゲットしている敵に自動的に放たれるため、距離に関係なく放ってしまっても問題ないのだ。

 

 

「オー、サンレンショウゲキハヲカイヒシトルー」

「シカモカウンターデコウゲキモハサンデルネー」

「みゅーみゅみゅー!みゅいみゅみゅ!」

 

 

 ソダムの攻撃の1つ、3連続全方位衝撃波を回避しながらカウンター攻撃を放つ竜にセヤナーたちは興奮気味に声を上げる。

 この攻撃は全方位に連続で高火力の衝撃波を放つというもので、タイミングを合わせて回避するか、予備動作のときに距離をとって遠くから攻撃するしか対抗策はない。

 衝撃波を回避して光弾をストックし、次の衝撃波が放たれるよりも前に攻撃して光弾を放ち、直後に次の衝撃波を回避する。

 この動きを連続でおこなうことによって竜はソダムが攻撃中でもダメージを与えることができている。

 

 ちなみに、竜がカウンター攻撃を放ってダメージを与えている横で“KIRIKIRI”はデュアルブレードの固有アクションであるガードを使って衝撃波を防ぎながら普通にソダムに殴りかかっていた。

 

 

「エトワールはやっぱりジャストガードが便利だな」

『それを言ったらファントムのカウンター攻撃もダメージ大きすぎません?』

 

 

 ジャストガードをして衝撃波を防ぐ“KIRIKIRI”の操作しているキャラクターを見ながら竜はつぶやく。

 “KIRIKIRI”の操作しているキャラクターのクラスである後継職の“エトワール”。

 このクラスは防御力がかなり高く、武器ごとのアクションも防御に適したものとなっている。

 そのため、タイミングを合わせて敵の攻撃を防いだり、高い防御力を活かしてダメージを抑えつつ攻撃をしていくといった戦い方ができるのだ。

 

 竜の呟きに“KIRIKIRI”も思ったことを言う。

 “KIRIKIRI”の言う通り、“ファントム”のカウンター攻撃の威力はかなり高く、普通に技を当てるのと同じか、それ以上のダメージをたたき出すことができる。

 “エトワール”にはカウンター攻撃はなく、カウンターをするだけで高いダメージを出すことのできるカウンター攻撃は少しだけ羨ましくもあったのだろう。

 まぁ、“エトワール”にはカウンター攻撃がない代わりにジャストガードがあったり、コネクト、フルコネクトの連続使用による瞬間最大火力をたたき出せる技があるのだが。

 

 つまるところはどちらのクラスにも長所があり、それを使いこなすことができるかが一番のポイントになるのだ。

 

 そして、竜たちの攻撃を受けたソダムは最終段階へと姿を変えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第350話





明日はバレンタインデーですか・・・・・・

この時勢ですから手作りチョコとか嬉しいのと、ちょっと怖くもありますよね。






 

 

 

 

 『原初の闇』その最後の姿が竜と“KIRIKIRI”の前にあらわとなる。

 最後の姿、それは最初に戦ったゴモルスと、先ほど戦っていたソダムが融合した姿。

 ゴモルスの一番大きな眼にソダムが刺さっており、フィールドの半分以上をダメージエリアが侵食している。

 

 

「さぁて、最後の締めだ」

『ここまでこれればあと少しですね。気を引き締めていきましょう』

 

 

 動き出した原初の闇の姿に竜と“KIRIKIRI”は気合を入れなおして戦闘に挑む。

 

 原初の闇の攻撃方法、それは先ほどまでの魔法のような攻撃を主体としていたソダムとは一転して、ゴモルスの腕による攻撃がメインとなってくる。

 

 手を開いた状態で叩きつけをおこない、そこに追撃として火球、もしくは氷塊を放つ。

 手を握りしめて地面を2回叩き、落雷、旋風、土槍を発生させる。

 手を開いて押し出すようにしながら正面に突き出し、周囲にキャラクターを高く吹き飛ばす竜巻を発生させる。

 といった攻撃を左右の手でランダムに放ってくるのだ。

 

 また、手を使った攻撃以外にも最初の戦闘のときにゴモルスが使ってきていた口から吐き出してくるビーム、通称ゲロビームや、ダメージエリアを広げる攻撃、通称ゲロなんかも使ってきたりする。

 ビームやダメージエリアを広げる技の通称が汚くないかと思うかもしれないが、どちらの攻撃もゴモルスの口から放たれており、さらに言えば吐き出している攻撃がどちらも白く濁っているので余計にそういったものに見えてしまうのだろう。

 

 

「フタリデココマデヤレルンヤナー」

「ダメージガタリナインジャナイカッテオモッテタヨー」

「みゅみゅみゅーみゅ。みゅいみゅい」

 

 

 竜が原初の闇の攻撃を回避してカウンターの光弾を溜め、“KIRIKIRI”はジャストガードで完全にダメージをなくす。

 原初の闇、ゴモルスとソダムの特徴ともいえるのが予備動作が分かりやすくて回避のしやすい攻撃だろう。

 たしかにソダムとゴモルスの攻撃力は高く、一撃でかなりのダメージを受けてしまう攻撃も多い。

 しかし攻撃の予備動作が分かりやすいためにカウンターやジャストガードのできるクラスであればそこまで苦労することなく被ダメを抑えることができるのだ。

 とくに後継職である“ファントム”であれば回避の後に素早く攻撃をして光弾を飛ばすことが可能で、“エトワール”であればジャストガードで攻撃をし続けながらガードが、“ヒーロー”であればツインマシンガンかタリスでのカウンター攻撃が、“ラスター”であれば回避してからの前方ステップ派生の斬り捨てか後方ステップによるガードとカウンター攻撃、さらに“ラスター”で武器が光属性か氷属性であれば強化状態にまで持ち込むことが可能になる。

 

 これだけいくつもの強力な手札があるのは後継職ならではだといえるだろう。

 

 

「オ、ユビワガゼンブコワレタデー」

「エット、イロイロナフクゴウバフガモラエルヤツダネー」

「みゅみゅい!みゅんみゅみゅみゅー!」

 

 

 不意に、ゴモルスの左右の指に着けられていた指輪がすべて破壊される。

 すると先ほどソダム戦に入る前にいた3人のヒロインのうちの1人の声が聞こえてきた。

 声が聞こえてきた直後、竜たちの操作しているキャラクターにかなりのステータスアップがかけられる。

 これはゴモルスの左右の手についている合計20個の指輪をすべて破壊したときに発動するギミックで、バフ以外に一定時間原初の闇の動きを止める効果や、かなりの大ダメージを原初の闇に叩き込む効果なんかもあったりする。

 

 このギミックはソダム戦に入る前に現れたヒロインたちにどれだけの人数が話しかけたかによって順番が変化する。

 そのため、欲しい効果があるのであればその効果を発動するヒロインにだけ話しかけたほうが良いだろう。

 

 そして、竜と“KIRIKIRI”はかけられたバフによって強化された火力で原初の闇を攻撃していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第351話



バレンタインデーですねー。

ツイッターのフォローをしてくれている人にチョコを作りました。

やっぱり喜んでもらえるっていうのは嬉しいですね。






 

 

 

 

 振り下ろされる巨大な腕。

 腕が地面にぶつかる直前、竜の操作するキャラクターは回避をし、“KIRIKIRI”の操作するキャラクターはジャストガードをする。

 これによってどちらも原初の闇の攻撃を完全に防ぎ、ダメージを受けることなくやりすごすことができる。

 さらにそこから竜たちは止まることなく振り下ろされた腕に攻撃を叩きこんでいく。

 

 

「っと、これで2回目の指輪全破壊!」

『次はどっちが・・・・・・、ヒツギですね!』

 

 

 すべての指輪が破壊され先ほどのヒロインとは違うヒロインがスキルを発動させた。

 こちらのヒロインが発動させたのは、原初の闇の腕を貫き、地面に固定するスキル。

 さすがに永続的に固定するわけではないが、それでもかなりのダメージを叩きこむことができる大きな隙を作れるスキルだ。

 

 

「この状況ならロッドでフェルカーモルトが安定、か」

『むしろもうロッドで戦ってもいいんじゃないですか?』

 

 

 カタナからロッドへと武器を持ち換え、竜は原初の闇の腕に多段ヒットする技を叩きこむ。

 そのヒット数は怖ろしいほどの量で、1万を超えるダメージのログが大量に画面上に出現していた。

 

 その近くでは“KIRIKIRI”がコネクト、フルコネクトの大技を連続で叩きこんでおり、カンストダメージの999万9999とまではいかなくとも、かなりのダメージをたたき出していた。

 

 

「ヤッパリフェルカーモルトハエッグイナァ」

「レンゾクヒットデイッキニダメージガデルモンネー」

「みゅーみゅみゅ。みゅみゅーい」

 

 

 しばらくして、原初の闇の腕が解放され、指に指輪が復活する。

 まだスキルを発動していないヒロインは1人残っているので、もう一度指輪をすべて破壊すれば最後の1人のスキルも見ることができるだろう。

 

 

「残り時間は・・・・・・、10分くらいか。きついかな・・・・・・?」

『ですかね・・・・・・っと。いえ、もう終わりみたいですよ!』

 

 

 クエストが強制的に終了してしまうまで残り10分ほど。

 そのことを竜は悔しげにつぶやく。

 

 さすがに2人で挑むのはまだ早かったのか。

 あとはどんな工夫をしていけばいいのか。

 

 竜の中で焦りが蓄積されていく。

 そんな竜の言葉に“KIRIKIRI”は肯定しかけ、言い切る前に訂正をした。

 

 見れば原初の闇が大きくのけ反り、地面のダメージエリアがすべて消失している。

 これは原初の闇の残り体力が少なくなっている証拠であり、ラストスパートをかける合図だ。

 

 

「うっし、とどめのフェルカーモルト!!」

『こっちは普通に殴りですかねー。うかつにフルコネまでやると事故死しちゃいますし』

 

 

 ラストスパートをかける状態だからと無防備で攻撃を仕掛けてはいけない。

 この状態の原初の闇でももちろん攻撃を仕掛けてくるので、それを回避しながら攻撃をしていかなくてはいけないのだ。

 そのため、“KIRIKIRI”はダメージは大きいが隙の大きいコネクト、フルコネクトを使わずに通常攻撃で原初の闇を殴っていった。

 では竜がフェルカーモルトを撃っているのは危険ではないかと思うかもしれないが、フェルカーモルトにはガードポイント、つまりは相手の攻撃を防ぐことのできるタイミングが存在しているのだ。

 そのため、竜は原初の闇に対してフェルカーモルトを叩きこむことができていた。

 

 ラストスパートが始まってしばらくして・・・・・・。

 

 原初の闇は、その身を光へと変えて消失していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第352話





ようやく原初の闇との戦いが終わりました・・・・・・。

さて、次は竜と“KIRIKIRI”は何の遊びをしますかねぇ・・・・・・








 

 

 

 

 原初の闇が消え、竜と“KIRIKIRI”は緑と光のあふれる場所に降り立つ。

 周囲には命の光が見え、先ほどまで戦っていた場所とは真逆の印象を受ける。

 

 

「ぬわぁぁああん、疲れたもぉぉぉおおおん・・・・・・」

『そうですね。普段とは違ってここまで疲れるとは思いもしませんでしたね』

 

 

 コントローラーを持つ手をぐてっと脱力させながら竜は疲れ交じりに言う。

 そんな竜の言葉に同意するように“KIRIKIRI”もやや疲れを感じさせるような口調で答えた。

 

 

『さすがにソロは無理でも2人ならもう少し簡単に行けると思ったんですけどねぇ』

「いやぁ、もうちょい武器のOP付けを考えないとキツイわ・・・・・・」

 

 

 竜も“KIRIKIRI”はどちらも原初の闇をソロクリアしている動画を見ており、さすがにソロは難しくても2人ならいけるだろうと考えていた。

 しかし予想に反して手こずり、想像以上に疲れが溜まってしまったのだ。

 

 

「とりあえずPSO2はこれで十分ですかね。次はなににしますか?」

『うーん・・・・・・。ちょっと原初の闇で疲れてしまいましたしね。なにかのんびりできるものは・・・・・・』

 

 

 もともとの予定としていろいろなゲームをして遊ぶという約束なので、ちょうどいい区切りとして竜と“KIRIKIRI”はPSO2を終了する。

 先ほどまでの原初の闇との戦いにけっこう精神的に疲れてしまっている“KIRIKIRI”はなにか精神的に落ち着くことのできるゲームはないかと考える。

 

 

「のんびり・・・・・・。モンハンとかデッドバイとかはあまり落ち着きませんしねぇ・・・・・・」

『地球防衛軍も同じくですね。あとは・・・・・・』

 

 

 竜と“KIRIKIRI”はそれぞれやる予定のあったゲームを挙げていくが、そのどれもが落ち着けるようなものではなかった。

 竜の様子にゲームを見ていたセヤナーたちは不思議そうに首をかしげる。

 

 

「ノンビリデキルゲームー?」

「ソンナンアッタカナァ・・・・・・?」

「みゅみゅみゅーう。みゅーみゅい」

 

 

 竜と同じようにセヤナーとダヨネーが頭を悩ませていると、みゅかりさんが1つのソフトをも指さしながら鳴き声をあげた。

 みゅかりさんの鳴き声に竜は不思議に思い、みゅかりさんの方を向く。

 

 

「どうしたんだー?うん・・・・・・?」

 

 

 みゅかりさんが指さしていたのは有名な落ちものゲーム。

 そのソフトを手に取り、竜はうなずく。

 

 

「ぷよテトはどうですかね?」

『ぷよテトですか。まぁ、たしかに他のものよりは落ち着いてやることができますよね。それで大丈夫ですよ』

 

 

 竜が提案したゲーム、ぷよテトとは落ちものゲームとして有名な“ぷよぷよ”と“テトリス”を合体させたゲームのことだ。

 落ちものゲームということで多少は焦ったりすることがあるかもしれないが、それでも先ほどの戦闘のようなギリギリの勝利のような精神的な疲労を受けることはまずないだろう。

 そして、竜と“KIRIKIRI”はぷよテト、───────正式名称は“ぷよぷよテトリス”で遊び始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第353話





エペをやってるとやっぱり思うのはワイワイと話しながらできることの楽しさですね。

基本的に友達と通話をしながらプレイしているのですが、やはり野良でやるときと楽しさが変わってきます。






 

 

 

 

 こんこんと降り積もっていく2色の眼のついているスライム────ぷよ。

 降ってくるぷよたちの色は5色あり、とてもカラフルにテレビ画面の上から下に向かって落ちていっている。

 テレビ画面には5色のぷよたちが大量に積まれており、同色のぷよたちは身を寄せ合うようにしてくっついていた。

 

 

「くっ、お邪魔が・・・・・・!」

『ふっふっふ、これでとどめにしてあげましょう!』

 

 

 相手がぷよを消したことによって発生する通常のぷよとは異なる白いぷよ────お邪魔ぷよによってぷよを落としたかった場所を潰された竜は悔し気に声を上げる。

 そんな竜の声に“KIRIKIRI”は得意げに笑いながらぷよをある地点に落とした。

 

 ぷよが落ち、下にあった同色のぷよと接触した瞬間、そのぷよは目を大きく開いて驚いたかのような表情になり、消失した。

 さらにぷよが消えるのは止まらず、先ほどのぷよが消えたことによって生じた空間に落ちた別のぷよが同色のぷよと接触し、さらに消えていく。

 そうして、かなりの量が積まれていた“KIRIKIRI”のぷよたちは連鎖的にどんどんと消えていった。

 

 

『えい、ファイヤー、アイスストーム、ダイアキュート、ブレインダムド、ジュゲム、ばよえ~ん、ばよえ~んばよえ~ん』

「めっちゃ連鎖してやがる。・・・・・・っていうかメスガキみたいな言い方やめい?!」

 

 

 ぷよが消えるたびに“KIRIKIRI”は言葉の後ろにハートマークが付いていそうな言い方で連続消しのときに操作しているキャラクターが言うセリフを言う。

 “KIRIKIRI”の声はかなり幼く聞こえることからメスガキ風に言っていることに違和感が感じられず、竜は思わずツッコミを入れた。

 

 

『ふふん。大勝利、です!』

「ぐぬぬぬ・・・・・・」

 

 

 画面の空いているスペースををお邪魔ぷよが埋め尽くし、どこにもぷよを置けなくなった竜は悔し気にうめき声をあげる。

 “ぷよぷよ”というよりも落ちもの系のゲームにほとんどいえることなのだが、基本的に画面の一番上の部分に達するか、どこにも置くスペースがなくなった時点でそのプレイヤーは敗北者となる。

 今回は“KIRIKIRI”がすさまじい連鎖を起こしたことによって大量のお邪魔ぷよが発生し、竜の画面を埋め尽くしたことによって勝敗が決まったのだ。

 

 

「スゴイレンサヤッタナー」

「ミュカリサンハアンナレンサデキルー?」

「みゅあう?みゅう・・・・・・、みゅーみゅ」

 

 

 “KIRIKIRI”によって起こされた連鎖を見てセヤナーは感心したような声を上げる。

 ダヨネーに尋ねられ、みゅかりさんは少しだけ考え込み、顔を横に振りながら鳴き声をあげた。

 

 なお、“KIRIKIRI”が起こした連鎖なのだが、ベテラン勢やガチ勢からすればこれでもまだ初心者の域を出ていないらしい。

 

 

「くっそぉ、次だ次!次はテトリスで勝負!」

『良いでしょう!次もまた私が勝たせてもらいますけどね!』

 

 

 負けたことを切り替えるように声を上げ、竜は“ぷよぷよ”から“テトリス”へとゲーム内容を変える。

 

 “テトリス”というゲームは落ちもの系のゲームとしてはかなり有名で、名前が分からなくても4つのブロックが真っ直ぐにつながっているものや、正方形につながっているもの、L字型につながっているものなどを組み合わせて横一列に並べて消していくゲームと聞けば理解ができるのではないだろうか。

 “テトリス”は全部で7種類のブロックを組み合わせて列を作り、ブロックを消していくというとてもシンプルなつくりのゲームだ。

 “ぷよぷよ”とはまた違った仕様の落ちもの系のゲームに竜と“KIRIKIRI”は気合を入れて勝負をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第354話




スピットファイアとセンチネル

この組み合わせが個人的に安定しますね。






 

 

 

 

 4つのブロックが真っ直ぐにつながっているものが縦に空いている穴に差し込まれる。

 ブロックが差し込まれたことにより、4列のブロックがすべて埋められ、消失する。

 それと同時に相手のエリアの下からブロックがせり出してきた。

 

 

『げぇっ?!ちょ、ま、待って!待ってぇ!』

「はっはっは、おちたな」

 

 

 下からせり出してきたブロックによって残っていたブロックたちが上に押し上げられ、“KIRIKIRI”は悲鳴を上げる。

 そんな“KIRIKIRI”の様子に竜は勝利を確信して笑う。

 そして、押し上げられたブロックの処理が間に合わずに“KIRIKIRI”の画面に【You Loose】の文字が表示された。

 

 

『ぬぅぁあああ・・・・・・』

「うっし、“ぷよぷよ”のリベンジ完了!」

 

 

 うめき声をあげる“KIRIKIRI”に竜はガッツポーズをとる。

 先ほど戦った“ぷよぷよ”では“KIRIKIRI”に負けてしまっていたため、竜はなんとしても“テトリス”では勝っておきたかったのだ。

 

 

「みゅーみゅ、みゅみゅい」

「うん?みゅかりさんもやってみたいのか?」

 

 

 不意に、みゅかりさんが前足を伸ばして竜の服を引っ張った。

 みゅかりさんに服を引っ張られ、竜は首をかしげながらどうしたのかと尋ねる。

 竜の言葉にみゅかりさんはうなずき、竜へと前足を出した。

 

 

「えっと、なんか友だちの動物がやってみたいらしいのでちょっと変わりますね」

『友だちの動物・・・・・・ですか?』

 

 

 竜の言葉に“KIRIKIRI”は不思議そうな声を上げる。

 まぁ、誰でもゲームで対戦をしているときにいきなり相手から「友だちの動物がゲームで遊びたがっている」などと言われても混乱してしまうだろう。

 そんな“KIRIKIRI”の言葉を聞きながら竜はコントローラーをみゅかりさんに手渡した。

 

 

「オツカレサンヤデー」

「カテテヨカッタネー」

「おう、ありがとうな」

 

 

 みゅかりさんにコントローラーを渡した竜は。セヤナーとダヨネーの言葉に竜は軽く手を上げて応える。

 竜からコントローラーを受け取ったみゅかりさんは竜の膝の上に移動し、ジッとテレビ画面を見た。

 

 竜の膝の上にみゅかりさんが乗ったことに、セヤナーとダヨネーは少しだけムッとした表情になる。

 

 

「みゅーみゅみゅ!みゅみゅーい!」

『む、この声が友だちの動物とやらですか』

「お、聞こえたか。そうそう、みゅかりさんって言うんだ」

『・・・・・・みゅかりさん?・・・・・・なるほど』

 

 

 竜の言葉とみゅかりさんの鳴き声からなにかを理解したのか、“KIRIKIRI”は小さくつぶやいた。

 “KIRIKIRI”のつぶやきはどうやら竜の耳には届いていなかったらしく、竜は不思議そうに首をかしげていた。

 そして、“KIRIKIRI”とみゅかりさんによる勝負が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第355話





遅れましたぁ・・・・・・

しかもここのところ文章量がやや少ない・・・・・・






 

 

 

 

 膝に乗っているみゅかりさんと“KIRIKIRI”が対戦しているのを横目に竜はセヤナーとダヨネーを見る。

 桃色のスライムであるセヤナーと、青色の布のような生き物のダヨネー。

 2匹の言葉からこの2匹が姉妹であるということは分かっているのだが、その見た目が違いすぎるためにとても姉妹だとは思えなかった。

 

 

「ドウシタンー?」

「あー・・・・・・。いや、姉妹っていうわりには似てないなぁ、と」

 

 

 竜の視線に気づいたのか、セヤナーは不思議そうにしながら竜に尋ねる。

 セヤナーに尋ねられ、竜は言ってもいいものかと少しだけ悩み、思ったことをセヤナーに言った。

 

 竜の言葉にセヤナーはダヨネーと顔を見合わせる。

 

 

「ソンナニニトランカナァ?」

「ニテルトオモウケドナァ」

「まぁ、気にしてないなら別にいいか」

 

 

 セヤナーとダヨネーの2匹がそれほど気にしてなさそうにしているため、竜も気にしないことにする。

 そして、竜はそっとセヤナーのことを持ち上げた。

 

 セヤナーを持ち上げた際の感触は、スライムということもあって水のような感触なのだが、それでもある程度の固さは維持しており、まるでゼリーを持っているかのようだった。

 

 竜に持ち上げられ、セヤナーは不思議そうに竜を見る。

 

 

「おー、ほど良く温かくて触り心地もいいなぁ」

「ナンヤハズカシイナァ・・・・・・」

 

 

 竜にまじまじと見られながら触った感触を言われ、セヤナーは恥ずかしそうに言う。

 どうやら触った感触などを言われるのは恥ずかしいことのようだ。

 

 そんな竜とセヤナーのことをダヨネーはややジトリとした目線で見ていた。

 

 

「みゅーみゅみゅ!みゅみゅい!」

「っと、どうしたどうした?」

 

 

 不意にみゅかりさんが不満そうに鳴き声をあげる。

 見れば画面が途中で止められており、みゅかりさんが停止(ポーズ)をかけたのだということが分かった。

 

 

「ミテイテクレナクテフマンナンジャナイカナァ」

「みゅーみゅい!」

 

 

 ダヨネーの言葉にみゅかりさんは肯定するように大きく鳴き声をあげる。

 どうやらダヨネーの言葉は合っていたらしい。

 

 

『いきなりポーズをかけたから何事かと思いましたが・・・・・・。そういうことだったんですね』

「みゅーみゅ!」

「あー、それはすまんかったな」

 

 

 てしてしと竜の膝を叩きながらみゅかりさんは抗議するように鳴き声をあげる。

 “KIRIKIRI”もいきなりゲームを止められたことに不思議に思っていたようだが、聞こえてきた竜の声になにがあったのかを理解したようだ。

 そして、竜はセヤナーを抱きかかえたままみゅかりさんのプレイを見るためにテレビ画面に顔を向ける。

 

 

「ナァー、ウチノコトオロサンノー?」

「触り心地が良いからもうちょい、な」

「ムー、セクハラダヨー」

 

 

 竜に抱えらえれているセヤナーはちらりと竜の顔を見上げながら自分のことを降ろさないのかを尋ねる。

 セヤナーの言葉に竜はセヤナーの頭を撫でながらもうしばらく触れていたいということを答えた。

 そんな竜とセヤナーのやり取りを聞いていたダヨネーは、ふわりと飛び上がり、竜の頭の上に着地して少しだけ非難するように声を上げる。

 

 

『さて、それでは勝負を再開するとしましょうか』

「みゅーみゅみゅ!」

 

 

 そして“KIRIKIRI”とみゅかりさんは“テトリス”の勝負を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第356話




スチームにディスコード・・・・・・

名前だけは知ってるんですけどねぇ・・・・・・






 

 

 

 

 みゅかりさんの操作するブロックが落下し、列がそろってブロックが消滅する。

 そしてそれによって“KIRIKIRI”の方のエリアが一段せり上がり、一番上へと到達した。

 

 

「みゅーみゅみゅ!」

「おー、勝てて良かったな・・・・・・」

 

 

 嬉しそうに鳴き声をあげるみゅかりさんの頭を撫でながら竜はやや疲れた表情を浮かべている。

 竜の近くではセヤナーとダヨネーも同じように疲れた表情になってしまっていた。

 

 

「ヨウヤクカッタナァ・・・・・・」

「ミュカリサンハマケズギライダカラ・・・・・・」

 

 

 竜たちが疲れた表情になってしまっているのも無理もない。

 なぜならみゅかりさんは“テトリス”で負けるたびにすぐにコンティニューをしてずっと戦っていたのだ。

 そして、ついさっきようやく勝てて満足したのか、みゅかりさんは大人しく竜に撫でられていた。

 

 

「ナンカイコンティニューシテタンヤッケー?」

「ワカンナイー。タブン10カイクライー?」

 

 

 セヤナーの言葉にダヨネーは首を振るように体を左右に揺らしながら答える。

 みゅかりさんが負けず嫌いなためになんども繰り返された“テトリス”。

 竜たちがこれだけ疲れているのだから、おそらくは“KIRIKIRI”も同じくらいには疲れているのではないだろうか。

 

 

『きりちゃーん、そろそろ晩ご飯ですわよー』

『あ・・・・・・、すみません。そろそろ晩ご飯みたいですので・・・・・・』

「ああ、もうこんな時間なのか・・・・・・。了解です」

 

 

 聞こえてきたどこか聞き覚えのあるような声に首をかしげつつ、竜は“KIRIKIRI”の言葉に答える。

 それと同時に、家に帰ってきてから晩ご飯の準備をしていたついなも竜たちのもとにやって来た。

 

 

「ご主人、そろそろ晩ご飯ができるでー」

「ん、ちょうどこっちも晩ご飯のタイミングだったか」

『・・・・・・ふむ。やはりこの声は・・・・・・』

 

 

 ついなの言葉に竜が答えていると、不意に“KIRIKIRI”のつぶやきが竜の耳に届いた。

 

 

『ええっと、それではまた今度遊びましょうね。竜兄さま(●●●●)

「えっ・・・・・・?!」

 

 

 そう言って“KIRIKIRI”は竜との通話を切る。

 突如として“KIRIKIRI”が自分の名前を言ってきたことに竜は驚き、思わず固まってしまう。

 

 

「ドウシタンヤー?」

「ナニニオドロイタノー?」

「みゅーみゅみゅー?」

「ご主人?」

 

 

 竜が驚き固まってしまったことにセヤナーたちは不思議そうに首をかしげる。

 セヤナーたちの言葉に軽く手を上げて応えながら竜は思考する。

 

 竜は、自分の名前をどこかで明かしたことはなく、基本的に書き込みなどをする際にも本名とは違う名前を使用している。

 そのため、名前を呼ぶことができたということから竜は自分の近くにいる誰かが“KIRIKIRI”なのではないかと推測する。

 次に気になるのは名前だけではなく兄さまという言葉を名前の後ろにつなげたこと。

 竜が知っている中で自分のことを兄さまと呼んでいるのはきりたんただ1人。

 

 

「・・・・・・って、これなら答えは1人じゃないか」

 

 

 自分のことを兄さまと呼んでいる人物の心当たりが1人しかいないことに思い至った竜はがくりと肩を落とす。

 よくよく思い返してみれば“KIRIKIRI”と遊んでいる際に聞こえてきていた声に「きりちゃん」という言葉もあったので、むしろいままで気づかなかったことの方が不思議なくらいだった。

 

 まぁ、これはきりたんと知り合う前に竜が“KIRIKIRI”と出会っていたために、別人だろうという思い込みから気づけなかったのだが。

 

 “KIRIKIRI”の正体がきりたんだということに、竜は頭に手を当てながら自分がまったく気づいていなかったことに対して溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第357話





朝とお昼の寒暖差が激しすぎてロードバイクに乗りにくい・・・・・・

もうちょっと差が小さければ乗りやすいんですけどねぇ・・・・・・






 

 

 

 

 竜がよくゲームで遊んでいる相手、“KIRIKIRI”が東北家3女のきりたんであるという事実に気づいた翌日。

 竜とついなはのんびりとあてもなく道を歩いていた。

 とくに何か買ったりするような予定もないのだが、それでも家にいるよりもぶらぶらと出かけたくなる時がふとした時にあるだろう。

 それがちょうど今日だったのだ。

 

 

「良い天気だなぁ・・・・・・」

「せやなぁ・・・・・・」

 

 

 ほどよく吹いている風と降り注ぐ太陽の光で気温も暖かく、散歩として歩くには最高と言ってもいいほどの環境だろう。

 そんな環境のため、竜とついなはどこか気の抜けたような状態になっている。

 

 

「くぁ・・・・・・。どっか行きたいとことかあるかー?」

「ふわぁ・・・・・・、とくには思いつかんなぁー」

 

 

 あくびをこぼしつつ竜はついなにどこか行きたいところはあるかを尋ねる。

 竜の言葉に隣を歩いていたからあくびがうつったのか、同じようにあくびをこぼしながらついなは答えた。

 

 

「そっかぁ・・・・・・」

「ポカポカやねぇ・・・・・・」

 

 

 とくに行きたいところなどはないというついなの言葉に竜は気の抜けた状態のまま答える。

 そんな竜の言葉についなはのんびりと目を細めて降り注ぐ日の光を受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、ジジババかぁあああああい!!!!」

「「ッ・・・・・・?!」」

 

 

 ズビシィッ、という擬音がつきそうな勢いで唐突に現れた茜がツッコミを入れる。

 その後ろでは葵がやや荒い呼吸をしながら膝に手をついていた。

 

 唐突な茜のツッコミに、のんびりとしていた竜とついなはビクリと肩を震わせ、驚いた表情で茜を見る。

 

 

「い、いきなりどうしたにゃ───────どうしたんや・・・・・・」

「どうしたもこうしたもあらへんわ!話を聞いてたらどこの縁側でお茶を飲んどるジジババかと思ったわ!」

 

 

 あまりの茜の勢いに思わず噛みながらついなは茜に尋ねる。

 ついなの言葉に茜は竜とついなの会話を聞いて率直に思ったことを答えた。

 まぁ、九十九神的な年齢で言えばついなは140歳を超えているので、ある意味ではお年寄りと言っても間違いではないのだろう。

 

 

「はぁ、やっと落ち着いた・・・・・・」

「だいぶ呼吸が荒かったけどどうしたんだ?」

 

 

 ついなが茜に絡まれているのを確認しながら、竜は呼吸の落ち着いてきた葵に詳しい話を聞こうと近づいて声をかける。

 

 

「あー、えっとね。天気が良くてなんとなく散歩をしようってことになって歩いてたんだ。そしてたらお姉ちゃんが竜くんたちの声が聞こえたって言って走り出しちゃって・・・・・・」

「ほーん。2人も散歩をしてたのか」

 

 

 竜の言葉に葵はここまで走ることになった経緯を簡単に説明する。

 どうやら茜と葵もこの天気の良さと温かさから散歩をしようということになり、偶然近くにまで来たらしかった。

 

 

「べつにこんなに気持ちのええ天気なんやからのんびりしたってええやん」

「それにしたってさっきまでの空気はゆるみ過ぎやと思うわ」

 

 

 いつの間にやら落ち着いてきたのか、茜はついなと普通に会話をし始めていた。

 そんな2人のもとに竜と葵も歩いていく。

 

 

「そんで?竜たちはなにをしとったんや?」

「いや、とくにはなにもないな。天気も良いし、なんとなくぶらぶらとしたくなったから散歩してただけだ」

 

 

 竜と葵が近づいてきたことに気がついた茜は竜になにをしていたのかを尋ねる。

 茜の言葉に竜はとくに隠すことでもないので予定もなく散歩をしていたのだと答えた。

 

 

「そうなんか?そんならうちらと一緒やね」

「らしいな。どうする?2人も一緒にぶらぶらするか?」

「人数が多い方が楽しいと思うしうちは賛成やで」

 

 

 竜の答えに茜はニコリと笑みを浮かべる。

 

 ここで出会ったのもなにかの縁ということで、竜は茜と葵も一緒に散歩をするか尋ねてみた。

 竜の言葉に2人は顔を見合わせ、コクリとうなずく。

 

 

「せやねー、そんならご一緒させてもらうわ」

「うんうん。こんな日もいいものだよね」

 

 

 そして、竜たちはまたぶらぶらと歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第358話





ううむ、この時勢ですから遠出とかができなくて困りますね・・・

釣りとかにも行きたいところなんですけどねぇ。






 

 

 

 

 茜と葵が加わり、竜たちは4人でのんびりと散歩を再開する。

 2人が加わった最初は茜がややテンションが高めだったためにいろいろと話をしていたのだが、時間が経つにつれて気温の温かさからじょじょにじょじょに口数が減っていき、いまでは先ほどまでの竜たちのようにのんびりと歩いていた。

 

 

「これは・・・・・・、眠いなぁ・・・・・・」

「本当だねぇ・・・・・・」

「さっきまでの俺たちがどんな状態か分かったかー・・・・・・」

「ポカポカして、すっごいやろー・・・・・・」

 

 

 あくびをこらえながら茜は言う。

 茜の言葉に同じようにあくびをこらえながら葵も同意した。

 

 そんな茜と葵の様子に、竜とついなは先ほどまでの自分たちの気持ちが分かっただろうと、同じように気の抜けたような状態で言った。

 

 

「っと、公園か。入ってみるかなぁ」

「おー、なんや懐かしいなぁ」

「公園なんてもうほとんど行かないもんねぇ」

 

 

 ふと視線を横に動かした竜は、自分がちょうど公園の入り口の前にいることに気がつく。

 公園の中を覗いてみれば、遊具で遊んでいる親子や、キャッチボールをしている小学生、砂場で砂のお城を作っている子どもの姿などなど、ちらほらと人の姿が見えた。

 

 竜の言葉に同じように公園の中を覗いた茜と葵は、懐かしそうにしながら公園の中へと足を踏み入れていった。

 

 

「まぁ、公園だし、そうそう遊具とかは変わってないよな」

「せやねぇ、あのブランコなんてずっと変わってないんちゃうか?」

 

 

 竜は公園の中をぐるりと見まわし、置いてある遊具などがとくに変わったりしていないことにポツリとつぶやく。

 竜の呟きに茜も目についたブランコを指さしながら言った。

 

 

「たしか、ボクたちが小学校くらいのときからずっとあのブランコだったよね」

 

 

 茜の言葉に葵もうなずき、どのくらい前から遊具が変わってないのかを思い出しながら答えた。

 

 

「おや、竜くんたちじゃないですか」

「お、ゆかりにマキ。そっちも散歩か?」

 

 

 公園の中をぐるりと歩いてみて回っていた竜は、ふと目の前をゆかりとマキが歩いていることに気がついた、

 それとほぼ同じタイミングで竜の存在に気づいたゆかりが竜たちに声をかけた。

 

 

「ええ、こんなにも天気が良いですからね。ですのでマキさんと一緒にふらふらと散歩をしていました」

「なるほど、特に予定もなくて散歩をしていただけなんだな」

 

 

 竜の言葉から竜たちも自分たちと同じようにとくに予定もなく散歩をしているだけなのだということに気がついたゆかりはマキと顔を見合わせる。

 

 

「えっと、私たちも特に予定はありませんので散歩にご一緒させていただいても?」

「ふむ。俺は別に構わないよ」

 

 

 ゆかりの言葉に竜はうなずき、一緒に散歩することに対して頷いて応える。

 

 そして、ゆかりとマキが竜たちの仲間に加わり、再びぶらぶらと歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第359話




UAが96000を超えましたので締め切ります。

選ばれたのはついなエンドとなりました。

アンケートの投票ありがとうございます。







 

 

 

 

 竜とついなはのんびりと散歩をしていただけなのに、気がつけば茜、葵、ゆかり、マキの4人と合流し、いつの間にやらなかなかの大所帯になっていた。

 女性が3人集まれば(かしま)しいとは言うものだが、ポカポカと暖かい気温の影響なのか茜たちはのんびりとした様子で会話をしている。

 

 

「いつの間にか人数が増えたなぁ・・・・・・」

「せやねぇ、あとはあかりもいたらいつものメンバーになるなぁ」

 

 

 歩きながら茜たちのことを見渡して竜はポツリとつぶやく。

 とくに示し合わせたわけでもないのにいつの間にか集まっていた茜たちに、竜はなんとなく嬉しさを感じていた。

 そんな竜の言葉についなはうなずき、ここにいないいつものメンバーの残りの1人の名前を挙げる。

 

 

 世の中には“フラグ”という言葉があることは知っているだろうか。

 “フラグ”とは、分かりやすく言うならゲームなどにおいて次のイベントが発生するために必要な会話を済ませたり、必要なアイテムを入手したりすることを指している。

 

 例として挙げるなら、『俺、この戦いが終わったら彼女と結婚するんだ』というセリフは“死亡フラグ”としてかなり有名なのではないだろうか。

 ちなみに上記のセリフをうっかり言った場合でも、友人や大切な人から預かったアイテムなどを所持していた場合であれば“死亡フラグ”にならない可能性がある。

 

 

 さて、なぜいきなり“フラグ”の説明をしたのか不思議に思うだろう。

 その答えは竜たちに向かって手を振りながら走ってくる1人の女の子を見れば分かるはずだ。

 

 

「せーんぱーい!!」

「・・・・・・あかりさんがいたら、と言った途端にあかりさんが現れましたね」

「なんだろうね。さっきの言葉が“フラグ”になってたとか?」

 

 

 手を振りながら走ってくる女の子、あかりの姿を確認したゆかりは先ほどのついなの言葉が“フラグ”となってあかりが現れたのではないか、とつぶやく。

 そんなゆかりの言葉にマキも苦笑いを浮かべながら答えた。

 

 まぁ、実際には“フラグ”というものはフィクションの中のものなので、ゆかりもマキも本気で言っているわけではないのだが。

 

 

「竜先輩!おはようございます!いなさんに先輩方も!」

「おう、おはよう。なんかテンション高いな?」

「おはようさんや」

「なんか、うちらはついで感があるな?」

「あはは・・・・・・。まぁ、仕方ないんじゃないかな?」

「自分の気持ちに正直という点では好感は持てますけどね・・・・・・」

「それでも少しは隠してほしいと思うけどねー」

 

 

 走ってきたあかりは竜の目の前で急ブレーキをかけ、元気よく挨拶をする。

 挨拶をしていること自体はいいのだが、ついでのように自分たちのことを言われた茜たちはやや不満そうな表情を浮かべる。

 

 

「それはもちろん、こんなに天気も良くて気持ちのいい日に竜先輩に会えましたからね!」

「お、おう。そうなのか・・・・・・」

 

 

 グッ、と両手を握り締めてガッツポーズを取りながらあかりは言う。

 恥じらう様子もなく言い切るあかりに、竜は照れくさそうに頬を掻きながら答えた。

 

 

「それで?あかりはどうして公園に?」

「えっとですね。バーベキューがやりたいなって思ったので、ここの公園にバーベキューをやるために来たんです!」

 

 

 頬を掻きながら竜はあかりがどうしてこの公園にいたのかを尋ねる。

 竜の言葉にあかりはパチンと手を叩いて公園にいる理由を答えた。

 

 見ればあかりの走ってきた先になにやら大量の冷蔵庫のような箱が置かれており、料理人らしき人がお肉を切ったり野菜を切ったりと忙しそうに動き回っていた。

 

 ちなみにこの公園はバーベキューをやることは禁止されていないため、キチンとバーベキュー用の場所でその光景はおこなわれていた。

 

 

「と、いうわけで、せっかくなんで竜先輩たちも一緒にどうですか?」

「ふーむ。それならお邪魔させてもらおうかな」

「なにげに時間ももうすぐお昼やしちょうどええね」

「うぉー!お肉やー!」

「あかりちゃんのおうちが用意したバーベキュー・・・・・・、ちょっとどんな食材なのか楽しみだね」

「どうせ外食をしようと考えていたところですし。ラッキーでしたね」

「そだねー。どんな美味しいものがあるのか楽しみだよー」

 

 

 せっかくだから一緒にバーベキューをしないか、とあかりは竜たちに提案する。

 あかりの言葉に竜たちは特に断る理由もないため、あかりの提案にうなずいてバーベキューの準備をしているところに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第360話





私の好みで竜が茜たちと関わっている場面しか基本的には書いていないのですが、竜が男友だちと関わっている話を読みたい方はいますかね?

まぁ、その場合でもついなは基本的についてきているのですが。






 

 

 

 

 ジュウジュウと肉の焼ける音がし、それと同時に油のはじける音がする。

 網の上に置かれているお肉は赤々としていたその色を変えていった。

 

 

「おー、ええ匂いがしてきたなぁ~」

「そうだねぇ~、さっきあかりちゃんから聞いたんだけどお肉はどれもけっこう高いものらしいよ?」

 

 

 周囲に広がるお肉の焼ける匂いを嗅ぎ、茜は思わずよだれをこぼしながら言う。

 そんな茜の様子に葵は苦笑しながらあかりから聞いたお肉の情報を教えた。

 

 

「それにしてもこの公園でバーベキューをできることは知っていましたが、自分たちがやることになるとは思ってもいませんでしたね」

「そうだね。・・・・・・っていうかバーベキューをやってる人ってほとんど見たことないもん」

 

 

 ぐるりと改めて公園を見渡してゆかりはしみじみと言う。

 

 いま竜たちのいる公園でバーベキューができることは誰もが知っていることなのだが、バーベキューをやっている人を見たことはほとんどない。

 そのため、まさか自分自身がバーベキューをやることになるとはゆかりにとっても予想外だったのだ。

 

 ゆかりの言葉にマキもうなずき、自分もバーベキューをしている人を見たことがないと答えた。

 

 

「肉を焼く網だけじゃなくて鉄板まで用意してあるのか。焼きそばとかか?」

「そうですよ。網だけでお肉や野菜、お魚なんかを焼くだけでも良いんですけど。やっぱり他にも食べたくなりますからね」

「あかりがこの量を食べ切れるっちゅうのは分かっとるんやけど。相変わらずすごい量の食材やなぁ・・・・・・」

 

 

 現在進行形でお肉が焼かれている網を見つつ、それ以外にも用意されている鉄板などを見て竜は確認するようにあかりに尋ねる。

 

 普通にバーベキューをするだけならば網を用意すればいいところをわざわざ鉄板まで用意する。

 それはつまり網で焼くと網の隙間から落ちてしまうようなものも用意していると竜は考えたのだ。

 

 竜の言葉にあかりはうなずき、他にも料理を用意してあるということを答えた。

 そんなあかりの言葉を聞きつつ、ついなは用意されている食材の多さに思わず口をポカンと開けてしまうのだった。

 

 

「お嬢様、最初の食材が焼き終わりました」

「ありがとうございます。そうですね・・・・・・、食材の内の半分ほどが焼き終わったらあなたたちも自分たちの分を焼いて食べてください」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 

 しばらく竜たちが雑談をしていると、大きな皿に様々な部位のお肉や焼き野菜、焼き魚を乗せた料理人たちがテーブルに運んできた。

 料理人の言葉にあかりは少しだけ考え込むと、どこまで焼いたら料理人たちも食べていいかを指示した。

 あかりの言葉に料理人は頭を下げ、料理へと戻っていく。

 

 

「さぁ、お肉に野菜、お魚が焼けましたから食べましょうか!」

「待っとったでぇ~!」

「うわぁ、どれも美味しそう」

「カルビにバラにロース、ハラミ、タン、レバー・・・・・・ここまで種類があるとどれから食べようか悩んでしまいますね」

「ゆかりん、お肉もいいけどちゃんと野菜も食べようね。竜くんもだからね?」

「うぐぅ・・・・・・、わぁったよ・・・・・・」

「バランスよく食べるのが大切やからねー」

 

 

 美味しそうに焼かれたお肉に野菜にお魚。

 どれも美味しそうな匂いを発しており、それらを目の前にした竜たちはいまにもよだれをこぼしてしまいそうなほどの表情になっている。

 

 そして、竜たちは用意されたお肉や野菜、お魚の味に舌鼓を打ちつつバーベキューを楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第361話




もともとの予定では1年で完結の予定だったんですけどねぇ。

ぜんぜん終わる気配がありません(笑)






 

 

 

 

 大量に用意されていた食材たちはその姿をすべて消し、紲星家の料理人や使用人たちが使用した調理器具などを片づけていく。

 片づけの手伝いくらいはしようと竜たちも動こうとしたのだが、あかりの友人ということで使用人さんたちにやんわりと断られてしまっていた。

 

 

「ふぅ、満足満足です」

「そりゃあ、あんだけ食べればなぁ・・・・・・」

 

 

 ポンポンと幸せそうに自身のお腹を叩くあかりの姿に竜はやや呆れた表情を浮かべながら答える。

 

 それもそのはず。

 あかりは用意されていた食材のおおよそ7割ほどを1人で食べきってしまったのだ。

 あかりが大量に料理を食べるのはいつものことなのだが、それでも今日はいつもよりも多く食べているように竜は感じていた。

 

 それは茜たちも同じだったようで、竜と同じような表情を浮かべてあかりのことを見ている。

 

 

「今日はなんやいつもより多く食べてへんかったか?」

「うんうん。学校ではもう少しだけ少なかったよね」

 

 

 あかりの食べた食材の量が普段よりも多いように感じた茜は思わず確認するように葵たちに尋ねる。

 茜の言葉に葵も同意して頷き、あかりの食べている食材の量が多かったということを答えた。

 

 

「それはほら、あれですよ。室内で食べるご飯も美味しいですけど、外でバーベキューをして食べるというのはまた違った美味しさがあるじゃないですか。ですので私がたくさん食べてしまうのも仕方がないことなんですよ!」

「それにしたって限度があるような気はするんですが・・・・・・」

「まぁ、あかりちゃんにとってあの量はぜんぜん食べられる量だったってことなんじゃないかな・・・・・・」

 

 

 茜と葵のいつもよりもたくさん食べていたのではないかという言葉にあかりはやや早口になりながらいつもよりも多く食べるのは仕方がなかったことなのだと答える。

 まぁ、どんな言い訳を言おうともあかりが普段よりも多く食べていることに変わりはないので、この言い訳に意味はほとんどないのだが。

 

 

「腹ごなしになんかやるか。あかり、なんか遊び道具とかってあったりする?」

「遊び道具ですか?えっと・・・・・・、フリスビーがありますね」

「おー、フリスビーええやん」

 

 

 竜の言葉にあかりはなにか遊び道具はないか荷物の中を探る。

 しばらく荷物をごそごそと探っていたあかりは1枚のフリスビーを取り出して竜に渡した。

 

 竜があかりからフリスビーを受け取ったのをみた茜は嬉しそうな声を上げる。

 

 

「お、それなら一緒にやるか?」

「もちろんやるで!」

「私もやりますよ」

「ボクはお腹いっぱいだから見てるねー」

「うちは見てるなー」

「私はもう少ししたらやりましょうかね」

「私はちょっとキャッチするのに自信がないから見てるねー」

 

 

 竜の言葉に茜とあかりが元気よく手を上げる。

 そんな竜たちの様子に葵たちは参加せずに見ているということを答えた。

 

 そして、竜たちは少し離れた位置に移動してフリスビーで遊び始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第362話




スチームプリペイドカードがなぜか有効化されていない・・・・・・

普通に買って入力してこれなんだから本当に意味が分かりませんよ・・・・・・







 

 

 

 

 フリスビー。

 またの名をフライングディスクと呼ばれるプラスチック製の円盤は、直径約20センチメートルから25センチメートル程度のものが多く、手で勢いよく回し投げると揚力が生じるよう設計されているため、簡単にキャッチすることができる。

 

 ちなみに、フリスビーという名称は登録商標となっているため、公式の大会などではフライングディスクの方で呼び名は統一されている。

 

 

「そぉ、れっ!」

「おっとぉ!」

「ナイスキャッチです!」

 

 

 竜の投げたフリスビーを茜が上手くキャッチする。

 竜、茜、あかりの3人は十分な距離を取ってフリスビーをおこなっており、うっかり葵たちの方へとフリスビーが飛んで行ってしまわないように気をつけながら遊んでいた。

 

 

「いっくで~!気円斬!」

「よけろぉ!ゆかりぃ!」

「誰がナッパですか!」

 

 

 手裏剣のようにやや早くフリスビーを投げながら茜はドラゴンボールに出てくる技の名前を言う。

 茜の言葉に合わせて竜もその技が出たときのセリフを言った。

 

 茜と竜の悪乗りにツッコミを入れつつ、あかりは危なげなくフリスビーをキャッチする。

 あかりが普通にフリスビーをキャッチしたことに、茜と竜は少しだけ残念そうな表情を浮かべる。

 まぁ、竜のセリフのように、というか気円斬が出てきたシーンの再現をすればフリスビーがどこかに飛んで行ってしまうのでキャッチをしないわけにはいかなかったのだが。

 

 

「なんで残念そうにしているんです、かっ!」

「っと、・・・・・・いやぁ、なぁ?」

「せやねぇ?」

 

 

 茜と竜の表情を見て少しだけ困惑した表情になりながら、あかりは竜に向かってやや強めにフリスビーを投げる。

 あかりから投げられたフリスビーをキャッチしつつ、竜はなにかを伝えるかのように茜に声をかける。

 竜の言いたいことを理解した茜はうなずいて応えた。

 

 

「そんじゃ行くぞ~。キィェエエエエエエエエッッッ!!!!!」

「いや、喉にフリーザ様でも住んどるんか!!」

「しかも器用に指で回してから投げましたね」

 

 

 フリスビーを器用に指先で回転させ、そのまま茜へと投げながら竜は奇声のようなものを上げる。

 自分が先ほどドラゴンボールの技名を言ったことから、茜はすぐに竜が同じようにドラゴンボールのフリーザの真似をしていることに気がついた。

 

 フリスビーは指先で投げた割には意外と真っ直ぐに飛んでおり、途中で落ちたりすることなく茜のもとへと飛んでいく。

 独特過ぎる投げ方をした竜にあかりは呆れ半分関心半分といった様子で呟いた。

 

 

「ふぅ、お腹も落ち着いたので私も参加しますよ」

「お、ゆかりさんも参戦やな!」

「それなら2対2のチーム戦にでもするか?」

 

 

 バーベキューによって膨れたお腹も落ち着いたのか、ゆかりが竜たちのもとへと近づいてきた。

 ゆかりが加わったことによって人数が偶数になったため、竜はチーム戦でもしようかと提案する。

 

 

「いいですね!どうやってチームを分けますか?」

「グッパでいいんじゃね?」

 

 

 グッパ。

 竜はかなり簡単に略していっているが、分かりやすく言えば「グッとっパッ」のことである。

 要はグーとパーをそれぞれが出して同じものを出したもの同士でチームを組もうということだ。

 

 ちなみに、地域によっては「グッとっパッ」ではなく「グーパー」だったり「うらおもて」だったりといろいろとその地域独特のチーム分けのやり方があったりするので、聞いたことがないものがあったりしても仕方がないだろう。

 

 そして、竜たちは「グッとっパッ」をしてチームを決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第363話




スチームのプリペイドカードのコードを入力するところを間違えていただけでした。

無事にフェイスリグやらを買えましたよ!






 

 

 

 

 竜と茜、あかりとゆかりというチームに分かれてフリスビーをする。

 2人チームとなっているために1人が取れない状態でももう1人がカバーに入れるので、かなりハイスピードにフリスビーが飛び交っていた。

 

 そんな竜たちのもとに大きなカメラやらマイクやらを持った一団が近づいてきた。

 

 

「おりゃっ!」

「っせい!」

「なんのっ!」

「あっぶなぁい!」

 

 

 近づいてくる一団に気づかぬまま竜たちはフリスビーを投げあう。

 とくに細かいルールは決めていないが、とりあえずはフリスビーをキャッチできずに落とした方が負けという単純なルールで、どちらのチームがフリスビーを落とすかということで熾烈な争いを繰り広げていた。

 

 

「こんにちは~。ボイテレビのものですけども、取材よろしいですか?」

「え、テレビ?!」

「マジか!」

 

 

 フリスビーで熾烈な争いをしている竜たちに声をかけるのは難しいと判断したのか、カメラなどを持っている一団は竜たちのことを見ていた葵たちに声をかけた。

 知らない一団に声をかけられたということと、声をかけてきたのがテレビ局の人だということに驚き、葵たちは目を大きく開く。

 

 

「ええっと、どんな取材なんですか?」

「公園にいる人たちに最近あった嬉しかったことや楽しかったこと、悲しかったことなど強く印象に残っている話を聞けたらと思っておりまして」

 

「フリスビー楽しそうだなぁ」

「お、一緒にやるか?」

「いいの?!やるやるー!」

 

 

 取材をしたいというテレビ局のスタッフにマキはどんな取材をしたいのかを尋ねる。

 マキの言葉にテレビ局のスタッフはどんなことを聞きたいのかを答えた。

 

 マキたちがそんな会話をしている後ろの方で、1人の女の子が竜と茜のチームに加わってフリスビーで遊び始めていた。

 

 

「印象に残っていること・・・・・・。どうする?私は別に受けても構わないんだけど・・・・・・」

「ボクも大丈夫だよ」

「うちもええで」

 

 

 テレビ局のスタッフから話を聞いたマキは葵たちに取材を受けてもいいかを確認する。

 葵とついながうなずいたことを確認したマキは、続けてフリスビーをやっている竜たちへと視線を向けた。

 

 

「竜く・・・・・・ん?!」

「よし、投げるんだ!」

「うん!えーい!」

 

 

 竜たちへと視線を向けたマキは目に入ってきた光景に思わず目を大きく開く。

 なぜなら、先ほどまでは2対2でのチーム戦をおこなっていた竜たちに、いつの間にか小学生ほどの身長の帽子を深くかぶった女の子が加わっていたからだ。

 

 

「っとお!なかなか上手いやん!」

「うんうん。かなりうまく投げられてたな」

 

 

 女の子が投げたフリスビーをキャッチしながら茜は女の子を褒める。

 と、ここでようやく竜たちは見知らぬ一団が来ていたことに気がついた。

 

 

「えっと、テレビ局の人でしょうか?」

「いったいどんな用事できたんだ?」

「うん、そう言ってたよ。それで、最近あった嬉しいことや楽しいこと、悲しかったことで強く印象に残っていることを聞きたいんだってさ」

「強く印象に残っていること?」

 

 

 竜たちがテレビ局のスタッフの存在に気がつき、確認するようにマキに尋ねる。

 竜たちの言葉にマキはうなずき、取材したい内容を簡単に説明した。

 

 

「どんなことがあったかなぁ・・・・・・」

「意外と難しいですよね」

 

 

 強く印象に残っていることはなにがあったかを思い出すために竜は腕を組んで頭を悩ませる。

 そして、竜たちはボイテレビの取材を受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第364話




早いものでもうすぐ書き始めて1年ですか・・・・・・

なんだかあっという間だった気がします。






 

 

 

 

 テレビの取材。

 ニュースの番組などでよく取材を受けている場面を映されているところを見ることは多いだろうが、そういったことを実際に受けたことがある人というのはそこまで多くはないだろう。

 まぁ、もしかしたら単純に近辺でそういったことが少ないだけで別の場所では日常茶飯事になっていたりするのかもしれないが。

 

 

「印象・・・・・・。やっぱあれとかかなぁ・・・・・・」

「お、なんやなんか思い浮かんだんか?」

 

 

 ポツリとつぶやいた竜の言葉に茜が反応して尋ねる。

 また、茜の言葉を聞いて葵やゆかりたちも竜を見た。

 

 

「ああ、みゅかりさんとかけだまきまき、あかり草、最近だとセヤナーとダヨネーに出会ったことかな。今までに見たことのない生き物だったからものすごく印象に残ってるんだよ。それによく遊びに来るし」

「あー・・・・・・、なるほどなぁ。それは確かに印象に残ってまうかもな」

 

 

 茜の言葉に竜はうなずき、印象に残っていた出来事を答える。

 

 竜の印象に残っていること。

 それはみゅかりさんやけだまきまきなどと出会ったことだった。

 みゅかりさんたちは今までに見たことのない姿の生き物であり、それだけでも印象に残るのにちょくちょく竜の家に遊びに来ているのだ。

 これでみゅかりさんたちのことを印象に残らないと答えられる人はおそらくはいないだろう。

 

 自分の印象に残ったことを答えた竜はグッと体を逸らして背筋を伸ばし、先ほどまで一緒にフリスビーで遊んでいた女の子を抱き上げた。

 脇の下から腕を通すようにしてお腹のあたりで手を組んで固定する。

 これによって女の子はぶらぶらと下半身を揺らした状態で竜に抱きあげられていた。

 

 

「おー、ぶらぶらしてるなー」

「さらにここからー・・・・・・、こうだ!」

「おー!すごいすごい!楽しーぞ!」

 

 

 自分の足がぶらぶらと揺れていることに女の子は楽しそうな声を出す。

 そんな女の子の様子に竜はテンションが上がってきたのか、ゆっくりと回転し始めた。

 竜が回転し始めたことによって女の子の足が遠心力を受けてじょじょに横に伸びていく。

 

 ちなみに、きちんと周りに人がいないように茜たちから距離を取って竜は回転しているので、誰かに女の子の足がぶつかってしまうといったことが起こることもないので安心だ。

 

 

「え、ちょ・・・・・・」

「おー、楽しそうにしとるなぁ」

「竜くんってなんだかんだ小さい子ともけっこう仲良くなるの早いよね」

「・・・・・・精神年齢が近いとかそういうことなんでしょうか?」

「うーん、あの光景を見ていると否定はできないかなぁ」

 

 

 竜が女の子を抱き上げて回転し始めたことにテレビ局のスタッフたちは驚き、固まってしまう。

 そんなテレビ局のスタッフたちとは違い、茜たちは困ったものを見る視線で竜のことを見ていた。

 

 それから少しの間、竜は女の子のことを抱き上げながら回転していた。

 

 

「・・・・・・ふぅ、どうだ?楽しかったか?」

「うん!めちゃくちゃ楽しかった!また今度やってね!」

 

 

 抱き上げていた女の子を下ろし、竜は楽しかったかを尋ねる。

 竜の言葉に女の子は元気に答えた。

 

 

「それじゃあ、そろそろ仕事かな?リポーターをやってるんだろ?」

「うん。頑張ってやるね!」

 

 

 そう言って女の子────ウナは帽子を取ってテレビ局のスタッフからマイクを受け取った。

 帽子をかぶっていた女の子の正体がウナ────つまりは“UNA(ユーナ)”だということに気がついた茜たちは驚きの表情になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第365話




一年経ちました!

ここまで書いてこれているのも読んでくれている人たちのおかげです!

ありがとうございます!!





 

 

 

 

 テレビ局のスタッフからマイクを受け取り、先ほどまで無邪気に遊んでいた雰囲気から一転してアイドルの表情になる“UNA”。

 雰囲気が変わった“UNA”に茜たちは少しだけ目を大きく開く。

 

 

「それじゃあ、撮影始めまーす!。3、2、1・・・・・・スタート!」

「こんにちは!今日はこちらの公園に取材に来ました!」

 

 

 テレビ局のスタッフからの撮影開始の言葉を聞き、“UNA”はマイクを持ちながら竜たちの近くに移動する。

 さっきまで無邪気に遊んでいた女の子の正体が“UNA”だということで驚いていた茜たちは、“UNA”が近づいてきただけで緊張した表情になってしまう。

 

 

「さて、それではこちらのお兄さんとお姉さんに取材をしていきたいと思います!今回の取材のお題は『最近あった嬉しかったことや楽しかったこと、悲しかったことなど強く印象に残っていること』です!」

「ま、マジで“UNA”ちゃんなんか・・・・・・」

「帽子をかぶってたからぜんぜん分からなかったね・・・・・・」

 

 

 普段であれば竜のことをお兄ちゃんと呼んでいる“UNA”なのだが、さすがに撮影をしているということでお兄ちゃんと呼ばずにお兄さんと呼んでいた。

 

 カメラに向かって取材のお題を言っていく“UNA”の姿を見ながら茜と葵はこそこそと小さな声で呟く。

 そして、インタビューを始めるために“UNA”は竜たちの方を改めて向いた。

 

 

「それでは質問です!最近で一番印象に残っていることはなんですか?」

「最近一番印象に残っていること・・・・・・。変わった生き物たちと知り合ったことかなぁ。それで知り合ってからちょくちょく家に遊びに来てくれているから」

 

 

 “UNA”の質問に竜は先ほど答えた内容を簡単に説明する。

 さっきも同じような内容を竜は言っていたが、さっきはまだ撮影をおこなっていなかったためにもう一度答える必要があったのだ。

 

 

「変わった生き物?それってどんな生き物なの?」

「あー、写真が撮ってあるから見せてあげるよ」

 

 

 竜の言う変わった生き物というものがどんなものなのか気になったのか、“UNA”は首をかしげながら竜に尋ねる。

 不思議そうにしている“UNA”に竜は自分のスマホを操作して撮影していたみゅかりさんやけだまきまき、あかり草にセヤナーとダヨネーの写真を“UNA”だけに見せた。

 

 竜がテレビカメラに映らないようにみゅかりさんたちの写真を“UNA”にだけに見せたのは、みゅかりさんたちがテレビ局に追われたりするのではないかと危惧したからだ。

 

 

「おー、こんな生き物がいるんだぁ!私も会えるかなぁ!」

「会える会える。けっこう大人しい生き物たちだから」

 

 

 キラキラと目を輝かせる“UNA”に竜は微笑ましいものを見るような目をしながら答えた。

 そして、“UNA”続けて茜たちにインタビューをしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第366話




また寒くなってしましたね。

読んでくださっている方々も体調に気をつけてください。






 

 

 

 

 “UNA(ユーナ)”によるインタビューも無事に終わり、緊張をほぐすように茜たちは首や肩を回したりしていた。

 “UNA”が目の前にいたこととテレビの取材ということでかなり緊張をしていた茜たちと違い、“UNA”がいることに気づいていた竜は茜たちと比べてそこまで緊張はしておらず、軽く深呼吸をするだけで落ち着くことができていた。

 

 

「なぁ、ご主人。“UNA”ちゃん、もといウナちゃんと仲がええんやないかって思えそうなところを見せてもうてたけど良かったんか?」

「んあ?ん~、まぁ大丈夫なんじゃないかな。それに他人行儀にしたらウナもイヤだろうし」

 

 

 こっそりと竜に近づき、ついなは先ほど竜が“UNA”────ウナと仲良さそうに遊んでいたことが大丈夫なのか確認をする。

 ついなの言葉に竜はチラリと周囲を見渡し、大丈夫なのではないかと答えた。

 普段であればジュニアアイドルである“UNA”として仕事をしているウナとは積極的に関わろうとはしないのだが、茜たちと遊んでいる自分のことを羨ましそうに見ているウナの姿に竜は関わらないようにすることができなくなってしまったのだ。

 

 竜の視線の先ではウナがテレビ局のスタッフに先ほどの竜に抱きあげられて回転したことが楽しかったと言っているウナの姿があり、楽しそうに話しているウナの姿にテレビ局のスタッフは微笑ましそうにウナの話を聞いていた。

 

 

「あんな風にウナの言葉を微笑ましそうに聞ける人たちがいるんだからさっきのくらいならまだ大丈夫、だと思う」

「確証はないんやなぁ・・・・・・」

 

 

 微笑ましそうにウナの話を聞いているテレビ局のスタッフの姿から、ウナにとって不利になるようなことをするような人物は少なくともここにはいないだろうと竜は考える。

 まぁ、その考えも推測でしかないので確実に大丈夫とは言い切れないのだが。

 

 曖昧な竜の言葉についなは苦笑を浮かべることしかできなかった。

 

 

「取材の協力ありがとうございました。今回の取材は来週の“(ユー)散歩”で放送しますので、是非とも見ていただけると」

「いえいえ、こちらこそ貴重な経験をさせていただきましたから」

「うんうん。あ、私たちがテレビに出るってことをお父さんとお母さんにも教えないと」

 

 

 取材の撮影も終わり、撤収の準備を指示し終えたテレビ局のスタッフがぺこりと頭を下げる。

 テレビ局のスタッフの言葉にゆかりはパタパタと手を振りながら答える。

 その隣ではマキもうなずいており、自分の両親に自分たちがテレビに出るということを教えようとスマホを取り出した。

 

 

「なにはともあれ無事に終わって万々歳(ばんばんざい)やねぇ」

「うん。ボクも緊張して疲れちゃった・・・・・・」

 

 

 撤収の準備をするテレビ局のスタッフを見ながら茜と葵はホッと息を吐く。

 慣れない取材と“UNA”が目の前にいるという緊張から知らず知らずのうちに疲れてしまっていたのか、茜と葵は疲労の見える疲れた表情になっていた。

 

 

「それでは、本当にありがとうございました!」

 

 

 そして、すべての片づけが終わって撤収の準備が整ったテレビ局の一団はそう言って公園から出ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第367話




OBSスタジオをてきとうに弄っているとなんだかおもしろいですね。

まぁ、ペイパルをやっていないので画面の中にチャットの内容を入れることはできませんが・・・・・・

準備はできたのであとは体を描いてもらうだけです!






 

 

 

 

 ウナとテレビ局のスタッフたちが公園から出ていってしばらくして。

 ジュニアアイドルである“UNA”にテレビの取材を受けたという非現実感からじょじょに思考が落ち着いてきた茜たちはいまさらワタワタと慌てだしていた。

 取材が終わった直後は緊張から逆に落ち着いてはいたのだが、それでも完全に取材が終わってテレビ局のスタッフたちが撤収すると改めて自分たちが普通ではない経験をしたのだと理解できたのだ。

 

 

「な、なぁ、うち変なこと言っとらんかったよな?!」

「え、待って、分かんない。ボクもちょっと心配になってきたんだけど!」

「私はどうでしたかね?緊張していて何を言ったかハッキリと覚えていないのですが・・・・・・」

「えっと、私は確か・・・・・・。私の作った料理を食べてもらいたい人ができ、たこ・・・・・・と・・・・・・。よくよく思い返したらかなり恥ずかしいこと言ってた?!」

「先輩たちはかなり慌てていますね。私は一緒にご飯を食べたい人ができたことでしたので恥ずかしくも何ともありませんね」

「うちはご主人に会えたことやねぇ」

「・・・・・・うん。それは俺が年の近い女の子にご主人様呼びをさせている鬼畜みたいな認識をされそうだな・・・・・・」

 

 

 思考が落ち着いてきて気になり始めるのは自分たちが取材に対して何と答えたか。

 緊張して取材を受けていた茜たちは自分たちが取材に対して何と答えていたかをあまりハッキリとは覚えておらず、やや不安そうになりながら自分がなんと答えていたのかを聞いて確認していた。

 

 ちなみに、自分が取材に対して何と答えたのかをハッキリと覚えていないのは茜、葵、ゆかりの3人で、マキとあかりは一応は自分が答えた内容を覚えていた。

 

 また、ついなは最初からテレビの取材に対してのみ驚いていただけで緊張はしておらず、竜もウナがリポーターをしていたということから茜たちよりは緊張していなかった。

 そのため、ついなと竜は自分たちが取材に対して何と答えたのかをハッキリと覚えていた。

 ついなが答えた内容を聞き、竜はついなの取材のシーンが放送されたらどう思われるかを想像し、思わず天を見上げるのだった。

 

 

「それにしても、生の“UNA”ちゃんは可愛かったな!」

「うんうん。あんなに可愛いんだからファンが多いのも納得だよね」

「今日は本当に幸運でしたね」

「あ、自分たちがなにを言ったのかを思い出すのを諦めてる」

 

 

 いつの間にやら“UNA”の話題になっていた茜たちにマキは思わずつぶやく。

 まぁ、思い出したいと思っていても思い出せないことはよくあることなので、切り替えて別のことを考えていくのも悪いことではないだろう。

 

 まぁ、思い出せたにしても思い出せなかったにしても来週の“(ユー)散歩”で放送されることは決まっているので、どちらにしても意味はないのだが。

 

 

「そういえば気のせいかもしれませんけどなんとなく“UNA”ちゃんが竜先輩との距離が近かったような気がしたんですけど・・・・・・」

「そうか?まぁ、あの子もまだ小学生だしな。さっきの回転した奴がけっこう面白かったからじゃないか?」

 

 

 ふと、あかりが首をかしげながら竜に尋ねる。

 あかりが気になったのは“UNA”が取材の際に竜と自分たちとで距離感に差があったように感じたこと。

 竜のときはスマホで写真を見るためにかなり近寄っていたのだが、自分たちのときはそこまで近づくようなことがなかったように感じたのだ。

 

 あかりの言葉に竜はついさっきウナのことを抱きかかえて回転したことが理由じゃないかと適当に誤魔化した。

 竜の適当な誤魔化しにあかりは不思議そうに首をかしげつつも一先ずは納得するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第368話



どうにかこうにか後はVtuberの体を依頼するだけになって一安心しております。

頼む相手の方がとても丁寧に教えてくれて本当に助かりますね。






 

 

 

 

 公園でワタワタと慌てていた茜たちだったが、最終的には放送される“U散歩”を見ないことには何も分からないという結論になった。

 そして、あかりのおかげでお昼ご飯も食べ終わっているので、そのまま自由に解散ということになるのだった。

 

 

「さーて、どこに行くかなぁ・・・・・・」

「えっと、ゆかりとマキが本屋、茜と葵がゲーム屋、そんであかりは食べ歩きに行く言うてたな・・・・・・?」

 

 

 公園でゆかりたちと分かれた竜は適当にぶらぶらと歩きながら呟く。

 竜の言葉についなはゆかりたちがどこに行くと言っていたのかを思い返しながら言った。

 

 今の時間はだいたい3時近く。

 どこかに行くにしても早く決めた方が良い時間帯だろう。

 

 

「うーん・・・・・・、これといって行きたいところとかもないしなぁ・・・・・・」

「食材とかもまだ十分にあるから買う必要もないしなぁ」

 

 

 いまのところ新しいゲームだとか漫画、小説なんかで欲しいものはなく。

 冷蔵庫の中もそこまで減っているというわけでもない。

 そういった理由からなにかを買う必要性はほとんどなかった。

 

 かといってここでゲームセンターに行ってしまえばまた竜の部屋に山のように積まれている景品になにかが追加されてしまうことになる、かもしれない。

 なのでゲームセンターに行くという選択肢も自然と外れていた。

 

 

「あ、竜兄さま」

「ん?お、おう、きりたんか・・・・・・」

「どうしたん?なんや挙動不審やけど」

 

 

 不意に、歩いていた竜の目の前の曲がり角からきりたんが現れた。

 昨日の“KIRIKIRI”の正体がきりたんだという衝撃がまだ少しだけ残っていた竜は、やや挙動不審になりながらも手を上げてきりたんに応えた。

 竜の様子がいつもとは少し違うことに気がついたついなは不思議そうに首をかしげる。

 

 

「いや、ちょっとな・・・・・・。んで?きりたんはどうしてここに?」

「私ですか?なにか面白いゲームでも見つからないかと思ってお店に行ってきたところなのですよ。まぁ、結果は不漁でしたけど。竜兄さまたちこそどうしてここに?」

 

 

 ついなの言葉に竜は曖昧に答え、どうしてここにきりたんがいるのかを尋ねた。

 竜の言葉にきりたんはゲーム屋に行ってゲームを探してきていたことを答える。

 しかし、どうやら面白いと思えるゲームが見つからなかったのか、きりたんは少しだけ暗い表情になりながら小さくため息を吐いた。

 

 そして、竜の言葉に答えたきりたんは竜たちに質問されたことと同じことをそのまま聞き返した。

 

 

「どうして、と聞かれてもなぁ・・・・・・。特にどこかに行くような用事もないから適当に歩いていてここに来たとしか・・・・・・」

「せやね」

「そうなんですか?・・・・・・でしたら(うち)でゲームをしませんか?」

 

 

 きりたんの言葉に竜はついなと顔を見合わせ、ここに来ることになった経緯を簡単に説明した。

 といっても説明するようなことはとくにはないのだが。

 

 竜の言葉にきりたんは少しだけ考えるように顎に指を当て、竜に提案をした。

 

 

「ゲームか、特に予定もなかったし。それじゃあ、きりたんの家に行かせてもらおうかな」

 

 

 きりたんの言葉に竜はうなずき、きりたんの家に行くことを決めた。

 そして、竜たちはきりたんの家に向かって歩き始める。

 

 

「あ、そういえばさっきウナに会ったぞ。テレビの撮影をしてたけど」

「あー、そういえばそんなことを言ってましたね。なんの番組の撮影だったんですか?」

「“U散歩”っちゅう番組やね。“UNA”ちゃんが色々なところに歩いて行ってインタビューをするっちゅうあれや」

 

 

 きりたんの家に向かいながら竜たちは何気ない会話をする。

 いま竜たちがいる場所からきりたんの家へはそこまで離れておらず、会話をしている間にいつの間にか到着しているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第369話




うむむむ・・・・・・

改めて自分のなりたい姿を書いておこすのってムズカシイですよね

Vtuberの体を描いてもらうためにも自分のイメージを形にしなくては・・・・・・!!






 

 

 

 

 きりたんの家に着いた竜たちは家の中からかすかに聞こえてくる(かしま)しい声に首をかしげる。

 聞こえてきた声にきりたんが特に反応を示していないことから、きりたんが家を出る前からこの姦しい声は聞こえていたのだろう。

 

 

「ただいま帰りましたー」

「お邪魔します」

「邪魔するでー」

「あら、おかえりなさいですわ。ちゅわ?公住くん?」

 

 

 きりたんの声が聞こえたのかイタコ先生が玄関にまで出迎えに出てくる。

 玄関にまで出てきたイタコ先生は、きりたん以外に竜とついなの姿があったことに不思議そうに首をかしげた。

 

 

「えっと、天気が良くて散歩をしていたらきりたんと出会いまして、ゲームをやらないかと誘われたので・・・・・・」

「そうでしたのね。いまはずんちゃんがさとうさん、すずきさん、イアさん、オネさんと遊んでるので少々騒がしいかもしれませんが、ゆっくりとしていってくださいまし」

 

 

 不思議そうに首をかしげているイタコ先生に竜はどうしてここに来ることになったのかを簡単に説明した。

 竜の言葉にイタコ先生は納得し、いま家に誰がいるのかを説明して家の中へと戻っていった。

 

 

「ささら先輩たちが来てるのか。ゲームってたしかきりたんの部屋か居間にしか置いてないんだよな?」

「そうですね。聞こえてくる声の感じでは居間で遊んでいるようなので私の部屋でゲームをしましょう」

 

 

 イタコ先生からささら先輩たちがいるという情報を聞いた竜はどこでゲームをするのかをきりたんに尋ねる。

 きりたんの家、つまりは東北家でゲームが置いてあるのは基本的に食事などをする居間か、きりたんの部屋のみ。

 竜の言葉にきりたんは居間にはささらたちがいるのだろうと聞こえてきた声から判断し、自分の部屋でゲームをしようと答えた。

 

 

「そういえばなんのゲームをやる?やっぱりパーティー系のゲームかな?」

「竜兄さまのデータがありませんからモンハンとかPSOとかはできませんからね・・・・・・。桃鉄でもやりますか」

「お!桃鉄ならうちもやれるな!」

 

 

 きりたんの部屋へと向かいながら竜はなんのゲームをやるかきりたんに尋ねる。

 これが自分の家であれば自分のゲームのデータもあるのでモンハンやPSO2なんかができたのだが、あいにくと東北(この)家には竜のゲームのデータは置いてないので、そういったゲームをやる場合はどうしても最初からになってしまうのだ。

 

 きりたんの言葉についなは嬉しそうに声をあげる。

 

 

「ルールとかの把握は大丈夫ですか?」

「俺の方は大丈夫、かな」

「たぶん、なんとかなるやろー」

 

 

 自分の部屋に入り、きりたんは慣れた手つきでゲームの準備をしていく。

 ゲームの準備をしながらきりたんは竜とついなに桃鉄のルールを確認した。

 

 きりたんの言葉に竜は少しだけ不安を感じながらも問題はないと答える。

 それにたいしてついなはのほほんと笑みを浮かべながら答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第370話



ふとした時に桃鉄とかやりたくなりますよね。

まぁ、スイッチは持っていないのですが・・・・・・






 

 

 

 

 桃鉄────正式名称は“桃太郎電鉄”でプレイヤーたちはそれぞれ電車に乗って舞台となっている日本各地(シリーズによっては海外)の物件を買ったり、特殊な効果を持っているカードを使って他のプレイヤーを妨害したりして最終的な資産が一番多いトップを目指していくゲームだ。

 なお、トップ争いが苛烈になり妨害系のカードが多用されて友情が崩壊する、なんてこともあり得るらしいがその辺りは人によるだろう。

 

 

「ぐぇ、リトルデビルカード・・・・・・」

「リトルなだけマシじゃないですかね?コンピューターなんてキングデビルまでついてますよ?」

「お、プラスマスや。ラッキー!」

 

 

 黄色のマス、カードマスに止まった竜は所持金からお金を持って行ってしまうリトルデビルカードを入手してしまい、思わずうめき声をあげる。

 このリトルデビルカード、名前にリトルとついていることから推測できると思うが、これよりも上にデビルカード、キングデビルカードなんていうさらに持っていく金額が増えたカードが存在しているのだ。

 そういう点で考えれば竜のリトルデビルカード入手というのはまだマシな部類となるだろう。

 

 

「そういえば今ゴールに一番近いのは・・・・・・」

「私ですね」

「そんで一番ゴールから遠いのはコンピューターやな」

 

 

 桃鉄には指定された場所へ到着することでボーナスとしてお金を手に入れることができる。

 選出されるゴールはランダムであり、運よく自分の近くが選ばれたらラッキー程度で考えておくといいかもしれない。

 

 また、誰かが選出されたゴールに入ると、その時点でゴールから一番離れている人に貧乏神がついてしまう。

 この貧乏神はついているプレイヤーが行動を終えると動き始め、基本的にデメリットしか生み出さないお邪魔要素だ。

 そのため、自分がゴールするときは気にしなくてもいいが、誰かほかのプレイヤーがゴールをしようとしているときはなるべくゴールに近づいておいた方が良いだろう。

 

 

「残りのマス的に普通にサイコロを振るんじゃ無理、か。それならこの特急カードを使っていくかな」

「そんなカードを持っていたんですね・・・・・・」

「さて、ご主人がどんな数字を引くかやね」

 

 

 移動系のサポートをするカード、特急カード。

 このカードの効果は振るサイコロの数を3つに増やすというもの。

 効果だけを見ればそれほど便利なものではないように感じてしまうが、なんだかんだでサイコロの数が3個になるというのは中距離を調節して目的の場所に向かったり、背後から追いかけてきている貧乏神がついたプレイヤーから逃げることに使えたり、と意外と使える場所はあるのだ。

 

 ちなみに、特急の上の効果のものとして新幹線カード、のぞみカード、リニアカードなんてものもあるので、どのタイミングでこのカードたちを使っていくかも重要なポイントになるだろう。

 

 

「出た数字は・・・・・・、あ、ゴールできた」

「ええぇぇぇ?!さっきの場所からちょうどゴールできる数値を出しますか?!」

「ご主人は運がええなぁ」

 

 

 サイコロを3つ振って出た数字が予想よりも大きかったために竜はそのままゴールに到着することができた。

 まさか竜がゴールできるとは思っていなかったきりたんは思わず声をあげる。

 そんなきりたんの様子を見ながらついなは苦笑気味に呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第371話




フェイスリグでサンプルを使って動かしているだけでかなり楽しいですね。

これで自分の体を描いてもらえたらもっと楽しくなるのでしょうか?





 

 

 

 

 竜たちが桃鉄でゴールしたりゴールされたり貧乏神を押しつけあったりしていると、不意にきりたんの部屋の外からイタコ先生の声が聞こえてきた。

 

 

「3人とも~、おやつの準備ができましたわ~」

「おやつですか。ちょっと止めて居間に行きましょう!」

「3人とも、ってことは俺たちも食べていいのかな?」

「そうなんやない?」

 

 

 聞こえてきたイタコ先生の言葉にきりたんは素早く立ち上がり、ゲームを一時停止させる。

 イタコ先生が3人と言っていたことに竜は自分たちもおやつをもらっていいのかと少しだけ困惑してしまう。

 まぁ、普通に考えて友達が遊びに来ていて家族にしかおやつを出さないというのはおかしな話なので、竜はそこまで気にしなくてもいいのだろうが。

 

 そして、竜たちは居間に移動した。

 

 

「あら、公住くん。遊びに来ていたのね?」

「あ、はい。お邪魔してます」

 

 

 居間にすでにいたずん子は竜の姿を確認し、声をかける。

 ずん子の言葉に反応し、居間にいたささら、つづみ、イア、オネの4人も竜の存在に気がついた。

 

 

「あ、公住くんだ。きりたんちゃんと遊んでたのかな?」

「きりたんとよく遊んでいるって会長から聞いていたし、そうなんじゃないかしら」

「保健室で会う子たちとはまた違う子といるね?」

「でも、一応クラスでは男友だちはいるみたいよ。移動教室のときとかに話しているのを見かけたことがあるわ」

 

 

 姦しく話していたささらたちの視線が集まり、竜はどこか気まずくなりながら居間の端の方へと移動する。

 まぁ、いまの居間────というよりも東北家には竜以外に男がおらず、しかもほとんどが竜よりも年上ということで竜が気まずく感じてしまうのも無理はないのではないだろうか。

 

 念のために言っておくと、茜たちと遊んだりしているときも基本的に男1人なのだから同じなのではないかと思うかもしれないが、同じクラスでよく話したりする茜たちと、1つ上の学年で普段からあまり話す機会のないずん子たちではやはりいろいろと違ってくるのだ。

 しいて東北家に今いるメンバーの中で話す機会が多い人物を挙げるのであれば、一番にイタコ先生、次点で竜たちと同じように保健室でお昼を食べているイアとオネの3人だろうか。

 

 

「ちゅわ!お待たせしましたわ!」

「今日のおやつはくず餅ですね」

 

 

 イタコ先生がお盆に乗せて運んできたのはプルプルとイタコ先生が歩く振動で揺れる半透明の和菓子────くず餅だった。

 プルプルと柔らかそうな弾力を感じさせられるくず餅の揺れ方に、竜は思わずイタコ先生の胸を連想してしまいそうになり、慌てて下を向く。

 突然下を向いた竜の姿にイタコ先生たちは不思議そうに首をかしげる。

 

 

「くず餅・・・・・・って、これ手作りしたんか?!」

「あ、気づきましたわね?ええ、ちょっと和菓子作りに凝ってしまいましたの」

「タコ姉さまは急に和菓子作りに凝り始めますからね。でも味の方はかなり美味しいので安心してください」

 

 

 テーブルの上に置かれたくず餅を見ていたついなは、イタコ先生の持ってきたくず餅が店売りではなく手作りのものであるということに気がついて驚きの声を上げる。

 くず餅の作り方は水で溶いたくず粉に砂糖を加えて火にかけ、透明感が出るまでよく練り、練ったものを容器に流し込んでラップをし、水で冷やすという文面だけであれば簡単そうなもの。

 しかし、シンプルなものほど作った人の腕というものは見えてくるもので、そのことからイタコ先生の作ったくず餅はかなりの出来であることがうかがえた。

 

 驚くついなの様子にイタコ先生は嬉しそうにしながら竜たちにくず餅を取り分けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第372話




今日中にUAが10万を超えそうですね・・・・・・

まぁ、日曜日なので安心ですけどね!






 

 

 

 

 イタコ先生の作ったくず餅を口に運ぶ。

 

 きな粉をまぶされたそれはきな粉特有の柔らかな甘みと(なめ)らかな舌触りを残して口の奥へと消えていく。

 気づけば口の中から消えているその存在は意識せずに次のそれへと自然に手が動いてしまっていた。

 

 不意に感じるのはとろりとした液体のような感覚ときな粉よりも強い甘み。

 半透明なくず餅を黒く染め上げるようにかけられたとろみのある液体、黒蜜。

 きな粉とはまた違ったその甘さはくず餅の食感と合わさって一層の美味しさを感じられた。

 

 きな粉と黒蜜、それぞれの美味しさによりくず餅を口に運ぶ手が止められなくなる。

 ふと、くず餅を口に運ぶ手を止め、きな粉と黒蜜を見る。

 意識して止めなければ自然にくず餅を口へと運んでしまいそうな手を止めながら、きな粉のまぶされたくず餅に黒蜜を垂らしていく。

 

 くず餅を包み込んでいた黄色い衣のきな粉をとろりとした黒色の黒蜜が侵食していき、どことなく悪いことをしているかのような感覚さえしてくる。

 そして、きな粉と黒蜜の絡み合ったくず餅を口に運ぶ。

 

 口の中に広がるのはきな粉の柔らかい甘さと黒蜜の強い甘みの組み合わさった先ほどまでの個別で食べていたのとはまた違った美味しさ。

 どれが一番とは選ぶことができないほどにどれも美味しく、手が止められなかった。

 

 

「あ、忘れるところでしたわ。くず餅に砂糖だけをつけて食べてみてくださいません?」

「砂糖だけをですか?」

 

 

 止まることなくくず餅を食べていた竜たちにイタコ先生は砂糖を取り出して竜たちに言う。

 イタコ先生の言葉に竜たちは不思議そうにイタコ先生と砂糖の入ったケースを見る。

 

 くず餅に砂糖。

 甘い味になるであろうことは推測できるのだが、きな粉と黒蜜の味とどんな風に違うのかがイメージできなかった。

 

 

「どれどれ・・・・・・、お?なんか甘さが強く感じられる?」

「そうなんですか?・・・・・・本当ですね」

 

 

 イタコ先生の言葉に首をかしげながら、竜はイタコ先生の言葉に従ってくず餅に砂糖をかけて口に運んでみる。

 砂糖をかけたくず餅を口に運んで最初に感じたのはシンプルに強い甘さ。

 きな粉や黒蜜の甘さとは違う純粋な甘さ。

 それはきな粉や黒蜜とは違った美味しさがあった。

 

 竜の言葉にきりたんも興味が湧いたらしく、同じようにくず餅に砂糖をかけて口に運んでみた。

 くず餅を口に運んだきりたんは驚いた表情になって砂糖のかけられているくず餅を見る。

 

 竜ときりたんの反応から美味しいのだろうと判断したのか、ずん子たちもくず餅に砂糖をかけて食べ始めた。

 

 

「あら?つい・・・・・・ゲフンゲフン。いなさんは食べませんの?」

「あー、うちは別に食べんでも問題あらへんからな」

 

 

 くず餅を食べようとしていないついなの姿にイタコ先生は不思議そうに尋ねる。

 イタコ先生の言葉についなは食べなくても問題ないと答えた。

 

 ついなの答えにイタコ先生は少しだけ考え込み、くず餅をいくつか取ってついなに渡した。

 

 

「イタコ・・・・・・?」

「そんなこと言わないで食べてくださいな」

 

 

 イタコ先生に勧められ、ついなはくず餅を受け取って口に運ぶ。

 くず餅を口に運んだついなは、くず餅の美味しさに一瞬だけ目を大きく見開く。

 そして、竜たちと同じようにくず餅を食べ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第373話




UA100000突破記念の番外話を投稿しました。

内容はついなのヤンデレエンドとなっております。






 

 

 

 

 イタコ先生の作ったくず餅はすべて綺麗になくなり、テーブルの上に残っているのは竜たちが使用した食器ときな粉、黒蜜、砂糖の入れられていた容器だけとなっていた。

 くず餅が綺麗になくなっていることにイタコ先生は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 

「あー・・・・・・、するする食べられたからけっこう食べちゃったなぁ・・・・・・」

「せやね。うちもこんなに食べてまうとは思わんかったわ・・・・・・」

 

 

 おやつだったはずなのにお腹いっぱいになるまでくず餅を食べてしまい、竜はお腹をさすりながら呟く。

 竜の言葉にくず餅を食べるつもりがなかったのに一口食べたら止まらなくなってしまい、気づけばたくさん食べてしまっていたついなも同意した。

 

 

「さて、おやつも食べ終わりましたしゲームの続きをしましょう!」

「お、そうだな」

 

 

 くず餅を食べ終えてお茶を飲んでいたきりたんは立ち上がり、竜の手を引きながら言う。

 きりたんに手を引かれ、竜は立ち上がる。

 きりたんの言葉からずん子たちは竜とついながきりたんの部屋でゲームをやっていたのだろうということを知る。

 

 まぁ、イタコ先生だけは竜たちが東北家に来た時点で会って会話をしていたために知っていたのだが。

 

 

「あら?きりたん、宿題は終わっているのかしら?」

「ぎくり・・・・・・!」

「・・・・・・きりちゃあん?ちょぉっとお聞きしたいことがありますわねぇ?」

 

 

 早く部屋に戻ろうとするきりたんの姿を見て不思議そうにずん子はつぶやく。

 ずん子の言葉にきりたんの体はびくりと震え、動きを止めた。

 それと同時にきりたんの方にイタコ先生の手が置かれ、イタコ先生は威圧感を感じられる口調できりたんに話しかけた。

 

 

「おかしいですわねぇ?私はきりちゃんから宿題が終わっていると聞いておりますけど?」

「そうなんですか?でも私が知っている限りではきりたんはずっとゲームをしていたような・・・・・・」

「あ、これは・・・・・・」

「まぁ、会長の妹さんはゲームが好きみたいだしね・・・・・・」

 

 

 笑顔とは本来は威嚇するための表情である。

 それがハッキリと分かるようにイタコ先生はニッコリと笑みを浮かべながらきりたんに声をかける。

 イタコ先生の言葉にきりたんの体はがくがくと震え始め、助けを求めるように竜へと視線を向けた。

 

 

「さぁ、きりちゃん?いますぐにお部屋から宿題を持ってきてくださいまし。しっかりと宿題が終わるまでゲームは禁止ですわ!」

「は、はいぃぃいいいいい!!!!」

 

 

 きりたんから向けられる視線に竜は困ったような表情を浮かべることしかできず、きりたんはイタコ先生の言葉に走って自分の部屋に宿題を取りに行くのだった。

 きりたんが宿題をやらずに遊んでいたということにイタコ先生とずん子は頭が痛いというかのように頭に手を当て、竜たちは苦笑を浮かべることしかできなかった。

 

 そして、きりたんが自分の部屋から宿題を持って戻ってきた。

 

 

「ええっと?算数と漢字の書き取りですわね?」

「このくらいならすぐに終わるんだからちゃっちゃと終わらせればよかっただろうに・・・・・・」

「うーん、でも私も気持ちは分かるなぁ。宿題をやるよりも遊びたくなっちゃうんだよね」

「だとしてもやったなんて嘘を吐くのはよくないと思うわよ?」

 

 

 居間のテーブルの上に広げられた宿題を確認し、竜たちは思ったことを口々に言う。

 竜たちに見守られ、ときに解き方のヒントを聞いたりしながらきりたんは宿題を進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第374話




ぐぬぬぬ・・・・・・

エペで最後の1人に負けてチャンピオンを逃してしまった・・・・・・

悔しいからもう少し動き方とか戦い方とかを学ばないとだなぁ・・・・・・







 

 

 

 

 高校生である竜やずん子、ささら、つづみ、イア、オネの助けもあってきりたんは比較的スムーズに算数の宿題を終わらせることができた。

 残っている宿題は漢字の書き取りなため、とくに手伝えるようなことはなくなった。

 

 

「やっぱり小学生の宿題だから簡単だったなぁ」

「だいたい7年くらい前だし、それは当り前じゃないかなぁ」

「いまだと簡単だけど小学校のときだとぜんぜん分からなかったりするのよね」

 

 

 きりたんがやっていた算数の宿題を思い返しながら竜はつぶやく。

 小学生の宿題ということで、宿題の内容は分数や整数といったものとなっている。

 

 竜の呟きにお茶を飲んでいたささらとつづみがうなずきながら答えた。

 

 

「成長したから分かるようになったっていうのは分かるんだけど、なんだか不思議な気もするよね」

「そうね。授業を受けているときは全然分からないのにいつの間にか理解できているのよね」

 

 

 成長をしたから難しいことも分かるようになった。

 

 そう言ってしまえば簡単なことなのだろうが、どうして成長したから分かるようになったのかを考えると不思議なことのように感じてしまうのだ。

 不思議だなぁと首をかしげている竜たちの姿にくず餅を食べるのに使った食器を洗い終えたイタコ先生は微笑ましそうに笑みを浮かべていた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・終わ、ったぁあああああ!!!」

「お、漢字の書き取りも終わったか」

「だからいつも早くやって終わらせなさいって言ってますのに・・・・・・」

 

 

 漢字の書き取りの最後の1文字を書き終えたきりたんは、両手を上に突き出して大きく声を上げる。

 嬉しそうに声を上げているきりたんのノートを覗き込み、キチンとすべてが終わっていることを確認したイタコ先生は小さくため息を吐きながらつぶやいた。

 

 まぁ、イタコ先生の言っていることも正しいのではあるが、小学生にとって宿題なんてものは(わずら)わしいものでしかないため、自発的に宿題をやるような子でもない限りはすぐに宿題に手をつけるような子はまずいないのではないだろうか。

 

 

「さぁ!ゲームの続きをやりましょう!」

「分かった分かった。また桃鉄か?」

 

 

 広げていた宿題を片づけ、きりたんは竜の手を引きながら早く部屋に戻ろうとうながす。

 きりたんにぐいぐいと手を引かれながら竜は立ち上がり、次はなんのゲームをするのかを尋ねた。

 

 

「そうですね。スマブラでもやりますか?」

「スマブラ!」

「ちょ、姉さん?!」

 

 

 竜の問いにきりたんが答えた瞬間、イアが目をキラキラと光らせてきりたんの近くに詰め寄っていった。

 いきなりのイアの行動にきりたんは驚き竜の後ろに隠れてしまう。

 

 

「な、なんですか・・・・・・!」

「スマブラなら私もやりたいな!」

 

 

 竜の後ろに隠れながらまるでボクシングでもしているかのようにペシペシとへなちょこパンチを繰り出しながらきりたんはイアに向かって尋ねる。

 きりたんの言葉にイアはキラキラと目を光らせながら答えた。

 

 どうやらスマブラをやるというきりたんの言葉に反応して近づいてきたらしい。

 そんなイアの行動に、オネは頭が痛いとでも言うかのように額に手を当てて溜め息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第375話





スチームで買えるゲームもたくさんありますね。

面白そうなゲームがいくつかあってどうしようかちょっと悩んでおります。







 

 

 

 

 スマブラをやりたいというイアの勢いにおされ、きりたんは自分の部屋で一時停止させていたゲームを止めて居間に置いてあるゲーム機を起動する。

 イタコ先生とずん子、ささら、つづみはプレイはせずに見ているだけでいいということで、まずは竜、ついな、きりたん、イア、オネの5人でスマブラをして遊ぶことになった。

 

 

「イィィヤッ!!」

「はぁあああああっっ!!」

「・・・・・・なんでご主人ときりたんはそれぞれが操作しているキャラクターの真似をしとるん?」

 

 

 竜が操作しているキャラクターは知らない人はほとんどいないような有名な暴食ピンクボール────カービィ。

 そしてきりたんが操作しているキャラクターはゼルダの伝説に出てくる絶対的な悪役────ガノンドロフ。

 

 竜はカービィの上空に飛び上がりカッターを振り下ろして地面に着いた瞬間に前方に斬撃を飛ばす技、ファイナルカッターを放ちながらカービィの発している声を真似しており、きりたんはガノンドロフの紫色のオーラを溜めて前方を力強く殴りつける技、魔人拳を放つときの声を真似していた。

 

 竜ときりたんのそれぞれが自分の操作しているキャラクターのそこまで似ていない真似をしていることに思わずついなはツッコミを入れる。

 

 

「・・・・・・いなさんはどうして公住くんのことをご主人って言っているのかしら?姉さんも気にならない?」

「せーのっ!ピィカァアアアアッッ!!!」

「姉さん・・・・・・」

 

 

 ついなの竜の呼び方に疑問を覚えたオネはこっそりとイアに話しかけるが、竜ときりたんと同じように自身の操作しているキャラクターの真似をしているイアはオネの声に気づいていなかった。

 イアが自分の言葉を聞いていないことを理解したオネはがっくりと肩を落とす。

 

 ちなみに、イアが操作しているキャラクターはイアが真似していた声からも分かるようにかなり有名な黄色い電気ネズミ────ピカチュウだ。

 ついでに言っておくとオネが操作しているキャラクターはクラウドで、ついなが操作しているキャラクターはイアと同じでピカチュウとなっている。

 

 

「いっけぇえーーー!ボルテッカァアアアアアーーーー!!」

「ちょ、マジか?!」

「掴み攻撃中に突っ込んできますか?!」

 

 

 いつの間にかスマッシュボールを獲得していたイアは、カービィを掴んで次の攻撃に移ろうとしていたガノンドロフへと電撃をまといながら突撃していく。

 掴み攻撃をおこなおうとしていたガノンドロフはもちろんのこと、ガノンドロフに掴まっていたカービィも攻撃を回避することは叶わず、ガノンドロフとカービィはそろって画面外へと吹き飛ばされていった。

 

 そして、それと同時に試合のカウントダウンが終了した。

 

 

「やったー!私の勝ちぃー!」

「ぐぬぬぬ・・・・・・。最後の切り札にさえ当たらなければ・・・・・・」

「俺の方はどちらにしても1位にはなれなかったか・・・・・・」

「ふふふ、2人ともかなりきれいに吹き飛ばされていったわね」

「うーん。もうちょい上手く戦えたらよかったんやけどなー」

 

 

 戦績リザルトにて大きく表示されているピカチュウの姿にイアは嬉しそうに声を上げる。

 戦績リザルトを見たところ、きりたんとイアの戦績は1ポイント差しかなく、このことから最後のピカチュウのボルテッカーに当たらなければ結果は変わっていたかもしれなかった。

 

 一番最後に綺麗に吹き飛ばされていったガノンドロフとカービィの姿を思い出したのか、オネは思わず笑い声をこぼしてしまう。

 

 そして、操作するキャラクターを変えたり、イタコ先生とずん子、ささらにつづみを交えて竜たちはスマブラで遊んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第376話




御伽原江良さんの卒業に喪失感があります・・・・・・

動画とかを頻繁に見ていたわけではないのですが、それでも好きなVtuberの1人でしたのでショックですね・・・・・・

しいて救いなのは前向きな理由での卒業だと言っていたことでしょうか。







 

 

 

 

 スマブラで勝ったり負けたりをし、ときに悔しそうにうなり、ときに嬉しくて両手を上に突き上げる。

 東北家の居間ではそんな光景が繰り広げられていた。

 

 ときどきイタコ先生が参加したり、ずん子が参加したりと竜たちが対戦しているのを見ていたメンバーも加わって竜たちは楽しくスマブラで対戦をしていた。

 

 

「っし!これで、どうだ!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!最後の残機があ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!」

 

 

 竜の操作するピーチ姫の最大溜めのヒップアタックを受け、エリアへの復帰をしている途中だったきりたんの操作していたガノンドロフは勢いよく画面外へと吹き飛んでいく。

 戦闘のルールはいつの間にやら時間内にどれだけ相手を落とせるかの時間制から、相手の所持しているストックをどちらが先に削り切れるかのストック制へと変更されていた。

 

 制限時間のないストック制であるために、一番最初にスマブラで強い方であるイアが竜ときりたんによって集中攻撃を受けて脱落し、他の面々も順番に落とされていっていた。

 そして、つい先ほど竜の操作するピーチ姫の攻撃によってきりたんの操作しているガノンドロフの最後のストックがなくなったのだった。

 

 

「危なかったー・・・・・・。蓄積ダメージも赤になってたし・・・・・・」

「復帰しなきゃいけない状態に持っていけたのは運がよかったねー」

「さっきのはどっちが勝ってもおかしくなかったわね」

 

 

 戦績リザルト画面になり、竜はホッと息を吐く。

 先ほどのガノンドロフを画面外に吹き飛ばした時点で、ガノンドロフの蓄積ダメージは当然ながら赤になっていたのだが、それと同じようにピーチ姫の蓄積ダメージも赤になっていた。

 スマブラにおいて画面の下に表示される一部の形式の戦い方を除いて統一されている%表示の数値は、数字が大きくなれば大きくなるほど攻撃で吹き飛びやすくなり、数字の大きさによって色も変化していく。

 そして、竜の言う蓄積ダメージが赤になってたというのはだいたい蓄積ダメージが100あたりの状態のことを指している。

 

 

「すごい勝負でしたわねぇ」

「2人のどっちが勝つのかハラハラドキドキでしたね」

「というか小学生でこの強さってすごいよね」

「それは当然じゃないかしら?だって会長の妹さんって動画投稿してるじゃない。だからオンラインでいろんな猛者たちと戦ってきているはずよ?」

 

 

 いつの間にやらお茶を用意して竜たちの戦いを観戦していたイタコ先生たちはのんびりとお茶を口に運びながら竜たちの対戦の感想を言っていた。

 不意に居間の壁に掛けられている時計が鳴る。

 見れば時間は5時を指しており、外もやや暗くなり始めていた。

 

 

「っと、もうこんな時間なのか・・・・・・」

「あ、本当だ。私たちも帰らないと」

「意外と時間が経っていたのね・・・・・・」

 

 

 時計を確認した竜たちは使っていたコントローラーを片づけ、帰る準備を始める。

 竜の言葉にイタコ先生やずん子も時計を確認し、お茶を飲むのに使っていた湯飲みなどを片づけ始めた。

 

 

「うっし、とくに荷物もないし。帰るかー」

「せやねー」

 

 

 もともとが散歩をしていただけな竜とついなは荷物などもなく、自分の使った湯飲みなどを運んで軽く伸びをする。

 伸びをした竜とついなは東北家の玄関へと向かっていった。

 

 

「竜兄さま、次こそは負けませんからね」

「おう。俺もきりたんに負けないように練習しとくよ」

「うちも次こそはきりたんに勝って見せるでー!」

 

 

 わしゃわしゃときりたんの頭を撫でながら竜はきりたんに言う。

 そして、きりたんに見送られながら竜は東北家を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第377話





ちょっと遅れました・・・・・・


しかも内容が・・・・・・





 

 

 

 

 東北家からなにごともなく竜とついなは家に到着する。

 心地の良い天気と気温でふらふらと始めた散歩がいつの間にやら茜と葵、ゆかり、マキ、あかりの5人と合流して公園でバーベキューをし、ウナがリポーターをしている番組の取材を受けた。

 さらに公園で茜たちと分かれてからはきりたんと出会って東北家に行き、きりたんとゲームをしてイタコ先生の作ったおやつをいただき、イタコ先生、ずん子、ささら、つづみ、イア、オネときりたんを含めた7人とスマブラをやった。

 

 朝の時点では誰かに会うなどとは考えてはいなかったのだが、今日の出来事を振り返ってみればいつの間にやら友だちや知り合いにけっこう出会っていた。

 

 

「ぶらぶらと散歩していただけだったのがいつの間にかみんなと会うとはなぁ」

「たしかにちょっと驚きやったね」

 

 

 手洗いうがいをしてリビングのソファーに座り、竜はついなに言う。

 竜もついなもてきとうに散歩をする程度の考えだったため、ここまで知り合いに会うのは本当に予想外だったのだ。

 

 

「・・・・・・うん?」 

「なんや・・・・・・?」

 

 

 不意に聞こえてきたドタバタという足音に竜とついなは首をかしげる。

 竜たちが首をかしげていると、リビングの扉が勢いよく開いた。

 

 

「遊びに来たばーい!」

「ちょ!?扉が壊れるったい!」

 

 

 リビングの扉を開けて入ってきたのはひめとみことだった。

 勢いよく扉を開けたひめにみことは驚きながら注意をする。

 

 

「お、2人とも遊びに来たのか」

「うん!今日はとってもいい天気で元気もたっくさん溜まったと!」

「たしかに日差しは気持ちよかったけどそんな効果はなか・・・・・・」

「そんならうちは飲み物の準備でもしておくなぁ。晩ご飯に食べたいものがあったら言ってや~」

 

 

 現れたひめとみことに竜は少しだけ驚いた表情を浮かべ、声をかけた。

 竜の言葉にひめは強くうなずいて元気な理由を答えた。

 そんなひめの言葉にみことは冷静にツッコミを入れる。

 

 元気のいいひめと、呆れた表情のみことの姿についなは思わず笑いつつ、飲み物の準備をするために立ち上がった。

 

 

「食べたいもの・・・・・・。やっぱり肉系統かなぁ」

「お肉やね。了解や」

 

 

 ついなの言葉に竜は少しだけ考え、自分が食べたい種類のものを答えた。

 竜の答えについなは冷蔵庫の中になにが残っているかを考え、どのおかずを作るかを決めて台所に向かうのだった。

 

 

「そんで。遊びに来たって言ってたけど、何かやりたいこととかあるのか?」

「んー・・・・・・、ノープランったい!」

「なんも考えてなかったと?!」

 

 

 なにかやりたいことがあって家に来たのかを確認する竜の言葉に、ひめは少しだけ答えを溜め、強く答えた。

 何か理由があるのかと思った矢先のノープランという言葉に、竜とみことは思わずがくりとしてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第378話




エペで2回もチャンピオンを取れました!

カジュアル戦のトリオですけどそれでも嬉しかったですね!






 

 

 

 

 遊びに来たと言いつつなにをやりたいか決まっていないノープランなひめに竜とみことはがくりと脱力する。

 そんな竜とみことの様子にひめはケラケラと笑っていた。

 

 

「ほい。とりあえずジュースを持ってきたで。2人ともどうしたん?」

「いや、ひめが遊びに来たわいいけどなんもやることを考えてなかったらしくてな・・・・・・」

「ほんと、どうしてそんな考えで竜さんの家に遊びに来たと・・・・・・」

「んー、特に理由はないっちゃけどなんか遊びたくなったばい!」

 

 

 台所からジュースを持ってきたついなは、呆れた様子の竜とみことの姿に首をかしげる。

 不思議そうにしているついなに竜はどうして呆れた様子になっていたのかを答えた。

 

 呆れながらみことはどうして竜の家に来たのかをひめに尋ねる。

 するとひめはにんまりと笑顔を浮かべながら思いつきだけで行動していたことを答えた。

 

 

「理由がないんやねぇ。そんならうちは晩ご飯の準備をしてくるわー

「・・・・・・まぁ、別にいいか。そしたらなにをやる?だいたいのゲームはやったよな?」

「そうっちゃねぇ・・・・・・」

「あ、それならボクはちょっと読みたい漫画が・・・・・・」

 

 

 ひめの答えについなは苦笑いを浮かべつつ、台所へと戻っていく。

 竜の言葉にひめが腕を組んで頭を悩ませていると、みことがおずおずと手を上げて読みたい漫画があると言った。

 

 

「読みたい漫画?どの漫画だ?」

「えっと・・・・・・、“恋愛Judgment(ジャッジメント)”っていう漫画です」

「あ、それはうちも気になってたばい!」

 

 

 竜の言葉にみことは少しだけ恥ずかしそうにしながらどの漫画を読みたいと思っていたのかを答えた。

 みことの言葉にひめは自分も同じ漫画が気になっていたことを言う。

 

 “恋愛Judgement”は竜がウナにオススメされて買った漫画で、その内容の面白さから1巻から最新巻までをそろえている漫画だ。

 

 

「“恋愛Judgement”だな。持ってくるから待っててくれ」

「お願いします」

「待ってるったーい」

 

 

 みこととひめの読みたい漫画を聞いた竜は自分の部屋に“恋愛Judgement”の1巻から最新巻までを取りに向かった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 竜から“恋愛Judgement”を受け取ったひめとみことは仲良く一冊の漫画を2人で読む。

 集中して漫画を読む2人の姿に竜はのんびりとジュースを飲んだ。

 

 

「ご主人、この2人も晩ご飯は食べていくんかな?」

「んー?あー、どうなんだろ。2人とも晩ご飯は食べていくのか?」

「・・・・・・あ。えっと、いただけるのであれば食べたいです」

「・・・・・・う?うちも食べたいっちゃね」

 

 

 台所で晩ご飯の準備をしていたついなはひめとみことの2人も晩ご飯を食べるのかを竜に確認する。

 ついなの言葉に竜は少しだけ考え、2人に晩ご飯を食べていくのかを尋ねた。

 

 竜の言葉に2人はすぐには反応しなかったが、晩ご飯を食べたいと答える。

 2人の答えについなはうなずき、台所へと戻っていった。

 

 そして、ひめとみことと同じように竜も漫画を手に取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第379話




なぜかチャンピオンになれるのがトリオのマッチングなのに2人でのチームになった時ばかりなんですよねぇ・・・・・・

一体どういうことなんだろう?・・・・・・






 

 

 

 

 竜、ひめ、みことの3人が漫画を読み、ついなが晩ご飯の準備をしているとき。

 竜の家のいつも鍵が開いている小窓から複数の影が飛び込んできた。

 

 

「みゅあーう!」

「ぎゅんぎゅーん!」

「アソビニキタデー!」

「コンバンハー」

「・・・・・・わぁ!」

 

 

 小窓から飛び込んできた4つの影、みゅかりさん、けだまきまき、セヤナー、ダヨネーと、床からひょっこりと生えてきたあかり草がそれぞれ鳴き声をあげる。

 5匹(?)・・・・・・4匹と1輪(?)はまるで戦隊ものかのようにポーズを取っており、満足そうな表情を浮かべていた。

 

 

「おー、なんか一気に遊びに来たなぁ・・・・・・」

「ありゃま、不思議な生き物が来っちゃね?」

「でも、この子たちなんだかどこかで見覚えがあるような気も・・・・・・」

 

 

 みゅかりさんたちが現れたことに竜は思わず笑みをこぼす。

 みゅかりさんたちのことを初めて見るひめは興味深そうにみゅかりさんたちのことを見ており、みことは不思議そうに首をかしげていた。

 

 

「みゅみゅーみゅ、みゅーい!」

「ぎゅぎゅん?!ぎゅーん!」

「え、ちょ、ぐはぁっ?!」

 

 

 じりじりと力を溜めるようにしゃがみこんでいたみゅかりさんは、(ちぢ)められていたバネが跳ねるかのような勢いで竜へと突撃する。

 みゅかりさんが竜に突撃していったことに隣にいたけだまきまきは驚くかのような鳴き声をあげる。

 しかし、すぐにみゅかりさんと同じように竜へと突撃していった。

 

 いきなりのみゅかりさんとけだまきまきの突撃を顔と腹部に受けた竜はこらえきれずに後ろに押し倒されてしまう。

 

 

「ダイジョブカー?」

「アブナイヨー?」

「わわぁ」

 

 

 倒れてしまった竜へとセヤナーとダヨネーがやや速い速度で近づいていく。

 それと同時に竜の肩へと移動したあかり草が鳴き声をあげた。

 

 

「竜お兄さん、大丈夫だったとー?」

「ちょっと危ない勢いじゃなかったですか?」

「ぶはぁっ!・・・・・・ああ、大丈夫だよ」

 

 

 いきなり現れたみゅかりさんたちによって竜が倒れてしまったことに驚いて固まってしまっていたひめとみことはなんとか再起動することができたようで、心配するように竜へと駆け寄ってくる。

 

 竜は顔へと飛びついてきたけだまきまきを顔から引き剥がし、腹部に突撃したまましがみついているみゅかりさんの姿を見て苦笑を浮かべる。

 そして、心配そうに自分のことを見ているひめとみことに問題ないと答えた。

 

 

「なぁなぁ、竜お兄さん。この子らはなんなんー?」

「初めて見る生き物に・・・・・・、植物?ですね?」

「あー、この子たちはちょっと前に知り合った子たちでね。ちょくちょく家に遊びに来てるんだよ。んで、俺もこの子らがどんな生き物なのかはまったく分かっていない」

 

 

 竜がなんともないということが分かり、ひめとみことはホッと息を吐く。

 そうなれば次に気になってくるのはみゅかりさんたちのこと。

 ひめとみことは不思議そうにみゅかりさんたちのことを指さしながら竜に尋ねた。

 

 ひめとみことの言葉に竜はポリポリと頬を掻きながら簡単にみゅかりさんたちのことを説明するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第380話




ネタが尽きてきたぁ・・・・・・

話のネタを探さないと・・・・・・






 

 

 

 

 休み明けの朝。

 

 これほどまでに行動を起こす気力の湧かないワードがあるだろうか、いやない。

 仮にこのワードを聞いて喜ぶものがいるとすれば、それは社交的で友人と呼べる存在が多く、誰かと会話をしたり遊んだりすることが大好きだという陽の物だけだろう。(超個人的な偏見)

 

 そして、いま布団の中で目を覚ました竜も休み明けの朝ということで少し憂鬱な気分になっているものの1人である。

 

 

「くぁ・・・・・・。朝かぁ・・・・・・」

 

 

 あくびをこぼし、竜は首元を軽く掻きながら竜はつぶやく。

 竜が目を覚ました部屋はついなが使っている和室で、竜の左右にはひめとみことが寝ており、竜の寝ていた布団の上にはついなが寝ていたであろう布団がたたまれていた。

 

 

「お、起きたんやね。顔を洗ってきいよー」

「ん・・・・・・。ああ、分かったよ」

 

 

 竜がぼんやりとしながら部屋の中を見ていると、扉が開いて顔を出したついなは竜が起きたことに気がついて顔を洗ってくるように言う。

 ついなの言葉に竜はうなずき、ひめとみことを踏んだりしてしまわないように気をつけながら洗面所へと向かっていった。

 

 

「・・・・・・ふぅ、スッキリした」

 

 

 バシャバシャと顔を洗い、起きた時よりも頭がスッキリとした竜は小さく息を吐く。

 顔を洗い終えた竜は着替えるために自分の部屋へと向かう。

 

 

「今日の授業は・・・・・・。体育があるのか」

 

 

 時間割を確認して竜は体育着を用意する。

 そして、竜はパジャマから制服へと着替え始めた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 制服に着替え終えた竜は荷物を持ってリビングに移動する。

 リビングではついなが朝ごはんの準備をしており、あとはテーブルの上に並べるだけとなっている。

 

 

「おはようさんや。いまからご飯を準備するからなぁ」

「ああ、おはよう」

 

 

 竜が椅子に座ったことに気がついたついなは竜に声をかけ、朝ごはんの準備を進めていった。

 それと同時に眠そうに眼をこすりながらひめとみことがリビングに入ってくる。

 

 

「おはようたーい・・・・・・、ふわぁ・・・・・・」

「おふぁようござ、ふぁ・・・・・・、ます・・・・・・」

 

 

 ふにゃふにゃとあくびをこぼしながらひめとみことは竜に声をかける。

 そんな2人の様子に竜は苦笑した。

 

 

「2人ともおはよう。顔を洗ってきなー?」

「ふぁーい・・・・・・」

「いってきまふ・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にひめとみことは眠そうにしながら答え、洗面所へと向かっていった。

 2人のことを見送っているとついなが朝ごはんの準備を終えた。

 

 

「2人とも眠そうやったね」

「だな。それじゃあ、いただきます」

 

 

 そして、竜は朝ごはんを食べ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第381話




ガスおじ弱体化しててもなんだかんだでチャンピオンが取れるの嬉しいですね。

まぁ、ダメージを与えられる煙幕だと考えれば・・・・・・






 

 

 

 

 顔を洗ったことによって目が覚めたのか、ひめが元気よく、みことはやや恥ずかしそうにしながらリビングに入ってきた。

 どうやらみことは寝起きでぼんやりとしているところを見られたことが恥ずかしかったらしい。

 

 

「おはようったい!」

「お、おはようございます・・・・・・」

「ああ、おはよう」

「おはようさんや。いま用意するからちょっと待っとってなぁ」

 

 

 朝ごはんを食べている竜にひめとみことは改めて朝の挨拶をする。

 ひめとみことの声を聞き、ついなが台所から顔を出して待っているように言う。

 ついなの言葉にひめは嬉しそうにしながら竜の隣に、みことは竜の向かいに座った。

 

 

「月曜だからみんなが学校に来るっちゃね!楽しみったい!」

「学校のみんなの声が聞くのは楽しみ」

「ああ、そうか・・・・・・。2人は基本的に学校の梅の木にいるから・・・・・・」

 

 

 ワクワクといった表情でひめはみことに言う。

 ひめとみことは竜たちの通っている学校の中庭に植えられている梅の木の精なため、基本的には学校の周辺くらいまでしか行動することはできない。

 例外として学校の梅の木から分けられた木が植えられている竜の家と東北家、そして大元となっている梅の木が植えられている太宰府天満宮にも自由に移動することはできるのだが、逆に言うとそれ以外の場所には自由に移動することができないのだ。

 

 ひめとみことの言葉に竜はけっこう自由に自分の家に遊びに来ている2人が実はあまり自由に出歩くことができないことを思い出した。

 

 

「んー?ちゅうても2人はご主人が霊力を回しとけば自由に出歩けるやん」

「へ?そうなのか?」

 

 

 ひめとみことの朝ごはんを運んできたついなが不思議そうに首をかしげながら言う。

 ついなの言葉に竜は驚き、思わずひめとみことを見る。

 竜に見られてひめとみことは困ったような表情になりながら誤魔化すように笑みを浮かべた。

 

 

「そうっちゃね。竜お兄さんから霊力をもらって、その霊力を使って一時的に竜お兄さんを依り代にさせてもらえればうちらも竜お兄さんについていって自由に出歩けるったい」

「でも、それをしたら竜さんの自由な時間が無くなってしまうかもと思って・・・・・・。だから言わなかったんです」

「そうだったのか。べつに俺は気にしないんだがなぁ・・・・・・」

 

 

 自分たちが竜に手伝ってもらえば自由に出歩くことができるということをついなによってバラされてしまったひめとみことは、頬を掻きながら困ったような表情で説明をする。

 

 姫の説明を簡単にするならば、竜を梅の木の代用とすることによって竜の近くであれば自由に出歩けるようになるということだ。

 

 

「そういえば、なんでついなはそのことを知っているんだ?」

「うち?いやなぁ、うちはご主人の霊力をもらってるやん?それで自分の身体の維持とかをしとるわけなんやけど。それやったらこの2人の身体を維持して出歩くこともできるんやないかと思ってなぁ」

 

 

 ふと、竜はどうしてついながひめとみことが自由に出歩くことができるようになるための方法を知っているのかが気になって尋ねる。

 竜の言葉についなは自分が身体の維持をすることができるのだから2人もできるのではないかと考えたと答える。

 まぁ、つまりついなは思いつきで言っただけということだった。

 

 まさかの思いつきの言葉だったという事実に竜たちは呆れたような表情を浮かべることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第382話





ランクマは魔境・・・・・・

ブロンズランクなのに残り2部隊か3部隊で負けてしまうのは悔しいなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 朝ご飯を食べ終え、竜は学校にいく準備を進めていく。

 といっても教科書や体育着などは用意してあるので、他にやることがあるとすれば玄関以外の家の戸締まりなどの確認くらいなのだが。

 

 

「・・・・・・これでよし、と」

「こっちも片づけは終わったでー」

 

 

 窓のカギの確認や、部屋の電気がつけっぱなしになっていないかの確認を終えて竜とついなは玄関に移動する。

 すでに玄関にはひめとみことがおり、竜たちのことを待っていた。

 

 

「それじゃあ学校に行くっちゃね」

「今日もいい天気で良かった」

「天気が悪いとそれだけで気分も落ち込んじゃうしな。っと、そうだ。学校までの道を一緒に行ってみるか?さっき聞いたやり方の練習もかねて」

「おー、ええんちゃう?練習しとけば今後もやりやすくなるやろうし」

 

 

 玄関で竜とついなのことを見送ろうとしているひめとみことに竜は提案する。

 家から学校までの距離であればそこまでは離れておらず、ひめとみことの依り代となる練習にはちょうどいいのではないかと考えたのだ。

 竜の言葉についなもうなずきながら答える。

 

 

「竜お兄さんは・・・・・・、その、良いん?」

「ああ、べつに構わないよ」

 

 

 確認するようにひめは竜に尋ねる。

 

 自由に遊びに来て遊ぶだけでなく、そこまでしてもらってもいいのか。

 

 普段から無邪気な笑顔を見せているひめもさすがに申し訳なく思ったのか不安そうな表情になっており、そのとなりではみことも同じような表情になっていた。

 

 不安そうにしている2人に微笑みかけながら竜は問題ないと答える。

 

 

「それで、どうやったらいいんだ?」

「あ、えっと、竜お兄さんはうちらに霊力を流すだけで良いったい」

「そしたらボクたちが自分たちで霊力を調節して竜さんとボクたちの間に繋がり(パス)を作るので」

 

 

 どうすればひめとみことの依り代となれるのか、それを竜は2人に尋ねる。

 竜の言葉に2人は霊力を流してもらえればあとは自分たちでできると答えた。

 

 2人の言葉に竜はさっそく2人に霊力を流そうとするが、ここでついなによってストップがかけられた。

 

 

「ちょい待ちい。ご主人、いまどんくらいの霊力を流そうとしたん?」

「え、どんくらいって・・・・・・。いつもの量くらい?」

 

 

 竜が霊力を流すのを止めたついなは竜にどのくらいの量の霊力を流そうとしていたのかを尋ねる。

 ついなの言葉に竜は、普段からついなに渡しているのと同じくらいの量の霊力を流そうとしていたことを答えた。

 

 竜の答えについなは思わず額に手を当てる。

 

 

「ご主人、前にも言ったやん。うちは慣れたから今の量で平気やけどこの2人は慣れてへんから流す霊力の量は少なくした方がええって」

「・・・・・・あ、そういえば言ってたな」

 

 

 ついなの言葉に竜は記憶をたどり、過去についなに言われたことを思い出した。

 それと同時に竜から多めの量の霊力を流されそうになっていたことを理解したひめとみことは過去に竜から霊力を多めに流し込まれたことを思い出し、顔を赤く染めていた。

 

 そして、ついなに言われた通りに2人に流し込む霊力の量に気をつけながら竜は2人に霊力を流し込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第383話




UAが103000を超えましたのでアンケートを始めます。

期限はUAが10600を超えるまでとさせていただきますので、よければ投票をお願いいたします。






 

 

 

 

 少々手間取ってしまったが、どうにか竜はひめとみことに十分な量の霊力を渡すことができた。

 なお、ところどころでうっかり2人に流し込む霊力の量の調節をミスって多めに流してしまい、ひめとみことは「ふひゃぅっ?!」やら「うにゃあっ?!」なんて声が漏れてしまっていた。

 

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。とりあえずこれでオッケーっちゃね・・・・・・」

「そ・・・・・・、そうったいね・・・・・・」

 

 

 やや呼吸が荒くなりながらもひめとみことはどうにか竜を依り代とすることができたようだ。

 2人がこんな状態になってしまっている原因が自分の霊力を上手く渡すことができなかったことにあると分かっている竜は申し訳なさそうに2人を見ていた。

 

 

「えっと、これで2人は俺の近くなら自由に動けるようになったのか?」

「大丈夫ったーい・・・・・・」

「は、はい。これで問題はないです・・・・・・」

「そうやと思うで。ご主人と2人の間になにか繋がりみたいなもんを感じひん?」

 

 

 ひめとみことの依り代となったことに対していまいち実感の湧かない竜は確認をするように2人に尋ねる。

 竜の言葉に2人はしっかりとうなずき、竜が依り代となっていることを肯定した。

 2人の言葉についなもうなずき、竜に2人とのつながりを感じることができないかと尋ねた。

 

 ついなに言われ、竜は自分とひめとみことの2人の間にあるであろう繋がりを意識してみる。

 

 

「・・・・・・これ、か?なんか俺の胸のあたりからひめとみことに向かって何かが伸びているような感覚が・・・・・・、自信はないけど」

「たぶんそれだと思うで」

 

 

 自分の身体の中へと意識を向けた竜は、ぼんやりとしたなにかが自分の身体から2本のなにかが伸びてひめとみことに繋っていることを感じた。

 といっても本当にぼんやりとした感覚なので、本当にこれで合っているという自信は持てないのだが。

 

 竜の言葉についなはそれでほぼ間違いないだろうとうなずいた。

 

 

「とりあえず、2人が大丈夫なら学校に向かうか。そろそろ家を出ないとさすがに遅刻するかもしれないし」

「遅刻は絶対にあかんからなー」

「レッツラゴーったい!」

「竜さん、頭の上に失礼しますね」

 

 

 そう言って竜は家の鍵を閉め、すでに竜の家の前に集まっている茜、葵、ゆかり、あかりのもとへと向かっていく。

 そんな竜の頭の上にはいつものようについなが乗っており、ひめとみこともついなと同じように体の大きさを小さくして竜の頭の上に乗っていた。

 

 

「おはようさんやー。竜が一番最後やなんて珍しいこともあるもんやね?」

「おはよう。もしかして月曜日だから布団からなかなか起きられなかったとか?」

「いや、それは葵さんでは?っと、おはようございます」

「竜先輩、おはようございます!」

「おはよう。ちょっといろいろあってな」

 

 

 竜の姿を確認した茜たちは口々に朝の挨拶をする。

 茜たちの挨拶に手を上げながら竜は応えた。

 

 そして、茜たちと合流した竜は雑談をしながら学校へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第384話




時間ギリギリ・・・・・・

内容がぁ・・・・・・





 

 

 

 

 学校へと向かいながら竜たちは会話をする。

 ひめとみことはついなと同じように他の人たちの眼には映っておらず、竜の頭の上で物珍しそうに周囲の景色を見回していた。

 

 

「おー!学生さん以外の人がいっぱいいるったい!」

「そりゃあ、いるのは当然。ここは学校じゃなくて普通の道なんだから」

 

 

 周囲にいる人たちのことをキョロキョロと見回しながらひめは楽しそうに言う。

 そんなひめの様子にみことは呆れたような声音で答えた。

 まぁ、口ではひめに対して呆れているようなことを言っているのだが、みこと自身も周囲を見る目は楽しそうにキラキラとしているのだが。

 

 

「いろんな人がいるっちゃね。あそこの人はどこにいくん?」

「あそこの人は・・・・・・、たしか会社員やったはずやね」

 

 

 ひめの指差した先を歩いている人のことをついなは記憶から思い出しながら答える。

 ついなの説明にひめとみことはうなずきながら応えた。

 

 

「それにしてもどうして竜は朝遅かったん?」

「あー、えっと昨日泊まったひめとみことが一緒に学校に行けないかなっていろいろやってたんだよ」

 

 

 学校へと向かって歩きながら茜は改めて竜に尋ねる。

 基本的に、竜たちが学校に向かうために集まるときは茜と葵が一番最後になることが多い。

 そのため竜が一番最後になった今日は茜たちからしてみれば本当に珍しいことなのだ。

 

 茜の言葉に竜はどうして一番最後になったのかを簡単に説明した。

 

 

「あー、なんやあの2人はまた遊びに来て泊まっとったんか」

「まぁ、自由に移動できる場所が少ないかな」

 

 

 竜の言葉に茜は納得し、ひめとみことの2人がまた遊びに来ていたのかとつぶやく。

 2人がよく遊びに来ていることは茜たちも当然ながら知っており、場合によっては茜たちも一緒に遊ぶこともある。

 そのため、茜たちはひめとみことが遊びに来たと言っても特に驚くようなことはないのだ。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 学校に着き、竜たちはマキと合流する。

 それと同時にひめとみことが竜の頭の上から跳び下りて元の大きさに戻った。

 

 

「んー・・・・・・!小さくなって竜お兄さんの上に乗るのも楽しいっちゃけど、やっぱり元の大きさの方が落ち着くったいね」

「そうだね。ボクたちの身長じゃ見えない高さで新鮮でとても楽しかった」

 

 

 ぐぐぐっと背筋を伸ばし、ひめとみことは体をほぐしていく。

 どうやら2人にとって体を小さくするということは少しだけ窮屈なことのようだ。

 

 

「あ、みんなおはよー!」

「おはようさんやでー!」

「マキさん、おはよう」

「おはようございます」

「マキ先輩、おはようございます」

「おう、おはよう」

 

 

 元気よく朝の挨拶をしてくるマキに竜たちも応え、教室に向かい始める。

 

 

「竜お兄さん、ありがとうっちゃね!」

「学校までの道でも見たことないものがあったりしてとても楽しかったです」

「そうか。楽しめたなら良かったよ」

 

 

 そう言ってひめとみことは笑顔を見せる。

 竜の家から学校までという短い距離でも2人にとってはとても新鮮なことで、十分に楽しむことができたようだ。

 

 2人の言葉に竜は笑顔を浮かべて答える。

 

 

「えっと、また頼んでもよか?」

「ああ、大丈夫だよ」

「やった。ありがとうございます!」

 

 

 少しだけ不安そうにしながらひめは竜に確認を取る。

 

 竜のことを依り代にすれば竜の周囲を自由に出歩くことができる。

 しかし、それをしてしまうと竜に迷惑なのではないかと考えてしまうのだ。

 

 ひめの言葉に竜は頭を撫でながら答える。

 竜の言葉にひめとみことは嬉しそうに笑顔になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第385話





小説のネタ探しをもっとしないとなぁ・・・・・・

漫画を読んだりアニメを見たり、どこかに出かけてみたり。





 

 

 

 

 授業と授業の間の休み時間。

 竜は次の授業の準備を終えてトイレに向かっていた。

 トイレに向かう途中、竜はなんとなく他のクラスに目を向けてみる。

 

 

「オネさんってスタイル良くて羨ましいなー」

「そ、そうかな?」

 

 

 ちらりと竜が他のクラスに目を向ければ留学生であるオネが同じクラスの女子生徒と話している姿が見えた。

 オネとイアが留学してきてから日数はけっこう経っているので、最初の日から比べればまだオネのことを遠巻きに見ている生徒たちの人数は減っていた。

 

 まぁ、減っているといってもまだそこそこの人数の生徒が教室の外でオネのことを見ているのだが。

 

 

「うーん・・・・・・。いまだに人気は衰えず、か」

「すごいといえばすごいんやけど羨ましいとは思えへんなぁ・・・・・・」

 

 

 オネのことを見るために集まっている生徒たちの姿に竜は呆れながらつぶやいた。

 ついなも竜と同じような表情になりながら言う。

 人気があるというのは悪いことではないのかもしれないが、それでもここまでの人数に見られるというのは竜は遠慮したいものだった。

 

 オネのことを見ている生徒たちからいろいろな声が聞こえてくる。

 

 

「やっぱりオネさんって可愛いよな」

「わかる。どことなく猫っぽいところとか良いよな」

「オネたんprpr」

「お姉さんのイアさんと話してるときの笑顔とかもすっごい良いんだよな」

「待て、誰だいまの?!」

 

 

 なんだか変な声があったようにも感じるが、竜は気にしないことにする。

 そして、竜はそのままトイレに向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 昼休みの保健室。

 いつものように竜たちは保健室に来てお昼ご飯を食べる準備をする。

 それから少し遅れてイアとオネが保健室にやって来た。

 

 

「こんにちは」

「こんにちは。お腹がすいたわね」

「あ、イア先輩にオネさん。今日はなんだかいつもよりも遅かったんですね?」

 

 

 保健室に入ってきたイアとオネは竜たちに声をかけて自分たちのお昼ご飯の準備を始めた。

 イアとオネがいつもよりも少しだけ遅く保健室にやってきたことが気になったのか、ゆかりは不思議そうに2人に尋ねる。

 

 

「教室でお昼ご飯に誘われたのよ。まぁ、人が多すぎるから断ったのだけれど」

「私の方はずん子ちゃんやささらちゃん、つづみちゃんたちのおかげでスムーズに教室を出られたんだけどね。オネちゃんの方でちょっと手間取っちゃったの」

 

 

 ゆかりの質問にイアとオネはどうして保健室にくるのが遅れたのかを答える。

 イアとオネの言葉に竜とついなは休み時間のときに見た光景を思い出した。

 

 

「あー・・・・・・、いまだにすごい人気だもんな」

「休み時間にもめっちゃ集まっとったもんなぁ」

 

 

 教室の外に集まっている生徒たちの姿が頭の中に思い出された竜とついなは納得したようにつぶやく。

 

 

「そんなにすごかったんか?」

「ボクたちは教室から出てなかったから見てないんだけど・・・・・・」

「まぁな。一応、留学してきた日とかから考えたら減った方なんだろうけど、それでもけっこうな人数がいたよ」

「うわぁ、それはちょっと疲れちゃいそうだね・・・・・・」

 

 

 竜のつぶやきが聞こえた茜と葵は竜に尋ねる。

 2人の言葉に竜は簡単にどれくらいの生徒がいたのかを説明した。

 竜の説明を聞き、マキは少しだけイヤそうな表情になる。

 

 

「まぁ、そんなわけだけからまだしばらくは保健室でお昼ご飯を食べるわね」

「そんな状態じゃ落ち着いてご飯も食べられませんもんね」

 

 

 やや疲れた表情になりながらイアは言う。

 そして、竜たちはお昼ご飯を食べ始めるのだった。

 

 ちなみに、ひめとみことが保健室に突撃してくるのは30秒後のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第386話




どうにかAPEXでブロンズからシルバーに・・・・・・

ここからはポイントにマイナスも入ってくるからなるべく上位を狙っていかないとですね。






 

 

 

 

 お昼ご飯を食べ終わり、竜たちは保健室でのんびりと会話をしていた。

 ひめとみことも茜からもらったお弁当をすでに食べ終わっており、いまは保健室のベッドの上で2人してゴロゴロとリラックスしている。

 

 

「それにしてもイア先輩とオネちゃん、2人の人気はぜんぜん収まらないよね」

「そうね。ありがたいことなんでしょうけど、流石にそろそろ落ち着いてほしいわ」

「私の方はずん子ちゃんたちに助けてもらっているからまだ良いんだけど、オネちゃんの方はみんなして話したいみたいなんだよね」

 

 

 イアとオネのいまだに衰えない人気にマキは用意していたお茶を飲みながらつぶやく。

 マキの言葉にオネは疲れた表情で答えた。

 オネの言葉に続くようにイアも困ったような表情になりながら言う。

 

 

「人気があるっちゅうんも困りもんやねぇ」

「そうだね。ボクだったら耐えられなくてずっと逃げちゃうよ」

 

 

 疲れたような表情を浮かべているオネや、困り顔のイアを見て茜はしみじみとつぶやく。

 茜の言葉に葵もうなずきながら言う。

 

 葵の言葉を聞き、竜たちはたくさんの生徒たちに集まられて逃げ出す葵の姿を想像し思わず苦笑してしまった。

 

 

「まぁ、留学生ってだけでも珍しいのにそれが2人そろって美人さんなんだから仕方がないんじゃないか?」

「また竜先輩はそんなことをシレっと言って・・・・・・」

「び、美人・・・・・・?!」

「えへへへ、そう言われると照れちゃうかな」

 

 

 イアとオネの人気がまったく収まらないであろう理由として竜は2人が留学生で美人だからだろうとあっさりと言う。

 竜からすれば事実を言っているだけでとくに何かを意識して言ったわけではないのだが、それでも茜たちはなんとなく面白くはないので少しだけむすっとした表情になってしまう。

 さらりと自然に言われた竜の言葉にイアは少し恥ずかしそうに、オネは顔を赤くして驚いた表情を浮かべていた。

 

 

「思ったことを素直に言ってしまうの美点かもしれませんが、ときには気をつけた方がいいと思いますけどねぇ・・・・・・」

「でもあの様子だと竜お兄さんは理解してなさそうに見えるっちゃね?」

「鈍感・・・・・・、というよりも自分の発言でなにかあるとは思っていない、という感じですかね?」

 

 

 保健室のベッドでゴロゴロとしていたひめとみことの動きを止めながらイタコ先生は竜のことを困った子を見るような視線を向けながらつぶやく。

 イタコ先生の言葉にひめとみことは、竜が茜たちが急に不機嫌になったことに不思議そうに首をかしげていることに対して思ったことを言う。

 

 

「それよりも2人とも?保健室のベッドは病気の人が寝るところですので降りてほしいのですけど?」

「はーい」

「すみません。お腹がいっぱいで横になれそうだったのでつい・・・・・・」

 

 

 竜のことはひとまず気にしなくても大丈夫だろうという結論を出し、イタコ先生はひめとみことをベッドの上から降ろす。

 保健室のベッドは体調不良の生徒が横になるための物。

 そのため健康なひめとみことがゴロゴロとしていていい場所ではないのだ。

 

 イタコ先生の言葉にひめとみことは素直にうなずき、ベッドの上から降りる。

 そして、そのまま座っている竜の膝の上へと向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第387話





TRPGのコラボ動画を見ていて思ったのは自分もTRPGをやりたいってことですね。

まぁ、人数を集めたり時間をそろえたりしないといけないので簡単にできるものではないんですけどね。






 

 

 

 

 すべての授業が終わり、竜たちは自分たちの荷物をまとめていた。

 竜の机の上では小さくなったひめがついなのことを追いかけており、それをみことは呆れたような表情で見ている。

 

 

「待て待てー!」

「待ってほしいんなら追っかけてこないでほしいんやけど?!」

「なにをやってるの・・・・・・」

 

 

 ひめがついなのことを追いかけている理由は不明だが、おそらくは楽しいからという理由で追いかけているのではないだろうか。

 ついなのことを追いかけているひめにみことは頭に手を当てながらつぶやいた。

 

 

「っし、準備完了。バイトに行くぞー」

「わ、分かったで!」

 

 

 教科書などをまとめ終えた竜の言葉についなはひめから逃げるように急いで竜の肩へとよじ登っていく。

 ついなが素早く竜の肩によじ登っていったためにひめは追いつくことができず、少しだけしょんぼりとした表情になっていた。

 

 そんなひめの表情を見た竜は苦笑し、ひめとみことを頭の上に乗せた。

 

 

「わわわっ?!竜お兄さん?!」

「おとととっ、どうしたんです?」

「今日はこれからバイトに行くから2人も一緒についてくるか?」

 

 

 竜によって頭の上に乗せられたひめとみことは驚き、竜に尋ねる。

 ひめとみことの言葉に竜は一緒にバイト先である“cafe Maki”に行かないかと尋ねた。

 

 今朝の出来事によってひめとみことが自由に出歩ける方法が分かったことから、少しでもいろいろなところに連れていけないかと考えたことからの言葉だった。

 竜の言葉にひめとみことは顔を見合わせ、コクリとうなずく。

 

 

「もちろん行くったい!」

「ぜひ、お願いします」

 

 

 竜のバイト先という見たことのないものが見れるということに、ひめとみことは目を輝かせてうなずいた。

 目を輝かせているひめとみことの姿に、先ほどまでひめに追いかけまわされていたついなは仕方がないなぁといった風に苦笑しながら2人のことを見ていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 学校を出る時に手早くひめとみことは竜のことを依り代にする。

 竜も今朝やったばかりなので2人に渡す霊力の量をミスすることはなく、とてもスムーズにおこなうことができていた。

 

 そして、ひめとみことは竜の家から学校に向かうときと同じようにキョロキョロと周囲を見回しながら目を輝かせていた。

 

 

「おー!朝とはまた違った人たちがいるったい!」

「そりゃあ、まぁ時間帯も違うしな」

 

 

 竜たちが済んでいるところは八百屋や魚屋があるようなところではないので、そういった呼び込みの姿などはない普通の道なのだが、それでもひめとみことにはとても面白く見えているのだろう。

 道中にある花屋を見て自分たちの梅の木の花とどっちが綺麗か頭を悩ませていたり、眼鏡屋の看板の大きな眼鏡を見て誰があんなものをつけるのだろうと驚いていたりと、“cafe Maki”に着くまでにひめとみことは道中のいろいろなものをみて笑ったり驚いたりをしていた。

 

 

「着いたぞ。ここが俺がバイトしているところだ」

「おー、ここがそうなん?なんだか甘い香りがする!」

「それだけじゃなくてコーヒーの香りもしますね。とてもいい香りです」

 

 

 “cafe Maki”に着き、ひめとみことはお店からただよってくる香りに笑みを浮かべる。

 2人の楽しそうな声に竜とついなは顔を見合わせて思わず笑みをこぼす。

 

 そして、竜はついなたちを乗せたまま“cafe Maki”の中に入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第388話




アンケートはほとんど決まったも同然ですかね?

一応はUA106000になるまでは続けます。





 

 

 

 

 ひめとみこと、ついなを頭や肩に乗せながら竜は“cafe Maki”でバイトをする。

 竜の接客をする様子をひめとみことは楽しそうに眺めていた。

 

 

「ご主人、あっちの席が空いたで!」

「分かった」

 

 

 ついなの声に答えて竜は指示されたテーブルに置かれている食器類をまとめて片づけていく。

 いつもと同じようにテーブルの上の食器類を竜が片づけていき、台拭きを使ってついなはテーブルの上を拭いていった。

 

 

「なぁなぁ、うちらもなんか手伝った方がよか?」

「だよね。なにかできることってありませんか?」

「手伝えることかぁ・・・・・・」

 

 

 竜の肩に乗っているひめとみことは竜になにか手伝うことがないかを尋ねる。

 2人の言葉に竜はどうしたものかと考える。

 竜としては2人に自由に外の景色を少しでも見せられればいいと思っていただけなので、2人になにかをしてもらおうとは考えていなかったのだ。

 

 

「べつになにもしなくても良いんだぞ?」

「んーん、そう言ってもらえるのは嬉しいったいけど、やっぱり見てるだけっていうのはいかんと思うっちゃよ」

「ですので、なにかボクたちにもできることがあれば手伝いたいんです」

 

 

 一応、竜は2人に手伝う必要はないと伝えるのだが、2人は納得がいかないようで首を横に振る。

 どうしたものかと頭を悩ませる竜は、手伝いをするにしても許可が必要だろうということで一先ずマキの父親に相談してみることにした。

 

 

「すみません。少しいいですか?」

「うん?どうかしたのかな?」

 

 

 キッチンで料理の作っているマキの父親の邪魔にならない場所に立ち、竜は声をかける。

 竜に声をかけられたマキの父親は料理を作る手を止め、竜へと顔を向けた。

 

 

「じつは、自分の知り合いの子たちが手伝いをしたいと言っていまして・・・・・・」

「知り合いの子?どうしてまた急に?」

 

 

 竜の言った知り合いのこと言う言葉にマキの父親は不思議そうに首をかしげる。

 まぁ、いきなり職場で知り合いが手伝いをしたいと言っている子がいると言ってくれば誰でも不思議に思ってしまうのは仕方がないことだろう。

 

 マキの父親の言葉に竜はうなずき、キッチンの外で元の大きさに戻って一般人にも見えるような状態になっていたひめとみことを呼ぶ。

 

 

「えっと、この2人の“女性たち”は・・・・・・?」

「こんにちは!竜お兄さ────ゲフンゲフン。竜さんの友人で姫花(ひめか)って言います!」

「もう少し落ち着きを・・・・・・。ええっと、同じく竜さんの友人の美子(みこ)です。今日は竜さんのお手伝いをできたらなと思いまして・・・・・・」

 

 

 キッチンに入ってきたのは桃色の少女と青色の少女────ではなく、おそらくは大学生くらいだろうと思われる綺麗な2人の女性たちだった。

 この姿はひめとみことが自分たちの姿を操作して変化したもので、見た目だけが成長したものとなっているのだ。

 

 現れた2人の女性にマキの父親は困惑しながら竜に尋ねる。

 

 

「あー、この2人は自分の知り合いでして、この辺のことを教える代わりに俺のバイトを手伝いたいと申し出てきてくれたんです」

「そ、そうなのかい・・・・・・?」

 

 

 マキの父親の言葉に竜は先に考えておいた理由を答える。

 竜の言葉にマキの父親は納得したのか、不思議そうにしつつもうなずく。

 

 

「えっと、それじゃあ、手伝ってくれるというのであればお願い・・・・・・しようかな?」

「やったー!頑張るったい!」

「ボクも頑張りますね」

 

 

 困惑しつつもマキの父親は一先ずはひめとみことの2人が手伝うことを了承する。

 マキの父親の言葉にひめとみことは嬉しそうにガッツポーズをとるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第389話




エペでどのレジェンドを解放しようかなぁ。

ローバでけっこう悪いことができそうなんだよなぁ・・・・・・

というかそろそろVの身体の参考になるような写真とかイラストの準備を完全に終わらせないとなぁ。








 

 

 

 

 大学生くらいの見た目に成長しているひめとみこと────姫花(ひめか)美子(みこ)が“cafe Maki”の店内を元気に動き回る。

 見慣れない2人の姿に店内にいたお客さんたちは不思議そうに2人のことを見ていたが、ニパッと笑顔を見せているひめと、クールっぽさの中に可愛さをときおり見せるみことを自然と受け入れていた。

 

 

「竜お兄────ごほんごほん。竜さん、次のお客さんはどこに案内すればよかー?」

「ん、それならいま美子がテーブルを片づけているからそこに案内を頼む。もう少しで終わるはずだから」

 

 

 お店の入り口で次のお客さんの対応をしていたひめの言葉に竜はチラリと店内を見渡してどこに案内するかを答える。

 見れば店内のテーブルの1つをみことが片づけており、それがもう少しで終わりそうな状態だった。

 竜の言葉にひめはうなずき、入り口で待たせているお客さんのもとへと駆け足で戻っていく。

 

 

「ただいまー、って誰?!」

「おー、マキばーい!」

「お、おかえりー」

 

 

 竜たちがバイトで働いていると、不意に店の扉が開いてマキたちが“cafe Maki”に入ってきた。

 どうやらマキたちは女性陣だけで帰り道に遊んでいたらしい。

 見慣れない人が自分のことを出迎えたことにマキは驚き、思わず声を上げてしまう。

 

 驚いているマキの後ろから、ゆかり、茜、葵、あかりがひょこりと顔を覗かせた。

 

 

「見慣れない方ですけど、どちら様でしょうか?」

「うーん、でもどっかで見たことがあるような気がするんよなぁ・・・・・・?」

「うんうん。それに向こうにいる人もなんか見覚えがある気がするよね?」

「どこで見たんでしたっけね?」

 

 

 大学生くらいの見た目に成長しているひめとみことの姿にゆかりたちは既視感を感じているのか、不思議そうにしながら首をかしげている。

 さすがに普段の姿が少女なため、いまの成長している姿とでは違いすぎて気づくことはできないようだ。

 

 

「それじゃあ、こっちの席に案内するったーい」

「お、お願いするよ・・・・・・?」

「どこかで聞いたことがあるしゃべり方ですね?」

「誰がこのしゃべり方やったかなぁ・・・・・・?」

 

 

 驚いて困惑しているマキのことなど気にせず、ひめはマキたちを空いている席へと案内する。

 元気よく席へと案内し始めたひめにマキたちは困惑しながらもあとをついていく。

 案内されながらマキたちは先ほどのひめの言葉に聞き覚えを感じ、どこで聞いたのかを思い出そうとしていた。

 

 

「竜さん。片づけが終わったんですけど他になにかやることってありますか?」

「あー・・・・・・。いや、今はお客さんの入りも落ち着いてきてるからとくにはなさそうかな。姫花と一緒に休憩に入っても良いと思うよ。マキのお父さんに確認はしてきてくれ」

 

 

 テーブルの片づけを終えたみことは、竜に他になにかやることはないかを確認する。

 みことの言葉に竜は店内を見渡してなにかやることはないかを探してみた。

 しかし、店内にいるお客の注文はすでに聞き終わっており、マキたちの注文もいまひめが聞いている。

 そのため、やるようなことはほとんどない状態だった。

 

 みことにやってもらうことがとくに見つからなかった竜は念のためにマキの父親に確認するように言う。

 竜の言葉にみことはうなずき、マキたちの注文を聞き終えたひめをつれてマキの父親のいるキッチンに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第390話




お気に入り登録をしてくれている方が増えてきている・・・・・・?!

嬉しい気持ちもありますがやや困惑の気持ちが大きいです。

登録していただきありがとうございます。







 

 

 

 

 マキの父親に休憩に入っても良いという許可をもらったひめとみことは、マキの父親からもらったケーキを持って空いている席に2人で座る。

 2人はマキの父親からもらったケーキを見て目をキラキラとさせていた。

 

 

「ふふふ、2人ともめっちゃ喜んどるなぁ」

「だな。普段が学校にいることが多いからこういったバイトみたいなことも楽しそうにやってるし。連れてきて良かったよ」

 

 

 嬉しそうにケーキを食べるひめとみことの姿をみてついなは思わず笑みをこぼす。

 ついなの言葉に竜も笑みを浮かべながらうなずいた。

 そんな竜のもとにマキが早足で近寄ってくる。

 

 

「ね、ねぇ、竜くん。あの2人は竜くんの知り合いなの?お父さんから竜くんから紹介されたって聞いたんだけど・・・・・・」

「あの2人っていうとそこの2人のことか?」

 

 

 やや不安そうにしながらマキはケーキを食べているひめとみことのことを見つつ竜に尋ねる。

 マキの言葉に竜は確認するように聞き返した。

 

 竜の言葉にマキは間違っていないとしっかりとうなずく。

 

 

「う、うん。私たちが見たことのない人だったからちょっと気になって・・・・・・」

「あー、まぁ、あの姿じゃ分からないよな。でも、あの2人はマキたちが知らない相手じゃないぞ?」

 

 

 マキの言葉に竜は分からないのも仕方がないと理解し、苦笑しながら知らない相手ではないと教える。

 竜の言葉にマキはきょとんとした表情になって竜とひめとみことを交互に見た。

 

 

「え、私たちが知っている人・・・・・・?」

「ああ。まぁ、いつもはもっと年下の姿だけどな」

「ちゅうても気づくんは難しいんやないかなぁ・・・・・・」

 

 

 さすがにこれだけの情報ではひめとみことだと気づくことはできないようで、マキは腕を組んで首をかしげていた。

 首をかしげているマキの様子についなは苦笑しながらつぶやくのだった。

 

 

「あ、マキー!マキのお父さんの作ったケーキめちゃウマっちゃね!」

「もう、口の端にクリームがついたままったい・・・・・・」

「あれ、この感じもしかして・・・・・・」

 

 

 不意に、ケーキを食べていたひめがマキに向かって元気よく手を振りながらケーキの感想を言う。

 そんなひめの口元はケーキのクリームで汚れており、それをみことがテーブルに置いてあるナプキンで拭き取っていた。

 

 急にひめから声をかけられたマキは、その話しかけてきた感じにどことなく覚えがあることに気がつく。

 

 

「え・・・・・・。もしかして、学校のあの2人?」

「おう」

 

 

 ようやく大学生のような2人の正体がひめとみことだということに気がついたマキは確認するように竜に尋ねる。

 マキの言葉に竜がうなずくと、マキは目を閉じて額に手を当て、少しだけ考え始める。

 そして、少ししてから目を開いてもう一度ひめとみことを見る。

 

 

「・・・・・・ぜんぜん見た目が違うんだけど?!」

「まぁ、俺もちょっと驚いたけど梅の木の精なわけだし何でもありかなぁ、って」

 

 

 普段のひめとみことの姿は小学生の低学年当たりの少女の姿であり、いまの大学生のような姿とは似ても似つかないほどに違っている。

 そのことにマキは思いっきりツッコミを入れた。

 そんなマキの言葉に竜は頬を掻きながら答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第391話




時間ギリギリぃ・・・・・・

話の内容がなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 ひめとみことの手伝いによって“cafe Maki”でのバイトもけっこう楽に終わり、ひめとみことは大学生のような姿から竜の肩に乗れるような小さな姿に戻っていた。

 小さな姿になる前にちゃんとマキの父親に手伝わさせてもらったお礼は言ってあるので、いなくなって驚かれるようなこともなかった。

 

 

「バイトっちゅうんもけっこう楽しかったばい!」

「初めての経験だったから新鮮だったかな」

 

 

 竜の頭の上に乗りながらひめとみことは“cafe Maki”でバイトをした感想を言う。

 ひめとみことが楽しそうに話しているのを聞きながら、竜は連れてきて良かったと内心でホッと息を吐いていた。

 

 

「あ、竜くん。今日も家で食べていくでしょ?」

「あー、そうしたいのはやまやまなんだが・・・・・・」

 

 

 バイトの服装から元の服装に着替えた竜にマキが声をかける。

 すでにゆかり、茜、葵、あかりの4人は帰っており、マキはいつものように竜を晩ご飯に誘う。

 マキの言葉に竜は少しだけためらうようにしながら頬を掻いた。

 いつもとは様子の違う竜にマキは不思議そうに首をかしげる。

 

 

「どうしたの?」

「いやな?今日は俺といなだけじゃなくて2人も増えているからさ」

 

 

 マキの言葉に竜はためらっている理由を答えた。

 普段であれば竜とついなだけなのだが、今日はそこにひめとみことの2人も追加されている。

 そのため、普段の倍近い量の食べ物が必要になってしまうのだ。

 それが分かっているからこそ竜はマキの家で晩ご飯を食べることをためらっていた。

 

 

「あー、そっか。あの2人もいるんだっけ」

「ああ。だから今日は遠慮しておこうかと・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にマキはひめとみことがいることを思いだし、納得したようにうなずく。

 うなずくマキに竜は今日は晩ご飯をマキの家で食べるのを断ろうとする。

 そんな竜の言葉を遮るようにマキは竜の手を取った。

 

 

「それならいつもよりもちょっと多めに晩ご飯を作らないとだね」

「え、いや、わざわざ多く作ってもらうのは・・・・・・」

 

 

 いつもよりも多く作れば問題ない。

 シンプルな結論に至ったマキの言葉に竜は困惑する。

 その結論は間違ってはいないのだが、それでも食費という点では間違っていた。

 

 

「いや、でも・・・・・・。いいのか・・・・・・?」

「うん!」

「マキのお父さんのケーキはめちゃウマだったけん。晩ご飯も楽しみっちゃね」

「うん。どれぐらい美味しいのかな?」

 

 

 マキの言葉に竜は最初断ろうとするのだが少しだけ考え、確認するようにマキに尋ねた。

 竜の言葉にマキは力強くうなずく。

 マキの言葉にひめとみことはワクワクとした感情を隠さずに言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第392話




UAが106000を超えましたのでアンケートを締め切ります。

選ばれたのはウナとなりました。

アンケートへの協力ありがとうございました。






 

 

 

 

 マキの家での晩ご飯を食べ終わり、竜はついな、ひめ、みことを頭や肩に乗せながら帰路についていた。

 マキとマキの母親の作ってくれた晩ご飯を食べたひめとみことは満足そうにお腹をさすりながら竜の肩に乗っている。

 

 

「はふぅ・・・・・・。マキの家での晩ご飯もめちゃウマだったっちゃね!」

「うん。ちょっと食べ過ぎてしまったかもしれない・・・・・・」

 

 

 満足そうにひめはマキたまきの母親が作ってくれた晩ご飯の感想を呟く。

 ひめの言葉に同意するようにみことも頷いて答えた。

 そんな2人の言葉に竜とついなは笑みを浮かべる。

 

 

「マキのお父さんの料理も美味しいけどマキのお母さんとマキ自身もかなり料理が美味いんだよな」

「うちも和食では負けん自信はあるけど和食以外のものとなると素直に脱帽するわ」

「いつも茜にお弁当を作ってもらっとるけど。それとはまた違った美味しさがあったばい!」

「家庭ごとの味って感じでどちらもとても美味しいんだよね」

 

 

 ひめとみことの言葉に竜はうなずき、マキの一家は全員が料理上手であるということを言う。

 ついなとマキの料理の腕は少しだけついなの方が上ではないかというくらいでほとんど差はなく、和食以外の料理となってくればマキの方がわずかに上になるのではないかというレベルだ。

 そのため、ついなはマキの料理の腕に関してもかなり認めており、実は少しだけ料理に関してライバル視しているところがあったりするのだ。

 

 竜とついなの言葉にひめは元気よく答える。

 

 そして、気がつけば竜は自分の通っている学校の前に到着していた。

 

 

「っと、学校まで来たか。どうする?2人はここで梅の木に帰るか?」

「んーん。竜お兄さんの家まで一緒に行くったい」

「ついなさんやこちらの方々(●●●●●●)がいれば大丈夫でしょうけど。それでもボクたちも竜さんの家までついていきますよ」

 

 

 一応、竜の家にもひめとみことが帰るための梅の木はあるのだが、それでも竜は念のために2人に確認を取る。

 竜の言葉にひめとみことは首を横に振って竜の家まで一緒に行くと答えた。

 その際にみことがチラリと竜の周囲を見渡していたのだが、ついなはみことの言っている言葉の意味が分からず首をかしげていた。

 

 

「こちらの方々っていうと、もしかして俺についていてくれているっていう動物霊たちのことか?」

「あー、そういえばご主人がそんなことを前に言っとったなぁ。うちは全然見えへんかったから分からんのやけど、そんなに強い霊なんか?」

「ええ。っと、そういえば竜さんも自分についている動物霊を見たことはないんでしたっけ?」

「たしかイタコからそんな話は聞いとったねー」

 

 

 みことの言っているこちらの方々というのが自分についている動物霊たちのことを指しているのではないかと理解した竜は確認するようにみことに尋ねる。

 竜の言葉に遅れて理解したついなも今さら竜についている動物霊について尋ねた。

 竜とついなが出会ってからすでになかなかの日数が経っているのに今さら聞くのかと思うかもしれないが、それぐらいに竜についている動物霊に関するなにかが起こることはなかったのだ。

 むしろ、みことがいま言ったことによってついなは竜についている動物霊に関して思い出したまであった。

 

 竜の言葉にひめとみことは竜が自分についている動物霊の姿を見たことがないのだということをイタコ先生から聞いたのを思い出す。

 

 

「ああ。なん体かの動物霊たちが俺のことを守ってくれているっていうのは知っているけど、見なくても大丈夫だってイタコ先生たちに言われてな」

「あー・・・・・・。まぁ、動物霊の方々も竜さんのことを守れればそれで良いといった感じみたいなので。見えなくても大丈夫だと思います」

 

 

 みことの言葉に竜は自分についている動物霊のことを見たことがないと答える。

 竜の言葉にみことはもう一度竜の周囲を見て頬を掻きながら答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第393話




少し遅くなりましたぁ・・・・・・

ロードで120キロほど友だちと走ってきたのですが、桜がとてもきれいに咲いておりました。





 

 

 

 

 学校の前から自分の家の前に着いた竜は、自分の家に灯りが点いていることに気がつく。

 竜は“cafe Maki”に学校から直接向かったため、朝に家を出てから帰宅はしていない。

 もちろん、朝に電気を点けっぱなしにして家を出たということもないため、家の電気が点いているというのは普通に考えておかしいことだった。

 

 

「・・・・・・みゅかりさんか誰かか?」

「あー、その可能性もあるなぁ」

 

 

 まぁ、みゅかりさんやあかり草、けだまきまきにセヤナーやダヨネーといった生き物たちがしょっちゅう家にやってくるので、竜からすれば自分の家の電気が点いていることはそこまで珍しいことではないのだが。

 竜の言葉についなは納得してうなずく。

 

 そして、竜は自分の家のカギを回した。

 

 

「・・・・・・あれ?」

「開いてへんな?」

 

 

 ガチャガチャと玄関を引いても開かないことに竜は首をかしげる。

 みゅかりさんたちが遊びに来ているのであれば基本的に家のカギは閉められたままとなっている。

 そのため、いまのようにカギを回して閉じた状態になる、つまりは家のカギが開けられた状態になっているということはいままでなかったのだ。

 

 

「・・・・・・誰かいるのか?」

「なんだったらうちらが先に見に行くったい」

「ボクたちなら見つかることもないでしょうしね」

 

 

 家のカギが開いていたことから家の中にいるのがみゅかりさんたちではないと考え、竜は音を立てないようにしながら玄関を開ける。

 玄関を開けた竜にひめとみことが提案をする。

 梅の木の精であるひめとみことは基本的に一般人に見えることはない。

 そのため偵察としてはかなり役に立つことができるのだ。

 

 ひめとみことの提案に竜は少しだけ考える。

 

 

「・・・・・・いや、それはいいかな」

 

 

 静かに玄関に入り込んだ竜は置かれている一足の靴を見て首を横に振る。

 玄関に置いてあったのは女性ものの靴。

 

 

「これ、母さんの靴だ」

「母さん?それじゃあ、家におるんはご主人のお母さんなんやね?」

「なーん。そんなら安心やね」

「竜さんに何か用があるんでしょうかね?」

 

 

 竜の言葉についなたちはきょとんとした表情になる。

 家の中にいるのが竜のお母さんなのであれば警戒をする必要もないだろうということでついなたちは緊張していたからだから力を抜いた。

 

 

「帰ってくるなら連絡してくれよ・・・・・・」

 

 

 自分の母親の靴を見ながら竜はがくりと肩を落とす。

 そして、竜は靴を脱いで家の中へと入っていった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 手洗いうがいを終え、電気のついているリビングへと入った竜は椅子に座ってお茶を飲んでいる女性の姿を見て脱力する。

 

 

「あ、おかえりなさーい。こんな時間までバイトしてるの?」

「・・・・・・ただいま。帰ってくるなら連絡してくれよ・・・・・・」

 

 

 ニコニコと笑顔を浮かべながら竜の母親────公住(きみすみ)咲良(さくら)は竜に声をかけた。

 あまりにもリラックスしている自身の母親の姿に竜は疲れたような声で答える。

 そんな竜の頭と肩の上でついなたちは興味深そうに竜の母親である咲良を見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第394話




最近は夜も暖かくなってきてかなり過ごしやすいですね。

でも、油断すると一気に冷えたりして体調を崩してしまいそうです。

皆さまも油断せずに体調に気をつけてください。






 

 

 

 

 リビングでお茶を飲みながらテレビを見ている女性、自身の母親である公住(きみすみ) 咲良(さくら)を竜は疲れた表情になりながら見る。

 竜の両親は父親の転勤で2人揃って離れた地に住んでおり、めったに家に帰ってくることはない。

 ときどき母親が様子見で帰ってくることはあるのだが、そういう時はほとんどが連絡なしに帰ってきて家のカギを開けて家の中でくつろいでいるのだ。

 竜は何度か帰ってくるのであれば連絡を入れるように母親に言っているのだが、それが守られたことはいまのところただの一度もなかった。

 

 ちなみに、ついな、ひめ、みことの3人はすでに元の大きさに戻って興味深そうに竜の母親を見ていた。

 

 

「それで?今回はどんな用事で帰ってきたのさ?」

「んー?特に理由なんてないわよー。まぁ、しいて言うならちょっと気になることがあったから調べようとは思っていたんだけど・・・・・・。その必要もなくなったわねー」

 

 

 いったいどんな用で家に帰ってきたのかを竜は母親に尋ねる。

 竜の言葉に母親はのんびりとした様子でくつろぎながら答えた。

 その際に、チラリと母親の視線がどこかを向いたような気がしたが、竜は気づくことはなかった。

 

 

「あ、たしか晩ご飯はバイト先で食べさせてもらっているのよね?それならお風呂を洗ってあるから入ってきちゃいなさい」

「ああ、前に教えたんだっけか。分かった」

「そんなら、うちらは部屋で待っとるな―」

「竜お兄さんのお部屋に行くったいー!」

「ちょ、音を立てないように気をつけんと・・・・・・」

 

 

 母親の言葉に竜は着替えを取ってくるために自分の部屋へと向かう。

 それを追うようにしてついなたちも竜の母親のいるリビングを後にしようとする。

 

 しかし、ついなたちがリビングから出ようとした瞬間、なにか見えない壁のようなものに遮られてしまい、先頭にいたついなは思い切り頭をぶつけてしまった。

 

 

「ッ~~~~?!?!」

「ど、どしたと?!」

「これは・・・・・・、結界?」

 

 

 思い切りぶつけてしまった頭を押さえてついなはしゃがみこむ。

 痛みに悶えるついなを心配するようにひめはオロオロとし、みことは冷静についながなににぶつかったのかを調べていた。

 

 

「ごめんなさいね?あの子たちに関しては問題ないってことは知っているのだけれど、あなたたちのことをもう少し詳しく知りたいと思ったのよ」

 

 

 痛みに悶えているついなの姿にやりすぎてしまったと思ったのか、苦笑を浮かべながら竜の母親はついなたちに声をかける。

 自分たちに声をかけてくるとは思っていなかったついなたちは驚いた表情を浮かべ、身構えた。

 

 

「そんなに警戒しないでちょうだい。別にあなたたちを祓おうだなんて思っていないんだから、ね?」

「うちらのことが・・・・・・。いや、ご主人があんな霊力を持っとるんだからおかしくはあらへんか・・・・・・?」

「で、でもこの人から霊力ばほとんど感じんっちゃよ?!」

「いや、これは・・・・・・。抑えてるだけったい!」

 

 

 警戒するついなたちに落ち着くように竜の母親は言うのだが、突然のことで混乱しているついなたちは落ち着くことができずにいた。

 そんなついなたちの様子に竜の母親は困ったように頬を掻く。

 

 

「私はあの子の最近の様子を聞きたいだけなのよ」

「・・・・・・ほんまか?」

 

 

 竜の母親の言葉についなは警戒をしながらも尋ねる。

 自分の子どもの様子を聞くためだけにここまで強力な霊術を行使するということが信じられなかったのだ。

 

 

「ええ。本当よ」

「・・・・・・とりあえずは信じることにするわ」

「嘘は言ってなさそうっちゃね?」

「それだけのためにここまで大掛かりな霊術を普通使うかなぁ・・・・・・」

 

 

 ついなの言葉に竜の母親は誤魔化したりすることなく正直に答える。

 その言葉についなたちは一先ずは竜の母親の言うことを信用することにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第395話





銀の2からなかなか勝てない・・・・・・

マイナスが少ないのがまだ救いですけどね・・・・・・






 

 

 

 

 竜の母親によって結界を張られ、ついな、ひめ、みことはリビングに閉じ込められてしまう。

 一応、話を聞くだけと竜の母親は言っているのだが、ついなたちは完全には信用できていなかった。

 

 

「・・・・・・そんで?ご主人のどんな話を聞きたいんや?」

「そうねぇ、とりあえずは最近なにをやっているのかとか、交友関係はどんな感じなのかとかかしら」

 

 

 最近の竜の様子を聞きたいという言葉についなはどのような話を聞きたいのか詳細を尋ねる。

 最近の様子といってもいろいろなことがあるため、簡単に説明するのは少々難しいのだ。

 

 ついなの言葉に竜の母親は少しだけ考え込み、どんなことを聞きたいのかを答えた。

 

 

「最近、なぁ。基本的にはバイトをしていたり、茜たちとゲームをしたりってところやな。あ、あとはなんか変わった生き物に会うようになった気はするなぁ」

「変わった生き物?」

 

 

 ついなの言う変わった生き物という言葉に竜の母親は不思議そうに首をかしげる。

 普通の犬猫なんかを説明するのであればまず使うことのないであろう表現をついながしたことに竜の母親は不思議に思ったのだ。

 

 

「変わった生き物というのが少し気になるところだけれど。特に変わったことはなさそうね?」

「せやね。ああ、でも少し前にテレビの取材は受けたなぁ。一応、放送された奴は録画しとるからあとで確認してみるとええんちゃう?」

 

 

 聞いた限りではとくに変なことに巻き込まれたりだとかはしていないようで、竜の母親はホッと息を吐く。

 結界に閉じ込めるというかなり強硬な手段を取ってはいるものの、竜のことを心配してのことなのだろうということがその様子からは伝わってきた。

 

 

「そんで交友関係は・・・・・・。どちらかというと女の子の知り合いとか友だちが多いんとちがうかなぁ」

「あら、そうなの?」

 

 

 続いてついなは竜の交友関係を答える。

 一応、本当に一応は竜にも男友だちがいるのだが、その人数よりも茜たちや先輩であるずん子たち、小学生のきりたんとウナ、大人であるイタコ先生などなど女性の知人友人の方が多いのだ。

 

 ついなの言葉に竜の母親は少しだけ困り顔になる。

 

 

「そんなに女の子たちと知り合っているなんて・・・・・・。お父さんに似たのかしら?」

 

 

 竜の交友関係で女性の方が多いということに竜の母親はやや呆れ交じりにつぶやく。

 そして、それからしばらくの間ついなたちは竜の母親に竜の最近のことなどを教えるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 お風呂に入り、さっぱりとしてきた竜は飲み物を飲むためにリビングに移動する。

 リビングでは自身の母親がお風呂に入る前と同じようにくつろいでいた。

 

 

「そういえばいつまでこっちにいるん?」

「そうねぇ、そこまで長居するつもりはないわね。明日か、明後日辺りかしら」

 

 

 冷蔵庫のよく冷えている飲み物を取り出しながら竜は母親にいつまでいるのかを尋ねる。

 あまり長い間こっちにいては転勤先に残してきている父親が不便なため、その辺りはキチンとしておかないといけないのだ。

 

 竜の言葉に竜の母親はそこまで長居しないことを答える。

 

 

「ふーん。まぁ、とりあえず母さんも風呂に入ってきなよ」

「ええ、そうさせてもらうわ。あ、そうだ」

 

 

 母親がそこまで長居しないということに竜は慣れた様子で答える。

 まぁ、事実として何度もやったやり取りなので、慣れているのだが。

 

 竜の言葉にお風呂へと向かおうとした途中で、竜の母親はなにかを思い出したのか竜へと向き直る。

 

 

「あんた、許嫁とか欲しかったりする?」

「・・・・・・は?」

 

 

 あまりにも突拍子もない母親の言葉に竜は固まってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第396話




エペでシルバーなら2人、ゴールドなら3人殺れればランクのポイントが落ちることはないのだと気づきました。

それにさえ気をつければ着実にランクを上げていくことができそうです。







 

 

 

 

 突拍子のない自身の母親の言葉に竜の頭の中は?マークで埋め尽くされる。

 

 “許嫁(いいなずけ)

 

 昔であれば親同士が勝手に決めた結婚相手を指す言葉で、現代でも似たような認識を持っている人が多数いるだろう。

 もしくは幼いころに結婚する約束をした婚約者のことを指す言葉としても使われている。

 

 そんな、基本的に一般人の間ではドラマや漫画などの創作くらいでしか聞かないような言葉を竜の母親は言っていた。

 

 

「い、許嫁?」

「ええ、許嫁。ちょっと母さんの知り合いから自分の家の娘たちはどうかって聞かれたのよ」

 

 

 あまりにも現実味のない自身の母親の口から告げられた言葉に竜は困惑しながら聞き返す。

 まぁ、いきなり帰ってきた母親から許嫁が欲しくないかと聞かれて平静でいられる人間はそう多くはないと思うが。

 

 竜の言葉に母親はうなずき、どうしてそのような話が出たのかを答えた。

 

 竜の母親が言うにはどうやら知り合いから竜とその知り合いの娘をお互いの結婚相手としてどうかという話が出たとのことだった。

 しかも、竜の母親の言葉を聞く限りではその知り合いの人には何人かの娘がいるようで、その娘のうちの誰かを許嫁としてどうかということだったらしい。

 

 

「いやぁ、許嫁とかいきなりすぎるし・・・・・・。なにより相手の人のこととか全然知らないから・・・・・・」

「そう。じゃあお断りの連絡を入れておくわね。母さんも別に強制しようだなんて思ってなかったから。それに、母さん自身もお父さんとは恋愛結婚だったわけだし」

 

 

 困った様子の竜に母親は許嫁の話を断る連絡を入れると答える。

 もともと竜の母親としてもそこまで気にしていることでもなかったのと、竜には自分と同じように好きな人と結婚してほしいという思いがあった。

 そのため、竜の母親も許嫁の話を断ることに何のためらいもなかったのだ。

 

 

「まぁ、その知り合いの人の娘さんが何歳なのかは知らないけど、そっちにも好きな人とかいるかもしれないしな」

「それもそうね。それじゃあ、お風呂に入ってくるわねー」

 

 

 竜の母親の話から推測するに、竜の母親の知り合いの方も娘には何の話もせずに先走って許嫁の話を持ち出してきたのではないかと竜は考えた。

 そのため、その知り合いの娘にも好きな人がいる可能性があるということで竜は完全に許嫁に関してを断るのだった。

 

 竜の言葉に母親もうなずき、ヒラヒラと手を振りながら風呂場へと向かって行くのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 母親が風呂場へと向かって行くのを見た竜も自分の部屋へと移動する。

 竜の部屋ではひめとみことがゲームの準備を手間取りながらもしており、ついなが部屋の掃除をしていた。

 

 

「ご主人、また漫画を買ったん?そろそろ漫画を置く場所もなくなるで?」

「あー、確かに・・・・・・。読まないやつは売るかなぁ・・・・・・」

「竜お兄さん!ゲームの準備が終わったったい!」

「たしか、これであってたはず・・・・・・」

 

 

 ついなの言葉に竜は頬を掻きながら答える。

 そんな竜の背中にひめが元気よく飛びつく。

 みことはちゃんとゲームがつながっているのかが心配なのか、しきりにゲーム機とテレビを交互に見ている。

 

 そして、竜たちはひめとみことの準備したゲームを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第397話




ううむ、上手く書けなかった気が・・・・・・

流れは決まっているのに文章にできないとなんだか悔しいですね・・・・・・






 

 

 

 

 竜の母親が襲来した翌日。

 竜はついなに体を揺らされて目を覚ます。

 

 

「ご主人、おはようさんや」

「ん・・・・・・。ああ、おはよう」

 

 

 いつもとは違うついなの起こし方に竜は不思議そうに首をかしげるが、すぐに自分の母親が帰ってきていることを思い出して納得した。

 ついなから自分の母親が霊を見ることができるということを聞いているのではないかと思うかもしれないが、ついな、ひめ、みことは竜の母親に霊を見ることができるということを口止めされているのだ。

 そのため、竜は自分の母親が霊を見ることができるということを知らないのだ。

 

 

「今日はご主人のお母さんが朝ごはんを作っとるで」

「母さんが?」

 

 

 ついなの言葉に竜は部屋の外へと耳を澄ませる。

 ハッキリとは聞こえないが、うっすらと調理する音などが聞こえてきており、ついなとはまた違った安心感を感じられた。

 

 

「はよ着替えて顔洗ってきてなー」

「あいよー」

 

 

 竜が起きたことを確認したついなは部屋から出ていく。

 ついなの言葉に竜は着替えながら答えた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 着替えと授業の準備を終えた竜はあくびをこぼしながらリビングに入る。

 リビングに入るとついなが椅子に座って待っており、普段では見ない光景に竜は少しだけ違和感を感じていた。

 

 

「あ、起きたのね。いま朝ごはんできるから待ってなさい」

「うーい・・・・・・、くぁ・・・・・・」

 

 

 竜がリビングに入ってきたことに気がついた母親は朝ごはんの用意をしながら竜に声をかける。

 母親の言葉に竜は普段ついなに答えているのとは全く違っただらけた様子であくびをしながら答えた。

 

 そんないつもと違う竜の様子についなは驚いた表情を浮かべながら目をパチクリとさせていた。

 

 

「ご、ご主人・・・・・・?」

「んぁ?・・・・・・あー、すまん。母さんが相手だからだらけ過ぎた・・・・・・」

 

 

 いつもと様子の違う竜についなは恐る恐る声をかける。

 ついなの言葉に竜は軽く頬を掻き、ついいつもよりも力の抜けた状態でしゃべってしまっていたことを謝った。

 

 

「そ、そうなんか。・・・・・・いつもと違ってちょっと驚いてしもた」

 

 

 竜の言葉についなはポツリとつぶやく。

 

 竜がここまで脱力した状態で話している姿をついなはいままで見たことがない。

 それは逆に言えばまだついなの前ではそこまで脱力できるような状態ではないということ。

 

 そのことを理解したついなは少しだけ寂しい気持ちになってしまった。

 

 

「ん?どうかしたの────」

「さっきから1人でなにをしゃべっているの?朝ごはんできたわよ」

 

 

 ついながどことなく暗い表情になってしまっているように感じた竜はついなに声をかけようとする。

 しかし、竜の言葉の途中で竜の母親が朝ごはんを持って現れたために竜は言葉を中断せざるを得なかった。

 竜の前に朝ごはんを置いた竜の母親は自分の飲み物を用意して椅子に座る。

 

 自分の母親が霊を見ることができるということを知らない竜は母親がいる今の状態ではついなに話しかけることができないと考え、朝ご飯を食べ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第398話





冷える時はあるけどだいぶ過ごしやすいですね。

さて、お金の準備もできたのでVの身体を依頼しないと!






 

 

 

 

 朝ごはんを食べ終え、竜は学校へ持っていく荷物の最終確認をする。

 といっても自分の部屋を出る時にチェックはしてあるので念のため程度なのだが。

 

 

「っし、それじゃあ学校に行くわ」

「はーい。戸締りとかはしておくから安心してちょうだいねー」

 

 

 荷物の最終確認を終え、竜は母親に声をかける。

 竜の言葉に竜の母親はお茶を飲んでいたコップをテーブルに置き、ひらひらと手を振りながら竜を見送った。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 家を出た竜は上に両腕を伸ばし、グッと伸びをする。

 朝の陽ざしを浴びたことによって体が自然に覚醒していった。

 

 

「あ、竜先輩。おはようございます!」

「おう。おはよう、あかり」

 

 

 家から出てきた竜の姿に気がついたあかりが元気よく竜に声をかける。

 あかりの声に竜は手を上げながら答えた。

 

 

「あれ?カギを閉めてないみたいですけど・・・・・・」

「ああ、いまはうちに母さんがいるからな。戸締りの方はしなくても大丈夫なんだ」

 

 

 竜が家のカギを閉めずに来たことが気になったあかりは、家のカギを閉めないのかを尋ねる。

 あかりの言葉に竜は家に自分の母親がいることを答えた。

 

 竜の言葉にあかりは驚いた表情になって竜の家を見る。

 

 

「え、お義母(かあ)様が?」

「おう。・・・・・・うん?なんか言い方おかしくなかったか?」

 

 

 なんとなくあかりの言っている言葉に違和感を感じた竜は聞き返すが、あかりはそっと顔を逸らして誤魔化す。

 あかりの様子に竜は首をかしげるが、そこまで気にしなくても良いだろうと考え、気にしないことにした。

 

 

「2人ともおはようさんや!」

「竜くん、あかりちゃん、おはよー」

「2人ともおはようございます」

「お、茜たちもやって来たなぁ」

 

 

 竜とあかりが話していると、茜の元気な声が聞こえてくる。

 声のした方を見れば茜が元気よく手を振りながら向かってきており、その近くには葵とゆかりの姿もあった。

 

 茜たちの姿を確認したついなは全員がちゃんとそろったことに嬉しそうな声をあげる。

 

 

「3人ともおはよう」

「茜先輩、葵先輩、ゆかり先輩、おはようございます」

 

 

 茜たちの挨拶に竜とあかりも挨拶を返す。

 そして、全員がそろったので竜たちは学校に向かって歩き始めた。

 

 

「昨日は帰ったらいきなり母さんが帰ってきててなぁ・・・・・・」

「マジで驚いたんよねぇ・・・・・・」

「そうなんか?!ほとんど帰ってこおへんっちゅうのは聞いとったからレアやなぁ」

「うんうん。ボクたちも数えるくらいしか会ったことなかったよね?」

「たしか・・・・・・、お義父(とう)さんの転勤に着いていっていたんでしたっけ?」

 

 

 竜が話すのはいきなり帰ってきていた自身の母親のこと。

 竜の母親が帰ってきていたということに茜たちは一様に驚いた表情になる。

 それほどまでに竜の母親が帰ってくるタイミングはランダムであり、会うようなタイミングがほとんどないのだ。

 

 それから、竜たちはいろいろな会話をしながら学校へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第399話





どんな姿かのイメージは送ったので、あとはどんな姿になるのかを楽しみに待つだけです!

そろそろイタコ先生たちのイベントを起こしたいなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 4時間目、体育。

 

 竜たちのクラスは男女別に分かれて男子は外で、女子は体育館で体育の授業をおこなっていた。

 ちなみに男女が一緒に体育の授業をすることは基本的にあり得ないので、男子生徒たちが女子生徒の体操着姿を見ることができるのはマラソン大会や球技大会などの全校生徒や大人数の生徒たちが参加する運動系のイベントのときのみである。

 

 ちなみに、竜の頭の上に乗っていたりすると危ないということでついなは元の大きさに戻ってグラウンドの端で竜のことを見守っている。

 

 

「おおぉ・・・・・・、っらぁああああ!!!!」

「はい、さんし~ん」

「声だけは良いんだよなぁ。声だけは」

 

 

 叫び声とともに思い切りバットを振っているのは竜のクラスメイトであるミツオ。

 しかし振るわれたバットは投げられたボールにかすりもせずに空を切った。

 

 あまりにも無情な三振の宣告を聞きながら竜のクラスメイトであるヒデノリは辛辣なことを言う。

 が、ヒデノリがミツオに対して辛辣なことを言うのはいつものことなため、竜たちは特に驚いた様子もなく頷いて応えた。

 

 

「おーい、しっかり当ててくれよ~?」

「んなこと言ったって俺は野球は苦手なんだよ!」

「まったく、そんなんだからいつまで経ってもミツオ君なんだよ」

「どういうこと?!なんで俺の名前が悪いことの象徴みたいになってるわけ?!」

「おいおい、落ち着けよ。ミッツオ・マングローブ」

「誰だよその名前?!余計なもんを付け足すんじゃねえ!」

 

 

 バットを持って悔しそうに戻ってきたミツオにタダクニ、ヒデノリ、竜は口々に声をかける。

 といってもミツオ君にかけているのは慰めの言葉などではなく野次のようなものばかりなのだが。

 

 竜たちの言葉にミツオは大きく声を上げてツッコミを入れる。

 

 茜たちと話しているときとはまた違った気楽な男友だちとのやり取りをする竜の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 授業が進み、竜たちは体育の授業で使ったバットやボール、グローブなんかを片づけていく。

 

 

「竜お兄さーん!おっ昼ったーい!」

「へ、ちょ、ぶぎゅるっ?!」

 

 

 不意に聞こえてきたひめの声とともに竜の視界は暗闇に包まれる。

 視界が暗闇に包まれている竜が感じられるのは、顔を包み込む謎の柔らかさと、ほど良い温かさ。

 

 

「き、公住?!」

「なんて裏山・・・・・・!!」

「え、誰・・・・・・?」

「これは嫉妬の炎で燃やされても仕方がないな・・・・・・」

 

 

 驚くようなタダクニたちの声を聞きながら竜はどうにか顔を包み込んでいた柔らかいものから顔を脱出させる。

 開けた視界に広がるのは至近距離から竜のことをを覗き込んでくる大人の女性のような姿になっているひめの顔。

 “cafe Maki”を手伝ったときの大学生の姿よりもさらに成長した姿となっており、大人の色気とでも言えばいいのだろうか、そんなものを感じられる姿だった。

 

 加えて、聞こえてきたタダクニたちの声からどうやらひめは一般人にも見えるように実体化しているようで、他のクラスメイトたちからもざわざわとした声が聞こえてきていた。

 

 

「竜お兄さん、お昼になるったい!はよ着替えんと!」

「いや、ちょ、待っ・・・・・・。えぇえええぇぇえぇええ?!?!」

 

 

 竜のことを捕まえていたひめは、そのまま竜を抱き上げると走って校庭から教室へと向かって行ってしまう。

 あまりにも突然の事態に竜のクラスメイトたちは唖然としており、走り去っていったひめの後をついなは慌てて追いかけていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第400話





依頼していた体のラフを見せてもらいました。

自分がイメージしていたものよりも良くてとても嬉しかったですね。

もう少しでいろいろとできそうで楽しみです。





 

 

 

 

 ひめに抱きかかえられて教室まで戻ってきた竜は一先ず体育着から制服へと着替える。

 一足先に教室に戻ってくることになってしまったが、授業で使ったバットやボール、グローブなんかはほとんど片づけ終わっていたので、そこまで気にしなくても良いだろう。

 

 ちなみに、女子はちゃんと別に更衣室があるので、着替えをするために教室に戻ってきて鉢合わせるなんてハプニングは起こったりしないので竜は安心して着替えていた。

 

 

「うん?なんや、竜だけ早いなぁ?」

「あ、本当だ。他の男の子たちはいないみたい」

「ああ、まぁこいつに掴まってな・・・・・・」

 

 

 竜が着替え終わったタイミングで教室に戻ってきた茜たちは、竜が先に教室にいることに驚き、不思議そうにしながら声をかける。

 茜たちの言葉に竜は教室で待っていたひめのことを指さしながら答えた。

 

 竜が指さしたことによって茜たちはひめの存在に気がつき、驚いた表情になる。

 教室に入った時に最初にひめのことに気がつくのではないかと思うかもしれないが、そのときにひめはついなによって叱られており、床に正座をしていたために高さが低くなって目立ちにくくなっていたのだ。

 そのため、教室に先にいた男子生徒ということで竜の方に意識が集中してしまい、結果的にひめの姿に気づくことができなかったというわけだ。

 

 

「え、どちらさんなん?!」

「とりあえず絶対に学生じゃないよね?!」

「あれ?でもなんだかどこかで見覚えがあるような・・・・・・?」

「あ、あれですよ。ほら、昨日マキさんの家で働いていた方たちと似ているんですよ」

 

 

 普段のひめの姿と違って成長した大人の女性の姿となっているひめに茜たちは混乱する。

 当然ながら茜たち以外にも竜のクラスメイトの女子たちはいるので、そちらも同じように驚いていた。

 

 と、驚いている茜たちの中でマキがひめの姿に見覚えがあることに気づく。

 するとマキの言葉にゆかりも思い出したのか、昨日の“cafe Maki”で働いていた大学生くらいの年齢の姿になっていたひめと似ているのではないかと答えた。

 まぁ、似ているもなにも同一人物なので当たり前のことなのだが。

 

 

「お、茜たちも来たっちゃね!そんなら保健室に行くったい!」

「あ、こら!まだ説教は終わっとらんよ!!」

 

 

 ついなに説教されていたひめは茜たちの姿に気がつくと素早く立ち上がり、保健室へと走っていく。

 説教の途中で逃げ出したひめについなは怒りながらその後を追っていった。

 

 

「・・・・・・え、もしかしてあの子なん?」

「さっきのしゃべり方ってそう、だよね・・・・・・?」

 

 

 ひめの特徴的なしゃべり方から大人の女性の正体がひめだということに気がつき、茜と葵は驚きながら竜と走っていったひめを交互に見る。

 驚いている様子の2人に竜は苦笑しながらうなずいた。

 

 

「え~・・・・・・。昨日の姿よりも成長してるじゃん・・・・・・」

「あそこまで自由に見た目を変えられるものなんでしょうかね?」

 

 

 竜がうなずいている姿からマキは昨日の大学生くらいの姿からさらに成長した姿をしていたひめに愕然とし、ゆかりは興味深そうに首をかしげているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第401話




Vの体ができたらまずは自己紹介の動画つくりですかねぇ

そのために動画の作り方をもっと詳しく調べないと。







 

 

 

 

 着替えが終わり、竜たちは保健室に移動する。

 保健室へと向かいながら竜たちが話すのは先ほどの大人の姿になっていたひめのこと。

 

 

「それにしてもさっきの大人の姿はマジで驚いたんやけど」

「うんうん。いつもの子どもの姿じゃないからぜんぜん分からなかったよ」

「うちで見た姿よりもさらに成長してたよね?」

「とりあえずこれで分かっているのはいつもの子どもの姿と昨日見た大学生くらいの姿、それとさっき見た大人の姿でしょうか?」

「いや、俺もあの姿とか初めて見たから驚いたんだけどな・・・・・・?」

 

 

 少しばかりジトリとした目線を向けながら茜は竜に言う。

 それほどまでにひめの大人の姿に衝撃を受けていたのだが、竜自身もひめが大人の姿になれるということは知らなかったので、いくら茜に言われても教えようがなかったのだが。

 

 保健室へと向かいながら、竜たちはふと保健室に向かう廊下に男子生徒が多いことに気がついた。

 

 

「本当に保健室に行ったんだよな?」

「ああ、間違いないぜ!」

 

「もしかしたら新任の先生なのか?」

「そうかもしれないな。それに保健室に入っていったところを見たやつがいるらしいからイタコ先生とも知り合いなんじゃないか?」

 

 

 保健室へと向かいながら聞こえてくる声から察するに、どうやら誰か大人の人が保健室に入っていったところを見た生徒がいたらしい。

 新任の先生と思えるくらいなのだから、若い大人。

 それに加えて男子生徒が多く反応していることから女性であるということは間違いないだろう。

 

 

「なんや新しい先生でも来るんかなぁ?」

「え、でもそんなことがあるなら朝会とかで言われそうだけど・・・・・・」

「んー、っていうかもしかしてなんだけど・・・・・・。教室から保健室に向かって行ったあの子なんじゃない?」

「むしろそれしかなさそうですよね?」

 

 

 男子生徒たちの話している声を聞きながら茜たちは不思議そうに首をかしげる。

 新任で新しく先生が来るのであれば全校朝会などで通達があるはずなので、それもなしに校舎の中に新任の先生がいるというのはおかしいことなのだ。

 

 不思議そうにしている茜たちにマキとゆかりは自分たちが考えていたことを答えた。

 マキとゆかりの言葉に竜たちは納得した表情でうなずいた。

 

 

「あー、なるほどなぁ・・・・・・」

「たしかにあの姿なら新任の先生と思われても仕方がない、のかな?」

「ちゅーか、保健室にくるまでずっと見える状態のままだったんか・・・・・・」

 

 

 そんな話をしながら竜たちは保健室に到着する。

 保健室へと入っていく竜たちのことを、とりわけ竜のことを嫉妬の込められた視線で見ている男子生徒たちのことに気づかないふりをしながら竜たちは保健室の中へと入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第402話



Vになったら自己紹介動画を撮らないと・・・・・・

動画の編集を調べないとだなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 向けられている嫉妬の込められた視線を無視して保健室の扉を開けて竜たちは保健室に入る。

 保健室に入った竜の眼に入ってきたのはついなによって叱られて正座をしているひめの姿と、それを見て苦笑しているみこととイタコ先生の姿、そして叱られているひめとみことのことを驚いた表情で見ているイアとオネに、我関せずといった様子でお弁当の準備を進めていくあかりの姿だった。

 

 

「だからあれほど大人しく保健室で待っているように言ったのに・・・・・・」

「まぁ、あんな姿に成長して嬉しかったみたいですし・・・・・・」

 

 

 ついなに叱られているひめの姿を見ながらみことは呆れながらつぶやく。

 どうやらみことは竜のことを迎えに行こうとしたひめのことを止めようとはしていたらしい。

 まぁ、結局は止められてはいなかったのだが。

 

 その隣ではイタコ先生が苦笑していた。

 

 

「あ、先輩たちも来ましたね。それじゃあお昼にしましょうか」

「えー・・・・・・、あれをスルー出来るんか・・・・・・?」

 

 

 叱られているひめのことをスルーしてお弁当の準備をしているあかりの姿に茜はがくりと肩を落としながら言う。

 そして、茜たちもお弁当の準備を始めていった。

 

 

「そういえば・・・・・・」

「ん、どうしたんや?」

 

 

 お弁当の準備をしながらひめとみこと、イタコ先生をなんとなく見ていた竜はあることに気がつく。

 竜の言葉にひめの説教を終えたついなはなにか気になることでもあったのかと竜に尋ねる。

 

 

「いやな?なんとなくあの2人の体型がイタコ先生と似ているような気がしてな」

「体型が・・・・・・?」

 

 

 竜の言葉についなはひめとみこと、そしてイタコ先生を見る。

 そう言われてみればひめたちとイタコ先生の体型が似ているようにもついなは感じられた。

 

 

「あー、たしかに似とるかもしれんなぁ」

「それに昨日の姿よりも成長している姿だし・・・・・・。どういうことなんだろうな?」

 

 

 ひめとみことの姿が成長していることを改めて不思議に思い、竜は首をかしげる。

 たしかに大学生くらいの年齢にまで成長することができたのだから大人の姿になれてもおかしくはないのだろうが、それでも急にさらに成長したことが不思議だった。

 

 

「おっひるおっひるー」

「もう、体が大きくなってるんだから暴れたら邪魔になるったい!」

 

 

 茜から受け取ったお弁当を前に嬉しそうにしているひめをみことは注意する。

 体は成長していても中身までは成長していないひめの姿に竜は苦笑を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第403話





ツイッターでフォローしてもらえるのは嬉しいけどフォローを返していいのかちょっと悩みます。

まだVとして活動もしていないのにフォローしていいのかとかいろいろと考えちゃうんですよねぇ・・・・・・







 

 

 

 

 ニコニコと笑顔を浮かべながらひめとみことは茜の作ったお弁当を食べる。

 普段の子どもの姿であれば微笑ましく見えるだけの光景なのだが、大人の姿となっている今では口を開いて食べ物を口に運ぶだけでも謎の色気のようなものを感じられた。

 

 

「なぁ、イタコ先生。どうしてこの子らはいつもの姿からこんな姿に変わっとるんや?」

「いつもと違う姿でボクたちもとても驚きましたよ」

「一応は昨日も大学生くらいかな?それくらいの姿を見ていたけど、それでもびっくりしちゃいました」

「こんなに自由に姿を変えられるものなんですか?」

「でも大きくなったらもっとたくさん美味しいものが食べられそうですね」

 

 

 お弁当を食べながらとうとう茜が気になっていたことをイタコ先生に尋ねる。

 それに続くように葵、マキ、ゆかり、あかりも言葉を続ける。

 あかりだけどこかズレたことを言っているが、ひめとみことが大人の姿になっていることの方がインパクトとして大きかったために誰も気にすることはなかった。

 

 茜たちの様子からひめとみことの姿が変わっていることが見慣れていることではないのだろうということを理解し、イアとオネはキョロキョロとイタコ先生やひめたちのことを見ていた。

 

 

「あー、そうですわねぇ・・・・・・」

 

 

 茜たちの言葉にイタコ先生はどう答えたものかと小首をかしげる。

 

 ここにいるのが竜たちだけであれば簡単に説明をすることはできたのだが、いまここにはひめとみことのことを詳しくは知らないイアとオネがいる。

 そのため、あまり詳しい説明をしたくはないのだ。

 

 

「ええっと、簡単に言いますといつもの姿よりもできることを増やしたいということでこちらの姿になりましたの」

「あー、たしかにいつもの子どもの姿よりもいまの姿の方がおっきいもんなぁ」

「うんうん。言われてみれば確かにいつもの姿よりもできることは多くなりそうだよね」

「え、というか姿が変わっていることにはそんなに驚いていない感じなのかな?」

「驚いたとは言っていたけどどう考えても私たちよりは驚いていないわよね・・・・・・?」

 

 

 一先ずあたりさわりのない説明としてひめとみことが大人の姿になっている理由をイタコ先生は説明する。

 イタコ先生の説明に納得がいったのか、竜たちはうんうんとしきりにうなずいた。

 

 ひめとみことの姿が変わっている理由を聞いて納得している竜たちの姿にイアとオネは困惑したまま首をかしげる。

 まぁ、一般人からすればまず子どもの姿だった子がいきなり大人の姿になっているという時点で驚愕ものであり、それをそこまで衝撃を受けずに受け止めているという竜たちの姿はとても不思議なものに見えるのは仕方のないことなのだろう。

 

 

「あの、ところで2人のスタイルがなんとなくイタコ先生に近いような気がするんですが・・・・・・」

「あ・・・・・・、その、ええと・・・・・・。実は、お2人は私の体型をモデルにして大人の姿になっておりまして・・・・・・」

 

 

 ひめとみことがどうして大人の姿になったのかの理由を知ることができた竜は、ついでに2人の体がどことなくイタコ先生と似ている気がすることについて尋ねる。

 竜の質問にイタコ先生は恥ずかしそうに顔を赤く染め、どうして2人の体が自分と似ているのかを答えた。

 イタコ先生の答えに竜は気まずそうに顔を逸らし、茜、葵、ゆかりの3人は恨めしそうにひめとみことの体を見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第404話




さぁてと、ようやく短いですがイタコ先生のイベントが起こせます。

一応言っておきますと、胸糞悪いタイプは私が嫌いなので絶対になりません。







 

 

 

 

 お弁当を食べ終わり、竜たちは適当な雑談をする。

 まぁ、竜たちは普通に会話をしているのだが、イアとオネだけはひめとみことの姿が気になってしまい、会話に集中することができていないのだが。

 

 

「ふふふ。・・・・・・あら?」

 

 

 不意に竜たちの会話を聞いて微笑んでいたイタコ先生は自身の持っているケータイが振動したことに気がつく。

 ケータイの画面を見たイタコ先生の表情が嫌そうにゆがみ、ケータイを持ってそのまま保健室から外につながる扉を開けて出ていってしまった。

 

 あまり見ないイタコ先生の嫌そうな表情に竜たちは驚き、イタコ先生の出ていった扉をジッと見てしまった。

 

 

「なんや不機嫌そうな表情やったね?」

「うん。イタコ先生にしては珍しいよね」

「ケータイを見てからだったよね。電話、かな?」

「たぶんそうじゃないでしょうか」

「嫌な人からの電話だったんですかね?」

 

 

 ケータイを持って保健室から出ていったイタコ先生の姿を見ていた茜たちはイタコ先生の表情が見たことのないものだったために首をかしげながら口々に話し始めた。

 イタコ先生は基本的に笑顔を浮かべていることが多く、他の表情があったとしても説教をしているときのプリプリとした怒り顔くらいなのだ。

 

 そのため、イタコ先生が嫌そうな表情をするということがとても珍しかったのだ。

 

 

「はぁ・・・・・・、ホントにめんどくさいことになりましたわ・・・・・・」

 

 

 竜たちがイタコ先生の様子について話をしていると、外に出ていたイタコ先生が頭を抱えながら戻ってきた。

 イタコ先生が戻ってきたため、竜たちは話していたことを止めてイタコ先生を見る。

 

 

「なんかあったんですか?」

「・・・・・・実は昨日の夜にうちの両親からお見合いの話を出されたんですの」

「お見合い?!」

「え、すごっ!」

 

 

 竜の言葉にイタコ先生は一瞬だけ答えるのを止めようとしたが、話した方が楽になると考えたのか何があったのかを話し始めた。

 イタコ先生の口から出てきたお見合いという言葉に茜たちは反応し、身をイタコ先生の方へと大きく乗り出す。

 

 

「いえ、そちらの方は相手の方からお断りの返事をいただいたのですが、なぜかそのことを相手の方の家の分家の方が知ってしまいまして、私と婚約をしないかと言ってきているんですの」

「分家っちゅうことはけっこう大きな家だったんかな?」

「たぶんそうだよね。そんなに嫌な相手なんですか?その分家の人っていうのは」

 

 

 お見合いの方はなんの問題もなくお流れとなったのだが、そこから少しだけめんどくさいことになったとイタコ先生は話を続ける。

 分家、つまりは大元の家から分かれた家のことであり、これがあるということはそのいえはかなり大きな権力かなにかを持っていた家だったということなのだろう。

 

 

「嫌もなにも、その方の年齢が50を超えていますのよ?!あまりにもふざけていると思いません?!」

「ええぇ、50歳を超えているって・・・・・・」

「だいたいイタコ先生の倍以上の歳でしょうか?どちらにしてもちょっとありえませんね」

 

 

 ついには溜まっていたイライラが限界に達したのか、イタコ先生はバフバフと保健室のベッドを強く叩きながら声を上げる。

 どう考えてもおかしい年齢差の相手に茜たちは一様に嫌そうな表情になる。

 

 

「それって断れないんですか?」

「それができれば苦労はないんですけどね・・・・・・。その家の方が私たちの家よりも大きいので断ることが難しいんですの・・・・・・」

「そんな・・・・・・・。それじゃあ、先生はそんなおじさんと結婚しないといけないの?!」

 

 

 イアの言葉にイタコ先生はがくりと肩を落として答える。

 どうやら家の大きさのせいでイタコ先生は婚約を断ることが難しいらしい。

 

 イタコ先生が婚約を断ることが難しいということに竜たちは落ち込むことしかできなかった。

 

 

「なにか、なにか断る手はないんですか・・・・・・?」

「あるにはあるんですけど条件が、・・・・・・・・・・・・あ」

「あ?」

 

 

 このまま婚約となってしまってはイタコ先生が報われない。

 そう考えたあかりはなにか防ぐ手立てはないのかとイタコ先生に詰め寄る。

 

 あかりであれば紲星グループの力で解決できるのではないかと思うかもしれないが、婚約の話となってしまってはいくら大きな会社である紲星グループであったとしても介入することは難しく、どうにもできないのだ。

 

 あかりの言葉にイタコ先生は困った表情になりながら答え、途中で竜のことを見て言葉を止める。

 イタコ先生の言葉が止まったことに不思議に思いながら竜はイタコ先生を見返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第405話





最近は地味に文章を書く速度が上がってきているような?

これが慣れてきたということなんですかねぇ。

まぁ、こんだけ長い間書いてきていて今さら感はありますけどね。






 

 

 

 

 竜のことを見て固まったイタコ先生は慌てた様子で竜に駆け寄っていく。

 急に様子の変わったイタコ先生に竜たちは不思議そうに首をかしげる。

 

 

「き、公住くん!今日の放課後空いてませんか?!」

「え、まぁ、空いてますけど・・・・・・」

 

 

 すがるようなイタコ先生の言葉に竜は困惑しつつ、今日は“cafe Maki”でのバイトも入っておらず、特に予定がないことを答える。

 竜の答えにイタコ先生は目を輝かせ、嬉しそうな笑顔を見せる。

 

 

「やりましたわ!これで、なんとかなりそうですわぁああ!!」

「なんやよう分からんけど竜がおったら助かるんかな?」

「たぶんそうなんじゃないかな?」

 

 

 先ほどまでの落ち込んだような雰囲気はなんだったのかと言えるほどに喜ぶイタコ先生の様子に竜たちはなにがなんだかわからずに首をかしげる。

 少なくとも分かることがあるとすれば、イタコ先生が言いかけていた婚約を断るために必要な条件をおそらくは竜が満たしていたのだろうということ。

 

 そして、喜んだまま元に戻らなかったイタコ先生をそのままにして竜たちはそれぞれの教室へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 放課後。

 

 お昼休みにイタコ先生に呼ばれていた竜は保健室へと向かう。

 ちらりと中庭に目を向けてみれば大人の姿になっているひめとみことが仲良く並んで自分たちの梅の木を眺めており、1枚の絵のようになっていた。

 あまりにも綺麗な風景に竜はケータイを取り出してシャッターを押す。

 そして、取れた写真を確認してから竜は再び保健室へと向かって歩き始めた。

 

 

「あ、イタコ先生」

「ああ、公住くん。もう少し待っててもらえますか?いま保健室のカギを閉めちゃいますので」

 

 

 保健室の前に着くとちょうどイタコ先生が自分の荷物をまとめて保健室の外にいた。

 どうやらあとは保健室のカギを閉めるだけで終わるらしい。

 保健室のカギを閉めるために前傾姿勢となっているイタコ先生の胸が重力によって下に向かっているのを見てしまった竜は慌てて視線を別方向へと逸らす。

 

 

「お待たせしましたわ。あら?どうかしましたの?」

「あ、いえ。気にしないでください・・・・・・」

 

 

 保健室のカギを閉め終わったイタコ先生は、顔を逸らしている竜の姿に不思議そうに首をかしげて尋ねる。

 さすがに正直に『重力に従っている胸を見てしまったので顔を逸らしていました』と言えるわけがないので、竜は曖昧に答えて誤魔化す。

 竜の答えにイタコ先生はただただ不思議そうに首をかしげるのだった。

 

 

「ええっと、よく分からないけどきちんと説明をするために家に来てもらっても良いかしら?」

「あ、はい。大丈夫です」

「ご主人も男の子やから仕方のないことやんなぁ」

 

 

 不思議そうに首をかしげながらどうして竜のことを放課後に呼んだのかを説明するためにイタコ先生は竜を家に誘う。

 イタコ先生の言葉に特に断る理由もなかった竜は悩むことなくうなずいた。

 そんな竜のことをポケットの中から見上げながらついなはしみじみと呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第406話





低評価がつけられると少しだけ落ち込んでしまいますよねぇ・・・・・・

まぁ、万人に受ける小説だとは思っていないので仕方がないとは思うんですけどね。






 

 

 

 

 イタコ先生の運転する車に乗りながら竜とイタコ先生は東北家へと向かう。

 車を運転するイタコ先生は嬉しそうにしており、それだけ婚約を断るための条件を竜が満たしていたことが嬉しかったのだろう。

 

 

「ひとまずは私の家で理由などの説明をしますから。そうしたらどうか協力をお願いしますわ!」

「はぁ・・・・・・?」

 

 

 イタコ先生の言葉に竜はあいまいにうなずく。

 まぁ、イタコ先生から詳しい説明を聞いていないのだからハッキリとうなずけないのも当然なのだろう。

 

 

「とりあえず、俺が手伝えばイタコ先生の婚約は断れるってことで良いんですか?」

「ええ、そうなりますわ。最低条件として霊力が高く、霊を視ることができる男性というのがありましたので、公住くんがいてくれて本当に助かりましたわ!」

 

 

 念のための確認として竜はイタコ先生に声をかける。

 イタコ先生の喜びようから自分が手伝えばいいのだろうということは察していたのだが、それでもきちんと確認をしておきたかった。

 

 竜の言葉にイタコ先生はうなずいて答える。

 

 イタコ先生の言葉に竜は納得し、なるほどといった様子でうなずいた。

 

 

「って、うん?家の前に車・・・・・・?」

「あの車は・・・・・・」

 

 

 東北家に近づき、竜は東北家の前に一台の車が停まっていることに気がつく。

 車の中には誰もおらず、おそらくは東北家の中に入っているのではないかということが想像できた。

 

 竜の言葉にイタコ先生は車に見覚えがあるのか、嫌そうに眉をひそめた。

 

 

「なんや、あの車の持ち主を知っとるんか?」

「ええ、まぁ・・・・・・。あの車の持ち主が(くだん)の婚約をしようとしてきているおっさんですわ・・・・・・」

 

 

 イヤそうな表情になったイタコ先生の様子から、車の持ち主のことを知っているのではないかと考えたついなはイタコ先生に尋ねる。

 ついなの言葉にイタコ先生は家の前に止まっている車の持ち主について話す。

 

 しれっと婚約をしてこようとしてきている相手のことをおっさんと言っているイタコ先生に苦笑をしつつ、竜は停まっている車を見る。

 停まっている車は黒色をしており、見るからに高い車だと分かるような車だった。

 

 そして、竜とついな、イタコ先生は車を降りて東北家へと入っていった。

 

 

「ただいま帰りまし────」

「やめてください!」

「ずん姉さま!」

「っ?!生徒会長っ?!」

「なんや今の声っ?!」

 

 

 玄関へと入ったイタコ先生が家の中に向かって声をかけようとすると、いきなりずん子の悲鳴が聞こえてきた。

 それに続くようにきりたんの声も聞こえてくる。

 

 ただ事ではない雰囲気を感じ取り、竜は適当に靴を脱いで東北家の中へと駆け込んでいく。

 ずん子ときりたんの声が聞こえてきたのは奥の方にある部屋。

 

 走って部屋の前へとたどり着いた竜は、ためらうことなく部屋の扉を開けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第407話






わちゃわちゃとみんなでやるマイクラは楽しいですねぇ。

やはり一緒に遊ぶ人がいると楽しいです。







 

 

 

 

 ずん子ときりたんの声が聞こえてきた部屋。

 扉を開けた竜とついなの目に入ってきたのは押し倒されたずん子とずん子の上に馬乗りになっている半裸の男性の姿。

 その近くにはきりたんのことを捕まえているかなり年を取っている女性の姿もあった。

 

 

「いや!やめてください!」

「ぐふふふ、その抵抗もそそるなぁ」

 

 

 男性に馬乗りにされているずん子は身をよじって脱出しようとするのだが、体格で完全に負けているために脱出をすることはできなかった。

 抵抗するずん子の姿を見て男性はニタニタと下品な笑みを浮かべる。

 

 ずん子が襲われているということを理解した竜は即座に男性へと向かう。

 

 

「きりたんを頼んだ!」

「了解や!」

「な、誰だ貴様らは?!」

 

 

 竜の声に男性たちはようやく竜の存在に気がついたのか驚いた表情になる。

 驚く男性のことなど気にせずに竜はついなにきりたんを助けるように言う。

 竜の言葉についなは短く答えて了承し、きりたんを拘束している女性に向けて槍を作り出して殴りつけた。

 

 

「おぉ、らぁっっ!!!」

「な、防壁術が・・・・・・ぐべらっっ?!」

 

 

 ついなが女性のことを殴り飛ばしたのと同時に竜は男性に向かって思い切り跳躍して蹴りかかる。

 竜は一瞬だけなにかにぶつかるような感触を感じたが、とくに勢いが落ちることはなく、男性の顔面に竜の蹴りが直撃した。

 竜の蹴りを受け、男性は大きく後ろに吹き飛ばされる。

 

 普通であれば飛び蹴りなんかをすれば上手く着地をすることなどはできないのだろうが、竜が飛び蹴りを放った直後に竜に憑いている動物霊たちが一斉に動き出して竜が美味く着地できるように体勢の修正や勢いの減速なんかをしていたので問題なく着地をすることができた。

 

 

「大丈夫ですか?!」

「あ、ありがとうございます・・・・・・」

「ずん姉さま!」

 

 

 男性をずん子の上からどかすことに成功した竜は蹴り飛ばされて倒れた男性を警戒しつつずん子に声をかける。

 男性が上からいなくなったことによって自由になったずん子は乱れていた衣服を元に戻しながら竜にお礼を言う。

 ずん子が自由になったのと同時に同じように自由になったきりたんがずん子に飛びつく。

 

 ずん子や自分が襲われたということが相当に怖ろしかったのか、きりたんは震えながらずん子にしがみついていた。

 

 

「ぐ、ぐぐぐぐ・・・・・・。なんなんだ、このガキはぁ・・・・・・」

「私たちを“貴見済(たかみずみ)家”の人間と知っての行動かえ?!」

 

 

 竜の蹴りによって鼻血が出たのか、鼻を押さえながら男性は立ち上がる。

 それと同時についなによって殴られていた女性も大きな声でわめきだす。

 

 

「貴見済さま、これはどういうことですの!」

「おお、そこにいるのは私の妻ではないか。なに、私の妹になるというのだからな。これは私が色々と手ほどきをするしかなかろう?」

 

 

 イタコ先生が問い詰めるように叫ぶと、男性はニヤニヤと笑みを浮かべながらイタコ先生の体を舐めまわすように見る。

 男性のその視線が相当に不快に感じたイタコ先生は身震いをしながら思わず竜の後ろに隠れてしまう。

 

 イタコ先生、ずん子、きりたんの3人を守るように竜とついなは男性の視線を遮るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第408話



うっかり寝落ちしかけた・・・・・・

なんとか起きられてよかったぁ・・・・・・





 

 

 

 

 イタコ先生、ずん子、きりたんを庇うように立つ竜の姿に男性は不愉快そうに顔をゆがませる。

 

 

「ちっ・・・・・・、どこのガキかは知らんがこれはお前のようなガキには関係のないことだ!『さっさと消え失せろ!』」

「あ゛あ゛?」

 

 

 あまりにも横柄な男性の態度に竜はかなり苛立ちが溜まっているのか珍しくドスの利いた声を発する。

 竜自身そこまで怒ることがないというわけではないが、それでもこれほどまでに苛立ちをあらわにするといういうのは基本的にはないことだった。

 

 竜がドスの利いた声を出しながら睨み返してきたことに男性と女性は驚いた表情になり、忌々しそうに竜を見る。

 

 

「なっ・・・・・・。くそっ・・・・・・」

「申し訳ありませんが、今日のところはお引き取りくださいませ!」

「・・・・・・ふんっ、仕方がないから今日のところは引くとしておこうかね」

 

 

 まったく引かない竜の姿に男性は吐き捨てるように言う。

 

 そんな男性の様子に男性がなにをしたのかを理解しているイタコ先生は口調を強めにして帰るように言う。

 イタコ先生の言葉に女性は不機嫌そうに鼻を鳴らし、男性をつれて東北家から出ていった。

 

 男性と女性の2人が出ていったのを確認したイタコ先生は脱力して座り込んでしまいそうになるのをこらえ、男性に押し倒されていたずん子の近くへと早足で近づいていく。

 

 

「ずんちゃん、大丈夫でしたか・・・・・・?」

「イタコ姉さま・・・・・・、私・・・・・・」

 

 

 イタコ先生に話しかけられ、ずん子はようやく安全になったのだと理解できたのか、ポロポロと涙をこぼしながらイタコ先生に抱きついた。

 抱き着いてきたずん子にイタコ先生は少しだけ驚いた表情になるが、すぐにずん子を落ち着かせるために優しく背中をさする。

 ずん子のそんな姿を見たことによってきりたんもホッとしたのか、ぺたりと床に座り込んでしまった。

 

 

「大丈夫か?」

「あ、はい・・・・・・。助けてくれてありがとうございます」

 

 

 座り込んでしまったきりたんの近くに竜は移動して声をかける。

 竜の言葉にきりたんはうなずき、助けてもらったことへのお礼を言った。

 

 

「それで、イタコ先生。さっきのやつが婚約をしようとしてくるっていう男ですか?」

「ええ、そうですわ・・・・・・」

 

 

 先ほどのイタコ先生を見ながら男性が言っていた言葉から恐らくはそうだろうと思いつつも、竜はイタコ先生に確認を取る。

 竜の言葉にイタコ先生は苦々しい表情を浮かべながらうなずいた。

 

 

「さっきの男性が私に婚約を迫ってきている人間で“貴見済家”の長男ですの。彼以外には息子がいないそうで・・・・・・」

「あの様子だとまだあきらめてはいないだろうしな・・・・・・」

 

 

 先ほどの男性の様子からまだあきらめてはいないだろうなと考え、竜はどうしたものかと頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第409話




ギリギリの書き終わり・・・・・・

もう少し早く書き終わるようになりたいなぁ・・・・・・





 

 

 

 

 泣いていたずん子も落ち着きを取り戻し、竜たちは東北家の食卓へと移動する。

 ずん子は男性に襲われたことによって少しだけ男性に対して恐怖感があるのか、食卓へと移動する際にも竜から少しばかり距離を取って移動していた。

 

 

「公住くん、まずはずんちゃんを助けてくれてありがとうございましたわ」

「あ・・・・・・、私からもありがとう、ございました・・・・・・」

「いえ、あれは自分もかなりむかついたので・・・・・・」

 

 

 椅子に座り、イタコ先生は改めて竜にお礼を言い、頭を下げた。

 イタコ先生がお礼を言ったことに続いて同じようにずん子もお礼を言って頭を下げる。

 それに続くようにきりたんも頭を下げた。

 

 3人に頭を下げられ竜は頬を掻きながら3人のお礼を受け取った。

 

 

「それで、改めて話を聞いても良いですか?」

「ええ、もちろんお話ししますわ」

 

 

 3人からのお礼も受け取り、改めて竜は話を聞くために切り出す。

 竜の言葉にイタコ先生は椅子に座りなおしてうなずいた。

 

 そして、イタコ先生は改めてイタコ先生が先ほどの男性との婚約を断るための方法を話し始めた。

 

 

「ええと、まず大前提として霊力が高くて霊を視ることができる男性であるという条件が必要なことは言いましたわよね?」

「はい。車の中で言ってましたね」

「その条件があるっていうことはやっぱり霊能力者の血を濃くしていこうっちゅう感じの婚約なんか?」

「まぁ、そういうことが多いのはこの業界の(つね)ですね」

 

 

 確認をするようにイタコ先生は竜に尋ねる。

 イタコ先生の言葉に竜はうなずき、東北家に来る途中の車の中で聞いていたことを答える。

 改めて聞いた条件の内容から、ついなはどういった目的での婚約なのかを推測する。

 

 ついなの言葉にきりたんは仕方がないといった風に答えた。

 

 

「でも俺なんかの霊力とかで大丈夫なんですか?」

「そこは問題ありませんわ。先ほど、公住くんはさっきのおっさんの霊力を込めた言葉を受けても何ともありませんでしたからね。そのことからも公住くんの方が霊力が多いことは明白なのですわ」

 

 

 霊力があることや霊が視えることなんかは竜も把握しているのだが、それでも自分の霊力の量がどれくらいなのかまでは正確には把握できていなかったのだ。

 竜の言葉にイタコ先生は問題ないとうなずきながら答える。

 そして、イタコ先生はどうして問題がないと確信を得たのかを説明した。

 

 先ほど、竜に向かって男性が怒鳴ったとき、竜自身は効果がなかったのと苛立っていたために言葉に霊力が込められていたことにはまったく気づいていなかった。

 言葉に霊力を乗せた場合、その言葉は相手の魂に直接届くようになる。

 これは基本的には一般人にしか効果はなく、霊力を持つ人間には基本的には効果は薄くなる。

 そのため、貴見済の2人は竜に効果がないことに驚いていたのだ。

 

 まぁ、このことから何が言いたいのかを簡潔に言ってしまうのであれば、竜の方が貴見済家の男性よりも霊能力的には優れているということだ。

 

 

「というわけで、ええっと、その・・・・・・。婚約を断るために一時的に私の恋人になってもらえないでしょうか?」

 

 

 言葉にする際に恥ずかしさが出てきたのか、もじもじとしながらイタコ先生は竜にお願いをする。

 イタコ先生の言葉に竜はやや困惑した表情を浮かべながら頬を掻くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第410話




ゴールド帯になってなかなかポイントが貯まらなくなってきました。

ううむ、ランクマでも野良なので魔境率がすごいんですよねぇ・・・・・・






 

 

 

 

 イタコ先生の恋人になってくれないかという言葉に竜は少しだけ困惑した表情を浮かべながら頬を掻く。

 

 婚約を断るための手伝いということと、男性である竜が必要だということ、そこに加えて霊力の多さと霊を視ることのできる優れた霊能力を持っているということ。

 

 これらの条件を聞いた時からうすうすと察していたため、竜はそこまで驚くことはせずにやや困惑する程度に収まっていた。

 

 

「ええっと、つまりは恋人がもういるから婚約はできませんってことにしたいってことで合ってます?」

「ええ、間違いありませんわ。公住くんでしたら安心して恋人役を頼むこともできますし、それに霊能力の点でも貴見済家より上だということがハッキリとできましたから」

 

 

 念のためにイタコ先生の頼んできた内容の意味が間違っていないかの確認を竜はする。

 竜の言葉にイタコ先生はうなずきながら間違っていないということを肯定した。

 

 

「といってもそんな簡単にいくものなんですかね?少なくともイタコ先生たちのご両親はイタコ先生に恋人がいないと知っているからお見合いの話を持ってきたわけなんでしょう?」

「そうですわね。でも、うちの両親がお見合いの打診をしたのは本家の方の方ですし問題はないと思いますわ」

「それに、2人とも私たちの幸せの方が大切だといつも言ってくれていますから。心配はないと思いますよ」

 

 

 イタコ先生の言葉に竜は本当にそんな手でなんとかなるのかと首をかしげながら尋ねる。

 

 まぁ、普通に考えてお見合いの話が出てきてから恋人がいますなんて言っていればどう考えても偽物なのではないかと思えてしまうだろう。

 恋人がいないのだからお見合いなどの話が出てくるのであって、最初から恋人がいるのであればそんな話が出てくることなど基本的にはないはずなのだから。

 

 竜の言葉にイタコ先生とずん子は問題ないと答える。

 

 もともとイタコ先生たちの両親がお見合いの打診をおこなったのは貴見済家ではなく本家の方であり、どういったルートでそのことを知ったのかは不明だが本家が断った後にしゃしゃり出てきたのが貴見済家だ。

 そのため、『本家の方にお見合いの話を出したときには知らなかったけど本当は娘には恋人がいました』というような筋書きを作ることができるのだ。

 もちろんこういったことをするのであればお見合いの打診をしたイタコ先生たちの両親の協力も必要になってくるのだが、それに関しても娘たちの幸せの方を大切にしてくれているということで解決していた。

 

 イタコ先生とずん子の説明に竜は納得し、なるほどとうなずいた。

 

 

「えっと、それじゃあ次に、どこにその話を持っていくんですか?さっきのあの様子だと普通にあっちに言ってもまともに取り合うことはないように思えるんですが・・・・・・」

「そちらに関しましても、こんどの休みに本家の方に行ってお願いしてみようかなと思っていますわ。いくら家の(くらい)が高いといいましても分家には変わりはありませんので本家からの言葉には従うはずですから」

「となるとこんどの休みにご主人はここに来ればいいっちゅうわけやね」

 

 

 次に竜が気になったのはそのお見合いを断るための話をどこに持っていくのか。

 普通であればお見合いをする相手の家に行って直接断りの言葉を言うのだろうが、どう考えても貴見済家の人間がその言葉をまともに取り合うようには思えなかった。

 その考えはイタコ先生も同じだったようで、イタコ先生は竜の言葉にうなずいて分家である貴見済家の本家の方に直接行って頼んでみようと思っているということを答えた。

 イタコ先生の言葉に竜はうなずいて納得する。

 

 それから、竜たちは本家の方に行った後にどのように話を進めていくかの話し合いを進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第411話




ゴールドの3と4を行ったり来たり・・・・・・

チャンピオンを取れればかなりポイントは稼げるんですけどねぇ・・・・・・






 

 

 

 

 東北家での話し合いをした翌日。

 竜は茜たちと一緒にお昼ご飯を食べるために保健室に来ていた。

 

 

「そういえば昨日はイタコ先生の家に行ったんやったよな?どんな話をしたん?」

「うんうん。たしか、イタコ先生のお見合いをどうにかするために竜くんの力が必要だったんだよね?」

 

 

 お弁当を食べながら茜は気になっていたことを尋ねる。

 茜の言葉に葵もうなずきながら竜を見た。

 

 それに続くようにゆかり、マキ、あかり、イア、オネの視線も竜へと集まる。

 

 

「あー、なんかお見合いを断るためにイタコ先生の恋人になることになったわ」

「間違っとらんけどその言い方で大丈夫なん?」

「ぴぃっ?!」

 

 

 茜の言葉に竜はお弁当を食べながら答える。

 あっさりと答えた竜だったが、その答えた内容が内容なだけに大丈夫なのかとついなは思わず呟いてしまった。

 

 竜の言葉を聞いた直後、グリンと茜、葵、ゆかり、マキ、あかりの5人の顔がイタコ先生へと向く。

 眼を開ききった状態で表情のない状態の5人の視線が集まったため、イタコ先生は思わず悲鳴を上げてしまった。

 

 

「イタコ先生・・・・・・?」

「どういうことなのか聞いても良いですか?」

「そういえばイタコ先生に憑いているキツネさんも竜先輩のことが好きでしたよね・・・・・・」

 

 

 これは一体どういうことなのか。

 

 そんな言葉が聞こえてきそうな表情を浮かべながら茜たちはイタコ先生へと顔を向ける。

 茜たち5人が一様に表情のない状態で見てきているため、イタコ先生は涙目になって竜へと視線を向けた。

 まぁ、それによって一層のこと茜たちから発せられている威圧感が増してしまうのだが。

 

 

「お、お見合いを断るために偽の恋人になってもらうように、き、公住くんにお願いしただけですわ?!」

「ああ、そういえばお見合いを断るために必要な条件があるとか言っとったなぁ」

「そういえばそうだったね。それでその条件に当てはまっていたのが竜くんだったんだっけ」

「なるほど。つまりはお見合いを断るためだけの偽装恋人なんですね?」

「それ以外に他意はないんですよね?」

「ちょぉっと怪しいんですよねぇ・・・・・・」

 

 

 茜たちから向けられる威圧感に震えながらイタコ先生はお見合いを断るために偽の恋人になってもらっているだけだと説明をする。

 イタコ先生の説明を聞き、お見合いを断るために必要なことなのだと分かりはしたものの、それでも茜たちはイタコ先生に対して怪しむような視線を止めることはなかった。

 

 

「そういえば俺も親に許嫁が欲しくないかとか聞かれたなぁ」

「なんやてっ?!」

「い、許嫁?!」

 

 

 イタコ先生のお見合いの話から竜は母親から許嫁が欲しくないかと聞かれたことを思い出した。

 さらりと言われた竜の言葉に茜たちは驚いてイタコ先生から竜へと視線を向ける。

 

 竜からすればすでに断った話なのでもうそこまで気にしていないことなのだが、茜たちは竜に許嫁ができる可能性があるということで慌てて竜へと話を聞くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第412話




ううむ、いまいち書きたいことが書けない・・・・・・

なんというか自分の語彙力の低さが・・・・・・





 

 

 

 

 竜に許嫁ができるのではないかという騒ぎのあった日から数日後。

 イタコ先生にとっての重要な日、貴見済家の本家に行く日となった。

 

 すでに竜は東北家におり、あとは貴見済家の本家へと向かうだけとなっている。

 

 

「そういえば本家としか聞いてなかったんですけど、本家の方は何て名前の家なんですか?」

「あら?言ってませんでしたっけ?」

「んー、基本的に本家としか言っとらんかったと思うで?」

 

 

 イタコ先生の運転する車に乗り込みながら竜はふと気になったことをイタコ先生に尋ねる。

 竜の言葉にイタコ先生はコテンと首をかしげながら聞き返す。

 

 イタコ先生の言葉に竜とついなはうなずいて応えた。

 

 

「ええっと、でしたらこれから向かう本家のことを簡単に説明しちゃいますね?」

 

 

 竜がうなずいたことによってイタコ先生は本家の説明をしていなかったのだと理解し、そこに向かうまでの間に簡単に説明をすることに決めた。

 

 

「貴見済家の本家“貴身純(きみすみ)家”。この家は代々日本という国に(つか)えてきており、どんなことをしているのかの全容は不明ですがかなりの霊能力を持っているということで日本中の霊能力者の家から注目されている日本最古の霊能力者の家系なんですの」

「貴身純っていうと・・・・・・、たしかウナの家に結界を張った人の名字が貴身純だったような?」

「あー、たしかそうやったね。ええっと、たしか貴身純 咲良って名前やったか?」

 

 

 イタコ先生の口から出てきた貴見済家の本家の名字、“貴身純家”という名字を聞き、竜は聞き覚えのある名字に首をかしげて呟く。

 竜の呟きについながうなずき肯定した。

 

 竜が貴身純家という言葉に聞き覚えがあるということにイタコ先生は少しだけ驚いた表情になるが、すぐに竜がウナと仲が良かったことを思い出し納得する。

 

 

「えっと、まず貴身純家の方にうちの両親がお見合いの話を持っていったというのは言いましたわよね?貴身純家がは霊能力者としてかなりの力を持っていまして、うちの家系に優れた霊能力者の血を混ぜ込みたいという思惑がありましたの」

「霊能力者としての力が高い子どもを産ませようっちゅうことやんね?」

 

 

 続けてイタコ先生はどうして本家である貴身純家へ両親がお見合いの話を持っていったのかを説明する。

 これは霊能力者の家系であればよくあることなので、そこまで珍しいことではない。

 まぁ、それでも本家に打診した内容に対して分家が出てくるのはそうそうないことなのだが。

 

 イタコ先生の説明を聞いてそのお見合いにどんな意味があるのかを理解したついなが確認するようにイタコ先生に尋ねる。

 ついなの言葉にイタコ先生はうなずいて肯定した。

 

 そして、イタコ先生の運転する車はひときわ大きな和風建築の屋敷に到着するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第413話




Vの体を描いてそこからさらに動くようにいろいろと手を加えて・・・・・・

本当に体を描いてくれているママには感謝しかありませんね。





 

 

 

 

 竜とついな、そしてイタコ先生の目の前に立っているのは和風建築の大きな家。

 その大きさは比較的大きめのはずの東北家よりもさらに大きく、竜たちが立っている場所からでは家の全容が見えないほどだった。

 あまりの家の大きさに竜とついなはポカンと口を開けて家を眺めてしまっている。

 そんな竜とついなの姿にイタコ先生はクスリと笑みをこぼし、優しく竜の肩を叩いた。

 

 

「ふふふ、初めて見るとこの屋敷の大きさには驚きますわよね」

「あ、は、はい。すごく・・・・・・大きいです・・・・・・ね」

「こんなおっきな家なんやから相当に霊力があるってことがうかがえるなぁ・・・・・・」

 

 

 家の大きさに驚いていた竜はイタコ先生の言葉にうなずいて答える。

 

 大きい家というのは東北家で見慣れたつもりだったのだが、それ以上に大きな貴身純家の家の大きさに竜は唖然としてしまっていた。

 そして、いつものように竜の服のポケットに入っているついなは家の大きさからそれに相応(ふさわ)しいような霊力を持っているのだろうと推測している。

 

 竜に声をかけたイタコ先生はそのまま玄関につけられているインターフォンを押した。

 

 

「・・・・・・インターフォンついてるんだな」

「普通に玄関を叩くか大きな声で呼ぶもんやと思ってたわ」

「さ、さすがにそれはありえませんわよ。大きな声なんて出してしまったら近所迷惑ですしね」

 

 

 和風建築で霊能力者が暮らしている家ということで昔ながらの家を想像していた竜は玄関に普通についていたインターフォンに思わず呟いてしまう。

 竜の言葉についなも同じことを考えていたのか、竜と同じように意外そうな表情を浮かべていた。

 

 竜とついなの言葉にイタコ先生は苦笑しながらインターフォンに貴身純家の人が出てくるのを待つのだった。

 

 

『はい。どちらさまでしょうか?』

「あ、すみません。私、東北イタコと申します。先日のうちの両親からのお見合いの打診の話から貴身純さまにお願いをしたいことがありまして・・・・・・」

『お見合い・・・・・・。ああ、あの件ですね。ですがあの件はもうお断りしたはずでは?』

 

 

 インターフォンから聞こえてきた声にイタコ先生は礼儀正しく答える。

 イタコ先生の言葉にインターフォンに出た人物は不思議そうに聞き返した。

 まぁ、貴身純家としてはすでに断っているお見合いの話なので、それがなぜここにまで来ているのかが不思議なのだろう。

 

 

「はい。それはそうなのですが。そのあとにそちらの分家である貴見済(たかみずみ)さまが・・・・・・」

『貴見済のものでしたらいま本家に来ておられますよ。なんでも婚約を結びたいので協力をしてほしいとか・・・・・・』

「なんですって?!」

 

 

 インターフォンの相手に貴身純家にまで来た理由を答えようとしたイタコ先生だったが、さらに続けられた言葉に思わず大きな声を上げてしまう。

 

 イタコ先生たちは貴見済家との婚約の話をどうにか断るために協力してもらえないかお願いするために貴身純家にまで来たのだが、それよりも先に貴見済家の人間がいて婚約を結ぶための協力をお願いしているとは思いもよらなかった。

 

 インターフォンから聞こえてきた言葉に驚いたイタコ先生は思わずインターフォンに思い切り顔を近づける。

 

 

「お、お願いいたします!急いで貴身純さまに会わせてくださいまし!」

『そ、そうは言われましても・・・・・・。え、通してもよろしいのですか?“責任は私が取る”と。分かりました。東北イタコ様、そして、お連れの方もどうぞ貴身純の屋敷へ』

 

 

 このままでは自分たちにとって良くないことになる。

 そう確信したイタコ先生は慌ててインターフォンに向かって叫ぶように言う。

 

 イタコ先生の勢いにインターフォンの相手は困惑した姿勢になるが、途中で誰かと話をしていたのか貴身純家に入って良いと許可を出した。

 

 そして、家の中に入って良いという許可をもらったイタコ先生と竜は早足で貴身純家へと入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第414話




さて、ここからどうやって自分の思い描いている展開を表現できるか・・・・・・

自分の思い描いているものをうまく表現できるかは本当に本人の技量が出てきますからねー・・・・・・





 

 

 

 

 貴身純家の中に入ったイタコ先生、竜、ついなは貴身純家に仕えているらしいお手伝いの人の案内のもと貴身純家当主のいる部屋へと向かっていた。

 家の中も当然ながら和風であり、どこか厳格な雰囲気のようなものを感じられる。

 そんな貴身純家の廊下を歩きながら竜だけは不思議そうにキョロキョロと家の中を見ており、ときおりなにかを考えるかのように首をかしげていた。

 

 

「落ち着きがないようですけどどうかしましたの?」

「あ、すみません。なんだかこの家に入ってから変な感覚がありまして・・・・・・。こう、なんというか・・・・・・、全然知らないはずなのに知っているような・・・・・・。どうにも不思議な感覚なんです」

「うーん。なんや不思議な感覚みたいやね?少なくともうちとイタコはそんな感覚はあらへんけど・・・・・・」

 

 

 落ち着きのない竜の様子が気になったイタコ先生はどうかしたのかと竜に尋ねる。

 イタコ先生の言葉に竜は貴身純家に入った時から感じていた違和感を答えた。

 

 知らないはずなのに知っているような感覚。

 いわゆるデジャビュのようなものを竜はどうやらこの家に感じているらしい。

 

 竜の言葉についなは不思議そうに首をかしげ、確認するようにイタコ先生に尋ねる。

 ついなの言葉にイタコ先生もべつにそのような感覚は感じていないようで、うなずいて応えた。

 

 

「そうですか・・・・・・。なんなんだろうなぁ・・・・・・。それに、なんか誰かから見られてるみたいな感じもするし・・・・・・」

 

 

 ついなとイタコ先生の言葉に竜は不思議そうに首をかしげる。

 そして、デジャビュとはまた違った気配も感じてはいたのだが、そちらの方は少し気になる程度なためにイタコ先生たちに伝えずに小さくつぶやくだけとなっていた。

 

 

「こちらの部屋にご当首様がおられます。どうか失礼のないようにお願いいたします」

「案内してくださりありがとうございます」

 

 

 貴身純家の廊下を歩き、当主のいる部屋についたのかお手伝いの人は扉の横に立って頭をさげた。

 ここまで案内してくれたことにイタコ先生はお礼を言い、同じように頭をさげる。

 それに続くように竜も頭をさげる。

 

 そして、イタコ先生は当主がいるという部屋の扉を開けた。

 

 

「────ですので、どうか私とこの女性との婚約を成立させるために協力を願いたいわけなんですよ」

「ふぅむ・・・・・・。なるほどのぅ・・・・・・」

 

 

 イタコ先生が扉を開けると、ちょうど貴見済の男性がなにかしらの説明を終えたところだった。

 男の言葉に当主らしきおじいさんは口ひげを撫でながら考えるように目を閉じる。

 男とおじいさんの他に、部屋の中にはおそらくは40代ほどであろう男性と、顔を歌舞伎などの黒い服を着ている人────黒子の人が着けているようなもので隠している女性の姿があった。

 

 と、ここで部屋の扉を開けたイタコ先生の存在に気がついたのか、部屋の中にいる人間の視線がイタコ先生と竜へと集まった。

 

 

「突然の訪問すみません。ですが、早急にお願いしたいことがありましてこちらに来させていただきました」

 

 

 自身に集まる視線を受けながらイタコ先生はハッキリと言葉を発していく。

 イタコ先生の登場に貴見済家の男性は誰にも見えないようにしながら嫌そうに顔を歪めた。

 

 

「どうか、そちらの貴見済家の方との婚約を断るためのお力添えをお願いしたいのです!」

 

 

 ハッキリと聞き逃すことがないようにイタコ先生はここに来た理由を強く言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第415話





ディボーションが使っていて楽しいことに気がつきました。

一緒にボルトかハボックを持っていると弾を一種類だけにできてなかなか快適ですね。








 

 

 

 

 イタコ先生の言葉に貴身純家のおじいさん、男性、女性は興味深そうにイタコ先生と貴見済家の男性を見る。

 どうやらイタコ先生と貴見済家の男性の言葉が真逆だったためにどうしたものかと考えているらしい。

 

 

「ふむ・・・・・・。先ほどの言葉から考えるにそちらは、東北家の長女殿で間違いはないかのう?」

「あ、・・・・・・すみません。慌ててしまっていたために名乗っておりませんでした。東北家長女、東北イタコと申します」

「ご丁寧にどうも。貴身純家長男、貴身純 筒治(つつじ)と申します。こちらは父であり当主の紅葉(こうよう)で、こちらの顔を隠しているのは私の妹です」

「どうぞよろしく」

 

 

 貴身純家のおじいさんは確認をするようにイタコ先生に尋ねる。

 おじいさんの言葉にイタコ先生は自分が名乗っていなかったことに気がつき、慌てて頭を下げながら自分の名前を名乗った。

 

 頭を下げたイタコ先生に貴身純家の男性────貴身純 筒治は同じように頭を下げ自分と当主である父親、そして黒子のような格好をしている妹を紹介する。

 どうして当主である父親の名前は紹介したのに妹の方の名前は紹介しないのか不思議に思ったが、なにかしらの理由があるのだろうと考え、名前を聞こうとはしなかった。

 

 そして、イタコ先生に頭を下げた筒治はイタコ先生の後ろ、部屋の入り口近くで待機している竜と、竜の服のポケットから顔を覗かせている竜の姿に気がついた。

 

 

「おや、そちらの子たちは・・・・・・」

「ええっと、イタコさんの婚約の話を断るためになにかできることはないかと思って一緒にこちらに来させていただきました」

「うちはご主人の護衛やな」

 

 

 筒治の言葉に竜は教師と生徒であるということが分からないように気をつけながら答え、竜が名前を言う前にさらに続けてついなが自分のいる理由を答えた。

 ついなの言葉が続けられたことによって意図せずに竜は名前を名乗るタイミングがなくなってしまったが、相手が霊能力者だということを考えるとむしろこれは僥倖(ぎょうこう)だったとも言えるのではないだろうか。

 

 ついなの言葉に貴身純家の人たちは不思議そうに竜のことを見るが、そこまで気にする必要はないだろうと考えて視線をイタコ先生へと戻した。

 

 

「ふむ。では改めてもう一度話を聞かせてもらおうかのう。そなたが主張することと、イタコ殿が主張していることはどうやら正反対のことのようじゃしな」

「ぬぐ・・・・・・。分かり、ました」

「・・・・・・うん?」

 

 

 イタコ先生たちのことを一先ずは知った貴身純家当主である紅葉はうなずき、改めてもう一度貴見済家の男性になにをしに来たのかの説明をするように言う。

 どうやら貴身純家は分家という血のつながりが多少ある場合だとしても優先度を上げたりして贔屓することはないようだ。

 紅葉の言葉にイタコ先生はホッと息を吐き、貴見済家の男性は悔しそうにうなずいて貴身純家に来た理由を話し始める。

 

 それと同時に竜は自分の手が後ろから引かれていることに気がつく。

 ちらりと手の方を見ると小さな子どもの手が竜の手を掴んでおり、にこにこと笑みを浮かべた和服姿の少女の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第416話





ランパートで壁を作りながらディボとスピファを撃ちまくるの楽しそうだなぁ。

Vの体ができたらエペの配信とかやりたいですねぇ。






 

 

 

 

 自身の手を掴んでニコニコと笑みを浮かべている和服姿の少女の姿に竜はどうしたものかと考える。

 貴身純家の3人がなにも言わないことや、貴見済家の男性が気にせずに貴身純家に来た理由を話していることからそこまでたいしたことではないのだろうと推測することはできるのだが、それでも見知らぬ少女に嬉しそうに手を掴まれているということにどうしても困惑してしまっていた。

 

 

「────ということから私とこちらのイタコさんが結婚することができれば本家である貴身純家にもかなりのプラスになるのではないかと考えられるわけです」

「ふぅむ。確かに利点は多いように思えるがのう・・・・・・」

「ええ、ですがイタコさんは婚約自体を拒否しておられる様子ですし、望まぬ結婚をさせるというのも・・・・・・」

 

 

 竜が和服の少女に気を取られていると、いつの間にか貴見済家の男性の話が終わっており、男性の話の内容を貴身純家当主である紅葉と貴身純家長男の筒治が話し合っていた。

 男性の話を聞いていたイタコ先生は不愉快そうに顔をゆがませている。

 

 

「では、次にイタコ殿の話をうかがってみようかのう」

「たしか、貴見済家との婚約を断りたいと言っていましたね」

 

 

 男性の話を聞き終えた紅葉と紅葉は次にイタコ先生の話を聞くために話を振る。

 2人の言葉にイタコ先生は不愉快そうにしていた表情を元に戻して貴身純家に来た理由を話し始めた。

 

 

「ふん。どう考えても私と結婚をすることになるのは目に見えているだろうに」

 

 

 貴身純家に来た理由を話すイタコ先生の姿を見て、男性はバカにするかのように鼻を鳴らす。

 

 

「それにこの女と結婚をすれば必然的にこいつの妹が2人もついてくるからな。そうなれば高校生と少々幼いが小学生の体を味わうことができるからな・・・・・・。ぐふふふ・・・・・・」

「こいつ・・・・・・」

 

 

 イタコ先生の妹、つまりはずん子ときりたんのことを妄想でもしているのか、気持ちの悪い笑みを男性は浮かべる。

 気持ちの悪い笑みを浮かべながらつぶやいている男性の声に竜は殴りかかってしまいそうな衝動をどうにか抑えこむ。

 

 竜がなにかをこらえていることが分かったのか、竜の手を掴んでいた和服の少女は竜の顔を見、竜が睨みつけている男性を見た。

 

 

「────ですので、年齢的な意味でもこのような結婚はお断りしたいのです」

「なるほどなるほど。たしかに年齢がだいぶ離れているように見えるのう」

「そんなものは些細なことにしか過ぎないだろう!いいから私と結婚をするのだ。そうすれば私の貴見済家の力も増すことになる!」

 

 

 イタコ先生の説明に紅葉はうんうんと納得したようにうなずく。

 そんなイタコ先生の言葉を切り捨て、男性は強気に言い切る。

 あまりにも自信に満ちた男性の言葉に筒治は少しばかり眉を動かす。

 

 

「ふふ・・・・・・、あはははは・・・・・・。あーはははっははっはははっは!!」

「?!」

「おい、なんでいきなり笑っているんだ?!」

「・・・・・・この声って」

 

 

 不意に小さな笑い声が聞こえてくる。

 その笑い声は徐々に大きくなっていき、最終的にはかなり大きな笑い声となっていた。

 笑い声をあげていたのは顔を黒子のような格好をしている女性。

 

 女性がいきなり笑い出したことにイタコ先生は驚き、紅葉は呆れたように額に手を当て、筒治は女性がいきなり笑い出したことに対して怒っていた。

 そんななか竜だけは女性の声に聞き覚えを感じているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第417話




いつの間にかUAが113000を超えていたのでアンケートを始めました。

投票をお願いします。






 

 

 

 

 突然笑い出した黒子のような格好をしている貴身純家の女性に全員の視線が集まる。

 女性がなにに対して笑っているのかは不明で部屋にいる誰もが女性を見ているのだが、女性はそんな視線などなんとも思っていないかのように笑い続けている。

 

 

「ふふふふ・・・・・・。あー、お腹が痛い」

「まったく・・・・・・、なにをいきなり笑っているんだ・・・・・・」

 

 

 お腹を押さえて笑っていた女性に貴身純家長男である筒治は呆れたように言う。

 女性が笑い始めたときには怒っていた筒治だったが、やはり女性が妹だということもあってかすぐに怒りは治まり、気やすい口調で話しかけていた。

 そんな女性と筒治の会話は見慣れた光景なのか、貴身純家当主である紅葉はとくになにかを言うようなこともなく、微笑ましいものを見るかのような視線を向けている。

 

 

「いやー、だって仕方がないじゃない。貴見済家の力が増せば貴身純家にプラスになるなんて言っているのよ?本当の目的は美人でスタイルのいいイタコさんたちを手に入れることや、産ませた子どもに強い霊力があったら便利な手駒にする程度にしか考えていないくせに」

「な、そ、そのようなことがあろうはずがございません・・・・・・!!」

 

 

 筒治の言葉に女性はどうして笑ってしまったのかを答える。

 

 貴見済家の男性は自身の家に東北家の血が混じればかなり力を増すことができて貴身純家にとってもプラスになると進言をしていた。

 しかし、本当の目的は若くてスタイルもよく美人なイタコ先生を手に入れることであり、貴身純家のことなどまるで考えていない。

 むしろ自分たちの力を増そうとしていた。

 

 女性の言葉に男性は動揺を隠そうとしながら否定する。

 

 

「それに、兄さんも調べているとは思うけど霊力に対して抵抗する力を持たない一般人に対して霊力を込めた声で話しかけて好き勝手しているらしいじゃない。そんなことをやっている人間が本家である貴身純家のことを考えているはずないって考えたら笑えてきちゃったのよ」

 

 

 女性の言葉を男性は否定するが、そんなことなど気にした様子もなく女性はさらに男性の悪事を話していく。

 女性の口から明かされた男性のおこないにイタコ先生は驚いた表情になり、竜は不愉快といった表情を浮かべて男性を見ていた。

 

 

「ぐ、ぐぐぐ・・・・・・」

 

 

 女性によって明かされた男性の隠しておきたいこと。

 それはハッキリと言ってしまうならクズと言われても仕方のない行為で、男性は悔しそうに下を向いていた。

 

 

「もしかしたら子どもの霊力が高ければこの家についている座敷童(ざしきわらし)を見ることができるようになって家に連れて帰るようになるかもしれない、とかも考えていそうよね」

 

 

 さらに続けられた言葉に竜はチラリと自身の手を掴んでいる和服姿の少女を見る。

 座敷童というのがどのような姿をしているのかは分かってはいないのだが、それでも一番可能性がありそうなのはこの少女だった。

 

 竜の視線に女の子はニコニコと笑みを深め、にぎにぎと竜の手を掴んでいるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第418話




時間ギリギリ!

やりたいことが多くて時間が足りなさすぎるー・・・・・・






 

 

 

 

 座敷童(ざしきわらし)

 

 それは家に住み着く子どもの妖怪で一般的には5~6歳くらいの子どもと言われているが、見た目の年齢は住み着く家によって異なっていて、幼いものであれば3歳ほど、歳が上であれば15歳ほどの姿が確認されていたりもする。

 また、性別は男女どちらも存在しているらしいが、ハッキリとした姿が不明なために性別不明の場合もあるらしい。

 

 女性の言葉を聞いた竜は自分の手を握ってニコニコと笑みを浮かべている和服の少女が座敷童なのではないかと推測する。

 

 

「くっ・・・・・・。だが、その座敷童の姿はあんたたち本家の人間にも見えていないんだろう?!ならばこの家に本当に座敷童がいるのかすら怪しいではないか!」

「まぁ、そうね。当主である父さん、それに兄さんと私も姿を見ることはできないもの。でも私はそこにいるってことくらいであれば感じることができるのよ」

 

 

 悔しそうに顔をゆがませながら男性は貴身純家の人間たちも座敷童の姿が見えていないだろうと指摘する。

 男性の言葉に女性は特に否定することもなく肯定する。

 そんな女性の言葉に男性は少しだけ勝ち誇った表情を浮かべた。

 

 男性のそんな表情に対してさして気にした様子もなく女性は竜の手────、正確には竜の手を握っている和服の女の子を見た。

 

 

「“竜”、そこに“いる”わよね?」

「・・・・・・はぁ、やっぱりか。ああ、俺の手を握っているよ」

 

 

 女性の言葉に竜は確信を得、小さく息を吐く。

 

 名前を言っていないはずなのに竜の名前を知っていたこと。

 聞き覚えのある声。

 貴身純と公住という似ている名字。

 

 それらのことから竜は黒子のような格好をしている女性の正体に察しがついたのだ。

 

 竜と女性のやり取りに筒治、紅葉の2人は驚いた表情で竜と女性を見る。

 

 

「というかここってもしかして実家なわけ?」

「まぁ、そうなるわねー。私はちょっとしたことで疎遠気味になってたんだけど、今回は実家の近くにまで来てたってことで掴まっちゃったのよねー」

「お、おい・・・・・・?この子と知り合いなのか?」

 

 

 気やすい調子で話している竜と女性に筒治は驚きながらどういうことなのかを尋ねる。

 

 まぁ、普通に考えて自分の妹と学生らしき年齢の少年が知り合いだと知ってしまえば動揺してしまうのも無理はないだろう。

 

 

「なに言ってるの。ちゃんと兄さんにも写真で見せたじゃない。父さんにも一応メールで写真は見せているはずよ?」

「写真じゃと・・・・・・?」

「・・・・・・さっき、家のことを実家って言っていたな。もしかして、そういうことなのか・・・・・・?」

 

 

 女性の言葉に紅葉は不思議そうに首をかしげながら記憶をたどる。

 その隣で筒治は先ほどの竜と女性の会話の中で竜の言っていた言葉に気がつき、確認するように女性を見た。

 

 

「ええ、そうよ。この子は私の息子。公住 竜よ」

「やっぱり母さんだったのか・・・・・・」

「え、ちょ、公住くんのお母様が貴身純様で?!」

 

 

 ぺらりと黒子のような黒い布を開けて女性────公住 咲良はにんまりと笑みを浮かべて答える。

 布の下から出てきた自分の母親の顔に竜は呆れたような表情になり、イタコ先生は驚きの表情になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第419話




Vの体は完成したけど圧縮ファイルの解凍の仕方が分かりません!」

解凍用のアプリとか分からんよぉ・・・・・・






 

 

 

 

 顔に着けていた黒子のような布を上げ、公住 咲良の顔が出てきたことによってイタコ先生の表情は面白いように変化する。

 まぁ、自分の知っている限りでもっとも力の強い一族の中に自分と関わりのある生徒の親がいると知れば誰でも驚いてしまうのは仕方がないことだろう。

 

 また、イタコ先生と同じように貴身純家である筒治と紅葉も驚いた表情で竜と咲良を見ていた。

 こちらも咲良が少し疎遠気味になっていたという言葉から、竜という存在についてあまり詳しく知らなかったために驚いていた。

 

 

「あ、あの、公住くんのお母様で間違いないですわよね?」

「あら、驚かせすぎちゃったかしら。ええ、公住 竜の母の公住 咲良です」

 

 

 恐る恐る確認するようにイタコ先生は咲良に尋ねる。

 イタコ先生の言葉に咲良は微笑みながらうなずいた。

 

 

「というかイタコさんとは他でも会ったことはあるんですけどね。竜に私の家系が霊能力者だと知られたくなかったからちょっと術で忘れてもらってはいたけど」

「そうなんですの?!」

「ええ、音街さんの家に結界を張った時だったかしら。そのときに協力してもらったのよ」

 

 

 少しだけ申し訳なさそうにしながら咲良はイタコ先生の記憶を操作していたことを明かす。

 咲良の言葉にイタコ先生は驚きながら思わず自分の頭を守るように抱え込む。

 まぁ、誰でも自分の頭を弄られて記憶を操作されていたと知ってしまえば思わず引いてしまうのも当然だろう。

 

 

「さ、咲良?わしは孫がここまで大きくなっとるの知らんかったんじゃけど・・・・・・」

「いや、父さん!そこよりも重要なことを咲良が言っていただろ!彼は座敷童が見えるって・・・・・・」

 

 

 先ほどまでの厳格っぽそうな雰囲気はどこに行ったのか。

 貴身純家当主である紅葉は困惑した様子で咲良に竜についてを尋ねる。

 まぁ、祖父にとって孫というのは可愛いものであり、その成長していく姿を見ていきたいと思うものなのかもしれないので、紅葉が困惑してしまっているのも仕方がないと言えるのではないだろうか。

 

 そんな紅葉の言葉に筒治は思わずツッコミを入れながらそれよりも重要なことがあると言う。

 

 

「竜に関しては母さんにはちゃんと教えてたわよ?父さんが聞かなかっただけじゃないかしら?」

「そうなのか・・・・・・」

 

 

 筒治の言葉をスルーして咲良は紅葉に母親には竜のことを教えていたことを伝える。

 咲良の言葉に紅葉は自分だけ竜のことを教えてもらっていなかったことに落ち込んだ様子を見せた。

 

 スルーされてしまった筒治はヒクヒクと口の端を震わせながら咲良の近くに移動していく。

 

 

「いいからさっさと説明をしろ!お前の息子は座敷童が見えるのか?!」

「いだだだだだだだ?!もう、痛いじゃないの!」

 

 

 筒治によって耳を引っ張られた咲良は思わず声を上げ、慌てて筒治の手から脱出する。

 引っ張られた耳がよほど痛かったのか、咲良は耳を押さえながら恨みがましそうに筒治を見た。

 

 

「ええ、そうよ。竜は私よりも霊力が高いから座敷童も見ることができるのよ」

「そんな重要なことをどうして言わなかったんだ!」

 

 

 筒治の言葉に咲良は耳を押さえながら答える。

 竜の霊力が咲良よりも上だということに筒治たちは思わず目を見開くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第420話




どうにかキュビズムにVの体のデータを入れることが!

あとは物理演算を入れるだけ!





 

 

 

 

 竜の霊力が高いために座敷童が見えるということを知った筒治は1人興奮したように竜の母親である咲良に詰め寄る。

 どうやらそれほどまでに座敷童が見えるということは重要なことのようで、筒治は咲良に詰め寄りつつもチラチラと竜のことを見ていた。

 

 

「ふむ、これがわしの孫かぁ」

「あ、えっと、公住 竜です」

 

 

 咲良に詰め寄る筒治のことなど無視して紅葉は竜のことを笑みを浮かべながら見ていた。

 初めて会った自分の祖父ということで竜はどう会話をしたらいいのかが分からず、とりあえずは名前を名乗る。

 

 そんな貴身純家の面々の様子にイタコ先生は思わずポカンと口を開けてしまっていた。

 

 

「ぐ・・・・・・、くそっ!そろいもそろって私を無視して!そこに座敷童がいるのであればそのまま攫うまでよ!」

 

 

 貴身純家の人間たちのやり取りによってすっかり忘れ去られてしまっていた貴見済家の男性は苛立ち交じりにそう叫ぶと、竜に向かって────より正確に言うのであれば竜の手を掴んでいる座敷童に向かって駆け出した。

 男性が自分に向かって走ってきたことを確認した竜はとっさに座敷童の体を抱き寄せ、男性から守るように移動させる。

 

 

「ご主人には指一本触れさせんで!」

「ちぃっ!邪魔な妖怪風情が!」

 

 

 男性が竜へと近づいた直後、竜の近くで待機していたついなが槍を取り出して男性へと振るう。

 ついなの振るった槍は男性が張っている防御用の術式に阻まれ、大きな音を立てる程度となった。

 しかし、ついなによる攻撃によって男性の足は止まり、忌々しそうに男性はついなへと視線を向ける。

 

 

「ま、一般人に向けて霊力を込めた声で好き勝手やっている人間ならこの程度よね」

「ふむ。術式の作りが甘いな。いまの一撃で8割は壊れたんじゃないか?」

「霊能力者が冷静さを欠いてしまったのであればそれは負けが決まったようなものじゃからのう」

「え、ちょ、守ったりしなくていいんですの?!」

 

 

 のんびりとした様子で竜たちのことを見ている貴身純家の面々にイタコ先生は思わず声をかける。

 とくに自分の息子である竜の危ない状況のはずなのに母親である咲良にとくに焦った様子もなかった。

 

 

「問題ないわよー。竜にはあの九十九神の子がついているんだから。それに、万が一があったとしてもうちの座敷童がなんとかしてくれるはずよ」

「座敷童が・・・・・・ですか?」

 

 

 慌てているイタコ先生に咲良は問題ないと手をひらひらとさせて答えた。

 咲良の答えにイタコ先生は不安になりつつも竜とついなを見る。

 

 ちなみに、竜にはついな以外にも動物霊たちが大量にいるのだが、彼らも竜から漏れている霊力を少しづつ得ており、それによって生半可な実力では察知することすら難しいレベルで隠れることができるようになっていた。

 そのため、貴身純家当主である紅葉はおろか、筒治、咲良すらも彼らには気づいていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第421話





固定ツイの内容を考えるのが難しい・・・・・・

早めに固定ツイを書かないと・・・・・・





 

 

 

 

 忌々しそうについなを見ていた男性はチラリと貴身純家の面々とイタコ先生を見る。

 貴身純家の面々はとくになにか行動をすることもなく普通に竜のことを見ながら雑談をしており、イタコ先生は心配そうに竜を見ていた。

 

 心配そうにしているイタコ先生はともかくとして、とくに心配した様子もなく雑談をしている貴身純家の面々の姿に男性は驚きの表情を浮かべたが、なにもしてこないのならば好都合と竜とついなにだけへと意識を向けた。

 

 

「ほ、本当に大丈夫ですの・・・・・・?」

「この妹が言っていることが本当で、本当に座敷童が見えているというのであれば彼を傷つけることはほぼ不可能と言えるんじゃないかなぁ」

 

 

 心配そうに竜を見るイタコ先生の言葉に筒治は竜の母親である咲良の頭を手の甲で軽く叩きながら答える。

 兄である筒治の言葉に咲良はやや不満そうな表情になっているが、それは兄妹特有のやり取りによるじゃれあいレベルの不満そうな表情だった。

 

 

「むぅ、そこは私の力を信じなさいよ。それにほら。あの子の霊力を普段からもらっているからあの九十九神の子もなかなかな力を持っているのよ?」

「ふむ?あの九十九神はもとからあのくらいの力ではなかったのか?」

「え、あ、そうですわね。もともとは本当にあの体を維持するだけで精一杯だったはずですわ」

 

 

 筒治の言葉に咲良は頭の上に置かれていた手を叩き落としながら答える。

 咲良の言葉に紅葉はピクリと眉を動かして不思議そうにイタコ先生に尋ねた。

 

 紅葉に尋ねられたイタコ先生は緊張しつつ、ついなの力が最初に出会ったときから変化しているということを答えた。

 

 ちなみに、最初の頃のついなとで合っているイタコ先生がついなの変化に気がついているのはともかくとして、咲良がどうしてついなの変化に気がついているのか気になるかもしれないが、これもきちんと理由がある。

 

 ついなは竜と出会ってからずっと竜の霊力をもらって生活をしていた。

 そのため、ついなの体にはいつの間にか竜の霊力が馴染んでいっており、それによって霊力の質に微妙な変化が起きているのだ。

 その微妙に変化している霊力から咲良はついな本人の霊力と竜の霊力を感じ取って判断することができたというわけである。

 

 

「なぜかは知らんが誰も手を貸さんようだな」

「ふん。あんた程度ならうちだけで十分や!」

 

 

 貴身純家の面々がなにもせずに話をしているだけなために貴見済家の男性は少しだけ強気に言う。

 そんな男性の言葉についなも槍を構えて自信満々に答えた。

 

 

「・・・・・・うん?」

 

 

 ついなが前に立ち、男性と向かい合っていると、不意に竜は自分の手が引かれていることに気がつく。

 見ると自分の手を掴んでいた和服の少女が男性を指さしながら竜の顔を見上げていた。

 

 

『あれ。悪い人・・・・・・?』

「あー、まぁ、そうかな・・・・・・?」

 

 

 不意に聞こえてきたのは頭の中に響いてくるような声。

 口は動いていないが、おそらくは和服の少女の声なのだろうと竜は察する。

 少女の声に竜はうなずいて応えた。

 

 

『分かった』

「へ?」

「なにをよそ見をしてい────るぁああああああああああっっ?!?!」

「・・・・・・ほぇ?」

 

 

 竜が応えると和服の少女はうなずいて男性に向けていた指を下に向けて振り下ろす。

 少女が指を振り下ろした直後、男性の足元の畳が跳ね上がって男性を上にはね上げた。

 

 いきなり男性がはね上げられたことに竜とついな、そしてイタコ先生は驚きのあまりポカンと口を開いてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第422話




ツイッターのフォロワーが昨日だけで一気に増えて困惑しております。

ツイッターは楽しいけどなかなかに時間を使いますねぇ・・・・・・






 

 

 

 

 いきなり足元の畳が跳ね上がったことによって上にはね上げられた男性は、そのまま重力に従って畳の上に落ちていく。

 畳の上に落ちた男性は落下の衝撃で手足が跳ねるが、そのままぐったりと手足を投げだした状態で動かなくなってしまった。

 

 動かなくなってしまった男性の姿に竜は少しだけ、本当に少しだけ心配するが男性の胸が呼吸によって上下しているのを確認して問題ないと理解したために放置することに決めた。

 

 そして男性を放置しても良いと理解した竜は改めて自分の手を掴んでいる和服の少女を見る。

 

 

「な、なにが起こったんや・・・・・・?」

「今のは君が・・・・・・?」

『うん。悪い人だったんでしょ?』

 

 

 いきなり畳が跳ね上がったことについなは驚きのあまりポカンと口を開けて跳ね上がった畳を凝視する。

 竜の言葉に和服の少女はコクリとうなずいた。

 その表情はどこかワンコのようであり、褒めて褒めてとでも言っているかのように見えた。

 

 男性が気絶したことを確認した貴身純家の面々はとくに驚いた様子もなく竜たちのもとへと向かってくる。

 

 

「ふむ、誰かこの男を頼んだ。お疲れ様じゃったのう」

「畳が動いた、ということはやはり座敷童が干渉しているみたいだね」

「だから、さっきから言ってるじゃない。竜には座敷童が見えているのよ」

「公住くん!だ、大丈夫でしたか?!」

 

 

 驚いたり慌てたりした様子もなく普通に話しかけてくる貴身純家の面々とは違い、どうして畳が跳ね上がったのかすら分かっていないイタコ先生は心配そうに竜の近くへと駆け寄り、ペタペタと竜の体を触りながら尋ねる。

 イタコ先生の触る手がくすぐったかったために竜は思わず身をよじってしまう。

 

 

「ちょ、くすぐった・・・・・・。大丈夫!大丈夫ですから!」

「ほ、本当ですの?どこかうっかりケガをしたりとかしてません?」

「ご主人はうちがきちんと守っとったからそんな心配することなんてないで?」

 

 

 竜の言葉にイタコ先生は心配そうにしながらも竜から離れた。

 心配そうにしているイタコ先生の様子についなは苦笑しながら声をかける。

 

 

『この人は悪い人・・・・・・?』

「え、ああ、この人は良い人だよ。だから心配しないで」

「誰に話しかけて・・・・・・、あ。もしかして座敷童さんですか?」

 

 

 竜が座敷童に向かって話しかけていると、座敷童の姿が見えていないイタコ先生は不思議そうに首をかしげる。

 しかしすぐに竜の母親である咲良の言っていた竜は座敷童を見ることができるという言葉を思い出して、竜に確認をした。

 イタコ先生の言葉に竜は困ったように頬を掻く。

 

 

「えっと、きみは座敷童で合っているのかな?」

『うん。あってるよ。私はずっとこの家を守ってきた』

 

 

 確認のために竜が話しかけると、和服の少女はしっかりとうなずいて自身が座敷童であるということを認めた。

 隠すことなくあっさりと自身が座敷童だということを答えた少女に竜は拍子抜けといった感じで少しだけ驚いてしまった。

 

 

「ええっと、どうやら座敷童みたいです」

「そんなあっさりと答えてくれるんですのね・・・・・・?」

 

 

 竜の答えにイタコ先生もまさかこんなに簡単に答えてくれるとは思っていなかったため、竜と同じように少しだけ驚いた表情になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第423話




ぎりぎりでしかも眠いから内容がぁ・・・・・・

文章力が欲しいなぁ・・・・・・





 

 

 

 

 竜とイタコ先生が話をしていると、貴身純家の面々が近くに集まってくる。

 貴身純家の面々、咲良、筒治、紅葉の表情は柔らかく、運ばれていく男性のことなど気にした様子もなかった。

 

 

「ふぉっふぉっふぉ、さすがは座敷童じゃのう」

「ね?ちゃんとうちの子の近くにいたでしょう?」

「たしかに。間違いはないみたいだな」

 

 

 先ほど跳ね上がった畳をチラリと見ながら紅葉はうなずく。

 すでに跳ね上がった畳はキレイに元の位置に戻っており、先ほど跳ね上がったとは思えないほどに綺麗になっていた。

 

 

「えっと、先ほどから気になっていたのですけれど・・・・・・。こちらにいるであろう座敷童は本当に座敷童なのですか?先ほどの畳を跳ばすといったことは座敷童には普通はできないはずなのですが・・・・・・」

「あー・・・・・・。たしか座敷童って住んでいる家に幸福を持ってくるだけ、なんでしたっけ?」

 

 

 跳ね上がった畳に驚いた様子のなかった貴身純家の面々に対してイタコ先生は確認するように尋ねる。

 

 座敷童という妖怪は本来であれば竜の言っているように住んでいる家に幸福を招く存在であり、なにかに干渉するような力は基本的に持っておらず、せいぜいが風を起こしたりして軽いものを動かすことができるくらいだろうか。

 

 それに加えて座敷童には、去った家が不幸になるという特性もある。

 これはどちらかというとこれまで座敷童によって幸福になっていたものが元に戻っただけなのだが、幸福になれ切った人間には元に戻ったよりも悪くなったように感じてしまうのだろう。

 

 イタコ先生の言葉に竜はうなずき、改めて和服の少女を見る。

 

 

『なに?』

「いや、なんでもないよ」

 

 

 竜に見られていることに気がついた和服の少女は不思議そうに竜を見ながら尋ねる。

 少女の言葉に竜は軽く首を横に振って答えた。

 

 

「そうじゃのう。わしには見えんから伝え聞いたことしか分からんが・・・・・・。うちに住んでいるから座敷童と呼んでいるだけで本来は座敷童ではないらしいのう」

 

 

 イタコ先生の言葉に紅葉は自分が親から聞いていたことを思い出しながら答える。

 

 紅葉の言葉から、竜の手を掴んでいる座敷童が座敷童ではないということが分かった。

 

 

「なるほどそういうことでしたのね?」

「座敷童じゃないならほんとうはなんだったんだろう?」

 

 

 紅葉の言葉に納得したイタコ先生はうなずき、竜は不思議そうに和服の少女のことを見る。

 少女の見た目は本当に普通の少女といった感じで、本来がどんな存在だったのか全くイメージができなかった。

 

 竜に見つめられ、和服の少女は嬉しそうに竜の体に頭をぐりぐりと押し当てるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第424話




ようやく貴身純家の名前の由来とかを詳しく書けたぁ。

早くお金をためてVの体を動かすためにモデラーさんに依頼しないと・・・・・・







 

 

 

 

 なぜか自身の体にぐりぐりと頭を押し当ててくる和服の少女の姿に竜はどうしたものかと頭を悩ませる。

 この少女はなぜか竜が貴身純家の屋敷に来てこの部屋に入ってからずっと竜の近くにいて手を握っていた。

 

 どうしてここまでこの少女が自分に(なつ)いてきているのかが竜には疑問だった。

 

 

「そういえば母さん。どうして実家と疎遠になっていたんだ?」

「あー、その辺は貴身純家のお役目が理由なのよねー」

 

 

 和服の少女について考えていた竜は、ふと自分の母親が実家と疎遠になっていたということを思い出し、どうして疎遠になったのかを尋ねてみた。

 竜の言葉に竜の母親である咲良はややめんどくさそうにしながら答える。

 どうやら少々思い出したくないようなことがあるらしい。

 

 

「そうねぇ。まずは貴身純家のお役目について説明しようかしら。んん、まず貴身純家なんだけど、そのまま読んで字のごとく(とうと)い人の身を純化させる────つまりは清めることをお役目として担っているの。この場合の貴い人っていうのは偉い人、つまりは日本で一番偉い人である天皇の身を清める役割を持っているのよ」

「天皇・・・・・・」

「ま、まさかそのようなお役目を担っていたんですの・・・・・・?!」

 

 

 貴身純家のお役目を説明するために咲良は簡単に家の名字の由来を竜に説明する。

 天皇というまさかの位の人物を対象としたお役目にイタコ先生は驚くが、竜はむしろ対象となっている人物の位が高すぎて現実味を感じられず、薄い反応となってしまっていた。

 

 正反対な2人の反応に咲良はクスリと笑い、さらに説明を続ける。

 

 

「それで、お役目の内容なんだけど・・・・・・。貴身純家の男性は天皇家の女性に、貴身純家の女性は天皇家の男性に純潔を、つまりは童貞と処女を捧げて天皇家の体を清めるのよ。んで、私はそれが嫌で天皇家の人に術をかけて逃げ出したってわけ。ちなみに逃げ出した先で出会ったのが父さんよ!」

「いや、べつに父さんとの出会いは聞いてない。というか天皇家の女性に関してはそれで清めたことになるのか?」

「ちゅ、ちゅわぁ・・・・・・」

 

 

 お役目の内容を話してから最後に顔を赤くしながら咲良は自分が竜の父親と出会ったときのことを話し始める。

 ちなみに、天皇家の女性が相手の場合はキチンと術ですべて治しているので問題はない、らしい。

 

 咲良の口から聞かされた貴身純家のお役目の内容にイタコ先生は思わず顔を赤くしながら言葉を漏らしてしまう。

 

 

「だって見ず知らずの男なんかに私の初めてなんてあげられるわけないでしょー」

「それが昔からのお役目なんじゃがのう・・・・・・」

「あのあと、記憶を操作するしかなくて大変だったんだぞ?」

 

 

 咲良の言葉に貴身純家当主である紅葉と咲良の兄である筒治はその時のことを思い出したのか疲れたような表情になる。

 そんな2人の言葉に咲良は高校生になる子どもを産んだ親とは思えないような表情でふくれっ面になっていた。

 

 

「・・・・・・そういえば、この子がなんかずっと俺の手を握ってきてるんだけどそれってなんでか分かったりは・・・・・・」

「ふむ。もしかしたら姿を見ることができるほどに強い霊力じゃから主として認めたのかもしれぬのう」

 

 

 親が実家と疎遠になった理由を聞き終えた竜は先ほどから自分のお腹にぐりぐりと頭を押し当てている和服の少女について尋ねてみる。

 竜の言葉に紅葉は顎に手を当て、少しだけ考えておそらくはと思ったことを言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第425話




ツイッターのフォロワーが一気に300人になって驚いています。

こんなに早く増えるとは思ってもいませんでした。







 

 

 

 

 紅葉の言う“主として認めたのかもしれない”という言葉に竜は和服の少女を見る。

 それと同時についなは不機嫌そうな表情になった。

 どうやら紅葉の言った言葉が不満だったようだ。

 

 

「むぅ・・・・・・」

「主、ねぇ・・・・・・」

 

 

 急に主と言われてもどうすればいいのかが分からず、竜は困ったように頬を掻く。

 まぁ、すでに一度ついなにいきなりご主人と呼ばれていまも呼ばれ続けているのだが。

 

 さすがに貴身純家に住み着いているであろう座敷童に主と呼ばれても良いものかと竜は頭を悩ませる。

 といっても貴身純家の当主である紅葉はとくに気にした様子もなく、同じように筒治もなにかを言う様子はなかった。

 

 

『お兄さん。私を視ることができる人。嬉しい』

「あー、なんだ。もしかして誰かに見つけてもらえることが嬉しかったのか?」

 

 

 不意に竜は頭の中に声が聞こえてくる。

 その声の主は目の前にいる和服の少女。

 聞こえてきた声の内容に竜はしゃがみこんで少女と目線を合わせながら尋ねた。

 

 

『うん。昔は私を視ることができる人いっぱいいた。でも最近は私が声をかけても気づかない人ばかり』

「昔は霊力が高い人が多かったってことか・・・・・・?」

 

 

 竜の言葉に少女はうなずいて答える。

 

 どうやら少女が言うには昔は少女のことを視ることができる人は多かったらしいが、最近では貴身純家の人間でも少女のことを視ることができる人間はほぼいないらしい。

 

 少女の言葉に竜はいまの貴身純家の状況をなんとなく理解した。

 

 

「それでたまたまこの家に来た霊力の高い俺を見つけて近くに来たってことだったんだな」

『うん。だから私と遊ぼう』

 

 

 少女がどうして自分の近くに現れたのかの理由を理解して竜は納得する。

 そんな竜に少女は手を差し出しながら言った。

 

 そうして竜が座敷童の少女と話している光景を、座敷童の見えない面々は不思議そうにしながら見ていた。

 

 

「ちゅわぁ、ぜんぜん見えませんし、声も聞こえませんわねぇ・・・・・・」

「あー、まぁ、かなり強い存在みたいだからねぇ・・・・・・。当時は貴身純家で神童だなんだって言われてた私でさえ存在を感じ取れるだけだったもの。・・・・・・なぜかあの子は普通に見えちゃっているんだけどね」

 

 

 どうにか座敷童とやらの姿を視ることができないかとイタコ先生は目を凝らしてみるが、その目に映るのはとくになにもいない空間ばかり。

 そのことにイタコ先生は残念そうな声を出す。

 

 イタコ先生の言葉に竜の母親である咲良はうなずきながら答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第426話



かなり眠い・・・・・・

ツイッターの通知音がなければ完全に寝てしまっていた・・・・・・







 

 

 

 

 竜が座敷童と遊び始めたのを確認したイタコ先生は改めて貴身純家の面々へと体の向きを変える。

 すでに貴見済家の男性はどこかに運び込まれているため、これで安心して本来の目的であった貴見済の男性との婚約を破棄するためのお願いをできるようになるのだ。

 

 

「ええと、改めまして貴見済家の男性との婚約を断るためにお力を貸していただきたいのですが・・・・・・」

「おお、そういえばそんな目的にこの家に来たんじゃったのう」

「といっても彼はあの様子ではもう終わりでしょうけどね」

「むしろ無事に終わらせるつもりなんてないわよー。本家であるこの家を舐めたことしてたんだから」

 

 

 イタコ先生の言葉に紅葉は思い出したように手を叩く。

 そこにさらに筒治、咲良は言葉を続けた。

 

 続けられた筒治と咲良の言葉にイタコ先生は不思議そうに首をかしげる。

 

 

「それはどういう・・・・・・?」

「まぁ、分家であるはずの彼が本家であるはずの私たちに対して明らかに敵対するかのようなことをしていましたからね」

「仮に本家からなにもなかったとしてもこの事実は分家中に広まるから総じて無視されたりするんじゃないかしら?」

 

 

 筒治と咲良の言っている言葉の意味がよく分からなかったイタコ先生は2人にどういう意味なのかを尋ねる。

 

 イタコ先生に尋ねられ、筒治と咲良はどうして貴見済家の男性が終わりなのかを簡単に説明した。

 ちなみに敵対するようなことというのは霊力の高いものを自分たちの血に組み込んで霊力を高めたり、本家に住み着いている存在である座敷童を狙ったりした行為のことを指している。

 

 

「なるほど。そうなれば自然と私との婚約の話もなくなるというわけですわね?」

「まぁ、そういうことじゃのう」

 

 

 筒治と咲良の説明を聞き、どういったことからそうなったのかを理解したイタコ先生はホッと息を吐く。

 これでしたくもない相手と無理やり結婚することがなくなったと分かり、イタコ先生は体から力を抜いて思わず畳の上にへたり込んでしまった。

 

 

「・・・・・・ちゅわ?そういえば私ってもともとは貴身純家の方に婚約の話がいっていたんですわよね?」

 

 

 ふと、イタコ先生はあることを思い出して首をかしげる。

 イタコ先生が思い出したのは自分の親が勝手に打診をした婚約のこと。

 

 本来であれば誰と婚約することになっていたのか。

 イタコ先生はふとそんなことが気になってしまった。

 

 

「ああ、あの婚約の話ね。あれなら一番年齢が近い人ということで竜が候補になっていたわね」

「え、えええええええ?!」

 

 

 咲良の口から発せられた予想外の言葉にイタコ先生は思わず大きな声を出して驚いてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第427話




さーて、ハルヒルに向けて体力を戻さないとー。

流石に今の状態でハルヒルに挑んだら絶対に途中でリタイアすることになってしまう!!





 

 

 

 

 もしかしたら竜の婚約者になっていたかもしれない。

 

 その事実にイタコ先生は思わず顔を赤くして声を上げてしまった。

 

 

「あら?その反応は婚約者になるのも悪くないってことかしら?」

「ちゅ、ちゅわああ・・・・・・」

 

 

 竜の母親の咲良の言葉にイタコ先生は顔を赤くしたまま声を漏らすことしかできなかった。

 そんなイタコ先生の様子に咲良はニマニマと意地悪そうな笑みを浮かべる。

 どうやらイタコ先生のことをからかう対象として認識したらしい。

 

 

「その話は断ったんだろう?今さら蒸し返すんじゃないよ」

「断ったと言ってもあのとき竜は婚約者の相手がイタコさんだとは知らなかったのよ?もしかしたらイタコさんだって知ったら婚約者になってほしいとか言ったりして」

「ほっほっほ、そうなれば孫の子ども、ひ孫を見れる可能性が高くなって嬉しいのう」

「こ、子どもですか?!」

 

 

 イタコ先生のことをからかおうとしている咲良のことを止めるために兄である筒治が軽く注意をするが、それでも咲良は止まらずに言葉を続けていく。

 咲良の言葉を聞いた咲良の父親、つまりは竜の祖父である紅葉は竜の子どもで自分にとってのひ孫を想像したのか、ややだらしない表情になってしまっていた。

 

 咲良の言葉から始まり、続けられた紅葉の言葉にイタコ先生は自分が子どもを抱きかかえている姿をイメージしてしまい、さらに顔を赤く染める。

 ちなみに、イタコ先生が子どもを抱きかかえているイメージをしたときに子どもを抱きかかえているイタコ先生の隣にはなぜか口ひげを生やした雑なコラ画像のような姿の竜の姿もあったりしたのだが、イタコ先生のイメージの中でのことなので誰もそのことを知る者はいなか────。

 

 

「こんっ!」

「あ、ちょっ、こらっ!」

「あ、これがイタコさんに憑いているっていうキツネちゃんね」

「ふむ。この霊力の感じはたしかに九尾みたいだな」

「内包する霊力が少なすぎるようじゃが・・・・・・、なるほどのう。まだ成長途中というわけか」

 

 

 いや、イタコ先生がイメージしたものを知ることのできる存在が一匹だけいた。

 ポンっ、という音とともにイタコ先生の前に現れたキツネは、なにか不満があるらしくポコポコと前足でイタコ先生を叩き始めた。

 イタコ先生はいきなり現れたキツネをなだめようとするのだが、イタコ先生の言葉など聞かずにキツネはポコポコとイタコ先生のことを叩き続ける。

 

 いきなり現れたキツネの姿に貴身純家の面々は驚くかと思われたが、そこは霊能力者の家系なだけあって驚くようなことは一切なく。

 落ち着いた様子でキツネのことを観察していた。

 

 

「くーっっ!!」

「ちょ、いたたたっ?!ま、まさかさっきのイメージが不満でしたの?」

「こんっ!」

 

 

 ポコポコと叩く前足から爪が出始めたのか、イタコ先生は痛がりながらもどうにかキツネを捕まえる。

 キツネを捕まえたイタコ先生は目線を合わせてもしかしたらと思ったことを尋ねる。

 イタコ先生の言葉にキツネは肯定するようにしっかりとうなずく。

 

 どうやらキツネは先ほどのイタコ先生がしたイメージ────子どもを抱きかかえて竜が隣に立っているイメージに自分がいなかったことが不満だったらしい。

 キツネの鳴き声にイタコ先生はがっくりと肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第428話




久しぶりにロードバイクに乗ってきましたー

久しぶり過ぎて足が痛いです・・・・・・






 

 

 

 

 イタコ先生が竜の母親の咲良にからかわれていたり、キツネによって攻撃を受けていたころ。

 竜は貴身純家に住み着いている和服の少女────座敷童と遊んでいた。

 

 座敷童は竜と遊ぶためにいくつかのおもちゃを取り出して並べていた。

 

 

『どれやる?』

「おー、お手玉にコマ、おはじきにけん玉・・・・・・。いろいろとあるなぁ」

「おお?!いきなりおもちゃが出てきたんやけど?!」

 

 

 コテンと首をかしげて座敷童は竜に尋ねる。

 といっても口で尋ねるのではなくテレパシーのように竜の頭の中に直接声が届いているのだが。

 

 座敷童の姿が見えていないついなはいきなり目の前に現れた昔のおもちゃに驚きの声を上げる。

 そんなついなのことなど気にした様子もなく座敷童は目の前のおもちゃを手に取り始めた。

 

 

『これ、できる?』

「お手玉かぁ。3個以上のやつが難しくてできないなぁ」

 

 

 座敷童が最初に手に取って竜に見せたのは布で作られた小さなボール、お手玉だ。

 お手玉とは布で作った袋の中に小豆などを入れて作ったボールで、遊び方として定番なものがポンポンと上に投げてキャッチをする遊びだろう。

 この他にも積み上げて高さを目指したり、的当てなどに使ったりと遊び方はかなり自由度が高い。

 

 座敷童にできるかどうか聞かれた竜はお手玉を2個手に取ってポンポンと簡単に投げてキャッチをする。

 まぁ、2個を投げているだけなので失敗する人はそうそういないだろう。

 

 竜がポンポンとお手玉を投げている姿を見ていた座敷童は、納得するようにうなずくと自分も同じようにお手玉を手に取る。

 しかし手に取ったお手玉の量は竜が手に取った2個よりも多い8個。

 お手玉を出してきたのだから当然できるのだろうと考えていた竜だったが、想像以上にお手玉を取った座敷童に思わず驚いた表情になる。

 

 

『みてて』

 

 

 そう言って座敷童はすさまじい速さでお手玉を上に投げていく。

 上に投げられたお手玉は重力に従って座敷童の手へと向かって落ちていった。

 落ちてきたお手玉をキャッチした座敷童はそのまま素早く反対の手へと投げ、次に落ちてくるお手玉をキャッチする。

 それと同時に反対の手へと移動したお手玉を最初のように上空へと向かって投げていった。

 次々とキャッチしたお手玉を上空へと投げていき、1つも落とすことのない座敷童の技に竜は思わず拍手をする。

 

 

「おー!すごいな!」

「す、姿は見え取らんけど座敷童がこれをやっとるんか?すごい技術やな」

 

 

 お手玉を落とすことなく投げていく姿に竜が拍手をしている隣で、座敷童の姿が見えていないついなは空中をポンポンと飛び回っているお手玉に驚きながら感心するのだった。

 

 

『これはできる?』

「お、コマならできるぞ。回るのが楽しくてけっこう遊んでたんだ」

 

 

 十分にお手玉を投げたことで満足したのか、座敷童は次にコマを竜へと差し出してきた。

 コマを差し出された竜はうなずきながらコマへと紐を巻いていく。

 

 コマは巻いた紐を引くことによってコマ自身を回転させ、回して遊ぶおもちゃである。

 このおもちゃは姿を変えながらも今にまで残っているおもちゃで、根強い人気があるであろうことがうかがえるおもちゃの1つだ。

 

 そして、竜はコマを回し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第429話





ううん。

ここのところ上手く書けないなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 座敷童と昔のおもちゃを使って遊んでいた竜は、いつの間にかそこそこに時間が経ってしまっていることに竜は気がつく。

 窓を見れば外の景色がややオレンジ色になってきており、すでに夕方に近い時間になっていることが分かった。

 

 

「いつの間にかこんな時間か。そろそろ帰らないとかなぁ」

『帰っちゃうの?この家に住まないの?』

「いやぁ、俺にも家があるからなぁ」

 

 

 外の景色を確認した竜の呟きに座敷童は首をかしげながら竜の服を掴んで尋ねる。

 座敷童からすれば竜はいまとなっては数少ない自分のことを視れる人間。

 そのために竜に対して少しだけ執着心が出てきてしまったのだ。

 

 座敷童の言葉に竜は困ったような表情になりながら答えた。

 

 

「ごめんな。ずっとこの家にいるつもりはないんだよ」

『寂しい・・・・・・。また、来てくれる?』

「ああ、もちろんだよ」

 

 

 しょんぼりとした座敷童の姿に竜は優しく頭を撫でる。

 竜に頭を撫でられ、座敷童は嬉しそうに目を細めた。

 

 

「さて、と。イタコ先生、そろそろ帰った方が良いのでは?」

「いったたたた、・・・・・・ちゅわっ?!え、ああ、そうですわね!」

 

 

 座敷童の視線に合わせてしゃがみこんでいた竜は立ち上がり、イタコ先生に声をかける。

 いまだにキツネに攻撃されていたイタコ先生は竜に声をかけられ、驚いた声を挙げるのと同時に自信を攻撃してきていたキツネを無理やり捕まえて自分の中へと戻した。

 

 

「いつの間にかこんな時間でしたのね。ええと、それでは私たちはこれで・・・・・・」

「あ、ちょっと待ちなさい」

 

 

 イタコ先生の言葉に咲良が待ったをかけた。

 帰ろうとしていたところを止められたため、イタコ先生は不思議そうに咲良を見る。

 

 

「どうかしましたか?」

「今日は帰らずに家に泊まりなさい。分家とはいえうちの家系の人間が迷惑をかけてしまったのだからそれくらいはさせてちょうだい」

 

 

 どうして咲良が呼び止めたのかを不思議に思いながらイタコ先生は尋ねる。

 イタコ先生の言葉に咲良は申し訳なさそうにしながら言う。

 どうやら分家────貴見済家が迷惑をかけたことに対して申し訳なさを感じているようで、イタコ先生にこの家に泊まらないかと提案してきた。

 

 

「貴身純家に・・・・・・ですか・・・・・・?いえ、家には妹たちがいますし。今日のところは家に帰らせてもらいますわ」

「そう。なら竜はどうかしら?」

「いや、俺も帰るよ」

 

 

 咲良の言葉にイタコ先生は泊まらない理由を答える。

 イタコ先生に断られた咲良は、そのままついでといった感じで竜にも尋ねる。

 咲良に聞かれた竜は首を横に振り、貴身純家に泊まることを断るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第430話




エペでデュオならまだソロでもチャンピオンになれるな―。

それでも厳しいことに違いはないんですけどねー。






 

 

 

 

 貴身純家からの帰り道。

 竜はイタコ先生の運転する車に乗っていた。

 

 

「貴身純家が俺の親の実家だっていう驚きはありましたけど、無事に終わって良かったですね」

「そ、そそそそそ、そうですわね!」

「なんや、挙動不審やな?」

 

 

 無事にイタコ先生の婚約の話を解決することができ、竜はホッと息を吐きながら言う。

 そんな竜の言葉に貴身純家で竜と婚約者の関係になる可能性があったという情報を聞いていたイタコ先生は噛みながら答えた。

 いつもとは違うイタコ先生の様子に竜とついなはそろって首をかしげる。

 

 

「どうかしましたか?」

「い、いえいえ。なにもありませんわよ?!」

「くーっ!」

 

 

 不思議に思った竜が尋ねるが、イタコ先生は慌てた様子で答えるだけでどうして挙動不審なのかを答えることはなかった。

 挙動不審になったまま答えたイタコ先生からいきなりキツネが飛び出し、竜に飛びつく。

 

 イタコ先生に憑いているキツネがいきなり現れて飛びついてくることはいつものことなため、竜はとくに驚くこともなく受け止めることができた。

 

 

「っと、どうしたー?」

「くー、こーんっ!」

「いつもながらいきなり現れるなぁー」

 

 

 飛びついてきたキツネの頭をグシグシと撫でながら竜はキツネに声をかける。

 竜に撫でられ、キツネは気持ちよさそうに目を細めながら鳴き声をあげている。

 そんなキツネの様子についなは呆れたような声で呟いた。

 

 キツネが飛び出したことによって挙動不審になってしまっている理由を話すことがうやむやになり、イタコ先生は竜たちに気づかれないように小さく息を吐くのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 イタコ先生の運転によって家に着いた竜は、軽く伸びをする。

 竜が車から降りた際にキツネが引っ付いて離れないようにしていたが、すでにいつものことなためにとくに苦労することなく引き剥がされてしまっていた。

 

 

「それにしてもご主人のお母さんの実家が高名な霊能者の家系だったっちゅうんは驚きやったなぁ。家に来た時に術を使っとったんは見とるから霊能者やっちゅうんは知っとったけど」

「そうなのか?」

 

 

 家の中に入って落ち着いたのか、ついなはしみじみと呟く。

 ついなの呟きからついなは竜の母親が霊能力を使うことができるということを知っていたのだと知り、竜は少しだけ驚いた表情になりながらついなに聞き返した。

 竜の言葉についなは一瞬だけしまったというような表情になったが、すぐに元の表情に戻る。

 

 

「どうかしたのか?」

「あー、ご主人のお母さんにご主人には言わないように言われとったんやけど・・・・・・。よく考えたら貴身純家で正体を明かしとった時点で分かっとったなぁって、思ってなぁ」

 

 

 竜に尋ねられ、ついなは少しだけ悩み、先ほど表情を変えた理由を答えた。

 ついなの答えに竜は口止めをしている自身の母親の姿を思い浮かべてしまい、やや疲れたような表情になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第431話



わずかに遅れてしまった・・・・・・

しかも内容がぁ・・・・・・





 

 

 

 

 イタコ先生の婚約騒動も無事に終わり、竜たちはいつも通りに学校に向かう。

 学校に向かっているメンバーはいつものように茜、葵、ゆかり、あかりの4人であり、ついなは竜の制服のポケットに入っていた。

 

 

「そんで、イタコ先生の問題は無事に解決したんか?」

「そういえばお休みのときにイタコ先生のところに行ったんだっけ」

 

 

 学校へと向かいながら茜は気になっていたことを尋ねる。

 茜の言葉に葵も確認するようにつぶやいて竜を見た。

 さらにはゆかり、あかりも同じように竜を見ている。

 

 

「ああ、それならなんとか解決したよ」

「そうなんですね」

「ということは竜先輩が恋人のふりをするのも終わりということですね?」

 

 

 茜の言葉に竜はうなずいて答える。

 竜の答えにゆかりはうなずき、あかりは竜に尋ねる。

 竜がイタコ先生の恋人のふりをするというのは、霊力が高くて霊のことを視ることができる竜であればイタコ先生と婚約をしようとしてきている貴見済家に対して婚約を断ることができるのではないかと考えたからだ。

 

 まぁ、貴身純家が竜の母親の実家だということが分かったために竜とイタコ先生による偽の恋人作戦は使われることなく終わったのだが。

 

 

「あ、そういえば。イタコ先生と婚約をしようとしていた男の実家が貴見済(たかみずみ)家だってことは言ったっけか?」

「やー、確か聞いとらんはずやな」

「うん。ボクも聞いた覚えはないよー」

「私も聞いてませんね」

「同じくですよー」」

 

 

 ふと、竜はイタコ先生に婚約を迫っていた人間が貴見済家であったことを教えたかどうか確認をする。

 竜の言葉に茜たち4人は貴見済という名字に関して聞いたことがないと答えた。

 

 4人の答えに竜は納得したようにうなずく。

 

 

「あー、えっと、とりあえずその貴見済家は分家で本家っていうのがあるんだよ。その本家の家の名字が貴身純(きみすみ)家って名前でな」

「貴身純?なんや竜の名字とおんなじやん」

「本当だ。不思議だねー?」

 

 

 分家である貴見済家の本家、貴身純家の名字を挙げると茜たちは驚いた表情になって顔を見合わせた。

 茜たちにとって“きみすみ”という名字は竜の名字という印象が強かったのだ。

 

 

「そんで、その貴身純家がなんかあったんか?」

「ああ、まあな。その貴身純家がな、俺の母さんの実家だったんだよ」

「うそっ?!」

「そんな偶然がありますか?!」

「す、すごい偶然があったんですね?」

 

 

 貴見済家の本家である貴身純家。

 その家が竜の母親の実家だという事実に茜たちは驚き、思わず口を開いてしまう。

 

 

「まぁ、驚くよなぁ。俺も本当に驚いたし」

「そりゃあ、驚くに決まっとるやろ!」

「たしかイタコ先生は相手の家はけっこう位が高い家だって言ってなかったっけ?」

「そんなことを言っていたような・・・・・・?」

「うろ覚えですねー・・・・・・」

 

 

 茜たちが驚いている様子に竜は何度もうんうんとうなずく。

 そんな竜に茜は思わずツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第432話





エペでシーズンが変わりましたねぇ。

とりあえずヴァルキリーを解放してボセックボウの練習してきまーす。








 

 

 

 

 竜の母親の実家が貴身純家という位の高い家だったという事実に驚いたり、なんてことのないゲームの話をしたりといつも通りの光景を広げながら竜たちは学校へと到着する。

 竜たちが学校に着くのとほぼ同じタイミングで反対の道からマキが手を振りながら駆け寄ってきた。

 

 

「みんな、おっはよー!」

「おう、おはよう。マキ」

「マキも元気やなぁ。いいことやね」

「おはようさんやでー、マキマキー」

「マキさん、おはよう」

「おはようございます」

「マキ先輩、おはようございます!」

 

 

 マキの言葉に竜たちは手を上げたりしながら答える。

 そして、マキを加えて竜たちは昇降口へと向かって行った。

 

 

「ねぇねぇ!私、昨日エーペックスで初めてチャンピオンが取れたよ!」

「お、そうなのか。ぜんぜん勝てないって言ってたからな。嬉しかったんじゃないか?」

「おー、おめでとうさんやー!」

「おめでとう、マキさん!」

「これでようやくマキさんもエーペックスでのスタート地点に到着したわけですね」

「一度チャンピオンになってからはどう動けばチャンピオンになれるかの試行ですからね」

 

 

 嬉しそうにニコニコとしながらマキは昨日あった嬉しかったことを語る。

 マキが語っている内容は複数人のキャラクターの中から1人を選び2人1組、もしくは3人1組のバトルロイヤルをおこなって最後の1組になるまで戦い続けるというFPSのゲームだ。

 

 このゲームでマキはなかなかチャンピオンを取ることができず、悔しい思いをしていた。

 そのため、マキは昨日の出来事にもかかわらず竜たちにチャンピオンを取ったことをニコニコと報告していたのだ。

 

 

「エペでチャンピオンを取るのは本当に難しいからなぁ」

「うちもそこまで取れてへんなぁ」

「ボクとお姉ちゃんでよくやるけど難しいよね。野良の人を入れてのトリオかボクたちだけのデュオでやってるけどひどいときは一番最初に死んじゃったりしちゃうもんね」

「まぁ、エーペックスはけっこうシンプルにプレイヤーの技量が反映されますもんね。レベルとかで差が出ないのは良い点ですけど」

「あとは初動でどれだけ装備を集められるかですかねー?」

 

 

 嬉しそうにしているマキを見ながら竜はしみじみと呟く。

 エーペックスでチャンピオンを取る。

 それは一見簡単そうに聞こえてしまうかもしれないが、参加者60人20組の中で1位にならなくてはいけないのでかなり大変なのだ。

 しかも1パーティが基本的に3人なのでうっかり1人で遭遇しようものなら3人から撃たれてハチの巣となってしまうのだ。

 そのため、可能であればそこまで離れた位置に装備などを取りにいかず、可能な限り連携をすることが勝利のカギとなっている。

 

 それから、色々な話をしながら竜たちは教室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第433話




もうすぐUA12000にいきますねぇ。

金曜日が終わればまたすぐにおやすみ。

がんばっていきますかー。





 

 

 

 

 あかりと廊下で分かれ、竜たちは自分の教室に到着する。

 教室に先にいたクラスメイト達は手を上げたり声をかけてきたりと思い思いの反応を示す。

 

 教室の中にいたクラスメイト達に竜たちも同じように手を上げたり声を返したりと思い思いに応えていた。

 

 

「みんな、おはようやでー!」

 

 

 まぁ、竜たちが普通に朝の挨拶を返している隣で茜は元気に大きな声で教室に響き渡るように朝の挨拶をしているのだが。

 といっても茜のこの行動はいつものことなので竜たちを含めて教室内にいる誰もが驚くこともなく返事をしているので、気にしなくても良いだろう。

 

 なお、ちょうど茜が挨拶をしたタイミングで教室の近くを通ったイアが驚いて小さく飛び跳ねていたりするのだが、イアにとって幸いなことにそのことに気がついた生徒はいなかった。

 

 

「いつものことだけどやっぱり琴葉さんの挨拶はなんか元気になるよなー」

「そうそう。ちょっとうるさくもあるけど、それのおかげで頭もシャッキリするっていうかなー」

 

「元気に挨拶されるってけっこう嬉しいことよね」

「分かるわ。こう、惰性で挨拶されたりすると逆に元気がなくなっちゃうやつよね」

 

 

 茜の元気な挨拶を受けたクラスメイト達は思い思いに会話を始める。

 その様子は茜が教室にくる前と比べて明らかに元気になっており、表情も明るいものに変わっているように見えた。

 

 

「こう、改めてみると茜ってすごいよなぁ」

「せやねぇ。なんちゅうんかな?自分の元気を周りに分けてるって感じなんかなぁ?」

 

 

 なんとなく空気が明るくなったのを感じ取った竜はチラリとクラスメイトと話し始めた茜のことを見ながら小さくつぶやく。

 竜の呟きは小さかったためにほとんどのクラスメイト達には聞こえていなかったが、竜の制服のポケットの中に入っていたついなの耳にはしっかりと届いており、ついなも竜の呟きにうなずいて答えた。

 

 

「そういえば竜くんは最近はどのゲームをやってるの?」

「うん?プレステ4の通知で見てないのか?」

「うん。最近、お姉ちゃんがエーペックスとかDbDの練習してるから見れてないんだー」

 

 

 ふと、葵が竜に尋ねる。

 葵の言葉に竜は自分がゲームをしているときにプレイステーション4の通知機能で通知されているのではないかと不思議に思いながら聞き返す。

 竜の言葉に葵は茜がゲームの練習をしているからその通知を見ることができないと答えた。

 

 通知が見れるとはどういうことなのかと思う人がいるかもしれないので念のために。

 プレイステーション4にはフレンドがゲームをやっているか、プレイステーション4を起動しているかどうか、そしてフレンドがなんのゲームをしているのかを知ることができる機能がついているのだ。

 

 つまり、竜はそれでなにをしているのかを見ることができるのではないかと葵に聞いたのだ。

 

 

「あー、そうなのか。俺は最近はエーペックスばっかりかな。新しくゲームを買ったからそっちをやろうとも考えているけど」

「へぇ、新しいゲーム?どんなゲームなの?」

「真・女神転生Ⅲだよ中古で安くなってたし久々にRPGもやりたくなってな」

 

 

 葵の言葉に納得した竜は最近やっているゲームを答える。

 モンハンやPSO2をよく遊んでいた竜だったが、最近だとFPSのエーペックスにハマってしまっていた。

 まぁ、それでも新しいゲームを買ってはいるのだが。

 

 竜の言葉に葵はどんなゲームを買ったのか尋ねる。

 そして、竜は勝ったゲームの話などをしながら担任の先生が来るのを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第434話




ぎりぎり書き終わったけど内容がぁ・・・・・・

最近上手く書けないなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 時間は進んでお昼休み。

 竜たちはいつものように保健室に向かっていた。

 

 

「茜、お前さっきの授業で後半寝てなかったか?」

「ね、寝取らん・・・・・・よ?」

 

 

 保健室へと向かいながら竜はふとさっきの授業中に見えた光景を思い出して茜に尋ねる。

 竜の言葉に茜はそっと顔を逸らしながら答えた。

 その様子は誰がどう見ても誤魔化しているようにしか見えず、竜だけでなく葵やゆかり、マキも茜が寝ていたのだと確信した。

 

 

「お姉ちゃん、ちゃんと授業は受けようよ・・・・・・」

「それで分からないところができてしまうんですから、気をつけましょう?」

「私も眠くなってきちゃうから分かるけどねー」

 

 

 顔を逸らす茜に葵とゆかりは呆れながら言う。

 そんな茜の様子にマキも分からなくはないと答えるのだった。

 

 

「わ、分からんところは竜に聞くから問題ないんや!」

「いや、俺も人に教えられるほど勉強ができるわけじゃないなんだが・・・・・・」

「この中ですと一番勉強ができるのは葵さんですよね」

 

 

 葵とゆかりの言葉に茜は両手を突き上げながら勢いよく答える。

 茜の言葉に竜は頬を掻きながら答えた。

 竜の言葉を聞きながらゆかりは誰が一番勉強できるのかを呟いた。

 

 

「うん。だから一応ボクが家でお姉ちゃんに教えてるんだよ」

「それなら竜くんに聞く必要はないねー」

「むしろ俺が葵に勉強を聞いておきたいところだな」

 

 

 ニコリと笑みを浮かべて葵は茜を見る。

 葵の言葉にマキも同じように笑みを浮かべ、竜に勉強を聞くと言っていた茜のことをけん制していた。

 

 

「それならもちろん教えるよ!」

「お、ならお願いするよ。テストとかもいい点を取りたいしなぁ」

「でしたら私もご一緒しますよ。教える人が多い方が勉強にもなるはずですし」

「それなら私もやるよー!」

「な、ならうちもやるで!」

 

 

 竜が勉強を教わりたいと言ったことに対して葵は嬉しそうにうなずく。

 葵の言葉に続くようにゆかり、マキ、茜も勉強会に参加することを宣言した。

 

 

「・・・・・・言質取ったよ?」

「参加するって言ったな」

「これは絶対に逃がしてはいけませんね」

「もう逃げられないよー?」

「はっ?!まさかハメられたんか?!」

 

 

 茜が勉強会に参加するということを宣言した直後に葵はそっと茜の肩に手を置いて言う。

 葵の言葉に続くように竜、ゆかり、マキも茜のことを囲むように移動する。

 

 竜たちの言葉と様子から自分を勉強会に参加させるために一芝居うったのだと察し、驚きの声を上げる。

 

 まぁ、実際にはアドリブでやっていたのだが、そのことを茜が知ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第435話




なぜかツイッターのフォロワーさんが一気に増えて困惑しております。

寝て起きたら10人増えるとか予想外過ぎました。







 

 

 

 

 保健室に着き、竜たちはお昼ご飯の準備を進めていく。

 すでに保健室にはあかり、イア、オネがそろっており、それぞれのお昼ご飯の準備をしていた。

 

 

「はい。竜くんのお弁当」

「おう、いつもありがとうな」

「おっ昼ったーい!」

「今日はどんなお弁当かな」

 

 

 保健室に入り、竜はマキからいつものようにお弁当を受け取る。

 竜がマキからお弁当を受け取っていると、ちょうどひめとみことが保健室の中へと入ってきた。

 今日はひめは勢いよく扉を開けることなく普通に保健室の扉を開けていた。

 

 

「あの、竜くん。その、少し・・・・・・いいですか?」

「うん?なんだ?」

 

 

 竜がマキから受け取ったお弁当を広げていると、不意にゆかりから声がかかった。

 ゆかりの様子が普段とは違い、どこか緊張した様子なことに気がついた竜は不思議に思いつつゆかりを見る。

 

 竜に聞き返され、ゆかりはもじもじとしながら小さな箱を差し出した。

 

 

「これは・・・・・・?」

「えっと、その・・・・・・、お弁当、です」

 

 

 ゆかりが差し出してきた小さな箱。

 差し出された小さな箱を受け取って開いてみると、それは小さいながらもいくつかのおかずの詰められたちゃんとしたお弁当だった。

 

 ところどころ焦げているおかずは見られるが、それでも美味しそうに見える。

 

 

「なんやて?!ゆかりさんがお弁当やと?!」

「あの料理ができなかったゆかりさんが?!」

「ふふん。ゆかりんは地道にうちで料理の練習をしていたんだよ!」

 

 

 料理が苦手、というよりも基本的に家事が苦手だと知られているためにゆかりがお弁当を作ったという事実に茜と葵は驚きの表情を浮かべる。

 驚いている茜と葵の姿にマキは自慢げに答えた。

 

 マキはゆかりから料理を教えてほしいと頼まれたためにゆかりの料理の腕を把握できており、ゆかりが今日のお昼に竜にお弁当を渡すということを知っていたのでいつもよりもお弁当のサイズを小さくしていたのだ。

 

 

「えっと、それじゃあいただくよ」

「は、はい!」

 

 

 ゆかりからお弁当をもらうという予想外のことに驚きつつ竜はお弁当を食べ始める。

 竜がお弁当を食べ始めたのを見てゆかりは緊張した表情になってうなずいた。

 

 

「えっと、卵焼きにアスパラのベーコン巻き、それにブロッコリーか」

「ううん。簡単なおかずなんやけどゆかりさんが作っとるってだけですごいものに思えてしまうなぁ」

「本当だね。ゆかりさんが料理をできなかったのを知っているだけにビックリだよ」

 

 

 ゆかりの作ったお弁当の中を確認し、茜はうなる。

 料理がほとんどできなかったゆかりの作った少しだけ焦げてはいるが綺麗なおかず。

 それだけで茜の目にはゆかりの作ったお弁当がすごいものに見えた。

 

 

「あむ・・・・・・。んむんむ・・・・・・」

「どう、でしょうか・・・・・・?」

 

 

 お弁当箱の中から卵焼きを取り、口に運ぶ。

 竜が卵焼きを食べたことにゆかりは緊張で表情を固くさせる。

 

 

「・・・・・・うん。美味いよ」

「本当ですか!」

 

 

 食べた卵焼きの味をしっかりと味わい、竜は呟く。

 竜の言葉にゆかりは緊張した表情から一転し、嬉しそうな表情で竜のことを見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第436話




今日もまたギリギリに・・・・・・

ツイッターが一気にフォロワーさんが増えたからか制限がかかってしまった・・・・・・

解除されるまで新規のフォロワーさんをフォローすることができないや・・・・・・







 

 

 

 

 

 ゆかりの作ってくれたお弁当を竜は食べ進める。

 卵焼きやアスパラのベーコン巻きなんかは多少は焦げていたりするものの、キチンと食べられるものとなっており、茹でるだけと思われそうなブロッコリーもほど良い茹で加減となっている。

 

 

「うん。ところどころ焦げているところはあるけどそれでも普通に美味いな」

「ふふふ、そう言ってもらえると嬉しいです」

 

 

 ゆかりから受け取った小さめのお弁当の中身をすべて食べきり、竜はうなずきながら言う。

 茜たちからゆかりは家事がほとんどできないということは聞いていたために竜は本当に感心してうなずいていた。

 

 竜の言葉にゆかりはやや恥ずかしそうに頬を赤くしながら答えた。

 

 

「ゆかりさんってかなり料理はできひんかったよな?教えるのは苦労したんとちゃうか?」

「うんうん。家庭科の授業で先生からゆかりさんに包丁は持たせないようにって言われてるレベルだったよね?」

「まぁ・・・・・・。うん。ちょっと大変だったかなぁ・・・・・・」

 

 

 茜と葵の言葉にマキは苦笑しつつ答えた。

 マキの頭の中によみがえってくるのはゆかりに料理を教えていく過程で起こった珍事など。

 

 料理の失敗における定番の塩と砂糖を間違えるといった簡単なものから、茹で時間や焼き時間が足りなくて半生になってしまうこと。

 

 普通に包丁で野菜を切るだけのはずなのに包丁の上と下を間違えて包丁の背の部分で野菜を切ろうとして自分の手を切りかけたこと。

 

 油の温度が上がっているのかを確認するために指を直接入れようとしたこと。

 

 挙げればきりがないのではないかと思えるほどにゆかりは料理を学ぶ過程で様々な珍事を起こしていた。

 

 

「そ、そんなに苦労したんか・・・・・・」

「えっと、お疲れ様・・・・・・?」

「あはは・・・・・・。2人ともありがと・・・・・・」

 

 

 ゆかりの起こした珍事を思い返していたマキの目がどんどん光を失っていっていることに気がついた茜と葵は驚きつつマキを労わる。

 2人からの労わりの言葉にマキは空笑いをしながら答えるのだった。

 

 それから、竜たちは自分たちのお弁当を食べ終えて思い思いに保健室で雑談を始めるのだった。

 

 

「あ、そういえばイタコ先生。婚約の話とかはどうなったんですか?」

「そういえばそうね。どうにかなったのかしら?」

 

 

 ふと思い出したといった表情を浮かべながらイアはイタコ先生に尋ねる。

 イアの言葉に同意するようにオネもコクコクとうなずきながら答えた。

 

 

「あー、イア先輩とオネさんは竜と会う機会が基本的にないからイタコ先生のお見合いがどうなったのかを知らないんですね」

「まぁ、わざわざ言う必要はないと思って言ってなかったしなぁ・・・・・・」

 

 

 イタコ先生にお見合いがどうなったのかを聞いているイアとオネの姿から2人がイタコ先生のお見合いが無事に解決したことを知らないのだと竜たちは理解する。

 まぁ、イアとオネの2人は竜と会う機会はほとんどないためにその辺りの情報を知らないのも仕方がないことなのだろう。

 

 そんな2人のことを見ながら呟くゆかりの言葉に竜は頬を掻きながら答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第437話




書きたいものが上手く書けないというのはなかなかに辛いですねぇ・・・・・・

スランプ、というのはおこがましいですよねぇ・・・・・・








 

 

 

 

 イアとオネに尋ねられ、イタコ先生は困ったような表情になりながらチラリと竜を見る。

 婚約の話に関しては無事に解決はしたのだが、詳しく話すとなれば竜の実家の話が出てきてしまうため、プライバシー的に話してもいいのかイタコ先生は悩んでいた。

 

 

「えーっと、そうですわね。婚約に関しましては無事に解決いたしましたわ」

「そうなんですね。イタコ先生がかなり困っている様子だったから無事に解決してよかったです」

「たしか歳がかなり離れた男性と婚約させられそうになっていたんだったかしら」

 

 

 イアとオネの言葉にイタコ先生は一先ずあたりさわりのない内容を答えた。

 イタコ先生の無事に婚約の話を解決できたという言葉にイアとオネは安心したように表情を明るくさせる。

 

 

「でもけっこうしつこいとか言ってませんでしたっけ?その辺は大丈夫なんですか?解決したことに対して逆恨みをしてきたりとか・・・・・・」

「たしかに・・・・・・。逆恨みをして現れたりとかしたら怖いわね」

 

 

 婚約をしようとしていた男性、貴見済家の男性がどうなったのかを知らないイアとオネは婚約がなくなったことによって恨みを買ったのではないかとイタコ先生を心配する。

 イアとオネの言葉を聞き、ゆかりたちも逆恨みをされたりしていないのか心配になったのか、不安そうに竜のことを見る。

 

 

「あー・・・・・・、その辺は大丈夫ですよ」

「え、どうして公住くんがそんなことを分かるの?」

 

 

 心配そうにしているゆかりたちの言葉に押され、竜は安心していいと伝えた。

 竜の言葉にイタコ先生を除いた全員が不思議そうに首をかしげる。

 

 

「えっと、イタコ先生との婚約を進めようとしていた相手がどこかの大きな家の分家だっていうのは知ってましたよね?」

「うん。もともとはそっちの家に婚約の話を打診していたんだったよね?」

「たしか・・・・・・、本家の方が断ったのに急にしゃしゃり出てきて婚約者になろうとしていたんだったかしら」

 

 

 確認するように竜は全員のことを見渡しながら尋ねる。

 

 貴見済家は竜の母親の実家である貴身純家の分家であり、その家の力は公住家ほど大きくはないものの、十分に大きな家だった。

 

 竜の言葉にゆかりたちはうなずいて婚約をしようとしていた相手の情報を思い出しながら答える。

 

 

「そのですね。イタコ先生の親が婚約の打診をした本家が自分の母親の実家でしたので協力をしてもらったんです。そのお陰で相手の男性はまともに生活するのも難しいんじゃないですかね?」

「へぇー、公住くんのお母さんの家が本家だったんだ!」

「いがいと世間は狭いものなのねぇ」

 

 

 竜の母親の家、つまりは実家が本家だったということにイアとオネはそこまで驚いた様子もなく普通に答えていた。

 あまりにも驚いたりしている様子のないイアとオネの姿に竜は逆に驚いてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第438話



気温の変化が激しいので体調に気をつけてください。

朝は暖かくても夜に一気に冷えたりしますので。






 

 

 

 

 竜の母親の実家がイタコ先生の親が婚約を打診した先だったと聞いてもあまり驚いた様子のないイアとオネに竜は逆に驚いた表情になる。

 イタコ先生の親が婚約を打診した家が竜の母親の実家だということを茜たちに言ったときにはかなり驚いていたために、イアとオネがそこまで驚いた様子を見せていないことが竜にとってかなり意外だった。

 

 

「驚かない、んですか・・・・・・?」

「んー、たしかに驚きはしたんだけど・・・・・・。詳しく説明をできるってことはなにかしら関係があるんだろうなぁって思ったの」

「そう考えたら驚くよりも納得の方が強かったのよねぇ」

 

 

 竜の言葉にイアとオネは互いに顔を見合わせて驚かなかった理由を答える。

 2人の言葉を聞いて驚かなかった理由を理解し、竜たちは納得して頷いた。

 

 

「あれ?そういえばイタコ先生の親が婚約を打診したのが公住くんのお母さんの実家なんだよね?」

「そうですね」

 

 

 ふとなにかに気がついたのかイアが首をかしげながら竜に尋ねる。

 イアがなにに気がついたのか分からず、同じように首をかしげながら竜は答えた。

 

 

「それでさ。もしも公住くんの実家がイタコ先生との婚約を断ってなかったら誰が婚約相手になってたのかなぁって、ちょっと気になっちゃった」

「あー、なるほど。母さんから聞いた限りでは母さんのお兄さんの家には娘しかいないらしいですし・・・・・・」

「竜くんのお母さんは他に兄妹とかいるのかしら?」

「いえ、2人兄妹って言ってましたね」

 

 

 イアが気になったのは貴身純家がイタコ先生との婚約を了承していた場合の相手が誰だったのか。

 イアの言葉に続いてオネも竜に気になったことを尋ねる。

 

 竜が聞いた限りでは貴身純家には竜の母親と兄の2人しか子どもがおらず、兄の方には娘しか子どもがいなかった。

 そして、公住家、つまりは竜の家には竜しか子どもがいない。

 

 竜の言葉にイアとオネは少しだけ考えるような表情になる。

 

 

「・・・・・・そうしたら貴身純家には若い男性が公住くんだけということに」

「それじゃあ、つまりはそういうことよね?」

 

 

 竜から聞いた情報から貴身純家には若い未婚の男性が竜以外にはいないのだろうということが分かる。

 貴身純家に竜以外に若い未婚の男性がいないということ、そしてイタコ先生の婚約相手。

 それらの情報からイアとオネはある結論へとたどり着いた。

 

 

「もしかしてだけど、イタコ先生の婚約者って公住くんになってた可能性があったんじゃない?」

「貴身純家には他に当てはまりそうな男性は聞いた限りではいないみたいだし間違いないと思うのだけど・・・・・・」

「ちゅ、ちゅわぁ・・・・・・」

 

 

 イアとオネが出した結論を聞き、竜たちの視線がイタコ先生に集中する。

 全員の視線が集まったことに、イタコ先生は表情を固まらせることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第439話




ツイッターのフォロワーさんが700人を超えるとは・・・・・・

ちょっと予想外過ぎましたねぇ。






 

 

 

 

 保健室にいる全員の視線が集まり、イタコ先生は表情を固くさせる。

 

 イタコ先生の婚約者が竜になっていたかもしれない。

 

 その情報はイタコ先生が竜の母親である公住咲良から聞いていたことであり、竜の説明だけでそこまで思い至るとは思ってもいなかったのだ。

 

 

「え、えっと・・・・・・、その・・・・・・」

 

 

 自分が竜の婚約者になっていた可能性があるということに、イタコ先生はどう答えたものかと口をもごもごとさせる。

 そんなイタコ先生の様子に、茜たちはイアとオネが出した推測が間違っていないのだと理解する。

 

 

「ふぅ・・・・・・緊急会議をします。ちょっと竜くんは少し離れたところでキツネと戯れていてください」

「会議?・・・・・・まぁ、良いけど」

「こーんっ!」

 

 

 小さく息を吐いてゆかりは竜に指示を出す。

 ゆかりの言葉に竜は首をかしげながらも、指示に従って少し離れた位置に移動した。

 それと同時に竜のもとへとイタコ先生の中からキツネが飛び出して向かっていく。

 

 

「おっと、よーしよしよし」

「くー・・・・・・」

「おーおー、めっちゃ脱力しとるなぁ」

 

 

 飛びついてきたキツネをキャッチした竜はそのままわしゃわしゃとキツネのことを撫でる。

 竜に撫でられ、キツネはぐでぇっと竜に身を任せていた。

 

 そんなキツネの様子についなは思わず笑ってしまう。

 

 

「それにしてもイタコ先生が婚約者になっていた可能性があったってのは驚きだなぁ」

「せやねぇ。というかご主人の実家だったっちゅうんが一番の衝撃だったわ」

 

 

 イタコ先生が自分の婚約者になっていたのかもしれないということに竜はポツリとつぶやく。

 

 チラリとイタコ先生に視線を向ければゆかりたちに囲まれて質問攻めのような状態になっており、やや半泣きに近い表情を浮かべてしまっているイタコ先生の姿がそこにあった。

 

 

「・・・・・・というかもしかして、母さんに婚約者が欲しくないか聞かれたときに欲しいって答えてたら婚約者になってたんだろうなぁ」

「なんや、ご主人はそんなことを聞かれとったんか?」

「まぁな。つってもその時は誰が相手かも知らなかったし、相手にも誰か好きな人がいたりするんじゃないかって思って断ったんだけどな」

 

 

 と、ここで竜はようやく自分の母親が婚約者が欲しくないかと聞いてきたときのことを思い出した。

 タイミング的に考えても母親が聞いてきた婚約者というのはイタコ先生のことだと思われるので、あのときに欲しいと答えていたらイタコ先生と婚約者の関係になっていたのだろうと理解することができた。

 

 

「まぁ、婚約者騒動が終わったいまとなっては関係ないことだろ」

「そうなんかなぁ?」

 

 

 キツネを撫でながら竜は呟く。

 そんな竜の言葉に、ついなは質問攻めをされているイタコ先生のことを見ながら首をかしげるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第440話




ツイッターのおやすみツイートを追いかけるのがちょっと大変ですねー。

可能な限りリプしておきたいんですけど難しいですねぇ・・・・・・。







 

 

 

 

 お昼休みのイタコ先生への質問攻めも無事に(?)終わり、時刻は放課後へと進む。

 途中の授業で相も変わらず寝ぼけた茜が教師の言葉を聞き間違えて頓珍漢なことを叫んだりもしたが、取り立ててなにか変わったことはとくには起きていなかった。

 

 

「さーてと。今日もバイトに向かいますかー」

「おー、勤労ご苦労さんやー」

「まだ仕事は終わってないんだからご苦労さんは違くない?」

 

 

 荷物をまとめ終えて伸びをする竜の言葉に茜が竜の肩を叩きながら言う。

 そんな茜のご苦労様という言葉に葵は首をかしげた。

 

 ちなみに、“ご苦労様”という言葉は仕事や作業などに従事した人への苦労をねぎらう言葉で、基本的に目上の人物が目下の人物に対して使う言葉だ。

 

 苦労をねぎらう言葉という意味では茜がいまのタイミングで使うのも間違ってはいないので、どちらかと言えばこれは葵の覚え間違いなのだろう。

 なお、茜自身は目上だとか目下だとかを理解して使っているわけではなく、結局はからかい交じりに言っただけなのでそこまで深く考える必要はなかったりする。

 

 ついでに言っておくと、同じような意味に当たる“お疲れ様”という言葉は上下関係に関係なく使うことができるのでほとんどの人はこちらの言葉を使うといいだろう。

 ただし、“お疲れ様”という言葉は基本的には身内、つまりは近い関係の人に対して使う言葉なので、例えば同じ会社に勤めている人に対して使うのであれば問題はないのだが、社外の人に対して使うには不適切となるので気をつけた方が良いだろう。

 

 

「それじゃあ、家にいこっかー」

「ええ、そうしましょう」

「今日はなにを食べようか悩むなぁ」

「お姉ちゃん、前にダイエッ・・・・・・むぐぐぐ」

 

 

 竜と同じように荷物をまとめ終えたマキたちもマキの家である“cafe Maki”に向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「エペのランクマって魔境だよなぁ」

「分かる。負けるときは一気に負けるんよなぁ」

「でも勝てるときも普通に一気に勝てるよね」

 

 

 学校を出る時にあかりと合流し、“cafe Maki”へと向かいながら竜たちは会話をする。

 会話の内容は最近よく遊んでいるエペ────正式名称はAPEX(エーペックス)で、キャラクターの特殊能力と様々な銃を使ってチャンピオンを目指すFPSゲームだ。

 

 最近、竜たちはこのゲームをよく遊んでおり、ランクを上げていくモード、通称ランクマを遊んでいるのだ。

 

 

「やっぱりローバ、ランパート、コースティックが楽しいわ」

「ローバのマーケットは便利よなぁ。味方にいるとけっこう助かるわぁ」

「ボクとしては味方にブラッドハウンドかクリプトがいるのが嬉しいかな」

「やっぱりオクタンで走り回るのが楽しくないー?」

「私としてはライフラインがやっぱり助かりますね」

「私はホライゾンで集めたり、ジブラルタルで防御したりするのが助かりますね」

 

 

 キャラクターの能力はそれぞれ攻撃タイプのものや防御タイプのもの、サポートをしたりするタイプのものと種類があり、これを使いこなすことによって戦闘がかなり有利に進められるようになるのだ。

 そして、竜たちはAPEXの話をしながら“cafe Maki”に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第441話





のんびりまったりと更新中。

文字数が減ってきているからもう少し増やしたいなぁ・・・・・・。






 

 

 

 

 APEXの話をしながら歩いていた竜たちは“cafe Maki”に到着する。

 すでに“cafe Maki”の店内にはお客さんの姿があり、竜とマキは着替えるために早足で店の奥へと向かって行った。

 

 

「さて、なにを注文するか決めましょうか」

「うーん、どれを頼もうか悩んでまうなぁ」

「お姉ちゃん、ダイエットするとか言ってなかったっけ?」

「ダイエットなんてしてたら美味しいものを食べられませんよー?」

 

 

 竜とマキが店の奥へ行く前にテーブルにへと案内されたゆかり、茜、葵、あかりの4人はメニューを開きながらなにを注文するか考え始める。

 メニューを見ながら悩んでいる茜の姿に葵は首をかしげながら尋ねる。

 葵の言葉を聞きながら不思議そうにあかりは注文するものを選んでいた。

 

 

「とりあえず今日はイチゴのショートケーキにしておきましょうかね」

「うちはこのパンケーキにしとくわ」

「またカロリーの高そうなものを・・・・・・。ボクはこのフルーツゼリーにしておこうかな」

「では私はこちらのチョコケーキ、チーズケーキ、モンブラン、チョコパフェ、イチゴパフェ、抹茶パフェと・・・・・・」

「・・・・・・それならもうデザート全部って頼んだ方が早くないですか?」

 

 

 注文するメニューをゆかりたちは順番に挙げていく。

 あかりの挙げたメニューの量があまりにも多かったためにゆかりは思わずツッコミを入れた。

 

 

「っし、それじゃあバイトスタートだな。注文するものは決まったか?」

「うん。私はあっちのテーブルの上を片づけちゃうから注文の方をお願いね」

 

 

 店の奥から戻ってきた竜はそのままゆかりたちの注文を聞き始める。

 そんな竜にマキはひらひらと手を振りながら空いている食器の残っているテーブルを片づけに向かった。

 

 

「それで注文は?」

「私がイチゴのショートケーキですね」

「うちはこのパンケーキやで」

「ボクがこのフルーツゼリーだよ」

「そして私が・・・・・・」

「あかりはデザートの詰め合わせで言いよな?」

 

 

 伝票を手に取り、竜はゆかりたちになにを注文するのかを尋ねる。

 ゆかり、茜、葵の3人はいたって普通の量の注文なのだが、あかりだけは注文するメニューの量が多いために簡単に一つに纏められてしまっていた。

 以前にもあかりは竜に注文を纏められたことがあるのだが、そのときとは違って今日はとくに怒るようなこともなく普通にうなずいていた。

 

 そして、竜は続けてゆかりたちの注文する飲み物を聞いてからキッチンへと注文されたメニューをメモした伝票を届けに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第442話




上手く書けないのが悔しい・・・・・・

文章構成能力がもっと欲しいなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 注文された料理を運び、お客さんのいなくなったテーブルを片づける。

 慣れてスムーズにできるようになったバイトを竜は進めていく。

 そんな竜の姿を見ながらゆかりたちはのんびりと頼んだものを楽しんでいた。

 

 

「いらっしゃいませー」

「あ、すみません。私、ボイテレビのものなんですが。テレビの撮影が大丈夫かお聞きしたいのですが・・・・・・」

 

 

 新しく入ってきたお客さんに竜が声をかけると、そのお客さんは頭を下げながら撮影ができるかの確認を取ってきた。

 どうやらいま入ってきたお客さんはテレビ局の関係者のようだ。

 

 普通に考えてテレビに放送されるというのは店的に考えてもプラスしかないのだが、その辺りの判断はバイトである竜ではなく店長であるマキの父親が判断をすること。

 そう考えた竜は入ってきたお客さんに頭を下げてキッチンへと向かって行った。

 

 

「あの、なんかテレビの撮影をしたいという人が来たんですけどどうしますか?」

「テレビの取材?どこのテレビ局かは言っていたかい?」

「ボイテレビって言ってましたね」

 

 

 竜の言葉にマキの父親は首をかしげながら聞き返す。

 マキの父親の言葉に竜はお客さんの言っていた言葉を思い出して答えた。

 

 

「ボイテレビか。悪いうわさを聞いたりとかもないし大丈夫かな。うん、撮影の許可を出してきてくれるかな?」

「あ、はい。分かりました」

 

 

 竜から聞いたテレビ局の名前から特に悪いうわさを聞いた覚えもないことを確認したマキの父親はうなずき、竜に撮影の許可を出しても良いということを伝える。

 マキの父親に言われ、竜はうなずいてお客さんのところへと戻っていった。

 

 

「すみません、お待たせしました。撮影に関してですが、問題はないそうです」

「いえいえ、こちらがいきなりうかがってしまったことですから。撮影許可ありがとうございます。外で待っている他の人たちも呼んできますね」

 

 

 竜の言葉にお客さんはペコペコと頭を下げながら店の外へと出ていった。

 おそらくは外にいるであろう他のテレビ局の関係者たちのもとに向かったのだろう。

 

 お客さんが店の外に出ていってしばらくしてから、マイクをつけた少女────ウナが店の中に入ってきた。

 唐突に現れたウナの姿に店の中にいた他のお客さんは驚きの表情になる。

 

 

「こんにちは~。今日は町の人に聞いたオススメのお店ということで、こちらのカフェ“cafe Maki”に来ました~」

 

 

 驚いているお客さんには触れずに、ウナは番組の撮影を進行していく。

 この辺りはさすがはいくつかの持ち番組があるジュニアアイドルだと言えるだろう。

 

 そんなウナの様子に驚きつつ、竜はウナを空いているキレイなテーブルへと案内するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第443話





お気に入りが減ってしまってちょっと悲しい・・・・・・

まぁ、万人受けすることはないので仕方がないことですよね。







 

 

 

 

 ウナをテーブルへと案内し、竜はメニュー表をウナへと手渡す。

 ジュニアアイドルであるウナが店の中にいるということで、他のお客さんたちの視線もウナに集まっており、普段とは店内の空気が違ってしまっていた。

 

 

「おー、マジで“UNA(ユーナ)”ちゃんやん!」

「お姉ちゃん、撮影してるみたいなんだから静かにしないと」

「町の人のオススメって言っていましたね。これはこのお店も有名になってしまうのでは?」

「そうなるとこのお店にお客さんが増えてしまってなかなか入れなくなってしまうかもしれませんね」

 

 

 メニューを選んでいるウナの姿を見ながら興奮した様子で茜は言う。

 興奮気味の茜に対して葵は声を抑えるように注意した。

 

 そんな茜とは対称的にゆかりとあかりはウナが“cafe Maki”に来たことによってなにが起こるのかを想像していた。

 

 

「ええっと~・・・・・・。どれも美味しそうだなぁ・・・・・・」

「あはは、どれでも好きなものを選んでもらって構わないからね」

 

 

 メニュー表を見ながらうんうんと悩んでいるウナの姿を見ながらボイテレビのスタッフの1人が笑いながら言う。

 悩んでいるウナの様子を見てボイテレビのスタッフたちは全員が微笑ましそうに笑みを浮かべており、その様子からこれが普段からのテレビで放送されていないカットされているやり取りなのだろうと察することができた。

 

 

「よっし!このメニューに決めた!」

 

 

 ようやく注文するメニューを決めたのか、ウナは大きく声を上げてメニュー表を指さした。

 ウナが注文するメニューを決めたことを聞いたボイテレビのスタッフたちは先ほどまでの笑みを浮かべていた表情からまじめな表情に切り替わって撮影の準備を始めていく。

 

 そして、撮影を始める準備を終えたボイテレビのスタッフは手を上げて竜を呼んだ。

 

 

「ええと、注文が決まりましたか?」

「はい。えっと、この店長オススメの紅茶と“cafe Maki”スペシャルっていうケーキを!」

 

 

 ボイテレビのスタッフに呼ばれた竜がウナになにを注文するのか尋ねると、ウナは目をキラキラとさせてメニュー表を指さしながら注文するものを答えた。

 ウナが選んだのはそのメニューの名前通り店長であるマキの父親がオススメする紅茶と、最近追加された“cafe Maki”特性のケーキだ。

 

 

「店長オススメの紅茶と“cafe Maki”スペシャルですね。料理をお持ちしますのでしばらくお待ちください」

「はーい!」

 

 

 ウナが注文したメニューをもう一度繰り返して確認し、竜はキッチンへと注文したものを書いた伝票を運んでいく。

 竜の言葉にウナは元気よく返事をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第444話




エペのランクマでゴールドにいったし、今回はダイヤまで行きたいなぁ。

まぁ、プラチナすら踏めていないからまだ夢のまた夢なんですけどね。






 

 

 

 

 注文された店長オススメの紅茶と“cafe Maki”スペシャルを竜はトレイに乗せ、ウナの待つテーブルに運んでいく。

 今日の店長オススメの紅茶はダージリンとなっており、“cafe Maki”スペシャルと一緒に飲んで楽しめるような味となっている。

 

 

「お待たせしました。店長オススメの紅茶と“cafe Maki”スペシャルです。紅茶の方はダージリンとなっていて、個別で飲んでも美味しいですが“cafe Maki”スペシャルと合わせて飲んでも美味しさを楽しめるようになっております」

「おー!とっても美味しそうだ!」

 

 

 竜の運んできた店長のオススメの紅茶と“cafe Maki”スペシャルを見てウナはキラキラと目を光らせながら言う。

 その表情は年相応の小学生の少女のもので、とても微笑ましいものとなっていた。

 

 

「あ、すみません、店員さん。お話をうかがいたいので少しだけ待っていてもらうことって可能ですか?」

「私ですか?えーっと・・・・・・」

 

 

 ボイテレビのスタッフの言葉に竜はどうしたらいいのか困ったように少し離れた位置で働いていたマキを見た。

 竜に見られていることに気がついたマキは少しだけキョトンとした表情を浮かべると、店の中を見渡してコクリとうなずき返す。

 マキがうなずいたことからウナのテーブルのところで待っていても問題はないと分かったため、撮影のために待つことを決めた。

 まぁ、撮影でテレビに映るということは2度目なのでまだそこまで慣れておらず、やや緊張で表情がややぎこちなくなってしまっているのは仕方がないことだろう。

 

 

「わぁ、この紅茶美味しい!お砂糖を入れなくても全然飲めるよ!」

「このお店の店長の淹れる飲み物はどれも美味しいですから。砂糖を入れなくても美味しく飲むことができるんですよ」

 

 

 店長オススメの紅茶を口に運び、ウナは驚いた表情になって竜と手に持っている紅茶を交互に見る。

 驚いているウナの様子に竜は笑みを浮かべつつ、紅茶に砂糖を入れなくても美味しく飲める理由を答えた。

 まぁ、理由とは言えないような言葉だったのだが、そのことにウナが気付いている様子はなかった。

 

 

「あー、む・・・・・・。んーっ!!」

 

 

 “cafe Maki”スペシャルを口に運び、ウナはじたばたと足を動かしながら声を上げる。

 ウナのその様子から“cafe Naki”スペシャルのケーキがとても美味しかったのだろうということがうかがえた。

 そんなウナの様子にボイテレビのスタッフだけでなく店の中にいる全員が微笑ましそうに笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第445話




ランクマのゴールドからめっきりポイントが集められなくなるのなんでなのかなぁ。

ほぼほぼゴールドの4で全然上がれないのがかなり悔しいですね。







 

 

 

 

 “cafe Maki”スペシャルを口に運ぶたびにウナの体が嬉しそうに揺れる。

 それほどまでに美味しいのか、ウナはテレビ番組でよくあるようなどのように美味しいかや、どんな味がするのかなどのコメントをせずに美味しそうに“cafe Maki”スペシャルを食べて紅茶を飲んでいた。

 

 

「そんなに美味しそうに食べられたら店長も嬉しいだろうな」

「あむ・・・・・・。・・・・・・んむぅっ?!」

 

 

 美味しそうに食べているウナの姿を見て竜は呟く。

 竜の呟きが聞こえたのか、ウナはケーキを口に運んでからキョロキョロと周囲に目を向け、驚いた様子で眼を見開いた。

 

 

「けほっけほっ・・・・・・。ご、ごめんなさい!」

「良いの良いの。美味しそうに食べている“UNA”ちゃんの可愛らしい()が撮れたから大丈夫よ」

 

 

 驚いたことによって咳き込んでしまいながら謝るウナにボイテレビのスタッフは微笑みながら答える。

 事実としてウナが素晴らしい笑顔で“cafe Maki”スペシャルを食べている姿がカメラには収められており、この映像があとあとテレビ局に戻ってから編集で使われるのだろう。

 

 ボイテレビのスタッフの様子から本当に問題はないのだろうということはうかがえるのだが、それでもウナはコメントをできずに“cafe Maki”スペシャルを食べることに夢中になってしまっていたことを恥ずかしそうにしていた。

 

 

「めっちゃうまそうに食べとったな?」

「なんだっけ、“cafe Maki”スペシャルって言ってたよね?」

「“UNA”ちゃんがあんな勢いで食べている姿を見てしまうと私たちも食べたくなってしまいますね」

「あ、すみません。“cafe Maki”スペシャルをお願いします」

 

 

 他のお客さんたちと同じようにウナの食べる姿から目を話すことができなくなってしまっていた茜たちはウナが食べていた“cafe Maki”スペシャルに興味を示して注文しようか悩んでいた。

 そんな風に“cafe Maki”スペシャルを注文しようか悩んでいる茜たちの隣で、あかりだけは躊躇うことなく“cafe Maki”スペシャルを近くの店員に向かって注文していた。

 

 

「ええっと、それでは撮影の方に入らせてもらっても大丈夫ですか?」

「あ、はい。わかりました」

 

 

 恥ずかしそうにしているウナのことを見ていた竜は、ボイテレビのスタッフに急に声をかけられたことに驚きつつ、撮影が始まるということを理解して身だしなみを改めて整えた。

 竜が身だしなみを整えているのを確認したボイテレビのスタッフたちはそれに合わせて先ほどのウナが店長のオススメの紅茶と“cafe Maki”スペシャルを楽しんでいたときとはまた違った撮影の準備を進めていく。

 

 そして、竜が身だしなみを整えたのとほぼ同時に撮影をする準備が整うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第446話





撮影のときの裏話とか分からないから描写が難しいなぁ。

とりあえずは私のイメージする撮影風景となっております。









 

 

 

 

 撮影の準備が整い、ウナの表情が“cafe Maki”スペシャルを食べていたときの子どもらしいものからインタビューをするジュニアアイドルのものへと変化する。

 そして、ボイテレビのスタッフからマイクを受け取ったウナはニコリと笑みを浮かべた。

 

 

「撮影開始しまーす!5、4・・・・・・」

「皆さんこんにちは!“UNA(ユーナ)”です!今日は町できいたオススメのお店“cafe Maki”さんに来てます!」

 

 

 ボイテレビのスタッフがカウント3から声に出さずに指だけでカウントをして撮影が始まる。

 撮影が始まるとウナは笑みを浮かべながらカメラに向かって自分がどこに来ているのかを答えた。

 

 

「このお店、“cafe Maki”はその名前の通りカフェで、飲み物やいろいろと美味しい食べ物を出してくれるよ。どの料理も美味しそうで、見ているだけでも楽しめるんだ!」

 

 

 最初にウナがカメラに向かって説明するのは“cafe Maki”がどのようなお店なのか。

 これは番組として撮影させてもらうお店に対する礼儀のようなもので、決して忘れてはいけないことの1つだろう。

 なお、忘れてはいけないことの1つには必ず取材許可を取るなどの当たり前のことも含まれているのだが、これを忘れてしまうスタッフがたまにいるらしく、なくすことができないらしい。

 

 

「あ、店員さんがいますね。お話をうかがってみましょう!すみませーん!」

「はい。なんでしょうか?」

 

 

 ややわざとらしいウナの呼びかけに、竜はボイテレビのスタッフから先に言われていたようになるべく自然に見えるようにしながらウナの呼びかけに答える。

 まぁ、とはいっても素人に演技などできるわけもないので、その辺りはいつも通りにお客さんに呼ばれたときのように動いていくしかないだろう。

 

 

「えっと、このお店のオススメの料理や飲み物を教えてくれますか?」

「オススメの料理と飲み物ですか・・・・・・」

 

 

 ウナ質問に竜は少しだけ考え込む。

オススメの飲み物に関して言えば答えることは難しくはないのだが、料理のオススメとなれば少々答えるのが難しくなってしまうのだ。

 

 

「オススメ・・・・・・、オススメ・・・・・・。ううん、難しいですね。料理はどれも美味しいのでどれもオススメできますし、飲み物に関しても店長のオススメを選べば頼んだ料理に一番合うような飲み物を出してくれますから」

「なるほどー。じゃあ、つまりは何回も来ていろいろな料理を食べた方が良いってことだね?」

「まぁ、そうなるかなぁ」

 

 

 オススメの料理、オススメの飲み物。

 正直に言ってオススメというのは勧めた本人の好みに基づいて答えられるので、万人に受けるかと聞かれれば首をかしげざるを得ない。

 そのため、竜はオススメの料理と飲み物を具体的には答えなかった。

 

 それから、竜はウナからの質問に答えて撮影を続けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第447話




ディスコの仲間たちとアモングアスをやりました!

めっちゃわちゃわちゃして楽しかったです!





 

 

 

 

 ウナによるインタビューが終わり、ボイテレビの撮影スタッフたちは一気に雰囲気を柔らかいものへと変化させる。

 オンとオフの空気にきっちりとメリハリがあるというのはとても重要なことで、常にピリピリとした雰囲気であったり、常に緩んだ雰囲気であり続けるよりもかなり効率的に仕事などを進めることができるだろう。

 

 

「・・・・・・ふぅ。はーい、これで今日の撮影は終わりです。局に戻る時間になるまでは休憩にしますね」

「分かりましたー」

「あ、店員さん。注文しても良いですか?」

「今日の撮影もすぐに終わりましたねー」

「“UNA”ちゃんがNGを出さないおかげよ。別のところでは取り直しの回数が2桁にいったことだってあるらしいし」

 

 

 ボイテレビのこのグループのおそらくは総責任者らしきスタッフの言葉に、他のスタッフたちは機材などを手早くまとめていく。

 そして、機材などをまとめ終わったスタッフから順に“cafe Maki”の店員たちによって空いている席に案内されていった。

 

 ボイテレビのスタッフたちが席に案内されていく中、もともと席に座っていたウナはジッとスタッフたちを案内している竜の姿を見ていた。

 

 

「よし、これで全員案内し終わったな」

「なぁご主人、さっきからウナちゃんがご主人のこと見とるで?」

 

 

 テレビ番組の撮影スタッフということでそこそこの人数がいたが、無事に全員を席に案内することができて竜はグッと伸びをする。

 まだここからスタッフたちの注文を聞く仕事が残っているのだが、まだスタッフたちはメニュー表を見てなにを注文しようか悩んでいるためにつかの間の平穏が訪れていた。

 

 竜のポケットから顔を出して周囲を見渡していたついなはウナが先ほどから竜のことを見ていることに気がついて竜に教える。

 ついなの言葉に竜は首をかしげながらチラリと目だけを動かしてウナのいる方を見た。

 

 ウナの座っている席はウナが料理を食べているシーンを撮影しやすいように1人用の席となっており、その近くの席にはボイテレビのスタッフたちが座っている。

 その座っている席でウナは変わらずジッと竜のことを見ていた。

 ウナが自分のことを見ていることを確認した竜は不思議に思いつつウナのもとへと向かって行った。

 

 

「なにか追加で注文かな?」

「あ、ううん!そういうわけじゃないんだぞ!」

 

 

 竜の言葉にウナはパタパタと手を振りながら答えた。

 ウナの答えに、それならばどうして見ていたのかと竜は首をかしげる。

 

 

「えっと・・・・・・、その・・・・・・、ね?私の撮影してるとこ見ててどうだった?」

「撮影してるとこを見てて?といっても前にも別の撮影をしてるところは見てるけど・・・・・・」

 

 

 どこか恥ずかしそうにしながらウナは尋ねる。

 ウナの言葉に竜は不思議に思い聞き返す。

 

 そんな竜の言葉にウナは不満そうに頬を膨らませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第448話




すこし遅刻しました・・・・・・

生配信を見ていたせいで・・・・・・






 

 

 

 

 ぷっくりと頬を膨らませながらウナは不満そうに竜を見る。

 ウナがどうして不満そうにしているのかが分からず、竜は困った表情でウナを見返した。

 

 

「むー!」

「えっと、どうしたんだ?」

 

 

 むくれて頬を膨らませているウナに竜は困り顔になりながら尋ねる。

 そんな竜に対してウナはむー、むーと不満そうな声を上げていた。

 

 ウナのそんな様子に近くに座っているボイテレビのスタッフたちは驚いた表情になりながら竜とウナを見る。

 

 

「・・・・・・私、ちゃんと撮影できてたよね?」

「お、おう。そうだな・・・・・・?」

「私、頑張ってたよね?」

「ああ。撮影なんて大変だもんな」

 

 

 念押しするようなウナの言葉に竜は困惑しながらも肯定する。

 

 テレビの撮影なんてものは緊張したりして大変なことであるのは竜でも想像ができるので、小学生であるウナが撮影をやっているということを竜はすごいと思っていた。

 

 竜の言葉を聞き、ウナは竜の手を掴んで自身の頭の上に置いた。

 

 

「うん?」

 

 

 ウナの行動に竜はとくに抵抗はせず、小さく首をかしげる。

 竜の視線を受けながら、ウナはそっと頬を赤く染めながら目線をそっと逸らした。

 

 ウナがそんな行動をすれば店の中にいる他のお客さんたちに見られてしまうのではないかと思うかもしれないが、ウナの周囲はボイテレビのスタッフで固めてあることと、ウナ自身の身長が小学生のために小さめであったことによって店の中にいる他のお客さんたちの目にウナの頭の上に竜の手が置いてある姿が見られることはなかった。

 

 

「・・・・・・えっと?」

「頑張ったご褒美に褒めてほしいんだぞ・・・・・・」

 

 

 ウナの意図が分からずに竜が困っていると、恥ずかしそうにしながらウナはどうしてほしいのかを答えた。

 どうやらウナは自分が撮影で頑張ったことを褒めてほしかったらしい。

 

 ウナがどうして自分の手を掴んで頭の上に置いたのかの理由を理解した竜は苦笑しながらウナの頭をわしゃわしゃと撫で始めた。

 

 

「はは、よく頑張ったな。とっても上手に撮影できていたぞ」

「えへへ~」

 

 

 ウナの頭を撫でながら竜はウナのことを褒める。

 竜に褒められたウナは嬉しそうに頬を緩ませて笑みを浮かべた。

 

 周囲の席に座っていたボイテレビのスタッフからはウナの表情は見えていなかったが、それでもウナの放っている雰囲気のようなものは感じられていたため不思議そうに竜とウナのことを見ながらボイテレビのスタッフたちで話し合っていた。

 

 

「“UNA”ちゃんとあの店員さんは知り合いなのかしら?」

「あれ?ていうか前に公園で撮影したときにインタビューした子じゃないかしら?」

「あー、確かに店員さんに似ていた気がするわね」

 

 

 ボイテレビのスタッフたちの声を聞きながら、竜はウナが満足するまでウナの頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第449話




123000を超えましたのでアンケートをおこないます。

といっても残りの人数は少ないのですが。














 

 

 

 

 竜に頭を撫でられたウナは満足そうに笑みを浮かべる。

 ウナの満足した様子に竜は撫でるのを止めてウナを見た。

 

 

「それで、なにか追加で注文とかあるか?」

「んー、それじゃあショートケーキが食べたいな」

 

 

 満足した様子のウナに竜は改めて追加でなにか注文するかを尋ねる。

 

 ウナが先ほど注文したのは店長のオススメの紅茶と“cafe Maki”スペシャルの2つ。

 いまの時間から考えると2つめのケーキを食べるというのは小学生には多いのではないかと思えるのだが、ウナは少しだけ考えるだけで追加のショートケーキを注文してしまった。

 ウナの答えに竜はうなずき、そのままキッチンへと向かって行った。

 

 竜がウナの近くからキッチンへと向かって行ったことにより、ウナの近くにいたボイテレビのスタッフたちが興味津々といった表情を浮かべながらウナの近くに体を寄せていく。

 

 

「ね、ねね。“UNA”ちゃん。あの店員さんとは知り合いなの?」

「頭なんて撫でてもらってたし仲が良いのよね?」

「というか少し前に公園であった子よね?」

「え、あ、その、えっと・・・・・・」

 

 

 ボイテレビのスタッフたちの言葉を聞いてウナはようやく自分が“cafe Maki”の店内にいることを思い出して困惑した表情を浮かべるのだった。

 

 

「ほらほら、そういったプライベートなことは聞かないの」

「えー、でも気になりません?」

 

 

 ウナの困惑した姿にボイテレビの総責任者らしきスタッフが他のスタッフたちをたしなめる。

 総責任者らしきスタッフの言葉に他のスタッフたちは不満そうに言い返すのだが、そんなスタッフたちの言葉を総責任者らしきスタッフは視線だけで黙らせるのだった。

 

 

「“UNA”ちゃん。年相応のあなたの姿が見れるのは嬉しいんだけど、あなたはジュニアアイドルなんだからもう少しだけ周りの目を気にしてもらえると助かるわ」

「・・・・・・ごめんなさい」

 

 

 他のスタッフたちを黙らせた総責任者らしきスタッフはウナにも簡単に注意をする。

 総責任者らしきスタッフの言葉にウナは素直に頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ウナが総責任者のスタッフに注意されている頃。

 竜はキッチンにウナが追加注文したショートケーキを伝えるために向かっていた。

 

 

「追加注文です。ショートケーキが1つです」

「ああ、わかったよ」

 

 

 キッチンに着いた竜は早速ウナが追加で頼んだ注文を店長であるマキの父親に教える。

 竜の言葉を聞いたマキの父親はうなずき、追加注文されたショートケーキの準備をしていく。

 

 そして、竜はマキの父親によって準備されたショートケーキをウナの待つ席にへと届けに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第450話





今日は久々に布団を干せたからもこもこの布団で寝ることができるなぁ。

梅雨の時期は雨が多くていろいろと大変ですよねぇ・・・・・・






 

 

 

 

 ウナのショートケーキやボイテレビのスタッフたちの注文したメニューも運び終わり、竜は空いているテーブルの片づけを始める。

 ジュニアアイドルであるウナ────つまりは“UNA”がいるということでいろいろな野次馬が現れるのではないかと思うかもしれないが、その辺りはキチンとシャットアウトして待っているお客さんが入れるようにあまり長居しないようにしているため問題はないのだ。

 

 竜がテーブルを片づけていると、ボイテレビスタッフたちの総責任者らしきスタッフが近づいてきた。

 

 

「すみません。今日は事前に連絡もせずにいきなり取材になんて来てしまって・・・・・・」

「いえいえ、それに許可を出したのはここの店長ですから」

 

 

 総責任者らしきスタッフはそう言って竜に頭を下げる。

 アポイントメントもなしに突発的に取材をするというのは取材を受けるお店的にかなり迷惑なことであり、テレビ局としては必ずやらなければいけないことなのだ。

 まぁ、今回は“cafe Maki”の店長であるマキの父親がとくに気にしていなかったので問題はなかったのだが、普通のお店であればアポイントメントを取らずに取材に行くのはやめておいた方が良いだろう。

 

 

「それもそうなんですが、店長さんに聞いていただけたのは店員さんのおかげですから。お店によっては門前払いで取材することができないこともありましたので」

「まぁ、そういうことでしたら・・・・・・」

 

 

 竜の言葉に総責任者らしきスタッフはうなずきつつ頭を下げる。

 総責任者らしきスタッフの言葉を聞き、竜は素直に総責任者らしきスタッフからの言葉を受け取るのだった。

 

 

「ええと、とりあえず休憩の時間も終わりましたのでお会計をお願いしたいのですが」

「あ、会計ですね。分かりました」

 

 

 竜に頭を下げた総責任者らしきスタッフそう言って伝票を竜に差し出す。

 どうやらボイテレビのスタッフたちの休憩時間がもうすぐ終わるようで竜の前にはいくつかの伝票が差し出されていた。

 

 総責任者らしきスタッフからすべての伝票を受け取った竜はそのままレジへと移動してレジの操作を始めた。

 

 

「頼んだコーヒー、かなり美味しかったわ」

「ショートケーキも最高だったわ」

「これはオフのときに来てもいいかもしれないわねぇ」

 

 

 注文したメニューの感想や“cafe Maki”のお店の雰囲気を口々に言いながらボイテレビのスタッフたちはお金を払って店の外へと出ていった。

 一言程度の会話だったのだが、それでもかなりの人数がいたボイテレビのスタッフたちに竜はやや疲れた表情になってしまう。

 

 

「お兄ちゃん、大丈夫か?」

「ああ、ウナか。大丈夫だよ」

 

 

 竜が疲れた表情になっていることに気がついたのか、ウナが心配そうに尋ねる。

 ウナの言葉に竜はひらひらと手を振って答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第451話




時間ギリギリに書き終わり!!

本当に危なかったぁ・・・・・・





 

 

 

 

 ボイテレビのスタッフたちとウナが“cafe Maki”から去り、“cafe Maki”に落ち着きが戻ってくる。

 

 ────はずもなく、ジュニアアイドルである“UNA”が来たという事実に“cafe Maki”にいるお客さんたちは興奮気味に話をしていた。

 

 

「まさか“UNA”ちゃんが来るなんてな!」

「ああ!テレビで見るよりも可愛かったな!」

 

「やっぱり小学生なだけあって小さかったわね」

「ええ、守ってあげたくなる可愛さだったわ」

 

 

 ジュニアアイドル────まぁ、分かりやすく言えば小学生のことをここまで興奮した様子で話しているおそらくは成人しているであろうお客さんたち。

 小学生が対象ということなのでロリコンではなくアリス・コンプレックスという奴だろう。

 ちなみにロリコンなどが幼い女の子に性的な興奮をおぼえる人というイメージがあるかもしれないが、ロリコンなどの言葉にそういった意味はなく。

 10歳以下の子どもに対して性的な興奮をおぼえる人を指す言葉はペドフィリアなので間違えないでおいてもらいたい。

 

 

「接客お疲れさんや」

「テレビ局の人たちが多かったから忙しそうだったよね」

「ああ、茜たちも帰るのか?」

「はい。けっこう時間も経っていますからね」

 

 

 レジ打ちをしていた竜のもとに茜たちがやってくる。

 

 すでに外の景色はオレンジ色に染まってきており、もうすぐ暗くなるのではないかという時間になっていた。

 竜の言葉に茜たちはうなずいて答える。

 

 そして、茜たちは自分たちが注文したメニューの代金を払って帰っていった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 時間は進み、竜はいつものように弦巻家で晩ご飯をいただいていた。

 

 今日の晩ご飯はとんかつで、衣はサクサク、噛めば肉汁がじゅわりとあふれてくるほどの素晴らしいとんかつだった。

 マキの作ったとんかつはついなにも好評で、ついなも夢中になって食べていた。

 

 

「はふぅ、めっちゃ美味しかったなぁ」

「ああ、いつものことながらとても美味しい晩ご飯だったな」

「えへへ~、そう言ってもらえると照れるな~」

 

 

 竜の頭の上でポンポンとお腹を叩きながら満足そうに呟くついなの言葉を肯定するように竜も言う。

 ついなの言葉はマキには聞こえていないが、竜の言葉にマキは嬉しそうに照れた様子で頬を掻いていた。

 

 

「というか本当に改めて思うけど、こんだけ美味しいマキの料理を普通に食べさせてもらえるってかなりの幸せ者だよなぁ」

「せやねぇ。普通にお金を払えるレベルの旨さやもんなぁ」

 

 

 先ほど食べたとんかつ、さらにはいつも作ってもらっているお弁当の味を思い出しながら竜はしみじみと呟く。

 

 マキの作ってくれている料理はお弁当も含めてどれもかなりの美味しさで、それをいつも作ってもらっているというのは実に幸せなことだと竜は考えており、お弁当の材料費として渡しているお金ももっと渡しても良いのではないかと竜は考えている。

 しかし、いま渡しているお金でさえマキはあまり受け取りたがってはいないので、金額を無理に上げて渡すこともできないのだ。

 

 そんな風にしみじみと呟く竜の言葉にマキは顔を赤くし、マキの両親は微笑ましいものを見るように竜とマキを見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第452話



ツイッターのフォロワーさんが900人に・・・・・・

増え方がすごすぎて本当に驚きと感謝しかありませんね・・・・・・






 

 

 

 

 弦巻家での晩ご飯も食べ終わり、竜はついなを頭の上に乗せながら帰路についていた。

 帰路はだいぶ暗くなってはいるのだが、母親の実家が貴身純家だとバレたことによって母親から簡単な防御用の術式を教わったために多少暗い道だとしてもほぼ安全に出歩くことができるようになっているのだ。

 

 

「ご主人の守りの術はなんかあったかい感じがするなぁ」

「自分ではよく分からないけどそうなのか?」

 

 

 どこかポヤポヤとした空気を醸し出しながら竜の頭の上でついなは言う。

 竜本人に自覚はないのだが、竜の母親の家系────貴身純家の家系が浄化を生業とする家系のために竜自身にも浄化の力がしっかりと受け継がれていた。

 しかも竜の浄化の力は歴代の貴身純家の中でも最も高いもので、そこにいるだけで周囲を浄化できるほどだった。

 まぁ、本人にその自覚がなかったためにその浄化の力はあくまでも浄化でしかなく、悪霊などの悪い存在から自身の身を守ることができなかったのだが。

 

 ちなみに、竜の周りに動物霊たちが集まってきているのもこの浄化の力が原因であり、竜の周囲が浄化されていることによって動物霊たちにとってもかなり居心地のいい場所となっているのだ。

 

 竜が防御用の術式を扱えるようになったために、特になにごともなく竜とついなは家に到着した。

 

 

「ん、音が聞こえるってことは誰か遊びに来てるのか」

「けっこう音がしとるなぁ。どれくらい来とるんやろ?」

 

 

 家のカギを開けようと竜がカギをポケットから探していると、家の中からなにやら物音が聞こえてくる。

 普通であれば泥棒などを疑うかもしれないが、そこはいつもみゅかりさんなどが不法侵入しているので、とくに驚いた様子もなく普通に気にした様子もなく玄関のカギを開けた。

 

 玄関を開けたことによって家の中から聞こえてきていた音がさらにはっきりと聞こえるようになる。

 物音の他になにやら鳴き声のようなものが聞こえているあたり、みゅかりさんたちが来ていることは確定していると言えるだろう。

 

 

「ただいまー、っと」

「うひゃあ、また散らかしたなぁ・・・・・・」

 

 

 洗面所でキチンと手洗いうがいを終えてから竜とついなはリビングに入る。

 リビングには竜の予想していた通りみゅかりさん、けだまきまき、あかり草、セヤナー、ダヨネーがおり、リビングはやや散らかった状態となっていた。

 みゅかりさんたちが遊びに来るとほぼ確実と言っていいほどにリビングは散らかってしまうので、ついはな慣れた様子でリビングの片づけに取りかかる。

 

 ついなに続くように竜もリビングの片づけを手伝う。

 竜とついながリビングを片づけ始めたのを見てみゅかりさんたちもリビングの片づけを手伝い始めるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 リビングの片づけが終わり、竜たちはソファーに座ってホッと息をつく。

 

 

「それにしても毎回毎回リビングを散らかしているけど散らかさないようにすることは無理なのか?」

「うみゅみゅみゅみゅ・・・・・・」

「ぎゅぎゅーん?」

「わぁ」

「ムリヤネー」

「ムリカナー」

 

 

 竜の座っているソファーの隣に飛び乗ってきたみゅかりさんのことをぐしぐしとやや乱暴に撫でながら竜は言う。

 竜の言葉にけだまきまきとあかり草は首をかしげるような仕草を見せ、セヤナーとダヨネーは部屋を散らかさないようにするのは無理だろうと答えた。

 

 

「はぁ、今度からはあまり部屋を散らかさないようにしてくれよ?」

「みゅみゅみゅー」

「ぎゅんぎゅぎゅーん」

「わわーわぁ」

「ゼンショハスルデー」

「キヲツケルヨウニスルヨー」

 

 

 溜息を吐き、竜はみゅかりさんたちに次からはあまりリビングを散らかさないようにしてほしいとお願いする。

 そんな竜の言葉にみゅかりさんたちはそれぞれ鳴き声をあげて答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第453話




ヴァンパイアっていう曲を初めて聞いたんですけどとても面白い曲ですね!

難しいけど歌えるようになりたいって思いました!





 

 

 

 

 ぐしぐしとやや乱暴にみゅかりさんを撫でる。

 竜に撫でられたみゅかりさんは嬉しそうに鳴き声をあげており、その様子に竜は面白そうに笑みを浮かべていた。

 

 

「うりゃうりゃー!」

「うみゅみゅみゅ~」

「ぎゅぎゅー・・・・・・」

「わぁ・・・・・・」

「「ムー・・・・・・」」

 

 

 みゅかりさんを撫でる竜と、撫でられて嬉しそうに鳴き声をあげるみゅかりさん。

 1人と1匹の様子をけだまきまき、あかり草、セヤナー、ダヨネーの4匹はジッと不満そうに見つめている。

 

 ちなみに、ついなはお茶の用意をするために台所に向かっていた。

 

 

「ぎゅー・・・・・・、ぎゅんぎゅーん!」

「トリャー!」

「エ、エーイ!」

「おりゃお、りゃわらばっ?!」

「みゅみゃみゃみゅーっ?!」

 

 

 大きく鳴き声をあげてけだまきまき、セヤナー、ダヨネーの3匹は竜へと飛びかかる。

 みゅかりさんを撫でることに夢中になっていた竜と、撫でられることに夢中になっていたみゅかりさんはけだまきまきたちの行動に反応することができず、そのまま思い切り飛びかかられてしまった。

 

 胸に飛びかかってきたけだまきまきによってソファーに押し倒され、そこに続くように飛びかかってきたセヤナーとダヨネーが竜の顔と腹部に飛びかかる。

 3匹が重いわけではないのだが、それでも勢いよく飛びかかってきた3匹に竜はなすすべなく押し倒されてしまった。

 

 なお、みゅかりさんも悲鳴を上げているのだが、これは撫でている最中だった竜がけだまきまきの飛びかかってきた衝撃を受けて反射的にみゅかりさんのことを掴んでしまい、その勢いのままみゅかりさんもソファーに倒されてしまったからである。

 

 

「もがっもががががが?!?!」

「ぎゅぎゅん?ぎゅーぎゅんっ!」

 

 

 スライムであるセヤナーが顔に飛びかかってきたため、竜の顔にはピンク色のスライムのようなものがべったりと竜の顔にはりつくことになる。

 セヤナーが顔にはりついているために竜はまともに呼吸をすることができなくなってしまった。

 

 竜の口からもれてきた声に気がついたけだまきまきが鳴き声をあげ、セヤナーたちを竜の上からどかそうとする。

 

 

「ぎゅぎゅぎゅーん!」

「オ姉チャン、息ガ止マッテルー!」

「オー、ウッカリシトッタデー」

「ぶはぁっ・・・・・・!」

 

 

 けだまきまきの鳴き声を受けてダヨネーが慌てた様子でセヤナーに声をかける。

 けだまきまきの鳴き声とダヨネーの言葉を受け、セヤナーはうっかりといった様子で竜の顔の上から移動する。

 セヤナーが顔からいなくなったことによってようやく呼吸をすることができるようになった竜は荒い息を吐くのだった。

 

 

「わぁ」

「みゅあっ?!」

 

 

 そんな竜の様子を見ていたみゅかりさんの頭の上にあかり草が出現する。

 とつぜん生えてきたあかり草にみゅかりさんは驚き、思わず飛び上がってしまった。

 

 

「わぁわぁ」

「みゅみゅいー?!」

 

 

 そんな驚いているみゅかりさんのことなど気にした様子もなく、あかり草は葉と茎を器用に動かしてみゅかりさんの顔を引っ張ったりする。

 いきなりのあかり草の行動にみゅかりさんは鳴き声をあげることしかできないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第454話




エペでの操作ミスがぁ・・・・・・。

目の前の敵を見過ぎて足元にあったジャンパで敵陣に思いっきり突っ込んでしまった・・・・・・






 

 

 

 

 眼前を閃光が弾ける。

 しかしそれに気を取られている暇はない。

 

 迫りくる白刃をとっさに左手に持っている拳銃で防ぎ、反撃として右手に持っている銃剣(ガンブレード)で横薙ぎに一閃を放つ。

 だがとっさの防御からの攻撃では当然ながら当たるはずもなく、ひらりと後方に飛ばれることによって銃剣の一閃は回避されてしまった。

 

 

『はっはぁ!どうしたよぉ?』

『るっせぇ!いまはお前にかまっている暇なんてねぇんだよ!』

 

 

 攻撃を避けた男は挑発するようにニヤニヤと笑みを浮かべながら叫ぶ。

 男の言葉を受け、いまは相手にしている暇はないのだと大きく怒鳴り返す。

 

 そう。

 いまは目の前の男にかまっている暇はない。

 一刻も早くこの先の洞窟に自生しているという薬草を取りにいかなければならないのだから。

 

 まともに相手をしていては時間がかかるのは必然。

 それを理解し、手早くあしらって逃げるために武器を握る手に力を込めるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 テレビ画面の中。

 2人のキャラクターがそれぞれの武器をもちいて苛烈な戦いを繰り広げていた。

 

 

「みゅーみゅ!みゅみゅーい!」

「ぎゅんぎゅぎゅーん!」

「わぁわぁ、わわぁ!」

「オー、ナカナカ白熱シトルナァ」

「オ、女ノ子ノタメノ薬草ハマニアウノカナァ」

 

 

 テレビの前の空間にみゅかりさんたちは座りながら興奮した様子でテレビ画面を見ていた。

 DVDの内容はありきたりなもので、拳銃と銃剣を持った主人公が旅をしていろいろなところに行くというものだった。

 

 ありきたりな内容だったのだが、偶然DVDを見つけたみゅかりさんたちはとても楽しそうにDVDを見ていた。

 

 

「めっちゃ楽しそうに見とるなぁ」

「だな。ずっと見てなかったやつだったけど楽しそうでなによりだよ」

 

 

 竜の分のお茶を用意し、ついなはみゅかりさんたちのことを見ながら呟く。

 ついなの用意してくれたお茶を手に取り、一口口に運んでから竜はついなの言葉にうなずいた。

 

 竜としてもそこそこ前に買ったDVDをみゅかりさんたちが楽しそうに見ているのは嬉しいことなので、とくに止めたりしようなどとも考えていない。

 

 

「っと、それじゃあちょっと風呂を洗ってくるわ」

「ん。了解やで」

 

 

 ついなの淹れてくれたお茶を飲み干し、竜は椅子から立ち上がる。

 お茶の温度が淹れたてだったためにかなり熱く、やや涙目になってしまったがそのことはあまり気にせずに竜はお風呂場へと向かって行くのだった。

 

 

「みゅーみゅみゅ、みゅいー!」

「ぎゅんぎゅぎゅーん!」

「わわぁ・・・・・・」

「イヤ、サッキ注意サレタヤン」

「暴レタラダメジャナイ―?」

 

 

 どうやらDVDを見ていたことによって闘争本能でも刺激されたのか、みゅかりさんとけだまきまきがDVDで見た戦闘をまねして戦い始めた。

 いきなり戦い始めたみゅかりさんとけだまきまきにセヤナーは呆れたような声を上げ、ダヨネーは困ったような声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第455話





今日もまた時間ギリギリ・・・・・・

というかアンケートにイアとオネを追加し忘れていました。

とりあえず今回のアンケートはこのまま進行します。







 

 

 

 

 学校。

 

 体育の授業をするために竜たちは校庭に出ていた。

 どうやら今日の授業は男女合同で、しかも別のクラスとの合同の授業のようだ。

 

 見ればグラウンドには竜たちの他にあまり関わったことのない生徒の姿もある。

 その中にはオネの姿もあり、合同で授業を受けるクラスがオネのいるクラスだということが分かった。

 

 オネの姿を確認した茜が元気よくオネに向かって手を振り、それに気がついたオネがやや恥ずかしそうにしながら小さく手を振り返す。

 オネのクラスメイトたちはそんなオネの姿を見たことがなかったのか、驚いた表情になってオネと茜を交互に見ていた。

 

 

「やー、オネが手を振り返してくれたんは嬉しいなぁ」

「いや、それは良いけど、・・・・・・良いのか?まぁ、いいか。とりあえずオネがめっちゃ恥ずかしそうにしてるんだが?」

 

 

 オネが手を振り返してくれたことが嬉しかったのか、茜は腕を組んでしきりにうなずきながら言う。

 そんな茜の様子に先ほどの茜とオネのやり取りを見ていた竜は思わずツッコミを入れるのだった。

 

 

「ねぇねぇ、オネさんってあのクラスの琴葉さんのお姉さんの方と知り合いなの?」

「いっつも元気な子だったわよねー?」

「え、あ、その・・・・・・」

 

 

 嬉しそうにしている茜とはうって変わり、オネは同じクラスのクラスメイトたちに囲まれて質問を受けていた。

 オネはいつもお昼休みには保健室に来てお昼ご飯を食べており、クラスメイトと話すことはほとんどなかった。

 そのため、クラスメイトたちはオネに対していまだに興味津々なのだ。

 

 クラスメイトたちに質問責めにされ、オネは困り顔になる。

 

 

「ほら、茜さんが不用意に手を振ったせいであんなことになってますよ?」

「え、うちが悪いんか?!」

「そりゃあ、お姉ちゃんが手を振ったからああなったんだし」

「あそこまで質問責めにされるなんてすごいねー」

「まぁ、俺たちにはどうすることもできないなぁ」

 

 

 オネが質問責めにあっている姿を指し示しながらゆかりは茜に言う。

 といっても責めるような口調ではなくからかうような口調なので、茜のことをからかっているのだろう。

 ゆかりの言葉に便乗するように葵も同じような口調で茜に言う。

 

 そんな茜たちとは違い、マキと竜はのんびりとオネのことを見守るのだった。

 

 

「体育を始めるぞ。今日は隣のクラスとの合同授業だ。とりあえず二人一組を作ってくれー」

「二人一組か。誰と組むかなぁ」

 

 

 体育教師の言葉に竜は誰と組むかを考える。

 授業でなにをやるのかは不明だが、とりあえずは男子と組んでおいた方が無難だろう。

 そう考えた竜はクラスメイトの方を向こうとし、肩を掴まれて動きを止めさせられた。

 

 

「竜くん、私と組んでくれないかしら!」

 

 

 竜の肩を掴んで動きを止めた人間、オネはやや切羽詰まったような声を上げて竜にお願いをする。

 いきなりのオネの行動に竜だけでなくこの場にいる全員が驚きの表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第456話



夜も気温が上がってきて寝苦しくなり始めてきましたねぇ。

といってもまだまだ寝やすい方ですが。








 

 

 

 

 オネに肩を掴まれた竜は困惑した表情になりながらオネの顔を見る。

 竜の肩を掴んでいるオネの表情はどこか困ったような表情になっていた。

 

 

「えっと、いきなりどうしたんだ?二人一組を組むのなら自分のクラスのクラスメイトと組めばいいんじゃ・・・・・・」

「それができないから竜くんにお願いしてるのよ!」

 

 

 竜の言葉にオネは竜の肩をがくがくと揺らしながら答える。

 どうやらオネには自分のクラスのクラスメイトと二人一組になれない理由があるようだ。

 

 オネによって肩を掴まれてがくがくと揺らされていた竜は気づいていなかったが、オネのクラスのクラスメイトたちはジッと肩を掴まれて体を揺らされている竜のことを見ていた

 

 

「ちょ、ちょちょちょちょい?!いきなりどうしたんや?!」

「けっこうな勢いできたよね?」

「二人一組を組んでほしいと言っていましたけどどうしてなんでしょうかね?」

「そういえば前にクラスメイトたちとの関わり方に悩んでいるとか言ってなかったっけ?」

 

 

 オネがいきなり現れて竜に二人一組を組んでほしいと言ったことによって思わず固まってしまっていた茜が再起動する。

 そして、いきなり現れて二人一組を組んでほしいと竜に言い、現在進行形で竜の肩を思い切りがくがくと揺らすオネの姿に茜は思わずツッコミを入れた。

 

 茜のツッコミによって茜と同じように固まってしまっていた葵たちも再起動し、どうしてオネがそのようなことを言い始めたのかを考え始めた。

 

 

「お、落ち着けって」

「ッス―・・・・・・。・・・・・・ごめんなさい、焦りすぎてしまったわね」

 

 

 オネによってがくがくと体を揺らされながら竜はオネに落ち着くように言う。

 竜の言葉を聞いたからなのか、はたまた竜の体を揺らすことによって多少は落ち着くことができたのか。

 オネは小さく深呼吸をして竜に謝った。

 

 

「それで?改めてもう一回聞くけどなんで俺と二人一組を組もうと思ったんだ?」

「あー、えっとー、そのー、ね?」

 

 

 オネが落ち着いたことによってキチンと話が聞けると思い、竜は改めてどうして二人一組を自分と組もうとしたのかを尋ねる。

 竜の言葉にオネは言い淀み、最終的にはなにか同意を求めるように竜に向かって言う。

 しかし、同意を求められてもそれがどういう意味の同意なのかまったく分からないため、竜はただ首をかしげることしかできなかった。

 

 

「ね?と言われてもまったく分からないんだが・・・・・・」

「なぁなぁ、どうして竜と組もうと思ったんや?」

 

 

 オネの様子に竜が首をかしげていると少し離れたところにいた茜たちが近づいてきた。

 茜に尋ねられ、オネはなにやら恥ずかしそうな表情を浮かべる。

 

 

「その・・・・・・、クラスメイトとほとんど話したことがないから、それなら保健室でけっこう話している竜くんと組めないかなぁって思ったのよ・・・・・・」

「それなら別に茜たちでもよかったんじゃないか?」

 

 

 恥ずかしそうにしながらオネはどうして竜と二人一組を組もうとしたのかを答える。

 そんなオネの言葉に竜はどうして異性である自分に声をかけたのかが気になり、さらに続けて尋ねた。

 

 

「あ、それはぐうぜん目についたのが竜くんで、早く組まなきゃって思っちゃって・・・・・・」

「なるほど。焦って視野が狭くなってたのね」

 

 

 オネの答えにどうして自分が選ばれたのかを理解した竜は納得したようにうなずくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第457話



のんびりと更新中。

体育の授業でなにをしようかなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 落ち着きを取り戻し、竜の肩から手を離したオネは困ったような表情で竜たちを見る。

 クラスメイトとほとんど話したことのないオネは、二人一組を組むように言われてとっさに保健室でよく話をしていた竜と組もうとしていた。

 しかし落ち着きを取り戻したことによってオネは茜たちと組む選択肢も生まれたのだ。

 

 

「んで、どうするんだ?同性の方が組むのは良いと思うんだが・・・・・・」

「うちはぜんぜん大丈夫やで!」

「ボクも大丈夫だよ」

「私も組んでも良いですよ」

「私も大丈夫だよー」

 

 

 改めて竜はオネにどうするのかを尋ねる。

 二人一組を組むのであれば異性である自分よりも同性である茜たちのうちの誰かの方が良いのではないか。

 そう考えた竜はオネに茜たちと組んだ方が良いのではないかと尋ねたのだ。

 

 竜の言葉に茜たちも自分たちと組んでも大丈夫だと声を上げる。

 茜たちの言葉を聞き、オネは悩むような表情になりながら竜たちを見る。

 

 

「えっと、それじゃあ竜くんにお願いしても良いかしら?」

「うん?俺と組むのか?」

 

 

 竜たちを見てオネが選んだのは竜だった。

 異性である自分が選ばれるとは思ってもいなかった竜は驚いたような表情になってオネに聞き返す。

 また、竜と同じように落ち着いたオネが竜を選ぶとは思っていなかった茜たちも驚いた表情でオネを見る。

 

 

「なんで俺なのか聞いてもいいか?」

「あ、うん。えっと、茜さんと葵さんは姉妹だからやっぱり組むのかなって思って、ゆかりさんとマキさんも仲が良いみたいだから組むんじゃないかなって思ったからね」

「いや、べつにそんなん気にせんでええんよ?!」

「そうそう!」

「そうですよ。たしかに私たちの仲は良いですけど、オネさんとも仲が良いと私は思っていますよ?」

「うんうん。そんなに気にしなくて大丈夫だよ」

 

 

 自分が選ばれたことが意外だった竜はどうして自分を選んだのかを尋ねる。

 竜の言葉にオネはどうして竜をもう一度選んだのかの理由を答えた。

 

 どうやらオネは茜と葵、ゆかりとマキがそれぞれ二人一組を組むのだと考えて竜を選んだらしい。

 オネの言葉に茜たちは驚きながら自分たちを選んでもらっても大丈夫だと言う。

 

 まぁ、茜と葵が姉妹だということと、ゆかりとマキが仲の良い2人組だということは保健室での会話でオネは知っていたので、そういった理由から茜と葵、ゆかりとマキが組むのだと思っていたのだろう。

 

 

「まぁ、俺はオネが気にしていないなら良いんだが」

「それじゃあお願いするわね!」

 

 

 オネが自分を選んだ理由を聞き、竜は頬を掻きながら答える。

 すでに他のクラスメイトたちは二人一組を組んでいるので、時間的にも早く相手を決めなくてはいけないのだ。

 竜の言葉にオネは竜の手を掴んで握手をしながら答える。

 

 竜とオネが握手をしている姿を見て、茜たちは悔しそうにしながらそれぞれ二人一組を作るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第458話




じみーに体育の授業内容を決めるのに時間がかかった・・・・・・

あ、アンケートの結果はアイ先生に決まりました。





 

 

 

 

 竜とオネ。

 体育の授業で二人組を組んだ2人はお互いに協力して柔軟をする。

 

 ちなみに、竜とオネ以外で男女で二人組を作っているものは基本的には彼氏彼女の関係にある者たちばかりで、柔軟をしながらいちゃついていたりするような者たちばかりだったりする。

 

 

「ぐっ・・・・・・」

「あ、そういえば竜くんって体が固い方なんだっけ?」

 

 

 柔軟で体を伸ばしながら竜はやや苦しそうに声を上げる。

 苦しそうな声を上げた竜にオネは保健室で話していたことを思い出して声をかけた。

 

 

「まぁ、っな・・・・・・。っふぅ」

「ふふふ、けっこう苦しそうな声だったわね」

 

 

 柔軟が終わり、竜は小さくため息を吐く。

 そんな竜の姿にオネは笑いながら声をかけた。

 

 柔軟が苦手で体がやや固い竜とはうって変わって、オネはとくに苦しさなどを見せることもなく柔軟をしていた。

 この辺りは男女の差だろうと思われるかもしれないが、男性でも体が柔らかい人はいるし、もちろん女性でも体が固い人はいるので完全に普段から柔軟をやっていたりしているかの問題と言えるだろう。

 まぁ、人によってはなにもしていなくても柔らかい人もいたりするので個人差があるのは確かだろう。

 

 

「柔軟は終わったかー?そうしたら今日はテニスをやるぞ」

「テニスか。ってことはダブルスみたいだな」

「へー、テニスなら私は得意よ」

 

 

 生徒たちの柔軟が終わったことを確認した体育教師は体育の授業でなにをやるのかを言った。

 体育教師の言葉に竜は二人組を組んだ理由を理解して呟く。

 同じようにオネも体育の授業の内容を理解して嬉しそうに言った。

 

 

「俺はちょっと苦手かなぁ。上手く相手のコートに入れられなくてなぁ」

「それなら私が教えるわよ」

 

 

 竜はテニスでサーブをすることが苦手で、上手く相手のコートに打ち込むことができないのだ。

 まぁ、原因としては単純に力加減が苦手で思い切り打ち過ぎているだけなのだが、それが分かっていても上手く相手のコートに打ち込むことができないでいた。

 

 竜の言葉にオネは自分が相手のコートに打ち込むコツを教えると言う。

 

 

「それじゃあ、対戦する相手は自由に選んでくれー」

「さ、私が教えるからラケットを選んでコートに行きましょう」

「おう。お願いするよ」

 

 

 教師の言葉を聞き、竜とオネはラケットを選んでコートに向かって行った。

 

 グラウンドにあるテニスコートには限りがあるため、竜とオネは練習用のコートに到着する。

 試合をするためのコートは順番に使っていくことになっているため、竜とオネは順番待ちの状態だ。

 

 そして、竜はオネの指導のもとサーブの練習を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第459話





テニスで相手のコートに打ち込むのって地味に難しいんですよねぇ。

私は全然できませんでした。






 

 

 

 

 ぽこん、ぽこん、と弱めの音を鳴らしながら竜とオネは簡単なラリーをする。

 といってもネットを使わないラリーなのでそこまで難しくもないのだが。

 

 このラリーはオネが竜にサーブを教えるために始めたもので、まずは弱い力で打つことを慣れさせるために始めたのだ。

 

 

「うんうん。なかなかうまく打てていると思うわよ」

「そうか?そう言われても力加減がなかなか難しくてな・・・・・・」

 

 

 ネットのないラリーを繰り返しながらオネは言う。

 オネの言葉に竜は首をかしげながら答える。

 

 事実として竜はいまのこのラリーですら力加減にやや苦労をしながら打ち返していた。

 もともと、竜は力加減を必要とする運動は苦手としており、どちらかと言えば思い切り力を出すことができる運動、たとえばバッティングやボウリングなどの方が得意としている。

 

 ちなみに、ゴルフも思い切りゴルフクラブを振るだけではないのかと思うかもしれないが、実際にはそんなことはなく意外と微妙な力加減や打ち方なんかがあるので竜はやや苦手としている。

 

 

「それじゃあ次はネットがあるのをイメージして打ってみましょう。私が打った球と同じくらいの高さになるのを目指してみてちょうだい?」

「分かった」

 

 

 そう言ってオネは少しだけ離れた位置に移動し、ネットの高さをだいたい超えた位置辺りを通るように球を竜に向けて打つ。

 弱めに打たれたその球は大きく弾みながら竜のもとへと飛んでいく。

 自分のもとに飛んできた球を竜は先ほどまでのラリーよりも少し高めの軌道になるように意識してラケットを振る。

 

 ぱこんっ、やや強めの音を鳴らし、竜の振ったラケットは球をとらえて強めに打ち返した。

 打ち返された球はオネの打った球の軌道よりもやや下の方を通りながらオネのもとへと帰っていく。

 

 

「んー、やっぱりネットをイメージすると難しいかしら?」

「まぁ、そうだな。ちょうどネットを超えたあたりで下に落ちるような力加減っていうのがいまいち掴めないんだよなぁ」

 

 

 竜の打った球が自分の打った球よりも低い軌道で帰ってきたのを確認したオネは竜に確認するように尋ねる。

 オネの言葉に竜はうなずく。

 やはりネットをイメージしていない動きとネットをイメージした動きでは難易度が少し変わるようだ。

 

 

「そうすると力加減はやっぱり何度もやって体で覚えるしかないわね」

「そうなるよなぁ」

 

 

 なにかしらのテクニックを考えるよりも体で力加減をおぼえる。

 やはりそれがなによりも一番の近道だろう。

 

 オネの言葉に竜はラケットを握りしめて練習を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第460話




少し遅れてしまいました・・・・・・





 

 

 

 

 竜がオネとサーブの練習をするために打ち合っていたころ。

 茜、葵、ゆかり、マキの4人は試合用のコートでダブルスをおこなっていた。

 

 

「せーっの!」

 

 

 スパンっと軽快な音を立ててマキの放ったサーブは茜、葵チームのコートに向かって飛んでいく。

 竜が放つような力任せのサーブではなく、キチンと加減の出来ているマキのサーブはキレイに茜、葵チームのコートに落ちる。

 

 

「葵ー」

「分かってる、よっ!」

 

 

 コートの前衛を務めていた茜は短く葵の名前を呼ぶ。

 茜の呼びかけに葵も同じく短く返事をし、それと同時にパコンっという軽快な音を立ててテニスボールがゆかり、マキチームのコートへと打ち返されていった。

 

 

「その打ち返しは甘いです、よっ!」

「なぁっ?!」

 

 

 葵の打ち返したテニスボールにゆかりは遅れることなく追いつき、素早く打ち返す。

 ゆかりの打ち返したテニスボールは茜の目の前に落ちる。

 それを茜は打ち返そうとするのだが、茜の予想していたよりも強い回転がかけられていたテニスボールは通常の跳ね方とは違う跳ね方をして茜を驚かせた。

 

 

「ふふふ、油断していましたね?んんっ・・・・・・、まだまだだね」

「くっ・・・・・・、ゆかりさんがまさかツイストサーブを習得してるとは思わんかったわ・・・・・・」

 

 

 ゆかりの放った打球の跳ね返り方からゆかりが打ったのが漫画で使われていた打ち方の「ツイストサーブ」だと茜は判断して悔しそうにする。

 ちなみに、「ツイストサーブ」はその名前の通りサーブで使われる技のことを指しているため、葵の打ったテニスボールをゆかりが打ち返したのは厳密には「ツイストサーブ」ではないのだが、結局はアニメや漫画の物真似なのでそこまで気にしなくても良いだろう。

 

 

「そんならこっちもアレを見せてやるんや!」

「え、アレって何?!」

 

 

 サーブをするためにテニスボール持っていた葵は茜の言葉に思わず声を上げる。

 まぁ、茜はそう言っているが葵からすればそんなネタ的なものは持っていないので、たまったものではないのだが。

 

 

「ほれ。「ブーメランスネイク」とかあるやん?」

「ボクはあんな異次元的なテニスはできないから!」

「できないんですか?!「波動球」とかあるじゃないですか!」

「ゆかりん、普通の人はあんなテニヌはできないと思うよ?」

 

 

 茜の挙げた「ブーメランスネイク」というのもアニメや漫画に出てくる技のことであり、普通に考えてできるはずのない技である。

 葵の言葉にゆかりも驚いて反応をする。

 

 そんな茜とゆかりの反応に葵とマキは呆れたように溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第461話




眠気がすごい・・・・・・

というか体育の授業をそろそろ終わらせたいですねぇ






 

 

 

 

 茜、葵、ゆかり、マキの4人が超異次元的なテニス漫画の真似をしながら試合をやっていたころ。

 ────まぁ、やっていたと言っても真似をしているのは主に茜とゆかりの2人だけで、葵とマキは普通に試合をしていたのだが。

 

 サーブの練習をしていた竜とオネのもとに男子生徒が2人近づいてきた。

 2人の男子生徒の姿に竜は見覚えがないため、オネのクラスメイトで間違いはないだろう。

 

 

「やあ、オネさん」

「僕たちちょっと暇になっているんだ。よかったら試合をしないかい?」

「あ、ええっと、同じクラスの田中くんと佐藤くんだったかしら。私は別に構わないけれど・・・・・・」

 

 

 2人の男子生徒、田中と佐藤はオネだけを見ながら言う。

 2人の言葉にオネはチラリと竜を見ながら言葉を濁す。

 竜はまだ上手くサーブを打つことができず、試合をするにはまだ不安が残っているのだ。

 

 オネの視線に竜はラケットを軽く上げることによって応える。

 竜が応えたのを確認したオネはうなずいて田中と佐藤を見た。

 

 

「試合をするのは大丈夫よ。でも竜くんが慣れていないから手加減をお願いね?」

「それはもちろんさ」

「ちょうど試合用のコートも空いたみたいだしあっちに行こうか」

 

 

 オネの言葉に田中と佐藤は嬉しそうにうなずき、ちょうどよく空いた試合用のコートをラケットで指し示す。

 そして、竜たちは試合用のコートへと向かって行った。

 

 

「さーて、それじゃあ始めよう、か!」

「うおっ?!」

 

 

 そう言いながら田中の打ったサーブは勢いよく竜に向かって飛んでいき、竜の目の前でコートに落ちてバウンドしていった。

 目の前まで勢いよく飛んできていたテニスボールが自分の目の前でバンドしたことに驚いてしまった竜は飛んできたテニスボールを打ち返すことができず、大げさに避けてしまう。

 

 

「あっぶねぇ」

「ちっ・・・・・・。いやあ、ごめんごめん。ちょっと勢い良く打ち過ぎてしまったかな」

 

 

 自分のすぐ近くをテニスボールが通り過ぎていったことに驚いていた竜は、上手くテニスボールを避けることができたことに対してホッと息を吐く。

 

 安堵の息を吐いていた竜の姿を見て田中と佐藤は小さく舌打ちをし、なにごともなかったかのように次のテニスボールを手に取った。

 

 

「今度こそ!」

「っと、危ないわね!」

 

 

 先ほどと同じように田中が竜に向けてサーブをする。

 しかし、先ほどと違う点が1つだけあった。

 

 それは竜に向かって飛んできたテニスボールをオネが危なげなく相手コートへと打ち返していたことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第462話




アモングアスの配信に参加してきましたー!

わちゃわちゃ動いていてめっちゃ楽しかったです。

ただ、やっぱり回線が・・・・・・





 

 

 

 

 竜に向かって飛んできたテニスボールを打ち返したオネはそのまま油断することなくラケットを構えて田中と佐藤を見る。

 最初の一球はミスなのかもしれないと思えたのだが、さすがに2回連続で同じような軌道でテニスボールが竜に向かって飛んでいったのはおかしいのではないかとオネは考え始めていた。

 

 

「さすがオネさん!簡単に打ち返してくるね!」

「でも、さすがに1人でダブルスを相手にするのはきついんじゃないかな?」

「くっ・・・・・・!」

 

 

 オネの打ち返したテニスボールをあっさりと打ち返しながら佐藤は言う。

 佐藤が打ち返したテニスボールにオネはなんとか追いついて打ち返すのだが、打ち返した先に待ち受けていた田中によるスマッシュで得点となってしまった。

 

 通常であれば竜とオネの2人でコートを守って打ち返したりをするのだが、竜が打ち返すのに慣れていないためにオネが1人でやっていかなくてはならない状況になってしまっているのだ。

 

 

「すまん。俺が上手くプレイできていないばっかりに・・・・・・」

「そんな。気にしなくても大丈夫」

 

 

 オネ1人に負担を強いてしまっていることを理解している竜は申し訳なさそうにオネに謝る。

 竜の言葉にオネはパタパタと手を左右に振って否定した。

 

 さて、話はがらりと変わるのだが。

 

 竜に憑いている動物霊たちはどうして竜に集まっているのかは覚えているだろうか。

 

 竜の体からは無意識的に浄化の力が漏れており、それによって動物霊たちにとって心地よい空間となっている。

 まぁ、分かりやすく言えば竜の周囲は浄化されていて居心地が良いために動物霊たちが集まってきている、ということだ。

 

 では、ここでいったん竜に集まってきている動物霊たちの立場になって考えてみよう。

 

 動物霊からすれば竜は居心地のいい場所であり、守らなくてはいけない場所という認識が強い。

 そのため、霊視をして自分たちの存在に気がついたイタコやずん子、ついなと初めて出会ったときなんかはけっこう警戒されていたのだ。

 

 そして、動物霊たちは竜に対してなにかしら害がありそうなことが起こると基本的に反応することが多い。

 いままでは動物霊たちが動こうとする前に対処がなされており、動物霊たちに出番が来ることはなかった。

 

 しかし、いま。

 

 明確に竜に対しての悪意を動物霊たちはそろって感じ取っていた。

 

 竜に憑いている動物霊たちは威嚇をするようにうなり声をあげ、テニスの対戦相手である田中と佐藤を睨みつける。

 2人は先ほどから何度も竜に向かってわざとぶつかりそうな軌道でサーブを打っていた。

 

 その行為が明確に竜を害する行為だとして動物霊たちはハッキリと認識したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第463話



夜になるとやっぱり冷えてきますねぇ

風邪をひいたりしないように気をつけたいですね。







 

 

 

 

 竜とオネの対戦相手である田中と佐藤を竜に憑いている動物霊たちはうなり声を上げたり、威嚇行動をしながら睨みつける。

 なんども竜に向かってサーブをしたということですでに田中と佐藤へのヘイトはかなりのものとなっており、竜たちの試合を見ていた他の生徒たちは謎の悪寒のようなものを感じていた。

 

 

「なぁ、なんか寒くね?」

「ああ、風とかは別に吹いてないよな?」

 

「なにかしら?ちょっと体が震えるわね」

「風邪とかを引いた、って感じじゃないよわね?」

 

 

 竜とオネ、田中と佐藤が試合をしているコートの近くで試合をしていた生徒たちもそろって悪寒を感じており、不思議そうに首をかしげていた。

 

 他の生徒たちが不思議そうにしているのに対して竜とオネの対戦相手である田中と佐藤は悪寒などを感じていないようで、周りの生徒の様子などには特に気づいた様子もなくプレイをしている。

 

 

「そー、れっ!」

「くっ!」

 

 

 田中はまた竜へとテニスボールを打つ。

 その打球は先ほどまでの打球と変わらずに竜へと向かって飛んでおり、テニスに慣れていない人間が受けるには難しい軌道だった。

 

 

「おっらぁ!」

「お、打ち返せたか」

「でも、その打ち返し方じゃあ意味はないかなぁ」

 

 

 どうにか竜は飛んできたテニスボールをとらえて打ち返す。

 しかしギリギリ打ち返せたレベルのその打球はあっさりと佐藤によってとらえられてしまい、簡単に打ち返されてしまった。

 佐藤が打ち返したテニスボールは田中が打ったのと同じように竜へと向かって飛んでいく。

 

 しかし、先ほどまでのことから竜に向かって飛んでいくだろうと予想していたオネが素早くカバーに入り、田中、佐藤チームのコートに打ち返す。

 

 

「さっきから気になっていたのだけれど・・・・・・。竜くんのことを狙い過ぎじゃないかしら?」

「いやぁ、きっと気のせいさ」

「そうそう。ぐうぜんだよ」

 

 

 やや睨みつけるようにしながらオネが尋ねるが、田中と佐藤は偶然だととぼける。

 試合をしていて1人にほぼ集中して球が飛んでくるというのは普通に考えて意図的にやらなければ起こらないことであり、オネはほぼ確信を持っていた。

 

 睨むようなオネの視線を受けながらも佐藤はサーブを始める。

 佐藤によって打たれたテニスボールの飛ぶ先はもちろん竜だ。

 

 

「こん・・・・・・のぉ!」

「うんうん。じょうずじょうず」

 

 

 自分へと向かって飛んできたテニスボールを竜がどうにか打ち返す姿を見て佐藤はバカにするように言う。

 そして、竜が打ち返したテニスボールは佐藤の相方である田中があっさりと打ち返していた。

 

 ふたたび飛んできたテニスボールに竜は対応しようとするのだが、上手く対応することができずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第464話





さすがにそろそろテニスを終わらせたい・・・・・・

体育の授業が長すぎる。





 

 

 

 

 田中が打ち返したテニスボールが竜へと向かって飛んでいく。

 打ち返されたテニスボールの軌道は竜の顔にぶつかるような軌道だった。

 

 先ほど佐藤から打たれたテニスボールをどうにか打ち返していた竜は田中の打ち返してきたテニスボールに対応することができず、とっさに腕で自分の顔を守る。

 

 

「・・・・・・はっ?」

「うん・・・・・・?」

 

 

 腕にテニスボールがぶつかると思っていた竜は待っていても来ない衝撃に首をかしげる。

 腕をどけて見てみれば足元にテニスボールが転がっており、見れば対戦相手である田中と佐藤が驚いた眼で竜のことを見ていた。

 

 

「竜さん、大丈夫でしたか?」

「危なかったっちゃねー?」

「2人とも?もしかして守ってくれたのか?」

 

 

 足元のテニスボールを見ていた竜は左右から聞こえてきた声に驚き、左右を確認する。

 見ると竜の左右にはひめとみことがおり、心配そうに竜のことを見ていた。

 

 どうやらひめとみことの2人が竜に向かって飛んできていたテニスボールを止めてくれたらしい。

 

 

「はい。呼ばれたので来てみれば竜さんにボールがぶつかりそうになっていましたので」

「うちらが打ち落としたんよー」

「そうなのか。ありがとうな。でも、危ないからコートの外で見ていてくれな?」

 

 

 竜の言葉にひめとみことはうなずき、自分たちが飛んできたテニスボールを打ち落としたのだと答える。

 2人が呼ばれたと言っていることから分かるように、ひめとみことの2人は竜に憑いている動物霊に呼ばれてこの場に来ていた。

 

 自分にテニスボールがぶつからなかった理由を理解した竜は納得したようにうなずいて落ちているテニスボールを拾う。

 そして、テニスボールを打つ前にひめとみことの2人をコートから出した。

 

 一方で、竜にテニスボールがぶつからなかった理由が分かっていない田中と佐藤は困惑しながらラケットを握った。

 

 

「な、なにをしたのかは分からないけど。大丈夫かな?」

「ああ、守ってもらったからな」

 

 

 困惑したままの田中と佐藤の言葉に竜は短く答える。

 そして、困惑している2人のことなど気にせずにテニスボールを打った。

 

 

「守ってもらった?」

「ちょっとなにを言っているのかは分からないけど、打たせてもらうよ!」

 

 

 竜の言葉に首をかしげつつも、佐藤と田中は竜の打ったテニスボールに反応してコートの中を走りだした。

 

 

「そお、れっ!」

「やらせないわ!」

 

 

 佐藤が打ち返したテニスボールをオネが反応して打ち返す。

 そこからお互いに打ち返しあうラリーが始まった。

 

 

「これで、どうだ!」

 

 

 なんどかのラリーを繰り返した後、先ほどと同じように佐藤が竜へと向けて勢いよくテニスボールを打ち抜いた。

 それに対してコートの外で見守っていたひめとみことがいち早く反応する。

 

 コートの地面から素早く木が生え、飛んでくるテニスボールを正確に受け止めて固定する。

 そして、止められたテニスボールに対して、竜は思い切りラケットを振りかぶるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第465話




ようやくテニスが終わった!

これで次に進めます・・・・・・





 

 

 

 

 竜に向かって飛んできていたテニスボールが空中で固定される。

 そして、固定されたテニスボールに向かって竜は思い切りラケットを振りかぶった。

 

 なんども狙われたことによる鬱憤(うっぷん)も溜まっていたのか、竜はテニスのような打ち方ではなく野球のスイングのような一番威力が乗るであろう打ち方でラケットを振りぬく。

 

 竜の振りぬいたラケットがテニスボールにぶつかる瞬間、テニスボールを固定していた木は素早く消失し、スパァンッという快音とともにテニスボールが打ちぬかれた。

 

 

「っらぁ!」

「はっ?!ぐべらぁっ?!」

「へぶるぅっ?!」

 

 

 竜が思い切り打ちぬいたテニスボールはそのまま真っ直ぐに落ちることなく飛んでいき、田中の顔面へと直撃する。

 さらに田中の顔に直撃したテニスボールはそのまま勢いを落とさずに跳ね返り、佐藤の顔面に直撃した。

 

 竜が打ちぬいたテニスボールを顔面に受けた田中と佐藤は当たり所が悪かったのか、そのまま倒れてしまう。

 

 

「あ、やべ」

「竜くん?!」

 

 

 倒れて動かなくなってしまった田中と佐藤の姿に竜は思わず声を漏らす。

 そんな竜の言葉に田中と佐藤の2人が倒れてしまって固まっていたオネは大きく声を上げた。

 

 竜とオネが倒れてしまった2人に近づくと、胸のあたりが上下に動いていることから呼吸自体は問題ないのだということはうかがえた。

 

 

「どうやら気絶してるだけみたいだな」

「でも、どうしたらいいのかしら?」

 

 

 田中と佐藤の2人が気絶しているだけなのだということを確認した竜とオネは少しだけ落ち着き、どうすればいいのかと頭を悩ませる。

 

 いまが授業中なこともあるが、それに加えて意識を失ってしまった人間を運ぶというのはかなりの重労働なのだ。

 気絶してしまっている2人を目の前に竜とオネは困った様子で首をかしげていた。

 

 

「っと、どうかしたのか?」

「あ、先生」

「実は顔にテニスボールが当たってしまって気を失ってしまったんです」

 

 

 竜とオネが困っていることに気がついたのか、体育教師が2人に声をかけてきた。

 体育教師の言葉に竜とオネはなにがあったのかを簡単に説明する。

 

 竜とオネの言葉に体育教師は意識を失ってしまっている田中と佐藤の2人を見る。

 

 

「はぁ、この2人か。分かった、この2人は日かげに移動しておくから授業に戻りなさい」

「分かりました」

「お願いします」

 

 

 田中と佐藤の2人を見た体育教師は小さくため息を吐くと、竜とオネに授業に戻るように言った。

 体育教師の言葉に竜とオネはうなずき、サーブの練習をするために練習用のコートに移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第466話




読んでくれている人が減っているということはつまらなくなってきているということ。

どうにか面白いって思ってくれたら嬉しいですねェ・・・・・・






 

 

 

 

 竜が田中と佐藤の2人を気絶させてしまってから。

 とくになにごとも起こることなく体育の授業は進み、竜たちは体育教師の前に集められる。

 

 すでに気を失っていた田中と佐藤も目を覚ましており、恨めしそうに竜のことを見ていた。

 

 

「さて、これで体育の授業は終わりだ。教室に戻って着替えて次の授業の準備をしてくれ」

 

 

 体育教師の言葉と同時に竜たち生徒は思い思いに教室に向かって歩き始める。

 竜、茜、葵、ゆかり、マキと一緒にオネもおり、先ほどの授業の内容を話していた。

 

 

「そういえば茜たちはずっと試合をしていたのか?」

「せやで!ゆかりさんが「破滅への輪舞曲(ロンド)」を使ったんや!」

「それを言うなら茜さんだって「超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐」を使ったじゃないですか」

「いや、2人とも技名を言っているだけの普通のサーブとかだったじゃん・・・・・・」

「マキさん、たぶん2人の中ではアニメの技が見えていたんだよ・・・・・・」

「・・・・・・“テニスの王子様”だったかしら?」

 

 

 外履きから上履きに履き替えるために下駄箱へと向かいながら竜は茜たちに尋ねる。

 竜がオネとサーブの練習をしているときからチラチラと見えてはいたのだが、茜たちは体育の授業中ずっと試合をおこなっていた。

 

 竜の言葉に茜は強くうなずいて試合中にあったことを話す。

 そんな茜の言葉に同じように試合をしていてあったことをゆかりも話し始めた。

 

 楽しそうに話している茜とゆかりの近くで、2人とそれぞれダブルスを組んでいた葵とマキは疲れたような表情になりながら呟く。

 まぁ、相方がアニメの技名を叫びながらテニスをしているのだから疲れてしまうのも無理はないのだろう。

 

 茜たちの言っている技名から2人がなんのアニメのことを言っているのかをなんとなく理解したオネは首をかしげながらそのアニメのタイトルを言うのだった。

 

 

「そういえば竜くん。田中くんと佐藤くんの2人と試合をしているときにコートからいきなり木が生えていたのだけれど・・・・・・」

「あー、それはその・・・・・・、なんというか・・・・・・」

 

 

 下駄箱の前で靴を履き替えながらオネはふと試合中に起こったことを思い出して竜に尋ねる。

 

 オネの言う木とは、試合をしているときに竜に向かって飛んできていたテニスボールを止めた木のことだ。

 この木はひめとみことが生やしたものであり、あまり公言したいものではなかった。

 

 オネの言葉に竜はどう答えたものかと悩みながら言葉を濁すのだった。

 

 

「えー・・・・・・、そう。あれだ。俺には不思議な友だちがたくさんいるんだよ。それで今回の木もその友だちのうちの2人がやってくれたことなんだ」

「不思議な友だち・・・・・・。それって私たちにも見えるのかしら?」

 

 

 とりあえずとして竜はオネに簡単にどうしてコートの中から木が生えてきたのかを

簡単に説明する。

 竜の言葉にオネは首をかしげながら竜の周囲を軽く見まわすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第467話




授業が終わるとストーリーを進めやすくはありますね。

朝と夜の寒暖差がひどくてお腹壊しそう・・・・・・





 

 

 

 

 お昼休み。

 

 竜たちはいつものようにお昼ご飯を食べるために保健室に向かう。

 廊下には竜たちの他にも学食に向かう生徒や、購買にお昼を買いに行く生徒、友だちと一緒に教室以外でお昼ご飯を食べるために移動する生徒、ボッチ飯をするために隠れながら移動する生徒の姿があった。

 

 

「そういえば、ワットソン・ベーカリーって結局なんだったんだよ?」

「うちも知らん!」

「自分で言ったのに?!」

「そこで自信満々に答えるのが茜さんらしいですよねぇ・・・・・・」

「言葉のままの意味で考えたらパン屋のワットソンさん、かな?」

 

 

 廊下を歩きながら竜たちが話しているのは先ほどの授業で茜が教師に指されて答えた人物名について。

 

 茜が教師から聞かれたのは『2021年1月に大統領に就任した人物の名前を答えろ』という比較的簡単な問題であり、その問題に茜は先ほど竜が言ったワットソン・ベーカリーという名前を答えたのだ。

 

 もちろんそんな名前の大統領など存在しておらず、茜は教師から呆れたようなため息をもらっていた。

 

 ちなみに、『2021年1月に大統領に就任した人物』はジョー・バイデン────本名はジョセフ・ロビネット・バイデン・ジュニアであり、78歳で大統領に就任した歴代最高齢の大統領である。

 

 

「いやー、だってしゃーないやん。アメリカの大統領の名前なんて覚えとらんよ」

「えぇ?だってテレビとかで名前は言ってただろう?」

「あー、お姉ちゃんは興味のないニュースとかは見てても忘れちゃうから・・・・・・」

「まぁ、それは分からなくはないですね」

「えー?でもなんとなく覚えてたりしない?」

 

 

 竜たちの言葉に茜は首を横に振りながら答える。

 

 まぁ、興味がない情報に関しては覚える人と完全に忘れてしまう人がいるので、茜が大統領の名前を忘れてしまっていたのも仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。

 

 

「でも、ご主人も名前は忘れとったんやない?」

「しー・・・・・・。言わなきゃバレないんだからいいんだよ」

 

 

 竜の頭の上に座っていたついなは不思議そうに首をかしげながら竜に尋ねる。

 じつは竜も授業中に教師が茜に尋ねた問題の答えが分かっておらず、内心では首をかしげていたのだ。

 

 ついなの言葉に竜は茜たちに聞こえないように小声で答える。

 

 

「あ、竜くんたちも保健室に行くところ?」

「おー、オネやん」

「ジュースを買ってたの?」

 

 

 竜たちが保健室に向かって歩いていると、途中の自販機で飲み物を買っていたらしいオネが声をかけてきた。

 オネの手にはお弁当と午後の紅茶があり、オネも保健室に向かうところだったのだということが分かった。

 

 

「あれ、イアさんは?」

「姉さんなら先に保健室に行っているって連絡があったわ。私も一緒に行っていいかしら?」

「そうですか。では一緒に行きましょう」

 

 

 オネが姉であるイアと一緒にいないことに不思議に思ったマキが尋ねると、オネはイアが先に保健室に向かっていると答えた。

 オネの言葉に竜たちは納得し、一緒に保健室に向かうことに決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第468話



いっそのこと一回完結させた方が良いのかとも思いましたけど

完全にネタ切れになるまでは書き続けようと思います。






 

 

 

 

 保健室に着いた竜たちはそれぞれお昼ご飯の準備を進めていく。

 先に保健室に着いていたあかり、イアの2人はすでに準備を終わらせており、竜たちの分の飲み物を準備していた。

 

 

「あれ?あかりとイア先輩が飲み物を準備してくれているならオネは別に飲み物を買ってこなくてもよかったんじゃないか?」

「ああ、姉さんたちが用意してくれてるのがお茶だったからよ。ちょっと炭酸系のジュースを飲みたい気分だったの」

 

 

 あかりとイアが用意してくれた飲み物を受け取りながら竜はふとオネが自販機で飲み物を買っていたことを思い出して尋ねる。

 竜の言葉にオネは自販機で買った飲み物を見せながら自販機で飲み物を買ってきていた理由を答えた。

 あかりとイアが用意していた飲み物は保健室に置いてあったお茶であり、イタコ先生が自由に飲んでいいと竜たちに言ってあるものだ。

 そのため、あかりとイアは自分たちの分だけでなくイタコ先生の分の飲み物も用意している。

 

 

「そうなのか。まぁ、たしかに炭酸系は飲みたくなるよな」

「分かるなぁ。うちもちょこちょこ飲みたくなる時があるで」

「いや、お姉ちゃんはほぼ毎日飲んでるでしょ」

「炭酸系は美味しいんですけど糖分も多いんですよねぇ」

「そうそう。だからあまり飲み過ぎると虫歯になったり太ったりしちゃって・・・・・・」

 

 

 オネが見せた炭酸系の飲み物を見て竜たちは納得する。

 炭酸系の飲み物はふとした時に飲みたくなる魔性の飲み物であり、飲みたくなる時が多くあるにも関わらず砂糖が多く使用されて甘く、虫歯になりやすく太りやすくもあるという怖ろしい飲み物だ。

 

 ちなみに、『コーラをたくさん飲むと骨が溶ける』といった話を聞いたことがある人はいるかもしれないが。

 これは骨や歯の主成分であるリン酸カルシウムが酸に溶ける性質を持っていて、抜けた歯や魚の骨などを長時間コーラや炭酸飲料、天然果汁など酸を含んだ液体に漬けておくとカルシウムやマグネシウムが溶け出しまていってしまうことから言われるようになったらしい。

 といっても酸を含んだ飲食物が人の体内で直接骨に触れるような事態はまずありえず、口に含んだ時も口の中をすぐに通り過ぎて歯に触れている時間が短いうえ、唾液による希釈、中和作用によって守られているので、この話はまったくと言っていいわけではないが、ほぼほぼデマのようなものと考えていいだろう。

 

 

「そういえば、今日の体育の授業でオネと公住くんが組んでるのを見てたよー」

「み、見てたの?」

 

 

 全員に飲み物を渡し終えたイアが思い出したようにオネに言う。

 まさかイアに見られていたとは思ってもいなかったオネはイアの言葉に驚き、恥ずかしそうに頬を染めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第469話




ちょっと遅刻してしまった・・・・・・

もう少し書く速度をあげられたらなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 イアに体育の授業でのことを見られていたのだと知ったオネは恥ずかしそうに頬を赤く染める。

 オネからすれば自分が男子と組んでいるところを姉妹に見られていたということで恥ずかしく感じたのだろう。

 

 まぁ、授業とかで2人組を作る場合は基本的には同性と組むことが多いだろうし、異性と組む場合なんてほとんど恋人関係の相手だけだろう。

 

 それを理解したオネはイアの言葉に今さら恥ずかしくなってしまったのだ。

 

 

「クラスの誰かと組んだりはしなかったの?」

「えっと、そのぉ・・・・・・」

「あー、なんかオネがクラスの人たちと組むのが辛かったらしくて・・・・・・」

 

 

 イアの疑問にオネは答えづらそうに目を逸らして口ごもる。

 そんなオネの様子に竜は苦笑しながら授業中に聞いていたことを答えた。

 

 竜の答えにイアは納得したようにうなずく。

 

 

「なるほどぉ。まぁ、オネちゃんはけっこう人見知りだもんね」

「ううぅ・・・・・・」

 

 

 竜の言葉を聞いたイアはオネのことを見ながら呟く。

 イアの言葉にオネは恥ずかしそうに顔をうつむかせてしまった。

 

 オネとイアのやり取りに茜たちは思わず笑ってしまう。

 

 

「たしかにいまだにクラスメイトと上手く関われないってのは人見知りっぽいわなぁ」

「もうけっこう経ってるもんね」

「そろそろ仲の良いクラスメイトとかできても良さそうですけどね?」

「でもどうなんだろ?オネちゃんって男子からの人気もすごいよね。そのせいで女子たちと仲良くなりにくかったりするのかな?」

「まぁ、その辺はクラスメイトの女子たちと話していかないと難しいと思いますけどねぇ」

 

 

 オネが人見知りだという情報から体育の授業でのことを思い返していた竜たちは笑いながらしゃべる。

 イアとオネがこの学校に来てからすでにそこそこの日数が経っており、いまだに仲の良いクラスメイトができていないということからオネが人見知りなのは間違いないのだろうと納得していた。

 

 

「あらあら。でも誰かと仲良くなるのにもその人のペースというものがありますし、そこまで気にしなくてもいいのでは?」

「イタコ先生・・・・・・!」

 

 

 あかりとイアの淹れてくれたお茶を飲みながら竜たちの話を聞いていたイタコ先生は微笑みながら言う。

 

 人が誰かと仲良くなるのに必要な時間はひとそれぞれ。

 それをわざわざ強要して無理やり進めさせてもいいことなどあるはずがない。

 

 イタコ先生の言葉にオネは嬉しそうな声をあげる。

 

 

「まぁ、それでもクラスメイトとは仲良くなっておいた方が良いとは思いますけどね」

「あう・・・・・・。善処します・・・・・・」

 

 

 続けて言われたイタコ先生の言葉にオネはがくりと肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第470話




NGSが楽しすぎていつの間にか時間が・・・・・・

一先ずはレベル上げをしていかないと!





 

 

 

 

 お昼ご飯も食べ終わり、竜たちは自由に残りのお昼休みを過ごし始める。

 

 茜はマキやイタコ先生と料理の話を始めており、あかりと葵、オネはお菓子の話を始めていた。

 そして、竜とゆかり、イアの3人はゲームの話をしている。

 

 

「やっぱりガンガン殴ってこそのゲームじゃないでしょうか?」

「んー、それも面白いけど私はやっぱりツインマシンガンで一気に撃ち抜いていきたいかなぁ」

「いやいや、ここはやっぱりサポートもできてテクニックで殲滅もできるテクターだろう。ウォンドは俺には難しかったけどタリスでかなり楽しく戦えるし」

 

 

 竜、ゆかり、イアの3人が話しているのはつい先日アップデートされたオンラインゲーム、“ファンタシースターオンライン2・ニュージェネシス”略称“PSO2NGS”についてだ。

 “PSO2NGS”は大型アップデートによってグラフィックもかなりキレイになり、戦闘システムなどがかなり新しく変更されたりした。

 

 そのため、いままでの“PSO2”とはまた違った戦い方をしていく必要があるのだ。

 

 

「それは分かるんですけどねぇ。やっぱりアクションゲームですよ。ソードでガンガン殴って離れたらライフルで撃ち抜くというのが安定でしょう。今のところはテクニックでは回復もありませんし」

「あー、分かるかも。回復アイテムもなくなってるしむしろサブパレットがスカスカなんだよねぇ」

「たしかに回復テクがなくなったのと、回復アイテムがそこら辺に落ちてるからテクターフォースは回復役になる必要がなくなった。だが、その代わりに範囲殲滅力に関しては負けていないぞ?テクニックで一気に殲滅したり、フォトンアーツでテクニックの挙動とかを変えられるからな!」

 

 

 竜、ゆかり、イアの3人はそれぞれプレイスタイルが異なっている。

 

 ゆかりは近接で殴り合っていくスタイルを好んでおり、イアは近~中距離で銃撃戦をおこなって倒していくことを好んでいた。

 そして、竜は基本的に中~遠距離の間合いでテクニックを撃ち込んで戦うことを好んでおり、属性の弱点などを突いていくような戦い方を好んでいた。

 

 

「というかシフデバが使えるのがテクターだけになっているってのも強みだろう」

「ああ、そういえば固有スキルになっているんでしたっけ?」

「攻撃力アップとダメージ軽減がデメリットなしで使えるのは確かに強いね」

 

 

 シフデバ。

 正式名称は“シフタ・デバンド”で攻撃力の向上とダメージの軽減をする効果を持っているテクターの固有スキルだ。

 攻撃力を上昇させるスキルは他のクラスにも存在はしているのだが、ここまでなんのデメリットもなく発動できるのはテクターのシフト・デバンドだけであり、次点でフォースのテクニック威力だけが上昇する“フォトンフレア”くらいである。

 

 そういった点でも竜が扱っているテクターはなかなかに使い勝手が良いのだ。

 竜の言葉にゆかりとイアは納得したようにうなずく。

 

 そして、それから竜たちはお昼休みが終わりに近づくまでゲームの話をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第471話




PSO2はいつになったらサーバーが安定するんですかねぇ。

早く安定してログインできるようになってほしいです。






 

 

 

 

 すべての授業が終わった放課後。

 

 今日は“cafe Maki”でのバイトもない竜はついなを頭の上に乗せながら道を歩いていた。

 竜たちがよくゲームを買っている店が少し離れたところにあるのが見えたが、最近はAPEXやPSO2NGSといったアプデが来たゲームなどをやっているために新しいゲームなどはほとんど買っておらず、とくになにかを買うような予定もなかった。

 

 

「食材とかでなにか買った方が良いものとかってあったっけ?」

「んー、いまのところはとくに問題はなかったと思うわー」

 

 

 歩きながら竜は頭の上のついなになにか買うものがあったかを確認する。

 竜の家にある冷蔵庫には2、3日分くらいの食材しか基本的には入っておらず、食材を買えるときがあればその都度ついなに確認を取っているのだ。

 

 竜の言葉についなは少しだけ考えるような仕草を見せて答えた。

 

 

「そっか。それなら帰りにどこかによる必要はないか」

「せやね。あまり余計に買っとってももったいないしなぁ」

 

 

 ついなの言葉に竜はうなずき、スーパーによらないことを決める。

 そして、竜とついなはなにごともなく自宅に到着するのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 自宅に着いた竜とついなは手洗いうがいを終えてリビングに移動する。

 すでに学校の荷物は竜の部屋に置いてきており、2人とも手ぶらの状態だ。

 

 

「最近は熱くなってきたしなぁ。ちょっと面白いもんを準備するから待っとってなぁ?」

「面白いもの?ああ、分かったよ」

 

 

 そう言ってついなはイタズラっぽく笑みを浮かべて台所へと向かって行った。

 ついなの言う面白いものとやらの見当がついていない竜はなんのことなのかと首をかしげながらゲームの電源を入れる。

 

 

「回線がまだまだ不安定だけどPSO2NGSかなぁ」

 

 

 竜が悩んでいるのはなんのゲームをやるか、ということ。

 PSO2はいまだに回線が安定しておらず、場合によってはゲームからはじかれるなんてこともあるかもしれないのだ。

 

 どのゲームをやるか少し悩んだ竜は、PSO2NGSで遊ぶことに決めた。

 

 

「っと、茜と葵もログインしてるのか」

 

 

 PSO2に入っているフレンド一覧を確認した竜は素早く誰がロブインしているのかを把握した。

 

 そして、竜がゲームをしているとなにやら楽しそうな表情のついながお盆に食べ物を乗せて台所から戻ってきた。

 

 

「おまたせやー」

「いや、そんなに待ってないよ。それで、その手に持っているものは?」

「ふふふ、こいつはなぁ冷たい水で出した冷たい緑茶なんや!」

 

 

 不思議そうについなの持っているお盆に乗っているものを竜が尋ねると、ついなは自信満々に自分が持ってきたものを答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第472話




気温も上がってきたから冷たいお茶を飲んで体を冷ましたいですねぇ。

6月でこの暑さだから7月、8月がちょっと怖いですね。






 

 

 

 

 ついなが用意した面白いもの。

 それは冷たい水で出した冷たい緑茶だった。

 

 ついなの言葉を証明する要因として、ついなが持ってきたコップには水滴がついている。

 ちなみにこの水滴は、コップの中に冷たい飲み物が入ることによって周囲の空気が冷やされ、暖かい空気から冷たい空気になったことによって空気中に含まれる水蒸気の量が変化し、その変化によって生じた水蒸気がコップに集まることによってできている。

 そのため、空気が乾燥している地域や季節なんかは冷たい飲み物をコップに入れたとしてもコップに水滴はほとんどつかないのだ。

 

 

「おー、めっちゃ冷たい。にしても氷で緑茶を出すなんてできるのか?色とかはたしかに緑茶だけど・・・・・・」

「ふふーん、その辺りは心配せんでも大丈夫や。お茶っ葉をなぁ、パックに入れて容器に入れて水を入れて冷蔵庫で寝かせておくだけで簡単にできるんや」

 

 

 ついなから受け取ったコップの冷たさに竜は感心しつつ、興味深そうにコップの中身を見る。

 コップの中にはたしかに緑茶の色である緑色の液体が入っており、ほのかに緑茶の香りもしてきた。

 

 竜の言葉についなは腰に手を当てて自慢げに答える。

 冷たいお茶の作り方は意外と簡単で、ものさえ用意できればどの家庭でも簡単に作れるようなものだった。

 

 ついなの言葉を聞きつつ竜はコップを傾けて冷たいお茶を口に運ぶ。

 

 

「ん、美味いな。それに冷たいからどこかスッキリとする」

「そうやろ?そんでこっちがお茶うけの和菓子やでー」

 

 

 竜の言葉についなは嬉しそうに笑みを浮かべ、お茶うけの和菓子を出す。

 

 ついなが出したお茶うけ。

 それは一口サイズに切られた赤みを帯びた濃い茶色の物体、羊羹だった。

 

 羊羹にはつまようじが刺さっており、竜はそれを摘まんで羊羹を口に運んだ。

 

 

「んむんむ・・・・・・、ん?なんかいつも食べている羊羹よりも甘いような・・・・・・?」

「お、正解や。冷たいお茶のときはなぁ、いつもよりも味が濃いものの方が合うんやで?」

 

 

 羊羹を口に運び、その甘さを堪能していた竜は羊羹の味がいつもよりも濃いものだということに気がつく。

 竜が羊羹の味が違うことに気がついたことに気がつき、ついなは嬉しそうに答える。

 

 冷たい飲み物を飲んだ時、口の中が冷やされることによって感覚がやや鈍くなる。

 そのため、普段の温かいお茶を飲んでいるときよりも味を濃い目にしてあるお茶うけが必要となるのだ。

 

 ちなみにこの羊羹はついなが自作したものであり、どこにも売られていない非売品のレアものである。

 しかもついなが自作したものということでそんじょそこらの市販品とはわけが違うレベルの美味しさの羊羹となっているのだ。

 ほかにもついなは和菓子系のものを作ることができるため、地味に竜は和菓子に関して舌が肥えている状態になっていた。

 

 ついなの言葉に竜はなるほどと感心しつつ、冷たいお茶と美味しい羊羹を食べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第473話




ゲームの説明や食べ物の説明をしたりするとあっさりと書けるなぁ。

まぁ、その話題で終わってしまうのだけれど・・・・・・






 

 

 

 

 ついなが用意してくれた冷たい緑茶と羊羹を口に運びながら竜はファンタシースターオンライン2ニュージェネシス────“PSO2NGS”を始める。

 ゲーム内にはすでに茜、葵、ゆかり、マキ、あかりもログインしており、どこかのエリアでレベル上げかなにかをしているのだろう。

 

 

「さーて、とりあえずはレベル上げとスキルポイント集めか」

「あっぷでーと、とかいうやつが入ってからなんや一気に映像が綺麗になった気がするなぁ」

 

 

 冷たい緑茶を飲みながらついなはテレビ画面を見て言う。

 

 ついなの言っている通り“PSO2”は大型アップデートによって“PSO2NGS”になり、そのグラフィックはかなりキレイなものへと変化していた。

 もともとの“PSO2”のときのグラフィックも十分にキレイなものだったのだが、“PSO2NGS”となってからのグラフィックはさらにキレイなものへとなっている。

 

 さらに加えて言うのであれば、“PSO2”のときにはキャラクターの指は基本的には動かないもので、つねに指は伸びた状態で固まっていて違和感のある動きがあることが多かった。

 しかし、“PSO2NGS”へとなってからはキャラクターの指が細かく動くようになり、ピースサインなどをできるようになったのだ。

 

 いままでまったく指が動かず、骨が入っていないなどと言われ、指に骨があるのはラスボスとクーナという名前の少女だけだった。

 そのため、指が動くという情報は“PSO2”プレイヤーたちに衝撃を与えたのだ。

 

 

「茜たちは・・・・・・、違うブロックみたいだな。っと、“KIRIKIRI”が同じブロックにいるのか」

 

 

 ゲームにログインした竜は茜たちがどこにいるのかをフレンドリストから確認する。

 

 “PSO2”というゲームは、最初に1~10の番号が割り振られた船、shipから1つを選択して所属する。

 shipの名前は1から順にそれぞれ、フェオ、ウル、ソーン、アンスール、ラグズ、ケン、ギョーフ、ウィン、ハガル、ナウシズとなっており、shipの名前はルーン文字から取られている。

 まずフレンドと一緒に遊びたいのであればこの時点で同じshipを選択していなければならず、課金して移動するか新しく別のshipにキャラクターを作るしか方法はないので気をつけなくてはいけない。

 また、同じ船にキャラクターを作ったとしてもshipの中はいくつものブロックで分かれているため、同じブロックにいなくては遊ぶことはできない。

 ログインした際に飛ばされるブロックは基本的にランダムなため、誰かと一緒に遊ぶ際はログインした後に合流するところを決めておくといいだろう。

 

 

「まぁ、自由にやっているみたいだしレベル上げに行くかなー」

 

 

 茜たちも“KIRIKIRI”も自由に遊んでいるのだからわざわざ声をかけなくても良いだろう。

 そう考えた竜はとくに誰かに声をかけたりすることもなくレベル上げをするためにモンスターの現れるフィールドへと向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第474話




UA13000突破記念の番外話を投稿しました。

ギリギリに書き終わるのは心臓に悪いなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 広大な大地。

 どこまでも続いていそうな空。

 

 そして、目の前に現れる無数の敵たち。

 

 

「おらおらおらおらおらおらおらおらおらろらろあろあおらろあろあおあらろらぁ!」

「・・・・・・ご主人、途中噛んでへんかった?」

 

 

 明らかに途中で竜のろれつが回っていなかったことをついなは指摘する。

 そんなついなの言葉など気にせずに竜は持ち手の上下に刃がついている武器、ダブルセイバーで敵を攻撃していく。

 敵の中にはまったく無害な黄色い鳥であるラッピーや、敵ではなく普通の動物扱いのものもいたりしたのだが、そんなことなどまったく気にせずに竜は攻撃を続けていく。

 

 

「次はちょっとでかいやつか!」

 

 

 なん体も現れていた敵たちを殲滅させた竜は続けて出現した中型の敵を確認して武器を変更する。

 べつになにか意図があっての武器変更ではなく、単純に違う武器を使いたい気分になったからである。

 

 ダブルセイバーから竜が変更した次の武器はやや短めの2本の剣、ツインダガーだ。

 こちらの武器はダブルセイバーよりも攻撃速度が速く、やろうと思えば敵に攻撃をさせずに倒すことすら可能なのだ。

 

 ツインダガーを構えた竜はそのまま一気に敵へと接近し、連続で攻撃を叩き込んでいく。

 普通の雑魚であればこの攻撃かその次の攻撃で倒されているのだが、さすがに中型の敵というだけあって簡単には倒されず、竜へと反撃をしてきた。

 

 

「っと、あぶなっ!」

 

 

 敵の放った攻撃を竜はギリギリのところで敵の攻撃を回避する。

 そして、敵の攻撃を回避した竜はそのまま敵へと接近していった。

 竜に攻撃を放った直後であるために敵は攻撃をすることができず、竜の放った攻撃を受けてあえなく消えていくのだった。

 

 竜が敵を殲滅した直後、ちょうど1通のメッセージが届いた。

 送り主は茜だ。

 

 

「えっと、なになに・・・・・・?」

『いま何しとるんー?もしも暇なにゃったら一緒にレベル上げとかどうや?』

 

 

 茜から届いたメッセージは一緒にレベル上げをしないかというお誘いのメッセージだった。

 メッセージを読み終えた竜は返信用のメッセージを開く。

 

 

「えーっと、『入力ミスって噛んだみたいになってたなwww』」

「いや、いきなりからかうんかい」

 

 

 竜が入力した返信メッセージの最初の1行の言葉についなは思わずツッコミを入れる。

 たしかに茜から届いたメッセージは入力をミスってしまったのかおかしくなってしまっている部分がある。

 しかし普通であればそこは触れないようにするものだろう。

 思いっきり触れてからかいにいく竜についなは思わず呆れたような声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第475話




わずかに時間を過ぎてしまった。

まぁ、1分だからまだ大丈夫かなぁ・・・・・・?






 

 

 

 

 茜から届いたメッセージに返信してからしばらくして、竜の近くに2人のキャラクターが近づいてきた。

 

 1人は赤系統の衣装に身を包み、背には大きな剣を装備している女性。

 もう1人は青系統の衣装に身を包み、背にはアサルトライフルを装備している女性。

 

 それぞれ茜と葵が操作しているキャラクターで、茜がパソコン、葵がプレイステーション4で操作をしている。

 もともと茜と葵は2人で1人のキャラクターを使っていたのだが、“PSO2NGS”が始まるということで新しく2人別々に始めたのだ。

 

 といってももともとのキャラクターを消したわけではないので、もともとのキャラクターの方で集めていたアイテムなども普通に扱えるのだが。

 

 

「っと、茜がパソコンだからプレステの通話だと話せないか。えーっと、ディスコードディスコードっと」

 

 

 2人がやって来たことを確認した竜はいつもの癖でプレイステーション4の機能の方で会話をしようとする。

 しかし、プレイステーション4の機能での通話ではパソコンである茜が会話をできないということを思い出し、いつもとは違う通話方法、ディスコードを起動した。

 

 ディスコードとはパソコンやスマホに入れることができるアプリで、チャットをしたり、写真や画像を送ったり、通話をしたりすることができるというものだ。

 そのくらいの機能ならばラインで良いのではないかと思うかもしれないが、ディスコードの特徴と言えばなんといってもパソコンと通話することができるということだろう。

 

 ラインだとお互いにアプリを入れているスマホ同士でしか通話ができないのだが、ディスコードであればアプリを入れているスマホ同士やパソコン同士はもちろんのこと、スマホとパソコンという組み合わせでも通話をすることが可能なのだ。

 

 そして、ディスコードを起動した竜は通話するところに茜と葵の2人が入っていることを確認してそこに入るのだった。

 

 

「あー、あー。聞こえているか?」

「大丈夫やで」

「バッチリ聞こえてるよー」

 

 

 声を出し、ディスコードの通話音声が問題ないかを竜は確認する。

 ディスコードで通話をするのにどうして音量調整をするのかと思うだろうが、ディスコードには通話をしている相手の音量を調節する機能があるのだ。

 

 

「さーて、これで準備オッケーや」

「ボクの方も大丈夫だよ」

「そんじゃあ、まぁ、レベル上げに行くとするかー」

 

 

 ディスコードの音量の調整も終わり、竜たちはパーティを組む。

 そしてレベルを上げるためにフィールドに繰り出していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第476話




アモングアスがやっぱり面白いなぁ

色々な人と話しながらやるのがとても楽しいです!






 

 

 

 

 竜、茜、葵の3人が操作するキャラクターがフィールドの中を駆けていく。

 目の前にはなん体もの敵が出現しているのだが、出現と同時に竜たちの攻撃によって即座に消滅していった。

 

 

「っし!デイリークエスト完了!」

「お疲れさんやー」

「やっぱり3人だとデイリークエストもすぐに終わるねー」

 

 

 出現した敵をすべて倒した竜はタスクの確認をし、デイリークエストがすべて完了したことを確認した竜は満足そうに呟く。

 

 デイリークエストとはその名の通り1日(デイリー)分のクエストで、“PSO2”では毎日4時に更新される。

 デイリークエストの内容はその日によって異なっており、特定の場所でアイテムを集めたり、特定の場所の敵を指定数討伐したりするなど、ものによってはめんどくさいものもあったりする。

 まぁ、めんどくさいものではなるのだがそれでも達成すれば報酬としてお金と経験値をもらうことができるので、達成をしておいて損はないのだ。

 

 竜の言葉に茜と葵も同じようにタスクを確認し、自分たちのデイリークエストが達成してあることを確認していた。

 

 

「デイリーのおかげでお金も多少は増えるしやっぱりお得やねぇ」

「経験値も入るから多少はレベル上げにもなるしな」

「それじゃあ、デイリーも終わったしレベル上げに行く?」

 

 

 装備の見直しなどをし、葵はレベル上げに行くかの確認をする。

 デイリークエストも終わったために基本的にやらなくてはいけないことは戦闘能力上げくらいなので、レベル上げや装備の強化をやるくらいなのだ。

 

 

「そんじゃあレベル上げに行くか。どのあたりに行く?」

「せやねぇ・・・・・・。レベル的には研究所辺りやろうか」

「あそこなら移動する距離もそこまで多くないしね」

 

 

 竜の言葉に茜は少しだけ考え込み、どこに行くのかの提案をする。

 

 茜の言う研究所というのは、“PSO2NGS”のフィールドにあるエリアの1つであるヴァンフォード研究所跡という名前の場所で、他の山などに比べて比較的移動が楽な場所なのだ。

 

 茜の言葉に竜たちは肯定し、ヴァンフォード研究所跡に向かうことにした。

 

 

「さーて、じゃんじゃんバリバリ狩って行くぞー!」

「うちのソードが血を欲しているでー!」

「お姉ちゃんが使ってるのはチェーンソーでしょ・・・・・・」

 

 

 ダブルセイバーを構える竜とチェーンソーの武器迷彩を装備したソードを構える茜。

 血の気があふれている2人の姿に葵は呆れたような声をあげる。

 

 そして、竜たちは再び武器を手に持って走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第477話




一時間も過ぎてしまった・・・・・・





 

 

 

 

 2本の刀を上下に連結させたダブルセイバー、武器迷彩の“*秋風一葉”を装備した竜と、凶悪に回転してすべてを荒々しく切り裂くといった雰囲気を醸し出しているチェーンソーのソード、武器迷彩の“*チェインベルク”を装備した茜。

 そしてその後ろをやや遅れながらバラの巻き付いた杖の形のアサルトライフル、武器迷彩の“*ローズオーナメント”を装備した葵が追いかけていく。

 

 武器迷彩を装備しているために竜たちが装備している武器の詳細は不明だが、それでも出現している敵をそこまで苦労せずに斬り捨てられていることからそこまで弱い武器ではないのだろうということがうかがえる。

 

 ちなみに、竜が選択しているクラスは味方のステータスを強化する“シフタ・デバンド”をメインのスキルとして立ち回る“テクター”をメインクラスとしており、もう一つ選べるサブクラスには素早い連続攻撃が可能で高い戦闘能力を持ち、ツインダガー、ダブルセイバー、ナックルを扱う近接クラスの“ファイター”を選択している。

 

 

「そら!シフデバだっ!」

「サンキューや!いっくでー!“ツイストザッパー”!」

「ボクも行くよ!“ホーミングダート”!」

 

 

 範囲内の味方のステータスをアップするスキル“シフト・デバンド”を竜が発動する。

 

 “シフタ・デバンド”の効果は効果内のキャラクターの攻撃力を110パーセントに上昇させ、敵からの攻撃を90パーセントに抑えるもので、数値としては少ないように思えるかもしれないが、10パーセントのステータスを変化させるのをデメリットなしで味方全体にかけることができると考えると強力なものだと思えるのではないだろうか。

 

 竜によって強化された茜と葵は範囲攻撃の出来る技を放つ。

 

 

「俺もやる!“アンチェインサークル”!」

 

 

 茜の振るったチェーンソーの一撃と、葵の放った弾丸が複数の敵を消滅させていく。

 それを確認した竜は続けて同じように範囲攻撃を放つ。

 

 竜はダブルセイバーを投擲して自身の周囲にいる敵を切り裂いていく。

 そして、投擲したダブルセイバーをキャッチして前方にいる敵をさらに切り裂いた。

 

 

「っし、とりあえず一掃できたな」

「せやね。そんなら次はEMPバースト目指していこかー」

 

 

 周囲の敵をすべて倒し、竜は一息を吐く。

 

 竜の言葉に茜は肯定し、次の敵が出現している場所に向かおうと提案する。

 

 

「報酬がでかいもんな。うっし、どんどんいくぞー」

 

 

 そう言って竜たちは次の敵が出現しているところに向かって行く。

 連続して敵を倒していくことができればレアな敵が出現する可能性も上がるので、可能ならば狙った方が良いだろう。

 

 それから、竜たちはしばらくレベル上げをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第478話





ゲームの話をしてると書きやすいけど同じような内容になってしまっている気が・・・・・・

とりあえずもうしばらく“PSO2NGS”の話は続く予定です。






 

 

 

 

 レベル上げをおこなっていた竜たちは周囲の敵を殲滅させたことを確認して一息を吐く。

 一度周囲の敵を殲滅すれば少しの間は周囲に敵が出現することもないので、安心してアイテムボックスの確認などをすることができるのだ。

 

 

「そういえば2人ってなんのクラスで戦ってるんだ?とりあえず茜が“ハンター”で葵が“レンジャー”だっていうのは分かるんだが」

「うちはメインクラスを“ハンター”でサブクラスを“ガンナー”にしとるで。まぁ、疑似的な“PSO2”のときの“ヒーロー”クラスの再現やね」

「ボクはメインクラスを“レンジャー”でサブクラスには“フォース”を選んでるよ。ボクも“PSO2”のときの“ファントム”クラスの再現だね」

 

 

 ふと竜は茜と葵の2人がなんのクラスで戦っているのかが気になり、2人に尋ねる。

 味方のメインクラスとサブクラスを知ることはある程度の戦い方を知る上では知っておいた方が良い情報で、聞いておいて損はないのだ。

 

 例えば、味方のメインクラスが竜の使っている“テクター”クラスであればステータス強化の出来る“シフタ・デバンド”を受けることが可能となり、葵の使っている“レンジャー”クラスであれば“ウィークバレット”というスキルで撃った場所を弱点にしてダメージを上げたりすることなどができたりする。

 そのため、味方がなんのクラスで戦っているかを知っていればそれに合わせた動きをある程度はできるようになるのだ。

 

 まぁ、とはいっても味方のクラスを知っていなかったとしてもある程度は合わせることができるのが“PSO2”なので、そのあたりは本当に個人の好みだともいえるだろう。

 

 

「ほーん。茜はけっこう攻撃的な構成で、葵は遠距離戦闘系の構成なんだな」

「せやね。竜が使っとるんはメインが“テクター”でサブが“ファイター”やろ?」

「うんうん。“シフタ・デバンド”を使っていてダブルセイバーを使ってるんだから間違いないよね」

 

 

 茜と葵のクラスの編成を聞き、2人がどういった戦い方をするのかを竜は改めて理解する。

 竜の言葉に茜と葵は肯定し、使っていたスキルと武器から推測していた竜のクラスを言う。

 

 “シフタ・デバンド”を扱うことができるクラスは“テクター”のみ。

 そしてダブルセイバーを装備することができるクラスは“ファイター”のみ。

 さらに言えば“シフト・デバンド”を扱えるのはメインクラスが“テクター”のときのみなので、これらの情報から茜と葵は竜のメインクラスが“テクター”で、サブクラスが“ファイター”なのだと推測できたのだ。

 

 

「まぁな。・・・・・・っと、緊急か。2人は緊急に参加できるか?」

「一応参加できる程度には戦闘力は上げてあるで」

「ボクも少し超えてるくらいだからギリギリ参加はできるよ」

 

 

 不意にアラーム音が鳴り響き、緊急クエストの通知が表示される。

 “PSO2NGS”となってからは“PSO2”のときとは異なり、レベルによる参加資格ではなく、装備やレベル、スキルの取得状態などから算出される戦闘力を基準として緊急クエストに参加できるかが決まる。

 

 竜の言葉に茜と葵は問題なく緊急クエストに参加できるということを答える。

 ちなみに、緊急クエストの現時点での参加資格は“戦闘力1184以上”なので、地味に参加できるようになるまで苦労したりする。

 

 

「っし、んじゃあ緊急に行っとくか」

「了解や!」

「ボクもジャンジャン弱点を作っていくね!」

 

 

 茜と葵の言葉に竜はうなずき、緊急クエストに向かうことを決める。

 そして、3人は緊急クエストに参加するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第479話




パソコンにデフォルトで入っているペイントソフトで画像編集ができることを今さら知ったぁ・・・・・・

まさかこんな簡単なことだったとは・・・・・・





 

 

 

 

 無事に緊急クエストも終わり、竜たちはメインの町へと帰還する。

 緊急クエストの報酬でなかなかいい装備が出たのか、茜がとくにご機嫌な様子だ。

 

 

「いやー、プリセットのレベル5が付くとかめっちゃラッキーやったなぁ」

「レベル5なんてなかなか付かないもんな。ちなみにどのプリセットが付いたんだ?」

 

 

 茜の言うプリセットとは、戦闘で敵を倒した際に装備がドロップするのだが、その際にランダムで付与される能力のことだ。

 このプリセット能力は現状では他の特殊能力のように移動させたり強化したりすることができず、同じような装備でもドロップごとに微妙に性能が異なってくるため、高性能なプリセット能力が付与された武器が手に入るまで厳選が必要になったりするのだ。

 

 

「えーっと、落ちた武器は“キャトリアソード”で付いたプリセットは“フィクサ・アタック”や!いまの環境では一番強いソードに最高倍率の威力アップが付いた感じやね」

「マジか。それは本当に大勝利じゃないか・・・・・・」

「ボクの方は落ちたのは“フォーシスライフル”だけどプリセットは付いてないしなぁ」

 

 

 茜の言った武器の名前とプリセットの内容に竜は思わずといった様子で呟く。

 

 茜がドロップしたという武器“キャトリアソード”というのは、茜が言っているように現環境で最も強いソードであり、付いているプリセットも“フィクサ・アタック”といって威力を5パーセント追加するのでかなりの攻撃力をほこることになるのだ。

 ちなみに、たった5パーセントの追加と思うかもしれないが、無条件でダメージ量を増加させるので実はかなり優秀な効果なのだ。

 プリセットには他にもクリティカル発生率を上げるものやクリティカル時の威力を上げるものなんかもある。

 クリティカル時の威力アップの方がダメージ量の上昇は多いのだが、単純に確実に威力が上がるという点で竜と茜は“フィクサ・アタック”の方を好んでいた。

 

 

「ご主人、そろそろお風呂に入った方がええんとちゃう?」

「ん?ああ、もうこんな時間か」

 

 

 ついなに声をかけられ、竜はテレビ画面から時計へと目を向ける。

 見ればいつの間にかかなりの時間が経過しており、それだけ“PSO2NGS”に熱中していたのだとうかがえた。

 

 

「つーわけで今日のところはここまでかなー。そろそろ風呂に入らないとだし」

「了解や!次までにさっき手に入れたソードを強化して驚かせたるからなー」

「分かったよ。お姉ちゃん、強化する前にぼくたちもお風呂だからね?」

 

 

 さすがについなの言うようにそろそろお風呂に入らなくてはまずいと思った竜はゲームを切り上げることを茜と葵に言う。

 竜の言葉に2人も時計を確認したのか、納得する。

 

 そして、竜はゲームを止めてお風呂に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第480話




PSO2NGSのレベル上げは大変だけど、メインクラスの方をレベル上げしておけばだいたいなんとかなるのは助かるなぁ。

さて、今回からまた場面が動きます。






 

 

 

 

 ある日のお昼休み。

 いつものように竜たちは保健室でお昼ご飯を食べていた。

 

 

「・・・・・・海に行きたいですね」

 

 

 ぽつり、となんの前触れもなくあかりが呟く。

 唐突なあかりの呟きに竜たちはそれまで話していたそれぞれの会話を中断して首をかしげながらあかりを見る。

 

 

「どうしたんだ?急に海に行きたいだなんて」

「海かぁ。そういえば最近は海とかも行ってへんなぁ」

「そうだね。小学生くらいのときならお父さんとかに海に行きたいって言ったりしたよね」

「海ですか。たしかに学生になってからほとんど行かなくなりましたね」

「うんうん。小学生の頃は私とゆかりんの家でよく一緒に行ってたよね」

 

 

 どうしていきなり海に行きたいなどという言葉が出たのかを不思議に思いながら竜はあかりに尋ねる。

 

 そんな竜をよそに茜たちはそれぞれの海への思いをしゃべり始めた。

 

 海と言えば連想してイメージされるのはやはり、青い大きな海と照りつける熱い太陽。

 そして、砂浜となぜか置いてあるスイカだろうか。

 

 海と聞けば全員とは言わないがおおよその人がこのようなイメージをすると思われる。

 そんな海の光景を頭の中に浮かべながら茜たちは話していた。

 

 

「いえ、ここのところ暑くなってきたじゃないですか」

「まぁ、そうだな」

 

 

 竜へと顔を向け、あかりは確認するように聞き返す。

 あかりが質問の答えを答えていないとは思いつつも、竜はあかりの言葉を肯定する。

 

 

「熱くなってきたらやっぱり避暑が必要になってきますよね?」

「そうだな」

 

 

 念押しするかのようなあかりの言葉に竜はもう一度うなずいて肯定する。

 

 

「というわけで海に行って皆で涼みましょう!」

(あいだ)の説明が一気になくなったな?!」

 

 

 竜がうなずいたのを確認したあかりは元気良く腕を上に突き上げながら海に行こうと大きく言う。

 いきなり出てきた結論に竜は思わずツッコミを入れる。

 

 まぁ、あかりの言っていることの意味が分からないわけではないのだ。

 

 

 最近熱くなってきた。

 

   ↓

 

 熱いから避暑に行きたい。

 

   ↓

 

 そうだ海に行こう。

 

 

 というシンプルな思考のもとにあかりは海に行こうと言い出したのだ。

 

 

「おー、ええやん!」

「え、でもこの時期の海だとどこも混んでいるんじゃないの?」

「人がたくさんいてはせっかく海に行っても涼しく思えませんよね」

「いくら海でも人がたくさんいたらねぇ・・・・・・」

 

 

 あかりの言葉に茜は嬉しそうに声をあげる。

 そんな茜の声に葵が待ったをかけた。

 

 暑い時期の海。

 それは確かに避暑になるだろう。

 しかし、そう考えるのはあかりだけではない。

 うかつに海に行ってしまえば同じような考えの人間が大量にいて人ごみにごった返してまともに避暑にならなかった。

 なんてことになる可能性もあるのだ。

 

 

「あ、それなら大丈夫ですよ。紲星家(うち)のプライベートビーチがあるので」

「あっちゅう間に気にしとったことが解決されたなぁ」

 

 

 葵たちの疑問をあかりはあっさりと解決する。

 そんなとくに苦労することもなく解決された疑問に、竜の頭の上に乗っかっていたついなは思わず呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第481話




アモングアスが有線のプレステ4のコントローラーでできることに気がつき操作がしやすくなりました。

これで鬼ごっこでも追いかけやすくなるはず!





 

 

 

 

 あかりの唐突な「海に行きたい」という言葉が出たお昼休みから時間は進んで放課後。

 今日は“cafe Maki”でのバイトもないため、竜たちはのんびりと帰る準備をしていた。

 

 

「そういえばお昼休みのあかりの言っていた海に行きたいってのはどれくらい本気だったんだろうな?」

「いきなりやったもんなぁ。でも場所とかまで言っとったんやからかなり本気やったんやない?」

 

 

 帰る準備をしながら竜はふとお昼休みのことを思い出して呟く。

 

 お昼休みにあかりが「海に行きたい」と言い出してから、話題は海に行ったらの話や、海でどんな思い出があったかなどの話に移行していったため、具体的にいつ海に行きたいかなどの話はせずにお昼休みが終わってしまったのだ。

 そのため、まだ海に行くことが確定しているわけではないために竜はあかりがどれくらい海に行きたいのかが分からなかったのだ。

 

 竜の言葉に竜の頭の上に乗っているついなもうなずきながらお昼休みのときのあかりの姿を思い出す。

 

 

「先輩たち―、かーえりーましょー!」

 

 

 竜とついながそんな話をしていると、教室の扉が開いてあかりが教室に入ってきた。

 あかりの姿を確認した竜たちはそれぞれ自分たちの荷物を持って立ち上がる。

 

 

「あいかわらずあかりはこっちの教室にくるのが速いな」

「まぁ、そこは秘密の技能が私にはありますからね!」

 

 

 あかりの学年と竜たちの学年のホームルームが終わる時間帯は同じなはずなのにいつもあかりは竜たちの教室に早く来ることができている。

 竜の言葉にあかりはえへんと胸を張りながら答えた。

 

 その際にあかりの胸についている立派なものがたゆんと揺れ、それを見た茜、葵、ゆかりの3人から刺殺でもできそうなほどに鋭い視線が飛ぶのだが、あかりはそれをさらりとスルーするのだった。

 

 

「あ、そうだ。皆さんで海に行くために今度のお休みに水着を見に行きませんか?」

「おお、ええやん。新しい水着とかも気になっとったしなぁ」

「ボクたちが持ってる水着も去年のデザインだしね」

「新しい水着ですか。そうですね。私も少しサイズが変わっているかもしれませんし・・・・・・」

「あ、ゆかりんも水着のサイズが変わってるの?私も少し前に水着を見つけて着てみたんだけどけっこう小さくなっちゃっててさぁ」

 

 

 竜たちが上履きから靴に履き替えていると、不意にあかりが手を叩いて提案をする。

 あかりの提案に茜たちは嬉しそうに水着についての話を始める。

 

 女子の水着の話題ということもあって竜はなるべく会話に混ざらないように気をつけながら少しだけ距離を取った。

 

 

「というわけで今週の土曜日に竜先輩の家に集合ということで」

「ってぇ、俺ん家なのか?!」

 

 

 聞こえてきた土曜日の集合地点に竜は思わず声をあげる。

 水着を買いに行くのは女子だけで行くものだと思っていた竜は自分の家が集合場所にされたことに驚いてあかりたちを見る。

 

 しかし、そんな驚いた様子の竜のことをあかりたちは不思議そうに見ており、集合場所が変更されることはなく、自分も女子の水着の買い物に連れていかれるのだと竜は察するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第482話




海に行く前にやっぱりやっておかないといけない大切なこと。

さて、海に行けるのはあとどれぐらい経ってからなのだろうか・・・・・・・。







 

 

 

 

 土曜日。

 

 あかりがお昼休みに「海に行きたい」と言った日から日が経ち、竜の家の前に茜、葵、ゆかり、マキ、あかりの5人が集合していた。

 

 そして、茜が竜の家のインターフォンを鳴らす。

 

 

「・・・・・・マジで俺も行くのか?」

「まぁ、当然やね」

「男の人の意見も欲しいもんね」

「竜くんも新しい水着を見たりしませんか?」

「新しい水着を見るのも楽しいよ?」

「ほら、先輩たちも一緒に行こうって言ってますから。ね?」

 

 

 インターフォンが鳴ったことにより、家の中から竜が顔を出す。

 そして、茜たちの姿を確認した竜は困り顔になりながら本当に自分も水着を買いに行くのについていくのかと確認を取る。

 

 竜としてはやはり女性の買い物、しかも水着ということもあって一緒に買い物に行くのはなかなか抵抗があるのだ。

 

 そんな竜に茜たちは当然といった様子でうなずいた。

 茜たちの言葉に竜は諦めたように息を吐き、玄関から出てきた。

 

 

「はぁ・・・・・・。それで?どこに水着を見に行くんだ?」

「そうですね。この辺のお店だとあまり代わり映えはしませんし・・・・・・」

「でしたらうちの車で少し遠出しましょうか」

「おお、それはいいアイデアやね!」

「遠出ってどこに行くの?」

 

 

 家のカギを閉めた竜はどこに行くのかを茜たちに尋ねる。

 竜の言葉にゆかりは顎に手を当ててどこに行こうかと悩み始めた。

 どうやらどこに水着を見に行くかはノープランだったようで、ゆかりだけでなく茜、葵、マキまでもが悩み始めてしまった。

 そんなゆかりたちにあかりが自分の家の車で遠出するのはどうかと提案する。

 

 あかりの提案に茜はパチンと手を叩いて賛同する。

 

 

「そうですね。東京の方にでも行ってみましょうか」

「ふむ、東京ですか。たしかに東京の方ではこちらとはまた違った水着が見れるかもしれませんね」

「うんうん。可愛いやつとかいろいろとありそうだよね!」

 

 

 葵のどこに遠出するのかという言葉にあかりは少しだけ、東京に行くのはどうかと提案する。

 東京であればいろいろな種類の洋服屋もあるだろうし、いくつもの水着を見比べるのにもちょうどいいだろう。

 

 あかりの提案にゆかりたちは乗り気になってうなずいた。

 

 

「それじゃあ東京に向かうということで大丈夫ですね?」

「問題ないでー」

「ボクも大丈夫だよ」

「車の方はお願いしますね?」

「わーい、東京だー」

 

 

 あかりの言葉に茜たちは嬉しそうに答える。

 そして、あかりの案内のもと紲星家の車が置いてある場所に向かうのだった。

 

 

「・・・・・・この男女比率で東京に。不安だ・・・・・・」

「まぁ、その辺は仕方ないんとちゃうかなぁ・・・・・・」

 

 

 紲星家の車に向かう茜たちの姿を見ながら竜は呟く。

 そんな竜の言葉に近くに立っていたついなが答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第483話




アモングアスはやっぱりPS4のコントローラーを使った方が楽ですね。

さすがに全部のタスクをやることは難しいけど、それでもかなり楽にやることができました!






 

 

 

 

 あかりの家の使用人が運転する車に乗って竜たちは東京に向かう。

 あかりの家の車なためにかなり快適に車に乗っていることができる。

 

 

「あ、イタコ先生がいますね」

「ほんまや。なんや、上機嫌にお酒の入った袋を持っとるな?」

「生徒会長ときりたんちゃんもいるから3人でお出かけしているのかな?」

「きりたんと一緒にいるのは学校の友だちかな?」

 

 

 車の窓から外を見ていたゆかりが不意に呟く。

 見れば少し先のところにイタコ先生がおり、その近くにはずん子、きりたん、ウナの3人の姿もあった。

 いまの時間的にもお店はまだ空いていないはずなので、おそらくはイタコ先生が持っているのは自前のお酒で、どこかに持って行って飲もうということなのではないだろうか。

 

 ゆかりの言葉を聞き、イタコ先生たちの姿を確認したあかりは運転手に指示を出して車を止める。

 

 

    そして────

 

 

「ちゅわぁっ?!」

「え、なんですかあなたたちは?!」

「なんですか?!」

「うなぁっ?!」

 

 

 使用人たちに指示を出してイタコ先生たちを強制的に車に乗せるのだった。

 突然見知らぬ人間に囲まれて怪しげな高級車に乗せられ、当然ながらイタコ先生たちは驚き、おびえたような表情を浮かべている。

 

 

「イタコ先生、それに皆さん、おはようございます!」

「ちゅ、ちゅわぁ・・・・・・?あ、あかりさん、ですの・・・・・・?」

「えええ・・・・・・。まさかの拉致・・・・・・?」

 

 

 車に乗せられてきたイタコ先生たちにあかりは笑顔で挨拶をした。

 

 あかりに声をかけられ、イタコ先生は驚きながら車の中を確認する。

 そして、車の中にいるのが竜たちだということに気がつき、ホッと息を吐いた。

 

 

「・・・・・・はぁ、あかりさん。いきなり人を車に乗せるのはやめてくれると助かるのですが・・・・・・」

「はーい、次から気をつけまーす」

「ゆ、誘拐とかじゃなくてよかったです・・・・・・」

「べ、べつに私はビビッてなんかありませんでしたけどね!」

「でも、とーほく。目の端に涙がついてるぞ?」

 

 

 注意するイタコ先生の言葉にあかりはとくに堪えた様子もなく答える。

 そんなあかりとイタコ先生のやり取りを見て周りを見る余裕が生まれたのか、ずん子、きりたん、ウナの3人もホッと息を吐いて車の座席に脱力して身を任せた。

 

 

「それで?どんな理由で私たちを車に乗せたんですの?」

「あ、これから東京に水着を見に行くのでイタコ先生たちも一緒にどうかなって思ったんです」

「水着ですか。たしかに新しいものとか気になりますね」

「水着は気になるけど私、今日はお金を持ってないぞ?」

 

 

 溜め息を吐いてイタコ先生はどうして自分たちを車に乗せたのかを尋ねる。

 

 イタコ先生の言葉にあかりはどうしてイタコ先生たちを車に乗せたのかを答える。

 あかりの言葉を聞き、ずん子、きりたん、ウナたちは嬉しそうに声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第484話




今回はちょっと上手く書けていなかったなぁ。





 

 

 

 

 イタコ先生、ずん子、きりたん、ウナの4人を車に拉致した後。

 なんやかんやで道中でイアとオネの2人も見つけ、イタコ先生たちと同じようにあかりは2人を車に運び込むことを指示する。

 

 

「さて、それでは改めて東京に向かいましょう!」

「まって?!いきなり車に詰め込まれた説明がされていないんだけど?!」

「なにがどうなっているのよ?!」

 

 

 イアとオネを無理やり車に乗せたあかりはそう言って車を動かさせる。

 イアとオネが無理やり車に乗せられた光景に、イタコ先生たちは自分たちのときもこうだったのかと呆れたような視線をあかりに向けていた。

 

 あかりの言葉に状況を掴めていないイアとオネは驚きながら声をあげる。

 

 

「これから皆さんで東京に水着を見に行くんですよー。せっかくなのでお2人も一緒にどうかと思いまして」

「そう思ったからって無理やり車に拉致るのはどうかと思うんだがなぁ・・・・・・」

「というか、ついさっき次から気をつける言うたばっかりやん・・・・・・」

「10分も経ってなかったよね?」

 

 

 驚いて声をあげていたイアとオネにあかりは簡単にどこに向かうのかを答える。

 

 そんなあかりの姿に竜たちは遠い目をしながら呟く。

 先ほど、詳しく言うのであればイタコ先生たちを車に拉致した直後にイタコ先生に注意を受けていたにも関わらず、先ほどと同じように無理やりイアとオネを車に拉致したことに竜たちは呆れたようにつぶやいた。

 

 

「水着を・・・・・・?」

「姉さん、たぶん少し前に保健室で彼女が言っていた海に行きたいって言っていたことが関係しているんじゃないかしら?」

 

 

 あかりの水着を見に東京に行くという言葉にイアは首をかしげる。

 普通に考えて水着を買いに行くだけであればわざわざ自分たちを拉致する必要はない。

 

 イアがあかりの言葉に首をかしげていると、もしかしたらといった様子でオネが言った。

 

 

「そうですよ。それで海を見に行くのにイア先輩やオネ先輩、イタコ先生たちも一緒にどうかと思いましたので」

「そう思ってくれるのは嬉しいのですが、もう少しちゃんと報告、連絡、相談して欲しかったですわね・・・・・・」

「相談もなにもありませんでしたもんね・・・・・・」

 

 

 オネの言葉をあかりは肯定する。

 あかりとしては保健室にいた全員を海に連れていこうと考えていたようで、イタコ先生たちやイアとオネを特にためらうことなくイタコ先生たちを車に拉致っていた。

 

 そのことを見ていた竜たちはただただ溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第485話




時間をまたわずかに超えてしまった・・・・・・






 

 

 

 

 無事に東京に到着した竜たちは車から降りて伸びをする。

 竜、茜、葵、ゆかり、マキ、あかり、イタコ先生、ずん子、きりたん、ウナ、イア、オネの合計12人が車から出てきたということで、そこそこに注目をあびてしまっていた。

 

 ちなみに、イタコ先生が持っていたお酒の入った袋などは車に備え付けられている冷蔵庫の中に保管されている。

 

 

「っっ~~・・・・・・、っふぅ。それで?行くお店とか決まってるのか?」

「そうですね。とりあえず私がときどき買い物をしているお店に行こうかとは考えていますよ」

「あかりが行くお店とかめっちゃ高そうなイメージあるんやけど・・・・・・」

「ボクたちが普段から行くお店よりも高そうだよね」

 

 

 伸びをし終え、竜はあかりにどこのお店に行くか決まっているのかを確認する。

 竜の言葉にあかりはどこに行こうと考えているのかを答えた。

 

 あかりが答えた内容に、茜と葵は呟く。

 2人の呟きにゆかりたちも同意なのか、しきりにうなずいていた。

 

 

「大丈夫ですよー。なんだったら私が支払いもしますし」

「いえ、それはさすがに・・・・・・」

「あははは・・・・・・、まぁ、見るだけ見てみようかな?」

 

 

 茜たちの呟きが聞こえたのか、あかりは笑いながら答える。

 あかりが払うと言ったことにゆかりは申し訳なさそうに言う。

 

 そんなあかりの言葉にマキは苦笑しながら買う買わないはともかくとして見に行くだけ行ってみようと提案した。

 

 そして、竜たちはあかりの案内のもと、あかりがときどき買い物に行っているというお店に向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 あかりの案内のもと、竜たちはお店に到着する。

 

 お店の前に並んでいる洋服などはとても可愛らしく、竜以外の女性人たちは目を輝かせていた。

 

 

「これはすごいですわねぇ」

「こんなに可愛い服は初めて見ましたね!」

「おー、ウナが撮影で着ている服とそっくりなのがある」

「さ、それじゃあお店の中に入りましょうか」

 

 

 お店の前に並んでいる服を見てテンションが上がってきている茜たちに声をかけ、お店の中に入る。

 あかりがお店の中に入ったのをみた竜たちもあかりに続いてお店に入るのだった。

 

 

「紲星様、いらっしゃいませ。本日はどのようなご用兼でしょうか」

「今日はちょっと新作の水着を見に来ました。こちらの皆さんの分も見繕いたいと思っていますので、お願いしますね」

 

 

 お店の中に入ったあかりの前になにやら偉そうな見た目の人物が現れる。

 その人物はあかりに向かって頭を下げ、声をかけた。

 

 

「承りました。皆さまもご自由に店内をご覧ください。気になったものがありましたらスタッフにお申し付けてくだされば大丈夫ですので」

 

 

 いつの間にかお店の中には竜たちしかお客がおらず、貸し切りの状態となっていた。

 貸し切りの状態にいつの間にかなっていたことに竜たちは驚きつつ、お店の中を自由に見ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第486話




誰にどんな水着を着せようかなぁ

悩みどころです。






 

 

 

 

 あかりが連れてきてくれたお店の中を竜たちは自由に見ていく。

 お店の中には様々な服が展示されており、あかりたちは思い思いに店の中を歩いていた。

 

 

「えっと、とりあえず水着を見てみるか」

「ちゅうても男物の水着なんてそこまで種類はなさそうやけどねぇ」

 

 

 男性ものの服が置いてある場所へ向かいながら竜は呟く。

 竜と一緒に歩きながらついなは女性ものの服と比べて種類の少ない男性ものの服について言った。

 

 おしゃれなどの理由からか、男性ものよりも女性ものの方が服の種類は多く、それは水着にも言えるのだ。

 

 

「まぁ、基本的な水着の形はそこまで違いはないしな。ついなはなにか水着とかは見ないのか?」

「うち?せやねぇ・・・・・・。あ、これとか良さそうや」

 

 

 歩きながら竜はついなも水着を選ばないのかを尋ねる。

 竜の言葉についなはキョロキョロと周囲に置いてある水着を見た。

 

 そして、いくつかの水着を見ていたついなは1つの水着を手に取った。

 

 

「これなら動きやすそうやね!」

「ぶふぅっ?!」

 

 

 手に取った水着をじっくりと見ていたついなの服が光ったと思った瞬間、ついなの服がついなの持っている水着とまったく同じものに変化した。

 ついなの着ている服が水着に変化したことに竜は驚き、思わず吹き出してしまう。

 

 ついなが手に取った水着。

 それは普通の水着よりも布の面積が小さいもので、動きやすいことは動きやすいかもしれないが着ようと思う人間はほとんどいないのではないかと思えるもの────

 

 

       ────マイクロビキニだった。

 

 

 まぁ、目の前でいきなり女の子がマイクロビキニ姿になってしまえば誰でも驚くのは当然なので、竜の反応も仕方がないだろう。

 

 

「ちょ、ま、とりあえず元の服に戻ってくれ・・・・・・!」

「よく分からんけど分かったわ」

 

 

 ついなの姿は基本的には一般人には見えないのだが、いまここにはついなの姿が見えるイタコ先生、ずん子、きりたんの3人がいる。

 3人についなの姿が見えないように気をつけながら竜はついなに元の服装に戻るように言う。

 竜の言葉についなは不思議そうにしつつ、元の服装へと戻った。

 

 

「・・・・・・ふぅ。とりあえずさっきの水着はやめておいてくれ」

「動きやすそうやったんやけどなぁ・・・・・・」

 

 

 ついなが元の服装に戻ったことを確認した竜はホッと息を吐く。

 そして、竜はついなにさすがにマイクロビキニは止めておくように言った。

 

 竜の言葉にうなずきつつ、ついなは少しだけ残念そうにするのだった。

 

 

「とりあえず俺は・・・・・・、この水着かなぁ」

 

 

 そう言って竜は目の前にあった水着を手に取った。

 竜が手に取った水着はシンプルなもので、とくに変わったところもない普通の水着だった。

 

 

「あ、竜先輩。ちょっと来てくれませんか?」

「うん?まぁ、良いけど・・・・・・」

 

 

 竜が水着を選んだのと同時にあかりが現れ、竜の手を引く。

 あかりの言葉に竜はうなずき、手を引かれるままに連れていかれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第487話




さーて、まずはあかりの水着ですかねー。

ついな?

ついなは竜がマイクロビキニを却下しましたので。





 

 

 

 

 あかりに手を引かれ、竜は試着室の前に連れていかれる。

 試着室の前に連れてこられた竜はこれからなにが起こるのかをなんとなく察し、表情をこわばらせた。

 

 

「えーっ・・・・・・と。もしかしてとは思うけど・・・・・・」

「はい。ちょっと気になる水着がいくつかあるので竜先輩の意見を聞きたいと思いまして!」

 

 

 まさかと思いつつ竜があかりに尋ねると、あかりはうなずいて水着を選ぶのを手伝ってほしいと答えた。

 あかりの答えに竜は思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

 

「それでは着替えてくるので少し待っていてくださいね!」

「お、おう・・・・・・」

 

 

 そう言ってあかりは試着室の中へと入っていく。

 意見を聞きたいと言われた以上は離れるわけにはいかないので、竜はがくりと肩を落としながら待つのだった。

 

 

「ご主人も大変やねぇ・・・・・・」

「ああ・・・・・・。正直、女性の水着とか分からないんだけどなぁ・・・・・・」

 

 

 竜の選んでいた水着を手に持って竜とあかりの後をついてきていたついなは肩を落としている竜に声をかける。

 ついなの言葉に竜はため息交じりに答えた。

 

 竜からすれば女性ものの良し悪しなどは分かるはずもなく。

 また、女性がどういったものを好んでいるのかなどもよく分かっていない。

 そのため、あかりに意見を聞きたいと言われてもなにを答えればいいのかがいまいち分からないのだ。

 

 

「まぁ、あかりとしてはご主人に似合うかどうかを答えてほしいだけやと思うし、そんなに気負わなくてもええちゃう?」

「そうは言ってもなぁ・・・・・・」

 

 

 そこまで気負う必要はないと言うついなの言葉に竜は困り顔になりながら顔を上げる。

 

 女性同士であれば普通に言えるようなことでも男性が言ったことによってその言葉にお意味が違って捉えられるかもしれない。

 現実と非現実(フィクション)を同一視するなと言われるかもしれないが、そういった系統の小説などを呼んだ経験がある竜はどうしても気にせずにはいられなかったのだ。

 

 まぁ、いくら非現実(フィクション)と言っても、それは結局は人が思いつくことができること。

 それはつまり現実にありえてもおかしくはない事象でもあると言えるので、竜の心配も杞憂であると完全に断言することはできないのではないだろうか。

 

 人が想像することができることはいずれ、もしかしたら実現する可能性があるもの。

 そう考えれば非現実(フィクション)だと馬鹿にして切り捨てることもできないのではないだろうか。

 

 竜とついなが話していると、あかりが入っていった試着室のカーテンが開き、中からあかりが姿を現した。

 

 

「えへへ、どうでしょうか?」

 

 

 試着室の中から出てきたあかりが着ていたのはオレンジ色の水着だった。

 腰の部分にはスカートのような布がついており、胸の部分には白い星のマークが大きく描かれている水着をあかりはやや恥ずかしそうにしながら竜に見せていた。

 

 普段の制服姿からでも想像することのできていたあかりのスタイルの良さに竜は思わず顔をを赤くしてしまう。

 

 

「に、似合っていると、思うぞ・・・・・・」

「あ、ありがとうございます・・・・・・」

 

 

 顔を赤くしながら言う竜の言葉にあかりも同じように顔を赤くしながら答えることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第488話





最近、書く量が少なくなってきたなぁ。

どうにかして執筆の量を増やしたいところです。






 

 

 

 

 竜があかりに水着姿を披露されていると、茜、葵、ゆかり、マキの4人もそれぞれいくつかの水着を持って試着室の近くにやって来た。

 水着を手に持ってしゃべりながら歩いてきた茜たちは竜とあかりの姿に気がつき、少しだけ早足で近づいてくる。

 

 

「お、竜やん。・・・・・・あかりの水着を見とったんか?」

「く・・・・・・、やはりあかりさんの“それ”は凶器ですね・・・・・・」

「ボクたちにはないものだよねぇ・・・・・・」

「そんなに良いものじゃないんだけどねぇ」

 

 

 試着室から姿を見せているあかりの姿に気がついた茜、葵、ゆかりの3人は恨めしそうにあかりの胸を見る。

 やはり“ない者”にとってあかりの“それ”はうらやむ対象であり、それと同時に憎むべき対象でもあるのだ。

 

 そんな茜たちの様子にマキは困ったような口調で呟く。

 まぁ、そんな状態の茜たちの近くでそんなことを呟けば当然ながら茜たちの耳に届くわけで・・・・・・

 

 

「おおん?なんやぁ、そんなご立派なもんを持っとる余裕かぁ?」

「マキさんは大きいもんね・・・・・・」

「これですか?これがあるからそんなことを言えるんですか?!」

「え、ちょちょちょ、2人とも止めて?!」

 

 

 マキの呟きが聞こえたあかねとゆかりは素早くマキの左右に移動すると、水着を持っていない方の手でそれぞれ左右からマキの胸をぐりぐりと押し出した。

 自分が言ったことが原因とは言え、いきなりの2人の行動にマキは思わず声をあげてしまう。

 

 そんな茜とゆかりによってぐにぐにと形を変えるマキの胸を見ながら葵は恨みがましくつぶやいているのだった。

 

 ちなみに、茜とゆかりの2人がマキの胸を弄り始めたあたりから竜は顔を茜たちの方から逸らしているため、マキの胸が茜とゆかりによってぐにぐにと弄っていることは声から分かってはいたが、それでもできることは何もないと判断していた。

 

 

「っと、こんなことをやっとる場合やなかったな。竜!あかりを見たんやからうちの水着も見てや!」

「そうだった!ボクもお願いね!」

「私もお願いしますね?」

「もう、2人にめちゃくちゃにされちゃったよう・・・・・・。あ、竜くん。私もお願いするね?」

 

 

 マキの胸をぐにぐにと押していた茜はふともともとの目的であった水着の試着を思い出し、マキの胸を押すのを止める。

 

 そして、竜があかりの水着を見ていたことに対して自分も同じように見てほしいと言う。

 茜の言葉に続くように葵、ゆかり、マキも言い、4人は試着室の中へと入っていく。

 

 茜たちが試着室へと入っていったのを確認した竜は先ほどと同じように茜たちが出てくるのを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第489話




順番に水着を出していかないとなぁ

それぞれの水着のイメージを探すのがちょっと大変です。






 

 

 

 

 茜、葵、ゆかり、マキが試着室に入っていったあと、あかりも次の水着に着替えるために試着室の中へと入っていった。

 

 経験がある人なら分かると思うが、試着室の前で待つというのは意外と周囲からの視線が気になってしまうものだ。

 いま、この店自体はあかりが貸し切りの状態にしているのだが、それでも店員の人たちの視線があるので、竜は地味に緊張をしていた。

 

 

「よっし、・・・・・・まずはうちからいくでー」

「おー、茜はピンクと黒系の水着なんだな?」

 

 

 試着室に茜たちが入っていってからしばらくして、試着室の中から茜の声が聞こえてきた。

 どうやら最初に水着を見せるのは茜のようだ。

 

 そして、試着室の中から水着姿の茜が出てくる。

 

 茜が着て出てきた水着は、胸のあたりから膝裏辺りまで羽衣のように薄い布が着けられており、その布の中にはやや茶色よりの黒い水着が隠れている水着だった。

 羽衣のような部分は薄いピンクのグラデーションになっており、それこそまるで天女のようにも見える。

 

 

「ど、どうや!」

「うん。似合ってると思うぞ。なんていうか茜らしい活発な雰囲気を感じるな」

 

 

 やや恥ずかしそうに頬を赤くしながら茜は竜に見せつけつように胸を張る。

 そんな茜の言葉に竜はうなずきながら水着の感想を言う。

 

 あかりの水着姿を見たときは恥ずかしそうにしていたのに、なぜ茜のときは普通に答えられたのか不思議に思うかもしれないが、これは単純に茜よりも前にあかりの水着姿を見たことによって少しだけ耐性が付いていたのだ。

 

 竜の言葉に茜は恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに頬を緩めた。

 

 

「えへへー、あんがとなー。そんなら次は葵やでー」

「う、うん!」

 

 

 嬉しそうにしていた茜は試着室の方へと顔を向けると、次に出てくる人物、葵の名前を呼んだ。

 茜に呼ばれ、試着室の中から水着姿の葵が現れる。

 

 葵が着ている水着は茜が着ている水着とほぼ同じもので、違いと言えば茜の着ている水着がピンクと黒色なのに対して、葵の水着は水色と青色のものとなっていた。

 

 

「えっと、どうかな・・・・・・?」

「似合ってるよ。茜の水着と同じやつか?でも色が変わるとなんていうか落ち着いた感じになるんだな」

 

 

 先ほどの茜よりも恥ずかしそうにモジモジとしながら葵は竜に尋ねる。

 茜と葵が着ている水着は同じもののはずなのだが、水着の色が変わるだけでその印象はがらりと変わっていた。

 

 竜の言葉に葵は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 そして、茜と葵は試着室の中へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第490話




そういえばアンケートを始めるのを忘れていました。

期限はUAが137000を超えるまでです。






 

 

 

 

 茜と葵が試着室の中へと戻っていき、次の人物が試着室の中からヒョコリと顔を出す。

 

 

「えっと次は私です」

 

 

 そう言って試着室から顔を出していた人物、ゆかりは恥ずかしそうにしながら試着室の中から出てきた。

 

 ゆかりが着ている水着はシンプルな紫と白のボーダーの水着。

 茜と葵が着ていたものと比べてしまうと地味に見えてしまうかもしれないが、シンプルなその水着は逆にゆかりの魅力を引き出しているようにも見える。

 

 水着のフロント部分と腰の部分に蝶結びが結ばれているのを見た限りでは、おそらくはそこで縛って水着を固定しているのではないかと考えられた。

 

 

「どう、でしょうか・・・・・・?」

「ああ、似合っていると思うぞ」

 

 

 そっと胸の前で手を組みながらゆかりは竜に尋ねる。

 胸の前で手を組んでいるのは胸に対して若干のコンプレックスがあることの無意識の表れだろう。

 

 ゆかりの言葉に竜はうなずいて答えた。

 

 

「って、よく見たら胸のところにワンポイントでウサギのマークも入っているんだな?」

「んなぁ?!ええと、その・・・・・・、はい・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にゆかりは驚いたように胸を隠すように腕を動かし、ややうつむきながら答える。

 

 竜からすればふと気がついたことを言っただけのつもりだったのだが、ゆかりからすればあまり胸は見ないでほしかったところに胸に関する言葉が出たために驚いてしまったのだ。

 いきなりうつむいてしまったゆかりに竜は首をかしげつつ、ゆかりの姿を全体的に見る。

 

 

「うん。全体的にゆかりによく似合っていて、良いと思うぞ」

「あ、ありがとうございます」

「終わったかなー?次は私だよー」

 

 

 竜に改めて水着を似合っていると言われ、ゆかりは恥ずかしそうにうつむきながら頭を下げた。

 その直後、試着室の方からマキの声が聞こえてくる。

 どうやら次はマキが試着室から出てくるようだ。

 

 

「えーっと、私はまずはゆかりんたちに押し切られて持たされた水着なんだけど・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・ウシ?」

「ウシやね?」

 

 

 頬を掻き、困り顔で試着室から出てきたマキが来ていた水着。

 

 それは白と黒の二色でマーブル模様に彩られた水着だった。

 例えるならばダルメシアンなどが挙げられるだろうが、ぶっちゃけて言ってしまうとマキのスタイルから考えてウシの模様にしか見えなかった。

 

 

「ちなみにこんな頭飾りもついてたよ」

「ウシの角と耳やんけ」

「完全にウシじゃねーか!」

 

 

 そう言ってマキが自身の頭に付けたのは小さな白い角とやや垂れた黒い獣の耳。

 白と黒のマーブル模様に角と耳が付いたその姿はまるでウシを擬人化したかのような姿だった。

 

 完全にウシをイメージするような姿に竜は思わずツッコミを入れてしまう。

 

 

「やっぱりそう思うよねー?」

「仕方がないじゃないですか!マキさんがそんなおっきなものをぶら下げているのが悪いんですよ!」

 

 

 竜の言葉にマキは苦笑しながらうなずき、チラリとゆかりを見る。

 マキの視線に気がついたゆかりはうつむいていた顔を上げると、むんずとマキの胸をわしづかみにした。

 

 

「ちょ、ゆかりん!水着が外れちゃう!」

「こんな!触り心地の良いものが!くやしい!でも触っちゃう!」

「なにをやっているんだ・・・・・・」

 

 

 ゆかりに胸をわしづかみにされたことによって水着が外れてしまいそうになっていることにマキは慌てた声をあげる。

 そんなマキの言葉にゆかりは聞く耳を持たずにマキの胸を掴み続ける。

 

 マキとゆかりのやり取りに竜は呆れつつ、うっかりマキの胸を見てしまわないようにそっと顔を2人から逸らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第491話




スチームで思わず購入をしてしまう・・・・・・

お金は大切にしておきたいんですけどねぇ









 

 

 

 

 ウシ柄の水着を着たマキの胸をゆかりはわしづかみにする。

 その光景を見ないように顔を逸らしている竜は溜息を吐いた。

 

 

「はぁ・・・・・・ゆかり、そろそろ終わりにしとけ?」

「くっ・・・・・・、仕方がありませんね・・・・・・」

「た、助かったぁ・・・・・・」

 

 

 竜の言葉にゆかりは悔しそうにしながらもマキの胸から手を放す。

 ゆかりの手が胸から離れたことによって試着していた水着がずり落ちそうになるのをギリギリのところで押さえたマキがホッと息を吐きながら呟く。

 ずり落ちそうになっていた水着を押さえてキャッチしたマキは手早く水着を元に戻す。

 

 

「まだほかにも水着はありますからね。マキさんに関しては後ほど茜さんたちと一緒に済ませることにしましょう」

「まって、なにをされるの?!」

 

 

 そう言ってゆかりは試着室の中へと戻っていく。

 そんなゆかりの後を追いながらマキは悲鳴のような声をあげるのだった。

 

 

「なんちゅーか、ご愁傷様?でええんかなぁ?」

「まぁ、それでいいんじゃないかなぁ・・・・・・。ああいった悩みとかは俺にはよく分からんし・・・・・・」

 

 

 試着室の中へと戻っていくゆかりとマキの姿を見ながらついながポツリとつぶやく。

 ついなの言葉に竜はじゃっかん疲れた表情になりながら答えた。

 

 そして、それから竜はあかり、茜、葵、ゆかり、マキの5人の水着姿を見せられるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 最初は見るだけのはずだったお店でいつの間にか水着選びを楽しんでいた竜たち────というよりも竜以外の女性陣たちはそれぞれ買い物袋を手に持ちながら満足そうな表情を浮かべて店から出てきた。

 満足そうな女性陣とは対照的に、竜はやや疲れた表情になりながら店の外に出てくる。

 

 これは竜が茜たちだけでなく、イタコ先生、ずん子、きりたん、ウナ、イア、オネの全員分の水着の感想を言うことになったことによる疲労だ。

 美人の水着を見ることができたのだからそのくらいの疲労位なんてことないだろうと思うかもしれないが、それでも全員の水着の感想を言うのはかなり疲れてしまったのだ。

 

 ちなみに、なぜイタコ先生たちまで竜に水着の感想を聞いたのかというと、同性である女性の意見だけでなく、異性である男性の竜の意見も聞いておきたいと考えたからだ。

 

 

「結局、皆さんもここのお店で水着を買ったんですね?」

「まぁなぁ、あかりがオススメしとるだけあって可愛い水着が置いてあったからなぁ」

「ちょっとお値段は高かったけど、どうにかボクたちで買えるものがあって良かったよ」

「お値段は張りましたが、その価値はありますよね」

「私も良い水着が買えて大満足だよー!」

「ふふふ、みんな嬉しそうですわね」

「そういうイタコ姉さまも嬉しそうですよ」

 

 

 見るだけだとお店に入る前は言っていたのに、お店を出る時になってみれば全員が水着をこのお店で買っている。

 

 そのことをあかりが呟くと、茜たちは嬉しそうにしながら答えた。

 

 

「ウナと東北の分の水着も買ってもらっちゃったなー?」

「あかりさんにはあとでお礼を言わないとですね」

 

 

 自分たちが手に持っている買い物袋を見ながらウナときりたんは言う。

 そして、竜たちは再びあかりの家の使用人が運転する車へと乗るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第492話





またしても時間をわずかに超えてしまった。

書く速度をもっと早くしたい・・・・・・





 

 

 

 

 水着を買い終えた竜たちはあかりの家の使用人の運転する車に乗りながらどこかへと向かう。

 車が移動する際にあかりがなにやら指示を出していたので、おそらくは行く場所は決まってはいるのだろう。

 

 

「水着は買い終わったわけだけど、どこに向かっているんだ?」

「えっと、買い物が終わったのでご飯に行こうかと思いまして。とりあえず私のオススメのお店に行こうかと。どこか行きたいお店とかあったりします?」

 

 

 車がどこに向かっているのかが気になった竜はあかりにどこに向かっているのかを尋ねる。

 竜の言葉にあかりはご飯を食べに行こうとしているのだと答えた。

 

 あかりの言葉に竜たちは顔を見合わせる。

 

 

「どんなお店に行くんだろうな?」

「あかりのオススメのお店かぁ。水着のときと同じで高そうなイメージなんやけど・・・・・・」

「でも水着のときはまだボクたちでも買えるような値段だったし・・・・・・」

「ですがあかりさんの場合は食事の方が優先度が高そうですよね?」

「そうだよね。でも絶対に美味しいものは出てきそうだよね」

「水着を買ったわけですし、あまり高いところは控えたいですわね」

「自分で買えるものを選んだとは言っても安くはなかったですからね」

「私とウナは買ってもらっている身ですし、とくになにかはありませんね」

「そうだなー」

「あかりちゃんがどんなお店に行くのか気にはなるかなー」

「でも、確かに茜が言っているように高いお店に行きそうなイメージもあるわね」

 

 

 お金持ちである紲星グループの令嬢であるあかりがどんなお店に行くのかについて竜たちは話し合う。

 やはりあかりの家がお金持ちであるということから、高いお店に行くのではないかというイメージがあるようだ。

 

 竜たちの言葉にあかりはやや苦笑を浮かべる。

 

 

「つっても俺は別にこの辺の店とか知らないしなぁ」

「うちらも同じやで?」

「うんうん。この辺にはあまり来ないもんね」

「私も同じですね」

「私もー」

 

 

 あかりのどこか行きたい店があるかという言葉に竜たちは腕を組みながら言う。

 別に竜たちが東京に来たことがないというわけではないのだが、それでもいま竜たちがいる場所には来たことがなかったのだ。

 まぁ、竜たちが今いるのは普通の店よりも値段が高い店が並んでいる場所なので、来たことがないのは仕方がないだろう。

 

 竜たちと同じようにイタコ先生たちもうなずく。

 

 

「んー、それならあかりのオススメの店で大丈夫かな?」

「そうですわね。私たちではよく分かりませんし」

「では、このままお店に向かっちゃいますね!」

 

 

 竜たちの言葉にあかりはうなずき、そのままオススメのお店に向かうように運転手に言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第493話





買った水着を使えるのはあとどれくらい先になるのか・・・・・・

とりあえずは夏の家に水着を着れるのを目標にはしているんですけどねぇ・・・・・・







 

 

 

 

 あかりの家の使用人が運転する車に乗ってしばらくして。

 竜たちが到着したのは意外なことに店の外観は普通の一般人でも入れそうな見た目の店だった。

 

 紲星グループの令嬢であるあかりがオススメするお店のイメージとは少しばかり違っていたために、竜たちはお店とあかりのことを意外そうな表情になりながら交互に見ていた。

 

 

「あはは、そんなに意外なお店でしたか?」

「いや、まぁ、なぁ?」

「せやねぇ。車の中でも言うたけど、あかりがオススメするお店っちゅうことでお高そうなお店のイメージはあったからなぁ」

「うん。予想していたのとは違ってけっこう普通な見た目のお店だったからびっくりしちゃった」

「でもこれくらいの見た目の方が私たちも入りやすいですわね」

「あれ?でもこのお店ってたしか・・・・・・」

「ん?どうかしましたか?音街」

 

 

 竜たちの様子がおかしかったのか、あかりは笑いながら声をかける。

 そんなあかりの言葉に竜たちは改めてお店を見ながら答えた。

 

 竜たちがお店を見ていると、不意になにかに気がついたのかウナは額に指をあててなにかを思い出そうとしているかのような仕草をする。

 ウナの様子に気がついたきりたんは不思議に思ってウナに尋ねた。

 

 

「いや、このお店をどこかで・・・・・・。あ、思い出した」

「このお店のことを知っているんですか?」

「どうかしたんですか?」

「えっと、きりたんの友だちの子だったよね?このお店のことをなにか知ってるの?」

 

 

 なにかを思い出そうとしていたウナは、どうにか思い出したいことを思い出せたのかポンと手を叩く。

 ウナの言葉からなにかを思い出し、それがこの目の前のお店に関することなのだと理解したきりたんはウナになにを思い出したのかを尋ねる。

 

 ウナときりたんの会話に気がついたのか、ゆかりとマキが2人に近づいて声をかけた。

 ちなみに、ウナのことが“UNA(ユーナ)”だとバレるのではないかと思うかもしれないが、ウナには竜の母親である咲良が作った認識疎外のブレスレットが渡されているため、ゆかりたちがウナの正体に気づくことはないのだ。

 まぁ、もとからウナの正体を知っている竜たちには効果がないので、ゆかりたちがウナの正体に気がつくことがあればこの効果もほとんどなくなるのだろうが。

 

 

「えっと、うん。ここのお店は2つの顔を持っているんだよ」

「2つの顔ですか?」

 

 

 ゆかりたちに尋ねられて少しだけ後退(あとずさ)ってしまったウナだったが、思い出したことを簡潔に答えた。

 ウナの答えにきりたんは首をかしげる。

 

 まぁ、普通に考えて2つの顔があると言われてもなんのことかは分からないだろう。

 

 きりたんが聞き返したことにウナはコクリとうなずく。

 

 

「2つの顔とはどういう意味ですか?」

「えっとな?まず、このお店って外から見ると普通のお店だろ?で、中も同じように普通なんだ。でも、お店の人に合言葉を言うと特別な料理が食べられる専用の部屋に案内してくれるんだよ」

「なるほど。普通の料理を食べられるお店と特別な料理を食べられるお店がある、と」

「それで2つの顔を持っているって言ったんだね?」

「ふふふ、それではお店に入りましょうか!」

 

 

 ウナの言う2つの顔。

 

 それは普通の料理が食べられるのとは別に特別な料理が食べられるお店でもあるということ。

 ウナの言葉にゆかりとマキは納得したようにうなずく。

 

 そんなウナたちの会話が聞こえていたのか、あかりはにんまりと笑みを浮かべるとお店の中に入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第494話





こんなお店に入ってみたいものですねぇ。

合言葉を知っている人しか入れない隠れ家的なお店とかちょっと憧れます。







 

 

 

 

 あかりの先導のもと店の中に入った竜たちは、外観と同じようにどう見ても普通の内装の店内をキョロキョロと見回す。

 あまりにも普通過ぎる店内の様子に、竜たちは本当に特別なメニューがあるようなお店なのかと内心で首をかしげていた。

 

 

「っと、すみませーん。12人なんですけど」

「分かりました。ただいまお席に案内しますね」

 

 

 竜たちがキョロキョロしている間にあかりは店員に声をかけ、人数を言う。

 いまこの場にいるのは、あかり、竜、ついな、茜、葵、ゆかり、マキ、イタコ先生、ずん子、きりたん、ウナ、イア、オネの13人なのだが、ついなの姿は基本的に一般人には見えていないのであかりは12人と人数を答えていた。

 

 

「あ、ちょっと先に注文いいですか?」

「え?注文なら席に着いたらでいいんじゃないのか?」

「せやでー?うちらはどんなメニューがあるかなんてわからんのやし」

 

 

 席へと案内しようとする店員を呼び止め、あかりはいまこの場で注文をしようとする。

 あかりがいきなり注文をしようとしたことに竜たちは驚き、あかりに席に着いてからでいいのではないかと声をかける。

 しかし、あかりは竜たちの言葉に首を横に振る。

 

 

「ここで注文しないとダメなんですよ。えっと、“ステーキ定食”をお願いします」

「はい。焼き加減などに指定はございますか?なければシェフお任せとなりますが」

「では“弱火でじっくり”お願いしますね」

(うけたまわ)りました。では、お席に案内させていただきます」

 

 

 竜たちの言葉にあかりはここで注文をしなくてはダメなのだと答えた。

 そして、あかりはどこかで聞いたことがあるような注文を店員にする。

 

 あかりの注文に店員はうなずいて伝票に注文したものを書き込んでいき、注文を書き終えた店員はそのまま席へと案内を始めた。

 

 どうしてこの場で注文をする必要があったのか。

 先ほどのどこか聞き覚えのある注文はなんだったのか。

 

 聞きたいことはいいくつかあるのだが、あかりは店員の後をついて行ってしまっているので、竜たちも置いて行かれないように後を追うのだった。 

 

 

「それではこちらの席でお待ちください。メニューはいまからお持ちします」

 

 

 ひと際大きな部屋に案内された竜たちは部屋の広さに驚きつつ、思い思いの席に座っていく。

 そして竜たちが席に着いたことを確認した店員は頭を下げて部屋から出ていった。

 

 

「そんで?なんでわざわざさっきの場所で注文したんだ?」

「お店に入る前にウナちゃんが言っていたじゃないですか。合言葉を言えば特別な料理が食べられるって」

「それがさっきの注文だったということなんですね?」

「でも、さっきの注文ってハンターハンターじゃなかった?」

「あー、なにか聞き覚えがあると思ったらゴンたちが受けたハンター試験のときの合言葉だったのね?」

 

 

 席に着いた竜は改めてあかりにどうしてさっきの場所で注文をしたのかを尋ねる。

 竜たちの疑問にあかりはチラリとウナのことを見てその理由を答えた。

 

 あかりが先ほど席に案内される前に注文した理由。

 それはこのお店の特別な料理を食べるために必要なことだった。

 

 あかりの答えにイアが首をかしげながら合言葉がハンターハンターで見たものだったことを指摘する。

 イアの言葉に竜たちは先ほどの合言葉をどこで聞いたことがあったのか思い出し、納得したようにうなずく。

 

 

「ああ、それはここの店長の趣味ですよ」

「って、趣味なんかーい!!」

 

 

 あっさりとした合言葉の理由に思わず茜はツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第495話




パソコンでのエイムがかなりしやすいのはなんでかなぁ?

PS4のコントローラーよりも狙いやすい。







 

 

 

 

 店員に案内された部屋で竜たちは待つ。

 

 椅子の座り順は、あかり、ウナ、竜、きりたん、イタコ先生、ずん子となっており、反対側にゆかり、マキ、茜、葵、イア、オネとなっている。

 ちなみについなは小さくなって竜の肩の上に座っていた。

 

 

「えっと、合言葉を言ったってことは特別なメニューが食べられるようになったってことで良いのか?」

「はい。どんなメニューが来るかはお楽しみということでお答えはしませんが、期待してくれていいですよ!」

 

 

 椅子に座りながら竜は確認するようにあかりに尋ねる。

 

 あかりが部屋に案内される前に店員に言っていた合言葉「ステーキ定食」と「弱火でじっくり」。

 この2つの合言葉を店員に言うことによってこのお店では特別な料理を食べることができる。

 

 店に入る前にウナから聞いたのと部屋に案内されてからあかりに説明はされていたのだが、いまいち本当なのかが分かっていない竜は半信半疑になりながらあかりを見た。

 竜の言葉にあかりはしっかりとうなずき、メニューの内容などは言わなかったがそれでも期待していいと答える。

 

 

「なぁなぁ、このお店って特別なメニュー以外ではどんなものが出るん?」

「あ、たしかにそれを知っておけば特別なメニューも推測できるかもしれないね!」

 

 

 あかりの期待していいという言葉に一層のこと特別な料理が気になったのか、やや身を乗り出しながら茜はあかりに尋ねる。

 茜の言葉に同じように特別な料理が気になっていた葵もうなずいてあかりを見た。

 

 

「通常のメニューですか?えっと、たしか・・・・・・。普通の定食だったり洋食だったりですね。店長が作れる料理をどんどん追加していったみたいでメニューに関しては本当に和洋折衷多種多様にあるんですよ」

「そんなにここの店長さんは料理が得意なんですか?」

「いろんな料理が作れるってことはそれだけ料理の技術に自信があるってことなのかなー?」

「いろいろ作れるっちゅうことはあんまり推測する材料にはならなさそうやね」

「でも逆に言えばどんな料理も美味しいものが出てくるってことじゃない?」

 

 

 茜の言葉にあかりは特別なメニュー以外ではどんなものがあったかのかを思い出して答える。

 どうやらこのお店の店長はいろいろな料理を作ることができるようで、特別な料理の内容を推測できるような情報は出てこなかった。

 あかりの答えに茜は少しだけガッカリとした表情になったが、続く葵の言葉に納得したのかなるほどといった様子でうなずいていた。

 

 

「音街は特別な料理の内容は知っているんですか?」

「んー、一応1つだけ知ってるぞ。テレビの撮影の打ち上げで連れてきてもらって、そのときの監督がこのお店の店長と知り合いだったってことで特別に食べさせてもらったんだ」

「へぇ、それはラッキーだったな」

 

 

 合言葉を言えば特別な料理を食べることができる。

 そのことを知っていたのだからもしかしてと思いながらきりたんはウナに尋ねる。

 きりたんの言葉にウナはうなずき、以前にテレビ撮影の打ち上げのときにこのお店に来て特別な料理を食べさせてもらったのだと答えた。

 

 

「そのときはなにを食べたんですか?」

「えっとなー、美味しいお肉だったのは覚えてるぞ!」

 

 

 きりたんの言葉にウナはそのときに食べた料理を思い出したのか、少しだけ頬を緩めながら参考にならない答えを答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第496話





雨が降ったりやんだりでかなりめんどくさい天気!

できれば止んでいてほしいんですけどねぇ








 

 

 

 

 竜たちが部屋で話をしながら店員を待っていると、部屋の扉が開いて店員がやって来た。

 店員の手にはメニュー表らしきものと、なぜかステーキ定食があった。

 

 メニュー表だけを持ってくると思っていた竜たちは店員の手にあるステーキ定食に思わず目を白黒とさせてしまう。

 そんな竜たちのことなど気にした様子もなく店員はメニュー表を広げてテーブルの上に置き、ステーキ定食をあかりの前へと置いた。

 

 

「こちら、メニューとステーキ定食となります。メニューが決まりましたらテーブルの上のボタンを押してください」

「ありがとうございます」

 

 

 そう言って店員は足早に部屋から出ていく。

 部屋の扉が開いた際に、廊下の奥の方に人が多くいたのが見えたため、その対応で忙しいのだろう。

 

 そして、店員が部屋からいなくなり、あかりは行儀が悪いとは分かりつつもステーキ定食を摘まみながらメニュー表を広げた。

 

 

「むぐむぐ・・・・・・。皆さんはどれを注文しますか?」

「え、ああ、俺は・・・・・・、っじゃなくて、なんでいきなりステーキが出てきたんだ?!」

 

 

 あかりにメニュー表を手渡された竜はそのまま注文するものを決めそうになるが、寸前であかりが食べているステーキ定食があることに対して声をあげる。

 竜の言葉にあかり以外の全員がうなずき、あかりを見る。

 

 

「もっきゅもっきゅ、ふぇ?ふぁふぃふぁふぉふぁふぃい・・・・・・ごくん。すみません。なにかおかしかったですか?」

「ああ、うん。食ってるとこすまん。いや、でもな、なんでメニュー表と一緒にステーキが来てるんだよ?普通は席で注文してから運ばれてくるもんだろ?」

 

 

 竜の質問にあかりは答えようとするが、ちょうど口の中にステーキが入っていたためになんと言っているのか分からない言語になってしまう。

 自分の発した言葉が言葉になっていないことに気がついたあかりは慌てて口の中のステーキを飲み込み、改めて竜の質問に答える。

 

 ちょうどあかりが口にステーキを入れているときに声をかけてしまったことを謝り、疑問に思ったことをあかりに尋ねた。

 

 

「といってもこれに関しては先に注文してましたし、とくになにかを説明するようなこともないんですけど・・・・・・」

「先に・・・・・・?」

 

 

 ステーキ定食に関して言えることがとくにないあかりは首をかしげながら竜のことを見返す。

 

 あかりの先に注文しておいたという言葉に竜は首をかしげそうになるが、ここで竜はこの部屋に案内される前のあかりと店員のやり取りを思い出した。

 

 

「もしかして、部屋に案内してもらうときに言っていた言葉のことか?」

「そうです」

 

 

 竜の言葉にあかりはしっかりとうなずく。

 そして、竜たちは店員が持ってきたメニュー表を見て自分の食べたいものを選んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第497話





アニメや漫画の料理って食べたくなりますよね。

ルパンのナポリタンとか食べたいものですねぇ。






 

 

 

 

 店員が持ってきたメニュー表を開き、竜たちはなかに書いてあるメニューを確認する。

 

 メニュー表には上から

 

宝石(ジュエル)の肉(ミート)

・虹の実ゼリー

紅玉蟹(ルビークラブ)

・ニシンとかぼちゃのパイ

・ラピュタトースト

・クモワシのゆで卵

・グレイトスタンプステーキ

・レロレロチェリー

・モッツァレラチーズとトマトのサラダ

・しょうふ風スパゲッティ

        ・・・・・・etc

 

 などなど、どこかで見たことのあるような料理名がずらりと並んでいた。

 並んでいる料理名に竜たちは思わず顔を見合わせる。

 

 

「えっと、あかり?もしかしてここの店長さんってアニメとか漫画が好きなのか?」

「みたいですね。なんでも、料理人になろうと思った動機はアニメとか漫画の料理を自分で美味しく再現したいから、だったとか」

 

 

 メニュー表に並んでいる料理名、そして特別な料理を食べるための合言葉。

 

 それらの情報から竜たちはこのお店の店長はアニメや漫画などが好きなのではないかと推測し、あかりに尋ねる。

 

 竜の言葉にいつの間にかステーキ定食を食べ終えてメニュー表を見ていたあかりはうなずいて肯定する。

 まぁ、アニメや漫画が好きでなければ料理の名前にこれらのものを付けることはないだろう。

 

 

「音街が前に食べた料理の名前とかは覚えてますか?」

「ちょっと覚えてないかなぁ。お肉料理だってくらいしか覚えてなかったし」

「肉料理か。・・・・・・って、うん?」

 

 

 きりたんとウナの会話を聞いていた竜はウナが言っていた美味しいお肉料理とやらが気になり、お肉料理の場所を眺めていく。

 メニューを眺めていた竜は、ふと普通のメニュー表であれば書いてあるはずのものが書いてないことに気がついて首をかしげる。

 

 

「どうかしたんか?」

「ああ、いや、メニュー表に値段が書いて無くてな」

「え?あ、ホントだ」

「あらまぁ、これではお値段が分かりませんわ」

「印刷ミス・・・・・・とかではないよね?」

 

 

 竜が首をかしげたことに気がついた茜が不思議そうに声をかける。

 茜の声に竜はメニュー表を茜に見えるように向けながら気がついたことを答えた。

 

 竜がメニュー表を見て気がついたこと。

 それはこのメニュー表には料理の値段が書いていないことだ。

 

 普通の飲食店ではメニュー表に値段が書いてあるものなのだが、このお店のメニュー表には料理の名前が書いてあるだけで値段が一切書かれていないのだ。

 竜の言葉に他の全員もメニュー表に値段が書かれていないことに気がつき、不思議そうに首をかしげながらあかりを見た。

 

 

「お値段でしたら気にしなくて大丈夫ですよ。ここの代金は私がすべて出しますから」

「ああ、それは助かる。・・・・・・じゃなくて、値段が書いていないのはどういうことなんだ?」

「値段が書いていないのは書く必要がないからですよ。特別な料理ってどれもアニメや漫画とかの料理じゃないですか。それらに値段がついていたら雰囲気が崩れるとかで書かないようにしてるんだそうです。値段に関しては私が憶えているので気にしなくていいですよ」

 

 

 竜たちが値段に関して話しているのを聞いていたあかりはこのお店での支払いは自分がすべてやると答える。

 あかりの言葉に竜はお礼を言いつつどうしてメニュー表に値段が書かれていないのかを尋ねた。

 竜の言葉にあかりはメニュー表に値段が書かれていないのは雰囲気づくりのためだと答えた。

 

 

「それなら、まぁ、ご馳走になろうかな・・・・・・」

 

 

 メニュー表に書かれていない値段がどれくらいなのかが気になりつつも、あかりの言葉に竜たちは頭を下げる。

 そして、それぞれが食べたいものを選んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第498話




アニメとかの食べてみたい料理とかを再現する人は本当にすごいですよね。

少し料理ができるくらいじゃ再現なんてできませんし。








 

 

 

 

 店員を呼び、竜たちはそれぞれが食べたいと思ったものを注文していく。

 さすがに人数が多いため、1人1人の注文する料理の量が少なくてもかなりの量になってしまっていた。

 

 

「とりあえずあかりが注文したものはもう一つ別にテーブルを用意してもらってそこに乗せてもらうことにしよう」

「異議なしや」

「あかりちゃんの料理の量はかなり多いもんね」

「むしろあかりさんが頼んだものを分けてもらった方が楽な気もするんですが」

「うーん、それは難しいんじゃないかなぁ?」

「むー・・・・・・」

「ものすごく威嚇してますわね?」

「そこまで料理を分けることが不服なんですね」

 

 

 あかりが注文する料理の量は普通の人よりもかなり多いため、あかりの注文した料理だけで竜たちが座っているテーブルの上が埋まってしまう。

 そのため、竜はもう1つ別でテーブルを持ってきてもらい、そこにあかりが注文した料理を乗せるように提案した。

 

 竜の言葉にあかりが食べる量の多さを知っている面々はうなずいて同意する。

 

 そして、しばらくしてそれぞれが注文した料理が運ばれてきた。

 

 

「えっと、茜が注文したのは“宝石(ジュエル)の肉(ミート)”だったか」

「せやで!やっぱりあの漫画を見たら食べてみたいと思うやん!」

 

 

 茜の目の前に置かれているのはやや大きめの肉の塊。

 アニメであればキラキラと輝くお肉だったのだが、さすがにそこまでの再現は難しかったのか見た目的には普通の美味しそうなお肉と言ったところだろうか。

 それでも漂ってくる香りは普通のお肉と比べて格段に違っており、香りを嗅いでいるだけでもよだれがあふれ出してきそうなほどだった。

 

 

「んで、葵が注文したのが“紅玉蟹(ルビークラブ)”」

「うん。ちょっとお肉よりも海鮮系の気分だったから」

 

 

 続いて葵の前に置かれているのは真っ赤に染まったカニ。

 すでに足は食べやすいように剥かれており、手で軽く開くだけで簡単に中身が食べられるようになっている。

 開いた足の中身は普通のカニの足とは異なり、なにか手が加えてあるようでキラキラと光を反射していた。

 

 

「ゆかりはなにを頼んだんだっけ?」

「私はこちらの“クモワシのゆで卵”と“グレイトスタンプステーキ”ですね。茜さんの頼んだ“宝石の肉”とはまた違った食欲を刺激する香りがしますね」

 

 

 ゆかりが頼んだのは“クモワシのゆで卵”と“グレイトスタンプステーキ”。

 “クモワシのゆで卵”は本当にゆで卵が1つしか出てこないので、それと一緒に“グレイトスタンプステーキ”を注文したのだ。

 

 “クモワシのゆで卵”と“グレイトスタンプステーキ”も当然ながら茜と葵が注文した料理と同じように普通の料理と比べて明らかに美味しそうであり、その香りをかぐだけでもお腹が空いてきそうなほどだった。

 

 それから、竜は全員が注文したものを見ていく。

 

 

「あれ?ご主人。ご主人が注文した料理がまだ来とらんよ?」

「ああ、大丈夫だよ。俺の予想が正しければ俺が注文したやつは店長が持ってくると思うから」

 

 

 テーブルの上に並んだ料理を見ていたついなはふと竜の料理だけまだ届いていないことに気がつく。

 ついなの言葉に竜は問題ないと手をひらひらと振りながら答えた。

 

 そして、それから少しして竜の言ったとおりに店長が竜の注文した料理を持って部屋にやってくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第499話





そろそろ食事とかも終わらせたいところですねぇ。






 

 

 

 

 竜以外の全員の注文した料理が届いてから少しして、竜が注文した料理を持った1人の男性が部屋にやって来た。

 男性は料理人のような格好をしており、ニコリとほほ笑むと竜の前に持ってきた料理を置いた。

 

 

「お待たせしました。“モッツァレラチーズとトマトのサラダ”です」

「おー、これが・・・・・・、って、うん?」

 

 

 竜の前に料理を置くと、男性が注文した料理の名前を言う。

 目の前に置かれた料理を竜は興味深そうに見ていたが、ふと男性がなにかを期待するように自分を見ていることに気がついた。

 

 

「・・・・・・あー、なるほど。えーっと、モッツァッツァ?」

「!!・・・・・・こほん。モッツァレラチーズとは脂肪抜きした柔らかくて新鮮なチーズのことです。イタリアでは特に好まれて食べられているチーズなんですよ。トマトを一番最初に料理に使ったのはイタリア人で、トマトを料理することに関してイタリア人にかなう人はいないんですよ。そんな彼らをイメージして作った料理です。どうぞ召し上がってみてください」

 

 

 男性の様子からなにを期待しているのかを理解した竜は、おそらくはこれだろうと当たりをつけて男性に聞き返す。

 竜の言葉に男性は嬉しそうな表情になると、モッツァレラチーズとトマト料理の起源を話し始めた。

 

 竜と男性のやり取りに最初は首をかしげていた茜たちだったが、話を聞いているうちに2人がどういう意図で話しているのかを理解し、面白そうに竜と男性のやり取りを見始めた。

 

 

「では、んむ。モグモグ・・・・・・。・・・・・・まぁ、なかなか美味いんじゃねぇの?うん。美味い。かなり美味い。でもなんかよく分かんねぇけどよ、味があんまりしねぇよ?このチーズ」

「違う違う。そのチーズをトマトと一緒に口に入れるんです」

 

 

 男性から料理の説明を聞いた竜はモッツァレラチーズを小さく切って口に運ぶ。

 モッツァレラチーズを口に運んだ竜だったが、想像していたよりも味がしなかったのかフォークで軽く差しながらチーズの感想を言う。

 そんな竜の言葉に男性はモッツァレラチーズだけでなくトマトと一緒に食べるのだと答えた。

 

 

「なにぃ?トマトと一緒にぃ?ま、外国の食べ物はしょせんなぁ、たいてい日本人と味覚が違うんだよ。あーむ・・・・・・」

 

 

 男性の言葉に竜は鼻で笑うようにしながら言われた通りにモッツァレラチーズとトマトを一緒にして口に運ぶ。

 直後、竜の体がピタリと停止した。

 

 

「うんまぁあーーーーい!!!さっぱりとしたチーズにトマトのジューシー部分が絡みつく美味さだ!チーズがトマトを、トマトがチーズを引き立てる!」

「喜んでもらえてこの上ないです」

 

 

 よほど“モッツァレラチーズとトマトのサラダ”が美味しかったのか、竜はテンション高めに味の感想を言う。

 そんな竜の姿に男性は嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第500話




いつの間にやら500話かぁ。

1話1話の量は少ないとはいえだいぶ書いてきたなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 竜と男性によるやや騒がしい食事も済み、男性は満足そうに笑みを浮かべる。

 そんな男性に対して、茜たちはいまさらながら不思議そうに視線を向けた。

 

 

「満足しましたか?店長」

「ええ、とても満足しました!紲星(きずな)様のご友人でしょうか?億泰のものまねがとても似ていましたよ!」

「いえいえ、こちらこそ楽しかったです!」

 

 

 嬉しそうに笑みを浮かべている男性にあかりが声をかける。

 あかりの言葉に男性、店長は嬉しそうに答えた。

 

 あかりが男性のことを店長と呼んだことにあかりたちは驚いて店長とあかりを交互に見る。

 そんななか竜だけは男性のことを店長ではないかと推測していたため、そこまで驚くこともなく店長の言葉に答えていた。

 

 

「え、ちょ、この人が店長なん?!」

「ええ、そうですよ」

「はい。この店の店長の“城上(しろかみ)十二夫(とにお)”と申します」

 

 

 目の前で竜と一緒にアニメの再現をしていた男性がこのお店の店長で、自分たちの食べている料理を作った人物なのだと理解した茜が驚きのあまり声をあげる。

 茜の声にあかりはうなずき、店長である十二夫も簡単な自己紹介をする。

 

 

「城上・・・・・・。読み方を変えたら“じょうじょう”でジョジョ?」

「おお!気づいてくれましたか!そうなんですよ!それもあって私の一番の愛読書なんです!」

 

 

 十二夫の名字を聞いた竜は、その名字が読み方を変えたら漫画のタイトルになることに気がつく。

 竜の呟きが聞こえた十二夫は嬉しそうにその漫画、“ジョジョの奇妙な冒険”が一番好きな漫画なのだと答えた。

 

 ちなみに、竜と十二夫の2人がやっていた漫画の再現は、ジョジョの奇妙な冒険の第4部で主人公である仗助とその友人である億泰がトニオ・トラサルディーがオーナーをしているレストランに行き、億泰がトニオの出してきた料理を食べたときのやり取りだったりする。

 

 

「というかよくよく考えたら店長さんの名前も十二夫でおんなじだね」

「ああ、そういえばあのレストランのオーナーの名前もトニオだったわね」

 

 

 ここでイアが十二夫の名前もジョジョに関連した名前だということに気がつく。

 

 トニオ・トラサルディー、レストラン“トラサルディー”のオーナーであり、作った料理を食べた人の体を健康にするという能力のスタンド使いであり、彼の作る料理は絶品だという。

 その証明として十二夫の料理を食べた億泰がかなりのリアクションを取っていた。

 

 そんなイアの言葉にオネも十二夫の名前が同じだと理解して頷いた。

 

 

「名前まで関係していて料理まで上手。すごいんですのねぇ」

「タコ姉さま、ジョジョを知らないで言ってませんか?」

「まぁ、イタコ姉さまも私もそこまでアニメとかには詳しくありませんからね」

「うちもご主人と店長のやりとりはサッパリやったでー」

 

 

 イアとオネの言葉から名字だけでなく名前まで関係していたのだろうということを知り、イタコ先生は感心したような声を出す。

 イタコ先生の言葉にきりたんはやや呆れたような視線を向ける。

 きりたんとイタコ先生の言葉にずん子は微笑みながら答える。

 

 イタコ先生やずん子と同じようにそこまでアニメなどに詳しくはないついなも同意するように声をあげた。

 

 そして、竜とのやり取りで満足した十二夫は料理を作るために部屋から出ていき、竜たちは食事を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第501話




食事だけでここまで話が続くとはなぁ。

とりあえず今回で食事は終わりの予定です。







 

 

 

 

 十二夫による特別なメニューを堪能した竜たちは満足そうに食後のお茶を飲む。

 このお茶はサービスで、それぞれが好きなお茶を飲むことができていた。

 

 

「やっぱり緑茶ですわよねぇ」

「とても美味しいお茶ですねぇ」

「このお茶ってけっこう高いやつなんじゃないでしょうか?」

「そうなのか?東北」

「この味は・・・・・・、おそらく玉露やね?」

 

 

 キレイな緑色の日本人に最もなじみのあるお茶、緑茶を飲んでホッと息を吐いているのはイタコ先生、ずん子、きりたん、ウナ、ついなの5人だ。

 やはりイタコ先生たちは和のイメージ通りに緑茶を選択していた。

 ちなみに、ウナはきりたんが緑茶を選んでいたのでなんとなく同じものを選んだだけである。

 

 

「こっちの紅茶も美味しいよね」

「せやなー。なんて種類のお茶なんやろ?」

「この紅茶ってたしか・・・・・・、マルコポーロっていうやつじゃなかったかしら?」

「あー、かなり前にお母さんが飲ませてくれたやつだよね。オネちゃんよく覚えてたね?」

「マルコポーロってなんだか歴史の授業で聞いたような・・・・・・?」

「ほら、あれだよ。日本のことを黄金の国だって言った人」

 

 

 鮮やかな紅色のイギリス人が飲んでいるイメージが強い紅茶を飲んでリラックスしているのは葵、茜、オネ、イア、ゆかり、マキの6人だ。

 オネはサービスで出してもらった紅茶の味に覚えがあったのか、ある紅茶の銘柄を言う。

 

 紅茶の名前がマルコポーロと聞き、ゆかりは学校で聞いたような気がして首をかしげる。

 首をかしげるゆかりにマキはゆかりが誰のことを言っているのかを理解して答えるのだった。

 

 

「なんか・・・・・・、想像以上に青いんだな?」

「いえいえ、驚くのはここからなんですよ」

 

 

 そして、緑茶でも紅茶でもないお茶を選んだ竜とあかりの前に置かれたのは色鮮やかな“青色”のお茶だった。

 説明で青いお茶だということは聞いていたのだが、予想していたよりも青いその色に竜はややおっかなびっくりしながらお茶を見る。

 この青いお茶は“バタフライピー”と呼ばれるマメ科の植物を使ったハーブティーで、タイから伝わったものだ。

 見慣れない色のお茶を竜とあかりが頼んだため、茜たちは興味深そうに青色のお茶を見ていた。

 

 

「こうやって端からレモンの絞った汁を入れると・・・・・・」

「色が紫になった?!」

「おー!とてもきれいな色だ!」

「レモンを入れたら色が変わるんですか?!」

 

 

 そう言ってあかりはマドラーを使ってレモンの絞り汁をお茶の中に流し込んでいく。

 あかりがレモンの絞り汁を入れた直後、鮮やかな青色だったお茶は紫色にその色を変えていく。

 色が変化して上が青色、下が紫色に綺麗に変化したお茶に、竜たちは驚き声をあげる。

 

 

「驚きましたか?これがこのお茶の凄いところなんですよ!」

「へー、こんな変化があるとは驚いたなぁ」

 

 

 竜たちの驚くリアクションが見れて満足したのか、あかりは自慢げに言う。

 あかりの言葉を聞きつつ、竜も自分の“バタフライピー”のハーブティーにレモンの絞り汁を少しずつ流し込んでいく。

 そして、ちょうどいい量のレモン汁を入れるとその色のグラデーションを楽しむのだった。

 

 ちなみに、“バタフライピー”には抗血栓作用と血栓溶解作用、簡単に言えば血液がサラサラになる効果があるのだが、生理中や妊娠中の女性は飲んではいけない。

 抗血栓作用などの効果で血が止まらなくなってしまうため、大変なことになってしまうのだ。

 また、同様に出血を伴うケガをしているときも同じように飲んではいけない。

 

 とはいえ、飲むタイミングや飲む量に気をつけさえすれば体に良いことは間違いないので、飲む際には本当に飲んで大丈夫な体調なのかを考えた方が良いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第502話





これで食事も終わったし、次のシーンに移動しますねー

ここまで同じシーンに時間がかかるとはなぁ







 

 

 

 

 サービスのお茶も飲み終わり、竜たちはお店から出てお店の前に立つ。

 美味しい料理を食べられたことによって竜たちの表情はとても満足そうにゆるんでいた。

 

 

「いやぁ、とても美味しかったですね」

「ですね。それに漫画で見て食べたいものを食べられたのも嬉しかったですね」

「ああいうのを食べたいっちゅうのは夢やったしねぇ」

「本当の味がどんな感じなのかは分からないけどとても美味しかったね」

 

 

 お店から出て竜たちが話しているのはお店で食べた特別な料理のこと。

 特別な料理はどれもアニメや漫画で見たことのある料理ばかりで、それらのアニメや漫画を見たことがある人であれば一度は食べてみたいと思ったものばかりだった。

 さすがに本当の味がどんなものなのかを確認するすべはないのだが、それでも満足できるくらいに美味しい料理だったのだ。

 

 お店の前で竜たちが話していると、店長である十二夫が見送りのためなのかお店の中から現れた。

 

 

「本日はご来店いただきありがとうございました。ご満足いただけましたでしょうか?」

「大満足でした!」

「あんなに美味しい料理が食べられてよかったですよ」

 

 

 ニコリとほほ笑みかけながら十二夫は頭を下げる。

 十二夫の言葉に竜たちも笑みを浮かべて料理の感想を言いながら答えた。

 

 竜たちが話していると、竜たちの近くにあかりの家の使用人が運転する車が近づいてきた。

 

 

「っと、来ましたね。それでは、ごちそうさまでした。とても美味しかったですよ」

「ありがとうございます。またのご来店をお待ちしていますね」

 

 

 車が来たことに気がついたあかりは十二夫に頭を下げて車に乗っていく。

 車に乗ったあかりに続くように茜たちも車に乗っていった。

 

 

「店長さん、店長さん」

「はい。どうかしましたか?」

 

 

 あかりたちが車に乗り、残るは竜だけとなったとき、竜は車に乗り込まずに十二夫に声をかけた。

 竜に声をかけられ、十二夫は不思議そうにしながら尋ね返す。

 

 十二夫が自分のことを見たことを確認した竜は自分の額にまっすぐに伸ばした人差し指と中指を当てる。

 竜のそのポーズから竜が言いたいことを理解したのか、十二夫も同じようなポーズをとる。

 

 

「「アリーヴェデルチ!(さよならだ)」」

 

 

 竜と十二夫の2人がそろって言ったのはイタリア語で別れの挨拶を示す言葉。

 この言葉はジョジョの奇妙な冒険の第5部に出てくる“ブローノ・ブチャラティ”の決め台詞の1つであり、イタリア語は知らなくてもこの言葉を聞いたことがあるという人はいるのではないだろうか。

 

 竜と十二夫の2人はお互いに言いたいセリフを言えて満足したのか笑みを浮かべる。

 そして、竜が車に乗ると車は走り始める、走り去っていく車に向けて十二夫は手を振りながら見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第503話




いつもよりもかなり遅くなってしまった・・・・・・

アンケートの結果はイアとなっているので、次の番外話はイアのヤンデレエンドとなります。






 

 

 

 

 あかりの家の使用人が運転する車に乗りながら竜たちは先ほど食べた料理の話や、買った水着などについて話をする。

 それぞれが買った水着を見せながら話しているため、竜は微妙に気まずそうに眼をキョロキョロとさせていた。

 

 

「皆さん素敵な水着を買えたみたいですね」

「そうみたいだな・・・・・・」

 

 

 楽しそうに話している茜たちの様子にあかりは満足そうにうなずきながら言う。

 あかりの言葉に竜は窓の外へと視線を向けながら答えた。

 

 そんな竜の様子から竜が水着の話で気まずそうにしているのだと理解したあかりはイタズラっぽい表情を浮かべる。

 

 

「どうしましたぁ?もしかして誰かの水着が気になるんですか?」

「い、いや、そんなことはないぞ・・・・・・?」

 

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべながらあかりは竜に尋ねる。

 あかりの言葉に竜はどもりながら答える。

 

 ここでうかつに水着が気になると言ってしまえばどうからかわれるか分からないため、竜は無難な答えをする。

 

 

「ほんとですか?私の水着とか、気になりませんか?」

「ちょ、からかうな・・・・・・!」

 

 

 ゆっくりと近づきながらあかりは竜に話しかける。

 近づいてくるあかりのことを押し返しながら竜は言う。

 

 そんな竜とあかりのやり取りを茜たちはじっと見ていた。

 

 

「なんや、たまにあかりはあんな風にからかうようになるなぁ」

「そうだね。まぁ、竜くんがけっこうからかわれやすいのもあるのかな?」

「ああ、たしかにそれは分かりますね。竜くんはけっこう顔を赤くしたりして反応が面白いですからね」

 

 

 あかりが竜をからかう様子を見ながら茜たちは呟く。

 

 あかりが竜のことをからかう様子はちょこちょこ見られており、茜たちからすればそこそこに見慣れた光景ではあるのだ。

 まぁ、見慣れた光景ではあってもなにも感じずに見ていられるかと言われればそうではないのだが。

 

 

「ほらほらー、先輩が選んでくれた水着ですよー?」

「だぁー、もう!しまっておけ!」

「ほら、あんまり出し入れしていると汚れちゃうよ?」

「それにあまり見せてしまっては見慣れてしまうかもしれませんよ?」

 

 

 買った水着を取り出して竜に見せびらかしながらあかりは言う。

 そんなあかりに竜はあまり水着を見ないようにしながら声をあげた。

 

 竜とあかりのやり取りを見ていたゆかりたちもそろそろ止めなければまずいかと考えたのか、あかりに声をかける。

 ゆかりとマキの言葉にあかりはなるほどと思ったのか、買った水着をいそいそとしまい始めた。

 

 

「たしかに見慣れてしまうのは困りますね!先輩、これ以上は後日のお楽しみということで!」

「おう、まぁ、好きにしてくれ・・・・・・」

 

 

 どうにかあかりからのからかいが終わったことに竜はホッと息を吐いて座席に深く腰を落とす。

 それから、竜たちはあかりの家の使用人が運転する車に乗りながら他の場所への買い物などをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第504話




とりあえずもうすぐ海回が書けるかなぁ。

どんな内容になるかは未定ですが・・・・・・






 

 

 

 

 竜たちがあかりの家の使用人が運転する車に乗って東京に買い物に行った次の週。

 竜は飲み物を買うために自販機へと向かっていた。

 

 

「なぁなぁ、やっぱりあんときの水着が一番動きやすいんやけどー・・・・・・」

「絶対にダメ」

 

 

 ついなの言うあのときの水着というのは、ついなが東京の店で試着をした水着、マイクロビキニのことを指している。

 たしかにマイクロビキニは隠しておかなければいけない部分だけを隠しているだけで余計なものはなにもない水着で動きやすいのかもしれない。

 しかし、余計なものがなにもない・・・・・・、というよりもなにもなさすぎるため、その水着を着た場合かなりセンシティブな見た目になってしまうのだ。

 

 それが分かっているために竜はついながマイクロビキニを着ようとしているのを却下しているのだ。

 九十九神であるついなの姿は見えないのではないかと思うかもしれないが、あかりたちと海に行く際にはイタコ先生やずん子、きりたんなどのついなが見える人間が一緒に行くため、ついながそんな恰好をしていては自分の趣味だと思われてしまう可能性がある。

 そのため、竜からしてみればついなには絶対にまともな水着の格好になってもらわなければ困るのだ。

 

 

「お前が公住か」

「・・・・・・えーっと、どちらさんで?」

 

 

 自販機へと向かいながらついなと喋っていた竜は不意に目の前をふさがれ、めんどくさそうにしながら尋ねる。

 竜の目の前に立ちふさがったのは竜よりも背の高い男子生徒だった。

 その男子生徒の姿を竜は同じ学年で見た覚えがないので、おそらくは3年生か2年生なのではないだろうか。

 

 

「俺は3年の脇谷(わきや)。お前にちょっと用があってな」

「そうですか。こっちにはないので失礼しますね」

「まぁまぁ、そんなに急がないで。それに俺たちは3年だよ?先輩の言うことは素直に聞いておかないと、ね?」

 

 

 目の前に立つ男子生徒────脇谷の用件というものの内容をなんとなく察した竜は適当に答えてスルーをしようとする。

 しかし竜がその場を去ろうと足を動かした瞬間に竜の肩に背後から手が置かれた。

 

 方に置かれたての先を見れば胡散臭い笑みを浮かべた男子生徒がそこに立っていた。

 言葉の内容からこちらの男子生徒も3年生なのだろう。

 

 

「俺は茂部瀬(もぶせ)。さぁ、それじゃあ俺たちと一緒に行こうか?」

「いや、だから行かないっての」

 

 

 強引に自分のことをどこかに連れていこうとするもう1人の男子生徒────茂部瀬の言葉に答えながら竜は肩に置かれた手を払い除けて距離を取る。

 あまりにも強引に物事を進めようとする2人に竜もイラついてきたのか、口調から敬語が抜けてきていた。

 

 

「・・・・・・ご主人の敵か?」

「さて、な。なんにしても向こうからなにか仕掛けてこない限りはなにもするなよ」

 

 

 強引に竜のことをどこかに連れていこうとする脇谷と茂部瀬に竜の頭の上に乗っていたついなは2人に鋭い視線を向ける。

 そんなついなに竜は小声でまだ何もしなくていいと伝える。

 

 そして、竜はこちらを見ている脇谷と茂部瀬の2人の動きを見逃すまいと睨みつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第505話




少しだけ遅れてしまった・・・・・・

もっと早く書き終わるようにしないと・・・・・・






 

 

 

 

 学校の廊下で相対する竜と、3年生の脇谷(わきや)茂部瀬(もぶせ)

 脇谷と茂部瀬の2人がどんな目的で話しかけてきたのかは不明だが、わざわざ歩いている道をふさぐようにしていたことと、強引に自分をどこかに連れていこうとしていたことからろくでもない目的だろうと竜は推測していた。

 

 

「用があるって言っていたけどどういった用件です?」

「それはちょっとここでは言えないかなぁ」

「その話をするためにお前には俺たちと一緒に来てもらいたいんだがな」

 

 

 脇谷と茂部瀬の動きを気にしつつ、竜はどういった用件で話しかけてきたのかを尋ねる。

 竜の言葉に茂部瀬はへらへらと軽薄そうな笑みを浮かべながら答えた。

 

 どうやら2人はいまこの場で竜に話しかけた理由を答えるつもりはないようだ。

 

 

「それじゃあ、めんどくさいんで自分はこの辺で」

「だぁから、俺たちは君に用があるんだって言っているんだよ」

 

 

 尋ねても用件を答えようとしない脇谷と茂部瀬の2人に竜はめんどくさくなり、2人を無視してもともとの目的だった自販機に向かおうとする。

 自販機へと向かおうとする竜へと声をかけて茂部瀬は竜のことを引き留める。

 

 あまりにもしつこい2人に竜がどうしたものかと悩んでいると、竜と同じようにジュースを買いに来たのかイアが現れた。

 

 

「あ、竜くんだ。なにしているの?」

「イア先輩。実はジュースを買おうと思ってここまで来たらこの2人に絡まれまして」

 

 

 竜の姿に気がついたイアは脇谷と茂部瀬のことなど気にせずに竜に声をかける。

 イアの言葉に竜は目の前の道をふさいでいる脇谷と茂部瀬のことを指さしながら答えた。

 

 イアが来たことが予想外だったのか、脇谷と茂部瀬の2人は困惑した表情を浮かべながらイアのことを見ていた。

 

 

「イ、イアさん。どうしてこんなところに?」

「どうしてもなにもジュースを買いに来ただけだよ?」

「そ、そうですよね!」

 

 

 困惑した様子で脇谷はイアに尋ねる。

 脇谷の問いにイアはとくに隠すようなこともないためあっさりと答えた。

 イアの答えに茂部瀬もうなずいて答える。

 

 

「そういえば竜くん。戻ってくるのが遅いから茜ちゃんたちが気にしていたよ?」

「あー、了解です。ジュースだけ買って戻りますね」

 

 

 脇谷と茂部瀬との会話はそれで終わったのか、イアは竜に保健室で茜たちが待っているということを伝えた。

 イアの言葉に竜はうなずき、自販機からジュースを一本買って保健室へと戻っていく。

 

 そんな竜の姿を脇谷と茂部瀬はじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第506話





今日はなんとか時間通りに書き終わりましたぁ。

文字数が少なくなってきているからなんとかもう少し増やしたいところ・・・・・・






 

 

 

 

 休み時間に脇谷と茂部瀬に絡まれてからとくに何事もなく時間は進み、放課後。

 竜はいつものように“cafe Maki”にバイトに行くために自分の荷物などをまとめていた。

 

 

「っと、学校を出る前にトイレに行っとくか」

「行けるときに行っとった方がええもんね」

 

 

 自分の荷物をまとめ終えた竜は学校を出る前に先にトイレに行くことに決める。

 べつに“cafe Maki”に着いてからトイレに入っても良いのだが、その辺りはまぁ、なんとなくの気分だ。

 

 そのまま、竜は自分の荷物を教室に置いたままトイレへと向かった。

 

 

「そんじゃ、ちょっと待っててくれな」

「了解や。怪しい人間が来ないか見張っとるで!」

 

 

 男子トイレの前に到着し、竜はついなにトイレの前で待っているように言う。

 九十九神とはいえさすがに女の子なついなを男子トイレに入れるわけにはいかないという竜の判断だ。

 

 竜の言葉についなは自身の愛武器である槍を取り出して校舎の廊下に石突きを突き立てる。

 その際にそこそこ大きな音が鳴るのだが、ついなの姿はいまこの場では竜以外には見えていないため、周りにいた他の生徒たちは不思議そうに周囲をキョロキョロと見回していた。

 

 

「最近は暑いし涼しい系のメニューを注文する人も増えそうだなぁ」

 

 

 手早くトイレを済ませ、竜はトイレの水道で手を洗う。

 

 竜が手を洗っていると、槍を持ったついなが少しだけ早足で男子トイレに入ってきた。

 さらについなの後ろから休み時間に出会った2人、脇谷と茂部瀬がトイレの中に入ってきた。

 

 

「ご主人が入ってから少ししてからこの2人が現れたんや。3年生のところのトイレやなくてわざわざこっちに来とるんやからなんかあるで」

「ああ、ありがとう」

 

 

 ちょうど手を洗い終えた竜についなは駆け寄り、脇谷と茂部瀬がいきなりこっちに来たのだと教えた。

 ついなの言葉に竜は脇谷と茂部瀬に聞こえないように小さく答えた。

 

 そんな竜とついなへと脇谷と茂部瀬が近づいていく。

 

 

「なにか用ですか?ここは3年生が来るには不便だと思いますが」

「いやぁ、なに?休み時間のときには逃げられちゃったからね。ちょうどよくトイレに入る姿を見たからさ」

「休み時間にも言ったがお前に用があるからな」

 

 

 脇谷と茂部瀬の2人の動きに警戒をしながら竜は2人になんの用でこのトイレに来たのかを尋ねる。

 竜の言葉に茂部瀬はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべ、脇谷は腕組みをしながら竜を見た。

 

 明らかに怪しい2人の様子についなは槍を持つ手に力が入る。

 

 

「まぁ、ここでその用を済ませればちょうどいいかもな」

「なぁに、素直に言うことを聞いてくれたらなにもしないさ。ま、素直に聞いてくれなくても困らないけどな」

 

 

 そう言って2人は竜へと近づいていく。

 どう考えてもろくでもないことをやろうとしているのだろうと竜とついなは察し、警戒を高めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第507話





またしても時間がががががが・・・・・・






 

 

 

 

 竜へと近づいてきた脇谷と茂部瀬は、竜の目の前で足を止める。

 

 

「それで?用というのは?」

「なぁに、そんなに難しいことじゃないさ。君ってイアさんだけじゃなくてイタコ先生や同じ学年の弦巻さんとかと仲が良いだろ?それで、彼女たちをちょーっとある場所に連れてきてもらいたくてね」

「そこにまで連れてきてもらえればお前は帰って良いからな」

 

 

 竜の言葉に脇谷と茂部瀬は竜に頼もうとしていた用を答えた。

 

 脇谷と茂部瀬が竜に頼もうとしていたこと、それはイアやイタコ先生たちをどこかに連れてきてほしいというものだった。

 しかし、ことはおそらくそれだけで済むはずがない。

 単純にイアたちをどこかに連れていきたいだけであれば直接本人に言えば済む話だ。

 だが、脇谷と茂部瀬はそういったことをせずに竜に頼んでイアたちをどこかに連れてくるように言っている。

 しかも連れてきた後は帰るようにまで促している。

 

 ここまでそろっていて怪しむなという方が無理なものだった。

 

 

「なるほどなるほど」

「と、まぁそんなわけだ。協力してくれるよな?」

「イヤだって言っても逃がしはしないけどねー?」

 

 

 脇谷と茂部瀬の話を聞き、竜は腕組みをしながらうなずく。

 

 そして、竜は2人のへと顔を向ける。

 

 

「それを言われて協力するやつとかいるわけねーだろ。頭悪いのか」

「ほーう?なかなかに生意気だな」

「でも、いつまでその生意気な口が動いてられるかな!」

 

 

 どう考えてもろくなことが起こらないと想像がつく2人の言葉を竜はバッサリと切り捨てる。

 竜の答えに脇谷と茂部瀬はそのままこぶしを振り上げた。

 

 

「頼んだぞ」

「了解や!」

「っぐぁああああ?!」

「いっでぇえええ?!」

 

 

 脇谷と茂部瀬の2人が殴りかかってきたのを確認した竜は隣で待機していたついなに声をかける。

 竜の言葉を聞いたついなはすぐさま手に持っていた槍を振るい、2人にぶつかる直前のみに実体化をして2人の腕を打ち払った。

 

 2人からしてみればいきなり現れた棒によって腕を打ち払われたため、痛みと驚きに大きな声をあげる。

 

 

「っづぁあああ・・・・・・」

「なんだよ・・・・・・、いまのは・・・・・・」

 

 

 打ち払われた部分を押さえながら脇谷と茂部瀬はうめき声をあげる。

 わざわざ疑問を答えてやる理由もないため、竜は2人の言葉を無視する。

 

 

「それじゃ、通してもらいますよ」

「な、待・・・・・・。あがっ?!」

「ぐぐぐ・・・・・・なにを・・・・・・」

 

 

 うめき声をあげている2人の横を通り、竜は2人の背後に移動する。

 そして、2人の首元に手を当てた。

 

 直後、竜の手から霊力が2人の体の中へと流し込まれていく。

 竜によって霊力を流し込まれた2人はさらに大きな声をあげる。

 

 たかだか霊力を流し込まれただけなのにどうしてそこまで声をあげるのかと思うかもしれないが、竜は自宅で母親である咲良に特訓を受けており、その際に霊力を操作する方法も教わっていた。

 

 そして、霊力を操作する方法を知った竜は脇谷と茂部瀬の2人の中へと自身の霊力を流し込み、2人の体の内側から乱暴に霊力を暴れさせたのだ。

 

 ついなによる打ち払いと、竜による霊力の暴走。

 その2つを受けて脇谷と茂部瀬はあっさりと意識を失うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第508話




今日も少し遅くなってしまった・・・・・・

ゲームをやっていると遅くなってしまうなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 竜によって意識を失った脇谷と茂部瀬はそのままトイレの床へとその体を倒す。

 汚いトイレの床に倒れてしまっているのだが、聞いた用事の内容のことを考えるとそんなことはどうでもいいとさえ思える。

 

 

「っし、あとはこんな奴らの関係がどれくらいいるかの確認か」

「この2人だけとは限らへんしなぁ」

 

 

 倒れた2人を見下ろしながら竜は呟く。

 この2人が要求したのは竜の友人である茜、葵、ゆかり、マキ、あかり、イア、オネ、ずん子、イタコ先生を指定した場所に連れてくるということ。

 この時点でどう考えてもろくでもないことになることが明白であり、こんなことをこの2人だけで考えるとは到底思えなかったのだ。

 

 ついなの言葉に竜はうなずき、2人の制服を探ってスマホを取り出した。

 

 

「えっと、とりあえず会話アプリとかメールとかを確認だな・・・・・・。えっと、だいたいこのくらいか・・・・・・」

 

 

 さいわいにしてロックをされていなかったスマホを操作して竜は脇谷と茂部瀬の2人の交友関係をさらっていく。

 なんでもない家族との会話や、友人との会話、学校の教師からの連絡などを確認していき、最後に竜はタイトル部分が真っ黒になっている会話履歴を確認する。

 

 確認した中に書かれていたのは竜によって茜たちを連れてきた後になにをするかなどと言った下種な会話ばかり。

 成功しているわけでもないのに自分たちの欲望を書き綴った見るに堪えない内容ばかりだった。

 

 内容を確認した竜は思わず手に力を込めてしまい、手に持っているスマホから小さくミシリという音が聞こえてきた。

 

 

「・・・・・・ふぅ。・・・・・・(まじな)いするか」

「せやね。うちもそれが良いと思うわ」

 

 

 小さく息を吐いて落ち着きを取り戻し、竜はこの2人をどうするかを口にする。

 竜の言葉についなも否定せずにうなずいた。

 

 竜の言う“(まじな)い”。

 まぁ、“(のろ)い”と読み方は違うが意味合いとしてはそこまで違いがないのであまり気にしなくても良いだろう。

 

 霊能力の家系であれば“呪い”をかけられてしまうこともあるかもしれないということで、対抗手段として竜も母親から“呪い”に関してある程度は教えてもらったのだ。

 

 

「えっと、とりあえずこの2つのスマホを起点にして使えばいいだろ」

「その方がこの2人が連絡していたやつらにもかけられるからちょうどええな」

 

 

 倒れている脇谷と茂部瀬から髪の毛をそれぞれ1本づつ引き抜き、スマホの上にそれぞれ置いていく。

 そして、竜はそれぞれのスマホへと自身の霊力を流し込んでいった。

 

 

「“呪い”はとりあえず・・・・・・。筋力減衰、不運あたりが無難か?」

「んー、それ以外にも女性に対しておぼえる性的興奮を男性に入れ替えるとかでええんちゃう?どうせこれまでにもろくでもないことはしてそうやし」

 

 

 竜の言葉についなはさらに別の“呪い”も追加するべきではないかと提案する。

 ついなの提案を分かりやすく言うのであれば、脇谷たちは女性ではなく男性に対して性的な興奮をおぼえるようになるということだ。

 

 ついなの提案に竜はうなずき、その“呪い”も追加するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第509話





いつの間にやらUAがかなりの数字になっていますね。

これは急いで番外話を書き上げないとまずそうです。







 

 

 

 

 脇谷と茂部瀬のスマホとその上に置かれた2人の髪の毛。

 竜が霊力を流し込んで“(まじな)い”を構築させていく。

 

 

「筋力減衰、不運、性的興奮対象変更・・・・・・」

「普段が癒しに作用しとるご主人の力が“呪い”に作用すると一気に雰囲気が変わるなぁ」

 

 

 脇谷と茂部瀬のスマホと2人の髪の毛に竜の霊力が流れ込み、スマホが不自然な明滅を、髪の毛がひとりでにグネグネと動き始める。

 そして、グネグネと動き始めた2人の髪の毛はなにかを探すように動き回り、やがて明滅を繰り返していた2人のスマホの画面へと溶けるように染み込んでいった。

 

 

「これでよし。とりあえずはこれでさっきの会話履歴とかからこの2人以外の連中にも“呪い”が届くだろ」

「そんならもうこの2人にも用はないなぁ。さっさとバイト先に行かんとやね」

 

 

 脇谷と茂部瀬の髪の毛が染み込んでいった2人のスマホを乱雑に2人の方に向けて投げ捨て、竜とついなはトイレから出た。

 2人に絡まれてしまったためになかなかに時間が経過してしまっており、“cafeb Maki”に向かうのは少しだけ急がなくてはいけないだろう。

 

 トイレで絡んできた脇谷と茂部瀬のことなど速攻で記憶から消し、竜はついなをポケットに入れて早足で教室へと荷物を取りに向かうのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 “cafe Maki”

 

 なんとかバイトが始まる前に“cafe Maki”に到着することができた竜はバイトをする服装に着替えて接客を開始する。

 すでにお客さんはそこそこの人数がおり、手早く行動しなくてはいけないだろう。

 

 

「やっほー、竜くん。ちょっと慌ててたみたいだったけど、学校でなにかあったの?」

「んあ?いや、ちょっとめんどくさいのに絡まれただけだよ。もう完全に対処はしたから気にしなくても大丈夫だ」

 

 

 いつもよりも少し遅れて“cafe Maki”にやって来た竜のことが気になったのか、接客をしながらマキが竜に尋ねる。

 マキの言葉に竜は何でもないと答える。

 まぁ、竜からすればすでに終わったことなので当然のことなのだが。

 竜の言葉にマキは不思議そうに首をかしげた。

 

 

「いらっしゃいませー。って、先輩たちか」

「その言い方は酷いんじゃないかなぁ?」

「まぁ、けっこうな頻度で来ているのだし、仕方がないんじゃないかしら?」

 

 

 お店の扉が開いてお客が入ってきたのを確認した竜は、入ってきたお客がささら、つづみ、ずん子、イア、オネの5人だったのを確認し、拍子抜けしたといった雰囲気を出す。

 竜の言葉に不満を感じたのか、ささらが少しだけむくれた表情になりながら問いかけた。

 そんなささらのことをつづみが落ち着くようにとなだめる。

 

 

「えっと、それじゃあ5人ですね。席に案内するのでついてきてください」

「なんだかささらさんが公住くんに声をかけるのも見慣れてきましたね」

「そうだね。なんだかんだいつも話しかけてるもんね」

「なんていうか、少女漫画とかだったら恋愛に発展しそうではあるのよね」

 

 

 ささらとつづみのことをとりあえずスルーした竜は人数を念のために確認し、ささらたちを席へと案内する。

 席へと案内する竜のあとを追いながらずん子たちは先ほどのささらと竜のやり取りのことを話すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第510話




まただいぶ遅れてしまったぁ。

誰かと話したりしていると遅くなってしまうなぁ。






 

 

 

 

 お店にやって来たささら、つづみ、ずん子、イア、オネの5人を竜は席へと案内する。

 この5人は“cafe Maki”の常連であり、基本的に案内する席はほとんど決まっていた。

 

 

「それではこちらの席で、注文が決まりましたらお呼びください」

「はーい」

「さて、今日はなににしようか悩むわね」

「というかけっこうここに来てますけど皆さんはお小遣いとか大丈夫なんですか?」

 

 

 竜の案内で席に着いた5人は早速メニュー表を手に取ってなにを注文しようか話し始める。

 ささらたちがなにを頼もうか話していると、ふとずん子は思い出したようにささらたちに尋ねた。

 

 たしかにささらたちはまだ学生。

 そのため自由に使うことができるお金といえば基本的にはお小遣いかバイトで得たお金くらいしかない。

 それなのにけっこうな頻度で“cafe Maki”に来ているため、所持金などは大丈夫なのか気になったのだ。

 

 

「私たちは大丈夫だよね」

「まぁ、お金が心配になったらバイトでもしましょうか」

「私はお父さんにお小遣いをもらってるから大丈夫かなぁ」

「いつももらえるわけじゃないんだから気をつけて起きなさい」

 

 

 ずん子の言葉にイアたちは大丈夫だと答える。

 約1名大丈夫とは言い切れないものもいたが、そのあたりは自己責任なので気にしなくても良いだろう。

 

 

「まぁ、バイトが必要なときはちゃんと書類を記入して提出してくださいね?」

「分かりましたー」

「それじゃあ、竜くんを呼んで注文しちゃいましょうか」

 

 

 そして、手を上げて竜を呼んだ。

 

 

「注文するものは決まりましたか?」」

「はい。えっと、私はアイスコーヒーとミルクレープで」

「私は紅茶とチーズケーキを」

「私は緑茶と抹茶パフェで」

「私はオレンジジュースとフルーツサンドかな」

「んーっと、私はリンゴジュースとティラミスでお願いするわ」

 

 

 竜に聞かれ、ささらたちは順番に注文するものを答えていく。

 ささらたちの注文したものを竜は注文票に記入していく。

 

 

「以上で注文は終わりですか?」

「そうかな。うん、大丈夫」

 

 

 竜の確認にささらは全員の顔を見て確認する。

 そして問題がないことを確認して竜に向かってうなずいた。

 

 

「っと、忘れるところでした。公住くん、学校でなにか術を使いませんでした?」

「学校で・・・・・・。ああ、たしかに“(まじな)い”は使いましたね」

 

 

 メニューを聞き終え、キッチンへと向かおうとする竜のことを呼び止めてずん子は確認をする。

 ずん子が確認するのは学校で竜が術を使ったかどうか。

 ずん子の言葉に竜は少しだけなんのことか分からなくなったが、ギリギリのところで学校で“呪い”を使ったことを思い出す。

 

 まぁ、竜からすれば覚える価値もない2人のことだったので、忘れかけてしまうのも無理はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第511話




今日は何とか間に合った・・・・・・

でもやっぱりもうちょっと安定して書けるようになりたいなぁ






 

 

 

 

 ずん子に学校でなにかしらの術を使ったのかを尋ねられ、竜は少しだけ思い出すのに苦労しながらもなんとか学校で“(まじな)い”を使ったことを思い出してうなずいた。

 たしかに竜は学校で脇谷と茂部瀬の2人に“呪い”をかけていたのだが、この2人があまりにもろくでもなかったために竜の記憶からはほぼほぼ消えかけていたのだ。

 

 

「やっぱりそうでしたか。学校でいきなり霊力を感知したので驚いたんですよ。なにがあったんですか?」

「いやぁ、まぁ、ちょっとめんどくさい人たちがいたので、その人たちに“呪い”をかけさせてもらいました」

 

 

 竜が“呪い”を使ったということを聞き、ずん子はどんな理由で“呪い”を使ったのかを確認する。

 

 ずん子としても学校にいたらいきなり霊力を察知したために何事かと驚いたので、その辺りはハッキリと確認しておきたかったのだ。

 

 ずん子の言葉に竜は少しだけ申し訳なさそうにしながら“呪い”を使ったことを答えた。

 

 

「ふむ。めんどくさい人がどの人のことかは分かりませんが、あまり学校で“呪い”を使わないでくださいね?」

「はい。気をつけますね」

 

 

 竜が“呪い”を使ったということを聞き、ずん子は竜に学校であまり霊力を使うことがないようにと軽く注意をする。

 “呪い”や術といった霊力を扱うものは、基本的に霊力を扱うことができるもの以外には 防ぐことができない。

 そのため、ずん子は竜に学校での霊力の使用を控えてもらうように言ったのだ。

 

 

「それでは、注文されたものをキッチンの方へと届けてきますね」

「お願いするねー」

「あ、そうだ。学校を出る前に他のクラスの子に聞いたんだけど・・・・・・。なんでも素行不良の生徒が階段で転んで他の生徒にぶつかってしまったらしいわよ」

「階段でですか?ケガとかは大丈夫だったんでしょうか?」

「ああ、その話なら私も聞いたよ。とくに誰かがケガしたとかは聞いてないかな」

「階段で転んでケガをしていなかったのならけっこう運がいいんじゃないかしら?」

 

 

 ささらたちの注文を確認し終え、竜はキッチンへと向かって行く。

 離れていく竜のことを見送りながらささらたちが次に話し始めるのは学校を出る前に同級生たちから聞いた話。

 

 階段で誰かが転んだという話を聞き、ずん子は心配そうな声をあげる。

 

 

「そうそう、オネちゃんが言っている通りケガ人はとくにはいなかったんだよ」

「それならよかったです」

「そういえば、とくにはケガ人はなかったけど別の問題が起こっていたって聞いたような・・・・・・」

「それってあれじゃないかな?たしか階段で転んだ男子学生が階段の途中で転んで、下にいた別の男子学生を巻き込んでころんじゃって、最終的にその巻き込んだ男子学生のお股のところに転んだ男子学生の顔がいっちゃったって聞いたやつ」

 

 

 オネの言葉にイアはうなずきながらケガ人はとくにはいなかったことを答える。

 

 まぁ、階段で転んでしまってケガをしていないというのはすごいことなのかもしれないが、その後に他の男子学生のお股の部分に顔がいってしまうというのは階段で転んだ男子学生にとってはかなり“不運”なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第512話




エペをやっていたらまさかの時間に?!

ここまで遅くなってしまうのは予想外でした!






 

 

 

 

 “cafe Maki”にささら、つづみ、ずん子、イア、オネの5人が来てからもお客は入ってきており、竜はマキと一緒に店内を忙しく動き回っていた。

 また、竜のことを手伝っているついなもテーブルの上にある食器を片づけるのを手伝ったり、お客のテーブルの上の状況を教えたりとなかなかに忙しく動いていた。

 

 

「やっぱり暑くなっているからか冷たい系のものを頼む人が多くなっていたな」

「そうだねー。冷たいものが多くて私の手もちょっとだけ冷えちゃったよ」

 

 

 席に座っているお客へ注文されたメニューを届け終えた竜とマキは小さく息を吐いて呟く。

 それでも止まらずにテーブルの片づけをしたり、落ちているゴミなどを回収したりしているのは仕事に慣れているからだろう。

 

 竜とマキの言う通り、最近は暑くなってきたために冷たいドリンクやデザートなどが多く注文された。

 そのため、注文された料理を運んでいた竜とマキの手は少しづつ冷えていってしまっていたのだ。

 

 

「ほら、こんなに冷たくなっちゃった」

「うお?!ちょ、首元はマジで驚くから!」

 

 

 テーブルを片づけていたマキはそう言って竜の首元に自身の手を当てる。

 いきなり首元にひやりとしたものが触れた竜は驚き、慌てて振り向きながら少しだけマキから距離を取る。

 

 まぁ、いきなり首元に冷たいものが触れれば誰でも驚いてしまうのは仕方がないことだろう。

 そんな竜の姿を見てマキはケラケラと笑う。

 

 

「あはは、そんなに驚いた?」

「いや、そりゃ驚くだろ。意識してないところでいきなり冷たいものがきたら誰でも驚くわ」

「ごめんごめ・・・・・・うひゃあっ?!」

「ご主人を驚かした仕返しやでー?」

 

 

 ケラケラと笑うマキに竜は呆れた表情になりながら答える。

 竜の言葉にマキは笑いながら謝り、途中で驚いたように飛び跳ねて自身の首元に手を当てた。

 

 マキが驚いて振り向いたのと同時に、マキの背後にいつの間にか回り込んでいたついなが現れ、手に持っていた氷水の入った容器────、ピッチャーを見せながら言った。

 どうやらついなはマキの背後に回って首元に氷水の入ったピッチャーを当てたようだ。

 

 

「び、びっくりしたぁ」

「それがさっきご主人が受けたビックリなんやで?」

 

 

 驚いた様子のマキについなはドヤ顔をしながらピッチャーを片づけていく。

 

 

「むー、でも私の手はそんなに冷たくなかったと思うけどなー」

「その辺は誤差や誤差。さすがにまったく同じ温度にするとかは無理やったからな」

 

 

 少しだけ責めるようなマキの言葉をついなはあっさりと切り捨てる。

 マキとしても自分から始めたことだという意識はあるため、そこまでしつこく追及することもなくこの話は終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第513話




もう少しで海回にいけるかなぁ?

どう水着を表現できるかが不安ですねぇ






 

 

 

 

 バイトも終わり、いつもの帰り道。

 竜はやや暗くなった道をついなを頭の上に乗せて歩いていた。

 

 

「あ、そういえばご主人。ご主人がかけた“(まじな)い”がさっそく効果を発揮したらしいで?」

「そうなのか?」

 

 

 ふと思い出したようについなは竜に言う。

 ついなが言っているのはお店に来たささらたちが言っていた話の内容のこと。

 

 ささらたちが学校を出るよりも少し前に階段で男子学生が転んだらしいという話をしていたのをついなは偶然にも聞いていたのだ。

 ちなみに、そのときに竜も近くにいたはいたのだが、お客への対応が忙しくてちょうどその話が聞こえていない状況だった。

 

 ついなの言葉に竜は少しだけ不思議そうにしながら聞き返す。

 竜自身がかけた“呪い”だったのだが、そこまで早く効果を発揮するとは思っていなかったのだ。

 

 

「えっとな?なんか階段で転んだ男子学生が他の男子学生を巻き込んで転んで、その巻き込んだ男子学生の股間のところに顔がいってもうたらしいんよ」

「ほーん、となると“不運”が起こった感じなのかな」

 

 

 ついなの言葉から竜はかけた“呪い”の中から“不運”の部分が起こったのだろうと推測する。

 その階段で転んだ男子学生というのが脇谷と茂部瀬のどちらかなのか、はたまた2人のスマホを起点として飛ばされた“呪い”を受けた誰かなのかは不明だが、なんにしてもろくでもないやつだったのは間違いないだろう。

 

 竜のかけた“呪い”は、脇谷と茂部瀬のスマホを起点として発動されており、2人を含んだ2人とと関わりのある人間が対象となっている。

 起点となった2人がろくでもなかったために、その対象は基本的にろくでもない者ばかりになるのだろうというのが竜とついなの考えだった。

 まぁ、もしかしたら特に関係のない者もいるかもしれないが、この“呪い”は基本的に対象者への恨みや殺意といったものを吸収して発動するので、そういった者はしばらくすれば自然となんともなくなるだろう。

 

 

「他にも“呪い”はかけとったし、これからどんどん“不運”になっていくんやろうね」

「あとは“筋力減衰”と“性的興奮対象変更”だから、まともにケンカとかもできなくなるんじゃないか?」

 

 

 竜がかけた“呪い”の内容は“不運”“筋力減衰”“性的興奮対象変更”の3つ。

 これら3つが残り続けている限り、あの2人にしてもその関係者にしてもまともにケンカもなにもできなくなるのは間違いないだろう。

 

 ついなの言葉に竜は「ざまぁ」といった声音で答える。

 まぁ、竜としては自身の友人たちを狙おうとした相手なので、どうなろうと知ったことではないといった感情もあったのではないだろうか。

 

 それから、竜はついなと話しながらとくになにごともなく無事に家に到着するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第514話




今日も遅れてしまった。

しかもストーリーが上手く書けていない気が・・・・・・





 

 

 

 

 学校。

 

 お昼休みに竜たちは保健室にお昼ご飯を食べるために集まっていた。

 

 

「なぁ、聞いたか?なんやよく分からんけど3年生の男子学生が登校途中に自転車に轢かれたらしいで?」

「うんうん。しかも1人だけじゃなくて何人も轢かれたらしいよね」

 

 

 お昼ご飯を食べながら茜がクラスメイトから聞いた話を話す。

 どうやら昨日の階段から転んで落ちた男子学生以外にもなにかが起きた男子学生がいたようだ。

 

 茜の言葉に同じように話を聞いていたであろう葵もうなずいて肯定する。

 

 

「自転車か。車じゃないだけマシなんじゃないか?」

「そうですね。車だったら病院に運ばれてるかもしれませんし」

「でも自転車もけっこう痛いと思うけどなぁ」

 

 

 茜から話を聞き、竜たちは車に轢かれたわけではないということでそこまで気にした様子もなかった。

 まぁ、車に轢かれたわけではないと言っても自転車に轢かれるのもなかなかに危ないのだが。

 

 

「公住くん?ずんちゃんから聞きましたわよ?」

「ああ、すみません。ちょっと嫌な先輩たちだったもので」

 

 

 竜たちが話していると、ずん子から昨日の霊力の話を聞いたらしいイタコ先生が竜に声をかけてきた。

 イタコ先生の言葉に竜はすぐに昨日のことだと理解し、頭を下げる。

 

 竜とイタコ先生のやり取りに茜たちは不思議そうに首をかしげる。

 

 

「なんや、昨日なんかあったんか?」

「・・・・・・まぁな」

 

 

 なにがあったのか気になった茜の言葉に、竜は少しだけ嫌そうにしながら答える。

 竜からすれば昨日の不快な脇谷と茂部瀬のことは忘れてしまいたいことなので、あまり答えたくはないのだ。

 

 

「ずんちゃんは詳細を聞かなかったみたいですが。話しにくいことなのですか?」

「あー・・・・・・、そうですね。正直、かなり不快なことだったので忘れたいんですけども・・・・・・」

 

 

 イタコ先生の言葉に竜は困った表情になりながら答える。

 竜が答えにくそうにしているのは表情から分かるのだが、教師として“(まじな)い”をどんなことに使ったのかを把握しておきたいのだ。

 

 

「誰かに聞かれるのが気になるのであれば放課後に個別に話を聞いても良いでしょうか?」

「そう、ですね・・・・・・。放課後に話します」

 

 

 答えにくそうにしている竜の様子から、茜たちがいることによって答えられないのではないかとイタコ先生は推測し、竜に放課後に個別に話を聞くことができないかを尋ねる。

 イタコ先生の言葉に竜はさすがに説明をしなくてはならないと思い、放課後に保健室にくることを約束するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第515話





今日はギリギリ!

文字数を増やしたいけど無理に増やせば変な文面に・・・・・・






 

 

 

 

 時間は進んで放課後。

 今日は“cafe Maki”でのバイトもないため、竜はついなを制服のポケットに入れながら1人で保健室へと向かっていた。

 

 

「昨日のあの2人のこととかを話さんといかんのかぁ」

「まぁ、“(まじな)い”も使ったし、それがどんな風に使われているかを把握しとかないといけないんだろうな」

 

 

 保健室へと向かう廊下を歩きながら竜とついなが話すのは保健室で話すことになるであろう昨日の“呪い”のこと。

 竜とついなの2人からすれば不快なうえに放置してしまえばろくなことが起こらないであろう人物を対処するための“呪い”だったのだが、その場におらず発動した“呪い”の霊力だけを探知したイタコ先生からすれば気が気でない事態だったのだ。

 

 そんなことを話しながら歩いていると、いつの間にか竜の目の前に保健室の扉があった。

 保健室の扉を見た竜とついなは目を合わせ、小さくため息を吐いて保健室の扉を開けた。

 

 

「失礼しまーす」

「邪魔するでー」

「ああ、来てくださいましたのね。では、こちらへどうぞ」

 

 

 竜とついなが保健室の扉を開けて入ってきたのを確認したイタコ先生は、見ていた書類などを軽くまとめると竜たちを椅子へと座るように促した。

 イタコ先生に促されて竜はイタコ先生と向かい合うように椅子に座り、それと同時についなが竜のポケットから飛び出して元の大きさに戻り、竜の近くに立つ。

 

 

「それでは、昨日なにがあったのかを話してもらってもよろしいですか?」

「ええと、はい・・・・・・」

 

 

 イタコ先生の言葉に竜はあまり答えたくはないと思いつつも、しっかりと昨日の出来事を話していった。

 

 3年生の脇谷と茂部瀬のこと

 この2人が企んでいたであろうスマホの会話アプリの履歴内容のこと

 そして、この2人とその関係者を放置してはろくなことにならないと考えて“呪い”をかけたこと

 

 竜とついなから話を聞いたイタコ先生は眉をしかめて不快そうな表情を浮かべる。

 

 

「・・・・・・なるほど。そういった理由がありましたのね」

「はい。おそらくは今朝の男子学生が自転車に轢かれたというのも自分がかけた“呪い”の影響だと思います」

「“呪い”の影響でかなり“不運”になっとるからなぁ」

 

 

 イタコ先生の言葉に竜とついなはうなずく。

 竜のかけた“呪い”の中では“不運”がもっとも分かりやすいものなので、残りの2つである“筋力減衰”と“性的興奮対象変更”では微妙に分かりにくいのだ。

 

 

「分かりました。一先ずはお咎めとかはなしとしますわ」

 

 

 竜とついなから聞いた話を頭の中でまとめているのか、イタコ先生は目を閉じながら竜に言う。

 イタコ先生の言葉に竜はホッと息を吐き。イタコ先生が頭の中でまとめ終わるまで椅子に座りながら待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第516話




Wi-Fiが使えなくてスマホで書くのに時間が・・・・・・

やはりパソコンの方が書きやすいですねぇ。





 

 

 

 

 椅子に座りながらイタコ先生が考えるのは、竜が使ったという“(まじな)い”についてと、竜に接触してきた脇谷と茂部瀬という2人の男子学生のこと。

 “呪い”の内容に関して竜から詳しく聞き、その内容と発動する条件についても気になるところがあったのだ。

 

 

「ええと、たしか脇谷と茂部瀬という男子学生のスマホを起点に“呪い”をかけたんでしたわよね?」

「そうですね。その2人のスマホを見て会話履歴から複数人の関係者がいると考えてスマホから“呪い”が広がるように起点として使いました」

「ちゃんと恨まれとるやつだけを対象にもしてあるで!」

 

 

 念のためにイタコ先生は“呪い”をどのようにかけたのかを確認する。

 イタコ先生の言葉に竜とついなはとくに隠すこともなく“呪い”をどのようにしてかけたのかを答えた。

 竜の言葉に続けて言ったついなの言葉にイタコ先生は複雑そうな表情を浮かべる。

 

 

「どうかしましたか?」

「いえ、恨まれている人の恨みをエネルギーにして“呪い”が発動するんでしたっけ。でもそれって関係のない恨みでも発動してしまうのではありませんか?それに、もしかしたら自分では手を出さずに指示だけをして恨まれにくいひともいるかもしれませんわよ?」

 

 

 微妙そうな表情を浮かべているイタコ先生のことが気になり、竜は不思議に思いながら尋ねる。

 竜の言葉にイタコ先生は竜のかけた“呪い”の気になった点を2つ尋ねた。

 

 イタコ先生の言葉に竜は少しだけ驚いた表情になり、なるほどとうなずく。

 

 

「たしかにその可能性はあり得るかもしれないですね・・・・・・」

「ちゅうても“呪い”をかけるときにあの2人と関わりがある人だけにいくようにしたし大丈夫やと思うけどなぁ」

 

 

 恨みをエネルギーとして“呪い”をかければ関係のない人に“呪い”がかかったとしてもすぐに効果が切れる。

 そう竜は考えていたのだが、イタコ先生の指摘に竜はそう簡単に効果が切れることはなさそうだと気がつく。

 

 関係のない人にまで“呪い”をかけるような趣味は竜にもないため、イタコ先生の指摘は竜にとってかなり驚くことだった。

 

 

「いや、関わりがある人だけに絞っても関係のない人は必ずいるだろうし、なんだったら恨まれていない人間なんてほとんどいないわ」

「そりゃあそうやけど。そんなんまで気にしてたらキリがないんやない?」

 

 

 イタコ先生の指摘に軽い考えで“呪い”をかけてしまったことを竜は少しだけ後悔する。

 落ち込む竜のことをついなはなんとか慰めようとするのだが、竜はがくりと肩を落としていた。

 

 

「とはいえ、公住くんが“呪い”をかけなければ大変なことになっていたかもしれないのも事実ですわ。ですので、今回のことはこちらであとのことは済ませてしまいますわね」

「え、でも、良いんですか?」

「ええ。さいわいなことに今日、公住くんがかけた“呪い”を受けた生徒も保健室に来ましたので、そこからたどって追加の条件や、発動条件の変更なんかもできそうですし」

 

 

 落ち込む竜にイタコ先生は気にしなくても良いと言う。

 イタコ先生の言葉に竜が驚き聞き返すと、イタコ先生は問題ないと答えた。

 

 そして、落ち込んでいる竜の目の前でイタコ先生は“呪い”の術式を構築していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第517話



パソコンで書けないのがやっぱり大変すぎる・・・・・・

早めに書けるようになれば助かるんだけど・・・・・・





 

 

 

 

 イタコ先生による竜のかけた“(まじな)い”のアフターフォローも終わり、イタコ先生はホッと息を吐いて用意しておいたお茶を口に運ぶ。

 竜自身の霊力がずば抜けて高いということと、普段から周囲に癒しの作用として放たれていた霊力が集中されて構築された“呪い”ということもあって、なかなかに条件の追加や発動条件の変更などに手がかかってしまったのだ。

 

 

「ふぅ、とりあえずはこれで大丈夫でしょう」

「お手数をお掛けしてしまいました・・・・・・」

「そんで?どんな条件を追加したりしたん?」

 

 

 お茶を飲んでひと息つくことができたイタコ先生はそう言って竜に微笑みかける。

 微笑みかけるイタコ先生に竜は後始末をさせてしまったことへの申し訳なさから頭を下げた。

 

 条件の追加や発動条件の変更などに対する謝罪が終わり、ついなはどんな条件を追加したりしたのかをイタコ先生に尋ねる。

 

 

「ええと、もともとの条件が脇谷さんと茂部瀬さんと関わりのある人間だけでしたから、そこに追加で“男性であること”と“人に対して傷害行為をおこなったことがあること”を満たした人間に公住くんの“呪い”がかかるように設定いたしましたわ」

「なるほど。その条件なら無関係そうな人にかかる可能性も低くなりそうですね」

「んー?・・・・・・なぁなぁ、男っちゅう条件は分かるんやけど、傷害行為はなんでなん?それやとさっき言うとった指示だけをしてる人間にはかからないんとちゃう?」

 

 

 ついなの言葉にイタコ先生は追加した条件を答える。

 

 “男性であること”これはもともと脇谷と茂部瀬の2人がイアやマキなどを狙ったという点から、そういった行為(●●●●●●●)をしようとしていた男たちの企みだろうという判断から追加された条件だ。

 

 しかし、もう1つの追加された条件“人に対して傷害行為をおこなったことがあること”という条件に関してはどうしてなのかが分からず、ついなは不思議そうに首をかしげていた。

 

 

「傷害行為というのはなにも目に見える傷だけではありませんのよ?“心の傷”を作ることも十分な傷害行為ですわ。つまり────」

「────つまり、指示だけを出している人間だったとしても“心的外傷(トラウマ)”だとかの心の傷を与えた時点で俺の“呪い”を受ける対象になる。ってことですよね?」

 

 

 ついなが不思議に思っていた2つめの条件についてイタコ先生と竜が答える。

 

 傷害行為、言葉の感じからして誰かに怪我をさせるような行為のことを指しているのだろうとついなは考えていた。

 しかしイタコ先生が設定した傷害行為はそれだけではない。

 肉体的な傷害だけではなく精神的な傷害も条件として組み込んでいたのだ。

 竜とイタコ先生の説明についなはなるほどと手を叩く。

 

 そして、竜によって説明を途中で奪われてしまったイタコ先生は、少しだけ不服そうにほほを膨らませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第518話



またこんなに遅い時間になってしまった。

でもWi-Fiが復活したからパソコンで書けるようになってかなり書きやすいです!





 

 

 

 

 イタコ先生が竜のかけた“(まじな)い”に追加した条件を聞き、ついなは納得したようにうなずく。

 ちなみに、イタコ先生は細かく説明をしていなかったが、傷害行為とは基本的に凶器となるものをもちいておこなう行為のことを指しており、多少の殴り合いのケンカぐらいでは傷害行為として認識されることはない。

 まぁ、そのケンカが傷害行為として認識されないといっても、そのケンカによって心的外傷を受けた人間がいればその行為は傷害行為として認識されるのだが。

 

 

「とりあえず追加した条件については分かりました。それで、変更した発動条件はどのようなものに?」

「そうですわね。ええと、発動条件としてその人を恨んでいる恨みを利用して“呪い”を発動させるのは効率の面ではちょうどよかったので、そこに手を加えて誰かに害意を抱いたときに本人の性欲も消費して“呪い”を発動させるようにしましたわ」

 

 

 次にイタコ先生が話したのは“呪い”が発動する条件。

 先ほどまでの条件は“呪い”がかかる対象の条件であり、仮に先ほどの脇谷と茂部瀬と関係を持っていて男性で傷害行為をおこなったことがある人間だったとしても害意を抱かなければ“呪い”が発動しないということである。

 

 まぁ、傷害行為をおこなうような人間が害意を抱かないはずがないので、“呪い”がかかった時点でほぼほぼ発動することが確定しているのだが。

 

 

「害意っちゅーと、ケガさせたりしようとしたときってことやね?」

「そうですわね。悪意で設定してしまうと、ときたま悪意なく悪いことをしている人もいて発動しないことがあるかもと思いましたので」

「ああ、本人が悪いと思っていないから悪意として認識されないってことですね?」

 

 

 イタコ先生が変更した“呪い”の発動条件。

 それは、人へ害意を抱いたときにその人を恨んでいる恨みと本人の性欲を消費して“呪い”を発動するという条件だった。

 

 悪意ではなく害意という条件を設定している理由を聞き、ついなと竜は納得したようにうなずいた。

 

 

「ひとまずはこれで大丈夫だと思いますし。あとはどうなるかの経過観察ですわね」

「これでそういった被害が減ったりしてくれればいいんですけどね」

 

 

 竜のかけた“呪い”への条件の追加や発動条件の変更、それらすべてが終わって残るは変更したことによってどのようなことが起こるのかの確認だけ。

 叶うのであれば脇谷と茂部瀬の関係者が今後はこのような行動をおこなえないようになることが理想的なのだが、どうなるかはまだ分からない状態だった。

 

 イタコ先生によって変更が加えられた“呪い”のことを考えながら竜はお茶を飲む。

 “呪い”をかけたときは良い条件だろうと考えていた条件だったが、イタコ先生に指摘されて竜は落ち込んでいた。

 といっても竜はまだ“呪い”を扱えるようになって日が浅いため、こういったことが起こるのは仕方がないことなのだろう。

 

 そして、イタコ先生に淹れてもらったお茶も飲み干して竜は保健室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第519話




今日もまたこんな時間に・・・・・・

これもすべてアモングアスが楽しいから・・・・・・





 

 

 

 

 休日の朝、竜とついなは前日の夜のうちに用意した荷物の確認をしていた。

 今日はあかりが海に行くと計画した日で、各自の家にあかりの家の使用人が運転する車が迎えにいく手はずとなっている。

 

 

「これで忘れ物はないかな?」

「水着も入っとるし着替えも入っとる。・・・・・・たぶん大丈夫やと思うで」

 

 

 竜とついなは目の前にあるバッグの中に入っているものを1つずつ取り出して確認しながら忘れ物などがないかをしっかりと確認していた。

 海に行くのだからまず水着は必須、さらに濡れた体を拭くタオルも重要だろう。

 

 ある程度のものであれば海に行く道中で買えるとは思うのだが、それでも無駄な出費はない方が良いだろう。

 

 

「っと、そろそろ時間だな」

「そんなら戸締りしていかんとやね」

 

 

 荷物の確認をして時計を確認した竜は確認していた荷物をまとめていく。

 そして、家の窓を閉めて外に出るのだった。

 

 

「あ、おはようございます!」

「ああ、おはよう」

 

 

 竜とついなが家を出ると、家の前にすでに待機していたあかりが元気よく手を振りながら声をかけてきた。

 声をかけてきたあかりに竜も同じように手を上げて応える。

 

 それと同時にあかりの家の使用人のうちの1人が竜の持っていた荷物を持って車へと乗せていった。

 

 

「それでは次は茜先輩、葵先輩、ゆかり先輩を迎えにいきましょう!」

 

 

 竜の荷物が車に乗せられたことを確認したあかりは竜の手を引いて車に乗る。

 次に向かうのは茜、葵、ゆかりの生活している“清花荘”だ。

 

 

「そういえばイア先輩とオネの家は知ってるのか?」

「その辺も問題ありませんよ。すでに家の場所はイタコ先生に聞いて確認済みです!」

 

 

 ふと竜が気になったのは留学生であるイアとオネが暮らしている場所。

 2人は留学生のため、日本にもともと住んでいた家はない。

 そのため、2人がどこに住んでいるのかを竜は知らないのだ。

 

 竜の質問にあかりは問題ないと親指を立てて答える。

 あかりの答えに竜は納得して頷くのだった。

 

 

「おはようやー!」

「おはよう。今日は良い天気で良かったねー」

「おはようございます。今日はよろしくお願いしますね」

 

 

 そして、竜とついな、あかりを乗せた車は茜たちの住む“清花荘”に到着した。

 “清花荘”に到着すると同時に元気な茜の声が聞こえてくる。

 どうやら“清花荘”に近づいてくる竜たちの乗った車を見てテンションが上がってきているらしい。

 

 元気な茜の姿に竜たちは少しだけ苦笑を浮かべる。

 

 

「おお、おはよう。今日も元気だな」

「もちろんやで!なんたって今日は海に行くんやからな!」

 

 

 竜の言葉に茜は自身の荷物をあかりの家の使用人に手渡しながら答えた。

 そんな1人だけテンションの高い茜の姿に、葵とゆかりは早くも疲れたような表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第520話




今日も遅いなぁ。

やっぱり、通話をしたりしていると遅くなってしまうなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 茜、葵、ゆかりを乗せてあかりの家の使用人が運転する車は出発する。

 茜たちの荷物もあかりの家の使用人によって車に積まれており、茜たちはなにもせずに車に乗るだけで良かった。

 

 

「次はマキを迎えにいって、そのあとにイタコ先生たちかな?イア先輩とオネの家がどこにあるのかが分からないからどうなるのかは分からんけど」

「んーと・・・・・・、そうですね。イア先輩たちの家は一番最後になりますね」

 

 

 車に乗りながら竜は次に迎えにいく場所を確認する。

 竜の言葉にあかりは少しだけ思い出すように考え、竜の言葉が間違っていないとうなずいた。

 

 

「海で遊ぶためにいろいろと準備したで!」

「ボールとか浮き輪とかいろいろと準備したよねー」

「でも、あかりさんの家であればすでに用意してあったのでは?」

 

 

 楽しそうに茜はいろいろなおもちゃを準備していることを言う。

 事実として茜が用意した荷物の中にはビニールボールや浮き輪なんかが膨らませていない状態で入れられていた。

 

 茜の言葉にゆかりは小首をかしげながら言う。

 あかりの家であればたしかに遊ぶおもちゃなどはすでに用意してある可能性もある。

 ゆかりの言葉に茜は驚いた表情になってあかりを見た。

 

 

「あー、まぁ、一応いくつかは用意してありましたね」

「マジかぁ・・・・・・」

「それならあかりちゃんの家が用意してくれた方のおもちゃを使わせてもらって家で用意した奴は使わなくていいんじゃない?乾かしたりしないといけないし」

 

 

 茜に見られ、あかりはやや困った表情になりながらいくつかのおもちゃが用意してあったのだと答えた。

 あかりの言葉に茜はがくりと肩を落とす。

 やや落ち込む茜をフォローするように葵は声をかける。

 

 

「っと、マキ先輩の家に着きましたね」

「マキさんは・・・・・・見当たりませんね?」

 

 

 あかりの家の使用人が運転する車が“cafe Maki”の前に到着する。

 “cafe Maki”の周りを見渡してみるが、マキの姿が見当たらずゆかりは不思議そうに首をかしげる。

 

 当然ながらマキにも迎えにいくおおよその時間は伝えてあるので、まだ準備ができていないということはないだろう。

 

 

「ちょっと電話してみましょうか」

「そうだな。頼むわ」

 

 

 竜たちに声をかけてゆかりはマキに電話をかける。

 

 ゆかりがマキに電話をかけてしばらくして、“cafe Maki”の方からドタバタとそこそこ大きな音が聞こえてきた。

 

 

「ごめん!さっき目が覚めた!」

「・・・・・・どうやら寝坊していたみたいですね」

 

 

 ややぐしゃぐしゃになった髪型で着崩れ気味の格好でマキが“cafe Maki”の中から現れた。

 慌てていた様子と恰好が着崩れていたことから寝坊をしてしまったのだろうと推測することができる。

 

 マキの姿を確認したゆかりはスマホをしまいながら呆れた様子で呟く。

 そんなゆかりの様子に竜たちは苦笑を浮かべることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第521話




やっぱり時間がぁ・・・・・・

なんにしてももっと早く書き終えて眠るようにしないと







 

 

 

 

 あかりの家の使用人に荷物を渡し、マキは大きく息を吐きながら車に乗ってくる。

 マキの髪の毛がぼさぼさになっていることに気がついたゆかりはあかりの家の使用人からクシを貸してもらい、マキの髪の毛を()かし始めた。

 

 

「それにしてもマキさんが寝坊するなんて珍しいですね?その辺は葵さんがやらかすと思っていたんですが」

「それはどういう意味かな?!」

「いや、それはそのままの意味やん」

 

 

 マキの髪の毛を梳かしながらゆかりは少しだけ意外そうにマキが寝坊したことを呟く。

 マキが寝坊することは基本的にめったになく、マキが寝坊をしたというのはかなり珍しいことなのだ。

 

 ゆかりの言葉に葵は誠に遺憾だと大きな声をあげる。

 怒る葵に茜は否定はできないだろうと小さくツッコミを入れた。

 

 

「あはは、ちょっと今日のことが楽しみ過ぎてなかなか眠れなくてさぁ」

「それならまぁ、仕方がないんかな?」

 

 

 ゆかりの言葉にマキは苦笑しながら寝坊してしまった理由を答えた。

 

 楽しみ過ぎて眠れなかったというマキの言葉に茜はそれなら仕方がないのかと軽く首をかしげる。

 

 

「はい。これで髪は梳かし終わりましたよ」

「ゆかりん、ありがとー」

 

 

 マキの髪の毛を梳かし終わり、ゆかりはあかりの家の使用人に借りていたクシを返す。

 ゆかりによって髪の毛をキレイに梳かしてもらい、マキの髪型はいつもの見慣れた髪型になった。

 

 

「そういえば葵は寝坊してなかったな?」

「あー、葵は楽しみなことがあると逆に早く寝て、次の日に早起きしとるんよ」

「だって早く寝たら次の日が早く来るでしょ?」

 

 

 ふと竜はゆかりの言葉に葵が寝坊をしていなかったことを思い出し、少しだけ驚いた表情になりながら葵を見る。

 

 葵はもともと朝が弱く、そのことは竜たち全員が把握している。

 しかし、今日はなにごともないように起きて茜たちと一緒に“清花荘”の前で車を待っていた。

 

 そんな竜の疑問に茜がその理由を答えた。

 

 早く寝ればその分だけ早く楽しみなことがくる。

 

 そう言った理由で葵は楽しみな日の前日は早く寝ているらしい。

 

 

「ほーん?マキとは逆なんだな?」

「えー、でも楽しみならワクワクして眠れなくない?」

「いやいやマキさん。楽しみだからこそ早く寝てその楽しみなことが早く来るようにしなくちゃ」

 

 

 葵の言葉にマキは不思議そうに首をかしげながら楽しみなことがある日の前の日はワクワクして眠れないということを話す。

 そんなマキの言葉に葵は楽しみだからこそ早く寝た方が楽しみなことが早く来るのだと答える。

 

 この辺りの感覚は人によって異なってくるので一概にどちらがいいなどは言えない。

 しかし、どちらの考えでも同じように言えることがある。

 

 それは、どちらも楽しみなことがあるからこそ早く眠れるしなかなか眠れないのだということだ。

 

 そんなマキと葵の言葉を聞きながら竜たちはイタコ先生たちのいる東北家へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第522話




今日も今日とて遅くなってしまった。

夜更かししてると朝が辛いんだけどなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 竜、ついな、あかり、茜、葵、ゆかり、マキを乗せたあかりの家の使用人が運転する車はなにごともなく東北家へと到着する。

 東北家の前にはすでにイタコ先生、ずん子、きりたん、ウナの4人がおり、竜たちの乗っている車を待っていた。

 

 

「前に拉致されたときも思いましたが、すごく大きな車ですよね?」

「私知ってるぞ。リムジンって言うんだよ」

「たしかに大きな車ですわねぇ」

「こんなにたくさん乗れるんですからすごいですよねぇ」

 

 

 東北家の前に停車した車を見てきりたんがポカンとやや呆れたような表情になりながら呟く。

 きりたんの言葉にウナが自信満々に車の種類を答えた。

 

 

「っと、お願いいたしますわね」

「おはようございます!」

「おはようさんやでー」

 

 

 あかりの家の使用人に荷物を渡しながらイタコ先生、ずん子、きりたん、ウナの順に車に乗っていく。

 この人数ともなれば荷物も相当な量になっているはずなのだが、とくに問題なくイタコ先生たちの荷物も車に乗せられていた。

 

 イタコ先生たちが乗ってきたのを確認したあかりや茜が元気よく声をかけていく。

 あかりたちの挨拶にイタコ先生たちも笑顔を浮かべて応えた。

 

 

「皆さん、おはようございますわ。あかりさん、今日はよろしくお願いいたしますわね」

「いえいえ。それでは最後にイア先輩たちのお迎えに行きましょうか」

 

 

 車の椅子に座り、イタコ先生はあかりにお礼を言う。

 

 行きたいと思うことはあってもそう簡単に行けない場所、それが海。

 そのため、車まで出してもらえてしかも他に人がいないプライベートビーチにまで連れていってくれるというあかりにイタコ先生はとくに感謝をしていた。

 

 

「クーっ!」

「あ、こら!また勝手に!」

 

 

 イタコ先生が車の椅子に座って気を緩めた瞬間、イタコ先生の中から勢いよくキツネが飛び出して竜へと向かって行った。

 いきなり飛び出したキツネの姿にイタコ先生は一瞬だけ呆気にとられたものの、すぐに竜へとしがみついているキツネの尻尾を掴んで引き剥がそうとする。

 

 

「コーンっ!」

「ほら!さっさと戻りなさい!」

「おとととっ?!すごいしがみついてるな?!」

 

 

 尻尾を掴まれて引き剥がされそうになっているキツネは絶対に引き剥がされないとでも言うかのように竜の服に全力でしがみつく。

 そんな状態のキツネを引っ張ればどうなるかといえばそれは誰にでも分かるようなことで、竜の服が引っ張られて伸びた状態となってしまっていた。

 

 

「このっ!離れなさっ・・・・・・きゃあっ?!」

「うおっと?!」

「クーッ?!」

 

 

 キツネを引き剥がそうと車の椅子から立ち上がっていたイタコ先生は、、道路がへこんでいたのか急にきた衝撃に思わずよろけてしまい、キツネを巻き込みながら竜へと転んでいってしまう。

 突然のことに竜も反応することができず、そのまま転んできたイタコ先生にキツネともども巻き込まれてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第523話




今日はなんとか1時に投稿!

もう少し安定させて書けるようになりたい・・・・・・







 

 

 

 

 お腹にはもふもふとした感触、そして顔にはなにやら柔らかい水風船のような感触が竜にぶつかってくる。

 視界は顔にぶつかってきた柔らかいものによってふさがれているためになにも見えないのだが、視界がふさがる前に見えていた光景から竜は自分のお腹と顔にぶつかってきた感触の正体が推測できていた。

 

 

「あいたたた・・・・・・。ちゅわぁっ?!ご、ごめんなさい!」

「ぶはぁっ!い、いえ、大丈夫です」

「クーッ!!」

 

 

 バランスを崩して転んでしまったイタコ先生は自分が竜とキツネのことを押しつぶしてしまっていることに気がつくと慌てて謝りながら飛び退く。

 イタコ先生がどいたことにより、地味に呼吸が抑えられていた竜は大きく息を吸い込んで答える。

 また、イタコ先生が竜の上からどいたことによって竜のお腹のあたりでイタコ先生と竜に挟まれる形になっていたキツネも自由となり、やや起怒った鳴き声をあげながらイタコ先生へと飛びかかっていった。

 

 

「ちょ、いたたたっ?!あなたが挟まれたのは自業自得でしょう?!」

「クーッ!コーンッ!!」

 

 

 飛びかかってきたキツネによって前足でパンチをされたり後ろ足で蹴られたりと攻撃をされ、イタコ先生は慌てて自分を攻撃してきているキツネを掴み上げて自身の体から引き剥がした。

 キツネがイタコ先生と竜の体に挟まれてしまったのは間違いなくキツネの自業自得なのだが、そんなことなど関係ないと言わんばかりにキツネはイタコ先生へと攻撃を繰り返している。

 

 

「ほれ、落ち着け。お前が挟まれたのはお前が俺に飛びついてきたからだろうに」

「クー?」

 

 

 イタコ先生へと攻撃を続けるキツネの体を掴み上げ、竜は目線をキツネと合わせながら挟まれたのは自業自得だったとキツネに言う。

 しかし竜の言葉にキツネはコテンと首をかしげるだけで、自分のせいで挟まれるようなことになったのだということを理解しているようにはとても見えなかった。

 

 

「はぁ・・・・・・、とりあえず車の中では自分が預かりますよ。またさっきみたいなことが起きたら大変ですので」

「お、お願いしますわ・・・・・・」

 

 

 首をかしげるキツネの姿に竜はため息を吐き、イタコ先生に車の中では自分がキツネのことを預かると伝える。

 たしかに先ほどのようにいきなり飛び出して竜へと飛びかかるよりは最初から竜の近くにいる方が被害となるものも少なく済む。

 そう考えたイタコ先生は竜の言葉にうなずき、竜にキツネを預けるのだった。

 

 竜とイタコ先生がそんなやり取りをしている間も車は進み、とくになにごともなくイアとオネの家へと到着するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第524話




今日はかなり遅くなってしまった・・・・・・

書けるときはあっさりと書けるのになぁ・・・・・・









 

 

 

 

 あかりの家の使用人に荷物を渡して車に乗ってきたイアとオネは、車の中の光景に困惑して思わず2人で顔を見合わせる。

 車の中で広がっていた光景、それはイタコ先生が茜、葵、ゆかり、マキ、あかりの5人からジッと見られて縮こまっている光景だった。

 そんなイタコ先生の様子を見ながら竜はキツネを撫でている。

 

 

「えっと、これはどういう状況なのかしら?」

「イタコ先生がなんだか責められているみたい?」

「あー、うん。まぁ、イタコ先生がちょっとな」

 

 

 車の空いている座席に座りながらオネは竜になにがあったのかを尋ねる。

 オネの言葉に竜は曖昧に笑みを浮かべながら答えた。

 

 まぁ、竜としても自分の顔にイタコ先生の胸がぶつかってきたなどということは人に言えないことだと分かっているので、そのあたりは答えずに濁すだけにしたのだ。

 竜の言葉にイアとオネはいまいち状況が分からず、不思議そうに首をかしげるのだった。

 

 

「っと、2人ともおはようございます。これで全員揃いましたね。」

 

 

 イタコ先生の方を見ていたあかりだったが、イアとオネの2人が車に乗ってきていることに気がついて2人に頭を下げる。

 これで迎えに行くべき人間はすべて車に乗ったことになった。

 

 ぐるりと車の座席に座っている全員を見回し、あかりは息を吸い込む。

 

 

「それでは、うちの別荘に向かうとしましょう!」

「おー、ついに向かうんやな!」

「どんな別荘なのか楽しみだよね」

「プライベートビーチ、どんな感じなのか楽しみですね」

「紲星家のプライベートビーチだからすごそうだよね」

 

 

 あかりの言葉に茜たちは口々にこれから向かう別荘についてを話し始める。

 プライベートビーチのある別荘に行くということなど基本的に一般的な家庭に住んでいたらまずありえないことなので、茜たちの反応も仕方がないのかもしれない。

 

 

「途中でトイレ休憩などを挟む予定ではありますが。もしもそれよりも早くトイレに行きたいなどがありましたら早めに行ってくださいね?」

 

 

 紲星家のプライベートビーチに向かいながら、あかりはトイレに行きたいなどの言葉を早めにいうように言う。

 プライベートビーチまでにはまだ距離があり、プライベートビーチに向かっている間にいきなりトイレに行きたいなどと騒がれたとしてもちょうどよくトイレのついているお店があるとも限らない。

 そう言ったことからあかりは早めにトイレ休憩などを言うように言ったのだ。

 

 

 そして、竜たちはあかりの家の使用人が運転する車に乗って紲星グループが所有しているプライベートビーチへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第525話




暑くて寝苦しい・・・・・・


お風呂から出たら塩タブッレットを食べるようにしています・・・・・・








 

 

 

 

 あかりの家の使用人が運転する車に乗りながら、竜たちはゲームを起動する。

 ついなは自分のゲームを持っていないのだが、そこはあかりに借りることによって一緒に遊ぶことができるようになっていた。

 

 竜たち13人が一斉に同時に遊んでいるゲーム、それは“Among Us”だ。

 

 

「アプデで15人まで同時に遊べるようになったのはやっぱりでかいよなぁ」

「でもこのゲームって基本的に通話を切って遊ぶゲームだからこの距離で全員の声が聞こえる状況だと微妙じゃない?」

 

 

 “Among Us”通称“宇宙人狼”は最低5人、最高15人で遊ぶことができるゲームだ。

 ゲームを遊ぶプレイヤーは壊れた場所の修理などをおこなうクルー陣営と、クルーたちを殺しつくして全滅させるインポスター陣営とに分かれて戦っていくという内容になっている。

 

 通称が“宇宙人狼”なことから察せると思うが、このゲームではクルー陣営は誰がインポスターなのかがまったく分からない。

 そのため、クルー陣営は目の前で殺人を見た場合以外では基本的に誰かが死んだ場所に最も近かったのが誰か、その人が死んだであろうタイミングで他の場所で目撃証言があるからその人は殺人に関わっていない、といった話し合いをしてインポスターを導き出していかなければならないのだ。

 とはいえ、当然ながらインポスター陣営も黙って会議を進めさせるはずもなく、嘘の情報を出して誰がインポスターなのかを分からなくさせたり、まったく関係のないクルー陣営の人をさも人狼かのように仕立て上げて代わりに吊らせたりと様々な妨害をおこなってきたりする。

 なのでクルー陣営はインポスター陣営の嘘に騙されずにインポスターを吊っていかなければならないのだ。

 

 ちなみに、“Among Us”は基本的には死体を発見したときか緊急招集ボタンを押して開始された会議のときにしか会話をすることができないので、すぐそばに会話をすることができる相手がいるというのはかなり異例の状態だと言えるだろう。

 

 

「なるほど、2人キルされたか」

「ダブルキルだったんか?」

「えっとねぇ、アドミンで位置が少しだけ出せます」

 

 

 不意に通知が鳴り、竜たちは会議をおこなうために集合する。

 見れば2人のクルー、ずん子とオネが殺されていた。

 2人が殺されていることに驚き、竜は思わずずん子とオネの2人を見てしまう。

 

 

「えっと、この2人の目撃情報とかは?」

「私は知りませんね」

「同じくありませんわね」

 

 

 一先ずは一番重要な死体のある場所などを聞いていく。

 そうして、竜たちは“Among Us”を遊んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第526話




少し遅れてしまった・・・・・・

執筆速度の向上とストーリーを考える力が欲しいなぁ・・・・・・







 

 

 

 

 竜たちが車に乗って“Among Us”をプレイしていると、ふいに空気の匂いが変化したことに気がついた。

 顔を上げて車の外を見てみれば見慣れた街の風景からがらりと変わっており、大きく広がる水平線が窓の外に広がっていた。

 

 

「おー、いつの間にかこんなに海が近くになっていたのか」

「窓が閉まっていたからぜんぜん気がつきませんでしたね」

「めっちゃキレイな海やん!」

「プライベートビーチだから他に人が来なくてキレイなのかな?」

 

 

 大きく広がる海の光景に竜たちはプレイしていたゲームを止めて窓の外を見る。

 そのまま竜たちの乗った車は砂浜の近くに建てられていた一軒の家の近くへと移動して停車した。

 

 

「っと、停まったってことはここが目的地の別荘なのか?」

「そうですね。ちょっと最近は来れなかったので少し前に大急ぎで掃除してもらいましたので、中はかなりキレイになっているはずです」

「こんな大きな家を使えるなんてすごいなぁ」

「ほへぇ、さすがは紲星家の別荘やなぁ」

「“清花荘”よりも大きいね」

「サイズ的に一般的な家庭の家よりも大きいですよね?」

「そうだね。でもそのぶん掃除とかも大変そうだなぁ」

「紲星さんのおうちが大きいのは理解してましたが、こういったものを見ると改めてすごいと思いますわよねぇ」

「ですね。うちもけっこう大きいですけどここまで大きい家を見ると驚いてしまいます」

「すごい家だなー!これならかくれんぼとかもできそうだぞ!」

「いや、見つけるのがきつそうなんで私は絶対にやりませんからね?」

「こんなに大きな別荘があるなんてすごいねぇ」

「別荘の中がどんな風になっているのかけっこう気になるわね」

 

 

 車から降り、竜たちは目の前に立っている別荘を見て口々に感想を言う。

 そして、あかりは竜たちを先導して別荘へと向かって行く。

 あかりに誘われた竜たちは自分たちの荷物を持って別荘に行こうとしたのだが、あかりの家の使用人たちに先に行っていて大丈夫と言われ、先に進んでいったあかりのあとを追いかけることに決めた。

 

 

「それでは最初に皆さんに使ってもらう部屋の案内からしていきましょうか」

「そうだな。そうしてもらえると助かる」

「うちらの荷物は届けてもらえるみたいやから先に部屋を見とかんとやね

 

 

 別荘の玄関を開けて中に入り、先に竜たちが使う部屋を案内するためにあかりは手招きをしながら別荘の中を歩いていく。

 そんなあかりのあとを、竜たちはキョロキョロと別荘の中を見渡しながら追いかけていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第527話




またこんな遅くなってしまう・・・・・・

でも、もうすぐで水着姿が出せるかな?







 

 

 

 

 あかりの案内によって竜たちはそれぞれに割り当てられた部屋に移動する。

 それぞれの荷物はすでにあかりの家の使用人たちの手によって部屋に運ばれているため、あとは海で遊ぶために着替えたりするくらいだった。

 

 

「それにしてもほんとにキレイなとこやねぇ」

「そうだな。これだけキレイだと気分も上がるな」

 

 

 紲星家の別荘の内装と、窓から見える海の光景を見ながらついなは嬉しそうに呟く。

 ついなの言葉に竜もうなずき、窓のそとに広がる海を見て答える。

 竜とついなのいる部屋にある窓は海に面しており、窓の方を見るだけでとてもキレイな海を見ることができるのだ。

 

 ちなみに、竜とついなが同じ部屋にいることを不思議に思うかもしれないが、この辺りはついなが自身の荷物がないということで竜の手伝いをするために同じ部屋になったというわけである。

 まぁ、そうは言っても手伝うようなことなんてそうそうないのだが。

 

 

「っと、着替えるから部屋から出ててくれ。もしも誰かが呼びに来たらまだ着替えてるって言っておいてもらえると助かる」

「了解や!」

 

 

 あかりの家の使用人たちによって運ばれてきた荷物の確認も終わり、竜はついなに部屋の外に出るように言う。

 いくらついなが九十九神とはいえ普段着から水着に着替えるところをわざわざ見せる理由もないため、ついなに部屋の外で誰かが来た時ように対応するように言い、部屋の外で待っているように言ったのだ。

 

 そして、ついなを部屋から出した竜は普段着から水着へと着替えていくのだった。

 

 

「とりあえず持っていくものはなにもない、かな?なにかしら必要になったら言ったら貸してもらえるだろうし」

 

 

 普段着から水着へと着替えた竜は他に何か必要なものがあったかを指折り確認する。

 一先ず現状ではとくに必要なものがないと再確認した竜はなにも持たずに部屋の扉を開けた。

 

 

「お、着替え終わったんやね」

「ああ。とくに誰も来ていないってことは先に行ったか、まだ着替えてるか、かな。それなら先に海の方に行って準備するものとかがあるか確認しておくか」

 

 

 部屋の外に出た竜はついな以外に誰の姿もないことからまだみんな着替えたりするのが終わっていないのだろうと判断して先に海に行っておくことを決める。

 さすがにパラソルなどの日よけや、砂地に直接座らないようにするためのレジャーシートなんかがあった方が良いだろうと考え、それらを先に用意しておいた方が良いだろうと判断したためだ。

 それらの道具もおそらくはこの別荘に置いてあるはずなので、竜はついなを連れて紲星家の使用人にそれらの場所を聞くために歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第528話




今日も遅く・・・・・・

通話とかをしているといつの間にか遅くなってしまうなぁ






 

 

 

 

 紲星家の使用人からパラソルやレジャーシートなどを受け取った竜とついなは砂浜にそれらを準備していく。

 紲星家の使用人たちは手伝うと言ってくれたのだが、なんとなくこの辺りは自分たちでやる方が醍醐味なような気がしたため、竜はその言葉を受け取りつつも自分でやると言って手伝いを断っていた。

 まぁ、それでもさすがに片づけまでできる元気が残っているかが不安だったので、遊び終わった後の片づけだけはお願いしているのだが。

 

 

「パラソルはこの辺りだから・・・・・・、レジャーシートはこのあたりかな」

「パラソルの影にシートが来るようにしとかんと意味がないもんなぁ」

 

 

 最初に大まかなパラソルの位置を決め、そのパラソルの影の位置にくるようにレジャーシートを配置していく。

 パラソルとレジャーシートの準備が終わると、竜はレジャーシートの上に座って近くに置いてあったクーラーボックスから飲み物を取り出した。

 このクーラーボックスは紲星家の使用人が用意してくれたもので、中にはけっこうな量の冷たい飲み物などが入っている。

 

 

「ぷはぁ!やっぱり冷たい飲み物があると喉が潤うな」

「それは確かにそうやなぁ。こんな時期に温かい飲み物とか温かいものを食べると辛いもんなぁ」

 

 

 暑くなってきた体をどうにか冷やそうと一気に冷えた飲み物を飲み干した竜はそのままレジャーシートの上に横になる。

 横になった竜の隣についなも座り、のんびりと波の音を聞きながら海を眺めていた。

 

 

「なんや、泳いどるかと思ったら横になっとるんか」

「でもたしかにこうも暑いと泳ぐのは少しだけためらっちゃう、かな?」

 

 

 竜がレジャーシートに横になってしばらくすると、砂を踏む足音とともに話し声が聞こえてきた。

 聞こえてきた声や話し方から竜は最初に来たのが茜たちなのだと理解する。

 

 

「海で遊ぶならやっぱり全員揃ってからの方が良いかと思ったからな。っと、2人が着ているのはこのあいだ買い物に行ったときに買ったやつだったか?」

「せやで!」

「可愛い水着を見つけられたから良かったよねー」

 

 

 茜たちの声が聞こえたことにより、竜は茜たちの方を見る。

 

 茜と葵が来ていた水着。

 それは茜と葵が少し前に買い物に行った際に竜に見せてきた水着だった。

 2人の水着を見た竜は気恥ずかしさから思わず顔を逸らしてしまう。

 

 

「なんで顔を逸らしているの?」

「うちらの水着姿は前に見せたやんけ」

「たしかに前に見たやつだけどそれでもまだ完全に水着姿を見なれてないからなぁ」

 

 

 竜が顔を逸らしたことに気がついた茜と葵はどうしてなのかと首をかしげる。

 ついなの言葉に竜は異性の水着姿をまだ見慣れていないと答えた。

 まぁ、たしかに異性と出かけて水着になるようなことは恋人でもいない限りなかなか起こることはないだろうから、竜が見慣れていないのも仕方がないことなのかもしてない。

 

 そして、茜と葵は横になっている竜の近くのレジャーシートの上に座るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第529話




今日も遅いなぁ

ゲームをやったりしていると書く時間がなかなか取れないのが大変だぁ・・・・・・







 

 

 

 

 波の音を聞きながら竜、ついな、茜、葵の4人はレジャーシートの上に座っている。

 パラソルを設置していることによって日差しは直接当たらず、ときおり吹いてくる風がほどよく涼しさと海の香りを運んできていた。

 

 

「そういえば2人だけで先に来たのか?」

「せやね。ちゅうてもそんなに早く来たわけでもないしそろそろ来るんちゃうか?」

 

 

 ふと、竜は茜と葵が先に海に来たことを尋ねる。

 竜は男性なので水着は履くだけ、ついなは自身で水着を変えられるのでそこまで時間はかからず海に一番に来た。

 しかし茜と葵は女性で水着もやや着るのに時間がかかってしまうもの。

 それなのに茜と葵だけが先に海に来たことが竜は気になったのだ。

 

 竜の言葉に茜はうなずいて応える。

 そして紲星家の別荘の方を指さしながら他のメンバーももうすぐ来るだろうと答えた。

 

 

「みんなして座ってなにしてるの?」

「ん、いや、とくになにもしてないな」

 

 

 竜たちがレジャーシートの上に座っていると、不意に背後から声がかけられた。

 かけられた声から誰が来たのかを理解した竜は声の主の方を見ないでとくになにもしていなかったと答える。

 

 竜の答えに声をかけた主とその隣にいたもう1人は不思議そうに首をかしげる。

 

 

「おー、マキマキたちも来たんやね。そんならそろそろ準備運動でもしてこか」

「そうですね。海に入るにしても砂浜で遊ぶにしても準備運動は大切です」

「ほら、竜くんも準備運動しよう?」

「というかなんでさっきから竜くんは海の方ばっかり見てるの?」

 

 

 竜たちに声をかけてきた主、マキたちの姿を見ながら茜と葵は立ち上がる。

 そして、左右から竜の手を引っ張りながら準備運動をしようと声をかけた。

 

 茜と葵によって手を引かれながら、竜はなぜか海の方を見ながら立ち上がる。

 そんな竜の様子にマキたちは不思議そうに首をかしげながら尋ねた。

 

 

「・・・・・・あー、もしかしてあれなんか?」

「ああ、そういえばボクたちのときもこうだったよね」

「2人はどうして竜くんが海を見ているのか分かるんですか?」

「おーい、ほらー、私たちも新しい水着を買ってるんだよー?」

 

 

 竜の様子が先ほどの自分たちを見ていたときの反応と似ていることから水着姿を見ることに対して気恥ずかしさを感じているのだろうと察した茜と葵は納得したようにうなずく。

 茜と葵の様子にゆかりは首をかしげながら尋ね、マキはどうにか竜の顔を自分たちへと向けようと腕を引いたり顔の向きを変えたりしようとしていた。

 

 

「まぁ、なんちゅうか、うちらの水着姿を見慣れていないから気恥ずかしいっちゅうことらしいで?」

「ボクたちはそんなに気にしてないんだけどね」

「はぁ・・・・・・?」

「むー・・・・・・、そりゃあ!」

 

 

 茜の説明にゆかりはコテンと首をかしげる。

 まぁ、この辺りの感覚は本人にしか分からないものなので、ゆかりが首をかしげてしまうのも無理はないのだろう。

 そんなゆかりたちのことをしり目にマキはどうにか竜の視界に入ろうと竜の周りを動き回っていた。

 なお、竜はマキだけでなく茜や葵、ゆかりのことも視界にいれてしまわないように無駄のない無駄な動きでマキの猛攻を回避している。

 

 

「・・・・・・ええ加減にしいや!」

「あだぁっ?!」

「竜くん、そろそろ諦めよう?」

「そこまでかたくなに見ようとしないというのも逆に傷つくのですが・・・・・・」

「さぁ、観念して!」

 

 

 いい加減に視界の端で動き回る竜とマキの姿がうっとおしくなったのか、茜はつかつかと竜のもとへと歩いていって後頭部を思い切り叩く。

 マキの猛攻を避けることに集中していた竜は茜の攻撃を回避することができずにそのまま前のめりになって砂浜に転んでしまう。

 そして、転んだ先で四方を囲むように茜たちに囲まれてしまい、竜は観念したようにがくりと肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第530話




今日も遅い・・・・・・

早くどうにか書けるようにしないとなぁ・・・・・・







 

 

 

 

 茜、葵、ゆかり、マキの4人に囲まれた竜はがくりと肩を落としたまま項垂れる。

 ちなみに、ついなはゆかりとマキが来たあたりで自前の槍を片手に海の中へと潜っていっていた。

 その際に竜に止められていたはずのマイクロビキニを着ていたのだが、マキの猛攻を受けていた竜はそのことに気がつかずに止めることができずにいた。

 

 

「さぁ、それでは観念してもらいましょうか」

「ちゃんとボクたちのことを見てもらうからね?」

「ちゅうか、どうせこの後にもイア先輩とかイタコ先生とかがおるんやから見ないようにしても無駄やった気がするけどな」

「そういえばそうだったね。こっちを見せようと必死だったからすっかり忘れちゃってたよ」

 

 

 竜のことを取り囲みながら茜たちは竜に観念するように言う。

 まぁ、はたから見たら水着の美少女4人に囲まれているハーレム野郎にしか見えない状況なのだが。

 

 茜たちの言葉に、竜は目を閉じながら項垂れた姿勢から元の姿勢へと戻る。

 

 

「ほれ、ここまで来たら一気に目を開かんかい」

「わ、分かったよ・・・・・・」

 

 

 軽く茜に小突かれながら竜はゆっくりと目を開けていく。

 

 最初に目に入ったのは茜と葵。

 この2人は水着を買いに行ったときに見せてくれた水着を着ており、まるで2人の天女がそこにいるかのようにさえ感じられた。

 

 続いて竜の目に入ったのはゆかり。

 ゆかりが着ていたのは水着を買いに行ったときに見せてもらったものとは異なる水着だった。

 シンプルな紫色の上下に胸元にはウサギの形に穴が開いている水着。

 そして、ウサ耳のついた黒色のパーカーをゆかりは羽織っていた。

 

 そして一番最後に竜の目に入ったのはマキだった。

 マキが着ていたのはゆかりと同じように水着を買いに行った時に見せてもらったものとは異なる水着で、種類としてはシンプルなビキニだった。

 上下ともに鮮やかな赤色で、水着の右胸の部分だけが赤と白のボーダーとなっている。

 また、マキの腕には他の3人とは違って赤と黄色の糸によって作られたミサンガが巻かれていた。

 

 茜たち4人の水着姿を見た竜は顔を赤くしながらどこか落ち着かなさそうに目線をキョロキョロと動かし始めた。

 

 

「あー、えっと、そのー・・・・・・。よ、4人とも似合っている、ぞ?」

「なんで疑問形なのかが気にはなりますが。まぁ、良いでしょう」

「えへへ、ありがと!」

「竜はいろいろと気にしすぎなんよ。素直に褒めてもらった方が女の子は嬉しいんやで?」

「まぁ、気恥ずかしいとか言っていた竜くんからすれば十分、なのかな?」

 

 

 4人の美少女の水着姿を見てどう答えればいいのかが分からなくなってしまった竜はなんとか簡単な感想を引き出す。

 そんな竜の言葉に茜たちは思い思いのことを言っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第531話




今日はなんとか1時までに書き終わった!

どうにかこのペースで書いていきたいなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 4人の美少女、茜、葵、ゆかり、マキの水着姿を見て竜がキョロキョロと視線を動かしているのをしり目に茜たちはおもむろに距離を開けて少し離れた位置に移動していく。

 茜たちが離れたことによって竜はホッと息を吐いて自分の位置を調整していく。

 

 

「ラジオ体操1349ぅううううーーー!!!」

「腕を上にあげ、って1349?!」

「なんですかそれ?」

「いや、なんの前触れなくボケ始めるじゃん」

 

 

 さぁこれから準備運動を始めるぞ、といったところで茜が高らかに明らかにおかしな数字のラジオ体操の開始を宣言する。

 まるでこれから黒衣の(ブラック・)魔導士(マジシャン)(ブルー)(アイズ)(・ホワ)(イトド)(ラゴン)が戦いを始めるのではないかとも思える宣言に葵は驚き、ゆかりとマキは呆れたような視線を茜に向けた。

 

 ちなみに竜は茜の宣言を聞いた途端に驚いて茜の方を見ている。

 

 

「目からビームを出し、岩をも砕く運動ーー!!」

「そんなもんできるかぁ!!!」

「いや、どんな運動なの?!」

「そもそもとしてそれは運動なんでしょうか?」

「ビームを出している時点で運動ではなさそうだよね?」

 

 

 謎の構えをしながら茜はとうてい運動とは思えないような運動を叫ぶ。

 そんな茜の言葉に先ほどまで茜たちのことをあまり見れていなかった竜は思わず叫んでツッコミを入れる。

 また、茜の言った運動の内容が理解できないものだったために葵も竜と同じように叫んでツッコミを入れていた。

 そんなツッコミを入れている竜と葵とはうって変わってゆかりとマキは冷静に首をかしげているのだった。

 

 

「なにを叫んでいるんですか?」

「ん、ああ、あかりか・・・・・・。いや、茜がちょっとふざけたラジオ体操を言ってきてな・・・・・・」

 

 

 竜たちが茜にツッコミを入れていると、いつの間にかあかりが近くに立っていた。

 あかりの言葉に竜はどうして叫んでいたのかを簡単に答える。

 なお、あかりの言葉に答えている竜の視線はあかりからやや逸れたところを見ているのだが。

 

 

「さて、とりあえずこれでボケはええな。そんなら準備運動をしよかー」

「ボケる必要ってあったのかなぁ・・・・・・」

「いや、絶対に必要なかったと思いますよ?」

「まぁ、これも茜ちゃんらしいよね」

 

 

 先ほどのラジオ体操ボケはなんだったのかといわんばかりの調子で茜は普通に準備運動を始めようとする。

 シレっとなにごともなかったように準備運動を始めようとする茜に葵は呆れ、ゆかりとマキは苦笑を浮かべるのだった。

 

 

「ところで竜先輩、この水着はどうでしょうか?似合っていますか?」

「あ、ああ、似合っていると思うぞ」

 

 

 あかりが着ているのは水着を買いに行ったときに見せてくれたものと同じオレンジ色の水着。

 腰の部分にはスカートのような布がついており、胸の部分には白い星のマークが大きく描かれている水着を着て頭には麦わら帽子が乗っかっていた。

 

 あかりの言葉に竜はどうにか水着姿を見た感想を答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第532話




また3時かぁ・・・・・・

できれば8月の内に水着は終わらせたい・・・・・・





 

 

 

 

 準備運動を始めようとしていた竜たちにあかりも合流し、竜たちは改めて準備運動を再開する。

 ちなみに、準備運動としてアキレスけん伸ばしなどをするのは適しておらず、運動をする前の準備運動としてやるのであれば手足などを動かして体を温めて筋肉の柔軟性を上げていく運動が適している。

 そのもっともな例が誰もがやったことがあるであろうラジオ体操だ。

 

 

「1、2、3、4・・・・・・」

「2、2、3、4・・・・・・」

「・・・・・・ふぅ、なんだかんだでラジオ体操もけっこう疲れますよね」

「そうだねぇ。でも、動いているから体もけっこう温かくなってきたよね」

「といっても夏だから温かくなっているっていうのは微妙に分かりにくいですけどね」

「・・・・・・ソウダナ」

 

 

 ラジオ体操をやりながらゆかりたちは会話をする。

 ラジオ体操は準備運動ではあるのだが、当然ながら体を大きく動かすものが多く意外と体力を使うのだ。

 そんなゆかりたちの言葉を聞きながら竜はやや固い声で答える。

 

 竜の声が固くなっている理由。

 それはここまでの流れから想像することは難しくないだろう。

 ラジオ体操は準備運動に分類される運動ではあるのだが、実際にやるとジャンプをしたり大きく腕を動かしたりするものが多い。

 では、それがどういう意味を持つのか。

 

 分かりやすく一言でいうと、“マキやあかりのたわわなものが竜の近くで暴れまわっていた”のだ。

 油断して準備運動を始めた瞬間にそれらを見てしまった竜はとっさに目を閉じることによってその光景が視界に入り続けることを回避したのだが、一度でもそんな光景を見てしまったために竜は目を閉じてもその光景が頭の中に浮かんでしまっていた、というわけだ。

 

 

「っし、準備運動も終わったし遊ぶでー!」

「あ、ちょ、待ってよお姉ちゃん!」

「さっそく海に向かって走っていきましたね。ところでどうして竜くんは疲れたような表情なんですか?」

「準備運動のときからそんな感じだったよね?」

「ああ、うん。まぁ、ちょっとな・・・・・・」

「あ、私はちょっとやることがあるので少し離れますね!」

 

 

 準備運動が終わり、茜は元気よく海へと向かって走り出す。

 走っていく茜のあとを葵は慌てて追いかけていった。

 

 元気よく走っていく茜の姿とそれを追いかけていく葵の姿を見て苦笑するゆかりは、先ほどから疲れた様子の竜に声をかける。

 まぁ、ゆかりは竜と同じようにマキとあかりのたわわなものを見ているので、なんとなくは察しているような様子なのだが。

 

 竜の様子にはマキとあかりも気づいていたのだが、どうして竜がそうなっていたのかが分からなかったのか不思議そうに首をかしげていた。

 首をかしげていたあかりだったが、ここでなにかを思い出したのか走って別荘の方へと戻っていく。

 別荘へと向かって走っていくあかりの姿に竜たちは不思議そうに首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第533話




さらに遅い時間に・・・・・・

これはさすがに遅すぎるから今後はこの時間にならないようにしないと・・・・・・






 

 

 

 

 別荘の方へと走っていったあかりのことを見送り、竜、ゆかり、マキは先に海に向かって行った茜と葵のもとへと向かって行く。

 茜と葵はすでに海へと入っており、お互いに海水をかけあっていた。

 

 

「おりゃおりゃおりゃおりゃーーー!!!」

「わぷぷぷぷぷぷぷっ?!?!」

 

 

 膝あたりまでが海に浸かる位置で茜は勢いよく葵の顔に向けて海水をかけていく。

 最初は普通に海水の掛け合いをしていた葵だったのだが、茜のかけてくる海水の勢いが強くなるにつれて反撃をすることができなくなっていた。

 

 

「いや、なにをやっているんだよ」

「お、竜たちも来たんやね?そんなら竜たちも一緒に遊ぼうや!」

 

 

 茜がほぼ一方的に葵に向けて海水をかけている光景に竜は思わずツッコミを入れる。

 竜の言葉が聞こえた茜は葵に向けて海水をかけていた手を止め、一緒に遊ぼうと声をかけてきた。

 

 

「一緒に遊ぶのは良いんですが一方的に葵さんに向けて海水をかけるのはどうなんでしょうね?」

「あはは、普通にいじめみたいになってたよねぇ?」

 

 

 先ほどまでの茜と葵の様子を見ていたゆかりは首をかしげながら言う。

 茜と葵が先ほどやっていたほぼ一方的に海水をかけあっている行為は場合によってはいじめのようにも見えたとマキは苦笑しながら言う。

 

 そして、竜たちが茜たちと一緒に海水をかけあっていると、不意に水着姿の2人が現れた。

 

 

「バシャバシャしていて気持ちよさそうだね」

「そうね。日差しも合わさって寒いとかもなさそうだし」

 

 

 現れた水着姿の2人、イアとオネは海水をかけあっている竜たちの姿を見て微笑ましそうに笑みを浮かべる。

 イアの言葉にオネはうなずいて答えた。

 

 ちなみにイアとオネの水着はそれぞれ、イアがクリーム色の水着で左胸に白い星のマークが描かれた水着、オネがオレンジ色のビキニの上とホットパンツのような見た目の水着となっていた。

 

 

「あ、イア先輩にオネさん」

「わー、可愛い水着で似合ってますね!」

 

 

 イアとオネの水着に気がついた葵がパチンと手を叩きながら水着の事を褒める。

 葵に褒められたイアとオネは嬉しそうに頬を緩ませた。

 

 

「イア先輩はけっこうシンプルな水着なんですね?」

「そうだね。逆にオネちゃんはホットパンツみたいなやつでおしゃれな感じかな?」

 

 

 イアとオネが着ている水着は水着を買うときに竜が見せてもらったものとは異なる水着であり、そのときとは違う2人の水着姿に竜は茜たちのときと同じように気恥ずかしそうにしていた。

 いい加減に慣れてもいいのではないかと思えるが、その辺りはすぐに慣れることができるものでもないため、諦めて地道に慣れていくしかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第534話




今日も少しだけ遅くなってしまった。

文字数が少なくなっているからもう少し増やしたいなぁ・・・・・・







 

 

 

 

 海で遊んでいた竜たちにイアとオネが加わり、竜、茜、葵、ゆかり、マキを含めて7人となった。

 人数が多くなってきたということで竜たちは一度海から上がってビーチバレーの準備を始めていった。

 7人でビーチバレーをやるのはバランスが悪いのではないかと思うかもしれないが、人数が少ない方には竜が入ることになっているのでそれでバランスが取れているのではないだろうか。

 

 

「っと、チーム分けは茜、ゆかり、マキ、オネのチームと、俺、葵、イアのチームだな」

「ほーん。姉と妹が上手いこと分かれたみたいやね?」

 

 

 チーム分けをあみだくじでおこない、それぞれのチームが決定する。

 茜と葵、イアとオネ、姉妹がほとんど一緒になってしまうことが多かったため、茜は少しだけ驚いた表情でチーム分けで決まったメンバーを見た。

 竜たち7人のチーム分けが終わり、ビーチバレーを始めるために竜たちはそれぞれのコートに移動する。

 

 

「さぁて、人数不利なわけですがビーチバレーの経験は?」

「ボクはやったことないよー」

「私も名前だけ知っているだけで、やったことはないかなぁ」

 

 

 自分たちのコートに移動した竜はまず葵とイアにビーチバレーをやったことがあるかを確認する。

 竜の言葉にイアと葵は少し開け顔を見合わせてビーチバレーはやったことがないと答えるのだった。

 

 

「それじゃあ、ぼちぼちとやっていきましょう」

「よーし、がんばろー」

「相手が葵でも手は抜かへんで?」

「私も手を抜かずに頑張らないと」

「それじゃあ俺が前衛を務めるから後衛の方は任せてもいいかな?」

「っていっても後衛の方にボールが飛んでくることってあまりないような気はするけどね」

「そうね、基本的に前衛の人が後ろに行きそうなボールも拾っちゃうだろうし」

 

 

 ビーチバレーが始まったらどんな風に戦っていくのかを話したり、ビーチバレーをやるときに手加減をしないと言ったことを話しつつビーチバレーが始まった。

 

 

「あらあら、皆とても元気ですわねぇ」

「そうですね。姿が見えないのは・・・・・・、あかりちゃんですね」

「日差しがけっこう強いですね・・・・・・」

「大丈夫か東北ー?」

 

 

 竜たちがビーチバレーをやっているとイタコ先生、ずん子、きりたん、ウナの4人がやって来た。

 イタコ先生たちは竜たちの方を見て竜たちがビーチバレーをやっていることに気がつく。

 

 なお、きりたんは暑さが辛かったのか、海に着くと同時にパラソルの日かげにべしゃりと倒れ込んでいた。

 そんなきりたんの様子にウナは少しだけ心配そうに声をかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第535話



今日はなんとか1時に投稿できました!

そろそろイタコ先生たちの水着姿を説明したいところだなぁ







 

 

 

 

 ゆかりが打ち込んできたボールを竜は受け止め、イアか葵が次に繋げやすい位置にボールを跳ねさせる。

 竜が跳ねさせたボールの着地地点に葵が回り込み、残った1人であるイアが打ちやすい位置へと打ち上げた。

 

 

「そぉーれっ!!」

「なんのっ!」

「ゆかりさん、ナイスや!」

 

 

 イアが放ったアタックを素早くゆかりが受け、そのままボールを上空へと打ち上げる。

 ゆかりがボールを打ち上げたのを確認した茜はそう言いながらボールの着地地点へと先回りした。

 

 ゆかりがイアの放ったアタックを受けたことを確認した竜たちはすぐに相手チームがどこに打っても反応ができるように身構える。

 

 

「マキさん!お願いします!」

「まっかせてっ!!」

 

 

 ゆかりから繋げられたボールを茜がネットの正面へと打ち上げる。

 ゆかりの言葉を受け、マキが大きく飛び跳ねてボールへと向かって行った。

 

 そして、腕を大きく振りかぶったマキは力強くボールを叩き、竜たちのコートへとボールを打ちつけるのだった。

 また、マキがボールを打ったのとほぼ同じタイミングで無駄に無駄のない洗練されたスタイリッシュかつ滑らかな動きで竜はうつぶせに倒れ込むのだった。

 

 

「くぅ、得点を入れられちゃったね」

「ところで竜くんはなにをしてるの?」

「・・・・・・うん。まぁ、気にしないでくれると助かる」

 

 

 マキのアタックによって点を入れられてしまったことにイアは悔しそうに言い、葵はなぜか倒れ込んでしまっている竜に声をかける。

 葵の言葉に竜は腕だけを上げてひらひらと動かしながら答えた。

 そして、竜はうつぶせのままコートから移動する。

 

 

「すまん。しばらく俺は休憩するわ」

「そうですか。では・・・・・・、マキさん、向こうのチームに移動してもらえますか?」

「うん。分かったよー」

 

 

 うつぶせのまま匍匐前進のようにコートの外に移動した竜は片腕を上げてしばらく休憩するということをゆかりたちに伝えた。

 竜の言葉を受け、ゆかりはマキに竜の代わりにイア、葵のチームに入るように言う。

 これでチームはゆかり、茜、オネと、マキ、葵、イアの3VS3となって人数的にはちょうどよくなった。

 そして、ゆかりたちはビーチバレーを再開するのだった。

 

 

「はぁ・・・・・・。マキのアタックで油断してた・・・・・・」

 

 

 竜はうつぶせになりながら誰にも聞こえないように小さくつぶやく。

 竜の言うアタックとは先ほどの得点を入れられてしまったときのことなのだが、竜が油断していたというのはボールを受け止められなかったことを指しているわけではない。

 

 言わなくても分かるだろうが、アタックは大きく跳び上がってボールを叩きつけるように放つ。

 まぁ、正確には相手のコートに得点となるように放つ攻撃のこと全般を指すのだが、一先ずは置いておこう。

 

 そして、大きく跳び上がって腕を振るということは相応にその体に動きが起こるということだ。

 ここまで言えば竜がなにに油断してうつぶせになってしまったのかが分かるだろう

 

 竜は、アタックをした際に大きく揺れたマキの立派なものを見てしまってうつぶせになったのだ。

 端的に言ってかなりしょうもない理由で竜はビーチバレーから離脱したということだ。

 

 そんな竜のもとへと1人の小さな影が近づいてきていることに竜は気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第536話




今日もなんとか1時に投稿ー

やっぱり文字数の少なさが気になるなぁ・・・・・・







 

 

 

 

 太陽の熱に熱された砂の上。

 じりじりと肌を焼くかのような感覚を受けながら竜はうつぶせに倒れていた。

 

 竜がうつぶせに倒れている理由は、ビーチバレーをやっているときにマキがアタックをして、その際に大きく揺れるマキのたわわなものを見てしまい、竜のネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲が起動してしまいそうになったからとっさに無駄に無駄のない洗練されたスタイリッシュかつ滑らかな動きでうつぶせに倒れ込んだのだ。

 そんな竜のもとへと1つの小さな影が近寄ってきていた。

 

 

「お兄ちゃん!」

「ぐふぉっ?!」

 

 

 声が聞こえた直後、竜はなにかが背中に乗ってきた衝撃に思わず声をあげる。

 背中に受けた衝撃からどうにか立ち直り、竜は背中に乗ってきた人物を確認する。

 といっても竜のことを“お兄ちゃん”と呼ぶような人物は1人しかいないのだが。

 

 

「い、いきなり背中に乗ってくるなよ・・・・・・」

「えへへ、ごめーん」

 

 

 背中に乗ってきた人物、ウナに向かって竜は少しだけ眉をしかめながら言う。

 竜の言葉にウナはペロリと舌を出して答えた。

 

 

「それでお兄ちゃんはどうして倒れていたんだ?」

「ああ、うん。まぁ、ちょっとあってな・・・・・・」

 

 

 竜の背中に乗ったままウナはどうして竜がうつぶせに倒れていたのかを尋ねる。

 ウナの質問に馬鹿正直にネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲が起動しそうになったなどと言えるはずもなく、竜は曖昧に誤魔化すことしかできなかった。

 

 

「っと、そういえばウナがいるってことはイタコ先生とかも来てるのか?」

「うん。あっちのパラソルのところで日焼け止めを塗ってるみたい。ウナは東北と塗りあって終わったからこっちに来たんだー」

 

 

 ここで竜はウナが来ているということは他のメンバーも来ているということではないかということに気がつき、ウナに尋ねる。

 竜の言葉にウナはうなずいてパラソルの方を指さした。

 

 竜が用意したパラソルの下、そこにはグテッと倒れ込むきりたんと、お互いに日焼け止めを塗りあうイタコ先生とずん子の姿があった。

 

 

「あ、そうだ!お兄ちゃん、この水着似合ってるかな?」

 

 

 不意にウナは竜の背中から降りて竜の前へと移動する。

 そしてクルリと一回転して水着を見せながら尋ねた。

 

 ウナが着ている水着。

 それは子ども用の水着で水色の生地に白い水玉がついているビキニの水着だった。

 ビキニといってもマキたちのような色っぽさよりも元気さがうかがえるようなデザインとなっている。

 

 

「ああ、似合っているよ」

「そっか!」

 

 

 ウナの言葉に竜は微笑みながら似合っていると答える。

 竜の言葉にウナは嬉しそうに笑顔を浮かべ、ぴょこぴょこと飛び跳ねるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第537話




アンケートを始めるのが遅くなってしまっていたのはうっかりしてたなぁ。

とりあえずアンケートはUAが149000になるまでとさせていただきます。






 

 

 

 

 嬉しそうにぴょこぴょこと飛び跳ねるウナのことを見ていた竜は、なにやら大きな音が近づいてきていることに気がつく。

 竜がキョロキョロと周囲を見渡し始めるのとほぼ同時に茜たちも不思議そうに周囲を見回し始めた。

 

 

「なんの音かな?」

「なんだろうな?なにかものを動かしているような感じだが・・・・・・」

 

 

 コテンと首をかしげながらウナは竜に尋ねる。

 ウナの言葉に竜は周囲を見回しながらウナの言葉に答える。

 そんな竜とウナのもとに先ほどまでビーチバレーをしていた茜たちも集まってきた。

 

 

「いきなり変な音が聞こえてきたんやけどなんか知っとる?」

「いや、俺もとくには知らないんだよ」

「へんな音だよね?」

 

 

 竜とウナのもとにやって来た茜は聞こえてきた音の正体についてなにか知らないかを竜に尋ねる。

 とはいっても竜自身もこの音の正体についてはなにも知らないので、首を横に振って答えた。

 竜の答えに茜たちもウナと同じように不思議そうに首をかしげながら周囲を見渡す。

 

 

「・・・・・・ん?あっちからなにか来てないか?」

「え?あ、本当ですね」

「なんだろう?そこそこ離れてるはずなのに見えるってことはけっこう大きなものだよね?」

 

 

 ふと、竜は海の方からなにか大きいものが近づいてきていることに気がつく。

 竜の言葉に茜たちも海を見て、それを確認する。

 

 竜たちが不思議に思いつつそれを見ている間もそれはどんどんと近づいてきており、やがてそれがそこそこ大きな船なことが分かった。

 船が近づいてきていることに気がついたイタコ先生、ずん子、きりたんもいつの間にか竜たちの近くに集まってきている。

 

 ちなみに、イタコ先生の水着は黒色のビキニで左胸のところにワンポイントで小さく白いキツネのマークが描かれている水着、ずん子の水着は緑色のビキニで水着のふちには白いフリルが着けられており、胸の部分にはちょこんと小さなリボンが着けられている水着、きりたんの水着はピンク色のセーラー服のような襟のついているセパレートタイプの下がスカートの形になっている水着となっている。

 

 

「ちゅわぁ、大きな船ですわねぇ」

「かなり大きな船ですけどなにが乗っているんでしょう?」

「ここまで大きいとこの陸地にまで来たら座礁しちゃうんじゃないですか?」

 

 

 近くに来たイタコ先生とずん子のことをなるべく見ないようにしながら竜は目を凝らして船を見る。

 まぁ、イタコ先生とずん子のことを見ないようにしている理由はなにも言わなくても察することはできるだろう。

 

 

「って、あの船に描いてあるマークって紲星グループのものじゃない?」

「・・・・・・ほんまや。っちゅうことはあかりの用意した船なんかな?」

 

 

 ここで葵が船に描かれている紲星グループのマークに気がつく。

 しかし当のあかりがこの場にいないためにその確認をすることができずにいた。

 

 

「・・・・・・小さい船が出てきたな?」

「あれに乗っているのって・・・・・・、あかりさんじゃないですか?」

 

 

 一定のところにまで近づいてきた船が止まると、側面が開いて小さな船が出てくる。

 その小さな船に乗っていた人物。

 それは先ほどやることがあると言ってどこかに行ってしまっていたあかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第538話




今日もなんとか1時に投稿ー

暑い日が戻ってきたから水分補給とかをしていかないと・・・・・・





 

 

 

 

 小さな船、いわゆるモーターボートに乗ってあかりが陸地へと近づいてくる。

 乗っていると言ってもあかりが運転しているわけではなく、あかりの家の使用人の1人が運転をしてあかりはその近くの手すりにつかまる形となっている。

 

 やがて、あかりの乗ったモーターボートは動くことができる限界にまで到着してその動きを止めた。

 

 

「お待たせしました!」

「なにかを用意するとか言っていたけど、あの船は一体なんなんだ?」

 

 

 モーターボートからひらりと跳び下り、海面に着地したあかりはそのままざぶざぶと海をかき分けながら竜たちのもとへと向かってきた。

 あかりの言葉に竜はやや離れた位置に停まっている大きな船のことを見ながらあかりに尋ねる。

 

 竜の言葉にあかりはえへんと胸を張る。

 そして、竜は胸を張ったあかりから目を逸らす。

 

 

「皆さん、夏で海ときたらなにを連想しますか?」

「そりゃあ、水着なんやない?」

「ボクはスイカ割りかなぁ」

「ビーチバレーやビーチフラッグ、なんてものもありますよね」

「私は夜になっちゃうけど花火とかかな」

「夏で海・・・・・・、バーベキューとかはどう?」

「海なら釣りとかもあるんじゃないかしら?といっても夏である必要はないけど」

 

 

 あかりの言葉に竜たちは口々に夏と海というキーワードから連想できるものを挙げていく。

 夏の海ということで様々なものが連想されるが、連想されたものの中にあかりがイメージしているものがないのかあかりは少しだけ頬を膨らませる。

 

 

「えー、他にもありますよねぇ?」

「というか、あかりのことだから食べ物系で海の家とかか?」

「ああ、たしかに海の家って夏しかやってませんわね」

「海の家ってウナは行ったことがないんだよなぁ」

「そうですね。端的に言うならそこまで美味しくないラーメンや焼きそばなんかを普通よりも高い値段で売りつける場所、ですかね」

 

 

 あかりの言葉に竜はあかりが言っているのだから食べ物関係のものではないかと推測して海の家を挙げる。

 竜の言葉にウナは海の家に行ったことがないということを言う。

 ウナの言葉にきりたんはかなりの独断と偏見の入り混じった海の家のイメージを答えた。

 

 竜のあかりのことだから食べ物系ではないかという言葉にあかりは不満そうに頬をさらに膨らませる。

 まぁ、女性であれば誰でも自分=食べ物みたいなことを言われてしまえば不機嫌になってしまうのも仕方がないことなのではないだろうか。

 

 

「むぅー・・・・・・。とりあえずは話が進まないのでおいておきましょう。えっとですね、。夏の海ということで私が連想したもの。それは!!」

 

 

 瞬間、あかりの言葉と同時に少し離れた位置で止まっていた船の側面がもう一度開き、複数の小さな船が出現した。

 それらの船にはそれぞれ違った旗のようなものが着けられており、ゆっくりとした速度で竜たちの方へと向かってくる。

 

 

「あれは・・・・・・、もしかして縁日とかで並んでいる屋台か?」

「はい!」

 

 

 小さな船に着けられている旗に描かれている文字を確認した竜はその文字から連想されたものを答える。

 竜が答えた屋台という言葉にあかりは嬉しそうに拍手をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第539話




今日はちょっと遅くなってしまった。

もう少しスムーズに書けるようになりたいなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 わたあめ、りんご飴、チョコバナナ、焼きそば、焼きトウモロコシ・・・・・・

 

 夏祭りの屋台でよく見かけるような食べ物の名前が書かれた旗を揺らしながら小さな船たちは広がっていく。

 突如現れたさまざまな屋台の名前の旗を掲げた船の登場に、茜たちはポカンと口をあけながら見ていることしかできなかった。

 

 改めて紲星グループの大きさに驚きつつ、竜たちはどんどんと並んでいく小さな船を見ていた。

 

 

「船1つ1つがそれぞれ違う屋台か・・・・・・」

「なんちゅうか、やっとることの規模が規格外やなぁ」

「うんうん。思ってもやろうとまでは思わないよね」

 

 

 まず、普通に考えて小さな船だとしても用意するのにかなりのお金がかかることは間違いない。

 そのうえでそれぞれの船に屋台となる旗や設備などを用意し、さらにはそれらを調理したりする人員まで用意しているのだからかなりの金額が動いていることは間違いなかった。

 

 それらのことをあっさりとやってのけてしまう紲星グループの大きさがよく分かる事例だった。

 

 

「大量や~、・・・・・・って、なんなんこの船は?」

「んお?どこに行ってた・・・・・・。なんでその恰好をしているんだよっ・・・・・・!」

 

 

 竜が気付かないうちにマイクロビキニに着替えて海に潜っていたついなが大量の魚や貝などを手にしながら海から上がってくる。

 どうやらついなはずっと海に潜っていたことによってなにがあったのかを知らないようだ。

 

 ついなが海から上がってきたことに気がついた竜は、ついなの方を見てついなが禁止していたはずのマイクロビキニを着ていたことに気がついて膝をついてがくりと崩れ落ちる。

 いきなり崩れ落ちた竜の姿に茜たちは首をかしげ、海から上がってきたついなの格好を見て驚きで眼を見開くのだった。

 

 

「ちょ、なんやその恰好は?!」

「これか?ええやろー。めっちゃ動きやすいんやー」

「いや、動きやすいにしてもその恰好はおかしいでしょ・・・・・・」

「ええと、マイクロビキニ・・・・・・、でしたっけ?」

「だったはずだよ。ちょっと私はあんな恰好はできないなぁ」

「・・・・・・もしかして公住くんの趣味だったり?」

「それはないので不名誉な推測はやめてください・・・・・・」

 

 

 ついなの格好に茜は思わずツッコミを入れる。

 いま、ついなは霊力を使って一般人にも見える状態なため、茜たちにもその(マイクロビキニ)姿は見えている。

 ついなのすさまじい恰好に茜だけでなく他の全員が驚きの表情でついなと竜のことを見ていた。

 

 ついなの格好に膝から崩れ落ちていた竜だったが、イアの不名誉な推測に崩れ落ちながらも反論を入れる。

 

 そんなやり取りがある中でも屋台の船たちはその準備を進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第540話




今日もまた遅くなってしまったなぁ

やはり土日祝日は投稿が遅くなってしまうのを気をつけたいですねぇ・・・・・・






 

 

 

 

 ついながマイクロビキニ姿になっていたことの衝撃を受けていた竜たちだったがなんとか立ち直る。

 とはいっても完全に立ち直ったわけではなく、やや項垂れた状態なのだが。

 

 

「なんでそんな恰好をしてるんだよ・・・・・・」

「いやぁ、やっぱり素潜りするんやったら泳ぎやすい恰好の方がええと思ったんよ」

 

 

 がくりと項垂れながら竜はついながマイクロビキニ姿になってしまっている理由を尋ねる。

 竜の言葉についなは海での戦利品を見せながらマイクロビキニ姿になった理由を答えた。

 

 

「うん、まぁ、恰好はともかくとしてここまで取れているのはすごいことなんじゃないでしょうか?」

「素潜りをしたにしては戦果がすごいよね」

 

 

 ついなの格好に苦笑を浮かべながらゆかりはついなが取ってきた戦利品を見ながら言う。

 ゆかりと同じようについなの戦利品を見ていたマキはうなずく。

 まぁ、普通に考えて素潜りで魚を取ってくるというのはかなりの難易度なので、それをあっさりとやっているついなはかなりすごいのだが。

 

 竜たちがそんな話をしていると、船の方の準備が終わったのか動きが止まっていっていた。

 

 

「あ、準備が終わったみたいですね。それじゃあ船の方に行きましょうか」

 

 

 そう言ってあかりは先導して屋台の船へとつながる橋を渡り始めた。

 こちらの橋は屋台の準備をしていた船からかけられたもので、これを渡ることによってなんの障害もなく屋台の船へと移動することができるのだ。

 

 

「最初の船はこの“焼きそば屋”からですね。このシンプルな見た目にやや濃いめの味付けとまんま見たことのある屋台の焼きそばですよね」

「ああ、たしかに屋台の焼きそばってそんな感じだよな。そういえば料金は・・・・・・」

 

 

 あかりは元気よく船に移動してそのお店に置いてある食べ物を手に取る。

 最初の船に置いてあった食べ物、それは屋台でよく見る焼きそばだった。

 

 あかりの言葉にあかりのあとを追って船に移動した竜は焼きそばを見ながらうなずく。

 

 

「ああ、料金でしたら気にしなくて大丈夫ですよ。すでに料金とかはすべて払い終わっているので、あとは自由に屋台を楽しむだけです」

「そうなのか。それはありがたいな」

 

 

 焼きそばやりんご飴などの屋台が並んでいるのであればお金が必要なのではないかと気がついた竜はあかりにどうするのかを尋ねる。

 竜の言葉にあかりはすでにすべてのお金は払い終わっていることを答えた。

 

 

「そんならうちらもちょっと自由に屋台でも見に行こかー」

「うん。どんな屋台があるのか楽しみだね!」

「ベビーカステラなんかもあるんですね」

「うーん、いろいろと美味しそうな屋台が並んでいるよね」

 

 

 あかりの言葉にお金の心配をする必要がないと分かった面々は自由に屋台を見て回るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第541話




今日はなんとか1時に投稿!

そして、もうすぐ番外話を書き始めなければ






 

 

 

 

 屋台の船をそれぞれ自由に見回り、竜たちは思い思いのものを手に持つ。

 

 良く言えば嗅ぎ慣れた匂いのする定番の、悪く言えばチープな匂いのする料理たちを手にしながら竜たちは船の飲食スペースに座っていた。

 

 

「いや、まぁ、時間的にお昼が近いからちょうどいい・・・・・・のか?」

「それに食べた後に泳いだりすれば大丈夫でしょ」

「泳いでお腹が減ったらまた食べたらええしな」

「かき氷とかも売っているからちょっとした休憩にもちょうどいいよね」

「いきなり船が来た時は驚いたけど結果としてすごく良かったよね」

 

 

 テーブルに座って屋台の店員から受け取ったものを摘まみながら竜たちは会話をする。

 竜たちの家からここに来るまでにかかった時間と、着替えや荷物の移動などにかかった時間、準備運動やビーチバレーをやった時間などを踏まえていまの時刻はおおよそお昼。

 そのことを考えればあかりがこの屋台の船を用意したのは本当にちょうどよかったと言える。

 

 

「とりあえずこれを食べたらなにをしましょうか?」

「そうですね。さっきの茜さんたちみたいにビーチバレーをやってみましょうか?」

「私はパスです。ここでかき氷を食べ続けて快適に過ごさせてもらいます」

「東北ー、そんなことしてたら腹を壊すぞー?」

 

 

 そして、屋台で受け取ったものを食べ終えた竜たちはゴミをきちんとごみ箱に捨てて立ち上がる。

 竜が立ち上がると、ウナが小走りで竜のもとへと走ってきた。

 

 

「お兄ちゃん!なんかボートでバナナボートとかを引っ張ってくれるやつがやれるらしいぞ!」

「お!テレビとか漫画とかでたまに見るあれか!あれって面白そうだったからやってみたいと思ってたんだよなぁ」

「あれはうちも見たことあるなぁ。ご主人が乗るならうちも乗るでー」

「ほーん、それは面白そうやな。うちもやるで!」

「ボクもやりたいかなー」

「私も気になりますね」

「私はどうしようかなぁ。あれってけっこう激しく動いてるし・・・・・・。水着がちょっと心配かなぁ」

「あれってしがみつくのが大変そうですわよね」

「モーターボートで引っ張られますから勢いはすごそうですよね」

「私も見てま・・・・・・、ちょ、なんで引っ張るんですか?!」

「私たちも乗ってこよっか」

「そうね。あまりできる経験じゃないもの」

「ええっと、それじゃあマキ先輩、イタコ先生、ずん子先輩が乗らないということで大丈夫ですか?」

 

 

 ウナの言うボートでバナナボートとかを引っ張るやつというのはそのまんまバナナボートと呼ばれているアトラクションで、大きなバナナ型のボートに乗った状態で速度の出るモーターボートなどでけん引されるアトラクションのことを指している。

 

 ウナの言葉に竜たちは興味深そうに自分たちも乗ることを決定する。

 その際に止めておこうとしていたきりたんのことをウナが捕まえて強制的に乗るメンバーに加えていたのだが、だれも止めることはなかった。

 

 そして、あかりの言葉にうなずいた竜たちはあかりの案内のもと、バナナボートをやるための場所へと移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第542話





そろそろ海でのことを一段落させたいなぁ。

8月が終わるまでに海を終わらせたいところだけど無理だろうなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 ウナが得てきたバナナボートができるという情報を聞いてバナナボートをやるためにあかりの案内について行く竜たち。

 といってもきりたんだけはウナが強制的に連行しているのだが。

 

 

「うーん。やっぱり乗っておくべきだったかなぁ?」

「ですが水着が不安でしたのでしょう?もしものことがあると困るのは弦巻さんですし、止めておいて良いのでは?」

「イタコ姉さま、この時間からお酒ですか?・・・・・・マキさんの水着ってたしか本当に紐で縛っているんでしたっけ?」

 

 

 あかりについて行く竜たちの姿を見てマキは少しだけ後ろ髪を引かれるように呟く。

 マキ自身もバナナボートに興味はあったのだが、いまのマキの水着は右胸のところが赤と白のボーダーカラーになっている色鮮やかな赤色のビキニ。

 そのためバナナボートのように激しい動きをしそうなものに乗ってしまえば水着が外れてしまうかもと考えたのだ。

 

 マキの呟きにイタコ先生は端の方の屋台に置いてあった日本酒をちびちびと飲みながら自身の考えを言う。

 いつの間にかお酒を飲み始めていたイタコ先生の姿にずん子は呆れつつ、確認をするようにマキに尋ねた。

 

 

「あ、この水着ですか?そうですよー。飾り紐のやつもあったんですけど本当に縛っている方が面白いかなーって思って」

 

 

 ずん子の言葉にマキはうなずいて自身の水着の腰の部分の結び目と背中側にある結び目を見せる。

 マキの着ている水着のように紐を結んでいるビキニは実際にはそこまで多くはない。

 その理由としてはやはり動いたりしていると紐の結び目がほどけてしまうことが挙げられるだろう。

 

 そのため、結び目のついている水着はだいたいのものが飾り紐がついているようなものが一般的といっても過言ではない。

 とはいっても絶対に飾り紐とは言えないので、男性諸君はうかつに紐に触れてしまうことがないように気をつけた方が良いだろう。

 

 

「あら?でもたしかマキさんってさっきビーチバレーをやってましたわよね?」

「そういえばそうでしたね。ビーチバレーも動きはけっこう激しいはずですけど・・・・・・」

「ああ、あのときは1回打ったりするごとに紐を引っ張って強く結びなおしてたんですよ。でもバナナボートだとずっと掴まってないといけなくて・・・・・・」

 

 

 マキの言葉を聞いてイタコ先生は先ほどマキがビーチバレーをしていたことを思い出して尋ねる。

 ビーチバレーもバナナボートに負けず劣らず動きは激しい。

 そのことを不思議に思い、イタコ先生とずん子は首をかしげながらマキとマキの着ている水着を見る。

 

 イタコ先生とずん子の視線を受け、マキは苦笑を浮かべながらビーチバレーをできていた理由を答えた。

 マキがビーチバレーをやっているときにしていたことは至極単純なこと。

 激しく動くとほどけてしまうのであれば動いた後に結びなおせばいいだけというとても分かりやすい方法だった。

 

 

「なるほど。それでしたらバナナボートに乗るのは難しいですわねぇ」

「紐を結ぶために手を離したら落ちちゃいますもんね」

 

 

 マキの答えにイタコ先生とずん子は納得し、バナナボートに乗るのは無理だろうという結論を出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第543話





今日はけっこう遅くなってしまった・・・・・・

もうすぐ番外話なのに・・・・・・








 

 

 

 

 イタコ先生、ずん子、マキが話しているかたわらで、モーターボートとバナナボートがゆっくりと出てきた。

 バナナボートには竜たちが乗っており、これから発進するのだろうということがうかがえる。

 

 

「あ、竜くんたちが出てきたね。このまま向こうの方に行ってから走り始めるのかな?」

「この辺ではまだ水深が浅いですものね」

 

 

 ゆっくりと進んでいくモーターボートを見送りながらマキたちは手を振る。

 マキたちが手を振っていることに気がついた竜たちはバナナボートのハンドルを片手で掴みながらもう片方の手を上げてマキたちに応えた。

 そして、竜たちの乗っているバナナボートを引くモーターボートの速度が上がっていく。

 

 

「おー!!はやいはやーい!」

「こ、これはなかなかに早いですね・・・・・・!!」

 

 

 バナナボートにしがみつきながらウナは嬉しそうに声をあげる。

 同じようにバナナボートにしがみついていたきりたんも最初は嫌そうにしていたのだが、バナナボートの速さに楽しそうにし始めていた。

 

 

「カーブでけっこう持ってかれるな!!」

「めっちゃぐわんぐわんしとるな!」

「これ、一歩間違えたら振り落とされちゃうよ!」

 

 

 バナナボートがモーターボートによって引っ張られる衝撃を体に受けながら竜たちも楽しそうに声をあげる。

 

 モーターボートによる衝撃波かなりのもので、葵はなんとかしがみついているような状態だった。

 

 

「あははは!これは楽しいですね!」

「ゆかりちゃんってば上機嫌だねー」

「でもこれは確かに笑いたくなるのも分かるわ!」

 

 

 左右に大きく振るようにしながら走るモーターボートによってバナナボートも左右に大きく振られる。

 

 と、ここでバナナボートが大きく重心を崩した。

 

 

「「は?」」

「「ひ?」」

「「ふ?」」

「「へ?」」

「「ほ?」」

 

 

 竜たちがその身に感じるのは数瞬の浮遊感。

 そして、そのことを竜たちが理解するよりも早く竜たちは海面へと落とされるのだった。

 

 

「げほっげほっ!び、びっくりしたなぁ」

「ほ、ほんまやね・・・・・・」

 

 

 ひっくり返って海に落ちた竜たちは海面へと顔を出して口に入ってしまった海水を吐き出す。

 さすがにすぐ近くに止めるのは危ないからか、モーターボートは少しばかり離れた場所に止められていた。

 

 

「ぷはぁっ!面白かったなとーほくー!」

「た、たしかに面白くはありましたけどここまでだとは思いませんでした・・・・・・」

 

 

 竜たちと同じように海面から顔を出したウナときりたんは先ほどのバナナボートの感想を言い合う。

 そして、竜たちはもう一度バナナボートをやるためにバナナボートに上って座っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第544話




アンケートの結果は完全に出ておりますね。

というわけで番外話はオネとなります。







 

 

 

 

 モーターボートによって勢い良く引っ張られるバナナボート。

 乗る順番を変えたりしながら竜たちは楽しく遊んでいた。

 

 竜の前に座っていたウナときりたんが手を放して竜の胸に飛び込んできたり、先頭に乗っていた茜が手を離したことによって後ろに乗っていた全員を巻き込んでバナナボートから落っこちたりとなかなかにハチャメチャなことになっていた。

 

 

「やー、めっちゃ楽しかったなぁー!」

「それは良いんだけどさ・・・・・・。お姉ちゃんがぶつかってきたことによってボクの頭にたんこぶができたんだけど・・・・・・?」

 

 

 バナナボートからマキたちがいるところにまで戻ってきた茜が満足そうにしながら言う。

 そんな茜の言葉に後ろを歩いていた葵が少しだけ痛そうに頭を押さえながら茜にジトリとした視線を向けていた。

 どうやら茜がバナナボートから落ちたときに葵の頭に茜のどこかがぶつかってしまったらしい。

 葵のそんな言葉に茜はピューピューと適当な口笛を吹いて誤魔化すのだった。

 

 

「あー、最後の方で思いっきり吹っ飛んでたやつ?」

「たしか茜さんが先頭だったやつですわね?」

「あれはかなり痛そうでしたもんね」

 

 

 茜と葵の言葉からいつのときに茜が葵にぶつかるようなことが起きたのかを理解したマキ、イタコ先生、ずん子の3人は苦笑を浮かべる。

 

 バナナボートに掴まることがけっこう疲れたのか、戻ってきた竜たちは屋台のかき氷を受け取って椅子に座る。

 バナナボートで風を受けて涼しかったとはいえ、それでも日差しによって暑くなっていた体がかき氷によって少しだけ冷まされていた。

 

 

「楽しかったなー。東北、休み終わったらもう一回行くかー?」

「勘弁してください・・・・・・。楽しいは楽しかったですがしがみついているのもけっこう大変だったんですから・・・・・・」

 

 

 まだ元気満々といった様子のウナはぐったりと机につぶれているきりたんに声をかける。

 ウナの言葉にきりたんはどうにか顔を上げて答えた。

 

まぁ、きりたんはもともとウナによって無理やり乗せられていたのだから断るのも仕方がないだろう。

 きりたんの言葉にウナはちぇーとでも言うかのように唇を尖らせた。

 

 

「まぁ、まだみんな疲れてるんだからウナも少し休んでおきな。疲れている状態でバナナボートを再開しても手がすっぽ抜けたりして危ないから」

「・・・・・・はーい」

 

 

 もう一度バナナボートに向かいたそうにしているウナに竜は少し休むように声をかけた。

 バナナボートで遊ぶのは全身をほぼ腕だけで押さえなくてはいけないので、かなりの体力を消耗する。

 そのため、元気そうにしているウナだとしてもしっかりと体を休めて体力を回復させてからでないと危ないのだ。

 

 竜の言葉にウナはしぶしぶといった様子で椅子に座る。

 そんなウナの様子に竜は苦笑しつつ、新しいかき氷を屋台からもらってきて渡すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第545話




上手く書けない・・・・・・

なんて言うんですかね、書きたい内容をうまく表現できないというかなんというか・・・・・・






 

 

 

 

 時間は進み、海に鮮やかなオレンジ色の日が差してきたころ。

 この時間になれば水辺の近くということもあってかなり涼しくなってきており、竜たちものんびりと砂浜に座って夕焼けの光っている海を見ていた。

 

 すでにあかりが呼んでいた屋台の船たちは撤収しており、なにもないキレイな海が竜たちの目の前には広がっていた。

 

 

「っはー・・・・・・、遊んだなぁ」

「ほんまやねぇ。うちももうクタクタや」

「そういえばお魚を取ってきてたみたいだけど、あのお魚ってどうするつもりなのかな?」

「けっこうな量を取っとったよなぁ」

 

 

 沈んでいく夕陽を見ていた竜はごろんと砂浜に横になる。

 砂浜に横になったことで背中や頭に砂がついてしまうが、最終的にシャワーを浴びる予定なので竜はそこまで気にしていなかった。

 

 竜の呟きに隣に座っていたついなも自身の槍についている砂を払いながら答える。

 ついなが持っている槍は自身の力で出しているものなので、消してもう一度呼び出せばキレイな状態に戻るのだが、それでもついなは砂などがついて汚れているのが気になってしまっていた。

 そんなついなが綺麗にしている槍を見て葵はふと思い出したことを呟く。

 

 ついなはゆかりとマキが竜たちに合流したときに海に潜っていき、あかりが手配した屋台の船が現れたときに戻ってきていた。

 そして、そのときにかなりの量の魚や貝などを持って海から上がってきていたのだ。

 それらの貝や魚などはあかりに頼んで別荘に運んであるため、持ち帰ったりするのも問題なくできるだろう。

 

 

「そういえば今日はこの後にバーベキューでしたわね。なにも手伝わないで良いんでしたっけ?」

「そうですね。うちの人たちに連絡は入れたのでもう少し待っていていただけると」

 

 

 ポツリと確認するようにイタコ先生は言う。

 今日の竜たちの予定は最後にバーベキューということになっており、それ等の準備をあかりがするという話になっていたのだ。

 イタコ先生の言葉にあかりはうなずいて応える。

 

 

「あ、そんならうちが取ってきた魚とかも焼いたりしてまう?」

「それもよさそうだな。取りに行くか」

「ああ、でしたらそちらも一緒に持ってきてもらいますね。他にもなにか持ってきてもらいたいものとかありますか?」

「んー、うちはとくにはない・・・・・・。あ、せや。花火とかあったら楽しいんちゃうかな?」

「ああ、たしかにバーベキューをやるなら一緒にあった方が楽しそうだよね」

 

 

 バーベキューをやるのだから昼間に自分が取ってきた魚なども一緒に焼くのはどうかとついなは提案する。

 ついなの言葉に竜もうなずき、寝転がっていた状態から立ち上がる。

 立ち上がって別荘へと戻ろうとする竜とついなにあかりは声をかけた。

 

 さらにほかに追加で欲しいものなどがないかとあかりが尋ねると、茜が花火もあった方が楽しいのではないかと言い出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第546話




今日も遅くなってしまった・・・・・・

番外話に関しましてはまだ書き終わっていませんのでもう少しお待ちいただければ幸いです。






 

 

 

 

 バーベキューの準備が進み、砂浜にバーベキュー台やテーブルなどが用意されていく。

 そのどれもが一般人が持っているような簡素なものではなく、かなりしっかりとした作りのものとなっているあたり紲星家が道具などにもしっかりとお金をかけていることがうかがえた。

 

 バーベキュー台から少し離れたテーブルではあかりが手配した料理人たちがお肉や魚などを切っており、切った断面を見ただけでも良い食材だろうということが推測できる。

 

 

「おー、けっこういい肉なのか?」

「ええっと?ああ、あのお肉はそうですね。ですがいま切っているお肉よりも安いものでもうちの料理人の手にかかればとても美味しいお肉になるんですよ」

 

 

 料理人が切っていくお肉の断面にある脂の筋などを見て良いお肉なのではないかと思った竜は思わずあかりに尋ねる。

 竜の言葉にあかりも同じようにお肉を見て肯定した。

 

 

「ちゅわぁー!お酒が美味しいですわー!」

「イタコ先生がこんなにはっちゃけてるの初めて見たんですが・・・・・・」

「うん・・・・・・。学校ではいつも落ち着いた雰囲気だったしね」

「ちゅうてもトラブルとかが起きたときはけっこう慌てとる姿は見たことあるけどなぁ」

「お酒ってそんなに良いものなのかな?」

 

 

 あかりが用意してくれたお酒を片手にイタコ先生がテンション高めに声をあげる。

 イタコ先生は学校では基本的に落ち着いた雰囲気の学校医として働いているため、このように無邪気にお酒を喜んでいる姿は基本的には家族ぐらいにしか見せたことがなかったのだ。

 ちなみに、学校の教師たちで飲み会なんかもやったりしたことはあったのだが、外で飲んでは迷惑になってしまうかもしれないと考えて自発的にお酒を抑えていたりする。

 

 

「ふふ、イタコ姉さまったらあんなにはしゃいでる」

「タコ姉さまがあそこまで素を出しているのって珍しいですよね。いままで私たちの前とかくらいでしか出したことがなかったのに」

「んー?イタコがあんなになってるのはそんなに珍しいことなんか?」

「そうね。イタコ姉さまがあんな風になっている姿はいつも家でお酒を飲んでいるときくらいしかなかったのよ。といっても美味しそうなお酒を買えたときとかは帰り道でけっこうはしゃいでたりするみたいなんですけどね」

「ちなみに、はしゃいでいる姿を見られないようにそのときには周囲を無駄に索敵して誰もいないことを確認してからはしゃいでますから。といっても車で接近されたりしたら落ち着く前に見られたりするみたいですが」

 

 

 冷たい緑茶を飲みながらずん子はお酒を飲んではしゃいでいるイタコ先生を見て微笑む。

 ずん子ときりたんの言葉についなは不思議そうに首をかしげながら尋ねる。

 まぁ、イタコ先生が無邪気にはしゃいでいる姿などを見たことがないついなからすれば不思議な光景なのだが、家でお酒を飲んでいる姿をよく見ているずん子やきりたんからすれば見慣れたいつもの光景なのだ。

 

 そのついでに語られたイタコ先生のやや恥ずかしい話についなは呆れたように苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第547話




今日も遅い・・・・・・

というか番外話を書く時間が・・・・・・






 

 

 

 

 あかりの家の料理人たちの手によってもっとも美味しい焼き加減、味付けで調理されたお肉や野菜、ついなが取ってきたお魚や貝を竜たちは笑顔になりながら口に運んでいく。

 プロの手による料理なので当然ながらその味は格別なもので、竜たちは我先にと争うような勢いで焼かれたものに箸を伸ばしていた。

 ちなみに、きりたんやウナの分はキチンと別で分けてもらっているので、2人が料理の取り合いに参加するようなことは起きていない。

 

 

「肉もらい!」

「くっ、そんならうちはこっちの魚をもらうで!」

「竜くんもお姉ちゃんも玉ねぎとかピーマンとかも食べなよー」

「いやぁ、すごい争いだねぇ」

「そう言いつつマキさんもシレっととっているじゃないですか」

 

 

 焼かれたお肉などがテーブルの上に置かれた瞬間に竜たちは素早く箸を伸ばす。

 もっとも早くお肉を取ることができた竜は満足そうにお肉を口に運んでその味を堪能する。

 お肉を取られたことに悔しそうにしていた茜だったが、そこで悔しがっていては他の人に料理を取られてしまうと考えてすぐに次のターゲットを決めて自身の皿へと取り移した。

 野菜を食べようとしない竜と茜に葵は呆れたような視線を向けながら言う。

 

 

「「にーく!にーく!お次もにーく!まだまだにーく!どんどんにーく!」」

「ご主人も茜もお肉しか食べとらんやん?!」

「もっとお野菜は食べた方が良いと思うけどなぁ?」

「そう言いながら姉さんは私のお皿に玉ネギを移さないでくれないかしら・・・・・・」

 

 

 お肉や魚などしか食べないという意思の見える歌を歌いながら竜と茜は食べ進めていく。

 野菜を食べようとしない竜と茜についなは思わずツッコミを入れる。

 そんな竜たちの姿を見ながらイアとオネはのんびりと料理を食べていた。

 まぁ、どうやらイアは玉ネギが苦手なようでオネのお皿に玉ネギだけをはじいていたようだが。

 

 

「「それにーく!ほれにーく!どっこいにーく!」」

「というかさっきからシレっとアニメネタを使っていますね」

「そうなのか?ウナもそこそこアニメは見ているけどお兄ちゃんたちが歌っている歌は知らないぞ?」

 

 

 先ほど歌っていた歌とはまた違う歌を歌っている竜と茜の姿に歌っている歌がアニメのものだと理解していたきりたんは小さく息を吐きながら言う。

 ウナ自身もアニメはけっこう見ているのだが、竜と茜が歌っていた歌は深夜アニメのネタなため、小学生であるウナは知らなかったのだ。

 とはいっても、同じ小学生であるはずのきりたんが知っているのはいささかおかしいのだが。

 

 そんなふうに竜たちは料理を楽しみながら楽しく会話をしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第548話




今日もまたちょっと遅いなぁ・・・・・・

寝る時間とかを考えたらもっと早くに投稿しておきたいのに・・・・・・






 

 

 

 

 楽しいバーベキューも終わり、竜たちは満足そうにお腹をさすっていたり残っているジュースを飲んでいたりと思い思いの様子で過ごしていた。

 あかりの家の使用人たちは使い終わったバーベキュー台や食器などを片づけており、先ほどまでの光景が嘘だったかのように物が片づけられていっている。

 

 

「やっぱあれだな。リズムを刻むように食べていくといくらでも食べられるよな」

「せやね。ソレのおかげで食べていく味で飽きたりすることもないしな」

「リズム?」

「どういうことです?」

 

 

 椅子に座ってお腹をさすりながら呟いた竜の言葉に、近くに座っていた茜が竜の言葉に大きくうなずく。

 竜と茜の言葉に近くにいた葵たちは不思議そうに首をかしげる。

 

 

「リズムを取りながら食べるってどういうことなの?」

「ん?いや、肉、肉、野菜、肉、魚みたいに食べる順番をな」

「ああ、そういうことですか」

 

 

 葵の言葉に竜はリズムを刻みながら食べるという言葉の意味を簡単に説明する。

 竜の説明を聞いてどういうことなのかを理解した葵たちは納得したようにうなずいた。

 

 

「なるほどねぇ。ちなみにそれじゃあお姉ちゃんや竜くんのリズムってどんなやつなの?」

「「そりゃあ、ウシ、ウシ、ウシ、ブタ、ウシ、トリに決まってるだろう(やん)」」

「全部お肉だよ?!」

「もっと野菜を食べてください?!」

 

 

 竜からリズムの話を聞いた葵は竜と茜がどのようなリズムで食事をしていたのかが気になって尋ねる。

 葵の言葉に竜と茜は笑みを浮かべながら自分たちがどのような順番で食べていたのかを答えた

 

 ウシ、ブタ、トリとすべてが肉の種類な竜と茜の言葉に葵たちは驚き、思わずツッコミを入れてしまう。

 

 竜たちがそんな話をしていると、花火とバケツを持った使用人があかりの近くに現れた。

 

 

「あ、準備ができましたね。それじゃあ皆さんで花火をしましょうか!」

「おお、ええやん!」

「花火をやるのなんてちょっと久々かもねー」

「準備がめんどくさいですし、片付けも大変ですからね」

「どんな花火があるのかなー?」

 

 

 使用人たちの姿から準備ができたことを理解したあかりは竜たちに声をかける。

 あかりの言葉に竜たちは座っていた椅子から立ち上がり、周囲に物がない場所へと移動した。

 

 

「どれがいいかなー」

「んー、うちはこれにしとこかなー」

「ボクはこの花火にしようかな」

「自分たちで好きな花火を選ぶのも醍醐味ですわよねぇ」

「イタコ姉さまはいいんですか?」

 

 

 用意された花火に近づき、竜たちはどの花火をやろうか悩み始める。

 

 どの花火をやろうか考えて悩むのも手持ち花火の醍醐味の1つ。

 そんな竜たちの姿にイタコ先生はお酒を飲みながら笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第549話



今日もこんな時間にー・・・・・・


書き終わるのを早くしないと番外話も書き終わらないなぁ・・・・・・





 

 

 

 

 竜たちは思い思いの花火を取って火をつけていく。

 

 美しい青色の火花が飛び弾けるもの、鮮やかなピンク色の火花を放つもの、閃くような黄色の火花が走るもの、妖艶な紫色の火花が輝くものなど多種多様な火花が暗くなった砂浜を(いろど)っていた。

 

 

「打ち上げ花火も良いけどこういう手持ちの花火も良いものだよな」

「せやねぇ。空に大きく広がるのも見ごたえはあるけど。こういうのはなんやろなぁ。風情があるっちゅうんかな?」

「手元で綺麗に光って消えていく。それがとてもキレイだよね」

 

 

 思い思いの花火を光らせ、竜たちはその輝きを楽しむ。

 と、ここで竜は花火の中に少しだけ違う種類のものがあることに気がついた。

 

 

「これは・・・・・・、ロケット花火か!」

「おお!そんなんもあったんか!」

「ねぇ、ゆかりん。さっきのバーベキューであの歌を歌っていた2人がロケット花火を持つのすごい不安なんだけど・・・・・・」

「奇遇ですね。私も同じ気持ちです・・・・・・」

 

 

 ロケット花火を見つけて嬉しそうに声をあげる竜に茜も同じように声をあげる。

 喜ぶ2人の姿に先ほどのバーベキューで竜と茜の2人が歌っていた歌から嫌な予感を感じ取ったマキとゆかりは不安そうにしながらそっと竜と茜から距離を取った。

 

 ちなみに、普通のロケット花火は飛ばした後にゴミが残ってしまうためにキチンと回収して処分をしなくてはならないが、こちらのロケット花火は紲星グループ特製のロケット花火で自然に分解されていくものとなっている。

 

 

「いくぞ!ふっとべぇっ!」

 

 

 掛け声とともに竜は火をつけたロケット花火を上空に向けてナイフ投げのように投擲する。

 お試しということで投げたのは1本だけだが、竜の投げたロケット花火は途中で火を噴きながら加速し、上空で大きく炸裂して見せた。

 通常のロケット花火は爆発するだけのものなのだが、こちらのロケット花火は小さく花火が爆発し、小型の打ち上げ花火のように火花が広がっていた。

 

 1本だけの投擲が上手くいったため、竜と茜はうなずいて両手の指の隙間に持てる分だけのロケット花火を持っていった。

 片手に4本、それが竜と茜の両腕にあるため合計16本のロケット花火が装着されている。

 そして、2人は両手に持ったロケット花火に火をつけていった。

 

 

「空へっ!!」

「吹っ飛びやぁっ!!」

 

 

 竜と茜の放った合計16本のロケット花火。

 それらは途中まで真っ直ぐに空へと向かって飛んでいっていたのだが、途中で強風にあおられたのかバランスを崩してしまう。

 そして、不幸なことにそのロケット花火の照準がロケット花火を放った本人たち、つまりは竜と茜に向いてしまった。

 

 

「げっ?!」

「あかーんっ?!」

 

 

 迫りくるロケット花火を確認したのと同時に竜と茜は走り出す。

 2人の背後へと迫るロケット花火たちは竜と茜の走る真後ろに1本、また1本と着弾して火花を周囲に広げていく。

 

 まるでアニメのギャグシーンのような2人の光景に他の面々は呆れながら笑うことしかできなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第550話




さらに遅いー・・・・・・

本当に書く時間の確保が辛くなってきたなぁ・・・・・・





 

 

 

 

 背後から迫りくるロケット花火から竜と茜は全力で走って逃げ続ける。

 直後、竜の顔の横と茜の頭上を1本づつロケット花火が通り過ぎていった。

 

 2本のロケット花火が自分たちの前に飛んでいったことを確認した竜と茜はそれぞれ左右に分かれることによって前方で起こったロケット花火の爆発を回避する。

 

 

「あぶねぇ!つーかこんなに追いかけてくるもんだっけ?!」

「少なくとも!ふつーはありえへんと思うで!!」

 

 

 走りながらチラリと背後に視線を向け、いまだにロケット花火が追跡してきていることを確認した竜は走りながら声をあげる。

 爆発したロケット花火をよけた先でふたたび合流した竜と茜は話しながらロケット花火から逃げていくのだった。

 

 

「いやぁ、竜くんたちが逃げてますねぇ」

「というかロケット花火ってそんなに長く飛ばなかったと思うんだけど・・・・・・?」

「そこはまぁ、うちの特別性ですから」

 

 

 走って逃げていく竜と茜のことを見ながらゆかりたちは花火を選びつつ呟く。

 通常のロケット花火であればすでに爆発していてもおかしくはないはずなのだが、いまだに着弾していないロケット花火たちは飛びながら竜と茜のことを狙っていた。

 

 

「そろそろ違う系統の花火をやろっか」

「それも良いですね」

 

 

 竜と茜が逃げる姿を見ていたゆかりたちは置いてある花火を見て先ほどやったものとはと違う花火を取っていく

 そうしてゆかりたちが花火を選んでいると、大きな悲鳴音と悲鳴が聞こえてきた。

 見れば

 

 

「ぎゃぁあああああ?!?!」

「にゃぁあああああ?!?!」

 

 

 聞こえてきた悲鳴にゆかりたちは首をかしげるが、そこまで気にするものでもないだろうとそのまま花火を選んでいっていた。

 

 

「ひ、酷い目にあった・・・・・・」

「けほっけほっ・・・・・・。ほんまやね・・・・・・」

 

 

 逃げ切ることができずにロケット花火が直撃した竜と茜はやや服を焦がしながらもなんとかロケット花火から追われることがなくなった。

 

 

「とりあえずロケット花火はここまでにしておくか」

「せやね。自分ら以外に向かって飛んでも危ないしなぁ」

 

 

 先ほどのロケット花火がUターンしてくるのがなかなかに怖かったのか。

 竜たちは置いてある花火の中からロケット花火以外を選んでいった。

 

 

「そしたら次はこれかな落下傘花火。本当なら明るい時間帯のときにやるものなんだがな」

「あー、上空からパラシュートが落ちてくるやつやね!そんならどっちが先にゲットするか勝負でもせえへん?」

 

 

 竜が花火の中から選んで取り出したのは落下傘花火だった。

 この花火は火をつけて打ち上げられると、上空にパラシュートのようなものが打ち上げられるという花火だ。

 落ちてくるものはけっこう不規則な動きをしているため、その動きが楽しくて子どもに人気の花火の1つである。

 

 竜が取った花火を見た茜はどちらが先にパラシュートをキャッチすることができるか勝負をしようと提案するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第551話




やはり一気に書く時間を取る必要があるかなぁ

番外話を早く書き上げていきたいところだけどなぁ・・・・・・







 

 

 

 

 竜と茜、2人がやや距離を開けて並んで立つ。

 2人の視線の先には葵がスタンバイしており、その近くには落下傘を打ち上げる花火がセットされていた。

 

 

「2人とも、もうけっこう暗くなってるけど本当にやるの?」

「もちろんや!この勝負ならさっきみたいに爆撃されることもないからな!」

「まぁ、茜がやる気満々みたいだしな」

 

 

 すでに周囲はかなり暗く、落下傘が問題なく撃ち上がったとしてもそれが見えるかは微妙なほどだった。

 あかりの家の使用人たちによって花火を邪魔しない程度にあかりは確保されてはいるのだが、それでも少し離れてしまえば真っ暗になってしまうほどに周囲は暗い。

 

 こんなに暗いのに本当に落下傘花火をやるのかと葵は茜と竜に尋ねる。

 まぁ、少し考えればこんなに暗い状況で上空から落ちてくる落下傘を追いかけるのは危ないだろうということは分かるはずなのだが、茜は自信満々に問題ないと答えた。

 茜の言葉に竜も苦笑しながら答える。

 

 

「それじゃあ、つけるけど・・・・・・。本当に足元には気をつけてね?」

 

 

 そう言って葵は落下傘花火に火をつける。

 導火線についた火は消えることなくそのまま落下傘花火の本体へと入っていった。

 

 その間に火をつけた葵は早足で落下傘花火から離れており、あとは落下傘が撃ち上がるだけとなった。

 

 

「・・・・・・いまさらですが、本当に高校生ですか?」

「ウナたちよりも小学生っぽいよなー?」

「あはは・・・・・・。まぁ、あの2人はこういうことをよくやるから」

「それでもさっきのロケット花火みたいなことがあったりするんですから落ち着いてほしいとは思いますけどね」

「うーん・・・・・・。茜ちゃんが落ち着かないと難しいんじゃないかな?」

 

 

 落下傘が撃ち上がるのを待ち構える竜と茜の姿を見て、普通の手持ち花火をやっていたきりたんが首をかしげながら近くに移動してきた葵に尋ねる。

 竜とあかりの行動はどう見ても高校生がするような行動には見えず、きりたんの言葉に同じように手持ち花火をやっていたウナもうなずいた。

 

 きりたんとウナの言葉に葵はどう答えたものかと苦笑することしかできない。

 そんな葵たちの会話が聞こえていたゆかりとマキはきりたんたちと同じように思っていたことを口にするのだった。

 

 そして、ついに落下傘花火がさく裂して落下傘が撃ち上がる。

 

 

「うぉおおおおおおおおおお!!!!!」

「負けへんでぇええええええ!!!!!」

 

 

 落下傘が撃ち上がり、その姿を視認した瞬間に竜と茜は走り出す。

 ふわふわと風にあおられて不規則に揺れてはいるものの、おおよその落下地点を推測することができるため、竜と茜はそこに向かって全力で駆け出していた。

 

 

 残り50メートル

 

 風に揺れてはいるが大きなルートの変更は見られない。

 

 

 残り40メートル

 

 砂浜ゆえに砂地に足を取られそうになるがどうにか堪えて走り続ける。

 

 

 残り30メートル

 

 やや離れた位置に向かって落ちていくために視認がし辛くはなっているが、それでもしっかりとその姿をとらえ続けている。

 

 

 残り20メートル

 

 残すところはあとわずか、ラストスパートをかけて一気に加速をする。

 

 

 残り10メートル

 

 残り僅かに差し迫った直後、竜と茜の足元近くに1本の枯れ木が闇の中からその姿を現した。

 

 いきなり現れた枯れ木と全力で走っていたことによる加速によって竜と茜の体は止まることなく突き進んでいく。

 

 そしてその結果なにが起こるのか

 その答えは至極シンプルなものとなっていた。

 

 

「いっだぁあああああああああああ?!?!」

「ほんぎゃあああああああああああ?!?!」

 

 

 枯れ木が現れたこと自体は気づいていた竜と茜だったのだが、そこで止まったりせずに走り続けたことにより、竜と茜の足に枯れ木が直撃することとなる。

 走っていたころによる加速によってさらに威力が乗ってしまい、竜と茜は全力で悲鳴を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第552話





今日もまた遅い―・・・・・・

最近どうも遅くなってしまっているからなんとか直さないといけないのに・・・・・・






 

 

 

 

 闇の中から現れた枯れ木に思い切り足をぶつけた竜と茜。

 2人は足を枯れ木にぶつけたダメージにより砂がつくのも構わずに砂浜に足を抑えながらもんどりうっていた。

 

 

「ぐぅおおおおおお・・・・・・」

「ふんぐぅうううう・・・・・・」

「めっちゃ痛そうだなー?」

 

 

 竜と茜の2人が足をぶつけた痛みでもだえている横をのんびりと歩きながらウナが落ちてきた落下傘をキャッチする。

 先ほど葵が足元に気をつけてと言った矢先に枯れ木に足をぶつけている2人の姿に葵は呆れてため息を吐いていた。

 

 

「だから足元に気をつけてって言ったのに・・・・・・」

「けっこうな勢いでぶつけてましたよね」

「あれは絶対に痛いよね」

「ちゅわぁ。木で擦りむいたりしてませんかしら?」

「砂まみれですしお風呂の準備をしておいた方がよさそうですね」

 

 

 少しだけ痛みから回復したのか竜と茜がよたよたとしながら葵たちの方へと戻ってくる。

 その隣ではキャッチした落下傘を興味深そうにウナが見ていた。

 

 

「あれをキャッチしたいっていうのは分からなくはないけどこの時間帯にやるっていうのは危なすぎるよね」

「まぁ、その結果があの2人だものね」

「いちおう歩くことができているから折れていたりはしていないみたいですね」

 

 

 落下傘花火によって上空から落ちてくる落下傘をキャッチしたいという竜と茜の気持ちも分からなくはないために否定をするつもりはないのだが、それでもさすがにここまで暗くなっている状況でやるのは危ないことだと少し考えれば分かること。

 

 葵たちに呆れられながら注意されて小さくなっている竜と茜のことを見ながらイアたちは次にやる花火を手に取っていくのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 あかりの用意してくれた花火もほとんど終わり、残っている花火の量もごくわずかとなってくる。

 そこそこの量の花火が用意してあったはずなのだが、さすがにこの人数でやるとなればそこまで時間も経たずに減っていってしまっていた。

 

 

「んー、ラストに全員で線香花火でもやるか」

「花火の締めといえば線香花火(これ)みたいなところもありますよね」

「他の花火と違って勢いがあるわけやないんやけど心に残るんよな」

「誰が最後まで残れるか勝負もできるけど。さすがにのんびりとやった方がええわ」

「うん。それがいいよ」

「今日の最後の花火ですからね。ゆっくりと楽しみましょう」

「線香花火の光ってすごくかわいいから好きだなぁ」

 

 

 最後に残っていた細い紙のひものような花火、線香花火を手に取って竜は提案をする。

 

 線香花火は他の花火たちと違って勢いがあるような花火ではないのだが、その特徴的な火花のはじけ方と落ち着きのある光り方で一定の人気がある花火だ。

 また、手持ち花火の最後にやる花火としてもよく選ばれており、最後の花火という寂しさを感じられる花火でもあった。

 

 1本ずつ線香花火を手に取った竜たちはいっせいに火を点け、その可愛らしい光を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第553話




今日はなんとか1時に間に合いました!

なんとかこの時間に投稿するのを継続しておかないと・・・・・・






 

 

 

 

 パチパチと先ほどまでの激しい音と光とはうって変わって静かな柔らかい光と音が砂浜に響き渡る。

 線香花火が発するその音と光は先ほどまでやっていた手持ち花火にはない、穏やかな感情を引き出してくれた。

 

 

「あ・・・・・・」

「落ちてもうた・・・・・・」

「最後までいけませんでしたね・・・・・・」

 

 

 1人、また1人とその静かで(はかな)い輝きを大地に落としていく。

 落ちていったその輝きは静かに光を失っていき、残るのは線香花火の紙の部分だけ。

 それが一層のこと寂しさを増していた。

 

 

「線香花火を長持ちさせるのにはちょっとしたコツがあるんだよ」

「コツを使うだけでビックリするほど長持ちするんよね」

「ですわね。公住くんも先ほどこっそりやってましたもの」

「長持ちのコツはあまり知られていませんよね」

「そんなに難しいことでもないんですけどね」

「すごいなー。東北たちのはまだ光ってるのか」

 

 

 順番に落ちていく線香花火をチラリと見ながら竜たちは自分たちの持っている線香花火を見る。

 竜たちが持っている線香花火の光はどこかほかの線香花火の光よりも安定しているように見え、いまだに落ちる気配はなかった。

 

 

「すごい長持ちしているね?」

「長持ちする方法ってどんな方法なのかしら?」

「まぁ、とくに秘密にしているわけでもないし教えるよ」

 

 

 いつの間にか竜たち以外のメンバーは線香花火が終わってしまったのか、竜たちの花火を見るために集まってきていた。

 興味深そうにしている面々に竜は線香花火を長持ちさせるコツを教えるのだった。

 

 

「えっとだな。まず線香花火に火をつける前に線香花火の下の火薬の部分を丸めて固めておくんだ。これをすると長持ちするようになるんだよ。後は安定させるために下の方を持ちたくなっちゃうかもしれないけど、上のぴらぴらしている紙の部分を持って自然に揺らした方が長持ちはするかな」

「ほーん、そんなことで長持ちするんか」

「本当に簡単なコツなんだね」

 

 

 線香花火の火薬の部分を丸めることによって火薬がまとまって長持ちするようになる。

 そのため、本当に簡単なコツで線香花火を長持ちさせることができるようになるのだ。

 

 そして、竜たちの持つ線香花火は落ちることなく静かにその光を失っていった。

 

 

「・・・・・・はぁ、終わってしもたなぁ」

「こう、花火が終わるとなんだか寂しくなっちゃうよね」

「さっきまでの明るさと音が一気になくなるからでしょうかね?」

「たしかにそれはあるかもしれないねー」

 

 

 すべて消えてしまった花火たちに茜たちは寂しそうに呟く。

 そして、竜たちは花火などのゴミを片づけて紲星家の別荘へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第554話




今日もなんとか1時!

でも番外話が進められていない・・・・・・





 

 

 

 

 紲星家の別荘

 

 竜たちは別荘のリビングで思い思いに過ごしていた。

 といっても全員がリビングにいるわけではなく、何人かに分かれてお風呂に順番に入っている。

 

 

「竜兄さま、FGOのサポートでコヤンにベラリザを着けているのはなぜですか?いままではキャストリアに着けていましたよね?」

「ああ、それか。いやな、コヤンでバスター周回をするのが一番楽でな?火力も出るし安定するからコヤンに周回用の礼装を着けておいた方が良いかと思ってな」

 

 

 竜の膝の上に座ってFGOの周回をしていたきりたんが竜のサポート編成を確認して尋ねる。

 竜の手持ちに最近加わった新しいサーバント、コヤンスカヤ。

 ネタバレになってしまうために詳細は伏せるが、彼女は待望のバスターカードによる3ターン周回を可能とする優秀なサーバントだった。

 見た目が玉藻系統だったこともあり、竜は手に入ってすぐにレベル上げと霊気再臨を最大まで終え、スキルも可能な限り上げきったのだ。

 

 竜も言っているがアーツやクイックの周回とは違って確定で3連続で宝具を撃てる点や火力が安定している点などから最近ではほとんどの周回をコヤンスカヤの編成でおこなっていた。

 

 

「なるほど。ちなみに誰を使って周回しているんですか?私はスペースイシュタルなんですが」

「俺はバニ上とかモルガンとかかな。やっぱり特殊クラスとかバーサーカーが安定するし」

 

 

 きりたんの言うスペースイシュタル。

 竜の言うバニ上とモルガン。

 

 それらはコヤンスカヤで周回をするうえで優秀なメインアタッカーたちである。

 まぁ、これらについて詳しく説明すると長くなってしまうので割愛する。

 

 

「FGOっていうのはそんなに面白いのかー?」

「んー、面白いけど不用意にハマると沼なんだよなぁ」

 

 

 きりたんとは反対側の膝に座っていたウナが興味深そうにきりたんがプレイしている様子を見ながら竜に尋ねる。

 ウナはジュニアアイドルとしての仕事が多く、あまりスマホのアプリなどに関してはそこまで詳しくないのだ。

 その代わりにテレビの共演者などからオススメの漫画やアニメ、ドラマなんかを聞いているため、そちらに関してはかなり詳しかったりする。

 

 まぁ、詳しくはないと言っても移動中の時間つぶしのためにいくつかのアプリは入れているのだが、それでも比較的簡単なアプリくらいしかいれていない。

 

 

「欲しいキャラクターが出るまで課金する人とかもいるから簡単にオススメできるかっていわれたら微妙なんだよなぁ」

「ですねぇ。YouTubeでもガチャ配信をして発狂している人とかもいましたから」

 

 

 FGOのガチャには天井がない。

 それはつまり必ず欲しいキャラがひけるというわけではないということ。

 普通のガチャであれば上限に達すれば好きなものと交換できたりする。

 しかしFGOにはそれが存在しないのだ。

 

 そういった点から竜ときりたんはウナにFGOをお勧めし辛かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第555話



今日は遅くなってしまった・・・・・・

投稿時間を安定させたいなぁ・・・・・・





 

 

 

 

 時間も進み、竜たちは全員がお風呂に入り終わっていた。

 

 ちなみに、竜がうっかり女性陣が入浴中にお風呂場に入ってしまうようなトラブルが起きたり、パジャマに着替え中に虫が出て驚いて部屋から飛び出たタイミングで竜と鉢合わせたり、竜が入浴中にきりたんとウナの小学生組が突撃したりなどといったようなことは一切起こってなどいなかった。

 

 お風呂にも入り終わり、竜たちはそれぞれ好きなようにゲームをしたりテレビを見たりしている。

 

 

「ちゅわぁ、お風呂上がりの一杯が最高ですわぁ」

「イタコ先生、また飲んでいるんですね・・・・・・」

「イタコ姉さまはいつも家では飲んでいますから。今日も寝るまで飲んでいるんじゃないかしら?」

「そんな大量に飲むんか?!」

「酒豪なんだねぇ」

 

 

 テレビを見ながら楽しそうにお酒を飲むイタコ先生の姿にゆかりたちは呆れながら視線を向ける。

 

 砂浜でバーベキューをやっているときにもすでになかなかの量のお酒をイタコ先生は飲んでいた。

 バーベキューでイタコ先生がお酒をかなり飲んでいた光景を見ていたために、別荘に戻ってきてからもまだ飲んでいるイタコ先生の姿に驚きしかなかったのだ。

 

 

「コーンっ!」

「おっと。おお、お風呂上がりだからかちょっとしっとりしているな」

 

 

 お酒を飲んでいるイタコ先生の中から飛び出してきたキツネが竜へと飛びつく。

 飛びついてきたキツネを抱き止め、その触り心地がいつもと違うことに気がついた竜はキツネのことを撫でながら言う。

 イタコ先生の中にいたのであれば濡れないのではないかと思うかもしれないが、キツネも常にイタコ先生の中にいるわけではなく汚れが付いたりもするのでお風呂に一緒に入っていたのだ。

 

 

「そしたらどうする?これからみんなでゲームでもやる?」

「でもこの人数でできるものなんてあったかしら?」

「んー、それでしたら。ここはあえてこちらをやりませんか?」

 

 

 イアとオネの言葉にあかりはごそごそと用意していたものを取り出す。

 あかりの取り出したものを見た竜たちはうなずいてやりやすいように移動していく。

 

 

「それでは始めましょう。決闘(デュエル)!」

「デュエル開始の宣言をしろぉおおおお!!!」

「デュエル開始ぃいいいい!!!」

「レーンが起動します。デュエリスト以外の車両は直ちにレーンから移動してください」

「リンクトゥブレイン!!」

「いや、デュエリストネタが大渋滞しているんですが」

「まぁまぁ、みんなもお泊りだからテンションが上がっているんだよ」

 

 

 全員がカードを手に取ったのを確認したあかりは声高に宣言をする。

 あかりの言葉を聞き、竜、茜、イア、きりたんの4人がそれぞれ遊戯王のネタを自由に言い出した。

 そんな竜たちの様子にゆかりたちは困ったような表情になりながらため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第556話



今日はなんとか1時に投稿!

でも番外話が思うように進まない・・・・・・






 

 

 

 

 お酒を飲んで観戦しているイタコ先生を除いて竜たちはそれぞれ自分たちの手札を確認する。

 そして誰から開始をするかじゃんけんをした。

 

 

「んじゃ俺からだな。俺は手札から“(セブン)”を発動してターンエンド!」

 

 

 じゃんけんで勝利した竜は手札から緑色の7が描かれたカードを場に出して自身のターンを終了させる。

 手札の枚数はまだ最初のターンゆえに大きく変動することは少ないので、確実に1枚1枚を出していくことが大切だろう。

 

 

「うちのターンや!うちは手札から“(セブン)カード”を発動するで!」

「似てはいるけど違うカードですね」

「というかほとんど同じなんじゃないの?」

 

 

 次に場にカードを出したのは茜。

 こちらも竜と同じように緑色の7のカードを場に出してターンを終了する。

 ちなみに、“7”のカードと“7カード”は名前は似ているが完全に別物のカードなので、“禁止令”などの名称を指定するカードを使用する際は気をつけた方が良いだろう。

 

 

「では次は私ですね。私は手札から“ナナナ”を発動します。とりあえずはこれでターンエンドですね」

「みんなして7ばっかり出してるね?」

「地味に手札の偏りがすごくないかしら?」

 

 

 続いて場にカードを出したのはきりたん。

 きりたんは黄色い7のカードを出してそのターンを終了させた。

 

 場に出ていくカードが7ばかりなことにイアは不思議そうに首をかしげる。

 まぁ、手札のカードに偏りが出ることなどは別に珍しいことではないのでそこまで気にしなくても良いだろう。

 

 

「っと次は私だね。えっと、私は2枚のカードでオーバーレイネットワークを構築!今こそ現れろ、(フューチャー)No.(ナンバーズ)0! 天馬、今ここに解き放たれ、縦横無尽に未来へ走る。これが私の、天地開闢!私の未来! かっとビングだよ、私!未来皇ホープ!」

「いや、姉さん?!いきなりエクシーズ召喚しないで?!」

 

 

 次に場にカードを出したのはイア。

 イアは2枚のカードを先に出すと召喚口上を言いなが3枚目のカードをその上に勢いよく出した。

 イアがいきなり“FNо.0未来皇ホープ”の召喚口上を言い出したことにオネは思わず大きくツッコミを入れる。

 

 まぁ、姉がいきなり召喚口上を言っていれば誰でも驚くだろうが。

 

 

「あはは・・・・・・。ボクも続いた方が良いのかな?ええと、ボクは“時の飛躍-ターン・ジャンプ”を発動して次のゆかりさんのターンを飛ばしてずん子さんのターンにするよ」

「くっ・・・・・・。ターンを飛ばされましたか」

「あら?私の番なんですね?」

 

 

 竜たちのやり方を見ながら自分も同じようにした方が良いのかと葵は苦笑しながらカードを場に出す。

 そしてそのカードの効果によってゆかりのターンが飛ばされた。

 ゆかりはターンが飛ばされたことに悔しそうな声をあげる。

 

 その後も竜たちはカードゲーム、UNOを続けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第557話




今日もなんとか投稿ー

でも番外話が上手く書けないー・・・・・・

ドウシテ・・・・・・ドウシテ・・・・・・






 

 

 

 

 竜たちが遊戯王のテンションで始めたUNOも白熱した戦いを見せており、誰かの手札が減ったかと思えば他の全員が連携してその減った手札以上に増加させたりと一進一退の攻防を見せていた。

 

 ちなみに、竜たちは同じ数字のカードを同時に出すことができるローカルルールを採用してる。

 

 

「残り手札が一番少ないのはマキの3枚か」

「とりあえずゆかりがここから勝つのはほぼ無理なんやないかなぁ?」

「まぁ、さっきぐるっと一周してゆかりさんが自分でつこたドロ2が帰ってきたんやもんな」

「えっとボクたちが全員で12人だから・・・・・・。24枚も増えちゃったんだね」

「とはいっても1枚はドロ2を出して使っているから細かく言うなら23枚だけどねー」

「そのくらいはほぼ誤差なんじゃないですか?」

「ぐぬぬぬ・・・・・・」

 

 

 チラリと竜は全員の手札の枚数を確認して呟く。

 いま現在でもっとも手札の枚数が少ないのはマキの3枚。

 それに対してもっとも手札の枚数が多いのがゆかりの27枚だった。

 

 ローカルルールのおかげで一気に手札を減らせる可能性があるとはいえ、それでもこの枚数から逆転するのはかなり厳しめの状況だった。

 

 竜たちの言葉にゆかりは悔しそうに声を漏らす。

 まぁ、ゆかり本人としては自分に帰ってくることはないだろうと考えてドロ2を使ったので、まさかの一周して自分に帰ってくるというのは本当に予想外だったのだ。

 

 

「いまのところマキちゃん以外の手札はほとんど変わらない枚数なんだよね」

「出せなくて山札から引いて枚数が変わらないか1枚増えるかだものね」

「このままだとマキさんが最初にあがるのかしら?」

「それはどうですかね。私はまだまだ1位を諦めてなんていませんよ」

「それはウナも同じだぞ、東北ー」

 

 

 一番手札の枚数が少ないマキと一番手札の枚数が多いゆかり。

 それ以外のメンバーは1、2枚程度の差はあるもののほとんど変わらない手札の枚数だった。

 

 ずん子の言葉にきりたんとウナは元気よく声をあげる。

 まぁ、マキの手札はたしかに一番少ないのだが、それは逆に言えばカードを出せない状況になりやすくなるということ。

 そのためまだまだ逆転の目は残っているのだ。

 

 

「ふふふ、さてそれはどうかなー?私は手札の6を2枚捨ててUNO(ウノ)!」

「なぁっ?!ここで2枚出しですか?!」

「マキさんがリーチになってしまいました?!」

「これはなんとか妨害せんとあかんな!」

 

 

 頑張ろうとやる気を出しているきりたんたちをあざ笑うかのようにマキは3枚の手札の中から2枚を場に出す。

 これによってマキの手札は1枚。

 場のカード次第によっては即座にマキが上がれる状況になってしまった。

 

 マキの手札が1枚になったことにきりたんたちはどうにかして妨害しなくては慌て始めた。

 そんな状況の中、竜だけは静かに場のカードを見ている。

 

 

「私は普通に出すしかないわね」

「ウナも同じだよー・・・・・・」

「マキの前の人たちに期待やねー」

「私たちはマキ先輩が上がらないことを祈るしかできないですね」

 

 

 マキの次に回ってくるオネ、ウナ、ついな、あかりはそれぞれ普通に手札を出すことしかできない。

 そして、竜へと順番が回ってきた。

 

 

「さて、俺の手札は5枚。この状況からマキを上がらせない方法はない────」

「それじゃあ、適当にカードを出すしかないね!」

「────わけじゃない」

「ひょ?」

 

 

 自分の手札を見ながら言う竜の言葉にマキは勝ち誇ったようにカードを場に出すように言う。

 しかしマキの言葉を否定するように竜は言葉を続ける。

 そんな竜の言葉にマキはきょとんとした表情になりながら竜を見た。

 

 

「俺は、手札のレベル1モンスター4体をリリースする!」

「なっ?!その召喚条件はまさか!」

「まさか、この局面でそのカードを召喚するんか?!」

「これは、予想外だったなぁ」

 

 

 赤の1、青の1、緑の1、黄の1をすべて場に出し、竜は残りの1枚を高く掲げる。

 竜の言葉から竜がなにをやろうとしているのかを理解したきりたん、茜、イアは驚きの表情を浮かべた。

 

 

「現れよ!!全ての闇と混沌を統べる絶望の化身!!“絶望神アンチホープ”!!!」

 

 

 そして、口上とともに竜は最後の手札を場にたたき出した。

 5枚目の1のカードが出され、それと同時に竜の手札はすべてなくなる。

 それはつまり、竜が上がったことを意味していた。

 

 5枚すべてを同じ数字で固めていたことに竜以外の全員が驚いており、お酒を飲んでいたイタコ先生だけは楽しそうに笑っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第558話




FGOの夏イベが始まりましたねぇ

そこまで引きたいのがいないから見送りかなぁ





 

 

 

 

 竜が“絶望神アンチホープ”を召喚したり、茜が『いまこそ、1つに』と言いながら4色の7を出して“覇王龍ズァーク”を召喚したり、イアが2を6枚出して“シューティング・クェーサー・ドラゴン”を召喚したりと遊戯王率高めなUNOが繰り広げられていた。

 

 ゆかりやマキたちもなんとかネタに食いつこうとするのだが、それでも竜たちには一歩及ばずにいた。

 

 

「ふふふ、この手札なら私の勝ちは決まりですね」

「お?なんや負け惜しみかー?」

「さっきドロー系で一気に手札を増やされていたのに勝てるっていうのか?」

 

 

 先ほどのターンでドロー系を使われたことによって手札が増えたにもかかわらずきりたんは不敵な笑みを浮かべる。

 きりたんの手札の枚数からその言葉が負け惜しみだろうと推測した茜はにやにやと笑みを浮かべながら言う。

 ちなみに茜の手札の枚数は残り2枚なので、もうすぐ上がることができる状態だ。

 

 

「ではその証拠をお見せしましょう!私は手札のレベル4のモンスター2体でオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!“|十二獣『じゅうにしし』タイグリス”!」

「なんや、勝てるとか言っとった割に普通のエクシーズやん」

「いや、待て、あのエクシーズモンスターは!」

 

 

 そう言ってきりたんは手札の4のカードを2枚場に出し、さらにその上に4のカードを叩きつける。

 勝てると言っていた割には手札を3枚しか消費していないことに茜は拍子抜けしたと言った様子で呟く。

 

 そこまで気にした様子のない茜とうって変わり、竜はきりたんが出したモンスターに驚きの声をあげる。

 

 

「これで終わりなわけではありませんよ?私は“十二獣タイグリス”をエクシーズチェンジ!エクシーズ召喚!“十二獣ハマーコング”!」

「な?!次のエクシーズ召喚やと?!」

「場の“十二獣”のエクシーズモンスターを素材にして違う“十二獣”エクシーズモンスターを出す。“十二獣”の特徴的な動きだな」

 

 

 先ほど出した3枚の4の上に追加できりたんはカードを置く。

 続けて置かれた4枚目のカードに茜は驚き声をあげる。

 そんな茜とは対称的に、きりたんの出したカードの詳細を把握していた竜はそこまで驚いた様子は見せずにいた。

 

 

「まだまだ続けます!“十二獣ハマーコング”をエクシーズチェンジ!エクシーズ召喚!“十二獣ワイルドボウ”!“十二獣ワイルドボウ”をエクシーズチェンジ!エクシーズ召喚!“十二獣ライカ”!“十二獣ライカ”をエクシーズチェンジ!エクシーズ召喚!“十二獣ブルホーン”!“十二獣ブルホーン”をエクシーズチェンジ!これで終わりです!“十二獣ドランシア”!」

「まさかほんまに手札を使い切るとは思わんかったわ・・・・・・」

「まぁ、実際には禁止カードも含まれているけど気にしなくてもいいだろ」

 

 

 すべての手札を使い切ったきりたんに茜は感心したように呟く。

 

 まぁ、ドロー系のカードを使われた状態からの逆転勝利なんてそうそうあるものでもないので、そういった点ではきりたんの運がよかったともいえるかもしれない。

 感心する茜の言葉にきりたんはドヤァと自慢げに笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第559話



今日もちょっと遅い・・・・・・

もっと早く書けるようになりたいですねぇ・・・・・・







 

 

 

 

 UNOにて勝利したきりたんが「ざぁこ❤ざこざこ❤ざぁこ❤小学生に負けるなんて、よわっちぃんですねぇ❤」と調子に乗って煽った結果、竜と茜の怒りを買ってズタボロにされた翌日。

 

 ちなみに、竜と茜によって徹底的に責められた結果、きりたんは「んひぃいんっ!もういらないですぅ!こんなにたくさん、あふれちゃいますよぉ!」と完全敗北をしていた。

 

 竜はいつもよりも早い時間に目を覚ました。

 

 

「ん・・・・・・。まだけっこう暗いな・・・・・・」

 

 

 窓の外を見るとうっすらと明るくはなっているのだが、まだまだ暗いような時間帯だった。

 外がまだ暗いことを確認した竜は少しだけ考え、立ち上がってパジャマから洋服へと着替える。

 

 洋服へと着替えた竜はなるべく音を立てないように気をつけながら別荘の外へと出た。

 昼間はけっこう気温が上がって熱いのだが、いまの時間が早朝だということと近くに海があるからなのか、そこそこ涼しい気温となっている。

 

 

「ん、くっ・・・・・・ふぅ。こういう波の音も良いものだな」

 

 

 軽く伸びをして小さく息を吐き、竜は砂浜へと歩き出す。

 砂浜へと近づくごとに波の音が大きくなり、聞こえてきた波の音に竜はしみじみと呟いた。

 

 ぼんやりと薄暗い砂浜は昨日の楽しかったことが嘘だったかのように静かで、どこかもの悲しさを感じさせる。

 おそらくは紲星家の使用人が片づけをしてくれたのか、砂浜には昨日の花火などで回収しきれなかったゴミなどがすべて綺麗になくなっていた。

 

 

「可愛い死霊がざざーんざざーん。・・・・・・なんてな」

「あら、それってニトクリスかしら?」

「~~~ッッ?!?!」

 

 

 波の音を聞いていた竜はふと頭の中に浮かんできたセリフを口にする。

 竜がセリフを言った直後、誰もいないと思っていた背後から声がかけられた。

 いきなり聞こえてきた声に竜は驚き、慌てて振り返る。

 

 

「おはよう。目が覚めて外を見てたら竜くんの姿が見えたからついて着ちゃった」

「お、オネか・・・・・・。驚かさないでくれよ・・・・・・」

 

 

 竜に声をかけてきた人物、オネは驚く竜の姿に笑みをこぼしつつ別荘から出ていく竜の姿を見てついて着たのだと言う。

 後ろにいたのがオネだと理解し、竜はホッと息を吐く。

 

 

「それにしても朝はけっこう涼しいのね。むしろちょっと寒いかも・・・・・・」

「海が近いからなのかもな。まだ日が出てないにしてもここまで涼しくなるのは俺もちょっと驚いてるし」

 

 

 日中が暑いために薄着をしてきたオネは少しだけ寒そうにしながら言う。

 日中は気温が上がって熱くなるために薄着でも問題はないのだが、いまの時間帯では少々肌寒く感じられた。

 

 

 寒そうにしているオネに竜は着ていた上着をオネに渡すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第560話




こんな時間にぃ・・・・・・


もっと早く書けるようになりたい・・・・・・






 

 

 

 

 オネに上着を渡した竜は近くに転がっていた小さな石を手に取る。

 石を拾う際に海水の湿気によって湿った砂が指先につくが、軽く払えば落ちる程度なのでそこまで気になるようなものでもなかった。

 

 

「ん、ちょっとひんやりしているな」

「ああ、朝早いから夜のうちに冷えたのかしら?海の近くっていうのもありそうだけど」

 

 

 夜の気温の低さと海の近くということで竜が手に取った石はひんやりと冷えていた。

 竜の呟きにオネは石が冷えている原因として思い浮かんだものを挙げる。

 

 オネの言葉に竜は納得したのかうなずき、拾った石を握りしめた。

 

 

「そぉ、らっ!!」

 

 

 掛け声とともに竜は拾った石を海へと向けて放り投げる。

 勢いよく飛んだ石はそのまま海へと落ち、小さな水しぶきを上げた。

 

 

「なんでか分からないけど海って石を投げたくなったりするのよね」

「そうなんだよな」

 

 

 竜が海に向かって石を投げている隣で同じように石を拾い始めたオネも海へと向かって石を投げる。

 海へと向けて石を投げる理由は別にないのだが、なぜか海が目の前にあって近くに石があると放り投げたくなる衝動が浮かんでくる人間は少なくないだろう。

 

 竜とオネがそんなことをしていると、徐々に海の向こう側からオレンジ色の光が差してきた。

 

 

「っと、日が昇ってきたか・・・・・・」

「本当ね。日差しが気持ちいいわ」

 

 

 登ってくる朝日を受けて竜たちは気持ちよさそうに目を細める。

 朝日を浴びるというのはしっかりと目を覚ますために必要なことで、朝日を浴びることによって体に朝が来たことを知らせる効果もあるのだ。

 

 日が昇ってくるのを確認した竜とオネはそのまま別荘へと戻っていく。

 このまま砂浜で日が昇り切るのを待っていても良いのだが、それをしてしまうと朝ごはんに遅れてしまう可能性がある。

 そのためにキリの良いところで別荘に戻ることに決めたのだ。

 

 

「あ、竜先輩。外に出ていたんですね?」

「ああ、あかりか。ちょっと目が覚めてな」

「オネちゃんも一緒にいたんだね?」

「ええ、竜くんが外に行くのが偶然見えたからついていっていたの」

 

 

 別荘の前にまで戻ると、ちょうど別荘の中から出てきたあかりとイアの2人と出会った。

 どうやら2人は竜とオネのことを探していたようで、竜とオネの姿を確認すると同時に早足で竜たちのもとへと近づいてきた。

 

 

「というかオネ先輩が着ている上着って・・・・・・」

「あ、そうだった。温かくなってきたから返すわね。これのおかげで寒くなかったわ」

「おう。風邪をひかなくてよかった」

 

 

 ふと、あかりはオネが着ている上着が竜のものではないかということに気がつく。

 あかりの言葉にオネも自分が竜の上着を着ていることを思い出し、上着を脱いで竜へと返した。

 オネから上着を受け取った竜は、そのままとくになにかを気にすることもなく上着を着るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第561話




そろそろ海から帰りたいところなんだけどなぁ

とりあえずUAが14400を超えていたのでアンケートを置いておきます。

早くオネを書き上げないといけないのに・・・・・・





 

 

 

 

 紲星家の別荘のリビング。

 朝になって目を覚ましてきたゆかりたちはパジャマから普段着へと着替えてリビングに集まってきていた。

 

 先に起きて海を見ていた竜とオネはもちろんのこと、竜とオネのことを探していたあかりとイアはすでにリビングにおり、席に座りながら談笑をしてゆかりたちのことを待っていた。

 

 

「お、おはよう」

「おはようございます。起きるのが早いんですね」

 

 

 ゆかりたちがリビングに来たことに気がついた竜は手を上げてゆかりたちに声をかける。

 竜に声をかけられたゆかりたちは竜たちがすでにリビングにいたことに気がつき、少しだけ驚いた表情になりながら席に着いた。

 

 

「ちょっと早く目が覚めてな。ところでイタコ先生はどうしたんだ?」

「あー、えっと、イタコ先生は・・・・・・」

「あはは・・・・・・。えっと、イタコ姉さまは、そうですね・・・・・・」

「昨日、お酒が美味しかったから飲み過ぎて二日酔いになっているのです」

「さっき部屋を見たらゾンビみたいになってたなー」

 

 

 起きてきたメンバーの中にイタコ先生の姿だけがないことに気がついた竜はイタコ先生はどうしたのかと尋ねる。

 

 竜の言葉にゆかりは困った表情になりながらずん子を見た。

 ゆかりの視線を追って同様に竜もずん子を見る。

 竜とゆかりの視線を受け、ずん子は困ったように笑いながら言いづらそうに言葉を濁した。

 

 そんな言葉を濁しているずん子のことなど気にした様子もなくきりたんはイタコ先生がここにいない理由を言ってしまう。

 

 イタコ先生がまだ起きてきていない理由。

 それは(ひとえ)に昨日飲み過ぎて二日酔いになってしまっていたからだった。

 

 

「ちょ、きりたん・・・・・・」

「いいんですよ、どうせバレることなんですし。それにどう言いつくろったとしても事実なんですから」

「たしかにあの様子だと今日一日はあんな感じだろうしな」

 

 

 ずん子はあっさりとイタコ先生のことをバラしてしまったきりたんのことを咎めようとするが、それに対してきりたんはとくに気にした様子もなく答える。

 どうやらそれほどまでにイタコ先生の二日酔いは酷いのか、きりたんたちと一緒にイタコ先生のことを見たらしいウナもきりたんの言葉を肯定するようにうなずいていた。

 

 きりたんの言葉とずん子とウナの様子からその言葉が本当で、イタコ先生は部屋で二日酔いに苦しんでいるのだろうと竜たちは理解する。

 

 

「ええっと、でしたら二日酔いの薬でも用意しますか?」

「シジミだかアサリだかのお味噌汁も効果があるとか聞いたことがありますね」

「まぁ、一番ええのは二日酔いになるまで飲まないことなんやけどね」

「他にはどんなものが効果あったかなぁ」

 

 

 イタコ先生が二日酔いで苦しんでいると知った竜たちは二日酔いを直すためになにをしたらいいのかを調べて言っていく。

 そんな竜たちの言葉にずん子は恥ずかしそうに顔を赤く染めながらお礼の言葉を言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第562話



文才が欲しい・・・・・・

なんというか最近は書きたい内容を上手く書けていない・・・・・・








 

 

 

 

 朝ごはんも食べ終わり、竜たちはそれぞれ自分たちの荷物をまとめるために自分たちが眠った部屋へと戻っていた。

 昨日着た水着や服などはすでに洗濯機で洗ってあり、乾燥機によって綺麗に乾いているためにそのまま自分たちのバッグにしまうだけで荷物をまとめるのはほとんど終わる状態だった。

 

 

「屋台の船は驚いたけどめっちゃ楽しかったなぁ」

「そうだな。たしかついなが取ってきた魚は全部食べたんだっけか」

 

 

 着ていた服や水着などがとりあえずは入ればいいという考えで適当に詰め込んでいたために竜は荷物をまとめるのをかなり早く終わらせる。

 ちなみについなはもともと洗うような服がないということや、水着も霊力を用いて変えていたものだったためにまとめるような荷物もなく、のんびりと竜が荷物をまとめている近くについなは立って楽しかったことなどを話していた。

 

 

「これでオッケーかな。そういえばイタコ先生は大丈夫なのかね?」

「どうなんやろうね?さすがに二日酔いで苦しんどる姿は見られとうないやろうし」

 

 

 荷物をまとめ終えた竜は他に忘れ物がないかを確認して一息つく。

 

 忘れ物がないかの確認も終わり、竜が気にするのは朝にきりたんが言っていたイタコ先生のこと。

 イタコ先生は朝ごはんにも顔を出しておらず、まだ一度もその姿を見ていない。

 とはいっても二日酔いで苦しんでいる女性のもとに行っても良いものかという思いも竜の中にはある。

 

 そのため、本当に大丈夫なのかが心配だったのだ。

 

 そして、竜はまとめ終えた自分の荷物を持って部屋から出る。

 

 

「えっと、この別荘の玄関のところに集合だったか」

 

 

 部屋から出た竜は自身の荷物を持ちながら玄関へと向かって行く。

 別荘の玄関にはまだ誰も来ておらず、竜が一番最初なことを示していた。

 

 

「あとはとくにはないよな。っと、マキか」

「あはは、やっぱり男の子だから早いね」

 

 

 竜がのんびりと玄関でついなと話していると、荷物を持ったマキが現れた。

 マキは竜とついながすでに玄関にいることを確認すし、笑みを浮かべながら

 

 

「そういえばマキはイタコ先生を見たか?」

「ううん。二日酔いって話だからそこまで気にしてなくて見てないかな」

 

 

 イタコ先生の様子が少しだけ気になっていた竜はマキにイタコ先生を見たかどうかを確認する。

 

 竜の言葉にマキは少しだけ前のことを思い出して、自分がここに来るまでの道中ではイタコ先生のことを見ていなかったことを思い返しながら答えた。

 

 

「まぁ、なんにしても今日でこの別荘とはお別れだし、忘れ物とかがないかをきちんと確認しないとな」

 

 

 そう言って竜とついな、マキは玄関で話しながら他の面々を待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第563話




書くのが遅いし内容も上手く書けない・・・・・・

これは辞め時かなぁ・・・・・・







 

 

 

 

 竜たちが玄関でしばらく待っていると、自分たちの荷物を持った茜たちが玄関に現れた。

 

 

「忘れ物はないし、これで大丈夫やね」

「そうだね。部屋の中も全部確認したから大丈夫だと思うよ」

「忘れ物があったらあかりさんに連絡しないとですね」

 

 

 忘れ物がないかの確認をしながら茜たちは竜たちの近くへと移動する。

 茜は葵に忘れ物がないかの確認をする。

 茜の言葉に葵はうなずき、確認した限りでは忘れ物などはなかったと答えた。

 

 

「ほら。タコ姉さま、しっかりしてください」

「ほら、がんばれー?」

「ちゅわぁ・・・・・・。頭がガンガンしますわぁ・・・・・・」

「飲み過ぎるからこうなるんですよ?」

 

 

 次に玄関に現れたのは東北3姉妹とウナ。

 イタコ先生の手を引きながらきりたんとウナは言う。

 イタコ先生からすれば楽しく美味しいお酒を飲むことができて幸せな状態からの二日酔いでかなりダウン気味なので、もう少しだけゆっくりとしていきたいところなのだが、さすがにいつ治るか分からない二日酔いのために別荘に居続けるわけにはいかないのだ。

 

 イタコ先生の言葉にずん子はイタコ先生の分の荷物を持ちながらチクリとくぎを刺した。

 

 

「イタコ先生は本当に二日酔いがひどそうだね?」

「きりたんが言っていたから知ってはいたけどここまでっていうのは驚きね」

 

 

 辛そうにしているイタコ先生の姿を見たイアとオネはきりたんの言っていた通りだったとうなずいて納得する。

 

 そして、竜たちが玄関に集まって話をしていると紲星家の使用人が運転する車がやって来た。

 車の中にはすでにあかりが乗っており、竜たちに向かって手を振っている。

 

 

「お待たせしました。それでは行きましょうか」

 

 

 竜たちの荷物を使用人に渡し、竜たちは車に乗っていく。

 竜たち全員が車に乗り終えると、そのまま車は走り出していった。

 

 

「一泊二日で海に来れることがあるとは思ってもいなかったから。本当に楽しかったなぁ」

「せやな。しかも紲星家のプライベートビーチやから変なやつとかもおらんかったし」

「あかりちゃんに感謝だね」

 

 

 車の中で竜たちは離れていく別荘を見ながら満足そうに言う。

 あかりが海に行きたいと言ったことから始まった今回の一泊二日の海だったが、竜たちはとても満足していた。

 しいて言うならいま現在1人だけ苦しんではいるのだが、そこまで気にしなくても良いだろう。

 

 

「先輩たち、今回は私が海に行きたいっていきなり言ったにも関わらずありがとうございます」

「俺たちも楽しめたから良いんだよ」

「はい、私たちも楽しめましたから」

「うんうん。むしろ感謝しかないよ」

 

 

 自分がいきなり海に行きたいと言ったことが迷惑だったのではないかと内心で考えていたあかりは、竜たちの言葉に頭を下げる。

 そんなあかりの言葉に竜たちは笑みを浮かべながら答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第564話





昨日よりは早く書けたかな。

ネタ集めをしておかないと続きを書くことができなくなってしまうから頑張らないとなぁ。





 

 

 

 

 紲星家の使用人が運転する車に乗って竜たちは紲星家の別荘から帰る。

 別荘に行く時と同じ道を通ってはいるのだが、走る向きが違うということで少しだけ違う雰囲気を感じられることができた。

 

 

「ほー、こっちの方はこんな建物があったのか」

「行きのときは反対側の道だったから同じ道でもなんだか新鮮ですね」

 

 

 流れていく街並みなどを見ながら行きとは違う景色に竜は呟く。

 同じ道を通っているのだから見える景色などに変わりなどないだろうと思うかもしれないが、道路の右と左で立っている建物が違うし反対車線の方の景色などあまり見るようなものでもない。

 

 竜の呟きにゆかりがうなずいて肯定する。

 

 

「うちのターン、ドロー!ターンエンドや!」

「私のターンですね。・・・・・・私もターンエンドです」

「いや、引くって意味では間違っていないんだけどゲームが違うよね?」

 

 

 窓の外を見ていた竜とゆかりをよそに茜やきりたんがカードを引いてターンエンド宣言をする。

 茜やきりたんの言葉に同じようにカードを持っているマキが呆れたようにツッコミを入れた。

 

 

「なにを言うとるんや。カードゲームなんてどれも闇のゲームが始まるもんなんやで!」

「まぁ、それが礼儀みたいなところもありますからね」

「そんな礼儀は捨ててしまっていいと思うのだけれど」

「でも普通にカードを引くよりも楽しいと思うけどなぁ」

 

 

 マキのツッコミに茜ときりたんは力強く答える。

 デュエリストにとってそれらの言葉を閊えるタイミングがあれば使ってしまうのはもはや体に染みついた条件反射のようなもの。

 逆に使うなという方が無理というものなのだ。

 

 茜ときりたんの言葉にオネは呆れながら言う。

 その隣でイアは楽しそうに笑みを浮かべるのだった。

 

 

「あうぅう・・・・・・。頭が・・・・・・。もう少し声を小さくしてもらえると助かりますわ・・・・・・」

「イタコ姉さまはまだ辛いみたいですね」

 

 

 茜たちの声がやや大きかったために頭に響いたのか、イタコ先生はうめくように懇願する。

 辛そうにしているイタコ先生の頭を優しく撫でながらずん子は困り顔を浮かべる。

 

 さすがに二日酔いをどうにかできるようなものはないために二日酔いに苦しむイタコ先生を見守ることくらいしかできなかった。

 

 

「っとボクの番だね。ええっと・・・・・・これ!やった、これでボクもあがり!」

「ぐぬぬぬ、3位が葵に取られてしもた。こっからはうちも本気でいくで!」

「私こそ負けませんからね!」

 

 

 茜たちの言葉に苦笑を浮かべていた葵だったが、カードを1枚引いたことによって上がることができる。

 葵の勝利宣言に茜ときりたんは一層のことやる気をみなぎらせてババ抜きを進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第565話




今日はなんとか1時に投稿できたー

どうにかこのペースで書いていきたいなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 とくになにごともなく紲星家の使用人が運転する車は東北家の前に到着した。

 東北家の前に到着したということでイタコ先生、ずん子、きりたん、ウナの4人は車から降りる。

 

 

「いつつつ・・・・・・。えっと、ありがとうございましたわ」

「いきなりで驚きましたが、とても楽しかったです」

「ありがとうございました。次はできればもう少し長い日数で遊んでみたいですね」

「とっても楽しかったぞ。ありがとうな!」

 

 

 車から降りたイタコ先生はいまだに二日酔いで痛む頭に手を当てながらお礼を言う。

 それに続くように車から降りたずん子、きりたん、ウナもお礼を言う。

 そして、イタコ先生たちは紲星家の使用人から自分たちの荷物を受け取った。

 

 

「ええと、その子はイタコ先生たちの方で送っていくんでしたよね?」

「ええ、そうですね。ですので心配しないでください」

 

 

 東北家の前に降りたウナのことを見ながらあかりはイタコ先生たちに確認をする。

 あかりの言葉に二日酔いで答える気力があまり残っていないイタコ先生に代わってずん子が答える。

 

 ウナ的にもなるべく自身の家を知られてしまうようなリスクはなかなか侵せないので、東北家から家まで送ってもらった方が安全なのだ。

 まぁ、そうなった原因はウナがあっさりと竜に自身の家を教えてしまったことを注意されたからなのだが。

 

 

「では、お願いします。それでは、さようならです!」

「お家につくまで気をつけてくださいね?また学校で、ですわ」

「ええ、また学校で会いましょう」

「あとでゲームしましょう!」

「またなー!」

 

 

 ずん子の言葉にあかりは納得し、車を発進させる。

 走り出す紲星家の車にイタコ先生たちは手を振って見送っていた。

 

 

「さて、次はイア先輩とオネ先輩ですね」

「うん。私たちの家はここからそこまで遠くないし、そうなるね」

「なんだったらここで降ろしてもらっても構わないけど」

「いや、さすがにここで降ろすのは危ないんじゃないか?」

「せやねぇ。2人ともキレイやしキチンと家まで送っておいた方がええと思うわ」

 

 

 次に家まで送っていくのはイアとオネの2人。

 この2人の家が東北家から一番近かった。

 あかりの言葉にイアとオネは別にここで降ろしてもらっても構わないと言う。

 

 そう言って降りる準備を軽く始めていくイアとオネを竜と茜は止める。

 まだ日中で日も登っていて明るいとはいえなにが起こるかが分からないのが日常。

 そのため、なるべくそういった危険がないようにと竜たちはイアとオネを止めたのだ。

 

 竜と茜の言葉にイアとオネは不思議そうにコテンと首をかしげながら降りる準備をするのを止めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第566話



今日もなんとか1時!




 

 

 

 

 イアとオネの家の前に到着し、2人は車から降りる。

 車から降りた2人は紲星家の使用人から自分たちの荷物を受け取った。

 

 

「家まで送ってくれてありがとう。とても楽しかったよ」

「なかなか経験できるものではなかったからとても楽しかったわ。竜くんたちもまた学校で」

 

 

 荷物を受け取った2人は改めて竜たちが乗っている車へと体を向け、お礼の言葉を言う。

 

 別荘のあるプライベートビーチで友人たちと遊ぶ。

 

 そのような経験は普通に生きている過程ではまず経験することはないだろう。

 そんな貴重な経験をさせてもらえたことに2人は感謝の念を抱いていた。

 

 

「いえいえ。私もイア先輩、オネ先輩の2人と遊べて楽しかったですから!」

「ああ。また学校でな」

 

 

 イアとオネの言葉にあかりは笑みを浮かべながら答える。

 そして、あかりは車を発進させた。

 

 

「次はマキ先輩ですね」

「そうだね。どうする?うちでなにか食べてく?」

「時間的にはそれもありだろうけど。それならイタコ先生とかも誘っておけばよかったか?」

「たしかにイタコ先生たちはこれから自分たちでごはんの用意やもんな」

「うん。もう少し早く気づけばよかったね」

 

 

 次に車が向かうのはマキの家である“cafe Maki”

 自分の家に向かうということで、マキはカフェの方でなにかを食べていくか竜たちに確認する。

 

 マキの言葉に竜たちはイタコ先生やオネたちも誘えばよかったかもしれないと話し始める。

 時間的にも食事をするにはちょうどいい時間で、これならばイタコ先生たちの家に回る前に“cafe Maki”でごはんを先に食べるという選択肢があったかもしれなかった。

 

 竜たちがそんな話をしているうちに、車は“cafe Maki”へと到着する。

 

 

「マキぃいいいいいいいい!!!!」

「うわ、うるさっ」

「────へぶぅあっ?!?!」

 

 

 “cafe Maki”に着いてマキが扉を開けると、マキの姿を確認したマキのお父さんがすごい勢いで駆け寄ってきた。

 そのことに驚いたマキは思わず扉を閉めてしまい、マキのお父さんは閉められた扉に思い切りぶつかることとなってしまった。

 

 

「ま・・・・・・、マキ・・・・・・」

「うわぁ、けっこうな勢いでぶつからなかったか?」

「あれはなかなか痛いんと違うか?」

 

 

 扉にぶつかってしまったマキのお父さんは、そのままうめくような声でマキの名前を呼ぶ。

 明らかに勢いが乗っていることが分かるような音を立てて扉にぶつかったマキのお父さんの様子に、竜たちは困惑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第567話



文字数がちょっと短いなぁ

もう少し文字数を増やせるようになりたい・・・・・・






 

 

 

 

 扉にぶつかってダウンしてしまったマキの父親もなんとか復帰し、竜たちは小休憩ということで“cafe Maki”の店内に入る。

 竜たちを席に案内したマキは自分の荷物を先に家へと運ぶために店の奥へと消えていった。

 

 

「驚かせてごめんなさいね?マキちゃんが帰ってきたのが嬉しくて暴走しちゃったのよ。あまり気にしないでね」

「帰ってきたのが嬉しいって・・・・・・。泊っていたのは1日だけですけど・・・・・・」

「あのテンションは1日帰ってこなかった娘を見るテンションではなかったと思うんやけど・・・・・・?」

 

 

 竜たちのもとへ水を運んできたマキの母親は申し訳なさそうにマキの父親が暴走してしまったことを謝る。

 マキの母親はなんて事のないことのように言っているが先ほどのマキの父親のテンションは明らかに1日だけ外泊した娘に出会うときのテンションではなく。

 どちらかと言えば何日も家出した愛娘に出会った父親のテンションに近いように感じられる。

 

 マキの母親の言葉に竜は困惑しながらマキの父親がいるキッチンの方を見た。

 

 

「ええと、それじゃあ注文が決まったころにくるわね?」

「あ、はい」

「それじゃあ何を頼むか決めましょうか」

「うちはなににしようかなぁ」

「悩むよねぇ」

 

 

 竜たち以外にもお客さんは店内にいるため、マキの母親はそう言って他の仕事へと戻っていく。

 仕事に戻ったマキの母親を見送った竜たちはテーブルに置いてあるメニュー表を開いてなにを注文しようか考え始めた。

 

 

「いやぁ、1日帰らなかっただけであのテンションになるっていうのは驚きだったな」

「しかも思いっきり扉にぶつかってましたよね?」

「でもマキマキは普通にしとったしいつものことなんやろうなぁ」

「うんうん。うるさいって言って普通に扉を閉めてたよね」

 

 

 注文する料理も決まってマキの母親に注文を終えた竜たちが話すのは先ほどのマキの父親について。

 マキの母親には気にしないでと言われているのだが、すごい勢いで走ってきて扉にぶつかったあの姿を気にしないでいることができる人間はそうそういないだろう。

 

 

「さっきはうちのお父さんが驚かせてごめんね?後でちゃんと叱っておくからさ」

「いや、そこまで気にしなくてもいいよ。それにさっきお母さんにも謝ってもらったし」

 

 

 荷物を家において戻ってきたマキは竜たちがいるテーブルに近づくなり頭を下げる。

 マキの言葉に竜たちは首を横に振りつつ応えた。

 

 

「それじゃあ、私は注文した料理を運んできちゃうね」

「お願いしますね!」

 

 

 そして、マキは竜たちが注文した料理をテーブルに運んでくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第568話




ぐぬぬぬ・・・・・・

書くのが遅いし、上手く書けない・・・・・・







 

 

 

 

 注文した料理もすべて並び、竜たちは食事を始めていく。

 同じようにマキも食事をするために席に座っているのだが、なぜかマキの料理だけ選んだものよりもはるかに豪華な仕様となっていた。

 

 

「・・・・・・マキマキのごはんが豪華なんはマキマキのおとんが張り切ったからなんかな?」

「うん・・・・・・。たぶんそうだと思う・・・・・・」

 

 

 マキの料理だけ豪華なことに困惑しながら茜が尋ねる。

 茜の言葉にマキは頭を抱えながら答えた。

 

 まぁ、マキからしてみれば普通のやつが来ると思っていたところにまさかの豪華仕様の料理が来たのだから頭を抱えたくなるのも仕方がないことなのだろう。

 

 

「マキが帰ってきて嬉しかったんだろうなぁ」

「いや、まぁ、だとしてもここまで豪華にする意味は分からないけどね?」

 

 

 竜たちはマキのことを溺愛しているマキの父親の姿を見ているだけに竜の言葉に疑問を持つ人間はいなかった。

 

 とはいえ、さすがにたったの1日帰ってこなかっただけでこうなってしまうというのはなかなかないことだろう。

 竜の言葉にマキはため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 “cafe Maki”での食事も終わり、竜たちは紲星家の使用人が運転する車に乗り込んでいく。

 次に向かうのは茜たちの住んでいる“清花(せいか)荘”だ。

 

 

「なんですかねぇ。“清花荘”が近づいてくると本当に帰るんだなぁって感じて少しだけ寂しくなりますね」

「あー、なんや。分かるなぁ」

「うんうん。帰れて嬉しいんだけど、それと同じくらいに帰って終わりだっていう事実が寂しいんだよね」

 

 

 車に乗っているゆかりはしみじみと呟く。

 どこかに遊びに行ったりしたときの帰り道というのは寂しいもの。

 ゆかりの言葉に茜と葵はうんうんとしきりにうなずいた。

 

 

「っと、着いたみたいやね。ありがとなぁ」

「ここまで送ってくれてありがと。とっても楽しかったよ」

 

 

 話しているといつの間にか“清花荘”に到着しており、そのことに気がついた茜と葵は立ち上がって車から降りた。

 車から降りた茜と葵に少し遅れて、ゆかりも車から降りる。

 

 

「いやぁ、ほんまに今回はありがとうなぁ。いろいろと楽しかったし助かったわぁ」

「花火もやれたしとても楽しかったよ。本当にありがとうね」

「そうですね。とても楽しい思い出ができました。ありがとうございます。」

 

 

 車から降りた茜たちは紲星家の使用人から自分たちの荷物を受け取っていく。

 自分たちの荷物を受け取った茜たちは口々にお礼を言った。

 

 

「いえいえ、皆さんに言っていますけど私の方こそありがとうございます」

 

 

 茜たちの言葉にあかりは笑みを浮かべながら答える。

 そして、竜たちが乗っている車は竜とあかりの家へと向かって走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第569話




難産・・・・・・

しかも内容が薄い・・・・・・






 

 

 

 

 車が竜とあかりの家の前に停まり、竜とあかりが車から降りる。

 車から降りた竜は紲星家の使用人から自身の荷物を受け取ってあかりへと体を向けた。

 

 

「昨日から本当にありがとうな。とても楽しかったよ」

「私の方こそとても楽しかったです」

 

 

 あかりの方を向いた竜はイタコ先生やマキたちのようにお礼の言葉を言う。

 竜の言葉にあかりはうなずいて答えた。

 

 

「さて、と。とりあえずは持っていった荷物を整理しないとだな」

「私もそれはやらないとですね。それじゃあ、また今度」

 

 

 軽く伸びをした竜は自身の荷物を元の場所にしまわなければと呟く。

 同じように竜の言葉にあかりもうなずいた。

 そして、竜はあかりに向けて軽く手を振ってから家の中へと入るのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 少しだけ時間の経過した家の中。

 自身の荷物の中から衣類などをしまい終えた竜はリビングで椅子に座ってのんびりとしていた。

 台所にはついながおり、もう少しすれば温かいお茶を淹れて持ってきてくれるだろう。

 

 竜が椅子に座ってのんびりとしていると、不意に竜のケータイが着信音を鳴らした。

 

 

「んー?えっと・・・・・・、父さんから?」

 

 

 鳴っているケータイを手に取り、竜は誰から電話がかかってきたのかを確認する。

 ケータイの画面に表示された名前は竜の父親のものだった。

 不思議に思いながら竜はケータイの着信に出た。

 

 

「もしもし、どうしたんだ?」

「ああ、竜かい?実は家のある地方になにか用がある子がいるらしくてな。少しの間だけうちに泊まらせてほしいって連絡が実家の方から来たんだ」

 

 

 電話に出た竜は不思議そうに首をかしげながら父親にどういった理由で電話をかけてきたのかを尋ねる。

 竜の言葉に父親は家に泊めてほしいと言われたことを竜に伝えた。

 

 

「うちに泊まる?どのくらいの期間とかは聞いてるの?」

「いや、その辺りはいつになるかは不明らしい。ただ、その期間の間だけ泊まる場所が欲しいってことらしいぞ」

 

 

 どういった理由からうちに泊まりたいと言ってきたのかが不明だったが、一先ずはなにかしらの理由があるのだろうと竜は納得することにする。

 次に竜が気になるのはいつまで家に泊まることになるのかということ。

 この辺りの情報もきちんと確認しておかなければ大変なことになってしまうかもしれない。

 

 竜がどのくらいの期間で家に泊まることになるのかを尋ねると、父親は期間は不明だと答える。

 期間が不明となってしまうとご飯の食費などもどれくらい消費するのかが不明となってしまう。

 

 父親の言葉に竜はどうしたものかと天井を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第570話




今日はなんとか1時に!

でも番外話がかけていないー・・・・・・





 

 

 

 

 父親の言う泊めてほしい子がいるという言葉に竜はどうしたものかと考える。

 実家から連絡が来たと言っているが、この実家は母親の実家である“貴身純家”ではなく父親の方の実家だろう。

 

 

「うちに泊めてもらいたい子がいるってことだけど、それってもう決まったことで良いの?」

「まぁ、うちの家が一番用を済ませるのに都合がいいらしいからな。来週から家にくるらしいから頼んだぞ」

 

 

 竜はしばらく泊めてほしいという子についてもう決まったことなのかを父親に確認する。

 竜の言葉に父親は来週からその子が来るということを答えた。

 どうやら父親の言い方からしてその子が泊まりに来るのは確定のようだ。

 

 

「転勤でこっちにいないからって適当な・・・・・・」

「はっはっは、それに母さんから聞いたぞ?いまは女の子と一緒に暮らしてるんだろ?なら1人増えても問題ないだろ」

 

 

 あまりにも勝手な父親の言葉に竜は恨みがまし気に言った。

 恨みがまし気な竜の言葉を父親は軽く笑い飛ばし、母親である咲良からいま竜がついな一緒に暮らしているという情報を得ていることを言う。

 

 と、ここで竜は父親が1人増えても問題ないと言っていたことに気がつく。

 

 

「・・・・・・ん?1人増えてもってどういう意味なんだ?もしかして泊まりに来るのって女の子なんじゃ────」

「じゃ。そういうことであとは任せたぞ!」

「────あ、ちょ!」

 

 

 父親の言い方からもしかして泊まりに来るのは女の子なのではないかと考えて尋ねる。

 そんな竜の言葉を遮って父親は電話を切ってしまう。

 いきなり切れてしまった電話に竜は驚き、暗くなってしまったケータイの画面を見る。

 しかし通話はすでに完全に切れてしまっているため、いくらケータイの画面を見ていても意味はないのだった。

 

 

「ご主人、なんか電話で話しとったみたいやけどどうしたんや?」

「ああ・・・・・・。なんか来週からこの家に泊まる子が来るらしい」

 

 

 竜が困ったような表情でいることに気がついたついなは竜になにがあったのかを尋ねる。

 ついなの言葉に竜は困った表情を浮かべながら疲れた声音でその理由を答えた。

 

 

「来週から?なんやよう分からんけど誰かがこの家に来るんやね?」

「そういうことらしい。俺もいきなり電話で聞いたからいまいち理解できていないけどな・・・・・・」

 

 

 来週からこの家に泊まる子が来るという竜の言葉についなは不思議そうに首をかしげる。

 まぁ、いきなりそんなことを言われてしまえばそんな反応をしてしまうのも無理はないだろう。

 

 

「来週からこの家にもう1人住むんかぁ。ええ子が来てくれると嬉しいなぁ」

「どんな子が来るとかはいまいち分かってないからなぁ」

 

 

 泊まりに来るという子のことを考えながらついなは温かいお茶を口に運ぶ。

 いまここで慌てたとしてもなにかができるわけでもない。

 そう考えた竜は小さくため息を吐いたのちについなが淹れてくれたお茶を口に運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第571話






やっぱり書く速度がネックかなぁ

叶うのであれば早く書けて面白いことを書けるようになりたいところ・・・・・・






 

 

 

 

 竜が父親から電話で驚きの情報を得た翌日。

 いくら驚いていようが学校に行かなくてはいけないことに変わりはなく、竜はどうしたものかと頭を悩ませながら家を出た。

 

 

「おはようございます!・・・・・・あれ?どうかしたんですか?」

「ああ、おはよう・・・・・・。いや、昨日ちょっと親から電話があってな」

 

 

 家を出てきた竜の様子がいつもと違うことに気がついたのか、あかりは竜に挨拶をしてからなにがあったのかを尋ねる。

 あかりの挨拶に答えた竜はざっくりとなにがあったのかをあかりに答えた。

 

 

「ええと、つまり親戚の子がしばらくの間泊まりにくるということですか?」

「まぁ、分かりやすく言うとそうなるな・・・・・・」

 

 

 竜の説明を聞いたあかりは分かりやすくシンプルに竜の悩んでいる内容をまとめる。

 

 親戚の子が泊まりに来るだけなのであればそこまで悩むことではないのではないかとあかりは不思議そうに竜を見る。

 

 

「親戚の子が来るだけでしたらそこまで気にするようなこともないんじゃないですか?」

「いや、子供1人を預かるっていうのはかなり大変なことだろ?それに“子”って言っていたからおそらくは年下の子で間違いないだろうし」

 

 

 竜の言葉にあかりはなるほどと納得する。

 たしかに高校生しかいない家にそれよりも年齢が下の子どもを送るというのはなかなかにリスクのあることだろう。

 竜が悩んでいたことは“あまり知らない親戚の子が来ること”ではなく“親戚の子を預かるということ”に対して。

 父親がどういう考えで預かることを受け入れたのかは不明だが、こちらの家に泊まりに来るということはおそらくは年上であろう自分が面倒を見なければいけないということ。

 

 それが竜の悩んでいた内容だった。

 

 

「おはようさんやでー」

「おはようございます」

「おはようございます。なにを話していたんですか?

 

 

 竜とあかりがそんなことを話していると、不意に茜の元気な声と葵、ゆかりの声が聞こえてきた。

 

 

「ああ、もう少ししたらうちに泊まりにくる子が来るって話をな」

「泊まりにですか?いったいどんな理由があって泊まるんでしょうか?」

 

 

 竜の言葉に茜たちはそろって首をかしげる。

 まぁ、親戚の家に少しの期間の間泊まりに来るというのはあまりないことだろうし、茜たちもそんなことをやった覚えはない。

 

 そのため、茜たちは止まりに来るという子どもに対して首をかしげていたのだ。

 

 そして、全員が集まったということで竜たちは学校に向かって歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第572話




どうにか番外話を書いていかないとなぁ・・・・・・

でも上手く内容がまとめられないぃ・・・・・・






 

 

 

 

 とくになにか起こることもなく竜たちは学校に到着する。

 道中で話していた会話の内容はあかりの家の使用人が運転する車に乗って海に行った話が中心となっており、基本的には思い出話となっていた。

 

 

「っと、それではまたお昼休みに!」

「ああ、またな」

「お昼休みに保健室でな―」

 

 

 下駄箱に到着し、1人だけ学年が違うあかりは手を振って自分の学年の下駄箱へと向かう。

 一年生の下駄箱へと向かうあかりに手を振り、竜たちも自分たちの学年の下駄箱へと向かって行った。

 

 

「そういえば写真をあまり撮れていませんでしたね」

「そうなん?ならうちの撮ったやつを後でケータイに送っとくわ」

「あ、それじゃあ私ももらいたいな。代わりに私が撮ったやつを送っとくね」

「それならみんなでラインのところに写真を貼っておけばいいんじゃないかな?」

 

 

 靴から上履きへと履き替えた竜たちは教室へと向かいながら話をする。

 写真というのは同じ光景を撮っていても撮る人によってその姿を変えていくもの。

 そのために茜たちは写真交換を行うためにラインに自分たちが撮った写真を貼りつけていった。

 

 なお、うっかりなのかわざとなのかは不明だが、茜たちが写真を貼りつけていっているところは竜も見ることができる場所なため、茜たちが貼った写真は竜も見ることができるようになってしまっていた。

 

 

「えー?琴葉さんたち海に行ったの?」

「最近暑いもんねー。羨ましいなぁ」

「いやぁ、後輩のあかりが海に行きたい言うてうちらも一緒に行くことになったんよ」

「いきなりのことで驚きましたがありがたかったですよね」

 

 

 茜たちの会話が聞こえたのか、教室に入ると近くにいた女子生徒が話しかけてきた。

 クラスメイトに話しかけられ、茜たちは海に行った話をクラスメイトたちに話し始める。

 その間に竜は自分の席へと移動して授業の準備を進めていった。

 

 

「へー、琴葉さんたちだけじゃなくてイア先輩と隣のクラスのオネさんも一緒だったんだ?」

「せやでしかもそれだけやないんや。なんと!イタコ先生たちも一緒だったんや!」

「えー?!イタコ先生たちってことは生徒会長もってこと?!」

「イタコ先生たちの水着姿とか凄そうじゃない?」

 

 

 ビシリ、と教室の空気が変化したことに竜は気づく。

 自慢げに話している茜は気づいていないようだが、教室にいる男子生徒の視線が自身に集中していることに竜は気づいた。

 

 引き金となったのは茜が言った「イタコ先生も一緒に海に行った」ということ。

 なるべく自然に、しかしゆっくりにはならないように竜は自身の荷物を机にまとめていく。

 

 そして、最後の教科書を机に入れた瞬間。

 

 

「うちらとイタコ先生たちとオネたち、それに竜も一緒に行ったからめっちゃ楽しかったでー」

 

 

 茜のその言葉と同時に襲い掛かろうとしてくるクラスメイトたちから逃げるために竜は教室から全力で飛び出していく。

 教室から飛び出した竜のあとを追うようにクラスメイトの男子生徒たちは手に物差しやボールペン、丸めた教科書などを持ちながら教室を飛び出していった。

 

 いきなり教室を飛び出していった竜たちの姿に茜たちは目を白黒とさせ、どうして教室を飛び出していったのかを理解した教室に残っている女子生徒たちは呆れたように冷めた視線を走っていく男子生徒たちに向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第573話




書かないといけないのに番外話を書き進められないのがなぁ・・・・・・


どうにか2時までに投稿できたけども・・・・・・





 

 

 

 

 男子生徒たちに追われて教室から逃げ出していた竜だったが、なんとか朝会の前に教室に戻ることができた。

 そして、竜を追うことによって朝会に遅れてしまった男子生徒たちは担任であるアイ先生に叱られることとなってしまっていた。

 

 

「あー・・・・・・、疲れた・・・・・・」

「あはは、お疲れさんや」

「というか竜くんが追われたのって茜さんが一緒に海に行ったことを話したことが原因でしょう」

「うんうん。お姉ちゃんがボク達だけじゃなくて竜くんも一緒に海に行ったって言ったからだよね」

 

 

 ぐてっと机に倒れ込みながら竜は呟く。

 そんな竜の姿に茜は苦笑しながらねぎらいの言葉をかける。

 

 茜の言葉にゆかりがやや呆れたような口調でどうしてそうなったかの指摘をする。

 

 竜がクラスメイトの男子生徒に追われることになってしまった原因。

 それは、茜がクラスメイトの女子生徒たちに自慢げにそこそこ大きな声でイタコ先生たちと海に行ったことを言っていたこと。

 それによって唯一の男性参加者だった竜へと男子生徒たちのヘイトが一気に集まってしまったのだ。

 

 

「まぁ、イタコ先生のファンとかも多いし仕方がないんじゃないかなぁ?」

「イタコはけっこう人気っぽいからなぁ」

「つってもなぁ・・・・・・。正直なところたかだかファンを名乗っているだけの人間に勝手に恨まれても困るんだがなぁ・・・・・・」

 

 

 苦笑しながらマキは竜に仕方がないと声をかける。

 誰にも視認されない状態で校内を歩いたりすることがあるついなはマキの言葉に納得するようにうなずきながら呟いた。

 

 マキの言葉に竜は甚だ納得がいかないといった風に答える。

 

 竜からしてみればファンを名乗っているのであればそのまま見守るなり見て愛でるなりで終わらせておけばいいというのが本音なのだ。

 イタコ先生と恋人関係にあるわけでもないのだから自分が一緒に海に行ったとしても関係のないことだし、その辺はただのファンが干渉していい領分ではないだろう。

 むしろイタコ先生のファンを名乗るのであればそのままファンのままでいて、他の人間に迷惑をかけるような行為をせずにファンとして見ているだけで済ませているべきなのだ。

 それすらもできずに他の人間に迷惑をかけるようであればそれはファンではなくただの迷惑な集団である。

 

 とくにイタコ先生はそのファンたちの存在のことを容認しているわけでもないので、なおのことファンを名乗るのであれば大人しくしているべきなのだ。

 

 

「なんにしても勝手な逆恨みを向けられるのは困ったものだよなぁ」

「それはたしかにありますね」

 

 

 机にぐったりと倒れ込みながら竜は先ほど追われた愚痴を呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第574話




今日は遅くなってしまったなぁ・・・・・・


というか配信とかやっていると同じ時間に投稿するのが厳しくなってきたかも・・・・・・





 

 

 

 

 時間は進んでお昼休み。

 休み時間のたびにクラスメイトの男子生徒たちから襲撃を受けたりして竜は精神的にも肉体的にも疲労していた。

 

 

「ようやくお昼か・・・・・・」

「あはは・・・・・・、お疲れ様・・・・・・?」

 

 

 疲れた様子で保健室へと向かう竜の姿に葵は苦笑を浮かべ、原因となってしまった茜は申し訳なさそうな表情になる。

 まぁ、茜としてもまさかここまでの事態になるとは思ってもいなかったため、こればかりは仕方がないことだろう。

 

 

「まさか、こんなことになるとは思わんかったわ。ホントにすまんなぁ・・・・・・」

「いや、まぁ、ここまでのことになるとは俺も思わなかったし仕方ないだろ。ただ、今後は俺も一緒に行ったっていうのは他の人にはあまり聞こえないようにしてもらえると助かる」

「せやねぇ、ご主人が一緒に行ったって聞いてあんな風に暴走してくるんやし、その辺りは気いつけておかんと駄目そうやね?」

「茜さんもですけど私たちもうっかり言ってしまわないように気をつけておかないとですね」

「そうだねぇ。あとは、言うにしても周りに男子がいないときにする感じかな?」

 

 

 疲れた様子の竜に茜は申し訳なさそうに謝る。

 茜の言葉に竜はそこまで気にしなくても良いと答え、できれば今後は言葉に気をつけてほしいということを伝えた。

 今回のことでもそうだが、やはり美少女な茜たちと一緒に行動している唯一の男性ということでもともと竜へのヘイトはやや高く、そこにさらにイタコ先生たちやイアやオネといった存在まで加わったものだから男子生徒や男性教師なんかからの醜い嫉妬という名のヘイトが天元突破状態にまでなってしまっているのだ。

 

 竜の言葉に納得するように茜たちはうなずく。

 そんな話を竜たちがしているうちにいつの間にか保健室へと到着していた。

 

 

「ちゅわ?なんだか疲れているように見えますがどうかしましたか?」

「あー、まぁ、はい・・・・・・。ちょっといろいろとありまして」

 

 

 保健室の扉が開いて保健室へと入ってきた竜たちのことを見たイタコ先生は、ふと竜の様子がいつもと比べて少しだけ違っていることに気がついて不思議そうに首をかしげながら尋ねる。

 イタコ先生の言葉に竜は曖昧な表情になりながら答えた。

 

 イタコ先生ファンクラブの男子生徒に襲われたと言ってもイタコ先生自身は容認しているわけではないので無関係ではあるのだが、それでも気にしてしまって自分のせいなのではないかと考えてしまうのがイタコ先生だ。

 そのため、竜はなにがあったのかを詳しく教えるつもりはなかったのだ。

 

 竜の答えにイタコ先生は不思議そうに首をかしげながら竜たちの分のお茶を淹れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第575話





こんな時間に・・・・・・

もっと早く投稿したいけど眠さとかでなかなか書き進められないなぁ・・・・・・





 

 

 

 

 イアとオネの2人も保健室へと到着し、竜たちはお昼ご飯を食べ始める。

 ちなみに、ひめとみことの2人はすでに保健室におり、保健室のベッドの上でごろごろと転がっていた。

 

 

「おっ昼ごっはん~おっ昼ごっはん~」

「今日もまた美味しそうですね」

 

 

 いつものように茜からお弁当を受け取ったひめとみことは自分たち用にイタコ先生に用意してもらった机の上にお弁当を置き、嬉しそうに声をあげる。

 そして、お弁当の中身を確認した2人は一層のこと嬉しそうに目を輝かせてお弁当を食べ始めた。

 

 

「そういえば今日の休み時間は竜くんは大変そうだったわね」

「え、なにかあったの?」

 

 

 お昼ご飯を食べながら、ふとオネは休み時間になるたびに目に入った光景のことを思い出して言う。

 オネの言葉に3年生で1人だけ学年が違うためになにがあったのかを知らないイアは不思議そうに首をかしげながら尋ねる。

 

 

「えっと、休み時間になるたびに竜くんが走ってて。たぶんクラスメイトかしら?男子に追いかけまわされてたのよ」

「休み時間になるたびに?それはたしかに大変そうだね」

 

 

 イアの疑問にオネはなにがあったのかを簡単に説明する。

 オネの説明を聞いたイアはもしも自分が同じようになたら、を想像したのか少しだけ嫌そうな表情を浮かべた。

 

 

「あれって結局どういう理由で追いかけられていたの?」

「あー、えっと、そうだな・・・・・・」

「ええっと、あれはうちが原因なんよ」

 

 

 オネの問いに竜はどう答えたものかと曖昧に声を出す。

 ここで素直にどうして追いかけられてたのかを答えてしまえばイタコ先生が気にしてしまう。

 そのため、竜はオネの問いにハッキリと答えることができないでいた。

 

 竜がオネの言葉に答えずにいると、茜が自分が原因で竜が追いかけられることになってしまったのだと答えた。

 

 

「茜さんが?」

「そうなんよ。うちがみんなと一緒に海に行ったって言うたら竜が追いかけられてしもうてな」

「あー、まぁ、たしかにはたから公住くんが女性集団の中にいるようにしか見えないもんね」

 

 

 茜の言葉にイアは納得がいったのかうなずく。

 まぁ、いまの状況も保健室には男性が竜しかいないので他の男子生徒や男性教師なんかからの嫉妬の対象になってしまうのだろう。

 とはいっても竜としては普通に友人関係のつもりなので今後も付き合いを辞めるつもりはないのだが。

 

 

「正直なところ俺を追いかけてくるよりも自分の身の振り方とかを見直した方がよっぽど身になると思うんだがなぁ。嫉妬して努力するのは良いが攻撃に転じるような人間に未来はないってのに」

「ちゅわぁ。でもそれができるような人間はそこまで多くはありませんわ。たしかに嫉妬を原動力にして努力して成長できればなによりですが、自分が努力するよりも相手を貶める方がよっぽど簡単ですからね。むしろそういった楽にばかり流れてしまうのが人間というものですわ」

 

 

 悪霊や怨霊。

 他者への攻撃的な思考や恨み、妬みなんかによって生じる存在を知っているからこそイタコ先生はそういったモノへは淡白に言い切る。

 そういったモノに同情しても良いことなど1つもなく。

 むしろ自身に害しか起こらない。

 それが分かっているからこそイタコ先生はそういったモノを深く相手にしないようにしているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第576話



時間ギリギリだなぁ・・・・・・

なんとか投稿できたけど番外話がぁ・・・・・・







 

 

 

 

 お昼ご飯を食べ終わり、竜たちはイタコ先生が淹れてくれたお茶を飲んで一息を吐く。

 温かいお茶にはなぜかは分からないが心を落ち着かせてリラックスさせる効果があり、竜たちはそろってホッと息を吐いていた。

 

 

「あ、せや。竜ー、今日ゲーセンに行かへんー?」

「ん、良いけど。なにか新しいゲームでも入ってきたのか?」

 

 

 お茶を飲んで一息ついていた茜はふと思いついたように竜に言う。

 茜の言葉に竜はうなずき、ゲームセンターになにか新しいゲームでも入ってきたのかを尋ねる。

 

 竜の言葉に茜はちっちっちっと指を振る。

 

 

「いやいや、今回はリベンジや。ちょっと前に行ったときに格ゲーで竜に負けてもうたからな」

「いや、そうは言ってもその後の音ゲーでお前が勝ってるだろ」

「いちおう竜くんとお姉ちゃんで一勝一敗の状態だったよね」

 

 

 指を振った茜はゲームセンターに行く理由を答える。

 どうやら竜と格闘ゲームをやって負けたことに対するリベンジをおこないたいらしい。

 まぁ、その後にやった音楽ゲームでは茜は竜に勝っているらしいのだが、それでも納得はしていないようだ。

 

 

「ふむ。なら今回も俺が勝って敗北の記録を更新させてやろう」

「ふっふっふ、前までのうちと思っとったら痛い目に合うでー?」

「ボクはクレーンゲームでもやってようかな」

「・・・・・・やはりゲームセンターですか。いつ行く?私も同行しましょう」

紲星院(きずないん)

「いや、そのジョジョネタは無理やりすぎない?」

 

 

 リベンジをして勝利をするという意気込みの茜に竜は返り討ちにするという。

 実際のところ茜がどういったリベンジを考えたのかは不明だが、それでもなにかしら竜に勝利する手段を思いついたということなのだろう。

 

 そんなバチバチとした火花が見えるような竜と茜のやり取りを聞きながら葵はクレーンゲームをやろうと決める。

 竜たちの会話を聞いていたあかり、ゆかり、マキの3人もどうやらゲームセンターへ来るようで、ジョジョの奇妙な冒険のネタをおこなっていた。

 

 

「ゲームセンターならうちも行きたい!」

「ひめ、いきなり飛びつくのは危ないよ。えっと、ボクも気になります」

 

 

 竜たちがゲームセンターに行くという話をしていることからゲームセンターに興味が湧いたのかひめが竜に飛びつきながら言う。

 そんなひめのことを(いさ)めながらみことも竜に近づいていく。

 

 

「お、それなら2人も一緒に行くか」

「やったばーい!」

「楽しみです!」

 

 

 竜の言葉にひめとみことは嬉しそうに声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第577話




途中途中で寝落ちしかけた・・・・・・


いい加減に番外話を書き進められたらなぁ・・・・・・






 

 

 

 

 放課後。

 竜たちは自分たちの荷物をまとめて下駄箱に集合していた。

 

 

「さーて、それじゃあゲーセンに行くかー」

「れっつごー、やね」

「いっくばーい!」

「いきましょー!」

 

 

 竜の言葉に竜の頭の上に乗っかっているついな、ひめ、みことが手を上にあげながら答える。

 竜の頭の上に乗っているついなたちの姿は既にほかの人には見えなくなっており、竜の頭の上で可愛らしくぴょこぴょこと跳ねている姿は誰の目にも映っていなかった。

 

 

「ガンガン遊ぶでー?」

「ボクもなにか人形とか取れたらいいなー」

「そういえば竜くんはクレーンゲームの人形とかをけっこう取ってましたよね。取れそうかどうか聞いてみても良いのでは?」

「ゲームセンターってあまり行かないからどんなものがあるか気になるよねー」

「そうですね。私の場合はゲームセンターよりは食べ歩きとかの方が多いですし」

 

 

 上履きから靴へと履き替えた竜たちはゲームセンターでなにをしようか話しながら学校の校門をくぐる。

 それと同時に竜はひめとみことに霊力を流し、自分の身体を起点に動くことができるようにした。

 その際にひめとみことの口からわずかに艶っぽい声が漏れたりしていたのだが、そのことに竜が気付くことはなかった。

 

 

「ゲーセンはだいたいクレーンゲームをやりに行くくらいだからなぁ」

「ご主人が行くときはほとんどクレーンゲームのコーナーにしか行かへんもんな」

「うちらも一緒に行くときは対戦系のゲームをよくやっとるな」

 

 

 竜の部屋の一角に置かれたクレーンゲームの勝利品の数々。

 それらを思い返しながら竜はゲームセンターへと向かって足を進めていった。

 

 

「とーちゃーく。そんなら俺たちは最初に格ゲーか?」

「せやね!負けへんよ!

「ボクはクレーンゲームを見てくるねー」

「あ、でしたら私も見に行きたいです。どういったモノが置かれているのかが気になるので」

「では私は音ゲーに行きましょうかね」

「じゃあ私はゆかりんのプレイを見ていようかな?」

 

 

 ゲームセンターへと到着し、竜たちは思い思いの場所へと分かれていく。

 ちなみに、ひめはゲームセンターに到着した瞬間に目をキラキラとさせて走っていってしまい、みことはその後を追っていった。

 危ないように思えるかもしれないが2人の姿は一般人には見えていないので、ひめとみことが誰かにぶつかるようなことをしなければ特に危ないようなことはないだろう。

 

 そして、竜たちはそれぞれが遊ぶゲームが置いてある場所に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第578話





昨日よりはまだスムーズに書けたかな?

といってもエペをやっていたから1時には間に合わなかったんですが・・・・・・






 

 

 

 

 学校で言っていたように竜と茜は格闘ゲームの筐体の前にそれぞれ座る。

 竜と茜が座っている筐体は向かい合わせになるように置かれており、反対側にいる相手と対戦ができるようになっている。

 

 邪魔になりそうな荷物などをすぐに手が届く位置にまとめ、竜と茜は同時にお金を入れる。

 

 

「さぁ、狩らせてもらうで!そのキャラクターを!」

「ナンバーズハンターみたいなことを言うな」

 

 

 どこから取り出したのか青色の作り物を頭に付けながら茜は竜に言い放つ。

 茜のセリフがどこぞのナンバーズハンターのものであるということに気がついた竜はキャラクターを選択しながらツッコミを入れた。

 竜の言葉に茜は満足そうにうなずくと、頭に着けていた作り物を外して自身が操作するキャラクターを選択した。

 

 

『ROUND1・FIGHT!』

「どーりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃっっ!!!!」

 

 

 試合開始の音声と同時に茜はレバーとスイッチを激しく操作して果敢に攻撃を放っていく。

 その攻撃はすさまじいもので、竜が操作するキャラクターは攻撃をすることができずにガードしかすることができていなかった。

 

 

「どうや!攻撃する隙を与えないうちの連続攻撃は!」

「くっ、たしかにリベンジを掲げてくるだけのことはあるか!」

 

 

 ガードをすることしかできない竜のキャラクターを見て茜は自慢げに言う。

 しかしそれで油断することはなく、いまだに手は激しくレバーとスイッチを操作している。

 

 と、ここでコンボが途切れたのか一瞬だけ茜が操作するキャラクターの動きが止まる。

 その瞬間、竜の操作しているキャラクターが反撃とばかりに攻撃を仕掛けてきた。

 

 

「んなぁっ?!うちのコンボが途切れた一瞬に反撃?!しかも連続攻撃でガードもできひん?!」

 

 

 コンボが途切れた瞬間からのまさかの連続コンボに茜は驚きの声をあげる。

 しかも連続攻撃を受けてしまっているためにガードを挟むこともできず、茜の操作するキャラクターの体力はどんどんと削れていってしまっていた。

 

 

「しかもとどめに即死技?!人の心はないんか?!」

『KO!!』

 

 

 連続攻撃がヒットしたことによって怯み状態になっていた茜のキャラクターに向かって竜のキャラクターは当たれば即死となる必殺技を叩きこむ。

 あまりにもあんまりな一連の流れに茜は思わず台パンをしそうになるが、ゲームセンターの筐体ということでその衝動をなんとか抑え込んだ。

 

 

「連続攻撃をすれば反撃ができない?攻められ続けていてガードしかできない?じゃんじゃじゃぁーん、衝撃の真実ぅ!反撃をするスキを突くまで待ち構えていただけでしたぁー!」

「むがぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 

 悔しそうに頬を膨らませる茜に竜は煽るように真ゲス顔になりながら言う。

 どうにか台パンをせずに堪えていた茜は竜の言葉に悔しそうに咆哮を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第579話




小説を書くと配信ができず、配信をやると小説が遅くなる

両立はやはり難しいですねぇ・・・・・・






 

 

 

 

 竜の真ゲス顔による煽りのあとも竜と茜は何度か対戦をおこない。

 その結果として何度か茜が勝ちはしたものの最終的には竜が勝ち越すこととなった。

 

 なんどか勝つことはできたものの総合的な結果としてリベンジが達成できたとは言い難いものとなってしまったことに茜は悔しさを隠しきれていない表情で竜のことを見る。

 

 

「ぐぎぎぎぎぎ・・・・・・!!」

「くやしいでしょうねぇ?」

 

 

 茜が悔しそうにしていることが分かっていてなお竜は顔芸のように顔を変えながら茜のことを煽る。

 リベンジをできなかったことによる悔しさと竜の煽りにより、茜は竜の体をポカポカとやや強めに叩いていた。

 

 

「誰がどのゲームをやってるんだっけ?」

「んーっと、・・・・・・忘れてしもたわ」

「うちも覚えとらんなぁ・・・・・・」

 

 

 いまこの場にいるのは竜と茜、それと竜の頭の上に乗っているついなだけ。

 葵やゆかり、マキにあかりがどこにいるのかを竜たちは把握していなかった。

 ちなみにひめとみことの姿もないのだが、2人はどうやらゲームセンターの中を動き回っているようなのでそのうちで会うことができるだろう。

 それに出会えなかったとしても霊力をたどれば見つけることができるのでそこまで気にしなくても良いのだ。

 

 

「そうだなぁ。とりあえずはぶらぶらと回るか」

「せやね。適当に歩いてれば誰かとエンカウントするやろ」

 

 

 ほかのみんなを探しに行くかどうするか。

 立ち止まって考えていた竜は一先ず適当にゲームセンターの中を歩いていくことに決める。

 ゲームセンターの中はたしかに広いが、それでも迷路のようになっているわけではない。

 適当に歩いていればいずれは他のみんなに会うことができるだろう。

 それに適当に歩いて会えなかったとしても竜たちの手には文明の利器、スマホがあるので絶対に会えないということは決してないのだ。

 

 

「・・・・・・エンカウントって聞くとなんか倒したくなるよな」

「まぁ、仮に倒してしもうたら謝って詫びの品でも用意せんと仲間になることはないやろうけどね」

「みんなのことを倒したらあかんよー?」

 

 

 茜の言ったエンカウントという言葉に竜はなんとなく思ったことを言う。

 竜の言葉に茜は苦笑交じりに答える。

 そんな竜たちの言葉に竜の頭の上のついなは呆れたように言うのだった。

 

 竜と茜がゲームセンターの中をしばらく歩いていると、クレーンゲームの前にいる葵とあかりの姿を見つけた。

 どうやら葵がプレイをしてあかりは葵のプレイを見ているらしい。

 

 

「あー、そこ!そこに入ればいける!」

「なんか言っている言葉がセンシティブに聞こえますねぇ」

「・・・・・・クレーンゲームであんな声出すことあるか?」

「普通はないと思うわぁ・・・・・・」

「なにをやっとるんや葵は・・・・・・」

 

 

 クレーンゲームを操作しながらどことなくセンシティブに聞こえてしまいそうなセリフを言っている葵の姿に竜と茜、ついなは困惑しながら2人のもとへと向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第580話




今日はちょっと難産・・・・・・


もっと、こう、スッと書ければ楽なんですけどねぇ






 

 

 

 

 クレーンゲームをやっている葵とそれを見ているあかりに竜たちは近づいていく。

 ある程度近づいたところであかりが竜たちに気がつき、ひらひらと手を振る。

 

 

「よ。クレーンやってたんだな」

「はい。それで葵先輩がこれを取ろうとしていたんですがなかなか取れなくて・・・・・・」

「これで・・・・・・!・・・・・・あ゛あ゛あ゛?!?!」

「あー、落ちてしもうたな」

 

 

 竜の言葉にあかりはうなずき、葵がやっているクレーンゲームをチラリとみる。

 クレーンゲームの中にはそこそこ大きな人形が転がっており、奥に同じような人形が並んでいることからこれがこのクレーンゲームの景品で間違いないだろう。

 人形がクレーンゲームのアームから落ちてしまったことに落ち込んでいた葵だったが、すぐに顔を上げると両替機の方に足早に向かって行く。

 どうやら両替をしてもう一度挑戦するつもりのようだ。

 

 

「あのクレーンってでかい人形だからけっこう取りにくい気がするんだがなぁ・・・・・・」

「景品がでかいのはなんかアームがけっこう弱い印象があるんよねぇ」

「あれを取るのは難しいんやない?」

「あ、やっぱりあれって難しいんですか?」

 

 

 葵が両替に行っている間に竜は葵がやっていたクレーンゲームを確認する。

 葵がやっていたクレーンゲームは普通のアームよりも大きめのアームで景品を掴むものとなっており、こういうタイプのクレーンゲームはだいたいがアームを弱く設定されてあることがあるのだ。

 まぁ、ものによっては一定額を入れたらアームが強くなってゲットすることができるなんてものもあるので、諦めなければそこそこの確率で景品を手に入れることができるだろう。

 

 

「あのタイプってほかのひっかけて落とすタイプのやつとかと違ってなかなか取れないからな」

「たまに脇の下とかそういうところに刺さって上手く持ち上がる、なんてこともあるからなぁ」

 

 

 葵がやっているクレーンゲームの内容を確認した竜たちはそのクレーンゲームの難易度をざっくりと評価していく。

 竜からすればあまり取れなさそうなクレーンゲームという印象なのだが。

 

 どうやら葵はそれほどまでに景品が欲しいようで両替したコインを方ポケットに入れてクレーンゲームを操作していく。

 

 諦めようとしない葵の姿に竜たちはどうしたものかと顔を見合わせる。

 

 

「まぁ、あれだ。昔の偉い人は言っていました。クレーンゲームは貯金箱であると。的な感じだ」

「お金を入れている人が使えへん貯金箱にどんな意味がるんかなぁ」

 

 

 お金を入れ、再びクレーンゲームに挑戦する葵の姿にやや苦笑を浮かべつつ竜は呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第581話





こんな遅い時間に・・・・・・

何回か軽く寝落ちしかけてしまった・・・・・・






 

 

 

 

 クレーンゲームの景品の大きな人形を取るために両替をした葵の姿に竜たちは苦笑する。

 両替をする前にも一度、両替が必要になるまで挑戦したりもしていたのだが、まぁ、両替をしている時点でお察しといったところだろう。

 

 

「ぐぬぬぬ・・・・・・」

「諦めるのも大事だと思うがなぁ」

「ちゅーか、おこづかいの方は大丈夫なんか?」

「両替をしとるからけっこう使ってそうやね」

 

 

 なかなかうまい具合に動いてくれない人形に葵は悔しそうに声を漏らす。

 景品となっている人形が大きいだけにそれに比例して重く、クレーンゲームのアームでがっちりつかんだとしても重さでアームから落ちてしまう。

 そのため、うまいことアームに人形をひっかけて落ちにくくしなくてはいけないのだが、それがなかなかに難しいのだ。

 

 悔しそうにしている葵の様子に竜たちは顔を見合わせる。

 

 

「・・・・・・まぁ、まだしばらく終わらなさそうだしゆかりとマキの方を探しに行ってみるか」

「異議なしやね」

「葵はまだまだやってそうやしええんやない?」

 

 

 葵の様子からまだまだクレーンゲームの前から動くことはないだろうと竜は考え、まだ見つけていない2人、ゆかりとマキを探しに行こうかと提案する。

 竜の提案についなと茜はうなずいて同意した。

 

 そして、竜たちはゆかりとマキがどこにいるのかを探しに移動するのだった。

 

 

「さて、2人はどこにいるのやら」

「とりあえずここまでの道中にはおらんかったもんな」

 

 

 葵たちのところから離れて歩きながら竜たちは近くにゆかりたちの姿がないかを確認しながらのんびりと歩いていた。

 少なくとも葵とあかりを見つけるまでの道中ではゆかりとマキの姿を確認できていないので、また少し別のところにゆかりとマキはいるのだろう。

 

 

「えっと?少し先が音楽ゲームか」

「音楽ゲームってなんかリズムに合わせたりで大変やからあまり好きでもないんよねぇ」

 

 

 ゆかりとマキのことを探しながら歩いていた竜だったが、なかなかゆかりたちの姿が見つからず少し先から音楽ゲームが置いてあるところにまで来ていた。

 ここまでの道中にゆかりたちの姿がなかったことを考え、竜は音楽ゲームが置いてあるエリアへと向かって行った。

 

 

「よっ、はっ、ほっ!」

「おー、ゆかりん上手上手」

 

 

 竜たちが音楽ゲームのおいてあるエリアへと入ってしばらくしてから、竜たちは掛け声に合わせて体を揺らしながら流れてくるノーツを叩いていくゆかりと、その様子を少し離れたところで見ているマキの姿を見つけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第582話




ううむ・・・・・・

昨日が更新できてなかったし、そろそろ限界かもなぁ・・・・・・







 

 

 

 

 音楽ゲームのおいてあるエリア。

 そこではゆかりがゲームをやっており、それをマキが見ている状態だった。

 

 ゆかりはゲームの画面の上部からタイミングを合わせてボタンを押して消すもの、────ノーツを叩いてそのスコアをどんどんと伸ばしていく。

 ミスをしたのかは不明だが、ノーツを消すごとに250コンボ、251コンボと画面に表示されており、少なくとも200個以上のノーツを途切れることなく消していることが分かる。

 

 

「よ。なんかだいぶコンボがつながっているみたいだな」

「あ、竜くんに茜ちゃん。うん。最初の方では練習とか言ってミスをしまくっていたんだけど、少し前から一気にミスをしなくなったんだよ」

 

 

 あまり大きな声を出してしまえば音楽ゲームをやっているゆかりの邪魔になっていしうと考え、竜は声を小さくしてマキに話しかけた。

 竜の言葉にマキは少しだけ驚くも、すぐに話しかけてきたのが竜だと理解して返事をする。

 

 マキの言葉に竜は興味深そうにゆかりがプレイしているゲームの画面を見た。

 

 

「ふんふんふふーん。ふんふふんー」

「これはこのままクリアしそうやね?」

「だな。リズムとかもズレてなさそうだし」

 

 

 音楽ゲームから流れている音楽に沿うように鼻唄を歌うゆかりは、間違える姿などイメージできないような手の動きでリズムにあわせてノーツを消していく。

 ゆかりのそんな姿を見た茜は、このままなんの問題もなくクリアするのだろうとつぶやく。

 

 

「これで・・・・・・、フィニッシュです!」

「おー、ノーミスでここまできてたんだな」

 

 

 最後の流れてきたノーツを消し、ゆかりはホッと一息を吐く。

 クリアした画面に表示されているのはパーフェクトという文字。

 これはゆかりが一度もミスすることなくクリアしたことを証明していた。

 

 

「あ、竜くん。格ゲーは終わったんですか?」

「ああ、終わったよ。一応は俺が勝ちこしてる」

 

 

 音楽ゲームをクリアしたゆかりは竜がいることに気がつき、茜との対戦が終わったのかを尋ねる。

 ゆかりの言葉に竜はうなずいて応えた。

 

 

「ぐぬぬ、今回は勝てへんかったけど次は負けへんで!」

「まぁ、次にやってどうなるかはその時次第だろうな」

 

 

 悔しそうにしながらも楽しそうに竜に再挑戦を果たすと茜は言う。

 茜の言葉に竜は笑みを浮かべながら答えた。

 

 

「そういえばあの2人はどこに・・・・・・」

「どーんっ!!」

「ああ、ちょ、なんばしよるとっ!」

 

 

 ふと、ひめとみことがなにをしているのかが気になった竜はゲームセンターの中を軽く見渡す。

 そんな竜の背後から現れたひめは楽しそうに笑みを浮かべながら竜へと飛びつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第583話




やはり配信と小説の両立は難しいんですかねぇ

どうにか上手くできればいいんでしょうけどそこまで器用でもないですからねぇ・・・・・・







 

 

 

 

 背後から飛びついてきたひめの衝撃により竜は少しだけよろめくもののどうにか転んだりせずに堪えることができた。

 竜がよろめいたことにゆかりたちは不思議そうに首をかしげるが、竜が軽く何かをチョップするような動きをしたのを見て霊の誰かがいるのだろうと納得する。

 

 

「こーら、霊力がない人間はお前たちがぶつかっても気づかないんだろうけど気をつけないと危ないだろ」

「えへへー、ここめっちゃピカピカして面白いっちゃね!」

「だね。でもボクとしてはもう少し静かな方が好きかな」

 

 

 軽くひめの頭にチョップを落としながら竜はひめに注意をする。

 ひめたちは基本的に霊力が弱い人間にぶつかったとしてもなにかがぶつかったかなと感じる程度でほとんど危ないことはない。

 しかし、霊力の大きさは人によって差があり、中にはひめたちがぶつかった勢いをそのままに受けてしまう人がいるかもしれない。

 そう言った危険性があるために竜は2人がゲームセンターの中を走り回るのを注意したのだ。

 まぁ、そもそもとして最初に走り出す前に捕まえておけばよかった話なのだが、竜が捕まえるよりも早くひめが走り出してしまったのでどうしようもなかったのだ。

 

 

「そういえば葵さんとあかりさんはどうしたんです?たしか2人はクレーンゲームにいたはずですが・・・・・・」

「いや、なんか葵が欲しい景品があるみたいで沼ってた」

「あー、クレーンゲームって取れないときってぜんぜん取れないもんね」

「あれを取るんは難しいと思うんやけどなぁ・・・・・・」

 

 

 ここでゆかりは竜と茜の姿しかないことに気がつき、葵とあかりはどうしたのかを尋ねる。

 正確にはこの場には竜と茜以外にもついな、ひめ、みことがいるのだが、ついなたちは霊力が一定以上ある人間にしか見ることができない状態になっているので、ゆかりとマキの視点からでは竜と茜の姿しか見えていないのだ。

 

 ゆかりの言葉に竜と茜は顔を見合わせ、先ほど見た葵の様子を説明する。

 クレーンゲームの沼はハマるとなかなか抜け出せず、景品をゲットできるか所持金の残りがやばくなってきたことに気がついて止めるまで続ける人が多い。

 マキもその経験があったのか、竜の説明に少しだけ遠い目になりながら同意する。

 

 そして、竜たちは葵の様子を見るために全員でクレーンゲームのエリアへと向かうことに決めた。

 

 

「や・・・・・・・・・・・・・・・・・・ったぁあああああああ!!!!」

「おめでとうございます」

 

 

 竜たちがクレーンゲームのエリアに到着するのと、大きな歓喜の声が聞こえてきたのはほぼ同時だった。

 声の主はどうやら葵のようで、その手には先ほど葵が狙っていたクレーンゲームの景品があった。

 

 

「お、取れたのか?」

「うん!やっと取れたの!」

 

 

 嬉しそうにしている葵の姿とその手にあるものを見て竜は葵に声をかける。

 竜の言葉に葵は嬉しそうに取ることができた景品を竜に見せた。

 

 

「それはええんやけど。・・・・・・葵、それを取るまでにいくらつこうたん?」

「う゛・・・・・・」

 

 

 茜の言葉に葵は言葉に詰まり、スッと顔を逸らす。

 まぁ、言葉に詰まって顔を逸らすということはそういうことなのだろう。

 そんな葵の様子に茜はため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第584話




なんだか急に見る人が増えているような?

なんにしても頑張って書いていきますかぁ






 

 

 

 

 葵の財布が薄くなって軽くなってしまったことはいまは置いておき、竜たちは全員が合流する。

 

 茜と竜の格闘ゲーム、葵とあかりのクレーンゲーム、ゆかりとマキのリズムゲーム

 

 それぞれがやりたいと思っていたゲームをやることができ、満足そうな表情を浮かべている。

 また、ゲームセンターの中を走り回ることができたひめとみことも見慣れないものばかりを見ることができて嬉しそうに笑っていた。

 

 

「いやぁ、勝てんかったのは悔しかったけど満足や。今日の勝負も考えて次のリベンジに当てるで」

「勝ち越しはしたけど何回か負けてもいるしな。ゆくゆくは負けるかもしれないな」

「でも竜くんも今のままでいるつもりはないんでしょ?だったらお姉ちゃんが勝てるようになるのはまだまだ先かもね」

「なかなか良い試合をしていたみたいですね?」

「うん。これは見ていても良かったかもね」

 

 

 ゲームセンターの中にある自販機の前でジュースなどを買って竜たちは話す。

 竜はついな、ひめ、みことの分のジュースまで買っていたために少しだけ多く出費していたが、そこまで気になるほどのものでもなかった。

 

 竜と茜の会話を聞き、すぐに他のゲームをやりに行くのではなく何試合か見てから移動してもよかったかもしれないとゆかりたちは考える。

 

 

「あ、そうだ。たしかここってプリクラがありましたよね?皆さんで撮りませんか?」

「プリクラ?つってもこの人数が入り切るのか?」

「えっと、竜、うち、葵、ゆかり、マキ、あかりの6人やろ?けっこうギリギリ大丈夫なんやないかなぁ?」

 

 

 ふと良いことを思いついたと言った様子であかりは提案をする。

 あかりの言うプリクラとは、正式名称“プリント倶楽部”という筐体に内蔵されたカメラを使用して自身の顔や姿を撮影し、シールに印刷された写真を得る機械の商品名のことである。

 あかりの言葉に竜はいまこの場にいる全員(●●)の人数を確認してプリクラの機械の中に入りきらないのではないかと言う。

 竜の言葉に茜も同じように目に見えている人数を確認してギリギリ機械の中に入れるのではないかと首をかしげる。

 

 竜と茜の認識に違いがあることに気がつくと思われるが、これはついなたちのことを茜が見えていないということと、竜がプリクラを撮ったことがなくて機械の大きさを把握できていないということが理由として挙げられる。

 まぁ、男子学生がプリクラを撮るということなんて基本的にはないだろうし、竜がプリクラの機械について知らないのも仕方がないだろう。

 

 茜たちに手を引かれ、竜は首をかしげながらプリクラの機械があるエリアへと連れていかれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第585話




ワクチンの副反応が微妙に大変ですねぇ


ひどくなければ楽だったんですけどねー






 

 

 

 

 茜たちに手を引かれた竜はそのままプリクラの機械が置いてある場所に到着する。

 この機械自体は竜も見たことはあるのだが、その中に入ったことはないために竜はなかがどうなっているのかがさっぱり分からなかった。

 

 

「やっぱりけっこう小さくないか?中がどうかは知らないけどこの見た目よりも広いってことはないんだろうし」

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。それに6人くらいならぜんぜん余裕で入れますから」

 

 

 首をかしげながら尋ねる竜の言葉にゆかりは微笑みながら答える。

 竜たちの目の前に置いてあるプリクラの機械はこのゲームセンターに置いてあるものの中では一番大きく、6人くらいなら普通に入れそうな大きさのものだった。

 

 であればどうして竜が入りきらないのではないかと思うのか。

 その理由は分かり切っているであろうがついな、ひめ、みことの3人もこの場にいるからである。

 

 ついなたちの姿が見えていないゆかりたちは基本的についなたちのことをカウントせずに人数を考える。

 それに対して竜はついなたちの姿が見えているために基本的にはついなたちのことをカウントして人数を考えているのだ。

 これが竜が目の前のプリクラの機械では入りきらないのではないかと思った理由だった。

 

 まぁ、その辺りは人には見えないものが見えているかによる違いなため、仕方がないと言えば仕方がない感覚なのだろう

 

 

「ご主人、うちらは別に小さくなるから気にせんでもええよ?」

「ボクたちまでこの大きさで入ったらかなり狭くなってしまいますからね。だから大丈夫ですよ」

 

 

 竜が自分たちのことも人数としてカウントしていることに気がついたついなとみことは気にしなくてもいいと声をかける。

 2人の言葉に竜は本当にいいのかと3人のことを見る。

 

 

「というかうちらって写ることができるんかな?」

「どうなんだろう?たしか少し前にボクたちの声を近くにいた子の電話が偶然拾って相手にノイズみたいなことが聞こえたって言うことがあったけど」

「そういえうちもそんなことがあったなぁ」

 

 

 と、ここでひめがふとした疑問を口にする。

 疑問の内容は実態をしていない自分たちの姿がプリクラに写ることができるのかと言うこと。

 ひめの疑問にみこととついなも首をかしげながら経験したことを言う。

 

 ちなみに、ついなも竜の家に住むようになってからすぐの頃にプレステの通話機能で茜たちにノイズみたいな音声を届けた経験がある。

 それらのことから自分達が普通に写ることは難しいのではないかとついなたちは思い始めた。

 

 

「あー、それなら撮るときに俺の霊力を使ってみんなから見えるようにしておくか?」

「たしかにそれが1番確実確実やもんな。お願いするわぁ」

 

 

 ついなたちの言葉に竜は自分の霊力を使って実体化して写ることを提案する。

 竜の言葉についなたちはうなずき、小さくなって竜の頭の上に移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第586話




今日もまた遅くなってしまったなぁ

エペとか配信をしているとどうしても遅くなってしまうなぁ・・・・・・





 

 

 

 

 小さくなったついなたちを頭の上に乗せながら竜は茜たちと一緒にプリクラの機械の中へと入る。

 プリクラの中は意外と広くはあったのだが、それでも6人が入るとなるとやや狭く感じてしまう。

 まぁ、これは閉じた空間に6人がいることによってさらに狭く感じているだけかもしれないが。

 

 

「それで、この人数でどうやって撮るんだ?」

「せやねぇ・・・・・・。とりあえず、身長的に竜は後ろがよさそうやね」

 

 

 ひとまずはお金を入れずにどこにどういう風に並ぶのかを確認する。

 とりあえずはこの中では竜の背が高いということで竜が後ろ側になることは決まった。

 ゆかりたちの身長は、ゆかりが159、マキ、茜、葵が158、あかりが151とそこまで大きな差はない。

 そのため、誰がどこに立つかが悩ましいところなのだ。

 

 

「ううん。どういう風に並びましょうか?」

「竜くん以外はそこまで背も変わらないもんね」

「そんならじゃんけんでええんちゃう?誰がどこに、とか言い出したらきりがなさそうやし」

「そうだね。それなら公平だもんね」

 

 

 竜を除いた5人がどのように並ぶのかを話し合い始める。

 誰がどこにというのを話し始めるとキリがなくなってしまうと思われたため、ここは恨みっこなしの正々堂々ということでじゃんけんでどこに並ぶのかを決めることにしたのだ。

 

 

「それじゃあ、せーの!じゃーんけーん」

「「「「「ぽんっ!!」」」」」

 

 

 マキの掛け声とともにゆかりたちはそれぞれじゃんけんの手を出した。

 それぞれが出した手は、ゆかりと茜がグー、マキがチョキ、葵とあかりがパーとなっていた。

 グーチョキパーの3つがそろってしまったためにあいことなり、仕切り直しとなってしまう。

 

 それから数回のあいこを経て、どのような並び順でプリクラを撮るのかを決めるのだった。

 

 

「それじゃあこの順番でプリクラを撮ろっか」

「そうだね、じゃんけんで正々堂々決めたことだもんね」

「ぐぬぬぬ・・・・・・!」

「くぅっ!どうしてうちはさっきチョキを出してしもうたんやっ!」

「負けてしまいました・・・・・・」

 

 

 数回のじゃんけんを経た結果、後ろには竜、マキ、葵の3人、前にはゆかり、茜、あかりの3人となった。

 なお、ついな、ひめ、みことの3人は竜の頭の上なので場所に関してはまったく気にしなくてもよかった。

 

 じゃんけんで竜の隣をとることができた葵とマキは笑みを浮かべながら竜の左右に移動する。

 それとは対照的にじゃんけんで負けた茜、ゆかり、あかりの3人はがくりと肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第587話





 昨日とおとといに更新できなかったのがなぁ・・・・・・

本当であれば昨日に更新する予定だったんですか・・・・・・






 

 

 

 

 誰がどこに立つのかを決めた竜たちはプリクラの機械にお金を入れて操作をしていく。

 最初に決めるのはプリクラのフレーム、プリクラのふちとなる部分だ。

 

 

「へぇ、いろいろあるんだね。どんなのが良いかな?」

「でもあまり大きなフレームにしたら私たちが写る場所が狭くなってしまいますから。気をつけて選ばないとですね」

「カラフルなものからシンプルなものまで、より取り見取りってことか」

 

 

 様々なプリクラのフレームを葵たちは楽し気に選んでいく。

 どういったフレームが良いのかがいまいち分からない竜はその様子を見ていることしかできなかった。

 

 

「竜くんはどれが良いとかはありますか?」

「いやぁ、俺はいまいちわからないからみんなに任せるわ」

「そんならうちらで決めてしまうなー」

 

 

 プリクラのフレームでなにか要望などはあったりするかをゆかりは尋ねる。

 ゆかりの言葉に竜はヒラヒラと手を振りながらみんなに任せると言う。

 竜の言葉にゆかりたちはうなずき、プリクラのフレームを選んでいった。

 

 

「それじゃあフレームも選んだので、カウントダウンが始まります。それが終わる前にそれぞれ好きなポーズをとってくださいね」

「好きなポーズと言われてもな・・・・・・」

 

 

 プリクラのフレームを選び終わり、ゆかりは後ろに立っている竜の方へと顔を向けてポーズをとるように言う。

 ゆかりの言葉に竜は困り顔になりながら頬を掻いた。

 まぁ、プリクラになれていないのだからいきなりポーズと言われてもどうしたらいいのかが分からないのだろう。

 そんな竜とは対照的に竜の頭の上にいたひめとみことは楽しそうにポーズを決めるのだった。

 

 

「こ、こうか・・・・・・?」

「そんなに深く考えんでも大丈夫やで?」

「この辺りはフィーリングでだいたいなんとかなりますから」

 

 

 ぎこちなくポーズをとる竜にすでにポーズを決めていた茜とゆかりが声をかける。

 プリクラで撮るポーズは基本的に慣れて感覚でやっていくもの。

 回数をこなせば竜もなんとか慣れていくことができるようになるだろう。

 そして、竜がぎこちなくポーズをとりながらプリクラの写真が撮られるのだった。

 

 

「よーし、次はプリクラの醍醐味の描き込みをしていこう!」

「これがあるからプリクラは楽しいんですよねー」

「なにを描こうか悩んじゃうんだよね」

 

 

 撮影をされ、プリクラの機械の画面に先ほど撮影された写真が表示される。

 画面に先ほど撮影された写真が表示されると、茜たちは近くに用意されているタッチペンを手に取って写真に手を加えていった。

 撮影した写真をその場で落書きをしたりしていろいろと手を加えることができるのはプリクラの強みだと言えるだろう。

 そんな茜たちの様子に、竜はどうしたものかと困惑して眺めていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第588話




なかなか思った通りの内容を表現できないなぁ

できるのならもっと文章表現力が欲しい・・・・・・






 

 

 

 

 タッチペンを使って撮った写真に茜たちは思い思いに文字やイラストなんかを描き込んでいく。

 こういったものにどんなことを書き込めばいいのかなどを分かっていない竜は茜たちの様子を一歩引いた状態で見ていた。

 

 

「ご主人はなにも描かんでええの?」

「といってもどんなことを描き込んだらいいのかよく分からないからなぁ」

「思ったことを描けば良いんじゃなか?」

「見たところ皆さんは自由に描いているみたいですし」

 

 

 茜たちとは違ってなにも写真に描き込もうとしない竜に、竜の頭の上に乗っているついな、ひめ、みことの3人は声をかける。

 ついなたちの言葉に竜はいまいちどういったことを描けば良いのかが分からないということを答える。

 まぁ、自由になんでも描いていいと言われると逆になにを描いたらいいのかが分からなくなってしまうというのはよくあることなのだろう。

 

 

「竜くんもなにか描きますか?」

「いろいろ自由に描くと楽しいで!」

「ちょ、なんで私にひげを描くの!」

「私はゆかりんに眼鏡でもかけておこうかな?」

「自由に消すこともできますから竜先輩も描きましょう」

 

 

 竜がついなたちを話をしていると、写真にいろいろと描き込みをしていたゆかりが振り返って竜もなにか描かないかと尋ねた。

 ゆかりの言葉に同意するように茜、葵、マキ、あかりも続けて竜に声をかける。

 全員に言われてしまい、竜はゆかりからタッチペンを受け取って画面の前に移動する。

 すでに画面に表示されている写真にはいくつも文字やイラストなんかが描き込まれており、最初のなにも描き込まれていない状態と比べてなかなかににぎやかな状態になっていた。

 

 

「さぁ、竜くんもなにか描いてください。私たちがみんなで撮った証ですから」

「って言われてもなぁ・・・・・・」

 

 

 ゆかりの言葉に竜は困った表情を浮かべながら写真へと描き込んでいく。

 竜の書いた文字が加わったことにより、これでこの写真に全員が文字やイラストを描き込んだことになった。

 ついなたちが描き込んでいないと思うかもしれないが、ついなたちの姿は茜たちには見えていないので仕方がないことなのだろう。

 

 

「こんなんで良かったのか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「竜がなにかを描いたってのが重要やからね」

「そうそう。ボクたちみんなでプリクラを撮った記念だからね。みんなの文字とかを入れておきたいんだよ」

 

 

 適当にさらさらと描いた文字を見せながら竜は確認をとる。

 竜の描いた文字を見てあかりはうなずくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第589話




文章がぁ・・・・・・

書く速度とネタを考える速度が欲しいなぁ・・・・・・







 

 

 

 

 全員のイラストや文字などの描き込みも終わり、これでいいのかの確認画面が表示される。

 表示された画面を見た竜たちはこのままで大丈夫なことを確認してOKボタンを押す。

 

 カランという音とともにプリクラの機械の外の排出口にプリクラが出てきた。

 

 

「おー、なかなかいい感じなんじゃないか?」

「せやね。みんなそれぞれが字を書いてるってのも良いポイントやと思うで!」

「立ち位置に不満はありますが、それ以外は良いと思いますね」

「描き込む時間に制限があるからちょっと描き足りなかったかなぁ」

「いやいや、ここまで描き込んでいたら十分じゃないかな?」

「空いているところとかけっこう埋まってますし、これ以上描くのは無理じゃないですか?」

 

 

 出てきたプリクラを見て竜は満足そうにうなずく。

 竜が手に持っているプリクラを覗き込むように茜たちが顔を突き合わせて竜の手元を見る。

 

 プリクラには軽くポーズをとっている竜たちが写っており、プリクラの左端に顔だけがのぞき込むような形で写っているあかり、前列の真ん中で顔を隠すように手を当てて中二病のようなポーズを決めているゆかり、荒ぶるタカのように両腕を斜めに上げて片足立ちをしている茜、後列の左側で竜に軽く寄りかかるような態勢で片腕を上げている顔に猫のひげを描かれた葵、葵と鏡合わせになるような態勢で同じように竜によりかかるような態勢で片腕を上げているマキ、葵とマキに挟まれてややぎこちない笑みを浮かべながらピースをしている竜、竜の頭の上で組体操の扇のポーズをとっているついな、ひめ、みことの3人。

 そして、隙間を埋めるように描き込まれているイラストや文字。

 

 これらが竜たちが撮ったプリクラには写っていた。

 

 

「それじゃあみんなで分けましょうか」

「プリクラはシールになっているから自由に貼れて良いですよね」

 

 

 そういって竜たちは出てきたプリクラを分けて思い思いのところに保管したり貼りつけたりするのだった。

 

 

「そろそろ帰るかー」

「せやね。もういい時間やし」

 

 

 ふと時間を確認した竜はそろそろ帰らないかと提案をする。

 竜の言葉に茜たちはうなずき、帰る準備を進めていった。

 

 

「っと、そうだ。マキだけ家の方向が違うからな。ここから1人で帰るのは危ないだろうし俺はマキのことを家まで送ってくよ」

「え、でも悪くない?私なら大丈夫だからゆかりんたちと一緒に帰ってもいいんだよ?」

 

 

 いまこの場にいるメンバーでマキ以外のメンバーはほぼ同じ帰り道となっている。

 マキだけが1人で帰ることになってしまっていることに気づいた竜はマキのことを見送るという。

 竜の言葉にマキは大丈夫というように言うが、マキを1人で帰らせるということに対して不安がぬぐい切れなかったために竜はマキのことを家まで送ることにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第590話




遅くなってしまい申し訳ありません

やはり配信をしていると書く時間がぁ・・・・・・

でも書いていたら配信ができなくなってしまう・・・・・・




 

 

 

 

 やや暗くなった道を竜とマキは“cafe Maki”に向かって歩く。

 竜の近くではひめとみことがぐるぐると竜の周りを走っている。

 まぁ、走っていると言ってもみことは竜の周りを走っているひめのことを止めようと追いかけているだけなのだが。

 

 そんなひめとみことの様子を竜の頭の上でついなは呆れたような顔で見ていた。

 

 

「そんなに走り回っとったら危ないで?」

「ちゃんと足元は見とるから大丈夫っちゃよー」

「ひめ、あまり走り回っていると竜さんにぶつかっちゃうから」

 

 

 ついなの言葉にひめは走りながら答える。

 一応、ひめの主張としてはキチンと気をつけて走っているから大丈夫ということらしいのだが、それでも歩いている竜の周りを走っているその姿はどこか危なっかしいものを感じられた。

 

 

「それにしても葵ちゃんが欲しい景品のためにけっこうなお金を使っちゃっていたのには驚いたよね」

「そうだな。普段がしっかりしているだけにかなり意外だったわ」

 

 

 “cafe Maki”に向かいながら竜たちが話しているのは今日の放課後に行ったゲームセンターでのこと。

 普段からしっかりとしている葵がクレーンゲームでなかなかの金額を使ってしまうということに竜たちは意外さを感じていたのだ。

 まぁ、それだけ欲しい景品だったということなのだろう。

 

 

「そういえばパソコンの方で面白そうなゲームもいろいろとあるよなー」

「あ~、たしかにあるよね。えっと、なんだっけ、あの・・・・・・、究極の鳥と馬?とかいうやつも気になってるんだー」

 

 

 適当な会話をしながら竜とマキは道を歩く。

 何気ない会話をできるというのはそれだけで幸せなことであり、そんな会話ができる相手がいるというのはとても素晴らしいことだ。

 

 ちなみに、マキの言っている究極の鳥と馬というのはおそらくは“Ultimate(アルティメット) Chicken(チキン) Horse(ホース)”のことだろう。

 このゲームは操作する動物を選んで毎ターンごとにランダムに配布される足場や妨害用のトラップなどを 設置してほかのプレイヤーを蹴散らし、ゴールに向かうという内容のゲームとなっている。

 まぁ、単純に言うとほかのプレーヤーを蹴落とすマリ●メーカーみたいなものだろう。

 

 

「あれも楽しそうだよな。なんだったらこんどやるか」

「良いね!みんなでやろう!」

 

 

 竜とマキがそんな約束をしたのとほぼ同時に竜たちは“cafe Maki”に到着した。

 自分たちが“cafe Maki”に到着したことに気がついたマキは少しだけ名残惜しそうにしながら竜に体を向ける。

 

 

「っと、もう着いちゃったね。家まで送ってくれてありがと!さっき言ってたゲーム、絶対にやろうね。それじゃあ、竜くんも気をつけて帰ってね!」

「ああ、他にも面白そうなゲームもあるからやろう。・・・・・・ファスモとか」

 

 

 マキの言葉に竜は片手を上げながら答える。

 竜は最後に小さくなにか言葉をを付け足したのだがその言葉がマキの耳に届くことはなかった。

 そして、竜はマキに見送られて自分の家へと向かって歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第591話





なんだか読んでくれる人が増えたような気がするけどなんでだろ?

私はとくに告知とかはしてないし・・・・・・





 

 

 

 

 なんて事のないいつもの朝。

 

 やや冷えてきた空気に体が少しだけ震えるが、それでも天気が良くて気持ちのいい空気に眠気がスッキリと抜けていく。

 部屋で着替えを済ませ、布団をたたんで学校の荷物を手に持ち、洗面所で顔を洗う。

 冷えている水によってまだ少しだけ残っていた眠気も完全に抜け、そのままついなが待っているリビングへと移動した。

 

 

「おはようさんや。あさごはんを持ってくから待っとってなぁ」

「ああ、おはよう。ありがとうな」

 

 

 竜がリビングに来たことに気がついたついなは竜に微笑みかけながら朝ごはんの準備を進めていく。

 ついなの言葉に竜はお礼を言って椅子に座った。

 

 竜の目の前に広がるのは代わり映えのしないいつもの家の中の風景と窓から見える景色。

 家の中の風景はとくに変わることはなく、ついなが綺麗に片づけてくれているためにホコリひとつない状態だ。

 続いて窓の外の風景だが、そちらも特に変わったようなものはなく窓の外には家の中を見ている女性の顔(●●●●)をしたウシ(●●●●●)がいるくらいのものだ。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・んんっ?!」

 

 

 自然にスルーしかけた竜だったが、明らかにおかしなものが見えていたことに気がついて改めて窓の外に視線を向ける。

 

 窓の外に広がっているのは、家の周囲を囲う壁、最近ついなが植え始めた植物、そして家の中を見ている女性の顔を(●●●●●)したウシ(●●●●)

 

 なまじっかウシの体についている女性の顔が美人であるためにその光景の意味不明さを加速させていた。

 

 

「つ、つつつつ、ついな?!なんか人面ウシがいるんだが?!」

「人面のウシ?そんなんおるわけ・・・・・・・・・・・・おるやんけ?!」

 

 

 竜の言葉についなは不思議そうに首をかしげながら窓を見る。

 窓の外にいるのは先ほどと同じように家の中を見ている女性の顔をしたウシ。

 竜の言っていた通りの存在が本当に窓の外にいたことに驚きの表情を浮かべた。

 

 

「ひ、人の顔をしたウシとか聞いたことないんやけど・・・・・・」

「とりあえずまともな生き物ではないのは確実だろうが・・・・・・」

 

 

 どう考えても自然界に存在するとは思えない生き物に竜とついなは顔を見合わせる。

 竜とついなが顔を見合わせていると、カギが閉まっているはずの窓からカラカラという音が聞こえてきた。

 音に気がついた竜たちがそちらに顔を向けると、いつの間にか窓のカギが開いており、窓の外にいたはずのウシが中に入ってきていた。

 

 

「は?!」

「なんで入って来とるん?!」

「稀代の霊力持ちし稀人殿。本日は貴方様に幸運有り、授かる幸運に対価有り、その身を削りて幸運を得よ」

 

 

 いきなり入ってきたウシの姿に慌てる竜とついなのことなど気にした様子もなく、ウシはいきなり何かを言い始める。

 どこか予言めいた言葉を言い始めたウシに竜とついなは困惑しながらも静かにその言葉を聞く。

 そして、ウシは言うべきことは言い切ったと言わんばかりに、目を閉じて薄く消え始めた。

 

 あまりにも怒涛の展開に竜とついなは困惑し、どうしたものかと慌てるのだが、けっきょく何もできずにそのままウシは完全にその姿を消していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第592話




なかなか遅れてしまいましたねぇ。

執筆速度を上げたいけれど上げられないのが大変です・・・・・・






 

 

 

 

 いきなり現れて予言めいたことを言って消えていった謎の女性の顔をしたウシ。

 驚きの出来事の連続に竜とついなは驚きの表情を浮かべながら顔を見合わせる。

 

 

「さっきのは・・・・・・、なんだったんだ?」

「ちょっとうちも分からんわ・・・・・・。しゃべっとったから普通の動物ではないやろうし・・・・・・」

 

 

 先ほど消えた女性の顔をしたウシのいた場所を見ながら竜は呟く。

 あのような生き物に関して竜はなにも情報を持っておらず、竜の言葉についなもいまいち分からないと首を横に振った。

 

 

「まだ家を出るには時間あるしちょっと調べてみるかな・・・・・・」

「そんならうちは片づけに戻るなぁ」

 

 

 どう考えても普通の生き物ではない先ほどの女性の顔をしたウシがなんだったのかを調べるために、竜は単身Amazonの奥地へと向かう────ようなことはなく普通にスマホで“ウシ”“人面”“言語”で検索をかけた。

 竜がスマホを触り始めたのを確認したついなは食器を片づけたりする仕事に戻る

 

 

「えーっと・・・・・・、これか?」

 

 

 検索をかけて表示されていく文字を読み進めながら竜はもしかしたらこれではないかと思えるものを見つける。

 

 それは人の顔をしたウシであり、人間の言葉を話すとされるが、生まれて数日で死に、その間に作物の豊凶や流行病、旱魃、戦争など重大なことに関して様々な予言をし、それは間違いなく起こる、とされている。

 

 見た目の情報や人語を話すという点から、おそらくはこの存在で間違いがないのではないかと竜はあたりをつけた。

 竜があたりをつけた存在、それは普通の生き物ではなく妖怪とされる人外の生き物“(くだん)”と呼ばれる存在だった。

 

 

「予言・・・・・・っていうと、さっき消える前に言っていた内容のことか?」

「ん?さっきのやつがどんなものだったのか分かったんか?」

 

 

 “件”の説明を呼んだ竜は先ほど女性の顔をしたウシが消える前に言っていた言葉の内容を思い返す。

 もしもあれが“件”なのであれば、先ほど消える前に言っていた言葉の内容はおそらくは自分に対しての予言かなにかなのだろう。

 そう考えたからこそ竜は先ほどの言葉をなんとか思い出そうとした。

 竜の呟きに片付けなどを終わらせたついなは首をかしげながら尋ねる。

 

 

「んあ、いやさっきのウシが“件”っていう妖怪なんじゃないかって思ってな。もしもそうならさっきの言っていた内容をどうにか思い出さないといけないだろうし」

「そうなんか?えっと、確か言っていた内容はたしか・・・・・・、今日は幸運有り、しかし幸運に対価有り、その身を削って幸運を得よ。とかそんな感じやったはずやで」

 

 

 ついなの言葉に竜は調べて分かったことを話す。

 竜の説明を聞き、ついなは先ほど聞いた言葉の内容を大まかに答えた。

 先ほどはいきなりの事態だったために正確には憶えていなかったのだが、それでもついなが言った内容はそこまで間違った内容のものではないだろう。

 ついなが言った先ほどの言葉の内容を聞き、竜はどういった意味の言葉だったのかを首をかしげながら考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第593話




今回もかなり期間が開いてしまいましたぁ

その間にいつの間にか読んでいる人が増えているのは嬉しいことですね!」






 

 

 

 

 “件”に関しての情報をさらに探していた竜だったが、学校に行くために家を出る時間になってしまい、少しだけ急ぎ気味に荷物を掴んで立ち上がる。

 ついなの方はすでにやるべきことはすべて終わっているようで、竜が立ち上がったのと同時にすでに玄関へと移動していた。

 

 

「“件”に関してもよく分からないし、あとでイタコ先生に聞いてみた方が良いかもなぁ・・・・・・、っとぉ?!」

「せやねぇ。イタコならそういったことも分かるかもしれん、しっ?!」

 

 

 少し調べた結果、いまいち“件”に関してはよく分からないという結論が出た竜は学校に着いてからイタコ先生に“件”に関して聞いてみようという結論に至った。

 話しながら靴を履こうとしていた竜だったが、靴を履くためにかがんだ時にうっかりバランスを崩してしまい、ついなの方へと倒れ込んでしまう。

 いきなり倒れ込んできた竜に驚いたついなは思わず動きを止めてしまい、そのまま竜に巻き込まれて一緒になって倒れてしまった。

 

 

「い、つつつ・・・・・・。悪かった。つい、なぁっ?!」

「へ?え?なぁぁあああ?!?!」

 

 

 ついなのことも巻き込んで倒れてしまったことを謝りながら竜は目を開ける。

 眼を開けた竜の視界に入ってきたのは純白ともいえるほどに汚れのない白だった。

 

 竜の言葉についなは驚きの声をあげ、慌てて立ち上がる。

 ついなが立ち上がるのと同時に竜の視界が白から普通の家の中の景色へと戻った。

 

 

「えっと・・・・・・、その、すまん・・・・・・」

「・・・・・・事故っぽいからとやかく言うつもりはないんやけど。次からは気ぃつけてな?」

 

 

 恥ずかしそうに顔を赤くして自身のスカートを押さえるついなに竜は謝る。

 

 ついながスカートを押さえているということから、どうやら先ほど竜は倒れ込んでついなを巻き込んでからついなのスカートの中に頭を突っ込んでしまっていたようだ。

 そして、スカートの中に頭を突っ込んでいる状態でf見えたものが白だったということは、つまりはそういうことなのだろう。

 

 竜の言葉についなは顔を赤くしたまま体の大きさを小さくしていき、竜の制服のポケットの中へと潜りこんでいった。

 完全にポケットの中に潜り込んでしまっているのはおそらくは恥ずかしかったからなのだろう。

 

 顔も出さないついなの様子に竜は頬を掻きつつ、改めて自分の靴を履いていく。

 そして、学校に持っていくスクールバッグを手に取って竜は家を出るのだった。

 

 

「あ、おはようございます!」

「ああ、おはよう・・・・・・」

「おはようさんや。なんか元気がないように見えるんやけどなんかあったん?」

 

 

 竜が家を出ると、外で待っていたあかりが声をかけてきた。

 あかりの声に竜は少しだけ疲れた様子で答える。

 どうやらまだついなのスカートの中を見てしまったことに対してのダメージを受けているようだ。

 

 そんな竜の様子にあかりたちと一緒にいた茜が不思議そうに首をかしげながら尋ねるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第594話




やっぱり書くのが遅くなってしまいますなぁ

どうにかもう少し書く速度を上げていきたいところ・・・・・・






 

 

 

 

 家の中から出てきた竜の様子が少しだけおかしいことに気がついたあかりたちだったが、学校に行く時間が迫ってきていたためにそこまで深く追及することもなく竜たちは学校に向かって歩き出した。

 学校に向かっている途中、竜は自分たちの後方からバイクが走ってくる音が聞こえてきたことに気がつく。

 バイクがこの道を走ることはそこまで多いことではなく、珍しいと思いながら竜たちは道の端へと移動する。

 

 竜たちが道の端へと移動した直後、人がいるにもかかわらずかなりの速度を出していたバイクが竜たちの目の前を走り抜けていった。

 あまりにも早いバイクの速度に竜たちは思わず少しばかり体をのけぞらせてしまう。

 さらにバイクが走り抜けた後に起こった風によって少しだけ砂などが舞い上がってしまい、竜は顔をしかめながらあかりたちが無事なのかを確認するためにそちらを見た。

 

 

「なんでこんな狭い道であんな速度を出しているんだよ・・・・・・。そっちは大丈夫、かぁ・・・・・・?!」

「あ・・・・・・?」

「へ・・・・・・?」

「ちょっ?!」

「きゃあっ?!」

 

 

 竜があかりたちの方を見たとき、竜の視界に映ったのはオレンジ、水色、ピンク糸、紫色の色鮮やかでありながらどこか柔らかさを感じられそうな4色の色と驚きと羞恥の色に顔を染めているあかりたちの姿だった。

 竜の目に映ったその4色は少しだけ時間が経てば完全に見えなくなり、あかりたちは見えなくなってもなおそれが見えてしまわないようにするためなのかスクールバッグでそれがある場所を隠した。

 

 

「・・・・・・見ましたか?」

「いや、ていうか絶対に見たよね?」

「誰がなんと言おうと竜は絶対に見たやろ?」

「ちょっとこれは言い逃れできませんよねぇ?」

「・・・・・・・・・・・・すまん」

 

 

 もはや確認をする必要もないだろうが、あかりたちは竜に自分たちの色を見たのかを尋ねる。

 あかりたちの言葉に竜は目線を逸らしながら謝った。

 

 まぁ、あの状況なので仮に見ていないと言ったとしても誰も信じないだろうが。

 

 

「そこは嘘でも見ていないって言ってくださいよ!」

「いや、見てないって言っても信じないだろ?!」

「それは否定しないけど!」

「ちゅうか乙女の秘密を見たんやから甘んじて責められや!」

「こればっかりは先輩といえども簡単には許せませんからね!」

 

 

 竜の言葉にあかりたちは竜のことを囲んでポコスカと叩き始めた。

 あかりたちは本気で叩いているわけではないのだが、それでも複数人に叩かれているだけあって地味にダメージがあり、竜は抵抗するわけにもいかず叩かれるがままになっていた。

 

 なんにしても竜がどう答えようがあかりたちに叩かれる未来は確定していたのでなにを答えても意味はなかったのだが。

 そんな風にしばらく竜のことを叩いていたあかりたちだったが、いくらか竜のことを叩いたことによって満足したのか、少ししてから叩くのを止めて学校へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第595話




 1週間が経過してしまったぁ・・・・・・

 書かないといけないのは分かっているんですがどうしても配信が・・・・・・







 

 

 

 

 あかりたちによってやや崩れた格好を正しながら竜は学校へと向かって歩く。

 あかりたちも近くにいるにはいるのだが、先ほど4色の色を見られたことによる恥ずかしさがあるのか恥ずかしそうにしながら竜のことをあまり見ないようにしていた。

 

 まぁ、あかりたちと同じように、竜も4人の色を見てしまったことに対する気まずさからなにも言えずにいたのだが。

 

 

「・・・・・・なぁ、ご主人。あかりたちのあれを見てしもうたのって朝の予言?と関係があるんやない?」

「まぁ、普通に考えたらそれが一番ありえそうだよなぁ・・・・・・」

 

 

 竜の制服のポケットから顔を覗かせて一部始終を見ていたついなは竜に言う。

 ついなの言葉に竜は軽く頬を掻きながら答えた。

 

 まず、竜たちが歩いているこの道をバイクが通ることはほとんどない。

 さらに言えば5人も人が歩いているのにあそこまで速度を上げて走るようなバイク乗りは普通はいないだろう。

 まぁ、中にはお構いなしに速度を上げるような人間もいるのだが、そういった人間はいずれにしても勝手に事故って勝手にいなくなるので気にしなくても良いだろう。

 しいて言うならそういった迷惑な存在に巻き込まれてケガをしてしまう人が出ないように勝手に1人で事故ってくれた方が世のため人のためなのではないだろうか。

 

 閑話休題(それはともかくとして)

 

 そういった情報から竜とついなは先ほどのことは朝の予言が強制力となって働いたのではないかと考えたのだ。

 

 

「どうにかして対抗策?とかを考えないとなぁ・・・・・・」

「まぁ、予言の内容的に今日1日だけみたいやし、割り切って諦めるのも手ではあるんやろうな」

「いや、さすがにそれは・・・・・・」

 

 

 いまいちよく分からない現状に、竜はどうしたらいいのかと歩きながら空を見上げる。

 もしも仮に今の竜の状況が予言によるものなのであればその対抗策は予言を覆すということしかなくなり、そう簡単なものではなくなるだろう。

 もっとも簡単な対抗策として家から出ないという方法もあるのだが、それは本当に最終手段なので竜としてはあまりとりたくないものだった。

 

 竜とついながそんなことを話している間、同じようにあかりたちも小声で話をしていた。

 

 

「・・・・・・皆さん、見られても大丈夫なやつでしたか?」

「うちは・・・・・・、まぁ、ぎりぎり・・・・・・?

「ボクもそこまで・・・・・・かなぁ?」

「私はちょっと穿けるものがマキさんに勧められたちょっとセクシー系のものしかなくてそれを・・・・・・」

 

 

 あかりたちが話している内容は先ほど竜に見られてしまったものが見られても大丈夫なものだったか。

 まぁ、どういったものが見られても大丈夫なのかは不明だが、少なくとも全員がちょっと染みがついていたりしてあまり見せたくないようなものを穿いていたわけではないということが判明した。

 しいて言うならゆかりだけ少しばかりセクシーなものだったようで、普段のものを見られるよりも一層のこと恥ずかしかったようだ。

 

 

「それにしてもさっきのバイクは驚きましたね・・・・・・」

「せやね。この道であんな速度で走るとか怖すぎるわ」

「誰も轢かれたりしなくて良かったよねぇ」

「朝からあんな速度で走っているのは驚きました」

 

 

 次にあかりたちが話しているのは竜に見られることになってしまった原因のバイクについて。

 あんな速度で走っているバイクというのは相当に危険なのでなるべくなら通学路であるこの道を走らないでほしい。

 

 そんなことを話している間に竜たちは学校へと到着するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第596話





週一くらいのペースがやはり書きやすいんですかねぇ

配信やらエペの練習やらをしているとどうにも書く時間が取りにくいです・・・・・・






 

 

 

 

 竜たちが学校へ到着するのとほぼ同じタイミングで、向こう側からマキが駆け寄ってくる。

 先ほどのあかりたちに起きた事象と合わせて竜は警戒心を高めた。

 

 

「あ、みんなおはよー!」

「おお、おはよう」

「マキさん、おはようございます」

「おはようさんやー」

「マキさん、おはよう」

「マキ先輩、おはようございます」

 

 

 竜たちのもとに挨拶をしながら駆け寄ってきたマキは、竜が少しだけ自分から距離をとっていることに気がつき不思議そうに首をかしげる。

 そんなマキの様子にあかりたちも竜が少しだけ移動していることに気がついた。

 

 

「どうしたの?」

「あー・・・・・・、いや、ちょっとな?」

 

 

 不思議そうに首をかしげながらマキは竜へと一歩足を進める。

 マキの言葉に竜は頬を掻いて顔を逸らしながら答えた。

 その際にマキが近づいてきたのと同じくらいに足を後ろに動かして距離をとる。

 もしかしたら朝の“件”の言った予言が原因であかりたちにあんなことが起こったのかもしれないと考えたためにマキやあかりたちから距離をとろうと考えたのだ。

 

 竜が自分から距離をとったことに気がついたマキはもう一度竜へと近づく。

 それと同時に竜も同じようにマキから距離をとるように後ろに下がる。

 

 

 近づく

 

 距離をとる

 

 近づく

 

 距離をとる

 

 近づく・・・・・・・・・・・・

 

 

 竜との距離が縮まないことにマキは徐々に不満顔になっていく。

 そんなマキの表情に竜は困り顔で頬を掻いていた。

 

 そして、なかなか距離が縮まらないことに業を煮やしたのか、マキはいきなり竜へと向かって走り出した。

 

 

「むーっ!!」

「まてまてまてっ?!」

 

 

 いきなりマキが走ってきたことに驚いた竜は慌てて自分も走ろうとするのだが、マキの方を向いていたために反転して走り出すことが間に合わなかった。

 

 竜が走り出すことが間に合わずにマキが竜のことを捕まえるその寸前、不意にマキの身体がガクリと揺れた。

 どうやら最後の一歩を踏み出す際に少し大きめの石を踏んでしまい、身体のバランスを崩してしまったようだ。

 通常であれば普通にもう片方の足で踏みとどまって倒れたりするような事態は回避できるのだが、あいにくと今のマキは竜へと向かって走っている途中。

 そのため、走っている勢いを乗せたまま竜へと向かって倒れ込んでしまうということになってしまった。

 

 

「うひゃあぁああああっ?!」

「ちょ、マキ?!どぉわぁっ?!」

 

 

 悲鳴を上げながら倒れ込んでくるマキに竜は驚いて固まってしまい、そのままマキに巻き込まれる形で倒れ込んでしまった。

 まぁ、仮に驚かずにいたとしても倒れてくるマキを助けないという選択肢は竜にはなかったので、どちらにしてもマキに巻き込まれていたのだろうが。

 

 

「たたたた・・・・・・。ごめん・・・・・・っ?!」

 

 

 倒れてしまったマキは身体を起こそうとして自分の身体になにかが触れる感覚に気がつく。

 

 最初は地面に触れている感覚かと思ったのだが、自分が倒れる時に竜を巻き込んでしまったことは分かっているためにそれはないだろうとマキは考える。

 では自身の胸に感じるこの感覚はなんなのか。

 うすうすとなにが自分の胸に触れているのかを理解しつつも、マキはゆっくりと自分が押し倒してしまっているものを見た。

 

 

「むぐぐぐ・・・・・・?!」

「ひゃ、ひゃぁあああああ?!?!」

 

 

 マキが目線を自分の胸の下へと向けると、そこには自分の胸の下に倒れている竜の姿があった。

 感覚と倒れ込んだ瞬間のことからうすうすは察していたマキだったが、それでも実際にその光景を見るとやはり驚いてしまうようで、そのまま思い切り竜のことを殴ってしまう。

 マキに押し倒された状態で逃げることができない竜は、押し倒された衝撃とそこに追加で受けたマキの攻撃により、意識を失ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第597話




書く暇がなかなか取れないのが厳しいところです。

素早く書ければ書く時間も少なくて済むんですけどねー。







 

 

 

 

 薬品の香りが鼻に届く。

 嗅ぎ慣れてきている香りと体の下にある少し硬いような柔らかいような感覚を受けながら竜の意識は戻る。

 

 ぼんやりと目を開けた竜はいま自分がいるのが保健室だということに気がつき、どうして自分が保健室のベッドに横になっているのかを思い返す。

 なにがあったのかを思い返した竜は、意識を失う直前の顔を真っ赤にしたマキの顔と、マキの柔らかな感触と窒息しそうな息苦しさをハッキリと思い出した。

 

 意識を失う前のことを思い出した竜が最初に思ったこと。

 

 それは、やはりいつもよりも“なにか”がおかしいということ。

 その“なにか”がなんなのかはハッキリとは分からないのだが、それでも普段であればここまで露骨なほどにハプニングなどは起こらないだろう。

 

 だからこそ竜は朝の“件”がすべての原因なのではないかと仮定することにしておいた。

 

 

「ちゅわぁ。まさか朝から保健室に運ばれてくるのは驚きでしたわねぇ・・・・・・」

「せやね。ところでイタコは“件”に関してなにか知っとることってないん?」

 

 

 目を覚ました竜の耳に聞こえてきたのは少し離れた位置にいるであろうイタコ先生とついなの話声。

 竜が寝ていたベッドの周囲にはカーテンが広げられていたので2人は竜が起きたことにまだ気がついていないのだろう。

 

 

「ん・・・・・・、“件”でしたか。一応は文献としては知っておりますが、私自身は遭遇したことがないので詳しいことはいまいちですわねぇ。ただ、竜くんは気づいていないようですがうっすらと霊力のようなものがついているようには感じますわね。といっても本当にかすかにしか感じ取れていないのですけど・・・・・・」

「そうなんか。でもなにかがご主人についとるならそれが原因でご主人はこんなことになっとるのかもしれんなぁ」

 

 

 ついなの質問にイタコ先生は淹れていたのであろうお茶を飲んで答える。

 どうやらイタコ先生も“件”に関してはあまり詳細なことは知らないようで、分かったことと言えば竜になにか霊力のようなものがついているということだけだった。

 

 聞こえてきたイタコ先生とついなの会話を聞きながら竜は布団から起き上がる。

 意識を失っていたということだったが特に違和感を感じるようなこともなく、なんの問題もなさそうだ。

 

 

「あら、どうやら起きたようで・・・・・・あっついですわぁっ?!」

「あーもー、なにをしとるん・・・・・・あ」

「え・・・・・・」

 

 

 竜が起き上がった音が聞こえたのか、イタコ先生は手に持っていた湯飲みをテーブルの上に置こうとする。

 しかし竜が寝ているベッドの方を見ていたために手が滑ったのか湯飲みが倒れてしまい、中に入っていた熱いお茶を穿いているスカートの部分にこぼしてしまう。

 あまりの熱さにイタコ先生は驚いて声をあげ、慌ててやけどをしないように濡れたスカートに手をかけた。

 そんなイタコ先生の様子についなは呆れたような声をあげながら濡れているところを拭こうとハンカチを差し出す。

 

 そして、熱いお茶で濡れてやけどをしてしまわないようにイタコ先生がスカートを脱いだのと、竜がベッドの周囲にあるカーテンの中から出てきたのはほぼ同じタイミングだった。

 お茶の熱さのあまりに思わず反射的に行動してスカートを脱いでしまったイタコ先生と、カーテンから出た直後にスカートを脱いだイタコ先生の姿を見てしまった竜。

 2人はいきなりの状況に思わず固まってしまう。

 

 

「ちゅ、ちゅわぁああああああっっ?!?!」

「こーーんっ?!?!」

「ご、ごめんなさ――――――――へぶぅっ?!」

 

 

 2人が固まって数秒が経過し、ようやく状況を理解できたイタコ先生は悲鳴を上げながら自分の中からキツネを引っ張り出し、竜へと思い切り投げつけた。

 いきなり竜に向かって投げつけられたことにより、キツネも大きく悲鳴のような鳴き声をあげながら竜の顔面へと直撃する。

 イタコ先生のあられもない姿を見てしまった竜は謝ろうとし、直後に顔面にキツネを受けてしまう。

 竜の顔面へと投げつけられたキツネは不満そうではあったのだが、すぐに自分が竜の顔にぶつかったのだということに気がつくと、ひっしとしがみつく。

 

 そして、キツネが竜の顔面にはりついている間にイタコ先生は大慌てで買えの服を着るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第598話




エペなり配信なりをやっていると書く時間がなかなか取れないのが本当に辛いですねぇ

とくにエペはプラチナランクを踏みたいですしねぇ・・・・・・





 

 

 

 

 以前にも竜はイタコ先生のその黒い三角形のものを東北家のイタコ先生の部屋に落ちているのを見てしまったことはあったのだが、やはりと言うべきかなんというべきか黒い三角形の“ソレ”が落ちているのを見たのと、黒い三角形のものと肌色が合わさった状態のものとでは見てしまったときのインパクトが違い過ぎるのだ。

 以前のときは驚いて固まる程度で済んだのだが、今回のこれはそれ以上のインパクトだったために竜は脳内に3枚ほどその光景を保存したうえでバックアップの作成とパスワード付きのフォルダへの保存、並びに脳内印刷機による印刷もおこなってしまっていた。

 

 

「くーっ!」

「もががががががっっ?!?!」

「ちゅわわわわ・・・・・・」

 

 

 顔にキツネがはりつかれてしまい竜はどうにか引き離そうともがく。

 そんな竜の姿を見ながらイタコ先生は自身のあられもない姿を竜に見られてしまったことに対して頬を赤くして顔を隠してしまっていた。

 

 

「なんちゅうか、間が悪いなぁ・・・・・・。それともいまのも“件”の影響なんかなぁ?」

「むぐぐぐ・・・・・・。ぶはぁっ!はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

「こん?」

 

 

 竜とイタコ先生の様子を見ながらついなはポツリとつぶやく。

 先ほどイタコ先生から聞いたうっすらとした霊力のようなもの。

 それが影響して先ほどのようなことが起きたのではないかとついなは考えたのだ。

 ついなが考えていると、どうにか顔からキツネを引き剥がした竜が荒い息を吐きながら保健室のソファーに腰を下ろした。

 ちなみに引き剥がしたキツネはまた顔に張り付いてきても困るためにしっかりと腕の中に抱えて逃げられないようにしている。

 まぁ、竜に抱きかかえられている時点でキツネは機嫌がいいので特に暴れたりすることもないのだが。

 

 

「あー・・・・・・。ええっと、校門で気絶した自分が保健室に運ばれてきたってことで合ってます?」

「え、ええ。そうですわね」

 

 

イタコ先生の黒色と肌色を思い出してしまいながらも竜はイタコ先生に自分が保健室で寝ていた経緯を確認する。

 竜の言葉にイタコ先生は顔を赤くしながらもうなずいて肯定した。

 

 

「っと、そうでしたわ。公住くん、どこか体に違和感とかはありませんか?校門のことろでマキさんに叩かれて気を失ったと聞いたのですけど・・・・・・」

「違和感は・・・・・・、いまのところはないですね。たぶん後頭部をぶつけたような気はしましたけど・・・・・・」

 

 

 と、ここでイタコ先生は竜が気を失って運ばれてきたということを思い出して体に違和感などはないかを確認する。

 叩かれて意識を失うということはそれなりのダメージが身体に与えられたということ。

 それだけに後遺症などがあったりしないかをしっかりと確認しておかなければならないのだ。

 

 イタコ先生の言葉に竜は軽く体を動かし、いまのところは違和感などはないと答えた。

 

 

「そうですか?ですが、何かしら違和感などを感じましたらすぐに病院に行くようにしてくださいね?」

「わ、わかりました」

 

 

 念を押すイタコ先生の言葉に竜は少しだけ不安になりながらうなずいて応える。

 そして、いまのところは違和感などはないということで教室へと戻るために荷物を持ち、保健室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第599話




投稿が遅れてしまいましたぁ

書く暇がなかなか取れないんですよねぇ





 

 

 

 

 朝からいろいろとToLOVE(トラブ)るな出来事が起きていた竜だったがどうにか無事?に学校を終えることができていた。

 

 ちなみにどういったことが起きたのか一例を挙げると、大人の姿になったひめとみことに挟まれたり、曲がり角で偶然ぶつかってしまったささらのことを押し倒してしまってささらの胸に倒れ込んでしまったり、階段で足を踏み外してしまったつづみのことを受け止める際に抱き止めた結果、つづみのお腹と胸を触ってしまったり、落としてしまった生徒会の資料を集めているずん子のスカートがめくれてしまっていたことによってその中身を見てしまうことになったり、体育の授業で足を引っかけてしまい、ゆかりの胸に飛び込んで突き飛ばされ、突き飛ばされた勢いで茜と葵のむねに飛び込んでしまい、そこからさらに突き飛ばされてマキの胸に飛び込むことになったり、とこれでもまだ一部だというのになかなかに濃厚な事態が起こっていた。

 

 まぁ、そんなことが起こるたびに竜は代償としてどつかれたりしているので、竜の体力はゲームで言うところの瀕死のような状態となっていた。

 ちなみに、ひめとみこと、ずん子に関してはとくに叩いてきたりといったことはしてきていないので、竜の中では女神のように見えていたりする。

 

 

「つ、疲れた・・・・・・」

「制服はそこまで汚れとらんけどボロボロやねぇ・・・・・・」

 

 

 学校でなにかしら移動などをするだけで突き飛ばされたり叩かれたりするような一日だったためか竜は疲れ果てた表情になりながら家路につく。

 朝、家を出る時は帰り道になにか買った方が良いかと考えていたのだが、そんな余裕もないほどに竜は体力がなくなっていた。

 

 疲れてまるで亡者のような足取りの竜のことを支えながらついなは竜と一緒に歩く。

 その際についなは竜の身体を支えるために竜の腕を肩に回しているので竜の手が自身の胸に触れてしまっているのだが、仕方がないと言った様子でなにも言わずに竜のことを支えている。

 

 

「すまんな・・・・・・。ついなもポケットとかにいたから一緒に突き飛ばされたりしてただろうに・・・・・・」

「うちは直接は突き飛ばされとらんから大丈夫やで。にしても、ご主人がこんなになるなんてなんちゅう予言や・・・・・・」

 

 

 ついなに支えられて歩きながら竜はついなに謝る。

 

 竜が突き飛ばされるのは基本的に突発的に起こるため、ついなはポケットに居たり竜の頭の上にいたりと竜と一緒に突き飛ばされたりすることが多かった。

 体が小さい状態でそんなことになっていたのに帰り道も助けてくれているついなに竜は申し訳なく思ったのだ。

 

 竜の言葉についなは苦笑し、大丈夫だと答える。

 実際のところ、ついなの身体は基本的に重さなどの概念はなく、突き飛ばされたとしてもそこまでダメージを受けるようなことはないのだ。

 これはビルの屋上からアリが落ちたとしても死なないのと同じような理由で、体重という概念が少ない九十九神としての特権だろう。

 

 たった一日でここまでボロボロになった竜の姿についなは“件”に対して文句を言う。

 そもそもの原因として件が予言をしたから竜がこんな状態になってしまったので、ついなの怒りはもっとも?なのではないだろうか。

 

 まぁ、どちらにしてももう少しで一日は終わるのであと少しの辛抱だろう。

 

 

「あ、お兄ちゃん!」

「本当ですね。ですがどうしてこんなに疲れた様子なんでしょう?」

 

 

 あと少しの辛抱だと言ったな。

 

         ・・・・・・・・・・・・あれは嘘だ。

 

 学校が終わって2人で出かけていたのであろうきりたんとウナ。

 竜の姿を確認したウナは嬉しそうに、きりたんは竜の様子に不思議そうに首をかしげながら駆け寄ってくる。

 

 件の予言はまだ終わっていない。

 さすがに小学生を相手にそんなことが起こるとは思いたくはないのだが、それでもまだしばらくは気が抜けないことになるのは確定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










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第600話





かなり久々の更新となりましたー

いやはやⅤとして活動していると書く暇がなかったりで

とりあえずは今後もできる時に更新していきたいと思います。






 

 

 

 

 学校が終わって2人で遊んでいたのであろうきりたんとウナ。

 2人は早足で竜へと駆け寄ると、竜の両手をそれぞれ掴んだ。

 

 

「竜兄さまはいまからお帰りですか?」

「ああ、今日はいろいろとあって大変だったよ・・・・・・」

「そんなに大変なことがあったの?」

 

 

 きりたんの言葉に竜は学校であったことを思い出しながら疲れた様子で答える。

 あまりにも疲れた様子の竜にきりたんとウナは不思議そうに首をかしげる。

 

 まぁ、普通に生活していればただ学校に行くだけでこんなに疲れた様子になるような人間はまずいないだろうし、そもそもとして竜が今日の学校でどんなことになっていたかも知らないので、きりたんたちの反応も仕方がないことなのだろう。

 

 

「まぁな‥‥‥。“件”って妖怪は知ってるか?ちょっと今日はそれのせいでな‥‥‥」

「“件”というと‥‥‥、たしか予言を教えてくれる人面の動物でしたっけ?」

「教えてくれるってことはその“くだん”?っていうのは喋れるのか?」

「妖怪に関して調べようと思わない人からしたら不思議な生き物なんよねぇ」

 

 

 首をかしげながら尋ねるウナの頭を撫でながら竜は2人に“件”のことを知っているかを尋ねる。

 知っている人は知ってるのだろうが、一般的に妖怪などのカテゴリーのものは当然ながら興味がある人しか知らない。

 まぁ、興味があるからそういったカテゴリーのものを調べるのだからそれは当然のことなのだが。

 

 竜の言葉にきりたんは家の資料の中で見た覚えのある情報を思い出して確認する。

 そんなきりたんの言葉にウナはイメージがいまいち湧かないのか不思議そうな表情を浮かべながら尋ねた。

 まぁ、普通?の小学生が妖怪に関する知識などそうそう持っているはずもないのでウナの反応が一番自然なのかもしれないが。

 とはいっても妖怪をトモダチにして遊ぶゲームもあるのでその辺りは本当に人によるのかもしれない。

 

 

「そうそう。そんでその“件”に『今日は幸運有り、しかし幸運に対価有り、その身を削って幸運を得よ』とかなんとか言われてな。それで1日経過した結果が今の俺ってわけ」

「ふむふむ。聞いている限りでは『その身を削って』って部分以外はそこまで悪い予言とは思えないんですが‥‥‥」

「幸運って言われてるよなー。お兄ちゃんはどんな良いことがあったんだ?」

 

 

 きりたんの知っている“件”の説明がおおよそ間違っていないと竜は頷きながら今朝に言われた予言の内容をざっくりと答える。

 さすがに朝に一度だけ言われた予言の内容をハッキリとは覚えていられないのでざっくりとした説明になってしまったが、それでもおおよその意味は間違っていないだろう。

 

 竜の言った“件”の予言の内容を聞き、きりたんとウナは不思議そうに首をかしげる。

 聞いている限りでは今の竜のようにボロボロの姿になるような予言とはとても思えないのだ。

 まぁ、一部に不穏っぽい言い回しはあるのだが。

 

 

「良いことって言われてもなぁ‥‥‥。なんだかんだで叩かれたりしていたからプラスマイナスで言ったらマイナス寄りな気がするんだが‥‥‥」

「まぁ、たしかに攻撃は多かったもんなぁ‥‥‥」

「叩かれたり‥‥‥?」

 

 

 今日あった出来事を小学生に言っても良いものかと竜は悩み、詳細を言わないままに自分が思ったことを答える。

 竜が詳細を言わなかった理由についなも困ったように頬を掻きながら同意した。

 

 竜の言った叩かれたという言葉とついなの言う攻撃という言葉にきりたんは困惑する。

 

 どう考えても予言の内容とかみ合わない竜の説明にきりたんは顎に手を当てて思考し始めた。

 

 予言の内容はどう考えても良いこと寄りの内容のはず。

 であればポイントとなるのは『その身を削って』という一文。

 ということは良いことを得た対価として叩かれるなどの攻撃を受けたのではないか?

 では幸運を得て攻撃を受けるとはどういった状況なのか‥‥‥

 

 そこまで思考してきりたんは答えに行きついた。

 

 

「なるほど‥‥‥、竜兄さま。あなたの今日の予言の内容が分かりました」

「本当か!」

「すごいぞ!とーほく は よげんの ないよう を きちんと りかい しているんだな!」

「‥‥‥なんでいきなりポケモンなん?」

 

 

 ズビシィ!とまるで探偵漫画の探偵が犯人を追い詰めるかのように竜のことを指さしながらきりたんは言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第601話



かなり久々の投稿をしてみるー

いやぁ、やっぱり続きを楽しみにしているという感想がくると時間がなくても書いてしまいますよねぇ





 

 

 

 

 ズビシィ!と探偵漫画の主人公化のようにポーズを決めながらきりたんは竜に今日一日の予言の内容が分かったという。

 まぁ、すでに夕方でいまさら予言の内容を知ったとしても意味はないのかもしれないのだが‥‥‥。

 

 

「それで、朝の予言の内容はどういう意味だったんだ?」

「そうですね。その前に確認なんですが‥‥‥、竜兄さまがボロボロなのは、こう、下着とかを見ちゃったりしたからですか?」

「うぐ‥‥‥、まぁ、そうだが‥‥‥」

 

 

 竜の質問に答える前にきりたんは確認するように竜に尋ねる。

 きりたんの言葉に竜は少しだけ答えにくそうにしながらもうなずいた。

 この辺りは誤魔化しても意味はないだろうと考えたので観念した形だ。

 

 

「お兄ちゃん、それはダメなことだと思うぞー?」

「いや、俺もそれは分かってるんだよ‥‥‥」

 

 

 竜が誰かの下着などを見たのだということを聞き、ウナはぷっくりと可愛らしく頬を膨らませて注意をする。

 竜自身もそれが悪いことだと分かっているだけにガクリと肩を落としながら答えていた。

 

 そんな竜の様子にきりたんはやはりと言った様子で納得したようにうなずいていた。

 

 

「やはりそうでしたか。幸運の代価としてボロボロになっているということはそんな姿になってしまいそうな行動が幸運だということ。このことから推測したのですがあっていたようですね」

「‥‥‥とは言うが俺にとってはぜんぜん幸運でもなんでもないぞ?申し訳ないとしか思えないし、見ようと思って見たわけでもないのに叩かれたりするんだから‥‥‥」

「それは竜兄さまにとってはでしょう?世間一般的な男の人にとっては嬉しいものなんですよ」

 

 

 きりたんの説明に竜は納得がいかないのか首をかしげながら答える。

 

 まぁ、竜からしてみれば見たりするつもりもなかったものをいきなり見ることになったうえで理不尽に叩かれている感覚なのでそう思っても仕方がないのだろう。

 とはいっても結局は見てしまっていることに変わりはないので叩かれたりしても仕方がないのだが。

 

 

「はぁ‥‥‥、いっそのこと学校を休んどけばよかったんかねぇ‥‥‥」

「たぶんあんまり意味ないと思いますよ?むしろ悪化する可能性も‥‥‥」

 

 

 ため息を吐きながら竜は予言を聞いてから学校を休めばよかったのかと肩を落とす。

 少なくとも学校を休んでしまえばついな以外の人間に会うこともほぼないはずなのでラッキースケベも起こらないはずなのだから。

 とはいってもその代わりについなに対してのラッキースケベの比率が増える可能性もあるのだが。

 

 そんな竜の言葉にきりたんは少しだけ考えるように顎に指を当てて答える。

 

 

「‥‥‥悪化するってどういうことなん?」

「ああいえ、あくまで可能性の話なんですが‥‥‥。いろんな人に予言の効果が分散しているからこの程度で済んでいたのであって、誰にも会わずにいたら溜まりに溜まった予言の効果がピンポイントで起こったんじゃないかなぁ、と」

 

 

 きりたんの言う「悪化する」という言葉についなは恐る恐るといった様子で尋ねる。

 

 学校を休んで家にいれば他の人と出会うこともないのだからラッキースケベもほぼほぼ起こることはないのではないか。

 起こるにしても一緒にいる自分に起こるだけだろう、というのがついなの考えだったのだ。

 

 ついなの疑問にきりたんは学校を休んだ場合に起こり得そうな可能性を口にした。

 

 

「えー‥‥‥っと、ようは今日のやつが全部1人に収束する‥‥‥と?」

「推測ですけどね。そうですね‥‥‥、最終的には〝ファイナルフュージョン〟でもしちゃってたんじゃないですかね?」

 

 

 きりたんの言う推測に竜はもしも休んでいた場合にあり得たかもしれないことにガクリと肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第602話





また更新の期間が開いてしまいましたねぇ




 

 

 

 

 腹パン(弱)し(メスガキ)たいこの笑顔(スマイル)を浮かべながら親指と人差指で輪っかを意味深に作り、人差し指をその近くで立たせるきりたんの姿に竜はガクリと肩を落とす。

 外に出れば複数人に被害が行き、外に出なかった場合には1人に全ての被害が行く。

 どちらを選んだとしても良い結果にはなっていなかったという結果に竜は深く溜め息を吐いた。

 

 ちなみに、きりたんが意味深に笑顔を浮かべながら指で10を作っている姿を見て竹刀袋を肩にかけた男子高校生が反応を示していたりしたのだが、近くにいた女子高校生によって腹部に重い一撃を叩き込まれた後に顎を的確に打ち抜く拳によって地に伏せられていたりしたが竜たちが気付くことはなかった。

 

 

「ファイナルフュージョン……?」

「ウナは気にしなくていいことだからなー」

 

 

 きりたんの言った〝ファイナルフュージョン〟という言葉の意味が分からないウナは不思議そうに首をかしげる。

 まぁ、ロボット系のアニメを見なければ大まかな意味は分からないだろうし、ウナはそういったアニメはほぼほぼ見ることはないのでそれらの知識に関してはそこまで多くはないのだ。

 

 首をかしげるウナの様子に竜はウナの頭を撫でながらそれ以上考えないようにと言うのだった。

 

 

「まぁ、もう今日はほぼほぼ出きっているとは思うのでもう気にしなくてもいいんじゃないですか?」

「そうだと助かるんだがなぁ……」

 

 

 すでに時刻も夕方の位。

 

 学校で多数のラッキースケベを起こしていたこともあってそうそうラッキースケベが起こることはないのではないかというのがきりたんの考えだ。

 とはいってもそれはきりたんの考えであるため、絶対にそうであるという確証はないことから竜はもう一度深くため息を吐くのだった。

 

 

「そういえばなんか新しいゲームとか見つけたか?」

「そうですねぇ……、ARKの新作だったりとかですかねぇ」

「ARKってたしか恐竜を捕まえるやつだっけ?」

 

 

 気を取り直して家へと向かう道を歩きながら竜はきりたんに尋ねる。

 竜の言葉にきりたんは少しだけ考えて最近やっているゲームを挙げた。

 

 きりたんの挙げたゲーム、ARKの新作というのはおそらくは“ARK Survival Ascended”のことだろう。

 首をかしげながらウナは少しだけきりたんから聞いたことのあるゲームの内容を口にする。

 

 

「そうですそうです。けっこういろいろな恐竜もいてテイムするだけでもかなり楽しいんですよ。トリケラトプスやステゴサウルスなんかの有名どころはもちろんのこと、オヴィラプトルだったりパラケラテリウムっていうのもいて」

「へー、そんなにいろいろな恐竜がいるのか」

「やっぱりティラノサウルスとかもいるのかなぁ?」

 

 

 ウナの言葉にきりたんは頷きながらARKの説明を始める。

 止まらないきりたんの説明を話半分に聞きながら竜はARKに実装されている恐竜の多さに少しだけ驚いていた。

 意図的なのかは不明だがなぜか恐竜といえばで真っ先に挙がりそうなティラノサウルスの名前が出てこなかったのでティラノサウルスも出てくるのかとウナは気になっていた。

 

 

「まぁ、それをやるにしても値段次第かなぁ……」

「なんだったら私が買いましょうか?スパチャがかなり入っているので全然買えますけど?」

「おお、ひもってやつだなー?」

「年下の子に買ってもらうのとかかなり申し訳ないから遠慮しとくよ」

 

 

 マキの家でバイトをしているとはいえ竜にそこまで金銭に余裕があるわけではない。

 興味の湧くゲームではなるのだが値段次第では買うことを断念しなくてはならないだろう。

 

 そんな竜の様子にきりたんは自分が代わりに買おうかと提案をする。

 知っての通りきりたんはライブ配信などをやっているためにスパチャによってなかなかの金額の預金があるのだ。

 そのため竜にゲームを買うことくらい全然問題がないのだ。

 

 きりたんの提案を聞き、ウナは最近ドラマで知った言葉を口にする。

 ウナの言葉に竜は苦笑しながらきりたんの申し出を断るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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