『完結』(番外あり)ロクでなし魔術講師と帝国軍魔導騎士長エルレイ (エクソダス)
しおりを挟む

コラボ
集団コラボ 募集終了


エルレイ「たくさんコラボしたい」

 

エザリー「え?どうしたの急に…」

 

エルレイ「だめ?」

 

エザリー「いや、そもそもさ…どうゆう意味?」

 

 

エルレイ「参加者募る」

 

エザリー「うん」

 

エルレイ「同時にコラボ」

 

エザリー「同時?!?!」

 

エルレイ「だめ?」

 

エザリー「いや、ツッコミどころが多すぎて、どこから…」

 

エルレイ「某作品に、そんなのあったからやりたい」

 

エザリー「それ原作自体も別ぅ!パクるの?!」

 

エルレイ「だめ?」

 

エザリー「うーん…これは………」

 

エルレイ「きっと楽しい」

 

エザリー「というか、多人数でどうやってやるの?」

 

エルレイ「ブラウザで起動する。メッセージアプリでやる」

 

エザリー「ふむぅ……設定的な意味で同時はきつそう…」

 

エルレイ「夢オチにすれば問題ない」

 

エザリー「そこは適当?!?!」

 

エルレイ「ね?」

 

エザリー「うーん……わかった。とりあえずダメ元でやってみよう」

 

エルレイ「わーい」

 

 

 

─────

 

 と言う訳エザリーです。

うちの子が変なことを言い始めたのでダメ元で実行します。

……まぁ集まるかどうかわかりませんけどね(笑)

 

とりあえずリィエルの話を要約するとこんな感じです。

 

 

 

 

1、ストーリー

 

 コラボキャラを集まって、異世界の誰もいないアルザーノ魔術学院に閉じ込められます。そこから脱出を目指すというコンセプトらしいです。

 でも殺伐としたやつじゃ無いですよ?原作の追走日誌見たいな空気感でやりたいらしいです。

 

 

 

 

2、コラボキャラについて。

 

前提としてロクでなし魔術講師と禁忌教典の二次創作のキャラでお願いします。

 そして、できればその作品の主人公で…って言ってました。

 基本的に一作品一人でと。複数も検討します。

 

 

 

3、時期

 

 参加者次第ですが、早くて12月頃になるかと思われます。勿論参加者が居なかったら白紙になりますけど。

 

 

 

 

4、やり方

 

先程も少し話したように、ブラウザでできるメッセージアプリがありますので、それを使ってセリフを投げ合う…、というTRPG的な感じになると思います。

 

 

 

5、参加方法

 

 作者にメッセージ、それか感想に『作品の題名』と『出すキャラ』を教えていただければ、それだけで参加決定です。

 

 

──────

 

…とりあえずこんな所ですかね…。

何か質問のある方は教えていただけると幸いです。

 初めての行いなので、実際本当にどうなるか分かりませんが…、とりあえず提案だけならタダですからね。

 12月頃は早かったらなので、いつになるか、無くなるか分かりません。まぁ無くなってもうちのリィエルが泣くだけですしね(笑)

 

お遊び的なものなので、興味のある方は是非ご参加下さい。

 

以上、エルザこと、エザリーでした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

集団コラボ 現状報告

エルレイ(大人リィエル)「コラボ現状報告、わー、」(ぱちぱち)

 

エザリー(エルザ)「はいはい、結局何人集まったの?」

 

エルレイ「私含めて、6人」

 

エザリー「え?」

 

エルレイ「6人」

 

エザリー「え、多くない?割とマジで」

 

エルレイ「うん、いっぱい集まった。今から参加表明してくれた人、紹介」

 

 

────

 

 

 

アステカのキャスター様作

『バッドエンドから来た二人の娘』

 

フィール

 

 

ゼロワンシャイニングバード様作

『ロクでなし物理学者と禁忌教典』

 

ライト

 

 

自宅ニート様作

『危険なポーター』

 

エルソー

 

 

ポン酢和え様作

『ロクでなし魔術講師と赤毛の剣聖』

 

ユウキ

 

 

トラバサミ様作

『ロクでなしに憑依した』

 

 

憑依グレン

 

 

 

 

────

 

エルレイ「そして私、エルレイを含めて、6人」

 

エザリー「うわ……」

 

エルレイ「?」

 

エザリー「いくら払ったの?!」

 

エルレイ「お金回してないよ?」

 

エザリー「いやだって……!」

 

エルレイ「数人要請したけど」

 

エザリー「良く皆さん断らなかったね?!ありがとうございます!!」

 

エルレイ「エルザが、キャラ崩壊ナウ」

 

エザリー「誰のせい!?」

 

エルレイ「ま、いいや。問題ここから」

 

エザリー「え?何かあった?」

 

エルレイ「流石に多くなった。待たせる、気が引ける。からやる時期、早める」

 

エザリー「あー、うん。良いんじゃない?」

 

エルレイ「でも、早くても12月って告知、した」

 

エザリー「まぁ、そうだね」

 

エルレイ「だから。とりあえず相談し易い、フィーちゃんとライ君に、相談

12月がいいか、8月か」

 

エザリー「……うん、なんか嫌な予感する」

 

 

 

エルレイ「見 事 に 割 れ た」

 

エザリー「やっぱり?!」

 

エルレイ「ん、だから他の人にも聞いて、8月が多かったから。8月になる、と思う」

 

エザリー「……そっか」

 

エルレイ「……まじごめん。12月の方が良いって言ってくれた人。名前伏せるけど」

 

エザリー「あはは……、とにかく。こんなに承諾してくれる人がいるとは、かなり作者も戸惑っています。承諾してくれた方!本当にありがとうございます!」

 

エルレイ「とにかく、これを見ている人は。上記の作品を見に行く。行かなければ……死」

 

 

 

 

 

──────

 

はい、またまたエザリーです。

今回、参加される皆様にお知らせです。

先程、皆様のメッセージに注意事項と同時に、コラボ会場のURLを送りましたので、ご活用ください。

 いや~、なんか思い付きのリィエルの発言だったのに、集まるとは……、本当に皆様には頭が上がりません!!

 ……コラボの運営頑張らなくちゃ(白目)

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仮面ライダービルド、ライトとの出会い。

まだ別のコラボも本編も書ききれてないけど、ロクアカ×ビルドのゼロワンシャイニングバードさんとコラボだぜイェア!!!

エルレイ「出すの遅すぎ、死」

えちょ…ま(殴)


エルレイ「ん…ふぁ…あ…」

 

リィエルの短期留学が無事に終わり、エルレイは安堵しながらセラの家の前で背伸びをしていた。

 

エルレイ「システィーナにも会えたし、悪くない収穫」

 

そう言いながら、エルレイはポストを確認した。特に何もなし。

 

エルレイ「さて、そろそろ準備しないと」

 

今日は、リィエルの留学終了記念、そしてエルレイの退職騒動のお詫びもかねて、エルレイのお金でどんちゃんしようぜ★ということで、出かける予定だ。セラはもう出て行ったらしい、姿が見えない。

 

エルレイ「やっと…羽が伸ばせる…。ゆっくり英気を養わない──」

 

そういいながら、エルレイは見渡すと、見た。いや見えてしまった。

 

 

ライト「……」

 

玄 関 前 で 倒 れ て い る 少 年 の  姿 を。

 

エルレイ「……はぁ、なんでこうも面倒が………」

 

エルレイはため息をつきながら、その少年を抱えて自分の部屋まで運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライトが目が覚めるとそこは見慣れない所だった。

机や椅子があり、机の前には写真が飾られている。ライトはどうやらベッドに寝かされているようだ。

 

ライト「...........どこだ? ここ」

 

 

 

ゆっくりと体を起こし、周りを見る。

なぜ自分はこのような場所にいるのだろうか。

 

エルレイ「・・・ん、目が覚めた?」

 

少し困惑していると、隣に女性がいることに気付いた。

その女性は青髪でアホ毛が少し目立つ魔導士礼服のような服を着ている20代くらいの女性だった。

 

エルレイ「大丈夫?どこも打ってない?」

 

心配そうな声で女性は聞いてきた。

 

しかしその女性は…なんとなくだが…ある少女に似ている気がした。 

 

ライト「.....リィエル?」

 

思わずライトがつぶやく。

その女性は、ライトの古い知り合いのリィエルに似ていた。

まるで、リィエルがそのまま10年程成長したような姿だ。そこで、ライトはその女性に聞いてみることにした。

 

ライト「えぇと......どちら様ですか?」

 

エルレイ「……またその名を…」

 

その女性は少しため息をついたように見えが、すぐにライトの元に向き直る。

 

エルレイ「私は、エルレイ、リィエル・レイフォードの…保護者…かな?」

 

そう言いながらエルレイと名乗る女性は苦笑いをした。

 

ライト「......リィエルの保護者?」

 

ライトはその言葉に疑問を覚える。

アルベルトから、リィエルは何かしらの計画によって作られた人造人間と聞いている。

そのことについて詳しく聞いたわけではないが、目の前の人物が嘘をついていることは明白だ。

 

ライト「あぁ。リィエルの保護者さんですか。僕は、ライト=シュラウザー。リィエルの古い友人......ですかね」

 

だが、あえてライトは気づかないフリをした。

エルレイが味方であるという保証はどこにもない。ひとまずは様子を見ることにしよう。

 

エルレイ「…ま、警戒するのも無理ないね」

 

そういいながらエルレイは頭を掻いた。まるでライトの心中が見えているかのように、的確に警戒しているのを見抜いてきた。

 

エルレイ「まあ、いいや、ご飯は食べれる?」

 

そういうとエルレイは片手にサンドイッチをもって、ライトに差し出す。

 

ライト「....お見通しってわけですか」

 

バレた以上、隠す意味はないだろう。

警戒を解かないまま、ライトはビルドフォンを取り出し、サンドイッチに特殊な光を当てる。

しばらくすると、画面に『safe(安全)』の文字が現れる。

 

ライト「......毒や薬の類は入ってないみたいですね」

 

安心すると、サンドイッチを一切れだけ口に放り込んだ。

口中にイチゴジャムの甘い味が広がる。

正直、腹が減っていたので助かった。

 

エルレイ「それって…ビルドフォン?」

 

エルレイは少し驚いた表情を見せる。

 

エルレイ「それにシュラウザー…もしかして君、ビルデネアの出身?」

 

ライト「.....ッ!?」

 

ビルデネア、という名を口にしたエルレイを驚愕の表情で見つめる。

 

ライト「なんでその名前を....?」

 

そして、ある1つの考えが浮かぶ。

リィエルを知っていて、ビルデネアのことまで知っている。

そんなことを知っているのは、天の智慧研究会のメンバーしかいないはずだ。

そう考えると、ライトは素早くビルドフォンからドリルクラッシャーを転送し、エルレイの喉元へ突き出す。

 

エルレイ「…ごめん、混乱させちゃったね」

 

そう言いながらエルレイはドリルクラッシャーを優しく触る。

 

エルレイ「ちゃんと本当の事を話すよ、落ち着いて聞いてね」

 

エルレイは覚悟を決めたように目を鋭くさせた。

 

エルレイ「私はリィエル・レイフォード、ちょっと先の未来の…ね、そしてここは…゛君の知る世界じゃない ゛」

 

ライト「........未来とか、君の知る世界じゃないとか、簡単に信じられると思うか?」

 

ライトはドリルクラッシャーを突きつけたまま、語調を荒くしてエルレイに問う。

 

エルレイ「もっとも、だから信じろなんて言わない」

 

そう言いながらエルレイは、いちごタルトを差し出した。

 

エルレイ「だから君は、私の首を今すぐ斬っても構わない、少しでも信じてくれるなら……私の話を最後まで聞いて?」

 

ライト「.........」

 

ライトは大人しく剣を下ろした。

信用した訳では無いが、エルレイからは敵意を感じなかった。

 

ライト「......わかりました。話を続けてください」

 

そう言い、ライトはベッドに座り込む。

 

エルレイ「…ありがとう」

 

エルレイはそう言いながら一礼をした。

 

エルレイ「順番に問に答えるよ、まず私が、リィエルだという証明…」

 

そういうとエルレイはがさごそとポケットを弄る…、そして数秒後。

 

(あ……、やばい。そういえばタロットカード)

 

エルレイ「あっ……そうだ、あの子に渡しちゃったんだ…」

 

そう言いながらエルレイはため息をついた。そしてエルレイは、苦笑い混じりに聞いてくる。

 

エルレイ「リィエルの証明…錬金でいい?」

 

ライト「.....まぁ、いいですけど」

 

脂汗を垂らしながら答える。

 

ライト「...それと、なんでビルデネアのことを知っているのかも教えてもらっていいですか?」

 

エルレイ「ん、《万象に希う・我が腕手に・剛毅なる刃を》」

 

 

 

ドンっつ!!エルレイ詠唱した後が地面を殴って辺り一帯に紫電が走る。

 

次の瞬間。

 

 

エルレイの手に大きなクロスクレイモアの大剣が出現した。

 

エルレイ「私は特務分室時代、ある奴らがキッカケで、ビルデネアの警護をしていた事があってね、それで君の名前が、ある科学者の夫妻と同じだったから、もしかしたらと」

 

ライト「......本当にリィエルなんだな」

 

 

エルレイが握っている大剣を見つめて、そう言う。

リィエルとわかった以上は敬語を使う必要はないだろう。

 

ライト「......俺の父さんと母さんを知っているのか?」

 

期待を込めた目つきで、ライトはエルレイに問う。

 

エルレイ「……」

 

 

 

 

 

 

 

──────

 

 『…悪いことは言いません、極秘に廃棄すべきです、我々に渡すべきでは…ない』

 

 『ごもっとも、確かにこの機密事項は帝国軍には渡してはいけないものでしょう。しかし、リィエルさん。貴方なら』

 

『…』

 

『我々を救い、我々を理解してくださった貴方なら、これを正しく扱えると信じております』

 

この()()()()()()()()を正しく使う…か。

 

 

─────

 

 

 

 

エルレイ「やっぱり…君はあの二人…」

 

エルレイは自分がリィエルだと理解してくれたことを確認し、武器を消失させる。

 

エルレイ「ん、知ってる、かなりお世話になった二人だからね」

 

ライト「.......ってことは、この世界の俺のことも知っているんですか?」

 

ライトは両親と一緒にいて、科学の研究をずっと見ていた。

ならば、ライトのことも知っているはずだが......。

 

エルレイ「ごめん、その答えはのー」

 

エルレイは少しうつむいた。

 

エルレイ「確かに私は、君の両親であろう人を知ってる、けど君は知らない」

 

エルレイはそう言いながらいちごタルトを頬張った。

 

エルレイ「つまり私は、君の両親はいたけど君自身はいない世界にいた…というわけ」

 

ライト「.......そうか」

 

ここは、エルレイの言う通り、ライトが生まれなかった世界線なのだろう。

つまり、ここは仮面ライダービルドが存在しない世界という事だ。

 

ライト「じゃあ、スマッシュのことは知ってるか? .....人間がネビュラガスを吸って変化する怪物なんだけど......」

 

エルレイ「知ってる、私の世界で、天の智慧研究会という組織が目をつけたProject:Revive lifeの代用品…」

 

エルレイは少し悔しそうに唇をかんだ。

 

ライト「.......そうなのか」

 

やはりこの世界にもスマッシュはいるのだ。

だが、この世界にはビルドは存在しない。

もしかすると、ライトがいた世界よりも酷い状況なのかもしれない。

 

ライト「そういえば、2年前の事件は....? ビルデネアが襲撃されて、父さんはどうなったんだ.....?」

 

ライトは悲痛な曇りを帯びた顔をし、エルレイを見つめる。

 

エルレイ「それはビルデネア襲撃事件の事…だね」

 

そう言いながらエルレイは何故か微笑んだ。

 

エルレイ「君のお父さんは無事、どうにか助けれた。ま、ライダーシステムの研究データはその事件がきっかけで完全に抹消することになったけどね」

 

ライト「....そっか。それならよかった」

 

 

その言葉を聞き、ライトは安堵するように息を吐いた。

 

エルレイ「それで、わるいけどこっちからも質問…いい?」

 

ライト「あぁ、なんでも聞いてくれ」

 

エルレイ「どうして君は……」

 

prrrrrrr!!!

 

エルレイ「ん?ちょっとごめん」

 

 

急に大きな音が鳴り、ライトはビクッ、と体を震わせてしまった。

電話を取りに行くエルレイを呆然と見送ると、自分のポケットを漁り始めた。

 

ライト「......ビルドドライバーはある。ラビット.....タンク....ゴリラ.....ダイヤモンド.....」

 

と、ぶつぶつと呟きながら、ボトルを取り出して現在の戦力を確認したが、無くなっているフルボトルは.......ない。

 

 

エルレイ「もしもし.........システィーナ、お出かけはまだ時間があるハズ...ん? うんうん...はあ...わかった」

 

 

 

そんな声が聞こえたと思ったら、足早にエルレイはこの部屋に戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

エルレイ「質問は後でする、今からここが別世界の証明してあげる、ついておいで」

 

 

 

ライト「あぁ、わかった」

 

 

そう言うと、ライトはビルドドライバーとフルボトルをしまい、エルレイの後について行く。

 

──────

 

ライトが連れていかれたのは近くの公園であった、ブランコや滑り台が並ぶ中、ベンチで座っている見知った人物三人。

 

システィーナ「あ、エルレイ先生!」

 

リィエル「ねえね、おはよ」

 

ルミア「おはようございます、エルレイ先生」

 

全員私服姿のシスティーナ、リィエル、ルミアと。

 

セラ「…」

 

グレン「…」

 

なぜか砂場の真ん中で睨みを聞かせている、グレンと、そして銀髪の緑のリボンを付けた、見知らぬ女性がいた。

 

ライト「..........」

 

エルレイの聞いた話通りならば、目の前にいるシスティーナやルミア、グレンはこの世界の住人のようだ。

だが、ライトがいる世界とは少々状況が違った。

まず、システィーナやルミアと一緒にいるリィエル。

なぜリィエルが今ここにいるのだろうか。しかも、前よりいささか雰囲気が緩和している。

 

 

(しかも、エルレイのことをねぇねって呼んでるのか....)

 

 

エルレイが未来の自分だと知っているのだろうか。

まぁ、まだそれはいい。.....問題はグレンの隣にいる人だ。

美しい銀髪にリボンを付けた、グレンと同じぐらいの年齢の女性。ライトの世界の学院にはこんな人はいなかったし、まずライト自身がこの人のことを知らない。

そこで、エルレイに聞いてみることにした。

 

ライト「.....なぁ、あそこの銀髪の人って誰なんだ?」

 

エルレイ「彼女はセラ、執行官《女帝》の、元特務分室だよ」

 

エルレイは小声で、ライトの問いに答えた、そうしているとシスティーナはライトに気付いたようだ、じっとライトのほうを見つめてくる。

 

システィーナ「‥‥エルレイ先生、この方は?」

 

エルレイ「話はあと、まずは喧嘩を止めないと」

 

エルレイはそう言いながらグレンたちのほうに目を向けた、二人ともどこか緊張した様子で、いつにもましてヤバイ、喧嘩するぞっ!というオーラが漂って来る…早く止めなくては───

 

グレン「だっかっらっ!!!最強はなんだかんだ言ってラッキースケベ♡的な展開だと言っておろうが!!なんっで!!エルレイの百合が最高♡見てえな言い方してんだよ!?突然のエルレイの女の子的悲鳴に心が躍らなかったお前じゃないだろう!?」

 

 

セラ「そういう時にちょっとぐっと来るのは認めるよ?!ウン認めるっ!!!!!でもレイちゃんがリィエルちゃんを抱きしめてる時にグッとくるのも事実!!グレン君だってそうでしょ?!?!」

 

グレン「がぁぁ!!!!!!」

 

 

ライト(なんなんだこの人達は......)

 

確かにグレンであることは間違い無いのだが、ライトの世界のグレンより、なんというか......変態に近づいている気がする。

謎の話題で喧嘩するグレンとセラをジト目で見ながら、ライトは脂汗を垂らしながら、システィーナの質問に答える。

 

ライト「...あぁ、俺はライト=シュラウザー。.....まぁ、エルレイの友人.....かな」

 

ルミア「‥‥友人…ですか」

 

何か思うところがあったのか、ルミアはじっとライトを見つめる。

 

エルレイ「まあ、あんまり、気にしないで、はい、いちごタルト」

 

リィエル「わぁい」

 

ルミアに渡していたはずなのになぜかリィエルが手に取とり、サクサクと食べ始める。

 

ルミア「…もしかして、未来の…人?」

 

エルレイ「だから、あんまり気にしないでってば」

 

エルレイはため息を付きながらなぜか、少し顔を赤くしている。

すると、また砂場からグレンとセラの叫び声が聞こえる。

 

セラ「ああもうっ!!めんどくさいなぁ!レイちゃん最高だぜイェェアァ!!それでイイでしょ?!」

 

グレン「レイちゃん最高だぜイェェアァ!!なのは一応認めるっ!認めるけどなぁ!!」

 

その喧嘩を聞き、またエルレイの顔がもっと朱色に染まる、どうやら、赤くなっているのはあの喧嘩が原因のようだ。

 

 

ライト「えぇと.......とりあえずうるさいのでそろそろ終わってくれません?」

 

そう言って、ライトは喧嘩をしている2人の間に入り込んだ。

 

ライト「ほら、エルレイも困ってますし」

 

頬を赤くしているエルレイを流し見ながら言う。

 

グレン「あ?誰だよお前?エルレイのこれか?」

 

そう言いながらグレンは親指を立てた。

 

ライト「.....違います」

 

軽くイラッとしたライトは、ゴリラフルボトルを見えないように手に持ち、逆の手でグレンの親指を掴んでグリッと曲げた。

 

グレン「あ゛あ゛あ゛あ゛あいでででででっ!!!」

 

(さ、さりげなくひどい)

 

エルレイは横目でゴリラフルボトルを見ながら苦笑い気味にそう思った。

 

 

ルミア「エルレイ先生の知り合いらしいですよ?」

 

セラ「へえ…じゃあこれなわけじゃないんだね」

 

セラも親指を立てた。

 

ライト「そういうわけないですって。本当にただの友人ですよ」

 

そう言いながら、ライトはようやくグレンの親指を解放した。

 

エルレイ「そ、友人、深い関係じゃない」

 

エルレイはそういいながらコホンと。咳払いをした、どうやら少し落ち着いたようだ、顔が元通りになっている。

 

リィエル「?深い関係じゃないの?」

 

 

リィエルはキョトンと首をかしげる。

 

 

エルレイ「そ、そもそも私、婚約者いるし」

 

システィーナ「あ、婚約者いたんですね、エルレイ先生・・・ってえ?」

 

ルミア「まあ、エルレイ先生美人ですし、そりゃあ恋人の一人や二・・・ってえ?」

 

セラ「そうだよね!!そもそも婚約者・・・・え?」

 

グレン「そうか、お前は玉の輿に乗ってたのか此畜生が・・・・え?」

 

ライト「……え?」

 

リィエル「?」

 

 

全員数秒沈黙した後‥‥。

 

「「「「「えええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇっっっ!!!!」」」」」

 

 

エルレイ、つまり未来のリィエル=レイフォードが婚約しているとは思わず、全員公園という公共施設で絶叫した。

 

(………え?そこまで驚く?)

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フィールとの出会い

少し遅れましたがコラボです!!

アステカさん!本当にありがとうございました!!

内容は同じですが最後がちょっと、違います


フィール「疲れた……」

 

 

 帝国宮廷魔導師団としての仕事が終わり、フィールはセラの家に帰ろうとしていた。鬼畜上司イヴのせいで色々と疲れが溜まって仕方がない。学生をしながら宮廷魔導師団としての仕事、今回は軽い調査だったがそれでも時間がかかった。

 

 

フィール「……あの女狐、いつか殺す」

 

 

 少し漏れ出る殺気を抑え込み、ポストを開ける。

 いつも大したものは入っていない。光熱費やらの手紙が多いが、そこには何故かフィール宛の一通の手紙が入っていた。

 

 

フィール「…………?」

 

 

 この世界にフィールに手紙を届ける程、仲のいい人間は居ない。

 罠か注意して調べても魔術の形跡はない。どうやら大した内容ではなさそうだ。そう思っていたが、手紙にはこう書かれていた。

 

 

『未来から来た2人の娘さんへ』

 

 

 その内容に目を見開いた。

 宛先は書いておらず、ただ名前とその言葉だけが書かれていた。

 

 

フィール「っっ……!? まさか……『天の知恵研究会』……いや、魔術の形跡はないし、どうやってそれを知った?」

 

 

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。

 どの道、魔術的罠や、呪術的罠は存在しない。念の為、【トライ・レジスト】を付与して手紙を開ける。

 

 

フィール「なっ……!?」

 

 

 開いた手紙が突如、光だして輝き始めた。

 そして次の瞬間、フィールはセラの家の前から姿を消していた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 私は未来から来た人形だ……だからこそこれから起こることは知っているし、誰が誰でどんな人間がどんな行動をするのかも理解している、そう、基本的にはその筈なのだが……

 

 

フィール「…………」

 

エルレイ「学園の前に、知らない学院の制服を着た少女がいる時は……どうすればいいか……」

 

 とりあえずエルレイはその女の子を担いで医務室へと足早に向かった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

フィール「…………っ……」

 

 

 目が覚めるとそこは知らない天井だった。消毒液や薬品の匂い、白いベッドにフィールは寝かされていた。宮廷魔導師団のコートは脱がされて白いワイシャツになっている。近くに立て掛けてあるコートのポケットに入ってる物を確認する。

 

 

フィール「【女帝の世界】起動のブラックストーンと、『愚者のアルカナ』はある……隠しナイフもあるし」

 

 

 警戒心が薄いのか、助けられたのか分からないが、敵意はこの部屋の何処からも感じ無さそうだ。縄に縛られてるわけでもないし、フィールは安堵のため息をついた。

 

 

フィール「……誰か来る」

 

 

 保健室のような扉から気配が近づいてくる。

 念の為袖にナイフを隠し、扉が開くのを待った。敵意は無さそうだが油断は出来ない。だが、その扉が開いた時、フィールは驚愕していた。

 

 

エルレイ「思ったより、起きるの早かったね」

 

 

 扉が開いた先にいたのは青髪でアホ毛が少し目立つ魔導士礼服のような服を着ている20代くらいの女性だった。

 

 

エルレイ「気分はど? 悪くなってない?」

 

 

 その女性はいつの間にか持っていた水筒をコップに移し、フィールに差し出す。

 

 

エルレイ「君は誰? どこのクラス?」

フィール「リィ……エル……?」

 

 

 フィールは驚愕を隠せずにいた。そこにいたのは未来では量産兵、あの世界では同僚、帝国宮廷魔導師団の《戦車》として一緒に戦うリィエルと瓜二つの姿をした女性がいた。

 

 

フィール「いや、でも性格が少し大人びて……」

 

 

 その言葉に何故知っていると言わんばかりの顔を向けられる。頭が痛い。どう言う事だ。一体何が起こっている。

 落ち着こうとリィエルと同じ顔をした人から水を受け取る。毒は入っていない。安心して飲む。とりあえず落ち着いたはいい、一つずつ整理して行こう。この状況についてだ。

 

 

フィール「すみません。私の素性の前に一つ、ここは何処ですか?」

 

エルレイ「リィエルの名を……知っている、成程、別の世界線、把握」

 

 

 女性は少し驚いたがすぐに冷静になり、無表情に戻る。

 まるでいつもの事かのように無表情になっていた。

 

 

エルレイ「ここはアルザーノ帝国魔術学院、だけど君の知ってる学院とは違うと思う」

 

 

 女性は同じ学院だが君の知っている学院などと訳の分からないことを言って、ポケットからサクサクといちごタルトを食べ始めた。

 

 

フィール「……うん。やっぱりリィエルだ。いちごタルト食べてるし……世界線な違うって事はまさか……」

 

 

 ここは自分の知る世界ではない? だとするなら、『天使の塵(エンジェル・ダスト)』の事件はどうなった? ここは自分が介入していない世界なら、助けられなかった世界? リィエルは大人びているなら違う未来の世界? だがそれ以上に聞きたい事が存在した。

 

 

フィール「リィエル! おと……グレン先生とセラ先生は!?」

 

 

 エルレイはキョトンとした顔で首を傾げるが、フィールは何よりもそれが聞きたかった。あの2人は一体どうなったのか。

 

 

エルレイ「いちごタルト食べてるから私て……ま、いいや、落ち着いて」

 

 

 女性はそっとやさしくフィールの袖を触り、隠しを引き抜き、フィールの手に握らせる。気付かれたフィールは目を見開いて警戒する。

 

 

エルレイ「私が、リィエルじゃなかったとき、君は私を、暗殺できなくなっちゃうよ?」

 

 

 女性はフィールに強くナイフを握らせながら微笑んだ。まるで自分を殺しても構わないと言わんばかりに。

 

 握らされたナイフに少しだけ驚いて、それを仕舞う。

 敵意は無い。何かはあるが、今のフィールはリィエルに似た顔のこの女性を傷付けるのは得策じゃないと考えた。ここがアルザーノ帝国なら、この保健室で戦闘するのは後々の行動を考えれば危険だ。

 

 何より、今のフィールは未来にいた量産兵と割り切って殺したくないと心の何処かで感じてしまっているのだ。

 

 

フィール「……2人はどうなったんですか? それに、貴女は一体何者なんですか? 私の知っているリィエルからかけ離れてるし、感情もある。貴女は一体……」

 

エルレイ「私はエルレイ、しがない臨時教師の出来損ない人形、早い話、未来のリィエル=レイフォード、感情を‘‘得てしまった‘‘ね」

 

 

 エルレイは無表情のままフィールを見つめる。

 

 

エルレイ「グレンとセラなら、生きてるよ、どっかの私の、お人好しの初恋の人と、ルミアの旦那様のおかげでね」

 

 

 そんなことを言いながらエルレイは苦笑いをした。

 

 

フィール「……未来のオリジナルの方の……じゃああのリィエルが成長したのが今の貴女って事……貴女も未来から……」

 

 

 いや、正確に言うならば私の知るバッドエンドの世界から、違う世界に到達し、その違う世界からの延長線からこの世界があるのだろう。感情を持つリィエルはオリジナルを除いて他にいない。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()から来たリィエルなのだろう。

 

 未来からの逆行の術式はフィールを除いて使えない筈だ。

 

 

フィール「どうして未来の人が……こんな所に」

 

 

 いや、自分も人の事は言えない。

 現に逆行の術式はフィール自身が3年かけて編み出し、自分の血を触媒にしなければ使えない術式だ。あの手紙は一体何だったのか分からない。魔術の形跡は無かったのに気付けばこれだ。異能関連に間違いないのかもしれない。

 

 

フィール「いや、とりあえず私も自己紹介します。私はフィール、フィール=ウォルフォレンです。未来から来た……宮廷魔導師団の《愚者》です」

 

 

 グレン先生とセラ先生の2人の娘と言う事は言えなかった。

 この人は大丈夫だと思っていても、自分が逆行した世界でも言ったのはほんの数人程度だ。それくらい自分の素性は他人に知らせてはいけないくらいのタブーなもの。

 

 ただフィールは悲しくクスッと笑っていた。

 この世界が救われた世界ならもう自分は要らないんじゃないかって少しだけ自嘲気味自傷気味に笑っていた。

 

 

エルレイ「なるほど、《愚者》……グレンの子供か何か……か、道理でグレンの匂いがすると思った」

 

フィール「っっ……違います。私は……」

 

 

 2人の娘じゃないと言おうとして言葉が詰まる。

 どの世界でも、同じ姿、同じ性格であろうと、フィール=ウォルフォレンには別人なのだから……

 

 

エルレイ「……謝罪、深く掘り下げるつもりはない、安心して。フィーちゃん」

 

 

 何かを察したのか、エルレイは頭を下げながらそう言った。

 

 

エルレイ「言えない事情があるのは、私も同じだから、今は君の名前しか聞かないでおく」

 

 

 エルレイはそう言いながらフィールの頭を優しくなでる。

 ただ少しだけくすぐったくて、でも何処か安心する手付きにフィールは少しだけ……

 

 

『ははっ、フィールは偉いな。こうすると猫みたいだ』

『もうフィールちゃんったら、撫でられるの好きなんだね』

 

 

 お母さんとセリカ伯母さんの事を思い出させるようだった。優しくて、何処か安心する。未来ではあんなに殺すだけの殺戮兵器だったのに……今は何処か安心する。

 

 ただ、それが少し痛くて……やっぱり少しだけ寂しく感じてしまう。この世界は救われた世界なら、ただフィールはあの2人の他人として生きなければいけない。もう救う必要もない。

 

 ただ少しだけ、寂しいのかもしれない。

 

 

フィール「ありがとう……エルレイさん……」

 

 

 少しだけ弱々しい声でそう呟いた。

 

 

エルレイ「ん、どういたしましタルト」

 

 

 唐突、本当に唐突だった、撫でられてなぜか安心している時に目の前に急にいちごタルトが現れた。

 

 やっぱり少しだけ私の知るリィエルに似ている。クスッと笑っていちごタルトを受け取る。

 

 

フィール「……それ何処から出したんですか?」

 

 

 一応、収納魔術はあるがフィールでは8節も使う。

 何の詠唱も無しに魔術の気配もせずにどうして無尽蔵にいちごタルトが出てくるのか興味本位でフィールは聞いた。

 

 

エルレイ「これは完成度の高い魔術、難しい物……やったら精神すり減る……」

 

 

 エルレイは暗い声で、しかし声は尖らせている、するとエルレイは急に礼服の上を脱ぎだしその正体をあらわにする……!! 

 

 

エルレイ「魔術、次元ポケット(内側のポケット)」

 

 

 そこを見ると異様に膨れ上がった、内ポケットがあった。おそらく全部いちごタルトだろう。

 

 

フィール「……才能の無駄遣いですね」

 

 

 フィールは頭に手を当てて苦笑していた。

 

 

エルレイ「無駄じゃない魔術など、ない、魔術で火をおこしたい? 木を擦れ、電気を流したい? 発電しろ、食べものがないから、食材を取るため魔術を使う? じゃあおのれが死……」

 

 

リィエル「頂戴」

 

エルレイ「……わぁ!」

 

フィール「うわっ!?」

 

 エルレイの理不尽魔術論をかましている時に突然またもやリィエルらしき人間が姿を現した、気配を察知させることなく、エルレイはいちごタルトをリィエルに渡す。

 

 

リィエル「……」サクサクサク

 

システィーナ「エルレイ先生看病中のところ申し訳ありません」

 

 

 システィーナが申し訳なさそうに入ってくる。

 

 

エルレイ「なに?」

 

 

ルミア「あの……そろそろこちらのほうに戻ってきていただけると」

 

 

 ルミアが苦笑いをしている。

 教室で何があったのだろう。システィーナは頭を抱えていた。

 

 

エルレイ「馬鹿グレンが、バカし始めた? 了解」

 

システィーナ「察しがよくて助かります……」

 

 

 システィーナはそう言いながらため息をつき。少しだけフィールのほうを見る。

 

 

エルレイ「ん、今行く……丁度いい、ちょっと見学してかない? グレンに会わせるよ?」

 

 

 エルレイはそう言いながら微笑んだ。

 少しだけその事に動揺しながら質問する。

 

 

フィール「……いいんですか? 一応私部外者か不審者か疑われてますよね?」

 

 

 学院の前で倒れていた訳だし、宮廷魔導師団のコートを着ていたのならハッキリ言って怪しい筈だ。学院の制服は持ってないし、貸し出してもらう訳にもいかないし、先生のフリでもしろと? ハーレイ先生が待った無しだ。

 

 

システィーナ「エルレイ先生、この人は……?」

 

エルレイ「件の倒れてた子、名前はフィール」

 

フィール「どうも……こんにちわ」

 

ルミア「こんにちわ、フィールさん、でも本当に連れて行くんですか? 確かに部外者を入れるのは良くないんじゃ……」

 

システィーナ「私もルミアに同意見です。ここは事情聴取でもして適切な対処を……」

 

 

 そんなごく当たり前な事を二人とも言う。しかし……

 

 

エルレイ「うちのグレンやセラが、良い行動とか、適切な対処……取る?」

 

「「……………………」」

 

エルレイ「おい、目をそらすな」

 

フィール「ええぇ…………」

 

リィエル「……」サクサク

 

 

 リィエルはなんとなくフィールをじっと見ながら無心にいちごタルトを食べていた。

 

 

エルレイ「ていうわけで、ここでは常識は通用しない、あきらめれ」

 

 

 エルレイはそういうとフィールの手を引っ張り、保健室を出る。 システィーナ達も後を追うようにエルレイ達について行く。フィールは耳打ちでエルレイに聞いた。

 

 

フィール「大丈夫なんですかこの学院……」

 

エルレイ「…………」

 

 

 ただ沈黙するエルレイ。割と不安だ。

 あっちの世界でもセラ先生はまともに機能していた筈なのに。

 そうか、これが歪みか。私が介入したせいで性格が歪んだのか。後悔と自責の念にフィールは俯いた。

 

 そしてなんやかんやで教室にて。

 

カッシュ「……本当に……アンタと戦わなきゃいけねえのか……っ!」

 

グレン「俺だって、大切な生徒となんて戦いたくないさ……でもな、俺が勝たないと……一人の人間すら守れないクソ野郎になっちまうんだよ!!」

 

 

 その状況は一触即発と呼ぶにふさわしい、黒板前で、グレンがカッシュとにらみ合っている。

 

 

カッシュ「……すいません、感情を……出しちまって」

 

グレン「……こっちこそすまん……落ち着きがなかった」

 

 

 そんなことを言いながらピリピリした状況は続く、生徒たちはそれを悔しそうな顔で見ているものもいれば、もう見てられないと言わんばかりに顔を手で覆っている。

 そんな二人を横目に、二人の真ん中にいたセラが苦いものを口の中で転がしているかのような声で言葉を出す。

 

 

セラ「ふたりとも……準備はいいね……」

 

 

 すると突然、二人がこぶしを握り締め上にあげる完全に殴り合うようにしか見えない。

 

 フィールはすぐに駆け出して止めようとするがそれをエルレイに止められる。

 

 

「いくよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 じゃんけん……」

 

「「ぽおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!!」

 

 

「「「…………」」」

 

 

 エルレイ、システィーナ、ルミアはそのどうでもいいことこの上ないであろう(確定)の状況を呆然と見ている。

 

 

リィエル「楽しそう、混ざる」

 

 

 そういってリィエルが楽しそうだという理由で行こうとするのでエルレイは髪を引っ張って止めた。

 

 

リィエル「いたい」

 

フィール「…………」

 

 

 一体何をしているのだろう。

 馬鹿みたいに騒いでいるのはいつものグレン先生と変わらない。一応セラ先生が何故か審判やっている。

 

 

フィール「あの……すみません説明」

 

 

 エルレイの方を向くと首を横に振った。

 どうやらエルレイも理解不能らしい。フィールは少しだけため息をついていた。馬鹿やるのはいつもと変わらないのだが、色々セラ先生も感化されてしまったのかもしれない。

 

 エルレイはフィールの言葉に首を振り、自分も理解していなことを示す。全員硬直している中、またもやグレンとカッシュの雄たけびがこだまする。

 

グレン「っくっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

カッシュ「っしゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

セラ「はい、というわけでクッキーはカッシュ君にあげるね」

 

カッシュ「ありがとうございますぅぅぅっぅぅぅううううううううう!!!!!」

 

エルレイ「今理解した、ごめんね、フィーちゃん、こんなクラスで」

 

 

 エルレイは死んだ魚のような目でカッシュとグレン、セラの三人を見ていた。

 

 

フィール「……ハァ、《徒然なるままに・我が右手に奇跡を・万里の果てより招来せよ》」

 

 

 何故か相変わらずで安心したが、心配した此方の身にもなれと若干の怒りから意趣返しとして、フィールは白魔儀【アポーツ・クラフト】を使って皿に乗せられた最後のクッキーを自分の手に転移させた。

 

 

フィール「どうぞエルレイさん」

 

カッシュ「なっ!? 何すんだお前!?」

 

エルレイ「適応能力高い、感謝」

 

 エルレイはそのクッキーをいったん手に持ち、そのまま、フィールの口へと運ばせて割と強引に入れる。

 

 

フィール「むぐっ……」

 

エルレイ「……説明」

 

 

 エルレイはマジトーンになりその場の全員が凍り付く。

 

 

エルレイ「説明」

 

カッシュ「は……はいっっ!!! 実はセラ先生がクッキーを作ってきてくださって、それで最後の一枚誰が食べるか男子で論争になって」

 

グレン「何しやがんだ!! 俺の大切な食糧がああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!」

 

 

 グレンはそんなエルレイなどお構いなしに叫び散らす。

 

 

セラ「え、えっと……ね、なんかこんなことになっちゃて、それで私も主犯だから見てるだけなのも気が引けたし……仕方なく……」

 

グレン「お前ノリノリで審判やってたろうが!!!!」

 

セラ「こ、こらっ!! 余計な事を‥‥」

 

エルレイ「《わが手に刃を》」

 

 エルレイは目にも止まらぬ高速詠唱でリィエルに似た大剣の少し小さいものを生成した。

 

エルレイ「とりあえず、騒いでたであろう男と、セラは……死」

 

 

「「「「「えっちょっま……ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」」」

 

 

 グレン他数名とセラはエルレイに剣を振り回されながら追い回され、叫び声をあげた。

 

 

システィーナ「……今聞くのもあれなんだけど……大丈夫? フィール……だっけ? ばかばかしくなったりしてない?」

 

フィール「んぐっ……ゴクッ、普通に呼び捨てで構わないよ。多分同い年だから。まあ……何というか……」

 

 

 少し安心した。

 馬鹿やってるのは相変わらずだが、笑いあってエルレイ先生が叱って、何処か安心している。

 

 私はあの世界では……叱る事も笑わせる事も出来なかったから。

 

 

 ────────────────────

 

 

エルレイ「と、言うわけで、今回急遽訪問された、子の紹介、どうしても未来の魔術師が見てみたいらしい、自己紹介お願い」

 

 

 そう言ってエルレイはフィールに振る。

 

 

フィール「魔術工学所属から来ましたフィール=ウォルフォレンです。階級で言うなら第四階梯(クアットルデ)の魔術師でもあります。魔導具の生成に自信がありますので分からなければ質問も構いません。皆さん、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 

 丁寧な口調でフィールは答えた。

 まあ本当は未来で第六階梯(ローデ)だが、この世界に私の身分証明書は無いので誤魔化した。

 

 

「「「「………………」」」」」

 

 

 自己紹介した瞬間、沈黙がこのクラスを包む……。

 

 

エルレイ「……フィーちゃん、耳ふさいで」

 

 

 自己紹介をしたのになぜか無反応の生徒達を見た後エルレイはフィールにそう耳打ちをした。

 

 

フィール「は、はい」

 

 

 フィールは言われた通り耳を塞いだ。

 何かおかしな点でもあっただろうか? それとも容姿で私の事がバレているのだろうか? 次の瞬間、爆音のような音がフィールの耳に届いた。

 

 

「「「「「エルレイねえねが美少女連れてきたああああああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」

 

 

 そう、一部の男子共が叫んだのだ。

 

 

「ちょっ……ま……かわいすぎだろ……ていうかエルレイ先生が連れてきたってことは百合?! 百合なのか!?」

 

「やっば……マジで好みかもしれん、正直セラ先生以上の破壊力を持つ!!!」

 

「ぐぁぁ!! ……テレサ推しのこのおれがぁ……心を揺らしてるだとっ!?!?」

 

「ちょっとそこの男子うるさい!!」

 

 

 やっぱりかと言わんばかりにエルレイはため息をついた。

 

 

エルレイ「もういいよ、思ったより、うるさかったから、聞こえてるかもだけど」

 

フィール「エルレイ……ねえね?」

 

 

 何で姉呼ばわりされてるのかフィールはエルレイを見て首を傾げる。エルレイは頰を少し赤くしている。どうやら恥ずかしいようだ。

 

 

フィール「随分特徴的なクラスですね……」

 

 

 知っていたけど、私がいた世界よりクセが強くないか? 地味に男子達もグレン先生みたいになってるし。ギイブル君については不変で何故か安心している自分がいる。彼は将来本と結婚するのかもしれない。

 

 なんて下らない事を考えながら、クラスを見ると変わっていなくて少し安心もしたが……

 

 

エルレイ「~~~っ」

 

 

 特徴的なクラスと聞いてエルレイは頭を抱えていた、顔を赤く染めながら。

 

 

リィエル「ねえね、どうしたの? 疲れたの?」

 

エルレイ「この疲れ……リィエルのせいなんだけど」

 

リィエル「?」

 

ルミア「あ、あはは……」

 

システィーナ「え、エルレイ先生。お気を確かに!」

 

 

 ルミアは苦笑いをし、システィーナは腕でガッツポーズをした、リィエルは首を傾げた後、またフィールのほうに顔を向ける。

 

 

 フィール「えっと……エルレイ先生。私はどうすればいいですか? 質問タイムでも設けますか?」

 

 

 とりあえず一向に進んでいる気がしない。

 グレン先生やセラ先生はさっきの闘争と逃走でグッタリしてるし、ややそれを見て苦笑する。

 

 

エルレイ「……ん、じゃあ質問タイム」

 

 

 エルレイは呆れた顔になりながら生徒たちに質問タイムを設けた。

 

 

「はい!! 彼氏はいますか!!」

 

エルレイ「質問破棄、関係ない」

 

「はい!! 好きな男性のタイプは!」

 

エルレイ「質問破棄、異性恋愛×」

 

「はい!!! スリーサイズいくつ?!?!」

 

エルレイ「質問破棄、もう隠さない、死」

 

フィール「他にまともな質問はないんですか?」

 

 

 恋愛関係はスウィーツ並みに食いつくから却下したのはわかるのだが、他に無いのだろうか。得意な魔術とか、もっとこう普通の質問が。いやまあ恋愛は絶対にあり得ないけど。

 

 

エルレイ「他」

 

システィーナ「じゃあ、一つだけ」

 

 

 そう言ってシスティーナが手を上げた。

 

 

エルレイ「言ってみて」

 

システィーナ「魔術工学所属って言ってたけど……それって家族の意向?」

 

フィール「……っ……ごめんなさい。家族は私が魔術師になる前に亡くなってるから」

 

システィーナ「あっ……すみません失礼な事を聞いて」

 

フィール「まあ……私の家族の片方はちょっと子供っぽくて、母はそうだね……ちょっとお節介で犬みたいな人かな?」

 

システィーナ「えっ?」

 

 

 少しだけ視線をセラに向けて軽く笑う。

 まあその視線は誰にも理解する事はなく、フィールは続けた。

 

 

フィール「入った理由は……まあそうね……人生の副産物かな? どちらかと言うと、やらなきゃいけなかった事の為に学んで……まあその後にその道を見つけたって感じかな? 例えるなら……」

 

 

 フィールはポケットから黄色い球体のようなものを出した。

 両手でそれを重ねて持ち、詠唱を開始する。これは子供の頃、セリカ伯母さんに見せようと作った専用の魔導具だ。あの頃、帰るのを待っていたが、帰る事は無かったが……少し懐かしく悲しい顔をしながらも、それを起動する。

 

 

フィール「《私は世界を欺きし者・魔力を練り上げ知識を基盤に彼方を幻想せよ・真実のヴェールで覆いし者よ・今一度聖歌の幻想を・我が命脈に従い・奇跡と彼方の巡礼を》」

 

 

 するとフィールを中心に綺麗な花が咲く。それどころではない。教室全体が消えて、空には満天の星空にオーロラ、それを照らすかのように花は光り、幻想的な空間を生み出す。

 

 

「す、すげええぇぇ!」

「綺麗……!」

「ロマンチック……! これ魔導機で!?」

 

 

 生徒達はあまりの光景に驚愕する。

 教室は一転して花が咲く夜空に包まれて感激する。これ程綺麗な場所は見たことがない。

 

 

フィール「白魔【イリュージョン・スフィア】。それをこの魔導具を利用して範囲を広めたの。魔導具は傷付ける為にあった時があった。けど、捨てた物じゃないでしょ?」

 

 

 フィールは少しだけ得意げに笑った。

 

 

エルレイ「……」

 

グレン「へぇ、やるな、ここまでこの歳でできるなら大したもんだ」

 

セラ「うんうん、将来有望ってこういう子の事を言うんだね! ねっ! レイちゃん」

 

エルレイ「…………」

 

セラ「……レイちゃん?」

 

 フィールがエルレイのほうを向くと無表情に、本当に何も感じていないかのように無表情に、ただただ、光っている花ではなく、オーロラをじっと見つめていた、その目はとても濁っていて、同じ人間なのか疑うレベルにまで変わり果てた顔をしていた。

 

 

━━━━━━━━━

 

 

エルレイ『キレイ……』

 

エザリー『うん…とってもキレイなオーロラ』

 

エルレイ『………』

 

エザリー『特務分室がなくなってから次の依頼で…見たくなかった…みんなで見たかった……ね』

 

エルレイ『………うん』

 

 

━━━━━━━━

 

 

 

 

フィール「……エルレイさん、何かおかしかったですか?」

 

 

 フィールは少しだけ心配しながら聞いた。

 何かオーロラが気に入らなかったのか、軽く肩に触れてエルレイに問う。

 

 

エルレイ「ごめん、何でもない」

 

 

 エルレイはそう言って微笑んだがその顔は例えにくいが何かを隠しているような、何かを否定する笑顔のような、そんな印象を抱いた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 そんなことがあって夕方の放課後、フィールはいろいろと大人気(どんな感じで人気だったかはお任せ)だった

 授業が終わった後椅子に座っているとエルレイが話しかけてきた。

 

エルレイ「ちょっと、屋上まで、ついてきて」

 

フィール「……? はい、構いませんけど……」

 

 

 フィールはエルレイの後ろに小走りでついていく。屋上についた2人は向かいあっていた。長い黒髪が風に靡くようでまるで男子が女子に告白するかのような状況だ。

 

 

フィール「まあそんな事あり得ないけど」

 

 

 エルレイは下を向いてため息をついた後決心したように、フィールに向き直る。

 

 

エルレイ「単刀直入に聞くよ、フィール=ウォルフォレン」

 

フィール「……? はい」

 

 

 他人から見たら告白のように見えるが、フィールは少しだけ首を傾げて返答する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「コ ピ ー と 人 間 、何 体 殺 っ た ? 」

 

 

 

 

 

 

 いつもと同じトーンだがエルレイのその言葉はどこか重く、悲しそうな印象を抱いた。

 

 

フィール「っっ……!? な、何で……!?」

 

 

 それはフィールしか知らない未来の出来事だ。人間ならまだ分かる。だが、コピーと言うのは既にフィールの脳裏に過ぎっていた。

 

『Project:Revive life』 

 人間の蘇生関連の魔術の中で世界初の成功例、それは本来ならリィエルを除いて他にいない。だが、未来ではその実験は確立された。リィエルと言う感情なき殺戮兵器、それが未来では量産されていた。

 

 

エルレイ「……あなたから、私のコピーの匂いがする、血なまぐさい匂いもね……」

 

 エルレイはフィールに近づき頭を撫でた。

 

エルレイ「そして、フィーちゃんの顔が、私の知り合いの、人間に絶望した人に、そっくりなの」

 

エルレイ「私には、こんなこと言う資格ない、でも、私みたいにならないでほしいの……感情を手に入れても……殺戮兵器としての本能が渦巻いて、斬ることしか快感を得られなくなった私みたいには……」

 

 

 エルレイは悔しそうな顔で話を続けた。

 

 

エルレイ「だから、私みたいにはならないで……このきれいな世界のはずなのに、何かを斬り殺して親友を助けたいと願っている……私みたいには……」

 

フィール「ごめんなさい、それは出来ません」

 

 

 フィールはそれを否定した。

 気持ちは分かる。グレン先生のように闇に堕ちていくのを見たくない気持ちは痛いほど分かる。だが、それは出来ない。

 

 

フィール「私はエルレイ先生じゃない。だから貴女の事が分からない。けれど、貴女がロクデナシであろうが、そうでなかろうと、私は守る為なら私を殺してでも殺戮兵器にでもなるつもりです。そう……未来に誓ったんです」

 

 

 そこに自分の幸せが含まれていなくとも。

 例え自分が絶望の全てを背負う事になっても、私は私を殺す。

 

 それが……未来を救う()()()なのだから。

 

 

エルレイ「なにかを守るためなら、自分を犠牲にする……本当にシュウとロクサスに似てる……」

 

 

 エルレイは目をつぶった後、目を開き言葉を出す。

 

 

エルレイ「……それは《守るための最善策》ではある、でも……仲間や家族、知り合いを悲しませる《最悪手》でもある」

 

フィール「なら……なら自分の我が身可愛さに指加えて地獄を見ろって言うんですか!? 私は私なんてどうでもいい。私がいるべき世界は未来しかない! 私は……!」

 

 

 感情的になり、声を荒げるフィール。

 その顔は泣きそうだが、まるで憎しみを糧に今を生きているように見える。

 

 

フィール「約束した! エルザと……ルミアさんと……! 私をここまで連れてきてくれた! だから……!!」

 

 

 フィールは本来()()()()()()()()()()だ。

 ifの世界から来た黄昏の幻想、あり得ざる結果から生み出された世界のバグ。だがバグ故に世界を変える力を持つ。そこに自分の感情は含まれてはいけないのだ。

 

 

エルレイ「……落ち着いて……私はフィーちゃんが、間違ってるとは思ってない」

 

 

 そういうと、エルレイはぎゅっとフィールを抱きしめた。

 

 

エルレイ「その自己犠牲の行動がとれる人間は……本当に強い人、でも、その犠牲で悲しむ人だっている、それを忘れないでほしいのと……殺したくなんてないっていう、感情を忘れないでほしいだけ」

 

 

 そう言いながらエルレイはフィールの頭を撫でた。

 

 

エルレイ「……ごめんね、辛い思いさせて」

 

 

 エルレイは優しく、抱きしめて、何度も頭を撫でた。

 

 

フィール「……っ…………ぅぅ……」

 

 

 ポロポロと涙が溢れ落ちていく。

 ただ、感情が決壊し、魔術講師のローブを掴んでただ泣いた。それはまるで子供が母親に泣きつくかのようで、その場所に夕日が2人を照らしていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

エルレイ「さて、そろそろ戻ろう」

 

 フィールが泣き止んだのを見計らってエルレイはフィールの頭をポンポンと叩いて、笑みを浮かべた。

 

フィール「そうですね……」

 

 

 フィールの目が微かに赤くなっている。

 エルレイの言った通りに屋上もそろそろ閉鎖される。

 

 

エルレイ「一応言っておく、泣くことはいいことだよ? 迷惑な事じゃないし、当たり前の感情」

 

 

 エルレイはそう言いながらフィールの頭を撫でた。

 

 

フィール「もう流石に恥ずかしいですよ」

 

 

 少し照れながら頭を撫でる手を触れて止める。

 年頃の女の子は母親みたいな人からのスキンシップに恥ずかしがる頃だ。

 

 

エルレイ「そして…………」

 

フィール「?」

 

「い ち ご タ ル ト を 食 べ さ せ た い の も 当 然 の 感 情 」(暴論)

 

フィール「…………プッ……フフ」

 

エルレイ「お・た・べ・?」

 

フィール「……ハハハ、因みにあと何個あるんですか?」

 

エルレイ「やった、普通に笑ってくれた……えっと……この間300作ったから……5個食べて……そのあと300作って……」

 

フィール「糖尿病になりますよ?」

 

 

 ポケットの神秘にも気になるが、いちごタルトを収納するだけの為に固有魔術(オリジナル)を作ったなんて聞いてみたらおかしくて笑ってしまった。

 

 

エルレイ「いいじゃん、『Project:Revive life』の成功例、死亡、死亡理由 糖尿病 なかなかインパクトある」

 

 

 エルレイはそう言いながら屋上から去ろうとしたその時。

 

 

エザリー「……話し終わった?」

 

エルレイ「え、わぁ!!」

 

 

 エルレイとフィールの目の前にエルザに似ているが少し大人びたメガネをかけた女性が扉の前でずっと立っていた。

 

 

フィール「エルザ……に似てるけど誰ですか?」

 

 

 フィールは少し驚いた顔でエルレイに聞いた。

 間違いなくエルザ本人だ。かつて共闘した私の世界では《戦車》を名乗った魔術師。

 

 

エザリー「エルザに似てるけど、エルザである、今はエザリーです」

 

 

 エザリーは微笑みながらそんなジョークのような事を言う。

 

 

エルレイ「その口ぶり、やっぱり最初から見てたんでしょ?」

 

エザリー「まあね」

 

 

 エルザは舌を少しべっとあざとく出した後。

 

 

エザリー「ところで、リィエル? ずいぶん子のこと仲良さそうだね?」

 

エルレイ「…………」

 

エザリー「目をそらさないで☆」

 

 

 成る程とフィールは察した。

 この世界で彼女を救ったのは、エルレイなのだと。

 

 

フィール「エザリーさんは、エルレイさんが好きなんですね」

 

 

 少しだけかつての親友と重ねながら、リィエルと言う量産兵と戦っていたエルザとエルレイが仲が良い事に少しだけ涙が溢れそうになる。殺し合った血みどろの世界が消えていくようで安心した。

 

 

エザリー「まあ……ね」

 

 

 エザリーは頬を染めた。

 

 

エルレイ「それで、なんで接触してきたの?」

 

エザリー「えっとね、簡単に言うと、ここにリィエルのコピーが30くらい来てるからちょっと狩りに行こうって、リィエ……エルレイにお願いしに来たの」

 

フィール「……はっ? 何で! 実験は凍結した筈じゃ!?」

 

エルレイ「なんで、そうなった?」

 

エザリー「現時点では不明です、騎士長」

 

 

 エザリーもエルレイもどうでもいいかのように、とても笑顔で話していた。

 

 

エルレイ「ごめん、フィーちゃん、先生、急用で来た、誰か先生いると思うから、その人と帰って」

 

 

 エルレイはニコっと笑みを浮かべた、まるで戦場がやってきたのがうれしくてたまらないかのような、そんな表情だ。

 

 

フィール「……ハッ、舐めないでくださいエルレイさん」

 

 

 帝国宮廷魔導師団のコートを着て、右手には魔銃ペネトレイターが握られていた。『愚者のアルカナ』に『魔銃ペネトレイター』を持ち、隠し武器を仕込んでいるフィールの姿はまるで……

 

 

フィール「私を誰だと思ってるんですか?」

 

 

 まるで帝国宮廷魔導師団にいた《愚者》グレン=レーダスと姿が重なっていた。

 

 

エルレイ「……面白い」

 

エザリー「あ、一緒にこさせるの?」

 

エルレイ「うん、《万象に希う・我が背に取り付け・大いなる翼となって羽ばたかん》」

 

 

 エルレイはそう詠唱すると、エルレイの背中から銀色をベースに蒼い色が各所についた羽がエルレイから生えた、よく見てみるとリィエルの大剣をつなぎ合わせ、羽にしたもののようだ。

 

 

エルレイ「のって」

 

フィール「分かりました。じゃあ私も、《駆けよ無窮の旋風よ》」

 

 

 風で押す事で進む【ラピット・ストリーム】をリィエルの羽に当てる事で推進力を引き出した。

 

 

フィール「行きましょう」

 

エザリー「この子……リィエルに適応早いなぁ‥‥」

 

 

 エザリーは苦笑いをしながら、フィールを支える形でエルレイの背中に乗った。

 

 

 ────────────────────

 

 

エルレイ「いるいる、いもうと」

 

 

 エルレイはそう言いながら無表情だが嬉しそうだった、今いるのは学院の一番近くの林で林の木の陰に隠れるようにコピー体が何体もいた。

 

 

フィール「どうするんですか? 殲滅か捕縛か」

 

エルレイ「突っ込む、ぶっ壊す!!」

 

 

 エルレイはそう言い残し、一目散に大剣を詠唱して、生成し2刀流にしてから考えなしに突っ込んでいく。

 

 

エザリー「えっと……違うリィエルを知ってるって言ってたから一応言っとくね、あの子リィエルだよ?」

 

フィール「そうだったよ。成長してるけど、成長してないのね……」

 

 

 フィールはため息をつきながら、エルレイの背中を追いかける。リィエルの基本性能は【フィジカル・ブースト】並に高い為、フィールは【フィジカル・ブースト】をかけて詠唱を始める。

 

 

フィール「《極滅の雷神よ・世界を駆けろ・彼方の果てへ》!」

 

 

 軍用魔術B級の攻性呪文(アサルトスペル)【プラズマ・カノン】をぶっ放し、リィエルのコピー体を殲滅していく。近づくコピー体はエザリーが弾き、遠距離から大剣を投げ付けるコピー体には魔銃ペネトレイターや【ライトニング・ピアス】で撃ち抜く。

 

 

フィール「《吠えよ炎獅子––––》《吠えよ》《吠えよ》!」

 

 

 黒魔【ブレイズ・バースト】を連射し、コピー体を吹き飛ばすが、大剣に防がれて致命傷には至らない。何人か大剣で襲い掛かってくるのをナイフでギリギリ捌きながら、至近距離で【ライトニング・ピアス】で撃ち抜く。あと何体いるかわからない為、ここはこの場所ごと消し飛ばした方がいいだろう。

 

 

フィール「エルレイさん、エザリーさん! 時間稼ぎお願い!」

 

 

 ポケットの中の赤い結晶を取り出し、右手を前に出し詠唱を始める。元より殲滅なら塵すら残さず消し飛ばす。この瞬間、フィールは動けないが、今の自分には……

 

 

フィール「《──―我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・其は摂理の円環へと帰還せよ》」

 

 

 仲間がいる。リィエルのコピー体の攻撃を弾くエルレイとエザリーの援護がこの場において最大の力を発揮する。

 

 

エルレイ「了解」

 

エルザ「時間稼ぎ……ねっ!!」

 

 

 二人の攻撃には目を見張るものがあった、早すぎる剣撃、圧倒的な二人一組の戦闘技術、息の合いすぎている二人、そして何より、これだけ、30体ものコピー体を2人だけで相手しているにもかかわらず二人とも‘‘まったく息が乱れていない‘‘寧ろ笑いながら戦闘をしている、敵だとしたら恐ろしいことこの上ないだろう。

 

 

フィール「《五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は解離すべし・いざ森羅の万象は須らく此処に散滅せよ・遥かな虚無の果てに》

 –––––2人共、下がって!」

 

 その一声に2人はフィールの後ろに下がる。これは200年前の魔導大戦でセリカ=アルフォネアが生み出した神殺しの最大の魔術、概念を消滅させる最大の奥義。

 

 

「黒魔改【イクステンション・レイ】!」

 

 

 膨大なマナをかっ喰らいながら赤黒い魔術式を作り出したフィールはその魔術を行使した。音も消え、概念と言う概念が跡形もなく消滅する神殺しの息吹は、リィエルのコピー体はその威力の前に為す術なく消滅させていった。

 

 

フィール「ハァ……ハァ……これでざっと3分の2ぐらいは倒したでしょう」

 

エルレイ「ん、ちょうど全滅」

 

エザリー「お疲れ」

 

 その言葉に驚き周りを見てみると確かにもう1体たりとも残っていない、逃げられたか、そう考えたが、【イクステンション・レイ】で吹っ飛ばしたか所とは別に、エルレイとエザリーの戦っていた場所にコピーの死体の山が出来上がっていた、この二人は。詠唱という明らかに短い時間でフィールが気付かないうちに3分の1倒していたのだ。

 

 

フィール「流石、あんな短時間で全滅させられるなんて凄いですね」

 

 

 素直にその強さに驚いた。

 とりあえずやらなければならない事はリィエルのコピー体の死体は残すべきではないと言う事だ。『Project:Revive life』が明らかになっていない以上、これを公にすればリィエル本人が危ない。何故現れたのか知らないが、証拠は無さそうだから結局……

 

 

フィール「燃やすしかないか……流石にキツイけど【ブレイズ・バースト】を何回も使って焼却するしか……」

 

エルレイ「……ん《我目覚めるは・デウスと赤龍帝の力を信じし・殺戮人形なり》」

 

エザリー「! ……フィールちゃん、ちょっとさがってて」

 

フィール「聞いた事ない詠唱ですね……」

 

 

 見るからに危なそうだ。大気がどんどん熱されていく。

 エザリーは手をフィールの前に出し、下がるように合図をする。

 

 

「《我が力を糧として・我に大いなる力を与えたまえ》」

 

 

 エルレイが詠唱を終えると発生していた熱が一気になくなった、そしてコピー体の死体の山の下にチャックのようなものが空間が開いたように開いており、そこから大量の黒い手がめきめきと現れ、そのコピー体を空いた空間の中へ引きずり込んでいってしまった。

 

 

エルレイ「これで完了」

 

フィール「凄い魔術ですね……」

 

 

 まるで禁術の【ゲヘナ・ゲート】のようだ。

 だが、それはそんな物より更に上の次元の魔術だ。

 

 

エルレイ「……術?」

 

エザリー「……術……」

 

フィール「……へっ……違うんですか?」

 

「「…………」」

 

「「まあ術でいいや」」

 

 

 二人は沈黙した後、あきらめたようにため息をついた、すると空から一枚の紙が降ってくる。

 フィールがそれをつかみ取るとそこには。

 

『あの世界に戻りたいか?』

 

 そう書いてあった。

 

 

エルレイ「多分、それに強く願えば帰れると思うよ」

 

 

 エルレイは何かを確信したようにそう言った。

 その状況をエザリーは微笑みながら見ていた。

 

 

フィール「そうですか……ねえ、エルレイさん……いや、リィエル」

 

 

 フィールはその紙を掴んだ。

 すると、フィールの身体は光り輝き始めた。

 

 

フィール「リィエル……貴女は殺戮兵器じゃないよ……ちゃんと優しい……先生になったんだね」

 

 

 フィールは優しい顔をしてエルレイに笑う。

 エルレイを抱き締めて、胸ポケットの内側のいちごタルトを一個だけ貰う。お礼の時や別れの時はいつもいちごタルトを渡していたなら、これは多分……

 

 

フィール「リィエル、一つ貰うね。さよならタルト……だっけ?」

 

エルレイ「……ん、さようならタルト、今度会う時は、天国か地獄か……それともまたこの世か……また会お? フィーちゃん」

 

 

 エルレイ。いや、リィエルはフィールをしっかり抱きしめて微笑んだ。

 

 

エルレイ「私はフィーちゃんの手助けをすることはできないけど……でもいつでもどこにいてもフィーちゃんの、味方だから」

 

 

 最後に聞こえた言葉にフィールは優しく笑っていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

エルレイ「……いちゃった」

 

エザリー「うん」

 

エルレイは少し悲しそうな顔をしたあとサクサクといちごタルトを頬張る。

 

エザリー「リィエル…」

 

エルレイ「私…一人の女の子すら…救うことができないんだね」

 

エルレイは下を向きながらそう呟いた………。子供を助けることが出来なかったと……。

 

 

エルレイ「……なんで私……あの時全部私に任せてって……全部任せて安心していいんだよって……言えなかったんだろう」

 

エルレイはずっとうつむいたままだ、エザリーはそれを優しく抱きしめる。

 

エザリー「大丈夫……あんなしっかりした子だもん、きっと…自分の未来を掴み取るよ……」

 

エルレイ「っ……!っ……!」

 

エルレイは泣いた……自分の無力さを嘆きながら…、あそこで勇気を出すことが出来なかった……、もっとうまく説得していれば…なんとかなったかもしれない…何か助けることができたかもしれない…あんな優しい笑顔の持ち主を…

 

 

 

 

 

救う事が救うことができたかもしれない。

 

 

 

 

エルレイ「平和ボケ……しすぎたかなぁ……っ!」

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、それは《守るための最善策》ではあるが、知り合った者を悲しませる《最悪手》でもあるのだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

八巻一話 空白部分
過去のフィールとの遭遇


また『アステカのキャスター』さんのフィールちゃんとコラボしたぜイェア!!!
本当にありがとうございます!!

今回は一部です、続編をお楽しみに!!


ミアル「はぁぁ!!」

エルレイ「いいいいぃやああああああああ!!!」

 

 

 誰もいない真夜中、何もない林の中で、エルレイとミアルは自分自身の武器を手に自分の信念を貫くため戦いあっていた。

 

 

ミアル「いい加減……諦めてほしいな!」

エルレイ「できるわけない、ふざけないっで!!」

 

 

 二人の武器がかち合うたびに空気が揺れ、地面が振動する。

 エルレイは大剣でミアルの武器を破壊し戦意喪失させようとし、そしてミアルは氷でできた鎌を使用し、それを軽々と受け流していた。

 

 

ミアル「さて、そろそろ終わりに……!」

エルレイ「なに……!」

 

 

 二人が戦って後ずさりした直後、二人の戦っていた中心に空白の手紙が1通、空から舞い降りてきた。その瞬間、2人の動きが止まる。降ってきた空白の手紙に、ミアルは普通気付く事はないナニカを感じたのだ。

 

 

ミアル「……へえ」

 

 

 ミアルは氷の鎌をしまい、その手紙を片手に取る、エルレイも大剣を消滅させ、ミアルに近づく。差出人は不明、しかしその内容は。

 

『あの少女に会いたいか?』

 

 というエルレイにとって引っ掛かる言葉運びの内容だった。

 

 

エルレイ「……あの、少女?」

 

 

 エルレイは嫌でも思い出す。

 

 

『私はエルレイ先生じゃない。だから––––』

 

 

 思い浮かべたのは長い黒髪の少女。

 優しい笑顔を持っていながら、何かに絶望した顔の少女の事を……。

 

 

ミアル「……どうする? リィエル」

 

 

 ミアルは少し楽しそうに聞き返す。

 どうやら、戦いは一時中断。この手紙には何かがあるのは明白。敵同士の2人が動きを止めなければいけないこの手紙にミアルは少し楽しそうに見えた。

 

 

エルレイ「決まってる」

 

 

 エルレイは即座にミアルの持っていた手紙を取り上げる。この手紙の差出人は未だ不明だ。前回も目的が分からずにただ偶然にも出会えたに過ぎないあの少女も居る。

 

 だが、それ以上に……

 

 

エルレイ「これに乗れば、黒幕の正体が、掴める可能性あり、わざと乗せられてやるだけ」

 

 

 そういうとミアルはその言葉を待ってたと言わんばかりに微笑んだ。やられっぱなしじゃ性に合わない。動かされただけで終わるなら、2人は最初から戦っていない。

 

 それにこんな術式、存在してはいけないのだ。

 こんな術式があっただけで世界は崩壊する。故に2人は昔のように手を取った。一時的な共闘、だが2人がすべき事は決まっていた。

 

 

ミアル「そう、じゃあ、ロクサスと、シュウ君には内緒ね」

エルレイ「ん、ルミア……私たちの」

ミアル「私たちの」

 

 

 

 

 

 

「「戦争(デート)をはじめよう」」

 

 

 手紙を開いた瞬間、二人の意識は白い光に奪われていった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 血の匂いがする。

 この地域は人が住まなくなった廃れた街中、そんな場所で2人は襲いかかる外道共を殲滅していた。

 

 飛び散る鮮血、地獄を思わせる死肉が地面のあちこちに転がり、最後の1人をエルザが斬殺すると、フィールは風の魔術で死体を纏め上げて、燃やした。

 

 

フィール「任務完了……また気が滅入る任務だったよ」

エルザ「相変わらず、敵が減らないよね。ちょっと疲れてきちゃった」

 

 

 死体の山を気付き上げて、魔術で死体を積み上げて、斬殺も火葬も全部自分達でやって疲れた。相変わらず血の臭いはとれない。腐ってしまった感情に腐ってしまった自分は多分、地獄に堕ちるのだろう。

 

 とりあえず自分の服を水で流して魔術で乾かす。エルザの服まで乾かした瞬間、フィールは十時の方向に視線を向ける。

 

 

フィール「……! エルザ」

エルザ「分かってる。直感でしかないけど、かなりの戦闘経験が濃い。多分新手か……第二団(アデプタス)地位(オーダー)》以上の力を感じる」

 

 

 途轍もない魔力の波動、召喚魔術で悪魔か天使でも降臨させたのか知らないが、それともまた違う。概念的存在とは違い、戦場を知っている傭兵に近い。そんな感覚が2人を襲う。

 

 

フィール「本部に連絡する? 大した応援は来ないだろうけど」

エルザ「死体が増えるだけよ。行きましょう」

 

 

 フィールとエルザは強い気配を感じた場所へ走り出す。何故か、自分にもわからない不安を持ちながら。

 

 

 ────────────────────

 

 

エルレイ「……ここは」

 

 

 見たところ街中のようだ、しかし人の気配はなく、ところどころ廃れている、そして何より、街の至る所に血が飛び散り、とても人が住める場所ではない。

 

 

ミアル「……血生臭いね」

 

 

 ミアルは街中を見渡しながらそうつぶやいた。

 嫌に鼻につく血と衛生が行き渡ってない為に匂う『死』の匂いにミアルは顔を顰めている。

 

 

エルレイ「……少し期待してたんだけど」

 

 

 エルレイはかなりがっかりした様子でため息をついた、ここに例の少女がいる可能性は限りなく低いからだ、前に会った少女は血の匂いはしたがかなり過去に付いたものという印象を受けた。

 

 

エルレイ「もしも、ここにいたとするなら、私達、タイムスリップしてきたってことだね」

ミアル「誰の事かわかんないけど、タイムスリップなんて非科学的……」

 

 

 2人は口ではそう言ったものの。

 

「「……」」

 

 

 どうやら心当たりがあるようだ。それも割と身近に存在する。

 

 

ミアル「ごめん、できる人いるね」

エルレイ「……だね」

 

 

 エルレイとミアルはある二人の少年を思い浮かべながら苦笑いをした。

 そしてエルレイは背伸びをした後、眠たそうな顔を元に戻し、真剣な表情で構え直した。

 

 

エルレイ「誰か来るよ、しかも、殺ることに慣れた人が、二人」

 

 

 匂いで分かる、何か血で染まった人間の香りが2人ほど来ている。それも真新しい人を殺した匂いと、血を焼いたような焦げたような匂いが鼻につくようだ。

 

 

ミアル「戦闘はいったんやめてねリィエル? コンタクト取ってみる」

エルレイ「わかった」

 

 

 二人は何者かが来るであろう方向へ歩を進めていった。恐怖など何も感じていないかのように、友達と散歩をするような気持ちで、二人は歩く。

 

 

フィール「(……コピー体に、金髪の少女……どっちも手練れだね)」

 

 

 その影で、息を潜めて敵を観察する2人。

 片方はコピー体で片方は見た事があるような金髪の少女。だがどちらも血と戦闘経験の濃さが尋常じゃない。

 

 それに、理屈は分からないが()()()()()()を感じる。術式を逆算出来るフィールでも、逆算出来ない異質の存在が背後についているようだ。

 

 

フィール「……まあいいや。行くよエルザ」

エルザ「うん!」

フィール「《駆けよ風狼よ》!」

 

 

 フィールはエルザに黒魔【スウィフト・ストリーム】をかけて先陣を切らせる。エルザの抜刀術【神風】は神速の居合い抜き、剣の神エリエーテのデータを持とうが、追い風とその速さに追いつけない事が多い。

 

 だが……

 

 

エルレイ「!」

 

 ガキンッッ──!!! 

 

 

ミアル「!! リィエル!!!」

 

 

 エルレイはその神速抜刀に反応し、即座に刀を生成させ、エルザとかち合った。火花が散り、頬を僅かに斬ったものの、その抜刀は止められていた。

 

 

エルレイ「……エルザ?」

 

 

 エルレイはその斬って来た少女に見覚えがあった、昔のエルザの姿、そのものなのだ。 エルザは技を【神風】から【霜風】に変更し、下から上に刀を振るうが、それも受け流される

 

 

エルザ「くっ……!」

 

 

 反応が早い。

 剣の錬成スピードも今までのコピー体の比ではない。何より、言葉を話した。そして、隣の人間はコピー体をリィエルと呼んだ。

 

 

エルザ「(リィエル? 確かオリジナルの名前だったか……けど、私を知っている時点で敵なのは分かった)」

 

 

 エルザは宮廷魔導師団の《戦車》だ。

 それを知る人間は『天の智慧研究会』くらいだ。コピー体は兎も角、金髪の少女は何かを知っている。

 

 

フィール「【雷槍よ–––––踊れ】!」

 

 

 並列起動した6つの【ライトニング・ピアス】をそれぞれに三発ずつ撃つ。毎秒8万キロスの超高速の雷槍が2人を襲う。コピー体は兎も角、金髪は何が知っている為、捕らえて情報を吐かせるつもりで手加減はしていた。

 

 

エルレイ「っ!!!」

 

 エルレイは即座に刀を投げてエルザを庇うように抱きしめながら【ライトニング・ピアス】を受けてエルレイ。だが、腕や足に貫通しただけで急所は避けられた。しかも投げた刀は丁度ミアルに向かった【ライトニング・ピアス】をすべて弾くように回転していた。

 

 

ミアル「今度は誰!?」

 

 

 ミアルは【ライトニング・ピアス】が飛んできた方向に向かって叫ぶ。その場所には敵はいない。既に、別の地点に移動しているからだ。

 

 

フィール「(っ……エルザがまさか、捕まるなんて)」

 

 エルザが捕まった。

 庇っているようにも見えたが、フィールはさっき撃った【ライトニング・ピアス】の場所から敵の背後に出る。

 

 

フィール「《吹雪け三度の厳冬よ》《駆けろ氷狼》!」

 

 

 黒魔【フリージング・コフィン】を足元に放ち、黒魔【アイス・ブリザード】で視界を塞ぐ。エルザの服には凍結魔術対策の付与を施している為、エルザには効かない。

 

 黒魔【フリージング・コフィン】の冷気をエルザを抱えたまま2人は躱し、黒魔【アイス・ブリザード】は視界を塞がれたとは言え、大した凍傷すらしていない。

 

 だが、本命は氷風に隠した秒針で目を潰す事、そして自分が近づいて【愚者の世界】で魔術封殺をするのが目的だ。そうすれば魔剣エスパーダと魔銃ペネトレイターの領分だ。

 

 近づいて、敵の背後を取った。秒針も目を潰す事に成功した。

 

 

 その時だった。

 

 

フィール「っっ……!?」

 

 

 なぜかフィールの体が動かない、下を見てみるとフィールの足元に氷が張り、身動きが取れなくなった。

 

 

フィール「なっ……!」

 

 

 今、何をされたか分からなかった。

 魔術は封殺した。タイミングも完璧だった。にも関わらず、自分の足は凍結していた。

 

 

フィール「っっ! 【女帝の世界】!! エルザ!!」

エルザ「動けない……! なんて馬鹿力なの……!?」

 

 

 抱き締められてるエルザは抜け出せないようだ。

 魔術での詠唱省略で脚に熱気を放ち、凍結した足を戻そうとするが、中々氷が解けない。恐らく、隣の金髪が行った異能関連のものなんだろう。

 

 

フィール「【極滅の雷神––––!」

 

ミアル「《はい、そこまで》」

 

 

 ミアルがそういうと、指をぱちんと鳴らした、その瞬間、足だけでなく、身体がピクリとも動かなくなる、それはエルレイも同じようだ、体が停止している。

 ミアルは秒針で血が出てしまった目の部分を擦りながら苦笑いをした。

 

 

ミアル「そろそろ、こっちの言い分を聞いてくれない?」

フィール「(っっ! 空間凍結!? たった2節で……)」

 

 

 あり得ない。時間や空間と言った術式はどの国でも最高難易度な筈、フィールが使える空間転移系の魔術だって、構築出来ても劣化魔術が精一杯だ。

 

 それに、有り得ないのは秒針が目に僅かとはいえ当たったのに、既に回復術式で目が戻っている。失明した目は普通戻らない筈なのに。

 

 

フィール「(っっ……詠唱も出来ない……【女帝の世界】も起こり得る事象が完全に停止してる。つまり、解除しない限り絶対に動けないって事……)」

 

 

 エルザは馬鹿力で押さえつけられ、フィールは空間ごと凍結させられている。殺される。近づいていく金髪に思わず目を瞑った。

 

 

 ぽんぽん

 

 

ミアル「驚かせてごめんなさい、ご機嫌いかが?」

 

 

 ミアルはフィールの頭を軽くなでた。

 

 

ミアル「すぐに解除するね、リィエル、その子から……《離れなさい》」

エルレイ「かしこまりました……」

 

 

 エルレイはまるで操られているかのように目に光がなく、ミアルの一言でエルザから手を離した。

 

 パチンっ! とミアルがもう一度指を鳴らすとフィールとエルザの体の自由が利くようになる。エルザもフィールも動けるようになった瞬間、警戒して2人から離れる。

 

 

フィール「(精神支配の術式? いや、なんか違う……魔術と言うより……)」

 

 

 これは一種の加護に近い。

 ルーンによる加護とはまた違う。と言うより、強大な力を貸してもらってるような、そんな感覚。

 

 それにこの人、髪型こそ変わっているが……何処かで見た事がある。アリシア女王陛下に似ている金髪に異能者、まさか……

 

 

フィール「エルミアナ王女?」

エルザ「?!」

 

 

 エルミアナ王女はこの世界では天の智慧研究会に捕らえられたと報告があった筈だ。それがコピー体を連れて何故こんな所にいる? 

 

 

ミアル「……エルミアナか」

 

 

 ミアルは首を傾げた、少し考えた後ミアルは口をひらいた。

 

 

ミアル「私はミアル、この子の……保護者って思ってくれればいいかな?」

 

 

 そう言いながら苦笑いをする、隣にいたエルレイは目を擦りながらため息をつく、エルレイは片方の目は当たって失明しているようだが、片方の目はどうにか見えているようだった。

 

 

エルレイ「ルミア……私までやらなくても……」

ミアル「ごめんごめん、でもこうしないと、止まってくれないでしょ?」

エルレイ「そりゃそうだけ……」

 

 

 エルレイが2人を目視した瞬間。

 血で目が霞みながらも、見たその光景にエルレイは目を見開いた。

 

 

エルレイ「……!!」

 

 

 驚愕の表情を見せて、フィールのほうをじっと見た。

 そこにいたのはエルレイが会いたかった少女、絶望を知りながら、絶望を覆す為に自分を欺き続ける哀れな少女。

 

 

 

エルレイ「フィー‥‥ちゃん?」

 

 

 エルレイはフィールを見据えて呟くが、フィールは首を傾げながら警戒している。フィールの事をフィーちゃんと読んだのは、この世界で1人しかいない。その人物さえ、今は故人だ。

 

 

エルザ「フィール、知り合い?」

フィール「初対面……だと思うけど、貴女は誰?」

 

 

 その言葉を聞いてエルレイの顔は暗くなる。

 エルレイは知っている。だが、フィールは知らない。未来であったエルレイは過去のフィールを知らないからだ。

 

 

フィール「元帝国宮廷魔導師団の執行官であり、《戦車》の前任者。リィエル=レイフォードなら知ってる。コピー体とも少し違うのも分かる。けど、私は貴女を知らない」

 

エルザ「そもそも、貴女達は何者? エルミアナ……じゃなくてミアル? やイルシアのコピー体のオリジナルのリィエルだとしても、何でこんな所に?」

 

エルレイ「……っ別の時間軸……」

 

 

 エルレイは俯いたままそうつぶやいた。

 

 

ミアル「この子が、リィエルの知り合いなんだね」

エルレイ「……」こくっ

 

 

 ミアルの問いに、エルレイは俯いたまま軽くうなずく。

 

 

 

 

───────

──────────

 

 

 

「何がそこまで二人が殺戮することを嫌なの?お願いだから教えてよ・・・」

 

「・・・一人の少女と会ったの」

 

「・・・一人の少女?」

 

エルレイの言葉にミアルは耳を傾ける。

 

「面識は1日だけだったけど・・・その子は優しくていい子で撫でると少し照れる年頃な女の子、それなのに…それなのに・・・っ」

 

「・・・リィエル?」

 

「・・・とにかく、私はもう皆が頑張るのは見たくない、ただそれだけだよ」

 

 

 

────────

──────

 

 

 

(リィエルの顔を見ればわかる、あの少女・・・多分この子の事だ・・・なら)

 

 

 

ミアル「……わかった、訂正します、私はエルミアナ王女で間違いありません」

 

 

 ミアルは覚悟を決めたようにフィールとエルザに向き変える。

 フィール達は驚愕する。何故なら、エルミアナ王女は今『天の智慧研究会』に囚われの身になっているからだ。

 

 

ミアル「前任者かはともかく、このこは、リィエル=レイフォード、執行官ナンバー7 《戦車》で間違いありません」

 

 

 そしてミアルは片手に小さいナイフを取り出した。

 それに警戒する2人、武器を一応構え直している。

 

ミアル「私達の事情は……未来の別次元から来ました。なんて言っても信用されないでしょう」

 

 

 ミアルが口にした『未来の別次元』と言うのに引っかかった。

 フィール自身はその術式をいつか生み出そうと考えている以上、その戯言のような言葉を聞き流せなかった。

 

 

ミアル「なので今から敵でない証拠をお見せします」

 

 

 するとミアルは片手に握ったそのナイフを……。

 

 

 

 

 自分の首に目掛けて振りかざした。

 

 斬った瞬間ざしゅっと鈍い音がきこえ、辺りにミアルの血が飛び散る、このまま出血すれば、1分持たず絶命するだろう。

 

 

エルレイ「ルミアッッ!!!!!」

 

 

 エルレイがその光景を見て悲痛そうな声をあげる。

 

 

ミアル「お手間は取らせません、何を言ったところで信用はされなさそうですからね」

 

ミアル「貴女方が傍観すれば私が死にます、何も問題はないでしょう?」

 

 

 そう言いながらミアルは優しく微笑んだ。それは母親が子供に見せる笑顔のような優しさで、とても自殺しようとしている者の顔ではなかった。

 

 

フィール「なっ、ば、馬鹿かアンタは!?」

 

エルザ「フィール! ちょっ! 止血魔術!」

 

フィール「傷が深いから無理! 【女帝の世界】起動! 《戦車》の前任者!! 魔力足りないから貴女の魔力を貸せ!!」

 

 

 術式を省略して、【リヴァイヴァー】を発動する。

 すると時間が戻ったように、出血した部分が戻るように傷ついた体を修復していく。

 

 

 3分後…………

 

 

ミアル「……いたいいたい……まあ、これで敵ではないとわかってもらえたかな?」

エルレイ「てめえこのやろう」

 

 

 ごすっ!!! っとエルレイの拳が容赦なくミアルの後頭部に直撃する。

 

 

ミアル「いたっ!!!」

 

 

 ミアルはとても痛いのか頭を抱えて蹲り、涙目になっていた。

 

 

ミアル「いった~……なにするのっ!!!」

エルレイ「何するの。じゃない自己犠牲の塊、そんなことをして……そんなことをして……」

 

 

 エルレイはこぶしを握り締めている、どうやら《敵じゃない》と思われるためだけのために自己犠牲で死んでしまう最悪の状況を考えて、怒りが収まらなかったのだろう……

 

 

 

 

エルレイ「どう考えても、この二人の教育に悪い!!!!」

 

 

 魔力を消費してグッタリしているフィールは力無く、エルレイの頭を叩いた。

 

 

フィール「いや問題そこじゃないから……未来の世界から来た身分証明書みたいなものある? もしくは、自分が未来から来たって証明出来るもの。未来から来たって言っても正直まだ信用は出来ない」

 

エルザ「と言うかそんな術式あるの? 聞いた事ないけど……」

 

フィール「思いつかなくはないんだけど、普通に考えて時間の奔流に流されて、精神体である魂がバラバラになるとは思うんだけど……」

 

エルザ「ダメじゃん!?」

 

 

 身分証明書の偽造は出来なくはないから、対して意味はない。けど、この2人には間違いなく何かがある。

 

 それだけは確かに言える事だ。

 

 

エルレイ「……ん」

 

 

 エルレイはとりあえずカードの《戦車》を二人の前に出した、その戦車はかなり傷だらけでヨレヨレ、とても年期の入ったものだった。

 

 

ミアル「私は……ない」

 

フィール「まあ貴女はいいです。どうせ片方から芋づる式で出てくるので」

 

エルザ「うーん。時期はあってるし、この世界では確かリィエルの遺品は回収されてるんだっけ?」

 

フィール「ああ、間違いない。年期こそ入っているけど、本物だ。けど、これだけじゃ信用出来ないのは分かりますね?」

 

 

 偽造可能の身分証明書。

 私達を騙す為に作ったと考える事も可能だ。今の帝国宮廷魔導師団はシビアだ。戦力が少ない中で、死ぬ事がないようにする事が第一、用心深いのは当然だった。

 

 

エルレイ「?」

 

 

 エルレイは何言ってるんだこの子、という顔で首を傾げた。

 

 

フィール「年期も時期も同じ、これは確かに《戦車》のリィエルと同じだけど、偽装は出来なくはないって事ですよ」

 

エルザ「まあ……出来ない訳じゃないとこっちも信用は出来ないかな。仮にも帝国宮廷魔導師団の私達を抑えれる以上、私達と未来であったなら何か、私達の私物とか持ってませんか?」

 

エルレイ「……?」

 

 

 エルレイはまだ首をかしげる。

 まるで何か引っかかっているかのように。

 

 

ミアル「ねえ、君たち、1つだけ、私の質問に答えてもらってもいい?」

 

 

 そこでミアルは苦笑いしながらそう言った。

 

 

ミアル「いつ私たちがさ ‘‘信用して‘‘ なんて言った?」

 

 

 フィールは納得して、ため息をつく。

 確かに信用しろなんて誰も言っていない。敵なら敵のまま、敵じゃないならそれだけだ。

 

 

フィール「……ああそういう事。安心して。私が言う信用は背中から刺されないだけの信用だけ、そもそも私だって信用なんて薄っぺらい言葉が1番信用出来ないし」

エルザ「ちょっ! フィール!」

フィール「私があくまで調べてるのは天の智慧研究会の人間かどうか。容疑が晴れれば何処にでも行けと言いたいが、貴女達は未来から来たと言った」

 

 

 フィールが危惧しているのは、むしろそっちの方だ。

 過去や未来を行き来できる力、そんなものが外道魔術師達に渡ればこの国はお終いだ。

 

 

フィール「未来や過去に行き来できる力なんて、天の智慧研究会に知られたら国は終わる。だからこそ、貴女達が何者なのかハッキリさせるのが私達の仕事。お分かり?」

エルザ「ちょっとフィール、喧嘩腰にならないの」

フィール「それに……まあ、あの人の約束もあるからね。姿は変わっても……」

 

 

 ミアルは分からないようで首を傾げている。

 フィールだけが知っているアリシア女王陛下との約束。いつか必ず連れ戻すと約束したから、知らなければいけない事だってあるのだし。

 

 

エルレイ「……ん、一番……か、嫌いな言葉の私は3番くらいかな?」

 

 

 エルレイはようやく合点がいったように前を向いた。

 

 

エルレイ「じゃあ、背後から刺される、事が無くなれば、フィーちゃんはいいんだ」

 

 

 エルレイは左手で刀を握り締めて。

 

 

エルザ「っっ……!?」

 

 

 そのまま自分の右腕を切り落とした。

 

 

ミアル「……人の事言えないじゃん」

 

 

 ミアルは軽くため息をつく。

 その痛々しい切断面に思わずエルザは眼を閉じてフィールの袖を掴んでいた。フィールもエルレイの行動に何とも言えない様子だった。

 

 

エルレイ「フィーちゃん、それはフィーちゃんの……私達特務分室の役目じゃない、特務分室の仕事は殺すor捕らえる、何者なのかハッキリさせるのは、拷問屋の役目……だよね?」

 

 

 するとエルレイは持っていた刀の刃を左手で持ち、フィールに差し出す。

 

 

エルレイ「ちょっとだけ手伝って、これで、私の左手斬って、それならいいでしょ? フィーちゃん」

 

 

 その左手は今にも刀によって落ちそうで、見てて痛々しい事この上なかった。エルレイがそう頼む中、フィールは思いっきりエルレイを殴った。力一杯殴ったせいで、エルレイは気を失っていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

エルレイ「……知らない天井」

 

フィール「目が覚めたようね」

 

 

 気が付けばエルレイはベッドの上にいた。

 薄暗いが、ランプの明かりで照らされた家の中はとても広い。近くではエルザとミアルが毛布に包まり眠っていた。

 

 

フィール「ったく、腕を切り落とすくらいなら気絶させた方がマシなくらい考えろ。この馬鹿」

 

 

 フィールは軽く頭を殴る。

 エルレイはポカンとした表情でフィールを見る。

 

 

エルレイ「いたい」

 

フィール「んで? 未来から来たリィエル……エルレイだっけ? とりあえず表面上は貴女達を信用する事にした。だが勘違いしないで、命を簡単に粗末にする人間の言葉なんて薄っぺらい。だからこそ、生きる為に行動するべきだった。それが分からないなら私は貴女を許さない」

 

エルレイ「……優しいんだね」

 

 

 エルレイは少し苦笑いをした。

 

 

エルレイ「でも、人間は簡単に命を粗末にする、食事、服、家、すべて命から頂戴したものだよ、生きるために命を粗末にするの……悪いけどね」

 

 

 エルレイはそういうとフィールのおでこをペチッと叩いた。

 

 

 エルレイ「命を粗末にする人間の言葉は薄っぺらい? 知ってるよ、そもそも人間自体が薄いからね」

 

 フィール「生きて、話せて、それだけの態度が取れるならアンタは人間だよ。ったく、久しぶりに縫合と回路(パス)の治癒なんてやったから疲れたし、私は寝る」

 

エルレイ「フィーちゃん……」

 

フィール「……悪かったよ。私も動揺してた」

 

 

 フィールは毛布を被ってソファーで眠り始めた。

 信用されないからって腕を平然と切り落とすなんて真似、フィールはどうしても感化できなかった。誰も彼もが、生きる為に行動するのが基本なのに、エルレイやミアルの行動はそれと逆、いつでも死ねる心構えをしているようで、気がつけばフィールは動いていた。

 

 

エルレイ「やっぱり、優しいねフィーちゃんは…………優しすぎるほどに」

 

 エルレイはそう言いながら目をつぶった。

 

 

エルレイ「ありがとタルト」

 

 

 エルレイは力を振り絞りいちごタルトをフィールに差し出した。

エルレイは眠ったフィールを見ながら少し辛そうに、唇をかみしめた。

 

(・・・でも、人間と一緒には、してほしく無かったな)

 

 

────────

 

エルレイ「・・・」

 

エルレイはフィールとエルザが寝静まった後に音を立てずに地べたに体操座りで座り、外の空気を吸っていた。

 

ミアル「眠れない?」

 

そこにミアルがやってきて、隣りに陣取る。

 

エルレイ「・・・ん」

 

ミアル「・・・リィエルはつらいよね、さっきの話、聞いてたよ」

 

そうミアルが言うとエルレイは少し驚いた後に拳を握り締める、まるで何かを必死に耐える様に。

 

ミアル「知ってる人に誰だと問われ、自分を犠牲にしたらキレられ・・・挙句の果てには人間扱い、そりゃ辛くもなるよ」

 

ミアルは優しくエルレイの背中を摩る、エルレイとミアルは恐ろしいほどに人間に憎悪を燃やしている、人間と呼ばれるだけで屈辱なのだ。

 

エルレイ「あの子に・・・悪気はないよ」

 

ミアル「そんなの関係ないよ、問題なのはリィエルを人間扱いしたこと・・・だよ」

 

そういうとエルレイはため息をつく。

 

ミアル「それとも一緒にされたい?

 

普通という言葉で自分を守り

 

普通じゃないと決めつけて突き放し

 

正義と評して他の誰かに重荷を背負わせて

 

悪と決めつけその者の言う事を聞く耳すら持たなくなる

 

そんな人間達と一緒にされてうれしい?」

 

エルレイ「っ」

 

エルレイは唇をかんだ、いくら一度会った少女といえど、人間をとことん嫌っているエルレイにとって、人間扱いされるのは、決して容認できない屈辱なのだ。

 

ミアル「大丈夫・・・リィエルはちゃんと殺戮人形だよ・・・自分の事しか考えてない外道下等生物とは違う」

 

ミアルはそう言いながらエルレイの頭を撫でた。

 

エルレイ「違う・・・あの子は・・・」

 

ミアル「違わない、あの子はリィエルを助けた、ロクサスが言ってたこと、人間は何故、慈悲を与えるのか・・・覚えてる?」

 

エルレイ「・・・その者を弱者だと決めつけて・・・自分が優位だと刷り込ませる行動」

 

ミアル「よくできました、そもそも、なんであの子にあそこまで肩入れするの?」

 

そのミアルの問いに、エルレイは黙ったままだった。ミアルは軽く苦笑いをして、エルレイにお茶を差し出した。

 

ミアル「・・・だんまり、いいよ、私がちょっとあの子とお話して見るから、リィエルのいない所でね」

 

ミアルはそう言い残すと、その場を去っていた

 

許せない、自分の欲を満たすことしか能のない下等生物がリィエルを誑かした、万死に値する。

 

 

       フィールと言う少女…

 

奴は確実に排除しなければ、もっとリィエルは狂わされる。

 

ミアルは腕の皮膚の中に隠しているナイフを見つめながら、エルレイの場を後にした。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去のフィールとの遭遇 中編

中編です!

てか結構書いていたんですね…(アステカさんの前書き見ながら)

こちらはミアル視点となっております。内容を知っているアステカさんも是非是非!!


 

フィール「ふあああぁ、眠い」

 

 

 遅くまで起きたのに起きるのは早いのは、長く眠ると悪夢に魘されるからだ。エルザとミアルはまだ寝ている。まだ眠いし、今日は任務は無いが、それでも休み方とか分かる筈もなかった。 目を擦り、硬い床から起き上がる。

 

 

エルレイ「おはよ?」

 

 

 起きた瞬間に警戒したが一瞬で解いた。エルレイはもう起きていた、どこからか取り出したであろうおにぎりを握っている。 

 

 

フィール「いや何してんの」

 

 

 意外と冷静に質問したフィールだが、少し動揺している。 

 

 

エルレイ「これ? おにぎり握ってる」

 

 

 何か問題でも? といった表情をエルレイは見せる。

 問題だらけなのだが、軽くドヤ顔をしているエルレイにため息をつく。

 

 

エルレイ「大丈夫だよ、これさっき買ってきて炊いたやつ」 

 

 

 フィールは昨日エルレイが自刃した腕を見る。

 眼はどうやら元に戻っているが、規格外の力を宿していた事を思い出し、考えるのをやめた。

 

 

 フィール「腕と眼は?」 

 エルレイ「ちょっと痛いけど、どっちも動くよ?」

 

 

 そう言いながら握ったおにぎりをフィールに差し出した。 それを見たフィールは額に手を当て、シワが寄っていた。

 

 

 フィール「全く、1日で殆ど完治とかどうなってんだ」

 

 

 ヤケクソ気味におにぎりを口の中に頬張るフィール。

 中身は意外にも昆布や明太子、梅などで美味かった。

 

 その後、ミアルとエルザが起きてミアルは平然と食べている中、エルザは疑いながらもフィールが「毒味はしたから問題ない」と言ったら食べた。

 

 

フィール「んで? 未来から過去へ逆行する魔術だっけ? 端的に言えば不可能じゃない、が正解かな」

 

エルザ「どう言う事?」

 

フィール「正確に言うなら過去に自分の情報を書き込む。要するに本のしおりと同じ、しおりを挟んだ部分から未来を好きな形に変更出来る魔術は存在しなくはない。原理は【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】に似ているかな」

 

エルザ「世界に対して個人的な情報を入力すれば不可能じゃないって事?」

 

フィール「世界の根底を揺るがす歪みを許さないが、多少の歪みは許容範囲内だ。正確に言うなら過去そのものは変えられないが、個人の過去なら変えられる。原理的にはこんなものでしょ」

 

 

 まあそれがわかった所で、なぜエルレイ達が過去の世界に送られたのか、皆目検討もつかない。メリットはなんだ? 2人には確かに特別な力がある事は身に染みて理解した。

 

 だが、この2人がもし、意図的に召喚されたなら役目と言うものがある筈だ。

 

 

フィール「まあいい。今日は休日だ。適当に調べるしかないか」

エルレイ「? 二人は、拷問屋に渡したらお仕事終わりでは?」

 

 

 エルレイがまだそんなことを言っている。 

 だが今回は2人を上層部に尚更引き渡せなくなった。

 

 

フィール「いや、引き渡しは無し。そもそも上層部さえ信用し切れないし、未来から来たなんて上層部に報告してみる? 最近一掃した連中のせいで今の上層部はピリピリしてんのに」

 

エルザ「まあ、1番怪しいイグナイト家の人間、室長は除いて妙にきな臭いしね。2人を渡したら敵に情報が回る可能性があるしね」

 

 

 絶対に知れ渡る。確信があった。大部分の情報を掴んだのに、逃げられるのは上の連中に裏切り者がいるからだ。まあ全員書類上は白だが、アリシア女王陛下以外は誰もが怪しいのだ。

 

 

ミアル「イグナイト家がきな臭い……か、どこも同じなんだね」

 

 

 そう言いながらミアルは苦笑いをした。

 どうやら、そちらの未来でもイグナイトには何かあるのだろう。

 

 

エルレイ「いや……ちゃんと普通の人もいる……いやいないか」

 

 

 そう言いながらエルレイはため息をつく。

 一応、この世界のイグナイトはイヴなのだが、悪友のイメージが強く確かに普通じゃない。

 

 

ミアル「……というか、上層部が信じられず、私達を受け渡しはなし、しかも情報は欲しいけど、拷問もする気配なし……」

 

エルレイ「……なんで殺さないのって疑問しかないよね……こっちとしては」 

 

フィール「殺さない理由? コレだよ」

 

 

 フィールのポケットから取り出したのは黄色の球体だ。

 それを見たエルレイは自分のポケットを探るが、見当たらない。

 

 

フィール「身体検査をしている時に、これを見つけた」

 

 

 これはエルレイが持っていた白魔【イリュージョン・スフィア】を拡張させる為に作られた魔導具だ。それは未来でフィールに一時的に出会った時にフィールが忘れたものだ。

 

 

フィール「これは私がセリカ伯母さんに見せる為に作った最初の魔導具で、術式は少し杜撰とは言え、これ専用の詠唱をしなければ機能しない魔導具。明らかにこれは私の持つ魔導具と同じ」

 

エルザ「それって……未来でフィールから受け取ったから?」

 

フィール「そう。この術式は間違いなく私が描いたもの。それが二つも存在していると言う事は……貴女は未来で私に出会ってると言う証明にはなった」

 

エルレイ「……成程」

 

 

 エルレイは納得したようにポケットからいちごタルトを取り出して、頬張った。

 ミアルはさりげなく、いちごタルトを1枚盗んで頬張る。それに呆れているフィールは疲れもあって欠伸をしていた。

 

 

ミアル「ところで、適当に調べると言っても、あてはあるんですか?」

 

フィール「さっきも言ったように、人間そのものを肉体ごと過去に飛ばすのは原理上は難しい。回路や肉体が時間の奔流に流されて磨耗やボロボロになって最悪死ぬからね」

 

 

 今解明されている術式では、そんな事不可能に等しい。

 そもそも時間や概念をすっ飛ばしてそんな事をしたら肉体が塵になる。だが、とフィールは付け足す。

 

 

フィール「だけど、精神体、自分が生きていたという情報のみを過去に飛ばすなら肉体ごと飛ばすより難しくない。()()()()()()()()()()()()()()()()()があれば、仮初とは言え肉体が必ずついてくる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

エルザ「つまり? 2人は霊体で、仮初の受肉で存在しているって事?」

 

フィール「まあそんな感じだね。そして、魂に関連する魔術師や、外道魔術師の通り名である程度は予測できる。こんな事が出来るのはシオンか、もしくはシオンの研究に携わった誰か」

 

 

 そんな事が出来る人物は1人のみ。

 シオンを殺し、魂に関連する研究データを盗み、イルシアを殺した人物で、この世界でいまだに捕まっていない人物。

 

 

エルザ「……ライネル=レイヤー?」

 

フィール「可能性は高い。アイツが今のコピー体を造る第二団(アダプテフ)地位(オーダー)》だし、恐らくはそいつと、もう1人黒幕がいる」

 

 

 ライネル以外に少なくとも1人、今のミアルやエルレイを連れてくる理由が存在する。いや、連れて来てメリットがある黒幕が存在する。 

 

 

エルレイ「ライネル……もうその名は、聞かないと思っていたが」

 

 

 エルレイは少しいら立ちを抑える様に唇をかんだ。

 

 

ミアル「おちついて、リィエル、血が出ちゃう」

 

 

 それを見ていたミアルが落ち着かせようとエルレイの背中を摩った。

 

 

ミアル「そのライネルって人と、もう一人黒幕がいる可能性があるんだね?」 

 

フィール「多分ね、ライネル単体でこんな事は出来ない。多分目的は……ミアル、貴女だろうね」

 

 

 推測とは言え、狙いは未来のエルミアナだと口にした。

 まあ理由は推測出来る。この人物もエルミアナ王女と同質の存在なら理由は一つ。

 

 

フィール「貴女は『王者の法(アルスマグナ)』が使えるよね?」 

 

ミアル「! ……へえ、それを知ってるんだ、ということは情報がもう拡散されてるってことかな?」

 

 

 ミアルは少し驚いた後、首を傾げた。 

 ミアルもといルミア=ティンジェルは異能持ち、それも特異な異能を宿している。

 

 

フィール「上層部なら誰でも知ってる。天の智慧研究会は最初から本質に気付いてるみたいだけどね」

 

 

 そして、何よりルミアの能力は昇華だ。強化ではなく、理論やルーンの強さをアップグレードさせる力だ。『禁忌教典(アカシックレコード)』を追う奴等にとって必要なピースだ。

 

 

フィール「だがもし、並行世界からその異能が使えるミアルを集めたら? この世界のライネルはミアルを使って更にコピー体を増やす事が出来る。そして、一定の上層部を瓦解させ、権力を握る事で得するのは1番怪しいイグナイトになる。そして、イグナイトの唯一の駒。世界に干渉する魔術師と言えば?」

 

ミアル「……そういう事」

 

エルレイ「……イグナイト家マジ……クタバレ」

 

 

 エルレイはいら立ちを抑えることなくそう吐き捨てた。 

 

 

フィール「てか2人も心当たりがあるんじゃない? 元帝国宮廷魔導師団にいつの間にか居た人間で、イグナイト家の幻術使いの駒の名前」

 

 

 フィールはため息をつきながら聞いてみる。

 確か上層部の連中を一掃した中にも居た。あの時は幻影に惑わせて対象から外れたから捕まえられたが、上層部に引き渡した後に逃げられた。

 

 二人は少し黙り込んだのち……。

 

 

ミアル「忘れたよ…………イグナイト家の人間なんて」

 

 

 そう吐き捨てた。

 どうやらいい思い出はなさそうだ。

 

 

エルレイ「一つ言っておく、私達の世界ではイグナイト家は滅亡してるんだ、存在するとしたらそれはイグナイト家ではなくなった人間」

 

エルレイ「あと、あまりミアルの前で、イグナイト家の話はしないで、怒ったら怖いよ?」

 

フィール「……事情は聞かないけど、今回ばかりは貴女の協力も必要だ。あの魔術に対抗出来るのは『王者の法(アルスマグナ)』くらいだし。そもそも、魂に合わせた仮初の肉体が長く持つわけがない。放っておくと貴女達は死ぬ」

 

エルザ「なっ……!?」

 

フィール「()()()2()()()()()()()()()()()()()()()()んだから当然でしょ。時間が経てば綻びは修正されていくのが基本。長引けばいつ死ぬか分からないしね」

 

ミアル「そういう事なら協力します、死にたくはありませんからね♪」

 

 

 そのミアルの言葉にエルレイはため息をついた。

 

 

エルレイ「イグナイト家の話が無くなってからこの子明るく……まあいいや」

 

 

 エルレイはあきれ果てたように二人にいちごタルトを渡す。

 

 

エルレイ「はい、協力の証、二人は未成年っぽいからこれでいいよね、おたべ?」

 

 

 エルレイの言葉に三人とも一瞬硬直する、なぜ証明がいちごタルトなのか全員疑問なのだ。

 

 

フィール「いや要らないから。そもそも、何故かベッドの横にあったから食べたし。私はこれからイヴの所に行く。アイツならある程度はライネル達の動向を知ってるかもしれないからね」

 

エルザ「私はどうすんの?」

 

フィール「ぶっちゃければ休め。普通に筋肉痛で動きにくいでしょ」

 

エルザ「うっ」 

 

エルレイ「じゃあ、エルザはお食べ?」

 

ミアル「あはは……こんな子でごめんね?」

 

 

 ミアルはエルザに目線を合わせて5個ぐらい積まれたいちごタルトを見ながら苦笑いし、それを横目にフィールは隠れ家から出ていた。

 

 

 ────────────────────

 

『さて…殺るの?ルミア』

 

ミアル「…勿論」

 

真っ暗闇、何もかもが暗黒に包まれる空間の中、ミアルは無表情で、自分に似た誰か、自分であって自分ではない羽の生えた女と話していた。

 

『別に殺ってもいいけど、できるだけ手を汚しちゃだめよ?』

 

ミアル「…ふふっ、心配してくれるんだ」

 

『は?嫌いよ、あなたのことなんて』

 

いつも道理すぎる自分のもう一人に苦笑いをしながらミアルは忍ばせたナイフを見つめた。

 

ミアル「フィール…確かそんな名前だったっけ?」

 

『別に覚える必要ないわ これから消える人間の名前 なんて』

 

そういいながらミアル似の女性はあざ笑うかのように微笑んだ。

 

ミアル「そうだね…その通り」

 

『さあ、最高の慈悲を与えに行きましょう?」

 

ミアル「わかってるよナムルス……」

 

慈悲、それは人を助けるための言葉、誰かを助けたいと願うときに使う言葉。しかし、この二人の言う慈悲は少し違った。

 

ミアル「殺すという…最高の慈悲を与えてやる」

 

ミアルはナムルスと呼んだその女性を横目で見ながら、その暗黒空間を去った。

 

 

 

────────

 

 フィールは保管していた装備を手に取り、武器庫から自分の貯めていた装備を装着する。そして隠れ家へと向かい始めようとした。

 

 

ミアル「おわった?」

 

 

 突如声がして後ろに下がるフィール。武器庫を出ると同時に気配なくミアルがそこにはいた。 

 

 

フィール「いやここ機密場所! 何で居るの……」

 

ミアル「ごめんなさい、でもどうしても貴女に忠告することがあったから、誰もいないここは都合がいいんだ」

 

 

 そう言いながらミアルは軽く笑った。 

 

 

フィール「忠告?」

 

 

 フィールは首を傾げた。

 

 

ミアル「ま、むずかしいことじゃないよ」

 

 

 ミアルはフィールに顔を寄せた、その顔はどこか無表情で怒りを放っているような気がする、そんな顔だった。

 

 

ミアル「二度とリィエルを、人間ごときと一緒にするな」 

 

『相変わらず甘いわね…』

 

ミアルのいつも道理のやさしさに、ナムルスはため息をついた。ナムルスの声はフィールには聞こえていない。

 

 

 その鋭い殺気にフィールは一瞬顔が強張った。

 

 

フィール「へぇ、昨日の話、聞いてたんだ?」

 

ミアル「あの状況で寝れるほど……私はできていない」

 

フィール「じゃあ何? 人間と一緒にするなって事はアンタらは何なの? 人間じゃないとでも言いたいの?」

 

 

 不適に笑いながらもフィールは口にする。

それは言う必要がないことだ、話をそらさないでほしい。

 

ミアル「それは貴女が知らなくても良いこと」

 

 

 そういうとミアルはため息をついた。

 

 

ミアル「けど、詳しくは言えないけどあの子は人形として利用され続けてきた……そして私もね……」

 

 

 ミアルは一度俯いたあと、もう一度フィールに向き直った。

 

 

ミアル「その利用しか考えてない下等外道生物共と私の親友が同じだと言わないでほしい……それだけだよ」

 

 

 ミアルはそう言い放った瞬間。

 

 

 

フィール「ぷっ、あははははははははははははははははははは!!!!」

 

 

 フィールは耐え切れず腹を抱えて笑った。

 何がおかしかったのか顰めっ面でフィールを睨むミアル。

 

 

フィール「それアンタ人類皆同じとか言ってるのと同じだぞ!? 私がいつ外道魔術師と同じような人間と一緒にした!?」

 

 

 フィールは冷静だった仮面を外して笑う。

 その極端過ぎる持論に笑わずにはいられなかったのだろう…しかし。

 

『これで…殺さない理由はなくなったわね』

 

(ええ)

 

そう、これでミアルの怒りが頂点になる。そもそもミアルは、最初にフィールが言った通り 人類皆同じ下等外道生物 そのつもりで言った。外道魔術師だろうが、正義の魔術師だろうが、すべて同じ。例外を作る気などなかった。しかしこの少女はこともあろうに外道魔術師とは一緒にしていないという、ミアルには言ってはならない人間の差別用語を口にした。

 

 

フィール「私が言ったのはあくまで、人間と言う生物の生き方について、外道魔術師と比べた? そもそも比べてない。私は自己犠牲の塊みたいなアイツに怒っただけだ。外道魔術師と一緒にしたとは言ってない」 

 

(自己犠牲で何が悪い?犠牲を考えず、ただ外道魔術師と罵って殺すだけのお前と一緒にするな)

 

ミアルは内心舌打ちをして…隠し持っていた。ナイフを、見えないように取り出した。

 

ミアル「つまり、貴女は外道魔術師と一緒にした訳ではないと?」

 

 

 

 

 

論外だ、フィール=レーダス、リィエルを誑かすお前を、やはり殺らないわけにはいかない。

 

 

 

 

フィール「そもそも外道魔術師=人間って考えだろ? アンタが考えてる事。そりゃ間違いだ。そんな訳ないじゃん人間って。生きてりゃ誰だって人間。人形でも道具でもない。それだけの話だよ」

 

「…」

 

『何?どうしたのよ』

 

似ている。とても。

 

『は?』

 

グレン先生に似てる。

 

少しミアルは困惑した。考え方がグレン=レーダス、自分の恩人とそっくりなのだ。

 

『そりゃあ似てるかもしれないけど』

 

 

そんなミアルの心の声を知らないフィールはカラカラと笑いながら口にした。

 

 

フィール「って、お父さんが生きていたらそう言ってたと思うよ? 私はね?」 

 

ミアル「……ふふっ、グレンせんせ……グレンさんみたいだねそれ、あ、No.0の愚者の人のことね」

 

『な?!ちょっと?!』 

 

フィール「……先生ねぇ。()()()()()()では助かったんだね。私のお父さんは」

 

ミアル「そっちの世界……か」

 

この子はこっちの事情を知らない、そして私たちもまた、この子の事情は知らない。ここで殺すのはお門違い…かな?

 

『は?血迷ったの?リィエルを誑かした、それで理由は十分じゃない。今更向こうの事情なんて…』

 

……

 

『…ハイハイ。どうなっても責任取らないわよ?』

 

フィール「あはは、お母さんの言った通りか。まあいい。隠れ家に戻るよ。直ぐに終わらせようか。ミアルもエルレイも、手を貸してもらうよ?」

 

ミアル「わかってるよ、すぐに終わらせよっか《我目覚めるは・赤龍帝とデウスの力を許容する・名無しなり・異端を愛し・慈悲を捨てる・我が力を糧として・我に大いなる力を与えたまえ》」 

 

 

 ミアルが詠唱すると、熱が発生し、なくなると思ったら突如、何もない空間が裂け、そのヒビから人を押しつぶせそうなほどの大きな懐中時計のようなものが出てくる、その中は深淵で何があるのかわからない。

 

 

ミアル「こっちに、おいで」 

 

フィール「いやいや、大丈夫なのそれ? 途轍もなく嫌な魔力を感じるんだけど」

 

 

 冷や汗をかきながらミアルに聞いた。 

 空間がひび割れて出てきた懐中時計なんて怪しさと不快感が二重に襲いかかってくる。

 

 

ミアル「あ、大丈夫だよ、危ないものじゃ無いから………まあ使用者の寿命と魂削るけどね」

 

 

 そう言いながら最後にぼそっと苦笑いしながらつぶやいた。だが、フィールには聞こえてしまった。

 

 

フィール「…………私は命を粗末にする生き方が嫌いって言わなかった?」

 

 

 ミアルを少しだけ睨むが、ミアルは苦笑いしていた。

 それを見たフィールはため息をつきながらも、ミアルの額を軽く叩く。正直そんな魔術は気に入らないが、使ってしまった以上どうこうなる問題じゃない。

 

 

フィール「……行くよ」

 

ミアル「あはは、ごめんね、私達はそのあなたの嫌いな事を好きな人のためにするのが大好きなんだ」

 

 

 そういうとミアルはいつの間にか両手に古風の拳銃を二丁構えていた。そしてそのままフィールを抱き寄せる。

 

 

ミアル「《刻々帝(ザフキエル)》  《一の弾(アレフ)》」

 

 

 ミアルは銃を自分の頭に向けて容赦なく発射する。するとなぜかそこで意識が一瞬だけ刈り取られた。

 刈り取られたのは0,001秒程度だったが、気付くとそこは隠れ家で、瞬間移動でもしたかのような感覚だった。

 

 

ミアル「ただいま」

 

エルレイ「お帰り」 

 

フィール「瞬間移動……ねぇ。《ショート・テレポ》じゃあるまいし」

 

エルザ「お帰りフィール。場所は特定出来たの?」

 

フィール「まあね。復興中のフェジテに神出鬼没で現れる人間。どう考えても怪しいでしょ。【ストーム・グラスパー】で探知して、探し出すから行くよ。刀は砥いだの?」

 

エルザ「バッチリよ。砥石はエルレイが錬金してくれたし」

 

エルレイ「砥石制作代償、エルザをモフらせることと、いちごタルトを食べてもらう事」

 

ミアル「はいはい。別に一触即発になったりはしてないんだね」

 

 

 そう言いながらミアルは苦笑いをした。 

 エルザも既に装備は完璧だ。どうやら短期決戦な雰囲気を感じていたのはエルザも同じだったようだ。

 

エルレイ「不思議な子…でしょ?」

 

ミアル「ええ、私が怒りで殺さなかった程度には…ね」

 

二人はエルザとフィールに聞こえないようにぼそぼそと話した。

 

 

フィール「んじゃ、行きますか」

 

エルザ「仕事は早く終わらせるに限るし……この構図だとダブルデート?」

 

フィール「男が1人もいないけどね」

 

エルレイ「デート………シュウいないけど、いいか」

 

ミアル「そうだね……さあ、リィエル、もう一度私たちの」

 

エルレイ「ん……私たちの」 

 

 

「「「「戦争(デート)を始めましょう」」」」

 

 

 不敵な笑みでクールに決める4人。

 もはや敵など居ないに等しい。その背中は男顔負けの殺戮者の背中だった。

 

 

 

 

 

 

 

フィール「…………乗っかってみたけど、これ流行ってんの?」

 

ミアル「いや……」

 

エルレイ「うちの掛け声……ってだけ」 

 

 

 エルザは苦笑していた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 復興中のフェジテは建物が修繕されていき、半分とはいえようやく人が住めるほどにはなった。その中で神出鬼没の存在と言えば、1人しかいない。

 

 

フィール「見つけた」

 

エルザ「相変わらず、凄い感知力ね」

 

フィール「地下。空洞が存在してる以上、換気できるだけの場所は必要でしょ? 東に300メトラ、そこから異様に空気の流れが下に向かってる」

 

 

 黒魔改【ストーム・グラスパー】は周囲の風を全て把握し、支配下に置く力。風使いのセラの娘としての力を本領発揮するフィール。伊達にセラの娘ではない。

 

 

ミアル「この歳で良くここまで……」

 

 

 ミアルは珍しく素直にフィールに驚いた。

 これ程の技量は自分達がいた時代のシスティーナでも可能だったか分からない程、支配領域が大きいのだ。

 

 

エルレイ「それで、敵は?」

 

フィール「風だけじゃ人物までは分からないけど、ある程度は絞れた。恐らく一軒家の地下、そこに空洞を作って研究所を生み出してるんでしょうね」

 

エルザ「まあその場所に行って人払いの結界を張って、後は強行突破する? 罠ならフィールが感知出来るし」

 

フィール「それでもいいけど、そっちの2人は?」

 

エルレイ「罠感知なんで必要ない」

 

 

 エルレイはそう断言した。

 しまった。よくよく考えればコピー体も同じように突貫型だった。

 

 

エルレイ「突っ込めば勝て──」

 

どすっ!!! 

 

ミアル「それで大丈夫」 

 

フィール「……死んだか」

 

エルザ「……死んだね」

 

ミアル「南無さん」

 

どすっ!! どすっ!! どすっ!! 

 

エルレイ「いくら何でも辛辣過ぎ」 

 

フィール「昨日、手首勝手に切り落として【リヴァイヴァー】まで使った後に、縫合と回路(パス)の治療させた事、まだ怒ってるからね」

 

エルレイ「怒ってくれるんだ、フィーちゃんは優しいね、ありがとタルト」

 

 

 そう言いながらエルレイはいちごタルトを差し出した。 

 だがフィールは冷静な顔をして、いちごタルトをエルレイから貰わずに告げる。

 

 

フィール「任務前は要らない」

 

エルレイ「!?」ガーン

 

 

 とまあ茶番をしながらも、目的地の場所まで駆け始めた。 

 

 

 ────────────────────

 

 

フィール「この換気口の奥が、空洞になってる」

 

エルザ「じゃあこの近くに……」

 

フィール「いるね。民家を虱潰しに探したら流石に怪しまれるし」

 

 

 どうしようかなぁ、とフィールは考えている。

 仮にも《月》のイリアの幻術は、『王者の法(アルスマグナ)』でさえ覚醒が難しいのに、手っ取り早く地下の入り口さえ見つかれば楽なのだが……

 

 

ミアル「? 地下の入り口から入ろうよ、そのほうが楽だし」

 

 

 ミアルは首を傾げながらそう言った。 

 だがそう言う問題ではないのだ。民家のどこにあるか分からない。

 

 

フィール「その地下の入り口がこの近くの民家の中の何処かにあるのよ。けど、それ以上は分からないし場所も密閉されている部屋とかに風の感知は無理だし。民家には人が住んでるのに、いちいち聞き回ったら勘付かれるでしょうが」

 

 

 ここはいっそ、この換気口の地盤を壊すか? 

 いやそんな脳筋な事をしたら始末書ものだ。絶対にやりたくない。

 

 

ミアル「……リィエル、見つけ出しなさい」

 

エルレイ「はっ、エルミアナ様の仰せのままに」

 

 

 エルレイはそう言うとしゃがみこんで、地面をトントンと叩き始めた。 

 

 

フィール「洗脳?」

 

 

 精神掌握しているように見えるのは私だけか? 

 と言うか詠唱すら無しに精神掌握したぞこの人。 

 

 

エルレイ「ごめん……今のはただの仕事のノリ、洗脳はされてない」

 

 

 エルレイは苦笑いをしながら地面を叩いていた手を止めて、立ち上がる。

 

 

エルレイ「こっち、ついてきて」 

 

エルザ「えっ、分かるの?」

 

フィール「まさか……臭いで? 犬か?」

 

エルレイ「誰が犬、わたしは猫派」

 

 

 少しムッとしたエルレイに苦笑いしながらミアルが説明し始める。

 

 

ミアル「超音波だよ。今この子は地面を叩いて超音波を振動させて、ここの地形を把握してたんだよ、しかもその超音波は基本的にリィエルにしか聞こえない」 

 

フィール「便利だね。成る程、リィエルの元のスペックなら納得か」

 

エルザ「ああ、確かに」

 

 

 この世界のリィエル? 

 ああ、剣の神エリエーテの斬撃を縦横無尽に放ってくる化け物ですよ? あんなの命が幾つあっても足りないくらい大変だし。

 

 

エルレイ「いこう、先陣は私が務める」

 

 

 そういうとエルレイは足音も全くたてず、まるでその場に居ないかのような体の軽やかさで移動し始めた。 

 

 

フィール「仕方ない。エルザ、今回は後衛で。ミアルと行動」

 

エルザ「りょーかいよ」

 

フィール「罠を感知しながら行くから……ってエルレイ! 三歩目に罠!!」

 

 

 フィールがエルレイに叫んだ瞬間、エルレイは一歩後ろに下がった。

 

 

フィール「意外と面倒な……《滅せよ》!」

 

 

 フィールは罠の部分に【ディスペル・フォース】で無力化する。一度踏んだら肉体が焼かれる炎の罠魔術だ。アレをエルレイが踏んでいたら、致命傷は避けても、脚くらいは潰せただろう。

 

 

エルレイ「っ……と、ごめん、今のは気づかなかった」

 

 

 そう言いながら振り返るや否や、また走り出す。

 

 

ミアル「懲りてないのかなあの子……」 

 

フィール「って待て!? ……五歩目と十二歩目! 上にも罠があるんだけど!?」

 

 

 指示する前に気付いたらエルレイは罠を踏んでいた。

 上から降ってくる針の雨、下から凍る凍結魔術。何とも悪質な罠が多い事だ。

 

 

フィール「《暴乱の塔よ》!」

 

 

 フィールは黒魔改【ライアブル・スクリーン】で全ての針をエルレイから逸らす。猪突猛進過ぎてフィールが即興で合わせなくちゃいけないのが精神的にしんどい。 

 

 

エルレイ「ん、ありがと……」

 

 

 エルレイは優しい笑顔でフィールを見つめた、まるで自分の娘を見ているかのように……

 

 

 

 

 

 

エルレイ「んじゃ」

 

ミアル「んじゃ、じゃない」

 

 バシュン!!! 

 

 ミアルは容赦なく持っていた銃をエルレイの眉間にぶっ放した。 

 

 

フィール「えっ? 躊躇無し?」

 

エルザ「別の意味で怖いんだけどミアルさん」

 

 

 銃を躊躇無く味方に撃った。ある意味、尊敬する。 

 

 

ミアル「味方に撃つのを躊躇してたら、ツッコミ担当がいなくなるも同然だから」

 

 

 そんな話をしていると。さすがにエルレイが一度戻ってきた。

 

 

エルレイ「ルミア……痛い」

 

ミアル「あ、ごめんあそばせ? 射線上にいたもので」

 

エルレイ「流石、流石、ロクサスに鍛えられた理不尽は、言うことが違いますね」

 

ミアル「ふふっ、突っ込んで守るしか脳のないシュウくん見たいなリィエルには遠く及ばないよ?」

 

エルレイ「一本取られた。ふふっ」

 

ミアル「でしょ? あははっ」

 

「「はははははっ」」

 

 スチャ……、カチャン……

 

 バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! 

 

 

 

フィール「……エルザ、止めてきて」

 

エルザ「無理です」

 

 

 フィールはため息をつきながら、秒針を投げる。

 2人の首元に軽く刺さった瞬間、2人は膝をついて倒れた。

 

 

「「うっ……!?」

 

 

 地面と友達になれたようでフィールは頭を痛めながらも地味に強く首元に突き刺した。痛いだけで回復すればすぐ治る。

 

 

フィール「味方に撃つのを躊躇してたら、ツッコミ担当がいなくなる……だっけ?」

 

エルザ「麻痺毒……」

 

 

 解毒の針を腕に突き刺して、注射より痛い為2人は悶絶していた。

 

 

 ────────────────────

 

 

エルレイ「刺された瞬間、またシスティーナに止められたか、と思ってしまった」

 

 

 エルレイとミアルは首元を擦った。

 

 

ミアル「……今回はリィエルのせいだよ」

 

エルレイ「先に撃ってきたのはそっち」

 

フィール「次やったら致死性の毒」

 

「「はい、すいませんでした」」

 

 

※この二人はほとんど何されても死にませんが、唯一毒はまともにくらいます。 

 

 

フィール「さて、罠は大分終わった筈だし、そろそろ広間に……」

 

 

 研究所に進むと大広間のような場所に出る。

 そこには『Project:Revive life』で生み出されたリィエルの量産兵の他に、別の人間の……第二団《地位》の人間の肉体すら存在している。

 

 

フィール「かつて《竜帝》レイクが蘇生したのと同じ、死んでも死なない矛盾はやっぱりこれか。コイツらは()()()()()()()があるって訳ね」

 

エルレイ「…………ちっ所詮外道下等生物か」

 

 

 エルレイは小さくそう呟いた。

 これは即座に壊した方がいい、そう判断した瞬間に水槽の中にいたリィエルのコピー体の水槽が壊れて、表に出始めた。その数は約8体。しかも服などなく全裸で。

 

 

フィール「自動防衛システムにでも引っかかったか。遠視で見ているようね? エルザ! 多分全員エリエーテのデータ打ち込まれてる!」

 

 

 コピー体達は即座に剣を錬金して襲いかかる。 

 

 

エルレイ「《エクスマキナ》 《5の因果》」

 

 

 そう言いながら剣を掲げると空間がチャックのように裂け、人一人なら押しつぶせそうなほどの隕石がエルレイの周りに8つ浮かび上がる。

 

 

エルレイ「《殺れ》」

 

 

 エルレイがそう言って剣を振り下ろすと同時に隕石が全て動き出し、数秒後にはコピー体に激突する。その様子にエルザは純粋に驚いていた。

 

 

エルザ「凄い……」

 

フィール「いやまだ!」

 

 

 コピー体はダメージこそ負ったものの、致命傷を避けている。

 剣の姫エリエーテによる反応速度はゼーロスやエルザを超える。

 

 

フィール「《雷槍よ––––撃ち砕け》!」

 

 

 フィールが同時起動した8つの【ライトニング・ピアス】と同時にエルザが動き出す。無理矢理剣で防いだせいで生じた隙にエルザは抜刀【神風】をフィールの風で強化して、一気に2体の首を落とす。

 

 その瞬間にコピー体も動き出すが、フィールは赤い魔銃ペネトレイターで6連早撃ち(クイック・ドロウ)で一体の眉間を撃ち抜いた。

 

 

フィール「三体そっちに行ったよ!」

 

エルレイ「今ので仕留め損なった」

 

ミアル「詰めが甘かったね」

 

 

 そう言いながらエルレイは軽々とコピー体の攻撃を受け流し、的確に大剣を使い、仕留めていく。

 

 

エルレイ「ふっ……はっ……と」

 

 

 一体は完全に潰すために首を狩り、二体目は両手両足を確実に切り落とし。

 

 

ミアル「《ごめんね》」

 

 

 最後の一体はミアルの詠唱により、《イクステンション・レイ》のようなものが起動し、最後の一体も無残にも四散した。 

 

 フィール達も最後の一体を魔剣エスパーダで斬り裂き、終わったがフィールはやはり疑問に思っている事を聞いた。

 

 

フィール「いや、アンタらどうなってんのその魔術。貸し与えられる上限を超えてるでしょ」

 

エルザ「どう言う事?」

 

フィール「原理は精霊魔術に近いんだけど、精霊の力を体内に宿して使用する稀な存在に近いけど、貸し与えられてるのって明らかに天使や精霊、悪魔を超えてる。まるで……」

 

 

 神霊に近いものを感じる。

 おかしいのだ。そんな力を人間の体内に宿せば過剰な力で内側から崩壊する。その筈なのに、この2人はそんな力を平然と使っている。

 

 

フィール「契約にしてもその力は絶対におかしい。寿命を対価にすると言ったけど、まるで()()()()()()()()()()()()ように見えるし。魔術理論もさっぱり、ただ願っただけでそうなったって言う古代魔術(エンシェント)にも似てるけど……」

 

 

 フィールが精々暴けたのはそれくらい。

 どんな魔術もフィールの魔術特性(パーソナリティ)で逆算できる筈なのに、暴けたのはその程度なのはおかしいのだ。

 

 

ミアル「ふふ、それは流石に言えない」

 

エルレイ「ん、ナイショ」

 

 

 そう言いながら二人は人差し指を自分の唇に押し付けた。

 

 

ミアル「まぁ、教えてあげるとしたら……この世には神様がいて、その神様にこの肉体と命を捧げている……それくらいかな」

 

 

 ミアルはそう言いながら苦笑いをした。 

 フィールはため息をつきながらも、地味に核心に迫っていた。

 

 

フィール「まあいい。ただそれ、早死にするでしょ」

 

 

 フィールが確信めいた視線を向けると2人はただ沈黙する。どうやら当たりのようだ。

 

 

フィール「……私はそれを魔術とは認めない。命を枯らす為に魔術を使うなんて、魔術に対する冒涜だと言う事だけ、覚えておきなよ?」

 

 

 フィールとエルザは先に進み始める。

 そう言う魔術は気に入らない。自分を犠牲にする魔術は確かに存在する。だがその末路はどれも悲惨だからだ。だが、2人は……

 

 

エルレイ「早死……冒涜だってさ」

 

ミアル「どうでもいい」

 

 

 2人はそう吐き捨てた。

 

 

エルレイ「だよね、冒涜と言うなら、私達はそれを続けるのみ」

 

 

 エルレイはミアルを見ながらそう呟いた。

 

 

ミアル「私達は、ただ無意味に生きて、無意味に搾取してる人間……外道下等生物とは違う、好きな人の為に、命を枯らす。魔術に冒涜するなんて……」

 

「「ただの戯言」」

 

 

 エルレイ達は二人だけでそう話したあと、フィールとエルザの後を追った。 

 

 ────────────────────

 

 

 次の広間に飛び込むと、一瞬にして自分達の周りの空間だけが真っ白に変わった。侵食する白い部屋、瞬間、フィールとエルレイは反射的にその部屋から抜け出そうとするが、反応が遅れたミアルとエルザは飲まれてしまった。

 

 

フィール「エルザ!!」

 

エルレイ「ルミアっ!!!」

 

 

 エルレイが悲痛の声を荒げた。

 白い部屋から抜け出した瞬間、エルレイとフィールは白い部屋に対して凍結魔術を放つが、白い部屋は壊れない。

 

 

フィール「くそっ……魔剣エスパーダ」

 

 

 フィールは強引に因果逆転の魔剣で部屋を切り裂いたが、そこから出てきたのは瞳が赤く染まり、操られている2人だった。

 

 

フィール「エルザ! ……っ……!?」

 

 

 エルザが斬りかかってきた。

 フィールは魔剣エスパーダでそれを受け止めるが、刃を滑らせて下段を狙われる。フィールは瞬時に【フィジカル・ブースト】で跳躍し、後退する。

 

 

フィール「どうやら、エルザには私が敵に見えてるようね」

 

エルレイ「……」

 

 

 何故か、エルレイは何も言おうとしない、硬直している。

 

 

フィール「エルレイ! ボーっとしないで! ミアル来てるけど!?」

 

 

 ミアルが氷の鎌を持ってエルレイに迫っている。 

 

 

エルレイ「……」

 

 ザシュ!!! 

 

 エルレイは容赦なくミアルの両足を切り落とした。

 するとミアルは銃を取り出して、斬られた足に発砲、たちまちに時間が戻ったかのように足が元の姿に戻る。

 

 

エルレイ「これができるってことは本物だね……ルミアを洗脳……高く付くぞ、外道下等生物」

 

 

 エルレイそう吐き捨ててから、フィールに向かって叫ぶ。

 

 

エルレイ「おいっ!!! ルミアを助けるついででオマエの相方を助けるっ!!! 十秒時間稼げ下等生物!!」

 

 

 エルレイは今までで聞いたことのないほど怖ろしい叫び声を上げた。だがその命令にフィールが激怒する。 

 

 

フィール「ふざけんな! 誰が下等生物だ誰が!!」

 

 

 フィールは【女帝の世界】を発動し、黒魔改【グラビティ・プリズム】で重力の檻を張るが、2人はそれでも動き続ける。

 

 フィールはその隙に麻痺毒が塗られた秒針をミアルとエルザに投げつけるが、エルザの装備は元々、状態異常に対するレジストがかけられている為、動き続ける。一方ミアルは効いているのか効いてないのか分からないが、止まっていない。

 

 

フィール「おい脳筋!! 麻痺毒じゃダメなのか!? さっき効いた筈だろ!」

 

エルレイ「誰が脳筋だ誰がっ!!!」

 

 

 エルレイはまたフィールに怒鳴りつける。

 

 

エルレイ「さっきの銃見てなかったの?! あれは 時間を自由自在に操る銃!! 今回復するためにルミアの時間が巻き戻ってるから毒が回らないの! 考えろ下等生物っ!!」 

 

フィール「んな滅茶苦茶な! 《荒ぶる風壁よ》!!」

 

 

 フィールは黒魔改【ライアブル・テンペスト】で2人を吹き飛ばすが、壁に激突しようがすぐに体勢を治して襲いかかる。向かい風だと言うのに、風除けの魔術を使われている。

 

 

フィール「これならどう? 《進まぬ床よ》!」

 

 

 即興で錬金術式を組み直し、床を錬成し直す。

 地面が凍ったかのように踏ん張りが聞かずに2人は滑り転んだ。黒魔【スティック・スリップ】で2人の床の半径5メートルの摩擦係数を操り転ばせる。時間的には10秒経った筈だ。

 

 

フィール「まだか! 10秒は経った筈だろ!!」 

 

エルレイ「……詠唱完了、フィーちゃん、さがって」

 

 

 エルレイはいつもの口調に戻り、一枚のカードを掲げる。

 

 

エルレイ「《展開》フルフェイスっ!!」

 

 

 エルレイがそう叫ぶと周りが真っ赤に染まる。するとエルレイの後ろにクリスタルのようなものがそびえ立ち。

 その光に惑わされるかの如く、ミアルとエルザの洗脳は解かれ、前に倒れていく。

 

 

フィール「エルザ……! 良かった、気を失ってるだけか」

 

 

 フィールはエルザを抱き抱えると、安心したように剣をしまう。

 

 

ミアル「……ふふふっ、思ったより遅かったね。リィエル?」

 

エルレイ「やっぱり、その場のノリに合わせてただけだったんだ、そりゃそうだよね」

 

 

 そう言いながらエルレイはため息をついた。 

 

 

フィール「やっぱりミアルには幻術がかかってなかった訳か。まあ時間が戻るなら操られる前に戻るしね。よしそこに直れ、致死毒の後に【イクスティンクション・レイ】だ」

 

 

 キラーン! とフィールの右手に致死毒の秒針が手に握られていた。

 

 

ミアル「やめて。死なないって言ったって痛いものは痛い、ていうか本当に君、グレンさんに似てるね?」

 

 

 そう言いながらミアルは苦笑いをした。 

 

 

フィール「まあそれはさておき」

 

 

 フィールは握られた秒針をエルレイの顔スレスレに投げつける。味方を誤認させ、同士討ちさせる幻術を使える人間なんて1人しか知らない。まあ、躱されたけど。

 

 

フィール「そこにいるんだろ。《月》のイリア」 

 

イリア「……よくぞ見破った。私の幻術を」

 

エルレイ「なんだ、いたんだ」

 

 

 エルレイがせっかく一件落着したのにと言わんばかりのため息をついた。

 

 

フィール「アレだけの幻術使いは貴女しかいないしね。どうする? 投降するなら苦しまずに済むけど?」

 

エルレイ「……フィーちゃん、こいつが黒幕、かな」

 

 

 エルレイは眠たそうな目で呟く、エルレイの世界ではエルレイはある病気にかかり、イリアと実際に対峙したことはない。 

 

 

フィール「《月》のイリア、世界を欺く幻術使い。それに付随する記憶すら捏造する幻術使いの頂点の魔術師」

 

イリア「いかにも、よくこの短時間で幻術を解いたものだ。隣にいるイルシアのコピー体の力か?」

 

フィール「アンタが知る事じゃない。アンタらの企みはこれで終わりだ」

 

イリア「ふっ、忘れたか? 私の幻術は––––ッ!?」

 

 

 イリアが【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】を発動しようとした瞬間、イリア達の視界は真っ暗になった。

 

 

フィール「よく合わせてくれたね。エルレイ」

 

エルレイ「別に合わせてない、フィーちゃんの頑張り」

 

 

 エルレイはそう言いながらフィールに向かって微笑んだ、先程の砕けた口調はまるでなかったかのように、とても安心する笑顔だ。 

 

 

イリア「貴様……! 何をした!!」

 

フィール「黒魔【ダーク・カーテン】光を操作して一定範囲を暗闇がに変える結界魔術。あの乱闘中に、触媒を広げていた事に気づかなかったようね?」

 

 

 あの乱闘中に、自分の血を染み込ませた秒針を【ライアブル・テンペスト】と一緒に辺りに仕掛けていたのだ。

 

 

フィール「"あらゆる精神防御を貫通する"だっけ? ただタネは割れてる。対象に対して自分と言う記憶を植え付けれる反面、遠距離にいる人間や目視できない人間は操れない。遠くにいた私達を操れなかったのがその証拠さ。なら視界さえ塞げばそれは使えなくなる」

 

イリア「こんなもの! 貴様らも見えない以上、結界を解けば!?」

 

フィール「私が誰で、そのコンビにいつもどんな動きをさせてるのか忘れたのか?」

 

 

 暗闇の結界なんて、風使いたるフィールの動きを止めるほど甘くない。この程度、風のパラメータを全て支配下に置く【ストーム・グラスパー】を使うフィールに通用する筈もない。

 

 

フィール「今回はエルザの代わりだけど《駆けろ風狼》!!」

 

 

 速攻の詠唱で他人をサポートし、後ろから魔術で援護するのが、二人一組(エレメント)一戦術単位(ワンユニット)の基本だ。配役こそ変わったが、黒魔【スウィフト・ストリーム】で動き出したのは……

 

 

エルレイ「んっ」

 

 

 エルレイだった、エルレイは恐ろしいほどの速さで、イリアの目の前に現れ、イリアの腕を斬り飛ばす。

 

 

エルレイ「見えずらい、でも、匂いで簡単にわかる」

 

 

 そう言いながらエルレイは不敵に笑った。 

 

 

イリア「ぐああああああああああああああああああっ!?!?」

 

 

 腕を斬り落とされた事に痛みの叫びを上げるイリア。

 フィールは冷静に暗闇の中でエルレイに指示する。

 

 

フィール「エルレイ、眼を布で覆え。眼が使えなければ能力は使えない」

 

 

 世界単位で欺く幻術だろうが、欺く為に自分と世界の位置を正確に把握していなければ使えない。見えなくなれば当然の事だ。目に見えるものが全てじゃないが、目に見えないものも全てじゃない。全てを把握するなら尚の事、視覚というものが必要不可欠なようだ。 

 

 

エルレイ「10-4了解」

 

 

 エルレイはまるで暗闇の中ハッキリ見えているようにポケットから取り出した布で目を縛り上げた。

 

 

エルレイ「これでいい? 目潰し、しておこっか?」 

 

フィール「潰すのは無しだ。コイツを餌に大物を釣る。能力がまだ使えるとわかったら上層部の裏の連中はどんな動きをするか。楽しみだ」

 

 

 このまま上層部に引き渡せば、能力がまだ使えるイリアというカードを取り戻す為に誰かが必ず動く。イリアの腕を止血して、【スリープ・サウンド】で眠らせた後、縄を何重にもして縛った。

 

 

フィール「これでよし」

 

 

 縛り方が亀甲縛りと言う超独特とだけ言っておこう。 

 

 

エルレイ「……」

 

 ドス!!! 

 

 えるれいは、ようしゃなく、ふぃーるにボディブローを、くりだした! 

 

 

フィール「グフッ!? ……何するのさエルレイ!?」

 

エルレイ「どんな教育を受けたら、この縛り方にする結論になるんだ、可笑しい」

 

 エルレイはそう言いながら少しキレ気味で今にも砕けた口調が出そうだった。 

 

 

フィール「いやこれ『お父さんの極意』って書かれてた指南書に書かれてたんですけど……」

 

エルレイ「それよこせ下等生物、今すぐ破いてやる」

 

ミアル「あ、あははは……」 

 

フィール「嫌ですよ。曲がりなりにも形見の遺品ですし」

 

エルレイ「遺品は遺品、参考書じゃな……っ」

 

 

 そう言っていたエルレイが突然口元を抑えた。

 吐血している。マナ欠乏症に陥ったようだ。

 

 

エルレイ「ごほっ……ごほっ……」

 

ミアル「大丈夫? リィエル?」

 

 

 ミアルはそういうと体を摩る。

 どうやらさっきの魔術?はかなり魔力を使ったようだ。

 

 

 エルレイ「ん……ちょっと能力広範囲にしすぎた」

 

 

 そう言いながらエルレイは苦笑いをした。

 

 

フィール「何をしたの? 明らかにマナ欠乏症だよね。そんな大規模な魔術だったの?」

 

ミアル「……まあ、この子なら教えていいか」

 

 

 ミアルは少し考えた後、説明し始めた。

 

 

ミアル「さっきこの子が使った『フルフェイス』あれは洗脳を解く力じゃなくて、逆に洗脳する力なの」

 

 

 「……?」とフィールは首を傾げる。

 

 

ミアル「リィエルは【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】に対抗しようと【|月読ノ揺リ籠《ムーン・クレイドル】自体、世界ひっくるめて概念そのものを洗脳したんだよ、そうだよね」

 

エルレイ「……無駄になったけどね」

 

 

 そう言いながらエルレイは苦笑いをした。

 

 

フィール「んな世界がカウンターを寄越しかねない魔術……。まあいいや。これ、使いなさいな」

 

 

 フィールは魔晶石を渡した。

 魔力を保存する技術は卓越したものでなければ造れない為、中々高価なものだ。

 

 

フィール「自作だし……使い物にならないと困るからね」

 

 

 多少のツンデレを含んだ物言いをした後、フィールは魔晶石を投げ渡し、周囲を風で調べていく。 

 

 

エルレイ「ありがと、このお礼は、いつか必ず」

 

 

 そう言いながらエルレイは魔晶石を両手に持って吸収し始めた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去のフィールとの遭遇 後編

大変お待たせいたしました後編です!!

アステカさん!!今回のコラボ、本当にありがとうございました!!




エルレイ「ねぇ、フィーちゃん」

フィール「ん、どうしたの?」

 

 

 突然エルレイが話しかけてくる。 

 フィールは少しだけ緊張をほぐしながら応答する。

 

 

エルレイ「フィーちゃんはどうして、特務分室に?」

 

 

 いつも道理、眠たそうだがその目には明らかに鋭い光を感じた。

 

 

エルレイ「どうしても…そんな子には見えなくて…」 

 

 

 確かにエルレイからしたらフィールの性格上、特務分室に所属する理由がわからない。どちらかと言えば、フィールは人殺しに向いていない。躊躇こそしていないものの自分から関わりたいとはエルレイから見たら思ってはいないのだろう。

 

 

 

フィール「……別に、私には合ってただけ」

 

 

 エルザを背負いながら歩き出す。

 特務分室が合っているとはどう言う意味なのか首を傾げるエルレイ。

 

 

フィール「【愚者の世界】に【女帝の世界】、二つを駆使すれば魔術師にワンサイドゲーム。私以上に魔術師殺しに適した人間は居ないから、私はその場所に居るだけ」

 

 

 魔術師殺し(メイガス・キラー)であるフィールの強みは魔術の逆算から付与された魔術を解除し、魔術を使おうとすれば魔術を封じ、封じた空間で自分だけが魔術を起動させる。

 

 フィール以上に魔術師に対する特攻が強い人間はこの世界の何処にも存在しないだろう。

 

ミアル「命を枯らす為に魔術を使うなんて、魔術に対する冒涜だ、そう言っていたよね」

 

 ミアルは少しため息をつく。

 確かにあの時、フィールが口にした言葉には怒りと明確な嫌悪感があった。

 

 

ミアル「それをわかってて魔術師殺しをするの?」 

フィール「……うん。魔術は凄いものだよ。使い手次第じゃ善にも悪にもなれる。けど、それでも命を枯らしてまで使う魔術は嫌い。そうやって目の前で、自分が犠牲になってでも敵を倒そうとした馬鹿な天使を知ってるから」

 

 

 フィールが小さかった頃、そうやって自分を犠牲にして全て救おうとした人間がいた。『正義の魔法使い』のように見えた彼女は偽善を張り続けた。みんなと一緒に居たいと言う想いを封じ込めて命を捨てる覚悟で挑んだ彼女は、目の前で全てを奪われたような顔をしていた。

 

 全て奪われた彼女の敵を倒したのは子供だった自分だが、彼女は私を憎んだ。いや、憎んではいないのかもしれないが、どうして早く現れなかったのか、と言う眼でフィールを見たからだ。

 

 当時6歳、背丈も小さく、子供である私が何を言おうが聞いてくれない状況で、唯一生き残った私が油断した背中を貫く刃となった。

 

 命を枯らすと言う事は誰かを置いていくしかない選択しか取れないのだ。残された者は失った命にどう思うのか、痛いくらい理解している。

 

 もしも、お母さんが生きているなら……

 

 

フィール「理由なんて……ただの自己満足だよ」

 

 

 奪った連中を許す事なんて出来ない。

 力ある者である私の義務だから、私は2人の娘だから。

 

 『正義の魔法使い』の偽善者でいい。 

 それが、私が、2人が共に目指し、叶わぬ夢を追う2人が残した希望なのだから。

 

 

エルレイ「……」

 

 エルレイはその言葉を聞いて、普通なら、自己満足でそんなことをするのはおかしいだとか、理由がなってなさ過ぎるとか、そう言うだろう。

 

 しかし……

 

ミアル「リィエル、どう思った?」

エルレイ「パーフェクト回答」 

フィール「ほらエルザ、起きなさい。起きないと深いヤツしちゃうよ?」

 

 

 フィールがペチペチと頬を叩くが目を覚ます様子はない。

 そろそろライネルがいると思われる場所に到達するのに、背負われたままでは困る。

 

 

フィール「おーい」

ミアル「起きそうにないかな?」

 

 

 ミアルがエルザの顔を覗き込む。

 

 

エルレイ「あ、マリアンヌ」

ミアル「………その名前は出さないの」

フィール「3秒で起きないと深いのやっちゃうよー?」

 

 

 3、2、1と数えて目が覚さないエルザにフィールは何の躊躇いもなくエルザの鼻を摘み、キスをしていた。ずちゅうううううううううと言うか効果音が聞こえて如何にも百合に見えるがそうではない。

 

 

エルザ「〜〜〜〜!〜〜〜!?!?」

 

 

 エルザは顔を赤くしながら顔を青くしていた。

 フィールはエルザの空気を吸い込んで呼吸を封じていたのだ。苦しくなったエルザはたちまち目が覚めて、フィールの胸を押して引き剥がす。

 

 

エルザ「ぷはあっ!?し、死ぬかと思っ…ゲホッ!ゲホッ!!」

フィール「よし」

エルザ「よし、じゃない!!乙女の純潔弄ばないの!?」

フィール「敵の領域で気を失って早く目覚めないエルザが悪い」

 

 

 うぐっ、と蹲るエルザ。

 実際は死ぬ可能性が高いこの場所で気を失って早く目覚めないのは確かに危険だ。だがキスで殺されかけた人間の気持ちも考えてほしいものだ。

 

 だが2人は……

 

 

「「──────っ?!?!」」

 

 

 その光景を見てミアルとエルレイは何故か真っ赤になりながら声になっていない叫び声を上げた。

 

 

ミアル「ちょちょちょちょ!!何やってるのかなフィールちゃん?!?!と、突然ききき、き、キスなんて?!いくら女の子同士でも、べ、別に二人の仲を否定したいってわけではないんだよ?でもね?えっとえっと…TPO弁えてというかなんというか、いやここには女の子しかいないし少し薄暗くてシチュエーション的には───」

 

エルレイ「おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい、私とシュウもルミアとロクサスもディープまでいくのは相当時間を費やしたのに、というかELSAが、フィーちゃんとき、き、き、キ…ス?お、落ち着け落ち着け落ち着け私落ち着け、ここで冷静にならなくてどうする?先ずはキスの定義を考えなければいけない、あれはキスとしては分類されても好意のキスではない…ハズ、そもそも────」

 

 

 同時にブツブツと言い始めている。二人共顔が恐ろしいほど真っ赤だ。どうやらこの二人はこの手の話題はとことん苦手のようだ。先程までの、落ち着いている大人っぽい二人は何処へやら… 

 

 

フィール「この方法の『ぱーふぇくと秘伝書』に書いてあった」

 

 

 フィールは全く動揺する事なく告げる。

 因みに2人には恐らくロクデナシの顔が浮かんだであろう。

 

 

エルレイ「グレン……」

 

ミアル「レーダス……」

 

 二人は思い出した、この二人の世界でもある男が『ぱーふぇくと秘伝書』などというふざけた物を持っていて、その男の妻に大目玉を食らっていた話を……。

 

─────

 

『白猫っ!!死に際のやつにはこれを使え!!名付けて、『ディープキッス♥リヴァイヴァー』だ!』

 

『このロクでなしぃぃぃぃぃ─────!!!』

 

─────

 

 

 

「「何処がパーフェクトなの何処がっ!!!」」

 

 

 二人の声は割と響き渡った……だがフィールは2人に呟いた。

 

 

フィール「いや執筆者はセリカ伯母さんだけど」

 

 

 そっち!?と2人はフィールを振り向く。

『ぱーふぇくと秘伝書』に書かれていたのはかなり大人向け。よくよく考えればグレンを女学院に潜入させる為にかなり濃厚なディープキスをしたのはセリカだった。

 

 この世界では既に行方不明だが、やっちゃったぜ☆と言わんばかりの顔をして親指を立ててサムズアップしていた。

 

 

ミアル「あれ…執筆者、アルフォネア教授だったんだ…」

エルレイ「今思うと、なんで私達、あの環境下でグレなかったんだろう…」

 

 

 二人はハイライトが亡くなった目で、何もない所(セリカの幻影が見える所)でミアルは苦笑いをして、エルレイはサムズダウンをした。 

 

 

 ────────────────────

 

 

フィール「《ぶっ飛べ》」

 

 

 フィールは一節で黒魔【ブラスト・ブロウ】を撃ち、扉を強引にこじ開ける。そこに居たのは、余裕の笑みを浮かべて、笑うライネルがそこに居た。

 

 

エルレイ「こんにちは兄さん、私のこと覚えてる…?」

 

 

 くつくつと笑いながら研究所のパネルに寄り掛かり、侵入者を見下しているライネル。エルレイを嫌味ったらしく見下しながら吐き捨てた。 

 

 

ライネル「覚えてるに決まってるじゃないか。リィエル」

 

 

 何せ俺が量産させてるんだし。とくつくつと軽い下卑た笑みを浮かべてエルレイを見るライネル。

 

 

フィール「ライネル=レイヤー。第二団《地位》を持つ量産兵リィエルの製造者。お前を拘束しに来た」

 

 

 フィールは臆する事なく銃を構え、ライネルに告げる。

 ライネルは怖い怖いとまだ余裕の笑みを浮かべている。その笑みにフィールもエルレイ達も警戒していた。

 

 

エルレイ「……一応シオン兄さんの気持ちは汲んでおく………私の妹たちの量産をやめて」

 

 

 エルレイは警戒したままライネルに向かい、問う、やめてほしいと。だがそんな事を言った所で奴は止まらな––––– 

 

 

ライネル「いいよ?別に」

 

 

 だが返ってきた返答は予想外のものだった。

 

 

ライネル「リィエルの量産なんて心苦しいしね。9割段階とは言え、もう完成したし」

フィール「完成?」

ライネス「ほら、出ておいで俺の最高傑作」

 

 

 パチン!と指を鳴らすとライネルの後ろに厳重に管理されていたような機械の中から高威力の魔術によって粉砕し、現れた綺麗な金髪の女性。

 

 

フィール「……………えっ?」

 

 

 フィールは震えた。

 震えて、動揺する。その姿を見た。子供の頃に何度も見た。いつも自分の我儘で甘えて、でも頭を優しく撫でる優しい過去の記憶。

 

 居るはずがない。だってあの人は何も告げずに自分の目の前から消えていった。だが、あの姿は紛れもなかった。

 

 長い綺麗な金髪。

 女神と思わせるような身体付き。

 そして炎を連想させるような紅い瞳。

 

 その姿は……間違いない。

 見間違える筈のない本物と同じ姿をしていた。

 

 フィールは驚愕しながらも弱々しく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

フィール「セリ…カ……伯母さん………?」 

 

 

 そこに居たのは紛れもない。

 伯母であるセリカの姿だった。だが、あの人はあの日から帰ってこない。いや、厳密には死亡扱いされている。まるで死者が蘇ったように、自分の前にセリカが居るのに現実を受け止め切れないで口元を抑える。

 

 

ミアル「フィールちゃん、大丈夫…?」

 

 

 ミアルはフィールの背中を擦った。

 青い顔をしているフィールはセリカを見つめる。だが、やはり似ているとかそんな次元じゃないのは知っていた。

 

 

エルレイ「……はぁ…」

 

 

 エルレイはため息をついた。

 

 

エルレイ「まさかセリカの力を、完全にインプットしてある…とでも言いたい?」

 

 

 エルレイは決めつけた、セリカを完全にコピーできるわけがないと。当然ながら現代の魔術師を瞬殺出来るセリカだが、それ故に高次元な存在だ。永遠者(イモータル)にして第七階梯(セプテンデ)の魔術師、そんな人間を超越した存在のコピーなど不可能だ。

 

 

ライネル「まあ完全には不可能だね。永遠者(イモータル)までは再現出来なかったとは言え……やれ」

 

 

 虚な瞳のセリカのコピー体は右手を突き出すと、微かに聞こえた詠唱で黒魔【プラズマ・カノン】黒魔【プロミネンス・ピラー】を撃ち出した。

 

 

「「「「っっ!?」」」」

 

 

 どちらもB級軍用魔術、打ち消し(バニッシュ)は出来ない為、フィールは【女帝の世界】で重ね掛けした強化でエルザを抱えて躱し、エルレイは【フィジカル・ブースト】をいち早くかけてミアルを抱えて回避していた。

 

 

ライネル「魔術技能に関しては生前と同じ力を使えるように引き出した」

 

 

 確かに今のは第七階梯(セプテンデ)のセリカとしての魔術技能だ。『万理の破壊、構築』と言う魔術特性(パーソナリティ)を持つセリカの実力は詠唱する理論を破壊して自分の規則《ルール》に再構築すること。

 

 

フィール「ッ………!」

 

 

 フィールはそれを見て悲痛な顔をしていた。

 同じ顔なのだ。優しかったあの人と同じ顔なのに、何故戦わなければいけないのかと思うくらいに悲しかった。 

 

 

エルレイ「っ!」

ミアル「リィエル!!時間稼ぎお願い!」

 

 

 エルレイはミアルの言葉に強く頷く。

 

 

エルレイ「エルザ!!コイツはやばい!フィーちゃんを連れて逃げて!」

 

 

 エルレイはそう叫びながら大剣を片手に持ち、コピーのセリカに突進する。

 

エルレイ「いいぃぃやぁぁぁぁ!!!!」

 

 斬りかかるエルレイにセリカのコピーは右手に剣を錬成し、エルレイの一撃を受け止める。そして、弾いたかと思うとまるで剣の姫のような鮮やかな剣舞でエルレイを後退させる。

 

 

エルザ「【ロード・エクスペリエンス】!?でもあの剣はエリエーテの……!?」

フィール「違う。錬成した剣でそれはあり得ない。だから打ち込まれたんだよ。量産兵と同じ剣の神エリエーテのデータを……」

 

 そう。今のセリカは『Project:Revive life』で生み出された感情無き人形。リィエルの量産兵と同じ理論で原初の魂に干渉出来るなら、エリエーテのデータを入力するくらい不可能ではない。

 

 

エルレイ「っ…ひめっ!!」 

 

 

 エルレイがそう叫ぶとエルレイの目が少し鋭くなる。まるで別人になったかのように。

 

 

エルレイ?「フィーちゃん!……だっけ?このセリカもどきは僕とミアルでやる!!二人はライネルを!」

 

 

 そういうとエルレイの剣が何故か黄昏の光を発しているように見えた。

 

 

エルレイ?「大丈夫!僕は一人のほうが強い!そしてミアルもね!」 

 

 

 セリカのコピー体の剣技がエルレイから変わった姫の剣技で応戦する。互いにの剣技は僅かながらエルレイの方が押しているが、致命傷に至らせるような傷を許していないセリカのコピー体。

 

 攻めきれない。オリジナルは()()()な筈なのに。

 

 

エルレイ?「っ…かったい…はは…こんな苦戦久々」

 

 

そう言いながらエルレイはミアルの元へ軽やかに下がる。

 

 

エルレイ?「ルミア!!」

ミアル「わかってます!!《灼爛殲鬼(カマエル)》《(メギド)》─!!!」

 

 

 ミアルそう叫ぶとミアルの元へ大きなさせる炎をまとった戦斧の形をした物が空からミアルの手に落ちてきて、砲台の形に変形する。

 

 

ミアル「…いけっ!!!」

 

 

 ミアルがそう叫ぶと砲台からコピーセリカへ向け、炎の巨大な弾が発射される、見るだけで黒魔改【イクステンション・レイ】よりも威力が高いことが分かる。 

 

 だが……

 

 

フィール「駄目だ!2人共下がれっ!!!」

 

 

 セリカの左手には懐中時計に似たものが握られていた。その瞬間、誰もが動きを封じられた。いや、本人は封じられた事すら気付いていないだろう。

 

 離れていたフィール達は兎も角、接近していた2人も、放った炎も、剣技も全てが停止する世界。

 

 

 

 

 

ミアル「()()()()()()

 

 

が、何故か動いている、ミアルは片手に古式の拳銃をもって、後ろには大きな懐中時計のような金色の物体がある。

 

 

ミアル「時間停止……()()()おはこですから」

 

 

 そう言いながらミアルはコピーセリカに向けて、狂気的にほほ笑んだ。

 

 

(…カッコつけてるところ悪いけど、ここからが問題よ?)

 

ミアル「……わかってる」

 

 

 そう、ミアルにとってはここからが問題。どんな能力を使ったとしてもミアル自身にセリカを倒すほどの実力はない。

 

 

ミアル「ナムルス。詠唱しておいて」

 

 

 ミアルは姿が見えない者にそう言った後…足を踏み出した。

 

 

ミアル「はあああああああああああぁぁぁ!!!!!」

 

 

  刹那───。

 大きな戦斧となった灼爛殲鬼(カマエル)を片手で軽々と振り回し突進する。その威力はまさに災害の如く、生半可の人間では受け流すことさえ不可能なパワーを秘めている…しかし。

 

 

ミアル「…っ!!」

 

 

 多少の傷は付くものの、致命傷までは至らず、誰も動かない。二人だけの空間で膠着状態が続いていた。

 

 

(…よし、ルミア!!変わりなさい!!!)

 

ミアル「10-4了解っ!!!」

 

 

 そう言ってミアルは目をつむると、髪の毛の金髪に銀色のグラデーションがかかったようになっていて、『黄金の鍵』、そしてもう一方に大きな大剣を持っている。これこそが、ミアルの中にいるもう一人の人格である。

 

 

ミアル?「さあ来なさい、(セリカ)の偽物。遊んであげるわ」

 

 

 そう言ってミアルらしき者は黄金の鍵を握りしめながら大きな大剣を振り回す。

 

 

ミアル?「はああああああああああああああああぁ!!!」

 

 

 瞬間───。

コピーセリカの目の前からいなくなったかと思うと、突然目の前に現れ、斬られかける所を如何にかセリカは避けた。

 

 

ミアル?「…ちっ」

 

 

 ミアルらしき者は舌打ちをした。ここまで【ロード・エクスペリエンス】を再現しているとは思わなかった。しかも肝心の黄金の鍵がうまく機能しない。これでは手の出しようがない。

 

ミアル?「…仕方ないわね、一旦下がるしかないわね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 セリカの固有魔術【私の世界】

 世界の事象の全てを停止させ、時間すら停止させる究極の魔術領域。

 そして突如として時間が動き出す、いつの間にかある程度傷を負った、コピーセリカと、フィールとエルザの所までは後退していたミアルがいた、ら

 

 しかし……

 

ミアル?「…ちっ、思ったより完成度高いじゃないの」

 

 

 ミアルと思われるものは髪の毛の金髪に銀色のグラデーションがかかったようになっていて、片手には古式の拳銃ではなく、何故か『黄金色の鍵』を持っていた。

 

 

ミアル?「空間切断できる大剣で斬っても駄目、術式は時が止まってるから動かないし、そもそも私の『黄金の鍵』が上手く作動しない、ったく」

エルレイ?「いや、それはルミアの体だからナムルス、君の能力は使いづらいだけじゃ……」

ミアル?「は?なんか言った?」

 

 

 時が動いたと同時にセリカは再び時計を握る。

 それを見た二人は目を見開いた。

 

 

フィール「なっ……!連発!?」

 

 

 セリカ本人であっても【私の世界】は連発する事が出来なかった筈だ。魔力容量もそうだが、マナバイオリズムが急激にカオス状態に陥るからだ。【リズム・キャンセル】を使えば連発出来なくはないが、それ程の魔力はない筈だ。

 

 

 

 

そして、また時は止まった。

 

────

 

エルレイ「いいいいいいいいいいいいいいぃぃぃやあああああああああああああぁ!!!」

 

 

 刹那───。

コピーセリカが【私の世界】を使った。瞬間、エルレイは、動いていない時の中、セリカに自分の用いるすべての剣技で応戦した。『天つ風』『旋風』『暴風』『東風』『霜風』ありとあらゆる親友から教わった抜刀術を使い、そして自分自身の【ロード・エクスペリエンス】をフルに活用し、コピーセリカに応戦する。

 

 

ミアル「もう!!『0の因果』使うんならさっきのに間に合わせてよ!」

 

エルレイ「ごめっ……ん!!」

 

 

 そう言ってエルレイはコピーセリカの片腕を軽々と切り落とした。コピーセリカは警戒し、すぐさま数歩下がる。

 

 

ミアル「リィエル…やっちゃう?」

 

エルレイ「応答…やっちゃいます」

 

人はまるで友達と笑いあっているかのような笑顔で互いに笑いあった。二人とも自分の得物を持ちながら…。

 『0の因果』エルレイが時間操作に対抗できる唯一の手段だ。そしてミアルも時の停止に介入した。2人そろった…

 

 これでこの2人に負けはない

 

 

 

 

ハズだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィールが目を開けるとそこには血だらけで倒れているミアル。その隣には『黄金の鍵』が無残に転がっていた。そしてエルレイも傷だらけで部屋の端にクレーターの真ん中で横たわっている。二人共場所は移動していて、まるで時間の動いていない時に戦っていたかのようだった。

 

 

フィール「っ!エルレイ、ミアル…!?」

 

 

 セリカの左腕は斬られていたようだが、2人は致命傷こそ避けているがそれでも重傷だ。

 

 

ライネル「はははっ!驚いただろう!僕が生み出した怪物の強さを!!魔力はこの場所なら他の人形共からコイツに送れる!つまり今君達の目の前にいるのは全盛期を超えた怪物、セリカ=アルフォネアなのさ!」

 

 

 ライネルがこの圧倒的な力に嗤う。

 今のセリカは全盛期の魔力容量を持ち、外部から魔力まで補給出来るということだ。

 

 けど、そんな事はフィールにとってどうでも良かった。

 

 

フィール「………エルザ、2人をお願い」

エルザ「フィール?!」

 

 

 倒れている2人の前に立ち、悲しそうな表情でセリカのコピー体を見る。傷付きながらも無表情に此方を見据えているセリカのコピー体にフィールは辛そうだった。

 

 

フィール「あなたはもう……セリカ伯母さんじゃないんだね」

 

 

 優しい記憶。

 唯一の支えとも呼べる優しい記憶の中にいた人間はもう居ないのだ。分かっていた。どれだけ待とうが、どれだけ泣こうがあの人は帰ってこない事は分かっていた。

 

 

フィール「だからごめんなさい、セリカ伯母さん」

 

 

 右手に魔剣を持ち、2人は互いを見据えいる。

 無表情のセリカのコピー体だが、データにはない感情が、400年の記憶の一部に存在した僅かな記憶が警鐘を上げていた。

 

 コイツは危険だと、そう告げていた。

 

 

フィール「私は貴女を–––––––––殺す」

 

 

 明確な殺意と、その覚悟だけで乗り越えた男を知っている。ノイズのように頭の中に流れるその記憶は今のセリカには理解出来ない。

 

 

エルレイ「……ぁ…が……フィーちゃん……にげ…て」

 

 

 エルレイはか細い声で、痛みで全身が震えるのを必死に我慢しながら立ち上がる。

 

 

エルレイ「そいつは……危険すぎる……っ……全部……先生がやるっ……、全部やるからっっ……」

 

 

 エルレイの悲痛そうな叫びがフィールの耳元に届く、エルレイが心から叫んでいるのだ。戦わないでと、傷つかせたくないと…。

 

 

ミアル「そう……だよ、全部。汚い大人の……っ私達にっ……任せて」

 

 

 そう言った2人にフィールは振り向かずに問う。

 

 

フィール「そうやって他人に全部任せて汚させたいと思ってるの?」

 

 

 他人に全て任せて、自分は綺麗なままでいたいと思われているなら、フィールはそれを否定する。元よりこの身は闇へと堕ちた身、汚れなど今更の話だ。

 

 

フィール「悪いけど、こっから先は私がやる。2人は傷を治して、私が死にかけたら、援護でもして」

 

 

 いつも憧れだった存在に私は今日、初めて挑む。

 世界に名を轟かせた『灰塵の魔女』『世界』『第七階梯(セプテンデ)』と呼ばれたセリカ=アルフォネア。

 

 いつだって、私は忘れなかっただろう。

 

 

「いくよ……セリカ伯母さん」

 

 

 だからこそ、私の手で終わらせる。

 それがせめてもの手向けだから。家族として、いつも優しかったあの人に届くように。

 

 

「––––起動【女帝の世界】」

 

 

 フィールはセリカに向かって地を駆け出した。

 

 

 ────────────────────

 

 

ミアル「っ……《我……目覚めるは……》──!」

 

 

 ミアルは体の震えを抑えながら詠唱を開始した。

 

 

エルレイ「っ……汚れるのは……私だけで十分だ、下等生物……!エルザ…!イルシアのコピーを…一体ここまで持ってこれる……?」 

 

 

 エルザはそれを拒否した。

 理由は分からないが、魔術とは別の外法を使おうとしているのだろう。文字通り命を削る魔術で。

 

 

エルザ「……2人とも回復に専念して」

 

 

 エルザも魔術を使い、ミアルを回復させている。

 エルザの魔術センスは高くはないが、ある程度の軍用魔術は使用可能だ。ミアルに触れて身体を癒していく。

 

 

エルザ「今のフィールは……あの人でも勝てないから」

 

 

 エルザはフィールの方を見る。

 覚悟を決めたフィールは誰よりも強い。それは長年相棒をやっていたエルザが確信を持っていたからだ。

 

 

 ────────────────────

 

 

 セリカは片腕ながらもエリエーテの剣技でフィールに応戦していく。魔剣エスパーダはまだ使えない。防げると確信した瞬間にしか勝機はない。

 

 互いに剣を交じり合い、後方へ下がる。

 

フィール「《極滅の––––》」

 

 フィールは詠唱を省略した【プラズマ・カノン】を撃とうとした瞬間、セリカは極光の障壁である【インパクト・ブロック】を構えて迎え撃つ。

 

 障壁は崩れずに、防ぎ切られセリカは詠唱を始める。あの詠唱はセリカの十八番、【イクスティンクション・レイ】だ。フィールはその詠唱を聞いた瞬間、セリカに更に近づく。

 

 

フィール「遅い!!」

 

 

 左手に握られたタロットカード。

 それは愚者のアルカナ。セリカの唯一の弟子が生み出した魔術封殺の魔術。【愚者の世界】だ。

  

 その瞬間、セリカに対して強化した身体能力に魔剣を構えて振り抜く。防ごうとしたセリカは剣を斬られ、咄嗟に躱したとは言え、脇腹を切り裂かれた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

エルレイ?「…すごい…」

ミアル?「あの歳であの実力……世も末ね」

 

 

 二人は素直にフィールの戦闘に驚いた、二人共、長年人間と殺し合いをしてきたが、ここまでの人間がいたであろうか…。

 

 エルザは少し驚く、また別人のようになっているのだから。驚かないほうがおかしい。

 

 

エルレイ?「僕たちのことは気にしないで、大丈夫、リィエルとルミアはちゃんと眠って、体力回復してるから」 

 

 

 ────────────────────

 

 

フィール「浅い……!」

 

 

 脇腹を斬り裂いたが、欲を出せば今ので決めたかった。

 フィールが発動している【愚者の世界】を把握し切れていない今なら、勝機はある。

 

 だが、そんな考えはすぐに崩された。

 

 

フィール「っっ!?」

 

 

 セリカに再び斬りかかろうとした瞬間、右手に【プロミネンス・ピラー】の魔力を溜めてフィールに放ってきた。身体強化の重ねがけで逃れる事は出来たとは言え、【愚者の世界】があっさり破られた。

 

 

フィール「もう逆算から再構築したのか…!?」

 

 

 セリカは『変化の停滞』であるこの空間の逆算をし、魔術式を破壊した後に再構築する事で【愚者の世界】を破ったのだ。それでも早過ぎる。

 

 

フィール「《三度の厳冬よ》!!」

 

 

 フィールは黒魔【アイシクル・コフィン】でセリカの足元を凍らせるが、それも予想済み。【トライ・レジスト】と【フォース・シールド】を指を鳴らしただけで発動させる。

 

 

フィール「………はは」

 

 

 相変わらず滅茶苦茶だ。

 どんな天才も即座に終わらせる事が出来る怪物。知っていたが、改めて再認識する。この人は強い。

 

 そして、再びセリカは時計を握ろうとする。

 フィールはそこまでは読めていたが、ここからが本当の勝負。

 

 

フィール「(ここからが大博打!覚悟を決めろ!!)」

 

 

 フィールは懐から取り出した球体を地面に投げつけると、球体が爆発し煙が広がる。視界は遮られ、見えなくなるが、セリカは【私の世界】を発動した。

 

 

 キィン!と止まった時の中、煙の中を突き進んでセリカは歩く。

 

 時間が止まれば勝ち目はない。そこで止まっていたフィールの魔剣を奪うと、セリカはフィールの首を狙い、剣を振り下ろす。

 

 しかし……

 

 

「っっ!?」

 

 

 セリカのコピー体は後退した。

 フィールが時間を停止した空間で僅かながら唇が動いていたからだ。止め切れていない?そんな馬鹿な。この魔術は完璧……と思考していたセリカのコピー体は突如、血を吐き出す。

 

 

「っっ!?ーーーーーーー!?」

 

 

 何が起きたのか理解できないだろう。

 5秒が経ち、フィールの時間は動き出す。フィールは口元を抑えるが、フィールも膝をついて崩れ落ちる。

 

 

エルレイ?「い、今のは……っ?!リィエル!まだ休め!」

 

 

すると、エルレイの口調と目つきがすべて戻る。

 

 

エルレイ「ひめ!うるさい!!!」

エルザ「エルレイ!まだ休んでなきゃ駄目!」

エルレイ「黙れっ!!私に指示するな下等生物!!」

 

 

そう怒鳴り声を上げながらフィールの元に駆け寄る。

 

 

エルレイ「フィーちゃん!!」 

フィール「っっ!近づくな!!」

 

 

 フィールが近づいてくるエルレイに叫ぶ。

 エルレイは直感的に何かに気付いて足を止める。セリカのコピー体が倒れたのを見て、ライネルが叫び出す。

 

 

ライネル「な、何をした……何をしたんだお前は!?」

 

 

 突如、時が止まりセリカのコピー体がフィールを始末したと思ったらセリカのコピー体の方が倒れていたのだ。だがフィールも無事ではない。身体の至る所が紫色になって身体を蝕んでいた。

 

 

フィール「……煙の中に…毒を仕込んでおいた」

 

 

 時が止まる寸前に投げたあの煙玉。

 アレは視界を封じる為に使った訳ではない。

 

 

フィール「セリカ伯母さんの…戦闘スタイルは超パワー型……だからこそスピードで翻弄する…相手には必ず使うと思ったよ……」

 

 

 フィールの時は止まり、セリカは動くのであれば、セリカはフィールが毒に蝕まれる何倍も先に蝕まれる。時が止まった世界が仇となって、セリカを苦しめる時間を長くしてしまったのだ。

 

 

フィール「この毒は即効性、私は多少抗体はあるけど、それでコレ……そっちはどうかな?毒は一呼吸で死に至る、何回呼吸したのか知らないけど、私が倒れる前に必ずそっちが倒れる」

 

 

 抗体のあるフィールでさえ、コレなのだ。

 血を吐いて、今にも倒れそうなくらい苦しい。なら抗体がない人間はどうだ?セリカのコピー体は口を開いて呼吸が出来ずにいる。

 

 

フィール「乱暴な賭けだったけど……私達の勝ちだ!」

ライネル「ば、馬鹿な!毒だと!?そんな程度で倒れるな!動け!動いてコイツらを殺せ!!!」

 

 

 ライネルが指示を飛ばすと、セリカのコピー体は電流が走ったかのように無理矢理立ち上がる。立ち上がって魔術を使おうとしていた。

 

 

フィール「嘘でしょ……まだ……」

 

 

 解毒薬は既に飲んだが、解毒には時間がかかる。

 

 

「《–––目覚めろ》!」

 

 

 身体が麻痺しているフィールは無理矢理風を使って剣を握り、魔術を撃つ前に先に斬りかかろうとする。毒に蝕まれながらもセリカは魔術を発動しようとした瞬間。

 

 セリカのコピー体の右手が投げられた剣に斬り落とされる。

 

 

フィール「ああああああああああっ!!!」

 

 

 フィールの華奢な手に握られていた魔剣がセリカを捕らえた。斬りかかかる寸前、腕を失ったセリカのコピー体は焦りもせず、だが動きもしなかった。諦めて、軽く微笑んだ。

 

 

フィール「っっ!ああああっ!!」

 

 

 フィールの剣がセリカの胸を貫いた。

 心臓部に一刺し、セリカのコピー体は血を吐き出してフィールを見た。セリカのコピー体は少し詠唱をすると、落ちた右腕が繋がっていた。それを見たフィールは力一杯、魔剣を突き刺す。魔術を使われたら殺される。

 

 だが、フィールに魔術を放つと思われた右手はフィールを優しく撫でていた。

 

 

フィール「………えっ?」

 

 

 フィールは必死の形相からセリカを見た。

 血を吐きながら笑っていた。笑いながらフィールの頭を軽く撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おお…き……くな…った…な……フィー…ル」

 

 

 最後に見たその微笑みと辛うじて聞こえたセリカの声を聞いた瞬間、セリカは軽く微笑んだまま倒れた。その後、無意識に流れていた涙と共に、毒の激痛に耐え切れず、フィールも倒れていた。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

エルレイ「はぁ……はぁ……結果…オーライ」

 

 

 あの時、セリカが魔術を使う前に剣を投げていたのはエルレイだった、エルレイは即座にもう一度剣を生成する。

 

 

ライネル「ば、馬鹿な?!もうお前にはそんな力を────」

 

 

 すると、エルレイはその場からいなくなっていた、ライネルは必死に見渡すが、どこにもいない、いない、いない、いな……。

 

 

「後ろだ、下等外道生物」

 

 

 そのままエルレイはそのまま片足を切り落とした。

 

 

ライネル「────っがぁぁぁぁぁああああぁぁ!!!!」

 

 

 ライネルは斬られた片方の足を抑えながら苦しんでいる。

 

 

エルレイ「エルミアナ様……最高の゛慈悲゛のご許可を」

 

ミアル「駄目です、出来るだけ痛ぶりなさい、それをフィールちゃんにセリカさんをぶつけた慈悲とします」

 

エルレイ「かしこまりました」

 

エルザ「でも殺しちゃ駄目だからね!」

 

 

 そう言ってエルレイは残っている片方の足を、足首、膝、股部分、関節に的確に入れて。できるだけ痛みを与えた。

 

 

ライネル「っ!?ぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁあっ────!!!!」 

 

 

 聞こえたのはただの男の絶望の叫び声だった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 エルレイがライネル(だったもの)を処理した後、倒れたフィールに膝枕をしていた。エルザが既に解毒薬を服用させていたので、単純な精神的疲労もあったのだろう。

 

 

フィール「……っ」

エルレイ「!よかった…、目が覚めた…」

 

 

 フィールは目が覚めるとエルレイに優しく抱きしめられていた、周りを見渡すと。エルザもミアルも無事のようだ。

 

 

エルレイ「……ほんとにすごいよ、よく頑張ったね」

 

 

 そう言いながらエルレイはフィールの頭を撫でた。 

 

 

フィール「セリカ伯母さん……は?」

エルレイ「……っ」

 

 

 エルレイは少し悲しそうな顔をした。

 震える微かな声でエルレイは目を逸らした。

 

 

ミアル「あれは、アルフォネア教授じゃないよ、それに似た何か」 

フィール「……分かってる。別人だって事くらい。けど、あの時だけは、間違いなくセリカ伯母さんだった……もう、居ないんだよね?」

 

 

 フィールは悲しそうな顔をしながらエルレイを見た。

 エルレイはただ沈黙する。それが答えだった。フィールは無理矢理起き上がり、セリカに見せようとしたあの魔導具を取り出した。

 

 

フィール「……《私は世界を欺きし者・魔力を練り上げ知識を基盤に彼方を幻想せよ》」

 

 

 フィールは両手を重ねて詠唱を開始する。

 あの頃の約束、どうやら果たせそうにないけれど。

 

 

フィール「……《真実のヴェールで覆いし者よ・今一度聖歌の幻想を・我が命脈に従い・奇跡と彼方の巡礼を》」

 

 

 フィールを中心に綺麗な花が咲き、空には満天の星空にオーロラ、それを照らすかのように花は光り、幻想的な空間を生み出す。

 

 

フィール「セリカ伯母さん……もし……貴女がまだ何者か探してるなら……やっと、旅を終えたんだね……」

 

 

 フィールは冷たくなったセリカのコピー体に触れる。

 無理矢理接合した右手は冷たくなっている。その右手にフィールは優しくその魔導具を握らせた。

 

 

フィール「–––––おかえりなさい。セリカ伯母さん」

 

 

 フィールは涙を流し、そう告げた。

 魂は、此処にあの時確かに帰ってきたのだ。だからフィールは振り返らない。セリカはもう……居ない。けど、私の前に一瞬だけ帰って来てくれたから。

 

 

エルレイ「それは…セリカに見せるものだったんだね…」    

 

 

 エルレイはそう言いながら、もう一度優しく抱きしめる……、強く……何もかもを包むように強く……。

 

 

エルレイ「きっとセリカは、探す旅なんてほっぽりだして…フィーちゃんをずっと見守ってたんだと思うよ」

 

 

 エルレイは優しくフィールの背中を擦った。 

 フィールは少しだけ、エルレイに顔を胸に預けて涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィール「…………!」

 

 

 フィールは泣き腫らした顔を擦り、ライネルが調べていた研究を全て見た。だが、その中にはセリカの研究データこそあるが、世界を渡る術式のデータは存在していなかった。

 

 

フィール「……ライネルが主犯じゃない?」

エルザ「えっ?違うの?」

フィール「データはない。手紙についても……じゃあまさか、天の知恵研究会は意図的に2人を転移させた訳じゃなく、偶然見つけたからライネルは狙ったって事?」

 

 

 それでは矛盾する。

 一体何の目的で2人をこの世界に呼んだのか。

 

 

 だが……そう考えていると、エルレイの頭上にヒラヒラと何かが落ちてきた。 

 エルレイはそれを手に取る、それは手紙のようだ。

 

 内容は……

 

《満足はしたか?》

 

 というものだった。

 

 

エルレイ「……ちっ」

 

 

 エルレイは小さく舌打ちをした。ミアルはエルレイの撮った手紙を横目で見る。

 

 

ミアル「…いちいち尺に触る書き方をする」 

フィール「黒幕は……判明は出来なさそうね」

エルザ「帰り方は分かるの?」

 

 

 エルザがエルレイに聞いてみるとエルレイは首を縦に振る。 

 

 

エルレイ「多分、これに帰りたいと望めば、前みたいになる」

 

 

 そう言いながらエルレイは手紙をひらひらとさせる。何処か納得行かないような顔で。

 

 

エルレイ「……けど」

 

 

 エルレイはそういうと手紙を天高く投げて、刀を生成させ、そのまま手紙を…。

 

 バシュッ!!!バシュッ!!!バシュッ!!!

 

 切り刻んでしまった。あたりに紙らしき物が飛び散り、地面につくと光って消滅する。 

 

 フィールもエルザも目を見開いた。

 唯一の帰る手掛かりである手紙を切り刻みなんて正気の沙汰ではない。

 

 

エルザ「ちょっ!?帰る方法!?」

フィール「馬鹿なの?」

エルレイ「馬鹿だよ?」

 

 

 エルレイはそう言いながら微笑んだ。ミアルもよくやったと言わんばかりに笑っている。どうやら気に食わなかったようだ。呼び出した人間に。

 

 

エルレイ「フィーちゃん達のおかげで力は溜まった。勝手に帰れるから大丈夫」

 

 

 そう言いながらエルレイはエルザとフィールにいちごタルトを差し出した。

 

 

エルレイ「おたべ?任務終わったならいいでしょ?」 

フィール「……貰ってはおく。今はそんな気分にはなれないし」

 

 

 別人とは言え、身内を殺したのだ。

 それに身体の毒がまだ抜け切っていない。精神的にも身体的にも今食べれる気がしない。だが、エルレイは優しい顔をしてフィールにいちごタルトを持たせていた。 

 

 

エルレイ「ん、良かった、貰ってくれて」

ミアル「それで、準備は?」

エルレイ「万端。いつでもどうぞ」

 

 

 そう言いながらエルレイは小さい赤いクリスタルのような物を取り出した。 

 

 

フィール「……行くのね」

 

 

 フィールはため息をつきながら割り切る。

 まあ、未だに疑いもあるし、信用出来ない所もある。

 

 だけど、任務を一緒に駆け抜けた時は僅かながら楽しかった。だからまあ、親友程度には別れを見送るのも悪くないだろう。

 

 

フィール「さよならね。エルレイ、ミアル……いや、エルレイ先生とルミアさん、がいいかな?」

 

 

 エルレイは驚いた表情をしていた。

 だってあの時、先生に任せてって言っていたし。

 

 

フィール「世界線は違えど、多分また会える気がするよ。だから、また逢おう、逢って話が出来るように……約束」

 

エルザ「私も」

 

 

 2人はエルレイ達の前に拳を突き出していた。

 そしてエルレイ達が光に包まれ始める。フィールは最後に2人に叫んだ。

 

 

フィール「エルレイ、ミアル!」

 

「「?」」

 

フィール「貴女達が何で命を削ってまで魔術を使うのか分からない。どんな悩みがあるのか分からない。けど、2人なら乗り越えられるって信じてるから!だから……!」

 

 

 フィールは最後に笑った。

 それは年相応の少女のような笑顔で笑った。

 

 

フィール「生きる事を諦めるな!戯言であっても、生きたいと思えるような!!そんな素敵な人生でありますように!!そら、私の呪いだ!受け取れ!!」

 

 

 フィールはポケットから2人に投げ付ける。

 投げ渡されたそれを見ると、そこには『JOKER』と書かれた黒と赤のトランプだった。それはある魔導具の失敗作、大した力はないが、その2枚のカードがフィールの加護と思えるような、そんな呪いを込めた最大の贈り物だった。

 

 

エルレイ「…ふふっ、フィーちゃんらしい」

ミアル「祝でも、祈りでもなく、呪いね…ますます気に入ったよ、フィールちゃん」

 

 

 そういうとエルレイ達もカードを投げ渡す。そこに書かれていたのは。年期の入った。

 

 執行官ナンバー7 《戦車》と

 執行官ナンバー000 《破壊者》のカードだった。

 

 

エルレイ「こっちは、不…かな」

ミアル「頑張ってねフィールちゃん、必ず何処かで見守ってるよ」

 

 

 そう言い残した二人は光へと包まれて、姿を消していった。

 

 

 

 

 ────────────────────

 

「……ん」

 

「リィエル!よかった…目が覚めた」

 

 

 

 エルレイが目を覚ますと、そこは元のいた世界だった。現在ハルに膝枕されていて、隣にはロクサスとミアルが互いに肩を預けて座っている。

 

 

「戻って…来れた」

 

「心配したんだよ?一体なにがあったの?」

 

 

 そう言ってハルは優しくエルレイの頭を撫でた。心地いい。家族とはこんな感じなのだろうか。

 

 

「会いたい子に会ってきた…それだけ」

 

「…そっか」

 

 

そう言ってエルレイは微笑んだ。いい状況とは言えなかったが、結果的にもう一度再会できたのだ。良しとすることにした。

 

(さて…)

 

 勝手に帰ってきたことによって、一体主犯がどんな反応をするのかとても楽しみだ。

 

「ったく、あんま脅かすんじゃねえよ」

 

「あはは…ごめんごめん。あ、ところでリィエル?」

 

「…?」

 

 

 ロクサスと話していたミアルが突然エルレイに話しかけてきた。

 

 

「なんであの時、すぐにフィールちゃんから貰ったヤツ…出さなかったの?」

 

「…」

 

 

おそらくミアルが言っているのはあの魔導具の忘れ物の事だろう。確かにあれをすぐに見せれば、警戒されず信じてもらえたかもしれない。

 

 

「それを言うなら、なんでフィーちゃんを貶めるようなことをしたの?」

 

「……」

 

 そう、疑問があったのはエルレイも同じだ。何故あそこで洗脳されたフリを続けたのか、そして何故コピーと戦った時に………。

 

「…ふふふっ」

 

「ま…簡単に教える訳ないか」

 

そう言って、エルレイとミアルは自分の得物を構える。その2人には、あの少女から貰った、『JOKER』と書かれたトランプが片手に握られていた。ロクサスとハルも笑いながら構えた。

 

「そうだ、俺たちは所詮殺りあう事でしか。分かり合えない」

 

「兄様の言う通りだよ、結局それが一番いい」

 

 

2人の兄弟は笑った。とても楽しそうに、それにつられて、2人も優しい笑みをこぼした。

 

「じゃあ、リィエル?みんなで生きたいと思えるような、そんな人生であり続けるために…私達の───」

 

「ん、フィーちゃんの心に誓って、私達の素敵な────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「《素敵な人生(デート)》を続けましょう」」」」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一巻
魔導騎士長エルレイの憂鬱


不定期更新です。
リィエルが好きなので大人なリィエルの
妄想です、にわかなので描写の間違いがあってもご了承ください。



 自分の存在する意味は何か。

 それを考え始めたのは何時くらいだっただろうか。生まれた時から?それとも誰かに問われたから?よく覚えていないが、勿論私は生きていたいし、守りたい人もいる。理由なんていらないと言われたらそれまで、でもわたしは何か自分がここにいる理由が…欲しいなぜなら。

 

 

 今が退屈すぎるから。

 

 

「この書類を、上層部へ」

 

「はい、リィエル騎士長」

 

 

 何もかもがつまらない。

 

 

「…ん、この件あとは私がやる、さがっていいよ」

 

「かしこまりましたリィエル騎士長」

 

 

 自分の執務室で帝国軍魔導騎士長、リィエル=レイフォードは退屈していた。

 

 

「はぁ」

 

 

 リィエルは壁にもたれ掛かり、ため息をついた。

 青髪のスレンダーで小柄な体とは裏腹に、騎士長という肩書を持っているこの女性は…アルザーノ帝国魔術学院の卒業生あり元特務分室ナンバー7 戦車と呼ばれていたほどの実力者だ。

 

 

「疲れた」

 

「眠い」

 

 

 リィエルは仕事の日々に飽き飽きしていた。

 仕事が嫌いなわけではないが、特に重大なこともここ最近は起きていないので退屈を覚えていた。

 欠伸をしながら執務室の自分の机にある自分の学生時代の写真を眺める。

 そこには4人の人物が映っていた。

真ん中に自分が写っていて、右側には銀髪の耳のようなリボンが特徴的な女の子、システィーナ。

もう一人は金髪の緑色のリボンをつけた女の子、ルミア。

 二人ともリィエルにとって、かけがえのない友達だ。

 

 

「ルミア、システィーナ」

 

 

 小さな声で自分の心から信頼している友達の名を口に出す。そして…

 

 

「グレン」

 

 

 システィーナの肩に肘をのせている男。

リィエル=レイフォードの一番の理解者であり兄貴分、そして恩師でもある男、グレン。

 三人とも、リィエルにとってとても大切な人達だ。しかし最近は仕事も忙しく、1年に一回会えるかどうかわからないほど、疎遠になりかけているのが現状だった。

 

 

「ひさしぶりに会いたいな、無理だと思うけど」

 

 

 騎士長という立場上緊急の仕事も多く、自分の借りているマンションに戻るとすぐにぱたりと眠ってしまう事が多い。

 自分から遊ぼうなんて言う体力など、残っていないことが大半だ。

 リィエルはもう一度ため息をつき、ポケットからいちごタルトを取り出してサクサクと食べる。

 

 

「リィエル騎士長様、少し良いですか」

 

 

副騎士長君が来た、マッハで食べよう。

 

 

サクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサク!!

ごくんっ。

 

 

「なに?早めに済ませて」

 

 

 副騎士長君が頭を掻きながらため息をついた。

 

 

「って、またいちごタルト食べていたんですか?お体に触りますよ?」

 

「いちごタルト、万能薬、すべての病を治す」

 

「いや…んなわけないでしょうが!」

 

「君もお食べ?少しは頭もグニョングニョンになると思うよ?」

 

「遠回しに頭が固いって言ってますよね?!余計なお世話です!!」

 

 

 リィエルは退屈すぎて、副騎士君をいじるのが趣味になりかけていた。

 ある訓練時に自分が飲んでいた水を彼に渡したら、間接キスが~とかなんとかとても初心な反応が返ってきたため、その反応が忘れられず…癖になってしまったのだ。

 

 

「ま、いいや、本題は?」

 

「あ、はい、手紙が送られてきていたのですが、私の存じ上げない方でして」

 

「手紙?」

 

 

 副騎士君に差し出された手紙を手に取る。

 

 

「ん、渡しておく、お疲れ様」

 

「はっ」

 

「お疲れ様タルト」

 

「いりません!!」

 

 副騎士君が立ち去ったの確認してから宛名を探す。

さて、宛名はと…。

 

 親愛なる、イルシアヘ。

 

 

 その宛名を見た途端、リィエル=レイフォードは硬直した。

 

 

「なにもの?」

 

 

 私の記憶のオリジナル、イルシア=レイフォードの名を知っているのはごく数人のはず。その知り合いの中の誰か?

 

 

「いや、こんなイタズラをする人は、いないと信じてる」

 

 

 リィエルはもう一度写真を見る。

 知り合いの誰かがProject:Revive lifeの情報を流した?それとも関係者の残党?考えるだけで頭が痛くなってくる。

 

 

「考えても仕方ない、開けよう」

 

 

 リィエルは考えるのをやめ、手紙を開けた。

面倒なことになりそうと思う反面、少しウキウキしながら手紙を開けていた。

 

 

 

★★★

 

「……ん」

 

 

 リィエルは目を開けると、そこは知らない天井だった。ベッドで寝かされている。

 

 

(ここはどこ?)

 

 

 リィエルはあたりを見渡す。

 手紙を開けたまでの記憶は残っているが、そこから何があったか…いまいち思い出せない。

 

 

「あ、起きたみたいだね,よかった~」

 

 

 すると突然、枕元にいる女性が話しかけてきた。

 その女性は銀髪の長い髪で緑色の服をしたおっとりした感じ女性がリィエルの枕元にある椅子に座っていた。

 

 

「・・・」ぺこっ

 

 

 軽くリィエルは頭をさげる。

 なんとなく雰囲気は、システィーナや宮廷魔導士時代のグレンの隣にいた人に似ている。

 

 

「どこも怪我はしてない?」

 

「たぶん」

 

「君、いきなり空から落ちてきたからびっくりしたよ、どこもいたいところはない?」

 

 

 …どうやら私は空から落ちてきたらしい。

 

 そんなことがあるはずはない、私はさっきまで手紙を見ていただけなのだ。それがどう間違ったら上空から落ちてくるということになるんだ。

 

 

「空、から?」

 

「うん、いきなり私の家の前に落ちてきてさ…びっくりしちゃったよ」

 

「そっか、助けてくれてありがとう」

 

「えへへっ怪我がないようでよかったよ」

 

 

 銀髪の女性はニコッっと、優しく笑った。

 

 

「あ、自己紹介がまだだったよね、私はセラ=シルヴァース、セラって呼ばれてるよ」

 

「……セラ?」

 

 

 そういえば、グレンとよくコンビでやってたのってセラだっけ…そう思いながらもう一度助けてくれた恩人、セラ=シルヴァースを見る。

 そういえばグレンの恋人?のセラも銀髪だった気がする、それに雰囲気も似てる気がする……ん?

 

 リィエルはある違和感にたどり着く。

 それは自分の元同僚でグレンとよくいた人、セラという人とまったく一緒な気がするのだ。

 でもそれはありえない、あの人は死んだとグレンから聞いた。

 すべての状況を踏まえて、頭の悪いリィエルでも嫌な予感が横切る。

 

 

「ここは、まさか」

 

 

 死後の世界?

 

 

「?」

 

 

 ここが死後の世界だと仮定するのならば、手紙を開けた途端に魔術が発動し暗殺された。と考えると辻褄があってしまう……。

 

 

(そんなはず無い…)

 

 リィエルは軽く頭をふり、自己紹介をした。

 

 

「私はエルレイ、騎士のお仕事していた」

 

 

 嫌な予感がしたのでとりあえず偽名で名乗った。するとセラは疑う様子もなく。

 

 

「いい名前だね、私のことは気楽にセラでいいよ、私もレイちゃんって呼ぶね」

 

「ん、それでちょっと聞きたいんだけど」

 

 

 笑顔で返してきたセラに軽くお辞儀をする。

 まずはこの状況を把握したかったリィエル…、現在名エルレイは、セラに日付や場所…自分が落ちてきた詳細を詳しく聞こうとしたが………。

 

 ぐぅぅぅ……。

 

「……」

 

「……」

 

 

 突然エルレイのお腹の辺りから音が鳴った。

 エルレイはそのまま赤くなり俯く、手紙を開けてからどれだけの時間がたっているのかわからないが、空腹を感じるということはかなりの時間がたっていることは間違いなかった。

 

 

「…気にしないで」

 

「あははっ、ご飯食べる?丁度昼食なんだ」

 

 

 エルレイはそのまま、恥ずかしそうにうなずいた。

 

★★★

 

 

 出してくれたのは簡単なスープとパン肉の炒めものだった。

食べる前に手を合わせたあとにスプーンを持つ、セラが出してくれた料理をモグモグと黙々と食べ進めて。

 

 

「…おいしい」

 

 

 小さな声で感想を言った。

 

「そっか、それはよかった」

 

 その言葉を聞いてセラはニコッと笑う。

 

 

「ところで」

 

「何かな?」

 

 

 セラが首をかしげる。

 

 

「私、空から落ちてきたんだよね、なんで食べ物食べさせてくれるの?」

 

 

 落ちてきたという話、普通だったら落ちてきたら気味悪がって通報するか、見て見ぬふりをするかどちらかだ…そう思ったエルレイは疑問の言葉を口にした。

 セラは顎に手を当てて。

 

 

「うーん、私これでも帝国魔導士だから、困ってる人は野放しにしたくないんだ…たとえ空から降ってきた女の子でもね」

 

「…」

 

うろ覚えだが…性格も同僚のセラによく似ている。エルレイは少し頭を抱えた。

 

「あとレイちゃんが同僚の宮廷魔導士によく似てたから」

 

これは多分、自分の事なんだろうと思い、今度は少し苦笑いをした。

 

「ところでレイちゃんはなんで空から落ちてきたの?」

 

 至極当然の疑問だった。

 素直に答えてもいいかと思ったエルレイだったが…、ふとこの状況は幻覚や夢の可能性もあると直感で感じて、理由をでっち上げた。

 

 

「いちごタルト食べてたら、お腹破裂して空まで飛んだ」

 

「えっ?!」

 

 

 即席で作ったのでクオリティーが低くて、いや低すぎる。

 適当に言い過ぎたとエルレイは心の奥底で言った後に後悔した。

 

 

「…えっと」

 

「いちごタルトって食べすぎると爆発するんだ!?食べないようにしなきゃ」

 

「……ん?」

 

 

 …どうやらなぜか上手くいったようだ。

 言いくるめ成功───。

 

 この人純粋でよかったと心の底から思ったエルレイだった。

 

★★★

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「はい、お粗末でした」

 

 

 食べている時にエルレイは、多くの情報をセラから得ていた。

 1つはセラは宮廷魔道士特務分室執行官ナンバー3《女帝》。つまりはグレンの隣にいた女の人と同一人物だということが確定に。

 そしてこの場所は、自分のいた場所から5年ほど前の過去だということが判明した。

 しかし妙な点があり、この人の本職は帝国宮廷魔導士ではなく、アルザーノ魔術学院だということだ。エルレイの記憶が正しければ、この頃にはセラ=シルヴァースは死んでいるはず…。

 エルレイの頭は混乱するばかりだった。

 

 

「レイちゃんってこの後どうするの?」

 

「それ聞かれると、困る」

 

「お父さんとお母さんが心配してるよ?お家どの辺りかわかる?」

 

「・・・小柄だけど、私二十代」

 

「そうなの?てっきり13くらいだと・・・」

 

「成長は、とまった」

 

 

 エルレイは、セラの胸と自分の胸を目で比べながら…眠そうな目でため息をついた。

 

 

「今は、帰るところがない」

 

「…そっか」

 

 

 そう、ここが死後の世界であっても、過去の世界であっても関係なく…エルレイにとっては今住む場所がない。

 

「じゃあここで住もうよ!」

 

「え」

 

「一緒に、ここで、住もうよ」

 

「…詠唱しなくても、聞こえてる」

 

 

 エルレイは驚いたように口を開けた。

 何故その表情になっているのか理解できていないのか、セラは首を傾げた。

 

 

「わたし、落ちてきた」

 

「うん」

 

「落ちてくる=変な人」

 

「そう、かもね?うんうん」

 

「一緒に、住もう?」

 

「うん!」

 

「????????????」

 

 

 リィエル、現在名エルレイは過去一番理解不能な状況に陥った。

 何か裏があるとは思えない、ていうかあったばかりだから何も知らないハズ、何故?

 

 

「も~、だから困ってる人を助けるのが宮廷魔導士なんだってば!」

 

「いや、限度、ある」

 

 

 しかし、エルレイとってこれ以上いい話はない。お言葉に甘えてそうさせてもらいことにした。

 

 

「でも、ありがとう、迷惑になると思うけど、よろしくね」

 

「うん!こちらこそ」

 

 

 そしてエルレイとセラは握手をした。セラは笑顔で…そしてエルレイは眠たそうな目で軽く笑いながら。

 

 

★★★

 

 アルザーノ帝国魔術学院、アルザーノ帝国の人間でその名を知らぬ者はいないだろう。この時代からおよそ四百年前、時の王女アリシア三世の提唱によって巨額の国費を投じられて設立された国営の魔術師育成専門学校だ、今日、大陸でアルザーノ帝国が魔導大国としてその名を轟かせる基盤を作った学校であり、常に時代の最先端の魔術を学べる最高峰の学び舎として近隣諸国にも名高い学院、それがアルザーノ魔術学院だ。

勿論そんなことを覚えているわけがないリィエル、現在名エルレイは、ひょんなことから自分の学び舎である件のアルーザーノ帝国魔術学院のあるクラスに入って、ある場面をただ黙って、眠たそうに…そして冷たい目で見ていた。

 

 

「えー、本日の一限目の授業は自習にしまーす」

 

 

 さも当然だと言わんばかりに、目の前にいる自分の兄貴分、グレン=レーダスが黒板に自習と書いた後。

 

 

「・・・眠いから」

 

 

 最後に睡眠宣言をしてから、教卓に突っ伏した。

 

 

「………………」

 

 

 誰もしゃべらない沈黙の数秒後。

 

「ちょおおっと待てぇええええ━━━━━━ッ!!!」

 

 それを見ていた銀髪の耳のようなリボンが特徴的な少女。システィーナは、分厚い教科書を振りかぶって猛然とグレンへ突進していった。

 

 

「…くさはえる」

 

 

 それがエルレイが見た昔の自分のクラスの印象だった。

 どうしてこんな状況になったかというと…どうやらセラはグレンのクラスの副担任らしい。

 それじゃあイヴはどうなるの?というツッコミは心の奥底にしまい、グレン君の監視は私一人だと大変だから手伝ってほしい…とのことだった。

 エルレイとセラが朝のうちに挨拶をして、授業はほとんどセラが進めていた。その間に女性がきたと騒ぐ男どもをエルレイが制裁(頭ぐりぐり)の途中に担任のグレンが来てこの始末…というわけだ。

 

 

「えっと、システィーナちゃん落ち着いて!グレン君~!起きて~!」

 

「…うっせ白犬、睡眠学習は大切なんだぞ」

 

「あ、そっか、睡眠するとメリット多いからね、それじゃあ私もお休み…」

 

「セラ先生も乗せられないでください!!」

 

「あ、エルレイ先生!さっき俺にやったグリグリっ!あの先生にやってくだせえ!!」

 

 

 そう叫ぶカッシュを横目に…。

 

 

サクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクッ!!

 

 エルレイはリスの如くいちごタルトを頬張ていた。

 一口かじるごとに、エルレイの頭をふわふわした幸福感が包んでいく。

 エルレイにとっていちごタルトは、酒やたばこと同様の効果が得られる(リィエル=レイフォード談)

 

 

「いちごタルト、うまっ」

 

「何を他人事のように黙々といちごタルトを食べていますの?!?!」

 

 

 ウェンディが食べ進めるエルレイに、ビシッとツッコミを入れた。

 

「何なのよこの先生方はあああああああああああああああぁぁぁ━━━━━━っ!!」

 

この日、ほぼずっとシスティーナの怒鳴り声が聞こえていたのは言うまでもない。

 ほとんどの場合はルミアが落ち着かせてくれたが。

 

★★★

 

 

 放課後、すべての授業が終わった夕方ごろ…エルレイ、グレン、セラの先生組三名は学院東館の屋上バルコニーで話し合おうというセラの提案によりみんなで(グレンは半ば強制的に)バルコニーにきて夕日を眺めていた。

 

 

「もー!レイちゃんなんであの時止めてくれなかったの?」

 

「ん、なんでと言われても」

 

 

 グレンがあの状態になったら、基本的にやる気を起こさないことを知っていから。

ではあるがそれだとグレンの事を知っているということになり、辻褄が合わなくなる。

 

 

「いちごタルトには飛行能力だけじゃなくて、強い中毒性がある、麻薬食材、だから」

 

「麻薬なの?!生地のほう?!それともいちごが麻薬なの?!」

 

「ンなわけねえだろ、お前もセラに変な吹込みすんじゃねえよ」

 

「信じるほうが、おかしい」

 

「…まあ百理あるが」

 

「二人とも遠回しに私の事バカにしてる?」

 

 

 セラはため息をついた後、話を続けた。

 

 

「それでどーすんのさ~、生徒たちの評価だだ下がりだよ?」

 

「いいんじゃね?そもそも俺、やるきねえし」

 

「も~、セリカさんがくれたチャンスなんだからちゃんと生かさなきゃダメ!」

 

 

 そんなやり取りをしているセラとグレンを、エルレイは意外そうに見ていた。

 リィエル=レイフォードが入った時はロクでなしなところはあったが、基本的にグレンは授業を真面目にこなし、システィーナに個別で教えたりと…熱心なところがよく見られたから昔こうなっていたのは意外だった。

 

 

「そういえば聞き忘れてた、お前誰」

 

 

 エルレイの目を見ながらグレンが聞いてきたので、エルレイは自己紹介をした。

 

 

「…エルレイ」

 

「エルレイ……ねえ」

 

 

 手を顎に当てながら、じっとエルレイのほうを見て数秒後…。

 

 

「なんか、似てんだよな」

 

「あ、グレン君もそう思った?」

 

「ああ、どうにもこいつがリィエルに見えて仕方ねえ」

 

「……私に、似てる人がいるの?」

 

 

 悟られないように、エルレイは軽く返した。

 

 

「なあお前…Project:Revive lifeって、知ってるか?」

 

 おそらく、グレンの頭の中にエルレイがコピー体の可能性が嫌でも頭に浮かんでしまったのだろう。

 エルレイは焦らず冷静に、眠たそうな目で。

 

 

「知らない」

 

 

 そうはっきり答えた。

 

 

「そうか、変なこと聞いて悪かったな」

 

「ん、大丈夫」

 

「っていうか二人ともホントにどうすんのさ~!このままじゃホントにすぐさまクビになるよ?」

 

「俺的にはそっちのほうが本望だ!!」

 

「私的にはよくないのっ!!!!」

 

 

 二人の喧嘩を片目で見ながら、エルレイは壁にもたれ掛かり。

 ポケットからいちごタルトを取り出してまたサクサクと食べ始めた。

 

 

「私、魔術は使えるけど教育免許持ってない、あきらめて」

 

「レイちゃんまで・・・」

 

 

 最も、剣術なら教えることができるが…魔術は教えることが大の苦手であるエルレイはこの状況を。

 少なくともグレンがほんの少しのやる気を出してくれるまでは、黙ってみているしかないのだ。

 

 

「でも、給料分のお仕事はする、色々考えてはおく、錬金魔術の基礎くらいなら、教えれるから」

 

「真面目だね~関心関心!その調子で俺のやることが無くなる位頑張ってくれよ若人よ!!だぁあああっはっはっはっはっはっはっ!!」

 

「グレン君はもうちょっと真面目にやって!軍にいたころはそこまでじゃなかったでしょ?!」

 

 そんな会議も虚しく、グレンの態度は一向に良くはならなかった。

 一時的にエルレイが錬金術講座を開き、場つなぎをしていたがたかが時間稼ぎ…そこまで長い時間持たなかった。

 そしてセラはというとグレンを説得しようとしても結局、流されてしまうのがテンプレになってしまっていた。

 

 

 

 

★★★

 

 

「書類仕事が長引いた」

 

 

 職員室で書類をさばいていたエルレイが、足早に教室まで移動する。

 今日はどうやって場つなぎしようかとか…いっそいちごタルトの演説して、いちごタルト信者を増やしてやろうかとか…色々な事を考えながら教室に入った。

 

 

「ごめん、遅れた、ん?」

 

 

 エルレイが入った教室はみんないるがとても静かだった。

 教卓のほうを見るとおろおろしているセラと…グレンを睨みつけているシスティーナ、そしてグレン本人がいた。

 グレンの近くにはシスティーナが着けていたであろう手袋が床に転がっている。

 

 

(システィーナ、昔こんなことをしてたんだ)

 

 

 エルレイは迷わずにシスティーナの手袋を拾い、システィーナの前に出す。

 

 

「だめだよ、こんなことしちゃ」

 

「エルレイ先生は黙っててください」

 

 

 そうシスティーナにバッサリと言われた、流石に心が痛い。

 

 

「私は、フィーベル家の次期当主として、グレン先生のような魔術を貶める輩を……看過することはできません!」

 

 

 システィーナは、エルレイの知っている頃から気高くて真面目。そうなってしまう気持ちも…もちろん1人の親友としてわかっている。

 分かってはいるが、兄貴分であるグレンとの決闘を容認できないのも、エルレイの気持ちの一つだった。

 

 

「落ち着いて、気持ちはわかるけど、感情のコントロールは魔術師の基本、そう教わらなかった?」

 

「う……」

 

 

 システィーナが口ごもる。

 正攻法で話し合えば、システィーナはわかってくれるとそうエルレイ信じていた。

 しかし、エルレイの持っていた手袋をグレンがひょいと奪い取る。

 

 

「何するの、グレン」

 

 

 不機嫌そうにエルレイは、グレンを睨みつける。

 

「もう賽は投げられたんだ、白猫が俺に手袋を投げてきた時点でな、それともお前の知り合いは…頭に血が上って決闘を申し込む魔術師はいないのか?」

 

「……」

 

「戦いで分からせるしかねえんだよ、悪いけどな」

 

 

 その目は鋭い目だった。どこまでも真っすぐで…魔術師らしい顔。

 

 

「セラ、保健室の先生、呼んできて」

 

「ちょっ……レイちゃん!!止めようよ!今ならまだ」

 

「もう私には…何もできない、後は決闘次第」

 

 

 エルレイは大きくため息をつき、やるなら外でやってと校庭を指さした。




良ければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。
エルレイ「次回最終回、エルレイ先生最後の授業」
え?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少しのやる気と少しのテロ

 

 魔術師の決闘。それは古来より連綿と続く魔術儀礼の一つである。

 現在…エルレイ審判の元、システィーナ=フィーベルとグレン=レーダスの決闘が始まろうとしていた。

 等間隔に植えられた針葉樹が囲み、敷き詰められた芝生が広がる学院の中庭にて、両者睨みあっていた。

 

 

「確認、使用可能魔術はショックボルトのみ、それ以外を使用した場合、敗北とみなす」

 

「はい、それで構いません」

 

「へいへい」

 

 

 エルレイの確認に、二人とも同意したのを聞いてから、エルレイは話を続ける。

 

 

「あと、ほかの生徒に攻撃、禁止、それしたらすぐに止めるから」

 

「わーってるよ、信用ねえな」

 

「人を簡単に信用出来たら、魔術師いらない」

 

 

 エルレイはグレンを見ながらため息をついた。

 そして観戦している生徒たちに、もっと下がるように手で仕草をする。

 

 

「グレンく~~ん!大丈夫~~~?システィーナちゃ~ん危なくなったらさがるんだよ~~~!!」

 

 

 セラが大きな声で叫ぶ。

 相変わらず優しいなと心の中で思った後…エルレイは互いの賭ける物の確認をした。

 

 

「賭ける物の確認、システィーナが勝利した場合、グレンの授業態度の見直し…。グレンが勝利した場合、生徒からの説教を禁止…。相違ない?」

 

「問題ありません!」

 

「おう」

 

 

 互いの同意を確認したのち、エルレイは生徒が集まっているところまで下がる。

 下がるや否や、エルレイの隣に足早に歩いてきたシスティーナの親友…そしてリィエルの親友でもあるルミアが恐る恐る話しかけてくる。

 

 

「あの…すいません、エルレイ先生、お願いが…」

 

「怪我しそうになったら止めてください、かな」

 

「!……はい」

 

「ん、わかってる」

 

 

 近づいてきたルミアの頭を優しく ポンポンッ、と撫でる。

 

 

「危なくなったら、すぐ止める」

 

「…ありがとうございます」

 

 

 そういうとルミアはエルレイに頭を下げた。

 

 

「エルレイ先生はどちらが勝つと思ってるんですか?」

 

 メガネをかけた少年、ギイブルがそう聞いてきた。

 

 

「正直、始まってないからわからない……カッシュはどう見る?」

 

「おれっすか?!そうですね…流石に先生ですかね、あのアルフォネア教授のお墨付きだし…」

 

「そ」

 

 

 クラスの生徒達や教師と生徒が魔術決闘を行う。という噂を聞きつけて集まった野次馬たちが、どちらが勝つかの考察をざわざわ……としていた。

 

 

「いつでもいいぜ?」

 

 

 グレンは指を鳴らして余裕の表情だ。

 システィーナは緊張しているのだろう、額に汗が流れている…。エルレイは眠そうな顔で2人を見た。

 内心、多分システィーナが勝つから止めなくて大丈夫だろう…。と思いながら、自分の胸ポケットからコインを取り出す。

 

 

「開始の合図は、これが地面に落ちた音」

 

 

 二人が頷いたのを確認したエルレイは、コインを指に乗せ…親指ではじく。その瞬間全員に緊張感が漂う……。

 そしてくるくると高速で回転していたコインは数秒後。

 

 

チャリン…!

 

 

 地面のコンクリートに落ち、決闘開始の合図の音が鳴り響く。

 その瞬間──!システィーナはグレンに手を向け、呪文を唱えた!

 

 

「《雷精の紫電よ》──ッ!」

 

 

 刹那──。

 システィーナの指から放たれた電撃は、得意げに立っているグレンのほうに飛んでいった!!しかし早すぎる詠唱のグレン先生によって相殺された──!

 

 

「・・・て考えると思うよ、普通は」

 

 

 呆れたようにエルレイが呟いた。そりゃあ呆れもするであろう…。なんといってもあの男グレン=レーダスは───。

 

 

「ぎゃああああああああ━━━っ!?」

 

 

 バチンと電気がはじける音…。そしてグレンは体を痙攣させ、あっさり倒れ伏した。

 

 

「グレン君……だから言ったのに」

 

 

 セラも手で顔を覆っている。

 生徒全員口を開け、システィーナに至ってはルールを間違えたんじゃないかと、挙動不審になっている。エルレイはため息をついた。

 彼女は知っていたのだ…、グレン=レーダスが一節詠唱が点でダメな事を。落ちていたコインを拾い上げ、片手をシスティーナのほうへ向ける。

 

 

「ショックボルト直撃、よって勝者、システィー

 

「ちょっとまてええええええええぇぇぇ━━━━」

 

 

 痙攣していたグレンが、エルレイに待ったをかける。エルレイはとりあえず手を下した。

 

 

「何?」

 

「これは三本勝負だ…1本くらいくれてやる…いいハンデだろ?」

 

「三本勝負でしたっけ?!」

 

 

 システィーナが声を荒げる。

 苦しい言い訳だが、確かにルール決めの時に何回やるかは決めてなかったので、その要求を飲むことにした。

 

 

「…分かった。システィーナ、納得出来ないと思うけど、3回勝負ということで」

 

「あ…はい、わかりました」

 

 

 割とすんなり理解してくれたシスティーナに感謝しつつ、もう一度コインをはじいた。

 

 

 チャリン…!

 

 

「おい!見ろあれ!!」

 

 

 グレンはコインが落ちた瞬間、明後日の方向を指さした。

 

 

「え?!」

 

 

 瞬間的にシスティーナはそちらのほうを向いてしまう。

 

 

「かかったなあほが!!《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃━》」

 

「《雷精の紫電よ》───ッ!」

 

「ぎゃああああああああああ!!!」

 

 

 グレンの魔術が完成する前に、システィーナの魔術が完成し、グレンに当たった。

 もう一度コインを拾い上げ、システィーナに片手を向ける。

 

 

「ショックボルトの直撃を確認、よって勝者、システィーナ」

 

「ちょおおおおおおとまてえええぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 流石に少しムカついた。

 エルレイはそう心の中で思いながらコインをバリン!と握りつぶす。

 それを見ていた生徒は少しおびえた表情を見せた。

 

 

「なに?」

 

「・・・ほほう、マーサカマサカこれほどとは!!5本勝負だからってちょっと遊びすぎたかな?!反省反せ」

 

「システィーナ、三点先取により、この決闘決着、勝者システィー」

 

「待てっていてるだろうがあああああああああああああ?!」

 

 

 問答無用で勝者コールをしようとするエルレイに、グレンがツッコミを入れる。

 

 

「なに?」

 

「7本勝負だって言ってんだろうが!3本程度で魔術師の力量を見れると思うなよ!」

 

 

 そんな怒りも何のその…グレンは構わずに食い掛ってくる。

 

 

「増えてるし…ダメ、約束道理グレンは真面目に授業をする、私もセラも、手伝うから」

 

 

 少しグダグダになってしまったが…グレンが自分の知っているグレンに戻るならば別にいいだろう。

 ホッ、とエルレイは一息ついた。

 

 

「あっれ~何か約束したっけ~~?」

 

『えっ?』

 

 

 その場にいる全員が声をシンクロした。

 セラは相変わらず顔を手で覆っている。もう見ていたくない…とひしひしと伝わってくる。

 エルレイも耐え切れず顔を上にあげて手をかぶせた。

 

 

「それよりも!なかなかやるなお前!今日のところは超ギリギリ紙一重で引き分けということで勘弁してやる!はああああああああああああっはっはっはっはっはっはっは!!!!」

 

「ええと…エルレイ先生…」

 

「これ以上私に…何も求めないで、疲れた」

 

 ルミアの言葉を聞きながらも、もう動く気力すらなくなったエルレイは、顔を上にあげたまま、制止した。

 

「心底、見損なったわ」

 

 

 決闘をあやふやにし、その後足早に立ち去ったのだ。こんな反応にもなるだろう…どうにかフォローしようと、口をもごもごさせているセラをエルレイは手で止めた。

 

 

「セラ、だめ」

 

「……むぅ」

 

「むぅ…じゃない、今何か言っても、油を注ぐだけ」

 

「そりゃあそうかも……しんないけど」

 

「必ず……。必ず私がどうにかする、安心して」

 

 

 エルレイは最後の言葉を強く強調した。

 

 

★★★

 

 グレンの学院内における評判を地におとしめた決闘騒動から3日がたった。グレンのやる気のなさは相変わらずで、学院内の生徒達の評価はすこぶる悪い。

 だが当のグレンはどこ吹く風、のんびりだらだら過ごしていた。最近はエルレイのネタもつき、ほとんどセラが授業を進行していた。

 

 

「よし」

 

 

 そう言いながらエルレイはトントンと書類をたたいた。

 今日は小テストを作ったので、今日も時間稼ぎにはなるだろう。作ったプリントをファイルに入れて、足早にクラスへ向かう。

 

 

「最近…慣れてきた気がする、いろいろと」

 

 

 最近は、ごくごく普通にこの世界になじんでしまっている。

 早く帰りたいなと思いながらも、エルレイにとって、ここは居ていて…気分が良い所ではあった。グレンもルミアもシスティーナもいる……多少の問題はあるが。

 

 

「ん…。帰る方法分からない、ので仕方ない」

 

 

 ガラっ、とエルレイは扉を開けた。

 

「ごめん、また遅れた」

 

「━━━、魔術は、この世界の真理を追究する学問よ」

 

 エルレイが入ると、システィーナとその隣で立ち尽くしているリン。そしてシスティーナの言葉を聞いて、少し顔が暗くなったセラ。そして教卓に膝をついているグレンが目の前にいた。

 

 

「エルレイ先生!エルレイ先生からもグレン先生に言ってくださいよ」

 

 

 システィーナは胸を張りながら話を続けた。

 

 

「この世界の起源と構造、この世界を支配する法則、魔術はそれらを解き明かし自分と世界が何のために存在するのかという永遠の疑問に答えを導き出し、そして、人がより高次元の存在へと至る道を探す手段、だからこそ魔術は崇高で偉大な者ものだということを」

 

「ん…」

 

 エルレイは眠たそうな目で、しかし何かを見下すような目で、システィーナを見つめた。

 グレンは自分の知っている以上のロクでなしだし、自分の親友の一人が、お高く留まって魔術は偉大だと言うし…そんなこと、システィーナの口から聞きたくなかった。

 

 

「なあ、魔術は崇高で偉大だとしてそれはどういうことだ?何の役に立つんだ教えてくれ」

 

「そ…それは…」

 

 

 グレンの言葉にシスティーナが黙り込む。

 するとグレンは手のひらを返したように言った。

 

 

「わかった悪かったよ、魔術はすげー人の役に立ってる……人殺しにな」

 

 

 酷薄に細められた暗い瞳、薄ら寒く歪められた口から紡がれたその言葉は、クラスの中の生徒たちを心胆から凍てつかせた。

 

 

「実際、魔術ほど人殺しに優れた術は他にないんだぜ?剣術が一人殺してる間に魔術は何百人殺せると思う?」

 

「グレン君いい加減にして!この子たちはまだ力を持つ意味もそれがもたらす責任もわからない子たちなんだよ?!魔術の暗い部分を教えても意味なんてないよ!!」

 

 

 ついに我慢できなくなったのだろう、セラは大きな声でグレンを怒鳴りつけた。

 エルレイは唇をかんだ。彼女自身も責任や意味を、嫌というほど小さなころから覚えてきた。

 魔術が人殺しの力だとは思いたくないが……。エルレイは多くの人間を、この手で殺めている。

 

 だから否定することができないのだ。

 

 ぱぁんっ!!!

 

「!」

 

 乾いた音が教室に響いた。

 慌てて視線を動かすと、システィーナがグレンを引っぱたいたようだった。システィーナの目からは……涙がぽたぽたと流れていた。

 

 

「…大嫌い、あなたなんか」

 

 

 そう言い残し、システィーナは走り去っていった。

 

 

「ちっ……あー、やる気でねぇから今日の全部の授業は自習な~」

 

 

 舌打ちした後にがりがりと頭をかいたグレンが、そのまま教室から出て行ってしまう。

 

 

「グレン!……~~~~~~!!セラ、システィーナお願い」

 

「わ、分かった!」

 

 

 何とも言えない怒りを耐えて、そう言い残すとエルレイは急いでグレンを追った。

 

 

 

★★★

 

 エルレイが学院を走り回ること数時間、なかなか見つからずにチャイムが鳴っていた。

 ようやく見つけたのが、3人で会議した学院東館の屋上バルコニーだった…。エルレイは乱れた息を整えてから話しかけた。

 

 

「ここに、居たんだ」

 

「ん?ああ、お前か」

 

 

 手すりにもたれ掛かっているグレンの隣に陣取り、壁に背中を向ける形でもたれ掛かる。

 

 

「何だよ、説教にでも来たのか?女の子をなかせるなー!ってか」

 

「しないよ、そんなこと」

 

 

 グレンは意外そうな表情でこちらを見た。

 

 

「確かに決闘の時は、少しイラっとした、けど魔術が人殺しに適してるのは…否定しない、だからグレンは悪く無い」

 

「……」

 

「私…基本的に、好きな人の味方するから」

 

「変わった奴」

 

 

 グレンが軽く噴き出した。

 グレンが笑うと私もうれしい、エルレイも笑顔で返す。するとグレンがとても小さな声で。

 

「やっぱ似てんだよなぁ雰囲気と言い……」

 

 そうつぶやいた。

 エルレイは聞かなかった事にして、ポケットからいちごタルトを二枚取り出し、1枚グレンに差し出した。

 

 

「おつかれいちごタルト」

 

「お前何枚いちごタルト持ってんだよ……ま、サンキュ」

 

「ん、これを食べた時の効能は………その人の給料ボーナスが無くなる」

 

 

 ぶ-っ!!!!!

 その言葉を聞いた途端、グレンが噴き出した…汚い。エルレイは自分のハンカチでかかってしまった手すりの辺りを拭く。

 

 

「バカじゃねえの?!馬鹿じゃねえの?!」

 

「冗談、なに本気にしてるの」

 

「俺にとっては笑えねえんだよおおぉぉおぉぉ!!!!」

 

 

 その瞬間エルレイはグレンに頭をグリグリされた。

 昔の感覚を楽しみつつ、進展があればいいなと思うエルレイだった。

 

「でも、痛い」

 

 

 

★★★

 

 それから数日後、どうにかやる気を取り戻したグレンが、システィーナに謝ってから授業をはじめ、それがとても分かりやすく、連日他のクラスからも立ち見の生徒が出るほどに人気が上がった。

 エルレイが話した後にルミアが話したらしく、何を話したのかエルレイがルミアに聞いてみると…「内緒です」と笑顔で答えられた。

 

 

「いや~、どうにかなりそうだね~。一時はどうなることかと思ったけど」

 

「ん、何とかなった」

 

 

 現在エルレイは朝の登校中、同居しているセラと共に、今日も今日とて学院まで徒歩で通っていた。

 

 

「レイちゃん……ありがとね。手伝ってれて、本当に助かったよ」

 

「私は難しいことはしてない、場つなぎしただけ」

 

「それでもレイちゃんが居なきゃ切り抜けられなかったよ、ありがとね!」

 

 

 エルレイは素直に感謝されるという、宮廷魔導士特務分室にいたころでは、まずありえない状況に歯がゆさを感じながらも足早に向かった……そして。

 

 

「そろそろ、出てきてくれると、ありがたい」

 

「!……レイちゃん、気付いてたんだ」

 

 

 エルレイは、物陰を睨みつけながら言葉を発すると、物陰から黒いローブを羽織った男が現れた。

 

 

「即席の人払いの結界でしたが、臨時教師とはいえやりますね」

 

 

 セラはすぐに構えた、エルレイもすぐに詠唱できるように準備をする。

 

 

「貴方は誰?目的は?」

 

「単刀直入に言わせていただきますと、ルミアという子をさらいに来ました」

 

 

 その言葉を聞いたセラはむっと顔をしかめた。

一方エルレイは無表情のままだが、目には怒りが宿っている。

 

 

「やっぱり……ルミアちゃんの正体いろんな人に知られちゃってるんだ」

 

 

 セラは唇をかみながら悔しそうに言った。

 ここでルミアを渡すわけにはいかない、ならやるべきことは一つだった。

 

 

「しかし、先生がいるとやりずらいので貴方達から潰そうと」

 

「《万象に希う・我が腕手に・剛毅なる刃を》」

 

 

 ドンっ!!

 

 エルレイは詠唱した後───。

地面を殴って辺り一帯に紫電が走る。

 次の瞬間。

 

「レイちゃん!、それは……!」

 

 エルレイの手に大きなクロス・クレイモアの大剣が出現し、そのまま構える。

 これこそエルレイ、いや、リィエル=レイフォードの真骨頂…。錬金術による武器の高速生成だ。

 

 

「くっ……、錬金がこれほどに早いとは」

 

「セラは、急いでクラスのところにお願い、こいつは私が……仕留める」

 

「わ、分かった!気を付けてね」

 

 

 エルレイの高速錬金に何か言いたそうなセラだったが、そのままクラスを優先して走っていった。

 

 

「…始めよう」

 

「ふっ、《ズドン》」

 

 

 男の指が一瞬光ったと思えば、そのまま射出された。

軍用魔術のライトニングピアスのようだ。

 エルレイは冷静に弾を見きり、大剣をサッと払い…。その弾丸を無効化した。

 

 

「な?!」

 

「ん、この程度だよね」

 

「な、なめるな!!《ズドン》《ズドン》《ズドン》!!」

 

 

 怒りに身を任せた男は、ライトニングピアスを連打する。

 面倒になったので大剣を盾にして突撃する。

 

「あぐぁ!」

 

 男の足を払い、男の首元に大剣を突き付ける。戦意喪失したのか、肩の力が下りて動かなくなった。

 そうなったのを確認してから両手両足をヒモで縛る。

 

 

「ん、これで、大丈夫、かな」

 

「お前……いったい何者──」

 

「ん…。ただのエルミアナ様の護衛だよ」

 

 

 エルレイは髪を後ろに払いながら一度大剣をしまい、ものすごい速度でクラスの教室があるところまで走っていった。

 

 

★★★

 

 一旦物陰に隠れたエルレイは、その場にしゃがみ、地面に五芒星方陣を展開させて索敵に入る。

 教室に生徒数人、セラもいる。魔術実験室にシスティーナとグレン…。セラの方もグレンの方も問題は無さそう。

 

 

「……問題は」

 

 

 ルミアだけ別のところにいる…ということだ。

 

 最上階の大広間───。

 

 エルレイは直ちにここに行くことに決め、瞬即召喚を開始する。

 1秒も立たないうちに刀が生成され、エルレイは自分の腰にセットした。

 

 

「考えても仕方ない、突っ込む!!!」

 

 

 物陰から飛び出したエルレイは、勢いよくドアを開け…そのまま最上階へ向けてダッシュする。エルレイは難しいことを考えるのが苦手だ。

 だから難しいことはグレンに任せ、エルレイはいつも道理倒せる敵を倒す。それだけだった。

 階建を上がっている途中、エルレイの足が止まった。

 

 

「ボーン・ゴーレム、しかも見たところ竜の牙での生成、お金持ちか」

 

 

 目の前に飛び出してきたのはまさに骸骨、しかもぱっと見、20はいる。

 

 

「うちはお金事情、厳しいのに」

 

 

 こんなものを ポンっ、と使える組織に若干の怒りを感じながらも…。

 瞬間──。

 エルレイは霞むように動いた。鞘を収めたままゴーレムの大群の中心まで入り込む。その早すぎる動きは、ゴーレムは愚か、大抵の人間は視認できないだろう。

 

 

「いいいいぃぃぃやあああああああ!!!!!!」

 

 

 エルレイは縦横無尽に戦った。

 

 

 『天つ風』『旋風』『暴風』『東風』『霜風』

 

 

 ありとあらゆる親友から教わった抜刀術を使い、ゴーレムを翻弄する。

 

 

「りゃあああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 ルミアやシスティーナ、クラスのみんなが捕まっているのは、エルレイ……。いやリィエルにとっては容認できない屈辱なのである。

 数秒後、そこにはバラバラになった骨だけが散りばめられていた。

 

 

★★★

 

 最上階の大広間についたエルレイは、容赦なくドアを蹴り飛ばし侵入する。

 

 

「ルミアっ!!!」

 

「エルレイ先生!無事だったんですね!よかった…」

 

 

 こんな時でも他人の心配、人がいいというか何というか。ルミアの安否を確認できたエルレイは、次は隣の男を睨みつける。

 彼は二十代くらいで金髪、見た目は優男。でも何を考えてるかわからないから気味が悪い…。それがエルレイの印象だった。

 

 

「ヒューイ先生、だっけ?」

 

「おや、私の名前をご存知でしたか」

 

「昔聞いたから、ルミアが金髪の優男に狙われたって」

 

 

 エルレイは冷たい目でそう言った。

 だがその目は、怒りや殺意を宿らせている。その場の空気がピリピリと変わっていく。

 

 

「でも、遅いです…私の勝ちですよ」

 

「なぜ?」

 

「あと十分で構築が完了し、ルミアさんは私達の組織に送られます」

 

「そして…サクリファイスも発動している、と?」

 

「察しがいいようで助かります」

 

 

 青い魔法陣があるからそうだとは思ったが、おそらくこの男が死んだら時間経過でなくとも、サクリファイスが発動されるのだろう。

 

 

「エルレイ先生!あなただけでも逃げてください!」

 

「………」

 

「そうですよ、あなたは臨時講師、あなたがここで命を落とす必要は無いでしょう」

 

 

 ルミアやヒューイの言葉に耳を傾け、エルレイはぼそっとつぶやいた。

 

 

「見逃して、くれるの?」

 

 怯えたような口調で、目をうるうるさせながら小さな声でつぶやいた。

 

「ええ、あなたを殺す理由はありませんから、なので今すぐここから」

 

「だが断る。」

 

「「…え?」」

 

 

 突然のエルレイの発言に、ヒューイとルミアは目を見開き、驚きの声をあげる。

 

 

「このエルレイ、最も好きなことの一つ、自分が絶対的有利だと思っている奴に、NOと断ってあげること」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

 

 エルエイは妙な立ち方をして、決まったと言わんばかりに眠そうな顔で胸を張る。

 

 

「ま、まあいいです、どのみちあなたには何も──」

 

「聞いておきたい」

 

 

 エルレイがヒューイの言葉を遮り、冷たい目で見ながら質問した。

 

 

「このサクリファイス、何重にもなってるよね」

 

「よく見ただけでわかりましたね、ええ、ご明察です。このサクリファイスは5階層に分かれています。臨時教師の解除スピードでは無理ですよ」

 

「ん、5層…。思ったより少ない」

 

「…なんですって?」

 

 ヒューイが、エルレイを軽く睨み付ける。

 そんなヒューイをなんのその、エルレイは小瓶を取り出した。そこには赤黒い何かが入っていて気味が悪い。

 

 

「もし、一回で複数解ける触媒があったら……無理じゃない」

 

「なっ?!そんなものどこで?!」

 

 

 ヒューイが驚きの声を上げる。

 エルレイがこんなものを持っている理由は簡単で、自分を作り出したある計画の処分中に大量の触媒になりそうなものがあり、そこからより強力なものを調合して作り出した…ただそれだけの話だ。

 

 

「ルミアは、私が守る…。これは私の使命」

 

「えっ、私を助けることが使命?」

 

「すぐに終わるから、すこし待ってて、ルミア」

 

 

★★★

 

 ルミアを助けたエルレイは、ヒューイを一発ひっぱたいた後にみんなと合流した。

 みんな怪我はないようなので良かったと、胸をなでおろす。そしてゴーレムとエルレイが戦っているところを助けに行こうとしたセラ含む数人に見られていたため、多少うるさかった。

 そんなこんなでルミアちゃん誘拐騒動はこれにておしまい……。

 

 

「お前、リィエル=レイフォードか?」

 

「イチゴタルトハオイシイナ」

 

 

と思うのが普通だろう、現在夕暮れ時にグレンとセラに呼び出しをくらった。どうやら大剣の生成が全く同じものだそう……。反射的にいつもの詠唱をした自分を心から呪った。

 

「どうしよう、ホントに」

 

 




良ければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。
エルレイ「私はエルレイって言え、って作者に強要された」
え?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二巻
魔術競技祭、準備


事件があった夕方、グレンとセラに誰にも使われていない教室までこいと…。

来てみると、人気のない教室でセラとグレンの二人が待っていた。グレンはもたれ掛かっていた壁から背を離し、エルレイのほうへ向かってくる。どうやらこの教室は防音でできているようだ。セラは椅子に座ったまま、エルレイを見ている。

 

「悪いな、いきなり呼んじまって」

 

「ん、事後処理はほとんど終わった、問題ない」

 

事後処理がようやく終わったところなので、正直に言うと早くベッドにダイブしたいが、その気持ちを抑えて眠たそうな目でエルレイはグレンとセラを見た。

 

「いきなり本題に入るねレイちゃん」

 

「ん、何時でもどうぞ」

 

珍しく緊張したような顔でセラが言ってくるので、エルレイも少し仕事モードで話を聞く。

 

「単刀直入に言うお前、リィエル=レイフォードか?」

 

「……はへ?」

 

突然自分の本名を言われて、エルレイは変な声を出してしまう。

 

「言ってる意味が、分からない」

 

エルレイは落ち着こうと深呼吸をした後に、もう一度グレンとセラのほうを向く。

 

「レイちゃんの大剣錬成した時の詠唱、《万象に希う・我が腕手に・剛毅なる刃を》あれはね、リィエルちゃんしかできないハズなんだ」

 

「!!」

 

「セラが見たものが正しければ、それは常人がやったら脳内演算処理がオーバーフローして、廃人確定になる魔術なんだよ」

 

「……」

 

「あの詠唱は多分どこを探しても、リィエルちゃんしかできないはずなんだ」

 

セラは心配そうにエルレイを見つめる。

 

しまった、いつもの感覚でやってしまったから、この頃も使ってる詠唱をやってしまった訳か…。

現在エルレイは夕日を見ながらサクサクといちごタルトを食べていた。いつもだったら心地良い幸福感が口いっぱいに広がるはずだが…。今日は食べてても全く感じない。

そして濁った目をしたエルレイは、夕日を見ながらため息をついた。

 

「つまり…グレンとセラは、その子しか使えないものを…私が使ったから、警戒してる?」

 

「警戒してるわけじゃねぇよ、ただ可能性の一つとしてお前がアイツのクローンの可能性があるんだ」

 

エルレイはサクサクといちごタルトを食べ終わった後に、言葉を発した。

 

「黙秘する」

 

「黙秘だと?」

 

グレンが顔を顰めた。

 

「何か事情があるんでしょ?私たちは、レイちゃんの味方だよ?」

 

「ごめん…どうしても言えない、事情がある」

 

エルレイはいきなりここへ送り込まれたのだ。自分の恩師とはいえ、まだ敵ではないと断言する事ができないのだ。

味方だという確定的な証拠がない。エルレイ自身も気にくわないが…事態が混乱している間は誰にも事情を話すべきではない。

 

「でも、グレンたちの邪魔、するつもりないよ」

 

「エルレイ、俺たちはそういうことを言ってるんじゃなくてだな!」

 

「イルシアと、シオンの名に誓って…いつか絶対、事情を話す」

 

「!!」

 

「イルシアとシオン…?」

 

グレンは怒鳴ったがイルシアとシオンの名を聞いた途端、静かになった。セラは誰に誓ったのかわからず困惑している。

 

「それでも、ダメ?」

 

「……はぁ、わーったよ。そこまで言うなら、今は何も聞かねえ」

 

「グレン君?!いいの?」

 

突然のグレンの変わり身に、セラは大きな声で驚く。

 

「いいんだよ、あの二人に誓えるなら俺は何も言わねえ…でも必ず話せよ?」

 

「ん、感謝」

 

エルレイは優しい笑顔をグレンへ送る。

相変わらずグレンには助けられてばっかり…そう思いながら微笑んだ。

 

「私は何時でも味方になるからねレイちゃん」

 

頬をぷくーと膨らませたセラがすねたように言った。

私の交流しようとしなかった人は、こんなに優しい人だったんだな…。

と、心から実感した。

グレンとセラの話を済ませ、教室まで行って戸締りの最終確認をしようと思い、足早に教室まで向かった。教室の中には静かで誰もいない…と思いきや、静かだが2人ぽつんと席に座っていた。一人がシスティーナ、もう一人がルミアだ。

 

「下校時間、何やってるの?」

 

「あ、エルレイ先生!」

 

「お、お疲れ様ですっ!」

 

エルレイを見つけるや否や、二人ともエルレイへと近づいてきた。

 

「もう帰る時間、玄関に行こう」

 

「す、すいません…。でも私たち、どうしてもお礼が言いたくて」

 

ルミアのお礼が言いたいという言葉に疑問を覚え、キョトンとしてしまうエルレイ。

 

「ルミアを助けてくださり、本当にありがとうございました!」

 

突然のシスティーナの行動に、エルレイは目を白黒させる。

別にいつも道理、ルミアとシスティーナを助けるための最善策を取っただけだというのに…。

 

「あのままエルレイ先生が来なかったら私はどうなっていたのか……本当にありがとうございました」

 

「ルミア…」

 

ルミアを見ると、少し手が震えているのが分かった。

どうやら相当、怖かったのだろう。エルレイは二人の手を優しく握った。

 

「…本当に無事でよかった」

 

「全部、先生がルミアを助けてくださったおかげです。本当にありがとうございました」

 

エルレイにとって、もう友達を裏切るのも、守り切れないのもたくさんだ。二人が無事で本当に良かったと…。心から安堵している。

 

「ところで、エルレイ先生」

 

「なに?ルミア」

 

「私を守るのが使命と、そう仰っていましたよね?あれはどうゆう事なんですか?」

 

「今、ルミアが知ることじゃない…。いつか分かる日が来る」

 

エルレイはニコッとルミアとシスティーナに微笑みかける。

そして、玄関のほうを指さす。

 

「あと十秒で、下校。さもなくば………単位落とす 10 9 8 7 」

 

「ちょっ!!エルレイ先生いきなりすぎです!」

 

システィーナが焦りながら帰る支度をする。

 

「そ、それではエルレイ先生、また明日!!」

 

システィーナの隣についたルミアは、エルレイに向かって手を振る。エルレイも軽く振って返す。

 

「ん、また明日」

 

エルレイは二人を優しく見守った。

 

★★★

 

放課後、競技祭の種目決めで何かが噛み合わないシスティーナとグレンを、眠たそうな目でぼーっと見ていたエルレイは、種目決め終了後。珍しく、図書室に来ていた。

 

「……」

 

周りの生徒や先生は、プリントをやっていたり、黙って本を見ていたりしている。

エルレイも何も喋らずに静かに、歴史コーナーへと向かう。エルレイが手に取った本は。『Project:Revive lifeの全貌』という本だ。

 

「……」ぺらっ……ぺらっ。

 

エルレイは黙々と読み始める。

エルレイは現在、Project:Revive lifeが何処まで情報が公表されているのか…。それを知る必要があった。場合によってはProject:Revive lifeの成功例であり、時間経過したエルレイの体が、目をつけられる可能性があるからだ。

 

「…ん、この程度なら、狙われる心配ない…かな」

 

深いところまでは書かれていなかったため、エルレイは少し安堵し、次の目的の資料を手に取ろうとする……。

その時。

 

「さっきから勝手な事ばかり・・・いい加減にしろよお前ら!」

 

いきなり中庭の辺りから怒鳴り声が聞こえた。あの声はカッシュだ。

エルレイは気になり窓から迷わず飛び降り、中庭に直行する。見たところグレン達のクラスと、ほかのクラスの何人かが言い争いをしているようだ。

 

(相変わらず、話題に事欠かない)

 

そう思いながら割り込もうとしたが、先にグレンが割り込んだので、エルレイは黙ってみていることにした。

 

 

エルレイが傍観を決めて、物陰に隠れてから数分の時間が経過した。

 

「三か月分だ」

 

「な、何ィ………っ!!」

 

「俺のクラスが優勝する、に俺の給料三か月分だ」

 

グレンの発言に、その場にいたハーレイ先生や周囲の生徒全員どよめいた。エルレイはというとポカンと口を開けている。

 

「さて、どうしますかね?先輩。この賭け乗りますか?いやあ、三か月分は大きいですよねぇ?もし負けたら先輩の魔術研究が、しばらく滞っちゃいますよね‥…?」

 

「ぐ……ぅ…ッ!」

 

グレンがハーレイ先生を挑発する。

エルレイは呆れを通り越して、逆に笑えてきた。笑ってはいるが…、目は誰がどう見ても死んでいた。

 

(そもそも、先生同士の賭け事、ばれたら即クビ案件)

 

そう思いながら苦笑いで今の状況を見ていたエルレイは、流石にハーレイ先生はこんな挑発には乗らないだろう…。と思いながら見ていた。しかし───。

 

「私も、私のクラスが優勝するに、給料三か月分だ!」

 

おぉ!と野次馬とそのクラスの生徒たちがどよめき出す。

 

(バ カ し か い な い)

 

エルレイは決して、グレンの気持ちがわからないわけではない。実際さっきまでの言い争いは、ハーレイ先生側が横暴でエルレイ自身がイラっとしていたのは事実だ。しかしまさか賭けを挑むとは、夢にも思わなかった。

 

「そんなの、許されない」

 

エルレイは我慢できずその場に出ていく。

 

「あ、エルレイ先生」

 

エルレイが来たことにシスティーナが反応する。システィーナを一度見た後、ハーレイ先生とグレンの前に立つ。

 

「なんだ?臨時講師分際で、何か文句でも?」

 

「生徒の前で、賭け事をしているのを見逃すほど……私は落ちぶれてない」

 

エルレイはバッサリと吐き捨てた。

 

「だ、だけどなエルレイ…(いいぞもっと言ってやれ!!!)」

「教育に悪い、やめて」

 

そう言いながら、エルレイはグレンとハーレイ先生を睨みつけた。二人とも黙ってくれたのでエルレイはその場を立ち去ろうとする……しかし。

 

「エルレイ先生、お言葉ですが」

 

エルレイを引き留めたのはギイブルだった。エルレイはすぐにギイブルのほうを向く。

 

「なに?」

 

「これは先生としての賭けではなく、一個人としての賭けのハズです。エルレイ先生に止める資格がありますか?」

 

…まさかギイブルが乗ってくるとは思わなかった。しかも反論の余地がない…。

エルレイはがりがりと頭を掻き。

 

「…もちろん、ない、だからこれは忠告、ばれても知らないよ?」

 

忠告だと理解した瞬間──、周りが騒ぎ出し、『望むところだ!!』と言わんばかりの熱気に包まれたグレンたちのクラスも大盛り上がり、一方でグレンとエルレイはorz、な状態になっていた。

 

「どうすんだよ…これ…」

 

グレンが絶望の声を上げた。

 

「自分から仕掛けたんじゃん………。バカグレン、金欠になっても助けない」

 

「こうなったらてめえらああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!マジで優勝狙いにいくぞおらあああああああぁぁぁぁ!!!!」

 

「「「「「「「おおおおおぉぉぉぉ~~~~!!!」」」」」」」

 

クラス全員がある意味一致団結した瞬間であった。途中から騒ぎを聞きつけたであろうセラが足早にエルレイの近くまでやってきて。

 

「ええっと……、どうゆう状況?」

 

「バカグレンが、バカなことして、そしたらみんなバカだった」

 

「どうゆう意味?」

 

これで生徒の保護者に『うちの子が賭け事に目覚めた』ってクレーム入れられても、包み隠さずグレンのせいにしてやる…そう心の底から思うエルレイだった。

 

 

★★★

 

暗くなって、生徒が帰った時間、エルレイはもう一度図書室に来ていた。とても暗く小さな星光や、月の光しか照らさないその場所で、エルレイは明かりもつけずにある本を手に取った。

 

「……」

 

エルレイが手に取ったのは、魔術の呪いの事が書かれている本だ。

そのままパラパラと読み進める。エルレイはこの後に、魔術競技祭で何が起こるかを知ってるので、焦らずに呪いの類の魔術を頭に叩き込んだ。エルレイのたどった歴史ではグレンがどうにかしたが、こちらではどうなるかわからないので、常に万全の状態を整える必要があるのだ。

 

「こんな暗い時間に教師とはいえ図書室に入るのは、関心せんな」

 

「……っ」

 

エルレイが驚いて振り返ると、そこには金髪ロングの胸が大きい女性が立っていた。

 

「セリ…、アルフォネア教授」

 

セリカ=アルフォネア、グレンの育て親で、この学院屈指の実力を持つ女性だ。

 

「何を読んでいたんだ?見せて見ろ」

 

セリカの言葉に従い、今持っている本を渡した。すると本の表紙を見た途端、セリカが苦笑いした。

 

「この時間に呪いの本を読書とは、肝が据わってるな」

 

「光栄、です」

 

エルレイは頭を下げた。セリカは笑いをこらえながら本をエルレイに返す。

 

「セラが連れてきた時、何か面白いことになりそうだとは思っていたが…。いやはや、期待道理だよ」

 

「…呪いの本、読んでただけです」

 

「何かの準備のために読んでいたのだろう、目を見ればわかる」

 

セリカの真っすぐな瞳に目を合わせ、エルレイは少し照れる。

 

「どうだ?この学院の教師をやった感想は」

 

「…感想」

 

少し考えて、エルレイは言葉に詰まることなくポンポン出していく。

 

「副担任は天然だし、担任はロクでなしだし、生徒も難癖ある。だから疲れる」

 

エルレイは大きくため息をついた後。

 

「でも。とても楽しい」

 

「そうか、よかった」

 

セリカは、ニッとは見せながら笑った。エルレイは本を棚に返し、本を整える。

 

「そういえば、なんで部外者の私を…臨時教師にしてくれた、んですか?」

 

セリカに敬語を使ったことがないので、つい片言になってしまう。片言なエルレイを見て、苦笑いしながらセリカは答えた。

 

「さっきも言っただろう?何か面白いことになりそうだからだ」

 

「……」

 

「実際、この前の事件は私も帰れない状態でヤバかったから、感謝しているぞ」

 

「教授の面白そう=強そう、なのです、か」

 

「まあ、否定はせん」

 

セリカはカッカッカと大きく笑った。エルレイは眠たそうな目ではあるが笑っていた。

 

「それでは若人よ…。うちのグレンをよろしく頼むぞ」

 

「ん、任された」

 

勢いよくサムズアップするセリカをみながら、エルレイは優しくピッとサムズアップした。

 

「そういえば、最近のグレンはどうだ?」

 

「ロクでなし、です」

 

「それは今に始まったことじゃない」

 

 

★★★

 

エルレイが家に帰ると、玄関前でセラから出迎えた。

 

「おかえり!」

 

「ただいま、セラ」

 

「ご飯にする、お風呂にする?それとも、私?」

 

「セラで」シャキンッ!

 

「ちょっ!急に刀抜くの禁止〜!」

 

「冗談、早くご飯食べよ」

 

そんな他愛もない雑談をしながら、エルレイはセラが用意してくれた食事を食べる。相変わらず料理も美味しい。

 

「相変わらず美味しい」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

「女として、負けた気分だけど」

 

「そういえばレイちゃんって料理できるの?」

 

セラが突然そんな質問を投げかけて来たので、普通に答える。

 

「できる、出来るといろいろ便利だから」

 

「今度食べてみたいな、レイちゃんの手料理!」

 

「うん、是非」

 

そこで一旦会話は止まった。特に気にせず、エルレイは黙々と食べ進める。

 

「くどいと思われると思うけど…、私はレイちゃん味方だからね」

 

「え…?」

 

突然の発言で少し驚いてしまうエルレイ。

 

「何が、言いたいの?」

 

「私は頑張りすぎて潰れちゃう人をよく見てるから、レイちゃんにはそんなことになってほしくないだけだよ」

 

優しさが胸に苦しい、エルレイはそのまま笑って返す。

 

「大丈夫、コントロールは出来てる、つもり」

 

「でも、辛くなったらいつでも言ってね?」

 

「ん、了解」

 

昔はあまり印象に残らなかったが、この人は予想以上のお人好しのようだった。食べ終わったエルレイは手を合わせる。

 

「ごちそうさまでした」

 

「はい、お粗末様でした」

 

セラはニコッとエルレイに向かって微笑みかけた。しかし突然少し考えているような表情になる。

 

「そういえば、あの時話に出たイルシアとシオンって誰?」

 

「…誰」

 

誰と聞かれても困るが……。

エルレイはうーんと頭を悩ます。

 

「もう一人の私と兄、かな」

 

「???ごめんよくわかんない」

 

「そだね、私も…よくわからない」

 

なんとか誤魔化せたエルレイは、軽くため息をついて、今は亡き二人の事を思う……。

Project:Revive life……。一般的な情報は手に入ったけど、闇の部分の情報はまだ見ていない…、そこにはエルレイの知らない情報もあるかもしれない。でもこんなことを知っている情報通は私の知り合いにいるわけが……。

 

「………アルベルト?」

 

「……ん?アルベルトがどうかした?」

 

いた………割とあっさりと、Project:Revive lifeのことを知っていて、裏の情報を持っている。そしてリィエル=レイフォードを知る者…、恐ろしいほど都合が良すぎる。

 

「ま、まぁ、競技祭の時に、会えたら、会う」

 

エルレイは『アルベルトはやっぱりやばいな……』と思いながら軽く苦笑いをした。

 

 




良ければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。
エルレイ「セラにご飯、食べてもらうときの料理、何にしよう」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔術競技祭

4

 

魔術競技祭は例年、魔術学院の敷地東部にある魔術競技場で主に行われる。競技場はまるで石で作られた円形の闘技場のような構造だ、エルレイは周りを見渡して危険人物がいないか目視で確認しながら観戦していた。

 

「今のところ、問題ない、一か所を除いて」

 

エルレイはボソッと呟いた。

その一か所というのは、闘技場が一番見える場所に座っている女王陛下とセリカ、その隣にいるメイド服を着た黒髪の女性。

 

「まさか、あんな近くに、陣取ってたなんて」

 

エルレイはできるだけメイド服の女性を監視した。

何故ならこの人物がこの魔術競技祭を滅茶苦茶にした張本人だからだ。エルレイとしては今すぐ斬りに行きたい所ではあるが……。

 

(あっちが問題を起こさないと、私が親衛隊に捕まる…。早く、動け…。エレノア・シャーレット)

 

ずっと睨んでても仕方がないと思い、エルレイは現在行われている種目に目を移動させた。

 

『ロッド君が今!!そのまま三番手でゴオォーーール!!!!』

 

今やっているのは飛行競争だ。ゴールした途端、歓声と実行委員のアースの声が響く。

 

『飛行競争は、あの二組が三位だ!なんという番狂わせ!!』

 

あの二組、という言葉が気に入らないが、とりあえずやり切ってくれたロッドとカイに拍手を送る。

 

「やったぁ!ロッド君とカイ君三位ですよ!」

 

ルミアが嬉しそうにはしゃぐ。

 

(うそーん…)

 

それに対し、グレンはポカンと予想外と言わんばかりの顔をしていた。

 

「先生方、何か秘策でもあったんですか?!」

 

そう嬉しそうな顔でグレンを見つめるシスティーナ。

 

(レイちゃんレイちゃん、グレン君ここまで計算してたのかな?)

 

(多分、してない、ここまで成長するのは私も……予想外)

 

(だよね~)

 

セラがぼそぼそと耳の近くにきて話してきたので、エルレイもぼそぼそ話す。

 

「も、もちろんだとも!だがそれは実に簡単なことだ!長丁場になる今回の飛行競争スピードよりペースが重要だ。2人の消費魔力を俺が軽~く計算してやっただけだ」

 

このグレンの後付け講釈の傍らで、聞いていた生徒はすっかり勘違いをして、グレンに畏怖と尊敬の眼差しの目を向け始めた。

 

「ひょ、ひょっとして俺たち」

 

「ああ…まさか、とは思ったが、先生方についていけばひょっとしたら…」

 

 

どんどん先生ズのハードルが高くなっていく。

 

そして、向こうからは土壇場で負けてしまった四組の生徒と二組の生徒が、言い争いをしているのが聞こえてくる。

 

「…ちっ!たまたま勝ったからっていい気になりやがって!」

 

「たまたまじゃない!これは全部、グレン先生とセラ先生…そしてエルレイ先生の策略なんだ!!」

 

「そうだぁ…お前たちは…先生方の手の中で……、転がされているんだよぉおおぉぉ!!HAHAHAHAHAHAHAHAHA」

 

「何だと?!くっ、いい気になるなよこの汚らしいアホガァ!!俺達四組はこれからお前ら二組を血祭にあげてやる…っ!」

 

「返り討ちにしてやるぞ!グレン先生、セラ先生、エルレイ先生に誓って!!いくぞお!!野郎共おおおおおおおぉぉお!!!」

 

「「「「ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」」」」

 

エルレイはその光景を見ながら苦笑いをした。そして二組の先生全員、おそらく同じことを思っただろう。

 

(((これ以上ハードル上げないで…お願いだから…)))

 

三人とも心の中で冷や汗をかいた。

 

「あの……先生方?三人とも顔色悪いですよ?その、大丈夫ですか?」

 

「ああ、ルミア…。お前だけが心のオアシスだ」

 

「?」

 

グレンの呟いた発言に、ルミアは訳が分からず首を傾げる。

 

「当然、ルミアは…。私の認めた、我が主」

 

「エルレイ先生までどうしました?!」

 

「とっちゃダメ!ルミアちゃんは私がお持ち帰りするの!!!」

 

「セラ先生まで…」

 

ルミアはまたまた困惑する。

 

「先生方いい加減ふざけるのはやめてくださいっ!!!」

 

見かねたシスティーナは、三人にチョップをかます。

 

「「「ダウチっ!!!」」」

 

 

────

 

その後も次々と2組の生徒が上位に食い込み、瞬く間に3位まで上り詰めた。

 

「みんな、すごい!がんばったね!!」

 

セラが興奮したように、皆の肩をぼんぼんっ、と叩きまわる。

 

「いたたたた!!!ちょっと力強すぎですわ!セラ先生!!」

 

「全部、先生方のご指導の賜物ですよ」

 

セラを見ていたグレンが、笑いながら頭をかいた。

 

「まったく、こっちもその気になっちまうぜ…。めんどくせえ」

 

「ん、まったくだね」

 

エルレイは嬉しそうなグレンを見て目を細めて微笑んだ。

次の種目は精神防御、ルミアが出場する種目だ。

 

 

「ルミアちゃああああああぁん!!がんばれええええええええぇぇぇ!!」

 

相変わらずの声の大きさで応援するセラ。

その隣で耳を塞いでいたエルレイは、うるさい…。言わんばかりに目を顰めた。ふとルミアの隣を見てみると、エルレイの見知った人物が隣にいた。

 

(あれは…。ジャイル、精神防御の種目だったの)

 

エルレイにとってジャイルは多少の腐れ縁だ。エルレイは変わんないな、と思いながらジャイルとルミアを見つめた。

 

「先生方も人が悪い」

 

突然、後ろからギイブルがメガネをくいっと動かしながら話しかけてきた。

 

「?どゆこと、どゆこと?」

 

すぐにセラが反応する。

 

「グレンの戦略、ルミアは捨て駒、そう言いたいの?」

 

エルレイの言葉にギイブルはコクリと頷く。

 

「彼女は治療系の白魔術は得意ですが、それ以外はそうでもない。ここで彼女を使うのは実に合理的ですね」

 

「う、嘘ですよね、先生…」

 

システィーナが震えたの声で、3人に尋ねてくる。

 

 

「グレン君っ!!!ルミアちゃんが捨て石ってどーゆーことっ!!!」

 

「ぐへぁ!!白犬……落ち着け…っ」

 

セラに首根っこ引っ掴まれて、苦しそうにしているグレンを放っておき、エルレイが話始める。

 

「捨て石じゃないよ、ギイブル」

 

「えっ、違うんですか?」

 

「むしろ、最有力候補、私的には」

 

エルレイは鼻を鳴らした。

 

「システィーナ、大丈夫…。ルミアが度胸あるの、知ってるでしょ」

 

「…はいっ!!」

 

エルレイの言葉に、大きな声でシスティーナが返事をする。

そして案の定ルミアが一位を掻っ攫い、2組は無事2位まで上り詰めることができたのだ。

 

 『なんと!!制したのは!二組のルミアちゃんだああああああぁぁ!!!』

 

その言葉を聞いて、エルレイは隠れてガッツポーズをした。

 

「よし」

 

「ルミア!やったじゃない!おめでとう!!」

 

「あ、ありがとう」

 

システィーナがルミアを抱きしめて二人とも笑いあう。

 

★★★

 

「あ~んっ…んくっ……んむっ……、ごくん」

 

午前の部が終わり、みんな昼食を食べている中…。

エルレイは壁にもたれ掛かり、いつ敵が襲って来ても良いように、戦闘態勢だけは万全に整えて、おにぎりを食べていた。

 

「そういえば、こっちの私…どうなるんだろ?」

 

エルレイは昔の事を考えながら、ため息をついた。

 

「いたら、会うことになる…よね」

 

アルベルトと会うのは好都合だが、そうするとこの世界のエルレイ…つまる所、リィエルに遭遇するということになる。居るかどうかはわからないが…。

 

「…考えすぎて疲れた」

 

エルレイはポケットからいちごタルトを取り出し、サクサクと食べ進めた。頭使った後のいちごタルトは格別だ。

 

「おいしい」

 

そんな幸福感に浸っていた矢先。

 

「ぎゃあああぁぁぁ!!!!」

 

グレンが空に飛んで行った。その光景に、エルレイは口を開けたまま…いちごタルトを落とした。

 

「なにあった」

 

慌ててルミアに事情を聞くと、ルミアに化けてお弁当を食べようとしたとか…。

 

「人のお弁当をですよ?!信じられませんよね?!」

 

「そうだね、信じられないね」

 

「まったく!!これだからあのろくでなしはぁ───!!」

 

結局、そのまま怒ってシスティーナはどこかに行ってしまった。

まあ、流石に怒るよね…でも、なんとなく。

 

「行っちゃいましたね」

 

「うん」

 

ルミアの苦笑いに、無表情でエルレイは返す。そしてエルレイが疑問に思ったことを口にする。

 

「ルミア、勘だけど」

 

「はい、なんですか?」

 

「システィーナが早起きして作ったの、ホントに二人分だけ?」

 

「……あはは、鋭いですね」

 

図星をついたのだろう、ルミアが誤魔化すように笑った。

 

「でも少し違います。そのお弁当を捨てようとしてたので、もったいないから私がもらってそれで」

 

「グレンに、と」

 

「はい」

 

「めんっど」

 

「ふふっ、ですね」

 

システィーナがツンデレなのは知ってたが、ここまで回りくどいと好意かどうかもわからなくなる。グレンも悪いとは思うが…。

 

「じゃあこれ、グレン先生に渡してきますね」

 

「あ……。ちょっと、ま」

 

「はい?」

 

ここでルミアを見失ったら、暗殺される可能性が急増する。

しかしエレノアの行動を緊急対処をするには、これ以上遠くには行くことができない。エルレイは少し考えてから答えを出した。

 

「一緒に行っていい?」

 

「?はい、別にかまいませんが…」

 

今はルミアの身の危険を第一に考えるべき、仕方なくエレノア・シャーレットの監視は諦め、ルミアの護衛に専念することにした。

ルミアが歩く少し後ろを歩く形で付いて行く。

 

★★★

 

「先生お腹が空いてるみたいだったから、もしよかったら──」

 

「ありがとうございます天使様!喜んで謹んで頂戴いたしますうぅぅ!!!!」

 

「グレン、はしたない」

 

恐ろしいほどがっつくグレンに、エルレイはため息交じりにグレンを見つめた。

 

「みずみずしいトマトの酸味、程よい塩加減のハムのうまみ、薄くスライスされたチーズが極上のハーモニーを奏でている!!」

 

「食レポやめ」

 

さながらテレビ番組のようなレポートに、ついエルレイはツッコミを入れた。

 

「ルミア、システィーナに後で伝えといて……。禁断の恋、頑張れ」

 

そういうとルミアは苦笑いで答えた。

 

「あはは、伝えておきます」

 

「あとルミアもがんばれ」

 

「えっ?」

 

 

★★★

 

「あーくったくった!ごちそうさんっ。すげーうまかった」

 

「よかった、作った子もきっと喜びます」

 

グレンの感想を聞きルミアは微笑んだ。エルレイは自分の腕時計を見た後。

 

「そろそろ、戻ろう」

 

もうすぐで時間になるので、戻ろうと提案する。

 

すると突如…、エルレイとグレンの後ろから。

 

「あなた、グレン=レーダスですよね?少しよろしいですか?」

 

そんな声が聞こえた。その声を聞いた途端、エルレイの顔が強張った。グレンはめんどくさそうに返す。

 

「はいはい、全然よろしくありませ~ン、今飯食ったばっかですっごく忙し」

 

「グレン、顔見てから、言おう」

 

「あ?どうゆうことだよエルレ…………、ってええええぇぇぇぇ!!!女王陛下あぁぁ!!!」

 

そう、この声の主はこの国の女王陛下、アリシア七世だ。

エルレイは声を確認した時点でその場で跪く、グレンもわかった瞬間跪いた。

 

「一年ぶりですね、お元気でしたか?」

 

「あぁ、はい、そりゃもう」

 

「どうか面を上げてください、貴方にはずっと謝りたいと思っておりました。この国のために尽くしてくれたあなたを…、あのような形で宮廷魔導士団から除隊させることになってしまって」

 

アリシアがグレンに頭を下げる。

 

「いやいやいや!?俺みたいな社会不適合者に女王たる貴女が頭を下げちゃダメですって!!」

 

エルレイが見渡したが、幸い自分たち以外誰もいないので、スクープ記事として面倒事にはならずに済みそうだ。

 

「陛下…。お一人でどういった、ご用向きでしょう?」

 

エルレイが少し口調を変えて。声のトーンを低くした。

 

「えっと、あなたは?」

 

「しがない、臨時教師でございます」

 

「そうでしたか。あなたがセリカが言っていた」

 

アリシアがエルレイに向かって微笑みかけた。

 

「それは、後でセリ…教授に聞きます、ご用件は?」

 

セリカに何を言われたか気になったが、後で聞くことにした。護衛をつけていないとなると、無断で出てきたということになる。

 

「ふふっ。そうですね、きょうは…」

 

アリシアはルミアに目を向ける。

 

(やっぱり)

 

エルレイはある程度は予想していた。だから黙ってこの二人を横目で見た。

 

「お久しぶりですね、エルミアナ」

 

ルミアに、アリシアは優しく語りかけた。

 

「……」

 

ルミアは無言、エルレイはルミアの事情を知っているため、止めるべきか悩んだ…。だがグレンが止めていないので、止めるべきではないと判断した。

 

「元気でしたか?あらあら、久方見ないうちに随分と背が伸びましたね。ふふ、それに凄くきれいになった、まるで若い頃の私みたい、なぁんて♪」

 

エルレイにとっては相変わらずちょっとお茶目な女王陛下、だがルミアにとっては聞いてて辛いものがあるのだろう…。黙ったままだった。

 

「フィーベル家の皆様との生活はどうですか?何か不自由はありませんか?食事はちゃんと食べていますか?育ち盛りなんだから無理なダイエットはしちゃだめですよ?それといくら忙しくてもお風呂にはちゃんと入らないとだめよ?あなたは嫁入り前の娘なのですから、きちんとしておかないと…」

 

硬直するルミアを他所に、アリシアは嬉しそうに言葉を続ける。

 

「ああ、夢みたい…またこうしてあなたと言葉を交わすことができるなんて…」

 

そして感極まったアリシアは手を伸ばす───。

 

 

だが。

 

 

「……お言葉ですが陛下」

 

ルミアはアリシアの手から逃げるようにして跪く。

 

「!」

 

「陛下は…。その…、失礼ですが人違いをされておられます」

 

ルミアの言葉に、今まで嬉しそうだったアリシアが凍り付く、エルレイは黙ってそれを見守った。

 

「私はルミア、ルミア=ティンジェルと申します。恐れ多くも陛下は、私を三年前にご崩御なされた。エルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ王女殿下と混同されておられるかと」

 

(他人が、出る幕じゃない…。けど)

 

エルレイが納得出来なさそうにこぶしを握る。

 

どうにかしてあげたい…。

 

ルミアと女王陛下に二人とも笑顔でいてほしい…。

 

こんな顔見たくない…。

 

でも、自分には何もできない。なんて弱い人形だ…。エルレイは悔しそうに唇をかんだ。

 

★★★

 

エルレイは一度、ルミアを誰もいないところまで移動させて、少しでも早く落ち着かせることに専念した。

 

「大丈夫?」

 

「……はい」

 

まだ大丈夫じゃなさそうだ。エルレイはルミアの背中を優しく背中を摩る。

 

「私…、どうしたらよかったのでしょうか」

 

静かに、そして悲しそうにルミアが聞いてくる。

 

「陛下が捨てた理由、分かるんです。王室のため、国の未来のためにどうしてもやらなければいけないことだって…。それでも私は心のどこかで陛下を許せなかった、怒ってるんだと思います」

 

「…うん」

 

「だけど、あの人を再び母と呼びたい…、抱きしめてもらいたい…、そんな思いもどこかにあるんです…ずるいですよね、私」

 

ルミアが悲しそうに俯く。

 

「本当に…。どうしたらよかったんでしょう」

 

「…そんなの、決まってる」

 

エルレイがいきなり立ち上がる。

 

「エルレイ先生?」

 

「私は、バカだからよく間違う…。人と話すときも…戦う時も…。何もかも」

 

エルレイはルミアに向けて微笑んだ。

 

「そんなときは…。自分を、吐き出すのが一番」

 

エルレイはルミアの手を引っ張る。

 

「むずかしく考える必要、ない…。お母さんの前で全部言葉として吐き出して、楽になるのが一番」

 

「エルレイ先生…」

 

エルレイは優しくルミアをだきしめた。

 

「だから……聞かせて?お母さんに………もう一度会いたい?」

 

「…っ!……あぃ……たいです…っ!!」

 

ルミアは泣いた。エルレイの胸の中で、エルレイは昔の事を思い返した。

ルミアやシスティーナに迷惑をかけたあの日、ルミアもシスティーナも抱きしめてくれたことを…。そしてその時、自分が泣いてしまったことを。

 

(ちょっとは借り……返せたかな?)

 

エルレイは優しくルミアを抱きしめた。

 

 

★★★

 

「さて。行こう」

 

「はい。あの…、ありがとうございます!」

 

「哀は達成した。……後は喜怒楽のみっつ」

 

「本当に全部吐き出させるつもりなんですね?!」

 

ルミアは驚いたが後に面白かったのか微笑んだ。愛想笑いではない本当の笑顔だ。

 

「さて」

 

「エルレイ先生?どうしました」

 

「下がってて、その木の辺りまで」

 

その言葉に従い、ルミアは気の後ろまで隠れる。すると直後、奥から妙な軍団がやってくる。

 

「きた、親衛隊の奴ら」

 

その軍団は緋色の陣羽織を背負い、腰にはレイピアを装備している。

 

「アルザーノ魔術学院のエルレイだな?」

 

「ん、なに」

 

「ルミア=ティンジェルはどこだ」

 

やはりかと、エルレイは睨みつけた。

 

「知ってどうする?」

 

「傾聴せよ、我らは女王の意思の代行者である」

 

長と思われるものは、エルレイを睨みつけながら宣言した。

 

「ルミア=ティンジェル。恐れ多くもアリシア七世王女陛下を密かに亡き者にせんと画策し、国家転覆を企てたその罪。もはや弁明の余地なし!よってルミア=ティンジェルを国家反逆罪によって発見次第即手打ちとせよ。これは女王陛下の勅命である」

 

エルレイは、ため息をついた後に話し出す。

 

「命令、ルミア=ティンジェルを、護衛せよ」

 

「む、何を言っておるのだ貴様」

 

「あなた方が、陛下の言葉で動くのならば…私は、上司の指示で動く」

 

エルレイはすぐさま大剣を詠唱する。

 

「《万象に希う・我が腕手に・剛毅なる刃を》」

 

その武器を見た途端、軍隊はすぐにレイピアを手持つ。

 

「貴様ぁぁ!!国に反逆する気かぁ!!」

 

「残念、陛下よりもっと怖い…。赤髪の女の人を怒らせたくない」

 

エルレイは苦笑いしながらそう言った。

 

「だから……。ごめんね」

 

それからのエルレイはまさに圧倒的だった。レイピアを薙ぎ払い、首元を狙い気絶させ、だれも視認できない速さで敵を倒していった。途中でグレンが到着したが、ほとんど倒されてて後の祭り。

 

「なんだよ…これ」

 

「ん。全員、気絶……。死んでたら知らない」

 

「やりすぎじゃこのおバカあああああああああぁぁぁ!!」

 

エルレイがグレンにグリグリされる。何気にエルレイはそのグリグリを心地よさそうに食らう。

 

「あの、エルレイ先生、ありがとうございました。また助けられちゃいましたね」

 

「大丈夫、寧ろ今から少し踏ん張りどころ。気を引き締めて」

 

「!はいっ!!」

 

 

 




良ければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。
エルレイ「さっさと陛下と、ルミア、仲直り」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

競技祭終盤

5

 

グレンを先頭に、ルミアをお姫様抱っこしてエルレイが全速力で走る…、競技場を目指して。

ルミアを抱えている理由は、ルミアの体力温存のためだ。少しでも母親と言い合いできる体力を残しておこうと、エルレイが半ば強制的に持ち上げた。

 

「んで、どうすんだ?エルレイ」

 

グレンが走りながら聞いてくる。

 

「ルミアを、女王に会わせる」

 

「会わせるっつったって、どうやってだよ」

 

「突っ込む」

 

「状況わかってんのかお前?!今俺ら親衛隊の奴らに追われてんだぞ?!」

 

「だから突っ込む、反逆罪になって捜索してるなら…女王陛下の警備が少なくなってるはず」

 

エルレイは目的地である魔術競技場を睨み付ける。

 

「反逆罪にしたのには絶対裏がある。…護衛を固められる前にケリをつける」

 

ルミアを死刑になんてさせない、そう心の中で誓った。

 

「力ずくかよ?!」

 

「向こうだって力ずくじゃん」

 

グレンはため息交じりにポケットから半割れの宝石を取り出した。

 

「それは…。遠隔通信の魔導器?」

 

「ああ、セリカの奴と連絡とって、親衛隊をどうにかできるか聞いてやる」

 

「ん、ありがと」

 

一度三人とも物影に隠れた。エルレイは一度ルミアを下し、グレンはセリカと通信を取った。エルレイとルミアは黙ってそれを見つめる。

 

「あの……」

 

「ん」

 

ルミアが霞んだ声で話しかけてきたので、エルレイは優しい声のトーンで返事をした。

 

「私が反逆罪ってことは、庇った先生達も反逆罪に…」

 

「そうかもね」

 

可能性は無きにしも非ずだった。だからエルレイはルミアのその言葉に否定はしない、ルミアは賢いと知っているからだ。

 

「そ…そうかもねって、分かってるならなんでっ!私を助けるために親衛隊にを手を挙げたんですか!!」

 

エルレイは興奮するルミアをなだめようと、ルミアの頭をよしよしと撫でた。

 

「前に、言ってなかったっけ?」

 

「え?」

 

「ルミアを守る、それが私の使命って」

 

ルミアは思い出したかのように、ハッ目を見開いた。

 

「それ以上の事は言えないけど…大丈夫、国家反逆罪なんてすぐに取り消してみせるよ」

 

「…でも」

 

エルレイはニコッとルミアに笑いかけた。そうこうしているうちにグレンの通信が終了したようだ。

エルレイはグレンに目を向ける。

 

「なんて?」

 

「親衛隊くらいならどうにかしてやれるがそれ以上の事は出来ない。女王陛下の前まで来いって言われた」

 

「セリカ、動けない状況なんだ」

 

甘かった…。やはり、エレノアを確認した時点で仕留めるべきだった…。

エルレイは悔しそうな顔をした。

 

「グレン先生、エルレイ先生、私を置いて逃げてください」

 

「は?」

 

「?」

 

「このままじゃ先生方まで国家反逆罪に…」

 

そのルミアの言葉にグレンは頭を掻いた。

 

「いやだって、お前見捨てたら白猫に叱られるだろ。あいつの説教は耳にキンキンうるさいから嫌なんだよ」

 

「追加でセラもね」

 

「はははっ、ちがいねぇ」

 

「ふざけてる場合じゃありません!このままだと本当に二人共…」

 

エルレイは少しため息をついて話し始めた。

 

「私はもう、親衛隊を追い払っちゃったから…無理」

 

ルミアはその言葉を聞くと、悔しそうに唇をかんだ。

 

「ルミアが気に病むことじゃない、それに私はもとから犯罪者」

 

「元…から?」

 

「ん、その話はおいおい」

 

エルレイは、ルミアの口元に人差し指を当てて誤魔化した。

 

「グレンは?なんでルミアを助けるの?」

 

「……約束したからな」

 

「この状況を切り抜けたら、結婚するんだって?」

 

「ちげぇよ!」

 

そんな緊張感のない会話をしているグレンとエルレイ、そんな時だった。

ゾクリ、と背中を駆け上がる氷の刃で切り付けられたような悪寒がエルレイとグレンを襲う。

 

「━━━━━殺気!?」

 

「!。ルミア…もう少し離れて」

 

エルレイは手でルミアの目の前をふさぐ。

二人共、殺気の感じた方向へ目を向けた。すると通りの向こうの屋根の上に二人の男女が立っていた。その二人組はまごうことなく、グレンの事を真っすぐ見下ろしている。その二人を見た途端、エルレイの顔つきが変わる。

 

(あれは…私?まさかホントに会うなんて)

 

エルレイは必死に昔ここで何をしたのか思い出そうとする。だがアルベルトに打たれた記憶と、髪の毛を引っ張られた記憶しかない。

 

「リィエル!?それにアルベルトまで!?どうしてここに──まさか、王室親衛隊だけじゃなく、宮廷魔導士団まで動いていたのか!?」

 

グレンが二人の存在を認識した瞬間。

リィエルは弾かれたように屋根を蹴り、建物の壁を駆け下りた。着地の瞬間、リィエルは何かを口走りながら両手を地面につく。

 

「!?《万象に願う剛毅なる刃を》!!」

 

エルレイはリィエルの動きに反応し、錬金魔術を1節詠唱した。エルレイは生成した大剣を構える。そしてなんとリィエルが同じ大剣を生成し、弾丸のように突進してくるのだ。

 

(こ、こんなこと…私やったっけ?)

 

やったことを覚えていないエルレイは、とりあえずグレンに向けて声を荒げる。

 

「グレン!!ルミアを安全な場所に!」

 

そういう頃にはもう手遅れ。リィエルはエルレイを無視し、グレンの近くまで突進していた──。

 

恐るべきスピードだ。

 

「くっ!グレンっ!ルミア!」

 

二人に向けて大声を張り上げたのもつかの間。

 

ビリィ!!!

 

「ぎゃう!!」

 

誰かが遠距離の魔術でも放ったかのような攻撃を、リィエルは後ろから受けて倒れてしまう。

誰が打ったのか確認するために打たれた方向を見回すと、アルベルトが指をリィエルに向けて立っていた。

 

(あ……なんとなく、思い出した)

 

エルレイは、昔のとりあえず『グレンと決着をつけにいこう』という。今思うと狂気と言い表すほかない過去の出来事を思い出し、顔から火が噴きそうになった。

 

 

★★★

 

「こんのおバカ!!」

 

「グレン、痛い」

 

「こっちは死ぬところだったんだ!!」

 

グレンがリィエルの頭をグリグリしている。リィエルは目を瞑って少し痛そうだ。

 

「あの、先生、この方達は?」

 

恐る恐る、ルミアがグレンに聞いた。

 

「俺の帝国時代の同僚だ、信頼できる連中だから安心──。できるハズねーよな」

 

「ん、アルベルト迂闊、街中で軍用魔術を打つなんて、その子怖がって─」

 

「お前もだよ!お前も!!」

 

グレンはまたリィエルの頭をグリグリする。

 

「遊んでいる場合ではないぞ。王室親衛隊は…女王陛下を監視下に置き、そこの元王女を始末するために独断で動いているようだ」

 

「陛下も、監視下に」

 

「ああ」

 

それを聞いたエルレイは頭を抱えた。監視下に置いているということは…。こうなることを見越して人数が多くいるということになる。

 

「しかし、貴様は何者だ?リィエルと同じ錬金魔術を使うとは、普通の人間ではないな」

 

鋭い目のアルベルトに、後ろめたさからなのか…、目をそらしてしまう。

アルベルトに情報を求めようと思ったが、どうやら無理そうだ。元々敵の可能性があったから期待はしていなかったが。

 

「……」

 

「すまん。アルベルト、こいつは今訳アリで何も喋ってくんねぇんだよ」

 

「…そうか」

 

「にしても、わっかんねえな。なんであいつら、わざわざこのタイミングでルミアを狙うんだ?」

 

「現時点では不明だ」

 

むずかしい顔で考え込むグレンと冷淡な表情を貫くアルベルト。そして少し俯いているエルレイ。そんな光景をルミアは心配そうな表情で見ていた。

 

「考えても仕方ない」

 

話し合いの膠着にしびれを切らしたのか、突然リィエルが割って入る。

 

「いや、お前はもう少し考えような?」

 

「だから、わたしは状況を打破する作戦を考えた、グレンがいるならもう少し高度な作戦が可能」

 

「ほう、いってみろ」

 

「まず、わたしが敵に正面から突っ込む、次にグレンが敵に正面から突っ込む、最後にアルベルトが敵に正面から突っ込む、どう」

 

「英断」

 

エルレイはリィエルに向けてサムズアップをした。リィエルも見て真似て、サムズアップする。

 

「お前はいい加減能筋思考をどうにかしろ!あとエルレイは甘やかすな!!」

 

「痛い」

 

グレンはまた一度リィエルの頭をグリグリする。さっきより力が入ってそうだ。

 

「お前が居なくなった後の俺の苦労、少しは理解したか?」

 

「…うん、ごめん、マジでごめん」

 

「……心が痛い」

 

アルベルトとグレンの話を聞いていたエルレイは、罪悪感で心が潰れそうになっていた。

 

「ふふっ、仲がよろしいんですね」

 

「え、どこら辺?」

 

ルミアの驚愕の一言により、エルレイは目を丸くした。

 

「ルミア、エルレイ、俺達はどうにかして、陛下の前に立たなければならない」

 

「…はい」

 

「んで、なんか策ないか?エルレイ、今すぐ考え付くやつ」

 

「一応、ある…。でもこの策は、この二人にも手伝ってほしい」

 

そういうとエルレイは、アルベルトとリィエルのほうを見た。

 

「構わん。内容によっては手伝おう」

 

「グレンがやるなら。私もやる」

 

エルレイは軽く微笑む。

 

「感謝、説明するよ」

 

 

★★★

 

競技祭はいまだ衰えぬ熱気に包まれている。中央の競技フィールドでは一喜一憂のドラマが次々と生まれていき、そのたびに観客は熱狂に包まれている。

 

「…遅いなあ」

 

その活気とは裏腹に、システィーナは不安げに呟いた。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ!ルミアちゃんはグレン君が連れ戻してくれるって!」

 

システィーナを元気づける様に、セラは両手を上下に激しく動かした。

 

「そうですけど…」

 

システィーナは俯いた。

 

「やっぱり先生方は全員いないと……」

 

「…ふふっ、そうだね、盛り上がりに欠けるよね」

 

そう言ってセラは、システィーナの肩に手をのせる。

 

「大丈夫、三人ともすぐ帰ってくるはずだよ」

 

「…はい!でも本当にどこ行ったんでしょうか?まさかアイツ、ルミアに何か邪な事を…」

 

「あっはっは。いやいやまさか…グレン君さっさと私の前までこぉぉぉおおおおおおおおおおおおい!!!!」

 

「じょ、冗談ですよ。セラ先生」

 

急にマジ切れしたセラを見ながらシスティーナに笑顔が戻る。

その時だった、背後にふと覚えのある気配を感じ…。システィーナとセラは振り返った。

 

「やっと帰ってきたの!?遅いわよ、先せ…あ、あれ」

 

システィーナが振り返るとそこには見知らぬ男女がいた。その男女を見たセラがすぐに反応する。

 

「あ!リィエルちゃんとアルベルト!?どうしてここに?」

 

「あの、セラ先生この人たちは?」

 

「私とグレン君の帝国時代の同僚だよ、リィエルちゃんと、アルベルト」

 

「アルベルトだ、よろしく」

 

アルベルトが挨拶をし、リィエルはこくこくと頭を下げた。セラは何かを感じた気がしたが口には出さなかった。

 

「…?。まあ気のせいか、それでどうしてここに?」

 

「今日は、魔術競技祭の後、旧交を温めようとグレンの奴にこの学院へ招待されてな。この通り正式な許可証もある」

 

アルベルトは懐から箔押しされたカードを取り出して見せた。

 

「うん、確かに拝見しました!それでグレン君見なかった?」

 

「奴は今、突然の用事に少々取り込んでいるようだ」

 

セラは少しため息をついた。

 

「そっか」

 

「でだ。唐突な事で悪いのだがあの男はしばらく手が離せないらしい、ゆえに俺はこのクラスの事をグレンに頼まれた。セラ、今から俺が代わりにクラスの指揮を執る、いいな」

 

「アルベルトとリィエルちゃんの言う事なら信じるよ」

 

セラは疑問に思ったことはあったが、割とすんなり受け入れた。

 

 

★★★

 

そして、魔術競技祭の終盤、どうにか2組は1位を手にして、表彰式に移行していた。

 

『それでは表彰式を行います、優勝した二年次生二組』

 

その言葉と同時にステージに上がる人物は、二組の人間ではなかった。

 

「アルベルトと、リィエル?」

 

「来たか…」

 

困惑する中、アルベルトが喋りだす。

 

「今年の魔術競技祭で、優勝したクラスの代表と担任講師は女王陛下から直接勲章を賜る栄誉を得る。待ってたぜ、このタイミングを」

 

するとアルベルトとリィエルの周囲がぐにゃりと歪んで───

再び焦点が結像し、そこに現れたのは。

 

「グレン先生!!ルミア!!!」

 

グレンとルミアだったシスティーナが二人を見て力いっぱい叫ぶ。

 

「き、貴様ら!!」

 

「遅いっ──!!」

 

ボンっ!!!

 

突然兵士の目の前にエルレイが現れ、エルレイが煙幕呪文を唱え、ルミアとグレンを隠した。

 

「くっ!!!」

 

霧が晴れたころには、グレン達は誰かが作ったであろう絶壁結界に閉じ込められていた。

 

★★★

 

「へえ、断絶結界か、気が利くなセリカ。てかエルレイ、誰に隠れてたんだ?」

 

「ハーレイ先生、気絶させてセルフ・イリュージョン」

 

「ハー何とか先輩気絶させたのかよ!」

 

そしてグレンがアリシアに向けて話しかける。

 

「さてと、僭越ながら陛下、そのおっさんと親衛隊どもは、陛下の名を不当にも語って罪もない少女を手にかけようとした。だがルミアは無事に保護したし、親衛隊は結界の外…。陛下、奴らにこれ以上の暴挙をやめるよう、どうか勅命を」

 

「…」

 

エルレイは知っている。過去に同じことがあったから知っている。実際には聞いただけだが、この時にアリシア陛下のネックレスに…呪いの類が付いていることを。

ゼーロスは何かに耐えるように言った。

 

「それでは…それではならんのだ…事が終わればすべての責を負って自害する。だが陛下だけはこの国を背負う陛下だけは…」

 

「うるさい」

 

いつの間にか、ゼーロスの背後に立っていたエルレイが、ゼーロスを大剣を使って楽々と気絶させる。

 

「な?!なにやってんだよ?!」

 

「…」

 

エルレイはポケットから何かのカードを取り出し、アリシアのネックレスに向かって投げた。

 

「!!」

 

丁度

アリシアのネックレスにあたり、カードが地面に落ちた。それを見たセリカが驚愕する。

 

「!?愚者の…アルカナ?!」

 

そう、グレンが持っている愚者のアルカナを、あろうことかエルレイが取り出し、使用したのだ。

その結果、ネックレスについていた呪いの類が消滅するのが目視で分かった。グレンは慌てて自分の愚者を確認するが、グレンのポケットにも愚者が存在していた。

 

「お前どこでそれを…!」

 

「そんなことどうでもいい、陛下」

 

エルレイはアリシアを冷たい目で睨みつける。

 

「ルミアは陛下と話に来たんじゃない…ルミアのお母さんに話にきた。この国背負う前に。娘の感情を…背負おうよ」

 

エルレイはそれだけ言って、セリカが作った絶壁結界の一部を破壊し、外に出て行ってしまった。

 

「部外者は口を挟まないよ、ルミア、頑張って」

 

エルレイは結界を出る前に一人ごとのように呟いた

 

 

 

★★★

 

その夜、エルレイはグレンとルミアにもう一度合流し、事の一部始終を聞いた。

どうやらどうにかなったようだ。エレノアをそのまま逃がしたのは、エルレイにとって失敗だったが、今回は良しとしよう。

 

「んでエルレイ、お前はなんであの時すぐに出てったんだ?」

 

「?愚者の事はいいの?」

 

「どうせ聞いても話さんだろ?」

 

「よくお分かりで、出てった理由は……辛くなるから、かな」

 

エルレイのその言葉にルミアは頭にはてなマークが浮かぶ。

 

「辛くなる?なんでですか?」

 

「……」

 

自分には家族がいないから羨ましい──。

なんて口が裂けても言えない。

 

「それで、どうだったの?母親と話して」

 

「色々お母さんと話せて,すっきりしました。全部先生方のお陰です」

 

「俺たちは何もやってねえよ」

 

グレンはプイっと顔を背ける。

 

「グレン。あの帝国軍の二人に…。手伝ってくれてありがとうって、伝えといて」

 

「おー、機会があればな」

 

「絶対、伝える気ないよね」

 

「ふふっ」

 

グレンとエルレイの会話に、ルミアはクスっと笑った。

 

「あ、そうだ…。はいこれ」

 

そういうとエルレイは、ポケットからいちごタルトを取り出す。

 

「お疲れ様タルト」

 

「え?」

 

急な事に困惑するルミアにグレンが説明する。

 

「こいつのルールなんだと、頑張った奴には誰も見てないところでご褒美としてあげてるらしい」

 

「おたべ」

 

「あ、じゃあ頂きます」

 

ルミアはサクサクと食べながら歩いていく。

エルレイとグレンはその光景を見ながら微笑んだ。

 

「そういえば、今日のパーティー。グレンのおごりだったよね」

 

「おう、今日ぐらいは労ってやらねえとな」

 

「…一応聞いとく、負けたら三か月分、私とセラの給料からも引こうとした?」

 

「……」

 

「おい目をそらすな」

 

エルレイはマジトーンで言った。

 

「さ、さぁ!!ついたぞ!!みんなもうついてるはずだ!!!今日は宴会じゃあああああああああああああああああ!!!!!」

 

誤魔化したグレンは店の中に入ると、みんなワイワイやっていた。

グレンがセラやシスティーナにじゃれつかれている間に、エルレイは使われた額がどれほどか確認する。

 

「給料三か月分、とボーナスくらいか…」

 

エルレイはお会計のところまで行って店員さんに。

 

「支払い全部…。あの男性に、お願いします」

 

容赦なしで会計を押し付けた。

 

「ちょっ!!!エルレイ先生?!」

 

ルミアが驚愕の声を上げる。

 

「こっちはうるさいから、向こうで飲もう?おごるよ」

 

「あっ…ええっと……」

 

「飲んでるときにお母さんと、どんな話したのか、聞かせて?」

 

「!……はい!」

 

こうして魔術競技祭が幕を閉じた。

その後エルレイはグレンに多少シバかれたのだが、それはまた…、別の話。

 

 

 




良ければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。
エルレイ「あの会計、グレンが、エクソダスに背負わせるって」
え?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三、四巻あたり
編入生 リィエル


 

「すいませんでしたあああああああああああああぁぁぁ!!」

 

現在。エルレイ、セラ、グレンの三人は、呼び出されて学院長室へとやってきていた

そして入るや否や、グレンはすごい速度で、セリカとリック学院長の前で土下座していた。

 

「ぐ、グレン君どうしたの?」

 

「もしかして、なんかやったから、3人とも学院長に呼び出されてるの?」

 

セラもエルレイも共に困惑した。

 

セリカとリック学院長も、目を点にして固まっている。

 

「おい、グレン…なんだいきなり」

 

「ちょっとした手違い…。ほんのちょっとし手違いなんですぅぅぅ!お二人がお怒りになるのはごもっとも!平に!平に~~!!」

 

キョトン。と顔を合わせる四人を前に、グレンが粛々と告解していく。

 

「薬草菜園で栽培されてたキレハトの花、与える魔術肥料の種類を,間違えて全部枯らしちゃって、ホントに申し訳ございませんでしたあああああぁぁぁ!!」

 

「え?!あれグレン君が枯らしたの?!なんで枯れたのかみんなで考えてたんだよ?!」

 

「ん、身近な犯人」

 

グレンの地雷により、セラの怒りに火が付き怒り出す。エルレイも少し顔をしかめて便乗する。するとリック先生は穏やかに話しかける。

 

「ははは、グレン君。顔を上げたまえ、勘違いされては困るよ。今日、我々が君たちを呼び出したのは、そのことではない。もっと別の事なのだよ」

 

「あ、なーんだ、そうだったんですか、あっはっは、脅かさんでくださいよ!」

 

グレンは安堵したように立ち上がる。

 

「ちょっとグレン君!私はまだ怒ってる!!」

 

「へいへい、白犬は黙ってような~、ですよねー?だってあの事件、証拠は完全に隠滅したはずだったんですもの、なんでばれたのかなーって不思議だったんですよ、あっはっは」

 

セラの怒りを受け流し、朗らかに笑う

 

「ふぉっふぉっふぉっ、グレン君はうっかり屋さんだのぅ」

 

「あっはっは」

 

「ふぉっふぉっふぉっ」

 

・・・・・・

 

「それはそうとグレン君、君、減給な」

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああ───ッ!!!ですよねぇぇぇぇ───ッ!!」

 

学院長は朗らかに裁定を下し、グレンは頭を抱えて悲鳴を上げた。

それに見かねたエルレイはコホンと咳払いをする。

 

「それで、用件は?」

 

「そうだったね、話というのは編入生についてなのだよ」

 

「編入生ですか」

 

セラが首を傾げる。

 

「うむ、明日からこの学園に編入される新しい生徒を、君たち2組で受け入れてくれないかね」

 

「明日からっすか?またそれはずいぶんと急な話っすね…。それにこんな中途半端な時期に編入されるってのも妙だ」

 

「もっとも、君に拒否権はないのだが」

 

学院長は封筒を3人に渡した。エルレイが受け取り、内容を確認する。

 

(やっぱり)

 

エルレイ、元名リィエルはこの頃に編入されていたので、もしやと思ったが…。

図星だった、女王陛下公認の帝国政府公文書、そして編入性の名は。

 

「確認した」

 

エルレイは封筒を置き、クラス名簿を開いた。

 

「名前、リィエル=レイフォード、追加完了」

 

「え?」

 

「は?」

 

グレンとセラが驚きの声を上げる。セラは嬉しそうな声のトーンだったが、グレンは低めのトーンだった。

 

「ははっ……どうやら俺、結構疲れてるみたいだ…。なんか最もあり得ない名前が、エルレイの口から出た気がしたんだが」

 

「リィエルちゃんか~、確かにあの子学院に入るお年頃だもんね」

 

「あ~~~今度はセラからも聞こえたぁぁ~~~」

 

現実逃避しているグレンを横目に、エルレイが学院長とセリカに向けて口を開く。

 

「では。編入生のリィエルさん用のプリント作ってきます。失礼します」

 

「ああ、頼むぞ」

 

「ふぉっふぉっふぉっ、君は適応能力が高いねえ」

 

エルレイはそのまま学院長室を後にする。

 

「そっか~、リィエルちゃんか~楽しみだねグレン君!!」

 

「…じゃねえ」

 

「ん?なに?」

 

「ぜんぜん楽しみじゃねええええええええええええええええええ!!!!」

 

 

★★★

 

トントントン

 

「……」

 

次の日、エルレイは職員室で編入生用のプリントをまとめ、封筒に入れる。

 

「私が来た…。つまり」

 

もうすぐであの事件が──。

エルレイはため息をついてから、封筒を持って職員室を後にする。エルレイは昔の事を鮮明に思い出していた。かつて自分が、ルミアを危険な目に遭わせてしまった…。あの忌々しい日の事を。

 

「あんなことには……二度とさせない」

 

エルレイは強く拳を握り締めた。

教室にたどり着くとすでにみんな揃っていた。そしてリィエルも、グレンの横で眠たそうな目で立っている。

 

「こんにちわ」

 

エルレイはリィエルの顔を見て微笑む。リィエルは少しエルレイの顔をじっと見つめて。

 

「あ、英断って、ほめてくれた人」

 

「どう…反応したらいいかな、それ」

 

エルレイが困っていると、セラが手をパンパンパンッ!と叩いた。

 

「はい。とりあえず、この子が編入生のリィエル=レイフォードちゃん。みんな!仲良くしてあげてね~」

 

エルレイは、生徒たちのほうを見てみるとニヤける男子や顔を赤くする男子が数名いた。

 

(……私、こんな目で見られてたんだ)

 

自分の事を別の視点で見てみると、結構変な目で見られてたんだな、と認識したエルレイ。

 

「ま、まずは自己紹介してもらうから、ほれ」

 

「リィエル=レイフォード」

 

・・・・・・

 

・・・・

 

・・・・

 

「自己紹介終了、質問タイム」

 

「そのまま進めるな!!!」

 

そのまま進めようとするエルレイに、グレンは腕を振り上げて…渾身のチョップをかました。

 

「痛い」

 

「えっと…リィエルちゃん、趣味とか特技とかなんでもいいから話そ?」

 

「ん、セラがそう言うなら」

 

リィエルはセラの言葉を受け、もう一度話始める。

 

「わたしはリィエル=レイフォード。帝国軍が一翼、帝国宮廷魔導士団、特務分室所属。軍階は従騎士長。コードネームは戦車、今回の任務は」

 

「「わああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!!!!」」

 

言ってはならないところまで言おうとしたのをグレンとセラが騒いで止めた。エルレイはその光景を苦笑いで見る事しかできなかった。

 

・・・・

 

「将来わたしは?帝国軍への入隊を目指して?イテリア地方から魔術を学ぶために、この学院に来ることになった?」

 

グレンが耳打ちしながらリィエルは自己紹介をする。

エルレイはこんな第一印象で大丈夫だったかを確認するため、生徒を見渡した。

 

「なんか、変わった子だな」

 

「まあ、可愛いけどな」

 

「め、めっちゃ可愛いなリィエルちゃんって…」

 

「決めた、俺無派閥はだったけどリィエルちゃん派になるわ」

 

「そこ!男子うるさい!!」

 

ここには変な奴しかいなかったことを忘れてた…。エルレイは、ほっ…と安堵する。

 

 

「それじゃ、気を取り直して、質問タイム」

 

「では、一つだけよろしいでしょうか?」

 

手を上げ、質問してきたのはウェンディだ。

 

「ん、なんでも聞いて」

 

「イテリア地方から来たとおっしゃっていましたが、貴女のご家族はどうされてるんですの?」

 

「!」

 

「…家族?」

 

その問いにグレンが微かに目を見開き、リィエルが少し眉を動かす。

 

「兄がいた…けど」

 

「あ~~~。ちょっとごめんねウェンディ」

 

割って入ってきたのはセラだった。

 

「ごめんね、家族の事の質問は避けてあげて、この子は今身寄りがないんだ」

 

「え?!申し訳ありません何も知らなくて……」

 

その重い沈黙クラスをが流れる。エルレイは少し辛そうに俯いていた。

 

「じゃ、じゃあさ」

 

そんな空気を吹っ飛ばそうとカッシュが手を上げる。

 

「リィエルちゃんとグレン先生とセラ先生って知り合いっぽいし、いったいどうゆう関係なんですか?」

 

「…わたしと、グレンとセラの関係?」

 

「う…それはだな…」

 

「ええっと…」

 

対処を考えてなかったのだろう…。セラもグレンも考え込む。

 

(どうするグレン君、親戚ってことにしとこうか?)

 

(ひねりも何もねえな…)

 

(なにを~!じゃあグレン君はいい案あるの?!)

 

そんなことをごにょごにょと、セラとグレンが話してると。

 

「セラは、わたしのお母さんみたいな人、グレンはわたしのすべて、わたしはグレンのために生きると決めた」

 

リィエルは迷うことなくそう断言した。

 

(セラ、母親的な人なんだ)

 

自分の言葉とはいえ、昔はセラと余り喋ったことが無かったので、エルレイは実感がわかなかった。

 

「きゃあああああ────ッ!大胆~!情熱的~!」

 

「ぐああああああ!出会ってひとめぼれしてもう失恋だあああああああ!!」

 

「つうかセラ先生がお母さんって想像しただけでいい!!」

 

皆が騒ぎ出す。

禁断の恋やらセラ先生とグレン先生の子供やら、果てはエルレイの子供でセラとは三角関係。というでっち上げまで…。

 

「ちょおま……なにいっちゃってんのおおおおおおおおおおお!!」

 

「私がお母さんか~…。えへへっそういわれると照れちゃうね」

 

「セラも恥ずかしがってんじゃねええええええええええええええええええええええ!!」

 

サクサクサク…。

 

「私の編入した時って、こんなうるさかったっけ」

 

エルレイはいちごタルトを食べながら眠たそうな目でみんなを見ていた。

 

★★★

 

リィエルが編入してきた最初の授業は魔術の実践授業だ。

エルレイは嫌な予感がしながら外に出た。今回の実践授業は、遠くにある人型ブロンズ製のゴーレムに魔術を当てる実践だ。当てるところは6か所あり、頭、胸、両手、両足だ。

 

「《雷精の紫電よ》──!」

 

広い競技場でシスティーナの呪文の詠唱が響いた。システィーナの結果は六分の六、つまりすべてに命中していた。

 

「よし!」

 

「すごい、システィ!六発撃って、全部的にあたったね!」

 

ルミアはまるで自分の事のように嬉しそうに言った。

 

「おめでとう、システィーナ、また精度上がったね」

 

「はい!エルレイ先生のおかげです」

 

システィーナはそういうと後ろに下がっていく。

 

「お前、白猫に何か教えたのか?」

 

「大したことじゃない、ただ肩力の抜き方を教えただけ」

 

「あ~、確かにシスティーナちゃんは肩に力はいりすぎてる事あるからね」

 

先生3人が話していると、次はリィエルの番になった。

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・打ち倒せ》」

 

リィエルはショックボルトを撃った…しかし当たらない。結局残り1発になってもかすりもしていなかった。

 

「これってショックボルトじゃないとだめなの?」

 

リィエルはグレンのほうを見た。

 

「ダメとは言わねーが、この距離じゃ、ほかの攻性呪文だとまともに届かねーぞ?」

 

「つまり、呪文は何でもいいと」

 

「……」

 

この後どうなるかわかっているエルレイはどうにか止めたいが、どういえば良いのかわからず諦めた。

 

「《万象に希う・我が腕手に・剛毅なる刃を》」

 

リィエルは拳を地面にトンッ、と付けると大剣が生成される。

 

「いいいいいいいいいいいぃぃぃやああああああああああぁぁぁぁ!!!」

 

そのまま投げてゴーレムを直撃、ゴーレムは砕け散って四散した。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

クラスの全員硬直する中、セラが腕を上げながら叫んだ。

 

「やったよリィエルちゃん!!六分の六!!」

 

「ん、頑張った」

 

エルレイはため息をついて、硬直しているグレンの記録表を奪い取り、書く。

 

「六分のゼロ」

 

「え~!!なんで!!」

 

セラは、断固意義を申し立てると言わんばかりに大きな声を出す。

 

「それは攻性魔術じゃなくて、錬金術…。よってダメ」

 

「ん、残念」

 

リィエルは少ししょんぼりした。

エルレイは、その判定をしながら昔の自分にブーメランを投げている気がして、嫌な気持ちになった。

 

 

 

 

★★★

 

「……」

 

昼休みの時間。

自分の席に着いたままリィエルは当然のように1人ぽつんと浮いていた。ただ何をするでもなくボーっと。周りのみんなもざわざわはしているが、声をかけることが難しいのだろう…あの後だと。

 

「すっかり、浮いちゃったね…リィエルちゃん」

 

陰に隠れながらセラは悲しそうにリィエルを見つめた。

 

「仕方ない、あの後だから」

 

「…仕方ねーか」

 

そういうとグレンが立ち上がる。

 

「グレン君?」

 

「リィエルを飯にでも誘ってくる」

 

「あ、わたしも行く!」

 

そう言って、セラとグレンが向かおうとしたその時。

 

「まって」

 

突然エルレイが2人を止めた。

 

「?どうした」

 

「よく見て」

 

エルレイに言われたセラとグレンは、もう一度リィエルのほうを見てみると、ルミアとシスティーナが話しかけていた。

 

「生徒に、任せてみよ」

 

エルレイは笑いながら言った。

 

「…そうだね、こんな時に母親が出しゃばっちゃだめだね!!」

 

「それ、気に入ったんだ」

 

うんうん、と頷くセラにエルレイはため息をつく。

 

「…ま、どうにかなるか」

 

 

─────

 

グレンとセラのもとを後にしたエルレイは、外に出て外のベンチへと座った。

 

「……」

 

特に何も言葉を出さず、特に何も考えず、空をボーっと見つめているだけ、最近エルレイは考え事が多くなり、精神的に疲れたのだろう。

 

「いつになったら帰れるかな」

 

エルレイはもうずっとこのままでもいい気がしていた。

なぜなら楽しいからだ。退屈しない…。退屈はしないが。

 

「戻らないと、エルザがこわいか」

 

友達の事を思い出し、苦笑いをしながら目を閉じた。心地いい風が、体を包み程よい日差しが温めてくれた。

 

(…少し寝よ)

 

そう思って寝ようとした──。

その矢先の事だった。

 

どがあああああああああああああああああああん!!

 

「!」

 

突然の大きな音にたたき起こされた。

エルレイは反射的に音のした方角を見てみると、そこにはリィエルが大剣を振り回して、ハーレイ先生を追い回していた。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、驚いて損した」

 

くだらないことで起きてしまった自分の体に後悔しつつ、もう一度眠りについた。

 

「いや結構大ごとだよ?!?!」

 

意識がもうろうとする中、セラの声が聞こえた気がするが…。気のせいだろう。

そんなこんなでリィエルが加入し、少したってからのお話。

 

 

 

──────

 

「これから、今度。お前らの受講する遠征学修についてのガイダンスをするわけだが……。ったくなーにが遠征学修だよ、どう考えてもこれクラスのみんなで一緒に行くお出かけ旅行だろ…」

 

「え?グレン君、遠征学修って大体お出かけ旅行でしょ?」

 

グレンがため息をつき、セラは不思議そうな顔でグレンを見た。

 

「先生方真面目にやってください!大体、遠征学修は遊びでも旅行でもありません!アルザーノ帝国が運営する各地の魔導研究所に赴き、研究所見学と最新の魔術研究に関する講義を受講することを目的とした、れっきとした必修講座の1つなわけで──」

 

「ん、解説お疲れ様」

 

エルレイは興奮するシスティーナの頭を撫でる。

 

「むぅ……」

 

「お疲れ様タルト」

 

「いりませんよ!!」

 

システィーナに差し出しても食べてくれなかったので、エルレイはじっと見てくるリィエルにいちごタルトを渡す。すると、サクサクと物凄い勢いで食べ進めた。

 

「あー、やっぱ俺、カンターレの軍事魔導研究所がよかったな~」

 

「仕方ないさカッシュ、それを言うなら僕だってイテリアの魔導工場研究所がよかったんだから」

 

そんな愚痴を男子が言い始める。

 

「まーまー、決まったんだし楽しくやろうよ~」

 

セラが優しく笑った。

 

「安心しろ、男子生徒諸君、お前たちは間違いなく幸運だ」

 

グレンの言葉に男子全員首を傾げる。

 

「え~」

 

「冷静になってよく考えてみろ、俺達が行く白金魔導研究所が一体どこにあるのかを」

 

「…はっ!ビーチリゾートとしても有名なサイネリア島…!」

 

「そう!!サイネリア島は気温も高く今の時期でも十分に海水浴が可能、そしてうちのクラスの女子はレベルが高い…。あとはわかるな」

 

「「「「せ、先生!!!」」」」

 

「皆まで言うな、黙って俺についてこい!!」

 

「「「「はいっ!!」」」」

 

そんな言葉を聞きながら、エルレイはまた面倒なことになりそうだと、確信していた(事件以外の事で)。

 

★★★

 

「ねえ」

 

授業が終わった後、エルレイが教室を出て行こうとしたら…、突然リィエルに止められた。今教室はリィエルとエルレイ以外は誰もいない。

 

「なに?」

 

エルレイは静かにリィエルの方を向いた。

 

「アルベルトに言われた、おねえさんには、気を付けたほうがいいって」

 

「……」

 

おそらく、警戒されているのだろう。

 

「でも、おねえさんいちごタルトくれた。悪い人と思えない」

 

「…そっか」

 

「おねえさんって、悪い人?」

 

まさか、単刀直入に悪者かを聞いてくるとは思わなかったので、少しエルレイは困惑したがすぐに持ち直す。

 

「それは、君が決める事」

 

「?」

 

「君が、敵だと思ったら敵、味方だと思ったら味方、それでいいの」

 

リィエルは首を傾げた。

 

「よくわからないけど、分かった」

 

「あと、私の名前、エルレイね」

 

「わかった、エルレイおねえさん」

 

自分にお姉さんと言われる事に、恐ろしいほどむず痒さを感じたエルレイだった

 

「……おねえさんはやめて?」

 

「じゃあ、エルレイねえね」

 

「……おねえさんでいいよ」

 

 

 




良ければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。
エルレイ「自分に、お姉さんって言われた……」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リィエルの心

 

「遅い!」

 

目の前に広がる雄大な地平線を描く大海原と、停泊している大型帆船を前に、システィーナはイライラと機械式懐中時計と睨めっこしていた。

今日は遠征学修当日、クラス全員で白金魔導所があるサイネリア島への定期船が発着する船着場へ集合してるのだが。

 

「もう集合時間すぎてるじゃない!一体、あいつどこをほっつき歩いてるんだか!」

 

「ま、まあまあシスティーナちゃん。どうどう」

 

そう言ってセラがシスティーナを宥める…。

そう、集合時間になってもグレンが船着場に姿を現さないのだ。

 

「わたし、探してくる」

 

グレンが居なくてそわそわしていたリィエルが、そんなことを言い残し、街のほうへと向かって歩き出そうとする。

リィエルの手を、ルミアがとって引き留めた。

 

「待って、リィエル。あまり大きくない街だけど…、人一人を探すには広いよ。行き違いになっても困るし、ここでわたし達と一緒に待っていよう?ね?」

 

「でも…」

 

そんな時、リィエルの前にいちごタルトが突然出てくる。

そこにはいちごタルトを持って、リィエルの目の前に出しているエルレイがいた。

 

「とりあえずこれ食べて落ち着いて。大丈夫、すぐ来るよ」

 

「…ん」

 

リィエルは観念したように俯きながら、いちごタルトをもらいサクサクと食べ始めた。

 

「あああもうっ!!大体、十分前行動が社会人の常識でしょ?!今日という今日は一言ガツンと言ってやらないと!!」

 

そんな光景を見ていたシスティーナが、声を荒げていると……。

 

「へ~い、そこのお嬢さん方~?ちょおっといいかな~?」

 

軽薄そうな声がシスティーナたちの背後から飛びかかってきた。何事かと5人が振り返ると、そこには気取ったポーズをとった青年がいた。

 

「なに?あまり暇じゃな……!」

 

エルレイは顔を見た途端。驚きの表情が顔に出かけたが、すぐに平常心に戻り、男を観察した。

 

(アルベルト…だよね)

 

そう、アルベルトだ。

アルベルトは変装が得意でほとんどの者は見分けることができないが、エルレイが分かるのは長年コンビでやってきた勘だ、なので確証はない。

 

「ええっと…何かな?」

 

セラが不安定な返答を返した時点で、勘は確定に変わった。

 

(グレンとセラに接触しに来た?…何のために)

 

「いやあ、こうして出会ったのも何かの縁だよね!出発までしばらくあるんでしょ?その間僕とお茶しない?なんだったら何かおごっちゃうよ?」

 

「お断りします」

 

「あはは、そんな冷たいこと言わないでさ~、ね?ちょっとだけでいいからさ~」

 

エルレイはアルベルトだったとしても、この行動はうざいと感じたので、首に刀でもつき付けてやろうかと思ったその時。

 

「はぁ~い、ストップ」

 

いきなりグレンが現れた。

そのナンパ青年(アルベルト)の首根っこを背後から掴んでいた。

 

「エルレイ、俺とセラはこのお兄さんとちょ~っと『お話』があるからさ。出発までには戻るからクラスまとめ頼むわ」

 

「……了解」

 

「じゃあ、レイちゃん、私もグレン君と一緒に行ってくるね!」

 

エルレイが返事したのを確認したセラは、一言添えてグレンのもとに行った。セラが来たのを確認したグレンは青年の首根っこを掴んだまま、青年をずるずると強引に引きずっていく。

 

「はあ、まったく…なんだったのかしら?あの人、それにしてもどこにでもああいう変な人っているのね、そう思いませんか?エルレイ先生」

 

「……」

 

「エルレイ先生?」

 

システィーナとルミアの言葉に反応できず、エルレイはじっとグレンたちが向かった方向を見ていた。

 

(話が気になる、けどばれたら確実に…。アルベルトと敵対することになる)

 

エルレイは、3人がどんな話をしているのかは気になった。

しかし、ばれたときのデメリットが大きすぎるので、何もしないことにした。

 

「エルレイ先生!!」

 

「…ごめん、ボーっとしてた。今のうちに忘れ物チェックする。皆、持ち物出して」

 

エルレイは大きな声を出したシスティーナに反応し、とりあえず何も考えないようにした。

 

 

★★★

 

二組の生徒たちを乗せ、船着場を出発して数時間、やがて船はサイネリア島に到着する。

 

「ここがサイネリア島…か」

 

システィーナは感慨深く周囲を見渡した。

 

「エルレイおねえさん、ここにはいちごタルトある?」

 

「…なかったら、またあげるよ」

 

リィエルとエルレイのそんな優しい会話に、システィーナは微笑みながら優しい潮風に包まれていた。

 

「グレン君大丈夫?」

 

「ああ…うぅー……」

 

「先生、しっかり…」

 

セラとルミアに両脇を支えられたグレンが、ふらふらしながら降り立った。

そのグロッキーな姿は、システィーナにとってもエルレイにとっても雰囲気ぶち壊しである。

 

「もう…本当に浸らせてくれないっていうか、デリカシーないんだから…」

 

「う、うるせー…白猫め…お前にこの苦しみが分かるか…うぅ…」

 

そんなグレンの様子にエルレイはため息をつき。

 

「乗る前に、酔い止め飲まないほうが悪い」

 

「うっせー…忘れてたんだよ……」

 

グレンのその情けない姿に、生徒たちもくすくす笑うしかない。

 

「大体な!生来、人は大地と共に生きる生物なんだ!人間は大地の子なんだ!大いなる大地から離れては人は生きていけないんだ!」

 

「船酔い一つで、なんかやけに大げさになるわね」

 

そんなグレンの屁理屈に、エルレイはもう一度ため息をつく。

 

「先生…、そんなに船酔いがお辛いのでしたら遠征学修は違う場所にすればよかったんじゃ…」

 

ルミアは苦笑いでそう言った。そんなルミアにかつてないほど真剣な顔でこう答えた。

 

「美少女たちの水着はあらゆるものに優先する……決まっているだろ─────ぐぇっ!!」

 

そんな最低な言葉を口にしたグレンを、セラが容赦なしに腹パンした。

 

「あのね?そんな目的で来たんじゃないでしょ?ね?学ぶためだよ?ていうか先生の立場がそんなこと言っちゃダメでしょ?」

 

「がっ……た、たとえ、ここが紛争のど真ん中だったとしても…俺はここを選んださ…」

 

腹パンされても尚、グレンはそんな話を続けた。

 

「先生…アンタ…漢だよ!」

 

「俺、先生に一生ついていきます…っ!」

 

そんなグレンのセリフは一部生徒の心にクリティカルヒットしたらしく、感極まった一部の生徒が熱い涙をはらはらと流していた。

 

「レイちゃんレイちゃん!ちょっと重いものを海に投棄したいんだけど手伝ってくれない?」

 

「海はだめ、ちゃんとグレンのご要望道理、土に還そう」

 

「俺を殺す前提で……話すんなお前ら…おえ…」

 

 

★★★

 

1日目は移動で消費し、エルレイたちはホテルへとチェックインしていた。エルレイはルミア、システィーナ、リィエルと一緒に屋上テラスから、外の夜景を眺めていた。

 

「三人とも、今日は移動で疲れてない?」

 

エルレイは三人に優しい言葉をかける。

 

「大丈夫ですよ、私はあの程度では疲れませんから!」

 

「あはは、システィはまだ元気だね」

 

「お腹すいた」

 

三人とも特に疲れていないようだ。エルレイは新鮮な空気を吸おうと大きく深呼吸した。体の疲れが一気になくなる感覚にリラックスしていると。

 

「そういえばエルレイ先生ってなんで先生に?」

 

そんなことをルミアが聞いてきた。

 

「あ、それ私も気になってたのよ。あんな錬金術の使い手が、ただの学院の講師してるなんて考えられないから」

 

エルレイは手を顎に付け、考え始めた。

 

「うーん……と。まあ、いろいろ」

 

私は未来から来て、就職先がないから臨時教師をしている。なんて口が裂けても言えないので、軽く誤魔化す。

 

「…先生も色々大変だったんですね」

 

「いつもお疲れ様です、エルレイ先生」

 

「…軽く誤魔化しただけで二人とも深読みしすぎ」

 

「?」

 

特に他意はないのだろうが、そこまで深読みされると申し訳なくなり、エルレイは苦笑いをした。リィエルだけはよくわからなそうな顔をしている。

 

そんな時────。

 

 

「行くぜ皆!!俺に続けぇ!グレン先生をやっつけろおおおおおおおお!!」

 

「ふっ…、かかってこいお前らぁ!!呪文詠唱技能が、魔術戦における戦力の絶対的な差ではないということを教えてやる!!!」

 

そんな声と共に、ショックボルトの電撃音が聞こえてくる。4人共下を見下ろすと、男子とグレンが撃ち合っていた。

 

「男ってバカね」

 

「同意」

 

システィーナもエルレイもジト目で男子とグレンを上から見ていた。

 

「エルレイおねえさん、あれなにやってるの?」

 

「あんな、ばっちいの見ちゃダメ」

 

エルレイが即座にリィエルの目を隠した。ルミアはその光景を見ながら苦笑いをする。

 

 

 

「ア、アルフゥゥゥゥゥ!!!!!しっかりしろ!?アルフゥゥゥ!!!」

 

「か、カッシュ、俺はもう…だめだ」

 

「馬鹿野郎!傷は浅いぞ!?目指すんだろう、エデンを!!!こんなことでくたばっている場合じゃないだろう!?」

 

「た、頼む……カッシュ……俺達が追い求めたエデンを……俺の分までエデンを……見て……来…」

 

「アルフゥゥゥゥゥぅあああああああああああ!!!!!!!俺は───っ!いったいなんのために戦っているんだあああああああああ!!!」

 

 

 

「「「「………」」」」

 

「…ねえ」

 

「…何ですか?エルレイ先生」

 

エルレイの小さい声に、システィーナが反応した。

 

「エデンを見たいんだってさ」

 

「…はい」

 

「エデン=あの世……。見せてあげてくるね」

 

「素晴らしき英断かと」

 

「ちょっと二人とも?!」

 

恐ろしい話をしているエルレイとシスティーナに、ルミアはつい声を荒げた。今にも刀でも持って飛び出しそうな勢いだ。

 

「……まだ見ちゃダメ?」

 

ずっと目隠しされているリィエルだけは、どんな状況かわからないのであった。

 

 

★★★

 

そんなこんなで二日目、サイネリア島のビーチに来た一行は水着に着替え、ビーチを満喫していた。

エルレイも水着に着替え、周りを監視していた。

 

「やっほ~レイちゃん!」

 

目の前に水着姿のセラが飛び出してきた。

 

「昨日、電撃みたいな音がずっとしてたらしいんだけど何か知ってる?」

 

「…バカがばかしてた」

 

「?」

 

どうやらセラは一足先に寝てしまっていたらしく、現場を見ていなかったらしい。ちなみにエルレイは昨日の深夜、生徒の魔術使用の書類、つまるところの始末書を書いていたため、少しご機嫌斜めだ。

 

「あっちでビーチバレーするんだけどレイちゃんもどう?」

 

「……審判くらいなら」

 

エルレイはそう言って審判の椅子に座った。現在バレーをしているのはグレン、ギイブルチームと、システィーナ、リィエルチームだ。

 

「どおおおおおおおおりゃああああああああああ!!!」

 

ネットを大きく上回る見事な跳躍、弓なりにしならせた身体からグレンは全身のばねを余すところなく使い、スパイクを叩きつけた。

 

「どおおおおおおだ!!このグレン=レーダス大先生様の力を思い知ったかああ!!!はあああああああああっはっはっはっは」

 

そんな高笑いをするグレンを無視して、ギイブルが、審判のエルレイに身体を向ける。

 

「エルレイ先生、点数を入れてください」

 

「……」

 

「エルレイ先生?」

 

「すう………すう……」

 

相当疲れがたまっているらしく、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。グレンがエルレイのもとに近づく。

 

「あ~、寝ちまったか…。そういや始末書書いてくれたのこいつだったからな」

 

「グレン先生、起こさないでくださいよ?エルレイ先生疲れてるみたいですから」

 

「わかってるよ、白猫」

 

白猫が声を小さめでいうとグレンはいはいと小さな声で言った。

 

「…にしてもエルレイ先生の寝顔…やばくね」

 

「ああ…、マジでヤバイ」

 

「普段クールな人ほど、こういう時のギャップってやべえよな…」

 

「やっべ、カメラ持ってこればよかった」

 

「…レイちゃんにおいたしちゃだめだよ?」

 

男子の話を聞きながら、セラは割とマジトーンで言った。

 

★★★

 

エルレイは現在、外を散歩していた。ビーチで眠ってしまったらしく、気付いたらホテルで夜を迎えていた。エルレイはため息をつきながら散歩した。

 

「せっかく、ビーチだったのに…台無し」

 

そんなことを思っていると、目の前に一人に少女が立っていた。その少女は───。

 

「リィエル?」

 

「あ、エルレイおねえさん、おはよ?」

 

この世界のエルレイ、リィエルだった。

 

「なにしてるの?こんなところで」

 

「グレンに会いたくて」

 

「なるほど」

 

エルレイはここにきてようやく思い出した。遠征学修の二日目は、エルレイがカンシャクを起こしてしまい、そのあとに事件に巻き込まれたことを。

 

「ねえ…。ルミアとシスティーナは、敵?味方?」

 

「!どういう意味?」

 

突然、リィエルがあの二人を敵味方で判断しようとしていることに驚き、エルレイは少し顔を歪ませる。

 

「あの2人に…グレンを取られてる気がして……奪われてる気がして…」

 

「なるほどね」

 

「おねえさんなら、分かるかなって」

 

エルレイはため息をついた。

 

「前に言ったこと、忘れた?」

 

「?」

 

「君が敵だと思ったら敵、味方と思ったら味方って」

 

「…そう…だけど」

 

リィエルは暗い顔で俯いた。エルレイはリィエルの頭を撫でてやる。

 

「あの二人と、一緒に居るのは、嫌い?」

 

「ううん………」

 

エルレイの言葉にリィエルは頭を横に振った。

 

「あの二人は、リィエルの大切な人を奪う極悪非道?」

 

「違う…気がする」

 

「じゃあ、それでいいじゃん」

 

エルレイは、リィエルの頭を優しくポンポンと叩く。

 

「自分の事を信じればいいの、どんなことにおいてもね。いい人の見分け方も、悪い人の見分け方も」

 

「…」

 

リィエルは少し黙ってから。

 

「じゃあ、エルレイおねえさんは、いい人なの?」

 

エルレイは頭を横に振った。

 

「ごめん、私はいい人じゃない」

 

「…」

 

「急にグレンの横にいた変な人、これが一番正しい」

 

「!……ふふっ…」

 

急に自分の事を変な人というエルレイ。それが面白かったのか、リィエルは少し噴き出した。

 

「ん、笑ってるの一番、元気出た?」

 

「…うん」

 

「じゃあ、ルミアとシスティーナはどう思ってる」

 

「大切な友達……だと思う」

 

エルレイはニコッと笑ってリィエルを抱きしめた。

 

「良く出来ましタルト」

 

エルレイは抱きしめながら、リィエルにいちごタルトを渡す。

 

「…」

 

「なに?」

 

「いちごタルトをくれる変な人」

 

「…それ一番合ってる」

 

「お~い、何やってんだ~」

 

そんな話をしていると、少し顔を赤くしているグレンが話しかけてきた。おそらく酒飲んだのだろう…。

 

「飲酒?先生なのに」

 

「うっせーなエルレイ。息抜き程度にいいんだよ…、んで、何の話してたんだ?」

 

エルレイはニコッと笑い、リィエルもつられて微笑んだ。

 

「ちょっと変な人の話してただけ、ねー」

 

「…ねー」

 

「…はい?」

 

 

★★★

 

次の日の朝…グレン達のクラスは、目的地の白金魔導研究所がサイネリア島の中心に設置されているため、登山をしていた。

 

「るんっるんっるんっるん♪」

 

「お前は楽しそうだな…白犬……」

 

「グレン君も元特務分室なら、これくらいは楽々登れるようになろうよ」

 

エルレイはそんな先生ズ二人を見た後に、リィエルの様子を見ていた。

 

「リィエル、大丈夫?この辺足場悪いから注意してね?」

 

「ん、ありがと」

 

「ルミアは心配しすぎよ、この子は一番息切れしてないじゃない」

 

「システィーナ、少しつらい?」

 

「だ、大丈夫よ!!大丈夫!!」

 

どうやら昔の自分のようにカンシャクを起こして、ルミアの手を払うことなく、普通に楽しそうに話しているようだ。しかも昨日よりも仲がよさそうに…だ。

 

「…よかった」

 

これでリィエルを見失って、ルミアが連れて行かれるという自分が起こした最悪の状況を回避できそうだと、心の底から安堵した。

 

(あとはあいつらの場所)

 

あの時は混乱していたこともあり、どこに首謀者がいたのか覚えていないが、それさえ思い出すことができればエルレイの完全勝利と言えるだろう。

 

「エルレイねえね、大丈夫?」

 

「…ん、大丈夫」

 

リィエルの言葉にエルレイは優しく返す、自分の心配までしてくれるのはうれしい限りだった───。

 

「…ん?」

 

何か…、エルレイは何かに違和感を感じた。何かはわからない、しかし確実に引っ掛かりがあった。

 

「ねえ、リィエル」

 

「?」

 

「さっきのセリフ、もう一回、いって?」

 

突然のエルレイの言葉に特に困惑することもなく、リィエルは復唱する。

 

「大丈夫って、言った」

 

「その前」

 

「エルレイねえね」

 

「それ」

 

「?」

 

「? じゃない」

 

エルレイは確かにおねえさんでいいよ、と言ったはずなのだが…。

気恥ずかしさからなのか、エルレイは髪の毛をいじる。

 

「その言い方は……やめてほしい」

 

「自分の事、信じればいいんでしょ?」

 

「……うぅ!」

 

「だから呼びやすい名前を信じた」

 

リィエルはほめて?と言わんばかりに頭を出してた。

 

「それ言われると……言い返せない」

 

エルレイはリィエルの頭を撫でた。エルレイは、みんながいるのにそんな呼ばれ方をされたのが恥ずかしかったのか、顔が真っ赤になっていた。

 

「まさか、あのリィエルがここまで懐くとはな…これからもよろしく頼むぞ?エルレイねえね」

 

グレンはからかうようにそう言った。

 

「もう!グレン君!からかっちゃダメでしょ?大丈夫?………エルレイねえね?」

 

セラはそんなことを言いながら、結局エルレイをからかった。

 

「……ホントに……やめて……」

 

尚、反応が面白かったので、ほとんどの人からこの名前をいじられたのだが…それはまた別のお話。




良ければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。
エルレイ「男子、全員地獄に送った、あとは作者だけ」
え?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白金魔導研究所と接触

山登りを始めてから時が流れ、二時間ほどしてようやく白金魔導研究所の前まで来た一行。

ほとんどのものは疲れているようで息を切らしているものが多かった。

 

「つ、疲れた…」

 

「はあ……はあ…、もうだめ…」

 

「さぁ、白金魔導研究所前まで来たよ。皆早く中に入ろ~!」

 

そう言って急かすセラに、グレンはため息をついた。

 

「少し休ませてやれよ白犬…エルレイ、生徒の人数を確認してってくれ、俺も一回数えるから」

 

「ん、了解」

 

エルレイは生徒の人数を指で指しながら数え始める。

 

「ひぃ……ふぅ……みぃ……。大丈夫そう、みんな水分補給はしてね」

 

エルレイは全員いることを確認し、白金魔導研究所を再度見る。

背後に切り立った崖から崖から流れる圧巻の滝、両側は原生林で囲まれていて、研究所というよりは神殿という印象を受けた。

 

「エルレイねえね」

 

「ん?」

 

エルレイは突然服を引っ張られ、引っ張った人物を見てみると、じっとリィエルが見つめていた。

 

「水無くなっちゃった」

 

「……はやくない?」

 

「いちごタルト、いっぱい食べたから」

 

エルレイはその言葉にため息をついた。

 

「はあ…誰?リィエルにいちごタルトいっぱい食べさせたの」

 

「「「「あんただよっ!!!!!!」」」」

 

クラス全員から総ツッコミを受けたエルレイ。エルレイは驚いた後に考え込む。

 

(おかしい、登山してまだ十個くらいしかリィエルにはあげてないはず。おかしい…)

 

十個だけで水分が取られるという発想に…、何故か至らないエルレイは、仕方なく自販機から水を買ってリィエルに渡した。

 

「おまえなあ、リィエルを甘やかしすぎだぞ」

 

「リィエルだけじゃない、みんなにあげた…。もういらないっていうくらいには」

 

「だから生徒みんな、マジ切れ気味でツッコミ入れてたんだね……」

 

エルレイの当然でしょ。と言わんばかりの真顔にグレンはあきれ果て、セラは苦笑いをした。そんなことをしている時。

 

「ようこそ、アルザーノ魔術学院の皆様。遠路はるばるご苦労です」

 

グレンとセラ、エルレイの前にローブに包んだ一人の男が現れた。セラはその男を前にして。

 

「こんにちわ。あなたがバークスさんですね?私はセラ=シルヴァースです。」

 

迷うことなく、笑顔をバークスに向けた。

 

「はい、私がバークス=ブラウモンです。この白金魔導研究所の所長を任されている者です」

 

グレンが登山でかいた額の汗を拭いながら、背筋を正し、バークスに開き直った。

 

「アルザーノ帝国魔術学院、二年次生二組の担当魔術講師グレン=レーダスだ。 本日はうちのクラスの『遠征学修』へのご協力、心から感謝します。生粋の研究方の魔術師であるバークスさんにとっちゃ、ひよこ共が所内をほっつき歩くなんて鬱陶しくて仕方ないでしょうが、まあ、今日明日は我慢してください」

 

「いえいえ、いいんですよ」

 

グレンの微妙に丁寧じゃない物言いにも、機嫌を損ねずバークスは朗らかに応じた。

 

「…エルレイです、本日は、よろしくお願いします」

 

「はい、こちらこそ」

 

エルレイの無表情のあいさつにもバークスは朗らかに答える。その後エルレイは生徒の居るところまで後退した。

 

 

「エルレイ先生どうしたんですか?顔が怖いような」

 

少しの異変に感じたのか。リンがエルレイを心配そうに見つめた。

 

「大丈夫、少し疲れただけ」

 

「…そうですか」

 

エルレイはそう言って、優しくリンに微笑みを見せた。しかしエルレイは登山で疲れているから表情が硬いのではなかった…。

 

どうやって奴をおびき寄せ、仕留めるか──。

それだけを考えていた。

 

 

★★★

 

「白金術……白魔術と錬金術の複合術、この術分野が主に扱うのは、皆様もご存じの通り生命そのもの。ゆえに研究には新鮮な生命マナに満たされた空間が常に必要となります。だからこのような有様になっているのです。まあ、少々歩きにくいのはご愛敬」

 

バークスは研究所内にある様々な研究室を、生徒を連れて練り歩く。

あたり一面に様々な品種と効能の薬草畑が広がる。薬草改良を心見ている部屋。

岩や結晶が法陣の上に並ぶ、鉱物生命体を開発している部屋。

多種多様の動植物が納められた、巨大ガラスの円筒が心狭しと並ぶ、生命の肉体構造に関する研究をしている部屋。

そのほかにもいろいろあった。

 

「…」

 

エルレイは元々自分が感情に身を任せ、見れなかったものを再度見て、多少理解できるようになっていた。

 

「熱心な研究所」

 

研究員も作業に没頭していて、仕事に忙殺されているという印象は抱かないし、見れば見るほど興味深いものが多い…。

 

「バークス…。もったいない人」

 

エルレイはバークスのやったことを思い出し、横を向いているバークスを眠たそうな目で、見下すように見つめた。

そしてその後、エルレイと行動を共にしているシスティーナ、ルミア、リィエルを見た。

システィーナ達は勿論、エルレイがそんなことを考えているのには気付かず、展示されているものをじっと見ていた。

 

「私は将来、魔導考古学を専攻するつもりだったけど・…これを見るとちょっと心が揺らいじゃうわね。ルミアとリィエルはどう?」

 

「ん、わたしは自分を信じる、ここは退屈」

 

リィエルは退屈そうに眺めている。

 

「私は、ほら…研究者じゃなくて魔導官僚志望だから」

 

そしてルミアはシスティーナとリィエルにだけ聞こえるように、そっと耳打ちする。

 

「それにここを見てると……なんか、気が引けちゃって」

 

「? なんで?」

 

リィエルは疑問の声を出す。

 

「その……、人がこんな風に命を好き勝手に弄っていいのかなって」

 

「そうね……これが過ぎると外道魔術師とかいうのに墜ちていくのね」

 

システィーナは苦々しく呟き、ため息をついた。

 

「でもやっぱり、あの研究は流石にここでもやってなさそうね。とうぜんと言えば当然なんだけど」

 

「え?」

 

「?」

 

システィーナの言うあの研究、というのが分からず。ルミアとリィエルは首をかしげる。

 

「あの研究って、何?システィ」

 

「あー、うん。えっとね。死者の蘇生・復活に関する研究。かつて帝国が大々的に立ち上げた一大魔術プロジェクトがあったの」

 

「Project:Revive life…。だね」

 

エルレイが咄嗟に口をはさんだ。

 

「さすがエルレイ先生、ご存じでしたか」

 

システィーナはエルレイに賞賛の声をかける。

 

「まさか、生徒が知ってるとは…思わなかったけどね」

 

エルレイがそういうとパチパチとどこからか拍手が聞こえた。後ろを振り向くとそこに立っていたのはバークスだった。

 

「まさか学生さんからその言葉を聞けるとは、エルレイ先生、とても優秀な生徒ですね。いやはや、優秀な若者がいれば帝国の未来も明るいですな」

 

「……どうも」

 

 

エルレイは軽く頭を下げる。

 

「いえ、そんな…たまたまです!すみません、失礼なこと言っちゃって!」

 

システィーナが慌てて恐縮する。

 

「そんなこと。できたっけ」

 

リィエルがボーっとしながら口を開いた。

 

「そうですね、確かに、生命の構成要素は────────それゆえに、この死者蘇生たるProject:Revive life 通称リィ」

 

「「Project:Revive life」」

 

突然グレンとセラがバークスの言葉尻を奪うようにして、割って入ってきた。心なしか二人の顔色が暗い。

 

「要するに、さっきバークスさんが言ってた生物の三要素を別のもので置き換えて、死者を復活させようっていう試みなんだよ」

 

「復活させたい人の遺伝情報から採取したジーンコードっていうのを元にして、代替肉体を錬金魔術で錬成して、他者の霊魂に初期化処置を施したアルターテールを代替霊魂にして…復活させたい人間の精神情報をアストラルコードに変換して代替精神とし、そしてその三つの代替を一つに合成して本人を復活させる……。ま、簡単に話すとこんな感じだ」

 

その後セラとグレンは軽く説明をした。

 

「へえ…ってちょっとグレン先生!セラ先生!今バークスさんがお話してるでしょ?!横から割り込みなんて失礼です!」

 

「えへへっ。ごめんごめん、興味がそそられる話してたからつい」

 

怒って見せるシスティーナを、セラはニコニコと宥める。

 

「エルレイ、大丈夫か?」

 

「…何が」

 

グレンがエルレイへと話しかける。エルレイは元気がなさそうな声で答える。

 

「お前がリィエルの、なんかの関係者だってことはわかってる。気分悪くなってないかと思ってな」

 

「ありがとう」

 

エルレイは俯いたまま言葉を返す。

 

「大丈夫だ。この研究は断念されたってお前も知ってるだろ?どんな生い立ちかは知らんが、お前が苦しむことはもうない」

 

そうグレンが言うとエルレイはニコッと笑った。

 

「グレン、元気出た…ありがと」

 

「そのいきだ。エルレイねえね」

 

「撤回、殺意がわいた」

 

 

★★★

 

現在。エルレイ、システィーナ、ルミア、リィエルの三人は、白金魔導研究所の見学が終わったので、自由時間となり日が落ちかけた頃…、街のレストランで食事をとっていた。

 

「でも、コピーを生成するってどうなんでしょうね」

 

「う~ん、確かに死んだ人への悲しみは和らぐとは思うけど…」

 

そんな話をしているシスティーナとルミアを他所に、リィエルがスパゲッティを食べていた。

 

「おいしい」

 

エルレイが注文してあげた品だったが、どうやら口にあったようだ。

エルレイは安堵する。それと同時に、リィエルを見ながら考え始めた。どうやっておびき寄せるかを…、あの頃はこの時間にエルレイが一人で浜辺に行き、ライネルに見つかった…だから今もついてきてるはず。

 

(一か八か、やるしかないのかな)

 

エルレイは食べていたパンを食べ終わり、その場を立った。

 

「じゃ、後は生徒だけでごゆっくり」

 

「エルレイねえね、行っちゃうの」

 

「もう少しゆっくりしててもいんじゃないですか?」

 

「生徒同士で話したいこととかあるでしょ、禁断の恋とか」

 

リィエルとルミアが軽く止めてくるので、エルレイはからかい口調でシスティーナの事を見ながら言った。

 

「はあ?!?!そ、そ、そそそそそそんな話あるわけないじゃないですか!!!」

 

「きんだんのこいがんばれ~」

 

「だからそうゆうのじゃないですってばあああああああ!!!!」

 

システィーナをからかうのは楽しいなと、エルレイは心の中でほくそ笑んだ。

そしてエルレイは全員分の代金を出し終えて、扉の前に立つ。

 

そして───。

 

「《刮目せよ・我が幻想の戯曲・演者は我・我は彼の声で歌わん》」

 

エルレイの周囲の空間が一瞬、ぐにゃりと揺らいで…エルレイの姿の焦点があやふやになり、再び焦点が戻った頃には。

 

「よし」

 

エルレイは過去の自分を真似たセルフイリュージョン、つまりは現在のリィエルと同じ体型、格好になっていた。

エルレイの作戦はこうだ。

まず自分がセルフイリュージョンでリィエルの姿になり、その後浜辺まで走る、そこでライネルの言葉にわざと乗っかり、基地をぶっ潰す。

 

「問題は、店の近くにいるかどうか」

 

店の中を見渡してもいなかったので、ライネルは外にいると踏んだが…外にもいなく、そのままエルレイが帰るまでにルミアとリィエルに接触されたら即アウト。

 

「やらないよりはやろう」

 

そう思い、一目散に店を飛び出し。昔座り込んだ浜辺の近くまで走り出した。

 

★★★

 

周りはすっかり夜になり、エルレイは件の浜辺へと足を運んでいた。

 

(……足音はした、間違いなく来てる)

 

エルレイは浜辺の波の音を聞きながら木影に腰かけた、そこで軽く持ってきた水を飲む。

 

(…状況はほぼ前と同じ、さあ、こい)

 

エルレイは波の音を聞きながら静かに待った。優しい風がざわざわ木を揺らし、優しい音色へと変わる。そしてエルレイが夜になった星々が輝く空を見上げた……。

 

その時────。

 

「ここは落ち着く場所だね、リィエル」

 

  ──かかった──

 

エルレイは一瞬不敵な笑みを浮かべた。顔を無表情に戻した後に、振り向くとそこには青色の髪をした青年が立っていた。

 

「……兄……さん?」

 

「…覚えててくれたんだ。うれしいよ、リィエル」

 

そう微笑みながらライネルは話を続けた。

 

「ずっと会いたかったよ、リィエル」

 

「生きてたのなら……今まで…何であってくれなかったの?」

 

エルレイの演技は恐ろしいものだった。

エルレイの元コンビのアルベルトは演技が上手く、それを多少かじっているので、驚きの表情や悲しみの表情を出すことなど容易いことだ。

 

「二年前、僕は奇跡的にうまく宮廷魔導士団へ亡命でき自由を手にすることができた。でも僕は失敗して…今でも奴隷だ」

 

「そん……な…」

 

エルレイは驚きの表情を見せる。

 

「わたし…なんでもする……だから……ずっとそばにいて…!」

 

「僕を助けてくれるのかい?ありがとうリィエル、それじゃあ、あることを一つ頼みたいんだ」

 

「うん……なんでも言って……」

 

「今、組織はとある計画を動かしている。その計画にはルミアという少女が必要で…そして彼女を守る魔術講師が邪魔だ、排除しなければならない」

 

「…」

 

「僕に協力してくれ、リィエル、あれから従順に組織に尽くして二年…組織は僕にチャンスをくれたんだ。ルミアの身柄を抑えてとある作戦を成功させれば…僕に自由をくれると約束したんだ」

 

「あぁ……あ…」

 

「僕を手伝ってくれ…リィエル。おいで、僕たちの新しい家に案内するよ」

 

───釣れた、完璧に釣れた…。これでもう逃がさない…、絶対に。

 

エルレイは心の中で不敵な笑みを浮かべた。

 

★★★

 

「グレンく~ん、レイちゃん知らない」

 

「んあ?しらねー、白猫たちの部屋にいるだろ」

 

ホテルに戻ってきたセラは、エルレイがいないことに気付き、ホテル内をウロついていた。

 

「行ったけどいないってわれたんだよ~」

 

「ま、そのうち帰ってくんだろ。もうすぐ夕飯だしな」

 

「そんな適当なー!!レイちゃんが心配じゃないの?!」

 

「少なくともお前よりは信頼できるわ」

 

「何を~!」

 

そんな喧嘩をしていると、突然グレンの魔導器が鳴り始めた。

 

「誰だよこんな時に…」

 

グレンはイラつきながら通信接続した。

 

「俺だ」

 

『グレン、今いいか』

 

声の主はアルベルトだった。また面倒なことになりそうだ…、グレンは頭をかいた。

 

「お前かよ…何の用だ」

 

『エルレイがライネルと思われるものと接触した』

 

「…何?!」

 

グレンは驚きの声を上げる。セラは話しについていけず放心状態だ。

 

「なんでンなことになってんだよ!!!」

 

『あいつは変身し、リィエルに成り済ましてライネルと浜辺で接触し、連れてかれた』

 

「変身だと?なぜあいつがそんなこと」

 

グレンは怒りの声を出した。アルベルトは淡々としゃべり続ける。

 

『おそらく、リィエルの狙っている連中の事を知っているんだろう、その手口もな』

 

「自分が囮になってそこを奇襲ってわけか……。今アイツはどこにいる」

 

『今すぐ俺の元まで来い、話はそれからだ』

 

そう言い残すと、アルベルトは通信を切ってしまう。

 

「行くぞセラ。エルレイの元までアルベルトが案内してくれるってよ」

 

グレンはすぐに軍の黒いローブに着替える、セラも気付いた時には着替え終わっていた。

 

「レイちゃん、無事だといいんだけど…」

 

「……無事じゃねえと色々困るだろうが、仕事とかリィエルの世話とかよ」

 

そんな素直とは言えないグレンを見て、セラは微笑んだ。

 

「ふふっ、そうだね。じゃ、久々に特務分室…。執行官ナンバー3《女帝》と執行官ナンバー0《愚者》のコンビで行こうか!」

 

「おう、って俺はもう特務分室じゃねえけどな?」

 

そんな談義をしながら、グレンとセラはアルベルトのいる場所へと駆け出して行った。




良ければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。
エルレイ「ついにここまで来た、絶対ぶっつぶす」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新キャラと姫

エルレイ「……」じーっ

作者「さっきからスマホ見て何見てるの?」

エルレイ「フィーちゃん」

作者「フィーちゃん?」

エルレイ「グレンと、セラの、子供」

作者「ああ、フィールちゃんね」

エルレイ「『バッドエンドの未来から来た二人の娘』…良いものだから…みんな見よう」

作者「あちらの作者様に許可を取らずに宣伝しちゃったこの子…」

エルレイ「宣伝じゃない、拡散」(ドヤァ)

エルレイ「…」

作者「ん、どうしたの?」

エルレイ「ん、ウチも未来設定なのに、なんでこんな駄作なのかなって」

作者「グハァッ!!!!」(吐血)

エルレイ「フィーちゃん、機会がれば会ってみたいな」(吐血した作者無視)



9

 

 

「来たか」

 

「…」

 

ホテルを出ると、正面口に堂々とアルベルトと…

‘‘グレンとセラの知らない見知らぬ女性‘‘がいた。

 

「アルベルト、待たせたな」

 

「問題ない」

 

「アルベルトとは最近会ってないから、久しぶり…かや?」

 

「ここに来る前に会っただろ」

 

アルベルトに対して微笑みかけてから、見知らぬ女性を見る。

その女性は緩く波打つ亜麻色の髪に、メガネをかけている落ち着きがありそうな女性で、アルベルトと同じく特務分室の魔導士礼服を身にまとっていて、刀を細腰に佩いていた。

 

「セラも会うのは初めてだったな。新しい特務分室のメンバーだ」

 

「お初にお目にかかります。私は数年後の特務分室所属、執行官ナンバー10《運命の輪》のエザリーと申します。混乱を防ぐため名前は偽名ですがどうかご海容ください」

 

エザリーは二人に向けて頭を下げた。グレンは少し眉をぴくっ、と動かした。

 

「ナンバー10だと?それに数年後ってのは一体…」

 

「そのあたりはエルレイ…いえ、リィエルと再会できた時にお話しします」

 

エザリーはそう言うと、メガネをくいっと動かした。アルベルトは冷酷な声で、焦ることもなく二人に言い放つ。

 

「詳しい話はあとにしろ。今はエルレイと名乗る人物がProject:Revive lifeの成功例である、リィエル=レイフォードと同一人物であることだけ理解してればいい。いくぞ」

 

「ちょ、ちょっと待ってって!!突然のこと過ぎて理解が追い付いてないよ!」

 

「俺もついてけてねえんだが?!とまれアルベルトおおおおおおおおぉぉぉぉ──!!!」

 

そんな騒いでいる二人を、完全に無視している二人が歩きながら話始める。

 

「ですが、どうするんですか?アルベルトさん」

 

「何がだ」

 

「私の持っているGPSだとリィエルをロストしてしまいました……。もしかしたらもう…」

 

エザリーは悲しそうな声を上げたが、アルベルトは特に気にする様子もなく。

 

「問題ない、オレは先のエレノアとの戦いで奴に魔導信号を発するエンチャントをしておいた──────────、ゆえにこの湖にの南西方面に研究所につながる地下水路があるはずだ。そしてグレンとセラにコンタクトを取り、エルレイの睡眠中に同じエンチャントをするように指示し、同じ場所にエレノアとエルレイの反応がある。反応があるということは殺されてはいないだろう」

 

「……」

 

(リィエルも言ってたっけ、一番敵に回したくない人だって…)

 

エザリーはその話を聞きながら、苦笑いしか出なかった。

 

「無駄話はいい、お前の親友を助けるんだろう。早くエア・スクリーンを唱えろ」

 

「は、はいっ!!」

 

 

そして4人ともエア・スクリーンを唱える。4人の周囲に圧縮空気の膜が球体状に生成される、そのまま四人が湖の中へ足を踏み入れると、周囲の水が球体状に4人を避けていく。

 

(リィエル…。今助けるよ)

 

エザリーは刀を握り締め、心の中で強くそう誓った。

 

★★★

 

しばらくすると4人は水中に不自然に開けた場所に出た。

四方は明らかに人工的石垣を並べて作られた壁、頭上を見上げれば、揺らめく水面が見え、淡い光がさしているようだ。

 

「ここ、みたいだね」

 

水上に出たグレン達は、傍にあった通路上の足場に飛び乗った。

周囲を見渡すと貯水庫のような場所だった。ひと際大きなプール中心に、水路と水路を挟む通路が大小様々なプールとプールを繋ぎ、延々と迷路のように複雑に絡み合っている。所々に水生系の樹木が樹木し、あちこちにヒカリゴケが群生していた。

 

「見たいですね」

 

エザリーがセラの言葉に反応する。

 

「さて、これからどうするアルベルト?」

 

グレンがアルベルトに相談した瞬間。

 

「《わが招致に応じよ・鋭い眼差しと・雄々しき翼の盟友よ》」

 

アルベルトが召喚コールファミリアを唱えていた。すると虚空に開かれた門から一羽の鷹が羽を広げて現れ、アルベルトの肩に止まる。

 

「こいつを目として先行させ───」

 

と不意にアルベルトが押し黙る。

 

「な、なんだ?どうした?」

 

「もうレイちゃん見つけたの?」

 

アルベルトの様子にセラとグレンが訝しんだその時だ。

 

「下がってくださいっ!!!」

 

エザリーが突然大きな声を上げ、その直後、目の前の水路から水が天井へ巻き上げられ、盛大な水柱としてそびえ立った。

 

「どわぁぁぁぁ!!!!」

 

「なにあれええええええええええぇぇぇぇ!!!!!???」

 

グレンとセラは驚きながら身構え、アルベルトとエザリーはものすごい身のこなしでその場から飛び下がる。

現れたのは一言で表すとカニだった。人の倍以上の身丈を持つ、冗談のように巨大なカニ。川辺や磯部で見かけるカニと決定的に違う点は、通常、カニのハサミは左右一つだけだが、この巨大なカニは3対物…。いかにも凶悪そうなハサミを持っている。

 

「何、この生物の進化過程構造をガン無視しちゃった、クリーチャーッ!!」

 

「おっきい~~………。帰ったらカニ味噌食べようかな?」

 

その巨体に似合わぬ俊敏な動作でカニが一斉にハサミの群れを振り下ろした。

 

「《大気の風よ・密集し・我が敵を食い止めよ》──!」

 

セラがそう叫び唱えると空気が密集し、カニの巨体をいとも簡単に押して、カニはその攻撃に為す術ないまま倒れてしまう。

 

「ちぃ!!!」

 

グレンは自分の愛銃であるペネトレイターを背中から引き抜いた。

 

「あれ?グレン君ペネトレイターいつの間に」

 

「アルベルトが持ってきてくれたんだよ!!」

 

引き手すら霞む神速の早撃ち、旋風の如く旋回する銃口。

───刹那、咆哮する銃声、1発。

鋭い火線がカニの関節部へ、正確無比に飛んでいき。

 

カン。

 

間抜けな金属音を響かせた。

 

「デスヨネー」

 

「それ銃弾イヴ・カイズルの玉薬じゃないの?!」

 

「仕方ねえだろ!アルベルトが持ってきてくれんかったんだから!!」

 

「アルベルトのせいにしたっ!この骨董品マニアっ!!!」

 

「好きで使ってるわけじゃねえんだよこちとら!!」

 

グレンとセラがそんなくだらない言い合いをしていると、カニが起き上がりと同時に、片手のハサミを大きく振り下ろそうとする。

 

「大体…っな!」

 

「あと…っね!!」

 

言い合いをしているものの、カニの動きを見てもいないのに2人は左右に避け、振り下ろされたカニの腕は地面へとクレーターを作る。

 

「《吠えよ炎獅子》!」

 

アルベルトがブレイズバーストの一節ルーンを詠唱した。アルベルトの左腕から投げ放たれた火球がカニに着弾。渦巻く爆炎がカニを飲み込み業火の火柱が天井を焼き焦がす。

 

「「アルベルトはどっちが悪いと思うんだ!?(の?!)」

 

「知らん、そもそも、お前らの戯言を聞いていない」

 

未だに言い争っているグレンとセラを見て、アルベルトは冷酷な冷たい目で二人を見た。

 

「……(す、すごい)」

 

エザリーはこの三人の戦闘を見て、驚きのあまり口を開くことしかできなかった。グレン、セラの圧倒的なコンビネーションによる敵の攪乱、そしてその動きを予測していたかのように2人にぎりぎり当らずにカニにだけ命中させた…、アルベルトの恐るべき射撃能力と順応性。

 

「…グレン先生。本当にすごい人」

 

エザリーがそう思っていると、エザリーの隣から今度はカメのような形をした巨大な生物だ。その大部分は透き通る宝石のようなもので構成されている。

 

「うわぁ…。リィエルが見たら、帝国の給料は安いのにって、愚痴言いそうだなぁ…」

 

エザリーは想像が膨らんで苦笑いをした。

そんなことはお構いなしに、大亀はエザリーを踏み潰そうとしてくる。

 

「エザリーちゃん!あぶない!!」

 

セラが大きな声で叫ぶ。

 

ドスンっ────!!!

大亀が踏み潰した音がした頃には、もうエザリーは大亀の上空へとジャンプしていた。

 

「悪いけど…私今、リィエルの事で頭がいっぱいでちょっと不機嫌なの、だから」

 

空中でエザリーは刀を抜いた。

 

「消えろ」

 

エザリーはそのまま刀を振り下ろす。それも恐ろしいほどのスピード、力だ。魔力でエンハンスすることで、更に絶大なスピードとパワーの向上が期待できる。

 

「はああああああああああぁぁぁっ!!!!!!」

 

エザリーが振り下ろした刀は、大亀の中心部に直撃し、そのまま大亀は真っ二つにぶった切られる。

その後、エザリーが刀を鞘にしまうと同時に大亀は完全に四散してしまう。

 

「よし、お待たせしました。先を急ぎましょう」

 

「す、すげえなお前…。パワーとしてはリィエル以上か?」

 

グレンが驚きの声を上げるが、エザリーは苦笑いで返す。

 

「それはないですよ、力勝負になったら、私はリィエルにかないません」

 

「無駄話をしている時間はないぞ。まだ来る」

 

アルベルトが指をさしたほうを全員が向くと、そこには大量の改造されたであろう生物、モンスターがいた。数は30はくだらないだろう。

 

「わぁ……まだいっぱいいる」

 

「この数を四人は流石にきついですね…」

 

セラとエザリーは、どちらも驚愕した声で細々といった。

 

「しゃあねえだろ?とりあえずやるしか…」

 

グレンがもう一度ペネトレイターを構えようとした────その時。

 

 

シュン!!!

 

突然、エザリーの横を俊足で移動する()()が通り過ぎた。

 

「!今のは?!」

 

エザリーがその何かを目で追うと、そこには計7体のモンスターがいつの間にか倒されて、そのモンスターの上に……。

 

「エルザ、大丈夫?」

 

「り、リィエルっ!!!!」

 

エルレイ、いやリィエルが立っていた。

リィエルは魔導士礼服を着て、大剣を片手で1本ずつ、計2本装備していた。

 

「エルレイちゃん」

「エルレイ!!!」

 

グレンとセラの二人の声が重なる。そしてジャンプするように飛んでき、エザリーの近くに降り立った。

 

「エルザ、無事でよかった」

 

「リィエル…リィエル!!!」

 

エザリー、いやエルザはリィエルを泣きながら強く抱きしめた、もう離さないと言わんばかりに…。

 

「りぃ……えるぅ…。会いたかった……ずっと…」

 

「私も、ずっと会いたかった」

 

リィエルはエルザを優しく抱きしめ返す。

リィエルはエルザを一度離し、グレン、セラ、アルベルトに向き直る。

 

「グレン、セラ、アルベルト、話はあとでする」

 

そして、もう一度大群へと目を向けた。

 

「あとは私に任せて」

 

「ちょっ、ちょっと待って!!」

 

「エルレイあの大軍を一人で相手にする気かよ!!」

 

グレンとセラが心配そうに怒鳴る。そうすると少し黙り、ちょっと考えてから言葉を出した。

 

「ごめん間違えた、私と‘‘ひめ‘‘に任せて」

 

そういうと大剣が黄昏色の光を纏い、輝きを放つが、それはリィエルにしか見えていない、いや、それ以外の人間は見えるはずがない。

 

「ん、‘‘ひめ‘‘エルザを助けるために、力を貸してね」

 

そういうとリィエルは縦横無尽に切りまくった。しかもすべての攻撃が急所の1発…、その恐ろしい攻撃に大群は為す術がないまま斬られ続けるので、この大群が全滅するのに30秒もかからなかった。

 

★★★

 

この戦闘が終わった後、一度ホテルに戻りエルレイはすべての事をグレンとセラに話した。

未来から来た事。

変な手紙。

アルベルトはエザリーから聞いていたようなので、さほど驚きはしなかったが…。グレンとセラはうるさいくらいに騒いだ。

 

何回か黙らせるために殴った。

 

「んで、ライネルはどうなった」

 

「ライネルとバークスはどうにかしとめてさっきエルザ……エザリーに引き取ってもらったけど、エレノアは…」

 

「逃がしたのか?」

 

アルベルトが言葉を先取りする。

 

「……ごめん」

 

「まあ、仕方ないよ」

 

セラが笑って返す。

 

「ところで、なんでエルザは宮廷魔導士団に?」

 

「私にも手紙が届いて、それを見たらここに飛ばされてね、その前が運よくバーナードさんのところだったの」

 

運……良く?

 

「大丈夫?変な事されてない?痛くない?脱がされたりとかしてない?」

 

エルレイは心配そうに、エザリーをペタペタと触り始めた。

 

「だ、大丈夫だよ!そんなに心配しないで…」

 

「する」

 

「え?」

 

エルレイは小さな声で呟いた。

 

「エルザを、心配しないなんて……無理、だから」

 

「リィエル…」

 

「あ~。生産性のないラブコメやめろよ」

 

グレンが気まずそうに頭をかいていた。

 

「ラブコメしてない、イチャイチャしてる」

 

「変わんねえんだよ!!!」

 

そんな光景にエザリーは顔が真っ赤になり、セラはレイちゃんが帰ってきてよかった!というような顔で微笑んでいた。

アルベルトに関しては目をつぶっていて、何を考えているのかわからない。

 

「あ、そうだ。みんなには打ち明けたけど、できるだけ他の人には言わないで、未来から来たって」

 

「わーってるよ、てかんなこと言ったら白い目で見られるだけじゃねえか」

 

グレンがため息交じりにそう言った。

 

「それもそっか」

 

エルレイは苦笑いをする。

 

「じゃあリィエル、私たちはもう戻るけど…あんまり無茶しちゃだめだよ?」

 

「俺はまだお前やエザリーを、完全に信じている訳ではない、妙な動きをしたら即刻首をもらう」

 

エザリーは去り際に優しい言葉をかけてくれたが、アルベルトはどこの世界でも手厳しい。

 

「ん、二人とも、ありがと」

 

そう言いながらエルレイ達は二人を見送った。

 

★★★

 

「見えざる手よ……」

 

「どっせええええええええええええええええええええい!!!!」

 

今日は遠征学修最終日、みんなで最後の思い出としてまた海にきてビーチバレーをしていた。

 

「試合終了、反則負け」

 

「え?!なんですか?!」

 

「神聖な、スポーツの世界に、魔術ダメ」

 

「ごもっともですううううううううううううぅぅぅぅぅぅっぅぅ!!!」

 

エルレイは、あの時審判ができなかったのでもう一度審判を買って出た。

 

「エルレイ先生、昨日の夜どこに行かれてたんですか?」

 

「先生方も、生徒のみんなも心配してたんですよ?」

 

「ん、エルレイねえね、心配だった」

 

近づいてきたシスティーナ、ルミア、リィエルが心配したように言う。

 

 

私は幸せ者だと心の中で思った後──。

 

「そんな事よりいちごタルト」

 

いちごタルトで怒りの鎮火を試みる。

 

「そんなことじゃありません!!!」

 

「誤魔化さないでください!!!」

 

あれ、鎮火しない、寧ろ燃え上がった…。なんで?

 

サクサクサクサクサクサクサクサク。

 

「ん、リィエルはいい子」

 

「ん、私良い子、これ以上聞かない」

 

「「リィエル!!」」

 

今度はリィエルへ向けて、声を張り上げているので、急いでその場から立ち去り、グレンとセラの元まで逃げてきた。

 

「よっ、リィエルねえね!」

 

「やっ!リィエルねえね」

 

「その呼び方もう一回したら容赦なしで、斬る」

 

エルレイはため息交じりにそう言った。

 

「しっかし、リィエルが大人になるとこんな…いい女になったな。胸はねえが」

 

「大人なリィエルも背丈が小っちゃくてかわいいってのが分かって私は満足!」

 

「二人は何?私をキレさせるゲームしてる?」

 

ムカついたので、出来るだけガチトーンで言ったがあまり効果がなかったのか、二人に笑って返されてしまう。そしてなんとなくエルレイも釣られて笑う。

 

「っていうか…。ごくごく普通にここでその名前、呼ばないで…エルレイで良い」

 

エルレイはため息交じりにそういうと、グレンはにかっと笑う。

 

「エルレイじゃないと俺が困る!!お前が普通のリィエルだったら仕事押し付けれないじゃないか!!!はああああああああぁぁっはっはっはっは!!!!」

 

「グレン君はもうちょっとがんばろ?」

 

セラは苦笑いでグレンに優しい声をかける。

いつまでこの時間が続くかは分からない、もしかしたら二度と帰れないかもしれないし、もうすぐ帰れるかもしれない。でも、それでも私のやることは全力で好きな人を守る、ただそれだけ。

 

 

「グレン、セラ、これからもよろしくね」

 

 




というわけでエルザちゃんをアルベルト枠的な感じで登場させました。あと最新刊ネタもちょっとだけ。次は普通に続けようか追想日誌を番外でやろうか考え中です。気長にお待ちください!
やってほしいものがあれば意見をくださるとありがたいです。良ければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。
エルレイ「エルザの出し方適当すぎ、しばく」
え?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

追想日誌
友の義兄弟の記憶、蛇


ここから追想日誌に入ります、文章が短くなりますがご了承ください。


……

エル………

…………リィエル……。

 

誰かの声が聞こえる…、誰か私を呼ぶ声が聞こえる。知っている声だ…。リィエルは眠たい目を擦りながら声の主を確認した。

 

「やっと起きた、もうすぐ試験なんだから頑張って」

 

声の主は赤い髪が特徴的で小柄で痩せていて、肩に風と書かれたバッジをつけている少年、わたしはどうやら試験勉強中に寝てしまったようだ。私は一度欠伸をしてから、彼の名前を呼んだ。

 

「ん、シュウ、ごめん」

 

わたしがそう言うと、シュウは怒ることもなく笑顔でポケットから取り出したいちごタルトを、私の机の前へ差し出した。

 

「これ食べて、もうちょっとがんばろ?」

 

「……ん」

 

わたしは差し出されたいちごタルトを無心でサクサクと食べ始める。そうしていると、隣から声が聞こえる。

 

「おいおい、あんまり甘やかすなよシュウ。リィエルのためにならんぞ?」

 

食べながら誰か確認すると、青い髪のキリッとした目…、そして片手に魔導書のような物を抱えている少年。わたしはその少年の名前を呼んだ。

 

「ロクサス……疲れた」

 

わたしがそういうと、ロクサスはため息交じりに手を上にあげた後……。ペチッ!と私のおでこの辺りを叩いた。

 

「痛い」

 

「お前これ以上点数悪かったら留年コースだぞ?」

 

わたしは叩かれたおでこをさすりながら、仕方なくペンを手に取った。

 

「兄様、乱暴すぎ」

 

「お前が甘すぎるだけだ」

 

わたしはこの義兄弟の二人をボーっと見ながら、もう一度欠伸をした。この二人は…ルミアやシスティーナに劣らないくらい、私の大切な人。

だから、もう一度二人と会いたい……。

 

 

 

 

 

─────────

 

「……ん」

 

エルレイが目を覚ますと、そこは見慣れた職員室だった。

どうやらうとうとして眠ってしまったらしい、エルレイは一度、ゆったりと背伸びをする。

 

「夢…か」

 

エルレイは眠ってしまった時に汚れてしまった、机の上を片付け始めた。今の時間はお昼ちょっと前くらいだろうか…。

 

「シュウ、ロクサス」

 

エルレイは、過去の自分の同級生の名前を口にした。

彼らは訳があり、今旅をしているので卒業してから会っていないが…。それでも、自分の大切な友達であることには変わらなかった。

 

「そういえば…このクラスには二人が…」

 

そう思っている矢先、突然職員室のドアが開き。

 

「し、失礼します!!!」

 

慌てた様子でテレサが入ってきた。エルレイは色っぽく息が上がっているテレサの背中をさすりながら、事情を聞く。

 

「どうしたの?何かあった?」

 

「エルレイ先生!!大変なんです!!…システィーナが……システィーナが──」

 

「落ち着いて、どこにいるか案内して」

 

 

★★★

 

テレサに案内された場所は保健室だった。ノックしてから中に入るとグレン、セリカ、ルミア、リィエル、セラの計五人がいた。そしてその五人は同じベッドを見ている、その先には──。

 

「──っ!システィーナ!!」

 

「あ…、レイちゃん」

 

システィーナが動かずに横たわっていた。

セラの悲しそうな声が聞こえず、エルレイはすぐにシスティーナの近くまで駆け寄った。

 

「そん…な…」

 

セリカは、白いベッドの上に糸が切れた人形のように横たわるシスティーナを、沈鬱と諦観に満ちた表情で見つめていた。

 

「もう…ダメなのか?」

 

「あぁ」

 

憔悴したグレンの問いに、セリカは感情の色が見えない頷きを返す。

 

「おい、冗談やめろよ。お前は大陸で五本の指に入る第七階梯の魔術師なんだろう?何とかしろよ…何とかしてくれよ…!」

 

「第七階梯が人間をやめた魔術師だと言っても…神じゃない、死んだ人間は…救えない」

 

「くそぉ……っ!畜生!!」

 

グレンが苦痛の声をあげる。しかしエルレイは何かが引っ掛かっていた。

 

(…なにか、おかしい)

 

エルレイはすぐさまシスティーナの脈を測る…。

 

正常。

 

心臓確認……。

 

 

正常。

 

最後に応答確認。

 

「大丈夫?」

 

「あ、エルレイ先生…。はい、頭痛くて、気持ち悪いですけど」

 

……反応〇。

症状は頭痛、吐き気。

 

ここでようやく、セラとルミアは苦笑いしていることに気が付いた。

 

「あはは…」

 

「エルレイねえね、グレン達なにやってるの?」

 

「レイちゃん…これはね?」

 

そんな完全理解したエルレイを他所に、グレンとセリカはまだ芝居を続けていた。

 

「奇跡には大小が必要だ、グレン…。お前に彼女を救うために己の命をささげる覚悟があるのか?」

 

「こいつには…俺と違って未来があるんだ……いいぜ。こいつの未来のために…持って行けよ!!俺の命!!!」

 

「御託いい…そろそろ何があったか、教えて」

 

グレンとセリカの芝居を完全に無視し、エルレイは冷たい目でグレンとセリカを見続けた。

 

 

────

 

「…なるほど」

 

「そういうことだ。いやー俺はなんっにも悪く無いんだけどな!勝手にこいつが壊しちゃって~」

 

まとめると、授業をしている時にクシナ蛇に噛まれたらしい。蛇嫌いなシスティーナに蛇でからかっていたら、蛇が脱走してしまい…今に至るらしい。それを聞いたエルレイは俯いたまま、しかし棘があるかのように呟く。

 

「みんな…とりあえず、私が看病する。出てって」

 

「は?いやいやそんなに強い毒じゃねえし」

 

「出てって」

 

「落ち着くのだエルレイよ。確かに死ぬ可能性はあるが滅多には……」

 

プチン。

 

グレンとセリカの言葉に…エルレイの何かが切れた。

 

「出 て け っ!!!!!」

 

「「「「「す、すいませんでしたあああああああああああああ」」」」」

 

そのエルレイの大声に全員ビビってしまい、システィーナとエルレイ以外は、保健室からものすごい速さ出てってしまった。

 

「はあ……システィーナ体温、測らせて」

 

「………ぁ」

 

「ご、ごめん、システィーナまで脅かすつもりは……」

 

エルレイはやりすぎたことに後悔しつつ体温計でシスティーナの体温を測る…すると。

 

「38.5か…」

 

熱はかなりあるようだ。

日ごろの疲れが毒で外に出てしまったのだろう。エルレイは体温計をしまい、ポケットからあるものを取り出す。

 

「エルレイ…先生…それは……?」

 

「ルラート草、これを煎じて飲めば…明日には良くなってる」

 

「あ、あはは…。エルレイ先生はすぐに対処法を教えてくれますね…」

 

「緊急時だからね。ちょっと待ってて」

 

エルレイは、ルラート葉を魔術で生成したやかんに入れ…作り始める、飲みやすいように色々、工夫をしながら。

 

「あの…先生……」

 

「なに?」

 

システィーナのか細い声にエルレイは反応し、ベッドまで近づき目線を合わせる。

 

「関係ない話になっちゃうんですけど…先生にとって…魔術って何ですか?」

 

「商売道具」

 

「あ……、えっと…」

 

軽い冗談のつもりだったが、いまいち受けなかったようだ…、システィーナは動揺した顔を見せる。一度エルレイは落ち着かせるため、システィーナの頭を撫でる。

 

「ごめん、冗談」

 

「あ……はい」

 

「ん……高次元の領域、でいいかな」

 

「……」

 

それを聞いて、あまりシスティーナはいい顔をしなかった。なぜならばもう彼女は、魔術の闇の部分を知っているからだ。

 

「例えば、火が魔術で使えるようになったから、炭とかを減らすことができて森林伐採が少なくなった。医療とかも手軽になったね」

 

「…はい」

 

「そんな感じで、人に役立つ魔術はいっぱい…見えないだけなの。でも…、色々なものを補える魔術が作られても、人間自体が高次元になったわけじゃない」

 

それを聞いたシスティーナは首を傾げた。何が言いたいのかわからないのだろう。

 

「雷の魔術があれば、電気の供給ができる。でも最初に習う魔術は?」

 

「ショックボルト……です」

 

正解したのでいちごタルトをあげようとしたが、体が弱っているのでやめておこう。

 

「ん、よくできました。最初に学ぶのは同類である人類を痛めつける魔術」

 

「…」

 

「魔術も使い方次第で、いいようにも悪いようにもなる、使い方を間違えれば……」

 

ビリっ!!!!

 

エルレイはショックボルトを撃ち、保健室によくある人体模型に命中させる。すると人体模型は粉々になってしまった。

 

「こうなる」

 

「はい…」

 

「だから、使い方を完全に間違わないようにするのが、私たち魔術師が高次元に行くための永遠の課題……。それが答えでいいかな?」

 

「…はい、とても勉強になりました」

 

そんな話をしているとピ───!!と湯が沸いた音がした。

すぐにやかんを手に取り、魔術で氷を作り軽く冷やしてからシスティーナに渡す。

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます、頂きます……んくっ…んっ……はぁ……。お、おいしい」

 

「作る前、ルラート草に味遮断魔術をつけておいたから」

 

「そんなのあるんですか?!」

 

「グレン言ってたよ。高度な自己暗示って」

 

エルレイはそのままシスティーナの手を握る。

 

「火、氷、鉄。今煎じた道具とかはすべて、魔術で生成したもの」

 

「エルレイ先生…」

 

「どう?捨てたものじゃないでしょ、魔術」

 

「……はいっ!!」

 

システィーナは大きく頷いた。

 

「さてと…」

 

システィーナが元気になったことを確認すると、エルレイは立ち上がった。

 

「あとは安静にしてれば大丈夫だよ」

 

「ありがとうございます…」

 

「ん、私することあるからもう行くね」

 

「はい、ありがとうございました」

 

システィーナはドアに向かうエルレイに対して、何度もお辞儀をした。

 

 

 

★★★

 

 

「エルザ」

 

「リィエル、急に呼び出して…何かあった?」

 

エルレイはエザリーを呼び出し、ほとんどだれも通らない道の陰にあるバーに来ていた。

 

「探してほしい人いる」

 

「探してほしい人?」

 

そういうとエルレイはエザリーに写真を渡した。そこには赤髪の少年と、本を持った青髪の少年が二人で写っていた。

 

「シュウ君とロクサス……さん?」

 

「なんでロクサスさんづけ?」

 

「だ、だってあの人怖いから」

 

確かに、ロクサスはいろいろ問題児でちょっと悪さしてたなとエルレイは思い出し、苦笑いをした。

 

「この二人は学院にいるんじゃないの?」

 

「なぜかいない」

 

エザリーは写真を眺め、カクテルを一口飲んだ。

 

「わかった、一応調べておくね」

 

「ありがと、エルザ」

 

エルレイが飲んでいたチューハイを飲み干し、会計をしようと立つと。

ぎゅっ……。

突然、エルレイの背中に柔らかい感触が当たった。振り向いてみると、少し赤くなっているエザリーが上目遣いで見つめていた。

 

「リィエル…無茶はしないでね……。せっかくまた会えたのに…死んじゃうなんてやだよ……」 

 

……完全に酔ってらっしゃるようで。

 

「大丈夫、絶対二人で元の場所に戻ろう」

 

エルレイはエザリーの頭を優しくなでた。

 

今まで鍵がかかったように思い出せなかった、自分知り合いの義兄弟。

そしてセラの生存、この食い違いが絶対に何かあるはずだと、考えを模索しながらエルレイはセラのもとへ帰っていった。

 

 

★★★

 

サクサクサクサク。

 

「…」

 

サクサクサクサク

 

「…」

 

 

エルレイは、誰もいない教室で黙々といちごタルトを頬張っていた。いちごタルトはおいしいが考え事をしていて、ほぼ無意識に食べている。

 

(あの義兄弟を見つけるには……どこにいけばいいの?シュウ、ロクサス、どこにいるの)

 

そんなことを考えていると、教室のドアからひょこっと誰かが顔を出した。

見てみるとそれはシスティーナだった。

 

「システィーナ、もう大丈夫?」

 

「はい、おかげさまで!」

 

かなり元気が良さそうだ。もう大丈夫だろう、とエルレイは安堵する。

 

「そういえば、保健室のほうが騒がしいんですけど…何かありました?」

 

「システィーナがベッドから出てるの確認したから」

 

「はい」

 

「ベッドに花束おいた」

 

「うわぁ……」

 

そういうとシスティーナは苦笑いをした。

そんなこと知ったことではないといった感じに、エルレイは顔を背けながら吐き捨てる。

 

「システィーナを危ない目に遭わせた。少しくらい悲しんでもらう」

 

「だからってそれはやりすぎでは?」

 

「そうかもね」

 

そんなことを話しながら、エルレイとシスティーナは笑いあった。本当に一日で元気になってよかったと心から思う。

 

「先生」

 

「…ん?」

 

「私、もっと魔術を極めたいです……。エルレイ先生みたいに正しい魔術師になりたいです!!」

 

その言葉を聞いて、エルレイは少し噴出した。システィーナが一番魔術の事について詳しいと思っていたから、自分にそういうことを言うのがとても新鮮なのだ。

 

「ちょ!!なんで笑うんですか?!?!」

 

「ごめん……ごめん」

 

怒ったように顔をそらすシスティーナに、エルレイはポケットからあるものを差し出す。

 

「病み上がりタルト」

 

そう、いちごタルトだ。

システィーナは、最初は子供扱いしないでください!みたいな顔で見てきたが、割とすぐに。

 

「いただきます」

 

食べてくれた。その行動が微笑ましくてまた笑った。そしてエルレイは、その場でゆったりと背伸びをし。

 

「そろそろ。ドッキリでどんな顔してるか…拝みに行こ」

 

「ふふふっ…。はい!」

 

二人は互いに手をつないで保健室まで向かった。

 

 

★★★

 

「お前は…っ!!これからだろうがっ!!こんな事でっ!こんな所でくたばってる場合じゃねえだろうが!!!」

 

「うぅ……あぁぁ……システィーナちゃ~~~んっ!」

 

「あ……あ…しすてぃ……あぁぁ」

 

「システィーナ………うぅぅっぅぅぅ…」

 

 

そこには昨日いたメンバーがほとんどいて、セリカがいないだけだった、そしてグレンの手には…。

 

 

「あれ…、ルラート草…」

 

エルレイはそうつぶやいた。

そう、グレンはあの後、ルラート草を探していたのだ。エルレイとシスティーナは苦笑いする…、そしてそそくさと、二人はグレンとセラのもとに歩み寄る。

 

「「あ…っ…」」

 

気付いてしまったリィエルとルミアには、シーっとエルレイが口でジェスチャーをする。

すると何事もなかったかのように黙ってくれた……そして。

 

「「わああああああああああああああああぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!!」」

 

「「ぎゃああああああああああああああああああああああああ………お、おばけええええええええええええええええええぇぇ!!!!!!」」

 

二人とも期待道理の反応すぎてシスティーナとエルレイは後にツボに入って笑いまくった。




よろしければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。

エルレイ「やっと、帰る手がかり、掴めそう」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

みんなでアルバイトしてみた。

エルレイ「昨日、なんで投稿なかったの?」

いやあ、疲れて爆睡しちった☆

エルレイ「・・・死」

ぎゃああああああああああああああああぁ!!



 

「……」

 

エルレイは現在、調理室を借りて…、なくなりかけていたいちごタルトを作っていた。

色々な試行錯誤をしながら、最高のいちごタルトを作るために────。

 

「あむっ……まあまあ」

 

出来立てほやほやのいちごタルトを食べた感想は、まあまあだった。

エルレイはため息をつきながら、ポケットからいちごタルトのレシピが乗っている手帳を取り出し、ぺらぺらと読み始める。

 

「やっぱり、いつも道理が一番…かも」

 

そう思いながら、エルレイはもう一度いちごタルトをいつものように作り始める。

出来たものを一つ口に頬張り……。

 

「できた……。んっ………おいしい」

 

エルレイは笑顔をこぼした。

そのまま()()()()()作り、胸ポケットのいちごタルト入れにぶちこんだ後、その場を去ろうとする──。

 

すると。

 

「……頂戴」

 

「ん……わぁ!!」

 

突然気配もなしに、リィエルがいたのでエルレイは驚き、2、3歩距離を取った。

その後、犬のように何かを待っているリィエルから察したエルレイは、一枚いちごタルトを手に取り…、リィエルに渡す。

 

サクサクサクサク……。

 

 

 

…見ていて気持ちがいいくらいに食べ進める。

 

「ん。おいしい」

 

「どうしたの…?何かあった」

 

「ん、ねえねに…。聞きたいこと」

 

もうねえねだけで、名前すら呼んでくれなくなったか…。とエルレイは苦笑いした後、話を聞き返した。

 

「なに?」

 

「あるばいとってなにすればいいの?」

 

「…は?」

 

エルレイは突然のアルバイトやりたい宣言に、目が点になった。エルレイは軽くため息をついた。

 

「アルバイト、やりたいの?」

 

「ん、グレンがやれっていうから」

 

「…あ」

 

思い出した…完全に思い出した。

そういえばこの頃にアルバイトやった。やりはしたが、すべて散々な結果だった気もするが…。

 

「…リィエルがやりたいなら」

 

「ん、やる」

 

どうせこれで失敗しても、自分のせいではなくグレンのせいになるだけなのは目に見えている。

ので、メンドクサイから傍観を決め込んだ。

 

★★★

 

「ま、というわけで」

 

エルレイたちは、辺り一面に薬草が植えられている学院の薬草園にいた。

 

「それじゃ、リィエルちゃん!いっしょにがんばろっ」

 

「……おー」

 

元気よく両腕を伸ばしているセラの真似をして、リィエルも両腕を伸ばした。

エルレイは横目でその光景を見た後、グレンを見る。

 

「バイトはいいけど、なぜ学院内…。意味なくない?」

 

「いきなり学院の外のアルバイトじゃ、いくら何でもリィエルにはハードルが高すぎるだろうからな。まずは学院内の学生向けアルバイトをこなして労働をそのものに慣れさせる方針で行く」

 

「……私もリィエルだから、あまり言いたくないけど、グレンが仕事のこと言ってもまっっっったく信用性ない」

 

「うるせえっ!」

 

小声でそんなことを言ってきたエルレイに、グレンは声を荒げる。

周囲を見渡せば、グレンたちだけでなく…、学院の他の生徒達も20人近く集まっていた。

 

「セシリア先生、今回の募集…感謝」

 

エルレイの目を向けた先に───、

線の細い女魔術師がいた。柔らかな髪を緩く三つ編みにし、いかにも優しげで儚げな印象の若い娘だ。

相変わらず、顔色が悪いが。

 

「セシリア先生大丈夫?すっごい顔色悪いけど」

 

「あはは、ご心配ありがとうございますセラさん…。私ったら昨日はつい夜更かししてしまって…、たった十時間しか寝てないから寝不足気味で微熱が出ちゃって……」

 

エルレイはどこから突っ込んでいいのかわからず、頭を抱えた。十時間寝たのなら大丈夫じゃ…微熱だったら休んだほうが……。

そんなことを考えていると、セシリアは鞄から瓶を取り出し、その中に手を突っ込んで…、何らかの自作魔術製丸薬を大量につかみ、口に運んでボリボリガリガリと。

 

「うっ、ごふっ……、んっ……ふう。ご心配をかけて本当にすみません、こうしてお薬を飲めば私大丈夫ですから……げほっ!げほっ!うーん…今年の風は厄介ね…」

 

ドン引きの一行の前で、突然血を吐き始めるセシリア。

 

「…すぐに医者に見せようそうしよう」

 

「だ、大丈夫です。本当にただの風邪なんです…。私、肺と胃と肝臓と膵臓と心臓と血管とその他もろもろの器官が生まれつき弱いから…」

 

「それ、ほぼ内蔵ほぼ全部…」

 

エルレイはいつも通りぎるセシリアを見て呆れ果てた。

とりあえず、エルレイはセシリアをお姫様抱っこ担ぎ上げる。

 

「え、ちょ……エルレイ先生?!」

 

「みんな、後でまた来る。急患運んでくるから、先やってて」

 

「えちょ……ま……きゃあああああぁぁぁ!!!!」

 

エルレイはそう言い残すと、すごい速度で保健室まで直行する。ベッドに下し、ヒモを使って軽く拘束したのち。エルレイは元の薬草園に戻った。

 

「お待たせ」

 

「「「「はやっ!!!」」」」

 

その時間は1分もかかっていないので、当然生徒たちは驚きの表情を見せた。

 

「ねえね、早い」

 

リィエルは小さく、拍手をしながらエルレイを眠たそうな目だ…。だがキラキラしている表情で見つめていた。

 

「ありがと、ま…始めようか」

 

「何すればいい?」

 

エルレイは鍬を片手に持ち、それをリィエルに渡す。

 

「これで、掘ればいい」

 

「ん、ねえね、わかった」

 

「え、ちょっまっ!!!」

 

それを見ていたシスティーナの制止の声は間に合わず、リィエルはおもむろに鍬を振り上げ───。

 

どざああああああああぁ!!!

 

一振りで地面にどでかいクレーターができてしまった。

 

「……」

 

「ど?」

 

ほめて?という顔のリィエルに──、

なんであんな適当に指示したんだろう…。

と、心の中でエルレイは自分を罵っていた。

 

「リィエルちゃんその調子!もっともっと掘ってこう!!」

 

「いいわけねえだろっ!!!」

 

セラがふざけてもっと掘らせようとするのを、グレンが殴って制裁する。

 

「いった!!何するのグレン君!」

 

「何すんのじゃねえよ!変な風にふざけるな白犬!あとエルレイ!お前は指示が適当すぎだ!」

 

★★★

 

「……」

 

現在エルレイは、ほぼみんなを連れて、喫茶店に来ていた。リィエルはまだ耕す作業をやっていて…、グレンはその付き添いだ。

 

「ま、グレンいるし……大丈夫だよね」

 

何とも言えない不安が心の中にあるが、特に気にすることもなくエルレイはカフェモカを飲んだ。

 

「…にが」

 

エルレイは傍にあった角砂糖を手に取り、1つ入れる。そして2つ…、3つ…、最終的に5つ入れて、カフェモカを飲んだ。

 

「おいし」

 

「あはは……エルレイ先生って甘党なんですね」

 

普通にリンゴジュースを飲んでいるルミアが、苦笑いをしていた。

 

「うーん、いちごタルト以外はコーヒーのブラックとか飲んでそうなイメージだったんですけど…」

 

「……そうなの?」

 

システィーナのその言葉に、エルレイは首をかしげる。

 

「だってほら…エルレイ先生クールでかっこいいから、大人っぽいっていうか」

 

…どうやら、今までエルレイはクールでかっこいい大人な女性。

という認識だったようだ…、高い評価でありがたいがエルレイとは全く正反対だ。

 

「……そんな風に思われてたんだ」

 

「はい、なんとなくイメージで」

 

ルミアも同意見なようで、エルレイはため息をついた後、いちごタルトを頬張った。大人っぽいって何だろう…、そんな哲学を考えながら。

 

「ま、いいや」

 

「あ…えっと……、不快に思ってしまったのならすいません」

 

ルミアがエルレイの顔を見て、何か察したのか頭を下げてきた。エルレイはルミアの頭にポンポンと手をのせた。

 

「大丈夫、二人に言われると……感慨深いだけ」

 

「?どういうことですか」

 

「ん、何でもない」

 

エルレイはシスティーナの言葉を軽く流した。

エルレイにとって、ルミアとシスティーナは大切な友達であると同時に、姉のような存在でもあったため、その二人にクールで大人っぽい、と言われるのは何かむずがゆい。

 

「レイちゃん、そろそろ戻ろうか」

 

「ん」

 

エルレイはセラの言葉に反応し、時間を見てみると確かに区切りのいい時間だった。

ゲロ甘カフェモカを飲み干し、みんなと共に喫茶店を出た。

 

「リィエル、どこまで頑張ってるかな?」

 

ルミアの笑顔に若干嫌な予感を覚えながら、エルレイ達は薬草園に向かった。

 

 

「「「「……」」」」

 

言葉も出なかった。

まさかここまでやるとは、全部耕されている。言葉だけ聞けばいいように捉えれるが、何も例外を入れることなく全部だ。

植えたばかりの場所も、育っていた薬草も…なにもかも………。

 

「ん、ねえね、頑張った…、ほめて?」

 

エルレイは唖然とした。

自分の記憶がうろ覚えだったのも悪いが、まさかここまでしてしまうとは…。エルレイは一度リィエルを抱き寄せてから。

 

「やりすぎ」

 

グリグリグリグリ!よくグレンがやっている頭ぐりぐりをエルレイがした。これをするのはこの学院の講師になった時以来だ。

 

「いたい」

 

「ていうか…グレンはなんでこれを、見逃したの」

 

「すまん、寝ちまってよ…気づいたら」

 

こうなっていたと………。

エルレイは本来自分の行動のはずなのに、胃が痛くなってきた。

 

「どうする…これ」

 

エルレイが力ない声で、脱力しているかのように呟いた。

 

「う~~~ん……あっ」

 

セラが何か思いついたようだ。エルレイとグレンは期待してセラの返事を待つ。

 

「怪獣が襲ってきました!って弁明すればワンチャン…」

 

「「「「ねえよっ!!!」」」」

 

セラの提案はすぐに却下され、( ˘•ω•˘ )とセラは落ち込んだ。

 

「ま、やってしまったものは仕方ない。範囲指定しなかった私たちも悪い…事情説明して、私が謝ってくる」

 

仕方ないと自分に言い聞かせ、すぐに頭を切り替えセシリアに事情を話そうと考えた。

 

「みんな、異論は?」

 

「「「「……」」」」

 

みんな黙ったままだ。

異論はないらしい、さっそくエルレイは拘束したセシリアの所まで行こうとする。

 

「「「「切り替え早いエルレイ先生まじかっけええええええええええぇぇ!!」」」」

 

「……そういうの良いから」

 

エルレイは少し照れながら早足で向かった。

 

★★★

 

「というわけで、リィエル社会勉強第一弾が大成功した勢いに乗りまして──次の仕事行ってみよ~う」

 

「え?言い切る?あれを大成功したって言いきっちゃう?」

 

グレンの大成功したという発言に物申したいご様子のシスティーナ。

 

「成功なのは。間違いない、結果的に仕事の楽しさ、人とのコミュニケーション、仕事へのやる気が身についた…成功と言っていい」

 

「う……、エルレイ先生が言うと説得力が…」

 

エルレイの考えには是非もないようだ。そのまま黙り込む。

 

「おい白猫、それは俺が説得力無いって言いたいのか?確かにそこまで考えてなかったけどよ」

 

「エルレイ先生に比べたら」

 

「即答かよ?!」

 

今エルレイたちがいるのは魔術学院の外、街で人気のカフェレストラン『アバンチュール』の前だった。

 

「と、とりあえず!リィエルにはここでウェイトレスをやってもらう!」

 

「グレン君、リィエルちゃん接客業は流石に無理なんじゃ…」

 

セラがジト目でグレンを見つめるがグレンはニッとにやける。

 

「いやー。実はここのウェイトレスのバイト、時給が破綻に良くてな……ほれ」

 

グレンがセラに求人広告を見せる。セラはじーっと、求人広告を見つめる。

 

「確かに高いけど…、お金に目がくらんだね。この腹黒グレン君め」

 

「うるせぇ!!!これぐらいしねえと俺の生活がままならねえんだよ!!」

 

「やっぱり腹黒いんじゃん!!ていうかそれリィエルちゃんのミスだけじゃなくて、グレン君のミスもあるから自業自得でしょ?!」

 

エルレイはそんな二人を無視して、リィエルにいちごタルトを渡す。リィエルがサクサクと食べ始めたのを確認してから、自分も頬張る。

 

「ねえね、わたし何すればいいの?」

 

「中に入ったら教える…。がんばって」

 

「ん、がんばる」

 

というわけで、リィエルは店で店長の面接を受け、案の定大歓迎…、そして速攻採用された。

 

「グレン、似合う?」

 

「おお~、馬子にも衣装だな」

 

「似合ってるよリィエルちゃん!ていうか私たちもこの服着る必要ある?」

 

着替えたリィエルの隣を見ればエルレイ、セラ、システィーナ、ルミアが、リィエルと同じ格好をしている。

 

「あはは、システィもリィエルも可愛い!セラ先生もエルレイ先生も似合ってます!」

 

「あ、ありがとうルミア、ルミアもすごく似合って……ってそうじゃなくて!!」

 

思わずルミアに微笑みかけ、すぐさま我に返ってグレンを問い詰めるシスティーナ。

 

「いや、だってさ、リィエルに単独で接客とか無理じゃん?お前らがフォローについてやってくれないと…あ、ちなみにお前らも文句なしで合格だってさ」

 

口笛を吹きながら、明後日の方向に目線をさまよわせるグレン。

 

「システィーナ、言っても仕方ない…、不満だとは思うけど、リィエルのため」

 

「う…はい」

 

「ルミアも。それでいい?」

 

「はいっ、私は全然…」

 

エルレイの言葉には、とても素直に答えるシスティーナとルミア。

 

「なんかお前、懐かれてるよな。いろんな奴に」

 

「……気のせい」

 

★★★

 

というわけで、エルレイたちのウェイトレスの仕事が始まった。

 

「いらっしゃいませお客様、何名様ですか?2名様ですね。あちらの席へどうぞ」

 

エルレイの流れるようなフリフリした可愛らしい動き、手慣れた言い回しと笑顔は、いろいろな男客の目をくぎ付けにした。

 

「…お前、ホントに未来のリィエルなんだよな?手慣れすぎじゃね?」

 

グレンがぼそぼそ声でエルレイに話しかけてきた。

 

「なんだかんだで、いろいろな仕事経験したから」

 

「ふーん、大変なんだなお前も」

 

少し遠い目になっているエルレイに、グレンは何かを察して少し優しい言葉をかけた。

 

「いらっしゃいませ!!ご注文はお決まりですかい?ホットケーキ1つですね!ホットケーキ1丁!!」

 

元気だけは人一倍だが、何か空回りしているセラを見ながら、エルレイとグレンは苦笑いをした。

 

「あれ止めたほうがいいか?」

 

「面白いから……、このまま黙って見てよ」

 

「おめえも悪だな」

 

他の三人も結構様になっている。

リィエルは妙なこともしているが、まあドジっ子で済む範囲だろう。

 

「私、ちょっと、お皿洗いのほう行ってくる」

 

「あ、了解っ!」

 

セラに言い残し、エルレイは店の厨房に行った。

 

★★★

 

「……」

 

シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ。

 

「……」

 

シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ。

 

「……」

 

シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ。

 

「お、お皿洗いはやいね君…」

 

エルレイの早すぎる皿洗いの手並みに、店長は口を開けて驚いていた。

 

「どうだい?君、ここで本格的に働く気は──」

 

「申し訳ありません」

 

「そ、そうかい」

 

エルレイは店長の言葉をバッサリと切り、お皿洗いに励む。

 

(…ウェイトレス、か)

 

自分にはこういうのは絶対性に合わないと決め込み、お金に困った時以外はやることもなかったが。なかなかどうして、大人になってみるとやりがいがあるものだ。

 

「ま、軍の仕事が板についてるし…、もう戻れないか」

 

エルレイはそう苦笑いして、すべての食器をきれいに整えた……その時。

 

がしゃん!!!!!!!

 

突然、大きな音が鳴り響いた、もう思い出さなくても原因がわかる、リィエルだ。

 

「また‥‥目を離したスキに!!」

 

エルレイはすぐさまバックヤードから出てきた。そしてそこの光景は…。

 

「……」

 

すぐに目に入った…。いかにもチンピラそうな男が倒れている。そしてリィエルはというと……。

 

「てめえ!!なにしやがる?!?!」

 

「それはこっちのセリフ…。ルミアとシスティーナを虐めるやつは許さない」

 

……どんな経緯があったかはまったくもって不明だが、ブチ切れていて、2人のチンピラらしき人物と喧嘩していた。

そして───。

 

「うおおおおおおおおおおぉぉぉりゃあああああああああああああ!!!!」

 

なぜかセラも参戦していた。

ここまでやりたい放題だと、もうアルバイトもへったくれもない。

 

「グレン、どうなったらこうなるの?割と真面目に」

 

「俺が聞きてえよクソが!!!」

 

「そ、とりあえず止めよ」

 

「おう!!」

 

それから、グレンとエルレイはその乱闘騒ぎを何とか穏便に収めようと必死に努力して……。

 

努力して…

 

努力して………。

 

────────プチン。

 

「あああああああああああああああああああああああああっ!!!!!もう、おまえらざっけんなああああああああああああああああああああ!!」

 

とうとう堪忍袋が切れたグレン…、しかしそれはエルレイも同じだった。

 

「もう面倒、死なない程度に…ぶっ潰す!!!!!」

 

二人共、その乱闘騒ぎに拳で参戦し始めた。

 

「ちょまっ……、グレン君とレイちゃんまで入ってきたら収集つかな──」

 

「お前が先生ん中で真っ先に乱入したんだろうがあああああああ!!!」

 

「セラ、分かり合う一番楽な方法教えてあげる………死」

 

「それ分かり合うっていわな──、わああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

★★★

 

そして数日後、件のカフェレストラン『アバンチュール』にて。

 

「わ……たし……はっ…っ…ふふっ……!この……くくっ……、い、いちごタルト・・・・っ」

 

「あはははははははははっ!!レイちゃん!あはははははははっ!!笑ったらさすがにグレン君がかわいそう。あははははっ」

 

「おめえが一番笑ってんじゃねえかセラああああああああああああああああああ!!」

 

グレンの姿は…、この店自慢のあのエルレイたちも着た、ウェイトレスの姿であった。

 

「しかたねーだろ?!この店!この忌々しい服しかねーんだとよっ!!ああああああもう!!どうしてこうなるんだよおおおおおおおおおお!」

 

グレンのこの姿はエルレイにとっても新鮮で、笑いをこらえるのに必死だった。セラは堪えれずに大爆笑している。

 

「ま、馬子にも……衣装だね……ふふふふふふふふふふふふふっ!」

 

「あはははははっ、い、今その言葉出さないで!!あははははははははっ」

 

「てめえら笑いすぎだああああああああああああああああ!!!」

 

そんな状況を他所に、隣のテーブルでリィエルはいちごタルトを食べていた。

こちらのリィエルが社会の常識に馴染むのは…、当分先のようだ。

 

 

 




よろしければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。

エルレイ「グレンのフリフリスカート、草」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

モテ薬とエルレイの初恋?

 

 

「ん…そう…わかった。お疲れエルザ」

 

エルレイは殆ど誰もいない教室の隅っこで、宝石型の通信機の電源を切った後、壁にもたれ掛かり、ため息をついた。

 

「結局…、情報なし」

 

「レイちゃんどうしたの?何か悩み事?」

 

その場にいたセラが、ため息をついたエルレイを見かねて話しかけてきた。

 

「大丈夫、何でもない」

 

「なんでもなくはないでしょ?何かできることがあれば、何でも言って?」

 

セラはそういうと笑顔をエルレイに向けて見せた。

エルレイは少し考えこんだ後、口を開いた。

 

「じゃあ、質問」

 

「うんうん。なになに?」

 

その言葉にパァっ、と顔がもっと明るくなったセラがズイズイっ、と近づいてくる。

 

「シュウ=()()()()() とロクサス=()()()()()() の名前に聞き覚えは?」

 

その言葉に少し驚いた表情を見せた後、セラはうーんと唸る。

 

「イグナイトってことはイヴの家族の誰かかな……あれ?ティンジェルってルミアちゃんの仮名だよね?」

 

「……やっぱり知らない…か」

 

エルレイはもう一度ため息をついた。

エルレイが探している少年二人は、どうやらそう簡単には会えないようだ。エルレイはポケットからいちごタルトを取り出して、そのまま頬張る。

 

「その二人ってレイちゃんの友達?」

 

「初恋相手と、友達の初恋相手」

 

「おおっ!」

 

めんどくさいので簡単に返したが、逆効果だったようだ。セラは目をキラキラさせながらもっとエルレイに詰め寄る。

 

「レイちゃんの初恋?!どんな人どんな人?あっ!レイちゃんはリィエルちゃんだから友達の初恋の人っていうのは、システィーナちゃんかルミアちゃんのどっちかだよね?私の初恋も教えるからどんな人か教えてよ~」

 

「セラの初恋…グレンでしょ?」

 

「何故ばれたし?!?!」

 

「バレバレ」

 

そんな女子トークを話していると、教室の扉が開き、そこから顔を出したのは、ルミアだった。

 

「あの~…エルレイ先生、セラ先生。今少しいいですか?」

 

「噂をすれば、件の友達初恋…した本人」

 

「ルミアちゃんなんだ?!」

 

いきなり興奮気味のセラと、件の友達の初恋した本人などと、訳の分からないことを言われ、ルミアは動揺する。

 

「え?!えっと…?」

 

「なんでもない、なにあった?」

 

「ええっと…オーウェル教授が…」

 

「…実験?」

 

「はい」

 

エルレイはため息をついた。

オーウェル…。

詳しい説明は省略するが、実験やらで色々ゴタゴタを引き起こしている人物だ。セラはオーウェルの言葉を聞いた途端、急にお腹を押さえ始めた。

 

「あ……急に…お腹が……実験にはレイちゃんだけで行ってきて!じゃあねっ」

 

と、セラは足早に教室から出て行った。

エルレイは、『逃げた…』と心の中で苦笑いしながら、ルミアについて行く。

 

 

 

 

「ところで、さっきの件の友達の初恋した本人っていうのは‥」

 

「気にしないで」

 

 

★★★

 

「ふっははははははははーーっ!!よくぞ来てくれたっ!我が人生最大の好敵手にて心友のグレン先生!そして素晴らしき助手であるエルレイ先生!!そして、その教え子三人娘達よっ!!私は君たちを心から歓迎するっっっ!!!」

 

エルレイ、グレン、システィーナ、ルミア、リィエルが研究室に顔を出すと、一人の男が歓喜の表情で迎えた。

ミディアムロングヘアを蛮族のように振り回す、右目が眼帯の男、そう、この男こそがオーウェル=シュウザーだ。

 

「むっ?セラ先生がいないようだが…」

 

「現在、療養中(大嘘)」

 

「そうか…。残念でならない」

 

その後、グレンは頭を掻きながらめんどくさそうに言った。

 

「ったく…今度は一体、何を作ったんだよてめぇ…」

 

「ふっ…、そんなに私の発明品のお披露目が楽しみだったか……うれしく思うぞ、心友!!」

 

「そういうの良い…早く本題」

 

エルレイはイライラしたように、腕を組みながら人差し指で肩を叩いていた。

 

「ふっ!エルレイ先生が逸る気持ちは理解できるが、まあ、落ち着きたまえ!なぜ、この私が今回の発明の着想に至ったかをまず説明しよう!!!」

 

「ああ、始まるんだな。いつもの」

 

「シュウザー教授、相変わらずね」

 

「あはは…」

 

ジト目でため息をつくグレンとシスティーナに、苦笑いをするルミア。

一方リィエルは、オーウェルの雑多な研究所内を、珍しそうにキョロキョロしていた。

 

「ねえね、変なの。いっぱい」

 

「見ちゃダメ。ばっちいから」

 

キョロキョロ見ているリィエルに、エルレイは即座に手で目隠しをする。

 

「さて諸君!今や世界最先端の魔導技術を誇り、────────────」

 

 

★★★

 

長すぎるので省略するが。要するに。

 

「モテ薬を作った…と」

 

「モテ薬ではないっ!超モテ薬だっっ!!」

 

「「「「……」」」」

 

その後エルレイ達は沈黙する。

 

「ふっ!この超モテ薬は一振りでもかけられたものは、全身から超モテモテオーラが発生し、それはもうモテる!!どんなにモテない奴でもLOVE的な意味で理性から確実にめちゃくちゃモテまく…」

 

「…死」

 

ドヴャごキャ!!!

 

エルレイの猛烈な膝蹴りがオーウェルの腹部に命中し、オーウェルは床をのたうち回って悶絶する。

 

「大発明?……。その発明、女の敵…死」

 

「ちょっ!!落ち着くのだエルレイ先生!!!これは高齢化社会の打開案として…」

 

ドヴャごキャ!!!

 

今度は容赦なく、オーウェルの股間に蹴りを食らわせた。

 

「…よし、敵は、動かなくなった」

 

「股間はやめてやれよ……。見てて痛々しい…」

 

グレンは苦笑いをしながらエルレイを見るが、そんな表情などなんのその、エルレイは軽く鼻で笑った。

 

「こんなものを作った、当然の報い」

 

エルレイは件の薬瓶をじっと見つめながら言った。

 

「そう…か」

 

グレンが不意にその薬瓶へと右手を伸ばした。

 

「待ちなさい」

 

咄嗟に、嫌な予感を覚えたシスティーナが、そのグレンの右手を掴む。

 

「どういうつもり?」

 

「いやなに…この危険なお薬は後で廃棄確定なわけだが…でも一応、助手としての務めは果たさなくちゃと思ってさ…」

 

無駄にキリッとした顔でグレンが言った。

その後口論をし始めたシスティーナとグレンを見ながらため息をつき、エルレイは立ったまま寝てしまったリィエルを抱きかかえ、そのあたりの椅子に寝かせる。

 

「こう見ると。私、ルミアくらい良い子じゃん」

 

エルレイは軽くため息をついた。

昔、グレンに問題児問題児言われていたし、おバカともよく言われたが…教師の立場になるとグレンもグレンで問題があったように感じる…。そう思いながら、リィエルから離れて教室に戻ろうとした矢先。

 

「「あっ!!」」

 

「エルレイ先生!!!危ない!!」

 

突然──。薬瓶がエルレイの目の前にあらわれて…。

 

「!……つめたっ」

 

それに反応できず、エルレイがその薬瓶の中身を頭から被ってしまった。

 

「…びしょびしょ」

 

エルレイはビショビショに濡れた服を見ながらため息をついた。

慌ててグレンがエルレイの元に駆け寄る。

 

「す、すまん!ちょっと悪ふざけしすぎた!何ともないか?!」

 

「大丈夫、すぐに乾いたみたい。グレンは大丈夫?異性だから」

 

「あっ!?そ、そうだった!?」

 

そんな風にグレンは慌てるが、特にエルレイに襲おうとしたり、キスを迫ったりする様子もない。

 

(なんだ、失敗作か…。心配して損した)

 

エルレイはため息をつき、呆れたように肩をすくめた。

 

───その時だった。

 

ばずっ!!  ばずっ!! ばずっ!!

 

「わっ……!」

 

エルレイの左右両側、そして背中から乗っかっているかのように、エルレイに抱きしめる者達がいた。

 

「エルレイ…先生…」

 

「ねえね……」

 

「エルレイ先生っ…ごめんなさいっ…」

 

システィーナ、ルミア、リィエルがエルレイに抱き着いていた。

リィエルは今起きたのだろうか、左右にシスティーナとルミアが、そしてもたれ掛かるようにリィエルが後ろから抱き着いていた。

 

「……同性には効果あり」

 

苦笑いするエルレイが三人を見ると、システィーナもリィエルもルミアも、妙に艶っぽく頬を上気させ、吐息は熱く、表情は切なげ、そして目もとろんと潤んでいた。

 

「すいませんエルレイ先生…。私…先生が欲しいです…、もっと先生に色々教えてほしいです…」

 

「ねえね…、すき…。ホントのおねえちゃんみたいで…大好き……」

 

「ごめんなさい…。エルレイ先生…、あの時みたいに…抱きしめてほしい…です」

 

「…ふふっ。…三人とも、甘えんぼさん」

 

エルレイは、どうせ薬の力だと割り切り、三人の頭を優しくなでる。

どうせこれ以上の事は起きないだろうと思ったからだ。

 

───しかし。

 

「グレン、別に止めなくていい。どうせ薬の力……ひゃっ!!!」

 

不意にエルレイらしからぬ、可愛い声をあげた。

エルレイがもう一度三人を確認すると、システィーナとルミアがエルレイの耳を甘噛みし、リィエルがエルレイの後ろの首筋をペロペロとなめていた。

 

「まっ……って、……ひぁぅ!……それ…だめっ…にゃぁ!」

 

突然の事に、エルレイは成すすべなく…三人に抱きたかれたままもぞもぞと、三人の色っぽい責めに反応してしまう。

 

「服…邪魔」

 

「はあ…はあ…、エルレイ先生は…私達のものよ…」

 

「エルレイせんせぇ…。喜怒哀楽だけじゃなくて…。愛も教えてほしいです…」

 

そしてその後、ルミアはエルレイの耳元で囁き、システィーナはエルレイの唇へ自分の唇をどんどん近づけていき…、リィエルはエルレイの服をごそごそと脱がしにかかっていた。

 

「ま…って…!これ以上はホントに……ひゃぁぁ……だめっ…おね…がい。やめて…にぃぅ!・・」

 

「《身体に憩いを・心に安らぎを・その瞼は落ちよ!》」

 

グレンの唱えた白魔《スリープ・サウンド》が効力を発揮して、システィーナ、ルミア、リィエルはエルレイにしなだれかかるように昏睡するのであった。

 

「はぁ……はぁ……。ありがと、グレン、たすかった…」

 

「正直、『ごちそうさまです、もっとやれ』とか思っちゃったけど、それ以上は流石にアウトだぜ…」

 

「…最低」

 

真っ青になって脂汗を滝のように流しているグレン。

エルレイは少し赤くなりながら、立ち上がり、乱れた服を整える。

 

「R-18にしないと、いけないところだった」

 

「は?何の話だよ」

 

「いや、別に」

 

エルレイはグレンに襲われないちょっとした敗北感を覚えながら、薬が入っていた瓶を手に取る。

 

「とりあえず、これの余りを元に対抗薬をつくる」

 

「え?お前ンな事できんの?」

 

「人形の私は、ただの風邪とかでも、ちょっと調合が違ってくるから、自分で覚えないといけないの」

 

「……」

 

ちょっと軽いジョークの気持ちで自分を人形定義したが、寧ろ空気が重くなってしまった…。そう思っていた。

 

───その時。

 

ばぁんっ!!オーウェルの研究所の扉が外側から強引に蹴破られた。壊れた扉の向こうには複数名の生徒達が、目を血走らせて立っている。

 

「エルレイ様……エルレイ様ヲ寄越セッ!!!」

 

「エルレイネエネヲ…我等ノ物二…ッ!」

 

「キヒ、キヒヒヒヒッ!」

 

「な、なんじゃこりゃ!?」

 

この光景を見てエルレイはため息をついた。

 

「多分、学院中にこの効力あるんだと思う…。はぁ」

 

(初めてはシュウって、決めてるのに)

 

そう思いながらエルレイはジト目で愛の奴隷?になった生徒を見た。

 

「…頑張って逃げるぞ」

 

「…ん」

 

迫りくる生徒(女子も含める)をいなして飛び越え、研究室を飛び出し、廊下を猛然とエルレイとグレンは駆けるのであった。

 

★★★

 

「と、とりあえず助かったか…」

 

「ありがと…セラ、セシリア」

 

愛の奴隷となった生徒をどうにか振り切り、医務室に駆け込ませてくれたセラと、セシリアにお礼を言った。

 

「まっ、あのシュウザー教授の事だから何かあると思ってたけどさ」

 

そういうとセラはため息をついた。

 

「状況は、周囲に漂う人の情動を狂わせる、おかしな魔力波動から大体察しました。二人とも災難でしたね」

 

「ああ、しかし…白犬はバカだから効かないで別にいいとして、セシリア先生は超モテ薬聞効かないんすね。よかったぜ」

 

「ちょっとグレン君それどうゆう意味?!」

 

ぷんぷんと怒るセラを、グレンが無視した。

エルレイは苦笑いをする。

 

「それよりも、グレン先生、この部屋に張った結界は即席です。このままではいずれ外の人達にエルレイ先生がバレてしまいます」

 

「…そうか」

 

「それでグレン君、ごめんなんだけどいったん外に出て、結界をより頑丈な奴にできないかな?私も中からやるからさっ」

 

「はあっわーったよセラ。外の結界は俺が張る」

 

1も2もなく、グレンは二人の提案に頷いた。

 

「エルレイ、お前は大人しくしてろよ?」

 

「わかってる」

 

さっそくグレンは、結界を強固にするため医務室の外へと出ていく。

 

(ん、今のうちに分析)

 

エルレイは瓶を取り出し、何が入っているか手持ちの機械で判断しようとした…しかし。

 

ぎゅっ…。

 

ぎゅっ…。

 

「…そんな気はしてた」

 

不意に、エルレイにセラとセシリアが前後ろから手をまわして、抱き着いてきていた。

 

「大丈夫ですよ、エルレイさん」

 

「…ん」

 

二人の吐息が妙に色っぽく、近い。

 

「心配しなくていいんです…。私が…エルレイ先生の傍についていますから…この命が尽きるまで」

 

「結構です」

 

「レイちゃん…大丈夫だよ……私がずぅーーーっとついてるから…、ね?」

 

「やめてください」

 

先程の事もあり、割と容赦なくバッサリとエルレイは言い切るが、離れてくれない。

 

「二人とも…やっぱり薬効いてる?」

 

「え?ふふっ、安心してください。エルレイ先生、私とセラ先生にはまったく効いていませんから、それはそうとエルレイ先生、私貴女の子供が欲しいんです…」

 

「あ、ずるいぃ~セシリア先生~…、私がレイちゃんとの子供作るの~~っ」

 

「……」

 

エルレイは仕方ないと言わんばかりに、

 

一度二人から離れ()()()()()()()()()()()

 

「え…?!」

 

「れ、レイちゃん?!」

 

「貴女方の子供が作れるとしたら、なんという幸せ者でしょうか。でもいやだ、子供を作ってしまうと……二人を独り占め、できない」

 

 

 

 

そいう言うとエルレイは二人の手にキスをする。そして二人はぶっ倒れた。

数分後、グレンが結界を張り替えたようで入ってくる。

 

「おいセラ何やってんだ!さっさと中の結界…、ってうおおおおおおおおおおおいなんだこれ!!」

 

そりゃあ…二人が鼻血で倒れていたらこうもなるかと、エルレイは苦笑いをした。

 

「気にしては、いけない」

 

「「「「エルレイ様はここかああああああああああああああああ!!!」」」」

 

ドアを蹴破って愛の奴隷たちが入ってくる。

 

「そんな馬鹿な!?結界は完ぺきだったのに──っ!」

 

「「「「愛さえあれば関係ない!!!」」」」

 

「暴論。」

 

エルレイは苦笑いした後、部屋の窓から逃走を開始。

 

 

★★★

 

「…セリ。アルフォネア教授。助かりました」

 

エルレイは愛の奴隷達が石像のように動かなくなったのを確認して、座り込みため息をついた。

そう、これはセリカ=アルフォネアがやってくれたのだ。

 

「状況は、さっきオーウェルから大体聞いたぞ。ふっ…、私が駆け付けたからにはもう安心しろ」

 

「ほっ…、お前は大丈夫なんだな…よかった」

 

ほっと安堵の息を吐くグレン。

 

「おいおい、なめるなよグレン。私は世界に名高き第七階梯の魔術師なんだぞ?あの程度の薬の影響を受けるなんてあるわけないだろ?」

 

「あっはっはっ!そうだよな!」

 

「あっはっはっはっ!」

 

笑いあうグレンとセリカ。

しばしどこか弛緩した空気がその場を漂うのだが───。

 

「ところで、僕の偉大なお師匠様?」

 

「何だ?グレン」

 

「あの…、貴女はどうしてそんなに、エルレイと近いんでしょうか?」

 

「…同意」

 

セリカはエルレイのすぐ側に、寄り添うように立っていた。

 

「いやな予感……」

 

「ところで臨時教師エルレイよ」

 

「はい、なんですか…?」

 

エルレイは嫌な予感がしたが、恐る恐る聞き返す。

 

「お前……、私のものにならないか?」

 

「第七階梯えええええぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇ!!!」

 

認めたくない現実に、グレンは吠えるしかなかった。

 

「お前、滅茶苦茶影響受けてんじゃねえか!馬鹿野郎っ!!目を覚ましやがれ!」

 

「なんだと!?世界に名高き第七階梯たるこの私が、この程度の薬の影響なんか受けるものか!あ。エルレイ。あいしてるぞ~。」

 

「サイですか(現実逃避)」

 

「エルレイ!自我を保てえええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

そんな考えることを完全放棄したエルレイをどうにかしようと、グレンは精一杯怒鳴る。

そんなあほなやり取りをやっているうちに。

 

「「「「だらっしゃあああああああああああああああぁぁ!!」」」」

 

セリカの魔術が破壊され、再び愛の奴隷たちが津波のように押し寄せてくる。

 

「ぎゃああああああああああああ!!おまえらまじかよ!!!!セリカの術を一体どうやって破った?!」

 

「「「「愛があれば問題ない!!」」」」

 

「愛、万能すぎ」

 

現実に即座に戻ってきたエルレイは苦笑いをした。

そして──。

 

「待ちなさいっ!エルレイ先生は私たちのものよ!!」

 

「邪魔する奴、やっつける!」

 

「またエルレイ先生に、ぎゅってしてもらうのっ!!」

 

システィーナとリィエル、ルミアが猛ダッシュでやってきて───。

 

「はあ?!うそだろ!?《スリープ・サウンド》をあんなに深く決めたのに──!」

 

「愛があれば問題ないわ!!」

 

「ん!愛」

 

「愛の前では。すべて無力です!」

 

「はいはいはい!愛な!わかってましたよ!お前ら、一言でなんでも済ませられると思ってんじゃねえぞバッキャロウ!!」

 

そして──

 

「……私の身体、…シュウの……物」

 

「え?……。エルレイ?…リィエルさんやい?」

 

「みんなのものじゃない!!!!」

 

エルレイ即座に詠唱をし始める。

 

「《万象に希い・我が腕手に・剛毅なる刃を》!!!!」

 

「「「「…え?」」」」

 

エルレイは詠唱を終え、大剣を担ぎ上げた。

 

「みんなの愛が、どれだけか、試してあげるね」

 

エルレイは満面の笑みだ、満面の笑みのはずだが……、目が死んでいる。

 

「いいいいいいいいいぃいぃぃぃいっぃぃいぃぃやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「「「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ」」」」」

 

 

 

なんやかんやあったが。その後きちんと薬は解けたがみんな記憶が無くなっていて、めでたしめでたし。

 

 

★★★

 

「なあ、エルレイ、シュウって奴のお前の旦那か何かか?」

 

「気にしないで」

 

「初恋の人らしいよグレン君」

 

「……死」

 

「「ぎゃああああああああああああぁぁ!!」」

 

そのあと初恋について死ぬほどいじられたがそれはまた、別のお話。

 




よろしければ評価、感想をお願いいたします。励みになります。

エルレイ「これのシナリオをピックアップした作者、死」

え?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五巻
婚約者と天使の取り合い?!


13

 

 

 

「おうりゃあぁっ!!!」

 

「ええやぁっ!!!!」

 

戦っている…。わたしの目の前で、少年達が戦っている。

一人の少年は赤髪の少年、シュウは紫の片手剣と盾を振るい。

青髪の少年、ロクサスは、かなり大きめの大剣を片手で振り回している。

 

「……いいいぃぃやあああああぁぁっ!!!」

 

私も負けじと剣を振るい、敵であるであろう黒い影を斬りまくっていた。

わたしの近くで戦っている二人の義兄弟は相変わらず強い。

シュウのほうは動きが全く見えず、まるで武器を自分の手足のように操っている。

ロクサスは大剣を大きく振りかぶったかと思えば、下した瞬間…クレーターができ、ついでに奥に見えていた山が割れていた。

 

「お疲れ、兄様」

 

「おう」

 

二人とも最後の敵にとどめを刺したのだろう。

シュウもロクサスも息切れ一つせずに、互いの拳と拳をゴツンッと合わせた。

 

「ん、おつかれ…二人とも」

 

わたしはそのまま武器を消し、足早に二人に駆け寄る。

 

「あ、リィエル、お疲れ様」

 

そういうとシュウは、優しい笑顔を向けながらわたしを優しく抱きしめてきた。

 

「ん…」

 

優しい匂いに、優しい感触、すべてが心地いい…。

わたしはそのまま寝かけたが、ロクサスがいるので我慢した。

 

「はい、頑張りましタルト」

 

抱きしめてから離した後。

すっ…、と。シュウはポケットからいちごタルトを取り出し、わたしの目の前に差し出してきた。

 

サクサクサクサクサクサクサクサクサク。

 

おいしい、フワフワした幸福感が口いっぱいに広がってくる。

 

「だーかーらー。リィエルを甘やかすなって言ってるだろ?あとごくごく当たり前のように抱きしめるな」

 

「いいじゃん。兄様相変わらず固すぎ」

 

そんなキョトンとした顔のシュウに、ロクサスはため息をつく。

 

「お前が子供をあやすノリで抱き着くしかしないから。女として見られていないって自分に葛藤してるリィエルの気にもなってみ…」

 

「あーあーあーあーあーあーあーあーあーあー」

 

ロクサスに図星をつかれ、わたしはとりあえず声が消えるくらいまで騒ぐ。

 

「あー!!うっせーな!そんな騒ぐことねえだろ?!」

 

「ロクサスだって、ルミアにホントの気持ち伝えれなくて。いつもツンデレ…?になってるって。システィーナが言ってた」

 

 

「あー!!あー!!あー!!あぁ?!ああーー!!!あーー!!!」

 

「「うるさい」」

 

わたし以上に大騒ぎするロクサスに、シュウは苦笑いしながらいちごタルトを頬張った。

 

「俺はなっ!普通の人間には興味がねえんだよぉぉ!!」

 

「…ただの告れない男の意味不明な言い訳にしか聞こえないんだけど兄様」

 

「意味不明なんかじゃねえ!いいか?人間はこの世界の害悪なんだ。滅ぶべき生物だ!なーにが王女だ、人形だ?!そんな勝手に作ったくっだらねえ価値観でルミアとリィエルがどんだけ・・・」

 

「害悪なのは認める。けど兄様」

 

シュウがロクサスの肩をポンと叩く。

 

「…なんだよ」

 

「リィエルはそんなの気にしないと思うよ?」

 

「は?なんでそんなこと言いきれ…」

 

ロクサスが苛立ちながらふとリィエルの方向を見てみると。

 

「すう……すう…」

 

ロクサスの熱弁に飽きたのか、すやすやと立ったまま眠りこけているリィエル。

 

「な?」

 

「お前はもっと利用された怒りを人間に持てえええええええええええええええぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「……ん?」

 

エルレイが目覚めると、そこはセラに借りている自分の寝室だった。

エルレイは背伸びをしてカーテンを開け外を眺めた…。いい天気だ。

 

「最近、あの二人が夢で…よく出てくる」

 

会えない二人にもう一度会いたい。そう想いを馳せながら、エルレイは髪を縛り整える。

 

「レイちゃん~~!!おきてる~?」

 

向こうからセラの声が聞こえる。

 

「なに~~」

 

「起きてるならご飯出来たよ~~!、降りておいで~~!」

 

「りょ~~」

 

エルレイは適当な返事をした後、服をいつもの服に着替え。リビングにいるであろうセラの元へ向かった。

 

「最近のレイちゃんはお寝坊さんだね?疲れがたまってるのかな?」

 

「大丈夫、最近は……。心地いい人たちが、夢に出てくるだけ」

 

「?」

 

 

 

★★★

 

 

「…どうしても、お前の力が必要なんだ…」

 

アルザーノ魔術学院の前庭の隅のほうに。グレンの苦渋と懊悩に満ちた声が響き渡った。

 

「許されないことだとはわかっている…お前を巻き込んでしまうこともわかっている…だが人の命がかかっているんだ!!」

 

「……」

 

グレンの前にいるのはリィエルだ。

リィエルは眠たげな眼で、無表情のままじっとグレンを見つめていた。

 

「…グレン」

 

「リィエル…、頼む…。お前の力で人の命が救えるんだ──」

 

「ごめん。ねえねに金作っちゃダメって言われてる」

 

「あの野郎先手取りやがったああああああああああぁぁぁ───ッッ!!!!」

 

グレンの嘆きの声が前庭全体に響き渡る。

 

「っていうかリィエル!お前他の奴ら以上にエルレイに懐きすぎだろ?!餌付けの影響か?そうなのかっ?!」

 

「ん、ねえねのいうこと、絶対、わたしはそう信じてる」

 

「永久王様ゲームでもしてんのかお前らああああああああああああああああ!!!」

 

そんな二人を横目に、エルレイはグレンたちから遠い場所でルミア、システィーナと喋っていた。

 

「あの…、あれ止めなくても?」

 

システィーナがジト目でグレンを見下しながら、エルレイに聞いてくる。

 

「いいの、喧嘩するほど、仲がいい」

 

「あはは…その喧嘩の根源、エルレイ先生なんじゃ……」

 

ルミアは苦笑いで呟いた。

 

「そうかもね、どうでもいいけど」

 

「「バッサリ断言するエルレイ先生流石です…」」

 

エルレイのさも自分は関係ないような言い草に、システィーナとルミアは苦笑いをした。

そんなことをしている時───。

 

「……ん?」

 

「エルレイ先生?どうかしました?」

 

ルミアはエルレイの顔を覗き込む。

しかしエルレイはある一点を見続けていた。

その一点に有ったものは馬車だ。その馬車は二頭立てのコーチ馬車であった、客室が妙に豪華なしつらえで。学院では見かけない馬車であった。

 

「お客さん、かな?ちょっと見てくる」

 

「あ!待ってください!」

 

「私たちも行きます!」

 

そういうとエルレイの後ろからシスティーナとルミアもついてきた。

エルレイは馬車の客室の脇に据えられている扉の前に立った。

 

「何者。ですか?」

 

エルレイがたずねると客室の扉が開き、一人の男が姿を現す。

 

「こんにちわ、お初にお目にかかります、私はレオス、レオス=クライトス、この度この学院に招かれた特別講師です」

 

エルレイはその名を聞いた途端顔をしかめたが、すぐに無表情な顔に戻る。

 

「あ、貴方は──」

 

現れたレオスを前に、システィーナの目は丸くなる。男は優しげにシスティーナを見つめた。

 

「ひさしぶりですね、システィーナ。君は相変わらず元気そうでよかった」

 

「あ…うん」

 

分かり切っていることではある…。しかし万が一違ったら面白くもなんともないので、あえてエルレイは尋ねた。

 

「システィーナとは。そういう関係?」

 

「そうですね…。有り体に言えば…婚約者です」

 

一瞬の沈黙の後。

 

「「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!」」」

 

何時から見ていたのか、グレンとセラとルミアの素っ頓狂な叫びが学院全体に響き渡った。

 

「ねえね、婚約者ってなに?」

 

「アニメで、大体主人公の怒りを買うキャラだよ」

 

「????」

 

リィエルは訳が分からず信頼しているエルレイに聞いたが、ますますわからなくなった。

そんなことがあり、レオスがこの学院に特別講師として入った。

 

 

 

 

数時間後───。

 

「システィーナ…」

 

レオスが、システィーナに真っすぐ向き直る。

 

「私と…結婚してください」

 

二人の間を、穏やかで涼しげな風が吹く。そんなシスティーナとレオスを茂みの中からの覗き見ている5人が…。

 

「なーんで、俺が他人の恋路をのぞき見にゃならんのだぜ…」

 

「まあ、まあグレン君。ルミアちゃんの頼みなんだからさ」

 

ジト目でぶつくさぶーたれているグレンを、セラが子供を宥めるかのように背中を叩く。

 

「ご、ごめんなさい。変な事頼んでしまって…、でも先生方についていてほしくて」

 

「親友に変な男が這いよる、心配になるよね」

 

隣りのルミアが恐縮しながら言うので、エルレイは寝てしまったリィエルを撫でながら優しい言葉をかける。

 

「だがよー、俺、こうゆうのに興味ねーんだがなー…」

 

「まあね…、私もシスティーナちゃんの恋路をのぞき見するのは抵抗が…」

 

 

 

 

という、二人の先生の舌の根も乾かぬうちに。

 

 

 

「おお──!あの男やるな!?今いきなり結婚申し込みやがった!!」

 

「盛り上がってまいりました~~~っ!!システィーナちゃんキーッス!キーッス!キーッス!」

 

「ん、さっきの発言、二人ともリピートしてもらっていい?」

 

「あ、あははは……」

 

二人とも何かのスイッチが入り、超ハイテンションで実況を始める。

これにはエルレイもルミアも苦笑いするしかない。

 

そしてその直後……。

 

「貴女の祖父、レドルフ=フィーベル殿は真の天才、希代の魔術師でした。若き日の彼が残した功績が、近代魔術に及ぼした影響は計り知れません。そんな彼ですら…『メルガリウスの天空城』には全く歯が立たなかったのです。貴女に『メルガリウスの天空城』の謎が解けるのですか?レドルフ殿に、本当に勝てるのですか?」

 

そんなことをレオスがシスティーナに向けて言っていた。

その言葉を聞いた瞬間、エルレイはとてつもなく怒りを覚えた。

 

(こいつ…軽々しく、システィーナの努力を…)

 

「……ぅ…」

 

システィーナは目尻にじんわりと熱がたまってきている。

 

「私はただ、あなたに人生を無駄にしてほしくないんです。あなたには女性としての幸せをきちんと掴んでほしいと願って…」

 

「「「聞き捨てならねえな(ないねっ)(ないよ)!!」」」

 

突然、グレン、セラ、エルレイがシスティーナの前に出てきて、レオスを睨みつけた。

 

「せ、先生方!?どうしてここに…?」

 

ごしごしと目元を拭うシスティーナ。

 

「ごめんね、システィーナちゃん。どうしても我慢できなかった」

 

セラはシスティーナに笑顔を向けた後、もう一度レオスを睨みつけた。

 

「…お言葉ですが、あなた方には関係のないことかと思われますが」

 

「それを言うなら、システィーナちゃんの努力も見ないで人生の無駄なんてよく言えたね?好きな人が頑張ってるのを見て応援してあげようって思えないなら、貴方にシスティーナちゃんと結婚する資格はないよ」

 

レオスの言葉に一切ひるむことなく、セラはレオスに向かって吐き捨てる。

 

「1つ聞くぜ白猫、お前の亡くなった爺さんとやらは『メルガリウスの天空城』に挑んだことを後悔していたか?」

 

グレンがシスティーナに尋ねる。

 

「そ、そんなことないわ…確かに謎を解き明かせなかったと口惜しく思われてはいたようだけど…お祖父様はご自分の歩まれた道に後悔なんて微塵も…」

 

「なら、それが答えだ」

 

グレンは、横目で背後のシスティーナに力強く笑みを浮かべた。

 

「白猫、こいつの言う事なんか聞くな。お前はお前の信じる道を行け、お前の人生の主人公はお前自身だ。人生の成功も失敗も他人が推し量るもんじゃねえ、自分が決めるもんだ、忘れんな」

 

レオスがため息交じりに肩をすくめる。

 

「なんなのですか?これは私と、システィーナの…そう、クライトス家とフィーベル家の問題なのですよ?関係無いあなたたちが口出ししないでいただきたいのですが」

 

「関係なくない」

 

ここで初めてエルレイが口をひらいた。

 

「エルレイ先生…」

 

「システィーナは、私の大切な人、オマエの思ってる以上に」

 

その言葉にレオスが凍り付く、レオスに向けられたのは殺意と呼ぶにふさわしい残酷で、冷酷、濁り切ったエルレイの瞳だった。

その目にレオスだけでなく、他の全員息をのむ。

 

「システィーナは、私をどんな時も許してくれた…、親友を傷つけてしまったときも、どんな時も」

 

エルレイは自分の右手をじっと見つめてギュッと握る。

 

「だから、私にとってシスティーナは、天使みたいな女性…。オマエみたいな、ヒョロヒョロした奴には渡さない」

 

「てん…し?」

 

その言葉を聞き、システィーナの顔が赤くなる。

そんなことはお構いなしにエルレイ、グレン、セラの三人は、自分の左手の手袋に手をかけ…。

 

「!?」

 

レオスにその()()()()()()()()()()()()()()

 

「決闘だ」

 

「私たちは、貴方に決闘を申し込む」

 

「システィーナは私達の物、この決闘、受けられる?」

 

「むしろ望むところだ…!」

 

 

 

そんなこんなでエルレイの言う通り、主人公であるエルレイとグレン、そしてセラがレオスに対し喧嘩を吹っ掛けた。

それをレオスが承諾し、レオスはその場を去っていった。

 

「先生方……」

 

「「「………」」」

 

レオスが去った瞬間この場は一気に静かになった…、そして。

 

「「「やっちゃったぜ☆」」」

 

「やっちゃったぜ☆じゃないですよ先生方!?何ちょっとかっこいい言い方してんですか?!」

 

ツッコむべきところは他にあるはずだが、システィーナは妙に空回りして変な所を突っ込む。そんなツッコミを他所にグレンたちは勝手に盛り上がる。

 

「考えてみればこれはチャンス!これをうまくやれば俺は逆玉に乗ることができるじゃねえか!」

 

「NO、システィーナは私がもらう、のでグレンには渡さない」

 

「あぁ?生産性のないラブコメはやめろよエルレイ?俺が逆玉ルートだろJK(常識的に考えて)!」

 

「まあまあ、グレン君、レイちゃんも、ここは間を取って私がシスティーナちゃんを娘として引き取るエンドで…」

 

「「却下っ!!」」

 

「私の扱いがひどい件について……」

 

そんな話を平然とシスティーナの前でしてるので。システィーナ顔が赤くなり…。

 

「先生方ぁ!私を抜きで話を進めないでくださいぃぃぃいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

 

★★★

 

エルレイたち先生組三人は知る人ぞ知る隠し店のような趣の店に入った。

店内は薄暗く、客はほとんどいない。そんな店内のカウンター席に、その端の席に二人。

 

「お疲れ様です」

 

「遅かったな、二分遅刻だ」

 

アルベルトとエザリーが先に来ていた。

 

「うっせーな、二分くらい誤差の範囲だろうが」

 

「ごめんね、アルベルト。それにエザリーちゃんも、待たせちゃったかな?」

 

グレンは悪態をつくが、セラは笑顔で二人に顔を向ける。

 

「……」

 

エルレイはというと、ごく当たり前のようにエザリーの近くに陣取り腰かけた。

 

「また何やら、派手に動いているようだな、グレン、セラ」

 

「ま、お前なら当然。こっちの状況も把握しているか」

 

「フィーベルの許可なしに婚約破棄の決闘とは、ゲスの極みだ、少しは申し訳ないと思わないのか?」

 

「思わないっ!!!」

 

「セラ、お前は少しくらい悪びれろ」

 

アルベルトはセラの相変わらずの様子に冷酷な目を向ける。

 

 

 

 

 

「それで、エルザ。何かあった?」

 

一方エルレイとエザリーは、4人に聞こえないようにできるだけ小さな声で話始める。

 

「うん、話が早くて助かる」

 

エザリーはニコッとエルレイに笑みを向けた。

するとエザリーはある書類をエルレイに渡す。

 

「……?これは」

 

「読んでみて。すぐにわかる」

 

そう言われ、エルレイはその書類を読み始めた。

どうやら『天使の塵』に関しての事のようだ。

 

 

執行官ナンバー3《女帝》、執行官ナンバー0《愚者》が執行官ナンバー11《正義》との交戦時、突如として雷を纏う竜と赤い竜が現れて、その場を荒らした。

結果的に2体の竜の出所も生息地もわからなかったが、特務分室は一切の被害を出さず、執行官ナンバー11《正義》を逃がすことになってしまった。

2体の所在は現在も極秘で捜索し、特務分室ので利用できないかと模索している。

 

 

 

「これは……」

 

「うん、間違いないと思う」

 

驚いたエルレイの顔に、エザリーは力強く頷く。

エルレイの親友、シュウとロクサスはその身に竜を宿していている。

そのせいで普通の人間だと思われず、親や知り合いから幼少期は二人とも迫害されてたと聞くが、まさかその竜のおかげでこの世界に二人がいることを確定できるとは、わからないものだ。

 

「ありがと、ちょうど、手詰まりしてたところ」

 

「それはよかった、あと…はいこれ」

 

エザリーはエルレイにある薬を渡した。それは『()()()()()』だ。

 

「無茶はしないでね。騎士長になったって言ってもリィエルはまだ精神年齢は5~6歳、辛かったら頼ってよ?」

 

「ん、ありがと。エルザ」

 

エルレイはいつもと同じように、エザリーをギュッと抱きしめる。

 

「……」

 

「……?どうしたの?」

 

「別の女の匂いがする」

 

「……あっ」

 

あの教授の薬のせいで、約5名の女性にペタペタされていたをすっかり忘れていた。

エルレイは無意識に後ずさる。

 

「ねえ、なんで下がるの?何か後ろめたいことあるの?大丈夫だよ?私怒ってないから、私はリィエルの味方だよ?ねえ、私の事が怖い?だから後ずさってるの?ねえねえねえねえ」

 

エルレイは全力で後ずさりして、セラとグレンの後ろにつく。

 

「わっ。どうしたのレイちゃん」

 

「今俺らちょっと。ヤバい話してるから後にしてほしいんだが」

 

「……わかった」

 

そう言い残すとエルレイはすごい行きおいで店を出て行った。

その後、エザリーにつかまり、少しの時間生産性のないラブコメになったという。

 

 




良ければ評価、感想をお願いいたしいます、励みになります。

エザリー「明日からは、『エルレイ、エザリーと付き合うってよ』が始まります」

エルレイ「始まらない」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少しの油断

 

そんなこんなで、エルレイたちが担当する二組のクラスにて。

 

「そんなわけで、レオスぶっ飛ばして。先生全員でシスティーナを娶って、みんな(先生だけ)脳死ハッピーになろうぜ計画、を開催します。異議のあるものは?」

 

「「異議なーしっ!!」」

 

「「「「「何言ってんすかエルレイねえねえええええええええええええぇぇぇぇぇ!!!!!」」」」

 

エルレイが教壇に立つや否や、突然の謎発言に、グレンとセラの先生組は可決の声をあげたが、生徒たちからは阿鼻叫喚を受けることとなった。

 

「今、ねえね、って言った生徒。後で死」

 

「いやいや!俺らを巻き込まないでくださいよ!」

 

「それ先生方が売った決闘ですよね?!生徒を巻き込むのはどうかと思います!!」

 

ぶうぶうと文句を言う生徒達。

それも当然、本来の時間割ならば、ここから始まるのは黒魔術の授業だからだ。そんな生徒たちにエルレイは反論するどころか。

 

「ごめん…、やっぱり、迷惑……だよね」

 

エルレイは目を伏せ、落ち込む。

珍しいエルレイの無表情ではない悲しそうな顔に、クラスにいる全員どよめいた。

 

「分かってる。私が、臨時教師で、そんなことする資格なんてない…。ことくらい」

 

「え、エルレイ先生?あの…、そこまで落ち込まなくても」

 

優しい生徒の声をエルレイはさも聞こえていないかのように、濁った眼で床を見ていた。

 

「でも…、レオスが…魔術講師としての手腕で勝負するって……」

 

エルレイは目元を自分の手で拭った。

 

「私は…、みんなが…。誰にも負けないって…確信……、してるから」

 

「エルレイ先生……」

 

エルレイは顔をあげて、ニコッと、無理やり笑顔を見せた。

 

「でも…みんなを巻き込んじゃだめだよね。ごめん、わたしだけでどうにか……」

 

「野郎どもおおおおぉぉ!!!!!俺らのエルレイねえねを泣かせたレオスとかいう野郎をゆるすなああああああああああぁぁぁ!!!!!」

 

「「「「「ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」」」」」

 

カッシュの言葉を筆頭に、クラスのエルレイ信者の馬鹿どもが一致団結した瞬間である。

エルレイは優しい微笑みをみんなに向けた。

 

 

勝った…。 計 画 道 理 

 

「汚い、レイちゃん珍しく汚い」

 

「嘘泣きってお前らしくもねえ……」

 

グレンとセラは、エルレイのやったことが芝居だとわかったようで、二人とも軽蔑の眼差しでエルレイを見ていた。

 

「システィーナの、人生がかかってる…これくらいは当然」

 

エルレイは眠たそうな目で無表情でない胸を張った。

そうすると突然システィーナが駆け寄ってきた。

 

「あの、わたしを気遣ってくれるのはありがたいんですけど…、あそこまでしなくても」

 

「私は、システィーナには、もっと魔術を知ってほしい、それだけだよ」

 

エルレイは笑顔をシスティーナに向け、いちごタルトをシスティーナに渡し、クラスのみんなに向き直った。

 

「じゃあ、今回は思考を変えて、魔導兵団戦の基礎、教える、あと、必勝法もね」

 

「「「「「ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」」」」」

 

「分かった、泣いた私が悪かった、いったん落ち着いて」

 

エルレイは一旦、みんなを落ち着けてから授業を始めた。

 

「しかし、どうするんです、このクラスには僕とかシスティーナとか、ウェンディとか、戦力にとして使える魔術師は数えるほどしかいませんよね?この模擬戦で使用可能な呪文は決まっていますから実質リィエルは戦力になりませんし」

 

ギイブルの遠慮ない物言いにクラス一同むすっとするが、エルレイだけは拍手を送り、いちごタルトを差し出す。

 

「よくできましタルト」

 

「……バカにしてます?」

 

「確かに、今の状況だと…使い物にならない人しかいない。ギイブルも例外じゃない」

 

「な──」

 

ほめるに見せかけてのバッサリとしたエルレイらしい物言いに、ギイブルは口をパクパクさせた。

 

「大丈夫、別に戦わなくても勝てるから」

 

 

 

エルレイはそういうと不敵に笑った。

 

 

 

 

 

★★★

 

「はい、セラ」

 

「うん、いただきまーっす……あむっ」

 

今日はセラに約束していた料理を作ってあげた。

献立は肉じゃが、に卵スープ、野菜炒めなど、栄養を取れるものを作ったつもりだ。

 

「ん~っおいし」

 

「そ、よかった」

 

セラが笑顔になり、エルレイも笑顔になる。

エルレイは一口水に口をつけてから向き直り、話を切り出した。

 

「ねえ、聞きたいことある」

 

「ん、なに?」

 

「…二匹の竜について、教えてほしい」

 

「……」

 

二匹の竜、雷の竜と赤い竜の事だとすぐにわかったのだろう。

セラは俯き、ことばを出した。

 

「ごめん、友達から『それは機密事項だから話ちゃダメ』って言われてるんだ」

 

「ん、変なこと聞いてごめん」

 

「こっちこそ、答えられなくてごめんね」

 

まあ、そう簡単に教えてくれるはずもないか…、そう思いながらエルレイは自分の作った肉じゃがを頬張る。

 

「……ん、まあまあおいしい」

 

「え?私とってもおいしいって思ったんだけど?レイちゃん不満?」

 

「私の知り合い、料理上手い人がいて。その人の料理とっておいしいの」

 

エルレイはそう言いながら心地よさそうにほほ笑んだ。

 

「もう…、何年もあってないけどね」

 

何年会ってないだろうか、学園卒業してからだから3~4年はくだらないだろう…。

 

そう肩を落として落ち込むエルレイを、セラが優しくポンと肩を叩いてくれた。

 

「いつか会えるよ…絶対ね」

 

「ん…そうだね」

 

セラの言葉により元気が出たのかエルレイは少し笑顔を取り戻す。

 

「ねえ、教えてよ、レイちゃんの友達の事!」

 

「…ん、暇つぶし程度に」

 

エルレイは今まで会ってきた友達、仲間、親友の話を覚えている限り全部した。

エルレイはずっと誰かに自慢したかった。自分が素敵な人たちに囲まれていることを、しかし関わる人が少なくなり、そんな機会未来にいたころはなかった。終始エルレイは楽しそうにセラに向かって自分の友達と経験した事話した。

 

「それで──」

 

「レイちゃん、ホントにその人たちが好きなんだね」

 

「!」

 

 

エルレイは突然その言葉で我に返り、時間を確認した。

1時間以上しゃべり続けていたようだ…。

 

「あ……、ごめん」

 

エルレイの顔が途端に朱色に染まる。

そんなエルレイを見ながらセラは無邪気に笑った。

 

「あははっ、友達の事だけじゃなくて初恋の人の話を何個か聞けるとは思わなかったよ~。とってもほのぼのした!」

 

「……//////」

 

自分としたことが…、饒舌にしゃべりすぎてしまったようだ。

自分でも顔が熱くなるのを感じた。

 

「もう寝よう、おやすみ」

 

「え~、もっと話していようよ~、それか布団の中で話そっ!」

 

「~~~~っ/////おやすみ!!」

 

エルレイはセラの声を聞こえないふりして、耳をふさぎながら足早に自分の部屋まで行って布団をものすごい勢いで被った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

「ん、こっちは大丈夫、そっちは」

 

『大丈夫だよ。基本的にうまく進んでる、アルベルトさんには何度か疑われたけど』

 

エルレイはその夜。セラの家を抜け出し、人通りのないところでエザリーと通信していた。通信をしながらサクサクといちごタルトを頬張る。

 

「ん、こっちも…、セラとグレン以外にはばれてないから、大丈夫」

 

『そもそも、隠さなきゃいけない理由があんまり私分かってないんだけど…そういう魔術があるって言いきればよくないかな?』

 

「……」

 

『疑心暗鬼でそこまで頭、回ってなかったね、リィエル』

 

「うるさい…、そもそもエルザがいなかったらまだ疑心暗鬼」

 

エルレイはエザリーのことばに少し不貞腐れる、エザリーは苦笑いをした。

 

『でも、今リィエル楽しそうだよね』

 

「……?そう見える?」

 

『うん、卒業した後は仕事に忙殺されてたイメージだったから、ちょっと安心したよ、こっちにきて』

 

「…そうかも」

 

確かに卒業した後は仕事に忙殺され、色々な趣味やお出かけができなかった。

でも大切な親友たちがくれた、イルシアではなくリィエルとして生きていていいという心の余裕。それをなくしたくなくてガムシャラに働きすぎたのかもれない。

 

『最近、リィエルは大人になりすぎだよ、もうちょっと誰かに甘えよ?』

 

「ありがと、その時はエルザに頼むね」

 

『ふふっ、楽しみにしてるね』

 

 

 

そんな二人だけの秘密の話をしていたその時。

 

「……!」

 

『リィエル?どうしたの?」

 

「ごめんちょっと切る」

 

『え、ちょ!!リィ──』

 

 

ブツン。

エルレイは強制的に通信を切り、ポケットにしまった後、目の前にいる謎の生物を睨みつけた。

 

【ガ……ガガァ‥‥】

 

それは見る限りでも30から40はくだらない、ゴキブリのような生物や、翼の生えた悪魔を具現化したかのような生物。そして蜂のような生物どれも人間と同じ大きさで、そしてそのすべては黒い光で輝いていた。

 

「…っ!」

 

エルレイは即座に愚者をカードをポケットから取り出し、距離を取りながら蜂のような物に投げる。

 

カンっ!

 

しかし愚者は発動せず、そのままひらひらと床に落ちる。

 

「タルパか…?」

 

 

タルパとは───それは錬金術の奥義、人工的に神や悪魔、精霊を生み出す技術である。

 

【ギガガ‥‥‥ガアアアアアアアアァァアッァ‼!!!】

 

突然、巨大ゴキブリが恐ろしい速さで襲い掛かってくる。それと同時に悪魔や蜂も…だ。

 

「っ!!《万象に希う・我が2つの腕手に・剛毅なる刃を与えたまえ》!!」

 

エルレイはそう叫び。

トン、と地面をたたくと大剣が二つ生成されてその二つを両手に持ち、即座にゴキブリに振りかざす。

 

「やぁぁ!!!」

 

その斬撃は後頭部に命中し、ゴキブリは四散するが、次々と、敵はおそいかかって来る。

 

「ふっ…、やあああぁ!!」

 

エルレイは焦らずにゴキブリの一体を足場にしてジャンプ、大剣を2つともブーメランの要領で投げ回転させ、空を舞っている悪魔や、蜂に命中させる。

その後エルレイ2本の大剣を持った後、着地し下がり…、建物の上から敵の数を把握した。

 

「…100は、居るかな」

 

パッと見100体以上はいるのを確認し、エルレイはため息をついた。

誰がこんなに生成したかはわからない。狙っているのはおそらく私、何故?

 

「考えても仕方ない……か」

 

エルレイはもう一度剣を握り直し、敵と思われる生物たちのもとへ降りて行った。

 

「いいいいいいいいいいぃぃやああああああああああああああああああぁぁ!!!!」

 

エルレイは容赦なく生物たちに武器を振り下ろす。

蜂は尾を切り取り中心部分を2等分にした。ゴキブリは確実に頭を狙い、羽根が生えているものは羽根に組み付き羽根を力で強引にもぎ取り、動けなくなってから首を刈った。

10体討伐、20体討伐………50体討伐。どんどん討伐数を増やしていく。

自分の服が血だらけになっても。

 

斬って…

 

 

 

 

 

 

 

 

斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って…。

 

 

 

 

そして───。

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・拡散せよ》!!!」

 

「あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!!!!!」

 

エルレイは剣から地面にショックボルトを伝わせて、地面をえぐり取る要領で大量の生物たちに当てる…、これで計250体。

 

「はぁ…、はぁ…」

 

「…っ!やああああああああああああああああああぁぁあぁ!!!」

 

もう何時間ここで殺り合っているのかわからない。

意識が朦朧として立っているのでやっとだ。

 

「ぁ…………ぁ………っ!」

 

エルレイはボロボロになった大剣2本を見ながら息を整えた。

いくら強いエルレイといえども、これ以上は体力の限界だ。

 

「………いいいぃぃ…やああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!」

 

それでもエルレイは戦った。

何故ならここで逃がすと、グレンやセラ達に何をされるかわからないからだ。

 

「……っ、ああああああああああああやああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!」

 

だからエルレイは斬る、斬って斬って斬りまくる。

斬れば斬るほど死体の山が出来上がり、エルレイの手が汚れていく。

 

「マナは……残ってないけどっ!!」

 

ボロボロになった大剣二本を敵にぶん投げて詠唱をし始める。

 

「───っ《万象に希う・我が2つの腕手に・剛毅なる刃を与えた───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プチュン…………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間…。

 

 

エルレイの眉間に風穴が空く。

 

 

「…え?」

 

エルレイはそのまま何もできずに倒れこむ。

狙撃してきた相手の場所も、顔も見ることなく、エルレイは脳に直接ライトニング・ピアスが直撃し、目を開けたまま動かなくなった。エルレイの脳から醜く血が流れ、吹き出る。

 

 

 

手も、足も、心臓さえも動いていない…。

 

 

 

 

「思ったより、呆気なかったね」

 

倒れたエルレイの元に、黒い服を着たハットをかぶった青年。

元帝国宮廷魔導士団 執行官ナンバー11 ジャティス=ロウファンの姿があった。

 

「Project:Revive lifeを滅茶滅茶にしたって聞いてたから、一応期待してたんだけどなぁ」

 

そういうとジャティスはエルレイの頭を蹴った。

エルレイだった物は蹴られても顔が傾くだけで無反応だった──。

 

「ふっ…ホントに死んじゃった。悪いね、君に恨みはないけど…僕の正義を貫くためには…君が邪魔でしかないんだ」

 

そう言いながらジャティスは口元を抑えながら不敵に嘲笑う。

 

「さ~て、この子が死んだらグレンとセラはどんな顔をするかなっと」

 

そう言い残すとジャティスは暗い闇の中に姿を消していった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔導兵団戦、そして・・・。

エルレイ「……」

エザリー「ぅ…うぅ……」

作者「ん?どうしたの二人共?」

エルレイ「最近…読んでて辛い……」

作者「あぁ……うん」

エザリー「……ジャティスに殺されて…死んじゃって……」

作者「うん…」

エルレイ「その未来を変えるために過去に向かって…」

作者「うん……うん?」

エルレイ&エザリー「甘えたいのに甘えられないもどかしさ……」


作者「待って!待って!待って!待って!!」

エルレイ「?」

エザリー「なんですか?」

作者「ええっと……一応聞くけどなんの話?」

エルレイ&エザリー「『バッドエンドの未来から来た二人の娘』」

作者「やっぱり、ていうか感想もらったらその場のテンションで無断拡散するのやめようよ……いつか抹殺されるよこの小説…」

エルレイ「でも、向こうもやってくれた」

作者「そりゃぁ……まぁ」

エザリー「というわけで、『バッドエンドの未来から来た二人の娘』を是非見てみてくださいね」

作者「エザリーまで……アステカ様、やりたい放題で申し訳ありません…」

作者「エルレイが作品で死んだばっかりなのにこの子達は……」

エルレイ「私、これが終わったら、フィーちゃんとコラボするんだ」

作者「コラボはしたいけどその前に作品内で頑張って!ホントにフィールちゃんに泣かれても知らないよ?!」



 

 

決戦当日、昼食を済ませた後今回の魔導兵団戦演習に参加する生徒たちは、駅馬車に乗り、フェジテ東門から東へ延びるイサール街道を行き、やがて街道の北側に見えてきた壮大なアストリア湖南端付近の湖畔に全生徒が集合する。湖に面したほとりに立ち並ぶ緑の木々と色とりどりに咲いた花、遠くに望む山の稜線にかかった白化粧、冷たく澄んだ湖…平日ならばのんびり散策を楽しみたいスポットだが、この湖畔から北西部にかけて、学院が保有する魔術の演習場が広がっていて、今ここで魔導兵団戦が行われようとしている……のだが。

 

「…」うろうろうろうろ

 

「…」

 

湖の前にきても落ち着くどころか、むしろ挙動不審になるものが一名。

 

「…」うろうろうろうろ

 

「…」

 

セラ=シルヴァースがまるで誰かを待っているかのように、馬車を見たり、時計を確認したりを1秒単位で行っていた。

その光景をグレンは呆れながら見ている。

 

「うろうろうろうろ」

 

「だぁぁ!!もう落ち着きねえな!!お座りしてろ白犬!!」

 

「だってぇ…。レイちゃんがぁ今日の朝からいないんだもん…」

 

ついに口にすら出し始めて、ずっとそのあたりをうろうろしているセラにしびれを切らしてグレンが怒鳴るが、未だにセラは落ち着かず、うろうろしている。

 

「もう学院にきてるのかなとも思ったけどいないし…」うろうろ

 

「誰に聞いても知らないって言うし…」うろうろうろうろ

 

「もうすぐ決闘なんだよ?」うろうろうろうろうろうろうろうろ

 

「セラ、落ち着きない」

 

「あ、あはは…」

 

全く落ち着く様子がないセラに、リィエルはボーっと見つめ、ルミアは苦笑いをした。

 

「大丈夫だ、どうせすぐに来るだろ」

 

「だから!家にもいなかったんだって!」

 

「お前に愛想つかして出てったんだろ?英断だ」

 

「何を~~!!」

 

そんな中、生徒は『システィーナとセラ先生の百合だ』やら『グレン先生とシスティーナの禁断の恋だ』やら、当事者からしたらむず痒いことこの上ない言葉が生徒たちから飛び交っている。

 

「私はなんて顔でここに居たらいいのよ…」

 

「えっと…、笑えばいいんじゃないかな?」

 

システィーナの何とも言えない表情に、ルミアは苦笑いをする。

 

「…ねえねどこ?」

 

リィエルはというと、セラに落ち着きがないと言いながらセラと同じで、ずっと視線を動かし、エルレイを探している様子だった。

そんな傍から見るとカオス状態になっているその時。

 

「うるさいぞ!貴様ら!静粛にしろ!!」

 

ハーレイが集合している生徒達の前へ現れ高圧的に一括する。

 

「さっそく、これから魔導兵団戦を始めるが、まずはルール説明を…」

 

「ま、まって!」

 

エルレイのいない状態で始めようとするハーレイに、セラは待ったをかける。

 

「なんだ?セラ=シルヴァース」

 

「レイちゃんがまだ来てないの…」

 

「ふんっ!!ならば奴は棄権という事だな!時間はすべてだ!当然だろう!!」

 

「う…」

 

高圧的なハーレイにセラは黙り込む。

 

「落ち着けセラ、喧嘩を売った時のあいつの目は俺達でも凍り付くほどだったんだぞ?」

 

「…それは」

 

セラはエルレイがレオスに向けた。

冷酷で濁り切った殺意と呼ぶにふさわしい顔を思い出し、顔が青ざめるのを感じた。

 

「……」

 

「アイツの事だ、なんか考えがあるんだろう。俺らが行動起こしても邪魔になるだけだ」

 

「…そうだね」

 

セラはあきらめたようにグレンに向き直り、手袋をきゅっと付け直して気合を入れた。

 

「私たちが、頑張らなきゃ…ね」

 

「おかしな、ものです」

 

そんな話をしていると、二人と生徒の前にレオスが姿を現した。

 

「んだよ?なんかようかレオス」

 

「いえ、可笑しいものだなと思ったので…、つい」

 

「何?」

 

そういうとレオスは、まるでエルレイをあざ笑うかのように笑った。

 

「臨時教師の方をよくそこまで信用できますね?しかもこの場に来なかった…つまりこの状況から逃げた、というわけです」

 

「…」

 

「それをあなたたちは信じるだなんだと、とても滑稽でして」

 

「…黙れ」

 

「あんな、何を考えてるかもわからない醜そうな女性を信じるなど正気の沙汰では───」

 

「黙れっ!!!!」

 

瞬間、レオスはグレンに胸ぐらをつかまれる。

レオスは抵抗しずに、呆れたように言葉を続けた。

 

「まあ、いいです。どうせ彼女はこの場には来ませんし…いえ、もう一生あなた方の近くにいることも無いかもしれませんがね」

 

「っ…まさか貴方…」

 

セラの言葉には反応せず、レオスはそのまま自分の生徒の元へと体を向けて歩き出す。

 

「では御機嫌よう、システィーナは私が貰っていきます」

 

そう言い残し、レオスはそのまま去っていった。

 

「…」

 

「グレン君…レイちゃんは…」

 

「気分が変わった…。死ぬ気でこの魔導兵団戦…。勝ちにいくぞ」

 

「…!うんっ!」

 

そう言いながら二人は2組のみんなと最後の作戦会議を始めた。

 

やがて、立ち会う審判員の講師が遠くで狼煙をあげて───魔導兵団戦が始まった。

互いのクラスの兵力はそれぞれ40人、グレンはまず、中央の平原ルートに12人進軍させ、北西の森に12人、東の丘に1人、残りを拠点に残した、積極的な進軍はせず、まず様子見といったところらしい。

 

「……」

 

レオスは黙ったまま、少し考えた後指示をした。

 

「皆さん出撃です」

 

対するレオスは中央ルートに18人、森ルートに12人、丘に9人、勢力を投入、それぞれの戦場で相手を上回る兵力を投下し、各個撃破の構えだ。

 

「…愚策」

 

レオス自身にはそうとしか思えなかった。これではまともにやれば勝ち目はない、まともにやれば…。

 

「どうするつもりなのか……」

 

レオスは顔色を変えず、戦況を見た。

レオスの采配により、レオスのチームが優勢になる…、はずだった。

 

「《大気の壁よ》──!」

 

「《大気の壁よ》──!」

 

レオスの陣営が撃ってきた攻性呪文に対し、グレンの陣営の生徒は次々とエア・スクリーン──を最も基本的な対抗呪文を起動し、空気障壁を広く張り、迫りくる突風を受け止め、飛んでくる紫電をそらし──。

 

「頼むカッシュ!今だっ!!エルレイ先生に勝利をぉ!」

 

「おう!!エルレイ先生に勝利をぉ!《虚空に叫べ・残響為るは・風霊の咆哮》──!」

 

「《雷精の紫電よ》!!」

 

「《大いなる風よ》!!」

 

対抗呪文を唱えていた生徒たちの隣に待機していた。

生徒たちが謎の掛け声とともに、次々と攻性呪文を唱えていく。

 

「「「「エルレイ先生に勝利をおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」

 

正直うるさいほどに。

 

「うるせぇ!!!くそっ!《大気の壁よ》──!!」

 

レオスの陣営の生徒が泡を食って対抗呪文を唱える。

 

 

 

 

 

 

 

「…へえ」

 

レオスは驚きの声をあげた。

何故ならこちらが押されているからだ。2組は3人一組でなく2人一組で構成し、行動している…、しかし二人1組なんて邪道で、許しがたい行為。

 

「さすが、と言っておく」

 

レオスが苦笑いをしながらもう一度戦況を見た。

相手が1人だけいるところはどうなっているだろうか。

 

「丘の拠点制圧はどうなっていますか?敵は一人だったはずですが」

 

特に焦りを見せないレオスが、各方面の部隊長に持たせた宝石型の通信魔導器で、丘のチームに連絡を取る。

 

「そ、それが…」

 

レオスの陣営の丘ルートの隊長が脂汗を滝のように流しながら、通信魔導器を耳元に当てていた。

 

「無理です!丘の拠点制圧なんて不可能です!!僕たちには無理です!」

 

『…どういうことですか?相手は一人だったはずですが』

 

レオスの声が通信魔導器から聞こえてくる。

 

「で、でも…相手は一人ですけど…ば、化け物ですっ!!!」

 

悪魔を見るような表情で丘のチームの隊長は敵兵を見つめる。

そう、我らがリィエルだ。

 

「《雷精の紫電よ》──!!」

 

「《雷精の紫電よ》──!!」

 

最早、焦りのあまり、3人一組すら忘れてしまったらしい。

12人のレオスの陣営の生徒たちが、一斉に攻性呪文を撃ちまくる。紫電が幾条もリィエルに殺到する。

 

「《雷精の紫電よ》──!!」

 

撃って、撃って、撃ちまくる。撃ちまくるのだが──。

 

「…ん」

 

当たらない、かすりもしない。眠たげに左右へふらふらと揺れるだけで、リィエルはすべてかわせてしまうのだ。

 

「くそう!!なんで当たらねえんだ!!」

 

「ん、ねえねのために、当たっちゃダメだって」

 

リィエルは眠たげに、しかし目には力が宿りそう答えた。

 

───

 

『レオス先生!大変です!』

 

レオスの通信魔導器から切羽詰まった声が聞こえてくる。森方面へ進軍したチームからだ。

 

「…どうしました?」

 

『そ、その…信じられないんですけど…』

 

確認するように、ひと呼吸おいて。

 

『グレン先生とセラ先生が…、俺たちの前に……森の戦場の最前線に現れましたっ!』

 

「え?」

 

信じられない生徒の報告に…レオスはポケットに手を入れ、何かを手に取るように空をつかんだ。

 

「ふっはははははははははははははははははは─────っ!!刮目せい、皆の衆っ!グレン=レーダス大先生様軍の総大将はここにいるぞおおおおおおおおおおおおおおおお──っ!!」

 

「どこからでもかかっておいでええええええええええぇ───っ!!お姉さんがあああああああああ、相手してあげるぞおおおおおおおおおおおおおおお──!!」

 

グレンとセラがこれでもかと思うほど大きな声を出し、叫びまくる。

 

「我こそはと思うものは、我ら二人を打ち取ってみよっ!」

 

「まっ!!簡単には倒れないけどねぇっ!!」

 

「「あああぁぁぁっ!!はっはっはっはっはっはっは!!!」」

 

セラらしくないほどゲスい声と、グレンのゲスい声が重なり、絶妙なウザさを醸し出していた。

 

「お、追え!グレン先生とセラ先生を打ち取れ!この戦いは敵の指揮官を打ち取っても勝ちなんだっ!チャンスだ!」

 

「《雷精の紫電よ》──っ!」

 

当然、レオス陣営の生徒何人かがグレンとセラを追い回し、次々と呪文を撃つが。

 

「ふっはははは!白犬!!躱せ!!!」

 

「ポケモ〇トレー〇ー、最強指示、躱せっ!!って私はポケモ〇じゃないし犬じゃないってば~」

 

当然当たらない。

もともと遮蔽物が多く、視界の悪い森の中。それらを巧みに利用して、グレン、セラは互いに後ろをカバーしながら、ひらりひらりとかわし続ける。

 

「はあああああああああっはははははっ!!この程度か若造よ!!」

 

「活躍しないとレイちゃんに顔向けできないじゃん!!もっと私たちを楽しませてよっ!!!」

 

「「はああああああああああっはっはっはっはっはははっはっはっは!!」」

 

この騒ぎまわってる二人にレオス、レオスの率いるクラス、2組、一人残らずこう思った。

 

(((((UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!)))))

 

 

「…皆さん、落ち着いて、各個撃破してください」

 

そんな状況の中、レオスは指示を正確に行い、できるだけうまく立ち回れるかのように見えるように動くように仕向けた。

 

「さて…、そろそろ」

 

そんなことをレオスが呟いた。

 

 

───その数時間後。

 

「くっ!!これ以上は…!」

 

「レオス先生指示を!!」

 

「レオス先生!!!」

 

「……?」

 

「あ、あれ?」

 

「「「「「い、いなくなってるうううううううううぅぅぅぅぅぅ!!!!」」」」」

 

突然いなくなったレオスに全員困惑した。

 

「「「「「え、ええええええええええええぇぇっぇぇぇぇぇ!!!!」」」」」

 

二組含め。

結局2組が勝利した…。

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

あるところに、一人の少女がいた。

その少女には大切な親友たちがいた。1人は祖父を受け継ぎ研究者となり、もう一人は母を受け継ぎ王女になった。そんな皆が成長する中、少女は物心ついて頃から所属している軍でいつものように敵を斬り、いつものように剣を振るっていた。

みんなはどんどん変わっていくのに、自分は何も変わらない。ただただいつも道理敵を斬るだけ、何時しかその少女はこう考えるようになった…。()()()()()()()()()()()()()()……と。

 

「なんだ、お前から呼び出しなど」

 

「…ん」

 

その少女は自分をどうにか変えるため、ある決心をした。

その少女は自分の同僚の男を呼び出し、机に封筒を置いた。

 

「なんだ、これは」

 

「ん、Project:Revive lifeの、簡略したもの」

 

「それで、なんだ」

 

「この術式、わたしに組み込んで」

 

「!!」

 

その男は驚いた。

その後封筒を開けて読み、冷酷な目を少女に向けた。

 

「ふざけているのか?」

 

「ん、マジ」

 

その少女は顔色をかえることなく断言した。

 

「Project:Revive lifeは、壊滅した。その術式制作したのはわたし」

 

「……」

 

その男は黙って少女の話を聞いた。

 

「これを使えば、わたしは、死んでも生き返れる。これでどれだけでも、みんなの役にたてる、どれだけ傷ついてもどれだけ痛めつけられても」

 

「落ち着け、お前は最近焦りすぎだ。何をそんなに焦っている」

 

確かにこの男の言う通りだとは少女も理解している。

しかし少女にはもう耐えられなかった。何も変わらない自分が…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

何かを変えたくて、みんなみたいに大人になりたくて、必死に仕事を頑張って頑張って…それが焦りとして出ていたのかもしれない。

 

「お前はその見た目だが、まだ幼いんだ。落ち着け、大人ぶるな」

 

「それが、分からない」

 

「…」

 

「わたしは、みんなと学院で頑張って、成長した。今だって成長できるハズ、なのにどうして……!大人ぶってない…!ただみんなと…同じ目線になりたいだけなのに…!なんでわたしだけ…!」

 

「だから、この術式をお前に入れろ…。と?」

 

男のその言葉に少女は頷いた。

 

「こんなこと、ほかの人には、反対されるのが分かってる…でも、アルベルトなら…」

 

「…」

 

「わたしは…普通の人じゃない。だから普通の成長が…できない、んだと思う……だからせめて、大切な人のために……」

 

「…わかった。やってはやるがそれはお前の心臓が停止した場合に術式が起動する仕掛けにする…。そしてそれをむやみやたらに起動させることは俺が許さん」

 

その男は優しくその少女の手を握りながら、冷酷な目を向ける。

 

「約束しろリィエル。一生使わないと」

 

「…ん、ありがとう」

 

 

 

★★★

 

「よし」

 

エルレイは何者かに打たれた直後、例の術式を使い復活し、夜…、レオスの部屋に忍び込んでいた。

 

「寝てる」

 

寝ているのを確認したエルレイは、即座にポケットから注射器を取り出す。その薬は、『天使の塵』の抗体から作られた()()()()だ。さっそくレオスに投与する。

 

「これで、大丈夫」

 

エルレイは薬を投与した後、クローゼットから1着服を頂戴する。

そして───。

 

「《刮目せよ・我が幻想の戯曲・演者は我・我は彼の声で歌わん》」

 

エルレイはセルフ・イリュージョンを詠唱し、体をレオスにして、レオスの服を着る。

 

「それにしても…あの時に対峙して死ねたのは…本当に()()()()だった」

 

エルレイは安堵するようにため息をついた。

あの場で暗殺されてなければ、エルレイは敵の居場所がわからず、レオスを救出する作戦が水の泡になるところだったからだ。暗殺されて、もう動かないと安心している奴らは、こんなことをしているなんて…夢にも思わないだろう。

 

「でも…なに、この違和感」

 

すべてが上手く進んでいる。

何もかもが自分の予想通り、そしていい方向に進んでいるはずなのに、何か胸騒ぎがする。

 

「…気のせい、だよね」

 

エルレイは気のせいだと思い込むことにした。

 

「上手くいきすぎてるから…そう思うだけ」

 

エルレイは自分の拳を握り締めた。

 

「そう、違和感なんて、ない」

 

この違和感が何かとんでもないことになるかもしれない。

そう思うと不安で仕方がない、今のリィエルはもう一度生成され、生まれたばかり、0歳の精神年齢と同じなのだ。

だから泣きそうなほど怖い、でも絶対に子供みたいに泣いてやらない。自分の事を理解してくれる親友のみんなのために、絶対に───。

 

 

大人になることはなくても子供には戻らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

「…ごめん、アルベルト。()()約束、破っちゃった」

 

レオスの姿をしたエルレイはそう呟き、その場をゆっくりと去っていった…。

 

「元凶さえ、潰せば…。今回の件は…終わる。だから、私頑張るよ…ルミア、システィーナ、シュウ、ロクサス…」

 

レオスの姿をしたエルレイは、自分の学院でいつも一緒に居た4人の名前を一人ずつ思い返す。

 

「どこかで私の事を応援してね」

 

 

 




よろしければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。

エルレイ2「さて、最後の仕上げ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジャティスとの戦闘

 

 

「……」

 

レオスの姿をしたエルレイは、夜に人通りのない細い道で、息で自分の手を温めながら歩いていた。

 

「……」

 

準備は万端、後は黒幕をつぶすだけ。そしてこの体でふらついていれば、すぐに接触するだろうと踏んでいた。

 

「…こい」

 

エルレイが夜の道を歩き始めてから数分、エルレイに正面から近づく黒い服を着たハットをかぶっている人影、ジャティスを見つけた。

 

(奴だ)

 

エルレイは相手からの接触を待とうと、何気なくその場を通ろうとする。

 

「ふっ、きちんと殺したと思っていたのにね。一応確認もしたはずだけど」

 

「…!へえ」

 

通り過ぎる直前。

ジャティスがそう呟いた…、バレていると判断したエルレイは、指を鳴らし、セルフ・イリュージョンを解いた。

 

「気付くの、早いね」

 

「その誉め言葉、素直に受け取っておこう。ところで、本物のレオス君はどこだい?」

 

「今は、病院、何の心配もない」

 

それを聞いたジャティスは顔を伏せ、不敵に笑った。

 

「なるほど、どうやってあの状況で生きていたのかは知らないが…、すべて君の手の中で踊らされてたってわけだ。まさかあそこでレオス君を助ける算段をつけているとは、流石に思わなかったよ」

 

「私も、その誉め言葉、素直に受け取っておく」

 

エルレイはそういうと、軽く一礼をしてからジャティスに向き直る。

 

「Project:Revive lifeを滅茶苦茶にして、あのエレノアが一目置いてるだけはある。ついでにもう一つ質問してもいいかな?」

 

「何なりと」

 

「レオス君と君は何か関係があるのかい?それとも偽善で助けようと」

 

「偽善、断言する」

 

そういうとジャティスは目を細めた。

 

「友達が、システィーナと、エレンが悲しむと思った。それだけ」

 

「くくくっ…。君は僕が思っていた以上に面白い存在かもね…」

 

偽善だと断言するエルレイに、またジャティスは不敵に笑った。

 

「使えそうだ…決めた。僕、君を持ち帰るよ──。()()のためにね」

 

 

 

 

「そ、()()()

 

そういうとエルレイは手を前に出し、詠唱を始める。

 

「《万象よ2つの腕手に・剛毅なる刃を》」

 

エルレイは詠唱をし終えると、大剣を両手に1本ずつ持ち、構えた。

 

「反撃してくれたほうが、気が楽」

 

「…驚いた。その複雑な魔術をそこまで早く詠唱できるのか」

 

そう言いながら、ジャティスは笑って。余裕そうに構える。

 

「おそらくあの時も、手加減していたのだろう、しかし…」

 

その時、エルレイの四方八方からタルパが出現する。

しかし前回戦った物ではない、炎に包まれた拳大の赤い結晶体に、一対の翼が付いたような謎の生命体。それらが計10匹。

 

「こいつらは、この間の奴らと比べ物にならないほどかたいよ?」

 

「そ」

 

エルレイはジャティスの言葉をめんどくさそう返し──。

ドスッ!ドスッ!と大剣2つをその場の地面に刺した。

 

「おや、いきなり戦意喪失かい?」

 

「まさか」

 

エルレイはポケットから一枚のカードを手に取り、掲げる。それは執行官ナンバー1《魔術師》のカードだった。

 

「なっ……!?どうして君がそれを」

 

「眷属秘呪、《第七園》」

 

エルレイの周りを炎が囲い、赤い結晶体のタルパが次々と炎にのまれ、消えていく。すべて消えたのを確認してからエルレイは《魔術師》のカードをしまった。

 

「本当に、ただ物ではないみたいだね」

 

ジャティスは冷や汗をかきながらニヤっと笑った。

 

「そっちが来ないなら、こっちからいく」

 

すぐさま大剣を2つ持ったエルレイは、構えて地面を踏みしめる。

 

「っ!」

 

瞬間───、エルレイは足を踏み出し、人間とは思えない速さでジャティスの前に現れて。

 

「やあああああああああああああぁ!!」

 

ジャティスの頭上に頭目掛けて切り付ける、が。

 

ガキンっ!!

 

それを読んでいたかのように、ジャティスは持っていた杖を盾にして両方の大剣を受け止めた。

 

 

「遅い」

 

「速さはっ……ね!!」

 

その後両手に力を入れ、バキバキと杖を壊す。

 

「っ!」

 

「やああああああああぁぁぁ!!!!」

 

杖を破壊し、振り下ろされた大剣2つをジャティスは避けようとしたが──。一歩間に合わず、ジャティスの両肩に命中し、そこから血が流れ出る。

 

「ぐっ!!!」

 

「…浅かった。次は仕留める」

 

エルレイは大剣に滴る血を見ながら、片方の大剣をジャティスに向ける。

そして。

 

 

 

 

 

 

「…くっくくくっ。どうやら僕だけでは無理らしい」

 

 

その後、エルレイが攻撃を連続で繰り出すがすべてジャティスに防がれてしまい。

ジャティスもまた、早すぎるエルレイに攻撃を当てることができずにいた。戦って数分、攻撃が当たらないので相手が悪いと思ったのかジャティスは諦め、後ろへ下がった

 

「今回のところは、引かせてもらうよ、悪いね」

 

 

 

「諦め早いね、貴方程度、すぐに倒せるから問題ない。次私の、友達においたしたら、これじゃすまないよ」

 

「ご忠告どうも、君が死んだときのグレンとセラの顔が楽しみだったんだが…当分、先になりそうだね」

 

そういうとジャティスは暗闇へと姿を消していった。

 

 

 

★★★

 

「レイちゃああああああああああああああああああああああん!!!!」

 

「く、くるしい…」

 

エルレイが久しぶりにセラの家に帰ると、エルレイをセラが見た瞬間に抱きしめてきた。

 

「もうっ!!すっごく心配したんだよ?」

 

「ごめん、でも置手紙はちゃんと置いた」

 

「え?!そうなの?」

 

「うん、そこにちゃんと」

 

「あ、ホントだ…」

 

どうやらセラは焦りすぎて周りが見えなくなり、青い手紙すら目に止めることなく学院まで駆け出したらしい。

 

「ごめん。でも有休も普通に取ったし、もうセラたちにも知らされてるとばかり…」

 

「じゃあ、私に愛想つかして出て行ったんじゃないんだね?」

 

「違う、どうしたらそうなるの」

 

エルレイはため息をついた。

心配させてしまったのは申し訳ないが、奴らと接触するのにはグレンやセラがいるとどうにもやりずらいのだ。

 

「よ、よかった~」

 

「ここを出てったら、私住むところなくなっちゃう」

 

エルレイはそんなジョークを言いながらキッチンに立ち、エプロンを取り出して着用する。

 

「お詫びに、何か作る、リクエストは?」

 

「しいて言うなら…、レイちゃんの愛情かなっ」

 

セラは、そういたずらっ子のように微笑んだ。エルレイは少し苦笑いをする。

 

「愛情ね、分かった…。血でも入れるね」

 

「え?!?!」

 

「冗談」

 

エルレイはセラにしてやったぜ、という顔を向けてから調理を開始した。

 

(…これで、最悪の状況は。無くなったはず)

 

これでエルレイの知らない間にグレンとセラに危険が及び、どちらかが死んでしまうという可能性。

そして、レオスが生きている事によってのエレンの負の緩和、問題はない…、ハズだ。

 

「あ、そういえば、グレン君がレイちゃんと私に決闘申し込むって」

 

「…え?」

 

突然のセラの発言に、エルレイは困惑した。

すべて終わったはず、なのになぜまた喧嘩を吹っ掛けられなければいけないのか。

 

「…何故?」

 

「なんか逆玉があきらめきれないみたい…。本心じゃないハズなのにね」

 

そんなことを言いながらセラは苦笑いをし、エルレイはため息をついた。

 

 

 

 

★★★

 

次の日、エルレイは今回の件が無事に誰も犠牲を出すことなく済んだことを安堵しながら教室へ向かった。

 

「よおおおおおおおおおおおぉぉし!!エルレイ!!セラ!!勝負じゃああああああああああああああああああ!!!」

 

何事もなかった(この後何も起こらないとは言っていない)と思い老けながらエルレイは、叫ぶグレンを見ながら冷たい目線でため息をつく。

 

「…どうしてこうなった?」

 

「いやね?確かに2組が勝ったけど、結局システィーナちゃんをどうするかでグレン君と私で揉めちゃって」

 

「あの時は、血が上ってたから仕方ないけど…、今は流石に落ち着いて話しよ?」

 

すべての今回の件が終わり。エルレイが安堵して肩の力を抜いて疲れているところをこれでは、疲れも取るに取れない。

 

「簡単に玉のこしを諦めてたまっかよ!!」

 

「私だって、システィーナちゃん娘にほしいもん!」

 

「エルレイでも娘にしてろ白犬!!」

 

相変わらずの謎の喧嘩に、エルレイはため息をついて、システィーナの元へ寄る。

 

「ごめんね、システィーナ、なんだかんだで、変な事巻き込んじゃって」

 

「あ、いえ!?エルレイ先生に謝られると…何も言えませんよ」

 

エルレイは苦笑いをしながら、ふと疑問に思ったことをぶつけてみた。

 

「そういえば、この3人の中で、一緒に暮らすとしたら誰?適当でいいよ」

 

「えっと…、そう…ですね」

 

まあ、自分のいた世界ではシスティーナとグレンがくっついてるからどうせ……。あれ?

 

(セラもいるから…グレンって、誰とくっつくんだろ)

 

見ている感じだとセラとくっつきそうではあるが、エルレイからして見れば自分の知るシスティーナとグレンがくっついてるのが自然なわけで…。

 

(…ロクサスがいないし、ルミアって可能性もある。でも、イヴの弟のシュウがいないから…イヴの可能性も無きにしも…)

 

エルレイは、よくわからない他人の恋路を考えていると。

 

「エルレイ先生…ですかね?」

 

「…ふぇ?」

 

エルレイの名を出されるとは思わなかったので、エルレイは変な声を上げてしまう。

 

「えっと…。魔術の事詳しく教えてくれそうだし…かっこいいし…」

 

そんなことをシスティーナが俯きながら言った。

百合はエルザだけで十分…。そんなことをエルレイは思ったがなぜか悪い気はしなかった。

 

「ありがと、うれしい」

 

そういうとエルレイはシスティーナの前にいちごタルトを差し出す。

 

「ありがとタルト…ですか?」

 

「そ」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

そういうとサクサクとシスティーナは食べ始めた。

リィエルがじっとこちらを見てるので、とりあえずいちごタルトをあげたらサクサク食べながら黙った。

 

「エルレイ先生って…、ホントに気品があるというか…憧れます」

 

そんなことをルミアが笑顔で言ってきた。

 

「私にあこがれても、ロクな事ないよ?」

 

「そうですか?とっても大人っぽくて。時には小動物みたいで可愛くてって、すっごく生徒の評判いいんですよ?」

 

…この際、小動物で怒るのはやめよう…。自分のクラスメートにも言われたことあるし。

 

「…ん、ありがと」

 

「ふふっ、少し赤くなりましたね」

 

「______!///////」

 

どうやら自分でも気が付かないうちに小動物みたいで可愛い、ということに照れてしまったようだ。

エルレイは必死に隠すように、即座に喧嘩をしているセラとグレンに手袋を投げる。

 

「わっ!!」

 

「あぁ?!」

 

二人とも手袋に驚き、エルレイのほうを反射的に見る。

 

「システィーナは二人の物じゃない、私の物」

 

「お前あんときの決闘休んだくせに!!」

 

「それとこれとは話が別、さぁ、やろう」

 

エルレイは素晴らしい笑顔で(目は笑っていない)二人を見つめて微笑んだ。

 

(ぐ、グレン君…どうしよ?)

 

(お、俺らじゃエルレイ、もといリィエルに勝てないことは目に見えてるからな)

 

(じゃあ…)

 

(ああ…)

 

その後数秒の沈黙の後…。

 

 

 

「「にいげるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」

 

二人は一目散に逃げた。

 

「システィーナは渡さない、たとえ二人であっても…死」

 

エルレイはそう微笑みながら、(目は笑っていない)教室にすぐに戻るから自習をしているようにつげてから、二人を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

「ほほぉ、こりゃまた…」

 

バーナードはエルレイとジャティスが戦闘していた場所を見ながら唸った。

 

「まさかジャティスをたった一人で食い止めるとはのぅ…」

 

「自分の騎士長様です、これくらいは当然ですっ!」

 

エルレイの事をまるで自分の事のように胸を張るエザリー。

 

 

「しかし、ここまで痕跡がないとは…」

 

クリストフは地面を触りながら苦笑いをいた。

そう、戦闘していた痕跡はどこにもないのだ。あるものと言えばジャティスの血ぐらい…、どこも破壊された箇所はないし、クレーターができてもいなかった。

 

「流石、未来の人形ってとこね」

 

ふんとイヴは鼻で笑った。

おそらく未来のリィエルだとしても、リィエル1人を危険な目に遭わせたのが気にくわないんだろう。エザリーは苦笑いをした。

 

「それ、基本的に、リィエルに言っても嫌味ととらえてくれませんからね?主にイヴさんの言葉では…」

 

「…ふん」

 

また鼻を鳴らしたイヴ。エザリーは座り込み、地面を確認する。

 

「リィエルの…。血はない、見たい、よかった」

 

「安心している場合ではないぞ。味方であるなら頼もしいが、敵だとするなら厄介だ」

 

「かあぁ~~、アル坊や、頭が固すぎるわい…」

 

「でも確かに、エザリーさんは我々の仲間として動いてくれてますけどこの方は…」

 

そんなエルレイの疑惑を打ち消すように、エザリーはぱんぱんと手を叩いた。

 

「大丈夫ですよ。うちの騎士長様は、だれにも悟られることなく敵を倒し、悟ったころにはもう、後の祭り───。そんな芸当ができる自慢の上司ですから♪」

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

「結局何もなかった…」

 

エルレイは教室のすみに座り込み、妙な胸騒ぎが特に何も引き起こさなかった事に安堵していた。

 

(…)

 

終わった、終わったはずだ。

しかし何か引っかかりがある、それが分からない。

 

(…考えても仕方ないか)

 

そう思いながら、エルレイは自分のポケットからいちごタルトを取り出して、頬張る。

 

「頂戴」

 

「え……。わっ!」

 

また突如いたリィエルに驚いてしまったが、いつも道理落ち着いていちごタルトを渡す。

 

「そいつ、お前が渡したいちごタルトしか最近食ってねえんだよ」

 

「ん、そうなの?」

 

「うん、学食だと最近ほとんどリィエルちゃん食べないから」

 

「それは めっ」

 

エルレイはぺちっとリィエルの頭を叩いた。

 

「痛い」

 

「それって、リィエルが夢中になるなんか薬でも入ってんの?」

 

「Project:Revive lifeの、精神安定薬が……一応」

 

「…すまん、マジで入ってたのか」

 

まさかホントに入ってるとは思わなかったのか、グレンは苦笑いをした。

 

「ところでレイちゃん。何か考えごとにふけってる、みたいな感じだったけど大丈夫?」

 

セラが心配そうに顔を寄せてくる。

 

「大丈夫」

 

そう、大丈夫。

システィーナにドレスを着せられなかったのは悔やまれるがそれだけだ。

それ以外には何もないはず、何もないはずなのに、こわい、こわいこわい……肉体生成をした反動がまだ残ってるのだろう、エルレイは体を少し震わせた。

 

「体、震えてるよ、大丈夫?」

 

「……!」

 

そういうと、セラは優しく抱きしめてくれる…、心地いい。

フワフワする…、今まであったもやもやが一気に吹っ飛んだみたいだ。エルレイは軽くため息をついた。

 

「……ちょ…と」

 

「…なに?」

 

「もうちょっと…、抱きしめてて…ほしい」

 

これは子供としての感情だとはわかっている。

分かっているが、心地よさにはあらがえなかった。

 

「!うん、ぎゅううううううううう!!!」

 

「…」

 

前言撤回。抱きしめるのはいいけど苦しい、死ぬ。

 

「ごめん…やっぱやめて…」

 

「さっきレイちゃんが抱きしめてって言ったんじゃん!!」

 

「お前な…抱きしめるにも限度あるだろ。軽く白目向いてたぞ…。エルレイ?大丈夫か?」

 

そう言いながら、グレンはエルレイのもとに駆け寄ってくる。

 

「ん、大丈夫、何かに満足した…。苦しかったけど」

 

「苦しかったけどな」

 

「二人して苦しいを強調するなあああああああああああああああぁぁ!!」

 

 




よろしければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。

エルレイ2「アンケートしてくれた人、協力ありがと」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

六巻
姫の予感


思ったより書いてほしい意見が多かったのでうろ覚え原作知識で書きまーす(血涙)


レオスの1件が終わり、安堵していたエルレイ。

 

これ以上の地獄は

 

ないだろうと信じたかった。

 

されど人生最悪の日は

 

いつも唐突に。

 

「グレン君、君クビね、君がいなくなったら担任はエルレイ君、副担任はセラ君にやってもらうよ」

 

「「「…え?」」」

 

不意に2組の三人に突き付けられた、リック学院長の余りにも無慈悲な最後通牒。

 

「「え、えええええええええええええええええ!!!」」

 

アルザーノ帝国魔術学院にて、グレンとセラの素っ頓狂な叫びが響き渡る。

エルレイはなにが起こったかもわからず、口を開けて困惑している。

 

「ど、どうゆうことですか?!グレン君がいきなりクビなんて!」

 

動揺しながらセラは、学院長に猛抗議しようと詰め寄る。

 

「お、俺、クビになるようなことは───…た、多分、一つもやってないっすよ?!」

 

「そこは断言しよ?学院長。なぜ…クビになるのか、理由をお聞かせを」

 

エルレイはセラの背中を、ポンポンッと叩いて落ち着かせた後、落ち着いて問いただした。

 

「すまない、先程の物言いには語弊があったのぅ、訂正しよう」

 

「……語弊っすか?」

 

「うむ、より正確には『君、このままだとクビになるぞ』のほうが正しい」

 

「そ、それっていったいどうゆう──」

 

と、セラとグレンが学院長の言葉に食いついているその時。

 

「ったくバカだ、バカだとは思っていたが。まさかここまでバカだとは思っていなかったぞグレン」

 

壁に背を預けたセリカが、グレンたちの会話に割って入った。エルレイでもわかるほど、相当お怒りのご様子。

 

「エルレイ、この間の魔術論文の提出期限覚えてるか?」

 

そんなことを聞いてきた。エルレイは特に動揺することなく答える。

 

「論文…魔術論文の提出期限なら、1週間前。だったはず……え、まさか」

 

「そのまさかだ…グレンの奴…、それを提出してない」

 

エルレイとセラは何とも言えない驚愕の顔をする。

 

「ぐ、グレン君?」

 

グレンは鳩が豆鉄砲をくらったかのような顔で二人に助けを求める様に視線を動かしていた。

 

「……なにそれ、それ、俺も書かなきゃダメなの?」

 

「いやいやいや!!業務規定書読んでないの?!それ書かないとホントにまずいやつ!?」

 

そんなグレンにセラは両肩を掴みながら怒鳴る。

 

「なるほど、それで解雇になりかけ、と」

 

エルレイは片手で顔を覆いため息をついた。まさか論文をグレンがやっていないとは、完全な想定外である。

 

「講師職の雇用契約の更新条件は、定期的に研究成果を魔術論文にして提出すること──これはれっきとした魔術学院ルールだ、ルールの穴をついて、お前を講師職にねじ込んだ時と状況が違う、いくら私だってさすがに庇えないぞ?どうするんだよ?」

 

「セリカ、セラ、良いことを思いついた。このまま無職引きこもり生活にもど──」

 

「「却下!!!」」

 

この期に及んでふざけたことを抜かすグレンに、セラとセリカは容赦なく蹴り倒した。

エルレイはとても軽蔑した目でグレンを見ていた。

 

「グレン…」

 

「そんな顔するな、エルレイ。冗談はここまでだ」

 

よろよろとグレンが立ち上がり、学院長に真っ直ぐ向き直った。

 

「何とかなりませんか、学院長、こんなこと俺が言う資格なんてないですけど……俺もう少し、この二人と一緒に講師続けたいんです。せめてあいつらが卒業するまでは」

 

そんなグレンにセリカとセラは驚愕の目を向けていた。そんなことを今のグレンが言うとは夢にも思ってなかったのだろう。

 

「ふむ……」

 

その珍しく殊勝な態度のグレンに、学院長も神妙な面もちで押し黙る。

 

「論文の提出、もう少しだけ待ってください!必ず何か書いて提出しますんで…お願いします、チャンスをください!!」

 

(白々しい……)

 

エルレイはそんなグレンを見ながら、一番にその単語が浮かんだ。

どうせクビは流石にヤバいとか……、そんなことを考えながら頭を下げているに違いない。そんなことをエルレイは思った……。

それはリィエルとしてのグレンとの付き合いの長さから、顔の表情一つ見なくても大体何を考えてるかはわかるのだ。

 

(さすがに……この白々しいのには…セラもセリカも気付いて───)

「そこまでして魔術講師を続けたいだなんて……よかった…お前、本当に変わったんだな…本当に良かった…」

 

「グレン君…。私は……ずっと信じてたよ?…優しくて頑張り屋さんなグレン君がいつか戻ってきてくれるって…」

 

涙を拭うしぐさをしているセリカとセラ、その表情は、まるで何か救われたかのよう……。

 

 

(ば か し か い な い の か こ の 学 院 )

 

エルレイはこんな状況にため息をつきながら見つめていた。

 

 

 

★★★

 

そんなこんなでタウムの天文神殿への再調査を乗り出した三人。

そこは危険度も高くないこともあり、生徒たちも連れて行こうという話になった(人件費削減のグレンの屑行動)

 

「そんなわけで、タウムの天文神殿へ行く、行きたい人」

 

エルレイは教室で、行きたい者がいるか即座にアンケートを行った。

 

「あの、それってもしかして…。グレン先生の噂の事と関係が?」

 

「勘のいい子は嫌いだよ……」

 

小さな声でそんなことを聞いてきたギイブル。

そういえば論文をやっていないと言う噂が流れていたが、流石にそれはないだろうと決めこみ、信じてなかったが……。

まさか事実だとはエルレイも想定外だった。

 

「えっと…。じゃあわたしはいきます!」

 

「ルミアが行くなら、私も行く」

 

ルミアとリィエルがすぐに、名乗り出てくれた。この調子ならすぐにシスティーナも。

 

(…あれ?)

 

なぜか不機嫌そうなシスティーナ。

おそらくプライドが邪魔をして、名乗ることができないのだろう。そんなこんなでかなりの2組の生徒が参加してくれることになった…。ありがたい限りだ。

 

「おっけー、これでいきたい人は全員だね?じゃあ詳しいことは後のミーティングで」

 

「まって」

 

セラが手をおぱんぱんと叩いて、応募を締め切ろうとしているところをエルレイは止めた。セラは不思議な顔をする。

 

「ん?どうしたの?」

 

「連れていきたい人がいる」

 

そういうとエルレイはその場から数歩歩き、ある生徒の目の前まで来た……その生徒は。

 

「エルレイ………先生?」

 

何か…、もう完全に元気がなくなっているシスティーナの元へだ。

 

「君が、一番こういうのは向いてるし、将来的にも、役に立つよ、ついてきてくれない?」

 

エルレイはしゃがみ込み、システィーナにそう言った。するとシスティーナは元気を取り戻したかのように。

 

「し、仕方ないですね!エルレイ先生がいうなら仕方なく!行きます!仕方なくですからね!普段エルレイ先生にはお世話になってますしその先生からの提案を破棄するようなこと私にはできないですしそもそも────」

 

そんなことを言いながら、システィーナはうれしくてたまらない様子、エルレイは苦笑いしながら、その場にいる全員、こう思った。

 

((((やれやれ、面倒な子だなぁ……))))

 

 

 

 

★★★

 

『リィエル…リィエル…』

 

「……ん…?メロンパンを買ってくるのです?」

 

『違うよ!…気を付けて』

 

「なに……ひめ」

 

『何か胸騒ぎがする…』

 

「……胸騒ぎ?」

 

『今回の調査、十分に気を付けて…』

 

「…わかった。エリエーテ様、おおせのままに…」

 

『君にそういわれると何かくすぐったいな』

 

「急に夢に出てきた仕返し…。じゃあね」

 

『ああ、気を付けて』

 

・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「……ん」

 

エルレイが目を覚ますと、そこは馬車の中だった。

どうやら移動している途中で眠ってしまってらしい。エルレイは欠伸をしながら周りを見渡した。ギャンブルをしていたり、皆それぞれで楽しんでるようだ。

 

「あ、レイちゃん、おきた?」

 

隣りにいたセラが優しい声で話しかけてきた。どうやら結構寝ていたらしい。

 

「……ん」

 

「いい夢はみれた?」

 

「……まあまあ」

 

夢の中に知り合い?が出てきたことを思い出し、あいまいな返事をセラに返す。

 

「まあまあか~、まっ、私はレイちゃんの寝顔見れたからいいんだけどね」

 

「……そ」

 

セラのよくわからない反応に、どう言ったらいいかわからず…苦笑いでエルレイは返した。

 

(ひめ…、一体何をそんなに心配してるの?)

 

最近疲れてるせいか、昔起こった出来事をロクに思い出せれない。もしかしたらレオスの一件であの術式を使ってしまったからその反動が出ているのかもしれ───

 

「……?」

 

「ん?レイちゃんどうしたの?」

 

「何か可笑しい」

 

「え?」

 

周囲を見渡していたエルレイはある違和感を覚えた。

何故なら乗っている馬車は、左右鬱蒼と深く茂る森沿いを走っているからだ。こんなルート使わなくてもタウムの天文神殿には行けるハズ、なぜ。

 

「業者さん、このルート、可笑しくはありませんか?」

 

「……」

 

業者はエルレイの疑問を無視し、そのまま黙々と馬車を操り続けている。

 

「黙ったままならば……」

 

エルレイは懐から拳銃を取り出し、業者に向ける。

 

「撃つ」

 

「ちょ、ちょっとレイちゃん落ち着いて…」

 

セラがエルレイを宥めようと近づいてきた。

 

────その時。

 

馬車の左右の鬱蒼と茂る森──その薄暗い森奥から。ざざざざ──と複数の何かが駆け寄って

近づいてくる気配。

 

「…気が緩みすぎていた」

 

エルレイはくやしそうに唇をかんだ。

その瞬間馬車の前方と後方、森の茂みの中から、無数の黒影が飛び出してきた。その影たちはあっという間に馬車を取り囲み、それに驚いた馬はその場に止まってしまった。

 

「シャ、シャドウ・ウルフ!?」

 

システィーナは驚愕の声を上げる。

シャドウ・ウルフとは鋭い爪と牙、らんらんと光る眼、読んで字のごとくの影のように真黒な毛並みを持つ…、狼型の獣だ。

 

「あ、あ……ぅ…ひぃ……魔獣……あんなにたくさん」

 

「うう……どっ、どうして私がこんな目に…っ!」

 

生徒たちが混乱している、このままではまずい。

リィエルをルミアが起こそうとしているが全く起きる気配がない。

 

(寝てる間に…こんなことあったなんて)

 

「みんな、落ち着いて、セラ、みんなの事任せる」

 

「う、うん!」

 

エルレイはそういうと、業者に向けていた銃を数十体はいるであろうシャドウ・ウルフに銃口を向ける。

 

「…数が多すぎる」

 

エルレイは仕方ないという顔でもう一丁拳銃を取り出して、二丁拳銃で構えて、何かを詠唱し始めた。

 

「《おいでなさい・ザフキエラー》──!」

 

エルレイがそう詠唱すると、エルレイの後ろに錬金術で生成された小さな金色の時計のようなものが宙を舞う、その時計はエルレイが弾丸を発射したと同時に時計の針が一回転し。

 

バシュン!!

 

片手拳銃とは思えない速さでシャドウ・ウルフへ飛んでいき、頭をぶち抜く。

バシュン!!バシュン!!バシュン!!バシュン!!バシュン!!バシュン!!

エルレイは高速化した弾を使い、シャドウ・ウルフに向けて撃ちまくる。

 

「さ、さすがエルレイ先生!俺たちにできない事を平然とやってのけるっ!!」

 

「「「「そこにしびれる憧れるぅ!!」」」」

 

「う…うるさい」

 

カッシュを筆頭に騒ぎ出す生徒たちをエルレイは顔を朱色に染めながら口で宥める。

……そんなとき。

 

カシュッ、カシュッ

 

「っ、弾切れ」

 

エルレイは現在交換用の弾を持参してきていない。

なので詠唱して生成し、球を補充する必要があった。エルレイはすぐさま詠唱しようとした……、その時。

 

「エルレイ!いったん下がれ!」

 

そんなグレンの声が後ろから聞こえた。エルレイはその指示に従い、生徒たちが居るところまで下がった。

 

「この不届き者め!俺の生徒たちに手をだそうたぁ、いい度胸じゃねえかっ!」

 

威風堂々と腕を組んだグレンが、不敵にそう言い放ち……。

 

「この俺が成敗してくれる──とうっ!」

 

窓の珊に足をかけ、跳躍、そのまま馬車の外へ飛び出し──。

 

「──ふっ!」

 

前方宙返りにひねりを三回加え、きれいに着地……。

 

ぐぎり。

 

決めれるわけがなかった。

グレンの右足首から、変な音がした。

 

「ああああああああああああああああ!!!アシクビヲクジキマシタァァァァァ!!」

 

 

(なんで私は素直に下がっちゃったんだろう)

 

エルレイはこの光景を見て両手で顔を隠した。

 

「グレン君!!なんで舗装されてない場所でカッコつけようとするかなぁ!」

 

「グレン、やっぱりいい、さがっ──」

 

エルレイがそんなことを言おうとした瞬間。

 

「《罪深き我・逢魔の黄昏に独り・汝を忍ぶ》」

 

不意にエルレイの耳へ、そんな呪文が届いた。

その刹那、ひゅご─、と御者台空旋風が吹き荒れて、グレンを襲おうとしていた、魔獣の鮮血がまき散らされ、空に飛んで行った。

 

「…セリ、アルフォネア教授??」

 

「ム?気付くのが意外と遅かったなエルレイよ」

 

「なんだ、お前いたのかよ」

 

そんなことを言いながら、業者の者はフードを取った。そこに現れたのはセリカだった。

 

「しかし、お前のあの高速弾丸は驚いたぞ?オリジナルか?」

 

「……違う、親友の精霊術のアレンジ」

 

「精霊術?」

 

エルレイが先程使っていたのは、ロクサスという者の戦闘スタイルの一つを真似ようとしてできたものだ。なのでエルレイのオリジナルというわけではない。

 

「まあ、いい、とりあえず後は私がやるさ」

 

「了解、です」

 

そういうとセリカは剣を片手に戦闘を始めた。それはあまりにも一方的な虐殺だった。

視界の端から端へ、霞消える様に高速移動し、剣を振るうセリカ。この攻撃をすべて見切れるものはほとんどいないだろう。

 

(…やっぱり、ひめみたい)

 

エルレイはセリカの戦いを見ながら、夢の中に出て来た者がセリカの戦闘を見ていてフラッシュバックした。

 

 

★★★

 

「なんかレイちゃんって何でもできるよね」

 

「……ん?」

 

セリカの戦いを見終えた後、馬車の中でセリカ、グレン、セラに囲まれ、話しかけてきた。

 

「二丁拳銃なんてほとんどだれも使ってねえだろ、それにお前剣術の伊能もあるしよ」

 

「私の剣術は、シュウの受け売りで、二丁拳銃はロクサスっていう人のかじった」

 

「シュウって、たしかレイちゃんの初恋の人だったよね?」

 

エルレイはこくりと頷く。

 

「あれほどの二丁拳銃の腕前、受け売りのロクサスとやらは相当強いのだろうな」

 

セリカはにかっと笑いながらエルレイに向けて言う。

 

「つよ…い?」

 

確かにロクサスは強い、それは事実だ。

しかしあれを強いというカテゴリで分類していいものか……、寧ろロクサスという少年自体が()()だとエルレイは思っていたので、少し言いよどむ。

 

「その二人は、エルレイにとってマジで大切な二人なんだな、どんな奴らなんだ?」

 

どんな奴ら……シュウと、ロクサス、どんな奴。

エルレイは少し唸った後に、同級生を例える言葉とは思えない言葉を口にした。

 

「ツンツンデレクソ野郎、と超絶ダメ人間製造野郎、かな」

 

「「「……え?」」」

 

三人とも目を丸くした。

 

 

 

 




エルレイ2「エルザ、ロクサスって強いで、良いのかな?」

エザリー「え?何急に……」

エルレイ2「いや……人間の強さじゃないし、なんていえばいいのか…天災かな?」

エザリー「…ブラックホール。じゃない?」

エルレイ2「それだ」

良ければ評価、感想をよろしくお願いいたします、励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

予感の原因

深夜テンションで書いたぜイェイ(眠い)


そんなこと昔の親友のどうでもいいことを話したり、グレンの昔の話をセリカがしだしたりと色々な話をしているうちに、やがてタウム天文神殿へ着くのだった。

 

「あれが、タウム天文神殿……」

 

システィーナがぼそっと呟いた。

石で造られた、不思議な幾何学文様が、石で構成されたその壁面にびっしりと刻まれている。独特な建築様式で造られたその神殿は、背後に背負う圧倒的な勝景に負けることなく、その確かな存在感を誇示しながら、そこにあった。

 

「システィーナの本領発揮、だね、いい感想を抱いてくれることを、期待してるよ」

 

「はい!エルレイ先生!」

 

エルレイがそう言うと、システィーナは嬉しそうに微笑みながらはっきりとした声で返してくる。

 

(……大丈夫、だよね)

 

再生の術式を使用してからうまく頭が回らない。

ここで何があったか、何かあった気はするが、靄がかかったように思い出せないでいる。

 

「ねえね、大丈夫?疲れた?」

 

「……大丈夫、問題ない」

 

「……そ」

 

心配してくれるリィエルに、やさしくちょっとふざけて返すと、ふざけていると思われてないのかまだ心配そうな顔でちらちらこちらを向いている。

思ったより自分が思い悩んでいることをリィエルの顔を見て自覚し、リィエルの頭をそっとなでる。

 

「……ん」

 

リィエルは気持ちよさそうに目を閉じた。自分で自分を撫でるのはなんとなくむず痒い。

 

「本格的な調査は明日から、今日は野営だ、野郎どもはテントを張れ、リンとテレサは夕食の準備を、セラ、リンとテレサのお守り頼む」

 

「りょうか~い」

 

グレンの指示にセラは手をフリフリと振って答える。

 

「セリカ、念のため野営場周辺に守護結界の敷設を頼む、白猫、ウェンディはその補佐だ、ルミアは馬の世話を。リィエル、エルレイ、お前らは周囲を哨戒し、危険な魔獣がいないかどうか探れ。いたら遠慮なくやっつけていいからな」

 

「質問、グレンのその間、何をしている気」

 

「ふっ、決まっているだろう?」

 

エルレイのその質問にグレンは不敵な笑みを浮かべ、唐突にその場に横になる。

 

「……疲れたから寝る……夕食出来たら起こしてね~…ふぁ~おやすみ~ぃ……」

 

「《アンタも・何か・働きなさいよ》──っ!」

 

「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」

 

システィーナが即興改変で唱えた。ゲイル・ブロウがグレンを吹き飛ばす。

 

「《皆ばっか・働かせて・貴方っていう人は》──っ!」

 

「ギブ!ギブ!ごめんなさいっ!すみませんっ!ちょっと調子に乗りすぎました、ひぃいいいいいいいいいい───っ!電撃はやめてええぇぇ!」

 

「システィーナちゃん!電撃やめてウィンド系で学院まで贈り返してあげて!」

 

「《分かりました・セラ先生・そうします》──っ!」

 

「白犬ッ!余計な事をぎゃあああああああああああああああ!」

 

その場はたちまち大騒ぎとなる。エルレイは苦笑いをしながらその光景を見ていた。セリカはその光景を愛おしそうに一瞥し、ふっと笑みをこぼした。

 

「微笑ましいものだな、こう見ていると」

 

「自分には、いちゃついてるようにしか、見えません」

 

エルレイは今後セラとグレン、システィーナが三角関係になる想像がありありと浮かんできて、ため息を漏らす。

 

「……タウム天文神殿…ここなら、あるいは……」

 

「ん……、どうしました?」

 

「いや、なんでもない」

 

何かを言ったようだが聞き取れずにエルレイが聞き返すが、セリカは軽く返すだけだった。

 

 

★★★

 

遺跡に到着した次の日。万が一の時のため、セラと、セシルやリンなどの何人かの生徒を待機、連絡班として守護結界内の野営場に残し、エルレイたちはさっそく、遺跡内へと足を踏み入れた。

グレンを先頭に、アーチ型の神殿入り口から遺跡内に入ると、すぐに日の光は届かなくなり、視界は闇が支配的な暗黒世界へと変貌した。実はこの遺跡、巨大な1枚岩を掘削して形作る、という謎の建築様式で造られたものであり、外から日の光を取り入れる機構が何一つない。

ゆえにグレンが指先にともしたトーチ・ライト……、魔術の光を頼りに一歩一歩少しづつ、遺跡内を進んでいく。

 

そんなエルレイたちを手荒く歓迎する者たちがいた──。

 

「こ、こんなの聞いてませんわ!ここは安全な遺跡なのでは──」

 

「いいから撃て!!ほらきたぞ!!」」

 

「ああもう!今回、こんなのばっかりですわ!」

 

そこには人影が実体化したようなもの…羽根を生やした小さな妖精のようなもの……人だまりのようなもの…、様々な形取った異形たちが、グレンたちを襲う。

 

「《魔弾よ》!《続く第二射》!《更なる第三射》──!」

 

「ええいままよ──《魔弾よ》!」

 

「わ、《我は射手。原初の力よ・我が指先に集え》!」

 

と、生徒たちが反撃している。

エルレイが参加しない理由は簡単で、極力生徒にやらせてみようという、セリカの申し出に答えたのだ。

 

「ったく……極力、生徒達にやらせようだなんて、お前、無茶言うよなぁ…」

 

生徒達の戦いが終わり、固唾をのんで見守っていたグレンがほっ~、と安堵の息を吐く。

 

「お前は過保護すぎだグレン。最近セラに似てきたぞ?」

 

「うっせ」

 

そんなグレンとは裏腹にセリカは余裕綽々だ。

 

「私の自慢の弟子であるお前の、自慢の教え子たちが、この程度の相手に負けるわけないだろう。そもそも半人前でも魔術師ならこれくらいできんとな」

 

「だ、だがよ」

 

「今回は、教授に同意」

 

エルレイが過保護すぎるグレンを見かねて、口をはさんだ。

 

「バックに私たちもいる、何かあったら助ければいいし、みんながなにも経験できないのはかわいそう」

 

「エルレイまで…まあ確かにそうだが、それにしても…」

 

ちらりとグレンは異形たちがやってきた方向を一瞥する。

 

「ったく……まさか、遺跡内に狂霊が沸いてやがったとはな…」

 

狂霊──霊脈の影響で存在が変質し、狂化した妖精や精霊──荒ぶる自然の体現だ。

妖精や精霊が狂化すると目につくものを片っ端から襲う危険な存在になってしまうのだ。

 

「別に不思議じゃないさ、もともと、こうゆう場所は沸きやすいんだ、主だった古代遺跡は霊脈の経路上に建造されていることが多いから……ま、しばらくは総統選が続くだろうな」

 

「ったく、何が探索危険度F級だよ!どんだけ長期間、放置されてたんだっつーの!」

 

「ここには、目新しいものなんてないって思われてたから、そもそも誰も調査しようと思わない」

 

そして、セリカはにやにやと悪戯っぽくグレンとエルレイを流し見る。

 

「…お前ら、私がいてよかったな?いなかったらとんぼ返りだったぞ」

 

「……ぐっ」

 

「否定しない」

 

グレンは悔しそうな顔を浮かべ、エルレイは特に感じることも無いので無表情で返す。

ここまで敵が多いとはエルレイ自身も思わなかったので、おそらく生徒の危険を第一にして、撤退していたに違いない。

 

「へーいへい、どーせ俺は不出来ですよ、生徒をよろしくお願いしますよお師匠様?」

 

「……ふふっ」

 

「……」

 

こうして二人を見ていると、まるで本当の親子のようだ。親……、少しうらやましいと思ってしまった自分がいる。

 

「……さて、みんな下がって、そろそろみんな、マナがつきかけるころだと思うから、後は私がやる」

 

そう言ってエルレイは生徒たちの前へ出た。

 

「え、エルレイ先生、あの数を相手にするおつもりですの?」

 

「さ、さきほどのシャドウ・ウルフの戦闘で疲れてるんじゃ」

 

生徒たちが心配をしてくれる、うれしいことこの上ない。

 

「ありがと、でも大丈夫」

 

そういうとエルレイは自分の肩を触ってから詠唱を始めた。

 

「《原初なる炎よ・古き契約に従い・我が力として顕現せよ》──!」

 

エルレイがそう詠唱すると、数十個の青い炎の塊がエルレイの近くを舞っていた。

 

「「「「えええええええぇぇぇ!!!」」」」

 

「《ストロベリー・アッセム》」

 

エルレイがぴっと自分の手を敵に向けると、無数の青い炎が一斉に散開し、迫りくる狂霊を追尾するようにして一瞬にして殲滅してしまった。

 

「「「「………」」」」

 

ほんの一瞬の出来事に、生徒たちはおろか、グレンやセリカも呆気に取られている。

 

「みんな、お疲れ様、とりあえず休憩、はい、いちごタルト」

 

そういうとエルレイはいちごタルトをみんなに差し出すように大量に手に持つ、リィエルはすぐに反応して、サクサクと食べ始める。そして数秒立ってから。

 

「みんな、どしたの?」

 

「「「「エルレイ先生マジカッケェェゼ!!イェェェアアアアァァァ!!」」」」

 

「……だからそういうの、良いって」

 

またいつものように騒ぎ出す。

エルレイがまたまたお決まりのように顔を赤く染めながら、生徒にいちごタルトを渡していく。

 

「……あれがリィエルの大人の力か?なかなかどうして末恐ろしいな」

 

「奇遇だな、俺も丁度そう思ってたところだ」

 

そう言いながら二人は苦笑いをした。

 

 

 

★★★

 

そんなこんなでエルレイたちはいくつかの通路を行き、曲がり曲がり……。

時折遭遇する狂霊を撃退しつつ……やがて一行はその場所へとたどり着いた。

 

「さて、あそこが第一祭儀場か」

 

そういうグレンの前には…通路の奥にアーチ上の出入り口があり、広間があるようであった。

 

「そうだね、多分ここ」

 

「エルレイ、いったん生徒任せる」

 

グレンはそういうと、背中のベルトにさしたパーカッション式リボルバー銃を確認しつつエルレイにそう告げる。

 

「ま、何もねーとは思うが…一応、俺が先に入って安全確認してくる。お前らはちょっとここで待っていろ、全部エルレイに任せるわけにもいかねえしな」

 

「ふふ、生徒のために体を張る…。なかなかかっこいいじゃないかグレン」

 

ニヤニヤとからかうように言うセリカ。

 

「これくらいはマジでやらんと、後で白犬になんて言われるか分かんねえしな」

 

「1人で大丈夫か?怖かったら私もついて行ってやろうか?」

 

「うっさいわい!ガキ扱いすんな!!」

 

「……ふふっ」

 

「何笑ってんだエルレイいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

 

流石に笑わずにはいられなかった。

兄貴分であるグレンが完全にセリカの前だと何か子供のような素振りを見せるのが、なかなかどうして新鮮で。新鮮すぎて逆に笑えてきた。

 

・・・・

 

「ふふっ……エルレイ、お前を講師にしたのは間違いではなかったようだな」

 

「…なぜ?」

 

突然のセリカの言葉にエルレイは疑問の声を上げる。

 

「そりゃあ、お前が想像以上に面白いやつだったからだ」

 

「面白い?」

 

「ああ、あのグレンが生徒をお前に預けることができるくらい信頼してるんだ。お前がリィエルであったとしても、なかなかそこまでの信頼をつかみ取れるもんじゃない」

 

「…どうも」

 

急に褒められてエルレイは俯いてしまう…、恥ずかしいのだ。

 

「で、どうだ、本格的にここの講師になるというのは」

 

「本格的に、ですか」

 

「ああ」

 

エルレイの確認にセリカは頷く、魅力的な提案だ。正直この生活もぜんぜん悪く無い、ここが別の異世界だったとしても……しかし。

 

「申し訳ありません。私は陛下にこの身をささげると誓っております、よってその提案、お断りさせて頂きます」

 

「そうか…残念だ」

 

そういうとセリカは少し落ち込んだ顔を見せた。結構本気だったようだ。

 

「ごめんなさ──」

 

『……リィ……エル!気を付けて』

 

「…!」

 

「ん?どうした」

 

突然、エルレイの耳に姫の声がこだました。

そして、周りを見渡すが特に変化はない、しかしグレンのほうを見てみると、やばい。

 

『そいつはやばい!早く逃げて』

 

ヤバいやばいやばい、何か殺意に近い何かを感じる、よくわからないがとにかくヤバい、第六感が危険だと警告を出している。ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!

 

そう思っていると、いきなりその殺気は消え去っていた。そして警告を出している姫の声も。

 

「……っ!」

 

「大丈夫か?体調でも悪いのか?」

 

エルレイは恐怖で汗が止まらず、服の中が気持ち悪いが今はそんなこと考えている余裕がなかった。

 

「グレン!!」

 

「え、エルレイ先生?!」

 

システィーナの動揺の声も聞こえず、エルレイはすぐにグレンのもとに駆け寄った。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

グレンも同じ経験をしたらしい、汗がびっしょりで青ざめていた。

 

「グレン!大丈夫!」

 

「…え、エルレイ、今のは…」

 

「わかんない、でもなぜか……セリカたちは無反応だった」

 

「あれは幻覚…か」

 

「何か見たんだ。とりあえず今は、みんなのところに」

 

そういうとエルレイは、グレンを引っ張ってみんなのもとに戻ったが、みんな何事もなかったのようにキョトンとしていて、本当にその気配に気づいたのはエルレイとグレンだけだった……。

 

 

★★★

 

そんなことがあり、野営場に帰り、夕食を食べた。

エルレイは全く口が進まなかった、しかしグレンは元気なのでホッとした、リィエルがグレンとシスティーナの夕食を食べてしまったり、いろいろ夕食時にも色々あったが、結局エルレイの気分は晴れないままだった。

 

そんな時、セリカの提案で入浴できるところが近くにあるから行ってこい、とのことだったのでエルレイはセラと女子生徒を連れて、温泉に浸かりに来ていた。

 

「……ふぅ」

 

「きもちいね、レイちゃん」

 

「…ん」

 

確かに気持ちいい。

寒気で感覚が鈍っていたつま先や指先が鈍い痛みと共によみがえる感覚、体が解けるようだった。

 

「それにしても、レイちゃんとリィエルちゃんって、髪を縛ってないと本当の姉妹みたいだよね」

 

「……ん」

 

「……大丈夫?」

 

あまり元気そうとは言えないエルレイの返事に、セラは心配になり、顔をじっと見つめる、するとエルレイはとてもうつろな目をしていた。

 

(あの感覚は何?姫の恐れていたことは、あれ?そもそも姿を見てない、索敵にも反応がなかった……)

 

「レイちゃん!!」

 

「あ、ごめんごめん」

 

「何かあったら私になんでも言ってよ?」

 

「ん」

 

「ん、じゃないよ、ジャティス君と1対1で交戦したって聞いてるんだからね」

 

「ぅ……」

 

妙な胸騒ぎがあの時ずっとしていたと思ったらこれだ。ずっとアルベルトに監視されていたのか…エルレイは苦笑いをした。

 

「私や、グレン君はレイちゃんの味方だからね?何でもかんでも背負い込みすぎないで?」

 

「…ありがとう、それを聞くだけで気分がよくなる」

 

そういうとエルレイは優しく微笑んだ。

リィエルがセラは母親的存在と言っていた理由がなんとなくわかってきた気がする。

 

「ねえね、なにはなしてるの?」

 

そんなことを考えているとリィエル、ルミア、システィーナが近寄ってきた、リィエルはエルレイの背中にもたれ掛かりながら。

 

「リィエル、重い」

 

「…ん」

 

「ちょっとリィエル?エルレイ先生は疲れてるんだからそんなことしちゃダメだよ」

 

「エルレイ先生大丈夫ですか?探索が終わってからずっと上の空ですけど」

 

ルミアとシスティーナが心配してくれた。

今思うとここにいる人たち心配性な人が多すぎる気がする。エルレイはそんなことを思いながら優しく微笑んだ。

 

「大丈夫、みんながいるだけで、私の疲れは癒されるから」

 

そう、みんながいるだけで自分に自信が持てる、どれだけ危険な状況でも、エルレイは誰にも愚痴や弱音を零すことはないだろう。

 

「……」

 

と思ったのだが。

 

 

「?急に黙ってどうしたの?」

 

「リィエルはいいの」

 

「???」

 

三人とも、特にセラとルミアはでかい。()()()()()()()()()、システィーナもスレンダーのように見えて女性としてちょうどいいほどの大きさがある。

()()()()()()()()()。近くにいるリンやテレサ、ウェンディも遠目で見てもかなりあることがわかる。

 

()()()()()()()()()

 

「どうしたのレイちゃん?」

 

「……削ぎ落したい」

 

「「「「え?」」」」

 

突然のエルレイの愚痴発言によくわからずにセラ、システィーナ、ルミア、リィエルが動揺している──その時。

 

「だあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ざっぱあああああああああああああ!!!

 

突如、盛大な湯柱が上がり、そこからグレンが少女たちのど真ん中に出現した。

 

「ぜぇ……はあ…ぜえ……はあ…ふぅぃ~、空気がうまいぜ~」

 

そのあまりにも突然すぎる状況に、少女たちは硬直してしまう、エルレイでさえも。

グレンはその少女たちを、ちらりと一瞥…。

 

「ビンゴ…」

 

何かを成し遂げたような男の顔は…実にまばゆく、清々しい。

 

「……《我が手に・刃を》」

 

エルレイは目にもとまらぬ高速詠唱で、いつもの大剣より一回り小さい剣を生成する。いつもだったら物足りない大きさだが────今はこれで十分。

 

「待て、エルレイ、いったん話を」

 

「…わかった」

 

あっさりグレンの提案をエルレイが受けたように思えた……が。

 

「O☆HA☆NA☆SHI☆……死よ?」

 

「…え?ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

その後グレンの叫び声がその場に響き渡るのであった。




よろしければ評価、感想をよろしくお願いいたします、励みになります。

エルレイ2「全然昔の記憶が思い出せない、このとき何したっけ?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

憎い憎い憎い憎い

最近サボり気味ナウな作者です。

え、なんで最近サボり気味なのかって?

いや…そもそもこの小説リィエルのところで失踪しようと思って(殴)


「ここが、タウム天文神殿のプラネタリウム…」

 

遺跡調査開始から6日目、おそらく最終日になるだろうその日、一同はついに最深部──プラネタリウム場へとたどり着いていた。きれいに磨き抜かれた半球状の大部屋の中心に謎の巨大な魔導装置が鎮座し、その傍らには黒い石板のようなモノリスが立っている。

 

「ここのプラネタリウムはすごいらしいぞ?グレン、セラ、エルレイ」

 

「あ、ああ、そうなのか?」

 

「へぇ~一回見てみたいですねっ」

 

「……」

 

「む、エルレイまだ何か悩み事か?」

 

エルレイはセリカの問い、に少しため息をしながら答える。

 

「ん、大したことじゃない」

 

「ホントに大丈夫か?お前、最近ぼけーっとしてること多くなってるぞ?」

 

グレンにまでそう思われていたとは心外だ。

 

「今回のはホントに大したことじゃないんだけど…()()()()()()()()()()

 

「え?それって昔リィエルちゃんとしてきたことないってこと」

 

セラの言葉にエルレイは首を横に振る。

 

「多分、昔の事だから思い出せないだけ…」

 

「……ま、昔の事は忘れそうだからな、お前」

 

「ちょ、ちょっとグレン君!その言い方はレイちゃんに失礼じゃない?」

 

グレンとセラの夫婦漫才?を聞きながらエルレイは何度も見渡す、やはり見覚えがない。結局何日たってもレオスの事件の後、何があったか思い出せないままでいるのだ。

 

(ま、いいか)

 

思い出せなくて不都合が生じることはないだろう、エルレイはそう思いながらいちごタルトをサクサクと食べた。

 

「あの…先生、せっかく『タウム天文神殿』にやってきたんだし、このプラネタリウムで夜空を見てみませんか?」

 

「あ、それ賛成!!」

 

プラネタリウム場に足を踏み入れるなりシスティーナがそんなことを言い始めた…セラは見る気満々のようだ…。

 

「はぁ?星空?めんどくせえなぁ…」

 

「いいじゃん、別に減るものでもないでしょ。動かすのは私やるから」

 

いちごタルトを食べ終えたエルレイはそう言って、プラネタリウムをいじり始める。

 

「ねえね、これ、動かせるの?」

 

「まあ、ね」

 

「「「「「エルレイねえね流石っす!!!」」」」

 

「……いやだから、そういうの良い」

 

エルレイは恥ずかしそうに頭を掻きながら、魔導装置の機能を制御するモノリスの正面に指を走らせ、コマンドを書き込んでいく。

 

エルレイは覚えてるところはのまま適応させ、忘れてしまったところは頭で再構築し、起動させようとする。

 

「よし」

 

固唾をのんでみんなが見守る中、エルレイはモノリスの表面にとある光文字の一文を叩いた。

 

するとプラネタリウム装置が低い駆動音を立てて起動し始め──

ふっ……、と室内が塗りつぶされたかのような深淵の闇に包まれ、次の瞬間世界が変わった。

 

 

(……すごい)

 

見たことはあるハズなのに新鮮で幻想的、子供のころには理解できなかったが大人になって真の良さがわかるようなそんな感覚…。星雲が、惑星が、流星が、圧倒的な臨場感と迫力を持っていた。

 

「こ…古代人てのは、超高度な魔法文明を築いておきながら、時々、こんなどーでもいいことを、すげー大掛かりでやるよな…なんでだ?」

 

「多分、人間の性なんじゃないかな、そもそも本当なら殺し合いとかじゃなくてこんなロマンチックにつかわれるほうがよっぽどいいはずなのにね」

 

「文化や意識の違いなのか…何らかの宗教儀式的演出か…もしくはセラの考えと同じで単なる娯楽か…そのあたりが通説になっているがな」

 

そんなグレンたちの話声や、生徒たちのうれしそうな顔にエルレイは微笑みながらモノリスを操作する。装置が停止し、たちまち周りが元の姿に戻った。

 

「遊ぶのはここまで、最終調査開始」

 

「「「「はいっ!!!」」」」

 

そもそもここには遊びに来たわけではなく、グレンのクビ阻止のために来たのだ。

エルレイが指示をすると全員素直に調査を始めてくれる。床の紋章や碑文を写し取ったり、読み取ったり、そんな単調な作業が始まる。

 

「どう、システィーナ、勉強にはなりそう」

 

「あ、エルレイ先生!はい、本物に触れるなんてめったにない機会なので、頑張って思考してます」

 

「それは良かった、ルミア、君は順調?」

 

「はいエルレイ先生、とても勉強になってます」

 

「みんな。頑張りすぎ注意、いちごタルトここ置いとく」

 

「「「「うっす!!!あざっす!!!エルレイねえね!!」」」」

 

「だ、だから、ねえねやめて」

 

 

またからかわれて顔が熱くなっているのは一旦置いておいて、みんななかなか順調にやっているみたいだ、良かった。

 

「…って、先生が板についてきてる……私…」

 

エルレイは苦笑いをしながら生徒たちを見守り、自分も解読などをしている時。

 

「アルフォネア教授!どうか…あのプラネタリウム装置を…教授がもう一度調べてください!」

 

突然、システィーナの声が聞こえた。どうやらあのプラネタリウム装置について何か思うところがあるのだろう、だがあれはエルレイが見た限りでもプラネタリウム装置以外の何物でもない。

 

「お願いします、アルフォネア教授…どうか!」

 

「お、落ち着いてよシスティーナちゃん、これはただのプラネタリウム装置で他には何もないんだよ?」

 

思いつめたような顔でセリカに頼むシスティーナを見かねて、セラが落ち着かせようとしている。

 

「私からも、お願いします、生徒の好奇心を無下にしたくないので」

 

「レイちゃんまで……まあ無下にはしたくないけどね…」

 

「わかった、やってみよう」

 

何故かやる気を出したのか、セリカがプラネタリウム装置の前に立つ。

 

「お、いいのか?まあ、お前がそういうなら頼むわ。ひょっとしたら、お前が何か見つけるかもしれないしな」

 

グレンの期待のこもった言葉に、セリカは頷き、《ファンクション・アナライズ》──魔術機能分析、解析の術を唱え、モノリスに手をついた。

エルレイたちはじっとセリカを見守る。

やがて小一時間ほどたち、セリカが口をひらいた。

 

「……ダメだな」

 

「あ~、セリカさんでもダメでしたか」

 

その言葉にセラは残念そうに肩がガクッと下がった。

 

「私もできる限り念入りに、この装置を隅々まで調べたが…プラネタリウム装置としての機能以外は、見つからないよ」

 

「そう……ですか」

 

「ああ、残念ながらな」

 

システィーナが肩を落とし、何故かセリカも表情を曇らせて息を吐く。

 

(ま……そうだよね)

 

エルレイはそう思いながらため息をついた。

思い出せないとはいえ、こんなところに何か重要な物があるわけがない、殺意の正体は少し気になるが、この程度ならば印象が弱く、思い出せなかった、で片付く。

 

(さて、そろそろ、戻る号令を……)

 

そうエルレイが思い、手をぱんぱんと叩こうとした…その時。

 

きん、きん、きん──

 

辺りに突如、魔力反響音が響き…一瞬、床の紋様をなぞるように蒼い光が走った。

 

「!!」

 

エルレイが慌てながら振り返ると、プラネタリウムは起動しているではないか──。しかし。

 

(動きが……おかしい)

 

エルレイが想定していないプラネタリウム装置の動きをしていたのだ。プラネタリウム装置は先程と同じように室内を夜空を投射し、星空が徐々に加速しながら回転していき、やがてすべて狂ったように頭上を暴走回転し、銀線となって無数の同心円を描き……。

やがて星空が消えていき───。

 

「なっ!!」

 

プラネタリウム場の北側の空間に、青い光で三次元に投射された扉が出現していた。

 

(《封解主》?《デウス空間》?《時喰みの城》?どれとも違う)

 

エルレイが自分が知っているありとあらゆる技術を巡らせるが、どれとも一致しない。

 

「…ほ、星の…回、廊?そうだ……星の回廊だ……っ!!」

 

セリカは何かぶつぶつと呟いている。

まずい、何故かわからないが非常にまずい、何とかしなくては、直感的にそう思ったエルレイは詠唱を開始する。

 

「っ!!!《我目覚めるは・デウスと赤龍帝の力を信じし・殺戮人形なり──》」

 

エルレイは詠唱を開始して、何もないところの空中からチャックのようなものが開く、この技術は、‘‘転生者‘‘シュウ=イグナイトとロクサス=ティンジェルの能力を二人のとある経路に接続し、力を借りるという、魔術では無しえない技術。しかしこの技術は時間がかかる……。

 

(っ!間に合わない!!!)

 

そう思ったのもつかの間……。

 

「セリカっ!!!!」

 

「セリカさんっ!!!」

 

「「アルフォネア教授っ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

セリカは扉の向こうへと消えてしまった。

 

 

 

 

★★★

 

 

この緊急時にグレンは一旦生徒をまとめ、野営場まで戻った。現在テント内にエルレイ、グレン、セラ、システィーナ、ルミア、リィエルがいた。

 

「さて、まず、システィーナ、あのとき何したの?」

 

「え……っと」

 

エルレイは事の発端をすべて聞いた。

どうやらシスティーナとルミアでこっそり、あのプラネタリウムを魔術分析したらしい。

 

「ごめんなさい…っ!ごめんなさい、先生…っ!わ、私が勝手にあんなこと…」

 

「ううん、システィは悪く無い……軽い気持ちで力を使った私が……」

 

「ふ、二人は何も悪く無いよ!」

 

「…くそっ!あの耄碌ばばぁ!あいつ一体何考えてんだっ!一人で勝手に突っ走りやがって……っ!?」

 

「ねえね……どうするの?」

 

悔しそうにするみんなを見て、エルレイは立ち上がる。

 

「考えても仕方ない、私がどうにかする、みんなはここで待ってて」

 

この状況でエルレイが何とかできれば万々歳、もしできなくても、その後に情報さえ通信で渡せればたとえ私が一度死んだとしても何とかなる。

 

「………またかよ、、エルレイ」

 

エルレイがそういうとグレンは何かイラついてるように、ぼそっと答える。

 

「また?」

 

「また、全部背負い込むのかって聞いてんだよっっ!!!」

 

そういうとグレンはエルレイの胸ぐらをつかむ。

 

「お前はいつもいつも…っ!!人の気も知らねえで1人で何でもかんでも背負いやがって!!」

 

「気のせい、落ち着いて、今は怒鳴ってる場合じゃない」

 

エルレイは一度グレンを落ち着かせようと、いちごタルトを取ろうとしたが次のセラの言葉でその手が止まる。

 

「ぐ、グレン君の言う通りだよっ!!私たちはレイちゃんの味方だって何度も言ってるよ?」

 

「お前は……俺たちがそんなに信用できないのかよ……、リィエルっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで、信用できると思ったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「っっ!!??」」」」」

 

エルレイのその言葉に全員顔をこわばらせた。

 

「私は、人間じゃない、利用されてきた人形、人間が憎い、私は人間を信頼したことなんて、一度もない、お前たちみたいな、外道下等生物を信頼したことなんて」

 

エルレイはそう言いながらグレンを見つめている。

その目は濁っていて、とても同じ人間なのか疑うほど変わり果てた目をしている。

 

「それなのに私が?お前たちを信頼する?人間であるお前たちを?………笑わせないで」

 

エルレイはその場で刀を高速で生成し、グレンの首に向けて突きつける。

 

「……ねえね」

 

「「エルレイ先生…」」

 

三人の生徒の声が重なる、声が少し強張っている、怖がられている…それで良い、その反応が欲しかった、これで事はうまく進む。

 

「憎い憎い憎い憎い憎い憎い、何もかも、人間が憎くて仕方ない……私の主や、とっても優しい私の大好きな人、研究が好きで理不尽を知らなかった親友…そして優しいはずなのにお前たち人間のせいで素直になれなくなった人……私の大切な人を狂わせたお前たちが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    憎 く て 憎 く て

 

    仕 方 な い   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういうとエルレイはその場テントを去っていく。

 

「え、エルレイ先生!!」

 

「おいまてっ!!!話はまだ………っ!!!」

 

システィーナとグレンが止めるが聞かない。

テントを出るとそこにはカッシュたちが盗み聞きしていたようだ。生徒が全員いる。

 

「エルレイ先生…」

 

「……邪魔」

 

エルレイは強引にカッシュたちを跳ね除け、手を前に出し、詠唱を始める。

 

「《万象に希う・我が背に取り付け・大いなる翼となって羽ばたかん》」

 

 エルレイはそう詠唱すると、エルレイの背中から銀色をベースに蒼い色が各所についた羽がエルレイから生えた、よく見てみるとリィエルの大剣をつなぎ合わせ、羽にしたもののようだ。

 

……エルレイは振り返ることなく。その場から羽ばたいた。

 

 

 

 

 

★★★

 

 

「いいいいいいいいいぃぃぃやあああああああああああああああ!!!!」

 

扉に入ったエルレイは、天井、床、壁、すべてが石造りで出来ている場所で大剣を振り回していた。相手はミイラ、おそらくすべて魔術師だろう。

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・拡散せよ》!!!」

 

エルレイは右腕で大剣を振るいながら左手で詠唱し、ショック・ボルトを改変して拡散させ、ミイラに攻撃する。

 

「アイツサエ──アイツサエ──イナケレバァァァァ──!!!」

 

金切声のような声をあげる。ミイラにエルレイは容赦なく大剣を振るう。

 

「そ、じゃ、死」

 

エルレイは死体にムチを打つように何度も何度も斬った、何度も何度も。

その顔は斬るのが何よりも楽しそうな…、そんな表情だ。

 

(やっぱり…いい……生き物を斬る感覚……タルパの時とは違う……この殺った時の高揚感)

 

心地良い、この感覚、斬るという満足感、この手を人間の言うところの汚く染めるというこの感覚…楽しくて楽しくて仕方がない。

 

「はぁぁぁぁあああ!!!!」

 

エルレイは無尽蔵に湧いて出てくるミイラを容赦なく、四散させていく。

 

「……ふっ……シュウとロクサスに…似てきたかな私?」

 

最近、シュウとロクサス…二人の人間が憎い、醜い、存在価値なしの理論がなんとなくわかる。

 

(確かにミイラにまでなって憎悪を燃やしてるのは…見苦しいね)

 

エルレイがそう感じているとエルレイの来た道から人影が5人……。

 

「レイちゃん!!」

 

グレン、セラ、システィーナ、ルミア、リィエルだった。

 

「エルレイ!!無事か」

 

「なんだ、ついてきたんだ」

 

エルレイはそう言いながらため息をついた。

 

「信頼してないといったハズ、なんでついてきた?」

 

ついてきてしまってはわざと遠ざけた苦労が水の泡だ。嫌われてもいいからここを1人で切り抜けようと思っていたのに、これでは何かあっても記憶を頼りに守ることができない……。

 

「エルレイ先生!!よかった…」

 

ルミアが安堵の声を出す。まるであの時の言葉を水に流したかのように。

 

「レイちゃん、みんなにレイちゃんが、リィエルちゃんだってこと…話させて貰ったからね」

 

「…あっそ」

 

「レイちゃん……リィエルとして…、あの実験の成功例として何かあったのは察するよ。でも私たちは…それでもレイちゃんの味方を、やめないから」

 

「……俺も。なんだかんだ言ってお前の兄貴分だ。こんなことで諦めれるほど出来た人間じゃねえよ」

 

エルレイはその言葉を聞き唇をかみしめた。

優しい、優しすぎる、だからこそ、怖い。お願いだから自分の存在理由である殺戮を奪わないでほしい。そして汚いこちら側に来ないでほしい、殺戮しなくなったら私はどうやって大切な人を助ければいいか、分からなくなる、満たされなくなる。

 

「うるさいとっとと消えろ、邪魔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「だが、断る」」」

 

 

 

 

「「「……え?」」」

 

突然そんなことを言い始めたのは誰あろう、まさかのルミア、システィーナ、リィエルだった、先生の3人は全員口を開けて、素っ頓狂な顔をしている。

 

「私たち三人が最も好きな事の一つ…」

 

「自分が絶対的有利だと思っている奴に…」

 

「……NO,と、断って、あげる事」

 

システィーナ、ルミア、リィエルの順に変なごごごごごごごごご。という効果音の中妙な決め台詞を言った。

 

「…え、うん」

 

流石にエルレイも素に戻る。

これには目を丸くするしかなかった。

 

「…やった!エルレイ先生が言っていた一度は行ってみたいセリフ第四位!!」

 

「言えたね!!」

 

「ん、きまった」

 

三人ともぴょんぴょんしながら大はしゃぎしている。

てかなにそれ、そんなもんいつ決まったの、グレンたちに助けを求めても2人ともよくわからないようでキョトンとした顔をしている。

 

「…ええっと……ちなみに一位何?」

 

「白犬ツッコむとこそこじゃねえぞ!!」

 

「……死、だよ」

 

「…それ、なんだ」

 

エルレイはただただ苦笑いをした。確かに一度こんなことを言った気がする、すっかり忘れていた。

 

「…わかった、信用するんじゃなく、駒としてなら使う」

 

「……!うん、それでレイちゃんが私たちを頼ってくれるなら!!」

 

エルレイがそういうと、セラもグレンもシスティーナもルミアもリィエルも優しい笑顔を見せてくれた。

 

「でも、今からいう行動しなかったら、即切り捨て」

 

「ほう……言ってみろ」

 

「まず、私の見える範囲からいなくならないで、そして敵を見つけたらすぐに私に報告、自分で戦おうとしないで、体力が切れてきたらすぐ言って、いちごタルト渡す、疲れたらいって、おんぶくらいはする、あとこのあたり寒いから、できるだけあったかい服を──」

 

「「「「過保護かっっ!!!!!」」」」

 

リィエル以外の全員にそうツッコまれた。

 

 

 




よろしければ評価、感想よろしくお願いします、励みになります。

エルレイ2「…私、この世界で好かれすぎたかも」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アール=カーン戦

エルレイ2「最近、この作品に、かけているものがある、なんだと思う?」

システィーナ「勉強!!」
グレン「休み!!」
セラ「グレセラ!!」
リィエル「いちごタルト」
ルミア「アカシックレコード!」
アルベルト「予告」
エザリー「投稿頻度?」
セリカ「私の出番!!!」

エルレイ2「全部違う」

エルレイ2「正解は、私のキャラ、リィエル要素、いちごタルトしかないじゃん」

エザリー「ううん……それはしかたないんじゃ…」

グレン「完全にリィエルにするとお前とリィエルでキャラが被って分かりずれぇし」

エルレイ以外「うん、うん」

エルレイ2「だからって、あんな闇落ち、させなくても…」

ロクサス「俺らのせいだから仕方ないな。それは」

シュウ「そうだね、兄様」

エルレイ2「二人は出てこない、もう少しで出番だから待って……って、そもそも、私ツッコミ役じゃない」



「はぁぁぁ!!!」

 

エルレイは翼を広げながら大剣をミイラに振りかざす、これで何体殺っただろうか、このあたりの敵はあらかた片づけただろう。

 

(……それにしても)

 

エルレイが驚いたのは敵の数ではなく、味方五人の適応能力の高さだった。

まず最初に驚いたのが。

 

「《その旅路を照らし賜え》」

 

そのルミアの詠唱と共にミイラが焼かれ、浄化されていく、ルミアが《セイント・ファイア》高等浄化呪文を使えるのは知っていたが、この頃はまだ1節詠唱はできなかったはず(そもそもできる時点でヤバいのだが)しかも焦ることなく正確に詠唱したうえ、触媒もまだ半分残っているようだ。

 

「《拒み・その下肢に安らぎを》!!」

 

「《雷精の紫電よ》!!」

 

「《とりあえずぶっとべ》!!」

 

次に驚いたのがシスティーナだ。

まさかここまで成長するとは、恐ろしいほど柔軟に立ち回り、ルミアのサポートをしている。

最後の魔術なんて完全な適当詠唱なのにそれがかなり高度に術として発動している。

 

「いいいいいいいいいいいいいいいいいいやああああああああああああああああ!!」

 

 

「ん」

 

そして生徒最後はリィエル。

ツッコむだけだと思っていたが、二人のアシストもきちんとこなし、そしてエルレイが命じた、敵がいたら報告、連携、いちごタルト、ついでにあったかい服を全部実行している。

そして、向こうに行ったと思ったらすぐにエルレイの目の届く範囲である、エルレイの隣に陣取る。戻ってくるといちごタルトを頬張る。

 

 

「……おか、しい」

 

何故ここまで実力がついている?私の覚えている限りだと三人ともこの頃にここまで柔軟な動きはしていない。なんでなんでなんで…。

 

「何も驚くことじゃねえ、俺の基本的な魔術論、セラの圧倒的な即興改変技術、最後にお前の精神的、そして肉体的な魔術論、それらが上手く重なり合えば、プロの魔導士なんて目じゃねえよ」

 

「グレン君が、基本的な魔術論…?」

 

「……おどろいてない、駒が予想以上に無能じゃなかったから、安堵しただけ」

 

エルレイはグレンとセラを横目で見ながら、見えないように唇を噛んだ。

 

「……一つだけ聞いていいか?」

 

そうしているとグレンが突然話しかけてくる。

 

「…なに?」

 

「お前がリィエルで、成功例として何かあったのはわかる。でもどうしてそうなっちまった?精神的にも強くなり、冷静な対応力、そしてなぜか誰にも頼ろうとしない、何がお前をそこまで変えさせた?」

 

「……」

 

エルレイはその問いに黙って俯くだけだった。その顔は少し悲しそうな辛そうな、何とも言えない顔だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

 

 

「ま、こんな所かな」

 

「そうだね、兄様」

 

リィエルの目の前にいるのは2人の少年だった。

一人は赤髪のシュウ、もう一人は青髪のロクサスだ、二人とも楽しそうに笑っているが。

 

「あ…あ……」

 

リィエルはその状況に言葉が出なかった。

何故ならば、二人の手は血で真っ赤に汚れていて、二人の足元には多くの死体があったからだ。

 

「ああぁぁ………ぁぁ…」

 

隣りにいるルミアも恐怖からか、声がうまく出ていない。

 

「ぁ…シュウ!!…ろ、ロクサスっっ!!なんで…ここまで!!」

 

隣りにいたシスティーナが、震えた声で二人を怒鳴りつけた。

 

「何故って、強いて言うなら天の智慧の奴らだから?」

 

シュウは不思議そうな声でそう答えた──。

そう、この二人は未来の世界で天の智慧研究会を皆殺しにして、抹消させた厄災と呼ばれる二人なのだ。

 

「でも……ここまで…ひどく殺さなくたって…この人たちの家族が悲し……」

 

「そいつらが復讐しにきて、お前やリィエルではなく俺とシュウに牙が向く。結構なことだ」

 

ルミアの心配そうな声を、ロクサスはそう吐き捨てた。その言葉にリィエルも震えた声で口をひらく。

 

「だからって…」

 

「ひどすぎる、とでも言いたげだな。リィエル」

 

ロクサスの言葉に、リィエルは小さく頷く。

 

「じゃあよ、三人とも…逆にどう()()()()()()()()()?」

 

「え…?」

 

「…どういう…、意味よっ」

 

「俺たちにとっては、お前らに付きかけていた害虫を駆除した。ただそれだけだ、それに何を感じればいい?」

 

ロクサスはそういうと足元にある死体を蹴りながら、鼻で笑った。

 

「蜂の駆除業者が蜂殺した罪悪感に苛まれるか?戦争を指示した上の連中が戦った敵の死人を労るか?はっ……そんな人間が居たら見てみてえよ」

 

「が……たす…け」

 

ロクサスがそう言っている足元から、悲痛な男の声が聞こえる。どうやら一命をとりとめたようだ。リィエルの目を見て、懇願している。

 

「ふざけるな」

 

「っっ!!!が…」

 

「!!シュウ!!」

 

突如、命乞いをしている男の首を片手でつかみ上げ、持ち上げた、男は足をぶらん……と力なくぶら下げる。

 

「君らさ、リィエル殺そうとしたよね?人を殺すってことは、自分も殺される覚悟しないと……甘えるな」

 

そういうとシュウは持っていた剣を男にふりおろした。男の頭は胴体と離れ、ごろごろと辺りに転がった。

 

「リィエル、僕と兄さまはみんなを守りたいだけ、それだけなんだ、ほかはゴミ同然」

 

そういうとシュウはリィエルを抱きしめた。

……温かい。いつも感じている感触なのになぜか今回の抱きしめは怖くて、苦しくて、辛かった。

 

 

 

・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

 

「私は、ただ自分の力だけで、守りたいだけ」

 

エルレイはもう二人にあんなことさせないと、誓いながら、拳を握り締めた。

 

 

 

★★★

 

『ふぅん、ずいぶんやるのね』

 

「ナムルス……」

 

「おまえは…幻覚じゃなかったのか!?」

 

歩いて戦闘している最中、エルレイたちはルミアに似た少女と出会った。

人物名は覚えてるのか…。エルレイはそう思いながらナムルスの名を呼んだ。思い出せないのは出来事だけのようで少しだけ安心する。

 

「……レイちゃん、知り合い?」

 

「まあね」

 

『は、アンタと会ったことなんてないけど』

 

そういってナムルスは吐き捨てる。割と予想道理の反応でエルレイは苦笑いしそうになる。

 

「エルレイ先生なんでこの人…ルミアと同じ顔を…」

 

「出てきた理由は、私の存在…かな?」

 

エルレイはシスティーナの言葉を遮りそう尋ねた。

 

『…よくわかったわね』

 

「システィーナ、そのあたりは何時か話すと思う、今は聞かないで」

 

「…わかりました、そうします」

 

エルレイがそういうと、システィーナは大人しく引き下がってくれた。

 

「質問の答え、私は今はただの臨時講師…。それだけだよ?ナムルス」

 

そういうとエルレイは微笑んだ、まるで親しき親友と喋っているかのように微笑んで。

 

『…ふざけてるの?』

 

「ふざけてない、それに、言えないことがあるのはお互い様」

 

『……私、アンタの事好きになれそうにないわ』

 

「そりゃ、どうも」

 

エルレイはそう言いながら軽く苦笑いをした。

 

『私の事を知ってるってことは、あいつの事も知ってるのよね?』

 

「うん、知ってる」

 

「アイツ?」

 

二人の言葉にリィエルが首を傾げた。

 

「奥にいる魔人は不死身、そう言いたいんだよね」

 

『……』

 

図星をつかれたかのようにナムルスは黙ってしまう。エルレイは軽く笑い、背伸びをする。

 

「大丈夫、不死身‘‘程度‘‘だったら、私は怖がらない」

 

 

 

 

★★★

 

 

『見込み違いだったか……今の汝に我が主たる資格なし…神妙に逝ねい』

 

「っ!!」

 

「セリカっ!!!」

 

少し遅かったか…、闘技場のような場所の中心でセリカと謎のフードを被った存在が戦っていて、セリカが劣勢だ。もっと早くついていれば…。

 

『落ち着いて、リィエル』

 

「…ひめ?」

 

突然、どこからか、姫の声が聞こえた。どうやらそれ以外の人間には聞こえていないようだ。

 

『むしろ好機だ、アール=カーンをセリカが引き出してくれたと考えるほうがイイと思うよ?』

 

「……そうだね、少し弱気になってた」

 

エルレイは姫の言葉で気を引き締める。

 

「《万象よ二つの腕手に・剛毅なる刃を》」

 

 

 

「……ひめ、任せる」

 

エルレイは大剣を高速で詠唱、生成し、目にもとまらぬ俊足でセリカの目の前まで現れて。

 

「……なっ」

 

ガキンっ!!!!

 

アール=カーンの剣を片方の大剣で受け止めた。

 

「大丈夫かい?セリカ?あとは‘‘僕‘‘がやる、下がって」

 

「お、前。エルレイ……だよな?」

 

セリカが疑問の声をひねり出す。

そこにはエルレイではあるが、目つきも口調も全く違う。完全に別人にしか見えないエルレイが、大剣両手に不敵にほほ笑んでいた。

 

「僕?どうでもいいじゃないか、僕の事なんて。あ、セラ……さん!!」

 

「あ、うん!!」

 

「セリカをお願い!!あとはぼ……、私がやる!!」

 

「おいエルレイ!!どうする気だ!!」

 

『なっ!!一人でやる気?!』

 

グレンとナムルスの怒鳴りを聞きながら、エルレイはふっと笑った。

 

「なあに……ただ、不死身(仮)を殺すだけさ」

 

エルレイはそう言いながらアール=カーンに向き直る。

 

『汝が相手か……ふっ、その体が持てばいいがな』

 

「生憎、この体は真面目に質の悪い不死身共の恐ろしさを知ってるからね、君なんて正直眼中にないんだ」

 

刹那───、そういうとエルレイはアール=カーンへと切りかかる、その早すぎる速度と正確さは、アール=カーンでも見切ることができない。

 

『が……ぁ……!はや…い』

 

「早いだけじゃないよ!!」

 

エルレイはそういうと1刀流に持ち替え、力強くアール=カーンを斬る。アール=カーンは受け流そうとするが受け流した衝撃だけで肩が砕け散る。

 

『グっ!!』

 

アール=カーンは苦痛の声をあげた。対するエルレイは焦る様子も、息切れする様子もなく、大剣をアール=カーンへと向ける。

その後の動きもエルレイが圧倒的、何もかもが上回っていた、時には回し蹴り、時にはこぶし、剣だけではないありとあらゆる攻撃方法をエルレイは繊細に、そして確実に行っていた。

 

「リィエル。あとは任せる」

 

エルレイがそういうと、エルレイが()()()()()()()()、いつもの調子に戻る。

 

「さて…不死身……だったっけ?」

 

エルレイはそう言いながらアール=カーンを眺めた。

 

「どこまで不死身なのか……試してあげる」

 

『!!!』

 

「グレン、セラ───

 

 

 

 

30秒……足止めお願い」

 

「「!!……おうっ(うんっ)!!」」

 

その言葉に二人ともニッと笑顔を見せながら、アール=カーンの足止めをしてくれる。二人は強い、だから大丈夫、体中がそう信じている!!

 

「《我目覚めるは・デウスと赤龍帝の力を信じし・殺戮人形なり・人を憎み・狂気を望む・我が力を糧として・我に大いなる力を与えたまえ》」

 

そういうとエルレイの近くから熱が発生し、なくなると思ったら突如、何もない空間からチャックのようなものが出てくる。その中は深淵で何があるのかわからない、エルレイはそこから自分の生成する大剣よりも何倍も大きな大剣と、1本の刀を持つ。

 

「あらゆる条理、概念、世界をも切り裂く大剣、そして、万物切断可能な刀……」

 

「貴方の体で…、どれほどものか試してみるね?」

 

エルレイは二つとも握り締め、アール=カーンへと突っ込む。

 

「はああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

エルレイはアール=カーンをX字に切り裂いた。

命をすべて破壊───成功、エルレイは斬った瞬間それを確信した。

 

『……見事』

 

そう言い残し、アール=カーンは闇に消え去っていった。

それを確認したエルレイは、二つの武器を収納し…、青い髪を靡かせた。

 

「駒として、よくやった、頑張りましタルト」

 

すこし辛辣には言っているが、中身はエルレイだ。

全員にいちごタルトを差し出す。

 

「「「「「「………」」」」」」

 

「………ま、そうだよね」

 

さっきまで駒とか色々言いたい放題言ってたんだ。

うるさい邪魔など、そんな奴のいちごタルトなんてもらうわけないか……、そうエルレイがため息をついた途端。

 

「「「「「「え、エルレイねえねマジかっけえええええええええええぁぁぁ!!!」」」」」」

 

生徒三人だけでなく、セリカ、グレン、セラにまでも繁殖してしまった。その言葉にエルレイはなす術なく、顔を朱色に染める。

 

「や、やめろ///////」

 

今は強めにいうしかない、私を嫌うまでは、そうしないと今後守り切れなくな───。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「や……やった!!」

 

「さすがエルレイねえね!!!まさかの無傷帰還!!私たちにできないことを平然とやってのけますわ!!」

 

「「「「そこにしびれる憧れるぅ!!!!!」」」」

 

 

「______だまれ/////////」

 

エルレイたちが帰還すると、エルレイたちをハイテンションで迎えてくれる生徒たちがいた。

人間が憎いアピールをあそこまでしたはずなのに…、しかしここで心が折れては本当に水の泡…。どうにか嫌われるように仕向けないと。

 

「さわが……しい!地獄に……落ちろ!人間!!//////////」

 

エルレイは、ぜんりょくで、ばとうした。

 

「る、ルミア…、リィエル……。こういうのもなんだけどさ」

 

「う、うん」

 

「……ん」

 

二人とも同意したように頷く。

 

「恥ずかしがりながら罵倒してるエルレイ先生って……なんか」

 

「……すっごく。……かわいいね」

 

「……」こくこくこくこくこく

 

しかしこうかがないみたいだ──。

 

システィーナの言葉に、リィエルもルミアも同意しているようだ。エルレイはもっと顔が赤くなった。

 

 

 

「てか、エルレイ先生リィエルちゃんなんだよな?!リィエルちゃんが誉め言葉に弱くて真っ赤になって罵倒って……」

 

「「「「……いいっ!!!!」」」」」

 

「~~~~~~~________//////////////////」

 

「はっはっはっ!!!エルレイねえねの活躍はすごかったんだぞ?いや~っ、お前たちにも見せてやりたかったな!!!」

 

セリカは元気を取り戻し、そしてエルレイをいじる楽しさを知ったと言わんばかりの満面の笑みで、エルレイの肩を叩いた。

 

 

「______しねしねしねしね!!!///////」

 

「グレン、セラ、さっさと撤退、長居無用!!/////////」

 

「おっす!エルレイねえね!!」

 

「みんな~レイちゃんねえねに怒られる前に帰るよ~~」

 

「「「「「ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう……ホントに……やめてぇえ……」

 

 

エルレイにもう、怒る力は残されてなかった。

 

 

 

 

★★★

 

「ふふっ…。今日は一段と疲れてるね?何かあった?」

 

「…別に」

 

エルレイはいつも通っている夜のバーに、エザリーを誘い、夜のお話(愚痴)をしようと思ったが、できるだけ愚痴はしたくないのと、エザリーに迷惑がかかる気がして言葉を濁した。

 

「ちょっと……クラスのみんなに疲れただけ」

 

「あはは…、体力いりそうだからね。あのクラスは……」

 

エザリーは苦笑いをしながらチューハイをちびちびと飲んだ。

 

「そんなリィエルに、報告。悪いニュースと最悪なニュース、どっちがいい?」

 

「悩むところだね、じゃ、悪いニュースからで」

 

エザリーは微笑みながら話を続けた。

 

「先ず悪いほう。シュウ君の居場所が見つかった」

 

「!!」

 

シュウの居場所が!やった!これで手がかりが…。

 

「……ってそれが悪いニュース?」

 

「うん、問題はここからでね、偽名で名乗ってるっぽいんだけど、何故かイグナイト家から抜けてないの」

 

「……本当?」

 

「こんな質の悪い冗談、言うと思う?」

 

私の知っているシュウはイグナイト家に愛想をつかし、イグナイト家からいなくなっているはずなのだが……、イグナイト家の人間を少し殺りづらくなった。

 

「もう一つ…、これが一番問題なんだけど………」

 

エザリーは軽く苦笑いをしながら資料を見つめていた。

 

「研究所がまるまる全壊するくらいのクレーター……」

 

そういうとエザリーはその写真を見せた。

確かに人工的な跡があり、そこを壊す形でクレーターができている。

 

「…空間震か」

 

「うん……多分」

 

空間震、まるで大怪獣が気まぐれに街を襲って破壊するかのような爪痕を残す災害名……ま、大怪獣のほうがよっぽどタチはいいけどね。

 

「確実にロクサスの仕業……でも腑に落ちない」

 

「うん、なぜ、こんなことをしたか、だね」

 

ロクサスはほとんどの事に無干渉だ。

干渉するときは大抵、ルミアが関わっている時…、それ以外なんて考えられない。

 

「……考えても仕方ないね」

 

エルレイはそう言いながらサクサクといちごタルトを頬張った。

 

「うん、リィエルがロクサスさんと接触すれば真相はわかる、リィエルが接触すれば」

 

「……相当会いたくないんだね」

 

どこまでロクサスにトラウマを持っているのかエルザは……、そう思いながらエルレイは苦笑いをした。

 

「と、とにかく!!もう少しだけ頑張ろう!!エルレイねえね!!」

 

エザリーはおそらく冷やかしの冗談半分で言ったであろうが…。

 

「その名前で…、呼ばないで//////」

 

「…え、大丈夫?」

 

エルレイには効果抜群だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七巻
____________


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺す

 

 

 

 

 

 

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。。

人間は皆殺し、慈悲はない、私はイルシアやシオン、みんなを狂わした元凶を許さない。

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

 

「人間に生きる価値などない」

ロクサスの言う通り、生きる価値なんてない。

 

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

 

「愛する人以外は、すべて邪魔者」

シュウの言う通り、愛が無ければすべて邪魔者、奴らは愛の偽善者。

 

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

死ね死ね死ね死ね死ね死ねみんな死ね、ルミアやシスティーナ、私の大事なものを奪うお前たちは私の手で殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

 

シュウやロクサスに全部殺らせて辛い思いはさせないすべて私が殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

 

 

 

 

「私たちは・・・それでもレイちゃんの味方を、やめないから」

 

 

 

!!!!

 

 

 

「・・・俺も。なんだかんだ言ってお前の兄貴分だ、こんなことで諦めれるほど出来た人間じゃねえよ」

 

 

 

やめて・・・

 

 

 

「私はエルレイ先生じゃない。だから貴女の事が分からない。けれど、貴女がロクデナシであろうが、そうでなかろうと、私は守る為なら私を殺してでも殺戮兵器にでもなるつもりです。そう……未来に誓ったんです」

 

 

軽々しくこっちの世界に来ないで・・・・

 

 

 

 

「私、もっと魔術を極めたいです・・・・エルレイ先生みたいに正しい魔術師になりたいです!!」

 

 

 

 

お願い・・・私みたいにならないで。

 

 

 

 

「エルレイ先生って・・・ホントに気品があるというか・・・憧れます」

 

 

 

違う・・・・私は気品なんてあふれてない・・・汚い人形・・・。

 

 

 

 

「ねえね、大丈夫?」

 

 

心配なんてしなくていい・・・お願いだから全部私に任せて・・・。

 

この世界はキレイキレイキレイ、汚したくない汚したくない汚したくない

私の・・・この汚い領域に、入って来ないで。

 

 

 

 

こないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないで

コナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コナイデ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

イヴ、接触

エルレイ2「フィーちゃんに会いたい」

作者「デジャヴ…」

エルレイ2「駄目?」

作者「そうじゃないけど…会ってからそこまで月日流れてないよ…ていうか二回目のコラボなんて引き受けてくれるのかなぁ」

エルレイ2「今の私とフィーちゃんが出会ったら、また違った楽しみがあると思う」

作者「そうかもしれないけど…分かった、これを見てくれたフィールちゃんがもし反応くれたら機会見て、また誘ってみる」

エルレイ2「わぁい、フィーちゃんに会える」

作者「いや、あんまり期待はしないでね?今回は本当にどうなるか分かんないから…」


『バッドエンドの未来から来た二人の娘』

もはや説明不要!!

でも一言だけ言わせてくれ!続きが楽しみすぎるっ!!!(完全な読者視点)

というわけで前回の投稿はお楽しみいただけましたか?(ゲス顔)
ここからはコラボのその後なのでフィールちゃんの話も少し入ってきますお楽しみに、そしてそれをきっかけにエルレイが正義の魔法使いだと思ってくださっていた方に、今のうちに深く謝罪申し上げます。


(……こんなとこ……か)

 

エルレイは外で、体育をしているのを横目で見ながら近くの木影で、現在の状況を目を擦りながら紙に書きだしていた。

今日は妙な夢を見てやけに眠気がひどい。

 

 

 

 

 

問題点1 記憶  注意度★★

 

突然なくなった、原因不明。人物名は覚えている、記憶がないので先回りができなくなり、危険が高まった。

 

 

問題点2 シュウの情報 危険度★

 

イグナイト家を抜けていない、あの爺がやり辛くなった。ついでに居てくれてうれしかった以上。

 

問題点3 ロクサスの情報 危険度∞

 

絶望ッ・・・!ただただ絶望ッ・・・!!(カイ〇風)接触し、施設を破壊した理由を突き止めない限りは、手の出しようがない。

 

問題点4 コピー体 危険度★★

 

突然現れたコピー体。完全に潰したはずなので何か妙。しかし、束になっても私とエルザなら完封可能だと思われる。

 

問題点5 フィール・ウォルフォレンの一時的介入 危険度★★★★

 

フィーちゃんが問題というわけではなく、もう一つの次元があり、一時的でもつながった。

それがかなりの問題、私を呼んだ張本人がこの世界にいる可能性が薄くなった。

 

 

 

 

 

 

「……書き出すと、結構多い」

 

エルレイはそう言いながらため息をつき、いちごタルトを頬張る。

今はリィエルも体育中なので、気配を消して近づかれる心配もない……。

が、近づいている者が一人───。

 

「レイちゃん、何書いてるの?」

 

そう、セラだ。

エルレイは早々と紙を折りたたみ、胸ポケットに入れた。

 

「なにも」

 

「って……今隠したじゃん、それ何?」

 

「ちょっとした落書き」

 

「ふーん」

 

セラはジト目でこちらを見てくるが、それ以上は聞いてこない。

 

「…まあいいや、最近はどう?楽しい?」

 

「……」

 

エルレイはその問いに少し考える。

正直疲れるのが現状だ。でもこれはこれで悪く無い…、と思ってしまっている自分がここにいる。

 

「……分からない」

 

正直それが率直な感想だった。説教することも多いし、仕事だって多い、時には先生に対して怒ることだって、でもなぜここまで心が安らぐのか…あまり考えたくはなかった。

 

「まっ、楽しくないよりはいいんじゃない!」

 

「…それもそうだね」

 

エルレイはそう言いながら、セラにいちごタルトを渡した。セラはサクサクとおいしそうに食べ始めた。

 

「~~~♪」

 

(おいしそうに食べるなぁ…)

 

そう思っていた。

 

───その時だ。

 

 

 

 

 

 

 

「貴女、エルレイ……。リィエル=レイフォードであってるわね?」

 

突然隣から声が聞こえた。

なじみ深い声だ、その方向を見ると激しく燃えるような真紅の髪を、三つ編みに束ねてサイドテールにしている、宮廷魔導士団の礼服を着ている女性。

 

 

「…イヴ」

 

「あら、てっきり未来だと私の事なんて忘れてると思ったわ」

 

イヴはそう言いながら不敵に、エルレイを見下すように笑う。

 

「イヴ、どうしたの?招集?」

 

セラが首をかしげながらイヴに尋ねる。

 

「ええ、招集よ。その未来人形も一緒にね」

 

「!!」

 

エルレイは突然のイヴの言葉に、驚きの表情を見せる。

 

「い、イヴ!!いきなりそんな言い方!」

 

「でも事実じゃない。何年たとうがリィエル=レイフォードはProject:Revive lifeの成功例…。感情を手に入れたとしても、人形以外の何物でもないのよ」

 

イヴはそういうと不敵に笑った。しかしとても楽しそうだ。

 

「……」

 

「だから、貴女はただの駒。

戦闘兵器としての価値しかないのよ、自分で理解しているかしら?」

 

「……」

 

「イヴ!!!」

 

セラはまたイヴを怒鳴りつけるが、イヴはエルレイに対しての、冷酷な言葉をやめない。

 

「…それで、なに?」

 

ここで、やっとエルレイが口をひらいた。

目をつぶりながらゆっくりと…。

 

「簡単な話よ、私たちに協力しなさい。リィエル=レイフォード、室長としての命令よ。貴女は特務分室にとってただの駒、それとも…、何か報酬がほしいの?……人形のくせに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「協力するっっ!!!!」

 

エルレイは柄にもなく大声をあげて、イヴの手を取り跪いた。

 

「「……え?」」

 

予想外の事なのか、二人とも目を丸くしている。

 

「あ…、ごめん」

 

エルレイは自分の咄嗟の行動が恥ずかしくなり、そのまま立ち上がる。

 

「うれしすぎて……つい」

 

「は?うれしい?」

 

イヴがキョトンとした表情を見せる。

 

「だってそうだよ。私は人形、人間はそれで気味悪がる人間がほとんど、しかも未来のというとんでも設定、でもイヴは信用されなさそうな私を信用して駒として使ってくれる。これほどうれしいことはないよ」

 

エルレイはそう言いながら満面の笑みを浮かべた。

 

「え…、あ……えぇ…」

 

「どうぞ、ご命令を、室長。このリィエル=レイフォード、完璧に成し遂げて御覧に入れます」

 

エルレイはそう言うと、動揺しているイヴを思いっきり無視して、その場でもう一度跪いた。

 

「…調子狂うわね」

 

そう言いながらイヴは頬をかいた。少し照れているようだ。

 

「あ、イヴが赤くなってる!珍し~」

 

「うっさい!!!」

 

そんな状況が面白かったのか、セラがイヴをからかった。エルレイはそれを少し微笑ましそうに見る。

 

「それで?私にも召集かけるってことは、ハル君にも」

 

「え、ええ、まあね」

 

「…ハル君?」

 

突然エルレイが知らない名前が飛び出して、エルレイは首を傾げた。

 

「ああ、イヴの弟だよ?あれ。もしかして知らなかった?」

 

「……ごめん、今思い出した」

 

そういえばシュウは偽名ってエルザが言ってたな、多分このハル君って奴がそうだ。

 

「…リィエル、一応言っとくわよ?」

 

イヴが少し真剣な顔でエルレイの目を見た。

 

「私は貴女を場合によってはすぐに囮とか、汚れ仕事に使うから死ぬ覚悟はしておくことね」

 

「……ん」

 

相変わらず優しい人だ。

どうしても憎まれ口を叩いて、私の敵として仕立て上げたいらしい。だからこそこの人は信用できる。

 

「なんなりと、と申しました。囮でも、なんでも、そして」

 

エルレイは笑顔でこう言った。

 

「私は、男性のベッドで足を開くまでは、女性として死ねないので」

 

軽いジョークのつもりだった、少し場が固まり始めた……そして。

 

「ちょ!?!?誰よ!!リィエルにそんな言葉教えたの!?!?」

 

「わ、私じゃないよ?!?!……でもそんなこと教える人は…」

 

「バああああああああああナああああああああドおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 

…前言撤回、思った以上に過保護だ。少し不安になってきた。

 

「全く」サクサク

 

エルレイはあきれ果てながら、サクサクといちごタルトを口にした。

 

「リィエル、気を付けてよ?」

 

「え、わぁ!!」

 

突然話しかけられたことによりエルレイは驚き、尻もちをついてしまう。そこにいたのはエザリーだった。

 

「気付いてなかったんだ。最近たるんでるよ?」

 

「……むう」

 

「それより本当に気を付けてよ?そういう反応は、イヴさんとしては一番精神に来ると思うから。本当に駒として動こうとしないでね…」

 

「わかってる、その辺はちゃんと調整する」

 

そう、あの人は何気にお人好しだから、少し頑張って調整しないとつぶれかねない…。潰すのはごめん、頑張って守らなきゃ…。

 

 

 

 

 

 

 

『私はエルレイ先生じゃない。だから貴女の事が分からない。けれど、貴女がロクデナシであろうが、そうでなかろうと、私は守る為なら私を殺してでも殺戮兵器にでもなるつもりです。そう……未来に誓ったんです』

 

軽々しくこっちの世界に来ないで……。

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「ん?どうしたの?リィエル」

 

「…なんでもない」

 

エルレイは今日見た夢を思い出しながら、少し悲しそうにいちごタルトを頬張った。

 

 

★★★

 

「って、エルレイ。お前も来てたのか」

 

「ん」

 

イヴとの接触に成功した深夜、エルレイとセラはフェジテの某所__南地区郊外に存在する、倉庫街に足を運んでいた、最初に目についたのはグレンだった。

 

「レイちゃんもイヴに呼び出されたんだ」

 

「アイツ…関係ない未来のリィエルまで……」

 

グレンはそういうと悔しそうに唇をかんだ。エルレイは即座に言葉を返す。

 

「自分の意志で来てるから、そんなに心配しなくていい」

 

「俺はそういうこと言ってるんじゃ……!」

 

グレンがその言葉に噛みつこうとしたその時。

 

 

 

「お久しぶりです。グレン先輩、セラ先輩」

 

突然倉庫のドアのほうから男の声が聞こえる。

そちらを振り向くと、小柄な男性で赤い髪に肩には風と書かれたバッジ、間違いない。

 

(…シュウ)

 

「あ、ハル君早いね」

 

「いつも姉貴に振り回されてご苦労なこったな」

 

「皆さんが最後です。あと自分はそこまで姉様に振り回されてるとは思っていませんよ?」

 

(口調も…間違いない)

 

「エルレイです」

 

「はい、存じ上げております。今回はよろしくお願いします」

 

そういうとハルと名乗る男性はエルレイに軽く近づき。

 

(…あとで、未来で何が起こったのか聞かせて、エルザはリィエルから聞いたほうがいいっていうから)

 

「っ!!」

 

突然の事に顔が少し歪む。

このシュウはこの世界のシュウじゃなくて私の世界のシュウ……?でも背丈が、学院時代と変わって……。そもそもこれが知ってるシュウだとして、こっちの世界線のシュウは…??

 

「エルレイ、どうした?」

 

「…なんでもない」

 

エルレイはグレンの問いに、顔に感情を出さないように冷静に答えた。

 

 

★★★

 

「よう!グレ坊!!セラちゃん!」

 

中に入ると確かに全員いて、エザリー、バーナード、アルベルト、リィエル、クリストフ、そしてイヴがいた。

 

「じじい……、アンタは相変わらずそうだな」

 

「ほぉ~~、この子がリィエルちゃんの未来の姿かいな?なかなかの別嬪さんやのぅ~~」

 

「バーナードさん、ホントに相変わらずだね」

 

そんな当たり前の光景にセラは苦笑いをする。

エルレイは即座にエザリーの横に陣取る。

 

「ハルについて、聞きたい」

 

「あはは、やっぱり」

 

やっぱりかとエザリーは乾いた笑い声をあげる。

 

「話によると気づいたらこの世界で赤ちゃんだったんだって、原因はまだわかってないみたい。ロクサスさんとも接触できてないみたいだし」

 

「……そ」

 

つまり今シュウ……、ハルは生まれ変わりの状態だってこと?転生者だってことは聞いてたけど二回もするものなの…?

そんなことを考えていると、向こうは向こうで騒いでるようだ。

 

「セラ、アンタは基本的にただの監視してるだけでいいわよ、人数足りるから」

 

「う~~~~」

 

「う~~~~、じゃない」

 

「わん!!わん!!」

 

「わん!!わん!!じゃない!!!!」

 

「ム~、それだから恋人の一人もできないんだよ?」

 

「し、失礼ねっ!!私にだって恋人の一人や二人…」

 

「……姉様、恋人いたんだ」(殺す殺す殺す殺す殺す)

 

「あ~~~うん、私が悪かった。お姉ちゃんが悪かったからそのあふれ出る殺意をしまいなさいハル!!」

 

「あー!ハルくん怒らせた!いーけないだー!」

 

「ほとんどセラのせいでしょ?!ていうかアンタ、講師になってからあほ度が増したんじゃないの?!」

 

セラが茶化し、イヴが怒り、それを引き金にハルがブちぎれて、バーナードはそれを微笑ましそうに見ている。クリストフは苦笑いしながら、グレンとアルベルトは無関心だ。リィエル?エザリーの膝で寝てるよ、これが私の知ってる特務分室……?

 

「…かえっていい?」

 

「気持ちは痛いほどわかるけどちょっと待って」

 

帰ろうとするエルレイをエザリーは肩をガシッとつかみ、止めた。

 

「…はぁ」

 

エルレイは適当に拾った小石を掴み、セラに向けて…。

 

「えい」

 

「いたっ!!!!」

 

セラに投げてセラの眉間に直撃、するとセラは痛いのかそのあたりを転がり始めた。

 

「室長、お話を、お聞きします」

 

「…アンタホントにリィエル?」

 

「おめえに同意するのも癪だが…多分会ったやつ、全員そういう感情抱くから気にしなくていいぞ」

 

錯乱するイヴに、グレンは遠い目になりながら言った。

 

 

 

 

★★★

 

なんだかんだで会議終了。

会議内容、このチームでザイードをぶっつぶす、以上。エルレイはグレンのサポートをすればいいとのこと、エルレイは話が終わり、皆がほとんど帰った後にリィエルをおんぶして、帰ろうとする。

 

「ちょっといい?」

 

「……ん」

 

突然エルレイ、ハル、イヴしかいない倉庫で、イヴが話しかけてきた。

 

「よく私の話をあんなにすんなりと受け入れたわね、正直意外だったわ」

 

「その言葉、そっくりそのまま」

 

そう、それはこちらのセリフだ。未来から来たなんてありえない話、エザリーから聞いて信じてくれたのだ、意外というレベルの話ではない。

 

「でも忠告して置くわ、簡単に信じて正義の味方を気取っても、何の得もないわよ」

 

イヴはそう吐き捨てた。エルレイはぴくっと眉を少し動かす。

 

「正義の味方……ね…ふふっ………」

 

「…何がおかしいのかな?」

 

ハルは首をかしげながらそう聞いてきた。エルレイは笑った、笑いを隠せなかった

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

 

「特務分室解散…」

 

リィエルはきれいなオーロラをエルザと見ながら、少しため息をついた。

 

「みんなと見たかったね…このオーロラ」

 

エルザはオーロラを眺めながら悔しそうに呟いた…。

そのオーロラはきれいでどこか儚い、見ていると心が洗われているのか、壊れているのかわからない…。

 

「なんで……解散…しちゃったんだろう」

 

「私たちは力を持ちすぎたんだよ。だから上の連中にとっては扱いづらくなった……、それだけだよ」

 

そのエルザの言葉を聞くと、リィエルは悔しそうにこぶしをぎゅっと握った。

 

「何が……正義のために戦え?」

 

「…リィエル」

 

「あいつらの……勝手な都合…っ!みんな頑張ったのに……っ!その苦労が全部…っ!」

 

エルザはリィエルを優しく抱きしめる。やさしく、すべてを包み込むように…。

 

「正義には大きすぎる力は不要…?…勝手に決めやがって……っ!!」

 

イヴの苦労、グレンの葛藤、それぞれが歩んできた特務分室のみんなの努力を…奴らは踏みにじった……!!

 

「ふざけるな…、ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁぁ!!!!」

 

リィエルは泣いた。すべてを吐き出すように、泣いた。

そしてリィエル=レイフォード、今のエルレイに残ったのは…恐ろしいほどの親友への執着心と、人間への憎みだけが感情を支配した。

 

 

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・

 

 

 

「ん……正義なんて言葉‘‘反吐‘‘が出る、そう思っただけだよ」

 

そう言い残し、エルレイはその場を立ち去った。

 

 

 

★★★

 

 

「………ん」

 

「あ、起きた」

 

歩いている途中にリィエルが起きてしまったようだ。リィエルはおんぶしているエルレイの背中の上で眠たそうに目を擦った。

 

「お話…おわった?」

 

「うん、終わった」

 

「そ」

 

リィエルはそれを聞いて欠伸をする。

 

「ねぇ、リィエル、私のこと、どう思ってる?」

 

「?ねえねの事?」

 

「私は、貴女の未来の姿、ガッカリしてるかなって、さ」

 

「?」

 

リィエルは不思議そうに首を傾げる。

エルレイにとってリィエルは自分であると同時に、自分の子供のようなそんな感覚を抱いていた。

 

「ねえねはねえね」

 

「!…だから私はリィエルにとっての…」

 

「ん…ねえねは私だから血が繋がってて本当は姉妹なんだよ、そういう事?」

 

「い、いやっ…血は同じだと思うけ…」

 

これ以上言っても無駄みたいとエルレイは思い、苦笑いをしながらおんぶしているリィエルの頭をなでた。

 

「はぁ……君は私と違って、いつか大物になりそうだね……」

 

よくわからない子供特有の言葉に、エルレイは笑みをこぼした。

 

「君なら…私と違って…充実した毎日を…」

 

「すぅ……すぅ……」

 

「!……ふっ、ふふふっ」

 

エルレイは笑い声を小さく上げ、いちごタルトを頬張った。自分とリィエルの違いはそこまで無いはずなのに、何故かこの子は幸せになれる…そんな気がしてならない。

 

「あはは……複雑」

 

 

 




よろしければ評価、感想をよろしくお願いいたします。励みになります。

エルレイ2「そういえば、私ダンス相手。どうしよ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シュウとロクサス

某小説にて

エルレイちゃん、フィールを慰めてあげて!!

エルレイ2「御意」

作者「あ、ここでやるの?」

エザリー「ま、まぁ、コラボ未定だから仕方ない」

エルレイ2「フィーちゃん、辛いと思うけど、頑張って、見守ってる、でも無理して頑張りすぎないでね……フィーちゃんが殺戮人形になってしまうと思うと……辛いよ……」

エザリー「と、数話前に夢の中が人間の殺意に満ち溢れてた手遅れ系女子が言ってるよフィールちゃん」

エルレイ2「手遅れ系女子いうな、否定しないけども」



「さて…と」

 

教室にて、エルレイは作戦内容を思い出しながらため息をついた。

過去何があったかは思い出せないが、おそらくエザリーもいるので問題はないだろう。なのでエルレイが考えているのはそこではなかった。

 

「ダンス相手…、どうしよ」

 

そう、ダンス相手だ。

なんだかんだで久々のダンスコンペだ。昔、誰と組んだかすら覚えていないが、今回出場するのは、何故かルミアと一緒にグレンが出る……。と思うとなんとなく女として、負けた気がするからだ。

 

「こういう時、シュウがいてくれたら。話早いんだけどね」

 

エルレイはそう言いながら自分の髪を整えた。ギイブル、カッシュ、そのあたりを誘っても良いが、そうするとイヴの指示に動きずらくなる。

 

「ホント、どうしよ」

 

「レイちゃ~ん!!」

 

そう呟やいていると、突然扉が開き…、ばーんとセラが教室に入ってくる。

 

「グレン君にフラれた…」

 

「…イヴの話聞いてなかったの?グレンはルミアと組んでるんだって」

 

「そうかもしれないけど…」

 

「女の嫉妬は醜い」

 

「し、嫉妬じゃないよっ!?」

 

エルレイは怒るセラを見ながら苦笑いをした。

そういえばフィーちゃん、グレンの事をお父さんと言いかけてたな…、そして、なんとなくだが、セラに似てた気がする。もしかしたらあの子…、いや、考えるのはやめておこう、自分の中のグレシスが壊れかねない。

 

「そんなことはいい。用件は?もしかして愚痴りに来ただけ?」

 

「あ、そうだった、レイちゃん、私とダンス踊らない?」

 

「…セラと?」

 

「うんっ」

 

そう言われ、エルレイは考え込む。

悪く無い提案だ…、セラとの連携も取れるし、何よりセラと一緒なら違和感なくグレンとルミアの横に陣取ることができる。

 

「まあ、いいよ」

 

「やった!」

 

「でも私、男パートしかできない。それでもいいなら」

 

「え、逆になんで男パートだけできるの?」

 

「それは…」

 

あれ、なんでだっけ。覚えてないや…。

 

「ま、まあ。細かいことはいい」

 

「それもそうだね!さっそく外に出て始めよう!」

 

そう言ってエルレイとセラは外の中庭に出て、ダンスの練習をし始めるのだった。

 

 

 

 

「すごいねレイちゃん!王子様みたい」

 

「あ、うん」

 

そう言われても正直複雑な気分ではある、が悪い気はしなかった。今回は雰囲気を出すために髪型を整えて、服もいつもの服ではなく男っぽいグレンのような服を身にまとっていた。

 

「じゃあ、始めよっか!」

 

「ん」

 

セラのその掛け声とともにダンスが始まる。

エルレイはいつもルミアとやっているように手慣れた手つきでセラを誘導し、華麗に舞う。

 

(…ひさしぶりだからか。…わかんないけど)

 

疲れる超疲れる。

この人のダンスヤバイ、妙にリズムが早く心が躍るので、体が勝手に激しく舞ってしまう。ダンスってこんなのだっけ?妙にやってて楽しい、変な感じ。

 

「すっごい!ここまでレイちゃんダンスうまかったんだ!」

 

踊っているにも関わらず息を切らせることなく、セラがそう言ってきた。

うまいと言われるのはうれしいが、躍り終わってからにしてほしい。少しイラっとしたので仕返しをする。

 

「ダンス中は身をお任せください…。お姫様」

 

「…ふぇぇ!!」

 

エルレイはわざとセラを抱き寄せて、耳元でそうささやいた。

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

『やあ、リィエル、ご機嫌いかが?』

 

「最悪…」

 

エルレイはその日の夜に自分の部屋でシュウ。現在名のハルと通信をやっとの思いで取っていた。

 

『何かあった?』

 

「セラのダンスが……」

 

そうとぎれとぎれに言いながら、エルレイはベッドにダイブした。

もうこのまま眠ってしまいたいが少し我慢。

 

『ああ、あの人のダンスはなかなかハードだからね』

 

「…疲れた」

 

『あはは…。おつかれリィエル、偉いよ』

 

「…ん」

 

そのハルの声はエルレイにとってとても心地いいものだった。

ずっとこの人の声を聞いていたい、ずっと話していたい、そんなことを考えながらも、きちんと切り替えて話の本題に入った。

 

「そろそろ情報交換しよう」

 

『わかった、なにから話そうかな…』

 

エルレイはハルの出来事を色々と聞き、それと同時にエルレイはハルがいなくなってからの事をできる限り話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『そっか……特務分室なくなっちゃったんだ』

 

「ん」

 

『まあ、仕方ないね。力を持ちすぎると邪魔になる、人間どもの考えそうなことだしね』

 

ハルはそう言って笑った。

特に気にしてないようだ。彼はエルレイの世界では特務分室の執行官ナンバー44 殺戮剣と呼ばれていて、かなりエースだったのでガッカリするのかと思っていた。

 

「シュ…ハルのほうはどう?」

 

『シュウでいいよ。しいてあげるなら僕の事情を知らせた人物はイヴ姉様くらいだってことくらいかな、あとはエルザが来てくれたから成り行きで特務分室のみんなに』

 

「…そ」

 

成程、私を簡単に信用したのはハルの影響だったのか。

イヴは少し弟に甘いというか、信頼しすぎてる部分があるからそれが出たのだろう。

 

『あとは最近だと料理のレパートリーが増えてきてね、またいつかリィエルにも食べてほしいなって思ってたり───』

 

「…ふふ」

 

『……ん?どうしたの?』

 

「何も」

 

少しエルレイは笑みをこぼした。

なにせ初恋の人と喋っているのだ、笑みもこぼれるというもの、とても話してて心地いい。やっぱり私は、この人を好きなのを諦めきれないんだと少し苦笑いをした。

 

『リィエルは大丈夫?声が少し疲れてるよ?布団の擦れる音がするからもう疲れてベッドに入ってるのかな?ご飯は食べようね?後お風呂と歯磨き___」

 

「乙女気分、返して」

 

ハルはダメ人間製造野郎だ。

繰り返す、ハルはダメ人間製造野郎だ。

こういうところがハルはあるから、昔からエルレイに恋しているのかすらどうかもわからない。あのエルレイ好きのエザリーにさえ恋愛相談をしたら『あの人ってリィエルのお兄さんでしょ?禁断の恋?』と割と真面目に言われたほどだ。

 

「そういうところがあるからシュウは……」

 

『あはは…ごめんごめん、それじゃあ、そろそろ少しヤバい話していいかな?』

 

「…いいよ」

 

『…兄様と接触した』

 

「!? ロクサスと…」

 

 

 

エルレイはそのハルの発言に驚愕の声をあげた。

 

 

 

 

 

 

★★★

 

「…ふ、ふふふふ……。まさかこれほどとは…、おそらくエルレイ様やアルベルト様と同等。いえ、それ以上かもしれませんわね…」

 

エレノア・シャーレットは、破壊された研究所があったと思われるクレーターの場所である男と対峙していた。

その男は青髪の両手に古式な拳銃を二丁構えていた。

 

「かなり、本気を出したつもりだったのですが…」

 

「きひひ…あれで本気か、ぬるすぎるぞエレノア・シャーレット」

 

エレノアの体にはかなり傷があり、服も破れていることから相当ダメージを負っているのがわかる。

しかし一方の男は全く傷はついておらず、息すら乱れていない。まるでエレノアと戦闘してなどいないと思えるほどに無傷だ。

 

「これ以上の戦闘は無意味ですね」

 

エレノアはそう言いながらため息をついた。

 

「恐ろしい御方です。いっそ我らの研究会に入りませんか?」

 

「断る」

 

「貴方のような御方なら、きっと我々の研究の意味が───」

 

「人間に興味などない。とっとと絶滅しろ下等外道生物」

 

その男は見下すように親指を下に下げ、エレノアを見ながらそう吐き捨てた。

エレノアが少し驚いていると次の瞬間───。

 

 

「《武装展開》いくよファイさん」

 

『yes、my master』

 

 

その声と共にエレノアの真後ろから、紫色の剣を持ったハルがエレノアの首を目掛けて刃を振り下ろした。

 

「っ!」

 

咄嗟の判断でエレノアは避けて、距離を取る。そこには三人いて、イヴ、ハル、エザリーの三人がこの場所に集結していた。

 

「貴女方まで来ましたか…面倒ですね、そろそろ下がらせていただきますわ」

 

そう言い残すとエレノアは夜の闇へと消えていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、白けることすんなよ弟よ」

 

「女性の服をあそこまで引きちぎってるほうが、よっぽど白けるよ?兄様」

 

そう言いながら二人の男は笑いあう。まるで先ほどまで殺し合いなどしてなかったかのように。イヴはこの状況についていけてないのか、少し口を開けている。

 

「…あいつは?」

 

「シュウく……ハル君が、転生した……人間というのは、聞いてますよね?あの人はロクサス…。私…とエルレイの、時代にいたハル君の…。義兄弟です」

 

エザリーは震えながらそう言った。

 

「震えてるわよ、エレノアと対峙してたやつだからって特務分室の人間がそこまで震えるんじゃないわよ」

 

「む、無理です…。あの方だけは本当に…‘‘人間じゃない‘‘んです」

 

エザリーは震える自分の手を抑えながらそう言った。

 

「おいおい、俺がお前になんかしたか? エ ザ リ ー よ?」

 

「ひっ!!!」

 

「兄様。エルザを怖がらせないで」

 

恐ろしくドスの利いたロクサスの声に、エザリーは身を震わせているところをハルは優しく背中を摩った。するとエザリーはそのままハルの後ろに隠れてしまう。

 

「それで?お前らは何しに来た」

 

「兄様の破壊したこの施設の調査だよ、なんで壊したの?」

 

ハルは特に怖がることも無くロクサスに尋ねる。

 

「俺の邪魔になったから壊した、ただそれだけだ」

 

そういうとロクサスは不敵に笑った。

 

「それが分かんないんだよね…基本的に人間に無関心な兄様がなぜ壊した?」

 

「あらかた検討はついてんじゃねぇのか?シュウ」

 

「…」

 

「…まあいい、あとイヴ・イグナイト」

 

そう言ってロクサスはイヴのほうに顔を向ける。

 

「なによ」

 

「お前らが何をやっても知ったこっちゃねぇが、俺の邪魔になることがあったら即刻消すからな、特務分室もろとも」

 

「…アンタにできると思って?」

 

「試してみるか?」

 

そういうとロクサスは銃をイヴに向ける。イヴも炎を出し、戦闘態勢に入るが。

 

「姉様、待って」

 

「ハル、なんで止めるの?」

 

「ここで兄様と争っても何の得もないし、それにあいつは‘‘本体‘‘じゃない、そして本体じゃなくても姉様は兄様に勝てない」

 

「本体?どういうことよ、あいつがリィエルと同じ人形だとでも?」

 

「はは…その程度だったらどれだけ気楽か、とにかく戦闘は避けよう」

 

「…アンタがそういうなら信じる」

 

そういうとイヴは炎を消した。

 

「はっ、随分弟に従順だなイヴ・イグナイト。イグナイト家が聞いてあきれるぜ」

 

ロクサスはそう言いながらニヤっと不敵に笑った。その光景を見てエザリーはやっとの思いで口をひらく。

 

「ロクサスさん…だって、わざわざ…私たちと戦う必要はないでしょう……?」

 

「まあな」

 

「兄様、そろそろ消えてくれない?わざわざここで‘‘ストック‘‘を減らすことないだろ」

 

シュウはいつの間にかロクサスの背後に回り、ロクサスのクビに剣を突き付ける。

 

「それもそうだな、あ、そうだ、最後にシュウ」

 

「…何?」

 

「今度のダンス・コンペ…楽しみにしてると良い。きひひひ…、面白いものを見せてやる」

 

そう言い残し、ロクサスは自分の影に吸い込まれるようにしてだんだんと姿を消した。

 

 

 

 

★★★

 

 

 

「面白いもの…?」

 

『うん、そう言われた』

 

なんだ、いったいロクサスは何を企んでいる。私たちと敵対する気か?そもそも…いや、今は考えないようにしよう。

 

「一つ確認、シュウは今‘‘ストック‘‘いくつ?」

 

『234、まだ残ってる、でも』

 

「ロクサスと対峙するとしたら心もとない…ね」

 

『そういう事』

 

実際問題、ロクサスが敵に回るとしたら強敵という問題では済まされない。最悪 ‘‘世界が滅ぶ‘‘ 危険性だって十分にある。いや、その話をしだしたら。

 

(シュウも同じ…か)

 

ハルもロクサスに匹敵するほどの実力者、剣の実力ならば《剣の姫 エリエーテ》すらも ‘‘敵わない‘‘ のだ。この二人は普通じゃない、人外と呼ぶにふさわしい二人なのだから。

 

『大丈夫、全部僕が何とかするよ。リィエルはただただじっと見ててくれたらいいから』

 

「…ん」

 

 

 

 

そういうところだ。

昔から誰にも頼ろうとせず、自分一人で何とかしようとするところ、頼ってほしいのに…助けてあげたいのにいつの間にかシュウもロクサスも、自分の手を血で汚して平然と帰ってくる。

そういうところが本当に見てて辛い、私には何もできないのだと…、私がいても足手まといなだけだと思ってしまうから、しかし…。今は覚悟が違う。

 

 

 

二人よりも早く敵を排除し、二人の手を汚させなければいい。

 

エルレイはそう、心の中で強く決心した。

 

 

 

 

 

「そのためには、私も‘‘ストック‘‘をためておかないと」

 

エルレイはハルに聞こえないようにそうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

「………」

 

「…大丈夫?」

 

忘れていた。

正直忘れていた、今エルレイは、いつもエザリーとくるバーでエザリーの背中を摩っていた。

 

「こわいこわいこわいこわいこわいこわい…」

 

ずっとそんな言葉を連呼している。相当ロクサスにトラウマがあるのだろう。

 

「そこまで、怖い?」

 

「だ、だって…あの人。死んでも死なないし…」

 

これはエザリーの言い過ぎだと言いたいところではあるが残念ながら本当だ。

基本的にあの男は死なない、頭を銃で撃とうが、剣で真っ二つにしようが基本的に『いたいじゃねえか』『死なないったって、痛いんだからな?』と言われるのが関の山だ。

 

「それ言ったら、シュウどうなる?」

 

「シュウ君は…ええっと……」

 

そう、ロクサスが死なないという話をするとハルもそうなのだ。

基本的に死なない、死なないというよりは…攻撃が当たらない、というのが正しいだろうか、ハルに当たろうとすると攻撃の軌道がそれたり、すり抜けたりする。

 

「…なんで、リィエルってあの二人と一緒に居て平常心保てたの?…ハッキリ言って化け物だよあの二人」

 

「なんでだと思う?」

 

「…わかんない」

 

「わ た し が い ち ば ん 知 り た い 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

「さて、そろそろ行こうぜ」

 

どこかもわからない暗闇の中、ロクサスは目の前の金髪ロングの女性に向けて言葉を出した。

 

「うん、でも…。あはは、私にできるかなその作戦…」

 

「はっ、弱気だな‘‘ルミア‘‘」

 

ロクサスがルミアと呼んだその女性は、満面の笑みを浮かべた。

 

「そりゃあね、大事な旦那様の目の前で演奏だもん♪」

 

「…からかうな」

 

ロクサスの顔が少し赤くなる。

 

「そっちこそ、ちゃんとエスコートしてね?」

 

「…ったく、言われなくてもわかってるよ」

 

「ふふっ」

 

ルミアと呼ばれた女性は笑った。

その顔はとても晴れやかで、この人さえいればなんだってできる、何も怖くない、そんな感情が顔からでも読み取れるようだった。

 

「…さてルミア、俺たちの」

 

「うん…私たちの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「戦争(デート)を始めようか」」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

金髪の名無しミアル

読者の皆様お喜びを!エルレイが完全に狂い始めるよっ!



本日はついに社交舞踏会、当日。

午後七時からの開催は目前まで迫っており、放課後の学院内は、すでに浮足立った生徒であふれていた。

そしてエルレイは現在進行形で会場に到着し、男子用の正装に身を包み、開始を今か今かと待っていた。

 

「…」

 

『リィエル、大丈夫?』

 

「ん、大丈夫」

 

通信魔導器から聞こえてくるハルの言葉に軽く答える。

エルレイは特に動くことも無く周りを見渡している。

 

「シュウ、ロクサスはまだ、見当たらない」

 

『了解、…って、《魔の右手》の事も探してよ?』

 

「ん、分かってる」

 

そう言いながら、エルレイは近くにあったサンドイッチを頬ばった。

 

「でも、そのあたりはグレンたちが、何とかするでしょ、あんまり心配してない」

 

『リィエルが信頼してて何よりだよ。とりあえず楽しんでね』

 

そういうとハルはそのまま通信を一旦終了した。楽しんでね…か。

 

「こんな状況で、どう楽しめばいいんだろうね」

 

「レイちゃ~ん」

 

「エルレイ!」

 

そんなことを考えていると、小走りに走ってきたセラとグレンがエルレイに話しかけてきた。

 

「今日は頑張ろうねっ!」

 

「ん、がんばろ」

 

「お前ら頑張るのはいいけど、ちゃんと作戦内容覚えてんだろうな」

 

「……」

 

「おい!!」

 

黙り込むエルレイに、グレンは容赦なくチョップをかます。

 

「レイちゃんは基本的に自由に動いていいってイヴ言ってたよね。やっぱり基本的にグレン君のサポート?」

 

「ん…まあ、そんなとこ」

 

そう言いながらエルレイはあたりを見渡した。

まるで何かを必死に探しているように。

 

「・・・?」

 

するとシスティーナと踊っている青髪のパートナーに目が留まる・

背丈から見ておそらく男装した女子だろう、エルレイは少し気になり、グレンとセラに顔を向けて聞いてみた。

 

「ねえ、システィーナと踊ってる子って、誰?」

 

「ああ、リィエルだぞ、ってお前、昔の自分なのに気付いてなかったのかよ」

 

「わた…し」

 

そうだ、そういえば思い出した。

システィーナに男装させられたんだった。今までなんで思い出せなかったんだろう、この黒歴史を、エルレイはその場でうずくまった。

 

「れ、レイちゃん、大丈夫?」

 

「死にたい」

 

黒歴史を目の前で見せられて、エルレイは生まれて初めて、恥ずかしさで死にそうになった。こうしてエルレイはセラと共に予選のダンスを懸命に行った。

 

 

 

★★★

 

「予選通過はいいものの…」

 

エルレイはそう誰にも聞こえないように呟いた。

 

「エルレイ先生!!次私と踊ってください!!」

 

「えるれいせんせっ!!今宵はとても凛々しくて…かっこいいです!!」

 

「えるれいねえね!!その姿イイッ!!素晴らしすぎる!!!!」

 

予想以上に男装のウケがよかったらしい。女性の生徒からかなり集中砲火を食らっていた。

 

「ねえね、楽しそう」

 

「流石エルレイ先生っ!何をやってもお見事ですっ」

 

「あははっ、未来のリィエルとはいっても、やっぱりエルレイ先生は憧れます」

 

「三人は……とりあえず助けて?」

 

呑気に見てくる仲良し三人組を見ながら、苦笑いした後にエルレイはやっとの思いで女子の集中砲火から抜け出し、システィーナたちと、セラとグレンの元へ向かった。

 

「セラ、練習し──」

 

「あ、レイちゃん、ちょうどいいところに!」

 

エルレイは声が出なかった。

セラとグレンの隣にドレスを着た金髪のロングヘアーの女性がいる、そしてその顔は間違いなく。

 

(ル、ルミア!?)

 

エルレイの世界のルミアに他ならなかった。

 

「ええっと…貴女は?」

 

こちらのルミアが女性に聞いた。

 

「こんにちわ、私はしがない一般人ですよ。エルレイ先生、貴女様のダンス、拝見させていただきました。差し支えなければ少々私とのダンスに手伝っていただいても?一緒に来ていた旦那様とはぐれてしまいまして♪」

 

「どうしてもお前とダンスしてみたいらしいんだ、いや~、人気だな~あっはっはっは!!」

 

「モッテモテ〜!」

 

「……」

 

「ちょっとお二人とも!!エルレイ先生を茶化さないでください!大体お二人はいつもいつも──」

 

セラもグレンも茶化しているようだが、エルレイはその茶化しに反応せず、その女性の手を取った。

 

「ねえね?」

 

「では、あちらのほうで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エルレイは人気のないところに金髪の女性を案内して、そこで女性にいちごタルトを渡す。

 

 

「何故ここに?エルミアナ様」

 

「今の私はその名じゃないよリィエル…いやエルレイ、私はミアル。それが私の今の名前」

 

ミアルはそう言うと、エルレイの渡してきたいちごタルトをサクサクと頬張った。

 

「じゃあミアル、いつこの世界に?」

 

「詳しくは覚えてないんだけどね。気付いたら研究所で捕まっててね」

 

「…なるほど」

 

未来のルミアが研究所にいた。

これでやっと理解できた。ロクサスがあそこを破壊した理由、そして抹消したはずのコピーが生成されたのか。

 

「ロクサスは?」

 

「ふふ、さあ?この世界の私のお母さんに会いに行ってからくる。って言ってたから、そろそろじゃないかな?」

 

「陛下に会う…ね、指名手配されても助けないよ?」

 

「あはは、何を今更」

 

ミアルはそう言いながら楽しそうにほほ笑んだ。エルレイは少しため息をつく。

 

「ルミア、ロクサスと何か企んでる?」

 

「さあね、ただ今日は二人で、アンサンブルをしようって約束してる位だよ?」

 

「アンサンブル…ねえ」

 

エルレイはそういうとミアルの髪を触った。

 

「リィエルが色々考えてるのは見てわかるよ。でもね…最終的にはロクサスの手の中だよ?」

 

「……」

 

エルレイはミアルの髪を優しく触りながら睨みつけた。

 

「ルミアはそれでいいの?またロクサスが手を汚そうとしてるかもしれないんだよ?」

 

「それがロクサスの望みなら…。私は見守るだけだよ」

 

「…っ」

 

エルレイはその言葉を聞き、悔しそうな顔をした。

 

「そんな顔しないで、大丈夫だよ。リィエル」

 

ミアルはエルレイの頭を優しくなでた。

心地いい、心地いいが、怖い、ルミアまで手を汚すかもと考えると…。すごく怖い。

 

「私は…助けたい、二人がまた手を汚す前に」

 

「リィエルが手を汚すのはダメだよ、あの人の気分を害しちゃう。確かに私も、もうシュウ君とロクサスが手を汚すのは見たくないけど…、それでも自由に生きさせてあげたいの」

 

「…」

 

「たとえ自分の手を汚す結果になっても、あの人といたい」

 

 

じゃあルミアは手を汚していると知ってても、ロクサスと一緒にいたいのか……でも私はそんなに器用じゃない、そんな事は出来そうにない…そして

 

 

 

もう手を汚すのは自分だけでいい。

 

 

 

 

 

★★★

 

「ようやく尻尾を顕わしたわね」

 

「思ったより時間かかったね、姉様」

 

「な──ッ!」

 

エルレイが話している時間から数十分ほど経過し、ハルとイヴは敵の尻尾を掴み、今まさにこの別次元にできた空間を突き破り、今回の王女暗殺計画を目論んだとされる、ザイードとローレンス=タルタロス教授と対面していた。

 

「お初にお目にかかるわ、以後お見知りおき…」

 

「……」

 

「と言いたいところだけどやっぱいいわ、覚えなくていい」

 

ハルの少し冷たい目を見てイヴは即座に言葉を変えた。

 

「な、何故だ!何故分かったんじゃ!この場所が──!」

 

「僕、異次元的な空間はすぐにわかるものでして」

 

ハルはそういうと微笑んだ。

勿論目の前の虫けら(2人)に向けてではなく、イヴ・イグナイトに向けてだが。

 

「悪いわね、うちの弟は、少しばかり規格外なのよ」

 

「くっ…。ザイード!!」

 

「…はっ!!」

 

ローレンスの指示を受けて、ザイードが床を蹴ってイヴに魔の右手を伸ばすが──。

 

「姉様に触れるな下等外道生物」

 

ハルがザイードの目の前に出てきて、魔の右手を掴んだ。

 

「くっ…!」

 

「姉様。死なない程度に、仕留めていいんだよね」

 

「ええ、すべてはハルの望むままに」

 

「おっけー、《武装展開》行こうファイさん」

 

『yes my master』

 

イヴのその言葉を聞いたハルはどこからか紫の片手剣を取り出して持ち、そして容赦なく───

 

「っ!ぐぁああぁぁぁああああ───っ!!!!」

 

ザイードの右手を切り落とした。ザイードは悲痛の声をあげる。

 

「姉様の指示だから即死はさせないけど…出血多量で死んだら僕の責任じゃないからね」

 

「く、クソっ…小癪な帝国の犬めがぁ!!」

 

その言葉を発した瞬間…無残にもローレンスの両腕はハルによって切り落とされていた───。

 

 

 

 

 

★★★

 

「ま、こんな所だね」

 

「ふふっ、私はここにはいらなかったかしら?」

 

そう言いながらイヴはハルに微笑みかけた。

 

「そんなことない、姉様がいるだけでやる気が出る」

 

ハルはそう言いながらイヴに微笑みを返した。そしてハルは通信魔導器を取り出す。

 

「エルザ、どう?そっちは」

 

『うん、逃げられたけど片付いたよ、‘‘万物切断可能な刀‘‘を貸してくれてありがとね。かなり楽に戦えた』

 

「そっか、それは良かった」

 

『…ストックのほうは大丈夫なの?』

 

「まあまあ、かな」

 

ハルはそんなことを言いながら苦笑いした。イヴが不思議そうな顔をする。

 

「いつも思うんだけど、アンタの言う‘‘ストック‘‘って何?マナの貯蔵でもあるの?」

 

「姉様には秘密」

 

「何よそれ」

 

そう言いながら二人は笑いあった。まるで勝利を確信したかのように。

 

「……」

 

「何?ハル、どうしたの?」

 

可笑しい、確実におかしい。

ロクサスが面白いもの、と言っていたのに、何も起こらない。あれはブラフだった?それにしては。

 

「…?」

 

そうハルが考えていると突然音楽が微かに流れているのを理解した。

どうやら放送で、ダンスの演奏が流れているようだ。

 

「あら、放送で演奏流れてたのね」

 

「う、うん、そうだね」

 

ハルはなんとなくこの音に聞き覚えがある気がした、一体いつ聞いたのだろう…い…った…い……演奏?

 

「でも変ね、ダンスの曲には似合わない曲調…。聞いてるだけでダンスの感覚が狂いそうだわ」

 

そう言いながらイヴは笑った。

 

「感覚が…狂う?」

 

 

 

 

破軍歌姫(ガブリエル) 行進曲(マーチ)

 

 

 

「!!!」

 

 

気付いた。

ようやく気付いた、意識が奪われる前に気付いた。これがロクサスの‘‘洗脳精霊術‘‘であることを。

 

「姉様!!!耳をふさいで!!」

 

 

そう言った頃にはもう遅かった。ハルの意識は朦朧とし…やがて意識が無くなった。

 

 

 

 

 

 

★★★

 

『エル‥‥リィエル……リィエル!!!』

 

「…!!」

 

姫の声でエルレイが意識が戻るとそこは会場だった。

さっきまでセラとフリー時間でダンスをしていたはずなのに。

 

「ひめ、私は今まで…」

 

『洗脳されてたよ、魔の右手じゃなくて、《破軍歌姫(ガブリエル)》によってね』

 

破軍歌姫(ガブリエル)

ロクサスが所有する力の一つで洗脳能力だ、演奏を通して他の人間の身体に入り込み、人形のように自在にコントロールできる。

 

「…やられた」

 

周りを見てみるとみんな普通にダンスをしているがどこか目に光がない。

 

「リィエル、どうかな?私とロクサスの同時《破軍歌姫(ガブリエル)》楽しんでくれた?」

 

「…ルミア」

 

隣りにミアルがいた。

エルレイは拳を握り締める。同時《破軍歌姫(ガブリエル)》…面白い物と言うのはこれか…つまりルミアもあの接続を──。

 

「…ザイードは?」

 

「ああ、あそこ」

 

指をさされた場所を見てみると、そこには身動き一つしない今まで演奏の指揮者をしていたもの、本物のザイードがいた。

 

「あとで、‘‘イザナミ‘‘様が回収してくれるってさ」

 

「…っ、ルミアも接続経路‘‘イザナミ・マキナ‘‘を使って──」

 

「ふふ、どうだろうね」

 

そういうとミアルは無邪気にほほ笑んだ──。

 

「誤魔化さないで、あれに接続したってことはルミアは…」

 

「私は、ちょっと力を借りてるだけだよ?ストックも心もとないしね」

 

「…一つ聞かせて、ロクサスはどこに?」

 

「今外だよ。王女暗殺計画の奴らを皆殺しにするんだって」

 

「……」

 

おそらく、エザリー達が殺しあった奴らを殺しに行ったのであろう。

 

またか…。またロクサスの意思で手を血に染めたのか。

 

「ルミア、昔のルミアならロクサスとシュウが手を汚すのを嫌ってたはず…。なのになんで…っ!!」

 

「ロクサスが望むから、ただそれだけだよ?」

 

「っ!!」

 

「リィエルだって人の事言えないでしょ?シュウ君が傷つくのを見たくないから自分が肩代わりする、ロクサスとやってることが一緒だよね?シュウ君がそれを知ったら悲しむよ?」

 

「うるさいっ!!!私は自分の手を汚してでもみんなを……っ!!」

 

エルレイはミアルに向けて怒鳴りつけた。

許せないのだ、自分がまた何もできないかもしれないのが───。

 

 

 

 

 

「私は…2人を斬ってでも2人を守るっ!!!」

 

 

 

 

 

そしてエルレイは詠唱を開始した。

 

「《万象よ二つの腕手に・剛毅なる刃を》──っ!!!」

 

即座に大剣を2つ生成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハズだった。

 

 

「…ごめんね」

 

「──!《銀の鍵》っ!」

 

エルレイの大剣は生成されなかった。何故ならばルミアが生成しようとした瞬間その空間を‘‘止めた‘‘のだ。

 

「リィエルとは戦いたくないんだ」

 

「っ!!《我目覚めるは・デウスと赤龍帝の力を信じし・殺戮人形なり・人を憎み・狂気を望む・我が力を糧として・我に大いなる力を与えたまえ》──っ!!」

 

詠唱すると、エルレイの近くから熱が発生し、なくなると思ったら突如、何もない空間からチャックのようなものが出てくる、その中は深淵で何があるのかわからない、エルレイはそこから、2枚のカードを取り出す。

 

「《展開》ハルカ・アクエリア──っ!!」

 

そう叫びながら、エルレイがカードを投げるとエルレイの周りに水が塊となり浮遊しだして、エルレイの手には、金色の光が宿った水で生成されたであろう大剣を握り締めていた。

 

「……仕方ないね《我目覚めるは・赤龍帝とデウスの力を許容する・名無しなり・異端を愛し・慈悲を捨てる・我が力を糧として・我に大いなる力を与えたまえ》」

 

ミアルが詠唱すると、エルレイと同様、熱が発生し、なくなると思ったら突如、何もない空間が裂け、そのヒビから大きな鍵のようなものが出てくる、その中は深淵で何があるのかわからない、ミアルはその大きな鍵を手に持つ。

 

「《(シフルール)》」

 

その大きな鍵は、鍵から戟へと形状が変化する。

 

「……《封解主(ミカエル)》」

 

「リィエルの気持ちももちろん痛いほど分かるよ…でも…それでも私は、ロクサス達を自由に生きさせてあげたいの」

 

ミアルは少し悲しそうにそう呟いた───

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

公開可能情報

 

接続経路『デウス・エクス・マキナ』

 

使用者 シュウ(ハル)

 

シュウ・イグナイトの力が収納されている空間、剣や盾、雷竜など様々、接続はシュウしかできず接続には詠唱は必要とせず、即座に使用可能。

 

 

接続経路『イザナミ』

 

使用者 ロクサス

 

ロクサス・ティンジェルの力が収納されている空間 古式な拳銃や大剣、赤い竜など様々、接続はロクサスしかできず接続には詠唱は必要とせず、即座に使用可能。

 

 

接続経路『イザナミ・マキナ』

 

使用者 エルレイ ミアル

 

使用者の二人が強引に上記2つの接続経路を使用できるように編み出した接続法、しかし接続には詠唱が必要でかなりの時間を必要とする。

 

 

 

 

上記に記載した接続経路はマナを必要としない代わりに接続経路問わず使用者は

 

 

 

人間の魂を十体以上生贄としなければ使用することができない。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦闘 ミアル

未来のルミアとリィエルの戦闘です!
二人の感情を意識したので、二人の気持ちの強さを少しでも感じてくれたらうれしいです!


「いいいいいいやああああああああ!!」

 

「っ!!」

 

エルレイはとミアルは誰も動こうとしないダンスの会場で…二人だけ動けるこの状態で、武器を交えていた。

一回、一回、武器がかち合うたびに空気が重々しく揺れるのが肌で感じた。

 

「リィエル…、貴女は他人の同意を得られないような人じゃなかったハズだよね…。私の話を、ロクサスと私の話を聞いて落ち着いて──」

 

「うるさいっ!!!ルミアだってそう!いつもいつも私やシスティーナの気持ちを考えずに無茶して…、少しは心配する身にもなってよっっ!!!!」

 

エルレイはミアルの話を聞こうとせず、光を纏った水の大剣をミアルに当てるために何度も何度も振り下ろす。

 

「っ!!」

 

ミアルはギリギリのところで躱すが、武器を使って反撃をしようとはせず、ただエルレイに当てないことだけを考えているかのように、武器だけを集中して狙っていた。

 

「私はっ!!…もう自分の力が弱くて助けられないのはごめんなの…私は斬ることでしかなにかを守れない…満たされない…」

 

エルレイはそう言いながらもう一度強く大剣を構えた。

 

「リィエル…」

 

「だから私は、みんなの手を血で汚させない…。全部私が引き受ける」

 

「そういうところだよ」

 

「……!」

 

ミアルは少し俯きながら答えた。

 

「シュウ君言ってたよね。みんなを守りたいだけって、それはリィエルも入ってるんだよ」

 

エルレイは少し水の大剣を持つ力を緩めた。

 

「シュウ君は、一番リィエルの事を思って頑張ってたよ?それを無下にしたい?」

 

「……それ…は」

 

「勿論。リィエルが快感を斬ることでしか得られなくなったのは…、愚痴をこぼしてくれたから知ってる…。でもそれを理由に二人のやることを否定するのは違うんじゃない?」

 

「…っ」

 

エルレイは唇をかんだ。

言い返せない。言い返すことができない。実際その通りなのだから、しかしエルレイは声を荒げる。

 

「じゃあ黙ってみてろっていうの!!2人が殺戮してるのをっ!!私達のために頑張ってくれてたシュウとロクサスが狂気に笑うのを黙ってみてればいいのっ?!」

 

「っ!だから、シュウ君とロクサスが望むことをやらせてあげようって言ってるのっ!!それとも二人の力を拒絶してきた人間どもに愛想振りまいて普通に笑えとでもいいたいのっ?!」

 

ミアルもたまらず声を荒げる。

 

「違うよっ!!!違う!!」

 

「何でそこまで二人が殺戮することが嫌なの?お願いだから教えてよ…」

 

「…一人の少女と会ったの」

 

「一人の少女?」

 

エルレイの言葉にミアルは耳を傾ける。

 

「面識は1日だけだったけど…。その子は優しくていい子で撫でると少し照れる年頃な女の子、それなのに…それなのに……っ」

 

「…リィエル?」

 

「…とにかく、私はもう皆が頑張るのは見たくない、ただそれだけだよ」

 

エルレイは少し言葉が詰まった後。剣を一振りした時──、浮遊していた水の塊が一つに塊大きな球体の塊になる。

 

「《拘束せよ》」

 

「…っ!」

 

エルレイが指示すると、その塊はミアルの体をすっぽりと包んだ。ミアルの周りには空気があるようだが、ミアルが中から攻撃してもびくともしない。

 

「これ以上おいたしたら…爆発するからね」

 

「…そういえばこの水…。爆発したっけ」

 

そう、この水は爆発が可能なのだ。その爆発は力の制御が可能で、場合によっては国一つ滅ぼす程の威力がある。

 

「じゃあそれを閉じようかな」

 

「…どうやって」

 

「こうやって」

 

ミアルは持っていたものを、もう一度鍵に形状変化させた。

 

「《封解主(ミカエル)》《(セグヴァ)》」

 

ミアルがそう言いながら鍵を水の球体にさして、カチャっと回すとその水は力を失ったようにしたに落ち、その場の地面が濡れる。

 

ミアルも濡れた。

 

「あはは…。びしょびしょ…」

 

「…なるほど、力を閉じたの」

 

エルレイはそう言いながら唇を噛んだ。

 

封解主(ミカエル)

その能力は自在に開けたり閉じたりできる能力…。それだけではただの鍵開けと思われかねないがその能力はすべてを閉じて開けることができる。

その能力の効果範囲は幅広く、人間の記憶や力など、形のないものにまで及ぶ。魔術、魔法さえも起動することができないのだ。

 

「相変わらずちーと」

 

「それはどうも」

 

その言葉にミアルは微笑んだ。するとミアルは突然外を見て呟いた。

 

「…迎えが来たみたい」

 

「…迎え?」

 

その言葉に反応し、エルレイは窓を見てみると、そこには…。

 

「よっリィエル、いやこっちだとエルレイだっけか?」

 

羽根も何もないのに空を飛んでいるロクサスがいた。魔術で飛んでいるわけでもないようだ。

 

「よっ…じゃない、人の気も知らないで」

 

エルレイはそういうとロクサスを睨みつけた。

 

「きひひひっ、悪い悪い」

 

「ロクサス、もうやりたいことは終わった?」

 

「ああ、粗方な」

 

そう言いながらロクサスはエルレイの目の前に立った。

 

「そろそろ帰るぞ、ルミア」

 

「うん、じゃあリィエル。またね」

 

「…まって」

 

「シュウによろしく言っといてくれ、じゃあな」

 

 

 

 

 

「待てっ!!!!」

 

エルレイは叫びながら高速で刀を生成し、とんでもない速度で背を向けたロクサスに向けて。

 

容赦なく肩を切り落とした。

 

ぼと……。

 

ロクサスの右腕が力なく地面に転がる──

 

「…何考えてんだ、リィエル」

 

「大丈夫?ロクサス」

 

「ああ」

 

ミアルがそう尋ねるが、その声はとても剣で斬られた事を動揺しているとは思えないほど冷静な声だった。

 

「…治り始めたか」

 

そうロクサスが言うとなくなったロクサスの肩から炎が出て、どんどん腕の形を取り戻していく。

 

「…面倒だな《刻々帝(ザフキエル)》  《四の弾(ダレット)》」

 

そういうとロクサスはどこからが古式な拳銃を左手で取り出して、その後銃口を失われた肩に向け、

 

パンッ!!

 

肩に向けて銃を撃った。

 

すると転がっていた右腕が突然 ‘‘時間が戻ったかのように‘‘ ロクサスの肩に吸い寄せられ、元の右腕としての活動を再開する。

 

「リィエル、俺にそんなものが、効くわけないだろう?」

 

「知ってる」

 

エルレイはそんなこと重々承知、ロクサスは何度斬ったとしても死ぬことはない、分かりきっていることだ。

 

「言って聞かないのはわかった…。でも一つだけ聞かせて、なんでこんな事するの?なんで私に任せてくれないの?」

 

「そんなの決まってるだろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そっちのほうが面白いからだよ」

 

そう言い残し、ロクサスとミアルはその場を去ってしまった。

 

 

 

 

★★★

 

「リィエル、お疲れ様」

 

「ありがとね、リィエルのおかげでかなりスムーズに事が進んだ」

 

「…」

 

社交舞踏会が終わった後、ハル、エザリーは誰もいない路地でエルレイと接触していた。

 

「リィエル、疲れちゃったかな?お疲れ様」

 

そういうといつもの事のようにハルはエルレイを抱きしめた。

それを見ていたエザリーは苦笑いする。

 

「シュウ君にとっては、リィエルはいつまでも自分の妹的存在なんだね」

 

「まあ、そうかもね」

 

そう言いながら二人は微笑む。いつもならばエルレイは抱きしめ返して落ち着いたように微笑むのだが…。

 

「…」

 

何故か顔色を変えていない、何か腑に落ちないように。

 

「どうしたの?今は誰もいないし、全部終わった後なんだからシュウ君に思いっきり甘えたら?」

 

そう言いながら、エザリーは少し小悪魔的に笑いながらエルレイの頭を撫でた。

 

「面白いものがあるって言ってたけど、結局、‘‘何も起きなかった‘‘し何がしたかったんだろうね兄様」

 

そう言いながらハルは微笑んだ。

まるで先程まで《破軍歌姫(ガブリエル)》で洗脳されてたのを忘れているかのようだった。

 

「あはは…何がしたかったかはわからないけど良かったよ、リィエルがなにもされなくて、大体あの人──」

 

「あ、兄様だ」

 

「わああああああああああぁ!!ごめんなさいっ!!ごめんなさいっ!!ごめんなさいっ!!ごめんなさいっ!!」

 

「じょ、冗談だよ、そんなにおびえないで」

 

ハルはジョークで、エザリーがハルの背中にぴったりと張り付いてしまったことに苦笑いしながら、ハルはエザリーの頭を撫でた。

 

「ねえ、リィエル。最近マキナ様から聞いたんだけど、リィエル、経路に接続してるんだって?」

 

「…」

 

「あれは‘‘人間の魂を捧げる‘‘物だって教えたよね?そもそもどうやって接続したの」

 

「…シュウには関係のないこと」

 

そういうとエルレイはハルの傍から離れた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・

 

『ごめんなさいね、殺戮人形さん、あの男の魂は私の所有物なの』

 

「……っ!!」

 

どこかもわからない空間、その真っ暗な空間に無数の時計がグニャグニャと動いている。そんなところでリィエルは自分の唇をかんだ。

 

「シュウは……。貴女の所有物じゃない!!」

 

『所有物よ。聞いてないの?現シュウ・イグナイトは前世で死んで…私、デウス・エクス・マキナに‘‘魂を売った‘‘と』

 

「…聞いてる。でも今は私の大切な人…!」

 

リィエルが話しているデウス・エクス・マキナと名乗る女性は銀髪のロングで20代くらいだろうか、白いノースリーブとミニスカートを着ている。

 

『貴女の大切な人かどうかは関係ないわ、神の所有物であることは変わりないんだもの』

 

そう言いながらデウス・エクス・マキナはため息をついた。

 

『最も、あの子はそんなことよりも‘‘イザナミ‘‘の奴に魂を奪われたお兄さんの事が気になるみたいだけどね』

 

「…イザナミに、魂を奪われた?」

 

『あら、そのあたりは聞いてないのね』

 

「……」

 

『まあいいわ、気まぐれで教えてあげるわ、あの子のお兄さんはね……』

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・

 

「大丈夫、シュウは心配しなくてもいい、お願いだから後はわたしに任せて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

「あはははははははははっ!!!!!あははははははっ!!」

 

「ご機嫌ですね」

 

何かご機嫌なセリカを見ながらエルレイは苦笑いをした。エルレイは少し用事があり、この学院長室にきていた。

 

「まあな!!昨日お前たちがダンスをやっている時に私は陛下のところに野暮用でいってな、そこで面白い青髪の男と金髪の女と会った」

 

「…面白い男、金髪の女」

 

エルレイはとても嫌な予感がした。

 

「いや〜、ゼロースのやつを気絶させてアリスに何をいうかと思ったら

『お前の出来損ないの娘の旦那の魔王だ!』

『出来損ないだと分かってて旦那となる…変な人だねお母様』

『うるせぇ!!』

だとさ!あはははははははっ!!!そのあとお前と同じ次元のルミアだって聞いたぞあははははは!!!」

 

「セリカくん、はしたないですぞ」

 

そんなやり取りを見て、エルレイは苦笑いをした。

 

「なんであんな面白そうな奴のことを早く言ってくなかったんだ?」

 

「…一応ロクサスのことは話した」

 

「あそこまで面白いとはおもわなかったぞ!いやー愉快愉快あはははははははははっ!!!」

 

「………」

 

アイツラマジデイツカナカス!!

 

そう思ってからエルレイは、何かの封筒をポケットからてにとった。

 

「その話は後でゆっくり聞くとして…お二人共、お話が」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、結局イヴの奴の手のひらで踊らされてたってだけかよ」

 

社交舞踏会が終わった後、グレンは2組の教室でため息をついた。

 

「まあ、今回は特務分室全員参加してたわけだし、こうなることはわかり切ってた気がするけどね」

 

そういうとセラは苦笑いをした、エルレイはボーっと空を見つめている。

 

「……」

 

「エルレイどうした?浮かない顔してるが」

 

「イヴ、レイちゃんの事ほめてたよ?あそこまで上手く状況対応できるとは思わなかったって」

 

「……」

 

「すげえよな、イヴの奴が魔の右手だって言う奴にも『あえて光栄です』だもんな、しかもいつでも殺せるようにどこかに小型ナイフ忍ばせてたんだろ?」

 

二人はエルレイの事をほめたが、まだ上の空、なにかを必死に考えているようだ。

 

「…そうだね」

 

(ここが潮時。だよね、どう考えても)

 

「先生方!そろそろ授業はじめてください!!」

 

そう怒鳴るのはシスティーナだ、エルレイは少しため息をつく。

 

「わーったよ白猫、今日は自習だ」

 

「ふざけないでくださいっっ!!」

 

「じゃあ今日はダンス・コンペの振り返り?」

 

「そんなの、必要ありませんっっ!!」

 

「……」

 

エルレイはいつも道理のこの状況を少し悲しそうに見ながら、口をひらいた。

 

「今日は自習、ダンスの疲れもあると思うから自分のペースでするように、明日小テストするから手を抜いた自習はしないのが得策」

 

そう言いながらエルレイは黒板にでかでかと自習と書いた。

 

「あ、相変わらずエルレイ先生が言うと説得力が……」

 

「おい白猫ぉ!!俺もさっき自習って言ったろぉ!!なんで俺に説得力がなくてエルレイには説得力があるとおもってんだよぉ!!こいつ腐っても未来のこのちんちくりんなんだぞ!!」

 

そう言いながらグレンはリィエルの首根っこを掴んだ。

 

「?」

 

「誰の未来の姿だったとしても、セラ先生とグレン先生よりはよっぽど信頼できます」

 

「「「「まじそれな~~」」」」

 

「「辛辣ぅ!!」」

 

そんなことをしているグレンたちを微笑みながら、エルレイはぱんぱんと手を叩いた。

 

「みんなも、自習でいいね?」

 

「「「「はっ!!!エルレイねえね!!!」」」」」

 

「……黙れ」

 

そう言いながらエルレイは少し顔が赤くなる。まだ慣れないねえねという呼ばれ方、リィエルから呼ばれるのは慣れたが、全員から呼ばれるのは本当になれない。

 

「あ、エルレイねえね、今日自習なら魔術で教えてほしいことがあるんですけど」

 

「ずるいよシスティ!私だってエルレイねえねに教えてほしいことあるのに…」

 

「ねえね、いちごタルト頂戴?」

 

「ドサクサに紛れてシスティーナも、ルミアも、ねえね呼びしない」

 

エルレイの顔がもっと赤くなる。エルレイはそれでも少し微笑んだ、ここは心地良い、いつまでも講師として皆に教えていきたい……

 

でも。

 

 

 

「では、みんな自習開始の前に業務連絡

‘‘()()()()()()()()()()()()‘‘ので、やめた後もしっかりやるように」

 

「ん。ねえねいなくなっても頑張──」

 

「大丈夫ですよっ私はエルレイ先生に色々な感情を教えてもらいましたか──」

 

「そうなんですね!また会う時には立派なエルレイ先生みたいな魔術師になってて御覧に入れま──」

 

「おい、てめぇがいなくなったら仕事増えるだろう!!!──が」

 

「来週には講師やめちゃうんだねっ、りょうか──え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「えええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇえ」」」」」

 

突然すぎるエルレイの爆弾発言に、誰もすぐに反応できずかなりの沈黙があった。

 

「ど、どういうことですかっ!いきなりやめるなんて!」

 

「そ、そうですよ、考え直してくださいっ」

 

「ねえねがいなくなったら………悲しい」

 

システィーナとルミア、リィエルが必死に止めてくれる、正直嬉しい限りだ。

 

「私は、この世界に守りたい人がいることがわかった、だから」

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

「貴方達が邪魔になった」

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

???
優しさを知りすぎた者 エルレイ


これは、リィエルがまだ親友や殺戮に執着していなかった頃のお話・・・・・。

 

・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

・・・

 

「・・・ん」

 

「リィエル、起きた?」

 

リィエルが起きると目の前には赤髪の肩に風と書いてあるバッジをつけている少年がいた。

 

「・・・おはよ、シュウ」

 

「おはよ・・・じゃないよ、もう皆帰っちゃったよ?僕らも帰ろ?」

 

「・・・ん」

 

リィエルはどうやら授業中に退屈して寝てしまったようだ、リィエルは目をこすりながら欠伸をした。

 

「ご飯何がいい?」

 

「いちごタルト」

 

「だめ」

 

シュウとリィエルは互いの事情がかぶり、一緒に生活している、シュウはイグナイト家から家出して一人暮らしをしているところにリィエルがルミアの護衛に選ばれてそれから一緒に生活している。

 

「ん、じゃあ、カレー」

 

「了解」

 

そういうとシュウはリィエルを抱きしめた、優しく、まるで子供をあやすように撫でながら。

 

「よし・・・よし」

 

「・・・」

 

リィエルはなんとなく嫌な気持ちになったが、抱きしめられているのが嫌というわけではないので、そのまま黙って抱きしめられた。

 

「はい、寝起きいちごタルト」

 

「・・・ん」

 

シュウは、どこからか出したいちごタルトをリィエルに渡してそれを受け取ったリィエルがサクサクと頬張る。

 

 

★★★

 

「あむ・・・んっ・・・おいし」

 

「そっか、良かった」

 

リィエルは素直な感想をシュウは嬉しそうに微笑んだ、シュウはもう食べ終わり、お皿を洗っていた。

 

「最近、リィエルが楽しそうでうれしいよ、ルミアたちとも仲いいみたいだし」

 

「ん、楽しい」

 

シュウは宮廷魔道士団特務分室のメンバーで一番リィエルとコンビを組んでいた人物なのでリィエルのことをよくわかっていた。

 

「楽しいなら良かった」

 

「シュウは?」

 

「なに?」

 

「シュウは・・・楽し?」

 

「・・・」

 

シュウはなぜか言葉に詰まったあと、お皿を片付けてから。

 

「勿論、リィエルと一緒に学院生活できて楽しいよ」

 

そういった、リィエルはそれ以上は何も聞かず、ただ眠たそうに。

 

「・・・そ」

 

それだけ答えた。

 

「それじゃあ、そろそろお風呂入ってきて、僕は後で入るから」

 

「一緒にはいろ?」

 

「え?」

 

「ん」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

その後の会話はなかった。

 

 

 

 

 

★★★

 

「起きてリィエル」

 

「・・・ん」

 

リィエルが目を覚ますと目の前にはシュウがいた、どうやら起こしてくれたようだ。

 

「今日は、新発売のいちごタルト食べに行くんでしょ?早く並ばないと食べれないよ?」

 

「・・・ん」

 

リィエルは目をこすりながらフラフラとシュウのところまで行き、シュウにもたれかかった。

 

「・・・眠い」

 

「眠い・・・」

 

「新発売のいちごタルト食べれなくていいの?」

 

「・・・行く」

 

リィエルはそう言いながら欠伸をした・・・・もたれかかったまま。

 

「リィエル、動いてくれないと困るんだけど・・」

 

「・・・力が出ない」

 

「・・・はい、いちごタルト」

 

「わぁい」

 

流れるようないちごタルトでリィエルはシュウに乗っかるのをやめてサクサクといちごタルトを食べ始めた。

 

「・・・これだから兄様に甘すぎるって言われるんだろうね」

 

「?」

 

シュウが苦笑いしている事を横目で見ながらリィエルは無心になっていちごタルトを頬張った。

 

ところ変わって街についたリィエルたちはまずそのあたりの服屋やデパートをブラブラして散歩をしていた、恋人などに見えるということは一切なく。

 

「あの服・・・ほしい」

 

「だめ、これにしよ?」

 

「・・・こどもっぽい」

 

・・・・・

 

「この包丁いいな、でも結構高い・・・いまお金カツカツだし・・・ううん・・・」

 

「・・・すう・・すう」

 

こんな感じで恋人というよりは兄妹か父親と娘のような、そんな感じだった。

そんな事をしながらもリィエルたちは目的地について、お店にはいり、二人してさくさくといちごタルトを食べ始めた。

 

「・・・」サクサクサクサクサクサクサクサク

 

「どう?おいし?」サクサクサクサクサクサクサクサク

 

シュウもサクサクと食べながらリィエルの顔色を伺う、しかし無表情・・・でもなにか不満のようだ。

 

「・・・シュウのやつのほうが美味しい」

 

「・・・嬉しいけど店内でそういうこと言わないで」

 

シュウは少し赤くなりながらリィエルの頭を優しく撫でた。

 

「・・・店内で撫でるの、だめだと思う」

 

「あはは・・・ごもっとも・・・ん?」

 

「どうしたの?」

 

「イヴ姉様から通信だ」

 

そう言いながらシュウは通信魔導器を取り出し、話始めた。

 

「もしもし、何、姉様・・・うん・・うん・・・了解、すぐ向かう」

 

「なんて?」

 

「特務分室の邪魔になる奴らを潰しに行ってこい、だって」

 

「・・・」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

 

「リィエル、僕と兄さまはみんなを守りたいだけ、それだけなんだ、ほかはゴミ同然」

 

そういうとシュウはリィエルを抱きしめた。

・・・温かい。いつも感じている感触なのになぜか今回の抱きしめは怖くて、苦しくて、辛かった。

 

・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

ああ・・・またか、またあんな見たくもないシュウを見なければならないのか

 

「リィエル?どうしたの?」

 

「・・・何でもない、いこう」

 

そう言うとリィエルは少し辛そうな顔をしたあと、シュウの横に陣取った。

 

 

 

 

★★★

 

「おそい」

 

ある倉庫の中で、シュウは人を殺した。

 

「・・・いいいいいいいいいやああああああ!!」

 

リィエルも負けじと錬金した大剣を使い敵をなぎ倒す。

 

「く、くそ・・・化物がっ・・・!」

 

リーダー角の男が怯えたようにそう吐き捨てた。もうその倉庫の中にはその男しか残っておらず残りはほとんどシュウが殺してしまい、リィエルは数人しか殺していなかった。

 

「そろそろ降参してくれないかな」

 

「ちっ、帝国の犬が・・・っ!」

 

「仕掛けてきたの、そっちでしょ」

 

そういいながらシュウはため息をついた。

 

「はっ!!正義の味方を気取っているつもりか?人殺し野郎がっ!!」

 

「正義の味方・・・ねえ」

 

「お前ら帝国宮廷魔道士団は正義の味方じゃねえ・・・人殺しだ、どうしようもないクソ野郎だよっ!!!!!」

 

「・・・・・」

 

その言葉に、シュウは黙り込む。

 

「・・・シュウ」

 

「どうした?なにか言ってみろよ人殺し」

 

シュウは沈黙後・・・・なぜか剣をおいた。

 

「君たちがなんのために戦っているの知らない、そこまで指示うけてないしね、帝国軍を嫌うのも別に普通の感情だと思う」

 

「・・・シュウ?」

 

シュウの想定外の発言にリィエルの目は丸くなる。

 

「ねえ、リィエル、正義っての対義語ってなんだと思う?あ、対義語っていうのは反対の言葉って意味ね」

 

シュウはボールペンとメモ帳を1枚切って取り出し、正義と書いて見せてから裏面を見せた。

 

「・・・悪?」

 

「それ、それが人間共の腐った価値観だよ」

 

そう言うとシュウは男の前までほぼ丸腰で歩み寄り。

 

「はっ!!!正義の味方らしく敵も改心させるってか?ご苦労なこ・・・っ!?!?・・・が・・・あ・・・ぁ・・・が・・・っっ!!」

 

途中で男の声が途切れた、そこには

 

無表情でペンで男の喉元に押し付けて、

 

そのまま喉から血が溢れ出るほどガリガリと・・・

 

ガリガリと。

 

 

 

 

★★★

 

「リィエル、さっきの話の続きしよっか」

 

「ぁ・・・ぁ・・・・」

 

シュウは優しいが、敵と判断した者には容赦しないことは知っていた・・・だが、今回は殺し方が残酷すぎる。

 

「あ・・・ごめんね、怖かったね」

 

シュウは怯えているリィエルに気づき、優しく抱きしめる。

 

「・・・ん」

 

「じゃあ、ちょっとだけ解説するね、正義の反対

 

 

 

正義の反対は、正義なんだ」

 

 

「・・・・え?」

 

リィエルは突然のシュウの言葉に目が丸くなる。

 

「簡単に言うとね、正義を名乗っているということは何かを敵だと見なしてるってことだよね?」

 

「・・・うん」

 

「そういうところなんだよ、妙な正義で『自分が正しい』と思っている自己中共が相手を悪とみなし、攻撃を開始する、戦争がいい例だね」

 

そう言うとシュウは少し苦笑いをした。

 

「僕はどうしても好きになれないんだ、正義って言葉」

 

「・・・そっか」

 

リィエルはそれ以上の事は聞かなかった、聞いたら怖い、シュウが壊れていく気がして・・・なんとなく聞きたくなかった。

 

「さあ、そろそろ帰ろう、ご飯早く作らないとね」

 

「・・・ん」

 

そういうとシュウはリィエルの手を握り、自分の住むアパートへと足を運んだ。

 

 

 

 

★★★

 

「おお・・・リィエルの手料理」

 

「ん・・・頑張った」

 

シュウは確かにリィエルに料理を教えたりしたが、リィエルの手料理を食べるのは初めてだった。

 

「いただきます・・・・うん、美味しい」

 

「そ、良かった」

 

リィエルが料理を作ったのはなんとなくだ、なんとなくシュウに顔が暗い気がしたから、本当になんとなくだった。そしてその料理には少し特殊な隠し味を入れた。すぐに効果は表れてくれた。

 

「ねえ、リィエル、僕が一回死んだって言ったら・・・信じる?」

 

「シュウのいうことなら」

 

「そ、その断言はびっくり」

 

シュウはそういうと苦笑いをした。

 

「・・・・今から話す内容は、作り話だからね」

 

「・・・ん」

 

「あるところに兄弟がいました」

 

「うん」

 

「その兄弟はとても仲がよく、喧嘩なんてしないくらいに仲良しでした、そんなとき、そのお兄さんが死んでしまいます」

 

シュウは少し悲しそうな顔をしたあと続ける。

 

「その弟はその寂しさのあまり兄の後を追って1週間後に自殺してしまいます」

 

「そして死の世界にはなぜかお兄さんはいなく、その弟は自分の魂を神様に差し出すことを条件に、兄を探す旅に出ました」

 

「・・・なんか、ぶっ飛んでるね」

 

「あはは・・ごもっとも」

 

そう言うとシュウはリィエル頭を撫でた。

 

「そして、世界を10個以上回ったところでようやくお兄さんを見つけましたとさ、めでたしめでたし」

 

「・・・変な話」

 

「あはは、まじでそれ」

 

リィエルはなんとなくわかった、シュウの声のトーン、顔の動き、すべてが冗談で童話を話しているとは思えない・・・リィエルは、これはシュウの話だと確信した。

 

(自白魔術、作ったかいがあった)

 

「その人は、なんでそこまでお兄さんを、求めたの?」

 

「さあ、なんでだろうね……寂しかっただけかもしれないね」

 

結局その後は何も聞けず、辛そうなシュウの顔を見ながら、リィエルはいちごタルトを頬張った。

 

 

★★★

 

「よぉ、弟よ、ご機嫌はどうだい?」

 

「まあまあかな兄様」

 

そう言いながらシュウとロクサスは教室で笑いあった。

 

「・・・・」

 

「アイツら仲いいわよね」

 

「そうだね」

 

ルミア、システィーナ、リィエルが二人を見つめるがその顔はどこか心配そうな、おびえたような顔だった、この三人は知っているのだ。この二人が戦闘を始めたらどうなるかを、しかし三人は何も言わない、3人ともシュウとロクサスに何度も救われたので嫌うことも、拒絶することもしない。

 

「・・・いつか本当の意味で二人とも笑えたらいいわね・・・」

 

「・・・うん」

 

そうルミアとシスティーナが話していると突然ロクサスとシュウにリィエルが口をひらく。

 

「ねえ・・・二人って・・・一回死んだの?」

 

その言葉にシュウとロクサスは少し驚いたような顔をする。

 

「!!・・・はあ、シュウ、口滑らせたな?」

 

「あれは・・・だから、作り話だって」

 

システィーナとルミアはこの状況についていけず、口をポカンと開いている。

 

「リィエル、二人が一回死んだってどうゆう事?」

 

「二人が死人だって言いたいの?」

 

システィーナとルミアがそう尋ねてくる、それに答えたのはロクサスだった。

 

「システィーナ、お前、 ‘‘転生者‘‘ って知ってるよな?」

 

「え、ええ、それって小説とかで出てくる死んで違う世界に行くっていう王道的な奴よね?」

 

「ああ、それだ、俺ら、まんまそれでな、もともと死んだ兄弟なんだよ」

 

「「・・・は?」」

 

2人が目を丸くする、リィエルは昨日の事で少し予想はついてたのであまり驚いた様子はなかった。

 

「兄様、いいの?」

 

「いいんだよ別に、遅かれ早かれ気付かれることだ、それに今教えたほうが面白い気がするしな・・・きひひっ」

 

そういうとロクサスは不敵に笑った。

 

「リィエルの言う通り俺たちは死んでる、王道な転生者ってやつだ、ま、王道だが俺TUEEEEEってやつだな、ただ普通の俺TUEEEEと違って、代償にメンドクセェ物があるがな」

 

「・・・自分で俺TUEEEEEEEっていう?普通」

 

「今俺が言った」

 

そういうとロクサスとシスティーナは笑いあった、少し空気が和んだようだ、よかった。

 

「・・・」にこっ

 

前言撤回だ、リィエルとシュウは隣りのルミアの顔を見て笑顔を引きつらせる、それに気付いたシスティーナは苦笑いをした。

 

「そんな顔しなくてもアンタの彼氏をとらないわよ、いらないし」

 

「なっ・・・!」

 

「はぁっ?!!!」

 

そういうとロクサスとルミアの顔が真っ赤になる。

 

「なななななな、なな、なに言ってるのシスティ!!」

 

「ふふふふふ、ふざけんっな!!誰がこんな女とっ!!!」

 

「あ・・・そ・・っ・か・・・、うん、そうだよね」

 

「あああああああああああああもう!!!そんな顔されたら否定しずれぇダロウガあああああああああああああああぁぁぁ!!!!」

 

そんな夫婦漫才のようなものを見て、システィーナ、シュウ、リィエルは同時にこう思った。

 

 

(((うっざ・・・色々な意味で)))

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

「……よし」

 

エルレイはセラが寝静まったのを見計らって、退職届を夜中に書き上げた。

 

「……」

 

先程は仮眠をとって懐かしく、温かい、そして何より辛い昔の事を夢で見てしまった。

 

「今思うと・・・あの面倒な代償って、魂の事だったんだ」

 

使えるようになって分かったことを思い返しため息をついた、あの二人はあの頃に何人も殺していたと思っていたが、まさかそれが力の代償だったなんて、夢にも思わなかった。

 

「……助けるためには、あの学院は足枷になっちゃう」

 

エルレイにとって、もうあんな辛そうなシュウを見るのは二度とゴメンだ……エルレイはそう思いながら退職届をポケットにしまった。

 

「辞めなきゃ…」

 

エルレイにとってはあの学院はこの世界で生き抜くための《利用手段》ただそれだけだった。私の味方をしてくれているシュウ、そしてエルザ、何がしたいのか分からず、理由も告げずに自分の手を汚すのはロクサス、そして自分のよく知るルミア、皆を連れて、帰るんだ。システィーナやグレンのもとへ、それにあの学院にいることは害でしかない、そう分かっている

 

分かっているはずなのに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで……やめたくないって、わたし思ってるんだろう」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

慈悲を捨てた者 ミアル

てなわけで今度はミアルとロクサスについてです!

……よし投稿完了

『バッドエンドの未来から来た二人の娘』を見に行こっと!

エルレイ2「こっちただの番外編だから、フィーちゃんのところに行くことを強く勧める」

ま じ そ れ な !


これはミアルが研究所に捕まったあと、ロクサスに助けられた直後の話

 

・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・・

・・・

 

 

「ねえ、ロクサス、ここはどこなの?」

 

「さあな、正直俺にもわっかんね」

 

ルミア、現在のミアルは困惑していた、旅をしている旦那を恋い焦がれて城で待っていたら突然親友のリィエルが行方不明になり、それに焦っているところに手紙が来て、気づけばまた研究所でProject:Revive lifeの実験に肩入れしていた・・・もう何がなんだかわからない。

 

「ま、とりあえずお前が無事でよかった」

 

そういうとロクサスは薪に火をつけて焚き火した、今は現在のロクサスの拠点である、岩でできた洞窟で焚き火で温まっている。

 

「これからどうするの?」

 

「難しいことはしねえ、ただブラブラとするだけだ」

 

「・・・そっか」

 

ミアルは少し笑った。

 

「んだよ、なんかおかしいか?」

 

「ううん、なにも♪」

 

どんな場所だったとしても、何があったとしても、愛したいと心から思った男性がここにいるのだ・・・不安要素などあるわけがない。

 

「じゃあそろそろ寝ろ、まっ、俺は男だからお前を襲ったとしても自己責任な・・・きひひっ」

 

「そっか、襲われちゃうんだ、きゃー」

 

「・・・嘘だと思ってんだろ」

 

「ううん、おもってないよ?ただ私はロクサスのやりたいことを否定したくないってだけ」

 

「・・・はっ、俺がいない間に何かあったか?エルミアナ王女よぉ」

 

ロクサスはそんな事を言いながらも心配してくれてるようだ、そんないつもと変わらないロクサスにミアルは苦笑いをする。

 

 

・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・・

・・・・

 

ミアルはある出来事を思い出していた、それはミアルが学院を卒業した後《銀の鍵》を使い、ロクサスの化物すぎる力をどうにかしてなくしてあげたいと思い、空間を開けてロクサスの持つ接続経路イザナミに、ロクサスに無許可で強引に接続することができるようになったときの話だ。

 

「接続……できたっ!」

 

『あなたが・・・ルミア?』

 

「!!あなたは・・・何者?」

 

『私?私はね・・・ふふふっ・・・』

 

ルミアが接続に成功し、暗闇の空間に入るとそこには一人の女性がいた、その女性はところどころ破れた赤い服を着ていて、ピンク色のポニーテールの20代くらいの女性に、見える。

 

「あ・・・あ・・・」

 

しかし、こわい、なぜかわからないが怖い、恐ろしい、恐怖を感じる、この女性はやばいと第六感がそう警告を出している。だめだ、逃げなきゃ・・・でも足がすくんで動かない・・・っ!

 

『私はね・・・・』

 

その女性は不敵に笑ったあと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あれ名前、ロクサスになんて言われたんだっけ』

 

「・・・へ?」

 

明らかに恐怖感がなくなる発言に、ルミアはポカンと呆気に取られる。

 

『あ、そうだ、イザナミだ、仕切り直していい?』

 

「え?……ああ……うん」

 

ルミアは何が何だかわからず困惑していた。

 

 

 

 

 

 

テイク2

 

『あなたが・・・ルミア?』

 

「ええっと…あなたは・・・何者?」

 

『私?私はね・・・ふふふっ・・・』

 

ルミアが接続に成功し、暗闇の空間に入るとそこには一人の女性がいた、その女性はところどころ破れた赤い服を着ていて、ピンク色のポニーテールの20代くらいの女性に、見える。

 

「あ・・・あ・・・」

 

しかし、こわい、なぜかわからないが怖い、恐ろしい、恐怖を感じる、この女性はやばいと第六感がそう警告を出している。だめだ、逃げなきゃ・・・でも足がすくんで動かない・・・っ!

 

『私はね・・・・』

 

その女性は不敵に笑ったあと。

 

『ヤマタノオロチ』

 

「さっきと名前が違うっ!」

 

ルミアは流石に我慢できず、全力で突っ込んだ。

 

『そうだっけ?』

 

妙にぽかんとしているイザナミになぜかリィエルを思い出しながら苦笑いをした。

 

 

 

 

 

・・・・・・・

・・・・・・

・・・・・

・・・・

 

「ちょっと変な神様にあっただけだよ」

 

「・・・は?」

 

ミアルの苦笑いにロクサスはぽかんと口を開いた。

 

「まあ、それはいいの、重要なことじゃないから」

 

「いやよくはねぇよ…お前が一体誰と会ってたのか…」

 

「……ふふっ、心配してくれるんだ」

 

「あ?ちげえよ、お前を心配するほど俺はお人好しじゃねぇんだよエルミアナ」

 

そんなロクサスの相変わらずな様子にミアルは苦笑いをする。

 

「そうだね、そういうバッサリしてるようで優しいところが好き」

 

「なっ───」

 

「赤くなった、ふふっ♪どうしたの?お人好しさん?」

 

「お前……マジで陛下に似てきたな?!?!」

 

 

★★★

 

「あむ・・・んむ・・・んむ・・・」

 

ミアルとロクサスはとりあえずお腹を満たそうと近くの喫茶店へ足を運んだ、二人ともフードを被って顔が見えないようにしているが、逆に怪しんでる人もいるかもしれない。

 

「・・・まあまあだな」

 

「ロクサスがまあまあならかなりおいしいってことだよね」

 

「・・・ふん」

 

どうやらここのパンケーキはロクサスの口に合ったようだ、まあまあとの事。

 

「じゃあ残せば?」

 

「あほいえ、尊い命を大切にしろ」

 

そういうとロクサスは少し怒ったように睨みつけてきた、相変わらず、命にやさしいのか厳しいのかわからない。

 

「はい、ごちそうさまでした」

 

「ご馳走様でした」

 

ロクサスとミアルはそういうと食堂の作っている人に見える様な場所で手を合わせてお辞儀をした。

 

「さて、そろそろ行くか」

 

「うん」

 

そう言いながら二人は会計を済ませ歩き出した。

 

その時。

 

「何だよこの店っ!!!まっずいな!!」

 

誰かが怒鳴り声をあげている、声からしてどうやら男性のようだ、店員が来て、謝っている。

 

「・・・感じ悪いね」

 

「面倒だな・・・とっととでる・・・!」

 

そこでロクサスは何かに目が留まったかのように一点だけ見つめていた。

 

「ん?どうし・・・・」

 

ミアルが見てみるとそこには床に散らばった飲み物や食べ物、そして食器があった。どうやらあの男がやったようだ。

 

「・・・食べ物を粗末にする・・・これだから害虫は」

 

「・・・」

 

「ルミア、ちょっと俺アイツにO★HA★NA★SHI★してくるから先外出てく・・・」

 

「・・・」

 

「ルミア?」

 

「・・・」

 

ロクサスの声には全く反応せずにただあの男をニコッと微笑んでいるだけだった、しかし何か怖い。

 

「あのぅ・・・・ルミアさん?」

 

「私の旦那様の気分を害するなんて罪な人、少し・・・お説教が必要かな?」

 

そういうとミアルは手を前に出し、高速で詠唱し始めた。

 

「《我目覚めるは・赤龍帝とデウスの力を許容する・名無しなり・異端を愛し・慈悲を捨てる・我が力を糧として・我に大いなる力を与えたまえ》」

 

ミアルが詠唱すると、熱が発生し、なくなると思ったら突如、何もない空間が裂け、そのヒビから大きな鍵のようなものが出てくる、その中は深淵で何があるのかわからない、ミアルはその大きな鍵を手に持つ。

 

「なっ・・・!何故お前が《封解主(ミカエル)》を・・っ!」

 

本来その力を使えるのはイザナミと接続できるロクサスのみ、ミアルが使えるとは思わなかったロクサスは驚きの声をあげる。

 

「・・・ふふ、それはね」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

 

『それで、どうやって接続したか聞くのはいいや、メンドクサイし、なんでこの場所に来たの?』

 

イザナミは欠伸をしながらミアルを見つめて背伸びをした。

 

「貴女がロクサスの力の源・・・そう考えていいんですね」

 

『うん、それでいいと思うよ?』

 

ミアルはそう睨みながらイザナミに本題を切り出す。

 

「ロクサスのあの恐ろしい力をなくしてください」

 

『無理じゃない?』

 

「何故無理なのですか?」

 

『なんか・・・無理じゃない?』

 

「理由を教えてください理由を!!!」

 

ナチュラルにあおってくるイザナミにしびれを切らせてミアルは大きな声で怒鳴る。

 

『そもそもあれは、元々私の力じゃないしね』

 

「貴女の・・力じゃない?」

 

イザナミが力を与えているのにイザナミの力ではない。どういうことだ?

 

『まあ、とりあえず、君には面白そうだからロクサスについて全部話そうかな、事の始まりは、彼が猫を助けたところから始まってね、そのあとなんやかんやで私が彼の魂をもらったのそれで・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・というわけ、理解した?』

 

「・・・」

 

イザナミ様からロクサスのすべてを聞いた、転生したこと、ロクサスの魂はこのイザナミの所有物であること、そして規格外の力はすべてこのイザナミが渡しているという事。

 

正直、理解に苦しんでいる、しかし。

 

「・・・なんとか」

 

実際にここまでの場所に接続できたのだ、何があってもおかしくはない、しかし少し気になるところもあった。

 

「ねえ、イザナミ様」

 

『?』

 

「どうしてロクサスの魂が欲しかったんですか?」

 

『ん~』

 

そう、なぜロクサスの魂を所有したいという欲望にかられたか、だ、この子が神様だったとするならばそんなものを欲しがるとは思えない。

 

『そうだね・・・絶望しきってたからかな?』

 

「絶望・・・しきっていた?」

 

『うん、最初にあった時、何もかもが面倒そうな、疲れ果てているような、それに私を一目見ても『美人だ』が最初の一言だったから、面白かった』

 

ミアルはポカンと口をひらく。

 

「お、面白かった?」

 

ミアルには余り理解できない感情に思えた。

 

『じゃあ、逆に考えてみて、彼を苦しめるものが無くなってあの男の狂った顔じゃなくて、本当に幸せそうな顔・・・見て見たくない?』

 

「・・・」

 

確かに見てみたい、いつも強がっているロクサスが、ほとんど殺戮で狂ったような笑いしかしないロクサスの・・・苦しめるものが無くなり、ロクサスの本当の笑顔が・・・。

 

「・・・気持ちはわかります」

 

『でしょ、君ならそういうと思ってた、だから、私は彼を野放しにしてるの、途中経過が彼は面白いから』

 

「そうですね・・・私も見てみたいです」

 

『そっか、君もなのね、じゃあさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君がロクサスと同じ膨大な力を手に入れたら、もっと面白くなると思うんだ』

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

 

「イザナミ様・・・自由な神だとは思ってたが、自由すぎだろ」

 

「転生者に渡していた力をそのまま生きている人に使わせる・・・すごい発想だよね」

 

二人とも遠い目をしながら夕日を見ながらつぶやいた、喫茶店でのもめ事を解決した後騒ぎになる前に、そそくさと気配を消していなくなったのだ。

 

「全くだ、・・・はっ・・・まあお前がイザナミ様に魂取られようが別にどうでもいいけどな」

 

「私も魂取られるのかな?じゃあロクサスとずっと一緒だね」

 

そう言いながらミアルは楽しそうに微笑んだ。

 

「・・・根本的な疑問なんだが、なんで俺と一緒にいようと思ったんだよ、この世界にリィエルがいるのは教えたよな?」

 

「・・・そうだね」

 

長くなるので省略するが、ロクサスには全知全能の本を持っているので、たとえ何者かに記憶が改ざんされたとしても未来がどうなるか知ることが可能なのだ、勿論ハルとエルレイの事も知っている。

 

「しいて言うなら・・・貴女の妻だから?」

 

「・・・はっ!お前と恋したことなんて俺にとっては黒歴史だ、まさかに本気していたのか?無様な奴だ」

 

「そっか・・・まあ・・・そうだよね・・・所詮あれは・・・学院時代の戯言・・・それ以上でもそれ以外でもないもんね」

 

「あ・・・そうじゃなくてだな・・・その、黒歴史とはいえ恋をしてたのは事実だし、それに俺も嫌だってわけじゃ・・・」

 

目に見えて落ち込むミアルにロクサスは即座に弁護しようと顔を伏せているミアルの肩を両手でつかむ・・・すると今気が付いた。

 

「・・・ふ・・・ふふ・・・・ふ」

 

顔を隠しながらちょっと悪魔的にほくそ笑んでいるミアル。

 

「おいいいいいいいいいぃ!!お前ぇ!!お前ぇ!!!」

 

「あはははっ!!ごめんごめん!」

 

恥ずかしさでキレ始めたロクサスをミアルは笑いながら宥める。

 

「・・・はあ、お前マジで変わったな」

 

「それはどうも」

 

そう言いながらロクサスはため息をついた、やっぱりこの人はいつも優しいけど表に出ないだけなんだね・・・やっぱり私もイザナミ様と同じで、この人の本当の笑顔が見てみたい。

 

「ねぇロクサス」

 

「…なんだよ?」

 

「今の世界は、楽しい?」

 

そういうとロクサスは不敵に笑って。

 

「ああ、最高だ、全く退屈しねぇ…きひひっ」

 

「…そっか、そう思ってくれると私も楽しいよ」

 

その言葉を聞き、ミアルは優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

「はぁ!!!」

 

「おうりゃあ!!」

 

時は戻り、エルレイとあった後のロクサスとミアル、二人はエルレイと別れた後にストックを回収していた。

 

「・・ひ・・・やめ・・・・」

 

襲ったのはちょっとした殺戮主義者のアジトだ、この集団は無意味な動物虐待、殺戮を繰り返していた集団で300人ほどの宗教団体だった。

 

「いいのか!!?我らが死ねば他の動物どもが調子に乗りこの世界を乗っ取るんだぞ!?人間が支配しているはずのこの世界をだっ!!我々はただ邪魔になるであろうモンスターを殺しているだけなのだ!!」

 

そう言って最後のボスであろう人間は命乞いをする、いやしているようだ。

 

「ミアル、手を血で現在進行形で汚してるんだがお前いいのか?」

 

「別にいいよ、リィエルの気持ちもわかるけど・・・ロクサスの気持ちもわかるから」

 

「はっ・・・こんなことしてるからシュウに色々言われんだよな」

 

「ふふっ、流石に前世の弟の事は今でも気になる?」

 

「当たり前だろ。アイツいないと気分乗らねーこと多いからな…割とマジで」

 

そうロクサスと話しながらミアルは微笑んだ。とても楽しそうに。

 

「聞いているのか!?我々はこの世界の・・・」

 

「ねえ、ロクサス」

 

「なんだ、ルミア」

 

男の主張は完全無視して、話始める、300体人間の魂が手に入ったので上出来だ、このままこの人間を助けてもいいが・・・。

 

「この世界で一番邪魔になるであろう動物って・・・なにかな?」

 

「は?決まってんだろ」

 

「うん、そうだね」

 

そう言いながら二人は笑いあう・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「外道下等生物のほかにいねえよな?(いないよね?)」」

 

 

そう言いながらロクサスとミアルは最後の男の首をはねた、自分たちが最後に笑うために・・・いつまでも楽しい時間を共にするためにミアルは容赦なく、慈悲を捨てて人間の血で自分の手を汚す、しかしミアルはそれでもうれしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私を理解して、傍にいてくれた人の笑顔が見れるかもしれないのだから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エルレイ退職騒動
最悪の戦略と最低の戦略


お待たせいたしました!
今回からエルレイ本編に戻ります!
退職しようとしているエルレイがどうなるのか乞うご期待!


「俺たちが・・・邪魔になっただと?」

 

エルレイの突然の発言にグレンは驚愕の声をあげる。

 

「そ」

 

エルレイはそう言いながらぱんぱんと手を叩いた。

 

「私の事はいい、臨時教師がいなくなる、みんなにとってはそれだけのハズ」

 

「な、納得できませんわ!何故エルレイ先生が辞めるという結論になるんですのっ!」

 

「言ったよ、守りたい人がいるから邪魔になったって」

 

ウェンディが興奮した様子で口を出すのをエルレイは軽く吐き捨てる。

 

「私も・・・エルレイ先生が辞めるのは・・・いや、です」

 

「そうっすよ!何もやめる事ないじゃないですかっ!!エルレイねえね!考え直してくださいよ!!」

 

リンとカッシュも止めてくれる、正直うれしい限りだ、エルレイとしては、しかしこの人形はエルレイではなく ‘‘リィエル=レイフォード‘‘ ルミア達か赤の他人をえらべと言われたら勿論、ルミア達を選ぶ覚悟がある。

 

「・・・考え直す必要はない、あなた達は間違いなく私の弊害になる」

 

「今回は僕もみんなに賛成です」

 

そこで口をはさんだのはギイブルだった。

 

「ギイブル・・・」

 

「別にやめる必要はないはずです、僕は先生の事情はわかりませんが、どうかご再考を」

 

真剣な目でエルレイの目をみるギイブル、エルレイは軽くこぶしを握り締めた。

 

「くどい、私はやめなければいけないの、これは決定事項」

 

「・・・エルレイ先生らしくないですよ・・・先生はどんなことがあっても合理的に物事を判断していたのに・・・なんでこんな強引に」

 

「・・・テレサが知らなくてもいいこと、口出しするな」

 

今度はテレサまで口をはさんできた・・・なんで・・・なんでそこまでして私を止める。

 

「レイちゃんもう一回考え直そうよ、どんな相談でも乗るよ?」

 

「余計なお世話」

 

セラの心配そうな目を見てエルレイは心が苦しくなる、何故、なぜここまでスムーズにいかない?

 

「エルレイ・・・いやリィエル、それは俺にも言えない事なのか?」

 

「ほざけ、貴方は私の知るグレンではないグレン、うぬぼれないで」

 

ついにはグレンまで兄面をして・・・ふざけるな、おまえは私の信頼するグレンじゃない。

 

「エルレイ先生・・・っ・・・私はまだ・・・先生に教えてほしいことが・・・」

 

「・・・っ」

 

システィーナのその悲しそうな声にエルレイは心をえぐられる、いくら別の次元とはいえ親友の泣きそうな顔など見たくはない。

 

「・・・教えるべきことは教えた、ほかは自分でなんとかしろ」

 

それでもエルレイは自分の信じる親友のためだと心の中で決意し、そう吐き捨てた、もう嫌われても別にかまわない。

 

「ねえね・・・私たちの事が・・・嫌い?」

 

リィエルはウルウルした目でエルレイを見つめた。

やめて、そんな目で見ないで。

 

「嫌いだ、邪魔でしかないか─」

 

エルレイがそういいかけた、その時。

 

ぱし・・・っ

 

「!」

 

突然エルレイの顔に何かが突き付けられて、そのまま地面に落ちる、確認するとそれは・・・・。

 

「・・・手袋」

 

手袋だった、投げつけられたということは誰かが投げて決闘を申し込んできた?いったい誰が?そう思いながらエルレイは周りを見渡す・・・すると投げた本人はすぐにわかった。

 

「・・・ルミア、オマエが?」

 

「・・・お受けください」

 

ルミアはそう睨みつけながら言ってくる、どうやら本気のようだ、なぜそこまでするのかエルレイは理解に苦しんだ。

 

「・・・ここまで、する?」

 

「エルレイ先生、貴方は言いましたよね?全部吐き出すのが一番だって」

 

「ん、言った」

 

「それじゃあ吐き出してくださいよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで泣いてるのか、その理由を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!?」

 

エルレイはここで初めて気づいた、自分が泣いているという事実に、初めて気が付いたエルレイは慌てて目を擦る。

 

「ち・・違う・・・これは」

 

「本当は離れるのがつらいんじゃありませんか?まだ一緒に居たいと思ってるんじゃありませんか?」

 

そう言いながらルミアは優しく微笑んだ。

 

「私が勝ったら、エルレイ先生の感情、喜怒哀楽、全部教えてください、私にやってくれたみたいに」

 

「・・・」

 

「ルミア・・・」

 

システィーナたちがこの状況を何も言わずにただ黙って見ている、ルミアのこの行動をみんな信じて。

 

 

「さぁ、手袋を、拾ってください」

 

 

 

★★★

 

魔術師の決闘。それは古来より連綿と続く魔術儀礼の一つである。

 

現在、エルレイとルミアの決闘が始まろうとしていた、等間隔に植えられた針葉樹が囲み、敷き詰められた芝生が広がる学院の中庭にて両者睨みあっていた。

 

「確認、使用可能魔術はショックボルトのみ、それ以外を使用した、場合敗北とみなす」

 

「はい、分かりました」

 

そういうとエルレイはコインをギイブルに渡す。

 

「審判はギイブル、任せる、いい?」

 

「・・・わかりました」

 

それを聞いたエルレイは指を三本立ててルミアに見せつける。

 

「勝敗基準、1、相手の戦闘不能 2、降参 3、反則行為

反則行為は部外者への攻撃をしたら即敗北、何か質問は?」

 

「・・・ありません」

 

そういうとルミアは構える、手を震わせながら、おそらく怖いのだろ。

 

「ぐ、グレン君・・・いざとなったら」

 

「・・・ああ、エルレイの奴がそんなことするとは思えんが・・・殺しにかかろうとしたら容赦なく俺たちが止める」

 

少し離れた辺りで、グレンとセラがそんな話をしている。

 

「・・・ルミア、勝てるでしょうか」

 

「正直、俺にもわからん、エルレイ・・・リィエルは授業を見る限りだとショックボルトはそこまで得意じゃないハズだ、だが」

 

「・・・グレン、だが、なに?」

 

セラとグレンは二人して何か引っかかるかのように考え込む。

 

「あいつ、‘‘本当にショックボルトで戦闘不能‘‘ が狙いなのか?」

 

「・・・っ!!まさかっ!」

 

セラは何かに気が付いたようだが、もう遅い、賽はもう投げられてしまっているのだ。

 

「ギイブル、初めて」

 

「・・・はい」

 

そういうとギイブルはコインを指に乗せ、親指ではじく、セラが止めようとした直後に始まってしまった、そしてくるくると高速で回転していたコインは数秒後。

 

 

 

チャリン…!

 

 

 

地面のコンクリートに落ち、決闘開始の合図の音が鳴り響く、その瞬間、ルミアはエルレイに手を向け、呪文を唱える。

 

「《雷精の紫電よ》──ッ!」

 

刹那、ルミアの詠唱したショックボルトはエルレイに一直線で飛んでいく、そしてエルレイは。

 

 

「・・・」

 

 

 

何もしなかった

 

そのままショックボルトが直撃する。

 

「・・・っ威力、だいぶ高い、でも所詮この程度」

 

「!?なんで・・・詠唱しないのですか!?」

 

エルレイのすまし顔にルミアは声を荒げる、するとセラが突然声を荒げる。

 

「レイちゃん!!!!」

 

「・・・なに?」

 

「やっぱりそんな事を・・・見損なったよ」

 

「どうとでも言って」

 

そのエルレイの言葉にグレンは悔しそうに近くの壁を叩いた。

 

「クソがっ!!!!そういう事かよ!」

 

「グレン・・・・どういうこと?」

 

状況に理解できてないのかリィエルがグレンに首をかしげながら聞いてくる。

 

「アイツは元々戦う気なんてなかったってことだよ!!あいつの本当の狙いは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルミアを精神的に潰すことだ!!」

 

「「「「っ!?!?」」」」

 

そのグレンの言葉にクラス全員驚きで凍り付く。

 

「今更気づいた?そ、それが狙い」

 

そう言いながらエルレイは不敵にほほ笑んだ。

 

「ルミアはつよい、それは私もよく知ってる。精神的にもね・・でも ‘‘知り合いを攻撃しなければならないという状況‘‘ まではこの子は想定していない」

 

そう、それがエルレイの狙いだ、ルミアの気持ちも逆手にとり、エルレイを半永久的にショックボルトで痛めつけなければならないという状況を作り、精神をすり減らすのが目的、元々本気で戦う気などなかった、ショックボルトだけにしたら、エルレイが負けるのは目に見えている、そして何より、このルミアを傷つけたくない、だからあんなルールにした。

 

勝敗基準、1、相手の戦闘不能 2、降参 3、反則行為

 

反則行為 部外者への攻撃

 

 

そう、 ‘‘当てたら勝ちではないのだ‘‘

 

それに気付けなかった時点でルミアの負けは確定的に明らかだった。

 

「さ、降参して、貴方が何度ショックボルトを撃とうが、私を戦闘不能にすることはできない」

 

「・・・っ」

 

ルミアは考えた、必死に、本気で考えた、どうやったらこの人に勝てる?どうやったら勝ち目が出てくる?どうやったら。

 

「エルレイっ!!」

 

そう考えていると向こうから怒鳴り声が聞こえる、エルレイが振り向くとグレンが叫んでいるようだった。

 

「なに」

 

「ルミアにアドバイスを、伝えたい、それくらいはいいだろ」

 

「・・・許可」

 

そういうとグレンはルミアと話し始めた。

 

「・・・」

 

エルレイはとりあえず目をつぶり、できるだけい体力回復に努めた、どれだけ作戦を練ろうが、所詮はショックボルト、殺さなければ勝てないであろう、負けるわけがない・・・そうエルレイは確信していた。

 

 

「・・え、それほんとにやるんですか?」

 

「・・・それしかねえ、それが俺が知る ‘‘エルレイ唯一の弱点‘‘ だ」

 

「・・・私の弱点?」

 

そんなものをグレンに見せた覚えはない、そもそもそんな弱点があったら自分が知りたいくらいだ。

 

「わ、分かりました・・・やってみます」

 

「よしっ!!行ってこい!」

 

そういうとルミアは何とも言えない顔でエルレイの前にもう一度立った。

 

「・・・ほら、動かないであげる・・・その私の弱点とやら、見せてみろ」

 

そう言いながらエルレイは両手を広げた、まるで自分がまけることはないとルミアに訴える様に。

 

「っ!!」

 

ルミアはそのままエルレイに向けて突っ込んでくる、詠唱も何もせず、そしてそのまま。

 

 

ぎゅっ。

 

「・・・」

 

エルレイに抱きしめた。

 

「・・・ごめんなさい」

 

「拍子抜け」

 

謝るルミアにエルレイは心底呆れる。

 

「ショックボルトを使って、自爆?いい考えだとは思うが、それで倒れるのは確実にルミア、お前の方─────ふひぁ!!」

 

その言葉の途中にエルレイはなぜか突然可愛い声をあげる、耳から変な生暖かい感触が伝わってくる。

 

「にゃぅ・・・どういう・・・こと」

 

「はあああああああああああああっはっはっはっはっはっは!!」

 

そう思考を巡らせているとグレンの甲高い笑い声が聞こえる。

 

「ぐ、グレン君・・・なにをルミアちゃんに教えたの?!なぜかルミアちゃんがレイちゃんの耳舐め始めたんだけど!?!?」

 

「・・・ふぅぇ?」

 

どこかで感じたことがある感触かと思ったらルミアに耳をなめられてたのか・・・でもなぜそんなことを?

 

「覚えているかな?奇妙な番外編で忘れかけている読者諸君!!この作品が唯一R‐18になりかけたあのモテ薬の悲劇を!!!」

 

「読者諸君言うな・・・メタ発言やめ・・・にゃぁ!・・・る、るみあ・・手を服に潜りこませないで・・・───っ!」

 

「ねえね・・・ほんとに・・すいません、ねえねぇ・・・・」

 

そう言いながらルミアは謝るがこの至近距離でルミアにねえねと言われる、しかも今回は全員が見ている前で。

 

「________~~~~~っ!!!!」

 

エルレイは今なら恥ずかしさで死ねると初めて思った。

 

「だああああああああああああああっはっはっはっはっはっはっは!!!ショックボルト以外の魔術は禁止だったか???自分がねえねと呼ばれるだけで恥ずかしがる超~~恥ずかしがりやな事を哀れにも忘れていたようだなぁ!!!だああああああああああああっはっはっはっは!!!」

 

そう言いながらグレンは高笑いをする、こちらの作戦勝ちだ、とでも言わんばかりに・・・。

 

((((ごくりっ・・・))))

 

勿論その状況はお年頃の男子にはすさまじい破壊力があり、男子生徒全員生唾を飲み込む。

 

「にゃぁ・・・・・!・・・・ちょ・・・・っと・・・んぁ・・・そんな目で・・・見ないでぇ・・・っ」

 

もう恥ずかしさで涙目にすらなっているエルレイ。

 

「はああああああああああっはっはっはっは!!!どぉだ!!俺のパあああああああフェクトな作戦は!!!」

 

「先生っ・・・なんて作戦を・・・っ!いいぞもっとやれ!!!」

 

「ぐぁぁぁ!!!これが・・・エルレイねえねの大人の・・・色気・・・やっば鼻血止まらん」

 

「やっぱエルレイねえねは最高ということだな!?!?」

 

「「「「ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」」」」

 

テンションの余り男連中は我を失い、エルレイ以外の周りが見えなくなっていた。

 

 

女子の視線にも気付かずに。

 

 

「「「「「《この・阿保・共》がぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」」」」

 

 

「「「「「え?・・ぎゃあああああああああああああああ!!!!」」」」

 

その場にいる女子は全員全男子に目掛けて自分の得意な攻撃系魔法を容赦なくぶっ放した。

 

「ちょ!!何すんだよ白猫白犬!!!」

 

「何すんだよじゃないよ!!!それはこっちのセリフだよ!?!?」

 

「そうですよ!!いくら勝つためとはいえ外道なやり方にもほどがあるでしょう?!」

 

「「「「ねえねが可愛いからOK!!!」」」」

 

「「「「《この・変態・共》がああああああああああああああ!!!!」」」」

 

阿保のように性欲に忠実な男どもが女子の反感を買うのはわかり切っていたことだ、だがここまでやるとは・・・・。

 

「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

エルレイは息を整えた後ため息をついた。

 

「あ、あの・・・ホントに・・すいません」

 

「大丈夫、さっきのは確実に、グレンが悪い」

 

正直、今グレンに言いたいことは山ほどあるが騒いでいるようなので今はやめておこう。

 

「ごめん、ルミア」

 

「え?」

 

「正直。私にもよくわかんないんだ、私がここに居たいのか、居たくないのか」

 

そう言いながらエルレイはルミアの頭を撫でた。

 

「・・・エルレイ先生」

 

「・・・さっきのは引き分けでいい?ごめん、少し頭を冷やさせて。」

 

そう言い残して、エルレイはその場を何も言わないで去ろうとする。

 

「ねえね・・・」

 

リィエルが目の前にいた、とても悲しそうな表情だ、エルレイは胸ポケットに入っているいちごタルトを取り出して、リィエルに渡す。

 

「・・・ごめん、少しだけ・・・待ってて」

 

 

 

 

★★★

 

「・・・・・はぁ」

 

エルレイは身近な喫茶店で特に何も考えず、コーヒーを飲んでいた。

 

「疲れちゃった?リィエル」

 

「うん、まあ」

 

ミアルが心配そうな声でたずねてくるのでエルレイは苦笑いで答える。

 

「疲れちゃったらちゃんといわなきゃ駄目だよ?」

 

「ルミアは優しいね」

 

「別に優しくなんてないよ?私はリィエルが心配なだけ・・・」

 

「そっか・・・ありがと」

 

「ふふっ・・どういたしまして」

 

エルレイがそういうとミアルは優しく微笑んでくれた、ああ、そうだ、この顔だ、私はこの顔を守りたいんだ・・・なんとしてで・・・・

 

 

 

 

 

 

 

ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・一つ聞いていい?」

 

「?なに」

 

エルレイはなぜか今頭に浮かんだ疑問をぶつけることにした。

 

「えっと・・・ルミア、なんで・・・・ここにいるの?」

 

「・・・え?今気づいたの?」

 

ミアルは驚きの声をあげる、正論だ、正論すぎて言葉を失う・・・が。

 

「いや・・・うん」

 

正直違和感がなさ過ぎて普通に会話してしまった、思わず友達とお茶にきているノリで。

 

「そりゃあ、普通に話しかけられたら、普通に返すでしょ」

 

この間までミアルと戦闘していたのに今度ばったり会ったのは戦場ではなく 喫 茶 店

 

「いや、でも普通気付かない?この間まで戦闘してたんだからさ」

 

「か、返す言葉がございません、エルミアナ様・・・」

 

正直まだ少し、エルレイは困惑している。するとミアルは突然リィエルの手を掴んだ。

 

「じゃあ、気分転換に、どこかに行こうか」

 

「・・・どこに?」

 

「う~ん、散歩?」

 

「友達かっ!!!」

 

「友達でしょ?!」

 

 

そのあと二人は本当に外に出てぶらぶらと友達のように街を回り始めた

 

※少し前まで戦闘しあってた二人です。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

騒動の行方

ああ、お父さんお母さん(存在しているかは不明)お元気ですか?リィエル・レイフォードは元気です。親友と喧嘩をし、右腕を切り落とし、悪夢見てから退職届をかいて、最終的にはセクシャル・ハラスメントを訴えれそうなレベルのセクハラ行為を受けていますが私は元気です(白目)そんな私の今現在の日常を聞いてください。

 

「これの効果使うね、チェーンある?」

 

「喧嘩した友達とカードゲームをしています????」

 

エルレイたちは喫茶店を出た後、真っ先に向かったのがまさかのカードショップ、そこのフリースペースでのんびり、ゲームしていた。

 

「どうしたの?」

 

「どうしたの?じゃないって、なんでカードゲームしてるの?」

 

「何でってそれは・・・なんとなく?」

 

「終いには、地獄に落とすよ?、エルミアナ様」

 

エルレイは伏せているカードを確認しながらため息をついた、少し前まで殺しあっていたといても過言ではない一触即発のはずだったのだがなぜ私はミアルとカードゲームしてるんだろう。

 

「あはは、怖い怖い」

 

「そもそも私たちは、前まで敵同士だったでしょ?」

 

「誰の話?」

 

「え?」

 

「今の私は遊び人ミアだよ」

 

「・・・自分ではないと言いますか、サイですか」

 

その言葉を聞き、ミアルは楽しそうにほほ笑んだ、リィエルと遊んでいるというこの状況が楽しくて仕方ないのだろう。

 

「リィエル、さっきの決闘みてたよ」

 

「・・・そ」

 

「どうしてあそこまで拒んだの?」

 

「・・・」

 

その言葉にエルレイは黙り込んでしまう。

 

「私やロクサスが、あの子たちには時間の無駄だから手を出さないってことはわかりきってることだよね?」

 

「・・・・」

 

「なんでも吐き出してみてよ、それとも私でも愚痴れない?」

 

その言葉にエルレイは大きくため息をつき、話始めた。

 

「多分、ただあの子たちを、巻き込むのがこわいだけだと思う、こっちの世界に巻き込むのが」

 

「・・・そっか」

 

エルレイ達のような人間を信用できず、殺すことしか考えていない連中とこの世界で知り合った人が殺しあっているのを想像するだけで・・・・吐き気がしてくる。

 

「・・・だからでしょ?」

 

「え?」

 

ミアルの言葉にエルレイは素っ頓狂な声をあげる。

 

「リィエルは人間じゃなくて、殺戮人形でしょ?いつもみたいに戦ってみんなを守ろうよ、ふふっ、勿論、私達は簡単には守れないし、倒せないけどね」

 

「・・・そうだね」

 

ミアルの言葉にエルレイは微笑む、ミアルのおかげで少し肩の力が軽くなった気がする。

 

「じゃあ、さっきの続きしない?チェーンは・・・」

 

「うらら」

 

「・・・話し出す前に出してよ・・・しらけるなあ・・・・」

 

そう言いながらミアルは苦笑いをした。

 

 

 

 

★★★

 

「だいぶ暗くなってきたね」

 

「・・・ん」

 

二人は結局ずっとぶらぶらと本屋や、花屋などを歩いて、気が付いたら夜になっていた、エルレイは少し苦笑いをする。

 

「ルミアといると、時間が早い気がする」

 

「ふふっ、それは私もだよリィエル」

 

そう言いながら二人は向かい合い、微笑む、まるでこの二人が戦闘していたのが別の世界の出来事のように感じるほど。

 

「どう?決意は固まった?」

 

「ん、おかげさまで」

 

正直ミアルに感謝を言っても言い切れないだろう、この世界では本当に肩の力を最大限に入れすぎて、どんなものでも拒絶するところだった。

 

「ルミア、ホントにありがとタルト」

 

そう言いながらエルレイはいつものようにポケットからいちごタルトを取り出してミアルに渡そうとする・・・・が

 

 

 

 

 

 

 

ぽとっ・・・。

 

 

 

 

 

 

「ん?リィエル、何か落ちたよ?」

 

「あ、っと・・・」

 

エルレイが落としてしまったのは木で出来た小型の四角い小物入れだった、エルレイは慌ててそれを拾い上げる。

 

「それ、なに?いちごタルトじゃないよね」

 

「ああ、これは」

 

エルレイはそれをミアルに見せる様に木箱を開けた、中には

 ‘‘黄色い球体のようなもの‘‘ が一つだけきれいに保管されていた。

 

「・・・これは?」

 

「見せたほうが早いね」

 

そういうとエルレイは両手でそれを重ねて持ち、詠唱を開始する。

 

「《我は世界を否定する殺戮人形なり・魔力を練り上げ知識を基盤に彼方を幻想せよ・真実のヴェールで覆いし者よ・今一度聖歌の幻想を・我が命脈に従い・奇跡と彼方の巡礼を》」

 

するとエルレイを中心に綺麗な花が咲く、そして。今日の空は雲一つない満天の星空に今夜は満月、その空間に調和するかのように花は光り、幻想的な空間を生み出す。

 

「・・・キレイなイリュージョン・スフィアだね・・・それ魔導具だったんだ」

 

そう言いながらミアルはあたりを見渡す、エルレイは少し微笑んだ。

 

「臨時生徒の忘れ物だよ。魔導具を利用して範囲を広めれるんだって・・・まあ、私は広範囲出来ないから外の自然で代用だけど」

 

そう言いながらエルレイは苦笑いをした、そしてエルレイは少し黙り込む。

 

「・・・・・・・そうだった」

 

「ん?どうしたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は今、殺戮人形じゃなくて・・・優しい先生だったなって」

 

 

★★★

 

「セラ、昨日、エルレイは帰ってきたか?」

 

「・・・帰ってきてない」

 

次の日の朝、2組は完全にお通夜状態だった、目にクマを作っているものも何人かいる。

 

「みんな大丈夫?クマできてる人多いよ?」

 

「それ、セラ先生もですよね」

 

そう言いながらシスティーナが苦笑いをする、ルミアもリィエルも目にクマができている、相当エルレイの事が心配のようだ。

 

「リィエル、大丈夫?」

 

「ん・・・大丈夫」

 

ルミアの言葉にリィエルは眠たそうに答える。

 

「ねえね、しんぱい・・・だから」

 

「・・・そうだよね」

 

グレンは生徒の顔を一人ひとり確認して、声を出す。

 

「お前ら、エルレイがまたあんなふざけた事言い始めたら・・・全員で辱めるぞ!!」

 

 

「「「「「ypaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」」」」」

 

「とりあえず、黙って見てたけど、その言動は屑すぎでしょ」

 

「「「「「?!?!?!」」」」」

 

エルレイがずっと扉の前にいたのに気付かなかったようだ、全員目を白黒させている。

 

「レイちゃん・・・」

 

セラは心配そうな目をエルレイに向ける。

 

「ん、とりあえず、報告していい?」

 

そういうとエルレイは全員の目の前に立つ。

 

「本日をもって、私、エルレイは、臨時講師としての職務を、辞めさせていただきます」

 

「・・・」

 

「・・・レイちゃん」

 

その言葉にグレンやセラだけでなく、クラス全員悲しそうな顔をする、エルレイは軽く頭をかいたと、一枚の紙を黒板に張り付ける。

 

「・・・ねえね、それは・・?」

 

「見てみればわかる」

 

そのエルレイの言葉に生徒全員がその紙を見る、内容はこうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

任命書

 

下記に提示する人物をアルザーノ魔術学院本格錬金術講師として、正式な講師とする。同時に臨時講師での成績を称え、下記の者に職員免許を配布する。

 

対象者名 エルレイ=レイフォード

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・こ、これって」

 

「本日をもって、臨時講師を辞退、同時に本格錬金講師として、このクラスに配属」

 

その言葉にみんな唖然としてる。

 

「え、エルレイ・・・簡単に、分かりやすく言ってくれるか?」

 

「ん、簡単に言う、これからも一緒に居る・・・これでいい?」

 

 

「「「「「・・・・」」」」」

 

みんなが沈黙するエルレイは特に騒ぐでもなくぱんぱんと手をたたく。

 

「はい、連絡終了、昨日予告した通りテストを・・・」

 

「「「「「やったあああああああああああああああ!!!」」」」

 

「・・・ほ?」

 

エルレイは突然の全員の声に素っ頓狂な声をあげる。

 

「先生!!本当なんですね!本当に本格的に講師としてこの学院に・・・!」

 

「俺は信じてたぜ!!エルレイねえねは俺らを裏切らないとな!!!」

 

「当然ですわ!この方はすべてを完璧にこなす御方!昨日のことなど本物の講師になるための前座でしかなかったのですわ!」

 

「全く、みんな心配しすぎなんだ、エルレイ先生が臨時講師で終わるはずがないというのに」

 

そんなふうにみんなが騒ぎ立てる・・・どうして。

 

「いくら何でも・・・ここまで」

 

多少嬉しそうな顔を期待していたのは事実だがここまで喜ばれるとは思わなかった、エルレイは本当にみんなにとっては臨時講師、ただそれだけのはずだ。

 

「ねえね」

 

「?」

 

「しんぱい・・・してた」

 

「・・・・ごめん」

 

そう言ってエルレイはリィエルの頭をなでる、かなり寂しい思いをさせてしまったようだ。

 

「ルミアも、システィーナも、迷惑かけたね」

 

「・・・いえ!私は先生の判断はいつも正しいと信じていますから!」

 

エルレイはシスティーナ、ルミア、リィエルの頭を撫でる。

 

「先生、今日からは感情、出してくださいね」

 

「・・・わかってる」

 

未来のミアルと言いルミアと言いなんでこの子はこんなにお人好しなのか、そう思いながら少し苦笑いをした。

 

「エルレイ、いや、リィエルお帰り」

 

「おかえり!レイちゃん!」

 

「・・ん、ただいま」

 

エルレイはそう言いながら微笑みかけて。それから微笑みながら

 

 

 

‘‘手袋をはずしてグレンに投げつけた‘‘

 

 

「ってぇ!!」

 

「「「「・・・え?」」」」

 

突然の事に、全員唖然とするしかない、なぜ今喧嘩を売ったのか、だれ1人理解できていない。

 

「なにすんだよっ!!一件落着ムードだったろ!!!」

 

「ん、そうだね、だけどさ」

 

そう言いながらエルレイはまるでごみを見るかのような目でグレンを見つめた。

 

「ルミアにあんなことやらせたのは・・・けじめつけてもらわないと」

 

「・・・え?」

 

「「「「「あっ・・・」」」」」

 

全員何かを察したように苦笑いする。

 

「男子生徒は、お年頃だから許す、でもそれを作った元凶であるグレンは・・・

潰すべき」

 

「おいおいおいおいおいおいおい!!!俺がどんだけお前に手を焼いてたか・・」

 

「昔はそうだけど、今は同じ講師、正直私が後始末することが多い」

 

「あ~~それを言われると頭が上がらないといいますかね~~~~」

 

グレンが目をそらし始めた。

 

「みんな、決闘終わるまでは・・・・自習しててね」

 

 

「「「「「yes!!エルレイネエネ!!!!」」」」」

 

そう大きな声で生徒たちが答えてくれたので教室中に響いた。

 

「セラ、生徒見てて」

 

「は、は~い、ねえねの仰せのままに~~」

 

そう言いながらセラはそろそろとエルレイの近くを離れる。

 

「あ~!!!俺の味方はいねえのかよ!!白猫!!」

 

「エルレイ先生!生徒の見張りはわたしが責任を持ちます!!ご安心を!!」

 

「ルミア!!!」

 

「ええっと・・・・本でも読んでますね♪」

 

「リィエル!!!」

 

「・・・このかみ、レイフォードって書いてあるねえねになった、うれしい」

 

「俺の味方いねええええええええええええええ!!!」

 

グレンの叫び声も虚しくエルレイは大剣を現在進行形で構えていた。

 

「それじゃあグレン・・・・死」

 

 

「え・・・ちょっま・・・ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

というわけで、また変わらない日常がやって来るのだった。

 

 

 

★★★

 

「・・・たく、やりすぎだろJK」

 

「うん、グレン君が悪いよあれは」

 

「ん」

 

とりあえずエルレイは日ごろの感謝と今回の騒動の謝罪の意味を込めて、グレンとセラと一緒にエルレイのおごりで居酒屋にやってきていた。

 

「・・・こういうのもなんだけどよ、少し安心した」

 

「・・・?」

 

グレンの言葉にエルレイは首をかしげる。

 

「お前、リィエルのはずなのに自分で頭使って考えて。なるべく俺たちを戦わせないように戦わせないようにって感じでさ、正直見てて怖かったんだよな、リィエルがお前みたいになると思うと」

 

「・・・大丈夫、あの子は、私みたいにはならないよ」

 

エルレイは水割りした焼酎を飲みながらそうつぶやいた。

 

「だと、良いんだがな」

 

「ねえレイちゃん、レイちゃんはこの学院好き?」

 

「・・・大好き」

 

そう、大好きだ、自分のすべてが始まった学校であり、自分を殺戮人形としてではなく、講師として迎え入れてくれたこの暖かい学院が大好きだ。

 

「そっか、よかった」

 

「多分学院は好きでもお前の事は嫌いだと思うぞ白犬」

 

「はぁ!!私レイちゃんに嫌われるようなことしてないよ!!」

 

「あほいえ、無意味に抱き着いたりしてただろうがたまにすっげー嫌そうな顔してたんだぞ?」

 

「なんでそんなこと言うかな~泣くよ?私泣くよ?」

 

「はぁ・・・・」

 

「ため息もやめて!?!?」

 

「いやこんな奴に懐かれてたらエルレイもつかれんだろうな、と思っただけだ」

 

「うっさい!!!がるるるるる!!」

 

犬のように怒りはじめセラをグレンは頭を撫でて落ち着かせる。

 

「・・・あ・・・」

 

「落ち着けって、それでこいつが落ち着いてたこともあったのも事実だ、いい按配だったとおもうぜ?」

 

「あ・・・う・・・」

 

撫でられて少しセラの顔が赤くなる。

 

「あ・・・・わりぃ、なんかノリで・・・」

 

「う、ううん・・・私が少し悪乗りしすぎただけだから・・・」

 

二人の顔が朱色に染まる・・・それを見ていたエルレイは迷うこと無く。

 

「はぜろ」

 

「い、いきなりなんだよ!?俺とセラはそういう関係じゃねえからな?!」

 

「そ、そうだよレイちゃん」

 

そんな言葉も何のその、エルレイはジト目で二人を見つめる。

 

「セラはそのままお幸せにはぜろ、グレンはとりあえずシスティーナに土下座しながらはぜろ」

 

そう言ってエルレイは飲んでいた焼酎を飲み干して店員を呼ぶ。

 

「コーヒー、ブラック!」

 

「お怒りですね、どうかなされました?」

 

「同僚の、恋が、ウザいだけです」

 

「「だからちがううううううううううううううううううぅぅぅぅ!!!!!」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

八巻
意外な再会


エルレイ2「感想返し、コーナー」

エザリー「え?突然?」

エルレイ2「ん、突然、2件来たからノリでやる」

エザリー「…まぁいいや…じゃあ私が読み上げるね」

エザリー「一人目『タツタ川』さん、感想ありがとうございます!」

エルレイ2「大人っぽいって褒めてくれて。ありがとタルト、うれしい」サクサク

エザリー「感想で初めてだよね?大人っぽいって言われたの」

エルレイ2「ん、うれしい」サクサク

エザリー「大人…ぽい?」

エザリー「ま、まあいいや、次、『ゼロワンシャイニングバード』さん、感想ありがとうございます!」

エルレイ2「ん」

エザリー「え?それだけ?」

エルレイ2「?」

エザリー「いや、いつも見てる作者の人だよ?いつもだったら「ライト君に会いたい」って…」

エルレイ2「ん、会った」

エザリー「……え?」

━━━━━

エルレイ「ライトくん、拡散させて?」

ライト「おわっ!? だ、誰ですか...?」

エルレイ「いつか君が会う……戦車だよ(適当)
拡散駄目?」

ライト「戦車.....ってまさか................いや、何でもないです。ところで、拡散でしたっけ? 別にいいですけど...」

エルレイ「やった、許可出た。ありがとうタルト」タルトを差し出す。

ライト「は、はい。.....これ、いちごタルトですか? しかも大量に.....」

エルレイ「みんなと分けておたべ?じゃあね《我目覚めるは━━━》」

ターイムマジーン!

エルレイ「んじゃ」

そう言い残しエルレイは謎の機械に乗り、どこかへとんでいった。

ライト「.........何だったんだ? あの人.....」

突然現れた不思議な女性が空間の狭間に消えていったのを見て、呆然と呟くライトであった。

━━━
エルレイ2「ね?」

エザリー「タイムマジーン、急になくなったってシュウ君言ってたよ?犯人リィエルだったんだ…」

エルレイ2「と言うことで拡散『ロクでなし物理学者と禁忌教典(仮面ライダービルド×ロクアカ)』みんな見よう」

エザリー「結局拡散……」




「一時はどうなるかと思ったけど、めでたし、めでたし、ね」

 

学院の教室近くの廊下、そう言いながらシスティーナは楽しそうに背伸びをした、現在システィーナは、ルミア、リィエルと一緒に、エルレイのところへ早めに登校して、分からない所を教えてもらう約束だった。

 

「ん、ねえね、やめなかった」

 

「一時は、本当にやめちゃうんじゃないかって思ったけどね・・・」

 

リィエルが眠たそうに呟きルミアが苦笑いをした。

 

「それにしても・・・よくエルレイ先生に喧嘩を売る勇気あったわよね・・・」

 

「あ、えっと・・・あれはついカッとなって・・・」

 

「ふふっ・・・責めてるわけじゃないわ、寧ろ感謝してるもの」

 

「ん、ルミアが、頑張ってくれたおかげ」

 

「や、やめてって・・・」

 

ルミアはほめられるのが慣れていないのか少し顔を赤くしながら足が少し早くなる。

 

「まあ、これでエルレイ先生もなにもストレスを感じることなくこの学院に・・・」

 

システィーナがそう言いながら教室に入ろうとした・・・その直後。

 

「くたばれ外道下等生物」

 

バキィッ!!

 

教室内で無表情で苛つきながら通信魔導器を片手で破壊しているエルレイの姿が目に入ってしまった。

 

「・・・・ねえ」

 

少しの沈黙のあと、リィエルがはじめに口を開いた。

 

「・・・何?リィエル」

 

「よくわからないけど、ねえねのストレス理由・・・学院な気がする」

 

「「・・・・・」」

 

二人はリィエルの的確すぎる発言に何も言い返すことができなかった・・・・。

 

 

 

──────────

──────

 

~緊急通知~

アルザーノ帝国魔術学院 学院委員会

 

以下、一に該当する者を、2の通りの処分とすることを決定し、ここに通知する。

 

1.対象者 リィエル=レイフォード

 

2.処分内容 ‘‘落第退学‘‘

 

3.処分理由 生徒に要求する一定水準の学力非保持、故の在籍資格失効

以上

 

 

「どどどど、どうゆう事っすか学院長ぉおおおおおおおお──!!!」

「どどどど、どうゆう事ですか学院長ぉおおおおおおおお──!!!」

 

エルレイのキレている理由を聞くや否や、グレンとセラは猛烈な勢いで学院長室に駆け込んだ。

 

「まあ、そろそろ君たちが来る頃だと思っていたよ・・・」

 

慌てるグレンとセラを学院長は落ち着いた物腰で迎える。

 

「確かに!こいつはマジモンのバカですよ!?今のところ成績、ボロクソですし!」

 

グレンはリィエルの襟首をつかんでぶら下げ、学院長の前に突き出す。

 

「むう、バカって言うほうがバカ」

 

対するリィエルの表情は眠そうで、いかにも何が起こったかわからない風だ。

 

「学院長!成績が一番響く前期末試験もまだやってないんですよ?!その結果すら待たずに退学処分なんておかしくないですか?!」

 

そう、セラの言う通り、まだ前期末試験、つまりテストをまだやっていない状況にも関わらず ‘‘学力がないから退学させる‘‘ という暴言に近いものを突き付けられているのだ。

 

「お願いします、学院長・・・どうか、もう一度よく確認してください」

 

先生についてきたシスティーナとルミアも、必死に学院長へと嘆願する。

 

「まあ、何かの間違い・・・確かにそうなんじゃろうな・・・普通なら。じゃがリィエルちゃんの場合は、少々特殊でのぅ」

 

学院長が気の毒そうにため息をついた。

 

「理解しています、それは、私から」

 

そう言いながらエルレイはため息をつき話始めた。

 

「どういうことですか?エルレイ先生」

 

「リィエル=レイフォードは、元王女、ルミア=ティンジェルの護衛として派遣してきた、分かってるよね」

 

エルレイがそういうとルミアは頷いた。

 

 

「だから、国軍参謀本部が、リィエルを、この学院の生徒として強引にねじ込んだわけだけど・・・この学院は外道下等生物の醜さの塊なの」

 

「つまり、どういうことですか?」

 

「建前がクソで合理性がないのは明らか、本音は『気にくわねえな、退学させっか★』っていう外道下等生物のただの私利私欲、クズ過ぎる」

 

エルレイは相当腹が立っているようだ、感情を隠すことなくそう吐き捨てる。

 

「さっき上層部に直談判した、けど突っぱねられた、『教員が1人の生徒に肩入れするな、もっといい生徒たちの未来の事を考えろ』ってね・・・ほざけ下等外道生物」

 

「エルレイ・・・」

 

「肩入れしている?未来の事を考えろ?未来の事を考えるなら、リィエルはどうなるの、学院を退学して社会になじめない人はたくさんいる、それで頑張っても、未来に社会になじもうと頑張った子が、仕事に押しつぶされて過労死、自殺、そんなケースも少なくない」

 

そう言いながらエルレイは唇をかんだ。

 

「それをあろうことか、『気に入らないから』で済ませる・・・いい生徒っていうのはアイツらの都合のいい機械としか思っていない・・・これだから外道下等生物は」

 

エルレイは歯ぎしりしながらそう吐き捨てた。

 

「ねえね・・・大丈夫?」

 

「・・・大丈夫だよリィエル」

 

そう言いながらエルレイは優しくリィエルの頭を撫でた。

そうしていると学院長が・・・にやりと笑った。

 

「しかし、つくづく思うのじゃが、このクラスは本当に悪運が強いのぅ」

 

「え?!どういうことですか?」

 

「実はな・・・ちょうどリィエルちゃんに、名指しで短期留学のオファーが来ているのじゃよ、聖リリィ魔術女学院からのぅ」

 

 

「聖リリィ魔術女子学院だって?!」

 

グレンが驚きの声をあげる。

聖リリィ魔術女子学院。アルザーノ帝国が首都、帝都オルランドより北西へ進んだ湖水地方リリタニアにある私立の魔術学院。いわゆる、女子のみが通える女子校である。

 

「なるほど、実績で跳ね除ける、合理的」

 

そう言いながらエルレイは少し微笑んだ、それならば部外者が介入する余地はない。

 

「グレン、セラ、生徒任せていい?リィエルの先生としては、私が行く」

 

「よしっ!任せろ、リィエルを頼むぞ」

 

「レイちゃん、リィエルちゃん、しっかりね!」

 

二人の同意は得た・・・あとは・・・。

 

「ん、感謝、そして、ルミア、システィーナ」

 

「はい!」

 

「は、はい!」

 

システィーナは即座に返答を返し、ルミアは少し戸惑ってから返した。

 

「二人も聖リリィ魔術女子学院までついてきて、いざとなった時のカモフラージュになる」

 

いざ上層部の連中が不当にリィエルを聖リリィ魔術女子学院に行かせただのなんだの言われる可能性があるので、カモフラージュに何人か短期留学生を増やすことによって。妙な言いがかりをつけられる心配もなくなる。

 

「ついてきてくれる?二人とも」

 

「はい!先生がそう仰るなら!」

 

「私も行きます!」

 

二人ともすぐにOKの返答をくれる、うれしい限りだ。

 

 

「グレン君、セラ君、こういうのをエルレイねえねカッケエゼイイェア・・・というんですな、ふぉっふぉっふぉっ」

 

「はは、まあ基本的にはそうっすね」

 

「レイちゃんカッケエゼイェァア!!」

 

「・・・学院長、それどこからの情報です?あとグレンとセラ、後で死」

 

────────

─────

 

魔術女子学院への短期留学が決まったリィエル、ルミア、システィーナ、さっそくエルレイはそれ用の書類を作成して、短期留学の書類をサイン、そしてエルレイは三人を授業後に教室に呼び出し、書類を配った。

 

「ここは・・・こうで・・・こう」

 

「あの・・・エルレイ先生」

 

そう話していると突然システィーナが恐る恐る話しかけてくる。

 

「え・・・なに?」

 

「最近よく思うんですけど、エルレイ先生ってリィエル・・・なんですよね?」

 

「・・・ん、それが」

 

「あ!いえ、別に大したことじゃないんですけど・・・」

 

そういうシスティーナは何か歯切れが悪い。

 

「その・・・エルレイ先生の知る私たちもいるんですよね?」

 

「ん、そだね」

 

「寂しくなったり、しないんですか?」

 

「・・・」

 

その言葉にエルレイは黙り込む、寂しくないと言ったら嘘になる、しかし死ぬほど会いたいかと言われたらそれは違う。

 

「ごめん、今回、ノーコメント」

 

「そう・・・ですか」

 

そういうとシスティーナは肩を落とす。

 

「あの、私達がこういうのも変な話なんですけど、エルレイ先生が望むならエルレイ先生をリィエルとして、心から迎え入れますからね?」

 

そう言いながらルミアは優しいほほえみをエルレイに向けた

 

「・・・ありがと」

 

エルレイは少し照れ臭そうに頭をかく、実際自分の生徒にそんなことを言われるのが想定外だったのだ、少しエルレイはため息をつく。

 

「・・・わたしやだ」

 

「・・・え?」

 

ここで、何故か否定的な言葉を出したのはリィエルだった、エルレイは軽く、リィエルの頭を撫でる。

 

「ねえねは、ねえね」

 

ねえねはねえね、つまりそのままでいてほしいというリィエルの意思表示、いくら昔の自分でもこんな意思表示ができただろうか・・・。

 

「・・・ぷっ」

 

エルレイは少し噴出してしまった、自分の言っていることのはずなのに、目の前にいる リィエル=レイフォードは自分のはずなのに、なぜかとても愛らしく見えてしまうのだ。

 

「・・・ふふっ」

 

「あははっ!」

 

釣られるようにルミアとシスティーナも笑い始める、その場のリィエルだけが口を膨らませてすねている。

 

「笑い事じゃ、ない」

 

「ごめん、ごめん」

 

そう言いながら、エルレイはリィエルを母性からか、割と強めに抱きしめた。

 

 

 

──────────

──────

「・・・すっかり夜になっちゃった」

 

エルレイが短期留学の説明と仕事をすべて終えた頃にはあたりは真っ暗になっていた。

 

「早く帰らないと」

 

また、家から出てったとセラに騒がれても面倒なことこの上ないので早く帰ろうとエルレイは近道をしようと誰も人通りのない林をスタスタと歩いていた。、その途中。

 

「やあ、リィエル」

 

「あ。シュウ」

 

意外な人物がいた、そこには魔導士礼服に身を包んだエルレイにとってのシュウ・・・現在名ハルが伐採された気に座り込み、チョコレートを食べていた。

 

「・・・どうしたの?」

 

「いや、特に深い理由はないんだけど少し心配になってね」

 

「心配?」

 

エルレイは首をかしげる。

 

「食事の栄養バランス?それとも洗濯?掃除?ゴミ出し?」

 

「・・・リィエルは僕をなんだと思ってるのかな」

 

「超絶駄目人間製造機」

 

その言葉を聞きハルは苦笑いをした。

 

「そういう話じゃなくて・・・人間になっちゃったかなって」

 

「・・・・何が言いたい?」

 

ハルの言葉にエルレイは苛立ちを隠そうともせずにハルの顔を睨む。

 

「いや、結構教師として充実してるみたいだからもしかしたら」

 

「シュウ、それ以上言ったらいくらシュウでも許さない」

 

「・・・」

 

エルレイは容赦なくハルの胸ぐらを掴んだ。

 

「私を、私の大好きな人達を絶望に落とした、外道下等生物と一緒にするな、シュウ・イグナイト」

 

「・・・ふっ」

 

シュウはその言葉を聞き、何故か安心したように微笑んだ。

 

「私が教員してるのは・・・なんとなくやってる、それだけ」

 

「ごめん、いらない心配だったね」

 

そう言うとハルは優しくエルレイの頭を撫でた。

 

「・・・ん、わかってくれればいい」

 

そういうとエルレイはハルの元から立ち去ろうとした・・・その時。

 

「きひひっ・・・相変わらずだな、お前ら」

 

「「っ!?」」

 

気配がなくてすぐに気が付かなかった、そこには二人いて、ミアルとロクサスが互いに背を寄せ合いながら立っていた、ハルとエルレイは即座に距離を取る。

 

「なんのよう?兄様」

 

「おいおい、ご挨拶だな、せっかく前世での兄ちゃんが弟の顔を見に来たってのに」

 

「またあったねリィエル、シュウくんは久しぶり」

 

そういうとミアルはフリフリと手を軽くふった。

 

「御託はいい、なんのよう?」

 

普通だったらこんな接触はこの二人はしない、確実に何か裏がある。

 

「なあに・・・ちと提案しに来たんだよ」

 

「提案?」

 

「うん、別に二人共そっちにいる理由はないでしょ?私とロクサスと一緒に来ない?」

 

そう言いながらミアルは軽く微笑んだ。

 

「ルミア・・・この前は戦って守ればいいって・・・」

 

「前はね、でもリィエルが迷う原因があるならそこから力づくで引き離そうって・・・ロクサスが」

 

「そういうこった、んで?お二人さん、この提案はど──」

 

その言葉を遮るようにエルレイが詠唱し始めた

 

「《万象よ2つの腕手に・剛毅なる刃を》」

 

エルレイはいつも道理回路に接続して、とても大きな大剣を手に持つ。

 

「兄様、これが答えみたい《武装展開》行こう、ファイさん」

 

シュウも武装を展開して紫の片手剣を手に持った。

 

「・・・残念だ」

 

「しかたないよ、《ザドキエラー》」

 

ミアルがそう言うとミアルの手に氷で作られた大鎌が手に持たれる。

 

「始めよっか……リィエル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

「・・・っ!」

 

エルレイは少し焦っていた、ライツェル・クルス鉄道駅へと足を運んだのはいいものの・・・。

 

「リィエルを見失った・・っ!」

 

そう、リィエルを見失ってしまったのだ、エルレイはとりあえずルミアとシスティーナを鉄道に乗せてから探し回る。

 

「・・っ、どこ」

 

見当たらない、どこにも見当たらない、思い当たるところはすぐに言った、どこだ、どこだどこだ、どこ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

どんっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「わっ!!」

 

「きゃあ!!」

 

エルレイは不注意だった、女性にぶつかってしまったようだ。エルレイはすぐさま起き上がり、その女性に手をさし伸ばす。

 

「す、すいません、大丈夫です・・・!」

 

 

 

ぶつかってしまったのは銀髪のポニーテール、リボンがぴょこぴょこと動き、まるで子猫のように可憐な20代くらいの女性、エルレイはその女性に見覚えがあった。

 

「こ、こちらこそ、不注意で・・・ってリィエル!?!?」

 

「し、システィーナ・・・?」

 

 

 

そう、エルレイにとってのシスティーナ、そのものだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

思い出したくない過去

おひさ、エルレイ先生だよ?
久々の投稿で忘れてると思うから、あらすじ。


システィーナとぶつかった

 以 上  


「こ、こちらこそ、不注意で……ってリィエル!?!?」

 

「し、システィーナ……?」

 

 

 エルレイは現在進行形で開いた口がふさがらなかった。

 ライツェル・クルス鉄道駅のホームのどこかで、何故か自分の未来にいる親友と出くわしたのだ…、驚愕もするだろう。

  リィエルの短期留学…何かあるとは思っていたが。

 

 

「あ、アンタ…なんでこんなところに」

 

「それはこっちのセリフ、なんでシスティーナが…」

 

 

 エルレイは少し動揺したが、とりあえず手を差し伸ばしてシスティーナを立ち上がらせた。

 

 

「…もしかして、リィエルもあの手紙を?」

 

「う、うん……。つまりシスティーナも?」

 

「ええ、変な手紙が届いてて気がついたらここに…」

 

 

 どうやら、システィーナも同じく手紙でこの世界に飛ばされたらしい。いったいどれだけこの世界に呼べば気が済むんだ…。

 

 

「そっか…」

 

「あっ!!こんなことしてる場合じゃなかった!」

 

 

 システィーナが突然声を荒げて、あたりを見渡した。

 

 

「リィエル、エルザ見てない?」

 

「エルザ?」

 

 

 エザリーならば今特務分室にいるハズ、エルレイは首をかしげながら答えた。

 

 

「うちのエルザなら、ここの特務分室だよ?」

 

「そうじゃなくて!こっちの世界のエルザ──って私たちの世界のエルザもここに?!」

 

「ん」

 

「面倒くさっ!!」

 

 

 気持ちはもっともだが、もうエルレイはこの状況に慣れてしまった。

 エルレイは苦笑いしながらシスティーナを見つめた。

 

 

「ていうか、なんでこの世界のエルザ、探してるの?」

 

「え?ああ、私今聖リリィ魔術女子学院の講師してんのよ」

 

「え?そうなの?」

 

システィーナの突然のカミングアウトに、エルレイは素っ頓狂な声を出してしまった。

 

 

「ちなみにアンタはなんでここに?」

 

「えっと…私、今アルザーノで講師やってる、から」

 

「え?じゃあアンタが天才錬金術師のエルレイ?!」

 

「?????」

 

 

 私はそんな変なあだ名がついていたのか…?

  エルレイはため息をつきながら話をつづけた。

 

 

「多分、それ」

 

「…アンタが講師とかないわ…」

 

「…ほっといて」

 

 

 エルレイは一番気にしていることをシスティーナに言われ、少し頬を膨らませた。

 

 

「………そういえば」

 

 

 エルレイは今思い出した。

 今回の短期留学に向け、あらかたリリィの情報に目を通したのだが、明らかに自分の過去と異なり、見覚えのない講師の名前があった…その名は…。

 

 

「シスナっていう、見覚え無い名前あった…もしかして」

 

「あ、それ私」

 

 

 マジか……。

 エルレイは、どんどん出てくる新情報に頭を悩ませている…その時。

 

 

「あ!シスナ先生!」

 

「ねえね、いた」

 

 

 ふと、少し遠くのあたりから、聖リリィ魔術女子学院の制服を着た、眼鏡をかけた少女がやってくる。

 

 

「見つけました!この子があのリィエルですよね?」

 

「え、ええ。そうよ」

 

 

 シスナは、面倒な時に来たとでも言いたげな表情で、二人を見た。眼鏡をかけている少女は…間違えるはずがない。

 

 

「…エルザ?」

 

 

 そう、エルザだ、正直すぐに分かった。ひょんなことから、少し前にこの年のエルザに会ったし。

 

 

「え?ああ、はい。私がエルザですけど」

 

 

 エルザはなんで名前を知ってるんですか?と言わんばかりの顔でエルレイを見てきた。

 

 

「………?」

 

 

 おかしい、()()がない。この頃はリィエルという少女に、殺意をもっていないとおかしいはずなのに…。なぜ何も感じない。

 

 

「…エルザにはリィエルの事情は話してるわ。ついでにマリアンヌは学院にいないから」

 

「……は?」

 

 

 エルレイは混乱の余り、目を白黒させた。

 

 

 

 

──────

 

「「「……」」」

 

 

 列車の中、現在進行形、エルレイ、システィーナ、ルミアは唖然としていた。

 なぜならば……。

 

 

「よっし!勝ちぃ!!わりぃなフランシーヌ!賭けのチョコはいただきだ!」

 

「くっ…もう一度勝負ですわ!コレット!」

 

 

 お嬢様学校のはずなのに、金髪の女の子と黒髪の少女が、トランプでかけ事をしているのだ。システィーナとルミアはそのことに驚き。

 

 

(……仲良すぎね?)

 

 

 エルレイは、目の前の二人に違和感しかなく、目をまた白黒させていた。

 

 

「…混ざる」

 

「めっ」

 

 

 楽しそうだと思ったのだろう、ひょこひょこと行こうとするリィエルを、エルレイは髪の毛を引っ張って止めた。

 

 

「あ~、あんまりきにしなくていいっすよ?」

 

 

 そういって、銀髪の髪を編んでいる少女、ジニーが話しかけてきた。

 

 

「ある程度は決まり守ってるっすから」

 

「あの…ジニーさん?今回はどういった成り行きで?」

 

 

 そういいながら、エルザは苦笑い気味に聞いてきた。

 

 

「…ごめん、エルザ。私も詳しくはみてないんだわ」

 

「……そうですか」

 

 

 そういいながら、二人して苦笑いをしていた。

 

 

「こらあぁぁ!!二人とも!!!」

 

「やっべ!シスナ先生だ!」

 

「こ、今回はお菓子以外はかけてませんわ!本当ですわよ?」

 

 

「な、なんか…エルレイ先生の胃に穴が開きそうね…」

 

「う、うん……」

 

「これ以上、そういうの勘弁」

 

 

 そういいながら、エルレイはため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

────

 

 

「──っ」

 

 

 リィエルは、自分の執務室で自身に注射で薬物を投与していた。

 

 

「……」

 

 

 一体、どれだけ投与しただろうか、正直記憶があいまいで、よく覚えていない。

 

 

「疲れた、眠い」

 

 

 リィエルは最近口癖になりつつある言葉を口にした。

 

 

 コンコン。

 突然、ドアのノック音がリィエルの耳に響いた。

 

 

「騎士長、入ってもよろしいでしょうか」

 

 

 ドア越しに女性の声が聞こえる。

 

 

「入って」

 

「失礼します」

 

 

 ドアが開かれ、入ってきたのは20代くらいの女性だった。

 黄髪のロングヘアーに赤い球体のような装飾が可愛らしいゴムで、小さくポーニーテールのようにまとめた女性。現副騎士長、コルワ=ライクールだ。

 

 

「コルワ、ただいま帰還いたしました。今回の任務の報告書です」

 

 

 そう言ってコルワはリィエルに書類の入った封筒を差し出した。

 リィエルは軽く書類に目を通した後、コルワに微笑みを向けた。

 

 

「お疲れ様タルト」

 

 

 ごくごく当たり前のようにいちごタルトを差し出したリィエルに、コルワは苦笑いをしながらそのいちごタルトを手に取った。

 

 

「騎士長、どうですか最近は」

 

「平和そのもの…特に問題なし」

 

「そうではありません、騎士長自身です」

 

 

 そう言ってコルワは、リィエルの手を優しくとって、リィエルの手に持っていた注射器を悲しそうに見つめた。

 

 

天使の塵(エンジェル・ダスト)の特効薬…まだできてないんですよね」

 

「……」

 

 

 リィエルは少し辛そうに、少しだけ俯いた。

 

 

「騎士長…もうやめましょうよ…。いくら上層部の指示とはいえ、投与し続けて、その抗体で特効薬を作るなんて……バカげてます」

 

「…大丈夫、一度この方法で、成功してる」

 

 

 リィエルはそう言って、悲しそうにほほ笑んだ。そう、一度成功しているのだ。

 

 まだリィエルが学院を卒業していなかった頃…、ビルデネアという国があり、そこには病弱な女性の科学者がいた。

 その女性は魔術ではなく、科学のあらゆる手段を使って、何とか生きながらえている状況だった。

 

 リィエルは多少その女性と、その女性の夫と面識があり、妻のために必死に科学を進歩させようとしているその女性の夫の顔が忘れられず…、どうにかしてあげたいと無我夢中で行ったリィエルの強引な治療法だ。

 

 

「もう一度出回ってもいいように、人形を犠牲にして特効薬を作る。現在考えうる限り、最も効果的な最善策」

 

 

 一度抹消できたと思ったら、また再度出回ったのだ、抹消できないと判断したならば、誰かを犠牲に特効薬を作る。いかにも正義面した人間が考えそうなことだ。

 

 

「ですが!!」

 

 

 コルワのその叫び声はとても悲しく、辛そうな声だった。これ以上見ていられない。と目が訴えている。

 

 

「だいじょうぶ」

 

 

 そう言ってリィエルは優しくコルワを抱きしめた。

 

 

「……ぁ」

 

「大丈夫、何とかなる…大丈夫…」

 

 

 リィエルは、何度も何度も大丈夫と、そう言い聞かせた。まるで自分に言い聞かせているかのように。

 

 

「……騎士長、おねがいです。辛かったら、たよってくださいね」

 

「ん、ありがと」

 

 

 リィエルはそういって、コルワの頭を何度も撫でた……。

 

 

「…………辛い」

 

「……え?」

 

「…胸…ないから。抱きしめるの。自虐」

 

「ああああああぁぁぁもう!!そういう変なところ気にするのやっぱりリィエル騎士長かわいすぎますううううううぅぅ!!」

 

 

 そういって、コルワに強めに抱きしめられる。…苦しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リィエル!大変!コルワがっ!!天使の塵(エンジェルダスト)を!

 

 

 

 

 

 っ!!容体は?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう中毒症状が出てる…!このままだと……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 …エルザ、報告書を書いて。

 

 

 

 

 

 …!リィエル!!

 

 

 早くなさい、エルザ=ヴィーリフ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コルワ=ライクールの()()の報告をしなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────

 

 

「───!」

 

 

 エルレイが目を覚ますと、そこは真っ暗な列車の中だった。全員眠っているようだ。

 

 

「……ひどい夢」

 

 

 エルレイはポケットから、コルワの写っている写真を取り出して、ため息をついた。

 

 

「大丈夫?かなりうなされてたけど」

 

「……システィーナ」

 

「こっちではシスナ、間違えないで」

 

 

 そういいながら、シスナは微笑んだ。エルレイはため息をつきながら、いちごタルトを頬張る。

 

 

「…やな夢見た…思い出したくもない夢」

 

「……そう」

 

 

 そういって、シスナは優しくエルレイの頭を撫でた。

 

 

「これを思い出すと、自分が何をしてるかわからなくなる。私が何のために生きてるのか」

 

「……」

 

 

 そういいながら、エルレイは窓の外の景色見ながら、ぼーっと目を細めた。

 

 

「…ごめん、今言うことじゃなかったね」

 

 

 エルレイは少し微笑んで、シスナを見つめた。

 

 

「……何のために生きるかなんて、簡単にわかるわけないでしょ」

 

「……だね」

 

 

 その通りだと、エルレイは苦笑いをした。

 

 

「ねぇ……システィーナ。私は人間?」

 

「…ちがうわ。アンタは私利私欲のために魔術を使う者とは違うでしょ?」

 

「……やっぱり、システィーナもそういうんだよね」

 

 

 最近、講師になってからだ。リィエルだったころに当たり前だったことが、誰かに心配される、することが多くなった。一人で突っ走ろうとしても止められるし、ルミアではないほかの人を心配してしまうことも多い。

 

 

「……はぁ」

 

「あんたよっぽど疲れてるのね…」

 

 

 そういって、シスナはホットココアを持ってきて、エルレイへと差し出した。

 

 

「焦る気持ちもわかるけど、とりあえず気楽にやりましょうよ」

 

「…ん、そうだね」

 

 

 エルレイは、そういって肩の力を抜いたように、そのホットココアを受け取った。

 

 

「気楽にいく」

 

「そ、それでこそよ」

 

「ありがと……最近、旦那様に頭が上がらないくせに」

 

「なによ!悪かったわね!?」

 

「ふふっ……」

 

 

 昔に戻ったような話をして、エルレイは気持ちよさそうに笑った。

 

 

「あれ…?先生方?」

 

 

 突然、奥のほうからエルザの声が聞こえてくる。どうやらリィエルも一緒のようだ。

 

 

「…って、アンタらまだ寝てなかったの?」

 

「す、すいません…本を読むのに熱中しちゃって」

 

 

 そういいながら、エルザは苦笑いをした。

 

 

「……リィエルは?」

 

「なんとなく、一緒にいた」

 

 

 そう返すと思った。多少予想できていた返しに、エルレイは苦笑いをしながらリィエルの頭を撫でた。

 

 

「つうかアンタ……自分自身を撫でるってどうなの」

 

「いわないで?」

 

「ねえねに、撫でられるの気持ちい」

 

「ねえねって呼ばせてんの?!きもっ」

 

「やめて?」

 

「ええっと……仲がよろしいんですね」

 

「………」

 

 

 こいつらあとで〇す…

と少しだけ思った。

 

 

 

 

─────

 

 

「……ふぅ」

 

 

 場所はリリィ学院の職員室、エルレイはとりあえず荷物をそこにおいて、借りている椅子に腰かけた。

 

 

「…思ったより、羽は伸ばせそう」

 

 

 記憶はまだ戻らないが、ここではエルザとのイザコザがあったので、記憶は忘れていても体が嫌でも覚えている。

 

 

「……システィーナのおかげで、楽ができそう」

 

 

 エルレイは、そう思いながら書類を整理した。できるだけ錬金術の講義をして、状況に応じてほかの科目もやれば文句も出ないだろう。そう思いながら、エルレイはその場を後にした。

 

 

 

 

────

 

 

「勝負よ!」

 

「ええ!望むところ!」

 

 

 ……システィーナとシスナが喧嘩しそうだから帰っていいかな。 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エルレイ先生が自習がしたい

エルレイ「ルミアに会いたい」

エザリー「え?いつも会ってるじゃん。どうしたの急に」

エルレイ「そうじゃなくて、憑依した、ルミア」

エザリー「ああ、そういう……」

エルレイ「『第二王女なので人生イージーモードだと思ったら放逐された(笑)』面白いよ 」

エザリー「うん…………それで?」

エルレイ「それで……とは?」

エザリー「拡散の許可は?」

エルレイ「今とってる」

エザリー「いまっ?!?!」

エルレイ「まあ、メッセで唐突に宣伝されたから、いいかなって」


「…………んで」

 

 

 なぜか喧嘩をおっぱじめようとしているシスティーナとシスナを横目で見ながら、エルレイは面倒そうにため息をついた。

 

 

「どうして、こうなった?」

 

 

 まだ授業時間が始まって5分もたってないはずだが…、その五分の間にどこをどうしたらシスティーナとシスナが喧嘩する。という構図が出来上がるんだ?

 

 

「あ、エルレイ先生っ」

 

 

 真っ先にエルレイに気が付いたルミアが、足早にエルレイのもとに駆け寄ってくる。

 

 

「それが……」

 

 

「シスナ先生!撤回するなら今のうちですよっ!」

 

 

 ルミアが状況を話すより先に、エルレイの耳にシスティーナとシスナの会話が通過する。

 

 

「何度でもいうわよ。リィ……、エルレイには講師は向いてないわ、せいぜいグータラ講師がいいところね」

 

「そんなことありません!!エルレイ先生は──」

 

 

 エルレイはやっと、状況を次第に理解し始めることができた。

 どうやら話を聞く限りだと、エルレイが講師に向いていないと思っているシスナと、いい講師だと思っているシスティーナで議論が繰り広げられているようだ。

 ぶっちゃけ、どちらかというとエルレイ自身も講師に向いてるとは思っていないので、シスナに賛成なのだが……。

 

 

「はい、はいはい、すとっぷ」

 

「あ、エルレイ先生」

 

 

 こちらのほうに気づいたのか、エルザがエルレイのほうを見て助けを求めてくる。

 コレットとフランシーヌは、どこか野次馬のごとく言葉を飛ばしていて、一方のジニーに関しては、目に見えてめんどくさい、という顔が浮かんでいる。

 

 

「システィーナ、気持ちはうれしいけど。確かに私は、講師には向いてないよ」

 

「なっ!?そんなことは───」

 

 

 声を荒げようとするシスティーナに、エルレイは人差し指でシスティーナの口を止めた。

 

 

「だいじょーぶ、私に任せて」

 

「……え?」

 

 

 エルレイは、一度リィエルの頭を撫でた後、シスナに向き直る。

 

 

「システィ……、シスナ、一限目は任せてもらっても……いい?」

 

「それは誰としての命令?」

 

「あなたにとっての……リィエルとして」

 

 

 エルレイは、シスナに小さな声でそう答えた。

 

 

「了解。任せるわ」

 

「おkおk」

 

 

 まるで友達と話しているような口調で、二人は笑いあった後、エルレイは黒板をトントンと叩いた。

 

 

「ってことで。まずは私が……授業する…いい?」

 

「え?いいんスか?シスナの姉御」

 

「シスナの姉御って呼ばせてんのキモイ」

 

「ちょっと!息継ぎなしの罵倒やめなさいよ!!」

 

 

 どうやらコレットはたまに、シスナのことをシスナの姉御、と呼んでいるらしい。

 違う世界とはいえ、同い年に姉御と呼ばせるなんて人としてどうかと思う。

 

 

「でもシスナ先生?本当にいいんですの?今日はシスナ先生がきっちり、あちらの生徒たちに魔術の心理を教えてやるって」

 

 

 フランシーヌはシスティーナたちを見渡した。

 

 

「今すぐやんなくても別にいいからね、あとでじっくりと」

 

「きゃー、シスナの姉様かっこいいー(棒)」

 

「「「「「ひゅ~!!!」」」」」

 

「うっさいわねアンタたち!課題倍に増やすわよっ!」

 

 

 ……エルレイのいじり方とは少し違うが、かなりいじられててエルレイ的には苦笑いしかできない。

 

 

(システィーナも……大変そう)

 

 

 そんな思考を巡らせながら、エルレイは授業を始めようと口を開いた。

 

 

「じゃ、授業ね。今からやってもらうのは────」

 

 

 エルレイは、カツッカツッ……と音を立てながら、黒板に大きく文字を書いていく、そこに書かれていた文字は…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

自習

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「……………は?」」」」」

 

 

 システィーナたち、アルザーノ魔術学院以外の人間が、そのような素っ頓狂な声を上げた。

 

 

「………ふざけてんの?」

 

 

 ぴくぴくと眉を動かしながら、シスナが震えた声で聞いてくる。

 

 

「ん、おおまじ」

 

 

 エルレイがそういうと同時に、システィーナ、ルミア、リィエルはおとなしく自習を開始する。

 

 

「あの……普通に授業をしてほしいんですけど……」

 

 

 エルザが恐る恐るといった表情で聞いてくる。

 

 

「だめ、自習」

 

「えー………」

 

「やる気がないならシスナ先生と変わってくださいまし!」

 

「そうだよ!出しゃばられてもめいわくなだけだ!」

 

 

 そんな感じで、かなりの罵声の雨あられが、エルレイに降り注いでくる。

 

 

「………なる、これが違いか」

 

 

 そう言いながら、エルレイはため息をついた。

 

 

「三人、自習一旦やめっ」

 

 

 そう指示すると、三人ともぴたりと自習の手を止める。

 

 

「どうやら、一度説明をしなければいけないらしい」

 

「え?それってどうゆう………」

 

 

 シスナがその言葉にかみつこうとするよりも先に、エルレイは話題をシスティーナに投げかけた。

 

 

「三人とも、おさらいだよ。システィーナ、授業とは何?いってみて」

 

「はいっ!他から新しい知識を入れる行為です!」

 

 

 突然の哲学な問いに、システィーナは迷うことなく元気に答える。

 

 

「良し。リィエル、実技授業とは何?いってみて」

 

「ん、体に、覚えさせる……行為?」

 

 

 うろ覚えのようだが、きちんと覚えているらしい。うれしい限りだ。

 

 

「良し。最後にルミア、自習とは何?いってみて」

 

「はいっ、知識を膨らませる行為です」

 

「よろしい」

 

 

 教えたとおりの答えがすべて帰ってきて、エルレイは少し笑みを零す。

 

 

「私の持論だけど。覚えておいて、()()()()()()()()()()()()

 

 

 その言葉を聞き、クラスがどよめた。

 

 

「いい?授業、大切。でも限度はある。()()()()()()()()()()()()があるから」

 

 

 そう言って、エルレイは今度はフランシーヌに話を振った。

 

 

「フランシーヌ、電気を作るには、どうしたらいい?いってみて?」

 

「え?えっと……ショックボルト?」

 

「おk、上出来」

 

 

 エルレイは、とりあえずフランシーヌの頭を撫でる。

 

 

「それがなんだってんだよ?」

 

「風力、水力、太陽光」

 

 

 そんな感じで、エルレイは単語を並べていく。

 

 

「全部、電気作れるね。なぜ?」

 

「え?なぜって……」

 

 

 その言葉に、ジニーは考え込む。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。知識は新しい物だけじゃない、当たり前のものが『なぜそうなのか』というのも、立派な知識」

 

 

 そう言いながら、エルレイはため息をついた。

 

 

「授業だけをするのは、それは自分から考えるのをやめて、()()()()()()()()()()()()()()、という事だよ」

 

「………へぇ」

 

 

 シスナは、とても興味深そうに、そして嬉しそうにエルレイを見ている。

 

 

「なぜ、自分が魔術を極めるのか、極めて何がしたいのか、それを極めるには何が必要なのか。それを知らなければならない」

 

 

 そう言って、エルレイは教科書を持ち上げ、投げる。

 

 

「授業で入れた知識が必要か否か、実技授業でやった行動が最適か否か。それを頭の中で整理するのが……自習。知識だけを求め、それで満足しているような人はここから出てって」

 

「「「「「………」」」」」

 

 

 生徒たちは、ただ沈黙する。

 

 

「いいね、それじゃあ……」

 

 

 

 

 

 

「『なぜそれが必要なのかを知る行為(自習)』を始めて」

 

 

 

 

───────

 

 

「………ふぅ」

 

 

 エルレイは、借りた自分の部屋で、お茶を飲みながらくつろいでいた。

 生徒たちの反応は上々、これである程度信頼は勝ち取れたであろう。あとはリィエルのガンバリしだいだ。

 

 

「ま、そのあたりは、あまり心配いらないね」

 

 

 何せ、この世界にもエルレイ、リィエルが信頼してやまないエルザがいるのだ。

 実際そこまで心配はしていない。

 

 

「…………」

 

 

 まあ、実際、問題は()起こっているわけだが。

 

 

「………いこう」

 

 

 

─────────

 

 

「ふふっ…まさかリィエルがあそこまでやるとはね」

 

 

 真夜中の校庭、シスナは嬉しそうにスキップしながら見回りをしていた。 

 自分の妹分であるリィエルが、あそこまで実力をつけていたのがうれしくて仕方ないのだ。

 

 

「あれなら。もう心配はなさそうね」

 

「何が?」

 

「え?…うわっ!!!」

 

 

 突然近くにいた女性に驚き、シスナは1、2歩下がる。

 そこには金髪のロングヘアーでおっとりしている見た目の女性が、シスナに向けて微笑んでいた。

 

 

「って、ルミア!?」

 

「うん、久しぶり、システィ」

 

 

 そう、この世界ではミアルと名乗っている。シスナにとっての親友、ルミアだ。

 

 

「ま、今はミアルって名乗ってるけどね」

 

「ふぅん、んで?何しに来たの?」

 

「ああ、まあちょっとね」

 

 

 そう言いながら、ミアルはため息をついた。

 

 

「ちょっと、面倒なことになってるみたい」

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

「………」

 

 

 エルレイは、誰もいないであろう場所を、静かな足音を立てながら、まるで散歩するかのように歩く。

 

 

「……そろそろ。出てきてくれない?」

 

 

 エルレイがため息交じりに言葉を出すと、近くの木陰から、フードを被り、ローブをつけた者が近づいてくる。

 

 

「………よく、気が付いたね」

 

 

 まるで無表情の機械のように、その者は言葉を発した。どうやら声からすると女性のようだ。

 

 

「あなた、だよね?()()()()()()

 

「………」

 

 

 その言葉を聞き、そのローブの女性は黙っている。

 

 

「沈黙は、肯定と受けとる」

 

 

 そう言って、エルレイはすぐさま大剣を生成した。

 

 

「来ると思ったよ。そろそろ」

 

「………」

 

「私が自力で帰れるのが…ふつごー、なんでしょ?」

 

 

 エルレイは大剣を構え、ローブの女性に向けた。

 未来での愚者の後継者、その者と2度目の対峙をしたときに、ミアルとともに自力で帰ってこれたのが、このものにとってはおそらく想定外な出来事。すぐに反応が来てくれて助かった。

 

 

「………」

 

 

 そのローブの女性は、何処からか片手半剣(バスターソード)を持ち、構える。

 

 

「………ひめと同じ片手半剣(バスターソード)?どこでそれを」

 

 

 その女性が持っていたのは、エルレイの体の中にいるもう一つの人格。エリエーテの物とても酷似している。

 

 

「…………」

 

 

 どうやら答える気はないらしい

 

 

「ま、いいや。始めるね」

 

 

ダンっ!!!

 

 

刹那────。

 

 エルレイは自分の持てる力をすべて生かし、ローブの女性に大剣を盾にしながら突進する。

 

 

「やぁぁ!!」

 

「……っ」

 

 

 エルレイの大剣と片手半剣(バスターソード)がかち合い、その世界の空気が振動するのを感じる。

 

 

「せっ──!」

 

 

 一旦大剣から手を放し、跳躍をしてくるりと回転。そのまま足で大剣をローブの女性に押し込んだ。

 

 

「っ」

 

 

 その攻撃は食らうことなく、その女性はふわふわと、まるで空気のように交代する。そして。その女性の片手半剣(バスターソード)

 

 

 

 

 

()()()()()が宿る。

 

 

「っ!?!?『孤独の黄昏(トワイライト・ソリチュード)』!?」

 

 

 エルレイが見間違えるはずもない。その光は、エリエーテが使える能力と同じ。『孤独の黄昏(トワイライト・ソリチュード)』の光だ。

 

 

「────っぐぁ!!!!」

 

 

 しかし、気が付いた時にはその刃はエルレイの体を切り裂いていた。エルレイは苦痛な声を上げる。

 

 

「『孤独の黄昏(トワイライト・ソリチュード)』、なぜあなたが……」

 

「………」

 

 

 やはり無言、どうやら教える気はないようだ。

 そして厄介なことに。

 

 

「……しかも、接続経路『イザナミ・マキナ』が使()()()()。貴方のせい?」

 

 

 そう、エルレイの奥の手である、『イザナミ・マキナ』が使えないのだ。それもおそらくこの女性のせいであろう。ひめの力を使っても、勝てるかどうか。

 

 

 仕方がない。

 

 

「ねえ。きいて」

 

「…………」

 

 

 聞いているかはわからない、だがエルレイは話をつづけた。

 

 

「あるところに、先生がいたの。その先生はね、イチゴタルトが大好き」

 

 

 エルレイはそう言いながら、ポケットからイチゴタルトを出す。

 

 

「その人のポケットはね、いつもイチゴタルトが入ってる。そのためだけに固有魔術(オリジナル)収納魔術を作ったと。みんなそう、()()()()()()

 

「……!」

 

 

 エルレイは、ポケットから何かを取り出そうとしている。

 

 

「けど、そのイチゴタルトは偽り、普通に考えれば。そんなに多く、大人がイチゴタルトみたいな甘いものを食べないなんて。誰でもわかる」

 

 

 そして、エルレイはポケットから何か()()()のようなものを取り出した。

 

 

 「この固有魔術(オリジナル)の名前を教えてあげる。『偽りの苺撻(フェイク・ストロベリータルト)』そしてその中の、本当の姿は………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天使の塵(エンジェル・ダスト)()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶすっ。

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

「さ、だいに、らうんど」

 

 

 エルレイは、注射をさしながら不敵に微笑んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

謎の女性の正体

シュウとロクサス、ちょっと本気出す。


「さ………いくぞっ───!!」

 

 

 刹那───

 エルレイは常人とは思えない速度で謎の女性に接近し始める。

 

 

「っ!?!?」

 

 

 そのスピードは、エルレイの限界。麻薬(ドラッグ)を使うことにより体を全体的に強化。通常のエルレイでは考えられないスピードだ。

 

 

「いいいいいいいいいぃぃぃやああああぁぁぁ────!!!」

 

 

 エルレイの剣が、容赦なく女性を斬る。

 

 

「ぐっ………」

 

「はあぁ!!」

 

 

 間髪入れず即座にエルレイは回し蹴り、ハイキックを女性の腹部に直撃させる。

 

 

「っ!!」

 

 

 しかし、相手も黙って食らっているだけではなく、的確にエルレイに攻撃を入れてくる。

 

 

「ぐぁ!!!」

 

 

 エルレイはダメージを受け、その場に膝をつく。

 

 

「やるね……、さて……」

 

 

 

薬が欲しい薬が欲しい薬が欲しい薬が欲しい薬が欲しい薬が欲しい薬が欲しい薬が欲しい薬が欲しい薬が欲しい薬が欲しい薬が欲しいクスリガホシイクスリガホシイクスリガホシイクスリガホシイクスリガホシイクスリガホシイクスリガホシイクスリガホシイ。

 

 

「そろそろ…………限界……カナ」

 

 

 エルレイのこの奥の手は、所詮麻薬に手を染める人間としてやってはならない行為。すぐに限界が来ることなんて明らかだった。

 

 

うまく口が回らない。

 

苦しい

 

 

「っ」

 

 

 エルレイはそんな自分の体などお構いなしで女性に攻撃を加える。しかしどんどんとその攻撃には覇気がなくなっていく。

 

 

「………」

 

 

瞬足────

 

 

「ガっ!!」

 

 

 女性の攻撃は殺意を増し、エルレイを壁まで飛ばす。エルレイは壁に当たり、その場で倒れ伏す。

 

 

「キキキキ……ココココココ……コレハ…ムリダネネネネネ」

 

 

 体が薬によって汚染されていくのがわかる。これ以上の戦闘は無理だろう。

 

 

「…………」

 

 

 ゆっくりと、力なく倒れているエルレイに女性は近づいていく。

 そして…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぽとり。

 

 

「………?」

 

 

 女性に、突然違和感が走る。目の前が、なぜか赤く染まっている。あるべきものがそこにはない。

 

 何故、地面に腕が、落ちている?

 

 

「っ!?!?」

 

 

 ようやく状況を理解した女性は自分のなくなった肩を押さえつける。

 

 

「ったく、面倒かけんなよ」

 

 

 どこからともなく、闇の中から出てきたのは一人の男だ。その男は青髪で、エルレイには見覚えがあった。

 

 

「ロク……サス?」

 

 

 そう、エルレイの親友であり、強敵手(ライバル)。ロクサス=ティンジェルだ。

 

 

「っ!!」

 

 

 どすっ………

 女性はすぐさま剣を拾い上げ、ブスリ……、とロクサスの腹部に命中させる。

 

 

「めんど、()()

 

 

 ロクサスは片手半剣(バスターソード)を軽く握り。

 ()()()()()した。

 

 

「っ!」

 

 

 その光景に、女性は驚愕の声を上げそうになる。

 そして、ロクサスは古式拳銃を取り出す。

 

 

「お前に要はねえ、とっとと消えろ」

 

 

 女性を指で『あっちにいけ』と忠告した後。

 ロクサスは古式拳銃をエルレイ目掛けて発砲した。

 

 

「……ぅ」

 

 

 その瞬間。エルレイの体は、まるで()()()()()()()()かのように思えるほど、元の傷一つない体になっていた。

 

 

「………ロクサス」

 

「さて。少し話すか、リィエル」

 

 

 

 

 

──────

────

──

 

 

「………」

 

 

 謎の女性は、分が悪いと判断したのか。それとも何か別の理由か、ロクサスの言葉通り、その場を去っていた。

 

 

「ねえね………結局わたし…………くそっ」

 

 

 女性の悔しそうな声が暗い付近に響き渡る。

 

 

「ありゃ、結構派手にやられちゃったね?」

 

「……?」

 

 

 突然出てきたのは、赤髪の10代くらいの男…、シュウだった。

 

 

「大丈夫だよ、敵じゃないから」

 

 

 シュウはそう言うが、女性は警戒して1、2歩下がる。

 

 

「………」

 

「とりあえず、傷の手当させてよ。話はそれから」

 

 

 その言葉に、女性は首を振る。誰が好き好んでこんな怪しい男の話に乗るだろうか。

 

ぱちん

 

 

「はい、これでいいよ」

 

「……え」

 

 

 女性が変な声を上げ、自分の体を見てみると、傷がすべて治っていた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()。俺は、いわゆる『因果律操作』ができてね。ちょっと完治を早めにしただけ」

 

 

 そういって、シュウはからからと笑った。その笑い顔は、どこか薄気味悪い。

 

 

「あと、少しくらいなら()()()()()からさ。ちょっと君の事を手伝えたらなーって」

 

 

 

 

 

 

 

「ね?こっちの世界の、()()()()()()()()

 

 

 

──────

────

──

 

 

「あうふ」

 

 

 図書室のあたりで、エルレイはため息をついた。ロクサスにこってりと絞られて、かなり疲れた。

 

 

「それにしても……」

 

 

 あの女性は何だったのか、なぜ姫と同じ剣を持っていたのか、そしてあの技を使えたのか。考えれば考えるだけ、謎が深まるばかりだった。

 

 

「……ん?」

 

 

 真夜中の学院の見回りのつもりだったが、誰かいる、本を読んでいるものが一人と、その近くで眠っているものが一人。

 

 

「あ、エルレイ先生」

 

 

 そこにいたのは、どうやらエルザとリィエルだったようだ。エルレイを見た瞬間、エルザは苦笑いをする。

 

 

「あはは…、すいません。こんな時間に」

 

「勉強熱心、いいこと。だけどやりすぐダメ」

 

 

 エルレイはエルザを見てため息をつく。

 

 

「えへへ…、すいません。どうしても、エルレイ先生の自習の話聞いたら興奮しちゃって……」

 

 

 居てもたってもいられなくなり、勉強をしているというわけか。エルザが真面目なのは昔から知っているが、ここまでだと少しあきれてくる。

 

 

「エルレイ先生はどうしたんですか?」

 

「ん、散歩けん、みまわり」

 

 

 そう言って、エルレイはリィエルをおんぶする。

 

 

「あはは、エルレイ先生とリィエルって、本当に姉妹見たいですよね。すこし羨ましいです」

 

「姉妹……ね」

 

 

 

 

 

 

──────

────

──

 

 

「25322」

 

「……はい?」

 

 

 突然の訳の分からない数字に、コルワは素っ頓狂な声を上げた。

 

 

「あの、その数字。何ですか?」

 

「Project:Revive lifeで被害を受けた人たちの人数。死人、生存者含める」

 

 

 リィエルはそう言いながら書類を整理し始めた。

 

 

「えっと……」

 

「ん、愚痴ってほしいって言ったの。あなた」

 

「???」

 

 

 確かに愚痴ってほしいとは言ったが、よくわからない事を言われて、コルワは頭にはてなマークを浮かべることしかできない。

 

 

「このProject:Revive lifeはね?私の()()()()()()は、加害者の方だった」

 

 

 リィエルはコーヒーを飲みながら、ため息をついた。

 

 

「私が作られなければ…………イルシア姉さんも……シオン兄さんも……」

 

 

 そして、リィエルはクスっと笑みを浮かべた。

 

 

「ごめん、聞かなかったことにして?」

 

「え?了解……しました?」

 

 

 コルワにはProject:Revive lifeのことは教えていない。

 あの記憶は抹消されるべきなのだ。

 

 

──────

────

──

 

 

「私に、誰かの家族になる資格なんてないよ」

 

 

 私は所詮人形。

 作られた人形、誰が何と言おうと、魂のない、生きる価値がない人形だ。

 私が生きる価値があるというものは、あの兄妹が無駄死にだと言われているようで腹が立つ。

 私が、あの二人のやってしまった汚点を、私が無くさなければ。

 

 しかし、それは最速で、できるだけ私が早死にしなければならない。私が生きているということ自体が汚点なのだ。

 そして、ルミアたちも命を懸けて守らなければならない。

 

 だから、命を懸けても、薬や悪魔に頼っても。もっと早く…早く……。

 

 

──────

────

──

 

「よぉ」

 

 刹那────

 ロクサスから放たれた。世界を覆いつくしそうな火の玉は、シュウが軽く手をなびくと何もなかったかのように四散する。

 

 

「どった?兄様」

 

「どうしてあの女を助けた?」

 

「………」

 

 

 ロクサスのその言葉に、シュウは言葉を失う。

 

 

「助ける義理なんてないだろ、お前には」

 

「…兄さまには関係ないことだよ」

 

 

 シュウは、ロクサスの頭目掛けて剣を振り、頭を真っ二つにする。

 しかし、真っ二つにした場所はすぐに何事もなかったように元道理になる。

 

 

「ていうか、『全知全能の本』でも見ればいいじゃん。そんなに気になるなら」

 

「やだ。面倒」

 

「全く」

 

 

 ロクサスは楽しそうにかっかと笑う。シュウは呆れながらため息をつく。

 

 

 

 

 

 

──────

────

──

 

 

「………ん」

 

 

 もう朝のようだ。エルレイは背伸びをし、朝の準備をしようとするが。

 

 

「………?」

 

 

 重い、どこか重い。恐る恐る布団をぺらっとめくってみると、そこに現れたのは…………。

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

「くぅ……ん…すぅ……」

 

「すぴー………」

 

 

 システィーナ。ルミア。リィエルだった。

 

 

「 お も  い 」

 

 

 エルレイはため息しか出なかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決断

コラボ自体は終わった!
更新していきますのでよかったらこちらへ! https://syosetu.org/novel/235414/

 さてさて、今回は挿絵あります!

感想が……、ほしいです!!




「ぅ……はな…れて」

 

「うにゅ……」

 

 

 エルレイは、まず上に乗っかっているリィエルをひっぺがす。

 

 

「あー………」

 

「あー、じゃない」

 

 

 リィエルは力ない声を上げながら、コロコロと地面を転がる。その光景に、エルレイは苦笑いしか出ない。

 

 

「さて…、とりま」

 

「すぅ……すぅ…」

 

「んぅ……すぅ……」

 

 

 エルレイは、一度リィエルをベッドに戻し、自分だけ布団から出て、台所に向かう。

 

 

─────

───

 

「……ん」

 

 

 エルレイが朝ごはんを作っいると、どうやらシスティーナが起きたようだ。

 

 

「あ、おはよ?」

 

「……ぁ、おはようございますエルレイ先せ…うぇええええ!!!」

 

 

 驚いた表情を見せ、システィーナは5、6歩後ずさる。

 

 

「あっ!」

 

 

 その瞬間、システィーナはバランスを崩してしまい、倒れそうになる。

 

 

「お……っと」

 

 

 しかし、即座に反応したエルレイがシスティーナの肩を抱き寄せる。

 

 

「大丈夫?」

 

「は…はい、だ、大丈夫です」

 

 

 システィーナは少し顔を赤らめながら、エルレイの腕から離れた。

 

 

「えっと、ありがとうございました」

 

「ん、大丈夫、ところで。なんで私の布団に?」

 

「え、えっと……」

 

 

 その問いに、システィーナは言いよどむ。

 

「……システィーナ、口開けて」

 

「え?」

 

 

 ひょい。

 

 

「んむっ!」

 

 

 その瞬間、システィーナの口の中にさわやかなやさしい甘味が広がる。

 

 

「卵焼き、お味はいかが?」

 

「んむっ……んっ…あっはい…おいしいです」

 

「そ、なら、食べながら、何があったか聞かせて」

 

「…………はい」

 

 

 システィーナは、少しくらい表情の中、椅子に座る。

 あとの二人は……、後でいいか。

 

 

「昨日…、シスナ先生………エルレイ先生にとっての私と、ルミアと…、話したんです」

 

「…………続けて」

 

 

 

 

 

 

─────

────

──

 

 

「さて、システィ、そろそろ帰るよ」

 

「ん、もうかえるの?」

 

 

 シスナはミアルの言葉に首をかしげる。

 

 

「ちょっと面倒なことは、ロクサスが終わらせてくれたっぽい」

 

「さすがルミア専用鬼神」

 

 

 からからと笑うシスナをよそに、ミアルは少しだけくすっと笑った。

 

 

「ふふ、でも。その前に」

 

 

 ミアルは、近くの木に微笑みながら目を向けた。

 

 

「そうね、さすがに()()()()()()()()()()()どうにかしないとね」

 

 

 その瞬間、見られていた木がビクンと跳ねる。

 

 

「あんたら、出てきなさい」

 

 

 そして、出てきたのはこちらの世界のシスティーナ。ルミア。リィエルだ。

 

 

「……ど、どうも」

 

 

 ルミアが軽くお辞儀をする。

 

 

「全く、盗み聞きするにしても、もっとばれないようにやんなきゃ駄目ですよ?」

 

 

 くすくすと笑うミアル。やはり、どこかルミアに似ている笑い方だ。

 

 

「あ、あの……シスナ先生」

 

「何?」

 

 

 恐る恐るといった表情のシスティーナに、シスナは木に背中を預けながら聞く。

 

 

「貴方と、この金髪の人って……もしかして」

 

「その解釈で間違いと思うけど、今はただの一人の講師よ」

 

 

 シスナは、片手間に本を読み始める。

 

 

「ん……」

 

 

 リィエルはただぼーっとするだけで、何も言う気配はない。

 

 

「それで、盗み聞きしてた理由は何かしら?」

 

「え、ええと……」

 

 

 システィーナが気まずそうに口をもごもごさせる。

 

 

「ねえね、いなかったから、心配だった」

 

「……なるほどね」

 

 

 ミアルはリィエルの頭を撫でながら、髪をいじる。

 

 

「それで、私たちの話声が聞こえたって訳ね。耳年増だこと」

 

「な、余計なお世話です!!」

 

 

 嫌味のようなシスナの発言に、システィーナは顔を真っ赤にして起こり始める。

 

 

「し、システィ、どうどう」

 

 

 ルミアがやさしくシスティーナをなだめる。

 

 

「あの………、一つだけいいですか」

 

「言ってみて下さい」

 

「エルレイ先生……、リィエルは、どうしてあんな性格になっちゃったんですか?」

 

「「…………」」

 

 

 ルミアの問いに、ミアルもシスナも黙り込む。

 当然といえば当然の質問だ。エルレイをリィエルとするならば、いくら何でも性格がかけ離れすぎている。何処か凶器的なまでに冷静で、手段をいとわない。それはエルレイの感情とは別のものだ。

 

 それは、エルレイの退職騒動の事件が物語っている。

 

 

「あいつは……ああなるしかなかったのよ。あの子の望む償いのためには…ね」

 

 

 シスナはそうつぶやく。

 シスナはどれだけつらくても、エルレイのやっていることや。エルレイを止めようとするミアルは絶対に止めない。なぜなら、

どちらも正しいって信じてるから。

 

 

「貴方達がリィエル…、エルレイの生徒だというのなら…()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが…、あの子の望みのはずです」

 

 

 そう、エルレイはこの世界の人々と接し、自分が狂人だと心の底から知った。だからこそ、自分のようになってほしくないと心の底から思っているはずだ。

 

 

 

─────

────

──

 

 

「…なる」

 

 

 エルレイは、その言葉をただ聞き、そしてシティーナの頭を撫でた。

 

 

「……エルレイ………せんせい………」

 

「大丈夫、今はただの講師…、大丈夫…」

 

「私……、怖いんです…、もし、リィエルがエルレイ先生みたいになったら…」

 

 

 システィーナはエルレイ先生の事は大好きだ。いや、システィーナだけじゃない。ルミアもリィエルも。みんな大好きだ。

 だが、それはエルレイとしてであって、()()()()()()()()()()()

 

 誰もが無意識に、エルレイがリィエルだと知っているにも関わらず、別物として頭の中で分けてしまう。

 

 この世界は…、エルレイを一人のリィエル=レイフォードとして、見られていない。

 このエルレイ(リィエル)は、この世界にとっては異物でしかない。

 

 

(……ここが潮時か)

 

 

 エルレイは、ルミアやシスティーナ、リィエルの頭を撫でながら、悲しい表情を浮かべた。

 

(そろそろ、ここにいるのも限界だね)

 

 

 

─────

────

──

 

 

「えー、今日は見学者が来てるわ、みんな。きちんと勉強するように」

 

「こんにちわ♪どんな授業をしてるのか楽しみですっ」

 

 

 教室でシスナが親指でミアルを指さす。(超めんどくさそうに)

 はーい、と元気なリリィ学院の生徒の声が響いた後、ミアルは教室の後ろでニコニコしている。

 

 

(((………どうしてこうなった???)))

 

 

 エルレイ、システィーナ、ルミアの思考が完全に一致した。

 本当にどうしてこうなったのだろう、たまにミアルのやっていることがわからなくなる。

 

 

「本日はよろしくお願いしますね?エルレイ…ねえね」

 

「っ〜!」

 

 

 ミアルに耳元で囁かれ、一瞬エルレイは取り乱すが、それ以上の反応は見せなかった。

 

 

「姉御〜、今日はどっちがやんの?授業」

 

「うーん、そうね…」

 

 

 コレットの言葉に、シスナは腕を組んで考える。

 

 

「よしっ、今日は私が稽古をつけてやるわ。覚悟しなさい」

 

「ぅ…、シスナ先生の稽古ですか…」

 

 

 エルザが苦い顔を見せる。どうやら全員シスナにしごかれているようだ。目が死んでる。

 

 

「うぃーっす。ま、お手柔らかに」

 

 

 ジニーがゆるーく答える。

 

 

「アルザーノの方々はどうしますの?」

 

「勿論、そいつら込みの稽古よ。大丈夫、優しめにしてあげるから」

 

 

 そう言いながら、フランシーヌに笑みを返すシスナ。

 

 

「最初は『ショックボルト』1000発ね」

 

「「「「きついぜシスナの姉御ぉ──!!」」」」

 

 

 リリィの生徒の楽しそうな悲鳴が全体に木霊する。

 

 

「あははっ、草」

 

「えと…、いま笑う所ですか?」

 

 

 呑気に笑うミアルを横目で見て、少し引き気味に言うルミア。

 

 

「はぁ…」

 

 

 この状況に、エルレイはため息しか出ない。最近本当にため息多い気がする。

 

 

「……むっ」

 

「あれ?どうしました?」

 

 

 突然不思議そうな顔をするミアルに気づき、システィーナがミアルに目を向けて、話しかける。

 

 

「システィ…、シスナ先生。エルレイ先生。授業は始めれないかもしれませんよ」

 

「そうね」

 

「ん」

 

 

 突然のミアルの問に、シスナ、エルレイは軽く答える。

 

 

「えっ?一体どういう…。」

 

 

 一人の生徒がその理由を聞こうとした────次の瞬間。

 

バンッっ!!!

 

 突如、黒服のコートを着て、フードで顔を隠した男が約数人。

 

 

「なっ!なに?!」

 

 

 咄嗟のことで、エルザは反射的に刀を手に取ろうとする。だが、シスナに腕をつかまれ静止した。

 

 

「エルザ、待ちなさい。あんた達、何のよう?」

 

 

 シスナが威圧するかの様に睨みつけると、ボスであろう者が話しかけてくる。

 

 

「我々は、ルミア=ティンジェルにようがある」

 

「なるほど」

 

 

 エルレイは、その言葉を聞き呆れる。ルミアの力を欲するやつ多すぎだろ……。

 

 

「……」

 

「私が行く、過去の私(あなた)は待っていて」

 

 

 ミアルは、ポンポンとシスティーナ、ルミア。リィエルの頭を撫でてから、男たちの目の前に立つ。

 

 

「私です。私がルミアです」

 

「は?はっはっは!!!まだ幼いらしいぞ、正義の味方気取りはやめるんだな」

 

 

 ルミアを狙う者たちは、ゲラゲラと大きな声で笑い出す。

 

 

「金髪のねーちゃん。ホントのことを教えてくれないかなー?さもない───」

 

 

 

 

 

 その瞬間、その男は一人動かなくなった。

 

「お、おい。どうした?」 

 

 

 男の仲間が、動かなくなった者に近づく。

 

 

「き、気絶してる!」

 

「「「「っつ?!?!」」」」

 

 

 ミアルの実力を知っているエルレイとシスナ以外は、声にならない驚愕をひねり出す。

 いったいなにが…?

 

 

「それで…、私はなにをされちゃうんでしょう」

 

 

 そのからかうような顔は何処かの狂気的で、最悪トラウマになってしまいそうな顔だ。

 

 

「ったく、相変わらず《強引ね》」

 

 

 刹那───

 突然、どこからともなくゲイルブロウが気絶した男を軽々しくふわり…、と動かし、他の男へ直撃。

 

 

「ぐっぅ!!!」

 

「やっ」

 

  

 間髪を入れず、早くも錬成を完成させていたエルレイは、男たちを的確に、気絶させるように仕向ける。

 

 

「……ったく、コイツらといると、いつもいつも…」

 

 シスナは『めんどくせ…』と心の中で思いながら、軽々と戦闘を開始する。

 

 

「こ、こいつら…」

 

「や、やべえぞ…!」

 

「に、にげ…!」

 

 

 次の瞬間。学院が光だし、魔法陣が展開される。

 

 

「なっ?!」

 

 

 これをやったのはミアルだ。怪しい者たちを隔離に成功…。後は…。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「「潰すだけ」」

 

 

 

 考えることは同じなエルレイとミアル。その顔は何処か恐怖を駆り立て、クラスの人間でさえも恐れてしまう。

  

 

「…………はぁ」

 

 

 シスナはまるでいつもの事かのように、ため息をついた。

 

 

 

───

──

 

 

 その後。なんやかんやあって、結局退学を回避できたリィエル。

  というわけで、全員揃ってリィエル達の『お帰りパーティー』が学院の図書室で行われていた。

 

 

「「「「「おつかねえねイェェアァァ!!!!」」」」」

 

「か、乾杯の掛け声が………変」

 

 

 変な掛け声をする自分の生徒たちに、少し苦笑いで、しかしどこか恥ずかし気な表情を見せるエルレイ。

 

 

「レイちゃんお疲れ様!リィエルとシスティーナちゃん、ルミアちゃんもよく頑張ったね!」

 

 

 セラは三人の頭をよしよしと撫でまくる。

 

 

「ん」

 

「せ、セラ先生!子供扱いしないでください!」

 

「えー、だって子供だよ?」

 

 

 セラはそう言いながら微笑みを浮かべる。このような天然はセラの専売特許だろう。

 

 

「エルレイ、お疲れ」

 

「………ん」

 

 

 グレンの言葉に、エルレイは軽く返す。

 

 

「おい、どうした?」

 

「………別に」

 

 

 エルレイはグレンにそっぽを向いて、あたりのみんなを見渡す。

 ワイワイガヤガヤと、そんな音が聞こえてきそうなほどはしゃいでいる。

 

 

(…………やはり潮時、これ以上は)

 

「グレン」

 

「あ?」

 

「いつもありがと」

 

「なんだそりゃ、成長したお前にさ。感謝なんて言われる筋合いはねえよ。すべてお前の努力だ」

 

「ん……………あり……がと」

 

 

 

 

────

───

 

 

 

 

「……………揃った」

 

 

 真っ暗な夜中の倉庫、エルレイは全員が来るのを待ってから呟いた。

 今ここにいるのは、エザリー、シュウ、ミアル、ロクサス、シスナの未来組が勢ぞろいだ。

 

 

「騎士長、全員揃いました」

 

「ん」

 

 

 エザリーの言葉に、エルレイは頷く。

 

 

「さて、呼んだ理由、わかる?」

 

「当然だよ。そろそろ()()()()()()()()()()()()。でしょ?」

 

 

 エルレイの問いに、チョコレートを頬張りながら答えるシュウ。

 

 

「よろし、エルザ」

 

「はっ」

 

 

 エザリーは地図を広げ、一つの場所に小石を置いた。

 

 

「調べた結果、ここに我々の倒すべき敵がいます」

 

「その敵って、何か聞いていいかな?」

 

「Project:Revive lifeの()()()、ライネルです」

 

 

 ミアルの問いに、エザリーは淡々と答える。

 

 

「リィエル、仕留めそこなったのか」

 

「違う」

 

 

 エルレイはロクサスの言葉を否定する。

 

 

「このライネルは、こっちの世界じゃなく、私たち()()のライネル」

 

「あー、そういえばあいつ生かしてたな」

 

 

 すっかり忘れていた。と言わんばかりにロクサスはため息をついた。

 

 

「シュウ、手紙の送り主は、私…、この世界のリィエルの未来、でいいんだよね」

 

「うん。どうにか心を開かせて教えてもらった。この世界の成長したリィエルにね」

 

 

 エルザにチョコレートを渡しながら言うシュウ。

 

 

「手紙の送り主が俺たちをここに呼んだ理由は、『未来で知り合ったねえねが悲しそうで、それを変えたいと願った』らしい」

 

 

「ライネルの目的は、多分ルミアでしょうね」

 

 

 シスナはボソッとため息をつく。

 

 

「なら、ライネルを殺してから。そのままこの世界とはおさらばしようぜ」

 

「ん……」

 

 

 エルレイは少し悲しそうに頷く。

 エルレイはこの世界に良すぎた。だからこそ『この世界の未来リィエル』が、その依存から私を呼び出し、どうやってかライネルがそのあとをつけてきた。

 だから、エルレイ=レイフォードがとれる最善策は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これ以上、ここには居座らないで、さっさと帰ることだ。

 

 

 

 




さて、突然だと思われるかもしれませんが、このシリーズは9巻には突入せず、次回からの最終章で実質的に終わりを迎えます。
 この作品を閲覧、本当にありがとうございます。

 よろしければ後数話だけ、お付き合いください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終章
最終決断


エルレイ「サラに会いたい」

エザリー「はーい、うちでは毎回恒例の無断拡散だね」

エルレイ「ん、セラの、妹」

エザリー「というかさ、うち。そろそろ最終回だよ?いいの?」

エルレイ「『風の戦巫女を継ぐもの』良き、みんな見よう」

エザリー「ところで、宣伝の許可は?」

エルレイ「コラボの許可はとった」

エザリー「はああああああぁ!?!?!?」





 

 

 

「あーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあー」

 

「うるせぇよセラ!」

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院の2組で、ある講師が無意味に声を出していた。

 勿論、セラである。

 

 

「少しくらい落ち着いてください、どうしたんですか?」

 

「だって~……………」

 

 

 呆れながら聞いてくるシスティーナに、セラは涙目になっている。

 

 

「レイちゃんが~~~………」

 

「また家にいなかったんですか?」

 

「うん……」

 

「あのですねぇ……」

 

 

 システィーナは言葉が出ない。前にもこんな事があったのだから、少しは慣れていてもおかしくないのだが………。

 

 

「えと……、今日は何か…、用事があるのでは?」

 

 

 リンはまるでエルレイをフォローするように言う。

 

 

「ようって何!?まさかほかの女!?ゆるさ──」

 

「エルレイ先生は女性ですわよ!!」

 

 

  まるでヤンデレ彼氏のようにデッドヒートするセラに、ウェンディの渾身のツッコミが炸裂する。

 

 

「今日は休みなんですか?」

 

「いや、そんな話は聞いてねえ」

 

 

 ルミアの問いに、グレンは考えながら答える。

 

 

「ねえね……どこ?」

 

 

 リィエルはその間、ずっとエルレイを探すかのようにきょろきょろとしている。

 

 

「やっぱ、お前に愛想じゃね?」

 

「えー!!!」

 

 

 そんな日常的で、どこか和やかな話をしている。その時であった。

 

ガラガラ……。

 

 突然廊下に続くドアが開く、そこに現れたのは眼鏡をかけた女性だ、生徒たちは不思議そうにその女性を見る。

 

 

「あ、エザリーちゃん」

 

「突然の来訪、失礼します」

 

 

 セラがエザリーの名を口にすると、エザリーは礼儀正しくお辞儀をした。

 

 

「先生、この方は?」

 

 

 恐る恐るといった表情で、ルミアはグレンに聞いてくる。

 

 

「大丈夫だ、知り合いだから」 

 

「それで、エザリーちゃん。何の用?」

 

「それはですね────」

 

 

 

 

 

 

──────

────

──

 

「ここを出ていく?」

 

「うん」

 

 

 シュウとイヴの二人だけの声が、特務分室の部屋を包んだ。

 

 

「前に話したよね?僕らはこの世界の人間じゃないって。ついに帰るべき時が来た…。それだけだよ」

 

「……なんでか、聞いてもいいかしら?」

 

「わかった」

 

 

 シュウは、頭をかいて申し訳なさそうに話をつづけた。

 

 

「1つ、これ以上僕たちが存在してると、()()()()()()()()()()()()()()

 

「………」

 

「これ以上未来の存在がこの世界にいると、時空、次元、空間、全てがぐちゃぐちゃになってもとに戻らなくなる可能性が高い」

 

 

 シュウはお茶を注ぎながら話をつづけた。

 

 

「2つ、僕たちがここに来た理由はなぜか、それがわかったから。これ以上はいる必要がないこと」

 

 

 エルレイ達をこの世界に連れてきたのは()()()()()()()()()()()だ。

 その少女が言うには、『どうしても、狂っているねえねが見てられなかった』

そう言っていた。だから、これ以上この世界に存在していたら…。

 この世界の大人リィエルが依存し、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「3つ…、これが一番問題なんだけど、リィエル…、エルレイはね?この世界が嫌いなんだ」

 

「………え?」

 

「あの子はいつも、誰かのために頑張ってきた。そして、それで何人も救われた。

僕やエザリーだってその一人だ」

 

 

 入れたお茶をイヴに渡し、シュウも一息つく。

 

 

「ただ…、それが足枷になっちゃってるんだ。エルレイは今。()()()()()()()()()()()()()()()多分、そう考えてる」

 

 

 この世界にいるという事は、元の世界に帰れないという事。

 それはつまり、元の世界で知り合った者達、エルレイを心から信頼してくれた人たちを放っていることになる。

 

 

「僕やエザリー、ロクサスに、ミアルとシスナ。来ている可能性のあるものは全員見つけたんだ。これ以上は……あの子が持たない」

 

「……そう」

 

「正直エルレイに何人か、この世界の者達が依存しているのは確かだ。これ以上いたら、離れられなくなる」

 

 

 エルレイに依存している。リィエルを思い出してくれればわかりやすいだろう。

 エルレイは()()()()()()()()()()()()と知っているから、わざと拒絶するのだ。

 

 

 

 

 

 

─────

───

──

 

 

「……と言うわけです。ご理解いただけましたでしょうか?」

 

「…………」

 

 

 グレンたちは何も言わなかった。否、何も言えなかった。それはエザリーの言ったことがすべて真実だからだ。

 ここでエルレイを止めるのは、明らかに『愚策』自分から依存していますと言っているようなものだ。

 

 

「では、これがエルレイの辞表です。短い間でしたが、うちのリィエルがお世話になりました」

 

 

 まるで作業のように、エザリーは頭を下げる。そして、セラに辞表の入っている封筒を優しく渡した。

 

 

「う………うん……」

 

「では」

 

 

 エザリーはそのまま淡々と、何も言わずに去っていこうとする…………が。

ぎゅ……

 不意に、誰かがエザリーの裾をつかんだ。

 

 

「……放して、リィエル」

 

「…いや……」

 

 

 そう、リィエルだ。眠たそうな表情だが、どこか悲しそうで儚げで、エザリーは心から『あの子、愛されてるな』と心底思った。

 

 

「えざりー…はなすの……、いや」

 

 

 リィエルのその目には、涙が浮かんでいる。言っていることはわからないと思うが、おそらく直感的に『ねえねが離れてしまう』と思ったのだろう。

 

 

「………」

 

「リィエル、止めてくれ」

 

「っ………」

 

 

 リィエルの肩をつかみ、止めたのはギイブルだ、リィエルは反射的に、まるで親と離れた子供のように、悲しそうににらみつける。

 

 

「君の気持ちもわかるが、この人の。エザリーさんの言っていることは正しい」

 

 

 ギイブルは少し俯きながら話をつづける。

 

 

「おそらく、リィエルに止められることは、エルレイ先生だってわかったたはずだ。だから、これ以上顔は見せないように、この人に辞表をまかせた」

 

「………」

 

 

 リィエルだって、わかってはいる、わかってはいるが…、どうしても。割り切れない。エルレイという先生の…、姉の存在があまりにも大きすぎる。

 

 

「……………」

 

「………でも、どうにかなりませんか?エザリーさん」

 

 

 ギイブルは、そのままエザリーに向かって頭を下げる。

 

 

「ぎい……ぶる?」

 

「無理なお願いなのはわかっています。ですが、どうかもう一度だけ、リィエルに会わせてあげてくれませんか?」

 

 

 クラスの全員が驚愕する。なにせギイブルが頭を下げているところなんて誰も見たことが無かったからだ。

 

 

「お、俺からもお願いします!」

 

 

 次に頭を下げてきたのはカッシュだ。エザリーはただ黙っていて、何も言わない。

 

 

「…………」

 

「わ、ワタクシからも…!」

 

「私からも、どうかお願いします」

 

「お、おれからも!!」

 

「私からも!どうか!」

 

 

 ウェンディにテレサ、リン、ほかにもほとんどのクラスの生徒が頭を下げる。

 もう一度……、もう一度だけと……。

 

 

「………」

 

 

 エザリーは黙って、そっぽを向く。

 

 

「わかりました、貴方方がそう望むなら、5人だけ。ついてきてください」

 

「…………ありがとうございます」

 

 

 頭を下げるギイブルに、エザリーは頭を撫でた。

 

 

「こんな子たちに信頼されるなんて。あの子は…、エルレイ(リィエル)は本当に幸せ者だね」

 

 

 その笑顔は、どこか心地よさそうで、どこか安心している笑みだ。

 

 

「よしっ」

 

 

 とつぜん、グレンが腰を上げて、声を出す。

 

 

「五人だったな、俺、セラ、システィーナ、ルミア、リィエルで行く。問題ないな?」

 

 

 あっけらかんというが、この布陣が、エルレイにとって一番心を開いてくれる可能性があることをグレンは理解している。普通に行っても、門前払いを食らうだけだ。

 ならば、できるだけ、門前払いの可能性が低い者たちを連れて行くのがよい。

 グレンの言葉に、セラたちは静かに、しかし力強く頷く。

 

 

「………………わかりました。ついてきてください」

 

 

────

──

 

 

 エザリーに連れてこられたのは、どこかの廃墟だ。ツタが所々に絡みついていて、苔が張り付いている。まるでホラーの映画に出てきそうな見た目で、どこか気持ち悪い匂いが充満している。ここにエルレイがいる。

 

 

「ここです」

 

「ありがとな、俺たちのわがままにつき合わせちまって」

 

「いえ」

 

 

 エザリーは、グレンの言葉を軽く返す。

 

 

「では、私は先に行っています。準備ができたらすぐに」

 

 

 そう言い残したエザリーは、真っ暗闇のドアの奥に入っていく、後を追おうとしてもそこにはだれも存在せず、妙な静寂だけが残っていた。

 

 

「私たちに協力するつもりはない。そういう事でしょうね」

 

 

 システィーナは手袋をはめ直しながら、決意を固めた。

 

 

「……あいつ、ほんとに変っちまったんだな」

 

「グレン君………」

 

 

 エルレイ、リィエルの変わり果てたやり方に、グレンは唇をかんだ。セラも少し悲しそうに目を細め、うつむいた。

 

 

「…………」

 

「…行きましょう。みなさん」

 

 

 悲しそうなリィエルをさすりながら、ルミアはエルレイのいるであろう廃墟と足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ………が……ぁ…」

 

 

 ある一室で。彼、ライネルは絶望していた。強大過ぎる敵に、人間とも思えない。その存在に……心から恐怖を感じていた。

 

 

「終わり………だね。兄さん」

 

「まっ…────」

 

 

 一閃─────

 エルレイの振り下ろした大剣は、ライネルの首に直撃し、ライネルだったなにかはころころと赤い液体を床につけて、やがて動かなくなる。

 

 

「さすがさすが、リィエル。成長したな」

 

「…………」

 

 

 気味の悪いように笑うロクサス。その言葉の後にエルレイは脱力し、ミアルが体で何とか抑えた。

 

「おっと…、大丈夫?」

 

「……………ん」

 

 

 兄のような存在を殺して、エルレイは脱力した訳でも、殺した罪悪感で力が抜けたわけでもない。

 

 

「ねえ、やっぱりやめない?」

 

「………いや。やる」

 

 

 エルレイにとっては、この後が問題。心の拠り所を潰す作業をしなくてはならない。この世界に未練が残らないために。

 

 

「………」

 

 

 ロクサスは、少しめんどくさそうに、本を開いてエルレイに伝える。

 

 

「エルレイ……来たぞ」

 

「ん………わかってる」

 

 

 そう、グレンたちがここに来るのは想定の範囲内。

 エルレイの目的はここに来させることにある。

 

 

「本当にやるつもり?()()()()()()()なんて」

 

「……ん」

 

 

 その答えを聞き、シスナは呆れたなぜならば…………。

 

 

 

 

 

 

 

───────

────

──

 

「おおおおおおおい!!エルレイ!どこだ!」

 

 

 不気味に太陽の光があたりを照らす廃墟で、グレンはできるだけ大きな声で彼女の名前を呼んだ。

 

 

「……どこでしょうか、エルレイ先生」

 

 

 システィーナも懸命に探しているが、エルレイの姿も、人の気配すらも見つからないというありさまだ。

 

 

「………」

 

「大丈夫、絶対また会えるよ?」

 

 

 セラが、やさしくリィエルの頭を撫でた……。

 

 

 

 

その時。

 

 

「どうも、グレン先輩、セラ先輩」

 

「っ!誰ですか?」

 

「誰とは失礼だな」

 

 

 突然現れた者達に、ルミアは一瞬顔が強張る。

 そこに立っていた2人は男性で、一人は赤髪で10代くらいの女顔な男の子だ。

 もう一人は青髪で、片手に古式の拳銃を持っている。

 

 そう、シュウとロクサスだ。

 

 

「あ、ハル君?どうし───」

 

 

 シュウのこちらの名前を、セラが出そうとした瞬間、セラの顔がこわばった。

 瞬間的に気が付いたのだ。この二人は敵だと、この二人は自分たちの敵だと、そして…。

 

 こいつらはやばい。それを自覚した。

 

 

「………そこをどいてください」

 

「それはできねえな。お前らにうちのリィエルを会わせると、いろいろと不都合なんだよ」

 

 

 ロクサスはそう言いながら、恐怖を感じそうな顔で凶器的に笑った。

 

 

「ま、そういうことです、申し訳ありませんが」

 

 

 シュウのその声と同時に、ロクサスはパチン!!と指を鳴らす。するとそこから

大きな懐中時計のようなものが出てくる。そして、シュウは紫の剣をゆっくりと構える。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

 明らかな殺意だ。どうやら、本気で通してはくれないらしい。

 

 

「さあ、弟よ」

 

「うん、兄さま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「俺たちの戦争(デート)を始めよう」」

 

 

 2人は、不敵に笑いながらそう宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────

──

 

 

「さて、私たちも動くわよ」

 

「うん」

 

 

 シスナの言葉に、ミアルは笑顔で頷く。

 

 

「……すいません、こんなことになってしまって」

 

「気にしないで、ここまでは想定通りよ」

 

 

 申し訳なさそうなエザリーに、シスナはやさしくそう答えた。

ここまでは彼女たちの想定通りなのだ。()()()()()()。あとはそれだけだ。

 

 

「それにしても……あいつ、気づいてるのかしら」

 

 

 シスナは、その場で精神統一をしているエルレイを見ながら、つぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あいつ、あんなに顔がぐちゃぐちゃになるまで()()()()ことに……」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

必ず……

「…お前ら、先に行け、時間は稼ぐ」

 

「え?グレン先生?!なぜ?!」

 

 

 突然のグレンの発言により、システィーナは声を荒げる。グレンは今この瞬間、対峙したことで気が付いたのだ。この少年二人の()()()を。

 その異常性は、グレンたちでは絶対に勝てないと理解してしまったのだ。

 

 

「大丈夫、すぐ追いつくよ」

 

 

 そう言いながら、セラは3人に微笑みを浮かべる。セラも理解しているのだ。本気でやっても、おそらく勝てる相手じゃないと。だからこそ、自分の生徒たちに後の事を託す。

 

 

「……」

 

「……二人とも、行こう」

 

 

 その場で、すぐにシスティーナとリィエルの後押しをしたのはルミアだった。

 

 

「先生二人がこういってるんだもん、信じるのが生徒…、でしょ?」

 

「………ん」

 

 

 リィエルはシュウとロクサスに集中するのをやめ、誰にも目をくれず突っ走る。

 

 

「………先生方」

 

 

 システィーナのか細い声が、グレンとセラの耳に届く、2人は何も言わず、ただシスティーナの顔を見る。

 

 

「この人たちは…お願いします」

 

「…任せろ」

 

「…うんっ」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、二人に笑顔の花が咲く。

 そしてすぐさま、システィーナとルミアは、リィエルの後を追うべく走った。

 

 

「……あいつらの後を追わねえんだな」

 

「はい、追う必要性がないので」

 

 

 グレンの問いに、シュウは楽しそうにくすくすと笑う。

 

 

「ふっ、皮肉なもんだな。こんな状況になんなきゃ…、恩師に手をかけずに済んだの似よ」

 

「…恩師?」

 

「グレン=レーダスの事さ」

 

 

 ロクサスは拳銃を手遊びしながら話をつづける。

 

 

「なんだかんだ言っても、アンタには世話になったからな」

 

「だね、この人がいなかったら。僕も魔術なんて嫌いになってた」

 

「まさか……お前らも………」

 

 

 グレンが聞き返そうとした瞬間。

 

 グレンの首筋にシュウの剣先が触れそうになる。

 

 

「っ!」

 

 

 どうにか察知したグレンは、当たる直前で体をずらし、どうにか攻撃を避けることに成功した。

 

 

「無駄話はそこまでです。あなた方がリィエルの意思に従って行動するように、僕たちもエルレイ(リィエル)》の望むことのために行動するだけです」

 

「おっと、悪いが俺は違うぞ?ミアル(ルミア)の望むことに全力を尽くす、それが今回は一致したってだけだ」

 

「……そっか」

 

 

 その言葉を聞き、セラはやさしく、しかし儚げに笑った。

 

 

「…なんだ?」

 

「君たちが、()()()()()()()()()……この結末も、もっと変わったものになったかもしれないね」

 

「…………はっ、ほざけ」

 

 

 ロクサスは即座に拳銃をセラに向ける。セラもスッと表情が変わり、構える。

 

 

「さぁ」

 

「始めましょうか」

 

 

 

 

 

──────

────

──

 

 

「こんにちわ、過去の私たち。ま、歓迎はしないけどね」

 

「シスナ先生……」

 

 

 3人の前にいるのは合計で4人、シスナ、ミアル、エザリー。そしてエルレイだ。

 シスナは古びた椅子に腰を掛け、ミアルはその背後に立っている。

 エルレイは遠くで精神統一をしていて、エザリーはその近くにいる。

 

 

「悪いことはいいません。とっとと学院にもどってください」

 

 

 ミアルはそう言いながら、ピッと外のほうを指さした。

 

 

「エザリーさんからもう理由は聞いたはずです」

 

「………」

 

「…はい、聞いています」

 

 

 リィエルが口を開けずにいる中、ルミアが口を開く。どこか決心したような目で。

 

 

「ですが!もう一度だけ!エルレイ先生と話させて下さい!」

 

 

 システィーナの必死の懇願に、シスナは少し嫌そうな吐息を漏らす。

 シスナだって、彼女たちの気持ちはわかっているつもりだ。いや、自分自身なのだ、わかってしまう。

 

 

「………いいわ。リィエル、きなさい」

 

「…………ん」

 

 

 精神統一していたエルレイが、リィエル達に近づいてくる。その目はどこか赤く、まるで先ほどまで泣いていたかのようだ。

 

 

「……ねえね、い───」

 

 

 刹那────

 

 

「「「っ!!」」」

 

 

 エルレイは即座に生成した大剣をリィエルの首に突きつける。

 

 

「……ねえ…ね」

 

「前に言った、貴方達は邪魔」

 

 

 エルレイは淡々と言っているようだが、その声はどこか震えていて、悲しそうだ。

 

 

「ねえね……、わたし…きらい?」

 

「……嫌い」

 

 

 リィエルの問いに、エルレイは鋭い目で答えた。

 

 

「きらい、嫌い、キライ。貴方達全員キライ。システィーナも、ルミアも……リィエルも」

 

 

 エルレイは全員の名前を呼びながら、言葉をつづける。

 

 

「貴方達といると………、私はおかしくなる」

 

 

 エルレイはふと、自分の持っている大剣に力を入れる。

 

 

「貴方達といると……錯覚する。私が…()()だって」

 

「……エルレイ先生」

 

 

 悲しそうな眼をするシスティーナを、ミアルが背中をさする。

 

 

「幸せになっちゃ……、いけない。まだ……、何も終わってないの」

 

 

 エルレイは、何度も目をこすりながら、震えた声を振り絞る。

 

 

「あの兄妹の償いも、私のやるべきことも…、何も…、それなのに……」

 

 

 エルレイの目に、ぽろぽろと涙がこぼれる。

 

 

「こんな………、別世界の幸せなんて………認めないっ!!!!」

 

 

 エルレイはついに泣き崩れてしまう、苦しいのだ。この世界と別れるのが、苦しくて苦しくて仕方がない。

 

 

「私はどうすればよかったんだっ‼‼私はただ……大切な人に傷ついてほしくないだけなのに‼」

 

 

 エルレイは叫ぶ、まるで全てを吐き出すように。

 

 

「この世界に来て……()()を知った……」

 

 

 幸せ、それはこの世界にきたエルレイのすべてを繋げる言葉。この世界が本当に平和で幸せだったと、心から思った。

 

 

「そして……、素敵な人生の()()ももらった…」

 

 

 エルレイは、1枚のトランプを見ながらそうつぶやく。それは、どこか自分と似ているようで、かけ離れている少女の記憶。

 

 

「そして……、()()()()()()()。それも知った………」

 

 

 エルレイは、ポケットから何かを取り出す。それは、ビルデネアで開発された。ビルドドライバーという、エルレイがずっと兵器だと思っていたものだ。

 

 

「でも……、私は…、正義の味方になりたいわけでも…、幸せな人生を歩みたいわけでもないっ……」

 

「……エルレイ先生」

 

 

 震えているエルレイの姿を見て、ルミアはつい声が出る。

 

 

「私は……、みんなに傷ついてほしくない………、ただそれだけ。それ以上の感情はないはずなのに…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幸せになりたいって………、願ってしまう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、それでいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 突然のリィエルの言葉に、エルレイは間抜けな声を上げる。

 

 

「わたし……、馬鹿だけど、ねえねのやりたいようにやるの…一番だと思うから」

 

「……はい、私たちは。別にエルレイ先生を止めに来たんじゃありません」

 

「ただ、ありがとうございましたって……伝えに来ただけです」

 

 

 エルレイは驚きを隠せなかった。何せずっと止められると思っていたからだ。

 

 

「……なんで。あなたたちは、馬鹿正直に私を………そこまで信頼できるの………?」

 

「なんでって……」

 

「そんなの…決まってますよ?」

 

「ん」

 

 

 

 

────

──

 

 

 

「はあ…………はぁ」

 

「くっ」

 

「そろそろ終わらせよう、シュウ」

 

「そうだね。兄さま」

 

 

 膝をつくグレンとセラの前で、ロクサスは面倒くさそうに言う。シュウはそれに同意するかの如く、最後の一撃の体制に入る。

 

 

「………まだ……だ」

 

 

 しかし、それでもなお。グレンは立ち上がった。

 グレンだけではない。

 

 

「まだ……」

 

 

 セラもだ。

 シュウはあきれたようにため息をつく。

 

 

「あの、そろそろあきらめてくれませんかね?これ以上は手加減できませんよ?」

 

「……へっ…、上等だよ」

 

 

 その威勢のいい言葉に、シュウは舌打ちをする。

 

 

「なぜ、そこまでアイツにこだわる?一体どうしてだ?」

 

 

 ロクサスが、理解できなさそうに言葉を口にする。

 

 

「えへへっ…………そんなの決まってるでしょ?」

 

「ああ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「エルレイねえねの事が……大好きだから」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────

───

 

「っ………」

 

 

 エルレイはその言葉に、体を震わして口元を抑える。

 

 幸せを認めたくない。でも幸せ。大切な人を守りたいから貴方達が邪魔、そんな言葉をすべて………この少女たちは認めてくれたのだ。

 

 

「ただし、また会いに行きますからね!何があっても」

 

 

 そう言って、システィーナはまるで意地悪な友達のようにくすくすと笑う。

 

 

「はい!何があっても…!」

 

「ん。また、ねえねって…よぶ」

 

 

 それにつられるように、ルミアもリィエルも笑った。

 

 

「………」

 

「……ふっ、一本取られたね」

 

 

 エザリーは、何処か楽しそうに笑う。

 

 

「まさか、力づくで連れて帰ろうとすると思ってたのに、()()()()()。なんて、ほんっと、一本取られたわ」

 

「まったくだね」

 

 

 そう言いながら、くすくすとシスナとミアルは笑った。

 

 

「………やっぱ、みんなキライ」

 

 

 そう言いながら、エルレイは苦笑いを浮かべた。

 

 

「…それじゃ、約束。今度会ったとき、力づくで、私を講師にもどしてみて」

 

 

 そう言いながら、エルレイはリィエルの頭をガシガシと撫でる。

 

 

「ま、殺戮人形の私を……できるものなら…だけど」

 

「ん……よくわからないけど……頑張る」

 

「目にもの見せてやりますよ!」

 

「覚悟しててくださいねっ♪」

 

 

 そして、エルレイはリィエル。システィーナ。ルミアを抱きしめた。エルレイにとっては最後のつもりだ………。

 

 

 

 

今のところは。

 

「それじゃ、()()()()()タルト」

 

「ん、()()()タルト」

 

 

 

 エルレイは、二度と会うことはないだろうという思いを込めて。

 リィエルはもう一度会うという思いを込めて。

 

 いちごタルトを渡し合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────

──

 

 

「……ねぇ、これでよかったんだよね」

 

「 い い わ け な い 」

 

 

 帰ってきた6人は、草むらに寝っ転がりながら話をしていた。

 変な顔をするリィエルに、エルザは苦笑いを浮かべる。

 

 

「あいつら、二度と会いたくない」

 

 

 あいつらというのは、あの学院で知り合った者達の事だ。

 リィエルは会おうとは思わない。自分の使命。イルシアとシオンの償い。そしてルミアたち、大切な人を助ける使命があるのだから。

 

 

「それにしては、すがすがしそうだね」

 

「…む」

 

 

 シュウにそう言われ、リィエルは不貞腐れる。

 

 

「からかってやるなよ、エルレイねえねをよ」

 

「そうだよ?エルレイねえねが可愛そうでしょ?」

 

「ルミア、ロクサス。後で死」

 

 

 リィエルはエルザの刀を奪い取り、二人に向けて構える。

 

 

「あんたら、ここで血だまり作られても面倒だから風呂場でやりなさい」

 

「少しは助けろ?」

 

 

 システィーナの容赦のない物言いに、ロクサスとルミアはジト目をする。

 

 

「……ふふっ」

 

「どうしたの?」

 

「いや…別に」

 

 

 いつまでこんな日常が続くかわからない、が。それでもリィエルには少しだけ、

 

生きる価値を見出した。償いや誰かを守るためではなく。

 

 

 それは自分の生徒に、また会えるかも…というよくわからない。()()だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

───

 

「ついに……この日が来た」

 

「ええ」

 

 

 ある暗闇で、3人の女性たちは笑いあった。その女性たちは、一人は銀髪の猫のようなリボンをつけている女性。

もう一人は金髪のおしとやかそうな女性。

 そしてもう一人、青髪の眠そうな女性だ。

 

 

「ルミア、アンタが王者の法(アルス・マグナ)もってて、感謝したことは初めてよ?」

 

「なにそれ?もうちょっと感謝してよ」

 

 

 そう言いながら、金髪の女性と銀髪の女性は笑いあう。

 青髪の女性は、どうでもよさげにサクサクと赤い何かを食べている。

 

 

「………ん。はじめよ」

 

「ええ」

 

「だね」

 

 

 そして、青髪の女性は……何か魔力の籠った()()をポケットからだす。

 

 

「さ、ねえね。強引に連れ戻す」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エルレイねえねの憂鬱

自分の存在する意味は何か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを考え始めたのは何時くらいだっただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生まれた時から?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それとも誰かに問われたから?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よく覚えていないが、勿論私は生きていたいし、守りたい人もいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理由なんていらないと言われたらそれまで、でもわたしは何か自分がここにいる理由が…欲しいなぜなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今が退屈すぎるから。

 

 

 

 

 

「この書類を、上層部へ」

 

 

 

「はい、リィエル」

 

 

 リィエルの言葉に、エルザはピッと敬礼して反応する。

 

 

「…ん、この件あとは私がやる、さがっていいよ」

 

「了解、頼むよ。リィエル」

 

「俺らは帰るな」

 

 そう言って、ルミアとロクサスはそそくさと特務分室を後にする。

 

 そして静寂の中、自分の執務室で帝国軍魔導騎士長、リィエル=レイフォードは退屈していた。

 

 

「はぁ」

 

 

 リィエルは壁にもたれ掛かり、ため息をついた。

 

 青髪のスレンダーで小柄な体とは裏腹に、騎士長という肩書を持っているこの女性は…アルザーノ帝国魔術学院の卒業生あり元特務分室ナンバー7 戦車と呼ばれていたほどの実力者だ。

 

 

「疲れた」

 

「眠い」

 

 

 リィエルは仕事の日々に飽き飽きしていた。

 

 やりたいことが無いわけではないが、特に重大なこともここ最近は起きていないので退屈を覚えていた。

 

 欠伸をしながら執務室の自分の机にある。自分の一部の記憶、その写真を眺める。

 

 そこには6人の人物が映っていた。

 

真ん中に自分が写っていて、右側には銀髪の耳のようなリボンが特徴的な女の子、システィーナ。

 

もう一人は金髪の緑色のリボンをつけた女の子、ルミア。

 

 そして、自分の恩人である、セラ=シルヴァース。

 

 

「ルミア、システィーナ、セラ」

 

 

 小さな声で、自分の心から信頼していた生徒、同僚の名を口に出す。そして…

 

 

「グレン、リィエル」

 

 

 もうもう一人の自分、そして、もう一人の兄貴分。彼女たちは紛れもなく、リィエルが信頼していた者達だ。

 

 

 

「……………」

 

 

 リィエルは、少し考え事に耽りながらも、もう一度ため息をつき、ポケットからいちごタルトを取り出してサクサクと食べる。

 

 

「リィエル、少し良い?」

 

 

 

 

 

 シュウが来た、マッハで食べよう。

 

 

 

 

 

サクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサク!!

 

ごくんっ。

 

 

 

 

 

「なに?早めに済ませて」

 

 

 シュウが頭を掻きながらため息をついた。

 

 

「って、またいちごタルト………?体に悪いよ?」

 

 

 

「いちごタルト、万能薬、すべての病を治す」

 

「野菜も食べなさい」

 

「いちご=野菜。いえぇあ」

 

「いえぇあ、じゃない」

 

 

 シュウは、あきれながらも、楽しそうに微笑んだ。

 

 

「ま、いいや、本題は?」

 

「……さぁ?なんだろね?」

 

「……?」

 

 

 シュウはおもむろに何かを取り出した。それは手紙のようだ。

 

 

「………まじ?」

 

「マジじゃないと思うなら。見てみたら?」

 

 

 リィエルは、動揺しながらも、手紙の宛先を確認した。

 

 

 そこに書かれていたのは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 親愛なる、エルレイねえねヘ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~END~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 




これで、この作品は終了になります。

今までありがとうございました!‼!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編
騎士長と室長サマの憂鬱


「特務分室の、人員増加?」

 

「ええ、そうよ」

 

 

 突然のイヴの発言に、エルレイは動揺した声を出す。

 突然特務分室に呼び出されたと思えば、まさかの人員増加の手伝いとは……。

 

 

「すまんのぉエルレイちゃんや、儂としてはちゃ~んと君と優雅に茶会でもと思っていたんじゃが」

 

 

 そう言いながら、バーナードはからからとジョークのように笑う。

 

 

「ん……」

 

「人員は多いほうがいいのよ。もちろん手伝うわよね?リィエル」

 

「……ん、断る理由なし」

 

 

 実際、エルレイには断る理由が存在しない。

 特務分室は万年人員不足なので、イヴの気持ちはとてもわかるからだ。

 

 

「レイちゃん、ごめんね?」

 

「すいません。エルレイ…さん」

 

 

 セラ、クリストフが申し訳なさそうに謝罪してくる。

 実際、エルレイの同僚のエザリーを雇ってくれているので、どこかで恩返しは果たしたいと思っていたが、好都合だ。

 

 

「……ふん」

 

 

 アルベルトは何も言わず、ただ無表情でエルレイに書類を渡した。

 エルレイがもらったのは、今回の希望者だ。

 

 

「………」

 

 

 ぺら……ぺらと、エルレイはゆっくりと希望者のステータスを見始める。

 

 

「………ん」

 

「ふん。エルレイ。ちゃんと見分けなさいよ」

 

 

 

 わざわざ毒を吐いて、イヴはその場から出て行った。

 

 

「それじゃあ、私たちも向こうにいるからね」

 

「エルレイちゃんや。あとでおじちゃんとたのしいティ──」

 

「やめてください。それではエルレイ……さん、よろしくお願いします」

 

「……」

 

「ん…まかせて」

 

 

 

 

 

 

 全員が席に着き、しばらくの間、室内に紙をめくる音だけが響き続ける。

 みんなが一様に淡々と、次から次へとチェックしていた。

 

 

「…はぁ~」

 

 

 イヴがあからさまにため息をつく。

 

 

「イヴ。大丈夫?」

 

 

 エルレイは手を止めはしないが、一度イヴのほうに耳を傾ける。

 

 

「……全部無能ばっか」

 

「だね」

 

 

 この言葉には、エルレイも同意せざる負えない。

 

 

「希望者、みんな普通に優秀な程度…。逸材がいない」

 

「…エルレイ、アンタの方の進捗は?きちんとやってるんでしょうね」

 

「正直、やる気がなくなりかけてる」

 

 

 そう言って、エルレイは大きくため息をついた。

 

 

「ざっと見、とりあえずこの数人」

 

 

 エルレイがイヴに見せたのは、エルレイが見ていた100人以上の参加者から、1、2人ほど。

 

 

「…こいつらを選んだ理由は?」

 

「磨けば優秀になる可能性あり、5軍程度なら勧める」

 

「5軍…」

 

 

 未来のリィエルとはいえ、中々にきつい評価だ。

 エルレイがきちんと確認している証拠だろう。

 

 

「そもそも、普通のひとじゃ、ここの仕事はできないよ。あんまり期待しないほうがいい」

 

「……そうね」

 

 

 イヴは書類を見ながら頭をかいた。

 

 

「………いつも思うんだけど、あんた本当にリィエル?人形でもここまで成長するのね」

 

「成長はしてない、私の技術はほとんど盗んだ技術ばっかり、人形として生き抜くための知恵ってやつだね」

 

「…あっそ」

 

 

 少し俯いたイヴは、どこか悲しそうに見えた。

 

 

「…ところで、アンタが選んだの奴、女性ばっかなのはなんでなの?」

 

「イヴの弟による『姉さまを殺して俺も死ぬ!』阻止」

 

「助かる」

 

 

───────

─────

───

 

 

「ふんふんふ~ん♪」

 

 

 エルレイとイヴ少し話をしていると、ルンルン気分でセラがイヴに近寄ってきた。

 

 

「いい人みつけてきたよ~」

 

「セラ、結構早かったわね」

 

「ふふんっ!」

 

「見せてみなさい」

 

 

 ひょいっとセラの持っていた応募の書類をイヴがとった。

 エルレイもイヴと一緒に見始める。

 

 

「「……ん?」」

 

 

 少し見始めると、ある違和感に二人とも気づいた。恐る恐るエルレイが口を開けた。

 

 

「……ねえ」

 

「ん?なにレイちゃん?」

 

「一見…特務分室に入れる……程の実力が…ない」

 

 

 そう、明らかにないのだ。技術もばらばらで、セラの持ってきたものにはこれといって惹かれる要素がない。

 

 

「セラ。アンタちゃんと選んだの?」

 

「選んだよ?ほら、この子なんて」

 

 

 そう言いながら、セラは紙を一枚取り上げた。

 

「伸びしろありそうでしょ?」

 

「「………」」

 

 

 ぺらぺらぺらぺら……。

 

 エルレイは、どこか嫌な予感がし、もう一度セラの持ってきた書類に目を通すが、まさかの予想的中。

 

 

「……もしかして、選抜理由全部…『20代くらいで伸びしろありそうだから』?」

 

「うん」

 

「「…………………」」

 

 

 これには、イヴもエルレイも声が出ない。

 伸びしろを期待するのも結構だが、そんな簡単な考えでこの特務分室の仕事を任せれるのだろうか…いや否。

 

 

「イヴ」

 

「…なによ」

 

「これ、ダメ。こっち5~6軍」

 

 

 ドサっと、いつの間にかエルレイがセラの持ってきていた書類を仕分けていたようだ。『不採用』と『5~6軍に賛成』にきれいに分かれていた。

 

 

「助かる」

 

「ちょ!!私の採用になにか文句あるのレイちゃん!!」

 

「 大 あ  り よ っっ!

普通に考えて伸びしろでここの仕事をまかせられるわけないでしょうが!!!」

 

 

 エルレイの言葉を代弁するかのように、イヴは怒鳴り声をあげた。

 

 

「姉様姉様」

 

 

 そこで、くいくいっとイヴの服を誰かが引っ張った。どうやらシュウのようだ。(現在名はハル)

 

 

「ハル?あんたも終わったの?」

 

「うん。とりあえずね。姉様確認してもらえる?」

 

 

 イヴはシュウの紙を取り、確認をし始めた。

 

 

「…いいんじゃない?さすがハルだわ」

 

「えへへっ…ありがとうイヴ姉様」

 

 

 シュウは恥ずかしそうに微笑みを浮かべた。イヴもそれにつられるようにして、静かな笑みを浮かべる。

 

 

(……相変わらず。仲いいな)

 

 

 その光景を、のほほんとエルレイは見ていると、突然シュウの目はイヴの机に向いた。

 

 

「ところで、その男の志望の紙はなに?」

 

「……あ」

 

 

 イヴはさっと、その紙を隠した。そう、さっきセラの持ってきた物には、男の希望者も混じっていたのだ。まあ、当たり前といえば当たり前だが。

 

 

「え……とね…」

 

「はい」

 

「つまり……ね?」

 

「はい」

 

 

 シュウは先ほどと同じように笑顔だが、目がやばい。明らかに笑っていない。

 エルレイはその状況を見かね、助け船を出した。

 

 

「それは、セラが持ってきたやつだよ。大丈夫、失格者だから」

 

「…そっか」

 

 

 シュウはそれを聞くと、先ほどの恐怖の面影はなく、ただ笑顔でほほえんだ。

 イヴは少し苦笑いを浮かべている。

 

 

「イヴの死因。ヤンデレ弟による監禁」

 

「ジョークに聞こえないからマジでやめなさい」

 

 

 エルレイの世界でも、イヴとシュウはかなり仲がいい…、というか。どこか依存しあっている傾向にあったので、割とマジでシャレにならない。

 

 

「???なに?姉様、リィエル」

 

「「…………いや別に」」

 

 

 シュウのその笑顔がなんとなく怖く、イヴとエルレイは目をそっとそらした。

 

すると………

 

こんこん…。

 

 

 突如、ドアがノックされる音が部屋内に響いた。

 

 

「室長、エザリーです。入ってもよろしいでしょうか?」

 

「え、ええ。いいわよ。入って」

 

「失礼します」

 

 

 ゆっくりと開かれるドアの先には、片手に本の束を持ったエザリーがゆっくりと入ってきた。

 

 

「シュウ君、頼まれてた仕事。片づけてきたよ」

 

「あ、お疲れ様。エルザ」

 

 

 シュウは微笑んで、エザリーの頭を撫でる。

 

 

「ぁ……ぅ…!もう!子供扱いしないでって!」

 

 

 少し気恥ずかしそうに、エザリーは声を荒げた。しかし嫌がってはいないようだ。

 

 

「僕にかかれば、エルザはまだまだ子供なのだよ?」

 

「もう、実際シュウ君、身長私より低いでしょ?ほらっ、ぎゅ~」

 

 

 そう言って、エザリーはシュウをやさしく抱きしめる。

 

 

「わっ…!やめてよ…!」

 

 

「「…………」」

 

 

 エルレイとイヴは何を見せられてるのだろう、シュウとエザリーがどこかオネショタっっぽくいちゃついてる。

 いや、あの二人が仲がいいのは今に始まったことではないのだが………。

 

 

「………なんだろ、殺意が目覚めそう」

 

「……奇遇ねエルレイ…、私もちょうどそう思ったわ。

 

 

 

 

 

───────

─────

───

 

 

「…ん……ふぁ……」

 

 

 あれからどれだけの時間がたったであろう。

 配属希望者はすべて外れ、しかも。その審査をする特務分室の者たちも酷いものだ。

 リィエルは飽きて紙飛行機作り始めるし…、バーナードはミスコン始めるし…。

 アルベルトは基準が高すぎだし…、クリストフに任せたらイヴのお見合いになり、シュウが殺意を出す…と。

 

 

「後始末…、なんで私が」

 

 

 そんなわけで、エルレイは現在進行形でその後始末の書類を片づけている真っ最中なのだ。

 

 

「………はかどってる?」

 

 

 突然話しかけられたので、その方向を向くと、そこにいたのはイヴだった。

 その手にはお茶の入ったカップを手に持っている。

 

………少し、罪悪感でも感じてるのだろう。

 

 

「ん、まあまあ」

 

「…あっそ」

 

 

 イヴは鼻を鳴らし、カップをエルレイの机に置いた。

 

 

「…………のめ……、そういう事?」

 

「……勝手になさい」

 

「ん、勝手にする」

 

 

 エルレイは少し微笑んで、一口イヴの入れてくれたであろうお茶を飲む。

 

 うん

 

 

 

 

 く  っ  そ  ま  ず  い  

 

 

 

「………」

 

「……どうなのよ?」

 

「……なにが?」

 

「味の感想くらい言いなさいよ」

 

「イヴの味」

 

 

 エルレイはもう一口飲んでから、後始末を再開した。

 

 

「…貶してるでしょ」

 

「ごめ、私は。もう夫に胃袋つかまれてるから。普通の食べ物じゃ、おいしいって言わない」

 

「……たしか、アンタとハルが婚約してるんだっけ。あの女子力∞と一緒にしないで頂戴」

 

「女子力∞はくさ」

 

 

 イヴは大きくため息をつく、それを見てエルレイはくすくすと笑う。

 

 

「……エルレ……、いえ、リィエル。きちんと答えて頂戴」

 

「?」

 

 

 突然リィエルと呼ばれ、エルレイは少し首を傾げた。

 

 

「あんたさ、なんで私に協力してくれるのよ。あんたにとって私ってなに?」

 

 

 真剣な表情で、イヴはエルレイに聞いてきた。

 

 

「ん……そうだね………」

 

 

 イヴだから。

 実際、エルレイにとってはそれ以上でもそれ以下でもないのだが、おそらく。それではだめだ。

 私が依存しているという状況がイヴにとって重りになる可能性がある。

 ならばここは……。

 

 

「イヴはさ、憎悪って、何かわかる」

 

「………どういう意味よ?」

 

 

 突然意味不明なことをエルレイに言われ、イヴは間抜けな声を上げた。

 

 

「憎悪って…、()()なんだ」

 

「………は?」

 

 

 予想道理の反応が返ってきたが、エルレイはそのまま話をつづけた。

 

 

「……ん。それじゃ。イヴに少し変わった話、してあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の信仰する、黄色の女神の話」

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アンケート用 作品
『二人の神に魂を奪われた兄弟』


書きたいのが結構多い……。
よし!どれが面白いか読者に決めてもらおう!(暴論)

ということで、本格的に書こうか考えている小説を投稿します。

最終的にアンケートを取らせていただくのでご協力お願いします!

最初はシュウとロクサスのストーリーです!


神様転生?そんなものはクソだ、今まさに少年は目の前の神を見ながらそう思っている。

 

 

『ふっ、死んだ理由が兄がいないことによる虚無感の自殺ねえ……全く持って、阿保みたいな理由ね』

 

「……」

 

 

 どこかもわからない空間、その真っ暗な空間に無数の時計がグニャグニャと動いている。

そんなところでそのその赤髪の少年は黙って俯いていた。少年と話している神は ‘‘デウス・エクス・マキナ‘‘ と名乗った女性だった。

 髪は銀髪のロングで20代くらいだろうか、白いノースリーブとミニスカートを着ている。

 

 

『安心なさい、君を今から転生させてあ──』

 

「……そんなのいい、兄様のところへ連れてって」

 

『……へえ』

 

 

 少年は話を聞こうともせずにそうつぶやいた。

 辛そうに、そして虚しそうに。

 

 

「転生、異世界召喚、くだらない……。僕は兄様といないと、すべてが虚無虚無しい……お願いだから兄様のところに……」

 

『……ふふっ』

 

「……なにがおかしいの?」

 

 

 デウス・エクス・マキナはその少年の言葉を聞き、笑った。

 いや、笑いをこらえることができなかった。

 何人も人間を転生させてきたがこれだけ1人の人間に依存している人間など見たことがなかった。

 

 

『ふふっ、ごめんなさい、家族を大切にするのは良いことだと思うわよ?…ただね』

 

「……ただ?」

 

『君のお兄さんは……普通の転生をしていないの」

 

「………どういうこと?」

 

 

 少年は目を見開く、デウス・エクス・マキナはため息交じりに話し始めた。

 

 

『イザナミって神様は知ってる?』

 

 

 イザナミという名前を知らない少年はすこし小さく唸った後に首を横に振る。

 

 

『イザナミっていうのはね、死の神、黄泉の国を仕切ってる神の事よ』

 

「……死の神が何?」

 

『あなたのお兄さん…。その神様に魂を取られてるの』

 

「っ!!!」

 

 

 少年はうまく声に出せない悲鳴を上げた。

 辛く苦しそうに。

 

 

『私も詳しくは知らないけどね、イザナミの奴 ‘‘気に入った人がいたから殺して魂を貰った‘‘ って言ってたわ、まあアイツの気まぐれでしょうね』

 

「……気まぐれ?」

 

『ええ、多分気に入ったから適当にその世界で殺して魂奪ったんでしょ』

 

「……神様の気まぐれで……許されると思ってんのかよ」

 

 

 少年はこぶしを強く握りしめた、それこそ血が流れそうなほど強く…。

 

「その人の家族が悲しんでても…神様がいいならなんでもゆるされんのかよっ!!!!」

 

 

 少年は怒鳴りつけた。

 人生でここまで怒鳴ったことがないくらい。強く怒鳴りつけた。

 

 

『落ち着いて、君のお兄さんと会うことができないわけじゃないわ』

 

「……!」

 

 

デウス・エクスマキナは優しく握りしめている手を掴みさすり始めた。

 

 

『君の感情を近くで見て気が変わったわ、手伝ってあげる、ただし』

 

「ただ……し?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君が私に魂を差し出したらの話だけどね』

 

 

 

────────────────

────────────

───────────

 

「シュウ……おきて」

 

「……ん?」

 

 

 赤髪の少年は目を覚ますといつもの部屋にいた。

 どうやら ‘‘魂を売った時‘‘ の夢を見ていたらしい、赤髪の少年、シュウは欠伸をする。

 

 

「大丈夫?うなされてた」

 

「うん、大丈夫だよ、リィエル」

 

 

 この子はリィエル=レイフォード。

 わけあってシュウと同居している仕事仲間だ。

 

 

「そ、お腹すいた」

 

 

 そう言いながらリィエルはお腹を押さえた、シュウはそれを見ながら苦笑いをする。

 

 

「あはは……すぐ作るね」

 

 

 シュウはすぐに起き上がりキッチンに行き、料理を作り始めた、卵を溶いて、お肉を焼いて……。

 

 

「シュウ、顔色悪い、大丈夫?」

 

「大丈夫だよ少し悪夢を見てただけ」

 

「…悪夢?」

 

 

 その言葉にリィエルは首をかしげる。

シュウは完成した料理を机に運んで行った。

 

 

「ちょっとした……ね」

 

「今日、シュウは学校?に行くんでしょ?心配?」

 

 

 そう言いながらリィエルはシュウの顔を覗き込む。

 急に顔が近くなり、シュウは少し赤くなるが、調子を戻してリィエルを抱きしめた。

 

 

「大丈夫、リィエルはちゃんと特務分室で、お仕事するんだよ?イヴ姉様によろしくね」

 

「……ん」

 

 

 リィエルはそのままシュウに体を委ねる。

 シュウの本名は シュウ=‘‘イグナイト‘‘だが、ある事件を皮切りに、イグナイト家から家出し、リィエルと同じアパートで、同じレイフォードとして生活している。

 

 

「じゃあ、行ってきます」

 

 

 朝食を食べ終わったシュウは、一足先に靴を履いて出発しようとする。

 

 

「ん、頑張ってね」

 

「うん、頑張てくるね」

 

「行ってらっしゃいのちゅー?しよ」

 

「え?」

 

「ん」

 

「………」

 

「………」

 

「「…………………」」

 

その後の会話はなかった。

 

 

 

─────

 

アルザーノ帝国魔術学院、アルザーノ帝国の人間でその名を知らぬ者はいないだろう。この時代からおよそ四百年前、時の王女アリシア三世の提唱によって巨額の国費を投じられて設立された国営の魔術師育成専門学校だ、今日、大陸でアルザーノ帝国が魔導大国としてその名を轟かせる基盤を作った学校であり、常に時代の最先端の魔術を学べる最高峰の学び舎として近隣諸国にも名高い学院、それがアルザーノ魔術学院だ。

 

 

「シュウ・レイフォードです、よろしくお願いします」

 

「はい、ではシュウ君はあちらの席に座ってくださいね」

 

 

 シュウは指をさされた席まで移動して、そこに座る。

 

(……はぁ)

 

 内心、シュウはため息をついた。

 何故自分がこんな所で魔術なんか教わらなければいけないのかと……。

 それなのになぜ来ているかというとこの世界の姉であるイヴ・イグナイトに『あんた、学校にはちゃんと行きなさいよ?』と、家出する際にそう忠告されたから来ているだけで正直どこでも良かった。

 

 

「シュウ、だったわね」

 

「?」

 

 

 ため息をついていると隣の銀髪の長い髪の女の子が話しかけてくる。

 

 

「今日からよろしくね、私はシスティーナ」

 

「うん、よろしくね」

 

 

 シュウは話しかけてきたシスティーナに愛想笑いをする。

 すると少し遠い所からも声をかけられる。

 

 

「おいおい、あんまりシスティーナと絡まんほうがいいぜ?コイツの説教はなげーぞ?」

 

「うっさいわねカッシュ!黙ってなさい!」

 

「そうですわよカッシュ、 ま だ なにも説教していないですわ」

 

「 ま だ を強調しないでよウェンディ!」

 

「君たち、まだ授業が始まらないとはいえ静かにね」

 

 

 そう言いながら先生は騒ぎ始める生徒たちをなだめた。

 

 

(……楽しそうなクラスだな)

 

 

 そう思いながらシュウは少し苦笑いをした。

 前世でも小中はともかく、高校は居心地が悪いものではなかったので少し、昔の親友の事を思いながら苦笑いをした…しかし。

 

 

(でも、求めてるのはこんなのじゃない)

 

 

 シュウの最終目的は前世の実の兄を見つけ出し、もう一度会って一緒に暮らしたい。

 単純だがそれ以上でもそれ以下でもなかった、こんな幸せは求めていない。

 

 

「あはは、騒がしいクラスでごめんね?」

 

 

 突然後ろにいた金髪のショートヘアな女の子がシュウに苦笑いしながら話しかけてきた。

 

 

「でも、いつもこんな感じだから時期になれると思うよ?」

 

「大丈夫、楽しそうなクラスだなって思ってたところ」

 

「それならよかった。あ、私の名前はルミア、よろしくね」

 

「うん、よろしく」

 

 

 そう言いながらシュウは愛想笑いを返す。

 そして、シュウはルミアの隣にいる一人の男性に気がついた。

 

 

「……」

 

「ほらロクサスも、自己紹介しよ?」

 

「ロクサスだ」

 

 

 目をつぶったロクサスと名乗る青髪の男はシュウの顔を見ずに自己紹介をした。

 

 

「えっ……と」

 

 

 シュウは流石に困惑する。

 システィーナはその光景を苦笑いで見つめていた。

 

 

「ああ、そいつはそれが普通、気にしなくていいわよ?」

 

「俺はただの人間には興味ねぇ、失せろ外道下等生物」

 

「あんたも人間でしょうが!」

 

 

 その光景を見ながらシュウはなんとなく頭をかいた。

 

 

(そういえば兄様も……)

 

 

シュウとシュウの兄は人間不信で基本的に人間が大嫌いだった。

 

 

「……はやく…会いたいな」

 

「ん、なんか言った?」

 

「…なんでもないよ」

 

 

 シュウはそう言いながらシスティーナに微笑みを返した。

 兄がどこにいるかはわからない。けど今はデウス・エクス・マキナ様の支持に従うしかない。

 

 

「人間だけど、よろしくねロクサス」

 

「……おう」

 

 

そう言うとロクサスはそっけなく返す。どうやら癖はあるが悪い人ではないようで安心した自分がいる。

 

 

「そっか……人間嫌いなんだ…」

 

「おう、当たり前だろ」

 

「えっと……じゃあ私と一緒にいるのって……嫌かな?」

 

「ああ、えっと……そういう……わけじゃなくてだな、その……」

 

 前言撤回。

 

悪だ、極悪だ、女の子とイチャイチャするクソ野郎だ。今理解した、そして確信した。

 

 

「みんな〜、転入生が思ってること言うわよ〜。せーのっ!」

 

「「「「爆ぜて死ね!!!」」」」

 

 

どうやらみんな思っていることは同じのようだ…。

 

──────

 

─────

 

────

 

「……はぁ」

 

 

 ロクサスは誰もいない黒い空間でため息をついていた。

 

 

『ん、なに?疲れた』

 

 

 それを見ていた女性は顔を寄せてじっとロクサスを見つめる。

 

 

「ああ、イザナミ様、今日と今日とて、ルミアに強く当たれなかっただけですよっと」

 

 

 ロクサスはそう言うとその場に寝転がった。

 イザナミと呼ばれたその女性はところどころ破れた赤い服を着ていて、ピンク色のポニーテールの20代くらいの女性に見える。

 

 

『そんなに辛く当たらないとだめなの?』

 

「当たり前だろ、俺は恋をしたいからイザナミ様に魂を差し出したんじゃない、刺激がほしいから魂を差し出したんだ」

 

 

 そう言いながらロクサスはため息をついた。

 彼は前世が退屈で刺激を求めてイザナミに魂の所有権を放棄したので断じて恋愛感情など必要ない……。

 

 

『でも、私とあった時、最初の言葉『美人だ』だったじゃん』

 

「あ、あれはその場の気分でだな…」

 

『そ、それじゃあルミアちゃんにも『美人だな、犯したくなるぜ★』って言えばいいじゃん』

 

「なんでそうなる?!ていうか言葉のハードル上がっとるわイザナミ様!!??」

 

 

 必要ない…らしい、もちろん彼も一人の男なので、男としての性には逆らえない。

 

 

『あ、そうそう、ちょっと面白いニュース』

 

「……なんだよ」

 

『貴方の弟さん、この世界にいるよ?』

 

「!」

 

 

 その突然のイザナミの発言にロクサスは少し眉をひそめた。

 

 

「本当か?それ」

 

『こんな冗談、言わない』

 

「…そうか」

 

 

 そう言いながらロクサスはその場に立ち上がり、肩を回した。

 

 

『うれしくないの?』

 

「うれしいさ、けどな、残念ながらアイツは優しいやつでな」

 

 

 そう言いながらロクサスは苦笑いをした。

 

 

『ロクサスとは大違いだね』

 

「うっせ」

 

『優しいから何?自分の世界に来てほしくないと?人間嫌いのロクサスらしくない』

 

 そう言いながら髪をいじってイザナミはため息をつく。

 

 

「そういうわけじゃねえよ、でもな、アイツは優しいからちと自分の管理がなってなくてな、悪い女に利用される事が多い……自分を愛してほしいがためにな。その行動が兄にとっちゃ…」

 

 

 

 

「見過ごせねえし、腹立たしい」

 

ロクサスはそう言いながらどこからか大きな大剣を取り出して片手で軽々と持ち上げてから肩に乗せた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『もしも、エルザとリィエルが原作1巻からいたら』

次は、もしも、エルザとリィエルが原作1巻からいたら

です!




「エルレイ先生、失礼します」

 

「……ん」

 

 

 ゆっくりとドアが開き、1人の眼鏡をかけた少女がエルレイの前に立つ。ひょこひょことそのの後を、青髪の少女が付いて行く。

 

 

「リリィ学院のエルザ、到着しました」

 

「ん。わたし、リィエル。ここいる」

 

「おk、一回腰かけて」

 

 

 エルレイの指示に従い、エルザとリィエルは椅子に座る。

 エルレイはお茶を注ぎ、エルザとリィエルに渡してから自分も一息つく。

 

 

「ねえね、何か用?」

 

「ん。少しね」

 

 

 そう言いながら、エルレイはため息をついた。

 

 

「2人って、今年で…、3年生。だったよね?」

 

「え?はい。ですね」

 

「ん」

 

 

 二人はエルレイの言葉に同意するように頷く、エルレイとリィエル達が再開したのはごく最近だ。だからエルレイとしては、今3年生なのはピンと来なかった。

 

 

「少し、お願い」

 

 

 そう言って、エルレイは一枚の写真を差し出す。

 それは何処か()()()()()()()()()。誰かだ。

 

 

「この人は?」

 

「この世界の、リィエルが大人になった姿」

 

 

 その言葉に、エルザは驚きの表情を見せる。リィエルはぽけーっと写真の人物をじっと見つめている。

 

 

「もともと、私がこの世界にこれたのは。この子のおかげ。だから救ってほしい」

 

「…()()()()()()?」

 

「ごめん、詳しい事情は話せない」

 

「?」

 

 

 エルレイはやさしく、エルザとリィエルの頭を撫でる。

 エルレイは少し申し訳なさそうに言葉をつづける。

 

 

「私じゃ、この子は、救えない…。お願い」

 

 

 エルレイのそんな悲しそうな声が、眠そうなリィエルの耳に届いた。

 

 

 

────

───

 

 

 

………エル…。リィ……起き………。

 

 …エルザが体をゆすっている。

 

 

「ん……」

 

「あ、やっと起きた」

 

 

 リィエルは眠たい目をこすりながら、早めに起きていたエルザに挨拶をする。

 

 

「おはよ……エルザ」

 

「おはよ…じゃないよ?学校遅れちゃうじゃん」

 

 

 そう言いながらエルザはため息をついた。リィエルはエルザが片手に持っていた食パンをもひゅもひゅと頬張る。

 

 

「ごめん、少し。ねえねの夢見てた」

 

「……そっか」

 

 

 リィエルは、ポケットに入っているロケットペンダントを見ながら眠そうな目で呟いた。

 結局、エルレイがどうやって救ってほしいかはわからない。だが、自分の姉貴分が困っているのだ。やる価値はある。

 

 

「過去に来て…もう何日かな」

 

「ん、わかんない」

 

「結構退屈だね」

 

「今までが、異常」

 

「あはは、言えてる」

 

 

 エルレイがいない間にも、本当にいろいろなことがあったので、この程度の日常は退屈を覚えてしまう。

 

 

「さ、学院行こう…、そろそろ。だよ」

 

「ん」

 

 

 二人は制服に着替え、手をつないでまるで恋人であるかのように手をつなぎ、学院まで足を運んだ。

 

 

 

────

───

 

 始業10分前くらいについたリィエルとエルザはお互いに席に着く、ちなみにかなり席は近いほうだ。

 

 

「あ、リィエル。エルザさん。おはよう」

 

「はい、おはようございます、ルミアさん」

 

 

 朝から天使のようなルミアの挨拶に、エルザはつい口が綻ぶ。

 一方でリィエルは不機嫌そうなシスティーナをじっと見つめる。

 

 

「…どった?」

 

「……いや、今日変な人に会ってさ」

 

「? いちごタルトでも持ってた?」

 

「それはあんただ」

 

 

 そんな何気ないことを言いながら、システィーナの顔にも笑顔が咲く、リィエルはある意味のムードメーカーだ。

 

 

「んで、実際はど?」

 

「ああ…、まあリィエルは気にしなくていいわ」

 

 

 そう言いながらシスティーナはリィエルの頭を撫でた。リィエルはとても気持ちよさそうに身をゆだねる。

 

 

「は~い、みんないる?」

 

 

 ガラガラと、一人の女性が入ってきた。

 見た目は銀色のロングヘアーで、まるで犬のようにぴょこぴょことリボンを動かしている。

 

 

「たぶんいるっす、セラ先生」

 

「うんっ。よろしい」

 

 

 カッシュの言葉に、セラは微笑みを浮かべる。

 

 

「今日は少し遅かったですね、どうかしました?」

 

「ふっふっふっ。今日はね?臨時だけど先生が二人来るんだよ?」

 

「いえそれは知ってますけど…」

 

 

 超得意げなセラに、システィーナはつい苦笑いをする。

 

 

「はい、じゃあ紹介するね。レイちゃん」

 

「ん」

 

 

 そこにいたのは、青髪でアホ毛が少し目立つ魔導士礼服のような服を着ている20代くらいの女性だった。見た目からして間違いない。

 

(ねえね……)

 

 

「エルレイ。趣味は菓子作り」

 

 

 そう言って、エルレイは眠たそうな顔で一礼する。ここでクラスの人間(リィエルとエルザ含む)『やる気なさそー』と思ったのは内緒。

 

 

「………ん」

 

 

 すると、エルレイはどういうわけか、リィエルとエルザの近くに寄ってくる。その目は眠たそうなはずなのに鋭く、心の底まで見透かされそうだ。

 

 

「……」

 

「えっと……なんですか?」

 

「君たち。名前、聞きたい」

 

「リィエル=レイフォード」

 

「え、エルザ=ヴィーリフです」

 

 

 リィエルは淡々と、エルザは少しおびえたように答える。エルレイがにらむのも無理はない。この時期には2人とも学院には()()()はずなのだから。

 

 

「…そ、よろしくタルト」

 

 

 そう言って、エルレイはどこかのポケットからイチゴタルトを取り出し、リィエルとエルザに渡す。

 

 

「え、それどこから……」

 

 

 テレサが困惑する。

 リィエルもエルザも、一瞬『いつもの事じゃ』と思ったが、普通ポケットにいちごタルトは入ってなかった。

 

「わぁい」

 

「い、いただきます」

 

 

 

 

 

 

────

───

 

 アルザーノ帝国魔術学院、アルザーノ帝国の人間でその名を知らぬ者はいないだろう。この時代からおよそ四百年前、時の王女アリシア三世の提唱によって巨額の国費を投じられて設立された国営の魔術師育成専門学校だ、今日、大陸でアルザーノ帝国が魔導大国としてその名を轟かせる基盤を作った学校であり、常に時代の最先端の魔術を学べる最高峰の学び舎として近隣諸国にも名高い学院、それがアルザーノ魔術学院だ。

 

勿論そんなことを覚えているわけがないリィエル。すやぁと眠りこけながら、授業を聞いていた。

 

 

「ちょ…。リィエル?寝ちゃだめだよ?」

 

「………ん」

 

 

 眠い目をこすっていると、ある男による授業が始まろうとしていた。

 

 

「えー、本日の一限目の授業は自習にしまーす」

 

 

 さも当然だと言わんばかりに、目の前にいる自分の兄貴分、グレン=レーダスが黒板に自習と書いた後。

 

 

「……眠いから」

 

 

 最後に睡眠宣言をしてから、教卓に突っ伏した。

 

 

「………………」

 

 

 誰もしゃべらない沈黙の数秒後。

 

 

 

「「ちょおおっと待てぇええええ─────ッ!!!」」

 

 

 

 それを見ていたシスティーナは、分厚い教科書を振りかぶって猛然とグレンへ突進していった。

 

 

 

 

 

「「「…くさはえる」」」

 

 

 エルレイとリィエル。エルザの三人の思考が完全一致した。

 

 

「えっと、システィーナちゃん落ち着いて!グレン君~!起きて~!」

 

「…うっせ白犬、睡眠学習は大切なんだぞ」

 

「あ、そっか、睡眠するとメリット多いからね、それじゃあ私もお休み…」

 

「セラ先生も乗せられないでください!!」

 

「あ、エルレイ先生!さっき俺にやったグリグリっ!あの先生にやってくだせえ!!」

 

 

 

 

 あ、そんなことやってたのか、私が寝ている間に…、そんなことをリィエルが考えている。そして叫ぶカッシュを横目に…。

 

 

サクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクッ!!

 

 

 

 エルレイはリスの如くいちごタルトを頬張ていた。

 

 一口かじるごとに、エルレイの頭をふわふわした幸福感が包んでいく。

 

 そういえば、いちごタルトは、酒やたばこと同様の効果が得られる。とかなんとか、ねえねは言ってた気がする(うろ覚え)

 

 

「いちごタルト、うまっ」

 

「何を他人事のように黙々といちごタルトを食べていますの?!?!」

 

 

 ウェンディが食べ進めるエルレイに、ビシッとツッコミを入れた。

 

 

「何なのよこの先生方はあああああああああああああああぁぁ─────っ!!」

 

 

この日、ほぼずっとシスティーナの怒鳴り声が聞こえていたのは言うまでもない。

 

 ほとんどの場合はルミアが落ち着かせてくれたが。

 

 

「……」

 

「ねえ。私の可愛い、エルザ」

 

「なに?私の可愛いリィエル」

 

 

 二人はそんな光景を見ながら、互いの名前を呼びあった。

 

 

「ねえね、というか。私、ツッコミ。向いてない。そう思ってた」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ツッコミしないと纏まんないなこれ」」

 

 

 リィエルとエルザは今更ながらに、エルレイの重大さ(ツッコミ限定)に気が付いた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『愚者と白猫の子は化け猫姉妹?!』

次はエルレイの続編作品になります。


「エルレイ先生、おはようございます」

 

「ん、おはよう」

 

 

 ここはアルザーノ魔術学院の校門。

 今日も今日とて、この学院の講師、エルレイは生徒たちに眠そうな笑顔を振りまく。

 エルレイの見た目は、20代くらいだがとても幼く、青髪に後ろで軽く縛っている髪型が特徴的で、アホ毛がぴょんと立っている。

 

 

「さて………」

 

 

 だれもいなくなったのを確認し、エルレイはどこからか何か丸い食べ物のような物を取り出す。どうやらいちごタルトのようだ。

 

サクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサク。

 

 

「うま」

 

 

 エルレイが、頬一杯にいちごタルトを頬張って、幸せを実感していた時だ。

 

 

「……リィエル=レイフォード様、少しよろしいですか?」

 

「っ?」

 

 

 突然のことに、エルレイは少し動揺する。

 リィエル=レイフォードというのは、このエルレイの本名だ。訳がありこの学院では本名を隠しているのだが…。

 

 しかし、その疑問はすぐに晴れる。

 

 

「……帝国軍?」

 

 

 エルレイが振り返ると、見覚えのある服を纏っている男がいた。

 そう、リィエルが属する、帝国軍と同じ制服をまとっていたのだ。階級まではわからないが。

 

 

「はい、急遽、リィエル騎士長にお話しておきたいことがありまして」

 

「………ん」

 

 

 ここではまずいと判断し、エルレイは男を誰も居ない教室まで連れていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んぅ…」

 

 

 美少女、マコロン=レーダスの朝は早い、7時30分の起床で、時間までにアルザーノ魔術学院に行かなければならないからである。しかし、その時間は…。

 

 

「……あと……一時間……」

 

 

 二 度 寝 し た い 者 に は 関 係 が な い 。

 

 

「起きなさいっ!!!」

 

「にゅぅ!!!」

 

 

 突如として、マコロンの眠りを妨げるように布団がひっぺがされる。

 ひっぺがしていたのは、銀髪のポニーテール、リボンがぴょこぴょこと動き、まるで子猫のように可憐な20代くらいの女性。

 マコロン=レーダスの母親、システィーナ=レーダスだ。

 

 

「さっさと起きる!レミエルはもう起きてるわよっ!」

 

「ぁぁ……ふぁ……わかったよ……今起きる」

 

 

 マコロンはのそのそと立ち上がり、自慢の黒髪のショートヘアーに、赤いリボンをつけて、ゆっくりとテーブルまで向かう。

 

 

──────

 

「あ…、マコロン…。おはよう」

 

「うん!レミ姉!おはよう!」

 

 

 マコロンの目の前にいるのは、金髪のロングヘアーで、緑色のリボンをぴょこぴょこと動かしながら、食事をしている。

 このお淑やかそうで、いかにも温厚そうな女性は、レミエル=レーダス。マコロンの実の姉だ。

 

 

「レミ姉今日もかわぃぃ!!」

 

 マコロンはそう言いながらレミエルに抱きついた。

 

 

「わっ……!もぅ…、駄目だよ…、食べてる途中なんだから」

 

 

 レミエルは、やんわりと怒る。

 

 

「えへへっ、ごめんなさーい!」

 

「もう…」

 

「そういえば、パパは?」

 

「お父さんなら…、さっき『とりま、カーチャンいねぇから二度寝してくる』…って」

 

 

 そう言いながら、レミエルは苦笑いを浮かべた。

 

 

「あははっ!パパはまだ寝てるかー、仕方ないねー」

 

 

 マコロンはカラカラと笑い声を上げる。

 

 

「ほら、学院に遅れちゃうよ?はやくたべなきゃ…ね?」

 

 

 レミエルは、そう言いながらマコロンの頭をなでた。

 

 

「〜〜♪そうだねー、早く食べちゃう!」

 

 

 マコロンは、足早に椅子に座り、朝ごはんを食べ始める。

 

 

「あむっむしゃガツッあむっむしゃガツッあむっむしゃガツッ」

 

「こらこら、ちゃんと落ち着いて食べるの」

 

「ふぁかった〜あふぃがふぉ〜」

 

「ほら、食べるかしゃべるかどっちかにする」

 

「むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ」

 

 

 これが、レーダス家の日常だ。

 まさに幸せな姉妹の典型のような二人だ。

 

 

「ほら、そろそろいくよ…?」

 

「うん!」

 

 

 食べ終わって、二人共準備をし、二人で手をつないで、微笑んだ。

 

 

「ねえねえ、今パパとママのところ行ったら、プロレスやってないかな?」

 

「早くいくよ」

 

「はーい♪」

 

 

 

 

 

──────

 

 アルザーノ帝国魔術学院。

アルザーノ帝国の人間でその名を知らぬ者はいないだろう。この時代からおよそ四百年前、時の王女アリシア三世の提唱によって巨額の国費を投じられて設立された国営の魔術師育成専門学校だ、今日、大陸でアルザーノ帝国が魔導大国としてその名を轟かせる基盤を作った学校であり、常に時代の最先端の魔術を学べる最高峰の学び舎として近隣諸国にも名高い学院、それがアルザーノ魔術学院だ。

 

そんな名高い学院が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今年で、この学院の営業許可を取り下げることになりました」

 

「「Wow………」」

 

 

 廃校の危機に直面していた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『聖杯戦争?どうでもいい。いちごタルトちょーだい?』

次の候補!フェイト×ロクアカ!

絵?フェイトかよ?

気にすんなぁ!


私は何をやっているんだろう…。

書類をトントンと叩きながら、その女性はため息をついた。

 

「……」

 

青髪で少し髪がボサボサなその女性は、書類を机の引き出しにしまった後、アホ毛をぴょこぴょこと動かしながら職員室を去ろうとする。

 

「あ、お疲れ様です」

 

「……ん、お疲れ様です」

 

青髪の女性はそう言いながら手をフリフリと振って、職員室を後にする。

そのあとその女性は更衣室に入り、黒をベースにした奇妙なコートを羽織って荷物を整える。

 

「……」

 

その女性は何処からかいちごタルトを取り出して、頬張り始めた。

 

 この青髪の女の名前は…理伊江 零(りいえ れい)は突如としてこの穗群原学園の教師に配属された謎の教師だ。

 性格は大人しく、面倒見が良い…。少し天然な所もあるが、それを含めて生徒にとても人気がある。

 

「零さん、そろそろ帰るよ?」

 

更衣室を出て、外の校門近くまで行くと、赤髪の少年が零を呼び止めた。

 彼の名は衛宮士郎。零の住んでいる家で一緒に暮らしている少年だ。

 

「…ん」

 

零は少し微笑んで、士郎の横に立つ。

 

「少し感心しない、今何時だと思ってる?」

 

 そういって零は周りを見渡す、周りはかなり暗く、生徒が下校していなければいけない時間なのは一目瞭然だった。

 

「あ~、ちょっと弓道部の手伝い」

 

「…また頼まれごと?」

 

零の見立てだが、この士郎という少年はかなり正義感が強いタイプの人間だ。苦笑いをしている四郎に、零はため息をついた。

 

「はあ…、はい。お疲れ様タルト」

 

そう言いながら、零は何処からかいちごタルトを取り出して、士郎の前に出した。

 

「…いつも思うんだけど、なんでいちごタルト」

 

「?」

 

「いや…『お前は何を言っているんだ?』って顔されても…まあいいや」

 

士郎は少しジト目になったが、すぐにいちごタルトを手に取り、頬張り始めた。

 

「ん、いちごタルトを食べる人に悪い人はいない」

 

「変わった価値観過ぎるな…」

 

その意味不明な零の発言に、士郎は苦笑いをした。

 

 

───

 

「それで零さん、どうだ?」

 

「何が?」

 

「記憶だよ、何か思い出せたか?」

 

その士郎の発言に、零は首を振る。

 

「そっか…」

 

「……士郎が気にすることじゃない」

 

肩を落とす士郎に、零は優しく背中をさすった。

 

 話に合った通り、この女性…理伊江 零(りいえ れい)は記憶喪失だ。士郎の話によると、数年前…突然家の前で倒れていて気を失っていたんだとか…。思い出そうとしても何か靄がかかったように思い出せないのだ。自分が何者か、そして何をしていたか。

 

「……」

 

零は士郎に微笑んだ後、ポケットから唯一の手がかりのカードを2枚、空に掲げる。

 

 その2枚のカードは…。

1枚は《愚者》、もう一枚は《女帝》と書かれている。

 

「記憶、戻るといいな」

 

「……ん」

 

零は小さな声で答えた。

 正直零は不安でいっぱいだ。自分が何者かわからないのが怖いし、早く記憶を戻さなければ、居候させてもらっている衛宮に申し訳が立たないから、その焦りもある。

 

「どんなことでも俺は手伝う。いつでも頼ってくれよ?」

 

 

「…ありがと」

 

零はそう呟いた。

 不安はいっぱいだが、この少年といれば何とかなる気がする…、そう信じている。

 

「今日は、私の食事当番、だったね。リクエストある?」

 

「あ~、じゃあいちごタルト以外で」

 

「え?」

 

「だって、普通に夕食でも『はい、いちごタルトおたべ?』って言ってきそうだし」

 

「…士郎、私のことなんだと思ってるの?」

 

士郎とそんなくだらない話をしていた…、その時──。

 

 

ヒュッッ…。

 

「…?」

 

「ん?どうした?零さん」

 

校舎の裏側から、風を切る音が聞こえた。

そしてその後、何か戦っているような音が聞こえる…。おそらく音からして剣と槍、その二つがかち合っているような……

 

 

……いや、待てそもそも──。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「…何の音だ?」

 

士郎もこの異常な音に気づいたようだ、じっと音のする所を見つめている。

 

「…ちょっと行ってくる、先帰ってて」

 

「あ…、俺も行く!」

 

零が足早に校舎の裏に足を運び始めると、士郎も零を追ってついてくる。

 

(嫌な予感がする)

 

零のこの予感に確証はない。しかし見過ごしたらとんでもないことになる気がする…、危なくなったら士郎だけでも逃がせばいい。

 

 

 

──────

 

「…っ」

 

息を殺して音の原因を見ると、零の予想道理のことが行われていた。

 ()()()()()()()青い服の槍を持った男、そして赤い服の二刀流で剣を持つ男が殺りあっている。

素人でもわかる、この二人かなりの手練れだ。隣を見ると士郎がかなりおびえてしまっているのがわかる。

 

(…どうする?どうすればいい)

 

反対に零はかなり冷静だった、零自身も不思議だが、この状況にほとんど動揺していない。

まるでこのような光景を()()()()()()()()()()()冷静だった。

 

「…士郎、落ち着いてこの場から逃げ──」

 

危ないことを察知し、零が士郎をこの場から逃がそうとした…その時。

 

パキッ

 

士郎が小枝を踏んでしまった。

 

「っ!!」

 

ギロッとその音に反応して、青い服の男がこちらを睨んでくる──まずい!!

 

「士郎!!逃げて!!!」

 

零はいつもは叫ばないが、今だけは無我夢中で叫び声をあげて、四郎の背中を押した。

 

「──っ!!!零さん!!!」

 

「大丈夫!!!すぐ行く!!」

 

そう言葉を発した直後──、零の首に目掛けて槍が容赦なく突き殺そうと襲ってくる。

 

「っ!!!」

 

零はどうにか槍の刃がないところを掴み、その槍を制止させる。

 

「ほう、姉ちゃんやるな」

 

そう言いながら青い服の男は槍をもっと押してきた。

 

(…っ!!なんて力)

 

抵抗も空しく、零は槍を放すと同時に2、3歩下がってから尻もちをついた。

 

「──零さん!!!」

 

士郎が尻もちをついた零に向かって悲痛な声を上げる。

 

「っさっさといけ!!!」

 

「だ、だけど!!」

 

「士郎がいても邪魔なだけ!!零先生に任せなさいっ!」

 

そう言いながら零はグッとサムズアップした。

そのサムズアップを見た直後、士郎は走って逃げてくれた。

 

「先生としてのプライドって奴かい?泣けるねぇ~」

 

そう言って茶化す青い服の男に少しばかり怒りを覚えた。

 

「…さっさと殺しに来い青い服、あれは見られたらまずい物、なんでしょ?」

 

そう言いながら零は、見下すように青い男をにらみつけた。

 

 

 

 

 

─────

 

「っ!!」

 

零は逃げた、必死に逃げた。学園の中に逃げて、ロッカーを倒したり、本を投げて応戦したが──。

 

「ふっ」

 

ことごとく避けられ、障害にはなりえていない。

 

(…落ち着け…落ち着け)

 

この状況でどうしたらいい?どうしたら…、どうしたらいいの…。

 いつ殺されるかわからない。震える手を抑えながら零は逃げ続けるが──。

 

ついに教室へと逃げ込んでしまった。

 

「くっ…!!!」

 

行き止まりだ、しかもここは4階なので窓から逃げることもできない。

 

「チェックメイト…だな」

 

そう言って青服の男が教室に入ってくる。

 

「悪いな姉ちゃん、アンタに恨みはないが…あれを見られたからには生かして返すわけにはいかないんだ」

 

そう言って青服の男は槍をもう一度構えた。

 

どうする、どうする──

 

どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする。

 

「あ…あ…」

 

どれだけ考えても、この状況を打破できるやり方が思い浮かばない──ダメだ。

 

「じゃあな」

 

グサッ!!

 

突如──。

 零の腹部に激痛が走る、震えながら零は腹部を見ると……そこには槍が突き刺さっていて血があふれ出している自分の腹部があった。

 

「あ……ぅ…」

 

零は力なくその場に倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 

─────

 

『やあ。死んでしまうとは情けない』

 

 真っ白な空間、目の前にはどこか見覚えのある女性が立っていた。

その女性は自分と同じ青い髪を、頭の後ろでまとめて垂らしてる。背中にまとっている変な模様の入ったマント。腰には十架型(クロスヒルト)の柄を設えた片手半剣(バスターソード)を吊っている。

 

「だ…れ?」

 

『ああ、僕は ひめ ただのひめだよ?』

 

そう言いながら、目の前の女性は微笑んだ。ひめ?一体何の冗談?

 

「ここ…は?」

 

『ここは君の心の中の世界。君の本当の記憶が封印されている場所』

 

そう言いながらそのひめと名乗る女性は零に近づいてきた。

 

『僕のことはどうでもいい、実際重要じゃない』

 

ため息をついた後、ひめは話を続けた。

 

『さっき、君はどう思った?どう感じた?』

 

「……」

 

認めない…認めたくない、この感情を…認めてなるものか。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()認めるわけにはいかない。

 

「どうも…思ってない!」

 

零は声を震わせながら、そう断言した。

 

『そうかい、まあいいさ。いつまでその拒否反応を続けるか…、苦しいが見届けよう』

 

そういって、その女性は床に──

 

ぐさっ!

 

と鈍い音を立てながら、片手半剣(バスターソード)を刺してそのままグイッと零のほうに向けた。

 

『この剣には、君の一部の記憶が入っている…あの少年を助けたいんだろう?』

 

「…」

 

そうだ…。

ここで道草を食っている暇はない。士郎が危ない、早くいかないと…早く助けないと……

 

 

 

───瞬間、もう一度腹部に痛みが走った。

血は出ていないが、そこにはひめの手によって、片手半剣(バスターソード)が零の腹部に刺さっていた。

 

「あ……が…」

 

『さあ、目覚めるんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────

 

零が起き上がると、そこは教室だった。どうやら一命は取り留めたらしい。

 

「……」

 

 虚ろな顔の零は一度、腹部を触った後、手を前に出して…何かの詠唱をし始める。

 

「《万象に希う・我が腕手に・剛毅なる刃を》」

 

 

ドンっ!!

 

 

 

零が詠唱した後、辺り一帯に紫電が走る。

 

そして、次の瞬間。

 

零の手にかなり大きな大剣が生成された。

これこそが、この零という者の本当の記憶。

 リィエル=レイフォードの十八番──

十字架型の大剣(クロス・クレイモア)である。

 

「……士郎、今行くよ《我・秘めたる力を・解放せん》」

 

次に零が呟くと、零は恐ろしい速度で移動し、教室を後にした───。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アンケート

エルレイ「アンケート。わーい」

エルレイ「わーい」

エルレイ「わーい」

エルレイ「わーい」

エルレイ「わーい」

エルレイ「わーい」

エルレイ「わーい」

 

エザリー「うるさいよ?」

 

エルレイ「ひどい」

 

エザリー「と言うわけで、今日からアンケートを開始します。どれの続きが見たいか投票をお願いします」

 

エルレイ「ん。そういえば。もうこっちは更新しないの?」

 

エザリー「ううん?そんなことないよ?アンケート結果は報告するし、ある人とのコラボもまだ残ってるしね?」

 

エルレイ「そだね」

 

エルレイ「あ。またフィーちゃんとコラボしようぜ」

 

エザリー「おいこら。何回やるねん。アステカさんにドン引きされるよ」

 

エルレイ「だめ?」

 

エザリー「そういうことじゃないけど…、てっ話をそらさない!」

 

エルレイ「ん…。あ、そういえば。前に日間ランキング入ったよ」

エルレイ「わーい」

エルレイ「わーい」

エルレイ「わーい」

エルレイ「わーい」

エルレイ「わーい」

エルレイ「わーい」

 

エザリー「なんで今日そんなにテンション高いの?!」

 

エルレイ「ん、戦極ドライバーのCSM」

 

エザリー「作品にいちっっっミリもカンケーないじゃん!!」

 

エルレイ「ん、そうだね」

 

エザリー「はぁ……」

 

エルレイ「ま、そういう訳で、おやすみな…」

 

ロクサス「おいこらぁ────っ!!!!」  

 

エルレイ「ほ?」

 

ロクサス「とりあえずよ?集団コラボ書こうぜ?話はどう考えてもそれからだろ?」

 

エザリー「そ、そうですよね……。まだあれ全部投稿できてませんからね……」

 

エルレイ「皆、出してくれる。私、出さなくていい。いえあ」

 

シュウ「ちゃんと書きなよ?」

 

エルレイ「ん」

 

ミアル「あのコラボは楽しかったけど。いかんせんグダグダで長くなりすぎちゃったよね」

 

エルレイ「ん。反省。次回は気をつける」

 

シュウ「……え?次回もやるの?」

 

エルレイ「ライ君…いなかったし」

 

ロクサス「小説自体消えてるんだぜライ君」

 

エルレイ「復活求む、でなければ個人的にロクアカ×仮面ライダー書く」

 

シュウ「新手の脅しかな?」

 

エルレイ「とりま、皆アンケートよろしくねー」

 

ミアル「あ、すっかり忘れてた」

 

エザリー「忘れないでくださいよ…。これじゃ私達が騒いでただけじゃないですか……」

 

 

──────

────

──

 

はい、茶番はこれまでエザリーです。

と言うわけでアンケートを実施させて頂きます。お暇であれば投票して頂けると幸いです。一番投票されたものを優先的に投稿しようと思いますので、よろしくお願いします。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アンケート結果

エルレイ「やっほ。おひさ?エルレイ先生だよ」

 

エザリー「おそい、圧倒的に遅い。アンケート発表おそすぎる」

 

エルレイ「ひどい」

 

エザリー「もうっ、ほんとに待たせすぎ!」

 

エルレイ「ごめんね?じゃ、早速発表」

 

 

────

1位

 

 

聖杯?どうでもいい、いちごタルトちょーだい?

 

https://syosetu.org/novel/223348/

 

 

2位

 

愚者と白猫の子は化け猫姉妹!?

 

https://syosetu.org/novel/234349/

 

 

───

 

エルレイ「ぶっちゃけこの2つ、ダントツ」

 

エザリー「特にフェイトのほうね。【あれ、これロクアカの二次創作…?】って何度も思ったもんフェイト人気凄い」

 

エルレイ「でも、他の2つも票入れてくれた人いるし、いつかちゃんと書きたいね」

 

エザリー「だね。さて、主人公たちに宣伝してもらいましょうか」

 

 

 

─────

 

零「こんにちは、私は零。訳があり学校の教師をしている者」

 

士郎「えと……士郎です」

 

士郎「って、何話せばいいんだ?ここ」

 

零「強いて言うなら、この作品見る暇あったら別の作品見ろ?」

 

士郎「いやいや……。零さんフェイトシリーズの小説ほとんど見てないじゃん」

 

零「そりゃね…。そもそも、ぶっちゃけ…最近フェイト見始めたばっかだし…」

 

士郎「ま、まぁ。そんなこんなで、色々頑張るしかないか。

月、水、金に投稿してるから。応援してくれると嬉しい」

 

零「スバルに会いたい【戻ってきたスバルがクリプターになる話。】みんな見よう」

 

士郎「多分ほとんどのフェイトファン知ってると思うぞその作品?!てかなんで宣伝した?!」

 

零「宣伝ではない、拡散。ねえねのマネ」

 

士郎「ねえねって誰?」

 

零「忘れた」

 

 

 

 

────

 

 問題です。

 大天使、レミエル=レーダスの妹にして、スラム生まれの超絶美少女は、一体誰でしょう?

 

 

マコロン「それは、私です!」

 

レミエル「え、えと……こんにち…は」

 

マコロン「我が名はマコロン!圧倒的美少女にして!さいきょーの美女」

 

レミエル「えと…美女と美少女て…、ほぼ意味同じだよ?」

 

マコロン「ホントだ!」

 

レミエル「ほら…宣伝」

 

マコロン「えー。でもみんな今某鬼滅の刃でいそがしいんでしょ?私好きな作者なんて最近RTA始めたし!」

 

レミエル「ま、まぁまぁ」

 

マコロン「でも!暇があったら見てねー!」

 

レミエル「えっと…基本的に火、木、土。に投稿します」

 

マコロン「待っててねー!」

 

────

 

エルレイ「というわけで、よろ」

 

エザリー「コラボ系もがんばって投稿しますので、お待ちいただければ幸いです」



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。