無能提督の苦悩 (EGOGAMI)
しおりを挟む

プロローグ 無能提督と有能秘書艦

提督
長いことぼっちだった為、わりかしネガティブ。提督業に関してはポンコツ。

霧島
メガネが似合う美人。有能。


小太りだが愛嬌があり慌てん坊。


ビールっ腹で威厳が台無し。

キャラ紹介は毎回書きますが本編とはほぼほぼ無関係です。


1月31日 14:23 執務室

 

「こーゆー時ぐらいだよね、俺のスタンドが輝く時ってさァ」

 

お湯の入った290mlのペットボトルを左手で握り締め冬の寒さを実感しながらもう一方の手でペンを走らす。

 

提督、俺のスタンド、アクアスペースは ”閉ざされた空間” を ”液体” で満たす能力。魚人の様な見た目のスタンドで近距離パワー型。

 

ポ〇カポカレモン、俺の好きな飲み物が入ってたボトルという ”閉ざされた空間” にお湯という ”液体” で満たし其れを握り締め暖をとっていた。

 

決して執務室が寒かった訳では無い、暖房、ヒーターは元気良く動いていた。それでも手の先や足の先は冷えるというものだ。

 

「提督の能力は底々...いえ、かなり強い能力だと思います。深海棲艦の艦載機を叩き落としたのですから。というか無駄口叩いてないで早く書類片付けて下さい。」

 

俺の何気ない一言に割と棘のある言葉で返してくるこのメガネ美女、彼女は人間ではない。艦娘と呼ばれている。

 

今日の秘書艦、金剛型高速戦艦四番艦 霧島である。

 

彼女は本当に有能です、俺が必要か疑いたくなる位には。

 

◆ ◇ ◇

 

1月15日 17:34 自宅

 

具体的な年齢は覚えてないが、俺は幼少期から変なものが見えていた。手のひらサイズのふよふよ浮いてる小人。

そして四六時中傍で棒立ちしている魚人の様な亡霊。

 

当時の俺は皆も見えていると勘違いしそれを話してはキモがられたり、ヤバい奴だと距離を置かれていた。

 

こんなヤベぇ奴に友達なんているはずも無く、働きたくないという思いだけで進学した美容専門学校から帰り(ぼっち)、我が愛しのマイホームに着くと仕事に行ってる筈の両親が大粒の汗を垂らしたがら俺に叫び散らかした。

 

「あ、あんた向けに手紙が来てるわよ!」

 

母が慌てて詰め寄る。

だがそんな筈はない、小中高友達0人の俺にLINEならまだしも手紙なんて来る筈がない。

どうせセールスか不幸の手紙だろう。

 

「し、しかも日本国海軍総司令官及び元帥から!あ、あんた何しでかしたのよ?!」

 

知らない。そんな長い名前の奴なんか知らない。というか知りたくない。

 

「良いから早く中身読んでみなさい!ど、どうしよう、あなた...」

 

親父は至って冷静である。

あぐらをかき、腕組みをして静かに口を開く。

 

「兎に角、落ち着きなさい。そしてバカ息子、お前も早く中身を読まんか」

 

そんな強く言わなくてもいいだろうに、、、

 

「えー、貴殿を鎮守府の臨時提督に任命す。明日の未明迎えに参上致す。ほーん、提督ねぇ...」

 

手紙を丁寧に折り畳み其れが入っていたであろう封筒に入れ丁寧にゴミ箱に放り込んだ。

俺は何も見なかった事にした。これで良し。

 

「何してんの?!あんた馬鹿じゃあいの?!」

 

俺が丁寧に捨てた手紙を慌てて母が拾い上げる。というか息子に向かって馬鹿は無いだろう。馬鹿は。

 

「急いで荷物を纏めなさい。」

 

親父は冷静を装っているつもりだろうが禿げ上がった額が汗まみれなことバレるからな。

 

いや、荷物を纏めって...俺が提督?海軍?。何かの冗談だろ?そんな今時徴兵制度紛いなのなんて御免だ。

 

「じゃあなァ!暫くしたら帰ってくるぜェ!誰か来たら家出したとでも言っておいてくれぃ!」

 

冗談だとは思いつつも両親の慌てっぷりに万が一の可能性を考慮する。

まさかって感じだが、本当かもしれない。俺は逃げるように自分の車に乗り近くのネカフェに急いだ。受付をし個室に入り暫く漫画を読んでいたら段々と瞼が落ちてきた。

流石に夜通し車で逃げ続ける様な勇気は持ち合わせてない。

たまには自分の布団以外で寝るのも悪くはないな...

 

◇ ◆ ◇

 

1月28日 14:28 執務室

 

「...iとく...tいとく!いい加減起きて下さい提督!」

 

あんな悪夢から起こしてくれた事は感謝するが寝ている人を起こすなんて殺生な事この上ない。

 

「...うぅ...我が眠りを妨げる者は愚か者は誰だぁ...ふぁあ...」

 

寝ぼけまなこを擦りながら硬い机から上体を起こす。

 

「愚か者は貴方です、提督。さぁ馬鹿な事言ってないでサッサと仕事して下さい、私が目を離すとすぐこうなるんですから」

 

傍らに立つ辛辣眼鏡(霧島)は肩をすくめ溜息をつく。

どうやら俺は此処に連れてこられた時の事を夢で見ていた様だ。

 

と言うか、揃いも揃って皆俺の事、馬鹿って言い過ぎじゃあない?

 




超能力を持つ提督と有能な艦娘たち...
パロネタ多め。クスッとでもして頂ければこれ幸いです。

主人公:野上彰成(ノガミアキナリ)
上(ジョウ)彰(ジョウ)で、一応ジョジョです。

空き時間などで気軽に読んで頂けるように1話1話を短めにしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#1 孫と爺の微笑ましい喧嘩

能督
やだ、提督サボりたい。てか、辞めたい。

元帥
何とか孫に元帥を継がせたい。


兄ウザい。でもいなくなるのはちょっと寂しい。



1月25日 10:14 元帥執務室

「てめぇジジイ!このヤロォォォォ!」

 

叫びながら力強く、だが扉を壊さない様に元帥がいる部屋の扉を開ける。

 

「ジジィと言うな、元帥と呼ばんか。この愚か者め」

 

綺麗な白髪に威厳のある髭、左胸には大量の勲章が飾られているこの元帥こそ何を隠そう、俺(能督)の祖父なのだ。

 

「ジジィはジジィだろォ?このクソジジィがッ!初めて顔合わせて”提督になってもらう”ってなんだよ!勘弁しろよォ!」

 

感情昂った俺に冷静に反論する。

 

「お前も久し振り会った祖父であり、元帥でもある儂に ”誰?このジジィ?” 等と抜かしおったでは無いか」

 

ジジィとの思い出なんざほとんどなかった。

だが、母方の祖母が大事にしていたモノクロの写真を見た事があった為、祖父に会った時に一目で理解した。

 

周りには沢山の妖精さん、そして偉そうに座っている元帥の後ろには体中に矢印が刻まれた亡霊、もといスタンドがこちらを睨んでいた。

 

「そうだ、要らん事思い付いた。」

 

このジジィは元帥だ、そして俺は提督。

詰りこのジジィを殴ることは上司を殴る事となる。

 

上司を殴る→解雇 。

 

カンペキな作戦っスね〜。

元帥が暫くの間、再起不能になるって事に目を瞑ればよォ。

 

「アクアスペーーーース!!!!」

 

自分のスタンドネームを叫びながらジジィに殴り掛かる。

 

「馬鹿者、お前の考えなんざスタンドを使わずとも簡単に読めるわい」

 

何故だ、ちっとも元帥の元にたどり着けない。元帥の執務室は確かに広いが、少し走ればジジィに辿り着く。

 

筈なのに。

 

「相手の力も理解せぬ者に勝利などない」

 

一々癪に障るジジィだな。

 

「・・・ッ、クソッ!」

 

前に進めないと理解した俺は左手を床に付け弾く様に元帥の右に飛ぶ、手と床の間の閉ざされた空間(スペース)に液体窒素を生成する。

冷たい様な熱い様な痛みを伴う。液体窒素は常温で白色の煙を出す、簡単に言うとドライアイスなのだ。その煙で目くらまし位にでもなれば十分だった。

 

少しでも俺を見失えばA.スペースがジジィの右手を叩き折るだろう。ジジィの場所は解っている。

 

死ね!クソジジィ!心の中で叫びながら低姿勢からの右ストレートを繰り出す。

 

「だから読めていると言っただろう、人の話はちゃあんと聞けぃ」

 

液体窒素の煙が晴れると、そこにはA.スペースの渾身の右ストレートを片手で受け止めるジジィのスタンドが居た。

 

「おいおいおい、勘弁してよォ...」

 

こいつ軽々と防ぎやがった、と思わせる暇もくれず元帥のスタンドはA.スペースの右腕を持ち上げた。

つられて俺の体も持ち上がる。

 

だったらよォ....

 

「っしゃオラァァァアアア!!!!!」

 

両足で元帥の顔めがけ、ラッシュをかける。

持ち上げられてるなら俺の両足はクソジジィ(元帥)の目の前だ。

 

殺さないでやろうと思っていたが、そんな手加減は無用だったようだ。

 

◆ ◇ ◇

 

1月25日 10:16 元帥執務室

 

おかしい、やはりおかしい。俺は何故壁に叩き付けられ、陸に打ち上げられた魚の様にもがき苦しんでいるのだろうか。

 

「ぅおぇっ...ぁがぁっ...」

 

コヒュー コヒューと情けない音を出しているのは俺の口だった。

 

「愚かな孫に1つ教えてやろう。儂のスタンド”アローズインハー”は少し先の未来を予見し、触れた相手を任意の方向に飛ばす能力だ。」

 

蹲る俺を見下しながらジジィは淡々と喋る。

ホント癪に障るジジィだな。

 

「...ったくよォ...勘...弁...しろよォ...」

 

完膚無きまでボコられ意識が遠のく。

 

扉が開いたと思ったら、程なくして可愛いらしい声がする。

 

「提督!提督!大丈夫ですか?! しっかりして下さい!提督!」

 

誰だ、俺を提督とか呼ぶ奴は。俺は提督業なんかしねぇ。文句を言ってやりたかったが、顔を見るまでもなく意識を失った。

 

◇ ◆ ◇

 

1月25日 19:38 自宅

 

部活が終わり、友達と喋りながら家に帰ると学校から自宅までの30分などあっという間だ。

 

そしていつもの通りに玄関を開け、家族がいるリビングに、ただいまと呟き、兄ちゃんに「今日も遅かったなぁ、彼氏でもできたのかァ?」

などと茶化されながら荷物を下ろす。

 

そんな日常が今日も来ると思っていた。

兄ちゃんが居ない。どうせ私を驚かす為に隠れているのだろう。

 

居ない、いくら探しても居ない。

母に 何うろちょろしてるの? と聞かれ 兄ちゃんが何処に居るのか尋ねる。

 

「兄ちゃんはね、お国の為に海軍に行ったのよ...暫くは帰ってこないって...」

 

母は俯き、静かに答える。

 

お国?海軍?帰ってこない?訳が分からない。頭が真っ白になった。あの事なかれ主義のサボり魔が国の為に海軍へ?

 

そんな訳がない、誰かが無理矢理連れて行ったに違いない。兄ちゃんは私が助けなきゃ。

 

兄ちゃんは私が居ないとダメなんだから。




stand name:アクア・スペース (A.スペース)
stand master:野上彰成(能督)
stand spec
パワー:B
スピード:A
射程距離:C
持続力:D
精密動作性:A
成長性:C
魚人の様な見た目をした近距離パワー型スタンド。閉ざされた空間を液体で満たす能力。

名前の由来
アクア(液体)スペース(空間)
捻り一切無し。


てか、ジョジョと艦これって詰め込みすぎじゃあない?大丈夫?みんなついて来れてる?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#2 能督と金剛四姉妹

能督
肩下まで伸びた黒髪、赤のメッシュが特徴のロン毛提督。

金剛
逃げないでクダサーイ!提督LOVE勢 筆頭。

比叡
紛うことなきお姉様LOVE勢。ガチレズ。

榛名
能督の幼少期に1度あっておりその事を覚えてない能督に対し落胆気味。

霧島
俺が提督なのか疑ってる。仕方ないね。



1月26日 11:23 医務室

 

見慣れない白い天井。身体中痛むが何とか上体を起こす。

 

白いベッド、薄水色のカーテン、薬品などが並ぶ棚、ペン立てに入れられた複数の体温計。松葉杖や車椅子。

 

そして俺が寝ていたベッドに上体を預け眠る一人の女の子。

 

間違いない、俺はクソジジィ(元帥)に啖呵を切り返り討ちされ、この医務室に搬送後、この女の子に看病されていたのだろう。

 

薄緑色の患者服を脱ぐと胸元から下腹部にかけて包帯でグルグル巻きにされていた。壁に叩きつけられた時に負傷したのか。

 

「あー...マジ痛てぇ...」

 

あんのクソジジイ、全力で孫をボコリやがって。もうちょっと手加減してくれてもいいだろう。

 

女の子を起こさない様にゆっくりとベッドから降りようとしたが、

 

「ん、ぅん〜...あ、アキくん!やっと目が覚めたのね!」

 

思い出した。俺は幼少期、この女の子に会っている。というか此処に来た事がある。

 

◆ ◇ ◇

 

?月?日 08:16 自宅

 

妖精さんが見えると両親に伝えると慌てて何処かに電話をし、後日軍服を着た顔のシワが多い壮年男性が迎えに来た。

 

「初めまして、儂が君のおじいちゃんだよ」

 

男はぎこちない笑顔でそう言い放った。

それが僕とおじいちゃんのファーストコンタクトだった。

 

「突然だけどおじいちゃんとお出かけしようか?楽しい所に連れてって上げるよ」

 

僕は近所で知れ渡っている程のわんぱく少年だった。友達は居なかったけど。

だからこそ、楽しい所と聞いただけでワクワクし、二つ返事で爺ちゃんと一緒に車に乗り込んだ。

とても長い間、車に揺られていたがいつの間に寝てしまい気がついた時には港みたいな所に着いていた。

 

 

当時の僕、いや俺は理解出来ていなかったが、そこは間違い無く鎮守府だった。

 

 

「じゃあ、じいちゃんはちょっとだけお仕事して来るから、この娘とまわってらっしゃい」

 

おじいちゃんに紹介して貰ったそのお姉ちゃんは綺麗な長髪が特徴で巫女服の様な格好をした美人さんだった。

 

「初めまして。高速戦艦、榛名です。貴方が未来の提督なのね?よろしくお願いします」

 

そう言う彼女はとても朗らかな笑顔で微笑んでくれた。

コーソクセンカンとか、テートクとかよく分からなかったけど一緒に遊んでくれるなら何でも良かった。

 

「未来の提督さん、んー...長いね。アキナリ君だから・・・アキくんって呼ぶね!じゃあアキくん、迷子になっちゃいけないから手を繋いで一緒に回ろっか?」

 

多分だけど、僕の名前はおじいちゃんから聞いたんだろう。

榛名お姉ちゃんの手はとても優しく、そして暖かかった。

 

鎮守府内では沢山の妖精さんと触れ合ったりもした。

 

鎮守府を見て回っている途中で金色の何かの破片を見つけ、僕は妹のお土産にでも持って帰ろうと思い手を伸す。

 

「痛っ!」

 

榛名お姉ちゃんはどうしたの!と、慌てて膝をつき僕の手を覗く。僕の指から数滴出血してるのを見た途端、急いで僕を抱え医務室に走った。でも、いざ治療しようとした時には血が止まる所か何事もなかったかのように綺麗に治っていた。

 

 

 

 

・・・ そう、その日からだ、俺の近くに魚人の様な亡霊が見え始めたのは。

 

◇ ◆ ◇

 

1月26日 11:24 医務室

 

そうだ、何故今まで忘れていたのだろう。

俺は以前、此処に来た事がある。そしてこの喜々として俺の目覚めを喜ぶ女の子、彼女は金剛型高速戦艦三番艦 榛名だった。

 

「あ、アキくん久し振り!あ、今は提督って呼んだ方が良かったですか?」

 

幼少期に会った年下男子として接して良いのか、提督として接して良いのか分からなかったのだろう。喋り方がちぐはぐだ。

 

・・・にしてもだ、19歳にもなって”アキくん”は流石に恥ずかしい。

だが、提督業なんざしたくもない、やる気もない俺を”提督”等と呼ばれるなんて勘弁願いたい。

 

「アキくんも提督も止めてよ、榛名お姉ちゃ...榛名姉。俺はもう19だし、提督をするつもりなんて更々無いからね。そうだ悪いけど、ジg...元帥には辞めたと言っておいてくれない?」

 

まだ、身体中痛むがダラダラと寝ている間に色々と書類等の準備を強制されるかもしれない。兎に角この鎮守府からは一刻も早く逃げなくては。

 

「え?や、辞めるって。どうしてですか?! あぁ、そんなに無理して歩いたら転んじゃいますよ!」

 

榛名姉の心配を他所にヨタヨタと医務室の中を物色する。

 

「ごめんけど榛名姉、俺の服知らない?あと、杖とか有ると嬉しいんだけど」

 

流石に患者服の短パンに包帯の半裸状態で動き回るのは些か不便を伴うだろう。

少なくとも普通の服と歩行補助用の杖でもあれば鎮守府を出てタクシーか何かで街に行けるかもしれない。

 

「て、提督・・・これならありましたけど...」

 

榛名姉の手元にあったのは複数の勲章が飾られた白の軍服。正しく提督服であった。

 

「勘弁してよォ、これ着たらホントの提督じゃんよ。他になんか無いの?」

 

榛名姉は静かに首を横に振る。

仕方ない、勲章や飾緒を外しその飾りを榛名に預ける。尤も返して貰う事は金輪際無いだろうがな。ハハッ!(某ネズミ風)

 

そこら辺に有った松葉杖を拝借し(返すとは言ってない)医務室の扉を開けようと、スライド式のドアに手を伸ばす。が、俺の手がドアの指掛けに触れる前にガラガラと勢いよく開く。

 

「テートクが起きたってホントーデスか!?」

 

「ハァ...ハァ...姉様...廊下は走っちゃダメですよ...」

 

「やっと新しい提督が着任したのね...フゥ...」

 

勢いよく開いた扉から見えたのは巫女服の様な格好をした女の子、正しくは艦娘が3人。

長い綺麗な茶髪のシニヨンが可愛い元気な艦娘と、肩で息をする茶髪でショートヘアの艦娘、そしてメガネが似合う知的な艦娘が立ち塞がっていた。

 

勘弁してよォ、小中高ボッチだった俺が、3人同時に話し掛けられて対応出来るわけ無いに決まってんじゃん。

榛名姉は1対1で、且つ幼少期に遊んで貰った記憶が有るので何とか話せたが、ほぼ初対面の女の子3人から話し掛けられるなんてパニック必至である。

 

「あ、えっとぉ...その、あ、貴女達は..」

 

「Nice to meet you,テートク!英国で生まれた帰国子女の金剛デース。ヨロシクオネガイシマース!」

 

今し方走って来たであろうにロングヘアの艦娘は元気よく少し片言の日本語で自己紹介してくれた。

 

「ハァ、ハァ...金剛お姉さまの妹分、比叡です。ハァ...」

 

ショートヘアの比叡と名乗る艦娘はまだ息が整わない様だ。

 

「はじめまして、私、霧島です。」

 

メガネの艦娘は見た目に依らずもう息が落ち着いたらしい。

 

・・・にしてもだ、マズい。非常にマズい。

こんなにも早く艦娘達に見つかるとは。

他の艦娘にも見つかり俺が新任と提督と認められれば本当に逃げ場が無くなる。

取り敢えず、この4姉妹迄で情報を止めなければ。

 

だが、舐められてはいけない。

提督らしく・・・あ艦(あかん)、漢らしく堂々としなければ。

 

雀の涙程の勇気を振り絞り口を開く。

 

「い、良いですか、俺が此処に来て提督として働く事は他の娘には口外しないで下さい。まだ完全に決まった訳でも無いのに混乱させるのも申し訳無いですからね。」

 

3人もの美女に囲まれながら(榛名は少し後ろに控えている)噛まずに喋れた自分を褒めてやりたい。よく言えた俺。凄いぞ俺。ヨーシヨシヨシ。

 

「え?決まってないのデスか?」

 

確かに驚きを隠せないか。金剛姉が目を丸くする。

可愛い。

だが、すまんな。

こんなに素敵な娘を騙してまで提督なんてしたくないのだ。

 

「提督、先程辞めるって。辞めるって事はもう既に決まってるって事じゃあないのですか?」

 

榛名姉ぇぇええ!余計な事を言わんでくれぇぇええ!!

だが、ここで取り乱せば榛名の思う壷だ。(違います)

 

「え、えっと推薦されてるのを辞退、やめると言ってたのでしゅ...」

 

噛んだ。動揺したのバレた。絶対バレた。

榛名はキョトンとしてるし、比叡はフフって笑ってるの隠してるつもりかも知れないが思いっ切りバレてるからな。気付いてるからな。

霧島はちょっと呆れてるし。

金剛に関しては

 

「顔真っ赤のテートク so cuteデース!」

 

とか言いながら思いっ切り胸押し付けて抱き着いてるし。

恥ずかしからホントやめて。ホント。

俺は低身長でそれがコンプレックスだった。

異常な迄に小さいって程でも無いが4姉妹から見下ろされる位にはスモールボーイだ。(身長が)

うん、なんか腹立ってきたな。

 

「ぷはっ...こ、金剛姉恥ずかしからホントに勘弁して下しゃい」

 

2つの豊満な胸部装甲に顔を圧迫され上手く発音できない。

あと、めちゃ柔らかいし。

めちゃ匂いするし。

めちゃ心地いいし。

正直この瞬間がずっと続けば良いなぁ、とか思ったがそんな誘惑に負けそうな自分を叱責し金剛姉を突き放す。

うん、まぁパンピー(一般ピープル)が艦娘に力比べで勝てるわけないよね。

 

「テートク、なんで辞めたいんデスか?私、寂しくて泣いちゃうヨー」

 

女の子を泣かせるなんて「男のしてはいけない事ランキング」1位と言ってもいだろう。

だが、仕方が無いのだ。

 

「提督、下手な嘘は止めて下さい。元帥からの伝令で新任の提督が貴方で決定してる事は分かってますよ」

 

嗚呼・・・ヤバい、本気(ガチ)でヤバい。霧島姉には気付かれてるのか?

 

「それはホントーデスか?!じゃあ提督とお別れしなくて良いんデスネ!」

 

新しい玩具を与えられた子供の様な無邪気な反応を示した瞬間、腕の力が少し緩み俺はその隙を見逃さなかった。

 

隙あり!しゃがんで金剛姉の拘束を抜け出す。

悲鳴を上げる身体に鞭を打ちドアと反対の窓に向かい走り出す。運良く窓は空いていた。

 

奇声を上げながらA.スペースの力を借り飛び出す。

 

「俺は提督を辞めるぞ!ジ○ジ○ォォォオオオ!!」

 

だが、奮闘虚しく窓淵に足を引っ掛け盛大に転んでしまった。




stand name:アローズ・インハー(A.インハー)
stand master:猿渡芳一(元帥)
stand spec
パワーA
スピードA
射程距離D
持続力B
精密動作性B
成長性E
全身に矢印があしらわれた近距離パワー型の人型スタンド。
少し先の未来を見る(正確には数秒後に物が動く方向を矢印で知る事が出来る)能力と触れた物を任意の方向に飛ばす(動かす)能力。

名前の由来
洋楽 Arrows in her より

https://youtu.be/E6mBqvLJhKU

やっと本格的に艦娘が登場しました。
あと、元帥は能督が執務室に入る前に握手しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#3 ベッドの上の能督と五月蝿い爆督

能督
痛てぇ全身痛てぇ。痛いのは普通に苦手。隠れマゾ。

爆督
士官学校時代尋問の訓練を受けてるせいか痛みには強い。てか、全体的に身体が丈夫。決してマゾではない。



1月26日 11:43 医務室外中庭

 

派手にすっ転んだ。もう派手派手だ。(某音柱風)

とか言ってる場合じゃない。

 

「やだぁ、帰りたいぃ...帰ってダラダラゲームしたぃ...」

 

欲望を垂らしながら冷たい地面を這う。

 

もうね、心折れるよ。てか何処よ、何県よここ。どうやって帰るのよォ。

 

兎に角、海と反対の方に行かなくては。考えるのはそれからだ。

 

たが奮闘むなしく、程なくして追い付いた金剛に抱きかかえられ、今度は医務室のベッドで目を覚ますことになる。

 

拘束器具をつけられた状態で。

全く勘弁してよ。もう逃げないからさァ!(大嘘)

 

◆ ◇ ◇

 

1月26日 13:57 元帥執務室前

 

元帥直々の呼び出しなんざ滅多に無ェ。

俺は特に悪い事はしてねぇ筈だ。

と、いう事は指令でも有るんだろう。

どの様な重要任務なのだろうか。全く想像が付かん。

ノックを3回し。

 

「失礼しまぁっす!!階級中将ォォ!!加藤龍介ッ!只今ッ!参上致しましたァァァァ!!!!」

 

入り給え、と扉の向こうから重厚且つ威厳ある声色で入室の許可が降りる。

 

見事な装飾を施された重厚な扉を開けると俺の目標とする人が窓の方を向き、背中で手を組んでいる。

 

「早速だが、要件を伝える。この件は急を要するのでな。爆督、君にはある人物の無力化、及び拘束を頼みたい。」

 

爆督、元帥から付けられた二つ名の様なものだ。

俺のスタンド、ヴーレ・ヴー。手榴弾を降らせる黄色の雲を生成する事が出来る。

 

スタンドの能力から爆発物を司る提督、爆督という二つ名を元帥から頂いた。

 

「お言葉だが、この俺に人を殺せと!?」

 

「違う、殺すとは言ってない。それに人物と言ったのが間違いだったな」

 

ある1枚の写真を見せ小声で呟く。

 

「これがターゲットだ、彼女は人間の形をしているが人間では無い。詳細はこの書類に目を通してくれ」

 

数枚ほどの資料を渡され2つに折る。

 

「なにぶん 情報が足りないのでな、資料がそれだけしか無いのだ。悪いが頼んだよ」

 

窓の外を見ながら謝る元帥はどこか哀しいそうな表情をしていた。

 

「了解です!!全力で取り組ませて頂きまァす!!!」

 

一抹の不安はあるが元帥の言う事だ、間違いは無いのだろう。

 

「うむ、下がりたまえ。」

 

退室の許可が降り足早に扉へ向かう。

 

「失ッ礼ーしますッ!!!」

 

元帥の言葉をもう一度理解し、気を引き締め直す。憲兵や自衛隊、警察共を差し置いてこの俺だけに命令するという事は表立って動けないという事が伺える。

 

元帥の意向に背く気は更々無ェ。

 

だが、ハッキリ言って人の形をした....更には女性に暴力を振るうなんざ気が向かんったらありゃしねぇ。兎に角この資料読まなくてはな。

 

そんな事を考えてると漢とは思えねぇ様な、か細い声がする。

 

「え、えっとぉ...執務室から大声が聞こえましたが...あ、貴方は...」

 

「俺かッ!?俺の名は加藤龍介だッ!階級、中将ッ!! 今年で23になるぜッ!喧しくッ!漢らしくッ!凛々しくッ!が、信条でッ! 好物はハムだッ!最ッ高にロックだろぉぉぉおおお!!!」

 




stand name:ヴーレ・ヴー(V.ヴー)
stand master:加藤龍介(爆督)
stand spec
パワー A
スピード C
射程距離 V.ヴーは1〜2m、雲の射程距離は街一個分程度。
持続力 A
精密動作性 D
成長性 C

白い防護服を着た巨漢の様な人型スタンド。手榴弾を降らせる黄色の雲を生成する。

近距離パワー型だが、雲を遠くまで生成する事により遠距離にも対応可能。
V.ヴーを纏い防御も可能。

名前の由来
洋楽の Voulez-vousから

https://youtu.be/za05HBtGsgU


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#4 歓迎会に出たくない主役と逃がさない艦娘

能督
みんなでワイワイとか嫌い。

榛名
パーティとか積極的に参加する系艦娘。

大淀
大体司会を任される系艦娘。

長門
いつの間に幹事にされてる系艦娘。



1月28日 11:33 鎮守府1階廊下

 

「ねぇさぁ、やっぱり歓迎会なんてしなくて良くない?あくまで臨時だしさぁ...」

 

まるで足枷が付いた様な重い足取りで歓迎会の会場である中庭に向かう。

 

榛名姉とおててを繋いで。

 

俺が逃げ出さない様にだろう。

もうね、半ば諦めてるからね。

この状況他の艦娘が見たらなんて思うのかな?まぁ、上司(提督)部下(艦娘)じゃあないね。

どうせ姉と弟だろうね。

 

.....ハァ、身長ほしぃ.....

 

◆ ◇ ◇

 

1月28日 11:30 執務室

 

身体の傷が治る2日間、足枷(物理)をされた状態で金剛型4姉妹がずっと看病(監視)してくれた。その間に艦娘型録とやらで此処(鎮守府)駐在の艦娘の顔と名前などを叩き込まれた。

 

それから、さぁ本格的に仕事をしなきゃならなくなった。と思った矢先、大淀から歓迎会開催の報告があった。

 

大淀から歓迎会の話をされた瞬間に廊下に出て逃げようとしたら、恐らく待ち構えていたであろう長門に捕まった。

 

捕まった挙句、片手で持ち上げられたからね。

足、床に着いてなかったからね。

手、めちゃ痛かったからね。

 

あれ?何かこの状況、前にもあった気がするぞ?これがデジャブというものなのか。(違います)

 

大淀は執務室から小走りで長門に近寄り感謝を述べる。

 

「長門さん有難う御座います。危うく逃げられる所でした」

 

いや俺を持ち上げて会話すんな。

 

「この提督には首輪でもした方がいいんじゃあないか?」

 

長門姉が狂気じみた事を口走る。

 

不本意だけど仮にも提督だからね、俺。

 

「勘弁してよ長門姉、貴女が言うと冗談に聞こえないんだけどォ....」

 

「冗談では無いのだが」

 

それマジ?

 

「え?...ほ、本当に言ってるんです...か?」

 

ほら、大淀もちょっと引いてんじゃん。

ちょっと可哀想すぎるよ、俺。

 

「提督!歓迎会の準備が出来ました!さぁ一緒に行きましょう!」

 

榛名がたわわに実った2つの果実を大きく振りながら走ってくる。

 

「あのぉ...欠席とかって出来n...」

 

「だめです!」

「論外だ」

「有り得ません」

 

そんな同時に言わなくても良いじゃんかよォ。てか長門姉、早く下ろして。腕、超痛いから。

 

◇ ◆ ◇

 

1月28日 11:35 鎮守府1階廊下

 

「俺さ、未成年なのよォ」

 

「知ってます」

 

榛名姉は俺の手をしっかりと握り引っ張る様に歩く。

 

「お酒とか飲めないのよォ」

 

「ジュース等も用意してあります」

 

ニコニコはしている、俺も榛名も。

だが、俺の手を離す気は全く持ってないらしい。

 

「提督、もう諦めたらどうです?榛名もサポートしますので...」

 

そう言う榛名は何処か寂しそうだ。

何故そんなに俺に固執する?幼い頃に一緒に遊んだから?元帥の孫だから?

 

「次辞めたいとか言ったらみんなの前で ”アキくん” って呼びますからね」

 

「勘弁して下さい」

 

そんな茶番をしていると、後ろから元気な声が廊下に響く。

 

「て、提督が若返ってるっぽいー!」

 

元気な声で抜かした事を言う彼女は.....そう、確か夕立とかいったかな。

 

「いや、若返ってn...」

 

きっちり否定しようと振り向く頃には夕立、もとい ”狂犬” が俺に飛び掛っていた。

 

______

 

 

「...嗚呼ぁぁ...気持ち悪ぃぃ...勘弁してくれェ...」

 

気づいた時は狂犬に覆いかぶさられ、俺は顔面から倒れる衝撃を何とか両手で吸収した。

 

...ったく、いったいなぁ...と一言、言ってやろうと思う頃には既に肩甲骨辺り迄ある自慢の黒髪を噛み始めた。

 

「夕立さん、離れて下さいぃ....」

 

榛名は必死に俺から夕立を剥がそうとしてるが夕立はビクともしない。

夕立半端ないって、戦艦が駆逐艦に力負けする事なんてある?

そんなん出来んやろ、普通....

 

「そ、そうです!提督、彼女の事を ”ぽいぬ” と呼んでみて下さい!」

 

ん?どゆこと?ぽいぬって何?

いや、考えるのは後だ。兎に角髪を食べられる不快感から抜け出せるなら何でも良い。

 

「ぽいぬ!」

 

「ぽい!」

 

夕立はすぐさま上体を起こし俺の背中に

”お座り” している。

 

よぉし、ぽいぬと呼べばこの狂犬は言うことを聞くらしい。

 

「ぽいぬ!俺の上から降りなさい!」

 

ぽい!と返事(?)すると驚く程素直に俺から降りてくれた。

 

でも何故?Why?

 

「夕立さんは前任から ”ぽいぬ” と呼ばれていました。それで...」

 

そんな俺の心情を読んだ様に榛名が口を開く。榛名はエスパーか何かなの?

 

だが納得した。納得は全てに優先するからな。いや、スルーしようとしたが待てよ。艦娘をペット扱いして躾けるとかどんな変態だよ(誤解です)

今度会ったら説教の一つでもしてやろうか。

 

「よォし!ぽいぬ!歓迎会へと向かう俺に同行しろ!」

 

「ぽいっ!」

 

夕立はちゃあんとリードを握ってやれば言うことを聞く良い娘という事が分かった。

そして俺の後ろ姿は若かりし頃の前任者に瓜二つだったらしい。

 

でも、若返りはしないだろう。若返りは。

 

夕立の言動に首を傾げながら1歩、又1歩と歓迎会(行きたくないけど提督は強制参加)に向かうのであった。

 

__________

 

 

後から榛名から聞いた事だが、この鎮守府は以前、俺のジジィが提督を務めていたらしい。

それから大手柄を上げ元帥へと成り上がった為、俺が来るまでの2週間、提督が居ない鎮守府、不在鎮守府となっていたらしい。

 

いや、ジジィかよ。艦娘をペット扱いしてる変態は....(誤解です)

 




ぽいぬこと、夕立の登場です。

改二のぴょこぴょこした耳毛好き。
てか白露型 総じて好き。まだ全員お迎え出来てないけど。

誤字点検してくれるリア友、マジ感謝やで。ほんま。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#5 新任提督と歓迎会(強制参加)


能督
後ろ髪が未だべたべたで気持ち悪い。

大淀
また提督が逃げないか少し心配。

夕立
新しい提督と前の提督の髪、同じ味らしい。

長門
提督絶対捕まえるウーマン。



1月28日 11:40 歓迎会会場中庭

 

「えーでは新任提督、自己紹介と乾杯の音頭をお願いします」

 

司会を務める大淀の背中を舞台裏で眺める。

 

嫌だぁ、あんなに沢山のヒト(艦娘)の前で喋るとか勘弁だよぉほんと。

 

でもなぁ、今し方長門姉が

 

「いいか、夕立。提督が逃げ出そうとしたら飛び掛かれ。私が良しと言ったらこの提督は夕立の好きにしてくれて構わん」

 

とかわざわざ俺に聞こえるように言ってたし。

夕立、目ぇキラキラさせてこっち向いてたいし。そんな事言われちゃあ間違っても逃げないよ。

 

大きく溜息をつくとビッグ7の鋭い視線が背中に突き刺さる。視線、鋭すぎて貫通しそうだよ。

 

諦めて割れんばかりの拍手に包まれながら階段を上る。

 

一応マイクの電源が入っているか確認する。

 

おk、ついてるね。

 

「え、えーと...あ、あのー...こ、この度は、新しく提督になった、ジャナカッタ。任命されt...されました、能悩提督...皆には略して能督って呼ばれてます...あ、えっとぉ宜しくお願いしましゅ...」

 

また噛んだ。吃った。仕方ないじゃん!今まで友達なんて居なかったしコミュ障舐めんなよ!

 

え?元帥には偉そうな態度取ってたって?そりゃ身内だからねェ!

 

100人近くの美女、美少女に見られながら自己紹介とかどんな拷問だよ。

噛んだし、もうこれ公開処刑だよ。

 

嗚呼・・・帰りたい、逃げたい、夕日に向かって走り出したい(まだ昼だけど)

でもなぁ、逃げたりでもしたら夕立の

”髪の毛はむはむの刑” だしな。

 

てか、自己紹介終わったよ!大淀早く次のプログラム行ってよ!

 

アイコンタクトで大淀姉にヘルプを求める。

 

「提督、乾杯の音頭もお願いします」

 

そうだった!忘れてた!ハズい!顔熱い!

 

「で、では皆さん...かんp...」

 

「あ!あれ見てッ!」

 

何あの娘?確か吹雪ちゃんとかいったっけ。

乾杯の邪魔をする様な娘じゃない筈だけど。

仕方無い、ちょっとだけ付き合ってあげますか。

 

「えー?どれどr...」

 

わざとらしくゆっくりと振り向くとなんか黒い飛行物体が俺目掛けて勢い良く飛んで来ている。

 

・・・ヤバい。

 

何か本能の様な物が俺に全力で逃げろと叫ぶ。だが、足が動かない。漫画やアニメで逃げない奴とか居たけどやっとそんな奴の気持ちが理解出来た。

そして理解したくなかった。

 

この黒い飛行物体、病室のベッドで榛名から教わった気がする。確か深海棲艦とやらの艦載機?だったけか。

まぁ詰まる所、敵らしい。あれに当たればパンピーの俺は恐らく、いや確実に

 

死ぬ

 

まだ見てない漫画やアニメ、プレイしてないゲームだって山ほど有るのに。突然提督にされて無理やり鎮守府に連れてこられて1週間経つ前に敵機の襲撃で死亡。なんて詰まらない人生なんだろう。

いや、死んでたまるか。

 

「アクアスペーーース!!!」

 

勘弁しろよ、ダラダラと生きていたい俺にとってお前ら(深海棲艦)はよォ...

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔.....ッ邪魔ァァァアアア!!!」

 

全身全霊で拳を叩き込む。

A.スペースの渾身のラッシュを喰らい、ぐちゃぐちゃになった飛行物体は俺に辿り着く前に黒煙を上げ舞台脇へ墜落する。

 

そうだ、俺にはコイツ(A.スペース)がいる。ジジィにボコられて自信を無くしていたが、俺のスタンドはそこそこ...いいや、かーなーり強い!

 

「フゥ...」

 

無傷で敵機を撃墜し安堵に胸をなで下ろす。

あ!そーいや艦娘達は!?

 

「「「・・・」」」

 

背景にシーン...とでも書かれたように静まり返えり、皆ポカンと口を開けて棒立ちしている。

 

狂犬(夕立)も例に漏れず。

夕立が棒立...フフッ

 

「あ、あのー...皆さん?お、お怪我は無い...ですか?」

 

俺の気遣いに誰も反応してくれない。なんか凹む。

時間が止まったように静かな会場で俺に限り限り聞こえる声量で榛名がぽつりと呟く。

 

「提督...い、今のって...あくあすぺーすって...え?」

 

おっとぉ、コイツ(A.スペース)の事、艦娘達にはまだ通達されてないのかァ?

 




なるべく俺TUEEEEみたいな感じにはしたくないです。ハイ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#6 未確認飛行物体とアクアスペース


能督
酒、煙草はしないイイコチャン。

大淀
隠れ酒豪。ほんと酒豪ぃ(しゅごい)

白露
ゲームで協力プレイする時は必ずPlayer1。

夕張
メロンちゃんと呼ばれるの、ちょっと嬉しい。



1月28日 11:44 鎮守府内ホール

 

俺が敵機を撃墜した後、第一艦隊?とやらが周囲の警戒に行ってくれたらしい。それから中庭で用意していたものを鎮守府内のホールに移し改めて乾杯する事となった。

 

「オオヨド=サン、ホントーニ 中止 ニ シナクテ ヨカッタノ?」

 

ついロボットの様にカタコトになる。そりゃあ仕方無いよね。

 

「第一艦隊の方々が偵察に行かれたので大丈夫です。早く乾杯の音頭を」

 

ええー敵の襲撃だよ?中止しようよォ。でもわざわざホールに移してまで歓迎会をしてくれるっていうのなら仕方ない。

 

「第一艦隊さん達が偵察に行ってくれてるみたいなので大丈夫らしいです...あ、改めましてカンパーィ...」

 

俺の情けない掛け声に合わせ艦娘達もカンパーイと仲良しグループごとでグラスを鳴らす。

 

しめしめ、皆が騒いでる今が逃げるチャンスだぜェ...グへへ、完璧だァ。

_________

 

そう思ってた時期が私にもありました。

 

目をキラキラさせたちっちゃい娘、駆逐艦って言ったかな。を筆頭に沢山の艦娘が俺の元へ駆け寄る。元ボッチのコミュ障を囲むや否や

 

「さっきのはどうやったの!?」

「誰よ!新任提督は頼りないって言ったのは!?」

「提督!あくあすぺーすって一体全体なんですか!?」

「さっすがMy Darling !惚れ惚れするネー!」

 

勘弁してよ、一度に話し掛けんでくれ。そんな一遍に話し掛けられても聞き取れないし返事も出来ん、何より俺は聖徳太子じゃあないからさァ。誰が話したかか分からんよ。いや、最後のは金剛姉だ。

まぁね、さっきのアレ見せつけからたらね、そりゃあ気になるよねェ...

 

「皆さん!落ち着いて下さい!」

 

大淀姉がマイクを使い皆を鎮める。

大淀姉、マジgood job !

 

「質問は挙手制にします、1人につき1個です。提督に質問がある人は挙手して下さい」

 

一斉に手が上がる。どーすりゃいいの?

 

「では提督、質問者は提督が指名して下さい」

 

いや丸投げですか、そーですか。皆の名前まだ全員覚えてないんだけどォ。療養中に教えられたけど、そんなすぐには覚えられないよ。無能で悪かったねぇ、無能で!・・・なんか腹立ってきた。

 

「あー、じゃあ白露ちゃん...だっけ?」

 

ごめんね、うろ覚えで。頭真っ白なのよ。

 

「私が1番?やった! じゃあじゃあさ、さっきのってどーやったの? 何か ”アクア・スペース” とか言ってたけど!」

 

ぴょんぴょん跳ねながら喜びを表現する。

可愛い。

えーと何処から説明しようか。全部説明するの面倒いしテキトーに話捏ち上げるか。

 

「いやーなんか亡霊?守護霊?みたいなのが俺を助けてくれました。そんな感じです、ハイ」

 

一刻も早くこんなトコからオサラバしたいからな、詳しく話す必要もないか。てか近いよ。

 

「その守護霊はまだ此処にいるんですか?」

 

この中で誰か見えないか試してみるか。

A.スペースを出してみるが誰も反応しない。

 

「誰も...見えないっぽいッスねェ...」

 

 

スタンドのルール その1

スタンドはスタンド使いじゃあないと視認できない。

 

そのルールは艦娘にも例外なく適応されるらしい。

 

「では挙手をお願いします」

 

俯く俺を他所に大淀姉は次に進め、その合図と共に再び一斉に手が上がる。辺りを見回すと数ヶ月前の俺と同じ髪色のポニテ少女に目がいった。

 

「じゃあ...メロンちゃん...だっけ?」

 

渾名(あだな)が特徴的だったので覚えていた。ホントの名前な覚えてないです、ごめんなさい。

 

「そのA.スペースって何か出来るのですか?」

 

スタンドネーム、さっきの1回しか言ってないのによく覚えれたね。

てか、皆俺よりコッチ(スタンド)の方に興味津々かよ、まぁ良いけさァ....

 

「えーではA.スペースでそこにあるチキンを取ります」

 

A.スペースの射程距離は約5メートル前後。艦娘に囲まれる中、会議用折りたたみ机に用意されたチキンレッグに手を伸ばす。スタンドは物体に触れる事も可能だ。皆から見たらチキンが浮いてる様に見えるだろう。

 

「はい、取りましたァ」

 

艦娘達が一斉にザワつく。何があったの? や、インチキじゃあないの?とか聞こえるが、無視する事にした。いやー、ちやほやされるのがこんなに気持ちの良いものだとは。もうちょっと自慢したろうかな。

 

「あ、あのー...1つだけ特殊能力持ってますけどぉ...」

 

俺が口を開くと今までザワついていたのが嘘の様に静まり返る。

 

「それは一体どんな...」

 

いや、大淀姉が聞くんかい。まぁ良いけどさ。やるけどさァ。

 

「マジック見たいかもしれないですけどぉ、空間を液体で満たす事が出来ます...」

 

それからは文字通りてんてこの舞いだった。

 

水は?お湯は?ジュースは?燃料は?カレーは?艦娘達の質問&リクエストの嵐。

 

もう大変過ぎて何やったか覚えてないよ。そんなこんなあり俺が余興みたいな感じが終始続きお開きの時間となった。ホント疲れた。能力って連続して使うとこんなに疲れるんだね。あたたかいミルクを飲んで20分ほどストレッチしなくてもしっかり8時間眠れたよ、全く。あ、俺は殺人鬼ではありませんので悪しからず。




この下ネタバレ













スタンドを披露した事で後で自分の首を締める事になります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#7 遠征という名目のお買い物

能督
専門学校生時代(1週間前まで)は07:05頃に起きてた。提督となった今は・・・お察し。

高雄
大体07:00前には起きる

愛宕
髪が長いので高雄より少し早起き。



2月1日 9:16 鎮守府内 能督自室

 

寒い、最近ホント寒い。

さむい通り越してさみぃ...

 

トイレ行きたい...けど寒くて動きたくない...

動きたくないけど...トイレには行きたい...

 

そんな事を考えモゾモゾしていると勢い良く自室のドアが開く。

 

「ぱぁんぱかぱぁーん!!!」

 

「うわぁぁぁああああ!!!」

 

チビるかと思った...

ごめんなさい、本当はちょっとチビりました。ほんのちょびっとだけ...

 

急いで鎮守府内の数少ない提督便所に駆け込み用を足す。

 

危なかった。

 

◆ ◇ ◇

 

2月1日 9:18 鎮守府内 能督自室

 

腰まであるロングのパツキン美女を正座させお説教タイムです。

 

「あのね愛宕姉、起こしてくれるのは嬉しいよ。でもねあんな事されたらね、もう色々ヤバいからね。ホント勘弁だよ?」

 

黒髪ショートの美女さんが遅れて俺の部屋に入ってくる。入室を許可した覚えは無いんですけどねェ。

 

「だから言ったじゃあないの、ちゃんとノックしてから入りなさいって」

 

高雄姉は俺の味方をしてくれるらしい。これは素直に嬉しい。

 

「愛宕姉、何か弁明は?」

 

「提督が”遅起きさん”なのがいけないと思いま〜す」

 

文字通り頭を抱える。反省無しというか俺が悪いのか...いやまぁ09:00は回ってるけどね。

 

提督の朝は早い、という事を改めて思い知らされる。

今や俺は提督だよ?この鎮守府で一番偉いんだよ?09:00とか迄寝ててもいいじゃん、別に。ダメなのか....

 

人間誰しも気持ち良く寝ている所を起こされては多かれ少なかれ不機嫌になるものだ。

だからこそ、こうして年上である愛宕姉を正座させて偉そうに説教垂れてる訳だが。

 

「♪〜♬︎〜あ!そうだ!提督、今日私達非番なのよね。何処かお出かけしない?」

 

聞く訳ないよね。おk、説教など慣れない事はするもんじゃあないな。

 

「そうね新しい提督の事、殆ど知らないから。どうかしら、提督?」

 

艦娘達と交流するつもりは無いが、この考えには正直賛成だ。

ネカフェで寝ている所を拉致され無理矢理此処に配備された俺の私物など無いに等しかった。

 

流石に自室にベッドとベッドランプだけなど寂し過ぎるし不便極まりない。

自宅から配達して貰うのも吝か(やぶさか)では無いが、送料は恐らく両親持ちだろう。

だったら鎮守府の経費で家具等を買い揃えるのも悪くない。

 

自宅の私物に愛着がなかったといえば嘘になるが、両親の手を煩わせるのも何か申し訳無い。

 

何より大本営の金を無駄遣いしたいという気持ちが1番大きい。

 

「ん〜、そうだね。じゃあ買いに行くから車貸して?あるでしょ?」

 

運転免許は持ってるから一人で買いに行こう。俺が運転して連れていく義理もないしな。

 

「提督?何を仰ってるのですか?私達も行くのですよ?」

 

この艦は何を言っとるのかね。

 

「いやいや、艦娘の貴重な休日を上司の私的な買い物に付き合わせるのも申し訳無いよ。それに俺、車の免許もってるし買い物位1人で出来るよ?」

 

「ダメです」

 

間髪入れずに反対しちゃったよ、この艦。

 

「提督を一人で行かせたら、どうせまた逃げちゃうでしょ?」

 

信用ZERO(ニュース風)ですか、そうですか。

 

「「て〜い〜と〜く〜♡」」

 

怖い!この2人超怖い!笑顔でにじり寄ってくるし!笑顔だけど目ぇ笑ってないし!

 

トンッと、背中に硬い感覚を覚える。

自室の部屋の壁まで追い詰められてしまった様だ。ただでさえ俺は低身長なのに、この重巡姉妹の威圧感(主に胸部装甲)といったら筆舌に尽くし難い。

 

「一緒に〜」

 

「行きますよね〜♡」

 

こんな美女に迫られたら(脅されたら)断る人なんていないに決まってる。

 

「...はい」

 

愛宕姉はいい子いい子と俺の頭を撫でる。

俺もう19なんだけど...

 

◇ ◆ ◇

 

2月1日 9:38 鎮守府内 駐車場 車内

 

黒スキニーにパーカー、トレンチコートにスニーカーという至って普通、良く言えばカジュアルな服装に着替え、車に乗り込む。流石に提督服のまま、街にくりだす程俺は愚か者ではない。

 

「財布良し、免許証良し、シートベルト良し、サイドミラーバックミラー良し、シート位置良し、ドアロック良し、ウィンカー良し、ハンドル高さ良し、じゃあ出発!」

 

バックミラーを覗くとフリフリで可愛らしいドレスの様な服に身を包んだナイスバディ美女2人が後部座席に乗っている。助手席をめぐって2人が言い争っていたので、2人とも後部座席に座ってもらった。

 

「あのさぁ提督〜それいつもやってるの?」

 

おっとォ、この娘は運転前確認にケチ付けるつもりかなぁ?

 

「車校卒業してから1回も欠かした事ないよ。安全確認は大事でしょ?」

 

「ん〜まぁ、悪くはないんだけど...ねぇ...」

 

愛宕姉ななんか呆れてる?し、高雄姉は苦笑いしてる。

なになになに?俺、間違った事言ってる?

 

「じゃあ出発しよか?」

 

この2人に付き合っていたら日が暮れてしまう。

 

酒保という売店の様なモノもあるらしいが、家具などは家電量販店やデパートまで行かないと無いだろう。

 

「Hey ○iri、近くのデパートまで案内してちょーだい」

 





両手に花(大きい)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#8 鎮守府に帰るまでが遠征です


能督
運転が好きという訳ではない。あくまで移動手段。

高雄
車で後退をする時、上体ごと後部座席の方を向く男性の仕草が好き。

愛宕
男性が運転してる時の少し強ばった筋肉質な腕が好き。



2月1日 11:02 ショッピングモール内

 

いや遠くない!?約1時間20分だよ?

高速使ってコレってウチの鎮守府どんだけ辺境の地なんだよ!?やっと着いたと思ったらお腹も空いてきたし。

 

「もう昼だねェ...ちょっと早いけど混む前にお昼食べちゃおっか?」

 

「さ〜んせ〜!」

 

愛宕姉が右手を天高く上げぴょんと跳ねる。その動きに合わせ二つの大きなメインウェポンがドタプンと揺れる。

 

「では提督、粉物屋なんてどうでしょう?」

 

高尾姉は相変わらず冷静だな。まぁ腹が減ってはなんとやら、という言葉もある。粉物、しっかりお腹に溜まるしソース、鰹節、青海苔、マヨネーズたっぷりかけたお好み焼きが頭に浮かび唾液の分泌を促進する。

 

「鉄板焼やお好み焼き、焼きそばかぁ...悪くないねェ」

 

フードコートに着くと家族連れやカップル学生グループなどで賑わっている。粉物屋のショウケースを覗く・・・ヤバいめっちゃ美味そう。早る気持ちを抑え店内に入り男性定員に3名ということを伝えると背後の色々スゴい姉妹を見るやいなや、分かり易く鼻の下を伸ばした。少しは隠せよ。

座席に着くと2人とも羽織りを1枚脱ぎ、御手拭きを開ける。

幾ら冬とはいえ、店内でトレンチコートは暑い。コートを脱ぎ、クルクルと丸め顔を上げると2人の母性の塊、流石重巡と言わざるを得ないドたぷんとした素敵なモノが机に乗っている。

やはりこの2人を連れてきた事は失敗だった。思春期男子にこの刺激は強過ぎる。

幸い定員さんに焼いて貰うシステムの店だったから良かったものの、2人が焼こうものなら2つのお肉の塊が鉄板に付いてしまうしまうだろう。

 

「う〜ん、サイコ〜♡」

 

「ここのもんじゃ、良いですね!提督!」

 

2人共楽しそうに昼食を楽しんでるが、それを見せつけられるコッチの身にもなって欲しい。少し周りを見渡すと店内の男性客がちらちらコッチ見てるし...居心地悪いったらありゃしない。勘弁してよ。

 

◆ ◇ ◇

 

2月1日 11:31 ショッピングモール内 粉物屋前

 

「で、提督何を買うのですか?」

 

「Yes...indeed....(ダ○ソ風)」

 

「なんで急に英語なの?」

 

愛宕姉から(もっと)もな質問が来るが・・・なんとなくだよ、なんとなく。

 

「まずは日用品、歯磨きセット、入浴セット、筆記用具1式、ノート、追加衣類、消臭用品、粘着シートのコロコロ、髭剃り、マスクetc...」

 

「割とフツーね...」

 

愛宕姉は一々突っかかってくるね、フツーでいいじゃん。ダメなのかよ。

 

「後は家具だねぇ。ソファ、テレビ、エアコン、小型冷蔵庫、ノパソ、本棚、珈琲セット...そんくらいかな?」

 

「提督の事だからもっと『このゲーム!あのゲーム!そのゲーム!』とか言うと思いましたよ」

 

高尾姉が少し大きめのジェスチャーで鶴の一声を放つ。俺ってそんなに動き大きいイメージなの?

 

「そんな浪費するわk...」

 

いやその手があった!

よし、家電量販店に行ったらP○4、Swit○h、Xb○x等々艦隊の士気上昇、精神的疲労の回復目的の娯楽施設として買い占めてやるぜぇ...あんだけ艦娘がいるんだ、少し位出費がかさんでも怪しまれないだろう。

マジgood job 高雄姉!

後で何か奢ってあげよう。

 

「流石に公費でそんな事はしないよ」

 

必死で冷静を装う。

 

「高雄、流石にそれは無いんじゃない?」

 

愛宕姉がペシっとツッコむ。

 

「そ、そうですよねぇ...あはは...」

 

愛宕姉に突っ込まれ高尾姉は恥ずかしそうに頬をポリポリと搔く。高雄姉なんかごめん!

 

◇ ◆ ◇

 

2月1日 15:18 ショッピングモール内 フードコート

 

割と広い館内を歩き回り流石に疲れてしまった。最初と比べ2人の歩くスピードも気持ちゆっくりになった気がする。

 

「買い物も済んだからさ、クレープでも食べながらボチボチ帰ろうか。何がいい?奢るよ」

 

家具は配送サービスを利用したが日用品はレジ袋に入れて帰るので1人分とはいえそこそこの量になる。流石に人前でスタンドも使う訳にはいかず、2人に少しだけ持ってもらったのだ。そのお返しとして経費から奢らせてもらおう。

 

「良いんですか!?」

 

「はいはーい!じゃあ私、131番の”メガ★チョコバナナ”で!!」

 

愛宕姉は予め決めていたのかというほど間髪入れずに決めてしまう。

 

「んーと...あ、私は173番の ”期間限定ダブルホットチョコバナナ”をよろしいですか?」

 

やはり姉妹と言うべきか好物はどうしても似るようだ。

おkとサムズアップ&ウィンクし、俺のキャラメルシュガーバターと2人分のクレープを注文、会計を済ませ3つのクレープを受け取り車へと向かう。

 

◇ ◇ ◆

 

2月1日 15:33 ショッピングモール併設 立体駐車場

 

「提督のクレープも美味しそう!1口も〜らい!」

 

「あ、愛宕ばっかり!あ、あの提督私のも1口差し上げますので1口貰っても...」

 

などと、幸せなひと時を噛み締める。

そろそろ車が見える頃だろうと思った矢先、1人の女性から声をかけられた。

 

「ソノクレープ美味シソウネ、テーイートークー?」

 

銀髪の前下がりボブ、メンヘラメイクにパンクな服、サブカルチックな女性の一言は身の毛もよだつ様な恨みの込もった声だった。

 





次回、スタンドバトル勃発です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#9 dull boy と bad guy

能督
甘いモノ大好き人間。砂糖を直舐めできる。

高雄
チョコバナナはバナナの方がメインだと思ってる。

愛宕
チョコバナナはチョコの方がメインだと思ってる。

マニラ
甘い物は嫌いでもなければ好きでもない。



2月1日 15:21 立体駐車場

 

「あのー、誰かと勘違いされてませぇん?」

 

事なかれ主義の俺じゃなくても分かる。目の前に居る女性が放つ殺気は物凄い。

もう目で人をコ◽︎してしまいそうだ。

 

「ソウデスカ?間違ッテマスカ?野上彰成サン?」

 

「いえ、違う人ですね。俺は野上じゃあなくて江上なのでェ(大嘘)」

 

彼女は合っているが、ここで本名をバラすと後々困るのは目に見えている。

 

「階級少将、スタンド A.スペース、イツモ嫌ダ、断ル...No noト言ッテルノデ付イタ二ツ名ガ能悩提督、能督ト呼バレテイル。ドコカ間違ッテマスカ?」

 

何この人!?怖ッ!もしかしなくてもストーカー!?

 

「高雄姉、愛宕姉、こんな時の対処法って分かる? 」

 

踵を返し女性と反対の方へ何処かの波紋使いの如く全力疾走する。

 

「にっげるんだよ〜!!」

 

この手に限る。この手しか知りません。

そんな事を嘲笑うかのように女性は追ってこない。だが逃げた事で女性の質問に対し ”肯定”と取られてしまった。

 

「バッドガイ...」

 

後ろから空気を切る様な、何かが高速で接近して来る様な音がする。今思えば何故避ける事が出来たのか分からない。

 

「....ぅわぁっぶねぇ!!!」

 

振り向くと全身に棘が生えたパンクなデザインの人型スタンドが1本の棘をコチラに伸ばしていた。

 

「ナーンダ、ヤッパリコレ見エテルジャン」

 

気付きたくないが、逃げれられないと気付いてしまった。

 

「・・・ごめん高雄姉、荷物持って先に車乗ってて...俺ちゃん、ちょっと急用が出来ちゃった」

 

荷物と車のキーを後ろに滑らせ、それを受け取ったのか2人の足音は遠くへ消えていく。

意外と俺の事信じてくれてるんだな。

さて、2人が去って行くのに反応しないという事は目的(ターゲット)は俺で間違ってないな。

 

「アンタの名前と目的を知りたい...」

 

コートを脱ぎながら会話を続ける。

少しでも時間を稼げればそれで良かった。

 

「初対面ノ 女ノ子二アンタハ 無イデショ。マーイーヤ、”マニラ” トデモ呼ンデヨ」

 

「ではマニラ、アンタの目的が知りたい」

 

右手で俺の方を指差し左手を口に、頬を膨らませ口を尖らせ笑い声を上げる。指を指すな、指を。

 

「プップー(笑) ソレ本気デ言ッテル?キミノ 抹殺ダヨ、ナントナク気付イテルデ・・・ショ!!!」

 

今度は無数の棘が物凄い速さで向かって来る。

 

「邪魔ァ!!!!」

 

拳で棘の方向を逸らす。棘の攻撃を防ぐ事はそう難しい事じゃあない。マニラもそれを理解したのか立体駐車場の柱に隠れる。

足音が消えた。

詰まりその柱の裏から動いてないって事だぜ!!

一気に距離を詰めラッシュをかける。

 

「悪いが再起不能になってもらう!!」

 

居ない。

 

何故?立体駐車場故に足音はとても響く。だが、柱の裏に回った途端足音が消えた。もう1つ能力を持っているのか?

 

「バーカ♡」

 

声がする方を見たが時すでに遅し。マニラのスタンドの棘が左腕をかすっていた。

ポタ...ポタ...っと水音が響く。

 

「横二移動シテナイナラ上カ下デショ? ソンナ事モ分カンナイノ?キミッテ頭弱インダネ(笑)」

 

小馬鹿にしながら立体駐車場の屋根から降りてくる。俺が今まで会った中で一番ウゼぇな。

 

「棘で天井に張り付いてたのかぁ...そのスタンド、面白いなぁ...」

 

つい先程マニラが居た所を見上げると無数の穴が空いていた。

 

「ソンナ分カリキッテイル事ヲ 一々口ニ出サナクテ良イヨ、メンドイ人ダナー・・・アト私ノ スタンド、”バッドガイ” ッテ言ウンダケド」

 

挑発してくるが問題なし、依然問題なし。

隠れて不意打ちを狙って来るという事は単純なパワーではB.ガイよりA.スペースの方が上と見ていいだろう。

 

「ねぇ知ってる?アルファベットではBよりもAの方が先にくるんだよ?(豆〇ば風)」

 

「何言ッテルノ?」

 

「質問を質問で返すなぁあ!!」

 

この馬鹿は疑問文に疑問文で返すと0点という事を知らないらしい。

 

「ウッサイナー、ソンナ怒鳴ラナイデヨ...マー私ガ静カニサセテアゲルヨ、永遠二ネー...」

 

今度は先刻の数倍の数の棘を伸ばしてきた。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ァァァァアアア!!!...うぐっ.....がはっ...」

 

視界が歪んだせいか2〜3本、棘を喰らってしまった。平衡感覚が崩れパンチどころか、マトモに立ってられなくなる。

 

「アハハ!ヤット効イテキター...B.ガイノ棘ニハ色ンナ効果ノ毒ガ有ルンダヨ〜、アレレ〜?血デオ洋服ガ真ッ赤ダヨ〜?」

 

喧嘩なんてした事が無い俺にとってコレはかなり不利だ。元帥に喧嘩売った時もボロクソにやられたしな。更に棘の攻撃を諸に喰らい、毒で視界、足元、思考どれをとっても覚束無い。

 

選択肢は3つだな。

1つ目、戦う。こんな満身創痍でマニラとか巫山戯(ふざけ)た奴を倒せるのか。可能性はかなり低いだろう。

2つ目、逃げる。戦うよりかは幾らかマシだろう。だが、俺が逃げることで姉妹を危険に晒される可能性が出てくる。

3つ目、命乞い。コチラも線は薄いが時間を稼いで...

マズい、思考が纏まらない。

 

「モシモーシ!能督サーン!生キテマースカー?」

 

 

考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ••••••

どうすれば生き残れる?どうすればあの2人を無事に鎮守府へ帰せる?

 

「ソロソロ 死ンデ?」

 

兎に角時間を稼ぐしかない。

 

「まっ、待ってくれ!どうしたら許してくれる?」

 

手を顎に当て首を傾げ答える。

 

「ン〜、ソーダナ〜・・・キミガタヒンダラ 許シテ、ア・ゲ・ル♡」

 

「タヒぬのは貴女です」

 

先刻買った つっかえ棒を棍の様に扱いマニラの脳天目掛け振りかぶる。

 

「チッガイマース」

 

まるで見透かしていたかの様にB.ガイでつっかえ棒をポ○キーっと折ってしまう。

 

「提督!ほら逃げるよ!」

 

フラフラの俺を軽々と抱え愛宕姉は走りだす。

 

「で、でも...高雄、姉がぁ...」

 

口もまめらなくなってきた。

 

「提督は先ず自分の心配!!」

 

車の助手席に放り込まれ愛宕姉は慣れた手つきで発進し高雄姉を無視するかの様に立体駐車場を降りる。

 

「あ、たごねぇ...も、どっえ...」

 

本格的に毒が効ききちんと発音出来ない。

立体駐車場を降り、道路に出た所で愛宕姉が急ブレーキを踏む。

 

「高雄!乗って!」

 

シートベルトをして無かった俺は軽く前に投げ出されそうになるが愛宕姉が抑えてくれた。それから2秒も経たない内に高雄姉が立体駐車場3階から飛び降り見事なまでの五点着地。

流れる水の様に車に乗り込み愛宕姉はアクセルを目一杯踏み込む。

キュルルルルという不快音と共に法定速度なとお構い無し、ぶっちぎりのスピードで ”一般道路” を駆け抜けた。

 

I'm the bad guy(私は悪い子ちゃんよ)・・・duh(ねぇ).....」




高尾姉妹は提督を逃がす為に真っ先に車に向かいました。提督が負ける事を予め.......いや、やめよう。


stand name:バッドガイ(B.ガイ)
stand master:マニラ
stand spec:
パワー C
スピード A
射程距離 D(棘は最大15mまで)
持続力 A
精密動作性 B
成長性 B

全身にトゲやスタッズが点在するパンクな人型スタンド。棘の射程距離は15mまで伸ばせるが、複数同時に伸ばすと1本あたりの長さが減る。(例1本→15m、2本→7.5m、3本→5m)
パワーは低いが棘でそれを補い、吐気、目眩、幻覚、平衡感覚障害などの効力を持つ毒により相手をジワジワと追い込む様な戦い方をする。
B.ガイの毒はシルヴァが気絶、タヒ亡もしくはスタンドを解除するまで持続する。


名前の由来
バッド・ガイ→Billy Irish の bad guy

マニラ→マニラ海溝


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#10 自責の念と爆督と新艦娘

能督
改めて自分が無能と思い知らされる。普通に凹む。

高雄
愛宕と交代で能督を看病。こうなったのは自分の性だと思ってる

愛宕
高尾と交代で能督を看病。このまま目を覚まさないかと、とても心配。

爆督
声は五月蝿いが基本的に病人には優しい。



2月3日 10:09 医務室

 

ピコン...ピコン...ピコン...心拍音と同じリズムの電子音が聞こえる。

 

身体を動かそうにも力が出ない。

なんとか息は出来ている。

ゆっくりと瞼を持ち上げる。

いつか見たこの白い天井。

どうやら例の戦いに敗北し重巡姉妹に逃がされ生き残ってしまったらしい。

段々と意識がハッキリとしてくる。少しづつ身体を起こそうとすると左手には点滴のチューブ、右手には血圧計、口には酸素マスク、負傷箇所にはギプス。先の戦いで確かに負傷はしたが、ここまで大事だとは予想だにしなかった。

 

「此処にナースコールは無いのかなぁ...」

 

なんて詰まらないギャグをこぼすと薄水色のカーテンから慌てた様に金髪ロングのナイスバディ美女が駆け寄る。

 

「良かったぁぁ.....このまま目覚めないかと思っちゃったよぉぉぉ......」

 

「愛宕姉、まだ痛いから抱き着かないで.....」

 

もう1人黒髪ショートのナイスバディ美女がマグカップを持って現れる。

 

「愛宕、目覚めないとか縁起でもない事言わないの!!あと、提督はまだ完治してないんだからはサッサと離れる!!」

 

愛宕姉は、はーい...と不貞腐れた様に頬を膨らませ、ベッドから降りパンパンと服のシワを伸ばす。

 

「2人共無事で良かったけどォ・・・アレから何が変わった事あった?」

 

高尾姉はフフフッと笑みを浮かべる。可愛い。

 

「心配して下さるのは光栄ですが、提督はもっと自分の事を大事にして下さい」

 

マニラからは逃げられても高雄姉の小言からは逃げられないらしい。

さて、傷が癒えるまでゆっくりスマホでも弄りながら時間を潰しますかねぇ.....

そんな甘い幻想は1分と持たず音を立てて崩れてゆく。

 

「情けないぞッ!!!それでも漢かッ!!!!」

 

扉が壊れるかと思わせる位の勢いで医務室のドアが開き、提督服の上からでも分かるほどの筋肉を誇る男が入ってくる。

歓迎会の時の様に本能が全力で警報を鳴らす。コイツとは関わっちゃ駄目だ。

 

「おい!!聞いてるのかッ!!!!!」

 

美女2人の制止を振り切り病人(♂)に向かって来るとか、もうヤベぇとしか言い様が無いでしょ。

 

「....スゥ.....スゥ.....」

 

こんな重傷じゃあ逃げるなんて選択肢は無い。ならばどうする?答えは簡単。

寝たフリだ。

 

「どなたか存じ上げませんが、見ての通り提督は重傷です。また日を改めて頂けませんか?」

 

薄目を開け高雄姉の顔色を伺うとパッと見、笑顔だが目が笑ってない。その上、言葉には高雄姉の強い意志がこもっている。

 

「俺は加藤龍介ッ!階級中将ッ!二つ名は爆督だッ!あと、お前!俺が奴を倒して、もう既に24時間以上経過してるのだぞ!!!いい加減に起きんかッ!!!!」

 

中将って事は俺の上司って事か。二つ名を持った提督と会うのは初めてだな。

待て、コイツ今何と言った。

俺が奴を倒した?

まさかコイツあのマニラとかいう奴を倒したというのか?・・・まっさかぁ、コイツの能力は知らんけど無傷で倒すとかないやろぉ....

・・・マジで?

 

「さっさと次の仕事に移れ!!歩けないなら車椅子を使ってでもなッ!!!」

 

無茶言うな。お前は傷1つ負って無いからそんな事言えるんだよ。

 

「おいお前、実は起きてるだろ.....」

 

目は閉じてるが分かる。

コイツめっちゃ顔近づけてる!

コイツの鼻息、俺の顔に当たってるもん!

無理に身体を揺すったりしない所を見ると存外悪い奴では無いのだろうとは感じる。

でもコレは近ぇ!

 

「・・・このまま起きなかったらチューするぞ....」

 

「おはよーございまぁぁぁぁああああッス!!!!」

 

コイツの鼓膜が破れる様に全力で叫ぶ。

 

「ハーハッハッハ!!!元気じゃあねぇか!!やはり漢はこうでなくてはな!!!」

 

チッ、鼓膜までタフな奴だな。

 

「突然だが今日から此処の鎮守府でお世話になる山風だ。ほら山風、挨拶しな」

 

人が変わった様に優しい声で医務室のドアに隠れてる少女に挨拶を促す。

上体を起こそうとしたら愛宕姉がベッドに取り付けられていたリモコンを使いベッドを起こす。

コレは介護ベッドだったのか。(違います)

腰程まである緑髪をハーフアップにした碧眼の幼気な少女は、もじもじしながら小さく口を開く。

 

「えっと、あたし・・・白露型駆逐艦・・・・・・その八番艦。山風。」

 

照れてるのか人とのコミュニケーションを嫌ってるのか少女の挨拶はどことなく無愛想というかつっけんどんだった。

 

「じゃあまた明日来るからな!!それ迄に準備しておけよッ!!!!」

 

喧しいったらこの上ないよ、俺怪我人だよ?全く勘弁してよ。てか、なんの準備だよ。

 

◆ ◇ ◇

 

2月1日 22:19 工場地帯

 

「大人しく投降してくれんか!!俺のスタンドは手加減が難しいのでなッ!!!!」

 

元帥から貰った資料を見ると目の前に居る銀髪赤眼の人間(厳密に言うと人間ではない)が、何人もの人を誘拐しコ◽︎している極悪人だという事が分かる。

 

「貴方 ガ タヒンダラ 考エテ アゲルー!!」

 

お互いそこそこの距離を挟んでる故、必然と声量は大きくなる。

だが、これでいい。

この距離がいい。

何故なら俺のスタンド ”ヴーレ・ヴー” は近距離パワー型にして中距離、遠距離も対応可能な万能スタンドだからな。

 

「じゃあ仕方無いな...」

 

大きく息を吸い込む、全力で叫ぶ為に。

 

雷雨ッ(スタンレイン)!!!!」

 

雄叫びに合わせV.ヴーから黄色い煙が勢いよく噴出する。噴出した煙は瞬く間に雲になり工業地帯を囲む。

 

「俺は手加減がッ!!!出来ねぇんだよぉぉぉぉおおお!!!!」

 

ポツポツと黄雲から降ってくる。

だが、雨ではない。

m84スタングレネード。

フラッシュバングレネードともいう。

マニラを中心にスタングレネードが豪雨の如く降り注ぐ。

グレネード等は基本的に安全ピンを抜きレバーを外してから漸く起爆する。

だが、V.ヴーが降らせる手榴弾は既にピンもレバーも外れていた。

 

「チョッ...待ッt....」

 

言葉を遮る様に閃光手榴弾の爆音が鳴り響く。幾ら離れているといっても数多の閃光と爆音は脳を揺らす。

だがこの俺 ”爆督” には効かねぇ。

V.ヴーを纏い防御出来る。ここがV.ヴーの強みだ。

為す術も無く敗れ、伸びきったマニラに近づく。白目を剥き耳、鼻から出血し血涙も流している。鼓膜は破れ暫く起きる事は無いだろう。持って来ておいた麻縄で手足を縛り口に猿轡としてピンだけ抜いた閃光手榴弾を咥えこませる。口を開いたら バンッ!!だ。

尤も起きる頃には大本営の地下牢に囚われているだろうがな。車に向かうとトテトテと茶色い長髪をアップヘーアにして束ねた金眼の少女が近付いてくる。

 

暁型駆逐艦4番艦 電、俺の秘書艦だ。

その幼気な少女は似合わない大きなヘッドセットを外し

 

「お疲れ様なのです!えっと....その方は例の ”たーげっと” さんですね?トランクをお開けします!」

 

念には念をという事でスタングレネードの爆音から守る為にヘッドセットを付ける事を指示しておいた。マニラをトランクへ放り込み、ふとこんな事が頭を過ぎる。

こんな所、警察に見られでもしたら.....

まぁ大本営がどうにかてくれるだろう。

思わず溜息が出る。

 

「こんな奴にあの新人は負けたのかよ.....どんな下手糞な戦い方をしたらこんな雑魚に負けるんだよ」

 

伝令で新人提督とターゲットが接敵、新人提督がコテンパンにされた事は知らされていた。

 

「提督、ちょっと落ち着いて下さいなのです....」

 

カリカリした俺を助手席の電が宥める(なだめる)。電の八の字になった眉を横目で見、少し罪悪感に襲われる。

 

「大丈夫だ、電。態々(わざわざ)着いてきてくれてありがとな」

 

電の綻ぶ顔を見ると任務の疲れも癒されるものだな。そんな他愛無い話をしながら大本営の帰路に着くのであった。

 

後日、真夜中の工業地帯に響いた謎の爆音がニュースになったのは言うまでも無い。




現在V.ヴーが生成可能な手榴弾

m67 破片手榴弾(フラグ) 爆雨
m84 閃光手榴弾(スタン)雷雨
m18 煙幕手榴弾(スモーク)煙雨
試作型 電波欺瞞手榴弾(チャフ)銀雨
火炎手榴弾(モロトフ)焼雨
麻酔手榴弾(スリープ)眠雨


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#11 楽しい楽しいお勉強(第八駆逐隊と一緒)


能督
教科書を読めば一度で理解出来る。覚える事は苦手。

香取
座学、遠征、演習、どれも軽々とこなす。俺から見れば完璧人。



2月5日 09:30 鎮守府内 第一教室

 

「・・・起立、気をつけ、お願いしまーす」

 

「「「「お願いします!」」」」

 

俺の号令に合わせ第八駆逐隊の艦娘達が挨拶をする。

 

「はい、ちゃんと時間通り始められましたね。ね、提督?」

 

俺に振るな。

香取型練習巡洋艦 一番艦 香取

香取姉が笑顔で教鞭をペシンと鳴らす、怖ぇよ。

爆督が言っていた準備しろというのは明日行わられる公開演習の事だった。

そして公開演習に向けて今日は彼女に提督業、鎮守府などの基礎を教わる。(一日中)

別にそれは問題ない。

士官学校にも事前情報も訓練も無しにPON!と鎮守府に連れてこられ、「キミ今日から提督ね」なんて冗談もいいトコである。

確かに着任して約10日経過したが医務室のベットに括り付けられ、無理矢理参加させられた歓迎会では敵の空襲(1機)に遭い、謎のサブカルガールからボコられ....

提督業について勉強する時間も訓練する時間も無かった。幸い艦娘達は前任にある程度育てられ自主訓練等してくれていたみたいだが.....

お れ が してねぇんだよ!!

じ か ん が無ぇんだよ!!!

 

「はい、では提督。単縦陣の特徴を言ってみて下さい」

 

しまった。聞いてなかった。

てか、教科書も開いてなかった。

美容専門学校通ってた2週間前の日常を思い出してボーッとしてた。

 

「あ、分かりません」

 

香取姉の大きな溜息を1つ。悪かったね、答えられなくて。

 

「はぁ....では朝潮さん分かりますか?」

 

はいっと元気よく返事し黒のロングサラサラヘアー女子が立ち上がる。

 

「標準的な交戦陣形で艦隊運動がしやすく砲雷撃戦に向いてますが、旗艦が被弾し易い上に衝角戦には不利です」

 

ようこんな事覚えられるね。

 

「はい、100点満点の回答ですね。提督も彼女を見習って下さい」

 

最後の一言余計じゃあない?

へーい、と返事すると隣に座っている荒潮が あらあら と苦笑いを浮かべる。

それから一コマ45分の15分休憩で4時間のお勉強が終わり昼食の時間を迎えた。

 

 

◇ ◆ ◇

 

2月5日 12:32 鎮守府内 間宮食堂

 

1時間目は陣形、2時間目は艦種と相性、3〜4時間目は鎮守府内の設備説明と工廠での艤装について勉強した。

俺自身決して勉強が嫌いという訳では無く、逆に新しい知識を得る事は楽しいと思える。

更には4時間だけとはいえ、同じ教室で勉強していれば第8駆逐隊の娘達と仲良くなるのは必至だ。話しているとある程度、4人の性格が分かってくる。

間宮食堂で昼飯の鯖味噌煮定食でも食しながら少しこの子達の説明でもするか。

 

朝潮型駆逐艦 一番艦 朝潮

黒髪ロングの見た目通り真面目ちゃん。(馬鹿にはして無い、決して)殆どの艦に対して敬語で話し、少し硬い印象を受ける。ネームシップに恥じない、しっかりお姉さんとも言えなくもない。

 

同じく二番艦 大潮

群青色の髪をツーサイドアップで纏めたくりくりお目目の元気っ娘。ちょこちょこ叫ぶ事もあり威勢がいい。二番艦だがリーダーシップを備えており皆の士気を上げるムードメーカーな存在。

 

同じく三番艦 満潮

ブラウンの髪を金剛姉を彷彿とさせるシニヨンにした少し言い方が強いツン.....デレ?ちゃん。ウザいという訳では無いが苦手意識を持ってしまう(個人の感想です)

 

最後四番艦 荒潮

満潮と同じブラウンの髪を腰辺りまで伸ばした艦娘。天然、マイペース、自由奔放の三拍子揃った元祖ゆるふわ系女子。よく語尾が間延びし何処か親近感が湧く。個人的にこの子が1番話しやすい。

 

ダラダラと書いてしまったが、約100隻もの艦娘を覚えなきゃならん提督としてはこうして特徴と性格を一緒に覚えると頭に入る。(気がする)

 

まぁ、午後からは実戦を想定した実習訓練があるので・・・てか普通実習は午前中じゃあない?午後からとか、お昼ご飯口から出ない?大丈夫?

 

「提督、あんたはなんでここに来たのよ提督がいない間は結構快適だったんだけど」

 

おっと、この満潮って娘は仮にも上司の俺を馬鹿にしてるのか?

 

「俺も来たくなんて無かったよ、妖精さんが見えて元帥の孫ってだけで無理矢理連れてこられただけ。なんなら今逃げ出しても良いぞ」

 

満潮の口調につられ少し意地悪になってしまう。

 

朝潮は満潮に ”少し言い過ぎです” と、

荒潮は ”まぁまぁ” と俺を宥めてくる。

別に嫌いという訳では無いのだけどなぁ.....

ハイハイと荒潮を適当に遇い箸を進めていると定食のトレーをもった香取姉が近付いてきた。

 

13:30(ヒトサンマルマル)には実習を始めますので遅れないで下さいね、特に提督?」

 

だから一言余計だよ。

 





艦娘にバレないように自室で夜にこっそり日記を書いてる能督。
日記帳は鍵が付いた引き出しの二重底に隠してある。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#12 ✕公開演習 〇後悔怨讐


能督
ネットに顔を晒されるのが大嫌い。
サバゲで使っていた般若のハーフフェイスガードと溶接ゴーグルを付けて参加。

爆督
ネットに晒されようがお構い無し。
寧ろ俺の勇姿を撮れ。

空督
一応白いマスクはしてる。(風邪予防)



2月6日 10:00 演習会場

 

「ではッ!2月6日ッ!ヒトマルマルヒトッ!公開演習を開始するッ!!!!」

 

一々うっせぇな、コイツ。はーめんどくさ....

 

「へーい、よろしゅーお願いしま〜す....」

 

どこにも観客が居ない。居るのは複数のドローンだ。艦の演習となれば敷地面積(海上面積?)も必然と大きくなる。大きくなればその分客席は遠くなる。

だったら客席を作るよりかはドローンを使いネット配信する方がコスト面でも、見る側としても都合が良い。

一応、スマホの持ち込みは許可されてるので公開演習LIVEを見ながら演習をしている。

待てよ、爆督の横に居る金髪パーマショート女の子は誰だ?しかも提督服も着てやがる!

1対2なの?アンフェアマッチ?

ふっざけんなよ....こちとら昨日1日勉強しただけのズブのド素人やぞ?

それに対して根っからの軍人+提督クラスのサポート要員とかズルじゃんいい加減にしろよ....

でもなぁ、もう輪形陣で陣形展開してるからなぁ、今更帰るとか出来ねぇしなぁ....

はぁ....(クソデカ溜息)

 

「やってやろうじゃあねぇかよォ!!!!」

 

◆ ◇ ◇

 

2月6日 10:06 演習会場

 

開始から僅か5分しか経過してないが既に押されている。所謂ピンチだ。

この国にはこんな言葉がある。

 

「ピンチはチャンスだ」

 

「諦めたらそこで試合終了ですよ」

 

いや、負けイベントとかあるからね!?

ウチの編成は榛名改二を旗艦に、時雨改二、山風改、愛宕改、千歳航改二、日向改で編成している。

一方爆督は

 

「え〜と....」

 

霧島姉に無理矢理持たされた艦娘図鑑のページを捲る(めくる)

大和改、翔鶴改二、瑞鶴改二、鹿島改、雷改、電改

旗艦は大和と見て間違い無いだろう。

確かに劣勢だが昼戦は30分ある。残りの25分の間にチャンスは必ず訪れる。

それを見極め相手旗艦に集中砲火を放てば勝機はある。・・・と、思う。・・・多分。

 

◇ ◆ ◇

 

1月26日 09:54 元帥執務室

 

「予定より少し早いな」

 

「あ、はい....スイませェん・・・」

 

集合時間は10時だったけど元帥にとって6分前は少し早過ぎたみたい。

 

「怒っている訳では無いのだがな・・・では改めて貴殿 須藤歩美、階級 准将を加藤龍介の提督補佐に任命する。加藤....爆督の鎮守府への派遣日程は追って伝える」

 

あの地獄みたいな訓練がやっと終わったと思ったら今度は提督補佐として先輩提督から、こき使われんだと思うと憂鬱でならない。

 

小学校6年生の時、妖精さんが見え始めそれを聞き付けた海軍に半ば強制的に士官学校へ入学させられた。

仲の良かった友達とも離ればなれになり青春を謳歌する事なく軍の為に、国の為に精一杯頑張ってきた。

それなのに士官学校は襲撃され練習巡洋艦である先生に庇って貰い何とか生き延びた。

そしたら今度はスタンド?っていうのが見え始め士官学校の同期とも隔離され1人で訓練をする羽目になった。

2度も孤独を経験し、その結果が准将という中途半端な階級と提督補佐という体のいい使いパシリとか冗談にもならない。

挙句、元帥の孫で妖精さんとスタンドが見えるだけで士官学校を卒業する事なく少将の階級を与えられ鎮守府1つを丸々任せられた新米提督も現れる始末。

私は一体何処で人生の選択を誤ったんだろう。

 

◇ ◆ ◇

 

2月6日 10:08 演習会場

 

「部隊へ連絡、警戒陣に変更。相手の艦載機に注意し回避に力を注げ。昼戦は逃げ切る事に専念しろ。オーバー」

 

この演習は昼戦30分、夜戦30分で行われる。

 

演習会場には照明設備があるので昼に擬似夜戦を行う事が出来る大本営きっての超大型設備だ。

突如無線から馬鹿みたいに五月蝿い(うるさい)声が響く。

 

「おーい!!能督ーッ!!!!聞こえるかぁぁぁぁああああ!!!!」

 

コイツ無線の使い方知らねェんじゃあないの?

 

「そんな大声じゃなくても聞こえてるっつーの....で、何ィ?オーバー」

 

そうか。と一言置き爆督は信じられん事を言い放つ。

 

「一応言っておくがこの演習では俺は艦娘達に一切指示しない。助言もしない。俺の隣に居るこの空督、須藤歩美が全指揮権を持っている」

 

嘘だね、絶対嘘だ。

この間、 ”この山風を艦隊に加え次の公開演習に勝利しろ” なーんて言いやがった癖に。

するとか細い声で

 

「あ、あのー....宜しく御願いしますね」

 

爆督が言った空督とやらが、”私、弱いので手加減して下さいねぇ” と言わんばかりの挨拶をしてきた。

 

「俺が降りるとその時点で不戦敗になるからな。だからこうやって空督と2人で居るっつー訳だ!わかったか!?」

 

「分かったから一々叫ぶな。うっさいなぁ....オーバー...」

 

ハーハッハッハと笑うと向こうの方から無線を切りやがった。

 

◇ ◇ ◆

 

2月6日 10:10 演習会場

 

「夜戦まで持ち込めれば俺達の勝ちだ。それ迄頑張って逃げ切ってくれ」

 

「アキk....提督、どうしてですか?」

 

おい今アキくんって呼ぼうとしただろ。

 

「この無線が相手に盗聴されている可能性があるから話せないが、俺を信じてくれ」

 

榛名は数秒間の沈黙を置き ”分かりました” と、一言告げ無線を閉じた。

 





Y○uTubeやニ○ニコ動画で配信されてるので1時間になっています。・・・という設定。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#13 俺のターン、ドロー!提督にダイレクトアタック!!

能督
サバゲで使っていたZTactical Comtac I ヘッドセットを明石に改造してもらったのを使って指示している。

爆督
TAC-SKY C2 密閉型ヘッドセットを使用中

空督
Z-TAC TEA COBRA 片耳タイプを使用中



2月6日 10:30 演習会場 能督用指揮室

 

「よし、皆よく逃げ切ってくれた。後は俺の番だオーバー」

 

「えっ?それってどういu....分かりました。提督を信じます....では予定通りプランB、主砲及び副砲乱射し敵を撹乱させます」

 

ぽっと出の俺を信じてくれるのは艦娘達の警戒心を疑うが榛名が根回しでもしてくれていたのだろう。

待たせたな。

(ようや)く俺の出番だ。

 

◆ ◇ ◇

 

2月6日 10:43 演習会場 爆督用指揮室

 

当たらない。私が幾ら陣形を変え、手を変え品を変えながら攻撃してもあの能督の艦隊には全くと言っていい程弾が当たらない。

艦載機を飛ばしても撃ち落とされ魚雷を放っても爆雷で防がれる。

だからと言って攻撃もしてこない。

隣にいる爆督も仁王立ちして薄ら笑いを浮かべるだけで本当に何もしてくれない。

能督は引き分けを狙っているの?

分からない。だけど、今出来る最善の事をするだけ。

 

「雷と電の探照灯で索敵して!2人の探照灯に釣られて砲撃してきた艦を返り討ちにするよ!」

 

私の指示に対し2人の可愛い元気な声が帰ってくる。でもやっぱり見つからない。

ドォン!ドォン!と砲撃による水柱が立つ音はする。けど電達に撃ってきている様子はない。

 

__________________

 

 

「・・・ッ!!!」

 

急に爆督のヘッドセットから電光が見えたと思ったらバチンッ!という音が鳴り響き、白目を剥いて倒れてしまった。

突然の出来事により何をしたら良いか分からなくなる。

 

「爆督ッ!?ど、どうしたんですか!?」

 

無線から電達の声が聞こえるがパニックでそれ所じゃあない!なんで?機械の故障?

パチパチッ....っと左から謎の音が聞こえる。

・・・まさかッ!!

 

キーーーーーーン!!!!!

 

言葉にならない不協和音が脳内を駆け巡る。

 

「・・・カハッ...」

 

意識が飛びそうになるが、なんとか持ち堪える。士官学校時代の訓練の賜物かな。

私のヘッドセットも爆督のヘッドセットと同じ様に壊れてしまった。爆督のヘッドセットは両耳密閉型だったから爆音に耐えられずタヒんだんだ。(タヒんでません)

私のヘッドセットは片耳型。まだ右耳は生きてる。

 

「イレギュラーって起こるもんだねぇ」

 

ドアがゆっくり開き憲兵服を着た男が入ってくる。

 

「だ、誰ですか。貴方....」

 

謎の憲兵はハァと1つ溜息を着くと徐に服を脱ぎ始めた。

 

「な!あ、貴方!なななな何してるんですか!?」

 

「アンタが誰?って聞いてきたんだろ。だからその説明をする為にこうやって、この暑苦しい服を脱いでんじゃん」

 

ダボッとした憲兵服の下は白の軍服、提督服を着ていた。

 

「初めましてだね、可愛い提督さん。ついこの間着任した提督でェす。皆からは能督って呼ばれてまァす」

 

間延びした自己紹介をし昼戦の時付けていた般若面と溶接ゴーグルを再び付けた。

ん、提督?能督?この人が例の新任提督!?

 

「絶対・・・絶対許しません」

 

私がタヒぬ気で訓練してやっと准将になったと思ったら何もせずに少将の階級と鎮守府を丸々1つ与えられたクソ提督。

 

「グレイ・マシーン!!その体に風穴を空けてやる!!!」

 

私のスタンド、G.マシーンは空気を圧縮、発射する能力を持っている。

 

「チュミミィイイン」

 

G.マシーンがいつもの音を放つ。このチュミミィイインという音は空気の圧縮が終わった音だ。

準備は出来ている。覚悟もできている。

憲兵が見えた頃から準備していた空気弾はいつでも撃てる。

 

ドシュン!ドシュン!ドシュン!

 

先ずは右示指、右中指、左示指で圧縮していた3発の空気弾を放つ。

G.マシーンには空気を圧縮する時間がいる。

同じ指から連発は出来ない。

 

「A.スペェェェス!!」

 

スタンドの名を叫び拳でG.マシーンの空気弾をいとも容易く防がれてしまった。

 

「俺のスタンドで君の攻撃を防ぐ事はそう難しい事じゃあない。じゃあ...ごめんなぁ、ちょっと寝ててね」

 

水中を泳ぐ魚の様に私の脇を通り背後を取られてしまった。

 

「苦しいかもだけど勘弁ねェ」

 

羽交い締めにされ指を後ろに向ける事が出来ない。

 

「う...ぅぐ...ぅわぁぁああ!!!!」

 

手が上を向き背後のコイツを撃てないなら上だ。上に向かって撃てばいい。

 

ドシュン!ドシュン!

 

「え?どこ撃ってんの?うわ!暗ッ!痛ッ!」

 

撃ちあげた空気弾は蛍光灯にあたりその破片は私にもコイツにも降りかかった。

 

「いったァ...」

 

能督は蛍光灯の破片に怯み羽交い締めを解いた。

勝った。

残りの空気弾全てをコイツに撃ち込む。

ゼロ距離で。

 

ドッドッドッドッドシュン!

 

5発続けて空気を切る音が部屋に反響する。

いくら近距離パワー型のスタンドといえどもゼロ距離では空気弾を叩き落とせないはず!

 

「ッ痛〜、危なかったぁ」

 

憎たらしい薄ら笑いを浮かべながらフラフラと立ち上がる。

 

「嘘よ」

 

確かに命中はした。だが、寸前の所でA.スペースを出し防がれて致命傷には至ってない。

 

「しゃなし・・・全艦、相手旗艦へ砲撃ッ!!」

 

溜息をつきヘッドセットで艦隊に指示を出した。私も対抗指示を出さなきゃ!

 

「ッ!全艦旗艦を守って!相手が旗艦を狙ってくる!」

 

返答がない。・・・それもそのはず。

 

「忘れたんでぇすか〜?そのヘッドセットは俺が壊しまァした〜」

 

能督が身体をくねくねさせながら煽ってくる。うっざ!

 

「大丈夫。みんななら勝てると信じている。・・・チームメイトを信じている。」

 

「だが違ったァ」

 

この人(能督)本当にウザいな。

 




stand name:グレイ・マシーン(G.マシーン)
stand master:須藤歩美(准将)
stand spec:
パワー E
スピード E
射程距離 E
持続力 B
精密動作性 E
成長性 A

頭に雲が浮かんでいる胴長犬の様なスタンド。スタンド自体に攻撃能力は無く射程圏内の空気操作(圧縮&発射)がメイン能力。

名前の由来
エアゾール・グレイ・マシーンから

因みにヘッドセットの内部を海水で充たしたので漏電し故障しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#14 空気が読めない提督と空気を操る提督


能督
夜戦が始まる頃には爆督用指揮室に向かっていた。

爆督
夜戦が始まる頃、今日の晩御飯を何にするか考えていた。

空督
夜戦が始まる頃、めちゃくちゃ焦っていた。



2月6日 10:52 演習会場 爆督用指揮室

 

「それマジッ!?ナイス榛名姉!空督さんよォ・・・アンタんトコの旗艦、大破判定だってよォ.....」

 

ギザ歯を覗かせニヤニヤと笑み浮かべるその姿は悪魔そのものだ。

 

「・・・嘘よ」

 

きっと私を動揺させる為の嘘に決まってる。

 

「よーくやった!みんな!後は逃げながら余裕があったら威嚇射撃でもしてくれ!」

 

あの娘たちが負ける筈がない。

・・・だから私も負ける訳にはいかない。

 

「うわぁぁああ!!!」

 

完全に圧縮しきっていない空気弾をやたらめったらに放つ。

 

「女の子がそんな大声出すもんじゃあないよ」

 

コイツはもうガードすらしない。

圧縮しきっていない空気弾は当たりはすれどかすり傷程度。

万策尽きた。

憎悪の対象、能督がコツコツとゆっくり歩み寄ってくる。

 

「来ないで....」

 

「やァだね」

 

もう視界がぐにゃぐにゃでコイツのにくたらしい顔も見れない。

 

「アンt...空督さん、目から汗が出てますよ」

 

「うるさい....」

 

思わず座り込んでしまった。もう立つ気力すらない。

 

五月蝿(うるさ)いって、そんな大声出してねぇじゃんかよォ。あの筋肉ダルマ(爆督)じゃああるまいし。ホレ、コレで涙拭いとき」

 

座り込む私の前にティッシュ箱が置かれた。

 

ビーーーーーッ!!!

 

泣き崩れた提督に無慈悲な演習終了の合図であるブザーが鳴った。

 

◆ ◇ ◇

 

2月6日 11:00 演習会場 爆督用指揮室

 

「よーやく終わったねェ、演習」

 

いやー改めて見るとやべぇな、この空間。

白目剥いた筋肉モリモリマッチョマン提督。

大号泣してる金髪パーマショート女提督。

般若面と溶接ゴーグルを付けた血塗れ提督。

混沌(カオス)としか言い様がないね。

だが、俺の勝ちだ。

相手旗艦は大破。

ウチの艦は5艦小破。

そして ”相手の提督を攻撃してはいけない” という文は公開演習の資料に載っていなかった。10回は読み直した。読み過ぎてほぼ暗記した。だが、書いては無かった。

え?屁理屈だって?フフフ、最終的に勝てば良かろうなのだァァァァ!!!!

 

「では結果を発表します。」

 

さぁ!俺の勝利を高々と叫べ!アナウンスよ!俺の勝利を讃えよ!

 

「爆督、空督の戦術的勝利です!」

 

「よっsh....待て今なんつった?」

 

ガッツポーズを取ろうとしたが・・・どゆこと?

 

「え?わ、私の勝ち...?」

 

なんでだよ?確かに榛名姉から相手旗艦 ”大和” を大破させたと報告があった。

 

「おい!何言ってんだ!コイツの旗艦 ”大和” は大破してただろ!」

 

審判員の無線へ周波数を合わせ怒鳴りつける。

 

「ウチの旗艦は電だよ?」

 

え?

 

「まって、アンタの旗艦って大和じゃあ...」

 

赤く腫らした目を拭いながら...

 

「電だよ」

 

ぬぅわぁぁぁああああ!!!!!

やらかしたぁぁぁあああああ!!!!

 

◇ ◆ ◇

 

2月6日 18:33 大本営 大食堂

 

「ガーハッハッハ!!お前ホント馬鹿だな!!相手の旗艦間違えるとか馬鹿だろ!!」

 

爆督がビールジョッキを片手に俺の肩をバシバシと叩く。痛ぇよ。

 

「うっさい。ウザい。暑苦しい。酒臭い。離れろ。しかもお前鼓膜破れたんじゃあないのか」

 

俺の肩にまわされた爆督の手を払いながら素朴な疑問も投げる。

 

「ハーハッハッハ!!あんなの目覚ましにもならんわ!!スタンドで防御したから無傷だ!!!」

 

頭おかしいだろ、コイツ。

俺、爆督、空督、榛名、時雨、山風、愛宕、千歳、日向、大和、翔鶴、瑞鶴、鹿島、雷、電の15人で大本営の食堂の端っこを借り公開演習の打ち上げをしていた。

 

「え、じゃあなんで起きなかったんですか?」

 

「お前の慌てふためく様が面白くって寝たフリしてたんだよ!!!!」

 

空督はこれまた大きな溜息をついた。

全く趣味の悪い野郎だよ、ホント。

 

「提督さん、ちょっといいですか?」

 

「なんだ!鹿島ッ!」

「どうしました?」

 

ココには提督が2人いるからな、そりゃハモるわ。

 

「あ、ややこしかったですね。あのー、能督さんその身体は大丈夫なのですか?」

 

「おれェ?」

 

2人じゃあなくて3人だった、てかまさかの俺かよ。

 

「提t...能督さん、空督の空気弾を受けて全身血塗れで医務室に運ばれたみたいでしたけど....」

 

傷を治す時、重要となるのは血液だ。

血液中の血小板が固まり、止血する。

だが大きな傷の場合、血小板で止血する前に出血加多で気絶、ないしはタヒ亡してしまう。

傷口を押さえ血”液”で満たせば出血加多に至る前に止血出来る。傷口を手で抑えれば ”閉ざされた空間” が出来る。

応急処置ではあるが医務室に運ばれる頃にはある程度出血は止まっていた。全身血塗れだった故、医療班は大慌てだったが。

 

「へぇ本当に便利ですね。スタンドって」

 

「「「そんな事はない」」」

 

今度は能督、爆督、空督、3人共にハモった。

 

「俺のスタンドは手加減は出来んし治療も出来んからな!!!」

「私のスタンドも非力すぎて能督をコ□せませんでした」

「そうだね〜俺のスタンドも...って待って空督(歩美ちゃん)、俺の事コ□そうとしてたの!?」

 

爆督は笑ってたけど艦娘全員苦笑いで顔引きつってたよ?本当に散々な演習だったよ、全く。だが、これだけは言える。

 

もうこんな事は二度としない。

 





公開演習編終了です。

イラスト書いてくれたリア友まじ感謝やで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#15 能督の野望と休息


能督
fpsが好き。ボイチャの時以外は毒とかげタイプのゲーマー。日光よりブルーライトが好き。HN(ハンドルネーム)はノート君。

山風
育成系ゲームとか割と好き。

伊58
前任の時はオリョクルで忙しかったけどホントはゲーム好き。かめタイプのゲーマー。HNはゴーヤー。

江風
能督に勧められfpsにどハマり。とりタイプのゲーマー。HNはまろーん。

タイプ別ゲーマー動物4種 で検索しよう。



2月11日 09:29 鎮守府 執務室前廊下

 

トントントンと3回ノックする。・・・反応がない。

 

「提督・・・?入る・・・よ?」

 

ゆっくりと扉を開けるが、室内はまだ暗かった。

 

「提督?いないの・・・?」

 

今日の秘書艦はあたしなのに・・・

演習の時の提督の発言を思い出す。

 

「はぁ....俺いつになったら家に帰れるんだろ....」

 

もしかしてココ(鎮守府)から逃げちゃった!?どうしよ、どうしよ・・・

ま、先ずは提督の自室に行ってみよう。

まだ寝てるだけかもしれない....

 

◆ ◇ ◇

 

2月11日 09:32 鎮守府内 能督自室

 

「NEドアの裏、敵2人。抑えておくからまろーん、ゴーヤを起こして」

「ドムシ置いた!リバイブに入るぜ!」

「うぅ...ゴメンでち...」

「いや、1ダウンGJ(グッジョブ)。ジャンパ置くから離脱して回復、余裕があったらスナで援護よろ」

「空爆要請したぜ!あ、提督!E方面から突っ込んできやがった!」

「おk、ダウン取った。あと、提督じゃあなくてノート君な」

「敵、見えたでち....」

 

スパーンッ!という発砲音と共にTV画面いっぱいに ”You are the CHAMPION!” の文字が浮かび上がる。

 

「よっしゃー!2連チャンピオンだ!提督...じゃあなかったノート君、マジうめぇな!」

 

まろーんこと、江風の賞賛の言葉に思わず顔が綻ぶ。

 

「GG(グッドゲーム)、ゴーヤの援護あってこそだったよ」

 

実際ゴーヤのスナイパーテクニックはかなりの物だ。

 

「まろーんの動きも完璧だったでち!」

 

お互いに褒め合い3戦目に備える。

 

「提督、何・・・してたの...」

 

ヘッドフォンを外されTV画面の前に立たれてしまった。この娘はいつの間に俺の部屋に入ったの?

 

「山風ちゃん?あのーゲーム画面見れないんだけど・・・」

 

「キリが着いたでしょ....今度はお仕事の時間・・・」

 

この前のオドオドした態度とは打って変わって堂々としてらっしゃる。

仕方ない、一応ゴーヤとまろーんにも言っておくか。

 

「すまん2人とも、山風ちゃんが来たから一旦落ちるわ」

 

パーティを抜けようとコントローラーに手を伸ばすも山風に取り上げられてしまった。

 

「提督なんで、ゲームしてたの・・・」

 

言葉尻から静かな怒りを感じる。なんで怒ってンの?

 

「いやーこの前さぁ、山風ちゃんが構わないでって言ってたからさ、じゃあ別に良いかってなって江風と伊58の3人でAp○xしてた」

 

「まだ・・・2人と話せるの?」

 

仁王立ちした山風ちゃんの股下からTV画面を覗くと3人のキャラクターが待機していた。

 

「パーティ抜けてないから喋れるよ」

 

山風はふーんと俺のヘッドフォンをつけ

 

「江風、ゴーヤちゃん、提督はお仕事で忙しいから次はあたしがやる」

 

いや今日の秘書艦貴女でしょ、山風ちゃん?

 

◇ ◆ ◇

 

2月11日 11:48 能督鎮守府 執務室

 

「ぐうぉぉぉおお......絶望的に面倒臭ぇぇぇええ.....」

 

机に突っ伏した拍子でペンが落ちてしまった。車椅子では落ちたペンを拾うのも一苦労だ。ゲーム中は気にならなかったが足が無いというものは、こうも不便なものかと溜め息がでる。

 

「ハァ、分かった。この書類終わったらお昼にするからそれまで頑張ってよ」

 

セミロングの黒髪を後ろで三つ編みにした物静かな女の子が溜息を着きながらペンを拾い上げる。

白露型駆逐艦2番艦 時雨。

 

「というか提督、山風は?今日の秘書艦は山風だった筈だよ?」

 

確かに今日の秘書艦は山風の筈だったのだが、俺のゲームで遊び始めてしまったので代わりに時雨を秘書艦として執務をしていた。

 

「あー...なんか用事が有るとかで来れなくなったらしいよ。あ、それと時雨ちゃん今日は元々非番だったから休日出勤手当て多目に出しとくね」

 

確かに仕事をサボるのは確かにいけない事(特大ブーメラン)だがゲームをプレイしてみたいと言う()に仕事をしなさいなんて残酷な事は俺には言えない、本音?

ゲーム仲間が欲しかっただけです。

 

「手当ては嬉しいけど他の鎮守府から来たからって、あまり甘やかし過ぎちゃダメだよ」

 

「へーい」

 

甘やかしてるつもりは無いんだけどなァ。色んな艦から教わったお陰で1人でもある程度、書類を捌ける様にはなった。

静まる部屋にペンの走る音が響く。

 

──────

 

「ッしゃぁぁぁああ!!オワタぁぁああ!!」

 

大きな伸びをしながら仕事が終わった嬉しさから思わず叫んでしまう。

 

「...ッ!!びっくりしたじゃあないか。」

 

「めんご、めんご。よし、飯だ!飯に行こう!」

 

処理し終わった書類を纏め車椅子を動かす。

 

「いやー、俺ちゃんホント頑張ったわァ」

 

「あれ位の仕事はもっと早く終わらせて欲しかったけどね」

 

ちょっと厳しい事を言いつつも俺が乗っている車椅子を押してくれる。

 

「あ、そうだ時雨ちゃん。俺自室で食べるから白露型の姉妹ちゃん達と食べなよ」

 

流石に上司と肩を並べながら食事なんて嫌だろう。少なくとも俺は元帥や爆督と肩を並べながら食事なんて御免だ。打ち上げは本当に地獄だった。(色んな意味で)

 

「ううん、提督と一緒に食べるよ。提督、いや能督の事をもっと知りたいからね。ていうか提督、その足じゃあ何も出来ないでしょ?」

 

「じゃあ仕方ないね。」

 

まぁその足って膝から下、無いんですけどね。

 




能督がなぜ足を無くしたかは、また後日。

ノート君....能督はゲームのためなら早起きします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#16 win-winな関係・・・じゃない!


能督
人の名前覚えるの超苦手。ごめんね!

伊168
スマホにメモして覚えるタイプ。

朝霜
割とすぐ覚える。

巻雲
顔と名前が一致しない事もしばしば。

早霜
全艦娘完璧に記憶済み。まじリスペクトっスわ。



2月7日 12:29 鎮守府内 中庭

 

空はこんなに広いのに俺の世界はこの鎮守府の中だけ。艦娘の同伴が無いと満足に買い物にも行けない。軍のお偉いさんは何を考えてるのやら。

はァ、マジつっかえ。

 

「なーに黄昏ちゃってるのさ、提督?」

 

スク水の上にセーラー服を来た少女が寝転ぶ俺を覗き込む。

 

「えーっとイムヤちゃん?髪が俺にかかって擽ったいんだけど」

 

あーごめんと小さく舌を出す。これがリアル ”てへぺろ” というやつか。可愛い。

 

「あ、これ提t...能督に渡してだって」

 

1つの封筒を受け取り裏を見ると左下に ”大本営 元帥 猿渡芳一” の文字が見える。

嫌な予感がする。

てか、嫌な予感しかしない。

 

「ありがと、後で見とくよ」

 

封筒をポケットに押し込み芝に身を預け瞼を閉じる。

 

「提督さぁ、私達出撃しないの?」

 

素朴な疑問だろう、実際まだ一度も出撃していない提督を疑う事は当然だ。だが、

 

「ん〜?あー・・・面倒だし、何より君達の命を預かる自信も腕も知識もない。」

 

そーなんだ。とイムヤが隣に腰を下ろす。

 

「それに大本営から命令されてないんだから出撃なんてしなくていいじゃん。平和が一番だよ。イムヤちゃんは出撃したいの?」

 

暗い顔でゆっくりと口を開く。

 

「出撃したいって訳じゃあないけど、前任の出撃命令が大変だったせいで私って要らなくなったのかなぁ....って思っただけ・・・」

 

鎮守府近海は第一艦隊と第二艦隊でパトロールしてもらっているみたいだが、それ以外の艦は基本的に鎮守府内で訓練してるだけ。

使命感というのは時に厄介な物だ。

こんなに幼気な少女にまで牙を剥く。

 

「フツーに必要だよ、万が一ココに深海棲艦が攻めてきたら誰が守ってくれるのさ。君達艦娘でしょ?」

 

数秒間の沈黙。今思えばもっとマシな返しがあっただろうに、長年ぼっちだった弊害だな。

 

「能督は優しいんだね・・・そうだ、さっきの封筒に出撃命令の紙が入ってるかもよ?」

 

いやまさかね。

 

「なーんて冗談だよ」

 

優しく笑みを浮かべるイムヤを横に俺の表情筋が強ばる。

 

「明日って冗談じゃあないよ....」

 

「嘘ッ!?ホントに出撃命令ッ!?」

 

俺の手から溢れた手紙をイムヤちゃんは急いで拾う。

 

「待って、・・・海防艦 択捉の着任と研究員の視察について.....って、出撃命令じゃあないじゃん!」

 

◆ ◇ ◇

 

2月8日 10:38 鎮守府埠頭

 

「ったく、遅せぇなァ・・・」

 

寒い中待たされると自ずと口も悪くなるものだ。確か気温は5度を下回っていたな。カイロを入れたポケットに手を突っ込み身震いする。

 

「全くだぜ、視認出来たら砲撃していいか?なぁ、司令ぇ?」

 

膝下まである銀髪のアホ毛少女・・・確か朝霜ちゃんだったかな、なんて物騒な艦娘だ。だが良い考えだと思う自分もいる。

 

「ふぇ...そんな事しちゃだめですよぉ」

 

巻雲ちゃん、メガネに萌え袖ドジっ子という可愛いの権化がビックリする位分かり易く慌てる。うん可愛い。

 

「そんな事言ってると見えてきたよ、研究員の船。ほら司令官も見えるでしょ?」

 

先を切り揃えた腰まであるダークグレーの髪の少女・・・早霜ちゃんの言葉を少し疑いながらもベルトに提げておいた単眼鏡を覗くと小さく船が映る。

 

「ホントだ、見えた。いや目ェ良過ぎてしょ、遠過ぎてゴキブリみたいに小せぇじゃん」

 

3人の視線が俺に集まる。ゴキブリって言葉に反応したの?例えが変だった?

 

◇ ◆ ◇

 

2月12日 11:08 執務室

 

「いやー、遅れてしまい本当に申し訳ない。なにぶん船酔いが凄くてですね・・・あ、これワタクシの名刺です」

 

刈り上げの理容店カットの男は細い目でヘラヘラと笑いながら白衣の胸ポケットから名刺を取り出す。

 

「どーも。俺の名刺、まだ出来てないんでお渡しできないです。野上彰n...」

 

「もちろん存じておりますとも!」

 

知っとるんかい。いやよく考えたらただでさえ提督の絶対数は少ない。そして幽波紋(スタンド)をもった提督となれば更に限られる。ならば大本営の職員に通達されていても何ら不思議ではない。

一応朝霜、巻雲、早霜は俺の後ろで待機してもらっているが......

名刺に目をやると ”大本営 艦娘艤装研究所代表取締役 田中 進夢(タナカススム)と書いてある。

 

「で田中さん、今日は只の視察ですか?」

 

この男、妙に怪しい。白衣には名前の刺繍が無い。そこまでは看過できる、だがその前にスーツではなく白衣で来た事。他の研究員どころか護衛も付けずたった1人で来た事。

何よりこの男が付けているメガネ、間違いなくカメラが搭載されている。そういうのを買おうと調べていた時期があった為、スパイ道具には少し知識がある。

恐らくカメラだけではなく盗聴器等も付けているだろう。

 

流石(さすが)提督殿、お察しが良いですね。とても込み入った案件ですので、あのー・・・艦娘の方はちょっと....」

 

退出させろという事だろう。怪しい。だが、もうちょっと泳がせてみるか。

 

「分かりました。ごめんけど3人とも、席を外してくれる?」

 

それなら仕方ないと駆逐艦3人は執務室を後にする。

 

「で、込み入った話とは?」

 

田中の薄い目が不気味に少し開く。

 

「はい、提督・・・いや、能督殿はこの仕事に不満があると風の噂で聞きまして。それでこのワタクシ、田中が提督代理になるというのはどうでしょう」

 

これまた大きく出たものだな。俺が提督業を辞めたいというのも事実だ。だからといって、ハイじゃあ交代ね。と簡単なモノではない事もまた事実。

 

「大本営は受理したんですか?」

 

「いえ、大本営には報告しておりません。ですので表向きは能督殿が、主な運営はワタクシが。と考えております」

 

分かり易く胡麻を摺る男だ。しかし、存外悪い条件でもない。

 

「ワタクシは近くで艦娘を観察でき、能督殿はワタクシが用意した近くのアパートで過ごすだけでお給料が貰える。いい条件ではありませんか?俗に言うwin-winの関係というやつです」

 

願ってもない事だが、逆にそれが怪しい。

そして俺はこのwin-winという言葉が大嫌いだ。大体こんな事言う奴にろくな人は居ねぇし自分7:相手3の利益で考えるだろ。

 

「能督殿が宜しければこの書類にサインを頂けませんか?一応契約書という形で残しておきたいので」

 

そう言うと田中は鞄から書類とボールペンを机に置く。

 

「あーハイハイ、サインねェ・・・」

 

田中の口角が上がるのを視界の端で捉えた。

それもその筈、同意書の途中にこう書かれているのを俺は見逃さなかった。

 

”艦娘の扱い及び研究に対し私、能督 野上彰成は一切の口出しを致しません”

 

早すぎて契約書の長文に目を通してないとでも思ったのだろう、ラノベを読みまくった俺の速読を舐めるなよ。

やっとコイツの目的が見えた。同意書を書いたら俺は厄介払い、そして俺がいなくなった鎮守府で艦娘達をモルモットにして遊ぶつもりだろう。

大本営に行った時、艦娘軽視派という艦娘を兵器と見なし、ぞんざいに扱う人間も存在する事、艦娘を研究という名目で解剖する学者がいる事など胸糞悪くなるような噂も耳にした。そしてコイツが噂の学者というところで間違い無いだろう。

確かに提督業は勘弁願いたいが、女の子を弄ぶ事を許可しろと言われ首を縦に振る俺ではない。

さてさて、このクソ野郎をどういたぶってやろうか。そんな思考をめぐらせていると不意に廊下から足音がなる。いらんこと思いついた。

 

「まずい!田中さん、足音です!早く机の下に隠れて!」

 

田中の胸ぐらを掴み無理矢理机の下に潜り込む。田中の頭が机に思いっきりぶつかるが・・・わざとです、ハイ。

 

「な、何するんでs....」

 

「静かに!あの娘にバレてしまいます!」

 

田中の口を塞ぎ小声で注意する。

良ォし、これで消化器官という閉ざされた空間を作る事が出来た。

 

充水(フィルウォーター)・・・」

 

抑えていた手から水が溢れ出す。

 

「ぅはっ!・・・うえッ!・・・ごふぉ!」

 

へへッ、ざまぁみろ。哀れ!余りにも哀れッ!こんな絵に描いた様なクソ野郎をボコれるなんてェェ!!スカッとするぜーーッ!!

 

「サインなんかするか、ばぁか。お前の好きにはさせねぇよ。分かったならさっさと帰んな、このクソ野郎」

 

慌てて机の下から這い出でるが逃がさねぇぞ。帰れと入ったがスッと帰したりしねぇよ。

 

「な、何するんですか!?非道いじゃあないですか!スタンド攻撃するなんて反則ですよ!反則ッ!」

 

かかったな、まんまと俺の(トラップ)によォ。

 

「俺は一言もスタンドなって言ってないぜ。今の台詞(セリフ)でお前がスタンド使いって事は良〜く分かった」

 

ビジネススマイルが壊れた、ようやくボロを出したな。

 

「ッ!!よくもこのワタクシを騙しましたね!」

 

いや、騙そうとしたのはお前の方だろ。

 

「ウィアー・ナンバーワンッ!!」

 

大声と共にリーゼントのピエロ服を着た様なスタンドが現れラッシュをかけてくる。

 

「アクア・スペースッ!!」

 

執務室に拳がぶつかると音が響く。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ッ!!!」

 

A.スペースのラッシュによりWe're No1がよろめく。

ん?なんだ、このスタンド意外と弱いぞ?

それにコイツ口を閉じやがった。

そう、 ”閉じた” のだ。

 

充酸(フィルアシッド)!!」

 

もう手加減はしねぇ、コイツをコ□す。コ□さなくても再起不能になってもらう、そうでもしねぇと次の犠牲者が出る。

全く事なかれ主義の俺がなんでこんな事してるのか本当に疑問だよ。

 

「カハッ!・・・あ、熱いッ!」

 

コイツの口に酸を生成しようとしたがすぐに口を開けられてしまった。勘のいいヤツめ。

 

「ハァ....ハァ...もう、許しません・・・」

 

田中の目にはハッキリと殺意が浮かび、どこからともなくカラフルなダイヤル式電話を出し何処かへ電話をした。

 




stand name ウィアー・ナンバーワン(We're.No.1)
stand master 田中進夢(大本営 艦娘艤装研究所代表取締)
stand spec
パワー C
スピード C
射程距離 D
持続力 C
精密動作性 D
成長性 E

名前の由来
海外の子供向け番組、レイジータウンの曲、we are No.1から

能督に休む暇はありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#17 一人の研究員と四人のスタンド


能督
研究員をボコった後の事は考えてない。

田中
能督をボコったらドラム缶に詰め海に沈める予定。



2月8日 11:14 執務室

 

「ワタクシも全力でいきます」

 

口の中が軽く溶かされた筈だが、何故かコイツは意外とピンピンしていた。

 

「もしもし、3人お願いします」

 

どこからともなく取り出したカラフルなダイヤル式電話の受話器を耳に当て何か言っているが、意味は理解出来ない。

 

「え〜?なァに言ってるんでぇすかァ〜」

 

全力で煽っていると上から ニュイ〜ンと音と共に大きな配管が生えてきた。

 

「ウィアーナンバーワン!」

 

田中のスタンドと全く同じ・・・いや、限りなく似た見た目をしたスタンドがボトボトと配管から3人落ちてきた。

 

Hey!welcome my friends(ようこそ!わがともよ!)!」

 

最初から居た身長が高いピエロが両手を広げ再会を喜んでいる、様に見える。

 

Is this an enemy(コイツが俺たちの敵なんか)?」

 

少しばかりしゃくれたピエロがコッチを指差してノッポピエロに質問してる、様に見える。だから人を指さすな。

 

There is no mistake(そうに決まってんじゃん)!」

 

今度は小太りなピエロが手を叩き笑いながらシャクレピエロの質問に対して答えている、様に見える。

 

Come on, defeat this man(さ、とっととコイツぶっ飛ばそうぜ!)!」

 

他のピエロより一回り小さいピエロが首を鳴らしファイティングポーズをとる。

ふむ、こんな自我があるスタンドもいるのか、似たようなスタンドが談合している。

パッと見、面白い茶番でもしているように感じるが俺を攻撃する事に間違いないだろう。英語が得意という訳では無いがなんとなくのニュアンスで分かってしまう。

 

「やれっ!」

 

情けない雄叫びと共に4体のスタンドが襲いかかる。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ッ!!!何人に増えようが俺の方が強ぇ!!」

 

などと考えた俺が馬鹿だった。

確かにパワーもスピードもA.スペースの方が上だ。だが、それは1対1の状況であったからだ。

正面のwe're No1を対処しても2.3.4の拳がA.スペースの背中、脇腹、顔面に飛んでくる。

 

スタンドのルール、その2

スタンドが受けたダメージはスタンドマスターにフィードバックされる。

 

シルヴァの時とはまた違う痛み、鈍痛が俺の肢体を襲う。

 

「ずりぃだろ、それ....チートじゃんかよォ・・・」

 

HAHAHA!It's not too loose(ハッハッハ!ズルなんかじゃあないぜ!)!」

 

ノッポピエロが右手で指さし左手で腹を抱え笑っている。だから人を指さすな。

・・・だがコッチだって、唐変木ではない。

一旦距離をとる。この技は相手との距離が必要だからだ。

懐からアルミニウム板を取り出しA.スペースに投げ渡す。

俺は悟られない様にベルトの内側に付けたホルスターに収納された回転式拳銃に手をかける。

以前行ったデパート(#7を参照)でガスガンの玩具を購入していた。それを明石に頼み込み実銃に改造してもらっていたのだ。

いやー、明石の説得には骨が折れたよ。

 

I will give you a quiz now(今からクイズを出します).」

 

4人のスタンドが阿呆面引っ提げてお互いに顔を合わせ頭上には?マークが浮かんでる様だ。

 

「アルミニウムに水銀が接触すると、どーなるでしょーか?」

 

A.スペースはアルミニウム板を両手で挟み込む様に握り、どこかの金髪チビ錬金術と同じ様な神に祈るように胸の前に持ってくる。

 

What are you doing(コイツは一体何をしてんだ?)?」

 

答えは簡単。アマルガムという物体を生成する。

アマルガムは白いふわふわした合成金属で、中は空洞。空洞ということはドロドロにとかした金属をそのアマルガムの中に充たすことが出来る。

融点が低い金属を数種類、アマルガムの中に充たせば次第に固まり即席の槍を作る事が出来る。

液体だった高温の金属を冷水で硬化させ槍にするには時間がかかる。

その間に突っ込んでこられたら回転式拳銃で応戦するつもりだったが、田中のスタンドは自律式故に頭が弱かった様だ。

馬鹿のように槍が完成するまで棒立ちだった。

 

「これが現代の錬金術だ・・・」

 

俺がカッチョイイ決めゼリフを言うとそれを合図に4体のスタンドが再び襲いかかる。

だが、舐めるなよ。

学生時代は厨二病拗らせまくって棍術用の棍棒を買い、動画で研究しまくった俺の棍スキルを舐めんなよッ!

正面のNo.1に一撃、背面のNo.2に一撃、顔面狙いのNo.3と脇腹狙いのNo.4に二撃づつ棍をお見舞する。見たかァ、俺の華麗過ぎる棍捌きをよォ。我ながら今の動きは完璧(perfect)だった。

やはりこのスタンドは頭が悪い。同じ所を同じ様にしか攻撃してこない。

そして、A.スペースが4体の相手をしている間に拳銃をホルスターから抜き両手で丁寧に研究員 田中進夢......ではなく奴が手にしているダイヤル式電話に狙いを定める。

改造した回転式拳銃は22口径。反動は市販のガスガンと同程度。殺傷能力は低いがあの電話を壊す程度は威力がある。

 

ガァーンンッ!!ガァーンンッ!!

 

「うわっ!当たって・・・ない!やーいやーいハズレですよ〜!」

 

4体のスタンドの動きが完全に止まり、俺は静かに電話の方を指差す。

 

綺麗に命中し電話には2つの風穴が空いていた。

 

「あぁ!!ピエロフォンがっ!」

 

スタンドの本体は最初から居たノッポピエロじゃあなく電話の方だった。

 

スタンドのルール その3

スタンドはスタンドでしか攻撃出来ない。

しかし、物体依存型はこれに該当しない。

 

奴のスタンドの能力は人型スタンドを呼び出す事ではなく、人型スタンドを呼び出す機能を普通の電話に付与する能力だったのだ。

というか、そのやけにカラフルなダイヤル式電話、ピエロフォンというのか。だせぇな。

 

「あぁ....な、なんて事してくれるんですか・・・」

 

田中は大事そうに壊れかけの電話を抱きかかえて涙を流す。

だが同情する気もない。同情の余地も無い。

この国を守る艦娘を、命を只のモルモットとしか見てないクソ野郎に生きる資格なんてない。

そしてこんな奴から、此処の艦娘達を守ってみせる。

 

「再起不能になってもらうッ!」

 

今度は俺が奴に飛び掛かりを叩き込む。

 

「これは正規空母の分ッ!」顎に1発。

「これは軽空母の分ッ!」鳩尾に1発。

「これは戦艦の分ッ!」腕に1発。

「これは駆逐艦ッ!重巡洋艦ッ!軽巡洋艦ッ!海防艦ッ!潜水艦ッ!」

 

スピードB、パワーBの拳の雨をクソ野郎の全身に叩き込む。

 

「これも これも これも これも これも これも これも これも これも これも これも これも これもこれもこれもッ!!!!」

 

大きく力を溜める。このクソ野郎をぶちのめす為に。

 

「艦娘のォ分だぁぁぁああああ!!!!」

 

ドゴッ!バキッ!グチャ!と肉を叩く音が加速する。力任せに、疲労でうでが上がらなくなるまで・・・ぶちかますぜッ!

 

Gyaryyyyyyyーーーーッ(ギャリィィィィィィィ)!!!!」

 

気が付いた頃には白衣を着た男の関節はあらぬ方向に曲がり、歯は所々無くなり、顔は痣だらけだった。

これで良かった。そう、これで良かったのだ。

俺が傷害罪で豚箱に入れられようとこのクソ野郎から少なくともこの鎮守府の艦娘を守る事が出来ただろう。

そう、信じたい。

だが犯罪は犯罪だ、そこは甘んじて罰を受け入れよう。

あーあ、ついさっき艦娘達を守るって決めたのによォ....豚箱の中にいたら艦娘達を守れねぇじゃんかよォ。

 




stand name:ウィアーナンバーワン(We're.No.1)
stand master:田中進夢(大本営 艦娘艤装研究所代表取締)
stand spec ピエロフォン本体
パワー E
スピード E
射程距離 A
持続力 A
精密動作性 E
成長性 D

電話にスタンド能力を宿らせる能力。ピエロフォンで電話をかける事で人型スタンドを呼び出す事が可能。
最大四人同時に呼び出す事が出来るが元々のスペックが低いので四人で一人をタコ殴りにするスタイル。
遠隔操作型だが田中が能督と接触する必要があった為敗北。

遂に能督の初勝利です。ぉめでと。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#18 罪の重さと新艦娘の着任


能督
50m走の最高記録は6.81秒。何故か足は生まれつき早い。

空督
最高記録は8.12秒。士官学校にいた為、同年代の女子より早く走れる。

択捉
11.7秒。至って平均的。



2月10日 13:21 鎮守府埠頭

 

【人は犠牲無しに何かを得る事は出来ない】

 

今日になり(ようや)くそれを理解する事が出来た。

 

「提督ッ!タヒんじゃあダメです!しっかりして下さい!」

 

択捉の一生懸命な声が聞こえるが・・・いやー、もう駄目だろ。この脚じゃあ助かんないよ。

 

「能督ッ!聞こえますかッ!今医務室に運びます!それ迄耐えて下さい!」

 

筑摩姉が脚の無い俺を抱え鎮守府内へ急く。ってか死ぬ前に女の子にお姫様抱っこされるとかどんな罰ゲームだよ。

 

「大淀!府内放送で出撃可能な艦を呼んでッ!」

 

陸奥姉が無線で大淀姉に連絡を取っている。

意識が朦朧とする中、ドゴォン!ドゴォン!と砲撃による雑音が耳を刺す。

 

「もう・・・諦めようよ.....こんな脚じゃあ生きてても仕方無いしさァ.....」

 

「・・・・・aさい!.....ていt・・・」

 

あー、もう誰が何言ってるかも分からなくなってしまった。どうやら俺の奇妙な冒険はここで終わってしまうらしい。

あの研究員をボコった罰がこれかな。

考えてみればクソつまらない人生だったと思う、悔いはない。だが強いていえばfpsゲームのシーズン6をプレイ出来なかったな。

 

◆ ◇ ◇

 

2月10日 12:30 鎮守府埠頭

 

「択捉型海防艦の一番艦、択捉です。精一杯戦いますので宜しくお願いします!」

 

朱色のボブカットヘアーの幼女がもみ上げの三つ編みを揺らしながら一生懸命敬礼をしている。小学生低学年、いや幼稚園の年長あたりにも見えるが海上で深海棲艦と戦う立派な戦士だ。そう思うと感謝の様な罪悪感の様な複雑な感情が胸中を蠢く。

先日やってきた山風も幼かったが、択捉は更に若い。若過ぎる。年端もいかないとはこんな娘の為にあるのだろう。

 

「おけ、じゃあ択捉ちゃん。早速だけど最初の任務を言い渡しまーす。先ずは俺の部屋n....」

 

「えぇ、ちょっと早速過ぎませんか?もうちょっt・・・」

 

なんだァ?この金髪パーマ女(空督)は俺の考えに異論があるみてぇだなァ。

 

「空督アンタさぁ、人の話は最後までちゃんと聞こうよォ。最初の任務は鎮守府内にどんな施設が何処にあるのか覚える事だよ?」

 

「え?あ、あの・・・そのぉ...すいませんでした.....でも、能督の部屋に。って今言おうと」

 

どんな勘違いをしていたのか知らんが耳を赤くして俯いている。帽子で表情は読み取れないが顔真っ赤状態というのは間違い無いな。

 

「俺の部屋の位置から教えるって事だよ。択捉ちゃんが秘書艦になったら朝イチの仕事、俺を起こすだからね?」

 

夜はどんなに遅くても24:00には寝るが、なにぶん朝が弱い。

 

「なるほど!提督の生活リズムを整えるのも秘書艦の仕事なのですね!」

 

「「違う、そうじゃない」」

 

駄肉(空督)とハモってしまった....クソが。

 

◇ ◆ ◇

 

2月10日 13:07 鎮守府埠頭

 

「さーて施設の場所とかは大体把握出来たかな?」

 

可愛らしくデコレーションしたピンクの手帳をポッケになおし、ピシッと敬礼する。

 

「はい!メモしたので大丈夫です!」

 

私にはこんな可愛い小物なんて似合わないし仮にこんな物持っていたら、あの筋肉ダルマ(爆督)とか、薄ら笑いチビ(能督)とかから全力で馬鹿にされるだろう。

 

「あ、そーだ。何か質問はない?」

 

チビの癖にわざわざ択捉に目線を合わせて話す。

 

「質問ですか....あ、私の出撃はいつですか?」

 

困惑しているのか眉を八の字にし頬をポリポリと掻きながら、あの薄ら笑いを浮かべる。

 

「いやー、暫く・・・てか今の所出撃予定は無いよ?」

 

択捉はキョトンとした顔でこちらを見る。

 

なに、この途轍(とてつ)も無く愛くるしい生き物は。持って帰っていい?ウチで飼っていい?

 

「お前なんか変な事考えてるだろ」

 

なんでこんな時だけ勘が鋭いのよ。

 

「そう言うアンタこそ......」

 

ウー!ウー!という突然鳴るサイレンに少し怯んでしまった。

 

「緊急事態発生ッ!深海棲艦の襲来です!これは訓練ではありません!繰り返します、これは訓練ではありません!」

 

大淀の警報を聞き終わる前に夥しい(おびただ)数の敵艦載機が空を覆う。

先に動いたのは私でも、択捉でもない。嫌そうにギザ歯を覗かせるチビ、能督だった。

 

「アクア・スペェェェスッ!!」

 

悔しいが能督が少将という私より上の地位に就いた理由が分かったかもしれない。

 

「グレイ・マシーン!!」

 

早く早く早く!早く空気弾を造らなきゃ!

もっと早く空気を圧縮しなきゃ!

でなきゃ、また演習の時みたいになる!

でも今は演習じゃあない。深海棲艦は手加減してくれない。手足が無くなるかもしれない。死ぬかもしれない。

じゃあ私が出来る事は何?

1つでも多く敵機を撃ち落とすこと?

あのチビを援護する事?

敵の親玉を見つける事?

私は一体何をすればいい?

 

「ボサッとしてんじゃあねェ!お前がする事は択捉ちゃんを守る事だろがッ!」

 

そうだ、択捉はまだ正式配備してないから艤装を展開出来ない。すっかり失念していた。

急いで択捉に駆け寄り空気弾を構える。

 

「チュミミィイイン」

 

G.マシーンの合図、よし以前より早く空気弾を生成できた。これで敵機を!

数日前にふと筋肉ダルマが言った事を思い出した。

 

「お前の空気弾は連発出来ないんだから早く生成する技術を磨くか、一発あたりの質を上げろ。そして迷ったら撃つな、記憶したか?」

 

圧縮出来る空気には限度がある。それを超えれば私の指がひしゃげてしまう。ならば生成時間を縮めるほか無い。

 

「提督!艤装を展開出来ません!」

 

分かっている。そして私がすべき事も分かっている。

 

「択捉、ちゃんと聞いて。ココから走って工廠に行くの、貴女1人で。私がスタンドで援護するから振り向かないで走って!さぁ!」

 

ハイ!と元気よく返事し小さい四肢で一生懸命に走り出す。

 

「キエェェェエェェ」

 

身の毛もよだつ様な奇声二つ分が背後から響く。

 

「そこッ!」

 

ドシュン!ドシュン!と2発。

 

一機に一発、確実に当て各個撃破。

半分程えぐれた敵機二機はフラフラと埠頭のコンクリートに落ちる。

幾ら生成時間を短縮出来たからと言って無駄撃ちは出来ない。

・・・しまった!択捉は!

 

「ギエェェェエェェ」

 

択捉のすぐ背後に敵機が迫っていた。

艦娘といえど艤装を展開していなければ只の女の子に変わりない。

見た目10歳にも満たない娘があんなのに撃たれれば・・・

 

死ぬ。

 

ココから択捉まで遠い。空気弾でも間に合わない。私のせいで1つの尊い命が消える。

 

「択捉ちゃんの保護はお前の仕事だろがーーッ!!!」

 

ドゴォン!という雑音が耳を刺し、黒煙をあげる。走り寄り黒煙が晴れる頃には能督に突き飛ばされ肘、膝を擦りむいた択捉と能督が横たわっていた。

だが足りなかった....択捉を守る私の判断力、能督の択捉へ向かう速度。そして・・・

 

能督にある筈の2つの脚が、足りなかった。

 




能督はアマルガムの棍で応戦してました。
空督は隠れ巨乳です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#19 フィラデルフィアのエルドリッジ


能督
美容学校にいた為、身だしなみには少し気を使っている。

空督
長い間、士官学校に居たのでお洒落?何それ美味しいの状態。

エルト
お洒落しても、ほぼ意味なし。



2月10日 13:26 鎮守府 埠頭

 

や、やっと敵の艦載機全て撃ち落とした。

 

能督が択捉を庇った後、艤装を展開した艦娘達が援護に来てくれた。足を無くした能督は気絶していたが、艦娘達に医務室へと運ばれていった。

あの笑顔は憎たらしい事この上なかったが、もう見れなくなると思うと・・・

 

「意外ト時間カカッタジャアナイノ」

 

聞き慣れない声のする方を見ると地面につきそうな程長い黒髪が特徴の女性がゆらりゆらりと歩み寄ってきた。

裸足に黒のワンピース、血色の無い肌と鮮血の様に真っ赤な瞳。先端に赤みを帯びた二対の角が頭部に一組、胸元に二組。

人間ではない。

そして味方でもない。

 

「アラ、コウイウ時ハ自己紹介ヲスルノヨネ、私ハ ”エルト” ト申シマス。以後オ見知リ置キヲ・・・アッ、イケナイ。貴女二 ”以後” ハ無イノデシタワ」

 

お嬢様言葉でマウントを取ってくる、私の一番嫌いなタイプだ。そしてこの見た目、この喋り方、間違い無く深海棲艦だ。

 

「相手ガ自己紹介シタラ自分モ名乗ルノガ常識デハナクテ?」

 

深海棲艦に常識を説かれるとは夢にも思わなかった。

 

「分かりました、私の名は須藤歩美。貴女を倒す女提督です」

 

エルトと名乗る女は高らかに嬌声を上げる。

 

「アハハハッ! アーハハハッ!私 ヲ 倒ストハ コレマタ 大キク出タジャアナイノ!・・・マァ、私ノ無敵ノスタンドニハ 手モ足モ 出ナイデショウケドネ」

 

彼女の口角は上がっているが目は笑っていない。剥き出しの殺意で身体が鯱張る。

 

「サァ、私ヲ倒シテミナサイヨッ!」

 

猪突猛進という言葉はこの為にあるのだろうと思わせる程の勢いで殴りかかってきた。

私のスタンドは遠距離型。そして既に先程撃ち放った空気弾は生成出来ており、十発撃てる状況だ。

 

「グレイ・マシーンッ!」

 

「チュミミィイイン」

 

ドシュン!ドシュン!ドシュン!

先ずは3発ッ!

空気を切り裂く音を発しながら空気弾を突っ込んでくるエルトに発射する。

 

「コンナノ余裕デスワ」

 

私の空気弾は確かに命中した、だけどエルトにダメージは無い。無傷だ。

代わりに3発分の裂傷がエルトのワンピースに見られる。

 

「先ズハ一発カシラッ!」

 

対応しきれていない私の顔面にエルトの拳が突き刺さる。焼けるような激しい痛みと共に鎮守府玄関前までふき飛ばされた。

飛びそうな意識を何とか取り戻しエルトに空気弾の照準を定める。

出鱈目に撃ってもさっきの様に躱されるだけ。ならばどうやってダメージを与える?

 

「ドウシタノカシラ? モウ、ギブアップデスノ?」

 

「そんな訳無いでしょ!」

 

どうする私。筋肉ダルマ(爆督)だったらどうする?薄ら笑いチビ(能督)だったらどうする?

客観的に物事を見れば自ずと答えは浮かび上がってくる....筈だ。

エルトは再び地面を抉るように蹴りこちらに飛びかかる。

 

「ジャア次ハ鳩尾ニデモシマショウカッ!」

 

「うぉあああうああ!!!」

 

ドシュン!ドシュン! 今度は2発ッ!

 

「ダカラ当タラナイワヨ」

 

先刻と同様、ワンピースにダメージを与えられても本体は無傷。ドスッと重い一撃が腹部を襲う

 

「・・・かはッ...うぇ....はぁ、はぁ.....」

 

内蔵が口から出そうになる程の重い一撃だったが、何とか堪えた。良く耐えた私。

 

「為ス術ガ無イトハ、正ニ コノ事ネ」

 

2発食らって分かった事がある。

エルトに被弾する直前、一瞬だけ周りの空気が揺れ陽炎の様な ”歪み” が見える。

そして躱した後、僅かに低姿勢になる。

恐らくエルトのスタンドは一瞬だけ物体をすり抜ける事が出来る能力。僅かに低姿勢になるのは着ているワンピースもすり抜ける為。

 

「アラアラ、今ニモ タヒニソウナ顔シテマスワヨ、貴女」

 

スタンドの能力を暴いてもダメージが与えられなけれ意味が無い。

ひとまず鎮守府内に逃げ込む。幸か不幸か周囲に艦娘の姿はない。能督の報告書によるとスタンドを視認出来ないのは艦娘も同じらしい。

つまりコイツは私一人で対処しなければならない。

 

「今度ハ隠レンボデスノ?少々オ戯レガ過ギルノデハナクテ?」

 

知った事じゃあない。こちとらあんたのスタンドをどう攻略するか脳を回転させてるんだ。

ゆっくりとドアが開く。

エルトの肩には黒い魚の様な人形、いやスタンドが乗っていた。

 

「へ、へぇ.....それが無敵のスタンドねぇ・・・随分弱そうじゃあない....ですか・・・ハァ、ハァ....」

 

手を顎に当て再び嬌声を上げる。

 

「フフ・・・フフフッ....貴女ノスタンドコソボロ雑巾トイウ言葉ガオ似合イヨ」

 

胴長犬の様な私のスタンド、グレイ・マシーンに物理的攻撃力は無い。

 

「貴女ノ能力ハ ソノ指鉄砲ダケ・・・?ソレトモ他ノ能力ガアルノニ隠シテイルノカシラ・・・」

 

ひたひたと裸足で廊下を歩く音が私の恐怖心を助長する。

もっと・・・もっと情報がいる。コイツを再起不能にする為の情報がいる。

私の体はコイツの拳を後3発も耐えられない。

・・・お前の空気弾は連発出来ないんだから早く生成する技術を磨くか、一発あたりの質を上げろ。

一発あたりの質...

当たらなければ意味は無いと思っていた。威力が弱かろうが強かろうが当たらなければ無意味。じゃあ低威力の空気弾を集め1つの強い空気弾にする。

質=威力と思い込んでいた。

躱されるなら意味が無い。

ならば一瞬では消えない長く撃てる1つの空気弾を撃てばいい。

指一本に圧縮出来る空気は限られている。

指が駄目なら腕に!

いつの間にかG.スペースの(ヴィジョン)は首の長いコウモリのような形になっていた。

 





stand name:グレイ・マシーンact2
stand master:須藤歩美(准将)
stand spec:
パワー D
スピード D
射程距離 D
持続力 B
精密動作性 C
成長性 A

首が長いコウモリの様なスタンド。
白いモフモフの毛で覆われており空督が空槍を準備する時、G.マシーンact2は空気を吸い込み長い喉を真ん丸く膨らませる。
空槍を準備し終わるとチュミミィイインという音を出す。

act2になってもスタンド自体に攻撃能力は無く、空督自身が戦うスタンス。

以下ネタバレ
















エルト戦にて周囲の空気の流れを読む能力も会得。見えない敵や背後の敵の動向にも対応可能に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#20 2つ目の能力

空督
空気の成分、窒素、酸素アルゴン、二酸化炭素、ネオン、ヘリウム、メタン、クリプトン、二酸化硫黄、水素、一酸化二窒素、キセノン、オゾン、二酸化窒素、ヨウ素を完璧に把握。

エルト
水中でも地上でも息が出来る上に2個のスタンド能力を持つ隠れチートキャラ。



2月10日 13:33 鎮守府 埠頭

 

「アラアラ、膝ヲ着イタト思ッタラ今度ハ何?腕に何カ纏ワリ付イテマスワヨ?」

 

指一本に圧縮出来る空気は限られている。

指が駄目なら腕に!

指の空気が弾なら腕の空気は槍!

腕に空気を纏わせるとそのはずみで私が着けていたウィッグ(カツラ)が取れてしまった。長い金髪が揺れる、だがそんな事気にしている場合じゃあない。

 

「グレイ・マシィィィンンッ!!」

 

ギャルルルルル!と腕に纏った空気が歪な音を放つ。

腕全体で溜めた空気槍、もとい空槍は空気弾と比にならない威力、長さ、速度でエルトの腹部目掛け猛進する。

 

「ダカラ無駄ダト言ッテ・・・ッ!」

 

空槍はエルトの薄布を全て巻き取り鎮守府の壁に風穴を開けた。威力は申し分無かったがそれ以上に驚たのは

 

「膝を着いたのは貴女も同じですね」

 

エルトが派手に転けて体制を崩したままコチラを見上げている。

物体をすり抜ける能力、それは地面も例外では無い。故にスタンドは一瞬しか発動出来ず、本体が着地する迄に解除しなければ地面をすり抜け地上に戻れなくなる。

 

「フフフ・・・私二膝ヲ着カセタ位デ良イ気二ナルンジャアナイワヨ。コンナ事ダッテ出来ルノダカラ.....」

 

「え、嘘....」

 

今度は完全に消えてしまった。

跡形もなく。

スタンドを発動したら地面に埋まる筈!なのになんで!?

その質問に答えるが如く、激しい鈍痛が後頭部を襲う。

 

「ドコヲ見テイルノ?・・・私ハココヨ?」

 

霧が晴れるようにエルトの姿が見える。

 

「無力ナ貴女二教エテアゲル、私ノ スタンド、”サイレント・サイレン” ノ能力は一ツジャアナイノ。」

 

馬鹿な。スタンドの能力は一人に一つの筈!

 

「私トイウ存在ヲ ソコカラ一瞬消ス能力、ソシテ透明二ナル事モ出来ルノヨ。ネ?無敵デショ?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

態々(わざわざ)説明して頂き有難う御座います。ですが、敢えて言わせて頂きます。・・・・・・お前はもう死んでいる」

 

見えた。G.マシーンact2の真の能力が。エルトを破る突破口が!

 

「何ヲ言ッテイルノカシラッ?」

 

再び姿を消す。しかし・・・

問題無し。依然問題なし!

 

「見えていますッ!」

 

左腕の空槍を見えないエルトに向かい解き放つ。

 

「・・・ッ!」

 

ぼんやりと見え始めたエルトの身体、その右腕は見るも無残な程グチャグチャになっていた。

 

「生き物も機械も動く時には周りの空気もそれに応じて動きます。貴女の2つ目の能力、透明化。例え見えなくなったとしてもそこに貴女は存在します。存在するという事は物理攻撃も通用するという事ですッ!」

 

「ソノ減ラズ口ヲ塞イデアゲマスワッ!」

 

エルトはよたよたと立ち上がり再び背景に消える。

 

タッタッタッタッ...ダンッ!

 

4歩走り跳んだ。そして跳んだ方向、叩いて来る角度。空気の流れで完全に読めた。

私は脚に空気を纏わせる。指、腕に出来たのなら脚にも出来る!

目を閉じ私の脚、もとい槍を突き刺す。

 

「止められて......いない・・・」

 

脚を掴まれた感触はあった。だがそこに見えたのはグチャグチャになった腕と反対の腕を鎮守府の壁ごと貫かれたエルトの姿だった。

 

◆ ◇ ◇

 

2月12日 18:22 医務室

 

ピコン・・・ピコン・・・ピコン・・・と無機質な機械音が脳内で永遠とリフレインする。

重い瞼を開ける。誰かこの五月蝿ぇ目覚ましを止めてくれ。

左手には点滴のチューブ、右手には血圧計、口には酸素マスク。ギプスは・・・無いね。

いつか見た風景。またデジャヴか。(違います)

うん、違ったわ。窓の外が暗いもん。前回は明るかったもん。

そういえばこれは介護ベッドだった。(違います)寝たまま手探りでスイッチを探す。コツンとベッドの支柱ではないプラスチックの感触。

あった、これだ。このスイッチを押せば・・・

ウィ〜ンというこれまた無機質な機械音と共に上体が上がる。いや〜便利ね、コレ。

 

「・・・う〜ん....ぅわぁ・・・し、司令ぇ・・・よかったぁぁぁ」

 

黒髪巨乳美女(榛名)がパツキン巨乳美女(愛宕)に代わって、それか赤髪ツルペタ|号泣幼女(択捉)に代わっただけで やっぱりデジャヴだね、(違います)

間違い無い!(違います)

 

「あー・・・えっと....エートロちゃん?」

 

「択捉です・・・うぐっ・・・ひぐっ....」

 

ごめんね!名前覚えてなくて!

そうだ、エートロは6部d...まぁいいや。

・・・閑話休題。

 

「提督生きてて良かったぁあ....」

「しれぇ...ごめんなさぁいぃ...」

「無茶しちゃダメですよぉ...」

「私達を置いて逝くとか許さないんだからぁ...」

「私のDarlingはこの位じゃあタヒんだりしまセーン」

俺は聖徳太子じゃあねぇんだから一斉喋られても返事出来んわ。誰がなんて言ったか分からんし・・・いや、最後のは金剛姉だ。

エートr....じゃねぇ。択捉ちゃんだけじゃあなくて、なんでこんないっぱい艦娘いんの?ここ医務室よ?艦娘達なんか抱き合って泣いてるし俺に縋り付きながら泣いてるし・・・・・・why?

やっぱり俺にこの娘達のお世話?鎮守府と艦娘を守る?やっぱ無理だわ!

よしテキトーな理由つけて逃げよ、そうしよ。

 

「ちょっと外の空気を吸いたいから俺のコートない?」

 

艦娘が一斉に響めく。ん、何?俺変な事言ってないよね?

 

「誰も持ってきてくれないのかよォ。ぷぅ...ケチだなァ」

 

誰も持って来てくれないなら、しょーがない。自分で行くしかないな。

よっこいしょーいちっと

ガッターン!これまた派手ににベッドから落ちてしまった。もう派d(ry....

 

「ぁイッタ〜、もう転けちゃったじゃん・・・」

 

立ち上がれない。脚に力が入らない。

脚が動かない。

違う。

動かないんじゃあない。

脚が・・・・・・・・・

無い。

 




stand name:サイレント・サイレン
stand master:エルト
stand spec:
パワー E
スピード D
射程距離 D
持続力 B
精密動作性 C
成長性 E

黒い魚の様な像(ヴィジョン)スタンド。
G.マシーンと同じくスタンドマスターの自己強化系スタンド。

自分の存在を消す能力と透明化の能力。
自分の存在を消す、物体をすり抜ける事が出来るが地面も例外では無い為空中、若しくは水中での発動が前提。
透明化は完全不可視化するが、第一の能力と違い存在は消えない為、足音などはする。
殴るなどの攻撃、若しくはダメージを受けると強制的に解除、可視化される。

名前の由来
サイレント・サイレン→日本のバンド
エルト→プ ”エルト” リコ海溝、護衛駆逐艦エルドリッジのエルドから


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#21 得たモノと失ったモノ


能督
割と医務室のベッドを気に入ってる。

択捉
罪悪感でいっぱい。

空督
能督の執務室で報告書作成中。



2月12日 18:24 医務室

 

 

無い。

 

ウザいと思った時期もあったがも決して嫌いでは無かった両親から貰った脚が。

茶化して怒った妹から逃げる為の脚が。

クソジジィ(元帥)を蹴り飛ばす為の脚が。

筋肉ダルマ(爆督)のケツを蹴り飛ばす為の脚が。

金髪パーマ(空督)の靴のかかとを踏み潰す為の脚が。

 

無い。

 

無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い

 

俺はこれから、どうやって生活していけばいい?どう戦っていけばいい?どうやって逃げればいい?

鼓動が次第に・・・・・・いや、もう既に早い。

頭が・・・目の前が真っ白になるとは正にこの事だ。そんな俺を暖かく優しい温もりに包む。

 

「大丈夫ですよアキくん。私が、榛名お姉ちゃんが守ってあげますからね」

 

いつか聞いたこのセリフ。

色んなモノが込み上げくる。

今の俺は世界一酷い顔をしているだろう。

・・・・・・おい、そこは嘘でも(違います)って言えよ、泣くぞ。もう泣いてるけど。

いや泣いてねぇよ。

泣いてねぇかんな!

 

◆ ◇ ◇

 

2月12日 09:08 医務室

 

『おきてー』

『もうあさだよー』

『てーとくー?』

『もしもーし!』

『もしかして しんじゃった!?』

『そんなわけないでしょ!』

『でもおきないよ?』

 

勝手殺すな。

神サマに 「お前、嫌いだからあの世(こっち)に来んな」って言われた男やぞ?

いや、実際に言われた訳では無いけど・・・

 

「神にも見放された男だぞ、そう簡単にタヒなねぇよ」

 

目は開けない。ここで目ェ覚ましたら何か負けた感じがするから。

 

『ほらいきてる!』

『おきてるのまちがいじゃあない?』

『かみさまにみはなされたって』

『なんかいたいね』

『そーだね』

 

イタイって言うな。同調すんな。

ホント誰だよ。人が脚無くしてセンチになってる時に止め刺しに来る奴らは。

 

『とどめだってーひどいねー』

『せっかくおみまいにきたのにねー』

 

「にぎゃぁぁあ!誰じゃあ!儂はまだ寝てたいんじゃあ!」

 

布団を蹴飛ば・・・・・・脚無いんだった。

投げ飛ばすと同時に数人の妖精さんが飛んだ?舞った?浮かんだ?分かんね。

 

『やっぱげんきじゃん!』

『でもあしないよ!』

『でもげんきはあるよ!』

 

空元気だよ。

元気無いよ。

脚も無いよ。

 

「おい、薄ら笑いチビ・・・じゃあなかった能督、朝食の準備か出来m....」

 

こんなに口悪い奴は一人・・・では無いが声質からアイツ(空督)だと分かる。だがパーマのかかったショートカットでは無かった、ストレートでお姫様カット肩下まで伸びた綺麗な金髪は可憐さを醸し出していた。

空督に何があったかは知らんがしれーっと俺を薄ら笑いチビ呼ばわりした事は許さんからな。

 

「おい、パツキンロン毛ブス。もっぺん言ってみろ」

 

朝食の乗ったトレーを机に置くとやれやれとポーズをとる。

 

「能督、いや太眉ギザ歯チビ提督。脚だけじゃあなくて聴力も無くしたんですか?それにアンタもロン毛でしょ」

 

なんで言い直した!?!?しかも増えてる!!

コイツめぇ....復活したら覚えとけよォ・・・

 

「はいはい、お二人共。そのくらいにしてご飯にしましょうよ!ね、提督?」

 

芦黄色の髪の少女が長いツインテールを揺らしながら入ってくる。

 

「いえ、私はもう頂きましたので」

 

名前なんだっけ、この娘。白露ちゃんとか時雨ちゃんとかと同じ制服だけど....

 

「ごめんなさいねぇ、提t....空督さん。村雨は能督のなのぉ♪」

 

そうだ、村雨ちゃんだ。忘れt....いや、忘れてないぞ。今言おうとしただけって....

待て、今しがた聞き捨てならん事を聞こえた気がする。ま、いっか。この煽りチャンスを逃がす俺では無い。太眉ギザ歯チビの分を盛大にお返ししてやろう。さぁて。

 

「ぷっぷ〜!お前(空督)の事じゃあ、ありませぇん!・・・ありましぇ〜ん!!」

 

はっはー!指を指して腹を抱えて頬を膨らませて馬鹿にしてやったぜ。

 

「そうですか、失礼しました。村雨、次からは空督、能督と言い分けるように。」

 

村雨は、はーいとベッドの横に置いてあった丸椅子に腰を落とした。あれぇそんだけかよォ、つまんねぇの。

 

「では脚無し能無し提督、失礼致します」

 

うっせうっせ、一々悪口を付け足すな。あと、”左手” で敬礼したの見逃さんからな。

扉が閉まるのを確認すると舌をだし白目剥きべろべろばーと全力で馬鹿にしてやった。

二度と来んなばーか。

村雨に目をやると手で口元を隠し眉を八の字にして、くすくすと笑っている。可愛い。

あ、そうだ。忘れない内に言っとかなきゃ。

 

「村雨ちゃん、ご飯食べ終わってからで良いからちょっと付き合ってくれない?」

 

村雨はキョトンとしているが・・・可愛い。

 

◇ ◆ ◇

 

2月12日 09:31 工廠

 

ゴウン、ゴウン。ギュイーン。バヂヂヂヂ。

うん、ゴメンけど言わせて。

 

うるせぇ!

 

いやね、俺や艦娘、鎮守府や国の為に一生懸命汗水垂らして、顔や手を煤や油塗れにして頑張ってくれてるのはホント感謝してるよ。

でもね・・・

 

五月蝿ぇ!

 

村雨に車椅子を押してもらいながら工廠に来たはいいものの・・・・・・

 

やっぱうっせぇ!

 

そんな愚痴を心の中で叫んでいると・・・心の中でだよ?口には出てないからね。

少し緑がかった銀髪で前髪ぱっつんの艦娘がポニーテールを揺らしながら走ってきた。

頭の上で手を振ってるせいか単に制服が短いだけなのか、十代半ばの健康的なお腹が丸見えだ。丸見えって響き、なんかエッチだな。

 

「突然どうされたんですか?それに提督、脚の方は・・・」

 

あ、そうだ。あのギャグを試そう。なんだかんだあって、まだ誰にも言えてないからな。

 

「あーゴメンけどメロンちゃん。俺の脚知らない?無くしちゃったみたいでさぁ、ハッハッハ!」

 

工廠の空気が凍った。

時が止まったかの様に。

おっとォ、俺のスタンドはアクア・スペース・ザ・ワールドに進化したのかな?

 





(進化して)ないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#22 再始動と逃避行


能督
バレンタインチョコの最高記録は4つ。小学校6年生の時。友達はいなかったが何故か女子グループから貰えた。

爆督
最高記録は50以上。提督業2年目。それ以降、爆督鎮守府では義理チョコは廃止したらしい。

空督
まずあげたことも無い。義理チョコ何それ。



 

2月14日 06:23 工廠

 

「ど、どう?気を遣わず正直な感想を下さい・・・ね?」

 

メロン(夕張)ちゃんの支えと松葉杖を頼りに鋼鉄の脚を硬い地面へ突き立てる。

 

「うーん、割としっくり来るけど・・・まだ松葉は居るねぇ...ごめんねぇ、無理させちゃって。・・・あ、でもめちゃ嬉しいよ!」

 

2日前に村雨と工廠へ来てメロンちゃんに無茶とは思いつつも 一刻も早く脚が欲しいと言ったら2徹して俺の代わりの脚、義足を急拵えしてくれた。

 

簡素な物といえど車椅子に頼らず自分の脚で立ち上がる事が出来るようになった事は感動以外の何物でもなかった。

 

「うぅ〜、やっぱり難しいですね〜」

 

確かに一刻も早くとは言ったが、ここまで奮闘してくれるとは思いもしなかった。そして2徹してまで作ってくれた彼女を残念な気持ちにさせたくなかった。

 

「・・・よっ!....ほっ!・・・・・・よしっ!見てみ!メロンちゃん!松葉使わなくても立てたよ!ノガミが立った!ノガミが立った!・・・ぅおっ!」

 

危うく転倒しそうになったが、メロンちゃんが支えてくれたお陰で地面にキスせずに済んだ。

 

「危ないですって、提督!歩きたい気持ちも分かりますが、やっぱりもう少しは安静にしてて下さい!」

 

歩きたい?何を仰るメロンさん。俺は歩きたいんじゃあなくて走りたいんだぜ?

なーんて言おうとしたが、またメロンちゃんの負担を増やしてしまいそうなので、そっと飲み込んだ。

 

「メロンちゃん、今日は何の日か知ってるかい?」

 

2日前の村雨と同じ様に目を丸くさせる。可愛い。

 

「えーと、2月の14日だから・・・あ!ヴァレンタイン!ごめんなさい提督!私、チョコを用意するの忘れてて.....」

 

この義足がバレンタインのチョコの代わりじゃあないの?だからバレンタインに間に合わせてくれたんじゃあ.......

 

「えぇ?」

 

「えっ?」

 

◆ ◇ ◇

 

2月14日 08:49 鎮守府 酒保前渡り廊下

 

あ、クソ提督。

松葉杖を手にフラフラとはしているものの、2本の脚で新品の革靴を履き・・・・・・あれは酒保に向かっているのかしら。

新しく着た海防艦の娘を庇って両脚を失ったって聞いてたけど、秘書艦も付けずに散歩だなんて元気も元気じゃあないの。

あれだけ ”ヤダヤダ” と駄々を捏ねていたからちょっとは見返したんだけどな。

 

「なーんだ、元気じゃあない。クソ提督」

 

軽く肩をトンッと叩いてみた。

艦娘とはいえ艤装を展開してないなら普通の女の子。そこまで強くは無かった筈。

カタカタン、カシャーン.....

積み木を崩す様に、ジェンガタワーが倒れる様にいとも簡単に提督は倒れてしまった。

 

「いっててぇ....あ、えーと・・・ゴメンね、そこの杖取ってくれなぁい?」

 

よく見ると靴は左右逆だった。片っぽの靴は脱げ、人の脚というには余りにも無骨過ぎる鋼鉄がズボンの裾から伸びていた。

松葉杖は少し遠くへ転がり、提督はそれを指差し薄ら笑いを浮かべていた。

このクソ提督は未だに艦娘の名前も覚えてないらしい。あ、えーと・・・と言葉に詰まったのが、その証拠だ。

 

「私は特型駆逐艦 ”曙” よ、ほら杖。って、こっち見んな!このクソ提督!」

 

あぁ、めんごめんご と手をヒラヒラさせ鎮守府の壁と松葉杖を頼りに立ち上がろうとしていた。

生まれたての子鹿に辛く当ってしm.....

小鹿じゃあない、提督。

 

「ほら、クソ提督。肩貸すからしっかりしなさい。車椅子はどこよ」

 

提督の動きがピタっと止まった、別に変な事言ってないのに。

 

「はーっはっはっは!」

 

高らかな笑い声を上げ、さっきの魂が抜けたような目に火が灯もる。

 

「えーっと!?曙ちゃんとか言ったかね!車椅子?あんなのはもう二度と勘弁願いたいねェ!」

 

確かに周りに車椅子も秘書艦も見当たらない。

 

「車椅子使うぐらいだったら地べたを這い泥水を啜ってでも生き延びてやるかんな!」

 

真っ白な軍服を泥塗れにし、獣の様な目をしていたソイツは糞というには勿体ない人間だった。・・・少なくとも私はそう思ってしまった。

 

◇ ◆ ◇

 

2月14日 09:05 鎮守府 1階廊下

 

「ぼーのしゃん、俺さっき決め台詞(セリフ)吐いたばっかりなのにさァ、何よこの体たらくは」

 

溜息をつきながらも松葉杖を持ってくれているという事は少なくとも嫌われてない・・・と思いたい。

 

「知らn....って、ぼーのしゃんってないよ。ぼーのしゃんって」

 

曙ちゃん→曙さん→ぼーのさん→ぼーのしゃん、って・・・

 

「まぁいいや・・・ねぇ、陸奥姉。これ頭おかしくなるくらい恥ずいんだけど。俺、1人で歩けるんですけど」

 

脇に抱えた俺を流し目で見、口に手を当てふふふっと笑ってみせた。

46kgのヒョロガリを持ち上げるなど容易らしい。

うん、自分で言ってて腹立ってきた。

 

「あらあら、まあまあ。提督ったら歩けないのに強がるなんて駄目じゃあない。それに提督を逃がしちゃったなんて榛名にバレたらこの鎮守府、どうなるか分かんないわよ?」

 

え?榛名姉、そんなにブチ切れてるの?

こないだ、あのパツキンパーマブス《空督》に鎮守府の壁、2カ所も風穴開けられたんだけど。

深海棲艦より身内の破壊活動が目立つってどういう事よ、マジふざけんなよ。誰が報告書書くと思ってんだよ、どうせ俺だろ?勘弁しろよォ。

 

「そういえばクs....提督。なんで酒保に行こうとしてたの?」

 

フッフッフ......俺の崇高な計画part-1(ONE)をバラす訳にはいかん。

見破られない嘘つくコツを知ってるか?

何だ...

知らんのか?

本当の事と嘘を織りまぜる事だ!

・・・・・・閑話休題。

 

「へぇ〜、夕立ちゃん対策でスタイリング剤ねぇ〜」

 

「だからといって明石さんを直接尋ねる必要ある?しかも秘密裏に・・・」

 

「そーでもしないとスタイリング剤と称してピーナッツバタークリーム用意されるかもしれんからね」

 

だからなんで一々目を丸くするんだよ。

変な事言ってないでしょ?ヘアセット剤とピーナッツバタークリームをすり替えられるなんてよくあるじゃん?

・・・そして陸奥姉は早く下ろして。

 

◇ ◇ ◆

 

2月14日 09:12 能督自室

 

「アキくん、おかえりなさい。どこ行ってたのですか?」

 

アキくんは恥ずかしから・・・なんて言えない。言える筈もない。

榛名姉の顔が笑ってない。

そして榛名姉の左には仁王立ちした山風、そして右に積まれた色とりどりの可愛い小箱。恐らく、いや間違いなくヴァレンタインチョコレートだ。

もうやだ。

なんだよ、この量。

これが嫌だから酒保に行ってたんだよ。

ふっざけんなよ。

こんな量、一人で運べるわけねぇだろ。

すこーし見た目が良いだけでチョコ貰えて良い御身分だな?

加藤龍介さんよォ?えぇ?

爆督だけじゃあないだろうね。

この量からして前任、現元帥。クソジジィ宛もあるだろう。

 

「はぁぁぁぁあああ(クソデカ溜息)」

 

「一個も残しちゃだめですよ?」

 

言われなくても、ちゃんと一個も残らずアイツら(爆督&元帥)に届けますよォ......

 

「ハイハイ、明日どーにかするから今日は仕事しよ?ね?・・・・・・あ、今日の秘書艦は陸奥姉だったね、どの書類から片す?」

 

「「「「はぁ......」」」」

 

なんだよなんだよなんだよ。四人揃って溜息ついてよォ〜。

 

「提督はもっと.....乙女心を勉強した方がいい・・・」

 

なんだよ、なんだよ、3人揃ってウンウンって頷いてんじゃあないよ。

・・・・・・おk、此処にも俺の味方が居ない事が分かた。

 





日常回はこまごました感じで進めます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#23 人格破綻の大将

空督
機械苦手。10本指タイピング練習中。

元帥
基本直筆。最近ちょっと高い万年筆買った。

爆督
ワープロ検定2級所持。Enterだけでなく、普通のキーを打つ時も喧しい。

恐督
資格は持ってないけどめっちゃ達筆。右手で書いてるけど実は左利き。



2月14日 11:58 能督執務室

 

極めて静かな空間にカタカタとタイピング音とチッ、チッという秒針の音が虚しく反響する。

 

─────────

 

 

「・・・んッ、......ふぅ」

 

やっと終わった。

 

そもそもアイツ(能督)は脚を無くしただけで報告書くらい自分で作れるだろ。いいかげんにしろ。

 

「お疲れ様です!提t....空督は珈琲じゃあなくて紅茶でしたよね、ご用意してますよ♪」

 

睦月型駆逐艦 一番艦 睦月が一日秘書艦としてついてくれる事になった。

ここに来る前は爆督鎮守府の艦娘寮に住まわせてもらっていたが、択捉の配備の付き添いとして能督鎮守府に来て襲撃の事もあり1度も帰宅していない。

重巡の娘達の協力(主に衣と住)もありそこまで不便をしてなかったが、私物が全く無いのは少し心地悪い。

風呂も毎日入れさせてもらっている。風呂での駆逐艦の娘達からの質問攻めは、申し訳無いが少し辛い。そんなにスタンドの事、気になる?

USBに報告書のデータを移しパソコンの電源を入れ落とし背もたれに身体を預けると机の傍らに置かれた紅茶の芳醇な香りが鼻腔を撫でる。

 

「あー、ありがとう睦月。で、あの薄ら笑いチビ.....じゃあなかった能督は今どこ?」

 

「提督なら自室にいらっしゃるみたいですよ!」

 

ニコッっと太陽の様な眩しい笑顔を見せる。

こんな可愛い笑顔を見せられたら ”私も一応提督(見習い)だよ?” なんて意地悪言えないな。

ありがとうね、と紅茶を飲み干し立ち上がると腰にヴァイブレーションの感触が。

 

「およ?どうされました、空督〜?」

 

海軍から貰ったiPh〇ne ─ 通称 海phoneの通知画面を開くと睦月が背伸びをして覗いてきた。

通知が2件来てる。元帥→空督、大本営への車を用意した、12:00過ぎには着くはずだ。恐督も乗っている、彼と情報共有せよ。

やっと帰られる、そんな喜びよりも負の感情が勝ってしまった。

 

恐督、本名は確か冨樫侑斗。

彼の艦娘が戦うと演習相手だろうが深海棲艦だろうが突如降ってくる赤い雨により艤装が故障し動かなくなる。難関海域も恐督の指示により突破し齢28にして大将まで上り詰めた強者。

聞いたところによると、かなりの性格破綻者であり彼の暴走を止めようとした何人もの憲兵を病院送りにしたとか.....海軍に身を置いている以上、いつかは関わりを持つ事になると覚悟していたがこんなにも早くだとは思いもしなかった。

 

2件目、元帥→空督、もう恐督とは合流したかね。彼は少し気難しい性格だが決して悪い人間では無い。宜しく頼む。

ん、12:00とか言っていたけど今何時かなぁ・・・

やばい。

海phoneの左上に目をやると12:09の字を示していた。急いでポッケに突っ込み執務室を飛び出す。

「ごめん睦月、用事が出来た!紅茶美味しかったよ、ありがとッ!」

 

◆ ◇ ◇

 

2月14日 12:12 鎮守府正門前

 

「はぁ、はぁ....遅れて....スイませぇん....」

 

肩で息をするこの女、元帥の話によると空督とか言ったか。別に集合時刻が決まってなかったから遅れて来たとは言えないのだが。

 

「乗れ、話は車の中だ」

 

失礼しますと一礼をし、キャデラック・ワン、提督専用車に乗り込む。金髪パーマの癖に礼儀は弁えている様だ。

 

「初めまして、須藤歩美、階級准将、スタンド G.マシーン、二つ名は空督です。改めて宜しくお願いします」

 

隣に座り軽く会釈をしながらの自己紹介か、その程度の情報なら元帥から聞かされている。コイツも俺の情報を元帥から聞かされているだろうが、此方も挨拶するのが礼儀だな。

 

「冨樫侑斗、階級大将、スタンド S(ステイタス).マイナー、恐督だ。」

 

忘れない内に元帥からの任務を果たさねば。

先ずは先日あった深海棲艦襲撃の報告書を回収しなけr....

 

「なぜ大将なる恐督が直々に来られたのですか?」

 

面倒臭いな、コイツ。

 

「報告書の回収と面談だとよ、スタンド使いの提督同士親睦を深めろだとか。そんな事はどうでもいいさっさと報告書を渡せ」

 

あ!と気付いた様にポッケからUSBを取り出した。まさかコイツ報告書はデータで提出しようとしているのか?本当に面倒臭い奴だな。

 

「はぁ...確かに受けとった。だが俺は他の提督と親睦を深めるつもりは毛頭ない、大本営に着くまで黙っていてくれ」

 

空督は借りて来た猫のようにシュンと縮こまり黙り込んだ。これでいいんだ、これで。俺達提督はいつ死ぬか分からない仲が良くなればその分別れが辛くなる、別れを悲しむくらいなら最初から馴れ合わないほうが良い。艦娘に対してもそうだ。

俺が大将まで上り詰めるのにかなりの犠牲を要したから言える事だが。

別に艦娘は兵器だからとぞんざいに扱うつもりは無い。あくまでこの国を守る艦と提督、それ以上もそれ以下でもない。

ただ、それだけだ。

 

◇ ◆ ◇

 

2月14日 12:30 大本営 元帥執務室

 

「相変わらず時間通りだな、爆督」

 

「はッ!それで元帥、御用とはッ?例のマニラの件だろうかッ!」

 

何回も大本営に呼び出して悪いと思ったが爆督の口振りからして一刻も早く爆督鎮守府に帰りたいと見える、いや只せっかちなだけか。以前読んだ”良い上司になるには” という本には長話をしてはいけないと書いてあった。

(わし)としては部下と雑談でも、と思っていたが儂に不満を持ち任務に支障をきたすのは避けねばならない。

 

「察しが良いな...その通り謎のスタンド使いの事だ。彼女について新しい情報が入った」

 

爆督から笑顔がスッと消え動きが止まる。

 

「マニラが深海棲艦だということですね」

 

着用していた衣服は違えど外見が深海棲艦の戦艦レ級に酷似していた事から他の深海棲艦のDNA鑑定を進めていた。

 

「うむ、その通りだ。マニラと深海棲艦のDNAがほぼ一致した。という事は必然的に深海棲艦が陸からも侵略してくる事の証明になる。」

 

いつも喧しい爆督がこんなに静かになるのは初めてかもしれない。

 

「今の所スタンド使いは爆督、空督、恐督、測督、列督そして新しく着任した能督しか居ない。」

 

爆督は帽子を深くかぶり口を開く。

 

「今までの提督達の失踪はやはりスタンド持ちの深海棲艦が原因と見て間違い無い・・・ですね...」

 

今まではスタンド使いではない提督も数人在籍していた。しかし一人、また一人と謎の失踪を遂げスタンド提督を各鎮守府へ派遣し、生き残ったスタンドを持たない提督は大本営で執務を担当して貰っている。

そして奇妙な事にスタンドを使える提督の出現と提督の失踪時期が被っている・・・

だが、奴ら(深海棲艦)がどこから現れ、どの様なスタンド能力で提督達を攫ったのか分かっていない。

生きている保証は無いがどの提督も何かを残して消えている。珈琲が入ったマグカップやハンカチ、革靴や提督帽など何かを残してぱったりと消えてしまったとの報告があった。

 

「爆督、君たちにはこれからも苦労をかけるがスタンドを持たない提督の代わりに頑張ってくれ」

 

「無論だッ!この加藤龍介ッ!全身全霊でこの国を守ってみせますッ!!」

 

爆督の眼には火が灯り敬礼ははいつもの数倍頼もしく見えた。

 




よく大本営に呼び出されお忘れかもしれませんが爆督は鎮守府を1つ任されており、空督が補佐官として運営しております。
空督は地毛で金髪ロングですがショート金髪パーマのウィッグで生活してます。理由は本人(空督)のみぞ知るってことですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#24 甘いチョコと甘くない戦い

能督
両親がチョコ好きだった為それを受け継ぐようにチョコ好きに。

鹿島
生チョコとかチョコクランチとか作れる。食べるのも作るのも好き。



2月14日16:14 執務室

 

「う、嘘...信じられない。そんなはずない、だって司令官さんは・・・択捉を庇って...」

 

ふっふっふ〜俺の直立姿に驚いてるなァ。

ついこの間、脚を失った提督が直立不動で立っている事実を受け止められない、信じられいのだろう。まさかメロンちゃんが二種類も義足を用意してくれていたなんて俺でも信じられなかったぜ。

補助はあるがこうやって立って歩いている事は紛れもない事実だ。

そーいや医務室に鳥海姉は来てなかったな。

 

「鳥海姉どうしたんだい・・・ん?俺の脚がどうしたってェ〜?そんなに気になるのかァい?仕方ないなァ鳥海姉にだけ特別に見せてあげよう、俺の脚を。チラッ...とだぞ」

 

右足の裾を少し巻くって鋼鉄の脚を覗かせる。さァ目の前で案山子(かかし)と化している赤眼黒髪ロングの眼鏡美女にドカンッと一発カッチョイイ台詞(セリフ)をキメてやるとするか。

 

「どジャアア〜〜ン!メロンちゃんに造って貰ったのだァ!ハッハッハー!我が鎮守府の科学工学は世界一ィィィ!」

 

キマったァ...。

あまりふんぞり返ると倒れてしまうから程々に胸を張る。ここまで綺麗に決め台詞を言えるなんてスゲーッ爽やかな気分だぜ、新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ〜ッ!

 

「ハイハイ、カッコイイですから早く提督の自室行きますよ。また榛名にアレ(・・)、されても知りませんよ?」

 

いや陸奥姉、俺の扱い酷いな!確かに榛名のアレ(・・)は嫌だけど・・・あ、丁度良いや。鳥海姉にも来て貰おう、人手は多いに越した事は無いからな。

 

「そうだ、鳥海姉も一緒に来てよ。俺の自室でまだ、せにゃならん事があるからね。」

 

「あ、はい。良いですけど何するんですか?」

 

Time is money(時は金なり)という言葉がある、歩きながら説明しようかな。俺の崇高な計画part-2(TWO)を...

 

◆ ◇ ◇

 

2月13日07:04 爆督執務室

 

「爆督、能督のトコに行く機会とか無いんですか?」

 

なッ、なんだとおッ!?

・・・はッ!なんて事だ、俺とした事が鹿島の何気ない質問に呆気を取られてしまった。漢らしく堂々としなければ。素早く、簡潔に、勇ましくッに!

 

「無いッッ!!!」

 

しまった、焦る余り言葉選びを間違った。

ガッカリした鹿島の顔・・・捨てられた子犬の様ではないか。罪悪感でいっぱいだ。

何とかフォローしなければ...

 

「だが正当な理由があれば機会を用意出来るかもしれんぞ!!」

 

鹿島の顔がぱぁと晴れ上がる。良かった、フォローの仕方は間違えなかった。

自分で言っといて何だが、艦娘が他鎮守府へ行く正当な理由ってあるか?

 

「本当ですか!?良かった・・・では爆督、こんなのはどうでしょう?」

 

なに!?パッと言われて直ぐに思いつくモノじゃあないだろ。予め用意していたという事か...鹿島はどんだけあのチビ(能督)に会いたいのだ?

 

「先ずはこちらの資料をご覧下さい」

 

そう言っておもむろに紙束を取り出す。

なんだなんだ、何か始まったぞ?

 

「えー、私が能督に...じゃあなかった。我々爆督鎮守府と能督鎮守府との親交親睦を深める為の交換留学及びレクリエーション計画の概要について説明させて頂きます。初めに計画を考案した経緯ですが・・・・・・」

 

それから長々と鹿島があのチビに会う為の計画鎮守府の親睦を深める重要性を説明された、所々能督への恋心が垣間見えてたけどな。

 

「分かった!大本営へ申請してみよう!何か連絡があったら鹿島に直接伝える!」

 

「ありがとうございます、爆督♡」

 

そう告げ香取型練習巡洋艦特有の朗らかな微笑みを浮かべた。確かに香取も他提督達に人気だが、その数倍鹿島も人気らしい。噂では鹿島のファンクラブが有るとか...

もしもそのファンクラブの奴らに ”みんなのアイドル鹿島は一人の提督にお熱だ” なんて知られた日には能督の運命は・・・ははっ!そんな訳なッ!

 

「爆督?そんな真剣な顔をしてどうされたのですか?私何か変な事言いました?それとも計画に不備が有りましたか?」

 

そうだ、聞いてみるか...

 

「鹿島、お前あのチビのどこが好きなんだ?」

 

「ふぇっ!!あ、えっと...その...」

 

ぼふんっ!と頭から湯気が出たようだった。顔は紅潮というより真っ赤と言った方が正しい程、・・・なんという顔だ。

仕事を完璧にこなし意図せずとも男を誘惑しているあの鹿島がここまでだとは。

 

「あの、じゃあなくて、爆督!申請が通るとしたらいつでしょうか・・・出来れば早くというか、明日とかって...」

 

「いや、早くても数週間後だな!」

 

さっきの顔だ、捨てられた子犬Face()だ。鹿島って意外と表情豊かなのだな、いや表情が豊かになったと言うべきか...

でも、なんで明日なんだ?・・・あ、分かった。明日は2月14日、聖ヴァレンタインだ。

 

「数週間後ですか...もし良ければ明日とかって・・・無理、ですよね...」

 

左腕をさすりながら溢す言葉は少しずつ小さくなる。左手を動かす度にカシャカシャ、ウィンウィンと機械が動く音が鳴る、いつもは手袋で見えないが義手・・・らしい。此処に着任した時には既に義手だった。表情も硬く・・・いや無いに等しかった、それが公開演習でガラッと変わった。変わってくれた、ヤツ(能督)が変えてくれたのか。

今から出発すれば何とか明日には着くかもしれない。だが俺は明日大本営へ行かねばならんだ、空督もおらんしな。

だからと言ってこの機会を逃せばまた着任当初の鹿島に戻ってしまうやもしれん、うちの重巡に運転してもらい鹿島、鈴谷、熊野の3人で行ってもらうか。

 

「分かった鹿島、鈴谷と熊野を付ける。3人でヤツの所に行ってこい、コレは特例だ。そしてそれとは別に交換留学の件を大本営へ申請しておく。」

 

「ほ、本当ですか!ありがとうございますッ!」

 

一抹の不安は残るが俺は大本営へ向かう準備を進めるのだった。

 

◇ ◆ ◇

 

2月14日 16:24 能督執務室

 

「失礼します!爆督鎮守府所属、香取型練習巡洋艦二番館 鹿島参りました!」

 

「え、キミ誰?」

 

やべ、やらかしたかも。言葉選び間違ったかも。榛名、山風、陸奥、曙、鳥海の視線が刺さる。痛てぇよ、視線が痛てぇよ。

 

「あらあら能督?それ本気で言ってるのかしら?」

 

陸奥姉が口元を隠しながら笑って・・・いやコレは嘲笑うが正しいな。

 

「そ、そうですよね演習で一回会っただけで覚えて貰える訳無い・・・ですよね...」

 

緩いパーマのかかった銀髪をツインテールにした青色の綺麗な瞳の少女は哀しそうな表情を浮かべ、小袋を腕に通し手袋を外した。

 

「・・・思い出した、その(義手)見覚えある、義手の練習巡洋艦。打ち上げの時に俺に質問した娘だ。じゃあ爆督用のチョコを受け取りに来たんでしょ?まだ仕分け終わってないからもうちょい待っててね」

 

何せ(艦娘)から誰宛(爆督)って書いてないものだから、仕分けようにも出来ねぇんだよ。ちゃんと書いてよォ、宛名をよォ。

 

「能督...それは無いと、思うよ...」

「流石、クソ提督ね」

「アキくん、鹿島が来る事については事前に報告書で連絡しておきましたよ。まさか見てない訳じゃあ無いですよね?」

「司令官、彼女の小袋を見てもそんな事言えるんですか?」

 

山風ちゃん、曙ちゃん、榛名姉、鳥海姉の指摘の嵐により俺の心はボドボド(ボロボロ)だ!ん、待てよ。鹿島ちゃんの持ってる小袋って爆督宛のチョコを持って帰る用の紙袋じゃあないの?

 

「鹿島、能督はああ見えてっていうか見ての通りおバカさんだから、ちゃんと言わないと能督向けのチョコって気付かないわよ?ほら、このチョコの山も自分(能督)宛って分かってないし」

 

陸奥姉が鹿島ちゃんに何か耳打ちしてる、全部は聞こえなかったけど ”馬鹿” って言葉は聞こえたからな。

 

「の、能督!こ、コレ!ヴァレンタインのチョコ...です....よかったら・・・食べてくださぃ...」

 

ほえー!この俺にチョコとはな!俺の記憶が正しかったら小学校6年生以来だから・・・7年振り?だがこういう場合の受け取り方は把握している。伊達にラノベを読みまくった俺ではない。

・しっかりと声を出し、

・相手の顔を見て、

・ボディランゲージを意識して、

・貰って直ぐに、

・ありがとう+一言。

握手の為に手を差し出しながら

 

「ありがとう鹿島ちゃん、忘れててゴメンね。大切に頂くよ」

 

良しッ!完璧!ねっとりボイスでもニチャアっとした笑顔でも無かったはず!

鹿島はうつむきながらも握手してくれたし。

元ぼっち現提督として正しい返答だった・・・と思う。

 

「今年もチョコ0個と思ってたからコレは嬉しいな。」

 

・・・・・・艦娘からのチョコを爆督宛と勘違いしてた事は榛名姉からどちゃくそ怒られました。ハイ、ごめんなさい。

 

◇ ◇ ◆

 

2月14日 17:51 能督執務室

 

「やっと全員分終わったぁ、これもう晩御飯いらんぜェ」

 

アレから俺は鎮守府の艦娘、全員分のチョコを食べ味の特徴や感想、お返しのお菓子を何にするかなどを全てメモした。榛名姉達も協力してくれてなんとかどの艦娘がどのチョコを用意したのか判明した。

 

「あのー・・・能督?本当に私のチョコが最初で良かったのですか?」

 

まぁ鹿島ちゃんより早く持って来た艦娘は文字通り山程居た(らしい)が直接俺に渡してきた艦娘は鹿島ちゃんが一番だったし。

まぁ俺がほっつき歩いてたのが悪いんだけどサ。

 

「勿論良かったんだけどさぁ・・・あんまり口外して欲しくないっス...良き?」

 

大本営にて耳に挟んだ鹿島ファンクラブとやらに恨まれたくない為という俺の少し失礼な質問に対し鹿島ちゃんは笑顔で頷いてくれた。うん、可愛い。

それはともかく珈琲を啜りながら味わうチョコは格別で、どのチョコも完成度が高くお返しをかなり頑張らなくてはと思わせる程だった。そうだ、もう1つ脚無しネタ思い付いた。

 

「こんなにチョコ食べたら太っちゃうから走って運動しなきゃだね。あぁしまった、俺脚無くしちゃったんだったぁ!」

 

言わずもがな部屋の空気が凍る。やっぱりアクア・スペース・ザ・ワールドに進化したでしょ。




(進化して)ないです。

一旦は自室に行きましたが、他の仕事があると嘘ついて艦娘を避けるようにほっつき歩き午後になりました。ハイ、能督です。鈴谷と熊野は執務室に行ったので能督とは会ってないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#25 待たせたな・・・え、待ってない?

空督
犬派。やたらと懐かれる。スタンド G.マシーンact1が犬っぽい(ヴィジョン)をしている。

恐督
犬派。ドーベルマンとかシベリアンハスキーとかデカい犬好き。

元帥
猫派。引退した後は縁側で猫を撫でながらお茶を啜るのが夢。

能督
圧倒的猫派。家で二匹飼ってた。



2月14日 16:30 大本営 元帥執務室

 

「階級 大将、恐督 冨樫侑斗及び・・・」

「階級 准将、空督 須藤歩美です、ただいま参りました」

 

恐督は大将、私は准将。口に出してみて改めて思い知らされる私の立場。

昇進欲がある!とは言えないが、どうしても惨めに感じてしまうのは何故だろう。

 

「入り給え」

 

私をあんな奴ら(爆督&能督)の所なんかに飛ばした人の重厚な声が扉越しに聞こえる。

開けた扉がいつもより重かったのは気持ちの問題だろう。リフォームした訳でもないだろうし。

 

「最近の若者はちゃあんと時間を守れて立派だな」

 

手を後ろで組み窓の外を眺めながらそん言葉を(こぼ)すこの老人、この人の考えている事は本当に分からない。案外何も考えてないのかもしれない。

 

「猿渡元帥、そんなくだらん事は憲兵にでも言ってくれ。俺達スタンド使いに用があって呼んだんじゃあないのか?」

 

大将よりも上の階級、元帥。そして年上でもある猿渡元帥に対してこの人(恐督)の態度、そして言葉遣い。若くして大将にまで上り詰めたからといって少し・・・いやかなり調子に乗ってるんじゃあないの、と思ってしまう私は異常だろうか。

 

「そんな事を言わんでくれ恐督、年寄りの雑談に少し付き合ってくれてもバチは当たらんだろう?」

 

振り向きながら話す声色は少し優しくなったがそれでも元帥の表情は硬いままだ。横目で恐督を見ると拳を強く握り込みぷるぷると震えている。

 

「元帥、お言葉だがこんな悠長な事を言っている場合じゃあ無いだろ!数多(あまた)の提督が誘拐、殺害され深海棲艦の魔の手は陸上にまで伸び、本格的に侵略しに来ているのだぞ!それに艦娘だって!」

 

そう言う恐督の目は血走り握り込む拳からは鮮血が零れていた。皮膚を・・・肉を抉るほど強く拳を握っていた恐督のオーラは今にも元帥に殴りかかりそうだった。

 

「落ち着け、スタンドを使う深海棲艦は一般人には危害を加えてない上に同時に来るスタンドを使わない深海棲艦は強いと言えるものでもない。・・・恐督、君の心中も分からん訳では無いが、一旦立ち止まって冷静に物事を見る事が大事と言えるだろう。違うかね?」

 

元帥の(もっと)な指摘により恐督は下を向き黙り込んでしまった。

 

「それでだが、要件は二つだ。一つ目は空督、君を准将から少将に昇進させる事、そして二つ目は・・・

 

◆ ◇ ◇

 

2月16日 09:23 第一ダイニングルーム

 

「能督さん、能督さんはここ(鎮守府)に来る前は美容師さんを目指されてたんですよね?能督さんが良ければ私の傷んだ毛先を少しカットして頂けませんか?」

 

この銀髪少女(鹿島)は何を言い出したかと思えば俺の懐かしき過去の話を持ち出すというのか・・・いやその前になんでまだウチ(能鎮)に居るんだよ、まぁ駄目じゃあないんだけどね。単純に何でかなぁ、って思っただけだし。

それにメロン(夕張)ちゃんに義足を改造して貰い立つことぐらいだったら容易に出来る程までになった。流石メロンちゃんです、感謝やで。ホンマに。

・・・てか俺は別に美容師を目指して訳では無い、元々はネイリストを目指していたがそれだけでは食べていけないという至極現実的な理由から美容学校に通っていた。

うん、ホント世の中、世知辛いのじゃーーーー!

 

「別に美容師を目指してた訳じゃあ無いんだけど...まぁいいや、1年しか行ってないからホントに毛先整えるくらいしか出来んけど良いの?」

 

鹿島ちゃんは大きく頷いた。それでいいのか。・・・まぁ良いか。

いや良くねぇーよ!!

何故なら!日本国憲法で

[美容師は「美容を業とする者」といい、美容師法に基づき厚生労働大臣の免許を持たないものは美容を業として行うことはできない]

と、明記してある。

つまり1年しか行っておらず免許を持っていない俺は鹿島ちゃんを相手に髪を切る事を許されていない。

(ちなみ)みにこの法を破ると30万円以下の罰金に処される、と学校で習った。

 

「俺免許持ってないから出来んよ?それにシザーズも無いし...」

 

すると鹿島ちゃんは紙袋から黒のジッパー式見開きポーチを取り出した。

俺はこのポーチを知っている!いや!この中身のその使い方を知っている!

 

「こんな事もあろうかと能督さんの御実家から取り寄せていただいてます♪あとついでにケープとカットコーム、シザーポーチも!」

 

ポーチのジッパーを開くと間違いなく美容学生時代(3週間前)に使っていた正真正銘野上彰成()のカットシザーズだった。その他のアイテムも全て俺の物だった。

 

「びっくりするくらい用意周到だねぇ・・・」

 

ちょっと意地悪ともとれるこの言葉を褒め言葉ととったのかニコっと眩しい笑顔を向ける。可愛い。・・・って違う違う、そうじゃ、そうじゃあない。

 

「じゃあシザーズの準備するから椅子に座って・・・」

 

と、言い終わる前に着席しケープを巻きスプレイヤー(霧吹き)でウェットも終えていた。なんとまぁ用意周到なぁ...と思っていると鹿島ちゃんの隣にはウェット用の水スプレイヤーと手指消毒用のアルコールスプレイヤーを手にした香取姉の姿が・・・姉妹揃ってだな、うん。

 

「そう言えば能督、先程免許が無いから違法と仰ってましたが・・・」

 

香取姉に続き鹿島ちゃんも口を開く。

 

「私達は人間ではなくて艦なのでギリギリセーフじゃあないですか?」

 

香取姉と鹿島ちゃんのその言葉を聞きシザーズをなお(収納)し、鹿島ちゃんからケープとタオルを取った。

 

「えぇ!?の、能督さんどうしてですか?なんで片付けちゃうんですか!?髪、切ってくれないんですか?」

 

俺がここに来て3週間。無理やりここ(鎮守府)に連れてこられて、提督にされ、能督と呼ばれ、艦娘軽視派の奴が来て、それから出来たポリシー。

 

「俺は艦娘の事を兵器という前に一個人と考えている。確かに艦娘は人間じゃあ無いし我儘と言われるかもしれんが艦娘を人間じゃあ無いと言う奴と仲良くするつもりも(つる)む全くもって無ェよ、例えそれが艦娘本人だったとしてもな...」

 

鹿島ちゃんは俯いて黙り込んでしまった。決して悪い娘では無いと思うし、そう言い切れる。だが本人達にもその存在(艦娘)を、その命を無下にして欲しくないのだ。

 

「・・・能督さん、ごめんなさい。そうですよね、私みたいな艦とは仲良くしたくないですよね...勝手な事してごめんなさい。私もう爆督の所に帰りますね...」

 

ん?この娘は何か勘違いをしてるじゃあねぇの?俺は誤解と言う言葉が大っ嫌いだ。極めて無駄だし、その上変な噂が立つこともある。だからしっかりと、きっちりと、きっぱりと誤解を解かにゃならん。

荷物を纏め扉へと向かう鹿島ちゃんの腕を掴む。止めてでも誤解を解かにゃならん。

 

「俺は君達に自分を大切にして欲しいだけだよ、鹿島ちゃんの事が嫌いっていう事じゃあない」

 

振り返る鹿島ちゃんの目からは落涙し、鼻は赤く・・・うぐっ、えぐっ...っと嗚咽を漏らしていた。手袋は涙で濡れ色が変わっている。

俺の言葉はそんなにまで重かったのか、ウザかったのか、心を傷付けてしまったのか。

なんか悪い事をした気分・・・というか男が女の子を泣かせちゃ駄目じゃあねェか!!

 

「あ、えっと...あの、、その...俺こそゴメンな。ちょいと言い過ぎた・・・かもしれん...だから泣かないでくれ、鹿島ちゃん。」

 

掴んでいた腕を離すと今度は鹿島ちゃんの方から俺の手を握ってきた。俺の右手に鹿島ちゃんの柔らかい左手と硬い鋼の右手の感触がつたわる。

 

「では、能督さん。私に泣き止んで欲しければ鹿島ちゃんではなく、鹿島と呼んで下さい」

 

この台詞を聞いて分かった。この娘強いな!

まさかとは思うが泣いたのは演技で帰る振りをしたのか?・・・俺の考え過ぎか?

 

「あー・・・分かったからさぁ...あのォ、恥ずいから手を離してくれんかね、鹿島さん...」

 

「能督さんったらお茶目さんなんだからぁ、鹿島さんではなく、鹿島(・・)ですよ?」

 

手を握る力が強くなる。やっぱ強いなこの娘!

 

「分かったさぁ...か、鹿島ちゃ...鹿島?手を離してもらっても・・・ね?駄目?」

 

「今私は少し怒っているのです!手を繋いで一緒に酒保に行ってくれないと、私を泣かせたことをこの鎮守府中に言いふらしますよ♪」

 

手を握る力がより強くなる。やっぱ強いなこの娘!色々とッ!

香取姉ぇ、助けてくれぇとアイコンタクトでサインを送る。気付いてくれぇ、この娘をどうにかしてくれぇ。

だが香取姉は手指で口を隠し、ふふっと笑うだけだ。しまった、ちゃんと香取姉の授業を聞いてよゐこにしておくんだった、と今になって思う。後悔先に立た・・・なんちゃらかんちゃら、とやらだな。ちくしょうめ。

改めて鹿島の方に目をやると鼻は赤くしているが泣き止み、あの笑顔を浮かべている。可愛い。

 

「分かったから先にこの道具をなお()そうか?酒保へのお買い物はそれからで良いでしょ?」

 

「酒保でのデートですよ、能督さん?」

 

何処かで聞いた事がある、鹿島はサキュバスと例えられ程の艦娘だと。鹿島の薄く開いた瞳からその魔物(サキュバス)の片鱗が見えたような気がした。

何処かっていうか大本営の憲兵さん達だけどねぇ。

 

◇ ◆ ◇

 

2月15日 14:24 元帥執務室

 

「ほう、交換留学にレクリエーションか・・・悪くないな」

 

儂は提督達の申請書類に目を通していた。その中の一つ、先日来た爆督からの要請書。鎮守府間での親睦親交を深める為の交換留学、及びレクリエーション。

恐督の言う通りもっと深海棲艦に対する警戒を強めた方が良いという考えも尤もだと儂は考える。だが、過去に二度あったスタンド使いの深海棲艦の襲撃時はスタンドを使わない深海棲艦の援護が極めて薄かったのもまた事実。

この推測が正しければ今現在、深海棲艦達は海からの侵略を薄くし、 陸からの侵略にシフトチェンジしているのかもしれん。

艦による鎮守府への襲撃が減れば艦娘の消耗は軽くなる、しかし反比例するように提督への危険性が極めて高くなる。

スタンドを使う深海棲艦。スタンドはスタンドでしか倒せない。このルールが有る以上、普通の提督は文字通り手も足も出ない。

ただでさえ少ない提督を減らされこれ以上減らされるとなると艦隊司令部の運営も怪しくなってくる。

そこでスタンドを使える提督の出番という訳だが、そう簡単にはいかない。

 

元帥である儂の要請も(ことごと)く断る不肖、我が孫。能督

熱血漢が故に反抗、熱血漢が故にスタンド使いの深海棲艦の捕縛に対して疑問を持つ爆督

先日見事エルトという深海棲艦を撃破したが能督と犬猿の仲である空督

スタンド使いとしても有能、提督としても有能だが他の提督と協力を拒む恐督

性格は問題なし、提督としてはこのうえ無い程頼もしいが艦娘への指揮によるもの故に個人だけでは少々力不足な測督

対スタンド使いとしては申し分ないが艦娘に対する過度の性的好意を含んだ言動等の為、鎮守府の運営が危ぶまれている蝋督

 

どれをとっても一癖も二癖も三癖もある連中ばかりだ。個人の性格にとやかく言うつもりは無いが、ここまで出る杭ばかりだと心配なのが複数で襲撃された時だ。1vs1だったら爆督も空督も勝てた。だがもしもスタンドを使う深海棲艦が複数で襲撃して来たら・・・多勢に無勢。スタンド使いの提督達ですら、この儂ですら敗れてしまうやもしれん。

その時を考慮して提督間、鎮守府間でのコミュニケーションを取りやすくする事は何より大事だと儂は考える。

そう考えてた矢先にこの申請、爆督も内心この危機を分かっていたのだろう。なんと頼もしい事か。

若者達のこれからの奮闘に期待を込め元帥の認証印を申請書に押した。

 

◇ ◇ ◆

 

2月20日 15:08 能督鎮守府 中庭

 

「ふぅ〜...なぁんであの娘達は俺に(こだわ)るのかねぇ...」

 

今の鎮守府は軽く混乱状態(パニックフェーズ)だ。いちばんちゃん(白露)狂犬(夕立)みどりちゃん(山風)しゃんがむり(どうしても)俺とおやつタイムしたいとはしゃぎ回り、俺が居ないとわかると血眼になって鎮守府中を探し回る榛名姉、ぽいぬとは違うが ティータイムをするネー!と駆け回る金剛姉、この混乱を収める為に出頭して下さいと鎮守府内放送をかける淀姉(よどねぇ)

一方渦中の俺はと言うと中庭にある植木の影で葉巻を一服していた。

酒と煙草はしないが葉巻は吸う、厳密に言うと”くゆらす”だが。確かに葉巻の種類はかなりあるがギャングやマフィアのボスがやってるような割かし太めのモノを想像して頂けるとそれだ。

ここに来て1ヶ月・・・は、まだか。うん、1ヶ月は言い過ぎた。だが、長い事我慢した。そこは褒めてくれてもいいと思う。

緑の植木に白の提督服は目立ち過ぎる、カムフラージュ率だだ下がりだ。

そんな時に買っててよかった迷彩服!!ウッドランドタイプの迷彩服上下+タクティカルベルト3点セット(税込み7238円)を高雄姉と愛宕姉にバレないように買っておいたのだ。

流石、俺!!策士、俺ッ!!!

バンダナと迷彩服を着、隠れながら葉巻をふかせば何処かの蛇になった気分だ。ROMEO Y JULIETA(葉巻)の芳醇な香りに囲まれながら、ゆったりとした時間を味わう。クラシックでも聴きふかふかの椅子で小説でも読みながら一服したかった所だがあの娘たちがいる。贅沢は言えない。

まぁ副流煙に気を使う半分、見つかってしまったら半分の理由だが。

葉巻の今にも落ちそうな灰を携帯灰皿におさめる。環境に気を使う半分、痕跡を残してしまったら半分の理由だか。

以前、葉巻は灰を無闇に落とさずに吸う様にしていたが、うっかり落としてしまうこともあるかもしれない。それは駄目だ、あってはならない。

 

「ぷふぁ〜...良きだぁ...全くこの銘柄を売っている酒保は・・・良い、センスだ」

 

ゆったりとした時間が流れる、心地が良い。とても良い。サバゲを趣味にしていた者にとって低姿勢はあまり苦ではない。それにかの有名なBig Boss(ネイキッド・スネーク)と同じ気分を味わえるなんてこれ以上ないご褒美だ。提督業を頑張る自分へのご褒美だ。体勢を匍匐からしゃがみに移し目を閉じる、提督業という死と隣り合わせの激務から少しだけ開放されたような・・・

パシャ!っというシャッター音が鳴った。

 

「司令官、青葉、見ちゃいました♪」

 

カメラを手にしたグレイッシュピンクの髪に青い瞳の少女がニコッと・・・違うなこの笑顔はニヤリだ。今撮った写真で俺をゆするつもりだろう、そうに違いない。だがここで少女に飛びかかりカメラを奪うような事はしない。数少ない葉巻をパァにはしたくないし、そもそも飛びかかろうとした日には榛名姉や山風ちゃん達からなんと言われるか分かったものじゃあない。

 

「あれれっ?意外と冷静なんですね。なんかもっと、こぅ...アクア・スペースッ!そのカメラを奪えええッ!!とか言うと思いましたよ?」

 

「そんな野蛮な事はせん(しない)よォ、俺の事何だと思ってるのさァ。・・・それより俺のゴシップ撮り終わったらさっさとハケ(帰って)てくれない?・・・ぷはぁ...もう少しだけ1人にさせておくれよ、青葉チャン?」

 

おちゃらけながらそう言うと青葉ちゃんはフフっと笑って見せた。良かった、今度の笑顔はニヤリじゃあなかった。

 

「司令官は前任と同じで柔和なんですね。じゃあこの事、艦隊新聞に使わせていただいて良いですか?」

 

カッチーン、今のは頭に来ました。

 

「今俺の事なんつった?」

 

不意に出してしまった低い声に驚いたのか青葉はひぃっと飛び上がり2〜3歩下がった。

 

「や、やっぱり艦隊新聞は駄目・・・ですよね、ゴメンなさい!謝るから許してぇ!」

 

早口で謝りながら頭を下げる。だが・・・違う。

俺が怒っているのはそこじゃあない。

 

「青葉ちゃん?ちょっと今から俺、口悪くなるけど許してね。・・・すぅ、ふぅ...今、俺とクソジジィが同じとか言っただろ。そっちだ、そっちを撤回しろ。その発言を撤回しろ、今すぐにだ」

 

「は、はぃ!撤回します!ゴメンなさぁい!撤回しますからぁ許してくださぃ!」

 

目の前の深々と頭を下げる少女(青葉)を前にふと我に返る、言い過ぎた。

 

「ゴメン、青葉ちゃん。ちょいと言い過ぎた・・・でもあのクソジジィとだけは一緒にしないでくれよォ?」

 

は、はぃ...と頬を搔く青葉ちゃん。おでこは軽く汗ばんでいた、そんなにも俺が怒ったように見えたのか?すると近くから聞き慣れない声がした。

 

「青葉ー、どこー?どこ行ったのー?おやつにするよー?」

 

青葉ちゃんが声の方を一瞬向いた好きにアンブッシュポイント(隠れ場所)を変える。この脚(義足)にもある程度慣れてきた。元の脚の頃とまでは言えないが素早くスムーズに移動する事が出来る。

茂みの隙間からさっきの所を観ると青葉ちゃんと同じ髪色をしたツインテール少女が青葉ちゃんと話していた。

今いる隠れ場所からそこそこの距離があったが、この俺の聴力を舐めるなよォ...

 

「青葉、こんなトコでなにしてたの?」

「ああ、司令官とお話してたの!・・・ってあれ?司令官ッ?どこー?」

 

青葉ちゃんがキョロキョロと辺りを見回すが俺を見つける事は出来ないようだ。へへッ、どーだ?凄いだろォ!

 

「何言ってるの?青葉、能督なんてどこにもいないじゃあない。それよりも早くしないとクッキーなくなっちゃうよ?」

 

「クッキーは欲しいけどガサも新しい司令官の事、気にならない?」

 

ガサ・・・?ガサって誰?このツインテールちゃんの事?するとそのガサっという娘も辺りを見回した、さてバレるのは不味い。葉巻をステンレス葉巻ケースに入れ、第四匍匐から第五匍匐へ体勢を変える。葉巻はちゃんとしたケースに入れれば、そのケースの中の酸素が無くなり自然に火は消える。地面にピッタリと全身をつけ・・・いや、俺は地面だ。

 

「しれいかーん!どこですかぁ?」

 

ハッハッハー!どうだ!俺のカムフラージュは!!隠密行動は!!凄いだろう、凄いだろうッ!

 

「あ、いました。司令官、みーつけちゃいましたよ?出てきて頂ければこの写真削除しますけどぉ?」

 

カマだな、カマをかけてるだろォ?俺のカムフラージュは完璧だ、見つかる訳ない。少しずつ後退しよう、バレる訳ない。

タッタッタッタッと足音がコッチに向かって真っ直ぐ近づいてくる、後退していた自身を止める。

 

「トントン、司令官?一緒にお茶しません?」

 

顔は真下に向けているから俺から見えるのは青々とした芝生、葉っぱで青葉・・・ゆーとる場合か!肩をトントンされた、気分はぐる〇イの自腹・・・ゆーとる場合かァ!!聞いてみるか。あ、顔は上げないよ?

 

「な、なぜ・・・分かったん?」

 

「ふっふっふー、女の子のおめめは2つじゃあないんですよ、司令官?」

 

「いや、隠しカメラ見れるのは青葉だけでしょ?」

 

な、何ィィイイ!!か、、隠しカメラだとォ!!??そのカメラで俺の位置を見たのかぁ...ズリぃ・・・それはずりぃよォ...

 

「ガサ、それに司令官、小さい事は気にしてはいけないのですよ・・・」

 

いや気にするし青葉ちゃんのその台詞、何処のBig Bossだよ、俺は黒人エンジニアかよ。

はぁ・・・俺も根負けだよォ。さてそろそろ顔上げて話すか。

 

「分かったよ、どこでおやつにする?着替えてくるからLINEで場所送っといてちょ」

 

そう言いながら立ち上がり迷彩服に少し付いた土をはたき落とす。まぁ行くとは言ってませんがァ。

 

「逃げるかもだからこの衣笠さんがお供するよっ!」

 

ほう、この娘は衣笠さん?ちゃん?と言うのか。・・・俺の信用ZE ⤴︎ RO ⤵︎ ︎(ニュース風)だね。おかしいな、目から汗が出てきた。

 




パクリが多い?違います、オマージュです、リスペクトです。はい。

能「てか、君達(青葉&衣笠)は葉巻の煙とか匂いとか大丈夫なの?」
青「いやー、青葉たちはねぇ・・・」
衣「硝煙とか燃料とかで慣れてるからねぇ」
能「なるへそ」
青&衣「いや、へそが気になるんよ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#26 能督と恐督の葛藤

能督
珈琲というかカフェラテとかの方が好き。

恐督
珈琲は断然ブラック派。


2月22日 11:39 能督執務室

 

「猫ォ・・・お猫さまァ...ネコに会いたい...嗚呼、にゃんこ...にゃんこ子にゃんこ孫にゃんこォ!!」

 

実家の猫に会いたすぎて早口で叫んでしまった。スマホのアルバムを開き家で飼っていた2匹の(にゃんこ)の写真を眺める。頬の毛が一段とふっさふさな母猫、名を耶麻(やま)。鍵しっぽがキュートな娘猫、名をきな子。俺がち〇〜るを手にすると一目散に駆け寄り、きな子より(耶麻)が!耶麻より(きな子)がッ!と実の親子なのにゴハンを取り合い、食べ終わると俺の膝に匂いを擦り付け満足そうに1つのベッドで一緒に丸まって寝る2匹。艦娘たちとゲームをし、青葉ちゃんとガッサちゃんにはバレたが葉巻も味わえた。だが、猫を愛でる事が出来ない事がこんなにも辛い事とは・・・失って初めて気付く猫の偉大さ、愛でる事が出来無い寂しさ、哀しさ、虚しさ。まるで心にぽっかりと穴が空いたようだ。だれかこの虚無感を、心の穴を塞いでくれ、埋めてくれぇ。

 

「能督、それは多摩に対する当て付けかにゃ?」

 

本人は否定してるが猫らしいタマという名前、語尾が〇〇にゃ。にゃんこを擬人化したような艦娘。

球磨型軽巡洋艦 2番艦 多摩。

今日の秘書艦の1人。

 

「多摩も能督もお喋りしてないで仕事するクマ」

 

名前は熊・・・じゃあなかった、球磨、語尾は〇〇クマ。今度は熊の化身の様な艦娘。

球磨型軽巡洋艦 1番艦 球磨。

もう1人の今日の秘書艦、なんか分からんが秘書艦が増やされてしまった。サボらないように監視体制を強化したって事かァ...ん、待てよ、何だこの書類はよォ。元帥の印鑑が押してあるじゃあねぇかよォ!!

 

「能督、顔が”ぐにゃあ”って歪んでるにゃ」

 

そりゃあ顔の1つや2つや3つも歪むっつーの、なんだこの ”提督、鎮守府間の親交を深める為の交換留学及びレクリエーション” だとォォオオ!!!

 

「どれどれ・・・ふむふむ、交換留学&レクリエーションかクマぁ。面白そうクマ!」

 

いや何この面倒臭い事この上無いような行事、こんな陰キャ(能督)にそんな陽キャみたいな事させんじゃあねぇよォ...沈めてやろうか、こんにゃろォ...あ、勿論あのクソジジィ(元帥)をだ。そんな事してないで俺以外の提督と艦娘達で深海棲艦とやらを倒してくれよォ、なんならウチの娘達も総動員して敵の親玉を一斉に叩くとかさァ。いやね、この前みたいなスタンドを使う深海棲艦だったら俺も・・・いや、もうアイツら(爆&空&元帥)だけで対処してよ、元帥(ジジィ)の無敵のスタンド、A(アロー).インハーでよぉ。

こんな楽しく仲良しごっことかしてる暇ないでしょうに。

 

「あ、提督の顔が戻ったにゃ。ところで交換留学なら誰を行かせて誰が来るのかにゃ?」

 

確かにそれは気になる、えーっと資料を読み進めると・・・能督鎮守府から六名を選出、恐督鎮守府から六名を選出後か。恐督って誰だ?いやそんな事はどうでもいい。

コレよく考えたらチャンスじゃあないのか、俺がサボる。あ、コレ倒置法です。

俺への監視体制が強い六人をこの恐督?とやらの所に派遣すれば交換留学の間、時間にして3泊4日の間はサボれるのでは?

となれば人選は重要だ、ここで人選を誤れば折角の3泊4日が業務漬けになるやもしれん。それは勘弁だ、そして3泊4日の間の秘書艦をまだ親交が浅い娘たちから選べば俺の逃げ場所、逃げ道を知らないハズ。恐督の所に送る六人、秘書艦に選ぶ四人、これを正しく選べば暫くの間悠々自適に書類や時間に縛られることなく過ごせるのでは!?

 

「あ、今度は提督が悪い顔をしてるにゃ」

 

さぁて考えろ俺、誰を送る。先ずは俺への理解が深い榛名姉は確実だ、そして何かと当たりが強い山風・・・はダメだろうな筋肉ダルマ(爆督)からお世話?を任せられてるし。あと真面目な高雄姉と時雨ちゃん、監視と言ったら青葉だな。

良しこれで四人あと二人、誰を選ぶか、大抵の駆逐艦、海防艦や潜水艦の娘達はこの鋼鉄の脚で逃げ切れる事も出来る様になった、練習リハビリ頑張った俺。

となると軽巡、重巡、空母、戦艦。おっと忘れるトコだった長門姉。あと一人...

大淀姉は・・・なんだかんだ言って業務を手伝ってくれるし明石姉とメロンちゃんは論外、金剛姉は比叡姉がなんとかしてくれるだろう、霧島姉は俺の隠れ場所を知らない。ガッサちゃんはそこまで俺に固執しないだろ、多分。香取姉だ!香取姉が居ないだけでかなり変わってくる!なぜ今まで忘れていたのだろう!!

よぅし派遣するのは榛名姉、高雄姉、時雨ちゃん、青葉、長門姉、香取姉の六人だな。

これで一応派遣要員は決定した、一応俺提督だし決定で良い・・・よね?なんか心配になってきた。取り敢えず書類に榛名姉達の名前を書こう。秘書艦は・・・まぁ後でいいか。

 

「よし決まった、クマちゃん、多摩ちゃんコノ書類と残りの書類終わったから後4649(ヨロシク)!」

 

「なんかヨロシクのイントネーションが変だったクマ、それに駆逐艦の子達が”ちゃん”を付けて呼ばれると恥ずかしいとか距離を感じるとか言ってたクマ。呼び捨てか渾名(あだな)呼びが良いって言ってたクマ」

 

そっかーと適当に返事し愛猫が居ない寂しさを埋める為に、葉巻で心の穴を埋める為に自室へと向かった。あぁ愛しのニャンコ達・・・

 

◆◇ ◇

 

2月22日 09:43 恐督執務室

 

「次の書類」

 

(恐督)の命令に対し”はい”と静かに答え黙々と作業をこなす秘書艦、扶桑型戦艦一番艦 扶桑。

提督同士は勿論、艦娘達とも最低限の接触、親交迄で留めておく俺のポリシーに理解を持っている艦は多くはない。だからこそ扶桑の様な理解ある、最低限の会話で済む艦を秘書艦として選んでいる訳だが・・・そんな俺のポリシー、信念を打ち砕く様に提案、命令された交換留学の件、反対でしかない。こんな事している暇は無いだろうしコレで仲良くなった艦娘や提督が死んだら精神的負担になる事はコーラを飲むとゲップが出るという事より明らかだ。だが珍しく元帥の印が押してある・・・滅多に無いことだ、殆どの書類は提督の印が押された後に元帥の所へ行く。それが逆になっているという事は俺が反対することが目に見えているぞと、言うとこだな。元帥も無策でこんな事を許可する人でも無いだろう。

六人で3泊4日の交換留学・・・はっきりいって誰でもいい、だが交換相手である能督、野上彰成とやらは信用して良い者だろうか。

 

「恐督、能督の資料です」

 

俺が言わなくても動いてくれる扶桑、この子といる時間が長くなり過ぎた。その証拠に喋らずとも意思が疎通できるほどになってしまった。暫く扶桑とは時間と距離を置いた方がいいかもしれない。そして俺は扶桑を筆頭に計六名を書類に記し能督の資料に目をやった。

新しく入った提督、2つ名は能督。野上の概要が大まかに記された書類に一通り目を通したが不可解な点が幾つも有った。

一つ目、スタンドが使えるからと言って士官学校を飛ばして提督になれたのか。

二つ目、爆督、空督、恐督、列督、測督と能督以前の提督は具体的な2つ名なのに対し能督だけ無能、no,noとか巫山戯(ふざけ)た理由で付けられた2つ名。この魚人の様なスタンド、A(アクア).スペースの能力を見る限り魚督や水督、液督とかでも良かった筈。

三つ目、スタンドを使う深海棲艦を初めて観測したのにも関わらずそれに対する尋問が行われなかったのか、何故彼が最初だったのか。

実際に会ってみないと分からない・・・いや、会っても分からない事の方が多い。そういや他の提督と交流する機会が有ったな、不服だが。ここの資料がこの程度というのなら、必要最低限の情報共有は必要だな。交換留学、俺もこれに着いて行き直接問い質す事ぐらいしてやろう。取り敢えず目の前の書類を片すか。

 

「扶桑、次の書類だ。」

 

◇ ◆ ◇

 

2月22日 15:19 能督鎮守府 一階廊下

 

「ご、五百円だと...」

 

榛名姉を交換留学に送り出す事をおやつタイムに明かすとなんというか、案の定というかめっちゃ怒られた・・・?いや責められたが正しいかもしれん。

慌てて二階の部屋から飛び出し自慢の(義足)で着地、脱走を試みた。建物の外に逃げたと見せかけて鎮守府内へ帰還、残りのお菓子を自室で楽しむ予定・・・だったのだが。

目の前に光るは紛うことなき五百円玉、誰かの落し物だろう。別に貰っても・・・ダメか、ダメだよな。落としたと言うことはうっかりさん、おっちょこちょい、ドジっ子といった娘だろう。生憎そういった年上系艦娘達(戦艦 空母 重巡)はウチには在籍していない・・・と、思う。確か。

となると必然的に軽巡・・・の娘たちもないかな?じゃあ駆逐艦、海防艦、潜水艦の子達か。いくら落ちてたとはいえ流石にあの子達の落としたお金を貰うのは忍びない、これが仮に十円玉や五十円玉ならしれぇ〜っとポッケに入れるかもしれんが。(擬音と司令を掛けた激ウマギャグ)

五百円があれば酒保の駄菓子コーナーで底々の贅沢というか大人買いが出来なくもない。

だが誰が落としていったのか皆目見当がつかない。艦娘の誰かに渡して数珠繋ぎ方式でいくのは・・・不確実だし途中で誰かが使うかもしれん、なら俺が使いたい。大淀姉を信じるのは・・・ダメだ、そっから榛名姉達に居場所がバレる。そうだ酒保の妖精さん達に渡そう、まぁ色々と不安な点は残るがそれが一番良いかもしれん、たかが五百円如きでうだうだ考えるのも面倒いし。

(能督)が歩くリズムに合わせてカシャカシャっと音がなる。メロンちゃん&明石に作って貰った能督用大腿義足Mk-IIIはソケット部分に特殊なシリコンゴムを使い大きな衝撃を吸収、チューブを二層構造にして強度を上げ、膝継手をチタン製フレームのみにして軽量化、足継手の部分にスプリングを追加し歩きやすさを実現、足部は走りたい能督向けにと試作に試作を重ねて今の形になった。

つまりメロンちゃんと明石のこだわりの逸品なのだ、だからこそ二階から飛び降りてもこうして無傷な訳だが・・・ホント2人には感謝やで、ホンマに。

さてさて、カシャっと音を立てながら膝をつき五百円玉を拾おうかすると。

 

「てやんでーい!提督じゃあねーか!こんなトコでなにしてんのさー!」

 

あ、あっぶねェ。驚きの余り口から心臓が飛び出るかと思った。しまった、うっかり五百円玉を拾ってうっかりポッケに突っ込んでしまった。うっかりだ、うっかり、うっかりなのだ。ていうか、この青髪の少女・・・

 

「えーと、君は・・・?」

 

「今ポッケに何かー・・・ってまーいっか!あたいは涼風だよ!まだ覚えてなかったのかよ!」

 

このThe江戸っ子みたいな濃い青髪の碧眼少女は涼風ちゃ...ちっちゃい娘たちは呼び捨てか渾名だっけ。

 

「す、涼風はなしてここに?」

 

や、やべぇ動揺したのバレたかも。とか思ったがそれは杞憂だった。

 

「お!提督、ついにあたい達のことちゃんと呼んでくれるようになったのか!かー!嬉しいねぇ!あ、そうだった!あたいがここに来た理由だったね、そりゃ勿論・・・」

 

なんだ、やっぱり榛名姉たちの命令で俺の捜索に来たのか?ならば速攻逃げなければ。

軽く重心を落としいつでも走り出せる準備をする。涼風の返答によっては・・・

 

「五月雨の落としモノを探しにきたんだけどよー!小銭を落としたらしいんだ!提督知らないか?」

 

小銭?あ、この五百円玉の事か。落とし主は五月雨ちゃ...五月雨だったか、分かって良かった。ここで知らんぷりをしてネコババするような男ではない、決して。ポッケに突っ込んだ五百円玉を取り出しちゃあんと涼風にこれだろ?と渡す。

 

「あ、提督、榛名さんたちが探してましたよー・・・って涼風!ここにいたの!」

 

透明感のある青髪のロングヘアに涼風とは対照的で丁寧な口調、しかしながら涼風と同じ制服。この娘は・・・

 

「五月雨!五月雨が落としたお金、提督が見つけてくれたんだぜ!」

 

まるで自分で見つけたようにドヤ顔で五百円玉を五月雨の方に放り投げる、そーゆートコで性格出るよな。五月雨はおっとっとと落としそうになるもキャッチ・・・出来なかった。チャリンと鎮守府のフローリングでバウンドし鋼鉄の脚に当たる。五百円玉と義足がぶつかり金属音が鳴る事で改めて脚を失った事実を突きつけられる。人間のトラウマというか恐怖や後悔は意外な所から訪れるものだな、もう克服したつもりだったが。

再びカシャっと音と共に膝をつき五百円玉を拾い上げる

 

「ほい、五月雨ちゃ...五月雨。今度は無くさんようにねェ」

 

「はい!あ、今から酒保に行くのですが提督も御一緒しませんか?」

 

あぁ眩しィ、この純粋無垢な笑顔が眩しいよォ。俺が榛名姉たちから逃げてるなんて状況じゃあなかったら一緒に楽しくお買い物〜なんて思ってたがァ・・・

 

「ゴメンね五月雨ェ、俺ちょっと用事があるからァ。また誘っt...」

 

「府内放送です、またもや能督が脱走しました。重要な会議があります、能督は速やかに会議室へいらしてください。また、能督を見つけ次第、戦艦級 空母級 重巡級の艦に報告、可能であれば拘束して下さい。繰り返します・・・」

 

大淀姉の物騒な放送が流れ終わる前に全力で地面を蹴り出した。

 

◇ ◇ ◆

 

3月4日 05:16 恐督自室

 

「誰だ」

 

朝と言うには早く、夜と言うには遅いこの時間にドアが開く音によって目が覚めた。コッ...コッっという固いものがフローリングに当たる音が次第に近づいてくる。足音からして艤装を履いた艦娘か、全く違う生き物か。はたまた生き物でもないか・・・

(恐督)が寝ている位置から音の正体まで約5メートル程という所で、少しずつ暗闇に目が慣れてきた。シルエットからして髪の長い艦娘、いや更に近づいて来て分かった、此処の艦娘ではないッ!!掛けていた布団を侵入者に投げつけ転げるようにベッドから降りるのに一秒は掛からなかった。

 

「全ク、モー・・・イキナリ布団ヲ投ゲツケルナンテ、私マダ何モシテナイジャアナイノ」

 

声色からして女か、そして女が布団を放り投げる頃には目が暗闇に対し完全に適応し女の全体像が見えた。腰にまで達する程の白髪のロングヘアーでサイドはロールだが前髪はパッツン、二本の湾曲した角がヘッドドレスから生えている。白を基調としたクラシカルロリータ風ドレスに負けず劣らずの肌の白さ。

冷静に観察してみると深海棲艦のリコリス棲姫に酷似している、何より不気味なのが女の身長が俺の身長(195)と同じ程だという事だ。俺のスタンド、ステイタス・マイナーはまだ出さない、S(ステイタス).マイナーは近距離パワー型故相手の間合いが分かる迄は下手な動きは自分の首を絞めるだけだ。

 

「チョット私トオ話シシナイ?」

 

勝手に俺の部屋に入り自分の正体を示すことなく近付いて来る奴と会話する気など毛頭ない。

 

「私ハ ”アリュー” 深海棲艦ダヨ、恐督アンタニ頼ミ事ガアッテ来タンダケド「断る」

 

このアリューとか言う奴の言葉を遮り本音を吐いた、名前と正体を明かしたらとは思ったが、よりにもよって深海棲艦とは。その ”頼み事” の内容によっては此処での応戦も視野に入れなければならない、軽く拳を握り込む。

 

「ソンナ事言ウナヨー、チョット私ニ付イテ来ルダケダカr「断る」

 

食い気味の拒否に対してアリューの沈黙、その間僅か数秒ながらもかなりの時間が流れたような錯覚を覚えた。それはアリューの能力では無くアリューから放たれる異常な殺意と闘争意欲、オーラによるものだった。

 

「・・・ソレジャア チカラズクニナルケド、ソレデモイインダナ?私ハ、カーナーリ強イゾ。下手シタラオ前、死ヌカモヨ」

 

力ずくとは分かりやすくて結構、分かりやすくて良い。なんぞ考えているとアリューの背後から人型スタンドが現れる。背中から幾つもの・・・正確には八本の赤い腕を生やした不気味なスタンド。態々本人が直々に俺の寝込みを襲ってきたという事はアリューのスタンドも近距離パワー型と見て間違いないだろう。

 

「私ノスタンド、トワイライト・ムーン(黄昏ノ月)ハ見テノ通リ近距離パワー型。マァ賢イオ前ナラ言ワナクテモ分カルダロウ。能力ハ・・・教エナイケドナ」

 

ここまで丁寧に自己紹介されたら此方も名乗るのが礼儀だ、其れが日本男児だ。例えそれが全日本国民の敵であろうがな、では此方もスタンドを出そう

 

「スタンド、ステイタス・マイナー。そして俺の名は冨樫侑斗。此処(自室)で戦うには少々狭いだろ、埠頭に出ろ。そこで一戦交えるのはどうだ」

 

コレは一種の賭けだ。コイツ(アリュー)は俺の誘拐が目的と言った、そして例え俺が死のうとも。行き先は恐らく海底だろう。どんな技術、いやスタンド能力で生きたまま海底に行く方法があるのだろう。死んでもいいなら最初に俺の寝首を搔いていただろうし、コイツのスタンド能力を見極める為、俺のスタンド能力を存分に発揮する為、そして本当の目的を知る為。本当に誘拐目的ならば海へ連れ込むことが容易な埠頭はコイツからして願ってもないバトルフィールドだろう。だが、帰ってきたのは意外な言葉だった。

 

「室内ガ一番良イガ...間ヲ取ッテ中庭ダ、中庭ニ出ロ」

 

深海棲艦()の言う事に従う事はかなりの屈辱感を覚えたが艦娘に被害が及ぶ事も考慮し、その提案に対し相槌を打つことで承諾の意を示した。

 

「ジャア決マリダナ、中庭ニ着クマデ休戦ダ」

 

そういうとアリューは踵を返しドアを開け廊下を歩いていった。スタンドは出したままだったが、俺の不意打ちを考慮してだろう。それにしても不用心過ぎないか、仮にも敵の俺に背を向けるとは。だがその自信が俺の警戒心を(くすぐ)った。

 





stand name:黄昏ノ月:トワイライト・ムーン(T.ムーン)
stand master:アリュー
stand spec
パワー:A
スピード:A
射程距離:D
持続力:A
精密動作性:B
成長性:D
背中に八本の赤い腕を生やした近距離パワー型の人型。スタンド能力は・・・

因みに能督の義足Mk.Ⅰは炭素繊維製のブレード型義足。
義足Mk.Ⅱは膝内部を空圧、油圧式にしたマイコン制御の義足。

能督の義足Mk-IIIは靴を履かずに生活して自室では自室用の義足、Mk-llで生活してます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#27 恐怖に対する虚飾、淫蕩と嫉妬

恐督
生涯独身の予定。性欲は殆ど無い。

能督
艦娘に対しては年上系には少しムラってなる、年下系は庇護対象。

蝋督
艦娘ってか女好き。



2月24日 09:59 能督鎮守府 正門

 

「あ、えっと・・・は、初めましてェ。こないだ、じゃあなかった。先日この鎮守府に着任させていt...」

「能督だろ、資料で大体の事は把握している。二泊三日とあるがお前に幾つかの質問をしたら帰る、期日になったら迎えを寄越す」

 

(恐督)の目的を伝えると能督はぽかんと口を半開きにし目を丸くしている、間抜け面というのはこの事だと態度で教えてくれている様だ。

能督の後ろには榛名、高雄、時雨、青葉、長門、香取が。

俺の後ろには天龍、龍田、妙高、那智、若葉、あきつ丸が肩を並べ整列している。

元帥からの指令書には恐督鎮守府の六人を恐督と共に能督鎮守府へ二泊三日の間留学。

それと入れ替わりで能督鎮守府の六人を恐督鎮守府へ留学、恐督不在の間はスタンドを持たない一般提督、俺が恐督鎮守府に来る前に提督をしていた前任が臨時で派遣されると記載してあった。だが、

 

「俺は他の提督と馴れ合うつもりは無い、質問はすぐ終わる。まず一つ目の質問だが...」

「せ、折角ですし俺の・・・自分の執務室に行って話しませんかァ?ここ寒いですし、お茶くらいだしますよ?」

 

話を遮るとはこれ如何にとは思ったが流石に失礼過ぎたかと反省だ、茶くらいは世話になるとするか。車の運転手に駐車場へ行く様指示し艦娘達は鎮守府内ホールへ、俺と能督は執務室へ向かった。

 

〜ほぼ同時刻 能督執務室〜

 

「え〜っと、それで質問ってェのは何ですか?」

「質問の前に能督のスタンド、A.スペースとやらを見せて欲しい、疑う様で悪いが念の為確認しておきたい」

 

能督は分かりました、と能督の座っているソファの後ろに青を基調とした魚人型スタンドを出して見せた。

意図が分からないのか彼の頭の上には ”?” が浮かんで見えたが、こちらも見せるのが礼儀だ、同じく俺の後ろにスタンド、S(ステイタス).マイナーを出して見せると能督はふぅと息をつきA.スペースを引っ込めた。

取り敢えずの緊張がほぐれたのか能督は珈琲を一口啜った。

 

「あ、あのー。それで質問ってのはァ...」

「幾つかあるが一つずつ聞こうまず一つ目。何故此処に、何故鎮守府に連れてこられた?スタンドを使えるからか?元帥の孫だからか?それとも自ら志願したからか?」

「どれもォ・・・どれも違います、厳密に言うと分からないんです」

 

分からないだと?よりにもよってなぜ自分がここに居るのか分からないだと?巫山戯(ふざけ)るのも大概にしろ。

 

「分からないは無いd...」

「本当にィ、ガチで分からないんです。何で俺なんかがここに居るのかァ...元帥はなんで俺を選んだのか教えてはくれませんでしたし、なんで能督って呼ばれてるかも知りません」

 

能督はちじこまって小さく呟いた。

俯いて表情は分からないが嘘を言っているようには見えない、少なくとも俺はそう感じた。

 

「か、勘弁してください。それより他の質問は無いんですか」

 

呆れる回答が帰ってきたがこれ以上は何も得られないだろう。二つ目の質問、何故能督と呼ばれているのか?という質問の答えまで帰ってきたのは意外だったが。

 

「では次だ。元帥についてどう思う?今回の交換留学についてもだ」

「元帥は・・・嫌いです。昇格したからといってこの鎮守府を置いて出ていき、無責任にも自分の孫に押し付けて前線から引く。見舞いに来いとは言いませんが俺が脚を無くしてから来た連絡はこの件の指令書のみ、控えめに言って頭がおかしいと思います」

 

またもや意外な回答が帰ってきた、祖父である元帥を嫌い、無責任、冷血、頭がおかしいと侮辱の嵐。

確かに俺や一部の海兵も少なからず元帥の考えには疑念を抱いていたが、こんなにもハッキリと否定意見を言ったのは能督が初めてだった。

祖父だからという点を除いても有り余る暴言の数々、そういえば能督の資料で元帥に暴行(未遂)を働いたとも書いてあった。

という事はこの発言も嘘では無いという事か。

 

「他はなんか無いですか?」

「いや聞きたいことは聞けたから俺は帰る、報告書には適当に書いておいてくれ」

 

は、はぁ...と納得した様な、してない様な声を能督はもらし執務室の扉を開けてくれた、こういう所に気を使える点では多少マシな人間かもしれん。

廊下に出ると丁度留学組の十二名の艦娘がこちらに歩いて来ていた。

 

「長居し過ぎた、コイツ(艦娘)らへの説明は任せた。では」

 

能督はウィッスと軽く会釈し艦に説明を始めた、これといった収穫は無かったが詳しい事はその内分かるだろう、それまでお互いに生きていたらの話だが。

俺は車に乗るまでの間、能督の義足が頭から離れなかった。

 

◆ ◇ ◇

 

2月24日 10:34 能督鎮守府 正門

 

「アキくん、暫くの間離れ離れになりますけど帰ったら・・・分かってますよね」

「ア、ハイ。イッテラッシャイ、キヲツケテネ」

 

(能督)は榛名姉の笑顔を直視することが出来なかった。僕・・・じゃあなかった俺 提督なのに、能督なのに。少なくとも艦娘ちゃんたちの上司なのに。

いつになっても榛名姉の目が笑ってない笑顔は怖い、怖すぎる。これからもこの恐怖に慣れることはないだろう。

 

「では恐督、2泊3日の間よろしくお願いします」

「・・・あぁ」

 

榛名姉の挨拶に対して恐督は考え事をしていたのか、ぼんやりと相槌を打ち車へと向かって行った。

「アキくんも気を付けてね・・・」頼もしくもちょっと怖い榛名姉。

「身の回りの事は妹たちに任せてますからね」悪い人では無いのだが真面目過ぎる高雄。

「山風たちに手を出したら許さないからね」駆逐艦の中では監視の目が強い時雨、

「司令官が私を選ぶ事はなんとなく分かってましたけど・・・」盗撮といえばこの艦、青葉。

「私が帰ったらみっちりお勉強しましょうね」教鞭の鬼、香取。

「能督、私達の帰投後は・・・覚悟しておけよ」

鬼、長門。

 

六名を見送りながら我思う・・・人選ミスった!!

絶対ミスった。ミスた・・・はい!セックス・ピストルズー!!

駄目だァ、気を確かに持とうとするが・・・無理。この六人のセリフを聞いて三日後の事を考えると胃に穴が開きそう。今しがた口から鮮血が流れる様な感じがした、俺人生で初めて吐血した、気がした。

 

「提督、これから3日間世話になるぜ」

 

龍の角を彷彿とさせる独特の頭部装備、厨二・・・男心を(くすぐ)る刀と眼帯。この娘はちょいと特徴的だから名前覚えてるぞォ...ホントに覚えてるぞ。今覚え出すからなァ・・・確か「龍」の文字は入ってた気がするゥ〜けどォ。

 

「あぁ自己紹介が遅れたな、オレの名は天龍。そして左から龍田、妙高、那智、若葉、あきつ丸だ。若輩者だがよろしくなぁ」

 

待て待て待て待て、そんなに早く言われても分からんし覚えられねェってば!だが仮にも俺は提督、それにただの提督では無い。スタンド(A.スペース)を持った提督、能督だ。誰だ、今俺のこと無()の提()とか言ったやつは。提督怒らないから出てきなさい。ホントの事でも傷つくんですよォ、俺はァ。

 

閑話休題。

 

さて此処で ”はぁ俺、名前覚えられなぁ〜い” とか言った日にゃ、俺が担当している鎮守府だけじゃあなく恐督の鎮守府に在籍する艦娘まで俺が無能だとバレてしまう。由々しき事態だ、堂々と提督らしくしなくてはッ!

 

「あ、あぁ。恐督の資料を読んだよォ。俺は提督だが・・・ま、まぁ肩の力を抜き気軽に接してくれて構わぬンっ」

 

台無し、最後の最後で 台無し。いや途中まではめっちゃ凛々しく対応出来てた筈なのにィ、もったいねェ。あ〜^ハッズ!顔熱ッ!もぅいいや、さっさと建物内に案内しよう。さみィし。

や、やめろ!天龍ちゃん、そんな目で俺を見るな!・・・でも、なんか違和感。まぁ、気の所為か。

 

「さ、寒いっスねェ。鎮守府案内するけん(から)歩きながら話そう・・・かァ?」

 

天龍ちゃんを含む六人は軽く相槌を打ち俺を三歩後ろを歩いた、無言で。

カシャッ、カシャッと金属(義足)とコンクリートがぶつかる音が一人分、コツ、コツと艤装とコンクリートがぶつかる音が六人分。それ以外の音がしない。

いや、こんなときフツーは ”この能督って人は○○だね〜” とか ”ウチの恐督はね〜” とか女の子らしい(?)会話をしながら着いてくるもんじゃあないの?

ずっと無言、ずっと静かで・・・静か過ぎて怖いんですけど!恐督を見送って正門から鎮守府玄関に向かうまでが すっごい遠くに感じたんだけど!永遠に感じたんだけど!時間を遅くしたりする新手のスタンド使いの攻撃なの!?(違います)

 

「し、資料を見る限り恐督鎮守府もウチ(能鎮)も内装は大して変わらんから迷わないと思うけど・・・なんかあったら、まぁ気軽に頼って・・・ね?」

 

沈黙が怖い!正確に言うと ”はい...” とか ”分かりました...” とかは言うんだけどそれ以外が無口も無口!世間話とか井戸端会議(?)とかは君達の辞書には無いの!?

 

「提督は・・・能督はどうしてそんなにも自分みたいな兵器に必要以上の会話、接触をするのでありますか?」

 

漆黒の学帽、学ラン、ブリーツスカート。顔色は異常に青白い彼女は・・・あ、あ〜...あにつ丸だ!(あきつ丸です)

()つ丸ちゃんは何を言ってるのか・・・分かった。違和感の正体が分かった。

活気・・・いや、性格だ。

目が死んでる訳ではない、闘志が無い訳でもな様だ。

艦一隻一隻・・・いや、一人一人の性格が極限まで削られている?減らされている?奪われている?

とにかく中身の、魂の色がほぼ全員一緒なのかもしれない。

これは俺の単なる憶測だが、もしも、万が一この天龍、龍田、妙高、那智、若葉、あきつ丸の六人がスタンド使いになれば、ほぼ同じ様なスタンドが発現すると思う。

そう思わせるほど意思が無い、少ない。

その時に俺の頭によぎる一人の人間、恐督。

冨樫侑斗という人間、この男に洗脳されてる等と考える俺は異常だろうか?

さァて、陰キャボッチ特有である自問自答の時間だ。

この子達はあの恐督に洗脳されているとか考える俺は偽善者だろうか?

YES。あくまで俺自身の価値観に過ぎない。実質(恐督)は大将まで昇進したのは紛れもない手腕とそれに着いて行った艦娘達だろうし、俺はソコに介入すべきでは無いだろう。

次、2泊3日の間はこの子達と積極的に関わろうとするのはお節介だろうか?

これもYESだ。少なくとも彼女達は艦娘、そしてココにも沢山の艦娘がいる、俺一人がどうこうするモノでもなかろう。

最後、こんな事を考えるのは余計なお世話だろうか?

無論YESだ。2泊3日の交換留学中であろうが無情にも仕事は提督の俺に降り掛かる、恐督が帰った事を誤魔化・・・オブラートに包んで報告書を書かにゃならん。

結果、

「俺がァ・・・俺が提督で君たちが一人の女の子だからだよ」

 

俺が考えて考えてひり出した答えを聞いた彼女の・・・彼女たちの肩は震え、瞳は潤んでいた。

 

◇ ◆ ◇

 

2月28日 10:08 蝋督鎮守府

 

「変ッッッ態ッ!!!!!」

 

思わず(空督)のスタンド、G.マシーンact2の最大火力で蝋督中将こと松岡敦士を吹き飛ばした、のに蝋督中将は無傷。

 

「えっへへ〜スキンシップが激しいおんにゃの子だネ、空督?」

 

スキンシップが激しいのはアンタの方ですよ、蝋督...巫山戯るのもいい加減にして下さい。会って10分も経たずに・・・いやこの際時間は関係ありません、女性のお、おしr...臀部を揉みしだくなんて・・・

 

「変態ッ!不潔ッ!非常識ッッ!!」

 

かつてスタンドを使う深海棲艦 エルトを撃破したG.マシーン act2の空槍を受け、壁ごと吹き飛ばされても蝋督中将には傷一つたりともついていなかった。

 

「僕のスタンド、リビング・エンド。自分や触れた物を蝋燭にする能力サ、かっこい〜デショ?」

 

私の空槍を受ける前に蝋督自身をドロドロに蝋化しダメージを無効化したとみて間違いないでしょう。

 

「良いじゃかヨ、お尻を揉むくらいサ。減るもんでもないしサ!」

 

なななななな、何を言っているのでひょうかかか!!この男はッ!!

あああああ、ありえない。ありませんッ!悪びれることなく、あろう事か減るもんでもないから良いですっててて?

ぜっっっっっっっ対ありえない!こんな変態が中将クラスの提督だなんて!!

 

「今のは・・・いえ今のも、いつも、今日も、明日も明後日も蝋督が悪いです。2億%蝋督が悪いです、フローリングに頭を擦りつけ土下座して下さい」

 

黄色いスカーフ付きの半袖セーラー服にグレーのプリーツスカート、白手袋をつけた銀髪の艦娘は緑の便所スリッパで蝋督の頭をスパーンッ!!と軍帽が吹っ飛ぶほど強く叩きつけ毒を吐く艦娘。

陽炎型駆逐艦十三番艦 浜風。

資料ではもっと温厚というか柔和というか・・・艦娘にもある程度個人差があるみたいです。ハイ。

 

「も〜、便所スリッパはないでショ?は・ま・か・ぜ〜?後輩の提督からは吹っ飛ばされ、スリッパで叩かれた僕の心はボロボロだヨ〜。だからサ、はまかぜ〜・・・おっぱい揉ませてヨ〜!」

「指の骨全部折られても同じ事言えますか?蝋督?」

 

えっへへ〜コレは参ったと後頭部をポリポリとかき、蝋督は軍帽を被り直す。

元帥はどうしてこんな変態の所に私を向かわせたのでしょう・・・

 

「で〜、はまかぜ〜。今日の仕事終わった〜?」

「現在、浦風、磯風、谷風で執務中です」

 

何と言うことでしょう、この蝋督(変態)はセクハラだけでなく、職務を艦娘に押し付けるというパワハラまでとは。呆れて声も出ません。

そして艦娘たちもそのパワハラに対抗、報告する事も無く受け入れ、この変態の指示に従っているとは。

由々しき事態です、今すぐ大本営に報告し、どうにかしないと。

・・・2泊3日。この間、蝋督の鎮守府に寝泊まりと考えると全身に鳥肌が立ってしまう。

艦娘寮にお世話になるといっても、この蝋督の事です。夜這い等、想像に固くありません。

 

「帰りたい...」

 

紛れもなく本音で、どうしようにも出来ない事実でした。

 

◇ ◇ ◆

 

3月4日 05:16 恐督鎮守府 中庭

 

「意外だな」

「ソレハオ互イ様ダロ」

 

スタンドを操る深海棲艦、アリューの休戦宣言通り(恐督)とアリューが中庭に着くまで一切の争いも会話も無かった。

アリューは予め鎮守府の内部構造の情報をどうにかして入手したのだろう、一切の迷い無く俺の寝室、三階から階段をおり中庭へと向かった。

 

「ジャア休戦宣言ヲ撤回スルゾ」

「愚問だ」

 

態々質問してくるアリューに対し一言返す、話し合いで解決するならそれに越したことは無い。が、そんなに甘い連中では無いだろう。ならば力で解決するしかない、会話は無用。俺の返答が一言なのはなるべくしての事だ。

俺からアリューまで約10メートル。俺のスタンド、S(スティタス).マイナーの射程距離は約2メートル。アリューのスタンド、T(トワイライト).ムーンの射程距離もせいぜい5メートル前後だろう。

その証拠にアリューはスタンド(T.ムーン)を前面に出し、一歩、又一歩と近づいてくる。

さっきまで強かった風がぴたッ...と止んだ。

 

「S.マイナァァアアッッ!!!」

「T.ム━━ンッッッ!!!」

 

お互いの距離は3メートルも無かった。

ガンッ!と普通、拳からは出ないような鈍い音が中庭の静寂を崩す。

スタンドは基本、何か一つ特殊能力を持つ。

能督は閉ざされた空間に液体を充たす能力、

爆督は手榴弾を降らせる雲を出す能力、

空督は空気を自在に操り武器にする能力、

元帥は触れた物を任意の方角に飛ばす能力。

もちろん俺も例外ではない。

S.マイナー、殴った所に溶岩が吹き出る間欠泉を生成する能力。

 

スタンド使い同士の戦いは情報戦でもある、相手の能力を知っておけば能力を考慮した立ち回りが出来る。

逆に知らなければ正面から突っ込んでも能力で返り討ちに会うだけだ。と元帥に言われた。

・・・だが、俺はそんな細かい事は出来ねぇんだよッッッ!!!

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」

相手が動かねぇなら先手必勝ッ!

女だろうが容赦はしない、(深海棲艦)の出したスタンドに懇親のラッシュを叩き込む。

S.マイナーが本気を出せば、車に穴を開け大岩を砕き鉄塔をへし折るのも、そう難しい事じゃあない。

 

「アッハハハハハハッ!無駄ダヨ、無駄ッ!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」

 

ドゴッッ!!と鈍い音と同時に俺の体が後ろに仰け反る・・・なに?俺の体が仰け反る?単純な力比べでS.マイナーが押し負けだとッ!?

T.ムーンは今、何かの能力を使ったのか!?

いや、使ったに違いない。そうでなければS.マイナーが単にパワー負けする筈が無いッ!

 

「オ前ヨリ、ドノ位 黄昏ノ月(T.ムーン)

ノ ”スタンドパワー” ガ強イカ、チョイト試シテミタガ・・・マ、試ス程デモ無カッタナ」

 

野郎、随分と言ってくれるじゃあないか。

S.マイナーの能力は溶岩が出る間欠泉を作る事だ、だが条件がある。まずそこが無機物である事、次に殴った無機物にヒビを入れる、もしくは砕く必要がある。溶岩は出来たヒビ(間欠泉)から吹き出す、つまりヒビの大きさが溶岩の()を左右する。

中庭の地面は砂、S.マイナーのパワーでヒビどころか砕き割る事も容易・・・つまりッ!!

 

「スティタス・マイナーッッ!!」

 

後方に跳びながら地面を数発殴りひび割れ(間欠泉)を作る。

グツグツと音を立て間もなく・・・ゴォォォォッと火山の如く溶岩がアリュー目掛け覆い被さるように吹き出る。

 

「ナ、ナニィィィイイイ!!??」

 

アリューの悲鳴が聞こえ終わる頃には間欠泉から出る溶岩は止まっていた。

溶岩から噴出する黒煙が晴れるとそこには、

割れた地面、冷え固まった溶岩、そして無傷の深海棲艦。

 

「ナンテナ、ダカラ言ッタダロウ。無駄ダト」

 

スタンドで防いだのか?防御型のスタンドなのか?こちらのカード(能力)はバレた、だが相手の能力が分からない。不利、圧倒的不利。

さてどうするか、どう探るか。

 

「無駄ダガ教エテヤルヨ、T.ムーンの能力ヲ。横流シ、横流シダ。私ノ身二起キタ現象ヲ触レテイル”モノ”に横流シニシタ訳ダ。」

 

聞いても無い事をべらべらと話すアリューは得意気だ、俺を格下に見て油断している証拠だ。

 

「オ前ノラッシュハ、ソノママ オ前に横流シタ。溶岩ノ攻撃デ負ッタ火傷ハ触レテイタ地面二横流シタ。T.ムーンノ前デハ全テガ、全テノ攻撃ガ無駄ナンダ」

 

アリューは一頻り種明かしが終わるとフリルの着いた袖をひらひらと煽るように揺らし、ふんぞり返った。

だが、とても助かった。能力が分からない内は勝てるかどうか五分五分という所だったが・・・今は10:0で勝てる、勝機が見える。いや、もうコイツには勝った。コイツはもう倒した。

俺とS.マイナーはコイツを・・・

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#28自信家と自惚れ屋と自己中

爆督
馬鹿真面目お兄さん、国の平和に対する思いは並々ならない。

蝋督
艦娘大好きお兄さん、艦娘に対する思いは尋常じゃあない。

蜥督
自分大好きっ娘ちゃん、兄に対する思いは複雑。



3月4日 10:29 大本営 側督執務室前廊下

 

「失礼しますッ!爆督到着しましたッッ!!!!」

 

”おっけ〜入っていいよ”と優しい声が扉の向こうから聞こえドアノブに手を伸ばすとガチャリとひとりでにドアノブが回りドアが開いた。同行した大和、翔鶴、川内、雷、電、鳳翔は(爆督)の後ろに並んでいた故、ドアノブに触れずとも開いたドアに疑問を持たなかった、ドアの向こうに居た異形の存在についても。

 

「いらっしゃい爆督、ビックリさせちゃったかな。ボクのスタンドヴィジョンって不気味でしょ?ゴメンね〜」

 

執務机の椅子に座る提督、傍に立つ一航戦赤城、加賀そして五航戦の蒼龍と飛龍。

だがそれよりも目を引いたのはフヨフヨと空中に浮かぶ異形の物体だった

剥き出しの脳みそ、脳みそを囲う羽の付いた軸受、脳みその下部にはタイヤが3本回転しておりタイヤの隙間から6本のコードが生えている。

測督には悪いが控えめに言ってグロテスクだ、艦娘たちにこのスタンドが見えなくて良かったと思えてしまう程に。

 

「改めて自己紹介するよ、岡田勝広。二つ名は測督、階級は一応大将って事になってるけど・・・まぁいいや、この不気味なスタンドはサイバー・クライストと呼んでる。能力は何となく知ってるよね、そんな感じかな〜。君の事はボクのスタンドで知ってるから本題に入ろうか」

 

自己紹介をしながら車椅子で移動し客用机の前にくると側督は俺にソファ座るように手で促した。

側督、数々の難関海域を攻略した実力の持ち主なのだが何より凄まじいのが出撃した艦娘は一隻たりとも、一撃たりとも被弾する事無く海域を攻略した事だ。

最初は泊地を任されていたらしいが実力で昇級し海軍の中では”神の采配”等と呼ばれている。

噂では前の元帥から次期元帥に推薦されていたが側督が断り当時の猿渡提督が新元帥になったらしい。

 

「測督、レクリエーションの件ですがッ!」

 

測督の言う通り自己紹介をせず本題に入ろうとすると遮る様に測督が口を開いた。

 

「おっけ〜、でも今のボクは足と目が少々不自由でね。詳細は赤城と加賀に任せてあるからボクは失礼するよ、バタバタして申し訳無いけど急ぎの用があるからね」

 

俺が気に入らなかったのか、それとも本当に忙しいのだろうか。俺と測督は会話という会話を交わす事なす赤城と加賀が交換留学、レクリエーションの概要を説明の説明を始めた。

 

「何か分からない事とかあったら聞いてくれて構わないからね、ボクは工廠にいるから赤城か加賀に案内してもらってね〜」

 

足が不自由と言っていた測督だったが蒼龍と飛龍に車椅子を押してもらいながら執務室を後にした。

 

◆ ◇ ◇

 

3月1日 15:08 蝋督鎮守府 休憩室

 

「歩美ちゃんはブラックコーヒーでいいんだっけ、ブラックとか大人だネ。そんけーするヨ」

「気軽に下の名前で呼ばないで頂けますか?蝋督、私の事は空督と呼んでください」

 

いつの間に(空督)の事を下の名前で呼ぶようになったのでしょう、距離の詰め方に鳥肌が立ちます。

 

”キビシー”っと自分のおでこをペシっと叩くき、おちゃらける蝋督に反省の色は見られない。

(空督)、蝋督、浜風、磯風、浦風に囲まれた円卓にはクッキーやシフォンケーキ、見た事も無い洋菓子が所狭しと並んでいた。

そして一層目を引く二つの業務用生クリーム、泡立ててあり蓋を外すと直ぐに絞れる便利なタイプだ。

 

「はまかぜはウィンナーコーヒーだよネ、ほい生クリーム、いそかぜはシロップ二つとミルクが三個だったネ、うらかぜはシロップミルクどっちも一個ずつに生クリームだよネ、はまかぜ使い終わったらうらかぜにネ」

 

流石というべきか鳥肌モノと言うべきか艦娘達の好みを完全に把握している、今ここに居る艦娘は三人だけだがこの調子、この提督なら全艦娘の好みを把握している事だろう。

蝋督のスタンド:リビング・エンドが円卓の周りを右往左往しシロップやミルクを三人に配っている。

浜風が生クリームを三分の一程使うと残りが入った容器を空中にかざす、すかさずR.エンドが受け取り浦風にまわす。

浜風によると艦娘達はローテーションでお茶会という名の蝋督主催の豪華なケーキパーティが行われているらしい。

所属艦娘の人数からして1ヶ月で一周するみたいだが私は (空督)は提督なので2泊3日の間は毎日参加して貰いたいと言う、蝋督はちょっとアレだがケーキやコーヒーに罪は無い。

私が配属された基地、通称空督基地は勿論の事、爆督鎮守府に居た頃からこんな素敵モノを食べる機会は無かった、そんな事を考えながらブラックコーヒーを一口啜る。

少しに気になっていた生クリームの量、この五人の中で生クリームを使うのは浜風と浦風、蝋督はココアだから生クリームは乗せない。

ただでさえ大きい業務用生クリーム、浜風か浦風がぐびぐび飲んで二杯目にも使うのかという訳でも無さそうだ、ケーキやマフィンに乗せて食べるにしても一本丸々使い切るのは難しいだろう。

ならばなんで二本もの生クリームを用意したのだろうか、そんな私の素朴な質問は蝋督の言動で説明してくれた、蝋督は空いてない方の生クリームを開けチューブの搾り口を口に含んだ。

「・・・ッ!!」

蝋督は男にしては綺麗な手で生クリームを搾り人間とは思えない速度で吸い込み、ズゾゾゾゾと生クリームからは出ない様な音と共に蝋督の胃に流れ込んでゆく。

 

「・・・ッ!?え、どういう事・・・ですか」

 

思わず立ち上がり私が呆気にとられていると浜風がコーヒーを一口啜り説明してくれた。

 

「うちらは慣れとっけどこの娘(空督)は初めてなんやからもうちょいお上品に飲みぃや」

「そりゃー確かに今のは下品だったなぁ!ごめんなぁ空督さん?」

 

浜風に続き浦風まで、一方磯風は・・・気にも止めてない様だ。蝋督の人柄がここの艦娘達は全体的にメンタルが強い気がする、ここまで反応が薄いと私の感覚がおかしいのかと思えてくる。

 

「あー初対面の女の子に今のは無かったネ、流石に僕も反省だヨ。・・・じゃあ今度は歩美(空督)ちゃんの綺麗なパツキンロングヘアーを吸わせてヨ!!」

 

助平な表情をし、手をワキワキさせる蝋督の頭に便所スリッパが飛んでくる。私の目にも止まらぬ早さで浜風が蝋督の頭をひっぱたいたみたいだ、何処からともなく取り出した便所スリッパを背後の腰辺りに仕舞う。

私の視力は良い方だ、動体視力も悪いとは言わせない程の自信はある。

そんな私ですら目で追えない速度を繰り出す浜風のツッコミ(?)、恐るべし艦娘、恐るべし浜風。

 

「今のは今日一でキレていたな浜風。中々いい音だったぞ」

 

今まで殆ど口を開かなかった磯風が静かに口を開き浜風を賞賛する、意外と言えば意外だがそれよりも隣で腹を抱えて大爆笑する浦風が気になって仕方なかった。

 

「まぁこんな感じだけどフツーに出撃してフツーに戦果を上げフツーに演習してフツーに遠征してるから大本営からは目をつけられてるけど大丈夫だヨ」

「それは(艦娘)達のおかげでしょう、蝋督と言ったらセクハラしてサボってお菓子食べてるだけじゃあないですか。それを人が鎮守府を運営しているとは言えません」

 

やっぱりというかなんというか呆れて声も出ない。当の本人(蝋督)は”えへへ”と相変わらず反省の色は窺えない。

ダメだこの提督、早く何とかしないと。

私に変な使命感が芽生えてしまった。

 

◇ ◆ ◇

 

3月19日 08:03 能督自室

 

「ほら起きんね、はるばる妹が起こしに来てやったけん、とっとと起きぃ。蹴飛ばすばい」

 

ウチの鎮守府の中で(能督)の事を”お兄ちゃん〜”やらと呼んでくる艦娘は多少なりとも在籍している、だが自分の事を妹と自称しこんなにコテコテに訛った喋り方をする娘は知らない。

 

「いー加減にせんと兄ちゃんのスマホん中にあるエロか画像ば艦娘ちゃん達に送っばい」

「おはよーございまァァァッスッ!!」

 

ふっざけんな、そんなことしてみろ?ドラム缶のコンクリ詰めにして有明海に沈めてやるからなァ!?

待て、目の前にいる少女。肩下程まで伸びた茶髪、俺とは真反対の細眉に三白眼。真っ白な軍服に身を包んだ少女は紛れもなく野上和美、不肖我が実妹だった。

 

「うるさか、起きろっては言ったばってん・・・声のボリュームば考えんね、近所迷惑たい」

 

約1ヶ月半振りに聞いたコテコテの九州訛り、最後に見てから髪も少し伸びたみたいだ。

・・・いやいやいやいや、危うくスルーしようとしたが駄目だろ、スルーしちゃあ。

なんでスタンドも使えない一般人の妹が女性用の提督服を来てココ(鎮守府)に居るんだよォ!?

 

「Why!?って顔ばしとんね、その様子やとやっぱり書類に目ば通しとらんみたいやね。おじいちゃん(元帥)から書類が行っとるはずばってんねぇ。兄ちゃんの紙に目を通さん癖ば、はよ治した方がよかばい」

 

俺が熊本のネカフェからココに連れてこられた間、何度か浮かんだ妹のヴィジョン。

心配してた様な、どうでも良かった様な・・・とか思っていた矢先にコレだ。

でも何故?・・・っていう質問は例の書類に目を通してからじゃあないと和美だけじゃあなく榛名や山風からも、どやされる事だろう。あーやだやだ、怖いったらありゃしねェよ。

 

───────

 

「野上和美 階級准尉 二つ名を蜥督(セキトク)准尉ィ!?蜥督ゥ!?・・・なにそれ?」

 

クソジジィ(元帥)からの書類には俺の妹が提督見習いである事、既に蜥督という二つ名を与えられていた事、そして提督見習いとしてココ(鎮守府)に派遣された事。

士官候補生試験を約1ヶ月半の間にクリアした事。はぁ...あらら?俺この”士官候補生の試験”とやらを受けてませんが、合格してませんが、なんでですかねぇ。

 

「和美ィ、お前この試験1ヶ月半で終わらせたの?これフツー何年とかかかるんじゃあないの?あ、あれか。ジジィの口添えか、じゃあ仕方ないねェ」

 

我ながら兄とは思えない冷たい態度で言葉を投げると、、いつぞやの俺の如くふんぞり返って会話のボールを投げ返した。

 

「いやフツーにクリアしたばい、1ヶ月半で。ほら私って天才やけん」

 

いやいやいやいや、有り得ない有り得ない。

俺の3つ下の16歳女子が仮にも海軍の訓練をクリアし准尉(少将の7つ下の階級)まで上り詰めるなんて、それもたったの一ヶ月半で。

 

「兄ちゃん口が開いとっばい、その顔は・・・信じとらんね。なんならおじいちゃん(元帥)と訓練生時代の教官に電話でもすれば良かたい」

 

和美がここで嘘をついたところでメリットは少ない、だったら本当に士官学校の試験に受かり有り得ないほどのスピードで昇級したというコト?

得意気に話す妹を他所に俺は固まったままだった。

 

◇ ◇ ◆

 

2月24日 11:39 能督鎮守府 中庭

 

「さァ!ばっちこォい!龍田ちゃぁぁあんッッ!!!」

「うふふっ♪死にたい提督はどこかしらぁ♪」

 

おっとりとした口調からは想像出来ない程のスピードで迫り来る一人の少女。

紫がかったセミロングヘアーの上でくるくると回る天使の輪っかの様な艤装、左目の泣きぼくろが印象的な少女。

薙刀(竹製)を提督である(能督)に容赦無く振りかぶる少女。

天龍型軽巡洋艦 二番艦 龍田。

クソジジィ(元帥)の時の様に重心を落とし右へステップする、0コンマ数秒前まで俺がいた位置に龍田の武器が音を立て空を切る。

安全の為、本物の薙刀ではなく竹製の薙刀を使った訓練なのだが・・・恐怖心が凄い、凄い怖い!

 

「ちょ、ちょっとタイム!こ、これって練習ってか訓練だよ・・・ねェ?」

「そうですよぉ?」

 

会話が終わる前に龍田は地面を蹴る、龍田の体制から見るに・・・俺の左脇から右肩への切り上げっぽい!

アマルガムの槍で防御体制をとるも・・・意味なし、瞼を開けた時には既に右頬の数ミリ隣まで龍田の薙刀の先が迫っていた。

いや、なんで?薙刀は俺の左下にあったやん?

それがなんで俺の右頬に来てるの?

 

「能督、いくら怖くても目は閉じちゃダメですよ〜♪これが訓練じゃあなかったら・・・うふふふふふっ♪」

 

いくら棍術の練習をしていたと言ってもあくまで独学、上達にも限界がある。

そこで槍に似た武器、薙刀を使う龍田に訓練という名の稽古をつけて貰っていたのだ。

・・・にしても訓練とは言えない程の気迫、殺意、龍田の正面に立つだけで足が震え、尋常じゃあない量の汗が吹きでる。

 

「そうですねぇ...能督は反応”は”出来ているので後は恐怖心と足の運びと棍の有効な扱い方と身体の動かし方ですねぇ♪」

「そ、そっすかァ...」

 

トゲっ・・・!圧倒的言葉のトゲっ・・・!!

俺の長所動体視力だけですやん、それ以外ゴミですやん、ガラスのハートは粉々やで。

フォロー出来てないやん、全力で貶しに来てるやん。凹むぜェ。

 

田中の件、あれからアマルガムの槍に改良を施し鋼と同等・・・とまでは行かなくとも、かなり丈夫に生成する事ができる様になった。

俺も竹製の薙刀を使おうとしたら天龍に”大丈夫大丈夫、オレ達には当たらねぇから(笑)”と全力で煽られた。

龍田との訓練が始まる前、アマルガムの槍を作っている途中に龍田に言われた一言。

「私達艦娘は頑丈なので本気で当てに来てくださいねぇ・・・手を抜いたら・・・うふふっ♪」

とか言われた、長門姉と言い香取姉と言い龍田と言い艦娘ちゃん達にとって脅迫は乙女の嗜みなのかもしれない。そうに違い無い。

そして刃を交えること約数秒・・・今の俺じゃあ絶対勝てない!

コラそこ”龍田の攻撃を防げてない癖に”とか言わない、気にしてんだから。

 

「おい能督、そんなんじゃあオレには勝てねぇぜ?」

 

何この(天龍)さっきまで借りてきた猫みたいにチョー大人かった癖に!

なになになになに?この変わり様、怒り通り越して呆れるですけどォ!?いやフツーにあったまキタ。

 

「ほゥ?そこまで言うのなら試してみよっかァ?」

「望むとこだぜ」

 

天龍は肩にかけていた竹刀を一振、威嚇するように空を斬る。

俺もアマルガムの槍で中段の構えを取り、前方にA.スペースを出す。

スタンド使いでは無い天龍はA.スペースを視認する事も触れることも出来ないが、A.スペースが天龍の竹刀を白刃取りで止める事は出来る。

ちょいとばかりズルい気もするがアレだけ煽られたのだ、一発ぐらいズルしてもバチは当たらんだろ。

 

「フフフ能督、口角が上がってるぜ?オレが怖くて笑うしか無いのだろ」

 

いやこの娘煽りスキルA+だね、チョー煽ってくんじゃん。

いかんいかん、油断は大敵だ。幾ら確実に一発お見舞い出来ると言っても天龍に警戒されたら一発くらわせる事が出来ないかもしれない。

気を引き締め、槍を握る手に力を込める。

 

「よっしゃぁっ!いくぜ!!」

 

フハハハ!真っ直ぐ突っ込んで来るとは馬鹿め!天龍、おバカ。おバカ、天龍。

そんな一振、見きったぜ!!!!

次の瞬間、A.スペースの手から放たれた”パンッ!”という音、そして竹刀と俺の頭から出た”ペシィンッッ!!”という悲しい響きが鎮守府中に響き渡り俺は意識を失った。

 




弱視の側督ですがスタンドは概念なのでヴィジョンは分かるみたいです。

stand name:リビング・エンド(L.エンド)
stand master: 松岡敦士(蝋督)
stand spec
パワー B
スピード B
射程距離 D
持続力 C
精密動作性 C
成長性 C
燕尾服を着た様なヴィジョンの近距離パワータイプの人型スタンド、顔は火の着いたキャンドルの様に見える。
触れた物を蝋燭にする能力、拳で触れたもの(生物、無生物かかわらず)蝋燭に変えてしまう。引火性は高く高温になりやすい為、1度火がつくと大怪我は免れない。1回触れるだけだはゆっくりとしか蝋燭化しないが、何度も触れたりしっかり掴むと瞬く間に蝋燭化してしまう。

オーストラリアのバンド、The Living Endから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。