『物部布都』の第三者生活 (tttria)
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01:誰かに聞いて欲しかった目覚め
でもラスボスとか黒幕な布都ちゃんを見たことがない。
アホの子ではない布都ちゃんがみたい。
この物語は太子復活までどれだけ布都ちゃんを格好良い子に出来るか、そしてどれだけ星蓮船キャラを好きになれるかを目標としています。
太子様、早くお目覚め下さい。
この世界に、人に救いはありません。
それがこの世界、「幻想郷」に求められた姿なのです。
***
絶賛混乱中である。
私は絶賛混乱中である。
駄目だ、まともに考えられていない。
誰かいないかと周囲を見渡せど、誰か居るわけでもない。荘厳な建築物――おそらく神殿に、動いているのは私だけである。閉所なのか微妙に薄暗く、時が止まったかのように静かなのが正直ホラーのようだ。動いたり独り言したりするのに躊躇われる。神聖な空気がするから襲ってくるものはいないだろうけど。
一人より二人、人は他者がいるだけで自分を客観的にみることが出来る気がする。少なくても私はそうである。
まずは行動だ、よく分からない時は更なる衝撃を感じることで落ち着きを取り戻すんだ。
その場から動いてはいけないとかいうのは迷子だった場合だ。私は迷子ではなく、ただ事態を把握することが出来ていないだけだ。
いや待て。
私は、誰だ?
***
――この時点で私が如何に混乱していたのかお分かり頂けただろうか?
自分自身に対する疑問、その切っ掛けを掴むことがその場で出来たのはある意味僥倖だった。
何しろ、下手に神殿から出たら世界の揺れにスキマ妖怪が早々この霊廟の存在に気づいてしまう可能性があった。
人の味方、人の救いは、この世界に必要とされていないから。
すでに気づかれている可能性は限りなく低いと判断した。何故ならあの超人すら、霊廟がある地に「何か危険なものがある」程度しか感じることが無かったから――まあ、妖怪と元人間な超人の魔法使いを同じ括りにしてはいけないのだろうが、超人が進言されて調べなければ大丈夫だった地だ。巫女が動くまで長いあいだ何も干渉が無かったことから気づかれてはいないだろう。……異変要員? 妖怪に危険性がある人物を、放置するだろうか、あの妖怪が。
確かに「完全な人間の味方」がいない現状を考えてはいたかもしれないが、妖怪のための世界に必要だとは考えてはいないだろう。
悪く考えすぎか? いや、敵は妖怪だから常に疑っていたほうがいいだろう。
……失礼、君には関係ない話になってしまったね。
ともかく私は目覚めた時酷く混乱していたんだ。
まさか自分が「ここはどこ?私は誰?」なんて事になるとは思わなかった。
ぐるぐると混乱している中で定番――私にとっては定番の、「私は誰なのか」という疑問にたどりついた。
そう、私は自分が分からなかったんだ。
頭が冷えたね。顔がサッと青くなった気がしたよ。なってたか自信ないけど。
そこから落ち着いた私は、思い出せることを一つずつ、連鎖のように出してみた。
するとね、不思議なことに此処よりも遥かに文明が進んだ世界で生きていた記憶と此処よりも文明が遅れてる所で生きていた記憶の二つがあるんだ。
しかも前者は普通に思い出せるのに、後者は朧げしか思い出せない。
おかしいと思うだろう? 生きて「いた」、なんて。
実はこの二つの記憶に共通する項目があって、どうやら私は既に死んでいるらしい。
ならば私は記憶を保持して転生とやらをしたのだろうかと考えたのだが、どうやら違うようで、私は死んで、復活したらしい。……生き返ったとは違うようだ。
記憶を掘り起こして一通り落ち着いたあとに周囲を調べてみたんだ。意外と身近なところに解決の糸口があると思って。よくあるよね。
そしたら書記――違うか、あれは日記か。私の日記を見つけてね。私は覚えてないけれど私の字だったし、朧げな記憶の方に、暇つぶしのように日記を書いてたような気がしたし。
藁にもすがる思いで読んだその日記にね、色んなことが書いてあってね、うん。私はほとんど覚えてないから他人事みたいに読んでたんだけどね、うん。
それで判明した事実に色々と言いたいところなんだけど、総合的に一言で済ませるとね。
私が『物部布都』ってどういうことさ。
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02:紅き陽炎に揺らめいた目覚めの中
何故なら紅魔郷はこの時点で終わっているのだから。
太子様、人は儚いものです。
妖怪のために存在する人間たちは、まさしく鳥籠で飼われた小鳥と同類なのでしょう。
妖怪の襲撃は災害と同じようなものであり、その死者はただの被害という。この世界の人間たちは基本的に餌ではなく、餌は「外」の、鳥で括れば「野生の鶏」なのでしょう。
どちらにしても、救いはない。
早くお目覚めになって、人々の指針として導いて下さい。
ある記憶が蘇りそれまでの記憶が消えた「私」が、目覚めたあなた様を再び敬愛することが出来るかどうか、わかりませんが。
***
「なんてこったい」
あまりにも衝撃的なことだった。何度でも言おう、なんてこったい。
現状を詳しく知るために周辺を調べた末見つけた日記を読んだ感想である。私が書いたものだったようだ。ちなみに書いた記憶はほとんどない。
朧げな記憶の方に「かも」や「おそらく」など推量が不適切なくらい大量に付随する程度の記憶がある気がするので、完全に書いていないとは言い切れない。何よりこれは私の字だ。決定打である。
どうやら朧げな記憶の方が、今の私の基盤らしい。
困った。非常に困った。何故なら目をそらしたくなるような単語がそこかしこに散らばっているのだから。
『太子様』『聖徳王』『霍青娥』『蘇我氏』『屠自古』『尸解仙』
どうしよう、普通に思い出せる記憶の方に、該当するものがあるんだけど。
偶然だと思いたい。だが偶然では済ませられない人名がある。特徴的すぎるのだ。私に対しての壮大な釣り、では無いだろう。何しろ現状把握出来る可能性がある記憶では書けないし、読めない。
日記の内容から察するに、つまりこれは。
「輪廻があると仮定する。私は死んでリセットされる。その状態で前世で存在した作品に類似した世界の『外』で生まれた私。経緯を省略して、説得されて尸解仙になるために死ぬ。復活する際に何か不具合発生。結果、リセットされた前世を思い出して生前の記憶はほぼ消去――違うな、朧げにあるのだから上書き保存があってる気がする。ではその前世の作品の舞台であり、私が目覚めた場所は?」
――忘れ去られたものの楽園、『幻想郷』である。
「……ここが幻想郷だとしよう。結局、私は誰だ?」
前世の方は早々に諦める。
普通に記憶があると思っていたが、自分を含み「人」に関しては完全に消去されてるようで全く思い出せなかったからだ。単純に思い出す気力も沸かなかったともいえる。
何故なら問題は朧げな生前の記憶の方なのだ。基盤はそっちにある。
……ごめんなさい、分かってました。日記ですもの、自分から見た描写で判断すれば誰目線か分かります。ただの現実逃避です。目をそらしたかったんです。
「私は、『物部布都』ですか、そうですか……」
どういうことさ。
***
――話が先程から進んでいない?
申し訳ない。本当に衝撃的だったんだ。あの目覚めは当分忘れられないだろう。
本当に申し訳ないが、もう少し聞いていて欲しい。
さて、私は自分が何者なのか気づいたところからだね。
正直その辺りの悩んでいる自分の姿や思考は、今話していた流れとほとんど変わらない。
つまり飽きてしまうと思うんだ。聞く方もだが、話す方も飽きる。
変化のない内容なんてつまらないだろう? 私が言うのもあれだがね。私はただ単に、急な変化が怖いだけだから別にいいんだ。
……おっと、また話がそれてしまったね。戻そうか。ふむ、ここは一つダイジェスト風に言ってみようかね。
私は自分が『物部布都』であることに気づいて、ちょっと途方に暮れてしまった。
記憶が無いだけだろうと思うかい? 問題ないと思うかい?
前提を間違えちゃいけない。此処は幻想郷。世界は人間に優しくないが、幻想郷は、特に人間に優しくない。根本的な部分から詰んでいたんだ。
他にも色々問題点というか、私の詰んでるグレーゾーン要素は多々あるのだが、これは一旦割愛しよう。
愚痴は愚痴でも私は「私の幻想郷で詰んでる話」をしたいわけじゃない。「目覚めの衝撃的な取り留めのない大雑把な話」を一度全部吐き出したいだけなんだ。
細かい部分はその時に話そう。まずは最後まで聞いて欲しい。
色々詰んでる要素が判明して、私は途方に暮れた。
そしてふと思う、今は一体何時なのかと。
私の前世の記憶では、『物部布都』は太子様が目覚める前には起きていたが、異変前には起きていないような発言をしていた。
太子様の異変はそこかしこに神霊が湧いている。もちろん霊廟にもだ。だが霊廟には何もなかった。
そして私は、目覚めた時間がおかしいのではないかと考えた。……何故そう考えたのか、落ち着いた今では判断出来ないけど、軽率すぎる考えだったよ。不用意にもすぐに外を確認してしまったんだ。
……その時の私はとても運が良かったと言える。「私の復活は早すぎる」という考えは合っていて、霊廟の外は真っ赤な霧に覆われていた。
紅魔郷、吸血鬼が起こした異変。弾幕ごっこの始まりの異変。
――ある意味大妖怪が一番油断している異変であり、吸血鬼の魔力が周囲を覆っている真っ只中で、私は目覚めていたんだよ。
そしてその後更に経緯を省略した結果、私は此処に居を構えているわけだ。
……最後が適当すぎるのは勘弁して欲しい。
流石に私も眠気には勝てないようだ。……毎日思うのだが尸解仙には眠気があるのだろうか? 分からないがあるんだろうな。
明日、最後に飛ばした適当になってしまった部分の話を聞いて欲しい。
うん? 件の日記はどうしたかって?
もちろん今の生活がひと段落落ち着いた辺りで、全部のページを両面共に黒く染めてバラバラにして落ち葉焚きに混ぜて燃やしたよ。
此処の人が読めない文体ではあるけど、妖怪にはどうか分からなかったし、妖魔本ではないがとある貸本屋もあるしね。用心して処分したよ。
何より読める存在が確実に二人いるからね。私は知識としてしかほとんど覚えてないけど、仲が良いとは言えないね。可能性と現実、二つの記憶から総合的に見た二重の意味で。
……それにしても、自分でも思うが何故あれを読めた。普通に思い出せる記憶では読めない文章だぞ。これが記憶喪失でいうエピソード記憶と意味記憶の違いだろうか? 私が覚えているのは詳しく解明されてなかったから自信ないけど……。
ともあれ文字通り闇に、もとい、炎に葬らせてもらったのさ。
生前の日記なんて、黒歴史そのものだろう?
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03:始まりの鐘は鳴らず沈黙を保つ
一応、プロローグの終了。
後半が大雑把なのは、彼女が思う「目覚めの衝撃的な取り留めのない大雑把な話」の括りに当てはまらないからです。
太子様、あなたは今の私をどう思われますか。
聖人であるあなたは今の私ですら受け入れるのでしょう。
――私が知りたいのは、「私」について、どう「思う」のか。
良い答えは期待はしておりません。
太子様、聖人であると同時に仙人でもあるあなたは、忠実な配下とは言えない私をどう思うのでしょう。
忠実な駒ではない、私を。
身勝手な願いなのは分かっています。
それでも私は死にたくありません。
死にたくないのです。
早く早く、お目覚めください。
***
――さあ、早速昨日の続きを話そうか。
ん? 今回は回想はないのかって?
……恥ずかしながら、その辺りの自分の行動をよく思い出せないんだ。黒歴史に入るくらい考えずに行動していたとも言う。
あの時自分は落ち着いたと思っていたが、思った以上に混乱していたらしい。
いやはや本当に恥ずかしい……。
ま、まあ、それはいいとして、一応大まかに思い出してみたから、その話を聞いて欲しい。
先に言っておくが、完全に思い出したわけではないから、疑問に思っても私は答えられないよ? 自分自身のことだが詫びておく。
確か、紅い霧の異変……前世でいうと紅魔郷の最中で目覚めたと言った辺りで話が終わっていたかな。
私は紅い霧を見て、自分の目覚めが本来よりも早すぎたことに気づいた。
そして、今後どうするべきかを考えてすぐに答えを出さなければならないのだと悟った。
突拍子のない考えに思えるけどちゃんとそう考えた理由はある。時間と、力と、関係……いや、心理的距離? 因縁? ――上手い表現が思いつかない。
とにかくそれの問題が重なっていて、焦って混乱したんだと思う。
霊廟の「外」へ行くか、このまま霊廟で時が来るのをじっと待つか。その二択しか考えられなかったんだ。
まず時間的余裕が無かった。
紅い霧は吸血鬼の魔力が拡散したようなもので、私の存在ならばかき消せるようだった。
一応私は尸解仙らしいので、人とは違うことをいつ妖怪に気づかれるか分からない。霊廟の存在が気づかれたら、確実に消される。
私は紅い霧が、原作から考えて、今晩か明日の晩には解決すると知っていた。行動するなら今しか無いという。普通に焦るよね。
次に、私は生前の記憶が前世に上書きされて、明らかに原作の『物部布都』よりも力が劣っていて、『物部布都』の立ち位置が分からないことに気づいた。
話したろう? 記憶が上書きされてしまったと。生前の技術や何やらを意図して使うことが出来なくなっていたんだ。
幻想郷において楽観視はいけない。
能力的な意味でその時点で詰んでるけれど、もし原作通りの幻想郷でなかった場合、私は更に詰んでいる可能性がある。いや、原作でも詳細は分からないから既に詰んでるかもしれない。
元ネタ――所謂私の原型、イメージの影響がどれだけあるか分からないが、その原型の影響もあるとしたら、私はかなり微妙な立ち位置だ。しかも敵か味方か分からないグレーゾーンな存在が、ことごとく人外だとか笑えない。
楽園の素敵な巫女さまに撃墜されるのは別にいいんだ。痛いだろうけど死ぬわけじゃないだろうし、何より人間だ。確かにチートで理不尽だろうが人外とは比較にならない。まあ、それは置いといて。
何よりも、身内ともいえる存在との距離が分からないのが致命的だった。
昨日も言ったけど、彼らが私の変化を受け入れてくれるほど仲が良いとは思えなかったんだよ。
――そして私が此処にいるということは、まあ、外に出ることを選択したんだろう。
自分のことだけど、この選択の辺りから記憶が曖昧なんだよ。
多分、そのまま待っても死ぬんだって思ったんだろう、その時の私は。
遊びでも死者が出たりするからね、弾幕ごっこは。
それなら外に出て修行したり自衛手段を探した方がいいと思ったんだろうね。
気づいたら風水の道具なのか、色んなものを詰めた袋を持って人里の前に立っていたんだ。
私が人里に着くことが出来たのは……どうしてだろう? 能力のおかげだとは思うが。
確か前世での二つ名に、龍脈を司るとかあった、はず……。
……火事場の馬鹿力的なものだろうか。
目覚めたばかりからか何なのか分からないが、身体が思うように動かなくて何度も転んでいた気もする。傷は痛んだが妖怪に襲われていたようにも見えて、慧音さんの警戒を少しは薄めることが出来たようで良かったと思うことにしよう。
その日のうちに人里の少し離れの場所に住むところ、つまりこの小屋……じゃない、家を慧音さんから頂いたんだよ。
警戒しているのはわかったけれど、一人になれる場所をもらえて良かった。本当に。
ちなみに、私が人里に着いたその日のうちに、異変は解決したんだよ。早いよね。
尸解仙としての気配を消す方法が成功した後で解決したからギリギリだった。
その応用で防音の結界もどきを張って私はこうやって愚痴の如く出来事を吐き出せてるんだから、なんというか、火事場の馬鹿力は凄いと思う……。
……今は異変からどれほど過ぎたのか?
異変から……そうだね、十日は過ぎたかな。
ああ、過去話のは今ので終わりだよ。
次の異変は冬に起こるから、それまでは何も無いことを祈るよ。
あ、一つ訂正しよう。
霊廟に残らなかった理由。
目覚めて数年間を、自分以外の誰とも合わず、何も動かず、誰とも話さず、記憶が変わり弱いまま孤独に過ごした末、他人の様な彼らの目を見たくなかったんだろうな。
つまり私は全てにおいて「弱い」から、残らなかったんだ。
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04:霧が晴れたある快晴の後日談
話に出ない部分ですが、元ネタを照らし合わせて関係図が非常にこんがらがってます。
永琳先生、どうすればいいんですか……。
私の前世と呼べる記憶は、実に微妙なものである。何しろ自分を含み「人間」に関する記憶が全て無いからだ。
それで良かったと言えるのは、前世に対し未練を感じないことだ。
前世は不幸なことがない限り安全な場所で生きていたから、覚えていたらきっと私は過去に縋り付いて前を向けなかっただろう。今でこそ思うが、真綿で包まれたような生温い世界で生きていた。
逆に戸惑うのは、知識があべこべになっていることか。
前世と生前の知識をどちらでもない場所で持っていても使いようにない。役に立たなそうな微妙な知識しか持っていないのだ。特に生活知識。
此処で役に立ちそうな知識なんて、原作知識くらいなものだ。
だがその知識も詳しいとは言えないし、そもそも私がこの世界、幻想郷について知っていたとしても、無力なことに変わりはない。
普通に生きて、凡庸な知識と技術しか持たず、戦いとは無縁の一般人だった前世を持つ自分に一体何が出来るか聞きたい。
むしろどうやって生きていけばいいのか。
戦いに詳しい生前の記憶に頼りたくともあやふやにしか残っておらず、私は身を守る術を持っていないのだ。
私は、「弱い」。
***
上白沢慧音は鳥の囀りと共に起床した。
今回起こった異変に今代の博麗の巫女が向かい、解決したという知らせが届き、大分日数が経過した。再び異変が起きる気配はない。
紅い妖霧の異変――稗田阿求が紅霧異変と記していたソレは、無事解決したようだ。
妖怪側から提案された「弾幕ごっこ」という決闘は、どうやら本当に機能するらしい。
ほっと一息つくが、これから妖怪が異変を起こしやすくなるという事実に少し憂鬱になる。
しかし博麗の巫女が思った以上に早く解決したのならこれからも大丈夫なのだろうと気を持ち直し、窓を開け朝日を浴びる。
空は快晴。目を逸らしたくなるほどの綺麗な青空だった。
「……いや、無事に解決とは言えないか」
自分よりも早く活動を始めている人々を見やる。
異変の際に体調を崩した人々は徐々に回復してきたようではあるが、妖気に当てられたまま依然起き上がれない人がいなくなったわけではない。
元通りになるまでまだ時間は掛かりそうだ。
「良い医者が何処かにいたらいいんだがな……」
その時はまだ、幻想郷に隠れ住む者がいることを誰も知らない。
***
「おはようございます、慧音さん。これから寺子屋ですか?」
「ああ、おはよう。君も早いな」
「日課になりつつあるので」
異変の際に里に現れた少女、物部布都。推定占い師。外からの人間では、おそらくない。
初めて会った時の服装が、発見される外来人――妖怪の被害者達の衣服と比べて明らかに古風であり、かといって幻想郷の住人と比べても、誰よりも古い服装をしていた。
おそらく、長らく篭っていた古い仙人なのだろう。彼女自身が記憶を持っていないから定かでは無いが。
彼女の身の上を聞いても何も思い出せないようで、悪いとは思ったが里に害ある者かどうかを能力で調べさせてもらった。
出会った日、その夜は満月。能力を使うにも丁度良かった。
結果、彼女は本当に覚えておらず、それどころか何かに塗りつぶされたかのように修復不可能であり、私ですら彼女の「歴史」を知ることが出来なかった。
危険では無いだろう。彼女の所持品も神聖な気配を帯びた占いの道具ばかりであったし。
「今日は湖近くに行ってみたいのですが、そこに行っても大丈夫でしょうか」
「……護符を持って、見つかったら逃げるように」
「分かりました。許可していただきありがとうございます」
どうやら彼女は自分が未だ不審者だと思っているようで、里を離れようとする度私に許可を貰おうとする。死んだら骨を拾ってくださいと言われた。此処の住人になったのだから、冗談でもそんな話は止めて欲しい。
彼女は記憶が無い分、持っていた道具をちゃんと使えるようになりたいらしい。その延長か、当たるも八卦当たらぬも八卦な占い屋という名の開運の助言を行っている。効果はそこそこらしい。
二言三言話したあとに彼女と別れ、私も寺子屋へ歩を進めた。
「……アレは言わない方がいいんだろうな」
塗りつぶされてほとんど分からない彼女の記憶の中で、私が唯一知っているものがあった。
私にとって友人と言える少女が振るう能力と同じ――圧倒的に全てを覆い尽くす炎の記憶。
その記憶が、彼女にある。おそらく彼女に言わなくてもいい記憶だろう。
「今日は久しぶりに、妹紅に会いに行こうかな」
あの猛烈な炎を思い出し、連鎖的に最近忙しくて会っていなかった友人が急に恋しくなった。
土産の一つでも持って行って酒でも酌み交わすとしよう。
スペルカードルールについても、伝えないといけないからな。
***
うわああああ……、やらかした。やらかしてしまった……。
聞いて欲しい。本日あった出来事だ。
私は今日慧音さんに許可を貰って湖畔に行ったんだ。目的? 能力の使い方を把握するためさ。
私が持つ風水を操る程度の能力――正直に言おう、使い方がいまいち分からない。というか絶対戦闘向きじゃない。ホーム戦でも勝てないよこの世はチートが多すぎる。
分からないなら色々試して戦闘向きにするしかない、と思って度々里の外へ出て、微妙に自分の命を危機に晒しながら色々と試しているんだが……。
異変が終わったと思って安心していた。
後日談なエクストラステージがまだ終わっていなかったとか……!
幸い終わった後だったけど、最終的に私生きているけど、なんで今日外に出ようと思ったんだ自分よ……!
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