メダロット5? すすたけ村の転生者 (ザマーメダロット)
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本文以外
用語集


・なにこれ?
メダロット世界の定義は曖昧だったりメディアで違ったりするので、独自解釈も交えて整理。
また、この作品特有の用語も追加(予定)。

・人名とかどうするん?
キャラクター紹介は別途設けようと考えています。

・この用語わからん!追加しろ!
感想か何かで要望があれば追加いたします。

・なんでもかんでもフォースなの?
じゃなきゃ説明がつかないし……


・メダロッター

メダロットを所持している人。

メダロッチからメダロットを呼び出し、指示をしたり一緒に遊んだりする人。

その多くが――主婦のおばさんやボケた爺さんから、教師や官僚まで――ロボトル競技者である。

 

・セレクト隊(セレクト防衛隊)

日本の治安維持を務める私設軍隊。民営化した警察。

メダロット関連のトラブル解決も行っており、隊員は指定モデルのメダロット一揃いを支給されている。

肝心な時に役に立たないことで有名。

 

・メダロット社(MR社)

読んで字のごとくなことをしている会社。

対抗が出現するまでは本当にこの会社だけでメダロットに関する全てを行っていた。

というか今でも割と行っている。

 

・ロボトルリサーチ社(RR社)

メダロット関連の大企業その2。

当初のメイン事業はその名の通りロボトルのリサーチ。

データ収集・公開はもちろん、独自のランキングなども発表していた。

企業の規模が大きくなっていきパーツやメダル等の製造にも乗り出してしばらく後、

そのランキング1位である社長が実はランキングを改竄して1位になっていたことが発覚。

倒産は免れたが、依然、信用回復が急務の状態。

多分名前しか出てこない。

 

・メダロッターズ

メダロット関連の商品を扱うデパート。

他にも塗装サービスをやっていたり、VR空間でランキング戦を行うゲーセン的なコーナーがあったり、レアなパーツ・メダルのオークションが行われていたり、メダロッターなら毎日通っても飽きないであろう施設。

残念ながらすすたけ村には存在しない。

 

・すすたけ村

日本のどこかのド田舎。

沖縄離島のような真の無ではなく、バスは走っているしコンビニもある。

ゲーム「メダロット5」の舞台。

 

・メダロット

ティンペット+パーツ+メダル=メダロット。

メダルで動くロボットだからメダロット。

営利目的の労働力として使うことは法律で禁止されている。

たまに店番しているメダロットを見かけたら、それはきっと善意のお手伝い。

 

・ティンペット

メダロットの骨組み。人間の骨格や神経に相当。

パーツがなくとも、メダルさえはめれば一応動ける。

ティンペットにはスラフシステムがないため、壊した場合修理するしかない。

 

・パーツ

メダロットの外殻。人間の皮膚その他器官に相当。

頭部(頭胸部)、右腕(右腕部)、左腕(左腕部)、脚部の4部位に分かれている。

同じシリーズのパーツ一揃いを指して「メダロット」と言うことがある。

(例:メダロット社から新型メダロットが発売された)

ロボトルにおいて、頭部は高性能だが回数制限あり。脚部は他のパーツの動作を支える柱である。

残る右腕はローリスクローリターン、左腕はハイリスクハイリターンの傾向が強い。

脚部パーツは破壊されると性能が半減し、右腕・左腕パーツは破壊されると使用不能に陥り、

頭部パーツが破壊されると背部からメダルが排出され、そのメダロットは機能停止する。

 

・装甲

パーツの耐久力。数値化されており、0になると壊れる。

壊れた場合でも後述のスラフシステムのおかげで修理は不要。

 

・充填/冷却

頭部、右腕、左腕パーツに存在するパラメータ。

「予備動作」「反動」と言い換えるとわかりやすいかもしれない。

パーツの機能を使用するために必要な準備時間と、使用後に発生する冷却時間のこと。

充填/冷却中はメダロットの動きが鈍くなり、さらにパーツの機能を使用できない。

 

・成功

頭部、右腕、左腕パーツに存在するパラメータ。

精度。高ければ行動が失敗しにくく、低ければ失敗しやすい。

威力もわずかに上がる。

 

・脚部パーツの機能

脚部パーツを付け替えただけで、腕で防御した場合のダメージが増減したり、逆に攻撃した場合の精度・威力が上がったりする。

これは単にきちんと踏ん張れるかどうかや勢いがつくかどうかという問題ではなく、

後述の「フォース」と呼ばれるエネルギーの効率を上げる仕組みが脚部パーツにあるため。

脚部パーツのパラメータの違いはすなわち、フォースの効率や割り当ての違いである。

 

・防御

脚部パーツにのみ存在するパラメータ。

これが高いほど、フォースによって全てのパーツが傷つきにくくなる。

 

・近接/遠隔

脚部パーツにのみ存在するパラメータ。

これが高いほど、格闘/射撃攻撃等の精度がフォースによって向上する。

近接は「守る」「応援」「治す」行動にも作用し、

遠隔は「設置」「妨害」「特殊」行動にも作用する。

 

・推進

脚部パーツにのみ存在するパラメータ。

フォースによって推力が高められ、つまり脚が速くなる。

脚が速くなることで、充填/冷却時間の隙が小さくなる。

また、勢いをつけて格闘攻撃を行えばその威力も上がる。

飛行タイプの脚部はこの値が高い。

 

・機動

脚部パーツにのみ存在するパラメータ。

フォースによって動作の初速や制動性が高められ、つまり小回りが効くようになる。

反射的な動作がしやすくなり、攻撃を回避しやすくなる。

この値が極端に高い場合、手がつけられないケースに発展する。

潜水タイプの脚部はこの値が高い。

 

・脚部の種類

脚部パーツは移動手段によって、「二脚」「多脚」「車両」「戦車」「飛行」「潜水」「浮遊」の6種類に分けられる。

「戦車」はキャタピラ等で地を這って移動するものを指す。

「飛行」「潜水」は高性能な代わりに弱点がある。

移動手段に応じて得意な地形と苦手な地形が存在する。

ただし、「戦車」「浮遊」は足が遅いながら踏破能力は高いためどのような場所でも同様に動ける。

 

・スラフシステム

パーツが傷ついても装甲材に練り込まれたナノマシンがそれを自動修復する機能。

修復には時間がかかるため、一度壊れたパーツはロボトル中は使えない。

パーツを修復する効果を持ったメダフォースやパーツは、このナノマシンの働きを促進することで修復している。

あくまでパーツの機能であり、ティンペットやメダルには存在しない。

 

・メダル

六角形の鉱物。「コア」と呼ばれる小さく透明な球体がはまっていて、動物等の絵柄が浮き彫りされている。

自我と高度な情報処理能力を持ち、メダロットの頭脳として機能する。

基本的に工業製品だが、例外もある。

 

・レベル

メダルのパラメータ。メダルがロボトルの経験を一定量積むと1上がる。よくあるRPGのレベルと同じ。

レベルが20の倍数になる度にメダルの絵柄が変化する。変化する回数はメダルによって異なり、変化しないメダルもある。

また、絵柄が変化するかとは別に、メダフォースの習得も起こる。

レベルが高いほどフォースが強く、推進・機動・防御が強化される。

 

・熟練度

メダルのパラメータ。行動(パーツの機能を使用すること)についての熟練度。

「撃つ」行動のパーツを使えば「撃つ」の、設置パーツを使えば設置の経験値が得られ、一定量に達すると熟練度が1上がる。

熟練度が上がるほど、その行動の成功が強化される。

 

・所持熟練度

メダルのパラメータ。ざっくり言うと、メダルが持つ才能。

例えば所持熟練度が「撃つ」「狙い撃ち」「設置」の場合、それらの行動を行った際に得られる経験値が多くなる。

そのため、メダルの所持熟練度に合わせたパーツを使うのが基本。

基本的に、メダルごとに3つ持っている。

 

・属性(パーツ)

パーツのパラメータ。

「速度」「威力」「症状」「防御」「設置」「回復」「特殊」「応援」「妨害」の9種類だが、属性とパーツの機能が一致しない場合もある。

わかりやすい例だと、メタルビートルの頭部とゴッドエンペラーの右腕はどちらもミサイルだが、属性はそれぞれ速度と威力である。

一式で全て同じ属性に設定されていることが多く、そうでない場合も脚部パーツの属性は頭パーツと同じである場合がほとんど。

 

・属性(メダル)

パーツ同様にメダルにも属性がある。

装着したメダルとパーツの属性が一致すると、相性による強化が発生する。

 

・相性

メダルと相性のいいパーツが強化される度合い。メダルによって異なる。

脚部でなければ成功、脚部であれば機動が強化される。

 

・レアメダル

人類の工業製品でない、本物のメダル。

一般に売られているのは、本物のメダルを再現したコピーである。

人工メダルには人工知能が搭載されているが、

遺跡等から出土する天然のメダルには由来不明の自我が備わっている。

レアメダルには「エゴが強い」「性能が高い」「超常現象を引き起こす」といった特徴があるが、

外見等は変わらないため、調べなければそうとはわからない。

原作シリーズの主人公の相棒は基本的にレアメダル。

 

・コア

丸い宝石のようなもの。色はまちまち。

メダルの核となるもので、ここが破壊されると完全に死ぬ。

逆に言うと、コアさえ無事ならメダルを修復することは困難とはいえ可能。

 

・メダリア

(未設定 登場するかも未定)

 

・フォース

一般に「メダフォース」として知られる謎のエネルギー。

メダルが持つエネルギーであり、メダルの活力。

これを搾り取って発電するという非道が行われたことも。

レアメダルはこの力が人工メダルとは桁違いに大きい(が、原作ゲームの性能上は差異がない)。

肉体を保護したり攻撃その他の能力を強化する役割があり、一定量消費して必殺技「メダフォース」を放つこともできる。

つまり、よくあるバトル漫画に出てくる「気」「オーラ」みたいなもの。

ロボトル中、時間をかけて増やす(チャージする)ことができるが、戦闘していない時(力を抜いている時)に元の量に戻っていく。

 

・メダフォース

フォースのことを指して「メダフォース」と言う場合と、それを消費して発動する必殺技の総称としての「メダフォース」がある。

この項目は後者。

エネルギーとしてのメダフォースを消費し、様々な効果を発揮する。

装備している射撃パーツ全てを強制的に稼働させ、充填・冷却を無視して全力攻撃を行う「一斉射撃」、

相手のパーツやフォースに干渉してダメージを与えつつ自分のパーツを修復する「生命ドレイン」など。

 

・メダスキル

メダロット5にはメダフォースが存在せず、メダスキルなるものが代わりに登場する。

続編のメダロットGではメダフォースになっていたり、メダスキルの設定が語られなかったり、謎が多い。

この作品には登場しない。

 

・スピリット

メダルから実体を引くと残るもの。つまり、人格+フォース。

その名の通り魂や幽霊のようなものだが、それ単体での存在が確認された事例はごくごく僅か。

 

・六角貨幣石

メダルからスピリットを引くと残るもの。実体単体。コアは無色。

スピリットを吸収する力が常に働いており、吸収するとメダルになる。コアはこの際に着色される。

弱っているスピリットはこれにうっかり近くと逃げられずメダルになってしまう。

メダルからスピリットが出ていくとこれに戻る。

 

・行動

パーツの機能(を使用した行動)を、単に行動と言う。

「殴る」「がむしゃら」「撃つ」「狙い撃ち」

「守る」「治す」「応援」

「設置」「妨害」「特殊」

の10種類。

「がむしゃら」「狙い撃ち」は「殴る」「撃つ」より強力な攻撃を行う行動だが、冷却時間中は敵の攻撃に弱くなる。

 

・メダロッチ

腕時計型のガジェット。

パーツやティンペットはこれと無線でペアリングして所有者登録を行い、

メダロット社が有する倉庫との相互転送を行えるようにするのが基本。

メダルだけはペアリングができず、メダロッチに直接はめ込んで転送するしかない。

電車とかのICカードと同じ原理で誘導起電力を発生させているので、ペアリングするのにパーツやティンペット側に電源が必要などということもない。

非常に高性能な携帯端末に見えるが、メダロット関連の機能にリソースをほぼ全て割いており、通話機能等は存在しない。

別途携帯電話を持つのが普通。

 

・携帯電話

現実世界のそれと変わらない代物。

昔は簡易メダロッチとしての機能をアプリで実現していた。当時は転送速度が長かったとか。

メダロッチが普及して以降、そういう使い方はされなくなった。

 

・ロボトル

メダロット同士を戦わせる行為。基本的には遊戯か競技。

実力行使としてロボトルを行うケースも少なくない。

リーダーを含めた1~3体のメダロットを1チームとし、1チーム対1チームで戦闘を行う。

リーダー機が機能停止したチームが敗者となる。

複数人がメダロットを持ち寄ってチームを組む場合、そのロボトルをチームロボトルと言う。

 

・真剣ロボトル

ロボトルの基本形式の一つ。

そのロボトルが真剣ロボトルである場合、敗者は勝者に使用していたパーツのうち一つを譲渡しなければならない。

対義語は「遊びのロボトル」「練習ロボトル」など。

真剣ロボトルを行う場合、開始前に双方の合意が必要である。



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本文
1.初手説明回


2020/04/21 全体的に修正。内容自体はほぼ変わりません


"メダロット、それはテクノロジーが生み出した、全く新しいロボットである"

"ティンペットと呼ばれる基本フレームに、人工知能メダルを搭載"

"更に様々なパーツを合体させる事によって、無限の能力を引き出す事ができるのだ!"

 

――テレビ番組「週刊メダロット」より

 

 

……

 

 

気がつけば、オレの名前は"テンサン コイシマル"だった。

それは、ゲーム"メダロット5"の主人公と同じ名前だ。さらに、同じところで生まれ育ち、同じような顔立ちをしていた。

 

つまり将来、父の仕事の都合で引っ越し、引越し先の村で起こる事件に巻き込まれる予定があるということだ。

村長お付きの秘書――"アラクネ イト"が、メダロットを誘拐したり、村長の屋敷をキャタピラのついた巨大像でぶち壊す。オレはそのシナリオを知っている。

 

イトの目的は屋敷の破壊そのものではない。半永久的に生き続ける友達(メダロット)に寄り添うために、永遠の命を得ようとしているのだ。

おとぎ話によると、村長の屋敷の下には宝が眠っているらしいのだが、イトは"もしかしたらそれが使えるかもしれない"という動機だけで、他者を傷つけてまでそれを目指している。

 

凶行を阻止されなかったとしても、イトの目的が達成される保証がないのだ。"屋敷が壊されるだけなら放っておいても"なんて思っていると、より大事になりうる。

 

メダロットは、子供向けに市販されているお友達ロボットだ。メダルもまた、メダロットの人格を司る部品にすぎない。

だが、あまり知られていない事実として、メダロットとメダルは元々地球外のテクノロジーで、山や遺跡を掘って出土するようなものでもある。"自分もメダロットになれば"というイトの企みによって、どんな事態に発展するか、想像もつかない。

シリーズ中でも"5"はスケールの小さい話だが、他のナンバリングでは地球規模や宇宙規模の事件が定番。見過ごした結果同じようになる可能性は充分にあるといえる。

 

ラスボスたるイトを止めるには、当然、原作通りの戦いを勝ち抜かなければいけない。だが、人生にリセットボタンがない以上、オレは通して勝ち続けなければならない。それはとても困難だ。

 

だから、物心ついたばかりのオレは、可能な範囲で準備をすることに決めた。

シナリオが始まる小学四年生の春までに、誰にも負けないだけの力をつけようと。

 

 

……

 

 

前倒しでメダロットを手に入れることに際して、最も大きい障害は両親だ。メダロットというものに対して全く理解がないため、高いものを1揃い買い与えることに対する不安で足踏みしていた。

 

メダロッター――"メダロットと共にある人"程度の意味だ――の最低条件は、メダロット1体と、腕時計型ガジェット"メダロッチ"の所持。

 

メダロットを構成するのは、骨格にあたるティンペット、頭胸部・右腕部・左腕部・脚部に肉付けする4パーツ、メダル。

合わせて6つの部品だ。

 

パーツはコンビニに売っている安物でも2,000円から5,000円(これは部位間の差もある)。

メダロッチはピンキリだが、旧いモデルを選べば5,000円程度。

ティンペットは一律20,000円。男女で価格が同じなのは意外だった。

メダルは10,000円で済めばかなり安い方で、30,000円出せば少々いいものといったところ。しかも、購入には身分証明が要る。

 

定価で安いものを買い集めれば、43,000円という計算だ。高い。

前世の感覚で言えば、スマホを買い与えるようなものだ。

 

それらの値段を知ったのは、小学校に入学した後。学校にいる同級生たちに訊き回ってようやくのことだった。誰も彼も値段のことを気にしていなかったため、結局、親に話が通されることを覚悟で先生に訊くことになってしまった。

月に1,000円の小遣いを貰えるようになって、それを軍資金とすべく全額貯金する心づもりだったのだが、間に合いそうになかった。

 

貯金だけでは無理だと悟ったオレは、園芸用のスコップを片手に出かけた。それも毎日。

学校では友達と普通に遊ぶが、放課後、日が暮れぬうちは近所の採掘場跡であてもなく掘る。あるかもわからないメダルを探して。

かつてそこで仕事をしていた父が、"再利用の目処がないから掃除する人もいなくて、今は荒れ放題だ"と電話口で話しているのを、偶然聞いて思いついたことだった。

ちょっと筋肉痛で気が向かないな、という日には、町内を散歩しつつ、ゴミ捨て場に有用なものがないか見回っていた。

 

 

……

 

 

まず小学一年生の秋。ゴミ捨て場に、メダルが入ったまま電源が落とされたメダロットを見つけた。

 

急ぎコンビニで安物のメダロッチを購入し、ティンペットとパーツをメダロッチにペアリング。メダロッチに割り当てられているストレージ(遠隔地の倉庫内部)に転送した。

メダロッチが必需品なのは、このようにティンペットやパーツを自由に出し入れできるからだ。

 

パーツは、二脚・女・観光ガイド型メダロットの、マルシェのものが一式。

メダルは中の人格が持ち主を覚えていて、オレには使えない。民営警察組織であるセレクト隊に、落とし物として届けた。

 

 

……

 

 

そして次の進展は、小学三年生の夏休みになってからだった。

 

実のところメダル購入資金は充分に貯まりつつあり、妥協せず高級メダルを買うのも視野に入っていた頃。

もう小学四年生が次に迫っていて、そろそろ対人戦闘――ロボトル(ロボットバトル)を始めなければまずい時期でもあった。

 

いつも通り、暇を見ては、外に遊びに行くフリをして採掘場跡に忍び込み、カンだけを頼りに、掘り進めていたある日。

道端に落ちている小銭のように何気なく、スコップの先から、金色に光る六角形のコインのようなものが手元に転がってきた。

 

"メダルだ"と認識しつつも、オレはしばらく呆然とした。

 

その後、心臓が早鐘を打ちはじめた。なぜだか、"一刻も早く離れなければ"という気がして、自室まで逃げ帰った。

 

麦茶を飲み、クーラーの効いた部屋で気を落ち着けてから、改めてメダルを見る。

 

不完全な人造コピーの市販品とは違う、本物の(レア)メダル。コアの色はおろか、絵柄すら見ていなかったメダル。

 

そのメダルは……




説明端折る予定だったのに結局説明回という事態


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2.前世の敵は今生の友

(6)おいおい絵柄もコアもないじゃないか!
→はてなメダル。無印メダロットより
(3)前世では入手に手を焼かされたあのメダル!
→ネコメダル。メダロット2より
(7)……あれ、4枚も拾ったっけ?
→ファイア、アース、アクア、ウィンド のエレメンタルメダル一式
(1)「落としたのは金のメダル?銀のメダル?」
→「黒いメダル!」ブラックカブト(orブラッククワガタ)メダル。台詞はメダロット3のトパージア(とイッキ)より
(13)ご存知敵専用チートメダル
→メダロット8よりカオスメダル……だと流石に話がおかしくなるので違います

……Bメダル人気なさすぎでは?
まあ、十中八九「チート」の文字列に釣られたメダロット知らない人の票が大半なんでしょう。きっと。


緑色のコア。そして、浮き彫りにされた少年の顔。その絵柄を見てオレは息を呑んだ。

ボーイメダル。メダロット5にのみ登場するメダルだ。

このメダルには有名な二つのポイントがある。

 

一つは、データはあるもののプレイヤーが入手できないため、実質敵専用のメダルであること。

 

そしてもう一つは、ラスボスも装備しているゲーム中最強と言っていいメダルであること。

 

というか、ラスボス以外だと使い手はほぼいない。二人だったか?

リーダースキル「あいしょうアップ」によって味方機全体の成功と機動を高めることができるのだが、この上がり幅が強烈。

多少レベル差があってもひっくり返せるだけの補正がかかる。

強い強いといわれているラスボスでさえ100%活かしているわけではないので、自分で使えるとなれば心強い。

 

……そしてオレはため息をついた。

 

本を読み漁ったから知っている。

この世界にはメダロット5特有の要素である「メダスキル」「リーダースキル」「メダルトランスフォーム」が存在しないのだ。

シリーズの辻褄を考えれば当然とも言えるが、せっかくのボーイメダルが、という気持ちは否定できない。

どうせラスボスはあいしょうアップなしでも強いんだろうし、地道に鍛えていくしかない。

 

まあ、幸い格闘と射撃の両方に適性があり、主力として使いやすいメダルでもある。

メダスキルもメダルトランスフォームもないため、メダフォースがどうなるかわからないが、とりあえずこいつを使うことに異存はなかった。

 

そして翌日、オレは(母が出かけているうちに)ボーイメダルをメダロッチに登録して会話を試みた。

オレが声をかける前に、メダルの声がメダロッチから再生された。

 

「ここはどこだ?」

 

メダルの声には、疑うようなニュアンスは含まれていないようで、単純にここがどこかわからない、という様子に感じられた。

それでいて第一声が現状把握ということは、誰の持ち物でもない、人格が目覚めたばかりのメダルなのは確かなようだ。掘り出したばかりなのだから当然だが。

 

「ここはオレの家。オレの名前はコイシマルっていうんだ」

 

「ぼくを連れてきたのはきみか?」

 

自分の名前を名乗らないのは、名前がまだないから……だと思う。単純にそういう性格で、自我が強いということもあり得るが、違っていて欲しいところだ。

 

「そう。地面の中から掘り出してね」

 

「なぜ?」

 

「必要だから」

 

オレはとにかく強くなりたいこと、親に隠れてロボトルするためにメダルを掘っていたことを説明した。

……前世や、そこで得た知識のことは伏せて。

 

とりあえず、言うことを聞いてくれるかどうか次第で今後の苦労度合いが決まる。

レアメダルはエゴが強く、所有者の言うことを聞くとは限らない。

イッキのメタビーみたいな反抗的な態度を取られると、割とどうしようもないところがあるが……

 

「わかった」

 

「いいのか?」

 

「"いいのか"だって?ばかにしないでくれ」

「きみは明確な目標があって、メダルが欲しくて、来る日も来る日も土を掘っていたんだろう?そこにメダルがあるかどうかなんてわからないのに」

「ぼくは、そこまでして求めてくれたひとを袖にしようなんて、ぜったい思わない」

 

しばし唖然とした。

声変わり前の少年のような高い声なのに、語り口はとても静かで、それでいて筋を通そうという気持ちでオレに接していたことに、驚いていた。

"ボーイ"メダルとは一体。そんな気持ちで。

 

「……そっか。ありがとう」

 

「こちらこそ、ありがとう。それで……ぼくのことはなんて呼んでくれるの?」

 

「あ、そっか。名前……ああ。実はもう決めてある」

 

「準備がいいね。それで、なんて名前なの?」

 

前世で一度、もしボーイメダルが手に入ったらこんな名前をつけるかな、ということを考えたことがあった。

きちんとした由来があるので、この時も、どんな名前かすぐ思い出せた。

 

「"ベーデン"。今日からお前はベーデンだ」




※アンケ設置予定

メダルの名前の由来がすぐにわかった人は仲間、もしくは知識人。
わからない場合ググればすぐ出てきます。


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3.これが最強への第一歩

ボーイメダル
属性:速度
所持熟練度:「殴る」「がむしゃら」「撃つ」「狙い撃ち」
メダフォース:データ操作、一斉射撃、オールデストロイ

4つの所持熟練度がある類まれなメダル。しかも、いずれも攻撃行動なので腐らない。
メダフォースも使いやすいものが多く、リーダースキルを抜きにしても優れていると言える。
属性が速度なので、KBT型やKWG型のパーツも(手に入れられれば)使いこなせる。


メダルを育てる時、まずは攻撃行動の熟練度を上げるのが基本だ。

しかし、例えば「撃つ」「狙い撃ち」の熟練度は射的で練習すれば上がるのかというと、違う。

 

こんな実験がある。

 

まっさらな同じメダルを二つ用意してメダロットを組み立て、片方にはロボトルではない練習を、片方にはロボトルをさせる。

この時、練習した方は的への命中率がきちんと上がっているし、動いているものにも当てられるようになっているが、メダルの熟練度はなぜか上がっていない。

一定期間後、この二機でロボトルを行った際、練習した方はやはり攻撃を一度も当てられなかった。

 

片方が実戦経験を積んでいるとはいえ、練習したのに全く当たらないのはおかしい。

ということでさらに実験を重ねると、攻撃する側とされる側、両方のメダルのフォースが攻撃に干渉していることがわかった。

熟練度というのは単にその行動に慣れているだけでなく、「メダロットに対して効果を発揮する」ことへの慣れということだ。

「設置」なんかも、ターゲットになるメダロットがいないと熟練度が上がらないらしい。

 

……そんなわけで、こっそり練習してからロボトルに移るという考えはダメということは事前に本で読んで知っていた。

ベーデンを拾った次の日、オレはマルシェのパーツ一式を装備させて隣町へ繰り出した。

親バレを避けつつレベルを上げる日々の始まりだ。

 

 

……

 

 

この世界にいる人は基本的にメダロッターだ。メダロットなぞ認めん!なんて人はほぼいない。

道行く人に声をかければロボトルもできる。すごい民度。

 

「すみません、練習ロボトルお願いできませんか」

 

オレが声をかけたのは駐車場の警備員さん。おじいさんだ。

 

「練習?真剣ロボトルは嫌なのかい?」

 

突然のロボトル自体には疑問を持たない。それがメダロットワールド。

 

「メダロットは親に内緒で小遣い貯めて買ったんです。だから今お金がなくて……」

 

「買ったって、一揃いかい?見かけによらずお金持ちなんだね」

 

「ティンペットは捨てられてたのを拾ってキレイにしたんです。メダルは友達に貰いました」

 

「ほう……ちゃんと考えてるんだね」

 

なにやら関心した様子だ。確かに、普通に全部買ったら子供の小遣いじゃ難しいものな。

まあ、だから親には隠しているわけだ。子どもが捨ててあったものを拾って使っていることが知れたら、どう動いてくるかわからない。貰ったとウソをついても聞き回られてバレればアウトだしな。

 

「わかったよ、わたしでよければ相手になろう。わたしはハンダ テイスケという。君、名前は?」

 

「コイシマルです。よろしくお願いします、ハンダさん」

 

「ああ、よろしく頼む。来い、セイロ!」

 

「メダロット転送!」

 

互いがメダロッチの音声入力でメダロットをこの場に転送する。

警備員さんの機体は……

 

「ヴェイパーレールだ!」

 

「免許は返納しちゃったからね。今はこいつが足なのさ」

 

「変形すると脚はなくなりますけどね」

 

セイロと呼ばれたメダロットが言う。

 

銀色の汽車型メダロット・ヴェイパーレール。

二脚からシフト変形し、車両のレクリスモードになる。

戦意を喪失させる格闘攻撃「ホームシック」を体当たりで叩き込んでくる機体だ。

「ミニハンドル」という外部機器を接続することで一人用の乗り物としても使えるのがウリ。

 

駐車場は当然地面が平らだ。車両で走りやすい地形と言える。

しかし広さはそうでもない。マルシェは二脚だが、地形相性はやや不利程度に留まるか。

 

「合図はこのコインが地面に落ちたらにしよう」

 

警備員さんがコインを取り出し、上に弾く。

真剣ロボトルの場合はどこからともなく公認レフェリーがやって来て最後まで仕切ってくれるが、練習ロボトルだとこういう工夫が必要になるのだ。

 

コインが地面に落ちた。

 

「セイロ、メダチェンジ!」

「ベーデン、撃て!」

 

「了解、メダチェンジ!」

「わかった」

 

セイロが二足歩行の汽車モチーフの姿から、そのまんまの汽車型に変形する。

メダチェンジは次の行動に移るまで間ができてしまうが、メダチェンジそのものには大した隙はない。ないが、撃たない法もない。

マルシェのパーツ構成は右腕が撃つ行動のライフル、左腕が狙い撃ち行動のガトリング。頭のトラップクリアは基本要らない子だ。

左腕のライフルは成功値が低くリスクが高い。これもしばらく封印。なのでベーデンには"壊れない限り右腕しか使うな"と言ってある。

 

果たしてベーデンの初射撃は当たった。

ダメージは与えたが、メダチェンジ中は全ての装甲が一つになっているので、パーツを個別に破壊できない。

 

さて、メダチェンジ後は頭パーツ、右腕パーツ、左腕パーツの代わりにドライブA、ドライブB、ドライブCという機能が使える。

ヴェイパーレールには使える機能は一つしかないが。

 

「セイロ、ドライブAじゃ!」

「ベーデン、撃ちながら左腕で受けろ!痛くても相手から目を離すなよ!」

 

「突撃!」

 

セイロが煙突から煙を吐きながら突進してくる。

 

この突進攻撃はがむしゃら行動。スピードを乗せて威力を上げ、パーツを破壊しても衝撃でさらに他のパーツにダメージを与える「貫通」を引き起こす。

「ホームシック」の戦意喪失効果は即効性ではないが、この突進で受けたダメージが大きいほど早く回る。

別ナンバリングのラスボスは高威力のそれを連打して行動させないハメ技を主力にしていたりする。

しかし、がむしゃら行動は勢い任せなので、攻撃が終わった後は体勢が崩れて防御も回避もできない。

なのでオレもベーデンに捨て身気味の指示を出した。避けろって言ってもどうせ無理だし。

 

マルシェの右腕である拡声器型の銃から飛来する弾丸を受けながら、汽車は直進。ベーデンはそれを左腕で受け、横にふっ飛ばされる。人身事故だ。

メダロッチに表示されている、左腕の装甲値が0になった。更に頭部に大ダメージ。

 

勢い余ってセイロは壁に突っ込み、ガッガッと音を立てている。

 

「ここがチャンスだベーデン!足元を撃て!」

「セイロ、回頭するんじゃ!」

 

「ま、まだ冷却終わってない!」

 

セイロは壁に突っ込み続けている。

 

起き上がったベーデンがセイロを後ろから撃つと、防御も回避もできない状態のセイロは車輪部に弾丸を受けた拍子に横転した。

 

「うわっ!?」

 

「セイロ、起きるんじゃ!」

 

汽車が自力で起き上がるわけないだろと普通思うが、メダロットはそういう弱点はクリアしているので変形解除の必要も特にない。

横転を狙ったのは自重でダメージを負わせるためだ。

……でも、これなあ……

 

「よいっしょっと」

 

「……コイシマル?」

ベーデンがこっちを見る。顔に出てたかな。

 

 

……

 

 

オレはその後も最適と思われる指示を出し続けたが、あっさり負けた。

変形したヴェイパーレールの装甲を削り切れるだけの火力がなく、二度目の突撃で頭部パーツを破壊された。

 

ヴェイパーレールがドライブAしか使えないのは、ドライブBとドライブCが常時効果の機能を持っているからだ。

「敵影感知」は攻撃の成功と威力を上げる機能で、ヴェイパーレールのそれは威力特化。

それが二つ乗った突進は一撃必殺とまでは行かないが、回避できなければタダではすまない。人はグモれば死ぬということか。

それに比べればマルシェの右腕パーツは使いやすいだけの豆鉄砲だから、そうなって当然だった。

 

 

その日オレは何時間も、その辺の人たちにロボトルを挑んでは惨敗してを繰り返した。

同じくらいの歳で、コンビニの安いパーツ一式を装備している相手には勝てたが、そのくらいだ。

 

門限ギリギリで家に帰ったオレは晩飯を食べて風呂に入った後、寝る前に自室でメダロッチの中のベーデンに話しかけた。

 

「なあベーデン、負けて悔しかったか?」

 

「コイシマルは?」

 

「質問を質問で返すなよ……まあ、悔しいというか、ちょっとショックだったかな」

 

ゲームでは基本負けることがないが、リアルになってみればこんなもの。ということだろう。

パーツ性能の差が大きいのだが、だからといっていいものに買い換えると出費が痛い。

格闘系や守るの熟練度も上げる予定だし、脚部パーツの種類も増やさなければいけないから、無駄遣いはできない。

少なくとも射撃に関しては、当分マルシェのパーツでやっていくしかない。

つまり、まだまだ負ける予定ということだ。

 

「ぼくは……悔しかった。コイシマルを勝たせてあげられなくて」

 

そんなに恩義を感じているのか。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、オレが今日ロボトルをしたのは勝つためじゃない。強くなるためだ」

「負けたって経験は蓄積される。最終的に、将来、大事なところで勝てればいい。そのための今なんだ」

 

「……わかった。ぼく、頑張るよ」

 

「ああ、一緒に頑張ろう。頑張って、強くなるぞ」

「今日の敗北が、最強への第一歩だ!」




※アンケ設置予定


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4.予期せぬ出会い

発掘メダルのラインナップ、強さとしては
B>エレメンタル>ネコ≧ボーイ>はてな
くらいのイメージです。まあどれ選んでも鍛え上げるのであまり関係ありませんが。

修行回はここまで。
原作で行けないおみこし町周辺の話なんてだらだら続けても仕方ないし……


それからもオレとベーデンは毎日ロボトルを繰り返し、ベーデンのレベルと熟練度はどんどん上がった。

たまに親切な対戦相手がロボトル後にパーツを分けてくれたりして、思わぬ戦力アップもあった。

 

 

……

 

 

時は過ぎ、小学三年生の冬休み。

オレがロボトルを始めてからすすたけ村に来るまでの、ちょうど真ん中の頃。

 

ひたすら鍛えたオレたちはその辺で声をかけたテキトーな相手程度は難なく倒せるようになっていた。

隣町で少し噂になっているらしく、歩いているとたまに挑戦者がやって来る。

その噂というのが、"何度こっぴどく負けようがお構いなしにひたすらロボトルし続ける少年メダロッター"という内容なので、挑戦者というのもたいていは勝てると踏んでパーツをカツアゲしに来るしょうもない連中だった。

そう、勝てるようになったオレは真剣ロボトルを始めたのだ。手持ちパーツはどんどん増え、多少負けてもお先真っ暗ということはなくなっていた。

しょうもない連中は返り討ちにしてパーツを巻き上げてやったら、同じ奴は二度と声をかけて来なくなった。

(ちなみに、真剣ロボトルは合意が必要なので、一対三の勝負とかになったりはしない)

 

ありがたいことに、たまに本当に強いメダロッターもやって来る。

あの日もそうだったが、いつもと違うのはオレが知っている相手だったということだ。

 

「ちょっといいですか?」

 

「はい?」

 

そろそろ帰ろうかと思っていた時。

道で声をかけられて振り向くと、赤毛の男の子と女の子がいた。見るからに外国人。女の子の方が同い年くらいで、男の子がもうちょっと小さい。二人への第一印象は"どっかで見たような"だった。

 

「この辺りで、コイシマル、いう人見ませんでしたか?」

声をかけてきたのは女の子の方か。日本語がたどたどしい。

 

「コイシマルはオレだけど」

 

と答えながら顔を見ていると、唐突に思い出した。

 

(ヘンゼルとグレーテルだ!なんでこんなところに!?)

 

メダロット5には出番が極端に少ないネームドメダロッターがいる。

オーストリアからやってきた双子のヘンゼルとグレーテル、あとメダロットの誘拐に手を貸してしまうツグオ。

ネームドなので強いのは当然なのだが、この三人は共通して設定上も強い。

ツグオはヒコオに次ぐ実力を持っていて、グレーテルはオーストリアのトップ10に名を連ねている。ヘンゼルはグレーテルより一段劣る程度か。

 

「わたし、グレーテル」

 

「ボクはヘンゼル。あなたがこの辺りで一番強いメダロッターって本当ですか?」

ヘンゼルが比較的流暢な日本語で言う。

二人が日本語話せるのは祖父が日本人だからで、ヘンゼルの方が流暢なのはおじいちゃんっ子だから、だったか。

 

「"滅多に勝てない"から"たまに負ける"くらいにはなってきたけど、一番かは知らないなあ」

 

「へえ、じゃあやっぱり強いんですね。ボクたちとロボトルしてくれませんか?」

 

「いいけど、オレはメダロット一体しか持ってないぞ」

 

「ワッツ!?アンビリーバボー!」

グレーテルが大声で言う。道行く人の視線が痛い。

ところでオーストリアってドイツ語圏だと思うんだけど、なんで出てくるのが英語なの?

 

「どうしてですか?」

対して冷静なヘンゼル。

 

「今は一体で手一杯なの」

 

「なるほど、だから一対一のロボトルしかしないんですね。わかりました」

「ボクとグレーテルと、一回ずつロボトルしてくれませんか?」

 

「いいよ」

 

「ありがとうございます」

 

「それじゃわたしからデス。カモン、ベル!」

 

グレーテルが転送したのはスズラン型メダロット・キミシャドー。女型。

頭部は動きを止める格闘攻撃「フリーズ」、両腕は動きを止める格闘攻撃「サンダー」。

フリーズとサンダーの違いはパーツ性能の傾向くらいなので気にしなくてよし。

本来脚部は多脚だが、車両パーツに付け替えてあるな。まあ強いメダロッターならやってて当然か。

 

「メダロット転送!」

 

そしてベーデン。射撃は充分鍛えたと思って最近は格闘重視にしていたが、相手が相手。本気構成だ。

頭パーツはイルカ型メダロット・ドルドルフィンのアミノリンク。治す行動「回復」でパーツを修復する。回数4。

右腕パーツは女子学生型メダロット・ラストセーラーのクレンマイト。素早い撃つ攻撃「ライフル」。

左腕パーツはヴァルキュリア型メダロット・プリティプラインのシャインシールド。他のメダロットを庇う、守る行動「援護」のパーツだが、それゆえ装甲が高く作られており、単に攻撃に耐える用途でも使える。

脚部パーツは家庭教師型メダロット・セットチューターのアチチュード。車両。

完全にキメラだが、それがメダロットだ。

 

「合意と見てよろしいですね?」

唐突に男の声が響く。

 

ロボトル監視衛星"テラカドくん"は様々な方法で地球(と月)で行われる真剣ロボトルを事前に察知し、そこへレフェリーを派遣する。

このシステム、一見めちゃくちゃだが、実際めちゃくちゃだ。どうやって実現しているのか誰も知らない。

 

「わたくし、ロボトル協会公認レフェリー、ミスターてまわしと申します」

白いシャツに赤い蝶ネクタイ。レフェリーはだいたいこういう服装だ。

 

「グレーテル、遠慮はいらない。真剣ロボトルだ」

 

「すごい自信ですネ。わたし、強いですヨ?オーストリアではトップ10入ってマス」

知ってる。

 

「なるほど、コイシマルが緊張するのもわかるかも」

 

「よろしくお願いしますね、ベーデンさん」

 

おれとグレーテル、ベーデンとベルが構える。

……メダロッチには「ベルナデッタ」って表示されてるな。縮めてベルだったか。

 

「それではロボトルゥウウーーー……」

ミスターてまわしが手を振り上げ、

 

「ファイッ!!」

振り下ろした。

 

「横に走りながら撃て!」

「右腕を狙ってキエロ!」

 

キエロはキミシャドーの頭部パーツの名称だ。

ベルが前傾姿勢で突っ込んでくる。頭部についた花の部分から冷気が漏れている。頭ごとあれを振り回すのか。

こちらの攻撃は当たっているが、充填冷却分動きが鈍り、接近を許してしまう。

 

「やーっ!」

 

素早く頭を振り上げ、振り下ろすベル。その場で左腕の盾を構えて受け止めるベーデン。

ダメージは盾で受けることができたが、フリーズ効果で動きがさらに鈍くなる。

 

「ベル、スズフラワー!」

 

電撃を纏った右腕での殴打が迫り、ベーデンはギリギリで盾を構えて受け止める。

 

「ワンスモア!」

 

もう一度殴打、そしてギリギリで防御。まだ盾は壊れないが、そろそろ装甲は限界。

 

「ムーッ、ベルフラワー!」

 

ベルが今度は高威力の左腕を振りかぶる。

ここで、腕が一番上がった頃にベーデンが再始動して……やっと右腕の冷却が終わった。

 

「回復しろベーデン!」

 

頭パーツから光の帯が伸びて盾を包み、盾の傷が塞がっていく。

頭パーツは回数制限がある代わりに、腕に比べて高性能。その例に漏れず、このパーツの回復量も多い。

なぜ、射撃と格闘を得意とするボーイメダルが治すパーツを使いこなせるのかというと、これも日々の成果だ。

所持熟練度外だろうと時間をかけて鍛えれば強くなる。

 

「そしたら避けられまセーン!」

得意げに笑うグレーテル。

 

まあその通り、今度は頭パーツの冷却のために距離を開けられず、盾で受け止めるはめになり、ベーデンはまた動けなくなる。

 

「ワンスモア!」

 

もう一度殴打、そしてギリギリで防御。まだ盾は壊れないが、そろそろ装甲は限界。

 

 

……

 

 

ということを、ベーデンの頭部パーツの回数が切れるまで繰り返した。

見ているだけのヘンゼルも疲れた様子だが、グレーテルは疲れより苛立ちが勝っているらしい。

 

「ヘイ、ユー!降参しなサイ!」

 

「なんで?」

 

「あなたのメダロット、もう回復できまセン!攻撃、避けられまセン!」

 

「そうかな?やってみないとわかんないよ」

 

「……ベル!キエロ!」

 

「は、はい!」

 

回数は数えてないが、頭部パーツでの攻撃が来る。

頭を振り上げ、そしてベーデンの冷却が終了。だが盾は上げない。

 

「データ操作!」

「もちろん!」

 

ベーデンがオレの指示に素早く応え、メダフォースを発動。その姿がノイズに包まれた後、半透明になる。

メダフォース・データ操作は、味方メダロットの攻撃の成功と、攻撃に対する回避率を上げる。

偶然この時使われたキエロが成功の低いパーツということもあって、ベーデンはサンフリループから抜け出した。

 

「ほら避けた」

 

「メダフォース!?溜めていなかったのに、ホワイ!?」

 

「メダロットは攻撃を受けるたびにちょっとずつメダフォースが溜まる。忘れてたみたいだな」

 

「ベルフラワー!!」

 

最も成功の高い右腕パーツが来る。当たるかもしれない。

 

「何回攻撃したか数えてないんだろ。熱くなりすぎだぞ」

 

「そして、これで作戦完了」

 

ベーデンが残るメダフォースでもう一度データ操作を発動。透明度が増し、ベルの右腕をひらりとかわす。

 

「それで当たり前だけど、こっちの攻撃は当たるぞ。撃て!」

 

「待ってました」

 

ようやくの反撃。ベーデンの右腕、制服の袖から覗く銃口から弾丸が発射され、冷却中のベルに当たる。データ操作で高められた成功から繰り出された攻撃が、「殴る」行動の直後で防御に移れないベルに。

その攻撃は頭部にクリティカルヒットし、ベルはしばらく頭をふらふら揺らした後、背中からメダルを排出した。

 

「ベル、機能停止!コイシマルくんの勝利!」

じっと見守っていたミスターてまわしが宣言した。

……額に汗が滲んでいる。長時間拘束して申し訳ない。

 

「よし……!」

ネームドキャラに勝てたことに、小さくガッツポーズする。ベーデンの経験値としても申し分ないだろう。嬉しい誤算だ。

あ、手汗すごい。

 

「オゥ……」

そしてグレーテルはがっくり膝と手をついている。テンション高い外人って感じのオーバーリアクションだ。

 

「ベーデン、まだやれるな?」

 

「コイシマル、門限」

 

「……あっ」

 

元々帰ろうかと思っていたところで、確実に勝つためとはいえ長期戦戦法を使ったおかげで、帰宅リミットがすぐそこへ迫っていた。

ヘンゼルとのロボトルは無理そうだ。

 

「ボクたちもそろそろ戻らないとパパが心配するネ」

 

「そっか、ごめんな。じゃあまた今度」

 

「うん、また今度」

 

「グレーテルもまたな」

 

「次はわたしが勝ちマース!」

そしてグレーテルの切り替えが早い。これもテンション高い外人って感じがする。

 

オレは二人と別れ、急いで帰宅した。

 

そしてそれから、隣町で二人に再会することはなかった。

 

 

……

 

 

冬休みが明け、一月は往き、二月は逃げ、三月は去る。春休みもあっという間に過ぎ、新学期。

 

そして四月の中旬。夏から始まった、半年ちょっとのロボトル漬け生活も終わる。

とうとう、すすたけ村に引っ越す日がやってきた。




※アンケ設置予定

冬まで鍛えてレベルが上がったのでメダフォースも使えました。
使ってるパーツがしょぼく見えた人もいるかもしれませんが、一般人のコイシマルくんに大それたパーツは手に入れられません。


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5.ドント・エミュレイト・コエダメ・インシデント

毎度毎度アンケ結果があまりに偏っているような。
そして4話は割と致命的なミスをしているような。

文中に出てくる数字の扱いに迷う。漢数字統一だと読みにくいし、全角数字だと桁多くなった時嫌だし、半角はなんか違和感あるし……
あと台詞に♪マークを使うかも迷う。

2020/03/29 電話関連の記述を差し替え


今、オレは村はずれバス停前のベンチに座って待っているところだ。ここがすすたけ村のはずれなのは事実だが、だからといって停留所名が「村はずれ」なのはどうかと思う。

引っ越した先の家からこのバス停まで、ゲームでは1分とかからないのだが、縮尺とかその辺の違いからか、実際には歩いて7分程度かかる。結構な距離だ。田舎な分盗難リスクも小さいし、ネットで自転車でも買った方がいいかもしれない。

登下校の時間帯ですら一時間に一本しかバスが来ないが、かといって学校まで自転車はちょっと遠すぎる。バスで15分の距離だから、自転車だと30分くらいあるんじゃないか?

 

さて、そんなオレだが、腕にはめているメダロッチは以前のものと違う。とうとう親の許しを得てメダロットを買ってもらう運びになったのだ。これは比較的旧いモデルだが、オレが最初に買ったものよりはまだ新しい。

ちなみに中身――ペアリングしているパーツ等のこと――はない。ベーデンのメダルだけ移してある。"親に許しを貰えたらメダルを分けてもらう約束をしている"と言って、親がメダルを買ってくるのを回避したから、原作で貰えるメダルもない。使いもしないメダルを買って貰うと、どうやっても後味が悪いことになるから、そうした。

まあ、メダロッチとメダルだけ買ってくる親も結構どうかしてるけれども、メダロットのこと何も知らない今時珍しいタイプの人だからなあ。

ついでに言うと、ティンペットとパーツがないんじゃメダロットを持っているとはいえないのに、この時点でかなり浮かれてた原作コイシマルのテンションもヤバいと思う。それだけ欲しかったんだろうと思うが。

 

暇つぶし用にメダロットの本を読んでいると、声をかけられた。

 

「おはよう」

 

「おっと、おはよう」

 

見ず知らずの他人に声をかけてきたのは、黄色いパーカーを着た少年。背丈は小学校中学年くらい。というか、実際四年生。

クラスメイトとなる"シジミ ヤマト"くん、うちからちょっと歩いたところにある神社の子で、ちょっと精神が不安定な少年。

 

「ぼくはシジミヤマト」

 

「俺はテンサンコイシマル。よろしく」

 

「ああ、やっぱりそうなんだ。コイシマルくんのことはアカネ先生から聞いていたよ」

「で、今日はいっしょに学校に行こうと思って誘いに行ったんだけど……」

 

「あー、道に迷うかもだから早めに出てたんだ。地図も持ってないしな」

 

これは原作に合わせようとしたわけではなく、本当に心配だったから早めに出た。原作の道順を覚えてても今見てるのはゲーム画面じゃないし、齟齬がないとも限らない。実際距離は想像と違ったし。

 

「まだ7時前だよ、早すぎるんじゃない?」

 

「バスの間隔考えると一本乗り逃すのが怖くてな」

 

すすたけ小学校は授業開始が9時でも8時25分越えたら遅刻の一般的小学校だからな。クソ体育会系のウスモン先生が校門前にいるので、遅刻だけは絶対にしたくない。挨拶しなかっただけで呼び出して説教する人だし。

そんな学校へ向かうバスが一本逃したら一時間後ってヤバいと思う。

 

「……あ、ちょっと待っててくれる?妹を連れてくるよ。慌ててたから、ベニを家に置いてきちゃった。だからぼく、ちょっと迎えに行ってくるね」

 

言い切らないくらいのうちに走り出してしまい、声をかける間もなかった。そういうとこだぞヤマト。

 

 

……で、ここで追いかけると肥溜めに突き落とされるんだが……

 

 

当時は"こえだめ"って言葉の意味を知らなかったから、泥だらけになっただけだと思ってたんだよな。

あれはやられたら大人でも泣くと思うし、そりゃ家の床を歩いて欲しくないだろうなあ。

それでいてミチオとかサキとの顔合わせも肥溜めダイブが間接的なきっかけになってて、重要なターニングポイントだったりするし。

だから肥溜めダイブは回避すると展開変化のリスクがある重要イベントなのだが、まあ事前に策も用意してある。ヤマトを助けてやろう。

オレはヤマトを追って走り出した。

 

 

……

 

 

走り出して少し。

畑のそば、小屋や肥溜めがあるところでヤマトが見えた。

 

「おーい、ヤマトー!」

 

オレの声にヤマトが振り向き、オレがヤマトに追いつく。

 

「いきなり走って行きやがって、オレも一緒に行くよ」

 

「ありがとう……あっ、コイシマルくん、後ろ。気をつけて、落ちると大変だよ」

 

後ろを振り向くと肥溜めが見える。さらにちょっと遠くには農夫のおじいちゃん。

 

「あ、肥溜め。実物はオレも今日初めて見た。これ深さどのくらいあるんだろうな」

 

……耳を澄ますと、ゆっくりと背後に忍び寄ってくる足音が聞こえる。

ここで振り向く。

 

「? ヤマト、後ろの二人は知り合いか?」

 

「ゲッ」

「ヤベッ、バレた!」

 

何も知らないふうに尋ねると、ヤマトの背後から退散する悪ガキ二人。

 

「えっ、アサヒとオサム!?……そうか、ぼくらを突き落とそうとしたんだな!!」

 

いじめに対する反応は凄まじいものがあるなヤマト。すごい顔してるぞ。

 

「まあまあ、それよりベニちゃんを迎えに行こう。道草してバスに遅れるのも恐いし」

 

「そ、それもそうだね……行こう」

 

 

……

 

 

自宅からバス停まで行く場合前を通る位置にある、村はずれの神社。ここがヤマトの家だ。

 

「広いな……出入りするのに不便そうだ」

 

「もう慣れたよ」

 

鳥居をくぐると長い道。両脇には一定間隔で灯籠が置かれている。まっすぐ進むと、御神木が見えてくる。

道沿いに右に曲がってさらに進むと、ようやく玄関だ。

 

……家の前で女の子が立っている。小学校低学年くらい。まだ肌寒い時期ってこともあって、赤いマフラーを巻いている。

ヤマトの妹のベニだ。泣いてはいないらしい。

 

「お兄ちゃん!」

 

「ごめんよベニ、ちょっと慌ててて」

 

「ううん、大丈夫。そっちのお兄ちゃんは?」

ベニがオレの方を見て訊く。まあ、初めて見る顔だろうしな。

 

「オレはテンサン コイシマル。ちょっと前に引っ越してきた四年生だ」

境内と外を仕切る壁を指して答える。

 

「コイシマルお兄ちゃんですね!よろしくです」

 

笑顔が眩しい。

ネームドで普通の素直な女の子ってベニくらいなんだけど、学年の違いもあって準レギュラー程度の立ち位置なんだよな。

 

 

……

 

 

バス停までの道すがら、ヤマトがオレの腕をちらりと見て口を開く。

 

「コイシマルくんって、やっぱりロボトルは強いのかい?」

幾分期待のニュアンスがこもっている。

 

「残念なことに、やったことがないんだなこれが」

 

「えっ?だってそのメダロッチ、ちょっと旧いモデルじゃないか。メダロットは前から持ってるんだろ?」

お前原作だと"まだこの辺りで発売されてない最新のメダロッチを持ってるじゃないか"って難癖つけてたよな?

部長の件とかあるから気持ちはわかるけれども、ひどくない?

 

「これだってつい最近買ってもらったんだぞ。しかも中身は貰い物のメダル一枚だけだ。な、ベーデン」

 

「うん」

 

メダロッチを買ってもらおうが、メダロットについてのこれまでのことは依然親にバレてはならないので、演技をする必要があるのだ。

ということはベーデンともちゃんと話してある。

 

「ベーデン?って、メダルはもう起こしてあるんだね」

ちなみに、起きた状態のメダルをあげたり貰ったりするのは基本的にやってはいけない。

 

「ティンペットやパーツがなくてもこうして話はできるし。早めに仲良くなっとこうと思って」

 

「うーん……信じられないなぁ。おみくじ町の人は強いメダロッターばっかりってよく聞くけど」

 

「は?おみくじ町?」

 

「えっ?」

 

「オレが住んでたのはおみこし町だぞ」

 

「ええーっ!?」

飛び上がる勢いで驚くヤマト。つられてベニがびくっとした。声が大きいぞヤマト!

 

おみくじ町というのはメダロット1~4の舞台だ。世界の危機レベルの事件が起きたり強い奴がいっぱいいたりの地域にある町で、メダロッターの水準が高い。

別ゲーで例えるとゴッドイーターの極東支部。

 

「ヤマト、誰からそんなこと聞いたわけ?」

 

「誰からというか……そういう噂が流れてるんだよ」

 

「初日からいちいちこうやって弁解しなきゃいけないのか……面倒だなあ」

 

「ごめん……」

 

「いやヤマトは悪くないけどさ」

 

 

……

 

 

バス停でバスに乗り、学校に到着。

職員室の方に顔を出したら、"担任がまだ来ていないから待っていろ"と言われた。

仕方なくヤマトと別れ、一人、通りがかる生徒たちに奇異の目で見られながら職員室前で待っていると、ホームルーム前のチャイムが鳴った。

まあ、先生が遅刻するのは原作通りだが、オレが遅刻してない分待たされてしまったな。

 

チャイムが鳴って数分後、見た目女子大生みたいな女性がばたばたと走って来た。

アキ アカネ先生。オレやヤマトの所属するクラス、4年1組の担任。

人をバイクで撥ねて放置したりもするが、基本的にお気楽お姉さんって感じの人だ。

 

「遅くなってごめーん!コイシマルくんだよね?」

 

「はい、テンサンです」

 

「よし、それじゃ教室までダッシュ!」

 

ええー……

 

 

……

 

 

急いで階段を上がり、教室に入る。

 

教室内に生徒の席は12。かといって空間がスカスカというわけでもない。

前世で通っていた学校よりずっと小さい教室だ。田舎だとこうなのか?

 

先生は教壇に立つが、俺は入口付近に立ったままだ。

 

「オオムラさんはかぜでお休みだそうです」

 

とアカネ先生。

"オオムラ サキ"というのは弓道部の女子で、メインキャラクターの一人だ。っていうかここの弓道部、ゲームでは女子しかいなかったような……

 

「きりーつ!」

号令を取るのは委員長のヤマトの仕事だ。

 

「礼!」

「着席!」

 

ここは礼の時に挨拶しないパターンの学校だ。あれ、体育会系っぽくて嫌いなんだよなあ。

 

「皆さんに転校生を紹介します。テンサンコイシマルくんです」

 

「テンサンコイシマルです。よろしくお願いします」

一礼。原作コイシマルは元気に挨拶するんだが、オレには真似できない。

 

「コイシマルくんに何か質問のある人?」

 

ややあって男子生徒の一人が手を挙げる。

……クラスメイトはモブも名前がついてるんだけど、忘れちまった。台詞ウィンドウに書いてあるだけだし。

 

「コイシマルくんは天領イッキさんのこと知ってますか?」

知り合いなのか、というニュアンスで訊いているんだろうなあ。

 

「メダマスターは有名人だし、もちろん知ってるよ」

 

「やっぱり!」

勘違いなんだよなぁ。

 

「そうだと思ったわ」

と女子生徒。こっちも名前知らない。"やはりそういうことか"みたいな顔してるが勘違いだぞ。

 

俺が、メダロット界隈のスーパースターたる天領イッキの知人であるなどと、そのようなことあろうはずもない。

だというのに教室内はそう勘違いしている者ばかりなので、ざわめきだしてくる。

 

「みんな前を向いて!勝手におしゃべりしないの。はい次の人」

 

「おみくじ町ってどんなところですか?」

と訊くのはまた違う男子生徒。

 

「おみくじ町って言うだけあって神社のおみくじはご利益があるらしい。あとメダロット博士の研究所があって、すぐ近くのマリンハーバーから船に乗れるのも地味に便利とか」

まあ前世のゲームの知識だけで行ったことはないんだけれども。

 

「うらやましいなぁ」

 

ちなみにこれは全部メダ3~4の話だ。2まではマリンハーバーじゃなくて船着き場だしね。

navi~5の間にまたどっか変わってるかも。

 

「ほんとねぇ」

誰だ君は。

 

「もう時間がないわ、質問はあと2つね。はいゴシキくん」

ゴシキくんはネームドモブだ。4にもいたよねネームドモブのクラスメイト。

 

「女の子のスカートをめくったことがありますか?」

 

「あるわけないでしょ」

 

なぜ不満そうな顔をするゴシキくん。ゴシキィ!

 

「コイシマルくん、好きなテレビ番組は何?」

とまた違う女子生徒。

前世からあんまりテレビは見ないが、メダロットの情報を仕入れるのに見ている番組はある。

 

「週刊メダロッター、あとたまにニュース」

 

この辺りの受け答え、ゲームでは各キャラの好感度が変化するんだけど、この場にいない連中はなんで変化するんだろうな。

 

と、ここで1時間目開始のチャイムが鳴った。

 

「はいそこまで、ホームルーム終わり!コイシマルくんの席は……」

 

教室内を探す先生。

 

「一番前の列、青色の椅子よ」

 

「はい」

 

わかりやすくするためとはいえ椅子の色が違うのはどうかと思う。統一しろよ。

 

「それでは授業を始めます」

 

 

……

 

 

そして午後。いやあ小学校の授業は強敵だった。ヒマ的な意味で。

 

「今日の授業はここまで。クラブ活動のない人はまっすぐうちに帰ること」

 

「起立!礼!」

 

「じゃあまた月曜日ね♪」

笑顔で手を振って出ていく先生。元気だな。

そして散っていくクラスメイトたち。こっちも大概元気だ。

 

「コイシマルくん、ちょっといい?」

トイレに行ったヤマトを待っていると、教室に残っている生徒、カヤさんに声をかけられた。

定着するか怪しいが、今日一日でクラスメイトの顔と名前は覚えたと思う。ゴシキとかイイギリとか、植物縛りなんだろうか。

 

「いいけど」

 

「ねえねえ、おみくじ町の話をしてよ」

と、別の女子生徒のアオイさん。

 

「朝のホームルームでやっぱりおかしいと思ったんだけどさ、オレが住んでたのはおみこし町だぞ」

 

「ええ~っ!」

「おみこし!?」

飛び上がる勢いで驚く二人。うるさいよ!

 

「そんなに驚くことか?」

 

「なーんだ、ちょっとがっかり」

「でも、コイシマルくんロボトル強いんでしょ?」

カヤさんとアオイさんが謎の期待を寄せてくる。

原作だとここで強いと言っておいた方が好感度稼げるんだが、演技しなきゃいけないからな。

 

「ヤマトにも言ったけど、ティンペットすら持ってない」

 

「ええ~っ!」

 

「っていうか、オレがロボトル強いか訊いてどうすんの?」

 

「あのね、最近学校にオバケが出るらしいの。退治してくれる人が現れるのを待ってたのよ」

幾分落ち着いたアオイ。

 

「2組のワルガキコンビは全然あてにならないし」

 

「ワルガキコンビ?」

アサヒとオサムのことだが、まあ知らないことになってるし。

 

「ヒョウモン アサヒとサメハダ オサムのことよ。いつも二人一緒でイタズラばっかりしてるの」

とカヤさん。

 

「あてにならないって?」

 

「ロボトルは強いし"オレたちがオバケ退治する"って言うけど、一向にやらないし、やる気がないみたい」

 

「他は?」

 

「サキちゃんはオバケなんていないって言うし、委員長は神社の子なのにオバケ怖がってるし」

本人がトイレに行ってる間でよかった。

 

「それ神社関係あるか?」

 

「関係ないかな?」

 

「関係ないでしょ」

 

「でも神社にも出るって言うけど」

 

「神社だからって理由では出ないと思うけど」

 

「見たって噂があるのよ」

とアオイさんが補足。

 

「ふーん」

 

……っていうか長いなヤマト。一人で行くか。

 

「あれ、委員長待たないの?」

 

「2組見てくるだけだよ」

 

 

……

 

 

4年2組の教室に入ると、生徒が一人しか残っていない。

その一人との顔合わせが目当てで来たんだが。

 

黒板周辺の掃除をしている、茶髪三編みに赤縁眼鏡の女子生徒。

タテハ コノハ。後のメインメンバーだ。

 

「こんにちわ」

 

と声をかけると、やや鬱陶しそうな表情で見られた。

 

「あなた誰?」

 

「1組に転入してきたテンサン コイシマルです」

 

「あ、そう」

 

ちょっと話してて辛くなってきたぞ。

 

「名前を聞いても?」

 

「コノハよ。タテハ コノハ」

 

「コノハさんか。いい名前だ」

 

「いきなり馴れ馴れしいわね」

怒りが滲んでいる。

 

「ごめん、気を悪くしたかな」

 

「まあ、いいわ。許してあげる」

 

「ちょっと訊きたいんだけど、ヒョウモンとサメハダって人知らない?」

 

「アッちゃんたちがまた何かイタズラしたのね?」

 

「まあ、未遂だけど」

 

「それで、仕返しに来たの?」

 

「仕返しってわけじゃないけど、一度話した方がいいかなって」

 

「そう。あの二人ならとっくに帰ったわよ」

 

「そっか。ありがとう」

 

「コイシマルくん?」

背後からヤマトの声。振り向くと、鞄も持ってきていた。

 

「あ、出てたか」

 

「うん。帰ろう」

 

さて、次はオバケイベントか……




※アンケ設置予定


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6.残念探偵への釈明

風船取ってから帰宅して寝るくらいまで書けるかと思ったのに
数時間かけて文字数だけ増えてロボトルが始まりもしない


駅前のバス停から村はずれ停留所で降り、平らで何もない道を歩いていると、ふと、自分たちの影の長さが目についた。まだ空は赤くないが、少しすれば日が傾く頃か。

農夫のお爺さんに挨拶し、これからもダイブすることはないであろう肥溜めを通り過ぎ、それから3~4分ほどで鳥居まで着いたのだが。

 

「えーん えーん……」

ヤマトが別れの挨拶でもしようと口を開きかけたところで、境内の方からかすかに女の子の泣き声が聞こえてきた。ベニだ。

 

「ベニ!?」

ヤマトもそれを察知したようで、すぐに走り出し、オレもそれに着いていった。

 

直線の長い石畳を進むほどに声が大きくなり、御神木の前を右に曲がったところにベニがいた。

直立状態で、ただただ声を上げて泣いていた。

 

「ベニ!どうしたんだ!怪我したのか!?」

ヤマトがベニの肩に手を置き、目線を合わせてそう訊く。

 

「オバケがいじわるした~~!」

 

「オバケ!?」

「オバケ!!?」

そんなものがいるのか?と軽く驚く(フリをする)オレと、オレの声をかき消す勢いで飛び上がって叫ぶヤマト。

 

「ふぇっ、うええーーん!」

ヤマトの声に驚いたのか、ベニの泣き声がまた大きくなる。

 

「ヤマト、声がデカいって」

 

「ご、ごめんベニ。オバケに何をされたって?」

 

「ベニの風船取って~~!」

 

「風船……あれか」

御神木を見上げると、枝葉に赤い風船が引っかかっている。パッと見で高さはよくわからないが、とりあえず高い。三角測量でもすれば計算できるだろうが、今はそういうことをしている場合ではない。

 

「た、高いなぁ……どうしよう」

 

「いいよ、オレが取ってくる。ヤマトはベニを見ててやってくれ」

ヤマトがオバケを怖がってるのもあるが、この後メダルとメダロッチを拾うのを見られたくないのもあって、その場に留まるように言い含める。

 

「う、うん。気をつけてね」

 

さて御神木。改めて見るとでたらめな大きさだ。太さは、胴回り30メートルはあろうか。枝のうち太いものはそれだけでも大木と呼べるサイズになっている。実際、この後すぐ、枝の上でロボトルすることになるのだが。

向かって左側は植え込みがあって通れないので、右側からぐるりと回ると、ゲームと同様にうろがあった。うろというにはあまりにも都合よく、大人でも立ったまま入れる大きさだ。

うろから中を覗くと、中もまた不自然なほど都合よく広い空間になっており、この木の幹がスカスカであることがわかる。直観的には面白いとかすごいとかいう感想が出てくる光景だが、樹木に空洞ができるのは病気で、つまりこれは相当の重症――だった、かもしれないが――というわけだ。この状態でよく枝葉に負けて潰れないものだ。

 

中に入ってみると、まず湿った土の匂いがした。薄暗いが、上の方に開いた数々の穴(これもよくない)から射し込んだ日光が、地面を覆う背の低い雑草たちの上に、ぽつぽつと日だまりを作っている。内壁には太い蔦が這っていて、その穴の外まで伸びている。やっぱりこの木ダメなんじゃないかな。

と、不思議スポットをぐるりと見回したところで、視界に光るものがちらりと見えた。探す必要はなかったようだ。

内壁のそばまで行き、それらを拾い上げる。

 

「メダロッチとメダル?」

と問うベーデンに、

 

「落とし物かな。なんでこんなところに落としたんだか」

と白々しく返す。

 

メダロッチは未発売の最新モデル、メダルは……カブトメダルだ。となるとやはりヒコオのパートナーはシンザンか。

メダロッチの中身はKBT最新型のクロトジル一式。ただしティンペット抜き。ここも原作通り。

 

さて、メダロッチはさておき、重要なのはこのメダルだ。

メダロット研究所から盗み出されたレアメダル。カブトとクワガタはレアメダルの中でも稀で、世界に数えるほどしかない、らしい。歴代主人公の相棒になるお決まりのメダルで、メダロット5の主人公であるコイシマルも例外ではない。

 

そんなメダルなので、当然強い。

ここまでベーデン以外のメダルを手に入れて育てて来なかったのは、すすたけ村で手に入るメダルを残る主力にする予定だからというのが理由の一つだ。

もう一つ、育てるメダルを一枚に絞ることでより鍛えられるようにするという狙いもあるが、このカブトレアメダルに比べればついで程度だ。

 

「持ち主のこと聞いてみるか」

メダルの自我がまだ起きていないことを知りつつも、持ち主が既に起こしているんだろうという体で、そのメダロッチにはめ込む。

 

メダルはティンペットやメダロッチにはめ込んだ時点でそれらの影響を受け、自我が目覚める。確認ボタンなどはない。だから、自我の起きていないままメダルを運ぶ場合はメダロッチに入れられず別々になるのだが、普通は失くさないようメダルケースを用意する。

"抜き身で置いてあったのだから、たまたまメダロッチに入れてなかっただけだと思った"と言い訳できる、というわけだ。

 

閑話休題。

電子音とともにカブトメダルが目覚める。

 

「こんにちわー!」

元気のいい男の子の声だ。

 

「はい、こんにちわ。オレはテンサン コイシマル。落ちてたメダロッチとメダルを拾ったんだ」

 

「落ちてた?」

 

「そう。だから、マスターに届けたいんだけど、名前を教えてくれないかな?」

 

「コイシマルがマスターじゃないの?」

 

「……コイシマル、これは」

これでようやくベーデンも、このメダルがまっさらだと分かったようだ。

どうでもいいが、"まっさら"は元々京言葉で、縮めて()()だと関西弁になるらしい。

 

「参ったな……起こしちゃった」

 

「え、なに、なに?」

声だけでもおろおろしているのがわかるカブトメダル。

 

「オレはマスターじゃない。落ちてたお前を拾っただけなんだ」

 

「んじゃ、今からオイラのマスターになってよ」

原作でもそうだが軽く言ってくれる。人格が完全に子供だから仕方ないが。

 

「ダメだろ、落とし主がマスターなんだから」

本音を隠して言う。駄々をこねて来ることは知ってるからな。

 

「どーして?どーして?マスターになってってば!!」

案の定、大声で駄々をこねてきた。ここで切り上げる。

 

「落ち着け。後で話をしよう」

 

メダロッチの音声をオフにし、腕にはめる。親に買ってもらったのと合わせて2本になった。

 

「余計怒ると思うけど」

 

「今はベニちゃんのことが先だ」

 

鞄からペンと手のひらサイズのメモ帳を出し、"ここにあったメダロッチとメダルはセレクト隊に届けます"と、名前を添えて書き、ページを破って足元に置いた。一応、その辺の草を抜いて文鎮にしておこう。

 

太い蔦を掴んで左右や手前に引っ張ってみると、とりあえず、千切れない。

風船の場所を思い出し、その方向に繋がる蔦を掴んで登っていく。体重で千切れたり、上から嫌な音がしたりはしないようだ。

途中で蔦に絡まっている謎の箱(索敵パーツが入っている。また今度回収する)は無視していき、そのまま御神木の側面に空いた穴から顔を出すと、見立て通り大木のような枝の真上だった。高低差はほぼなし。

下から見上げるとわからなかったが、枝の上部は樹皮がすり減って平らになっている。割と人が上り下りしてるのか?幅は3メートルあるかないかくらいだ。デカすぎる。

 

「これなら歩いて取りに行けるか」

 

非常識な大きさの枝の上を歩く。全く揺れない。ちょっと走る。全く揺れない。ダッシュしてみる。全く揺れない。

 

「何してるの?」

 

「安全確認……かな……」

 

そうして進むと、白い布を被せられた物体がぽつんと置かれていた。

(知ってるけど)なんだろうなーという気持ちで布をどけて横に放ると、それは男型ティンペットだった。

 

「なんでティンペットが置いてあるんだ?」

 

と、疑問(知ってるけど)を口に出した時。

 

「そこまでだ!」

 

同い年くらいの少年の声が真後ろから響く。

 

振り返ると、金髪オールバックに赤い蝶ネクタイ、サスペンダーをつけた謎のお坊ちゃま。と、KWG最新型メダロットのシンザンがこちらに歩いてきていた。

どこに隠れてたんだ?

 

「こんにちわ。日本語うまいですね」

 

「ぼくが思っていた通りだ。オバケなんて、いるわけがない。そんなのナンセンスだよ。そう思わないかい?」

 

「無視かよ」

 

「……キミが犯人だね。そうやってとぼけてみても無駄だよ。オバケの正体は、白い布を被ったメダロット……キミはそのメダロットのマスターで、この騒ぎを起こした犯人なのさ」

両手を腰に当て、したり顔で言いたいことだけ言ってくれる。

 

「ぶっ飛んだ推理だな」

 

「ボクはメダロッターとして、キミのことを許せない。メダロットを悪用するヤツは、懲らしめてやる!ロボトルで勝負だ!!」

真面目に怒っているが見当外れだ。あと人を指差すな。

 

「つい最近引っ越してきた人間がそんなことをなぜする?どうやってできる?」

 

「引っ越してきた?確かに今までこの村でキミに会ったことはない……」

 

「甘いぞヒコオ!こいつは嘘をついている!」

と怒気溢れるシンザン。

 

「ヒコオくんか。村はずれに越してきたテンサン コイシマルです、よろしく」

 

「貴様、ふざけているのか!?」

腕を振ってなお怒るシンザン。

 

「ふざけてないし嘘もついちゃいない」

メダロッチ2つを外して地面に置き、数歩下がって両手を上げる。

 

「新しい方のメダロッチが拾い物で、メダル1枚パーツ1セット。私物の方に入ってるのはメダル1枚だけだ。確認してくれ」

膝をつく。

 

「三原則があっても、人間を怪我させない範囲で取り押さえることはできる。そいつに見晴らせれば安全なんじゃないか?」

と念を押す。

 

「……わかった。信じよう」

目を閉じて息を吐く。

 

「ヒコオ!」

 

「この高さだ。メダロッチも手放した状態では、簡単には逃げられない。彼は嘘をついていないよネクウ」

 

「分かってもらえたか。で、そろそろ名前聞いてもいい?」

言いながら立ち上がり、メダロッチを拾ってはめ直す。

 

「済まなかった、謝るよ。ボクはタマヤス ヒコオ、こっちがネクウだ」

ヒコオが丁寧に頭を下げる。

 

「……ふん」

そっぽを向くネクウ。ちゃんと漫画版の名前ついてるんだな。よかった。

 

「タマヤス?村長さんの息子か何か?」

知ってるけど。

 

「その通りさ」

 

「なるほど」

 

「どうだい、折角だし、ボクとロボトルしてみないか?スラフシステムもあるから、パーツを使うくらいは大丈夫だろう。もちろん遊びのロボトルだ」

 

「それもいいけど、この奥に用事があるんだ。後にしてくれ」

 

「ああ、そうだったのか。引き留めてしまったね。すまなかった」

 

枝の先へと進むと、枝からさらに分かれた枝葉が顔の高さにもちょっぴりかかるようになってきた。足元もやや色が濃く、丸みを帯びてきている。そうなってからすぐのところで、風船が見つかった。風船を取り、来た道を戻った。

 

「用事はその風船かい?」

 

「オバケに取られたらしい。オレじゃないぞ」

 

「ふっ、分かっているよ」

 

言い終わった辺りで、上からガサガサと枝葉を動かす音がした。

ヒコオが上に向かって叫ぶ。

 

「そこにいるのは誰だ!」

 

どこに隠れていたのか、上だけでなく横の枝葉の奥からも、白い布を被った何者かたちが浮いて近づいてくる。

割と強引に移動したのだろう、布はところどころ裂けていて、葉もまばらに刺さっている。布の裂け目からちらちらと見えているパーツの質感と、あと浮いているということから、それが浮遊タイプの脚部パーツを装備したメダロットだとわかる。

 

「オ、オレたちは……」

その内一体が声を発した。

 

「そうか!キミたちが噂のオバケだな!」

遮るようにオバケ認定を完了するヒコオ。せっかちだな。

 

オバケ三体がヒコオの近くに、一体がオレの近くにいる。ゲーム通りの配置だ。

 

「コイシマルくん、そっちの一体は任せた!」

 

「了解」

 

「ぼくの出番?」

自分のメダロッチからベーデンが問う。

 

「いや、KBT型のパーツ一式だし、一緒に落ちてたし。そっちに任せる」

 

「大丈夫かな……」

 

拾ったメダロッチの音声をオンにする。

 

「聞いてたか?力を貸してくれ」

 

「つーん」

口で言うのか。

 

「そうだな……じゃあ、マスターになってやる。だから機嫌を直してくれ」

言いながらティンペットを拾ったメダロッチにペアリング、転送。手に風船持ってるからちょっとやりにくい。

 

「コイシマル!?」

ベーデンが驚くのも無理はない。普通に考えるなら、そこまでしてカブトにこだわる必要性はないからだ。

ベーデンのボーイメダルはカブトメダルと同じ速度属性なので、KBT型のパーツの力を最大限に引き出せる。

ただ、オレがカブトメダルを手に入れるためにはそれでは危険だ。マスターになる理由は作れるだけ作りたい。

……もちろん、この辺りのことを黙って行動しているのはベーデンには悪いと思っているが、必要なのだ。

 

「……ほんとに?」

 

「ああ。お前の持ち主が見つかったら、頼み込んでお前を譲ってもらう」

更にメダロットのセッティングを完了。

 

「やったー!!名前、名前つけて!」

 

「あっ名前……じゃあ、"ルート"だ。とりあえずだけどな」

 

「ルート!いい名前!!」

心底嬉しそうな声だ。本当に間に合わせの適当に考えた名前なんだが。

 

「気に入ったか?ならそれでいいか、ルート転送!」

 

メダロッチに音声入力すると、オレの前に組み上がったKBT型メダロット・クロトジルが転送される。

さあ、原作の初ロボトルがようやく開幕だ。




※アンケ設置予定
※今回のアンケは参考にするためのもので、本編に適用されません。気持ちだけどうぞ


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7.はじめてのロボトル(嘘)

ところで、原作見返したらヒコオの一人称が「ボク」と「ぼく」が混ざってました。
漫画が「ぼく」なので、6話からそっちに統一してあります。

重力攻撃をどうすればいいか難しかったです。後で設定変更するかもしれません……

6話のアンケートが接戦で面白いですね。今後も推移を見守っていきます。

実質前後編だからか短く感じます。


オレやヒコオを囲むオバケたちが、その輪をゆっくり狭めてくる。

その時。

 

「ちょっと待ったーっ!」

 

若い男の声がドップラー効果を伴いつつ上から響き、声の主はオレたちの真ん中に、片手片膝をついて着地。枝は揺れなかった。

青いシャツに赤い蝶ネクタイ、サスペンダーをつけた若者。その男はこともなげにすっくと立ち上がり、通りのいい声で自己紹介を始めた。

 

「わたくし、このたびロボトル協会公認レフェリーとなりました、"カバシラ"と申します。よろしくお願いいたします」

 

続いてヒコオの方、オレの方を見る。

 

「そ、それでは、ロボトル~……ファイト!」

新人だからか、口上が飛んでしまっている。

 

しかしそんなことはロボトルには関係ない。ネクウはカバシラのコールが終わると同時にオバケの一体に飛びかかった。

 

「オレたちもやるぞ、ルート!」

 

「よーし、オイラと勝負だ!」

 

「オレはオバケだぞ~、こわいんだぞ~」

自称オバケが、(恐らく彼自身の考えうる精一杯の)脅し文句ともに、白い布の下から腕を上げてこちらに向ける。黒い銃口がちらりと見えた。

 

オバケを自称しているが、付近にいるメダロットならメダロッチからある程度情報を見ることができる。

男・浮遊タイプ・カンガルー型メダロット、チェネッツ。頭部は撃つ行動「ガトリング」、腕部は重力攻撃を行う撃つ・狙い撃ち行動「プレス」攻撃パーツ。

 

……具体的にどういう攻撃かというと。

 

まずエネルギー弾を発射する。これは狙ったメダロットに向かって自律誘導するが、弾速は遅めで、それ自体は見てから避けることも難しくない。発射された弾が起爆すると、弾を中心に内向きの重力フィールドが短時間発生。直径1メートル程の範囲を攻撃する。起爆タイミングは「一定時間経過」か、それまでに「物体に接触」した時。範囲こそ広いが、要するに強く押されたり引っ張られたりするだけなので、前もって身構えていれば大したダメージにならない。とにかく脚の速い相手でも誘導と範囲で当てやすいのが重力攻撃の特徴の一つ。

ただし、無理に避けようとした結果無防備に重力に取り込まれると、自分のパーツ同士を強くぶつけたり、曲がっちゃいけないところが曲がったり、逆にすっ飛んで壁や地面に叩きつけられたりして、大ダメージに繋がる。それを避けるには、欲張って回避しようとせず、一発一発を確実に防御するやり方が鉄板だ。

……ゲームではどういう攻撃なのかいまいちわからなかったのだが、実際に知ると、おもちゃにつける武器としてはオーバーテクノロジーだと思う。重力攻撃に限ったことではないが、そりゃあ三原則がなければ人死にも出ようというもの。

 

さて、相手が強敵というわけでもないので、ここで出すべき指示はシンプルだ。

 

「ルート、そいつから目を離すな!左腕で攻撃!」

 

「オッケー!」

 

左腕パーツ、狙い撃ち攻撃「ガトリング」。マルシェのそれに比べると高性能で、主力としても充分使える。

充填性能の差の分、撃つのはルートが早かった。自称オバケの被った布、その腹部辺りにプップッと穴が空き、弾丸が装甲にぶつかる音が連続。

オバケはダメージを受けつつも怯まず撃ち返してくる。青色の棘付きボールのようなエネルギー弾がゆっくりとルートに向かってくる。ルートが脚に力を込めたように見え、オレはすかさずルートに呼びかける。

 

「避けるな!踏ん張れ!」

 

「ええっ!?」

脚を止め、こちらを振り返るルート。

 

「目をそらすな!マスターのオレを信じてくれ!前を向いて踏ん張るんだ!」

 

「……わ、わかった!」

ルートは頷いて前を向き、重心を低くして身構える。

 

ルートの目の前で、エネルギー弾が炸裂、青く着色された重力フィールドが発生。その中でルートが踏ん張る。

 

「んぐぐぐ……終わった!」

 

特に装甲に傷などがつく様子もないまま、重力フィールドは消えた。ルートの両手を上げる仕草が実に元気な子供らしい。

 

KBT型とKWG型はバランスのよい性能だが、KBT型は防御力、KWG型は回避力に優れる。格上でもない相手の重力攻撃は効果が薄い。だから……

 

「このままどっしり構えて撃ち合えば間違いなく勝てる。次は頭を狙ってみろ、左腕で攻撃だ!」

 

「うん!」

 

「ま、待つんだぞ~、負けたらマスターにおこられるから、ここはおんびんに……」

 

「先におどかしてきた方が悪いに決まってるでしょ!」

 

逃げようとしたのか、ゆらゆらと浮き上がり遠ざかろうとしたオバケに向かって、構わず連射。弾丸は見事頭部付近に集中し、オバケが墜落。墜落のわけは、いい音とともに弾き出されたメダルを見ればわかる。

 

「えーと、白いオバケ、機能停止!コイシマル少年の勝利!」

 

こちら側とヒコオ側、両方の様子を交互に見ていたカバシラの声が聞こえた。

 

「やったー!」

 

ルートが右腕を上げて勝鬨を上げる。

さて、じゃあヒコオの方はどうなったかと見てみると、いつの間にか終わっていたようだった。オバケたちの被っていた布は切り裂かれ、装甲は斬撃と打撃でボロボロだ。ヒコオは追加のメダロットを出さず、ネクウ一体が三体のオバケを機能停止させたらしい。原作通り化け物じみた強さだ。

 

全てのオバケメダロットが機能停止したことを確認すると、カバシラが落ちたメダルをはめて回り、オバケたちは再起動した。メダロッター不在のメダロットもロボトルはできるが、機能停止すると何もできなくなってしまうため、真剣ロボトルの場合こういう措置が取られるのだ。

目を覚ましたオバケたちの内一体がヒコオに、もう一体がオレにパーツを渡す。こっちはチェネッツの右腕パーツか。二人とも慣れた手付きでペアリングしてストレージに送る。

 

「お、おぼえてろだぞ~」

 

と捨て台詞を残して、オバケたちは空へ去っていった。

役目を終えたカバシラは足元に煙玉を叩きつけ、姿を消す。新人でこれなのだから、ロボトル協会はどいつもこいつもヤバいことがよくわかる。

 

そんなところで、ヒコオの携帯が鳴った。

 

「はい、もしもし……わかった、すぐ帰るよ、ママ」

 

残念そうな顔で通話を切り、ヒコオはネクウをメダロッチに戻してこちらを見る。

 

「すまない、パパからの呼び出しを受けてしまった。ロボトルはまたの機会だ」

 

「いいよいいよ。またな、ヒコオ」

 

「ああ、また」

 

いい加減風船を返さないと……

 

 

……

 

 

樹洞に降りて外へ出ると、赤い光が眩しく感じられた。案の定日が傾いたようだ。

バカでかい御神木を回り込むと、泣き止んでいたベニがこちらへ駆け寄って来た。

 

「遅くなってごめん、オバケを退治するのに時間がかかっちゃって。はい、風船」

 

「わーい♪コイシマルお兄ちゃん、ありがとう♪」

 

ベニに風船を渡すと、満面の笑みを見せてくれる。夕日より眩しい。

 

「どういたしまして」

 

「コイシマルくん、退治したって……その、本当にいたの?」

ヤマトが困惑半分恐怖半分といった様子で訊いてくる。

 

「白い布を被ったメダロットだった。何がしたかったのかはいまいちわからなかったよ」

 

「め、メダロットだったのか……」

ヤマトはオレの返答を聞いてほっと胸をなでおろす。

 

「ああそうそう、金髪の男子見なかった?」

 

「いや、見てないよ」

「誰も来なかったですぅ」

 

「そう?じゃあいいや」

 

原作でもヒコオがどこから帰ったのか謎なんだよなここ。風の翼で空路帰宅でもしたのか?

 

「ベニたち、もうお家に帰りますね。ばいばい、コイシマルお兄ちゃん」

 

「今日は本当にありがとう。また明日ね」

 

「ああ、また明日な」

 

腹も減ってきたし、帰るとしよう。

 

 

……

 

 

長い道を歩いて境内の出口に差し掛かったところに、紫色の三角帽にローブと、コテコテの魔女の仮装をした金髪の女性が立ちふさがっていた。ニコニコと笑顔でこちらを見ているが、正直原作通りに存在するとは思わなかった。システム説明用のメタキャラは存在しちゃいけないだろ。

どう対応したものかと逡巡していると、向こうから声をかけてきた。

 

「は~い♪わたし、ミルキーよ」

 

「はあ、テンサン コイシマルです」

 

「ロボトルで頑張ったよい子に、キャンディをプレゼントしてるの~♪」

 

……ん?原作では「ロボトルクッキー」という、ランダムエンカウント回避用のアイテムの説明・配布イベントのはずだが……

このミルキー、かつては私欲のために児童誘拐を繰り返している危険人物で、正体不明の魔法?を使う。これは、ちょっとヤバそうだ。関わりたくない。睡眠薬入りキャンディで魔女の城へご招待、なんてこともありうる。

 

「いりません」

 

「人の好意は素直に受け取るものよ♪」

 

「知らない人からものを貰っちゃだめなんで」

 

「ミルキーはいいの!ほら受け取って」

 

「意味わかりませんよ……どいて下さいって」

 

オレのポケットに何かをねじ込もうとするミルキーの脇をやや強引に通り抜け、自宅に向かってダッシュした。

 

 

……

 

 

追いかけられることもなく自宅に到着。走ったせいで余計に腹が減った。

 

「ただいまー」

 

靴を脱ぎながら、家の中にいる母に向かって言う。

 

「コイシマル、おかえりなさい。どうだった、新しい学校?」

 

リビングに入ると、母はちょうど夕飯を作り終えたところだったようで、オレの分をよそってくれていた。

……生まれておよそ10年経つが、ゲームのキャラが自分の家族という状況にはあまり慣れない。自宅、家というオレの最も身近な空間に、よく知る他人が家族としているというのは、不気味とまでは行かないが、違和感があるものだ。ヤマトたちのような友達、他人とは違って。

無論、実の親で、しかもよき親なので、オレはこの父母にとても感謝している。それだけに、家族としての気持ちを充分に返せていないようなのは、とても申し訳なく、そして情けない。いつか、自分もこの一家の家族なのだと自信を持てる日が来るだろうか。

 

「もう友達もできた……と思う。楽しくやれると思うよ」

 

「そう、安心したわ」

 

手を洗って食卓につき、いただきますを言う。

 

 

……

 

 

食後、再度手を洗ってから、念の為に現状確認をする。

 

「お父さんはまだ帰ってこない?」

 

「何かの化石が見つかったんだって。だから、パパはしばらくうちに帰れないみたい」

 

「なるほど」

 

化石の清掃とか、調査とか、書類作成とか、多分そういう手間があるのだろう。そういう職業なので、父の書斎には化石がずらっと陳列されていて面白かったりする。とりあえず、父が帰ってこないのは原作通りだ。

 

「あっ!そうそう、ご近所の人からこれを貰ったの。息子さんに、って」

 

そう言って手渡してきたビニール袋の中身を見ると、パーツが入っていた。

取り出して確認すると、これまた原作通り、テナガザル型メダロット・ジャングルギボンのパーツ一式だ。コンビニで買えるパーツで、見た目もそんなにかっこよくないが、使いやすく侮れない。ヴェイグマンが強すぎるせいで空気なのが惜しいところだ。

 

「パーツか、会ったらお礼言っとこう」

 

「……あら?そのメダロッチは?」

袋を手渡した辺りで、オレがメダロッチを二つはめているのに気付いたらしい。

 

「落とし物。明日セレクト隊行ってくる」

 

「そうね、それがいいわ。えらいわね」

 

頭を撫でられた。中身が大人なのに、この程度のことで褒められるとむず痒い。

……メダロッチといえば、落とし主のイトはちゃんと置いてきたメモを発見しているだろうか。わざと名前つきハンカチを落とすわけにもいかないから代わりを用意したのだが、あれが見つかってくれないとこっちに狙いを集中してくれなくて事件解決が遠のきかねないからな。見つけておいてくれよ。

 

「セレクト隊の場所はわかる?」

 

「駅からちょっと行った所でしょ、覚えてる覚えてる」

 

「そう?ならいいけど。今日はもうおやすみなさい」

 

「はーい」

 

 

……

 

 

風呂に入り、歯を磨いてから、2階の自室へ。

今日も疲れた、さあ寝るかといったところで。

 

「ねえ、コイシマル、マスターになってくれるんだよね?」

セレクト隊に届けると言ったことを受けて、ルートが不安そうに確認する。

 

「ああ、それにしたってセレクト隊に届けて持ち主を見つけてもらわなきゃ話もできないからな」

 

「じゃあ、見つかるまでオイラはセレクト隊に置いてかれるってこと!?」

オレの手を離れ、紛失物として放置されるのではないかと、ルートが色めき立つ。

 

「メダルと最新型のメダロッチをセットで失くしてたら、普通、間違いなく必死で探すだろ。多分もう紛失届出てるよ」

 

「それって、どういうこと?」

 

「明日行けば持ち主の名前くらいはわかるかもってこと」

 

「そっかあ」

どうやら安心したようだ。

 

「コイシマル」

オレを呼ぶベーデンの声には抑揚がなく、その感情は窺い知れない。

 

「どうした?」

 

「……いや、やっぱりなんでもない。おやすみなさい」

 

「そっか。おやすみ、ベーデン、ルート」




※アンケ設置予定


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8.セレクト隊支部での一幕

他の作品を読んだりしてると、情景や動作、心情を描写する地の文が足りないなあといつも思わされます。一人称視点だからなんて言い訳は通じない。
あと、文字数のことを(今更)ググって見ると、読了時間の関係で2k~3kで充分とする人が多いらしくちょっと驚き。
自分で「4k前後って少ないよなー雑魚だなー」と勝手に感じていて、小分け投稿みたいになって申し訳ないんじゃないかと思っていました。

好きなキャラのアンケート取ろうと思ったんですが、5項目までしかつけられないので断念しました。
外部サイトのアンケートを使おうか考え中です。

どうでもいい話:
ここのコイシマルと元のコイシマルは話し方が異なりますが、一人称が「オレ」であることだけは同じにしています。
強いて言えばアルバムに書かれている言葉(座右の銘みたいなやつ)も違うかもしれない。熱血じゃないので。

修正点(本文修正済):
7話でチェネッツのことを全身プレスと説明しましたが、頭パーツはガトリングでした。
また「明日の帰りに~」とコイシマルが発言していますが、翌日は学校が休みです。

実は把握していながらわけあって修正を保留している箇所があります。わかるかな?


引っ越し後初ロボトルに無事勝利した、その翌朝。いつも通りの時間に目が覚めたオレは、着替えて一階に降りる。母が既に朝食を作り終えつつあるのもいつも通りだ。小学生の身ながら、家事を全てやって貰っていることには頭が下がる。

その母が、階段を降りる音を聞いてかこちらに気付き、台所からこちらを向いて声をかけてきた。

 

「おはよう。気持ちのいい朝ね」

 

「おはよう、お母さん」

 

やはり朝食が出来上がりつつあることを確認したオレは、挨拶を返しながらテーブルに着き、配膳を待つ。コイシマルになってからは健康を心がけているのだが、前世から朝の弱さを引き継いででもいるのか、気の抜けた返事になってしまう。一度、挨拶をしなかった時に怒られてしまったので、口を開くのが面倒でも一応挨拶はするようになったが。

 

今日は白身の焼き魚に豆腐の味噌汁。味噌は白味噌だが、本当は赤味噌の方が好きだ。魚の方は……よくわからない。オレにはシャケ以外の白身魚は見分けがつかない。多分サバか何かだろう。この後のおつかいイベントでも買うのはサバだったし。

 

さて、本来は肥溜めイベントで風邪を引いたヤマトの見舞いに行って部長押し付けイベントという流れがあるんだが、先日肥溜めを回避したのでヤマトの家に行く口実がない。なので食い終わり次第セレクト隊へ行き、誰か(というかサキ)が来るまで待機することになる。長丁場になるので、暇つぶし用に本をいくらか持っていこう。まあ、もし会えなくてもそれはそれ。別に必須ではない。

 

 

……

 

 

昼からいないから、と母から昼食代を渡されてから、バスに乗ってすすたけ村へ。停留所のある広場から東側に出てすぐ左手にセレクト隊の支部がある。外観だと結構小さい建物に見える。

自動ドアを通って中に入ると、やはりあまり広くない。窓口が一つ、ベッドと洋式便器が置かれた灰色の部屋(牢屋か?)がその横に一つ、そしてそれらの前に背もたれのない待合席が横に二列。窓口の奥の壁際にはメダロットが入ったショーケースのようなものと、タンス、テレビがある。テレビはこの位置だと待合席から遠くて見づらいが、どういう意図で設置されたのだろうか。窓口に立っている隊員が暇つぶしに見る用なのか?

……と見回したところ、どこにも誰もいない。警察組織なのにいくらなんでも不用心すぎる。原作通りだが。

 

「誰もいないね」

 

「どーすんの?」

 

「誰か帰ってくるまで待つしかないか」

 

メダロッチから聞こえる声たちにそう返し、待合席に後ろ向きに座って本を開いた。

 

「それ、何の本?」

 

ルートが尋ねる。こういう質問は答えるのに情報を整理する必要があるので苦手だ。

 

「えーっと……メダロットと生き物を比べて、どこが違うとか、どこが似てるとか書いてる本」

 

「面白いの?」

 

「そこそこ」

 

「ふーん」

 

あまり興味なさげだ。まあ、実際子供向けの本でもないが……

 

 

……

 

 

昼に一度食事を摂りに出て、戻ってさらに待つこと数時間。そろそろ夕方だという時間で、持ってきた本もあらかた読み終わったところに、入口の自動ドアが開く音がした。誰が来たかと振り返ってみれば、髪を後頭部で一つにまとめた同年代の少女だった。これがポニーテールかどうかは知らないが、その名前は多分知っている。道着ではなく私服なので、本当にサキか若干怪しいが。

 

その暫定サキは、当初のオレと同じようにセレクト隊支部内部を見回し、隊員が誰もいないことに小さくため息をつき、そしてオレに話しかけてきた。

 

「ねえあなた、いつから待ってるの?」

 

「こんにちは、テンサン コイシマルです。朝から待ってます」

 

本を閉じて横に置いて答える。

 

「コイシマル?もしかして4年1組の?」

 

サキはオレの挨拶を聞いて、(恐らく期待に)若干目の色を変えた。

 

「すすたけ小学校4年1組に転校してきたテンサンです」

 

「やっぱり!」

 

当初の質問の答えへのリアクションを忘れ、得心のいった様子で手を合わせて言う。

 

「やっぱりって何が?」

 

少々わざとらしく尋ねてみる。

 

「ああ、ごめんなさい。わたしはオオムラ サキ。あなたと同じ4年1組よ。風邪でしばらく学校を休んでいたの。あなた、ちょっと前から噂になってるのよ」

 

よかった合ってた。

 

オオムラ サキ。メダロット5のヒロインの一人で、弓道少女だ。家は道場、飼い猫の名前がアーチェリー、母親の名前がユミと、ちょっとやりすぎ感があるが、実は将来薙刀に手を出したりする。

メダロット3のアリカやnaviのヒヨリと違って主人公のコイシマルに過度に当たったりせず、正統派な性格といえて、人気もある……のか?

 

「おみこし町から引っ越して来ました、テンサン コイシマルです」

 

「そう、おみくじ……えっ、おみこし?」

 

「おみこし」

 

「え……」

 

「ロボトルは昨日初めてやった」

 

「ええー……何よそれ、噂と全然違うじゃない」

 

受け答えを重ねるごとにサキの表情が落胆に変わっていく。

 

「そのリアクションにももう慣れたよ」

 

「全く人騒がせな転校生ね」

 

サキがやれやれと肩をすくめて言う。

 

「オレのせいなの?」

 

「あなたが転校して来なきゃ噂も流れなかったんだから、そうでしょ」

 

「違うと思うなあ……で、オレは朝から待ってるけど、それがどうしたの?」

 

「あ、そうだった」

 

話を戻してやると、思い出した様子でサキが本題を話し始めた。

 

「そんなに長い時間いないなら、多分、隣町のセレクト隊に行ったんだと思うから、夜まで戻ってこないわよ」

 

「夜か……門限に引っかかりそうだなあ。帰ろうかな」

 

「わたしも他に用事があるから待ってはいられないわね。出ましょうか」

 

二人して外に出ると、サキは自動ドアのそばにある鍵穴に鍵を差し込んで回した。

 

「なんでセレクト隊の鍵なんて持ってんの?」

 

「おじいちゃんの将棋友達がここの人なのよ。今日来たのもその人に言付け」

 

「だからって鍵渡していいとは思えないけど……」

 

コンプラコンプラ。

謎の呪文を心中で唱えていると、お婆さんがこちらに歩いてきた。両手に未開封のティンペットを抱えたまま、鍵を閉められたセレクト隊支部を一瞥し、こちらに質問してきた。

 

「今日はもうセレクト隊は店じまいかのう?」

 

「セレクト隊に何かご用ですか?」

 

と返すのはサキ。道場の娘だからなのか、ここに何度も通っているからなのか、対応に慣れている様子だ。

 

「うちの孫にティンペットを買ってやったんじゃが、もう9つ持っていたそうなんじゃ」

 

「じゃあもう持てないわね」

 

メダロッチ1つにつき、ペアリングできるティンペットは男女合計で9つまで。

パーツやメダルは結構な数登録できるのに対しなぜティンペットだけ9つまでなのかというと、パーツの場合転送するとストレージの中で適当に山積みにされるのだが、ティンペットはパーツやメダルをつけた状態で1体ずつスペースを取って配置するシステムで、ストレージの圧迫を抑制する必要があるから、らしい。

 

「捨てるのは勿体ないしの。孫の代わりに、これを貰ってくれる子が誰ぞいるじゃろうと思って、セレクト隊に預けに来たんじゃけど……」

 

お婆さんが事情を説明するのを聞いて、サキはこちらを向いた。

 

「ねえコイシマル、貰ってあげなさいよ。昨日初めてロボトルしたってくらいなら、あんまり持ってないんじゃない?」

 

「ていうか自前のは1体も持ってないよ」

 

オレがサキに返すのを聞いて、お婆さんが驚いた。

 

「なんじゃと!?そりゃ、今どき珍しい子じゃのう」

 

珍しいのはオレの両親だ。

 

「そういうことなら、これはあんたに貰ってもらおう」

 

お婆さんがこちらまで来て、未開封の男型ティンペット(そういえば、新品を手にするのは初めてだ)を手渡してきた。原作通りだが、超ありがたい。オレはそれを両手で受け取り、一礼した。

 

「ありがとうございます。大切に使います」

 

「うん、うん。よかった、よかった」

 

おばあさんは大層満足した様子で去っていった。

そしてどういうわけか、サキがオレの手の中のティンペットを見つめている。

 

「なんだよ、欲しいのか?」

 

「違うわよ。ティンペットだけあっても仕方ないんじゃないかと思って」

 

サキはメダルケースを取り出した。

 

「特別大サービスよ。わたし、トカゲモドキのメダル、2枚持ってるの。1枚あげる」

 

そう言ってメダルケースを開けようとしたサキに対し、首を横に振る。

 

「え、なんで?」

 

「メダルは足りてる」

 

「あら、そう?ならいいけど」

 

ちょっと残念そうに、サキはメダルケースをしまった。同時にオレはティンペットをメダロッチにペアリングし、転送する。パッケージはセレクト隊支部の脇にあるゴミ箱に捨てた。

 

「じゃ、わたし行くから。また学校でね」

 

サキがバス停のある広場の方へ歩いていく。

 

そしてオレがそれに付いていくと、サキは若干嫌そうな顔で振り返って言った。

 

「……ちょっと、なんで付いてきてるの?」

 

「帰り道こっちだし」

 

「あ、そう」

 

しばらくしてサキの足がバス停で止まり、オレもそこで足を止める。

 

「なんで一緒に止まるのよ」

 

「帰り道こっちだし」

 

「あなたどこに住んでるわけ?」

 

さらに食って掛かってくる。

 

「村はずれだけど」

 

「わざわざ不便なところに引っ越したの?」

 

「オレに言われても知らないよ」

 

「ああ、でも村はずれってことはヤマトくん家に近いのかしら」

 

「家からバス停に行く途中に神社の前を通るけど、なんで?」

 

「別に。今からその神社に用事があるってだけよ」

 

「ヤマトになんか用なの?」

 

「ヤマトくんじゃなくて神社に用事があるの。大会前だから、みんなの代表で絵馬を奉納しに行かなきゃいけないのよ」

 

「何の大会?」

 

「弓道。こう見えて弓道部の部長なんだから」

 

サキは"部長"という言葉を強調しつつ自慢げに言った。

 

「4年生で?」

 

と、疑うそぶりを見せると、サキはむっとした表情で何か反論しようとしたが、そこでちょうどバスが来た。

 

 

……

 

 

どうせ帰り道だからということでサキに付いていくことになり、バスから降りたところで、サキが重そうな手提げ鞄を持っていることに気付いた。部の規模が不明だが、全員分の絵馬が入ってずっしりということだろうか。

 

「それ、持つよ」

 

と、手提げ鞄を指差して言うと、その言葉をどう取ったのか、むっとした表情で言葉を返してくる。

 

「いいわよこのくらい」

 

「いいからいいから。そこそこ歩くし、そっちは帰りもあるだろ」

 

「……ありがとう」

 

サキはオレから横に視線を外して、小さな声で感謝の言葉を口にした。




※アンケ設置予定


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9.ダメロット部部長就任

今更ですが、感想や評価、お気に入りありがとうございます。

二次創作といえどメジャーな作品でないため人の入りはまばらであり、目に留めて下さっている方々(や同様に人気でない作品で二次創作を続けておられる方々、さらに過酷な一次創作をされている方々)には頭が下がる思いです。
アクセス数も含め毎日気にしてます。浅ましい人間です。

(用語集含めてですが)10話続いたので、失踪するつもりで短編にしていたところを連載にします。
だからといって失踪しないなどとは保証しかねますが。

ヤマト戦~執事戦~夜寝るまで を1話にまとめようと思ったのですが、予想外に長くなったので分割しました。後半部分は書いている途中です。
そういうわけなので今回はアンケートがありません。

更新の間が急に開きましたが、今の所まだモチベは枯れてません。あれこれ悩んだり、コロナなご時世に無関係の軽い感染性腸炎にかかったりしていました。

メダロットのコミックスシリーズ新装版が3/23にKindle入りだとか。
紙の本より安く、品薄を気にせず読めるのでぜひどうぞ。


道中で弓道部の話を聞かされたりしつつ、御神木の前までやってくると、その付近を掃除する巫女服の影が一つ。バイト巫女のカナエだ。

 

「こんにちは、カナエさん」

 

「あら、サキちゃんじゃない。この子は?ボーイフレンド?」

 

流れるように笑顔でとんちんかんな質問を繰り出すカナエに、サキは大声で否定した。

 

「違います!!」

 

が、特にカナエさんは表情を変えずリアクションもしないので、続いてオレが自己紹介をする。

 

「オレは昨日近くに引っ越してきたテンサン コイシマルです」

 

「ああ、そういえばそんなこと、ヤマトくんが言ってたわね。ヤマトくんに用事?」

 

カナエさんの問いかけにはサキが答えた。

 

「いえ、絵馬を納めに来たんです」

 

「弓道部の用事だったのね。行ってらっしゃい」

 

 

……

 

 

カナエに見送られ、御神木からさらに境内を歩き、ヤマト宅(神社)の玄関に到着。インターフォンを鳴らすと、出てきたのはヤマトだった。

ヤマトは引き戸をガラッと開けてオレを見て、明るく挨拶してくる。

 

「やあコイシマルくん。一緒にいるのは……サキちゃん?」

 

「絵馬の奉納に来たの。お守りも買いたいから、もう中に入るわね」

 

ヤマトが出てくるのと入れ替わりで、サキが上がり込む。外に面した窓口などはなく、建物の中でその辺の業務もやっているのか。

 

「コイシマルくん、改めて、昨日はありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「あの時訊きそびれたけど、オバケのメダロットをを退治したって、つまりロボトルしたんだよね?」

 

「そうだけど」

 

「初めて会った時、メダルしか持ってないって言ってなかった?」

 

「ティンペットとパーツは拾った。仕方ないから、偶然落ちてたメダロッチを使ったんだ」

 

言いながら腕のメダロッチを指すと、ヤマトが驚く。

 

「これ、この辺で売ってない最新モデルじゃないか!」

 

「今日セレクト隊に届けようと思ったんだけど留守で、仕方なくそのまま帰ってきたわけ」

 

「なるほどね、事情は分かったよ。一つ頼んでもいいかな」

 

「何を?」

 

「ぼくとロボトルして欲しい」

 

「うーん……どうかなあ、どうするルート?」

 

「オイラはいいと思うよ」

 

「やるとしてもパーツのやり取りは無しでね」

 

隣(?)からベーデンが付け加えるが、その前にルートの声を聞いた辺りから、ヤマトが疑問の表情を浮かべていた。

 

「メダルは1枚しか持ってないんじゃなかった?」

 

「メダルも入ってた」

 

「もしかして、出荷状態のを起こしたの?」

 

「持ち主のことを聞こうと思ったらうっかり」

 

「あちゃー……」

 

下を向いて右手で顔を覆うヤマト。

 

「まあそれはそれ、やるなら早くしようぜ。時間かかると門限ヤバそうだから1対1な」

 

「うん。ドーナン転送!」

 

気を取り直し、ヤマトがパートナーの名を呼ぶ。

 

「メダロット転送!」

 

互いの音声入力で、それぞれの隣にメダロットが一体ずつ転送された。

 

ヤマトが転送したドーナンは男・二脚タイプ・ボーイ型メダロット、ハシムコウ。頭部は対空で威力を発揮する撃つ行動「アンチエア」、腕は右が撃つ、左が狙い撃ちの「ライフル」。一見シンプルな構成に思えるが……

 

このハシムコウ、ボーイ(少年)型という子供が親しみやすいモチーフをしていながら、ロボトルにおいてはかなり使いづらい。

 

頭パーツのアンチエアは特に言うことはない、単にちょっと装甲が少ないアンチエアだ。

しかし両腕のライフルは、がむしゃら行動と同様に「貫通」を引き起こすことができる特別仕様……である代わりに、基本性能が低い。充填冷却は速めで手数は多いが、当てても大したダメージにならず、貫通が活きない。それをメダルを並以上に鍛えることで成功を上げて威力を底上げし、更にクリティカルを狙う戦術を組むことで低リスク高火力貫通つきの連続攻撃が成立する、という玄人向けの仕様だ。

その作りは絶対に間違っているし、ヤマトを始め引っかかった子供たちはかわいそうだと心底思う。

 

一方こちらが転送したのはクロトジル一式を装備したルート。少なくとも、現在のドーナンの攻撃はほぼ効かないと言っていい。

つまり……

 

 

……

 

 

ルートがライフル発射。ドーナンもライフル発射。互いが脚部にダメージを蓄積させるがその量は雲泥。

ルートがミサイル発射。ドーナンがライフルで迎撃を試みて失敗。ドーナンの脚部が破壊され、貫通現象で左腕にダメージ。

ルートがライフル発射。ドーナンもライフル発射。互いに回避できずダメージを受けるがドーナンの両腕だけが破壊寸前。

ルートがミサイル発射。ドーナンが左腕で防御。左腕破壊から右腕に貫通して破壊。

もう一度ルートがミサイル発射。ドーナンはなすすべなく頭部を破壊され機能停止。

 

 

……

 

 

「よし、手がたい」

 

「また勝ったー!」

 

ルートがバンザイしながら、無邪気に喜びの声を上げる。

 

射撃戦自体はほぼ互角だがダメージレースは一方的。そんなロボトルだった。

なので、これはひょっとしてヤマト泣くか?と心配してそちらを見やると、ヤマトはむしろ嬉しそうな顔をしていた。

 

「負けたのになんで嬉しそうな顔してるんだ?」

 

「だって今のロボトルではっきりしたからね。ぼくより君が強いって」

 

「へへー、オイラたち強いって」

 

素直に喜ぶルートをストレージに戻しつつ、オレはヤマトにそこまで言われてようやくその表情の理由に思い当たった。

 

「ぼくの代わりにメダロット部の部長になってくれないかな?」

 

原作では部の存続のために嘘泣きまでしたヤマトのことだ。ここで勧誘しない手はないということだろう。

 

「いいよ」

 

「……えっ?何も訊かないの?」

 

即答で安請け合いしたから思わずということだろうか、ヤマトがオレを心配している。

まあ、ここで部長になっておかないと事がスムーズに運ばないというだけの話だが、表向きの理由なら考えてある。

 

「元々ロボトルできるようになったら入る予定だったし。詳しいことは学校で聞けばいいし。部長っても、ちょっと雑用が多いだけだろ?そのくらいいいよ」

 

答えると、ヤマトは少し考えるそぶりを見せた。なんだ?と思ったが、そう時間もかからずにヤマトは右手を差し出した。

 

「うん、ありがとう。よろしくね」

 

無言で握手に応じようとしたところで、玄関の引き戸が開く音がし、見てみればサキが出てきていた。

 

「こっちまで音が聞こえてたけど、ロボトルしながら待ってたわけ?」

 

言い出しっぺのヤマトに任せようとそちらを見ると、オレの反応を見てヤマトが口を開く。

 

「コイシマルくんがロボトルできるようになったって聞いたし、折角だからね」

 

「で、初心者相手に負けちゃったわけね」

 

「別にいいんだよ、コイシマルくんは部長になるって言ってくれたし」

 

涼しい顔で放たれたほとんど中傷の一言に、ヤマトはややむっとした様子で言い返すが、その内容にサキが吹き出してオレの方を見た。まあ、理由は知っているから特に疑問に思ったりはしないが。

 

「ふーん?あんた、あの"ダメロット部"の部長になるんだ?あはははは!大変ねえ。それじゃわたし、そろそろ帰るから」

 

言うだけ言って、サキはさっさと歩き出して行った。

 

「ダメロット部?」

 

知らない風にヤマトに確認すると、

 

「ああ、それは……」

 

ヤマトが話そうとしたところで、開いたままの引き戸からベニが出てきた。

 

「コイシマルのお兄ちゃん!これ、あげます!」

 

ベニが両手で青い箱を差し出す。受け取って確認すると、ロボトルクッキー……ではない、普通のクッキーの箱だ。しょうもない、と思いそうになるが、小学生ならそこそこのプレゼントと言えるか。

 

「ああ、そうだった。昨日のお礼がしたいって、ベニが貰って欲しいってさ」

 

「そういうことなら貰っとくか。ありがとう、ベニちゃん」

 

「うん♪ばいばい」

 

ベニは手を振ってから、ぱたぱたと家の中に入っていった。

 

「お兄ちゃん、ご飯できてるよ」

 

そして一言付け足した。

 

「ごめん、ぼくも帰らなきゃ。メダロット部のこととか、月曜日に話をしよう」

 

「わかった。じゃあな」

 

「うん、またね」

 

ヤマトもベニに続いて家に戻り、オレも自宅に帰ろうと歩き出した。




ドーナン(ヤマトのハシムコウ)の口調を確認しようと漫画を読んだところ、巻き展開なのもあり、台詞が少なくてわかりませんでした。まさか一人称も二人称も三人称も使ってないとは。
なので話し方を勝手に決めて書いています。今後も同様のことが起きます。


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10.お使いサバイバルロボトル

結局後半だけでも長くなってしまいました。

サブタイトルにもルビや傍点を振りたいんですが、確かその機能はないんですよね。残念。


「ただいまー」

 

帰宅してリビングに入ると、母はテーブルに座ってこちらを向いていた。帰りを待っていた風に見える。これまた事情は知っているのでなぜなのかもわかるが……

 

「コイシマル……メダロッチ、届けて来なかったの?」

 

オレの腕を見て複雑な表情で言う。

 

「セレクト隊は留守で夜まで戻ってこないとかなんとかって。また明日行くよ」

 

わけを聞くと、母はほっとしたようだった。

 

「なるほどね。ちょうどいいわ、ちょっとお使いに行ってきてくれない?」

 

「いいよ。何買う?」

 

「あのね、お昼にすすたけ村ニュースを見ていたら、村長さんが新しいルールを発表したの。"ロボトルに勝たないと、村で物を買うことができない"って」

 

詳しく話を聞くと、他に客がいる場合、精算するには他の客とロボトルをして勝つ必要があり、負けたら並び直しということらしい。

 

「ちょうどいいってそういうことか……」

 

メダロットのことを何も知らない母は当然メダロッチすら持っていない。ロボトルなんてできないので、コイシマルが買い物に行かされるという寸法である。

 

「冷蔵庫の中もタイミング悪く空っぽでおかずになるものがないのよ……サバと、お味噌汁に入れるお豆腐もお願い。これお金ね」

 

千円札を手渡された。原作通りに進めばサバはタダになるんだが、どうしようか。

 

「サバと豆腐ね。行ってきます」

 

わかってはいたがしんどい。やっぱり自転車が欲しい……

 

 

……

 

 

再びバスに揺られてすすたけ村中心部へやって来た。帰りのバスが来る時間を考えると、家に着く頃には夜になりそうだ。

 

村長の世紀末ルールが敷かれた今、店という店に人が詰めかけている。オイルショックとか衛生用品不足とかとは違って無能が引き起こした人災というのが頭の痛いところだ。

駅前広場にあるコンビニを見れば、列が外まではみ出していて、人垣で内装も見えないという惨憺たるありさまだ。怪我人が出てないといいが。

 

さて、商店街まで走ろうかと思ったが、流石にそこそこ疲れているので普通に歩いて入った。商店街の中も人が多いが、さっきのコンビニのようにごった返しているというわけではなく、普通に歩いて通れる。あちこちでロボトルが行われているが、既に祭りの後という雰囲気になりつつある。真っ先にターゲットになったから()()()のも早かったのか?

 

サブターゲットの豆腐屋はどうかなと思って遠目に見てみると、"最後のお豆腐はわたしのものよ!"と宣言している女性がいた。原作通り間に合わなかったようだ。下手に関わって時間を食うとサバが危ないので、ここは放っておこう。

 

「お豆腐最後みたいだけど、いいの?」

 

メダロッチから、豆腐を取りに行かないのを不思議がって言うルートの声がする。

 

「横取りしに行って揉めてる間にサバがなくなる方がまずいし」

 

「そんなにどこでも売り切れになるものなの?」

 

「"売り切れが怖いから買い溜めなきゃ"ってみんなが思うと、実際に売り切れになっちゃうんだよ」

 

「普段どおり必要な分だけ買っていれば、普段どおりに買えるのにね」

 

オレの言葉に続けて、ベーデンがため息まじりに付け足して言い、さらに続ける。

 

「とんでもないところに引っ越してきちゃったんじゃないか?」

 

「ここまでパニックになってるってことはこれが初めてなんだろうし、村長の方も何かあったんじゃないかな」

 

まあ実際はこれからオレの手でどうにかするんだが。

 

「何があったらこんなルールを作るのか、理解に苦しむけれど」

 

「そこはオレもそう」

 

雑談していると魚屋にもすぐ着いた。この"うおてる"は4年2組のヒョウモン アサヒの家で、アサヒの父親が店主だ。名前は忘れた。

その店の前から、ついさっき購買権を勝ち取ったであろうおばさんとがっくりした様子のサラリーマンが離れ(目当てのものが品切れになったのだろうか)、次に並んでいたガタイのいい男が一歩前に出た。背も高く肩幅も広く、なんというか顔が四角い。強面だが目つきはむしろ弱気そうに見え、猫背。全体的にフランケンシュタインの怪物って感じの印象を受けるが、一方で服装はスーツに蝶ネクタイだ。サイズあるのかな。

 

「おう!村長さん家の執事さんじゃねえか」

 

「お、お魚、3匹……」

 

執事はたどたどしく指を3本立てて注文するが、3匹と言われて店主は顔をしかめる。

 

「困ったな、もうサバが1匹しか残ってねえよ」

 

「ちょっと待って下さい」

 

執事の横から話しかけると、店主は今度はオレを見て、おや、というような表情を浮かべた。

 

「なんでえ、坊主。見かけねえ顔だな」

 

「そのサバを買いたいのでロボトルさせて下さい」

 

「ようし、いいだろ。ロボトルして買った方に、このサバを売ってやるよ」

 

「そういうわけで、よろしくお願いします」

 

執事の方に向き直り、軽く頭を下げる。

 

「うう……ロボトル、やる。メダロット転送」

 

「メダロット転送」

 

メダロッチの音声入力により、執事のそばにメダロットが転送される。

 

リーダー機、男・戦車・ブルドーザー型メダロットのグランドーザー一式。ボディも黄色くモチーフがわかりやすい。パーツはいずれも設置行動「ファーストエイド」で、トラップを設置する。そいつには、触れた味方メダロットに対し、装甲が0になったパーツを応急修理する効果がある(機能停止したメダロットには効果がない)。重機と言われればパワーや頑丈さをイメージするだけに意外性があって面白い機体だ。

 

後は男・二脚・ゴブリン型メダロットのボロゴブリン。武具を身に着けたゴブリンがモチーフだが、剣は刃こぼれ、盾には矢が刺さっていて、兜には穴が開いているというデザイン。それがなぜかはいろいろ想像できる。パーツは右腕の剣が殴る行動ソード、頭は撃つ行動ガトリング、左腕の盾が守る行動援護だ。リーダーが装甲の高い戦車型だから攻撃に専念してくるだろうが。

 

それが2体。つまり……合計3体だ。

対するオレは2体、ジャングルギボン一式のベーデン(リーダー)とクロトジル一式のルートの2体のみ。

 

「おいおい」

 

と声に出しているのは店主。執事の方は、オレがメダロットを2体しか持っていない……つまり勝てそうであることについて、笑みを浮かべるのではなく、よかった、と安心する様子だった。

 

当たり前だが、ロボトルにおいて数の優位は非常に大きい。普通なら負けるし、同数なら余裕を持って勝てる程度に格上の場合でも手数の差を埋めきれず苦戦を強いられる。

だが、大会でもないロボトルで数の差が出てくることはそうない。遊戯や競技としてのロボトルなら相手に数を合わせないと成立しないからだ。ならなぜ今こうなっているかというと、これが利害の絡んだ、勝つことだけが目的のロボトルだからだ。

 

しかし原作ではちゃんとこちらと同数になるので、内心オレはびっくりした。と同時に、ベーデンを鍛えておいて本当に良かった、とも思った。頼み込むなり"フェアじゃない"と騒ぐなりして2対2に持ち込んでもいいがそんな手間も要らなくなったし、なにより……数が多い分ルートの経験値になる。

 

「大丈夫です、行けます。そうだろベーデン」

 

「もちろん」

 

ベーデンはオレの言葉に迷いなく応える。ルートは数の差にやや戸惑っているようで、相手チームをキョロキョロと見たり、指差してこっちを見たりしている。その視線の意味は"こんなのアリ?"といったところだろうか。

 

「パーツの取り合い、しない」

 

「ありがとうございます。形式上は遊びのロボトルで」

 

互いに距離を開けて向き合い、構える。

 

「ようし、準備はいいな?それじゃ、ロボトルファイト!」

 

店主がレフェリー代わりに試合開始の合図を出した。

 

「ベーデン、2番機に右腕。ルート、横槍は入らないから3番機から目を離すなよ。攻撃は右腕で」

 

「ジロウ、サブロウ、リーダーに攻撃!」

 

先程までもじもじしていた執事だが、ロボトルで指示を出す声は力強い。"うがーっ"とか言いそうな剣幕で、体にも力が入って腕をぶんぶん振っている。

 

「ギハッ」「ギィギギッ」

 

敵味方各機がほぼ同時に動き出す。その中で一番動きが速いのは、当然ベーデンだ。

コンビニで売られている安物のパーツ、男・二脚・テナガザル型のジャングルギボン一式。その名の通り長い前腕をしっかり体の前に構えて、2番機のボロゴブリンに突っ込んでいく。リーダー集中攻撃の指示を受けた2体のボロゴブリンもまた、ベーデンに向かって剣を振り上げて突っ込んでくる。なんだあの声。

リーダー機は指示を受けていないが、頭頂部から薬のカプセルの角張ったような、こぶし大のものを発射している。放物線を描いて飛んでいったそれは落ちて転がった後、カプセルの上下端が赤く点灯した。これは、味方機が効果範囲内に入ったかを感知するためのセンサーが起動したことを示している。まあつまり、一番回復力の高い頭パーツを弾切れまで使うのがいつもの初手ということだろう。

 

「先手!」

 

「ギゲッ」

 

2番機のジロウが間合いまで近づけたぞと斬りつけようとすると、それよりも早くベーデンの右ラリアットが頭部に命中し吹き飛ばす。

 

「ギイ」

 

続けて3番機のサブロウが剣を振るが、ベーデンは攻撃後の姿勢からでも容易く回避。剣が完全に振り抜かれた辺りで、ジロウが地面にぶつかって転がり、メダルが排出されるピーンという音がした。

 

「ジロウ!?」

 

「へえっ!?」

 

執事と店主が揃って驚く。まあ、メダロット2体しか持ってないならロボトルの経験が浅いだろうと踏んで当然だし、そんなメダロッターのメダロットが安物のパーツで頭部を一撃必殺するとは思わないだろう。

オレが得心していると、先の二人につられてかルートまでジロウの方を見て硬直している。これはいけないので、注意を呼びかける。

 

「呆けるなルート、3番機を撃て!チャンスだぞ!」

 

「え、あーっ、ごめん!!」

 

思い出した指示を守ってか、きちんとこちらを振り返ったりはせず、サブロウの方へ向き直りながらこちらへ謝罪しながら撃ち始める。タイミングが遅く盾で防がれ、クリーンヒットとはならない。

 

まあ、既に勝ちが決まっている。執事チームが攻撃をボロゴブリン2体に任せる構成な以上、1体が機能停止した今は逆にベーデン、ルート、サブロウで2対1ということになる。本来は多少の損害を受けてもリーダーのファーストエイドでパーツの機能を復活させるという流れだっただろうが、一気に機能停止になるとそれは成り立たない。ここからサブロウがファーストエイドを拾いつつ粘ったとしても、こちらがパーツを破壊するペースがファーストエイドでの復活ペースを上回る。ないとは思うが万が一リーダー機がメダフォースを溜め始めると何かあるかもしれないが、そうなってもベーデンがどうにかできる。

 

「次!」

 

こちらの指示を待たずに、サブロウと互いに格闘レンジであるベーデンが(ルートの射線を空けて)サブロウに向かって右腕でパンチを繰り出す。サブロウはこれもどうにか盾で受けるが、ルートの射撃と合わせて盾の装甲が0に。さらに、左腕がだらんと垂れ下がる。

 

ジャングルギボンの両腕の機能は"ウェーブ"。触れた際に振動を伝え、パーツやティンペットが持つ自己診断機能を狂わせて運動能力を下げる"束縛"の症状を付与する格闘攻撃。人間でいうと、殴られた場所だけ神経が麻痺するようなものだ。そしてその効果は攻撃の威力に比例する。

サンダーやフリーズの停止症状に比べると止まらない分しょぼいように見えるが、こちらは長続きするのが強み。ベーデンのパンチの威力が高い分、もうこのロボトル中、サブロウは左腕を満足に動かせないだろう。まあ、左腕パーツ自体破壊したのであまり関係ないが……

 

「コイシマル、オイラは!?」

 

「そのまま右腕でどんどん撃て!ベーデンがマークしてるから心配いらない」

 

「わかった!」

 

一旦反撃を諦めた様子で、サブロウが一番近くに設置されたファーストエイドに向かって走り出す。ルートの射撃が当たったり外れたりしているが、この後の結果にはあまり関係ない。

 

「ベーデン、左で行っていいぞ!」

 

「了解」

 

完全に背を向けて逃げているサブロウに対し、あっさり追いついたベーデンが、長い左腕をしならせて振り上げ、振り下ろして前腕を背中に叩きつける。サブロウは地面にうつ伏せに叩きつけられた後右に転がり、機能停止。ダメージがどう入ったかは……確認しなくてもいいか。

 

「どうです、まだ続けますか?」

 

「…………降参」

 

やや遠くにいる執事に向かって声をかけると、届いているとは言いがたい声量で返ってきた。執事は肩を落として、明らかにがっかりした様子である。

 

「ようし、このロボトル、坊主の勝ち!」

 

「……タロウ、戻れ」

 

「ベーデン、ルート、お疲れ。ありがとな」

 

互いにメダロットをストレージに戻す。

 

「坊主が勝ったからあんたにサバは売れねえが、駅前のコンビニの方に行きゃまだ何かあるかもよ」

 

店主が気の毒そうに言い、執事は辛そうに俯いて、その場を立ち去ろうとした。

 

「執事さん、ちょっと待ってください」

 

呼び止めつつ鞄から青い箱を取り出し、差し出す。

 

「村長さんのお使いができなかったから怒られるのかもしれませんけど、あんまり気を落とさないでください。村長の言う通りロボトルして負けたんですから、しょうがないですよ」

 

「……ありがとう」

 

大きくごつごつした、メダロッチが小さく見える手でクッキーの箱を受取ると、口元を緩めて礼を言い、執事は今度こそ立ち去った。

 

「ベニちゃんに貰ったクッキーでしょ?あげちゃってよかったの?」

 

「オレが食べるより有効に使ったからいいの」

 

「えー」

 

「ルートもその内わかるよ」

 

改めてサバを買おうと店主の方を見ると、感心したようにオレを見ていた。

 

「坊主、若えのにえらいじゃねえか。うちのバカ息子とえれえ違いだ」

 

「ありがとうございます」

 

「母ちゃんの使いかい?」

 

「そうです、親は両方メダロット持ってないどころか何も知らないくらいで」

 

「へえーっ、今どき珍しい人もいるもんだな。ほらよ、サバだ」

 

店主がパックに入ったサバを更にビニール袋に入れ、こちらに手渡す。

 

「いくらですか?」

 

「いらねえよ。売れ残りの品だ、坊主にくれてやるよ」

 

「取り合いになったものは売れ残りとは言わないんじゃないですか?」

 

「いいっていいって、黙って取っときな」

 

「それなら、いただきます。ありがとうございます」

 

礼はきちんと頭を下げて言っておく。

 

「おう、もう暗くなるから、坊主も早く帰れよ」

 

店主は店の奥(家の表部分が店になってるから、つまり家)の方へ去っていった。

……さて、バスを待つか。

 

 

……

 

 

「ただいまー、豆腐なかったからサバだけ買ってきた」

 

玄関から家の中に向かって声をかけ、リビングに入ると、母が自室から出てきた。

 

「おかえりなさい。なかったならしょうがないわね」

 

「サバもタダでくれたから千円そのまま残った」

 

サバと千円札を手渡し、流し台で手を洗う。

 

「あら、どうして?」

 

「知らない。お使いえらいねみたいなことは言ってたけど」

 

「そう。折角だし、そのままお小遣いにしていいわよ」

 

母はサバのパックを開けた後、手を拭き終わったのを見て千円札を差し出してきた。

 

「いいの?ありがとう」

 

「さあ、ご飯にしましょう」

 

焼きサバと具なし味噌汁か。まあ、カレーと味噌汁は具なしでもうまいからな。

……今頃タマヤス家では晩飯が塩握りに決定してる頃かね。

 

味噌汁の温め直しとサバを焼くだけなので、すぐにできた。

揃って食卓につき、いただきますを言って食べ始める。

 

「でもどうしようかしらね」

 

「何が?」

 

「メダロッチを返したら買い物ができなくなるでしょう?」

 

「余分に買っちゃったって人がティンペットをくれたから、一応なんとかなるよ」

 

「そうなの?よかったわね、コイシマル」

 

ティンペットを貰えてさぞ嬉しいだろうと思っているということだろうか。

 

「うん。まあ、でも明日には取り消してると思うよ、このルール」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「一日だけでもパニックになるようなこと続けてられないだろうし、村長がやめようと思わなくても村の人達が黙ってないでしょ」

 

「なるほど。コイシマルは賢いわね」

 

純粋に賢い子供として褒められるのがむず痒い。

それはともかく、いつもより余計に動いて腹が減ったのもあり、すぐに食い終わった。

 

「ごちそうさまでした」

 

 

……

 

 

夜。明かりを消した部屋、布団の中で、明日の重要事項を反芻する。

 

ルートを譲ってもらうために、タクシー運転手のシゲオの口添えが必要だが、肥溜めイベントをスキップしたためまだ会っていない。その分をカバーしなければならない。それに成功したら、今度はメダロット研究所の研究員シゲユキとの交渉だ。ルートを失うことだけはなんとしても避けなければならない。

 

後は……出くわす確証がないが、バスから湧いてくるオバケメダロットを処理する必要がある。

やり方次第でせいどう関係の目撃者に与える印象が変わってくるだろうが、どうしようか……

 




※アンケート設置予定

「タロウ」「ジロウ」「サブロウ」は漫画版の執事のメダロットたちの名前で、謎の奇声もそのままです。暴走してるわけでもないのになんなんでしょうねあの声。
あと漫画だとオメダ1体VS執事チーム3体なんですよね。アンフェアにも程があるんですが、あっちの執事はやなやつっぽくなっててアンフェアさに説得力があります。嬉しくない説得力。


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11.大きな謎の木の上で

この後ベニがクローズアップされるイベントはなかった記憶。

2020/03/26 プレスとブレイクを間違えて描写していたので戦闘シーン修正


翌朝。

ぐっすり眠ると昨日の疲れもすっかり取れていて、前世との差をしみじみと実感する。

自室で出かける支度をしてから一階に降りると母の気配はなく、リビングのテーブルに書き置きがあった。母の字だ。

ルートに読み上げるように促されたので、声に出して読む。

 

「"コイシマルへ ママは今からパパに着替えを持っていきます 冷ぞうこにおにぎりが入っています たべてください あと、となり町のメダロデパートでトマトの種を買ってきてください"だって」

 

実のところ書き置きにはまだ続きがあったが、読み上げないままゴミ箱に捨てた。父が持ってきたメダルが使えないというわけではないが、手持ちに入れたいメダルでもない。

 

「コイシマルのパパは何してるの?」

 

「古生物学者。昔の動物や植物について調べる仕事だよ」

 

ルートの質問に、オレより先にベーデンが答える。

 

「へーっ、面白そう」

 

「元々お父さんの恐竜好きがきっかけで始めた仕事だから、ほとんど恐竜の研究ばっかりやってるけどね」

 

補足しつつ書き置きの下にあった五百円玉(トマトの種代)を財布に入れて冷蔵庫を開けると、確かに三角おにぎりが3つ入っていた。1つは昼飯にしよう。前世で詳細不明だった茶碗蒸しシェイクもしっかりある。この家庭のこいつはだし巻き卵のかなり甘めな具合の味付けで、冷めていても結構うまい。

 

一人テーブルに着いて食事を済ませ、鞄におにぎり1つ入れて家を出た。

 

 

……

 

 

停留所へ向かう途中、日曜日だというのに、神社の前にヤマトが立ってきょろきょろしていた。

 

「おはよう」

 

「おはよう、コイシマルくん」

 

「何してんの?」

 

「ベニを探してるんだ。これから歯医者に行かなきゃいけないのに、どこに行ったんだろう?」

 

日曜の朝っぱらから遠くに行ったということはないだろう。という認識が共通しているのか、ヤマトにも焦る様子は特にない。

 

「手伝うよ」

 

「ありがとう。じゃあ、ぼくはもう一度家の中を探すよ」

 

「ああ、お前ん家広いもんな……なら、オレは境内のこっち側見てみる」

 

一般家庭では人を家の中で探すなんてことまずないが、こいつは住居だけでもデカい。流石は神社の子。

 

「うん、頼むよ」

 

言うとすぐに小走りで奥へ向かっていった。その姿を見送りながら、オレはゆっくり歩いて進む。

どこにいるかも知っていることだし。

 

 

……

 

 

「えーん、えーん……」

 

ちょっとぶりに例の御神木の近くまでやってくると、木の上からかすかにベニの泣き声が聞こえた。

 

「上か」

 

「ベニが一人で登ったとは思えないけど」

 

「何にせよ危なそうだな」

 

状況を不審に思うベーデンに適当に返しつつ、木の中へ入る。

 

内壁のツタを登って外に出てみれば、踏み鳴らされた枝の道の半ばで、上に向かってはしごがかけられていた。

 

「コイシマル、前はあんなのなかったよ!」

 

「あの上だろうけど……大丈夫かなこれ」

 

近づいてよく観察すると、はしごは工事で屋根に上がるのに使うような、アルミ製で伸縮するタイプ。高さは……3メートルくらいか?今立ってる場所が既に結構な高所だから怖い。下側を踏んで支えて使えば安全だが……と思ったが、下側はビスを打ち込んで固定する器具がついている。これなら一人で上り下りしても大丈夫か。

 

慎重にはしごを上る。やはり怖いが、正しい使い方をすれば不穏な揺れ方をすることもなく、無事上り切れた。

 

「大丈夫?」

 

「ありがとう、ベーデン。でもこれだとベニちゃんの帰る時が心配だな」

 

そしてまた下とは別にいくつもある大木のような枝の上を歩き始めたが、進めば別なはしごがかけられているのが見えてくる。それもいくつも。イトはどこに金と手間を使ってるんだ……

 

 

……

 

 

信じられないことに木の一本がちょっとしたダンジョンだ。はしごを数回上り下りしつつ進み、視界の上側の枝葉の中から謎の巨大な鳥の巣(木の枝でできている)が覗いたところで、またベニの声が聞こえてくる。急いでさらにはしごを上って鳥の巣の()()から顔を出せば、その全容が見えた。

 

「えーん、返してよー!ベニのメダロッチ返してー!」」

 

内部の広さは学校の教室くらいか。太い木の枝でできた籠だが、より細い枝が詰まっている。一番奥には、これまた謎の巨大な、高さ1メートルほどの卵がいくつか置かれている。巨大な怪鳥はいないが、ベニと、オバケメダロットが3体。以前は4体いたが、これ以降は3体セットだ。

ベニは自身を取り囲むメダロットたちに向かって泣き叫んでいるが、そいつらは泣き止ませるでもなく尋問をしていた。

 

「先に、おれたちのメダロッチを返すだぞ~。メダルも、ティンペットも、パーツも、返すだぞ~」

 

「そうよ!お前のせいで、マスターに怒られたのよん。最近口も利いてくれないのよん」

 

「ベニのせいじゃないです!ベニは取ってないですぅ!」」

 

怒りを程よく抑え、すーっと息を吸う。

 

「おはようございまああーーす!」」

 

そして放った。オバケメダロットたちはびくりと驚く(ベニも驚いたのは、ちょっと悪いことをした)。そのまま()()から飛び降りる。

 

「お、お前は、あの時のこぞうに違いないだぞ~」

 

近づくオレを腕で指して、オバケメダロットの一体が言う。

 

「"寄ってたかって小さい子を苛めろ"ってマスターに命令されたとでも言うのか?恥知らずども」

 

「ボウゾウ!こいつのメダロッチを見てよん」

 

「あーっ!それはおれたちのメダロッチ!!」

 

「バカを言え、こいつはこれからセレクト隊に届けるんだ」

 

「それは困るのよ~ん」

 

ベニを囲んでいたオバケメダロットたちが、今度はオレを囲もうとする。メダロットにはメダロット三原則があるが、怪我をさせない範囲なら、人間から持ち物を奪うことも可能だ。

 

「メダロット転送!」

 

クロトジル一式のルート、ジャングルギボン一式から右腕だけチェネッツに差し替えたベーデンがオレを守るようにして現れる。

 

「リベンジの機会をやるよ。真剣ロボトルだ」

 

「さっきから偉そうにしてるくせに、数の違いもわからないのかだぞ~?」

 

「これでもハンデが足りないくらいだよ」

 

「ボウゾウ、こいつが調子に乗ってるうちに合意しちゃうのよん」」

 

「合意と見てよろしいですね!?」

 

唐突かつ自然に、ここにいないはずの若い男の声が頭上から響く。そして以前と同じように、ロボトル協会公認レフェリー・カバシラが鳥の巣に降り立った。

 

「コイシマル、大丈夫?」

 

「全く問題ない。あ、ベニちゃん、そっちの卵の方でじっとしてて」

 

「わ、わかりました」

 

ずっと泣いていて疲れたのか、体が固まっていたのか、ベニはおぼつかない足取りで鳥の巣の端へ歩いていった。

誰も異議を唱えないのを確認し、カバシラがもう一度口を開く。

 

「ではこれより、コイシマルチームとボウゾウチームのロボトルを開始いたします」

 

こちらのリーダー機はルート、あちらのリーダー機はボウゾウと呼ばれた個体。あちらの構成はチェネッツ純正が3体。特に差はない。手の内も読める。

 

「ロボトルー……ファイッ!!」

 

カバシラが腕を高く上げて溜め、振り下ろして合図を出した。

 

「ルート、2番機に注目!ベーデンは3番機をマーク!」

 

そして同時に両チームスタート。

 

敵は3機が同時に右腕を上げて射撃を開始……しようとするが、こちらが早い。ベーデンが3番機の至近距離まで走り寄り、同じチェネッツの右腕から発砲。発射された青いエネルギー弾が3番機に直撃。青い重力フィールドの中でオバケが無防備に中を舞い、白い布をはためかせた後、放り出されて右腕から落ちる。受け身も取れぬ状態で落下の衝撃をもろに受けた右腕パーツは装甲が0になった。

遅れてボウゾウとインフィスが充填を終え射撃、ライフルに比べると遅い弾速のプレスが横並びに2発発射された。

 

「ルート、右腕で弾の方を狙ってみろ。ベーデンはそのまま追撃」

 

「やってみる!」

 

「了解」

 

ルートが右腕をまっすぐ前に伸ばして構え、ライフルを発射。当たらなかった弾丸が鳥の巣の壁にぶつかる音が数回し、その間もプレス弾は近づくが、ここでやっと1発が空中で爆ぜた。その重力フィールド発生に反応してもう1発が誘爆。青いフィールド2つが何もないところに現れて、そして消える。

 

「やった!うわっ、と、と」

 

それなりに近づいてきていただけあり、範囲内だったルートは引き寄せられてよろけるが、ダメージは微々たるものだ。この攻防をよそに、鈍くも大きい音とメダル排出音がベーデンの方から響いた。

 

「これで2対2。ベーデン、その位置からはプレスが見えたら迎撃で援護してくれ」

 

「な、何があったんだぞ~!?」

 

「ルート、よそ見してるやつは撃っていいからな」

 

「はーい!」

 

今度は左腕を構え、景気よくガトリングを発射。ボウゾウの脚部にダメージ。

 

「うわわあ~」

 

「ちょっと、攻撃止めちゃダメでしょ!」

 

インフィスがルートに向かって頭部からガトリング発射。ルートはそれを左腕で受ける。そこそこのダメージ。

 

「いい判断だ!ミサイルで反撃!」

 

「行けっ!」

 

「げ、迎撃!」

 

ボウゾウが頭部のガトリングでミサイル迎撃を試みるが、失敗。もう一度脚部にダメージを受ける。

 

「こうなったら集中攻撃よん!」

 

「わかっただぞ~!」

 

ボウゾウがルートに向き直る。インフィスとガトリングの集中砲火か?

 

「ベーデン、2番の脚部」

 

「だと思ってた」

 

じっと待機していたベーデンが飛び出してインフィスの背後へ。その勢いを乗せた左腕を腰の辺りに叩きつけ、走り抜ける。

 

「ぎゃあっ!」

 

と声を上げつつインフィスは地面に転がされ、脚部パーツは装甲が0になった。

 

「ルート、左腕で2番追撃!ベーデンは待機で」

 

「えーい!」

 

転がされたままガトリングを浴び、全身にダメージが蓄積していく。

 

「や、やめろだぞ~!!」

 

ボウゾウが頭からガトリングを発射しようと構える。

 

「ベーデン押せ!」

 

構えたところを横から押され、宙に浮いたままくるりと横向きになり、あらぬ方向へ弾がばらまかれる。そしてその方向はインフィスが倒れている方向でもあった。無防備状態で味方の追撃を受け、インフィスの頭パーツが破壊。機能停止した。

 

「ああ!こんなつもりじゃなかったのに、だぞ~!」

 

「今回も降参は許さないからな。ルート、撃て!」

 

「オッケー!」

 

 

……

 

 

1対1。ルートはボウゾウの放つプレスの重力フィールドに引っ張られたりガトリングを浴びたりしながら、自らもまたボウゾウにライフルとガトリングを浴びせかける。発砲音と着弾音が繰り返す。

 

「このこのー!」

 

「うわあーっ!」

 

「まだまだー!」

 

「ひいーっ!」

 

やがてボウゾウは機能停止した。

 

「勝者、コイシマル!」

 

「やったー!」

 

バンザイをするルートと、勝てて当然という様子で一息つくベーデンだった。

 

 

……

 

 

カバシラはメダルを再装着して、またどこへともなく去っていった。

オレの手にはボウゾウの脚部パーツがあり、オレの前には脚部だけティンペットを晒しているボウゾウと、他2体がいる。

 

「お、覚えてろだぞ~」

 

ボウゾウは他2体に引っ張られる形で、御神木から飛び去っていった。



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12.審判

試しに実機でティンペット2つのままシゲユキ戦行ったら2対2になりました。優しい。
そしてミチオの一人称も"おれ"と"オレ"が混じっていました。ここでは"おれ"に統一します。

話は進んでないのにそれなりに文字数を食っている。シゲユキ戦は次回です。
こんなことになるならもうちょっと近い出来事のアンケートにすればよかった。せいどう学院前オバケ戦まで遠い。


オバケメダロットがいなくなった後、鳥の巣の中を探すとメダロッチが一つ見つかった。

福引券やパーツは見当たらなかった。御神木の最初の宝箱もそうだが、無造作にアイテムの入った箱が転がっていることはないらしいというのがゲームとの大きな相違点だ。はしご地帯にも女型ティンペットの入った箱はなく、このままシゲユキ戦に挑むことになる。この場合2対3になるんだろうか?

 

「これ、ベニちゃんのメダロッチで合ってる?」

 

「はいです!」

 

差し出して訊くと、ベニは満面の笑みで答えたのでそのまま渡す。

さっきまで泣いていたのが嘘みたいに元気になったが、目元には涙の跡が残っているのが目につき、オレは中腰になって左手でベニの肩を持ち、右手に自分のハンカチを持って跡を軽くこすった。

 

「よし、きれいになった」

 

「ありがとうございます♪」

 

「ところで、ベニちゃん自分でここまで来たの?」

 

「ううん。さっきのオバケたちに運ばれました」

 

前世からの疑問をぶつけてみると、そこそこ納得のいく答えが返ってきた。風船を取りにいけなかったのに自分の力で木の上に隠れたとすると矛盾している、という件だ。

しかしそうなると、オバケメダロットたちはベニがメダロッチを持っていると思って木の上に連れ込み、囲んで尋問していたということか。マスターに比べればコミカルな連中だと思っていたのだが、もう少し警戒した方がよさそうだ。

 

「じゃあ自力では降りられないか……ベーデン、任せていいか?」

 

「お安い御用」

 

「メダロット転送」

 

脚部パーツをチェネッツのもの(つまり浮遊タイプ)に変更し、ベーデンを転送する。

 

「ベニちゃん、しっかり掴まって、目をつぶっていて。なるべく怖くないように」

 

ベニはオレの指示に黙って頷いて目を閉じた。それからベーデンはベニを丁寧に抱きかかえ、ゆっくりと上昇して鳥の巣の外へ出てから、下降して見えなくなった。

 

「コイシマルはどうするの?」

 

「ここまでの道を自力で戻るしかないな」

 

 

……

 

 

慎重にはしごを上り下りして無事に地上まで降り、御神木の外へ出ると、ヤマトとベニが揃って待っていた。兄妹揃って泣いたりはしていない辺り、ベニと一緒に降りたベーデンがうまく説明したのだろうか。

 

「コイシマルくん、本当にありがとう。また助けられちゃったね」

 

「それはいいんだけど、歯医者の時間大丈夫なのか?」

 

笑顔で礼を言うヤマトにそう返すと、ベニの方が逃げようとし、ベーデンがその手を掴んだ。

 

「ベニ!ちゃんと虫歯治しに行かないと、また歯が痛くなるぞ!今度歯が痛くなっても、兄ちゃんもう知らないぞ」

 

手を掴まれたままヤマトに叱られ、ベニはしょんぼりした様子ながら落ち着いたようだった。

 

「今どきの歯医者は麻酔の前の麻酔をかけるから全然痛くないぞ。今は怖いかもしれないが、やればなんてことない」

 

「本当ですか?」

 

「ウソじゃないよ。まして小さい子だしな」

 

一応フォローはしたが、ベニの表情はあまり変わらない。

 

「コイシマルくんにまで心配をかけてごめんよ」

 

「オレも出かけるし、停留所まで一緒に行くか」

 

「いや、ぼくたちは神社の外から車なんだ。そろそろ行かないと親がこっちまで来ちゃうかも」

 

「そっか。じゃあまた明日な」

 

「うん、また明日。行くぞベニ」

 

「コイシマルのお兄ちゃん、またね」

 

二人は小走りで外へ走っていった。

 

 

……

 

 

停留所まで歩いて来たが、時刻表を見るとバスの時間は先のようだった。

だが、今回できればバスには乗りたくないので、ベーデンたちに言い訳して見逃す手間も省けてよかった。

 

オレは停留所付近に誰もいないことを確認してから、ルートをクロトジル一式装備、ベーデンをジャングルギボン一式にチェネッツ右腕装備で転送した。

 

「あれ?なんで転送したの?」

 

「バス待ってる間にちょっと練習しようと思って」

 

ベーデンが何もないところに向けてプレスを撃ち、重力フィールドが発生する前にルートがライフルとガトリングで破壊する、という迎撃の練習を思いついたので、やってみようと思った。という風にベーデンたちに説明したが、本当の目的は別にある。

 

「わかった、やってみよう」

 

「よーし、特訓だ!」

 

実戦でない練習が初めてのルートはワクワクした様子で、ベーデンはいつも通りの様子で、それぞれ取り組み始めた。

 

 

……

 

 

プレス発射、ライフル発射、命中してプレスのエネルギー弾が霧散。もう一度プレス発射、ガトリング発射、命中して霧散。

 

「あっ上!」

 

不意にベーデンが真上にプレスを発射し、ルートの反応が遅れるが、右腕を構えて撃ち、重力フィールド発生前に命中して霧散。

 

「やった!」

 

ルートが声を上げて喜び、ベーデンは……特にリアクションしていないが、多分喜んでいるだろう。

 

そんなこんなでオレも適宜指示を出したりルートの邪魔をしたりしながら、停留所脇で迎撃の練習をすることおよそ二十分。不意に、舗装されていない車道の先からエンジン音が聞こえ、そちらを見ると、バスではなくタクシーがやって来ていた。流石に運転手までは見えないが、田舎だし恐らく当たりだろう。オレはなんでもない風を装って、ルートとベーデンの練習の監督を再開しつつ、腕に巻いたメダロッチ(2つのうち1つは最新型)が車道側からよく見える位置に立った。

誰も呼んでいないのに、タクシーがオレの傍に停まり、運転席から制服を着た若い運転手の男が焦りの表情を浮かべて駆け寄ってきた。

 

「君!ちょっといいか」

 

「はい、なんでしょうか」

 

案の定その男はオレに声をかけてきた。十数歩ほど離れた位置で練習していたベーデンとルートは何があったのかとこちらを見ている。オレ自身これから訊ねられる内容もわかっているが、厳しい顔をして問われると少し緊張する。

 

「その腕に巻いているメダロッチはどうしたんだ!?」

 

「どうって、落とし物ですよ。これから江戸紫市まで用事があるんで、ついでにそこのセレクト隊に届けますけど」

 

「拾ったって言ったね?どこで拾ったんだい?」

 

「神社です」

 

「メダロッチの中には、あっちにいるメダロットの着けているKBT型のパーツも入っていたのかい?」

 

ベーデンたちのいる方にちらっと視線を向けてから言う。それに気付いたベーデンたちがこちらへ歩いて戻ってくる。

 

「そうですね。KBT型のパーツ一式が入ってました」

 

オレの答えに、男は得心のいった様子でひとり頷いた。

 

「オレ、テンサン コイシマルって言います。もしかしてこのメダロッチの持ち主ですか?」

 

「いや、おれは違う。……ああ、急に済まない。怖がらせちまったかな」

 

男ははっとしてから少しだけ申し訳無さそうな顔をした後、笑顔を浮かべた。

 

「おれはハンミョウジ ミチオ。江戸紫市に用事があるならタダで送ってやるよ。そのメダロッチのことも話さなきゃいけない」

 

「待て」

 

戻ってきたベーデンが会話に割り込む。

 

「コイシマル、タクシーの運転手とはいえ知らない大人に黙って付いていくつもり?」

 

「メダロッチが落とし物だって予測がなきゃそもそも車停めてないでしょ」

 

「オイラも悪い人じゃないと思うな」

 

「ちゃんとした根拠があっての判断ならいいんだ。わかったよ」

 

「じゃ、練習お疲れ」

 

ベーデンが納得した様子なのを確認して(ルートはベーデンの言葉にちょっと不服そうだったが)、二人をストレージに戻す。

 

「というわけで、お願いします」

 

「おう。それにしても最近の子は随分しっかりしてるんだな……」

 

ミチオが車に乗り、後部座席のドアを開く。オレはその後部座席に乗り込んだ。車が動き出す。長くまっすぐな道で、スピードが安定してきた頃、ミチオが口を開いた。

 

「さて、そのメダロッチの話なんだが……少し前、江戸紫市のメダロット研究所に泥棒が入ったんだ。その時、開発中のメダロッチといくつかのパーツ、研究中であったレアメダル1枚が盗まれた」

 

「盗品だったんですか。あれ、じゃあこれは泥棒が落としたってことになるんですかね」

 

「不自然だが、そういうことになるな」

 

 

……

 

 

ミチオには江戸紫市のメダロット研究所で研究員として働いている友人がいて、盗難の件も彼から聞いたらしいことや、その他の雑談をしている内に、田畑が広がる村はずれとは打って変わってデパート等の大きな建物がいくつもあるところへ着いた。すすたけ村から見て隣町である江戸紫市だ。

 

セレクト隊とメダロット研究所が半分ずつ使っているビルの前まで来たところで、ミチオは車を停めてオレに降りるように促した後、離れたところで切り返して戻ってきてから自身も降りた。

ビルは正面入口が二つあり、向かって左側がセレクト隊、右側がメダロット研究所だ。

 

「それじゃ、メダロット研究所へ入ろう。セレクト隊にはおれの友達から届け出て貰えばいいからな」

 

ミチオに連れられて、オレはメダロット研究所に入った。

 

入口の自動ドアをくぐると、ミチオは受付と一言二言話し、すぐにまた歩き出した。友人がいるというよりは、ここの出入りにも慣れているようだった。

1階にはショーケースに入れられたパーツやメダル、壁際に取り付けられた縦向きのカプセルに入れられたメダロットが展示されていて、これまた壁にかけられた液晶モニタにはそれらのメダロットの詳細データが表示されていた。詳細すぎて素人にはあまりわからない内容なので、この展示スペースのターゲットがよくわからない。

エレベーター脇で警備しているセレクト隊員に挨拶して2階に上がると、研究員たちがPCやよくわからない機械に向かって作業をしているフロアに出た。奥へ進むと、1階から連絡が行っていたらしく、白衣の男が1人オレたちを待っていた。笑顔、というよりはニヤニヤ顔といった表情をしている。

 

「こんにちは。テンサン コイシマルです」

 

「こいつはおれの友達でシゲユキって言うんだ」

 

「よろしく、コイシマルくん」

 

なぜか本人ではなくミチオが紹介し、シゲユキもそれをスルーしている。

 

「早速だが、キミが拾ったメダロッチを見せてもらえないかな?」

 

腕からメダロッチを外して渡すと、シゲユキは設定画面から情報を確認し始めた。

 

「どうだシゲユキ、やはりそれは……」

 

「ああ、番号が一致したよ。ここから盗まれた開発中のメダロッチだ」

 

「すいません、さっき話しそびれたんですけど、もしかして盗まれたメダルってカブトだったりしません?」

 

「ん!?……というと?」

 

「中には入ってなかったんですけど、一緒に落ちてたんですよ」

 

「何言ってるのコイシマル!?」

 

予想外だ、という顔をするシゲユキに向かってそう続けると、オレが巻いているメダロッチの中からルートの声がした。そして、シゲユキとミチオは、これがメダロッチの件よりよほど大事なのか(まあそうなんだろう)、大層驚いたようだ。

 

「そ、そのメダルは今どこに?」

 

「今喋ったのがそうです」

 

「ああああコイシマルのバカバカバカバカ~」

 

シゲユキの質問に素直に答えると、ルートが騒ぐ。

 

「……起こしたのか」

 

「持ち主のことを聞こうと思ったんですが、まさか眠ったままとは知らずつい。すみません」

 

「まあ、それは仕方ない。じゃあ、メダルを返してくれるね」

 

「それは……嫌です」

 

「何?」

 

シゲユキの目が険しくなる。

 

すかさずオレは、シゲユキの前で土下座した。

 

「お願いします!ルートを……このメダルをオレに譲って下さい!」

「メダル以外なら持ってるものはなんでも出します!できることならなんでもします!」

「こいつはオレにマスターになって欲しいって言ってくれて、短い間でも一緒に過ごした大切な友達なんです!」

 

ルートを大切な友達と思っているのも本当だが、強力なレアメダルだから欲しいというのも本当だ。

だが、つまりオレは、結局ルートを手放したくないと心の底から思っている。だから本気で請える。

 

「……そうだなぁ……」

 

即土下座に移行して畳み掛けるように嘆願しているオレからは表情が伺えなかったのだが、しばらくしてからシゲユキがそう言うのが聞こえた。

 

「ぼくにロボトルで勝てたら考えてみてもいいよ」

 

顔を上げる。勝った、と思わず思い、笑みがこぼれる。一方でミチオは、その言葉を聞いて気を悪くしたようだった。

 

「なぁ、シゲユキよお、意地悪してやるなよ」

 

「いいんですよミチオさん、オレが何でもって言ったんです。だったら筋は通します」

 

オレがそう言うと、シゲユキは再びニヤニヤ笑いを浮かべ、白衣の袖を引っ張ってメダロッチを露わにした。

 

「ふっふっふ……言っとくけど、ぼく、強いよ」



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13.ダンス・マカブル

誤字報告ありがとうございます。誤字以外にもツッコみどころがあればどんどんお願いします。

見やすいパーツ一覧とかがWebにないので中古攻略本ポチりました。この時代にゲームの攻略本を買うことになるとは思わなかった。

例によってシゲユキ機の名前等は捏造です。一応名前の元はあるんですが、ベーデンとかと違って捻ってるので言わなきゃわからない感じのやつです。気になる方はそのうち出るであろう人物まとめをお待ち下さい。

この次でようやくアンケートが追いつきます。


研究所内では危ないからということで、外でロボトルをすることになった。車がほとんど来ないのをいいことに、オレとシゲユキはビルから出て真ん前の道路で堂々と向かい合っている。ミチオは、ビル入口横に立ってこちらを見守っている。

 

「メダロット転送!」

 

こちらはこれまでに引き続き、ベーデンがジャングルギボンの右腕だけチェネッツ、ルートがクロトジル一式。

 

「おや、2体か。なら合わせようかな、メダロット転送」

 

そしてシゲユキが転送したのは白黒カラーの二脚メダロット2体。

そのシンプルなシルエット、丸みのある頭部から最初はガイコツ型かと思っていたのだが、実際は"逆立ちしたスカンク"がモチーフとなっている、男・二脚・スカンク型のサイゴブ一式だ。

パーツ名も"テールヘッド"、"レッグハンド"、"レッグアーム"、"ヘッドレッグ"と、上下逆転していることを示している。丸い頭パーツは縦に丸めた尾であるわけだ。

 

「いいんですか?」

 

「アンフェアな勝負じゃつまらないからね」

 

「ありがとうございます」

 

「双方合意と見てよろしいですね!?」

 

自然な流れで会話に割り込む声が横からしたと思えば、スーツに蝶ネクタイの男がビルから出てきた。カバシラである。いつからそこにいたのかという疑問を口にする間もなく、カバシラはオレとシゲユキの様子を確認すると腕を振り上げる。

 

「ロボトルー……ファイッ!!」

 

合図と同時に両チームスタート。

 

「ベーデン、ルート、右では受けるな!距離を取って射撃!」

 

「アルド、ティモシー、2番機をマークで」

 

「ついて来いアルド!」

 

「はしゃぎすぎるなよティム」

 

ベーデンとルートが指示通り後退しながら射撃パーツで攻撃、敵は揃って突っ込んでくるが、2番機のアルドが先行する形であり、自分の左腕パーツを破壊されながらも、リーダーにダメージを届かせない。

 

「先手は譲ったが、これでイーブンだ!」

 

追いついたティモシーが、卓球ラケットのような形をした右腕でルートを打ちにかかり、ルートはそれを左腕でガード。特段高威力に見えない攻撃だが、ガードした左腕が一撃で破壊されて煙を吹いた。

 

「うわあっ!?」

 

これがデストロイ。パーツ冷却中のメダロットにその一撃で以て触れた場合、触れられたパーツはスラフシステムを暴走させられて自壊するという、文字通り必殺の一撃。

 

「両腕を潰させてもらう!」

 

さらに後続のアルドがティモシーの横をすり抜けて現れ、右腕のデストロイでルートを狙う。左腕を破壊されて怯み、ルートは回避できそうにない。だから、ベーデンが動く。

 

「ルート、伏せろ!」

 

右腕からプレス発射。狙いは先に右腕を振り切ったティモシー。反応が間に合わなかったのか、青いエネルギー弾はその頭部に直撃。

 

「うわっ……うおおおお!?がっ」

 

「くっ!?」

 

「わわわ」

 

重力フィールドの中でティモシーは空中で頭部を中心に回転し始め、その後投げ出されて頭から地面に叩きつけられた。近くにいたルートもフィールドに巻き込まれ、慌ててしゃがむ。そのルートに殴りかかろうとしていたアルドもまた、攻撃を中断して地面に踏ん張る。

 

重力フィールドが消滅すると同時に、ルートとアルドから離れた位置でティモシーのメダルが排出された。

 

デストロイは敵メダロットに触れるだけでパーツを破壊できるが、その機能を実現するためにそのパーツ自体はもちろん使用するメダロットへ強いる負担が大きく、リスクの少ない行動のパーツとして作ることができなかった。サイゴブのデストロイはがむしゃら行動であり、一度使えば冷却時間中は指一本動かせなくなってしまう。

それ故に、無防備な相手に力を発揮する重力系の射撃パーツは天敵となる。

 

「一発アウト……重力とはいえ威力の低いパーツだから大丈夫だろうと思ったんだけど、そこで頭に当ててくるかあ」

 

頭をかくシゲユキ。実際その言の通り、チェネッツの右腕、というか両腕は重力系の中でも低威力なので、脚部パーツへの命中だと怪しい。まあ、鍛えているベーデンの場合は普通に破壊できるが。

 

「よし、降参しよう」

 

「何故だシゲユキ!?私はまだやれる!」

 

「デストロイしかないんじゃ無理だし、パーツを壊したといっても2対1じゃねえ」

 

アルドの抗議を受けつつも、シゲユキはなんでもないように降参を宣言する。

 

「え?降参?」

 

「そ、降参。お前たちの勝ち」

 

目が点になっているルートにシゲユキがそう伝えるが、ルートは喜ぶでもなくしゃがんだ姿勢のまま固まっている。大事な一戦なのに相手があっさり降参したから、頭が追いついていないのか。

シゲユキに続行の意思がないとわかってアルドも戦闘態勢を解き、ロボトルの進行が完全に停止した。カバシラはそれを認めると、役目を果たすべく口を開いた。

 

「シゲユキ降参により、勝者、コイシマル!」

 

 

……

 

 

ロボトルが終わった後、話があるからと言われ、研究所2階にあるシゲユキの席まで連れられ、そしてその話とはルートの処遇のことだった。

 

「きみになら、そのメダルを託してもいいだろう。まあ、ちょうど育ててくれるモニターを探していた所だしね」

 

「ハンミョウジさんが言ってた意地悪ってそういうことですか」

 

「ああ。まあ、シゲユキがロボトルが強いってことも含めてだったんだが、デストロイのパーツしか使わなかったしちゃんと考えてあったみたいでよかったよ」

 

「あのね、カブトのレアメダルは世界でも数枚しか発見されていない貴重なものなんだ。簡単には決められないだろ」

 

ミチオの言い方が気に入らなかったのか、シゲユキは呆れたように言う。

 

「そうすると、そんな貴重なメダル、貸し出す形でもなく貰っちゃって大丈夫なんですか?」

 

「いいよ。ただ、時々データは取らせてもらうよ」

 

「オイラはモルモットじゃないやい!」

 

「ごめんごめん。じゃあコイシマルくん、ここに名前とか書いてね」

 

研究所に取り上げられる心配がなくなったからか、ルートもすっかり調子を取り戻したようだ。

正式にカブトメダルのモニタとして登録するための書類を渡され、個人情報を記入して返すと、シゲユキは思いついたように口を開く。

 

「ああそうだ、そのメダロッチもあげるよ。どうせもうすぐ一般販売されるモデルだし」

 

「え、いいんですか?」

 

「まあ、モニタリング付属の支給品だとでも思って受け取っといてよ。研究所に置いといても廃棄されちゃうだけだしね」

 

「そういうことならいただきます。ありがとうございます」

 

「よかったな、コイシマルくん」

 

「はい。これで肩の荷が下りました」

 

「ところで確認なんだが、入っていたパーツはKBT型一式だけだったのか?」

 

「そうですけど」

 

ミチオの質問に答えると、ミチオとシゲユキが顔を見合わせた。

 

「ということはシゲユキ……」

 

「やはり、トルマリンとカイゼリンのパーツは泥棒の方が持っているだろう」

 

「カイゼリン?」

 

「コイシマルくんは気にしなくていいよ。盗まれた物を見つけるのはセレクト隊の仕事だ」

 

ゲームにない言葉が出てきて思わずオウム返しするが、逆にシゲユキはゲーム通りの台詞でこちらの詮索をかわす。

 

「いや、盗品云々とかじゃなくて、どんなパーツなのかなあと思って」

 

「発売前のパーツのことだから、どのみち部外者には教えられないよ。残念だったね」

 

本来はトルマリン型メダロットのパーツも一緒に盗まれたという話で、カイゼリンという言葉は出てこなかった。というか、メダロットシリーズにそんな単語が出てきたことはないはずで、オレはどうしても気になったが、シゲユキにそう言われては追求できそうにもなかった。

 

「そうだ、メダルを2枚しか持っていないようだから、こいつもきみに育ててもらおうかな。ついでというわけじゃないけど、メダルは多い方がいいからね」

 

シゲユキはそう言いながらメダルケースを取り出し、その中からクマノミメダルをオレに差し出したが、オレは首を横に振った。

 

「いえ、メダルは遠慮します」

 

「どうしてだい?」

 

「ルートは特別事情がありましたけど、自分が面倒を見るメダルのことは自分で決めたいんです」

 

「そっか。なら、ティンペットなら受け取ってくれるかな?」

 

「どうして初対面のオレにそこまでしてくれるんですか?」

 

「研究員じゃなく個人として、これからメダロッターとして頑張るきみを応援したくてね。ダメかい?」

 

「ダメじゃないですけど、なんていうか意外でした」

 

「ははは、たまに言われるよ」

 

シゲユキが自分の席の機械を何やら操作すると、少し遠くからパチパチというような音が聞こえた。

 

「部屋の奥の壁にティンペットの入ったケースがある。男型と女型、好きな方を取りたまえ。横のパネルを押せばケースが開くからね」

 

そう言われて部屋の奥へ行くと、1階でメダロットが入っていた円柱形のケースが2つあり、それぞれにティンペットが1つずつ入っていた。オレは迷わず女型ティンペットのケースのパネルを押し、出てきたティンペットをメダロッチにペアリングしてストレージに送り、そしてシゲユキの席まで戻る。

 

「早かったな」

 

「特に悩むほどでもないですから」

 

「そうか。じゃあ村はずれのバス停まで送るよ」

 

「いえ、買い物に行かなきゃいけないので帰りは一人で帰りますよ」

 

「あ、元々用事があったんだっけ。すると帰りは電車かバスか?」

 

「バスの予定です。学院前の停留所から」

 

「そこまでわかってるなら大丈夫そうだな。おれも仕事に戻るとするよ。またな、シゲユキ」

 

「うん。また寄ってくれよ」

 

軽く挨拶して、ミチオは去っていった。

 

「シゲユキさん、今日は色々ありがとうございました」

 

「たまに呼ぶから遊びにおいで」

 

「はい」

 

そしてオレも、研究所を後にした。

 

 

……

 

 

研究所のビルから南の方へ少し歩くと、また大きな建物が2つある。1つはメダロット社江戸紫支部、1つはメダロデパートだ。

メダロット社は建物の中にメダリンクの部屋があるが、ゲームだとこのタイミングでは混雑していてプレイできない。まあ実際は待てばプレイできるだろうが、そんなことをしている余裕はない。後は女・飛行・サファイア型のブルーコランダムのパーツの配布キャンペーンが行われる場所でもあるが、それも先の話。つまり行っても何もない。

メダロデパートは別にメダロッターズのような大型メダロット専門店というわけでもなく、メダロット社が出資しているというだけの普通のデパートだ。最も特徴的なのは2階で売られている食品。明太子ジェラートや焼き茄子プリン、アイスクリームのおにぎりとゲテモノ揃い。もちろん買わない。

 

というわけで、家庭菜園用のトマトの種を求めてデパートに入り、目当てのものを見つけてレジへ向かったのだが、できすぎたタイミングでセレクト隊員がやって来た。白っぽい制服を着て、バイザー(アメコミに出てくる一つ目巨人の名を冠するヒーローがつけているようなやつ)が一体化したヘルメットを被っている。おなじみの出で立ちだ。

そのセレクト隊員は何も持たずにパーツ販売カウンターに行くと、店員の若い男に向かって話しかけた。

 

「遅くなったであります」

 

ちなみにコイシマルになってから知ったことだが、この口調は下っ端隊員だけ強制されているらしい。

 

「なんでもいいけどさ、早くやっちゃってよ」

 

「そうでありますな。では、今店に置いてあるパーツと、この2年の間にここでパーツを売った人たちのリストを出して欲しいであります」

 

「冗談だろ!?」

 

何をするか事前に連絡がなかったのだろう。セレクト隊員の要求に、店員は"できるはずがない"と言わんばかりだ。

 

「こんな時に冗談を言うのはロボロボ団だけであります。本官は冗談がキライであります」

 

「ロボロボ団の連中が言うのはダジャレだろ?それに連中はもういないじゃないか」

 

ロボロボ団。かつていろんな意味で猛威を振るった犯罪組織だ。その犯行はスカートめくりから世界征服まで多岐にわたる。メダロットDSや7は恐らくパラレルワールドなので、今後復活するかはわからないところだ。

 

「そんなことはどうでもいいであります!とにかく見せるでありますよ」

 

「そんなもんすぐに用意できるかよ!」

 

いきなり大声を出したセレクト隊員に店員の方も耐えかねたようで、一気に険悪ムードに。

 

「どうして本官が来るまでに用意をしておかなかったでありますか!?」

 

ゲームではここでセレクト隊員に事情を聞いて違法コピーメダルと盗品パーツについて知るイベントなのだが、正直触れたくない。特に身になる話でもない。

 

隣で居心地悪そうにしている女店員に話しかけて会計を済ませ、オレはさっさとデパートを出た。



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14.オバケが3体、白い布は4枚

攻略本が届きましたが、イラスト系の情報がいまいち足りず。いやパーツのリストのために買ったんですけれども。設定資料買おうかと思ったらメダ5には存在しないとのことで、諦めるほかないようです。

攻略本、ゲーム中になかった地味な新情報(版元のミスかもしれませんが)もあったので、そのうち本編に反映しようと思います。
あとメダリンクの順位とか見てると面白い。

今回のアンケート内容もちょっと離れます。近場で変更する箇所が思いつかず……


デパートを出てまっすぐ進めばほどなくして、普通サイズのオフィスビルがそこここに置かれた場所に出る。イルカが描かれた"Marine Blue"の広告看板が上部の壁に掛けられたビルの入口では、スーツの男と作業服の男が終わらない口論を続けている。ゲームでは没マップだから道を塞がれていたわけだが、まさか本当にいるとは。折角だから、ゲームでは出てこなかった口論の内容を聞いてみよう。

 

「――から、あの――地盤改良――を聞いて――」

 

「――は――の方から――でしょう――」

 

あまりうまく聞き取れなかったが、地盤改良工事の話らしい。地盤改良というと、家を建てた後に地盤のせいで悪いことが起きないように事前に調査と改善をしておこうという工事のことだったはず。なんてことない普通の工事の話か。

オレには関係なさそうなので、そのビルの前を横切って進み、数分と経たないうちに歩道の右側が広くなる。その歩道の途中が、車が出入りするための道になっていて、その道の元を目で辿った先には観音開きタイプの大きな金属の門がある。"学院前"のバス停、そして幅5メートルはある"せいどう学院"の石碑と合わせて、ここがせいどう学院であることがとてもよくわかる。日曜だからか、校門の先から元気な声が聞こえてきたりはしない。

バス停の時刻表を確認すると、村はずれ行きのバスまでは少し時間があるようなので、オレは鞄から本を1冊取り出して開いた。

 

「それ、何の本?」

 

「歴史の本」

 

「面白い?」

 

「まあ、そこそこ」

 

ルートの質問に答えつつ、1ページずつ読み進める。ゴミ漁りをしていた頃に、ポリプロピレンロープ(荷造りに使う白いビニール紐)で束ねて捨ててあった高校教科書セットから拝借したものだ。

この世界の歴史は前世とそう変わらないが、メダロットが普及するにつれ科学技術の進歩度合いが前世からどんどん離れて行っている。マーブラーの影響なのか何なのか、はっきりしたことはわからないが、恐らくメダロットと無関係ではないだろう。それに、同じ近代でもメダロットが現れる前まではたまにあった恐慌や不況が、メダロットが現れてからはぱたりと止んでいる。おかげで民度も高く生きやすい世の中なのは結構だが、少々不気味だ。

 

そうして本を読み始めてしばらくすると、大型車両特有の低いエンジン音が道の先から聞こえ、見ればバスがこちらに来ていた。

生憎村はずれ方面のバスではないなと思って見ていると、バスから白い影が3つ降りてきて、オレはまた一つ重要なポイントを抑えることができて安心した。

降りてきた白い影、というかオバケメダロットたちは、横の方に突っ立っているオレに気付かないままふよふよゆらゆらしながら学院の方へと向かっていく。その後を遅れてついて行くと、オバケメダロットたちは偶然門から出てきていたらしい女生徒――制服を着ているのでそのはず――を取り囲んだ。

 

「ちょ、ちょっと何よあなたたち!や、やめて!」

 

オバケメダロットたちはメダロッチを奪おうとしているように見える。女生徒としては咄嗟のことだからか、メダロットを転送して反撃するという判断ができないらしい。

とりあえず、息を大きく吸う。

 

 

「おはようございまああーーす!!」

 

 

オレ渾身の挨拶に、その場にいるオレ以外全員がびくっとした後硬直し、そしてオレを見た。その内オバケメダロットたちはオレの姿を認めると、女生徒から少し離れてこちらに一歩(?)近づく。

 

「ま、またお前かだぞ~」

 

「挨拶も返せないのか?かわいそうに、ここの出来がよくないんだな」

 

自分のこめかみを人差し指でトントンと叩きながらそう言うと、ボウゾウは――顔も手元も見えないので分からないが、多分――怒った。

 

「邪魔するなだぞ~!!」

 

「メダロット転送」

 

ボウゾウ以下3体がターゲットを変えてこちらに向かって来るのを確認し、ベーデンとルートを転送。構成はそれぞれジャングルギボン一式とクロトジル一式。

 

「邪魔して欲しくなければ真剣ロボトルだ。まさか逃げないよな?」

 

「望むところよ~ん」

 

「合意と見てよろしいですね!?」

 

いつものように、そして当然のように、カバシラが現れた。

 

「それでは、ロボトルー……ファイッ!!」

 

このロボトル、勝つだけなら簡単だ。テキトーに瞬殺してもいい。だがそうすると、今そこで突っ立っている女生徒に与える印象がどうなるか不安だし、ルートの成長の機会を奪うことになる。だから、真面目にやる。

 

「ひらけ!」

 

「ルート、できるだけ撃ち落として残りは避けてみろ。ベーデンは2-3番の近い方を叩け」

 

ボウゾウの号令で残り2体がその場から左右に散開。ボウゾウだけは右腕を上げて、既にルートへ向けて撃つ充填に入っている。こちらはベーデンが向かって右へ移動した3番機の方へ走り出し、ルートは両腕を腰だめに構えて動かない。

 

「でりゃ~!」

 

ボウゾウが若干間延びした気合とともにプレス発射。

 

「こっち!」

 

ルートは発射された弾丸を見て、右腕を伸ばしてライフル発射。発射された弾丸はプレスに命中し、何もないところに重力フィールドが展開されてすぐ消える。

 

「ルート、横も見ろ!」

 

「え、うわあっ!!」

 

振り向いた時にはインフィスの放ったガトリングが眼前に迫っており、回避できず弾を浴び、全身まばらにダメージを受ける。大したことはないが、この調子で続けられると危ない。

 

「今回は1対1じゃないぞ、ほら右」

 

「わっ!?……いてて」

 

ボウゾウのプレスが飛んできてルートに命中。重力に引かれて倒れ、地面を転がる。そこへインフィスから追加のプレスが飛ぶ。

 

「また左だぞ」

 

「今度は大丈夫!」

 

寝たままの姿勢で左腕を構え、ガトリングを連射。プレスに1発、2発と命中し、起爆に成功する。

 

「ぐぬぬ……2対1なのに押し切れないのよん」

 

そして、メダルが地面に落ちる音がした。

 

「コイシマル、こっちは?」

 

3番機を仕留めた無傷のベーデンが、余裕そうにゆっくりオレの方を向いて質問する。

 

「そろそろフォローに入ってくれ」

 

「了解」

 

そこから切り替えて素早く走り出し、インフィスに突撃。

 

「そ、そっちはやばいんだぞ~!」

 

ボウゾウとインフィスがプレスを発射。ベーデンは直撃を避けつつ、勢いで重力フィールドを駆け抜ける。

 

「えっと、えっと」

 

マークから外れたルートは、どちらを狙うか迷っているようだ。

 

「ルート、自由にやってみろ。大丈夫だから」

 

「じゃーー……こっち!」

 

ルートが左腕を向けた先で、ベーデンが右ストレートを放ち、左腕でガードしたインフィスを吹っ飛ばす。ふっ飛ばされたインフィスにガトリングが浴びせかけられ、白い布に次々穴が開く。

 

「い、インフィス!」

 

「まだやっていい?」

 

「ご自由にどうぞ」

 

「わかった!」

 

再度オレに確認してきたルートはまたもインフィスに向かって左腕を構え……

 

「させないだぞ~!」

 

そのルートに向かってボウゾウが右腕を構えて撃ち……

 

「コイシマルが言ったでしょ、フォローするって」

 

そしてそれをベーデンが両腕でガードし、結局攻撃が届かなかったルートのガトリングがインフィスの全身を何度も叩き、頭部の装甲を0にした。

 

「ルート、ミサイルはいいのか?」

 

「あっ忘れてた、やってみる!」

 

「ひ~~~!!」

 

「いっけー!!」

 

たまらないという様子で突然背中を向けたボウゾウに2×3発のミサイルが殺到し、爆発の後に残ったのは機能停止したカンガルー型メダロットと、焦げてバラバラになった白い布だった。

 

「リーダー機能停止!コイシマルの勝利!」

 

 

……

 

 

カバシラは事後処理を終えて去っていった。ベーデンとルートをストレージに戻したオレの手にはチェネッツの左腕パーツ。そして、ボウゾウは白い布だけでなく左腕パーツも失っていた。

 

「く~っ、また負けてやったんだぞ~」

 

「わけのわからないことを言ってないでそこの子に謝れ」

 

「うるさいだぞ~!!」

 

「あっかんべーっ!」

 

ボウゾウと、舌もないのにあっかんべーと言うインフィスと、名も知らぬ3番機は道沿いに去っていった。

一段落したところで、ロボトルを見学する形になっていた女生徒がオレの方にツカツカとキレのいい歩きで近づいて来た。目つきがキツく、怒っている風にも見える表情だ。

 

「助けてなんて言った覚えはないわよ」

 

「"今助けるぞ"なんて言った覚えはないんだけどなあ?自意識過剰じゃねえのか」

 

「……ふん。一応、お礼は言っとく。ありがとう」

 

平坦で気持ちのこもっていなさそうな感謝の言葉を口にして、近づいてきた時以上に足早に去っていった。そして急いだ余りになのか、制服のどこかから白い布が一枚すっと落ちた。

 

「挨拶を返せない奴は感謝の言葉も薄っぺらいな」

 

「言いすぎじゃない?」

 

「あんなのにちゃんと返事しろというのは理不尽だと思う」

 

ルートとベーデンが続けてオレの言葉に反論するので、本気ではないと伝えよう。

 

「両方とも全面的に認める」

 

「ええー……」

 

伝えた結果ルートに呆れられた。

 

話しながら拾った白い布はレースがついた無地のハンカチで、隅に赤い"T.K"の刺繍がある。イニシャル書く時に苗字を先に置く人ってなんなんだろうな。そもそもこれじゃ拾っても持ち主の名前わからないと思う。

閑話休題、校門を見るとしっかり閉まっていて、到底入れそうにはない。今すぐ返すわけにはいかないようだ。大人しく帰ろう。

 

 

……

 

 

次第に夕日が差してくるのを感じながらバスを降り、そして家に着いた。

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい」

 

母はもう帰ったかなと玄関から声をかけると、リビングから返事が返ってきた。夕飯の支度をしている母に、オレは鞄からトマトの種を取り出して手渡す。夕飯の支度ができるということは、予定通り買い物ロボトルルールはなくなったようだ。

 

「はい」

 

「ありがとう、お釣りは取っておきなさい」

 

「ありがとう。お父さんどうしてた?」

 

「お父さんのことは晩ごはんを食べながら話してあげる」

 

「やっぱりあのルールダメになったか」

 

「ええ。帰ってきてニュースを見ていたらね――」

 

 

……

 

 

その後、洗濯カゴに件のハンカチを入れておいたら母に詰問された。迂闊だった。




※アンケ設置予定


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15.酔っ払いには触るな

アンケート結果の反映は次次回辺り?ロボトルを挟むと話が進むのが遅くなる……
逆に今回はロボトルがないので1話で1日進みます。


ルートを正式に譲って貰った次の日。オレは遅刻することもなく学校へ行き、そしてたった今午後の授業も終わった。

 

「コイシマルくん、今からメダロット部の部室に案内するよ」

 

「おう」

 

周囲が帰り支度をしている中、オレも同様に鞄に教科書やノートを詰めていると、左隣の席のヤマトが話しかけて来る。右隣の席のサキは、その言葉を聞いてふふっと笑った。理由は知っているので、特に気にしないが。

帰り支度が終わったというタイミングで、一度外に出ていたアキ先生が教室に戻ってきて、こちらに来た。

 

「あ、いた!シジミくん、ちょっと先生のお手伝いしてくれないかなぁ」

 

「いいですよ」

 

「じゃあお願いね。今から一緒に来て」

 

「ヤマト、部室の場所だけ教えてくれ」

 

「えっと、体育館1階の一番左奥の部屋だよ」

 

「じゃあ先に行って待っとくよ」

 

「ごめんね、コイシマルくん。カギは開いてるから」

 

オレとヤマトとアキ先生は教室を出て、廊下で別れた。入れ替わりに、弓道着を着た知らない女生徒が教室に入っていった。サキを呼びに来た後輩だろう。

校舎1階に降り、低学年の教室へ向かう。

 

「あれ、コイシマル、体育館に行くんじゃなかったの?」

 

「ああは言ったけど行っても誰もいないだろうし、暇をつぶそうかなって」

 

ルートの声に返事しつつ、教室のドアの窓ごしに中を覗き、ベニの後ろ姿を認めてオレは1年1組の教室に入った。黒板を消しているベニの肩をとんとんと叩くと、ベニはなんだろうと振り返り、オレの顔を見て表情を明るくした。

 

「あー!コイシマルのお兄ちゃんだぁ」

 

「日直か?真面目にやってるんだな。えらいぞ」

 

「えへへー……あ、コイシマルのお兄ちゃん、ベニのお兄ちゃんに、早くベニを迎えに来てって言ってください。遅くなると、オバケが出てきますぅ。ベニ、オバケ、キライ……」

 

"コイシマルのお兄ちゃん"と"ベニのお兄ちゃん"が一緒に出てくるとややこしいな。

 

「オバケって、神社にいたのは退治したろ」

 

「うん。でも、まだ、学校にはオバケいますよ」

 

まあ、退治したと言っても追い出しただけだし、実際学校に来てるのも同じやつらなんだよな。学校ではまだ仕事が残ってるってだけのことだ。

 

「万が一本物の幽霊だったらちょっと怖いな」

 

「コイシマルのお兄ちゃんも、オバケがキライですか?」

 

「本物はね」

 

「え~、コイシマルカッコわる~い」

 

「そうかな?見たことがないものを怖がるのは道理だと思うけど」

 

ベーデンの意見は、疑問に思ったというよりは、明確にオレを庇おうとしているように聞こえた。

 

「別にフォローしなくていいぞベーデン。カッコ悪くて結構だ」

 

「わぁ、サニーちゃんとおんなじですね~」

 

「サニー?」

 

「こんにちは、コイシマルさん。ベニちゃんのパートナーのサニーって言います」

 

その声はベニのメダロッチから聞こえた。機体名のサニヅラウからサニーなのは変わらないのか。

 

「サニーちゃん、よろしく!オイラ、ルート」

 

「ルートさんですね、よろしくお願いします」

 

姿を見せないもの同士の会話は中々不思議だ。……ベーデンは特に何も言わない。さて、暇つぶしがてらイベントは消化できたかな。

 

「そろそろ部室行くか。じゃあなベニちゃん、また明日」

 

「ばいば~い♪」

 

 

……

 

 

一度グラウンドに出て、すすたけ小学校体育館へ。入口から入ると、前、左、右にそれぞれ廊下が伸びている。左には部屋一つと、一番奥に上り階段。奥へ進むと壁に当たり、さらに左右に廊下が伸びている。右は今後行くことはないのでどうでもいい。

オレは左に進み、部屋のドアを見た。特にプレートや紙で何の部屋か示してあるということもなく、ただのドアだけがある。ノックするか少し迷っていると、右の方から足音が聞こえた。振り向くと、弓道着を着た女生徒が二人来ていた。

 

「何か用?先に言っとくけど、男子は弓道部に入部できないわよ」

 

転校生ということは知っているらしく、釘を刺される。

 

「ああ、ここ女子弓道部か。じゃあ、男子弓道部は?」

 

「ないわよそんなもの」

 

「え、じゃあ弓道部って女子だけなの?」

 

「昔からそうよ」

 

「なんで?」

 

「知らないわよそんなこと。行きましょ、ナンテンさん」

 

「はい」

 

「おっと」

 

話していた一人がドアの前に立っていたオレを押しのけ、後輩を連れてドアの前に立つ。

 

「失礼しまーす!」

 

そしてそのまま入っていった。ドアが閉まる。

 

「おいおい、程度が知れるな」

 

オレがこぼすと、再びドアが開いた。サキだった。

 

「ちょっと、部室の前で騒がないでくれる?」

 

「騒いじゃいないだろ。いいがかりか?」

 

「なんでもいいから、どっか行きなさいよ」

 

「はいはい」

 

サキが部室に戻った。もう一言言いたい気分になったが、やめておこう。うっぷんを晴らすチャンスは後日にある。

今度は入口から見て正面の廊下を進み、それから左に曲がり、一番奥の部屋の部屋へ。今度は迷わず、ドアを3回ノックする。

 

「返事ないね」

 

「まあ、ここが部室なら無人だろうしな」

 

ルートの声に返し、そのまま開けて入る。カギは開いていた。

中には、跳び箱、ハードル、ライン引き、マット、バスケットボール、順位フラッグなどなどが整頓されて置かれ、立って歩けるのは部屋のスペースの半分に満たず、特に入口付近が狭い。

 

「倉庫?」

 

ベーデンの疑問も尤もだ。

 

「一番左奥っていうとここしかないから、そういうことなんだろうな」

 

 

……

 

 

部屋の奥に積まれたマットの上で待つこと数分、部室のドアが開いた。が、開けたのはヤマトではなく白髪の老人だった。明らかに酔っており、学校関係者に見えない。しかし実際は学校関係者だ。

 

「おい、わしの寝床を取るんじゃない。降りんか」

 

手を軽く振って指図され、オレは大人しく降りた。

 

「わしはもう寝るから、後は勝手にやりなさい」

 

老人はそう言うとマットに寝転んだ。

 

「ほんとに寝ちゃったよ……どうするのコイシマル?」

 

「ほっとこう。ヤマトが来てからだ」

 

 

……

 

 

さらに数分後。今度こそヤマトがやってきた。

 

「コイシマルくん……と、ミヤマ先生は寝てるのか」

 

「先生?もしかして顧問?」

 

「そうだけど……そうか、非常勤の先生だから、コイシマルくんは見たことないのか。これも先に言っておけばよかったね」

 

ヤマトは眠っているミヤマに近づき、肩を揺する。

 

「先生、起きて下さい」

 

「うーん……なんじゃ、勝手にやれと言ったじゃろう」

 

「新しい部員が来てますから、紹介しないと」

 

「なに?新しい部員?……はて。まあええか」

 

のっそり起き上がったミヤマはオレを見て首を傾げた後、マットから降りた。

 

「じゃあ、改めて紹介するよ。この人がメダロット部顧問のミヤマ先生だよ。先生、彼が噂のコイシマルくんです」

 

「テンサン コイシマルです。よろしくお願いします」

 

「よろしくな」

 

オレが会釈すると、ミヤマ先生も小さく手を上げて挨拶を返す。

 

「土曜日にメダロット部に入ってくれたんです」

 

「かかかっ、そうか、そうか。お前さんが噂の転校生か。よかったなヤマト、これであと3人……いや、奇数はいかんな。ロボトルの練習をするなら2人ずつ対戦相手を組まんと」

 

「そうですね、あと4人は集めたいですね」

 

「なに、やっぱり廃部の危機にでも晒されてるのか?」

 

「えっ?あ、その……」

 

あと3人、というところにツッコみを入れると、ヤマトが口ごもる。

 

「なんじゃヤマトよ、話をしておらんのか?」

 

「え、ええ……」

 

「ふむ……コイシマル、お前さんはその予想が立っていてなおメダロット部への入部を希望したのか?」

 

「まあ順番は前後しますけど、とりあえず入部を取り下げる気はありませんよ」

 

「なるほど。じゃが、詳しい事情はきちんと話さねばならんじゃろう。ヤマト、後は2人でよく話し合いなさい。わしゃ、帰る」

 

ミヤマはヤマトにそう言ってから、部室をさっさと出ていった。

 

「で、いつまでに何人?」

 

「それが……最低でも5人必要なんだけど、期限は今週末までなんだ。ごめんよ、騙すつもりはなかったんだ、だけど、こんなこと言ったら入部してくれなかっただろ?」

 

「オレの考えを勝手に決めるな。入るって言ったら入るんだよオレは」

 

泣きそうになるヤマトに、そんなことはない、と強めに伝えると、表情がいくらか明るくなった。

 

「それ……本当?」

 

「おう」

 

「部長もやってくれる?」

 

「いいよ」

 

「ありがとう……なんて言ったらいいのか」

 

今度は別の方向に感情が振れてのことか、ヤマトがまた泣きそうになる。

 

「いいんだよ。それより部員集めのことだ。もうお前が散々試したんだろうし、普通に勧誘したんじゃ無理なんだろ?」

 

「う、うん」

 

「この学校でロボトル強いのって誰だ?」

 

「一番強いのが2組のアサヒ、その次がオサムかな。うちのクラスだとサキちゃんが一番強いと思うけど……どうして?」

 

「よし、当てが出来た。帰るぞヤマト、ベニちゃん迎えに行こう」

 

「えっ?……ああ、忘れてた!ぼくたち、また歯医者さんに行かなきゃいけないんだ。バスには乗らないから、ここでお別れだね」

 

「あ、そうなのか。じゃあ、また明日な」

 

「うん。また明日」



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16.ひと足お先

息抜きで書いたしっちゃかめっちゃかな文章の方が好評っぽいのはたいへん辛く、これが原作ネームバリューの差なんだなあと実感してます。
それでも本作の執筆に専念します。文句がある人はメダロット5をクリアしてください。

細かくカウントしてみたらメダロットの構成や機能の説明だけでおよそ1000字使ってますね。そりゃ長くもなる。
アンケートの箇所はあと2話先くらい?


このままではメダロット部が廃部になってしまうという事実を知らされた次の日。目が覚めてすぐ、家を出る父の声が聞こえた。そういえばゲームでは父に会い損ねてヘコむイベントがあった。オレもコイシマルになる前、子どもの頃は一日や一週間を長く感じて、親と遊ぶ約束がちょっと先延ばしになっただけでひどく気分を悪くした覚えがあるから、気持ちはわかるけれども、今は気にならない。精神年齢の問題より、母同様、家族としての実感をあまり持てていないことの方が大きいかもしれないが。

そういうわけでいつも通り出かける支度をして1階に降り、食事を終えると、母が未開封の男型ティンペットと、メダルを1枚持ってきた。補助系の所持熟練度があるキヌゲネズミ(つまりハムスター)のメダルだ。使わない。

 

「今朝お父さんが来て、これを預かったの」

 

開封してストレージに移し、箱を畳んでゴミ箱に入れる。ブリスターはプラスチックなので、紙の外箱とは分別が必要だ。メダルはとりあえず鞄のポケットのひとつに入れた。とうとう使わないメダルを受け取ってしまったし、メダルケースも買わないといけないか。

 

「うん、オレも声は聞こえてた。後で電話しようかな」

 

「……コイシマル、お父さんに会いたくなったりしないの?」

 

母が、心配するような目でオレを見る。

 

「それはそうだけど、今朝だって時間がないからすぐ出たんでしょ。忙しい時期なら仕方ないよ」

 

「そう。コイシマル、あなたはいい子だけど、もうちょっとくらいはわがままを言ってもいいのよ」

 

「じゃあ、お父さんが帰ってきたらそうする。じゃ、行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

 

……

 

 

家を出て、神社入口前で待っていると、遠くにヤマトとベニの姿が見えた。

 

「おはよう」

 

ヤマトが近くまで来るのを待ってから、オレは挨拶した。

 

「おはよう、コイシマルくん」

 

「おはようございます、コイシマルのお兄ちゃん」

 

二人が挨拶を返している間に、神社の方からもう1人、巫女服の女性がこちらに駆けてくるのが見えた。近づくにつれ、それがカナエだとわかった。オレがそちらをじっと見ていると、ヤマトたちも気付いたようだった。

 

「あれ?カナエさんだ」

 

こちらに来るまで待つと、全力で走って疲れたのか、カナエは少し息が荒かった。

 

「よかった、追いついた」

 

「おはようございます」

 

挨拶はしておこう。

 

「どうしたの?カナエさん」

 

「あのね、学校の図書室で、本を借りてきて欲しいの。すすたけ村昔話っていう、ちょっと、古い本なんだけど。お願いできるかな?」

 

ヤマトが尋ねると、カナエは息継ぎをしながら要件を説明した。

 

「なんだ、お安い御用だよ」

 

「その()()は面白いですか?」

 

「そうね……ベニちゃんには、少しむずかしいかな?」

 

そういえばゲームでは具体的な内容は明かされず、太陽の宝玉と月の宝玉が存在するという情報しかなかったな。後でヤマトに詳しく聞いてみるか。まあ、ここでは何も言わないでおこう。

 

「ごめんね、呼び止めちゃって。じゃあ、頼んだわよ」

 

「うん」

 

ヤマトの返事を聞いて、カナエは歩いて神社の方へ戻っていった。

 

 

……

 

 

バス停まで着くと、バスが来るまで少し余裕があるようだった。

 

「コイシマルのお兄ちゃん……」

 

「なに?ベニちゃん」

 

「あのね、バスが来るまで、ベニとロボトルをして欲しいです」

 

「コイシマルくん、ちょっとベニの相手をしてあげてよ。いいだろ?」

 

「わかった。じゃ、長引くとよくないから1対1な。パーツのやりとりもなし」

 

「ありがとうございます♪メダロット転送!」

 

ベニが転送したのは女・二脚・ガール型メダロット、サニヅラウのサニー……なのだが、一式ではなかった。両腕がパンダ型メダロット、メダシェンマオのものに差し替えられている。サニヅラウ一式だと攻撃パーツがないからか。

 

サニヅラウの頭パーツは特殊行動"反撃"。実はこれ、ゲームのようにバリアを張って攻撃を跳ね返すというわけではない。反撃は、攻撃しようとした相手のパーツに作用し、攻撃のために充填されたエネルギーを暴走させて壊す機能だ。例えると、水でいっぱいの水槽に石を投げ込んで水を溢れさせるような感じか。ただ、浅い水たまりに石を投げ込んでも大した水しぶきが立たないように、充填されたエネルギーが少ないと何も起こらない。そのまま攻撃されてしまう。

メダシェンマオの両腕は格闘攻撃"サンダー"だ。バランスの取れた性能だが、装甲が異様なまでに薄い。弱い攻撃一発当てれば壊せる。

 

つまり、そういうことだ。オレはルートにクロトジル一式を装備させて転送した。

 

 

……

 

 

クロトジルが右腕のライフルで攻撃。サニーの左腕を破壊。

サニーが右腕のサンダーで攻撃。クロトジルは左腕で受け、動きが止まる。

サニーの次の攻撃の直前にクロトジルが動き出し、ライフルで攻撃。右腕を破壊。

攻撃手段のないサニーにクロトジルがライフルで攻撃。サニーはクロトジルの右腕に対して反撃を試みるが、手数が多い代わりに低威力なライフルには効果がなく、撃たれ続けてサニーは機能停止。

 

 

……

 

 

ひどいロボトルだった。まあ、KBT型の性能のおかげというのも多少あるが。

しかし、オレ以外は満足した様子だった。

 

「やっぱりコイシマルのお兄ちゃんは強いですね」

 

「もうちょっと装甲高めの腕じゃないとキツいと思うよ」

 

「持ってるパーツはこれしかありません」

 

「それじゃ仕方ないか」

 

ロボトルが終わり、ちょうどいいタイミングでバスが来た。

 

 

……

 

 

放課後。サキは部活が忙しいのだろうか、教室をさっさと出ていった。

 

「ヤマト、そういや聞いてなかったんだけど、この学校って部活の掛け持ちはできるのか?」

 

「どういうこと?」

 

「いや、オオムラを勧誘しようと思ってるから、どうかなって」

 

「それは無理だよ!」

 

ヤマトがオレの言葉を勢いよく否定する。

 

「今メダロット部が部室にしている体育倉庫を、弓道部が物置にしようと狙ってるんだよ」

 

「メダロット部の廃部を望んでるってことか?」

 

「そういうことになるね」

 

「流石にひどい話だな……じゃあいいか、他の心当たりがあるから行こうぜ」

 

「うん?まあ、わかったよ」

 

ヤマトを連れて教室を出て2組へ向かおうとすると、ちょうど2組の方からアサヒとオサムがこちらに向かってきていて、ヤマトはそれを見ると数歩後ずさった。アサヒはヤマトを見てニヤリと笑い、2人はそのまま近づいてきた。

 

「あ、アサヒくん……」

 

「さあて、今日はどんなパーツが手に入るかな?」

 

アサヒの言葉に、ヤマトがさらに後ずさる。

 

「おい!メダロット部の部長のくせに、ロボトルの申し込みから逃げる気かよ」

 

「待てよ、部長はオレだぞ」

 

横槍を入れると、アサヒがようやくこちらを見た。あの日以来顔を合わせていないようで、オレのことはわかっていないようだった。

 

「なんだよお前、邪魔すんなよ。オレはヤマトと話してるんだぞ」

 

「ん?負けるのが怖いからヤマトとしかロボトルしたくないって?じゃあ仕方ないな。好きにしてくれ」

 

すかさず煽ると、アサヒはすぐに怒りの表情を浮かべた。

 

「都会から来たへなちょこ野郎のくせに、このオレに喧嘩を売ってるのか!?」

 

「弱い者いじめしかできないへなちょこ野郎が何言ってんだよ」

 

オレたちの言い合いの間に、ヤマトは少し迷うそぶりを見せた後、逃げ出した。

 

「あっ!待て!」

 

それを追って、オサムが走り出した。

 

「どうした?行かないのか?へなちょこ野郎」

 

「てめえ……ギッタンギッタンにしてやる!表へ出ろ!」

 

 

……

 

 

グラウンド、校舎入口から少し離れた位置でオレとアサヒが向かい合っている。殴り合いにならないかちょっぴり心配だったが、ちゃんとロボトルの方にやる気が向いてくれたようだった。

 

「パーツ1個だけ賭けたんじゃつまらないだろ。負けた方は勝った方の命令になんでも1つだけ従うっていうのはどうだ?」

 

「上等だ!メダロット転送!」

 

そんなやる気充分といった様子のアサヒの周囲に転送されたメダロットは3体。

 

1番機、男・車両・アマガエル型メダロット、ヒーラヌーラ。頭も両腕も応援行動"変化(速度)"。装甲は薄めだが充填冷却が速い。

 

"変化"はかなり特殊な機能で、パーツ自体が持つ通信機能でメダロット社やRR社にリクエストを送り、その部位のパーツを異なるパーツと交換してしまう。交換した後は1回使うか、2秒経つか、そのパーツに攻撃を受けると元に戻る。"変化(速度)"の場合、カブト型やクワガタ型のパーツを始めとする属性が速度のパーツの中からランダムに交換対象が選出される。格闘か射撃かすらランダムなので、変化パーツは基本的に使いづらい。

交換後のパーツを攻撃しても元に戻るだけで、元のパーツにダメージがフィードバックされたりはしないが、使用前に元に戻した場合はパーツを使っていないのに放熱時間に入っているわけなのでそれなりのリターンになる。

 

2番機、男・車両・バス型メダロット、シティラッシャー。頭パーツは装備しているだけで他パーツの充填冷却が高速化する"チャージ"、右腕は自分もしくは他のメダロットの充填もしくは冷却を一息に完了させる応援行動"急速チャージ"、左腕は急速チャージとは違い持続的に充填冷却性能を上げる"補助チャージ"。純正一式でも使い分けができる。

 

3番機、男・飛行・カワセミ型メダロット、リビニンリバー。頭部両腕全てが重力射撃攻撃"ブレイク"。頭パーツは額から、両腕パーツは肩から生えたカワセミの翼の先から発射する。リビニンリバーのブレイクは重力系としては比較的威力が高めで、成功が低めだ。

 

ブレイクもプレスと同様、ゲームでは具体的にどういう攻撃なのかわからない。どういうものかというと……

 

遅くて誘導のかかるエネルギー弾を発射し、何かにぶつかるか一定時間経過で起爆し、重力を発生させる。そして基本的に威力が低い。というところまではプレスと変わらない。違うのは発生する重力が弾を中心に外向きであり、強く、持続時間がごく短いこと。結果として、空気を強く押し出して爆風を生み出す攻撃になる。ただ、万が一エネルギー弾が直撃した場合は、発生した重力が直接パーツを破壊することになる。プレス同様、爆風は受けて直撃は避けるという欲張らない対処が基本となる。

 

「いい返事をありがとう。メダロット転送」

 

今回、リーダーはクロトジル一式のベーデンだ。ルートはジャングルギボンの頭部脚部、チェネッツの両腕を装備させてある。

 

「ん?」

 

「えっ!?」

 

「落ち着けルート、それも射撃パーツだから勝手はそう変わらん。ちゃんと指示も出すからやるだけやってみてくれ」

 

「わ、わかった」

 

ベーデンは転送された当初こそ驚いたようだったが、既に落ち着いている。編成の意図が伝わったのだろう。

 

「2体だけだと?なめてんのか!?」

 

「いや、単に2体しか持ってないだけ」

 

「は?……ぷっ、ははははは!!お前、そんなんで勝てるわけねえじゃねえか!」

 

オレが駒落ちで手抜きしているように見えたらしいアサヒが怒声を発し、オレが訂正を入れると、次は笑い出した。

 

「バカ笑いしてると後で恥かくぞ」

 

「言ってろ。負けた時の約束忘れんなよ!」

 

「合意と見てよろしいですね!?」

 

カバシラの声に、メダロット5体とメダロッター2人が身構える。慣れたものだ。

 

「それでは……ロボトルーー、ファイッ!」

 




アサヒ3番機がなぜリビニンリバーかというと、特別な理由はありません。
シティラッシャーがシロチョウメダルなのでその派生からミツバチメダルを設定し、ミツバチメダルの所持熟練度を撃つ・狙い撃ち・妨害に設定し、"じゃあ射撃系のパーツにしよう"と思って適当に目についたメダロットを選びました。なので所持熟練度は一致してますが、性格とパーツ属性は一致していません。


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17.不公平な賭け

これまで自分でも少し悩んでいたことではあるのですが、(完全にコイシマルの視点だけ書いてるのもあってか)どうも淡々としすぎているようなので、改善の努力は当然するとして、関連して他に考えていたことについてアンケートを設置します。このアンケートは永続タイプです。

登下校の時間とかにもっと雑談とかしてるとは思うんですが、ちょっと内容を想像できない。異世界の世間話ってどうやって書けばいいんでしょう。

ロボトルに参加する機体数が多いと、時間当たりの情報量が増えて読むのに適さない気がしてきました。今からでも所持メダロット数の設定を漫画とかアニメに寄せるべきか……?


「ジュンチ、リーダーを狙え!一気にカタをつけてやる!」

 

「はーい」

 

「ルート、右腕で地面に立ってるやつに向かって撃て。足元を狙うんだ」

 

「わかった!」

 

アサヒはまだ頭に血が上っているのか、それとも3対2ならどうにでもなると思っているのか、単純な短期決戦を狙った指示を出している。対するオレは、ルートのプレスを地上の敵の足止めメインで使おうと思って指示を出した。直撃させられるだけの隙がなさそうだからだ。もうちょっとマシな射撃パーツがあればよかったんだが、勝てるからといって買い物を怠ったツケが回ってきているのか。

 

敵方だが、車両タイプは地面が平らであればあるほど速い。飛行タイプは上方に天井や障害物のない開所で無類の強さを誇る。いずれも、二脚のこちらから足の速さで勝負を仕掛けるのは難しく、特に格闘攻撃を当てるには充填冷却でスピードや高度が落ちたところを狙うしかなくなる。まあ、今回格闘パーツを装備させていない理由はまた別にあるが。

 

ジュンチと呼ばれたアサヒの3番機は真上に飛び上がり、それから円を描く軌道で滑空しつつ、右の翼からオレンジ色のエネルギー弾を発射してくる。攻撃の前後だけ高度が下がっているのは、パーツの充填冷却中はそちらに出力を割り当てられてしまうからだ。

上からブレイクのエネルギー弾(と冷却中のジュンチ)が降りてくるより早く、2番機が1番機のそばで右腕パーツを使用した。腕の先のタイヤが回転し、そこから伸びた淡い光の帯が1番機の背中に繋がる。充填冷却が高速化した1番機の右腕が交換され……飛行機の羽がついた排気口の形になった。飛行機といっても戦闘機らしく、羽の横にはミサイルがついている。パイロット型メダロット、ジェットドライバのパーツだ。

 

「よっしミサイル!ヌルハチ、そのまま撃て!」

 

「やるぴょん!」

 

変化パーツを常用しているアサヒは、変化後のパーツを見て素早く指示を出す。レンジ不定の1番機――ヌルハチを除くと、この場にいるメダロットの攻撃パーツは射撃系のみ。近づく手間がない射撃パーツは開戦直後でも使いやすい。当たりを引いたような言い草は、多分その辺の事情だろう。

カエルだからなのか語尾にぴょんがついているヌルハチが変化後即座に右腕をこちらに向けてミサイル発射。狙いはベーデン。ミサイルが腕から切り離されるとすぐに右腕はカエルのものに戻った。

それとほぼ同時にベーデンとルートが射撃を開始。指示通り足元を狙ったプレスがヌルハチの方へ向かうが、ヌルハチは真横に走り出し弾との距離を開く。ベーデンのライフルは一発でミサイルを迎撃。続けざまに上方のブレイクを迎撃。

 

「なっ……いや、ちょっと運が良いだけだ!ヌルハチ、もう一回だ!」

 

「ルート、ベーデンから離れてリーダーを攻撃!」

 

「これ当たらないよ!」

 

クロトジル一式とは大いに勝手が違う体だからか、本当にこのまま攻撃するだけでいいのか疑問に思っているのか?レアメダルらしいな。

 

「当たらなくていいから撃てって!」

 

ヌルハチが再び右腕を変化させ、刃こぼれした剣を持った腕になる。執事が使っていたボロゴブリンの右腕だ。ベーデンとの距離を保ったまま横方向に走行していたヌルハチが旋回し、蛇行して近づく。曲がり方が急で上半身が揺れているが、真横に伸ばした右腕を振るのに支障はなさそうだ。

オレに念押しされたルートがプレスを放って重力フィールドでいくらか足止めしているが、地上からはヌルハチ、上方からはジュンチのブレイクが向かってくる状況だ。2番機の補助チャージがジュンチの方へも伸びており、高度が高めに維持されている。ベーデンはブレイクの迎撃に専念しているが、直接ジュンチへ攻撃する暇はない。

 

「ヌルハチ行けーっ!」

 

「ぴょおぉおーーん!」

 

「ベーデン危ない!!」

 

アサヒたち2人が威勢よく叫び、ルートはベーデンを心配して叫ぶ。ヌルハチが周囲を左右に動いてフェイントを入れる間もベーデンは上を向いてブレイクに向かって右腕で狙いをつけており、それを確認したヌルハチは一息に真後ろに回り込んで斬りかかり――ベーデンは振り返って右腕でヌルハチの右腕を掴む。

 

「ぴょん!?」

 

「ウソだろ!?」

 

時間切れになりヌルハチの腕が元に戻る。右腕で狙いをつけていたはずのベーデンは、ヌルハチの腕を離さずに左腕をヌルハチの脚部に向け、ガトリングを発射。掴まれているために避けられず、ヌルハチの脚部は破壊される。

 

「いったぁーい!ぴょん!」

 

冷却時間に入ったベーデンの腕を振りほどいて、ヌルハチが再び走り出す。破壊されているのでそのスピードは半減。

 

「あっ、これなら当たる!」

 

そこへルートのプレスが飛来、重力フィールドを突破する推力が足りないまま走り抜けようとして、バランスを崩して横転する。地面にぶつけた右腕パーツの装甲が0になった。

 

「ルート、そのまま地面を狙え!」

 

「オッケー!」

 

「げっ!やばい!ホンタイジ……間に合わねえ!ジュンチ、2番機を撃て!」

 

「やってるよお!」

 

アサヒが2番機を援護に出そうとしたが、遠い距離で補助チャージの維持に専念させていたため、格闘攻撃のために近づいたヌルハチを守れない。ジュンチはターゲットを変えたが高空からの射撃であることは変わらず、ベーデンが迎撃できている。

 

「あったたたた!」

 

ルートによって連続して展開される重力フィールドに引っ張られ続け、ヌルハチは地面の上を何度も何度も転がり、全身にダメージが蓄積。そしてメダルを排出した。

 

「リーダー機能停止!コイシマルの勝利!」

 

カバシラの宣言を待たず、アサヒはホンタイジとジュンチをストレージに戻しながらヌルハチに駆け寄り、膝をついてそのメダルを拾い上げ、メダロッチにはめた。オレは少し離れたところでベーデンとルートをストレージに戻しながら、カバシラはゆっくりアサヒに近づきながら、その様子を見ていた。俯いていたアサヒだが、立ち上がってその表情が見えると、けろっとしていた。

 

「敗者は勝者にパーツを1つ渡してください」

 

「わかってるよ」

 

すたすたと歩いてこちらへ来たアサヒが、ストレージからシティラッシャーの頭パーツを取り出した。

 

「……怒ってないのか?」

 

「大口叩けるだけつええメダロッターに負けたんだ。それであれこれ言うような根性してねえよ。……ほら、受け取れ」

 

差し出されたパーツを受け取り、自分のストレージに入れる。カバシラは消えた。

 

「さっきはごめん。弱い者いじめは嫌いだから、ちょっと頭に来ちまった」

 

「だーから、もう怒ってないって」

 

アサヒは笑いながらオレの肩を叩く。オレ自身アサヒという人物をあまりよくわかっていなかったのもあるが、この対応は少し意外で、面食らってどうすればいいかわからなかった。

 

「オレも、さっきの言葉は取り消すよ。都会のへなちょこ野郎なんて言って悪かったな」

 

「おう。じゃあ早速約束を守ってもらおうかな」

 

「うっ……まさか、肥溜めに落ちろなんて言わないよな?」

 

オレの言葉を聞いて、アサヒは急激に弱った様子になる。多分、オサムと二人がかりで、オレとヤマトを落とそうとした時の話だろう。

 

「なんだ、覚えてたのか」

 

「いや、今思い出した。で、どうなんだ?オレはお前がそんなこと言わないって信じてるぜ」

 

「大丈夫、あれは未遂だから根に持ってない。メダロット部に入ってくれればオレはそれでいいよ」

 

「メダロット部!?なーんだよ、"なんでも"なんて言って脅かしやがって、部員集めなら最初からそう言えよ」

 

ため息をつくアサヒ。メダロット部に入るのが嫌そうではないのは、部長を名乗ったオレが勝ったからなのか?

 

「いや脅かしてはないだろ。入部届書いとけよ」

 

「心配すんな。オレはいっぺん約束したことはちゃんと守る。それで……名前なんだっけお前」

 

神妙な顔つきで尋ねるアサヒ。

 

「1組のテンサン コイシマル」

 

「コイシマルか。その……ヤマトに会ったら、今まで悪かったって言っといてくれねえか?同じ部になるんだし、これからは仲良くしねえと」

 

頬をかきながらそう言うアサヒは、とりあえず今後のことを真面目に考えてはいるようだ。

 

「ダメだ。自分で言え」

 

「き、厳しいな……わかったよ」

 

「あと、できればでいいんだけどサメハダの勧誘頼んでもいいか?」

 

「オサム?言うだけ言ってみるけど、約束はできねえぞ」

 

「それでいいよ。じゃあ、ヤマト探してくる」

 

「ヤマトはいっつも部室に入って鍵閉めるから、そこにいると思うぜ」

 

つまり、パターン化するくらい日常的に追いかけ回していたということか。

 

「そうか。反省しろよ」

 

「反省してるって……じゃあな」

 

アサヒはそのまま校門の方へ歩いていき、出ていった。滝壺のくだりをカットしてロボトルを挑んだのはアドリブだったが、うまくいってよかった。ついでにオサムも入部してくれればいいんだが、多分まだダメだろうな。

 

 

……

 

 

体育館の部室まで来てドアガチャすると、案の定鍵が閉まっていた。ここに来るまでにオサムの姿も見なかったが、どういうルートで出ていったんだろうか。まあ、アサヒが校門を乗り越えたりしてたし、壁を乗り越えて出ていったとしてもそう不思議ではないが。

 

「ヤマト、開けてくれ」

 

「コイシマルくん?アサヒたちは?」

 

鍵は開かないまま、中から不安そうなヤマトの声がする。

 

「帰った。あとヒョウモンはうちに入部する」

 

「ええっ!?」

 

ガチャガチャと音がし、ドアを勢いよく開いてヤマトが飛び出してきた。

 

「アサヒが入部するって本当!?」

 

「おう本当だぞ」

 

「一体どうやって――」

 

「ヤマト!」

 

喜色満面でオレに質問するヤマトの声を遮るように、廊下の向こうから低い声が飛んできた。2人揃ってそちらを見ると、体育教師であり弓道部顧問であるウスモンが、サキを始めとした部員をぞろぞろ引き連れてやってきていた。オレたちの前で止まると、オレたちを囲むように部員たちが広がる。

 

「今日こそ体育倉庫を明け渡して貰うぞ!」

 

「できません」

 

ヤマトに向かって話しているウスモンに声をかけると、ウスモンは今オレの存在に気付いたかのようにハッとしてオレを見て、元の強面からは想像できないような下卑た笑みを浮かべた。

 

「なんだテンサン、お前、ダメロット部に入ったのか?」

 

周囲の弓道部員は何も言わないが、冷たい視線を送るもの、にやにや笑っているものと、オレたちをどう思っているかは明白だ。

 

「オレが入ったのはメダロット部です。で、廃部は今週末なんでまだ引き渡しはできません」

 

「今日でも3日後でも同じことでしょ?」

 

ウスモンの隣に立っているサキが反論する。

 

「2人に増えたところで、サキの言う通り、状況は変わらんぞ」

 

「明日ヒョウモンが入部するんで3人です」

 

「出任せを言ったって無駄だ。ロボトルに勝てないヤツが部長をやってる部に、誰が入ってくれるんだ?」

 

全く信じていないようで、表情は下品な笑顔から動いていない。先に話を聞いていたヤマトの方をちらりと見ると、口を真一文字に結んでいた。その表情は悔しそうでもあり、ウスモンの言い草に怒っているようでもあった。

 

「今の部長はオレです。とりあえずヒョウモンには勝ちました」

 

「ほう……そこまで言うなら、それが本当かどうか、オレが見てやろう」

 

言葉を重ねるオレを鼻で笑い、メダロッチを構えるウスモン。その様子を見てすぐ、サキが口を開いた。

 

「先生、その役目、私にやらせてください!」

 

「うん?別に構わんが……」

 

「文句ないわよね、コイシマル。私に負けたら、さっさと諦めて部室を明け渡してよ」

 

「いいよ。じゃあオレが勝ったらお前はメダロット部に入った上でヤマトに謝ってもらおうか」

 

「いいわよ♪」

 

ストレートに要求を呑み合うオレたち二人に、ヤマトもウスモン一派も飛び上がって驚いた。

 

「お、おい、サキ……」

 

ウスモンが急に尻込みし始めた。大事な部長だから心配するのもそうだが、放っておけば廃部になるメダロット部に対して急いで仕掛ける必要なんてどこにもないわけでもあり、当たり前といえば当たり前か。だが、サキは何を考えているのか、ウスモンに対して強く出始める。

 

「先生は私が負けると思っているんですか?コイシマルはつい最近初めてロボトルをしたような初心者ですよ。アサヒに勝ったとかなんとかだってウソに決まってます」

 

「いや、し、しかしだな、万が一ってことも……」

 

「……」

 

サキがじっとウスモンを睨む。

 

「わかった、任せよう。任せるから、勝ってくれよ!」

 

結局、何も言わず譲らないサキにウスモンが折れる形になった。

 

「コイシマルくん、大丈夫?」

 

「問題なし」

 

オレ(それともメダロット部か?)を心配するヤマトに、強気に笑顔を作ってそう返し、サキから離れながらメダロッチを構える。サキも同じくメダロッチを構え、距離を取る。ヤマト、ウスモン、周囲に集まった弓道部の女子共も、ロボトルの邪魔にならないよう、さらに離れる。廊下の幅は4メートルくらいか?小回りの効くタイプが有利になりそうだ。オレには関係ないが。

 

「メダロット転送!」

「メダロット転送!」

 

オレとサキは、同時にメダロットを転送した。




※アンケート設置予定


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18.ダブル・アップ・チャンス

今回もアンケート入りです。永続ではありませんが、しばらく残ります。


サキのリーダー機と3番機は女・浮遊・キヌゲネズミ型メダロットのジャンガリアン一式。パーツをつけるとティンペットの状態から小さくなる機体の1つだ。頭部が味方の成功を強化する守る行動"索敵"、両腕はガトリング。元々成功が高いので、索敵を使わなくても当てるだけなら当てられる。とりあえず、今回は関係ない。

2番機は女・浮遊・エルフ型メダロットのピッコリー一式。充填中のパーツに触れることで強制的に放熱に移行させる、応援行動"転倒"のみで構成されている。両腕ならタッチ、頭なら体当たりで効果が出る。ゲームとは違い転ばせて頭をぶつけさせて命令内容を忘れさせるわけではないので、頭部パーツへの1ダメージはない。これも、今回は関係ない。

 

一方オレは、クロトジル一式のベーデンのみを転送した。

 

「なによ、組み立ててないの?待ったげるからさっさとしなさい」

 

きりっとした顔から一転、メダロットが1体しか転送されなかったのを見て、サキが呆れ顔になる。オレが初心者だと思っているから、そういう結論に達したのだろう。

 

「いいや、これで準備はできてる」

 

「コイシマルくん!?」

 

「ヤマト」

 

軽く手を挙げ、後ろのヤマトを制する。

 

「お前が部長に任命したオレを信じてくれ。もう一度言う、これで準備はできてる」

 

「あんた、前におばあさんから貰ったティンペットはどうしたのよ」

 

「くどいぞ。それとも、お前の準備ができてないのか?トイレに行き忘れたのか?待っててやるから行ってこいよ」

 

「~~~~!!ぶっ飛ばす!!」

 

「合意と見てよろしいですね?」

 

打てば響くとはこういうことか。オレの煽りにサキはたちまち歯を食いしばって拳を握って怒り、ヤカンのピーッという音が聞こえるかのようだった。

続いてメダロット部部室のドアから出てきたカバシラが確認の文言の後にオレとサキを一度ずつ見る。その間に、オレはベーデンを、ベーデンはオレをちらっと見て、お互いに頷いた。これは、おみこし町に住んでいたころによくやっていた無言の意思確認だ。引っ越して一週間と経っていないのに、少し懐かしく感じる。前に向き直ったベーデンは、オリンピックで見るピストル選手のように半身の構え――左肩が前だが――を取り、左腕をまっすぐに伸ばしてピタッと静止した。

 

 

「それでは、ロボトルーー……ファイッ!」

 

 

カバシラが右手を上げ、振り下ろすのとほぼ同時に、ガガガッ、と連続した衝突音と、ガシャッ、という何かが落ちる音がした。ピンッ、とメダルが排出される音がした。メダロッチを構えたサキが、指示を出そうと口を開き、そのまま目を見開いて固まる。2番機と3番機、ウスモンや弓道部の女子共も、音の出どころを見て固まっている。そこでは、リーダー機のジャンガリアンが頭部パーツを破壊されて機能停止して地面に落ちていた。撃ったベーデンは、ロボトル開始前から一切姿勢を動かしていないままだ。

 

「……あっ、リーダー戦闘不能!コイシマルの勝利!」

 

新人だけあってこの展開に慣れていないのか、カバシラの宣言が遅れる。宣言を聞いてベーデンは構えを解く。

 

「……は?」

 

「"は"じゃないよ。とりあえずパーツくれ。あとメダロットしまえよ」

 

呆然としているサキに向かってちょいちょいと手招きして、パーツの譲渡を催促する。

 

「……お、おかしいわよこんなの!もう一回勝負しなさい!」

 

サキがオレを強く睨みながら抗議すると、静まり返っていた女子共がざわつき始める。

 

「いーやおかしかない。お互いに準備が不足してないか確認したよな?お前、この大勝負で待ったをかけるつもりか?」

 

「……!!」

 

抗議に対して、サキ自身がロボトル前に出した言葉を利用して反論すると、サキは睨みながらもその目尻から涙がじわじわと滲み出す。見かねたのか、見守っていたウスモンがサキの前まで出てきた。ウスモンの陰に隠れたサキは、メダルを拾い、メダロットたちをストレージに戻す。その周囲からは、オレに向かって非難の視線が飛んできている。こそこそ話をしている者もいくらかいる。

 

「テンサン!今のロボトルは無効だ!」

 

堂々とそう言い放つウスモンは、果たしてバカだった。勝手にロボトルを無効にされ、カバシラがぎょっとしている。

 

「そんな!約束したじゃないですか!コイシマルくんだって――」

 

オレの後方からヤマトが叫ぶ。賭けの内容が内容なので、サキの状態を差し引いても必死なのが、声を通して伝わってくる。

 

「うるさい!サキは渡さん!オレと再試合だ!」

 

「いいですけど、公認レフェリーが言ったことを捻じ曲げてまで再試合するんですから、ウスモン先生にも同じ内容で賭けをする覚悟はありますよね?」

 

「同じ内容だと?」

 

何のことか分からないのか、オレを怪しんでいるのか、ウスモンは訝る。

 

「はい。ウスモン先生が勝てば、部室は明け渡す。オレが勝てば、さっきのロボトルの無効を取り消してもらって、更にウスモン先生にもヤマトに謝ってもらいます」

 

「だが、それだとオレが勝ったときの取り分が少ないじゃないか?」

 

「じゃあついでにオレが何でも言うこと聞くってことでいいですかね?」

 

ウスモンの片眉がぴくりと動き、それから下品な笑顔を浮かべる。

 

「ほう?テンサン、お前も男だ。それに二言はないな?」

 

「もちろん。男ですから」

 

不敵に笑って見せ、左拳で胸をトントンと叩く。

 

「はっはっは!いいだろう、乗った!サキ、離れていろ」

 

「はい……」

 

"さっきのはマグレだ"、"どうせ自分が勝つに決まっている"。そう思っているであろうウスモンは、すっかり気をよくしてオレの提案に乗った。ウスモンに促され、涙目のサキは、邪魔にならないよう周囲の女子同様ウスモンから離れた所へ移動した。

 

「行くぞ、メダロット転送!」

 

ウスモンがメダロッチを構え、力強い音声入力によってメダロットが3体転送される。

1番機と2番機は男・二脚・ヒグマ型メダロットのヒマグマー一式。凶暴なヒグマらしく両腕はソード攻撃だが、頭部は"ペロリンハニー"のパーツ名に違わず応援行動"変化(回復)"だ。ヒーラヌーラの変化(速度)に輪をかけて使いにくいが、だからこそ使いこなせば度肝を抜けるだろう。ウスモンには無理だと思う。

3番機は男・戦車・イノシシ型メダロットのエルヘッド一式。両腕が牙で、脚部パーツ側に鼻がついているという面白いデザインだ。いずれも守る行動"援護"のパーツで装甲はかなり高い。正直欲しい。

 

まあ、やはり、全部関係ない。

 

「カバシラさん、ご迷惑おかけしてすみません。もう一戦レフェリーをお願いします」

 

「いえ、大丈夫です。それが私の仕事ですから!」

 

オレが声をかけると、困った様子だったカバシラはビシッとして答えた。ロボトル協会からはOK出てるんだろうか?出てるんだろうな。

 

「両選手、準備はよろしいですか?」

 

「はい」

 

「おう!」

 

連続してのレフェリーだからか、大会で聞くような確認の文言が出た。レアだ。確認が取れたカバシラは頷き、ウスモンの3番機がすぐにリーダーを守りに行けるよう身構え、ベーデンはさっきと同じように半身(はんみ)で左腕を突き出して構える。

 

 

「それでは、ロボトルーー……ファイッ!」

 

 

カバシラが右手を上げ、振り下ろすのとほぼ同時に、ガガガッ、と連続した衝突音がした。その音より遅れてウスモンの3番機が動き出し、3番機の背後でメダルが排出される音と、ガシャッという音がした。ほぼリプレイだった。この展開を予想していたのか、カバシラはウスモン側を見て一度頷き、それから手を挙げて口を開いた。

 

「リーダー機能停止、コイシマルの勝利!サキさん、ウスモンさんはパーツの譲渡を行ってください!」

 

「くっ、ぬっ、くそおお~~!」

 

ちょっと震えた後、上を向いて叫ぶウスモン。2番機が、倒れたリーダー機のそばに落ちたメダルを拾ってウスモンに差し出すと、ウスモンはやや苛立った様子でそれをメダロッチにはめ、メダロットたちをストレージに戻した。そしてパーツを一つ取り出して脇に抱え、ずんずんとオレの方に向かって歩いてくる。

 

「持っていけ!」

 

「いただきます」

 

おお、エルヘッドの左腕か。これはかなりありがたい。

 

「……で、何を謝れというんだ?」

 

「それは後日にしましょう。お互い頭冷やした方がいいですよ」

 

そう答えてからウスモンのリアクションを待たず、廊下の壁際に並んでいる女子共のを見てサキを探す。座り込んでるのを見て、"おや?"、と思いつつ近づくと、少し時間を置いて感情の昂ぶりが抜けたからか、単にすすり泣いているようだった。近づくごとに有象無象の視線の鋭さが増すが、それらを無視して、サキのそばで膝をついて目線を合わせると、さっき程力は籠もっていないながらも睨んできた。顔が赤い。

 

「……なによ」

 

サキの肩に手を置く。……本当はここで言いたいことが色々あったのだが、どうもそれはやめた方がいい気がして、オレは一度かぶりを振る。それから、なるべく冷静に、と意識しつつ口を開く。

 

「ウスモン先生にも言ったけど、話は日を改めてしよう。それと、メダロット部には入ってもらうけど、兼部でいいからな」

 

「え……?」

 

「入部しろと言ったんであって、弓道部抜けろとは言ってないからな」

 

まあ、ゲームでの感じを見るに、実際はサキ自身最初から負けてもそのつもりだったんだろうけれども。

 

「さっきは強く当たって悪かった。ごめん」

 

「……」

 

サキがゆっくりメダロッチを操作し、ジャンガリアンの右腕パーツを取り出して、片手で持って無言でぐいっと突き出す。その手は震えていた。オレはそっと受け取ってストレージに送った。

 

「ありがとう。じゃ、また明日な。……ヤマトー!鍵閉めて帰るぞー!」

 

必要なことは伝えたので、立ち上がり、壁際で固まっているヤマトに呼びかけると、ヤマトは我に返った様子で鍵を閉め、こちらへ駆け寄ってきた。何か言いたそうだが、何も言えずにいる。オレも、ヤマトに伝えるべきことがあるような気がするのだが、ロボトルとその前後で頭が茹だり気味で、思考がうまくまとまらない。頭を冷やすべきなのはオレも含めてのようだ。情けない。

 

帰路を行くオレたちの間に漂っていたのは戦勝ムードというよりは戦後処理ムードという様相で、神社の前で"また明日"としか言えなかった。家に帰ったオレは食事と入浴を済ませた後、倒れるように眠った。ベーデンもルートも、ずっと何も言わなかった。




日本語怪しいな、と自分で思った時はググるんですが、"すんすん"でググった結果泣き声の擬音語で合ってるのか怪しいような気がして不安になりました。使われてはいるようですが、Weblio先生とかが検索結果にいない。

取り巻き女子をもうちょっと詳しく描写した方がいいような、そうするとくどくなるような、微妙な感覚で書き上げた結果、なんか中途半端になった気がしないでもないです。加減がわからない。

念の為に言っておくと、これを書いている人間にサキへのアンチ・ヘイト感情はありません。ヒロイン候補には他のキャラにも増して見せ場が必要なんです……許してください……


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19.底へ、深きへ

設置しておいてなんですが、メダル数のアンケートに関しては「なぜそれを選んだか」も問いたい気持ちです。
1枚派がこんなに少ないのはちょっと意外です。

前回書き忘れてましたが、毎度誤字報告ありがとうございます。
今回のは書き損じというより「ガイア!オルテガ!マッシュ!ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!」な感じでしたが。誰だよ6体目。

アサヒの一人称も"おれ"と"オレ"が混ざっていることがわかりましたが、"オレ"で統一します。


サキのメダロット部入部が決まった翌日、神社の前にはヤマトがいて、いつも通り一緒に登校した。お互い当たり障りのない話をして、昨日のことは話題に出さなかった。学校ではサキはオレを避けているように感じられ、昼休みにも声をかけることができず、そのまま放課後になってしまった。

逃がすとまずいと思い、終業の挨拶の後すぐにサキに話しかけようとしたとき、サキも同時にオレの方を向いた。表情からは何も読み取れない。少し驚いている間に、サキの方が口を開いた。

 

「コイシマル、今から大丈夫?」

 

「おう。ヤマトもいいか?」

 

「昨日の話?いいけど……」

 

当事者であるヤマトに確認を取った後、オレは自分の席からどいて、ヤマト、オレ、サキの3人が輪になる形にした。

 

「メダロット部入部のことはもう話したよな」

 

サキが何も言わないようなので、今度はオレから話した。まずはサキに確認を取る。

 

「ええ。それで、ヤマトくんに何を謝れって?」

 

「オオムラ。お前、弓道は真剣にやってるんだよな?」

 

オレが質問すると、サキは目をパチクリさせる。

 

「……急に何?」

 

「いいから」

 

「本気でやってるわよ。それが?」

 

一呼吸置いてから、オレは口を開く。

 

「……武道ってのは、結果さえ出せばいい武術とは違って、礼に始まり礼に終わるもんだろ。それを修めようって人間が、"ダメロット部"なんて言葉を使って、他人をバカにするのか?」

 

「!!」

 

目の前のサキと、視界の端でヤマトも驚いているのが見えた。

 

「顧問の先生があんなんだから、仕方ないところもあると思うけど、オレは、頑張ってるヤマトがそんな風に言われてるのを知って嫌な気分になった。だから昨日、ああ言ったんだ」

 

言葉を切ってサキを見つめていると、サキがヤマトの方へ向き直った。ヤマトも察して、サキと向かい合う。

 

「ヤマトくん、これまでごめんなさい。部のみんなにも、よく言って聞かせるわ」

 

「い、いいよ、そこまでしなくても」

 

後半部分を聞いて遠慮するヤマトだが、サキは首を横に振った。

 

「ううん。だって、コイシマルくんの言う通りだもの。……このままじゃ、恥ずかしいったらないでしょう」

 

元来の気性の差か、ヤマトはサキに対して言うことはないようで、困ったような顔をして黙っている。そうしていると、サキがこちらを向く。

 

「コイシマルくん、わたしもう弓道部に行ってもいい?」

 

「いいよ。行ってらっしゃい」

 

「うん。それじゃ」

 

サキはすたすたと教室を出ていった。

 

「……コイシマルくん、そんなに気にしてたの?」

 

困った表情のまま、ヤマトがオレに問いかける。

 

「友達が悪口言われていい気はしないだろ」

 

「そっか。ごめんね、ぼくがしっかりしてれば、そんなことしなくたっていいのに」

 

「空き巣に遭った時、悪いのは戸締まりを忘れた方じゃないだろ。ヤマトが謝ることじゃない。もっと堂々としていいんだ」

 

「難しいなあ……あっ」

 

ヤマトが、何か思い出したような声を上げる。

 

「どうした?」

 

「カナエさんに頼まれていた本、図書室に借りに行かないと」

 

「あっ」

 

オレも部員のことで頭がいっぱいになって忘れていた。確か、ゲームの方でも元々一日遅れになっていたし、そもそも借りられないから大丈夫だとは思うが……

 

「ごめん、オレも忘れてた。そっちはヤマトに任せていいか?」

 

「うん。ぼくは図書室に行くから、先に部室に行っててくれる?」

 

「あー……いや、オレは勧誘しに行く。心当たりがあるからな」

 

「えっ、次は誰を勧誘するつもりなの?」

 

「ヒョウモンに、サメハダを勧誘してくれるよう頼んでおいたんだ。確認しに行って、ダメそうならオレが直接勧誘する」

 

アサヒとオサムの名前を出すと、ヤマトは少し嫌そうな顔をした。

 

「お、オサムかあ……うーん、そっちはコイシマルくんに任せるよ」

 

「おう。ヤマトが来るとちょっとこじれそうだし、そうしてくれると助かる」

 

「ごめんね」

 

「いいんだよ。じゃあ、部室でな」

 

「うん。また後で」

 

 

……

 

 

図書室へ向かうヤマトと別れ、オレは2組へ向かったのだが、アサヒとオサムはいなかった。教室に残っていた男子に尋ねると、校門から出てすぐ左にある、岬の公園で遊んでいるのではないか、ということだった。事前にアサヒを入部させたことでここの展開も変わってしまうのではと思ったのだが、その男子の口ぶりからしていつもの場所ということなのだろう。オレは一言礼を言ってから、岬の公園までやって来た。

 

岬の公園。ここはすすたけ村の東端で、学校から見て奥側に海がある。公園といっても遊具はなく、ただ開けた場所にベンチがいくつか置かれているだけだ。人気(ひとけ)は少ないが、そのベンチの一つにアサヒとオサムが座っていて、何か話をしている様子なのが見えたが、2人はオレの姿を認めると一旦話すのをやめ、アサヒの方が手招きしてきた。

 

「よう。ちょうどお前の話をしてたとこだ」

 

近づくと、アサヒが軽く挨拶する。隣のオサムは、不機嫌そうな顔をして黙ったままだ。

 

「オレの?部員勧誘のことじゃなくて?」

 

「まあそうなんだけどよ」

 

「ヒョウモンがロボトルで負けたのを信じてもらえなかったとか?」

 

「違うんだよ。こいつ、"ロボトルが強いだけじゃ認めねー"って」

 

「じゃあどうすればいいんだ、肥溜めにでも落ちてこいって?それで入部してくれるならやりますよオレは」

 

「マジかよ」

 

半ば冗談で出した言葉にアサヒが目を見開いている横で、オサムがオレに向かって口を開く。

 

「お前、潜水の脚部パーツは持ってるか?」

 

「ないよ」

 

「そうか。なら、頼みを聞いてくれたら、メダロット部に入ってやってもいい」

 

「頼みって?」

 

「学校の裏の林に滝があって、その滝壺にパーツが落ちてるんだ。それを自分で潜って取ってこい」

 

まだ春だ。泳ぐには寒い季節だし、水から上がった後も冷える。だから、2人ともそこにあるのがわかっているのに自分で取りに行かないわけだ。この話を振ってくるのがアサヒではなくオサムなのがゲームと違う点だが、オレの返事は変わらない。

 

「いいよ」

 

「おい、オサム……」

 

アサヒが少し困った顔で、ふっかけるオサムをたしなめるが、オサムは気にした様子がなく、不機嫌そうにしたままだ。

 

「本当に潜る気か?」

 

アサヒは今度はこちらを向き、問いかけてくる。

 

「肥溜めよりは生産的でいいと思う。タイムリミットは?」

 

「……夕方までだ」

 

「そうか。これ、預かっててくれ」

 

言いながらメダロッチ――ストレージの中身は新型の方に統合したので、親に買ってもらった方は家にしまってそのままだ――を1つ外し、オサムに差し出す。

 

「えーっ、オイラたち人質になっちゃうの?」

 

「どちらかというと、アリバイ作りだと思うけれど」

 

メダロッチの中から声がし、オサムはぎょっとした。まあ、いわば中身の入った財布をポンと預けるようなものなので、無理もない。オレがゲームの知識で一方的にオサムのことを知っているだけで、実際はほぼ初対面だしな。

 

「これでひとりだ。先にコンビニでタオル買ってくる」

 

 

……

 

 

コンビニへ行って、レジ袋片手に公園に戻ってきて、それから学校の裏手に繋がる方へ。学校と公園がすぐ近くであるため、公園と林もすぐ近くだ。といっても、入って少し進めば、公園の方は見えなくなるくらいには木が茂っている。あと、林といっても平坦ではなく、滝は高い所にある。

 

林に入って奥へ進むと、水の流れる音が聞こえてきた。聞こえる方へ向かえばきれいな川が見つかり、川に沿って上がって行けば、滝壺も見つかった。この地形、大きさ。間違いなくここに、盗まれたトルマリンのパーツが沈んでいる。パッと見ても深そうだ。底まで行って戻るのに、息が続くか怪しい。

 

鞄を降ろして中身を取り出す。空の500mlペットボトル5本、ポリプロピレンロープ(荷造りに使う白いビニール紐)、布テープ(ガムテープの紙じゃない方)、普段から筆箱に入れている鋏。

上流の川をせき止めて滝壺を浅くするなんてことをやればどうなるかわかったものではないので、他の方法が必要だ。タオルとは別に、そのために必要なものをコンビニで揃えてきた。ペットボトル飲料の中身は、コンビニでトイレを借りて捨てておいた。

 

ペットボトル全てに、いっぱいになるまで砂を入れる。それらを布テープとポリプロピレンロープで一纏めにし、重りを作る。重りからはロープを伸ばしておき、ロープの先に輪っかを作る。

5本合わせて、浮力と差し引いた水中の重さは3.5~5kg。人間の水中の重さは(空気を吸い込んだ状態で)元の体重のおよそ1割。小学4年生男子のオレの場合、だいたい3kg。この重りをつけて体を動かさずに沈んだ場合、水中での落下加速度が倍以上になるという寸法だ。

 

自分の力で潜ると、体を動かした分だけ酸素を消費して苦しくなる。だから体を動かさずに沈めばより楽なのだが、そうすると水底までに時間がかかる。空気と違って水は抵抗力が大きいから、一工夫しなければならないわけだ。

この滝壺イベントのことはずっと前から考えていたので、この策を実行するのはちょっと楽しみでもあった。

 

重りが完成したら準備体操。それから服を脱ぎ――既にちょっと寒い――、水際に屈んで、水面を掬うように弾いて自分の体に水を掛ける。学校でプールに入る前にやるアレだ。特に今は水温が低いので、きちんと慣らさないと風邪では済まなくなる。

 

水温に慣れてきたら、いよいよ滝壺へ進む。深いので足はつかない。

さて、パーツはどの辺りだったか。水は透き通っているが、深さゆえに底はよく見えない。まずは潜って探すしかない。

 

 

……

 

 

数回素潜りし、水底にトルマリンのパーツを見つけることができた。既に水温が気にならなくなり、楽しささえ覚え始めたが、長く続ければ危険なので急がなければならない。

直上が水面のどの辺りかを覚えて、重りの輪を足にかけて、本体を抱え、鋏を持つ。既に沈む力が倍になっているので、水面を移動するのも一苦労だ。覚えていた辺りの位置まで来てようやく重り本体を手離し、素早く息を吸い込んで、砂ペットボトルに引かれて沈む。

 

水中で目を開け、水底への到達を待つ。思い切り息を吸い込んだのに、結構な速さで沈んでいく。ロープが触れている足が痛い。

余裕のあるうちにペットボトルが地面につき、オレはパーツを拾うために足から伸びるロープを鋏で切り、体を傾けて腕で水を掻いた。途端に――余裕があると思っていたのに――息が苦しくなり始めて焦り、急いでパーツを脇に抱え、バタ足して水面に向かった。途中で少しずつ息を吐き、少しでも楽にしつつ上がっていく。

 

パーツを取り落とすこともなく無事水面に着いた後は、陸に上がって体を軽く拭き、服を着る。空を見ると、まだ青い。オレは達成感と安堵感にため息をつく。

それから、鋏他数点をしまって鞄を背負い、タオルが入ったレジ袋とパーツを両手にそれぞれ持って、公園に戻るべく歩き出した。

 

それにしても、わかってはいたんだが、寒い。風邪をひかないといいんだが……




※アンケート設置予定


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20.水浴びて地固まる

林を抜けて公園に戻ると、ベンチに座っているのはアサヒだけだった。周囲を見回しても、オサムの姿はない。オレが林から出てきたのを見て、アサヒはベンチから立ち上がってこちらへ歩いてくる。

 

「オサムどこ行った?」

 

「お前が滝の方に行ってすぐに帰っちまったよ。メダロッチもあいつが持ったままだ」

 

オサムのことを話すアサヒの平坦な口調からは、このようなことには慣れているという親友らしさが感じ取れた。それを裏付けるように、オサムの機嫌を特に気にかける様子のないまま、視線がオレが手に持っているパーツに移る。

 

「で、それが滝に落ちてたやつか?」

 

「おう。他になければな」

 

「ちょっと貸してみろよ」

 

言われるままパーツを手渡すと、アサヒはそれをメダロッチとペアリングして、メダロッチにパーツの情報を表示した。視線がある一点で止まり、アサヒは目を細めた。

 

「左腕パーツ"パワーアーム"、DRV型……DRVってなんだ?」

 

「なんで知らないんだ?お前かオサムが落としたパーツじゃないのか?」

 

「うっ」

 

指摘されて口ごもるアサヒに、オレは苦笑する。

 

「まあいいけど。だってそれ、多分盗品だしな」

 

「盗品!?」

 

「DRV型なんて機種は発売されてないだろ。それにちょうど最近、発売前のメダロットが江戸紫の研究所から盗まれたらしいし」

 

顔を上げて大声を出したアサヒに、盗品、それも研究所から盗まれたとする根拠を挙げてやるにつれ、アサヒは真に受けて顔を青くする。

 

「ま、マジかよ……これ持ってたら捕まるんじゃ」

 

「研究所に知り合いいるし、オレから連絡入れとこうか?」

 

「あ、そうなの?」

 

フォローを入れると、アサヒはすぐに元気を取り戻す。

 

「なら任せるけど、なんで引っ越してきたばっかのやつが研究所に知り合いいんだよ」

 

「秘密」

 

「んだよケチ」

 

パーツを返してもらいながら、互いの軽口に笑い合う。友達になったという感じがして、気持ちがいい。

 

「オサムの家知らないだろ?連れてくよ」

 

「おう、ありがとう」

 

「って言っても、こっからすぐ近くだけどな」

 

アサヒに連れられ、オレも公園から南に歩き出した。

 

 

……

 

 

公園の南に向かって、容赦なく建てられた住居たちを横目に長い坂を降りると海岸に出る。ちょうどここは、執事と戦った商店街を抜けた先でもある。そこから更に南に進むと、台地のように盛り上がった地面の上に一軒家が立っていた。

 

辺りは小さな船着き場や松の木がある他は平らで何もない海岸なのに、その中にドンと家とその土台があるというのは、風情があるような滑稽なような、なんとも言えない景色だ。

 

南側まで回り、踏み均された土の階段を上ると、アサヒはすぐに引き戸をがらがらと開け、そのまま玄関へ入った。

 

「オサムー!」

 

家の中に大声を響かせつつもその動きは止まらず、靴を脱いで床まで上がり込む。

 

「お邪魔しまーす」

 

その後に続いて敷居をまたぐと、釣り竿やクーラーボックス、タモがいくつも壁際に並べて置いてあった。靴を脱いで向きを直す時に、長靴も目に入った。流石は漁師の家。アサヒの足音が遠ざかっていく方を見ると、階段を上がっていくのが見えた。

 

階段へ向かいつつ左右を見回すと、ちょうど畳敷きの居間から出てきた女性と目が合った。オレの母やオサム本人ほどではないが細目で、一見目元や口周りも動かずクールな感じだが、オレを見るなり小さく首を傾げ、口を開けて一瞬だけ固まる。

 

「あら、オサムの友達?」

 

遅れて出てきた声の調子まで一本調子で、少し怖い。

 

「テンサンです。ちょっと用があってヒョウモンと来ました」

 

「そう。オサムなら2階の自分の部屋にいるから」

 

来訪者の正体を確認して満足したのか、それだけ言って、オサムの母親(名前忘れた)は居間へ戻っていった。

オレは小さく鼻からため息を吐いて、2階に向かった。

 

 

……

 

 

2階に上がってすぐ左側、白い木の引き戸が開いている部屋の中で、アサヒとオサムはカーペットに座っている。カーペットの上にはメダロットのパーツが並べられている。メンテナンスでもしていたのか、磨き布やドライバー、折りたたまれた新聞紙が転がっている。

 

オレが部屋に入ったのに気付き、二人してオレに視線を向けてくる。しかしオサムのそれが、外で会った時のような嫌悪の籠もったものではなかったので、オレはのけぞった。

 

「そんな目で見るなよ……悪かったって」

 

「どういう風の吹き回しだよ?パーツは取ってきたけど、それで機嫌が直ったわけじゃないよな」

 

「こいつらに話を聞いたのさ」

 

オサムが手を差し出す。そこにはオレのメダロッチが乗っていた。

 

「おかえりー!」

 

「コイシマル、お疲れ様」

 

「おう、ただいま……話って?」

 

メダロッチの中から声を発するルートとベーデンに軽く返す。それを受け取って腕に巻きつつ、オサムに詳しく話すよう促すと、オサムは得意げに腕を組む。

 

「お前がいいマスターかどうか試してやろうと思ったんだ。アッちゃんにロボトルに勝ったっていっても、メダロットに無理させて出した結果かもしれないからな」

 

「まったく。オレはちゃんと"実力で負けたんだ"って、何回も言ったのによー」

 

「ごめんごめん」

 

アサヒの声は明朗で、ここでも怒っていないことがわかる。オサムも口では謝っているが、顔は笑っている。

 

「それでコイシマル、パーツが盗品って本当なのか?」

 

オサムが声のトーンを落として問いかける。ある程度はアサヒから話を聞いたようだ。

 

「売ってない機種なんだし、盗品だろ」

 

「そっか……それさ、ウスモン先生が、誰かに頼まれて滝に沈めたみたいなんだ」

 

「誰かって?」

 

「わかんねー。ニット帽とサングラスとマスクで顔は見えなかったし……」

 

黒マントこと、村長秘書の"アラクネ イト"のことだ。今の所はゲーム通りに暗躍しているらしい。

 

「じゃあいいや。で、メダロット部にはちゃんと入ってくれるのか?」

 

オレが訊くと、オサムはゆっくり頷いた。

 

「ああ、おれも約束は守るよ。ごめんな、寒かったろ」

 

「今もちょっと寒い」

 

「……マジでごめん」

 

「済んだ話だ。気にすんなよ」

 

寒中水泳のことを引きずって欲しくないオレは、笑顔を作って右手を差し出す。オサムも笑って右手を出し、オレたちは握手した。お互い満足して手を離したところで、アサヒが両手をぱんぱんと叩いて口を開く。

 

「いやー、よかった、よかった。これであと1人か」

 

「あれ、言ってなかったっけ。オオムラも入部したからサメハダで5人目だぞ」

 

「マジで!?あいつ弓道部の部長だろ!?」

 

信じられないとばかりにアサヒが上げた大声に、オレとオサムが顔をしかめる。

 

「人ん()で叫ばないでよ」

 

直後にオサムが抗議し、アサヒは目を見開いたまま口を閉じ、落ち着いてから再び開いた。

 

「おう、すまねえ……で、どうやったんだよ?」

 

「兼部だよ。弓道部優先ってことにしてある」

 

「はー、なるほどねえ」

 

「でも5人だと対戦ペアを作る時によくないよな。もう1人欲しくないか?」

 

「まあ、とりあえず廃部の危機は脱したから。あと1人はゆっくり探すよ」

 

……と、真面目に提案してくれたオサムには誤魔化しておいたが、実際はコノハを勧誘することに決まっている。本当はそちらで5人目のつもりだったので、最悪コノハは勧誘に失敗しても大丈夫になったわけだ。

そういう意味でも、この段階でオサムが仲間になったのは嬉しい誤算だ。

 

「わりい、トイレ借りるぜ」

 

立ち上がったアサヒが了承も得ないまま部屋を出ていく。

 

入部意思を確認できて安心したからか、急に疲れが来た。ぐっと伸びをすると、ふと窓の外に水平線が見えた。

 

「なあなあ、コイシマル」

 

「ん?」

 

いいとこ住んでるな、と思っているところに、オサムが声をかけてきて、オレは伸びたまま振り向いて返事をした。

 

「上がってくる途中に、おれのお母ちゃん見たか?」

 

「挨拶はちゃんとしたぞ」

 

「美人だろ?」

 

「そうだな」

 

内心、何言ってんだこいつ、と思いつつ、表情は崩さずに答える。

 

「へへっ、ありがとう。そうそう、おれのお父ちゃんは今遠くまで漁に出ていないんだけど――」

 

 

……

 

 

オサムの親バカならぬ子バカ話に付き合わされたり、戻ってきたアサヒから、すすたけ小の教師たちについての噂を聞かされたり。くだらない、子供らしい話に、オレたちは時間を費やしていった。

 

窓の外が暗くなり、オサムの母親に帰るよう言われてようやく、オレとアサヒはそれぞれ家に帰った。




新発売の"感情類語辞典(増補改訂版)"買いました。この手の本を買うのは初めてで、偶然このタイミングで増補改訂版が出ることを知ってポチりました。

"プロってすごいんだなあ"と思いました。そして、つらい。

辞典部分とは別に、45ページに渡って、キャラクターの感情の表し方、つまりよりよい地の文の書き方について語られています。
例文も交えてあり、わかりやすいのですが、それがいかに難しいことかを突きつけられもします。
"この通りにやるとすると、台詞補完用の地の文1行書くのにどれだけ苦労するんだろう"、といった感じで。
無論それは質を上げるための苦労であり、読み終わった後に自分の書いた文章を読んでるとチープだなあと感じさせられます。連載はやめませんが。

辞典部分は130種類の感情にそれぞれ2ページずつ使って、その感情から発生する動作、その感情を隠している時の様子、その感情を想起させる動詞、とかが詰め込まれています。
正直しばらく使いこなせる気がしませんが、絶対にこれは便利なはず。

ここに書いて宣伝になるかはわかりませんが、作品書かれてる方におすすめしたい一冊です。


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21.先の先

コノハってオサムのことなんて呼んでたっけ……


廃部回避が決まった翌日。午後のホームルームが終わった後。

 

「よう」

 

声が聞こえて、自分の席に座ったまま振り向くと、アサヒが軽く手を上げている。その隣にはオサムもいる。

同じく気付いたヤマトは鞄を置いて立ち上がり、机を回り込んでアサヒの前へ。オレ、アサヒ、オサム、サキ、ヤマトで円ができた。

 

「お疲れ。ここにいる5人が現状の部員全員だな」

 

「ああ、最後の一人ってやっぱりオサムくんだったの」

 

オサムの入部を伝えるが、サキやヤマトに驚く様子はない。

 

「もしダメだったらと思ってたけど、ちゃんと入部してくれてよかった。これで5人だね」

 

「入って当たり前みたいな言い方しやがって」

 

頷くヤマトを見て、オサムが肩を落とす。

そして今日も、サキは「じゃあ私、弓道部に行くから」と言って出ていった。

 

「で、なんか用事?」

 

「"なんか用事?"って……部室に行くんじゃないのかよ?」

 

改めて尋ねると、アサヒに訊き返された。

 

「いや、今日こそは図書室に行かないと」

 

「なんで?オバケ退治に行くのか?」

 

転校当日に聞いた、学校にいるオバケの話らしい。

 

「図書室にオバケがいるのか?」

 

「オレもコノハから"いる"って聞いただけだけどよ」

 

「1組の女子に退治するよう頼まれて放っといてるって、その話か」

 

「うっ」

 

これまた転校初日に聞いた情報をぶつけてみると、アサヒは言葉を詰まらせた。オサムも何も言わない。

 

「……オレ、オバケとか、そういうの苦手なんだよ」

 

「オバケかぁ……いやだなぁ、出たらどうしよう?」

 

「いや、ヤマトは一回神社で見てるだろ」

 

「なにっ!?見たのか!?」

 

実際に見たという話を出すと、アサヒが大声を出す。周囲の生徒の視線が集中するが、アサヒ本人は気付いていない。

大声に怯んだヤマトが、少し置いてから話し始める。

 

「えっと……こないだうちの神社にオバケが出てたんだけど、どうもメダロットだったみたいで。その時はコイシマルくんが追い返したんだ」

 

「メダロットだぁ?誰かのイタズラってことかよ」

 

「イタズラにしては手が込んでるというか、長く続きすぎな気がするけどね」

 

ヤマトの指摘は正しく、イタズラではない。イトが表立って動けばバレるリスクが高まるから、メダロットを使ってあれこれ工作――というには乱暴だが――しているというのが事実だ。

 

「でも、神社のオバケと学校のオバケって同じなのかな?」

 

「オレが来る前からいたみたいだけど、出始めた時期はどうなんだ?同時期なら同じと見ていいと思う」

 

「うーん、じゃあ同じなのかな?」

 

「ただのメダロットってことなら怖くともなんともねえな。ちゃちゃっと用事済ませようぜ」

 

いまいちピンと来てなさそうなヤマトをよそに、アサヒはすっかりメダロットだということにして話を進め、教室を出た。

そのすぐ後にはオサムが続き、オレとヤマトも、鞄を持ってアサヒを追いかけた。

 

 

……

 

 

「きゃあ!」

 

1階の廊下の東端。アサヒを先頭に図書室に近づくと、中から女子の声がした。

 

「コノハか!」

 

反応してアサヒがドアに手を伸ばしかけるが、その前に勢いよく開き、オバケメダロット3体が、足音もなく飛び出す。オレがいつも見るやつらだ。

 

「うわああっ!?」

 

アサヒは飛び退いて、素早くオレの後ろに隠れる。ヤマトとオサムは固まっている。オバケメダロットたちはその間に、オレたちを避けて隣の部屋に飛び込んでいく。アサヒの叫び声に隠れて、鍵を開ける音が聞こえる。

あらかじめ分かっていたオレは、アサヒを押しのけて、オバケメダロットたちを追う。

 

開け放されたドアの中へ駆け込み、ベーデンを転送しようと手首を口元まで上げようとしたそのとき。

 

「コイシマル!危ない!」

 

ルートの声がし、目の前には本棚が倒れてきた。慌てて数歩後ろに走る。

部屋の入口付近で、背中が誰かにぶつかって、二人とも尻餅をつく。

 

本棚が倒れ、ゴンッと鈍い音が立った。中に並べられていた本がいくらか散らばる。思っていたより遠かったようで、元々オレがいた場所までも届いていない。

 

手の甲で額の汗を拭い、隣を見ると、どうやらぶつかったのはオサムらしい。

 

「な、なにがどうなったんだよ?」

 

「悪い、本棚がな」

 

オサムは、オレが邪魔で前が見えず、何が起こったかよくわかっていないようだ。一言謝ってから立ち上がり、改めて部屋の中を見る。

 

図書室の隣の部屋は書庫か何からしい。本棚がびっしり配置されているのに、貸し借りを行うカウンターとか、読書・自習に使う机がない。

本棚は、目の前の一つ以外にも、そこかしこのが倒されている。

 

「くそっ、マジかよ……」

 

ゲームでは、箱を押して並べると本棚が上に持ち上がって出口が現れる、というギミックがあったのだが、流石にそんなものはないようだ。

代わりに、右奥にはドアがあり、これも開け放されている。オバケメダロットたちは、オレが本棚に驚いて止まっている間に、まんまと逃げおおせたようだ。

 

何にせよ、わかっていたのに逃げられてしまったのが悔しい。まさか、こんな三原則スレスレの手を使ってくるとは。

 

「うーわ、本棚倒れてるじゃん」

 

立ち上がったオサムが、惨状にため息をついた。

 

「オバケが逃げるためにやったんだろうな。オレたちだけじゃ片付けられないし、先生呼んできてくれるか?」

 

「わかった」

 

ドアの外に出てみると、校舎裏だった。オバケメダロットの姿はない。塀の近くに、本が数冊落ちている。オバケメダロットは塀を飛び越えて、学校の外へ逃げて行ったのだろう。

 

落ちていた本を拾って、一冊一冊ページをめくって砂を落としてから部屋に戻ると、40代くらいの男の先生が来ていた。先生は、本棚から散らばった本を拾って、壁際に積んでいる。オレが入ると、すぐにこちらに気がついた。

 

「テンサンくんだね。サメハダくんから事情は聞いたよ。この部屋のことは先生に任せておきなさい。危ないからね」

 

「わかりました。あと、そのサメハダがどこにいるか知りませんか?」

 

「タテハさんと図書室へ行ったよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

……

 

 

廊下側に出て、改めて図書室に入ると、ヤマト、アサヒ、オサム、コノハがいた。立ち話をしているようだ。

図書室の本棚はどれもスカスカだ。オバケメダロットが盗んでいったからだろう。

 

「オバケ、いた!?」

 

入るなり、コノハがサッとこちらを向き、鋭い声で問う。

 

「いたけど、中の本棚を倒して逃げてった。あっちも慌ててたみたいで、塀の近くにこれが落ちてた」

 

拾った本を手渡すと、コノハはそれを近場のカウンターに置く。緊張が解けたのかなんなのか、頬が少し緩んでいるように見える。

 

「ありがとう。何かお礼をしなくっちゃね」

 

「それならメダロット部に入ってくれ」

 

オレに向き直り礼を言うコノハに対して、入部を要求する。コノハは躊躇ったり嫌がったりせず、表情を変えない。その横にいるヤマトは小さくガッツポーズしている。

 

「あら、それでいいの?」

 

「それはこっちの台詞なんだけど、タテハがいいなら」

 

「そう」

 

コノハは両手を前で重ねてお辞儀する。

 

「よろしくお願いします」

 

「これで部員が6人になったね。じゃあ、みんな部室に案内するよ」

 

ヤマトが両手をパンと打ち合わせて言う。

 

「待って。わたし、ここの戸締まりをしなくちゃ」

 

「あと、ヤマトは結局本借りられたのか?」

 

オレが訊くと、ヤマトは首を横に振る。

 

「ううん。探したけれど、見つからなかったんだ。オバケが持っていったんだと思う。コノハちゃんの方はコイシマルくんが後から連れてきてくれる?ぼくは先にアサヒとオサムを部室に連れていくから」

 

「わかった」

 

「じゃあ、行こうか二人とも」

 

ヤマトはどういうわけか、アサヒに対して、もう苦手意識はないようだった。

 

「また後でな」

 

アサヒもオレとコノハにに一言かけてから、文句一つ言わずついていく。オサムもこちらに向かって軽く手を上げてから、その後に続いた。オレのいない間に何かあったのか?

 

「コイシマルくん?もう窓も閉めたから、外に出てちょうだい」

 

ぼーっと考えていると、コノハに声をかけられた。

 

「あ、ごめん」

 

コノハが図書室の鍵を閉め、オレたちは部室へ向かった。



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21'.タマヤス邸にて

ここに来て初の犯人視点シーンです。


コノハがメダロット部に加入した後、日が傾き始めた頃。タマヤス邸、正門すぐの広い庭の中。

 

村長が直々に手入れしている盆栽から少し離れた地面の上で、大きな焚き火が燃えている。

そのそばにいる執事は、焚き火の熱気で汗を流しながら、積み上げられた本をせっせと焚き火にくべている。本の種類は様々だ。

切ったりせずにそのまま燃やしているため、全体が燃えカスになるのには時間がかかる。ハードカバーのものなどは、特に遅い。

 

「ふう……たいへん」

 

屋敷の玄関の引き戸が開く音が聞こえ、執事は振り返る。村長の"タマヤス デンスケ"と、その秘書の"アラクネ イト"が、正門に続く石畳を歩いている。

イトは石畳から外れ、積み上げられた本に近づく。村長は作業に勤しんでいた執事の姿を見て、順調であろうことに感心して、執事に声をかけた。

 

「調子はどうだ?」

 

「本、なかなか、燃えない……」

 

「わしが帰ってくるまでに、全部燃やしておくんだぞ」

 

そして、そうでもなさそうと知るや眉根を寄せ、執事に釘を刺す。

やりとりの外で、イトは本の山の表紙や背表紙に目を走らせている。

 

(あの本はまだ持ち出せていないのか?誰かがあの記述に注目して、先を越されたりしないように、事前に回収しておきたいのだが……)

 

「イトくん!」

 

イトは、急に呼ばれて肩を()()()と震わせた。村長の方へゆっくり振り返る。

 

「手伝う必要はないぞ」

 

「え、ええ……」

 

「ソリフギくんが待っている。そいつは()っておけ。行くぞ」

 

先程の執事に対する態度とは違い、その声は明るい。村長はイトを伴って、正門から出ていった。

 

(村長、わがまま。奥様、村長のどこがいいんだろう?)

 

執事が二人の背中を見送ると、塀を飛び越えて近づく影が3つ、視界の端に映る。白い布を被った、オバケメダロットたちだ。

 

「お前たち……」

 

オバケメダロットたちは積まれた本のそばまで行くと、それぞれが持っている手提げ袋を逆さにする。いっぱいに入っていた本が、山の上にどさどさと、更に積まれた。

 

(これじゃ、終わらない)

 

執事は、焚き火の中で燃え残っている本と、追加され大きくなった本の山を交互に見て、心のなかで嘆いた。そして、一つ思いついた。

 

「いいところに、来た。この本、どこかに捨ててこい。わ、分かったな」

 

執事は、オバケメダロットに顔だけ向けて指図して、屋敷に戻っていく。

 

丸投げされたオバケメダロットたちは、互いに顔を見合わせて、ため息を付いた。



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22.はーい二人組作ってー

今更ですが、複数対複数のロボトルは、あっち行ったりこっち行ったりするし長いしで、読む方が面倒ではないかと思わずにおれません。
どうなんでしょう。


「ここが部室?体育倉庫じゃない」

 

体育館1階。部室の前まで案内されたコノハの、第一声はそれだった。

 

「跳び箱とかボールとか入ったままじゃダメでしょう。部室として使うなら他のところに移して、掃除もしないと」

 

「きれい好きもいいけど、別の日にしてくれ。今日はサメハダとタテハの実力を見ておきたいんだ」

 

コノハがじっとオレの顔を見る。

 

「……なんだよ?」

 

「部長みたいなこと言うのね」

 

「そりゃ部長だからな」

 

「ふふ、わかってるわよ」

 

ドアを開けて中に入ると、ヤマト、アサヒ、オサムの三人が地べたに座って待っていた。積み上げられたマットの上で、仰向けのミヤマがいびきをかいている。

 

「ロボトルやるぞー」

 

「5人じゃ1人余っちゃうね。ぼくが抜けようか?」

 

「いや、ヤマトはヒョウモンと。サメハダとタテハはチームを組んでオレと対戦してくれ」

 

「パーツのやりとりは?」

 

「もちろん、ありじゃ!」

 

アサヒがルールについて確認すると、オレより先にミヤマが答えた。寝転がったまま。

 

「いつの間に起きたんだ?」

 

「かかかっ、勝負は非情なもんじゃよ。緊張感のないロボトルをしても、練習にならんからな」

 

振り返ったアサヒ他に、視線も向けずに笑って答える。

 

アサヒと組まされた上、パーツのやりとりもアリということになって、ヤマトが嫌な顔をするかと思ったが、そうでもないらしい。

まともに部活ができて嬉しいからか?

 

「コイシマル、流石に5人だと狭くないか?」

 

ヤマトの方を見ていると、横からオサムに声をかけられた。

 

「あー……じゃあオレらはグラウンド出るか。メダロッターが2人いると廊下でもちょっと狭いし」

 

 

……

 

 

体育館入口からやや離れた場所に、オレたちは立っている。

10メートルほど前方にオサムとコノハ。

 

「アッちゃんにハンデつきで勝った相手だ。油断はしないぜ」

 

「あら、そうなの?ちょっと自信ないかも。今回は2対2だし」

 

オサムが意気込み、コノハはその様子に口だけ気後れしながら、各々のメダロットを転送する。

 

リーダーのオサム機は男・多脚・タマムシ型のヴェイグマン。

瓜のような、緑色に縦筋が入った細長い形で体が構成されている、四本脚のメダロットだ。目を含む要所要所に仕込まれた赤色が映える。

頭部と両腕は全て格闘攻撃"ウェーブ"。成功が高く、威力も低くない。ゲームでは難敵となる機体で、アサヒより強かった。

 

コノハ機は女・浮遊・ウサギ型のピンクラビー。ボディカラーは赤っぽいピンクと薄いピンクの二色で、普通のピンクがない。

頭部パーツはウサギの頭なのだが、脚部パーツも雪うさぎから前足だけ生えた形になっているので、耳は4本ある。

頭部と両腕は全てガトリング。

 

「あれ、オリビアじゃないの?」

 

後から転送されたピンクラビーを見て、ヴェイグマンが意外そうに言う。

 

「攻撃パーツ持ってるのが1人だけじゃだめでしょ」

 

「そっか」

 

コノハが説明し、ヴェイグマンは納得した様子を見せる。ピンクラビーはじっとしたまま何も言わない。

 

「よし、オレもメダロット転送!」

 

転送するのはジャングルギボンにエルヘッドの左腕を着けたベーデンと、クロトジル一式のルート。

分厚く長い、茶色に塗装されたイノシシの牙が、テナガザル型たるジャングルギボンの左肩から生えている。本来こういうことをすると重量バランスが崩れてよくないのだが、ベーデンなら大丈夫。

 

しかし、普通は大丈夫じゃないことをしているだけあって、オサムが細い目を更に険しくした。本来守られる側のリーダー機が、他の機体のダメージを肩代わりする援護パーツをつけているから、というのもあるだろう。

 

「5秒前!4、3」

 

オレが右腕を頭上で振ってカウントダウンを始めると、メダロッターとメダロット、それぞれが身構える。

ベーデンは今回、左腕で胸を庇うように構えている。流石に部活では、サキやウスモン相手にやったようなロボトルはできない。

 

「2、1、0!」

 

「タマサブロウ、行けーっ!」

 

「カロチーヌ、味方に当てちゃダメよ」

 

ヴェイグマンのタマサブロウが、4本脚をシャカシャカ動かして駆ける。狙いはベーデンか。

後方ではピンクラビーのカロチーヌがスーッと横にスライドしながら、同じくベーデンに銃口を向けた。

 

「1対1を作るぞ。ルート、とにかく2番機を撃て!」

 

「りょーかい!」

 

ベーデンの方は前を向いたまま頷き、タマサブロウに向かって走る。

リーダー同士が格闘レンジに入る前に、ルートとカロチーヌが同時に射撃。カロチーヌの左腕ガトリングを、ベーデンは真横に方向転換して回避。ルートの右腕ライフルがカロチーヌの左腕を破壊し、連射が途中で止まった。

 

「避けるの!?」

 

互いの銃撃音の終わり際に、コノハの声が聞こえた。

ピンクラビーの頭と腕は、充填冷却も成功も高い代わりが、脆い。その成功も、ベーデン相手では発揮できなかった形だ。

撃たれて左半身をのけぞらせたカロチーヌが、ルートの方に視線を向ける。

 

ここで、正面衝突する勢いで向かっていたベーデンが、タマサブロウの間合いに入った。

左腕を盾と構えたままのベーデンに対して、タマサブロウは右腕を引いてから突き出す。

 

「そりゃあっ!」

 

太く長い腕でありながら、その動作は素早い。

だが、ベーデンは走るスピードを落としつつ、上半身をのけぞらせて避けた。そのままタマサブロウの背後へ抜ける。

タマサブロウは振り向いて、後ろへ離れていくベーデンを見ると、そのまま追いかけていく。

 

「タマサブロウ、そのまま追い込め!」

 

「カロチーヌ、もっと離れるわよ!」

 

ベーデンとルートの板挟みになるのを嫌っての指示だろう。カロチーヌもルートを見たまま頷き、横へスライドしていく。

分断完了だ。

 

「よし。ルート、ここからはガトリングの撃ち合いで行こう。壊れるまで左腕だけで攻撃」

 

「防御は?」

 

「する。あくまで、壊れるまでだ」

 

「りょーかい!」

 

ルートとカロチーヌが互いにガトリングを浴びせ合う。カロチーヌ側は頭パーツも使い、ルート相手には性能を発揮して装甲をどんどん削っていく。すぐに互いの両腕が破壊され、頭パーツでの撃ち合いになった。

 

「ミサイルはダメよ!迎撃して!」

 

弧を描きつつも対象に自己誘導するルートのミサイルが、迎撃を試みるカロチーヌの弾幕をすり抜けて、その足元で炸裂する。爆風で浮き上がったカロチーヌに、更にミサイルが殺到。カロチーヌの背中からメダルが排出された。

 

「ああっ」

 

「やった!次はあっちに……あっ、弾がないや」

 

「げっ、もうやられたの!?タマサブロウ、早く攻撃しろ!」

 

「追いつけないんだって!」

 

その間ベーデンはひたすら走り回り、タマサブロウから逃げ続けていた。距離は離しすぎずにキープしている。

 

「ルート、メダフォースチャージ!」

 

「おっけー!」

 

踏ん張って力を溜め始めるルートを見て、オサムが()()と声を上げる。

 

「一旦あっちを機能停止させ――」

 

「行かせると思うか?」

 

「うわっ!」

 

反転して急接近したベーデンが、オサムの指示を遮るかのように、タマサブロウの脳天めがけてテナガザルの右腕を振るう。

そこを庇った左腕は一撃で破壊され、のけぞったタマサブロウは倒れないように数歩後退した。

 

「いっ……この!」

 

タマサブロウが反撃し、ベーデンがかわす。無視してルートの方へ向かおうとして、回り込まれる。また攻撃して、かわされる。

そうこうしている内に、ルートは準備を終えた。

 

「コイシマル、行けるよ!」

 

「よし!一斉射撃だ!」

 

「うん!」

 

ルートはタマサブロウの方に向き直り、両拳を握って前に突き出す。光が全身の装甲から滲み出し、弾切れした頭パーツの銃口に光が満ちる。

 

「やあああああ!!」

 

銃口から光線が放たれ、曲がり、タマサブロウの脚を撃ち抜く。脚部装甲を0にはできなかったものの、動きが止まった。

 

「ベーデン、もういいぞ!」

 

「ってことで、これで決着だよ」

 

ベーデンの右腕がタマサブロウに迫る。

 

「ひーっ!」

 

右腕、脚部、頭部を順番に殴打し、いずれも一撃で破壊。タマサブロウは機能停止した。

 

「うわあ……こりゃアッちゃんも負けちゃうわけだよ」

 

「新部長は随分と容赦ないのね……」

 

「お前ら、もうちょっと好意的な感想は出てこないのか?」

 

2人してため息をつかれて、オレまでため息をつきたくなった。

 

 

……

 

 

部室に戻ると、ヤマト対オサムも決着がついていたらしい。マットにあぐらをかいているミヤマを交えて、反省会をしているようだ。

オレたちが入ると、ミヤマがこっちを向いた。

 

「おう、お疲れさん。無事に練習試合もできて、いい感じに部がまとまって来たな。明日の期限を待たずして、公式試合に出られる6人まで揃えるとは大したもんだ」

 

「公式試合?オレたちが?」

 

アサヒが素っ頓狂な声を上げた。

 

「そりゃあ、部活なんじゃから、目標は対外試合で勝つことじゃろうが」

 

「あー、オレ部活なんて初めてだから、すっかり頭から抜けてたわ」

 

「いや、そうじゃなきゃ部活の意味ほとんどないでしょ」

 

アサヒが笑い、同じ身上であろうオサムがツッコむ。

 

「今日はもう遅い。みんな帰りなさい」

 

ミヤマにそう言われて、今日は解散することになった。

 

 

……

 

 

部活中大人しくしているように見えたヤマトだったが、帰り道では廃部回避について随分はしゃいでいた。

それにつられてテンションを上げて、神社前で別れた後、どっと疲れが出た。すぐに家につき、ドアを開ける。

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい」

 

母はちょうど夕飯の支度をしているようだった。振り向いて、首をかしげる。

 

「コイシマル、何かあったの?疲れるみたいだけど」

 

「部活でちょっと……ご飯できてる?お腹すいた」

 

「そうね、食べながら話しましょうか」

 

 

……

 

 

食卓に着いて、学校での近況を話した。母は食事をゆっくり食べながら、オレの目を見て話を聞いていた。

 

「そう、廃部にならなくてよかったわね」

 

「うん。ようやく一息つけそう」

 

「いつかコイシマルたちが、ロボトルの大会に出たりもするのかしら?」

 

「そのうちあると思うけど……先生に聞いとく。ごちそうさま」

 

「はい、お粗末さま。疲れたなら、お風呂に入って夜ふかしせずに寝るのよ」

 

「はーい」

 

言われた通り、オレは早めに床についた。



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22'.オサムの場合

別視点は()を分けた方が読みやすいと思って実際分けているのですが、短いシーンで1000字稼ぐのが辛いです。


「……」

 

すすたけ小学校メダロット部にて、初の練習試合が行われた日。その夕方。

村の東側、自宅近くの海岸で、オサムは松の木によりかかって、ぼーっと海を見ていた。

雲のかかっていない、沈みかけの太陽が、水平線近くだけを赤く染めている。

 

「どうしたの?アッちゃん以外に負けて悔しかった?」

 

(わたし)は少し違うように思いますが」

 

オサムのメダロッチから声がした。オサムのパートナーであるヴェイグマンのタマサブロウと、2番目の友達のクルウェルフのものだった。

 

「いや、それもあるかもな。チームロボトルって言っても、コノハと一緒にロボトルするのは別に初めてじゃないしさ」

 

「"も"、と仰いますと?」

 

「自分でもよくわかんねー」

 

クルウェルフの言葉に応えてから、オサムは足元の小石を拾って海に放った。届かず砂浜に落ちた小石が、波にさらわれて消えた。

みなが一様に沈黙すると、誰の耳にも波の音だけが聞こえた。

 

ややあってから、オサムは視線を遠くへ向けたまま、再び口を開く。

 

「……今まではさ、テキトーにやっても勝てたから、村で強い方なんだって、自信があったんだよな。だから、都会のおみくじ町から来た凄腕メダロッター、って噂が気に入らなかったのかもしれない」

 

「オサムってガンコだもんな」

 

「そうですね。父上に似ておられます」

 

「うるせーよ」

 

「でも、コイシマルはいいやつだよね、多分」

 

タマサブロウにそう言われ、目を閉じる。思い起こされるのは、オサムが入部するきっかけになった出来事。

まだ肌寒い中、"滝壺の底まで潜ってパーツを取ってこい"とコイシマルに吹っかけ、二つ返事で了承された時のことだった。

 

(あの時コイシマルはなんでもないような顔をしていたけど、本当はどう思ってたんだろう。オレのこと、やなやつだと思わなかったのかな。今日のロボトルではそんな感じはしなかったけど……)

 

考えたところで、コイシマルがどう考えているかなどわかるはずもなく。オサムは一旦考えるのをやめた。

 

「んー……ん?」

 

目を開けると、野ざらしの小舟の陰に、本が落ちているのが見えた。なんとなく近づくと、海水でぐっしょりと濡れていて、打ち上げられたものだとわかった。

タイトルは"すすたけ村昔話"。拾い上げると、表紙に描かれた小さな土偶と、学校の図書室の管理シールが目についた。

 

「……図書室の本?誰が海に捨てたんだ?」

 

"乾かすのが面倒だなあ"と思いながら、オサムはその本を持って帰った。



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23.廃部トラップ解除

部員集め編が終わり、そろそろストーリーは折り返し地点?
込み込み50~60話くらいで終わる見通しです。サブタイの数字だと40~50くらい。


初部活の翌日。

偶然本を拾ったオサムが、2組のモブたちに本泥棒ではないかと疑われ、キレて学校を抜け出す……というイベントがあるはずの日だ。

 

しかし、その目印となる始業前の喧嘩騒ぎが起こらなかった。オサムを止められるように早起きして登校したのだが、ヤマトやサキも普通に教室に入ってきたし、誰かが"2組で喧嘩だ!"なんて言うこともなかった。

 

すっきりしないまま時間が過ぎ、昼休みになった。

アサヒとオサムとコノハが1組へやってきた。用事があるのはヤマトのようだ。

 

「ヤマトくんが探していた本、外でオサムちゃんが見つけてくれたのよ」

 

(うち)の近くに打ち上げられてたんだけど、長いこと海水には浸かってなかったから、乾かしたら読めるようになったぜ」

 

オサムが差し出した本を、ヤマトが受け取った。隣の席のオレまで、キツめのミントの香りが漂ってくる。消臭剤か?

ヤマトは表紙を確認した後、パラパラとページをめくる。オサムの処置が良かったようで、よれてもいない。ヤマトはひとつ頷いた。

 

「確かにこの本だね。放課後に図書室へ行って、図書カードを書いておくよ。オサム、ありがとう」

 

「へへ……」

 

照れ笑いするオサム。問題を抱えていないようで、オレも安心した。

 

「今日の部活はどうすんだ?っていうか、今日はサキ来るのか?」

 

「本人に訊かないとなんとも……あいつ弓道部優先だし」

 

「ふーん」

 

先に訊ねておいて、アサヒはどうでもよさそうに鼻を鳴らした。

 

「あ、ヤマト、持って帰る前にその本ちょっと見ていい?」

 

「いいけど、どうして?」

 

「単純に中身に興味があるだけ」

 

「そう?じゃあ、はい」

 

A4サイズの本で、ページ数はさほどでもない。中高の社会科で使う資料集と同じくらいだ。

中のページまですっかり乾いている。そうと知らなければ海に落ちたとはわからないだろう。

 

「何だよ、お前その顔でガリ勉なのか?」

 

「本読むからガリ勉ってのはおかしいだろ。オレ勉強は嫌いな方だし」

 

「よく言うよ。転校して来てずっと、小テストは全部満点じゃないか」

 

「なにいー!?」

 

ヤマトが呆れ気味に余計なことを言ったせいで、オレはアサヒに掴みかかられた。

 

その後、オサムやコノハまで混ざって、昼休みが終わるまで成績のことを根掘り葉掘り訊かれた。

 

 

……

 

 

午後の休み時間に、又借りした本を適当に読み飛ばす。

"すすたけ村昔話"というタイトルだが、昔話とは伝承の現代語解釈のことで、しかもその補足資料の方が分量が多い。

子供が読むような昔話の本、という感じは、あまりしない。大学のレポートに使うと言われるのも頷ける。

 

しばらくページをめくると、目当ての内容が見つかった。

ストーリーの要のひとつでありながら、ゲームでは具体的な内容が明かされなかった伝承。

ヤマトに訊こうと思って忘れていた、太陽と月の宝玉の話だ。

期待を込めて、ゆっくりと文字を追う。

 

 

……

 

 

題:すすたけ村の宝玉

 

 

昔々、すすたけの村には、北に山、東に海、南に川、西に地蔵、まん中に池があり、村人は平和に暮らしていた。

 

ある満月の日、池の北に、空から、とても大きなかたまりが、大きな音を立てながら降って来た。

そのかたまりは昼も夜も光り続け、中では天の使いが眠っていた。

目をさました天の使いを村人たちがもてなすと、天の使いは「お礼に、願いを叶えてさしあげます」と言った。

 

村人の男が「作物が育たない」というと、天の使いは「それじゃあ、雨をふらせましょう」と言った。

天の使いが祈りを捧げると、ひとばん雨が降り、それからは作物がよく育つようになった。男たちはたいそう喜んだ。

 

村人の女が「病気で苦しい」というと、天の使いは「それじゃあ、薬をつくりましょう」と言った。

天の使いが薬を作って、それを飲ませれば、病気はすぐによくなった。女たちはたいそう喜んだ。

 

村人の子どもが「大人が遊んでくれない」というと、天の使いは「それじゃあ、友達を呼びましょう」と言った。

天の使いが連れてきたのは、見たこともないような生き物だったが、子どもたちとなかよくあそんだ。子どもたちはたいそう喜んだ。

 

天の使いが村人たちに尽くすのを見て、村人たちは、いっそう天の使いを大事にするようになった。

 

次の満月の夜、戦に敗れた武者が一人、命からがら村へ逃れて来た。

その武者はひどい怪我をしていたので、それを見つけた天の使いは、不思議な力で武者の怪我を治した。

すると武者は天の使いを拝んで、「一度はなくなったこの命。あなたのために使わせてください」と言った。

 

真面目そうな武者に、天の使いはこう言った。

 

「わたしはもうこの村を去りますが、村人たちへの最後のお礼に、太陽と月、ふたつの宝玉(たからだま)を遺していきます。それを、あなたが届けてください」

「そして、村人たちに、このように伝えてください」

「ふたつの宝玉を近づけてはならない、宝玉を村の外に出してはならない、と。これらを守っていれば、村は豊かに暮らせるでしょう」

 

武者は「わかりました、かならずそのとおりにします」と答えた。

天の使いは、ふたつの宝玉を武者に手渡すと、ふっとすがたを消してしまった。

 

次の朝、武者は村人たちに、天の使いのお告げを伝えて回った。

村人たちは、天の使いがいなくなってしまったことに悲しんだが、今度は宝玉を託された武者のことを大事にするようになった。

 

武者はふたつの宝玉を、離れたところの土に中に埋めてしまうよう言って、村人たちもそのようにした。

さらに、武者は太陽の宝玉の上に自分の家を建てて、その土地を守るようになった。

 

かくして、誰も宝玉の姿を見ることはなくなったが、それから村は豊かになり、村人たちは幸せに暮らした。

 

 

<終>

 

 

……

 

 

太陽の宝玉はタマヤス屋敷の下に埋まっているという話だったから、武者はタマヤス家のご先祖なのだろうか?

 

天の使いというのは、恐らく宇宙人のことだろう。

地球外のメダロットでも天候操作できる程のパワーはない。

それができそうな超越存在といえば、メダロットの枠組みを外れたメダロット――"マザーメダロット"だが、地球付近にはスバルとマーブラーの2体しか存在しないし、彼らは月から動けない。

逆に、マザーメダロットの生みの親である宇宙人はちょくちょく地球にやってきているし、"大きなかたまり"は宇宙船か何かと解釈できる。

メダロット5には宇宙人もマザーメダロットも登場しないが。

 

この伝承の補足には、"すすたけ村での発掘調査は行われていない"と書かれている。武者の身元がわからず、憶測で村長の屋敷を壊すわけにはいかないという事情を始め、様々な障害があるらしい。

 

しかし、知って得する情報は特になかったな。

本をヤマトに返して、放課後に向けて根回しをしよう。

 

席から立ち上がって見回すと、教室の隅に、パイプ椅子に座ってお茶を飲んでいるアキの姿があった。

前まで歩いていくと、ペットボトルの蓋を閉めてこちらを向いた。

 

「アキ先生」

 

「うん、どうしたの?」

 

「メダロット部、部員は集まったんですが、ミヤマ先生は非常勤講師だから顧問として認められないらしいんです。廃部にならないために、名前だけでもいいので、アキ先生に顧問をお願いできませんか?」

 

「んー、いいわよ♪」

 

いつも通り軽い調子で答えるアキ。

ゲームでもあっさり顧問になると知っていたが、それでもオレは拍子抜けした。

 

「いいんですか?」

 

「頑張って部員を集めたんでしょ?なら、私もできるだけのお手伝いはしなくちゃね」

 

何も考えていないというわけではないようで、オレはちょっと尊敬の念を持った。

一瞬、"でも人轢いてるんだよな"と思ったが、振り払い、一礼する。

 

「ありがとうございます」

 

「どういたしまして。でもね、コイシマルくん。私、"名前だけでいい"なんて寂しいこと言わないで欲しかったなー」

 

「どういうことですか?」

 

「だって、それって私のこと頼ってくれてないってことじゃない。私、担任の先生なのよ?」

 

「……」

 

表情を変えずにそのようなことを言われて、何と返せばいいかわからずにいると、アキが続けて口を開く。

 

「子供は大人を、生徒は先生を頼るの。大人だって、困った時は助けてもらわなきゃどうしようもないくらいなのよ。コイシマルくんも、何かあったら素直に先生に言うこと。わかった?」

 

「はい」

 

「よろしい!さ、もう授業始まるわよ。席に戻った戻った」



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24.急に招待が来たので

ゲーム通りに進行すると平日と休日の配置がおかしくなることに気が付きました。
ゲーム本編では省かれている日があるものとすれば矛盾は解消できるのですが、それに関してアンケートを設置します。

今回は短いです。ウスモン戦は回避されました。


放課後。コノハの提案で、部室の掃除をしようということになった。

比較的軽いハードルや、キャスターつきカゴ入りのバスケットボールは人の手で運び、小学生が運ぶには重い跳び箱はメダロットに任せて、それぞれ別の体育倉庫に移している。

マットについては、ミヤマのために残そうということになった。

 

作業も終わりに近づき、部室内の掃き掃除を他の5人に任せ、最後のライン引きを運んでいると、ウスモンがこちらへ歩いて来るのが視界の端に映った。

 

「おい、テンシンハン!何をしている」

 

「テンサンです。部室の掃除ですけど」

 

手を止めて振り向き、そう答えると、ウスモンは口の端を歪めた。

 

「部室だぁ~~?メダロット部は今日で廃部だろうが」

 

「顧問の話なら、アキ先生がなりましたよ」

 

「なにいい!?」

 

一転して目を剥くウスモン。ゲーム通り、顧問が非常勤のミヤマであることを突くつもりだったのだろう。

 

「というか、用具を移すのだって、アキ先生に確認取ってもらってやってますから」

 

「で、でまかせを言うな!」

 

「じゃあ、今から確認します?」

 

「むぐぐ……」

 

淀みなく受け答えを続けると、ウスモンは唸り。

 

「くそ~っ、仕方あるまい。だが覚えておけよ、部の実績では、ぜーーったいに、貴様らには負けんからな!!」

 

オレを指差して捨て台詞を吐いてから、のしのしと去っていった。

 

「あの先生、なんで怒ってたの?」

 

「バカだからでしょ」

 

「やめろって」

 

失礼なことをルートに吹き込む声を半笑いでたしなめながら、オレはライン引きを再び運び始めた。

 

 

……

 

 

戻った後、元々倉庫だったからか、掃き掃除だけではコノハは満足せず。雑巾がけなどもすることになった結果、一時間以上かかってしまった。

さらにいくつか机と椅子を運び込む。その最後の一組をアサヒが()()()と置き、椅子にどかっと腰を下ろした。

教室と同じかそれ以上に広い体育倉庫に、机6つがテキトーに置かれ、部員全員がそれぞれ席に着いている。

 

「あーー、しんど……掃除だけでこんなに疲れたことねえよ」

 

アサヒの言う通り、部員のうち男子は、程度の差こそあれ疲れが見て取れた。

ヤマトは体力の、アサヒとオサムは性格の問題だろう。

 

「お疲れ様。でも仕方がないでしょう、汚かったんだから」

 

「お前が細かいところを気にしすぎるもんだから、こんなに掃除の時間が長くなったんじゃねえか」

 

「なに?文句があるわけ?」

 

「……いや、ない。はぁ~」

 

アサヒが苦言を呈すると、コノハの声のトーンが低くなり、アサヒは気圧されて折れ、机に突っ伏す。

ここでオサムを見ると、全く気にしていないようだ。多分よくある構図なのだろう。

 

唐突に、部室の扉が開いた。

 

「掃除は終わったみたいね。みんな、お疲れ様~~」

 

やってきたのはアキだった。挨拶してから、オレの方を向いた。

 

「コイシマルくん、さっきせいどう学院から電話でね、"うちのロボトル大会に出ませんか?"ってお話があったの」

 

「大会だあ?」

 

アサヒが顔だけ上げ、他の面々も目を見開いた。

 

「我が校の代表として、来週の土曜日、せいどう学院に行ってもらえないかしら?」

 

「随分急な話ですね。そもそもここにメダロット部があるかどうか、知らなそうなものですけど」

 

すすたけ小のメダロット部は、しばらくヤマト一人だった。活動記録なんてものもない。逆に、廃部寸前と知っていれば、それこそ大会に招くことなどありえない。

実際はイトが裏で糸を引いているわけだが……

 

「えっ?そうなの?」

 

「いや、そうなのって……まあ、折角の機会ですから、受けますよ。みんなもそれでいいよな?」

 

部員たちを見回して確認すると、それぞれ頷いた。疲れが前面に出ているアサヒに引き替えて、ヤマトは目を輝かせている。

 

「ありがとー♪じゃ、部長のコイシマルくんは明日挨拶に行ってね。用事があるなら他の人でもいいけど……あ、せいどう学院の場所わかる?」

 

「大丈夫です。一回あそこのバス停まで行ったことあるんで」

 

「そっか。じゃあよろしくね」

 

アキが出ていき、扉が閉まると、サキが()()()と立ち上がった。

 

「疲れてる場合じゃないわ!今から練習よ!ほら起きなさい」

 

「ええー」

 

オサムの抗議も聞かず、アサヒの席まで行って、ぺしぺしと肩を叩くサキ。見た目より痛いらしく、アサヒは顔をしかめている。が、動かない。

 

「サキ、ストップ」

 

「なんで止めるのよ!部のデビュー戦だっていうのに、のんびりしてられないでしょ!」

 

やめるよう言うが、サキは声だけ返し、アサヒを叩き続ける。

 

「部長命令だぞー、止まれー」

 

「うっ」

 

体育会系だからか、この文句は覿面だったようだ。サキは手を止め、頬を軽く膨らませてこちらを睨む。

 

「急な話に急に気合入れたって、長続きしねえぞ。無理はよくない」

 

言ってサキの目を1~2秒見ていると、サキは鼻からため息をついた。

 

「……わかったわよ。あんたがそこまで言うなら仕方ないわね」

 

意外と早く折れたな。

 

「よし、じゃあ環境も整ったことだし、週明けからはチームロボトルの練習するぞ。今日のところは解散。お疲れ!ヤマト、帰ろうぜ」

 

「あ、うん」

 



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25.他校観光

土曜日。せいどう学院から招待の電話があった翌日。

 

目が覚めると、昼を回っていた。

今日は午前に用事がないので、安心して眠りこけていたというところだろう。

体を起こし、ベッド脇に置いたメダロッチの音声をオンにして、おはようと声をかけた。

 

「おはよう、コイシマル。って、もうこんな時間か?珍しいね」

 

「おはよー。いいでしょ別に寝てたって。今日は休みなんだし」

 

「別に悪いとは言ってないだろ」

 

2人して朝から元気なことだ。

 

着替えて鞄を背負い、1階に降りる。リビングの母と目が合った。

 

「おはよう」

 

「おはよう、コイシマル。今から出かけるの?ご飯は?」

 

「うん。だからお茶漬け食べる」

 

帰り道で腹が減るかもしれないが、バスの時間を考えるとあまりのんびりしてもいられない。

オレはお茶漬けをかきこんで、家を出た。

 

 

……

 

 

江戸紫市、学院前停留所でバスを降りた。

せいどう学院の敷地内からは、部活動に勤しむ生徒の声や、楽器の音が聞こえてくる。

今でこそメダロット部だが、前世ではずっと帰宅部だったのでやはり、休みによくやるなあという感想しか出てこない。

すすたけ小も恐らく弓道部他運動部はそうなのだろうが、メダロット部でそうするつもりもない。

 

門を見る。先週日曜、ハンカチイベントをこなした時と同様に、今日も閉まっている。

その脇の守衛室の前に立つと、中の守衛の男が窓を開けた。オレは軽く会釈して、先に口を開く。

 

「こんにちは。すすたけ小学校メダロット部のテンサンです。せいどう学院からロボトル大会への招待のお電話をいただいたので、返事と下見で参りました」

 

「ああ、そう。といっても、アラクネ学院長は少し前にお帰りにになったから……ちょっと待ってて、問い合わせてくる」

 

守衛は窓を開けたまま、奥の電話で少し話した後、首からかける入場証を箱から1枚取り出し、すぐに戻ってきた。

差し出された入場証を受け取る。

 

「門の鍵を開けたから、入っていいよ。職員室は、門を通ってすぐ左側の建物の1階にあるから」

 

「ありがとうございます」

 

言われた通り、門を開けて入る。

 

……敷地がとにかく広い。すすたけ小は平均的なの小学校という感じだが、その4~5倍くらいか?

目の前にある、2階の連絡通路で繋がれた2つの建物が校舎だろう。

さらに右の方には教会が見えるし、校舎のさらに奥には寮もあったはずだ。

寮といっても、安っちい学生寮ではない。食堂や浴場が併設されている。

 

この学校には、ロボトルが強ければ待遇がよくなるというシステムがあるのだが、それは寮にも適用されている。

上位陣は個室、そうでない者は4人部屋、とかだったか?

 

左側の校舎1階に入ると、土曜だけあって廊下には人がほとんどいない。職員室はすぐに見つかった。

中へ入ると、内装は職員室そのものでありながら、人はスーツと修道服がごちゃまぜになっている。

さすが、敷地内に教会を有するだけのことはある。

 

「失礼します、すすたけ小のテンサンです」

 

オレの声に立ち上がってこちらに向かってきた教員(のはず)も、シスターだ。

 

「こちらへどうぞ」

 

ついていくと、職員室内の応接スペースまで案内された。促され、お互いテーブルを挟んで向かい合わせで、ソファに座る。

シスターは一礼し、話し始める。

 

「すすたけ小学校のテンサンさんですね。わたくし、せいどう学院のイズモと申します。下見という風に伺っておりますが、我が校のロボトル大会にゲスト参加していただけるということでしょうか?」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。学院長にはわたくしの方から伝えておきます。構内の見学に関してですが、本日は授業がないため、教室には入れません。大会当日は、一部の教室を見学の方向けに開放いたします。こちら、大会の実施要綱になります」

 

シスターがA4のプリント1枚を机の上に置いて見せる。

 

大会名も書いてある。

……"2027年度 せいどう学院春期プレースメントロボトル大会"?いや、なんとなく意味はわかるが……

 

「……すみません、これ何の大会なんですか?」

 

「我が校がメダロッター育成に力を注いでいることはご存知ですか?」

 

「まあ、はい」

 

「我が校では年に2回、ロボトル大会でクラス替えを行っているのです。在籍クラスに応じた特典と課題があるので、生徒たちのクラス分けが適正になるように調整する意味があります」

 

こともなげにシスターは言うが、ほぼカースト制だ。課題というのがペナルティのことだと、オレは知っている。

まあ大人たちは、ペナルティの内容が大したことはないと考えているのだろう。

 

「それと、他校の生徒を招待するのはともかく、なんでうちなんでしょうか?」

 

「招待する学校は、つど学院長が決定します。基本的にはロボトルが強くて有名な学校が招かれます」

 

「うち、実績ゼロなんですけど」

 

「ええっ?変ですね……ごめんなさい、わたくしからはちょっとお答えできません」

 

小さく唸ってから、頭を下げて謝るシスター。

 

「いや、大丈夫です。なんとなく気になっただけなんで」

 

「他にご質問はございますか?」

 

「パンフレットありますか?入学案内とか……」

 

「そちらにございますよ。ご自由にお取り下さい」

 

シスターが手をオレの少し横に向ける。後ろを見ると、パンフレットラックに入学案内がずらっと並んでいた。

1部取り、そこに大会の要綱を挟む。

 

「もう大丈夫です」

 

「今日はわざわざお越しいただきありがとうございました。ガードマンに連絡しておきますので、お帰りの際はこちらに寄っていただく必要はありません」

 

「ありがとうございます。失礼します」

 

入学案内を手に持ったまま職員室を出て、校舎を出た。

 

「どうするの?それ」

 

校舎の壁によりかかったところで、ルートの声がした。

 

「いや、大したことじゃないんだけどな。ここって私学だから」

 

入学案内を開く。いかにもエリート校という雰囲気で、意識の高そうな文言が並んでいる。ついでに学院長のでかでかとした写真。性格が透けて見えるようだ。

問題の制度についても、"課題"の内容だけぼかして、上位クラスの高待遇をメインに書かれている。

 

そして一番の注目ポイント、学費を確認し……

 

「うわ、たっか……」

 

べらぼうな金額に、二の句が継げない。

スカウト組(あるいはその親)が、喜んで転入する(させる)気持ちも、ちょっとだけわかった気がする。

 

 

……

 

 

シスターの説明を受けた後、敷地をぐるりと回ってみた。

体育館、プール、男子寮・女子寮、教会……ほとんど全部が立ち入り不可なので、外観しか見られなかったが。

意外なことに、男子寮内の食堂は外部の人間も利用できるとのことなので、メニューをメモしておいた。オススメはカレーらしい。

 

「校舎の中にコンビニがある小学校なんて、ここくらいじゃない?」

 

「大学とかなら、敷地内にコンビニは割と普通だと思うけど。小学校でってのはなあ……」

 

そのコンビニで買ったジュースを飲みつつ、呆れるベーデンに同調する。

 

今オレは、元の本校舎前、つまり校門付近から、本校舎2つの間……連絡通路下を抜けて、まっすぐ進んでいる。

その先には第2校舎と、いくつかの動く影が見える。敷地がばかに広く、遠目にはなんなのかわからない。

あれが今日のメインイベントなので、知ってはいるのだが。

 

黙々と歩くうち、校舎の前にいるものの輪郭がはっきりしてきた。

6体のメダロットと、1人の女生徒だ。その指示で、メダロットたちが動き回っている。3対3でロボトルの練習をしているようだ。

 

ここまで近付くと、はっきり見えるのはお互い様のようで、メダロットの一部が動きを止めてこちらを見た。

それにつられて他のメダロットもこちらを向き、そうするとメダロッターの女生徒も、何事かとこちらを睨んだ。

知った顔……以前、ここの校門前で"T.K"の刺繍が入ったハンカチを落とした、あいつだ。

 

「ああ、おかまいなく。どうぞ、続けて続けて」

 

「いつから見てたの!大会のための特訓だったのに!」

 

片手を上げて軽く横に振って挨拶すると、目つきに違わぬ尖り声が返ってきた。メダロットたちが黙って道を空け、女生徒がずんずんと歩いてくる。

額に汗が滲んでいる。休みの日も長時間練習しているのだろう。

それとどうも、オレのことは覚えていないらしい。

 

「クラス替え大会ねえ。せいどう生は大変なんだな」

 

「……ここの生徒じゃないなら、別にいいけど。まさか、転校生だなんて言うんじゃないでしょうね?」

 

「もちろん違うよ。ただの……ゲスト参加校の部長」

「なんですって!?」

 

参加校、辺りで食い気味に叫ばれた。オレは両手のひらを向けて制する。

 

「落ち着けよ。ちょっとやそっと練習を見た程度で勝ち負けが動くもんじゃないだろ、ロボトルって。そんなにムキにならなくても」

 

「わたしたち学院生はあなたみたいに甘いこと言っていられないの。もし大会で最下位になったら、"特別補習"の名目で、学院指定のメダルをパートナーにさせられるのよ」

 

「それだけ?」

 

「わかってないわね!」

 

三度怒声が飛ぶ。これは理不尽だと思う。

 

「その間、大切なパートナーを学院に取り上げられちゃうのよ!」

 

「なるほど。じゃ、辞めたら?」

 

「……え?」

 

女生徒は呆気にとられた様子で、目を見開いた。

 

「だって話を聞く限り、ろくな学校とは思えないし。なんで転校しないんだ?」

 

「それは……確かにプレッシャーはきついけど、最強最高のメダロッターを目指すには、最高の場所だもの。わたしだって、実力を買われてスカウトされて来て、今は2軍のリーダーにもなったのよ」

 

「"だから、自分以外の誰かがパートナーを取り上げられてるのは仕方ない"って?」

 

「!!」

 

指摘すると、女生徒はみるみるうちに色をなす。

 

「なによ、知った風な口を利かないで!」

 

「嫌なら黙らせてみればいいだろ、お得意のロボトルでさあ」

 

「~~っ!」

 

オレがメダロッチを構えると、女生徒もそれに応じた。

 

 

……

 

 

夜。

オレは歯を磨いて自室に戻り、これから寝るところだ。

 

「本当によかったの?」

 

そんな時に、メダロッチからベーデンが問いかけてきた。

 

「何が」

 

「というか、どうしてあそこまでしたの?」

 

「答えになってないぞ。えっと、せいどうでのロボトルの話か」

 

ベーデンの質問の意図はわかっている。

サキやウスモンなんかは、こっぴどくやる理由があった。しかしどうして赤の他人に、ということだろう。

 

「どうもこうも、昼間に言った通りだよ。じゃ、おやすみ」

 

オレはメダロッチの音声を切って、床についた。




ここまで女生徒の名前を出すタイミングがありませんでした。


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26.せいどうの名前の長い大会に向けて

せいどう学院で大会出場を伝えた翌週、月曜日の放課後。

今日はサキを含めた全員が部室に集まって、席に着いている。

会議……というほど堅苦しいものでもないが、今後の活動方針についての話し合いの最中だ。

 

「だめ?」

 

「ダメ。メンバーの組み合わせ全部にチーム名つけても覚えられないし」

 

「そう……残念ね」

 

コノハはメモ帳を閉じ、心底残念そうにする。

オレも自主的にやりたいと言ったことはなるべくやらせておきたいが、流石に意味を感じなかった。

 

「部長、今日からチームロボトルの練習をするのよね?」

 

「おう、やるぞ。でもその前に、大会の出場メンバーを伝えておく」

 

サキに答えて一拍置き、他の部員を見回してから、口を開く。

 

「オレ、サメハダ、オオムラの3人で行く。もちろんリーダーはオレだ」

 

「メンバーの入れ替えは?」

 

「この大会にはないし、できたとしてもやらない。特に、ヤマトとヒョウモンの問題を解決するのは間に合わないからな」

 

「おい、ヤマトはともかくオレの実力に問題があるってのか?」

 

名前を出されたアサヒが抗議の声を上げた。

 

「お前がメインで使ってる変化パーツは部活の試合に向かないから、他のパーツをいろいろ試してもらう」

 

「試合に向かない?なんでだよ?」

 

「格闘が出るか射撃が出るかすらランダムなパーツじゃあ、連携も取れないし、不安定になるだろ。プライベートならともかく、部活ではダメだ」

 

「えー?いいじゃねえか、大丈夫だって」

 

「大丈夫じゃない。で、ヤマトの方は普通にロボトルしてメダルを鍛えて行く。場合によってはパーツ変更も相談するかもしれないけど」

 

「折角の初試合だし、出たかったけど……わかったよ」

 

「わたしは?」

 

「タテハは問題ってほどじゃないけど、ヒョウモン、サメハダ、オオムラと開きがあるから選出漏れ。ヤマトと同じで、普通にロボトルしていくだけでまだ伸びる」

 

「そう。次の大会を楽しみにしておくわ」

 

口先を尖らせているアサヒを除いて、オレの采配に納得してくれたようだ。

 

「じゃあ、大会出場チームと強化チームで組んでロボトルするのね?」

 

その中で、サキが再度質問した。一見もっともそうな意見だが、オレは首を横に振る。

 

「いや、チームはランダムで決めるぞ。リーダーもランダム」

 

「はあ!?」

 

「チームワークとメンバーシップは違うからな。チームワークを身につけるなら、リーダーの立場も感覚で掴んでおかなきゃいけない」

 

「……コイシマル、ロボトル始めて一週間ちょっとのはずよね?」

 

「一般論だよ。じゃ、やるぞ」

 

 

……

 

 

「やっとるようじゃな。どうじゃ、調子の方は」

 

ロボトルの合間のインターバル。

メダロッターとメダロットが一緒に机上で感想戦をしたり、単純に飲み物を飲んだりの休憩をしているとき。

ミヤマが部室を訪れ、入り口近くの席に座っていたオレに声をかけた。

……微妙に顔が赤い。酒が入ってるのか?

 

「えっと……普通です」

 

「大会ではいい成績を残せそうか?」

 

勝つだけならオレ一人でも――少なくとも決勝以外は――なんとかなる。

だが、そんな勝ち方では何も得られないだろう。最悪、部が分解ということも考えられる。

だからこそオレは練習方法を真面目に考えたし、自分も積極的に参加している。

ルートに遊ばせてやりたいというのもあるが。

 

「初の対外試合ですから、成績はあんまり気にしてません。"またやりたい"と思ってくれるかどうかが一番の心配ですね」

 

「勝てなくてもいいのか?」

 

「極端に言えばそうです。逆に、勝ててもつまらなければダメだと思います」

 

「そうか。まあ、その辺のことは任せるわい」

 

「任せるって――」

 

"先生、顧問でしょう"と言おうとしたが、オレの言葉を待たずして、ミヤマは奥のマットまで行って横になった。

ゲームでも具体的なアドバイスはくれないのだが、こうなると放任主義が過ぎると思う。

ミヤマも実力者なので、ただテキトーなのか、全てわかった上での行動なのかも読めないのが厄介なところだ。

 

「コイシマルー、10分経ったよ」

 

「ん、了解」

 

隣のルート(クロトジル一式)に休憩の終わりを知らされ、オレは席を立った。

 

「はーい、続きやるぞー。次またオサムがリーダー引いたら引き直しな。3連続で取られると他のやつの練習にならないし」

 

「おれだって、どうせ当てるなら商店街の福引がいいんだけどな……」

 

大会へ向けた練習は続く。

オレ個人にとっても、この部にとっても山場だ。うまくやらないとな。




最近、文字数の少ない話(わ)になりがちで、平均文字数が減ってきています。
大丈夫だと思う気持ちもあれば、不安に思う気持ちもあります。

ゲーム通りと言いつつ、大会の日程を全て土曜日に変更しています。
ゲームでは大会が平日に行われているらしい(明言はされていませんが)のですが、おかしいかなと思ったので。
最終決戦までに、作中で1ヶ月くらい経過します。

部室大掃除が前倒しになったため、釣りイベントは消えました。
また、村長の抱き枕イベは面白みも伏線もほぼないのでカットします。ゲームでも何のためのイベントだったんでしょうねアレ……
ということで、次回でもう大会スタートです。

※ここはアンケート設置予定です


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27.せいどうクラス替え大会・ヒコオショック

あれから5日間、部活ではランダムチームを組んでのロボトルのみをひたすら行った。

普段大事なロボトルはベーデンに頼っているので、ルートはあまり育っていなさそうとは思っていたのだが、KBT(カブト)型パーツのおかげか勝率はそこそこ。

一番伸びて欲しいヤマト、というかドーナンは、まだまだパーツのポテンシャルを引き出せる段階まで遠い。成長しているのは確かなので、次の機会に間に合うことを祈ろう。

 

 

……

 

 

土曜日の朝。

 

時間ギリギリにせいどう学院まで来たオレの手には、花の種が入ったビニール袋がある。

大会当日だというのに母にお使いを頼まれ、大会が始まるまでの時間でメダロデパートへ行ってきたからだ。

心なしか店員がピリピリしているようだったが、この時期に何かあっただろうか?

覚えていないなら、どうでもいいか。

 

校門をくぐってすぐのところで、ヤマトたち部員が集まっていた。オレのことを待っていたようで、こっちを見るなり口々に挨拶してくる。

ちなみに、招待が急だったために、顧問のアキは来られないということは聞いている。ミヤマも、事情は知らないが来ないという話だった。

 

「おはよう、ギリギリになってごめん。」

 

「まったく、こんな時に重役出勤なんて、何考えてるのかしら」

 

「ごめんって」

 

「受付はわたしが済ませておいたから。はい、これ」

 

コノハが差し出した、進行プログラムやトーナメント表が書かれたプリントを受け取る。

 

「不在でも大丈夫だったのか。ありがとうタテハ」

 

「あとさっきここの人が来て、もうすぐ開会式が始まるから、準備ができ次第グラウンドに来るように、だそうよ」

 

「了解。じゃあ行くか」

 

そういえば、ゲームでは開会式なんてなかったような……まあ、それもどうでもいいか。

 

 

……

 

 

グラウンドの周辺にはテントがいくつか設営されていたり、学院の生徒が観客として集まっている。外部の人間や父兄はいないようで、運動会や公式大会のような雰囲気ではない。

非公開の学内行事ということは先週もらったプリントにも書いてあったが、こうして制服を着た生徒でいっぱいな中に放り込まれると、アウェー感がすごい。制服のない学校なので余計に。

 

スタンドつきマイクが置かれた号令台から少し離れたところに、参加チームが整列している。せいどう学院の生徒のみで全15チームあるという話なので、100人いないくらいか。

 

グラウンド内に立っていた職員に案内されて、オレたちが生徒の塊の端っこに立ってすぐ。

テント下の長机、放送席に着いている女生徒が、マイクをトントンと叩き、スピーカーからその音がした。時間になったようだ。

 

「これより、2027年度、せいどう学院春期プレースメントロボトル大会を始めます。まず初めに、学院長からご挨拶があります。学院長、お願いします」

 

別のテント下からひとりが立ち上がり、号令台に上がってマイクを叩く。

フォックスフレームの眼鏡(いわゆる"ざます眼鏡"だ。悪い意味で似合っている)をかけた、40代くらいの女性だ。

ゲーム通りのビジュアルで、オレは人知れず安心した。

 

「皆さん、おはようございます。――」

 

背後から話し声が聞こえたりはしないところを見ると、アサヒとかも大人しくしているようだ。

時候の挨拶や、どうせ心にもないであろう話を聞き流しながら、ちらっと横を見たところ、遠くにヒコオの姿があった。金髪が目立っている。

 

数分後、学院長が一礼したところで、観客や学院生とともに、聞いていなかった話に拍手を送る。

 

「では、10分後に1回戦第1試合を行います。縦割り5班と、縦割り7班は、準備をお願いします」

 

どうやら、来賓だの選手宣誓だのもなく、サクサクと進行するらしい。

その放送で、オレたち参加者もグラウンドから散っていった。せいどう生の多くは校舎へ向かい、オレたちは観客に混ざって椅子に座った。

アサヒが伸びをしている。

 

「あーっ、疲れた。なんでロボトルするのに突っ立って長話を聞かなきゃいけねえんだよ」

 

「この大会は短い方よ。学校内部の大会だし、外からの見学も入れてないから最低限の挨拶だけみたいね」

 

「運動会とは違って、入場行進の練習とかもさせられないし。確かにマシだな」

 

サキの言葉に、オサムも頷く。

 

「コイシマルくん、うちのチームは第(なん)試合?」

 

隣のヤマトがオレに訊く。

 

「8。最後。相手は"せいどう4軍"」

 

「それって、強いチーム?」

 

「せいどう何軍(なんぐん)は上位クラスの生徒で組まれた、公式試合とかにも出るチーム。他の縦割り何班(なんはん)ってのが、学年縦割りで組んだそれ以外の生徒のチーム」

 

「あれ?それじゃ何軍の方ばっかり勝つんじゃ……」

 

「かもな」

 

 

……

 

 

第3試合まで、せいどう生縦割り班同士の対戦が続く。

拍子抜けしたようで、アサヒが「なんだ、大したことないじゃん」などと言うし、他の部員も他校にいることでの緊張はほぐれてきているようだった。

 

これから、第4試合。せいどう1軍とせいどう縦割り1班の対戦だ。

グラウンドに両チームが離れて並び、メダロットを転送。

1軍側のリーダーは当然、ヒコオとネクウ(当然シンザン一式)だ。

 

レフェリーのカバシラが手を振り上げて、号令とともに下ろす。

 

観客席の生徒たちの歓声の中、メダロットたちが動き出す。

縦割り1班の2・3番機が、ネクウに向かって行く。だが、ネクウが一番速い。剣の生えた右腕を構えて走り、間合いに入った順に2機、胸を切り裂いた。

崩れ落ちたそのメダロットたちの背中から、メダルがピンと弾き出される。

 

パーツ使用後の冷却で走るスピードが鈍ったところに、縦割り1班側のリーダー機が右手のラッパからプレスを発射。

それを見たヒコオが何事か指示すると、ネクウは動きを止める。そのままプレスが直近で炸裂し、重力フィールドが展開。ネクウはその中で振り回され、最後に地面に叩きつけられた。

左腕パーツがスパークしている。衝撃をもろに受けて、装甲が0になったようだ。

 

重力フィールドが消える。

縦割り1班リーダー機が次弾発射の構えに入り、ネクウは起き上がって駆け出す。プレスが発射されるよりも前に、ネクウは間合いに敵を捉えた。

くるみ割り人形のような頭部に深々と剣が突き刺さり、力の抜けた右手のラッパからエネルギーが静かに放散する。背中からメダルが落ちた。

 

決着を告げるレフェリーの声とともに、歓声が大きくなった。

ここまで、1軍の2・3番機は一切動いていない。つまり実質1対3で、圧倒的に敵を叩き潰している。損害はパーツ1個のみ。

 

「な、なんだよ、あれ……」

 

一方、オレたちのいる観客席。

沸いているせいどう生とは対照的に、アサヒが口をあんぐりと開いている。その隣のオサムは何も言わないが、細い目をさらに細めて、グラウンドの方を睨むように見ている。コノハの眼鏡がずれた。

 

「うーん、ヒコオくんはやっぱり強いなぁ。やっぱりコイシマルくんに頑張ってもらわないと」

 

困っているのか、感心しているのか。ヤマトのコメントは、そもそも敵としての反応ではない。

 

「ヒコオと知り合いなんだっけ?」

 

「あれ、話してなかったっけ。ヒコオくんは転校する前、うちの部員だったんだよ。機会に恵まれなくて、対外試合の記録はないけど」

 

「当たったらあいつはあんたがなんとかしてよね」

 

サキがこちらをちらっと見て、言葉尻を上げてそう言うが、表情の方は特段沈んだ風ではない。

 

「いいけど、お前らにも頑張ってもらうのは変わらないからな」

 

「はいはい」

 

今度はこちらを見もせずに返事をする。

大人気なくベーデンに本気を出させた現場を見たのはヤマトとサキだけだったから、部員の間でもそこだけ意識の差があるということか?

 

「オサム大丈夫か?」

 

じっと前を向いたままのオサムに声をかけてみると、ようやくこちらを向いた。

 

「ああ……おれは動かなかったやつらが気になるんだよな。あれって援護タイプの機体だろ?なんで前に出なかったんだろうって」

 

「冷静だな」

 

「せいどう学院の1軍ってことは優勝候補だし、こうなるのも想像ついてたっていうか……そんなとこ」

 

「なるほど。まあ、動いてなかったのはハンデとかパフォーマンスのつもりなんじゃねえかな。出なかったというより、リーダーのヒコオが出させなかったんだろ」

 

「そんだけ自信と実力があるってことか……なあコイシマル、勝てそう?」

 

「そりゃあ、そのためのメンバー選出と練習をしてきたつもりだし。でも負けたって死ぬわけじゃなし、もっと気楽に――」

 

「負けていいわけないでしょ!!」

 

オサムをリラックスさせようとしたところで、オレが負けてもいい風なことを言ったせいか、サキが猛然と割り込んできた。

 

あれよあれよという間に部員全員が会話に参加し、みんな部室にいる時のようなテンションになった。おかげでヒコオショックも抜け、結果としてはいい方へ転んだといえる。

 

少し後で、近くのせいどう上級生に、うるさいと怒られた。




クラス替え大会当日に違法パーツが捌かれるのは前後がおかしいと思ったので、その点を変えてあります。デパートで普通に買い物できたのはそのためです。
この後コイシマルたちの1回戦を入れると長くなりすぎるのでここで切りましたが、それはそれで4000字には届いていないのが辛いところ。


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27'.せいどう学院ウラ話

せいどう学院、学院長室。

開会式の後、学院長の"アラクネ ヤクモ"は、1回戦第1試合の開始を待たずして、ここへ戻っていた。

 

「……というわけで、メダルの回収は順調ですのよ。わたくしの計画に、間違いなどありませんのよ」

 

ヤクモがそう語る相手――執務机を挟んだ向こうにいる人物は、ニット帽にサングラス、黒いマントを纏った、見るからに怪しい風貌。

以前、ウスモンと取引しているところをアサヒとオサムに目撃された、"黒マント"だった。

 

「ふっ。あの2人のレアメダルを回収できずにいて、"順調"とは」

 

「……!」

 

ヤクモは、珍しく自分の前に現れた黒マントに、企みごとの近況を報告しているのだった。

目的のひとつであるパーツとメダルの収集は確かに順調だが、最も重要なレアメダルについては、成果がないのもまた確か。

痛いところを突かれ、ヤクモの目がつり上がった。

 

「そのことなら既に手は打ってありますわよ。今日の試合で、必ずあの2人――タマヤスとツユクサから、レアメダルを奪いますわ!」

 

「まあ、精々期待して、待っておりますよ……」

 

(どうせ、恒例の学内大会のことだろう。強豪校を招待して、負けた生徒からメダルを取り上げる。あの2人は外部のメダロッターに一度も負けていないが……)

 

「人のことなんてどうでもいいざます!あなたこそ、パーツの売上はどうなったのです?」

 

「そろそろ、セレクト隊の取り締まりも本格的になってきたようです。さらってきたメダロットのパーツをコピーして処分することを、しばらくやめようかと……」

 

「冗談じゃないざます!!あなたの研究に、いったいいくらお金をかけていると思っているざます!学園の運営費やマリンブルー建設の売上だけでは、とても賄っていけないざます!」

 

黒マントがパーツの横流しをやめると言った途端、ヤクモは、レアメダルの話題以上に感情を剥き出しにした。

 

「コピーして作ったパーツを売ったところで、大した儲けにはならないと思うのですが……」

 

「お金は沢山持っていても、決して腐りませんことよ!お金こそが全て!お金で買えないものは何もありませんわ!」

 

論点をすり替え、憚らず欲望を吐き出すヤクモ。その言の醜さに耐えられず、黒マントは目を伏せる。

 

「己の欲望のために大切なパートナーを売り払った、あなたらしい考え方だ……」

 

「たかがメダロット1体と、魅惑の変身セット……年頃の女の子なら、普通は変身セットを取るざます!」

 

「"たかがメダロット"……そこまで仰る。メダルになることで永遠の命を得ようとしているお方の言葉とは、とても思えませんな」

 

「きーっ!いいから、あなたは、さっさと研究を完成させるざます!」

 

「言われるまでもありませんよ……姉上」

 

黒マントは、変わらず平坦な声でそう言った。




この手の短いやつは本筋とセットで投稿するつもりだったのですが、存在を忘れていました。


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