病みつキリマンジャロ (黒歴史マン@目指せ蘭学者)
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まっくろキリマンジャロ

メモを漁ってたら1年近く前に書いたやつが出てきたので初投稿です。


 これは、昔の記憶だ。

 

木組みの家と石畳街と呼称される場所での10年近く前の記憶。

 

 その日、殆ど足を踏み入れない場末に、気まぐれで散歩に来ていた。

 

 本来であれば、木組みの街の景色の美しさは熟練の芸術家による大作のようであるが、10年の時間という漂白剤に晒され、無惨にも擦り切れてしまっていた。

 

 広大な空も、美麗な噴水も、可憐な花や生き生きとした木の葉──その悉くが、曇天のような重い鉛色をしている。

 色の抜けた石畳は虫食いのように抜け落ち、そこからは漆黒のみが存在している。

 

 しかし、時間に晒され色の風化した世界で朽ちない色彩を放つ存在があった。

 

 ウェーブのかかった金糸を頭に纏い、ツァボライトを嵌め込んだような瞳を潤ませて幼い女の子が泣いていた。

 茶色の夏毛を纏ったノウサギ達に囲まれ、頻りに目を擦り肩を上下させる。

 

まだ幼かった俺は、その姿を見るなり声をかけた。

 

『なあ、大丈夫か?』

 

『ぐすっ……うう』

 

 とにかく泣き止んでもらおうとした。同年代の奴らを爆笑させた渾身のギャグを披露したり、頭を撫でてみたり。一向に泣き止まないものだから、ほとほと困り果てた俺は、強硬手段に出る。

 

『よし、おれと遊ぼう!』

 

『えっ!?』

 

 手を引いて走り、遊んで様々な事を話した。

しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。そして、別れ際。

 

『ありがとう!』

 

『──!』

 

特大の笑顔が咲いた。

 

この笑顔だけは、今でも鮮明に思い出せる。他に、どんなことを忘れても。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 けたたましいアラーム音によって目を覚ます。

仰向けのまま頭の上を手でまさぐり、音の発生源であるにっくき目覚まし時計を軽く叩く。

 

 おもむろにベッドから起き上がり、懐かしい夢を見たもんだな、と懐きつつ顔を洗い歯を磨き、着替えて──身支度を済ませた所でインターホンが鳴った。

 

「先輩!おはようございますっ」

 

 即座に玄関に向かいドアを開けると、鈴の音のような溌剌とした声がまだ脳裏にこびりついていた眠気を払い落とした。

 純白のブレザーに身を包んだ眉目秀麗な女の子のツァボライトの瞳を見て淡く微笑んだ。

 

 彼女の名前は桐間紗路。小さい頃から付き合いのある幼馴染で、同じ高校の後輩だ。

 

「おはよ、シャロ」

 

 登校日には毎日ぴったり6時半に来るしっかり者の後輩に感心しつつ、家の中に入るように促す。

 シャロは慣れた足取りでキッチンへ向かい、俺もそれについて行く。

 

「先輩は何か食べたいものはありますか?」

 

 ブレザーを脱ぎ、リビングにある椅子の背もたれに引っ掛けたシャロがブラウスの袖を捲り、手を洗いながら問うてくる。

 

「ん、特にないぞ。……って、冷蔵庫の中身が少ないな。時間もあんま無いから、適当に目玉焼きでも作るか」

 

「はいっ!」

 

 冷蔵庫のポケットからなるべく新鮮な卵を取り出した。シャロが二つ返事で了承し、準備に取り掛かる。

 トマトとレタスを洗ってから切り、サラダを作る。そして盛り付けてからオリーブオイル、酢、塩を混ぜてドレッシングを作り、かける。2人分の皿に盛り付けた所でシャロの焼いていた目玉焼きが完成した。

 俺はロールパンを皿に乗せ、他の皿と一緒にテーブルに運んだ。そのまま2人で席に着く。

 

「「いただきます」」

 

 食事をそこそこに味わいつつ、雑談が始まる。

 

「おいしい……ですね」

 

「ああ。シャロのおかげだよ」

 

「も、もう! 先輩ったら!」

 

 あわあわと手を振るシャロを見て思わず吹き出しそうになるがぐっと堪える。そうこうしてるうちに皿の上が空になった。自分と向かい側の皿を見やると、全く同時に食べ終えたようであった。揃ってご馳走様の挨拶をした。

 

「……ふぅっ。そろそろ行くか。時間だし」

 

「はいっ!」

 

 雑談もそこそこに俺達は学校に向かう。

 やけにそわそわしているシャロを不思議に思いつつ、クリーム色の石畳を踏みつけていく。

 そして、はたと思いつく。

 

「ああ、そうだ。なあシャロ」

 

「は、はい!?」

 

 びくりと体を震わせるシャロ。俺はそのまま言葉を続ける。

 

「今日の放課後、一緒にスーパーでも行かないか? 食材切らしててさ。それに、ちょうどいい時間にタイムセールもやってるみたいだしな。因みに夕食も付いてくるぞ」

 

「えっ! いいんですか!?」

 

「勿論。何なら、今夜はシャロの好物でも作るか。メロンパンもつけるぞ」

 

 やった、と小さく呟くシャロの声が耳朶に触れた。

 

 幼い子供のように破顔するシャロを見て微笑ましい気分になりながら歩いていると、目的地である学校に着いた。

 

「学校が終わったら、一旦家に帰ってスーパーに集合な。じゃあ、またな。」

 

「はいっ!」

 

 と、まあこんな風に。平日は後輩のアイツ──シャロと時間を共にする事多い。

 ……俺の1日のサイクルは大体こんな感じだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 授業とHRが終わり、学校を飛び出したシャロは帰路についていた。

 にっこりと頬を緩め、鼻歌を歌いながら歩いている。

 

 シャロが自宅のすぐ近くまで来た時、横から声がかかった。

 

「あら、おかえりなさいシャロちゃん。楽しそうね、何かいい事でもあったの?」

 

 その女の子は着物を身に着けていて、背中まですらりと伸びた艶のある黒髪に、深碧の瞳をしている。ほんわかとした雰囲気を纏っているが、シャロの先輩には『天然・鬼畜・中二病をブレンドした和菓子のやべーやつ』と思われている。

 

「ただいま千夜。いまから先輩と買い物に行くのよ」

 

 その言葉を聞き、納得する千夜と呼ばれた女の子。同時に、にこにこと笑みを浮かべる。

 

「あら、例の彼ね。私も着いて行こうかしら?」

 

 あらあらシャロちゃんったら可愛いわと内心で思いつつ茶目っ気を効かせたウィンクでシャロを揶揄おうとする千夜。しかし──

 

 

 

「駄目よ」

 

 

 

 空気が、凍った。

絶対零度の声色。千夜はそれに大きな違和感を感じた。シャロは感情が豊かだ。喜ぶ時は大いに喜び、千夜が揶揄えば恥ずかしがるなり怒るなりの反応を見せる。

 

 普段と異なる様子のシャロに当惑した千夜は、愛想笑いを浮かべながら、先の言葉は冗談である旨を伝え、シャロと別れた。

 

(私と先輩の仲を邪魔する奴は、例え千夜でも──)

 

 シャロと最も長い時間を過ごしたと言える幼馴染は、シャロの抱く歪んだ恋慕に気付くことは終ぞ無かった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「先輩! お待たせしました!」

 

「おおシャロ。今来た所だから気にすんな」

 

 黄昏時。傾いた太陽に、伸びた木や建物の影。少女が駆け出した。淡い陽光から薄暗い陰の中へ。

 

「行きましょう、先輩!」

 

「ああ。今行くよ」

 

 少年は、少女に寄り添う。

 

 共に、昏い陰へ進んで行く。

 朗らかに笑いながら。




続かない。誰か書いて♡


オリ主の能力:お嬢様学校に入学することができる


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