ぶっ飛び少女がDIO様のメイドになるお話 (ふろんてぃあ)
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海外逃亡しよう!
第1話 経緯


楽しいことって何かしら、幸せって、幸福ってどんな時?
貴方の夢の先に何があるのかしら。


始まりの話

 

私はその日、なんだか朝から胸騒ぎがすると思った。

 

なんでこんな気持ちになるのだろうと思ったけれど、別に今日が特別な日というわけじゃあ無いし、いつも通り、6時に起きてご飯食べて歯とか顔とか髪とかやって家を出た。朝からシュークリーム食べて家を出た…………

いつもと違うことといえば、お友達のイチコちゃんがジョウタロウ君がうんたらかんたら………ジョウタロウ君と言うのは同じクラスの男子の名前であり、我が校の王子様の名前である。

 

イチコちゃん曰く、雄々しい肉体と知的なグリーンの瞳がたまらない!らしいが、正直言って私にはジョウタロウ君もジローラモ君もジョンソン君も変わらない。さらに言えば、これは個人的な意見なのだが、寡黙な男は全然話してくれないから絶対離婚率高いと思う、私は将来絶対に寡黙な男とは結婚しないと誓っている。

……………付き合っている時だけだ。そういうのは付き合っている時だけクールに感じて、本当に結婚して子供が生まれたら苦労するのだ。

 

「ハナコちゃん聞いてるの?今日ジョウタロウ君が来る日なのよ!頑張って待ち伏せすれば、取り巻きの子達よりも早くジョウタロウ君に会えるのよ〜!」

「イチコちゃん…どうせジローラモ君には取り巻きの子たちがもう居るって…」

「ジローラモ誰よ、ジョウタロウよ!」

「………ジョウタロウ君ね。」

この子とは一年生の時からの付き合いだが、ちょっとお馬鹿な、頭の弱い女だ。

 

その後、無事にイチコちゃんはジョウタロウ君を拝めたが、取り巻きの女には睨まれた。

 

真に馬鹿な女とは、他人に迷惑をかける厄介な女の事である。昼休みに私はイチコちゃんとご飯を食べていた。

 

「ハナコちゃんジョウタロウ君かっこよかったね〜!」

「そうね。」

「やっぱり取り巻きの子たちには敵わなかったけど、絶対コッチ見てくれたわよ!」

「そうね。」

イチコちゃんは頭はゆるゆるだけど、明るくて友達思いなところは好きだし、何やかんや言ってこの子は感覚の鋭い女である。

「でもちょっと、取り巻きにヨウコちゃんがいたから……………何かされないか心配だなぁ…」

「そうかしら。」

所詮私たちはカースト下位の人間である。ジローラモ君にくっ付いているのは上位の人間たちだ。

イチコちゃんは天然で嫌われてるし、私は気味の悪い女だと思われているため、時たまいじめの対象になるのである。最近イチコちゃんに目をつけているのがヨウコという女で、昨日の席替えで私がジローラモ君の隣になったから、私も目をつけられている。

女というのは、めんどくさい生き物である。

 

その後、5時間目6時間目と終わり、この日は普通に学校を終えた。

 

***

 

放課後の話

 

人生なにが起こるか分からないと言うのはこの事である。

 

ハナコの人生のサイコロは家に帰って、その瞬間にその家にいじめっ子たちが押しかけてきたところから、ゴロンゴロン回って移動し始めた。

 

その移動距離は、日本列島よりも長い。どんだけ転がってんだと。だってエジプトに行かないといけなくなったんだもの。長いわよ。

 

そしてそれは、良い方向に向かっている気がしない。このまま私は人攫いにでもあって、きったねぇ男どもの性奴隷にでもなってしまうんじゃあないか。

というか、身包み剥がされそうな方向に回っている。

怖い。

ハナコは不安でいっぱいだった。

 

同行者は浮かぶ胎児だ。屈強な男だったら少しは安心できたかも知れないが、そんなうまい話ではない。

 

突然なのだが…ハナコは高校2年生の5月から海外逃亡しなければいけなくなった。

 

ここで、5月4日、冒頭の「胸騒ぎがする朝」の1日に何があったか説明すると、

 

ハナコは久しぶりに部活のない放課後に、早めに家に帰った。

が、友人であるはずのイチコちゃんが、ヨウコちゃん達の脅しに遭って、自宅の場所を売られてしまった。家の場所が結構近かったので、ヨウコちゃんの鬱憤ばらしの相手に定められてしまった。

ハナコ家に入ろうとした瞬間にヨウコちゃん達4人の女子が私を半ば押さえつけながら家に上がり込んできた。

 

それが全ての原因だ。

 

本人たちは、

「ハナコちゃんのお友達で〜す」

「すみません、ハナコちゃん体調悪かったみたいで送って来ました〜」

だとか、「母親がいるだろう、バレないようにリンチしなきゃ」という計算のもと脅して家に上がり込んできた。が、想定した母親の返事が無いと家に私しかいない事を悟り、調子に乗った。ハナコを荒々しく中に引き摺り込んで蹴りを入れられた。

 

何故家にあがられるのが問題なのかをここで説明する。

ハナコは、実は2年前に父親と引きこもりデブの兄を計画的に殺している。1ヶ月前には母親を事故死させてしまっていた。この三人の死体は完璧に処理したが、弟の死体だけは残っている。しかも相当臭い。

なので、部屋に上がり込まれるというあの状況は、非常〜にまずかったのである。

 

結果から言うと、ハナコは逆上して、女子3人を殺し、1人を取り逃して、警察に通報されることとなる。

 

ここでハナコ身の上話を話したいと思う。

 

 ハナコの家はアパートの角部屋で、酒乱の父と精神的に問題のある母親と、ストレスゆえの爆食いからの引きこもりメタボな兄とともに生活していた。

幼少期はゴキブリの混ざった食事とゴミ袋だらけの異臭の中で育った。

とてつもなく臭いので私のあだ名はウンコだったし、部屋の隣と真下には誰も住もうとしない。その辺の犬のウンコ食えって言うイジメにもあったし、ウサギ小屋の水を飲まされたこともあった。

 

……………つまり何を言いたいかというと、ハナコは特殊な家庭環境により、いじめられたりして、精神的に問題がある女性に育ってしまったと言うことである。

多少の良心や必要程度の常識を兼ね備えてはいるが、やっぱりちょっとおかしい女の子なのであった。

 

12歳になる頃には父は私ハナコを性的な視線を送るようになった。母は私のまつ毛を抜いて目玉のオブジェと魔法陣の手拭いに捧げるようになった。

兄はハーブやってる。百円玉がないと黒電話とポストの結婚式に出れず、肝臓にマンダラキノコを植えつえられるらしいので百円をあげていた。

 

その辺でハナコは、「この家族の保護がなくても生きていけるというか、私が生かしているようなものだぞ」、と気付いたので、家を飛び出した。が、運悪く補導されたので、家から家族を排除してしまおうと考えた。

…そんな矢先、どっか行ってた父が大金を持って家に帰ってきた。

 

父が持ってきた大金によって我が山田家は少し潤った。それでも、あいも変わらずバカしかいないのであった。

ハナコはパクった金で、ホームレスのような生活をした。シャワーを浴びたい時は銭湯に行った。

実家に比べればとてつもなく平和で清潔な日々であった。

だから「家族を排除するの、ちょっと後でもいいかな?」って気持ちになったのである。お金があるとはとても素晴らしい事である。

 

……………で、そんな生活がなぜ家族殺害という急変を迎えたかというと、それは、母の妊娠である。

それを知った時、ハナコに何かよく分からない物が込み上がった。母のお腹に宿った命、私が守らなくてはと謎の使命感が湧き上がった。

それは、イカレ女の母がお腹をさすって笑っていたからかもしれないし、裁縫をして赤ん坊の服を作っていたからかも知れない。

大きくなった母のお腹を撫でた時、ハナコの時もこうだったのよ、あんたの兄弟よ、ハナコお姉さんになるのねぇ……………と、母はハナコの名前を呼んだのである。その時、母が物凄く清らかに感じ、また、愛されて生まれて来たのだと嬉しくなって、どうしても弟を守ってあげたくなったのだ。

 

 そこからの行動は早かった。

母が臨月に入ると私は酒に睡眠導入剤を入れて眠っている父を刺し殺し、爆音でイヤホン聴いてる兄の首を縄で締め殺した。

それからは2人を金槌やら、ノコギリやらでバラバラにしてスパイスやら醤油やらをブチ込み、圧力鍋で茹でて、最後はゴミ収集車に任せた。

我が家から血痕が出ないようにとブルーシート引いたりだとか大変だったが、これで何も心配いらないと安心したのだった。

清らかな弟を迎えるために父と兄は悪影響すぎるのである。

 

さて、いよいよ母の出産……………と、なりたいのだが、そこでまたアクシデントが起こった。

赤ん坊が生まれないのである。

ハナコは2年弟を待って、痺れを切らして自己流帝王切開を実行したら、母が死に、やっと取り出した弟はちょっと腐っていた。死産だったのである。

 

ハナコはその時凄く、悲しんだ。どれくらい悲しかったというと、オリンピック出場の決まったスポーツ選手が、交通事故に遭った時くらいの悲しみである。

(が、本人は自殺しようとか考えていないので、立ち直りは早い。)

 

あんまりに悲しいので、ハナコは母の死体は近くの山に埋めて弔い、弟は諦めきれないのでクーラーボックスに入れて置いた。

 

で、弟腐ってた事件はつい1ヶ月前のことである。

 

先に結果を述べてしまったが、家に押しかけてきた女子4人に私は取り押さえられ、暴行を受けたのち、弟を見られてしまった。

 

これは殺すしか無いと、衝動的にヨウコやらを3人仕留めたが、最後の最後で1人に逃げられ、警察に通報されたのである。

 

以上が5月4日に、この山田花子に起こった平穏な日常をぶち壊す災難である。

 

「これは国外逃亡するしかない」と腹を決めたのは、2年前に父を殺してから途絶えたディーアイオー(ラジオネーム??)さんという人物からの手紙を見つけた事がきっかけである。

巨額の金はこの男からのようで、エジプトと日本の中継を父のスタンド(?)がしていて、案外重宝されていたらしく、うんたらかんたら…………そこで触っていなかった父の机をあさったら、なんとエジプトのとある座標が精密に書かれたメモ書きや、でっかい屋敷の写真が出てきた。

 

ハナコはピン!と来た。よし、ここで雇って貰えばいいじゃないか!と。あの酒乱が雇ってもらえたのだから、私なら楽勝だ!と。

 

その時の彼女は、物凄くハイになっていたのでバカだった。

それからは早かった。エジプトに行ってやろうとすぐに空港に向かった。

 

凄くバカなのだが、この時チケットやら何やら全く考えておらず、荷物もボストンバックに下着と、何故か制服を冬夏全部突っ込み、乾パンを突っ込み、サバイバルナイフ…ではなく包丁を突っ込み、売れそうなダイヤ?みたいなきキラキラしたものを突っ込み、物凄くアホなのだが凄く満足して家を出た。

 

服、よし!

食い物、よし!

武器、よし!

多分金になるもの、よし!

 

いけるッ!

 

こんな感じで家を出たのである。

 

おいおい、お前~そんなんで飛行機に乗れるわけねえだろ嬢ちゃんよぉ〜と。

 

ところがどっこい、ハナコは何故か空港を素通り出来て、エジプト行きの便に飛び乗れた。隣のシートに座っていた外国人らしき、ハンサムガイは自然に握手を求めて来た。また、機内食も普通に配られた。

 

そこまで来て私は飛行機の機内で流石におかしいと思い始めた。

そういえばパスポートだって持っていないんだぞ私は……………

 

ラッキーというにはおかしすぎる現状に私はキョロキョロと機内を見回した。気が気でなかったから脳汁出すぎてたのか、ハイになりすぎてノリで飛行機に乗ってしまっているけふこのころ……………

すると、どこからか赤ん坊の声がした。真剣に耳を済ませてみると、なんと、上から聞こえてきるのである…ホラーだ。

怖くて如何に図太いハナコあろうと、すぐに上を向けなかった。仕方ないので私は隣のナイスガイに尋ねた。これでも私、英語は学年十位以内の中々に頭の良い女であるはずなのだ。

 

「すみません、私の頭上に何か居ませんか?」

「…? いいえ、何も居ませんが、虫か何か見たのですか?」

「……………ありがとうございました。大丈夫です。」

 

隣の男性は何も居ないよと言うのでそれを信じた。ハナコは自分の真上を見た。

 

『オギャャャャアアァァァ!!!』

 

いた。

間違いなくいる。

その赤子は今まさに母親の胎内から生まれ落ちたかのように、血に塗れて、それがハナコの顔に垂れている。

また、ハナコの手には何かを握っている感触がある。それは赤ん坊から垂れ下がっているへその緒だった。ヌルついていて気持ちの悪い……………赤ん坊は風船のようだった。浮いてる。泣き声は私にしか聞こえておらず、姿も私にしか見えていないようだ。だからみんな驚きもしない。風に揺られているのかゆらゆら踊っているようである。

 

私はもう一度ナイスガイにこの子が見えていないか尋ねるために、彼に話しかけようとした。

 

「うっ、な、な、なんだこれ、エエエ、大丈夫…じゃ、絶対無いわね。」

彼の両方の黒目がくるくる回っており、何かぶつぶつ言いながら髪の毛を抜いていた。彼は情緒不安定になったのかなんだかヤバくなってきていた。

異常な状態である。

 

「駄目だ………ストーブの虹色の炎が消える前に運動会で一等賞を取らないと僕に明日は無いし、フィリピンにいる僕の弟と妹の子供にウェルカムドリンクを用意するために鈴虫の親子に連絡しないと…ゴキブリを混ぜた中華料理店で働きたくなかったらイカレ坊主の葬式の助手をするのが条件ってもんさ…アッアッアッアッ、もう駄目だっ!!隣の家がミートボールを温めているっ!!!殺される!!!アッアッアッアッ、助かったぞ、奥さんが孕んでいたのは子供との子じゃなくて火星人のお爺さんだ……」

 

この人度でかい声で叫んでいるのだが、全く周りの人は加減な顔をしていないし、全然聞こえてませんって感じだ。

 

なに言ってるんだこいつ………!!!

まるで兄みたいに、やばい薬でもやってるかのような呟きだ。流石のハナコと怖すぎてちょっと涙が滲んできた。

 

頬には紅葉のような小さな赤ん坊の手形が墨のように黒くペイント?されていた。

あれ、この人こんなペイントしてたっけ?

赤ん坊からまた血が垂れて来た。今度は青年のおでこにかかった。そうするとまた黒い手形が浮かび上がって来た。青年は小刻みに痙攣を始め、皮膚が黒く染まり始めた。

これは、どう考えてもいきなり出現したこの赤ん坊と関係あるんじゃあ無いか………

 

「……………全部この子がやっていたの…?私が空港に入れたのも…この人が…こんなふうになったのも…全てこの子の魔法のようなものなの??」

まさに驚き。脳がガンガンしている。我ながらこのパニック時に驚きの理解力。不思議なこと全部こいつが原因だよ、絶対。

しかし、このハナコ自身には何の効果も現れておらず、ちょっと守護されているかのような心地だ…

 

皮膚全てが黒く染まったのか、そこから男性は縮んでいき、黒い赤ん坊になって血みどろの赤ん坊の隣に浮いた。へその緒は二股になった。

今後黒い赤ん坊が増えたら百股、千股にもなるのだろうか…

 

恐ろしい赤ん坊であることには間違えないのだが、ハナコにはどうにもこの子を殺す気にはなれなかった………そうしたら自分を否定することになるような、いや〜な感じがしたのだ…

血みどろの赤ん坊はハナコの方を見つめて、それからキャッキャと笑った。

なんだ、本人自体は普通の赤ちゃんじゃ無いか…

黒い方は目も口も分からなかったけど。

 

ハナコはちょっと、おかしくなっているのでおそるべきポジティブ思考を展開した。

 

この子は守護霊かも知れない!!

神様が授けてくれた弟かも知れない!!

エジプトに行きなさいって神様がいってる!!

 

「あなたがどこの子か…私には分からないけど……………神様が、私にくれた…弟の代わり、かも知れないから…大切にする…」

『キャッキャ』

「その力でお姉ちゃんを守ってね…」

『キャッキャッキャッ』

 

それに応えるかのような、赤ん坊の笑みに安心して、ハナコは気絶した。疲れすぎた。

それからは寝て寝て寝て………エジプトの空港はまた幻覚を見せる赤ん坊の魔法で乗り切ったのだった。

 

ちょっと人生舐めすぎじゃね?

と言うぐらい簡単に、人生の転機5月4日から5日後、無事にエジプトに着いたのだった。

同行者は、頼りない……というかむしろハナコが守るべきかも知れない赤ん坊である。

そして、今、ハナコは日本よりも明らかに治安の悪い街中を頑張って現地の人に聞きながら、目的の館を探して彷徨い歩いているのである。



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第2話 デンジャラスは突然に

「…………ここだ、この建物だ」

 

私は苦労の末、ついに目的の場所を発見した。

トンガリ屋根の大きなお城である。此処こそ、私の探していたディーアイオーさんの自宅である。今私の胸が喜びでドキドキしている。少しの不安もよぎるが、これからのことを考えると、ドキドキしてしまう。ああ…アポ無しで来てしまったけれど、大丈夫かしら、求人広告見てきたって嘘つくのはよく無いよね。こんなに大きなお城ならメイドとか見習いでも、何かしらお仕事があるかも知れない…英語はできるんだから、舐められないように対等に、意思を強く持たなくては。

………結構ですって言われたら粘り強くいくしか無い。何でもこなす自信があること、やる気があることを精一杯アピールしなくては。

 

「ケーーーーン」

風邪を切る音とけたましい鳴き声が響いた。空を見上げると帽子被っているように不自然に頭の出っ張った鳥が上空を飛んでいる。ああ、帽子を被せられていると言うことはこのお屋敷のインコとかオウムとかを放し飼い?しているのかも。私の勝手な妄想だが、きっと可愛い小鳥ちゃんに違いない。

「け、け〜ん」

柄にもなく調子に乗って泣き真似をした。今のうちに媚を売っておくのだ。先程と言っていたことがまるで違うが、それは臨機応変というやつなので問題ない。

その時、小鳥ちゃんはバラバラと粒のようなモノを落とした。それは重力に従って私の方に降ってくる。も〜危ないな、悪戯好きなのかな?と、粒と私には結構な距離があったため、少し離れて屋根のあるところに移動した。

 

さて、何を落としたのかな、と3秒ほど待っていると、ドドドド、とまるで氷のように小鳥ちゃんが落とした何か地面に深くめり込んでいた………

「ケーーーーン!!」

もう一度空を見上げた。

「嘘だろ全然オウムじゃ無い」

で、デカイ…あれはオウムなんかじゃ無い……トンビよりも大きい………鷹とか鷲の類だ!

しかも、めり込んでいたのは氷柱のような氷の塊だった。地面を粉砕し、ボコボコになっている。アイツ絶対あわよくば殺すつもりだった。番犬ならぬ番鳥なのか…??

 

………私はここで引けるほど、余裕のある身では無かった。

あの鳥は明らかに飛び抜けた知能があるとみた。もしかしたらこの鳥の包囲網を抜けてこそ雇う素質のある者と………いや、そんなデンジャラス面接あってたまるかと叫んでやりたいけど、この魔法の力が目ざめたからには、修行とか戦闘とか小説のような話を信じないわけにはいかなくなった。

 

 私が脳内会議しているうちに鳥は既に急降下していたらしく、再び氷の弾丸を私の真横から打ち出して来た。私の頬と左脇腹を擦りながら壁に突き刺さる。体に熱いような痛みが走るが、ここで止まる私ではない。逃げるのだ!!鳥に背を向けて走り出した。

………………そうするつもりだったが、後ろは行き止まりである。雨宿りのために作ったんですか??と言うくらい無駄な場所だ。3メートルくらい奥行きのある謎の張り込みに私は逃げ込んでしまっていた。出口はもちろん一つ。その出口で鳥が勝ちを確信して笑っていた。

もう夢であってくれと思えて来た。

いや、冷静になってみればこいつ氷を自家製産している。つまりふつうの鳥じゃ無いし、なら夢か?………いやいやいや、脇腹も頬も痛い。氷を作り出して飛ばせるなんてずるい。氷を作れるなら多分そこの出口を魔法で固める事もできるんじゃ無いか?出来なかったとしても、圧倒的に優位に立っていると自覚しているこの鳥は私を嬲って殺そうとする。絶対にそうだ。そう言う顔をしている。

ここで私は思う、世界には一定数魔法を使える人間がいて、能力は人それぞれで、私のようにビジョンのあるものは魔法使いにしか見えないのでは無いか……街中でもう一人、メカのようなものを背負った男性を見つけたがその人のは私以外見えていないようだった。この鳥の氷はどちらか分からないが、もし、空気中の水分を凝固させているのだとしたら他の人にも見えるし、私も魔法使いだと思って殺そうとしたのでは無いのかも知れない。

さっき適当に番鳥だとか言ったけれども、本当にその通りで、無差別に近づくものを殺していっているのかも知れない。

この鳥は私が反撃できる牙を持っていることにまだ気づいていない!!

 

『オギャャャャアアァァァ!!!』

機内で殺してしまったナイスガイを筆頭に、私の黒い方の赤ん坊風船は14人になっていた。血みどろこ赤ん坊は増えていないが、この魔法を14回も使ううちにだんだん使い方がわかって来た。そして、この魔法を使うのに必要な心構えは冷静さと思い切りと覚悟である。

 

私は血みどろの赤ん坊を急いで両腕で抱えて黒い赤ん坊を鳥に押し付ける。背を低くして鳥の左側から抜けようと、渾身の力を込めて地を蹴った。つかさず鳥は氷の刃で黒い赤ん坊を破裂させた。

思った通りだ。ビチャビチャっと風船は破裂し、頭からそれを被った鳥は全身に手形を作って倒れた。

人間やろうと思えばできるものだ。鳥はぐったりとして動かなくなった。私が同じ魔法使いに初めて勝利した瞬間であった。

目をくるくる回しているうちはまだ大丈夫………これが手形が増えたり大きくなったりしたら末期症状へと向かっていることになるが、この子はあと5分くらい持つはずだから、屋敷に入ってから魔法を解いてあげよう。

 

***

 

私は五分以内に建物に入り、鳥さんにかけた魔法を解いてあげた。

建物に入ってから不法侵入したと気付いたが、入っちゃったのはしょうがないし、今から言い訳を工作するのもこれから働こうとしている職場に対して失礼なので、全て正直に話すことにした。それにしても鳥に屋敷を守らせるなんて、なんとも斬新な職場である。

 

それと、あんな凶暴な鳥に館を守らせていたなんて、この建物には何か秘密があるのだろうと言うことにも気づき始めているが、私は色々なことで疲れてしまったのもあって、あまり、やり直しをしたく無い気分であった。

 

私別に、生きてれば何でも良いと言う人間じゃ無い。

クラスのみんなからは不気味で日本人形みたいな能面女って思われていたけれど、本当はそんな事ないし、結構笑うし独り言は激しい方で、実は陸上部に所属する多忙な女で、県大会だって本気を出せば1番をとれる。実は釘バット拳法を近くのチンピラのタケシさんにならっていたから、ちょっと不良みたいなことだってした。勉強だって学年三位を取ったことがある。

少し性格に難があるだけで、それを表に出そうとはしてない。趣味は料理に裁縫にスケッチ、読書…普通の女の子だ。

だから危険なことは嫌いだし、出来るなら紅茶やお菓子を摘みながら読書をして暮らしたい。そんなこと出来たことないけど。

 

やっと邪魔な重荷がなくなって、綺麗なお屋敷に使えることができるチャンスなのだ。ヤクザの屋敷なら逃げるけど、ここはそんな感じじゃ無いし、父のようなクズの魔法も買ってもらえたのなら、私の魔法だって買ってもらえるはずだ。父より有能な私は喜ばれるかも知れない。

 

ちなみにこれ全て玄関のドアの隣にある小さな椅子に座って考えていることである。誰か来たら声をかけよう。家の中まだ入り込んだら本格的に不法侵入を責められる気がしてならない。

 

***

 

結局夜になってしまった。

屋敷の出口に通りかかる人はおらず、私は夜まで赤ん坊をあやしていた。この子はなかなかいい子で、大声で泣くことは普通にしている時はほとんどない。私はそろそろ眠くなってしまって、目蓋が半分閉じ始めていた。こくん、こくん、と

垂れそうになる頭に合わせて、かつん、かつんと何かの音がしている。………それが足音だと気づいたのは私も朝入ってきた扉が開いてからである。

人が来ている!!

ハッと顔を上げると、変な帽子をかぶって、顔に線が入っている男性がこちらを見下ろしていた。

 

「………あなた、今入ってきた方より早くこの屋敷に入って来たのですか?」

彼は私を疑り深い目で眺めている。ところで今入ってきた人?とは………キョロキョロ周りを見回すとフラフラしている女の人が見えた。あっ、また女の人が入って来た。

屋敷に侵入した女の人は2人いて、両方、なんだか恍惚とした表情を浮かべていたので、私はなんだか大人の世界を見てしまった気持ちになった。

そこで私は目の前の男性の質問に答えていないことに気がついた。早く答えなくては変なやつだと思われる………

 

「………今、ではありません……もっと前から…ここに居ました。訳あって屋敷に無断で踏み入ることになってしまいましたが、決して妖しい者ではございません…私、父の手紙を頼って参りました…ここの館の主のお役に立つため、どんなことでも致しますので…どうか………」

「………平たく言うと、ここの館の主にその身を捧げに来たということで間違いありませんか?」

 

……ん、んんんん…ちょっとまて、一気に話が怪しくなってきたぞ。夜に訪れた先程の2人の女性………身を捧げると言うのは下の方の奉公のことか??もしやここの館、性奴隷コース直通快速新幹線なんじゃあ無いだろうな………

いやしかし………平たく…ひらたーく言えば私は『その身を捧げに来た』で間違いないこともないな。

………ここは私の覚悟が試されているのかも知れない………覚悟だ………全ては覚悟が道を切り開くのである。

 

「間 違 い ご ざ い ま せ ん」

 

あっ、彼ちょっと引いてる。まあいいか、こいつも連れてってやろうみたいな顔してるぞ。

しょうがないだろう、この、17のうら若き乙女にとっては死ぬか生きるかの1人旅なのだからな。私の目はきっと血走っていたであろう。

 

「………ではお三方こちらにいらしてください。」

 

***

 

えええーーー何で私こんなことしてるの………

湯気で霞む天井を見つめる。確かに極楽だけれど、私のバージンの行方が心配になって来た。

私たち訪ねて来た女性3人は金ピカな風呂に突っ込まれて、とにかく匂いをバラの香りにしろと言わんばかりにシャンプー、リンス、ボディーソープ、風呂まで全部バラである。ここの館の主人の趣味は決して良いとはいえなそうだが、人の美学をバカにするのは良く無いことだ。

「ねぇ、あなた。」

女性のうちの1人が私に話しかけて来た。

「何ですか?」

彼女はエジプトでは珍しいであろう、ブランドの髪を持つ女性であった。ニコニコと笑顔がすてきだが、どこかもどかしい様な、私に向かっては、しょうがないから時間を潰しているのよ、と言う焦る雰囲気か伺えた。

「あなたもDIO様に見初められてここにいらしたの?」

「………???あっ(ディーアイオーさんじゃなくて、ディオさんだったんだ)私は父の手紙を頼りに、ここで雇ってもらう為に来ました…」

「ふーん、確かに彼に惚れ込んでいるって雰囲気じゃないものね。」

「………えっと、貴方様はDIO様という方にどのような御用があられるのですか?」

「私?決まっているわ、この身全てを頂いていくのよ。」

「無知で申し訳ないのですが、それは比喩的な意味でしょうか、その……アッチ系の意味で?」

「そうね………どちらもじゃ無いかしら?」

 

どちらも??

どちらもと言うのは、「身全てをいただく」が、直接的な意味でもあるし、比喩的な下っぽい意味でもあると言うこと………?

 

ここで私は一つの結論に至った。

もしや私が頼みの綱にしていたDIO様は、女性を狙ったセレブのカニバリズムを支持する男性なのかも知れない。

いただくと言うのは、つまりはいただきますと言うことで、私もバクバク逝かれてしまうのでは無いか…バージンどころか生命の危機に陥ってるのかもしれないまずい。

これは逃げた方がいいのかも知れない…

 

「貴方もそろそろ出ませんこと?もう十分湯につかったでしょう?」

 

さっき話していたのとは別の黒髪の女性が私に呼びかけてくれた。

いやいや、憶測で物事を進めるのもいけない……大体、私の憶測が正しいのならあちらの女性2人もバクバク食べられに来たと言うことだ………惚れ込んでるからって自分の肉を食べてもらうために来ましたとかそう言うのないでしょ………流石にありえないでしょ………

 

***

 

お風呂から上がると、2人の女性達はせっせとお化粧をしたり髪をセットしたりしている。私もした方が良いのか迷ったけれど、就職面接にバッチバチにメイク決めてくのもちょっとヤバイ奴だから、いつも通り自慢の黒髪を乾かして、制服の正装を着ていく事にした。

 

廊下はどこまでも続いているような気がした。

「ご案内致します。」

執事風の男性が賛同する中、私は女性2人についていった。



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第3話 そもそも人間じゃなかった。

「と、とんでもないところに来てしまったぞ私は………」

 

執事風の方に案内されて進んだドアの先には、超イケメンの金髪のマッチョお兄さんがいらっしゃった。瞳の色は赤、日の光を浴びていないんじゃ無いかってくらい肌が白い。

ベッドの上に上半身全裸で待ち構えていた彼は、最初に私に話しかけてくれた女性を手招きしてベットに乗せ、彼女の体をサスサスし始めた。何やら物色するかのような手つきである。

 

うわー、エッチだ〜、へぇ〜この人がこれから私の上司になるのか、かっこいいなぁ、すごいイケメンだ、…でもなんか怪しい雰囲気だし、こっから雇ってくださいって言っても強姦されてエジプトの街にぽいってされたらどうしよう………そうなりそうになったら、その時は赤ちゃん頼みで逃げ切ろう、そんでお宝盗んでまたどっかに高飛びでもするしかないか………

 

次の瞬間、金髪のニキは女の人の首に手をぶっ刺した。

「え!?!?」

驚きすぎて私目は点である。金髪ニキの長い指が女性の首に埋まって、完全に刺さっていた。奇怪な行動に、非常に不安になり、また、お決まりの展開なら、自分の分が回ってくるんじゃ無いかとも思い、軽くパニックになる。

 

「………あり、が………ございます………」

ニキが首に手をぶっ刺してから数秒で女性が萎れて倒れた。あれはどう考えても死んでる、なんか吸い取られたかのように、と言うか実際に体の水分か何かを持ってかれているに決まっている。だって、見るからにアジの干物みたいな乾物になっていらっしゃる。

こ、殺したのか女性を………しかも女性もニキに向かって感謝しながら死ぬというなんとも奇妙な死に方……何故かB級映画の陸を歩くサメを思い出す………同じ奇妙でもジャンル全然違うけど………彼はB級のサメよりももっと厄介で、どちらかというとバンヘルシングに出て来そうだけれど。

 

「………ククク、中々美味じゃあないか…女、光栄に思え…貴様はこのDIOの血肉となる栄誉ある死を与えられたのだ。」

ちょっと待って未来の上司デンジャラスだ。

「DIO素敵!私も早く召し上がってくださらないかしら!」

「嘘だろ姉ちゃん目を覚ませ」

 

いや、このままでは私も殺される。あと、すごく危ない思想をお持ちのようだ。当の本人DIO様はコッチに近づいて来ているぞ、向かってる先はどう考えても私だ!不味いんじゃあ無いかこれは!後ろの扉は鍵がかかっているのか全然動かない!

アッ、私だけ逃げても隣の女の人も殺されるかも………というか、殺されるだろう。だがしかし、今は他人のことなんて考えられない。それに、なんかもう、この人殺されたいらしいから放っておこう。

 

「次はそこの東洋人の女だ。こっちに来い。」

やばいぞ人生終わったぞ。だけど、彼は機嫌みたいだ。これは土下座して交渉すべきか…だってあんなムキムキの男の人に勝てないよ、赤ちゃん使わなきゃ、赤ん坊使ったらそれはそれで私の明日が真っ暗になるよ、未来の上司のロストで、だ。それでも明日は巡ってくるって言うがね。

 

いやいやいや、こんなに心の中では嫌がってるけど、何故か私の足は彼の方向に動き始めた。何でだ……ご都合主義と言わんばかりの………しかし、「威圧感です!」と言わざるを得ないこの圧力に、私の足は彼の元に動き始めていた。

アーーーーもう駄目だ、もうここで叫んで交渉するしか無い……日本に逃げ帰ったって私にゃあ、後が無いのご存知?

私の理想だけど、この乙女ゲームにでも出てきそうな人、DIO様。イチコちゃんが貸してくれた雑誌にあったように、普通の女じゃ無いですよアピールをしたらイベント?が発生して『お前、面白いな』と訳わからんことを言ってお金くれ無いだろうか………絶対ないけど。

 

「あ………あの………」

「アッ、ちょっと待て女、貴様何型だ?」

DIO様の歩みが止まった。私ともう1人の彼女を見比べている。

「おっ、O型で御座います………」

「そうか……おい、お前は何型だ?」

「A型ですわ。」

「今はA型の女の血が飲みたい気分だ。おい、O型お前はベットで待機しろ。」

くぅ……やっぱりめっちゃ怖い…あと、いつのまにか私の名前はO型になってしまった………くうっ…怖い…なんか威圧感するぞ、逆らえない………

「………御意。O型待機しております。」

私はこのDIO様が私より圧倒的な力を兼ね備えていることを確信し、逆らわないほうがいいけれど、何もしなければ私はこのまま、あの女性同様体液をカラカラに抜かれ、乾物となることが決定している。まだ生きているもう一人も、指を首にめり込まされて、もうすぐ殺されるだろう…

アッ、刺された。

 

「あ………ああ…ありがとう…ございました…」

黒髪の女性がやられてしまった…

嗚呼…私の番が来てしまった…交渉だけでもするべきかも知れない…話だけでもしてみよう…

 

私の今の気持ちは、雇ってもらえるなら全力で働く気合いはあるのだけれど、なんだか未来の上司となる人が人外じみていて、今現在殺されそうな場面に直面しているので怖すぎて逃げたいが、希望は忘れずに取り敢えず交渉だけはしてみよう、という気持ちである。

 

「あの………」

「なんだ、東洋人の女よ」

「私に話す時間をくださいませんか?」

「ほぉ、この世に残したい言葉があると。」

違うわこのアホ。

「私、山田 花子という者なのですが…父が2年前まで貴方様にお世話になっておりまして………」

「それがどうした?自ら食べられに来たと言うことか?」

「違いま」

「黙れ女、何故距離を取っている?」

そりゃ逃げるわ。相手の立場に立って物事を考えようって教わらなかったの?どんな奴に育てられたか親の顔が見てみたいぞ。

「私はその…食糧志望というより使用人志望というか…」

「テレンスだけで間に合ってる」

いや嘘つけ、こんな広い屋敷掃除はどうしてんだよ無理だろ。1人じゃ、オーバーワークだよ。テレンスって人パワハラ受けてるんじゃあないか?

 

「くぅ…安月給でも構いませんから…」

「お前を食うのに金はいらない」

「私にはテレンスさんの悲痛な声が聞こえます……」

「何言ってんだお前」

「この屋敷を1人で請負うテレンスさんの激務を想像したことはありますか??」

「知るか金は払っている」

「そう言うところですよ、きっと彼は働きすぎて鳥インフルエンザか豚コレラにかかる寸前ですよ」

「お前テレンスを家畜だと思ってないか?」

「かわいそうに、テレンスさんは多分人間ですよ?………エッ、鳥インフルエンザって人間にかかるんですか?」

「俺に聞くな、どの口が言うんだ、クソうるさいなこいつ」

 

多分テレンスさんはパワハラを受けている(推定)

彼の態度から察するに、傲慢で女好き(食料)で、色々とヤバい奴に違いないだろう、あと、股間全開、見せつける趣味があるらしい……そんな奴がまともな上司のはずかないだろう。それと体液を吸い取る習性もある。

ん、そう言えば何で首に指をぶっ刺しただけで体液が吸い取れるんだ?

だいたい、体液を吸い取るってなんだよ体液を吸い取るって、このDIO様と言う男人間じゃ無いんじゃあ無いか?

あれ、すっかり魔法の存在を忘れていたけど、つまり、この男は私の同じく魔法が使えて、その副産物で吸血鬼みたいなことができると言うことなのか。つまり私が攻撃を仕掛けたら屋敷の外の番鳥の時みたいなバトルを繰り広げなければいけないという事になる。私の魔法自分から仕掛けたら勝ち目あんのかこれ………

というかこの屋敷、もしかしたら魔法使い結集してるのでは?

 

「………それで、お前は何が言いたいのだ、このDIOに下らない事伝える為に俺の時を奪っているのでは無かろうな?」

「………め、メイドでも清掃婦でも食料以外何でもいいので雇ってもらえないでしょうか…」

「先程言った通りテレンスで間に合っている。やつは鳥インフルエンザにも豚コレラにもかからん。貴様のようなスタンドも使えぬ小娘、腹の足しにする以外使い道など無いわ」

「ひえっ………」

 

この男、本当に私を殺すつもりだ。眼力が脅しじゃない、本気になって私をデザートにするつもりなのだ。

いかん、相手を怒らせてしまった。うそやん、さっきまで結構ツッコミしてくれてノリ良かったやん。

うそ、こっちに迫って来ている。

 

私はとにかく一旦距離を取る。この部屋逃げ場は無いが結構広いし、本が沢山あるから、投げたり障害物を作ればなんとか黒い赤ん坊の出汁をぶっかけられるかも知れない。

相手はまだ私が魔法使いだと気づいていないから、ワンチャン投げれば当たる。

 

「………えっ、何処にい」

「無駄なことはそろそろやめにしよう小娘」

「ギャーーーーーーッ!!!」

何てこったい、いつの間にか回り込まれていた。ホラーさながらの展開に私は叫び声を上げてビビった。

「うがっ」

右足を軽く払われ、視界が揺らいだ。こういう時人間は転ぶと分かっていても何もできないもので、重力に従っている時やけに周りがゆっくりに見えるのはお決まりである。

バランスを崩して背中から彼の胸筋にダイブする。アッ…これはもう駄目なヤツだ…そのまま顎を鷲掴みにされ固定、巷で噂の顎クイもコレじゃあ、全然嬉しく無い。何がいいんだこんなの、最近の女子みんなドMか。大きく振りかぶった手の先の鋭い爪の行方は私の首だ。そのままジエンド………

 

 

 

『うわーーーーーーッ!!』

 

の、ギリギリのギリで彼の爪が止まった。私は今さっき響いたどでかい叫び声、それと何か落下した音によって助かったのである。保留されただけかも知れないけれど………私の体からはどっと汗が流れ出した。

「な、何…誰の声………」

「テレンス?」

先ほどの叫び声の主は最近話題の人、テレンスさんだったらしく、彼は私の顎を締め付けるのをやめて、立ち上がった。あれ、何で私のことじっとみているんですか?

DIO様、直立不動で数秒間私を眺めた後、座り込んだ私の上着の胸ぐらを掴んで立たせた。

 

「………小娘一つ質問する。」

「な、なんなりと。」

「俺に人を殺せと言われたら、殺すか?」

 

…あれ……これはもしやチャンスというものでは?

生命の危機からテレンスさんの叫び声一つで面接っぽくなって来た。私への態度が急変したと言うことは、何かハプニングが起こってたであろうテレンスさんの穴埋めとして、今現在、私のDIOカンパニー入社試験が執り行われていると言うことで間違いございませんねーーーーーー☆

 

「も、もちろんでございます!」

私は間を入れず、相手に好印象をもたらすように、目を見開いて笑顔で答えた。

「そうか、ならばその言葉、試させてもらうぞ」

「有り難き幸せ!!」

DIO様はフッと軽く笑って私に背を向けた。私もおっきな声でしっかり答えたし、彼の返事からも私がとりあえず研修生として認められたことが伺えた。だって「試させてもらう」だから、まだテストはあるかも知れないけれど、これは結構期待できる展開ではないでしょうか。

「それでは小娘、半回転してドアの方を向け。」

「仰せのままに」

私は上機嫌になって直ぐに後ろを向いた。部屋の雰囲気はランプで薄暗かったけれど、私にはラメが入ったみたいにキラキラしている風に見えた。

「私がいいと言うまで目を瞑って耳を塞いでいろよ。」

「もちろんでございます。」

耳を塞いで目も瞑った。

しかし、これなんの儀式だろうか……聖水でも振りかけられる?これなんか何も分からん間に危害加えられるパティーンでは無いよね、平気よね。

 

「痛っ」

DIOに背を向けてから数秒後に、ハナコは背中を熱い何かで貫かれ、余りの体の熱さに耐えきれずに意識を失うのであった………

 

***

 

 

DIO様から見たハナコという女

 

 

 俺がこの小娘を生かそうと思ったのは、本当に気まぐれからであった。他2人の女は気合を入れてきらびやかなドレスを纏う中、1人だけ日本の制服を着た、長い黒髪の女が入ってきた。そもそも、この屋敷に招いたのは、2人だけで、1人

知らない女が混ざっていると言う状況であったが、敵意は感じられず、わざと隙を見せた際、飛びかかって来なかった。

まあ、前に道で見かけてこの屋敷にたどり着いた女もいたから不思議なことでは無い。

もしや、この屋敷に引き寄せられたスタンド使いかとも思ったが、殺されそうになってもスタンドは出さなかった。つまりは、やはり、ただの女である。

つまらない、食ってしまおう。そう思った時、テレンスの悲鳴が屋敷に響いた。ここまでこんなにも大きく聞こえると言うことは、それ程遠くでは無い。にも関わらず、テレンスの足音は吸血鬼の聴力で耳を傾けても聞こえなかった。と、いうことは、テレンスは倒れているのか、蹲っているのかその場から動いていないと言うことである。

あの男が動けないほどの怪我をしたのか?

奴ならば、大変失礼致しました。と、この部屋に声を掛けるだろう。

普段は楽観視している事も、このヤマダ ハナコの先程の言葉、「私にはテレンスさんの悲鳴が聞こえます」から、「まさか………」と思ってしまった。

少しすると、立ち上がって歩き始めたが、アラ、ズッズッと足音は跋扈引いた様な怪我をした様な足音になっている。これは案外重症だったのかも、明日生きてるかしら?

 

ふむ、ここでもう一度ヤマダハナコを見る。

 

う〜む、この女、最初から俺に魅了されていたという訳じゃあ無さそうだ。目の前で殺人が起こっても冗談を言う余力のある、普通とは少しだけ変わっている女。

テレンスが本当にヤバそうだった場合、スタンド使いにして肉の芽を埋め込めば、使えんこともなさそうだ。

 

………よし、スタンド使いにしてしまえ。

少し希望をちらつかせて命令したらすんなりとこのDIOに無防備に背を向ける。案の定ヤマダハナコはすんなりと矢に打ち抜かれ、スタンド使いとなった。気絶しているが生きていると言うことは、スタンドに目覚めていると言うことである。

ヴァニラ・アイスに別室に運ばせたついでに、テレンスの身に起こった事を聞くと、どうやら何かの拍子にぎっくり腰をやってしまって現在酷く苦しんでいるらしい………

 正直、ちょこっとだけ、この女はナイスタイミングだったのかも知れないと思った。

 

 

 この小娘の父親、山田 太郎という名には確かに覚えがあった。日本に居る私の部下の1人でテレポート能力を有するスタンド使いである。本人は酒に溺れてはいたが、命令は律儀に遂行していたのと、中々に役立つ能力であったため、一応肉の芽を埋めて重宝していた。

 

しかし、一年前に何者かに殺されているのだ。山田太郎には、肉の芽を埋め込んでいた為、宿り主の死因は肉の芽を通じてある程度分かる。あれは他殺だ。包丁で何度も繰り返し刺されていたため、考えられるのは怨恨である。

………あの酒乱に1番の恨みがあったのはおそらく家族だろう。父親がアレではまともな家庭ではなかった筈だ。

 

 その娘が俺を尋ねて来たと言うことは、この小娘、向こうで何かやらかして、父親の遺品から俺の手紙を発見してここを訪ねて来たのではないか?そうじゃなきゃ、ガクセー1人でエジプトに行こうなど考えないだろう。

例えば、父親を殺したことがうっかりバレたとか。それでパニックになって国外逃亡なんていうぶっ飛んだ方向に思考が着弾とかなぁ?

なるほど、話が見えて来たぞ、あの父親が雇ってもらえたなら自分なら楽勝だとか、とにかく楽観的な考えで、後先考えずにエジプトまで来たな、このバカ娘。だから雇ってください、雇ってくださいとやかましくねだって来たのだろう。そうだろうな、お前には後が無いからな。

 

 

 このヤマダハナコという女は、肉の芽が無くても案外なんでもやる部類の人間かも知れないと、後のハナコの上司となる男、DIOは思ったのだった。




山田 花子

17歳 4月14日生まれ牡羊座 168㎝60kg
陸上部幽霊部員
好きなもの 絵を描くこと 読書 日本茶
嫌いなもの 声の大きな人 迷惑な人 そらまめ
恋愛感情を抱く人間のタイプ ちょっと意地悪な人、でも行
き過ぎたものは男性には求めない。女性も好き。
スタンド名 本人は自分のお気に入りの小説からドグラマグラと名付ける。
初期の能力 血塗れの赤子から血液が染み出し、触れると精神に異常をきたして異常行動をしてしまう。致死量に達すると黒い赤子となってハナコのスタンドに加わる。黒い赤子は割ると中から血塗れの赤子の血液と同じ働きをする液が漏れ出し、攻撃手段が増える。つまり、ストックすることが重要。あくまでも本体は血塗れの赤子なので黒い赤子を壊しても液体が溢れるだけで花子にダメージはない。

破壊力 なし スピード なし 射程距離 C (10m)
持続性 A
精密動作性 E 成長性 B


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第4話 天職だった

「つまり、私の仕事の大部分は死体処理であると言うことですね。」

「その通りです。」

 

昨日、屋敷の主人DIO様にスタンド?の矢をぶっ刺されてぶっ倒れて、1時間前に起きたところだ。ベットと机とクローゼット、備え付けの風呂とトイレ、キッチンがある、少し埃臭い部屋だった。隣には顔に線が入っている、私をDIO様の部屋まで案内した、あの男性が座っていた。彼の名前は、テレンス・T・ダービー。そう、あの噂の人、テレンスさんだったのだ。私の体調が平常かどうか伺って、問題ないと知ると、彼は私に、晴れてこの屋敷で雇われる事になった事、これからこなさなければいけない仕事の事を教えてくれた。あと、DIO様が相当な食いしん坊でヤリチンだから肉体的にも貞操的にも気を付けろと忠告して来た。

いろいろ苦労が多そうな人だと思った。

 

「テレンスさん大変でしたね。」

「全くその通りなんですが、いかんせんDIO様は人間では無いので、私たち下等種族の肉体疲労事情なんて興味あられないんですよ。」

「………DIO様人外なのですか?」

「ご存知ありませんでしたか?」

 

全くの初耳でございます。なんだか人外じみた能力だと思ったけれど、あれはステータスだったのか……?

 

「何だか人間味の無い方だとは思ったのですが…」

「あの方は吸血鬼ですよ。この国の若い娘たちを貪り食ってますから、貴方もお気をつけて。近いうちに訪れるであろう宿敵に備えているそうですから………食欲旺盛な時期なんですよ。」

「エッ、私のご主人様もしかして成長期?それに、DIO様に宿敵なんているのですね、もしかして、ヴァン・ヘルシングですか?」

「まさか、そうだったらどんなに楽チンか。彼の話だと黄金の精神を持つ屈強な一族だとか………ア、そういえば貴方スタンドはどうなってるんですか?」

「………スタンド?………私の下半身に立つものはありませんし、つける予定もございませんわ。」

「馬鹿言ってるんじゃ有りません。スタンドというのはですね、いわゆる特殊能力の様な物で、貴方にも矢に貫かれたお陰でスタンド能力が開花している筈なのですよ。コレ、貴方見えるでしょう?」

テレンスさんが指さした先には人形のロボットのようなものが現れた。目はライトのように鈍く光って口は無い。ほっぺにTDの文字があって、左右は不対象だからかなんだが少し不気味な印象を受ける。これが彼の魔法……いや、スタンド…

 

「うわっ、コレ、スタンドって言うのですか?」

「アラ、心当たりのものがお有りで?」

 

心当たりも何も私の赤ちゃんがそれであります。

な〜るほど、私がずっと魔法魔法呼んでいたものは、スタンドという概念で確立されたものであり、私はそれを全然知らなかったがために、DIO様との食い違いが起こり、スタンドを発現させる矢をぶっ刺されたと。なんだ、最初から使えますって、言えていれば、あんなに怖い思いをする必要無かったじゃあないか。

 

「もしかしてスタンドという単語を知らなかった?」

「………はい、今知りました。」

 

それにしても、テレンスさんのものは二足歩行の人間をモデルにした人型のスタンドだが、私のはどうだろう。私のスタンドは赤ん坊である。これが精神の具現化であるとするなら、私の精神は赤子同然ですよ、と言われているのか。それはそれで腹の立つ案件だが、もっとむかつくのはコイツの能力が能力なだけに、私がとち狂った女みたいじゃないかと言うことだ。あんたの精神、狂ってますよと言われてるのか私は。クソぅ、私自身だからこそ腹が立ってくるぞ………

 

「はぁ……自分が思い描いていたものと相棒が違うと何だか残念な気分になって来ますわ」

「ああ、貴方やはり元々スタンド使いだったのですね。『コレはスタンドというものなのか』とリアクションしていましたし、あなたがこの屋敷に来た時間も曖昧でしたから。もしも日があるうちにこの屋敷に来たなら、彼の猛攻をどうやって掻い潜ったのか不思議だと思っていたのですよ。」

「私がこの屋敷にお邪魔したのは昼すぎ頃です。」

「ならば、ペットショップ………表にいた鳥に追いかけ回されたでしょう?」

「ああ………あの恐ろしい…いえ、なんでもございません。もちろん、危害は加えていない筈です。」

「今日も元気に鳴いてましたから、平気でしょう。」

「それは何よりです………でも、DIO様に怒られませんかね?」

「頑張って事情を説明すれば、仮にも配下に置いた者を理不尽に殺…いえ、叱ったりはしませんよ、多分。」

「今はそう信じておきますね。」

 

これから仲間となるペットショップ(鳥)さんには失礼してしまったから、給料をもらったらお肉を贈呈しようと思った。

 

「ああ、そう言えば元々スタンド使いなのに矢に刺されたらどうなるんでしょうかね。」

「………それは私が体験者第一号と言うことで間違いございませんね?」

 

テレンスさんはいやらしい笑みを浮かべて、そろそろ行きますねと椅子を立ち上がった。ぎっくり腰なのか、ギプスをつけている。痛そうにしているので、一瞬さっきの笑い方にこのクソと思ったけど、許してあげることにした。

 

***

 

 私の部屋の話

 

私の部屋にはまだ最低限の物しか無い。まだ私の制服しか無いタンス、モノを書くための机とその上に載っている二冊の置き忘れのような本、ご飯を食べるための小さなテーブル、一応布団あります、と言うような白い柄のないベット、トイレと洗面所とお風呂はくっついていて狭め。キッチン用品はまだ無い。でも、収納はそこそこあった。

そもそも、この部屋はなんの部屋なのだろうか。

まあ、考えたって分からないけれど、結構小さい。でも、日当たりがよくて、いい部屋をもらえたのではないかと思い、嬉しい気持ちになった。

実家はクソみたいに汚いゴミ屋敷だっただけあって、私は清潔の大切さを人一倍知っているし、そもそも部屋なんて与えられたことの無い私にとっては、有頂天になるくらい嬉しいことだった。この部屋を自分の好きなようにしていいなら、どうしよう、嬉しすぎる。流石に許されないと思うけど、壁紙を張り替えていいなら、私、和柄とかにしたいかも知れない、古臭く無い感じの。それで、ベットは窓際、タンスはアッチにして………テーブルはこっちの方がキッチンからご飯を運びやすいし。

やだ、楽しい。自分の部屋ってこんなにもいいものなのか。私本当に此処に就職して良かった!

私は空に向かってガッツポーズをするのだった………

 

後ほど、DIO様の部下の1人、ヴァニラ・アイスさんから多額のお金を渡され、そのお金はDIO様が私に必要なモノを買ってこいと、渡されたお金だと知り、DIO様の財力にハナコは白目を剥いたのだった。

チャンチャン

 

***

 

  私に与えられた仕事の話

 

流石にテレンスさんの仕事を全て変わる事は、私の未熟さ故だが無理なので、与えられた仕事はテレンスさんの仕事の中で最もハード(肉体労働的に)な掃除を任された。

詰まるところ、冒頭に出て来たように、DIO様の食べカスの処理をしろと言うことである。

テレンスさんにはDIO様が「お楽しみ」じゃなさそうだったら早めに回収してもいいし、まあ、入れなさそうな時は朝方に来てもいいと言うこと。この屋敷に入ってこれる人間はいないので敷地内だったら煮るなり焼くなり好きにして処理してくれればいいと言われた。

ヴァニラ・アイスさんの能力に頼ってもいいとおっしゃった。DIO様の食べカスなら彼は喜んで回収してくれるらしい、DIO様信者だから。

 

さ〜て、私はどうやって処理しようかしら。なるべく辛くなくて静かに片付けられるものが良いわ。ヴァニラ・アイスさんの能力は死体回収に向いているらしいけれど、私の能力はどうなのかな?死体も黒い赤子に出来たら私はドンドンストックが増えていくし、嫌な匂いもしないならWIN-WINだし、料理とかそっち系の使用人らしい仕事を任せてもらえるかも知れない。

目の前に転がる3人の女に血塗れの赤子の体液を流し続けてみると、予想通り、皮膚がドンドン黒くなっていって、体全体が染まると、縮んで赤ん坊になった………

 

天職だったーーーーーーー☆

 

***

 

 マライアお姉様とお買い物

 

「本日は貴重なお時間ありがとうございます……どうぞよろしくお願いします。」

「ああ、ハイハイ。そういうのはいいわ、DIO様からの命令だし、仕方なく付き合ってあげるだけよ。」

 

なんだこの美女は………私の心臓は久しぶりに青春の音を奏でていた。

 

私は初仕事の次の日、自分の生活品の買い出しに出かけようとしていた。ヴァニラアイスさんから受け取った大金を、すられないように懐に仕舞い込み、DIO様の部下の1人の女性が同伴してくださると言うことだったので、屋敷のエントランスで待っていた。

そうしたら、凄まじく顔の良いお姉様がこちらに向かってやってきたのだ。そう、私に同伴してくれる女性とは彼女のことであったのだ。

 

彼女はマライアさんという方で、まさにお色気お姉様という言葉がどっしり当てはまる女性だ。長い足を惜しげもなく黒タイツで際立たせているファッションは、数々の男を虜にしたであろう素晴らしいプロポーションも相まって、女の私からみても魅力的である。

それに、少し気怠げでSっぽい態度は、私の好みにドストライクで、すごくドキドキした。自己紹介と社交辞令の挨拶だけで、私は彼女のことがとても好きになってしまったのだった。

 

「早いとこ済ませちゃうわよ。エプロンとか足りない洋服は自分で選びなさい、家具なんかはあんた英語下手くそだから私がやっといてあげるわよ。」

 

街は私の見たことのないもので溢れていた。ガヤガヤと人で溢れに溢れていて、日本の制服の私は目立っていたようだ。めっちゃ狙われてる。そんな時は赤子の餌食にしてくれる………

マライアお姉様が、私の熱視線に気付いているようで、先程からわざと手を繋いでくださっていると言うビッチ加減が最高です。

 

「あんた、最初はどこ行きたい?」

「あ、えっとですね………キッチン用品みたいです…かね…フライパンとか…」

「ふーん、じゃあアッチの店ね。」

 

マライアお姉様は私の手を引いてすいすい進んでしまう。とにかくついていくのが大変で私は一生懸命足を動かした。

私はお姉様に連れられた店で鍋や薬缶やフライパンとか小さめなものを購入した。

ピカピカのフライパンは、実家の錆びたり変なものがこびりついたフライパンとは違って、私の胸を高鳴らせた。私は結構料理に興味があったから、最初は家庭科部に入るつもりだったのだけれど、私の実家がゴミ屋敷だと言うことは学年のネタになっていたので、家庭科部の部長の耳にも届いてしまい、入部を拒否された。だから、自分だけのキッチンがあると言う事が飛び跳ねるくらい嬉しかった。お菓子作りの道具が目に入ってすごく欲しくなっちゃったけど、流石に厚かましいと思ってやめた。皿は有り余ってるから、適当に取っていけばいいとの事だった。

 

「ボウルや泡立て器くらい買ったって、何も言われやぁしないわよ。」

「いえ、自分のお金で買ってこその達成感ですので、お給料が入ったらにいたします。」

「そ、家具屋が近くにあるわ。行くわよ。」

 

家具屋と言われても買うものは余り無い気がするけど…だってベッドも机も有れば正直私は十分だった。

 

「何も買うものないの?なんか買っといてもDIO様のお金なんだから、使っちゃえばいいのに。」

「私にはもう家具は十分ですから………ア、」

「何か見つけたの?」

 

私の目線先には深い青の壁紙が目に入った。私に与えられた小さなあの部屋に青色の壁紙をはって、自分で描いた絵を小さな画に入れて飾ったらかわいいかも知れない。でも、無駄なお金が掛かってしまうし、我慢しよう、必需品じゃ無いし………衝動買いしたい時とはこういう時なのね…

私が悶々としているのを見て、マライアさんは私の肩を叩いた。

 

「そんなに迷ってるなら買っちゃいなさいな。それでも嫌ならお金を稼いで返したら良いのよ」

「返しても、そのお金は元々DIO様から出た物なんですけどね。」

「あんた幾つよ?」

「今年で17です。」

「なら、保護者は一応DIO様ね。どうせ残ったお金は返すんだから、保護者に甘えなさい。其れも抵抗があるなら、私が買ってあげるわ。見返りは求めるけどね。」

「ええっ!?申し訳なさすぎます!お姉様やめて下さい!」

「お姉様?なら、あんたの姉貴分として買ってあげるわ。」

「いやいやいや、でも」

「でもは無しよ。私の言うことが聞けないっていうの?」

「聞けますけど。」

「ならよろしいわ。黙っていらっしゃい。」

 

そういうとマライアお姉様はサッと青色の壁紙を購入してしまった。勿論貼るのは責任を持って私1人でするけど、それよりもお姉様が買ってくださった壁紙の中で過ごす事がちょっと恐れ多い気がして、今から緊張してきた。

 

また、マライアお姉様の女気に私の脳味噌はやられてしまって、そこから先の買い物事は全然覚えていないが、お姉様が寝巻きに超セクシーなスッケスケのランジェリーを勧めて来た事だけは覚えている。一瞬、これで私を襲いに来なさいということかと錯覚したけど、さすがに馬鹿な考えすぎるのと、地味な高校生にはハードルが高すぎて遠慮させてもらった。

 

壁紙を貼り終えて、家具を好きな位置に移動させた後の私の部屋はあまりにも完璧になりすぎて、自分でも恐れ多いほどだった。

そして、マライヤお姉様に買っていただいた壁紙をぐるっと見回すと、私の頭にはお姉様がぼんやり浮かんでくるのだった。

 

「お姉しゃましゅき〜〜〜っ!」

 

今日もお仕事頑張るぞーーーーー☆




ハナコちゃんのクソどうでもいい話その①

ハナコちゃんの初恋は、実は小学生時代の承太郎くんだよ。
ハナコちゃんがそもそも初恋の男の子の名前を把握出来ていない上、この設定が後の話に出てくることは多分ないでしょうーーーーー☆ミ


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第5話 DIOという男

 ハナコから見たDIOという男性

 

「おい、小娘。」

「ハナコです、DIO様。如何致しましたか?」

「死体になれているな。」

「もう10体以上片したので。」

「片付けたら下がれ。」

 

DIO様と私は、私が死体回収をしにDIO様の部屋に行く時くらいしか顔を合わせない。が、彼が毎度の事、私に話しかけてくるようになった。

私は誰にでも自分に興味を持ってもらえて嬉しいと言う感情を抱く女ではない。ましてや、彼のような吸血鬼に気に入られても、彼は乙女ゲームに出てくる厚かましいイケメンでは無いのだから、私を擁護してくれる訳でもないし、厄介ごとの前兆でしか無い。

 

今考えればそりゃそうだ。

最初は父のようなクズですら雇う心広い就職先と人生ナメ腐った考えをしていたけど、あんなクズ雇うところなんて、悪い事考えてるロクでもない組織に決まっていた。

 

「おい、小娘。」

「ハナコです、DIO様。如何致しましたか?」

「スタンドを見せろ。」

「どうぞ。」

「………赤子か。こいつを殴ったりぶつけたりして攻撃を加えるのか?」

「いえ、正確には黒いのは割って戦いますね。」

「割ってみていいか?」

「ウンコ垂れ流して死にたいならどうぞ。」

「………下がれ。」

 

「おい、小娘。」

「だからハナコですってば、DIO様。如何致しましたか?」

「そこの本を取れ。そしてこの本を左から3番目、1番上の棚、左から32番目の位置に閉まってくれ。」

「承知致しました。お預かりさせていただきます。」

「時に小娘、お前は本は好きか?」

「好きです。」

「好みは?」

「………後味のすっきりとするミステリは嫌いです。どうぞこの本ですね。」

「そうか、下がれ。あと本違うけどな。」

 

「おい、小娘。」

「ハナコでーす、DIO様。如何致しましたか?」

「何でもない。」

「DIO様もしかしてめっちゃ暇なんじゃ無いですか?」

「わかるか?」

 

おいおいおいおいおい、ちょっと待てよォ、お前遊び人設定じゃなかったのかよ、DIO様。

私が冗談で言った「暇ですか?」と言う言葉。しかし意外、それは図星であった。私は絶句した。こいつ、若い女の子の命を奪っておいて暇とか言ってるぞ、悠々自適な生活してるくせにな。

 

「…えーっと……………………遊びます?」

 

しかし、私にたてつく権利など無かったし、そんな事したら首が飛ぶこと間違いなしだ。

 

「正直めっちゃ遊びたい。しかし…だけど…それだとやっぱりこのDIOに憧れる者達に示しがつかない気がするのだ。」

「………………(めっちゃウズウズしてるやん)」

「このDIOが、この私がだぞ。実はニートしてるとか、可愛い方面までファンを開拓しちゃうだろ。」

「ファンのくだりは流石に冗談ですよね?」

「………………。」

「進路指導の教師ですか?目を合わせてくるのやめてください。本当にやめて………………そうですねぇ、秘密を共有する友を見つければいいんじゃ無いでしょうか?」

「友達…だと?」

「こう、DIO様が大口開けて笑い合えるって感じのお友達を、ですよ。」

 

彼はとても暇だったらしい。

今は屋敷に身を隠してゆぅっくり力をたくわえて、その間、部下への指示と金が入ってくるように根回しする仕事は有るけど、それ以外は基本本を読むしかする事が無かったらしい。

そうして、DIO様は私のアドバイスの元、気の合うお友達、と言うよりも秘密を共有して遊べるお友達を探しに、屋敷のメンバーを1人1人見て回ったらしい。

 

が、誰も応じてくれそうな人(実のところ本人の好みが大きいと思う)が居なかったらしく、彼はまた私に話しかけて来た。私が彼の部屋にしたい回収に通い始めて一週間くらいした頃から毎回毎回話しかけてくるので、この人私と話したいのかしら、と薄々感づいてはいたけど、結構寂しがり屋のくせしてDIOという男は、こだわりとプライドがロッキー山脈のように連なっている男なのであった。

 

後日、DIO様は私に

「俺は深く考えた。その結果、部下であるお前に暇つぶしを命じれば、お前はやるしか無いのだし、屋敷を夜な夜な見て回るよりも効率的だと言うことに気づいた。よし、お前を任命する、テレンスは人形遊びに忙しいからな。あと、ヴァニラはちょっと怖い。」

と仰った。

 

小学生でも分かるようなことを恥ずかしげも無く、いかにも素晴らしいものを発見したかのように言う、小5男子のようなこの上司に、私は深くため息をついた。

あと、知りたくもなかったテレンスさんの性癖を垣間見てしまい、

「WRYYYYYYY!!!」

と勝ち誇ったようにハイになっている彼とは真逆に私は、性癖暴露によるショックを受けてブルーになっているのであった。

 

この時、ハナコのDIOに対するイメージは悪のカリスマ、怖い、に「小5男子」「めんどくさい男」「ちょっとあんぽんたん」が追加された。

 

***

 

 2人の秘密の密会

 

「八つ裂きの刑……これが1番好き。」

「これは、パフォーマンスが目的だから派手だな。四肢を馬の馬力で引きちぎって殺すと……人間の身体というのは結構丈夫だから、間違って駄馬を用意されたらたまったもんじゃあ無いな。ククク…………地味なお前を処刑する時は、こう言う派手な殺し方がいいなァ?」

「引きちぎれなかったら健を刃物でぶち切って仕舞えばいいんですわ。それと、余計な言葉が混ざってますわ。大体、使用人を夜中にベッドに引き入れるなんて、いけない人ですね。」

「お前、そう言う言い方すると余計に昼ドラみたくなるぞ。」

「みたこと無いくせに何言ってるんですか。」

「………wryy…」

 

私は今、DIO様のベットでフランスパリの処刑の歴史という本を眺めている。シャルル・アンリ・サンソンは歴史人物の中でも好きな方の男性である。異性としてではなく、死刑執行人という特殊な職業に対する憧れからのものだ………彼は、慈悲深い人だったらしいけど。

 

話が脱線したが、メイド(格好だけ)に就任してから約1ヶ月。私は1週間に1度ほどの頻度でDIO様の部屋に呼ばれらようになっていた。決して卑猥な意味ではなくて、馬鹿みたいな理由である。

おっと、口が滑った。彼の、大事な大事な、暇つぶしの仕事ですわ、クソくらえ。(そんなに嫌でも無いけど)

彼の暇度は彼にとっての就寝前、ピークに達するらしく、私は朝の4時ごろに呼び出されることになっていた。

一週間に1回の呼び出しに関わらず、彼の夜型の生態により、私の生活習慣はボロボロで夜型人間になってしまった。彼の身の回りのお世話をしようとすると、どうしても夜型になるので、それは職場が人間向きでなかったと言うことで仕方ない。

 

最近、私の仕事は死体処理以外にも洗濯やら皿洗いやらでやっとメイドらしくなって来たところだ。なぜ仕事が増えたかと言うと、死体処理が板についてから、テレンスさんの仕事を3分の1ほど受け負うことになったからである。テレンスさんのオーバーワークには私もドン引きした。ヴァニラさんは手伝わないのかと思って尋ねてみると、彼は護衛や他の人間を円滑に勧誘するためや経理的な仕事などをしているらしい。ハイレグで。

 

いやいやいや、馬鹿にしているわけじゃ無い。人のファッションに口出ししちゃあいけないよなぁ?たとえ、二十代後半の男が毎日スクール水着みたいな格好してても、彼には信念があるかも知れないんだからね。

 

「おい小娘、お前他のことを考えているなァ?」

「いえいえ、シャルルがどうしたんでしたっけ?」

「結婚した。」

「そうそうそうそう。で?」

「小娘、飽き始めているなァ?」

「いえいえいえいえ、ぜーんぜん…………ふわぁ…ですわ。」

「眠いのか?」

「………眠く無いように見えますか?」

「見えはしないが、寝かせるわけにはいかない。」

 

彼との遊びは案外質素なものだった。お互いの好みの本を一緒に読んだり、外国版コックリさんみたいなものを試したり………(吸血鬼でも呼び出せなかった)

もっと夜の街に出てギャンブルでもするのかと思ったけれど、そんなこと全然無くて、たまにあやとりなんかもしちゃうくらい、落ち着いていた。

 

「DIO様、本がお好きですよね。」

「知識は有れば有るだけ良い。金と違ってな。」

「お金は、駄目なんですか?」

「このDIOには、金はいくらあっても身の丈に合っているが、お前のような下々の民が金を得たとて、持て余すだけだろう?」

「確かに………経済的なちょうどいい身の丈というものは、下には伸びませんが、人の素質によって上限はあると思います。私、お金がない惨めさは知っていますが、でも、お金というのはあり過ぎても努力をしないといけないんですから、難しいものです。」

「金に執着し過ぎると良い事はない。」

「昔、世界一の金持ちになりたいって短冊に書いた事があります。」

「タンザク?」

「ジャパンの願い事を書く紙ですよ。」

「叶ったのか?」

「叶っていたらこの屋敷を訪ねていません。」

「………お前の人生も波乱だな。願うことは悪いことじゃあ無いさ。」

「………ひとつだけ、「自分の好きなように生きてみたい。」という願いには、近づいていると思います。」

 

私は好きに生きるために、身内を3人殺したのだ。

弟を幸せにしてあげたい、というのは確かに「私の」願いであるならば、それは私が「好きに生きる」ことを願って実行したことだ。

 

「小娘、お前は17年という人生に、取り返しのつかないことがいくつか有るようだな。」

「わかります?実行したあとですから取り返しがつきませんよ………後悔もありませんが。」

「それを実行に移すか移さないか。また、どのような手段を取るのか………私は結果が全てだとは思わない。だが、社会は結果が伴わない実力は認めない。私も事を成し遂げる能力を持たぬ者には興味が無い。それは今も昔も私だけではなく、多くが認識していることであり、他人からの目線でもある。」

「………DIO様は私が、良い結果をもたらす人間だとお思いですか?」

 

彼は、私の目を数秒見つめた後、深くため息を吐いた。

 

「………お前を生かしたのは俺の気まぐれだ…ただ、お前はスタンド使いであり、あの状況を生き延びた運も有る。期待はしているさ。」

 

そう言った後、日が昇り始めていたのでDIO様は彼の寝床である棺に移動した。おやすみなさい、と声を掛けると珍しく、お前もな、良い夢を、と私も気を使うような言葉をかけて、頬に口付けた。

 

棺が不気味な音を立てて閉じる。

 

「………おやすみなさい…ませ………」

棺が閉まる音を聞くまで私は驚きで固まったままだった。このキスは、異性としての口づけでは無く、多分慈悲とかそういう類のもとだろう。しかし、彼のような殺人鬼に慈悲やら愛やら………そっちの部類の心が残っていたとは驚きである。

 

あの慈悲のじの字もなさそうな金髪男に、みじん切りしたキャベツのひとかけらほどでも相手を気遣う心があった事に、何となく気持ち悪い気さえしてくるのであった。

流石にそれはかわいそうかも知れないので、「DIOしゃまにも優しい気持ちくらいあるんでちゅね〜」くらいには思ってあげよう。

 

その後、私は眠りにつき昼の10時まで寝ていた。

 

***

 

ハナコとギャンブルの話

 

「………なんでこんな事になったの…」

 

元はといえば、私が口を滑らせてしまった事が原因だった。私がDIO様に対して抱いている、彼の遊びのイメージはギャンブルやら女あさりだと言う事を先程上記したと思うが、それをうっかりDIO様本人に伝えてしまったのだ。

 

「DIO様ギャンブルはなさらないんですね、強者をバッタバタ倒してカジノ王とかになれそうな雰囲気ありますけど。」

「ほぉ…お前がギャンブルに興味があったとはな、静かな顔をしておいて金遣いは荒い方か?」

「………私が金遣い荒いと思いますか?ましてやギャンブルなんて、すっからかんになるどころか借金負わされます。それで挙句1日300円の仕事に就かされますよ。」

「被害妄想は激しいな。」

「ギャンブルなどでお金を稼げたら人生楽チンですよ。」

「………行ってみるか?」

「エ…」

 

彼は思い出したかのような顔をしていた。新たな金稼ぎのツテを思いついたらしい顔である。

そこからは怒涛の勢いで遠出の支度が始まった。何が起きたか彼の気まぐれで、私はDIO様、テレンスさん、ヴァニラさんと一緒にラスベガスに行く事になってしまったのである。

 

「待ってください、お願いします、後生ですから…アアッ!」

 

飛行機はちょっとだけ楽しかったが、今現在、自慢の黒髪をズルズル引っ張られてカジノに連行されている現状に、喜びもへったくれも無かった。

いつものセーラー服を脱ぎ、私は露出度の高い黒いスケスケのドレスを着ている。乳首が見えそうでハラハラしながら歩くのは楽しいものでは無かった。

 

「貴様、ここまで来ておいて観光で終わらせるわけないだろう?私が負けても怒らないよ、と言っているのだから、お前は楽しめば良いだけだ。」

「エ、エ、楽しむって1万円くらいの安いギャンブルですよね?初心者でも出来るくらいの。」

「………そんなわけ無かろう。賭けるのは億単位だ。」

「ヒイィィィ!!!無理ですわ!私殺されてしまいます!」

「ククククク、安心しろ、安心しろよハナコ。もしお前が負けたせいでこのDIOが破産したら、お前をなるべく高く売って許してやるからな。」

 

どうやら私は負けたら売られるらしい。

嫌、嫌だ………ギャンブルなんてしたこと無いぞ。

負ける負けない以前に私は熟練のギャンブラーにルールも全然分からないまま挑むのだ。無理に決まってんだろ、そんなんルール聞いたって、カックカクの生まれたての小鹿vsヒグマみたいなもんだろ。

 

「DIO様許して………ギャンブルなんてしたこと無いんです…汚いおっさんに私の人生売られたく無いです……大体私なんて高値で売れるわけないじゃ無いですか………」

「スタイルは悪く無いぞ」

「やだホント?」

「何、私が負けるだけのギャンブルをする訳がないさ、勝てば一獲千金、負けてもマア………ちょっと食事が質素になるだけさ。」

「あ"あ"あ"あ"あ"………」

 

そうして私はDIO様に連行された。ロズウェル事件の宇宙人さながらの悲壮感が漂っていた。

同行者のテレンスさんとヴァニラさんが、両手にジュラルミンケースを持って来たのを見てもう意識が途切れそうだった。

 

「…ケ・セラセラ」

 

なるようになるさーーーーー☆

 

ハナコのギャンブル編 to be continued




ハナコのクソどうでもいい話 その②

承太郎君はハナコの名前と顔をバッチリ覚えています。席が隣になった時に行方不明になったので学校中の噂の的で、嫌でも覚えたからです。
また、承太郎君はハナコちゃんを好みの女だと思ってました。
物静かで頭も悪くなく、自分を見てもギャーギャーと鬱陶しく無い女だったので、俺はこういう女の方がいい、と思ったのでした。
ただ、「こういう女の方が好みだ」と思っただけなので別に好きな気持ちは全然無いです。


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第6話 続 ハナコとギャンブル ですまっち

 続 ハナコとギャンブルの話

 

「なんでなんでなんで…」

 

『いいですか?貴方の能力はいわば一撃必殺なんです。罠を張ろうだとか、ちゃんと考えて戦って下さい。でないと高確率で負けますからね、負けたら貴女、オークションにかけられてどこぞの変態ジジイルートでジ、エンドですよ。」

『お前、陸上の選手だったのだろう?なら足は速いんだから、それでなんとか凌げよ。負けたら許さん。』

 

「何が頑張れば出来る、よ………全然こんなの出来ないわ…」

 

目の前には筋骨隆々としたスキンヘッドの男、スキンヘッドに比べれば細身だけどマッチョな金髪の青年、ヒグマ、中肉中背の中年男性がいる。そして、彼らと同じ舞台に私がいる。

 

中央に舞台、その周りを囲むように観客達の席が並んでおり、一部のVIP席の様なところにDIO様達が座っている。

 

ここの会場に入った瞬間もう何が起こるか分かるような舞台だった。

これはバトルロワイアルだ。

誰が生き残るかに観客は多額の金を掛けているのだ。

 

ここは流血沙汰を楽しむ違法な賭場で、観客には明らかにやのつく自由業の方々や、私でも見たことのあるような有名な方もいらっしゃった。また、皆さんヤバいくらいの金持ちだ。

つまり、誰に賭けるかで大金が動く上に、日々の鬱憤ばらしにもちょうどいい、刺激的な賭場でもある。まさに金持ちだからこそできる、人の生命を弄ぶ贅沢な遊び。

 

最悪………

このギャンブルデスマッチ、1日に二戦あるようで私が今出場しているのは最も盛り上がる二回戦目だ。

 

一戦目は先程私も観覧させて頂いたが、これは酷い。

 

まず、選手に2人バトロワ熟練の方々がいるのは分かった。

それはいい、だけど、完全初心者と男たちが楽しむ為の女性がいるのは非常に不愉快極まりなかった。とくに女性の方。彼女は非常に可愛そうで、えぐいプロレス技を何度もかけられて身体中アザだらけにされた挙句、最後は素っ裸にされて性的な屈辱を受けた後に男に馬乗りされて殴り殺された。

一回戦目の女性は金髪のとても美人な同い年くらいの少女でだった。観客席で「なんで娘なんですか!?借金したのは私なんです!!」と黒服のサングラスに掴みかかって泣き叫んでいる父親らしき男性がいたので、どうやら彼女は父親の尻拭いで殺されたらしい。

 

で、今日の二回戦目のその女性のポジションが私なのである。

 

ああああああ………私殺されるのね…

 

一回戦目の男ども、勝者の男性はスタンド使いで、もう1人は強そうに見せてそんなこと無かった。だって、スタンドが見えていなかったから。完全初心者、女性はもちろんスタンド使いでは無い。

 

つまり、今私の前にいるこいつらスキンヘッドと金髪、どっちがスタンド使いなんだろう……いや、どっちもスタンド使いかも知れないから、2人でかかられたら私はボコボコにされて弄ばれて殺される………あとヒグマがいるのはなんで…ヒグマよ、熊。人間じゃ無いし、すごく大きい。3メートルぐらいあるぞ………最悪。

 

逃げたい、でも逃げたらDIO様に殺される、DIO様は誰に賭けているのかしら…エ、私?私なの?違うでしょ?

 

次の瞬間、ホール全体の照明が落ち、いつのまにか登場していた司会者にスポットライトが当てられた。

 

『サァ始まりました!我がカジノの目玉、バトルロイヤルデスマッチ!!1番の大金が動くこのゲーム!!参加者は十人十色、一国の王族に世界的ミュージシャンにエジプトの大富豪!その他の皆様も高貴な方々ばかりであります。さて、このゲームのルールですが至ってシンプル!ステージ上に立っている選手5人が殺し合い、最後に残る者を予想するというものでございます!サア、では選手のご紹介をさせて頂きたいと思います!』

 

スポットライトはスキンヘッドの男に最初に向けられた。

 

『ア〜、彼の名前はブライアン=スミス、元凄腕の兵士でしたが、あまりに残虐な殺し方から上司に反感を買い、落ちに落ちて今はこの死のステージに上がっているというわけであります。そして、彼が持参した武器はメリケンサック!いやァ〜このメンバーにメリケンサックを選んでくるところ、自身が伺えますなァ〜?』

 

次に紹介されたのは金髪の男だ。

 

『続いては彼、シャナ=アンダーソン!彼はこの中で1番の注目株であります!この男美丈夫、なんと、強姦、強盗、恐喝、窃盗、そして殺人!殆どの犯罪をコンプリートしており、さらに、2年前アメリカを騒がせた女性連続殺人の犯人なのだァ〜!!そんな彼が選んだ武器は、ゴルフクラブ!個性的過ぎるぅぅ!!』

 

このシャナという男、私にとっても注目株である。

悪い意味で………いや、本当に無理だ。

舞台に上がってからずっと私を見ている。私に対してたまにウィンクしたり、投げキッスしたり、股間を振って挑発的な態度を取っくる。

無理無理無理………最悪、早く殺されろブライアンに。

 

でも、このクソのおかげで、なんでこんなのに嬲られて死なないといけないのだ、と少しだけ闘争心が芽生えた。

 

続いてスポットライトが当たったのはヒグマと中年のオッサンだ。

 

『この2人…いや、1人と一匹に説明はいりませんねェ!こっちのオッサンは借金まみれのクズ!ですゥ。日本に残して来た妻子には大金持ちになって帰ってくるぞ、と意気揚々と伝えて来たそうですが、コッチのヒグマのジョンソン君に食われるのがオチですかねぇ〜??ヒグマのジョンソン君6歳!数年間人肉しかあげてません!今まで死体しか食べてこなかった分、生きた人間を見て興奮しています!武器は己の爪でしょうね!』

 

扱いが雑だった。

 

『さてさてさ〜て、今宵のビッチちゃん……じゃなくて、可憐な女性選手はァァァァ、日本人のハナコ=ヤマダちゃん17歳!エー、ハナコちゃん実は、今さっきご主人様に捨てられちゃった可愛そうな雌猫ちゃんでして………だからァ、みんなに可愛がって貰いたくて仕方無いようですねェ!さて、選んだ武器は釘バッド!ヒェ〜…………自分が殴られたいのかな?』

 

この司会、後で殺してやる。金髪の変態はこっちみんな。

不本意だけど、世界のクソの中でもDIO様はマシな方だと思った。

司会が選手を紹介し終わった後、其々の倍率が発表された。ブライアンが1番倍率が低くて、2番がヒグマ、3番が変態でオッサン4番、最下位位が私の20倍。エ、皆んな一桁なのに私20倍なの?どんだけ人気ないのよ……

因みに人気があるのはヒグマと変態で、ブライアンはあんまり人気じゃなかった。私は………

私は目を疑った。

 

エ、1人50億くらいかけてる人がいる………

 

その人は勿論DIO様だ。本人は不気味な笑みを浮かべているけど、周りからはクスクス馬鹿にされていた。そりゃそうだよね、私女だもの。さっきみたいにボコボコにされてパイパイ見せて終わるんでしょって、思われてますよ。

そんな中でも、DIO様は私に50億投資してくれている。私、本当に彼にとっては負けても痛くないセーフなゾーンでお金を賭けるんだと思っていた。

 

「DIO様……」

 

彼は私をそんなに信じてくれていたのか。

こんなに人に期待された事なくて、涙が出そうになってしまった。DIO様は本気でお金儲けをしようとしていたのか、と。私をデスマッチに参加させてことは許せないけど、頭引きちぎって頭蓋骨馬糞を擦りつけて、ゴキブリ口に詰め込んでも許せないけど、彼も相応のリスクを負ってることを思い知らされ、私の心には少しの責任感が生まれた。

確かに、50億有れば、私くらい全然買えますわ……

 

「エ、DIO様本当に自腹で50億ですか?」

「馬鹿いえ、そんなわけないだろ、バカ令嬢が親の金盗んで寄越した金だとか、ババアが私と寝るために積んだ金やらを色々まとめたものだ。ヴァニラにも伝えて無いから今後の予算とかに全然関係ないから安心しろ。」

「私達の知らないDIO様のどうでもいいヘソクリって事で宜しいですか?」

「しかも40億はどっかのバカが、頼んでも無いのに私に寄越した金だ、今さっきな。だから賭け金に緊急の追加だ。」

「確かに私どもは10億しか運んでいない………おお、さすがDIO様です!これもDIO様の人徳あっての事なのですね!」

「ブレないなヴァニラ………」

 

そんな会話をDIO、テレンス、ヴァニラの3人が話している露知らずハナコは感激してやる気を滾らせているところだった。哀れにもこの愛に飢えた少女は金という1番現実的な投資を目の前にし、現在進行形、DIOに対する感謝や尊敬や親愛の類の感情を募らせていくのであった。

 

『サァ、お待たせいたしました!バトルロワイアルデスマッチ、スタートです!!!』

 

「まァ、小娘に期待してないわけじゃ無いさ。だが、万が一にも殺された場合はそれはそれでどうでもいいということよ。」

 

〜ここからの戦闘描写は作者の文章力の問題で三人称視点やらハナコ視点やらちょっと混ざってる文章で物語を進めていっています、誠に申し訳ございません〜

 

戦闘が始まって、まず最初に仕掛けたのはスキンヘッドの男ブライアンだった。中年のオッサンにつかみかかり、物凄い腕力でヒグマにぶん投げた。オッサンが宙を舞う。

「うわあああああああ、ア!」

オッサンは見事にキャッチされて熊に切り裂かれて食べられてしまった。

え、うそん、そんなに早い?っていうか、人間が人間をそう軽々と投げられるものなの?スタンド能力なの?

ハナコはなるべく冷静にいることを心がけたが、一対一では無いこの戦い、あの人はこの人はと考えているうちにだんだんと混乱してくるのだった。

 

熊はオッサンを一心不乱に食べていて、ブライアン君は熊を仕留めようと背後に回っている。変態はハナコに近づいてきていた。ハナコはそれに気付いているので少しづつ場所を変えながら、強がっているが怯えて何もできない女性を演じた。強がっているの設定は最初に変態野郎を睨んでしまっているので付け加えた。

 

「なんで逃げるの?」

「近づかないでください。」

 

とうとう変態はハナコに話しかけてきた。ハナコが逃げる速度も速くなり、変態が追いかけてくる速度も速くなった。

変態は構わず話しかけてくる。ハナコはこいつだけに構ってられないので、一生懸命に熊とブライアンの闘いにも目を向けるのだった。

 

「僕東洋人の女性って1番好きなんだ。」

「私は金髪の男性がもうトラウマになりそうです。」

「ハハッ、本当〜?相思相愛だね僕たち。」

「何言ってんだこいつ」

「ねえ、君は処女?」

「うわああああ!!アウトだああああ!!!」

 

ハナコはやけになって走ってしまった。変態のあまりの気持ち悪さに吐き気を感じたのだった。

 

少しブライアンとヒグマに近づいてしまうけど仕方ない、この変態に私耐えられない……!

 

ハナコは別に男性恐怖症というわけでは無い。しかし、自分の成長と共に父親から性的な目を向けられるという経験から、自分に対して性的な干渉をしようとする、又はしてくる異性に対してとてつもない嫌悪感を感じるのだった。

 

ブライアンとヒグマは格闘している。ブライアンが熊の背を土台に高くジャンプした。

 

どうやらブライアンはスタンド使いらしい。背中から筋肉質な赤い男性のスタンドを出現させ、熊を殴りにかかっている最中だった。

ガン!と大きな音がなり、観客全員、私たち選手もこれはヒグマを仕留めてくれたかと思った。

 

が、倒されていたのはブライアンの方だった。大きな音は、彼の頭が吹っ飛ぶ音だった。なんと、ヒグマもスタンド使いだったのだ。ヒグマのスタンドは四足歩行のガイコツの様なスタンドで、見るからにパワータイプだ。それに、人間が出す物と比べてとても大きい。本体が高いと、スタンドもこうなるのだろうか………

ハナコは数秒間、ヒグマがスタンド使いだということに呆気に取られた。すぐにハナコはペットショップを思い出した。そして少し遅れて、

 

そうよ、ペットショップちゃんみたいに動物のスタンド使いも有り得ない事じゃ無かった!不覚だったわ………

ああ、でもクマのスタンドをガン見しちゃいけないわ。もしも後ろの変態もスタンド使いだったらどうするの?私のスタンドは殴ったり出来ないんだから、スタンド使いだとバレてしまったら致命傷になる。

 

と気づき、変態がどんな反応をしているか振り向いた。

 

「エッ………ぎゃうっ!」

「そうだねぇ、熊がスタンド使いなんてビックリだよね。僕も初めて見たよ。でもハナコちゃん、君もスタンド使いだよね?」

 

なんと、変態はいつのまにかハナコの真後ろに立っていた。

ハナコは振り向いた瞬間、変態に取り押さえられてしまったのだ。指一本動かせないような取り押さえ方、スタンド使いということがバレている事に、ハナコの頭はパニックになっていた。

…なんでなん?なんでバレてんのよ………

 

「君、叫び声も上げないし、どうも行動が冷静すぎるんだよなぁ、まるで自分にはとっておきの切り札があるみたいにね。マッチョの男とヒグマに釘バッド一本で女の子な勝てる訳ないのに、君は勝機のあるような動きをしている。なら、スタンド使いとしか考えられない………………」

 

た、たしかに私の動きは一般人の女にしては冷静に動きすぎた。もっとおどおどすれば良かったわ!

ハナコは図星を突かれて、ハッ、としたような顔をしてしまった。すると、変態はニヤリと笑い、

「って、今カマかけてるんだけどやっぱりスタンド使いなんだ。」

と、言った。

 

そう、この男変態のくせして頭が良かったのである。

ハナコは自分が変態の罠にハマりにハマってしまったことに、悔しいと思うと同時にこの男をぶちのめしたい気持ちに駆られた。

ううう、こんなヤツ、私のドグラ・マグラでどうとでも出来るんだぞ、クソクソクソ、殺してやる殺してやる…気持ち悪い…

ハナコはDIOの屋敷に勤めて2ヶ月の間、能力者はみんなスタンドに名前を付けていると知った。ハナコは自分のスタンドに自分の好きな小説からドグラ・マグラと名付けた。

この、ドグラ・マグラに殴る、蹴るなどの力は無い。

だから、もしも変態のスタンドが、DIO様レベルの身体能力を兼ね備えており、私の頭を吹き飛ばせるほどの力を兼ね備えていたらどうしよう。私は最後の最後まで黙ってチャンスを伺うしか無くなるかも知れない。

 

「よ、よくわかりましたね。」

「やっぱりそうだよね。でね、ボク困ってるんだ。ハナコちゃんは見た?どうやらあのヒグマの能力はレーザービームみたいに何かを打つ能力らしいんだけど、何を飛ばしてるのか全然見えなかった。」

「ちょ、ちょっと待ってください、貴方私にヒントを渡してどうするんですか??」

「簡単だよ、倒して欲しいんだアレを。」

「はぁ?嫌ですよ、そこまで能力が分かっているなら自分でしてください、私のは戦闘向きじゃ無いんですよ!」

「困るなぁ、じゃあこのまま殺しちゃうよ?」

「いやいやいや、待ってください、貴方の能力でなんとか出来ないんですか?」

「僕の力じゃ無理だ。相性が悪すぎる。」

「って言って、私の能力を探るつもりですよね??知ってます」

「で、やるのやらないの?やらなかったらこのまま………」

「この至近距離なら、死ぬのは貴方です。」

 

ここで強気にならなきゃやられる……

ハナコはここで、ハッタリに見えるかも知れない真実で戦いに出た。ヒグマがそろそろブライアンを食べ終わる頃だ。こちらに近づいて来ている。

 

「ほら、どうするんです?ヒグマが近づいて来てますよ、本当に貴方の能力が熊ちゃんの能力と相性が悪いなら、そろそろ退いた方がいいんじゃないですか?」

「ハッタリかまして強がんなくていいよ。」

 

変態はニコニコしていたが動かなかった。

私がこの至近距離ならば変態を瞬殺出来るというのは本当だ。彼が本当に戦闘向きじゃ無いならね。

彼にあのヒグマを殺せる力があるなら、さっさとヒグマを殺してハナコを嬲ればいいだけだが、わざわざこのように脅迫してまでハナコにヒグマを倒す事を頼んでいるのは、果たしてハナコの能力を危惧しているだけか、それとも、ハナコの能力を危惧しているからヒグマを倒して能力を見せろと命令しているように「見せかけたい」本当に戦闘向きじゃ無い能力者……

 

おかしいじゃあないか。

ハナコは冷静になって考え直す。

私がスタンド使いと悟り、自らの能力をバラさずに私のスタンド能力が如何なるものか見定めたいのは分かる。

だけど、ここまで、ここまで交渉してくるなんて、ちょっと本気になりすぎじゃない?

 

確かにハナコは明らかに戦闘慣れしていない女だっただろう。だからこの変態金髪男は、私が焦って言うことを聞き、自分に倒せないヒグマを退治して、最後は私の能力をコンプリートして、痛ぶって殺すつもりだったんじゃ無いか?そう、考えたのだ。

 

ハナコは賭けに出る。

この、ヒグマがこちらに突進して来ているという状況で、変態が私を殺さず逃げたら、本当に戦闘向きじゃ無いとみなす。闘いに向いているなら、至近距離なら変態を殺せると言った私をすぐさま殺すか、気絶させ、ヒグマを倒して私を嬲り殺せばいいだけだからな。

 

「どうします?ヒグマもうこっちに来てますよ。」

「…………」

「どうするんですか?」

 

「君俺のこと舐めすぎね。」

 

ハナコの背筋に悪寒が走った。変態男はハナコを解放して、距離を取ったのだった。

 

To be continued




ハナコのクソどうでもいい話 その③

テレンスさんの性癖を知ってしまったハナコちゃんは、数日ショックで38度の熱を出しました。
その時のDIO様の手は冷たくて気持ち良かったそうです。

やっぱりマライアお姉様が1番しゅきーーーーーー☆



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第7話 続続 ハナコとギャンブル カジノ王に俺はなる(嘘)

お気に入り登録25人超え、通算UR数1500超え、ありがとうございます。
未熟な文章ですが、これからも本作の主人公、ぶっ飛び少女ハナコちゃんを温かい目で見守っていただけると幸いです。
不定期更新ですが、よろしくお願いします。


 ヒグマはスタンドを出現させながらハナコの方にに突っ込んできた。急いで体勢を整えて、素早くヒグマのスタンドを見極める。よくよく見ると、大きな骸骨のようなスタンドだが、足が無い。

どうやら変態が言っていた、レーザーのような能力は持っているがスピードは本体に依存していそうだ。腕力はあるかも知れないが、一瞬の隙を突くことが出来れば、一発で仕留められる。

 

私だってやればできる!

ハナコはヒグマに向かって走った。回避する方向は左か右、どちらの腕を振り下ろすかによる。

右腕を大きく振りかぶった。つまり、進むべき方向は左だ。そのまま、見えないレーザーを避ける為には熊とスタンドの死角に入るしか無い。

スタンドの顔はまだハナコの方を向いていた。このままだと撃たれてしまう。が、当たらなければいいのだ。

 

ハナコは本体の赤ん坊を抱えて自分の周りを黒い赤ん坊で覆った。一か八かの賭けだが、これで背を低くして走り抜ければ、レーザーは適当な黒い赤ん坊を割るだけで自滅してくれるんじゃ無いかという、ちょっと思いつきの作戦である。

しかし、やるしか無かった。そして、この作戦が成功しても、もう能力があの変態にバレてしまっているので直ぐに変態への攻撃を始めるしかない。

 

予想通り、レーザーはハナコの顔面スレスレを通り抜け、四つほど割れた黒い赤ん坊からの汁が、ヒグマの主に顔にジャストミートした。致死量に達したため、黒く変色し黒い赤ん坊へと変化する。

 

次は変態を仕留める。

変態もとうとうスタンド能力を出現させ、私を待ち構えている。そんな時には、特性の釘バットが活躍するのである。

変態のスタンドは確かに貧弱で戦闘向きでは無さそうだが、成人男子ほどの体格はある。だから、殴られたり蹴られたりしたら女の私は吹っ飛んでしまう。稼働範囲が短ければ私は高確率で勝てる。また、ガード系の能力じゃなきゃ勝てる。

 

ハナコが釘バットを選んだ理由は、風船を割りやすいからだ。

 

ハナコのスタンド、血塗れの子以外の黒は、風船のような弾力を兼ね備えているので、触れるだけじゃ割れない。逆にツンツンしていたりすると、効果は抜群。

自らのスタンドを稼働域ギリギリの10メートルまで伸ばす。変態はハナコが正面から突っ込んでくるわけじゃ無いと悟り、距離を詰め始めた。やはり、変態のスタンドは稼働範囲が狭いうえ、戦闘向きでは無いのだろう。

 

変態はスタンドを傘のように扱い、なんとかハナコの赤ん坊の汁を防ごうとしている様子だ。

 

「ああ、君と遊んでる余裕なんて無かったね……!」

「女だからって油断したそっちが迂闊なんだよ!」

 

死体処理を始めてから大量に増えた、黒い赤ん坊のスタンドが舞台の上を黒雲のように覆い隠した。

お互いの距離はすでに1メートル先程までに迫っている。ハナコは急いで釘バットを全力で投げた。投げるのには自信があるハナコなので、すぐに変態の方を向き、ゴルフクラブでの攻撃を避けようと打算する。

しかし、奴は肉弾戦に慣れていた。

 

素人のハナコの動きなどお見通しかのように、スタンドでハナコの脇腹を蹴り、バランスを崩したところにゴルフクラブを横殴りに側頭部を狙って振りかぶった。が、ハナコもやられているだけの女では無い。ゴルフクラブを左手でしっかりと頭をガードした。

 

「ぐぇ」

 

それでも腕に鈍痛が走る。カエルが潰れたような声が口から漏れて、脳が揺れる感覚がした。

しかし、止まるわけには行かないのだ。相手を恐れて恐怖に落ちた時こそ、相手に突っ込んで不意をつけ。

「いだあぁあぁい!!」

「ギャッ!」

口から本音が漏れたが、そんな事気にしてられない。ハナコが引くかと思っていた変態は、突っ込んできた事に対応が遅れ、押し倒された。また、股間を思いっきり踏まれて涙が滲んでいた。

しかし、奴も諦められない。ハナコの髪を引っ張り上げてグーパンを顔にお見舞いし、首に手をかけようとした。

ハナコもハナコで負けてられない。首に手を掛けられそうになったところで人差し指を反対の右目に突き入れた。

「あああああ!」

余程痛かったようで、叫び声が上がる。

好機だと言わんばかりにハナコは距離をとり舞台の上を逃げた。先程投げた釘バッドは落ちた衝撃で真っ二つになっていた。

 

すでに黒い赤ん坊が地面から10メートルのところで、釘バットで割られ、赤ん坊汁の雨が降り注いでいたので、あの時から1分も有れば、変態は致死量に達して死ぬことが確定していたのだった。

 

先ほどの攻防を私が凌げばハナコの勝ち、変態がハナコを殴り殺せば変態の勝ち。

ハナコに逃げられたところですでに金髪の変態シャナの運命は決まっていたのだ。

 

「ああ、負けちゃったよ……ハナコちゃん結構好みだったのにね。」

 

己の死を確信した変態男シャナは、最後の最後までブレずに言葉を続けた。

 

「僕が勝ってたら、君に酷いことなんてしないのにね。ただちょっと悪戯してから気持ちいいまま殺してあげるつもりだったのに、○*○を★★★して僕の●◇●で○○○したかったのに残念♡」

 

※シャナの言葉は下品すぎて、チンコウンコパイパイ言ってる私の小説でもそのまま書くことは出来ませんので一部効果音を加えさせていただきます。

 

ハナコも傷ついた体を引きずりながら変態に近づいていった。どことなくハナコは思い詰めた顔をしている。

彼の側まで行き、お互いよくやった、頑張ったなどと、称賛の言葉を与え………………

………るわけもなく。

 

「うううぅ、クソったれがよぉ!いてぇんだよこのウンコ!」

 

ハナコは動かなくなって、さらに体から小さくなりつつある変態の頭をガンガン蹴っていた。わざわざ痛む体を引きずって至近距離まで来てやる事が小学生レベルである。

 

「バーカバーカウンコチンコ、死ね死ね変態!!」

 

さて、1人暴言を吐き続けるハナコであるが、ホール全体は異様な空気に包まれていた。

まァ、規格外の金持ちが集まるこのギャンブルで金がどうこう言うケチはいないが、究極の咬ませ犬であったはずの女が優勝者として舞台上に残っていることに唖然としていた。

また、この事を予想していたかのように、周りを嘲笑っている美しい男に対して、イライラを募らせていた。

 

「い、イカサマだ!」

「そうだ、こいつが送り込んだのは凄腕の女刺客だったんだ!」

「ズルじゃ無いか!」

 

などと、他の観客達はハナコを参加させたDIOに対し、文句を言っている。文句を言ってはいるのだが、DIOが規格外の美形なので小声でしか言えてないところが面白いところだ。

 

「DIO様消しますか?」

と、ヴァニラ・アイスが尋ねるが、

「いや、勝手にさせてやれ。私は今気分がいいのだ。」

「御意。」

「ハナコさんが勝ったからよかったものの、これ負けてたら観客皆殺しでしたよ。」

 

テレンスは呆れたように呟いた。DIOは大金が手に入り嬉しいようだ。

 

「死ねェ!このビチグソがぁ〜!!あっはっはっはっは!」

もうすぐ黒い赤ん坊になる絶命した変態男を、満足気に罵倒するハナコの笑顔は輝いていた。

 

***

 

賞金を受け取ったDIO様とハナコ

 

「よくやったぞハナコ」

「きゃ〜!DIO様〜!」

 

なんて嬉しい言葉なんだろう。

ハナコはDIOに、デスマッチでの優勝を熱い抱擁という形で褒められていた。ハナコはDIOに対して異性としての感情は無いけれど素直に、信頼されて、そして実力で勝ち取った優勝がハナコを有頂天にさせていた。

 

「ああ、DIO様私やりましたよ!DIO様の期待に応えることが出来ました!」

「ああ、よくやった、お前は最高の女だハナコ。」

「きゃー!きゃー!きゃー!」

 

こういう時に悪ノリするのがDIOの悪い癖である、と執事テレンスは思う。今のDIOは内心、何も気付いていないハナコを褒めちぎってバカにしているのだ。

ヴァニラはDIOの企みを知っているはずなのに、「なんて部下思いな…!グズン、グズン。」と涙ぐんでいた。アホである。

 

「クククク、お前がタフで助かった。本当に感謝しているんだ。」

「いえいえいえ、これも全てDIO様の投資が私を勇気付けてくれたおかげでございます!」

「少しノリで女から貰った金を突っ込んでしまったから、あのヒグマがスタンド使いだと知ったとき内心びくびくしたぞ。」

「それでも私は勝利を勝ち取りました!」

「そうだお前はいい女だ!」

「やあったぁ!私、DIO様が女から貰った金を20倍にしました!」

「そうだ!お前は俺が女から貰った金を20したんだ!すごいじゃ無いかァ〜!」

 

あ、DIO様調子に乗ってネタバレしたな。そして、ハナコはハイになって全然気づいていない。

テレンスはため息をつきながら冷静に傍観していた。ヴァニラは「ううぅ、DIO様なんと美しい無性の愛…!」と号泣している。アホである。

DIO様抱っこして!とガキのように強請るハナコを、DIOは脇の下を持ち上げくるくると回転した。

 

「あっはははは、私はDIO様が女から………エ、女から?」

 

ハナコが気付いた。

 

「アレ、ア、でも、DIO様が女性からお金を貰うのはいつもの事…」

「失礼な奴め。」

「いつ貰ったんですか?エ、50億全部ですか?」

「いや、10億は………いや、アレも全部女が俺に貢いできたどうでもいい金だ。」

「………アレ、DIO様ってどっかの会社経営してましたよね?そのお金が主な財産で…エ、エ、関係ないお金って何ですか?屋敷の経費を削って…アレ、えっと、DIO様のポケットマネーですよね?」

「ウン?………まァ10億の方は今まで私が女を抱いた時の賃金だし、40億も私がギャンブルをすることを知った何処ぞの女が急に寄越して来た金だから………ウン、私のポケットマネーだな。」

「そっ………そおですよねぇ〜!」

 

ハナコは混乱していた。

お金を私にかけてくれた事は嬉しい。けれど、普段から暇してるこの人だし、なくなっても痛くも無い金を私にかけて小遣い稼ぎしようとしたんじゃあないか、と考えてしまった。素直に喜べなくなって来た。

なにより、初めて人に熱く信頼されたという自信がおられそうで怖くなった。

 

「必死になるお前は中々に見ものだった。」

「あははははは………」

 

お金と言う目に見える大切なモノは賭けたが、その金も思い入れのないものである。

 

「さて、ホテルに戻るか。今日はこの金で飲みたい気分だ。」

「車を手配いたしますね。」

「うう〜、私は感激です、DIO様ぁ〜!」

 

ハナコは現実を見据えて悲しくなった。

この二ヶ月仕事に慣れて、何か忘れていたが、そもそもDIOはクソ野郎のカスなのだった。

それがスタンダード、ハナコにだけ特別辛辣と言うことはない。

それをハナコが忘れていただけのこと。

忘れて距離感を誤った、片思いのような事をしたハナコが悪いのだ。自分の失態を、相手に八つ当たりするのは良くない。大体、全部分かってただろう、ハナコの職場は吸血鬼を相手にする特殊な職場だ。

人の価値観なんて、私より無いんだから。

お金は賭けた。私の実力を信じてはいた。嘘なんかじゃない。

 

それでもハナコには、純粋な信頼を信じていた時の嬉しさと今のギャップに、心の何かが辛くなって来た。

 

「私が馬鹿なだけでした………」

「当たり前だろう。」

「ははは、そもそもDIO様私の事ただの都合のいい女くらいにしか思ってませんしね。」

「当たり前だろう。」

「いや、褒めてくれただけいい方ですよね。」

「めんどくさい女だな。」

 

ハナコは大人になろうと思った。

自分はもうなんでも1人でできる大人だと思っていたけれど、本当に信頼した人に裏切られたらした経験は無かったし、ちょっと辛かった。でもそれが、自分を大人にしてくれる、誰もが通る道だと思って我慢する事にした。

 

「ン〜?なんだ小娘、まさか悲しいのか?オイオイ、それは理不尽ってもんだろう?俺はお前の才能を見込んでしっかり投資したのに、金の出所にケチつけて、俺の信頼を疑うのかァ?」

 

ハナコが明らかにショックを受けているところを見ると、なんだか愉快な気分になって来た。自分の方が上だと思い知らせる瞬間が好きなのはDIOの昔からの悪い癖だった。

テレンスはDIOが調子に乗っているところを見て、ああまた馬鹿やってるな、と再度思っていた。なんやかんや言って、弱いものいじめが好きなDIOの性質をテレンスはよく分かっていた。

ヴァニラは感動で泣いている、全然現状を理解していない。アホだから。

 

「………。」

「泣くのか?この厚かましい女め。泣けばいいと思ってる女はタチが悪い。お前もそういう部類の女か?俺の信頼をさらに裏切るのか?」

「………すみません」

「うるさい黙れ、謝れば済むと思うなよこのガキが。」

 

DIOはそう言ってハナコの頭を鷲掴んで投げ飛ばした。

ハナコは深く息を吐いた。起き上がって歩き出したDIOに無言で付いていく。

 

何も出来ないからだ。

私は帰る場所の無い、ただのガキだと言うことを思い知らされて、必死に涙を堪えていた。

そして、ハナコは1人「お前はトランクに乗れ」と言われたのでボロボロのドレス姿でトランクに蹲っていた。

トランクに入ったのを確認してDIOはテレンス、ヴァニラを連れて別の車に乗り込み発進させた。

 

普通にいじめっ子である。

 

ハナコは20分後に発信しない車を不審に思いトランクから這い出ようとしたが、鍵がかけられていて出れなかった。ハナコはトランクの中で泣いていた。

DIOは終始調子に乗っていただけだが、ハナコの心に深い傷跡を残したのだった。

 

「………………殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」

 

この時のハナコは、本気でDIOを殺してやろうと考えていたのであった。少し経ってみると静かに怒りが湧き上がってくるというのは人間よくある事である。

 

ハナコの逆襲します。

 

To be continued

 




ハナコのクソどうでもいい話 その④

この時のDIO様はまだ時を止められません。

ハナコの底力なめんなよーーーー☆


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第8話 ハナコの逆襲 

DIOは夢を見ていた。

その夢にはハナコが出てきた。

夢の中で、許さないと言いながら、包丁をDIOにふりかざし、喚いて走り回っている。あまりにも恐ろしい形相で走ってくるので、たまらずDIOは走って逃げた。

 

夢の中でよくあることだが、なぜか特殊な設定を日常のように感じたり、なぜか有り得ない人物が夢に出て来ていてもそれが普通のように感じるのが夢なのだ。

 

夢の中にいるDIOにスタンドという概念は無い。何故か考えもつかない。なので、ハナコはとても楽しそうに好き勝手やっていた。

包丁を振り回し、DIOを捕まえ、筋肉の隙間に振り下ろす、四脚をもぐ、去勢するなど。あまりにグロテスクで恐ろしいし、なによりも痛みがあるため、寝起きは汗をぐっしょりとかいていた。

怪奇現象ともいえる連日の悪夢に心身共に参ってしまっていた。そしてこの朝、やっと犯人のめどかついたのだった。

 

「うう、このDIOが恐怖を感じているだと…このDIOが…クソ、ハナコめ、あの女の差し金に違いない……許せん…」

 

この男、悪夢を見るのは初めてでは無かった。

 

ここ一週間ほど続けて悪夢を見ており、その種類は様々であったが、最後は死んで夢から覚めるという悲惨すぎる夢であった。なぜこんなにも続けて悪夢を見るのか…?

DIOはこの一週間、アロマを炊いたり、ストレッチしてから寝るなど、あらゆる努力をして安眠に持ち込もうとしたが、無理だった。そして、最後にはなにかの暗示かと思って夢の内容をしっかりと振り返ってみた。

 

その結果、わかった。この夢の原因はハナコであると。1日目の夢など水を運んできただけのチョイ役であったが、確実にどの夢にもハナコが登場していた。ハナコにしてやられたのだ。

確かに、ハナコの能力には強い幻覚作用があり、テレンスから聞いた話だと、矢に射抜かれる前に既にハナコはスタンド能力者であったそうだ。

ならば、その拍子に何か変化があっても不思議では無い。新たな能力が本人も知らぬ間に兼ね備わっているなど。

 

それに気づいたDIOはすぐにテレンスに拷問器具を用意させて、ハナコを拷問にかけてやる準備をした。

 

「wryy…よくもやってくれたなハナコォ………貴様は許せん、骨の髄まで責め尽くして嬲り殺してくれる…」

 

DIOの殺意は止まることは無かった。考えれば考えるほど憎く感じて仕方ない…悔しくて悔しくてたまらなかった。

この男、自分がやられたままグッと我慢するということを絶対にしない男である。やり返さないと済まないという性格なのだ。

また、悔しく思うと同時に、ハナコを拷問するのを楽しみにする気持ちも芽生え始めた。あの女は、窮地に追い込めば追い込むほど本性を表していくタイプの女である。普段は牙を隠して生きているが、追い込まれると化けの皮が剥がれて牙を剥き出しにして、殺意を放つ。

そして、それは追い込まれた末の殺意であり、絶対的な絶望下で悔しがる顔である。それができる女はなかなかいないものだ。

 

「ククククク………カカカ…」

 

 そんなレアな女を拷問するのだ。DIOの心情に悔しさよりも興奮が勝った。

今まで拷問などした事のないDIOであったが、いつかはしてみたいとは思っていた。己にはサディズムの傾向があると自覚している。

男でもいいが、その時はとびきりの美青年を。女なら、どんなに美しくても、簡単に泣き叫び命乞いをするただの女じゃ駄目だ。気が強くて、心の芯を折ったらどうなるのか、心の内の信じるものを失った時どんな顔をするのか。精神の向こう側を見たいと感じる女でなければ意味が無いのだ。

 

 少し優しくされるとすぐ相手を信用する、騙されやすく、折れやすく、内に秘める思想は危うい。また、若く、未来溢れる少女だというのに、その目はどろどろと濁っていた。

 

なんで生きてるのかよくわからない女だが、ハナコは絶対に死にたいとは思わない。

 

俺は、奴のそう言うところを気に入っている。

だから、痛めつけてやりたいと思うのだった。

 

「いいぞ、いいぞハナコ……私はお前の様々な顔が見てみたい。お前を責め抜いて、もうやめて下さいDIO様、私が悪かったです、と言うまで許さないぞ。クククク………」

 

***

 

 事の真相のお話

 

「そんなことだろうと思ってた。………クハハハハ、イヒヒヒヒヒククククク」

 

ハナコは勝ち誇った笑みを浮かべる。

眠りこけているDIOのすぐ隣でハナコは添い寝している。隣でハナコか大爆笑しているが、DIOはうんともすんとも動かない。

 

おいおい、Ms.ハナコ、さっきDIO様がハナコの事拷問してやるって意気込んで無かったっけ?

いやいや、Reader、上の文章、全部DIO様の夢ですよ。

 

そう、DIOは一週間悪魔を見続け、その末に犯人をハナコだと断定し、拷問にかけようとする、という夢を今現在見ている。ちなみに、ここまで濃度の濃い夢を見ているが、DIOが寝始めてから現実の時間、10分ほどしか経っていないのだった。

 

夢の中のDIOの予想は見事に的中しており、ハナコは死に至らない新たな幻覚作用を、元の能力の延長として手に入れていたのだ。催眠術のようなこの作用はスタンドのへその緒部分を耳に突っ込む事で完全な支配状態となる。なので、ハナコはDIOの部屋に赤ん坊の出汁を混ぜた香を充満させておくことで半催眠状態にし、夢を操るという所業を成し遂げたのであった。

手の込んだ真似をしなくても相手に自分の姿を認識出来ないようにするくらいは出来るが、DIOに事後、違和感を抱かれてない様にする為には、寝ているDIOを襲撃するのが安定策だったのだ。

 

さて、このままDIO様に、夢の中であっても、私を拷問させるなんてことはさせない。

次は梅毒末期の男性患者に犯される夢でも見てもらおう。お前も梅毒に侵され美貌が崩壊していく様を絶望しながら悔やむといい。

そしてその間に私はDIO様のケツにバイブでも突っ込んで恥ずかしい証拠写真を撮ってやる。

 

ハナコはトランクに3日置き去りにされた事を非常に恨んでいた。肋骨にヒビが入っていたり、腕を痛めていたりだと怪我をしたまま放って置かれた。その上、3日目最終日には災難なことに月に一度来る女の子の例のモノにぶち当たっていた。トランクの中は血生臭いわ、股ぐらから血が流れ出している不快さを味わった。また、迎えに来てもらったテレンスさんと気まずい雰囲気になり、迷惑をかけるわ、DIOにはバカにされるわで惨めだった。脱水症状も出ていたし、ロズウェル事件の宇宙人のように、引きずられて悔しいったらありゃしなかった。

 

「ふふふふ、はははははは、くくかかかか……」

 

ハナコは待ちわびた復讐のひと時を、悪魔のような笑顔で迎えたのだった。

 

※その後の所業はDIO様のコンプライアンスに関わるので、ハナコの胸にだけ留めておくことにします。ですが、ハナコは相当酷いことをやっています。※

 

ハナコは全ての事を済まして朝にはDIOが全てを忘れているように能力を設定した。この女は、復讐した相手の悔しがる顔を見たいやら、見下してやりたいやら、リスクを負うことはしない。次の日には全てを忘れ、ケツに謎の不快感を覚えるDIOの姿をクスクス眺めているだけで満足なのだ。

 

「DIO様の恥ずかしい証拠写真大切にしますね♡」

 

夜まで悪夢を見続けるがいい、そう嘲笑ってDIOの肛門に入れたバイブを引き抜き、当て付けでDIOの口内にそのバイブを突っ込んだ。

「自分のウンコの味は美味しいですかーーーー???」と、愉快な気持ちになりながら、部屋を後にした。ゆっくりと扉を閉める。

 

「………おや、ハナコさんDIO様の部屋で何しているのですか?」

「ワッ!脅かさないで下さいよ、テレンスさんか………いえ、少し仲直りしただけです。」

 

話しかけて来たのはテレンスだった。ハナコはヴァニラじゃなくて良かった、と安心した。

 

「ふぅん、全然そんな風には見えませんけど……それに、驚くと言うことは何かやましいことでも…?」

「ははははは」

 

質問に、ハナコは引きつった笑いを向けるしか無かった。

テレンスは疑うような顔をしたが、危害を加えてないならセーフかな、と呟き、歩き出した。そしてすれ違いざまに、

 

「………まァ、バレない程度の復讐なら許しますよ。あれはDIO様も調子に乗りすぎました。」

 

とハナコの肩を持ってくれたのだ。

 

「えへへ……ありがとう、ございます。」

「いえ、その代わり私は責任を負いませんからね。あと、ヴァニラにはバレないようにした方がいいですよ。」

「了解です。」

「では、私はこれで。」

 

ハナコは心底テレンスが融通の効く男でよかった、と思ったのだった。

 

日が沈んだ後、DIOは起きてきて、案の定、夢の中の記憶を失っているのだった。そして、「なんだかケツに違和感がある。」とぶつくさ呟きながら一日中不機嫌だった。

ハナコはそんな姿を見て、あんなことをされたのにもかかわらず、「ああ、可愛い人だな」と思ってしまった。その気持ちは、母性本能というか奇妙な感情なのであった。

DIOも大概だが、この女も言ってしまえば、サディストなのであった。

DIOに優しく話しかけて慰めてあげようと思った。なんとも白々しいが。

 

「DIO様大丈夫ですか?」

「………ハナコか。いや、なんでも無いさ。」

「あら、そうですの?何かあったら出来る限りお力になるので、なんでも仰ってくださいね。」

「………おい、お前私を恨んではいないのか?」

「ホホホ、まさかそんなはずありませんわ。私あの後よく考えたんですのよ。私はDIO様に生きながらえさせてもらっている人間なのだから、何もされても感謝すべきだと思ったのです。だから、貴方様を恨めるはずありませんの。」

 

ハナコは花の咲き誇るような笑顔でそう言った。この言葉を聞いたDIOは何か考えるような素振りを見せた。フン、と鼻で笑って

 

「ならば、永く、丈夫で良い女で居よ。お前は気の利く、器用な女なのだからな。」

 

と、意外にも気の利いた言葉を言ったのだった。ハナコは数秒面食らったが、すぐに当たり前ですよ、と言うふうに返事をしたのでDIOはハナコの本当の心の内に気づかなかった。

 

退室した後ハナコは一人廊下で、「クククク、掌返しもいいところだ虫のいい男よ。馬鹿め。」と、独り言を呟いた。

不気味に女は廊下を歩いて行った。

 

***

 

ハナコと母親についての話

 

「オギャーオギャー!」

「カナエさん、貴方DIO様に許可を貰って帰るか、本当に逃げた方がいいですよ。」

「………ハナコさん、前も言いましたけど私には帰る場所がありません。日本に帰れたとしても私はこの子を養っていけませんわ。」

 

ハナコは子供を産んだばかりのカナエをほったらかしておくDIOに不満を感じていた。この子は間違いなくDIOの子供だ。しかし、当人はカナエの事などどうでも良いという風で、全く興味がなさげだった。そればかりか、今も他の女と情をかわしている。

 

前からこの館に妊婦が数人いるということは知っていた。

少し前から私は、テレンスさんから「女性が配膳した方が安心するだろう」と館で生かされている女性にご飯を配膳する仕事を任された。

そのうちの1人がこのカナエであり、彼女は日本人である。そして、女性達の中でも珍しい、子供を出産したタイプだ。他にも汐華という、2歳になる子供を連れている方がいるが彼女は子どもなんてどうでもいいわ、という、良〜く言えば放任主義だ。一方のカナエさんは子供を愛しみ、大切にしている。

正直、汐華みたいな女、ハナコはどうでもいいと思っていたが、カナエのような女は長生きしてほしいと思ってしまう。このDIOの館に来た時点で希望は薄いけれどね。

 

「カナエさん、DIO様が貴方の事生かしておく保証はどこにも無いんですよ。」

「いいえ、ハナコさん。子供だけなら生かしておいてくれるわ。」

 

ハナコは、「何言ってんだこいつ、お花畑か。」と呆れた。なんで私がここまで脅して逃げ出さないのかしら?DIO様、女1人くらいなら見逃すのに。カナエさんって、真実の愛とか信じているのかしら?ちょっと救えないわ。

と、思った。

また、もしかすると意地でも帰りたく無い理由があるのかもしれないとも思った。

 

「カナエさん、帰れないわけじゃ無いなら、その子を連れてお帰りなさい。私は妊婦がDIO様によって殺されるところを幾度もこの数期間で見て来ました。生まれてきた子どもが殺される場合もありました。」

「………分かっています。でも、正直に申しますと帰れないんです。」

「殺人罪やら警察に追われてるわけじゃなきゃ帰れると思いますけど‥………」

「そうですよね。」

「だから帰りましょうよ。」

「はい。ですから殺人罪で警察に追われているのでございますよ、私。」

「さいですか……」

 

ああ、この人私とおんなじ境遇でここに来たのね、と少し共感するところを見つけてしまった。可哀想だけど確かに刑務所に入って子どもと離れ離れになるより、この館に置いてもらった方がいいかもしれない。死ななければだけど。

ハナコのカナエに対する高感度は更に上がった。

 

「アッ、ハルノ坊ちゃんそれは落としたらDIO様に怒られます。」

「ねーね」

「姉やはここです。お母様のところに戻りましょうね。」

 

汐華は息子の面倒をとことん見ない女だった。ハルノ坊ちゃんはほとんど私が面倒を見ているし、明日この屋敷を出ていくそうだが、この子はネグレクトを受けるだろう。

この館のカオスな状況にため息が出る。

 

「カナエさん、何かあったら私にお申し付けくださいね。」

「何か起こらないようにこの子をしっかり抱きしめておきますね。」

「それがいいですわ。………さ、ハルノ坊ちゃん行きますよ。」

「ばいら〜い、おとおと」

「失礼しました。」

 

まぁ、これからどうなるかは彼女の運次第で、私がどうこうするのはメイドには出過ぎた真似だな…

ハナコが一人で考え事をしていると、ハルノがハナコの袖を引いた。

 

「ね〜ね、ママが、さんじまで、あっちいってろってた。」

「あら、あと2時間もありますね。でも姉やはこれからお仕事があるんですの……」

「やだ!」

「ハルノ坊ちゃんいい子ですよね?」

「ね〜ねと一緒らいいの!」

「………お洗濯手伝ってくれますか?」

「う!」

 

ハルノ坊ちゃんを2時間も放置させようとしていたなんてあのクソ女め。

ハナコは母親にも当たり外れがあるものだと思った。そして、自らかハズレ母親の元で育ったため、ハルノの未来もさらに心配になって来たのだった。

 

「ね〜ね!あとでおやつ!」

「クッキーの生地がありますから、洗濯機を回してる間に型を一緒に抜きましょうね。」

「あい!」

 

この子の花のような笑顔はいつまで続いてくれるのだろうか。ハナコはハルノが歩むであろう普通で無い人生を見据えて複雑な気持ちになるのだった。

 

翌日、カナエがDIO殺された。

残った子供の始末はハナコに任された。その騒動があったせいで、ハナコはハルノに別れの挨拶が出来なかった。門を出るところが窓からチラリと見えた。ハルノに持たせた、2人で焼いた不格好なクッキーを「なにこれ」と取り上げて踏みつけ、泣き叫ぶハルノを引きずって出て行く母親の姿が見えた。

カナエの子を抱いてハルノに持たせたクッキーを拾い、自分の部屋で食べた。我ながら美味しく出来たと、満足していたクッキーだ。ハルノが泣きながら自分の名前を呼んでいた様を思い出して、腕の中で泣くカナエの子の泣き声も自分を呼んでいるように聞こえた。

 

「…………大丈夫、大丈夫よ、姉やが守ってあげるわ。お母さんはいなくても、私がいるわ。絶対に傷つけない…守ってあげる。」

 

そう言いながら、ハナコはそっと赤ん坊を自分のベッドに持っていき、ベビーベッドをどこに置くか考え始めたのだった。




ハナコのクソどうでもいい話⑤

ジョルノ君はハナコちゃんのこと少しだけ覚えてます。クッキーのお姉さんとして覚えていますが、ギャングの男性ほど大きな存在ではありません。

えっ、黒髪が金髪になるってあるんですかハルノ坊ちゃんーーーーーー☆


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第9話 アヴドゥルの店に行く

お名前が欲しい話

 

「ほほう、それで息子さんにお名前が欲しいと。」

「いや、息子では無いのですけど、私が育てることになりまして………その、私子供の名前とか疎くて…日本では子供の名前をお寺さんに考えてもらう事とかあると聞いたので…すみません…」

 

ハナコはエジプトのよく当たると噂の占い師の元を訪ねていた。

テレンスさんに「で、その子のお名前は?」と聞かれるまで全然気づかなかったが、この子には名前が無かった。カナエはふわふわした女だった。私も名前について質問したことがあったが、「まだ迷ってるの〜」と返されていた。それもしょうがないかもしれない。カナエも初めての子供だったし、彼女はすごく元気だったが何気に3日しか、息子と過ごしていなかったのだった。

じゃあ、ハナコがつけるか………と言われると、この女はそんな重大な事私決められないわ。と変な所で事を重大に捉える女であった。

 

「………ちなみにそのお子さん、両親はエジプト人?」

「………うーん、多分イギリス人と、日本人ですわ。」

「ならば、どちらよりの名前をつけたいのですか?」

「そうですね………イギリス寄り…うーん、日本のでもいいですけど、ほら、金髪じゃないですかこの子。」

「確かに。」

「なら、小太郎とか虎徹とか日本らしい名前より、外国っぽい名前の方が良いかな、と。父親の方は一応生きてますから…」

「………そうですか…失礼ですが、貴女は乳母…-?」

「はい。私しか面倒を見る人が居なくて……この子の母親は死にました。」

 

占い師は赤ん坊を見て複雑な顔をした。

占い師は少し考えた後に数秒ハナコと目を合わせた。ハナコの意思やら何やらを静かに読み取ろうとしているようだった。そして、ゆっくり顔を上げ、考えを述べた。

 

「うーむ、私の考えなんですがね、そもそも占い師が名前を授けるという文化は無くてですね。」

「………確かに。」

「貴女とお子さんの事情に踏み入ったことは聞けません。それに、私はただの占い師ですから、やはり占いが十八番でしてね。出しゃばったことは言えませんが、これだけは貴女に伝えてあげたい。その子の隣にいてあげられるのが、貴女しかいないならば、貴方が考えてあげて下さい。」

 

占い師は優しそうに微笑んだ。見た目は背の高い威圧感のある男性なのだが、ハナコと赤ん坊に対して親身になってくれていることはよくわかる。

 

「………私が?」

 

ハナコは少し戸惑った。名前をつける事を重大な事だとは思っていたが、内心、誰かに決めてもらえればそれでいいかもしれないと思っていたのだ。

 

「その子の事を大切に思ってあげているならば、ずっと一緒にいてあげたいと思うのなら、貴女がつけてあげなさい。」

 

占い師はしっかりとハナコを見ていた。

それは、よく澄んだ真っ直ぐな意思が受け取れる、美しい目だった。ハナコはそんな目を向けないで欲しいと思った。

自分の目は濁っていると感じていたからだ。人間、嫌いな事をされる事を願うなんて無い。極力避けていきたいと思う人間が殆どだろう。

 

ハナコは、子供を育てるというのはそういうことなのだろう。とも思った。

嫌な事だってきっとこれからたくさんあるし、自分の生まれの悪さに嫌気が差す事だってあるだろう。でも、それを通っていかないと乗り越えられない事もある。子育てなんて、そんなことの連発だろう。自分から嫌な事も、子供のためにしなきゃ行けない。我慢する事だって増える。私はやっと実家から解放されて奉公先を得たばかりなのに、すぐにあの子の面倒を見る母親の変わりになることになってしまったのだ。

この占い師の人はきっと優しい。

 

「………………私、外国の名前の付け方は知りません。かと言って、日本の名前の付け方に詳しい訳じゃありません、漢字の画数によってなんたらっていうのは分かりません…」

「はい。それでも貴女も同じように、名前は子供が初めてもらう贈り物なのですから。」

「………私、ハナコって名前なんですけど、この名前……私の両親がめんどくさがって付けた名前なんです。父が言っていました。」

「…それは、失礼しました。…………女性に年齢を聞くのは失礼なのですがね。お若いレディー、お幾つですか?」

「17です。両親はいません。親族は全て死んでいます。」

「………そうですか……なら、尚更貴女が付けるべきです。その子は貴方が授けた名前を一生誇っていけるように、心を込めて付けてあげなさい。」

 

ハナコは腕の中で眠る子を見た。

父親に似た彫りの深い顔、金髪………きっとこの子はDIO様に似る。青い瞳が綺麗な子。

私の目は濁ってしまっている。

この子にはDIO様の様にはなって欲しくない……あんなに性格悪く育ったら泣いてしまう。でも、私の様な半曲がり方も駄目。この子は私の心の残り少ない良心。この子の目は濁らないで欲しい。

考えれば考えるほど、この子に対する想いは溢れていった。

 

「………この子には、幸せでいて欲しいです。」

「そうですか。」

「この子には、愛情をたっぷり受けて育ってほしいです。」

「そうですか。」

「………私の持っているもの全てを与えて、真っ直ぐに生きてほしいのです。」

「貴方のその子を思う気持ちを、名前の意味に込めて上げては如何ですか?」

「………そうします。」

 

ハナコの言葉に悩みは無かった。本人は未熟ながら、この子を愛してあげられるのは私しかいないのだ、という自覚がハナコの意思を固くしたのだった。

 

「悩みは解決出来ましたか?」

「大丈夫そうですわ。」

「なら良かった。」

「なんだかもう、数通りは考えられますわ。子育ては大変だろうけど、私この子の為だったら何でも出来る気がして来ました。」

「それはそれは、貴女は立派な母親になりますな。」

「ほほほ、ありがとうございました。」

「本業の占いは全くやってませんがね。」

 

占い師の男は自分の事のように嬉しそうにな笑っていた。やっぱりこの人はいい人だ。目に嘘が無い。私もこういう人と結婚したいわ、とハナコは思った。

 

「では、ありがとうございました。お代は…」

「こちらになります。」

「ありがとうございました。………えっと、お兄さん。」

「アヴドゥルですよ。お嬢さん。」

「ホホホ、いやですわお嬢さんだなんて…また来させて頂きますね、アヴドゥルさん。」

 

ハナコは清々しい気持ちで店を出た。アヴドゥルはいい男だった。ハナコは久しぶりに善意の化身のような男に会った気がしたのと同時に、腕の中の子がいっとう愛しく思えた。

 

「うふふ、帰りましょうね。姉やときみはずっと一緒よ。姉やはもっと強くなるわ………さあ、今日もDIO様の食べカスをお掃除しましょう………ふふ…あら、嬉しいの?可愛い子ね。」

 

夜道をゆっくりと歩く姿は、微笑ましくもあるがどこか不気味でもあった。

そうして今日もハナコは今日も仕事に励むのだった。放っておく訳にはいかないから、おんぶ紐でおぶって仕事をする。

 

ここで、ハナコの仕事を振り返ってみよう。この女、死体処理がメインで与えられた仕事である。今この女は死体を黒い赤ん坊に変えるのを、愛しい我が子を抱きながら行っているのだ。

 

「うふふふ、人は脆いわ。だから大切にしてね。ア、そいえば貴方の名前、姉や凄く考えたの。」

「きゃきゃ」

「嬉しい?姉や朝から100も書き出したのよ。それでね………私、決めたの、貴方にぴったり。」

「きゃっきゃっきゃっ」

 

ハナコがいくら純粋な思いを与えていても、そもそもハナコ持つ純粋そのものがねじ曲がっているのである。

ハナコはおんぶ紐を解き赤ん坊を胸に抱き直した。

夜風が冷たかったので、しっかりと守るように抱いた。

 

「愛。貴方の名前はアイよ。シンプルイズザベストって言うでしょ、貴方には私の愛をあげるわ。貴方は愛されて育ってほしいから、その意味を込めたわ。姉やは貴方が大好きよ。アイのためならなんでも出来るし、誰にも負けない。だから、私を強くして頂戴………愛してるわ。」

 

赤ん坊を桜吹雪の下で抱く、というのは美しい、微笑ましい情景だ。けれども、今は黒い赤子の赤ん坊風船に囲まれる赤子と少女という非常に不気味な絵であった。

 

その後、アイは直ぐに日に当たると火傷の様な赤っぽいアザが出来る様になり、太陽の元に出られなくなった。

まだ食べ物はミルクで間に合っているが今後輸血パックになる事も考えなきゃいけないな、とハナコは思った。

そういえば、生後3日の時点で直ぐに首が据わるのもおかしな話である。歯だってすでに生え揃っている。

 

館中の皆が思った。この子は父親の血を色濃く引き継いでいる、と。ハルノは黒髪で吸血鬼的な要素は全く無かったが、アイには父親の面影しか無かったのだった。

 

「ねぇ、アイ坊ちゃん、お父様が貴方に会いたいって言っていたのよ。でも私、お断りしたわ。だってお父様に貴方を合わせたら貴方のこと殺してしまいそうだったんだもの………子供の事、1番に考えられるのが良い母親よね。」

「ねぇ〜あ、きゃっきゃぅ」

 

父親があんなののせいか、ハナコは更にアイに対して過保護になっていくのだった。

季節はもうすぐ11月である。

 

***

 

ポルナレフに会う話

 

「あら、見慣れないお顔の方ですね。どうしました?お腹が空いたなら、今使用人の手が空いてませんから、外食をお願いします。」

「いや、そうじゃ無いですよ。何というか、迷ってしまいましてね〜、あの、便所は……?」

「突き当たりを右に、その次は左に曲がってから階段を降りてまた左ですわ。その方が近いトイレです。」

「メルシイ、お嬢さん。」

「ハナコですわ。日本人です。お兄さんはフランスの方?」

「そうだぜ。」

 

最近、肉の芽を埋められた人や金で雇われた人が多く館に出入りする様になった。

何人か顔見知りになった人もいる。彼女、彼らは総じてDIO様に忠誠を誓っており、盲目に信仰している。そもそも、私の様に彼のカリスマ性に惹かれない悪の方が珍しいらしい。

さて、このフランス人のお兄さん肉の芽を埋められている方の方だ。つまり性格の根っこは善人。そんな人をも虜に出来るなんて、DIO様色々とハイスペックなのね。

肉の芽を埋められるとDIO様に無条件に忠誠を誓うらしくて、彼曰く気に入ったスタンド使いを強制的に下僕にするのにちょうどいいらしい。彼は被害者という事である。

 

「それにしても驚いたぜ。お嬢さんみてーな女の子もDIO様に仕えているんだな。」

「彼のカリスマ性は絶大ということですよ。」

 

この男、ハナコにトイレを案内させた上に、年下だと分かるとペラペラ話してくるタイプだ。今は初対面だから紳士ぶっているけれど、回数を重ねるごとに馴れ馴れしくなる男だろう。

 

「はい、ここですよ。」

「メルシイ!」

 

ハナコは何だか今の数分の会話で疲れたような気がした。余り身近にグイグイくる男性がいないせいか、あのような男性のタイプは少し苦手なのだと思った。DIOは何気に、本を読んでいるだけの時が多いから静かである。

 

人間不思議なことに、苦手だな、避けたいな、と思った人間にこそ、ばったり顔を合わせてしまうものである。

 

「よぉ!昨日のお嬢さん!」

「…………おはようございます…」

「ね〜あ…」

 

この日はアイを連れている時に先日の男とばったり会ってしまった。この男、肉の芽を入れられている割にはお調子物である。ハナコは殆ど表情をかえなかった変えなかった。普通の男は真顔の女の前でペラペラ話を展開する事はしないと思うが、この男は凄まじい速度でハナコに話しかけて来たのであった。

 

「お兄さん、今日もお元気ですね。」

「お〜、お嬢さんも元気そうで良かったぜ。それに今日は可愛い坊やも連れて、かわいいでちゅね〜」

「きゃっきゃっきゃっ」

「息子さん?か?」

「いえ、DIO様のご子息ですわ。」

「へぇ〜!じゃあ将来は大物になるなぁ…」

「健やかに育ってくれれば十分ですわ。」

 

子供は好きなようだった。この館にいる悪の中には子供が好きな奴と嫌いな奴それぞれいるが、子供が好きな人は根っこに優しいところが残っている気がする。ハナコはうるさいなと思っているこの男でも、アイの事を褒められると嬉しいのだった。

 

「………あんた見てると妹を思い出すぜ。」

「あら、妹さんがいらっしゃるのね。」

「いや………」

「………失礼しました。」

「いいんだ。お嬢さん、あんたもここにいるって事は色々あったんだろうが、気を付けろよ。」

「ご心配感謝致します。お兄さん、貴方いい人だわ。」

「ハハ…俺も復讐の為に生きているようなもんだからな。」

「そうね、でもお兄さんもう手遅れよ。この館に頼ってきてしまったなら、せめて妹さんに対する未練を断ち切るように努めることね。」

「ひぇ………あんたみたいな鋭いお嬢さんに言われるとびびっちまうぜ。………まァ、ありがとな、あんたも坊やも元気にな。」

「ご武運を。」

「ああ、またな。」

 

男は去っていった。久しぶりに人間に会った様な気がした。

ハナコは男が見えなくなった後、名前を聞いていなかった事に気づいた。しかし、男の髪型がまるで電柱のような縦長の逆立った髪型だったので、2度目に会う時は必ず分かるだろうと思い、仕事に戻ることにした。

 

この男が、後に敵対するポルナレフだということをハナコは全く知らなかったが、少なからずともポルナレフの優しさにハナコは内心少しだけほっこりしていたのだった。

 

「ね〜あ」

「姉やです。お父様がチーズを買ってこいって言ってましたから、今から買いに行きましょうね。」

 

***

 

目撃者 その①

 

「なァ、ハナコよ。」

「なんですか、DIO様………アイ坊ちゃんはDIO様に会いたく無いとおっしゃっていましたよ。」

「フン、違う用件だ。お前の過去について部下に調べさせた。」

「………………私が殺人鬼だなんて事、分かりきったことじゃあ、ありませんこと?」

 

DIOとハナコの間に鋭い空気が流れるのは、およそ半年ぶりである。この2人、あのギャンブルが原因の喧嘩の仲直りをした後上司と部下という形で良好な関係を築いていた。しかし、今DIOが「過去について調べた」と、態々ハナコが嫌悪しているプライベート的ものを話題に挙げたため、ハナコはDIOに憤慨していた。

なぜ、この男、態々私の過去を調べた……?意味がわからないし、凄く嫌だわッ………!!

と、ハナコは怒ると同時に、軽くショックでもあった。過去は封印したいものの1つであり、海外逃亡は自分は母国に帰らない、という覚悟があっての行動である。今更日本での話を取り上げられるのは、恐れでもあるのだ。

 

「おいおい、勘違いするなよ。お前が日本で本当に警察に追われる身なのかを調べたんだ。ただそれだけだ。」

「………当たり前です。私は殺人現場を同級生に目撃されているんですもの…」

「そうだよなァ……私はお前を疑っている訳じゃあないさ。だがな、お前の立場を調べておくのは必要だ。指名手配でもされているなら、お前がもし日本に戻らないと行けない時動きが限られるだろう?」

「………戻る気はありませんよ…」

「まァまァまァ待て、何も無かったらお前にわざわざ教えはしないだろう。」

「では、何かあったというのですか?」

「そうだとも」

 

DIOが何か企んでいる事をハナコは訝しんだ。

こういうDIOが何か企んでいる時は、素早く逃げなければいけない。とんでもないことに巻き込まれる、とハナコはギャンブルの件で思い知っていた。

しかし、今のハナコにはアイがいるため、逃げるという選択は考えられないので、嗚呼…今度はどんな死線を潜らないといけないのかしら…と心の中で覚悟をしたのだった。

 

「日本で警察をしている部下に調べさせた。そうしたらなァ、お前のクラスメイトが3人行方不明だそうだ。お前を含めると4人か………殺人事件なんて単語は全く出て来てないぞ…お前、本当に殺したのか?」

 

ハナコは驚いた。

 

「ど、どうして…私3人殺して死体処理はしっかりしましたから、見つからなくて当たり前です…でも…なんで…4人目を取り逃したんです私………」

「しかしお前は殺人鬼ではなく、行方不明扱いだな。」

 

それと同時に、もしかしたら自分は無駄にエジプトに逃亡したのかもしれないという考えが頭をよぎった。

 

「お前が焦ってエジプトに来ただけで、お前のスタンドはその目撃者と言うのを攻撃していたのではないか…?」

「………ア…致死量に達していなかっただけで、まだ生きているって事…?」

「………お前のスタンド、ドグラ・マグラはその時すでに目覚めており、敵を排除するために動いたが、殺すには至らなかった。」

「なら、消さないと………黒い赤子汁は一滴でも一週間は頭を狂わす事が出来るけど、もしかしたら………ふ、不安…!こうしてバレて無いって分かると完全犯罪にしたいわッ…」

 

こうしてハナコは、日本に戻り同級生抹殺に動くことになったのだった。

なぜすんなりDIOが日本に戻ることを許したかと言うと、それは、アイを人質にとっていればハナコはDIOの元に帰ってくるのかを知りたかったからだ。

日本での一人暮らしに味をしめて帰って来なかったら、DIOはハナコの額に埋めた、保険としての肉の芽でハナコを殺すつもりなのである。

 

ハナコの気がかりはアイの面倒をDIOを中心として見るという事であったが、ヴァニラがDIOの息子であるアイを溺愛しているので、少し安心している。

愛する子と数日わかれる事に、後ろ髪を引かれる思いだったが、ハナコは偽パスポートを使い飛行機に乗ったのだった。




アイちゃんの可愛い話 ①

アイちゃんが1番最初に言った言葉はね〜あ(姉や)だお☆
将来は美少年に育つ予定………


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第10話 ハナコ、承太郎に会う

目撃者 その② 〜ハナコ、承太郎に会う〜

 

「おいテメー。」

「………あら、おはようございます。………もうお隣の席ではありませんの?」

「………テメー、そんな喋り方だったか?」

「尺に触ります?」

 

撮り逃した同級生を暗殺しに日本に来たハナコだが、学校に潜入したしょっぱなから承太郎に絡まれていた。

 

「………まあそれはいいが………俺が聞きたいのは昨日まで行方不明になってた奴がどうして何の前触れもなく学校に来るかって事だ。」

「先生方に話が通っている筈なのですが………ああ、私がいじめられているから、気を使ってくれたのでしょうか…」

「待ちな、話は終わって無いぜ。テメー以外の奴らは何処に行ったんだ?同時に3人だ…1人は頭がイカレちまって病院送り………そんなかでテメーだけがピンピンしてやがる。」

「ホホホ………私の事を気になさるよりも、取り巻きの方々に目をかけてあげたら如何です?」

「………はぐらかすんじゃあ無いぜ。」

「女性のプライベートにそんなに踏み込みたいのですか?私がもし行方不明扱いされている間、レイプでもされていたら、男にそんな事ベラベラ喋りたくはありませんわ。」

 

ハナコは席を立ち、承太郎の側から離れようとした。

 

「………それは悪い事を聞いたな。だが、どう考えてもテメーは不自然だ。」

 

承太郎は腕を掴んでハナコを引き留めた。

実はこの時、ハナコは心底焦っていた。

ドグラ・マグラの催眠効果は、液を霧状にして校舎を歩き回れば、術中に嵌るのは余裕であった。が、この同級生の男、空条承太郎はハナコの術中には落ちなかった。

スタンド使いかと思ったけれど、違う。ならば、恐ろしく気が強い男という事なのか…

 

承太郎はこの学園の王子様であり、消したら一発でアウトだ。この学園の生徒の大半が大騒ぎになる事間違い無しだ。それに、たとえ生徒全てにスタンドを嗾けても、私は人の戸籍やら書類やらを操れる訳じゃあ無いから、行方不明になる。これ以上行方不明を増やすのも危ない。メディアに注目されたら動き辛くなる。

 

「お前の名前は山田 花子、この俺でも覚えている。ハナコ、テメー、行方不明になってから急に学校に来たなら、今頃クラスの皆の注目の的な筈だぜ。」

「………ホホホ、私に興味がある方なんていらっしゃらないみたいですわよ。」

 

承太郎は全然諦める様子が無かった。こっちが真顔なのに喋りかけてくるあの、電柱ヘアーの男も厄介だったけれど、この男、もっとめんどくさい。

 

「いや。おかしいぜ、教室のど真ん中で俺が女と話していて、騒ぐ奴が居ない事も不自然過ぎるな。」

 

嘘だろ承太郎、お前、将来探偵志望か。私も江戸川乱歩好きだけど、此処までじゃあないわ…この男の探偵気取りはすごく厄介だわ………

 

ハナコは承太郎の鋭さにイライラした。

なんだこの男、私は早く取り逃した女の病院に行っちまいたいんだよ。お前が情報を漏らしてくれたのは嬉しいけど、この状況は嬉しく無いわッ!

 

彼はニューヨークの不動産王を祖父に持つと、噂で聞いたことがある。何処から情報が漏れるか分からない。辿りに辿って、今回は偽パスポートで日本に来ているから、マークされるかも知れない。今度こそ本当に指名手配だ。

駄目だ…この男消せないわ、殺さないってなんて難しい…

 

「………承太郎君、見なかった事にはしてくれないのですね…」

 

かくなる上は、奥の手を出そう。それは、承太郎にしかハナコが見えてないことを肯定しつつ、誤魔化せる作戦だ。

それに適す設定は………………幽霊。

そう、幽霊に成り切ればいい。ここは承太郎に違和感を持たせないように、幽霊にでも会ったと思って貰おう。私が少しのプライドを捨てることによって、全てが円滑に進むのだ。

ハナコは決心し、自身に念じた。

 

私は演技派のはず…あのDIO様だって初対面でちょっとは私の話を聞こうと思ってくれたくらいには演技派な筈。

いつもの根暗な自分を騙すのよハナコ!!

意を決して役者モードに入った。

 

「どういう事だ?」

「………私はとっくのとうに死んでいるんですの。」

「………」

「最後に、学校生活で、唯一私と仲良くしてくれたお友達に会いに必死の思いで学校に来たんですよ。」

「………」

「イチコちゃんに逢いたいわ。」

「………」

「どこにいるのかしら、彼女だけが心残りなの。」

「何言ってんだテメー、さっきから隣にいるぜ。」

 

………沈黙。

 

「アラッ気づかなかったわ!感動の再会だからアッチ行っててよ。」

「何言ってんだテメー………」

 

嘘、私ったらバカだわ…何でこんなミス………

承太郎は呆れた顔でハナコを見ていた。ハナコだって白目を剥きたい気持ちだ。

しかし、意外にも、承太郎は「この目で見た物は、素直に信じるしか無い」というような生活らしい。

呆れた顔をしてはいたが、そのままチャイムが鳴って、皆んなが着席していく様を見て承太郎も一応着席した。そして、ハナコを見ていていると、女子生徒から「承太郎どこ見てるのぉ?」と話しかけられた。常人からしたら、あらぬ方向を見ていることになるためだ。また、席を立っているハナコを教師も全く咎めない事から、承太郎も少しずつハナコの存在を信じ始めていた。

 

「………本気に幽霊か?」

「幽霊ですわ。」

「本当か?」

「くどいですわよ。」

「………イチコちゃんに会えて良かったな…待て、本当か?」

「本当にくどいですわね。」

 

ちょろいぞこいつ。

ハナコは心の中で片方の唇を吊り上げた。

そのまま承太郎が少し目を離した隙に教室を出た。ちなみに承太郎はいなくなったハナコに対して、イチコに会えたから成仏したのだと見事に騙されており、南無三を唱えた。

 

先程、病院に居るという情報が出て来たが、それはおそらく中央精神病院。または、近くの総合病院。そのどちらかじゃなきゃもう名簿を見て直接その子の家に行き、娘の看病をしに行く親を尾行するしか無い。

ハナコは精神病院に向かった。

というか、暗殺の知識なんてあるようで無いし、この娘、殺人は手慣れたものだが、全てがはっきり言えば適当である。やる気と若さで突っ走って来たが、今も病院に行って殺して速攻で帰れば何とかなると思っている。

タクシーを使って病院に行く。白くて大きな病院。ハナコは夢野久作の作品が好きなので、精神病院はもっと不気味な物だと思っていた。牢屋でもあるのかと思っていたが、そんな事は無かったようだ。

自動ドアを開けた瞬間に、病院の匂いが香った。病人の匂いが溢れて、それとアルコールのような消毒液の匂いが別世界のようだ、とハナコは思う。

ハナコはスタンドを駆使して、堂々とナースステーションに入り込む。名簿らしき物を発見し、必死に名前を探した。全然見つからず、此処では無いのかと思った。その時、ハナコのターゲット「清水 美智子」の名前が後ろで呼ばれた。

振り返ると、両親らしき人が看護師に面会に来たことを伝えていた。

ミチコの両親は気力を失い、痩せこけ、ガイコツのような人たちだった。ミチコは1人娘なのか、随分大事にされていたようである。だって、こんなに心配してくれる両親がいるのだ。

 

「あの、すみません、娘は治りますかね………ブツブツ」

「…私は担当ではありませんから……えっと、主治医に…」

 

少し母親はおかしくなっているようだ。

看護師達も引いている。精神病院なのだからそんなのざらだと思うが、ミチコは突如おかしくなったから、看護師達はそれに事件性を感じているのかもしれない。突然おかしくなった、普通の子供の親の変貌ぶりも気持ち悪がっているのだ。

 

ハナコはその両親達を見ても、全然可愛そうだとも、哀れだとも思わなかった。

トボトボ病室に歩いていく2人の後をつけながら、考えていた。

どうしてミチコはこんなに心配してくれる両親の元に生まれて、人をいじめたりする女に育ったのだろう。少なくとも、彼女に私のような噂は無かっただろうし、恵まれていた筈なのに、どうして人を陥れようとしたのか。と、疑問に思った。

しかしハナコは、それが不毛な疑問だという事も知っていた。一言で言ってしまえば、所詮人間そんなものよ、って事だ。人間は自分より下の者を陥れたり、いじめたり、見下したくなる。それは、今まで生きてきて、学校でも、実家での暮らしでも、DIO様の元に仕える中でも、同じことを経験した。

それが酷すぎると、私のような頭のネジが数本外れた人間が出来るのだ。そんな、大多数の普通の人間に押しつぶされて来た、私のような異端児が人間のクズに成り下がって行くのだ。そして、耐えきれなくなると爆発するのだ。

ハナコはサイコパスというような、先天性な物は持っていない。また、ソシオパス(後天性)でも無いし、障害を持っている、又は暴力的になる精神の病気というわけでもない。

 

ただただ、歪んでしまった女というだけであった。

が、案外、こういう病気などの、仕方ないというようなものを原因としない歪みが1番不気味なのかもしれない、と本人は思う。ハナコはある程度の常識を兼ね備え、頭も悪くなく、別に人を殺さなくても全然平気なのだ。

でも、DIOの元に仕えたり、殺人を手段として捉えたりと、「普通の人間でも慣れればなんでもできるんじゃ無いですか?」を体現していて恐ろしい。

 

そういう、決定的な何かは無いけど、馬鹿みたいにぶっ飛んでる女、それが山田 花子という女なのであった。

 

「で、コレは私、またスタンドで行方不明にしておかないと駄目ね。」

 

さて、ハナコの独白もそれくらいにしておいて現実に戻ろう。

 

ミチコの両親と入れ違いになるように犯行に及ぶのも、いいけど、何時間後になるか分からないし、ここはどっかに身を潜めて明日あたり決行しよう。

ハナコのドグラマグラはもっと精度を増せば、人1人くらい好きに操れるかもしれないし、そうして看護師あたりに殺人を代理決行させれば完璧だ。本人も不確定要素の多いスタンドに少なからず夢を持っている。

 

で、今日は………実家に戻るか。

いや、あそこはちょっとやだ…でも、弟は今も腐り続けている筈。あと、家にある自分の洋服とか取りに行きたいし……

今日の所は家に帰ろうと思った。行方不明扱いされているらしいが、警察とか入っていなければいいなと思う。そういえば、私の家族が消えてることに関しては全く触れられていないというわけないし、なんか不安になってくる。

 

ハナコは寝る時だけ帰ればいいかと考えた。

公園にでもいようと思った。水は公園にあるから、その辺でお弁当買ってベンチで食べよう。お腹すいたから揚げ物も買ってしまお。

 

昼の公園は幼稚園くらいの子が沢山いた。服装とか全然考えずにいたハナコは制服だったので、急いで持ってきた黒いパーカーを着てフードを深く被った。この時間に女子高校生が1人で公園にいるのはおかしいし、学校に電話をかけられたら詰む。

 

前から気になっていたお弁当屋さんの焼肉弁当は当たりだった。今はお金の心配をする事もないので、好きなものを普通に買えた。

 

公園で遊んでいる子供達にはいろいろな性格の子がいた。元気な子もいれば、砂場で静かに遊んでいる子もいた。一人ぼっちで日陰に座っている子にハナコは自分と同じ匂いがすると思った。

懐かしいけれど全然嬉しくなかった。きっと、あの子の服の下は痣やタバコの火傷でいっぱいなんじゃないかな?と思った。あの子の人生がどうなろうが知ったこっちゃないけれど。

 

アイ坊ちゃんには高学歴な人生を歩んで貰いたいわ………それでいいとこの企業に就職して、いい奥さんを貰って、子供に囲まれる。そんな将来になったらいいのだけど………

今回DIO様達にアイ坊ちゃんを預かってもらっているけど、悪影響にならなければいいな…

 

「ねぇアンタ高校生?」

 

バカそうなヤンキー女子高生がハナコに話しかけてきた。

ハナコはDIOがアイの悪影響にうんたらかんたら考えていたため、ヤンキー女子高生という子供の悪影響の塊が現れて、一瞬嫌そうな顔をしてしまった。

 

「高校生です。」

「アンタみたいな優等生そうなコがなんで学校フケてんの?」

「………フケたい時くらいあります。」

「そ、アンタなんかへこんでんの?何にもないなら学校もどんなよォ。」

「………お弁当ならあげませんよ。」

 

なんだこの女。

ヤンキー女子高生はハナコに対してかなり上から目線だ。それと距離が近い。なんだか慰めるような手つきでハナコの肩をさすっている。

 

「弁当なんか要らないよ。アンタさ、いじめとか辛い事あるんなら逃げればいいじゃない。」

「エ、何でそんな話が飛ぶんですか?」

「でも学校サボって非行に走ったりすると、アタシみたいにしょーもないことになるから、早く親を頼んなよ。」

「親なんて居ませんよ。」

 

だんだんハナコは自分を下に見たように、訳の分からない説教をしてくるヤンキー女が疎ましくなって来た。

親を頼れだとか、虐められているなら早く逃げろだとか、あてずっぽうな慰めもいいところだ。この女、私を慰めて正しい道に導く自分に酔っているだけじゃないのか、とハナコが感じるほどいい加減だった。

 

「待って待って待ってちょうだい、それでヤンキーさん、何が言いたいんですか?私、いじめられてませんし、親はいませんし。なんだか凄くイライラする事を貴方からバンバン言われて、ちょっと頭に来るのですけれど。」

「なによォ、人がせっかく慰めてあげてるのに失礼ね。」

「イヤイヤイヤ!アンタの慰めなんか誰も必要としてねェですわよ、ヤンキー女さん。私に説教垂れてないでアンタが学校ちゃんと行きなさいなッ!」

「アンタ優等生っぽいのに生意気だねッ!!」

 

ヤンキー女のぶっ飛び具合に言葉使いが荒っぽくなってしまった。

ハナコはいよいよ弁当持って逃げようと思った。しかし、ヤンキー女は腕をガッチリ捉えて離そうとしない。これ以上説教たらされるのは嫌なハナコはヤンキー女の肩を突き飛ばして、彼女の腕をすり抜け、スタンドを出現させた。

 

このアマ、消してやる。今日はイライラすることばっかりだわッ!私の精神安定剤になるがいいッ!

 

いつのまにか殺人がストレス解消になっていることに、ハナコ本人全然気付いていようである。

そのままスタンドをヤンキー女にけしかけようとしたその時、彼女がありえない事を口にした。

 

「痛ェッ!テメー!何すんだッ!アタシの腹には子供がいるんだぞッ!」

「は…?」

 

呆れた。

ハナコは口をアングリ開けて本日2回目、白目を剥きたくなった。こういう馬鹿みたいな女がこの世に溢れているから、世の中には不幸な子供が生まれるのだ、と思う機会は沢山あったが、それを体現したような女が目の前にいる。

白目を通り越して息をするのも忘れそうだ。

 

「………貴女、死んだ方がいいんじゃないですか…私を見て優越感に浸りたかったの?なんてチープな。母親になる自分は他の非行に動く高校生を導いてあげないとでも思ったのですか?なんて安っぽい………」

「うっせー!リョウジがアンタの事ボコすかんな!」

 

おそらく彼氏もロクな奴では無い。

構うのも面倒になって焼肉弁当を食べるのを再開した。ヤンキー女は、「無視すんじゃねえ!」とハナコの頬にビンタをかまそうとする。その手の軌道は丁度、ドクラ・マグラを1つ叩き割った。

 

「ゴッゴゴゴゴゴゴガガガ………」

「ご愁傷様ですわ。」

 

女はそのまま萎んで黒い赤子になるのだった。

呆気ない最後に再度呆れた。

そして、何故か赤子は二つに増えていた。ハナコは直ぐにお腹にいた子供だと気づき、悪いことをしたと思ったが、宿る腹次第でこういう風にもなるのだと、精神を病むほどのショックは受けていなかった。

 

さて、真の災難はここからだ。

 

その時、辺りに轟音が響いた。

この公園は比較的大きな道路に面しており、轟音はその道路からだった。少し歩道に出てのぞいてみると、交通事故である。

ハナコの目の中に一台の暴走車が映った。なるほど、あの車が爆走しているせいでトラックは横転し、人は潰されたり、逃げ惑ったりしているのか。

 

「いや〜ん!」

 

目の前で女性が派手に倒れた。

うわ、痛そうね、お姉さん。

イテテ、と女性は右足を呑気に抱えて座っているが、お姉さん、そこは道路だからあの暴走車に轢かれますよ。

車は着々と近づいて来る。

ハナコは下がって冷静に傍観していたが、お姉さんは中々立ち上がらなかった。足を抱えて痛がっている。そのせいで周りをあまり見れていないようだ。

お姉さん、道の端っこあたりだから轢かれないと思っているのかもしれないが、このままだと確実に轢かれる。

 

車と私とお姉さんがいる辺りの距離が10メートルも無くなったころ、ハナコはアレ?と思った。

このお姉さん、今立ち上がらないと死ぬんじゃないか?

 

「お姉さん早く立ってッ!!」

 

ハナコは急いでお姉さんに駆け寄った。

 

「いやだわ私…ごめんなさいねッ!」

 

女性は急いでハナコに謝罪の言葉を述べる。

足を挫いたその怪我は、案外重症らしい。ハナコは彼女の腕を肩に回して立ち上がる大勢を取った支えがあれば2人とも、立ち上がれそうだ。彼女は飲み込みが早く、すぐに動いた。

で、車はどうなんだ。さっと確認するくらいに車の方向を見ると、驚きだった。

 

なんと、車体と私達は1メートルほどしかなかった。

目の前が超スローに感じた。死ぬ時のアレである。

 

え、私どこに行けば良いの。前、前、前?でもお姉さん引きずってもこの距離じゃ、2人とも轢かれるわ。え、歩道?歩道に戻るの?でもお姉さん足をタイヤで踏んづけられたら可愛そうじゃ無い。ここまで手を貸したらもう、最後まで助けるしかないわッ!

 

前か後ろ、ハナコは瞬時に決断を下した。

映画のシーンで車の上を転がっていく俳優の姿を思い出した。

姉さんだけ前に突き飛ばして、私はアクション映画のようにジャンプして車の上を転がればいいんじゃない?

ハナコはこの前、肉弾戦で殺人鬼に勝った。また、DIOに仕えているというだけで色々体を張ることがあったりする。その事でちょっぴり自信がついてしまったのか、だいぶ斜め上にぶっ飛んだ結論を弾き出したのである。

 

「きゃっ!」

 

お姉さんは無事に私に押し飛ばされた。あれだけ飛ばされれば車に体のどこかを潰される事態にはならないだろう。

ハナコは車のボンネットに足をかけ飛び越える要領でジャンプした…………

 

………つもりだったのだが、そんな事はアクション映画の世界の話で、現実ではそううまく行くはずなかった。ハナコはフロントガラスに叩きつけられ、そのまま車の屋根を転がり、地面にベシャッと落ちた。

 

「うごっ………モゴゴゴゴゴ…」

 

余りの痛さに口から変な言葉が漏れた。

が、真っ正面から車に轢かれるほどの怪我ではないようだ。案外体も動かせる。骨折もしていなさそうである。

直ぐにお姉さんの心配を出来るくらいには無事だった。

 

「………お姉さん…大丈夫、ぶ?」

「どこも問題無いわ!!それより貴女よ〜!!平気…じゃ無いわよねッ!びょ、病院にいま連絡するわッ!」

「病院はやめてくださいまし………ダメなんです。」

「あらッ、駄目よお医者さんに見てもらわないと………………それとも、何か事情があるの?」

 

気の利くお姉さんの言葉に、ハナコはゆっくりうなずいた。

 

「そうなのね…どうしましょ、お嬢さん、もしよかったらウチに来る?……いえ、是非きて頂戴…簡易手当くらいは出来るわ。それに後ほど改めて、お礼もしたいし……親御さんにご連絡も…」

「………親、居ません。お家…お家にお邪魔させて下さい…」

 

このお姉さん気が利いたり、ハナコの事を気遣ってくれる心は嬉しいが、非常にお声が大きかった。彼女がキャーキャーと騒ぐ内に周りからの注目がこちらに集まって来た。

 

「お姉さん…私目立ちたく無いのですが…」

「ア、ア、ごめんなさいねッ!静かにするわ。でも、本当に病院に…」

「駄目です。」

 

そそくさとハナコとお姉さんはその場を離れた。

 

「ねぇ、そういえばお嬢さんお名前は?」

「………先に、名乗るべきでは?」

「アラッ、ごめんなさいね、私、空条 聖子よ。うちの息子も………そうよね、同じ高校よ。見たことないかな?おっきくて、長ランの、承太郎って言うんだけどね。」

「エ。」

「あらッやっぱり知り合いなのね〜!お名前は?」

「………も、黙秘権をお願い…します。」

 

ハナコの顔から血の気が引いた。




ハナコのクソどうでもいい話 ⑥

ハナコちゃんのファーストキスは最近マライアお姉様によって奪われました。ハナコちゃんはお姉様に骨抜きにされています。

マライヤお姉様ともっと大人の階段昇っちゃいたいーーーー☆ミ


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第11話 若い時の父さんにもそんな事あったぜ。

この小説は夢系小説ではありません。ここ大事。

徐倫ちゃん大好きな作者が、お父さんも若い時にそんなエピソード(マのつくアレ)あったら面白いなと思ったゆえの所業です。(言い訳)

最初にお断りしておきます。

この話は飛ばしても全然問題ありません。
マライアとの百合、承太郎との下ネタ、が大丈夫ならば、先にお進みくださいませ………


目撃者 その③ 〜不思議な男〜

 

※ガールズラブ、過激な描写に注意(オチあり)承太郎がキャラ崩壊。

 

「………マ、マ、マ、マライアお姉様ッ」

 

ハナコはもどかしかった。

マライアの手はハナコの求める所を避けて、身体を這い回り、焦らし、確実にハナコの熱を高めていっていた。もうさっきからずっとこんな感じである。

百戦錬磨、魔性の女マライアと打って変わって、男性経験の乏しいハナコは、何をどうしていいか分からず、俯いてされるがままになっていた。

 

「アッ………ダメ…マライアお姉様、くすぐったいですわ………イヤ…」

「そんな事言って、喜んでるわよねぇ、ハナコォ?ほ〜ら、いじめて下さいお姉様でしょ?言いなさい。」

「ア…無理です…恥ずかしくって、ン、とても言えません…許してお姉様…」

 

マライアの囁き声がハナコを責めていた。囁きに対抗するハナコだったが、言葉を返すたびに自分がいやらしい女に堕ちていく気がして恐ろしかった。

 

「フフフ、可愛い子。でもダメよ、ちゃんと言って頂戴?」

「…無理、無理なんです…」

「言いなさい、ほら、言え。」

「アッアッアッ、言います言います言うから許して…」

 

マライアの手が服の上からではなく、地肌に潜り込んだ瞬間もう駄目だった。嫌がっているが、言ったらもっと酷いことをしてくれるかもしれないという期待があった。また、あまりにはしたないことは出来ればしたくない、という気持ちもあったが、ここで言えば、マライアに責められて仕方なく言った様になると打算的な事も考えていた。

ハナコは好きな人に対してはどちらかというとマゾヒズムの傾向があるらしい。

 

「………わ、私を…いじめ…いじめてくださいまし…お姉様…」

「どんな風に?」

「ウ………好きなようにされ…たいです…」

「激しくしてほしいの?」

「アア…激しくても、なんでもいいですわ…」

「………いけないコだわハナコ。」

 

ハナコはマライアに夢中だった。

目には涙が浮かび、頬は紅潮し、呼吸は荒かった。

恥ずかしい言葉を言わされてしまった。その事にも酔っていたし、先ほどから覗く、マライアの生足に触りたくて仕方なかった。

ハナコはマライアに乱暴にベットに転がされた。そのまま押し倒され、唇を奪われる。深い口づけにハナコは息ができず酸欠になりそうだった。

いじらしく、卑猥な姿にマライアもスイッチが入ったのか、勢いよくハナコのセーラー服を剥ぎ取りにかかった。

その、強引や手腕にハナコの興奮はピークに達した。

 

「これからアンタをめちゃくちゃにしてやるわ、イヤって言ってもやめてやらないんだからねッ」

「イヤッ!マライアお姉様ッ〜!!」

 

***

 

「おい、どんな夢見てやがるんだッ!!!」

「ハッ!」

「いい加減にしろよッ!人の家に上がり込んでおいて、卑猥な言葉を垂れ流しやがって………」

「エ、エ、エ、マライアお姉様は……?なんで承太郎君………?」

 

ハナコは承太郎に叩き起こされた。

目の前のマライアお姉様が夢のように掻き消え、替わりに承太郎が視界ドアップに映った。ハナコは急な視覚情報に処理が間に合っていないようで、目を白黒させた。

 

「お姉様………テメー、レズか…気にはしねえが…」

「エ、何で承太郎君がいるん…エ、夢なの…マライアお姉様?エェ……嘘嘘嘘…」

「夢だぜ。」

 

現実は非常である。

 

「なんでよ、なんで起こしたのよォ!!」

「バタつくな!」

「もうちょっとで、マライアお姉様と親密な関係になれるって所だったのよッ!!」

 

まだ寝ぼけているハナコは承太郎に逆に掴みかかったが、ムキムキな男子高校生の力に勝てるはずも無く、再度布団に縫い付けられた。

幾ら女性の中で力が強いハナコでも承太郎の拘束の前では無力であった。まだ、マライアとのイケナイ関係になる、美味しい夢を邪魔された事を忘れられないらしく、バタついている。

 

「暴れんなよ。それよりハナコ、ヤッパリ嘘ついてたな。」

「………嘘?嘘なんかついたかしら………ン…」

「幽霊なんかじゃ無かったなァ?」

「ア"ッ…」

 

ハナコは寝ぼけた頭で自分の所行を思い返した。するとだんだん今日一日の出来事が思い出されて来た。

そして、今の状況は、目の前に承太郎。これは非常にまずいシュチュエーションなのだと自覚し、サーッと顔が青くなった。

 

「思い出したようだな。あの女(アマ)に聞いたぜ。テメーを目撃してる人間は沢山いるってな。見えるってことはやっぱりテメーは幽霊なんかじゃねぇようだなァ?」

「………………まさかそんな…ホホホホ」

「はぐらかすんじゃあ無いぜ。これから警察に…」

「やめて…!!やめてくださいましッ!!」

 

ハナコは電話をしに行こうとする承太郎の足を、必死で掴んだ。足に下がりつくという非常にみっともない図であったが、なり振りかまっていられなかった。

警察にバレたら動きにくくなる。ドグラ・マグラの霧状噴射での催眠は、認識できなくしているだけで、催眠にかかる前に認識した事は、能力が解除された後、又は時間切れで普通に思い出してしまう。

警察はダメだ。この男を敵に回すのも駄目だ。

 

少し無茶をすればスタンドで捻り潰せる。しかし、今ハナコは恐怖していた。何故か承太郎を絶対的な強者として捉えていたのである。

 

承太郎という男の強運に恐れをなしていた。

それにこの男は催眠にも掛からなかったり、スタンド使いじゃあないが、どんなミラクルを起こすかわからない気がした。

なんだかこの承太郎、ピンチに陥った時にとんでもない爆発力を発揮しそうだ。いや、絶対に私が負ける結果に成りそう。

 

ここは、真実で誤魔化すしかない…でも、一度騙してるから、今回は騙されてくれないかも…嫌だァ、この人なんなの……

ハナコはこの1日で承太郎アレルギーになってしまったのである。

 

「………もう暴れないから離してください…訳もしっかり話しますから…」

「駄目だね。このまま話な。」

「………」

 

承太郎は用心深かった。

ハナコは仕方なく布団に縫い付けられたまま、真実を用いての誤魔化しを、必死で繰り出した。

 

「………私の両親はトンデモナイ毒親というか……家はゴミ屋敷で父は酒乱、母は宗教にハマり、兄はドラック中毒のデブでした。その………3人が私を置いて夜逃げしまして、それをきっかけに、私は奉公先を求めた次第でして……良い職場に就けましたし…警察うんたらの厄介になると、私は未成年ですから、非常にまずいことに………」

「そうかい。」

「エッ、信じてくれないんですかッ!?」

「テメーの親の話は信じる。だがな、方向先を決めたならどうして戻ってきた。それと、幽霊じゃないなら、どうして朝、俺にしか姿が見えなかったんだ。」

「それは………言えません、というか幽霊の件は、超能力としか…説明出来ない…」

「嘘つけ。」

「本当なんです!フヘヘ……すご〜いですよ…超能力…」

 

自分が何を言ってるかも、もうよく分からなかった。

キット承太郎君、今度は騙されまいとしているだろう。駄目だ、恐ろしいわ。私、どうなってしまうのかしら………

 

「超能力………超能力か………」

「嘘だと思われても仕方ありませんが、本当に超能力なんです。」

「超能力‥…」

「超能力…」

「エ、本当だよな?」

 

しかし、以外ッ!

承太郎は満更でもないようだったッ!

 

「ウンウンウンウン、ホント。」

 

…嘘だろ承太郎。貴方もしかして詐欺に引っかかりやすいタイプじゃ…いや、用心深いし、今のはこの数秒間で考えに考えた結果なのだわ…

ハナコは承太郎の、ある意味早すぎる飲み込みにも恐怖を覚えた。こんなにポンポン情報処理出来るなんて、只者じゃないわ!と、混乱と不安で何に対しても敏感なのである。

 

「確かに、超能力なら違和感ねェな。」

「ウンウンウンウン。」

 

こうして、承太郎は呆気な〜く「ハナコ超能力者説」を信じてくれたのである。押さえつけられていた腕が解放され、ハナコはドッと疲れを感じた。

 

「ハー、ハー、ハー、ハー、軽く、過呼吸に、なるところでしたわ…」

「………乱暴してすまなかったな。」

「…………意外、ですわ。」

「俺は自分が間違ったと思ったことは、シッカリ謝る。」

 

ヤダ、すごく誠実じゃない。

 

「私のご主人様にも見習って欲しいです。」

「………いろいろ大変そうだな。」

「案外そうでも………なくはないですね…」

「だが…どうしてわざわざ学校に来たんだ?」

 

一瞬言葉に詰まった。

ぽっと出される言葉が冷や汗をかかせる。が、ハナコは嘘八百を連ねる事が案外苦手では無いのである。それっぽいことを本当にそれっぽくするのが、うまかった。

 

「………まァ、なんというか…学校生活が少し恋しくなってしまったんですかね…イチコちゃんにも、ケジメつけたかったですし…」

 

遠くを見つめるようなはかない目で、しっとり言った。

 

「そうか。」

 

承太郎は、何かを察したように信じた。

 

案外いい人で、騙すのが心苦しくなって来たぞ。

この人案外、悪い人じゃないし、ちょっと冷静になったら私のプライベートに踏み込んだ事に対して申し訳なく思ってくれたのかもしれない。

 

確かに、承太郎が一貫して気になっていた事は、ハナコが幽霊で無いなら、なんなのだ。という事だった。少し脅されたが、承太郎の意外な爽やかさに、許せる気がして来た。許せる気がしてきたので、申し訳なくなって来た。が、後悔は無かった。

 

「あらぁ、さっきまで2人で喧嘩してるみたいだったから、承太郎を止めにきたんだけど…もう大丈夫みたいね、よかったぁ〜!」

「ア………………せ、聖子さん…?」

「覚えてくれたのね〜ッ!」

 

そこに、金髪の女性が部屋に入ってきた。

ハナコはすぐにその女性が車の事故で助けた女性だと気付いた。

今朝、ハナコは空条邸に少しだけお邪魔になり、手当てしてもらおうと思ったのだが、手当ての最中に気を失い、結果夜まで目を覚まさず、承太郎とも鉢合わせる事態になったのであった。全てをはっきりと思い出したハナコは、濃すぎる1日にため息をついた。

私、よく生きてたな、キャパオーバーで死亡しなくてえらいぞ、と。

 

「ハナコちゃんって言うのね、承太郎から聞いたわ。改めて、空条聖子よ。よろしくね。」

「はぁ……」

 

聖子は変わらず元気いっぱいであった。まだ体の節々が痛むハナコには、声が骨に響くようで少し辛かった。

聖子はお夕飯準備するから、と言って甲斐甲斐しく廊下を歩いて行ってしまった。

 

「ハナコ、夕食、食うか?」

「………エ、そんな、迷惑かけられません。」

「お袋が危ないところを助けて貰ったんだ。これくらいはさせろ。」

「…承太郎君、自分が作るわけじゃないのに、偉そうじゃないの凄いですね。」

「…………ハナコ…ちょっと変わってるって言われねぇか…?」

「エ?そもそも友達が少ないので。分からないですわ。」

「というか、ほぼ初対面の女に名前で呼び捨てしたまってた。」

「気にしなくていいですよ。」

「そうか。ならハナコも敬語ヤメロ。気持ち悪りィ…」

 

ハナコは敬語を止めろと言われて、なんでだろう?と思った。すぐに、そう言えばこの人と私は同い年だったと思い出した。

 

先程、あれほど承太郎を怖がっていたハナコだったが、会話を交わし、今はそうでもない。

今の承太郎には、謎の説得力と落ち着く声のトーンが兼備わっていた。ハナコは、せっかくこう言う、同級生と話す機会が巡って来たのだから、今日くらい彼に対して敬語を辞めてみようと思った。

こいつも案外チョロい女である。

 

「………今の職場でメイドをしてるの。ご主人様には敬語だから…周りの人も年上で。………そういえば私、高校生だったわ。」

「ガクセーはガクセーらしく、な。」

「承太郎君結構喋るタイプなのね。………アァ、確かに貴方中学生の時は凄く真面目な優等生だったものね。」

「うるせぇ、俺は元々喋るタイプだぜ。」

「遅めの反抗期ってヤツかな?」

 

ハナコは久しぶりに普通の高校生に戻った気がした。

同級生のモテモテの男の子と話すなんて、世の中の女の子が憧れるシュチュエーションだな、と思った。ハナコの王子様はマライアだが。

 

…アレ、そういえば。

……………おいおい、writerハナコちゃん家族皆殺しにしてるし、結構前から普通の高校生じゃないよね?

 

残念なことになる、reader。

ハナコちゃんのぶっ飛んだ精神では、学校行って普通に授業受けてたんだから、フツーの高校生。って思ってるんですのよ。

本人今笑ってますけどね。朗らかな笑みで、とても微笑ましいですけどね、こいつは殺人鬼で、息をするように嘘をつきますが、最近は全然罪悪感とか感じなくなってきていますの。

つまり、おかしいんですこの女。

イカレ女なんです。まともな考えなんて通用しません。

 

「貴方、不思議な人だわ。」

「そうかい。で、飯は食うのか?というか、食えるか?」

「貰うわ。………母親の味って食べた事ないの。貴方のお母さんの料理だけど、味わってみたい。」

 

何はともあれ、非常にいい空気である。

 

 

 

***

ここから非常にひどいアホエロ。R15程度ですが、朗らかな2人のイメージを崩したくない方は後書きの閑話まで高速で飛ばしてください。

2人が性行に及ぶわけではありません。

全ては作者が徐倫ちゃんが好きなせいです。(言い訳)

 

 

 

 

 

 

 

 

非常にいい空気なのではあるがここだけの話、実は承太郎、この日はハナコの喘ぎ声でヌいた。

どれだけカリスマ性溢れる承太郎とて、健全な男子高校生なのであった。

ハナコもハナコで、マライア夢をおかずに同級生の男の子ん家でマスターベーションをした。本人は。とても背徳的だったと供述している。

 

今日の不幸はおわらない。続く。

夜中に手を洗おうと水場に行った。

 

「ア"」

「ア"」

 

ばったり水道で出くわしてしまったのである。

沈黙が辺りを包む。

 

2人は、ビビリにビビった。なんでお前ここにいるんだと。承太郎はおかずにした相手が突如目の前に現れた事にビクつき、ハナコは恥ずかしさでビクついた。

 

承太郎もハナコもポーカーフェイスで静かな驚きだった。しかし、2人とも同時に手を後ろに隠すという動作を行ったため、勘のいい2人は、お互いのシュチュエーションを瞬時に察してしまった。

 

静かな混乱は最高潮に達し、混乱し、はよくわからない事を口走った。

先に口を開いたのはハナコである。

 

「ウ………」

「う?」

「は、背徳感………どうでしたか?」

「(ギクゥッ!!バレてんのかッ!?)」

 

この時ハナコは、混乱を極め感想を相手に求めるという有り得ない行動に出たのである。

どうかしてるぜッ!!

 

(私は同級生の家という)背徳感(が、良かったです。貴方は)どうでしたか?

こう聞きたかったのだが、言葉が足らなすぎたのである。

承太郎は、

(私でヌくという)背徳感、どうでしたか?

と意味を捉えた。

 

バレてやがるッ!!

承太郎は一瞬、シカトを貫いて誤魔化そうと考えた。が、すぐに考えを改めた。真っ直ぐな男なので、どうでもいいことにも真剣に向き合ってしまったのである。

そして、馬鹿なことにこう考えた。

 

ここでは、引けねェッ!!バレてるならバレてるで堂々としやがれ、男だろッ!

 

「悪く無かったぜ…背徳感。」

 

ドン、という、効果音がつきそうな言い切りだった。彼なりの覚悟だった。

 

「フ………私も悪く無かったですわ(混乱)貴方とは仲良く出来そうですわ(錯乱)」

「ああ俺もだぜ(錯乱)」

「この事は墓まで持っていくわ。私、すぐにエジプトに帰るわ。安心して頂戴。安全よ。」

「ああ俺も…イヤ、俺はエジプトにはいかないぜ(混乱)」

「こないで。」

「俺も墓まで持ってくぜ。」

「よろしいわ。」

「俺たちは諸刃の剣だ、それを忘れるなよ。」

「貴方も夢夢お忘れなきようお願いします。」

「俺はまともだぜ(混乱)」

「私もまともよ(混乱)」

「秘密の関係ってヤツだ(錯乱)」

「ええ、10年付き合った友達よりも深い仲ですわ(錯乱)」

「おいアメリカ人より目合わせてくるのやめろ。」

「進路指導の教師よりはマシ。」

 

2人の間に謎の友情が生まれた。

肩を寄せ合い、手を洗った。その行動に2人は馬鹿なことに、深い仲間意識を感じた。ハナコも承太郎も深夜特有の精神状態で、ぶっ飛んでいた。

 

「さて、スッキリ寝るぜ。」

「そうですわね。アラッ、やだ、敬語になってたわ。えへへへへ、切ってもきれない関係なんですから、仲良くいきましょ。」

「そうだせ。」

「水魚のうんたらですわ。忘年会のネタにしたら殺す。」

「せうだぜ(よくわかってない)」

「「ハハハハハ」」

 

2人は抱き合って笑い合った。友情のハグである。

が、しかし不幸はまだまだ終わらなかった。

 

「承太郎ォ〜?」

 

「「(ギクゥッ!!)」」

 

この2人、夜中なのに煩くし過ぎたのである。

最初は小声だったが、興奮でだんだん声が大きくなり、最終的には大笑いの始末。

聖子が騒ぎを聞きつけて起きて来てしまったのである。

 

「な、なんでもないぜ…」

「お水、飲みたくなってしまっただけです…」

 

まあ、お互いに気まずい事をしていたのは確かだが、まあ、一年くらい経てば笑って済ませる話だった。

が、聖子の登場は非常に不味かった。まずいなんて範疇じゃなかった。

 

「………そ。」

「違うぜ。」

「誤解しないでください。」

「してないわぁ〜」

「してないな?」

「ならいいんです。」

 

夜中、水場、若い男女2人、興奮した様子、焦った態度。………最初から奇妙なシュチュエーションなのに、事は更に斜め上に飛んでいった。高速道路を通る車のように誤解の道を突き進んで宇宙に飛んでいった。

 

違う!私は、俺は、潔白だッ!!

 

「………別にいいわよ、誤解なんかしてないわ。」

「良かったぜ。」

「良かったです。」

「「ハハハハハ」」

 

聖子の回答に胸を撫で下ろした。

お袋は俺を信用してくれている。と承太郎は心の中で涙を流した。ハナコも親子っていいものだな、と虫のいい考えが頭の中を流れた。

これで今日も安眠できるぜ。

 

「承太郎も男の子ならそういう時もあるわよね……でも怪我してる女の子を相手にするのはダメよッ!」

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"………」

 

ハナコはその場に崩れ落ちた。

承太郎は白目を剥いていた。

 

いつも被っている帽子を深く被り目をつばで覆う動作、あれを帽子を被って無いのにやってしまった。3回やって帽子をかぶってないことを思い出した。

 

2人の希望は儚く打ち砕かれたのである。

 

次の日、ハナコが空条邸を出ても聖子の誤解は解けなかった。承太郎は人生最大の黒歴史を抱えることとなったのだった。ハナコに関しては、トラウマを増やす1日となったのだった。

 

 

 

「………………禁欲しよう。」

「………………禁欲するわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




閑話 DIOとアイ その①

「おいおいおいおいおい、エンヤ、ガキとはこんなに煩いものなのかッ!?」
「そうですじゃ。」
「さっき泣き喚いたばかりだぞ。また飯か?このガキ、どれだけ食うんだ。」
「赤ん坊はそんなものですじゃ。DIO様だって赤ん坊の頃はそうだったのですよ。」
「俺がこんな猿みたいな奴のはずがなかろう!」
「坊ちゃんは金髪で目鼻立ちもDIO様にそっくりですよ。」

DIOはハナコが恋しかった。
自分と似ているこの赤ん坊はきっと静かで、泣いたらあやして飯をやってオムツを変えればなんとかなるだろう、と思っていた。あまり手が掛からなそうだとも思った。
ハナコ曰く、他の赤ん坊と比べて成長が早いためか、言葉を覚えるのも早いし、夜も殆ど泣かないし、アイは静かな手のかからない子であるそうだ。ふむ、確かに半年ほどで喋り始めるのは非常に早いらしい。

が。
手のかからない子だとォ………………どこがだッ!
めっちゃ泣くし、ぜんっぜん静かなガキじゃあないかッ!

アイが静かなのは、安心できるハナコが殆ど常にそばにいるからであり、DIOのような大男がいきなり身の回りの世話をするとなると、相当なストレスがかかっているのである。

テンレスが世話をするのは辛うじて大丈夫だ。奴はたまにアイの面倒を見る機会が有ったらしいからな。しかし、ハナコがいない分奴はそれ以外の仕事が多すぎる。駄目だ。

エンヤはもう歳だし、あまり無理を刺さると体に障る。駄目だ。

息子のJガイルは論外。駄目だ。

マライア、ミドラーは運悪く遠出している。駄目だ。そもそも、子供が好きなタイプかわからない…

ヴァニラは怖いから駄目だ。

………俺がやるしか無いのか。

「パァ〜、きゃっきゃっきゃっ」
「エンヤよ、このガキ殺しては駄目か?ハナコも帰ってきたら殺せばいいだろ。」
「何を言うですじゃ、ハナコちゃんが可愛がっている子ですじゃ。それに、今までは大目に見ておりましたが、DIO様………女を孕ませ妊婦を殺し、自らのご息子を殺し…おいたがすぎますのでは………?」

クソ、痛いところをつく。

「俺は人間では無いからな。大体、奴らは自ら命を差し出したのだ。我が糧にして何が悪い。」
「……まァ、DIO様にも父親はいるはずだから、いつか分かるですじゃ。」
「一緒にするなアアア!」

DIOはカチンときたが、瞬時に黙った。

「DIO様ちょっとバカっぽいですじゃよ。」
「知るかババア。」

確かに。と思ったからだ。
確かに、俺の父親はクソ野郎だった…ヘドが出るようなクソ野郎だった。情を交わした女に暴力は振るわなかったが、殺しはした………子供も母親がいなくなったなら殺してやった方がいいだろ、と思ったが、父親がまともならいい話であったのだ。

「確かに…母親がいなくても父親がしっかりすればいい話だった………」
「日に当たらないと馬鹿になるんかの…」
「うるさいババア」

To be continued ②へ続く


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第12話 人生は見せ物

目撃者 殺す話

 

「お、お世話になりました…」

「ホホホホ、いいのよ。ほら、承太郎も挨拶なさい。」

「………おう。」

「クフフフフフ、フフ。」

「あらあら、2人とも仲良しね。」

 

仲良しでもなんでもない。ただ、昨夜夜に2人でいた所を目撃されて、事があらぬ方向に進んだ事に対する絶望を引きずっているだけだ。ハナコも承太郎も昨夜から一睡もできていなかった。

 

聖子はそれを分かって朝から、わざと陽気な態度で、わざと気配りのできない女の様に振る舞っている。

この女はいつもと同じですよ、という雰囲気で私達を牽制しているのである。

私には、どこぞの知らんビッチが、息子に手を出すなよ。と。承太郎には、出会った初日から手を出すなんて、本当は言語道断だ。大目に見てやるが、反省しろよ。と。

 

まあ、性的な関係を築いていたのなら、それはとても優しい叱り方なのだけど、ハナコと承太郎に関しては本当に唯の勘違いなので、それは理不尽な怒りである。

 

「ありがとうございd%#°$€5+÷………」

「ハナコちゃ〜ん、元気でね〜!体に気をつけて〜!私も承太郎もいつでも待ってるわ。」

「お世話に>3#…ました….」

 

ハナコはとうとう日本語が分からなくなってしまった。聖子は相変わらずだった。

空は青い。太陽に包まれてそろそろ高校三年生になる時期だ。こんな日に卒業式ができたらいいのにな、とガクセーみたいな事を考えた。ガクセーだった。人は気まずくなると、別のことを考えがちである。

 

聖子はハナコにタクシーを手配し、明るく振る舞ったが、それが逆に2人の心をダークサイドに引き込んでいった。

なんでこんなことになったんだ。

全ては性欲のせいである。2人は未遂でも、そもそも事に及ぼうともしていないが。

 

この事件で承太郎のグレ期は更に加速する事となった。ハナコはさらに逞しくなった。

人生、強かに生きていかなければならないのだと2人は学んだ。空を見上げて心の友よ、と妄想のテレパシーで通じ合った。

 

「………達者でね。」

「ハナコもな。」

「ばいば〜い♡ハナコちゃんなら、お嫁さんに全然オッケーよ♡」

 

嘘つけこの女。案外腹黒いぞ、優しいけれど。

タクシーのドアが閉まる。

ハナコは精神病院までお願いします。と、ぐったりした顔で運転手に頼んだので、とても心配された。車が発進すると、承太郎と聖子の姿が遠ざかっていった。

これで空条邸ともお別れとなると少し寂しい気がした。久しぶりに、危険とはかけ離れた世界を堪能したので、ハナコは、少しのアクシデントもそっと心の中に収めようと思った。

 

「おねーちゃん、大丈夫?本当に精神病院でいいのね?」

「大丈夫ですわ。お見舞いに行くんですの。ありがとう、お釣りは有りません。」

 

目的地に着き、運転手に一万円札を握らせ、爽やかにタクシーを下車した。

精神病院についたハナコは清々しい顔をしていた。

現在の気持ちとしては、さて、仕事頑張るか、というところである。まあ、昨日のことは忘れて爽やかに仕事を終わらせよう。

 

「アイお坊ちゃん…今から姉やは頑張りますのよ。」

 

久しぶりにドクラ・マグラを使う気がした。自分の姿を認識させないように霧を発生させ、病室に向かった。エレベーターを使って目的の階まで上がり、歩く。

 

ローファーの音がコツコツと響く。白い壁、白い服の人々の中にいる制服の自分だけが特別なそんな存在の様に錯覚した。私は廊下の真ん中に引かれている線をまま外さない様に歩いた。

 

少し歩くと、目的の病室に着いた。ここを開ければ奴が居るだろう。白い横に開ける扉は少し重かった。病室にはベットが2つ。一つは誰もいない。

 

もう1つの奥のベット、に彼女はいた。

ミチコは相変わらず、ベットの上に座っていた。

 

「こんにちは。ご機嫌いかがですか?今日は空も青く、暖かい風が吹き、草も嬉しそうにざわめく、いい天気ですわ。」

「………」

 

ミチコは何も喋らなかった。私の方を向くと目を見開いて、口をぽかんと開けた。驚いたような顔である。

ハナコは少しおかしいな、と感じた。催眠が続く限りは夢の中にいるように、瞳には何も映らないはずである。が、今の彼女は完全にハナコを認識して、驚いたのだ。

催眠が解けている。それしか考えられない。

しかし、驚かなかった。逆に、左唇を吊りあげた。

 

「ミチコさん、もしかして目覚めかけてますか…?」

「………ハナコ。あ、あんたヨウコちゃん達を、こ、殺したの…?なんで、私………ここに…病院……?」

 

目覚めていた。が、混乱しているようだった。

そりゃそうだ、何ヶ月という月日がすっぽ抜けているうえ、病院送りにされていたら、誰だって焦るだろうと、思った。

 

第三者から見ると、ハナコがとても性格の悪い女に見えるだろう。ハナコは自分をいじめた女が焦っている様を楽しんでいるのでは無い。

ミチコは本当に焦ってはいるが、同時に、頭の3分の1くらいは冷静に物事を捉えているらしい。右手をゆっくりと置いてある花瓶に伸ばしている。そしてそれを、ハナコは分かっていた。

 

次の瞬間、ミチコはハナコに花瓶を振り上げた。ハナコはそれよりも早く、右拳を前に突き出し、ミチコの鼻にジャブをかました。

 

「ヴ………な、なんて事するのよッ!!」

「正当防衛よ。」

「殺人鬼!」

「なんとでも言いなさい。」

 

ハナコはミチコの髪を引っ張り上げ、壁に思いっきり打ち付けた。ひどい音がした。今の衝撃でミチコの鼻はおかしな方向に向いた。

さらに、その勢いでハナコは両腕をぶち折った。周りには認識されるはずないし、監視カメラはあらかじめ電源を抜いておいた。管理室の男は今の時間は、新人のナースを最上階で犯すのに必死で、ノーマークだ。あと1時間は戻らないだろう。

ハナコはやりたい放題だった。

 

「痛い〜、痛いよ〜ッ!」

 

承太郎は、弱いものいじめはきっとしないし、彼は恵まれている分、良い人間になるだろう。でも、この女は別である。完璧な私怨だが、世の中に対する理不尽を、ハナコはミチコにぶつけた。

そして、これでスッキリ、柵や、後悔を断ち切って、エジプトでアイ坊ちゃんとDIO様に使えながら過ごそう。という企みであった。

 

「ふぅ、貴方の歯を全部引っこ抜くのもいいわ。貴方を糸ノコギリでバラバラにして煮詰めて、貴方の両親に買わせてやりたいけど、私は貴方みたいに暇じゃないから、直ぐに楽にしてあげるわ。」

 

扉の外では、急患です!という声が響いた。

廊下で白衣の天使達が走り回っているのだろうな〜と呑気なことを考えた。

それに比べて目の前の女はとても醜かった。私はたとえ、どんなに痛くても土下座して命乞いしたりしない。それは、DIOの元に仕えてから学んだ、プライドからの確信であった。ハナコはなんやかんや言って、そこら辺の女の子の様に優越感が好きである。しかし、そのジャンルがおぞまし過ぎるので、普通の女の子では無いのだ。

 

「何か言い残す事あります?」

「た、たひけてください………」

 

また、ハナコの美学の元、ミチコの遺言はアウトであった。

 

***

 

人生は見せ物

 

ハナコは任務を終えて、速やかにエジプトに帰還した。エジプトの砂っぽい感じは、妙に懐かしかった。ただ、ハエがブンブン飛び回っているのはちょっと嫌だった。

 

空港に着いたのは夜だったが、すぐにアイに会いに行きたい気持ちが止められず、無用心にも鍵のかかったスクーターにまたがり、夜の街を駆け抜けた。ただ、ハナコはスクーターなど全然乗ったことが無かったので、運転が荒い、というかガッタガタであった。三輪だった事が唯一の救いである。

 

重い門を開くと、夜にも関わらずペットショップがハナコを出迎えた。2人は仲が悪いので、ハナコは身構えたが、ペットショップは嘲笑うようにハナコを見下し、また飛翔した。

 

「夜分遅くに失礼ですが、帰還いたしました〜」

 

小声で、あまり音を立てないように館に入る。アイの泣き声は聞こえないため、良かった、とホッとした。

 

DIO様はこの時間は起きているはずだから、荷物を置いて挨拶に行こうかしら。きっと坊ちゃんはDIO様の所にいるわね。

 

素早く着替えて、おさげを編み直し、エプロンとヘッドドレスを着けてDIOの部屋へと向かった。いつも、重々しい扉をノックする時に一瞬躊躇いの様な物が心の中で生まれるのだが、今日はそんな事も無かった。

 

「DIO様、ただいま戻りました。ハナコです。」

「ハナコか。良い、入れ。」

「失礼いたします。この度は誠にありがとうございました。メイドの分際でDIO様のお手を煩わせるなど、私自身も大変おこがましい事をしたと自覚しております。本当に、申し訳ございませんでした。」

 

まずは深々と頭を下げて、謝罪する。

これは本当に有り難いと思っている事だし、申し訳ないとも思った事なので、素直な気持ちを込める。

 

「良い。任務については滞りないか?」

「はい。」

「ならば、褒めて使わそう。」

「有り難き幸せ。………あの、ところでなのですが、坊ちゃんは?」

「隣で寝ておる。」

 

ハナコは心臓が飛び出しそうになった。

な、なんて事を。いつのまにかそんなに仲良くなっていたのか2人は………DIO様、アイ坊ちゃんに興味なさそう…というか、鬱陶しく思っていたのではないの?まさか、こんなに仲良くなっているなんて………驚きだわ。

 

「あ、アイ坊ちゃんと親子の仲を深められましたか…?」

「勿論だ。」

「は、はへ………」

「………なんだ、父親が息子と一緒に寝るのがそんなにも珍しいか?」

「いえ、滅相も御座いません。とてもお似合いです。」

 

む、息子だと………

ハナコはDIOがアイを息子と言った事に、また驚いた。どうやら、DIOには父親という自覚が生まれたのか、アイを特別視し始めたらしい………とハナコは捉えた。

そしてDIOがアイに構い始めると、ハナコはアイの養育権を奪取される可能性がある。顔には出さなかったが、心の中で少々焦っていた。

 

「………DIO様………その、私は邪魔になりますか………?」

「言葉が足らん。」

「DIO様がアイ坊ちゃんを本格的に育てる、となると、私は必要無くなりますかね………」

 

この回答次第でハナコは、手を引こうだとか、自分の存在意義を失うとか、マイナスな考えが有ったのでは無い。

むしろDIO様が私から、アイ坊ちゃんを奪うなら、ぶち殺して財産をかっさらって石油王と結婚して悠々自適に暮らしてやる、と思った。

 

しかし………

 

「ばっ、バカな話をするんじゃあ無いぞッ!!お前が居なくなったら地獄が始まるッ!!」

 

ハナコの心配とは全くの逆であった。

 

「こいつは普通のガキじゃないんだ、成長も早いし、這い回るし!それも並の速さじゃない。ちょこちょこ動かし目が離せない、目を離すと窓から落ちる、階段から落ちるなどの危険がいっぱいだッ!お陰でテレンスが階段から転がり落ちた………」

 

DIOの勢いはすごかった。ああ、やっぱり子供を育てるの大変なんだろうな。

 

「………ホホ、ホホ、私がいないと駄目ですねェッ!」

 

ハナコは乾いた笑と、ちょっとだけ自画自賛のような嬉しさが身から出た。

 

「本当に笑い事じゃあ無いんだ、飯にも気をつけなきゃいけないんだろ、風邪も心配だし。なによりも、目が足りない………」

「ホホホホホ……」

 

どうやらこの館は思ったより大惨事だったらしい。ハナコの不在でテレンスの仕事が増える。そこにさらに、アイというトラブルのかたまりの、赤ん坊という存在が増えたのだ。老齢のエンヤに負担をかける事をDIOとてしなかった。ので、DIOがほとんどの世話をしたのだ。

 

この一週間と半、彼はほとんど趣味の読書が出来なかった。そして、遠い昔に死んだ母の姿を思い出した。父親も思い出した。母親代わりのハナコがいない今、父親である俺がしっかりするしか無いじゃあないか、と謎の使命感が湧いて来た。

投げ出すよりも、自分の父親と同じになりたくないという気持ちが勝った。

 

「DIO様投げ出さずに偉いですわ。」

「どんなに子育てが大変だとな、このDIO、あのようなクソ親にはなるものか。しっかりと息子は大切にするぞ。」

「今まで散々殺して来たのに………」

「心を入れ替えたのだ。だいたいDIOの精子から生まれたのだから、還元しただけだろ。」

「精子とか堂々と言わないでください、気持ち悪い。」

「何だとッ!欲しがる女は世界に溢れているのだぞッ!」

「前から思ってたんですが、DIO様精子臭いです、アイ坊ちゃんに悪影響ですわ…」

「黙れ、処女が。知ったような口を聞くでない。」

 

謎の使命感により、DIOはアイの事を大切に思い始めたのは確かだが、元の性格は変わっていないようだった。

そして、ハナコはそろそろ無駄話をよして、アイの顔を見たかったので、DIOの隣で寝ているというアイを見に近づいた。

 

「この一週間で大きくなったぞ。」

「ふふふ、この数日で大きくなるのなら苦労しませんわ。ハイハイからいつ立つようになるのかしら………」

「そういえば昨日立ったぞ。」

「は?」

「だから、立ったって。」

「え」

「立ったんだ!」

「分かってますわッ!」

 

驚いた。

アイはまだ、生まれて4ヶ月くらいだ。赤ん坊は生まれてから立つまでは1年前後。8ヶ月も早く立つなんて………どれだけ早く成長するんだ…

もしやこのままぐんぐんのびたら、2歳くらいなのに小学1年生くらいの体とか………中身と体がガチャガチャになるのではないか…

 

とても心配だった。

もちろん、アイを愛しているが、そうなれば、世間から見たらアイは化け物扱いされるであろうと思った。物凄く頭の良い子であれば、飛び級して学校に入れるかな………とか、ハナコは母親特有の先の先ことまで考えてしまう、あの思考を展開していた。

 

「み、見せて下さい。」

「ほれ。アイ、ハナコだ。」

 

DIOは布団を少しまくった。

アイはすやすや寝ている。が、明らかに大きくなっていた。成長のスピードがどうとか、ハナコにはよく分からなかったが、確実に大きくなっている。

そして成長に関して、1番心配に思っていた事を問いかけた。

 

「DIO様………まさかですけど、もう血を飲むようになったとかありませんよね?」

 

1番の心配はこれである。

もしも鮮血を好むようになったとしても、輸血パックなど、合法的な血は手に入るだろう。しかし、DIOの側にいれば、生きた女を殺して与えられるなど、悪影響極まりない、将来が心配になるような食べ物を、与えられているかも知れない。ハナコは心配だった。

相当ハナコは怖い顔で睨んでいたらしく、DIOはちょっとびびっていた。それに、明らかに目を背けていた。

 

「………まあ、そりゃ人間好みがあるだろ。」

「血、飲むんですか?」

「いや、まあ、血………血は飲むな。うん、飲んでた。」

「ア?」

「いや、ちょっと目を………離した時に。」

「目を離したですってッ!?」

「いや本当に、1分だ………」

「何を、していたんですか………???」

 

ハナコはDIO横髪を引っ張って、顔を引き寄せていた。怒れる母は怖い。ハナコは普通でないの女なので更に怖かった。全身から吹き出す殺気というか、圧が半端では無かった。

 

「………雀、を食べていた。ボリボリいってた。」

「エ、お肉もですか?」

「これは俺の仮説……というか、血を好むなら輸血パックやらそういうのを入手すれば良いし、合法的に解決するさ。だがな………その…」

「何なんですか。早く言え、10回りくらい離れた娘にビビるなんて感情なしめ。」

「ウ………その、血だけじゃ無くて、肉も欲しがるんだ。だから、その中間って事でローストビーフを与えた。」

「ナイス。」

 

ハナコは雀なんか食べてお腹を壊さなかったかしら、と思った。血と生肉を好む事は全く問題視しなかった。そして、案外DIOは父親だった。

DIOとハナコは夫婦の様であったが、まともではなかった。それとお互いに生きるのに必死で、恋愛もクソも無かった。

 

「怒っているのでは無いのですわ。ただ心配なだけ。」

「その心配は、いつかこのDIOを滅ぼしそうだな………」

「なぜ?父親を殺したらアイが悲しむわ。ホホホ、安心していいのです。貴女はアイ坊ちゃんがいる限り、私に守られているのですわ。ホホホ………」

 

DIOはハナコの異常性が加速していると感じた。

日本という人を殺したら暗がりに逃げなければ、社会的な死が訪れる平凡な環境から、今はスタンドを使えば簡単に殺人を犯せる環境にいる。

殺人というものにあまり抵抗がない女がこういう世界に来ると、手段としてトンカチやナイフを振り回して人殺しをするようになるのだな、と思った。

 

「ふふふふ………アイ坊ちゃんの為なら何でも出来るわ…ふふふふ………」

「お前、大丈夫か?」

 

元気に狂っていたハナコだが、だんだん様子がおかしくなって来た。

 

「うううう………アイ坊ちゃんに嫌われたら、私を好きでいてくれる人が居ません………グズグズ…」

「おいおいおい、何で泣き始めるんだ。心配しなくてもあと10年は独り立ちしないだろ…」

「ううう……日本で完璧な母親を見てきてしまった………もう胸を張って親代わりですって言えない………」

「父親が吸血鬼の時点でその方面は心配しなくていいと思うぞ。」

「ううう……殺人鬼に育てられたのでウチの会社駄目ですって言われたらどうしよう………」

「なんの話してるんだ………」

「DIO様ももっとアイ坊ちゃんを大切にしてあげろよ……うう…」

「めんどくさすぎるだろ………」

 

DIOはハナコのウザ絡みを鬱陶しく思ったが、こいつにもこんな時はあるんだなと思った。

愛に飢えた女なので、支えがないと生きていけない。アイは現在進行形で脳味噌にドラックとして働いているのである。

確かに、スタンドを使える時点で意識は強いだろうが、17の娘には色々とアグレッシブな人生だったのかな、とDIOはハナコを慰めてやる事にした。

 

「ううう………泣きたい。泣いてる。」

「よしよしよしよしよしよし。」

「DIO様、慰めるってよしよし言えばいいんじゃ無いんですよ。」

「めんどくさいぞ。」

「………優しくて下さい……愛されたいんです…頭撫でて欲しい……優しい家族の元に生まれたかった……変な所まで生き延びてしまった………うう………」

「分かるぞ、俺の父親も酒癖が酷く、母は過労で死んだな。」

「ううう…DIO様優しい……お酒飲みたい……」

「少しだぞ。」

 

ハナコにDIOは飲みかけの酒を渡した。が、ハナコはその横のボトルをひったくり、ラッパ飲みした。凄い勢いで飲み下した。ほぼ、浴びるように飲んだので、酒が漏れて服が濡れた。

 

「オイ、高いんだぞ。」

「クククク……美味しい。思ってたより甘い……苦いって、聞いてた…」

「お前が思ってるのはやっすい缶ビールだろ。」

 

ハナコは、DIOの上から降りて危なっかしい手付きでアイを抱いた。それから踊るようにフラフラ回転し、いつのまにか設立されていたアイのベッドにアイを移動させた。

 

「ククク………熱い。」

 

カラカラ笑いながらスッポンポンになった。そのまま戻ってDIOのベッドにダイブし、大きく揺らした。

月明かりが照らし出す、シルエットは女性のものだが、腹筋が割れて筋肉が多くついていた。

高い身体能力を兼ね備える女なので、納得の体だろう、シックスパックがあった。しかし、男性ほどの厚みは無く、DIOから見れば、折れそうな体だった。

 

「何…見てん……」

「お前酔ってるぞ。服を着ろ。風邪ひくぞ。」

「酔ってらい。」

「酔ってる。………何?こんな、ムキムキ、の女の子は、隣に置ぐおも無理なの……?」

「もう少し柔らかそうな方が好きだ。」

「そ。」

 

ハナコは日本的な顔をしていた。ザ、アジアンビューティという切れ長だが、つり目か垂れ目か微妙な眼で、化粧っ気がなく、白く、に太もも辺りまで黒髪が伸びる。彼女の顔のチャームポイントは、厚くぽってりした唇だと思う。

 

「………………フヒヒヒ…」

「お前の顔は日本でもモテるのか?」

「全く。気味が悪い女ですから…外国ならモテます?」

「モテそうな顔してる。」

「ふふふふふれしい。」

「何笑ってるのだ。」

「えへへへへへ、DIO君どこでもセックスだねふふふふふ」

「バカにしてるな。」

「ククククク……ふひっ」

「何がおかしいんだよ、バカくくくく」

 

その後2人は謎の笑いなら襲われ、朝まで酒を飲み続けた。

ハナコはDIOに、少しだけ仲間意識を抱いた日であった。ハナコは今日、急に泣き出したり酒を飲み始めたり、情緒不安定だったが、今は少し落ち着いた。

 

「今の今まで見せ物みたいな人生だったけど………」

「だったけど?」

「今日変われるわ、変わる気がする。」

「「ハハハハハ」」

 

2人は大声で笑い合った。青春だった。

 

 

 

 

 

 

「馬鹿言え、クソみたいな人間はそう簡単に変わらんさ。」

「死ね。」




ハナコのクソどうでもいい話 いくつかわすれた

自分はクラシックとか好きだろうと思っているけど、聞いたことないだけで、本当に好きな音楽は、何言ってるか分からないくらいのゴリゴリのヘビメタ。
クラブとか行ったら、実は「こんな所行く機会もう無いわ」って思ってバンバンヘトバンかましちゃうタイプの女です。

うりゃーーーーーーーー☆


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第13話 花京院典明君

花京院君の話 その①

 

エジプトの巨大市場の混み具合は、凄まじいものである。

ガヤガヤと人が雪崩込み、転んでしまおうものなら、踏み潰されてペシャンコにされてしまいそうだ。

168センチと日本人女性にしては、少し大きな方のハナコでも押しつぶされんばかりである。目の前に人の顔がありすぎて、視覚情報が丸と目でゲシュタルト崩壊だ。こう、たくさん同じような物があると、単純化して見えてくる。これは彼女独特の感性なので、あまり理解されないだろうが、彼女にはそう見えるのだ。

 

こう言う人の荒波で立ち止まるのは、後ろがつっかえるのであまり良くない。ドミノ倒しみたいになったら洒落にならない。

しかし…

 

「ア、可愛い。」

 

………ハナコはアイに似合いそうな子供用の服を見て、ついつい足を止めてしまった。

可愛いものを見つけた女子は単純だって良いじゃ無いか。

まァ、単純に動いた結果がドミノ倒しだったら、自業自得なのだがね。

 

「ア、失礼ッ」

「ごめんなさいッ」

 

やはり、後ろをつっかえてしまった。ドミノ倒しとまではいかなかったが、後頭部に後ろの方は鼻をぶつけてしまったのでは無いだろうか。そんな感触がした。痛かったら申し訳ない。それに、子供服をもう一度しっかり見たらそんなに可愛くなかった。

 

「ごめんなさい、私がよそ見を……」

「いえ、僕が…」

 

咄嗟に、ぶつかった方を見た。

 

「アラ……」

 

なんと、ぶつけてしまった相手は学生服を着た、日本人の青年だった。

エジプトに旅行に来る日本人なんて少ない気がするけど…家族旅行かしら?なら、すごい家族である。珍しい…修学旅行は流石に無いだろう。

また、ハナコも男の子もお互いにびっくりした。まさか日本人に会うなんて、と。

 

「こんにちは。」

「こんにちは、君日本人?」

「ええ、そうよ。高校生?家族旅行?」

 

逆方向に行くわけでも無いので、進みながら話しかけた。ハナコより10センチ程背の高い、緑がかった色の学ランを着た男の子だった。

 

そして彼は、ハナコに話しかけられて少し、ホッとした表情をした。

まるで、「助かった〜」とでも言いたげな顔だった。

一瞬、「困っている人」に話しかけてしまったのかもしれない、と思った。声をかけた事を、少しだけ後悔した。

道案内してくれと言われて、簡単にするほど………いや、出来るほど、エジプトの市場は優しく無いと知れ。

 

ハナコは他人から頼られることが、あまり好きでは無かった。

 

が、まァしかし………最近、日本人に会う機会もなったので、快く助けてあげよう。旅の思い出がキツい日本人の女に会った、ではかわいそうだ。そう考えた。

 

確かに両親の姿が見えない。こいつ絶対迷子だぞ。

 

「高校生です。家族旅行です。」

「そうなのですね。」

「君も高校生?」

「そうですわよ。」

「あの、突然で申し訳ないですが、パピルスっていうお店、知ってますか?」

「パピルス………あの、つかぬ事をお聞きしますが、もしかして……迷ってます?」

「分かります?」

 

その辺りで、1つ思った事があった。

 

おっと…この子、もしかして結構変な男の子だったんじゃないか…?

家族旅行なのになんで学ランなの……

 

内心、「なんだこいつ」と思った。

家族旅行で学ランは、さすがに無いだろう。また、先程の質問もなんだか気に食わなかった。素直に「そうなんです」と答えろよ、とツッコミを入れるも、小さな事なのでスルーしてあげよう。普通に助けてあげる事にする。

 

ファッションセンスのことを話題に挙げるのなら、ハナコの職場には、ヴァニラ・アイスという最強のファッションリーダーがいるので、学ランごときスルーしてやろう。

 

「分かります。」

「人混みに流されて親と離れてしまいまして………集合する約束の店も、どこにあるのかわからない状態でして……かなり歩いてしまいました…」

「助けて欲しいんですね?解りましたわ。」

「ありがとうございます。」

「というか、パピルスは今さっき通り過ぎましたよ。」

「エ」

「斜め後ろの旗が立ってるお店ですわ。」

「ア、あれか。」

 

彼は素早くありがとうと言いながら、人の流れに逆らおうとした。が、馬鹿みたいに人が多いので私の隣から全然動いていない。

ハナコなら人を無理やりかき分けて進むけれど、彼は人をなるべく不快にさせないように進もうとしている。なんだか、日本人の推しの弱さが甲斐見えた気がした。

 

それと同時に、自分の我が強くなった気がして、ハナコは軽くショックだった。

 

「迂回なされますか?」

「いや、平気です。」

「どこが。」

「本当に平気なんです。場所を教えてくれてありがとう。」

「いいえ。良い旅を。」

 

さて、君はどうやってこの人混みをかき分けるのかね。ゆっくりしていると、どんどん店と離れていくよ。もう5mくらいは離れているし、やっぱり迂回する道を教えてあげようかしら………

 

男子高校生の奮闘をバカにしつつ、迂回路を教えてあげようと、彼の肩を叩こうとする。

その次の瞬間、ハナコは目を疑った。

 

「………スタンド…!」

「見えるのかい!?」

「………貴方、スタンド使い…メロンみたい…緑の…」

 

男子高校生はなんと、スタンドを出していた。

彼のスタンドから出た、紐の様な物が目的の店の看板に巻きついている。スタンドに引っ張ってもらい、道の端の方に出た。スタンドを先行させ、自分が通りやすいように道を作る。そのまま、店まで引っ張って貰う要領で、着々と波を逆流していくのであった。

 

そして何故か、ハナコは彼にがっしり腕を捕まれていた。ハナコは「エ、なんで私連行されてるの??」と疑問だったが、彼は「やっぱり、見える人はいるんだ、僕だけじゃ無い!」と興奮気味に話しており、すこし怖いので刺激しないようにそっとしておいた。

グルンッ!と、勢い良く彼の顔がハナコに向くのは、彼女曰く、軽くホラーであったそうな…

 

「ねえ、君もこの子が見えるよね?」

「見えます、見えます、見えます。」

「やっぱりそうだ!僕だけはおかしい人間なんかじゃあ無かった!」

「よよよよ、良かったですわね。」

「本当によかったよ!とても嬉しい!ア、君も同じような能力を持っているの?見える人に初めて会った……君の周りにも見える人はいるの、ああ、さっきスタンドって言ってたけど、それって僕の友達の事?ア、友達っていうのはね、ハハハ、それは気にしないで。それより、業界用語みたいに、この力の総称はスタンドって言うのかい?ねえ、君の力も見せてくれないかな?」

 

男子高校生は、火がついた花火みたいに喋り始めた。オタク特有のアレである。そして、無駄にキラキラした目をこちらに向けてくるのやめろ。新社会人みたいな眼差しやめて。

ハナコはいきなり腕を掴まれて、謎の強制連行に遭っている上、凄まじいマシンガントークを浴びせられて何がなんだかわからなかった。もちろん、彼の質問に答えることはできなかった。そのかわり、

 

「………………んひぇ」

 

と、口から変な声が出た。

話しかけた日本人が、想像以上にやばい奴だったので消費税分くらいのショックとともに、インパクトが凄かったのである。

あと「早口で話す人は、友達が少ない」という人生経験から、この男の子は友達が少なそうだと思った。

 

「あ、ごめんね。」

「………いや、こちらこそ、言ってる事の99割くらい聞き取れなくてごめんあそばせ…」

「本当にごめんなさい…僕だけ興奮してしゃべりまくってしまって…すみません。」

「ホホホホホ………エ、で?ご両親は?」

 

パピルスに到着したのはいいが、彼の探すご両親の姿は無かった。おそらくまだ、着いていないのだろう。

 

「アレ…まだいないみたいだ。」

「………店の前で待つのも…ここ狭いですし、入るお客さんの邪魔になりますわね。入ったら如何ですか?」

「いや、その、」

 

言葉を濁された。店の外に置いてあるパネルの料金をチラリと見たり、目に見えて焦っている様子から、ハナコは瞬時に彼の立場を察した。

 

「………………………おごりますから、お入りなさい。」

「本当に申し訳ございません…お金は必ず、お返しします………」

 

彼は相当変な奴だし、なんかとてもめんどくさい雰囲気だったが、ここまで助けて中途半端に見捨てるのもなんだか嫌な気分になるので、ハナコは懐を広くして彼を店に引っ張り入れた。それに、彼は、初めて自分以外のスタンド使いに会ったのか、興奮している様子だ。また、とてもハナコと話がしたそうでもあった。

 

同じスタンド使い同士、ちょっとは助けてあげても良いかもしれない。と考えたのは事実だが、ハナコは同時に最近マライアから教えられた言葉を思い出していた。

ふっと思い出した言葉であったが、ハナコが目の前の男子高校を助けるのに、十分な理由であった。

 

「お財布、無くしてしまったのですか?」

「財布を…ホテルに忘れてまして……特に買いたい物も有りませんでしたから…親も居ましたし…本当に申し訳ない。」

「………そんな日もありますわ。なに、一食くらい奢ってあげても私の懐は寒くなりませんから、安心してくださいまし。」

「………いや、本当に大丈夫です、すみません…」

 

マライアは最近、ハナコに男のイロハを教え込むのにハマっていた。その中で、マライアが言った言葉がある。「たまに、純粋にバカがいるわ。そいういう奴ってのはね、助けてあげると、すぐにこちらを信用するのよ。利用できるわ。」というものがあった。

 

ハナコはその時、正直よく分からず、話すたびに揺れるマライアの胸ばかり見ていた。が、目の前の男子高校生がバカっぽいので、マライア尊師から教えて貰った、「今後に役立つ男の確保、初級」を実践してみようと決心した。

 

好きな人の言うことは、実践したくなっちゃうお年頃である。

 

そして、ホテルを聞き出したら誘拐して、上手いことDIO様の審美眼の御前に引っ張ってきてやろう。最終的にハナコの功績でDIO様の部下が1人増えたら、この話をネタに、マライアに褒めてもらうつもりである。

 

マライアはドSなので、最近、ハナコを安易に褒めるより、焦らす事にハマっていた。ハナコは何気に下半身の欲望に忠実なので、そのワナにハマり、一生懸命、褒めてもらえるネタを探していたのである。

 

「ホホホ、なんだか、私に聞きたいことがあるようですし…もう家に帰るだけですから、少しくらいお話しても大丈夫なんですの………」

「ほ、本当ですか?本当にありがとうございます…」

「私も同年代スタンド使いとお話出来て、とても嬉しいもの。」

 

真っ赤な嘘である。

 

***

 

花京院典明君の話 その②

 

「私は山田花子です。お名前は?」

「花京院典明です。」

「おいくつ?」

「17歳です。」

「1つ年下なのね。何か質問あります?」

「いつ、能力が使えるようになりましたか?」

「1年前です。」

「へぇ………どんな力が…それとも力の種類はみんな同じ…?」

「いえ、スタンドというモノは、精神の具現化なうな物ですので、1人1人違います。私のスタンドのフォルムは赤ん坊の形をしています。」

「…そうなんですね…はぁ…へぇ…」

 

ウェイトレスが注文した品を運んできた。私はお腹が空いていたので、おっきいチキンを頼んだ。中に米やら色々なものが詰まっているらしく、美味しそうだ。あとは、食後にスイーツを頼んだ。

 

「すみません、適当に頼んでしまったのですが、これで大丈夫でしたか?」

「いえいえいえ、僕は…」

 

そう言っている典明君のお腹は、さっきからだんだんうるさくなってきているけれど。ハナコにはお腹が空いている人を見ると、いつも、少しかわいそうになってくる、謎の気持ちがあった。

 

「体は素直なので、しっかり食べましょうね。嫌いならいいですけど…他のものを頼みますか?」

「………イタダキマス…」

 

大人しく食べ始めた。

彼は大袈裟に焦ったり、狼狽たりしないタイプであるが、承太郎君のように、たまになに考えているか本当にわからないタイプでは無いらしい。好青年のようだし、ハナコは承太郎と話すよりずっと気が楽だった。

 

「1つ、注意的なのですが………スタンドを使うのは良い人ばかりではありませんので…私が今まで見てきたスタンド使いは、どちらかというと野蛮人や、闘争心の強い者のスタンドばかりですわ。」

「………なるほど、ある程度精神力のある者でないと、スタンドは使えないのですね。」

「そういう事ですわ。」

「例えば、どんな能力者が………?」

「…そうですね、レーザービームを出したり、筋肉質なスタンドでパンチしたり…氷とかを生成したり………ア、全てが攻撃的なという訳ではありませんよ。」

「なるほど。殺されてもおかしくない事もあると……」

 

典明君はなかなか飲み込みが早い男の子であった。今まで自分しかスタンド使いを知らなかった割には、スラスラと理解していっている。

 

「…それで、ハナコさんのスタンドは、赤ん坊の姿をしているそうですが、それは、「戦闘向きでは無い」にカテゴリーされるということですか?」

「………さぁ?環境に左右されますから、どちらとも言えません。」

「なるほど、ご職業は…高校生?ですか?」

「年齢的には高校生ですが、今はとある館の使用人として働いています。」

「ハナコさんの周りにも、スタンド使いの方がいらっしゃいますか?」

「マァ、理解のある方はいますね。」

「……ちなみに、エジプトに来たのはいつごろ?」

「約一年前ですわ。」

 

ハナコ自ら、質問に受け答えする形式に会話を設定したが、もともと質問攻めが大嫌いなタチなので、後悔し始めていた。

 

「へぇ……話が少し戻ってしまうんですが、戦った事とか…あるんですか?」

「スタンド同士の戦いに興味がお有りで?」

「僕もスタンド使い、ですので…」

「ご想像にお任せします。」

「どうやって倒したんですか?ア、能力を聞くのは、もしかしてタブーなんですか?」

「………秘密にしたがる人も居ますけど…私は貴方に隠しても何のメリットも無いですが…」

 

また、ハナコは花京院の質問に疑いを持ち始めていた。

この男は自分を疑い始めているのではないか、と思い始めた。知らない人について行だちゃあ駄目だよ。というのは何歳になっても変わらない事である。

 

ハナコのどこが怪しかったのかハナコ自身には分からなかった。しかし、質問はハナコを探るようなものに変わっている。少し、怪しまれているようだった。

怪しい人に警戒するのは当たり前の事だ。

今目の前にいる女は、もし、スタンドを悪用した殺人鬼だったら………?そこまでいかなくても、犯罪者だったら、どうしようか。

花京院の頭を締めているのはそんな事だろう、とハナコは推測する。

 

「………………あの、大変失礼なのですが、ハナコさんは随分、戦いを想定した考え方をしていらっしゃいますよね?」

「どうしてそうお思いで?」

「………そうですね、根拠は色々ありますが…」

 

確実に勘付かれていると、確信した。

 

しかし、ハナコは、花京院に自分が「戦闘慣れした女」であると言うことを勘づかれた事を、深く考えている訳ではない。

別に、警戒されるだけで終わるかな?と思っている。

 

さすがに、私の態度も胡散臭すぎたし、そろそろ質問攻めも飽きたし、彼の母親と父親がここに来るまで、ドグラ・マグラで軽く催眠をかけてしまおう。そこから少し記憶を飛ばしてもらって、ホテルを特定したら、夜に誘拐しに行く。このプランで行こう。

と、初めて自分以外のスタンド使いに出会った花京院を、ハナコは舐め腐っていた。

 

「………良くお気付きで。まァ、エジプトにいる女子高校生なんてお察しですけどね。私を、怪しいと思わられていますか?」

 

別に、私が戦う事を経験しているスタンド使いだとバレても、典明君は少し警戒しておこう、ってくらいにしか考えちゃあいないだろう。冷静に取り繕って、内心ではびびってるんじゃ無いかしら?

自分からスタンドを使う可能性は低いし、私がどんな能力かも知らないまま動くほど、大胆な事はしないだろう。初心者なのだから。

 

ハナコはそう考えた。格下の存在として見下していたのである。

 

「………失礼なのですが、確かに、怪しいな、とは思ってしまいました。……………ですが、僕は貴方に恨まれるような事はしていないし、攻撃される理由はありませんよね?」

 

花京院は予防線を張るように、ハナコに尋ねた。ハナコはそろそろ動こうと思った。すでに、皿の中の肉と飯は、ハナコの驚異的な食事のスピードで完食された。

御馳走様をして、今度は目の前の男の相手をしようと思った。

 

「そうですわよ。」

 

ハナコの唇が釣り上がった。

そう言いながら、素早くスタンドを出現させる。催眠の霧を発生させるためである。

 

「ナ…」

 

花京院は目を見開いて驚き、ハナコに手を伸ばした。しかし、それよりも早く手に持っていたフォークを、黒い赤子風船に振り下ろした。

 

「私個人には理由は無いのですが、ご主人様にはあるらしいのですわホホホホホ。」

 

ハナコは小さめに高笑いした。勝利は確実である。

これでマライアお姉様に褒めてもらえるのは確実ねッ!と。心の中でガッツポーズをした。

 

けれども、フォークは寸の所で、黒い赤子風船に届いていなかった。全身に力を込めるが、体がビクともしなかった。

 

「ハイエロファントあんまりキツくしちゃ駄目だよ。」

「な、何……こ………声も、出せ…ない………く…」

「………あんまり、こういう女性を貶める事は趣味じゃないのだが…」

 

スタンドも出せなかった。また、喉あたりに物が詰まったような息苦しさがあった。

そういえば…

ハナコは気づいた。目の前の男は、スタンドに話しかけているのにスタンドは花京院の隣にいない。そして、ハナコは先程から、体内で何かが這い回っている感覚に侵されていた。

 

「スタン、ド………私の、ナカに……」

「そうですよ。貴女は相当、自分のスタンドに自信があるようでしたから、早めに仕込ませていただきました。怖かったんですよ。すみません。」

「‥ア、アァ、入ってるッ………」

「僕のスタンドは、狭いところが好きなんです。」

「気持ち、悪い…体の中を、巡る、なん、て…このッ、へ、変態ッ!」

「心外だし、何か変な事をしている風に聞こえるから、やめてもらえますか?」

「………ア"ア"ア"ア"ア"」

 

内臓を掻き分けて、体の狭いところを通られている様な、なんとも言えない、気持ち悪い感覚であった。そして、だんだん声も出なくなっていった。

ハナコの目は苦しさで血走っていた。しかし、体も動かせ無いため、静かにもがいた。

 

「………僕に何かする理由は、ハナコさんには無いそうですが、貴女の主にはその理由があるのですね?両親も流石に着く頃だと思いますし、ハナコさんの存在は少し紛らわしいです。…かといって、殺害なんて、普通の高校生の僕には出来ませんし。危害を加えられても困る。なので、しばらくこうしたまま、僕から離れないようにいて貰います。」

「んんんんん!」

「心配しなくても、少し距離が離れたら解放しますよ。」

 

ハナコは、まるで、同人誌のようなスピードで返り討ちに遭い、その瞬間から、会ったばかりの男子高校生にいいようにされる一日中が始まるのであった。

 

まるで、「マサガキにモブおじさんがお仕置き」する同人誌のように、返り討ちに遭った馬鹿お姉さんハナコは、白目を剥きながら、お会計を済ませるのであった。

奢らされるうえに、体の自由を奪われるという、最悪の展開である。

同人誌の通りなら、このまま路地裏に引き込まれて、年下男子高校生にレイプされるところだったが、この小説はエロ同人誌では無いので、ハナコは事なきを得た。

 

 

 

「クソガキッ!絶対殺してやるッ!!」

 

To be continued




今回は特になし。
個人的に、花京院は変人だと思っています。
個人的な意見です。


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第14話 愛

花京院典明 ③

 

「おかしいと思っていましたよ、私だってッ!」

「はいはいはい、貴女最初から胡散臭すぎたんですよ。」

「だってッ!全然チョロいと思ってたんですってッ!」

「それを慢心というのですよ。」

「クソッ………殺してやる…」

「いい能力のスタンド使いなら、貴女の能力で引っ張って来なさいな。」

「内臓の隙間を、管みたいな細いものが這い回るあの気持ち悪さ………許せないわ…」

 

あの後、ハナコはボロボロになって帰って来た。そして、あまりの惨めさから、今、テレンスに泣きついているのである。

 

日本から家族旅行に来た男子高校生、花京院典明にスタンドで体を操作され、数時間放置されたハナコは、脱水症状を抱えて館に戻ったのだった。

少し休み、現在体調は回復した。

そして、思い出す失態の数々…恥ずかしくて、悔しくてたまらなかった。また、その理由が、自身の慢心ということも、原因であった。

 

しかし、1番悔しいのは、花京院の用意周到すぎる対応である。戦闘初心者に出し抜かれたのが気に食わなかった。ハナコの脳味噌は、餌に入れ食いする鯉のように、荒立っていた。

 

「どうしてあんなに迅速に対応出来たのかしら………スタンドを出現させてからのスピードが流石におかしすぎる…」

 

この女は、案外物事を追求するところがあるので、府に落ちない点には敏感であった。つまり執念深いのである。

 

確かにハナコは、胡散臭くて、「この人犯罪者なんじゃ…?」「エ、何でこんな死線潜ってきたような事話してるの?」と、ちょっと関わってはいけないギャングの様な雰囲気を漂わせた語り口をしてしまったが、いくら何でも花京院の対応の早さは異常だと考えていた。

 

あの時、ハナコがスタンドを出現させて、フォークを振り下ろすまで、3秒もかからなかった筈だ。3秒で緊急事態に対応出来る人間なんて、特殊な訓練を受けてる人間でもなけりゃあ、絶対無理な筈である。ハナコはそう考えていた。

 

「………ハナコさん、1つ私が考えた事を話しても良いですか?」

 

テレンスが紅茶を差し出しながら言った。

 

「是非、お願い致しますわ。私、もう奴をDIO様の毒牙にかけてやらないことには、腹の虫が収まりません。」

 

ハナコは、いつもの冷静沈着な姿とは程遠く、とても苛立っていた。その原因は、女性特有なモノであるから仕方ない。

ハナコの月経症候群は普通より重い方であるが、いつも立場をわきまえて、人前では冷静を保っている。しかし、今回の事件で、自らの平和ボケしたような慢心を自覚し、イライラに拍車がかかっていた。

 

「DIO様の毒牙…それ、ヴァニラの前では言ってはいけませんよ……………コホン、1つ思うのですが、ハナコさんが目をつけたその少年、最初からスタンドを仕込ませていたのではありませんか?」

「………エ、どういう事ですか?」

「だからですね、その少年はそもそも仕込むだけで害が無いなら、スタンドを最初から仕込ませておいて、万が一にも誘拐やリンチに合わないようにと予防線を張っていたのでは無いですか?」

「………ア、たし、かに。」

「ハナコさんが出現させたから、彼もスタンドを出したという認識から間違っているのでは?申し訳ないですが………初手と王手もとっくに取られていたということですね。」

「くうぅぅぅう…」

 

テレンスの言い方は、少々馬鹿にしている感じが含まれているが、本当のことなので、甘んじて受け入れた。

 

確かにそれで辻馬は合う。

ハナコは「どうせ私の能力で強制的に従えるんだから、少し犯罪者っぽくても楽勝。」と馬鹿みたいな慢心をしていたが、花京院は「ここで誘拐でもされたらたまったものじゃない」「やられる前に予防線だ!」と言う考えの元、己の能力でしっかりと対策をしていたのだった。

 

「アァ………そりゃあ異国の地で怪しい女に言い寄られたら、対策しますわ……」

「でしょう?彼はきっと、怪しいと感じ始めた辺りから、バレにくいというスタンドの特徴を活かして、自己防衛策を練っていたのですよ。」

「つまる所、私の敗因は………」

「やはり慢心。」

「………………っううううぅぅぅぅ…」

 

机に突っ伏して声にならない声で叫んだ。テレンスは、あまり見たことの無いハナコの年相応な姿に、この子もまだ子供なのだな、と思った。

 

どんなに考えても、やはりハナコの敗因は慢心であった。

ハナコは、腑抜けた精神に自分自身で嫌気がさした。最近は荒々しい戦闘も無かったせいか、よく切れる中華包丁の様な鋭さが失われつつある様な気がして不安になった。

 

………余談であり、個人的な会見だが、ハナコの鋭さはナイフの様なチマチマ切るものではなく、中華包丁や鉈の様な一刀両断という類の案外豪快な物であると思っている。

 

「………自分自身が許せません……人を殺さないといけないと思いました。」

「相変わらずのぶっ飛び思考ですけど、確かに最近は穏やか過ぎましたね。少し分かりますが、平和が1番ですよ。私も人形のコレクションが3体も増えてほのぼのしてます。」

「私、DIO様に稽古でも付けてもらおうかしら……」

「やめた方がいいですよ。」

「冗談です。」

 

ハナコは更なる強さを求めて、自らを追い込む作戦で行こう、と考え始めたのであった。

また、本日悔しい思いをした花京院チャレンジだが、今度は主であるDIOにチクるという形で、完遂させようと考えるのであった。

 

***

DIO様に告げ口する話。

 

「………確かに、面白そうな能力者ではあるな。」

「はい、本人の判断能力も凄まじく………ゆ、有能な部下になると、思い"ま"す"。」

「……お前を一杯食わせるだけの能力者ならば、十分だろうな。」

「不甲斐ない私をお許しください…」

 

ハナコは、DIOに対しては、「一応」下手に出る。

一応上司であるし、リストラされない為にも敬う心は少しばかりでも必要だと考えていた。また、アイが最近DIOに懐きつつあるので、アイの前で機嫌を損ねたくないと言うのも理由であった。

 

「パパ、姉やを、いじめちゃ、め!」

 

頭を下げるハナコを見たアイは、DIOの頬をペチンと叩いた。

 

「虐めちゃあいないさ、アイよ、ハナコは私の大切な部下だからな。」

「なら、よいぞ。」

「少し生意気になってきたなあ?誰に口を聞いていると思っているのだ?」

「姉や〜!」

「………まだ言葉が難しかったか…」

「姉やがいい!だあっこぉ〜!」

 

DIOの腹の上で暴れるアイは既に4歳位の姿になっていた。言葉も達者になり、文字の読み書きも覚え始めた。

ハナコの予想通り、成長の速度は徐々に増していき、食べ物も完全に獣や人の生肉と血となった。

 

「お呼びだ、ハナコ。」

「はい、坊ちゃんハナコが抱っこしてあげますよぉ。」

 

アイが、吸血鬼と人間よ中間の生き物であるという認識は、主に食べ物などからである。

アイは血だけでは満足せず、絶対肉まで欲しがるようになった。そこは、吸血鬼より、人間的な物を感じさせるし、何より個性が出てきた事がハナコをとても喜ばせた。

 

また、太陽の光は、浴びると廃になる程では無いが、火傷を負う程の怪我となる障害になってしまった。そうなるとアイは自然と、DIOと同じく夜行性の生活習慣になるのだった。これに対しては、ハナコはアイに構う時間が減ってしまい、とても残念がっている。

 

「姉や〜!」

「何ですか?」

「大好き!」

「私もですわ。アイ坊ちゃんの事1番大好きです。」

 

アイとハナコが一緒にいる時間は減ってしまったが、それでも殆どの世話を焼いているのはハナコであり、アイが母親として慕うのはハナコただ1人であった。No. 1の地位は、不動の物である。

 

「アイよ、私は?パパはどうだ?パパは好きか?」

 

そしてDIOはパパ嫌期を怒れていた。

この男、何気に言葉達者になって来たアイを好いていのである。自分の父親、ダリオと同じようなクソ野郎になってたまるかと、イクメンパパを目指して努力した結果、そこそこ息子を気に入る事に成功したのだった。

 

「パパ………パパも好きぃ〜!」

「パパ嫌期じゃないな、パパ嫌期じゃないな?」

「アイ坊ちゃんはパパ嫌期になんかならないですわ。」

「そうだな?」

「好きぃ〜!」

 

DIOは満足した様子で、ハナコの肩も抱きながらアイの頬に口付けた。ハナコの頭を軽く撫でて、彼なりの柔らかい笑顔を向けた。

2人は数秒見つめ合って目配せした。ハナコの目は本当に笑っていた。

 

しかし、こういう時のハナコは、DIOには悪魔の様な顔に見えるのだ。この女に命令されると、DIOは何も断れないような気がしていた。

 

ハナコは最近浮気性が治ったDIOを気に入っていた。

浮気性が治ったと言っても、子供を産ませたりせず、直ぐにヤったら食べる様になっただけであるが……

兎に角、アイが育ってから、腹が膨れた妊婦を殺す事は無くなった。DIOの管理不足で妊娠した女性は3人居たが、腹が膨れた女を見るとこの男は最近、何故か、軽い吐き気を覚える様になっていた。

これは実はハナコの催眠効果なのだが、それでも3人子供が出来たのは、DIOの女癖の悪さが催眠術を超えたからなのであった。

 

「DIO様……あの、花京院典明の事は……」

「……ア‥嗚呼、今すぐにでも行こう。」

「フフフ、腕が鳴りますわ。」

 

楽しそうにアイをあやすハナコを、DIOは不気味に感じた。

アジア圏の女は、童顔が多い。DIOは18歳は大人だと思っていた。しかし、ハナコの見た目は白い肌と高さの無い頭や、重めの前髪から、少女の様に見えた。

 

「お前がセーラー服を脱ぐ姿が見てみたいなァ。」

 

決してイヤらしい意味では無く、いつもセーラー服を着ているハナコは、永遠に少女であるような気がして、「大人にいつなるのか」と言う意味で、言ったのだ。

 

「子供の前でよく卑猥な言葉が吐けるな、次にそのような言葉を漏らしやがったらぶち殺すぞ。」

「やってみろ、自意識過剰め。お前の様な女に発情する男が見てみたいわ。」

「黙れ、私でマスかく男はいたぞ。」

「誰だ、名前を言え、名前を。片腹痛い。」

「誰が言うものかッ!私は墓まで秘密を持って行くと決めたのだッ!アイ坊ちゃん、パパに死ねと言うのです、し、ね、と。」

「止めろッ!止めんかッ!」

 

この2人、いつまで経ってもこんな調子であった。仲良くなったり、イチャイチャしてると感じる時…それは気のせいである。

 

***

 

花京院典明 ④

 

「典明君、貴女が虐めた女は、テロリストやスタンドを利用した人身売買組織の一員よりもモット厄介な女だったと知りなさい。」

「………」

「今度喋れないのはお前のほうよ。」

 

ハナコは花京院一家の泊まるホテルのトイレに忍び込み、ドグラ・マグラをけしかけた。風船を贅沢に四つも割り、花京院の動きが完全に止まった頃、トイレから出て花京院をベランダに引っ張り出した。

ちょうどよくDIOが現れ、ハナコと花京院を抱えて街の路地裏に連れ去った。花京院は絶望的な顔をしていた。それに対してハナコはエジプトの空を飛ぶのを満喫していた。

 

「ハナコ、スタンドを解除してやれ、あともういいぞ。帰ってアイに食事を用意してやれ。」

 

路地裏に着地したDIOは、ハナコにそう命じた。ハナコは正直、いきなり1人で帰れと言われて驚いだが、主の命令なので大人しく従った。適当にタクシーでも呼ぼうと思った。

路地裏を抜ける頃に、花京院がゲロを吐いていたのでザマアミロと思った。

 

 

ハナコが館に帰るとアイがわざわざ出迎えてくれた。

これには思わずハナコは昇天しそうになったが、なんとか耐えて朗らかな笑みを保つ。

 

「姉や、お帰り、なさい!」

「アイ坊ちゃん、お出迎えありがとうございます…はぁ、可愛い……お腹空いていませんか?」

「すいた!」

「くふふ……柔らかいお肉が食べたいですねぇ…テレンスさんに頼んで用意してもらいましょうね。その間に、お風呂を済ませてしまいましょうね。」

「姉やと入るの!」

 

アイは、無邪気な笑顔でぴょんぴょん飛び跳ねている。可愛らしい笑顔にハナコは破顔したし、柱の影にいたヴァニラ・アイスは鼻血を吹き出した。

アイはDIOに似て美しい少年へと成長しているので、廊下を歩くだけで、館に居る者達は心を奪われるのであった。そして、ヴァニラは相変わらず怖い。

 

「姉や、ね〜?」

「いかがなさいましたか?」

「僕、ね、姉や大好きぃ。パパも好きぃ。いつも、ありがとうって思って、るの、皆んなにも。」

「アイ坊ちゃん…」

「アイ様…」

「天使……」

「罪深い少年だ……」

「ヴァニラヤバい…」

「犯したい…」

 

幼い子の感謝の言葉には親の大半が涙する物だが、アイが発する感謝の言葉が繰り出すのは、涙ごときでは無い。一瞬で周囲の常人は骨抜きになり、血を吐き、ヴァニラは変態になる。

ハナコは幼い内からこんなにも可愛いアイが、将来大きくなったらどうなってしまうのかと、とても心配していた。

 

「みんなだ〜い好きぃ♡」

「くふふふふふ、早く姉やとお風呂に入りましょうねぇ…」

 

決して、ハナコはやましい気持ちをアイに抱いている訳では無い。決して………

 

***

 

DIOの息子

 

アイは本当は1歳にも満たない赤ん坊である。しかし、姿は既に、3歳か4歳ほどのしっかりと二足歩行をし、言葉を発する幼児に成長している。

何故成長速度がこんなにも早いのかと言うと、それは確実に、父親DIOの血が原因だろう。アイは他の子供と比べても、髪や顔つき、肌の色など、DIOのものをよく受け継いる。また、太陽の光を長時間まで浴びると、皮膚が火傷の様な炎症を起こしたり、食べ物も、生肉と血を好んだり、吸血鬼の生態を強く引き継いでいた。

 

それでも、中身は見た目通りの無邪気で、可愛らしい男の子であった。楽しいことが有れば笑い、嫌な事は泣き、父と乳母が好きで人見知りを少々する、男の子である。

 

「パパ好きぃ〜。」

「姉や大好き〜。」

「テレンスは、ご飯、お上手。」

「ヴァニラは……ヴァニラ……う…」

「お姉ちゃん、は、可愛いです、ね〜」

「鳥さんカッコいいカッコいいかっこいい〜!」

 

と言った具合に、言葉達者で興味を持った物には単純で、館のアイドル的存在である。

皆、アイを可愛がり、子供が嫌いな者でもDIOの息子である為、丁重に扱った。DIO本人も何気にアイを大切にしていた。そして、アイも健気に父親に気に入られようとしていた。

 

まさに天使である。

 

 

 

 

 

 

しかし、天使と言うのは間違いである。

例えば、アイが父親に対して抱いている感情は下の通りだ。

 

「初めはアイに見向きもしなかったくせに、虫のいい男よ。我が父は吸血鬼の癖に、とても人間臭い、執着心が強く、力を求めるなど、人間の極みであるな。あのような男にアイはならない。人間はどこまで行っても人間だということを知るが良い、愚か者め。」

 

………天使だと思っているのは周りの人間と父親とハナコだけである。

本当に成長が早いのは、脳味噌の方であったのだ。寧ろ体の方の成長が追いついていないくらいだ。この少年すでに野心を持ち、己がどう見られているか熟知している。

 

どの様に行動すればどう思われるか、自分の身の程をわきまえ、父を見下している。父は、分かるの者には分かる馬鹿であると思っている。カリスマ性は有るが、小心者でつけ上がり加減もいいところな男だと、アイは思っていた。

 

また、ハナコの事を深く愛していた。

1人の母親として愛しているのでは無く、将来自分の妻となる女として愛しているので、他の兄弟にハナコを取られるのはあってはならない事だ。他の兄弟が館に居ないのは、アイの策略なのである。何かしらの妨害をして、己以外の子供を館に置いておかないようにしているのは実はアイだったのだ。

ちなみに、ハナコの事を母親として呼ばないのは、詰まるところ、そういう事である。

 

「姉や〜お風呂入る!」

「ちょっと待ってくださいまし〜、アレ、髪ゴム…」

「これ?」

「それですわッ!」

「後で、結んであげるね?」

「はぁ〜、有り難き幸せですわぁ………」

「えへへへ。」

 

愛情の種類は何であろうと、真剣にハナコを愛している。

しかし、まァ、下半身は父親に似ているらしい。こいつは、生後1年のくせに、女に一緒に風呂に入る事をねだったり、添い寝したいと思ったりする。

やりたい放題である。

 

 

 

 

「僕ね〜」

「何ですか?」

「将来は姉やとねぇ、結婚するのぉ」

「や〜ん♡アイ坊ちゃんに私なんて勿体ないですわ〜!」

「本気だも〜ん!」

 

 

 

本気である。




アイちゃんの可愛い話 ②

「私でマスをかく男はいたぞ。」

おい、ハナコでマスかいた男。
絶 対 に 殺 し て や る か ら な。

アイ坊ちゃんそいつパパの宿敵ですーーーーーー☆


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第15話 まさかあいつが敵だったなんてッ!!

今回はしょうもない下ネタの回です。
ご注意あそばせ…


「ハナコよ………お前は天国を信じるか…?」

「ヤリすぎてチンコだけじゃ無くて頭も馬鹿になったんですかDIO様?」

「………天国を信じるか?」

「………信じてませんわ。」

 

DIOは飛行機墜落の報告書を片手に尋ねた。

ハナコは最近はというと、アイに構うのと、屋敷の掃除やら配膳やら死体処理やらで、主婦を優に超える忙しさに囲まれていたのだった。

 

DIO様が宿敵(?)を仕留めようと部下に指示をうんたらかんたら………は殆ど知らないが、どうやら手こずっているらしいわね、私の出る幕とか…あるのかしら。

 

ちなみに、この質問をするのは3回目である。ハナコは頭でも打ったのか?と毎度の如く思うのだけれど、DIOが、妙に真剣な顔をして訪ねて来るので最終的にはちゃんと答えてあげている。

 

この人どうしたのかしら、天国だなんて言い出して…自己啓発本でも読んだのかな…随分おセンチでスピリチュアルな自己啓発本だわ。

アイ坊ちゃんの為に、何か読んでくださったのなら良いけれど、あんまりスピリチュアルな思想は、個人的にだけれど、やめてほしいですわ…

 

「ところでDIO様…私、全くDIO様の宿敵について全く存じてございませんのですが………そこのところ大丈夫なのでしょうか………」

 

とりあえず話題を変えよう。

 

「お前はアイの世話があるだろう。万が一にも館にジョースター一行が到着する事は無いだろうが……万が一にもだ、決して無いことであるが、もしそうなっても、お前が取るべき行動は、敵の抹殺では無く、アイを守る事だからな。」

「それでも追い詰められでもしたら、私、死ぬかもしれませんわ。得意なのは奇襲ですもの。パワータイプに中心核の本体の赤子を削られたら、頭吹っ飛んじゃいますわ。せめて、判明している能力くらい教えて欲しいですわ。」

 

決して自分の能力が、パワー系スタンドを前にして役に立たない物だとは思っていなかった。

自分のスタンドは、知力と全力を出し尽くせば、どんな相手にも勝りうる、素晴らしいスタンドなのだと自負している。

そして、これは完全に女の勘なのだが、ハナコは何となく嫌な予感がしていた。

 

DIOが、宿敵だなんて大層な言い方する相手は、きっと一筋縄じゃ行かないような手強い相手に違いない。

 

DIO様が本当に雑魚だと思っているならば、もっと見下した態度で煽っていくはずだわ……DIO様、心の中では相当強敵だと感じているに違いない………かと言って引きこもりのDIO様じゃ直々に手を下しに遠出も出来ないしね。でも、信頼性の高い部下に命令を下していないという事は、ヤッパリ、焦っていないのかしら………焦っていないけど警戒はちゃんとしているってことかしら…

 

情報が無いにもかかわらず、推測したって無駄である。

 

「姉やぁ………婆ばが、忙しいって、遊んで、ないのっ!」

 

不満そうなアイが部屋に駆け込んできた。そのままハナコの胸に顔を埋めて心音を聞いていた。最近アイがハマっているのはこれである。

読者の皆様はアイの下心をご存知でしょうから、お察しください…

 

「あらあら〜、エンヤお婆様は忙しいのですから、邪魔しちゃあいけませんよ。」

「ふむ………アイもここに来た事だ、確かに、我が宿敵について、語ってやっても良いかもしれぬ………」

 

DIOはドヤ顔をしつつ、急に上から目線になった。

アイ坊ちゃんが来たから武勇伝聞かせたいのね。語りたいだけだわ。

 

「アイ坊ちゃん、お父様の武勇伝聴きましょうね……」

「ぶゆうでんって何〜?」

「私のカッコイイ話だ。」

 

遅めの「父親ヅラしたいお年頃」である。

 

「パパのぉ〜!?(弱点とか聞けるのぉ〜笑)聞きたい〜!」

「ン〜、いいぞ。………しかし時にアイよ…お前は少し単純過ぎないか、少しワルさをしてもいいんだぞ。」

「アイ坊ちゃん、変な裸族のおじさんがなんか言ってるけど耳をかしちゃあいけないわ。姉やとあっちで…」

「待て待て待てノンノンノン、話してやろうではないか………ン〜、仕方ないなァ………」

「早く話せや」

「ブチ犯すぞブス」

 

アイをハナコの胸からひったくり、ハナコの手も引き、2人をベットの上に収めた。

そこからは、DIOの自称武勇伝語りが始まった。ハナコは上司である彼に一応耳を傾け、アイは父親が吸血鬼である理由を知るチャンスかもしれないと、耳を傾けた。

知りたくも無いが、父を知ることそれすなわち、自らを知る事であると心得ている。

 

「その昔……100年くらい前だ、俺は貴族の養子になった。その貴族さジョースターと言って、クソったれ正義感を全面的に押し出す教育方針で代々育ったに違いない、貴族だった………」

 

アイはビンゴ!と目を輝かせた。父親の昔話である。

 

「へぇ………確かにそれは闇属性のDIO様にさキツイものがありますね…」

「そうだ。………そして俺には同い年の兄弟が出来た。名はジョナサン。ガキの頃は虐めぬいて、彼女のファーストキスを奪って、孤立させて、飼い犬を焼き殺したりした。俺はジョースター家を乗っとるつもりだったからな。」

「なんて計画性の無い………」

「まぁ、でもある程度成長したら、自分も力を蓄え無いといけないと気づき、いじめをやめて仲良くなったフリにシフトして、信頼を得たのだ。そして、大学生になって……ジョナサンの父に毒を盛ったがバレて何やかんやあって吸血鬼になったのだ。」

 

「嘘やん。」

 

アホかこいつ!その何やかんやの部分が知りたいんだよ、チンパンかよテメー!

アイの心境は複雑であった。

 

「パパふられたのぉ〜?(煽り)」

「アイ坊ちゃんに悪影響すぎる内容だわ。」

「ふられたのぉ〜?(煽り)」

「まぁ聞け、ここからだ。俺は吸血鬼として人間を超越したが……………ジョナサンを舐め腐っていた為に再度負けたのだ。」

「何がまあ聞けだよ」

「しかし、俺は首だけの状態で生き残っていたのだ。そこからはハネムーン中のジョナサンと妻エリナの乗る船を襲い、ジョナサンの肉体を奪い、100年程海で眠って今に至る。」

「エ、終わりですか?」

「終わりだ。勝利を収めた。これでもジョナサンの黄金の精神には尊敬の念を抱いているのだよ。」

 

アイは思わず口をぽかんと開けて、唖然とした。

ハナコは男の不器用な父親ヅラにため息をついた。また、義兄弟の肉体を勝手に奪い、女とヤリまくるというDIOにドン引きした。

なんて奴だ、と思った。

DIOの下半身の暴走を誰か止めてあげてください。ジョナサンを哀れに思ったハナコは、天を仰ぎ願った。天国で見てますかジョナサンさん、アンタの義兄弟今現在も絶賛黒歴史生産中ですわよ。

 

「殺された上に、勝手に自分のチンコを、数多女にねじ込まれベイビーを量産されてしまうジョナサンさん…不幸な…」

「何か言ったか?」

「いいえ、なんでも。」

 

ハナコはDIOの下らない話から逃れる為に、「お茶を入れてきます。」と頭を抱えながら台所に逃げた。DIOはいつもと変わらないハナコを、つまらないと思った。

 

ハナコは素早く湯を沸かして紅茶を淹れ、すぐに戻ってきた。

 

「アイ坊ちゃんもいらっしゃるので、無難に紅茶です。」

「アイねっ、甘いのがいい!」

「お砂糖なん個ですか?姉やにしっかり聞かせてくださいまし。」

「6〜!」

「それは多すぎなので3つにしましょうね、糖尿病になっちゃいますよ。オシッコが砂糖になって死にます。(嘘)」

「ぶ〜!」

 

可愛らしい表情に、思わず口元が緩む。

 

アイ坊ちゃん…沢山話すようになってくれて嬉しいわ。今すぐ、私のこと好きですか?って聞きたいけど、あんまり言うとうざがられちゃうし、完璧な優しい姉やであることを心がけていなければ……

 

と、ハナコはいっているが………

この女もDIOも凄まじい親バカであるため、1日に三回は「私(俺)のこと好きですか?(だよな?)」とアイに尋ねるのである。アイは、ハナコから聞かれる分には心がキュッと締まるようなトキメキを感じるが、DIOに聞かれるのは、すでに、うざったいと感じているのだった。

テメェ、脳天かち割られたいのかグズ!!と思っているのだった。

 

話が脱線したが、先程の武勇伝(笑)を聞いたハナコは、何故その話が現在DIOの部下が応戦している、「宿敵」に繋がるのか疑問だった。

 

「あの、DIO様、一つお尋ねしてもよろしいでございましょうか?」

「なんだ?言ってみろ。」

「先程のお話、詰まるところ宿敵とどんな関係がお有りなのですか?」

「ア…結論がまだだったな…」

「気になりますわ。」

「つまり、何が言いたいのかと言うと、現代まで続くジョースターの血統……ジョナサンの孫と孫がこのDIOを倒す為にエジプトに向かってきているのだ。」

「フアッ、ジョナサン、ハネムーンの時点で孕ませてたんか!?」

「いや、ハネムーン1日目でもう孕んでたから‥‥‥」

「下半身の活発さはどっこいどっこいだわ…………」

 

ジョナサンさんハネムーンまで我慢できなかったのね……でもそれがジョースターの血筋的には、結果オーライだったのかも知れない。子孫残ってるんだもの。

 

ハナコは、DIOが語った正義の塊と邪悪の化身の、漫画のようなお話に、若干他人事のように聞いていた。

時代を超えて尚受け継がれるというスケールの大きすぎる話だ。我が身に起きている出来事のように聴ける人間の方が少ないんじゃあ無いか?

 

「クククク、スケールの大きな話よ。」

「自分でも思ってるんですね。」

「このDIO、JOJOには一種の尊敬の念を抱いている……それくらいのスケールでなければ逆に困ると言うものよ。」

「んっ、んんん?JOJOとは………?」

 

突然出てきた聞き覚えの有るあだ名……そのワードはハナコは肩を大きく跳ねさせた。JOJO、など滅多につくあだ名では無い。

気まずい思い出を思い出し、ハナコは動揺する。そして、まさかまさかだが、空条承太郎のことを言っているのではあるまいな?と不安を胸に抱えた。

 

「JOJOというのはジョナサンの愛称だ。名前にも名字にもジョが付くからという、安直な由来だが、そう呼ばれていたし俺もそう呼んでいた。」

「そ、そうなんですの……」

 

空条承太郎のことではない………

 

「だが、この度俺の首を狙う男もまたJOJO!!」

「ブッ……!!ぉえ、紅茶吐いちゃった…」

「ククク、いい反応だなぁ〜ハナコよ……」

「まっ、まぁ…我が主人の危機ですので………ゲホッ…」

 

上げて落とすのはやめてくれ!!!今回もJOJOなのかよ!!

 

心臓が既に飛び出たんじゃないか、それくらいの動揺っぷりだった。

 

またJOJO!!

 

そう、「あの事」があってからハナコは一種の空条承太郎アレルギーとなっていたのだった。まさかまさかまさか、と思いながらも心臓が大きく動いてしまうのだ。

 

いやまさか、本当に空条承太郎なわけがない、一応主人のDIO様の宿敵が私でマスかく男だなんて、そして、私の気まずい所を知っている奴だなんて、そんないらねぇ奇跡いらねぇし、ジョナサンって完全に日本人じゃない名前だし、全然関係ない人物に決まっているわ。

二度と顔合わせたく無い相手なのッ!!

 

「いいだろう教えてやる、我が友ジョナサンの子孫であり、我が宿敵の名は…………」

「宿敵の名は………?」

 

DIO様のお話は外国の話なんだから、急に日本人になる訳無いから……国際結婚でもしない限りはね。

そんな、国際結婚なんて無いわ、そんな偶然ないわ………

 

 

 

 

 

ン、空条君のお爺さんってニューヨークの不動産王だったかしら?

 

***

 

一方、承太郎サイド

 

「何ィ、ハナコだと!?」

「ど、どうしたんだ承太郎……」

「アッ、いや、何でもねぇ……」

 

空条承太郎17歳……父が世界的なミュージシャンだったり、祖父がニューヨークの不動産王だったりと、色々ハイスペックな上、本人の195センチという日本人離れした身長、美貌も相まって、どこか空想上のキャラクターのような男だと家族を抜いた他人は思っているに違いない。

 

しかし、承太郎とて17歳の少年であることに変わりはない。いくら大人びていたとて、年相応の反応や考え……焦ってテンパる事だってあるのである。

山田ハナコ……承太郎はあのことがあってからハナコという名前に敏感になっていた。

不倫した夫はこんな気持ちなのだろうと思った。

 

承太郎17歳、とてつもなくモテる彼は、童貞であった。そしてそっち方面に対してピュアすぎてるのだ。

だから、オカズにした女に、オカズにしていた事がバレるなど、ピュア童貞には初っぱなからハードモードすぎたのである。

 

仕方ない、自分の家で普段大人しそうな女が卑猥な夢を見て腰をくねらせているなんて、どこのAVだッ!!とツッコミたいシュチュエーションだ、けしからん。それを見て反応しない方がおかしい。至って正常だが、相手にバレるのは不味かった。

 

「どうしたんだい承太郎…?もしや、ハナコという名前にトラウマでもあるのかい?」

「っいや、何でもねぇ………(クッソ花京院鋭いぜ、流石ではあるが……)」

「JOJOがそこまで動揺するなんて、君をそこまで動揺させるハナコさんが気になってしまうよ。僕が出会ったハナコさんは恐らくDIOの下部だったから……僕も優しいハナコさんに会いたいよ。」

「……そのDIOの下部の女ってのは、スタンド使いか?」

「おそらくそうだ。相手の動きから察するに、奇襲が得意なスタンドで、僕のように相手を操作したり出来るんじゃないかな…彼女の自信からも、一撃必殺のような、即死攻撃をしてくるに間違い無いと思うんだ。…襲われた時、全く体が言う事を聞かなかったから……」

「そいつぁ、恐ろしいスタンドだな。」

「本当だよ。街でぶつかっただけなのにってやつさ……あのおさげの、おとなしそうな見た目からは想像もつかなかった。」

「ゲッホ!!オエッホ!!」

「大丈夫か承太郎!!」

 

おさげ!!おさげだとッ!!山田ハナコはおさげだったぞ!?アレアレアレ、これはビンゴなんじゃあないか!?なんてこったい………いやまだだ、そんなはずないだろ、と言うか本当に勘弁してくれよ。

 

「ち、ちなみにだが、そいつ、妙にかしこまった言葉の言い回しをして、静かそうな女で、三つ編みおさげも腰近くまである髪の長い女じゃあないか………?それでもって、苗字は山田…」

 

さぁ、どう出る花京院!!

 

空条承太郎は覚悟を決めた。しょうもない理由から、暗闇の荒野に進むべき道を切り開いたのである。

 

この返答次第では、俺は花京院をDIOに明け渡した女をオカズに抜いた男という、珍妙極まりない立場に立つことになる。それでも黙秘を貫くが、ハナコと闘う可能性も出てくるし、奴も俺を全力で倒しにかかってくるだろう…

俺がオカズにしたせいでハナコの戦闘意欲に火をつけ、仲間が犠牲になったらたまったもんじゃあねぇッ………

だから、決めるッ!覚悟ってやつをなッ!!

 

「どうなんだ、花京院ッ」

「な、なんてことだ、その女の人だッ、承太郎、彼女とはどういう関係なんだッ!?何故君が彼女を知っているんだッ!?」

「言える分けねぇだろうがッ!!」

「……ッ!」

「………チッ、怒鳴ったりして悪かった…ハナコはクラスメイトだった。ただのクラスメイトだ……突然いなくなったがな。お陰で謎が解けた。」

「な………ッ、まさか……分かった、これ以上は聞かない。」

「嗚呼、そうしてくれ。過去の女だ。出来ることなら忘れたい。(花京院のまさかってなんだ?)」

 

花京院は顔を青くして去っていった。

承太郎は覚悟を決めたのだ。花京院がジョースターとDIOの因縁に巻き込まれた原因を作った女でシコってしまったという、心の苦しさを背負って、前に進もうと決心したのである。

 

しかし、疑問に思ったのは花京院の動揺っぷりである。承太郎は思わず叫んでしまったが、それだけが原因とは考えられないほど、花京院が凄まじく動揺していたのは何故だろうと思った。

マァ、今後この話は出さないと察してくれたようだし、それで良いかと思った。承太郎はどこか勇者のような気持ちで寝床についたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、承太郎とハナコさんが知り合いだったなんて………いや、それだけじゃ無い…過去の女…突然消えた……承太郎はハナコさんと付き合っていたんじゃあないか?」

 

勇者のような気持ちで眠りについた承太郎とは打って変わって、花京院は承太郎との会話と文脈、態度から、必死に情報を刷り出していた。

 

※全て間違っていますが。

 

「だとしたら、僕が深く介入することを阻止した理由も分かる………付き合っていた女性が突然姿を消した…そしてその理由がDIOの配下に着いたから……いや、承太郎の彼女が理由もなくDIOの部下になるとは考えられない………ハッ、もしや私のように日本人のスタンド高いを使い、承太郎の彼女であるハナコさんを拐い、肉の芽を埋め込んで操っていたのではあるまいな?いや、そうだったらあの時の凶暴性も理解できる………」

 

花京院は恐ろしい事に気付いてしまったと言わんばかりに、身を震わせた。

思えば、ハナコさんは静かで大人しく、髪を染めたりせずに自然体で、まさに大和撫子と言った風であり、彼の女性の好みに合っていた。

 

※大切なことなのでもう一度言います。

全て間違っています。

花京院の迫真の独り言に「なんか夢っぽくなってきてるぞ、オイオイ〜どうしたんだよ〜」と感じる読者の皆様、違います。

花京院のアルプスの山々の如く壮大な勘違いです。

 

「なんて事だ、なんて事なんだ、全てDIOの筋書き通りではないか……これで承太郎は人質を取られてしまった………いや、いてもたっても居られない気持ちだろう……」

 

思ったよりもずっと深刻な自体であった。

しかし、花京院も推測だけで事を考えるような男ではない。なので、翌日、ジョセフ経由でホリィに少しだけでも電話できないかと頼み込み、電話を繋いで貰う事にしたのだ。もちろん、自分の思い込みかもしれないので、承太郎には内緒である。

花京院の深刻そうな顔に何かを察したジョセフも「ホリィの体調が良い方の日であったらな。」と許可した。そして、運良くその日はホリィは体調が比較的良い日だった。高熱にうなされていることに違いはないが………

 

「ホリィさん、一言だけでいいです、山田ハナコさんという方と承太郎の間に何か関係があった事をご存知ありませんか?僕の思い過ごしの可能性も十分ありますが、その、付き合っていたとか……」

 

そもそもホリィは、交通事故から守ってくれた女の子というイメージを持っていた。また、あらぬ勘違いをしていた。しかし、「ハナコさんと息子さん付き合っていませんでしたか?」と聞かれて、合点がいったような気がした。

 

夜中に水回りで手を洗う2人、寄せ合う様に立つ姿と息子の珍しく動揺した態度……なにもないなら、息子はどっしり構えているはずである。なのに動揺していた。ということは、そういうことで間違い無いんじゃあないかと思った。

 

承太郎は会ったばかりの女の子に手を出す息子ではないと思っていたし、いまも思っている。だから、「付き合っていませんでしたか?」と聞かれるとそうかもしれない、とホリィは思った。

なので正直に答えた。

 

『あまり、よくわからないけれど、私を交通事故から守ってくれた子、だわ。一度、家にハナコちゃんが、泊まりに来た時、その、2人で夜中に一緒にいる所を、見たわ。珍しく承太郎が照れていたから、そういう事だったのかしら、ね……』

 

「あ、ありがとうございました。わざわざすみませんでした、どうか安静に…………」

 

花京院の心配は確信に変わった。マァ、お年頃であるから、不思議な話では無いけれど、肉体関係もあった(?)らしい。憶測だが……

 

「この事は、どうすれば良いんだ……取り敢えず承太郎に相談して……」

 

花京院は自分よりずっと長く肉の芽を植え付けられている、承太郎の彼女、ハナコを思い頭を抱えたのだった。

 

 

 

※3回目ですが、承太郎とハナコはそんな関係じゃ無いです。花京院君はマスターベーションした後、お互いにばったり出くわしてしまったしょうもない2人に対して、真剣に心配し、心を痛めています………

真実はもっとしょうもない話です………

 




空条承太郎ッ、二度と会ってなるものかッ!というか、もしも会おうものなら、息の根止めてやるッ!それがベストッ!DIO様にばらされでもしたら、一生ネタにされる!というか、立場的にも殺すのが1番めんどくさく無いぞ!!



山田花子ッ……ジジイ、アヴゥドゥル、ポルナレフ、特に花京院にバラしやがったらただじゃあおかねぇ……奴も俺を全力で狙ってくる筈、向かい打ってやるッ!!


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