抗え、人の為に (myo-n)
しおりを挟む

偽善に塗れた1話

見切り発車なので最終投稿です(大嘘)


目を開けると、教室のような空間にいる。

至って普通に見えるけど、一つだけ不自然に穴の開いたスペースが目立つ。

 

…ああ、またこれか。

 

《お前も余計な事に首を突っ込むなよ》

 

違う。

 

《また余計な事しやがって》

 

僕はただ手を差し伸べたかっただけだ。

あの子はそれほどまでに酷く傷ついていたから。

 

《何それナルシスト?》

《よくあんな気持ち悪い奴に付き合えるよな》

《空気読めよな。あいつはハブられて当然だろ》

 

うるさい。

何もしないお前らも、虐めていたお前らも、同じだろう。

 

《〇〇君、分かってくれよ。私は君達個人の問題に時間が割けるほど暇じゃない。それに君だって残りの生活を惨めに過ごしたくはないだろう?》

 

何を分かれって言うんだ。

結局お前らはそうやって見て見ぬふりをする。

組織なんて糞食らえだ。

 

《分かるか?君がしていることはただの偽善。自己満足の為の偽善だ》

 

違う違う違う違う違う違う。

僕は本当にただ本当に、手を伸ばしたかっ

 

《けど、手を伸ばしても君は掴まれなかった。それは君が必要とされてない証拠だよ》

 

…!

 

《だから君がやっていた事は余計な事だったんだよ。最初からね》

 

そんな事はない…

きっとないんだ、きっと。

 

《はぁ…そんな事をして自分が虐められるくらいなら最初から見なかった事にすればいいのに》

 

…始めから傍観すればよかったのか?

そうすれば、僕も虐められなくて済んだのかもしれない。

 

……分からない。

何が正解で、何が間違いなのか。

 

僕がした事は、間違いだったんだろう。

 

組織なんて所詮は縦社会ばかり。

個の力なんてたかが知れてる。

抗っても、組織の波に揉まれて、沈む。

 

だから、逆らうだけ…無駄。

 

こんな、こんな筈じゃないのに。

…ごめんね、〇〇

 

僕は、もう折れてしまった。

だから、この先もずっと倒れたままだろう。

 

そして視界が歪み、僕の意識は消えた。

 

-----

 

「くぁ…眠い」

 

長いようで短かった春休みが終わり、今日から学校が始まる。

中途半端な休みでズレた生活リズムのせいか今日は一段と眠く感じる。

そんな体に鞭を打ちながら教室にたどり着く。

 

教室内は春休み明けというのもあって騒がしい。

知り合いに適当な挨拶を交わした後、自分の席について荷物を横にかける。

 

しばらくウトウトしているとチャイムが鳴り、それに遅れて担任が教室に入ってくる。

 

「はいはい、皆静かにして。休み明けだからって授業中に寝ないようにね」

 

気怠そうに担任は言う。

教師も教師で何かとめんどくさい時期なんだろう。

ご愁傷様です。

 

担任に視線は向けつつ、話は適当に聞き流していく。

 

「あとそれと、来週の月曜に転入生が入るから適当に仲良くしてね」

 

転入生か…ここのバレー部目当てか?

全国行ったことあるみたいだから人気があるのも分かる。

だけど裏ではパワハラ、セクハラ、モラハラのオンパレードという黒い噂も聞く。

まぁうちはそこそこの進学校らしいから、単に勉強しに来たのかもしれない。

 

「以上で連絡事項は終了。何かあれば職員室まで来て」

 

担任が教室から出て行く。

どうやら朝礼が終わったようだ。

 

次の授業の準備をすませて、外を眺める。

満開の桜が舞っていて風情ある光景だ。

 

チャイムが鳴り、教師が入ってくる。

 

「では授業を始める」

 

その日は何事もなく終わり、学校は終わった。

そして帰り支度をして、席を立とうとするとふと声をかけられた。

 

「あ、あの…宮瀬くん」

 

話しかけてきたのは、いつも生傷が絶えないバレー部の三島だった。

呼び止められた理由は何となく予想できるけど、一応聞いておく。

 

「どうかした?」

「えっと…その、鴨志田先生が呼んでるから体育教官室に行ってきて欲しい」

「はぁ…またか、あの人もしつこいな」

 

というのも、去年からバレー部の勧誘を受けている。

原因は僕の運動能力が高いから。

あの人が監督してた体育テストの時にバレー部より高い記録叩き出してしまってから目をつけられている。

 

もしバレー部に入ったら、練習という名の暴力をぶつけてくるのが想像できる。

 

バックレる事もできるけど、そうした場合三島に矛先が向くのは確実だろう。

 

でも、断っても鴨志田の苛つきが三島に向くのは変わりない。

 

「……ごめん、今日は体調が悪いから帰らしてくれ」

「……分かった」

 

三島はトボトボと教室から出て行った。

ごめん…僕には誰かの力になれる程強くないんだ。

 

「はぁ…」

 

嫌な気分だ。

今日さどこかに寄って気を紛らわそう。

 

…そういえばこの前読んだ雑誌に四軒茶屋にある喫茶店が載ってたっけ。

静かな雰囲気で落ち着くって書いてたから今の僕にぴったりだ。

 

電車を幾つか経由して四軒茶屋に着く。

雑誌に住所が書いてあったのでスマホの地図を頼りに喫茶店辺りまで移動する。

 

「すみません…この辺りに喫茶店ってありますか?」

「あぁ…ルブランの事かな?ならそこの裏路地を進んだら行けるよ」

「ありがとうございます」

 

言われた通りに裏路地を少し歩く。

すると喫茶店ルブランと書かれた看板がぶら下がってるレトロな見た目の建物を見つけた。

 

「店は…開いてるな」

 

扉に下がっている札がopenになっているのを確認して中に入る。

 

「…いらっしゃい」

 

中はこじんまりとした広さでマスターと思しきダンディーなおじさんの後ろにはかなりの種類のコーヒー豆が置いてある。

うん…少し昔みたいな感じで凄くしっくりくる。

雑誌に載るのも納得だな。

 

「ご注文は?」

 

カウンター席に座ると、マスターに注文を聞かれる。

場違いな物を頼むのも気が引けるのでマスターのおすすめで行こう。

 

「何がおすすめですか?」

「コーヒーとカレーだ」

「じゃあそれをお願いします」

「あいよ」

 

コーヒーとカレー…中々無い組み合わせだけど、即答で返せる程自信があるんだろう。

しばらくすると目の前にコーヒーとカレーが置かれた。

 

「はい、お待ちどうさま」

「…いただきます」

 

まず最初にカレー…と行きたい所だけど、コーヒーの味が分からなくなりそうなので先にコーヒーを一口飲む。

砂糖とミルクは無しなので苦かったけど、ただ苦いわけではなくなんていうか…コクがある味だった。

一言で言うと、凄く美味しい。

 

コーヒーを堪能し、続いてカレーを食べる。

辛さが少し際立つがそれでいてはっきりと旨味が感じられるほど美味しかった。

 

「ごちそうさまでした」

 

家のカレーとこうも違うとは…

でも、この味どこかで食べたような気がする…

結局考えても答えが出なかった。

 

そして残りのコーヒーを店の雰囲気を堪能しながら飲む。

 

しばらくして、席から立って代金を支払う。

 

「カレーとコーヒー、美味しかったです」

「そりゃどうも」

「また来ますね」

 

店から出ると、そのまま帰宅した。

喫茶店ルブラン…あそこの雰囲気はとてもいい。

また今度通いに行こう。

 

そうして、土日が過ぎて転入生が来る月曜日になった。

今日もいつもと変わらずに席に着くけど、少し様子がおかしい。

転入生が入るというのにクラス内は全然盛り上がっていないからだ。

騒がしいのには変わりないから不気味だ。

 

知り合いに話を聞いてみる。

 

「なぁ、転入生ってどんなやつなんだ?」

「お前知らねぇの?今度の転入生が前歴持ちって話」

「そうなのか?」

「学校の裏サイトで見たから間違いないって!マジやばくね!?」

 

前歴持ち…何でそんな奴がクラスに?

大方、前の学校にいられなくなって転校…だと思うけど。

なるほど…だからこんなに騒々しいのか

 

「あぁそうだな。情報ありがと」

 

一体何をしたんだと疑問を抱きながら、時間が経っていく。

そして昼頃になって担任が転入生を連れてきた。

 

癖っ毛がちょっときつい眼鏡をかけた男子だ。

 

担任が黒板に雨宮 蓮と見やすい大きさで名前を書く。

 

「体調不良で午後からの登校だけど皆仲良くしてあげて。ほら、自己紹介」

「雨宮蓮です。よろしくおねがいします」

「あなたの席は…あそこが空いてるからそこに座って」

 

雨宮は言われた通り席に向かうがその途中で高巻に声をかけられた。

あの2人…知り合いか?みたいなヒソヒソ話がクラス内を飛び交った。

 

「あとそれと、隣の人は彼に教科書を見せてあげて」

 

隣の人…僕だ。

なんでさ…

 

教科書を共有するので流石に会話しないわけにもいかず、机をくっつけて渋々話しかける。

 

「…初めまして、僕は宮瀬 悠。よろしくね」

「雨宮蓮です。よろしく」

 

愛想はそんなに悪くない。

でも人は見かけで判断できない。

極力関わりたくなかったけど、こうなったら最低限で彼に付き合おう。

 

 

 

 

 

━━━雨宮蓮、彼との出会いが僕の運命を変える事になるのはもっと後になる。━━━━

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

我欲に塗れし2話

なんか明智のRTAが人気高いので最終投稿です(大嘘)


今日は球技大会の日だ。

種目はもちろんバレーボール。

組み合わせは先生対生徒となっている。

大方、鴨志田が自分を誇示する為に仕組んだ行事だろう。

 

「宮瀬…もう少しで僕たちの番だよ」

 

隣で体育座りをしている三島が顔を少し青ざめさせながら声をかけてくる。

 

「分かった、準備するよ」

 

この行事、バレー部員にとっては地獄だろう。

教師陣に勝てば鴨志田の苛つきが増し、かといって負けでもすれば練習時に罵倒されてシゴキがキツくなる。

だからこの行事は理不尽の一言につきるんだ。

 

そうこう考えている間に僕達の班の番になり試合が始まる。

僕の班の半分はバレー部員だから、一見強そうに見える。

けどバレー部員は鴨志田を苛つかせるようなことはさせたくないからいい感じに負けようとする。

 

それに加え、元メダリストなだけあって鴨志田はバレーが凄く上手い。

教師陣は殆ど鴨志田のワンマンプレーになってるけどそれでも普通に強い。

 

この二つの理由から生徒側はまず勝てない。

 

「それでは教師対クラスD2チーム目を始めてください」

 

審判のバレー部員が試合を始める。

正直、勝敗とかどうでもいいしほどよく楽しもう。

 

---

 

「そーれっ」

 

鴨志田のスパイクが決まる、元メダリストだけあってかなり早い。

現在の得点は20対17。

少しだけ教師陣が勝っている状況だ。

思ったより白熱しているので結構楽しい。

 

「サーブくるよー!」

 

鴨志田の高速サーブを三島が他のバレー部員の方にレシーブする。

ボールがゆっくりと落ち、バレー部員がトスする。

そこそこ運動神経が良い奴にトスが行くと教師陣に向けてアタックする。

 

「おおっと!」

 

教師の1人が何とかレシーブする。

 

「鴨志田先生おねがいします!」

 

別の教師が鴨志田に向けて緩めのトスをする。

少し位置が悪いけど鴨志田はお構いなしにアタックを打った。

 

「それっ!」

 

打ち出されたバレーボールは三島の方に向かう。

そしてそれと同時に体を動かしてボールに手を伸ばす。

 

「━━━━━痛!!」

 

ボールは指に弾かれてコートの外に出る。

 

教師陣は唖然としてる中、外野の生徒達はおぉ!と騒然としている。

 

「宮瀬…ありがとう」

「流石に、顔面は痛いだろうから」

 

鴨志田のスパイクは三島の顔面に向けられていた物だった。

スパイクを打つ直前になって歪んだ笑みを浮かべたから直前で動けた。

流石に、顔面であのスパイクを受けたら怪我どころじゃ済まない可能性もあるだろう。

そんなスパイクを平然と打つ時点で鴨志田は人として終わっている。

 

「大丈夫か宮瀬?少し見せてみろ」

 

鴨志田は心配そうにこちらに近づいてくる。

鴨志田に言われて指を見てみると少し赤く腫れていた。

でも指は動かせるから多分突き指だろう…

 

「先生、突き指したみたいなんで保健室行ってきていいですか?」

「分かった。気をつけて行けよ」

 

恐らく、内心じゃ僕に対して舌打ちしているだろう。

そんな鴨志田を後にして、僕は中庭を経由して保健室へと向かう。

保健室の先生に指を見てもらい、保冷剤を貰う。

大した怪我じゃないだろうけど一応冷やしておいてと言葉を受け、保健室を後に…出来ずに球技大会の様子(主に鴨志田関連の話)を聞かれ渋々答えることになった。

 

「ふぅ…やっと終わった」

 

気づけば20分程過ぎていた。

最近不幸な事が多すぎる気がする…

呪われてるのかな?

 

とぼとぼと中庭を歩いていると、自販機があるちょっとしたスペースに金髪の生徒と雨宮がいて何か話してた。

 

「転入早々から不良と絡んでる…」

 

やっぱり、彼と深く関わるのはやめておこう。

何かあってからじゃ遅いからね。

 

そんな考え事をしていたら、ピンポンパンポーンとチャイムが鳴る。

 

《本日の組み合わせは全て終了しました。速やかに準備をして下校してください》

 

「もうそんな時間か…教室に戻って帰るか」

 

体育館にいる教師に怪我の状況を伝えて教室に戻って準備をする。

そして帰宅しようとして玄関前に行くと、三島に声をかけられた。

 

「み、宮瀬!その…大丈夫なのか指」

「ただの突き指だよ。全然大丈夫」

 

指を開いたり閉じたりするのを見せる。

 

「そっか…ならよかった。さっきはありがとう」

「どういたしまして。でも、僕がした事なんて微々たる事だよ」

 

どのみちこれから始まる練習で怪我するのは目に見えてる。

だから僕がした事は単なる自己満足の範囲でしかない。

…はぁ、自分が嫌になる。

何もできない自分が。

 

「それじゃあ、さよなら。練習頑張って」

「あ、うん…バイバイ」

 

さて…結構疲れたし、今日はルブランに行こうかな。

心と体を癒すには丁度良い所だし。

 

そして足を踏みだそうとした時、金髪の生徒が三島に話しかけてきた。

 

「話、あんだけど」

「さ、坂本!?それにお前まで!?」

 

坂本と呼ばれた金髪の隣にはなんと雨宮もいた。

三島は怯えていて、こっちに助けを求める視線を投げてきた。

はぁ…折角動こうとしてたのに。

 

「三島に何か用?」

「話するだけだよ。それが済んだらすぐ消える」

「だってさ三島。じゃあ僕はこれで」

「お、おいちょっと待ってくれよ!せめてここにいてくれ!」

 

僕はお前の彼女か何かか。

…とはいえ、坂本は見た目が不良に近いから見捨てたら後で文句を言われそうだ。

仕方ない…

 

「はぁ…分かったよ」

「ありがとう…!」

「それで?用件は何?」

 

坂本に対して質問する。

色々とめんどくさい話になりそうだからさっさと切り上げよう。

 

「鴨志田から『指導』されてんだって?体罰じゃなくてか?」

「…違いますよ!」

「何で敬語なんだよ…ま、いいけど」

 

どうやら坂本はバレー部の黒い噂を聞いているようだ。

何の為に聞いているのかは分からないけど、それで言ってたら鴨志田が好き放題している現実は起こらない。

 

「球技大会ん時、顔面に向けてアタックされてたよな」

「あれは、俺が下手なだけで…」

 

それは嘘だ。

球技大会の時でもそうだけど、三島は結構上手い。

チームの動きを把握して的確な所にレシーブしたりトスしたりしている。

だからこそ、鴨志田チームと張り合えてたんだから。

 

坂本は嘘だと分かっているようで、三島の全身を見た。

 

「…にしたって、痣多すぎんだろ」

 

三島はいつ会ってもどこかに痣がある。

青タンとか赤く晴れてたりとかでよく目立つ。

大方、鴨志田が毎日暴力を振るっているんだろう。

 

「練習なんだよ…!」

 

しかし、三島は体罰だと断固として認めようとしない。

鴨志田の制裁を恐れているからだ。

バレー部である限り、鴨志田の呪縛からは逃れられない。

 

「口止め、されてんのか」

「それは…」

 

「何をしているんだ?」

 

突然、鴨志田が近づいてきて会話に割り込んできた。

無駄にタイミングの良い奴だ。

 

「三島、部活の時間だろう?」

「宮瀬に礼だけ言おうとして…」

「そんなくだらない事に時間を使うなら練習しろ」

「はい…すぐに体育館に行きます」

 

意図的に顔面狙ったスパイクを打つ人間がよく言うよ。

 

「練習以外じゃ、ヘタクソは治らないぞ」

「話に割り込んで来んじゃねえ!」

 

鴨志田は坂本を見下す様に目を細める。

というか、早く帰りたい…

コッソリ抜けるのは…無理そうだ。

だって鴨志田にロックオンされたし。

仕方ない…帰るための小細工でもしておこう。

 

「ふん…今度何か問題を起こせば学校にいられなくなるぞ。それはお前もだ」

「良いスパイクでした」

「チッ》

 

雨宮を睨みつける鴨志田。

それに対して鴨志田を挑発する雨宮。

 

「とにかく、さっさと練習に行け。あと宮瀬、お前は体育教官室に来い。呼び出しを無視するのもいい加減にしろよ」

 

話の矛先がいきなり向いてくる。

 

やっぱりそうなったか…

だけど対策はしてある。

 

「あぁ…そうしたいのは山々なんですけど生憎今日は用事があるので帰ります」

「どうせ大した事じゃないだろ。すぐ済むから早くしろ」

 

鴨志田に急かしてきた時、ズボンのポケットに入っている携帯から着信音が鳴った。

そしてそれに気づいて電話に出た振り(・・)をする。

 

「すいません、電話に出ますね。もしもし、うん今もう帰るところ。…分かってるって。寄り道しないで帰ります。それじゃあ切るね」

 

携帯を切る素振りを見せてからズボンに仕舞う。

そして申し訳なさそうにして鴨志田に言う。

 

「すみません…母から急いで帰れと連絡がきたので帰らせてください」

 

実際にはそんな連絡来ていない。

鴨志田の目を盗み、携帯のアラームを3分後に設定し、音を着信音にすることで自分に電話がかかったように見せる。

 

若干演技していた様には聞こえるかもしれないけど、電話を切っている時点でバレようがない。

 

「……チッ。ならさっさと帰れ!」

 

いくら鴨志田とはいえ、バレー部でもないのに急ぎの用事がある生徒を引き止めるような事はしない。

だけどバレー部に入っていたら裏で根回しされて拘束されるのは間違い無いだろう。

 

「それじゃあね三島。…あと雨宮も」

 

2人に対して小さい声で言ってその場を立ち去る。

 

三島を置き去りにしてしまう形になってしまったのは申し訳ないと思う…ごめん。

結局、誰だって自分が大事なんだ。

 

はぁ…いつから僕はこうなってしまったんだろう。

 

「……ルブランに行こう」

 

その日は、ルブランのコーヒーを飲んで暗い気分を晴らした。

 




タイトル迷走してるんで落ち着くまで変わったり変わらなかったりします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

劣情に歪みし3話

ラヴェンツァさんが倒せないので最終投稿です(大嘘)


球技大会から数日経った。

変わったことと言えば、鴨志田がピリついているぐらいだろうか。

理由は分かってる、鴨志田が顧問するバレー部の春季大会が近いからだ。

 

そのせいか、最近三島の生傷が普段の倍になっている気がする。

流石に心配になって大丈夫かと声をかけてみたけど、大丈夫…と弱々しい声で返されてしまった。

 

何とかしたいけど、方法がない。

鴨志田の体罰疑惑は教師も保護者も一緒になって隠蔽している噂もあるから、声をあげても握り潰されるのがオチ。

 

うちのバレー部は毎年全国大会に出ている。

だから親も、学校も、バレー部の実績という甘い蜜を啜りたい奴らばかり。

 

でも僕もそんな社会の歯車の一部。

何かをできるほど偉くもないし、何かを為せる程のリスクも負えない。

……自分に反吐が出そうだ。

 

「…おい!何をよそ見している?」

「すみません…」

「ふんっ、授業は真面目に聞け」

 

考え事から現実へと意識が戻る。

そういえば今は授業中だった。

しかも生徒に非常に厳しい公民の牛丸。

あまりにふざけた事をしていると、チョークをその生徒の額に向けて的確に投げつけてくる。

 

今時そんな事をする…というかできる人がいるのは凄いけど、あれは地味に痛い。

 

でも授業は普通に面白い。

最近の話題から公民の内容に関連した問題を出してくるし、板書も丁寧でノートを取りやすい。

 

あ、また牛丸がこっちを見ている。

よし…授業に集中しよう。

 

---

 

しばらくして授業時間も残りわずかとなった時、外が騒がしくなった。

教室内の他の生徒もそれにつられて外の様子を気にし始める。

 

「どうした!お前らよそ見をするんじゃない!」

 

「中庭にめっちゃ人集まってる?」

「なんかやばそうな雰囲気…」

「あ!屋上に誰かいるぞ!!」

「もしかして飛び降り!?」

「やばいって!」

「あれってバレー部の鈴井さん!?」

 

もう授業そっちのけで騒ぎ始める生徒に対して牛丸は教室に待機するように指示して教室から出て行った。

もちろんそんな指示を聞く状況じゃなかったのでクラスの生徒はほぼ全員すぐに中庭に行った。

 

「……」

 

そんな中、僕は動かない。

動いても意味がないんだ。

中庭に行っても単なる野次馬でしかない。

鈴井さんを僕は知らない。

自分に何とかできるほどの力もない。

僕は…無力だ。

 

《…本…当……そ…か……?》

 

「……っ!?」

 

何か声が聞こえる気がした。

 

ストレスのたまりすぎで幻聴でも聞こえたんだろうか。

でも…それにしてはやけに頭に残る声だった。

 

「僕にどうしろって言うんだよ…」

 

結局、教室から動かずにやり過ごした。

 

---

 

「疲れた」

 

自宅のベッドに倒れ込む。

あの後、屋上に立っていた生徒…鈴井は、本当に飛び降りた。

その結果、骨折数カ所と意識不明の重態。

すぐに病院に搬送されたけど、早々回復はしないレベルらしい。

 

放課後になっても学校中で鈴井の話がされていた。

 

何であんな事をしたのか…それは分かりきっている。

彼女もまた鴨志田の被害者というわけだ。

 

「……腐ってる」

 

間違っているのは誰でもわかる。

今頃学校は何とか揉み消そうとしている最中だろうし。

けど、その間違いを正せる力を持つ者はいない。

 

「…少し寝た方がいいな」

 

思考が負の連鎖になってきている。

これ以上は考えるだけ無駄だ。

軽く睡眠を取って切り替えよう。

 

---

 

目が覚める。

 

「……知らない天井だ」

 

これは夢だろうか。

さっきまで自室で寝ていたのにいつの間にか暗く冷たい牢獄のような部屋になっている。

しかも服も制服から縞縞模様の所謂囚人服に変わっていた。

それになんと足に枷がついている、地味に痛い…

 

立ち上がって周りを見る。

牢獄の外には偉い人が使ってそうな椅子に長い鼻の老人が座っている。

そしてその両隣には片目に眼帯をしている少女2人が立っていた。

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ」

 

日常とは明らかに違う光景に考えがついていかない。

数分ほどポカンとしていると、鉄格子の扉がガンッと大きな音を鳴らす。

 

「うわっ!」

 

びっくりして尻もちをつく。

床が固い…

 

「呆けている場合か!」

「開いた口を閉じなさい」

 

「あ、はい…」

 

床から立ち上がり、埃を払う。

そして鼻の長い老人を見て、口を開く。

 

「あの、ここは一体?」

 

「ここはベルベットルーム。破滅を免れる為の更生の場所、とでも考えたまえ」

「破滅?更生?全く身に覚えがないんですが…」

 

鴨志田に目をつけられている以外は至って普通の生活を送っている。

少し進路について悩んでいるけど、破滅を迎えると言われる程の事じゃない。

 

「今はまだ目に見えないが、破滅の時は着実に迫っている」

 

老人は不気味に笑う。

まるで何もかもを見通していて高みの見物をしているような笑みだ。

 

「おっと申し遅れた、私はここの主であるイゴール。それと右がカロリーヌ、左がジュスティーヌだ」

 

「ふんっ、お前も軟弱そうな奴だな」

「…」

 

「えっと…よろしくお願いします」

 

カロリーヌとジュスティーヌは双子なのだろうか。

それにしても2人の格好はコスプレみたいで結構違和感がある。

多分、役職的には看守に近いものだろう。

片方警棒持ってるし。

 

「…それで具体的には何をすればいいんですか?」

 

イゴールは顎に手を当て、こちらを見つめる。

 

「ふむ…そうだな、結論から言えばお前は何もする必要がない」

 

「え…?」

 

「お前はここに迷い込んだ存在、いわば漂流者の様な者。故に更生の対象者ではない」

 

あれだけ結構大層な前振りしておいて僕には何も関係なかったってオチですか……

一瞬でも、何かを期待したのが間違いだった。

 

「ふんっ…ただの漂流者だったか囚人!」

「ベルベットルームに迷い込むのは余程幸運じゃないとできませんよ囚人。いえ…これはある種の不幸でしたか」

 

カロリーヌとジュスティーヌか追い討ちをかけてくる。

 

一体僕が何をしたって言うのさ…

少なくとも真面目に人生を生きてきたと思うんだけどな

 

「あの…じゃあ更生の対象者って誰ですか?」

 

そう尋ねると、イゴールは少しの間沈黙する。

 

「ふむ…トリックスター…囚人……いや、協犯者、そうだ協犯者がふさわしい」

 

何か小声で呟いているようだけど、ここからだと聞き取れない。

とてつもなく怪しい予感しかしない。

早く帰らないと。

 

「あの…迷い込んだだけなら、元の場所に返してもらえませんか?」

 

迷い込んだだけならもうこの場所に来ることもないだろう。

それにこの場所、結構怖いから早く帰りたい。

足枷は重いし、ゴキブリいそうだし、暗いし嫌な所ばっかりだ。

 

だけど僕の願いは打ち砕かれる事になる。

 

「残念だが、それはできない」

 

「え…?」

 

「何故なら、お前は協犯者となるからだ」

 

「協犯者…?僕には何の関係もないんじゃ?」

 

「たしかにお前にとって囚人の更生は関係ない事。だが縁は結ばれた…お前と囚人は近いうちに巡り合わせるだろう。そうなれば破滅はお前にも迫る。故に囚人と協力しこれを打破するのだ」

 

「残念だったな!囚人!」

 

「カロリーヌ、囚人ではなく協犯者です」

 

「なっ!それくらいどちらでもいいだろう!?紛らわしいから囚人で十分だ!」

 

「えっと…巡り合わない可能性とか、拒否権とかは…?」

 

「「ないな(ですね)」」

 

「左様…無論我々もお前に様々な支援を行う。互いとも協力して破滅へと抗うのだ」

 

どうやら破滅からは逃れられないらしい。

全く、僕が住んでるのはSFの世界か何かなのかな…

 

考えている中、不意に目の前が歪む。

気持ち悪さは無いけど、目の前が徐々に暗くなっていく。

 

「ふむ…どうやら今日の所はここまでのようだ」

 

「また来るがいいぞ!囚人!」

「縁ができた以上貴方はまたここに招かれるでしょう。それまでお別れです囚人」

 

僕としてはもう来たくは無いんだけどなぁ…

ここ、薄気味悪くて怖いし…

言ったら多分殴られるんだろうけど。

 

「…あ!ちなみにその囚人さんの名前って何ですか!!」

 

いくら協力して頑張れと言われても、名前が分からないとどうしようもない。

次はいつ来れるか分からないし…聞いておかないと!

 

「よかろう…破滅に抗いし、囚人の名は────」

 

---

 

ジリリリと目覚まし時計が鳴る。

時刻は5時、少し寝るはずがなんと日を超えてしまっていた。

 

「うぅ…寝過ぎて頭が痛い」

 

洗面所に行って顔を洗う。

冷たい水が寝ぼけている頭を目覚めさせる。

 

「それにしても…破滅かぁ…」

 

あの夢?の内容はまだはっきり覚えている。

そして去り際に聞いた、破滅に抗う囚人。

 

その名前は───────

 

「雨宮、蓮……」

 

顔から水滴が、静かに流れ落ちた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

交わりし怪盗と灰 4話

初恋の子救う為に死に戻りしてくるので最終投稿です(大嘘)



「出席を取るわよー」

担任が気怠そうな様子で出席を確認していく。

その間、僕の頭は隣にいる雨宮の事で一杯だった。

もちろん変な意味じゃない。

 

イゴールは近いうちに巡り合うと言っていたけど、既に合っていたとは思わなかった。

 

それにしてもまさか雨宮が囚人か…一見するとそうは思えないんだよなぁ。

うーん、囚人に破滅に更生……考えれば考える程現実味がない話だ。

 

不意に、横からつつかれる。

横を見ると雨宮が前を指差していた。

前を向くと担任が僕の名前を何回か呼んでいた。

 

「宮瀬君?いるなら返事をして欲しいんだけど?」

 

「あ、すいません…ちょっと考え事を」

 

そう言えば出席確認をしている最中だった。

 

「気をつけなさいよね…こっちもスムーズに終わらせたいんだから」

 

担任のさっさと終わらせたい感がひしひしと感じ取れる。

そこまでオープンにしたらダメでしょ…

 

「分かりました」

 

担任が出席を取るのを再開する。

そして終わったら今日の時間割を言って、足早に教室から出て行ってしまった。

 

まだ授業開始まで時間があるのか、他の生徒は会話したり朝ごはんを食べたりしていた。

 

僕も最初の授業の教科書を出して、雨宮の席に寄る。

 

「さっきはありがとう」

 

「どういたしまして、ちなみに何を考えていたんだ?」

 

雨宮の事を考えていた…なんて言ったら変な誤解が生まれそうだし嫌だなぁ………

取り敢えずここは誤魔化しておこう

 

「この前行った喫茶店のコーヒーが美味しくてさ。今日も行こうかって考えてたんだ」

 

「へぇ、そうなんだ。今度教えてもらえる?」

 

「いいよ、連絡先教えてもらえる?」

 

「分かった」

 

お互いにスマホを取り出して、連絡先を交換する。

とにもかくにも、連絡手段を手に入れておかないと協力も何もない。

でも、あんまり乗り気じゃないんだけどね…

 

「ありがとう、そろそろ授業が始まりそうだから席に戻るよ」

 

雨宮から視線を外そうとする。

しかしその時、雨宮の机からニャーンと小さく何かが鳴くのが聞こえた。

 

「ん?」

 

「どうしたんだ?」

 

「んー…」

 

雨宮の机の引き出しに目を向ける。

一見すると何も無いようだけど…

 

「…あっ」

 

引き出しから少しだけ尻尾らしき物が一瞬出て、消えた。

 

「?」

 

「雨宮、もしかして…」

 

よく見ると雨宮の額に少し汗が滲んでいる。

まさかとは思うけど…引き出しに猫を入れているんだろうか

 

尻尾みたいなのが見えた時点で怪しすぎる。

 

いや、でも普通学校に猫を連れてくるか…?

授業中にポロっと出てきたりすると思うんだけど………

猫は気分屋って聞くし。

 

「……もう授業始まるし、後で話すよ」

 

「……分かった」

 

---

 

放課後になるまで、特にこれといった事は起こらなかった。

強いて言うなら、雨宮が牛丸の授業中によそ見してチョークをぶつけられてたりしていたぐらいだ。

 

本当は雨宮には何も起こっていないんじゃないか、あの夢はただの幻か何かじゃなかったのか。

そんな疑念が湧き始める。

 

「考えてもしょうがないか…おいおい聞こう」

 

それよりも今は猫だ。

僕は今日一日、雨宮の机を見ていた。

その結果、鳴き声はたまに聞こえるし机の下に少し毛が落ちてるのがわかった。

これはもう完全に黒だろう。

 

学校に猫を持ってきたら駄目なんて校則はないけど、流石にこれは注意しておかないと後々面倒ごとになりそうだし。

 

「さて…雨宮、改めて話がある。時間は大丈夫だよね?」

 

「あぁ、大丈夫」

 

「うーん…話が話だからどこで話そうか……」

 

放課後になったばかりの教室にはまだ人が多い。

それに部活に行く人もいるから、迂闊に鞄の中にいる猫の話なんてできない。

学校の外は…あんまり候補がない。

喫茶店とかは猫がいるし駄目だろう。

 

「屋上はどう?」

 

「屋上かぁ…」

 

ここの学校には屋上がある。

だけどあそこは普段立ち入り禁止だ。

ただ、正当に入る手段はある。

 

「ちょっと待ってね」

 

携帯の電源を入れて、ある人に電話をかける。

 

「すみません、2年の宮瀬です」

 

『宮瀬君?どうしたの?』

 

「屋上って今使えますか?」

 

『別に大丈夫だけど…急にどうしたの?』

 

「ちょっとクラスメイトと話がしたいんですけど、話が話なだけに屋上の方が都合が良くて……」

 

『えっ?そそそっ、それってまさか告白!?』

 

「全然違います。男友達なので」

 

『そうなんだ。あっ、屋上に行くんだったら野菜の様子も見ておいてくれる?』

 

「はい、やっておきます」

 

『ありがと〜!じゃあ切るね』

 

「はい、分かりましたー」

 

電話が切れる。

携帯をズボンにしまい、雨宮に屋上に行ける事を伝える。

 

「今のは?」

 

「美化委員長、あの人屋上を自由に使えるからさ」

 

「そうなのか」

 

「うん、じゃあ許可が出たし行こうか」

 

「ああ」

 

教室を出て階段を上り屋上へ向かう。

 

 

 

「……あ?蓮と一緒にいる奴はたしかこの前の…」

 

 

---

 

屋上の扉を閉める。

幸い、天気も晴れていて会話するには持ってこいの場所だ。

 

「とりあえずこれに座って」

 

出入り口付近にいくつかある椅子を1つ移動させる。

そして雨宮は椅子座り膝に鞄を置いた。

僕は立ったまま雨宮に詰め寄る…何かドラマとかで見る刑事みたいだ。

 

「じゃあ鞄の中身を見せてくれる?」

 

「…分かった」

 

恐る恐ると言った様子で、雨宮は鞄を開いた。

 

「………」

 

そして中には…やっぱり猫がいた。

 

「…ニャーン」

 

「黒猫か…飼い猫?」

 

「あぁ……モルガナだ」

 

猫もといモルガナが何か抗議するように鳴く。

まぁ引き出しや鞄に長時間閉じ込められてたらモルガナのストレスもたまるだろう。

 

「雨宮、あのね…いくら飼い猫でも学校に連れてきたら駄目でしょ」

 

授業中横から小さくニャンニャン聴こえてくるから気になって仕方ない。

僕も猫は好きだけど流石に学校に連れてくるのはやり過ぎだ。

 

「………」

 

雨宮は長い間沈黙する。

その間モルガナと必死に目を合わせているように見えたけど…気のせいかな?

 

「……………」

 

「お前も大変だったよな」

 

モルガナの頭に手を置いてゆっくりと撫でる。

主に頭頂部や耳の付け根辺りなどを重点に撫でる。

 

「ゴロゴロゴロ……」

 

可愛いな…うちでもペット飼いたい。

とはいえ、あまり触り続けてたら時間が飛びそうな気がするから程々にしておく。

 

「ニャーン……」

 

そんな悲しそうな表情で泣かないで欲しい。

少しだけ心を鬼して、雨宮へも視線を切り替える。

 

「…モルガナは大事なペットなんだ。だから目を瞑って欲しい」

 

「大事ならストレスかけるような事したらダメでしょ」

 

大事ならもっと大切に扱おうよ…

 

「べったり懐いているから中々離れてくれないんだ。それにかなり賢いから家においてもいつの間にか鞄に入っている」

 

そうだろ?と雨宮がモルガナに目を合わせると、モルガナは鞄から飛び出して雨宮の肩に飛び移って頬擦りをした。

 

確かに…人と猫だけど通じ合ってるように見える。

 

「うーん…仲は凄い良さそうだけど。でも学校中は流石に……」

 

するすると雨宮の肩から僕目掛けて飛び移った。

 

「うわっ!!」

 

咄嗟の事でびっくりしたけど、何とかモルガナを受け止める。

毛がサラサラしていて撫で心地がよさそうだ。

 

「モルガナも宮瀬の事が好きみたいらしい」

 

「ニャーン」

 

「それは嬉しいけど…」

 

と言いつつモルガナを撫でる。

そしてモルガナは気持ちよさそうに声を鳴らす。

うん、可愛い。

 

「……仮に見逃したとして、引き出しの中に入れっぱなしは無理だと思うよ?」

 

「大丈夫、モルガナは普通の猫とは違う」

 

「確かにそんな感じはするけど…先生にバレたらどうするのさ」

 

「バレないようにするつもりだ」

 

「うーん…」

 

バレなければ良いという問題じゃないと思うんだけどな。

でもモルガナはかなり賢そうだ。

それに今日一日引き出しの中にいたけど特に問題なさそうだったし…

 

「………」

 

「ニャーン…」

 

「頼む」

 

「まぁ…僕に何か害があるわけじゃないし。どうしてもって言うなら黙っておくよ」

 

「ありがとう」

 

「そのかわりと言うのもなんだけど…定期的にモルガナと触れ合わせて貰えない?」

 

「それくらいなら大丈夫だ」

 

「おっけー、じゃあ取引成立だね」

 

ここにモルガナ大好きクラ…じゃなかったお互いとやかく言わない約束が結ばれた。

何か言いくるめられたような気もするけどまぁいいか。

 

そうと決まればモルガナを触ろう。

 

「動物が好きなのか?」

 

「うん、うちはペットいないからさ。憧れるんだよね」

 

「ニャー!」

 

モルガナが強く鳴いた。

すぐに触るのをやめるけど腕には抱えておく。

うーん、可愛い。

圧倒的可愛いさ。

 

「ニャ〜ン……」

 

そして数分間モルガナを撫でた。

このままだと一時間経っても分からない気がしたからモルガナを離す。

モルガナは名残惜しそうに鳴いたけど、大人しく雨宮の鞄へと戻った。

 

「よし、それじゃあ野菜の方を見てくるよ。帰りたいなら帰っていいからね」

 

「じゃあもう少しここに居るよ」

 

「そっか」

 

屋上の奥にある、栽培スペースまで動く。

そこでは月の形をした人参ややたらと明るい色をしているトマトなど市販の野菜とはだいぶ違う物が育てられている。

 

「相変わらずだけどこれはもう家庭菜園のレベルだな…」

 

美化委員会は汚れる仕事が多いためか委員会に参加していても参加しない人が多い。

だけど美化委員長は毎週頑張って清掃やゴミ捨てなどを頑張っている。

そして何故かは分からないけど、その延長線上で屋上に許可を取って野菜も作っている。

 

ちなみに僕自身は委員会に入っていない。

昔ガーデニングとかの土いじりをしていた事を美化委員長がどこからともなく聞きつけて質問攻めにあった事から彼女の野菜栽培を手伝うようになった。

 

そのお礼でここの野菜を少し分けてもらえるからちょっと嬉しい。

見た目はアレだけど、味は良い、

ただ結構独特な苦味や酸味がするから好き嫌いがハッキリ分かれる。

 

何故そんな野菜が生まれるのかと言うと、美化委員長が自分で品種改良しているとからしい。

 

「よし、特に異常はないな」

 

携帯のメッセージアプリで『問題ありません』と美化委員長に向けて送る。

すると秒で既読がついて即座に『ありがとう!今日は急用が入って見に行けなかったから助かったよ〜!』という返信が来た。

 

何故かは分からないけど、この人の既読と返信の速度はかなり速い。

速すぎて若干怖いレベルにまである。

 

『どういたしまして、何かあったら言ってください』とだけ送って携帯の電源を切る。

 

「雨宮ー、そろそろ帰ろう」

 

屈伸して後ろに振り返る。

そこにはなんと見覚えのある金髪君と同じクラスの高巻がいた。

 

「あっ、お前は昨日の!」

 

どうやら金髪君と僕は知り合いらしい。

おぉ、怖い怖い

 

「えっと…何でいるの?」

 

「何でって…作戦会議だよ」

 

「作戦会議…?」

 

「お前俺たちの事について何も知らねーのかよ?」

 

「うん、知らない。ここ使用禁止だから見つからないうちに帰った方がいいよ」

 

あの後って言うと…鴨志田に捕まったから三島を犠牲にして帰った時の事だろう。

 

「そうか、なら早く帰らないとなっておいおいおい!そこは普通、何があったんだ?とかあってもいんじゃね…?」

 

見事なまでのノリツッコミを入れてくる金髪君。

その横で高巻は若干呆れ気味でため息をついてる。

 

「はぁ…宮瀬君だったっけ?うちの竜司がごめん」

 

「全然大丈夫。でもここは普段立ち入り禁止だから溜まり場に使うのは向いてないよ」

 

「別にバレねーだろ」

 

「あんたはちょっと黙ってて」

 

高巻は金髪君を睨みつけ無言の圧力で黙らせた。

女の子って怖いね…

 

「結局何があったの?」

 

「実は竜司達がね……」

 

高巻曰く、鈴木が屋上から飛び降りた直後にキレた金髪君が鴨志田の所に突撃したらしい。

そして金髪君を止めるべく動いた雨宮と三島も鴨志田の怒りを買ってしまい来月の理事会で退学処分にさせる事を言われたらしい。

 

「それで作戦会議ってこと?」

 

「そうそう、そゆこと」

 

鴨志田が退学させると言った以上あいつは絶対に実行する。

彼らは概ね鴨志田の体罰やハラスメントの証拠を集めようとしているところかな。

 

「うーん…まぁ事情は分かったよ。けど、それにしては随分と切迫感がないよね…?」

 

前に鴨志田が退学通告した生徒が本当に退学したという話を聞くぐらいだから、普通ならもっと慌てるはず。

実は金髪君が凄い頭が切れ物……それはないか。

 

「そりゃ、俺達にはいせ───」

 

金髪君が何か言おうとした時、モルガナが勢いよく彼の顔に飛びかかる。

 

「もがっ!?」

 

金髪君は後ろに倒れ込んでもモルガナに口を押さえつけられている。

 

「大丈夫…?」

 

「あ、うん大丈夫大丈夫!!竜司ってばモルガナと仲が悪いんだよねー」

 

高巻さんが早口で捲し立ててくる。

 

「今、いせなんとかって言わなかった?」

 

「え…えっと…伊勢海老!そう伊勢海老!高級なのが手に入ったから先生にあげて許してもらおうかなって!そうでしょ竜司!?」

 

「あん?伊勢海老なんて持ってねーだろ」

 

「………」

 

金髪君…折角のフォローを打ち壊す事を言ったら駄目だよ……

その後、金髪君は高巻さんに文字通り引きずられていった。

女の人ってこわい。

 

「じゃあ…僕も帰るね……」

 

ちょっと疲れた感じで言う雨宮。

彼も大変だな…

 

「今のは聞かなかった事にしとくね…?」

 

「そうしてくれると助かる…」

 

そして雨宮はモルガナをカバンに戻して、2人の後を追った。

 

「何か大事な事を聞き忘れたような……まぁいいか」

 

僕も帰り支度をしていつもの道を歩いて帰った。

なお、家に帰ってから言いたい事を思い出したのは言うまでもない。

 




はい、先日メールをいただきました。
協犯者という単語についてですが、これは造語です。
本来は共犯者ですが、協の方が好きなんでこっちでやってます。
誤字ではないです。

それではまた次話で会いましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歪つな世界 5話

クリスマスを満喫するカップル共にマハムドオンする為の準備が忙しいので最終投稿です(大嘘)


あれから数日、特に変化もなく時間が過ぎていった。

授業を受けて、モルガナを愛でて、ルブランでコーヒーを飲んで、モルガナを愛でて、屋上の植物を見て、モルガナを愛でたりする生活を送っている。

 

時々、雨宮にトリックスターの事を聞こうとしたけど鴨志田に対抗するのに忙しいのか中々時間をとってもらえない。

何しているのか気になってたまに雨宮達を尾行したけど、いつの間にか消えたりする事がほとんどだった。

 

「謎が多いなぁ…」

 

「ニャー?」

 

「何でもないよ」

 

よしよしと膝に乗っているモルガナの頭を撫でる。

実はついさっき、雨宮からモルガナを預かって欲しいと言われて預かっている。

 

ふぅ…モルガナ可愛い

 

小一時間程モルガナを愛でていると、雨宮が戻ってきた。

 

「預かってくれてありがとう」

 

「どういたしまして。僕としても役得だったから」

 

モルガナを持ち上げて雨宮へと渡す。

名残惜しいけど、ちゃんと飼い主に返さないとね。

 

「それじゃあ、また明日」

 

「うん、またね」

 

雨宮を見送った後、携帯から着信音が鳴り響く。

電話の相手は美化委員長だ。

 

「はい、もしもし」

 

『あっ、宮瀬くん。今時間あるかな?』

 

「ありますよ」

 

今日は野菜関連かな?そろそろ収穫時期だったはずだし。

 

『よかったぁ〜!じゃあ野菜の収穫を手伝ってくれる?』

 

「丁度学校にいるんで今から行きますよ」

 

『分かった!じゃあ待ってるね』

 

通話が切れる。

一々着替えるのも面倒だから制服のまま行こうかな。

 

「今日は遅くなりそうだな…」

 

野菜の収穫を手伝ってた言われたけど、いつもの流れだと収穫→野菜と洗浄→記録→美化委員長の家でお礼のお茶会という感じになる。

4、5時間くらい拘束されることになるけど今まで断った事はない。

 

なんというか…あの人の頼みは断りづらい。

喜怒哀楽が結構顔と雰囲気に出やすい人だから断った時に物凄く申し訳ない気持ちが湧いてくるんだよね……

---

 

「今日はありがとう。私1人じゃもっと時間かかってたよ〜」

 

「今日は結構量が多かったですもんね」

 

あれから時間が過ぎて、今は美化委員長とのお茶を楽しんでいる。

だけど……

 

「………」

 

「………」

 

会話がまっっっったく続かない。

幾らなんでもおかしいと思えるレベルには続かない。

 

例えば『今日は大変でしたね』と言うと『うん…そうだね…』と言われてそこで会話が終わる。

 

委員長が淹れてくれたこのコーヒーは凄く美味しい。

だけど女の子と2人同じ空間で無言というのが辛い…

それにこの人の住んでる部屋凄く広いからさらに気まずい……

 

「………毎回思うんですけど、こんな時間帯までお邪魔してていいんですか?」

 

「全然大丈夫だよ!お父さんもたまにしか帰ってこないし、お手伝いさんも昼間しかいないから」

 

「そうですか…」

 

「……ずっと居てくれたらいいのに」

 

「…?何か言いました?」

 

「えっ?う、ううん、なんでもない!それよりお代わりはどう?」

 

「あっ、いただきます」

 

お代わりをもらってコーヒーをすする。

同じ豆でもルブランのマスターとはまた違った味わいがして美味しい。

今度連れて行ってみようかな。

なんだか、委員長とマスターって相性がいい気がするし。

 

「ふぅ……そういえば委員長って3年でしたよね?」

 

「うん、そうだよ」

 

「進路ってもう決まってる感じですか?」

 

「………うん」

 

委員長の顔が曇る。

まるで行きたくない所に行くような…そんな気がする。

これ以上は藪蛇かな…

 

「そうですか…何かあったら連絡くださいね」

 

「うん……ごめんね、君に頼ってばっかりで」

 

「頼られたって思う程大した事なんてしてませんよ。野菜の件も趣味の延長みたいな感じですし」

 

「それだけじゃないんだけどなぁ……」

 

「え?他に何かありましたっけ?」

 

「それは…秘密かな」

 

「えぇ……」

 

野菜関連以外で頼られた記憶がない……

委員長も言う気は無さそうだし…気にするだけ無駄か。

 

「さて、そろそろお開きにしましょう」

 

委員長に言われて携帯の時計を見ると、いつのまにか8時を過ぎている。

 

今日もまた長居してしまった……

一緒に居るのが嫌というわけじゃないけど、終わる時間が時間だしなぁ。

もし委員長の両親に出くわしたらとんでもない誤解を与えそうで困る。

 

「すいません…また長居しちゃったみたいです」

 

「ううん、全然問題ないよ!」

 

「いやいや、問題大有りだと思うんですけど……」

 

「ううん、全然問題ないよ!」

 

「ほら、ご両親とかに見られたら変な誤解をされ」

 

「ううん、全然問題ないよ!」

 

あっ駄目だこれ、はいしか答えられない選択肢だ。

というか変な誤解が起こっても問題ないの……???

 

「……はい」

 

「うん、素直でよろしい」

 

なんか僕が駄々をこねてる感じになった…おかしい……

 

いいこいいこと言って今にも頭を撫でそうな雰囲気を出す委員長。

そんな委員長から半歩距離を取って帰り支度を始める。

 

この人、僕の事を犬か何かと勘違いしているんじゃないだろうか。

やたら撫でまわそうとしてくるし、距離近いし、偶に選択肢バグるし……

 

「それじゃあ…帰ります」

 

「うん、またね!」

 

名残惜しそうに玄関から見送られながら、帰路につく。

そして…疲れた(主に精神的に)から、家に入るなりベッドにダイブしてそのまま眠りについた。

 

-----

 

ふと気づくと、昔の記憶の中にいた。

昔、通っていた小学校の廊下。

夕陽の光が窓ガラスから差し込んできていて眩しい。

 

『………』

 

少し先に女の子が佇んでいる。

見覚えのある、大きな眼鏡を付けた───

 

その子は僕に気がつくと、ゆっくりと近づいてきた。

 

『──』

 

何かを呟いている。

何て言っているんだ。

 

途中まで来ていた女の子は急に止まってしまう。

そして頬に一筋の涙を流して僕を見つめてくる。

 

『……………さよなら』

 

長い沈黙の後、その一言だけを言うと女の子は歩いて遠ざかっていく。

追いかけて、その手を掴まないと───

だけど足は固められたようにピクリとも動かない。

 

彼女は夕焼けとの光に溶け込んでいく。

 

待ってくれ……僕は…僕は───!!!!

 

「「起きろ(なさい)、囚人!!」」

 

急に場面が変わる。

この前来た牢屋の景色だ。

 

ドアの前にはカロリーヌとジュスティーヌが立っている。

 

「呼びかけに反応しないとは生意気だな!囚人!」

 

「ご、ごめん」

 

カロリーヌは前回と変わらず厳しい。

刑務所の看守もこんな感じなんだろうか。

 

「カロリーヌの言う通り、少々気を緩ませ過ぎです、囚人」

 

「はい…」

 

ジュスティーヌも前回と同じく冷たい。

しかもこの子度々毒を吐いてくるから怖い。

 

「ククク…ようこそ我がベルベットルームへ」

 

椅子に座って待ち構えているイゴール。

不気味だな……何を考えているんだろう。

 

「ククク…どうやらトリックスターとの邂逅は果たした様だな」

 

トリックスター…雨宮の事か。

邂逅したって言われても隣の席だし結構前から面識はあったけどね。

 

……あっ、そういえば雨宮にベルベットルーム(この部屋の事)関連を聞くの忘れてた。

モルガナと乱入してきた金髪くんと高巻さんの事に気を取られすぎたなぁ…。

今度改めて聞かないと。

 

「早速出くわすとは運がいいな囚人!」

 

席が隣だっただけです。

でも結構自信満々に言ってるから…言わない方がいいかな。

うん、言わない方がいいね。

 

「ただ、囚人と情報交換はできていないようですね。もっと頑張りなさい、囚人」

 

ジュスティーヌが釘を刺してくる。

その視線はとても冷たい。

 

それにしてもこの2人いい感じにバランスを取ってくるよね。

片方が上げたらもう片方が落とすみたいに。

 

「えっと…今日は何の用事ですか?」

 

「今宵はトリックスターが抗っている舞台を貴様に体験させる為に呼び出したのだ」

 

「抗っている舞台…?」

 

「左様」

 

ここ数日見ていたけど特に変わったところはなかった。

授業を受けて、モルガナに構って、金髪くんと高巻さんとつるんで…といった様子だった。

てっきり裁判でも始めるつもりなのかと思っていたけど、今のイゴールの言い方でそんな風じゃないことは分かる。

 

「貴方には人の歪んだ心の世界…異世界(パレス)の一端を体験してもらいます」

 

「お前がさっさと異世界に入らないから手伝ってやるんだぞ!!」

 

カロリーヌが鉄格子を警棒で叩く。

カァーンという甲高い音が部屋中に鳴り響いてうるさい。

 

耳を押さえつつ、イゴールに視線を戻す。

 

「パレスとか歪んだ心の世界って言われてもよく分からないんですけど…」

 

「パレスとは歪んだ欲を持つ人の心中…。お分かりいただけたかな?」

 

「…人の頭の中に入るってこと?」

 

「概ねその介錯で構わない」

 

そんな馬鹿な事があるわけない。

仮にあったとしたら、世界中で大混乱を引き起こすはずだ。

何せ心の中を自由に出入りされるんだから。

 

まさか、雨宮は鴨志田を洗脳して退学を免れようと……?

 

「……何か勘違いをしている様なので言っておきますが、パレスは特に歪んだ思想を持つ人間にしか発現しません。また、囚人にはパレスから人を操るなどと言うことはできません」

 

「そ、そう……ありがとう」

 

「……これも勤めですので」

 

「あ、うん…」

 

ジュスティーヌが場をリセットするように咳払いをする。

 

「話を戻しましょうか……囚人が企んでいるのは恐らく対象者のパレス崩壊による良心の叱責、という所でしょうか」

 

「良心の叱責…?」

 

「はい、パレスとは所持者の醜い欲望や感情の塊。それが破壊され、消えて無くなると言えば理解できるでしょう」

 

「………マイナスがプラスになる?」

 

「はい、個人差はありますがその通りです」

 

つまり、パレスを消せば対象の悪性も消えて善性だけが残って良い人に変わるって事なんだろう。

でも過去は変わらないから自分の犯した過ちを悔いる事になる…それが良心の叱責って事か。

 

鴨志田が良い人になるっていうのはあんまり信じられないけど、こんな空間(ベルベットルーム)も存在してるんだからとりあえず信じてみよう。

 

「他に質問は?」

 

「…今の所はないかな。ジュスティーヌさんが説明上手で助かったよ」

 

「えぇ…どういたしまして」

 

表情は変わってないけど、声音が少しだけ柔らかくなった。

もしかして…照れてたりするんだろうか。

 

一方カロリーヌは何故か胸を張ってドヤ顔してる。

いくらなんでも顔と態度に出すぎじゃない…?

 

「百聞は一見にしかず…そこの光に触れるがいい」

 

イゴールが指を鳴らすとベッドの上に光の玉が浮かんだ。

言われる通りに光の玉に触れると、輝きが強くなって目が眩む。

 

「うーん……ここは…」

 

真っ白になった視界が少しずつ戻っていく。

視力が戻り辺りを見渡すと、ここがベルベットルームではなく学校の門前だという事に気づいた。

だけど目の前に建っているのは普段通っている学校じゃなくて西洋チックな城だ。

 

「これが……パレス」

 

鴨志田の歪んだ心の中…

中からは禍々しい空気がヒシヒシと伝わってくる。

足が震える、寒気がする、そして嫌な予感が止まらない。

 

「………」

 

一歩が踏み出せない。

恐怖で足がすくんだわけじゃない。

足が、体が、本能が、これ以上関わるのは駄目だと感じているんだ。

戻れなくなるぞ、そう警告しているように。

 

「……ふぅ…落ち着け…」

 

深呼吸して落ち着く。

体も力が抜けて、普段通りに動けるようになった。

 

「どのみち、もう引き返せない所にいるんだ。行くしかない」

 

そう自分に言い聞かせて、全く未知の世界へと足を踏み入れた。

 

 




お久しぶりでした。
すいません、ほんとすみません。
主人公君が異世界ナビに気付いてないのが悪いんです。
あいつ全くスマホ見ないんですよ。
なのでこんなに回りくどくなりました。
元凶は私です、ユルシテ…

感想、文句等、あればぜひお願いします。
誤字があったら優しく指摘してもらえると作者の好感度が上がります。

ではまた次回で


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

ゴリライズしてヤベェーイ人工知能ぶっ潰してくるので最終投稿で(大嘘)


「気持ち悪………」

 

鴨志田のパレスを探索して思ったことが口から溢れる。

鴨志田のほぼ全裸の巨大銅像、地下の牢屋で拷問みたいな事をさせられているバレー部員、鴨志田視点から見た生徒達な学校の事が纏められている書庫、所々に置いてある女体の像、見ていて吐き気しかない。

 

「性格歪みすぎでしょ……」

 

ここまでフルオープンだと清々しさまで感じてくる。

 

「写真に撮って帰れたらよかったんだけどな…」

 

生憎と現実の僕はベッドの上。

つまりこれもある種の夢みたいなものだ。

服も制服に変わっているけど手ぶらの状態だから何もできない。

 

「そう言えば、帰る方法聞いてない……」

 

呼んだら迎えに来てくれるとかかな?

それともまだ目的が達成できてない?

行ける所は大体行ったと思うんだけど……

 

鴨志田の巨大な肖像画が飾られているエントランスホールまで戻ってくる。

不思議な事に、今まで警備らしい警備に会ったりしなかったり、罠や仕掛けも全部解いてある状態だったから楽に探索できた。

 

「多分…雨宮がやったんだろうなぁ」

 

雨宮は鴨志田の良心による叱責…平たくいうと改心を狙っている。

きっと僕がいる一帯より、もっと奥の方の警戒レベルが強い所にいるんだろう。

 

「それにしても……いくらなんでもナルシストすぎないか…?」

 

目の前にある白馬の王子様のような白銀の鎧を着たイケメン(笑)の鴨志田の肖像画。

どこから入っても必ず目につく鴨志田の自己顕示欲像は見ていてかなり気持ちが悪い。

しかもこれだけではなくもう少し奥には鴨志田の巨大銅像が建っている教会風な部屋があった。

自分が神様だと言わんばかりの装飾に気分が悪くなる。

 

「はぁ…ちょっと休憩──」

 

鴨志田の肖像画にもたれかかって座ろうとしたらそのまま後ろに倒れた。

 

「いったたた……」

 

頭と背中を打ってしまって地味に痛い。

おのれ鴨志田…

 

しばらくして体を起こす。

周りを見るとどうやらここは隠し階段のようだ。

下へ続く道と上へ続く道、両方がある。

 

「うーん……どっちに行こうかな」

 

ここまで来て退く選択肢はない。

それに、帰る方法も分からないし……

 

「よし、下に行こうかな」

 

ゲームだとこういうお城は上に行けばボスに近づいて下に行けば隠し財宝というのが定番だ。

ゲームの世界じゃないけど、鴨志田は自己顕示欲の塊だからわざわざ下の方で待ち構えてるなんて事はないだろう。

 

暫く階段を降りると、エレベーターのような物に当たった。

乗るところは普通だけど、レバーがどことなくいやらしい。

とことん気持ちが悪いな、ここは。

 

「気持ち悪いけど我慢我慢…」

 

気持ち悪いレバーを降ろして下へと降りる。

 

「暗いな……」

 

一本道みたいだけど、結構暗い。

懐中電灯とか無いと困るレベルだな……

こういう場所って即死トラップとかがあったりするんだよね。

残念だけど引き返すしかないか。

 

「……ん?上がらない」

 

精一杯力をこめるけど、レバーはびくともしない。

もしかしてこれって一方通行のエレベーター……?

 

「嘘だろ……」

 

下げる、押す、引く、左右にスライド。

何をどうやっても、レバーは動かない。

うそだどんどこどーん。

 

……戻れないものは仕方ない。

 

「進むしかない……か」

 

意を決して足を踏み出す。

不気味な程に静かで薄暗い。

 

しばらく周りを警戒しながら歩いていると、警備員のようなガタイのいいナニカがいた。

 

「ナニモノダ!」

 

目の前のナニカは、敵意剥き出しでこちらを警戒している。

 

「えーっと……迷子?」

 

「フザケルナ!」

 

どうやら話は通じなさそうだ。

ゆっくりと後ずさる。

だけど途中で障壁のような物にぶつかって逃げられない。

 

「何だよこれ……!」

 

蹴っても叩いてもびくともしない。

そうしている間に、ナニカは距離を詰めてくる。

 

「ノガシハシナイ!」

 

その時、ナニカが別の物に変身した。

その姿は大きく、そしてこの中で見た物より一番見た目が気持ちが悪い。

 

「我が名は、マーラ。賊は排除する!」

 

その巨体が、猛スピードで突っ込んでくる。

 

「うわっ!」

 

ギリギリで横に跳んでよける。

あんな速度で当たられたら骨折どころじゃすまない。

何とかして逃げないと……。

 

「小賢しい!」

 

マーラは180度ターンしてまたこっちに突撃してくる。

さっきよりも速い……!

 

「でも!」

 

タイミングを合わせてまた、横に跳ぶ。

 

「甘い!」

 

しかしマーラが触手を伸ばして叩きつけた。

猛烈な痛みと衝撃が体を襲い吹っ飛ばされる。

そして透明な壁に叩きつけられ、胃の中の物を吐き出してしまう。

 

「う゛っ……」

 

意識がふわっと浮く。

何とかこらえて立ち上がるとマーラが何かを構えていた。

 

「アギダイン!」

 

マーラがそう唱えた瞬間、体が炎に包まれた。

 

「ああ゛あっぁぁぁあ!!!」

 

熱い、体が焼けていく。

痛い熱い痛い熱い痛い痛い痛い。

 

死が、目の前まで来ている。

逃れたくてもがいても炎は消えない。

 

「だれ、か……」

 

こんな所だと誰の助けも来ない。

わかっているのに、助けを求めてしまう。

そして誰の目にも触れずに独りで死ぬ。

 

【そんなものなのか?】

 

心臓が高鳴る。

どこからか知っている声が、聞こえる。

 

「な、何が起こっている」

 

「……そう、だ。人間は孤独なん、だ」

 

【分かってるじゃないか。人は誰にも干渉せず、されず、ただ一人の世界を作ればいい。それが人のあるべき姿】

 

声の言っている事は正しい。

所詮、他人はどこまでいっても他人。

だから、初めから関わる必要なんてない。

 

だけど、僕は……絶望に苦しむ人を助けたい。

救えなかった、あの子の分まで。

 

「ちが、う……!孤独、だからこそ。誰かが……救わないといけないんだ。」

 

【それはただの自己満足に過ぎない。孤独で、誰からも認められない道を、お前は歩む覚悟があるのか?】

 

賞賛も栄誉もいらない。

自己満足だろうが関係ない。

救いたいから救う、たとえ自分がどうなろうとも。

 

「あぁ……あるさ」

 

【……いいだろう】

 

顔を覆う程の仮面が出てくる。

それに手をかけて力を込める。

 

【我は汝、汝は我】

 

「ぐっ……あぁぁあ!!」

 

【お前の末路……見届けよう】

 

仮面はミシミシと音を立てながらヒビが入っていく。

顔の皮膚が剥がされるような激痛が走るが、燃えている痛みの方が大きいのかあまり気にならない。

 

「従え……ノア!!」

 

全ての力を込めると、半分(・・)だけ仮面が剥がれた。

 

「ぐあっ!!」

 

マーラが衝撃を受けて後ろに下がる。

 

「ふぅ……」

 

体から痛みが消えていく。

それに羽が生えたように体が軽い。

今なら何だってできる気がする。

 

「さぁ、第二ラウンドだ」

 




ゆるゆる続けます。
アデュー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

取り戻した心 7話

エルデの王を目指すので最終投稿です(大嘘)


「一体何がっ……!?貴様は何者なんだ!」

 

力が漲る。

体の傷は回復しているのか痛くも痒くもない。

 

それに戦うための武器もある。

左手に小型の盾、右手にはやや長めの剣。

不思議と重さは無く、これなら不自由なく振るえるだろう。

 

「僕は僕さ。さぁ、覚悟はいいかい?」

 

絶望的な状況だと思っていたけど、今なら切り抜けられる気がする。

 

「ふざけるな!死ね!!!」

 

驚きから落ち着いたマーラがさっきと同じ呪文を唱える。

 

また体が燃え上がるが、今度は対策できる。

 

「夜のオーロラ」

 

身を包んでいる炎が弾け飛ぶ。

 

「何だと!?」

 

驚きを隠せないマーラが何度か同じ事をしてくるが、炎は全て弾け飛んで消える。

やがて、撃てなくなったのかマーラが息を切らして叫ぶ。

 

「轢き潰してくれる!!」

 

体を前に傾けて突っ込んでくる。

先程よりも速い。

避けることは難しいだろう。

 

「それはどうかな?」

 

左手の盾を構える。

足に力を込めて、カウンターを決められる様に体勢を整える。

 

「ぐっ……」

 

物凄い衝撃が全身に伝わる。

吹き飛ばされそうになるけど、盾の角度を斜めにずらして奴の軌道を変えた。

 

「馬鹿なっ!!?」

 

僕が加えた力によってさらに加速するマーラ。

当然、減速なんてする暇もなく透明な壁に大激突した。

 

「ぐぁっ……」

 

ダメージが大きかったのか、その場に倒れてダウンする。

その隙は決着をつけるのには十分すぎる物だ。

 

右手の剣を振り上げて、力一杯振り下ろす。

剣は抵抗も無くマーラの体を切り裂き、両断した。

 

「はぁっ!!」

 

「ぐぁっ……、馬鹿、な」

 

「ごめんね。でも僕は……今、死ぬわけにはいかないからさ」

 

マーラの体が墨の様に黒く染まり周りに霧散していく。

それと同時に、周りの張り詰めた雰囲気が元に戻る。

どうやらマーラを倒した事で普通の空間に戻ったようだ。

 

「よかった……」

 

剣を腰に着いている鞘に入れる。

盾は……腕に引っ付いているからこのままでいいか。

小さめの盾で助かった。

これなら邪魔になることもない。

 

「さてと……奥には何があるかな?」

 

マーラは何かを守る様に警戒していた。

ということは、この奥に何らかの仕掛けがあるはず。

 

「っとと……」

 

歩き出そうとした瞬間、体から力が抜けて転びそうになる。

 

「なんだよ……これ」

 

体が異常に重い。

息もあがってきて、立っているのも辛くなる。

何がどうなっているんだ。

 

「うっ……」

 

足の力が抜け、倒れ込んでしまった。

壁がひんやりしていて気持ちいい。

景色もぼんやりと霞んできた。

 

今、この状態で敵に襲われたら終わる。

 

「く、そ……」

 

剣を杖代わりにして何とか立ち上がる。

フラつきながら、必死に奥へと足を運ぶ。

 

「……あった」

 

宝箱……と、ボタンがひとつ設置されている。

きっとあのボタンでエレベーターを再起動できる。

そうでないと困る。

 

ボタンを押す。

それと同時に、エレベーターの方向からガチャリと何かが解除される音が鳴った。

 

「よし……」

 

隣の宝箱が気になるけど、今は宝箱に時間を割く余裕がない。

惜しいけど早く脱出しないと……

 

エレベーターに乗り込み、起動させる。

 

「……」

 

疲れがさらに強くなり、力が抜けていく。

エレベーターが、来た時と変わっていないはずなのにゆっくりと動いている様な気がしてきた。

 

体が何度かふらつくけど、堪え続ける。

しばらく経って……ようやく戻ってこれた。

 

「はぁ……はぁっ………」

 

強烈な眠気が襲ってくる。

今倒れたら間違いなく意識が飛ぶ。

 

「うっ……」

 

やっぱり、限界だ。

 

膝から崩れ落ち、そのまま倒れてしまう。

 

眠い。

瞼に重りがつけられたみたいにどんどん下がっていく。

 

「く……そ」

 

………

…………

……………

 

「起きろ(なさい)」

 

はっ……!?

ここは、ベルベットルーム?

さっきまで鴨志田のパレスにいたはずなのに。

 

それに格好も囚人服に戻ってる。

 

「まず、ペルソナの覚醒を祝福しよう」

 

イゴールが不気味な笑みを浮かべながら拍手してくれた。

それに合わせてジュスティーヌとカロリーヌも拍手している。

 

「ペルソナ……?」

 

「左様、ペルソナはお前の心が生み出した叛逆の力。異世界で生き残る為の唯一の力だ」

 

「良くやったな、囚人!」

 

「初めてのパレスにしては上出来です。囚人」

 

「あ、ありがとう……?」

 

褒められてるから、悪い事じゃないんだろう。

自分より小さい子に褒められるのもむず痒い感覚だ。

 

「えっと……たしかそのパレスで倒れたはずなんだけど」

 

「さぁ、何でだろうな?」

 

何故か不敵に笑うカロリーヌ。

 

もしかして夢だった……?

いや、ジュスティーヌ達の様子を見る限り違うだろう。

それに体も節々が痛いし。

 

「まさか、運んできてくれた……とか?」

 

「不正解だ!」

 

「えぇ……」

 

つまりどう言う事なんだ?

 

「……今の貴方はただの精神体にすぎません。故にパレスで倒れても、肉体に戻るだけです」

 

あっ……そうか、なるほど。

僕は本来家で寝ているはずだ。

そしてベルベットルームは夢に近い場所。

つまり、肉体はベッドで、精神だけこの場所に来ているという事になる。

 

「まぁ貴様はベルベットルームに縛られているからここに戻るわけだがな!」

 

「縛られている?」

 

「貴方と囚人の因果が複雑に絡み合った結果、貴方も囚われの身と言う事です」

 

「そっか」

 

僕は巻き込まれただけだけなのに何だか酷い状況になっている気がする……。

 

「……さて、時間の様だ。お前の心に恥じぬよう、運命に抗うといい」

 

「精々醜く足掻く事だな!」

 

イゴールが指を鳴らすと、景色がぐにゃりと歪む。

 

「──はフェアでなければいけないな」

 

全てが真っ黒になる直前、イゴールの掠れた声が少しだけ聞こえた。

 




お久しぶりです。
戦闘描写はよく分からないのであんまり突っ込まないでもらえると幸いです。

ちなみに夜のオーロラですが、仕様が本作独自のものに変わっているのでお伝えします。

本来の夜のオーロラは一属性以外全反射ですが、本作の夜のオーロラは直近で受けた二属性までの攻撃の無効とその反対に属する攻撃の弱体化となります。

分かりやすく説明すると、火炎属性と物理属性の攻撃を受けた場合、夜のオーロラ使用時にその属性の攻撃が無効となり、対となる氷結属性と銃撃属性の攻撃が弱点となります。

例外として万能属性は常時半減となります。

それではまた次回


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。