おっさんin幼女が魔法少女な世界で暴走する (親友気取り。)
しおりを挟む

A’s前空白期
1 天ぷら転生


 いわゆる神様転生って奴、テンプレの。

 貰ったのはオンラインゲームであるファンタシースターオンライン2……通称PSO2の魔法や技(ゲーム内用語でそれぞれテクニック・PA(フォトンアーツ))、高い身体能力。それと各種武器防具やアイテム類もろもろとそれを仕舞うアイテムパック。一番安い回復薬のモノメイトとかはともかくとして、完全回復できるトリメイトとか持ち込めるの凄くない?

 やってみたいね。傷ついた仲間に「仙豆(トリメイト)だ、食え」ってやるの。

 蘇生アイテムのムーンアトマイザー? あれって完全死亡でバラッバラになってても生き返んの? 使う場面がこなきゃいいけど。

 

 で、だ。

 ここはどこでせう?

 

 見渡す限りは森、森、森。森が三つ集まって……森になるのに必要なのは木だ。

 ともかく大自然の中にいた。ここはどこだ、まさかナベリウスじゃあるまいな。

 

 実はと言うと、転生先の世界はまったく知らされてない。なにぶんランダムらしくて。

 故にどの世界に行ってもある程度通用するアークス一式で来たけど、餓死の予感。

 転生先がドラゴンボールだったらどうしてたって? 頑張ってヤムチャポジに落ち着いて途中離脱するか、あるいは元から関わらんようにするかの二択っしょ。

 

「しっかし、でけぇ木だ」

 

 自分が小人にでもなったんじゃないかって感じ。

 つか、俺の声高くね?

 脳裏に過ぎるは確かな予感。

 視線を下げる。

 

「幼女じゃねぇかぁあああああああああああ!」

 

 

 あんのくそ神がこの!

 確かにアークスのステータスが欲しいとは言ったけどさ。

 何も身体ステータスまで同じにする必要ないだろうよ。

 

「性癖がバレてしまう……!」

 

 何を隠そう低身長。いわゆるロリである。

 よろろではないように頑張ってキャラクリした覚えはあるけど、もしこれがアークス的な身体だとしたらキャラクリ設備のエステでも行かない限り成長しないぞ。

 ここがファンタシースターの世界である保証はどこにもない。

 つまりエステがない可能性が大いにある。

 

「オレは、永遠に幼女のままなのか……?」

 

 

 

 

 

 ショートカットの金髪に灰色の目。そして大人の半分位しかないとても小さな体。

 自分で言うのもなんだが、美人でもなんとかならんこともある。

 

 それは森を抜けて街へ出て、これからどうするか悩みつつのんびりと歩いていた時の事。

 街を見る限り現代社会と変わらないのを見てよくある中世世界を想像していたばかりに、深い絶望に陥りそうになった。

 それはもう、深遠なる闇でも生み出せそうなほどに。

 戸籍も無ければ家もない、今日の飯も怪しいとかハード過ぎん?

 戦う世界を前提としていただけあってつらたん。

 それに気が付いた俺はため息と共に、せめてかわいい幼女で助かったと自己暗示していく。

 というかあれだ。アークスの扱うフォトンって確か感情が負に傾くとその影響でやばいことが起きるんじゃなかったっけ。

 

「もしかしてオレってフォトン持ってるし下手すると宇宙やばい?」

「君、ちゃんと質問に答えてくれないかい?」

 

 それはともかく、ええ。職質です。

 いやさ、昼間っから幼女が若干現代からちょっと外した服装して外歩いてたらこうなるよね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2 運命のチョコ

 逃げました。ええ。

 いや、逃げたってのは感じが悪いな。話術で言いくるめた。

 

 言いくるめた? 違うな。家に帰るっていって去った。

 流石は現代社会の警察官さんだ。適当に反省する感じ出して帰るって言えば幼女に厳しくない。

 どっかのゲームメーカーはもっと幼女に優しくしても良いと思うけど。

 

「しかしどうすっかなぁ」

 

 冒険者ギルドに入るとかなんだとか、異世界って言ったら戦いだろ?

 闘争の化身たるアークスなのでこんな社会じゃ収入もなし。お金もなければ宿もなし。ついでに戸籍もない。

 

「あれ、詰んでね?」

 

 図書館で新聞を見ながらここが日本である事と、今いるのが海鳴という知らん街だということを認識して溜息をつく。

 ただ一つ良かったと言えるのは、俺が幼女スタイルな位だろうか。

 これがもし小汚い小僧とかおっさんだったら即死だった。

 流石は俺が大量のゲーム内通貨メセタとリアルメセタ(課金)を投じて作り上げた最強の幼女だ。

 かわいいは正義。

 

「な」

「え、いや、私に言うとるん?」

 

 隣の少女に絡んでしまった。

 いいじゃん、今や俺も幼女だ。同い年に絡んでも問題なかろう。

 

「まあ、かわいいのが正義なんは分かるけど。なに、私の事褒めてくれてるん?」

「あぁん? オレの事に決まってんだろ」

「キマってるのはあんたの頭や」

「分かるやつだ。ばっちり決まってるだろ? 高かったんだぜこの髪」

「あかん、話が通じひん」

 

 この髪型(エターナルFレイヤーGV)は高騰してたからな。

 

「ていうか、その服なんなん?」

「何って。かわいいだろ」

「春先に白いワンピースって季節感おかしいと思う」

「決まってんだろ?」

「キマってるのはあんたの頭や」

 

 こればっかりは許してくれ。この街に溶け込めそうなファッションアイテムって白いワンピース(エアリーサマードレス)位しかなかったんや。

 元の服装? コスプレで写真パシャパシャされたから変えた。

 エミリアレプカみたいなギリ行けそうなのも色々というかあるけど、ことごとく制服っぽいし。

 

「あ」

「今度は何や」

「レイヤリングがあるじゃん。ちょっと着替えてくる」

 

 席を立ってトイレへ。

 ストーリーで地球と接触した時に、東京のJKがショタにやってた服あるじゃん。これで行こう。

 

「……どこにそんな服持ってたん?」

 

 へけっ、答えねぇよ。

 

「ま、ええか。あ、悪いけどこれ仕舞ってくれへん?」

「どの辺?」

「あの空いてるところや」

 

 気が付かなかったけど、こやつ車椅子だったのか。

 どうりで昼間っから暇そうに図書館に居る訳だ。

 

「私はともかく、あんたはなんで昼間っから図書館におんねん」

「ふはは、何を隠そうオレは宇宙人。地球の偵察に来ているのだ」

「なんやそれ」

 

 そうだ。

 俺にまつわる深く悲しいストーリーを考えておこう。

 人はこれを理論武装と呼ぶのだろうな。

 

「それは借りてくやつ?」

「そそ。あんたは?」

「図書カード持ってねぇし新聞が読めれば充分」

「ほんとに視察しとるんやなぁ……」

「まずはこの海鳴を支配してやる」

「ちっさ」

「んだとおら」

 

 世界には神奈川県川崎市の溝の口を専門で守る正義のヒーローだっているというのに。

 車椅子少女と俺はごく自然に並んで歩き、続いて向かった先はスーパー。

 

「はぁー、そんななりで立派なもんだ。自炊とは」

「なりは余計や。色々作れるで」

「じゃあ今夜はハンバーグな」

「別に構へんけど。チーズいる?」

「わかってんじゃん」

 

 ふむ。ただの少女と侮ってたけど、メモも淀みもなく普通に選んでる辺りレベル高い。

 俺は全クラスカンストだけど料理は貰い物か交換しかないし。

 あとで倉庫に眠ってるクラリスクレイスのチョコ32個でも寄贈しようか。

 2015って書いてあるけどこの世界では未来に当たるし大丈夫っしょ。

 

「わーいチョコちゃん……待って、変な匂いするで。あとべたべたしてる」

「火山で貰った後常温放置してたし。年単位で」

「腐っとるやないか!」

「ひでぇ。クラリスクレイスに謝れよ」

「放置したあんたが謝れや!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3 昔話をしてあげる

 買い物は無事に終えて少女の家へ。

 荷物は少女の膝に乗せて、俺は少女ナビのもと車椅子を押す感じ。

 

「押してもらって悪いなぁ」

「へ、感謝するならうんまいハンバーグでも寄越すんだな」

「あんたのリクエストで作る予定や」

 

 くっそ、広い一軒家とかうらやましい。

 

「てか、親に連絡せんでええんか? そんなそぶりないけど……」

「んあ? お前こそ親に言わなくていいのか。勝手に超絶美幼女家に連れ込んで」

「両親とも死んでもうた。ここに居るんは私だけ」

「……すまん」

 

 素直に謝るとびっくりした顔をされた。

 なにさ。俺だって謝るよ。

 クラリスクレイスのチョコは謝らないけど。あいつ今いないし。

 つーかあんなに渡してくるのが悪い。

 

「で、あんたの親は?」

「いねぇよ。ついでに家もない」

「家出とか」

「違う違う。オレは……あれだよ、宇宙人」

「まだその設定引きずってたんか……」

「おうおうおうおう、言ってくれんな。視察とか征服とかは嘘だけど」

「なんや、残念」

 

 代わりにこの家の一部屋、いやソファだけでも支配させてください。

 

「え、何。永住するん……?」

 

 図書館からすごい自然に話して、付いてって。

 せめて今日の飯でもと下心で来たけど、このまま勢いでいけないだろうか。

 どう? どう?

 

「チラッ」

「……あんな、一ついいか」

「はい」

 

 やっぱりダメだよねぇ。

 

「あんたの事、ちゃんと話してくれたらええで」

 

 なっ。

 マジでか!

 

「家出なんかほんまなんか知らんけど、しばらく匿う位ならええで。ただ、警察来たら誤魔化さんから」

「エンジェル……マイエンジェルis車椅子ウーメン……」

「放り出したろか」

「ごめんなさい」

「その調子でクラリスなんたらって子にも謝り。――ともかく、その、私も人恋しいんや……」

 

 最後は恥ずかし気に、小声で。

 ふむ。代償の本当の事を話すっていうのは本当の事を話しても受け入れられるか分からないけど……。

 

「宇宙人の話、期待しとるで」

「ああ、オレのちょっとした昔話してやるよ」

「……ところであんた、名前は? 私ははやてや。八神はやて」

「オレ? オレの名前は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リコと言う名前のアークスは、仲間内でも少しフォトンの適性が高いテクターだった。

 俗にいう殴りテクターであった彼女はその小柄な体格を活かして相手の懐に潜りこみ、ウォンドに溜めたフォトンを爆発させる。

 そして敵を蹴散らして戻ってきては支援テクニックをかけ直してドヤ顔するのだ。

 ある日の事である。アークスシップ内が赤いランプで照らされて、オペレーターの非常事態という声が響き渡った。

 

 理由は言わずとも分かる。

 ロビーの窓から外を見ればそこには惑星ナベリウスと、そこから伸びる巨大な徒花。

 ダークファルスと言う単騎で星々を滅ぼして回る悪の権化を束ねる存在にして、アークスの敵。

 

 ――深遠なる闇が、復活したのである。

 

 普段はおちゃらけていたチームのメンバーも、リコを含めこの時ばかりは真面目であった。

 それもそのはずで、脅威度はダークファルスの比ではない。

 この戦いに負ければ、冗談誇張抜きに宇宙そのものが滅び去る。

 戦えるアークスは全て集められ、12人毎に板のような小型船に文字通り乗って飛び立った。

 

「緊急事態発生!」

 

 もうすでに緊急事態だろう。

 その誰かの呟きは、光の束と共に消滅した。

 リコが振り返った時には遅く、背後の母船は真っ二つに折れ爆発し、割れた天井から市街が覗き、逃げ遅れたであろう市民が何の抵抗もなく宇宙空間へ吸い出されていくのも見えた。

 

 深遠なる闇に容赦はなかった。

 群がるハエ(アークス)は片手間に蹴散らされ、気まぐれにバラまかれる光線は容易にアークスシップの装甲を抜き数百万の命を消していく。

 

「負けるわけには、行かない……!」

 

 リコが次に顔を上げた瞬間、何が起ころうとしているのか瞬時に察して青ざめた。

 深遠なる闇が両腕を広げ、膨大なフォトンを使い全てを破壊するであろう程の威力の攻撃を行おうとしていたのである。

 

「テレパイプ!」

 

 それが、自身に向けられていたならどれほどマシであったか。

 その攻撃の矛先ははるか後方。アークスシップ? いいや違う。そのさらに後ろ。

 

「よりによって、マザーシップを狙うなんてね!」

 

 マザーシップ。その名の通り、オラクル船団の拠点も拠点。そこが落とされれば全ての演算能力は失われて戦いどころではない。

 アークスが戦えなくなる。それは即ち敗北を意味していた。

 

 テレパイプとライドロイドを駆使してマザーシップへ瞬時に戻ったリコは、同じく察しを付けていた他の仲間達と共に絶望の攻撃へ挑んだ。

 例えそれが、無謀な物であっても。

 当たれば死ぬぞと言われても。

 

「フォメルギオン! うぉおおおおおおおおおおお!」

 

 呆気なく、光に飲まれて全ては消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、気が付けばここに居る訳」

「あんな、宇宙別に滅んでないんやけど」

 

 はやてに話した内容は嘘もいい所だ。

 アークス達は深遠なる闇と戦い敗れ、俺はその余波で別の宇宙に飛ばされてしまった事にした。

 いやだって転生とか神とか言ったってしょうがないじゃん。

 ただ、嘘にしてはすっごいすらすら出てきた。なんでだろ。

 あとはそう、自然と無意識になんか沈んだ気分になった。

 でも回想映像のラストはどうみてもフリーザに挑むバーダック。

 あれ、戦いの衝撃で別の次元に飛ばされるってバーダックと同じじゃん。

 俺はバーダックだった……?

 

「でも、真実だしなぁ」

「じゃあなんかその、テクニック? 見せてや」

「いいぞ。ではデバンド!」

「光ったのは凄いけど、何が変わったん?」

「防御力とHPが上がった」

「……他には?」

「攻撃テクニック使うか?」

「やめて」

 

 俺は使った事ない筈なのに、テクニックも自然に出せた。

 これは何だろう、体が覚えているって感じ?

 ……ともすれば、今使ってるリコの体は本当にその戦いを経験したんだろうなぁ。

 

「んで、信じてくれるのか」

「せやな。半信半疑だけど、あんたが魔法を使えるのも本当やし……」

「デューマンだけどちゃんと肌色だからなぁ。キャストなら分かりやすいんだけど」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4 はやての感想とスクショ

 リコちゃんは、はっきり言って変な子。

 最初に図書館で会った時は、かわいいのは間違いないのにやけに男勝りな口調やなって思った。

 それが、ごく自然に買い物から家までついてきて、その上泊めてくれって?

 最初は断ろうかと思った。

 けど、

 

「うま、これほんとにハンバーグ?」

「ふふん、もっと褒めてな」

「いやマジでうまい。ほんとに」

 

 思った以上にノリが良く、まるで長年の付き合いのように自然と話ができて。

 初めてできた友達だからだろうか? 帰ってくれとは言えなかった。

 

「――アークス、オラクル、デューマン……。あれ、もしかしてリコちゃんて見た目通りの年齢と違うん?」

「ん? オレ幾つに見える?」

「10は絶対いっとらんね」

「まあ幼女ボディだし。年齢に関してはオレも知らん。研究所の出だし」

「研究所……?」

「そそ、デューマンって人為的に生まれた種族なんだよ」

 

 それに、話がいちいち重い。

 特に過去の事を話してくれた時、あの時のリコちゃんは決してふざけてはいなかった。

 握りしめた手は今にも机を殴りそうだったし、目には涙も浮かべていた。

 受け入れがたくて信じるかはあやふやにしてもうたけど、あれは嘘ではないのは明らか。

 

「そういや気になってたんだけど、はやてってなんで車椅子乗ってんの?」

「原因不明の麻痺や。リハビリとかもちゃんとやってるんやけど、全然だめでなー」

「ほぉん。それアンティ」

「眩しいわ!」

「無理か」

 

 勝手に光っておいて何を言うとるんか。

 

「いや、これで治ったらわけないよなって」

「それも回復魔法なん?」

「ま、そんなところ。病気は無理だろうとは思ったけど物は試しでな」

「ありがと。優しい所あるやん」

「へけっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふむ。アンティでは無理か。

 となると詰みなんだよな。アークス的に。他に手段がない。

 ワンチャンシフタで筋力増強って手もあるけど、日常的にシフタやんなきゃいけないとか精神が死ぬ。

 いいや、使ってみよ。

 

「今度は何や」

「攻撃力を上げてみた」

「それ日常にいる?」

「……いらんだろうな」

 

 ダメか。

 うーむ。現代の医療技術に期待するしかないか。

 俺としては飯無し宿無しだったところを拾ってくれたはやてに返しきれないほどの恩があるし、納得いかないラインだけど。

 

「ま、明日また話聞かせてな」

「いいけど、他になんか聞きたい話あんの?」

「他の惑星の話とか聞きたいやん。写真とかないの?」

「写真かぁ。考えとくよ」

 

 スクショ出せる?

 ああ、あったあった。

 これ証拠に出来んじゃん。なんでこれを話してた時に出さなかったし。

 うっわ、懐かしいなー。ロックベアで回避の練習したっけ。

 ゲーム画面じゃなくて、現実(リアル)の写真になってるのは普通に感動する。

 誰がこれ撮ってるんだって突っ込まれたらどうしよ。

 

 

 

 翌日。

 ソファで寝てたらはやての料理する音で目が覚めた。

 アークスって睡眠必要なんだねって疑問だけど、スクショが写真に変わってるのに始まり全部リアル寄りになってるらしい。

 さて、どの写真を見せようか。

 流石に半裸のおっさんややけに露出の高い衣装を身に纏ったチームメンバーは見せられんな。

 無難な写真を纏めていたら、目の前に朝食が並んだ。

 

「へー、本当だったんやなぁ」

「あったあった。ほら、これがクラリスクレイス」

「って、まだ子供やないか。こんな子に貰ったチョコ位ちゃんと食べなあかんよ」

「配給に対して消費が追い付かないんだよ」

 

 緊急ミッションに参加する度に渡されたらこうなるさ。

 

「うっわ、ナニコレ。こわぁ……」

「ああそいつ? 闘争おじさん。ダークファルスだよ」

「ダークなんとかって、星滅ぼす奴やっけ」

「そうそう。戦いたくなる度にアークスシップ襲いに来るんだよ」

「はた迷惑すぎひん?」

 

 勝負にならないからって景気づけに前哨戦挟んでわざわざ自分で弱体化してくるあたり闘争おじさんのこだわりが見える。

 

「ん、これってリコちゃん?」

「そうそう。昔の写真だな。まだ青肌な時か。角も生えてるし」

 

 角は気分で生やしてた。

 肌色はほら、上手い事調節できなくて青白くなってた。

 

「んでー、これが原生生物」

「ちょいちょい待ちぃ。時折挟まれる闇な部分の気温差で風邪ひくわ!」

「深遠なる闇はまだ出てないぞ? あと風邪ならアンティで治すから早く引いて来い」

「ちゃうねん」

 

 分かってるって。

 このリコのボディは経験済みだけど俺としては未経験だから感情と思考が噛み合わないんだよ。

 故にごまかそうとするんだけど、上手くいかん。

 俺としてはバカみたいな話してるのが好きなんだけど。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5 拉致られて戦って

突然の4000文字。


 ちょっと時間は飛んで6月。

 ちわーす、リコですがー。予約してたブツは用意できてるか。

 

「……? ああ、予約のケーキか。なのはー!」

 

 ここは翠屋と呼ばれる前世では縁の無かったJKの溜まり場……の親戚に当たると思わしきケーキ屋的な所。

 はやてから小遣いを貰っていたので、愚鈍脆弱無為な俺はカレンダーから察しをつけて誕生日祝いにケーキを買ったのだ。

 居候ヒモニートの癖に金を貰うなって? そしてその金をさも自分で稼いだの如く振る舞うなって?

 

 気持ちが大事なんだ気持ちが。アイテムパックにあるナウラ三姉妹の期間無限ケーキ出しても良いけどそれだと普段から出せるやろってなるでしょ。

 

 で、だ。

 厨房の方では栗色の髪した少女が一生懸命に働いてた。

 

「オレと同い年なのに、働いている……だと……?」

「真面目に手伝ってくれる自慢の娘だよ」

「親バカめ、見せ付けたな!」

「はっはっはっ!」

 

 そうこうしているとケーキが詰まった箱が届いた。

 で、貴様がこのおっさんの娘か。覚えたぞ。

 

「いつかこの借りかえさせてもらう!」

「え、え、ええぇえええ!」

「こらこら。なのはも大声出さない」

 

 保冷剤? 多めに見積もって30分くらいで。

 

「君は、なにか武術でも習っているのかい?」

「あん? どうしてまた」

「なんとなく動きでね」

「まぁ間違いはないな。言うてももう引退したけど」

「まだ若いのにもったいない」

 

 だってこんな平和な世界だ。戦う必要もない。

 

「ん、若い? 幼い儚いかわいい美少女っしょ」

「幼いにしては動きが洗練され過ぎている」

「あれま、手強いこと」

「それとこれはお節介だけどね」

「まだなにか?」

「折角かわいいのだし、口調も改めたら武器になるよ」

 

 かわいい……。

 かわいい!? お、おおおおお、おっさんにかわいい言われた!

 え、な、なにこの気持ち!

 

「はっはっ! 一本取ったな」

「か、からかったな!」

「かわいいのは本当だよ。さて、気を付けて帰るんだよ」

「また言った! くそ、美味しかったら2度と来てやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って事があったんだけどさ、あれぜってーオレに惚れてるよな」

「逆よ逆! ていうか、あんたよくこんな状況で落ち着いてるわね……」

 

 ちなみにさっきの話は最後の方すごい盛った。別におっさんに胸キュンした事実はない。

 現在地。廃墟。

 何があったというと、翠屋のケーキをアイテムパックにぶちこんで帰ろうとしたら拉致現場っぽいのに出くわしたのさ。 

 そしたら想像を絶する俺の美少女具合が胸キュンだったのか、ついでとばかりに収穫されて車に詰め込まれて。んで今ここ。

 

「いやぁいつかはパクられるかと思ったけど、まさかいやー、ついにかー」

「あんたは目撃者だから! 目的はあたしとすずかよ。家がその、お金持ちだから」

「んだブルジョア自慢かおら」

「てめぇらうるせぇぞ!」

 

 スーツなおっさんが3人現れた。

 もう夏も近いってのにクールビズもさせてくれないとか嫌な上司についたな。御愁傷様。

 

「兄貴、このガキは?」

「見られたからついでだ。そっちの金髪はまだとっとけ」

「と言いますと」

「ふんっ、景気づけだ。好きにしろ」

 

 くそ、俺の言いたいピッコロさんの台詞その2が取られた!

 

「へへ、まだちっさいが悪くねぇ顔だ」

「ほーら、おじさんたちと遊びましょうねぇー」

「かっ、気持ちわりぃ。やだおめぇ」

「や、やめなさいよ!」

 

 おい邪魔すんな。今のはベジータに抵触するぞ。

 ドラゴンボールごっこしてると汚っさんの手が延びてきたので、武器なしの動作であるスウェーで避ける避ける。

 一応テク職なんで武器なしでもテクニック使えるけど、まだ巻き添えとかの判定実験してないのよ。

 

「なにすんだこのガキ!」

 

 ああ、俺と一緒に捕まってた少女がタックルした!

 

「早く逃げなさい!」

「その勇気に希望を見た!」

 

 そろそろ本気ださんと事故が怖い。

 あとついでに、この少女の心の強さに感服した。

 ならばそれに応えよう。

 

「ふん!」

「な、縄をちぎった!?」

 

 ふはは怖かろう。この程度の縄でこの俺を止めることはできぬ!

 手にするのは愛用のウォンド。その名はラヴィス=カノン。

 ……はオーバーキルなのでしまい、ただの普通の無名のコモン武器、名無しのウォンド。逆にレアな☆1。

 

「ちっ、てめぇらこの銃が」

「ノンチャヘヴィーハンマー!」

「げうぉあ!」

 

 ふん、誤字ったけどなんかそれっぽいから直さずそのままにしたみたいな悲鳴出しやがって。なんて打とうとしたんだこれ。

 突如兄貴分がぶっ飛んだことにビビってるのか、残りの舎弟二人は混乱したまま再び掴みかかってきた。

 武器を変えてタリス。顔面にぺちぺち投げつけ怯ませる。

 締めは素手でー。

 

「支援職の拳!」

 

 ゆーうぃん。

 デデデデストローイナインボー。

 命は投げ捨てるものd(略)

 

「無事か、勇気ある少女よ」

「最初からそうしなさいよ!」

「いやぁすまん」

 

 さて、そろそろ本気だしますか。

 実はさっきもこの少女がちらっといった通り、もう一人拉致られているのだ。

 

「気を探るなんて芸当はできんのでしらみ潰しに行くぞ。付いてくるか?」

「……ええ、あんたに付いていった方が安全そうだし」

「そか」

 

 普通、俺のような人間超えてる化け物みたらドン引くんじゃなかろうか。

 

「もしかして引いてる?」

「何よ突然。当たり前じゃない」

「そっかー」

「でも、助けてくれたし。それにあんたは悪い人じゃないわ」

「へ、照れるぜ」

「同い年なのかは気になるけど」

「どこからどうみてもかわいらしいロリだろうが」

「その口調はなんなのよ……」

 

 ギャップ萌えだよ。

 廊下とかにいるドスゾンビとかチャカゾンビを蹴散らして、そうこうしてる内にフロアボスを見つけましたが。

 なにこれ。圧迫面接?

 

「おいボスおっさん! オレに仕事をくれ! できれば福利厚生がしっかりしてて土日祝完全休日で有給と年二回のボーナスマシマシで!」

「ずいぶん欲張りね」

 

 縛られてた紫少女の縄を引きちぎる。

 

「ははは! 愉快な嬢ちゃんだ。化け物が化け物を助けに来るとはな」

「化け物? 違う、オレは悪魔だ」

「何?」

 

 あ、ごめん。ネタ振りかと思って。

 でもマジに捉えたおっさんが悪いかんな。俺は悪くねぇ!

 余裕な俺と違って、隣の助けた紫少女はその言葉に震えた。

 

「知らなかったのか? そいつの一族は人間社会に紛れ込んだ化け物なんだよ!」

 

 ああ、おい紫頭。ふらっふらだぞ。

 

「アリサちゃん、違う、違うの」

「すずか……?」

 

 おいどうすんだこの状況。

 俺置いてイベント進んでるぞ。

 

「大丈夫よすずか、そこにいる人の方がよっぽど頭ごとおかしいから」

「えっ」

「おいオレを巻き込むな。くそ、これもすべておっさんの仕業なんだ」

 

 不敵な笑みを浮かべるおっさん。

 今日はおっさんだらけでいい加減飽きたぞ。

 

「もっと絶望すればいいのに、残念な奴等だ」

 

 そう言っておっさんが取り出すのは拳銃。

 その銃口は俺の後ろ、パツキン少女に

 

 

 ぱん。

 

 

 

「あ、あぁ……」

「なんて声、出してやがる……。この位なんてこたぁねぇ……」

 

 躊躇なく撃ちやがったが、当然、かばうに決まってんだろ。

 力なき者の剣となり盾となる。それが、我々アークスの定めなのだ。

 咄嗟だけど間に合って良かった。あと、耐えられて良かった。

 

 続いて何度も発砲音が重なり、その度に俺の背中や頭に衝撃が走る。

 

 痛いが、耐えられない程じゃない。死ななければ、それで充分だ。

 アークスは頑丈。ユニットだって良いの着けてるし。タカキも頑張ってるし。

 

「うぉぁああああ!」

 

 リロードだろうか。

 弾が途切れて何かをスライドさせる音がした瞬間、振り向いてガンスラッシュで射撃!

 武器を持ってないはずの俺が撃ったことに驚いたおっさんは肩を負傷してうずくまった。

 

「結構当たんじゃねぇか……」

 

 あと今更だけど、撃たれて最初に言っちゃった台詞ってこのタイミングだった。

 まだ間に合うかな。

 

「なんて声、出してやがる……。この位なんてこたぁねぇ……!」

「ふざけてる場合じゃないわよ! 血が、血が!」

 

 うん、ごめん。普通にこれ心配するよね。

 

「いやマジでなんともないから」

「止血、止めないと、血が!」

「大丈夫だって。モノメイト飲んどくから」

 

 あー、癒えていく。

 傷は治った。傷は。

 

 やっべ、血が足りねぇ。ふざけすぎた。

 貧血気味でふらふらする。くそ。

 ゲームの性能を現実に擦り合わせるとこんなことになるのか。

 

「あんた、何者?」

「オレは通りすがりのアークスさ。別に覚えなくていい」

 

 外が騒がしい。

 うずくまってるおっさんに止めを刺すため蹴り入れようと近づいたら飛び上がってネックハンギングされた。メタルマンかお前。

 

「油断したな、化け物が……!」

「……っ! いいや、油断したのはお前だ」

 

 流石に俺もふざけすぎて余力が無かったその時、おっさんが一閃の下斬り伏せられた。

 いや斬ってはないんだけど。木刀だし。

 

「助かったぜ、翠屋のおとん」

「ふぅ。無事でよかった」

 

 げげごぼ、うぇ。

 ああ、もう。最悪だ。

 今度から戦闘になったら真面目にやろう。あとなるべく戦いは避けるようにしよう。

 肉体の方は戦い慣れてるけど脳ミソがダメダメだ。倒したと思って油断するとかないわ。

 

「この部屋に来るまでにも何人か倒されてたけど、君が?」

「いんや。ここなパツキンが」

「いやこの人よ。えっと、アークスさんだったかしら」

「リコだ。もう会うこともないだろう」

 

 さて、俺は去るか。ケーキの保冷剤もそんな入れてもらってないし。

 あとお巡りさんに事情聴取されるの嫌だし。

 窓から飛び出してー。

 

「じゃーなー!」

 

 オタッシャデー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せめて、礼の一言くらい言わせなさいよ……」

「大丈夫さ」

「え?」

「うちのケーキはおいしいからね。また買いに来るよ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6 モタブ増殖バグ

「んで、明日ははやての誕生日だ」

 

 カレンダーを見たら6月4日にケーキのシールが貼られてたし間違いない。

 

「ここで何も渡さないのはただのアークス。そしてオレは洗練されたアークス」

 

 アイテムパックから取り出すのは翠屋のショートケーキ。

 あとクラリスクレイスのチョコもあるけどこれはもうネタ的にも飽きたしいいか。また寝かせておこう。

 

 そっと取り出して、冷蔵庫に追加しておく。

 ふははは、あとはプレゼントに……。

 

「寝ているはやての枕元にラッピーミニドール」

 

 を、はやての年齢分だけ置いておく。洗脳の儀式の様だ。

 写真を見せた時に気に入ってたし、起きた時嬉しいだろうな。

 あとは俺もリビングでラッピースーツ着て待機しておくか。

 

「じゃ、おやす――」

 

 はやての本棚が光り輝き、一冊の本が飛び出た。

 なんだあれ、何で光ってるんだ。モタブか、モタブなのか?

 

「おいおいおいおい……ケーキ追加かこれは……?」

 

 そして光の中から現れたのは、4人の人間。

 ヒューマン3人に、種族の分からんムキムキおっさんが1人。なんだこのパーティ。どこから出てきた。

 あとおっさん、あんただけ作品間違えてんぞ。ここはPSO2だ。ビーストはユニバースへ帰って貰おう。

 

「……貴様は、何者だ?」

「いやそれオレの台詞なんだけど。お前らどっから出やがった」

 

 立ち上がった4人はどこから取り出したのか、武器を構えている。

 俺も応戦できるようにウォンドを構える。

 ここで戦うのは得策ではないけれど、はやてに危害を及ぼすなら容赦はしない所存だ。

 

「いいか、オレはこの家ではやてと暮らしている……。何だろう、ヒモ?」

「いや、我らに問いかけられても」

「オレはともかくとして、はやてを狙わんとするなら容赦はしないぞ。オレのウォンドが火を噴くぜ」

 

 殴りテクターだし火を噴くのはインパクトの瞬間だけどね。

 

「で、やるのかい? 部屋を犠牲にして。はやてを戦いに巻き込んで」

「――主の家族であるのならば、非礼を詫びる。私はシグナム、烈火の将だ」

 

 サバイブ烈火ぁ? これまた。

 はやての眠りを妨げるのも悪いので、リビングに移動して話をする。

 ピンクのポニテボインはシグナム、どことなくクラリスクレイスと似てる俺とどっこいなちっこいのがヴィータ、金髪の優しそうなテク職がシャマル、最後に残ったおっさんビーストはザフィーラと言うらしい。

 ちなみにザフィーラは狼形態になってる。やっぱりビーストじゃねぇか。

 

「闇の書にしゅごキャラねぇ」

「魔法の存在しない次元世界であるなら、信じがたいと思うが……」

「うんにゃ。オレも深遠なる闇とか守護輝士とかいる世界に身を置いてたからなぁ」

「なあリコ、お前って何なんだ? 管理局じゃないし、言ってることも分かんねぇし」

「オレはアレだよ、平行世界から飛んできたアークスだよ」

 

 皆に首を傾げられた。

 軽くアークスの説明をするけど、やっぱり分からないらしい。

 そうだ、丁度いいしこの世界に存在してないか聞いてみよう。

 

「せっかくだから聞くけど、ハンターズとかガーディアンズとかリトルウィングとかも知らない?」

「聞いたことないな。惑星探査や犯罪者の逮捕は全て管理局の仕事だ」

「じゃあ、フォトンって分かるか?」

「知らない」

 

 パーティリーダーのシグナムさんが代表して話してくれるけど、やはりこの世界にはファンタシースターの連中は微塵もいないらしい。

 溜息。

 

「な、なぁ、どうしたんだよそんな落ち込んで」

「そのだなヴィータ。この世界に俺の元いた職に繋がる組織がないと、永遠にオレってはやてのヒモなんだよ。良くて居候」

 

 で、ある。

 フォトンと魔法が別物なら、管理局に入ったところで「何それ」と言われ門前払いされるだろう。

 つまるところエターナルロリータの俺は働くこともできず、大人になれずこのままニートしかできない。

 

「それに、人が増殖したのはやてになんて説明しよう……」

「それが一番重要なんじゃねぇのかよ!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7 バイト探し

なんか思った以上に伸びたので追加の投稿です


「で、なんやこの状況」

「オレも詳しくは知らん。こいつらに聞け」

 

 翌朝。

 おはよーとのんびり挨拶したはやては固まり、増えた面々を俺の仲間と勘違いしたのかすっげぇキレてた。

 責任をもってシグナムらに説明させた。俺は悪くねぇ。

 

「うーん、納得できんけど」

「せやろな」

「けどなー。なんか、納得しちゃうんよ」

 

 この本のせいなーといい、昨日光っていたモタブの闇の書を机に置いた。

 曰く、気が付くと所持していて夢に出てくるし気味も悪かったけど不思議と捨てる気になれなかったらしい。

 

「いや呪われてんじゃね?」

「そう思ったけどな、こうして誕生日に家族が増えるなら大歓迎や!」

「そのノリでおっさん拾うとかやめろよ?」

「あんな、流石にダメなことはわかるで」

 

 といいつつザフィーラを撫でてるけど、それおっさんやで。ムキムキの。

 

「私達からしてみれば、リコの方がイレギュラーな存在なのだがな」

「そうね。リンカーコアもないのに魔法も使えるし」

 

 ほう、消えろイレギュラーと。

 やってみろ。アークスを兼任してイレギュラーハンターもしていた俺を倒せるかな。

 

「やめいや。ええか、私らは家族なんやし喧嘩はなし。したやつから追い出していくで」

「はやて様、あそこの喧嘩っぱやいシグナムと幼女枠を奪おうとしているヴィータを追い出してください」

「リコ、あんたとは短い付き合いやったで」

 

 おかしくね? 剣とかハンマーとか持ったやつのが怖いだろ。

 

「いやお前も昨日どっからか剣だしてただろ」

「剣じゃねぇウォンドだ」

 

 愛用のラヴィス=カノンを見せる。

 レッドリングリコの名前とかけて手に入るまでは赤のセイバー迷彩着けてたけど、手に入れてからそれも必要なくなった。

 ちなみにリコはたまたま前作の英雄と被っただけで、名前は社会福祉公社から来てるんだよ。見た目も似せてる。

 キャラ再現の為に買った髪型のエターナルFレイヤーは高かった。普段と違うヘアカラー設定のできるGV(グラデーションバージョン)が出たときは発狂した。頑張って買った。ダークファルス風に先端だけ紫にした。

 

「綺麗……」

「だろだろ? これだけでオレの存在価値がある」

「売ったら幾らやろ」

「生活の足しにするんじゃねぇ! 出品不可だこれは!」

「冗談や。お金に関しては心配せんでええで、余裕ある」

 

 おっきい一軒家に一人暮らしで、お金に余裕もある……だと……?

 お金に余裕があるから安心して家で暮らせ……?

 

「本格的にゴミヒモだオレ。なんか仕事探そう……」

「見た目通りの年齢やないのに、外見のせいで仕事も見つからない。ぷぷっ」

「おい笑うなはやて。オレだってアークス時代はぶいぶい言わせてたんだぞ。めっさ稼いでたんだぞ」

 

 主にクロトとビジフォンで。

 

「む。待て、確か翠屋って店でオレと同い年の子が働いてたな。縁もあるし転がり込んでみるか」

「激しく不安や。ええか、その性格で働いたら怒られるのは目に見えてるで」

「大丈夫だって安心しろよ」

 

 

 実はというと、もう前世の生活はおぼろげにしか覚えてない。

 代わりにこの肉体であるリコの記憶が浮上してきている。

 つまり、転生と言うよりか憑依と言ってもいい状態になってきているのだ。

 今残っているのはPSO2というゲームの知識と、アークスとして生きて戦い散ったリコの記憶。

 大体、コミュ症だった俺がハイテンションで人に絡んでるの自体がそもそもおかしかったんだ。

 

 元のリコの性格は公私をしっかり分ける真面目で信用できるタイプ。

 よって、仕事を始めればスイッチが入るだろう。

 

 たぶん。

 

 働きたいんだけど、どうすか?

 

「昨日のいざこざがあったのに、今日はどうしたんだい急に」

「こんな見た目ゆえ働けずヒモニートなのは精神が死ぬ。縁もあるしここならいけるかなって」

「うーん。最近なのはも忙しいとはいえ、手は足りてるんだよね」

「そこをなんとか! 皿でも舐めますんで!」

「それはやめてくれない?」

 

 翠屋は人気ゆえに忙しいかと思ったけど、今でもしっかり回ってるらしい。

 厨房にはおかんが一人とカウンターにはおとんが一人。あとは3人の子供が手伝ってくれてるらしいけど、それで回してるのつよい。

 

「うーん、俺としてはなのはの友達を助けてくれた感謝もあるし。よし、桃子に掛け合ってみよう」

「オナシャス!」

 

 面接の合否は明日また教えるのでと追い出された。

 なぜだ、わざわざ混む時間を避けようと努力はしたのに。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8 ケーキ

 ノリで初めて投稿した物がなんかやけにUA伸びてるし皆TSしたおっさん好きなのかなと思ったら、ランキングにinしてたみたい。
 応援ありがとう!
 そういう訳で投稿です。


 翌日。

 翠屋から帰る俺の手にはごきげんなケーキが6つあった。

 

 バイトに合格したのである。

 

 桃子さんという店長はちょうどバイトのひとりふたり入れようかと思ってたらしく、昨日話した時点でもう折角だからとオッケーを出していたらしい。

 そんで今日、再び現れた俺を見てメロメロになりいつでも来ていいよと言われた。

 ちなみに子供に多くは持たせられないという事で薄給。最低賃金おいしいです。

 でも結構仕事の内容としては緩いし、リコボディになってから幾らでも食べられるようになったのに物を言わせて試作の食べ比べをしたりもあって文句はない。

 

「てなわけで脱ニート。これはお土産」

「昨日の今日のでよく見つけたなぁ。何日持つやろ」

「おいはやて、(つら)に物言わせたオレの溶け込み力舐めんなよ。客寄せパンダ状態さ」

「被っとんのは猫なのにな」

 

 さてさて、ヴィータよ。冷蔵庫を惜しげに見てもそれは夕飯の後だぞ。

 

「ぐ」

 

 そんなにお菓子が食べたいならチョコいるか?

 クラリスクレイスのチョコだけど。

 

「それは流石にいらねぇ」

「そうか、残念だ」

 

 ザフィーラは?

 

「……」

 

 無言で無視することないじゃないか。

 

「全く、誰が処分すんだよこのチョコ」

「いやお前が食えよ」

 

 ひどいな。

 さてさて、ところでシグナムさんや。剣を下ろして貰おうか。

 わかった、わかったよ。俺が食うからさ……。

 

「いやそうではない。ただ、剣を握る者として軽い手合わせをして欲しくてな」

「やだよ。あなたバリバリの接近じゃないですかやだー」

 

 俺はテクター、つまり支援職よ。

 シグナムさんに敵う訳ないじゃないですか。

 

「殴りテクターと聞いたが、それは接近する者の称号ではないのか?」

「ちっ、どうでもいい事だけ覚えてやがる……」

「いやリコが言ったのだろう」

 

 でもどっちみち殴りはおまけなだけで本職には敵わないぜ?

 

「そうか。そこまで断るなら仕方ない。残念だ。ああ、残念だ」

「そこまでオレをぼこぼこにしたいか。シャマル代わってよ」

「あのねリコちゃん、それは私にぼこぼこにされて来いってこと?」

「代わってよ」

「嫌よ」

「シャマルー、運ぶの手伝ってー」

 

 めしだー!

 今日はなんだろー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 翠屋にて今日は接客である。

 

「いらっしゃいませー! こちらの席へどうぞー!」

「あ、あんたは!」

「こちらの席へどうぞー!」

「ちょ」

 

 こちらの席へどうぞー!(鋼の意思)

 

「ちょっと、あんたリコでしょ!?」

「はい! ここでアルバイトさせて頂いているリコです!」

「知ってるわよ! っていうか、いい笑顔が似合いすぎて不気味よ」

 

 よく見ずとも分かっていたが去年位に何かしらの縁で知り合ったパツキン少女じゃねぇか。

 後ろにはよく見ると紫ヘッドもいるし。

 ちゅうか、あんな事があったのに護衛も付けてないのか。

 

「いやまだ一週間も経ってないわよ」

「細かいですね。別に一昨年位でもいいじゃないですか」

「全然違うわよ。なのはから話を聞いて、ちょっとリコにお礼が言いたくて」

「それでしたらバイト終わったらでいいですか? 5時には上がりますから」

「無駄に真面目なのね……」

「失礼な」

「あら、もうお客さんも少ないし別に早めに上がっていいのよ?」

「マジですか桃子さん。融通の利く勤務体制に涙。お疲れ様でーす」

 

 俺がバイトしてるのはヒモニートの事実を消したいからであってお金の為ではないので、快く上がった。

 裏に入って制服脱いで……レイヤリング。

 今日は気分でショートジャケット・スタイル。

 中身は元男なのにスカートに羞恥心がないのかって? ねぇよ。むしろかわいい服着れて楽しいよ。

 

「ふぃー。さてさて、なんかオレに用があるんだっけ」

「うわっ、いつもの口調に戻った」

「公私はちゃんと分ける主義なんでね。ショートケーキ食う?」

「……こんなケーキあったっけ」

「私物だから遠慮なく食え」

 

 ナウラのケーキも余ってんだよ。食ってけろ。

 

「その、この前は助けてくれてありがとうって言いたかったのよ。ね、すずか」

「う、うん」

 

 すずか? に嫌われてる気がするんすけど。

 あと別に礼はいらんよ。というか俺もふざけすぎて悪かった。

 もうちょっと真面目にやればもっとスムーズに行ってたし。

 

「あ、あの、あの時撃たれてたのって、平気、なんですか……?」

「何を隠そうオレは宇宙刑事的な宇宙人。あの程度なら全然平気さ」

「宇宙、人?」

「そうそう。そしてこれは宇宙人ジュースのモノメイト」

 

 出して見たら、モノメイトよりもアイテムパックの方にびっくりしてた。

 そうね、虚空から出現させてるものね。

 

「まぁ真実かどうかはさておきだな」

「いやちょっと待ちなさいよ! そ、それどっから出したの!?」

「どこって、アイテムパック」

 

 ほらここ。え、見えない?

 メニュー画面も見えてないらしいしそれもそうか。

 

「……はぁー、あんたといると疲れるわ……」

「ひでぇな。オレは普通に振舞ってるだけなのに」

「そうね、宇宙人だものね。あたし達の常識なんて通じないわよね」

「ま、そういうこった。開き直って堂々としてればむしろ問題ない」

「大ありと思うわよ。せめて合わせる努力しなさいよ」

 

 常識ね。

 よし、ならば自己紹介だ。実はパツキンの名前も知らないし。

 

「オレの名前はリコ。種族はデューマンで、クラスは全部カンストさせてるけどメインでやってるのはテクターハンター」

「ツッコミが追い付かないから放棄するわよ」

 

 今更聞けた名前だけど、パツキン少女がアリサ・バニングスで紫が月村すずかと言うらしい。

 バニングスってすげぇな。親戚にクロスベルの攻略王とかいそう。

 ん、すずかっちが何か聞きたそうにしてる。

 

「デューマンって、何ですか……?」

 

 なんだそんな事か。

 まぁ端的に言うと攻撃特化な種族だね。代わりに防御力は低いけど、そんなもんレアユニと特殊能力と乙女(オートメイト)で何とでもなる。

 

「わかりにくいけどここ角生えてるんだぜ、見てこれ」

「うわっ、本当に生えてる……」

「本当だ……」

「意外と堂々としてるとバレないっつうか気にされないもんだ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9 リコとはやてのお風呂回

んぎょええ! 評価が色付き!? ンモモチィ……(死)
それと各話の細かい誤字報告してくれた人、とてもありがとう!


「うむ。何度見ても美少女である」

「それ鏡見ながら言うのどうかと思うで」

 

 洗面台の前で呟いたらはやてに見られて突っ込まれたでござる。

 

「リコちゃんて結構ナルシストなん?」

「そう言われると何とも言い返せねぇ」

「見た目は良いのに中身は残念なんよな」

「そりゃもう外見はかわいくなる為に頑張って整えましたとも。で、はやてはなんでここに来たんだ?」

 

 現在の俺は服を脱ごうと、つまり風呂に入ろうとしてた。

 こっち来る前にはやてに言っといたし間違えて来たってことはない筈だ。

 

「一緒にお風呂入ろか思ってな」

「ああ、しょゆこと」

「よろしゅうなー」

 

 一人暮らししてたというだけあって、足を動かせないのにスムーズに服を脱いでいく。

 中身がおっさ……お兄さんなのに裸の付き合いに抵抗がないのかって? 興奮しないのかって?

 確かに自キャラをロリにした性癖はあるけど、精神が肉体(リコ)に引っ張られてるのでかわいいと思えど興奮することはない。

 かといってイケメンに惹かれることもないので永遠の未婚ロリババァとしてこの大地に骨を埋めるだろう。

 

「――進路クリア、危険物無し」

「家の浴室に危険もあるかいな」

「バッカお前、銭湯では足元に石鹸地雷が仕掛けられていて滑らせて来るんだぞ」

「一度見てみたいけどなぁ。ツルーんって一回転するの。リコちゃんならアニメみたいなたんこぶで済むし」

「オレをギャグ時空の生命体だと思ってないか?」

 

 こんなノリでもだいぶ世界観的にはシリアスな所から来てるんだぞ。

 それよりはやてをどう浴室に運ぼうか。

 お姫様抱っこが王道なんだろうが、背中とか肩とかあるいは脇に抱えて行ってもいいぞ。

 

「いや普通に運んでや」

「了解」

「いやちょちょ待ちぃ! 脇に抱えるのは、こわっ!」

「普通だと聞いたので」

「どんな筋力しとるんや! 怖いからやめてや!」

「ごめん、ふざけすぎた」

「流石にそういうのは怖いからやめてや」

 

 でもアークス的にはやて程度の重量は軽過ぎるんだよな。

 はやてを普通にお姫様抱っこで運び、当然足元には気を付ける。

 俺は別にいいけどはやては全てを俺に託してるわけだし滑っちゃったじゃ済まされない。

 

「そういえばリコちゃんって戦闘民族やった……」

「うーん、重量的にはロッド以下ウォンド以上かな」

「うん、大変失礼な事言うてるな?」

 

 でもほら、武器によって大きさもピンキリだから。

 クラリスクレイスやクラリスクレイスが持ってたクラリッサとか言う自称ロッドの鈍器なんて絶対片手じゃ持てないだろ。あいつらはゴリラだ、殴りテクターやれよ。

 シャワーの温度をはやてに確認してもらって、熱すぎずぬる過ぎないのを確かめてから洗っていく。

 

「ゴリラて……。チョコといいクラリスクレイスちゃんのこと嫌いなん?」

「苦手意識はあれど嫌いではない。幼顔のよろろテロは恨まれても仕方ないと思うけど」

「いや写真見る限り子供なんやし幼い顔はしょうがないやろ」

「おかげで反面教師にできてオレも美少女になったし、これも憎愛の形さ。チョコは食わんけど」

「いや食ったれや」

 

 あれ食ってステータス上げた所でその火山には雑魚しかおらんし。

 あの時の俺はゾンディールするだけでミッション終わってたぞ。

 

「幼顔クソガキだったのが最近は顔立ちもスッキリして落ち着いて話もできるようになったから評価上がってるけど、オレも散々言った手前合わす顔ないしなぁ」

「あんたにそんな気遣いがあったなんてなー」

 

 他人を、それも繊細な女の子を洗った事なんざないが意外にもスムーズに行けたぞ。

 持ってきていたタオルを後は頭に巻いてやって、浴槽の中にはやて用の段差があることを確認して。

 はやてを浴槽に、バーンとぉ! 突撃ーッ!

 

「って言う割に慎重やな。ありがと」

「え、あ……へけっ!」

「褒められてなさすぎ」

 

 仕方ねぇじゃん。支援職にかかるありがとうは定型文(オートワード)だから面と向かって言われると照れる。

 はやての次は俺自身を洗っていく。アークスはフォトンで自身を浄化しているみたいで洗身入浴も必要ないんだけど、習慣的にやっとかないと気持ち悪い。

 

「なぁー、クラリスクレイスでフルネームなん? どこで区切るん?」

「どこも区切らずそれで全部。故に名前を呼ぶときいちいち8文字言わないといけないからメンドイ」

「リコや私の名前に比べたら長いしなぁ」

「まぁもう二度と会うことはないがな。髪下ろしてるヴィータが時々似ててヒエッってなるけど」

「最近びっくりするの分かっててやってるで」

 

 ……映像も持ってるけど渡さないようにしよう。

 ヴィータが「おい貴様、貴様だ貴様」って言ってきたらちびる自信がある。

 

「どんな自信や。てか、そんな口調なんな」

「人の名前なんか覚えてないとか言われた。お前の方が覚えにくいっての」

 

 よし、こんなもんか。

 ちょっとはやて詰めて、流石にちっこい子供二人でも一般的な浴槽は狭い。

 

「ふふ、えい!」

「ぶふぅ! ええい、じゃれつくでない」

「実はリコちゃんとは裸の付き合いしてみたかったんよ、ぐへへへ」

「おっさんみたいな声と視線やめてくれませんかね」

 

 リバースカードオープン、メセタオルF。

 

「ずるいで! お風呂にタオル入れるのはマナー違反や!」

「罠カード、ルミアスイムウェア」

「く、水着は……あかん、判定がわからん、手ごわい……!」

 

 お風呂のあったかさと水着が合わな過ぎてなんか気持ち悪い。

 別にはやての視線程度済むなら別にいいか。

 ファン……(装備を外す音)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10 リコとシャマルの料理開始

活動報告にてリコおっさんの今後や伝えておきたい情報等を乗せておきました。
言い残した事は以上です(遺言)


「ええか、宇宙生物は入れない。地球に無い食材は使わない。レシピ通りに作る。はい復唱」

「オレが今まで料理をしなかったのははやての勝手な心配だ。つまりオレは悪くないことを弁解しておく」

「シグナム、斬ってええで」

「承知した」

「すんな」

 

 そいつ隙あらば俺と一戦交えようとしてくるから機会を与えるんじゃない。

 それはともかくとして、パスタ料理だ。スパゲッティだ。俺にだってできる。リコはできる子

 

「料理してくれんはええんやけど、言葉の端々が不安や……」

「だったら私も手伝います」

「む。手伝ってくれるのかリツコさん」

「シャマルです」

 

 こっちの世界でエヴァはやってないので通じない悲しみ。

 

「つか、はやてにばっか料理させるのも悪いし丁度いい機会だと思うのだ」

「ええ、その通りです!」

 

 リ……シャマルは癒しの風っていう称号を付けてるし、話を聞くに俺と同じ支援職。

 つまりは料理の一つや二つできんといかんのだ!

 

「た、頼んだでー……」

 

 ふん、失礼な奴め。目にもの見せてくれるわ。

 という訳で目の前に用意した素材から察するに生成する物はスパゲッティです。

 パスタはお湯で戻す感じのあの細長い麺的なアレがあるので、後はミートソースを錬成するだけとなっております。

 凝った料理? 女子力がまだ足りんわ。

 アークスはメイトアイテムがあれば生きていける特殊生命体なのか、我が肉体(リコボディ)も料理をした経験も記憶も存在しない。故にレベル1である。経験値チケットで上げられないかな。

 

「いやさっそく待ちぃ! デミグラスソースは前に作った覚えあるけど、そのトマトとか玉ねぎとかどこから出したんや!」

「おうおうおうおう、かつてオレがナベリウスで採って来た新鮮な遺跡タマネギと森林トマトだぞ」

「ナベ……他の星の食材を簡単に持ち込むなや!」

「あの、こっちのお肉は……?」

「赤身肉と霜降り肉だ」

「見る限り豚や牛でも鶏ですらないんやけど、何の肉なんこれ」

 

 えっ……?

 ……。

 …………。

 ………………。

 あー…………。

 

「もういい、もういい。シグナムとヴィータダッシュや。速攻で合いびき肉を買ってきてな」

 

 思い出した、主な肉は海王種だ。魚みたいなやつ。

 懐かしいなぁ。AウォンドEチェンジとか言う必須装備作るために惑星ウォパルの海底を、ピッケルと釣り竿持って走り回ったっけ。

 

「海底を走り回ったとか霜降り肉が魚から手に入ったとか、もう突っ込まんで」

 

 ウォパルの海底エリアってすごい神秘的で綺麗だぜ?

 

「そんな話でごまかされんで」

 

 しゃあねぇな。ザフィーラこの肉食う? ジャーキーにもできるけど。

 あ、食った。旨い?

 

「毒見も騎士の務め……」

「うげぇー……。ザフィーラ、吐き出していいからなー」

「――む。いや、普通に味は良いのだ。ただ、何の肉かは一切分からないが」

 

 

 

 

 

 

 ミートソースの作り方が書かれたメモを貰い、シグナムに完成済みの合いびき肉を受け取り。

 はやては不安な顔もしながらリビングへ消えて行ったので、もはや俺達を止める者はいなくなった。

 2人で顔を合わせて拳を合わせる。

 

「シャマル!」

「リコちゃん!」

 

 舐め腐ってるあいつらを驚かせてやろうぜ。

 まずは遺跡タマネギを切り刻んでやればいいらしい。

 小規模サ・ザン! 超小規模の竜巻がタマネギを粉々にしつつ、サ・ザンの効果により飛び散る事もなくそのまま鍋に放りこまれていく。

 続いては合いびき肉……。完成品か、つまらん。普通に入れる。

 んで、これを色が変わるまで燃やすんだっけ。流石にバーン系を使ったら怒られそうだしここも普通にやるか。

 

「リコちゃん、何か抜かしてない?」

「んー? ああ、にんにくオリーブオイル……。まだ間に合うかな」

 

 やべ、ちょっと間違えた。

 急いでぶち込んでいく。

 

「だが気を取り直して次ィ!」

 

 形を保っている森林トマトを粉砕するんだ!

 食らえ、スライドアッパー!

 

「リコちゃん! トマトの返り血で殺人現場みたいになってる!」

「フォトンの滾りでソースを作る!」

「本格的に何を言ってるのか分からないわ!」

「ちょっと不安になってきたから勢いでごまかせ、ウンガアアアアアアアアア!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11 天敵の登場

 リコちゃんは、優しくて不器用な子。

 ちょっと前は変な子だって思ってたけど、今では代わりのいない彼女だけの個性だ。

 

「ウンガアアアアアアアアア!」

 

 だから、台所で上げるような声じゃない叫びをしているのもリコちゃんならでは。

 トマトの返り血なんて意味の分からない単語が飛び出ているのも、きっと不器用極まって指を切っちゃっただけだろう。うん。

 

「いや主はやて、流石にこれは止めたほうが良くないか……?」

「でもなぁー」

「絶対止めたほうがいいって、よし、あたしだけでも止めてくる」

「待てヴィータ。念のためグラーフアイゼンを持っていけ」

「ああ」

「いや待ちぃ、念のためでなんで鈍器がいるねん」

 

 ヴィータがハンマーを取り出したので流石に止める。

 

「前々からリコちゃんは料理をしてみたかったみたいなんよ」

「……は? あいつが? ありえねぇー」

「なんで料理したいってだけでそこまで言われるん……?」

「だってリコってやること全部ずれてんじゃん。そもそも料理っていう言葉自体知らなさそう」

「あんな、ふざけてるだけで流石に一般的な事くらい知っとるで」

 

 知ってなきゃヒモとかニートとか容姿に似合わない事を言いながら仕事を探しに出ないと思う。

 それに全部ずれてると言うけど、実はリコちゃんは型無しではなくて型破り。

 見ていて飽きない。

 

「この前なんてケーキ買いに行っただけで洋服穴だらけの血だらけにしてた事もあったなぁ」

「いやもう常識云々言ってる場合じゃねぇだろそれ。フォローしてるのかしてねぇのかわからねぇ……」

「ともかく、今回だけはリコちゃんに料理を任せてな」

「……シャマルもいるようだが」

「流石にひとりじゃ危ないやろ? 私が行ったらリコちゃんの料理にならんし、シャマルなら丁度いいって思ってな」

 

 家が揺れた。

 

「いや待て主はやて。リコの事を姉妹のように想っているのは分かったが、流石に見過ごせないぞ」

 

 台所からドリルのような採掘音とか軽やかな電子音が鳴った。

 

「あれ、作ってるんはミートソースよな? 私間違って別のメモ渡してないよな?」

 

 でもしばらくして、「大成功です大成功」って聞こえたから平気だと思う。

 

「んなわけあるかぁぁああ! やっぱりもう耐えられん、ヴィータ、突入準備や。こっちきぃ!」

「おう!」

 

 櫛でヴィータの髪を真っ直ぐにして行く。

 これや、この感じ。確かに似とるかも知れん。

 準備を整えてリビングへ向かうと、ただ髪をストレートにしただけのヴィータにシグナムが首を傾げた。

 

「それでどうするのだ?」

「ふふん。ヴィータ、分かっとるな」

「任せろ」

 

 そう。今の姿は前に写真で見せて貰った、リコちゃんが思わずビビるあの姿にした。

 その上でお風呂で聞いた台詞も教えたし充分以上や。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい貴様! 貴様だ貴様!」

「アイエエエエエエエ!?」

「きゃっ」「うわっ」

 

 思わず叫び、そして体は硬直して動けない。

 なぜだ、なぜこの場に、なぜ、なぜ……!

 震えた手からお玉が落ちる。ついでに膝も崩れる。

 地面に着くと同時に全力の土下座。

 勢いのあまり散らばった森林トマトの体液が噴水の如く跳ね上がり俺を赤く染めていく。

 

「そ、そんなにビビるなよ……」

「クラリスクレイス!? ナンデ!?」

「いやあたしだよ、ヴィータだよ」

 

 コワイ!

 

「すまねぇ、すまなかった。許してくれぇ! な、ほらこの通りだ! 勘弁してくれ、オレが悪かった!

 チョコとかいくらでも食うしよ、頭下げろってんならいくらでも下げる!

 すまねぇすまねぇすまねぇすまねぇ! だから、命だけは、命だけは助けてくれよぉ!」

 

 勘弁してくれ許してくれ!

 殺さないで!

 

「うわガチ泣きだ!? わ、わりぃやり過ぎた!」

「リコちゃん!?」




次回、ついにパスタが火を吹く!(物理)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12 パスタ王国完結編

 誤字報告や感想ありがとう!
 筆者はザウーダンみたいな単純野郎だからうれ死い!(絶命)


「なんだろう、とてつもない恐怖を得た気がするけど直近30分程の記憶が一切ない。なんでオレはトマトまみれになっているんだ?」

「リコちゃんが勝手に転んだんやで」

「そうか、そうなのか?」

「転んだんやで」

「どうなんだシャマル」

 

 絶対違う予感がするのに、はやてが転んだと言い張って譲らないしシャマルは何も言ってくれない。

 教えてくれシグナム、俺はどの記憶を失ったんだ。

 

「転んだんやで」

「なんではやてが食い気味に答えるんだ。――いや聞くまでもないな。つまりはそんなにグレートなリコ様特製のスパゲッティが食べたいか、食い気味なだけにな!」

「あかん。リコちゃんがさらに壊れた」

「味が壊れそうなほど愛を込めたからな!」

「たぶん味はもうとっくに壊れてると思う」

 

 馬鹿な、頭のネジが数百本抜けて記憶が飛んでる内に完成させたからおいしいはずなのに。

 

「重症やな。壊れたリコちゃんは置いといてとりあえずごはんにしよか」

「もうちょっと心配してくれてもよくない?」

「ギャグ補正って知っとる?」

「やっぱりオレの事ギャグ時空から来たと思ってるよな?」

 

 はやての聖域たる台所をめちゃくちゃにして時折出火させたり全焼まであと一歩の所までをマラソンしたのは謝るよ。

 でもね、俺だって一生懸命作ったんだよ?

 なのにはやては頑なになぜか転んだ事にしようとするし、ヴィータは目を合わせてくれないし、シグナムは瞑想してるし、シャマルは真っ黒こげになってるし。

 

「私が一番被害を被ってるんですけど」

 

 シャマルはリツコさんみたいなもんだし平気でしょ。

 

「全く大丈夫に見えないなぁ。大丈夫かーシャマルー、リコちゃんサイテーやなー」

「オレの時と対応全く異なり過ぎねぇか。こういう時シャマルは一番スルーされる立場だろ!」

「うわそんな事考えとったん? リっちゃんサイッテー」

「文句あっか!」

 

 俺達のやりとりにシャマルが困惑してるけど、別にはやても分かっててやってるし俺もレスタで回復してやる。

 

「ほら謎に腹をくくってるシグナムに露骨に目線を逸らすヴィータも集まれー! ハイパー美しい天使である見習い悪魔召喚士リコちゃん様のスパゲッティだぞー!」

「ついにこの時が来たか……」

「よし……」

 

 なんかノリ悪いな。

 まぁいい。テーブルに並べていく。

 うむ。見た目はおいしそうでナイスなスパゲッティだな。

 所でヴィータを見ると震えが止まらないんだけどなんでだろう。

 

「お待たせいたしました、シェフ・ピストルリコ特製スパゲッティの“ヤンマーニ~窓が仕事終わりに食べる好物パスタ~”でございます」

「また変な名前だな」

 

 おうシグナム、文句があるなら聞くぞ。

 いいかぁ、よく聞けぇ。これを食べるとだなぁ……。

 

「食べると……?」

 

 なんと、射撃力+100とPP+5のステータスアップが望めるのだ!

 ニェーヘッヘッヘッヘッ!

 

「リコちゃんの頭のネジは色々あって数千本取れてるから気にせんでな」

「なんでだろうな」

「転んだんやで」

 

 ちなみに俺が食べた所で射撃力を参照する攻撃はしないし、殴りテクターはその戦闘スタイル上PPは盛らなくて良い。要は俺にとって二つともいらない。

 なんでこんなの作った?

 食べる必要はないと本能的な物が警鐘を鳴らしているが、製作者として食べる義務がある。

 

 お手を拝借し、頂きます。

 

「早速食べよか。頂きまーす」

『頂きまーす……』

 

 守護騎士が聞いて呆れる。スパゲッティの一つ程度なんかにビビるとは。

 さっき謎肉を食べたザフィーラの勇士を見習えよ。

 パスタが完成すると同時にお腹いっぱいになったからと自己申告して腹ごなしの散歩に出かけたけど。

 

 なんだーシグナムさん。まさかパスタ相手にびびってんのー?

 びびった奴は尻尾を巻いて逃げるがいいさ! 尻尾を持ってるやつは散歩に出かけてるけどな!

 あれ、まさか逃げたのかザッフィー。

 

「なんだその目は。食えばいいのだろう、食えば」

「一番槍シグナムゴー」

 

 ぱくり。

 固まった。

 ものすごく渋い顔をしている……。

 

「シグナムさん、どすか」

 

 ちょいちょいとヴィータを手招き。食えとジェスチャー。

 

「な、なんだよ……食えばいいのか……?」

 

 ぱくり。

 固まった。

 ものすっごく渋い顔をしている……。

 

「ヴィータ様、どすか」

 

 ちょいちょいとシャマルをつついた。同じく食えとジェスチャー。

 

「え、ええぇー……」

 

 ぱくり。

 固まって渋い顔をした……。

 

「リツコさん……」

「シャマルです」

 

 どさくさに紛れてもダメだった。

 てかなんで誰も感想言ってくれないんだよ。

 もうこうなったら俺も食ってみるか。

 

 ぱくり。

 

「……」

 

 うん、味わかんね。

 アイテムだからただ消費した扱いで消滅したのかな。

 いやでも翠屋で試食とかもしてるし。

 俺に続いてはやても食べる。あんたさりげなく全員の反応見てから食ったな?

 

 ぱくり。

 背景に宇宙空間が広がり全てを悟ったように頷き、渋い顔をした。

 

「あんなリコちゃん」

「どんな味だった? オレは味覚がダメらしくわからなかった」

「鏡見てみぃ」

 

 手鏡が渡されたので覗き込む。

 両目と口を横棒にして渋い顔をした俺が俺を見つめてました。なんで? どして?

 

「それが答えや」

 

 つまり、味がしない……だと……?

 

 丸焦げやケミカル色のくそまず謎料理ができればいくら良かったか。

 いや良くはないんだけど、とにかくこんなネタにもできない中途半端で不完全燃焼なギャグの欠片もないゴミのようなパスタが、見習い召喚士リコの全力だというのか……?

 

「ありえない、何かの間違いではないのか?」

 

 その小さな呟きは、はやての直してくるの声にかき消されていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13 翠屋の宇宙人

少し時間を戻し、バイト探し前後から

それと誤字報告と感想、ありがとう!


 “アークスと言う恐らく人間、リコという名前の人が店に来たら通報して欲しい”

 

 

 PT事件も落ち着き日常が戻ってきたある日、学校の昼休みになのはが親友に言われたその言葉は出だしから意味がわからなかった。

 

 アークスって?

 というか恐らく?

 あと通報ってリコさんは何をしたの?

 

 意味はわからないが、リコという名前に聞き覚えはある。

 それはつい一昨日、ショートケーキ二つをわざわざ予約して店へ取りに来て、そして自身へ謎の借り宣言をしていった少女だ。

 

「あたし達位の見た目で、ショートカットで、毛先だけはなぜか紫。そして男子みたいなオレ口調……リコで間違いないわね」

「わたしもお礼が言いたいから、お願いっ!」

 

 感情的になりやすいアリサは押しぎみに、思慮深いすずかもそれに乗るようにしてなのはに頼み込む。

 そこまでされてはなのはも断れない。

 その場はまた見かけたら教えるとして、丁度良く今日は翠屋を手伝うことにしていたのでお店へ向かった。

 

 そして、硬直した。

 翠屋の制服をごく自然に着こなし接客を行う小さな少女、リコがそこにいたのである!

 

「いやいや、いやいやいやいや……」

 

 なのはの口から否定の言葉が漏れた。

 容姿も声も何もかも知っているリコのものだが、接客の態度に問題はない。むしろ元気良く挨拶をして笑顔を振り撒くその姿は見本にしたいほど。

 美少女を体現したかのような見た目と正反対な荒い口調を兼ね備えていた一昨日のリコは一体なんだったのか。

 

「いらっしゃ……ああ、士郎さんの娘さんか。こんにちは」

「あ、こ、こんにちは……?」

「今日から翠屋でアルバイトをさせて頂くことになったリコです。よろしくお願いしまーす」

 

 困惑しつつなのはも裏手に入り翠屋の制服に着替える。

 あれはリコとたまたま同じ見た目をしてリコと同じ名前を持つリコという人物ではないのか?

 そうだ、あれは昨日とは違う他人のリコだ。

 丁度良く一昨日に同じく応対した父である士郎が来たので、疑問をぶつけてみることにした。

 

「どうしたんだい、なのは」

「にゃはは……。リコさんって一昨日の人と似てるよねって……」

「似てるというか同じ人だよ。公私混同はせず皿だって舐めますからバイトさせてくださいと言うし、それにちょっと縁と恩があったからね。試しに雇ってみたんだが」

 

 敬語にぎこちなさは混じるがかえってそれが親しみやすく、初日だというのにもう客席から気軽に名前を呼ぶ声もしている。

 

「いつもよりお客さんが多いんだこれが」

「す、すごいね……」

「ああ、すごい。普段からあそこまで言わずとも柔らかい物腰ならと、親の視点で見てしまうよ」

「わたしは厨房に入った方がいいかな」

「そうだね。桃子と美由希を助けてやってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさまでしたー」

「お疲れさまなの……」

 

 誰もいなくなった翠屋店内で、疲労困憊ななのはがソファで休んでいると着替えたリコが出てきた。

 途中からあまりにも人気が過ぎて肉体作業でもある裏方の荷崩しへ回されていたが、その顔に疲れは一切見えていない。

 それどころか、自身とは正反対に疲れ果てているなのはを見てびっくりしているようだ。

 

「クラスレベルにものを言わせた力作業だからそっちより楽だとは思ってたが、なのは先輩がダレる程とは。誰だ、誰が店を繁盛させたんだ、言え!」

「リコちゃんのせいなの!」

 

 思わず声を出して、そして口を手で押さえる。

 ほぼ初対面なのに怒鳴ってしまった。

 

「くぅー! オレのせいか、クッソー!」

「えっ……。お、怒らないの?」

「オレの沸点どんだけ低いと思ってんだよ」

 

 そう言って向かいのソファにリコは座り、突如虚空から光と共にジュースを二つ出した。

 

「えぇぇえ!?」

「え、何。パイセンどしたの」

「どこから出したの!?」

「アイテムパック」

 

 混乱するなのはをよそに、付属していたストローでジュースを飲んでいくリコ。

 

「あー、気にすんなよ。オレはほら、宇宙人だから」

「気にするよ! あと宇宙人ってなに!?」

 

 言いながら、脳裏に浮かんだのはPT事件を期に関わりを持つようになった時空管理局。

 アイテムパックという技術は聞いたことがなかったが、自身も持つレイジングハートのような例があるので知らないだけで存在しているのだろうかと考えた。

 それに宇宙人という自称。

 地球からしてみれば地球人以外全てが宇宙人に該当するので、知り合いで言えば地球出身でないフェイトやクロノも言ってしまえば宇宙人だ。

 

「リコちゃんは、どうして地球にきたの?」

 

 PT事件では戦闘続きで相手と対話し和解する事がなかなか上手くできなかったなのはは、その反省と自分の国語力不足を自覚し慎重に聞いてみた。

 

「戦いに敗れてオレのいた宇宙が滅びた時に、よう分からんがこの星に投げ出されたのさ」

「宇宙が滅びた……?」

「おおっと、勘違いするなよ? 別に地球を征服して新たな母星にするとかはないから。ごねて人んちのソファを占拠して住み着いてはしてるけど」

「ごねたんだ」

「ノリで行けないかなって思ったけど厳しそうだからごり押した」

「リコちゃんにごり押されたら誰でも敵わないと思うの……」

「今は何だかんだで更に4人増えたから大所帯だぞ」

「なんで増えたの!?」

「モタブから生えてきた」

「意味がわからない……」

 

 頭を抱えつつ、時空管理局とは関係のない人と判断した。

 明らかに何か質が違うのだ。

 

「リコちゃん、明日も来る?」

「シフトならオレが勝手に決めて良いらしいぞ。どして? つか事前に言えば良いとか緩すぎね?」

「アリサちゃんとすずかちゃんが、リコちゃんに会いたいって話をしてたの」

「ほぉん? 知らん奴らだが、このリコ様に謁見したいと言うなら出ざる得ないな」

「えっけん……? よくわからないけど、よろしくね」

「へっ。心当たりは無さそうで、でも二人組となるとバリバリありそうな感じはしないでもなさそうだが任されよ」

「遠回しに言ってるけど心当たりあるんだ」

「まぁ会えばわかるっしょ。あ、はやてからメールだ。ちょっと失礼」

 

 空中に謎の半透明プレートを表示させ、メールと言い張るリコ。

 

「はよ帰らんと飯抜きらしいのでそろそろお(いとま)させて頂きやす」

「現実離れした事いっぱいしてたのに、すごい庶民的なメールなんだね……」

「かつてはアークスでも今はただの美少女ってことさ。じゃ、おつかれさまーっす」

「あ、うん。おつかれさま」

 

 飲み終えたジュースはどこかへ消して立ち上がり帰っていく。

 

「アークスが何か聞くの忘れてた。

 というか、こういうのって管理局に教えた方がいいのかな……?」

 

 残されたなのはは、同じく残されていったもう片方のジュースをぼんやり眺めるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14 真面目な特典紹介

 誤字報告・感想ありがとう! 
 それと今更ながら今回はリコおっさんによる特典の解説回です。
 PSO2の知識が求められる上に普段の倍な文字数ですのでお気をつけを。
 足りない説明、分かりにくい説明等については都合よくお願いします。技量不足です。
 あとザリガニ。


 現在地は森。

 そう、俺がこの世界へ降り立った場所である。

 

 この世界へ来てから俺はアークスとしての力を振るうことはほぼなく、唯一輝いたのはアリサ&すずか拉致事件と森林トマト殺人事件の時だ。

 

 だが最近になってどうも嫌な予感がしてきたというか、シグナムらのように魔法を使える守護騎士とかいうものが存在していたり闇の書とかいう明らかにダークファルスの親戚的な物があったりとフラグがどんどん出来てきているのだ。

 神様転生のテンプレ的にこのまま何もないのは楽観的。今の平和がいつまで持つかわからない。

 

 闇の書がガチでダークファルスだった場合、本の所有者であるはやてを依り代にしてくるはずだ。というか怪しいけど捨てられないとか言っているので割りと精神持ってかれてる気がしてる。

 クラリッサがあればPSO2のストーリー内でやってたように闇を吸って無理矢理奪うこともワンチャンできたけど、残念ながら手元にないしパス。

 後ははやてよりも優秀なボディとして認めてもらい乗っ取りにくるのを待つか、過去作でワイナールがやってたように悪役ぶってダークファルスをこっちに誘導するか。

 相手の正確な正体がわからない以上、下手に手を出して取り返しのつかない事をするわけにも行かない。

 ファンタシースターシリーズは総じて生贄的に誰か犠牲になるからな。

 

 はやてにはとても感謝をしている。

 助けられるのであれば、例え命を賭ける戦いになろうと立ち向かってみせる。

 シグナムがちらっと言ってた管理局とやらと連絡が取れれば正体もわかって対処もしやすいんだが……。

 

 少し遅くはなったが、そんなこんなで万が一に備えて自分の持つ力や能力の仕様を把握しておこうと思い立ってはるばる誰も来ない森へ来た。

 物事を始めるのに遅すぎると言うことはない。

 思い立ったときに行動することが重要であり、結果論は理想に過ぎず。

 

 

 まずは初心に帰り、俺自身を現在構成しているモノについて。

 

 一つはオラクルで少し強い一般アークスとして戦い抜いた過去リコ。

 もう一つは、かつて男であった“俺”という主人格。

 

 これは言ってしまえば特段どうでも良い。

 まとめれば“俺”の精神がリコの肉体という器に収まっているだけなのだから。

 だが次にくる、有している知識。これがくせ者だ。

 俺を構成しているモノは上記二つなのに対して、有している知識は大きく分けて三つになっている。

 

 一つはボディである過去リコが経験した事柄と、その記憶。

 もう一つは、プレイヤーとしての知識。

 最後に来るのは“俺”の所有していた意味記憶。

 

 俺は“俺”の人格を保っていると自称はしているが、一般ピーポーしてた“俺”が人を守る使命の為に身を盾にする事への躊躇いがないのは過去リコの影響も受けているとは思う。

 

 二つ目と三つ目を分ける理由だけれども、それは“俺”の過去、エピソード記憶が過去リコに上書きされているのに対してプレイヤーだった時の知識経験は全く色褪せないのだ。

 それどころか、プレイヤーだった“俺”が知らない事もまるで攻略サイトを見たのかの如く分かる。

 

 例を挙げよう。

 過去の俺の名前はなんだと思い出そうとしても「自分の名前は昔からリコだ」となるのに対し、効率の良いメセタ稼ぎはと考えればメタフィクションな事柄……つまりオラクルに住むアークスとして生きていれば絶対に観測できない非現実(システム)的な方法が、それも“俺”ですら「へーそうやるのかぁ」と思うような方法が浮かぶ。

 あまり使わない各クラスのPA(フォトンアーツ)やテクニックの名前と効果、動作が全て詳細に分かるのだって同じ理由だろう。

 

 過去リコと“俺”の知識だけでは保有する武器アイテムを使いこなせない為にこのような仕様になっているのか、あるいは“俺”のエピソード記憶が全て置き換わった時に主人格がリコへ切り替わるのを防ぐためなのか。

 転生させた神のさじ加減はわからないが、言い換えれば頭の中に限定的な知識とはいえwikiが入っているのも同然な状態だ。

 

 

 続いては手にしているPA、テクニック、クラススキルに武器防具とアイテムもろもろについて。

 

 一つずつ見ていこう。まずはPAとテクニック。

 俺……というかリコはテクターハンターなので全テクニックは使用可能、サブクラスのハンター武器のPAも使用可能なのはゲーム通りで間違いはない。

 しかしパスタと華麗なる死闘を演じた時にトマトを粉砕するためさりげなく放ったスライドアッパー。あれはサブクラスでもないファイターのPAであり、もしリコが使うのであれば武器固有PAが設定されたナックルを装備する必要がある。というか、そもそも仮にサブクラスがファイターであっても素手では放てない。

 

 ではどういうことか?

 

 その実験をするために誰もいない森に来て、ブレイバー武器のパレットボウを手にしている。

 そう。手にしている。

 

 ゲームではメインクラスが異なれば装備すらできない武器を、堂々と持っているのだ。

 弦を引き矢を放てば当然発射されるし、過去リコの感覚に合わせて使えばPAも出せる。

 

 これはどういうことか?

 

 バレットボウをしまって他の武器種を手にとって見ても同じように問題なくPAは出た。

 素手でナックルのPAが使えるのだけは未だに謎だけど、考えるに今の俺は神のさじ加減で全クラスの武器を使用可能な状態になっているのだろう。

 

 そうなると気になるのはクラススキルだ。

 手っ取り早いのはレンジャースキルのトラップを使うこと。

 

 というのも、ゲーム時代に全スキルツリーリセットパスを使ったままレンジャーは放置されスキルポイントの振り分けをしていない。

 つまりスキルで獲得できるトラップ系の動作が使えるようになっているのならば、神のさじ加減でポイントが勝手に割り振られている可能性がある。

 

「で、使えたわけだが」

 

 意識したら出現したスタングレネード。

 投げてみたら普通に爆発した。うおまぶし。

 

 これはいい。

 が、同時に悩む。

 

 なぜならかつてはアクティブスキルであった物でも現在はパッシブスキルへ移行している物が多く、スキルが存在しているかを発動させて確認といった作業ができないのだ。

 

 どのパッシブスキルを習得しているか、そしてどれ程の効果があるのか確認できない。

 一番注目しているアイアンウィルの挙動が怖いな。

 確率で即死を防ぐアイアンウィルに一体何ポイント割り振られている?

 確かめるために自害して、もし発動しなかったら?

 発動した場合、その確率を求めるために何度も自害する気はない。

 

 この辺はドールやムーンアトマイザー等の蘇生アイテムの挙動がどうなるかというのもあるし、期待はせず扱った方が賢明だろう。

 でぇじょうぶだ、ムーンで(よみげ)ぇれるれるとか抜かして生き返らなかったらどうするんだという話だ。

 拉致事件の時にオートメイトが発動しないラインからモノメイトを使って回復しても貧血になりふらついたのも追い風だな。

 ここはゲームではなく現実、回復系統はチート性能になりやすいので相応に弱体化されたと考えよう。

 

 まぁともかく、命大事にだ。

 ギャグ補正でなんとかなりゃあ良いんだがなぁ……。

 

 フォトンフレアやマッシブハンターが使えれば上々。

 特に嬉しいのは、驚くべきことにメインクラスに設定していなければ使えないスキルも扱えている点だ。

 ウィークバレットとかいう付けられた方にはたまったもんじゃない弱点付与を使えるとか最高。

 そして特にカタナコンバット! 実戦で使うしか効果の確認はできないけど、もしかしたらコンバットエスケープで無敵になれる可能性がある。

 バトルジャンキーシグナムに頼んで実験に付き合ってもらうのも悪くないかも。それほどの価値がある。

 

 

 

 次は保有する武器防具、アイテム類について。

 武器は各クラスのコモン武器から過去リコが所有して現在も使用しているラヴィス=カノンまでのようなレアまで多種多様に持っている。

 最高レアまで苦労なく手に入るのは、何かとても寂しいものがあるな。

 その気になれば他のクラスとしても戦えるので、今まで散々言ってきた殴りテクターとかは全部自称となった。まぁ過去リコも“俺”も馴染みのある殴りテクターで戦う所存なのでこれからも自称していこう。

 

 脳内wikiもあるし、その内アークスと似た武器を持った奴が現れたら師匠として振る舞って見ようかな。

 ツインマシンガンとかナックルとかのPAならぎりぎりやってくれるかな。

 まぁ、都合よくそんな限定的な二つを引っ提げた奴らが来るとは思えないけど。

 

 防具の方はというと、特化装備からバランスまで様々。リングも全部ある。

 当然ながら装備個数の制限や取り替えの手間もあるので、戦闘中に切り替えるなんてできないが。

 

 最後に残ったアイテム類。

 これがなかなかまぁなんというか、使いどころでどうとでもできるというか。

 モノメイト等の消費アイテムは事実上無限に使えるみたいだけど、取り出せてアイテムパック外に置けるのはゲーム中と同じ個数だけ。無限に出せたらメイト工場として楽に稼げると思ったけどそう上手く行かないか。

 

 あとはそう、ギャザリングで手に入る素材や料理ショップで手に入る料理もあった。

 こっちは取り出し制限は特にないしできたてで出てくるものの、使えば使うほど料理人として負けた気分になる。非常食扱いでいいか。

 クラリスクレイスのチョコはいいのかって? あれはなぜか腐って出てくるから……。

 

 そういえばゲーム中で使えてたダークブラストはどうなるんだろ。

 使えるならPAやテクニックを使用する時と同じようにそういう感覚がするはずだ。

 強力な力が手に入るのは喜ぶべきことだけど、化け物の姿を見せてしまえば怯えられてしまう可能性が大いにある。

 ……背に腹は代えられないような、よっぽどのことがない限りやめておこう。

 

 

 

 む。ひとの気配。今日はここまでか。

 片付けて近くの池の前に座り込み、用意していた言い訳グッズを展開する。

 

 

 

「リコちゃん!? こ、こんなところで何してるの!?」

「なんだ、誰かと思えばなのはか」

 

 にしてもなんでここに?

 

「その言葉、リコちゃんにそのまま返すの」

 

 ふ、甘いな。

 振り返り手元を見せてやる。

 

「割り箸に、糸……?」

「その通りだなのは女史。オレは、黄金のザリガニを釣りに来たのだ!」

「ざ、ザリガニって……。リコちゃんって意外と子供っぽいの」

 

 なんだとぉ……。

 

「体が幼くて頭も幼いだけで子供っぽいと言われる筋合いはない」

「それもうただの子供なの」

 

 だって折角なら子供っぽいことしたいじゃん!

 割り箸にタコ糸と餌つけてさ!

 なのはもザリガニ釣ろうぜ! ぜってー後々で良い思いでだったなぁとかなるし、いつか子供ができたらザリガニ釣りを思い出すぜ!

 

「こんなことで怒るの!?」

「怒るに決まってらぁ!」

 

 ザリガニ食えよぉおおおおお!

 

「食べないよ!?」




※ 2019年3月までのデータに対応しております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15 リコの決意とザリガニ

コメントで知ったけど週間ランキングまで侵食してたんだねこのおっさん!
みんなありがとう! そしてありがとう! 感想ありがとう! ウッ(嘔吐)


 プレシア・テスタロッサが娘の命を救う為に行おうとした時間遡行。

 あまりにも無謀な試みはジュエルシードから膨大な魔力を引き出し空間にぶつけるという、理論も何もない物であった。

 当然それは失敗し、残されたのは心に深い傷を負った少女フェイトと、プレシアがすがるようにいつも手にしていたマターボードという使用方法が一切分からない謎の物体。

 

 色々と謎は残ったが通称PT事件が終わり数か月。なのはは事件を通して知り合った執務官の少年クロノから連絡を受けて市外にある山を訪れていた。

 それは不審なエネルギー反応が突如確認されたため、様子を見てきて欲しいというもの。

 

「ユーノくんやクロノくんじゃなくても、誰か一緒に来てくれればいいのに……」

 

 原因が分からないため警戒を含め地域一帯をスキャンしつつ歩みを進めるが、今は7月半ば。

 雨も多くなってきたのでとても蒸し暑い。

 運動の得意でないなのはにとって、この時期の登山は過酷な物であった。

 唯一の味方であるレイジングハートも励ましの言葉を送っている。

 

「っていうか、ひとりすごい心当たりあるの」

 

 現在翠屋でアルバイトをしているリコ。

 勤務中は至ってまじめだが、オフとなれば一瞬にして本気なのか冗談なのか分からない事を言う、同い年に見えても明らかに何かがずれている人物。

 結局自称しているアークスがなんなのか、宇宙人と言っているのが本当なのかはわからない。

 

「……何の音?」

 

 ふと、遠くから明らかに不自然な音が聞こえた。

 なるべく足音を立てないように気を付けつつ進んでいくと、少し開けた森の中に小さな影が見えた。

 

「あれって、リコちゃん?」

 

 話しかける為に近づこうとして、思わず歩みが止まった。

 手にしているのは半透明の美しい刃を持った剣。それを握りしめ、うんうんと唸っていた。

 そしてしばらく唸った後、武器を変えて振り回したり突如どこからか出した良くわからないアイテム類を取り出しては地面にばらまいて回収していく。

 意味は分からないが、その顔はとても真剣だ。

 

 ……今度は突然なぜかキレッキレのダンスを披露した。本当に意味が分からない。

 

 しばらくして落ち着いたのか、池の前に座り込み置いていたビニール袋から色々取り出す。

 今までの奇行と比べてより意味の分からない行動に、なのはは声を上げた。

 

「リコちゃん!? こ、こんなところで何してるの!?」

「なんだ、誰かと思えばなのはか」

 

 話しかけられたリコはザリガニ釣りだと称しているが、先ほどの奇行は明らかに釣りのそれではない。

 

「……まぁ、ほら。オレって宇宙人じゃん?」

 

 リコはいつも通りけらけらと笑う。

 しかし先ほど見た真面目な横顔の中に、何かとてつもない物を秘めているとなのはは感じていた。

 それは、自身の問題に巻き込まないようにしている事であろうと。

 そう。なのはがかつて、父が大怪我をし家が大変であった時に家族に迷惑をかけまいとしていた時のように。

 

「リコちゃんは、自分の星に帰りたい?」

 

 少し踏み込んで聞く。

 目を合わせたリコはびっくりしたように目を見開いてから、寂し気に逸らす。

 

「どうだろうね。帰る場所があるかどうかは置いといても、そう聞かれたらわかんねぇ」

 

 以前に翠屋で聞いた話では、リコのいた故郷は滅びていた。

 あの時は冗談のように言っていたが、それが嘘のようには見えない。

 

「オレさぁ、今の生活気に入ってんのよ。馬鹿みたいな掛け合いして、翠屋でバイトして、こうして童心に帰ってザリガニ釣って」

「ザリガニ釣ってたのは嘘だよね?」

「何を証拠に言うか」

「だってカゴがないもん」

「キャッチ&リリースorイートって知らねぇのか?」

 

 その時、丁度ザリガニを釣り上げた。

 

「……どうぞ?」

「おま、わかってて言ってんだろ……」

 

 餌を外し、ザリガニと共に池へ戻す。

 

「今のはほら、ニホンザリガニだ。外来生物ならナ・メギドで情け容赦なく爆散させてやるのに」

 

 食べないらしい。

 

「冗談だよ悪かった。外来種を爆殺(クリリン)するのは場合によっちゃやろうかと思うが」

「それって、魔法?」

「わかりやすく言うと。正式名称はテクニック」

「じゃあ、さっき弓とか色々使ってたのもテクニック?」

「それはPA(フォトンアーツ)と言って微妙に異なる……。み、見てた?」

「見てた」

 

 珍しく、バツが悪そうにしている。

 いつも飄々としているところしか見たことのなかったなのはは、少し意外そうにしてしまった。

 

「なんだよ。オレだって流石に銃刀法とかその辺は分かるぞ」

「あ、うん。ごめんなさい」

「いいぜ、別に。武器振り回してたのは……あれだ、万が一の場合を想定してさ」

「万が一?」

「何の気なしに過ごしている平和な日常が、永遠だって誰が証明できるかよ。いつ崩れたっておかしかねぇ」

 

 なのはも4月に魔法と出会うまでいつまでも普通に過ごすかと思っていたので、その可能性を否定することもできない。

 

「アークスってのは世界の平和を守るために戦う集団の事だ。心配すんなよ、オレはアークスのリコ。なんかあったら任せてくれりゃあ良い」

 

 ――力なき者の剣となり盾となる。それがアークスの定めだ。

 そう続いた使命感に満ちた言葉は、なのはの胸にしっかりと届いていた。

 

 

 

 なのははその後、リコについての話は伏せた。

 一帯のスキャンデータのみをアースラへ提出したのだ。

 報告の結果は特に異常もなしと。

 リコの存在が管理局に知られれば、別の宇宙からの漂流者である彼女をそのままにはしないだろう。

 リコにはリコの生活があって、平和があって。それを自分で壊す事はしたくなかったのだ。

 

 だが、事実を隠すにはまだ幼かった。言わなければ分からないと思っていたのだろう。

 嘘をつかないそのままのデータに含まれたフォトンの残渣反応。

 時空管理局……様々な平行宇宙を見てきた組織の中には、都市伝説の様に存在するフォトンと呼ばれる物を警戒する者がいた。

 

 闇の書を封印する為の手口を探す内に、同じく封印しなければ惨劇を引き起こす闇を知った。

 そしてそれと同時に、その者はフォトンの危険さも知った。

 

 誰かが動き出す。

 フォトンが悪を成す前に止めなければならぬと。

 




シグマ隊長の台詞を二回もパクるリコおっさん。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16 リコとヴィータの雨の日のんびり

ふと見たら総合にまで侵食してた!? ありがとう、ありがとう……。
ファンタシー成分を楽しみに来ている人が多いであろう中、ファンタシー感の薄い日常回です。
抑えた結果にじみ出るリコおっさんの趣味。


 水曜日。

 カレンダーを見て今日が水曜日だと、そして11時を目前に控えると無性に今日は何しようかと考えを巡らせてしまう。

 

 暇をこじらせてぼーっと考えているのは天気が悪い。二つの意味で。朝から結構な雨で出かける気にもなれないし。

 翠屋もこんな天気じゃ手もいらないらしく、むしろ向こうから今日は来なくていいと連絡が来た。

 明日から来なくていいの亜種かと思って滅茶苦茶ビビったのは内緒だ。

 

 あー、なんかデジャブ。

 遥か昔にも梅雨の水曜日が暇すぎて発狂してたの思い出した。

 普段からやってるゲームがメンテでできないと途端に「いつも何してたっけ?」ってなってする事なくならない? 

 で、暇だからとネットに接続してだらだらと同じページを永遠周回してマラソンしちゃうの。

 せっかく思い出せた前世の記憶がこれって寂しいな。

 

 

 梅雨は憂鬱だ。

 惑星ナベリウスの森林エリアも時折スコールにやられる事があるしそこで戦ったリコの記憶もあるが、それはあくまで戦闘中での話であって日常生活では普通の雨程度でもやんなっちゃう。

 

「リコ、今日は行かねぇのか?」

「雨なら混まんだろうし来なくていいってさ。やっぱやべぇって電話が来たら出撃するが」

 

 ソファでダレてたらヴィータが腹の上に乗った。

 別に重いわけでもないしいいんだけどさ。

 

「何読んでんだ?」

「コミックボンボン」

「なんつぅか、性格もそうだが読むもんも男っぽいよな」

「男っぽいとかヴィータにゃ言われたくねぇな」

「少なくてもあたしは“オレ”とか言わない」

 

 この世界は西暦2005年。つまり前世から見てかなり昔の時間に値する。

 一縷の望みをかけて先日入ったバイト代を握りしめ本屋へ走ったが、なんとボンボンが存在していたのだ。

 エヴァが放送してないせいでリツコさんネタが通用しなかった世界ではあるが、所々で前世と同じ物があって嬉しい。

 なんでボンボンを買ったかって? ロックマンかメダロットがやってないか確かめたかった。

 結果はどちらも連載時期を逃していたどころか、どのページの片隅にも名前すら見当たらなかったので存在がないと思われる。かなしい。

 

「面白いのか?」

 

 腹の上に座ってたヴィータが倒れこんで、雑誌の下から顔を覗かせた。

 ぐへへへ、なかなか可愛い事してくれんじゃねぇか。撫でてやる。

 

「好みの差だから何とも」

 

 この世界にエヴァはないが、代わりに俺の知らない勇者ロボが放送されてたりしたらしい。

 一巻がレンタル済みでなければレンタルショップの良い客となっていた。

 バイト頑張っていっぱい稼がないと……! 

 ──あれ、俺ってなんでバイトしてたんだっけ。オタクライフをエンジョイする為だっけ。

 

「ふーん。ロボットはねぇけど戦いなら散々やったしあたしはパスだな」

「“おれ”だってロボも戦いも経験してんだが……。まぁ“俺”の趣味だし」

 

 興味がないのか、覗き込んでいたヴィータは目を閉じて寝る姿勢に入った。

 今日行く予定だったゲートボールも雨で中止になって、暇らしいし昼寝か。

 寝るのは構わないんだが俺はトイレに行きたくなったらどうしたらいいんだろうか。漏らせと? 

 肉体年齢的におもらししても言い訳できるけどなんか悔しい。

 

 

 

 

 

 

「──んあ? 寝てたか……」

 

 ボンボン読み終わって、アイテムパックにしまって、ヴィータが寝てるから動けなくて……。

 あー、で俺も暇になったからぼーっとしてたら寝てたのか。ヴィータは先に起きたのかもういない。

 

「お。起きたのか」

「おはようヴィータ。今何時だい?」

「3時。アイス食べる?」

「在庫あったのか。食べる食べる」

 

 そいや他の連中はどこ行ったんだ? 

 いつもなら大体リビングでくだまいてるはずなのにな。

 

「はやては部屋で勉強、シャマルはその付き添い。雨がやんだからシグナムは買い物がてらザフィーラの散歩だ」

「大型犬って名目上散歩させないと怪しまれるものなぁ」

「変な文化だよな。首輪と紐付けないといけねぇなんて」

「安全と人の目を気にするメンドイ星さ。オレなんて昼間に外歩いてただけでお巡りさんに学校どうしたの? とかよく言われるんだぜ?」

 

 ちなみに最近は顔なじみになってまたお前かってなってる。

 身分証は出してないけど、翠屋で働いているのを見て成年してるまでとはいかないけど小柄ってだけで通った。

 見た目幼女なのをもう少し怪しんで良いと思うけど。

 

「あたしも言われたな、学校はどうしたって」

「ヴィータはオレよりちっこいもんなぁ」

「ちっこい言うな。リコの方がほんのちょっと高いだけだろ」

「137cmなう」

 

 キャラクリした時これ以上下げられなかった。

 一応調べたことあるけど、大体10歳女子の平均身長らしい。

 今まで幼女を自称してきたけど再認識して少し怖くなってきた。少女に差し掛かってるか? 

 いんや、パーツは全部幼くしてる。イケルイケル。リコちゃん頑張れ鯖を読め。

 10歳を幼女とするかで意見が割れて戦争に発展しなきゃいいけど。

 リコにゃんにゃん☆

 …………やめておこう。

 

「はやての妹ではいいと思ってるけど、リコの妹はやだな。あたしの方が落ち着きある」

「残念だったな。近所のおばちゃん曰く我ら三姉妹ははやてが長女でヴィータが末っ子だ」

「はぁ!? なんでだよ」

「そういう所だそういう所。いやぁー、やっぱ子供育てたおばちゃんは分かってんねぇ」

「うぜぇー」

「リコお姉さまとお呼び」

 

 冷凍庫から出したのは普通なカップアイス。冷たくておいしい。

 ちなみに俺はチョコミントを。ヴィータはバニラを選択した。

 仲良くソファに並んで頂きます。

 

「……なんかさ、リコはどっちかっていうとお父さんって感じするんだよなぁ」

 

 な、なんだって? 

 おっさん感にじみ出てた……? 

 

「いや、わりぃ。そういう事じゃなくてな。ただ、一緒に居ると安心するっていうか。頼れるっていうか」

「な、なんだ、びっくりした。加齢臭でもするのかと思った」

 

 さっき寝てた時に密着してたし。

 安心してくれるのはいいんだけどなんかアレだな。

 今度からもうちょっとお姉さんらしく振舞ってみるか。

 

「お゛ね゛ぇ゛さ゛ぁ゛ん゛!」

「うるせぇ」

「間違えた。これ言われてる方だ」

 

 しかもこの世界のテレビでニャンちゅう見たことないし通じないし。

 踏んだり蹴ったりだよもう。

 

「ちょっと分けてくれよ」

「いいぜ、代わりにお前のバニラを所望す」

「交換だな」

 

 お互いの手にあるアイスへスプーンを刺し合う。

 

「あ、リコてめぇ多いぞ!」

「リコの勝ちデース」

「おい貴様!」

「やめろその台詞は謎のトラウマががががが」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17 マグマグ

マグはどうしたという毒電波をリコおっさんが受信しました。
あとさりげなくアニメ本編を間近に控えております。


 マグと呼ばれる装備がある。

 

 今日も雨ですることもなく、リビングのベッド兼ソファでぐだってたら突然そんな事を思い出した。

 

 これは装備するとマグの持っているステータスをプレイヤーに足す事ができたり、フォトンブラストと呼ばれる大技を使うペットのような人工生命体的なかわいいやつだ。

 ステータスアップや気持ち程度の支援もしてくれるが、どちらかと言うと後者にあるフォトンブラストがメイン。

 

 2じゃないPSOでもフォトンブラストはあるけど、リコの出身がPSO2なのでそっちのフォトンブラストが出ると思われる。

 ゲーム中だと相手を一か所に集めるユリウス・ニスタか、自他のPPをすげぇ勢いで回復させられるケートス・プロイをよく使ってた。

 

 だがここは現実。ゲーム中では弱点を狙えずカス当たりだったりそもそも敵がいなくなってたりと不遇だった事が多い攻撃系も、いざ戦闘となればもしや輝けるんじゃなかろうか。

 ファンタジー生物のいない地球で敵対するとなれば、シグナム達のように魔法を扱える人間であろう。

 当然回避やガード、あるいはアークスにできない超遠距離も仕掛けてくる。

 そんな人間を相手する時、例えばユリウス・プロイのようにワープして纏わりついて殴りかかるとか恐怖だろう。

 あるいは、アイアス・イメラの様な頭上からビームを降らせていくのもいいかも知れない。

 アークスの戦いと言うか攻撃がどれほどの効力を発揮できるのかはわかんないけど。

 

 メニューを開いて装備を確認すると、それぞれに能力が特化されたマグがぎっしり詰まってた。

 アイテムパックの方にはPB(フォトンブラスト)デバイス……つまり技の変更パスも入っているので、戦闘中は無理でも切り替えていける。いいね。

 

「なんかこいつだけ違うな」

 

 一つだけステータスが中途半端な事になってるやつがいる。

 打撃力162の法撃力31、技量7って。

 しかも形状変更パスを使ったのか見た目がシャトになってるし。

 

「ああ、初心者時代のマグか」

 

 思い出すな。

 まだマグの仕様とか何をやっていくのか分からない駆け出しアークス時代。

 迷ったらハンターと言われてハンターを始めて、魔法剣士的な事の出来るテクターをやろうとして。

 上げるべきステータスが分からなくて右往左往したり。

 そんなこんなで出来上がったのが色々中途半端なマグだった。

 

 あれ、でも俺がゲーム中で使ってたのは買い直して作り直した特化マグだったよな?

 

 あー、もしかしてあれか。我が肉体たるリコが使ってたやつか。

 懐かしさと愛しさが増してきたし装備してみようか。

 ちょっと装備してみようとして、手が止まった。

 大丈夫かこれ。

 思い出したのは前作PSOのとある依頼。

 

 主人の亡くなった中古マグを売ろうとした商人の下からマグが逃げ出したので、それを回収してきて欲しいというものだ。

 

 実はマグの中には小動物の脳みそが詰まってるというRなTYPEを彷彿とさせる設定があり、自身の仕えた主人を覚えている。

 その依頼でマグが逃げ出した理由は、前の主人を求めて脱走したというもの。

 果たして俺は今、このマグにリコとして認識されるのか?

 

「窓閉めとこう」

 

 ソファから立ち上がり、開けていた窓と少し空いてた扉を閉める。

 万が一マグが俺をリコとして認識せず、逃げ出した時の為の保険だ。

 

 今の俺の状態がどうなってるのか正直分からない。

 俺は“俺”を保てている気はしているが、ボディであるリコの影響を受けて性格もだいぶ変わってる。いわば“俺”と“リコ”がいい具合に混じった状態だ。

 ……やっぱこれを装備するのは、今はやめておこう。

 無意識に装備しなければとしたのはボディリコの思い入れだろうが、このリコマグはもうちょっと俺のリコ成分が増して自信が付いたらの方がいいよな。

 ボディリコの形見みたいなもんだし、そのうち本当にペット扱いで使ってやりたい。

 

 戦闘中ならゲームと同じくで特化マグを使うし、この見覚えのない特化マグ達を使えば大丈夫。

 神プレなら主人は俺で間違いないし脱走の心配もしないでよし。

 

「えい」

 

 装備するのは打撃特化のマグ。

 

「出てきた出てきた。相変わらずゴリラだなーお前」

 

 二本の太い腕の生えてるマッシブなデザインのマグ。その見た目から愛称はゴリラ。

 逃げ出す気配もないし成功だな。

 俺がこの世界に来てからずっと飯抜きだったのか元気がない。

 いざという時にぐれても困るからモノメイトを与えてやるか。

 

「おー、食った食った」

 

 モノメイトを近づけたら機械音を発生させながら消えていった。

 どうなってるんだろ。撫でても平気だし。

 

「メイト以外食うなよー?」

 

 ソードみたいなデカブツも食わせられるし、シグナムの剣とかヴィータのハンマーとか食ったらえらいことになる。

 たぶんオンリーワンな装備だし取り返しがつかんぞ。

 あ、なんか扉が叩かれてる。

 ゴリラも脱走しないしもう良いか。

 

「って、はやてか」

「なんやリコちゃん、締め出すなんてひどいで。やましい事でもしとったん?」

「ちげぇよ。ペットが逃げないようにしてたんだよ」

 

 俺を何だと思ってんだ。

 それより見てよこれ。マキシマムメタルゴリラ。

 

「かわええやん」

「他にも種類はあるけど、ひとまずそれを試しに出してみた」

「へぇー……。久しぶりに宇宙人らしいの見させてもらったなぁ。SFみたいでワクワクするで」

「んだよいつもファンタシー感出てるだろ」

「アイテムパック? と剣以外にSF感なかったで」

 

 うそだろ。

 だって……。

 あれ。

 

「お、オレの髪の毛ってほら、先が紫がかってるじゃん?」

「あーそうやな。頭キマっとるな」

「あれ、その台詞なんかデジャブ」

 

 もういいや。メタルゴリラは装備から外しておこう。

 戦いとなったら装備すりゃあいい。

 

「なんや残念」

「浮遊する謎機械を引っ提げた超絶スーパー美幼女リコちゃん様が完璧笑顔でケーキ屋さんにいたらえらい騒ぎになるだろ?」

「なんや頭も残念」

「んだとおらー」

 

 本当に残念そうにしているので、家の中にいる間くらいは出しといてやるか。

 決して、決してSF感がないと言われたのがショックな訳じゃない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18 リコとザフィーラの散歩

(本編までの日数的に)残り少ない日常回


 はちがつ。

 

 夏。

 あっつぅ!

 

 ……と言いたいところだけど、アークスはフォトンが云々でその気になれば簡単に防護できるのだ。

 じゃなきゃ惑星リリーパの砂漠とかアムドゥスキアの火山とか耐えられない。

 というか火山に至っては溶岩に入っちゃっても問題ないどころか、状態異常欲しさに肩まで浸かってる。

 

 溶岩の中で正座してたり、あるいは表情一つ変えずに踊り狂ってたりするアークスって頭おかしんとちゃう?

 状態異常を回復することでステータスアップができるから利にかなってるんだけどさ。

 

 ずっとシリアス世界だと思ってたけど、はやての言う通りギャグ時空だったかも知れない。

 【仮面(ペルソナ)】がギャグ補正で助かったら荒れそう。

 

「おい貴様! これを見ろ貴様!」

「ヒィッ……!」

 

 ――って、なんだヴィータか。

 この前は一緒に寝た仲なのに脅かすなよ。ちびりそうになったじゃねぇか。

 

「どうせあそこで笑ってるはやての差し金だろ」

「いやー、リコちゃんの反応が面白くてついなー」

「あたしも楽しいからやってる」

「味方はいないのか。せめてもうちょっと加減してくれない? 心停止するこっちの立場になれよ」

「ちゃんと成仏してくれ」

 

 なんだかんだ言いつつ俺が死んだらヴィータが一番悲しみそう。

 で、何を見ろって?

 

「リコの借りてたビデオのレンタル、今日までだろって」

「あぁ、忘れてた。センキュ。ザッフィー、いるかーい?」

 

 大型犬扱いのザフィーラは散歩させなければ怪しまれるので、何かのついでに一緒に出掛けて散歩としているのだ。

 

「出かけるのか」

「そそ、お散歩セットよろしく」

「わかった」

 

 騎士とかいうもんだからもっとプライド的に犬の真似なんてしないんだからねビクンビクンとか言うと思ったのに、さも当然と言うように抵抗なく首輪をつけてやれる。

 

「これしきで主はやての平和を守れるというのならば甘んじて受け入れよう」

「かっくいい事言っちゃって。嫌いじゃないし尊敬するぜ、流石は守護騎士。またの名をヴォル……ヴォラ……」

守護騎士(ヴォルケンリッター)だ」

「そうそう、ヴォルケンクラッツァー」

「さっそく間違えているが」

 

 こっちの方がかっこいいじゃん。

 景気付けに撃った波動砲で四国を真っ二つにした戦艦の名前だよ。

 

「にしてもザフィーラってほんとでかいよなぁ」

「……リコが小さいのだ」

「乗れそう。乗っていい?」

「近所の目を気にしないのであれば」

 

 やめておこう。

 どう見ても誤魔化せてないけど狼だとバレてしまう。

 

「んじゃあ行ってくるけど、なんか買ってくるものある?」

「私はなんもないで」

「じゃあアイス!」

 

 ロックアイスね、分かった。

 表へ出ると今日は曇りなので直射日光はないが、蒸し暑い。

 ザフィーラは文句を言わないが、熱されたコンクリの事をどう思っているんだろう。

 盾の守護獣を自称してるんだし防御盛りのカチ勢的に良いライバルなんだろうか。

 あるいはアークス達と同じように状態異常を貰えて嬉しいか。

 

「その辺どうなんすか」

「熱いと思うが、耐えられぬ訳ではない」

 

 漢だねぇ。銭湯に連れていったらサウナに籠りそう。

 

「パスタの前には降伏してたけど」

「……それより、どこに行くのだ?」

 

 おおっと、露骨に話題を反らされた。

 別にどうでもいい話だったので別にどうでもいいんだけど。

 

「駅前のレンタルショップだよ。ほら、オレがよく行く」

「あそこか」

「今日こそオレの知らない勇者ロボの一巻置いててくれー!」

 

 人気なのかいつも穴抜けで借りられてるんだよなあれ。

 一気見するタイプのデューマンなのでああいうの困る。

 ネット配信に馴れたせいともいうが。

 

「リコ、そろそろ私は黙るが」

「おっけーザフィーラ」

「……」

 

 まぁ、犬が喋ったら怪しいもんな。

 最近周りに常に誰かしらいるせいなのか、どうも沈黙が逆に苦手になってしまった。

 もはやほぼ忘れかけている前世的なあれの時は、もうちょっと孤独になれてるような気がするのに。

 前世の事をどうだっけなーと思い出そうとしたら、ザフィーラが立ち止まり俺もそれに釣られて止まる。

 

「ああ、赤信号か。ザフィーラありがと」

 

 動きがもう盲導犬か何かだったんだけど。

 

「やっぱりリコだ」

「んあ? お、アリッサじゃん」

「アリサよ。何そのイントネーション」

 

 信号待ちしてたらいつぞやのパツキンに話しかけられた。

 つかまた護衛の一つも付けてないのか。おいおいおいおい、死んだわこいつ。

 

「あんたが犬の散歩してるの見かけて車降りたのよ。名前は?」

「オレはリコ。アークスさ」

「こっちの子の話よ」

「んだよオレよりザフィーラか」

「ザフィーラっていうのね」

「無視かーい」

 

 ひどくね? もうちょっと突っ込んでも良いと思う。

 青信号になったので歩く。アリサもついてきた。

 

「リコのノリに付き合ってたらキリがないもの」

「最近周りの人が冷たいでござる」

「涼しくていいじゃない」

 

 俺の扱いに馴れてんな。

 リコ取り扱い免許証とか持ってんじゃなかろうか。

 

「取り扱い免許ならなのはがじゃない? たぶんゴールド免許」

「嘘だろおい」

「最近たまにリコの話をするんだけど、何かある度に“宇宙人なら仕方ない”で締め括るようになったもの」

「え、何それ。普通に傷つく」

「だったら改め……って、ガチでショック受けてる!?」

 

 何がいけなかったんだろう。

 高町家で桃鉄やった時にカード無双したのがまずったんだろうか。

 もしくはドカポンでなのはの名前をたむらに変えたのが怒りに触れたのだろうか。

 いやだって仕方ないじゃん。なんか声似てるというかご本人様な気がするし。

 

「ロクな事してないわね……」

「ドカポンはともかく桃鉄は大人気ないことした……」

「大人気ないも何も……いや実年齢は上だったかしら」

「そういう事にしないと働けないし」

 

 というかアリサに桃鉄とドカポンが通じた事に驚きなんだけど。

 

「なのはの家に置いてあるしやった事あるわよ」

 

 あそこ兄妹多いしパーティーゲームも多いし遊ぶも当然か。

 パーティーゲームと称して友情破壊ゲームだけど。

 実はあの家って闇深いんじゃなかろうか。

 

「つかここまで来たけど、時間はいいのか?」

「今日はこのまま家に帰る予定だったしいいの」

「さよけ。……護衛は?」

「リコがいれば何とかなるでしょ」

 

 自称宇宙人で溶岩風呂を趣味とするやべぇやつを疑ったほうがいいと思います。

 アリサってブルジョアお嬢様じゃなかったっけ。

 

「ここまで来たのは、何借りるか気になるしね」

 

 そうかい。

 ブルジョアお嬢様がレンタルショップとか庶民的過ぎてシュール。

 空気と化してたザフィーラが良い感じの日陰を見つけたので、そこへ駐車してから店に入る。

 

「リコよりも大きいし、リコより賢いんじゃないかしら」

「オレだって日陰くらい見つけられるし。馬鹿にすんなよな」

「張り合う所そこじゃないから」

 

 いやー、にしてもこの時代のレンタルショップって全盛期って感じしますなー。

 俺のおぼろげな記憶やオラクル生活だと、殆どネット配信だからなぁ。月額何百円で見放題とかの。

 

「パケ借りできるのがお店の利点よ」

「……やっぱり実年齢結構上よね?」

「えー? リコそういうのよくわかんなぁーい☆」

「宇宙人なら仕方ないわね」

「おっとぉ。天丼は傷付くぜ」

 

 俺のポテチのように繊細なハートを砕くんじゃない。

 あ、未知なる勇者ロボが帰ってきてる。ありがてぇ……ありがてぇ……。

 

「意外性も何もないわね」

「男の子見てぇな趣味してるだろ? 女の子なんだぜ、オレ」

「ま、まぁ趣味は人それぞれだし」

 

 わかってんじゃん。だから今ちらっとイケメンの映ったパッケージを見てたのは何も言わないぞ。

 

「ロボット以外に何かないの? それこそ女の子らしいものとか」

「って言われてもなぁ」

 

 魔法少女物がなぜか少ないこの世界。この年代で女の子らしいものって何だろう。

 分からないのでそれっぽいものを選択してみる。

 

「ベッタベタの恋愛物ね」

「ダメか?」

「いや、ダメではないけど」

 

 ううむ、未知の勇者ロボと同じく見たことも聞いたこともない作品だったけど、アリサの反応を見るに憚られるものだったか。

 もういいや、ロボットで覆い尽くせ。

 

「で、結果オレは男の子みたいな事になると」

「別に良いんじゃないかしら。趣味なら」

「いやまぁ興味はあるんだけどね? ただ、なんかこう少女趣味全開は抵抗あるっていうか、恥ずかしいっていうか」

「あんたに恥の概念があったなんてね……」

「泣くぞおら」

「あんたに涙の概念があったなんてね……」

 

 最近、周りの人がオレの扱いに馴れてきてるとです……。




【カチ勢】……防御もりもりでカチカチになったプレイヤーの総称。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19 ストーキングキャット

評価バーが右まで届いた! みんなありがとう!
それと感想・誤字報告ありがとう! 感謝の極み!(老衰死)


 最近なんか視線を感じるのは気のせいだろうか?

 バイトをしてる時は愛想を振り撒いてあっちこっちに人気者で仕方ないけれど、それがどうしてかバイトを終えて帰る時もそんな視線を感じる。

 

「暇な人もおるもんだねぇ……」

 

 万が一不審者に襲われたとしても、相手は戦闘力5な地球人。問題はない。

 しかしだ。俺だって人間(デューマン)だし生活がある。

 なんというか、端的に言えば落ち着かない。気持ち悪い。

 リコボディの方からは気配に察知し敵に備えた緊張状態、俺の方からは知らん人にケツを狙われてるかも知れないという状況のストレス。

 ダブルパンチのダメージアップでアップップー。

 

「お疲れさまでーす」

 

 裏口から出て、念のため少し時間差を作るため近くの段差に腰掛ける。

 こんな時のためにゲームのマップが欲しい。あれがあれば敵性反応をサーチ&デストロイできるのに。

 

 しっかし、どうして俺なんか狙うかねぇ。

 接客態度はあれだが、一分バイト時間を過ぎて着替えた途端にいつも通り過ごすっちゅーのに。

 一目惚れするのは分かるが。

 

「なー、猫なー」

 

 最近帰り道によく見かけるこの猫の視線ならいいんだけど。

 

「おっ、と。やっぱりここにいたか」

 

 猫を撫でながらぼーっとしてたら、裏口から高町家長男の恭也さんが現れた。

 そういえばこの人も今日は手伝いに来てたな。

 上がりだろうか?

 

「父さんが心配してたぞ。最近気疲れしてるみたいだとな」

 

 所でこの人の声聞き覚えがありすぎるんだけど。

 なんかこう、グリーンなリバーがライトってそうな……。

 

「気にすんなよ恭介」

「恭也だ」

「声似てるしいいだろ」

「よくないだろ」

「けち」

「お前な……」

 

 心配してくれてるのは確かだろうけど、正直な話どうするかなぁ。

 高町家の住民はどうしてか戦闘力高い上に優しいから、俺が「マジで困ってるんで助けてくだしあ」とか言ったら犯人の殲滅に動くんじゃなかろうか。

 

「あのな、こっちとしてはリコの方が実力行使で事故にならないか心配なんだぞ?」

「マジかよ」

「お前って無駄に力強いから、ぷちってできそうだし」

「ひでぇなおい。そらフィクサービームを使える恭也に比べたらあれだけどよ」

「待て、さりげなく俺がビーム出せることにするな」

 

 フィクサービーム言うてみ? めっちゃ似てるから。

 

「なんの話だなんの……。人が心配してるというのに」

「ははは、ごめんごめん。ただまぁ、ホントに心配ないから」

「ならいいんだが」

 

 大丈夫だって。

 翠屋から家に帰る途中や仕事中に視線を感じたり、あるいは曲がり角から謎の気配をよく感知する位だから。

 

「思いっきりストーキングと出待ちされてるじゃないか!?」

「ダヨネー」

「どうしてそう呑気なんだ……!」

 

 ケツ狙われてるなんて深刻に考えて病みたくないもん。

 このかわいい猫みたいにのんびりしたいね。

 んなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の翠屋。

 いつも通り出勤した俺は、ホールには出なくていいと倉庫整理を言い渡されていた。

 

「倉庫整理……キャラ倉庫……見つからないアイテム……」

 

 うっ、頭が!

 

「ま、まぁ今はそういうのとは縁もなくなったし」

 

 能力付けの為に作った素材をしまって、メモもしないからよくわからない事になって。

 倉庫なんだからタグ付けくらいさせてもいいじゃないかとずっと思ってた。ロックの有無だけじゃ整理できんよ……。

 あの頃は文字によるごちゃごちゃだったか、こっちは物理的なごちゃごちゃだ。

 

「たまーになんか武器っぽいのが混じってるのは誰の趣味だこれ」

 

 士郎さんも恭也ニキも戦闘力高いし、趣味っていうか闘争にでも備えてるんかね。

 

「……ま、なんかこの辺は関係ない気がするしいっか」

 

 たぶんこの辺の設定が主に生きるのは別宇宙(べつさくひん)な気がするし。

 謎電波をキャッチしつつも倉庫整理を行っていく。

 

「バイオリンケースじゃん。中に銃でも入ってるんじゃないか?」

「――流石にそれはないよ」

 

 あ、士郎さんだ。おつかれさまーっす。

 

「楽器に興味があるのかい?」

「なくはないっすね」

 

 だって楽器系のルームグッズってビジフォンで高く売れるもん。

 

「よかったら後で弾いてみるかい?」

 

 ゲームならマイルームに設置した様々な楽器を扱えてた。

 プロ並みの演奏も歌唱力を持ってるのに二曲しか演奏できないアークスって悲しいね。

 俺はともかく……あれ、何か楽器使った記憶あるな。これはリコの記憶か。

 でも今は弾けるか分からないしなぁ。

 

「ええと……上手に弾けないから」

「そっか。それより、そろそろ上がったらどうだい。もういい時間だよ」

「まじでか」

「掃除までしてくれてありがとう。ケーキでもどうだい? 向こうで待ってるよ」

 

 時計を見ればもう昼のピークは過ぎて、人のはけている時間だった。

 マジかよ、こっちでも倉庫整理だけで一日終わるのか。

 

「とと、またにゃんこか。んなぁー、かわいいなぁお前さん」

「……にゃ、にゃーん」

 

 シャベッタアアアア!

 

「猫だし鳴きもするか」

 

 にしては人が頑張って猫の真似した見たいな感じだったけど。

 つかどこから入ったんだこの猫。建物の中にまで入ってくるなんてな。

 最近よく見かけるし、まさかストーカーの正体がお前だなんてないよな。

 

「問おう、貴様が私のストーカーか」

「……にっ」

「な訳ないよな」

 

 

 俺も疲れてるのか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

A’s編
2-1 はやての異変


 夏の暑さと蝉の声が鳴りを潜め、日増しに寒さの増す時期になりましたがいかがお過ごしでしょうか。リコです。

 

 最近は妖怪追跡ストーキングキャットも姿を見せないし平和だった。

 平和だったって言うとなんかありそうだけど、事実平和だった。

 だって何にもなかったんだもん。

 

 借りた未知なる勇者ロボは路線変更なのかコレジャナイロボと化し楽しみにしてた分ガッカリだったり、ヴィータは何かある度にクラリスクレイスの真似をしてきたり。

 ああ、あとアレだ。シャマルもメシマズ枠だった。

 ヴィータは大雑把な料理で食えなくはない程度だし、家の中で料理できるのがシグナムとはやてしかいないのはバグだと思う。

 ザフィーラ? あいつ最近ドッグフードで妥協し始めたから……。

 

 

 そんなこんなで秋に入り冬も近づいた今日から一泊二日ではやてが入院することとなった。

 検査とリハビリを兼ねたもので、今までも時折やってきて馴れたいつものやつらしい。

 

「お金はちゃんと持っとるな? シグナムも“私がやらねば”って料理の勉強してたしあとはリコちゃんが余計な事をしなければOKや」

「おいおい、オレだって翠屋で修行してるしレベルアップしてるんだぜ?」

 

 厨房には入れてもらってないが。

 そんな心配せんでもすぐに帰ってくるんだろ?

 アイテムパックにフランカさんの料理あるし一日位は平気さ。

 

 今は入院前の検査を終えて、ロビーではやてと共にシャマル待ちだ。

 親戚の判定で通っているシャマルが代理人的なあれで、医者と話をしている所を待っている感じ。

 

「オレだって家族判定で通りたかった」

「そう言ってる時点でアウトやからな? あと、リコちゃん私と変わらない見た目やし」

「人を外観で判断しちゃいかんと思います」

「いっつも自分はかわいい言うてるくせに何いいよるん?」

「それは事実だから仕方ない」

 

 ちなみに応対したナースは俺の事をはやての友達として判定していた。解せぬ。

 

「何がいけなかったんだろうな」

 

 やっぱり名前だろうか。

 元気よく「はい! リコ・クローチェです!」って答えたのがいけなかったのかも知れない。

 八神の名前が入ってないし。

 

「分かってないからダメなんやと思う。てか、その名前って本名なん?」

「あたぼうよ」

「へー、初めて知ったなぁ」

「この世界に来て初めて名乗ったしな。バイト先でもリコですとしか言ってないし」

「アルバイトするとき履歴書どうしたん?」

「桃子さん……店長がオレに一目惚れだったから出してない。そもそも書いてもないが」

 

 リコは以前から名乗っての通りだけど、クローチェは本当に初めて名乗ったな。

 俺の脳内設定だけの存在でゲーム中でも言うことはなく忘れ去ってたが、どうやら我が肉体は覚えていたらしい。

 故に、不意打ち名乗りで八神を言えなかった。

 

 ちなみにクローチェはリコの名前と同じくキャラクリ時に外観の参考とした別作品から由来している。ガンスリンガーガールっていう良い漫画なんだけど。

 

 あー、折角なら英雄にちなんでリコ・タイレルをつけておけば良かった。 

 彼女は過去作のPSOでメッセージパックを足元にばら撒き強制的にプレイヤーへ読ませて足止めをし敵に襲わせるという手の込んだ嫌がらせをしてきたり、ストーリーでは悲しいことになったりと色々印象深いお方だ。

 

 あ、ごめん。やっぱやめといて良かったわ。

 どっちのリコだとなったら混乱の元だし。

 

「これからは八神も混ぜるか。リコ・八神・クローチェ」

「クラリスクレイスちゃんの事言えんくなったなぁ」

「そもそも本名全然言わんしセーフ」

 

 たぶん今後も自己紹介か正式に名乗らにゃならん時にしか出ないだろうが、設定として覚えておこう。履歴書書くときに統一しないと突っ込まれるやも知れないし。

 使うかな、今後。翠屋で一生働けばいい気がする。

 シャマルが戻ってきた。

 何やら浮かない顔をしている。

 

「言わんでも分かるで。(わる)なってたんやろ」

「そうなのか?」

「……ええ、残念だけど……」

 

 ――まじか。

 シャマルの反応を見るに、冗談でもなくその通り悪くなっていたのだろう。

 

「なんで言わなかった」

「だって、リコちゃんもシャマルも、みんな心配するやろ?」

「決まってるだろが。分かってりゃオレだってアンティだのレスタだのパスタだので何とかできないかもっと力入れて試す」

「パスタはいらんで」

 

 あー、ちくしょう。今まで普通に過ごしてたから気が付かなかった。

 もうちょっと定期的にアンティかパスタかレスタぶちまけてりゃよかった。クソが。

 

「リコちゃんストップ。思い詰めたって良い事ないで。あとさりげなくパスタぶちまけんといて」

「だが……。いや、そうだな。シャマル、他の奴らにもすぐ話すのか?」

「私としては、もうちょっと伏せてて欲しいんやけどなぁ……」

「はやてちゃんがそういうなら……」

 

 シャマルの目が一瞬泳いだ。

 そういえばシャマルら4人は魔法を使えていた。シャマルもその中では支援――回復にも特化していると聞いたことがある。

 俺と同じで、裏でこっそり何か企んでる口か。

 はやてがちゃんと言わないなら、俺らもちゃんと言わない。

 よって俺達は悪くない。悪いのははやてなんだ!

 

「……リコちゃん、なんか企んでるやろ」

「べっつにー。決してオラクルの技術を何とかこっちで再現できないかとか考えてないもーん」

「あんな、確かに悪化しとるっぽいんは確かやけど死ぬわけでもないしそこまでせんでもええよ?」

「ふーんだ。オレは義理堅いのさぁ。クラリスクレイスにチョコのお返ししてないけど」

「いやしたれや。と言うか食いたれや」

「だって腐ってんだもん」

「あんたが腐らせたんやろ」

 

 よし、ちょっと落ち着いて冗談も言えた。

 いつも通りの俺を思い出し、いつも通りにふるまえ。

 俺の求められる姿勢はいつも明るいリコちゃんだ。

 俺がくよくよしてたら周りのみんなも不安になっちまう。

 

「なんか無理しとらん?」

「お前も無理したんだから人の事言えんぞ」

「……せやな」

「まあ言うてオレの知識も殆どないし、オレが主導でできることはない」

 

 あくまで主導でできることは。

 ――いざとなったら俺も手伝うぜ、魔法とフォトンの共同戦線だ。その時は手伝うぜ。

 

 そんな意思を込めた発言をしつつ隣のシャマルを見たら、目を逸らされた。

 え、あれ、伝わってない? というか、そっちにそんな気はない的な?

 

 あれ? 俺、いらない?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-2 日常を壊す仮面

メインタイトルの変更を検討しております。現在考案中でございますが、また決まり次第活動報告等でお伝えしたいと思います。


 海鳴市は名前の通り海が近い。

 市外にはすぐ自然の森もあるし、良い土地なんだろう。

 少なくとも何か事情が無い限りはこの街を捨ててしまいたいとは思えない。

 

 

 朝起きて、シグナムが飯作ってて。

 今日帰ってくるとはいえ、なんだかんだで毎日顔を合わせていたはやてのいない朝は寂しいものだった。

 

 ここが良い街であるのは確かだが、素性の知れない中身イケメンお兄さんな幼女を快く家へ迎え入れる器の広さを持ったはやての一生を狭い世界で終わらせてやりたくない。

 臨海公園の海っぺりの柵に寄り掛かりながらため息。

 

 狭い世界で終わらせたくはないと言ったが、だからといって平穏を捨てた世界はいらないかな。

 

「……良い街だよなあ。お前もそう思うだろ?」

「…………」

 

 一瞬にして俺の目の前に現れた、仮面を着けた男。

 恐らくこいつが作り出したであろうよくわからん障壁のせいで、俺と男以外の誰もいない空間が出来上がっていた。

 障壁が張られたのはわかったが、なんで明らかに殺意満々なのか分からない。

 俺の勘もリコボディもやばいと警笛を鳴らしている。

 

「フォトンを扱う者がなぜこの世界にいる」

「色々事情があんだよ。つかフォトン知ってんのか」

「エミリア女史の努力を無駄にはしない」

「頼む、会話してくれ。話し合いで解決したいから」

「リコ・アークス。この世界の為におとなしくしてもらおう」

 

 うわっととと。

 なんか光の輪っかみたいなので捕まった!?

 殺意の通り完全に抹殺前提じゃねぇか。

 しっかし色々気になるな。なぜこの世界に無いであろうフォトンを知っている?

 それにエミリアの名前。

 あとさりげなく名前間違えるな。ちゃんと調べとけ。

 

「一応聞いとくが、オレの事は誰から?」

「…………」

「まぁ、そうだよな」

 

 会話は無理か。

 打撃特化マグのドルフィヌスを装備し、右手にはラヴィス=カノンを。

 

「その状況で何ができる」

 

 戦闘は手を抜かない。ふざけない。

 拉致事件の時の反省だ。

 だが、だからと言ってハチャメチャな全力も最初から出さない。というか出せない。

 俺はまだ自身がどれ程戦えるのか把握してないからだ。

 ゲーム中の動きとリアルでできる動きのすり合わせができていない。

 できると思っている事でもできない可能性がある以上、追い詰められない限りは賭けに出ないほうがいい。

 

「今日は素敵な日だ」

 

 余裕な態度の口上に警戒したのか、相手も手を止め静かな時が流れる。

 

「花は咲いてるし、小鳥は」

 

 輪っかをちぎり、ノンチャージゾンデ!

 突如として発生した雷が男の頭上から襲い掛かる。

 初級テクニックのチャージ無しという、ゲーム中じゃわざわざ使う事なんざなかった行為。

 しかしだ、突然目の前が光ったらビビるだろ?

 

 満足に戦えないなら不意打ち上等!

 相手は怯んだ。なら後はステップ、ジャンプで一気に距離を詰めて、

 

「なにっ!?」

 

 ヘヴィーハンマー!

 一瞬だというのに芯は反らしたか。手応えはあまりないが、ヒットはしたのでふっとんで海に消えていった。

 

「残念だったな。拘束のレバガチャ抜けは慣れてんだよ」

 

 ふう、こっちでもできるかはちょい不安だったがオーケイ。

 

 ん?

 ……妙だな。

 倒したと思うのに障壁は解けない。

 

「あー、で。小鳥がなんだっけ」

 

 障壁が解けていないなら。

 

「大体ホラー演出的に後ろにいる」

 

 振り返れば、ノーダメージな仮面の男がいた。

 攻撃を逸らされたし逃げられた感覚もしたからまさかと思ったが、ノーダメなのは予想外。

 しかもさも当然の如く浮いてるし。色々おかしくね? なんで飛べるし。

 クラリスクレイスみたいな一部のやべー奴は飛んでたけど、やった事ない俺は無理だぞ。

 

「アークスは基本飛べねぇから降りてきてくんねかな」

「断る」

 

 ちょちょちょ!

 突然のガチ弾幕はよせよ!

 ステップと斬り払いで対処するがこのままじゃ一方的だ。

 速度重視でノンチャージのゾンデやグランツも放つが弱い。不意打ちじゃなければバレて防がれる。

 だからといってテクニックをゴリ押しチャージして逆転する保証もねぇしウォンドじゃ分が悪い。

 武器を切り替えて、

 

「タリス!」

「対空性能はその程度か」

 

 投げたカードが空飛ぶ男の後ろに止まる。

 余裕ぶってるが残念だったな、ゾンディールだよ。

 

「なにっ」

「逃げらんねぇぜ?」

 

 二段ジャンプ、かーらーのー?

 ヘヴィーハンマーだぁああああああ!

 

「ぐ」

 

 フルスイングは仮面の男が張ったバリアっぽいのをぶち破った。今度はヒット、芯を捉えた。

 へけっ、他愛もない。ぶっ飛んで行きな。

 

「油断したなっ!」

「わっ!?」

 

 着地狩りと後ろから首はスゴイシツレイに当たるだろ!?

 つか、さっき大ダメージ与えたのに……!

 ええい、瞬間移動か何かかこいつ、俺にもそれくれよ! 通勤楽になるから!

 パンチだ、ドルフィヌス! こいつを殴れ! 

 

 ……ドルフィヌス……?

 

「ああああ! 餌やってねぇ!」

 

 ほ、放置してたからエネルギー切れで全然働かねぇ!

 ちょっとお前ふわふわしてないでアイテムパックからモノメイト出して飲んでくれよ!

 今なら無限に飲めるフリードリンクだから!

 

 ギリギリと締め付けられそうになる我が細首。

 デューマン種特有のフィジカルパワーで対抗しつつ、足元に落としたタリスから闇属性テクニックのナ・メギドを準備する。

 もう容赦せん、これが炸裂すれば貴様なんぞ!

 

「待て! 離れろ!」

 

 またワープか!

 くそ、ロックが外れちまった。不発に終わっちゃ意味がねぇ。

 

「げほっ、うぇー。双子トリックって奴か、古典的だねぇ……」

 

 目の前には二人の仮面の男が並んでいた。

 ノーダメに見せかけたりは二人で入れ替わり立ち代わりだったからか。

 舐めた真似してくれるぜ。

 だが、そうと分かれば手が読める。

 

「さってと、お二人さん?」

 

 同じ容姿の奴が並ぶとなんか変だな。

 まぁ詰まる所、こいつらはそれぞれ遠距離か近距離の特化って所だろうな。交互に来てたし。

 ヒューイとクラリスクレイスが同時に現れたと思えば良い。

 ――あれ、それって軽く絶望じゃね? クラリスクレイスだけでも震えが止まらない。

 おいおいおいおい、死んだわ俺。爆死する未来しかない。チョコ食べるから許して。

 

「ちょっと一旦待ってくれない?」

「舐めるな!」

 

 はっや。とんでもねぇ踏み込みだ。

 でもな、足元のタリスはまだ生きてるんだぜ?

 カウンターにテクニックを一つ。

 

「ナ・フォイエ!」

「この程度、うわぁあああ!?」

 

 飛び出た火球をバリアで防ごうとしたのが判断ミスだな。それ、当たると燃え広がるんよ。

 火炎瓶をぶち当てたかのような罪悪感が俺を襲う。やったことないけど。

 もう片方の遠距離特化がそれをカバーするために再び弾を飛ばしてきたが、そいつぁ悪手だぜ。

 

「零式ナ・バータ!」

 

 氷の壁が展開され、それに攻撃が当たると同時に弾け飛んだ。

 殴りテクターの防御方法にしてカウンター技。

 味方の援護射撃が仇となりダメージを受けた接近マンは一度距離を置こうとするが、それを逃してやる程ではない。

 グラビティグレネードを投げて捕まえてから、

 

「行くぜラヴィス!」

 

 手にしたるは愛用の武器ラヴィス=カノン。

 育て上げ潜在能力を解放したラヴィスは、なんと気合いを入れて振ると光波が出るのだ!

 

「ぶった斬る!」

 

 気持ちいい音と共に放たれた光波によって接近マンは斬られ……てないな。

 あら、逃げた? くそ、またワープか。

 どこに……。

 

「あー……」

「よくもやってくれたな」

 

 さっきよりも高いところにおられるわね。

 二段ジャンプでも届かない位置とかクソかな。

 ……あーもうっ! 飛べないとか言うんじゃなかった!

 

「降りてタイマンとか、ない?」

『ないな!』

 

 わぁい、二人揃ってのお返事。

 じゃあ仕方ねぇ。

 頼むぜリコボディの経験値。そして賭けに勝つ運。

 運って奴に負けたら笑ってごまかせるかなぁ。頑張れ。

 

「右手に雷、左手に風。これなーんだ」

『諦めろ!』

「正解は、ザンディオン!」

 

 発動させたるは複合属性テクニックのザンディオン。

 雷と風の翼を纏い、相手に突進する法撃と大和魂が合わさった必殺技。

 

 ゲーム中じゃ平行移動しか出来なかったがここは現実、垂直に飛べよ我が翼!

 翼を見た男達はもはや殺す気で俺に向かって弾幕を張る。

 

 できた! 飛べたよ!

 後はこのまま距離を詰める!

 

「耐えてくれよオレの体……っ」

 

 全身を容赦なく撃ち抜かれて行くが、高度は詰めた。

 

 特攻攻撃したる為の翼は、飛び上がるだけで終わり消えた。

 

 それもそうだろう。垂直に飛び上がってくるなら横にずれれば良いのだから。

 

 

「ふっ」

 

 

 その失笑は誰のものだ?

 俺じゃない。なら目の前の男のものか。

 必殺技があと一歩及ばずで終わりだったからか?

 

 

 ――及ばず? 必殺技が?

 

 

 笑わせるなよ。まだだ、まだ舞える。

 なぜならば、殴りテクターに複合テクニックなど要らぬからだ。

 

 

 そう、真の必殺技とは――。

 

 

「フルチャージヘヴィーハンマーだぁああああああ!」

 

 そう、力こそパワー! 打撃力こそが物を言う殴りの真骨頂!

 筋肉イェイイェイ!

 パワーⅣ(コスパ)

 散々振り回した通常必殺技のフルチャージだ!

 フルパワーぶっぱ破砕の一撃、耐えて見せろよ!

 

「落ちろよぉおおお!」

 

 多少離れているが、高度さえ合っていれば問題ない。武器がホーミングして俺の体を連れていってくれる。

 

 

 突貫し振るう。

 纏まって並んでいた男達は、抵抗のバリアも虚しく殴られ吹き飛んだ。

 真芯で捉えてホームランだが、逃げられたな。

 インパクトの瞬間に接近マンがギリギリ庇い、遠距離マンも撤退を悟って防御は相方に任せて大ダメージを受けつつも何かしら制御をしてワープしていったのだ。

 なんつう判断力してやがる。

 

 勘だが、おかげでもうこの辺りにはいない。

 それに障壁もなくなったし危機は脱したか。

 

「一枚上手かぁ。だがまぁ、オレちゃんも大健闘じゃないか?」

 

 こっちは初陣の、自分の戦闘能力も把握しきれてない状態だ。

 リコボディから引き継いだ経験値で動けるが、ブレインは一般ピーポー故にやはり判断能力に難ありか。

 今思ったけど、カタナコンバット使えば無敵になった上フィニッシュのガキィィンで初見殺しだったんじゃなかろうか。

 あるいはマロンをタコ殴りにしてもらって自爆(さよなら天さん)してもらうか。

 

 まま、結果的に撃退できたし生きてるからセーフ。

 カタコンは切り札に取っておこう。マロンだってマグと同じで俺がリコじゃないと思われたら逃げられるかも知れない。

 初見殺しを下手に使ってとり逃がして、次襲撃されたときに警戒されず済んだと思おう。

 逃げられたんならまた襲ってくるに違いないし。

 

 

 

「ところで、着地どうするの?」

 

 考察はさておき、この高さから落ちたら死にそうなんだけど。ゲームじゃあるまいし。

 

 

 

 …………助けて!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-3 お前も家族だ

感想・誤字報告ありがとうございます!


 地面までは軽く数十メートル。

 ゲームならばどんな高い所から落ちたとしてもケロッとしてたけど、ここは現実。

 タマヒュンではなくお腹の奥がぶわってなる、つまりやべぇって感じ。

 え、ちょっと待て。これガチ死?

 せっかく機転を利かせて白星飾ったのに、着地を想定せずに死?

 

 ジェットブーツで降下をって武器パレットに入れてないしあああああああ

 

 

 

 

「うわあっ!?」

 

 どん、と衝撃が走り視界が二転三転。横のベクトルが俺を襲い、地面に吹き飛ばされる。

 いってぇ……。いってぇが、真っ逆さまに落ちるのだけは回避できたし怪我こそすれ死は免れた。

 

「リコ、無事かっ!」

 

 顔を上げれば、そこには剣を構えたシグナムの姿がある。

 そうか、ぶっ飛ばすかなんかして助けてくれたのか?

 身体中が痛いし荒っぽいやり方だが、助かったのは事実。

 親指を立てて無事アピール。

 

「酷い怪我だな」

 

 助かりはしたけど、あなたの見ているその怪我の数々は今コンクリを転がってできたものです。

 

「やっぱり怪我はなかったようでなによりだ」

「おい、なかったことにするんじゃねぇ」

「怪我一つなく無事で良かった」

「おーい、聞いてるかーい」

 

 冗談きついぜシグっち。

 

「敵は逃げたのか?」

「みたいだけど、また狙われるかもな」

「魔法を使っていたようだが管理局か?」

「オレにゃ判断つかんよ。知らないんだから」

「……また来そうか?」

「たぶんな」

 

 俺の扱いも気になるが、一番気になるのはさっきの連中か。

 時々名前を出してたフォトンを知ってるのは百歩譲っていいとして、エミリアの名前。

 

 エミリア・パーシバル。あるいは時系列によってはエミリア・ミュラー。

 過去作品の登場人物で、PSO2では期間限定のイベントキャラだっただけのエミリアの事は一度だって話した事もない。

 努力とか言ってたし、あいつらちょっと知ってる程度じゃない。

 

「どうした?」

「なんでもない」

 

 エミリアの努力とすれば、やっぱり才能を生かした研究の事だろうか。

 所謂天才キャラな彼女は、作中では亜空間航行の実験をして別作品に飛んだりしていた。

 異世界に渡る技術努力をしてはいただろうが、俺がここにいるだけで努力を踏みにじる事にはならないと思う。

 そもそも、何の努力かも確定してないし別な理由もありか。

 

 わからないことだらけだが、エミリアが直接関わっている訳ではないと思う。

 フォトンを扱える奴がいちゃいけないってなら、エミリアもいないはずだし。

 

 うーん、わからん。

 来てほしくはないが、また来てくれてかつ会話に乗ってくれるのを願うしかない。

 

「しっかし、なんでオレをピンポイントで狙ったかねぇ」

「……存在しているだけで邪とされる者もいる」

 

 割とそれきつくない?

 

「服もボロボロだな。私の上着を貸そうか?」

「いや、着替えはある」

 

 アイテムパックの装備欄、選ばれたのはラッピースーツでした。

 これなら怪我もぼろぼろの服も隠せるし丁度いいな。

 

「これからはやてを迎えに行くんだろ? オレはいいから早いとこ行ってやれ」

「いや待て、ちょっと待てお前」

「んだよ。オレの心配はいらねぇよ」

「私はものすごく頭を心配しているぞ。とにかく、普通の服に直せ」

 

 拳をプルプルさせないでもうちょっと乗ってくれてもいいじゃんかさ。せっかく着たのに。

 装備変更。装着するはアークスダッフルFの黒タイツ添え。

 

「それでいい。シャマルが向かっているから怪我は治して貰え」

「オレも後衛職だし自分で治せるぜ?」

「戦闘後だろう。無理をするな」

 

 残念だがアークスは効率化の為に高難易度の土地を永遠周回(マルグル)したりしているし継続戦闘能力は高いぞ。

 それレスタ。ほら傷も治った。

 

「だからまぁ大丈夫だぞ……って、おとと」

「そんなふらふらでよく言う。ほらしっかり立て」

 

 しまった、レスタで怪我は治せたけど疲労とかは残ってるか。

 頑張れ我が肉体。気合いだ気合い。

 

「シャマルが来るまでそこで休んでいろ」

「だな。悪ぃ……ってちょっと待て、なんだその運び方」

 

 小脇に抱えるなよ。俺ちゃんが軽いからってよ。

 

「アークスはこうやって運ぶのが普通なのだろう?」

「はやてのタレコミか……!」

 

 いつしかの仕返しかこの。

 そのまま運ばれてベンチに座らされる。

 今更だけど怪我はシグナムが投げ飛ばした所だけじゃなかろうか。

 めっちゃ被弾はしたけど、あの男達の攻撃で怪我の一つもしてないのか。

 

 ん、あれ?

 初手拘束だったしもしかして殺す気なかった?

 なんなんだよもう。ちゃんと話してくれよ。

 

「リコちゃん、怪我の方は?」

 

 悩んでいたらシャマルが到着した。

 入れ替わりにシグナムが去っていく。

 

「自分で治した。後は疲労だけ」

「無事で良かった……。色々気になることはあるけど、一旦帰りましょうか」

「……良いのか?」

「え?」

 

 確かに襲撃者を撃退したけれど、あの二人組がまた俺を狙ってこないとも限らない。

 はやての事を守る騎士としては、狙われて闘争の原因になる俺を追い出したいと考えるんじゃなかろうか。

 

「そんな訳ないじゃない。リコちゃんも家族の一員よ?」

「……そうか」

「家族だから、リコちゃんの事も守るの。だからシグナムも飛んできた」

 

 そっか、そうなのか。

 最近扱いが雑な気がしてたから、てっきり俺の事が嫌いなのかと思ったぜ。

 

「むしろその逆よ。みんな好きなの。馬鹿で、うるさくて、それで少しお間抜けなリコちゃんが」

 

 すごい感動的な場面な筈なのに罵倒されてる気がしてならない。

 

「気のせいよ」

 

 そっかぁ。

 

「でもありがとよ。へへっ、すげぇ嬉しいぜ」

 

 ならば、俺もそれに応えなければなるまい。

 自称守護輝士として、八神家を守る者となろうじゃないか。

 

「さ、帰りましょ?」

「だな。――って待てシャマル。お前もその運び方か」

 

 お前ら小脇に抱えるの流行ってるの?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-4 赤い輪とリコの記憶

いつも感想ありがとう!


 割りと無視していた事だけれど、神特典で高い身体能力貰ってたよな?

 そう気付いたのは、家へ帰りソファで寝て目が覚めた時だった。

 

 決死の覚悟こそしたが、終わってしまえば通常ボスの様な戦闘だったと感じるのに俺はだいぶ疲れた。すぐ寝てしまうほどに。

 考えられる可能性としては日常生活を謳歌し過ぎて鈍ってしまった事だろうか。

 翠屋で倉庫整理とかの力仕事はしてるからパワーは出たけど、基礎体力がガタ落ちしてたっぽいか。

 

「シグナムに乗れば良かったぜ」

 

 軽い手合せ程度でも変わるはず。

 今度からちょっとお願いしてみるか?

 ……あー、いや。斬殺されそうだ。

 

「ただいまー」

 

 起きてお茶を飲んでちょうど一段落ついた頃、はやてが帰ってきた。

 

「おかえリンガーダ」

「ひどいでリコちゃん。迎えに来てくれる言うから楽しみにしとったのにー」

「悪い悪い。好きなボーカルが路上ライブしててな」

「音楽に興味あったんや、意外やなぁ。何て名前なん?」

「え。あー……、熱気バサラ」

「ふぅん……? 今度どんな曲か教えてなー」

「機会があったらな」

 

 わざわざ襲われたとも言う必要はなかろう。

 あと咄嗟に名前出しちゃったけど、バサラのCD売ってるかな。

 というかそもそもいるのか熱気バサラ。

 調べたらすぐ分かっちゃうじゃん。嘘が下手だな。

 

「それはそうとリコちゃん、これ廊下に落ちてたで」

 

 そう言ってはやてが俺に渡したのは、一つの小さい物体。

 

「いつも身に付けとるし、大切なんやろ?」

 

 それは、赤い腕輪(レッドリング)

 

「いつ落としたんだ!?」

「うわっ。そ、そんなに大切やったんか……?」

「ありがとうはやて……これを失くしてたら……」

 

 失くしてたら、なんだ?

 テクターの必須装備であるAウォンドEチェンジのリングでもない、アクセサリーなだけのこの赤い輪に、なぜ俺はこんなにも執着したんだ。

 いやまぁ、これが落ちて転がるのはPSO的に縁起悪いんだけど……。

 

「……なんでもない」

「ならええんやけど」

「それよりシグナムはどうした? 一緒じゃないのか?」

「シグナムなら買い物に行っとるで。病院帰りだし私は先に帰って休んどきって、玄関で」

 

 手合わせの相談をしたかったけどそれなら仕方ない。

 しっかし、このリングはPSO2ゲーム内だとただの装飾品。必死になったのはオラクルに生きてたリコの感情なんだろうけど、どうしてこの腕輪を……。

 ……あ。

 

「これさ、師匠に貰ったやつなんだ」

 

 思い出せた。思い出した。

 フラッシュバックのようにその光景を思い出す。

 

「リコちゃんの、お師匠さん?」

 

 研修生時代に、実地研修でピンチに陥った時とあるアークスに助けてもらった。

 そのアークスはあまり人付き合いが得意ではないようだったけど、同じデューマンだったからか話もしやすくて、懐いた()()はアークスとして就任した後も師匠だと一方的に言い張り勝手について回ったんだ。

 

 不器用だけど優しい師匠に憧れて、それで髪型も口調も真似した。

 師匠の様にかっこよくなりたいと、一人前に見られたいと背伸びをしたりもして。

 いつしか向こうも師匠呼びは馴れないみたいだけど仲間として想ってくれて。

 

「チームに所属する事になるからもう頻繁に会えないって言ったら、餞別にくれたんだ。リコって名前にはこの赤い腕輪が似合うよって」

「へぇー……」

 

 当時はどうしてリコと赤い腕輪に関連性があったのかは分からなかったけど、メタ知識のある今なら前作の英雄レッドリング・リコの事を言ってたんだと分かる。

 師匠がどうして知ってたのかはよくわからないけど。

 文献とかにでも残ってたのかな。聞きに行けない今や謎でしかない。

 

「それで」

「ん?」

「リコちゃんはなんて言ったんや?」

「何って、普通にありがとうって返して今も愛用してるけど……」

「ちゃう! その告白に、リコちゃんはなんて返事したんや!」

 

 え、な、なに?

 はやては一体なんの話してるの?

 いやまぁリコのテーマ曲は薔薇の告白って名前だけどさ。

 

「はぁー……」

「なんだよ。なんなんだよそのため息」

「不憫、不憫やわぁお師匠さん」

「んだよ」

「いやよく考えてみぃ。何の気もなしに“お前にはこれが似合う”言うてリングを渡すか?」

 

 んー?

 あ、まさかはやてのやつ。

 

「一つ良いか、まさか告白って、そういう告白の話か?」

「そうに決まっとるやろが! はぁー、お師匠さんドンマイやでほんま……」

 

 確かにその状況、こうしてみるとただの告白だなぁ。

 たぶん、師匠も素で言ってただけでそこまで深く考えてないと思う。

 

「こ、ここまで至ってもリコちゃんは……!」

「待て待て本の角を掲げるな、構えるな」

 

 お前は一つ勘違いをしている。

 

「師匠は確かに一人称が“おれ”だったり短髪だったりまな板だったりしたけどな、レディだぜ?」

「それを先に言えやぁ!」

 

 あふぅん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 てな訳よ。

 話している時に俺は完全にリコの視点で話してたな。融合係数でも上がったか。

 リコ化してるのは置いておいてよく考えて欲しいが、仮に師匠が男だったとしてもロリ相手に愛の告白なんてするか?

 いくらかわいくたって常識的にせんだろ。

 

「なるほど、そんな事があったのか。道理でぼろ雑巾のようにされてるわけだ」

 

 この痛みを分かってくれるかシグナムっち。

 あとぼろ雑巾は言い過ぎじゃない?

 

「主はやての勘違いも悪いが、そんな話し方をしたリコも悪い」

 

 はやての肩持ちすぎじゃないか。贔屓だ贔屓。はやてが10割悪い。

 いくら怪我を自分で治せるといっても痛くない訳じゃないんだぞ。

 

「それにしても、リコの師匠か。ぜひ剣を交えてみたい」

 

 それは無理だと思うな、師匠は弓をメインに使ってたし。

 カタナも使えないことはないらしいけど、しっくり来ないんだとさ。

 

「……それは、剣を握るリコに指南できるのか?」

 

 ごめん、わりと無理させてたと思う……。

 

「さて、先に風呂入ってくる」

「ああ」

 

 にしても、俺が何の気なしにキャラクリでリコに追加した要素にも過去が結び付けられるなんてな。

 幼女ボディなのも研究所出身だからということになってるし、髪型がエターナルFレイヤーなのは関連人物の影響だし。

 殴りテクターをやっていたのもちゃんと理由があるんだろうか。

 

 今は俺がオレ(リコ)だけど、キャラクリが他にどう色々作用していたのか気になるな。

 厳密には他人となる人の過去を勝手に詮索するのは少しマナー的にどうかと思うけど。許してくれるかな。

 

「体が成長せんのは良いがしかし、髪型はせめて変えたかったな……」

 

 鏡に写った()()()()()()()を見て、それも思った。

 エステがなくてヘアスタイルの変更ができないなら、髪を伸ばすしかないというのに。

 折角かわいいロリになったのに短髪固定は寂しいなぁ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-5 ダックハントのアレ

 ランニングって大事だわ。

 

 これが始めてからすぐの感想である。

 

 

 シグナムに稽古をつけてもらおうとしたのだが、向こうは最近忙しいらしく断られてしまった。

 

 それでじゃあ基礎体力作りに走ってみるかとやってみたが、これが思った以上になかなか効果的。

 どうやら想定していたより俺は怠けていたらしく、初日は予定していた道のりの半分で死を遂げた。

 だが流石はアークスなのか、片道でへばっていたコースも一週間ともなれば余裕になった。

 明らかに体力つくのが早いしやはり高い身体能力を発揮できるまでの伸び代を与えられた説が正解っぽい。

 ゲーム中じゃ無限に走り無限に武器を振り回していたがどこまで行けるだろうか。

 というか鈍りすぎなんだよな、戦闘がなかったからって。

 

 普段の俺の生活を見返してみよう。

 

 翠屋でのバイトが無い日は家で借りたビデオを見てだべってる。以上。

 うーん、体力も落ちるわ。怠けすぎ。

 

「あの世でリコも笑ってるぜ……」

 

 自分の体で弄ばれる気分はどうだぁリコちゃんよぉ。

 今は俺がリコちゃんなんだがな! がっはっは!

 

 はぁ。そのリコに最近はだいぶ侵蝕されてる気がするけど。

 絶対前世的な時はこんなヤケクソな性格じゃなかったはず。ヤケクソなのはリコのせいだ。

 俺は悪くねぇ。

 

「ん?」

 

 ランニングついでで近くの山まで来たが、上の方から何か音がするな。

 耳を澄ませてみれば、空き缶を打つ音とそれをカウントする音声が続いている。

 

「ダックハントの攻撃の、えーっと元ネタなんだっけ」

 

 オマージュとかパロディは見るんだけど元ネタの名前が思い出せない。

 空き缶リフティングをやってるのはわかるんだけど。

 

「この声ってなのはか?」

 

 掛け声はなのはだけど、カウントしてる機械チックな声の正体はわからん。

 ちょっと近付いて見るか。

 ここで捻りなく普通に近づくのは一般アークス。

 しかしここにいるのは緊急任務前のキャンプシップ待機が暇過ぎて暴れまわった事のあるアークス。

 

「スニークシューター」

 

 なのはが相手なら武器持ってても大丈夫やろの精神でライフルを持ち、PAを使い地面をうねうね這って行く。

 服が汚れないのかだって?

 フォトンって便利だよね。

 

 うねうね。

 うねうね。

 

 引っかかるボディもしてないのでステルス性能はたけぇぜ。

 

 うねうね。

 うねうね。

 

「あっ」

 

 前方数十メートル、なのはがミスったのか空き缶を取りこぼす!

 

「Go」

 

 ライフルから放たれた一発が、空き缶を粉砕した。

 

「びゅーてぃふぉー……」

「リコちゃん!?」

 

 ごめん、威力が高いのは知ってたけど破壊するつもりはなかったんだ。許してくれ、アークスはゴリラなんだ。イボンコなんだよ。

 立ち上がり普通に歩み寄り、代わりにかつて東京の川で釣っておいたギャザリングアイテムのアキカンを渡す。

 無言で断られた。

 

「にしても、なのはも修行か? 精が出るねぇ」

「う、うん。そんな感じ……」

 

 前回は俺が武器を出しているところをこっそりみられたが、今回は逆だな。

 つまり。

 

「今度はなのはがザリガニを釣りに来たと言うことか」

「ザリガニ!?」

「譲るぜ。遠慮せずにたんと食えよ」

 

 俺はザリガニは食わんから一人占めしていいぞー。

 

「食べないってば! それより、今の見てたの?」

「ダックハントのB技みたいなやつのこと? ばっちし見てたけど」

「よくわからない例えだけど、見てたんだね……」

 

 あれ、まずった?

 仮面戦に引き続いてなのは戦?

 何となくだがなのははたぶん強キャラだぞ、勝てるわけがない。

 手にしてる宝石がぴかぴか光って落ち着けみたいな事言ってるけどなにそれ。

 

「ごめん! 秘密にしてもらっても、いいかな」

 

 んあ?

 ああ、なるほどね。

 こっそり強くなりたい影の努力タイプか。わかった、お前さんがそう言うのなら黙ってるぜ。

 

「そういう訳じゃないんだけど……」

 

 おうおうおうおう、みなまで言うな。

 わかってる。

 いやー勉強してないわーって言いつつテストで良い点数取りたいタイプだろ。いるいる。

 

「違うから! その、魔法は秘密にしないといけないの」

「え、そうなの?」

「うん」

 

 俺って散々あちこちでそれっぽい事してるんだけど。アイテムパックから色々出したり。

 ダメならちゃんと教えてくれよ。

 

「そういえばそうだったね……」

「宇宙人だから仕方ないで流すからアイテムパックみたいな基礎的な事忘れるんだよ。ちゃんと思い出せ」

「あれ、これわたしが悪い流れ?」

 

 俺は認めん、自らの罪を決して認めんぞぉ……!

 

「変な意地なの」

 

 我が家にも4人ほど魔法を使える連中がいるけど、あいつらも魔法は日常生活で使ってねぇな。

 魔法的なものが大々的じゃないしやっぱりあんまり見せびらかすのはよくないか。

 気を付けよ。

 

「ありがとうなのは。オレは自らの罪を償いこれからを生きることにするよ」

「うん、なんかもうめちゃくちゃなの」

 

 ええやん。細かいなぁ。

 

「それはそうと、なのははどのポジションなんだ?」

「ポジション?」

「ほら、パーティー組んだときに前衛後衛とかあるだろ」

「うーん、それで言ったら後衛かも。今もシュートの制御を練習してたし」

「ふむ」

「どうしたの?」

 

 なのは本人は運動が苦手と聞いたし遠距離であるなら恐らくは固定砲台、フォースの火力特化型か。

 ……あれ、それってまたクラリスクレイス枠? ガクブルが止まらない。

 ヴィータと並んだら俺に対する特効入りそう。

 ソシャゲのレイドボスで俺が出現したらガチャのピックアップにふたり並んで入るんだろう。そして容赦なく俺は死ぬ。

 

「フォースはよくわからないけど、固定砲台は正解かな?」

「長所を先に伸ばすのは正解だと思うぞ。あっちこっちに手を出すのも良いが長所を潰して器用貧乏になってもなんだし」

 

 あっちこっちに手を伸ばしたお陰でリアルマネーを使いマグを買い直す必要が出たからな。

 

「前衛が欲しいが、そもそも他に仲間は?」

「今は地球にいないけど、お友達になれたフェイトちゃんやアルフさんにユーノくんやクロノくん。いっぱいいるの」

 

 おっとぉ、今や味方のアークスがいない俺には堪える解答だぜぇ……。

 だが頼れる仲間がいるなら心置きなく火力を伸ばせるな。

 

「ただしなのは。それでも最低限の回避、防御を怠ってはいけない」

 

 取り出すのはコモンウォンド。ラヴィスはオーバーキルだからね。

 仮面の男の実力がどんなものかは基準がないからわからんが、少くても気合い込めればバリアは粉砕できるっぽいし。

 

「ちょっとオレも修行したい所だったから、混ぜてもらっていいか?」

「リコちゃんって確か、昔は戦ってたって……」

 

 今までの「宇宙人なら仕方ない」な態度を改め、なのはは頭を下げた。

 

「もっと強くなりたいから、よろしくお願いします!」

 

 素直な子だ。

 まだ若い新人を伸ばすのもベテランアークスの仕事。なれば、レベリングに付き合うのもやぶさかではない。

 

 あと俺としても色々装備というかできることの確認したいし。

 この前で空中戦も考えないといけないといけないことがわかったので、修行ついでに色々試さねば。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-6 はやてとすずかの出会い

感想・誤字報告ありがとう!


「フォトン……光子? 光の波動? ようわからんなぁ」

 

 いつもの図書館、はやての目の前には小難しい科学本が積まれていた。

 

「オラクルもアークスも、ダークなんとかもこっちにはないんかなぁ」

 

 宇宙が滅びる程の事が起きるのでいないのは良い事なのだが、はやてはがっかりしつつ本を戻していく。

 闇の書に召喚されたものの魔法らしい事はほとんどしていない4人と比べて、リコは日常生活でもよくSFのような技術を見せてくれていた。

 こちらの世界でもいつか世に出る技術だろうかと気軽に思い調べてみたが、ダメだったらしい。

 

「せめてアイテムパックを貸してくれたらええんに」

 

 そのリコも技術面に関しては享受している立場なのでどうしようもないのだが。

 

「ふんぬぬぬぬ……」

 

 本を仕舞おうと手を伸ばすが届かない。

 あと少し……。

 

「ここにしまえばいいの?」

 

 それを助けたのは、リコの友人であるすずかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうなぁ。高い所は手が届かなくて」

「ううん。これくらい大丈夫」

 

 時折図書館で見かけていたはやてと話をしてみたかったすずかであったが、ついに今日声をかけることができた。

 どの本が好きなのか、どんな本を読むのか、図書館でよく見かける同年代として。

 そして何より、本以上に話題にしてみたい事も。

 

「へー、すずかちゃんもリコちゃん知っとるなんて」

「半年くらい前に、ちょっと助けてもらった事があって」

「リコちゃんもええ所あるやん」

 

 はやてとリコの組み合わせを時折見ていたので、その話をしてみたかったのだ。

 

「はやてちゃんとよく一緒みたいだけど、どんなきっかけだったの?」

「ははは。きっかけって言うか、まあ最初は本当に突然話しかけて来たんよ。オレってかわいいだろって」

「リコちゃんらしいね」

「うんうん。あいつらしくはあるけど、今思えばとんでもない奴が来たと思うなあ」

 

 短い金色の髪に灰色の目をし、黙ってじっとしていれば人形かと思わせるほど端麗な顔つきをした少女リコ。

 まだ肌寒さが残るというのに白いワンピース(エアリーサマードレス)を着て椅子に胡坐をかいたリコは、眉間にしわを寄せながら図書館で新聞を読んでいた。容姿に全く似合っていない。

 そんなリコの隣へ車椅子をつけてしまったはやても運があったのかなかったのか、近くにいたからという理由で話しかけられてしまった。

 最初はその顔立ちからは想像できないほど荒い口調に驚いたはやてではあったが、不思議と気が合い自然とその後の買い物にも付いてきて、さらに家まできて。

 初めてできた友達として気を許し、そのまま流れで泊めてしまい。

 それから現在に至る今もまだ八神家へ住み着いている。

 

「はやてちゃんの家に住んでるんだ?」

「せやで。家がない言うから数日だけ思うて泊めたんやけど、結局本当に宇宙人みたいで今もおるで」

「そうなんだ」

 

 当時から引き続きリビングのソファを根城として住み着いている。

 数ヶ月が経ったある日にどこか別の部屋に移らないのかはやては聞いてみたが、別にそこまでしなくてもいいと断っていた。

 そのせいでソファへ座ろうとして寝ているリコを潰してしまう事件が頻発しているが。

 本人曰くヴィータとはやては許すがシグナムとシャマルは許さんらしい。

 潰されるのが嫌なら意地を張らず移動すればいいのに。潰してしまった方も被害者である。

 

「びっくりせんけど、すずかちゃんも宇宙人って言われたん?」

「信じられなかったけど、宇宙人の証拠だって頭の角を見せて貰ったよ」

「え、角なんか生えとったん?」

「うん。ちなみに目の色も左右で微妙に違うみたい」

「知らんかったなぁ」

 

 特に言う理由がないし、わざわざ言わないだけなので隠している訳でもないが、お陰で髪の毛から微妙に顔を覗かせている角は誰も気にしていなかった。

 瞳の色に関しては本当に微妙な差なので、本人も忘れてる。

 

「宇宙人やし人間じゃなくてデューマンやっけ。帰ったら確かめてみよ」

「嫌がらないかな」

「大丈夫やと思うで? 適当に褒めておけばオッケーや」

「ゴールド免許……」

「免許?」

 

 リコ取り扱い免許(ゴールド)認定者が増えた。

 

「まあちょっと変な所もあるけど、仲良くしてやってな」

「……この前翠屋で会った時、友達になろうって言ったら悲しそうな顔をされたけど」

 

 その真相は友達になろうという発言をフレンド登録の事だと勘違いしたからである。

 アークスでもない一般人のすずかは受信ができない為、送ったフレンド申請を無視されたと思い勝手に傷ついていた。

 ちなみにその後自棄になって手当たり次第にフレンド申請をバラまいたが、誰も同じく受信できないため返答がなく半泣きになりふて寝した。そしてその直後ソファでシャマルに潰されガチ泣きした。

 

「リコちゃんの事だからどうせしょうもない勘違いやし、気にせんで大丈夫やで」

「かな?」

「せやで」

 

 事実本当にしょうもない勘違いである。

 

「そういえば翠屋って、確かリコちゃんの働いてる所やっけ。どうなん? ちゃんと真面目に働いとるん?」

「それはもう、完璧な程に」

 

 私生活では主に自身の立ち回りのせいで立場はないが、翠屋では公私混同をしないの宣言通り真面目に働き重宝されている。

 こっそり翠屋の看板娘を狙い正社員まで上り詰めようともしていると噂もあるが、本当だろうか?

 少なくてもリコが出勤すれば売り上げが伸びるのも確かだが、今もなお変わらず薄給である。最低賃金も怪しい気がしてきた。

 

「クビになっとらんなら良かった。看板娘はともかく」

 

 なお店長たる桃子からすれば永遠にマスコット扱いである。

 看板娘は娘のなのはだけで良いらしい。

 

「悔しいけど容姿だけはええからなぁ」

「そうなんだけどねぇ」

「けどな、最近は気を抜いとるんか知らんけど髪の毛の紫増えてってるで」

「え、あれって増えるものなの……?」

「あんまし美容に気を使ってる様子ないし、染めるの忘れとるんとちゃう? どっちが地毛なのか知らんけど」

 

 

 

 元々話そうとしていた本の話題など一切上がらず、2人はその後もリコの話題で持ちきりになっていた。

 そして2人してリコの奇行が上がれば、

 

「宇宙人だから仕方ない」

 

 として締めるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-7 修行の成果とダンス

いつも感想ありがとう! あとある程度の書き溜めとプロットはできているので、ネタバレしないよう返信するために変な言い回しをしてたりしちゃってます。ごめんなさい。


 なのはとの修行は順調。

 向こうは持ち技の精度向上がメインなので、順調なのはどちらかと言うと実験をしていた俺の方だが。

 おかげで、空中を移動したりといった芸当ができるようになったのだ。

 

 ジェットブーツの空中制御がゲーム以上に融通が利くと発覚したのが一番でかい。

 手にウォンドを持てないので殴りテクターとしては失格だし、PAを使わないと移動速度が遅いのがネックだけど。

 それでもテクニックで応戦はできるし、無いよりかはマシだ。

 

 その他にもランチャーに跨るロデオドライブ零式、拳からフォトンを噴出するストレイトチャージ零式、ソードでサーフィンなライドスラッシャーが使えると踏んだ。

 

 中でもライドスラッシャーが割と優秀で、止まれないことを除けばジェットブーツと同じように扱える。ただしこちらは向こうと違い、止まれない代わりに移動速度は速いので使い分けをしていけという事か。

 急行するならロデオドライブがそれより速いし、ストレイトチャージも空中制御の補助に使えるのでいらない子ではない。他のPAと同時でなければ武器を持っていなくてもナックルのPAを出せるのはいいね。

 

 ちなみにテクターでよく使う移動技として存在するイル・ゾンデだけど、あれは危険なのでやめた。

 確かに移動速度は速いし空間を自在に動けるし体が慣れているのか俺の頭でも制御のしやすい良い事尽くめに見えるが、目の前が光って視界が奪われた状態なので下手すると味方も轢いてしまう。ヴァニラ・アイスか何かか?

 零式サ・フォイエなんて持ってのほかで、停止と共に爆炎をまき散らすので危うく山火事になりかけた。

 水鉄砲のレスキューガンがなければえらいことになってた。ありがとうバーニングレンジャー。ありがとう俺のバーニングハーツ。

 ツインマシンガンの空中戦も危ないのでなし。周りに敵しかいない状況ならいいんだけど、下手すると味方に当てちゃうからね。フレンドリーファイアがあるのか知らんけど。あとめっちゃ疲れる。

 

 そして驚きなのが肝心なPPの上限。色々試したけど、未だに切れたって感じはしたことない。これ一番の壊れ性能だと思います。

 

 そういえば依り代としてるリコボディが深遠なる闇との決戦であるストーリーEP3までしか経験してないのが影響しているせいなのか、その後に追加されたヒーローとかの後継クラスの動きはできない。知識にはあるので試したけど無理だった。

 全武器持てるし全クラスかやったぜとか思ってたのに。詐欺だ詐欺。

 

 ただし、EP4で追加されたサモナーやレイヤリングはできる。これがわからん。色々なんかちぐはぐである。

 舞台にもなった地球だからと、神がサービスしてくれたんだろうか?

 そも神とはなんだろな。なんでこんなサービスしたんだろ。つかどこの神だよ。地球の神か。

 サモナーはともかく、服装のバリエーションを出せるレイヤリングがあるのは助かるけどさ。

 

 あ、てことはダークブラスト使えないじゃん。

 なんか出そうな雰囲気出てたのは気のせいだったのかな。にしては今もやれば出来そうな感覚はしてるけど。

 

 

 色々気になる点ができてしまったけど実験は切り上げて、あとはジェットブーツの安定性を重視、ライドスラッシャーは細かい制御ができるように練習してみるか。

 空中から一方的に撃たれるのはもうこりごりだ。昔は弾幕シューティングをやり込んで蜂と呼ばれるボスに挑んだこともあるけど、機動力がないんじゃ避けられない。

 高い身体能力も早いとこ身に覚えさせて空戦可能殴りテクターになりてぇぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自主練を終えて、翠屋でバイト。んで帰りに図書館へ寄っていく。

 どうせはやても図書館にいるだろ。っていうか行くって言ってたし。

 つか、いたわ。

 

「てなわけで来たぞ」

「来たんか。別に一人で帰れるしええんに」

「オレはいらねぇってか」

「せやで。せっかくすずかちゃんと良い感じやったのになー。残念やなー」

 

 すずかって、あれか。フレンド申請無視した紫ヘッド娘。

 横に目を向ければ会釈されたので、アークス式の挨拶である軽く右手を上げるモーションで返答。

 

「やった、わたしの勝ち」

「負けたぁ」

 

 なんの賭けさ。

 

「もしリコちゃんが来たら、どの動きで返事するかって2人で予想してたんよ」

「はーん、なるほど。はやてはオレが頷きだけで返すと思ってたか」

「お、自分の癖ようわかっとるやん」

「別に突然ダンスで返しても良かったんだぜ?」

「リコちゃんって踊りもできるの?」

「いや乗っちゃダメやで」

 

 侮りやがって、俺のダンスエナジーを舐めるなよ。

 食らえ! ダンス6男モーションだ!

 

「図書館では静かにお願いしまーす」

「はい。すみません……」

 

 …………。

 …………。

 

「な、すげぇだろ?」

「アホやろ」

 

 静かに拍手をするすずかが唯一の慰めだった。

 けど煽ったすずかが悪いと思います。

 

「うわー、すずかちゃんのせいにするとか引くわー」

「何したって引く気だろ」

「せやで」

「ご、ごめんね?」

 

 許す。

 それはともかく、お前ら仲良かったんか。

 

「今日知り合ったんよ。と言っても、今までニアミスだったみたいやけど」

「そうなの? 話したいならすずかもオレに言ってくれりゃいいのに」

「直接話をしてみたかったから」

「オレはいらねぇってか」

「せやで」

 

 なんではやてが答えるんだ。

 まあいいや。

 

「せっかく来たんだし、偶にはオレも本を読むか」

「あれ、日本の文字読めたん?」

「おまっ、初日に新聞読んでたろオレ……」

「そうやっけ」

「つうか日本語で話してる時点で大丈夫だと気が付け」

 

 失礼なやっちゃな。

 

「そういえば、リコちゃんの星の言語ってどういうの?」

「日本語」

「本当に宇宙人なのかな……」

 

 すずか女史、その疑問が一番つらい。

 仕方ないだろ。何の疑問もなく日本語で話してるんだから。

 もしかしたら自動翻訳が働いてるんだろうけども。本当は俺がどっちの言葉で話しているのかは俺自身も謎。

 伝わってればいいかなって。

 

「じゃあ文字は?」

 

 お、それなら書けるぞ。オラクル文字。

 リコボディの手癖ですーいすい。

 完璧だけど、元が崩れたみたいなフォントなので落書きにしか見えねぇ。

 これから宇宙人をやめてラクガキの王を自称してやろうか。

 

「でもこれはこれで宇宙人っぽいなぁ」

「そうだね」

「意外と好評で何より」

「もし書けんかったら宇宙人呼びやめようか思うたで」

 

 俺から宇宙人のアイデンティティを取ったら何も残らないじゃないか。

 

「充分色々残ると思うんやけど」

 

 幼女の見た目とおっさん成分しか残らないとは言わないでおこう。

 いや、水と油みたいなのが混在してる状態だしインパクトはあるか。

 

「もぅまぢむり。絵本読も……」

「漫画読むかと思ったら、絵本持ってきた……」

「意外とかわいいところあるやん」

 

 幼女には絵本が似合う。

 という訳でもなく、折角子供な見た目なんだしたまにはいいかなって。

 

「よく忘れるけど、一応働ける年齢なんよな」

「そういえばそうだね」

 

 年中落ち着きなく無駄にテンション上げて高い能力を全く活かす事なく翠屋でバイトして家に帰れば永遠ごろごろしてるヒモニートは脱出したけどフリーター止まりな穀潰し宇宙人だとでも言いたげな顔だなぁ!

 

「ものすごい言い掛かりつけてきた」

「思わずお金払いたい位やな……」

 

 へっ、ありがとよ。

 

「図書館では静かにお願いしまーす」

 

 ……。

 ……。

 

「オチついて良かったやん」

 

 落ち着いてないからこうなったんだと思う。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-8 戦闘開始

いつも誤字報告してくれる人、ありがとう!


 図書館からの帰り道。

 身内以外の同年代と話をして、そして友達のできたはやてはご機嫌だった。

 車椅子生活のおかげで学校にも行けず、今まで友達もロクに作れたことがなかったらしい。

 俺はもうヴィータと同じで家族判定なので、同年代でも友達とは違うのだとか。

 

 友達って外でしか会えない特別感があるものね。

 

 お前は同年代じゃないだろって? うるせぇな。

 さりげない家族認定はすごい嬉しいんだぞ。研究所出身なせいで仲間はいても親族はいなかったんだから。

 脳裏に宿る悲しい記憶。

 

「ただいまー」

「ただいマルモスー」

「マンモスやなくて?」

 

 家に帰ってきて声をかけるが、誰も返事がない。

 

「これは、事件か……!」

「いやみんな忙しいだけやで」

 

 あのバトルジャンキーなシグナムが俺との手合わせを断るレベルでねぇ。

 ゲートボールの大会が近いとかでヴィータが練習詰めなのはいいけど、シャマルもシグナムも何してるんだか。

 ザフィーラもそういや最近よく勝手に散歩いってるし。保健所に捕まらないだろうか。

 ……ああ、ザフィーラって元はおっさんだっけ。

 とにかくなんか最近みんな家を出払ってるのが多くなった。

 

「ついにオレと同じくニートなのを気にしたか」

「いやそういう訳やないと思うけど」

「じゃあなんだろうなぁ」

「ふふ、鈍いなぁリコちゃん。クリスマス近いしそういう事やで」

 

 ま、まさか。

 

「このオレに、プレゼントを……?」

「私だけにや」

「オレは? なあオレには?」

「一人占めやもーん」

 

 ちょっとぐらいいいじゃんか。クリスマスプレゼントだろぉ! ってオーガニックに叫ぶぞ。

 てか俺もなんかサプライズにプレゼント用意しておこうか。

 そうだな、手作りが良いだろうしクリスマスにはパインサラダでも作ってやろう。こっそり用意して冷蔵庫に潜ませてドッキリ作戦。

 うむ。思い出に残るサプライズに出来そうだ。

 

 しっかし、誰もいないとなるとなんか寂しいな。

 なんというか昔に戻ったみたいだ。

 思い返せばひと月くらいの短い期間だったとはいえ、かつてはこの広い家に俺とはやて2人きりだったのになぁ。

 

「せやなぁ。賑やかな今じゃ考えられへん」

「あの頃はオレの扱いももうちょっと良かった気がするんだけどな」

「気のせいやない?」

 

 そうかな。

 最近は物理的に扱いが悪い気がする。潰されたり。

 

「そやったらソファで寝るのやめたらええやん」

「床で寝ろと」

「いや、空いてる部屋使って欲しいんやけど」

 

 俺がマイルームを持つと欲が出てリモデルームLで勝手に部屋を拡張しちゃいそうだし。

 あるいはシーナリーパスで勝手に引っ越したり。

 まあ単純に家族判定とはいえ、まだ居候な気分なので部屋を借りるのは躊躇いがあるというか。

 

「じゃあごはん作ってるから、ゆっくりしててな」

「おう。手伝う事あったら呼べよ」

「リコちゃんには料理は手伝わせへんでー」

 

 なんでさ。たまには活躍するだろ俺。

 特にシャマルの生み出した暗黒物質に立ち向かった時とか大活躍だっただろ。

 やべぇ味と化した料理に俺が手を加えて、無味になった所をはやてが止めを刺すコンボで乗り切ったりして。

 

「普通そんな状況あり得へんし、そもそも何をしたらあの味を消せるん?」

「オレ超がんばった」

 

 個人的にどこまで手伝ったら無味になるかのチキンレースがやってみたいけど。

 マヨネーズかけた時はセーフだったしどこまでやったらダメなんだろうか。

 

「あ、材料がちょっと足りひん」

「クラリスクレイスのチョコか?」

「それが必要になる場面想像つかへんのやけど」

 

 折角久しぶりに出したネタだってのに。

 

「ごめんな、ちょっと買うてきてくれへん?」

「よっしキタコレ、伝説の配達人たるこのオレが唯一大活躍する場面」

「こんなんが唯一でええんか……?」

 

 いやだって。料理できないとなるとこれくらいしかやる事ないんだもの。

 んで、何買ってくればいいんだ?

 

「はいこれ、メモに書いたから。お財布ちゃんと持っとる?」

「おっけ。ついでにヴィータも拾ってくるか」

「せやな、悪いけど頼んだでー」

 

 ヴィータめ、大事な大会が近いのはわかるが、なるべく暗くなる前に帰ってきて欲しいもんだぜ。

 この街は意外と拉致とかが発生するくらいには危険だぞ。

 万が一ヴィータを襲ったりなんてしたら、犯人が危険だからな。

 

 ヴィータ本人はゴルディオンハンマー持ってるし、援軍のシグナムは剣を持ち、駆け付けた俺はデバンド&レスタで相手の無事を祈る。

 八神家さえいればこの街の防衛は万全じゃなかろうか。

 

 

 

 もう12月に入り、息も白くなる気候。

 あっという間に暗くなるし、いつ雪が降ってもおかしくないような毎日だ。

 最近は周りと合わせるためにフォトンの防護をしていないため、流石のアークスたる俺も堪える。

 

 にしても、忙しいとは言うがあいつらどこで何をしているんだか。

 病院でシャマルが何かしらの動きを見せる雰囲気出してたし、恐らくそれなんだろうけど俺に相談してくれりゃばいいのに。

 やっぱりアイコンタクトが伝わらなくてダメだったんだろうか。

 俺だってなぁ、はやての事を何とかしてやりたいと思ってんだよ。

 今日に至るまでにも隙あらば料理にモノメイトを混ぜようとしたり、アンティの能力を高める事が出来ないか気合いを込めて発動させたりしてるし。

 前者は叩いてでも止められたし、後者は上手く行かないけど。

 フォトンは想いを力に変えるとは言うけど、俺の愛が足りないのだろうか。

 愛です、愛ですよリコちゃん。

 愛が足りないぜでも歌うか。

 

 

「――ぬ?」

 

 

 突如として人が、車が消えた。

 街のざわめきが無くなって、世界に俺だけが取り残される。

 この感覚には覚えがある。かつて臨海公園で仮面の男に襲われた時と同じやつだ。

 

「さっそく障壁かい、カーメンマンよぉ」

 

 今着ている地球産の布服をぼろぼろにする訳にはいかないな。

 前の時は私服のまま戦闘してしまったがここは学習した俺。フォトンの防護がなされたオラクル産の服を着ていく。

 装備変更で服装を【若人(アプレンティス)】戦闘衣に変える。

 戦闘衣と名がついてるせいか知らんがしっくりくるぜ。

 

 あとはドルフィヌスとラヴィス=カノンを装備して、準備オッケー。

 

「待たせたな。こいよ」

 

 …………あれ?

 こないなおかしいぞ。

 

「へ、へいカモカモ」

 

 遠くで戦闘音が聞こえた。

 あれ、違うの? 俺目当てじゃないの?

 

「来ないなら来ないって言ってくれー! あとオレじゃないならとりあえずここから出してくれー!」

 

 つか、なに。

 こんなかっこつけて誰も見てないの? うっそだろおい。

 髪の毛の色と合わせて【若人】のパチモンじゃんこれ。うっわー恥ずかし。

 ハロウィンで近所回ってるかわいい幼女だよこれ。

 

「……もしかしてオレの事気が付いてないのかなぁ」

 

 巻き込まれ系主人公かな?

 このまま待ってても多分時間がかかるだけだし、武器をソードに変更してライドスラッシャー。

 

 空中サーフィンをDAICONと呼ぶかタオパイパイと呼ぶか、あるいはフリクリかエウレカか。

 俺もその系列に加われればうれしいぜ。

 

 年代が分かれる問いはともかく、こうなったら元凶を探して何とかするしかない。

 つか、せっかく戦えるんだし事件なら動かないとな。

 

「む」

 

 ビル群の向こう、今一瞬クラリスクレイスみたいなのが見えたな。

 いやあいつはこの世界にいないし、俺が見間違えるとしたらヴィータか。

 

「まじかよ」

 

 仮面の奴め、俺の次はヴィータが狙いか?

 やらせはせん、やらせはせんぞ。

 

「いやぁっほぉおおおおおおおおおお!」

 

 セルフウォークライ!

 届くか分からんが、俺がここにいる事をお知らせするぜ!

 俺の声が聞こえねぇか仮面よ! わかったらこっちに来な。

 

「行くぜ、ブーストファイヤー!」

 

 とかいいつつもちろんそんなブースト機能はない。気合い(フォトン)を込めて速度を上昇させます。

 ヴィータっぽい影が入って行ったビルに、側面から突撃!

 暗いオフィスの先に、少し息を切らした赤い服のヴィータがいた。

 

「見つけたぜ!」

「なっ、リコ!?」

 

 なに驚いてやがんだ。お前を迎えに来たんだぜ。

 で、敵は……。

 

「まずいっ」

 

 油断しているヴィータの反対側から、俺と同じように接近している金色の影が見えた。

 仮面ではないが、あいつが今回の敵か。

 くそっ! まだ遠い!

 間に合うか? いや、

 

「間に合えよ!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-9 マグロパンチングセンター

 ヴィータの横を通り抜け、勢いのままそのままソードを振るい攻撃を受け止める。

 

「くっ! 重い……!」

「やってみるもんだぜぇ!」

 

 うひぃ、ぎりぎり間に合ったか。

 おいごら。子供の喧嘩だろうと容赦せんのが俺だぞ。

 

「な、お、お前がなんで!?」

「うるせぇ! 子供が夜の一人歩きしてんじゃねぇ!」

 

 つうか今気が付いたけど、そこでぼろぼろになって倒れてんのはなのはか!?

 だぁもう。いったい何がどうなってんだよ!

 

「いやお前がどうなってんだよ、なんでマグロ振り回してんだ」

 

 マグロじゃねぇスペースツナだ。

 夜の街をずっとこいつでサーフィンしてました。

 そして今も鍔迫り合いをしているのはスペースツナです。

 生臭いね。

 

「後は任せろ。オレがなのはの治療に回る」 

「え」

 

 生々しい鮮魚たるスペースツナにびびってるのか、相手は微妙な顔をしつつハルバードみたいな武器を下げて後退した。

 

「君は……」

「オレか? オレはリコ。翠屋に雇われたバイトだ!」 

 

 後衛のなのはは討たれたが、前衛のヴィータは無事。

 遅れは取ってないんだろうが、二体一の所を片方潰して優勢に回った辺りこの金髪少女の実力は高いと踏んだ方がいい。

 

 言いながら倒れているなのはにレスタをかけていく。気絶しっぱなしだが、目立った怪我もないし無事ではあるようだ。

 今最善の行動はあの金髪少女にヴィータを当てて時間を稼いでもらい、その間になのはを連れて離脱。そして障壁を破壊して全員で脱出か。

 くぅー、つれぇぜ。

 

「よし、取りあえずこいつを連れて安全圏まで離脱する」

「ちょ」

 

 なのはを小脇に抱えて、スペースツナをボードにしてビルを飛び出て近くの屋上までサーフィン。

 金髪少女だけでなくヴィータまで微妙な顔をしていたのは疑問だが、無事脱出できたのでヨシ!

 しばらくして後方から再び戦闘音が響き渡ったので、闘争が避けられなかったのは事実。俺は正しかった。

 

「おいなのは、おい起きろ」

「う、ん……」

「起きないとお前が魔法使うときの掛け声を真似する」

「はっ!」

 

 起きたか。

 別に起きても真似するんだけど。

 

「リリカル、トカレフ、皆殺し(キルゼムオール)!」

「そんなに物騒な単語じゃないよ!?」

 

 プリンセスチョップ!

 

「あいたぁ!? な、なんで……?」

「なんかあったら連絡しろっつったろが」

「でも、リコちゃんの連絡先知らないし」

「そのためにフレンド申請送ったんだろに」

「フレンド申請ってなに?」

「え」

「え」

 

 ナニソレ。

 あー、まさか。つまり、アークスじゃないから、誰にも届いてなかったと。

 どーりで返事がないわけだよ!

 あとで謝っておこう。だが俺を潰したシャマル、テメーはダメだ。今度からリツコさん呼びしてやる。

 

「それはおいといて、こっからどう出るか。力業で壊せる?」

 

 その時、気配を感じて後方へソードを差し向ける。

 なんか俺とどことなく似てるショタがいた。2Pカラーみたいな姿しやがって。

 

「ぼ、僕は味方だよ、安心して」

「なのは、知り合いか?」

「うん、ユーノくんだよ。あと差し向けてるのがマグロだからすごいシュールになってる」

 

 マグロじゃねぇスペースツナだ。二度と間違えるな。

 んでユーノか。確か前に名前だけは聞いたことあるな。

 

「なのは、動かないでね」

 

 そう言ってまずユーノはなのはへレスタの魔法バージョン……つまり回復魔法的なものをかけていく。

 やるなお主。優先順位をわかっておる。

 でだ。さっきの質問だがこの結界は突破できるもんなのか?

 

「一応可能。ただ、高威力の砲撃を出せるなのはは戦わせられる状態じゃないし、フェイトも今手が離せない。君は、何かない?」

「ふむ。高火力技ねぇ」

 

 単発で言えばナ・メギドなんだろうが、結界を物として認識できてないからターゲットができず発動させられない。

 となれば……

 

「なのは」

「うん?」

「頼む、殴ってくれ!」

 

 おっと。しまったこれでは説明不足か。

 一応説明しておくとだな、ぶべらぁ!

 

「ちょ、ちょっと待って……?」

「なに?」

「あの、普通ためらったり説明聞いてからじゃない? こういうの……」

「だって殴ってって言われたから」

 

 ああ、そうかい。まぁ俺の言葉も悪かった。ちゃんと言おう。

 ごほん。

 アークスの持つ装備の中に、マロンと呼ばれるものがいる。

 これはダメージを受けると膨らみ、威力を高め、単発だけとはいえとんでもない火力を引き出せるのだ。

 だからそのために殴ってほしドヮオ!

 

「その、聞いてた? つまりマロンを殴れって話なの」

「なのはは何かこの子に恨みでもあるの……?」

「いつもよくわからない事するから、これで良いのかなって」

 

 ユーノももうちょっと言ってやれよ。

 あとお前が普段俺をなんだと思ってるのかよぅく分かった。あとで泣くまで俺の手作り料理食わせてやる。

 さてさて、

 

「見よ、これがマロンだ!」

 

 真ん丸ボディに短い手足。

 今はまだ小さいけど、殴る度に膨らんでいくぞ。

 逃げ出さないのは修行の織りに確認済み。

 さあ、サンドバッグのように殴れ。

 

「えぇー、こんなにかわいい子、殴れないの……」

 

 お前ちょっと待てや。

 さっき何のためらいもなくそれよりかわいい女の子の顔面を二回も殴ったよね? グーで。

 

「殴れないの」

「頼むよー。使用者のオレじゃ意味ないからさー。ユーノもさー」

「僕も、無抵抗な動物を痛め付ける趣味はしてないかな……」

 

 目の前に無抵抗の女の子をぶん殴ったやつがいるんですが。

 

「となれば、フォメルギオンか……」

 

 複合属性テクニックのフォメルギオン。

 火と闇を合わせるっていう中2心溢れる物だけど、一点集中の攻撃だし結界の突破となればこれがいいか。

 個人的に昔デュエルマスターズやってた時に火文明と闇文明を混ぜたデッキ使っててこの組み合わせは思い入れあるし。

 

「できるのかい?」

「今は無理だな。ゲージが足りない」

 

 ただし複合属性テクニックは必殺技な分、戦ってテンションを上げないといけないのか今のままでは使えない。

 この場を離れて戦いに赴くわけには……。

 ――いや、必要あるか。

 

「ユーノ、ここを頼めるか?」

「どうしたんだい?」

「オレ宛てにお客さんらしい」

 

 アークスの勘というかなんというか。

 例の仮面が来たって感じがした。

 遠いし動いてない。完全に俺を待ってやがるな。

 

 ソードに乗り空を飛ぶ。

 今度こそ、何を知ってるのか教えて貰うぜ!

 

「待ってリコちゃん! せめてマグロはやめて!」

 

 ……途中でそっとかっこいいデザインであるコートエッジに変えておいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-10 闇の片鱗

「この辺りな気がするんだけど……」

 

 上空から見下ろすけど見えない。となれば、ビルの中か。

 ほんとマップが欲しいなぁ。

 

「ん?」

 

 むむ。この気配は。

 目を向ければビルの窓がぴかぴか光って見えたので、舵を切って正面突入。

 

 行くぞ! ライドスラッシャーの勢いのまま壁とか破壊しながらバーンとォ! 突撃ィー!

 崩れた壁のすぐ向こう側に、見慣れてはないが見覚えのある仮面男がいた。ビンゴ。

 

「ノックをするべきだったかな?」

 

 ……。

 

「だんまりはないだろうが。ちゃんと返してくれよ」

 

 そういえばさっきから色々壊してるけど、これ後で大丈夫かな。

 臨海公園の時は戦闘終了と同時に壊したのは直ってたけど、今更不安になってきた。

 

「今度こそ、お前を捕らえる」

「オレの事が嫌いなようで何よりだ。せめて理由を聞かせてくれよ」

「動きを封じた後に、いくらでも」

 

 踏み込みと共に左のジャブが飛んでくる。

 ソードの腹で防いでカウンターのソニックアロウを放つが、モーションがでかいせいで潜り抜けられ腹に蹴りを食らった。

 息が詰まる。

 けど、体が軽くて吹っ飛ばされたおかげで距離が開いた。ならばこれは好機!

 ライフルに持ち替えてワンポイント。狭い空間に弾丸がばら撒かれる。

 

「ふんっ」

 

 弾は軽く防がれたが、それが狙いだ。

 あいつの足が止まって俺のターン!

 

「行くぜ!」

 

 接近戦が好みらしいので、視界を防いだ一瞬の隙をついて踏み込み懐へ潜り込む。

 相手の目が、反応速度が良いのは知ってる。だがその目の良さが命取りよ。

 狙い通り接近に対処し掴みかかってきた。

 もし普通の人間であれば簡単に掴んで投げられただろうが、俺はアークス。様々な戦場を駆け抜けたフォトンを纏いし光の戦士。

 

 誘いに乗ったのが命取りよ。

 

 ナックルの回避モーションであるスウェーで避ける。

 回避するぞと身を反らすだけで体が勝手に最適解を導き、すんでの所で相手の手が空を切った。

 向こうにとっては掴んだはずなのにすり抜けられた感覚がするだろう。

 ありがとう過去リコの戦闘技術と勘。

 

「バックハンドスマッシュ!」

 

 震脚、裏拳!

 姿勢の崩れた状態じゃバリアも張れず、BHS(バックハンドスマッシュ)は単純に威力が高いので相手の防御力すら抜いて結構ダメージを与えたらしい。壁に叩きつけられて動けなくなってる。

 ここまで綺麗に決まるんだったら、この距離ではバリアは張れないなって言って攻撃したかった。実際の戦闘中じゃ言う暇ねぇよ。

 

「ぐ、う」

 

 若干の後悔をしつつラヴィス=カノンを差し向けホールドアップ。

 

「オレを捕らえてどうしよって?」

 

 修行の成果は出てるな。前と比べて力の扱い方が分かってる。

 あとアークスというかフォトンというか、相性というかレベル差というか。ともかくこっちの防御力と攻撃力は向こうより勝ってるのも大きい。

 あと相手も飛べる場所にいないしね。狭い空間の地上戦なら楽よ。

 お陰で比較的楽な勝利を納められた。星三つ。

 

「……油断した」

 

 言い訳はいいからさっさと色々話せよ。

 あのな、訳もなく襲われて納得するやつぁいねぇんだよ。

 さっさと言わねぇと嫌いなフォトンばら撒くぞおら。

 

「フォトンを持つ者が本来ここにいる筈がない。排除しなければならない」

 

 いちゃいけないって理由を聞いてんだっつの。

 あ。

 

「もしかしてあれか。ダークファルス」

「! 貴様……」

「やっぱそうだろ」

 

 ダークファルスの親玉である深遠なる闇、それを生み出したのは負の感情に負けたフォトン。

 その関係から端的に言えばフォトンが危険だってのはまあ間違っちゃいないよな。

 

 ただ、新しくダークファルスが生まれる事はほとんどない。そんなぽんぽん出てたら宇宙やばい。

 PSO2のストーリーで登場したのは封印されてたのが解放されたり、昔から取り憑かれてたり、ダークファルスやその眷属の力を浴び過ぎて成り果ててしまったり、深い絶望に包まれたり。

 

 過去作にも視線を向ければやっぱり封印だったり欠片だったり、とにかくゼロから新しく出てきたのなんて故意に何かしてやろうとしたやつじゃなかろうか。

 もしかしたらいるんだろうけど、少なくても俺はパッと思いつかない。

 

 何はともあれ、この世界にダークファルスを誕生させたいなら持ち込むか俺をとんでもない絶望に追い込むか、あるいは何かしらの方法で人為的に作ろうとでもしなければいけないしやろうとしても材料はないだろう。

 

 

「エミリアが何を言い残したのかは知らんがな。つか、そこまで自信あるならエミリアいんの?」

「いない。……お前の事は信用できるのか?」

 

 どう答えっかな。実のところ、俺が万が一で一緒に持ち込んでるかも知れないし。リコの肉体に付着してたとかで。

 この場は俺の方でも念入りに調べてみるってことで保留に――

 

「問題ない。こちらでダークファルスが生まれる可能性はない」

 

 ――なんか喋っちゃった。

 地味にこの自信満々な言い方取り消せないし、やらかしでは?

 なんにせよ勘違いで俺だって封印されちゃ敵わんし、少なくてもそれをされないだけでもいいんだけどさ。

 

「……お前に、理性は残っているのか?」

「はあ?」

 

 理性ばりばりだろうがよ。

 

「ダークファルス。エミリア女史の伝聞でその存在は……」

 

 遠くで爆発音がした。とても大きな。

 窓から外を見れば空を覆っていた結界というか障壁が壊れていくのが見える。

 誰がやったか分からんが、これでなのはも逃げられるしナイスだ。

 

「ちっ、時間か。今は引こう」

「じゃあなー。相方さんにもよろしくなー」

 

 さてさて。結局エミリアが何を言ってたのかを聞けなかったけどこれで肩の荷は下りたな。会話もできたし延命もできた。

 どうせまた来るだろうしエミリアの事はその時に聞くか。

 仮面の男はワープで逃げていったので俺も逃げよう。障壁がなくなったらこのビルにも人が戻ってくるだろうし。

 

「奇術、大脱出」

 

 説明しよう! 撤退の意である!

 

 窓から出て、いつものソード(スペースツナ)で空を飛ぶ。

 コートエッジはどうしたって? 何で光る武器を使わにゃならんのだ。目立ちたいのか。

 服も黒いし未確認飛行物体として逃げよう。

 地上でもし見た人、トビウオみたいなものだと思ってくれ。ウオウオフィッシュライフ。

 

 

 しかし肩の荷は下りたと言ったが、どうにも腑に落ちない点が多いな。

 俺を襲って捕まえたがってたくせにあっさり引き下がった。それに封印したいなら日常のあちこちで幾らでも隙はあっただろうに。

 確証がなくて非情に振舞えなかったのか?

 あいつらも上司がいるのかなぁ……。命令されてやりたくない汚れ仕事してたり。

 途端に社畜感が出てかわいそうになってきた。

 

 そして言われて気になったのはダークファルスが存在するかどうか。

 今までどうしてこのことを気にしなかったんだ?

 さっき咄嗟に口にするまで、はやての持つ闇の書がやべぇと思ってもダークファルス自体の危険を思い返すことがなかった。

 保険にたった一人を犠牲にすれば宇宙崩壊の可能性を潰せるなら、狙われて当然だ。

 その事に今まで思い至らなかったなんてな、何かおかしいぜ。

 

 何か? そうだ、何かが……。 

 

 

 ――とりあえずこの事は置いておこう。

 問題は目先の戦闘の事だ。ダークファルスの事は持ち帰ってじっくり考えよう。

 

 

 

 謎の金髪少女になのはとヴィータが襲撃されてたし、戦いフラグは折れてない。

 こうなってくるとあまり姿を見せなくなったシグナム達も心配だな。どこかで襲撃されてるのか?

 平和じゃねえのかよこの街は。

 

「この辺までくれば平気か」

 

 山林地帯に着地して一息ついて、私服に戻って。

 本来の目的である買い物が遅れている事やヴィータと合流するためのメールを打とうとして、手元のモニターでぽちぽちしてたら誰かが来た。

 

「どちらさ」

 

 金髪少女!?

 モニターを消してスペースツナを構える。

 

「私はフェイト」

「ああん?」

「リコ、でいいんだっけ」

 

 如何にも。自分はアークスのリコである。

 んで何しに来やがった。ヴィータをどうした。

 答えによっては容赦せん。なんかだそうと思えば出そうなダークブラストの使用を許可する。

 あとラヴィス=カノンに持ち替えさせて。

 

「構えないで。なのはを助けてくれたこと、お礼がしたかったから」

 

 ……ん? あれ?

 なのはを助けたのは確かだけど、その礼を金髪少女もといフェイトが?

 

「話がしたいから、アースラまで連れてきてって」

 

 アースラってなによ。

 あれ。なんかおかしくね?

 

 もしかしてこの金髪、いいやつ?




 いつかに書いたメインタイトルの変更予定ですが、予想を遥かに上回り見てくれている方がおられるようで今更もう変えられないと判断し、このまま継続しておっさんin幼女の看板をかがげたいと思います。
 これからもよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-11 味方

誤字報告ありがとう!


「同行、してくれますか?」

 

 アースラは管理局所属の宇宙船で、そこでゆっくり話をしたいらしい。

 どうやらさっきの戦闘を見られていたようだ。生魚を振り回してるところとか。

 俺としては前々からやばい感じのする闇の書について知りたくて管理局とコネが欲しかったし、バンザイ。

 フェイトって名前もユーノと同じくなのはの友達リストで上がってたからたぶん信用もできる。

 

 ただ、じゃあさっきの戦闘はなんだったんだ?

 ヴィータが人を襲う訳が無いし、なのはも同様。このフェイトはなのはの友達……つまり味方。

 仮面は遅れて到着した上で俺と戦った後に直帰でこいつらと顔は合わせてないので、じゃあ誰と戦ってたんだろう。

 もう一人の仮面の方は今回気配もないし来てなかった。

 

 俺がなのはを離脱させた後戦闘が起きた時、その場に2人しかいなかったからぶつかったんだと思ったが第三者が来てたのだろうか。

 気配を消して、誤認させて同士打ちを狙ってた? なんて奴だ。 

 

「詳しい話はオレも聞きたいが……これからはダメだな」

「ダメですか?」

「ああ、ダメだ」

 

 とりあえずここは断る事は確定させてた。信用の有り無し以前に宇宙船アースラは地上にはいないらしいし。

 可能性の話だが、もしも俺にダークファルスの因子が存在してて下手に地上(ここ)を離れてみろ。

 ゼロから生まれる事はほぼないとは言ったけど、逆を言えば1が存在した時点で仮面の危惧が現実のものになる。

 地上にいる分ならフォトンの浄化能力で近所を回れるが、宇宙に解き放たれたそれらを浄化して回るのは俺一人じゃ手に負えない。

 確証がない以上まだ行くべきではないだろう。

 

 本能的、脳裏的、リコボディ的には宇宙へ行きたいらしいけど気合いでねじ伏せ却下。

 闘争で呼び覚まされたのかやけに自己主張が激しいぞ今日は。

 

 断りの言葉を伝えると、フェイトが再び武器を取ろうとした。

 

「……人に武器を下げさせておいて、自分はそれか」

「ええ。なのはが、“リコちゃんは少し叩く位が丁度いい”と言ってたから」

 

 なのはァ!

 

「待て待て待て。オレと話したいだけなら明日でもいいだろ、逃げやしない。つか、それが敵対行動だと気が付け。言葉通り叩こうとするな」

「でも」

「オレだって生活があるんだよ。今日は買い物頼まれた行き道だったし、はよ帰らんと家族に心配かけちまう」

「家族……」

 

 秘儀・情流し。しばらくどこかと連絡を取るような動作をしてから、頷いて武器を収めてくれた。

 よしよし、いい子だ。こんなに話の通じるやつがいる一方で、躊躇いなく二回も殴るやつがいるらしい。

 高町なのはって言うんだけど。口コミ攻略サイトみたいな噂を流しやがって。

 だれか! なのはにせいさいを! だれか!!

 というか明日翠屋で会ったらしばく。

 

「そうだ。翠屋でバイトしてるから明日にでもそこで合流しよう」

 

 そうだ。これを上げよう。

 これは先日作った物理アークスカード。別名名刺とも言う。

 お芋スタンプは頑張って作った力作です。

 渡す相手もなく死蔵してたけど、やっと日の目を見た。受け取ってくりゃれ。

 

「オレのメルアドと電話番号な。寝てる時と仕事中じゃなきゃ大体通じるから、なんかあったらそこに」

「信用できるの?」

「納得して武器を収めてくれたんじゃないのかよ。まぁ、なのはの友達って事で」

 

 あ、そうだ。

 管理局の所属なら一応聞いとくか。

 

「フォトン、エミリア、ダークファルス」

「え……フォトン……?」

「知ってるものがあったら明日教えてくれ」

「ま、待って!」

 

 なんか呼び止めようとしてたけど、無視して背を向けダッシュ!

 アークスが東京を駆け巡ったように、上半身を一切ぶれさせることなくしかし常識的な速度で走り抜ける。

 前で腕を組みながら走りたいけどその前に連絡を取らねばなるまい。

 送信先ははやて。内容は遅れたこととヴィータとまだ一緒じゃない事。

 

「もしもし、はやて?」

『リコちゃん! どこまで行っとるんや、もうみんなとっくに帰って来とるで!』

「わ、わるい」

『全然連絡つかへんし心配したんやでほんま……。今どこなん?』

「交番出た所。ちょっと職質受けてて。今から買い物とか行ってくるから。ヴィータは?」

『買い物はシャマルに行って貰ってるからええよもう。ヴィータも大丈夫やし、後はリコちゃんが戻ってくるだけや。もう、はよ帰ってきてな』

 

 着信履歴を見てみる。

 うわぁ、見事に八神家固定電話から熱いコール地獄。メールも添えて。

 めっちゃ心配されとるやん。これは悪いことをした。

 

 ビル街を抜けて住宅街へ入り、人気が無くなった所で全力ダッシュ!

 うおぉおおおおおおお!

 

「たっだいまぁああああああああああ!」

 

 帰宅RTAがあったらワールドレコードを更新できていただろう。

 玄関が閉まるよりも早くリビングへ向かうと、なんかいつも通りぐだついてるシャマル以外のみんながいた。

 ヴィータもいるし。

 戦闘後から姿を見せてなかったけど、俺より早く帰ってきてるじゃん。

 何がワールドレコードだ。ヴィータの方が帰宅早え。

 

「リコちゃん。言う事は?」

 

 おお、はやてよ。ちゃんとわかっているぞ。

 

「ごめんなさい!」

 

 さっき電話した時、ガチ心配してたのは声色で分かった。

 素直に謝る。

 

「ヴィータも無事でよかった」

「ああ、うん、リコも」

 

 騒ぎを聞きつけたのかシグナムも来たけど、何やら不機嫌そうな顔だぞ。

 あー、いや。シグナムも不愛想なだけでものっそい優しいからな。分かりにくいけど。

 前に駆けつけて助けてくれたのもシグナムだったし。

 謝ろうと顔を向けたら、こっちで話すと言いソファへ向かってしまった。

 絶対これ怒っとるやん……。

 

 はやてが料理に戻って行ってしまったので、腹をくくりソファへ。

 ガチ説教でもかかってこい。

 

「管理局の連中と接触したのか?」

 

 と聞くシグナム。

 接触したと言われても自己紹介位だし、詳しい話は明日するけど。

 同席するなら連絡しておく……あ、一方的にメルアド渡しただけだ。連絡とれねぇ。

 

「リコ。お前はどっちの味方だ?」

「あたし達か、管理局か」

 

 質問の意図がようわからんのですが。

 なんかお前らやましい事でもしたの?

 

「……ふう、ヴィータの言う通りだな」

「だろ。リコは何も知らない」

 

 聞いといてそれはないよおふたり。

 何のカマかけ?

 

「なんでもない。会うというのなら、管理局の連中には私達の事は伏せてくれないか。無関係を装って欲しい」

「その心は?」

「今は答えられない。だが、そうしてくれれば主はやてとお前の平穏をこの剣に誓って守り続ける事を誓おう」

 

 たぶん頑張ってもいつかはバレると思うけど。同じ街に住んでるし。けど頼みだと言うのなら良いぞ。

 半年という短い期間とはいえお前達が悪い奴じゃないのは良く知ってる。

 管理局……つまり警察的な所に問われる事をしている自覚があろうと、自分の正義を持って戦うんだろう?

 まるでヒーローのようじゃないか。かっこいいぜ。

 

「……恥ずかしくもなくよく言う。だが、理解してくれたなら助かる」

「あたしも、リコと敵になるのは嫌だからな」

 

 何言ってんだヴィータ。

 気配を消せて攪乱もうまい敵を相手にして、なのはを守りながら一歩も引かずに戦ったんだろ?

 

「え」

 

 俺とフェイトが同時に向かったのを確認して姿を消し、同士討ちさせる。

 あの場で起こったのはそういう状況だ。

 撤退を前提になのはを連れて逃げたのが幸いにも共倒れを防いだが、もしあのまま交戦していればもしかしたら全滅だったかも知れない。

 

 遠くに現れた仮面の気配を察知できた俺ですら終始気が付けなかった、とんでもない手練れだ。 

 今まで見た目で判断していたところもあるけど流石は歴戦の騎士。

 そんな誇り高い騎士と敵対する時なんて、俺が闇落ちした時くらいだ。

 

「あー、いや、うん。そうだな」

「……ヴィータの言う通りだな……」

「な。何も知らないだろ……?」

「ああ……」

 

 言いたいことがあるなら聞こうじゃないか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-12 食卓とザリガニTシャツ

誤字報告、ほんとにありがとう!


「――いやなんかおかしくない?」

「何言うとるん?」

 

 目の前には山盛りのお夕飯。

 明らかに他の面々と比べて俺のめっちゃ多くない? こんなに食えへんのやけど。

 しかも揚げ物だからクッソ重い。

 はやて様、おこですか。激おこですか。

 

「送り出した私も責任感じるしな、怖かったんやでほんまに」

「ごめんって。今度から例え戦闘中だろうと電話するってば」

「もう」

 

 って言いながら揚げを追加するのやめて貰えませんか。許す気ないでしょ。

 甘いものは食べられるけどリコちゃんボディ的に激重。

 か細い女の子やぞ。

 

「バツやで。たんと食い」

「いやまぁうまいから良いんだけどさ。これ全部食うのは辛いぜ……」

「あたしも手伝う」

 

 横のヴィータも箸を伸ばしてきた。ありがとう。

 ちびっこ同盟として共に戦おうじゃないか。

 さあ始めるぞ、良き滾る闘争をな!

 

「今日はその、あたしのせいでもあるから」

「巻き込まれ系主人公としてはある意味日常なのでセーフ」

 

 前にも拉致られたり襲われたりしてたし。

 

「攫われた事あったん!?」

 

 はやてが立ち上がれそうな勢いでテーブルを叩いた。

 あれ、言ってなかった?

 ほらあれだよあれ、騎士の面々が来る直前にケーキ買ったら血だらけになってたじゃん。

 懐かしいなぁ。ドラゴンボールの台詞を言う為に頑張ったり銃が出たからオルガの真似したり。

 今考えればとんでもねぇ肝の座り方してたな。頭おかしいんじゃねぇの?

 

「いやいや、いやいやいやいや……」

「なんつうか、リコっぽいけど意味が分かんねぇな……」

 

 あの時は貰った洋服血だらけにしてごめんなー。

 

「大丈夫だったんは見て分かるけど、ええー……。ごはん追加や」

「だな」

「なんで!? それ関係ないじゃん!」

 

 あの後に入ったバイト代で買い直して、はやてと着替えのなかった4人に服とかも買ってあげたのに。

 特に全員分のザリTを用意したとかあったじゃん。白地で胸元に「ザリガニ」って書いてあるシンプルを極めて芸術の域に達した物。

 不評だったのかザフィーラしかザリT着てくれてないけど。

 そのザフィーラも人間形態は全然やってくれないから埃被ってるけど。

 俺? 部屋着にしてる。

 

「せっかく用意したのに」

「これをダサイと思っとらんのが凄いわ」

「なんでだよ。このザリTきまってるだろ」

「キマっとるのはあんたの頭や」

 

 懐かしいなぁこのやり取り。

 

「初手で頭おかしい言われたオレもそうだけど、言ったはやてもだいぶきついよな」

「リコちゃんだからやで」

「一瞬で見抜いたとか見る目があるな」

「リコちゃんが分かりやすいんやで」

 

 そんな馬鹿な。

 でもそのやり取りのおかげで距離縮まって、今の生活があるから感謝なんだけどさ。

 

「シャマルさんや。自分の揚げ食い終わったならオレのも取ってくれない?」

「ええ、良いわよ」

「シグナムっちもどう?」

「そうだな。頂こう」

 

 というかやっぱり多いよな? 俺の皿の状況を言うならもはや盛り皿なんだけど。

 どこにこんな鳥があったんだ。ラッピーでも捌いたのか。

 でもみんなで食べるから減ること減ること。バツとは言ったけど、さりげなくはやても取って食べてるし。

 これこれ、こういう日常。このぐだぐだ加減が最高なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぴぎゅう……食い過ぎた……」

 

 遠くで皿を洗う音を聞きながら、ソファ前の床ではやてと共にザフィーラへ寄りかかりながら腹休め。

 一番にダウンしたヴィータに代わって、元凶たる俺と料理人のはやてが頑張った結果がこれ。

 

 みぎぃ……。

 

「最後に満を持してザフィーラ人間体が参加してこなければ詰んでいた」

「せやな、折角なら最初から食卓囲んで欲しかったけどなぁ」

「……楽しげ故、邪魔をするのも悪いと思い」

 

 ザッフィーも家族なんに邪魔も何もあるかいな。

 ああいうんは誰ものけ者にせずワイワイつっつくのがええ。

 

「せや。なんならいつも囲んでくれてええねん」

 

 そーだそーだ。そのためにいつも椅子一個空けてるだろ。

 というかザフィーラしかザリT着てくれてる人いないからもっと着てるとこ見せてくれ。

 

「そちらが本命では?」

「バレたか」

「そんなに言うんやったら自分で着たら――」

 

 装備変更(早着替え)、ザリガニTシャツM。

 

「何か?」

「なんでそういうのだけ無駄に器用なん?」

 

 いうて上から被っただけだぞ。

 そこにあったザフィーラの使ったからでかくてぶかぶかだけど。

 

「流石は男物。立つと裾が膝までくる」

 

 これはこれで萌えだな。

 

「気に入ったのなら差し上げよう」

「いや、オレは自分の持ってるから。間に合ってるから」

「少し早いがクリスマスプレゼントだ」

 

 元は俺があげた奴だよね?

 戻ってきてるだけだよね?

 

「けどまあ、着ないならオレが着るかしょうがない」

「私のもいる?」

「オレとサイズ一緒だろが」

 

 ザフィーラのはぶかTとして使えるから良いとして、はやてまで俺に返却して在庫を増やしてどうする。

 実は出してないだけで予備とかカラーバリエーションが手持ちにあるんだぞ。

 

「どんだけ買ったんや」

「ついびっくりして。てへぺろ?」

 

 服のセンスがないのは認めるよ。体はともかくとして思考してるのは元男なもんだし。

 言動も何もかも女の子な行動は全然してないし。

 ザリTを気に入ったのは完全にネタ枠だったけど。

 

「センスもねぇし女の子らしくもできねぇし、もうかわいいだけじゃんオレ」

「ネガティブに見せてポジティブなのなんなん?」

「ふっ、決まってるだろ?」

「それ言いたいだけやろ。返さんで」

 

 ちゃんと天丼で返してくれー!




中の人はあつ森で「かんじTシャツ」をずっと着てます。
いいですよね、ああいう外国人が好きそうなやつ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-13 夢

 オラクル。

 それは、マザーシップを中心とした数百の宇宙船からなる宇宙船団。

 未知の惑星が見つかった場合アークスがそれを調査する。

 アークスとは、ダーカーと呼ばれる生命体……ダークファルスの眷属と戦うのが主な仕事だ。

 

 まあ色々職務はあるしざっくり言うと、良い感じの星が見つかったら降り立ってダーカー探して殲滅して、宇宙を掃除して平和にしていこうって感じ。

 

 ちょっと前に【巨躯(エルダー)】って言う封印されてたダークファルスが復活したり上層部の人が【敗者(ルーサー)】って言うのに精神を持ってかれてたりでてんやわんやしてたけど、おかげで組織の汚い部分が洗われて結果よしとなったっぽい。

 この辺の情報はごちゃごちゃしててわたしは知らないし、知る気はない。もう関係ないから。

 語るとすれば、良くも悪くも人生の転機ではあったのは確かだ。

 

「まだ数か月前なんだ」

 

 わたしは研究所の出身。公には出せないような所だ。

 いわゆる違法とは呼ばれた場所だったけれど、研究所での生活はとても気に入っていた。

 言われた通りにしていればみんな優しいから。

 向こうにとっては貴重な被験体なんだろうけど、わたしからしてみれば変わらない平穏をくれる人達。

 食事と寝る場所と命の保障された、今考えれば自由のない生活だったとはいえ落ち着いた日々であったのは間違いない。

 

 ――でも、時々会う赤っぽい髪をしたやけに威圧的な子の事は好きになれなかった。

 「私の方が貴様より才能がある」とかどうとか、戦う訳でもないのに会う度によく絡まれて自慢と誇示を延々と聞かされた。

 話をするだけならまだいいけど、あのおっきなロッドを振り回すのは危ないしやめて欲しかった。

 いつ得意の炎系テクニックで燃やされないか怖かったし。

 

 じゃあ研究所を出た今の生活はどうかと言うと、命の保障はされてないし食事の為のお金も自分で稼がないといけない。平穏ではない生活。

 けれど、決して不満ではない。

 フォトンの適性が高いおかげで危ない所はあれど食うに困っては無いから。

 

 

 伸びをして立ち上がり、マイルームを出る。

 

 

 わたしはリコ。リコ・クローチェ。

 クラスはテクターの一般アークスだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、リコ。ここにいたか」

 

 ショップエリアで武器の強化を終えて、その結果に少し落ち込みながら緊急の任務もないし貯まったメセタでファッションアイテムでも買おうと雑誌を見ていたら声をかけられた。

 わたしに声をかけてくる人なんて限られるけど、男の人で知り合いなんていたっけ。

 顔を上げると、やけに赤と顔の傷の目立つ人が立っていた。

 見覚えはあるけど、誰だっけ。

 

「だー! 覚えてないか、俺だよ俺、ゼノ」

 

 ゼノって、あー……。

 

「彼女さんの尻に敷かれてる人」

「おいおい、俺ってそんな目で見られてたのか?」

「うん」

「あいつがちょっとばかしおっちょこちょいで俺が合わせてやってるだけだよ。むしろ俺が保護者な立ち位置だっつうの」

 

 今日はその彼女さんと一緒じゃないんだろうか。

 いつも一緒な気がするけど。

 

「お前の……」

「後ろに!」

 

 うわぁ!?

 

「へっ、ドッキリ大成功ってね」

「びっくりした……」

「でしょ? それとゼノ、話があるわ」

 

 後ろの草むらから突然出てこないで欲しい……。

 それと、尻に敷かれてるじゃんか。わたしは正しい。

 

「私の名前は覚えてるわよね」

 

 えっと確か……エコーさん、だっけ。

 

「正解!」

「なんでエコーの事は覚えてるんだよ……」

「やっぱりお世話したから。ね、リコちゃん」

「うん、まぁ、少しだけ」

 

 といっても、アークスなりたての時にクラスの相談したくらいじゃなかったっけ?

 まだどのクラスにしようか迷ってた頃の。

 

「何にしたの? クラス」

「色々迷ったけど、テクターにしました」

「お、いいじゃねぇか。お前らしくて」

「わたしらしい?」

「自分より他人を優先させる優しい所だよ。ったく、あいつみたいだな」

「そうね。あの人とリコちゃん、性格似てるかも」

 

 2人の言うあの人っていうのはたぶん、情報を伏せてはいるけどアークス全体を救った事に変わりない英雄のような人の事だ。

 特に【敗者】との戦いでは、混乱する全体の中でもの凄い活躍をしたらしい。

 その場にわたしはいなかったからよくわからないけど、噂だとオラクル船団全体……つまり味方のいない状態で命を狙われた上、六芒均衡というトップの実力を持つ面々と衝突して無事な上でそのまま黒幕を打ち負かしたのだとか。

 

 後はダーカーを数千数万と倒したとか、出先でヒューナル体とはいえダークファルスに襲われて単騎撃退するとか、ダークファルスに劣らずな存在のマガツをエクスキューブと呼び始めるとか、聞けば聞くほどおかしい。

 

 たぶんというか、絶対噂に尾ひれがつき過ぎてるんだろうけど。

 そんな伝説みたいな人と似てると言われるのは少し照れくさいし、テクターにしたのはただの受け売りだ。

 

「今誘ってくれているチームのリーダーが、“力なきものの盾となり剣となる。それがアークスだ”って。それで、テクターにしたんです」

「だぁから、そういうとこだっつの」

「いた、いたい、叩かないで……」

 

 わたしの種族であるデューマンは身体が物理的に弱いから、ゼノさんの一撃が重くて痛い。

 

「ちょっとゼノ、嫌がってるしやめときなさいよ」

「はははは、悪い悪い」

 

 エコーさんが止めてくれなかったらこのまま床を舐めていたんじゃなかろうか。ありがとう。

 というか、何か用があって来たんじゃないのかな。何をしに来たんだろう。

 

「エコーの奴がさ、お前さんの服を見繕ってやりたいとか言っててな」

「そうそう。いつまでも支給されたエーデルゼリンじゃ寂しいでしょ?」

 

 そう言って2人の視線がわたしの手元に――読んでいた雑誌に向いた。

 

「丁度ファッションカタログ持ってるじゃない!」

「お。ちゃんと付箋も貼ってるのか。へぇー、こう言うのが好きなのか?」

「ちょ、こんなかわいいの似合わないから、興味ないですから!」

「そんな事言ってチェックしてんじゃねぇか」

「わー! わー!」

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「んあ?」

 

 朝。いつものソファで目覚めたけど、なんか枕が違うな。

 

「って、シグナム?」

「……」

 

 なんで俺ちゃんを膝枕なんてしてるんだろ。部屋で寝たんじゃないの?

 

「まあいいや」

 

 つかまだ早朝じゃん。はやてもまだ寝てるぜ。

 せっかくだしこのまま堪能しとこう。

 後なんか昔の夢を見てた気がするし、二度寝すればまた見られるかな。

 

 おやすみー……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-14 アークスカード乱舞

誤字報告乱舞ありがとう!
情けない筆者で申し訳ない……(自決)


「こんちゃーす、おつかれさまでーす」

 

 さあさあ、やってまいりました翌日の翠屋。

 個人的にここを乗り切ればイベントラッシュも終了してようやく一息つけそうな気がするので頑張りどころ。

 気合い、入れて、行きます!

 

 一応昨日の時点でお店側には連絡をして、なのはの友人が来たらバイトを抜ける事は伝えてある。

 いつ集まるか聞いてなかったからね。故に今日は開店前から出勤である。

 

「我が掃除テク、見せてくれよう」

 

 今日の俺はご機嫌だぜ。

 別にシグナムの膝枕で回復したとか以上に、最近全然姿を見せなかった例の猫をやっと見かけたのだ。

 野良猫っていつの間にか姿を消すからここしばらく心配だったんだよ。遠くからくるこの視線も今や心地よい。野良猫なのかは疑問だけど。

 

「でも驚いたよ。ストーカーの正体が猫だなんてね」

「今日見かけてまた視線を感じるようになったし、もう猫で確定かなって。なんか懐かれるような事したかな。悪い気はしないけど」

 

 ちゅうか俺もストーカーだ出待ちだとかで大事にしたくなかったしね。

 だってさ、誰も突っ込まないけど俺ってさりげなく住所不定よ? 戸籍もない。

 下手にこの辺を警察に詮索されると八神家だけでなくそれを雇ってた翠屋も迷惑を被る。

 

 猫でいいやとしたのにはもう一つあって、明らかに人間的な思考で俺の事を付け回してる。たぶんザフィーラと一緒で誰かに飼われたビーストなんだろう。今日久しぶりに見て、野良猫じゃなかったんだなぁって思いました。まる。

 目的も正体も分からんが地球の警察の手には余るだろうし放置。

 来るならかかってこい。

 俺の内的宇宙を漂うリコの精神が闘争を求めている。

 

「ふんぬぬぬ……」

「危ないから高い所は俺がやるよ」

「すんません」

 

 拉致の時もそうだけど、俺の唯一の弱点はこの身長だけだな。軽いせいですぐ持たれたし。

 棚は士郎さんに任せて窓でも拭こうと向いたら、一瞬猫と目が合った。

 すぐに引っ込んでいなくなったけど。

 例の猫だな。窓を開けて、下を向く。

 

「よ」

「にゃ、にゃあ」

 

 この世界で俺を付け回すのなんて仮面くらいだし、あいつの手下かな。

 上司の下の仮面のさらに下の猫ってか。かわいそ。

 でも猫はかわいいから許す。

 

「これオレの名刺的な奴な。連絡先書いてあるから飼い主さんに持って行ってやれ」

 

 アークスカード(物理)をさしあげよう。

 これから会うフェイトとその仲間連中にも折角だから渡すし、帰ったらまた量産しなきゃ。

 

 

 

 

 

 

「お話しないじゃん……」

「リコちゃん。混ざりたいならもう抜けていいのよ?」

「お呼ばれしたら行きますよ。仲良しの輪に入れませんし」

 

 昼のラッシュを終えて、休憩に入り、はやてのお弁当(おいしい)を食べ、開けで仕事に戻ったら店前に展開してる席にフェイトとなのはとすずか&アリサのちびっこ達が集合してた。

 お弁当食べてる時にフェイトから来たよって電話来たから知ってたけど、呼んどいて仲良しアピールを見せ付けられるとか疎外感がパない。

 というか、フェイトの仲間ってあいつらなの? やっと管理局とコネ作れたと思ったのに。

 

「リコちゃーん!」

 

「……お呼ばれしてるみたいよ?」

「みたいっすね。じゃ、上がりますか。お疲れ様でーす」

 

 仲良し4人組に入るのとか抵抗あるんだけど。

 それに絶対アリサとかすずかって一般ピーポーだから関係ないでしょ。

 重い腰でバックヤードに入って、蒸着!

 ……まあ、地球産の冬服なんだけど。はやてのセンスが光る。気分は親に服買って貰う感じ。

 

「ういっす」

「来た来た。あんたにフェイトの事紹介したかったのよ」

 

 というがアリッサ。俺昨日あったんだけど。

 まあいいや。フェイトが初めましてと挨拶したから俺も返そう。

 

「オレはリコ・クローチェ。クラスはテクターハンター。以後よろしく」

「テクター……ハンター……?」

「リコの持ちネタみたいなものだから気にしちゃだめよ」

 

 おいアリサ。久しぶりなのにずいぶんな挨拶だな。

 だがここは寛大な俺。怒る事はなくむしろ名刺を配るぞ。

 フレンド申請ができないなら手作りアークスカードを配ればいいじゃない。

 

「はいどうぞ」

「あ、ありがとう……」

 

 昨日フェイトには既に一枚渡してるから無駄になったけど、初めましてと会話を開始されたら合わせなければなるまい。

 どうぞ持ち帰って配ってくれ。何ならもう数枚差し上げよう。

 

「すごい、リコちゃんこれ自分で作ったの?」

「分かるかすずか。ここのハンコは頑張って作った」

 

 頑張ってPSOのセクションID「WHITILL」を掘ったのだ。リコって名前だしね。

 無駄に俺超がんばった。

 帰ったらまた量産するよ。だからもう数枚差し上げよう。

 広がるフレンドの輪。

 

「リコちゃん、昨日の夜にフェイトちゃんと会ってなかったっけ?」

 

 なのはァ!

 話を合わせろよデコ助野郎!

 

「リコ違いじゃねぇの?」

 

 フェイトが苦笑いをすると共に気が付いたようで、慌ててそっかーなんて言ってる。

 

「ち、違うリコさんだった。だよね、フェイトちゃん」

「そうそう」

 

 おもっくそ怪しいが、アリサとすずかはそれでごまかされたらしい。それでいいのかお前ら。

 そんなしくじりなのはにはリコちゃんカードをプレゼント。

 

「いらないの……」

 

 俺も不良在庫いらないから。

 

「ついに本音を話したわね」「ね」

「アリサにすずか。オレ理解した気になったのならお近づきの印に倍プッシュだ」

「罰ゲームかな?」

 

 頑張って作った名刺(アークスカード)を罰ゲーム扱いされてる俺の方がつらいんだけど。

 

「何枚も渡すのが悪いと思うの」

「それ芋のハンコだからせっかく作ってもすぐダメになっちゃうんだもん。いっぱい作っていっぱい配らなきゃ」

 

 しかもそのセクションIDのマークって結構難しかったし。

 「YELLOWBOZE」とかだったら作りやすくて良かったのに。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-15 伝説って?

本編が始まるとなかなか日常回に戻れない罠。
それと誤字報告ほんっとにありがとう!


「思うんだけどさ、オレってかわいい女の子だよな? なのに男のユーノやクロノと肩を並べて作業に赴いてるの意味わからんくないか。つか、オレが呼ばれたのって昨日の戦闘の事情聴取的なあれだろ? 今やってるの何よ」

「棚の組み立て」

「クロノっち、これバイト代出る?」

「がめついな君は」

 

 翠屋は親睦を深めるのみに留まり、話をするとフェイトに案内された先は高町家近くのマンション。

 翠屋でここでは話せないと言われた時は宇宙船へ連行されるのかと身構えたけど、なんか凄い庶民的な所で安心した。

 

 しかし安心したのもつかの間で、俺はなぜか少年達に混ざって家具の組み立てをしていた。

 ユーノはともかくしれっといるクロノくんは何者よ。管理局の人?

 というかフェイトもなのはもなぜ買い物に行きやがった。男女比率考えろ。

 

「管理局所属の、今回の事件を担当している者という認識で大丈夫だ」

「担当? 若いのに頑張るねぇ」

「……君も若い、というか誰よりも下に見えるんだが……」

 

 ここに至るまで名前の紹介しかなかったことに驚きだよ。 

 しかもクロノとか名作RPGを思い出すかっこいい名前じゃねぇか。

 しかしなのはといいフェイトといい、管理局ってこう若い内から働かされるのが常なのか?

 あー、いや。見た目幼女なのにバリバリ前線で戦ってたリコが言うもんじゃないんだけどさ。

 

「ユーノ、4番の板をくれ」

「4番……これだね、はい」

 

 俺支えてるからここネジよろしく。

 待て待て、左右交互にネジ入れてかないとずれるぞ。

 

「クロノ、そっちに背板ない?」

「これか」

 

 おっけーおっけー。

 

「文句を言いつつ一番楽しそうに組み立ててるな君は」

「楽しくないわけではないけど、そもそも何で手伝ってるのか謎。というかもう作業しながら話そうぜ」

 

 全員挨拶程度なのにもうこんな扱いだし、お前ら俺をなんだと思っているんだ本当に。

 これも全て高町なのはって奴の仕業なんだ。

 

「色々話はしたいが、その前に君について教えてくれないか? 敵対勢力でないことは確かだけれど、未知の力と武器を持つ君について知っておきたい」

「僕も昨日なのはに聞いたけど、曖昧な部分が多くて」

 

 んだてめぇら、そんなにリコちゃんの事が知りたいか。

 あと、なのはが変な事言ってなかった……?

 

「僕が聞いたのは、信用して大丈夫だから悪いようにしないでという事だけど」

「ほんと? ほんとにユーノくん。 多少殴っても良いとか言われてない?」

「いやそんな話聞いてないよ。大丈夫」

 

 最近なのはが俺に対して冷たくてさ。

 でも言ってないならいいや。あんな顔してツンデレかも知れん。

 

「んで、何から話そうか」

「そうだな……そうだ。フォトンと言うものについて教えてくれ」

 

 よござんす。フォトンっていうのはあれだよ。

 説明すると難しいけど簡単にいうと魔力的な奴だよ。テクニックとか属性魔法にしか見えないしね。

 その他にも地球でいう電気の代わりに使われてたよ。

 要するにSFチックエネルギー。結構融通が利いて大体の事がフォトンで片付くSFワールド。

 

 ただ俺のいたオラクル産のフォトンの特性として、人の感情をすんげぇ受けやすいって事があるよ。

 あまりにも負の感情を帯びるとダークファルスっていう破壊の化身みたいなやべーやつが生まれたり。

 といっても、絶望したらはい即誕生って訳でもないけど。ゲッテムハルトとか精神崩壊してたのに平気だったし。依り代にはされたけど。

 

 絶望でなった人の例をあげれば何をしても愛する者を救えないと突き付けられた上、その通り殺してしまうしかなかった人がいる。けどその人だって絶望だけじゃなくて溜め込んでたり受け取った暗黒パワーがあったし。

 

 あー、まー。説明がごちゃついたね。

 

「つまるところオーラ(ちから)みたいなもん」

「最後のそれが一番意味わからないのだが」

 

 聖戦士ダンバインはいいぞ(ダイレクトマーケティング)

 

「ってちょっと待て、君はこの世界の出身ではないのか?」

「いぇーす。オラクルはシップ4、アンスール所属なり」

「どうやってこの世界に、他に仲間はいないのか!」

「どぅどぅ、落ち着けクロナレフ」

 

 どうした一体。俺以外と話がしたいなら無駄だぞ。

 何を隠そうこの星には狙ってきた訳ではなく、戦いに敗れたその衝撃で吹っ飛ばされて来たのだ。

 ちなみについでに宇宙も消し飛びました。

 

「宇宙が……? 君は次元漂流者、ということでいいのか?」

「言葉の意味はわからんが、まあ合ってるんじゃない?」

 

 手が止まってるぞ手が。

 ほらクロノそっち持って。

 

「……すまない。フォトンについて聞いたのは、それがある種の伝説となっているからなんだ」

 

 へぇー、伝説って?

 

「ああ。ファンタシースターという話だ」

 

 なに? なんだって?

 ファンタシースターだあ?

 ちょっとクロノ、そこ詳しく。

 

「と言っても、僕もPT事件の時に軽く触ったくらいだけど」

「いい。聞かせてくれ」

 

 作業の手も止めて、じっとクロノを見る。

 とことん吐いてもらうぞ。

 

「そ、そんなに見られると困るんだが……」

 

 おっとすまん。我が美貌を忘れていたよ。

 んでだ。伝説って?

 

「フォトンと呼ばれる独自のエネルギーを使い、管理局でも開発されていない技術を持つ世界群。時折存在することを確認できても一切の干渉ができず、いくらやっても駄目。今ではロストロギアの見せる幻とすら言われてしまっている。ただ、存在するという証拠は幾つかあるから伝説と呼ばれているんだ」

 

 ふむふむ。

 ロストロギアがなんなのかは知らんけど、こっちの世界の事を認識してはいると。

 さりげなく群って言ってる辺り、オラクルだけじゃなくてエミリアのいたグラールの事も含まれてそう。

 

「君がそのファンタシースター世界から来たとなれば、それはとてつもない事なんだぞ……」

「存在がわかってんならその内繋がるんじゃねぇの? 諦めるには早いぜ」

「……僕の知り合いに昔関わった人がいて話を聞いたことがあるんだけど、どうやら向こう側からアクセスを拒否をされる感覚だったらしい。630という謎の表記と共に座標をずらされて別の世界へ出て、帰るのが大変だったとか」

 

 エラー落ちの表記やないか。

 まぁ下手に繋がるとこっちの魔法で対処できないやべーやつとか来ちゃうわけだし、誰かが拒否ってるならそれはそれでいいんだけど。

 とりあえずフォトンがどう伝わってるのかはわかった。伝説になってるのは予想外だったけど。

 最大の疑問はダークファルスについてどう伝わっているか。というかエミリアが何を残したのか。

 その“存在するという証拠”の中に俺の欲しいものがありそうな気がするけど。

 

「エミリアは聞いた事がないな。ダークファルスについてはプレシアの残した資料に名前があったような……」

 

 うーぬ、エミリアの名前抜きでダークファルス?

 どういう資料なのかは知らないけど、もし仮にフォトンやダークファルスについて残したのがエミリアなら聞いた事がないって事はないだろうし。

 ユーノはどうだ。なんか心当たりない? 

 

「僕も特には……そうだ」

 

 どしたの?

 

「クロノ、プレシアが持ってた板ってまだある?」

「板? ……ああ、あのよくわからないやつか。一応証拠物品だから保管はしてある」

 

 なんぞそれは。

 

「PT事件……プレシアが亡くした娘を蘇らせるための最終手段として起こした半年前の事件なんだけど、その時にプレシアはファンタシースターの世界を頼ったんだ」

 

 ああ、それで軽く触ったくらいって言ったのね。

 ムーンアトマイザーでワンチャン生き返るかも知れないね。どこまでの状態から蘇生できるのかは疑問だけど。

 

「使用用途の分からない半透明の板状の物体をずっと持っていて、リコに聞けば何かわかるかもと思ったんだけど」

「実物見ない事には何もわからんぜよ」

「だよね……」

 

 期待させておいてチュートリアルのアークスロードでしたとか、ビンゴシートでしたとかだったらユーノをビンタする。

 

「なのはに殴られたからって僕に当たらないでよ……」

「じゃあ流れ弾をクロノに」

「そんな趣味はないよ」

 

 これ以上の情報は今は無さそうか。

 お二人さん、忙しいだろうけど帰ったらファンタシースター関連について調べものお願いできる?

 残りの欲しいキーワードは「エミリア」「ダークファルス」。エミリアはパーシバルかミュラーかどっちかに名前が続くと思うからそこもよろ。

 

「……こちらも事件が立て込んでいるから、後回しになるかも知れないが」

 

 それもそうか。

 簡単な感じでいいよ別に。俺が知りたい情報もさっき出した二つの名前だけだし、ある程度情報貰えればこっちで推理考察できるから。

 

「ユーノ、無限書庫の許可が降りるまでにある程度まとめられるか?」

「うん。わかった。集めてみるよ」

「それと君に見せれば何かわかるだろうし、申請を出して例の板を持ってくるよ」

 

 せんきゅー。悪いね、仕事と関係ないのに頼んじゃって。

 

「もし仮にこれでファンタシースターについての進展が望めれば、新技術の開発に繋がるかも知れないからね。向こうの世界が滅んだというのは残念だけど」

 

 うーん、大丈夫かな。

 ファンタシースターシリーズ的にはその新技術狙いで人工ダークファルスを作って暴走させるのがお約束なんだけど。

 

「それと君の武器について聞きたいんだが……」

 

 言いつつクロノが空中モニターに昨日の映像を映し出して、俺の写真をアップにした。

 

 そこではなんと、幼女がスペースツナで空中サーフィンをしているではないか!

 

 なにこれ。

 いや自分なんだけどさ、端から見るとこんなに意味不明な状況だったの?

 そらなのはも殴るしマグロはやめてと言うわな。

 

「……フェイトとバルデッシュが巨大な魚で攻撃された事を真剣に報告した時は冗談かと思ったけれど、これが本当に武器なのか?」

 

 メイン武器ではないけどね。

 見るか、ソードという名の鮮魚。

 

「そして覚えろ、こやつの名はスペースツナだ」

 

 武器の説明だと模型って話なんだけどさ、なんでリコ所有のスペースツナはガチツナなんだろう。

 めっちゃ生々しい。

 

「いや、うん。それが武器ならもう言うことはないよ」

「待て待て待てクロノ。お前までそんな対応してくるとオレちゃんつらい」

「なのはが殴る理由もわかった気がする」

「ユーノまで!?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-16 騎士の目的

 なのはとフェイトと、知らない茶髪と緑髪の女性が現れた。

 茶髪がエイミィ。緑がリンディと言うらしい。「ィ」がお好きならしいっすね。

 アークスばりに色彩豊かだことよ。キャラクリ抜きに天然でその色とか。

 

「何を食ったら髪が緑になるんだ?」

「髪がだんだん紫になってるリコちゃんが言えたことじゃないの」

 

 俺はほら、ダーカー因子をラーメン感覚で食ってたから。深遠なる闇戦とかでもめっちゃ食っただろうし。たぶんそれで。

 あれ? その影響で紫になってるんならだいぶヤバいんじゃないの。

 

 …………。

 ……………………。

 

「リコちゃん?」

「あ、ああ。大丈夫、大丈夫だから殴らないでなのは様……」

「いや叩かないの」

 

 ちょっとぼーっとしてた。まあいいや。――いや良くねぇよ。

 昨日といいダークファルス関連の、特に自分に纏わる事が抜けてないか?

 とりあえずこの事は忘れないようにメモしておこう。

 大量生産した名刺がこんなところで役に立つとは。チラシ裏感覚で消費されるお手製名刺。

 アークスカードも裏のウィッシュリストはこんな扱いだったね。

 

「ダークファルス、侵食、警戒、取り込まれるな?」

「人のメモを横から見るとは命知らずめ。SAN値チェックの時間だ」

 

 チェンジ、ダイス。ちゃらららら。

 致命的失敗! リコちゃんは発狂してしまった!

 AP究極成長、ダークファルス化。

 フハハハハ! お前もダーカーにしてやろうか!

 ……俺の方が発狂するのか。

 

「えっと、そろそろいいかしら?」

 

 大人なリンディさん、冷静な対処。

 でも差し出してくれたお茶は全く冷静じゃない。何このゲロ甘さ。

 

「あの」

「何かしら?」

「いえ、なんでもねッス」

 

 飲まないのは悪印象。ならばどうするか?

 リコちゃんの得意技を忘れるなかれ。

 

「追加するのか……それに……」

 

 クロノが青ざめるが問題ない。

 なぜなら、

 

「同士が居てうれしいわ!」

 

 角砂糖どーん! しかし俺が意識して手を加えた事により無となり水となる。

 うむ。料理下手属性を見事に生かした妙技よ。

 失敗として甘党に見られてしまったが。

 

 女の子やし多少は平気でも砂糖たっぷりなお茶は勘弁な。

 スイーツパーティならとことん呼んでくれ。

 

「ごほん。えっと、始めてもいいかな?」

 

 エイミィが仕切って、空中にモニターを表示させる。

 そこには昨日の戦闘……。

 

 あれ、ちょっと待てよ。

 なんでヴィータとなのはが戦ってるんだ?

 他の所でもシグナムやザッフィーもいるし。

 伏せて欲しいっつってたのは、そもそも管理局と衝突してたからなのか……。

 

「これが昨日の戦いの様子。古代ベルカ式のデバイスを使ってるわね」

「そしてこれがもっとも見て欲しい部分」

 

 それに続いてクロノがモニターに映る闇の書を指して説明をする。

 家の事を伏せる手前直接聞けなかったし丁度いい。

 前々から名前的にも、そして雰囲気と勘的にただ者じゃないと思ってたこいつの事を聞かせてくれ。

 

「ロストロギア、闇の書。魔力を収集することでページを増やしていき、最後まで埋めると完成となる。昨日なのはが襲われた通り、闇の書の騎士達は完成を目指しているのは間違いない」

 

 何か勘違いで戦闘になったとかじゃなくて、もう疑いようなくシグナム達が襲い掛かっている。

 認めたくはないが……。

 

「収集の目的は?」

「リコ、聞いていたのか? 騎士達は完成を目指して――」

「そこじゃない。その後だ。何が起こる?」

 

 収集と完成……自己満足をする為だけにあいつらが進んで襲いに動く訳がない。

 主であるはやても許可をしないだろう。むしろ提案されても却下したはずだ。

 ならばシグナム達の独断、そして目指しているのは完成のその後にあるモノ。

 タイミング的にはやての病気に纏わる事だろうけど、それにしては大掛かりだし、こんな事をしておいて平穏を約束するなんて意図が読めない。

 

「……少なくとも、完成したらロクな事は起きない」

 

 そうか。

 ……あいつら、何を企んでやがる。

 ロクな事が起きないのにはやての病気は治るのか? 矛盾だ。

 帰ったら問いただしてみるか。直接聞くのが早い。

 

「こちらでも主の所在や対処法を考えておく。なのはにフェイト、デバイスはまだ修理中だからしばらくは何かあっても逃げるようにしてくれ。リコ、君は戦えるんだろう?」

「無問題。この流れだと、いざとなったら守れって事か?」

 

 必要なかろうよ。

 いくら理由があろうとはいえ、あいつら武器を持たない奴まで襲う事はしないだろうし。

 というか、そこまでしたら流石の俺だってキレるぞ。

 

「頼めるか? 報酬がいると言うのなら用意しよう」

「いらねぇよ。バイトの掛け持ちはしねぇ主義だ」

 

 これは俺なりの謝罪。

 家族の凶行を許している俺なりの。

 

「ここで君に質問なんだが、あの時君は誰と戦っていたんだ?」

「んお?」

「リコちゃん、昨日の戦闘中に騎士とは別の所で戦っていたでしょ?」

 

 エイミィが言いながら映像を切り替えて、見せてくれたのはコートエッジでサーフィンしながらビルに突入した所。

 そこから先は外にカメラがあるせいで、俺と誰かが内部でわちゃわちゃしてる位しか分からない。

 

 俺が戦ったのは仮面をつけた勇者王だよ。前にも一回襲われた。

 

「勇者王?」

 

 あ、ごめん。声が似てたから勝手に今そう言っただけ。

 なんでもこいつ、俺のフォトンが気に食わないとかで俺を捕まえたがってたんだよ。

 エミリアだのダークファルスだのを調べて欲しいのは、こいつの誤解を解きたいから。

 

「スクショいる?」

 

 ほらこれ。ちょっと暗いしブラーかかって分かりにくいけど。

 

「情報提供感謝する。他に何か特徴は?」

 

 うーん。なんかあったっけ。

 ビルから出なかったり一人の所を襲ったり、会話する気なかったり。

 こそこそするのが趣味みたいだよ。

 

「わかった。後、また何か動きがあれば報告をしてくれ」

「了解っすよクロノっち。オレとしてもケツ狙われる気分はよくないしね」

 

 交渉したししばらくは出ないと思うけど。

 名刺渡したとはいえ、ちゃんと連絡してくれるかなぁ……。

 

「しばらくは情報戦か」

 

 クロノが溜息をついた。

 フェイト&なのはが丸腰ならあいつらも襲わんだろうから俺も警戒するフリで終わりだし、しばらくは平穏かねぇ。

 といっても何もしない訳でもなく、帰ったらシグナム達に目的を聞いたり、えーっと……。

 

「メモメモ……」

 

 ああ、そだ。俺にダークファルスがくっついてないか調べないと。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-17 信頼できない語り手

リコの主観でお送りしております。


「ただいまー」

 

 誰もいないのか。

 夕暮れの八神家に帰ってきたけど、今日は誰もいないらしい。

 十中八九シグナムら守護騎士一同は“忙しい”からいないのだろうけど。

 はやてはどこ行ったんだろうか。

 一応メールしとこう。

 

「……あ、すぐ返信来た」

 

 何々、ふむ。図書館でお勉強か。

 俺の学力がもうちょっとあれば家庭教師的な事できたのにな。残念だ。

 でもまあすぐに帰ってこないのは、言い方は悪いが好都合。

 

「帰ってくるなら迎えに行くから連絡をするように、っと」

 

 急に帰ってきてしまうのは思春期の男子が慌てるように慌ててしまうので先手を打っておく。

 というのも、これからちょっとあまり見られたくない事をするからだ。

 いやちゃうねん、だからと言って例えの通りに思春期の男子がするような事をする訳じゃないねん。

 一応勘違いされないように注意しておくが、リコちゃんボディには何もしたことはない。

 

 飲み物と盛り塩を用意。

 リビングのソファに座り、メモに用意した言葉を口にする。

 

「オレはダークファルス」

 

 んな訳ないけど。だったらもうすでに海鳴は腐海に沈……。

 違う違う。根拠もなく否定をするな。

 いやダークファルスだったらもうこの星滅びてるからそれが証拠になるって。

 その前提を考えるな、壊せ。

 

 

「――だぁっ! くそ、確定か……」

 

 

 否定を続けたら途端に眠くなった。()()()()()()()()()()()()()

 食らえ、悪霊を祓う聖なる塩!

 

 ガブ! ウェイクアップ!

 目覚めろ、我が魂!

 

「魂ィイイイイ!」

 

 食塩踊り食い!(新ロビーアクション)

 しょっっっっぱ!

 おかげで目が覚めたぜ……。

 俺はバイク型神姫エストリルが発売するその日まで絶対に死ぬ訳にはいかねぇ。

 悲願を遂げる日まで安らかに眠るなかれ。

 

「オレは負けねぇぞ。クソが」

 

 っとと、美少女に似合わねぇ台詞が出ちまったし、早速思考がずれかけてる。

 塩を舐め苦しみながら話の続きだ。

 

 深遠なる闇と戦って、超スーパーすげェ一撃と正面からぶつかって。

 ダーカー因子……つまりダークファルスを誕生させるのに必要な材料である暗黒パワーが手に入ってる状態でこの世界へ吹っ飛んできた。

 じわじわ侵食されてってたのか知らないけど、なのはの指摘でようやくおかしいことに気が付けた。髪の毛の紫面積が前と比べて増えてる。

 

 ゲームで見た時はわかりやすい指標だなーって思ったけど、いざ自分がやられてると思考の誘導がされてたせいか気が付けなかった。

 今までもダークファルスについて考えないようにとか、っていうか昨日の仮面男との受け答えの時に「大丈夫だ、問題ない」って無意識に答えちゃったのも侵食の影響だとすれば納得いく。

 

 奴は寄生虫のように取り付き、気が付かれないよう対処されないよう意識へ干渉してきている。

 

 あー……。

 

「塩ォ! クハハハッ! フハハーン!」

 

 しょっぱ! つかもう辛いって!

 誰がこんな荒治療考えたんだよ! これでホントに抑えられるとか驚きだよ!

 はやての迎えに行く途中に塩飴買ってこ……。

 

 そんでだ。

 俺が……というか俺の肉体がダークファルス化しつつあるのは確定。これからも気が付かないうちに妨害を受けるのも確定。

 理性はまだ残っているが、いつ精神を持ってかれても良いように残しておこう。

 

「まさかこんな事をするなんてな……。ギャグ補正が欲しいぜ」

 

 取り出すのはちょっとリコちゃんボディにとっては大き目の円盤型機械。

 そう、みなさんご存じメッセージパックだ。

 スイッチオン。

 

「あー、あー、ごほん。オレはリコ。ご存じアークスのリコ・クローチェ

 どういう状況かはこれを録音してる時点では分からないけど、それでも残しておく。

 これは証拠だ。オレがまだ、ここにいるという」

 

 塩に手を伸ばしたけどもう残弾がない。もっと持って来ればよかった。

 

「これ聞いている頃ならたぶん手遅れ。オレは、オレのままじゃないだろうね。

 侵食されつつあるこんな身体じゃどこまでできるかは分かんないけど、やれることはやる。

 ただ、駄目だった場合は、その、引導ってのをさ……頼みたくて」

 

 証拠を残されるのは嫌みたいで意識が暗転していく。

 

 …………。

 

「ダメだ…………次に喋る…………」

 

 

 一件目のメッセージはこれ以上喋れないな。

 

 ………………。

 

 トドメの方法は、次に回すか。

 

 ………………………………。

 

 フォトンを持たないみんなが、どうやって………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………。

 

 ……………………。

 

 …………。

 

 

「ん……電話だ……」

 

 なんかいつの間にかソファで寝てたな。何してたんだっけ……?

 あれか、はやての迎えに行くまで暇だから休んでたんだっけ。

 とりあえず鳴ってるし出るか。アークス式空中モニターオン。

 本来なら相手の顔も見られる仕様なんだけど、はやて側はガラパゴスなので音声のみ。

 

「ふぁああ……。もしもぉし……」

『寝とったん?』

「緊急任務もないし、暇だからちょっと離席してただけさぁ」

『任務はともかく暇ならくれば良かったんに』

「オレは天才美少女だから勉強は必要ないの」

『はいはい天才天才。これから来るんやろ? お買い物一緒に行こ』

 

 りょっかい。

 

「さて……」

 

 目の前の小皿を片付けて、お茶を飲んで。

 

「なんだこのメモ」

 

 取り込まれるな?

 あっ!

 

「そうだ、ダークファルス……!」

 

 忘れ去ってた。こいつぁとんでもない精神汚染だぜ。

 あと塩飴を買うのも思い出した。けど、そんな意識逸らし効かねぇ!

 台所には無限ソルト! レッツゴー食塩! 悪霊退散!

 

「ありがとう! 今の砂糖?」

 

 塩と砂糖をさりげなく間違えた。けどゲロ甘いのも効いてるしいいや。

 

 今の所被害は意識に干渉してくるくらいなので、まだ対処は効く。塩分で。

 

 俺が縋るのはアークスの持つ能力である、フォトンによるダーカーの浄化能力。

 これを俺自身にぶわーっ! ってやることで何とかなるんじゃなかろうか。

 

 ただ、致命的な事に俺の精神自身はアークスじゃない。使えるアイテムやPA、テクニックは数あれど動作に補正が入るのはゲーム中のアクションのみ。

 アニメや設定にあるゲームアクション外の能力を使用するには俺の直感や動作確認、あるいはリコの経験がどれくらい引き出せるかになる。

 

 浄化能力の発動や効果を高めるためにはどうするか。

 一番効率良いのはリコの記憶、経験を引き出す事だと私は思う。

 だって最近、前世っぽいのはほとんど消えてリコの記憶に割と上書きされてってるもん。

 その勢いで浄化のやり方を引き出して、勝つ!

 

「ダークファルスになるか、リコちゃん化するかの勝負だぜ」

 

 感覚的にその二つの要素は等速直線運動? だっけ? な感じだから。

 やべ、はやての勉強会に参加しとけばよかった。

 

「出番だぜリコちゃん。一緒にやろう、一緒にやっつけちまおうぜ」

 

 俺が神ちゃんに願っちまったせいで撒かれた種にケリつける為なら、こんな仮初の命くれてやる。その位の責任はある。

 ボディを取り戻したいってんなら返してやるからさ、早く出て来いよ。

 

 なあ、リコちゃんよ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-18 ナルトスレイマニ

始めてTSっぽい展開にできた気がする

おかげで筆者が持たなかった(羞恥心)

ボブはしんだ

学園ユキヒメおりゅ?(八つ当たり)


 我が内に眠る過去リコ……元リコ? ボディの元持ち主リコ? を呼び覚ます事に決めたとはいえどうしようか。

 

 呼び覚ますといっても意識を発掘するとかじゃない。

 リコの記憶をサルベージすることが目的だ。

 

 

 人の記憶領域的なあれには大きく分けて二通りがあって、それぞれエピソード記憶と意味記憶がある。

 

 エピソード記憶は生活の記憶。日常で起きたイベントの事。

 はやてと出会ったとか翠屋でバイトを始めたとかそういうの。

 

 意味記憶はなんというか、常識的なあれだよ。

 俺がなんとなしに喋ってる言葉や無意識に守ってる常識事とかそんなん。

 

 リコボディに憑依した精神体の俺はリコの持つエピソード記憶に侵食されつつあるけど、リコの意味記憶……つまりフォトンの扱い方云々のオラクルの常識はあまり入ってきてない。

 なので、リコを呼び覚ますのをより正確にいうなら「リコの意味記憶を取り出す」のが正解になる。

 

 

 で、その方法はわからんのやけども。

 

 

 修行の時や戦いの時に無意識にフォトンを扱ってたからそこから段々取り出せてくるとは思うんだけどもさ、今の俺の状態でこれ以上下手にフォトンを撒き散らしたくないんだよね。

 

 どうすっぺかなぁ。近道とは言ったけど、横着なのかなぁ。

 素直に浄化の方法を模索すべきだろうか。

 はやての足を治すのもやりたいしなぁ。

 

 のびーっと伸びて、浴槽のふちに溶ける。

 やっぱ寒い日にはあったかいお風呂が合うぜ。

 

「難しい顔してどうしたん?」

「オレだって考えに耽る時くらいあるさ」

「リコちゃんらしく気軽に、むにぃー」

やへほ(やめろ)ほほほひっはふは(ほほを引っ張るな)ぁー」

「手入れロクにせんくせにこの顔がー」

 

 一緒にお風呂入ってたはやてに頬を伸ばされた。

 流石幼女なリコボディ。やわらけぇぜ(他人事)

 

「ま、そうだな。悩んで堂々巡りしててもしゃーない」

「せやで。難しい事は食べて寝て、ゆっくり考えればええ」

 

 はやては多分、俺が足の治療について悩んでると思ってるんだろなー。

 間違っては無いんだけど、現状優先順位的には足どころか地球ごと消し飛ぶ大惨事を引き起こす可能性があるダークファルスについてなんだけど。

 仮面共がどうやって俺っていうかダークファルスを封印しようとしてたのかは知らんけど、単純な冷凍とかじゃ無理だよね。だからと言って討伐しようにもなのは達みたいな魔法も散らかすだけになるだけだし。

 

 やるとしたら闇を一か所に集めて、その周辺空域を消滅させるくらいしないと。

 とんでもねぇ高威力っつうかダメージ判定抜きに確定即死で消し去ればフォトン抜きでも流石に倒せるはず。

 問題は闇を一か所に集める方法だけど。そんなのできるのは俺だけだし俺がやるんか?

 撒いた種だしケリをつけるにはしょうがないけど。最終手段だ。

 

 ひと段落ついた。これにて閉廷!

 お風呂の中で気絶とかしたら死ぬる。

 

「やめやめ。もういいや、今度温泉にでも行こうぜ」

「お、ええなぁ。すずかちゃんが前行った所とか」

「どこそこ、詳しく」

「車でどれくらいかは知らんけど、結構気軽に行けるとこにあるらしいで」

 

 いいねぇみんなで温泉ぷち旅行。誰も車を運転できる人おらんけど。

 ダークなんとかなんてもう意識の外。

 

「バリアフリーかどうか現地調査せねばならぬな」

「そう言って先にのんびりしたいだけやろ」

「ぎ、ぎくぅ」

「口でそれ言う人初めてみたで」

 

 次はぎゃふんでも聞かせてやろうか。

 

「温泉行けば好きなだけ言えるで、すてーんって転んで。楽しみやなぁ」

「なんでオレが石鹸で滑るの確定なんだよ」

「リコちゃんならお約束的にやりそうやし」

「まだオレにギャグ補正あると思ってんのか……」

「むしろないん?」

 

 あったらどれほど良い事か。

 

 それはそうとはやてさん、なんで俺の頭に視線を向けてるのでせう?

 そんなに見たって巻いてるタオルしかないですぜ。

 

「前すずかちゃんに聞いてな、なんでも頭に角生えとるって。それ今思い出して」

 

 角? ああ、デューマンのあれか。

 目立ちはしないようにしたけど折角だからちょい伸ばしてたやつね。

 堂々としてれば大丈夫作戦の結果マジ無視されてたけど、ようやく突っ込んでくれたか。

 

「どんな感じなん? 触ってもええ?」

「いいけど、折らないでよ?」

「え、折れやすいん」

「てな訳じゃないだろうけど、奈良の鹿みたいな扱いで頼む」

「リコちゃん別に神様の使いでもないやろ」

「畜生以下と申すか」

 

 戦闘にも耐えうるし子供の力程度なら大丈夫かと。というか、めっちゃ長い角の人とかおるし。寝るの邪魔そう。

 デューマンの耐久力と頭蓋骨に恐らく繋がってるとかだからちょっと怖いけど、はやてなら特別だぞ。

 タオルを取って、自分で先に触ってみる。意外と硬いししっかり付いてるから平気か。

 

「ほな失礼して」

 

 はやての細い指が触れ、ゆっくりと撫でる。

 

「ひぅっ!?」

 

 ちょちょちょ、ストップ! ストップ!

 んなベタな、こんな事があっていいのか!?

 

「だ、大丈夫……?」

「……人に触らせるの初めてでびっくりしただけ……」

 

 なんかね、ぞぞぞって感じの。

 首筋とか撫でられるとなんかこしょばゆいとかさ、ああいうぞぞがね、きたの。

 男精神にあるまじき声を出しちゃってあーもう恥ずかしい……。

 

「ぶくぶくぶく……」

 

 よく鬼っ娘が角を触れるのダメな展開とかあるけど、それみたいな感じでリコボディも駄目だったのか……。

 

「よし」

 

 だがこのまま負けを認める訳にはプライドが許さない。

 覚悟を決めたぞ。さあ触るならこい!

 俺が犠牲になる程度で、はやてが満足するのなら、俺は、オレを、オレオ!

 オレオ売ったお前を、俺を、オレオォォ!

 はやてェ!

 

「触らせたいんか触られたくないんかどっちなんや……」

 

 さっきは油断しただけだ。今や覚悟完了俺は覚悟万全。

 かかってこい!

 

「そこまでいうんなら……」

「う、く、ぅぅ」

 

 丁寧で、繊細で、優しく角を撫で、撫でて……。

 うぅ……ぶくぶく……。

 

「ん? ちょ、顔真っ赤やで!? てか、息して! ご、ごめんリコちゃん!」

 

 

 お、終わった……?

 はぁ……はぁ……。

 

「敗北者……?」

「いや誰も言っとらんよ」

「取り消せよ……!」

「誰も言うとらんて」

 

 だぁ!

 普通につらかった。拷問だよ拷問。

 くすぐったさの極み。

 もうやだ。誰にも触らせない。

 こんなこしょばゆいのもうやだ。

 お返しにはやての髪をわしゃわしゃにしてからタオルをセット。 

 

「それは平気なんな」

「洋服着たって首筋ぞぞーってならんだろ?」

「まぁ、せやな」

 

 うー。

 なんで追撃を許可したのだろう。

 

「お前の菓子をオレが食ってやる」

「それでええならあげるけど」

 

 やったー。オレオゲット。

 

「安ない? てかなんでオレオなん?」

 

 元々アークスとはドーナッツ食ったパワーで戦うからオレオ……オレオォ!

 後で棚にある食うオレオォ!

 

「いや意味わからん。でも意外やったなぁ。リコちゃんにそんな弱点あったなんて」

 

 俺も驚きだよ。

 ぎゃふんを言う余裕すらなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-19 夜明けを願う“リコ”の嘆き

いつもありがとう!


 深夜の八神家。リビング。

 薄暗闇のソファで寝ている少女、リコを見下ろす影が一つ。

 闇の書の主であるはやてを守護する騎士の将シグナムである。

 

「…………」

「寝ているか」

 

 言葉の通り寝る間も惜しみ魔力の収集を行っているシグナムやその他の騎士達にとって、最も気掛かりなのはその間の主の所在。というよりも孤独である。

 本人がいくら孤独には慣れていると言っても、それが虚勢である事は誰の目に見ても明らかであった。

 

「……お前が居なければ、主はやてをより苦しめる事となっていた」

 

 しかし偶然か運命か。この八神家にはイレギュラー的に本来存在するはずのない、異界からの訪問者がいた。

 この少女がいたおかげで騎士が家を空けている事の増えた現在でも、はやてが孤独に悲しむことを避けられた。

 意味の分からないことを言っていても普段の行動から信頼する人間。

 シグナム達騎士は道化に努め家を明るくするリコの存在にとても感謝をしていた。

 

 ──本人は道化を演じたい訳でもなく、空回りしそんな役回りとなってしまっている事が多いだけなのだけれども。

 そんな勘違いをする理由もリコの性格にあり、家の事を伏せてくれという不自然な頼みもその場では深く掘り下げず、ひとまず聞き入れる姿勢を示したのも評価に繋がっていた。

 

「あと少し、それまで待っていてくれ」

 

 のそりとリコが動いた。

 

「起こしてしまったか。すまない」

 

 ソファから起き上がったリコが、寝ぼけ眼でシグナムをぼーっと見つめている。

 

「……なんのはなし……?」

「私ももう眠る。おやすみ」

「おやすー……」

 

 普段の騒がしさもなく静かなリコの頭を軽く撫でれば、かくんと頷くよう頭が下がる。

 眠ったかと背を向け、立ち去ろうとした瞬間。

 

 

「──おれには、何も救えなかった」

 

 今までに聞いたことのないような声色で、リコが喋った。

 あまりの様子の違いと脈略の無さにシグナムも驚き、振り返り、再び闇の中で起き上がったその顔を見つめてしまう。

 

「そして再び救えずにいようとしてる」

「何を、言っている?」

 

 リコの表情は暗く見えないが、薄く涙が光っているようにも見えた。

 

「おれはもう手遅れだよ。介錯に身を任せる事こそが、万全の夜明けを迎える方法なのかもね」

 

 再びうつらうつらとして、その姿が闇の中へ消えていく。

 

「どういう意味だ。お前は本当に、リコなのか……?」

 

 ソファに沈み消えた影の代わりに腕が真上に伸びて、赤い腕輪を光らせながらじゃあねと手を振った。

 

「そう、おれはリコだよ。さっき言ったこと、目が覚めたらオレに伝えてね」

「っ、待て!」

 

 ぱたりと腕が落ちた。

 今の言葉がなんなのか、何が起こったのか。

 それらの問いを正すために駆け寄りソファで眠っているリコを揺するが、今のやり取りなんてなかったかのように気持ちよく眠り続けている。

 

「……すぴー」

 

 これ以上は意味がない。

 揺すっていた手を離し、今度こそその場を後にする。

 何かが憑りつきリコを自称していても、悪意は感じられなかったし、彼女ならば大丈夫だと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

「おはよございまーーーーす!」

 

 寝起きに元気良しな100点満点挨拶、これ一回やってみたかったんだよね。RTAとかいう苦行はやりたくないけど。

 朝というか寝起きが弱い欠点を抱えているこの我がボディには珍しく、寝起きの半覚醒状態からやっとこれができた。

 

「ん?」

 

 って、またシグナムさんが吾輩を膝枕していらっしゃる。

 くっころ系騎士の風貌ゆえにテンプレ的にかわいいもの好き属性なんかな。昨日もしてくれてたし。

 へへへ、ようやく俺の可愛さに気が付いたか。これからもっとメロメロにしてやるぜ。

 

「リコちゃん珍しく朝から元気やなぁ」

「おうよ。ふぁあ……」

「ダメやん」

 

 起きて伸びて、足を踏み出したらなんか毛むくじゃらのものを踏んだ。

 カーペットにしてはぬくいし、んー?

 

「あ、ザフィーラごめん……」

「……問題ない」

 

 犬に徹してる事が多いせいか、最近影が薄くて忘れかけてたよ。

 ごめん。

 

「まだ寝ぼけとるんとちゃう? 顔洗ってき」

「うーっす」

 

 寝起きが良かったのは一瞬だけか。ソファに帰りたい。

 朝ごはんを作ってたはやてに従い、再びあくびをしながら洗面台へ向かって、水で顔をばしゃばしゃ。

 冷たくて気持ちいいというか冷たすぎて息が詰まった。

 今は12月。冷水は凶器と化す。

 

 タオルで顔を拭きつつ鏡を見れば、以前と比べて紫面積の増えた我が頭髪。

 思い返せばこの世界に来た当初は本当に毛先だけだったのに、今や半分近くまで紫に染まってきている。

 本腰入れないとそろそろ間に合わんかも知れんね。

 寝ぐせが途端に気になって直してたらシグナムが来た。

 

「おはよう」

「シグナムおはよ」

 

 起こしちゃったかな。

 俺は顔洗ったしどうぞ。洗面台の前からどいて譲る。

 そのままリビングへ向かおうとしたところで、肩を掴まれた。

 

「どったのさ」

「変な質問かも知れないが、今のお前はリコか?」

「はい?」

 

 どっからどう見てもめちゃんこ可愛いリコ・クローチェちゃん様でございましょうよ。

 

「その物言いはお前だな。安心した」

 

 なにさ、いきなり。

 その質問の意味が分からないよ。

 

「昨日の夜、お前が何を喋ったのか覚えているか?」

 

 シグナムと昨日会ったっけ。

 話がしたかったから待ってたけど、結局遅くまで帰ってこなくて寝落ちしてたんだけど。

 

「……お前から、お前宛てに言伝(ことづて)を頼まれた」

「オレからオレ?」

「ああ」

 

 意味が分からん。

 いいや、とりあえず聞かせてよ。

 

「介錯に身を任せる事が夜明けを迎える方法かも知れないと、そう言っていた」

 

 なにそれ。

 言った覚えないし、言った俺自身が俺に伝言をする状況も……。

 待て、俺が俺に向かって?

 リコが、俺に向かって?

 

「間違いなく“おれはリコだ”と話していた。――その様子だと、心当たりがあるようだな」

「ま、ね」

 

 俺が寝て隙ができた時に、精神体のリコが浮上してきてたのか。

 そして一番フォトンを理解をしている為に見切りをつけて、諦めた発言を残した。ってところかな。

 自分のせいで周りを傷つけるのだけはしたくないのだろう。

 リコの精神体が条件付きとはいえ表に出てくるようになったのがどういう意味を持つのかは分からないけど、今までになかった事だし何かの前兆と受け取ろう。

 メッセージパックを渡しておく。

 

「シグナムさんや。いざとなったらこれを聞いてくれ」

「詳しくは言えないのだな」

「直接言うのは難しいし、オレにしか解決できないと思うから」

 

 たぶん人に直接言うとぶっ倒れると思う。

 

「お前を、リコを信じよう」

「センキュ。つっても、オレはそっちの事情をちょっと詳しく聞きたいけど」

 

 俺だってシグナム達を信じてるけどさ、一応確認だけはさせてくれ。

 

「管理局の人達曰く、闇の書が完成しちゃうとロクな事にはならないらしいんだけど?」

 

 聞けば、目を伏せて逸らされた。

 多少はその危険というか、可能性はちゃんとわかってたらしい。

 

「主はやての麻痺は、闇の書と我々が原因なのだ」

 

 と、言いますと。

 

「……主はやてはまだ幼く、闇の書を所有するだけでも魔力を吸い上げられ身体に支障をきたしていた。それが足の動かない理由だった」

 

 持ってるだけでそれとか完全に呪い装備だなやっぱ。

 でもなんで今になって?

 

「我々ヴォルケンリッターは魔力で構成されたプログラムだ。ただでさえ闇の書だけでも負担になっていたのに、我々4人の存在を維持する為にさらに魔力を使わせ……」

 

 スリップダメージが増し耐えきれなくなって、足の麻痺だけで済まなくなってきたと。

 

「闇の書が完全な状態になれば、主はやては呪いから解放され完治する。もう残りのページも半分を切った、後少しなんだ」

 

 まだ疑問は残るけどまだ黙っていよう。

 完成まで半分残ってるならクロノとユーノの情報を待ってもまだ間に合う。

 

「向こうには言わないでおくよ。その代わり、協力もできなさそうだけど」

「主はやての側にいてくれるだけでも、助かる」

 

 

 オレの方はそのメッセージパックが全て。はやて云々より地球もぶっ飛ぶやべーことになるからいざとなったらよろしくね。

 

 

「相変わらず訳のわからないことを言うな」

「わっ、せっかく整えたのにぐちゃぐちゃにするなよ!」

 

 乱暴に撫でやがって!

 

 一応言うけど、冗談のつもりじゃないからね。

 今後俺に不審な行動が目立ち始めたら渡した順によろしく。ほんとによろしく。

 

 自分でいうのもなんだけど、俺がいなくなったらみんな悲しむだろうし俺もやれることはやるよ。

 ダークファルスという闇を超えて、光に満ちた夜明けを迎えるために。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-20 アクションパートもあるチャットゲーム

予約投稿ミスで定時にあげられませんでした。
申し訳在りません。


「アークスらしいことをしてみようのコーナー!」

「なんや突然」

「リコちゃんどうしたの?」

 

 家にははやてだけでなくシャマルもいるが、時間もないのでしょうがない。

 我が肉体に封印されしリコの精神体を一刻も早く引っ張り出すために、アークス時代を思い出すような事をすればいいと結論が出た。

 ダークファルスさんもリコを呼ぶことには抵抗が無いようで、ぶっ倒れる心配もなし。

 

「というわけで、ちょっと着替えます」

 

 リビングの真ん中という注目を浴びる場で観客もいるが、変っ身っ! 

 身に付けたるはアークスの初期衣装として配られるエーデルゼリン。スーツ然としたこのシンプルなデザインが好きでした。師匠も愛用してたしね。

 どうよこれ。似合う? 

 

「へー。布っぽいけど違うし、これっていわゆる戦闘用なん?」

「私達のバリアジャケットのようなものかしら」

 

 半分正解。アークス向けに配られる衣装は全てが戦闘用であり私服である。

 ファッションアイテムを変えて、今度は白ワンピースことエアリーサマードレス。

 パッと見はよわよわだけど、防護は全て自身のフォトンと防具(ユニット)と筋肉が担うから問題ないのだ。

 

「防御力と別、ならバリアジャケットよりも自由に見た目を変えられるのね」

「前にお風呂で使った水着とかタオルもそうなん?」 

「だぞ。あれでロビーに居たり戦うやつもいる」

「えぇー、もうただの変態やん」

「普通の水着の方がマシなデザインのものとかあるぞ。むしろ考えたやつが変態」

「へー、どんななん?」

 

 え、みたいの? 

 一応持ってるけどさ……。

 

 仕方ないな。

 見よ、これがエドマチクララだ。

 

「ってちょちょちょ!? 待って!?」

 

 この衣装、何をトチ狂ったのか側面の布地が一切ないんだぞ。

 脇から足にかけて肌色が一直線。すーすーします。

 

「リコちゃんチェンジ!」

 

 知らんお姉さんが着てる分には目の保養だけど、親しい幼女が着てたら焦るよね。

 チェンジ、ビビッドパンキッシュ。

 

「なんなん? なんなん今の。てか考えた人がなんなん?」

 

 服と武器を兼任した結果、側面の装甲をひっぺがして武器にしたら失くしたんだと。

 なんか前面も剥がすと盾になるとか聞いたことある。

 デザイナーって凄いね。男ってほんとバカ。

 

「このビビッドパンキッシュなら外も歩けるっしょ」

「なんかヴィータとセンス似とるな」

「そうね。ヴィータちゃんが好きそう」

「てなわけでそれは回収や」

「追い剥ぎかよ」

 

 これ俺も気に入ってたんだけどなぁ。

 アークス時代によく着てたディーラードレスに変えて、ビビパンはアイテムパックから出して渡す。

 畳まれて出てきた。たぶん俺のサイズになってるからヴィータなら入ると思うよ。

 

「でも凄いなぁ、気分で色んな服装できるんやね」

「これ一式でワンセットだから融通効かないけどな」

「それでも私達と比べたら凄いわ」

 

 ちなみに今はレイヤリングっていう、複数部位のパーツを入れ換えて着替えるのが主流。

 メセタで買おうとすると人気によっては有り金を溶かす模様。

 なぜ、なぜチケットなんだ……! なぜ登録式なんだ……!

 

「地球のみたいな服じゃ駄目なん?」

 

 アークス用に調整されてるであろう物だしなぁ。誰が着てもサイズぴったりになる仕様だし。

 というか、防具(ユニット)がうまく機能しなくなるんだと思う。

 実はステルス化させてるけど、ずっと俺は高性能なのつけてる。

 

「見る? ステルス解除っと」

「見る見る。どんななんかなぁ」

 

 ちょっと離れとけ。

 リア、アーム、レッグのステルス化解除!

 

「まぶしっ」

 

 俺が装備しているのは何を隠そうルシオン……とりあえず装備しとけば間違いない感じの奴。ちな神プレ。

 プレイヤーだった俺の装備を引き継いでいるリコではあったけど、神の用意したOP盛り盛りのユニットの魅惑には勝てなかった。

 

「綺麗やな……」

 

 ゴッドな感じの全知たるシオンの名前を継いでるしね。

 けど見た目が派手過ぎて邪魔だからステルス化。

 俺はコモンのシンプルな感じが好きなのだ。

 

「あー、もったいない」

「オレのラヴィス=カノン売ろうとした前科があるのを忘れるな」

「冗談やって」

 

 アークスは基本的に光ってるからいちいち驚いてたらキリがないぜ。

 ちなみにこんな高性能なユニットだけど、普段着が地球製なせいで撃たれたらモロに血が出た。

 

「あの、リコちゃんって体が弱いって話じゃ……」

「デューマンやっけ。殆ど防御なしで撃たれて痛いだけ……?」

 

 他の種族と比べると紙装甲だぞ。

 基準にしてるヒューマンは人間に似てるだけで正確には別種だけど。

 

 EP4で出てきた地球にご在住努力チートのファレグ? サイヤ人かなんかでしょ。

 

 なんにせよ鉛玉程度の攻撃力で致命傷だったら生き残れないぜ。

 自分より大きい生物が全力で殺しにくる世界やし。

 

 ごめんねー。考えてみたらデューマンでも意外と防御力あったわ。

 

「そっかー、リコちゃん宇宙人やもんなー」

「そうねー」

 

 棒読みやめてくれませんかね。

 

「んで、アークスらしいことをしてみようのコーナーですが」

「急に話戻ったなぁ」

 

 着せ替えもアークスらしいことではあるけどもうひとつ。

 

「クチマネドールかもーん!」

 

 マイルームに置くグッズが一つ、クチマネドール! 

 見た目は無害なかわいらしいリリーパ族のお人形。

 しかしその実態は、テロに使われる道具なのだ! 

 

「こんなかわいいぬいぐるみなんに? 爆発でもするん?」

「どういう意味でしょう?」

「お手軽価格の20万くらいでした」

「ぬいぐるみの癖してめっちゃ高いやん」

 

 たまにテロをするために爆買いされるのか高騰するから買って倉庫に入れてたので、今の相場は知らん。

 一応20万はアークス的には安いけどね。物価があれだし。

 あ、ちょっと待って。

 なんも覚えさせてないかも。

 

「ちょ──」

 

『/toge 今ジャナイ! 押スナ!』

 

「うるせぇ!」

 

『うるせぇ!』

 

「もう覚えたのかよ!」

 

『いや、ビジフォンで30M位だった、、、』

 

「なんの話だよ。つかめっちゃ高ぇなおい」

 

『桁間違えて3Mで売ったンゴ、、、、』

 

「うわ、絶対返ってこないやつだ……」

 

『いちおうウィスパ送ったけど』

 

「この話思い出したわ。確か戻ってきたんだっけ」

 

『返してくれるって! わふぅううううううう』

 

「ほらな」

 

『お手軽価格の20万くらいでした』

 

「全然返ってきてねぇじゃねぇか! つかそれオレの台詞だろ!」

 

『うるせぇ!』

 

 それも俺の! 

 

 ぜェ、ぜェ……。

 みたか、これがテロの道具だ……。

 もういいや、威力が高すぎる上に思い出せたのプレイヤーの記憶だししまっちゃおう。

 

 つかなんでこいつ昔の会話まで覚えてるんだよ。

 シグナムが夜に話したのってこいつなんじゃないの? 

 

「話がようわからんのやけど、勝手に録音して勝手に再生されるん?」

「リコちゃん、こっちの世界ではやっちゃだめよ?」

 

 やらねぇよ! 

 もう二度と出さねえ!

 

 代わりに別なものを出す。

 

「鳥さんやー」

 

 ナベリウスパパガイだよ。かわいがってやってね。

 

 

「餌は人の言葉です」

『よう5期団 メシを食ってけよ』

「さっきのやつと変わっとらんやんけ!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-21 コスプレ

 よくじつ。

 

 

 

 今日はシグナムも膝枕してくれなかったのでやる気が出ないです。

 アークスっぽい事をしたけどあまり功を為さなかったし、何しようかねぇ。

 

「ん、メール」

 

 誰だこのメルアド。

 

「ああ、仮面さんか」

 

 案外普通に連絡くれるのね。

 何々……?

 

「封印について?」

 

 へぇ、ありがたい。写真付き。

 添付されてた写真にはアークスシップのメディカルセンターで見た事のある、六角柱の形をしたカプセルが写っていた。

 向こう(オラクル)では封印ではないけど、冷凍睡眠みたいな感じで浄化のできる装置だ。

 

 なんでこれがこの世界に?

 しかも、なんで無駄にトゲって言うか角が生えてるの?

 誰だよこれ設計した奴。確実にこの角はいらんだろ。

 

「ふーん、フォトンを遮断するシェルターなんだ。で、次にアルケン……アルカンシェル? で消し飛ばすと」

 

 アルカンシェルは船に搭載された大型の武装で、空間を歪ませて間違いなく文字通り消滅させるらしい。

 色々書いてあるけど、初代ゴジラを倒したオキシジェンな兵器と同じ感じで物理的威力はゼロ。空間ごと消すのでやべーものを霧散させる心配も威力不足でしたって心配もいらないってさ。

 

 とんでもない兵器持ち出してきたけど、何らかで解けるかも知れない封印をしたまま維持するより消し去った方がいいし仕方ないね。

 

「だぁからさあ。エミリアとかの事を書けっての」

 

 メールの内容は「安心して死ね!」で要約された。

 そもそもなんでフォトン=ダークファルスで話進めてたんだか。

 結果的に間違っちゃなかったんだけど。

 

 ま、いっか。

 ソファから起き上がり、伸びをしつつあくび。

 リビングの扉が開く音がして、軽い足音がした。

 

「リコ、おはよぉ……」

「おはようヴィータ。寝坊助さんめ」

 

 エミリアについて教えてくれたら封印も考えてやるよと返信して、顔を上げる。

 

「モ゛ッ゛」

「新しい悲鳴のパターン出たな」

 

 戦闘不能。

 ハーフドールを使用します。

 

「危ない所だった……危ない所だった……」

 

 なんでヴィータは朝からクラリスクレイスみたいな恰好してんだよ!

 正確にはクラリスクレイスの服であるイリシアスタッフじゃなくて、それの元であるウィオラマギカだけど。

 そんな服どこに売ってたんだよ。

 

「はやてが作ってくれたんだ。似てるだろ?」

「そのせいでオレの貴重なライフが消えたんだけど」

 

 つか、よくそれ作れたな。

 よく見れば手作り感あふれるというか、既存の物に装飾を足してる感じとはいえぱっと見で即死するくらいには破壊力あったぞ。

 

「でもよ、なんでそこまで嫌なんだ?」

 

 なんでってよ、顔合わす度にいじめてくるやつの事がどうして好きになれる。

 

「才能があるとかどうのとかオレは別に気にしてないのによ、あいつ廊下ですれ違う度に誇示してくるんだぜ?」

 

 研究所時代の、ほんの短い期間で何度言われた事か。

 やたらめったら言われるしテストで勝負仕掛けても来るし。

 

「こっちが勝ったら勝ったで調子が悪いだの。最後は戦えとか言って模擬戦で爆殺しようとしてくるし」

 

 死にたくないから割とガチって、一歩間違えて撃墜しちゃったらもっと怒るし。

 あー、蘇るリコの記憶と感情で腹立ってきた。

 

 アークスになってからは会う機会が減ったとはいえ、クロト銀行を利用する道すがらに待ち伏せして急に話かけてくるし。

 その上、バレンタインにかこつけて友チョコだぁ? 食ってやらんよ。

 

「でも直接言えてねーんだろ?」

「はい、すいませんそんな度胸ありませんでした……」

 

 殺される……。俺は確実に殺されるぞ。

 クラリスクレイスが模擬戦で本気を出してこなかったのはたぶん事実だ。周りの被害もあるし。

 あいつの自称だし見たことないから知らんけど本気出せば地形を変えられるらしいし。

 そんな奴に目を付けられてよ、毎回生きた心地がしないんだって。

 やっとこの世界にきてやつから解放されたのに……。

 

「悪かったよ……」

「ヴィータならオレを倒せないし別にいいんだけど」

「おいこら待て」

 

 ハンマーの一撃は重かろうが、【巨躯】のプレスさえ耐え抜いた事のある我を滅することは敵わぬ。

 ごめんねー。デューマンは貧弱でも装備とスキルがモリモリなのだ。

 

「一対一ならベルカの騎士に負けはないぜ」

「へっ、アークスの戦い方ってもんを見せてやるよ」

 

 いくら猛攻を仕掛けてこようが無為。

 マッシブハンターでノックバックを無効化してダメージカット。メギバースを撒きそしてゴリ押す。

 

「そのうちリコとも戦ってみたい」

 

 いいねぇ。その時はみんな誘って遊ぼうぜ。

 殺される心配ないなら大歓迎だ。

 

「言ったな? リコひとりに全員で襲い掛かってやる」

「おいこら待て」

 

 アークス最大の弱点は連撃による硬直だぞ。

 ちまちま攻撃されて固められてそのままやられるなんてよくある。

 

「強いのか弱いのかよくわかんねぇな」

「基本的にアークスは群れて襲い掛かるからね。なお連携は特にない模様」

 

 あるとしたら支援テクニックをばら撒いたり敵を集めたりするくらいだし。

 後は野となれ山となれ。個人の判断にお任せです。

 連携が取れるんなら北の勇者なんて称号生まれないんだよ。

 

「でだ。あそこでずっと笑ってるはやては後で極刑な」

 

 さっきからお料理中のはやてが車椅子に身を隠しながら笑ってるのは許せん。

 けしかけておいてー!

 

「クラリスクレイス風の衣装を作ったの黙ってたり、絶対楽しんでるだろあいつ」

「どんな反応するかって昨日の夜からずっと楽しみにしてたぜ」

 

 生体反応が消える所だったんですが。

 

「ヴィータもノリノリやったやん」

「だってリコのリアクションおもれーんだもん」

「人を芸人見たいに言うな」

 

 座ってた俺の横にヴィータが来て、やっぱり眠いのかそのままうとうとし始めた。

 ゲートボールの大会が近いとかなんとか言ってたけど、そんなの嘘でこいつも他の騎士と同じように戦い暮れてるんだろう。

 そっとしておいてやると、そのまま俺に寄りかかって寝てしまった。

 もしダークファルスの恐れや疑い無く闇の書完成ではやて完治なら、俺だって手伝えたんだけどな……。

 

「寝ちゃったん?」

「子供ってのは寝つきの良いもんよ」

「リコちゃんも子供やん」

「はやてもだろうがよ」

「自分が子供なん認めたな?」

「そらもうかわいい美少女ですから」

「うわぁ都合のいい」

 

 ヴィータがクラリスクレイスのコスプレをしてくれたおかげで思い出したけど、ボディの稼働日数は5年足らずなのでこの場で一番の幼女と言う。

 宿ってる精神が幼いかは謎だけど。

 精神年齢だけで働いてたのバレたらバイト首になりそうだけど。

 

「あ……。寝てた、わるい」

「疲れてんならちゃんと休みな。無理はよくねぇ」

「珍しくリコちゃんがまともな事いうとる……」

 

 この程度でまとも扱いされるって何よ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-22 鍋の準備

 

 ………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

 

 

「リコちゃん寝とるん?」

「…………いいや、起きてる」

「それ寝とった人の言葉やで」

 

 ふぁああ……。寝てた。

 

「白状しとるやん」

 

 最近なんか寝てる事が多いな。冬眠の時期か。

 気が付くとソファにいるとかリスポーン地点がここに設定されているからに違いない。

 んで、わざわざ我を眠りから目覚めさせたという事それ相応の用があるのだろうな。

 

「買い物行くから一緒に行こか思て」

「おっけー」

「寝てるとこ悪いなぁ」

「いいって事よ」

 

 いくら電動とはいえ車椅子。12月の外で手を出すという事はスゴイサムイを意味する。古事記にも書いてあった。

 ソファから起きて身だしなみを整えて準備完了。いつでも出撃できます。

 先に準備を終わらせていたはやての車椅子を押し、お出かけ開始。

 

「そういえば最近リコちゃん全然お仕事いっとらんけどええん?」

「本業が忙しくなるからってシフト無くした」

「……本業って、アークスの? こっちに人来とるん?」

「んにゃ。まぁ調査とかも仕事の内だから」

 

 有休が欲しいって言ったら断られたので普通に休職中です。

 あと本業と言ったけどオラクルと繋がりがないので無給です。

 それはともかくとして、今日は何を買うんだい?

 

「お鍋の具。すずかちゃんがうちに遊び来るんや」

「へぇ、すずかが」

「せやで」

 

 すずかを我が家に呼んでみんなで鍋パーティか、いいねぇ。

 でも話を聞くに来るのはすずか一人だけだという。警戒心というものはないのか。拉致られたことを思い出せ。

 八神家の総合戦闘能力は街一つ落とせるレベルとはいえ、そんな事を一般ピーポーのすずかは知らんはず。

 

「いや、何かあってもリコちゃんおるなら大丈夫やろって結論出してたで」

「オレに期待しすぎでは? 戦闘ヘリや戦車とか恐竜程度なら守りながら戦えるけどさ」

「むしろどこに心配事があるん?」

 

 突然何が起こるか分からないぞ。

 

「しかし相手はお嬢様なすっちーだろ?」

「すずかちゃんの事をすっちー言う人初めて見た」

「オレ達に用意できるのは庶民派の鍋だけだが大丈夫なのか?」

「むしろ向こうは普通でいいって。お金持ちとか関係なしに普通の友達でいたいんや」

 

 すっちー本当に小学生かよ。しっかりし過ぎだろ。

 

「せやなぁ」

 

 ……今思ったけどさ、手を抜かず三食きっちりおいしいご飯を作れるはやてって割と凄いのでは。

 全然気にしてなかったけど、はやても小学生だよな。

 というか小学生抜きにしてもこの勤勉さは大人でもなかなかいないぞ。

 

「おまけに車椅子だし」

「普通はそっちが先に出るんやないかな」

「床に寝てて轢かれた時とかは気にするけど、その他はもう流れだし」

「いやなんで床で寝とるん」

 

 だって夏のフローリングってひんやりしてるんだもん……。

 

「エアコンつければええのに。っていうか、フォトンで何とかできるんとちゃう?」

「周りと合わせる為に防護を無くしたらボディに耐性がなくて即死した」

「普段フォトンに頼り過ぎや」

「しょーがねーだろ赤ちゃんなんだから」

 

 肉体年齢推定5歳を舐めるな。

 

「そんなに威張る……って、見た目通りの年齢やないって話はマイナス方向にやったんか」

 

 あ、しまった。

 

「ほら、あれだから。稼働日数が5年なだけで試験管にはもう何年かいたから」

「数年足した所で働ける歳にはなれそうにないで」

「バカな。こんなに精神が成長しているのが証拠だろ」

「成熟した人は暑いからって床で寝んと思う」

 

 もうちょっと試験管とかに突っ込んでくれませんかね。

 この半年ではやても俺の扱いというか常識に慣れたのか、昔なら突っ込んでくれた部分をスルーして寂しいです。

 

 そうこうしてる内にいつも贔屓にしているスーパーへ辿り着いた。

 車椅子利用の少女とそれを押す美少女の姿は珍しいのか、周りの客の視線がちらほら。

 

「はやてくらいしか見ないもんな、この歳で車椅子乗ってんの」

「たまにさりげなく手伝ってくれて、ありがたい限りやでほんま」

 

 同じお店使ってるんだしある程度顔なじみの人もいるか。

 今も横を通ってったおばちゃんが挨拶してった。

 そしてその次に通ってった2人組が「あれって翠屋のリコじゃん」って話をしながら通っていく。

 

「はいオレに2ポイント入りましたー」

「卑怯やろ」

 

 翠屋のマスコットというか客寄せパンダな俺の方が知名度あるし仕方ない。

 へへ、無名なはやては黙ってな。ワイこそが海鳴のアイドルや。

 [翠屋の“IDOLA(アイドル)”♪]リコ・クローチェのブロマイドください(クレ厨)

 

「白菜ともやし取ってな」

「大根もいるだろ? 後ちくわか」

「食べたいなら別にええけど……」

「ごぼう発見。たまごは別の所かな」

「そんなに食べたいん?」

 

 後は何がいるかな。

 

「あったあった。これもいるだろ、はんぺんとがんもどき」

「わかった。リコちゃん鍋知らんのやろ」

 

 ほう、自信があるな。流石は八神家の料理長。

 だが俺とて料理はできずとも翠屋の化け物。負けるわけにはいかん。

 

「リコちゃんお肉も食べる?」

「食う食う。ミートボールみたいなのもいるか」

「肉団子な。でも多ない?」

 

 少なく見積もってる所悪いけど、我々八神一家は6人構成だぞ。

 ザフィーラは犬に徹するとはいえ、すずかが帰ったらちゃんと食べて貰う予定だし。

 

「あー、確かにちょっと多めの方がええかも」

「だろ?」

 

 すずかがいるから一家団欒とは微妙に違うけど、忙しいあいつらにたんと暖かい飯を食わせてやろうじゃねぇか。

 

「……でも、ふふっ」

「どした?」

「いや、すずかちゃんにはリコちゃんが鍋の具を考えたってメール送っとくわ」

「楽しみにしておけともな」

「いやぁ、楽しみやなぁ」

 

 ふふふはははは、驚きのあまり思わず俺の事を見直す連中がいくら出る事か。

 楽しみだぜぇ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-23 rtf hkl

 どうも皆さんこんばんは、百鬼夜行をぶったぎる地獄の番犬ことリコです。

 お鍋と聞いて気合いを込めて食材を選んだけど、選んだだけで鍋への投下などははやてに一任する運びとなりました。

 俺が手を加えた途端に無味になるのは仕方ないのでこれはしょうがない。

 

 問題は……。

 

「誰も、帰ってきていないのである……!」

 

 すずかが来るのに合わせてセッティングしているのに、騎士の奴ら誰一人として帰ってきてない。

 今日はおいしいお鍋よー! とメールをしても、返信すらこない。

 

 誰も、帰ってこないのである……!

 

「まずいことになったなぁ」

「いつ帰ってくるのかくらい教えてくれてもええのに」

 

 仮にやつらが間に合わず広いリビングに子供3人となったら寂しいので、せめて俺はアークス式の飾りつけを行おう。

 アークス式がどんなだって? それはな、

 

「床に色んなもん置かんといてなー」

 

 ……ボス戦のようにムーンアトマイザーとかトリメイトとか個別にばら蒔いてたら怒られた。

 はやての動線もあるし仕方ないか。

 フォトンドロップを渡す。

 

「なんこれ。綺麗なんはわかるけど」

「フォトンが結晶化した自称珍しい奴。綺麗だろ? 純フォトンだしうまく使えばこの世界でもフォトンエネルギーを使えるかもね」

「でも珍しいんやろ?」

「割とそうでもなかったり」

 

 むしろゴミのように余ったりビジフォンで投げ売りされてたりする。

 必要なのは一番大きいフォトンスフィアなのよね。

 

「アークス感はともかくとして、SF感は出るだろ」

「うーん、宝石みたいだしどっちかっちゅうとファンタジーやなぁ」

 

 あちこちにフォトンドロップを置いてみたけど、確かになんかファンタシーってよりかはファンタジー。

 置いたまま放置してたナベリウスパパガイと合わせて古代遺跡みたいになったな。

 

「もっとそれっぽくしてみるか」

「やめーや」

 

 ルームグッズを追加しようとしたらはたかれた。

 

 飾りつけはさておき、あいつら帰ってくるのかな。

 せめて連絡してくれよー。

 

「返信もないなんてなぁ」

「うーむ。流石にそれはおかしいよなぁ。心当たりがあるとすれば、コールすると遠くの部屋で着信音が鳴るくらいだけど」

「それ携帯電話忘れとるだけやん!」

「騎士が聞いて呆れるぜ。時代はやっぱり空中ディスプレイだ」

 

 カットイン表示。

 

「うわっ、びっくりした」

「近くにオレのかわいい顔がオープン」

「それなんの意味があるん?」

 

 無言カットイン。無動作、無表情。

 …………。

 

「いやなんか言うてや。威圧感が凄いんやけど」

 

 それが目的だし仕方ない。

 だが回復とか支援テクとかする度にオートワードでカットイン入れてくる奴、テメーはダメだ。

 自分かわいいをしたいのはわかるが白チャで画面を塞ぐことするんじゃねぇ。

 かわいいのは俺ひとりで充分だ。

 

「PSVITAだと一つにつき画面の4分の1が見えなくなるからガチでむかつく。4人いたら完全に画面埋まる」

「なんの話?」

 

 PSO2を始めるきっかけとなった先輩、お世話になりました(サービス終了)

 

「あやつらはその内帰ってくるとして、後は何するか」

「せや、リコちゃん色々着ぐるみ持ってたやろ?」

 

 ですが。

 

「なにかインパクトのあるやつないん?」

 

 うーん、インパクトか。

 インパクトの塊みたいなのがあるにはあるけど。

 

「へー、どんななん?」

 

 rtfぎゅhklスーツってやつ。

 

「ごめん、よう聞き取れんかった。なんて?」

 

 発音には気を使ってるんだけどな。

 まぁrtfぎゅhklは変な名前だから仕方ない。

 

「ぎゅって言うのはわかったんやけど、その前後が……」

 

 だーかーら。rtfぎゅhklだって。

 

「リコちゃん、自分でどう発音しとるかわかっとる……?」

 

 どうって、rtfぎゅhklとしか答えようがないんだけど。

 お前こそどうしたはやて。耳鼻科行くか?

 

「うわ、私が悪いんこれ」

「もしかしたらこっちの発音は難しいのかもな」

 

 rtfぎゅhklはrtfぎゅhklだよ。

 ゲシュタルト崩壊してきた。

 

「んでだ。わざわざ聞いてきたって事はドッキリ作戦か?」

「せや。せっかく遊びくるんにただじゃ悪いしな」

「おっけー」

 

 ちょっと待ってね。

 そのrtfぎゅhklスーツを着るためには体をrtfぎゅhklの形に変えないと……いけないから……。

 

「うお……ぉ……!」

 

 骨格が……変わる……!

 

「待ちぃ! リコちゃんなんか体がえぐい事になっとるで!」

「今こそ、ぎゅ~さんを掴むとき!」

 

 ピカアァ!

 

「我が、我こそが」

 

 rtfぎゅhkl!

 

「ちょい待ちぃ。いやほんまに理解が追い付かんのやけど」

「どうした。インパクトの塊みたいなもんだろ?」

 

 一頭身(?)に細い手足となんか横方向へ4本くらい棒の生えた白い物体、rtfぎゅhklへとメタモルフォーゼ。

 訳わかんねぇ見た目してるだろ? アークスなんだぜ、これ。一応は男ハンター(ヒューマー)らしいけど。

 ただのrtfぎゅhklだとあれだから俺の特徴出しとこう。赤い腕輪だけ出しておく。

 

「ちなみに後ろを向くと……」

「待って待って、なんかその横の棒みたいなんが色々引っ掛かっとる」

 

 そこの部分に殺傷能力あるから気をつけてね。

 

「あぶなっ。で、後ろを向くとどうなるん?」

「顔だけ宙に浮く」

「どういうことやねん」

 

 俺も知らん。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-24 鍋パ固定@4

「リコ・クローチェプレゼンツによる、冬にぴったりなアツアツおでんです」

「あの、お鍋って聞いてたんだけど……」

「目の前にお鍋があるじゃないか」

「でもこれおでんだよね?」

「おでんだが」

「リコちゃん、おでんとお鍋って別物だよ?」

「まぢ?」

「まじ」

 

 嘘だろ。

 はやて……。

 

「ようやく間違いに気が付いたみたいやな」

「お前知ってて黙ってたな!」

 

 鍋を知らないって、そのままの意味かよ。

 なんで教えてくれないんだよ。

 ヤケクソになりながら鍋の蓋をしてガスコンロに火をつける。

 

「あとなんでリコちゃんははんぺんの妖怪みたいになってるの?」

 

 はんぺんの妖怪じゃねぇよ。rtfぎゅhklだよ。

 

「ぎゅ……なに?」

「すずかちゃんその妖怪は放置でええで」

 

 おいはやててめ、これ着せたのお前だからな。

 

「しょうがねぇ脱ぐか……」

 

 めき……めきめき……。

 

「蝉の脱皮みたい」

「せやな。てか、いつもみたいに一瞬で変えられへんの?」

 

 なんでだろうね。俺にも分からねぇ。

 このスーツに限って変な感じになってる。顔も浮くし。

 

「それと、いつもいるご家族の人は……」

「今日に限って忙しいみたいで、急に来られんくなったって」

「ウィスパ送ってもダメだったし先に始めとこうぜ」

 

 フレンド申請と同じくウィスパは受信ができなかったからだろうけど。

 忘れるなソファ押しつぶし事件。

 さてさて、そうこうしている内に鍋も良い感じにあったまってきたので音頭を取らせて頂きたいと思います。

 

「改めまして自己紹介。本日の鍋パ固定のリーダーを務めさせていただく、主催のリコ・クローチェです」

「すずかちゃんと約束したのは私なんやけど」

「ぜひ、この(わたくし)めのマイルームを存分にご活用ください」

「ここリビングなんやけど」

「そしてご紹介いたしますは、こちらナベリウスパパガイです」

「それ仕舞ってって言うたよな?」

『まぢ?』

「いいタイミングで喋りましたね。えー……、他に挨拶とございましては……」

「ないなら無理に喋らんでええよ」

「これははやてです」

「もはや英語の例文みたいになっとるやん」

「ではこれで締めさせて頂きます。ご静聴ありがとうございました」

「私めっちゃ突っ込み入れてたよな?」

 

 すずかが拍手をしてくれたので挨拶は成功。

 では、鍋の蓋オープン!

 白い湯気がもわー、おいしそう!

 

「みんないりゃあ良かったんだがなあ。先に言っときゃ良かったぜ」

「せやなぁ」

「今度からはちゃんと前もって知らせとくよ」

 

 その辺は主催者がちゃんと調節せにゃならんからな。

 

「考えたのってリコちゃんなの?」

「いや、あんな」

「オレの手柄さ」

 

 主に食材を考えたりしたのは俺だし俺の手柄に決まってる。

 全ては俺のおかげなり。

 

「あんがとな」

 

 感謝された。普段からそれくらいの感謝が欲しい。

 

「食材が足りんって時に手持ちの宇宙食材出さなければもっとええんやけどな」

「宇宙食材?」

 

 すっちーは知らないがろうが、この俺様のアイテムパックの中には様々なギャザリングアイテムが詰まっているのだ。

 その中にはジャガイモや大豆と言った便利な連中もいるというのに、別惑星で採れたってだけで拒否られてしまう。

 気を使って東京大豆とかも出したけど、コンクリから掘り出したって言ったらやっぱり拒否された。

 

「たかが産地程度の違いなのになぁ」

「それが大きいんやで」

「そんな事言ったらオレとはやてで種族違うじゃん」

「それとはまた別の問題や。な、すずかちゃん」

「うーん……。ちょっと気になるけど……」

「嘘やろ」

 

 流石すずか! 略してがず!

 そんなあなたにはコルトバジュースをプレゼント。

 

「あ、リコちゃんがよく飲んでるのって宇宙産だったんだ」

 

 惑星パルムのコルトバからエキスを出して作ったジュースだよ。

 別宇宙の星だからコルトバには会った事ないけど、なんか懐かしい感じの味がするんだよなー。

 

「……ねえ、コルトバ? って、生物なの?」

「だぜ。スクショないけど説明するなら邪悪な外見をした豚」

 

 あるいは汚いサイホーン。

 ブサイクなほど味が良いらしいよ。

 

「それって宇宙生物の体液ジュースって事やん! すずかちゃんに何渡しとんねん!」

「失礼な。ひとくち飲んでみろよ、おいしいぞー」

「そういえば前になのはちゃんがこれ飲んでたような……」

 

 仕事終わりに2人でだべる時とかによくなのはと飲んでるぞ。

 結構お気に入りらしい。

 

「なのはちゃんが誰なのかは知らんけど、何飲ませとんねん!」

「体に悪くはないんだよね……?」

「効果はレアドロアップだし日常生活に支障はないぞ」

「あかん、話通じないモードに入ってもうた」

 

 ひでぇな。少なくとも料理アイテムを渡す時は打撃力とかが上がらないように気を付けてるのに。

 他にも食わせてるのかって? だって、なのはったらおいしいって食べてくれるんだもん……。

 

「ん。ちょっと待ってくれ、なんかコール来た」

 

 んだよ折角いい感じにおでんパーティ盛り上がってたのに。

 モニターを出して名前を確認するとクロノだった。存在を忘れてた。

 席を外して廊下に出て、はいもしもし。

 

『リコ、少し時間をいいか?』

「今おでん食ってたんだけど。みんなで」

『それはすまない』

 

 クロノの電話は少し進んでいるのか、それともアークス式の通信に互換性があったのかよくわからないけどちゃんと画面に顔が映ってる。

 これならテレワークも楽勝だね。

 

「なんか急ぎの用事かいな?」

『そちらの市街地上空で今戦闘が起きている。なのはやフェイトもデバイスの修理が完了しているとはいえ、馴らしもなく実戦だ。何かあった時の為に君にも現場へ向かって欲しいんだが』

 

 あいつら帰ってこないと思ったら何してんだよ……。

 前の戦闘の時も大丈夫だったから心配ないと思うけど、なんだかなぁ。

 

『ずいぶん嫌そうだな』

 

 とりあえずそっちには不参加で。

 ヴィータ辺りがボロだしたら芋づる式にはやての身も特定されかねんし。

 

「折角友人を誘って家で鍋パしてたのに、参加人数はオレを含めて3人。そっからさらに抜けろと」

『……それは抜けにくいね……』

「それにオレは空中戦できないから行ったところでだぞ」

『わかった。――それとは別件で、君の欲しがっていた情報もある程度まとまったから近いうちに会えるか?』

 

 俺も早めに情報は欲しいから明日でもいい?

 何時ごろマンションに向かえばいいかな。

 

『そしたら昼頃で。あともう一つ』

「まだなんか?」

『ああ。前に僕の知り合いにファンタシースターの宇宙へ接触しようとした人がいるって話をしただろう?』

「したねぇ。――まさか!」

『グレアム提督……僕の上官に当たる人なんだけど、君の話をしてみたらぜひ会話をしてみたいと』

 

 ナイスクロノ! 略してナス!

 

『僕の名前が一切含まれてないぞ』

 

 でもよくそんなアポとって来たなあ。感謝の極み。

 こっちもロクな報酬用意できないのに色々仕事させちゃって悪いね本当に。

 

『いいさ。その代わり、提督に色々と向こうの話を聞かせて欲しい』

「あー、夢破れたりだもんな」

『すぐにでも話をしたいというのが目に見えるくらいだった』

 

 そんなに熱心ならエミリアやフォトンの話も持ってるだろうなぁ。

 んー、明日が楽しみだ!

 

『――ああ、わかった。すぐ現場に向かう。すまないリコ、また明日』

「忙しいのに悪いね、仕事頑張ってな」

 

 切れた。

 さてさて、俺ひとりがじたばたして全然ダメだった色んな問題がようやく進展を見せるぞぉ。

 リビングに戻ると、俺の皿が盛りつけられて盛り盛りになってた。

 この短時間で何が起きたんだ。

 

「おかえりリコちゃん、誰からやったん?」

「ん? 職場……ではないけど、仕事がらみ。明日の昼頃ちょっと出かけるわ」

「へー、なんか社会人って受け答え」

「むしろどこでボケたらいいの?」

 

 というか普段も別にボケるつもりはあんまりないんだけど。

 

「てか、この盛り盛りおでんくんはどうした一体」

「綺麗に乗せられるかな思うてな」

「うんうん。リコちゃん召し上がれ」

 

 なんでそんな無駄な事を。

 まぁいいや、頂き……。

 

 …………。

 

「どうしたん?」

 

 あの、はやてさん。

 ちくわの中に黄色い物体が詰まってる気がするのですが。

 

「何かあったの?」

「どうしたんやろ」

 

 こ、こいつら、俺の好きなちくわにからしを詰めやがった……!

 

「ふー……」

 

 だがこいつらの期待を裏切って残すわけにもいかない。

 というか、皿に盛られてしまった以上は食べるのが礼儀。

 

「一口でいきおった!」

「リコちゃん大丈夫!?」

 

 

 …………。

 

 

 あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛!゛(死)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-25 欠片

いつも誤字報告や感想ありがとう!
気軽なそれこそが我のモチベ! 原動力!(突然の媚)


「応えよリコちゃん! 万象解決のその意思に!」

 

 気合いを込めておっけ。インターホンぽちー。

 ちなみに先ほどの台詞はものすっごい小声で叫びました(矛盾)

 

 クロノマンションへ向かう足はとても重く、途中何度も倒れそうになった。

 前と比べて侵食具合も増してるのが原因して、解決の糸口たる情報を仕入れたくないのだろう。

 守護騎士達が闇の書のページを埋めていくのと合わせるかのように侵食されているので、最悪はそっちとこっちの状況がクロスして最悪な状況に……。

 

 確証無しの嫌な想像はやめよう。

 それをさせぬために我らリコちゃんズは闘争をしているのだ。

 リコちゃんズって言うとなんかいっぱいいそうだけど、いるのはリコっち(ボディ)とリコじ(俺)の二名だけど。

 

「やあ、来たね」

「おはようクロノ」

 

 家に入ると同時にマグを装備。状態異常回復系のアクションを存分に盛った特別品で、いざ気絶したりしても平気なように備えている。餌やりも万全。

 微かに掴んだリコの記憶によれば、アンティやソルアトマイザー等はダーカー因子の浄化に通じるらしい。それならば、マグの回復も効くと踏んだ。

 

「……顔色が悪いけど、大丈夫かい?」

「寝不足。万が一が怖くて夜も寝られない」

 

 寝落ちと言う名の気絶をしても良いように言い訳をセット。

 さてさて、俺の方も時間が惜しいし早速聞かせてくれ。

 まずは……そうだな、手始めにどのくらい情報が集まったのか。

 

「君に言われて改めてフォトンとダークファルスについてを纏めてみた。それと、例の板も今エイミィに取りに行かせてる」

「誰がまな板だって?」

 

 早速話を逸らそうとしてんじゃねぇよ俺!

 ソファに座り溜息。よし。

 

「ダークファルスがどう伝わっているのかをば頼む」

「わかった」

 

 空中モニターが展開。

 

「見つかったのはプレシアの所有していた資料のみだが、それでもだいぶ数があってまとめるのに苦労したよ。ユーノが」

 

 ユーノくんマジお疲れ様。まとめてこの量か……。

 ボディに内蔵されてる翻訳機能だけじゃ追いつかんのぅ。

 時間かかるしかいつまんで話せない?

 

「ユーノが注視していたのは考察や記録じゃなくて原文の一部だった」

 

 一部の資料が抜き出されて、そこは俺にも読める部分だった。

 そこに書かれていたのは――

 

 

 

『光ありて、影を成し。対ありて、対無く。不在の在。

 

 千年に一度甦る破壊神、全宇宙の脅威。

 

 そのものの名は、ダークファルス』

 

 

 これって……!

 

「翻訳の精度もあまり良くはないが、ユーノはこれが本当ならとんでもないと言っていた。……君の反応を見る限り、間違いはなさそうだね」

 

 この部位を、まさかこの文を抜き出してくるとは……。

 大げさかも知れないけど大げさじゃない。

 

「最悪な事に過去のいつに現れたかが分からないんだ。恐らく君が狙われたというのも、ファンタシースターの宇宙から来たことを千年ぶりに甦ったかと勘違いをされたか」

「警戒に越すこたないさ。小を捨てて大を救うことは間違っちゃいない」

 

 ま、その小がとんでもない事をやらかすのがファンタシースターシリーズなんですが。

 っていうかちょっと待て。過去のいつに現れたかわからないって、現れたこと自体は確認できてんの!?

 フォトンのないこっちで討伐か封印が出来てるって……!

 

「いつかも分からない大昔に闇の欠片と呼ばれる物が現れた時、運よくそう言った物を閉じ込めるのに丁度良い器があったそうだ。その器がなんなのかまでは分からなかったけど」

「下手に資料残されると墓暴きされちゃうからね。仕方ない」

「無限書庫に入ったユーノもダークファルスを重く見て闇の書のついでで調べてくれている。それで詳細が分かるかまでは保証できないが」

「いやいい。少なくとも仮面の奴がオレの尻を狙いたがる理由も分かった」

「……女の子なんだしもう少し言葉使いを直したらどうだ?」

 

 あの仮面も、宇宙の脅威とは言え半信半疑だったかもな。

 猫を使って普段の振る舞いも見ているだろうし、よりためらったか。

 

「はぁ……」

 

 その考えは同時に助かりもしたけど。

 俺の存在をダークファルスとイコールで結び付けた事は間違ってはいなかったんだから。

 

 けれど俺とは別に奴がいるなら話は別。

 話を聞いて場合によっては介錯を受け入れる気持ちになってたけれど、それをするにはまず欠片の方をいちアークスとして片付けたい。

 片付けたいが……。

 

「浮かばれないか?」

「アークスの勘だが、その欠片はすぐ近くにいる、封印も危なそう。程度にもよるが欠片程度ならフィールドを整えてくれさえすればオレ単騎でも討伐できたと思うんだがなぁ」

「できた、とは?」

「病気だよ」

 

 クロノが驚いた顔になる。

 病気とは嘘だが似たようなもんだ。

 同時に装備していたマグが数度輝き、一瞬飛んだ俺の意識を持ち直させてくれた。

 

「この通りオレはもう長くない。欠片の討伐なんて事をすれば確実に死ぬ」

「病気の事を、なのはや他の人には?」

「誰にも。あー、いざとなったらって事で信用できる奴にビデオメッセージを残してるけど」

 

 俺の生存ルートと闇の書解決ルートを同時進行でクリアしたかったけど、嫌な感じがしてきた。

 勘だが。本当に勘だが、言った通り封印された欠片はすぐ近くにいる。ダークファルスに近い(リコ)と呼び合っている。意識したらそんな感じがした。

 迎え撃って順調に戦っても最期のあがきとして融合しにくるか、あるいは内側から乗っ取られた俺が自ら進んで迎えに行くか。どちらにせよ邂逅した時点で終わりだ。

 

 無視して俺とはやてがハッピーになった所で、近くにいるであろう欠片の封印が解ければ強制バッドエンド。おしまい。

 全部台無しになる。

 

 ――俺の生存ルートは最悪もう切り捨てて、闇の書解決と欠片討伐にまずは絞ろうか。

 

 

 ……いい夢だったぜ。

 幸せな家族、楽しい家庭。リコの記憶には足りていなかったもの。リコが渇望していたもの。

 最期まで戦い続きで家族を得た事のなかったリコにとって、この半年はあまりにも眩しいものだっただろう。

 自らに向けた問いは迷うことなく肯定で返された。

 

 気が遠のいたのを抓って防ぎ留める。

 

「欠片の所在がわかったらオレが回収に行く。で、取り込んだらお前達の持つアフリカンシェフだっけ、あれでオレごと消し飛ばして欲しい。どうせ短い命だ」

 

 せめて自分を犠牲にしてでもやっとできた家族だけは守りたい。

 心の奥底から、俺だけでなくリコまでもが願う。

 ポケットに入れていた取り込まれるなと何度も殴り書きされたメモを握りつぶす。もう不要な望みだ。

 

「どうして犠牲になる必要がある! 気軽に言ってくれるな! 例え命が短くたって最期の時くらい……」

「ダークファルスは実体を得るためにまず依り代を探す。オレが依り代として抑え込めば、確実に消し去れる。誰かがやらにゃならんことだ、適任だろ」

 

 かつてナギサがやっていたような事だ。釣って自分ごと死ぬ。

 失敗した時に備えてシグナムにはメッセージを残し続ける所存ではあるけど、はやてやヴィータには元の宇宙に帰るとでも言っておこう。

 

「まだ封印されているし、対処法だって……」

「専門家の意見は聞くもんだぜ?」

 

 クロノは何も言えなくなり、顔を伏せ拳を震わせていた。

 

「……ちょっと休むわ」

「リコ!」

 

 もう限界だ、寝るっていうか気絶。

 起きるまでに昨日言ってた提督さんか板の用意を…………。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-26 マターボード

 ――ぱんっ!

 

 

 謎の破裂音で目が覚めた。

 

「……ここ、どこ?」

 

 何してたんだっけ……。

 なんで知らん人の家に……。

 

「や、やあ、起きたかい、リコ」

 

 んー……なんでクロノがおるん……?

 

「リコちゃん平気!? クロノくんに何かされなかった!?」

「……なんの話さね」

「だから僕は何もしてないって言ってるだろう!」

 

 エイミィさん元気だねぇ。

 ちゅーかここクロノん家? なんで俺ここにおるん。

 

「なぜって、ダークファルスの話をしてて……」

 

 ダークファルス?

 

「あー。そうだ、そうだった」

「しっかりしてくれ」

 

 で、なんでクロノっちは綺麗な紅葉をほっぺに付けてるんです?

 まさかアルティメットシャイニングサバイヴブラスターキングかわいいリコちゃんが寝てる所に襲い掛かろうとしたか? 命知らずめ。

 戦場に身を置いていたリコボディは寝起きこそ悪いが寝ている時以外はいつでも迎撃できるようになっているぞ。

 

「それってつまり寝てるときは隙だらけって事でしょ? クロノくんったらソファで寝てるのを良いことにリコちゃんの顔をじっと見つめて……」

「う、うなされてたみたいだから、心配していただけだ!」

 

 浮気現場押さえられた人みたい。

 

「残念ながらリコちゃんは稼働して5年程度の幼女なので立派な犯罪だぞ。諦めな」

「だから違うと……待て、稼働ってなんだ」

 

 ぱちっと俺も頬を叩き、目覚まし完了。

 さて、えっとなんだっけ。

 

「そうだ。提督さんかまな板の話だ」

「流すのか……。ーー向こうはまだ仕事があるみたいだから、先にエイミィに板を持ってきて貰っていた」

 

 で、その待ち時間に寝ている俺に惚れちゃったと。

 いやあ照れるね。見納めになるから写真撮りたいなら一枚無料で良いぜ。

 友達料金だ。

 

「縁起でもない事を言うな」

「いいじゃん。で、その板って?」

「これ。リコちゃん分かる?」

 

 エイミィから半透明な板を――

 

「嘘だろ?」

 

 物理的に渡されたそれは、見間違いなくかつて色々と仕様的に苦しめられたマターボードだった。

 

「知ってる物?」

「あ、ああ……」

 

 ゲーム的にはストーリーを進めるのに必要なもの。

 そしてストーリー的には、歴史の改変と歴史の進行に必要だったもの。

 

 シオンやシャオが未来を目指すために演算で生み出す物が、なぜここに?

 そして、どうして物理的な形を持って存在している?

 

「簡単でいいから説明してくれないか」

「これは物語を進めるために使われたもので、これに沿って行けば物語は完結する」

「物語?」

「うーん、メタ的な考えだよ。例えば……」

 

 例が思いつかねぇ……! え、えっとね。

 このマターボードって13個の黄色いマスがあるでしょ?

 で、今は5個めまで埋まってる。

 

「今クロノ達が担当してる闇の書関連を13話のアニメと仮定したときに、マターボードはその進行具合を示してるって感じ」

 

 マターボードを使ってる人以外にとっては進行に加担してるかどうかわからないから、仮に見せてもどれくらいで解決するのかの指標にしかならないし間違った説明ではない……と思う。

 にしても、このマターボードは誰が作ったんだろ。

 リコじゃなくてプレイヤーの勘的に製造元が違う気がする。

 

「未来を読んでいるのか……?」

「それ割と正解だわ。全知の存在が演算で未来予知して作ったから」

「全知って、神様が作ったって事? そんなロストロギア聞いた事がないよ……」

「僕もだ。ファンタシースターっていうのはとんでもないな」

 

 へへ、照れるね。

 けどそれくらいのチートがバックについてても割とギリギリな戦いをずっとしてるけど。

 ギリギリっていうか、宇宙ぶっ飛んだけど。ナム。

 

「でも割と違和感あるんだよなぁ」

「そうなのか?」

 

 メインストーリーのマスが13個ある以外は何もないシンプルなものだ。

 不慣れな模倣というか、急いで作ったのか。ともかく、ファンタシースターの製品ではあるけどオラクルの正規品ではない。

 シオンやシャオのはブーイングの起きる面倒な仕様だったし、似ているとすれば滅茶苦茶整理されてやりやすくなったEP4のストーリーボードか。

 

「オレでもわからん事はある」

 

 ちゅーか、なんでそんなものをそっちの人間が持ってたんだ?

 どっから拾ったんだか。

 誰だっけそれ持ってたの。今はどこにおるん。

 

「プレシアは、もう」

 

 あっ、りょかいっす。

 

「フェイトとアルフにも何か知らないか聞いてみたが、有益な情報はなかったな」

「そうねぇ。事件の時に言ってた何たらの存在も意味が分からないし」

 

 おいちょい待てやおふたりさん。そこ重要よ、この美少女探偵リコちゃんに話してみ。

 普通これ知らないって聞く場面でしょうが。

 

「確か、母なる存在から賜った……だっけ」

「だったはず。すまない、脱出中の出来事だから忘れかけていた」

 

 むぅ。ママンなる存在だ?

 

「ああ。プレシアがそう言っていた」

 

 マターボードに似たものを生み出せる母なんて心当たり一つしかないんだけども。

 

「全知を模倣して作られて失敗して捨てられたマザーってのが地球に辿り着いてたとは思うけど、それはファンタシースターに存在する地球だしなぁ」

「うん、待ってくれ。当然のようにロストロギアを作らないでくれ。そして気軽に破棄しないでくれ」

 

 同じ地球同士境界線が緩かったんかな。

 緩かった結果ならアークスシップに歌の上手いサラリーマンが現れたのにも納得いくね(雑)

 

「で、プレシアママはどうやって使おうとしたんだ?」

「ジュエルシードの魔力を使って過去へ飛ぶと言っていたが、そんなこと可能なのか?」

 

 過去へ行くこと自体は場合によっちゃできるよ。

 時間溯行をして歴史を改変するのがマターボードを進めるために必要なら。

このマターボード、若干進んでるけど元からこんな?

 

「いや、数日前……丁度なのはが襲われたり君がマグロでサーフィンをしていた頃から少しずつ光が増えてる。最初は一つも光っていなかったんだけど」

 

 プレシアが持ってた頃にひとつも進んでないなら、それはそのマターボードに記されてるシナリオ外の事。

 残念な言い方になるけど、プレシアはどうやったところでそれを使うことはできない。

 

「……フェイトとアルフには言わないでおこう」

「そういやさっきからその名前出してるけど、関係あるん?」

「お母さんだよ」

 

 へー。ママンなのか。

 そいつぁ言わんのが正解かね、亡くなったママンの持ってたのが無意味な物だったとは。

 

「リコちゃん本当に子供? 冷静すぎて怖いけど」

「はぁい! 美少女系リコちゃんです! ぶい!」

 

 クロノは目を伏せてお茶を飲んだ。

 エイミィは空いたコップにお茶を注いだ。

 

「待ってよ。振っておいてそりゃないよ」

「あまりにも痛々し過ぎて見てられない」

「ね」

 

 ちょ、ちょっと待て、ここでも俺そういう扱い?

 はやてやなのはだけでなく、ここでも?

 

「フェイトのおかんの事を冷静に流したの謝るから! オレちゃんって純培養で今まで親知らず(物理)だから疎いの!」

 

「さらっと黒い事を言うなよ!」

 

「クロノだけに!?」

 

「掛けてない! ふざけるな!」

 

 ガチギレっぽいから普通に謝ろう。

 上目遣いにごめんなさい。

 

「うっ。ぼ、僕も言い過ぎーー」

 

 ーーエイミィのビンタ!

 

「なんで……」

 

 クロノダウン。

 

「く、クロノーーー!」

 

 これが、嫉妬ってやつなのか……!

 

「違うよ」

「そう言いながらオレに近づくのやめてくれま……やめ、オレのそばに近づくなぁーー!」




次回! やっとこさ提督によるエミリア話!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-27 エミリア

「いいかい。相手は提督でとても目上の人。僕の恩人でもあるし絶対にふざけず、そして失礼のないようにしてもらいたい」

「オレの今までの振る舞いは決して真面目ができない訳じゃなくて顔を会わせ判断してからだというのを弁解しておく。その心配は不要だぜ」

「エイミィ、空気変えるために少し間をおこうか」

「そうね」

「わっちの話聞いてた?」

 

 その注意の仕方なんかデジャヴ。

 前は何してそれ言われたんだっけ? 料理した時?

 いやでも俺って料理したことあったっけ。無味になるのはわかるけどそれが発覚したイベントが思い出せない。

 

 あ、そういえば何て呼べばいいんだろ。

 グレアム提督とはクロノは言ってるけど、今のところ部外者たる俺が堅苦しく提督呼びしちゃっていいんだろうか。

 

「普通にグレアムさんと呼ぶべきか、あるいはこのかわいい見た目を武器にグレアムおじちゃんと言って陥落させるか」

「……一番ボロが出にくいさん付けでいいんじゃないか?」

 

 ボロって何よ。

 

「とりあえず、オレ口調はやめてわたしといこうか。んで、なるたけ丁寧語。要するに翠屋でバイトしてる感覚で」

「リコちゃんってアルバイトしてるの?」

「こっちで世話になってる家でヒモニートなのは心がしんどかったゆえ」

 

 ちょっと待ってね、スイッチ入れるから。

 ……よし。

 

「クロノくん、色々調べてくれてありがとね。それと、グレアムさんとお話しする機会をくれたのもありがと」

 

 なんで目を逸らすねん。

 

「君の気紛れが解けない内に繋ぐよ……」

 

 失礼な。

 ダークファルスの欠片とエミリアについてを知れればおっけーなので、この二つだけをしっかり意識していれば平気。さぁカモンベイベー。

 「繋ぐぞ」と言い、場に緊張感が出る。提督がどれくらい偉いのかは正直あんましわかんないけど、どれくらいだろ。

 

『こんにちは、繋がったかい?』

 

 管理局はテレワークがデフォらしい。おじいちゃんの顔が空中に映し出された。

 

「グレアム提督、お久しぶりです」

『クロノ…………どうして両頬が真っ赤なんだい?』

「その、色々ありまして」

 

 エイミィ怒りのビンタ撃によってクロノのほっぺは真っ赤なり。

 原因は俺にあるような気がしないでもないので我も話に入るか。

 

「初めましてグレアムさん。わたしはオラクル……そちらで言うとファンタシースターの世界から来ました、リコ・クローチェです」

『驚いた。聞いていたけれど、まだこんなにも幼かったとは……』

 

 幼女やでと言いたかったけど、流石に我慢する。

 

『私はギル・グレアム。肩書は色々あるけれど、気軽に接してくれて構わないよ』

「忙しい所を今日はありがとうございます」

『いやいや、こちらこそファンタシースター世界の出身である君と話ができて嬉しいよ』

 

 やっべぇ。

 表向きはただの挨拶だけど、この人すっげぇ俺の裏っていうか本質を見抜こうとしてくる。

 腹の探り合いって言うの? ともかく、表情の作り方とかからそんな感じがビンビン。

 

『クロノから聞いたのだけれども、何か聞きたいことがあるのだとか』

 

 自分から話さないかー。

 まあいいや、この人がなんか企んでるにしろ、こっちが知りたい情報は決まってる。

 

「エミリアという名前についてです」

『ほう、エミリア。それはどうしてまた』

「わたしがこちらの世界へ来たのはちょっとした事故なのです。それで、色々と調べていたらエミリアという名前がこちらに伝わっていると分かり詳細を聞きたくて」

『……そうか。わかった』

 

 横を向いて何やら指示を出して、紙の資料を手に取って。

 向こうでもアナログな紙を使う事ってあるのね。

 

『私がファンタシースターの宇宙を目指すことを諦めたのは、そのエミリアからのメッセージなんだ』

 

 紙を裏返して俺に見せてくれる。

 そこには何パターンかの文字があり、その中には俺にも読めるオラクル文字もあった。

 他の文字も、ギリギリ読めなくはないけどちょっと難しい。

 書かれている内容はどれも同じ。

 

『悪神がどこにも行かないように宇宙を閉ざし繋がりを断つ。助力を得て。――この訳で合っているかな?』

「そう、ですね」

 

 ちゃんと訳して要約するとエミリアはダークファルスが他の宇宙……と言うよりも、ここのような異世界へ行かないように、ファンタシースターシリーズの宇宙内だけに閉じ込めるようにしたらしい。

 助力というのが誰なのかは分からないけど、いくら天才キャラなエミリアといえどひとりで全部は無理だったんだろう。シャオかシオンか、その他色々。一般アークスなリコが知らない所で色々やってたんだな。

 後出し設定なんて卑怯だぜ、全く。

 

『このメッセージと共に、もし悪神が現れてしまった場合の対処法についても』

 

 続いて見せてくれたのは設計図や計算式。

 翻訳云々じゃなくて、学的に理解は難しかったけど封印するものなんだろうなーってのは分かった。

 登場初期の頃の怠けたイメージが抜けきれずあったけど、エミリアの奴こんなに……。

 

 超危険な大型兵器に封印装置。それを扱う権力。

 仮面野郎の上司はグレアムさんレベルか。あるいはその本人そのものか。

 気になっていたエミリアの話も聞けたし、次は欠片についてを聞こう。

 

「こちらの世界に闇の欠片……つまりダークファルスが存在していると聞きましたが、それについてはどうでしょうか?」

『そのことか。一つ聞きたいのだけど、もし封印が解けた時は君での対処は可能かい?』

「はっきり言うと不可能ですね。もし被害を抑えるというのなら、わたしがダークファルスと同化して一つとなったその瞬間に何か丁度良い……それこそアメリカンシェフみたいなのを撃ち込んで……」

 

 ……。

 …………。

 

「リコ」

 

 あ、しまった。意識が飛んでた。

 

「ありがとうクロノ。それとグレアムさん、失礼しました」

『いや……大丈夫かい?』

「ええ。ちょっとした病気みたいなものでして」

 

 どこまで話したっけ、伝えたいことは言えたかな。

 

『しかし、アルカンシェルか……』

「考えられる限り、大を救うならこれが一番かと。問題は、その欠片の所在が分からない事なんですけどね」

『封印ではダメなのか。閉じ込めて、その内にダークファルスを祓う方法とかの可能性は』

「それができるなら、たぶん欠片も今頃ないですし」

 

 ……あれ、なんでグレアムさん躊躇っとるん?

 じゃあシェフ砲とか封印装置とか用意してたくせして、頼まれればヒヨルん?

 

「グレアムさん、いざという時はお願いします」

 

 映像越しではあるけど目を見て。

 俺がかわいいというのはさておき、お願いする姿勢にはグレアムさんは更に狼狽えていた。

 横でクロノすごい顔してる。

 

『すまない、君の意見は正しいのだろうけど、そう頼まれると……』

「ですよね。気にしないでください」

 

 エイミィも暗い顔をしている。

 ま、そうだよね。自分たちよりずっと幼い女の子が、生贄になるから殺せと頼み込まれるのは。

 

 でもまあいざという時は平気じゃない?

 そん時はたぶん、人の姿じゃないだろうし気が付かず撃つさ。




筆者からお知らせです。

楽しみにしてくれているという方々がいる事は飛び上がるほど嬉しく(上昇負荷)、モチベーションとなっておりましたがリアル事情によりストックが尽きました。今話もギリギリです。
本作をお褒め頂いている所を本当に申し訳ありませんが、一週間ほど隔日での投稿とさせて頂きます。
これからもよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-28 イヌコロ

 その後は特にこれと言ってめぼしい情報もなく、ただの雑談と相成った。

 そこで聞いたことによれば、割とこっちの世界に来てからすぐに俺の存在自体は察知していたらしい。

 仮面=グレアムの部下説が増したけど、クロノ達がいる手前黙っておこうと心に決めた。余計なごたごた増えてもしょうがないし。構ってらんないぜ。

 後で仮面にちょっと確認のメールしとこう。

 

 遠回しに聞くには俺に気が付いてからすぐ対処しようと思ったけど、想像以上に敵意もないしで躊躇いが加速したっぽい。

 自分が絶対倒したる! って思ってたら拍子抜けした上、標的の美幼女から覚悟ガンギマリの告白よろしくバッチコイされるしグレアムさんの精神が風邪引きそう。

 

 あとファンタシースターへの憧れは本物だったらしくて、スクショ見せたら喜んでくれた。流石にロビーで躍り狂うアークスの姿や溶岩風呂を楽しむアークスの姿は見せられなかったけど。

 スペース・ツナについては突っ込みを食らった。

 念入りにメイン武器がラヴィス=カノンであることをプッシュしておいたけど、伝わってくれただろうか。

 

「――病気?」

「そうらしい。純培養とも言っていたし、そう短命に生まれてしまっていたのかも……」

 

 えー、現在はですね、聞き耳を立てて嘘寝中です。

 途中までガチ寝してたけどね、気が付いたらクロノとエイミィが俺について話してたのでつい。

 あとてめぇクロノトリガー。余計な考察でややこしくするな。

 種を撒いたのは俺だけど!

 

 与えた設定が具現化してるリコではあるけど、短命設定を入れた覚えはないです。

 直接の描写はされないけどモノローグでその後亡くなった事を仄めかされるのは性癖だけど、今になってそれのために設定を追加しなくて良かったって思ってる。

 寿命が長かろうが短ろうがすぐ散りそうなんですがね、我が命。

 

「小さいのに、使命を果たそうとしているのね」

「自分たちの世界にしかいないはずのダークファルスを、責任だからと背負わせるのは重すぎる」

「ユーノくんが無限書庫で何か持って帰ってきてくれるといいけど……」

「ああ」

 

 瞼を閉じているので真っ暗で分からないけど、今俺の頭を撫でたのはエイミィじゃな?

 

「今は平気みたいね」

「エイミィが帰ってくる前もさっきみたくうなされていたんだ。覚悟をしていても、やっぱりまだ子供だ」

 

 大丈夫? 前にシグナムに話しかけたみたいな喋りしてない?

 わざわざ繰り返し寝言を言ってもくれなさそうだ。気になるんだけど。

 

「あ、起きた」

 

 気が付かれたのでエイミィさんおはよう。

 良い撫で方だったぜ。

 

「起こしちゃった?」

「へーき」

 

 のびー。

 さってと、情報も集まったし一回帰りますか。

 欠片がどこにあるかも探さないといけないしね。

 

「っとと」

 

 ふらついたぜ。

 

「起きたばっかりなんだ。少し休んでいった方がいい」

「お茶いれるね」

「悪い」

 

 あ、砂糖はいれないでね。ゲロ甘いのを飲むのは社交だけなんで。

 ソファに座り直して欠伸しつつもういっかい伸びてると、子犬が走ってきた。

 

「犬ドッグなんて飼ってたんだ」

「なんだその呼び方。アルフだよ」

 

 アルフってなんだっけ。こんな子犬は知らんぞ。

 てか、シャベッタアアアアアア!

 

「覚えてないのかい? ほら、フェイトの」

「……ああー。あ、アルフかぁ。ひ、久しぶりだね」

 

 ええ、自己紹介したっけ。

 全く思い出せないんだけど。あれ、俺もしかして記憶力もやばい?

 

「ちなみにあたしとは初対面だよ」

「鎌かけるんじゃねぇ!」

 

 俺は、俺は犬にしてやられたのか……ッ!

 

「犬犬って失礼だなぁ。あたしは狼だよ」

 

 大神? マジかよ。失礼しました! 

 飛び上がり空中で捻りを加えながらゆっくりと着地し、フォトン光を輝かせながら土下座。

 これがSジャンプと土下座の合わせ技だ!

 

「うおっ! な、何をしたらそんな……って土下座!?」

 

 大神ってすげえ奴じゃん。ゲーム的に。

 コラボアイテムでミュージックディスクください。

 マイルームっていうか八神家に奏でたい。

 あいつらに布教するんだ。大神はいいぞ(ダイマ)

 

「なんの話だい……。あたしはフェイトの使い魔だから、そんなしなくていいよ。それとも、そっちの世界じゃ使い魔は偉いのかい?」

 

 使い魔……サポートパートナーか。

 

「偉くはないな。名実共にパシりだし」

「その一言で立場がわかったよ」

 

 GH-44X(マジシャン型)が好きでサポパの外見それにしてました。ゲームやってた頃の初見時はSEGAのマジシャンって事でHODを思い出して警戒したのはもう錆び付いた古の良き思ひ出。

 つかアルフっていたの?

 姿を見てなかったんだけど。

 

「真面目な話するからってリコが来る前にクロノが追い出したんだよ」

「へー、フェイトも?」

「フェイトは学校」

 

 残念だ。

 フェイトの声ってなんか凄い親近感と言うか、偉大なる先輩の声に似てるからお聞きしたかった。

 

「ちなみにクロノは兄になる予定だよ」

「マジかよ。クロにぃ」

「誰が君の兄だ」

 

 髪色的に黒髪クロノが兄なのは違和感しかない。

 むしろ姉妹になるなら俺だろう。道を違えばフェイトの妹になれた。

 あいつは優しいから、きっと俺の扱いが良くなるはず……!

 

「金髪なの一部だけじゃないか。それと、妹じゃなくてあたしの下な」

 

 ワンコロより下なの俺。

 

「んだよ。あーあ、じゃあアリサのところ行くわ」

「あそこも犬ばっかだから、たぶん立場変わらないと思うよ。一番下」

 

 ワンコロ達より下なの俺。

 

「もうまぢむり。今いる家最高だわ……」

「そういやあんた次元漂流者なんだろ? 家はどうしてるんだい」

 

 話をしたついでの流れでリビングのソファをくれました。

 部屋を割り振られそうになったりもするけど、それは断ってる。

 

「へー、良い人もいたもんだ。部屋って、犬小屋?」

 

 ついにワンコロ扱いなんだけど。やったねランクアップじゃん(ポジティブ)

 ひどくね?

 八神家での俺の扱いは……。

 

「あれ、犬とどっちが上なんだろうオレ」

 

 下手するとザッフィーの方が良い待遇なんじゃなかろうか。

 ザッフィーもガチ犬じゃないから犬のフリをしてるだけで他の面々と扱いは変えてないけど。

 あれ、地位が低いの俺だけ?

 

「で、でもほら、オレの方が寝てる座標上だし」

「物理的な上下じゃないよ」

 

 本気じゃないじゃれつきの悪ノリなのは知ってるから、別にいいんだけどね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-29 あったかハウス

アンケートへのご協力ありがとうございます。
更新については活動報告をご確認ください。


 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

「お?」

 

 気が付けば夕暮れの臨海公園でベンチに座っていた。

 なんでこんな所にいるんだ?

 

 確か、クロノん家から帰ってて……。

 途中でふらっと来て記憶が途絶えてるな。

 

「冬の夕暮れ、出迎えてくれるのは乾風だけなのか。なんてね」

 

 うう、さむ。さっさと帰ろう。

 上着のポケットに手を突っ込むと、ぐちゃぐちゃになったメモ……というよりお手製名刺が出てきた。

 そういえばそうだ、俺の生存は諦めるって話だった。

 

 にしても、これで良いのかねぇ。

 

 気が付けば思考を誘導されてる信用できない我が身の出した答え。これで良いんだろうか。

 この案がダークファルスさんがささやいた物なら、失敗して俺ちゃん最大往生&最大復活となるんじゃ?

 なんか引っかかる。この作戦で本当に良かったんだろうか。

 リコの記憶を引っ張り出して浄化する作戦はもう間に合わなさそうでダメだし、これしかないとは思ってるけど……。

 

「っとと、それこそよ」

 

 いや、大丈夫だ。自分を信じろ。俺の信じる俺を信じろ。

 今のは最善案を破棄させようと妨害しに来たアレだ。冷静に策を組み立てれば俺が欠片を取り込んで吹っ飛ぶのが良い。

 変な設定をリコに追加して、ファンタシースターの能力をねだって、その結果が平和な世界へダークファルスの持ち込みなら俺が責任を負うべきだ。

 

「ん?」

 

 ポケットの中にもう一つごみ……じゃないや、メモが入ってた。

 

「二枚も入れてたっけ」

 

 震えた走り書きだが、オラクル文字だ。

 

「“誰でもいい、解放して。もう夜明けが見えない”……か」

 

 ……俺の中にいるリコがまた表に出てきてたのか。

 それに、あいつはもう、完全に諦めちまってる。

 

 フォトンは想いを力にする。諦めたら試合終了だとはいうけれど、正しくその通りだ。

 諦めて嘆いて止まったら、最後に救える一つすら失ってしまう。

 リコが戦う理由としていた「力なき者の剣となり盾となる」を今こそ果たそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「おかえりー」

 

 すっかり日も落ちて、真っ暗な中で明るい我が家に戻ればほっとする。

 この日常もいつまで続けられていつまでいられるかわからないけど、今は謳歌させてもらおう。

 

「リコちゃん遅いから心配してたで。また拐われとらんかなーって」

「その心配は無用だぜ。むしろ相手の心配した方がいい」

「意外とゴリラやもんな」

「バナナ寄越せおら」

「買ってあるで」

 

 oh……バナァナ……。

 食事前なので食べないけど。

 

「そういえばリコちゃんってなんか好きな食べ物あるん?」

 

 好きな食べ物ねぇ。

 パッと思い付いたのはウナギだけど、それが好きなのは一匹倒すと25万稼げるからだ。

 ウォパル探索とバルロドス討伐を同時にやろうとオーダーを貯めて忘れてしまうのはよくやった。

 

「たっかいウナギやなそれ」

「物価が壊れてると思ったけど、ケーキが1000メセタ程度で買えるの見るとアークスが高給取りなのかなぁって」

 

 意外と死亡率高いぞアークス。モブに厳しい。

 忘れるな黒人兄貴隠蔽事件。

 

「お、リコ帰ってきたのか」

「ヴィータいたのか。風呂上がり?」

「うん。ーーそうだ、ちょっと待ってろっ」

 

 俺を見るなりどっか行った。

 そういやはやての風呂は?

 

「まだや。リコちゃんおらんかったやん」

「最近オレとお風呂入るの日課になってるもんな」

「手間かけて悪いなぁ」

「今更よ」

 

 そう今更。

 そんなお風呂の手間が云々より、俺としてはヴィータの口が悪くなってる気がするのが気になる。

 

「ヴィータの? 前からちょっと口調がリコちゃん寄りになっとる気はしとったけど」

 

 それは俺が悪いと言いたいのか?

 いやさ、ヴィータって前まで知らん奴への二人称が「お前」とかだったじゃん。なのにだんだん「貴様」呼びが定着してる気がして。

 

「ああー。この前私が男の子の集団に絡まれたとき、確かに貴様って言うとった」

「待て。なんだそいつら。我がラヴィス=カノンの頑固な汚れにしてやる」

「リコちゃんもヴィータみたいなこと言うとるで」

 

 お互いに影響を受け合う、まるでライバルみたいじゃないか!

 

「頼むからその方向で高め合うのはやめてや」

 

 ヴィータが帰ってきた。

 なんか手に紙を持ってる。

 

「リコだ!」

 

 画用紙に描かれていたのは、上手いとも言い切れないが確かに俺の顔がでかでかと描かれた絵だった。

 

「さっき一緒に描いててな、びっくりさせよて。ーーリコちゃん、にやけとるで」

「ヴィータ!」

「わあ!」

 

 思わずハグ。

 ありがとうヴィータ。その想い、確かに受け取った!

 

「これこそ、この暖かい家こそ、オレの守るべき物!」

 

 決して壊させんぞ、決して!

 

「な、なに言ってるんだ……?」

「さあ。いつもの事やろ」

 

 ひどい言われようだ。

 だがしかし、これはとても励みになる。

 折角だからリビングの隅に着々と勢力を広げつつあるリコちゃんコーナーに飾ろう。

 

「カオスなラインナップの中に唯一の良心が生まれた」

「あ、混沌としてるのは自覚しとるんや」

 

 空いてるスペースに適当なテーブルとか置いてるだけだし、その横にいるナベリウスパパガイも混沌に一役買ってる。

 俺の絵が沢山のフォトンドロップに囲まれて祭壇が完成した。

 

「オレは、イヌコロ以下じゃないんだ……!」

「いやマジで何言ってんだ?」

「発作やろ」

 

 それやぞ。その扱いやぞ。

 でもそれも家族愛の形。リコチャンシッテル。

 絵の横に貰ったマターボード(仮)も添えておく。

 うーん、なんか遺影みたい。縁起悪いな。

 

「でもこれでやる気でた」

 

 かのヴァンパイアハンターとして有名なラルフ・C・ベルモンドは宿敵ドラキュラを討伐しに出る直前、生きて帰れないことを覚悟し墓石へ自分の名前を自分で掘ったと言う。

 なお嫁を見つけて生還した模様。

 

「はやてにヴィータ、一応言っときたいんだがな」

「うん」「なんや」

 

 あー、いいや。

 ちょっと言いにくいし遠からずバレる嘘だけど言おう。

 

「近々オレの故郷、オラクルに一旦帰るかも」

 

 そんな目で見るなよ。

 

「事故とはいえ手続きも無しに来ちゃってたから色々書類もあるし、すぐには戻ってこれんけど」

「……一旦、なんよな?」

「ちゃんと帰ってくるんだよな?」

 

 ふたりとも勘が鋭いなぁもう。

 俺が今まで嘘ついたことがあったか?

 

「……いや、そう言われると自信ないわ」

「だな。普段から何言ってるのかわかんねぇし」

 

 おいまてこら。そこは頷く所だろうが。

 

「ちゃんと行動で示さんとリコちゃん信用ないからなぁ」

「貰ったチョコも食わねぇ義理の無さもな」

「そそ、無駄なところが真面目なんはわかるけど基本はイカれとるからな」

 

 誰がイカレポンチじゃ。

 

「ちゅうか、リコちゃんのいた世界って滅びたんと違うか?」

 

 え?

 

 ……あぁー! 忘れてた!

 や、やべぇ。ここに来て最近の物忘れが来やがった。

 ええっと、その

 

「オレのいたオラクル、実は無事だった」

 

 そうだよ。

 てっきり俺は防ぎきれずに消し飛んだかと思ったけど、超天元突破ギガフォメルギオンブレイクが思ったより強く出たみたいで競り勝ってたみたい。

 俺はほら、その衝撃で結果が見れてなかったからさ、うん!

 

「なんか嘘くさくね?」

「……まぁ、しばらく家を空ける程度ならどうせリコちゃんやし死ぬわけでも無しに心配いらんけど」

 

 もっと心配してくれー! はやてー!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-30 なのはとフェイト

アンケートへのご協力ありがとうございました。
結果は

(265) 毎日
(104) 隔日
(45) 週3
(34) 週2
(318) 毎秒

 です。
 ……どうやら読者様の中にはキャストが多いみたいですね……。


 ぱっぱらぱー!

 

 さん! にー! いち!

 どっかーん! わーい!

 

 

 おーいみんな集まれー!

 なぜなにリコちゃん、始まるよー!

 

 

 

「……助手がいないの寂しいな」

 

 まあいいや。

 欠片探しに放浪するのは疲れたので、休憩がてら土手に寝転がり今までの軌跡を振り返ってみよう。

 なりそこない英雄伝説・リコの軌跡。

 

 始まりははやてが闇の書を手に入れた頃とか、誕生日に守護騎士が現れたとか色々あるけど、不穏な影を見せ始めたのは秋も終わりかけな時期に検査入院をした時だ。

 はやての足の麻痺が悪化してきていると話があり、同席していたシャマルが何かを察した。

 俺も一宿一飯(半年)の恩があるし治してやりたいと思っていたところ、仮面の襲撃を受ける。

 

 守護騎士にハブられてたのを地味に気にしてたところ、家族だと言われ嬉しかったです。

 なお麻痺の治療に関する動きは引き続きハブられた模様。

 

 仮面再襲撃に備えて修行しつつ治療のための試行錯誤する日々を送っていた所、帰りの遅いヴィータを買い物ついでに拾おうと夜の街へ繰り出しそこで戦闘に巻き込まれる。

 この頃からダークファルスの影響がモロに出始めてたんだよな。コスプレとは言え【若人】戦闘衣を心地よいと着たり、仮面との受け答えの時に勝手に喋ったり。

 

 後日の職質(棚の組み立て)でようやく騎士達の目的が知れると同時に、なのはの指摘で自身がダークファルス化しつつあるのをようやく把握した。

 はやての麻痺云々以前に地球が消し飛んでは不味いので、ひとまず騎士達の目的は怪しみつつも情報待ちにし、ダークファルス化の素材であるダーカー因子を浄化する方法を探るためにリコを呼び覚ますための儀式を始めた。

 

 それに関してはリコの記憶が出やすくなるや自分とリコの区別がたまにつかなくなったりとの影響は出たけど、欲しかった浄化能力の知識は得られなかったので無意味だった。無為!

 

 そして先日。

 この世界にも欠片とは言えダークファルスが存在することを教えられて、万全を期すために生存を諦める。

 そもそも騎士達が闇の書を完成させる事ではやての麻痺が治るってのもクロノ談的に怪しさが残るのに、その上自分のダークファルス化とどこかに封印されてる欠片の処理とかタスク多すぎてやりきれないもん。

 俺と欠片を纏めれば残りははやてのみなので、これが妥協点かなぁって……。

 

 

「なんの妥協点だろ」

 

 言葉的に意味は通じそうで通じない、合ってそうな気がするから使ったけど合ってるかの自信はあんまりない妥協点という便利なワード。

 ちゃんと国語の勉強しとけば良かった。

 勉強した所で正しく言葉を使えるとは思えんけど。

 あー、思考がずれていくー。

 

「む。仮面マンから返信」

 

 そういえばグレアムさんって上司なん? みたいなのを聞いてたっけ。

 

 

 ーー

 

仮面B:まじで(笑)

リコ:それでしばらくめっちゃ回っててさww

仮面B:(爆)

 

仮面A:例の話については、現在明確にお答えできません。専門家であるアークスの作戦であれば、より確実に我々の悲願も達成できると思われるので協力をしますが。

仮面B:変装してるのは結構ギリギリって言うかほぼアウトな事してるしね。ところでここでも口調って変えたほうがいいの?

仮面A:当たり前でしょ。

 

 ーー

 

 

 ふーむ。はっきりとは言えないのか。

 いやまぁ、このログを見られて犯罪の証拠にされたくもないもんね。

 

「なぜなにリコちゃんのコーナーはさておき……」

「何そのよくわからないものは」

「フェイトちゃん、気にしたらダメなの」

 

 久しいな、なのはにフェイト。せっかく会えたのにずいぶんな挨拶じゃあないか。

 ひらひら手を振れば、2人はそのまま並んで俺の横に座った。

 

「なんか用か?」

「ううん。でも、折角だからゆっくりお話しでもしようって」

「フェイトちゃんとは挨拶くらいしかしてなかったもんね」

 

 そうだなぁ。

 思い返せば挨拶と案内くらいなもんで全然絡んではないな。

 

「よしじゃあなぜなにリコちゃん続行だ。質問をどうぞ」

「そういわれると特にないの」

「だね」

 

 もうちょっとなんか無いの?

 昔はなのはも俺の話すアークスやら宇宙人やらもうちょっと突っ込んでくれたのに、最近は全然乗ってくれない。

 そりゃあ、翠屋でよく話して飽きてるっていうかなんかもういいやってなるのはわかるけどさ。

 

「翠屋で思い出したけど、辞めちゃうの?」

「休職中って事にしてたんだっけか」

「リコが真面目にしている所見てみたかった」

 

 フェイトくんは僕の事をどう思っていらっしゃるのでしょうか。知り合ったばっかりだよね。

 

「実は無事だった元の世界に帰る予定もあるし、しばらくは戻らんかな」

「帰っちゃうんだ……。若干寂しくなりそうな感じがしそうな気がするね……」

「素直に寂しがってくれない?」

「にゃはは」

 

 笑ってごまかすな。

 フェイトもなんでそんな微笑んでおられる。

 

「ううん。リコって、皆から愛されてるんだなって」

 

 わかる。

 

「分かるんだ……」

 

 なんで扱いの元凶たるなのはがちょっとびっくりしてんのさ。

 でもね、リコちゃん知ってる。みんな楽しんで俺の悪ノリに付き合ってくれてるの。

 

「たまに振り回し過ぎてる気もするけどね」

「一応ちょっと考えて突っ込み返せるネタで喋ってるぞ」

「え、どこが?」

 

 俺がガチで向こうの単語を連射したら日本語を話しているはずなのに日本語が通じない状況になるぞ。

 数字にKとかMとか使わないだけありがたいと思え。

 

「リコって、家でもこういう感じなの?」

「ペルソナチェンジできるリコちゃんは基本不在なのでいつもこの性格だぞ」

「ごめん、早速言ってることがわからない」

「仕事終わった途端これだからね……」

 

 流石に迷惑行為は行いません。我々はかしこいので。

 

「え、どこが?」

「なのはっち、その返し気に入ったの?」

「賢いというより、小賢しい……のかな」

「フェイトは日本語まだ見習いなのかな?」

 

 俺を例えるなら、そう。

 大和撫子を体現した超絶美少女。それが俺なり。

 ……なぜ二人とも適当な相槌を打った。

 

「そもそも日本人じゃないから大和ではないんじゃない?」

「あ。それそれ。宇宙人だった」

「この流れで宇宙人言われるのは傷つきます」

 

 そういえば管理局の人も宇宙人じゃなかろうか。

 それ関係のフェイトってどこの生まれなん?

 

「えっと、わ、私は、普通の人間じゃないから……」

「フェイトちゃん!」

 

 そうなんか。

 こっち来てからヒューマンとしか会ってなかったから新鮮味感じる。

 

「リコちゃん、驚かないの……?」

「え、どこが?」

「そういうのいいから」

 

 はい、すみません。流れ的に生まれの差別かなんかの話ですよね。

 

「でもアークスにはキャストっていう箱みたいな人もいるから、そんな容姿で人間じゃないと言われても舐めんなとしか」

「ええ……」

 

 引くなよ。これがアークスの実態なんだからさ。

 ビギナーブロックのロビーで永遠と踊り続けるキャストを見せる。

 なんだろう、アークスらしいスクショのほとんどが踊り狂ってる所な気がする。

 

「つか、オレもデューマンじゃん」

「デューマン?」

 

 フェイトは知らんだろうが、日本でいう鬼みたいなやつ。

 ほらほら、角だよー。

 

「……私は、他人のクローンだから……」

「マジで? クラリスクレイスとおそろじゃん」

 

 そういや大量に居たクローンクラリスクレイスはどうなったんだろう。

 wiki知識はあれどその辺は普通に記憶が抜けててその後を覚えてないし、リコの記憶でも関りを持たないようにしてたみたいだし。

 

「つかなに。こっちだとクローンって人権ないの?」

「フェイトちゃん、リコちゃんにする話じゃないの……」

「……そう、だね。こんな事で悩んでたんだって思えてきた」

 

 なんで俺が悪いみたいな感じになってるの?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-31 演算の必要もない!

しばらく日刊に戻ります


 足の治ったはやてと横に並んで歩き、同じ制服を着て、学校へ通う。

 なのはやフェイトに、すずかにアリサと仲良く過ごし家へ帰れば家族のいる光景。

 呆れるほどに平和で、欠伸の出るほど長閑。

 13つの光の灯ったマターボードにもはや用もなく、剣を置き、アークスではなくただの一人として生きる世界。

 

 これは、幻想だ。

 この未来には、もうおれはいない。

 

 ――分かるだろう? おれは手遅れなんだ。

 

 

 振り返り、背後から迫っていた気配にメギドを放って迎撃した。

 姿は見えない。ただ、おぞましいものが迫っておれを支配しようとしている。

 

 この通りだ。もう時間もない。だから、終わらせて欲しかったのに。

 

 狂ったように周囲を飛び交うイル・メギドと雨の様に降らせたラ・メギドが、気配を散らしていく。

 手元に愛剣がなければロクに戦えもしないけど、関係はないか。

 こんな抵抗に意味はないから。どうせ早かれ遅かれの時間稼ぎでしかないし。

 

 ……時間を稼いだところで、おれはどうしようっていうんだろうな。

 どうせ夜明けは見えないのだし。

 

 何してるんだろうなぁ。

 無理だと分かっていても、出来る内は抵抗を続けるのはアークスの皆の影響かなぁ。

 

 

 でも、無理だよ。

 もう一度メギドを放って、ため息。

 

 伝えられないのが歯がゆい。

 オレには早く終わらせて欲しい。

 

 

 何も知らない内に。

 

 

 絶望を知る前に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ、はやてって身内は基本呼び捨てだよな」

「せやな。石田さんはさん付けやし、すずかちゃんもちゃんや」

「そこでクエスチョン。オレは?」

「リコちゃん」

「なんで?」

 

 最近気が付いたんだけど、はやての敬称基準でいうと俺は呼び捨てになるんじゃなかろうか。

 夕暮れに差し掛かり家へ戻ると一人ではやてが勉強していたので、そのまま絡んでみた。

 

「んー、なんでやろな。最初に話した時にちゃん付けしたままやったかなぁ」

「だろ?」

 

 特に気にする所ではないけど、一度気になるとなんか考えちゃうじゃん。

 

「リコやと短いのもあるかも。ほら、二文字やし」

「そういうのもあるか」

「一回呼び捨てでやってみよか。リコち……リコ、ここの問題分かる?」

 

 コロンビア。

 

「なんで計算問題でそれが出てくるねん」

「演算の必要もない」

「いや少しは考えてや」

 

 まあおふざけはさておき、小学生程度の計算は楽勝よ。

 えーっとね、ここはこうで……。

 

「さん!」

「……リコ、今度から一緒に勉強しよか」

 

 どこだ、どこに間違いがあった……。

 

「全知はオレだ! オレの導き出した解に、間違いはない!」

「いや間違っとるんやて」

 

 答え見せてみ?

 ほら、限りなく答えに近い数字だから間違ってはないじゃん。

 

「計算問題で限りなく近いはつまり間違っとるんやで」

「未知の事象だと?」

「考えたら分かるやろ」

 

 俺に全知ごっこは無理だったようだ。

 ルーサーも演算演算言ってて全然未知だらけだったしリスペクトの形。

 シオンさんも未来はどうなるか分からないから楽しいって言ってた。

 

「リコちゃ、リコは……言いにくいなぁ。やっぱりリコちゃんがしっくりくるわ」

「えー。じゃあオレもはやての事はやてちゃんって呼ぶ」

「私以上にリコちゃんって敬称の付け方変よな。シグナムにさんを付けたり付けなかったり」

「基本歳上とかにはさん付けだぞ。後は言いやすさだったり」

 

 ほとんど気分だけどね。

 実はそんなに基準はあんまりない。

 

「リコちゃんって実質5歳やん。全員年上やろ」

「だーかーら。試験管でそれより過ごしてるっての。こっちきてからの日数も入れればもうちょい行ってる」

「知っとる? カンガルーって袋から出た時が誕生日なんやで」

「オレがカンガルーだと言いたいのか」

 

 もし誕生日を定めるとすればキャラクリを終えてプレイ開始した時ではなかろうか?

 

「分かった。アークス的な誕生日は2013年の10月だから今のオレは……」

「今は2005年の12月やから、-7歳やな。てか、そっちでも西暦なん?」

「こことは違えど地球自体はあったからね」

 

 年齢マイナスとか俺は消滅するんじゃなかろうか。

 

「リコちゃんが呼び捨てにできる人この世界におらんで」

「待て待て、それなら賞味期限切れと言われるクラリスクレイスのチョコも食えるぞ。これ2015年産だ」

「何年放置?」

 

 えっと、こっちに来て半年追加だから……。

 

「……火山で貰って溶けかけたものを、大体5年近く?」

「なんてものを人に食べさせようとしとったんや……」

「チョコをお食べ」

「あんたが食べるんやで」

 

 これ期間限定アイテムだから時期を逃すと永遠に消費できないんだよね。

 

「なんでずっと持っとるん?」

「いやぁ、二度と入手できないって思うと記念で置いときたいじゃん」

「ゴミ屋敷作る人みたいやな」

「倉庫内がゴミだらけなのは否定できない」

 

 無属性☆10武器やアイテムとして売ってた頃のスタングレネード、今やもはや知る人も少ない観測素子。

 追加倉庫の中は二度と取り出さないからと記念品(ゴミ)で覆い尽くされている。

 そして今はアイテムパックと直結してるからいつでもゴミが出せる。

 

「ゴミ倉庫の中にコスモアトマイザー混じってるの笑う」

 

 募金できるなら折角だからとそれなりに買ったけど、サブパレットを潰したくないからなのと課金アイテムだから勿体なくて結局使わなかったコスモアトマイザーは倉庫の肥やしになりました。

 つかこれって募金でもなければ誰も買わないんじゃなかろうか。

 アークスのリコ的には見た事ない高性能アイテムが倉庫に爆撃されてびっくりした事だろう。

 

「はやてにも上げよう。これがコスモアトマイザーだ」

「なんこれ」

「戦闘不能とHP全回復と状態異常を全部同時に回復できるお高いアイテム。なぜ他人の為に無意味にマネーを散らさねばならぬか一切不明なお高いアイテム」

 

 弱者に使う金などない……!

 

「命かけて戦っとるんやろ? その為の高給取りやないん?」

 

 そう言われるとリアルマネーって言えないし何とも答えられない。

 でもほら、テクターである俺がしっかり支援してればよっぽどなアレじゃない限り大丈夫だから。

 

「そういえばリコちゃんが強いのはちょくちょく聞いとるけど、実際どんなやったん?」

 

 えーっと、これはレベルカンストのゲームリコじゃなくてリアルリコの方か。

 研究所を出てアークスになった直後は運動不足でよく木の根っこに躓いてたけど、しばらくしてからは指名で依頼が出されたりしてたね。

 記憶を見る限り、一応シャオとも面識はあったっぽい。

 最近はプレイヤー俺とアークスリコの記憶が混同してたけど、こうして思い出せばまだまだ掘り出せるな。

 

「指名って、リコちゃんに? 真面目に働いとったんやなぁ」

「ちょっと強い一般アークスくらいなつもりだったんだけどな」

 

 よく考えればちょっと強い程度でシャオと知り合えないよな……。

 一応、メインキャラと絡んでたからコネがないとは言えないけど。

 

「でも今は戦いだけじゃダメやで。ちゃんと勉強せな」

「……だな」

 

 あ、確率の問題は得意だぞ。

 95%は落ちる。

 

「どこが得意やねん」

 

 許さねぇ、許さねぇぞドゥドゥ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-32 アリッサ&すずっか

 やあ。リコだよ。

 今日は朝からお散歩と称して欠片探し中だったよ。

 

 探し中だった。というのは途中でアリサとすずかに見つかってしまい、なんかお茶会に誘われてしまったのだ。

 急いでいるというのに最近の小学生は……ッ!

 と言いたいところだけど、朝から小学生の下校する夕暮れまで休みなく徘徊してたから休憩がてら丁度いいので乗ったんだけれど。

 

 それに、こいつらと会話するのももう最期かもだし。

 

 本当はなのはとフェイトを誘うつもりだったけど断られたので、たまたまその辺を歩いてた俺でも良いかと妥協したと聞いた時は扱いが雑すぎやしないかと思ったけど。

 まま、挨拶回りに丁度良いし結果オーライ。

 車種は分からないけど高そうな車に揺られながら、小学生と自称幼女はお茶会会場へと向かう。

 

「気が付けば長い付き合い。きっかけは忘れど縁は忘れず」

「あんな出会い方して忘れるあんたもあんたね」

「へっ、ありがとよ」

「リコちゃん褒められてないよ」

 

 実際どんな出会い方だっけ。

 ……ああ、そっか。拉致事件の時に一緒に居たのか。

 

「思い出した思い出した。撃たれて貧血になったんだ」

「撃たれたのを貧血で済ませるやつはあんたくらいよ」

「へっ、ありがとよ」

「リコちゃん褒められてないよ」

 

 すずかが褒められてないよbotになってる。

 

「そういやそん時にすずかもいたっけ」

「あんたどんだけ記憶が抜け落ちてるのよ……」

 

 接点はなんであれ、すずかとここで出会ってなければはやてと友達になってくれる事なかったんだよな。

 鍋パしにくる位には仲良くしてくれてるし、本当に感謝だ。

 

「はやてとも仲良くしてくれると嬉しいぜ」

 

 俺がいなくなった後も、あいつの事をよろしくな。

 

「はやてって、最近すずかが話してくれる図書館で会ったっていう友達の事? リコも知り合いなの?」

「知り合いっていうか、同じ家に住んでるんだよ」

「初めて知った。あんたってちゃんと地球で生活してたのね」

「オレがどんな生活してると思ってたんだ小娘」

 

 翠屋での会話を思い出せよ。

 

「うーん、タイムアタックで日銭を稼いで」

「空いた時間に色んな惑星を駆け巡って」

「2時間に一度強敵と戦う」

「アークスって何なのかしら」

「リコちゃんの話ってなんかゲームみたいだよね」

「なんにせよ、こっちでの話はあまり聞いてないわよ」

 

 ゲームではあるけどゲームではない。

 PSO2は遊びじゃねぇんだよ。

 

「リコは凄い気軽に話してくれるおかげで気にならないけど、常に最前線で戦ってたのよね……」

 

 そうだぞアリッサ。

 こう見えてリコちゃんは死亡率の高いアークスの戦場で戦ってたんだぞ。

 地獄が俺の職場だぜぇ……。

 

「こんななりでねぇ」

「なりは余計ナリ」

 

 すずかもなんか言ってやれ。

 

「アリサちゃんの名前間違えてるからだめ」

 

 えー、だってよ。苗字が違うとはいえアリサだと初代主人公様になるんだもん。

 一方アリッサならクロックタワー3だしオッケー。

 あんなギャグゲー俺は認めない。

 

「そして実はアリサが珍しい名前でもないから気分で言ってる」

「人の名前を間違えるのは失礼なんだよ?」

「すずか、リコを躾けた所で覚えないわよ」

「ひどくない?」

 

 怒られたので普通にアリッサはやめよう。

 んで、到着したのは西洋かぶれの記念館みたいなカフェ。

 巨大な門に庭に噴水にデカい建物に、金持ちだなぁっていう。

 ……ん? 金持ち?

 

「あのー、ここってもしかして……」

「あたしの家よ」

 

 ……。

 ……。

 

 うん、家?

 こんな、こんな建物が?

 

「八神家も豪華な一軒家だと思ってたけど、それを軽々と超えてくるな……」

 

 車椅子のはやての動線を特に考えなくてもいいほどに広い八神家や、リモデルームLを三つ使って設置コストが足りずスペースが余って寂しい事になったマイルームでオープンスペース自体は慣れていたけれど、高級には今まで縁がなかったからクッソ緊張してきた。

 前を歩く2人は慣れてるのかも知れないけど、壁に掛かってる謎の高そうな絵やなんで飾ってるのか分からない食器とか滅茶苦茶怖いんだけど。

 

「これはこれで楽しいわね」

「リコちゃん、別に気にしなくて大丈夫だよ」

 

 いやいや待てや。俺が翠屋の裏手でクッソ重い物を軽々移動させたりしてたのを思い出せ。

 俺みたいな小心者はこういう壊れ物に囲まれると「突然発狂して暴れたりしないだろうか」っていう心配が抜けなくなるんだよ。

 もしウホウホゴリラライフの俺がバジリスクタイムを始めたらどうなると思ってるんだ。

 

「大きいのは口先だけね」

「んだとおら、良いのかオレが思いっきり暴れても。素手でも軽くこの家制圧できるぞ」

「どんな戦力してるのよ」

「魔法も使えるし、できないことはないんだろうけどね」

 

 地球の人間程度イル・メギドを連発してれば終わりなり。

 今にして思えば拉致の時の連中にウォンドで殴りかかったけどよくあいつら無事だったな。

 

 ホラーゲームの洋館ばりに長い道の末に辿り着いたのはテラス。

 八神家の庭にも誰かが使う予定だったのかテラスセットはあったけど、ここは金持ち。

 手入れの行き届いた庭園の背景と、掃除の行き届いた席。そして何より。

 

「ああ、ケーキとか乗ってるよくわからない台! 外国のドラマでしか見た事なかったぞ、ケーキとか乗ってるよくわからない台!」

「あんた、本当に何でも感動するわね」

「戦い続きだったらしいからね」

 

 執事の人が教えてくれた情報によると、本来は狭いスペースを効率化させるための棚的なアレなのだとか。

 けど別にマナーも何も無いしテーブルも寂しいので使ってるらしい。

 確かにテーブル上の小物が平坦だとなんかね、変なルームグッズ置きたい衝動は出る。

 

「ふへぇ、乗ってる物を取ろうとして崩したりしたら、オレは、オレは……!」

「どれだけ心配性なのよ」

 

 見せてやろう、アークスのパワーを。

 

「じゃーん。スペース・ツナ」

 

 ふははは! 特大マグロだぞ!

 自分の身長以上のこれを今からそこで振り回し……。

 

「うぅ……できません……! もしなんか変なPAがでちゃったりしたら! オレは、オレは……!」

「リコちゃん落ち着いて。怪力なのは普段から知ってるから」

「すずかも手慣れたものねー」

 

 スペース・ツナはしまおう。背中に差しとくと引っかかるかも知れんし。

 

「容姿と中身の不一致さもリコらしいけど、もうちょっとお淑やかにしたらモテモテなんじゃないかしら」

「お店の売り上げに貢献もしてるし人気ではあるみたいだけど」

 

 誰が中身残念じゃ。

 別にネカマみたいなことしても良いけど、下手にその気にさせると身が危ないというか。

 

「自衛とは言え相手をこう、めっ! ってしたらエライことになるじゃん?」

 

 犬に言うみたいに言ってるけど、めっ! っていうよりか()っ! になる。

 主人公はムービー中に弱体化されると言われる中、逆に素手がやべぇ事になるアークス舐めんな。

 特に今は素手でナックルのPAも出せるしもっとすごいぞ。

 

「ま、まあ言ってる意味はともかく、言い寄られない性格でよかったね」

「すずか、さりげなくなかなかな事言うわね」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-33 八神家

 12月も半ばを過ぎて、街はとっくにクリスマスムードだ。

 この家でも例外ではなく……と言うよりも、今まで一人で過ごしそういったお祭り事とは無縁だったはやてを楽しませようと久しぶりに守護騎士達も全員集まって飾りつけをしている。

 

 はやては現在図書館で勉強をしているので不在。帰ってきたら家が飾り付けられてましたーって算段だ。

 企画者は俺。もっと俺を褒めろ。

 たまにはリフレッシュしないとね。欠片探しも詰ってクロノ&ユーノに泣きついたら少し休めと言われたし。

 ジュークボックスで名曲でもあるPSOEP1のED曲を流し、昔は分からなかったけど自動翻訳が入り意味が理解できるようになったので心で涙を流しながら作業をする。

 本当にいつ聞いても良い曲だなぁ……。今の俺の名前がリコであるのも加味して本当にしんみり。

 

 あ、終わって切り替わっちゃった。

 すっげぇノリノリなバーニングレンジャーのOPになった。感動を返せ。

 

 

「――そうして辿り着いた一年中クリスマスの飾り付けがなされた街には、なんと自分と同じ顔の男がいた。そいつはサンタの格好をしているけれど、不気味な事に血濡れのナイフを手に……」

「わー! わー! なんでそんな話するんだよ!」

「いつもクラリスクレイスで怖がらせてくるお礼だ。へけっ」

「次その話したらグラーフアイゼンでぶん殴る」

 

 しんみりタイムも終わったので、並んでクリスマスツリーの飾り付けをしていたヴィータに殺人サンタの噂話をしたら怖がられた。

 呪いウサギのぬいぐるみが好きだったりパンクファッションだったりと、そういうダークな物が好きかと思ったけど違ったらしい。

 ちなみに今もこの間あげたビビットパンキッシュを着てる。気に入ってくれたみたい。

 

「折角のクリスマスだし、なんか明るい話にするか」

「リコの話だし嫌な予感しかしないんだけど」

「バーロー。アークス式のクリスマスの話題だよ」

「そっちにもクリスマスあったんだ」

「あるぞぉ」

 

 衣装チェンジ。パーティーサンタドレス玄。

 

「なんで黒?」

「クリスマスの衣装を着たまま現地の調査するとボーナス入るって聞いた時に買ったんだけど、通常カラーの赤がちょっと目に痛くてな……」

「目に痛いって、光ってるのかよ」

「ある意味光ってた。反射で」

 

 単純に俺が赤に弱かったというか、描画設定6の光で目が焼かれたといいますか。

 白い背景に赤が映えてめっちゃチカチカした。

 

「その後に別の衣装も買ったんだけど、結局これしか着なかったな」

 

 一応で買ったハピネスノエルは通常のサンタカラーだぞ。

 あ、そだ。だったらハピネスノエルは渡しておこう。

 飾り付けが終わったら着てみてね。

 

「暖かそう」

「なお肝心のアークスは気候に対する耐性がマックスで関係ない模様」

「卑怯だよなー」

「オレとしちゃ空飛べる方が卑怯だと思うけど」

「むしろなんでそこまでできて飛べないんだ?」

 

 ゲーム的な問題でして、空を飛んだ陰キャヒーローが楽々エキスパート条件を満たすって案件がございます位には敵も対空がアレでして。

 まあなんだ、色んな理由があるのさ。

 

「ふーん? だったら戦ったらあたしの勝ちだな。射程外から撃ってやる」

「ふふふ、多少の不利も跳ねのけるのがアークスよ」

 

 確かに空は飛べぬが、遠距離攻撃は多彩だぜ。

 というか着弾確定のテクニックに吸い込みもあるし。

 

 さてと、飾りつけはこんな所か。

 てっぺんの星はどうしようか。俺が肩車すれば届くだろうけど、シグナムに任せる?

 

「だったらはやてにやらせる」

「はやてに? ……そうだな、こういうのはやらせるべきだ」

「決まったな。じゃあちょっとこのサンタさん試してくる」

「あいよ」

 

 さて。次は何をしようかね。

 何かが動いた気がして、庭を見てみるとシャマルが何かをしていた。

 さっきまで部屋の中で飾り付けをしてたと思ったんだけど何をしてるんだろう。

 

「シャマルさんや、それは?」

「空き部屋を整理してたら庭飾りが出てきたの。リコちゃんもやってみる?」

 

 足元に落ちているのはリースや電飾等々。

 その殆どが開封もされてない。

 

「……まだ、新品なのか」

「ええ。だから、私達のいる今こそ使ってあげなきゃって」

 

 はやての父母が、娘の為にと用意していたんだろう。

 けれど全部を使う前に……。

 

「じゃ、パーっと使ってやらにゃな」

 

 暗い話題はナッシン。折角クリスマスが来たんだしクリスマスしようぜ!

 低木を傷つけないように電飾を伸ばしていく。

 

「これちょっとそこな枝に引っ掛けて貰っていい?」

「ここでいいかしら」

「せんきゅー」

 

 我が美的センスに任せたまえよ。

 

「む。長さが足りぬか」

「……何を書こうとしてるの?」

「I♡ザリガニ」

「クリスマス一切関係ない……」

 

 だよね。

 この時期はザリガニもいないし。

 

「いやそうじゃないわよ」

 

 そうだね。ザリガニの日は9月13日だ。

 

「I♡だけになっちゃったけど、まぁいっか」

「変にザリガニって書くよりはいいと思うけど、なんか変ね」

「言うなシャマル。なんで庭の中心で俺は愛を叫んでいるんだ」

 

 愛してるんだー! 八神家をー! はっはっはっは!

 

「あ、そだ」

「どうしたの?」

「いやさ、ヴィータがサンタやるみたいだしトナカイスーツ着る?」

 

 これこれ。

 

「うっ、なにかしらこれ……」

「トナカイスーツ。何をトチ狂ってこんなデザインになったのか小一時間問い詰めたいトナカイスーツ。顔がうざい」

「クリスマスらしくはあるけど、これは流石にちょっと」

 

 そうか。だったらrtfぎゅhklスーツにしとく?

 

「えっと、ぎゅ……何?」

 

 なんでみんな言えないかな。rtfぎゅhklだよ。

 

「ほらこれこれ」

 

 アイテムパックから出したら中身のない白い袋状の物体と化した物がベロンと出てきた。

 

「リコちゃん、これ頭までしか入らなそうですけど」

「着るにはコツいるからな」

 

 こう、体をぐちゃぐちゃにしてまずはrtfぎゅhklの形にしないといけないし。

 こんな風になぁ!

 

「ま、ま、ま、待って! 待って!」

 

 ガチ焦りでワープ進化をキャンセルされた。

 

「びっくりした……」

「ヴィータもサンタやるから後はトナカイかぎゅ~さんが必要だったんだけど、したら後何があったかな」

「サンタさんとトナカイが必要なのはわかりますけど、その蝉の抜け殻みたいなのは必要なのかしら……」

 

 必要ないっす。

 仕方ない、rtfぎゅhklスーツは封印しとくか。あーあ、ギャグ補正にあやかろうと思ったのに。

 

「何やかんやで庭の飾りつけも良い頃かな。つか、高い所はオレじゃ手が届かん」

「そうね、重たい物も多いし」

 

 重い物はむしろ積載量の飛び抜けてる俺がやるべきなんだろうけど、流石に手が届かないんじゃ意味ないしな。

 

「じゃあここは任せて、シグナムかザフィーラでも手伝ってくるよ」

 

 リビングに戻ったらシグナムさんがツリーのてっぺんに星を置こうとしてた。

 待てやァ!

 

「うわっ、急に飛びついてくるな」

「そこは後ではやてにやらせるの! お楽しみなの!」

「そ、そうか。それは悪いことをした」

 

 装着される直前だった星がテーブルに戻る。

 

「オレに、何か手伝えることはないか?」

「結構だ」

 

 うぁああああああ!(絶望)

 

「いや済まない。こちらも終わってすることがなくてな」

「なんで断ったんすか」

「リコが相手だと少し弄りたくなってな」

「シグナムっちまでそちら側に回ると味方がいなくなってしまうからやめてくれ」

「……さて、味方であった時があったか?」

 

 うぁああああああ!(絶望)

 

「冗談だ。私はいつでも主はやてやお前の味方だ」

「シグナムゥ!」

 

 冗談も通じない堅物だった昔と違って、ずいぶん丸くなったな。

 なぜか俺に向かって尖り始めてる気がするけど。

 

「リコには感謝している」

「なにさ、急に」

「今まで戦いしか知らなかった我ら騎士が、こうして笑って過ごせるのは主はやてだけでなくお前の影響も大きい。だから、その礼をな」

 

 へっ、お楽しみ頂けているのなら光栄だぜ。

 割と序盤からお主ら俺に対しては雑な感じはしてた気もするけど。

 後で聞いたんだけど、ヴィータにハンマー持たせて俺を襲わせようとした前科があるのを忘れないぞシグナム。

 

「さて、何の話だ?」

 

 まあいいさ。

 あ、そだ。シグナム。

 

「これを渡そう」

「メッセージパックか」

 

 あれ、知ってた?

 

「知ってるも何も、前にお前が渡したじゃないか」

「そうだっけか。まあともかく、今後俺の様子がおかしかったりしたら聞いといてくれ」

「その説明もそっくり聞いたぞ。今ここでメッセージを再生しようか」

「様子がおかしいと言いたいのか」

「……すまない、いつもの事だったな」

「オレの扱いうますぎね?」

 

 ふーむ、ああ。前にも渡してたか。忘れてた。

 最近物忘れが激しくてのぅ。

 

「ちなみに今までいくつか録音はしてたと思うけど、どれくらい貯めてたっけ」

「まだ聞いていないから分からないが」

「そっか。一応言うけど、様子のおかしいオレに構うなよ?」

「また変な要求だな」

「何かに飲まれたと思ってくれ」

 

 目の前で再生されたらダークファルスさんも黙ってられず暴走しかねないからな。

 

「よっし、後はザッフィーの所にでも行ってくるか」

「今日はやけに張り切ってるな」

「あたりめぇよ」

 

 だってよぉ! はやてって今まで誕生日ですら一人で祝ってたんだぜ!?

 それに図書館ですずかと出会うまで友達いないっつうしよぉ!

 

「クリスマス、ひとり、ウッ!」

「なんでお前がダメージを受けているんだ」

 

 なぜ、俺はクリスマスに、戦っていたんだ……!

 

「ザフィーラの所行ってくるね……」

 

 さてさて、あいつはどこにいるのやら。

 室内のどっかにいると思うんだけど。

 ザッフィー、いるかぁーい。

 

「ザフィ――」

「む」

 

 扉を開けたら、半裸のザフィーラ人間体が着替えてた。

 

「し、しつれい……」

 

 ぱたん。

 びっくりした……。

 

「もういいぞ」

 

 しばらくして着替え終わったらしいザフィーラが出てくる。

 なんで久しぶりに人間状態で、それも着替えてるんだよ。トナカイに。

 

「整理していたら出てきてな。こっそり用意して驚かせようと思ったのだ」

「色んな意味でびっくりしたよ」

「鍵を掛けていなかった私のせいだ。すまない」

「いやいいんだけどさ」

 

 突然目の前に自分の倍近い大きさのムキムキのおっさんが居たらびっくりするじゃん?

 

「しっかし、ザフィーラがトナカイねぇ」

「駄目か」

「いいんでない? ヴィータもサンタの格好するし」

 

 元々誰かしらにトナカイやってもらう気だったし。

 そしたらどうしようかな、シグナムとシャマルが余る。

 

「無理に何かの格好をする必要もなかろう。それに、そういったものはヴィータやリコだから似合うのだ」

 

 分かってるな。確かに無理に着せると痛い事になるから。

 ムキムキのザフィーラトナカイは一周まわってシュールギャグな感じが良い味出てる。

 あいつ等には後ろでクラッカーでも持ってもらうか、あるいははやての迎えに行ってもらうか。

 

「リコ!」

「お、ヴィータか。どった」

「サンタになった! ……って、ザフィーラどうした」

「……聖なる守護獣、トナカィーラだ」

 

 ちょっと待て、なんだそのネーミングセンス。

 負けた。

 

「くくく……。ああ、ヴィータも似合ってるんだけど、ふふふ、ダメだ、トナカィーラの笑いが抜けない……っ!」

「変な所でスイッチ入ったな」

「そんなに笑わせるつもりはなかったのだが」

 

 はー、不意打ちはダメだぜザフィ……おっと間違えた。聖なる守護獣トナカィーラ。

 

「そんなに繰り返されると恥ずかしいのだが」

「ザフィーラが冗談言うの珍しいからじゃね?」

「そういうものか」

 

 んで、俺と合わせてダブルサンタにトナカィーラね。

 俺等2人を肩に担げる?

 

「む。まあできなくはないが」

 

 しゃがんだザフィーラの肩に乗る。

 反対側にヴィータも乗って、せーの。

 

「うわっとと」

「安定してるけど、結構高いなー。ザッフィー重くない?」

「問題ない」

 

 よっし、降ろしてくれ。

 当日はこの神輿フォーメーションで出迎えよう。

 シグナム&シャマルは……はやての迎えっていう重大ミッションもあったか。

 

「よし、今日はここまでだな。そろそろはやても帰る頃だろうし、普段着に戻るぞ」

「? 今日は良いのか?」

 

 まだクリスマス前でしょうが。

 当日はパーッとやろうぜ。

 

 皆で飾りつけした家は今日お披露目、そしてサンタ&トナカイのドッキリは当日!

 ああ、これだ。こののんびりとした日常。

 素晴らしい。

 

 家族であるはやてやその騎士達、この世界でできた友達であるアリサにすずかに、なのはやフェイト。友達とは違うけど、バイト先である翠屋の士郎さん桃子さん。あとは名前もロクに覚えてないけど、よく声をかけてくれる常連のみんな。

 この世界は暖か過ぎる。

 だからこそ、充分命を捨ててでも守るにふさわしい。

 

 

 

 まどろみの中で記憶に新しいはやての驚いた顔を思い返しながら、決意を新たにする。

 そんなことをしたからだろうか?

 

 明け方のまだ眠い時間、クロノが焦った声で今すぐ来てくれと電話をかけてきた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-34 祈り、歪んで

 早朝ァ! 

 

 

 徹夜してたユーノからダークファルス関連の事で最有力情報が出たからすぐに来てと言われたので全力で走り、記録は5分ジャスト。俺がワールドレコードだ。なお走者はひとり。

 わざわざ階段もエレベーターも使うのは億劫なので、マンションの裏からアークスの二段ジャンプ! そして換気扇に一度着地して、再度二段ジャンプ! 

 窓からこんちわー! 

 

「急いでとは言ったけど、もう少し周りの目を考えてくれ」

「反省しまーす。反省しましたー」

 

 バルーンコレクトで鍛えた甲斐があったけど、怒られた。

 当然だよね。

 早朝の誰もいない時間だからこそやったんだけど。

 

「んで、大至急の連絡って何よ」

 

 ベランダに靴を置いて、いつ倒れても良いようにソファに座る。

 クロノも慣れたもので、気にせずモニターを表示した。

 

「一つ聞きたいのだけど」

「なんだばさ」

「僕は闇の書とは少し因縁のような物がある。もし君の助力を得て負の連鎖を断ち切れるというのなら、全力を尽くしたい」

「ダークファルスの話じゃないの? なんで闇の書?」

 

 闇の書関連についてはお任せしている状況ですが。

 

「……闇の欠片、古代に現れたそれを封じたのは夜天の魔導書。そして、現・闇の書だ」

「なに!?」

 

 嘘だろおい。身近ってレベルじゃねぇ。

 なんだ? 

 俺は、何を聞いた? 

 闇の書が、欠片を封印している? 

 

 封印は身近なんてものじゃない。

 家にあったそれそのものこそがだった。

 

「本当だ。そもそもの夜天の魔導書というのは魔法を集め研究するためのデバイスだった。欠片が現れた時に偶然あったこれの収集機能を改変、解決策として封印機能へと変えてようやく閉じ込める事に成功し、以後は闇の書となって存在し続けている」

「お、おい、待てよ。そしたらさ、ロクなことにならないってのは……」

「欠片を封印し闇の書となった夜天の魔導書は魔力の蒐集を終えると覚醒し、封印は解かれ暴走こそはするが、それと同時に集めた魔力を使い表へ出ようとする欠片と破れた封印にリセットをかける。取りこぼしの無いように現在の主と周囲空間を巻き込み、沈静化する。前回の10年前、僕の父はそこで散った。グレアム提督の目の前で」

「……それが因縁か、グレアムさんには悪いことを頼んだ」

 

 でもだ。なんで封印が再びなされたのに闇の書がこんな所にいるんだよ。

 

「恐らくは夜天の魔導書が本来持っていた機能もバグかなんかで動いてしまっているらしい。あるいは内部にいる欠片が管理局の目を逃れる為に使用しているのかも知れないけど」

「なんにせよ、転移先の新たな主の下で闇の書の騎士は魔力を集め……」

「復活と封印を永遠に繰り返す。最小限とはいえ、多くの命を巻き込んで」

 

 欠片は封印を破るために騎士へ働きかけ、魔力を集めさせる。

 闇の書は破られた封印を再びかけるための準備として魔力を集めさせる。

 魔力を集め完成させる事は封印が解かれる事とイコールであり、また集めた魔力でリセットが行われる事ともイコールである。

 全てはループ。被害を最小限に抑えるための。

 あいつらがやばいと言われても疑問を持たず蒐集を止めなかったのは、俺がそうであったように無意識に干渉されていたからか。

 

「……リコ? 顔が真っ青だ、戦いが目前に迫って緊張するのは分かるが、あともう少し手を、知識を貸して欲しい」

「あ、ああ……」

 

 欠片を取り込めば、いや欠片を取り出そうとすると、まずは主を殺す? 

 俺に誘導するまでの時間が云々じゃなくて、そもそもダークファルスではなく闇の書そのものが殺すように動くって? 取りこぼしのないように? 

 

 決められている? 

 ……もう、主になった時点で死が決まっている? 

 

「……なんて、事だ……」

 

 もう時間もない。あいつらは後どれくらいで蒐集を終える? 

 あと何ページだ? いくら時間が残っている。

 今こうして話している内に封印が解けて、はやての身に何かあったら。

 今すぐ、蒐集を止めさせないと──

 

「……あれ?」

 

 ──そもそも、やめさせたところでどうなるんだ? 

 早かれ遅かれ封印は解かれる。はやては死ぬ。

 

 いや、それ以前に。

 

「オレは、どうやって奴を倒せばいいんだ……?」

「どうしたリコ」

 

 

 全ての闇を俺が集めて、砲撃で綺麗さっぱり吹っ飛ばす方法? 

 

 そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ただ薄ぼんやりと、理想論を並べてただけ? 

 

 

「はは、ははははは。ははははははははは!」

「お、おいどうしたんだ……?」

 

 

 ずっと前だが能力の確認をするために森で色々考えたとき、俺は自分で言っただろう! 

 PSO2のストーリーで【仮面(ペルソナ)】が闇を奪い集められたのは、あいつがダークファルスであった以上にクラリッサ……もといシオンの協力があったからじゃないか! 

 クラリッサが手元に無ければそんなことできないって、あの時にもうわかってただろう! 

 

 過去作のワイナールのやり方は? あの時はできると踏んでたけど、よく考えてみろよ。

 同一の欠片の一部、つまり最後の1ピースを持ってたからナギサからダークファルスを誘導できたんだ……。

 

 

 じゃあ、俺は……? 

 

 ダークファルスになりかけの出来損ない。手元にクラリッサもない。

 当然、闇の書に封じられてる欠片とは一切関りがない。せめてダークファルス同士、ちょっとシンパシーを感じる程度だ。

 俺に闇を集める力なんて、能力なんて、無い。この作戦は実行できない。

 

 できるような状況を挙げるとするなら、それはもう完全にダークファルス化して理性もない頃だ。

 例えそれなら闇の書の封印も力技で解決して、はやてを殺さずに欠片を取り出せるんだろうけど、既に覚醒しているダークファルスを止める方法もなく滅びて終わる。

 つまりは実行不可能。

 

 

 騙されていた。

 この方法で勝てると、そう信じ込まされていた。

 終わりだ。何もかも。

 

 奴は恐ろしい。

 理不尽で、薄暗くて、願いは踏みにじられて、救いはない。

 

 はやては死ぬ。

 騎士達も再び次の主の為に死力を尽くし、尽きて、失い、繰り返す。

 

 

 誰も救えずに滅びを見届けて、エミリアが設計しグレアムさんの作ってくれた棺桶に入るのが正解? 

 

 

 これが道筋なのか? 

 これが、辿るべき運命? 誰も救えず、足掻きも無意味に。

 

 目の前が暗くなる。

 もう何も、何も先が見えない。

 

 

 悪夢なら覚めてくれ。

 

 誰か、助けてくれ。

 

 もう何も、なにも分からない。

 

 俺がすべき事は……。

 

 

「リコ。何か懸念があるのなら聞く。少しでいい、教えてくれ」

 

 クロノは真剣な顔で問いかけてくれるが、無理だ。

 失敗した。考えが甘かった。平和ボケしていた。

 無理だ、勝てない。

 やつには、勝てないんだ。

 

「クロノ……。オレは、オレはどうしたらいいんだ……?」

「僕の知る限りは、このままだと今まで通りの対処をするしか──」

「それじゃ駄目なんだ! それじゃ、助けられない……!」

「助けるって、誰をだ。待て、何か知っていることがあるのか?」

 

 コール。

 俺に宛ててだ。電話? 

 ヴィータから? 

 

 落ち着こう、まだ、まだだ。

 あいつ等の前くらいまだ、冷静に振舞わなければ。

 そうだ、落ち着け。時間は、まだ時間はある。

 

「……はい、オリエンタルな味と香りの翠屋──」

『リコ! は、はやてが倒れたんだ!』

 

 ──!? 

 

「おい、一体何が……!」

『わかんねぇけど、急に倒れて、苦しそうで! で、シグナムがはやく病院までって!』

「わかった、今すぐ向かう」

 

 言うが早いか切れば、立ち上がる前にクロノが道を塞ぎ何かを聞きたそうにしている。

 構ってられない。

 

「どけ」

「待ってくれ。まさかと思うが、君は連中の事を知っていたのか?」

「……知ってはいたし、何なら家族だ。だがな、欠片の事までは予想外だ」

 

 まだ聞きたそうにしているが、そんな場合じゃない。

 はやてが倒れた? 何の前兆だ? 

 早く、早く行って確かめないと。

 

「どけ!」

「うわっ」

 

 筋力に物を言わせてクロノを突き飛ばし、ベランダを出て柵を乗り越え地面へ。無意識に着地も完璧にそのまま走る。

 もうなりふり構ってなんかいられない。全力の走りだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-35 ガラスの幸福

 はやてが倒れた。

 

 全ての中心に居て、全てから何も関係のないあいつが、苦しんでいる? 

 なんであいつが苦しまなきゃいけないんだ。

 あいつが、何をしたっていうんだ。

 

 ただ闇の書の主になっただけで、どうしてこうなるんだ。

 

「リコだ、です! リコ・クローチェ! 八神はやては、どこですか!」

 

 受付の紙なんて書き殴り、案内を拒否して廊下を進む。

 何も考えられない。まずは、はやての安否の確認をしないと、まずは……。

 

 しばらく歩き、見えた個室の表札は「八神」。躊躇いなく開ける。

 そこには見慣れた四人の騎士達と、ベッドの上で泣いているヴィータをあやす“何でもないフリをする”はやての姿があった。

 

「あぁ……」

「なんやリコちゃん、変な顔して」

 

 平静を装っているけれど、それが空元気な事くらい見ればすぐわかる。

 苦しかろうに、今も苦しかろうに、心配かけさせたくないからって……。

 なんて痛ましい姿なんだ。なんで、俺はこの苦しみを何ともしてやれないんだ。

 解決方はないのに、もう何も思いつかないってのに、最期までそうして笑っているつもりなのか? 

 何も知らず、自分がただの病気でいつか治ると言い張って。

 絶望も知らず。

 

「リコちゃんもこっちきよ」

 

 そんな慈愛に満ちた甘い誘惑にふらふらと近寄り、ヴィータに変わってはやてに寄る。

 命一つも救えない俺にすら、こんなに優しくするはやて。

 

「まったく、手のかかる妹分やでほんま」

 

 知らない事がいかに不幸であり、幸福な事か。

 訳分かんねぇよ。どうしてこうなるんだよ。どうして、はやてばっかりが……。

 

「リコちゃん?」

「……んだよ……」

「髪の毛てっぺんまで紫色やで」

「金髪のリコちゃんが好きだったか……?」

「綺麗な色しとったんにもったいないなー思って。てか、どうやって色変えとるん?」

「リトマス紙みたいなもんだよ」

「めっちゃ不便そう」

 

 変な色だろう? 負け犬ルーサーな俺にお似合いだよ。

 詰みの負け。完封。

 俺を生け贄にした希望の一手も虚偽の物で、もはや抵抗する気力もなくなった。

 

 だってもう、いくら考えたってどうせ嘘を吹き込まれるんだろ? 

 

「リコ、少し話がしたい」

「……なんだよシグナム」

「主はやて、少し場を外します」

「そんなかしこまらんでええって。みんなびっくりさせてごめんな、今はもう平気やで」

 

 立ち上がるよりも先に、足の重い俺を引きずるようにシグナムは俺を病室の外へ連れ出した。そしてそのまま、守護騎士勢揃いでぞろぞろと病院を出て人のいない裏手へ。

 

「何を黙っている」

 

 シグナムだけじゃない。まだ涙目のヴィータも、シャマルも、ザフィーラも、似たような鋭い目で俺を睨んでいる。

 連れて行かれた先にあったベンチにだらしなく座って、なんでもないと手を振り──

 

 ──頬を叩かれた。

 

 あのシグナムが、感情に身を任せたみたいな事をした。

 

「お前って奴は……!」

「リコのそんな姿見たくねぇんだよ!」

 

 ヴィータまでも? そんな姿って、どんなよ。

 ちょっと頭がリトマス紙になっただけだろ? 

 

「リコちゃん……」

「無理をするな。お前が何を抱え込んでいるのか、話して欲しい」

「お前ら……」

 

 これは、希望なのか? 

 

 ……。

 …………。

 

 そうだ、まだこいつらが味方に付いてくれれば戦える。

 諦めた俺の心に、また気合いが戻ってきた。

 最後まで諦めず抵抗するのが、アークスだったな。

 

 そうだ、そうだ。冷静になれ。

 闇の書が暴走し再び封印をかける時に主と周囲空間を巻き込むとは言われたけど、欠片が主に憑りついて殺すんじゃなくて本の方から殺しに出る挙動な筈だ。

 

 考えろ、考えろ、リコ・クローチェ。

 諦めるってのが思考誘導の結果だとすれば、本当は何か隠したい解決策があるって事だろう? 

 

 考えろ。考えろ、考えろ。

 ダークファルスですら恐れて隠したがる黎明へ至る道筋。何かあるんだろ。

 

 無理だと思うから無理だとどっかで聞いたじゃないか。

 

 時間が足りない。

 ユーノやクロノの協力も必要だ。そうだ思い出せ、“英雄は一人じゃない”。

 俺が一人で抱え込んで勝とうだなんて、なんでそんな事しようとしたんだ。

 

 まずは完成までを……欠片復活までを少しでも長引かせる。

 いくら思考が操られてるったって、それにも限度がある。理性が残っているのだから。

 今だって、ちゃんと話が通じてる。俺に味方してくれている。

 

 よし。

 まずは、蒐集をいったんやめて貰って──

 

 

 

「──悪いが、その話は聞けない」

 

 

 …………え……? 

 

 

「リコが管理局の連中に何を言われたのか知らねぇけどよ、闇の書を一番良く知ってるのはあたしらなんだ。だから、はやてを助けるならあたしらに任せてくれて間違いねぇ」

 

 

 どう、いうことだ? 

 

 

「ごめんなさい。最近しっかりお話できてなかったけど、リコちゃんの事も寂しがらせてしまったわ」

 

 

 違う、違う! 

 

 

「残りももう数えるほど。済まないが、後少しだけ待っていてくれないか。すぐに終わらせよう」

 

 

 なんで、ここまで来て? 

 味方じゃないのか? 

 

 あと、残り? を、止まってくれず、埋めようと? 

 

 

「……いらぬ心配をかけたな。だが、主はやての事は我々に任せてくれて間違いはない」

 

 

 おい、シグナム……なんで……お前までそっち側なんだよ……。

 味方じゃなかったのかよ! 

 

 そう問いかけても、他の面々に目伏せをするだけで聞いてはくれない。

 それどころか、時間も惜しいと言いたげに背を向けた。

 

 

「ははは、あぁ、そうかい……」

 

 そっかぁ……。

 

 去っていく騎士達を見送りながら、寒空を見上げるしかできない。

 

 

「…………」

 

 

 もう俺に出来る事は、ないな。

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ……………………。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-36 闇に囚われし者

次回更新、感想返しは来週となります。
良き週末を。


 夜の帳が下り、どこまでも澄んでいた青い空はあっけなく闇に包まれた。そんな夜明けを待つ空に吐いて出た白い息が、消えていく希望を表すかのように吸い込まれていく。

 ……なんて考えて乾いた笑いが出た。

 だってまだ吐き消せる程に希望が残ってたなんて、笑えてしょうがないじゃないか。

 

 

 もうなんにも残ってないのに。

 だから手遅れだと、繰り返し警告されたのか。

 さっさと介錯を受けていれば、こんな真実を知ることなく終わることができたのだから。

 

 

 あのやり取りの後、何時間をこの病院裏にあるベンチで過ごしただろう? 

 朝から昼を過ぎて夜になるまではいたから……半日以上? 時計は一周してないと思うけど。

 

 シグナムら守護騎士の首尾はどうだろうか。

 もう残り後ちょっとなんて言ってたし、そろそろ終わるかな。

 そしたらどんなになるだろう。まずは八神家が爆発するかな。あるいは、街中にダーカーが大量に溢れるとか。

 

 

 諦めて脱け殻になった俺はここでこうして何かするわけでもなく、もはやする事もなくぼーっと終焉を見届けようとしている。

 あいつらがさっさと闇の書を完成させて、何もかも巻き込んで、近くにいた俺も巻き込まれて死ねばいいんだ。

 

 

 スタイリッシュ無理心中。

 文句なしのバッドエンド。

 

 

 土手でなのはとフェイトと話をして、カフェっつうか豪邸でアリサとすずかと話をして。

 家をクリスマスの装飾で飾り付け、わいわいと思い出を作って。いなくなってもいいように、オラクルに帰るなんて事を言いふらして。

 心残りの無いように、俺の事は思い出に生きる一人として薄れ去る存在になるよう仕向けて回ったのに。

 

 ぜーんぶぜんぶ。意味もなし。

 

 なんにも救えない。

 たった一人を救うなんて事がいかに難しく、そして夢物語であったか。

 

 

 

「……まだ……」

 

 何をもって救いとするか。

 脳裏にふとよぎった自問への答えは、あっけなく。そして、それがあるかと。

 

 ベンチから立ち上がった時、ぱりぱりと至るところから氷が落ちた。

 なんだか遺跡から蘇った石像になった気分だ。

 これはこれで楽しいけど、蘇ったのは石像じゃなくて悪神なんだよな。

 はは、ナイスブラックジョーク。ダークファルスなだけに。

 

 

 

 ふらふらと歩みを進めながら廊下を歩き、ほぼ無意識に八神の名札がついた病室の前にたどり着いた。

 

 今の俺はどんな顔をしているだろうか? 

 きっと、デューマンらしく青白い顔をしているだろう。髪の毛だっててっぺんまで紫に染まって、綺麗な一色染めだ。もしかしたら角も少し伸びてるかも。

 はははは、リコちゃん2Pカラーの出来上がりだな。

 

 扉を叩く直前で手が止まり、動悸が激しくなっているのに気が付いた。

 視界に入った手も震えてる。

 

 

 ──誰もいないと油断し、扉越しにはやての苦しそうな声を聞いてしまったからだ。身体の異常はもはや、常に深い苦しみを背負わせるほどとなっている。

 それが闇の書を所有しているだけで生まれる痛みにしろ、なんにしろ。このままでは苦しみ抜いたあげくに殺されてしまうのだろう。

 

 

 助けなきゃ。

 

 

 守護騎士達は俺と同じく思考を誘導をされて、一切の疑い無く闇の書を完成させようとしている。それが主であり家族であるはやてを救うと信じて。

 ダークファルスを復活させるという真の目的に気がつけないまま。

 

 あと残り少ないページを埋めて、シグナムら守護騎士が闇の書を完成させてしまうのが先か。

 あるいは、俺の中にいるダークファルスが勝利を確信して食い破って出てくるのが先か。

 

 猶予もなく、終わり。誰も救われない。

 いずれにせよ、はやての死は避けられず始まり分岐する物語。

 

 

 助けなきゃ。

 

 

 前まで考えてた作戦であれば、実行ができれば、本当にそれができていれば、ハッピーエンドだったんだ。

 だけどそれが無理だってわかったなら、せめてもの一手がある。

 これだって立派な救い。

 

「……助け、なきゃ……」

 

 嘆きの果てに諦めの境地へと至り、力が抜けて軽いノックの音が出た。

 一拍置いてはやての元気に振る舞う声がして、顔も見ていないのにそれが空元気だと確信してしまう。

 ぼろぼろと涙が零れるが、それを拭う気にもなれなかった。

 

「リコちゃん、なんて顔しとるんや……」

「……お似合いだろ……?」

 

 笑顔のはやての姿は、とても痛々しかった。

 何もわからない原因不明の麻痺が進行する恐怖。苦しく、死が間近に迫っている恐ろしさ。

 それを押し隠し、家族の為に笑顔を作って。

 

 はやてを守る騎士はどこまで行ったんだろうか?  

 まぁ、今は蒐集が言ってた以上に時間がかかってるみたいだしそれはそれで幸運だと思うんだけど。

 だって完成する前にこの答えに至れ、そして騎士がいたら止められるから。

 

「……ど、どうしたん。なんか変やで、リコちゃんらしくない……」

 

 どうして、ここまで素晴らしい程に健気なはやてがこんな業を背負わなければならないんだ。

 きっと本人は真実を知っても、苦しむのが自分で良かったとか言い出すんだろう。

 

「ほ、ほら、泣かないで笑って! 私はな、笑顔のリコちゃんが一番好きなんや!」

 

 何も知らないはやてがいつもの笑顔で語りかける。

 

 

 ──そうだ、彼女はまだ何も知らないんだ。

 何も知らない事こそが、唯一の救いじゃないのか? 

 

 

 そうだ。それこそ救いなんだ。助ける方法なんだ。

 ああ、良かった。この事に気が付けて。

 今も絶望したままベンチで終焉を待っていたら、最後に残った救いの手段すら投げ捨てる所だった。

 

 

 助けなきゃ。

 

「……」

「な、なに? どうしたん?」

 

 

 この街を、見知らぬ誰かを殺すなんて事をはやては望まない。

 自分のせいで誰かが不幸になるなんて、そんな事。

 きっとそんなことになれば、安らかに眠るなんてできやしないだろう。

 

 

 何も知らずみんなに心配され、家族の愛を存分に受けている今が。

 

 今が、一番幸せなんだ。

 そうだろう? 

 

 

「リコ、ちゃん……?」

 

 

 

 ──ここで死ねば、安らかな終焉を迎えられる。

 

 

 

「……」

 

 手には、愛剣のラヴィス=カノンがしっかりと握られていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-37 予感

これから隔日となります。


『あー、あー、ごほん。オレはリコ。ご存じアークスのリコ・クローチェ。

 どういう状況かはこれを録音してる時点では分からないけど、それでも残しておく。

 これは証拠だ。オレがまだ、ここにいるという。

 

 ……これ聞いてる頃ならたぶん手遅れ。オレは、オレのままじゃないだろうね。

 浸食されつつあるこんな身体じゃどこまでできるか分かんないけど、やれることはやる。

 ただ、駄目だった場合は、その、引導ってのをさ……頼みたくて……』

 

 

 

『えーっと……前のってどこまで話したんだっけ? まあいいや。

 敵の名前はダークファルス。悪意とか憎悪が意識を持った感じの奴。そいつはまず実体を得ようとして……依り代を探して憑りつく……』

 

 

 

『この肉体は濃いダーカー因子に汚染されて、ダークファルス一歩手前みたいになってる。

 あいつらに有効打を与えられるのは主にフォトンのみ。自害もできないし他にフォトンを扱える者もいない……。ならエミリアさんが用意してくれた棺桶に入って、こっちの世界で唯一消し去れるアルカンシェルを使ってもらって介錯されるしか道はないでしょ? 

 ああ、あと。早めにこれを聞いてくれるならおれを呼ばないようにって伝えておいて。誘われて一緒にヤツも出てきちゃうからさ』

 

 

 

『いいかいシグナム、よく聞いてくれ。このメッセージパックの中には……。

 やべ、台本忘れた。ちょ、ちょっと待って。これなし。えっと、停止停止──』

 

 

 

『ダーカー因子に汚染されたモノの浄化、及びダークファルスと戦う方法かぁ。

 フォトンを纏わせた攻撃を叩きこむってのが定石なんだけど、魔法でもいけるかはだいーぶ怪しいのよねぇ。魔法とフォトンって互換性あるらしいけど、あー、でもそれって昔の設定だっけ……? うーん……』

 

 

 

『今のオレは、だいぶやべーと思う。シグナムがこれを聞いてるのだって、変な挙動してるからだろ? 

 ダークファルスが憑りついて、都合の良いように思考を誘導したり…………行動を…………』

 

 

 

『フォトンは想いを力にする。だから、皆で気合いを込めればおっけー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八神家のリビング。

 病院から一度帰り集った守護騎士は、そこで事前にリコから渡されていた十何通にも貯まったメッセージパックを確認していた。

 はやてが倒れた衝撃以上に様子のおかしいリコを不審に思ったシグナム達は念話で示し合わせて会話を切り上げ、真実を知るためにメッセージパックを開いたのだ。

 以前に「様子のおかしいオレに構うな」と告げられていたせいで不自然な会話となってしまったが、それがどんな結末を生んでしまったのか騎士達は知らない。

 

「あの馬鹿リコ、こんなことやってたのかよ……」

 

 自身にはダークファルスなるモノが憑りついているから思考がおかしくなってしまっている事。

 それを倒す方法を模索はするけど、間に合わなかった場合は後を頼みたいという事。

 聞こえてくる内容は偶に重ねて話すこともあれど、一貫して最悪自身はどうなってもいいという想いが籠っている。

 

「シグナム。すべきことは決まっているな」

 

 拳を握りしめたザフィーラが低く呟いた。

 その言葉にシグナムはしっかりと頷く。

 騎士達の今の目的はただ一つ。それは、ひとり戦い苦しみそして絶望に押しつぶされそうになっているリコを助ける事にあった。

 

 闇の書もその中にある闇の欠片も関係ない。

 今は家族を救いたいというたった一つの想いが、魔力の蒐集という使命を跳ねのけ勝っていた。

 

「ああ。しかし、リコに憑りついていてるダークファルスだったか。奴に有効打を与える方法がリコにしか使えないフォトンとなるとどうしたらいいか……」

「あたし達の魔法じゃ効きにくいってだけじゃねぇの?」

「ヴィータちゃん、そんな単純な相手だったらリコちゃんも悩んでないわ……」

 

 ただ、状況は悪い。

 なんせメッセージ内ではひたすらに「フォトンを武器にすれば戦える」と伝えているのに対し、その方法が一切ないのだ。

 それが単に言い忘れていたのか、それとも知らずの内に話さなくてもいいやとなったのかは分からないが、これでは守護騎士といえど手が出せない。

 ヴィータの指摘もあるが、あくまでフォトンと魔法が互換性があるだけで代用できる訳ではない。

 

 

『うるせぇ!』

 

 

 沈黙が包み込んだリビングに、リコの声が響いた。

 録音されたメッセージパックの音声ではない。部屋の隅、前に置いてそれから放置されていたナベリウスパパガイが空気も読まずに喋っている。

 

『シグナムゥ!』

 

 やかましく。

 

『失礼な。ひとくち飲んでみろよ、おいしいぞー』

 

 空気も読まず。

 

 思わず近くにいたヴィータが、ナベリウスパパガイを殴り飛ばした! 

 

 リコちゃんコーナーと称される混沌の魔窟へ鳥類が止まり木ごと倒れこみ、倒れた先の机に乗っかっていたマターボードやヴィータの描いた似顔絵、フォトンドロップ等をがらがらと崩していく。

 被害は大きいが、沈黙はした。

 

 

「ヴィータ、落ち着け」

「……悪い」

 

 冷静になった所で、どう戦うべきか? 

 崩れて散らばった小物を拾い集める傍ら、シグナムは何かヒントが無いかと探す。

 

「こんな物を置いておくくらいなら、何かもっと有用な物を残して欲しいものだ」

「リコちゃん、本当に分かりにくいことするから……」

「つぅか、なんでこんなよくわかんねぇ宝石みたいなのいっぱい置いてあるんだよ」

 

 確かにと返し、ザフィーラが意外と大きいナベリウスパパガイを起こす。

 その時、喋り始め特有の機械音がして全員が身構え緊張と沈黙が走る。

 

 だが、それこそが希望のひと声だった。

 

 

 

『フォトンが結晶化した自称珍しい奴。綺麗だろ? 純フォトンだしうまく使えばこの世界でもフォトンエネルギーを使えるかもね』

 

 

 

 鍋パーティーの飾りつけの際に発された言葉。

 それが何を示すのか。

 再び沈黙の訪れたリビングの片隅、全員が床に散らばったフォトンドロップを見る。

 

「シャマル」

 

 懐から出したのはベルカ式のデバイスで用いられる道具であるカートリッジ。

 

「少し加工が必要だけど、これなら……!」

「メッセージの録音といい回りくどいな、あいつは」

「だな。あたしも手伝う」

「至る所に飾られていたな。集めてこよう」

 

 鍋パーティの時に飾った上に、クリスマスの飾り付けとしてもフォトンドロップやそれよりも大きいフォトンクリスタルやスフィアもあった。

 こうなる事を意識していたのかは分からないが、通常のカートリッジと同じようにデバイスで使用すれば一時的とはいえ武器にフォトンを纏わせることができるだろう。

 

「希望が見えたな」

 

 シグナムの呟きに全員が頷き、

 

『全知はオレだ! オレの導き出した解に間違いはない!』

 

 再びやかましく鳴いたナベリウスパパガイは再び殴り飛ばされた。

 台詞を繰り返しているだけでお前は別に全知じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………違う、……違う……! ぁああああ!」

「リコちゃん、落ち着き! リコちゃん!」

 

 その目にもう正気はなかった。

 しかし絶望と闇に飲まれ一時は刃を向けたものの、リコには最後の一押しができずにいた。

 思考は殺せと叫んでいるが、体が命令を拒否しこれ以上動けない。

 

 ついには手に持ったラヴィス=カノンを落として床に刺し、呻き声を上げながら紫に染まった頭を掻きむしる。

 

「止まれ!」

 

 “救い”と称した最悪の一手を踏みとどまったリコを止めたのは、朝に会って以来のクロノであった。

 扉を開けると同時に得意のバインドで暴れる影を拘束し、それがリコだったのは予想外だったようで眉をひそめる。

 

「探すのに手間取った。……色々聞きたいことがあるし、おとなしくしてくれると助かるんだけど」

 

 造作もなくバインドを引きちぎったリコが、赤く染まった瞳で振り返る。

 

「な、なんや、何が起こっとるんや……」

「君が、闇の書の主?」

「せやけど、一体何が起こっとるん」

「……説明は後回しだ」

 

 はやての事はもう眼中になく、床から引き抜き手にした愛剣で斬りかかるリコ。

 とっさにバリアを張って受けようとするが、すぐに破られデバイスでの鍔迫り合いとなった。

 

「ぐ」

 

 重い。細く小さい体躯に見合わぬその力に押し負けそうになる。

 

「リコちゃん! やめて、暴力はやめや! 前に喧嘩したら追い出す言うたよな!」

「……っ!」

 

 その言葉に顔が歪み手が緩む。

 一瞬を逃さずクロノは新しいバインドで捕まえ、窓から小さなリコを投げ捨てる。

 まずは闇の書の主から距離を取らないと巻き込んでしまうと踏んだからだ。

 

 既に病院周辺には結界が張られているので、投げた所で逃げられる訳でもない。

 一息ついたクロノは振り返り、時間もなく端的ではあるもののはやてに説明をする。

 

「闇の書の中に、ダークファルスが……?」

「知っているのか?」

「前にリコちゃんが言うとった。フォトンを光とするなら、反対に闇としてダークファルスがおるって。でも、おかしない? リコちゃんはフォトンを扱うアークスなんやろ?」

「……だが、あの様子は……」

 

 まるで、闇に飲まれている。

 

「よくわからんけど、リコちゃんを助けてください! お願いします!」

「ああ」

 

 闇の書の主が何も知らない少女であることは予想外であったが、今は殺戮に走りそうなリコを止める事が先決であった。

 自身のデバイスである杖のS2Uを握りしめ、リコを追い窓を飛び出す。

 

 外に出たその瞬間に、下方から黒い光を纏ったダブルセイバーを携えたリコが振り回しながら上昇し襲い掛かってくる! 

 

「くっ!」

 

 正面から打ち合えば負ける事は分かった。クロノはトルネードダンスをバリアで逸らして避ける。

 コートダブリスⅮと呼ばれる武器を装備したリコの影は禍々しく歪んで見え、その存在はもはや同一人物であるかすらも疑われるようにすらなっていた。

 髪の毛は紫一色に染まり、バリアジャケットのような黒をベースとした硬質な戦闘衣を身に纏い、殺意に満ち溢れたその姿。

 

 

「あれは、ダークファルスなのか……?」

 

 

 その姿を見て、クロノは疑う心理こそあれ半ば確信してしまった。

 救いたい存在を救うこともできず、手立てもなく、絶望の海に沈みこんだアークスの成れの果て。

 負の感情を溜め込み歪んだフォトンのそれこそが、ダークファルスなのだと。

 病気とは、憑りついたそれのことなのだと。

 

 救援は呼んでいるがいつ来るのかは分からない。

 当たれば死ぬであろう攻撃を躊躇もなく繰り出す、得意のバインドもほぼ通じない相手。

 相性が悪いとしか言えない戦い。

 

「やるしかない……」

 

 杖をしっかりと握りしめ前を見据える。

 それに答えるように、リコも武器を構えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-38 引き裂かれた心

 コートダブリスⅮを掲げ、跳躍。

 とっさに避けたが、振り下ろされたサプライズダンクはそのまま素早く斬りつけるアクロエフェクトに繋がる。

 

「リコ、正気に戻れ! 話を聞いてくれ!」

 

 バインドで一瞬動きを止めた隙に接近し、デバイスを振りかざす。

 再び鍔迫り合いとなったがそれが目的だ。

 

「手荒だけど!」

『Break Impulse』

 

 手加減できる相手ではないと判断して武器を破壊しようとブレイクインパルスを放とうとするが、それは軽く避けられる。

 文字通り一瞬無敵になるステップ。それをゲームではない現実世界へ持ち込めばどうなるか。

 鍔迫り合いから一転して体をすり抜けるという謎の現象が起き、驚いたクロノの判断が鈍ってしまった。

 その上、クロノを中心にしてステップをしたせいでリコは背後へ回り込む形になる。

 

「しまっ──」

 

 防御は間に合ったが、それはダメージを和らげるだけに過ぎない。

 打ち上げられ、続いて流れるような四連撃を叩きこまれた。

 

「ぐ、まだだ!」

 

 今は使っていないものの、メインの武器はラヴィス=カノンと呼ばれる剣……つまり接近が得意ではないのか? 

 それに、以前空中戦はできないと話をしていた。

 

「卑怯とは言うなよ」

 

 得意のバインドは通じない、接近戦は危険。

 けれど空中戦が苦手と話すなら射程外から撃てばいい。

 その結論に至ったクロノは飛んで距離を取りる。

 

 跳躍力はあるが、充分に高度を取れば問題ない筈だ。

 振り向いた時。

 

 ツインダガーを装備し、重力を無視した跳び蹴りで空中のクロノへ急接近するリコの姿があった。

 

「空戦は苦手だったんじゃないのか……!?」

「……」

 

 デバイスで蹴りを弾くが、ツインマシンガンへ切り替えたリコは射撃を繰り返しながら纏わりつくように接近を続ける。

 リコの持つ武器は一つではない。多種多様の武器、そのPA、そしてテクニック。

 豊富な攻撃手段を持つ上、この世界でアークスの戦闘術をあまり披露していない為に先の読めない攻撃を繰り返されクロノは苦戦していた。

 

「どれも、非殺傷なんてレベルじゃないぞ! 加減してくれ!」

 

 かすめた弾丸が容易に皮膚を引き裂く。

 殺し、殺され。生きるか死ぬか。

 数多の戦場を駆け抜け、数多のエネミーを撃破し、数多の死体の山を築いた攻撃。

 次元犯罪者も非殺傷の攻撃を使うには使うが、ダーカーの殲滅という使命に生まれたアークスとは質が違う。

 

「このっ」

 

 銃口を杖で殴って逸らし、空いた体に蹴りを入れ飛ばしようやく距離が取れた。

 

「スティンガーレイ!」

 

 追撃に魔法を叩きこむ。

 全てがヒットし眼下のアスファルトに小さな影が吸い込まれ消えた。

 油断はせず、さらなる追撃に上がった煙幕の中へ砲撃のブレイズカノンを放り込む。

 

 見た目は華奢だがそれは強さの当てにできない。

 多少オーバー気味でないと鎮圧は不可能と踏んだからこその容赦のなさ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 相手が常識の通用する相手ならば、それで良かっただろう。確実に無力化できている。

 だが、相手はアークスの装備と技能を持ち込んだ存在。

 

「……リコ、冗談は口だけにしてくれないか……?」

 

 煙が晴れ現れたリコは、カタナを装備し青い光を身に纏い、そして無傷であった。

 

「ダメージのひとつもないのは人としてどうなんだ」

 

 悪態をつくのも無理はない。常識が……否、設定が違うのだ。

 カタナコンバット。

 最大20秒無敵になれるという効果を持った、カタナ専用のアクティブスキル。

 一撃と一瞬が重要な戦い方をする魔導士相手には反則に近い。

 

「……」

 

 柄に手を伸ばし追撃に出ようとして、止まった。

 

「なぜ結界内に、民間人が!?」

 

 リコの視線の先には本来いないであろう人影が。

 それは、すずかとアリサ。

 縁があったから導かれてしまったのか、それとも何かの理由か、ただの偶然か。

 運悪く理性を失っているリコの眼前に出てしまった。

 

「君達、早く逃げろ! うわっ!?」

 

 救助に向かおうとしたクロノを黒い手のようなテクニック、イル・メギドが妨害をする。

 

 

「……リ、コ?」

「リコちゃん……?」

 

 魔法もテクニックも、何も分からなくたって今が戦闘中でリコの様子がおかしい事くらいはわかる。

 

「あ、あんたこんな所で、そんな危ないもの持って、何してんのよ!」

 

 動揺し、怯えつつも放たれたアリサの言葉にリコは攻撃ができずにひるむ。

 

「……」

 

 眼前の存在を滅ぼす暴力となっても、友人の言葉は届いていた。

 落としたカタナを拾うことなくラヴィス=カノンを取り出すが、

 

「リコちゃん、人を守るのがアークスじゃないの……?」

 

 すずかの一言で再び止まる。

 

「ぐ、う、ぁああああ!」

 

 暴れたい訳ではない。

 殺して回りたい訳ではない。

 ましてや世界を滅ぼしたい訳ではない。

 

 救いたいという想い。

 

 深い闇に囚われても、奥底でそれはまだあった。

 想いを捻じ曲げられてしまっても。

 

 はやてに剣を向けた時と同様に、剣先は定まっていなかった。

 殺すことが救いだと思考を支配されていても、実行できるはずがない。

 

「あんたはそんな馬鹿な事するはずないわよ! 馬鹿だけど!」

「リコちゃん、落ち着いて!」

 

 この世界でできた友人の声を聞き理性を取り戻しかけ、それを阻止するかのように闇の勢いの強まったその瞬間、叫び声を上げながら逃げ出した。

 赤黒い光がリコを包み、次の瞬間にはいなくなっている。

 

「君達、無事か!?」

 

 イル・メギドを振り切ったクロノが到着した。

 

「も、もう! いったい何なのよ!」

「空を飛んで……」

「時間がないから短直に言うと、ここは危険だ。今なのはとフェイトが向かっているから、その2人に──」

「待って! 馬鹿リコだけじゃなくてなのはとフェイトも!?」

「アリサちゃん、一回落ち着こう?」

「なんですずかはそんなに落ち着いてるのよ!」

 

 ──だって訳の分からない状況はリコちゃんで慣れてるし。

 そう言おうとして押し込み、元凶であるリコを思案する。

 

「とにかく、ちゃんと説明しなさいよ!」

 

 納得はいっていないようだが、時間もない。

 クロノは空に出て消えたリコの探索を行おうとして、エイミィから通信を受けた。

 その内容は、闇の書の騎士の接近。

 

「こんな時に……っ!」

 

 リコと騎士に繋がりがあるとすれば、当然敵。

 

「管理局!」「おい貴様! きーさーまー!」

 

 見えたシグナムとヴィータの影に武器を向けるが、騎士は戦いに来たのではないと一瞬で察しがついた。

 セットアップは済ませている。武器も携行している。なのに、全く今までの戦意も見受けられずそれどころか道を聞くかのような雰囲気すらあった。

 

「リコを見なかったか」

「あたし位のおっきさで、頭が紫で、頭がおかしいやつ」

「放っておくと危険なんだ。可能であれば教えてくれ、すぐにでも止めたい」

 

 それは、理由は分からずも目的は一致しているという事である。

 一時的な共同戦線とはなるが、強力な戦力が味方に付くのは嬉しい事であった。

 

「……不意打ちとかしないだろうな」

「ベルカの騎士にも誇りがある」

「卑怯な真似はしねぇよ。戦う時は正々堂々だ」

 

 最初のなのはとの戦闘では不意打ちに近かった気もすると言いたいが、フェイトとシグナムの戦闘では確かに正面から戦っていたような……。

 時間もない。何か動きがあればエイミィが教えてくれるだろう。

 クロノは結論を出し、頷く。

 

「分かった。ひとまず君達を信じてみよう。他の騎士は?」

「ザフィーラとシャマルは我らが主にすべての報告と、リコを止める作戦の準備を行っている」

「で、リコどこ行ったんだよ」

「……彼女は……」

 

 その時。

 遠くの方からまるで怪物のような咆哮が響く。

 

『クロノくん! 臨海公園付近に巨大な生命体が発生!』

「発生?」

 

 何か嫌な予感がした。

 続いて送られてきた映像データを恐る恐る確認する。

 

 そこには、白い体躯をした龍がいた。

 

 大きさの割には手足は細く、背部に見える黒い羽根のような部位もまた細い。

 全体的にやせこけた印象を受ける中、胴体のみが青く膨らんでいる。

 

 クロノ達が知る訳もないが、その姿はまさしく造龍クローム・ドラゴンと同一の物であった。

 

「2人とも、少し辛い話になる」

「……まさかとは思うが……」

「その通りだ。リコは、ダークファルスに負けた」

 

 デューマン種の元となったハドレットの因子を受け継いだのか、ダークファルスとなったリコのヒューナル体としてこの世界に現れたクローム・ドラゴン。

 通常個体と違う点を挙げれば今も光を放っている赤い腕輪と、ラヴィス=カノンが変化した剣が握られている所だろう。

 

 映像を見たシグナムとヴィータの2人は、既に手遅れだったと顔をしかめた。

 

「くそっ!」

「私達がもう少し、早くしていれば……!」

 

 あの時、リコの目の前でメッセージを開けば良かったのだろうか。

 それとももっと早くに異常に気が付き聞いておけば。

 

 後悔は募るが、現実は非常にも散々本人の言った“手遅れ”である。

 もしその場で宥める事ができても、フォトンドロップの存在に気が付かずダークファルスをどうにもできないだろう。

 何が最善の道かは誰にもわからない。

 

「君達はリコの仲間なんだろう? 何か、手はないのか」

「ある。ダークファルスと戦う術はフォトンだ。それを、カートリッジという形で一時的ではあるが私達も今は使うことができる」

「攻撃はあたし達に任せてくれ。リコが言うには、フォトンしか通じねぇみてぇだし」

「分かった。遅れてなのは達も到着するから、その時にカートリッジを貸してあげてくれないか」

「高町なんとかの攻撃なら……」

「それにテスタロッサか。心強い」

 

 映像で龍が吠え、少し間を開けてクロノ達の耳にも咆哮が届いた。

 

「行こう」

「……リコを、助けるんだ」

 

 闇の書のいざこざもなく、今はただ目の前で暴れる家族を助ける為に力を振るう。

 シグナムも、ヴィータも、そしてここにはいないがシャマルもザフィーラも。

 

 怪物と成り果て暴走するリコを助ける事は諦めていない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-39 夜明けを願う“偶像”の嘆き

「シュワルベフリーゲン!」

 

 鉄球が宙を舞い、クローム・ドラゴンがそれに反応してメギドを放ち迎撃する。

 双方がぶつかり合い爆発し、煙幕を掻き消すように巨大な剣が振るわれ、接近したヴィータに襲い掛かる。

 

「おい貴様! リコを、リコを返せよ!」

 

 すんでを躱して懐に一撃を叩きこむが、左腕で容易に止められる。

 どうしてこんな姿なのかはわからないが、グラーフアイゼンの一撃を受け止めたその腕にはいつもリコが身に付けていた赤い腕輪があるのだ。

 ダークファルスに負けて死んだわけではない。取り込まれただけ。

 こいつをフォトンで浄化すれば、中からリコが出てきて助かる筈だと力を振るう。 

 

「ヴィータ、下がれ!」

 

 咆哮と共に空間にひびが入り黒い塊が出現し襲い掛かる。

 シグナムの警告に従って離脱したが、距離が離れるとクローム・ドラゴンが口にエネルギーを貯め始めた。

 

 あれは危険だ。

 そう判断したシグナムが入れ替わりに踏み込んで頭部を斬りつける。

 高エネルギーの攻撃は防げたが、代わりにぎろりと瞳が仇のようにシグナムを捉えた。

 

「恨むなよ!」

 

 フォトンカートリッジが消費され、シグナムの剣・レヴァンティンが炎だけではなく光にも包まれる。

 

「はぁ!」

 

 剣が鞭のように分割され、捕らえるように動く。

 シュランゲバイセン・アングリフ。防御を突破する事に長けているこれならとシグナムは選択したが──。

 

〔…………〕

 

 行動を阻害されたにも関わらず、相手は一切慌てる気配を見せない。

 何か罠かとシグナムが疑った瞬間、様子を窺っていたクロノがシグナムをバインドで捕まえ投げ飛ばす。

 

「くっ」

 

 攻撃を邪魔された訳ではなく、先ほどまでシグナムのいた空間には二体の怪物が来ていたのだ。

 どのエネミーともつかない容姿のそれの正体は、リコの所有していたマグ。その成れの果て。

 変異してしまったドルフィヌスとシャト。

 

「こいつらは僕に任せてくれ!」

 

 それほど大きくない。使役獣程度の相手ならフォトンが扱えなくても時間稼ぎはできる。

 そう判断したクロノがマグ2体を煽った。

 

「すぐにこちらも終わらせよう!」

「リコを頼んだ!」

 

 マグを引き付けたクロノから視線を外し、再び黒い塊を出現させ降り注がせたクローム・ドラゴンの懐に潜り込み、一閃。

 フォトンを纏った一撃が膨れた青い胴体部を引き裂き血のような黒い体液を噴出させる。

 

「くっ……!」

 

 宇宙の危機に至る力を持っているようにも見えないまだ不完全なダークファルス。

 今はただのエネミーとして顕現しているだけの、まだリコが助かる段階。

 

 ──このまま弱点であるフォトンで攻め続ければ、殺してしまうのではないか? 

 浮かんだ疑問に返す刃がひるみ、止まってしまう。

 

「シグナム!」

 

 ヴィータの声で我に返り、赤い腕輪の付いた殴りを回避し距離を置く。

 中距離では巨大な剣を振るってきたが、よく見れば当たる攻撃ではない。

 元より接近戦を得意とするベルカの騎士にとって、大きいだけが取り柄の剣撃など生ぬるい物だ。

 

 大剣と化したラヴィス=カノンを細腕で支え切れていないのか、そもそも動作が緩慢なのもある。

 口や周囲の空間から出現させるメギドや黒い塊も予備動作が大きい。

 闘牛のようにマグを煽り続けるクロノも、今のクローム・ドラゴンよりも先ほどまで交戦した生身の状態の方が手強かったと感じていた。

 当たれば危険であるのは変わりないが、明らかに避けやすい。

 

「フォトンでぶん殴ればリコは助かる! だろ?」

「すまない、その通りだな」

 

 龍が跳躍し、空を割って足をめり込ませ逆さまに停止する。

 何もない空間を足場にするというのは意味分からない能力だが、そうも言っている場合ではない。

 先ほどキャンセルされた口からの砲撃を行おうとしている。

 今までの攻撃の数々から、その威力がかなりの脅威であることは察しがついていた。

 

〔…………〕

 

 別々に飛んで逃げ、一歩遅れて2人のいた空間に闇と炎の複合テクニックでありリコの切り札であるフォメルギオンが放たれる。

 

「油断するな!」

 

 魔導士の常識では放たれた砲撃の向きを変えるなんて事は基本的にできない。

 だが相手は違う存在だ。

 この世界ではない常識を持っている。

 

「嘘だろ!?」

 

 ヴィータが驚き、フィアーテを使い逃げる速度を上げる。

 フォメルギオンが薙ぎ払うように横へ振るわれた。

 

 すぐ狙われてると判断し魔法を使って正解だ。

 恐らくアークスであったとしても、あの攻撃は致命傷になりうる。

 だが、それと同時に大きな隙でもあった。

 

 薙ぎ払いという脅威はあるが、砲撃の基本は変わらず固定砲台。

 二手に分かれた結果、フォメルギオンの向きから逃れたシグナムが剣を構える。

 

「行くぞ!」

 

 カートリッジが弾け飛び、再び剣に光が戻った。

 

「紫電一閃!」

 

 フォトンの光と炎が混じった斬撃が無防備な状態を斬りつける! 

 

〔…………〕

 

 衝撃で背部に生えていた細い翼のような部位が破壊され、バランスを崩し海へ落下し大きな水柱を立てる。

 その手ごたえにシグナムは油断をしない。

 表面に出ていた闇の一部、具現化していたそれを払っただけだと剣を通じて理解していた。

 

「どうだ?」

「まだだ。油断するな、またさっきのような砲撃を放ってくるかも知れん」

「わかった。あれ食らったらたぶん死ぬ」

「……リコは、いやアークスはとんでもない相手と戦ってたらしいな」

 

 特殊な能力もないまだただのエネミーで括れる相手。

 では完全なダークファルスはいったいどうなってしまうのか? 

 その答えは惑星ほどの大きさや時間を操る、様々なものを複製する等といったものだが、今の相手がそれらを使えなくて本当に良かっただろう。

 

「ヴィータちゃーん!」

「シグナム!」

 

 小休止の訪れた戦場に、増援が現れた。

 なのはとフェイト。ヴィータとシグナムと何度もぶつかり、お互いの実力は知れた仲。

 

 普段であればすぐに敵対していたが、今はそうも言っている場合ではない。

 懐から用意しておいたフォトンカートリッジを渡す。

 2人は、それを渡されても意味が分からず首を傾げた。

 

「今戦っているのはダークファルス。フォトンでの攻撃しか通じない敵だ」

「それ使えばあたしらでも少しはフォトンを使える。だから、それであいつをぶん殴って目を覚まさせてやるんだ」

 

 2人はフォトンというものを聞いたことがあった。

 というよりも、嫌でもリコから聞いていた。

 

「あの、リコちゃんは……?」

 

 フォトンを扱うアークス、リコが不在であるという事は。

 

「あいつは負けて、取り込まれた」

「でもフォトンがあれば、リコのやつを助けられんだよ」

「取り込まれたって……」

「助けるって、どうすれば?」

 

 説明はヴィータに任せ、シグナムはクロノの救援に向かう。

 いくらマグが相手とはいえ、連戦で疲労のあったクロノが押され始めていた。

 カートリッジは温存したままシグナムが斬りかかるが、その瞬間にマグは向きを変えて海の方へと飛んでいく。

 空を切った剣を持ち直しながら振り返れば、主人が消えた辺りの上空を二体のマグがくるくると回っていた。

 

「なんだ?」

 

 少しして、海面から光としか形容できない小さな光が飛び出る。

 小さなそれはふらふらとゆっくり動き、やがてシグナムの元へ辿り着いて、そして。

 

「消え、た……?」

 

 弾けて消えてしまった。

 今の光は一体何だったのか。

 全員が疑問を持ったその瞬間、沈黙していた海が突如として光り輝き荒れ始め、漂っていたマグが海面へ吸い込まれるように消えぐちゃぐちゃと捕食する音が鳴り響く。

 

「嘘だろおい……」

 

 虚空に亀裂を走らせながら足場にし、それは姿を現した。クローム・ドラゴンの面影を残してはいるが白かった体躯は黒く染まっている。

 右腕に装備した変異ラヴィス=カノンと左手首の赤い腕輪だけがまだ内部に取り込まれた人物の存在を主張していたが、今までや先程までとは違い微かな光しか発していない。

 

 アポストロ・ドラゴンと呼ばれる、クローム・ドラゴンの強化種。

 新しく生えた禍々しい翼を煌めかせながら咆哮し、その姿に戦慄した面々を睨み付ける。

 

「高町なんとか、逃げても良いんだぜ」

「テスタロッサ、君もだ」

 

 一目であれと戦うのが得策ではないと分かる。

 いくら実力はあれど、子供に戦わせる相手ではない。

 

「絶対に引きません」

「私達は逃げません」

 

 しかし、2人の戦意は揺らがなかった。

 

「前にリコちゃんは“力なき者の剣となり盾となる”って、教えてくれたから。だから、ここでわたし達が逃げる訳にはいかないの」

「なのはの言う通り。私達が止めなければ、被害が大きくなる」

 

 逃げろと説得する時間もない。

 もう一度咆哮を放ったアポストロ・ドラゴンはもう次の攻撃の準備をしている。

 

「いざとなればアースラに逃げてくれ」

 

 カートリッジを使いフォトンを扱う事ができるのは確かなものの、無いよりかマシ程度の効力しか発揮していないようにクロノは感じていた。

 先ほどダウンをとって海に落としたのも不意打ちによるところが大きい。

 倒しきれるかどうかは怪しかったが、思っていても口にはしない。

 

「ぜってー連れて帰る」

「フォトンは想いを力にするらしい。諦めなければ勝機は見える筈だ」

 

 士気を下げれば勝機もより下がる。

 ……元の勝機がいくつあるか、誰にもわからないが。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2-40 凶暴なる魂

 一時的にフォトンの力を得たと言っても、カートリッジという消耗品を使い一瞬だけ。

 相手のHPがゼロになるまで最大12人が何十回とPAやテクニックを放つアークスの戦いと比べてみれば分かる通り、カートリッジ程度の付け焼き刃では状況が良くなるはずもなかった。

 

 アースラ内から確認できる戦況は一切の好転を見せないどころか、むしろカートリッジの残数を気にして節約を始めてすらいる。

 急いでモニターを繋いだグレアムとその使い魔であるリーゼ姉妹も、アースラのスタッフと同じくこのままでは負けると踏んでしまっている。

 最初にフォトンカートリッジの存在が示された時には希望を見たものの、消耗する一方なのに対し相手はいくら攻撃を加えようが段々と力を増してすらいるようにも見えるのだ。

 

 人間体からクローム・ドラゴン、そしてアポストロ・ドラゴンと進化してきた。

 今はまだ本気でないのか、まだ覚醒しきっていないのか。

 いずれにせよ、残された道は多くない。

 

『アルカンシェル、か……』

 

 あの大きさなら、以前にリコが倒せると踏んでいたアルカンシェルで吹き飛ばせる。

 周囲の街も巻き込んでしまうだろうが、宇宙の危機と引き換えて街一つで済むのなら安い。

 

『……責任は、私が取る』

 

 震えを抑えながらグレアムが告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カートリッジ、ロード!」

 

 なのはのディバインバスターが飛来した黒い塊を粉砕するが、残った数個が襲い掛かる。

 

「あぶねぇだろうが!」

 

 しかしそれらを逃さずヴィータが殴り落とす。

 状況はあまり良くない事は戦いを見ているよりも戦っている面々の方が理解をしていた。

 フォトンの使える人間が4人に増えても善戦するどころか苦戦している今は、先ほどまで手加減しているようにも思える程。

 砲撃の隙をついて撃退のできたクローム・ドラゴンとは一線を越す猛攻を仕掛けてくる。

 

「手加減、か」

 

 もし先ほどまでがまだ抑えられている状態で段々と抑えが利かなくなってきているのだとしたら。

 なけなしの理性でリコがまだ抗っていた結果としてクローム・ドラゴンの撃退ができたのだとしたら、今の暴れまわる状況は戦況だけでなく助けるという目的でも絶望が覗く。

  

 早く決着を付けたい。

 焦り、欲張った踏み込みを自分で戒めシグナムは息を整える。

 

 状況は悪いが、それでも攻撃を続ける内に相手の弱点も見えた。

 確かに強力な攻撃を繰り返しているものの、隙がない訳ではない。

 むしろよく見れば決まったパターンの攻撃しかない。おかげで慎重に戦えば無傷とまではいかないが致命傷は避けられている。

 

「残りのカートリッジは幾つだ」

「ひぃふぅみぃ……。そろそろケリ付けねぇときつい」

「そうか」

 

 攪乱に徹しているクロノの疲労も大きい。

 仮にカートリッジの残りがあっても、これ以上続ければ事故が起きそこから崩れていくだろう。

 リコに決して人殺しはさせたくない。

 

「シグナム!」

 

 その時、ザフィーラも到着した。

 

「主はやてとシャマルは?」

「病院を出て今は近くまで来ている。だが、本当にこれでいいのか」

 

 守護騎士達には一つ、策があった。

 リコが怪物になってしまった事は想定外ではあったがそれでも作戦は変わらない。

 

 この世界でフォトンを使えるのはリコのみならば、そのリコにフォトンを使わせればいいという話だ。

 

 フォトンカートリッジも効果は一時的にフォトンを纏わせるだけで本職には及ばないことは理解をしている。

 ならばそれでダークファルスを叩きつつ全員で声をかけ、リコに気合いを入れさせ呼び起こせばいいと考えたのだ。

 最終的な手段が精神によるものな上に情報も少なく成功確率も分からない作戦と呼ぶには脆い物だが、シグナムはそれを採用していた。

 フォトンが想いを力にするのなら、リコの想いに賭けてみようと。

 メッセージにあった『おれを呼ばないように』とは真逆を行くが、同時に理由としていた“ヤツ”はもう表に出てしまっているのだから構ってもいられない。

 

「全員聞いてくれ。あの化け物に取り込まれたリコを助ける為に、私達はある作戦を立てた」

 

 攻撃を避けつつ耳を傾ける。

 

「残りのカートリッジを全て使い総攻撃を仕掛ける。そして奴を消耗させた隙に、主はやてと我々騎士でリコに直接話をつける」

 

 話をつけて、どうにかなるのか?

 クロノも言おうとしたが、自信満々に話すので止められなかった。

 

「それでリコちゃんが助かるなら!」

「このままじゃジリ貧だし、総攻撃で一気に削り切るのは賛成」

 

 なのはとフェイトも作戦には乗った。

 

「一瞬なら稼げると思う、僕が奴の動きを阻害するから後は何とかしてくれ!」

「私も加勢するぞ!」

「あたし達もいるよ!」「僕だって!」

 

 ザフィーラと遅れて到着したアルフとユーノのサポート班も加わり、氷結やバインド等全ての力を使って全力で動きを封じていく。

 状態異常扱いとされた氷結は嫌がる素振りで返され、バインドもすぐ引きちぎられるが今は攻撃をさせなければいい。

 

「いくよ、フェイトちゃん!」

「うん、なのは!」

 

 なのはのレイジングハートに大気に散ったフォトンや魔力が集められていく。

 フェイトも負けじとチャージ。

 大量のカートリッジが消費され宙に舞った。

 

「スターライトォ……」

「プラズマザンバー……」

 

 拘束が振り切られ、アポストロ・ドラゴンの口から真っ向勝負だと言わんばかりのフォメルギオンが発射される!

 

『ブレイカァァアアアアアアアアアア!』

 

 金と桜の砲撃と、赤と黒の砲撃がぶつかり合う。

 全力同士のぶつかり合い。

 

 その一方で、砲撃により無防備となった背部へ回るシグナムとヴィータ。

 フォメルギオンが大きな隙を生むのはクローム・ドラゴンの時に知っていたので、背後から攻撃は卑怯という場合でもなくデバイスを構える。

 

「ギガントォ……!」

 

 まず動いたのはヴィータ。

 グラーフアイゼンがとてつもなく巨大化する。

 本来ではここからただ殴りつけるだけであるが、違った。

 

「なんかこうしろって、フォトンが言うんだよ!」

 

 両手で柄をしっかりと握り、チャージ。

 フォトンの感じるままに構えたそれは……

 

「轟天爆砕! ヘヴィィイイ、ハンマァアアアア!」

 

 アークスのテクターがウォンドを使い発することのできるPA、リコの得意技であるヘヴィーハンマーであった。

 巨大な鉄槌が、インパクトと同時に大爆発を起こしアポストロ・ドラゴンへダメージを与えると同時に吹き飛ばす!

 体勢が崩れてフォメルギオンが逸れたことで、さらにそこへスターライトブレイカーとプラズマザンバーブレイカーが容赦なく襲いかかった。

 

「私も続こう。シュトルムフォルケン!」

 

 殴り飛ばされて光に飲み込まれた事には同情するものの、剣と柄を合体し弓へ変形させ容赦なく光の矢を構える。

 ヴィータと同じくフォトンから何かを感じ取ったのだろう。

 一瞬の貯め。そして、

 

「翔けよ隼! ラストネメシス!」

 

 ブレイバーのパレットボウ用PA、ラストネメシス。それは、アークス時代にリコが師匠によく見せて貰っていたもの。

 

〔…………グ……〕

 

 続けざまに攻撃を食らったもののアポストロ・ドラゴンの姿は健在であり普通に起き上がって見せた。

 しかし今の攻撃に思うことがあったのか、うなり声をあげながら頭を抱えその場で暴れ始める。

 

「シャマル!」

 

 やがて動作の止まった、今この瞬間。

 

「……見つけた!」

 

 待機していたシャマルが旅の鏡を使いアポストロ・ドラゴンからリコを見つけ出し、空間を繋げる。

 

「リコちゃん、掴まり!」

 

 腕を伸ばしたのは、シャマルと共に来ていたはやてであった。

 

「みんなで一緒に帰るんや!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

“Can still see the light”

 “家族”とは、一体何なのだろう? 

 その疑問を抱いたのはまだ新米アークスだった頃、先輩であり情報屋を自称する双子姉妹に映画館へ連れて行かれた時の事だ。

 

 研究所時代にレクリエーションの一環でも見た事のあるような、つまらないと言ったら失礼だけどそんな内容のよくある内容の映画。

 

 映画館を出た後に2人はあれが良かったこれが良かったと仲良く話していたけれど、おれは話を振られてもうまくは返せなかった。

 ストーリーも、登場人物の相関図もちゃんと理解している。なのに感想を求められても話が合わない。

 

 ──どうして家族だからや愛というものが不利益な選択をする理由になるのだろうか。

 そう告げた日から後は、双子の情報屋にしばらく付きまとわれる結果となってしまった。

 

 それから時折、家族や愛とはどういうものか考えて、そして自分にはそう言ったモノがいないから分からなかったのだろうと理解した。

 師匠や情報屋、チームの仲間もいるけど家族ではない。マイルームにサポートパートナーもいるけれどあれも家族かと言えば違うだろう。

 

 

 絆? 愛? 家族? それは何? 

 

 愛とは守る力? おれは何を守ればいいの? 

 

 

 ──リコちゃん……! 

 

 

 家族を持てば、理解ができる? 

 何かを守り続ければ、答えが見つかる? 

 

 疑問は晴れないまま深遠なる闇は復活し、アークスの使命のままに戦い、そして最後は敗れて散った。

 おれの放った全力のフォメルギオンとマザーシップを狙った攻撃がぶつかり合って生まれた時空の裂け目に吸い込まれて、身も心も闇に染まって。

 

 おぼろげになって漂っていたおれへ誰かが話しかけた。

 それが誰かなのかは分からなかったけれど、とても優しい声だったのは覚えている。

 家族というものを知りたければ身体を貸して欲しいなんてよくわからない話だったけど、おれはもう死んだようなものだったし良いよと返した。

 

 

 ──リコ! 

 

 

 夢だろうか? そう疑問に思えるほどの平和な日常が流れる。

 勝手に体が動き喋るという奇妙な感覚ではあるけれど、その声が言った通りに家族というものが理解できた。

 一緒に居れば安心のできる、暖かな存在。

 あの映画の言う通りに、自身の命と天秤に賭けられる存在。

 いいや、天秤に賭けても向こうが傾く。それくらい大切な人達。

 ちょっとふざけが過ぎて辛辣にされる事もあるけど、それすら微笑ましく楽しかった。

 

 

 ──おいリコ! おい、貴様ぁ!

 

 

 家族を知ると同時に、幸せな時間を壊すかのように闇が迫っていた。

 そうだ。おれはあの時たっぷりと闇を被っていたんだ。

 絶対にようやく見つけた家族を、この大切な人達を、この世界を守り抜きたい。

 

 

 ──リコちゃん! 

 

 

 けれど、考えれば考える程状況は悪かった。

 身体を動かしている“オレ”の方は思考をうまく逸らされて色々気が付いてないし、この世界にある魔法に関するいざこざも邪魔をする。

 手遅れだと、守る為ならば早く切り上げて介錯を受けるべきだと伝えようとするけど上手く行かない。

 

 

 ──リコ、主はやての手を取れ! 

 

 

 結果は手遅れ。

 この身は闇に染まって、飲み込まれ、もはや造龍のような姿になってしまった。

 けれどだ。

 

 とても、とても運が良かった。

 

 “オレ”の行動はあまり良い方向に進んだとは言えないけれど、それが回り回って転機を生んでくれた。

 フォトンドロップを使うなんて笑える事だけど、彼女達の諦めない一撃一撃がおれの精神を呼び覚まし、闇を祓うまでに至らずとも身体の主導権を少しずつ奪ってこられた。

 家族達を助ける為に、暴れる身体を抑え意識を繋ぎ留めながら準備を進めて。

 そして懐かしい二撃。それが決まり手となって、完全に今は制御できている。

 

 

 ──リコちゃん、一緒に帰るんや! 

 

 

 成り果てた姿が造龍なら、それもダーカー因子だけじゃなくてフォトンすらも食らい尽くせるこの姿ならば。

 あの作戦を実行できる。

 犠牲になるのは、おれだけで充分だ。

 これでようやく全てを丸く解決できる。

 

「リコちゃん! 聞いとるんか!」

 

 はやての手が、皆の声が届く。

 とても暖かくて守るにふさわしい、おれの見つけた家族の答え。

 家族の愛は知った。だけど、そこにいるべきはおれではない。

 その差し伸べる手は、おれへ向けるものではない。

 

〔みんなの知るリコは、ここにはもういないよ〕

 

 必要な犠牲はおれ一人で充分だ。

 その準備は完了している。この世界を、家族を守るために。

 愛するこの世界に、夜明けをもたらすために……! 

 

〔その手を差し伸べる相手は、おれじゃない〕

「リコちゃん、何を言うとるんや!」

〔家族というものをようやく知れた、今までありがとう〕

「リコちゃん!」

〔後は、任せて〕

 

 はやての手を払いのけ、巨体を動かす。

 一度は見えなくなった光。けれど、今なら。

 アポストロ・ドラゴンの能力なら!

 

〔来い!〕

 

 次の瞬間には目の前に闇の書が転送されてくる。

 造龍種の持つ技のひとつである、ダーカーの呼び寄せ。それを応用して闇の欠片を呼び寄せたのだ。

 

 マグを捕食したのと同じように、掴み、そして。

 

 

「闇の書を……いや、欠片を食っている……!?」

 

 

 再封印のシステムも、そしてその根本にいる闇の欠片も。

 愛剣で邪魔する魔法を引き裂いて、食えるものは全部食らい尽くして。

 所詮はフォトンも何も使われてないただの力技の封印。こんな程度のもので、この身体を止められると思ったか。

 抜け殻になった闇の書にはもう用はない。投げ捨てる。

 

 それだけじゃまだ足りない。

 今までこの地上にばら撒いたダーカー因子も、フォトンも何もかも。

 全てを……! 全てを集め、食らい……!

 

〔……グ、ゥゥオオアアアア!〕

 

 闇の書に入っていた闇の欠片から感じられる負の感情。

 封印されてから何百年と積み重なっていたもの。

 恨み、妬み、嘆き、悲しみ。

 

〔…………ッ!〕

 

 ここまで来て、意識が遠のく……?

 闇もフォトンもこの身に全て集められた。後は、後はアルカンシェルのある宇宙まで行けばいいだけなんだ……! 

 

 後……少し……! 

 

 フォトンが意志を力にするなら……我が想いを守れ……! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 投げ捨てられた闇の書……もとい、原因となっていた闇の欠片も封印機能も無くなり夜天の魔導書に戻ったそれがはやての手元に帰ってきた時、アポストロ・ドラゴンもまた姿を変えてしまっていた。

 もはや造形は生物のそれを外れ、怨念が一つの肉塊となり醜い姿を作り上げている。

 リコの住んでいたオラクルにだってこんなグロテスクなエネミーは存在していない。

 例えるならば、その容姿は大いなる陰(アンプラム・アンブラ)に近いものだ。

 

 だが、成れ果ててしまってもなおその内に宿る精神が死ぬことは無かった。

 使命を果たさんと光輝き、全てを包み込んだ塊が空へと昇って行く。

 

「リコちゃん! 戻ってきて、リコちゃん!」

「主はやて、危険です!」

「嫌や! シグナム、放して!」

 

 不具合の原因が取り除かれ夜天の魔導書としての機能を取り戻したデバイスを使い、セットアップを果たしたはやてが追おうとするのをシグナムが止める。

 リコを救いたい気持ちは同じだ。だが、これ以上どうすればいいのかわからない。

 

 だが早く止めないといけない事は分かり──

 

「あ、ああ……」

 

 ──視線の先で星々の輝きに混じり、流星のように一つ光って消えた。

 それが一体何なのか。

 その光が、一体空の果てで何が起こったのか。

 

 誰も答える者はいないが、誰もがそれを確信していた。

 これで戦いは終わる。闇の書に関する長い歴史も、何もかも。

 最小限の犠牲のみで。

 

「主はやて……」

 

 地上へ戻った面々の前に何かが落ちてきた。

 全員がそれを見て息を飲む。

 

「…………っ」

 

 地面を転がって、はやての足元へ。

 

「なのは、あれって……」

「うん……リコちゃんの……」

 

 赤い腕輪(レッドリング)

 リコの手首でいつも光っていた物。

 

「嘘や……こんなん……こんなん嘘やろ……?」

 

 震える手で拾いあげた赤い腕輪は、もう光を発していない。

 一拍を置いて、もう一つ何かが落ちてくる。

 コンクリートの地面へ容易に突き刺さったそれは……

 

「リコの、剣か……っ!」

 

 俯いたシグナムの呟いた通り、それはラヴィス=カノンだった。

 赤い腕輪と同じように光を失い、形成されていた刃が消え持ち手だけとなり地面に転がる。

 

 所有者の消えた二つのアイテムが、その顛末を物語っていた。

 

「おい……なんだよこれ……!」

 

 ヴィータが隣のクロノへ掴みかかる。

 空の果てでリコを消し去ったそれが何なのか、説明されずとも分かった。

 

「アルカンシェルを撃ったのかよ! リコによ! 返せ、リコを返せよ……!」

「……すまない」

「なんだよそれ! くそっ、リコ……リコぉ……」

 

 

 雲一つない空で星はきらめき泣き崩れる彼女達を照らす。

 これから時が経てば日は昇り、より明るくこの街を照らしていくのだろう。

 もう闇に怯える必要はない。

 誰もない八神家のリビングで、マターボードが12個の光を灯していた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ
青空になる


 闇の書事件、あるいはDF事件から数ヶ月が経ち3月も終わり。

 平穏そのものであり、事件に関わった事のある人物なら口を揃えて12月と比べてあっという間だったと答えるだろう。

 

 日が沈めば天に星がきらめいて、夜を晴らす太陽が街を照らして。

 もう何にも怯える必要もなく、何の心配もなく。

 誰もが平和に過ごせる毎日。

 

 

 

「主はやて、一つ多いです」

「ええのええの。お祝いや」

 

 平和の戻った八神家は大きな変化があった。

 麻痺の原因が取り除かれリハビリも終わり、歩けるようになったはやて。

 そしてその上で新たな住民がひとり加わっていた。

 リインフォースと名を付けられた夜天の魔道書の管制人格である。

 

 闇の書たる所以であった闇の欠片を引き抜かれ、封印プログラムも発動し終え……と言うより再生不可なまでに破壊され、何も封印していない空白の状態となったため夜天の魔道書に戻ることができ彼女は現れる事ができたのだ。

「故障箇所が多く完全に元通りではない」との事だが、それでも過去から続くダークファルスの因縁は全て終わりを告げたのだから管理局としても本人としても充分過ぎる状態ではあった。

 古代ベルカのロストロギアを完全にコントロール下に置いているだけでオーバー過ぎる。

 

「こっちはいいから、シャマルとシグナムに声掛けてきてな」

「承知致しました」

 

 テーブルに用意した食器は7人分。

 大所帯にも見えるが、呼ばれた騎士が揃い「いただきます」と手を合わせたのは5人だけ。

 手を合わせなかったひとりは相変わらず床で伏せている獣形態のザフィーラだが、それでも用意された7人には達しない。

 

「せっかくやからザフィーラもこっちくればええんに」

「……その席は、私の場所ではないので」

 

 そう言って一つぽかんと空いている椅子を示す。

 はやての側面、ヴィータの横。

 いつだって元気でやかましく、そして大切である家族の、今はいない八神家にいた住民がいつも座っていた場所。

 

「……なあはやて」

「なんや」

「なんでリコの所に唐揚げが山積みになってるんだ?」

 

 この場にいなくても扱いは変わらない。

 愛のあるひどさ。

 今でこそヴィータもはやても取り繕えているが、事件の直後はとても酷い状態だった。

 アポストロ・ドラゴン戦での負傷や仕事としての事情聴取等で八神家がアースラへ連行された際にはヴィータは暴れまわろうとしたり、それこそアルカンシェル発射の責任者であるグレアムが現れた時はそのまま殺してしまうのではないのかという勢いすらあった。

 はやても記録や報告等のまとめを見聞きし、リコが完全に居なくなった事を自覚した後には倒れこんでしまった。

 

「帰ってこんバツや。……私はな、いつかひょっこり戻ってくるってずっと思うとるんや」

 

 数か月が経って尚信じ続けるその言葉に、その場にいた騎士達は顔を背けてしまう。

 救って見せると誓い戦った果てに、闇から解放され救われたのは自分達だけであったのだから。

 はやての視線がリビングの隅へ向かう。そこにはリコちゃんコーナーが依然と変わらず存在していた。

 フォトンドロップは無くなりナベリウスパパガイも動作しなくなったため混沌感は薄れているが、事件後に追加された剣と赤い腕輪がその空間を築いた人物を示していた。

 

 クローム・ドラゴン……もといダークファルスが地上のフォトンに纏わる全てを吸い空へ消えた直後に降ってきたふたつのアイテム。

 リコの愛剣ラヴィス=カノンと、以前に誤って落としてしまった時には珍しく取り乱した赤い腕輪。

 

「私にはな、あれが戻ってくるって印に見えるんよ」

 

 席の確保に荷物を置くみたいに、と付け足したがそれにしては物騒な品だ。

 物騒とは言っても、ラヴィス=カノンはフォトンを失っている為武器としては無価値でありただの置物だけれども。

 

「でもよーはやて。もし戻ってきたらぜってー怒るだろ?」

「まずはひっぱたくで。そして道頓堀に投げ込む」

「ひでえ」

 

 ひっぱたくまでは良いが海鳴市からどうして道頓堀まで連れていく必要があるのだろう。

 やるなら臨海公園の方が近い。

 いや、投げ込まないで欲しいが。

 美幼女の不法投棄はおやめください。

 

「主はやて、それは流石に……」

 

 味方宣言をしていたシグナムが止める。

 それにシャマルも合わせて手を挙げた。

 何だかんだ言いつつリコの事が好きなのだ。

 

「そうよはやてちゃん。やるならガンジス川よ」

「あるいはアマゾン川だ」

 

 訂正、やっぱりこいつら嫌いなのかも知れない。

 

「……天の川、ではダメでしょうか」

 

 悪ノリしてリインフォースも案を出すが、それはもはや太陽系から追放しようというのか。

 しかし流石にやりすぎと判断されたのか却下された。

 

「リインは知らんと思うけどな、リコちゃんは宇宙でも生身で活動できるんやで。宇宙に放り出した位じゃ意味ない」

 

 意味がないからとかじゃなくて、普通に止めて欲しい。

 

「それを言ったらよ、リコって海底を走り回ってたんじゃなかったか?」

「せやな。そしたら火口にでも入れとく?」

「主はやて。以前に、アークスは好んで溶岩に肩まで浸かるとも話をしていた」

「え、ザフィーラそれ私知らんのやけど」

 

 ウォパルの海底やアムドゥスキアの火山の事だ。

 確かにそれらの例があれば……。

 ……水底も溶岩も、果てには宇宙空間も無敵とかアークスは生物として大丈夫なのだろうか。

 フォトンって便利。

 

 ただし、今やそれらももう存在していないが。

 全てダークファルスと共にアルカンシェルの一撃で消えてしまった。

 

 だから道頓堀もガンジス川もやめてください。

 1000億光年譲って海ならいいよ。

 

 

 

 本人不在にも関わらず食卓は賑やかだ。

 だけど時々、ふと誰かが居ないはずの席に話を振ってしまい沈黙が流れる時がある。

 八神家に増えた家族の一人目にして、自称宇宙人。そして、守護騎士達の名前に乗って守護輝士を勝手に名乗った者。

 

 はやての目の前から消えて数ヶ月経つというのに、今だその存在感は残り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ」

「……リコちゃん、いないのか……」

「はは、ごめんなさいね」

 

 存在感が残っているのは八神家だけではない。

 アルバイト先であった翠屋でも未だにリコ目的の客足はあった。

 どこからか流れたウェイトレス姿のリコの写真を見て遠方から来たという人もいる。

 もの好きというか熱心というかアイドルの追っかけというか、何にせよ世に2人といない美人とはいえ幼女目的で遠征してくるのはどうなんだろう。

 なんにせよこの場にいなくて良かった。

 いて手を出していたら恐らく、以前に心配していた「滅ッ!」になっていただろうから……。

 

「今日もいるわねー」

「リコちゃん、いつ戻ってくるんだろう」

 

 コルトバジュース……ではなく、普通のジュースを飲みながらアリサとすずかは入ってきたリコ目当ての客をながめていた。

 あの夜の戦いの後、リコについては元の世界へ帰ったという事になっている。

 本当の事を知っているのは戦った面々と、アースラのクルーだけ。

 地球にいた知り合いには全て帰ったと説明していた。

 

「あいつがいないと、なんか退屈ね」

「はやてちゃんだってずっと空元気だし……」

「あーもう! 引っ掻き回した癖に無責任なのよ、あいつは!」

 

 やることはしていたので許して欲しい。

 あの活躍がなければ、この地球は滅んでいたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全てはダークファルスのせい、か。私の口添えもあれば文句も出ないだろう』

「ありがとうございます。グレアム提督は、これからどうするおつもりですか?」

『引退を考えているよ。ファンタシースターにこだわる老人はもう、若者の作る未来に必要ない』

「……たまには会いに行きますよ」

『はは、手厳しい……』

「彼女も言っていた通り、大事なのはこれからですよ。グレアム提督はこれからの未来を創る気はないでしょうが、見届ける責任はあります」

『そっくりそのままもう一度言われると、頬が痛むよ』

「思いっきり殴られましたからね……」

 

 腫れた頬をグレアムがさする。

 家族と宇宙を守る為に頼まれたとはいえ知った仲の人物を二度も殺した上、取り乱した残された者を見て一時は銃口を咥える程精神的に追い込まれてしまったが、歯を食いしばれと殴られてからはすっかりおとなしくなった。

 部下の二人、仮面の男……ではなくそれに変装していた使い魔の猫であるリーゼ姉妹もついてることだし悲しませることはしないだろう。

 多少、過去に引きずられる事にはなるだろうけど。

 

 

 闇の書にまつわる事件、シグナムら守護騎士達の起こした襲撃事件に関しては全てダークファルスのせいにされた。

 ロストロギアに封印されていたものが、騎士を操っていたと。そういう事になった。

 

 報告の中にリコ・クローチェの名もある。

 ダークファルス討伐の為に異世界ファンタシースターから現れ、戦い、そして相討ちとなって散った英雄として。

 狙ってそうなったというわけではなく、本局への報告の際に色々と不具合がでないようにしたらこうなってしまったとはクロノの談。

 勲章も何も用意できないのなら、せめて記録に残るようにとも言っていた。

 つまり確信犯だ。ただ、それで丸く収まるのなら仕方もない。

 

 通信も終わり一息ついて、クロノの視線がテーブル上に置かれた冊子に向けられる。

 フェイトも入学した私立聖祥大附属小学校の資料だ。

 

「クロノくん、お茶入ったよ」

「ありがとうエイミィ。こっちも報告が終わった所だ」

「これでひと段落ね。──また学校のパンフ見てる。もしかしてクロノくんも地球に残りたいの?」

「確かにフェイトは心配だけど、でも彼女なら大丈夫だろ」

「そっちじゃなくて」

 

 エイミィが視線を向けた先には、『一枚無料』と称して置いていったリコの写真が飾られていた。

 普段の言葉遣いや行動からは想像もつかない完璧なスマイルで、軽く決めたポーズもよく似合っている。

 

「……いつの間に置いていったんだ?」

「クロノくんが寂しがると思って写真貰っておいたの。いいでしょー」

「額に納めているだけなら、本当に顔だけは良いんだけど」

 

 ここまで誰も中身が良いとは言ってくれた試しがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついに私も、学校に通えるんやなぁ」

「はやてちゃんってずっとお家だったもんね」

 

 4月。

 足も完治し歩けるようになったはやては学校へ来ていた。

 憧れていた、学校での生活。その夢がついに叶ったのだ。

 まだ体力などに心配は残るけれど日常生活に支障はない。

 

「本当はもう一人、学校に通わせたいやつもおるんやけどな」

 

 その呟きに、隣で聞いていたすずかが頷いて返す。

 アリサだけが首を傾げた。

 

「って、リコの事? あいつ学校通える年齢だったの?」

「肉体年齢5歳らしいで」

「よく働いてたわね……」

「というかなんであの容姿で働いてるのに誰も突っ込まへんの?」

 

 親族のなのははともかく、手伝いではなく正式なアルバイトはやっぱおかしい。

 というか履歴書も住所もなかったし。

 もう戻ることは無いので今更である。

 

「あ、はやてちゃーん!」

 

 クラス分けの張り出されているところまで3人で歩くと、先に来ていたなのはとフェイトが手を振った。

 

「みんな一緒だったん?」

「ううん、今探してる所だったの」

「一緒だといいね」

「せっかくやし、揃って同じクラスがいいなぁ」

 

 アリサとフェイトは日本名が並ぶ中目立っていたのですぐに見つかる。ふたりとも同じクラスだった。

 残りのメンバーも五十音順に並ぶ上から一つずつ確認していき、高町と月村が並んでいた。ここまで全員同じクラスだ。

 

「わ、私の名前は……」

 

 残りははやてのみ。

 ここまで来て一人は辛いので、少し焦りつつはやてが慎重に一名ずつ指を差しながら確認していく。

 な行、は行、ま行と進んでついに八神のいるであろうや行へ。

 

「あった! 八神──」

 

 

 

 

 

 八神 リコ

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 八神はやてではなく、そこに書かれていたのはリコの名前であった。

 見間違いじゃないと何度も読み返すも変わらない。

 

 気が付けば、馴れない足で走り出していた。

 

 学校に来るのが楽しみでパンフレットは直前まで読み込んでいた。

 どこにどの教室があるかは把握していたので、案内図を見るまでもなく廊下を駆け抜ける。

 途中で先生に走るなと言われても止まらなかった。

 

「リコちゃん! おるん!?」

 

 辿り着いた教室。

 扉を開けると同時に大きなお声を出したせいで視線を集めてしまったが……。

 

「い、いない……?」

 

 後ろからなのは達4人も追いついたが、教室を見て首を傾げていた。

 まさか、はやてと名前を間違えて書いていた? 

 なぜリコの名前が出たのか等の疑問も浮かばず、顔を伏せたその瞬間。

 

 ここぞとばかりに()()事前に開けておいた窓へ! 

 

 

 

「みんな揃ってるな」

 

 

 ロープを使い上階から窓越しに現れた俺を見て、アリサもすずかも、そしてなのはとフェイトも。

 そして、泣きそうな顔をしているはやても。

 ついでに教室にいた他のクラスメイト達も。

 

 全員が驚きの表情を浮かべている。

 

「絶好のタイミングだったな。とぉっ!」

 

 サッシを蹴り跳躍。空中で足を抱えて一回転し教室に文字通り飛び入る。

 あのロープは後で回収するとして、はやて! 

 

「悪い、待たせちまったな」

「うぅ……! 待たせ過ぎや、ばか!」

 

 感動の再会のあまりに抱き着いてきた。

 っとと、若干はやての方が背ぇ高いな。今まで頭一個下にあったのに。

 もう心配することはない。

 てっぺんから毛の先まで一切曇りのない金髪に戻れた俺は、もうどこにも離れないと誓おう。

 それとはやて! 

 

「ちなみに名簿の所、あ行の最後に“大阪”って書いてあったのあれはやての事だぞ。やったな、皆同じクラスだ」

「なんで私が大阪になっとるんや! 変な登場もするし滅茶苦茶や、滅茶苦茶なばかリコや!」

 

 はっはー! 

 どうよはやて、決まってんだろ? 

 

「キマっとるのは、あんたの頭や!」




終わるまでは終わらないよ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

終わりなき物語

本編最後です。


 

 俺はリコ。八神リコ。

 アークスとして生き、そして散った英雄のリコ・クローチェではない。

 

 俺の借りてたリコの肉体にリコの精神が残ってたのはご存知の通り。そしてそのリコがあの戦いの途中で覚醒して俺を肉体から蹴り出したお陰で俺は無事生還できた。

 精神だけになった所をシグナムを経由して夜天の魔導書に収容され、俺が所有していたゲームの知識──その中に存在していたキャラクリエイトのデータを復元することで復活できた訳だ。

 

 まぁ正直、本当に奇跡の結果。

 リインフォース曰くデバイスの修復中に俺を偶然見つけ、破損データを直す時に騎士として新しく追加することで復活させる事が出来たという。

 以前に守護騎士になぞらえて守護輝士を勝手に名乗った事があったけど、名実ともに騎士の仲間入りしてしまった。

 夜天戦隊ヤガミンジャーの追加戦士。リインフォースが銀なら俺は金か。

 

 ……と言っても、これらは後から聞いた情報を元に組み立てた推理なんだけどね。

 記憶的にはぎりぎりクロノと戦ったりクローム・ドラゴンになっちゃったりは覚えてるんだけど……。

 

 ともかく結論として()()無事だった。

 ただ、リコは……アークスのリコ・クローチェは犠牲になってしまった。

 それだけが心残りで、俺の身代わりにしてしまったみたいで、すっきりはしない。

 そんな活躍をした影の犠牲者たるリコの事を俺は「実は……」なんて言う事もできなかった。

 説明をするなら転生やら憑依やら云々と説明をしなければならないし、それに機を逃してしまったのもある。

 

 だから、せめて名前を変えた。

 リコ・クローチェの名は過去にして、俺は八神リコとして本格的に名乗る事にした。

 

 俺は死んだことになってるし、向こうとしても別人として登録できる口実として丁度良かったらしい。

 リインフォースと合わせて夜天の魔導書から復活した新たな騎士として扱ってくれた。

 

 

 さて、ではなぜすぐ八神家へ……というか生存を伏せて戻らなかったのか。

 ……すみません、完全に俺の都合です。

 

 今は持ち直したから大丈夫だけど、復活直後はとても戻れる精神状態じゃなかった。

 はやてに剣を差し向けた光景がフラッシュバックして、また繰り返してしまうのか、あるいは嫌われてしまったのではないのかとか色々ちょっと考えるだけで吐きそうになってしまうほど。

 というか、それだけじゃなくてそもそも何か棒状の物……ひどい時には握れる物を手に取っただけでも震えが止まらない事もあった。

 

 リインフォースもクロノ達アースラクルーも、そんな状態の俺を会わせたくないとして周りにはしばらく生存を黙ってくれていたのは助かった。

 もしすぐにはやてが駆け付けていたら、俺はたぶん自分に対する恐怖から発狂していただろうし。

 

 わざわざ出張してきてくれた精神科の先生ありがとうございました。

 覚悟決めて撃ってくれたにも関わらずケロっと生還したのはグレアム、ごめんなさい。

 自殺しそうだったから気合いを込めてぶん殴って説教垂れてどさくさで呼び捨てが定着しちゃったけど、マジでごめん。

 

 2月に入って後は学校に通いつつ元の生活に慣れていこうって事で落ち着き、気が付けば入学の手続きも戸籍もできていた。

 

 そして今日。

 実は直前まで顔を合わせる事にやっぱり抵抗があった。

 だって今更生還報告とかさ、もうこのまま死んだことにして別の星に隠居したいって気持ちで逃げ出したさが満点できつかった。

 教室に入ってからもう逃げ出せないと悟り、いっその事だと開き直ってやって見たかった登場の仕方をしたんだけどね。

 本当は「リコちゃんが帰って来たぞー!」って言いながらそのままの勢いで教室内まで突入、決めポーズの流れだったんだけどひよりました。

 

 

「アルカンシェル撃たれて生還した幼女とか言われても否定できない事実」

「本当に悲しかったんやで? でも、戻ってきてくれてよかった……」

「ふははは。八神はやてがこの世界にいる限り、俺は何度でも甦る!」

「いやまぁ、騎士になったって事は間違えてないんやろうけどもうそういうのやめてな」

「わぁーってるよ。今回は本当に偶然が過ぎたくらいだし」

 

 帰り道にはやてへ生還できた事をかいつまんで説明しておく。

 あんまし納得はいってないし黙ってた事に不満もあったらしかったが、俺が精神を病んでた事を聞くとそれも解消されむしろ心配してくれた。

 殺されかけといて気にしないでとか、そんな事言える奴いねぇよ……。

 傍から見れば殺されといて許した俺もいるけどさ。

 

「操られてても頑張って踏み止まってくれたやん。それこそできる人間そんなおらへんのやない?」

「……そう言ってくれるのは、助かる」

 

 さ、暗い話題はもう終わりだ。

 もうこれからの未来に闇はない。心配することはないんだよ。

 

「せやな。もう何も心配する事はないんや」

「その通り。天の光は全て星ってね」

「なんやそれ」

 

 言ってみたかっただけ。

 

「せや、リコちゃんってデバイス持っとらんやろ?」

 

 まあ確かに持ってないが。

 フォトンが全部失われてしまったのでファンタシースターアイテム類がほとんど使えなくなったし、ちょっとしたら一応持っとこうとは思ってるよ。

 だって魔法使いたいじゃん! 

 

「リインと勉強ついでに一つデバイスを作ろうって話してて。せやから、リコちゃんのデバイスにしようか思うて」

「えぇー、いいよ。高いんだろ?」

「それが今なら研究目的って事でタダや。ベルカ式の研究も含まれとるみたいでなー」

 

 ベルカ式って言われても先に出てくるのは戦闘機。

 

「どんなの作ろうか考えとる途中やけどな。といっても、ユニゾンデバイスを作ってくれとは言われとるけど」

「ユニゾン? 合体はロマンだぞ。それ言ったやつはわかってるな」

「うーん、リコちゃんの考えとるユニゾンとは違うけど」

 

 説明を聞くにリインフォースみたいなやつの事で、なんか戦闘時に一体化する事で戦闘能力をアップするとか。

 合体というよりフュージョン。

 闇の書事件を映画化するなら決戦の時にはやてとリインフォースが究極のフュージョンをして大逆転大勝利を収めるに違いない。

 映画って尺が無いしそれくらいしないとね。

 

「となると名前はどうなるんだろう。ヤガミインハヤォースか」

「滅茶苦茶な発音しよるな。語呂悪いし」

「リインフォースが悪い」

「リインのせいにするとかリコちゃんさいてー」

「文句あっか!」

 

 ふふふと笑い合う。

 この流れも前にあったなぁ。

 

「でも作ろうとしてるデバイスもリインが修復の時に余った破片から作るみたいやし、名付けるならリインフォース(ツヴァイ)やで」

「マジかよ。それとユニゾンしたらオレどうなるの? 頭文字Rで飲み込まれてオレの成分がコしか残らないんだけど。合体事故の確率でけぇ」

「そもそもなんで名前を混ぜる前提なん?」

 

 だってフュージョンだし。

 

「てかデバイスっているの? 宇宙救ったんだしもう戦う事ないんじゃね?」

「リコちゃん、クロノくんとか管理局の人がどうして地球に来たか考えた事ない?」

 

 あー、あいつ等って宇宙警察みたいなもんだっけ。

 まさかとは思うけど、就職先の候補にしてるの? 

 

「“力なき者の剣となり盾となる”。リコちゃんが言うとった事やで。せやから、戦う力を持ってる私達はその力を活かしたいと思うたんや」

「達って?」

「シグナム達は迷惑かけた罪滅ぼしもあるみたいやけどなぁ」

「あー、闇の書として何百年だっけ」

 

 けどまぁ、それがやりたいことなら止めはしないさ。

 

「リコちゃんはこれからどうするん?」

 

 そうだなぁ……。

 ダークファルスを倒す事ばかりでその後の事はあんまし考えてなかった。

 

「ま、今は小学生生活を謳歌しながら考えるさ」

 

 幼児体型のまま働けたり八神家と同じ職場である管理局に行くことにはなるんだろうけどね。もしかしたら後でまた翠屋で働くかも知れんけど。

 だとしても、どの道を辿ろうとも俺が最優先に考えた方がいいのは変わらない。

 リコが命を懸けて守り抜いた宇宙と家族。

 それを引き継ぎ守り抜く。

 

 例えこの容姿も名前も借り物でも、それでも、オレが継いだこの名は本物なんだ。

 リコの名にかけて、何が来ようと負ける訳にはいかない。

 

「いや、そこまで固く誓わんでもええんやけど……」

 

 ちょっと引かれたがまぁ、いいや。

 到着した数か月ぶりの我が家は明るい。

 

「まずは皆に謝り。そして、皆で復活祝いや」

 

 ドアノブに手をかけて開く。

 そうだ、ここが俺の帰る家だ。

 

「たっだいまー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マターボードに13つの光が灯り、物語は幕を閉じる。

 リコ・クローチェが夢に描いた平和な世界がここに築かれた。

 もしかしたらまた大きな事件が起きるのかも知れないが、それはまた別の話。

 しかし、もしそんな事件があっても手にした家族と仲間達がいればしっかり乗り越えてくれるだろう。




これにて完結となります。
また、キャラ設定&あとがきを後日投稿いたしますので興味ある方は覗いてみてください。

毎話感想をくれた方々、毎回誤字報告をしてくれた方々、お付き合い頂きありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あとがき
キャラ紹介&あとがき


お待たせいたしました、キャラ紹介とあとがきです。

【挿絵表示】



【リコ・クローチェ】

 

種族 デューマン

性別 女

クラス Te/Hu

ヘアスタイル エターナルFレイヤーGV(金/紫)

アクセサリー レッドリングのみ

身長 137cm

 

 

 元々はPSO2で使用されていたキャラクターのひとり。タイトルの幼女部分。

 第三者が転生する際にその存在が宇宙に認識された為、オラクルにリコの存在する歴史が誕生した。

 

 

 詳しい出生は資料がなく不明。本人の談では研究所の出身。

 クラリスクレイスとは顔馴染みだったものの、あまり良くは思っていなかった様子。

 ルーサーの引き起こした事件後に研究所を出てアークスとなる。

 

 最初の頃は自身を「わたし」と呼び、青白い肌と角を気にして余所余所しい所があったものの、同じデューマンであり師匠と呼ぶ人物や他アークスの面々と交流を続けるうちそれも解消されていく。

 青白い肌と長かった角が段々とヒューマン寄りになっていったのはカスラ曰く、元の種族の影響かも知れないとのこと(実際にはゲームプレイ的な影響による変化)

 師匠のようにかっこよくなりたいと真似て一人称を「おれ」にしてみたり髪を似せたりとした一方、かわいいものにもそれなりに興味があったようでファッションカタログに付箋を貼っているのを目撃されている。

 

 一般アークスを自称するが、条件付きとはいえクラリスクレイスと引き分ける程度の能力を持つ。

 全クラスを扱える第三世代であり様々なクラスを扱ったものの、「力なき者の剣となり盾となる」の言葉を受けて最終的にテクターを選択する。

 高い能力を生かしてサポートを行いつつ直接攻撃を行う殴りテクターとして活躍し、褒められる事に喜びを見出していた。

 しかしその一方で愛や家族といったものに疑問を持ち始める。

 戦いの果てにそれを知れると信じたものの深遠なる闇戦にてマザーシップを庇い、光に飲まれ行方不明となる。

 

 

 高出力の攻撃同士のぶつかり合いで生まれた次元の狭間に消えた後、高濃度のダーカー因子とオラクルを救えなかったという思いから闇に浸食される。おぼろげな意識の中で聞こえてきた“声”に従い肉体の主導権を第三者に受け渡し別世界の地球へ辿り着く。

 

 第三者を通してついに家族を知り、家族を教えてくれた八神家を守りたいと思いを抱く。

 最初は最小限の犠牲に終わらせようと介錯を望んでいたが、闇の書にダークファルスの欠片が封印されていると察し絶望。一度は諦めと倦怠から光を見失う。

 しかし、最終決戦にて諦めない人々の姿と想いから覚醒。守りたい家族という存在の中に第三者も含まれていると気が付き、万全の夜明けを迎える準備として肉体から第三者を離脱させる。

 神の加護を受けていた第三者の中和によって保っていた理性も追い出したせいで失いかけてしまうが、呼び掛けにより再燃。

 作戦の仕上げとして闇の書内部の闇の欠片、地上へ撒いたダーカー因子、及びフォトンをアポストロ・ドラゴンの能力を用いて全て集め食らい宇宙へ向かいアルカンシェルによって散った。

 

 報告では5歳没となっている(本人の発言から)

 管理局側からは宇宙を救った英雄とされた。

 

 

 

【クローム・ドラゴン/アポストロ・ドラゴン】

 

 リコの肉体と精神を汚染していたダーカー因子から顕現した存在。タイトルの暴走部分。

 完全体のDFではなくヒューナル体に当たる状態なのでアークス的にはまだボスエネミー程度の相手。しかしフォトンのないこの世界ではカートリッジを使用しても怯ませるのみでまともなダメージを与えられてはいなかった。

 最終的な勝因は呼びかけによる取り込まれた人物の覚醒、及びアルカンシェルによる消滅。

 管理局側ではダークファルスの第一形態/第二形態と登録されている。

 腕輪と剣を装備している亜種的な状態なので“クローチェ・ドラゴン”と後に現れた八神リコが呼称を付けたが、元となるクロームの名前を誰も知らないので浸透しなかった。

 

 

 

【八神リコ】

 

種族 デューマン(自称)

性別 女

使用魔法 近代ベルカ式

魔力光 空色

魔導師ランク C+(総合)

 

 

 闇の書事件、またはDF事件後に夜天の魔道書から現れた新たな騎士。

 事件の際に散った英雄、リコ・クローチェと瓜二つの容姿をしていた事からリコの名を継いだ。

 性格も地球に現れたアークスのリコと同様であり、見た目の良さとは裏腹に荒っぽい男口調で喋る。

 明るく取り持つコミカルな役回りだと自身のキャラクター性を理解しており、他人(特に家族や友人)にはシリアスな面を見せようとしない癖がある。

 夜天の魔導書から現れた直後は精神病に陥ってしまい、人に会わせられる状態ではないとして存在を暫く伏せる結果となった。

 後に持ち直し、精神科医の薦めで主であるはやてと同じ小学校に通うこととになる。

 

 その正体はリコ・クローチェに憑依していた第三者であり、タイトルのおっさん部分。

 脳内設定が具現化してしまった事でリコを犠牲にしてしまった事を悔やんでいる。

 事件後はリコの意思と名前を継いで八神家と世界を守ろうと意識した。

 

 アークスのPAやテクニックを再現した魔法を扱え、その多様性から評価も高いが、武器を持つことや戦うことに対する強い不安と恐怖が本人に残っており戦闘がまともに行えないため魔導師のランクはC+止まり。

 活動拠点をミッドチルダに移した後は家族と同じく管理局への所属を志望したが上記の理由から家族や他の面々から許可が下りず、現在は喫茶店のファルコンハウスにて勤務。

 現在陸士訓練校でのリハビリを希望している。

 

 




【あとがき】

 ここまで応援してお付き合いしてくださった方々、ありがとうございました。
 投稿した物がこのように評価されるのは初めてでして記憶に残る大事件です。

 何度も書きますが感想をくれた方々、そして更新スピードを優先するあまり多発する誤字の報告を毎回してくださった方々、とてもありがとうございました。お疲れ様です。

 勢いで書き殴り投稿したら想定を上回る反応があり、ファンタシースター感そんなにないけど大丈夫かと心配したりどうすればがっかりさせないかを考えたりと悩みつつ、お声掛けに励まされながらなんとか完結まで辿り着けました。
 というか、完結まで駆け抜けられた以上に続きを期待されるまでに至ったとは想定外過ぎです。誰か代わりに面白いの書いて(フリー素材)
 StS編までやるって最初に言い出したのは私ですが……。
 少しプレッシャーはありますし続編が駄作になるアレへの恐怖がありますが、どういった内容にするか慎重に考えております。
 続編投稿の予定が立ちましたら活動報告等でお伝えしたいと思いますので、またいつか、見かけた時にはリコおっさんの物語をよろしくお願い致します。



 アンケートへのご協力ありがとうございました。
 遅くなるとは思われますが、続編を出したさいにはまたよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おまけの番外編
EX.1 プロフィールカード


遅くなりましたが続編の参考にするアンケートへのご回答ありがとうございました。
お礼になるかは分かりませんが、続編の投稿となるまでこちらで不定期とはなりますがおまけの日常編をお送りしたいと思います。
本編ではないので伏線、不穏は排し平穏なグダグダライフを送る予定ですのでご安心ください。


 我が名はリコちゃん。八神そのものだ。

 色々あって小学校にはやてと共に入学したんだけど、やはり謎の美少女転入生とあってしばらく質問攻めが凄かったぜ。

 あれが若さか……。

 

 はやてへの質問攻めはアリサが捌いてくれてたから良かったんだけどさ、俺へのフォローが全くなかったのはどういう事だろうか。

 美幼女ゆえに大変人気で大変だったんだぞ。

 

 家へ帰った頃にはめっちゃ疲れた。

 制服にシワがつくのを恐れずソファに倒れ込む。

 

「出身を聞かれてオラクルだのアンスールだの答えらんないからイタリア生まれになったり、翠屋で日本語の勉強してた事になってたり、追加設定が多すぎる」

 

 オラクルって単語をイタリアに置き換えてたせいで、イタリアが混沌の産物になってしまった。ごめんね現地の人。

 ちなみにはやてとの姉妹設定を何とか生かしたかったけど親戚が限界でした。

 

「リコちゃんが蒔いた種やし私らは何もせんでー」

「人はそれを見捨てると言う。それにプロフィールカードねぇ。小学校らしい文化というか流行りだ」

「それ知っとるん?」

「まぁな。世界は違えど地球はあったし」

 

 鞄から出した一枚の紙には色んな質問がポップに書かれていて、俺の知ってるそれと同じだ。

 おぼろげを通り越してほぼ消えてる前世の記憶だけど。

 どう質問の数々を埋めていこうかペンを唇に当ててあざといポーズをする俺の手元を、はやてがはよ書けと眺める。

 

「……なんだよ」

「よく考えたら私もリコちゃんの事あんま知らん思うて。昔の話はよう聞くんやけど」

「そうか?」

「好き嫌いもこの前なんとなく聞いて初めて知ったし」

 

 普段から質問しあったりしないもんな。

 ちなみに俺の好きな食べ物はカレーと納豆、嫌いなのはシイタケ。

 翌日にシイタケが食卓に並んだのは偶然だと思いたい。今が旬だし偶然な筈だ。

 なおちゃんと食べました。残すのは失礼だからね。けど後で謝られたのはなんでだろうな。やっぱりワザとだったのかな。

 翌々日はカレーだったので許した。

 

「好きなスポーツ、こだわりのもの……」

「何て書くん?」

「ご飯と洗剤」

 

 横に座ったはやてに頭を叩かれた。

 パクリネタはやめろというのは分かるぜ。

 他は……。お、地球最後の日には何をするかってのもあるぞ。

 これは簡単だな。オレは最後まで諦めずに戦うと誓うぜ。

 

「気持ちはわかるけどもう少し隠そな? もっと一般人視点で書かな」

 

 どないしろと。

 アークスは絶望的な戦いに、それこそ後がない戦いを何度も繰り返し立ち向かい勝ってきたんだぞ。

 俺はもうアークスじゃないけど。

 普通の女の子に戻ります! 

 

「無難な感じの奴でええやん」

 

 って言われても嘘は苦手なんだよな……。

 いいや適当で。

 

「家族と過ごす、と」

 

 なおその意味は共に戦うという意味どすえ。

 嘘は苦手なら嘘は言ってない理論で攻めよう。

 

「というか、さっきのスポーツとかこだわりのものはどうなん?」

 

 ああ、それか。

 スポーツは……あれ、この世界に来てからやったことないな。

 アークス時代はショップエリアでライブの待ち時間にサッカーはよくしてたけど。

 

「サッカーにしとくか。……あ、士郎さんが確かサッカーチーム引き連れてたような……」

 

 これが切っ掛けで後に誘われたりしないだろうか。

 歩き疲れたり足がもつれて倒れそうになったりがまだまだよくあるはやてを背負う時とかで充分実感してるんだけど、俺の身体能力は相変わらずクソ高いみたいだし。

 地面を殴って捲って無理やりフェンス・オブ・ガイアできないかな。

 気合いが籠り過ぎてファルス・ヒューナルの地面殴るアレが出ないか心配だ。

 

「こだわり……こだわり?」

「こっちの世界の一般的な小学生の回答をせなあかんでー」

「知ってるよ」

 

 言われなきゃレアブ250とトラブ100の話したのに。

 にしてもなんて答えよう。洗剤へのこだわりしか出てこないぞ。

 何に対してのこだわりなのか一切ないし不親切な質問だな。

 

「よし分からんしスルーだ、次。自分にとってのヒーロー?」

 

 えー、八神はやて。

 

「飛ばすんかい。てかなんで私やねん」

「はやて様がおらんかったらこっちの世界の生活がままならなかったし、なんなら最強暗黒オーラで地球も滅んでたし」

「ダークファルスの話はやめてや……」

「あー、わり。でもそれしかないからなぁ」

「じゃあ私の紙にはリコちゃんの名前書いたろ」

 

 両想いだな! 

 

「リコちゃんが男やったら惚れてたかもなぁ。抱っこしてくれる時とかしっかりしてて凄い安心できるもん」

「ヴィータも前に言ってたけど、オレからパパ味そんな感じる?」

「なんやパパ味て。──でも、お父さんが生きてたらこんなだったかなぁとは思うたりするで」

 

 うぅ、はやてぇ! 

 

「な、なんや」

 

 無意識に今は亡き親の影を求めるその姿! 

 我が半身リコ・クローチェに家族とは何かを教えてくれたお前を苦しませるわけにはいかない。

 ハイパーてんこ盛りエンペラーコンプリートな超絶美幼女のこの俺ちゃんで良ければ、いつでも良き父となろう! 

 

「いや無理やろ」

 

 くそっ! 

 俺はなんて無力なんだ……! 

 

「じゃあオレはママになる!」

「何を言うとるん……? ほら次埋めるで」

 

 流された。

 

「次は……趣味?」

 

 はやてはいいなぁ、ノータイムで読書って書けて。

 俺もゲームかアニメ鑑賞って書けるし入れたい所だけど、それだとインパクトが足りねぇんだよな。

 

「いやインパクトはいらんて。ただでさえ男口調な()()()()()()お人形さんみたいっていう濃いキャラしとるし」

 

 へっ、お褒め頂き光栄だぜ。

 

「黙ってれば、を強調したつもりだったんやけど」

 

 何か問題が? 

 ええ、やかましいことくらい自覚しておりますとも。ええ! 

 

「うわでた」

 

 何がうわか。

 

「で、どうするん?」

 

 趣味は……うーん。

 アニメと漫画とゲームでいいか……。

 

「見事なオタクなり」

「男子と話合いそうなんは分かるけど、あんまり意識させんといてなー」

「なんで?」

「リコちゃん自分の容姿の事一番わかっとるやん……」

 

 ? 

 ああ! 

 

「リコちゃんまさか鈍い?」

 

 んな訳あるか。鈍感系難聴主人公はどちらかっつうと嫌いだぞ。

 俺に好意的を持った相手の存在が現れたら、変に意識しないように気が付かないフリをするかも知れんが。

 

「アホ!」

 

 んだとオル゛ゥ゛アァ! 

 

「ええかリコちゃん、きっぱり断らんとあいつら男子は調子乗るで!」

 

 お前が男子の何を知ってるんだ。なんか変なの読んだろ。

 今の所はメンズに惚れる心配も受け入れる予定もないから安心しろ。

 

「リコちゃん防御薄いからちゃんとせなあかんって言いたいんや」

 

 心配はありがたいけど、DV男みたいなのも返り討ちに出来る我がボディだしなぁ。

 

「その辺はおいおいにしてさっさと質問埋めちまおうぜ」

「はぁ……せやな……」

 

 なんかはやてが呆れた声出してるけどなんだろう。

 俺、何かやっちゃいました?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX.2 戻ってこい日常

何で油断するとシリアス色が強くなるん?
この頭リトマス紙野郎が!(精一杯の暴言)


「最近ヴィータと一緒に寝てるんだけどさ、ソファに無理に収まろうとするから狭いのなんの」

「幸せで良かったじゃん」

 

 ちげーよアリサ。俺の発言から意図する答えを見つけ出せ。

 

「いや無理よ」

 

 本日お邪魔しているのはアリサ宅。

 学校から帰る際、学校近くまでお迎えに来ていたアリサタクシーに無理やり乗り込む形でここまで来たのだ。

 今はアリサのバカ広い部屋で犬を撫でながらティータイムと洒落込んでいるが、先程の発言から俺の悩みすべてを察することができなかったらしい。

 

「いやね、学校の行き帰りはシグナムの護衛でしょ? 散歩に行こうとすればザフィーラが付いてくる。家ではお風呂に入ろうとすればシャマルが来るし、ベッドつかソファにはヴィータがやってくる。この心は?」

「幸せで良かったじゃん」

 

 そうじゃねーよ! 

 

「つまりみんながね! オレにね! すげぇ過保護なの! すっげぇ優しいの!」

「幸せで良かったじゃんって」

 

 botか!? botかてめぇ! 

 リコちゃん幸せbotかぁ!? 

 いやまぁ家族に囲まれてるのが幸福であろうことは否定しませんがねぇ! 

 

「帰ったら?」

「待て待て待て待て待て、待て待てアリサ。アリサ様、今帰ったら確実にしばかれる」

「何がしたいのあんた……」

 

 一応連絡してるとはいえ返答待ちせずにはやてを置いて学校出ちゃったし。

 あ、ちなみにアリサは共犯者って事にします。メールにもそう書いてある(転送済み)

 

「何勝手に巻き込んでるのよ!」

「オレの悩みを解決したら弁解すると約束しよう」

 

 弁解できるとは言ってない。

 

「はぁ……分かったわよ。で、その幸せリコはどうしたいの」

 

 過保護な今をどうにかしたい。

 たぶんというか確実に、以前のごたごたで居なくなった時の事が原因……。

 ──あ。そういやアリサって魔法の事っつうか事件のことはどれくらいまで聞いてるの? 

 

「どのくらいって、事件に関してはリコが洗脳されてたとか闇の書? が云々って」

「そそ。でさ、そん時一回死んじゃったーみたいな感じになって、心配かけちゃったのが……」

「死んだってどういう事!?」

 

 半径100Km超を消滅させるアルカンシェルとかいうのが皆様の目の前で直撃いたしまして。

 

「アースラから見てたわよ! あのドラゴンみたいなの、あれってあんただったの!?」

 

 気軽に振舞ってるけど当時を思い出して罪悪感がやばい。手が震える。ネタではなくガチで。

 あとアリサさん、揺するのやめて貰っていいっすかね。懺悔と合わさって吐きそう。

 

「じゃ、じゃあ、すずかと一緒になってなのは達を応援してたあたしって……あんたを……」

 

 まああの場はダークファルスを倒すというか意識弱体化まで持ち込めなければ地球も吹っ飛ぶやべーことになってたし。

 俺もずっと前から犠牲になる覚悟はあったから、なのは等を応援してもらってたのは別に気にしてないぜ。

 

「あたしが気にするのよ……」

「その台詞を生で聞くとは思わなかった」

「あんたちょっと立場代わりなさいよ」

 

 そこはいいんだよ! 

 

「いや良くないわよ」

 

 今生きてるからいいじゃんかさ。

 

「生きててよかったけど……というかむしろそんな威力のを撃たれてどうやって生還したのよ」

「かくかくしかじか」

「その台詞を生で聞くとは思わなかった……」

 

 パクられた。

 正確に言うとアルカンシェル撃たれる前に離脱してたから俺には当たってないんだけどね。

 

「問題はさ、そんなこんなでめっさ心配かけたオレちゃんを、みんなが過保護気味にしてるって事だ」

 

 話を戻そう。

 なんというかその、信頼されてないっていうかさ。

 俺はもう一人で抱え込むなんて事しないって。そう言ってるのに、ちゃんと悩みがあれば人に相談するように善処もしてるってのに、片時も目を離してはいけないって勢いで皆常にそばにいる。

 いつも通りの日常を取り戻したかったのに、いつも通りとはまだちょっと違う日常。

 表面整えて裏じゃ抱え込むって、オレの役割をシグナム達が引き継いだだけじゃねぇか。

 

「それ、あたしじゃなくて直接言いなさいよ」

「そうなんだけどさぁ。正面からやめろとも言いにくいし……」

「というか、さっきから撫でてるのザフィーラよ?」

 

 は? 

 

「シグナムから聞いて、先回りした」

 

 えええ!? 

 ざ、ザフィーラお前ェ!? 

 というかこの家のセキュリティてめぇ! 

 聞いてください! こいつ狼なんです! 

 

「最初に見た時から何となく察してたわよ。どう見ても狼だし」

「ぐぉおおお……」

 

 どこだ、どこに間違いがあった……。

 

「幸せ者ね」

「ここまでくるとストーカーじゃね?」

「酷い言われようだ」

 

 女の子二人の空間におっさんが犬のフリして紛れ込むのは重罪だと思う。

 俺も中身はおっさんじゃないかって? 知らねぇよ、俺はめちゃんこ可愛い幼女だ。

 

「はぁ……」

「しかし、そうか。どこぞでリコがまた勝手に暴走しないかと皆で警戒していたのだが、杞憂だったようだ」

「あー、その、だ。オレは平気だ」

「そうか」

 

 低く唸るようなその一言は、それ以上にない充分な納得の意を示していた。

 

「これで元通りね」

「迷惑をかけたなアリサ。帰るかザフィーラ」

「承知した」

 

 ん? はやてからメールだ。

 なんだ……ろ……。

 

「なあアリサ、今晩泊めてくれない?」

 

 送られてきたメールにただ一言、「山盛りの刑」って書いてあったら警戒するに決まってんじゃん! 

 ザフィーラ助けて!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX.3 山盛りの刑

自画像
「アルカンシェルで身体溶かした人」

【挿絵表示】



 山盛りの刑、と聞いて戦々恐々としていたけどただの買い物でございました。

 呼び出し場所がいつものスーパーだったからなぜかと思ったけど、セールだからいっぱい買うし手伝ってくれってさ。

 八神家はなかなか大所帯であるため、なんやかんやで買う量が多いのだ。

 

 

「しかし人気者だな」

「ちょっと前まで車椅子だったんがてくてく歩いとるからなぁ」

「いや、オレの話」 

「ナルシストが過ぎん?」

 

 冗談だよ。

 

 確かに今は【翠屋のアイドル】を引退してる俺より、二本足で歩けるようになったはやての方が声を掛けられている。

 

「ただまあ、一番目立ってるのはリインの方だけどな」

「……普通にしているだけだが」

 

 一緒に来ていたリインが首を傾げる。

 なんかよくわからんけど、リインってこう、威圧感があるんだよな。

 銀髪赤目で釣り目気味で身長もそれなりにあって、悪役的というかラスボスちっくというか。そんな顔立ちだし。

 平和主義者な性格をしてるのになぁ。

 せめて目にハイライト入れてくれ。

 

「もうちっと笑ってさ。こんにゃろめ、うりうり」

「せやで、せっかく綺麗な顔しとるんに勿体ない。うりうり」

「主はやてがそうお望みになるのであれば」

「命令やなくてな、もう少し気を抜いて欲しいんや」

 

 そうそう。もっとラフに行こうぜ。俺を見習えよ。

 

「よしリイン。アークス式交流術を教えてやろう」

「アークス式?」

「なんやそれ」

 

 相手がフレンドやチームメンバーでない場合、その場でぐるぐる走り回りながらジャンプしたりして存在感をアピールします。

 それに乗ってきた場合は踊ったり座り込みましょう。相手も真似して何かしらロビアクを披露するはず。

 

「チーム?」

「リイン、そんな落ち着きない真似したらダメやで」

「ここまでは会話もないからコミュ力関係なく誰でもできるんだけどな」

「アークスって蛮族なん?」

 

 蛮族であるのは間違っていない。

 レア武器とユニットの為に原生生物とボスを蹂躙する事しか考えてないし。

 

「ステップその2」

「あ、続くん」

 

 ロビアク中は手が空くので、その隙にお相手のアークスカードを拝見しましょう。

 その際に間違ってアイテムトレードをしないようにしてくださいね。

 

 チームの勧誘待ちとあればチャンスです。少し言い方は悪いですが、所謂“地雷”と言われる性格に難ありな方はビジフォンで手当たり次第に申請を送っている(統計無し、経験測)ので、絶対とは言えませんが遭遇率は低いと思います。

 というか勧誘待ちな時点でぐいぐい来るタイプじゃないと思うんで大丈夫っしょ。ノリは良いけど一歩を踏み出せないタイプ的な? 

 

「後はまぁ、流れでフレンドになったり?」

「急に雑なった。てか、それ最近リコちゃんが暇潰しにやっとるオンラインゲームの話やないん?」

「肝心である表情を和らげる方法が一切ないのだが……」

 

 そこなんだけど、俺もようわからんわ。

 気が付いたらだんだん柔らかくなると思うよ(投げやり)

 

「今のオレの話に対してはやてが突っ込み入れてたじゃん? 掛け合いしてればあれくらいできるようになるさ。すぐとは言わず年単位で考えてみ」

 

 そのはやては最初からこんな感じだった気がするけど。

 

「年単位、か」

「無理にとは言わんが練習としてオレを雑に扱ってみ。ちょっとやそっとじゃ怒らんしイラつかんから」

「初めて会った時に“頭おかしいんはあんたやー”言うても動じひん位の大物やで」

 

 というかカムバックする前日の会話で俺ちゃんを宇宙に追放しようとしてたじゃん。あれくらいの悪ノリでカモン。

 実はあれ、夜天の魔導書を通して見てたんだぞ。

 

「聞いとったん!?」

「それ以前にも偶に覗いて、オレの葬式ムードを見て、戻りにくいなって……」

「自爆だな」

 

 そうそう。それよそれ。

 でも自分がどういわれてるとか気になるじゃん! 

 

「はぁーよいせっと。これも買っとく?」

「待ち、お米30キロを軽々持たんでや。しかも2つ」

「もしかしたら主はやては御覧になっていないのでしょうが、リコは以前に巨大なマグロを振り回しておりました」

 

 そのマグロ、今もう出せないんだけどな。

 フォトンと身体が吹っ飛んでアイテムパックも消えたし。

 

「気になるわぁそれ」

 

 どっかに映像残ってたと思うよ? クロノが管理局に報告する時にスクショと動画送ってたみたいだし。

 会計を済ませてリインと分担して荷物を持ち、申し訳ないと気の休まらないはやてには軽い物を。

 

 といってもまあアークスパワー自体は残ってるんで、積載量が頭ひとつずば抜けている人間重機である伝説の運び屋な俺ちゃんがほとんど持つんだけど。

 はやてが転びそうになったらリインが支えるって役割だしこれが丁度いい。

 

「端から見るととんでもない光景やで。山岳の修行僧みたい」

「まだもう2シャマルくらいは余裕でイケル」

「2シャマルってなんやねん。ほんまに大丈夫? 無理せんでな」

 

 へーきへーき。

 スペースツナどころかなんなら鉄の塊のランチャーをバットに野球もできるぞ。

 む、もしやサッカーだけでなく野球もできるな。

 ミートB、パワーS、走力Aのパワーヒッター持ち。謙虚に5番辺りでどうすか。

 

「フォトン無くなったんにそんなできるんは、やっぱ素の能力なん?」

 

 あー。それなんだけどさ、なんか魔力で代用できてるっぽい。

 魔法の使い方なんぞ全く分からんからフォトンの感覚でやってみたらできちゃった感じ。

 

「えぇー」

「ちなみにこの事をクロノに報告したらデバイスくれる流れになった」

「良かったやん」

「前言ってたユニゾンデバイス? と2つ持ちになっちゃうけど大丈夫かな」

「ええんやない?」

「完成にはまだかかる。デバイスに慣れておくことも重要だ」

 

 今のところ箒を持つのすら精一杯な戦闘に難ありデューマン(元)なのに、どう礼を返したものか。

 

「いや、リコちゃん自分がどんな活躍したか分かっとるん?」

「んー。総重量十数キロを軽々と運送している?」

「そこやないねん」

 

 真面目に考えても、闇の書を夜天の魔道書に戻したり地球爆発を阻止したり? 

 行き当たりばったりだし運しかなかったけど。

 

「それや!」「それだ」

「うわっとと、突っ込み入れたいのは分かるがどつくな。バランスが……!」

 

 積んであるものが崩れて潰れても知らんぞー! 

 

「そうだ。はやてを肩に搭載して荷物支えてもらうか」

「ただでさえ見た目とんでもないのに目立つから却下や」

「では私が乗ろう」

「リインは無理だなぁ」

「……私がシャマルより重いと?」

 

 ちゃうねん。バランスを考えてくれ。

 背中に座席作ればワンチャンいけるが。

 バンピートロットってゲームにそんな装備あったな。背中に座席用意するやつ。

 あんな感じで。

 

「荷物で目立つの嫌ならシグナムも呼べば良かったじゃん」

「護衛を自重する言うて来んかった」

「またオレのせいと申すか」

「せやで」

 

 ザフィーラもどこいったよ。

 あいつの筋肉を今こそ見せる時だろ。

 

「ザフィーラなら既に帰還した。理由はシグナムと同じだ」

「オレも帰るか……」

「帰っとる途中と違うん?」

 

 せやな。

 

「あ、せや。リコちゃんて泳げるん?」

「本当に突然だな。どうしたよ」

「来月から水泳の授業始まるやん、泳げるなら教えて欲しいな思うて」

 

 うーむ。どう返そう。カナヅチではないはずだが。

 少なくても平泳ぎとクロール程度は分かる。

 バタフライ? デジモンの事かな。俺あれ今でも歌えるわ。

 

「ふむ」

 

 歩くのもまだまだなはやてに泳ぎねぇ。

 現実的に考えて筋肉の付き具合的に無理とは言いたいが、それは無粋というもの。

 チャレンジ精神は貶すものではない。

 

「屋内プール的なのどっか探してみるわ。水に慣れる位から始めてこうぜ」

「ありがとな」

「へけっ、その感謝で充分さ」

 

 ……ん? 

 もしかしてこれ、水着回的な奴か?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX.4 オカエリナサト

PSO2の続報を聞いて急いで作りました。
私もやる気が出たのでこの後どこかの船で復帰しようと思うので、見かけたら罵倒してください。
どこの船がいいのかわからんけど。


NGSの設定を本小説に取り入れるかは不明です。
あと、以前におまけだから本編進行に関係のあることはしないとか別枠で投稿するとか話しましたが、変更となるかも知れません。
重ね重ねふわふわな構想、予定で申し訳ございません。


「ん?」

 

 朝からはやてを連れて行く室内プールを求めてネットの海を彷徨っていたら、突然俺のモニターがジャックされた。

 コンピュータウィルスとかの話ではない。

 だって俺の使ってるの普通のパソコンじゃなくて、アークス式的なディスプレイを魔力で代用して創り出した奴だし。

 いや、そこじゃない。そうじゃない。

 その内容! 

 

 なんだ、なんだこの叡智は。

 この感情の高ぶりは! 

 

「ふふふ、ふははははははは!」

「リコ?」

 

 洗濯物を取り込んでいたシグナムがいぶかし気な視線を向けるがお構いなし。

 全知を手にしたルーサーだってここまで笑うまいよ! 

 

「ヒーローショックを受け絶望と倦怠に沈んだ魂が呼び覚まされた!」

「リコ、どうした? リコ?」

「シグナム! おいシーグナムァッ!」

「まさか……お前……っ!」

 

 おいおい洗濯物を落とすなよ。

 だがその程度今はどうでもいい! 

 この新情報、俺にもたらされたこの映像! 新PV! 

 

「久しいぞ、甘美なる大地よ! 嬉しいぞ、鮮烈なる清玄(せいげん)よ!」

「貴様……ッ!」

「我が闘争の為の万象よ! 長く、長く待たされたな!」

 

 シグナムよく聞け! 俺の帰る場所は……。

 あれ、なんで剣持っとるん? てかなんで変身(セットアップ)済み? 

 え、ちょ、まっ。

 

「ま、待て、ストッ──」

「はあッ!」

 

 あふぅん!? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

「何か言うことは?」

「シグナムの早とちりです。オレは悪くない」

 

 目が覚めたらシグナムとヴィータに囲まれてた。

 ついでにバインドでぐるぐる巻きにされてた。

 

「またリコがダークファルスに乗っ取られたのかと思い焦ったぞ」

 

 割と本気でシグナムにぶった斬られたけど、非殺傷だったらしく死せず済んだ。

 けど気分はリミブレ中。つまりHPの残りがヤヴァイ。

 シャマルはどこへ消えたよ。

 買い物中? はやくきてーはやくきてー。

 

「で、なんで急にそんなんになったんだよ」

「そうそうそうそう! それ聞いてよ! ねえ聞いてよふたりとも!」

「……こんなリコは見たことないな」

「知能指数下がってねぇか?」

「もう一度斬るか」

 

 待てぃ! 

 

「故郷が、オラクルが生きてたんだよ!」

「は?」「何?」

 

 さっき俺が見ていた映像とは別の、こっちの世界向けのリアル映像を見せる。

 ゲーム紹介映像バージョン見せてもアレだし。

 

「1000年後の世界の映像にアークスが映ってて、宇宙が無事で、それってつまり、つまり!」

「向こうの世界でのお前の戦いは、無駄ではなかった……と」

 

 いぇす! 

 ……まぁ、こっちの世界向けPVだと「アークスは1000年後も健在ぞよ」って事だけしか説明ないんだけど。

 

 (プレーヤー)へ向けられた映像の中身はなんとPSO2の続編、というよりももうリニューアルレベルなPSO2:NGS! 

 ついに全アークスが待望し待ち望んでいた指にボーンが入るってよ! 

 

 なんかPSO2:NGSは一応EP7ではあるけど別の括りになるらしく、一部は引継ぎや共有ができるっぽい。

 育成状態と経済面は無理だけど、装備は調整入るものの使えるらしいね。

 

 そんで大事大事なキャラクリ関連。

 アクセサリー、キャラクリデータは互換性あり。これはとても嬉しい(語彙消滅)

 

「やった、やったぁ! オラクルは、皆は、無事だったんだ……」

 

 それと同時に、その新環境を遊べない今はちょっと悲しい。

 それにだ。

 もう少しこの情報が届くのが早ければ、オラクルを守り切れなかったと思い込んでいたリコも救われたろうに。

 どちらかというと後者のがとても悲しい。

 無意識に涙が出てしまった。

 

「リコ……良かったな」

 

 シグナムがそっと俺を抱きしめる。ヴィータも加わった。

 真に伝えるべきリコに届くかは分からないが、伝わってくれれば浮かばれよう。

 

「でもなんでいきなりその情報が届いたんだ? つか、そっちの世界だと1000年も経ってるのか」

「別の世界同士で時間の流れが違うという話はよく聞くが」

 

 うーん、わからん。

 なぜゆえ向こうの世界からメッセージが届いたのか。

 メタ的な視点の奴だから神的なのが寄越してくれたんだとは思うけど、じゃあこっちのリアルな方はなんだっていう。

 リコが異世界にぶっ飛んだのを知ってメッセージをばら蒔いた説。

 この辺は何か理由があるのかないのかわからんしクロノに報告だけしとこう。

 

 しっかしテコ入れでグダついてたしそろそろ一新レベルで何とかしないと無理だったからいつか来るとは思っていたけど、嬉しいねぇ。

 

「よしっ!」

 

 俺もいつまでもグダついていらんないな。

 オラクル側に返信したいけどそれは後にしてだ。

 

「デバイス貰ったらオレもちょっと気合い入れて武器持つ練習するか!」

「そうか。……無理はするなよ」

「わかってらぁに」

 

 シグナムが落とした洗濯物を片付けに行き解散となったのでバインドを解いてもらいソファに座り直して。

 

「んお? どったヴィータ」

 

 のんびりポチポチを再開しようとしたらヴィータが横に座った。

 なんぞ言いたいことでもありますかね。

 話を降ると凄い言いにくそうに口を開いた。

 

「リコってよ、なんつぅか、その、また戦うのか?」

 

 画面を横にずらして顔を向けると目線だけ背けられた。

 

「デバイス貰うって聞いたし、さっきも武器を持てるようにするとか言ってたしよ」

 

 ああそれ。

 クロノも魔法が使えるならデバイス持っとけ程度の言い方だったし護身用以下の取り合えず感。

 けどいつまでもそれじゃ駄目だし、もうちょっと頑張ってみようって話。

 

「そっか」

「……泣いてんのか?」

「ち、ちげーし!」

 

 まあ多くは言うまい。

 戦える状態でないと聞いているのに武器(デバイス)を持つは武器持てるようにしますっていうのは、また俺が無理をする前兆と感じたか。

 

「かわいい妹分をこんだけ悲しませちまったんだ、反省してる」

「ほんとか?」

「本当だとも」

 

 流石に宇宙の危機レベルと天秤に掛ければ、俺の命なんざ確かに捨てられるアークスの本能はあるが──

 

「な、な、な」

「おっと」

 

 飛び付かれて乗っかられた。

 

「なんにも反省してねぇだろお前! 馬鹿! 馬鹿リコ!」

 

 ごふぅ!? 

 痛い痛い、ちょ、やめい、殴るな! 

 マウントからぼこぼこにするのヤメロォ! 

 fufu、話を聞いてくれません……。

 

「ヴィータさんや、オレが言いたいのは、そんな時でも無理せず仲間を頼るっちゅう事でして」

「先にいえ!」

 

 ぼす、と俺のうっすい胸元に頭突き。

 ビックリさせたのは悪かったので撫でてやろう。

 今日は文字通り踏んだり蹴ったりだな。

 やられたのは斬られたり殴られたりだけど。

 

「無理しねーならいいけどよ」

 

 許可は頂いた。撫でるのをやめてぽんぽんしてやる。

 

「やめろっ」

「はいやめまーす」

 

 子供扱いはやり過ぎるとキレるのでやめたる。

 けどやめたらやめたで寂し気にするのが可愛いのよなこいつ。

 手を乗っけるだけにして脱力タイム。

 

「そいや結構前にその内オレと戦いたいとか言ってたけど、オレと一戦やるかい?」

 

 皆呼んで俺をボコるって話はダークファルスの件で達成してるのでタイマンな。

 

「リコが馬鹿しねぇようにあたしのアイゼンで教えてやる」

「ほほぅ、楽しみだ」

 

 全盛期とはいかずともただでは負けんぞ。

 

「管理局入りするかは全員の許可が必要だけどな」

 

 多分それ満場一致で拒否られるやつ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX.5 ファッション

 突然だが好きなモビルスーツはと聞かれて何と答えるだろうか。

 シーンを含めてやパイロット、デザインが好き等色々理由があるだろう。

 それらを掲げ上げ、我ら所謂オタクというものは好きな事となれば語り尽くしたくなる生物。

 

 所謂一般人と呼ばれる、ロボットを全てガンダムと呼ぶ層へそれらを叩きつけた所でうわあってされるだけ。

 めんどくさいオタクに絡まれる心理というのは、興味のないことに付き合わされるとはこういうことなのだろうか。

 今現在、身をもって味わっている。

 

「オレは適当な服でいいって……」

「あかん。リコちゃんほっとくとずっとジャージやんか」

「だって着飾るにもめんどいんだもん」

「アークス式の着替えに馴れ過ぎ」

 

 今日はプールに着ていく水着を選び少し遠出してデパートへやってきたのだが、折角ここまで来たしついでだからと気が付いたら俺の洋服選びが始まってしまった。

 子供とはいえ女性の買い物。多少長くなるのは読めていたしまあいっかと思っていたが、まさかこれ程とは……。

 つまらんとか飽きたって事を言いたい訳じゃなくて、オタクの語りと同じく返事に困るのだ。

 同じ返答を繰り返せばちゃんと聞いてるのか不安にさせるし。

 今のところ定番である「どっちがいい?」が来てないのでまだましだけど。

 

 ファッションに関してはレイヤリングの組み合わせすらまともにできなかった俺にそんなことされたら無理ゲーだぞ。

 デザイナーが上下揃えて用意してくれるありがたみよ。

 

「んー、リコちゃんにオレンジはあんまり合わへんなぁ。黒……はフェイトちゃんと被るし」

 

 オレンジがダメだと?

 パワードジムは一番好きなデザインのMS(モビルスーツ)だぞ。

 

「何の話?」

「なんでもない」

 

 心の声が漏れてしまった。

 ……次点でジムクゥエルだな。

 

「いやだから何の話?」

「パイロットで言うとノリス・パッカードは絶対外せん」

「リコちゃん?」

「バーニィも好きだなー」

「ちょ、ちょい? リコちゃん?」

 

 大きな星が付いたり消えたりしてる……。

 彗星かな? ……違うな、彗星はもっとパーッて動くもんな!

 

「リコちゃん戻ってきて、リコちゃん!」

 

 肩を掴まれてがっくんがっくんされる。

 はっ、俺は何を……。

 

「精神崩壊してた」

「どんだけ興味ないん? 無理に付き合わせてごめんなー」

「ぁ、ああ。なんだっけ、ブチ穴の話だっけ」

「ダメやこれ」

 

 なんだっけ、洋服を見に来てたんだ。

 

「リコちゃんせっかく見た目はええんに、勿体ない」

「見た目だけなら完全無欠のエクストリーム幼女だし着飾らんでも美しいと思うのだ、オレ様」

「中身は残念」

「そこまで完璧にしちまうと野郎共が面倒だからな」

「はいはいせやな」

 

 いつもの通り流された。もはやこれも安心感を覚える。

 様式美って奴だね。

 

「リコちゃん、別にお金の事は気にせんでええんやで? 確かに今は大所帯やけど、それでも家計には余裕あるし」

「おん?」

 

 別にそこの心配をしての事ではないが。

 

「居候だとか色々気にするのは分かるけどな、今はアークスでもなくてただ一人の家族なんや。もうちょっと欲張ってくれた方がええ」

 

 いやマジでそこの心配も気負いもしてないんだが。

 その辺は八神家へ戻らない言い訳に使ってたら念入りに説得されたし。

 あれ欲しいこれ欲しいの欲張りがそんなないのは元からだし。

 前に働いてたのもニートの事実消したかっただけだしねー。

 

「……まあ、そこまで言うならいいか」

「決まりやな!」

 

 あ、これまた時間かかるパターンやな。

 

 せーのっ。

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!(発狂マーモット)

 

 

 

 

 

 

 ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、ぐうう、ぐぐぐ……」

「リコ?」

 

 横で偶然会ったフェイトが訝しげな顔でこっちを見ているけれど、無理だ、た、耐えられん。

 

「どうしたん?」

「急に苦しみ始めて……。大丈夫?」

 

 現在地、水着コーナー。

 夏が近いという事で売り場を拡大してきたこちらのコーナー。俺には荷が重い……!

 

「どういうこと?」

「また発狂しとる」

 

 お前達には分かるまい! 精神に男の部分が残る俺に、女性の下着や水着の売り場へ突入する苦しみが!

 ……とは言えないので、ぐおおお!

 今は素晴らしき幼女なのでその場にいても不審者扱いされる事は絶対にないが、それでも抵抗はある。

 

 あん? はやてとよく一緒にお風呂入るだろって?

 それとはまた別の問題なんだよ。あれは足の動かんはやての介助の面もあったし。

 というかこの羞恥心はこう、そういう意味じゃないんだよ。

 

「オレ休んでるからさ……ペットコーナーで癒されてくるから……」

「サイズの確認どうするん」

「アークスのFで」

 

 それでサイズピッタリだから。

 

「いや待ちぃ」

 

 は、離せっ。

 

「Fなんてサイズがあるの?」

「フェイトちゃんそういう事やない。絶対なんか意味がちゃう」

 

 アークスの女性は全員Fで入るから、ぴったりだから。

 な、フェイトっち。汝は我の味方だよな? な?

 

「私はリコともう少しお話したいけど」

「マジでか」

「あんまりふたりが話しとるとこ見たときないなぁ」

「なのはやクロノから話はよく聞くんだけど、学校だとあまり話さないし」

 

 あー、学校で顔は合わせるけどあまり話さないよね。

 はやても加わった仲良しグループの中には基本的に俺いないし。

 別にグループメンバーと仲が悪いとかそういうんじゃなくて、はやてが友達の輪を広げるのを妨げちゃあならんとあまりべたべたせんようにしてるだけ。

 その結果仲良しグループとも接点が薄れて現在に至る訳だが。

 ……べ、別に俺ちゃんボッチな訳じゃないぞ!?

 

「また余計な気遣いしとる」

「そんな理由だったんだ」

 

 だってやけくそみたいなコミュ能力持ってる俺が間に入ったら何でも解決しちゃうじゃん?

 

「それは、せやけど。けどなリコちゃん」

「なんだい」

「水着のコーナーはこっちやで」

 

 くそ、さりげなく離脱しようとしたがごまかせんか! 離せ、俺はスク水でいいから!

 俺くらいの外観年齢なら市民プールでもそれで行けるって!

 

「譲らんなー」

「何がそこまで嫌なんだろう」

「お洋服選ぶのも嫌がっとったというか、興味がないというか」

「それとは拒否の仕方が違うような」

「あ、それや」

 

 分かってくれたかはやて。

 

「なんか似とると思ったんやけど、散歩拒否の柴犬や」

 

 何の話をしてんだてめぇ。




ガンブレで最初に作った機体はジェガンの色を変えたイングラムです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX.6 話通じないモード

リコおっさん(女性追加ボイス84)


 歩き回って疲れたはやての休憩がてら、フードコーナーにて一服。

 フェイトが俺の持ってきたお茶をびびりながら飲んでたのはゲロ甘茶を警戒したか。俺も飲みたかねぇよ。

 

「聞きにくいけど……」

 

 おん?

 

「リコってもう、成長しないんだよね?」

 

 ぶっ。

 

「ふぇ、フェイトさんや。確かにまぁ、その、成長はしないけどね? その言い方だとね?」

「あ、ごめん」

 

 クラスレベルは当時カンスト、武器とユニットも良いのを装備しプレイヤースキルの伸び代もたかが知れてる程度。

 アークスじゃないのでクラスも装備もない現在だけど。

 まぁリハビリしたところで成長の余地なしに違いはない。違いはないんだけど、その言い方は地味に刺さる。

 

「嫌だなとか、思わなかった?」

 

 ふーむ。レベルキャップはゲーム的に仕方ないし、俺TUEEEEEもしたい訳じゃないんで。

 というか火力出したかったらテクターなんてやってないし。

 知り合いのニューマンに新クラスのエトワールは他者からの回復を受けられないよって聞いた時は存在意義を考えられそうになったが、あるがままを受け入れるもまた一興。

 シフデバとスーパートリートメントのサポート能力が有る限りテクターは不死身だ。なんならサブクラスをレンジャーにしてサポート奴隷になってもいいぞ。

 リバーサーフィールド? 知らね。

 

 今はアークスじゃないけど(念入り)

 

「あるがままを、受け入れる……」

「そそ。んで良い方向に転んだ時は素直に喜べばいいの」

 

 しかしフェイトたんは急になぜそんなことを?

 

「リコが今の体とか、そういうのを受け入れられてるのかなって」

 

 今の体?

 なんだろう。話が噛み合ってないような。

 

「守護騎士と同じ体になって、もう体が成長しなくなって。普通の人とは違ってしまったのに、リコは強いね」

「あ、うん。そう」

 

 能力の伸び代とかじゃなくてそっちの、ボディの話?

 うーん、身体の成長についてはキャラクリしなおさないと不動なので最初から諦めとると言いますか。

 騎士になった事で変わったのってアイテムパック使えなくなったくらいだしあんまし気にしてない。

 

「それよりアークス風のデバイスが欲しいってクロノに言ったら断られたのを気にしてる」

「……うん、リコはリコだね。うん」

 

 なんで呆れてるんだ。手に馴染む武器の方が圧倒的に良いだろ。

 こちとらミッドもベルカも使い方が良くわかんねぇんだぞ。

 だからアークスっつうかせめてウォンドが欲しいと申し出たというのに。

 最低限の機能としてインパクトと同時に爆発を起こす程度は欲しいって言ったら呆れた声で「一回で壊す気か」なんて言われたんだぞ。

 単発爆破は1クエスト中に一回だけ金龍大噴火っていうめちゃすげぇ大ダメージ出せるサインバーンだし、それはガンスラッシュだ。ウォンドじゃねぇ。

 む、待て。それはそれで切り札的に持っといて損はないかも知れん。

 

「フェイトちゃん、どんまいやで」

「えと、私が思ったよりリコは大丈夫だなって」

「素直にアホって言ったほうがええよ」

 

 あぁん!? 誰がキャンペーンミッションをクリアするためにSH(スーパーハード)のクエストへ出発してマップの隅々まで探索し敵を殲滅させた後から倒す敵のレベルは80以上じゃないとノーカンだって事に気が付いて一体もカウントされてないことに発狂し時間を無駄にしたアホ野郎だってえ!?

 

「何の話?」

 

 ☆15武器ゲットキャンペーンの緊急任務3回クリアを焦ってやろうとして色んな時間削ったのにまさかの【巨躯】緊急があって余裕にクリアできた緊急任務の予告も見ないアホの話してんのかぁ!?

 俺は一体、何の為に戦っているんだああああ!

 

「だから何の話?」

「これはもう話通じひんモードやから気にせんでええ」

「そんなモードがあるんだ」

「せやで」

「いつも通じないのかと思った」

「それは流石に……」

 

 ああ、分かる。

 チームチャットしてたと思ったらずっとパーティーチャットしてたみたいなね。

 

「ほら」

「ごめんフェイトちゃん。せやったかも」

 

 逆なこともあったな。みんなパーティーチャットしててそん時に別のパーティーにいた俺だけチムチャしてたの。

 ぜんっぜん返事なくてさ、あん時のハブられ気分ときたら……。

 

「はは、ははははは……」

「落ち込んでもうた!? や、やり過ぎてもうた、ごめんなリコちゃん!」

「ご、ごめんなさい!?」

 

 大丈夫、大丈夫だよシロボン。

 本物のノノリリは、心にバスターマシンを持っているのだから!

 

「あかん、これはもうステージ2や」

「そんな病気みたいな診断なんだ。どうするの?」

「こういう時はな……」

 

 はやてが席を立ち離れて遠くへ行った。

 どした? トイレか?

 

「わー、たすけてー」

「……」

「……あ、本当に行った」

 

 まさか自分がピンチになれば必死になって助けにくると思うたか。

 ある意味冷静になれたが。

 というか元から俺はクールで冷静な賢い幼女だが。

 少なくても貴様らより視界は広いぞ。

 

「フェイト、横見てみ?」

「え?」

 

 荷物番してたはやてが離れ、俺が離れ、そしてフェイトの目がこちらへ向き。

 我らがお買い物紙袋は忽然と消えました。

 

「まぁ犯人はあそこなんですがね」

 

 あ、指差したら置き引きの犯人が早歩きで逃げた。

 うーむ。素人だな。

 明らかにちらちらとさっきから隙を窺ってたし背中を見せれば来るかと思ったがこうも見事にかかるとは。

 ふははは、相手を間違えたな。

 

「言うとる場合か! リコちゃんゴー!」

 

 子供相手なら勝てると思うとるちょっと足の早さに自信ニキ程度が、チーム拠点に何故かあったバルーンレースで最速を叩き出すだけを目的に一週間を潰した元アークスに勝てると思ったか。

 記録はどこにも残らない本当にただのお遊び要素なので結局何秒まで行けたかは覚えてない。一応それで取れる称号はあったけど。

 懐かしいなぁ。昔から俺ちゃんって本編よりもミニゲームの方を良く遊んじゃうのよね。

 

 なおやるのは足の早さ一切関係ないテクニック。

 

「初級光属性テクニック、グランツ。リコちゃん手加減カスタム」

 

 説明しよう、グランツとは回避不可攻撃である!

 空中に現れた光の矢的なのが犯人を襲って気絶させた。

 ふっ、弱いな。人間って。

 

「……人間……弱い……」

 

 殺してないよな? 手加減、できてるよな?

 ああ、今はフォトンじゃなくて魔力で再現した魔法で、非殺傷ができて、あれ、でもそれってデバイスを使ってる前提で。

 

「落ち着いて、大丈夫みたい」

「本当に? 本当にフェイたん。本物のフェイト? ウンメイノー」

「ほら、あの人捕まったし大丈夫みたいやで」

 

 お、おお、本当だ。ふらふらしてるけど生きてる。

 

「というか私ら的には魔法を普通に使ったことを言いたいんやけど」

「そう、それ」

 

 ……ごほん。

 なな、はやて。

 光属性のテクニックってさ、状態異常のパニック入れられるんだよね。

 普通に混乱って意味であってるやつ。

 

「ん?」

 

 なんか聞かれてもさらに手加減したグランツ連打して混乱入れてごまかせば切り抜けられる。

 

「待って?」

「てなわけでオレは荷物回収したら先に帰るわ。テレパイプで」

 

 肩を掴まれた。

 き、貴様ら、は、離せ!

 他の連中はどうなってもいい! だから俺の命だけは、俺の命だけは助けてくれよぉ!

 

「とんでもない小物な台詞でたな。けど逃がさんで。リコちゃんが逃げたら困るのは私らや」

「私達もなんとかごまかすために言うから、あっ」

 

 秘技・ステップ回避

 ふははは、一瞬とはいえ無敵になるこれを捕らえる事はできぬぅ!

 

「えい」

 

 なにぃ! フェイトめ、この俺を羽交い締めにしただと!

 う、動けん、ば、バカな。全く体が動かん……ッ!

 

「何がステップ回避や。勢いで振り切っただけやん」

「意外と小柄だからこう捕まえると弱いね」

 

 くそ、俺がフルパワーで暴れられないのを良いことに……!

 

「ほらいくで」

 

 仕方なし。フェイトに掴まったまま歩く。

 意外とこれはこれで居心地が悪くなかったりする。

 

「私は歩きにくいんだけど」

「些細な犠牲だ」

「何をいばっとるん」

 

 なんやかんやでいつも俺ちゃんってばはやてを抱えたりとかヴィータみたいな身内に乗られたりとかはあるけどこう、他人的なポジションあったかいなりぃはしなかったからさ。

 母の温もりを感じる。

 フェイトは私の母になってくれるかも知れない女性だ。

 

「うわぁ、リコちゃん……」

「はやても来るか? 居心地良いぞフェイトの懐」

 

 褒めたら恥ずかしげに俺を抱き止める力が強くまって待って痛いいたいギブギブギブ。

 

「ご、ごめん。お母さんみたいって言われて、ちょっと嬉しくて……」

 

 母性早くない?

 

「そういう意味ではないんだけど」

 

 さよけ。

 だが俺にはわかる。フェイトは子供好きだと。

 そして、管理局での仕事でやりたい事は恵まれない境遇の子を救ってやりたいのだと。

 

「な、なんで」

「ふはは。まるっとお見通しだ」

「いやそれこの前クロノくんと電話してて知ったことやん」

「え」

 

 言うなよはやて。

 俺が別に凄くないみたいじゃん。

 

「……私、先に帰るね」

「おう。じゃあな」

「待って待ってフェイトちゃん、クロノくんに一言言いたいんは分かるけどこの場をまずな、あとリコちゃんもどさくさで帰らんで?」

 

 そんなこんなでついに現場へたどり着いてしまった。

 置き引き犯とここの職員もずいぶん待たせてしまったな。

 

「最初に言っとく。オレは魔法を使っていない」

「はい?」「は?」

 

 何言うとるん。

 そんな台詞が横からした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX.7 フラッシュバック

PCくんが突然死して光の4500文字を失い闇落ち(ダークファルス化)して生まれた暗黒のEX.7にございます。
今日新しいHDDくるので、交換して直らなかったら深遠なる闇になります。交換するだけで大丈夫だよね……?
あと、関係ないけど「おっさんin幼女が普通な世界でキャンプする」っていうゆるキャン△に乱入するのも考えてました。需要あるのこれ。
 かしこ(やけくそ)


 蒸し暑くなってきた朝、床に転がってた俺はザフィーラを枕にして目が覚めた。

 ここだけ見ると寝相が悪いみたいな感じだけど、実際には俺は悪くない。昨日一緒に寝ていたヴィータに全ての責任がある。俺は悪くない。

 

 ヴィータの寝る場所は俺かはやてかを気分で変えてるので今でもたまには一緒に寝てて、けど狭いし暑くなってきたしで寝苦しいのか選ばれた時は大体床に落とされてる。

 遠慮してるのかピック率は低いし別にいいんだけど。

 本格的に八神家の一員になったり上記の件もあるしでそろそろソファ暮らしも厳しいか……。

 

「リコも守護獣になるか?」

「どうやってなれと」

 

 先に起きてたヴィータはソファにはもういないけど、寝起きでぼーっとしてて戻る気力もないのでだらけてたら(ザフィーラ)に言われた。

 どう獣になれと。

 ダークブラスト的な? 俺のダークブラストって言ったらクローム・ドラゴン一択になりそうなんだけど。

 この世界の人達にとってあれって恐怖の対象になりそうっていうか、八神家をまた泣かせてしまいそうな事になるのでどうしても以外はやっちゃならんと思う。

 

 でも必殺技は欲しいなぁ。

 獣化はビースト種の必殺技だけど、デューマンだと確かインフィニティブラストってのがある。防御力を捨てて攻撃特化になるやつなんだけど。

 うーん、でも攻撃特化は止められそうだしこれも駄目かなぁ。

 

「また思考が飛んでるな」

「オレに獣は無理らしい」

 

 そもデューマンですし。正確にいうと違うけど。

 のそのそ動いて庭を見ると、ヴィータがグラーフアイゼンをゲートボールのスティックに見立てて素振りをしてた。

 ゲートボールは外出の言い訳によく使われてたけど、趣味でやってる事に変わりはないのよな。老人共にどうやって混じったのかは知らんが。

 俺? 事件前に誘われて一回やったけど、ドラコンチャレンジャーっていうルームグッズみたいな感じになってボールが成層圏の向こうへ消えてからやってない。

 良い所見せたくて技量マグ装備してやったらこれだよ。今だったら普通にできるだろうけど今度はスティック持てないし。モテモテになれる自信はある。

 

「しっかし、子供って早起きだよねぇ」

「リコも子供だろう」

「体力もすぐに回復するし」

「お前は体力が減らないだろう」

「オレも若けりゃなあ」

「若い所か幼いだろう」

 

 残念、地球でははやてと同年ですー。

 前は5歳を言い張ってたけど今は10歳ですー。

 

「でも肉体は再構成されてるので0歳!」

 

 ミッドの正式記録では以前のリコとは別個体になってるので0歳、しかし学校へ通うため地球では10歳。

 そこへ皆の思ってる年齢である途中でどっか誕生日きて6歳になったとか精神年齢とか合わせるとどれが本当の年齢だっていう。

 

「法律的な年齢は0歳。よし、今度からこれを押していこう」

「お前のような赤ん坊がいるか」

 

 俺が最強の幼女だ。

 ロリを通り越してペド。

 

「ほら抱っこしろよ。赤ちゃん様だぞ」

「……」

 

 背中に乗ったら無言で落とされた。

 そろそろ俺も起きる時間のようだ。立ち上がって伸びひとつ。

 

「ぐぃー、そういやはやては?」

「珍しく寝坊だ」

「あら本当に珍しい。午前中に本を返しに行くとか言ってなかったっけ」

 

 しゃーない。この俺が起こしちゃろう。

 あくびしながらはやてのマイルーム(A)へ。

 かつては車椅子の為、でも今もそのまま変わらずな段差のないはやてルーム。

 いつも先にはやてが起きてる事が多く、俺から起こしに行くなんてないので立ち入るのはあんまりなかったりする。

 宿題やる時はリビングだし、俺が勉強を見てやる必要もないもんなー。

 

「ぐふふ、すやすや眠っていらっしゃる」

 

 だが眠り姫の安眠もこの俺が妨げてやろう。

 薄暗い部屋で眠っているはやてを揺すって起こそうと手を伸ば──

 

 ──ここで死ねば、安らかな終焉を迎えられる。

 

 

 急に手が震える。

 ベッドで横たわるはやては幸せに眠りこけたままだ。

 何も知らず、あの時のように。

 

 あの時のように。

 

「……」

 

 目の前で寝ているはやてに、俺は今、手を伸ばしている。

 かつてその手には、あのとき俺は、何のためにこの右手を伸ばしていた? 

 今その手で何をしようとしている? 

 

 

 ──助けなきゃ。

 

 

 違う。違う。違う。

 今は、今はそんな事をしに来たんじゃない。

 大丈夫だ。今は、ただ寝坊してるはやてを起こそうとしてるだけだ。

 何も恐いことはない。

 ごくりと固い唾を飲み込んで、深く息を吸い込んで……落ち着け。大丈夫。

 もう俺は、()()()()()はしない。差し向ける剣はもう持ってないし間違いも起こらない。

 それに必要もない。

 

「……大丈夫、大丈夫……」

 

 震える手を抑えて一歩下がる。

 必要? 必要なら?

 

 

 ──それが唯一の救いなんだ。

 

 

 脳裏にまじまじと自分自身の声で、何をしようとしたのかが、あの時、病院のベッドで今と同じように横たわっているはやてに向かって何を差し向けて、何をしようとしていたのかがまじまじと甦る。

 右手に持った愛剣で、ラヴィス=カノンを差し向けて、俺は、俺ははやてを殺そうとした。

 

 それしかないと。

 救いと称して。

 

「……ん、ふああ……。よう寝とったわ……」

 

 寝起きのはやてが、何も知らないはやてが、あの時のように何も知らないはやてが、俺を、見ている。

 あの時のように何も知らない無垢なふたつの綺麗な瞳が、真っ直ぐに見ている。

 

「違う、違うんだ」

「? 起こしにきてくれたんやないの?」

「そ、そうだ、そうなんだよ。起こしに、きたんだ。寝てたから」

 

 半身を起こしたはやてが、中途半端に伸びた俺の右手を何となく取ろうと手を出す。

 

「駄目だ!」

 

 違う、その手は、剣を、差し向けた剣を握ってた、血に汚れた! 

 

「なんでそんな挙動不審なん?」

 

 よろめいた足で下がる。

 もういい。はやては起きた、ここにいる意味はないんだ。もうやることは無い。

 戻ろう。

 今日の俺はおかしい。まだ寝ぼけてるのかも知れない。

 

 がたん、と背中に何かが当たって何かが落ちた。

 下がり過ぎた。

 

「わ、わりーわりー……」

「あっ、リコちゃんそれは!」

 

 振り向いてしゃがみ込んで、拾ったそれは。

 

「ひっ!?」

 

 ラヴィス=カノンの持ち手、俺が、はやてを殺す為に使った武器が。

 

 そうだ間違いない。

 

 はやてを殺そうとしたんだ、俺は。

 間違いなく、自分の意思で、間違いなく!

 今手に取ろうとしたようにその柄をしっかりと握りしめて!

 

「ごめんリコちゃん! それほっといてええで、後で直すから!」

「違う! 違うんだ!」

「リコちゃん!」

「オ、オレは……違うんだ! オレは!」

 

 俺はこの剣で、何も知らないままが幸せだとはやてを殺そうとした。

 そうだ、そうしようとしたんだ。間違いなく俺の意思で! 

 俺が! 

 

「どうした!」

 

 寝室から逃げ出そうした途端に駆け付けた人間態のザフィーラが逃がすまいと道を塞いで盾となりぶつかり尻もちをついてしまう。

 

「リコ? 何があったのだ」

 

 ザフィーラが俺を見下す。

 逃がさないんだ。俺を、主であるはやてを殺そうとした俺を、許さないから。

 

「違うんだ! 違う、これは、違うんだ……めんなさい、ごめんなさい、違うんだ……」

「こんなところに置いててごめんな、びっくりしたな、ちょいと落ち着こ、な」

 

 やめろ、優しくするな。

 許して欲しい訳じゃない!

 なんでそんなに庇うんだ、未遂だったから良かったじゃない、俺は、俺は……!

 

 

 

 

 

 ・・・・・

 

 

 

 

 

「……んお?」

 

 気が付いたらはやてのベッドで寝てた。

 なんで俺ここで寝とるん?

 

「リコちゃん、起きた?」

 

 近くの椅子に座ってたはやてが心配そうな顔してるけどなんぞありましたかね。

 

「……覚えてないん?」

 

 んー?

 確かなんかヴィータにソファから落とされて、ザフィーラと駄弁って、んで、ああ。はやてが寝坊してたから起こそうとして……?

 

「そうか、寝ぼけてそのままフトンに吸い込まれたか」

「……へ?」

 

 寝起きのフトンの魔力はヤバいと思う。

 にしてはなんか物凄い恐怖を感じた気がするけど。

 はて? ……まあいっか。

 しかし何故にはやてはそんなビックリしてるし。

 寝てたら超絶最強幼女が突然フトンにinしてきたらそら驚くか。

 

「てか今何時……って昼前じゃん! クソ寝てた!」

「え、あ、うん。……覚えとらんの……?」

「んあ、何を?」

「いや、ならええんやけど……」

 

 リコちゃん葬式ムードを思い出す雰囲気やめてくれませんかね?

 立ち上がってリビングへ向かうと、ザフィーラとヴィータが似たような顔で俺を見ている。

 

「なんも、覚えとらんて」

「そうか」

「だ、大丈夫なのか……?」

「詳しいことは念話でな」

 

 そういって全員黙って神妙な顔しながら内緒話を始める。ナチュラルにハブられた。

 仕方ないのでこの場は離れよう。顔を洗ってくると言い残し洗面台へ向かう。

 

 うーん、しかしこの反応は心当たりあるぞ。

 大体こういうのは俺ちゃん関連でなにかしらの地雷があったに違いない。

 ただその何かというのが記憶に一切ございませんが。

 自己防衛的に記憶(HDD)をバーストしたか?

 あんまり思考を深入りし過ぎると多分吐いて更なる心配をかけちゃうから程ほどにしとこう。

 精神科の先生も学校生活で後は慣らしていこうってだけで完璧オッケーとは言い切れないのが人間、的なことを言ってたし(うろ覚え)

 

 冷静に自分の状態を整理したところで、鏡を向く。

 髪の毛は先端に至るまで金一色。寝癖はあれど曇りなし。

 顔は……うむ。美である。やはり私は美しい。

 

 

 では。

 

 

「我が名はリコちゃん! 全知そのものだ!」

 

 うぉおおおお!

 俺が何言った所でどうせダーク雰囲気になるのは決まってるから勢いでごまかせ、やけくそだー!

 

「ヴィータぁあああ!」

「うわっ」

「ヴィータかわいい! ヴィータ! ああああ!」

「うるせえ!」

 

 抱き付いてソファにどーん!

 ぐへ、ぐへへ、かわいい……。ヴィータ……ふひ。

 

「は、離れろ……!」

 

 吾輩は無敵なりぃ!(マッシブハンター発動)

 叩こうが何しようが退かぬぞ!

 

「無駄に力強いのなんなんだよ!」

 

 三つ編みむしゃむしゃー!

 

「やめ、食うなっ!」

「……なんか、大丈夫そうやな……」

「リコはそこまで弱くない。今は信じてやろう」

「せやな」

 

 はやてとザッフィーがなんか言ってるな。ダメージのSEでよく聞こえないけど。

 少なくてもダーク会話は回避できたようだ。

 

 だが、ヴィータを愛でるのはやめぬぅ!

 このリコちゃん愛の輝きにて我が胸元に顔をうずめることにより大丈夫だ問題ないとイーノックのごとき安心感を得よ!

 

「何言ってんのか──むが! むむー! むー!」

「よーしよしよしよしよし」

 

 愛の抱擁によりもがもが言ってる。

 我が無限力は凄いぞ。ヴィータをムームー星人にしてしまった。

 

 そういえば俺の前世世界ってPS5発売するんかねぇ。

 するんだろうけど、看板キャラにトロやムームー星人出してくれたら嬉しいなー。

 トロはともかくムームー星人も一時期は顔みたいなもんだったろうし、ちらっとでいいから顔見せてくれよー頼むよー。

 

「リコちゃん」

「む。はやても我が愛を……」

「いや、ヴィータが」

「お?」

「ぷはっ! 何すんだてめー!」

 

 拳!

 

「ふ、ふふふふ……」

「効いてねぇ……!」

「人間の耐久力やないなこの生命体」

 

 はやてよ、それは地味にキツいぞ。

 だって俺ちゃんは防御力の低いデューマンなのだから!

 

「そこ?」

 

 です。

 あ、マッシブハンター切れた。

 うむうむ。アークスのスキルも魔法でできるな。制限時間はやはりあるけど。

 

「──よくもやってくれたな!」

「ぐはっ」

 

 マッシブハンターのない我輩は豆腐だぞ。

 ……ゆるちて?

 

「おらー!」

「おわっ、ちょ、角はヤメテ!」

 

 そこさわんないでぇ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX.8 テレプール

リコおっさん11月号です


『アークス風のデバイスが欲しいって君が頼んだんじゃないか』

「ウォンド風な武器が扱いやすいから欲しいだけ。オラクル式の魔法なんぞ作る気ないって」

『そうか……』

「金になるもんじゃないしええやん」

『ん? 立案者にでもなれば幾らでも特許で儲けはでるよ』

 

 あ、そうなの?

 でも断る理由はそれだけじゃない。

 いいかクロノ。俺が魔法方面にやる気を出してないのはな。

 

『そうか、すまない。戦いに戻る気はやはり──』

 

 今日はプールなんDAAAAAAAAAAAAAAA!

 そんな日にわざわざ電話してくんじゃねぇえええええええ!

 

『えぇ?』

 

 ったくクロノめ。わざわざデバイス云々で電話しやがって。

 俺ちゃんはプールが楽しみで生きてるんだぞっ!

 

「いやデバイスの話はだいぶ重要やん?」

 

 向こうも忙しいみたいだし詳しい打ち合わせはまた後日として、ひとまずの取り決めをして受話器を置いたらはやてにそう言われた。

 いやアークス的に言い直すと武器ユニットを兼任するオールインワンなデバイスがごっつ重要なのは分かるよ?

 

 けどよぅ、クロちゃんったら俺がウォンド風の武器欲しいって注文したらアークス式だかの魔法を作るんだって勘違いしてたんさ。

 ベルカ式だって再現しきれずに近代とか名付けて分けてんのに俺一人で復刻できるかっての。

 あとアークスは職業の名前で地元はオラクルだからな? 勘違いするなよミッド人!

 

「うし、電話も捌いたし行くぜプール! オレは、オレはこの日をずっと待ち続けていたんだから!」

「テンション高いなぁ」

「下げてやってられっか! 泳ぎだぜフゥーッ!」

 

 

 

 

 

 

 てなわけで電車からバスへ乗り継ぎ向かうのは、ちょいと遠めだけど練習によさげと踏んだごきげんな室内プール。

 小学生オッケーはともかくとして広さ深さビート板の貸し出しや自販機にマミーがあるかの調査もしたんだ。そこまでしたんだからワクテカもフルマックスよ。

 

「最後のマミーはなに、好きなん?」

「プール上がりはこれって決めてる」

 

 市民プールのエントランス特有のなんか独特な匂いに包まれながら紙パック商品用の自動販売機にお金を入れ番号をプッシュ。ガラス越しに内部のトレーが取り出すのを眺める。ただ機械が動いてるのを見るだけでもなんか楽しい俺は工場のベルトコンベアをぼーっと眺められるタイプ。

 そして!

 

「そして?」

「あれの紙パックには動物さんが描かれている……!」

 

 ランダムで!

 

「あとおいしい」

「味が最後なんや」

「二の次三の次、だがふやけて水分の不足した体にはとてもそのおいしさが染み渡る。ゆえにプール後マミーは最強」

「うーん、お風呂の後に瓶のコーヒー牛乳が良いとは聞くけどそれは聞いたときないなぁ」

「なら今日その身を持って覚えるがいい。ふははは!」

 

 目的ははやてにプール上がりのマミーを教える事!

 

「あれ、今日の目的ってなんやっけ」

「はやてに泳ぎを教える事」

「あ、覚えてた」

 

 ふん。忘れまいよ。

 そのために俺は準備マシマシでこの日を待っていたのだからな。

 準備マシマシ! 野菜マシマシ!

 

「んでだ。一人おっきい子が来てるんだが」

「来たら悪いか?」

「いや、大人同伴の方が良い気もしてきた」

 

 主に俺ちゃんのナンパ対策で。

 

「むしろシグナムの方がナンパされるんと違う?」

「かもな」

「私はあくまで主はやての護衛です」

「オレは?」

「主はやての無事は私が保証します」

「ねえオレは?」

 

 とは言うが分かっているぞ。

 万が一はやてが溺れた場合は背の低い俺じゃ青ピクミンみたいな救助しかできないし、持ち上げ抱えのできるシグナムのが適任なのだ。

 そこまで考えてきてくれているのなら頼もしい。

 俺と一緒になって夜中まであーだこーだと計画を立てたかいがあるな、ええ?

 

 なんだかんだでシグっちが一番楽しみにしてたんじゃないか説。

 

「家で浮き輪を膨らませて怒られていた奴に言われたくないな」

「浮き輪じゃないですー。バナナフロートですー」

「結局持ってこなかったが良かったのか?」

「残念ながらルール的にダメだった」

 

 ランチャー迷彩のバナンチャーみたいなのが激安の殿堂に売ってたから買ったんだけど、持ち込めないのに気が付いたのは家に帰ってから。

 

「というか疑問なのが、リコは本当に泳げるのか?」

「シグナムは分かってないな。なんでもそつなくこなす事に定評のあるオレに任せときなって」

「海底を走っていたと聞くが」

 

 うん。まあ海底って言ってもただの海底じゃなくて空間のある海底っていうの? ちょっと特殊な環境だけどね。

 その他の水辺は……。

 

 ……ん? 別に水のどころかマグマの抵抗すら受けずに行動できるな?

 いやいやいや。八神家のお風呂は……あれ、やけに水が軽く思えてたのってデューマンパワーのおかげじゃなくて?

 

「リコちゃーん、着いとるでー。はよ降りー」

 

 促されるままオートランで着いていく。

 

 水の抵抗を受けない。

 イコール地上と変わらない動作になる。

 つまーり全く浮かず地面をバタバタする翼の折れたエンジェルになる……?

 

「オレはエンジェル……初期のバグでパニック入れられた部下に爆殺されるファルス・アンゲル……」

「どったん?」

「どうせまたよくわからない話でしょう」

 

 まずいぞ。

 何とかしてこう、マイボディの設定的な物を変えられないか?

 たぶんゲーム仕様が魂に染み付いて騎士ボディに適応されてるから、なんかメニュー……開けねぇ!

 ど、どうすりゃいいんだ? あれか、再起動してゲームのランチャーにある設定からやらなきゃいけないのか。

 ログアウト……ログアウトってなんだよ。ああ、でも今のボディ的な再起動って一応あるのか、夜天の魔導書に戻ってから出直せば……家か今!

 

 

 アークスリコのボディなら開けたメニュー画面は現在無し。設定は開けない。

 ボディ再起動でランチャーを開くっていうのはそもそもできるか分からないし、魔導書は家なので復帰位置がはやてなのかそっちなのかわからず無し。

 

 詰みでは?

 無意識下のまま水着に着替えた俺を絶望が覆う。

 

「リコちゃんと色違いでお揃いなんよ」

「とてもよく似合っていますよ。主はやて」

「……」

「おかしい、いつもならここで“オレのがかわいいだろ?”って言うんに」

「もしかして本当は泳げないのでは?」

 

 んな訳ねぇだろ!

 プールマスターとは俺の事だぞ!

 

「飛び込みしテレプールは数知れず! 初心者教授も数知れず! 完璧美少女はオレに決まってんだろ!」

「うーん、本当に大丈夫なんかこれ」

「少なくとも頭は大丈夫ではないでしょう」

 

 もはや暴言では? リコは訝しんだ。

 

「まぁまずプールに入る前のシャワーについてお教えしよう」

「そういえばなんであるんやろ」

 

 ははは、とても冷たい。

 だがこの冷たさに慣れないといけないのだ。

 じゃばじゃば頭からシャワーを浴びる。

 さりげなくショーシャンクの空にみたいなポーズしたけど誰もわかってくれなかった。

 てか思ったより冷たいな。

 

「ここでプールの水温よりも低い水に慣れ……て……おく……ことで……」

「ちょ、氷の塊になっとる!?」

「リコ!?」

 

 ぁ……アンティで状態異常は治るよ……。

 

「誰もテクニック使えへんよ」

「私なら炎を扱えます。リコまで焼いてしまいますが……」

 

 ふんぬ! 時間経過で治ったわ。

 でだ。これほど体が寒さに慣れればプールの冷たさにがたがた震える必要はない。

 温水プールとはいえ温泉ではないし通常と比べればまあ温かい程度。それに夏も始まりかけた時期だし水温も抑えているだろう。

 

「いや私らは普通に浴びるわ……」

「すまないリコ。死にたくはない」

 

 え、最悪は氷漬けになる程度だし死なんだろ。

 フリーズ! 凍りつけ!

 

「それで無事なのリコちゃん位やで」

 

 ただの人間なら致命的な致命傷か。うむ。

 というか俺のボディがゲーム仕様のままなのかなんなのか良くわからん。今の氷塊を見る限りゲーム仕様のままっぽいけど。

 今度火事でも見かけたら突っ込んでみようか。無傷で出れるやも知れん。

 

「うっひゃー! プールだ!」

「ちゃんとストレッチせなあかんよー」

「チッ、わかってるよ……」

「舌打ちしたで」

 

 はやてが正しいので素直に従う。

 全く、プールにはしゃいで飛び込もうとするとか子供かよ。

 

「多分このメンバーの中で一番年少に見えとるで」

「主はやてより背も低いしな」

 

 ちびと申すか。

 

「いや、子供らしくていいと思うぞ。大人でその性格だとすぐに捕まりそうだ」

「確かに」

「自覚あるんや」

 

 だが待て、ボーイッシュ俺口調近所の姉さんって少年の性癖を歪ませられないか?

 くそう。大人ボディになれないのがこんなに悔しいなんて……!

 

「どちらかというとジャージ着てコンビニの前でタバコを吸ってるイメージだな」

「あー、なんか分かる。そんでリコちゃんの事やし、本格的なワルはせんで注意されたらすぐやめるんよ」

 

 黒地に金のラインが入ったジャージを着たチャライ金髪のお姉さんがコンビニの前でタバコを吸ってたので勇気を出して注意したら、思いのほか気の良い人ですぐにしまって笑いながら頭を撫でてくれた……と。

 うむ、ヤンと見せかけて善はそれまた少年の性癖を歪ませられるな。

 

「なんかリコちゃんだけ話が噛み合っとらん気が」

「いつもの事では?」

 

 大人にはなれんしタバコも吸う気はないけど。

 

「ジャージはいつも着とるけど」

「ぷそ煮込みリスペクト」

 

 いっちにーさんしー。

 さてさて、ようやくプールだッ!

 

「では手本を」

「リコちゃんゴー」

 

 ふふ、そう慌てなさんな。プールの力は侮れんのだぞ?

 結局ここに至るまで設定も見つからんし泳げるかも不明だがやるしかない。

 トゥアーッ!

 

 うお思ったよりちべたい。

 けどまあ平気だな。

 

「リコちゃん!?」

 

 お、はやてがなんか驚いてるしシグナムが行こうか思案してる。

 どうしたよ二人とも、俺ちゃんは溺れてもないぞ。

 まーなんだ。目線が水面ぎりぎり位で確かにぎりぎり足が着く位だけどさ。

 

「それ息できとるん!?」

「ぶく?」

「え、これ大丈夫なん……?」

「ぶくぶくぶく」

 

 ああ、口元が水に覆われてるだけ。鼻呼吸できなきゃ泡も出せんだろう?

 俺の身長で目下が水面ならはやてもぎりぎりだがちゃんと直立すれば大丈夫か。

 

 ん?

 目下が水面って鼻まで水に浸ってね?

 つまり俺今どうなってる?

 

「ぶぐぶぐぶぐ……」

「シグナムゴー!」

「今行くぞ!」

 

 飛び込んだシグナムに抱えられて空気に触れた。

 

「無事か!」

「無事です」

「は?」

 

 いや、水の抵抗がないのに始まって元々海底溶岩と続いて宇宙空間すら問答無用で行動できるアークスだしね。

 たぶん俺に酸素は必要ない。

 

「心配かけたな」

「本当にな!」

「ぶぼぉー!?」

「リコちゃーん!?」

 

 急に落とすなぁーっ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX.9 kanon

アンケートでは新キャラいらない、日常マシマシとのお声が多かったもののメッセージでは新キャラええやでとの話もあり、お試しに投入してみました。たぶん半々位の塩梅だと思います。ダメだったら申し訳ありません。
それと雑ですがリコの姿的なものができたので置いておきます。

【挿絵表示】



 プールのスロープのさ、一歩進む度に段々突入してく感じなんか楽しくない? 

 

 プールサイドに腰かけ足をばしゃばしゃしながら釣り糸を垂らしてふと思う。

 釣りとは考えにふけるには丁度よく、寂れたおっさんが夕日をバッグに虚無っているのもこんな感じだろう。俺は美少女だが。

 

 割と怪獣映画が好きなので、スロープの感覚は陸から海へ戻るゴジラとか、あるいはパシフィックリムの最終決戦みたいな感じを思い出してBGMを口ずさみながらだとなお面白く感じてしまう。というか水辺の戦い好きだし。

 特に水中戦はこう、なんていうか力強さと浮遊感を画面いっぱいに表現してるのが好きでよぉ……。

 

 まあ一番好きな怪獣は水辺関係ないバラゴンなんですが。GMKゴジラ相手に単騎で立ち向かえたんだぞ、あっさり負けた国産ギドラより絶対かっこいい。俺は最期まで力を振り絞り戦い抜く戦士に敬意を表する。タイトルからハブられてた上に爆散してたけど。

 最強の怪獣談義はよしておきたいが、口を挟むとジャイアント芹沢博士が世に出た経緯も含めて一番ヤバイと言っておこう。

 

 

 

「ちっ、アキカンが釣れた」

 

 プールだからって理由はないけどゴミしか釣れんな。さっきは海鳴エビが釣れたからこの調子で行けば海鳴マグロも釣れそうなもんだけど。

 

 はやての手を引きながら泳ぎを教えるシグナムを遠めに眺めながらプールサイドで釣りに興じているのは理由がある。

 というのも簡単なもので、重度のカナヅチな事が判明したためだ。どうあがいても浮けすらせず泳げず楽しめない為こうして休んでるというか遊んでるのん。

 無呼吸でも活動できるし水中で遊んでろって? そんなことしたらバケモノみたいに思われるだろ。バケモンだけど。

 さっき言ったスロープをうろうろして遊んでも良いんだけど、こっちも周りの目が気になって最終的に釣りに落ち着いた訳。

 

 はぁー。張り切ったわりになんとも情けない。

 暇だしクロノに電話して駄弁ろうかな。向こうも忙しいだろうが。

 あるいはそんなに話した事ないけど、一応連絡先は知ってるユーノに水着を見せても良いかも知れないな。からかって遊びたい。

 きっとコズミックインフィニティー極アームズ美少女な俺の水着姿を見ればすぐに顔を真っ赤にするぞ、ふふはは楽しみ。

 いやぁー、横取りしちゃったらなのはにも悪いしやめとこっかなー。

 

「……何してるの?」

「釣り」

「怒られない?」

「だからこっそりやってるんだろが」

 

 さっそく適当に電話しようとしたら話しかけられた。

 プールサイドの真ん中ら辺、ひとも来ないところだから油断してたぜ。

 監視の人もあの距離じゃあ流石に釣りしてるとは思わないらしくスルーしているし堂々とするのが一番物事を隠しやすいとはいえ、通りかかったら流石にばれるよね。

 

「噂通りだねぇ」

「どんな噂だ? オレが美少女戦士セーラーオラクルって事か?」

 

 って、ん? 知り合いか? 

 隣に座ったのは知り合いでもなく知らん少女。幼女じゃなくて少女。幼女枠はとりあえず確保できるけど……いや誰だ? 

 まじで知らん。何喰ったら髪の毛が紫になるんだ。俺は紫の髪嫌いだぞ。いやすずかが嫌いって言いたいわけじゃなくて。DF的に。

 かるーく警戒しながら話を進めよう。またなんかの事件かも知らん。

 

「んー、あのダークファルスにソロで立ち向かおうとした英雄さん」

 

 ……魔法関連か。

 ちらっとはやて&シグナムにアイコンタクトを送ったが無視された。かなしい。そもそも目合ってないけど。

 くそう、念話さえ使えれば! 未だにチャット感覚でしか遠距離通信ができないし、それやっても何か向こうにはメールみたいな届き方してるっぽいし! 

 アイスアイスアイス>みんな。二人とも気が付いてくれーっ! 

 

 シュッ! (チームチャットの音)

 プリリッ! (ウィスパーチャットの音)

 パァーンッ! (/togeを使った音)

 ・・・(範囲外チャット)

 

「クロノさんに頼んでこっちに来たんだけど、あれ?」

「クロノ?」

 

 なんだ、クロノのツテか。

 ……って油断するかよ! 一応確認しとこう。

 

「名前と何か証拠のもの」

「うへぇ、この昼行燈め!」

「あとオレの変な噂流したやつの個人名な。しばく」

 

 んで、ちゃんと教えてくれるんだろうな。

 もうコールする準備はできてるぞ。

 

「分かったってば。はじめまして、私はカノン。証拠の物はないけど、いつでもリコの味方だよ」

 

 情報スクナイヒメな上にクッソ怪しいじゃん。

 急な味方宣言は怪しいし疑いが晴れないのでクロノに電話する。これが手っ取り早いけどあいつ出るかな。

 なんちゃら官っていう忙しそうな役職名だし微妙だなぁ。

 図書委員的な感じの暇そうなユーノであればすぐ出そうだけど。

 

「気軽にカノンって呼んでね」

「うぐぅって言わないから偽物だな」

「どういう基準!?」

 

 黙れ、kanonはシンボルアート作りたくて講座見たのにVITA故に真似できなくて心折れたのを思い出す。

 

「理不尽だ……」

 

 ……お、出た出た。

 おーいクロノや。kanonのアニメ観た? 今度鯛焼き食いにいかね? 

 

『すまない、ちゃんと構ってやるから後で良いか?』

 

 待て待て。早急に必要な確認ごとでして。

 俺んところにあんさんの差し金が来てるけど何も聞いてないからさ。

 

「あの、せめて普通に紹介してくれない?」

『差し金? ……というかその声、カノンがいるのか?』

「そそ。敵かと思うからちゃんとこういうのは先に言ってくれよー」

『現地に着くのはもう少し後かと思ってたんだけど……』

 

 もうおるでよ。

 まぁ知ってるっぽいし味方確定なら良かったや。

 

『PT事件DF事件と続いたし、また何かあるかもと警戒したカノンが現地調査員としてそっちへ向かったんだ』

「へぇ。まあ何かあったら助かるかも」

『……殆ど観光目的っぽいけどね……』

 

 本当は向かわせる予定じゃなかったと。

 

『君と違って聞き分けも良いし仲良くしてやってくれ』

「なんかさりげなくディスられてない?」

『気のせいだ』

「そっかー」

 

 まぁともかく疑って悪かった。すまん。

 よろしくなカノン。

 

「こちらこそ! いやー、リコがヘンテコ常識はずれの頭がおかしい人って言われてる時はどうかと思ったけど良かった」

「なんか限りなくディスられてない? 初対面だよな?」

『気のせいだ』

「そっかー」

 

 お、なんかかかった。

 ……また海鳴エビか。マグロ出ねぇなー。

 

『プールに行ってるんじゃなかったのか? 釣りしてる音が聞こえるんだけど』

 

 いや、プールにいるよ? 

 けどさぁ。俺ちゃん実はカナヅチで全く浮かなかったのよ。

 

『そこまでは分かった。プールで釣り……?』

「……そういえばそっか、変だね」

『変で済む話じゃないぞ。どうして釣竿を持ってきてるんだ……』

 

 アークス時代の時も釣竿とか持ってなかったのに出てきてたし、今も同じノリで出せないかなーってやったら出てきたノーマル釣竿。

 ピッケルも出せそうだし後でその辺のコンクリから米とか大豆とか掘ってくるよ。

 いやぁー、武器もユニットもアイテムも全部失ったかと思ったけど、フォトンの代わりに魔力使って色々できるね。

 

「あ、エビ釣れまくってるしお土産にいる?」

「私はいらないな……」

『僕もいらない……というかプールにエビがいるのか……』

 

 そこはほら、ギャザリングの設定よ。

 釣り上げた瞬間になんか存在が確定して具現化するとかなんとか。

 

『分かった。君はバカだ』

 

 は? キレそう。

 クロノお前な、通話だけで見れてないだろうけど水着の美幼女に対して何言ってんだてめぇ。

 

 あ、良い事思いついた。

 

「カノンはハケとく?」

「ハケ? ……ああ、そういう。大丈夫だよ」

 

 クロノは疑問符を浮かべているような声を出したがカノンには伝わったらしい。

 おっけ。ノリノリで肩を近づけてきたので、では。

 

「ばあーん! 見よ、これが美しいマイボディ」

『ちょ、急に映像を繋げるなよ』

「美女カノンもいるよー」

 

 ふははは! あ奴め慌てふためいておるわ! 

 えーっと、カメラワークをちゃんとしてと。

 

「どうよどうよ。オレの美しさがようやくわかったか」

『あ、ああ。うん。君が整ってるのは分かったけど……』

 

 けど? けど? 

 どした? 顔赤いぞ? ん? 

 

『驚いた、君がその、本当に女の子だったとは』

 

 …………。

 …………。

 …………は? 

 

「なんだァ、てめェ……」

「ちょ、リコ落ち着いて」

「出来ぬぅ!」

『あ、いや、すまない。君が普段からオレオレ言ってるし、もしかしたらって』

 

 カノン、カチコミに行くぞ。ユーノをからかって遊ぼうとしてる場合じゃなかった。

 あいつにちゃんと俺が美幼女だってことを思い知らせに行く。

 

『そこまでの事だったのか!?』

 

 しかもそこまでって言ってる辺りな。それほどの事だぞ。

 俺ちゃんガチギレしそう。

 

「……ねえリコ、大丈夫だと思うよ?」

 

 ん? どった? 

 カノンが映像の先、クロノの後ろを指さすので追ってみると見覚えのある人影。

 あれってリンディさんじゃね? 

 

『クーローノーくーん?』

『すまない、仕事に戻るよ』

 

 そういや仕事中だったね、リンディさんもそらくるわ。

 けどどうしてだろう。怒ってね? 

 笑顔だけど、めっちゃ怒ってね? 

 

「今ってクロノさん側に私達映ってるでしょ?」

「だな」

「私達って今水着でしょ?」

「……そうだね」

 

 がしっとクロノの肩に手が置かれ、ようやく状況を理解した。

 あいつ、仕事をサボって水着美女の映像見てやんの。

 

『待ってくれ、違うんだこれは』

『……』

『ちょ、ちょっと待って、説明をさせ──』

 

 あ、切れた。

 カノンの正体確認電話だったのが雑談に発展したのは俺が悪いけど、喧嘩両成敗って事で。

 まさか俺が女の子扱いされていなかったのはキレそうだった。てかキレた。

 今度会ったらこれをネタになんかゆすろう。

 

 

 モニターを消して、プールに視線を戻すとはやてが手を振ってたので振り返す。

 なんか俺が暇で可哀想になったっぽい。憐れむな。

 

「んじゃ、私は帰るね」

「はやてに挨拶してかなくていいのか? お目付け役も兼ねてんだろ?」

「う、そこまで分かってた? 今日会ったのは偶然だし、はやてさん達には改めて挨拶に向かうよ。何も持ってきてないし」

 

 別に八神家の性格的に声さえかけてくれればいいけどな。何か貰えるのなら貰っておくけど。

 ヴィータはアイス好きだからその辺が良いと助言しておこう。

 俺チョコミントね。

 

「リコちゃーん」

「おう、今行くぞー」

 

 ざぶん。

 頭のてっぺんまで水に浸かった。

 

「ちょ」

 

 あ、初めて見るカノンはびっくりするか。ほっといてええやで。

 

「ぶくぶくぶく……」

「ビート板いる?」

 

 投げ渡された。センキュー。

 そっか、折角こういうのあるから──

 

「うぐぅ!?」

 

 一瞬沈んだビート板が反乱を起こし我が顎を打つ! 

 

「何しとるん?」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 カノンの奴め、こんな地雷装備を……もういねぇ! 

 

「アホだな」

「地面に叩きつけたシグナムは反省しろ?」

 

 ビート板にしがみつきながら説教する。

 なんだろう、とても様になってない。

 

「それで、なんか用か?」

「ちょっとは泳げるようになったし、競争しよか思うて」

「浮けないやつが泳げると思ってんのか?」

「凄いキメ顔で情けないこと言うとる」

 

 見ろよ、浮くので必死で傾いてるし若干流されてるぞ。気分は漂流記。

 漂ってたせいで段々酔ってきた。

 

「やべ、吐きそう。息するのしんどい」

「何しに来たんだお前は……ほら」

 

 待てシグナム、ビート板を引っ張るな。

 お前の背中に乗せてくれ、揺れるから死んでるんだ。

 シグナム~おんぶ~。

 

「仕方ない」

 

 呆れつつもちゃんと乗せてくれる。

 

「……意外と小さいな、リコは」

「デカイのは口だけや」

 

 ひでぇ。




(○○したときない、○○かも知らん、ってまさか方言……?)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX.10 リコちゃん改造計画

あけお@#!よろ!
作中は夏です。


 夏休みにもなれば小学生は暇なもの。宿題はめんどいが。

 だが、まぁ始業式に間に合わせりゃいいしのんびりでいいさ。てかはやてと一緒にやるし。

 わっちの学校での成績は中の中ですしワンチャンどうにでもなる。

 わざわざ頑張って上位者になった所でなんぞと言う訳でして、特に努力する気はありませんよ。

 

 それにさ、勉強できりゃ頭いいって思ってる奴ぁ嫌いなのよ。

 だから俺は夏休みの自由研究でザリガニの生態を調べたいと思います。

 

「絶対に宿題終わらせないタイプだと思う」

 

 なのはくんは何が言いたいんだぁ。馬鹿だといいたいのかぃ?

 おーおー、ブンブンの刑に処すぞぉ。

 

「たぶん皆も思ってるよ?」

「何を」

「じゃあ聞くわよ。夏休みの宿題、リコが最終日に必死こいて片付けると思う人は手上げて」

 

 寄ってきた犬を撫でながらアリサが適当に宣言すると、言い出したアリサはともかくとしてなぜすずかまで手を挙げた。しかも凄いしっかりピンと肘張ってさ。

 なのはは言うまでもなく敵だ。俺の味方はいないのか。味方は。

 

「……フェイト?」

 

 へいわしゅぎしゃなフェイタソだけは傍観してる。手も上げてない。

 

「うん」

 

 って言いながらいい笑顔で手を上げるんじゃあないよぉ!

 

「ノっておいた方が仲良くなれるかなって」

「ここには敵しかいねぇよぉ」

 

 いいもん! うちにははやてがいるもん!

 

「はやてちゃんなら自分でやれって、宿題見せてくれないと思うけど」

 

 甘いななのは。はやては予定をきっちり立てるタイプだ。

 そしてなぜか俺も予定の素材として組み込まれるので宿題タイムが自然と生まれる訳だ。

 現に昨日はふたりでのんびり雑談しながら宿題してた。

 どうだ貴様ら! 俺は、俺はちゃんと夏休みの宿題をちゃんと終わらせられるんだよ!

 

「はやてちゃん頼みだね」

「リコ自身は何もしてないわよ」

「うーん、後ではやてちゃんに伝えとくね」

「えと、どんまい?」

 

 4hit!

 

「なんだよぅ! 女の子泣かせて楽しいかよぉ!」

 

 後さりげなくチクるなよぉ!

 

「もういいもん。明日一日潰して全部終わらせてやるもん……」

「それこそ予定が立てられてないんじゃ」

 

 フェイトマ゛マーッ゛!

 

「何これ……」

 

 泣きついたら避けられはしなかったけどドンびかれた。

 くそぅ。こいつらいつか分からせてやるんだから!

 この黒薔薇にかけて誓う。この決闘に勝ち、薔薇の花嫁に死を!

 

「失礼します。お茶が入りました」

「お、ありがとうバトラー」

 

 全く。最近の子ったら事あるごとに俺ちゃんを小ばかにして。

 俺はなぁ、美少女なんだぞ? お嬢様ぞ?

 もっと丁寧に扱わんか。

 

「……ふぅ。良いお茶だバトラー。感動的だ」

 

 だがなぜ俺のだけプラスチックなんだ?

 

「あんたの力じゃ壊しそうだから用意したのよ。わざわざ」

 

 俺は力の制御できない化け物か何か?

 ぱちん。バトラー、握力計を。

 

「うちの鮫島を使わないでよ」

「お持ちいたしました。リコお嬢様」

 

 ご苦労。

 

「鮫島も何で普通に使われてるのよ……」

「ワガママお嬢様の執事というのも経験したく思いまして」

 

 誰がワガママぢゃーい!

 ほぅら見てろ雑魚ども、行くぞぉ。俺の握力は……!

 ぐぬぬぬぬ!

 

「12kg。つまり俺は美少女」

「太ももで針をずらしてるの見えてたわよ」

「馬鹿な!」

 

 そんなはずない! 俺はすんげぇ非力な美少女なんだ、信じてくれ!

 ただパンチ力とキック力が特撮ヒーローレベルなだけなんだよ!

 

「リコちゃんはそれよりずっと強そうだけど」

「うん。クロノくんも自分よりずっと強かったって」

 

 ものによっては確かに勝てそう。ただまぁ、あいつら主人公だし?

 てかすずかはさりげなく俺の事を化け物か何かと思ってないか。

 美少女やぞ?

 クロノを倒しかけたのはDFブースト乗って容赦しなかったからだし。

 てか美少女やぞ?

 

「今日はやけに推すね」

「美少女宣言するのがリコよ。付き合ってたらキリないわ」

「そう、それなんだよ! 聞いてくれ皆さん!」

 

 あ、今日も今日とてアリサハウスにお邪魔してます。

 すずか&アリッサが車で帰ってるのを散歩の道中偶然目撃したので、走って追いかけ追いつきました。

 例え高速道路に乗って逃げようが俺は追いついて見せる。うぉォン。

 んで、ボンネットに飛び乗って気が付いたんだけど車内にはフェイトとなのはもおりまして。

 聞いてみた所今日は全員お暇なのでお茶会だとか。

 

 八神家の皆さんはどうしたって?

 はやては夏休みの長期休暇を利用して今日からミッドに勉強へ、騎士たちもそれに着いてった。

 取り残された俺ちゃん……な訳でなく、別に数日で帰ってくるらしいし家の防犯を兼ねてザフィーラと共に地球に残った訳だ。

 

 話がずれた。戻そう。

 俺ちゃんが美少女を推すにも理由があるので相談しよう。

 俺の話をきけーよー!

 

 

 

「──女の子として見てもらえなかった?」

 

 そう!

 グラサンを装備してバンっとホワイトボードに書いたものを叩けば全員呆れちゃった。

 字が汚いてかオラクル文字で誰も読めねぇな。消し……あれ、力強く書き過ぎたせいで消えねぇ。

 

 ……ごほん。解説すると、クロノっていうあんちくしょーにこの前水着見せた訳よ。

 したらさ、「本当に女の子だったんだな」って言われたんだよ!

 分かるかこの屈辱。あいつは俺を美少女として見てなかったんだぞ……!

 多分男友達としか俺の事を見てなかったに違いない……。

 

「アホリコと言えど流石にかわいそうね」

「クロノくんが……」

 

 同情の目はそこそこにして、どうすりゃいい。

 俺はどうしたらあいつに「かわいい」と言ってもらえる!

 バンっと再びホワイトボードを叩いたら真っ二つになった。

 うごごご、俺はこの力を制御できない! ヴォー!

 ユウキュウガ……ホシイ……!

 

「とりあえず、“オレ”はやめたらどうかしら」

 

 え、マジ? アーちゃん先輩そっからですか?

 うーん……まぁ確かに短髪で男っぽい服で一人称俺だったら、ワンチャン男の娘扱いされちゃうか?

 中性から男より。つまり男の娘、か。はぁ……。

 

「仮にさ、オレが急に一人称をわたしに直したらこう、ヘンじゃないか?」

「“オレ”は普通に使うのにそこは気にするのね」

 

 ちゃうねん、急に変えたら「ん?」ってなるじゃん。

 

「じゃあいっそのこと服ごと変えてみたらどうかな」

 

 すずか氏。それは小生のファッションセンスがバリダサと言いたいでござるか?

 

「リコちゃんって制服以外で最近スカート穿かないから、どうかなって」

「……男っぽい服なのも理由かしらね」

 

 うーん、アークス時代というかオラクルボディだった時はワンピース着てたりなんだりしてたけど最近はそうだねぇ。

 はやてに買って貰ったりお下がりだったりの組み合わせでもなるべくスカートは避けてるし。

 なんだろうね。リコ・クローチェがいなくなって精神空間が俺オンリーになったから抵抗出てきたのかな。

 はやてとかとのお風呂は全然気にしてないけど、なぜかスカートは微妙。

 

 てなわけで今はズボンとシャツっていう、ラフも過ぎる虫取り少年かってレベルの恰好です。

 流石に恥じらいは残ってるので裸にゃなりませんが。

 

「でもこういうのはあれだけど、意外だね」

 

 何が?

 

「リコちゃんって、同一性障害とかそういうあれなのかなって思ってたから……」

「あー、リコは男に興味ないってはやても言ってたわね」

 

 うーん。ガチな所を言うと精神は男なんで間違ってないのかも。説明するとアレだから言わんが。

 てか俺ってそうか、すずかっちの指摘通りこの世界だとそういうくくりになるのか?

 でもだからと言って女性に興味があるのかとも言い切れないけど。

 ……性欲がないのか俺は?

 

「我がかつての肉体は親も不明な試験管ベイビーだし調整入ってるしその辺かもな」

「急に重い話入れるのやめない?」

 

 元ボディの話だし今関係してるのは知らんけど。

 だって精神の話だし。

 

「ともかくそこらは俺も分からんし解明する気はない。したって意味ないし」

「あの、えっと、ごめんね」

 

 何が?

 とは言うが普通に考えて障害的なのってだいーぶナイーブな話題だったか。俺ちゃんは気にせんよ。

 構へん構へん。

 

「ただな。今回クロノに限ってはこう、女の子として見てもらいたいんだよ」

 

 俺が美少女であることを分からせたいので。

 八神リコ謎のこだわり。あいつにかわいいと言わせるまで安らかに眠るなかれ。

 

「ねぇすずか。これってやっぱり……」

「うん。リコちゃんはたぶん気が付いてないけど……」

 

 何をこそこそ話しているか。

 ちょっと我輩にも聞かせなさい。

 おい、お嬢様部のおふたり。

 無視かい。フェイトたん!

 

「フェイト、どういう話か分かるか?」

「うーん。リコが鈍いって話かな」

「リコちゃんって結構自分の事は雑だもんね」

 

 なのははギルティ。

 

「なんで!?」

 

 その胸に手を当てて考えなさい。あなたが一番私の扱いが雑なんですよ。

 俺ちゃんはいつも真剣なのだ。

 フェイトも鈍いとかなんだとか言ってるとギるぞ。

 

「ちょっと待ってて」

 

 アリサ&すずかがどっかへ行ってしまった。

 何を企んでるのかは知らんが……。

 

「とりあえず、片付けるか」

 

 このホワイトボードをどこから出したかって?

 さぁ? 俺も分かんね。気合で出した。

 実はアイテムパック生きてるんじゃねぇの?

 

 消し方分かんないからべきょべきょへし壊したり、あるいは握りつぶして粉微塵にしてごみ箱にぱっぱしてたらアリサが帰ってくる。

 ドン引きしてるけどどうした。

 

「今度から鋼鉄の食器でも用意しようかしら……」

 

 いつでも遊びに来てもいいって事だね!

 

「別に構わないけど、壊さないでよ」

 

 壊すのは自前のホワイトボードだけだしへーきへーき。

 んで、何を企んでるんだい?

 

「着替えを用意したのよ」

「ほう?」

 

 お嬢様の着替えとは。

 

「まあまあ」

 

 通されたのは海外のドラマでよく見るなんかめっちゃ服の入ってる部屋。

 ウォークインクローゼットってマジでウォークインできるのね。

 こんだけ広ければ住めるじゃん。

 この屋敷の廊下の突き当りとかでも住めそうだけど俺なら。

 

「あ、来たね」

 

 すずかが色鮮やかな服を持って待機してるけど、何するんです?

 言わなくてもいいけど。

 だって流れ的に美少女の俺がより美少女になっちゃうわけでしょ? 飾り付けられて。

 

「前から思ってたのよ。素材は良いのにって」

 

 お前ら俺が人相手に暴力振るわないからって何でもしていいと思ってないか?

 あとなぜアリサさんは鍵を締めた?

 

 や、やめろ……近づくな……。

 俺は一人で着替えられる。大丈夫だ。

 

「まあまあ」

「まあまあ」

 

 や、やめろ。

 着替えられるから、服貸してくれるならそれでいいから。

 よせ、くるな、やめろっ。

 どうせこういうの着せ替え人形的なのにされんだろ、分かってんだ!

 

 鍵が開かない! 出して、出して!

 なのはさん! フェイトさん、出してくれよ! 出してぇーっ!

 

 ウ、ウワァアアアアアアァァァァア!(リコの怯える声)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX.11 リーダーは全てを解決する

ロドス・ニューラルコネクタに接続中……



ロドス・ニューラルコネクタに接続中……


「こっちの方がいいんじゃないかしら」

「こっちの方が……」

 

 

 

 やあダニエル! 僕はリコー! 着せ替え人形にされてるんだ! 

 

「リコはどっちがいい?」

 

 そういってアリサさんが両手に衣装を持ってきましたが、私にはようわからんのですよ。

 PSO2のキャラクリだってアクセサリーの組み合わせセンスがゴミ過ぎて結局レッドリングのみになったんやぞ。

 Twitterのヘッダー一緒に撮りましょうよ! って誘われた時に横に並んで、情報量の違いに嘆いた。

 向こうさんはアークスらしいファッションにAR(アサルトライフル)のポーズをばしっと決めてたのに、俺はなぜ普段着のスカジャンスタイルで行ったんだ……。

 

 気分は「私服でお越しください」をそのままの意で受け取ったコミュ障。

 

 センスへの恨み力が強すぎたのか相手側の撮影データ破損したけど。

 でも、センスが良かったのが悪いから。

 ちなみに後ですぐまた集まって撮り直しました。アークスはスクショ撮るのがメインの仕事だからね。

 

 

「ねえ、真面目に聞いてる? あんたのためなのよ?」

「……お任せします」

「リコちゃんが敬語になってる……」

 

 そら俺がクロノにかわいいって言ってもらいたいと言い出したに発する今ですが。

 ですが、ここまでは予想外じゃん? 

 もっとこう、かるぅーく服一つ決めてしゃららーんってできれば俺は……。

 

「男目線ね。女の子はそうやって何でもない風にしつつも裏ではこう努力するのよ」

「素がかわいいし何とかインチキできない?」

「その素が良いのに捨ててるのが許せないのよ!」

 

 あ、やべ。これは怒らせたパターン。

 すずかさん、この暴走超特急アリサさんを何とかしてくだしあ。

 

「普段の仕返し」

 

 俺がいつも何したっていうんだよ! 

 だれか! たすけてください! 

 

 ……そうだ。カノンに連絡取ろう。

 プールの後に挨拶に来ただけであれ以来姿を見せてないが、俺は距離を取られてるのか? 

 なんでもいい、ガキんちょとは違って大人なあ奴ならこの状況を抜け出せる手を教えてくれるはずだ。

 

 ピット、ポット、パット。

 いでよ! ネットゴーストPIPOPA! 

 

 

 

 リコ: へるぷ

 

 未知なる美女カノン: どうしたの? 

 

 リコ: ちょっと助けて欲し・・・その名前こそどした

 

 未知なる美女カノン: いいでしょー

 

 

 

 駄目だ、なんかよくわからんが話通じるか不安になってきた。

 てか本当に大人なのか、何が未知なる美女カノンだ。

 

 

 

 リコ: 色々あって着せ替え人形にされてるんだけど、助けに来てくれない? 

 

 未知なる美女カノン: えー、今ラスベガスにいるんだけど

 

 リコ: なんで???????? 

 

 未知なる美女カノン: いやぁー。本場も見てみたかったし? 

 

 リコ: たすけて! 

 

 未知なる美女カノン: 90%の確率で助けるよー

 

 

 

 来る気ねぇじゃねぇか! 

 俺、100%以外を信用してはいけない、知ってる。ドゥドゥゆるさない。

 

「誰とメールしてるのよ。あんたがかわいくなりたいって言ったんでしょ?」

「だからさぁ、こう、手っ取り早くかわいくなる方法をだな」

「こんの! 何の努力もなしに良い顔してぇー!」

 

 いひゃい! のばすな! 

 ほほを! おれの! 

 

 てか俺のほっぺちょーのびる! 

 それ以上伸ばすな、それ以上伸ばすとrtfぎゅhklになるぞ! 

 いいのか、やめろ、警告はしたからな! 

 

「やめ──」

「はいやめた」

「なぜやめた?」

「嫌な予感がしたし……」

 

 手鏡を渡されたので覗き込むと、変形しかけていた。

 餅ってレベルじゃないぞ。なんか横に触覚が生えてる。

 

「本当に人間かオレ」

「デューマンじゃなかったっけ」

 

 すずかがずれた回答したけど、違うそうじゃない。

 しかし折角だ、見せてやろう。この八神リコ、究極の姿を! 

 

「やめて欲しいのかどっちなのよ……」

 

 

 リコモン! ワープ進化ァアアアアアア! 

 

「あ」「あっ」

 

 

 

 

 

 ・・・・・

 

 

 

 

 

「あ、帰ってきた」

「おかえり」

 

 やけに疲れた顔のアリサとすずかを連れて部屋に戻る。

 

「リコちゃんは──」

 

 どうだこの姿は。

 一頭身で全身が白く、横方向へ三本ほどなんか棒が生えている。

 取って付けたかのように頭の上にクローム・ドラゴンヘルムというアクセサリーを着けているが、どうよこれ。

 

「いかにも我輩はアークスのリコである」

「うそ!」「え?」

 

 なのはは分かりやすく絶叫し、フェイトは困惑するしかない。

 なんだこの生命体はと。

 

「ふふん。オレちゃんは何してもかわいいなぁ」 

「かわいいの方向性がおかしい事に気が付いて」

 

 ものすごく冷めた誰かの突っ込み。

 多分全員がそれぞれ似たような事を言ったんだと思う。

 

 リコモンは進化するとrtfぎゅhklモンになるのだ。

 ちなみにリコモンからスタートして、ファルスモン→クロームモンを辿ってrtfぎゅhklモンになる。

 戦闘能力? しらね。たぶんクロームモンが強いんだろうけどこっちは究極進化だぞ。

 確実にウイルス種。必殺技はデータ削除能力を使ったHDDバ……このネタはやめよう。うん。

 

 ついでにぎゅーさんも原点が面白すぎるから卑怯だしやめよう。

 

 なのはさんや、背中にジッパー付いてるからそれ外してくれね? 

 そうそう。せんきゅー。

 

「ふう」

 

 んで、じゃーん。どうよ。

 なんやかんやでしゃしゃっと纏まったスタイルのファッションよ。

 ちなみに何て呼ぶ服装なのかは俺には分からない。知らない。

 アイテムとして表記してくれなきゃ名前わかんないよぉ! 

 

「早速クロノくんに電話する?」

 

 え。

 そういわれると、なんだか照れるな……。

 スカートの端を掴んで、ちょいとはにかんで見て、いややっぱこれハズいな……。

 いやだって口調も直せてないしさ、それで急にこんな格好しただけで。

 というか! ほら、今電話する理由ないし? 

 

「あら」

 

 アリサが笑って、すずかと顔を合わせてあらあらふふふと声を合わせる。

 

「照れ屋さんめっ」

 

 なんでそんなキャラにない口調で肩を小突くし。

 そしてフェイトも犬を撫でながら察したように笑わないで欲しい。




サーバーテラ #0 https://syosetu.org/novel/249553/


リコおっさんがアークナイツの世界へ行ったそうですよ、ドクター。
シリアス色が強めなのはごめんなさい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX.12 一周年

スペースチャンネル5の主人公ウララ、グラールチャンネル5のリポーター・ハル。二人を合わせると、ハルウララになるのだ! みんなは知ってたかな!?
……競馬場に行ってた訳じゃありません。本当なんです、芝8長距離9の因子を携えて時間溯行を繰り返してる訳じゃないんです。はぁ……はぁ……【敗者】……?
泣くな、笑え。ハルウララ。


それはともかく、本小説の完結から一年ですね。ありがとうございます。
StS編は考える程その後の時代まで響きそうなので悩み中です。全知が欲しい。
一周年なので今回はリコの話となります。作者もうろ覚えな部分が多いですがご容赦ください。
これからもよろしくお願いします。


「確かに人間誰しも全員仲良く、なんて訳にはいかない。どぅしたって“あ、合わないなコイツ”なんていう事もある!」

 

 

 昼下がりのフランカ’s カフェに臭い小芝居の混じった声が響く。

 遠くからでも伝わるその暑苦しさと、謎にデカい肩アーマーが特徴的なのはアークスの中でもトップに位置する六芒均衡の六、ヒューイだ。

 普通は羨望の眼差しで見られる筈の六芒のひとりだが、彼自身が語った通り“あ、合わないなコイツ”と思われたのか近くの席から人が離れていく。

 

 一方でその正面に座り、冷めた目でトロピカルフルーツを飲むアークス──イオも、正直な所帰りたくて仕方なかった。

 朝から突然呼び出されたと思えば突然謎の演技が始まり、未だ本題も話してくれていない。

 ストローに口を付けたままジトーっとした目で眺めていると流石のヒューイもたじろいだ。

 

「っとと。すまない、そうだよな。うん。本題に入ろう!」

 

 ようやくか。呆れた顔でヒューイが出した写真を覗き込み、その瞬間に思わずイオはむせついた。

 仏頂面な正面写真の少女、その写真のアークスは、最近いつの間にか自身をなぜか師匠と呼びなんやかんやで一緒に任務を回る事も多い少女なのだから。

 

「けほっ! ……えと、突然どうしたんですか」

「うむ! 実はだなぁ。クラリスクレイスが彼女に謝りたいと言っているのだ!」

「……連絡先なら教えるけど……」

「ちっがーう!」

 

 バシーン! と音がしそうな程の勢いで片足を椅子に掛けイオを指さした。

 かと思えば姿勢を低くして、聞かれてはいけない話のように声量を絞る。

 ちなみにヒューイはさっきから椅子に座らず席を立ちっぱなし。とても目立っている。

 

「実はだな……。どうにもこの写真の彼女、クラリスクレイスの事を嫌って避けているらしい」

「ああー」

 

 話が分からない訳ではない。

 最近は改善されて周囲からも見直されて来てるとはいえ、過去の行いからまだクラリスクレイスを苦手とする人間も少なからずいると聞く。

 避けられているのもそのひとつだろうと予想はついた。

 

「別に仲良くしろとまでは言わない。ただクラリスクレイスがこの件について心残りみたいでな、一区切りつけさせてやりたい」

「そういうことなら、まぁ……」

 

 馬鹿正直に呼び出してとすればイオと少女の信頼関係にも響くとヒューイも案じているので、事前に用意していた作戦のスライドを表示する。

 やけに安っぽいダサいロゴと装飾に彩られたその作戦とは──

 

 

「──“チョコレートの行方”?」

「その通りだ!」

 

 

 作戦名だけでは意味が伝わらないが、それ以降のスライドは用意されていなかった。

 何のために用意したのだろう。

 

「毎年この時期は確か、お世話になった人や友人、あるいは想い人に言葉とお菓子を渡すイベントがあったよな?」

「あー、バレンタイン……ですね」

「そこで! 君とあの少女には適当なクエストへ赴いて貰い、良き所でクラリスクレイスにチョコを渡してもらうのだ!」

 

 良き所とは? 

 

「ああ分かってる。分かってるとも! 勿論このヒューイもお膳立てはしよう!」

 

 だから、良き所とは? 

 それと自分がどのように動けばいいのかも聞いておきたい。

 

「君達の実力よりほんのちょーっと強めなエネミーがいる出現する所へ行って、いつも通り戦って欲しいだけだ」

「いっ、強めなエネミーって」

「大丈夫だ安心しろ! 何故ならば、ちょーっとピンチになったその時にクラリスクレイスを向かわせる! 吊り橋効果ってやつだな! ははははっ!」

「あくどい……」

 

 暑苦しいとはいえヒューイの事だと割り切る。

 本当にピンチな時はクラリスクレイスだけでなくヒューイも戦いに参加するだろうから。

 それぞれの性格はさておき実力は確かな六芒二人が助けてくれるというのなら、乗ってみても悪くはないとイオは思った。

 

 なぜなら、イオも薄々その例の少女が誰かを避けているというのには気が付いていたからだ。

 任務中にふらふらと道を逸れたり、あるいはアークスシップ内でもどこか人目を気にしてこそこそしている時もある。

 それがクラリスクレイスを避けている故の行動で、今回の事でそれが改善される可能性があるのならば。

 

「良し! 決まりだな! では早速根回しだ!」

 

 言うが早いかヒューイは駆けた。

 駆けて、うるさいと店員に怒られた。

 

 

 

「……で、おれは特に何もしなくていいのか?」

 

 用意された任務を受けるというだけであれば待つだけで良いのだろうけど──と、ジュースを飲み終え立ち上がろうとした時に後ろから声をかけられる。

 今度はなんだと内心呆れつつ、聞き覚えのある声に振り替えるとそこにはお盆に軽食を乗せた例の少女の姿が。

 

 ──まさか、聞かれてた? 

 

 焦ってぎこちない動きになってしまっているかと自身を疑いつつ挨拶すると、少女はいつもの通りにこんにちはと返す。

 少し天然混じりの少女だ。きっと大丈夫。気にしてない。

 

「師匠は、休憩?」

「そんなところ。あと、師匠じゃないって」

 

 挨拶代わりのやり取りをしつつ少女は手招きする必要もなく、イオの向かいの席、先ほどまでヒューイが行儀悪く足を乗せていた椅子に座り行儀よく食事を取る。

 どうやらあれほどバカ騒ぎしていたにも関わらず聞こえていなかったようだ。あるいは、意識外で本当に気にしてないか。

 ひとまず安心して胸を撫で下ろし、ぱくぱくと食べ続ける少女の様子を眺める。

 

 こんなにも馴染んでいるのに、出会ったのは割と最近の話だ──

 

 

 

 

 

 

 ──イオがその小さなアークスと出会ったのは、惑星ナベリウスの森林地帯だった。

 

 

 ダークファルス【敗者(ルーサー)】の起こした歴史的大事件が終わりひと月が経ち、アークスシップ内の混乱も収まり始めた頃。

 いい転機だからとバレットボウを新調し、馴らしと試し撃ちに来たところで少女が地面に倒れているのを発見した。

 

「モノメイトならいっぱいあるけど」

「……助かります」

 

 

 フィールドワーク中に木の根っこに足を躓かせて倒れ、そのまま力尽きて突っ伏していたらしい。

 助け起こして話を聞いてみれば、なんと驚きな事にメイト系アイテムを全てすっかり忘れて来たと言う。

 一度キャンプシップに戻れば良いのにその発想すらもなかったようだ。

 ほっておけなくなり手持ちのモノメイトを分け与えつつ、その立ち振る舞いに疑問を持って容姿を観察していく。

 

 まず現在身に着けているのは配給される戦闘衣装のエーデルゼリン。袖や裾にグラデーションの入るアレンジが施されているが、アークスのファッションとしては普通。これはいい。

 座った状態でも分かるほど背は低くこじんまりとしており、恐らく立って並べば自分(イオ)の目元よりも下。綺麗な一色の金色をした髪の毛は切った事が無いのか腰まで伸びている。

 色々纏めて、結論は()()()()()を言えば完全な子供。

 

 

 見た目だけと言うのは、そんな可愛らしいという感想の出る容姿に反して右手に持つ武器が、その少女がただ者ではないぞと知らせていたからだ。

 イオが現在持っているパレットボウのエーデルイーオーも特注のワンオフだが、その武器は明らかに何かが違う。

 本人はラヴィス=カノンという短杖(ウォンド)だとさも当然のように教えてくれるが、少なくとも普遍的な短杖のようには見えない。

 真っ白な柄と薄紫に光る刃を持つシンプルな、杖というよりも剣に近いデザインはオラクルで作られた物ですら無いようにも思えた。

 六芒の一、レギアスが持っていた創世器のような、別宇宙で作られたのではないかと思えるデザイン──

 

 

「──そんなに不思議?」

 

 

 小首を傾げるが全くその通りだ。確証がないのでハッキリとは言えなかったが。

 そのラヴィス=カノンに始まる数多の発言の内容はちぐはぐだが、イオはなんとか情報をまとめていき、ついに一つ心当たりを見つけた。

 

 旧マザーシップ内に大量出現したクラリスクレイスクローンのような、ルーサーが管轄していたどこかの研究機関を出身とする人物ではないか──と。

 そうであれば子供の容姿や未知なる短杖、アークスとしてあるまじきアイテム忘れ諸々の常識外れにも納得がいく。

 

 

 どういう経緯で一般アークスとなり任務へ赴いているのかは分からない。

 ただとにかくこのままひとりで行かせるのを少し不安に感じたイオは、急遽パーティー申請を出して同行する事にした。

 

 

 

 これがその少女との出会い。

 

 

 

 当時の少女は人と喋り慣れていないのか口調も硬く、イオ自身もあまり口数多く喋るという性格では言い難かったので所々で沈黙も多かったものの、同じデューマンという種族でシンパシーを感じたのか気が合いそれからよく会うようになった。

 接近を得意とする少女が前衛を務め、遠距離を得意とするイオが後衛を務める形になるのもパーティーを組む理由にある。

 

 慣れ親しみ少女の口調は砕け、長かった髪は“師匠”を習って短く揃え、一人称は“わたし”だったのが真似され“おれ”になったり。

 そんな色々が在ったというのに、そういえばまだ付き合いが出来てから半年近くにしかならないのか。

 追加で頼んだジュースを飲みながら少女を眺めていると、小首を傾げられた。

 

 

「どうかした?」

「ううん。今更だけど、さっきヒューイさんと何話してたんだろって気になって」

「え」

 

 今更──というよりもやっぱり聞かれていた! 

 

「え、えと、ヒューイさんとは、お、お知り合いで?」

 

 そんな事を聞き返してどうする!? 

 焦るイオとは反対に、少女はのんびりと答えた。

 

「アークスになる手続きをクーナと一緒にやってくれて、お世話になったから」

「く、クーナさん……ってあの?」

「うん」

 

 予想外すぎる。

 クラリスクレイスとの確執といい、一体どんな立ち位置なんだ。

 過去はなんとなく聞いちゃいけない部分な気がしていてスルーしていたが、こうなってくると無視しきれない。

 頭を抱えたいが取りあえず耐える。

 

「クーナはなんか、弟と似てるからって前からよく会いに来てくれてた。ヒューイさんは……なんかいつの間にかいた」

「そ、そうなんだ」

 

 何にでも首を突っ込むヒューイだ。どうせ成り行きだろう。

 

「ヒューイさんは暑苦しいから、師匠に迷惑掛けたらごめん」

「あ、その、別に……」

 

 ──いや、結構迷惑だったかも? うるさかったし、作戦は中身無いし。割と周囲の視線が恥ずかしかったし……。

 どこまで聞かれていたのかもわからない。

 イオは切り替えて、嘘を言ってないレベルの話をすることにした。

 

「ヒューイさんから、今度実力を見たいから任務を受けてくれないかって」

「ふん?」

 

 もぐもぐと食べながら少し首を傾げた。

 傾げて、何か納得したのか頷く。

 

「テストかな。やだなぁ」

「そんな感じ……かも」

 

 少女の表情が陰る。

 出自からして本人の思うテストとはどんなものかと疑問に思ったが、やはり聞いてはいけない気がするのでスルー。

 後はともかく、続報があるまで分からない。

 なんとかしてくれ、ヒューイさん! 

 

 

 

 

 

 あっという間にその数日後。当日。

 いつもの通りイオと合流した少女は、促されるままテストの名を冠した任務を受けイオの背中を追ってキャンプシップに乗り込んだ。

 ここに来るまで少女へはテストはテストでもただの実力テストだと説得しているので、よほどテストに良い思い出がないらしい少女の顔からは陰りは消えている。

 

 現地へ向かっている途中で通信が入り、突如正面にヒューイの顔がでかでかと映った時は、結構嫌な顔をまたしていたが。

 暑苦しく、やれ青春がどうのや友情がどうの叫び始めのだから仕方ない。

 

『そこで! 君達には──』

 

 ぷつん。

 耐えかねた少女が通信を切った。

 

「容赦ないね……」

「ヒューイさんに本題を話させるには、一回こうして流れを切った方がいいってクーナが」

 

 しばらくして再び通信が入り、少し髪の毛の焦げているヒューイが少し冷静になって少しずつ詳細を話す。

 近くにいる()()の炎属性テクニックで焼かれたようだ。

 

「?」

 

 その焦げ跡に少女は首を傾げるが、ヒューイは至って真面目に話してくれるので聞く。

 アークスの育成だの訓練コースだのといった嘘が次から次へと出てくるし、その説明も台本か何かを丸読みなのが分かる視線だが少女はちゃんと真面目に聞いている。

 それを隣で見ているイオは事前にそれらを知っていたので、いつしかのようにまた冷めた目つきになっていた。

 

「その……変な奴に騙されないようにな」

「師匠?」

 

 ポンッと小さな肩に手を置いて、ふたりはアムドゥスキア火山地帯へ降り立った。

 

 

 

 ヒューイに指定されたコースはいたって単純な一本道。

 少女は知らないが、以前に行った戦技大会と同じのシンプルなルールだ。

 エネミーを撃破し前に進み、最後は大型エネミーと戦う。相手に実力があるならエキシビジョンとしてヒューイやクラリスクレイスが出てくる。

 

 今回の場合は大型エネミーによってピンチになった時に、援軍としてクラリスクレイスが現れるんだろう。

 

「ピンチ、ね……」

 

 愛用のラヴィス=カノンを構えた少女が駆け、エネミーに囲まれたかと思えばゾンディールを発動し敵を一か所にまとめ、自分と協力して殲滅する。

 正直な所、慢心もあるだろうがイオはピンチになる場面があまり想像できなかった。

 あの少女は強い。前衛を務めているとはいえテクター。あの杖と言う名の剣の威力と少女自身の高い能力、何よりテクター故に支援系テクニックで自己強化や回復をすることができるので、よほどの事がない限り追い詰める事は難しい。

 

「っとと、いけない」

 

 矢を構えて敵を討つ。

 いくら少女は強いとはいえ、まだ戦闘面では背後の警戒が甘い時がある。任せっきりにはできない。

 

「んー?」

「どうしたんだ?」

「いや」

 

 少女がきょろきょろと辺りを見渡す。周囲に敵はいない筈……。

 

「また、来たの?」

 

 来た?

 

「ううん。師匠には関係ないけど、うん」

 

 クラリスクレイスが来ているのがバレている?

 首を傾げた少女が歩き出したのでついていこうとすると、何かが迫ってイオの行く手を塞いだ。

 敵じゃない。火山地帯特有の落石じゃない。

 これは──

 

「──障壁!?」

「師匠!」

 

 そんな事聞いてないぞ!?

 イオは焦る。

 ある意味ピンチにはなるだろうしこれで向こうにクラリスクレイスは向かうんだろうけど、自分はどうするんだと。

 気配を感じ振り返って、迫っていたダーカーに矢を撃ち込む。同時に、少女側でも動きがあったようで短い声と共に爆発音がした。

 

「そっちは平気!?」

『なんとかする』

「なんとかって……」

『大丈夫』

 

 イオが小型エネミーに襲われ迎撃している頃、一方の少女は大型のエネミーに襲われていた。

 大型のダーカー種、ブリュー・リンガーダ。四本の足と四本の腕、一対の翼を持った強敵。

 流石の少女でもというより、手練れのアークスでも複数人でかかる相手。

 ひとりで倒せるのは【巨躯(エルダー)】や【敗者(ルーサー)】の撃退に一役買ったイオの先輩か、あるいはゲームの中くらいだろう。

 

 少女は大丈夫だとは言ったものの、分が悪い。

 

「……相性も悪いし」

 

 その事は本人も分かっていたし、そも少女は生来より闇属性系のテクニックを得意としていた。

 少女と同じく闇属性のテクニックを操りながらもダーカーの殲滅を果たす規格外もいない訳ではないし、全くダメージを与えられない訳ではない。

 だが少女の力量では流石に倒しきれない。

 

「うわっ」

 

 ブリュー・リンガーダの振るった槍を弾き、カウンターにテクニックを撃ち込むが怯みもしない。

 

「しまっ──」

 

 姿勢の崩れた一瞬のタイミングが悪く、次の攻撃を避けも防ぎもできない正しくピンチ。

 その瞬間!

 

「とぅりゃあああああああ!」

 

 突如として火球がブリュー・リンガーダを襲い、神々しさもある黄金の図体を吹き飛ばした。

 

「……まさか」

 

 姿勢を直した少女が振り返る。

 

「助けに来てやっ……来たぞ!」

 

 クラリスクレイスだ。

 こんなところにまで現れるなんて。

 内心悪態をつきつつも助かった事実には変わりなく、自分の横に並んだその顔をただどう接すればいいのかと眺める。

 

「その、今まで悪かった。あ、あー、謝る!」

「え?」

 

 言葉詰まり気味に放たれたその内容に面食らい少女は判断を遅らせ、敵の放った斬撃を慌てて防ぐもその衝撃でラヴィス=カノンが弾かれてしまった。

 拾う間もなくその場を移動し、そして思考を巡らせる。

 

 クラリスクレイスが、謝った?

 今まで顔を合わせては一方的に噛みついていたあのクラリスクレイスが?

 

 少女とて分からない訳ではない。

 いくら相手が悪ガキと言って間違いないような事をしていたクラリスクレイスでも、時が経てば成長する。

 今までを水に流しこれから仲良く、は苦手意識もあり難しいだろうがせめて嫌ったりはしないでおこう。

 ましてや今は戦闘中だ。好き嫌いをしている場合ではない。

 

「シフタ!」

「お?」

 

 離れたクラリスクレイスの元へタリスを投げてシフタを発動し、攻撃力を増してやる。

 自身に倒しきる火力はない。ならば、任せるのみ。

 

「おれが足止めする」

 

 手元に馴染んだ愛用の武器がないのは不安だが、不安を払拭できるくらいの力を持った()()がいる。

 先んじてこの場を訪れていたんであろう誰かどこかのアークスが落とし忘れていたソードを走りながら拾い、守勢に重みを置き攪乱に徹する。

 

「やるぞー!」

 

 しばらくの攻防の後、クラリスクレイスの声が響いた。

 

「りょ」

 

 フルスイングで振るわれたソードがブリュー・リンガーダの前足を叩き怯ませる。

 

「そりゃー!」

「……やっぱりすごい威力だ」

 

 炎の暴力。

 今まで散々自慢で見てきたのは、威力が抑えられていたというのが明らかだ。

 施設でテストの為に放つ、あるいは競うためのフォトンの扱い方ではない。

 クラリスクレイスの攻撃を受けたブリュー・リンガーダは耐えきれず砕け散った。

 

 流石は六芒に数えられるだけはある。

 

 

 敵は倒し終えた。障壁も解けてイオとも合流できた。

 任務も元からこういう予定だったとヒューイから通信が入り説明され、少女の肩から力が抜ける。

 

「師匠は知ってた?」

「えっと──」

『ん? 俺の独断だ! はっはっは!』

「ヒューイさんか……」

 

 やることはやったし、クラリスクレイスも謝ったんだし帰ろう。

 先ほど拾ったソードは流れで仕舞い、地面に刺さったラヴィス=カノンも拾い上げて去ろうとテレパイプを出す。

 テレパイプを使いキャンプシップに戻ろうとする少女の背中を、クラリスクレイスの声が止めた。

 

 

 振り返ると、何かを手にしている。

 小さい箱のようだが……。

 

「これ、バレンタイン? の、奴な!」

「……くれるの?」

「やる!」

 

 ぐいっと押し付けるようにして、照れ臭かったのか恥ずかしかったのかクラリスクレイスは走り去ってしまった。

 

「?」

 

 少女はバレンタインを知らないので意味は分からない。

 開けてみると、手作りらしいチョコが沢山入っていた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、チョコ貰ったってワケ」

「そんな事あったんやなー」

「ああ」

 

 後部座席で話を聞いていたはやてがしんみりと呟き、開いた窓から流れる風景を眺めた。

 助手席から話続けていた俺も流石に喉が乾き、ホルダーにあるドリンクを飲む。

 車を運転しているカノンも聞いていた筈だがノーリアクションだ。

 

 道すがら暇だからと昔の話を聞かせてくれと言われ、今話したのは俺の記憶に残っていたアークスとして生きたリコの話。

 記憶を保有していた本人はもういないので多少は間違えた部分もあるかも知れないが、俯瞰して記憶を見ていた俺からはこうとしか言えない。

 だいたいあってるくらいだろ。

 

 

「……結局そのチョコ、食べきらなかったね」

 

 なんか言ったかカノン。

 

 

 

 ──もう闇の書やダークファルスの事件から一年になった。

 あんまり思い返したくないけど忘れちゃいけないあの事件。

 オラクルに生きてたアークスのリコの肉体に憑依した俺からリコがいなくなり、俺が“八神リコ”という一つの個人になった一件。

 

 公的にも真実的にもリコ・クローチェはダークファルスと相打ちになって死亡。

 しかし真の真実は俺のみの知る事であり、公の真実は少し違う。

 新たな肉体を得た俺が名と容姿を継いで八神リコとなっているのには違いないが、真の真実は憑依だのと説明せなならんしややこしい厄介なものだ。

 

 まあそう色々とあるが、ともかく公の記録でも英雄リコと俺リコは別人と残っている。

 それゆえなのか、誰が作ろうと言い出したのか、ミッドチルダにある聖王教会という所の敷地内に英雄リコの墓地が用意されているらしい。

 

 

 ダークファルスがどれほどの脅威かはファンタシースターを知らない部外者にとっちゃ知らんこっちゃだろうし、公の記録で宇宙を救ったとなっているとはいえ知らん奴のお墓をわざわざ用意してくれたりするだろうか。

 遺体か遺骨の一つもあればまぁ慰霊碑程度に祈ろうと納得はするけど、遺物のラヴィス=カノンやレッドリングは八神家が所有してたし。

 

 じゃあ誰がと考えて、そういう権力ありそうなのはグレアムかクロノだけどあいつらそんな気が利きそうじゃない。

 もう消去法で残りがカノンしかいねぇ。

 てなわけで、どうなんだい。

 

「え、ここまで来てお墓の話? てかそのジュース私のなんだけど」

 

 ふはは、運転しっぱなしで口頭での注意しかできまい。

 勝手にドリンク飲んだのは置いておいて何の話かっていうと、リコのお墓を用意した奴だよ。

 どうせ汝なんだろ?

 

「ああー」

 

 はいハッキリと肯定も否定もしない有耶無耶なのでカノンがやった事にしまーす。

 あ゛り゛がとお゛ぉおおおお!!(クソでかボイス)

 

 

「リコならお墓参りくらい行きたいだろうと思ってさー。提督の名前借りちゃったんだ」

 

 お墓参りできるならそら助かるけど……。

 てか提督ってやっぱすげぇ権限だな。俺呼び捨てにしてたけどいいのかな。

 

「リコちゃんが、リコちゃんのお墓参り?」

 

 同じ名を持つ人物がふたりいるなんて事を知らないはやてはもちろん首を傾げるよな。当事者にとってリコ()は生存してたって話なんだし。

 しかし、だけど言い訳はある。

 

 

 いいかいはやてよ。公的に俺とリコは別人なんだ。

 同一人物だと疑われないためには前任者へ挨拶するのが良いのだよ。

 コナーくんだって破壊された前任者のお墓参りに行ってたし。

 

「あー、んー。はやてさんも分かると思うけど、リコってそういう所ヘンに律儀だからさ」

「難儀な性格しとるしなぁ」

 

 ヘンって何だ、文句あんのか!

 ごくごくごくごく!

 

「だからそれ私のジュースなんだってー」

「いやー、にしてもミッドは広いですなー」

「誤魔化すなぁー」

 

 そろそろ状況説明をした方がいいだろう。

 大体お判りになると思いますが現在はなんと、遠路はるばるお墓参りにミッドチルダ北部にある聖王教会まで車で向かっております。

 いやぁー。初めて降り立ったミッドの中心地はすごかったね、大都会越えてありゃもうSFだよ。なんだあの中央にあるクソでかタワー。

 地球の技術をはるかに超えた映画のような世界が目の前に広がってて興奮のあまり漏らしそうになったもん。

 

「お漏らしは流石にやめてや……」

 

 とは感想を述べた当時の俺に対するはやての感想。

 忘れてるようだが俺は今年で6歳児の幼女(成長)だぞ。失禁のひとつやふたつしないでどうする。

 ちなみに今は飲み過ぎたせいで膀胱が限界を迎えようとしている。

 

「ん、トイレ寄ってくの?」

 

 散々ドリンクを横取りされたカノンが心配してくれた。流石は初対面で味方宣言した奴は格が違う。

 けどね、けれどね、今漏らしそうなのは半分くらい気分高揚によるものだから。

 近い動詞で言えばうれション。ミッドチルダの技術にリコちゃん感激って話。思い出したらwktkしてまたトイレが近くなった。

 決して飲みすぎた訳じゃない。信じてくれ。

 

「飲みすぎや」

「違うんだって信じてよはやて」

「というかさリコ、オラクルも似たような技術だし今更感動しないって前に言ってなかった?」

 

 そうだっけか。言った覚えないけど。

 言ったとすればDF寄生時かな。あの時って記憶障害も起きてたっぽいし。

 自分の発言に責任を持ったことがないから覚えてないな。

 

「いや責任持ちぃ。いつか痛い目みるで」

 

 現在進行形で膀胱にダメージ受けてる。

 

「うーん、後20分位だけど持ちそう?」

「揺れにもよる」

 

 

 何とかして気を紛らせよう。

 そうだはやて、さっきの話の続きとかどうだ?

 話そうか迷ったんだが、この際最後まで話しておこう。

 なに、関西弁っちゅーことはオチを求めるタイプの人種なはやてに損をさせないさ。

 

「え、何。オチて」

「……リコ、私それ分かっちゃったんだけど……」

 

 なぜカノンは分かるんだ。

 まぁいいや。

 続きを言うとな──

 

「──そ、そうだ! 私はやてさんに嫉妬してるんだぁ! リコの浮気者ってね!」

「急にどしたん?」

「ほんとにどうしたよ」

 

 カノンが慌てるなんて珍しい。

 

「(リコ、そのオチはだめ。はやてさんガッカリするから絶対)」

 

 なんで小声やねん。いいじゃん話して。

 てかカノンもこの話聞いたことないのになんでガッカリするって言い切れるんだよ。

 

「揺らすよ?」

 

 ま、まて! 今揺らしたらまずいぞ!

 黒部ダムの底に沈む鉄人28号が目を覚ますぞいいのか!?(?)

 

「錯乱しすぎやで。で、結局そのオチって?」

「ふ、度肝を抜いてやるぜ」

「どうせチョコ食いきれんで腐らせたとかちゃうん?」

 

 カノンは片手でハンドルを握りながら顔を抑えた。前見て運転しなよ。

 様子を見るに諦めてくれてるっぽいし、よし、んじゃあ話すぞぉ。

 

 

 

 クラリスクレイスにチョコを貰った……前に仕舞ったソード。

 それこそが──

 

 

 

「管理局に写真も提出されたアークスの武器、スペース・ツナだったのだッ!」

 

 

 そう!

 火山の地面に刺さってたソード!

 ブリュー・リンガーダの足止めをし、前足を砕いたソード!

 

 それは、スペース・ツナ!

 

 

「リコちゃんのお腹押してええ?」

 

 ヤメテ!




(StS編悩むというのは、下手に設定をいじるとベルカの歴史が変わってヴィヴィオ関連があれになるからです。StS以降の知識がやはりほぼないので矛盾発生恐ろしや)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX.13 これから

 無口無表情猫耳メカロリ娘のオリジナルを修行に書いてたりNGSしたり青空に殺されたりしてて投稿遅れました。そろそろ連載中に戻した方がいいのか悩み中の親友気取りです。
 現在はアンスールから引っ越してギョーフにて遊んでおります。高身長でログベルって名前のキャラを見かけたらグッジョブ送ってみてください。特に何もありませんが嬉しくなります。


 本小説で扱う設定の云々は活動報告に過去の自分が書き残しているので、そちらを読んでしてくだしあ。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=262253&uid=19764

 簡単にここへも書くと

・八神リコ(リコおっさん) PSO2のEP6までのゲーム知識あり
・リコ・クローチェ EP2後~EP3ラストまで経験
・本小説内のオラクル 現在EP3後~EP4間位の時間
・リリカルなのは世界 StSまでの設定を参考

 です。よろしくお願いします。


 向こうの世界じゃ今頃新しいPSO2……にゅー……NGS……だっけ? がもうオープンされた頃かねぇ。

 気になるけどこっちじゃできないこのもどかしさ。

 おニューなキャラクリシステムとグラフィック、あとステージだとか色々。

 俺の観れるPVとかの動画を見るに、マップ構成が初代ファンタシースターと似ててすんげぇワクテカの固まりなんよな。

 

 海に囲まれた大地の中央にある町の外は自然と敵のファンタジー! 歩いていける近くにはこじんまりとした港町があって、途中には洞窟があって……。

 ああ! なぜ俺は遊べないんだーッ!

 

 

 

「何考えとるん?」

「1000年後の宇宙について」

「本当に何考えとるん……?」

 

 と、まぁ行けぬ1000年後の舞台に思いを馳せるのは程ほどにして今日はリコのお墓参り。

 リアル生シスターに案内された先、教会の敷地の外れまで案内されて隅っこかいなと思いながらたどり着いたのは、花畑に囲まれたでけぇ石の柱にしか見えないリコのお墓。

 

「墓石っつうか記念碑じゃんもはや」

 

 惑星ナベリウスの遺跡辺りに生えてても見劣りしないデザインだ。

 リコの所属はアンスールとはいえ出身は研究施設のあった惑星ウォパルなので、事あるごとに破壊されてるあの惑星はあんま関係じゃないけど。

 てかナベリウスって【巨躯(エルダー)】に思いっきり踏まれてぶっ壊されてたけどよく生態系どころか気象とか形とか保ってたよね。

 

「つか、よくこんな一等地使わせてくれたなぁ」

「いやぁー。提督の名前もあったしー」

「偉業的にはこれくらいでええんちゃう? 闇の書の解放とか古代ベルカの謎解明の立役者」

「それらってオレ……じゃないわ。リコ的にはついで感しかないんだけど」

 

 一応リアル生シスターが近くにいるので腹芸を忘れるべからず。

 俺っつうかアークスの主目的はダークファルス及び深遠なる闇、あとダーカーらと戦うっていうただひとつの目的だし。──あれ、これひとつで換算していいのか? 数えると3つくらい敵の名前出るわ。

 ともかく、こっちの世界の云々はオマケ。

 

「オマケて」

「だってさ、それらってダークファルス討伐の後日談的な立ち位置だしぃ」

「うーん、リコちゃんの視点的にはそうなるんかなぁ」

 

 なるんですそれが。

 

「何も知らんとそんな反応なん?」

「リコがすごい適当なだけじゃないかな?」

「なんか納得したわ」

 

 おいカノン、擁護しろよ。

 

「いいじゃん? だって本当だし」

「……うん、何かオレが雑な気がしてきた」

「本人が言いくるめられてどうするん」

 

 

 周囲を花に囲まれたメルヘンチックな中にどすんと腰を据えた石碑へ献花して、ちょっと(かなり)真面目にお祈り。

 次元を隔てた縁も所縁もない惑星だし、魂も遺品もなんなら亡骸も埋葬されてないんだけど、ここがリコの墓だってんなら祈ろう。

 散々振り回された挙げ句に全てを背負い、そして全てを救って散った英雄へ。

 

「──私は知り合いのとこに顔出してくるけど、リコちゃんはどうするん?」

「……もうちょい」

「せか。……思い出すのもええけど、あんま思い詰めんでな? リコちゃんが笑っとるの、好きやから」

 

 泣くな、笑えね。

 多分だけどはやては俺がまたダークファルス関連で鬱りかけてると思ってるに違いない。

 付かず離れずの良い距離感を保とうと気遣ったのか、はたまた本当に普通に知り合いへ会いに行ったのか。とにかくはやては案内してくれたシスターと共に歩き去ったが、横にカノンは残った。

 

 どうしたよカノン。

 さっきから何か言いたげに。

 

「リコは、さ。今回の闇の書事件は生き延びたワケじゃん」

「まぁな」

「次にダークファルスが出たら、って考えた事ある?」

 

 また突拍子もない話だなぁ。

 またやつが出たら、なんてねぇ。

 

 闇の書に封印されていたダークファルス()()()とオラクルからやってきたリコの肉体に取り付いていたダーカー因子、ダークファルス。

 その双方を討伐するのに死力を尽くし、唯一の対抗策であるフォトンは失われてしまった。

 次にダークファルスが出たらなんて考えたくない。対抗策がない。

 

「そりゃどういう意味だい」

 

 とは返したものの、考えてみれば闇の書に封印されていたのは欠片。

 古代ベルカの資料がまんま正しけりゃ外宇宙から欠片だけ飛んできたのを夜天の魔導書で封印したって話で終わりだろうけど、カノンの口振りで今から何を言われようとしているのかすぐ確信した。

 これは確実にもう一悶着ある。

 

「……闇の書事件中の資料あさりの時は混乱を避けたくて先回りして伏せたけど、たぶんリコの思ってる通りかな」

 

 やっぱりか。

 

「欠片が出たので封印っていうのは大体あってるけど正確には間違えた文献で、正しくは敵の強大な力を削るのに闇の書を使ったみたい」

「【若人(アプレンティス)】に似たやり方な。力を分散して封じるの」

 

 フォトンのない魔法がメインなこの世界でダークファルスとタイマン張ってストレート勝ちできるワケがない。

 策を労して手を打って、その際の策の一つとして夜天の魔導書へ力の一端を封じたっちゅうわけか。

 てことはだ。

 

「どれくらい力を残してるのか分からない本体戦が待ち構えている、と」

 

 闇の書は現代に至るまで封印と復活を繰り返してたんで情報があったけど、情報がぽっと出な本体はどこぞに封じられてるのか不明。

 完全復活を目論んであえて封じられたままおとなくしてくれているのか、欠片を封印した昔の人が闇の書の失敗から学んで封印方法を改良したから大人しくさせられているか。

 

 今までもそうだったからこれからも大人しくされ続けてくれる、というのは希望的な観測だから先手を打ちたい。

 かといって俺達が封印場所を暴いたお陰で目覚めさせてしまう可能性もある。

 もどかしいぜ。

 

「カノンは、そいつが復活すると思っているか?」

「確実に」

「やけに自信があるじゃないのさ」

「ちょっとした未来予知ができる、じゃ納得しないよね」

 

 半分する。だいたいそういう勘って当たるから。

 じゃあ納得しない事にするから証拠を出してみてくれ。

 

「といっても千年紀の終わり、ダークファルスの復活に呼応、ジェイル・スカリエッティ……くらいかな、今は」

 

 ふーむ?

 千年紀は分かる。ファンタシースターじゃ1000年の定期で封印に綻びが出るって設定あるし、復活するって展開がお約束だし。

 ダークファルスの復活に呼応と言うのも、オルガ・フロウが前例にある。

 ただ、最後のスカリエッティってなんぞや。

 車か? 車なのか?

 ドラゴンカーセッ……やめないか!

 

「違う違う。激ヤバ違法科学者だよ」

「あー」

 

 そらヤバイわ。

 

「うん。ざっくりとしか言えないけど、リコの知識で例えるならルーサーに近いかな」

 

 納得。

 ダークファルスとかアークスの存在が証明されたならそんな激ヤバ科学者が放置するわけないわな。

 前回の事件をEP1として、次がEP2の立ち位置……。

 

 ……ん? 待て。

 なんでカノンがルーサーの事を知ってるんだ?

 どっかで名前くらいは出しただろう覚えはあるにはあるが、あいつがとんでもねぇ科学者だって事はハッキリ言ってないような……。

 言ってたとしてもカノンがそんな話を知る訳もないし。

 

「ん、そうだっけ?」

 

 なーんかカノンって怪しいんだよなぁ。

 前の教訓だ。精神汚染を疑っていこう。

 宇宙人狼でも疑うコマンドは基本。

 

「え、えーっと。少なくても私は絶対にリコを裏切ったりしないから。ね、ね?」

 

 ふっ、疑われるというのはそれ自体が罪なのですよ。

 根拠を言えい!

 

 あと前々からなんで俺だけ呼び捨てなのかも気になる。別に敬称とかあんま気にしないけど、俺だけってのがな。はやてとかはさん付けなのに。

 カノンは、何者?

 

 

「リコの親愛なる剣、さ……」

 

 

 ──もしもしクロノメン?

 あんたの寄越したカノンってやつ、バリバリ犯罪チックなすり寄りしてきて怪しいを越えて恐怖だからコールドスリープしてくんねか?

 

「わー! わー! なんで!?」

「だって怪しいから……」

「うう、例え嫌われても、私はリコの事を愛してるからね……。私はリコに尽くす為生まれてきたんだから……!」

 

 

 ……。

 ……や、やべぇ……。

 …………こいつ……。

 やべぇよぉおお!

 

 たぶんこいつ俺の発言逐一記録してたり探り入れて情報仕入れてるタイプだあ!

 ストーカーだった、こいつ、やべーよ!

 いくら俺が可愛いからってやりすぎだよ!

 

 ま、間合いを取れ……。

 奴に近付くな……敵わない……(見えていることが逆に恐怖)

 

 

 こほん。

 カノンの処分対処封印はおいおいにしてだ。

 

「封印!?」

 

 これからもダークファルスや過去の記述を調べてくれないか? ともかくどういう敵だとか色々な情報が欲しい。

 対抗手段もそこから考えよう。

 できるならグレアムに話通してエミリアの資料もお取り寄せでよろしく。

 そっちもないよかマシでしょ。

 

「それがリコの為になるのなら」

 

 流石はヤンデレストーカーだ。お願いにはすぐ従ってくれる。

 これはこれでどうかと思うけどな。

 

「何か分かったら教えてくれ。あと、依頼的なのもあればよろしく」

「はやてさんを通してね」

「気が利くね。勝手にやると怒られるんだ」

 

 

 リコの墓から離れ、教会の建物へ戻る。

 はやてへの報告も後でしておかなきゃな。

 前回の反省もあるから隠し事して一人で抱え込むっちゅうのはしない。

 したらヴィータかシグナム辺りがガチキレしてマジもんの手錠を付けられる。

 くっ、どうせやるなら椅子に縛り付けて地下に監禁するくらいしろ!

 

「大事にされてるねぇリコ」

 

 ……一番手錠をしないといけないカノンが味方なんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピザ頼んでいい?」

「いつも食いきれん言うて残すやん。今日は残りを食べてくれるザフィーラはおらんねんで」

「今なら一枚買うともう一枚付いてくるんだって」

「だから残すやろて」

「実質半額だぜ?」

「頼まな無料や」

 

 うぇーん! カノ太くぅーん、ハヤえもんがピザ食べさせてくれないよぉー!

 

「私は仕事だからもう行くんだってば」

「ほらリコちゃん、邪魔しない」

 

 教会からミッドチルダの中央である首都クラナガンへ戻り、現在地はSFショッピングモール前。

 ニホンとは違い頭髪のカラフルな奴らがわんさかいる訳わかんねぇ所でピザを食う食わないを揉めております。

 ちなみにカノンは仕事があるのでもう帰る模様。運転ご苦労様ー。ありがとなー。

 

「お昼からふたりでピザて。てか、地球でも食べれるやん」

「周りをよく見ろ。地球式なパフェとかアイスとか普通に売ってるしご当地は期待できないぞ」

 

 つかさ、将来的にこっち引っ越すとか前に話してたじゃん。

 引っ越した後のご当地はご当地でなくなるし何だっていいじゃん。

 

「ご当地感を感じられる今やからこそそういうの探しとるんよ」

 

 ぐぅぉぉぉ。

 

「ふふん。リコちゃんを正面から言い負かせるなんて珍しなぁ」

「あ。はやて、あっちにミッドピザなるもの売ってんぞ」

「結局かーい。どんだけピザ食べたいねん」

 

 見ろよ、しかも店はピ・ザーラだぞ。

 味の保証おっけー。なるほど、だから一枚買うともう一枚なのか。

 ん? それって別のピザ屋だっけ?

 

「なんでミッドにピ・ザーラがあるん!?」

 

 はやては見過ごしてたけど、車で走ってる時にセブンも見たぞ。

 懐かしいなぁ。たった711FUN欲しさの為にプリペイドカード買ってたっけ。今でも売ってんのかな。

 

「ほら行こうぜ? 美少女の誘いを断んなよ」

「ピ・ザーラならなおのこと地球にあるやん……駅前にあったやん……」

 

 いやー、久し振りにインフェルノヴォルケーノマルゲリータメガマックスピザが食いたいぜ!

 

「ミッドピザやないんかいっ!」

「お、ナイスつっこみ」

 

 はやてって関西弁な癖してこういう突っ込みしてくれないからなぁ。

 

「リコちゃんが煙に巻きまくるからや」

 

 うやむやにする達人だからな。

 

「てか、あのピ・ザーラって持ち帰りしかやっとらんて」

「まぢで? だったらロビアクで机出す」

 

 ロビーアクション222「ゆあタソ」。

 机と一緒にラーメンも出てくるオマケ付き。

 

「私の椅子がないやん」

 

 ラーメン食ってろって突っ込みはしないのか!?

 ならばロビーアクション439だ!

 

「コンクリにちゃぶ台て」

 

 なんか急に冷めてきたな。特に足が。

 

「そらコンクリに直で正座したらなぁ」

「こうして駄弁っててもしょうがないし、カノンに良い店紹介して貰おうぜー」

「せやな」

 

 はやてが電話をかけ始めたので邪魔をしないようにしよう。

 アークス式謎技術半透明ディスプレイを空中に出して、周辺地図をググって表示する。

 全体的に青っぽい上に見にくいけど、謎の脳内補正で俺にはなぜか理解できる謎地図。

 

「──ここ右に曲がってー、で、左やんな?」

 

 電話を繋げながら身を傾けたはやてが地図を指でなぞっていく。お前にもこの地図が使えるのかぁ!?

 ……くそ、脳内でも声がマイエンジェルことリコちゃんボイスになってるからコンバット越前の声真似が脳内でもできねぇ!

 

「わかったー。ありがとうなー」

 

 通信終了。

 経路も分かったことだしいくか! 京都!

 

「リコちゃん逆やでー」

「まじでか」

 

 

 

 

 

 

 

 ここは首都クラナガンの裏世界、海と大地の狭間にあるとされる異世界にあるお店……。

 

「ただの路地裏にあるお料理屋さんや」

「店名がロックベアーズキッチンな時点でもはや只者じゃない」

 

 こっちの世界にっちゃ異世界でしかないでしょナベリウス。

 エリアボスを首になった後はここで店を開いていたのか……ロックベア……。

 

「いらっしゃいませー」

「こちらの席どうぞー!」

 

 はやてと並んで扉を潜るとすぐ席へ案内してくれた。

 接客担当のお姉さんは見上げる程の高身長だが、なるほど。こいつがロックベアか。

 案内に従ってちらりと見えた厨房では親族なのか同じ髪色の人物が働いて……ハッ!

 

「しまった」

「どしたん?」

「エリア3はマルチで行くとボスが増えるんだった! ロックベアが2体、くるぞはやて!」

「なにがや。お店では静かになー」

 

 あ、おい待てよ。無視しないでよ。

 おーい! はやてーっ!

 ……さてと。おふざけはおいおいにして。

 

 席についたので何を食べるか考えよう。

 てかここ何料理の店なの?

 

「ステーキがおいしいらしいで。なんでも、地球にはおらん動物の肉だとか」

「ほーん。そら確実にこっち(ミッド)のご当地料理だ」

 

 てなわけで、ちゅうもーん。

 ロックベアの名に恥じないクソでかい背の店員に注文を伝え、運ばれてくるまでのフリータイム。

 周りに人がいるけどどうせ誰も聞いとらんだろうし、てか内容聞いても分からんだろうしカノンから聞いたダークファルスの話を伝えておこうか。

 かいつまむ事なく正直に、そして正確にはやてへ伝える。

 

 反応は……。

 

 

「──せか」

 

 

 と、短く一声だけ。

 だが理解できてないという訳ではなく、色々考える所あってというらしい。

 まぁそりゃそうか。

 ダークファルス戦なんて誰が犠牲になるかもわからんもんを、しかも不利な状況でやれなんて考える事が多い。

 

 はやてにとっちゃダークファルスは俺の仇でもある。

 結果的に俺は生きてるとはいえ、騎士として奇跡的な復活を遂げなきゃそのままだったし。

 というかそもそも生存発表のその時まで俺は死んだ人間として認識され扱われてたし。

 俺より圧倒的に頭の良いはやてなら、次はないと充分理解しているはすだ。

 

「対ダークファルスに備えた部隊なんて、管理局に都合よくあらへんよな……」

「ファンタシースターが都市伝説扱いな上に完全討伐って報告になってるから、まぁあるわけないわな」

「正直、前のを考えるに私ら個人で戦うのは無理あり過ぎるで」

 

 で、今回の議論の中心はそこよ。

 限られた戦力と発言力でどうするかって話。

 ツテは引退したとはいえ権力者だったグレアムのじいさんやクロノらアースラクルー、全面協力のやべーやつことカノン。

 カノンの発言力は不明だけど、グレアムとクロノの名前はだいぶ使えると思う。

 

「使えるて。でも、せやなぁ」

「使えるもんは使ってけー」

 

 と、ここで肉料理登場。

 うぉー、結構ボリュームあるなぁ。

 

「お店と共に育ったロックベアーズ特製テラステーキ、召し上がれ!」

「いただきまーす」「いたっきゃす」

 

 あっつ! でもうっま!

 何の肉か知らんけど、でもお店と共に育ったと言うだけあってとても旨い。

 

「……それや」

 

 お? どしたはやて。

 熱くて食えんのか? ふーふーしてやろか?

 

「リコちゃん、これや!」

 

 え、ステーキにそんな感動する所あった?

 いや美味しさは感動するけど、でもそういう反応する感じの奴じゃないでしょ。

 

「せやなくて、このお店って料理が好きな姉妹が作ったやろ?」

 

 やろって言われても、俺はそんなの知らんけど。

 

「ここに書いとった」

「読書家だねぇ」

 

 メニューの表紙を指差される。

 そこに書いてあったのはこの店の成り立ちで、要約するとはやての言った通り料理が好きな姉妹がお店を持ったって感じ。

 なんでも自分に合う料理場が見つからなかったんだとさ。

 

「んで、これが?」

「せやから、私らも部隊作ろうか思うて」

「わっつ?」

 

 え、そんな部活みたいなノリで?

 

「もちろんこれから勉強したりする。対ダークファルスの部隊なんて正面から通るわけないし、言い訳も考える。時間はかかるかも知れんけど、それでもあいつを倒すためならや」

「まぢでか。発想のスケールで負けた」

 

 まだまだ子供な年齢っつうか小学生だよな?

 えー……。なんか、まぁ、いっか……。

 魔法なんていうアニメチックなもんがあるんだしこういう世界なんでしょ……。

 

「リコちゃんにも当然協力して貰うで」

「そらそうよ」

 

 トラウマの影響で戦闘は行えない、許可はおりない。けれどやれる事はある。

 本当は戦いたいけどな。みんなと一緒に。

 

「まぁそこは徐々に慣れてな」

「って、いいの?」

「止めたってピンチになれば無理しても戦おうとするんやろ?」

 

 バレテーラ。

 

「フォトンの代わりに魔力を使うことでレスタやシフデバは使えるから、衛生兵としてヴィータとかシグナムの実戦についてっていい?」

「ふたりから許可されるまで戦うのは無しな。約束」

 

 その約束を破った時は今度こそ怖いな。

 怒られるとかのレベルを越えて、その状況が。

 

「といっても最初から実戦はリコちゃんの立場的にも厳しいやろから、なのはちゃんとヴィータのいる武装隊の演習に着いてくとかでええんとちゃう?」

「お、いいねそれ」

 

 演習ならぴったりっしょ。




※ロックベアーズキッチンはただの料亭であり、従業員は今後の展開に一切関係ありません


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。