鬼滅の刃 人と記憶の物語 (雷電風雨)
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始まり
第壱話 ベテランの死


 

ー850年ー ウォールシーナ ストヘス区

「野郎ぶっ殺してやらああぁぁぁぁ!」

 

俺達調査兵団は巨人に姿を変えられる

“アニ・レオンハート”と対峙していた。

現在俺は17歳、103期生の1人だ。

教官から「お前は突っ込みすぎだ」とよく言われた。

まさかそれが死因になるとは思わなかっただろう。

 

「ヒイロさん!突出しすぎです!」

 

「シュウか!?大丈夫だ!こんぐらいどうとでも…」

 

その瞬間シュウが叫ぶ、

 

「ヒイロさん!」

 

「な!?」

 

 

 

気が付けば目の前にヤツの手が広がっていた。

 

あるベテラン兵士が言った、

 

「ベテラン程、自分の力を過信してしまう」

 

ある意味、というかそのままヒイロに当てはまる言葉だった。

 

 

ー前世のあらすじー

 

今から100年以上前、突如現れた巨人に人類は絶滅寸前まで追い込まれた。

残った僅かな人類は50m程の大きさの三重の壁を築いた。

外側からウォールマリア、ローゼ、シーナという名前が付けられていた。

こうして人類は100年の平和を享受した、そう、100年の…。

元々人類は巨人の頭を吹き飛ばす程度の力は持っていた、

俗に言う、大砲ってヤツだ。

しかし、個体差はあるが約1分程度で吹き飛んだ頭部は修復されてしまう。

そこで巨人に対抗するために、

ヒトという生物を立体移動に対応させるべく、ある兵器が登場した。

その兵器の名は“立体機動装置“、ガスを利用して駆動する装置で

この装置による立体機動は人類が巨人を殺せる唯一の存在となった。

この壁の中には3つの軍事組織が存在する。

 

内地行きが約束され、壁の民と秩序を守る憲兵団、

壁の補強や各都市を守る駐屯兵団、

壁外調査を主とし、巨人の領域に踏み出す調査兵団。

そして、この3つの兵団に入るための訓練を受ける兵団、訓練兵団。

 

兵士になるためには訓練兵団に3年所属し、3つの兵団へ進む訓練を受けなければならない。

憲兵団は卒業順位10位以内の者だけが志願することが可能で、

力を持った者が巨人から離れられるという暗黙の了解が存在している。

 

845年、ウォールマリア シガンシナ区、

人類の最前線であるこの街は、

60m程の大きさを持つ超大型巨人によって外門を破壊され、

鎧の巨人と呼ばれる巨人によって内門が崩壊し、

人類の活動領域がウォールローゼにまで後退した。

 

850年、5年前の惨劇を生き残った子供達が第104期訓練兵団を卒業した。

中でもエレン・イェーガーという少年は

母親が目の前で巨人に喰われ、復讐心に燃えていた。

104期生の中でも人一倍強い目的意識を持っていた。

 

同年、俺達調査兵団は壁外調査へと赴いた。

そこで巨人を狩り続けたが、やはり犠牲はある。

毎回3割程度が犠牲となる壁外調査、

1回行って帰ってくれば一人前と言われるのも無理もない。

途中で団長から撤退の指示が発せられた。

もちろん俺達は反論する、「まだ目的地に辿りついてない」と、

団長はこう返してきた、

「巨人が一斉に北上し始めた、5年前と同じだ」と。

その場にいた兵士全員が驚いた、

目の前の調査兵団(エサ)よりも重要なこと、

つまり、壁が破られたのだ。

 

それからは驚きの連続だった、

現最前線のトロスト区外扉は無残にも破壊されていたが

代わりに大岩が穴を塞いでいた。

立体機動で壁を越えるとやはり死臭がする、民間人は無事か、

訓練兵達は無事かと様々な事が頭の中を駆け巡った。

後から駐屯兵団の工兵に聞いたのだが、

どうやらエレンが巨人化できることが判明して大岩で穴を塞いだとの事だ。

最初は信じれなかったが、

それ以外に大岩を動かす方法が無いことから本当なんだと確信した。

それからはエレンが調査兵団で戦うか

憲兵団で解剖されるのかの裁判が行われたり、

巨人化する為にはある程度の目標が無ければならないということや、

エレン初の壁外調査で女型の巨人と呼称される巨人が現れたりと、

1、2ケ月にしてはやけに多い事件が起きていた。

このストヘス区女型包囲戦もその一つだった。

 

ーヒイロsideー

 

「ん、うん?」

 

目を開くとそこには真っ白な世界が広がっていた。

 

「お、なんじゃ起きたか」

 

目の前に白髪の老人が立っていた。

 

「あなたは誰ですか?」

 

「名前なんて無いんじゃがの…君の世界で言う神という者じゃ」

 

なんとこの老人は自分を神と言ったのだ。

 

「神…ですか」

 

「そうじゃ、お主は死んでしまった、最期は握り潰されてしまった」

 

「あぁ…あれは油断の賜物でしたよ…」

 

ヒイロは自らの油断を呪ったが、

今はもう死んでしまっているのでどうにもならない。

 

「あぁそうじゃ、その装置はどうする?」

 

「コレ(立体機動装置)?どうしてですか?」

 

神は装置をどうするか聞いてきた。

 

「いや、これから転生させるからどうしようかなと」

 

「てんせい…?」

 

「簡単に言うと、違う世界で人生を歩むということじゃ」

 

「じゃあ持っていきます…ガスと刃はどうしましょう…」

 

「向こうの世界で作らせる、

君の名前は戸山虎咲じゃ次の世界でも生きて来なさい…」

 

「はい!」

 

(いつか、この名前を思い出してくれればいいのじゃが…)

 

返事と同時に足元に魔方陣が浮かび俺は光になって消えた。

 

「その世界は君が居た世界、家族全員を殺された世界じゃよ…」

 

神様は誰もいない空間で一人呟いたのだった。

 

 

ヒイロ改め虎咲は転生した、此処はどうやら山の中らしい。

 

「え、此処どこ?」

 

(なんか懐かしい感じ、ここはどこだ?)

 

(日本という国じゃ。ちなみに虎咲、今14歳だからな?)

 

「え!?神様!?」

 

(2年くらい心に直接語りかける、思ったことがそのままワシに伝わるぞ)

 

(あ、おけでーす)

 

(寒くないと思ったらマント着てるわ)

 

「とりあえず人を頼るか…お、あの家灯り付いてる」

 

(灯りが付いてるが変な臭いしないか?血みたいな…)

 

「お邪魔しまー…す…」

 

虎咲の目の前には老爺を喰べている人のようなナニかがいた。

 

(なんかこの生き物見た事ある気がする…)

 

「おい餓鬼!俺の腹の足しになれ!」

 

俺は咄嗟に抜刀した

 

「うわああ!」

 

ソイツはいきなり襲って来た、俺の直感が言っている、

「こいつは巨人みたいに人を喰う」と。

 

「そんなもんじゃあ俺は殺せねぇぜ?」

 

(ヤバイ!周りは畑だけだからアンカーを刺す箇所も無い!)

 

「オラァ!!」

 

「ギャ!!」

 

とりあえず目を潰した。

 

(とりあえずで目を潰すとは…お主サイコパスか?)

 

(うっさいダマレ)

 

(ウィッス)

 

頸だ!頸を切れ!

 

何処からか声が聞こえて頸を狙った、しかしー

 

(き、切れない!?)

 

ソイツの頸に傷が付いただけで切断には至らなかった。

 

(は!?)

 

「はっ、そんな刀じゃあ俺は切れないぜ?」

 

しかもその傷を数秒で修復したのだ、そのときー

 

「どうら!」

 

「ウガアアアア!!」

 

断末魔と共にソイツは崩れて消えていった。

そこには男性の姿があった。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「君!一緒に来ないかい?」

 

「え?」

 

あまりに唐突なことに間抜けな声が出てしまった。

 

「いやだから!この武部壇蔵と一緒に来ないかい?」

 

「はい!」

 

こうして俺は壇蔵さんの弟子になったのだ。

 



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第弐話 なんちゅう世界だ!

壇蔵さんの家に行く道中、様々なことを聞いた。

 

鬼殺隊、その名の通り鬼を殺すためだけに結成された政府非公認の組織、

呼吸と呼ばれる技を使い生身で鬼と闘う。

 

柱、鬼殺隊の中でも力を持っている者に与えられる称号で

壇蔵さんが元々いた地位。

 

鬼、700年以上も前から存在し、人を喰らう化け物。

老いというものを知らず、心臓を貫こうが脳を切ろうが起き上がり、

どんな傷を受けようが修復する。

殺すには鬼殺隊が持つ日輪刀で頸を切るか、日光に当てるしか方法が無い。

元は人間で、鬼舞辻無惨という始祖の鬼の血を注がれた鬼は

更に強力になる。

一般には周知されず、噂話程度しか民間人に知れ渡ることはない、

身内や友人を殺されなければの話だが。

十二鬼月と呼ばれる12体の鬼はここ100年討伐報告が無く、

それどころか数多の柱が犠牲になっている。

 

日輪刀、別名色変わりの刀と呼ばれ、

鬼の頸を切れる唯一の刀、刀鍛冶によって作られる。

折ったら刀鍛冶が新しい物を作るのだが、刀鍛冶の刀への情熱は熱く、

折られたら泣き喚くかブチギレるかのどちらかで、

刀折ったら殺すという極論をぶちかます刀鍛冶もいる。

 

武部壇蔵、元柱で今は村で隠居中、

普段の日課の巡回中に襲われている陽一郎を発見、

鬼を切り捨て虎咲を弟子にした。

 

 

「そうか、君は戸山虎咲と言うのだな」

 

「は、はい」

 

「まぁそう堅くなるな!ところで虎咲」

 

「なんですか?」

 

「鬼が憎いか」

 

壇蔵さんの目が変わった。

先程までの朗らかな雰囲気は消え失せ、

真顔で俺に聞いてきた。まるで俺を試すかのように。

でも憎い、鬼は前世の巨人のように知性が無いわけではなかった。

あの老爺を喰った鬼は笑っていた、とっても気色悪い笑みを浮かべていた。

巨人を防ぐための壁のような物はこの世界には無い。

それなのに夜いきなり殺されるなんてそんなこと…

 

「憎いです、この世に鬼は必要ありません」

 

「うむ…よく言った、鬼殺隊に入るための鍛錬をしてやる。

言っとくが私は厳しいぞ?」

 

「構いません」

 

「よし!鍛錬開始!走り込み10里!」

 

「今からですか!?」

 

「当たり前だ!走れ!」

 

こうして俺の鍛錬が始まった。

そりゃあもう2年でいろんなこと教えてもらったよ、

全集中の呼吸を7日で会得しろとか、呼吸法を身につけろとか。

あ、俺は5日で会得したぜ。

 

「私が教えたのは雷の呼吸と言いたいんだが…」

 

「どうしました?」

 

「虎咲、お前…呼吸を作っただろ」

 

何故だ、何故バレた、鍛錬は壇蔵さんが寝静まった深夜にやってたのに。

 

「あぁ…バレてましたか…」

 

「バレるも何も夜に鍛錬してただろ」

 

音で起きたぞ、と壇蔵さんは続けた。あーこれはもう言わないとダメだな。

 

「はい…俺が作ったのは翼の呼吸です」

 

「それはどういうもんだ?」

 

「壱ノ型、弐ノ型、参ノ型、肆ノ型、壊ノ型を作りました」

 

「終ノ型はどうした?」

 

「これからです、翼の呼吸は未完成なんです」

 

「そうか…じゃ肆まで見せてくれ」

 

「御意」

 

そう言い俺は屋外鍛錬場(山)へと赴いた。

そういえばこの家ってか屋敷でかいなオイ。

山には普通に20m級の木々が乱立している、

立体機動装置を活かすには最適な環境だ。

 

「始め!」

 

壇蔵さんの号令で始まる鍛錬、もう数千回も繰り返してきた、

血反吐を吐いた日々が懐かしい。

 

「翼の呼吸、壱ノ型、雲煙過眼」

 

すれ違いざまに20m級の大木は轟音を立てて“崩壊”した。

 

雲煙過眼、イメージは霹靂一閃と同じような感じ、

流石に一閃は導入しないと壇蔵さん泣いちゃうから。

 

「ほぉ…“切断”ではなく“粉砕”とは…」

 

「これが一番です、雑魚鬼は初見殺しですね」

 

「次、始め」

 

「翼の呼吸、弐ノ型、全翼無連」

 

その叫びと共に全方位に無数の刃が飛来し、

周りの藁人形を薙ぎ倒し、見るも無惨な姿へ変えていった。

藁人形の請求は虎咲に行くだろう。

 

「うわ、えげつない」

 

「全方位で囲まれたら勝ち目ないんですよ、

薙ぎ倒した方が手っ取り早いです」

 

「はい次、始め!」

 

「翼の呼吸、参ノ型、為虎傅翼(いこふよく)」

 

参ノ型、為虎傅翼は身体能力、反応速度、五感を強化する型、

俺は30分という時間制限をつけている。

何故かって?それ以上使ったら体が動かなくなるからだよ。

発動中は瞳が赤に染まり、高速で動くため

赤い光が尾を引いている、この状態、結構怖い。

 

その状態で俺は0.1秒程で100mを走り、

20m級の大木を5本から5m級20本に増やしてやった。

 

「エグいな」

 

語彙力なくなってますよ、壇蔵さん。

 

「肆ノ型、霧散翼・改」

 

それと共に目の前の木が倒れ、

反動で一瞬浮き上がってしまった木は半分ほど霧のように消えていった。

霧散翼は、一瞬で足を切り、起き上がったら

霧のように下半身ごと消してしまうというタチの悪い型である。

首ごと消す訳では無いので別の技で切断する必要がある。

 

「いい戦い方だ」

 

壇蔵さんはこの時間で翼の呼吸の戦い方を見抜いたのだ。

さすが元柱だ、永遠に尊敬します。

 

「じゃ、じゃあ」

 

「あぁ、最終選別へ行くことを許可する」

 

「ありがとうございました」

 

壇蔵さんは最終選別へ行くことを許可してくれた。

 

「そういえば…」

 

「?どうしました?」

 

「腰や足に付けてるソレ(立体機動装置)は何だ?」

 

壇蔵さんはあろう事か立体機動装置のことを聞いて来たのだ。

 

(ヤバイ!)

 

「こ、これですか?」

 

もちろん虎咲はたじろいだ。

 

「あぁそうだ」

 

「これはー…」

 

(どうする?)

 

(適当に親が作りましたって言っておけ、裏で設定弄ってくる)

 

「俺の父が作りました、立体機動装置と言って

ワイヤーが付いた銛を発射し、ガスの力でワイヤーを巻き取り、その力で空を飛ぶことができるのです」

 

「ほー興味深いな…親御さんはどうした?」

 

「…喰われました、鬼に…設計図もその時に燃やされました」

 

とりあえず親は喰われたと言っておいた、

巨人に喰われたから別に同じだよね。

あ、親父は装置作ってないよ?

 

「そうか…辛い事を聞いた…明々後日から7日間、藤襲山で生き残ってこい」

 

「はい!」

 

そう言い切った壇蔵さんの顔は不安そうであった。

弟子を最終選別に向かわせるというのは

すなわち、死地へ赴かせることに等しいのだ。



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第参話 最終選別と出会い

ー翌朝ー

 

「壇蔵さん!では、行ってきます!」

 

「気をつけて行ってこい」

 

「はい!」

 

こうして俺は2年の鍛錬をやり通して、

最終選別を行う藤襲山へと向かった。

 

藤襲山、鬼が閉じ込められている危険な山、

その麓から中腹にかけて藤の花が咲き狂い、

そこで鬼殺隊の最終選別を行う。

毎回合格人数は一桁いるかいないか、それだけ厳しい選別なのだ。

 

(こいつも試さないとな)

 

そう心の中で呟き、改良した立体機動装置をコンコンと叩いた。

 

(虎咲)

 

(ん?どったの神様)

 

(そろそろこっちに来て2年になる)

 

(もう2年か)

 

(最終選別が終わったら…儂は上に戻る)

 

(あぁ…親によろしくな)

 

 

ー2日前ー

 

 

「すいませーん」

 

「はーい」

 

玄関の扉を叩く音が聞こえたので行ってみると

 

「装備、お届けに参りましたぁ!」

 

「どうも」

 

ひょっとこの面を被った少年が

改良した立体機動装置を持ってきた。

前の立体機動装置だと鬼切れないんで、刀身を日輪刀にして解決した。

刀身が長くなったんで鞘も延長、純正なのはガス周りだけか…。

神様の設定によって刀鍛冶の里で

刀身や装置の予備部品が手に入るようになったぜバンザイ。

 

「何色に変わるんですかね」

 

「さぁ…翼の呼吸なんて未知数だからな…」

 

「さぁ、柄に刀身を付けてみてください!」

 

促されて俺は抜刀した、

すると、下の方から色が変わっていく。

 

「おー」

 

「こうゆーふうに色変わんのか…」

 

「これは…刀鍛冶の弟子を5年、配達を7年してきましたが…

この色は初めて見ました…」

 

「ありがとう、君の名前は?」

 

「修です、以後お見知り置きを」

 

「ありがとう修、気をつけて帰れよ」

 

「はい。あ、師匠から伝言です、

あんまり刀身折るなよって言ってました」

 

「あ、了解って伝えておいてもらえる?」

 

「おけです」

 

 

 

ーそして今に至るー

 

 

 

(着いた、ここが藤襲山か…)

 

やっと着いた、迷子を助けたりしたけど間に合った…。

 

「最終選別は頂上か…この藤の花の景色が

冥土の土産にしないようにしないと…」

 

(ん?)

 

何かに気がつき足が止まる、

なんと花柄の着物を着ている少女が

道端の柵に寄り掛かって寝ていたのだ。

 

「えっと…どうしたんですか…?」

 

「う、うん…?」

 

本気で寝てたんか君、マジか。

 

「あれ…私寝てた…?」

 

「通り掛かっただけだが…爆睡だったぞ」

 

この子よく見たら可愛いな、狐の面を被ってるのか…。

 

「ありがと、起こしてくれて。君、名前は?」

 

「俺?戸山虎咲っていうんだ、虎咲でいいよ」

 

「私は真菰、よろしくね虎咲」

 

真菰と名乗る少女の腰には刀が下がっていた。

 

「真菰も最終選別に?」

 

「あ、バレた?やっぱり刀下げてるからだね…虎咲もでしょ?」

 

「あぁもちろん」

 

てかもう夜なんだな、全然気付かんかった。

 

「まだ選別まで時間あるけど…どうするの?」

 

「先に頂上まで行っておこうぜ」

 

「賛成」

 

真菰と山道を歩きながら話していたが問題がある、

距離が近い、近すぎる。

普通の男であれば我慢できず逃げ出してしまうレベルなのだが、

虎咲はなんとか耐えていた。

 

「私は水の呼吸使うんだけどさ、虎咲はどうなの?」

 

「秘密」

 

「えー、ケチ」

 

雑談しながらも頂上へ到着、多くの少年少女と

案内役の2人の少女がいた。

 

(ざっと20人くらいか…)

 

「皆さま。今宵は最終選別にお集まり下さり、ありがとうございます」

 

「この藤襲山には、鬼殺の剣士様が生け捕りにした

鬼が閉じ込められており、外に出ることは叶いません」

 

マジか昔の剣士さん達強かったんだな。

 

「山の中で七日間生き抜く。

――それが、最終選別の合格条件でございます」

 

 少女たちは頭を下げ、

 

「――では、行ってらしゃいませ」

 

そう言った少女達は俺達20人程を最終選別へ送り出した。

 

「どうする?真菰」

 

「んー…一緒に行動しよう、そっちの方が生き残れると思うよ」

 

「おう、わかった」

 

そのまま5回日の出を見た。

鬼には遭遇しなかったが所々に鬼が居た形跡があり、

一度も油断できなかった。

あ?何処で寝たんだお前ってか?木の上だよ、真菰とな!

あ?羨ましいぞだって?アイツ寝言おかしいんだよ!

なんだよ「虎咲は私の婿さんだぁ」って?

気になりすぎて寝れないったらありゃしないし、

会って6日の男と結婚なんてヤバくない?

 

6日目の夜、

 

(あと一夜で終わりか…1匹しか討伐してないぞ…)

 

俺は川で水を汲みながら立体機動装置を使った戦略を考えていた。

すると、

 

「うわあぁぁぁああ!」

 

突然断末魔が聞こえ、聞こえた方向に向かってみた、

少年が走ってきて俺に言った。

 

「聞いてないぞ!異形の鬼が居るなんて!」

 

「今誰が相手している!?」

 

「女の子が1人、狐の面を付けていた子だ!」

 

(ッ!)

 

「わかった…ありがとう」

 

今回の最終選別には真菰以外に女子はおらず、

真菰と20名程の男子しかいなかった。

 

(立体機動で間に合うか?)

 

木々を巧みに通り抜け、言われた方向へ飛び続けた。

 

(クソ…!間に合えば…翼の呼吸壱ノ型、雲煙過眼!)

 

さらに加速すると、俺の目はあるものを捉えた。

 

「真菰!」

 

それは、異形の鬼に捕まった真菰だった。



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第肆話 真菰という少女

ー真菰sideー

 

私は親に捨てられた、いわゆる孤児というモノ。

親の顔なんて覚えてない。ただ、貧しさにより売られたという記憶はある。

そんな私を拾ってくれたのが私の師匠である鱗滝さん、

真菰という名前で鱗滝さんと鍛錬に励み、

最終選別へ行くことを許可してもらった。

でも、私は知っている。鱗滝さんが今まで藤襲山に送り出し、

戻ってこなかった弟子達を想って悲しんでいることを。

それを嘲笑う奴は許さない、絶対に…。

 

ー6日目夜ー

 

ついに昨日汲んできた水が無くなってしまった。

 

「ねぇねぇ虎咲〜水無くなった〜」

 

「はぁ?昨日汲んだばっかじゃんか」

 

「しょうがないでしょ、早く汲んで来て」

 

「あーもうわかったよ」

 

「いってらっしゃーい」

 

虎咲がいなくなり、辺りには風で木々が揺れる音しかしない。

今は夜、何時鬼が襲ってくるか分からない、油断も出来ない。

 

(私は…約束は守る、絶対に帰る、鱗滝さんの元へ…!)

 

そう決意した瞬間、悲鳴が聞こえた。

 

「!?」

 

(何?今の…悲鳴?助けに行こうかな)

 

「うっ…」

 

目の前に広がったのは四肢をもがれた死体や、

首から下が無い死体、体の半分が無くなった死体など、

目も覆いたくなる景色が広がっていた。

 

「!君、大丈夫!?」

 

まだ辛うじて息がある少年がいた。

 

「うぅ…何だよ…あいつ!」

 

「このままあっちへ走って!早く!」

 

「おいお前」

 

鬼がこちらを睨んだ、腕が何本もある。

これが異形っていうヤツなんだろう。

声に篭った殺気が私を脅かしてくる。

 

「その面、鱗滝の弟子だな」

 

「鱗滝さんを知ってるの?」

 

「そりゃあそうさ、この檻に入れたのは鱗滝だからなぁ!」

 

その声で分かる、コイツがどれだけ鱗滝さんを憎んでいるのかを。

 

「十一、十二、お前で十三だぁ」

 

突然ソイツは数を数え始めた。

 

「何のこと?」

 

「俺が喰った鱗滝の弟子の数だぁ。

安心しろ、お前も胃袋に入れてやるよ」

 

(そうか!コイツが鱗滝さんを悲しませた元凶、

兄姉弟子を殺したクソ野郎か!)

 

もう私は怒りで我を忘れていた。

 

「お前が!鱗滝さんを悲しませた元凶か!」

 

ー水の呼吸参ノ型、流流舞いー

 

体を捻り、斬撃を放つ…が、

呼吸が乱れ、本来の流流舞いの力が発揮されず不発に終わってしまった。

コイツはその瞬間を待っていたんだろう、

気持ち悪い笑みを浮かべ、地中から多くの腕を出現させた。

 

ー絶対に帰ってこい…真菰ー

 

約束を守れない、私はここで死ぬ。

鱗滝さんはまた悲しむ、私のせいで。

いや、もういいかな…

生き残ったところで私が鬼殺隊で活躍するはずも無い。

だってこんなに弱いんだ。

私は弱い、でも死にたくない!

もう一回虎咲の声を聞きたい!聞かせてよ!

 

「さーてどこから折ろうかなぁ?」

 

コイツは私の四肢を毟るつもりなんだろう、もうダメか…。

長くて短かった…私の17年の人生…、最期くらい虎咲の顔見たかったなぁ。

何処からか金属音がする、まぁ気のせいか…。

 

ー虎咲sideー

 

(間に合え!ガスが切れようが関係ない!)

 

虎咲は木々にワイヤーを射出し高速で移動していた。

 

(居た!殺す!)

 

「真菰!」

 

叫んだ瞬間抜刀、青と白交互で色が変わる刃が姿を現した。

 

(翼の呼吸参ノ型、為虎傅翼!)

 

発動限界は30分、その間にヤツを殺して真菰を助ける!

 

「翼の呼吸伍ノ型、集翼九連!」

 

伍ノ型は最終選別中に作った型で全翼無連の集中攻撃改良型。

 

「痛っクソ!なんだ貴様!せっかく鱗滝の弟子を喰えると思ったのに!」

 

「クソはそっちだアホ面!黙っとけ!」

 

「あぁ!?」

 

「肆ノ型、霧散翼・改!」

 

俺はヤツの脚を切り飛ばし、ヤツは大きな音を立てて倒れた。

俺はヤツを見下した。

 

「こんなのすぐに治るぞ?」

 

「そうか、起き上がってこい」

 

「上等d!?」

 

ヤツは言い切るより先に下半身が消えていった。

 

「さよならだアホ面、死ね」

 

「クソがああああああお前ぇぇぇえ何をしたああ!?」

 

「この霧散翼・改は足を切ってなお起き上がって来ると

下半身ごと消し去るという技だ、鱗滝さんの弟子達に死んで詫びろ」

 

ー翼の呼吸、壱ノ型、雲煙過眼ー

 

「鱗滝いぃぃぃぃ!!」

 

ソイツは消えた、おそらく向かうのは地獄だろう。

あ、為虎傅翼全然使わなかったわ、解除しとこ。

 

ー真菰sideー

 

(っ!虎咲!)

 

来てくれたと内心喜んだ、私の足はしばらく使い物にならないだろう。

私は痛みで声を出せずにいた、今すぐに抱きつきたい。

 

「翼の呼吸伍ノ型、集翼九連!」

 

(翼の呼吸…聞いたことない…虎咲が作ったのかな…?

もう…痛すぎて視界がハッキリしない…)

 

 

ーNon sideー

 

「真菰!」

 

「虎咲…?来てくれたの…?」

 

「安心しろ、ヤツは殺した!」

 

(確か袋の中に鎮痛剤が!)

 

虎咲は壇蔵さんから

鎮痛剤、非常食、水などを入れた袋を持たされていました。

 

「真菰、飲めるか?」

 

「う、うん」

 

真菰は催促され薬を飲んだ。

 

「痛みが引いてきた…凄いねこの薬」

 

「でも鱗滝さんのところ帰ったら医者に見せないとな、食うか?」

 

虎咲は非常食を取り出して真菰の手に置いた。

 

「え!?いいよ、虎咲もお腹減ってるでしょ?」

 

「飛んでる途中に食ったから大丈夫」

 

「じゃ、じゃあ貰おうかな…」

 

え、待っておにぎり一口でいった!?やば!

 

「てかもう日の出か…」

 

「久しぶりに太陽が綺麗に思えたよ…」

 

7日目の日の出、

戸山虎咲、鱗滝真菰、浅井裕太、

長谷川水葉、橘花風華、石川陽菜、最終選別合格。

参加者22名、合格者6名。

 

「集合場所まで行くけど背負ってやるぞ?」

 

「あ、お願い」

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「そう、今回は多いね」

 

合格者数を聞いた鬼殺隊の主、産屋敷輝哉は伝令を聞き1人呟いた。

 

「また私の可愛い剣士達が増えた…どんな剣士になるのかな」

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

選別が始まる前に案内してくれた2人の少女がそこにいた。

 

「お帰りなさいませ」

 

「おめでとうございます、御無事で何よりです」

 

(生き残ったのは俺達6人だけか…)

 

「それとー…」

 

黒髪の少女が何かを言いかけた。

 

「どうしたんですか?」

 

「背負ってる子、起こしてあげたらどうですか?」

 

「真菰起きろ、いつまで寝てるんだ」

 

「zzz」

 

(あぁまたか…アニに使ったアレを使うか…)

 

「オラァ!敵襲だ!起きろ!」

 

「え!?何!鬼!?あ、朝じゃん」

 

「起こしても寝てるから嘘吐いてまで起こしたんだよ!

ほら見ろあの2人と他の人達めっちゃ困ってるよ!」

 

「えーっと…お話は済みましたか?」

 

「まずは隊服を支給させていただきます、

体の寸法を測りその後は階級を刻ませていただきます」

 

「階級は十段階ございます、

甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸、

今現在お二人は一番下の癸でございます」

 

「さらに今から鎹鴉をつけさせていただきます」

 

白髪の少女がパンッと手を叩くと二匹の鴉が羽音を立てて

俺と真菰の肩に止まった。

真菰を背負ってる状態なのでめっちゃ羽が当たる、痛い。

 

「鎹鴉は主に連絡用の鴉でございます」

 

(伝達?鴉が?手紙を持ってくるのか…?こいつ、喋るのか?)

 

「最後に日輪刀の鋼を選んでいただきます、

鬼を滅殺し己の身を守る刀の鋼はご自身で選ぶのです」

 

俺と真菰は直感で選んだ、そんな鋼の違いなんてわかるわけ無いやろ。

 

「刀が完成するまで10〜15日程かかります」

 

「では、ご入隊おめでとうございます」

 

「ありがとうございした」

 

こうして俺達6人は藤襲山を下山したのだ。

 



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第伍話 真菰の帰還と虎咲の出発

隊服って重いのね、真菰は軽いです(洗脳済)

 

「狭霧山ってここか?どこ?鱗滝さんの家」

 

「うん、もうそろそろ着くと思う…あ!この家だよ!」

 

真菰さん降りてください、さもないと私の腰がイカれてしまいます。

10里をよく二人分の隊服と真菰一人を背負って来れたな俺。

 

「なぁ真菰」

 

「何?虎咲」

 

「鱗滝さんに殺されるのかな…俺」

 

『儂の真菰に手を出しやがって』みたいに…。

 

「ははは、鱗滝さんならあり得るかもね」

 

「死にたくないんだけど…」

 

もう一回転生かよ…と思いながら真菰と共に家の扉を開けたのだ。

 

「ただいまー」

 

「お邪魔します」

 

「よく帰って来た真菰…貴様は誰だ」

 

「戸山虎咲です、真菰の同期となります、よろしくお願いします」

 

「虎咲はね!私を助けてくれたのよ!」

 

真菰がドヤ顔で鱗滝さんに言った、言いやがった。

 

「ほう…?」

 

殺気込めて睨まないでもらっていいですかね、凄く恐いんで。

真菰が事情を説明していなかったら即死だった。

 

「そうか…すまないな、虎咲」

 

「いえいえ、鱗滝さんの弟子達の仇を取れたのならよかったです」

 

「隊服、今着たいなぁ」

 

真菰が突如呟いた、俺はともかく鱗滝さんも驚いていた。

 

「今…?」

 

「今」

 

そうか、とだけ言った鱗滝さん、

 

「じゃあ虎咲も着ようか」

 

「…ハイ」

 

着替える時は流石に部屋を分けた、

鱗滝さんの目の前でそんな事したら俺が殺されるし、

第一、真菰がそんな大胆なマネをするわけ無いだろ。

 

「着替えたかー」

 

鱗滝さんには庭で待機してもらった。

元柱の家でもそこらの家とは変わらんのね。

 

「「ハーイ」」

 

二人が同時に襖を開けた、

鬼殺隊の隊服のシンボルである背中の「滅」の文字、

どんな素材でできているかは知らんが

通気性は良く、濡れにくく燃えにくい。

雑魚鬼の爪や牙では、この隊服を裂くことすら出来ないらしい。

 

二人は鱗滝さんの前に出て来た。

虎咲は隊服の上から耐Gベルトを締め立体機動装置を装備、

上から調査兵団のマントを羽織っていた。

 

真菰の隊服はスカートだった、その上から花柄の羽織りを着ていた。

 

「おー…」

 

「早く育手に見せてやれ、飛んで喜ぶぞ」

 

「じゃあ、お邪魔しました!」

 

「じゃあねー虎咲!」

 

真菰の呼び掛けに虎咲は手を振って答えた。

 

(虎咲、儂が隠していた事を今言う)

 

(どうしたんだ神様、妙にかしこまって)

 

(戸山虎咲、君は巨人の世界の前にこの世界で生きていたんじゃ)

 

(懐かしい感じがしたのはそれだったのか…)

 

(君がこの世界で生きて来た13年の記憶を今与える、達者でな)

 

(ありがとうございました、神様)

 

すると、体の中から何かが消えた感じがした、

神様は本当に帰っちゃったのかぁ。

体から何かが消えたと同時に頭に何かが入ってきた感じがした。

 

『虎咲、貴方だけ…でも…生きて…』

 

『姉さん!!逝かないでくれ!』

 

『お兄…ちゃん…あの…頭から血を被った様な…化物を…殺して…』

 

『おい!ナツも!置いていかないでくれよ!』

 

『戸山陽一郎!貴様は鬼となれ!』

 

『コイツは…上弦ノ参!』

 

『君は俺が救済してあげるよ』

 

『俺の妻や娘を殺しやがって!虎咲!行け!』

 

(ダメだ!上弦二匹を相手なんかできないだろ父さん!)

 

『もう…死んでやりたい』

 

『落ち着いて、虎咲!』

 

『虎咲…』

 

(誰だっけ…この2人…)

 

「カァー!カァー!伝令!武部壇蔵ヨリ戸山虎咲!

新タナ弟子ヲトルカラ出テケ!荷物ハ蝶屋敷ニ送ッタ!

ケガバカリスルナラ病院住マイノホウガイイダロ!」

 

コレは壇蔵さんの鴉か…。追い出されたんかワイ。

 

「じゃあこう伝えて、『2年間ありがとうございました』って」

 

「カァー!了解ィ!!」

 

そう言い残し鴉は飛んでいってしまった。

 

「蝶屋敷ってドコ?案内して鴉」

 

「カァー、了解ィ!」

 

こうして虎咲の鬼殺隊生活が始まった。

 

「カァー!伝令!ココカラ程近イ街デ花柱ガ上弦ノ弐ト戦闘中!

至急急行サレタシ!」

 

「上弦!?」

 

「上弦ダ!他ノ隊士ニモ声ヲ掛ケテルガ、オ前ガ一番近イ!」

 

早く着く事だけを考えろ…

 

ー翼の呼吸壱ノ型、雲煙過眼ー

 

虎咲は急加速、そしてその一閃が止まった時、

 

ー参ノ型、為虎傅翼ー

 

身体能力を底上げする為虎傅翼を発動、

赤い尾を引きながら高速で進む。

 

「コノ街ダ!進メ!」

 

(血の匂い、話にあった上弦ノ弐か!)

 

もうすでにこの時点で為虎傅翼の制限時間が15分をきっていた。

あぁ…最終選別でこの光景を見てなかったら吐いてたな…。

 

そこには体をもがれた少女や女性や倒れた花柱、胡蝶カナエがそこにいた。

 

(あの蝶の髪飾り、どこかで…いや、いい。記憶を遡るのは後だ)

 

虎咲の視線は上弦ノ弐を見た瞬間固まった、

笑みを絶やさないソイツは頭から血を被った様な鬼、

姉さんやナツ、母さんを葬った鬼だった。

 

ーカナエsideー

 

「君、もう戦えないでしょ?俺が救済してあげるよ」

 

「イヤです、私がゴホッ戦えなく…ても他に誰かがゴホッ来るはず…です」

 

「釣れないなぁ…」

 

上弦ノ弐は笑って呟いた。

もっとも、本心から笑ったわけでは無いだろう、

目が笑っていないから。

 

「人を…痛めゴホッつけて…何が…救済ですか…」

 

(コイツの血気術の霧は吸い込んだら肺がやられる…

私の鬼殺隊生命を絶たれたのと同じね…)

 

ー虎咲sideー

 

(また間に合わないなんて!今すぐ殺す!母さん達の仇!)

 

『ソイツの名は童磨、女性を好んで喰うイカれ野郎だ』

 

「っ!童磨ぁぁあああ!!」

 

瞬時に右だけ抜刀、頸を切りに飛びかかった。

 

「危ないねぇ…あーあ、増援来ちゃったかぁ、でも君1人だけだよねぇ?」

 

「黙れ!このマントに見覚えぐらいあるだろ!」

 

「えーっと…どこかで見た気がするけど…」

 

すると童磨は頭に指を突き刺して掘り返し始めたのだ。

 

(え!?キモ!)

 

「あーあった。5年前か、結構最近だったね」

 

「え、今の記憶掘り返してたのか」

 

もう驚きのあまり声出したわ。

 

「君のお母さんもお姉さんも妹さんも救済してあげたよ、

今は俺の中でみんな一緒だ」

 

「救済って…こんだけ痛めつけて何が救済だよ、よくて拷問じゃねぇか」

 

「ひどいこと言うねぇ…君、やっぱ女の子が一番だよ」

 

「ほんっとおかしいよお前」

 

コイツの武器はあの扇か…

 

「さぁ、日の出まで時間が無い、殺り合おうか」

 

「上等!覚悟しろ!」

 

2人は同時に走り始め、刃と扇が激突したのだ。

 

日の出まで、あと45分。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

し「あの、姉は空気じゃないんですよ?」

 

作「しのぶさん、毒が付いた刀で突いて来ないでください

死んでしまいます」

 

し「別に死んでも…!?」

 

作「やっと気づきましたか、私が死んだら貴女は本編に登場することは

無いんですよ」

 

カ「ねぇねぇ虎咲君、童磨」

 

虎、童「「ん?」」

 

カ「番外編ってこんなにメタいの?」

 

虎「無惨がツッコミ放棄するレベル」

 

童「上弦の方々は止めようともしない」

 

カ「ダメじゃないの…」

 



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キャラ紹介

3/20 水葉の挿絵が見れないという不具合を修正しました。


オリキャラ達

 

作者「はーい!ここでこの小説のオリキャラを紹介したいと思いまーす!」

 

 

戸山虎咲(とやま こさく)出身地 東京府 北豊島郡滝野川村(北区滝野川)

 

 

【挿絵表示】

 

 

この物語の主人公、

鬼滅の世界では胡蝶姉妹と幼馴染、

父親も進撃の巨人の世界から来た転生者であった。

12歳の頃に父親を猗窩座、母親、姉や妹を童磨にそれぞれ殺されている。

鬼滅の世界では神隠しに遭い進撃の巨人の世界へ飛ばされる。

実は前に一回転生を経験、そのときの経験でピアノが上手い。

蝶屋敷に引っ越した後は一週間に一回街へ赴きピアノ演奏を披露している。

自身で翼の呼吸を編み出し使用、刃の色は青と白は交互に変わる特殊なもの。

(自由の翼の色をモチーフにしています)

似の呼吸という呼吸を自作、

見ただけで血気術だろうがなんだろうと似の呼吸に割り当て使用できる。

(例:似の呼吸壱ノ型、破壊殺・滅式改)

 

装備品:隊服、立体機動装置、信煙弾、

(7話から)三八式歩兵銃及び三十年式銃剣

 

呼吸:翼の呼吸:壱ノ型、雲煙過眼(左翼)

弐ノ型、全翼無連

参ノ型、為虎傅翼

肆ノ型、霧散翼・改(左翼)

伍ノ型、集翼九連

壊ノ型、集翼九連・倍壊

 

似の呼吸:壱ノ型、冬ざれ氷柱

(十話の時点で)弐ノ型、破壊殺・滅式改

参ノ型、絶対領域・改

肆ノ型、圧縮窒素

 

長谷川水葉(はせがわ みずは)出身地 東京府 北豊島郡本蓮沼村(板橋区本蓮沼)

 

 

【挿絵表示】

 

 

鬼殺隊の癸剣士、下弦ノ壱との戦いで虎咲に救われ、

友人の2人と共に蝶屋敷で働いている。

瞳は透き通った蒼、髪は肩まで伸びており、少し青みがかった色をしている。

使う呼吸は水の呼吸、育手は元甲の剣士である。刀の色は綺麗な蒼。

 

石川陽菜(いしかわ はるな)出身地 埼玉県 北足立郡川口町(埼玉県川口市)

 

 

【挿絵表示】

 

 

鬼殺隊の癸剣士、水葉と同じく下弦ノ壱との戦いで虎咲に救われ、

友人の2人と共に蝶屋敷で働いている。

使う呼吸は雷の呼吸、育手は善逸と同じじいちゃんである、刀の色は黄緑。

瞳は黒、髪は腰の少し上まで伸びており、髪は栗毛。

弟子時代、陽菜が選別に向かう前に弟子に成り立ての善逸に

“初対面で”告白されたが、全力で拒否している。

(善逸はこの直後に雷に打たれ髪が変色してしまっている)

 

橘花風華(たちばな ふうか)出身地 神奈川府三浦郡横須賀町(神奈川県横須賀市)

 

 

【挿絵表示】

 

 

鬼殺隊の庚剣士、水葉や陽菜と同じく下弦ノ壱との戦いで虎咲に救われ、

2人と共に蝶屋敷で働いている。

瞳は青、髪はしのぶと同じ夜会巻きで橙色の蝶の髪飾りをつけている。髪の色は黒。

使う呼吸は花の呼吸、育手は花柱胡蝶カナエ、刀の色はピンク。

水葉と陽菜より一期上だが、歳が同じなので仲がいい。

彼女の蝶の髪飾りは、カナエの継子の証である。

 

雫石 太一(しずくいし たいち)出身地 千葉県千葉町(千葉県本千葉町)

 

 

【挿絵表示】

 

 

鬼殺隊の癸剣士、虎咲の同期で任務を共にする事が多い。

自分の家族は存命だが、友人を10人も殺害されたため鬼殺の道へ進む。

ちなみに両親は裕太の鬼殺隊入りを了承している。

使う呼吸は風の呼吸、育手はなんと不死川実弥、刀の色は濃緑色。

 

 

猗窩座殿「は?滅式?」

 

虎咲「滅式」

 

童磨「え、俺の御子は…」

 

虎咲「見せてくれたら使える」

 

童磨「君の前じゃ絶対使わないわ」

 

虎咲「今じゃなくても本編上で見ちゃったから使うわ、じゃ( ^∀^)/」

 

虎咲「本編上とか言うなメタいわ」

 

作者「俺が出てる時点でメタいもクソもないから諦めろ虎咲、

童磨はいつまでとは言わんが生かすから安心しな」

 

童磨「俺いつ死ぬの!?ヤダ自分の血気術のコピーに殺されるなんて!」

 

虎咲「裏方やおまけはまったりやって行くのでよろしくお願いします!」

 

作者「じゃ!」




虎咲の「似の呼吸」、元ネタ分かりますか?
この呼吸は彼の記憶を元にしていますが、この世界だとは限りません。

虎咲と太一はpicrew様のキミの世界メーカー、
水葉と陽菜と風華はpicrew様のまいよめーかーをお借りしました。
戦闘シーンなどはこのイメージから想像してみてください。


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第陸話 家族と友人の仇

ー血気術、冬ざれ氷柱ー

 

ー翼の呼吸、弐ノ型、全翼無連ー

 

虎咲の上に無数の氷柱が生成され、一気に降り出す。それを全方位に飛ぶ無数の翼で迎撃した。

これも為虎傅翼の身体能力向上のおかげなのだが

肝心の為虎傅翼の制限時間は、1分を切っていた。

刀を振って童磨の扇を防ぐ、的確に虎咲の心臓を狙ってくる。

心臓もそうだが、攻撃の合間合間に粉氷を振るってくるので1秒たりとも油断が出来ない。

彼の血気術は最初っから対鬼殺隊隊士を想定した、つまり鬼殺隊にとって最も危険な技だ。

かかれば抵抗出来ずに殺されてしまう、

対策無しにコイツに挑めばすぐに帰らぬ人になってしまう。

今度柱の誰かに提案しようかな。こんな時でも冷静さを忘れないのが虎咲のいい所である。

 

(この子全然バテないね…目が赤く光ってる、とりあえず目潰しとこ)

 

童磨は右手の扇を虎咲の目に振るった。しかし、虎咲はそれを刀で防ぐ。

 

(危ない、目が狙われたら為虎傅翼は使えない…制限時間一杯じゃねぇか!)

 

虎咲はすぐ為虎傅翼を解除、為虎傅翼は制限時間30分を過ぎると自我を失う可能性がある技なのだ。

 

「あれあれぇ?目の色が変わった?もしかして、呼吸の制限時間があったのかなぁ?」

 

「ふ…」

 

「どうしたの?どうして笑ったの?追い込められてるのは君だよ」

 

(刃毀れもしてるし…救済しちゃえ)

 

そう思い童磨は虎咲に接近した、普通の隊士ならここで死んでいただろう。そう、“普通”なら。

 

(こうやって簡単に油断するとは思わなかったよ、童磨)

 

童磨の頸が虎咲の間合いに入った時、

 

ー翼の呼吸、壱ノ型、雲煙過眼・左翼ー

 

「…は?」

 

童磨の視点は反転していた。鼻から上を斬られたのだ。

 

(どうしてだ、刃毀れもしていた、刃毀れした刀で鬼を切れる訳無い。)

 

そう混乱していた童磨の視界には両手に刀を持った虎咲がいた。右の刀は、刃毀れしたままだ。

 

「こんなに簡単に油断するとは思わなかったよ、童磨…頸の上だったか」

 

「どうして切れたんだ、刃毀れしてたよね?」

 

「本来俺は二刀流、さっきは左手の刀で切ったんだ、

しかもこの刀身はこうやって換装できる、

本来こっちは使わなくても済んでたんだよ」

 

虎咲はそう言いながら刃毀れしていた右の刀身を切り離し、鞘から新しい刀身を引き抜いたのだ。

 

「さぁ終わりだ、覚悟しな童磨」

 

「君も油断したねぇ?」

 

ー血気術、結晶ノ御子ー

 

童磨の周りに小さな小人(?)が現れた。

 

(今回は最初っから6体投入、柱を殺した御子達なら楽勝だよね)

 

童磨は頭部を修復し今度こそ油断、倒れていたカナエの方へと歩いていった。

 

「さぁ、あの子は後で食べてあげるとして、君を救済しないとね」

 

ーカナエsideー

 

6年前、私たちの家族が増えた、その子の名前は戸山虎咲って言うんだ。

しのぶの幼馴染で昔から遊んでたけど家族が鬼に殺された、

私の妹のしのぶと同い年だから師匠と一緒になんとかくっつけようとした。

でも、虎咲君は感情が無いように見えた。

師匠に聞けば、『もう人と別れたくない、だったら関わらなければいい』という発想に至ったらしい。

どうにかして笑顔を咲かせてあげたい、一回ぐらい年相応の笑顔ぐらい見せてくれればいいのに。

そう思って銀の蝶の首飾りを作ってあげた、虎咲君はやっと笑って喜んでくれた。

なんで今そんなこと話始めたって?目の前の男の子がそれを着けてたからだよ。

 

ーNon sideー

 

「クソガァぁぁぁぁ!!」

 

虎咲は再度為虎傅翼を発動、咆哮を上げ

 

ー翼の呼吸、弐ノ型、全翼無連・炎ー

 

彼の翼の弾幕は、6体の人形を焼き払ったのだった。

 

童磨はカナエを見て

 

「傷だらけ、救済しないとね」

 

しかしカナエの視線は童磨に向いておらず、その“先”に向いていた。

 

「何かあるの?増援でもゴファ!?」

 

童磨が振り向いた瞬間、アンカーが胸に突き刺さり、

瞳を紅く染めた虎咲が飛んできた。

 

(なんだ?俺の御子は?6体全部葬ったのかコイツは!?)

 

さらに…

 

「もう日の出!?」

 

童磨にとって史上最悪のタイミングでの日の出、今すぐにこの場を離れないと燃え尽きてしまう、

しかし、童磨の胸にアンカーが刺さっている時点で

ほぼ逃げる事は不可能、「死」という言葉が童磨の脳裏によぎる。

 

(この鉄線、切れるのかな?)

 

童磨は瞬時に冷静さを取り戻し、ワイヤーを斬ろうと扇を振るう。虎咲はそれを察知しワイヤーを巻き戻す、

当然アンカーは外れた、童磨はそれを見逃さなかった。

虎咲と太陽に背を向け西へ向かって走り始めたが、虎咲もそれを見逃さなかった。

 

ー翼の呼吸、壊ノ型、集翼九連・壊ー

 

壊ノ型、集翼九連の数量威力倍増形、

為虎傅翼使用時には軽減されるが、使用後2日は腕が動かなくなる。

戦いの最終局面でしか発動できない諸刃の剣である。

 

18本の刃が童磨へ飛ぶ、一つの刃は脳を切除したが童磨はお構い無しに走り続けた。

 

「殺し合いはまた今度、次は油断しないよ」

 

「待て…待ちやがれ…」

 

虎咲のその呟きを聞いた者はおらず、

童磨は地平線の向こうへと消えていった。

それと同時に鬼殺隊の隊士達が

カナエの元へ集まったのを見届けたかのように、

虎咲は意識を手放し膝から崩れ落ちたのだった。

 

「カァー!伝令!階級癸、戸山虎咲!上弦ノ弐ト対峙スルモ

惜シクモ敗北!上弦ノ弐ハ逃走!癸ノ剣士ガ上弦ヲ退ケタゾ!」

 

その日の明朝、数多くの鴉達が必死に伝令を続けたがその伝令を信じた者はいなかった。

 

『ねぇねぇ虎咲君!コレ着けてみて!』

 

『ソレどうしたんですかカナエさん、あと関わるつもりは無いって言ったはずですよね』

 

(コレは…俺の記憶か…)

 

『いいからいいから!年相応の笑顔ぐらい見せてくれないとね!』

 

『これでいいですか?』

 

『バッチリ!私ってやっぱ工作上手いわ!似合ってるわ虎咲君!』

 

『あ、ありがとうございます』

 

『いい笑顔ね、やろうと思えば出来るじゃない!』

 

『え?あ、俺笑ってる』

 

虎咲は笑ったのだ、二年振りに。

記憶が全て戻った、ありがとうございますカナエさん、しのぶ。

そしてー

 

「う、うん?ここは、病院か?」

 

かすかにする薬品の匂い、

ソレはここが病院だということの証拠のような物だった。

そして俺が寝ているベットの横にはー

 

「おはようございます虎咲、久しぶりですね」

 

「久しぶりだな、しのぶ…」

 

戻ってきてくれたと言ってしのぶは泣き崩れたのだ。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

し「どうして姉さんと虎咲が死にかけてんだよぉおおお!」

 

作「やめてぇ!首もげる!カナエさん、しのぶさんを止めてぇ!」

 

カ「どうすればいいかわからないわねぇ」

 

虎「そうですねぇ…作者殺しますか?」

 

カ「私達の出番死にかけたトコだけになるけどいいの?」

 

虎「やめときます」

 

 




とりあえず文字数を増やすのは決定しました。
文字数が増えなくても文句言わないで下さい、代わりに虎咲としのぶが土下座します。
原稿は3/8日時点で14話まで書いてありますが、
そこから文字数を増やすとなると所々の描写がヨクワッカンネェ‼︎ってなるかもしれません、
7話から執行します、御了承ください。


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第柒話 蝶屋敷と新兵器

「カァー!カァー!修ガ来ルゾォ!」

 

修、俺の刃やガスを補充してくれる少年。

修の師匠には一回も会ったことないが、

そのうち刀鍛冶の里に出向いて挨拶しておこう。

 

「泣くなってしのぶ、3日も寝てたのは悪かったから泣きながら

胸に飛び込んで来ないでもらっていいですかね」

 

今の虎咲の状況はしのぶに正面から抱きつかれている状態で、

動こうにも動けない状態が続いていた。

 

(てか鴉がさっき修が来るって言ってたから

迎えに行かないといけないんだがなぁ)

 

「しのぶ小ちゃいなぁ」

 

あ、やべ口が滑った。聞こえてない聞こえてない…聞こえてないよね?

まぁ仕方ない、コイツは昔から小さかったからな、今は151ぐらいか。

 

「虎咲がでかいんです、殺しますよ虎咲」

 

単なる脅しに聞こえるが、腰に日輪刀をぶら下げているので現実味がある。

 

「ごめん俺が悪かった」

 

「すいませーん、イイトコ申し訳ないですがー

虎咲さんいますかー」

 

「おう、修か。新しい刀身と…ソレ何?」

 

コイツらの切り替えの良さに触れないとして、

刀身は分かる、明らかに補充用の物だ。

だが問題は修が麻袋から出した細長いもの、

前々世の記憶が正しかったらソレは陸軍の三八式歩兵銃のはずだ。

 

「師匠が作った陸軍の三八式歩兵銃と三十年式銃剣です。

壇蔵さんが虎咲さんの銃さばきは凄いと言っていたので」

 

確かに鍛錬の合間に壇蔵さんと狩猟はしていた、

翼の呼吸を一回見ただけで戦闘スタイルを見抜いた壇蔵さんだ、

銃の使い方も一回見ただけで才能を見抜いたんだろう。

てか修の師匠何者?軍属さんなの?

 

「弾丸は日輪刀用の鉱石で作っていますし

銃剣の刀身は日輪刀なので鬼も斬れます、色見せてください!」

 

「どうせまた蒼と白じゃないか?そう簡単に変わらないだろ」

 

銃剣は虎咲のそんな予想を速攻で裏切った、刀身は真っ黒に染まったのだ。

 

(は?は?何で?翼の呼吸は使うなってこと?)

 

「黒、初めて見ました…」

 

「修、初めて見る色しか出せなくてごめんな」

 

「虎咲が異常なんじゃないでしょうか」

 

しのぶが悪口吐いたが別に気にしない、気にしない…(泣)

 

「試射するか…しのぶ、1枚いらない皿ってある?」

 

「めっちゃありますよ、てか虎咲って銃使えたんですね」

 

「二年使えば嫌でも上手くなるだろ」

 

虎咲は皿と棒と紐を持って

 

ー翼の呼吸、壱ノ型、雲煙過眼ー

 

軽く200m離れたところの地面に

棒を打ち立て、紐で皿を吊るし簡易的な標的を作製した。

もう一度雲煙過眼を発動し、しのぶ達の場所へ戻った。

 

「こんなもんか、しのぶ、修、見えるか?」

 

「豆粒レベルですね、撃ち抜けるんですか?アレ」

 

「僕には何にも見えないです…あ、これ」

 

虎咲はありがとうと言いながら弾薬と銃を受け取り、

慣れた手つきで弾薬5発を1セットにした挿弾子を薬室へ押し込み、

コッキングレバーを押し戻し安全装置を解除した。

 

(やはりこの音はいい音だ)

 

コッキングレバーはガチャンと心地いい音を立てて薬室を閉鎖する。

昔から好きな音、記憶の片隅に三八式でもない、村田銃でもない

また別の銃のコッキングレバーの音が残っている。

しかしこの音は、あの忌々しい記憶と共に蓋をしてある。重々しい鋼鉄の蓋で…。

 

「小慣れてますね…」

 

「僕もあんな風に色々な武器で戦いたいです…」

 

虎咲は銃を構え、的になった皿を照門に合わせ、トリガーを引いた。

三八式歩兵銃の撃鉄が落ち、銃弾の雷管を叩く。

耳が痛む程の銃声を発した三八式歩兵銃は弾丸を撃ち出した。

撃ち出された6.5mmの弾丸は、真っ直ぐ飛翔し皿を粉砕したのだった。

 

「当たったか?しのぶ、修」

 

「見事に砕け散ったみたいですね、バラバラです」

 

「白い破片が飛んだのは見えました、当たったと思います」

 

こりゃあ修の師匠には土下座もんだな、今までで一番いい個体だぞコレは。

 

「修、ありがとう。師匠にもよろしく言っておいて」

 

「はい!あとコレ残りの弾薬です、

こちらこそありがとうございます!」

 

修は走って帰って行った、陸上競技できるだろアレ。

 

「しのぶ様ぁー!」

 

「すみ?どうしたんですか?」

 

蝶屋敷で手伝いをしている3人の少女のうちの1人、すみがしのぶに声をかける。

 

「カナエ様が目を覚ましました!」

 

ダッという効果音が付いてもいいくらいの勢いでしのぶは駆け出した。

 

「早いねぇ…」

 

「あと虎咲さんにも…」

 

「どうしたの?」

 

「鱗滝真菰さんという人が…ってもう行っちゃいましたか…」

 

心の中で貴方も早すぎますと言ったすみであった。

 

ー虎咲sideー

 

「真菰!」

 

「一週間も経ってないけど…久しぶり、虎咲」

 

「ナオ、一週間虎咲ヲ思ッテ自i「うるさあああぁぁぁあい!!」グヘ」

 

真菰は何故か顔を真っ赤に染めて

自分の鴉を殴りつけうずくまってしまったのだ。

 

「てかその腕の包帯どうしたの?」

 

「壊ノ型の代償、骨折は確実さ」

 

「あとやけに後ろにいる人達が慌ててるんだけど」

 

真菰の視線は虎咲の後ろに向く。

 

「花柱のカナエ様が目を覚ましたんだ、でも鬼殺隊は引退だろうな」

 

「どうして?」

 

「上弦ノ弐の血気術、ヤツは霧で肺を潰してから殺しにかかってくる」

 

「手で口や鼻を抑えればなんとかなるかもね」

 

そうだなと言いながら虎咲は笑ったのだった。

すると、

 

「ほんとに前と比べたら表情豊かになったわねぇ…」

 

「起きたんですね、カナエさん」

 

松葉杖を使いしのぶに補助されながら

歩いて来た腰まで伸びた髪を持った女性、

その女性こそ虎咲が救い出した女性、花柱、胡蝶カナエだったのだ。

 

「カァー!戸山虎咲及ビ胡蝶カナエ!産屋敷邸ニ召集ゥー!」

 

鴉が病人に優しくない伝令を叫んだので絞ってあげた。

 

「「負傷者を呼びますかねぇ…」」

 

(お館様も酷い事するわな、怪我人を呼ぶなんて)

 

今更鬼殺隊のブラックぶりを思い知った虎咲であった。

 

 

 

 

ー番外編ー

 

ーある日ー

 

「はぁ…」

 

虎咲は三八式の説明書を熟読し、分解をして整備をする。

 

(……)

 

村田銃に慣れすぎて有坂銃が難しいと感じてきた!

 

「はぁ…」

 

二度目のため息を吐く、

俺の記憶だと三八式の派生元である三十年式は機関部の構造が複雑で、

そんなデリケートな機関部に砂塵が入り故障を誘発、

敵の前で銃が撃てないなんて事は無いがその様な事十分あり得たらしい。

しかも、撃針と呼ばれる部品が軟弱過ぎて分解結合中にへし折れるという故障が時折発生したという。

三八式はその問題部分を重点的に改良を加えた。撃針を強化し、

機関部の簡素化及び部品点数減少を同時に行い、ダクトカバーを装着した。

結果的に「海の戦艦大和」「空の零戦」「陸の三八式」と言える名銃へと進化した。

だが虎咲は、夜に後ろから近付く151cmの少女に気付けなかった。

 

「…ふぅー」

 

少女いや、しのぶは虎咲の耳に息を吹きかけ驚かす。

 

「うぎゃあああ!!??」

 

「そう、虎咲は耳が弱いんですね」

 

「だからその喋り方よ…」

 

「もう慣れちゃって」

 

本当に危なかった、部品をぶちまけるかと…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イヤアアアアアア!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃針がぁ!撃針が無くなっているぅ!!」

 

顔が一気に青に染まり、机の下を探し出す。

 

「どうしたの!?虎咲!」

 

しのぶは焦り出す、私のせいでと自分を責め出す。

 

「部品が一個無くなったぁ………あ、胸ポケットに入ってた」

 

「………」

 

「お、お騒がせしましたぁ…」

 

「………」

 

あ、ヤバい青筋浮かんでる。

 

「虎咲ぅ!!」

 

「いいいやあああああ!」

 

日輪刀を鞘から引き抜いたしのぶは、1時間以上虎咲を追いかけ続けたのだ。

 

ー虎咲の部屋ー

 

(あれ!?俺分解したまま放置された(・ω・))

 

三八式もといサンパチ君は、分解されて放置された現実を突きつけられ、

内心こう思った。

 

(次撃つ時、1発目はジャムってやる…(`・ω・´))

 

自らトラブル宣言!どうなる虎咲!

 

 

 

 

 

 



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第捌話 階級癸の虎咲物語

負傷した虎咲は気がついたら蝶屋敷に送られていた、

かつての友人である胡蝶しのぶと再会し、

修からは新品の刀身と三八式歩兵銃と三十年式銃剣を受け取った。

胡蝶カナエも意識を取り戻し一件落着と思いきや、

鴉が負傷者2人に優しくない産屋敷邸召集令を叫んだので2人に絞られた。

 

目隠しをされた虎咲は船や鉄道、馬車や歩きなど

一体どの方角に向かっているのかわからない程動かされ、

やっと目隠しが取られたと思うとそこはもう産屋敷邸だったのだ。

 

(は?)

 

いやいやいや待て待て待て待て、まずなんで癸の俺がここに呼ばれるんだ、

なんだ?除隊か?なんかしたっけな俺、カナエさんもしのぶもいるのか…。

あるとしたらしのぶに抱きつかれたことくらいか?

アイツ美人だから嫉妬でなんか在らぬ事でも囁かれたのかなぁ。

しかも柱全員集合、やだなぁ八つ裂きにされるのかなぁ。

ていうか風柱の威圧感よ、

チラッと見たら『なんだテメェ!殺すぞ!』みたいな目だったぜアレは。

ていうか叛乱しようと思ったら叛乱できるやん俺、

立体機動装置も付けてるし三八式も持ってるし。

あ、弾薬胸ポケットに入ってる1グリップしかねぇわ。

しかもガスが3分の1しかねぇし刃も2セットしかねぇわ。

ふと横にいた人物を見る、

甘露寺蜜璃、現炎柱の煉獄杏寿郎の継子で恋柱、

壇蔵さん曰く炎の呼吸を恋の呼吸へ派生させた天才美女、

その可憐な格好からは想像もできないハイパワーで、

毎月の食費がとんでもないらしい。

それゆえ、お見合い相手に逃げられる事が多い。

 

(ホワッツ⁉︎)

 

ゲスメガネやりやがったな、

隊服はある1人の隠、前田まさおが“1人で”制作しているのだが、

女性や少女の隊服には異常なアレンジを加える事があるらしく、

そのため隊士からのあだ名はど直球に「ゲスメガネ」

甘露寺の隊服は胸元がガッツリ開いたもの、そう全開だ。

度重なる事態に虎咲の脳内思考がフリーズ、

 

「あー太陽が綺麗だなー(棒)」

 

虎咲の現実逃避が始まった、勿論小声で。

甘露寺がコレで吹いた、沸点低いだろオイ。遊んでみよ、楽しそう。

 

「あの雲なんていうんだっけ」

 

やめて、真顔やめてぇ、と甘露寺が言っていたのは無視しておこう。

当主である産屋敷輝哉が現れるまで甘露寺への攻撃は続いたのだった。

 

「あ、行冥さんじゃないですか」

 

「その声は虎咲か、生きていたのだな」

 

悲鳴嶼行冥、かつて俺やカナエさん、しのぶを助け出してくれた人だ。

今は岩柱として柱最年長の座に就いている。

壇蔵さんによると、鬼殺隊最強の男らしい。

 

「「お館様の御成です!」」

 

最終選別で案内をしていた2人の少女が声を上げた瞬間柱全員が跪いた。

俺も取り敢えず跪く、襖が開く音がすると優しい声が上から聞こえてきた。

 

「やぁ私のかわいい剣士達、いきなり集めて悪かったね」

 

「いえ、お館様のご命令ならば直ちにその下へ向かいます」

 

風柱よ、さっきの態度はなんだったんだ。

現代風に言えば手の平くるっくるワイパーを

目の前でやってのけたぞこの人。

 

「今日集まってもらったのはそこにいる戸山虎咲君についてなんだ」

 

一瞬で視線がこっちに向いた気がする、こういうの凄く嫌い。

 

「そもそもお前何者だぁ?階級癸くらいだろ?」

 

「まぁ…そうですね…階級癸の戸山虎咲と申します」

 

なんで癸がここに呼ばれるんだ!と風柱と蛇柱が言って来たが無視だ無視。

 

「まぁまぁ実弥、小芭内、私が呼んだんだからいいじゃないか」

 

申し訳ありませんお館様と2人は跪く、

蛇柱も手の平くるっくるワイパーか。

 

「それに虎咲は上弦ノ弐の口から上を斬り飛ばしたそうじゃないか」

 

よもやよもやだ!と炎柱が大きな声で言った、正直耳が痛い。

この際言ってしまおう、俺はただの一般癸隊士だ!

 

「ほんの偶然ですよ、てか皆さん信じてませんよね?

偶然剣先が上弦ノ弐の顔面を斬り飛ばしただけですよ」

 

「まぁ上弦の頭を斬り飛ばしたから階級は丙まで上げとくけど…」

 

お館様、心底残念そうな顔…

 

(!?!?!?)

 

理解不能ですね、てかそんなにすごい事なのか?

上弦の頭斬り飛ばすなんて。

 

「最後に君の呼吸を見せてくれないか?大木ならいっぱいあるよ」

 

「…何故俺が大木を斬って鍛錬してることを知ってるんです?」

 

この会話、側から聞いたら異常な会話だろう、

大抵こう思うだろう、『この少年があんな大木を斬れるわけないだろ』と。

現に風柱と蛇柱はそんな顔だ、カナエさんもしのぶも驚きを隠せていない。

舐めるなよ風柱、

見る前からそんな決めつけたような考えをしてはいけない事を教えてやる。

 

「はぁ…肆ノ型まででいいですよね?」

 

「うん、壊ノ型は腕が動かなくなっちゃうんだよね」

 

もうなんでも教えてんな壇蔵さん、あとでおはぎ100個送ってやる。

 

「わかりました…」

 

抜刀、刃の色は…やはり初見で驚かれた、

 

「お館様、少しいいですか?」

 

「ん?どうしたの虎咲」

 

ちょっと失礼と言いながら虎咲は輝哉の後頭部を殴ったのだ。

風柱激怒、

 

「オラァ!テメェ!お館様に何しやがる!」

 

柱全員抜刀か、まぁすぐに鞘に刀を戻すだろう。

 

「痛いなぁ…あれ、目が見える」

 

「治せた…絶対失敗したと思ったのに…」

 

輝哉の皮膚は元どおりになり、視界が開けたのだ。

 

「2年間は病魔に侵されないで済みますが、そこからはわかりません、

見ててくださいと言いましたから喜ぶのは後にしてもらいます」

 

誰も何故殴っただけで治る事について突っ込まないが気にしない気にしない。

 

「虎咲の刀、綺麗な色だね、初めて見たよ」

 

「性格に言うと“刃”ですけどね」

 

虎咲はその場でもう一方、つまり左手の方も抜刀し、同時に切り離した。

 

「へー、こうやって予備のと交換できるんだね」

 

「てか話脱線しまくりですね、では」

 

ー翼の呼吸、壱ノ型、雲煙過眼・双翼ー

 

大木目掛け突進した虎咲は、2本の大木を根本から破壊。

 

「腕疲れた」

 

またも小声、甘露寺にだけ聞こえるように呟き、

甘露寺は小刻みに震え出したのだ。

 

ー翼の呼吸、弐ノ型、全翼無連ー

 

16本の大木を64本へ増やしてあげた、可哀想に、安らかに眠れ大木達よ。

あとで材木屋に売ってあげよう、財布が潤う潤う。

 

ー翼の呼吸、参ノ型、為虎傅翼ー

 

瞳の色を黒からに紅に変色させた虎咲、

一同が紅い尾に気を取られているうちに虎咲は200m程移動し、

大木を丸裸にしその場で木材へ加工したのだ、5秒で。

これも材木屋行きだろう、木材よー家の材料となるのだー。

もちろん一同何が起こったのか理解できていなかったが、

輝哉だけは冷静に虎咲の業を見据えていたのだ。

 

ー翼の呼吸、肆ノ型、霧散翼・改ー

 

目標は大木ではなく異形の鬼サイズの藁、

と言っても4mぐらいの大きさ、いやそれ以上の藁の塊。

すれ違いざまに足の部分を切除、

倒れた反動で僅かに浮き上がった藁は、霧のように消えていった。

もうこの技を見た方々は何も言わなかった。否、言えなかったの方が正しいだろうか。

 

そんなこんなで俺の呼吸披露が終わった、

開いた口が塞がらないとはこの事だろう、

こんな強力な呼吸を少年が一から作ったなんて見なければ信じないだろう。

 

「すごいね…今すぐにでも君を柱に迎えたい気分だよ」

 

「残念ですがその願いを受けるのは不可能です、

入隊1、2ヶ月なんかで柱になんかなれませんよ」

 

なお、この虎咲の中の常識をぶち壊す少年が現れるのはまだ先の事である。

 

「そう…一年後に返事を聞くよ」

 

「それまでに俺が生きてればですけどね」

 

「じゃあ今日は解散」

 

「「「「「「「「「御意」」」」」」」」」

 

各々帰宅の途についた、

隠が来るまで帰れない虎咲は、行冥としのぶと話すことになった。

 

「虎咲、お前はあの呼吸をどう思って創った」

 

「行冥さん、それは…どういう?」

 

「あの憎しみを糧に創ったわけではないんだろ?」

 

一瞬で虎咲の目が紅く光る。

目が光ったまま行冥の方に向き、

 

「さぁ…どうでしょうね」

 

と、一言言い放ったのだ。

一瞬でカナエとしのぶの顔が曇る、

やはり2人も覚えていた、あの時の恐怖と絶望を。

 

「あの日は絶対に忘れる訳ないですよ」

 

「あぁ…私も忘れる訳ないさ」

 

ーーーーーーーーーーーーーー

行「…このおまけっておかしくないか?」

 

虎「まぁ…死人が喋ったり上弦と喋ったりしてますしね…」

 

無「やぁ虎咲、童磨はどうだった?」

 

虎「百歩譲ってチートだな」

 

無「私の足元にも及ばないがな」

 

し「思ったんだけど無惨とお館様って双子みたいだよね」

 

無「並んでみるか、どうだ?私には分からないが」

 

輝哉「どうだろうね、ていうか本当にこのおまけはどうかしてるよ」

 



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第玖話 過去の絶望とありったけの後悔

虎咲としのぶの過去のお話です。
彼らは一体どうして鬼殺の道を進んだのかがわかると思います。


「虎咲!」

 

「どうしたの、しのぶ」

 

ここは東京府北豊島郡滝野川村、2人の少年と少女が家の庭で遊んでいる。

 

「ねぇねぇ!あのマント見せてよ!」

 

「あれ父さんのなんだけどなぁ…父さん!」

 

「んあ?アレか?いいぞー持ってけー」

 

虎咲と呼ばれた少年は親の物である緑の下地に翼が描かれたマントを

持ち出し、しのぶと呼ばれた少女へ持っていった。

 

「やっぱりかっこいいね!羽織とはまた違った感じ」

 

「しのぶ、着る?」

 

「いいの?いいんですか?おじさん!」

 

「しのぶちゃんか?いいよー」

 

「やったぁ!」

 

しのぶは着ていた羽織を虎咲に預け、

マントを羽織りクルッと回ってみせた。

 

「やっぱりデカいね…私小さいから…」

 

「まぁ大人のヤツだしね、俺でもデカいよ?このマント」

 

「このまま着ていたいけど…おじさん!ありがとうございます!」

 

「いやいや別に大丈夫だよー」

 

やはりこの人には緊張感が無いと心の中で思うしのぶであった。

時は夕刻、そろそろ夕飯の時間だろうか、ある生き物にとっても。

 

「じゃあね、しのぶちゃん、ご両親によろしくね」

 

「はい!ありがとうございます、おばさん!」

 

この瞬間、虎咲の母親がカチンとなったのは言うまでもない。

24歳の母にはキツかったそうで、

 

「しのぶちゃん、私はまだ24よ?おばさんじゃないわ、いいわね?」

 

「す、すいません」

 

じゃ!と言いながらしのぶは帰っていった。

 

滝野川村、人々は仲が良く盗難も殺人も起こらない

比較的治安の良い村、この日々が当たり前だと思っていた。

 

今日全てが変わってしまった。

 

「きゃあああああ!」

 

耳が痛いほどの悲鳴、普通なら聞こえるはずのない声、

助けを乞う声や嗚咽、やめてくれと言う人々、

虎咲達は両親によって襖に隠された。

 

「ここにいれば安全だ、いいな?絶対に動くなよ!?」

 

いつも間延びしている父が焦った様子で呼びかける。

 

「絶対に動いちゃダメ、指切りげんまんよ?」

 

「う、うん」

 

「わかったわ」

 

まだ子供の俺達は親の言う事しか聞けず、

何が起こったのか聞くことすら叶わなかった。

それからウトウトしてしまい、起きたのは深夜、

一緒に襖に入った姉や妹がいない。

襖は閉められているが外に出た形跡があった。

 

「嘘だろ!?」

 

襖を勢い良く開け放ち、走って外へ出て行った。

 

(まず何が起きたんだ、盗賊か?)

 

「うっ…おえぇ…」

 

家を出て行った虎咲の目に映ったのは男性の死体、

隣人のおじさんの物だろうか。

見るたびに知っている人の死体が映る、

いっそ目を閉じてしまいたいが、人の死体なんか蹴りたくない。

 

「どこ行ったんだ…父さん、母さん、姉さん、夏…」

 

微かな声だが、「お前を殺す!絶対にだ!」と父さんの声が聞こえた。

 

(そっちか…)

 

路地裏を駆使して声が聞こえた場所へ行ってみた。

 

「ごめんねぇ?君の奥さんや娘さんはもう救済しちゃったよ」

 

「…何故ここに上弦が2体も湧くんだ?」

 

「決まってるだろ!陽一郎、貴様を鬼にするためだ!」

 

そこには化け物が2体、右目には上弦と刻まれ、

閻魔の様な格好の化け物の左目には弐、

体に刺青が多い化け物の左目には参と刻まれていた。

 

「猗窩座、俺は鬼になるんだったら腹だって切ってやる、

そして童磨、俺は貴様のしていることを虐殺だと思っている」

 

「ならばここで死ね!」

 

「はぁ…やっぱり男は嫌いだよ」

 

(父さん!)

 

ダメだ、助けたいが生存本能が告げている、『逃げろ』と。

来た路地を通り抜ける前に父さんの方を見る、

 

ー術式展開、破壊殺・滅式ー

 

片方の化け物が叫ぶ、その途端にソイツの足元に

羅針盤のようなモノが展開され、土地が抉り取られた。

 

(嘘だろ…父さん…)

 

路地を通り抜け小道に出ると、見覚えのある顔があった、松姉さんだ。

 

「姉さん!」

 

「あ…虎…咲…なの…?」

 

松は力なく腕を上げ、虎咲の顔を触れる。

 

「暖かい…私はもうすぐ…冷たく…なるって…いうのにね」

 

松は頭から血を流し、息を止めた。

 

「…………は?」

 

虎咲は、姉が死んだという事実を受け入れる事が出来ず、困惑してしまう。

近くにもう1人見覚えのある少女がいた、妹の夏だ。

 

「夏!」

 

呼びかけ夏を腕の中に抱える、夏は虎咲に気づき声をだす。

 

「兄さん…?も…う…お母…さんも…お姉ちゃんも…死んじゃった…?」

 

「喋るな!」

 

「私も…そろそろ…ダメ…かも…」

 

もう夏は助からない、この出血量でこの小さな体が生きられる訳がない。

そんな現実なんか認めない、認めたくない。

でも、最後に…。

 

「…姉さんと母さんを殺し、お前を傷つけた化け物、どんな奴だった?」

 

「頭から…血を被った…みたいな…閻魔様みたいな見た目だった…」

 

父さんを襲っていた童磨と呼ばれた化け物か…。

 

「ごめん…ね…もう…ダメ…みたい…」

 

「おい!夏!夏!」

 

突然口に温かいものが触れる、夏の唇が虎咲の口に触れたのだ。

 

「えへへ…大好きだよ…兄さん…」

 

そう言い残し夏の腕がだらりと下がり、夏は目を閉じてしまった。

 

(父さんは死んだ、母さんも死んだ、

姉さんも死んだ、夏も腕の中で死んだ、何故俺は生きている?)

 

そんな疑問に答えられる人はおらず、

虎咲にとって短く最悪な夜が明けたのだ。

 

(何故俺が生きている?何故俺が生かされた?何故俺の家族が死んだ?

何故父さんが死んだ?何故あの化け物はこの村を襲ったんだ?)

 

「う…うわああああああああ!!!!」

 

現実に耐えきれなかった1人の少年は、1人泣き崩れたのだ。

 

ー行冥sideー

 

村が襲われたという連絡が来て駆けつけた、やはり間に合わなかった。

日の出までに2人の少女を助け出した、蝶の髪飾りを付けた子達だった。

 

「おい君!大丈夫か!」

 

「大丈夫じゃないと思います、俺の精神が」

 

この子も襲われていたのか…。

 

「君、名前は?」

 

「戸山虎咲」

 

心臓が飛び出るほど驚く、あの戸山陽一郎の親族かもしれない。

 

「父親の名前は?」

 

「戸山陽一郎」

 

やはりか…今すぐにお礼をしたい、いつも鬼殺隊を支えていたあの方に。

そのすぐ後の質問をした時、自分の愚かさを呪った。

 

「陽一郎さんは何処にいるか分かるかい?」

 

少年は指で上を指した、空を指したのだ。

死んだのか?その疑問は少年から明かされる。

 

「俺には両親と姉と妹がいました」

 

そうか…ん?いました?過去形か?

 

「この短く最悪な夜で全員死にました、今、戸山家は俺だけです」

 

なんいう事だ、あの戸山様が殺されるとは。

 

「虎咲!」

 

さっき助け出した少女の1人、

しのぶと呼ばれた少女が駆け寄る。

この子も両親を失ってしまっていた。

 

「虎咲!絹代さんは!?陽一郎さんは!?松さんは!?夏ちゃんは!?」

 

そうか、この2人は家族ぐるみの付き合いだったのか。

虎咲は、何も言わず首を横に振ったのだった。

 

ーNon sideー

 

虎咲は首を横に振る。

 

「え…?嘘でしょ…?」

 

「…」

 

しのぶは虎咲の胸倉を掴み、問いただす。

 

「なんか言ってよ!私達は!父さんも母さんも殺された!私達を守って!」

 

「…」

 

虎咲はしのぶに無言で抱きついた、

勿論しのぶは抵抗する。

 

「ちょっ!何すんのよ!」

 

「…あ…」

 

「何言って…ッ!」

 

そうだ、虎咲は泣いていた。

 

「カナエさんは生きてるんだろ?」

 

「えぇ…姉さんもショックみたいだけど…」

 

「じゃあよかったな…」

 

「よくなんか「俺は全員死んだよ」…え?」

 

しのぶは殴ろうとした拳を下ろし、困惑した様子で虎咲を見る。

 

「全員死んだ、父さんも母さんも姉さんも夏も死んだ、

俺に家族と呼べる人はいなくなったんだよ」

 

しのぶは虎咲の家族と過ごし遊んだ日々を思い出し、

その人々がもうこの世にいない事を悟った。

 

「う…うわああぁぁぁああ!」

 

しのぶの中の何かが切れ、泣き叫ぶ。

自分の親だけでなく、

家族ぐるみで付き合っていた相手の家族も

虎咲を残して死んでしまった。

 

「…」

 

虎咲は黙りながら、泣き叫ぶしのぶの頭を撫でたのだった。

戸山虎咲失踪の半年前の事である。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夏「ちーっす!出番もらいに来ましたぁ!」

 

作「君はおまけぐらいでしか出せないけど?」

 

夏「出番があるなら結構です!」

 

虎「もうなんでもありかよ…」

 

松「私もー!出番よこせぇー!」

 

夏「お、姉さんも出番もらいに来たの?」

 

松「本編で全く出てなかったからね!作者ぁ!頼むよぉ!」

 

作「頭痛い」

 



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第拾話 下弦が弱いと誰が言った \ムザンサマデス‼︎/

東北地方太平洋沖地震による犠牲者の皆様のご冥福をお祈り致します。
あの大震災から9年、もう9年と今自分でも思っております。
忘れもしない、宇都宮線の車内で立っていた時に急停車、
子供だった私には何が起きたのかわかりませんでした。
ただ、誰かが叫んだこれだけは…これだけは耳に焼き付いています。
これからも絶対に忘れるつもりはありません。

「東北の太平洋沖で大地震!マグニチュード9.0だ!」

乗っていた電車は、私の家の最寄りっちゃあ最寄りである赤羽駅を14時35分程に発車し、
私の目的地は埼玉県の久喜市で、15時13分に到着する予定でした。
しかし、地震の影響で車両は停止し、車掌の案内により
緊急停車した時点で最寄りの東川口駅まで歩きそこからバスで家に帰還しました。
家にたどり着いたのが22時を大きく回った頃になっていて、
リビングルームの惨劇を見て参ってしまい、そのまま死んだようにベッドに潜りました。
これでもまだ良い方でしょう、私が眠りについた時もまだ家に帰れていなかった方々がいたはずです。
翌朝、8時前に起きた私は絶対に忘れるつもりは無い映像を見ることとなりました。
黒い波が、防波堤なんて関係無いように防波堤も車も家も人も飲み込んだ映像を見てしまいまいました。

(あれは…何?)

当時小学1年生になる直前だった私は、初めて自問自答をしました。
とてもこの国日本で起こった事では無いように思えたのが、私の津波への第一印象でした。
そして、この津波という出来事をこれからも風化させないようにするのが、
我々の若い世代の役目だと思っています。
犠牲者の事を、忘れてはならない。彼らは間違いなくこの震災で亡くなってしまったというのを、
未来に伝えていくべきだと思います。

重い雰囲気を出してしまって申し訳ありません、代わりに虎咲が土下座します。
それでは本編、どうぞ。




虎咲は隠が来ていた時にはもう寝かけており隠の背中で熟睡し、

蝶屋敷に着いた時にしのぶに叩き起こされたのだった。

その時の隠の証言、『夫婦か!とっととくっつけ!』だそうだ。

 

ー翌日ー

 

「カァー!任務ダァ!ボサットシテンジャネェ!!」

 

鴉が叫ぶ、これは虎咲の鴉だろう。

 

「うるせぇ!今何時だと思ってやがる!」

 

寝起きの虎咲はとてつもなく機嫌が悪い、彼の機嫌のわるさは壇蔵さんも諦めてしまう程のものだった。

 

「アァ!?18時前ダロ!?起きろ!」

 

「嫌だ!俺は昼寝が日課なんだ!」

 

昼寝で任務を放棄するのはおかしいと思うが、仕方ない。

 

「虎咲?任務なんだからチンタラせずにとっとと行きやがれください」

 

「アッハイ」

 

しのぶは笑ってはいたが、本心からの笑みだとは思わない。

顔面に青筋浮かべて笑う人なんていないだろう。

 

「用意するからちょっと待ってな」

 

元々隊服を着ていた虎咲は立体機動装置を付けて三八式を担ぎ出し、

マントを羽織って出てきた。三八式初の実戦である。

 

「待たせたな。さぁ、鬼が出たのはどこだい?」

 

「カァー!豊多摩郡渋谷村ダァ!」

 

「了解、先に行くぞ」

 

立体機動装置を駆使し高速で進む、幸い建物が多いのでアンカーを刺す目標には困らない。

大量に張り巡らされた電線が厄介だが。

 

「てかこんだけ高速移動すれば遠くても結構早く行けるんだな」

 

「オ前ハ少シ手加減シタラドウダ!」

 

鴉でも追いつくのがやっとな速度で飛ぶ。

ついに修の師匠さんの改造の魔の手がファン周りに到達し魔改造されてしまい、

ついに純正、つまりあの世界から持ってきた部品は柄だけになってしまった。

 

「この町か?」

 

「カァー!ソウダァ!」

 

普通なら夜の村というのは活気に溢れ、人通りも少ない。

だが今はー

 

「静かだ、何だこの静けさは…」

 

(まるで村自体が死んでいるみたいだ)

 

「おい!鬼狩り!」

 

振り向けば小汚い鬼が居るではないか、昼寝の邪魔をしたのはコイツか。

 

「なんだ?自分から死ににきたとは、勇者か貴様」

 

「あぁ!?誰がお前のような鬼狩りに殺されるか!」

 

鬼は嘲笑し、薄気味悪い笑みを浮かべた。

 

「何だお前、気持ち悪いぞ」

 

虎咲は本気で引いた、流石に鬼も気づいたようで。

 

「待て、引かないでくれ。今お前の仲間達がこの小屋に入っている」

 

「で?それがどうした」

 

鬼の顔に一瞬だけ青筋が浮くがすぐに消え失せる。

 

「この中には俺の仲間も入ってるんダァ、お前が俺を殺せばアイツらは俺の仲間の胃袋に収まる」

 

「人質作戦か、鬼にしては考えたな」

 

鬼は驚く、焦りもせず怒りもしない。まるでー

 

「お前…本当に人間か…?」

 

虎咲は口角を上げ

 

「さぁ…どうだと思う?」

 

ー翼の呼吸、弐ノ型、全翼無連・避人建ー

 

これは改良した全翼無連、人も建物も貫通する弾幕を発することができる。

しかもその弾幕は鬼しか切り裂かないため隠にも優しい技なのだ。

 

「ウガアアアアアア!!お前!化け物がああ!!」

 

鬼は一瞬で弾幕の餌食となり、虎咲を化け物呼ばわりしながら消えていった。

虎咲は小屋の戸を開けると、そこには鬼殺隊の隊士が6人ほど固まっていた。

縄で縛られていたが、特に大きな怪我は無く全員無事だった。

 

「あの!いきなり鬼が細切れ肉と化したんですが!何か知ってるんですか?」

 

1人の少年が威勢よく虎咲に聞いた、虎咲は何か考えるように間を開けたが、

 

「さぁな、俺が来たときにはもう細切れ肉になってたよ」

 

何故か彼は嘘を吐いた、先程の化け物呼ばわりが頭に引っかかっていたのだろうか。

 

「あの!ありがとうございます!」

 

1人の少女が虎咲に頭を下げた、だが虎咲はー

 

「俺はただ伝令に呼び出されて来ただけだ」

 

「でもこの村を救ったんですよ、貴方は」

 

去り際に少女は言った、何故それを虎咲だけに聞こえるように言ったのは謎であるが、

その時虎咲はそこまで気にしていなかった。

 

(三八式使ってなかったわ(・ω・))

 

蝶屋敷に帰る道中それを思い出した虎咲は、

何故三八式を持ってきたのか自問自答したが、たいして気にせず蝶屋敷に上がったのだ。

 

 

ー1ヶ月後ー

 

(この前行冥さんに思い出させられたが、アレ使えるかもな…)

 

そういい虎咲は1人で鍛錬場へ赴いた。

 

(記憶を掘り起こせ、前世も前々世でも関係ない)

 

ー似の呼吸、壱ノ型、冬ざれ氷柱ー

 

目標の藁人形目掛け無数の氷柱が降り注ぐ、

全ての藁人形の中身が現れ、見るの無惨な格好へ変えていく。

 

(この技、上弦ノ弐のヤツだが…やはり破壊力は十分か…)

 

ー似の呼吸、弐ノ型、破壊殺、滅式・改ー

 

藁人形がいた場所は土地ごと抉り取られ、あの時の威力が再現できた。

 

(下弦レベルは瞬殺だろうが…バレたらマズい…これは最終決戦まで温存か)

 

やはり記憶だけではどうにも元の威力を再現できる筈がない、肆だけだが。

 

ー似の呼吸、参ノ型、絶対領域・改ー

 

前々世の記憶を元に作成した型、

罠が仕掛けてある裏山へと向かい発動、わざと罠へ引っかかる。

ガキーン!と耳が痛いような音を立てて罠を弾き返した。

 

(やはりこの技はチートだな、

隊士だけじゃなく民間人を守るのにも使えるな…)

 

ー似の呼吸、肆ノ型、圧縮窒素ー

 

刃を地面に突き刺し範囲の設定をする、今回は半径20mに設定してある。

トリガーを引いた瞬間にそこら一帯が吹き飛ばされる、

一瞬で土地が無くなり、さすがに自分でもビビる。

ただし、この技には致命的な欠点がある。

どんな出力でも刃一本なのだが、

一回一本の刃を消費するため、補給無しだと最高7回しか発動できず、

予備の刃を持って行こうとすると、動きがほんの僅か劣ってしまう。

使いどころに注意したい技である。

 

(あとは…)

 

「すまんなしのぶ、心配させて」

 

そこには泣きかけたしのぶが立っていたのだ。

 

「もう1人で鍛錬しに行かないで下さい」

 

「なんだ?そんなに怖いのか?」

 

「虎咲がいなくなってしまうって思ってしまうんです」

 

そうだ、虎咲が進撃の巨人の世界に飛ばされたのは、

この世界で鍛錬中に神隠しに遭ったからだったのだ。

家族だけでなく友人も失ったしのぶは

1、2ヶ月も口を開かなくなってしまった。

 

(まぁ…この世界に戻れたのも神様の厚意だからなぁ…)

 

「わかった、今日はもう寝るよ」

 

「わかったならいいですよ」

 

この2人は直後に緊急招集が来ることはまだ知らない。

 

「カァー!緊急招集ゥ!牛込区若松町ニ襲撃ィ!」

 

「そうか、食え」

 

「アリガトォ!」

 

しのぶは虎咲が鴉に金平糖をあげているのを見て困惑したのだった。

 

「鬼の強さは?」

 

「マダ分カランガ下弦程ノ強サハアルゾ!」

 

「行くぞしのぶ、柱の力を見してやれ」

 

しのぶは先の緊急会議で蟲柱になり、

カナエと入れ替わりで柱に就任したのだ。

 

「わかりました、行きますよ」

 

「その喋り方、カナエさんの喋り方だろ?その喋り方はやめてほしい」

 

「…分かったわ、虎咲」

 

「少し待ってくれるか?」

 

虎咲は自室に入り、ポケットや弾薬袋に入るだけの挿弾子を詰め込み、

マントを羽織り、立体機動装置を付け、三八式を肩にかけて飛び出した。

 

「すまん、待たせた」

 

「結構重装備ね…ッ!そのマント…」

 

「今更か…そうだ、しのぶに一回着せたこともあったな」

 

「うあ…」

 

しのぶは泣きかけたがすぐに収まる。

虎咲の目には光が宿っておらず、

憎しみに染まったように真っ赤に光っていたのだ。

 

「…え?目が光ってる?」

 

勿論しのぶは困惑する、普通人の目が紅色に光るはずがない。

 

「あーゴメン、あまりに憎いと自動的に発動しちゃうんだよね、

コレは参ノ型の為虎傅翼、身体能力や反射神経を極限まで強化する技で、

原理は知らんが目が紅く光るんだ、制限時間は30分、

それを超えると気を失って暴走してしまう可能性があるんだ」

 

解除と言うと虎咲の目の色が紅から普段通りの碧へ戻った。

 

「さぁ、鬼狩り様の出撃だ」

 

「えぇ、行きましょう」

 

2人の鬼狩りは、襲撃に遭った若松町へ急行したのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なんで斬れないのよ!」

 

「知らないよ!てかコイツ下弦じゃん!」

 

「もう癸の私達じゃ抵抗できないよ!」

 

「ウチは癸じゃ無いけどね!」

 

3人の少女達がある鬼と対峙していた、

その周りには鬼殺隊士の死体が数多く転がっていた。

その鬼はー

 

「ははは、滑稽だね、人間って喰われるしかないのに」

 

左目に「下壱」と刻まれていた。

虎咲達の到達まで、あと5分。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「虎咲!」

 

しのぶと共に若松町へ急行していた虎咲は焦っていた、

途中に鴉からもう既に多くの隊士が死亡している旨の報告があり、

これ以上の犠牲を出さない為、相当な速さで急行していた。

 

「虎咲!聞いてるの!?」

 

「なんだしのぶ!」

 

「私は怪我人を相手してていいの!?」

 

先程の会話で鬼を相手するのは虎咲だけで

しのぶは怪我人を相手する事を決めた。

 

「俺が怪我人を相手できると思うか?」

 

虎咲の目が紅く光る。

 

「…無理そうね」

 

そんな会話をしていると若松町が見えてきた、

一番手前の一軒家の壁は、もう虎咲のアンカーの射程内だ。

 

「俺は先に行く!しのぶは町民の避難と怪我人の相手をやれ!」

 

「無茶ね…いいわ!やってやるわ!」

 

威勢がいいな、まぁ怪我人の相手はしのぶの得意分野、俺が口出しする理由なんて無いわな、さぁ…建物がアンカーの射程内だ。

 

「さぁ行くぞ、鬼狩りのお通りだ」

 

アンカーを射出し建物に突き刺す、

飛翔しガスを噴射、抜刀し鬼を探す。

 

(あそこか)

 

そこら一帯が吹き飛んでいる場所に急行、

右の刃の調整をする、

 

(爆破範囲は40m…さぁ、やってやろうじゃないの)

 

ー似の呼吸、肆ノ型、圧縮窒素ー

ー似の呼吸、参ノ型、絶対領域・改ー

 

下弦ノ壱の目に刃を突き刺し離れる、

下弦ノ壱は悶えるがすぐに再生するだろう、爆発しなければだがな。

 

「おい!お前ら!」

 

少女隊士が3人、そこに固まっていた。

すぐさま絶対領域の範囲内に入れトリガーを引く。

刃が大爆発を起こし、そこら一帯の土地を抉る。

 

「…援軍の方ですか?」

 

蒼い羽織を着た1人の少女が訝しげに虎咲を睨む、

そりゃそうだ、今の虎咲は為虎傅翼を発動して

瞳は真っ赤に染まっている、側から見れば鬼の目そのものだ。

 

「?まぁ…援軍だけど…」

 

「その目で言われても説得力なんてありませんよ、虎咲」

 

蝶のようにヒラリとその場に着地したとは他でもない、

蟲柱胡蝶しのぶである。

 

「あれ?風華さんですか?」

 

しのぶは3人のうちの1人、橙色の蝶の髪飾りを付けた少女へ聞く。

 

「しのぶさんですか…どうですか?師範ってまだ怒ってます?」

 

「『次来たら絶対ただじゃおかないわ』って言ってましたよ」

 

マジか…と項垂れた少女、

だがココは鬼の目の前、ましてや下弦ノ壱だ。

こんなにゆっくり談笑なんかしている場合じゃない。

 

「てか俺思ったんだよね」

 

「どうした下弦ノ壱」

 

「俺って大治って言うんだけどさ」

 

何故自己紹介をしたのか、というツッコミはしないでおこう。

 

「どうして十二鬼月の俺ん前でこんなにゆっくり出来るのかなぁって」

 

それは確かに正論だ、大治は下弦ノ壱、

下弦最強の者が冠する称号だ。

ソイツの前でこんなにgdgdしてていいのだろうか…。

 

「なぁ大治…」

 

「どうしたんだいマント野郎」

 

ひっどい悪口には反応せずに答える。

 

「まだ日の出までは余裕があるよな…」

 

「まぁね」

 

「さぁ…殺し合おう、夜が明けるまで…命尽きるまで!」

 

ここに、下弦ノ壱と虎咲の戦いの火蓋が切って落とされたのだった。

 

「しのぶ!その3人を任せた!」

 

「わかったわ!逝って!」

 

なんだか不穏な感じに聞こえたがいいだろう。

虎咲は4人の期待を背負い戦闘へ赴いたのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ー1時間半後ー

 

「ねぇねぇ!ここなの!?」

 

1人の鬼殺隊の少女が、若松町に到達した。

 

「間違イナイ!ココガ若松町ダ!行ケ、真菰!」

 

「わかったわ!ありがとう!」

 

そう、虎咲の同期である鱗滝真菰だった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

無「てか本当にその目は鬼の様だな」

 

虎「お前も光ってるしな」

 

無「それもそうだな」

 

「「HA!HA!HA!」」

 

し「ヤバイわ、2人とも目が笑ってない!」

 

童「この人達の無表情に勝てる人や鬼は居ないだろうなぁ」

(某冨岡さんや時透くんは論外)

 



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第拾壱話 戦いの幕は降りる

やはりコイツの血気術は厄介だな…。

 

ー1時間前ー

 

「もう君だけで戦って30分以上も経っている、

増援は来ない、見捨てられちゃった?君」

 

コイツ!女に執着しない童磨みたいなヤツだ!

使う血気術も氷系、しかも粉氷まで使ってきやがる!

 

「やはりあの方に頂いた力は強い!人間など虫けら同然だ!」

 

「誰が虫けらだって…!?」

 

ーそして今ー

 

「お前ら人間だ!貴様らは虫けらの様にのたうち回る事しか出来ない!」

 

 

「そうか…使いこなせればいいんだがな!」

 

(実戦で使うのは初めてだが…通用するのか…?)

 

ー似の呼吸、壱ノ型、冬ざれ氷柱ー

 

無数の氷柱が、大治の身体を引き裂かんとする勢いで降り注ぐ。

大治は勿論避けたが、動揺から来る反応の遅れで

少し氷柱をくらってしまう。

 

「くっ…何故人間の君があの方の技を使えるんだ!?」

 

「簡単さ、“真似”しただけだ」

 

(それなのにここまで威力が同じなのは何故だ!?)

 

誰がどう見ても今の大治の様子は焦っている、

目の前の人間が、自分に力を与えた上弦ノ弐の技を使っている。

そもそも上弦が発する技を人間が使用すれば

体が追いつかず、身体の内側から崩壊するはずだ。

なのに虎咲はそれを乗り越えた、

冬ざれ氷柱を使っている時点でそんなものはわかっていた。

分かってはいた。ただ、脳がその事実を認めたくなかった。

人間如きが鬼、

ましてや上弦と同じ力を発揮するなんて認めたくはないだろう。

 

虎咲はチラッと首に下げていた懐中時計を見る、調査兵団時代の官給品だ。

時計の針は3時45分を指していた。

 

(今は夏だったよな…あと一時間近く…もつな)

 

ー似の呼吸、肆ノ型、圧縮窒素ー

 

辺り一帯を吹き飛ばし、大治も吹き飛ばす。

その爆風は大治の腕を消滅させ、粉氷も吹き飛ばす。

 

「何故だ!何故!」

 

大治は考える事すらままならい程、脳が限界を迎えていた。

 

「お前に無くて俺達にある物は、なんだと思う?」

 

「そんな物!あるわけ無いだろう!俺は鬼だ!完全な生物だ!」

 

ー翼の呼吸、壱ノ型、雲煙過眼・右翼ー

 

高速な一閃は大治の首を捉え切断、振り向いた瞬間に虎咲は言う。

 

「冷静さだ、どんな場面、どんな状態でも冷静さが無ければならない。

大治、お前にはそれが無かったんだよ」

 

大治の体は消滅を始める。それは、彼がこの世からいなくなるという事だ。

 

「冷静さ…かぁ、俺は地獄に行くのかな…」

 

「殺した人々への償いが終われば、また生を受けられるだろ…

次は道を踏み外すなよ、大治」

 

「あぁ…分かっているさ…虎咲…」

 

ー戦闘開始から2時間半、戸山虎咲により下弦ノ壱撃破ー

 

「カァー!カァー!戸山虎咲ニヨリ下弦ノ壱撃破ァ!」

 

「えぇ!?1人で!?」

 

救援に向かった真菰は、その伝令に驚きを隠せていなかった。

 

「ソウダァ!」

 

「ほんとに柱になっちゃうんじゃないかなぁ…」

 

真菰は徐々に遠ざかって行く虎咲に心配を覚えたが、

それは杞憂だとすぐに思った。

 

「ッ!虎咲!!」

 

そこには、戦闘後脱力して倒れていた虎咲がいた。

 

「ん…真菰か…?」

 

「うん!虎咲、大丈夫なの!?」

 

真菰は虎咲に駆け寄る。それを見た虎咲は、少し安心したように

 

「少し…眠りたい…」

 

虎咲は真菰に寄りかかり眠りについた。

 

「え!?ちょっと…!」

 

「zzz…」

 

「え、もう寝たの?」

 

真菰は虎咲に寄りかかられ一瞬嬉しがったが、

冷静になってみれば相当恥ずかしい事をされているのに気付き

顔をゆでだこの様に真っ赤に染めていた。

そこに今絶対に来ては行けない人物がやって来た。

 

「虎咲!ってか貴女誰ですか?」

 

そう、蟲柱胡蝶しのぶだ。

 

「えーっと…鱗滝真菰です…」

 

真菰からすれば、柱であるしのぶに声を掛けられる、

否隊律違反すら起こしていないのに

刀を向けられている事が理解できない。

 

「質問を変えます、何故虎咲に肩を貸しているのですか?」

 

「えーっと…」

 

「んーしのぶぅー」

 

虎咲が起きた、起きてしまった。

喩えるならアレだ、修羅場に何にも知らずに入ってきてしまった人だ。

 

「よーし、虎咲。尋問の時間だぁ」

 

「覚悟して虎咲、真菰さんとどこまでヤったの?」

 

真菰としのぶは顔や腕に青筋を浮かべ、張り付いた笑顔で虎咲に近づく。

 

「………は?」

 

その早朝、若松町に1人の少年の悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。

 

「うわー無いわー勘違いで人を襲うとか無いわー」

 

虎咲の目からは光が消え、狂った機械のようにその言葉を繰り返す。

 

「許してー虎咲ぅーしのぶが殺ったろうぜって言った来たから〜」

 

「ちょっと真菰!なんで私のせいなの!?」

 

「許すから喧嘩するんじゃありません」

 

「「喧嘩してない!!」」

 

「おー仲良いねー」

 

「「いいでしょ別に!!」」

 

本当に息合いすぎだろお前ら、

一緒に寝た寝てないで喧嘩しやがって。

しのぶに至っては何年前だ?5年以上も前の事だろ。

てか散々俺のこと鈍感野郎とか罵りやがったな。

 

「あーあまた緊急招集だぁヤダァ」

 

「虎咲なんだかんだで甲になってるわよね」

 

しのぶが虎咲に追い討ちをかける、

鬼殺隊での柱の条件は、

『甲であること』

『十二鬼月を倒す』又は『鬼を50体滅殺する』

であり、

虎咲は先月、町を寝ぐらにしていた鬼15体を一掃しており、

階級は甲にまで上がってしまった。

 

「え、じゃあもう柱になれるじゃん!」

 

真菰は同期から柱が輩出されることを喜んだが、

虎咲が柱になるという事は、それだけ任務の数も増え、

会う暇が無くなってしまう事を意味する。

 

「私、蝶屋敷で働いてもいい?」

 

「えっと…私はいいですけど、姉さんが許してくれるかどうか…」

 

そう、真菰も考えはこうだ。

 

『普通に会いに行っても会えない』

『だったら虎咲が住まわせてもらっている蝶屋敷に住めば良いじゃない』

 

そうこう考えるとこんな思考に辿り着いたようだ。

 

「まぁ…姉さんなら『まぁ!家族が増えるのね!』って言って

簡単に許してくれるわよね」

 

「えっと…話の流れが見えないのは俺だけ?」

 

やはり鈍感野郎虎咲、話の意図が全く理解出来ないようだ。

 

「虎咲だけですね」

 

「虎咲、こういう話を理解出来ないと一生鈍感野郎になっちゃうよ?」

 

しのぶと真菰から同時に言葉の毒が

飛んできたが気にしない、気にしない(泣)

 

「もう帰るか、なんだかんだ今日寝てないしな」

 

こういう時に限ってお館様は俺を呼ぶ。

 

「カァー!戸山虎咲ヲ産屋敷邸二連レテ行ケェ!」

 

「あーもヤダ、死んだフリする」

 

「虎咲、行きましょうね?」

 

「……」

 

「仕方ないですね、真菰、手伝ってくれる?」

 

「持ってけばいいんでしょ?」

 

「えぇ、お願い」

 

こうして虎咲は美女2人によって産屋敷邸へ連行されたのだった。

 

「あぁ…嫌なんじゃあ…柱になんかなりたくないのじゃあ…」

 

虎咲は期待されるのが嫌いだ、現に柱という鬼殺隊で最も期待される立場に立ちたくないというのが証拠である。

 

「いいじゃん柱だよ柱!」

 

「私は虎咲が柱になっても別にいいんですがね」

 

真菰としのぶは、虎咲が柱になっても強いから問題無いと言うが、

虎咲は強いかどうかを心配している訳では無い、期待されるが本当に嫌なのだ。

彼の嫌いな物上位3位は「裏切られる事」「期待される事」「人を殺す事」なのだ。

「人を殺す事」、これは彼の過去が関係してくるが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第拾弐話 お久しぶりですお館様ァ!!

「あー着いちゃったーもーやだーやめてー」

 

虎咲はまた狂った機械の様に同じ言葉を繰り返していた。

 

「オイ胡蝶、集合時間はとっくに過ぎている。

何処で何をしていた、伝令を聞いていなかったのか?」

 

蛇柱、伊黒小芭内がネチネチとしのぶに絡む、

今に始まったばかりでは無いが、

伊黒のしつこさは有名だった。

しのぶは気にしていなさそうに振る舞うが、

伊黒は気付いてしまった、虎咲を持つしのぶの手が腕にめり込んでいる事を。

 

(戸山…腕の傷を鷲掴みにされてるじゃないか…)

 

伊黒は心の中で静かに手を合わせ、何もなかったかの様に振る舞う。

 

「…何もこの馬鹿が散々ごねまして、少々いや結構遅れてしまいました」

 

この馬鹿とは紛れもない虎咲の事なのだが、

虎咲は大治戦での腕の傷がしのぶに鷲掴みにされているので

そんな悪口に耳を傾ける余裕なんぞ無かった。

 

「オイテメェ、戸山とか言ったな」

 

「えぇそうですけど」

 

「お前…「「お館様の御成です!!」」イヤ、何でもない」

 

風柱、不死川実弥が何かを言いかけたが、

双子の少女がお館様の登場を知らせた。

不死川はお館様に忠実なのですぐに跪く。

 

「やぁ私の可愛い剣士達、今日も顔が見れて嬉しいよ」

 

「して、本日はどのようなご用件で我々をお集めなさったのですか」

 

流石不死川、未だにその手のひらクルックルワイパーは健在か。

 

「今日も虎咲についての会議なんだよね」

 

嗚呼、終わった。もう鬼殺隊なんか辞めてやろうか。

 

「下弦ノ壱を一人で討伐し上弦ノ弐をも退けた。

虎咲、君を翼柱として任命したい。いいかい?」

 

「お館様、今まで柱は9人まででした。

今、もう柱が9人いる時点で10人目の柱なんぞ必要なんでしょうか」

 

やはり虎咲だ、こういうのはよく気付く。

 

「私はたとえその慣例を壊してでも鬼無辻無惨を殺してやりたい。

近いうちに、いや私の代で終わりにしたいんだよ、虎咲」

 

「…はぁ…少なくとも1年は待つって言ってたじゃないですか」

 

虎咲は溜息を吐きながら観念したように声を出す。

 

「やってくれるのかい?」

 

「……分かりました、戸山虎咲、翼柱を拝命致します」

 

ついに翼柱、戸山虎咲がここに誕生したのだった。

 

「ですがその前に、俺の過去を知ってもらっても良いでしょうか」

 

「え?君は北豊島郡の滝野川で「それより前です、お教えしましょう」…」

 

「これは今まで誰にも言ったことがありません」

 

俺の過去をー

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ー埼玉県朝霞市陸上自衛隊朝霞駐屯地ー

 

全てはあの悪夢の緊急招集から始まった。

 

夜が明けきれていない深夜3時、

サイレンと共に、宿舎内にけたたましい招集放送が鳴り響いた。

 

「緊急招集!緊急招集!普通科、岩泉涼!狙撃科、戸山祐太!至急、大隊長室へ!」

 

「どうした涼、なんかやったのか!?」

 

「富士でヒトマルの砲身を勝手に洗ったのがバレたのかな!」

 

こういう時でもユーモアを忘れないのが岩泉涼、

防大時代の同期で普通科に所属している。

 

「普通科岩泉涼!入ります!」

 

涼がドアをノックし、

大隊長の「いいぞ!」という声が聞こえた瞬間に中へ入る。

 

「普通科の岩泉涼です!」

 

「狙撃科の戸山祐太です!」

 

「まぁそんなに硬くなるな」

 

そう言い聞かせるのは、大隊長である磐田智一等陸佐。

俺達の頼れる上司だ。

 

「突然だが…秩父に行ってくれないか、

某国のスパイがそこに逃げ込んだそうだ」

 

「スパイ…ですか…」

 

「君達の任務は、スパイを探し出し抹殺する事だ、

辛い任務だが、上からの指示だ。行ってくれ」

 

「「了解」」

 

二人は立派な敬礼を智に向け、

一路武器庫へと向かったのだった。

 

「スパイ…か」

 

「そうだな、突然だったが、行こうぜ」

 

祐太は狙撃科の相棒、M24を担ぎ車庫へと走っていった。

 

「さーて俺も…」

 

涼も普通科の相棒である89式を運び出し、

祐太を追いかけ車庫へと向かった。

「運転手、秩父に向かってくれないか、大至急だ」

 

「秩父のどの辺ですか!?」

 

「何処でもいい!とりあえず秩父だ!」

 

「りょ、了解!」

 

ー1時間後ー

 

「祐太、司令部から通信、『目標は秩父さくら湖』だ!」

 

「おけ。運転手、秩父さくら湖って何処だ?」

 

運転手がナビを見る、最寄りまでの最短ルートを探す。

 

「あった…こっちを左」

 

「ここか…」

 

「運転手、ありがとう。あとは自力で探す」

 

涼と祐太は、ガスマスクを着け自分の装備を担ぎ出し

車から飛び出して行った。

 

「どうかご無事で…」

 

運転手は遠ざかって行く二つの背中を見えなくなるまで見続けたのだった。

 

ー15分後ー

 

「いた、あそこだ」

 

『目標発見、これより始末する』

 

体型は30代前半男性といったところか、

あれがスパイとはなぁ…。

 

「おいアンタ」

 

声をかける、どうせ逃げたところで

森田一佐が展開させた部隊が殺すに決まっている。

 

「自衛隊の方ですか、私を殺しに」

 

この人の声は全てを諦めたような声だった。

 

「もう1人居るんです、私と同じく命を狙われている人が」

 

男は何処か遠い目をして言い放つ。

 

「アンタは某国のスパイとして潜入してきた、というのは?」

 

上によればこの男はスパイとして処理しろと言われたが、

この男がスパイとは誰が見ても分かるはずが無かった。

 

「冤罪だよそんなの、国家の黒いとこ見たらこれだ」

 

国の黒いとこというと…賄賂や横領とかか…。

 

「もう1人もそうなんですか…」

 

「あぁ、彼も同じだったよ。なぁ兄ちゃん、俺を殺してくれねぇか」

 

なんと許しを乞うのではなく、殺してくれと頼み込んできたのだ。

 

「何故だ、冤罪だと裁判で言えばいいじゃないか」

 

「国がアンタら使って俺らを追ってる時点で公権力はグルだろうな」

 

「犯罪者になるくらいだったら今殺されたいっていうことか」

 

なんとももっともな考えだ、でもー

 

「家族はいいのか?」

 

「もういない、20歳の時点で天涯孤独だよ」

 

「そうか、では、許してくれ」

 

「あぁ、頼む」

 

M24を地面に置き、腰のホルスターに入れていた9mm拳銃に手をかけ、

サプレッサーを装着して男に向ける。

 

「すまん…」

 

サプレッサーで抑制された射撃音が2発響き、

男は血を流して倒れた。

 

(何故国民を守る為の自衛隊が国民を殺しているんだ…)

 

「…こちら戸山祐太、目標を排除…」

 

『ご苦労、帰還しろ』

 

「了解…」

 

無線のスイッチを切り、死体に向かって1人呟く。

 

「辞めるか…陸自…」

 

車に乗り込み朝霞に戻る道中、何にも喋らなかった。

俺も、涼も、何一つ喋ろうとしなかったのだ。

ただ、報告書にはこう書かれていた。

 

消費弾薬9mm弾4発…と。

 

 

 

 

 



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第拾参話 血塗れた過去

「大隊長、ただいま帰還しました」

 

「ご苦労、休んでいいぞ」

 

2人は大隊長室を後にし口を開いた。

 

「涼、殺したのか?」

 

「あぁ、お前もだろ?」

 

やはり殺していた、

消費弾薬が4発だったのは涼が撃っていたからだった。

 

「なぁ、俺は引退するよ」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

涼も引退するそうだ、理由は聞かないでおこう。

 

「大隊長」

 

大隊長室へ行き辞表を提出する。

 

「あの任務か…スパイを殺して国を守った、そこだけは誇ってくれ」

 

「はい、戸山祐太及び岩泉涼、退職いたします」

 

「あぁ、お前たちはまだ若い、どこかでまた働いてくれ」

 

「はい、失礼します」

 

2人は振り返りドアを開ける。

部屋を片付け、門を出る。

 

「じゃあな、涼」

 

「あぁ、元気でな、祐太」

 

2人は和光市駅で別れ、別々の道へ進む。

 

「菊名、菊名です、お忘れ物の無いようお支度ください」

 

自動放送が、自宅最寄りの菊名への到着を促した。

最近はずっと聞いていなかった音声だ、懐かしい気さえした。

 

(何故俺は国民を殺したのだろうか…彼を殺したのは命令だったが、

そこまで隠したい事とは何だ。嗚呼、少し海風にあたりたい)

 

「ドアが閉まります、ご注意ください」

 

祐太は電車からは降りること無く、菊名駅を見送った。

 

「次は、横浜、横浜です。

JR線、京急線、相鉄線、横浜市営地下鉄線はお乗り換えです。

 

祐太は何も考えなかった、

ただただイヤホンから流れる音楽を聴いているだけだった。

 

「横浜、横浜です。ご乗車ありがとうございました」

 

自動放送は、東横線特急の次の駅である横浜の到着を告げた。

 

(なーんで俺、海風にあたりたいって思ったんだろう)

 

高島公園でため息を吐き一休み。

 

「はぁ…帰るか…」

 

祐太は腕にある時計を覗く。

午後5時、まだまだ電車は動いている。

渋谷方面に向かう電車は混雑率がとんでもない事になっているが。

 

「はぁー…」

 

遠くからパトカーのサイレンが聞こえる、

この直後、サイレンが嫌いになったのは言うまでも無い。

 

「なぁ…あの車」

 

「えぇ…ずっとここら辺走っているわよね…」

 

「あれ見なよ、ヤバくない?」

 

人々は交差点を渡る事なく1つの暴走車に注目していた。

 

(なんだ、ここ稀に見る暴走車か…)

 

『そこの車!止まりなさい!』

 

パトカーが必死にスピーカーで呼びかけるが、暴走車は全く耳を貸さない。

 

「待って、こっち来るくね?」

 

「ヤバイ!こっち来る!」

 

そう、何を隠そうその暴走車は歩行者の列へ突っ込んで来ようとした、

祐太達の列に。

 

「キャアァァァァァアアア!!」

 

「嫌だ!まだ死にたくない!」

 

辺りは一瞬でパニックに陥る、全員が一気に交差点から離れようとするが、人の波はそう簡単には動かない。

そこで祐太は見たのだ、1人の女子高生だろうか?彼女が固まって動けなくなってしまっているのを。

 

(あの進路じゃ…確実に轢かれる!)

 

祐太は走って女子高生の元にたどり着き突き飛ばす、

しかし、頭から飛び込んだので立ち上がる時間は、無い。

暴走車はそのままガードレールに突っ込み停止した。祐太や3人の少年少女を巻き込んで。

パトカーから4人の警官が降りてきて、

2人は暴走車の運転手の元へ、もう2人は祐太の元へ走ってきた。

 

「大丈夫ですか!しっかりしてください!」

 

「うっ!何てこった!」

 

(なんだ?やっと捕まったのか…)

 

「ガードレールの破片が刺さってる!誰か!救急車を呼んでくれませんか!?」

 

流石の警官も焦る、彼らも人を死なせたくなんか無いんだろう。

 

「もう呼びました!」

 

辺りには血が流れ出し、歩行者を守るためのガードレールは木っ端微塵になっていた。

 

「すいません!本当に!お願いだから起きてください!」

 

あの女子高生は生きていた、本人も腕に擦り傷が目立っていたが、

目の前の祐太の方を先に心配していた。

 

「君…か…助けられ…て…よ…か…った」

 

「そんな言葉病院で聞きます!今は生き延びてください!」

 

「もう…ダメ…だ…人がどれ…だけ血…を流したら…死ぬ…こと…ぐらい…俺でも…わかる」

 

女子高生の目から涙が溢れ出る、彼女も嫌だろう、自分を救ってくれた人物が目の前で死んでしまうなんて。

 

「最期に…手を…握って…くれ…ない…か…?」

 

「今もこの後も握るので生きてください!」

 

「ごめ…ん…ね…」

 

「…え?ちょっと…嘘!」

 

ー戸山祐太、享年25ー

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ーとまあこれがこの世界に来るまでの流れですね」

 

戸山祐太こと戸山虎咲は簡単に話を締める、

いつの間にか話を聞きにきたお館様の奥さんであるあまね様は目を潤ませ、

甘露寺は滝の様に涙を流し、お館様は普段見せない驚いた表情をしており、

いつも通り煉獄は「よもやよもや」と言いまくり、

風柱は「嘘だろ?」とか言いたげな顔をしていた。

とみぎゆさんは…うん、いつも通り無表情だ。

 

「君は国民を守る自衛隊という組織で働いていたが、

命令で無実の人を殺してしまった。

その後何故国民を守るはずが殺しているのかが悩ましくなり横浜へ行き、

落ち着いて帰宅しようとした所で少女を助けて死んでしまった…という訳だね?」

 

流石お館様だ、一瞬で会話を要約してしまった。

 

「はい、10年以上も前なのに今でも覚えています。

引き金を引いた時の手の感じ、減音器から出た小さな射撃音、

血を流し倒れた男性、何もかも全て覚えています」

 

「……」

 

輝哉は黙って虎咲の話を聞く、

 

 

「何故あの時自分は引き金を引いてしまったのか、命令に逆らえなかったのか」

 

「どうしてだい?」

 

輝哉はゆっくり聞く。

 

「恐ろしかった…あの事件の真相が…。

国があんな事をするなんて…思いもする訳ない!」

 

虎咲は珍しく声を荒げる。彼自身、15年以上も抱え込んできた物なのだ。

 

「そう…でも虎咲は国民を1人殺してしまったけど、1人の少女を助けた。

君はしっかり国民を守ったんじゃないか?」

 

輝哉は諭すように虎咲に問いかける、彼のした事は間違っていなかったと。

 

「…長い間ずっと考えていたんです、家の屋根に登ったりしながら」

 

「そう…よかったね、これで解決だ。言いたいこと言ってスッキリした?」

 

「ありがとうございます、こんなに時間を貰ってしまって」

 

「いいよ、虎咲の昔話が聞けただけで満足だ。では、解散」

 

「「「「「「「「「「御意」」」」」」」」」」

 

すでに日は高く上り、柱達は各々の帰路についたのだった。

 

ー翌日の朝ー

 

「あの!すいません!」

 

「…誰だ」

 

「鱗滝左近次さんですか…?冨岡義勇という人に言われて来ました…」

 

「……」

 

少年が来る前、鱗滝に義勇から手紙が届いた。

 

ー略啓、鱗滝左近次殿。

鬼殺の剣士になりたいという少年をそちらに向かわせました、

丸腰で私に挑んでくる度胸があります。

身内が鬼により惨殺され、生き残った妹は鬼に変貌しておりますが、

人間を襲わないと判断致しました。

この2人には何か他と違うものを感じます。

少年の方は貴方と同じく鼻が利くようです。

もしかしたら、突破して受け継ぐことが出来るかもしれません、

どうか育てていただきたい。

手前勝手な頼みとは承知しておりますが何卒御容赦を。

御自愛専一にて精励くださいますよう、お願い申し上げます。

匆々、冨岡義勇ー

 

今ここに、鬼との戦いに終止符を打つきっかけとなる少年が現れることとなる。

その少年の名は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れ禰 豆子…!兄ちゃんが助けてやるからな!」

 

竈門炭治郎、耳に花札のような飾りを付けた1人の少年と少女こそ、

この戦いに終止符を打つきっかけとなったのだ。

 



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第拾肆話 柱最初の任務は山の巡回でした

虎咲はいつも通り立体機動装置に三八式、マントを羽織り蝶屋敷を出る。

しかしいつも通りでは無い点が1つだけある、

今回は冨岡さんと共に巡回に出る。

この人はカナエさんとすごく仲が良いのだが、

未だ冨岡さんから「好きだ」と伝えた事が無いらしい。

カナエさんは会うたび言ってるらしい、というかしのぶから聞いた。

 

「この山か…」

 

「(虎咲、お前は確か真菰と仲が良いと聞く。あいつもいい奴だ、

どうか真菰を)よろしく頼む」

 

「こちらこそよろしくおねがいします」

 

「(了承してくれて)嬉しい」

 

「?(何が嬉しいんだ?)」

 

冨岡さんは言葉が少なすぎる、それはカナエさんから聞いている。

しかし、こんなに会話が噛み合わないとなるとそれは致命的では無いだろうか。

 

『ぎー君はね、顔はいいけど口下手なのよねぇ』

 

本人の前で言えばいくら口下手な冨岡さんでも口を開くだろう。正直に「やめろ」と。

 

「さぁ…二手に別れましょう、冨岡さんはあっちを」

 

虎咲は自分の進行方向と真逆の方向を指差し、義勇はうなずき

 

「(初めての巡回だからそこまでしなくてもいいのだが…)わかった、抜かり無くな」

 

「はいはい分かってますよ」

 

2人は別々の方向に走り始めた。

 

(こんな山に鬼って出るのか…いたわ)

 

肩に掛けていた三八式に手をかけ、足を止める。

いつも通り挿弾子を薬室に送り込み、コッキングレバーを押し戻す。

 

「フゥー…」

 

深呼吸をして、狙いを定める、狙いは勿論奴の首。このぐらいの距離なら大して弾道に変化は無いはずだ。

 

ガキャ!

 

三八式は明らかに変な音を立てた。

 

(詰まりやがった!)

 

急いでボルトを後退させ、弾丸を取り出しコッキングレバーを押し戻す。

 

(クソ、まだそこにいろよ…)

 

ダァン!!

 

今度は問題無く弾丸が放たれ鬼の首に直撃する。

 

「ヒット…エネミーダウン」

 

自衛隊時代の号令を零す、懐かしいものだ。

 

(お、群がって来たな…)

 

周りの鬼がその場で慌てふためくが、虎咲にはそんなもの関係無かった。

三八式はガチャン!と心地の良い音を立て、虎咲は引き金を引いたのだ。

 

ー義勇sideー

 

ダァン!!

 

(射撃音…虎咲の持っていた銃のものか?)

 

義勇は、射撃音がした方向へ急行した。

 

「…」

 

道中に血溜まりが出来ており、義勇は足を止めた。鬼は、いなかった。

だだ鬼のものであろう血痕は、その場にこびりついていた。

もし虎咲が弾丸を全ての鬼の首に直撃させたのならば、

これは全て虎咲が殺ったという事になる。

至近距離から撃ったのならば、別の鬼が気付き喰い殺される。

だとすれば虎咲は喰われない程度、気付かれない程度の距離から銃を撃ったことになる。

それほどの射撃精度…虎咲がどれだけ凄いのかを義勇は思い知った。

 

ー虎咲sideー

 

「さーって確認確認、おーちゃんと撃ち抜けてるー」

 

「…これは虎咲がやったのか?」

 

血溜まりが出来ている場所、さっきいた鬼達を射殺した時にできたものであろう。

そこには水柱、冨岡義勇が立っていた。

 

「あ、えぇ、あの岩から撃ちました。てか居たんですね」

 

虎咲は1キロ程離れた岩を指さした、義勇は信じられないという顔をしていた、普段滅多に顔に出さない義勇がである。

 

「それは…凄いな…」

 

この言葉は裏が無いし、言えてない単語も無い。義勇が自分から言った褒め言葉だったのだ。

 

「そう言ってもらえると嬉しいです」

 

虎咲は顔いっぱいに笑顔を広げ、義勇からの称賛を喜ぶ。

 

「あ、そういえば…」

 

虎咲が何かを言いかける。

 

「冨岡さんってカナエさんと仲良いじゃないですか」

 

「…まぁな」

 

「どこまで行ったんですか?」

 

(!?!?!?!?)

 

義勇は真顔だが、明らかに脳内は混乱状態に陥っている。

辛うじて言えたのはこの言葉だけ、(お前は何言ってんだ)と。

しかし、この言葉が義勇の口から出ることは無かった。

 

「失礼、しのぶが貴方とカナエさんが恋仲だと言って来たのでね、

個人的に少し気になったので聞いたんですよ」

 

「胡蝶か…後でカナエに叱らせらければならないな」

 

「冨岡さんって面白いですよね」

 

不意打ちで悪口を吐かれる、

流石にしのぶの「そんなんだからみんなから嫌われるんですよ」よりは

マシだったが、これもこれで堪える。

 

「何故そんなに無表情なんですか?笑ったところ一度も見た事ないですけど」

 

「……」

 

姉を失い親友である錆兎まで失った義勇は、感情を捨てた。

まるで錆兎が死んでから時間が止まってしまったように。

 

「まぁ…それも人それぞれですけど…」

 

「分かってくれたら嬉しい」

 

2人は山を降りる。

彼らは後に共闘しある鬼を滅殺する事となるのだが、それはまた別の話。

 

ー蝶屋敷ー

 

「ただいまー」

 

「あ、虎咲じゃないですか」

 

しのぶが屋敷の玄関まで歩いてくる。

 

「髪型変わった?」

 

しのぶの髪は解かれ、うなじが隠れる程度の髪になっていた。

 

「今しがた風呂に入って来たんですよ、虎咲も入ります?」

 

「…あぁ…入ってくる」

 

虎咲は装備を自室に置き、そのまま風呂場へ直行したのだった。

 

「…はぁー…」

 

風呂に入った虎咲は、ため息をついてある事を考えた。

 

(今日三八式を使って思った事がある…狙撃眼鏡が欲しい!)

 

尚、元の世界ではこの時期まだ狙撃眼鏡、

すなわちスナイパースコープは日本でまだ開発が完了しておらず、

完成したのは昭和12年、制式採用されたのは昭和13年の事である。

記憶が正しければ大正に開発し始めたはずだ。

 

(まだ最初期型の試作も終わってない時期だからな…昭和13年まで鬼とは戦いたくないしな)

 

虎咲は正直、あんな化け物達とは長く戦いたく無かった。

 

「……上がるか」

 

虎咲は風呂場を出て、いつも通り自室に戻り三八式の整備を始める。

 

(流石に…寝たよな…?)

 

虎咲は、ある事を警戒していた。

そう、この前の騒ぎである。

 

「ふぅー」

 

「ああああああまたかよぉぉおおおお!!」

 

また、だ。しのぶは昔から懲りない。たった一回やめろと言われても奴は絶対にやり続ける。

 

「いやぁ面白いですね〜虎咲」

 

口を隠して笑うしのぶ、普段は何故か張り付いたように微笑み続けているが、

虎咲の前での笑顔は本心からの笑顔だ。

 

「やられるこっちは面白くとも何ともないんだが?」

 

虎咲は机に肘をつき、頬杖をついて言う。

 

「ふふふ、すいません。今回は部品を失くさなかったのですね」

 

「あれは俺も悪いし、しのぶも悪かったからな」

 

ついこの前起きた事件(笑)を2人で思い出す。

 

((あれは…))

 

「もうやめてくれよ?ただでさえ髪解いて普段と格好変わってるんだから」

 

「いいじゃないですか、もう寝ましょう」

 

「あぁ、おやすみ」

 

しのぶはおやすみなさいと返しながら、虎咲の部屋の扉を閉めたのだった。

 

ー翌朝ー

 

「ーという訳でこれから蝶屋敷でお世話になります鱗滝真菰です、

よろしくお願いします!」

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

蝶屋敷の食堂で、真菰の歓迎会が開かれた。

 

「あれ?虎咲は?」

 

「虎咲ならまだ寝てるんじゃないでしょうか、少し見て来ます」

 

しのぶが食堂を出た瞬間、反対側の扉から義勇を抱えた虎咲が現れた。

 

「…冨岡さんじゃないですか」

 

真菰が声を掛ける、そこに突っかかるのはー

 

「あらぎー君じゃないの、ありがとね虎咲君」

 

元花柱胡蝶カナエだ。虎咲は彼女の頼みによって、

義勇を叩き起こし、彼の屋敷からここまで引っ張って来たのだ。

彼が不憫に見えたのはすみやアオイだけでは無い。

妹弟子である真菰や、連行してきた虎咲でさえも義勇を見て「可哀想だなぁ」と思っていた。

 

「…カナエ、その呼び方をやめろと半年前と2ヶ月前に言ったはずだが」

 

「いいじゃないの別に、呼びやすくていいわよ?」

 

義勇は内心、(そういう事じゃねぇよ)と思ったが、

カナエには何言っても無駄だというのはもう分かってしまっているので、放置する事を決めた。

 

「で、何だこれは…」

 

義勇からしたら、今日は一体どんな状況になっているのかさっぱりわからない。

寝ていたらいきなり虎咲に叩き起こされ、蝶屋敷に連行され、

連行されたと思ったら隊員の前でぎー君呼ばわりされた。

もう脳の処理速度が、今起きている事柄に追いついていなかった。

 

「真菰さんが蝶屋敷に引っ越してきたからその歓迎会をやってるのよー」

 

そこに、どうしてだか知らんが顔と腕いっぱいに青筋を浮かべたしのぶが現れた。

 

「…胡蝶か、どうした?」

 

「冨岡さんじゃないですか、姉が世話になってます、その前にあそこにいる虎咲に話があるのでいいでしょうか」

 

「…構わない」

 

ヤバい、俺怒られるやつだ。

 

「虎咲、ちょっと表に来やがれです」

 

終わった、こういう時しのぶは本気で怒っている。

誰も見た事ないぐらいに…。

 

しのぶは、虎咲が「痛い!痛い!」というのもお構い無しに玄関から

放り投げ、

 

「虎咲、何で私が怒っているか、分かりますよねぇ!?」

 

「………ハイ」

 

「何故許可も無く屋敷を出たんですか!?しかも早朝!」

 

「カナエさんに言われたんだ、冨岡さん掻っ攫って来いって」

 

しのぶの怒りの矛先はカナエに向く。

 

「姉さん〜……」

 

流石のカナエも目を逸らすが、しのぶはお構い無しに

 

「また!?すみ達の時にもカナヲの時にも言ったでしょ!?

隊士を使って冨岡さんを掻っ攫って来るなって!」

 

「いやぁ今回の虎咲君は柱だし良いかなって…」

 

「ダメに決まってるでしょ!?聞いた事ないわ!柱が柱を掻っ攫うなんて!」

 

「ごめんね〜これからはしないから!ね?ね?」

 

「うー…だったらいいけど…」

 

こうして真菰歓迎会はすぐに修羅場と化したが、

真菰本人がその寸劇を楽しんでいたので、特に問題も無くお開きとなったのだ。

 



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第拾伍話 暇を持て余した真菰と縁側の見世物

ここに、蝶屋敷という広い屋敷で暇を持て余した3人の少年少女がいた。

彼らの名前は、虎咲、真菰、しのぶ。

晴天の昼間は鬼が出るわけでは無いので、当然のように暇している。3人は縁側に座り、ぼーっと外を眺める。

 

「……ねぇ…何か…喋ろ?」

 

この静けさに耐えられずに声を出したのは真菰。だが、虎咲は真顔で、しのぶは微笑みながら外を見ていた。

 

「ねぇ!」

 

真菰は耐えられず声を張り上げる。

 

「虎咲は冨岡さんに断られたからって拗ねない!しのぶもカナエさんに断られたからって拗ねない!」

 

虎咲は義勇に鍛錬して欲しくて、しのぶはカナエに毒の研究を手伝って欲しくて

それぞれ頼み込んだのだが断られてしまい、仕方なく縁側で時間を潰す事にしたのだ。

 

「うー…拗ねて無いぞー」

 

「そうですよぉ…私が拗ねる訳ないじゃないですかぁ…」

 

17歳と16歳の2つのお団子は、縁側に丸まってしまった。

 

(…こんなに柱ってだらけるの?)

 

「…病室の人達に会いに行けば?」

 

「あ、それいいですね。真菰は天才ですか?」

 

「行くか…ここで縁側の見世物に化すのも嫌だしな」

 

3人は縁側を離れ、病室へと向かったのだった。

 

「こんにちはぁ!」

 

「えぇ!?真菰さん!?しのぶ様!?虎咲様!?」

 

当然のように当番だったアオイに驚かれる3人。

 

「アオイちゃん〜この2人が縁側の見世物と化してたからさ、

暇潰しに回復の具合を見に来たんだよね」

 

縁側の見世物という言葉が何を意味しているのか分からなかったアオイだが、

この2人が今朝どんな目に遭っているのか知っているので縁側で幽体離脱でもしてたんだろうなと勝手に解釈した。

 

「じゃあ、うるさくしないならいいですよ」

 

アオイはしのぶと虎咲を見る。

 

「しのぶ様、あなたも例外じゃないですからね」

 

「分かってますよ」

 

しのぶ様は流石に病人の前では暴れないだろう、これがアオイの考えだ。

だが隣に危険分子が立っている以上、暴れる可能性も零ではない。

 

「特に虎咲さん?ちゃんと黙っていやがれくださいね?」

 

「アッハイ、てか出ていきます」

 

虎咲はそう言いながら180度真逆を方向に歩き、病室の扉を閉めたのだ。

 

「はぁー…あの感じじゃまた1人で縁側の見世物と化すよ」

 

「そうですね…まぁ放っときましょう」

 

この時、アオイは聞いた。近くの草地の方向から大爆発したような揺れと音を。

 

ー草地ー

 

虎咲は、爆炎が晴れるのを待っていた。圧縮窒素の最大威力を試してみたのだ。

 

「ー威力十分過ぎるな、これならヤツを吹き飛ばせる」

 

爆炎が晴れると、そこには半径200mの草木が消滅している光景が広がっていた。

ヤツとは紛れも無い上弦ノ弐のことだが、虎咲にはしのぶの様な突き技を使えるわけでも無いので、

一体どのようにして奴の体に刃を打ち込むのかを考えていた。

 

「そうかこれならー「虎咲!!」あっやべ」

 

虎咲は本能的に逃げる、しのぶは追いかける。

 

「虎咲!何ですかこれ!説明しやがれください!」

 

「虎咲!止まらないとおはぎ無しだよー」

 

真菰が間延びした声で虎咲を引き止める。虎咲、一瞬止まる。しのぶはそこを見逃さなかった。

 

(チョロいぜ虎咲)

 

真菰は心の中でガッツポーズを決めて喜ぶ。

 

「あやっべ、うぎゃあああああ!!」

 

「真菰ありがとね、何してくれるんですかこの阿保虎咲!!」

 

「対応の差が激しい!」

 

虎咲はしのぶに殴られ、気を失ったのだった。

 

ー2時間後ー

 

しのぶが殴って気絶させた虎咲は病室では無く、自室に運ばれた。

しのぶが「起きた瞬間謝りたいから」と言って虎咲の部屋に運んだのだった。

 

(…こうすれば起きるんじゃないでしょうか)

 

しのぶはそう思い息を虎咲の耳に吹きかける、するとー

 

「!うわあああぁぁぁあ!!」

 

おめでとう!こさくはとびあがった!

 

「もうやめるって言ってたじゃねぇか!」

 

「あはは…ごめんなさい」

 

しのぶは笑ったが、すぐに謝る。

 

「まさか殴られて気絶するとはなぁ…まぁしのぶは突き技が凄いからな」

 

「ほんとにごめんなさい!」

 

しのぶは頭を下げて謝る、まさか本人も倒れると思っていなかっただろう。

 

「もうやめてくれよ?」

 

「耳に吹きかけるのは続けますがね」

 

「…え?」

 

しのぶは虎咲にとって死刑宣告と同等の言葉を発した。

 

「だって面白いからいいじゃないですか」

 

「いややられる側は面白くないって言ったそばからああああ!!」

 

またやりやがった。これから先この刑からは逃れられないだろう。

 

「いい加減にしろって…」

 

「あんなに飛び上がるなんて知らなかったんです」

 

前々から耳が弱いと散々言い聞かせてもこのザマだ、

生きている間は永遠にやられるなこりゃ。

 

「あー…今は夜か?」

 

「えぇ…さっきお館様の鴉が来て」

 

『伝言。虎咲、君ハ少シ休ンデクレナイカ、倒レタラ元モ子モナイデショ』

 

「って言ってました」

 

「…余程お館様は俺のことを心配してくれるんだな」

 

「そうですね…街に行きませんか?」

 

蝶屋敷がある小山の麓には、小さくはないが大きくはない街がある。一度行ってみたが、浅草程ではないが栄えていた。

 

「行くか…真菰、いつまで覗いてるんだ」

 

虎咲は少し開いていた扉を引いて開ける。

 

「なんでバレたの〜」

 

扉に寄りかかっていた真菰は、虎咲の胸に飛び込む様な形で倒れる。

しのぶの顔に青筋が浮かび上がった。

側から見れば虎咲が真菰に抱きつかれた様な格好になっていたからである。

 

「虎咲?真菰だったから許しますけど他の女性だったら…分かってますね?」

 

しのぶは脅しでもある言葉を虎咲に振りかける、何言ってんだ、それじゃあまるで俺がしのぶと真菰をー

ここから先は考えたくない、まるで現実になりそうだからだ。

…真菰が止めてくれるに違いなー

 

「私も!しのぶと私以外は許さないからね!」

 

ーいというのは気のせいだった。え?何言ってんだ2人共。

俺以外にもっといい男はいるからそこに嫁入りすればええやん。

 

「え?それってまるで2人が俺の事想ってる事になるけど…そんな訳ないよな?」

 

しのぶと真菰は顔を見合わして、虎咲を見る。

 

「「……虎咲の鈍感野郎!!」」

 

「えぇ…」

 

2人に悪口を吐かれた虎咲は、困惑しながら蝶屋敷の門を出たのだった。

 

ー街にてー

 

ワイワイガヤガヤワイワイガヤガヤ

 

「浅草程ではないけど…この街も活気があっていいな」

 

虎咲は、昔両親に連れていってもらった浅草の風景を思い出し、

懐かしんだ様に街を眺める。

 

「虎咲って浅草行ったことあるんだね〜」

 

真菰は感心した様に喋るが、

しのぶはその思い出が虎咲の両親との思い出だというのを悟り、

あえて口に出さなかった。彼を辛くさせないためにも。

 

「まあな、しのぶは行った事あるのか?」

 

「私ですか?行った事ないですね」

 

「じゃあ虎咲だけだね〜」

 

「今度3人で行ってみるか?」

 

「「賛成」」

 

歩いている途中浅草に行く約束をした3人は、街の中心の通りへ出る。

 

「色んな店があるんだな」

 

呉服屋や甘味処、雑貨屋や本屋など、

この街だけで生活用品を調達出来るほどだ。

 

「あれは…ピアノですかね」

 

しのぶが指差すのは、街の中心にある居酒屋の前に置かれたピアノ。

 

「ピアノねぇ…弾いてみたいな」

 

虎咲は現世での経験で、ピアノが上手かった。

彼の演奏は、凄いものである。

 

「ねぇ親父さん、そこのピアノって弾いていいかい?」

 

「どうした兄ちゃん、アレ弾きたいのかい?

いいぞ、弾いてってくれ!みんな!兄ちゃんがピアノ弾くってさ!」

 

宴会をしていただろう老若男女が捲し立てる。

彼らは酔っているのだろうか、ほんのり顔が赤い。

 

「虎咲ってピアノ弾けるのね」

 

「ここ10年弾いてないけどな!」

 

真菰は、虎咲としのぶの話し合いの結果虎咲の過去を教える事にし、

聞いてくれた時は泣いてくれた。

虎咲の過去を知っているのは、産屋敷夫妻と柱一同と真菰のみである。

 

「はぁー…いきますよ…」

 

始めはゆっくりと始まる、音が伸びきった所で連弾、

この時点で居酒屋の客と親父さん、

しのぶや真菰、通りすがりの人達は目を惹かれた。

 

「凄い…」

 

「そうですね…」

 

サビと思わしき区画に入る、より一層指が早く動く。

彼の頭の中は、曲の楽譜だけが流れる、今の彼は集中力の化身だ。

4分間程の演奏が終わる、虎咲は辺りに群がっていた民衆と居酒屋の人達に一礼して、ピアノの椅子から立ち上り、多くの歓声を後にその場を離れた。

 

「…本当に上手いの一言ですよ、虎咲」

 

「私も見入っちゃった…」

 

(やったぜ)

 

虎咲は心の中で喜ぶ、まさか自分の手がここまで衰えていなかったとは思っていなかった。

 

「てかなんで街に来たの?ピアノ弾いただけなんだけど」

 

「「……」」

 

2人はまた顔を見合わして、虎咲の方を向いた時には顔に青筋を浮かべ

 

「「……とっとと喰われちまえ!!」」

 

この上無い捨て台詞を吐いた2人は虎咲の一歩前を歩いていった。

 

(え?酷くない?)

 

すべてお前の鈍感さが招いた事だ/by作者

 

「カァー!山ニ鬼ガ数多ク出没シテイルゥ!討伐セヨォ!」

 

おら、早く行かねえとつっつくぞと鴉が急かすので二人を追い抜いて蝶屋敷に走る。

 

「えぇ!?虎咲様!?どうしたんですか!?」

 

「急ぎの任務だ、真菰としのぶにも言っておいてくれないか?」

 

アオイがいきなり走ってきた虎咲に驚くが、すぐに冷静になり虎咲の願いを受ける。

 

「わかりました、お気をつけて」

 

しかしこの三人が次に虎咲を見るのは、患者としてである。重傷者として。

 

ー道中ー

 

「カァー!コノ山ダァ!行ケェ!!」

 

「了解、他に伝令に回って」

 

了解と言い残し鴉は飛び去っていった、

走ると三八式と立体機動装置がカチャカチャと音を立てる。

 

「……ーー…ー…ーーー」

 

「なんだ?誰かいるのか?」

 

何処からか声が聞こえるが、詳細までは聞き取れなかった。

 

「ー……ー殺しー…る」

 

(殺してやる?鬼の匂いが近い、ソイツに向かって言っているのだろうが)

 

「…ー上弦ノ参!!」

 

(は?)

 

虎咲にははっきり聞こえた、因縁の相手の名を。彼は反射的に抜刀し、圧縮窒素の発動準備をする。

目は赤黒く光っていたが、為虎傅翼のせいではない、彼の憎悪によって生まれた光だ。憎悪を含んだ声で虎咲は叫ぶ。

 

「猗窩座ああああぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

「なんだ!?」

 

虎咲は鬼殺隊士と猗窩座の間合いに立つ。

 

「あ!翼柱様!」

 

「行け!援護はいらん!」

 

「ありがとうございます!」

 

鬼殺隊士は足早にその場を去っていった。

 




演奏した曲のイメージは綿飴様の「鋼鉄ノ鳥」だと思ってください。


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第拾陸話 彼は一人で持ちこたえました

 

彼はどこかで待ちわびていたのかもしれない、自分と対等に戦えるような男を。

 

「なんだ貴様、今コイツを「…す」あ?」

 

「殺してやる!!」

 

ー翼の呼吸、参ノ型、為虎傅翼ー

 

虎咲は刀を上弦ノ参、猗窩座に突き刺す。

 

「突き刺すだけじゃあ鬼は殺せないだろ?焦って狙いを間違えたか?」

 

猗窩座は虎咲を嘲笑する。

しかし、猗窩座は周りの空気の音が変わったのに気付く。

猗窩座は反射的に虎咲から離れる、それが仇となるとは知らずに。

 

ー似の呼吸、肆ノ型、圧縮窒素ー

 

猗窩座の首に突き刺さった刃が感高い音を立てて光る。

 

(は?)

 

猗窩座は本能的に首に刺さった刃を抜いて投げ捨てたが、時すでに遅し。

雷が落ちたかと思うような轟音を立てて、

刃は爆発し猗窩座を中心に土地を抉り、焼き払う。

 

「お前…その羽織りは…」

 

「お察しの通り、アンタが殺した戸山陽一郎の息子、戸山虎咲です。

猗窩座って言ってましたっけ、殺してもよろしいでしょうか」

 

「お前…陽一郎の息子なのか!だったら話は早い!鬼となれ虎咲!」

 

「は?前世にどんな大罪犯したら鬼にならなきゃならねぇんだよ」

 

虎咲は苛立ち、素が出てしまった。

 

「話が通じないならば!実力行使だ!」

 

「望むところだ!」

 

ここに鬼殺隊にしても、十二鬼月にしても歴史に残るであろう名勝負の火蓋が切って落とされたのだった。

 

ー翼ノ呼吸、伍ノ型、集翼九連ー

ー術式展開、破壊殺・乱式ー

 

虎咲は9つの刃を放つが、猗窩座はそれを乱打で受ける。

彼の拳に無数の切り傷が出来るが、お構い無しに次の攻撃に入る。

 

ー破壊殺・空式ー

ー似の呼吸、参ノ型、絶対領域・改ー

 

猗窩座の拳圧の乱打を避けられないと判断した虎咲は

絶対領域を展開し身を守る。

その膜は、高音を立てて拳圧を弾き返す。

 

「やはり貴様は鬼になるべきだ!お前ならすぐに十二鬼月になれるぞ!」

 

「残念だが俺には帰りを待つ人が居るんでな!その願いは受け入れられないね!」

 

「ならば認めるまで嬲ってやる!」

 

刀と拳の応酬、彼らにはもう戦うことしか頭にない。

虎咲は、制限時間が迫っている為虎傅翼を解除した。

目は鮮やかな紅から濁った赤黒い色に変わり、彼がどれだけ猗窩座を憎んでいるのかが良くわかる。

それからも山では刀と腕がぶつかる音が絶えなかった。

2時間ほど経っただろうか、虎咲は息を切らしてはいるが、

目には憎悪の光が宿ったままだった。

だが、負傷している事には変わらない。

彼は呼吸を使って止血しているが、呼吸が無ければとっくに死んでいたであろう。

猗窩座は鬼である、鬼には疲労という概念が存在しない。

さらに与えた傷も修復する、長期戦は圧倒的に人間が不利である。

 

「もうへばったか、鬼になれば体力なんぞ関係無いというのに」

 

猗窩座は受けた傷を修復し、嘲笑する。

 

「こういう風に体力に制限があるのも、寿命というものがあるのも

人間という生物の個性だ。相当前にそれを捨てたお前らにはわからんだろうがな!」

 

「わかるはずないだろ、死ぬ理由を増やす意味が分からない」

 

猗窩座は、理解できないという顔で虎咲を見る。

ボロボロの彼は、もう戦えるような状態ではなかった。

 

「そんなボロ雑巾みたいな体で俺と対等にやりあえるかどうか危うい、

最後は一瞬で消し飛ばしてやる」

 

ー破壊殺・滅式ー

 

猗窩座は勝利を確信した、虎咲は動かなかったからだ。

 

(柱も堕ちるところまで堕ちたな)

 

猗窩座は振り返って西へ歩を進める、後ろから轟音がする前までは。

 

「は!?」

 

猗窩座は困惑する、何故だ!何故生きている!

 

「戸山虎咲!!」

 

その視線の先には、頭から、腕から、足から大量の血を流した虎咲が立っていた。

だが動きはガチガチで、立ち上がるのがやっとに見える。

 

「…」

 

ー翼の呼吸、壱ノ型、真・雲煙過眼ー

 

 

「!?」

 

虎咲は何も言わず紅い尾を引きながら猗窩座に突っ込む。

 

(脳天まで狂ったか!?)

 

彼は今、制限時間一杯だった為虎傅翼を発動し暴走の危険を背負いながら戦っている。

それはまるで、血に飢えた鷹のようなものだった

 

ー似の呼吸、肆ノ型、真・圧縮窒素ー

 

真・圧縮窒素は、破壊箇所を一箇所に凝縮する代わりにしばらく再生不可にするものである。

刃を振るって切り離し、猗窩座の目に当てる。

引き金を引き目を吹き飛ばす。

 

「ぐっ…やるな…だがな!こんな傷すぐに…っ!」

 

そこから先、言葉が紡がれることはなかった。

猗窩座は目を再生しようとしたものの、再生することが出来なかった。

 

「何が起こった、何故だ、何故再生しない!」

 

「簡単ダ、そウいう技だ」

 

ー翼の呼吸、壊ノ型弐、雲煙過眼・壊速ー

 

虎咲は猗窩座にとどめを刺すべく雲煙過眼を発動したが、

斬る直前にベンッという不快な三味線の音がした、

その音がしたのは猗窩座が消えた瞬間だった。

 

「次はツギは殺ス、逃げテも無駄ダ、絶対に俺が殺ス」

 

暴走しかけた虎咲は、出血多量でその場に倒れる。

 

(嗚呼、ここで朽ちるのか…父親の仇も取れずに。二人を悲しませて…)

 

そう思いながら、虎咲は意識を手放した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「止血!急いで!輸血の用意も!」

 

隠が運んできた虎咲は思ったより、いや想像の方が遥かにマシな最悪な状態だった。

ほぼ全身から血を流している、おそらく骨も粉砕されている。

彼の呼吸が途切れた時と彼の命が尽きるのはほぼ同時であろう。

 

「真菰!そこの輸血器取ってください!!」

 

「わ、わかった!」

 

(死なないでくださいよ…虎咲、その時は私も一緒に死んであげますから)

 

しのぶは虎咲が起き上がる、意識を取り戻すその瞬間まで寝台の前を動かなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ーさん!兄さん!起きて!!」

 

(は?夏か?)

 

「な、夏」

 

「私もいるわ」

 

「松姉さん…」

 

そこには、あの日死んだはずの姉と妹が立っていた。

その後ろには松の木がどっしりと構えており、藤の花が咲き狂っていた。

 

「なんでここに来たの!?早く下に戻りなさい!!」

 

松姉さんが俺に怒号を浴びせる。

 

「え?俺死んだからここに来たんでしょ?」

 

俺は何言ってんだと言いたげな顔をニ人に向ける。

 

「兄さん、あなたはまだ生きているの。辛うじてだけどね」

 

「しのぶちゃんが必死に虎咲の命を繋ごうとしているの!

虎咲が今からしようとしてるのはしのぶちゃんの努力を踏みにじるような行為なのよ!」

 

「しのぶさんが可哀想だよ、早く下に戻りなよ」

 

俺は泣きそうな顔で訴える。

 

「俺はもう疲れたんだ!この魂で生を受けて3回目、俺の精神が限界だ!」

 

三人しかいない空間に頬を叩く音がする、松姉さんが俺を叩いたのだ。

 

「虎咲の馬鹿!!彼女なら!彼女達なら何とか出来る!アンタの限界で彼女達が苦しむなんて嫌でしょ!?」

 

「それは…」

 

「虎咲は生きろ!私達二人の分まで!そして彼女達を幸せにしてあげて!」

 

松姉さんは俺に縋り願う。

 

「わかったよ姉さん、夏も」

 

「次会う時は寿命死した時だね」

 

「さらっと怖いこと言わないで」

 

「虎咲」

 

現実に降りようとした俺を松姉さんが呼び止める。

 

「どうしたの松姉さん」

 

「しのぶちゃんと真菰ちゃん、多分いや絶対あなたに惚れてるわ」

 

「そう、他には?」

 

「簡単よ、嫁に迎えてあげなさい」

 

松姉さんは含みのある顔で俺に笑いかける。

 

「…マジで?」

 

「私ゃマジよ」

 

どうやら本気らしい、姉さんらしいや。

 

「じゃあね、姉さん」

 

「二人によろしくね」

 

一気に周りが暗くなる。目が覚めると、

 

「やっぱいるよな」

 

何時ぞやに見た光景が広がっていた。だが、その時と違うのはー

 

「ごめんな、しのぶ、真菰」

 

このバカ虎咲!と言いながら二人が虎咲に抱き付く。

 

「うー…もう帰ってこないかと思いましたぁ…」

 

「このっ!虎咲!帰ってきてくれたぁ!!」

 

二人の少女も泣き声は、医務室で働いていたアオイにも聞こえたようで、

 

「…約束はしっかり守りましたね」

 

「あぁ…想像以上に悲しんでて俺びっくりだわ」

 

その後アオイの涙腺も崩壊し、その日の処置室には三人の少女の泣き声が響き渡るという異常な光景が見られたという。

 

「……」

 

そこを見ていた一人の無口な少女に、虎咲を含めた四人が気付くことはなかった。




さぁ、一瞬暴走しかけた虎咲。
姉の言葉を聞いてもなお鈍感のままでしょうか!
黙って見ていた少女、誰かはわかるはずです!


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第拾柒話 鷹と蝶と狐

「うーん…」

 

虎咲は寝返りを打つ。

が、普段は布団であるためにそこにある何かに気付かず寝返りを打ったため

頭を何かにぶつける。

 

「うぐっ……ファ!?」

 

驚くもそのはず、起きて右を見ればただでさえ狭い寝台にしのぶが寝ているではないか。

サヨナラ翼柱!こんにちは性犯罪者!

 

(は?は?は?訳がわからん、何故しのぶが俺がいる寝台に寝ているんだ、

いや、落ち着け。しのぶは昔っから寝てる時は色々おかしい。

今回もそうだろう、そうだよな!?)

 

そんな疑問に答えられる人間などおらず、虎咲は次に起きる事で更に顔を青くする。

左を御覧下さい!何という事でしょう!

しのぶが追加され更に狭くなった寝台に真菰が寝ておるではありませんか!

 

「…うわあああああ!!!」

 

「いああああ!!??」

 

しのぶが普段なら絶対に上げない悲鳴のような何かを叫ぶ。

 

「あ!と、虎咲、今日は早い…ですね…」

 

しのぶは言葉を途切れ途切れに発した、

虎咲は笑顔のまま顔に青筋を浮かべている。

 

「うん、しのぶ?俺聞きたいことがあるんだわ」

 

「な、何ですか?」

 

「オイ、これは一体どういう状態だ?」

 

しのぶはこうなった経緯を虎咲に説明する。

 

ーーーー虎咲が寝てからすぐーーーー

 

「ねぇねぇしのぶ」

 

「何ですか?真菰」

 

しのぶは真菰を見る、彼女の顔はすっごい悪い顔だった。

 

「虎咲と寝れば?」

 

「…え?」

 

しのぶはいきなり言われた言葉に反応できず、

素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「じゃなかったら私が寝込みを襲おうかな〜」

 

「な、何言ってるんですか?真菰。

虎咲は鈍感なんですよ?そんなんで何かに気付くわけ」

 

「簡単だよ?理性を焼き切って溶かせばいいの」

 

そうすれば私は…ぐへへと真菰は気持ち悪い笑みを浮かべ

しのぶを見る。

 

「自分の幼馴染を寝取られたくないよね?」

 

「うー…わかりました」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「とまあこいいうことがあったんですよ」

 

「ふーん…とりあえずこの馬鹿狐を起こせば解決か?」

 

しのぶは頷く、虎咲は了承したように。

 

「おらぁ!!用があるからさっさと起きろ!」

 

「え!?今何時!?」

 

「夜中の三時だ!何故俺がこんなにキレてるのかわかってるな!?」

 

「えーいいじゃん〜最終選別の時も一緒に寝たでしょ〜?」

 

「あれは仕方ないだろ!状況が状況だ!」

 

「えーじゃあ私の純潔で許してー」

 

「体で許すつもりはない!あとお前は何言ってるんだ!」

 

しのぶはこれを後に痴話喧嘩と称した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「任務に行きたい」

 

あの深夜騒動から5、6時間が経過した頃、虎咲が愚痴を零す。

しのぶは顔に青筋を浮かべて怒鳴り散らす。

 

「虎咲?何言ってるんですか?貴方は左腕、肋骨を折っているんですよ?

それなのに任務に行こうなど……」

 

目の前の寝台には、確かに虎咲が寝ていたはずだった。今は何もいない。

 

「虎咲!!!」

 

「げ、バレた」

 

そこには刀ぶら下げて玄関を出ようとした虎咲がいた。

 

「ほら!戻りますよ!治るまで3週間、絶対安静にしやがれくださいね?」

 

「こりゃ拉致だよしのぶ!」

 

「そんな冗談言う暇あったらとっととその骨を治して下さい!」

 

虎咲はしのぶによって寝台に投げ飛ばされ縄で寝台に固定される。

 

「あっ、呼吸で縄を解こうなんてバカなこと考えないでくださいね?

最悪、肺が破裂しますよ?」

 

「……」

 

(やっと大人しくなりました…真菰に監視を頼みますか…)

 

しのぶは処置室の扉を勢いよく閉めた。

 

(ダメか、全翼無連はそこまで器用じゃない。

人を避ける”避人“はこの屋敷ごと吹き飛ばすだろう。

かと言って任務に行ってはいけないなんて…あんまりすぎないか…)

 

虎咲は思考を張り巡らせ、この拘束を消す…もとい解く方法を模索したが、

自分の技ではこの拘束を解くことが出来ないことに気付く。

 

「あーあーあー」

 

暇している虎咲の脳内に、二文字の単語が現れた。

 

(寝・ろ!!)

 

脳は正直だった。寝るという言葉を考えただけで虎咲は眠りについた。

 

そこに一人の少女がやって来る。

そう、監視担当の真菰だ。

 

「虎咲〜!大人しくしないとおはぎ奪うぞ〜!」

 

彼女の言葉は虎咲に届かなかった。彼はすでに眠りについていた。

 

「…寝ちゃってたか…」

 

真菰は残念そうな表情を浮かべるが、

それよりも先にある物に気付く。

 

「…これ…修君からの手紙?」

 

そこにはこう書かれていた。

 

『拝啓、翼柱戸山虎咲様。

 

僕の師匠である鐡火山がお会いしたいと存じております。

近く、どうか刀鍛冶の里まで来ていただけると幸いです。

修 』

 

「綺麗な字…男の子の字とは思えないけど…」

 

真菰は修の手紙を虎咲の部屋の机の上に置きに行き、虎咲の顔を見る。

 

「同い年なのに…ここまで死戦を繰り広げて…」

 

彼女は虎咲から為虎傅翼の制限時間を超えると暴走するという話は聞いていた。

暴走の危険性を捨ててまで、必死に親の仇を殺す事だけを考えていた。

真菰はそっと虎咲の顔に触れる。

 

「これからも守り合おうね?虎咲」

 

彼女の呟きは、処置室に響いただけだった。

 

 

ー翌朝ー

 

虎咲は辺りを見渡す、

と言っても縄で拘束されている今そこまで見える物はない。

ただし横にいる二人の少女には気付いた。

 

「またかよ…しのぶ、真菰…」

 

昨日と同じように彼女達は虎咲の横で寝息を立てながら寝ていたのだった。

 

(本当に懲りないな…この二人は…)

 

しかも昨日とは違うのが、

縄で拘束されているのでしのぶを起こせない。

つまり状況の収束が不可能という点だった。

 

「…はぁー…」

 

虎咲の溜息は、処置室の壁に吸い込まれていった。

 

「二度寝するか…」

 

虎咲はまた深い眠りについたが、

度重なる疲労により彼が次に目覚めるのは一週間後のことであった。

 

一週間後…

 

「ふぁーあ…よく寝た…んあ?夜?」

 

辺りはすっかり暗くなっており、朝では無かった。

 

「一週間後の夜ですよ、虎咲」

 

当たり前のようにそこに座っているしのぶは言う。

 

「ふーん、一週間後ねぇ…は?」

 

虎咲は困惑する、しのぶはこと細やかに事を説明する。

 

まず虎咲は今まで蓄積されていた疲労を一気に解放した結果

一週間も寝たきりになってしまったこと。

蝶屋敷の全員が、虎咲が死んだのかと一瞬だけ思ってしまったこと。

 

だそうだ。

 

「えぇ…」

 

虎咲は困惑した顔でしのぶを見る。

 

「でもですよ?骨が繋がっていたなんて誰も思ってなかったんですから!」

 

骨が繋がったのか…ん?

 

「嘘だろ?三週間かかるんだろ?」

 

「それが…一週間完全に動いていなかったものですから。

すぐに骨がくっついたんでしょう」

 

私だってびっくりですよとしのぶは続ける。

 

「でもまだ完治はしてないのでそこまで激しく動かないで下さいね」

 

しのぶは虎咲の縄を解く、彼はすでにやる気満々だ。

 

「ちゃんと安静にしていてくださいね?」

 

しのぶは念を押す、今の虎咲ならどこまでも走っていきそうだから。

 

「わかってるって!心配すんな!」

 

しのぶは彼の頭に一瞬だけ旗が見えたが、気のせいだと見逃した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

蝶屋敷の廊下をドタドタ走る人が一人。

 

「ったく誰ですか?朝っぱらから走ってるのは…虎咲様!?」

 

アオイは起きていた完全武装の虎咲を見て驚く。

 

「骨折は!?大丈夫なんですか!?」

 

「あぁなんかしのぶがもうくっついてるからいいよって」

 

「えぇ…」

 

アオイは結構長く蝶屋敷で看護師をしているが、

治りがこれほどまでに早い人は今まで一人もいなかった。

 

「ちょっと自主訓練行ってくるからしのぶに言っておいて!」

 

「わ、わかりました」

 

そう言い虎咲は靴を履いて屋外鍛練場へ向かった。

 

ー屋外鍛練場ー

 

(試したいことが色々あるからな…まずは…)

 

ー似の呼吸、伍ノ型、破壊殺・乱式改ー

 

新たに設置されたであろう正面の藁人形は、

彼から乱射された波動で崩壊した。

 

「ひゅー。いいな、この威力」

 

ー似の呼吸、肆ノ型、真・圧縮窒素・改ー

 

蝶屋敷から相当離れた場所で発動する。

ここは空き地、草が生い茂っていたので土地の持ち主が一掃して欲しいと言っていた。

刃を草地の中心であろう地点に突き刺す。

絶対領域を発動し、自分の身を守る。

 

「…点火」

 

虎咲は引き金を引き、刃は大爆発を起こす。

 

「…うっ」

 

絶対領域が守っているにも関わらず、体中が熱い。

しばらくすると爆煙が晴れる。

 

「わーお」

 

虎咲はその威力を目の当たりにしたとき、

これさえあれば無惨も粉々だろうと確信した。

爆煙が晴れたその草地だった場所は、

綺麗さっぱり焼けただれ草があったなんて感じさせないようなものだった。

鴉の上空観察によると、キノコ雲が高度1000mまで登っていたそうだ。

依頼主から報酬を受け取った虎咲は蝶屋敷に戻る。

玄関には顔に青筋を浮かべたしのぶが立っていた。

 

「虎咲!あの爆発は貴方ですよね!?説明してくれません!?」

 

「圧縮窒素の改良型だ。しのぶ、頼みたい事がある」

 

「なんですか…なるほど…」

 

この作戦が最終決戦に活きるなど誰が思っただろうか。



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第拾捌話 金の使い道がありませんお館様!!だったら街を作るしかないじゃない!

 

今日もまた縁側に一つのお団子が出来ていた。

 

「しのぶー金もらっても使う場面が無いよー」

 

それは紛れもない虎咲であった。

 

「私は実験器具とか買うために使いますけどね」

 

彼の財布は今破裂寸前、それも縁側で蹲る程に。

それほどまでに彼は金の使い道が無いのだ。

 

「どうする、このままだと確実に財布が破裂する。

そんなに貰ったって困るっつの」

 

しかし輝哉は堅実だった。

彼は一度も虎咲の給料を下げていない、

虎咲の働きもあるだろうが、一番は柱であるという点だろう。

 

「寄付は考えなかったんですか?」

 

お金を浪費する一番の方法は寄付だ。

今の虎咲の持ち金だと街一つは再建、いや復興できるだろう。

 

「寄付…ねぇ…俺にはやってみたい事があるんだわ」

 

「なんですか?」

 

「対鬼迎撃要塞街」

 

「は?」

 

虎咲が考えたのは、どこぞのトラウマ持ちの中学生が

ドンパチするアニメの箱根にある迎撃専用要塞都市を基にした物だった。

 

「いいな?この街にまずは人を住まわせる、それで鬼をおびき寄せる」

 

「まぁ理屈は分かりますけど…非人道的じゃないですか?」

 

「まぁ聞け、街の一丁一丁の間に鬼殺隊士の待機小屋を設置する。

夜や曇りの日にそこに入ってもらって、夜に町人になりすまして警護をする。

そこまで隊士を増やすためにはある事をしなければならない」

 

しのぶは気付いたような顔で口を開く。

 

「最終選別の…回数と制度の見直しですか?」

 

「そうだ、ただでさえ全国に数百人しかいない隊士。

そんな人手不足の原因はあの過酷極まりない一年に一回の最終選別だ」

 

7日間、鬼に殺されなくとも脱水症状で死ぬ奴は今まで何十人もいただろう。

手鬼を殺したため難易度は少し下がっただろうが、

それでも合格者は一回に一桁程だろう。

 

「でもそれでは隊士の質が下がり…あ!」

 

「気付いたか?隊士は柱稽古で後から幾らでも強化できる。

しかもな、攻勢に出るより防戦に徹した方が戦いやすい。

待ち伏せという単純な作戦でも呼吸使えば鬼の首を切るのは簡単だろ」

 

「その案を…いつから考えていたんですか?」

 

「ついさっきだ、迎撃の手段はまた後で考えるが…大まかな事は考えておいた」

 

虎咲はまずこれをお館様に伝えるのが先だなと言いながら手紙を書き、

自分の鴉の足に手紙を括り付けた。

 

「じゃあ、頼んだぞ」

 

「カァー!了解!」

 

鴉は大きな羽音を立てて飛び去って行った。

緊急の柱合会議が開かれるのは、もう間も無くである。

 

「ふぅー…不死川辺りは反論してくるだろうが…まぁそん時はそん時だ」

 

しのぶは不死川が『んだとテメェ!ふざけてんのか!』

と言っている場面が想像できた。

 

「あー…なんかありそうですね」

 

虎咲は頭を抱えるが、すぐにやめた。

 

「あ、いたいた。おーい虎咲!」

 

真菰が此方に走ってくる、右手に手紙を持って。

 

「真菰か、どうしたその手紙」

 

「修君から、刀鍛冶の里に来てくださいだってさ」

 

修というのは虎咲専属の刀鍛冶鍛冶、

鐡火山の弟子なのだが、彼曰く『師匠が会いたい』らしい。

 

「正直言うとな、すっごく怖い」

 

「あら、そんなに怖い方なんですか?」

 

「会ったことは無い。だがな、また魔改造されるかもな」

 

あんな高速移動、常人だったら死んでるぜと言いながら虎咲は

やれやれという格好をする。

彼の立体機動装置に、純正の部品なんて使われていなかった。

すべて鐡火山の手によって魔改造されてしまった。

まぁ使いやすいので文句は言わない事にする。

 

「とりあえず…行ってくるわ」

 

「あれ?私と行くんじゃなかったんですか?」

 

(は?)

 

「そうだよ虎咲!私も連れてってくれるんでしょ?」

 

(は?は?)

 

しのぶと真菰はしてやったりという様な表情を浮かべて笑う。

この二人は虎咲に最初からついて来るつもりだったのだ。

既に裏で同盟を結んだしのぶと真菰は、

刀鍛冶の里で虎咲という理性の塊を陥落させようとしていたのだ。

 

「…わかった、行こう」

 

虎咲はそのまんまの格好、つまり完全武装で刀鍛冶の里に赴いた。

しのぶと真菰は、大慌てで支度をして虎咲の後ろについて行ったのだった。

 

ーーー産屋敷邸ーーー

 

「ほう…虎咲も案外凄い考えを出すんだね」

 

「どうしたのですか?」

 

「あまねか、今しがた虎咲の鴉が手紙を持ってきてね」

 

「これ…対鬼迎撃専用要塞街…ですか…」

 

輝哉の妻あまねは、その設計図を見て驚く。

 

「とてもあの少年が考えた物とは思えませんが…凄い物ですね…これは」

 

彼の描いた街、いや要塞の設計図は合理的で現実的であった。

 

「街の至る所に機関銃を設置、隊士は町人になりすまして待ち伏せ、

さらには民間人のための地下避難所とはね…虎咲も考えたな…」

 

輝哉は虎咲の描いた街の有意性を考える。

人が多く街にいれば、必然的に出現する鬼も増える。

この街は、いつか大きな戦いに巻き込まれるかもしれない。

多くの民間人を、この街で殺してしまうかもしれない。

だが、それを未然に防ぐ。そのための輝哉の考えた隊士常駐。

虎咲は鬼が出る時間のみの見回りと言っているが、

こうすれば隊士達は戦い終わった瞬間家に帰れるし、

何より家族がいれば更にこの街を護ろうと考える筈だ。

 

「この街の建造費、誰が払うんでしょうかね」

 

あまねは建造費の出所を気にする。

 

「半分は虎咲持ちだろうね、手紙の端にこう書いてあった。

『金が有り余った結果この様な街を作ろうと考えました』だってさ」

 

「規模が考えましたじゃなくて企みましたじゃないでしょうか…」

 

しかし、もう半分は産屋敷邸が払う。

流石に虎咲の財布だけではこんなに大きな街を作る事はできないだろう。

 

「まぁいいさ、虎咲には毎回毎回驚かされる。

近く緊急の柱合会議を取り繕う、人員の問題はその時に聞くとするよ」

 

(さて、一体どんな要塞になるのかな…)

 

輝哉はあまねに見えない様に笑うのだった。

 

ーーー刀鍛冶の里ーーー

 

「あ、虎咲さん!」

 

「久しぶりだな、修」

 

「はい!」

 

修の面の下はおそらく笑っているのであろう、

しかし後ろの二人が放つ何かに虎咲は気付かなかった。修は気付いたのにね。

 

「分かってる?しのぶ」

 

「えぇ…ここで決着をつけるつもりです」

 

「既に根回しもした、やっとあの鈍感を陥せるよ」

 

「やっとですね…何回仕掛けても鈍感ってのは掛からないんですね」

 

既に彼女達はあの鈍感に何度も色仕掛けをして

ことごとく撃沈されており、刀鍛冶の里が虎咲を陥せるチャンスと考えたのだ。

 

「でもそれは今日で終わり!今日こそ陥すよ!」

 

「はい…!」

 

流石にこんな声出せば鈍感でも気付くわけで…。

 

「ん?どうした」

 

「「何でも無いでーす」」

 

(?)

 

やはり虎咲は鈍感だった。

 

「修、鐡火山さんって何処にいるの?」

 

「あの小屋に居るはずですが…」

 

ひゃっはぁー!汚物は消毒だぁー!!

 

何処からか奇声が聞こえる、この声の持ち主…鐡火山さんじゃ無いよね!?

 

「この声って?」

 

「僕の師匠の声ですね…こりゃ…」

 

修がため息を吐く、彼も苦労しているようだ。

 

「師匠〜帰りました。何度も言ってますよね?奇声をあげるのはやめろって」

 

「いいじゃんかよ、虎咲さんかい?そこの少年は」

 

鐡火山がゆっくりと顔を上げ、虎咲を指差す。

 

「はい、戸山虎咲です。装備などありがとうございます」

 

「いいんだいいんだ、それが俺の仕事だからな。

次から作る刃には惡鬼滅殺と刻ませてもらうがいいか?」

 

鐡火山は虎咲の方を向いて喋る。

虎咲は鐡火山にある紙を渡す。

 

「数が多いでしょうが…大丈夫ですか?」

 

「三年式重機関銃か…懐かしいな、昔は結構作ったもんだ」

 

「今は刀ですけどね」

 

「それもそうだな」

 

鐡火山は笑うが、虎咲は笑わなかった。

 

「受けてくれますか?」

 

「あぁ…何挺作ればいいかわからんが」

 

三年式は三八式と同じ弾薬を用いるため、

虎咲向けに製造する対鬼用の6.5mm弾を製造し続ければ良いのだが、

銃本体は街の至る所に設置するため、

どのくらい製造すればいいのかわからないのである。

 

「作れるだけ作ってもらって構いません。多いに越した事はないですし」

 

「分かった、出来るだけ多く作る」

 

「ありがとうございます!」

 

「また顔を出してくれよ、そんときはまた装置改造すっからな」

 

「これ以上はちょっと…」

 

「ははは、冗談さ」

 

「では、また」

 

そう言い虎咲は戸を開けて外に出た。

 

「壮大な計画を思い付いたねぇ…虎咲」

 

真菰は目を点にしながら虎咲に言う、彼女にこの計画を話すのはこれが初めてだ。

いや話してない、盗み聞きだ。

 

「盗み聞きしてた?」

 

「バレた?」

 

真菰はチョロっと舌を出して「バレちった」と言いたげな顔をしていた。

 

「当たり前だわ、バレるに決まってるだろ」

 

「真菰が『盗み聞きしようぜしのぶ』って言ってきたんです」

 

しのぶの告げ口が真菰を容赦なく襲う。

 

「しのぶ謀反を!」

 

真菰が叫び、しのぶは違う方向を見る。

 

「あーもう宿に行くぞ」

 

「「!!」」

 

二人の目が変わる、この二人にとってチャンスが到来した。

 

(どうする?シちゃう?シちゃう?)

 

(そうしましょう、これ以外に方法が見つからないんです)

 

二人は物凄い小声で喋り、

いつのタイミングで寝込みを襲うか考えていた。

 

「お、ここか」

 

「そうですね…」

 

「わーい宿だ宿だ!」

 

真菰が騒ぐ、真菰の精神年齢ってどのくらいなんだ?

 

「騒ぐな」

 

虎咲の容赦ないツッコミが炸裂、

 

「(‘・ω・`)」

 

(あ、今ショボーンってなってますね…)

 

しのぶは脳内で真菰を憐みつつも、放っておいて虎咲について行く。

 

ー2時間後ー

 

夕食を済ませた三人は、風呂に入る。

もちろん男女別のはずだ、はずだった。

それなのに何故この二人は男子風呂に入っているんだ…。

 

「あれ?見てなかったの?この時間帯は混浴なんだよ?」

 

タオルに身を包んだ真菰が「何言ってんの」とも言いたげな顔をしている。

ツッコミどころが多くてどこからツッコメばいいかわからない!

 

「ふふふ…慌てすぎですよ虎咲」

 

(あ、これヤバいやつや)

 

しのぶの体はタオルで隠れているが、彼の理性は臨界点を突破した。

しかも既にメルトダウン(?)も起こしかけている。

 

「さぁ…ここまで色仕掛けしても引っかからなかった…責任取らせましょう、真菰」

 

「そうだよ!責任取ってね、虎咲」

 

ゴキャ!という音が響いた気がする、彼の理性が消し飛んだのだ。

こうして虎咲の鋼の理性は崩壊した。

 

 




あー真菰も可愛い!しのぶも可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い
…俺何言ってんだろう…(一周回って冷静になった)

最近おまけ書いてないって思ったそこの君!おまけに書けるようなネタが無くなったのさ!あるとすればサイコロ…。

そろそろ書き溜めも尽きる…頑張って書きますが、定期投稿終了も時間の問題でしょう。
もし毎朝7時に投稿しなくても怒らないでね!


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第拾玖話 荒れる柱合会議と新品の機関銃

ー朝の7時、旅館の一室ー

 

「…ふわああ…朝か…」

 

虎咲は起き上がり、窓の外を見る。

既に日は上がり、鳥の鳴き声が聞こえる。

 

「おいしのぶ…真菰…起きろ…朝だぞ…」

 

まだ眠い目を擦りながら、隣で寝ている二人を起こす。

昨日は散々だったな…腰が砕け散ったわ。

 

「虎咲…ですか…おはようございます」

 

「おはよう、しのぶ。そこの服も着ない馬鹿が起きないんだが」

 

虎咲は生まれたままの姿を曝け出す真菰を指差す。

 

「それは私の事だな〜?虎咲ぅ」

 

真菰は起きたが、色々見えてはいけない物が出ている。

 

「おい、お前はとりあえず服を着ろ」

 

「面倒臭い」

 

「はぁ…?」

 

女子が言う言葉だろうか。否、倦怠感に襲われない限り男子ですら発さない。

 

「真菰、女の子がそんな言葉使っちゃいけませんよ?」

 

「しのぶは私のお母さんかよ!」

 

真菰の鋭いツッコミが炸裂するが、鋼のメンタルを持ったしのぶには通用しない。

 

「まぁとりあえず帰りましょう、きよ達やカナヲが心配してますし」

 

「あれ?カナエさんとかが居るんじゃねぇの?」

 

「姉さんは…冨岡さん連れてどっか行ってますよ…タブン」

 

最後何か聞こえたが気のせいだろう、

とりあえず早く帰らなければいけないのは変わりない。

 

「真菰、早く帰らなきゃいけないから早く支度しろ〜」

 

「わかったよぉ」

 

真菰は渋々といった感じで服を着る。

渋々じゃない、寝る前に着とけや。

 

「さぁ…帰るか…」

 

「私腰が痛いんだけど」

 

「仕方ないな…おぶってやるから…」

 

真菰を背負い宿を出る、しのぶがなんかこっち見てたが気のせいだろう。

 

「ヤッタゼ「何か言った?」いえ何も」

 

何か言ったなコイツ、小声だったが絶対何か言ったな。

三人は何事も無かったかのように蝶屋敷へと帰ったのだった。

 

「あーただいまー」

 

当然ながら返事はない、

連絡も何も入れておらずただでさえ俺たちでも広さを持て余しているため声が聞こえる訳ない。

腰が砕け散った真菰を寝台に放り投げ、何時ぞやのように縁側で丸くなる。

 

「なぁなぁしのぶ、これから緊急の柱合会議があったらどうする?」

 

「冗談キツいですよ、虎咲。正直行きたく無いですよ」

 

「カァー!カァー!緊急柱合会議ヲ執リ行ウ!!

柱ハ全員産屋敷邸二集マレェ!」

 

「「……」」

 

虎咲としのぶは固まる、自分達の会話が現実になるとは思ってもいなかった。

 

「…行くか」

 

「そう…ですね…」

 

虎咲は産屋敷邸に行く前に病室に訪れる。

腰が砕け散った真菰に緊急の柱合会議に

行かなければならないことを伝えた。

 

「あー…頑張って〜私ここで楽してる〜」

 

「そうか、後でシバくか…」

 

「やめて〜私はまだ死にたくないよ…」

 

「ハハッ、冗談冗談」

 

(ん?)

 

真菰は虎咲の後ろにネズミが見えたが瞬きしたら消えたため、

気のせいだろうという事で片付けた。

 

ー産屋敷邸ー

 

隠にドナドナされた虎咲は、産屋敷邸の庭で跪く。

 

「やぁ私の可愛い剣士達、急に集めて悪かったね」

 

輝哉の用件は虎咲が考えた迎撃街の承認だった。

 

「これがこの前もらった設計図なんだけど…」

 

お館様は俺以外の柱に設計図を見せる。

大半は成る程という顔をしており、

鳴柱の宇髄天元は機関銃の表示を見て

「機関銃!?戸山も派手なことを考えるな!」と大声で言った。俺の耳元でな!

風柱の不死川実弥があることに気付く。

 

「オイ戸山、お前これだけの規模に配置する隊士はどこから捻り出すつもりだ」

 

今鬼殺隊は人員が少なく、全国を数百名のみで防衛している。

そんなただでさえ少ない隊士を、どうやってこの街に持ってくるのか。

それを実弥は心配していた。

 

「簡単です。最終選別、その回数と制度の見直しです」

 

「何言ってやがる!伝統を破るつもりか!?」

 

実弥は立ち上がり反論するが、先に口を開いたのは虎咲だった。

 

「実弥、この街は侵略及び攻撃の為に造るんじゃない。防戦のために造るんだ」

 

「それがどうした、最終選別を変える必要は無いだろう」

 

蛇柱の伊黒小芭内が反論する。

 

「戦いはあきらかに防戦の方が楽、

ど素人でも待ち伏せで呼吸を使えば鬼を殺せるはずだ。

そして素人は柱稽古で後から幾らでも強化できる。」

 

「だがもし上弦などが来ればひとたまりも無いぞ?」

 

「この街はなんと俺の巡回区域に含まれている、

この街を守るなんて普段の巡回よりは簡単だ」

 

「それは…確かにそうだな…」

 

伊黒は納得してしまう、それ程虎咲の思想は理に叶っていた。

 

「成る程ね…実弥が伝統を守ろうとしているのは分かる。

でもね、伝統を破ってでも私はこの代で終わらせたいんだ」

 

実弥は輝哉に反対せずに黙ってしまう。

 

「…申し訳ありません、お館様」

 

「謝る必要は無いよ、実弥」

 

御意…と言いながら実弥が跪く。

 

「これで全てだ。反論が無ければ明日から着工するそうだ」

 

「……」

 

反対する者は居なかった、彼らは輝哉の意見に逆らえなかった。

 

「じゃあ虎咲、予定通り明日着工で」

 

「御意、出来る限り早く完成させます」

 

虎咲は頭を下げた、それを見た輝哉はにっこり笑った。

 

「じゃあみんな、今日は解散。次の柱合会議でみんなの顔を見れることを祈るよ」

 

輝哉が言うと全員が御意と言いながら頭を下げ、

各々の帰宅路に進んで行った。

 

「まさかここまで理に叶った物を造るとは思わなかったぞ…虎咲」

 

隣に行冥が立つ、彼の身長が少しだけ欲しいと思った虎咲であった。

 

「行冥さん、防衛の方が簡単じゃないか?って思って作ってみたんですよ」

 

「まぁ、何事もなく完成すればこの街の有用性が証明出来る。

もし有用性が無ければその時だな」

 

「その時は…いや、その時は来ないでしょう」

 

虎咲はこの街の設計に絶対的な自信を持っていた。

 

「まぁ上弦が束になって来れば勝てませんけどね」

 

この街の設計防衛限界は、鬼二千体か下弦の全て。

これを超える鬼二千五百体や上弦全てが一気に強襲すれば

この街は持たない、だがそれは最終決戦。

産屋敷家に代々伝わる予知能力でそれが起こるのは容易に探知可能、

上弦全てが一気に強襲する時は、全鬼殺隊士がこの街に待機しているだろう。

 

「まぁその時が来れば、だな」

 

「そうですね、では」

 

虎咲の迎えの隠が現れる、虎咲は行冥に別れを告げて

隠にドナドナされ蝶屋敷に帰った。

 

ー蝶屋敷ー

 

「帰ったぞー」

 

「あ、お帰りなさい!虎咲!」

 

真菰が玄関に飛び出し、虎咲に飛び付く。

 

「痛いなぁ〜真菰、腰は大丈夫か?」

 

「うん!寝てたらバッチリ!」

 

真菰は満面の笑みを浮かべ、虎咲を見る。

 

(かっかわえぇ〜)

 

虎咲は顔を見られないように上を向く。

 

「ねぇ虎咲、そろそろ夕飯だから食堂に来てってカナエさんが」

 

「わかった、今行く」

 

虎咲は装備を部屋に片付け、廊下を歩き食堂に入る。

 

「遅かったですね、虎咲。もう夕飯ですから座ってください」

 

しのぶが催促する、他の子も既に座っていた。

今まで実感が湧かなかったが、

蝶屋敷が自分の帰る場所だというのが身にしみた。

そんな思いを込めて、虎咲は答える。

 

「あぁ、わかった」

 

しのぶは、虎咲だけに見えるように笑った。

夕飯を食べ終わった虎咲は、部屋に置かれた一つの小包を開ける。

 

「早すぎじゃないですか…鐡火山さん…」

 

虎咲は思わず呟く。

小包を開けると、新品の三年式機関銃が現れた。

 

「明日からか…完成が楽しみだな…」

 

虎咲は完成した街を想像して一人笑ったのだった。

 

 

対鬼迎撃戦専用要塞街 第二清水町

 

清水町、蝶屋敷の近くにある街で、

虎咲やしのぶ、真菰がお世話になっている街だ。

二つ目の清水町、それがこの第二清水町である。

電線は地中に埋め、道に電柱が無い。

全て虎咲が立体機動の邪魔にならないようにしたためである。

 

範囲:500m×500m

武装:三年式機関銃×??

保式機関銃×単装50挺、連装30基60門

人口:約500人

駐在隊士:おおよそ三百数名

最高責任者:翼柱 戸山虎咲

 

街並みは普通の街である、そのため鬼も寄ってくる。

虎咲命名、雑魚鬼ホイホイ。

要塞と正式名称に付いている時点で普通の街では無い。

街のそこら中に町人に化けた鬼殺隊士がゴキブリの如く潜んでいる。

完成は5ヶ月後、完全稼働は7ヶ月後を目標にしている。

隊士の大幅な増加は、最終選別の制度改革によって解決。

最終選別の新しい目標は、藤襲山で丸2日生き残ること。

そしてその最終選別は二週間に一回行われる。

その後の隊士の強化は柱稽古で賄う。

 

 

 

 



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第弐拾話 竣工から完全稼働!第二清水町!

 

 

「すいません!こんな空き地に集めてしまって!」

 

第二清水町の建設予定地には、

鬼殺隊に救われた数多くの建設業をしている人が集まっている。

 

「いいんですよ、助けられた恩を返せればそれでいいんです」

 

「で、今日から何を造るんですか?」

 

虎咲は全ての人に見せれるように設計図を印刷していた。

その印刷してくれた人も鬼殺隊に救われたらしい。

 

「迎撃戦専用要塞街…また大きいもんを作りますな」

 

「偽装用の家とかを立てるのが主ですが、

電線地中化や水道管を繋げるとなると相当な工事になります。

必ず皆さんでこの街を完成させましょう!」

 

「「「おおぉぉおお!!!」」」

 

虎咲の呼び掛けに応えた業者さん達は、すぐさま作業に取り掛かる。

 

「そこ溝あるぞ!落ちるな「うわあああ!!」って言ったそばからぁ!!」

 

「機関銃が入る場所は作っておけ!何?材料があと僅か?買ってこい!」

 

現場は色々な人が入り混じり、着々と(?)作業が進んでいく。

虎咲は現場に住み込みで指揮を執った。

彼はこの街と刀鍛冶の里を何十往復も走り、

完成したばかりの三年式機関銃と保式機関銃を運び続けた。

 

〜三ヶ月後〜

 

流石に工事業者の人から休んでくれと言われた虎咲、

三ヶ月ぶりに蝶屋敷に帰ってきました。

玄関にしのぶが立っていた。

 

「…お帰りなさい、虎咲」

 

三ヶ月連勤の虎咲はやつれていた。

しかもまともな休息を取っていないというのが彼の疲労に拍車を掛けた。

 

 

「あぁ…ただいま、しのぶ」

 

何時ぞやのように縁側に座り、庭を見る。

 

「作業の進捗状況はどんな感じですか?」

 

しのぶはお茶を持って虎咲の隣に座る。

 

「家の並びと基礎工事は終わった、あとは家作りだな。

隊士の数も住みたいという住民の数も増えているらしい。

このまま行けば一、二週間前倒しで完全稼働できる」

 

「何も無ければいいんですけどね」

 

後ろから少女が接近したのをしのぶは気付いたが、虎咲は気付かなかった。

 

「どーん!」

 

「ああああ!?」

 

虎咲は驚きのあまり悲鳴を上げて頭から庭に落っこちた。

 

「真菰ぉ!!」

 

「ははは!ごめんって!」

 

虎咲は大声を上げて真菰を睨むが、真菰は大して気にしなかった。

 

「すいません、あまりに可笑しくて…」

 

しのぶが口を押さえて笑いを堪えるが、隠せていない。

完全に笑っている。

 

「俺だけだろうなぁ…驚きのあまり縁側から庭に頭から落ちるなんて」

 

だがこの二年後、蝶屋敷の住民の一人がそれを実行するのだが、

虎咲やしのぶ、真菰には知る由も無い。

 

「もう行くわ、じゃあまた」

 

「一週間後にまた庭に落ちてよ!」

 

「嫌だね!落ちたくないね!」

 

「まぁ一週間後に来れたら帰ってきて下さいね」

 

「わかった」

 

虎咲はそのまま現場に走って行った。

 

「働き者ですね…虎咲は」

 

「そうだね…その内倒れそうだけど大丈夫かな…」

 

二人は働き過ぎの虎咲を心配するが、

三ヶ月もまともな休息を取っていない彼なら大丈夫だろうということで流した。

なお、虎咲が次に蝶屋敷に帰ってくるのは街が完全稼働した直後、

つまり四ヶ月後のことである。

 

〜二ヶ月後〜

 

「とりあえず街は完成しました!皆さんありがとうございます!」

 

虎咲は今まで工事に携わってきた人達に向けて礼を述べる。

業者さん達は「いよっしゃぁあああ!!!」と叫び狂う。

 

「万歳三唱だ!みんな!」

 

\バンザーイ‼︎バンザーイ‼︎バンザーイ‼︎/

 

一人の業者さんが叫ぶ、全員が酒を飲んだ後のように万歳と叫ぶ。

虎咲の耳は丸一日再起不能になったそうだ。

 

〜一ヶ月後〜

 

「カァー!伝令!伝令!」

 

「わかったわかった」

 

機関銃の設置と整備をしていた虎咲に、ある情報がお館様からもたらされた。

 

『新人の剣士達約三百人を第二清水町に送ったよ、

完全稼働が始まれば彼らの防衛が始まる、でいいよね?』

 

虎咲は紙に二文字、『はい』と書いて鴉の足に括り付けた。

 

「じゃあお願い」

 

「カァー!了解!」

 

鴉はお館様に手紙を届けるべく飛び去って行った。

 

〜一ヶ月後〜

 

「君達が新しい隊士?やっぱ結構いるな」

 

虎咲は新たに配属された隊士達に挨拶をした。

実弥によると、新人隊士の強化は虎咲を除く柱全員で行ったらしい。

 

「俺は翼柱の戸山虎咲、この街の最高責任者だ」

 

何処からか柱が最高責任者?という声が聞こえてきた。

 

「この街はただの街じゃない。

お館様から説明があったかもしれないが、この街は要塞街。

正式名称は対鬼迎撃戦専用要塞街、第二清水町だ」

 

「質問です」

 

一人の少女が手をあげる。

 

「何だ?そこの君。名前は?」

 

「大月あずさです、この街は一見すると要塞には見えないのですが」

 

彼女は周りをキョロキョロと見回して虎咲の方を見る。

 

「いい質問だ、この街には家に見せかけた防護陣地がいくつもある。

君達にはそこに住んでもらい、夜や日が差さない時は町人に化けて巡回してもらう」

 

「防護陣地の主な武器はなんですか?原始的な罠ですか?」

 

「機関銃だ」

 

「え?」

 

あずさは困惑する、機関銃って軍の装備だろうと。

 

「機関銃だ」

 

「いや、それはわかりますが…えぇ…」

 

流石に信じきれていなかった。

 

「君達にはまず機関銃の手入れと操作法を学んでもらう。

いざとなったときに機関銃が動かなければそれはもうただの鉄の塊だ」

 

新人隊士達はうなずく。だが一人の少年が反論する。

 

「剣術を極めた意味って…あったんですか?」

 

「君、名前は?」

 

少年はビクッと震え、名乗る。

 

「岩国児珠です、剣術を極めた意味ってあるんですか?」

 

「児珠君、俺は機関銃が君らの主兵装なんて一言も言ってないぞ?」

 

虎咲はイタズラっぽく笑いながら言う。

 

「と言うと?」

 

「鬼がいたら容赦無く斬れ、君達は鬼殺隊士としては赤子同然。

だが最も簡単な戦術である待ち伏せ、

それだったら君達でも対処可能のはずだ」

 

「もし強力な鬼が現れたらどうするんですか?」

 

児珠の顔には不安が指していた。

 

「偶然ながらこの街は俺の巡回区域に入ってる。普段の巡回よりは簡単だ」

 

「偶然じゃないですよね」

 

児珠の冷静なツッコミが虎咲に刺さる。

 

「あ、バレた?」

 

「まぁ…はい」

 

児珠は心底心配だった。こんな人が俺達の上司か…と。

 

〜蝶屋敷〜

 

「ただいま〜」

 

「お帰りなさい虎咲。完全稼働はもうすぐですか?」

 

帰ってきた虎咲をしのぶが出迎える、そんな光景はもう蝶屋敷でお馴染みになっていた。

だが今日は少し違った。

 

「お帰り虎咲!なんでこんだけ顔を出さなかったのか小一時間話を聞こうか!」

 

真菰がいたのだ、しかも笑顔のまま青筋を浮かべて。

 

「え?あ、すいませんボソッ」

 

「あ?聞こえないよ!」

 

真菰が声を上げて怒る。

 

「てっきり死んじゃったと思ったんだから!」

 

「ごめん、団子で許して」

 

「許す!」

 

「チョロイナ「何か言った?」何でもない」

 

「ねぇねぇしのぶ!責任取らせよ!」

 

「そうですよ、私達がどれだけ寂しかったか。

夕飯の後覚えておいて下さいね?」

 

次の日の朝、三人の腰が砕けたのは言うまでもない。

 



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第弐拾壱話 完成した第二清水町

完全稼働を開始した第二清水町、新たに配属された新人隊士。

彼らの調整と強化は、柱達によってほぼ毎週行われていた。

機関銃の整備は虎咲だけだが。

 

「テメェらは軽くなった最終選別に受かっただけだ!

この風柱不死川実弥が直々に稽古してやる!!」

 

「はい!」

 

実弥が行うのは戦闘訓練、彼らに最も足りていない物である。

彼らは一度も戦闘という物を行なっていない。

もしかしたら藤襲山で鬼と対峙したかもしれない。

まぁそれはほんの一握り、ごく僅かの隊士のみだ。

 

「やっぱ柱強いわ、勝てねぇってあんなの」

 

児珠が愚痴る、虎咲はそこを励ます。

 

「そうだね。でもね、実弥も人間…だから何とかなるよ!」

 

「オイ虎咲テメェ!何で人間かどうか言おうとしたところで詰まったんだよ!」

 

とんだ地獄耳だな、なぜ100mも離れた所から聞こえるんだ。

こちとらクッソ小声だぞ?

 

「え…?人間…だよな」

 

それをやめろぉぉ!という実弥の怒鳴り声とグキッという音がしたのは同時だった。

 

〜蝶屋敷〜

 

虎咲がブラック勤務してから直ぐに

蝶屋敷で住み込みで働くこととなった水葉、陽菜、風華、

たまたま蝶屋敷を訪れていた虎咲の同期唯一の男子である太一。

その四人が合掌しながら縁側に向く。

 

((((可哀想に…虎咲君)))虎咲…)

 

その方向には日輪刀を構えたしのぶと真菰がおり、

その視線の先には冷や汗を大量に流した翼柱の戸山虎咲と、

風柱の不死川実弥が正座させられていた。

 

「ねぇ後ろの四人!手ぇ合わせないで!まだ死んでないから!」

 

虎咲がツッコミを入れるが、いつものように冷静では無かった。

 

「なぁ胡蝶、夫を傷付けられたからって怒るなよ」

 

実弥はこんな状態でもしのぶを煽る。

実弥は本当にキレたしのぶを知らないようだ。

 

「ッチ…まぁ今回は許してやりますよ」

 

「口調が素に戻ってね?しのぶ」

 

てか舌打ちしたやん、こっわ。

 

「黙やがれください虎咲、今はこの風柱です」

 

「ねぇねぇ風柱さん、苗字不死川って言うんだね。

実際に死なないか確かめてみてもいい?」

 

「いいですね、真菰。新しい毒を試したいですし」

 

なんか人格変わってね二人とも。

そんなこんなで実弥は連れて行かれた。

 

〜二分後〜

 

「なかなかしぶとかったですね、今度やったら容赦なく殺しますよ」

 

「虎咲も例外じゃ無いからね」

 

「「ハイ…スイマセン…」」

 

どうやら二人は反省したようだ。呼吸を使わなかっただけまだマシだろう。

 

「俺は稽古してくる。テメェ…もう邪魔すんなよ?」

 

「わかったわかった」

 

実弥は新人隊士を育成すべく第二清水町へと向かった。

 

「てか珍しいな、同期五人揃うなんて」

 

「それ、俺も思った」

 

え、私仲間はずれやんと言っていた風華は無視された。

だが彼女は無視しなかった。

 

「大丈夫よ〜私が仲間〜」

 

間延びした声が特徴の元花柱、胡蝶カナエである。

 

「うわぁ!?師範!」

 

「うーりうりうり」

 

カナエのちょっかいが風華を襲う!

 

「姉さん、風華さんが嫌がってるんですからやめて上げて下さい」

 

「じゃあしのぶにやるわ!」

 

「え!?ちょっと!」

 

虎咲はこれを止められるのは一人しかいないと思いある人物を呼びにいく。

 

〜五分後〜

 

「みんな一緒になれば嫌じゃないでしょ?」

 

カナエの暴走はまだ続いていた。

蝶屋敷の前の道を全力疾走していた虎咲は、ある人物を連れていた。

 

「さぁ止めてください冨岡さん!」

 

そうカナエの想い人、水柱の冨岡義勇である。

 

「…は?」

 

普段の彼なら絶対に出ない素っ頓狂な声が聞こえた。

それもそうだ、訳もわからず蝶屋敷に連行されたのだから。

 

「あ!ぎーくんじゃない!やって欲しくて来たの!?」

 

完全に暴走状態のカナエは義勇に飛ぶ。

義勇は一瞬「え?は?」という顔をしたが、

我を取り戻して咄嗟にカナエの足を蹴り飛ばす。

 

「痛ったいなぁ〜、何で蹴ったのさ!」

 

「…すまん、体が勝手に」

 

「すまんで済んだら警察はいらないよ!」

 

義勇は呆れたような、またかという顔でしのぶを見る。

 

「…すまない胡蝶、ちょっと回収させてもらうぞ」

 

「あっはい、どうぞ」

 

しのぶの即答によってカナエは義勇によってドナドナされた。

去り際にカナエが何か言っていたが気のせいだろう。

 

「波乱だねぇ…」

 

「そうですねぇ…」

 

「そうだねぇ…」

 

三人がまるで年寄りのような感想を零す。

しかし、波乱を起こしたのは間違いなく虎咲である。

 

「しのぶさん、風華」

 

「どうしたんですか?水葉さん」

 

「今更だけど蝶屋敷ってこんなに荒れるの?」

 

「本当に今更ですね、虎咲がいれば荒れますよ」

 

ほら今もそこで、と言いかけたしのぶは良いことを思いつき

自室で保式と三年式に囲まれた虎咲に近づく。

 

「ふっ」

 

「あいやああ!!?!!」

 

しのぶはまた虎咲の耳に息を吹きかける。

それを見ていた後ろの四人は吹き出す。

 

「ふふふっ…す、すいません…ふはは…」

 

「んぐっ、んんwww」

 

「虎咲、そんな声出んのかwふはは」

 

「ふははっ…う゛え゛フッ、え゛え゛ん」

 

「どうしたぁ!陽菜!」

 

虎咲は一瞬コントでも見てるのだろうかと思ったが、

虎咲を馬鹿にし、その馬鹿にされる理由を作ったのはしのぶだというのに気がついた。

 

「おい…しのぶ…」

 

「なんですか?あ…」

 

しのぶはたじろぐ、虎咲の目には光が無かった。

 

「なぁ、もうやめろって言ったよなぁ…」

 

「それは…その…」

 

反論出来ないしのぶは珍しいぞ!虎咲は顔に青筋を浮かべ始める。

 

「お、面白かったんです」

 

「許す!次やったら許さないからな!」

 

「え?」

 

しのぶは困惑する、

こんなにすんなり許してくれるとは思わなかったからだ。

 

「波乱だったね…今日は…」

 

いつの間にか帰った裕太をよそに三人の少女は話始める。

 

「そうね…また見たいと思っちゃうもの事実だけど」

 

「多分自然に発生すると思う。あの二人、いや三人だね」

 

三人は幸せそうに笑う虎咲、しのぶ、真菰を見る。

 

「はぁ〜…いいなぁ」

 

「水葉も裕太に告っちゃえばいいのに」

 

「なっ、何言ってんの!?」

 

水葉は陽菜の不意打ちに顔を赤く染めるのだった。

 

 



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第弐拾弐話 ちょっと休憩!サイコロの戦い

注意!この番外編は現パロです!

彼らは現代日本の文化を全て理解しています!

あともう一つ!今現在の交通機関とは限りません!

普通に昔の寝台特急も出します!

 

「で、東京に着いたのはいいけど」

 

カナエは作者に渡された明◯のサイコロキャラメルを見る。

 

「これで決めるのか?」

 

「わからないですよ義勇さん、なんか作者から来てません?」

 

義勇は慣れた手付きでスマホを弄る、メールが来ていた。

 

っとここでルール説明!

 

今回は虎咲、しのぶ、カナエ、義勇の四人が

サイコロ片手に当ても無い旅に出ます。

己の運次第で行き先が決まる。そのままの意味で全てをサイコロに委ねる。

何とも無意味、何とも無謀な旅の始まりである。

制限時間は3日後、それまでに札幌に着かなければキツい罰が執行される。

元は北海道のローカル番組の企画だが、面白かったので採用。

 

『これから乗車可能な交通機関をリストアップしたのをチェックポイントに着いたごとに送るよ』

 

それと同時に義勇のスマホにリストが表示される。

 

「えーっと何何?

 

虎咲は義勇のスマホを覗き込む、

そこにはー

 

『これは新宿発の長距離バスの名前だ、行き先は振ってから見ること

 

1 ラ・フォーレ

2 Weライナー

3 オレンジライナー

4 らくちん

5 ドリームふくふく

6 エアポートリムジン

 

覚悟は決まったかい?ならばサイコロを振ってくれ』

 

「6の行き先は…空港ですよね?冨岡さん」

 

しのぶは確認するように義勇に問いかける。

 

「…だが空港まで行ったところでそこからどこへ行くのかわからないからな」

 

「とりあえず振っときましょう、俺がやります」

 

虎咲はカナエからサイコロを受け取り、投げる。

 

「さーって何の目が…」

 

目を見たしのぶは固まる、心配したカナエが近付き

 

「どうしたのって…6?」

 

義勇のスマホにメールが来る。

 

『6、エアポートリムジン。

新宿バスターミナルを発車し、羽田空港着。

問答無用で新千歳ゴール』

 

『終わっちゃったね、札幌で会おう』

 

作者はそれだけ言って電話を切る。

 

「…あ、終わり?」

 

「でも新千歳だから…終わりじゃないですか?」

 

「他の行き先はどんなのだったの〜?」

 

1、青森 2、松山 3、松山 4、盛岡 5、下関

 

「…なんとも反応しづらい行き先だな…」

 

「なんかさ、あの作者だったらこれで終わらせる訳ねぇって感じがするな」

 

「とりあえずバス乗りましょ」

 

「あ、本当にこれで帰るの?」

 

ー新千歳空港ー

 

「早すぎないかい!?虎咲!」

 

作者は驚きの顔を隠せずにいた、彼も速攻で帰ってくるとは思っていなかったのであろう。

 

「単純に虎咲の運が強かっただけですよね」

 

「とまあこんなに早く着いちゃったんだ。

もう一回行ってもらってもいいかい?」

 

「味気なかったし…そうしましょう」

 

「で、次はまた東京?」

 

「ふっふっふ…次は淡路島からだ!」

 

「「「「……」」」」

 

4人が一気に刀を抜く、目には殺意が宿っていた。

 

「待って、ヤメテ」

 

「「ふざけるなぁ!!」」

 

「イヤアアアアアア!!!!」

 

虎咲としのぶが作者に襲いかかる。

10分後に作者がボロボロになりながらスタートと言ったので、

4人は島流s(((……淡路島へ向かうこととなったのだ。

 

〜淡路島〜

 

「いやー結構時間かかるのね」

 

カナエが呟く、実際 5時間はかかっている。

 

「途中カナエさんが寄り道したからですよ」

 

「そうよ、姉さんがなんか食べたいって言ったから」

 

すかさず虎咲としのぶが反論する。

 

「(うるさいから)もうとっととサイコロ振って終わりにしよう」

 

義勇は不機嫌そうにサイコロをしのぶに託す。

その瞬間、スマホに届いたリストをガン見する義勇。

 

「1、高速船で大阪 2、高速船で神戸 3、フェリーで鹿児島

4、フェリーで東京 5、高速船で神戸の後新幹線で博多 6、一泊だそうだ」

 

「個人的にはさっさと本州に戻って選択肢を増やしたいところっ」

 

言いながらしのぶはサイコロを投げる。

出た目は1、高速船で大阪であった。早めに淡路島脱出である。

 

〜大阪駅前〜

 

飯を済ませた四人、もう既に夕方である。

 

「大阪駅に着きましたね、姉さん。次はどんなリストが来たんですか?」

 

「そうね、えーっとどれどれ?」

 

選択肢はこうだ。

1、夜行バス「たびのすけ号」で東京。

2、寝台急行「きたぐに」で新潟。

3、寝台特急「あかつき」で長崎。

4、寝台特急「富士」で大分。

5、飛行機で沖縄。

6、出せ!大阪一泊。

 

この夜は虎咲と義勇にとって最悪な夜になったそうだ。

 

「寝台特急って私乗ったことないのよねぇ〜」

 

「私もです、冨岡さん何とか出して下さいね」

 

「何で俺なんだ」

 

「まぁまぁ、とりあえず振って下さいな…てか5ヤバくない?」

 

虎咲に催促され義勇はサイコロを投げる、出た目は2。

寝台急行「きたぐに」で行く新潟への旅である。

だがここで問題発生!

 

〜大阪駅待合室〜

 

「ごめんね、ぎーくんと虎咲君。寝台券がね、2つしか取れなかったの」

 

「申し訳ないけど二人には自由席に座ってもらっていいですか?」

 

しのぶの手には2枚の寝台券と2枚の急行券が握られていた。

 

「自由席?普通のイスかい?」

 

「普通のイスみたいですよ」

 

「…寝台急行だよな?」

 

虎咲と義勇は何とか出来ないかと頼み込むが、

列車の時間が迫り、彼女たちも寝たいとのことで、

結局2人は自由席に押し込まれてしまった。

 

「…すまない、虎咲」

 

「いいんです、逆に喜びましょう。帰ったら作者を殺す口実が出来たんですから」

 

「そう考えれば確かに美味しいな」

 

〜3時間後〜

 

敦賀を発車した辺りで2人の尻は限界を迎えていた。

 

「冨岡さん、2人の寝台ってどこか覚えてますよね」

 

「あぁ、虎咲も考える事は同じようだな」

 

「はい」

 

「「2人の寝台に潜り込む」」

 

2人の声がハモる。流石にこれ以上は尻が異常をきたすだろう。

これをあと約7時間も続けるとなると相当な事になってしまう。

 

〜7号車〜

 

「スー…スー…」

 

「……」

 

カナエは既に深い眠りについていたが、しのぶはまだ起きていた。

 

(虎咲と冨岡さん、大丈夫なんでしょうか…)

 

するとカーテンが開く、目の前には虎咲と義勇が真顔で立っていた。

 

「え?」

 

2人は無言で虎咲はしのぶの寝台へ、義勇はカナエの寝台へ転がり込んだ。

 

「どうしたんですか…?」

 

「…もう尻が限界だった…」

 

「あ、じゃあ一緒に寝ましょう」

 

「…すまん」

 

新潟まであと約7時間程、彼らは無事に札幌へ帰れるのだろうか!?

 

好評だったら続く

 

 

 

 

 

 




ネタ切れがハンパない結果殴り書きで書いた物です。
一応続きもありますが、好評じゃなかったんなら本編を先に出します。


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第弐拾参話 戦闘開始!敵ハ第二清水町ニアリ!

遅れに遅れた最新話ですよ〜!
はい!ネタ切れがヤバすぎて放心してました!


第二清水町が完全稼働してから二ヶ月、まだ目立った鬼の襲撃は無い。

まぁその分新人の育成に時間が割けるのはありがたい。

ここで少しこの町の紹介をしよう。

この町にも人(囮)が多く入って来た。

多くは鬼殺隊士の家族だったりするのだが、

鬼殺隊と一切関係無い民間人も多く入居している。

機関銃壕や機関銃が据え付けられた家には入居させないようにしている。

機関銃壕、暇を持て余した虎咲が新たに塹壕を1人で掘り、

そこに上下左右に位置が動かせる機関銃を設置した。

上下左右と言っても機関銃が設置されている板を動かしているだけだが。

機関銃壕へと繋がる地下通路は鬼殺隊士が駐留する家に繋がっており、

この塹壕は第二清水町を守る第一防衛線となっている。

新人隊士の機関銃隊は主に保式機関銃で組成されるが、

検査などで数が揃わなかった場合三年式機関銃が代替で設置される。

大抵の雑魚鬼はこの時点で弾幕の餌食となりこの世を去る。

この強固な第一防衛線を突破した鬼は続く第二防衛線で殺される。

第二防衛線は町に入る直前、町の外周全ての家屋で形成されており、

鬼殺隊士の駐在地が集中している。

全ての家屋の窓に後述の13.2mm機関砲が配置されており、

そこに現れた鬼は一気に蜂の巣と化すだろう。

もし機関銃が何らかの形で撃てなくなった場合は、新人隊士の手によって殺害される。

度重なる柱の鍛錬で彼らの実力は

既に甲に達するか達さないかの狭間で収まっている。

彼らは機関銃の扱いも優れており、反動を殺す事が彼らには可能だ。

このさらに強固な第二防衛線を突破するのは恐らく血気術を駆使する鬼だろう。

第三防衛線、町の中心から半径約150mの円周に設置された防衛線。

この線上には鬼殺隊士の駐在地が多く存在している。

この防衛線は唯一機関銃を主力としない防衛線で、

剣技に自信がある隊士のみで組成される。

機関銃の数こそ少ないものの、人間が得意とする接近戦で対処する。

最終防衛線、使われる事は殆ど無いだろうが存在する最後の砦。

全ての防衛線からトンネルが直結されており、

防衛に失敗した場合その他の防衛線から隊士をかき集められる。

篭城戦の場合には輸送路としても利用される。

町の中心から50mの範囲に設定されており、機関銃や機関砲の数も最多。

町の中心地には地下避難所へのトンネルに入るための

映画館に偽装した要塞が建てられている。

要塞の窓には無数の機関砲が設置されており、

戦闘時には数多くの部屋で鬼殺隊士達が待ち伏せをする。

本来三年式と保式が設置される予定だったが

魔改造大好きの鐡火山の手により大口径13.2mm弾を使用する機関砲が爆誕、

それらが全て窓付近に設置されている。

余剰となった三年式と保式は第一防衛線と第三防衛線に移設された。

そんなハリネズミのような深夜の町を虎咲は映画館に立てた物見櫓から眺める。

 

「自分で作った町…最終防衛線が役に立つ日が来ないことを願おう…」

 

この時フラグがビンビンに立てられた事に虎咲は気づかなかった。

虎咲は立体機動で鉄塔から降りて要塞の屋上に降り立つ。

 

「ふぅー…」

 

「ひゃあああ!!??」

 

まただ、また来た。

そこには「やったぜ」と言いたげな顔をしている蟲柱胡蝶しのぶが立っていた。

 

「もうやめろって言っただろ…」

 

「残念、隙あらばやり続けますよ」

 

「まじか…」

 

虎咲は頭を抱えて蹲る。

 

「改めて見ると…大きな町ですよね…」

 

「…なぁなぁしのぶ、もっと上から見たいか?」

 

「え?それって…え!?」

 

虎咲はしのぶを引き寄せ右手に柄を握り手に力を入れる。

 

「異論は無しだ!」

 

「待ってそれはあぁぁぁあ!!」

 

虎咲は左腕でしのぶを抱えて物見櫓にアンカーを射出する。

 

「どうだ?よく見えるだろ」

 

「う…まぁ…よく見えます…」

 

何故か腕の中でぐったりしているしのぶを抱えて飛んだ虎咲、

しかしこの状態は俗に言う空中ブランコ。

 

「どうした?高いとこは嫌か?」

 

「……」

 

「え、どうしたって…痛い痛い」

 

しのぶは何も喋らずに虎咲の腕をつねる、

しのぶの顔は何故か耳まで赤く染まっている。

 

「早く…下ろしてください…」

 

「あ、わかったわかった」

 

「え待って下ろすってそういう意味じゃないですってぇえええ!!」

 

虎咲は立体機動で地面に向かい急降下。

虎咲は満足そうに地面に立つが、しのぶは顔面蒼白だった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

「大丈夫か?」

 

「これが大丈夫に見えますか…?」

 

しのぶは真っ青な自分の顔を指差すが、虎咲はそこまで気にしなかった。

 

「まぁ…うん」

 

何処からか銃声が聞こえ、鎹鴉が飛んできた。大声でこう言う。

 

「カァー!第一防衛線カラ連絡!十二鬼月出現!

大量ノ鬼ヲ引キ連レテオリ東ノ第一防衛線は崩壊!」

 

「…っ!わかった!第一防衛線は放棄!担当者は第三防衛線へ急がせろ!」

 

「カァー!了解!」

 

既に火が第二防衛線の辺りまで見える、

今第二防衛線に隊士を向かわせても絶対間に合わないだろう。

鎹鴉による伝達の短所は、時間差が大きい事だ。

 

「十二鬼月…ですか…」

 

しのぶが不安な声で虎咲に言う、

彼女はどうやら前線の新人隊士達が心配のようだ。

 

「あぁ、しかし初陣が十二鬼月とはなぁ…」

 

「まぁ…いざとなったらここに柱が二人いますしね」

 

「しかも実弥が今日稽古をつけに来ている、これだったら柱三人だな」

 

そう。実は今日、定期的に稽古をつけに来ている

風柱の不死川実弥がこの町にいる。

なんと今この町には柱の約三分の一が存在しているのだ。

 

「まぁ…アイツが戦闘に参加するかは別だけどな…」

 

「まぁわかりませんよ、銃声で飛んでくるかもしれませんし」

 

「そうだな、アイツは戦闘狂だしな」

 

「「ハハハ…」」

 

「笑っている場合では無いな…」

 

「そうですね…」

 

二人は改めて戦火にさらされている町を見下ろす。

住民の避難は既に終わっているが、このままでは第二防衛線も崩壊する。

鴉が周りの隊士達に援軍を要求しに行ったがいつ来るかはわからない。

 

「さぁ…状況開始だ」

 

虎咲は口角を上げてそう言った。

ソイツが因縁の相手とは知らずに…。

 

〜第二防衛線付近〜

 

「…あの方の命令だから君を殺さなきゃいけない、

今日は前回と違って日付が変わってすぐだ。

時間はたっぷりあるし楽しませてもらうよ、虎咲君」

 

そう言いソイツは笑う。目には文字が刻まれているようにも見えるが、

暗闇のためそこまではわからない。

この戦いで、第二清水町の存続が決まる。全てはここからだ。

 

「にしてもすごい要塞だ、いつの間に造ったんだ。

これも虎咲君かな?楽しみだなぁ!今は柱になってるって言うし!」

 

(ほんと、何で猗窩座殿が負けたのか。今の彼はそんなにも強いのか)

 

上弦ノ弐、童磨は「楽しみだ」と言いながら第二防衛線を崩壊させたのだった。

 

〜蝶屋敷〜

 

「第二清水町が攻撃されてるって…本当…?」

 

「あぁ…どうやら本当みたいだ…」

 

たまたま蝶屋敷に寄っていた児珠とあずさ、

自分達が非番の時に町が攻撃されている事に驚く。

 

「虎咲さん達がいるから何とかなるかもしれないが…。

相手は十二鬼月らしい、しかも上弦」

 

「みんな…大丈夫かなぁ…」

 

あずさは自分の仲間達の心配をするが、児珠がそれを遮る。

 

「アイツらも俺らとキツい鍛錬をこなした仲間だろ、信じなくてどうする」

 

「そうだね、ありがとう。児珠」

 

だが二人は不安だった、

鍛錬しかしていない自分達に上弦の相手など務まるのかと。

 

〜第三防衛線〜

 

「手荒な歓迎ありがとね、虎咲君。俺の部下達はすぐに死んでいったよ」

 

「黙れクソが。童磨、お前には肥溜めがお似合いだ、違うか」

 

「相変わらず口が悪いね、虎咲君」

 

「「……」」

 

二人は黙って武器を装備する。

 

「やっぱお前死ねよ、あと俺を名前で呼ぶな」

 

ー翼の呼吸、参ノ型、為虎傅翼ー

 

虎咲の瞳が紅く光り、虎咲は抜刀する。

 

「やっぱり男は嫌いだね」

 

ー血気術、蓮葉氷ー

 

刀と扇がぶつかり合う、第二清水町での最初の戦闘が幕を開けた。

 

 



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第弐拾肆話 クソ野郎達はくたばらない!?

ー翼の呼吸、壱ノ型、雲煙過眼ー

 

ー血気術、粉凍りー

 

「お前ら!口を閉じろ!」

 

虎咲は新人隊士達に警告し、戦闘を再開する。

新人隊士達はこの戦闘を機関銃で援護しながら眺めていた。

そして思い知らされた、柱でも互角かそれ以下。

彼らではまだ上弦に立ち向かうことなどできないという事を

この戦闘で思い知らされてしまった。

 

(さっきから弾丸が俺に当たるけど…虎咲君には当たらない、何故だ?)

 

カラクリはこうだ、既に虎咲は戦闘開始時から

絶対領域を自分の体に纏い戦っていた。

既に彼にも何発か命中しているが全て跳ね返されている。

だが童磨はそれに気付いておらず、常に思考を張り巡らせながら戦っていた。

 

ー翼の呼吸、伍ノ型、集翼九連ー

 

ー血気術、凍て曇ー

 

周囲に氷の煙幕が展開され虎咲を襲う、しかし虎咲には効かなかった。

ここで童磨は気がついた、虎咲が自分を防護する技を出していることを。

 

「ねぇ虎咲君。君、何か自分を防護する技を使ってるでしょ」

 

「バレたか…まぁいい。お前の天敵だな、この技は」

 

人体を直に攻撃する童磨の血気術も人体に直接当たらなければ意味がない。

虎咲は自分の体を守れるだけの範囲で絶対領域を発動していた。

粉凍りが当たろうが全て今の虎咲には効かなかったのだ。

 

「とんでもない技だね、でもー」

 

童磨は虎咲に急速で接近し扇を構える。

 

「強力な技なら、受け止められないよね」

 

ー血気術、枯園垂りー

 

童磨は扇を振るって虎咲に襲いかかる。

虎咲は立体機動で童磨の奥に飛んで避ける。

 

「そんなの初めて見たよ!すごいね!今の!」

 

「っチ…」

 

地面に立ったとき虎咲は気づいた、立体機動装置の動きが少し悪いことに。

 

(この動きの鈍さ…メカボックスが凍ったな…)

 

立体機動装置は本来比較的温暖な地方での使用を想定しており、

吹雪の中などではメカボックスやブラックボックスが凍結し完全に使用不可。

まだ完全凍結とまでは行っていないが、既に運用に支障が出る程度。

もう立体機動装置はただの荷物でしかない。

だが虎咲はあることに望みをかけた。

 

(イチかバチか…やってやる…)

 

虎咲は思いっきりガスを噴射して氷の煙幕を吹き飛ばす。

そこから建物にワイヤーを突き刺して一息をつく。

先程のような鈍さは無くなっていた。

虎咲はガス圧で氷を吹き飛ばし、元に戻したのだ。

 

「そんな使い方も出来るんだね、決めた!君は今日食べてあげる!」

 

ー血気術、結晶ノ御子ー

 

童磨は腰の高さまでの大きさの氷人形を三体出現させて虎咲に対峙する。

 

(以前君に放ったやつより強力だ、今度は負けないよ)

 

御子達は虎咲に一斉に襲いかかる、童磨も気を抜かずに技で畳み掛ける。

 

「…ふふ」

 

「何がおかしいんだい?追い詰められてるのは君だ」

 

「あー…考える事は同じなんだな」

 

ー似の呼吸、壱ノ型、冬ざれ氷柱ー

 

「え?は!?」

 

童磨は頭上にいきなり現れた氷柱を避けきれずに右腕が切断される。

 

(何が起きた、氷柱?俺の血気術?何だこれは)

 

「今のでようやく完成したよ、礼を言うと思ったか?」

 

ー似の呼吸、陸ノ型、結晶ノ御子ー

 

虎咲の周りに腰ほどの高さの氷人形が二体現れて童磨に襲いかかる。

 

〜最終防衛線〜

 

要塞の屋上でしのぶと新人隊士が虎咲の戦闘の行く末を見守っていた。

 

「しのぶさん…虎咲さんのあれは…」

 

「虎咲は自分の記憶を基に技を出せるんです。たとえそれが鬼の血気術だろうと」

 

「自分が使えると思った技は使えるということですか…」

 

〜戦場〜

 

「さぁ…時計を見ればもうすぐ日の出じゃないか。

しかも負けかけているときた、お前上弦ノ弐だろ?」

 

「クソ野郎だね、君は!」

 

ー血気術、霧氷・睡蓮菩薩ー

 

菩薩のような氷像が現れ虎咲に殴りかかる。虎咲は口を細めて笑う。

 

「終わりだ、クソ野郎」

 

ー似の呼吸、弐ノ型、破壊殺・滅式改ー

 

とてつもない疾さで弾幕が放たれ、

氷でできた菩薩像をいとも簡単に破壊する。

 

ー翼の呼吸、参ノ型、為虎傅翼・延ー

 

制限時間が戦闘時間に比べて短い為虎傅翼の延命技。

持続時間が延びるが、使い終わると足に相当な負担がかかる。

壊ノ型と同じく最終局面以外の使用は控えた方がいいだろう。

 

「は?何故だ…」

 

「さぁ童磨。とっととくたばれ、クソ野郎」

 

ー翼の呼吸、弐ノ型、全翼無連・避人建ー

 

避けられようのない弾幕が放たれ、童磨に向けて飛翔する。

その場にいた誰もが勝利を確信したその時だった。

ベンッという三味線の音と共に童磨が消えた。

 

「またかよ…クソ野郎が…」

 

虎咲は刀を鞘に戻して呟く、既に日は昇り始めていた。

 

〜無限城〜

 

(何だ?上弦だけが集められたのか?)

 

上弦ノ参の猗窩座は無限城に集められた鬼達を見て

上弦の鬼達が集められていることに気付く。

奥からある男が出てきた。鬼の始祖、鬼舞辻無惨である。

 

「平伏せよ、今回はある鬼狩りの柱の事で貴様らを集めた」

 

(ある鬼狩りの柱…虎咲か…)

 

猗窩座は即座に虎咲を思い出した、彼も一度虎咲に敗れていたのだ。

 

「童磨と猗窩座は知っていると思うが、そいつはかなりの異端児だ。

我々の血気術を模倣して使用するという人間とは思えない力を有している」

 

上弦ノ肆、上弦ノ伍、上弦ノ陸は驚きを隠せずに声を漏らしたが、

すぐに口を塞いで黙りこくる。

 

「私が一人の人間ごときを警戒しているのは理由がある、童磨」

 

「はい、奴は猗窩座殿の血気術、

破壊殺・滅式を使用して俺を追い込みました。

奴の模倣には限度がありません、

下手をすれば黒死牟殿の月の呼吸さえも模倣して使用するでしょう」

 

上弦ノ壱、黒死牟は童磨に言われても無表情を突き通すが、

少し焦りが出ていたのも事実である。

 

「…私の呼吸も使用できるというのか…」

 

「確か奴の模倣には重大な欠点があるはずだったな?猗窩座」

 

「はい、奴は血気術をその目で捉えない限り模倣はできません。

そして模倣にとてつもない時間を有し、

その戦闘中に模倣した血気術を使用する事はできません」

 

「だが奴には物理攻撃が効かないようだ、毒による攻撃が有効だろう。

妓夫太郎、お前なら奴を…異端児を葬れるはずだ」

 

「御意」

 

妓夫太郎と呼ばれた鬼は、会話によると毒を使用するのだろう。

彼は気味の悪い笑みを浮かべて了承する。

 

「鳴女」

 

ベンッという三味線の音と共に無限城には無惨と鳴女しかいなくなる。

 

「必ず葬る…世界の異端児が…」

 

無惨は苦虫を噛み潰したような顔で一人呟き、無限城を出たのだった。

 

 



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第弐拾伍話 サイコロ決着!制限時間はあと1日半!

「はい!という訳で新潟駅に着いたわけですが!」

 

カナエは比較的元気な声で朝を迎えたが、

その隣に立っていた(?)義勇の顔が少しおかしかった。

お前は人形かと言いたいような顔で、目には光が無かった。

 

「どうしたの?ぎーくん。

寝台の中で(書かせないし見せられないよ!)したのが忘れられないの?」

 

「……」

 

この時義勇は絶対に作者を殺して晒し首にしてやると心に決めた。

 

「まぁ…何があったのかは知りませんが…冨岡さん、次は貴方ですよ」

 

しのぶは義勇にサイコロを託し、リストを確認する。

 

1、上越新幹線とき312号で「東京」

2、特急北越4号で「金沢」

3、特急白鳥2号で「青森」

4、高速バスWEライナーで「仙台」

5、JALで「福岡」

6、快速とフェリーで「小樽」

 

「凄く訳わからない行先ですね」

 

「…もういい、振るぞ」

 

義勇はサイコロを真上に投げて行き先を決める。

 

「あら1ね。東京に戻るのね」

 

「早かったな、新潟」

 

〜新潟発、上越新幹線とき312号〜

 

「はぁ〜東京か…」

 

虎咲は頬杖をつき車窓を眺めながら呟く。

 

「虎咲?どうしたんですか」

 

「絶対深夜バスが出るぞ、次」

 

「そうなれば作者を殺ればいいんですよ」

 

「それもそうだな」

 

そして2人は深い眠りにつく、

だが1人暇していた人間がいた。胡蝶カナエだ。

 

(3人とも寝たの?私だけ?)

 

なお、カナエは寝台で爆睡したため眠気なんて無いのだが、

虎咲、しのぶ、義勇は寝れなかったため絶賛爆睡中である。

 

「ねぇねぇぎーくん」

 

カナエは隣に座っていた、正確に言えば寝ていた義勇を起こそうとした。

 

「…何だ…(夜は散々寝かしてくれなかったくせに…)カナエ」

 

「お喋りしましょ、暇だし」

 

「…はぁ」

 

義勇はここから1時間カナエの無駄話に時間を取られ、

一睡もできなかったようだ。

 

〜東京駅〜

 

さすがナンパの街東京。

しのぶとカナエはめちゃくちゃ声をかけられていたが、

カナエは義勇に抱きついて凌ぎ、

しのぶはゴミを見るような目で凌いだようだ。

 

「ねぇ、もう札幌行こう?」

 

「流石にそろそろゴールしましょう」

 

「…来たぞ」

 

1、JALで「新千歳」

2、寝台特急北斗星1号で「札幌」

3、深夜バスシリウス号で「八戸」

4、ANAで「高知」

5、寝台特急富士で「大分」

6、キングオブ深夜バス、はかた号で「博多」

 

「ほら言ったろ?しのぶ。こういう時に深夜バスが出るんやで」

 

「もう面倒なので帰りましょう。はい、姉さん」

 

しのぶはカナエにサイコロを渡した。

後にこれが悲劇になるとは誰が考えただろうか。

 

「はいっ、あ…」

 

カナエはサイコロが着地したのを確認しに行った瞬間青ざめる。

 

「ふはははは……」

 

「どうだったの?姉さん。あ…」

 

虎咲は狂ったように笑い、しのぶは青ざめる。

 

「嘘だろ…6って…」

 

義勇は後ろに倒れ込み、

現実を信じたくなさそうにリストを二度見して落ちたサイコロを見る。

 

「「はかた号…博多…」」

 

虎咲と義勇は同じ感想を述べた、そしてカナエを見る。

 

「ごめんなさい、手元が狂っちゃって。間違えちゃった。

もう一回…ごめんみんな!」

 

カナエは腰を直角に曲げて謝るが、虎咲の目には生気が宿っていなかった。

 

「俺は1人で帰るぞ!?嫌だからな!!」

 

「…俺もだ、帰らせてくれ」

 

『残念だけど帰れないよ、君達ははかた号に乗るんだ』

 

作者は全てをわかりきったような声で催促する。

 

「「お前絶対許さないからな」」

 

『やっべ俺死ぬかも』

 

虎咲と義勇が見事にハモり、

殺害予告をしたところで博多に行くのは変わりない。

 

「これ何時間くらいですか?」

 

「時刻表があるわよね、作者に入れてもらった」

 

時刻表には所要時間“14時間”と書かれていた。

そこでしのぶがあることに気付く。

 

「姉さん、これ取り返しつかないわ」

 

「え、何で?」

 

「制限時間は明日の夕方まで、

福岡からの直行便を出さないとクリアの確率は一気に下がるの」

 

〜新宿バスターミナル〜

 

「うわー来ちゃったよ」

 

「虎咲君、乗り遅れたらそれでいいのよ?」

 

「…出したお前が言うか、カナエ」

 

「本当に悪いと思ってるから!」

 

その場で土下座するような勢いなカナエをしのぶが宥め、車内に入る。

 

〜30分後〜

 

「いよいよ…バスは動いてしまいました。

次にサイコロを振るのは博多駅です…」

 

虎咲は先程と同じく顔面蒼白、

目には光が無く生きているとは思えなかった。

 

「さっき女性の方が

『このバスは何回止まるんですか?何か買った方がいいんですか?』

って不安な様子で車掌の方に聞いていましたよ」

 

「だって14時間だぞ、そりゃあ不安になるだろ」

 

「てか冨岡さんも姉さんも寝ちゃいましたし…どうします?」

 

しのぶは後ろの席で寝ている義勇とカナエを指差した。

二人は既に眠りについている。

 

「俺も寝るよ、14時間なんて起きてられんし」

 

「私もそうしましょう、おやすみなさい」

 

「あぁ、おやすみ」

 

〜14時間後、博多駅前〜

 

4人はすっかりやつれてしまった、バスの椅子が固かったのだ。

 

「さぁ、もう制限時間も迫ってるので帰ろう、札幌へ」

 

虎咲はリストを開く、そこにあった選択肢に目を見開く。

 

1、ANA289便で「新千歳」

2、間に合うか!?ANA乗り継ぎで「青森」

3、まだ間に合う、のぞみ12号で「東京」

4、やばい!ANA1205便で「那覇」

5、諦めろ!大韓航空で「ソウル」

6、間に合わない!けど新幹線を乗り継いで「新函館北斗」

 

「これ作者さぁ…ソウルとか…行くと思ってんのか、出ても」

 

「順番的に冨岡さんなんですよねぇ…」

 

義勇の顔は青い、那覇なんて目が存在する限り

運が良すぎる虎咲に託す他ないのだが、

生憎順番は運が良くも悪くもない義勇に回ってしまった。

 

「…あー…姉さん、今帰る」

 

「虎咲、冨岡さんを止めてください。逃亡しようとしています」

 

「冨岡さん、これで逃亡したらもう二度と鮭大根作りませんからね」

 

「…」

 

義勇が無言でサイコロを振る、鮭大根を人質に取られる訳にはいかなかった。

 

「え!?ぎーくんやったよ!」

 

カナエがサイコロを見て義勇に抱きつく、

虎咲としのぶはサイコロに駆け寄って目を見る。

 

「「1…新千歳」」

 

帰れるぞぉおおおああああ!!!と二人は叫び狂った。

 

〜新千歳空港〜

 

「お帰りみんなって…」

 

4人からは殺意が滲み出ており、瞳も心なしか赤くなっている。

 

「「「「野郎ぶっ殺してやるああああ!!!」」」」

 

4人はどこからか出した刀を抜き、作者に刃先を向ける。

 

「お助け!」

 

作者と4人の鬼ごっこは千歳から札幌まで続いたという。

 

この旅を文でまとめると…

 

作者の陰謀により東京に集められた虎咲、しのぶ、義勇、カナエ。

彼らにはサイコロが手渡され、

その出た目に従って旅をするよう作者に促された。

第一回目の選択は、いきなり新千歳でゴール。

これではつまらんとのことで次は東京ではなく淡路島からスタートした。

第二回目の選択で大阪にたどり着き、カナエの寄り道で時すでに夕刻。

第三回目の選択、深夜バスや寝台特急が並ぶ中選ばれたのは

寝台急行きたぐにで行く新潟。

だがここで、虎咲と義勇の分の寝台券が取れなかったことが判明。

女性陣2人が寝台で寝る中、男性陣2人は自由席に着席したのだった。

しかし、発車から3時間が過ぎた頃に2人のケツが限界を迎え、

我慢できずに女性陣の寝台に転がり込むのだった。

なお、義勇はこの時カナエに襲われ一睡も出来なかったようだ。

第四投目、流石に疲れたので帰ろうと話していたところで

降った目は上越新幹線とき312号で東京。

しかし、行き先が全国に増える首都東京。

そこでドジっ子カナエが出したのは

日本一の深夜バス、はかた号で行く博多。

バスで完全にやられまくった4人は義勇にサイコロを託した。

義勇の5回目の選択で千歳直行便を出して、大逆転勝利となる。

 

「「「「もう二度とやるかボケが!!」」」」

 

 

 



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第弐拾陸話 第二清水町修復開始!費用は全て虎咲持ちです!

まず、遅れました!申し訳ありません!!
いやー文字数が足りないじゃん!
って思って付け足ししてたら何とびっくり、既に3時間も遅れました!



〜第二清水町〜

 

「いや〜まさかここまで派手にやるとはねぇ…戸山さん」

 

「すいません、多分戦闘があったらその都度頼むかもしれません…」

 

虎咲と棟梁のリーダーである佐藤が要塞から街を眺める。

 

「第一防衛線東部の掘り直し、第二防衛線の強化、

第三防衛線の組成し直し、地下トンネルの崩落修復その他諸々…」

 

「こりゃあ建造した時よりも時間かかりますが…いいですね?」

 

佐藤は虎咲に再確認し、許可を乞う。

 

「いいですよ、次はもっと強力な奴が来ると思うので」

 

「ははは!人気ですね、この街は!」

 

佐藤は冗談を飛ばして盛大に笑う、虎咲もそれに釣られて笑った。

 

「そうですね。まぁ、何とかなりますよ」

 

「では、私は現場指揮に行きます」

 

「お願いします、佐藤さん」

 

佐藤が現場指揮に向ったのを見送り、虎咲は刀鍛冶の里へと歩み始めた。

 

〜刀鍛冶の里〜

 

「鐵火山さん、機関銃の改良と増産、装置の改良をお願いします」

 

「お、また改造か。どこを改造すればいいんだ?」

 

鐵火山はだいぶ食い気味で虎咲に聞く。

ひょっとこの面から見えるその目は輝いていた。

 

「簡単に言えば、耐雪耐寒ですね」

 

「機関銃もかい?うっし、やってやんよ」

 

鐵火山は腕をまくりやる気満々だ。

 

「改造中はこの予備を使いな、性能も同じ奴だ」

 

虎咲は鐡火山から予備の立体機動装置を受け取り一礼する。

 

「そういえば今日あの2人はいないんだな」

 

鐡火山はこの前の2人、しのぶと真菰がいない事に気付く。

 

「あの2人?」

 

「アンタの嫁さん達」

 

「え?あぁ…あの2人なら今屋敷にいると思いますが…どうしてですか?」

 

「いや、聞いたかっただけさ」

 

鐡火山は作業台に向かい、作業を始める。

 

「じゃあ、よろしくお願いします」

 

虎咲は一礼して刀鍛冶の里を後にした。

 

「カァー!カァー!伝令ィ!柱合会議ヲ執リ行ウ!至急産屋敷邸二集合ォォ!」

 

「後藤さん」

 

「御意」

 

後藤と呼ばれた隠は、虎咲を担いで産屋敷邸に向かう。

もっとも、最終的に虎咲を産屋敷邸に送り届けるのは後藤ではないのだが。

 

〜産屋敷邸〜

 

「やぁ私の可愛い子供達、今日もみんなの顔を見れて嬉しいよ」

 

輝哉からの話は三つ。

一つ目、怪我の影響で戦線離脱していた鳴柱が今日限りで引退すること、

二つ目、柱と同じ地位の部隊をもう一つ作ること、

三つ目、先の戦闘による第二清水町の成果報告だった。

 

「部隊の大部分は虎咲の同期だけど…」

 

輝哉が爆弾を投下する。虎咲はキョトンとした顔で輝哉に聞く。

 

「え、あいつらですか」

 

「そうだね、まぁ彼らなら問題無いよ」

 

出てきていいよと輝哉が屋敷の奥に声をかける。

御意と言いながら出てきたのは、

虎咲の同期である真菰、水葉、陽菜、太一。そして一期上の風華であった。

 

「やっぱお前らか…」

 

「何だ?俺ら以外にいるとでも思ったのか?」

 

太一はまんざらでもないような顔で虎咲に問いかける。

 

「私達だってやれる。虎咲、もう1人で突っ走らなくてもいいんだよ」

 

真菰は微笑みながら虎咲に言う、既に彼らは戦う準備はできているようだ。

 

「わかったよ…もう1人で戦うのはやめる」

 

この新部隊は、柱と同等の力を持つものとして。

鬼から人を護るという想いを込めて、護柱隊という名前が付けられた。

 

「虎咲、第二清水町はどうだったの?上弦ノ弐が襲ってきたらしいけど」

 

輝哉は虎咲に、第二清水町の成果を聞いた。

虎咲は満足そうな顔でこう答えた。

 

「まぁ上弦相手だと力不足でしたけど、上弦ノ弐が引き連れた雑魚は一掃しました。

雑魚や下弦までなら充分対応可能かと」

 

「だったら大丈夫そうだね、健闘を祈るよ」

 

「御意」

 

何か風柱が裕太に喧嘩(?)売ったらしいのだが、師弟の仲なので放置されていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

五ヶ月が経っただろうか。

第二清水町も目立った鬼の襲撃は無く、修復も大詰めに入っている。

この世界に来て既に一年半という時間が経っている。

 

「順調ですね、このままなら工期を守れます」

 

「ありがとうございます、佐藤さん。まぁまた壊されるかもしれませんがね」

 

今の虎咲は翼柱という肩書きの他に、護柱隊隊長という肩書きを持っていた。

 

「いいってことですよ、改装なら任してください!」

 

「ありがとうございます」

 

虎咲は第二清水町を後にした。

久しぶりの日が変わる前の帰宅である。

 

〜蝶屋敷〜

 

「もうみんな寝てるよな…」

 

虎咲は靴を脱いで玄関に上がる。

そこで虎咲は気づいた。しのぶの部屋の明かりが付いている事に。

 

「ったく…寝る時ぐらい電気消しとけって…っ!」

 

虎咲は気付いた、しのぶが藤の花の毒を口にしている事に。

藤の花の毒自体人体に影響は無いのだが、

何故摂取しているのかは謎だった。

虎咲は我慢出来ずにしのぶに声を掛けてしまう。

 

「しのぶ…」

 

「っ!お帰りなさい、何ですか?」

 

しのぶは大慌てで藤の花の毒を隠し、何も無かったかのように返事する。

 

「隠しても無駄だ、藤の花の毒を食った理由は何だ?」

 

「う…分かりました…話します…」

 

虎咲の冷酷な目に耐えきれずにしのぶは訳を話す。

 

「半年前から摂取し続けてきた藤の毒です。

私は鬼の首が切れない、だから毒を使います。

しかし私の刀が一度に打ち込めるのは50ミリ、

あと半年もすれば私の体全体が藤の毒で満たされる。

その時に私が喰われれば、その鬼に入る毒の量は私の体重37キロ分。

致死量の約700倍です」

 

「自分を喰わせて相手も道連れ…か、その鬼にって言ってるが

完全に上弦ノ弐対策だろ?さっきの毒見せてくれ」

 

「はい…え?は?」

 

しのぶは虎咲の行動が理解できずにいた、虎咲は藤の毒をかじったのだ。

「ちょっと!何やってるんですか!」

 

「見ての通りだ。しのぶよりは毒の純度が落ちるだろうが、

俺も命を捨てる覚悟を決めている。

柱合会議で言っただろう?もう1人で戦わないって」

 

虎咲は藤の毒を平らげ手をパンパンと払い、

何食わぬ顔でしのぶの部屋を出て行ったのだった。

 

「えぇ…もう死なせませんから…」

 

しのぶは1人呟き部屋の扉を閉じたのだった。

 

〜半年後〜

 

虎咲が毒を食べ始めてから半年が経った。

半年経たない内に真菰にバレたが、非常食だと言ってやり過ごした。

既にしのぶの体は内臓や爪の先に至るまで高純度の毒が回っている状態、

虎咲もしのぶまでとは言えないが

既に体の中には致死量の650倍の毒が回っている。

既にしのぶの毒の量と同等の量が回っているには理由があり、

虎咲が藤の毒にハマり通常の倍も摂取したためだった。

 

「まさか暴飲暴食ならぬ暴服暴毒とは…しかも非常食が毒…」

 

縁側に立ったしのぶは呆れ顔で虎咲を見る、虎咲は満足そうな顔で言い返す。

 

「お陰で毒が身体中に回った…まぁ喰われるのは俺だろうなアイツコケニシタシ」

 

「何言ってんですか虎咲、私は貴方を殺させません」

 

しのぶは心底哀しい顔で虎咲を見たが、すぐに笑顔になった。

もう、後戻りはできない。

 

「勝つのは俺たちだ」

 

虎咲も立ち上がり、2人は地平線に沈みかけた太陽を睨む。

この夜、鬼殺隊で新たな問題が発生するのだがそれはまた別のお話。

 

 

 




4/2、16:29に新たに400文字ほど追加致しました。
まだ見ていない人は見てください!

そして4/4、最新話は17:00に投稿予定!お待ち下さい!


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第弐拾柒話 那田蜘蛛山戦開始、護柱隊も活躍(?)

「カァー!カァー!護柱隊二通達ゥ!

那田蜘蛛山ヘ向カイ威力偵察ヲ行エェ!遭遇シタ場合戦闘モ許ス!

負傷ハ許スガ死亡ハ許サン!」

 

那田蜘蛛山、既に何十人もの隊士が行方不明となっている山。

十二鬼月が存在する可能性が高く、

その調査のために護柱隊を向かわせるとの事。

既に太一と水葉が先に山に向かっているが、鬼の情報はまだ無い。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

虎咲、真菰、陽菜、風華が蝶屋敷の門の前に立つ。

 

「えぇ、恐らく私も後から行くでしょう。その時まで持ち堪えてください」

 

「何だ、俺が死にかけるって言ってんのか」

 

虎咲は不機嫌そうにしのぶを見る。

 

「実際、虎咲君何回も死にかけてるでしょ」

 

陽菜のツッコミが虎咲に刺さる!虎咲のメンタルはボロボロだ!

 

「ソレハベツダロイシカワサン」

 

虎咲の声が極端に小さくなる。相当なダメージを受けているようだ。

 

「もう行こうよ、こんなとこで駄弁ってても意味ないでしょ?」

 

真菰が急かす、陽菜も風華も賛成のようだ。

 

「じゃあ行くか〜」

 

「はーい」

 

間延びした声とは裏腹に、

とんでもない速さで四人は那田蜘蛛山へと向かったのだった。

 

〜那田蜘蛛山〜

 

「た、助けて…」

 

ある一人の青年隊士が山道に倒れていた。

そこに箱を背負った少年と猪の頭を被った少年と金髪の少年が駆け寄る。

 

「大丈夫か!どうした!」

 

箱を背負った少年は心配になり声をかける。

だが青年隊士は、何かに引っ張られるように空中へ投げ出される。

 

「あああ!繋がっていた!俺にも!助けてくれぇぇえええ!」

 

青年隊士はそれ以上言葉を発する事もなく、山の奥へ消えていった。

その後残ったのは、三人と風になびく木々の音だけだった。

 

〜那田蜘蛛山西部〜

 

既に山に入った虎咲と真菰は、西側から警戒にあたった。

 

「なぁ真菰、なんかおかしくないか?」

 

「虎咲もそう思う?おかしいよね。

鬼がいないのに隊士が行方不明になるなんて」

 

虎咲は何かに気づいたように抜刀する。

 

「こういう風に上に隠れてる奴がいるからか」

 

ー翼の呼吸、伍ノ型、集翼九連ー

 

虎咲は真上に弾幕を放ち、その場に立ち続ける。

しばらく経って落ちてきたのは、

木の枝と驚いた顔で固まった女の鬼の首だった。

 

「何で…わかったの…」

 

「殺気だ、それを隠せなければ自分が死ぬ。覚えとけ」

 

「殺気…ね…まぁいいわ…私は死ぬから…」

 

鬼はそう言い残しこの世を去った。

 

「ねぇ虎咲!」

 

先行していた真菰が虎咲を呼ぶ、

真菰が指差す先には人の大きさはある繭だった。

その繭に何が入っているかははみ出ている刀の鞘で分かる。

 

「あの鬼がやったのか…そりゃあ大勢行方不明になるわな」

 

真菰はいつの間にか繭に向かって合掌している。

虎咲もそれに合わせて繭に一礼し、その場を後にしようとする。

 

「真菰もう行くぞ、俺達の仕事は死体回収ではない。だからー」

 

虎咲はそこで一回言葉に詰まるが、そのまま言葉を続ける。

 

「繭を吹き飛ばそうとするんじゃありません」

 

そこには一心不乱に繭を斬ろうとしていた真菰がいた。

 

「やっぱダメか〜…あんまり強く斬っちゃうと

中の死体も斬っちゃうかも知れないからなぁ」

 

「まぁそこは隠の人達に任せよう、俺らの仕事じゃない」

 

「そうだね」

 

二人はさらに山の奥へ向かう。

そこには箱を背負った少年と、猪の頭を被った少年が何かと戦っていた。

その相手は、何かに操られているような鬼殺隊士が数名だった。

虎咲と真菰は瞬時に抜刀、

二人は何かに操られている隊士に目掛けて突入する。

 

ー翼の呼吸、壱ノ型、雲煙過眼ー

 

ー水の呼吸、壱ノ型、水面斬りー

 

「クソッ!何だこの状況は!」

 

「落ち着いて虎咲、操られているようにしか見えないから鬼の仕業ね」

 

比較的落ち着いている真菰は、1人の女性隊士に声をかける。

 

「貴女、名前は?」

 

「尾崎…早く逃げて!みんな殺してしまう前に!」

 

尾崎が刀を横に振るうが、真菰は仰け反って回避。

 

「うっわ危ない」

 

「階級が上の人を連れてきて!早く!」

 

尾崎の腕があり得ない方向に曲げられ、

ゴキッという音と共に尾崎が悶える。

 

「もう大丈夫よ、虎咲!背中を!」

 

「ああ!わかった!」

 

ー翼の呼吸、全翼無連・避人ー

 

無数の弾幕が尾崎達に向かって飛翔するが、

その弾幕に人を傷つけることはできない。

糸が切れたように尾崎達が倒れ、真菰に抱えられる。

 

「真菰、下山して隠に引き渡せ。その後は蝶屋敷に直行だ」

 

虎咲に催促されて真菰は尾崎ら三人を抱えて下山しようとする。

 

「わかったわ、炭治郎君によろしく」

 

「え?誰だって?」

 

「あの箱を背負った子よ、私の弟弟子」

 

「あぁ、わかった」

 

真菰はそのまま虎咲の元を離れ、一直線に下山する。

 

「真菰さんっていうんですね、強い方でよかったです」

 

尾崎は真菰の背中で礼を言う、真菰はここである事を伝える。

 

「ねぇ尾崎さん、護柱隊って知ってる?」

 

「いえ、知りませんが…何ですかそれは」

 

「私達が所属しているんだけど…

簡単に言うならなら柱と同等の隊士集めた部隊かな」

 

それを聞いた時、尾崎の顔は固まった。

 

「それってつまり…真菰さんって柱なんですか?」

 

「まぁね、護柱隊は私の他に五人。

さっきの虎咲は護柱隊隊長兼翼柱なの」

 

「もう柱が来たって事でいいですか?」

 

「うん、難しいと思うからそれでいいよ。

もう喋らない方がいいと思う、傷に響くよ」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

その後尾崎は意識を放棄し、次起きたのは一週間後であった。

 

〜那田蜘蛛山〜

 

「あー鱗滝さんの弟子の炭治郎って君かい?」

 

「そうです!階級癸の竈門炭治郎です!」

 

(元気いいな)

 

虎咲は炭治郎から視線を横に動かす。

 

「で、そこの猪は?」

 

「嘴平伊之助だ!お前は何者だ緑野郎!」

 

(お、ぶっきらぼうな野郎だな)

 

「翼柱、戸山虎咲だ」

 

「こさく?小作人か?」

 

「違えわ猪、全国の小作人に謝ってこい。虎に咲くで虎咲だ」

 

虎と聞いて伊之助が少し怯むが、すぐに立て直す。

 

「俺はもっと上の警戒をしてくる。お前らもしっかり戦えよ」

 

「戸山さん!ありがとうございます!」

 

虎咲は炭治郎に手を振って応えた。

 

〜産屋敷邸〜

 

「そうか、お疲れ様。もう下がっていいよ、太一、水葉」

 

「「御意」」

 

報告が終わった二人は産屋敷邸を後にした。

 

「どうやら十二鬼月がいるのは本当みたいだ、

柱を行かせなくてはならないようだ。義勇、しのぶ」

 

「「御意」」

 

「人も鬼もみんな仲良くすればいいって姉が言っていたんですけどねぇ…」

 

「…無理な話だろう、鬼が人を喰らう限り」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜おまけ〜

 

「冨岡さん、姉とはどこまで行ったんですか?」

 

「お前も聞くか、何もしていないぞ」

 

「嫌われてるからですか?」

 

「しのぶ、あれはどう見ようと嫌われているとは思えないが」

 

 




原作突入!いやー早かった!
ネタ切れした私が悪いんですけどね!


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第弐拾捌話 無限城の修理は無惨様がやるんでしょ?

えーっとまず…
一昨日投稿出来なくてすいませんでしたぁぁ!
これからはどうにかしてネタを絞り出すので毒殺で勘弁してください(大嘘)!


〜那田蜘蛛山頂上付近〜

 

「おるやん…」

 

(あんにゃろぉ…報告ぐらいこなせよ…)

 

虎咲は絶句する。

報告によれば俺達が通過した西部に鬼がいると鴉が言っていた。

しかし、実際にヤツがいたのは那田蜘蛛山のほぼ頂上。

装置を寒冷地仕様にしておいて良かったと心から思った。

 

「どうしたの?君。早く逃げないと殺しちゃうよ?下弦ノ伍の僕が」

 

「え、俺を殺せると思ってんの?マジで?」

 

(何だコイツ)

 

下弦ノ伍、累は訳の分からない人間が現れたと心底驚いたそうだ。

 

〜無限城〜

 

無惨は童磨が追い返されてから十二鬼月全員の視界を確認し、

虎咲が今どこにいるのかを確認しようとしていた。

今日も下弦ノ陸から順に視界を確認していた時だった。

 

(あ?コイツは…ヤツか…)

 

無惨は累の視界から虎咲の姿を捉えた。

上弦ですら勝てないヤツに累が勝てるはずねぇべと

言いながら無惨は累の視界を放棄し、鳴女に任務を与える。

 

「鳴女、今からでも遅くない。累を回収しろ」

 

「御意」

 

「あと十二鬼月全員もだ」

 

「…御意」

 

〜那田蜘蛛山〜

 

ベンッという三味線の音と共に累が那田蜘蛛山からボッシュートされる。

 

「おう…またか…」

 

(これ中どうなっているんだ…?)

 

虎咲は累が落ちていくのを見ながら立体機動で襖の中に降りていった。

 

〜無限城〜

 

「累、お前はヤツと戦っても勝てる見込みは零に等しい。

少なくともお前が戦っていいような奴ではない」

 

「ぎょ、御意…申し訳ありません無惨様」

 

累は頭を目一杯下げて詫びる。

 

「仕方ない、アレは無理だろう。上弦だって無理なのだから」

 

無惨は上弦の方を見る。その直後、背中の毛が一気に逆立つのがわかった。

 

「っ!無惨様!」

 

猗窩座が無惨を突き飛ばす、その無惨の目の前を刀が通過する。

 

「何故貴様がここにいる!戸山虎咲!!」

 

無惨は後ろに仁王立ちしている虎咲を睨みつけるが、

虎咲もそれに負けじと睨み返す。

 

「鳴女!ヤツをここから叩き出せ!」

 

「ぎょ、御意!」

 

鳴女は焦った様子で三味線を奏でる。

ベンッという三味線の音と共に虎咲が地上に吹き飛ばされる。

黒死牟と童磨が、空中に舞った虎咲に向かって技を放つ。

 

ー血気術、結晶ノ御子ー

 

ー全周中・月の呼吸、弐ノ型、珠華ノ弄月ー

 

虎咲はこれらの技を全て全翼無連で迎撃し、

何かを思いついたようにほくそ笑む。

 

「コレは修復が大変だな」

 

ー似の呼吸、肆ノ型、圧縮窒素・両限破ー

 

虎咲は両方の刃を無限城に向かって切り離し、引き金を引く。

二本の刃を中心に大爆発が起こり、

下弦ノ陸から下弦ノ弐を巻き込んで消滅させた。

下弦とはいえ十二鬼月、無惨が直轄する鬼の中の精鋭達。

それを一気に五体も消し去った虎咲に無惨は素直にこう言う。

 

「化け物が…!」

 

無惨は虎咲を化け物呼ばわりするが、虎咲は気にしない。

虎咲は、去り際にこう言ったという。

 

「お前にだけは言われたくないな」

 

〜産屋敷邸〜

 

虎咲が無惨の根城である無限城と十二鬼月を滅茶苦茶にしていた頃、

産屋敷邸では竈門炭治郎が鬼になった妹の禰豆子を連れていたため

産屋敷邸に連行され、裁判にかけられていた。

炭治郎は「禰豆子は人を喰ったことが無い!」と言い放ったが、

逆にその言葉が風柱の実弥の逆鱗に触れて会議は荒れ狂う。

だが現れた輝哉の一言で、荒れていた柱達は少し落ち着いた。

そこでお館様の隣にいた白髪の少女がある手紙を読み上げる。

その手紙には、

 

・禰豆子は飢餓状態にも関わらずニ年以上も人を喰っていない。

・もしも禰豆子が人に襲い掛かった場合、

竈門炭治郎及び鱗滝左近次、鱗滝真菰、冨岡義勇が

腹を切って責任を取る。

 

という二つの内容が書き記されていた。

だが、実弥と杏寿郎はどうしても納得出来なかった。

 

「…切腹するから何というのだ。

虎咲には悪いが死にたいなら勝手に死に腐れよ、

何の保証にもなりません」

 

「不死川の言う通りです!人を喰い殺せば取り返しがつかない!

殺された人はもう二度と戻らない!」

 

輝哉は頷きながら二人の話を聞いてこう答える。

 

「そうだね、確かに人を襲わないという保証の証明にはならない。

だけどね、人を襲うという証明にもならない」

 

その言葉に二人はハッとする。

 

「禰豆子が二年以上も人を喰っていないという事実があり、

禰豆子の為に三人の命が懸けられている。

それを否定するには、

勿論否定する側もそれ相応の物を差し出さなければならない」

 

輝哉は何かを含んだように微笑みながら二人に語りかける。

 

「…っ!」

 

「…むぅ!」

 

実弥は納得出来ないかのように歯軋りするが、

杏寿朗は納得した様子で頷く。

 

「まぁ柱一人居ない状態で柱合会議なんてやっちゃいけないけどね、

しかもこんなに重要な議題だし」

 

輝哉は笑ってそう言う。

そう、翼柱である戸山虎咲が産屋敷邸に居ないのだ。

 

「そういえばそうだ。おい胡蝶、戸山は今どこにいるんだ」

 

伊黒が思い出したようにしのぶに絡む。

 

「虎咲ですか?まだ那田蜘蛛山から帰ってきてませんが」

 

「それはそうだろう、だって今来るんだから」

 

輝哉は何かを予知したかのように語る。

産屋敷邸の庭に三味線の音が響く。

柱、護柱隊、産屋敷家一同、そして炭治郎と隠が音がした方向を見る。

そこに地面から襖が現れ、中から人が放り出される。

その人物は重力に従って背中から砂利の上に落ちる。

 

「おーい虎咲、生きてるかい?」

 

輝哉が声をかける。

そう、襖から出てきたのは翼柱である虎咲であった。

 

「オイ虎咲!柱合会議を行うってお館様が言っていたのに

何処ほっつき歩いてた!」

 

実弥が虎咲に突っかかる。

だがその問いの答えに顔を青くする。

 

「無惨の根城を無茶苦茶にしてきた」

 

「は?」

 

「無惨の根城を無茶苦茶にしてきた」

 

「イヤ、それはわかるが…は?」

 

実弥と伊黒の思考回路が停止した。

 

「まさか根城を無茶苦茶にするとはねぇ…相変わらず君には驚かされるよ」

 

輝哉はやれやれという顔で虎咲を見る。

だが炭治郎は一体何が起こったのかわかっていなかった。

 

「後藤さん、何が起こったんですか?」

 

「俺に聞いても分かるわけないだろ」

 

二人は目の前で何が起きているのか理解できないまま、

困惑に染まった柱一同や護柱隊を眺めていたのだった。

 



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第弐拾玖話 事案発生!タンポポと陽菜!

事の顛末を聞いた虎咲、

鱗滝さんからの手紙を輝哉が呼び上げたところで

真菰を睨み、一瞬だけ瞳が紅く染まったが、すぐに普通の目になる。

 

「どうかな?君も了承してくれる?」

 

「まぁ…別にいいですけど…」

 

輝哉が安堵したように胸を撫で下ろす。

 

「よかった、もし仮に虎咲が反対していたら

実弥が首を斬り落としてたかもしれなかったからね」

 

「ヤツの早とちりは周知の通りですよね、

流石のお館様も止めれませんでしたか…」

 

虎咲は冷めた目で実弥を見る、実弥は気まずそうにどこかの山の方を向く。

 

「おい、お前露骨すぎるぞ実弥。

早とちりしたんだな?そうなんだろ?」

 

「ウッセェ!」

 

実弥はぶっきらぼうに返し、それ以後口を開かなかった。

 

「さぁ、本来の目的である柱合会議を始めようか」

 

輝哉は微笑みながら柱や護柱隊に語りかける。

 

「じゃあ竈門君は私達の屋敷でお預かり致しましょう!」

 

しのぶがいきなり声を張り上げて手をあげる。

 

「え?」

 

炭治郎は「何を言ってんだこの人は」という顔をしていたが、

虎咲も同じような顔をしていた。

だが、有無を言わせずという感じで隠が炭治郎を掻っ攫い、

炭治郎は直行で蝶屋敷へと連行されたのだ。

その時、輝哉と炭治郎が何か言っていたが他の人には聞こえなかった。

 

「さぁ虎咲、詳しい事を教えてくれないかい?

何故無惨の根城の攻め込めたのかな?」

 

輝哉の目線が虎咲に突き刺さり、虎咲は「ウッ…」という呻き声を上げる。

そこで誤魔化すことに限界を感じた虎咲は、

吹っ切れたように全てを語り出した。

 

「なるほど…敵の逃亡に紛れてついて行ったら

何故かそこに無惨や十二鬼月がいて、

何故かバレなくて無惨の上に待機していたらバレて、

何故か目の敵にされていて攻撃されちゃって、

報復として根城と下弦五体を消し去ったわけだね?」

 

全てを理解し確認するように輝哉は虎咲に問いかける。

 

「はい…仰るとおりです…」

 

虎咲は反論する気も失せ、ただ返事を返すだけの人形と化した。

 

「もう答える気も失せてるだろうから次の議題に行くよ。

護柱隊に二人新しい剣士を迎えようと思う。出ておいで」

 

そう促されて屋敷の奥から出てきたのは、

第二清水町の防衛を担っていたあずさと児珠だった。

 

「お前達か…前々から才能はあると思っていたがな…

まさかここまで来るとは…」

「虎咲さん、いくら新人から這い上がってきたからって

舐めないでいただきたいですね」

 

「まぁこれからも第二清水町防衛なので大して任務は変わりませんよ、

まぁ虎咲さんの配下ですからね」

 

二人はあの採用時と同じ目で虎咲をしっかりと見つめ、

輝哉の方向を見る。輝哉は満足そうに微笑む。

 

「じゃあ紹介終わったところで…今日は解散にするよ。

みんな、集まってくれてありがとうね」

 

「御意」

 

では、解散と言いながら輝哉が手を叩いたと同時に全員が立ち上がり、

帰宅への道を歩み始めるが、隠を待っていた虎咲はある人に止められる。

 

「虎咲」

 

「ん?どうしたんですか」

 

そう、産屋敷輝哉の息子の産屋敷輝利哉である。

 

「すいません、肩車してもらえませんか?」

 

「俺では無くとも…行冥さん辺りがいいんじゃないんですか?」

 

虎咲は行冥を指差して催促する。

が、輝利哉は頑に虎咲に頼み込み、ついに虎咲が折れた。

 

「はぁ…分かりましたよ」

 

「ありがとうございます」

 

虎咲は輝利哉を肩に乗せて「これでいいですか」と聞く。

すると輝利哉は満足そうにこう言った。

 

「このまま父上のところに行ってください」

 

虎咲は言われるがままに輝利哉を肩に乗せたまま輝哉の元に歩く。

すると輝哉は驚いたように顔を上げて、輝利哉と虎咲を見る。

 

「輝利哉、どうしたんだい虎咲に乗っかって」

 

「父上はこう言いましたよね、

『可能なら輝利哉が私の身長を追い抜くのが見たい』と」

 

「そうだね…確かに見たかった。

輝利哉が自分だけで私の身長を追い抜くのをね。

だが今となってはそれは不可能だ、

虎咲の治療もそろそろ効力が切れるだろ?

私はこの先長くはない。輝利哉、虎咲、その時は頼んだよ」

 

「御意」

 

「分かりました父上」

 

その後すぐにやって来た輝哉の妻あまねにより

三人が砂利の上に正座させられ怒られたのは別の話。

 

〜蝶屋敷〜

 

思えば柱や護柱隊の各々で、蝶屋敷に住んでいるのは六名。

そしてほぼ居候をしている太一、あずさ、児珠を足すと計九名。

柱合会議が終わり全員が帰宅すると、

蝶屋敷の前には九人が集まり騒ぎまくって

しのぶとアオイに怒られるという光景がよく見られる。

しかし今回は違った、陽菜が少し足早に玄関を通って自室に向かう。

そこである少年の隊士とすれ違う。そう、ヘタレ代表の我妻善逸である。

 

「えぇ!?陽菜ちゃん!?どうしたのこんな所に来て!

あ!もしかして俺が心配になって来てくれたの!?

あぁ!もう結婚しt「うるさい黙れ」え?」

 

普段の陽菜からは想像出来ない暴言が飛び出す。

普段なら黒いはずの瞳も濃い赤に染まっている。

 

「私はアンタを見ると思い出すのよ、師範を。

アンタは連想しないの?私を見て師範を思い出さないの?」

 

「…」

 

善逸は黙りこくる、陽菜と会った瞬間から

確かに自分の師匠の姿が重なって見えた。

だが、陽菜が言っていることは理解出来なかった。

 

(俺があの「じいちゃん」と同じ?)

 

善逸はこう言った、兄弟子の獪岳に罵られたときのように。

 

「俺は壱ノ型しか使えない雑魚だ、じいちゃんと同じじゃない」

 

善逸は卑屈そうに言って顔を俯かせる。

その行動に陽菜は本気でキレ始めた。

 

「っ!アンタは確かに師範と違ってた!

だけど私は!アンタが一番期待されていると思ってた!

獪岳に何言われたか知らないけどそんなんでアンタはめげないでしょ!」

 

善逸の胸倉を掴んで持ち上げる。

そこをアオイが止めるが、既に陽菜は耳を傾けていない。

 

「俺は壱ノ型しか使えない雑魚!それだけは揺るぎない事実だ!

何でアンタは理解してくれないんだ!!」

 

「そんなに卑屈になることはない!

卑屈になるんだったら!父さんに謝れ!!」

 

陽菜は叫ぶ。その言葉に善逸は驚くが、すぐに意識が削がれる。

陽菜と善逸は気を失って床に崩れ落ちる。

その奥には虎咲が立っていた。

 

「ったく…弟子喧嘩をここですんなよ…ここは病院だ。

一回冷静になれ、お前ら」

 

虎咲は二人を抱えて病室に運ぶ。

アオイが代わると言っていたが、虎咲は運び続ける。

 

〜虎咲の部屋〜

 

すっかり腕が上がらなくなった虎咲、

人を二人玄関から抱えて持って来たから腕なんか上がる訳ないやろ。

 

「他の柱よりは腕の力が無いんですから…

何で無理したんですか…?」

 

「何か自分を過信してたみたいだ、最近銃撃ってなかったしな」

 

果たして関係性があるのかと思ったしのぶだったが、

大した追及もせずに虎咲の横に座る。

 

「虎咲は認められたんですね、竈門君が禰豆子さんを連れていたこと」

 

虎咲は今日の柱合会議にいた少年を思い出す。

彼は恐らく他人を騙すことが出来ない真っ直ぐな少年だ。

 

「まぁ、危害が無いならそれに越したことは無いしな」

 

「まぁ…そうですけど…」

 

しのぶは納得出来なさそうに顔を俯かせて考える。

 

「でも、私は鬼が憎いです。

姉を傷つけ、虎咲を死の一歩手前まで追い詰め、

家族を殺した鬼を絶対に許しません」

 

「まぁ、そう思うわな」

 

しばらく間を置いて虎咲はこう言い放つ。

 

「………俺もだ」

 

そう言った彼の目には、確かに憎しみの光が宿っていた

 

 




キャラ情報

石川陽菜(桑島陽菜)
彼女は孤児だった。
そこを桑島慈吾朗に拾われ鍛錬する。
クセのある弟弟子がいるが、大して気にしていない。
慈吾朗からよく善逸の自慢話を聞かされる。
普段は石川という偽名を使用する。
今は鬼殺隊の護柱隊に所属しているが、その護柱隊を知っているのはごくわずかの隊士のみである。
ある理由で慈吾朗を思い出したくないので普段は石川という偽名を使用する。


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第参拾話 第二清水町のある仕掛け

「戸山さん、本当にいいんですか?」

 

「いいんです佐藤さん、最終決戦のためですから」

 

今、第二清水町は輝哉の予知により、

いつか勃発するであろう最終決戦に向けて民間人を清水町に移し、

町の至る所全てに13.2mm機関銃を設置していた。

さらにはどう再現したのだろうか、

ヒトラーの電動ノコギリの異名を持つMG42が設置された。

 

「まさかねぇ…ここまで大胆な計画になるとは思いませんでしたよ…」

 

「俺も思っていませんでした、

まさかただの金の浪費のはずがここまで壮大な計画になるとは…」

 

いつの日かと同じ要塞に立ち、町の作業進度を眺める。

 

「しかしこれも全て鬼をこの世から消し去るため、

そのためなら金も時間もかかっても構いません」

 

虎咲の目には、明らかに決意の光が宿っていた。

その光を見た佐藤は、ある事を聞く。

 

「たとえ命を投げ捨てても…ですか?」

 

「はい、未来の人達にこの苦しみを与えたくないんでね」

 

彼らの目は第二清水町だけでは無く、

遠くの未来をも見据えているのかもしれない。

しかし90年後、遠い未来のことだが

この街が再び戦いに引っ張り出されるとは誰が考えただろうか。

だが、それはまた別の話である。

 

「もう行きます、では」

 

「はい、戸山さん」

 

虎咲は蝶屋敷に向かい走る。

佐藤はその後ろ姿を見てこう思った。

 

(あの人は…一体どれだけの覚悟を背負って戦っているのだろうか…)

 

〜蝶屋敷〜

 

虎咲に止められ気を失っていた陽菜と善逸。

その二人を、水葉と炭治郎が横で見ていた。

 

「長谷川さん…知ってましたか?善逸が石川さんと同門だって…」

 

「知らなかったよ…。そういえば陽菜は私達同期でさえも

自分の師匠の事を話そうとしなかった。

何か忘れたい事情があったんだろうね…」

 

「そうですか…」

 

水葉は再び気を失ったままの陽菜に目を戻す。

 

(桑島一門に何があったか調べるべきね…)

 

その後、やって来た虎咲とすれ違うようにして水葉は病室を去った。

 

「あ、虎咲さん。長谷川さんはどうしたんでしょうか…」

 

炭治郎と虎咲は、足早に病室を去った水葉を見る。

少なくとも今の彼女は誰にも止める事ができないだろう。

 

「まぁ、アイツは大丈夫だろう。

で、善逸と陽菜はまだ起きないのか…」

 

虎咲は自分が気を失わせた二人を見て呟く。

 

「善逸は大丈夫ですよ、今は毒で体が縮んでいますが

毒で倒れるような奴ではないですから」

 

「まぁ石川だって腐っても柱だからなぁ…」

 

ため息と共に煽り文句が飛び出す。

それに触発されたように陽菜が起き上がる。

 

「何…?虎咲君…喧嘩売ってんの…?」

 

「いや…売ってない…。起きたのか…」

 

ムクっと立ち上がった陽菜は、虎咲を見て口を開く。

 

「虎咲君のおかげで冷静になれた、ありがとう。

でもね、私はやっぱり変わらないみたい」

 

陽菜はそう言って病室を後にする。

アオイが驚くも、止めるということはしなかった。

 

〜清水町〜

 

水葉は一人、清水町でブラブラ歩きながら

桑島一門について書かれた新聞や書物がないか探していた。

だが、桑島慈吾朗も鬼殺隊の元柱。

桑島慈吾朗のその後、ましてや鬼殺隊について書かれた書物が

ある訳もなく、ただ当ても無いまま彷徨い続けた。

 

(こういう時にも政府非公認っていうのは足枷になるのね…)

 

鬼殺隊は政府非公認。

刀を露出させれば警官に追いかけられるし、捕まればお縄。

まぁ警官なんかの並みの人間に捕まるような隊士は

鬼に太刀打ち出来るとは到底思えないし、まず鬼を見て逃げるだろう。

 

「「はぁ…」」

 

水葉は甘味屋の椅子に座ってため息を吐く。

だが聞こえてきたため息は二人分、

水葉は抜刀しようと背に手を伸ばしながらため息がした方向を見る。

 

「た、太一?」

 

「あ、水葉か」

 

太一が「いたんかお前」という顔をしていたので

殴ってやりたかった水葉だが、流石に往来の前なのでそれはやめておいた。

 

「で、アンタは一体どうしてここに来たの?」

 

団子を咥えながら水葉は太一に聞く。

太一はさらに深いため息を吐きながらこう言った。

 

「聞いてくれよ…ついさっき起こった出来事を…」

 

〜水葉に出会う三分前。清水町中心部〜

 

「おいオマエェ!やんのか!?」

 

「え、俺…ですか?」

 

太一は何故か道を歩く輩に怒鳴られ、首を掴まれる。

何とか警官が止めてくれたが、最後まで睨まれっぱなしだった。

 

(何故だ、何故俺は毎回こうなんだ…)

 

太一は不幸体質である。

道を歩けば喧嘩を売られ、困惑している間にぶん殴られる。

最近は呼吸のおかげで何とか避けていられるが、

不幸体質、その効果は屋内でも変わりない。

蝶屋敷の屋根板が急に落ちてきて、太一に直撃することはよくある。

アオイやすみは、

「またですか雫石さん!もう一歩も動かない方がいいんじゃないんですか!?」

と言って虎咲と同じように寝台に括り付けられたが、

今度は寝台のネジが緩んで崩落し、アオイ達はもう考える事を放棄した。

太一の記憶の中で一番酷かったのは、

自分が歩いていた時に、建築用の資材がいくつか頭を直撃した事だろうか。

 

〜そして今に至る〜

 

それを聞いた水葉は、割とガチで引いていた。

そして、太一がいる時にやたら屋敷を修理しなきゃいけない理由がわかった。

 

「おい…何で引くのさ…」

 

「いや、想像以上に状況が深刻だなぁって(棒)」

 

水葉は思ってなさそうに棒読みし、その場を立ち去ろうとする。

 

「そういや何で水葉はここに来たの?」

 

「あー言ってなかったね」

 

そして水葉は事の顛末を話す。

見る見るうちに太一の目が輝き、いきなり口を開いた。

 

「俺も行きたい!何か興味ある!」

 

「えぇ…(困惑)」

 

桑島一門を調べる会に太一が参加、

二人でお茶を啜ったところで甘味屋を後にした。

 

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〜大正コソコソ噂話〜

 

虎咲はMG42を導入する時に、

引き金を引きっぱなしにする輩を教育するために

一週間近く時間を取られちゃったんだ!

 

〜さらにおまけ〜

 

MG42。

ドイツ第三帝国で製造された汎用機関銃。

前身のMG34汎用機関銃の後継という役目を背負って開発された。

MG34は汎用性は評価されたが、生産効率が悪く高コストであり、

搭載していた機構は安全性は高いが繊細で、

侵攻していたソ連の極度な豪雪地帯や寒冷地、

ましてや灼熱のアフリカの砂漠地帯に耐えることが出来なかった。

また毎分800発という連射力だと、

対歩兵なら何とかなったが、対空だとどうしても不十分だった。

そんな欠陥だらけのMG34を改良して作られたのがMG42である。

繊細な機構はよりシンプルになり、強度も信頼性も上がった。

豪雪地帯だろうが砂漠地帯だろうが問題無く弾丸が撃ち出せるようになったのだ。

そして問題視された連射速度。MG34が毎秒約13発に対し、MG42は毎秒20発。

毎分1200発という意味のわからない連射速度に上げられている。

当時兵学校では、「MG42は1秒1秒指を離して撃て」と教えられていたらしい。

しかし、それ故に意外な問題点が浮上した。

撃ちすぎると銃身が焼けて撃てなくなるという問題は機関銃につきものだ。

その度に銃身を新しい物に交換しなければならないのだが、

MG42は耐熱手袋をしていれば約10秒で交換、

熟練兵であれば約5秒で再度発射可能となる。

(機関銃の中でも銃身交換の容易さは他の機関銃に引けを取らない)

この耐熱手袋が中々の曲者で、皆さんが冬に着けるような手袋とは違って

相当厚手(ていうか指ごとに別れてない)、

どんなに頑張っても指が引き金を引けないのであるが、それだけ目を瞑れば相当な良機関銃である。

その性能のおかげか、現在も弾薬を7.92mmモーゼル弾から7.62mmNATO弾へ変更した

MG3がドイツを始めとした約15ヵ国で未だに現役である。

(なお、MG42やMG34の原型であるMG30は既に約90年前の機関銃である)

 

 

 




これ調べてて思ったんですけど…
MG30の系譜をどんどん現代まで引き伸ばしていくと
現代汎用機関銃のほぼ全てがそのDNAを引き継いでるんですよ。
ドイツすげぇなって思いました。


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第参拾壱話 柱で合同任務?やりたくないですねぇ!

 

あれから色々ありながらも、

怪我から回復した炭治郎、善逸、伊之助は全集中・常中を会得。

そこに暇していた虎咲にある指令が下される。

無限列車という汽車で短期間に40人以上が行方不明になっているとの情報があり、

既に多くの隊士も行方不明になっている。

炎柱の煉獄杏寿朗と共同で調査に向かえとのこと。

とっくに日は沈み夜になり、鬼が活動を始める時間になっている。

鬼殺隊は、今夜も人々を鬼から守るために戦う。

 

「しかし柱で合同任務とはねぇ…」

 

蝶屋敷の玄関で、虎咲は草履を履きながら愚痴を吐く。

 

「まぁ頑張って下さいね、虎咲。煉獄さんと共同で任務ですから

彼に振り回されたりするかもしれませんが」

 

「えぇ…まじか。じゃあ行ってくるわ」

 

「いってらっしゃい、頑張って下さいね」

 

しのぶは小さく手を振って虎咲を送り出す。

虎咲の背中が見えなくなり、しのぶは蝶屋敷に入っていったのだった。

 

〜駅〜

 

駅に到着した虎咲は問題の汽車が到着するのを待つ。

既に先に来ていた汽車が発車し、客車も動いていく。

汽車が完全に地平線の向こうへと消えていった時に、虎咲はふと思った。

 

(しかもなんだ無限列車って…普通の汽車と変わらないんじゃないか…?)

 

しかしその不安はすぐに払拭された。

次に駅に到着した汽車の前面には、

ご丁寧にでっかく「無限」と書かれていたからである。

 

(露骨…分かりやすいな…)

 

列車が完全に停止し、虎咲は無限列車に乗り込む。

すると突然誰かに大きな声で呼ばれた。

 

「虎咲か!今日は俺と共同任務だ!共に頑張ろう!」

 

「は、はい…」

 

共同任務の相手である炎柱、煉獄杏寿朗だ。

しかし初っ端からの気迫に押され虎咲は少し後退りする。

 

「まぁそう引くな!多分俺はこれからもこんぐらい声が出る!」

 

「まぁ、馴れだな」

 

「よもやだ!」

 

耳に響く大声を列車一杯に上げた杏寿朗は、

通りかかった乗務員の女性に駅弁を頼む。

駅弁は駅で買うもんじゃないか?と思ったのは他の乗客もだろう。

しかしそんな事を気にしない杏寿朗は駅弁を購入し、蓋を開けて箸を取る。

 

「うまい!うまい!」

 

ものの数分で駅弁を平らげ、

また一つまた一つと空箱が隣の座席に積み上がる。

すると次の駅に停車し、見慣れた三人が車両に入ってくる。

 

「お、炭治郎か」

 

「虎咲さん!こんばんは!」

 

そう。怪我を蝶屋敷で療養し、機能回復訓練を受けて前線に帰ってきた三人だった。

 

「うまい!うまい!」

 

「この人が煉獄さんですか?煉獄さんー!」

 

聞く耳を持たない杏寿朗に炭治郎が問いかける。

しかし、駅弁に夢中になっている彼にその声が聞こえることはなかった。

 

「うまい!」

 

「あ、それは、もう本当に分かりましたから」

 

適当に流された杏寿朗は、「むぅ」と言いながら座席に座る。

なお、大量に積まれた空箱は乗務員の女性達によってドナドナされた。

 

「煉獄さん、聞きたいことがあるんですがー」

 

炭治郎はある事について話始めた。

 

〜五分後〜

 

「そうか!だが俺はヒノカミ神楽なんて言葉も初耳だ!

君の父が舞っていた神楽が戦闘に応用できたというのは

めでたいがこの話はこれでお終いだな!!」

 

「え?あの…もう少し「俺の継子になれ!面倒を見てやろう!」……」

 

あまりに早く話を打ち切ろうとしていた杏寿朗を見て、炭治郎は驚き問い詰める。

 

「待ってください!ってかどこを見て喋っているんですか!?」

 

さらに話を進め、呼吸の派生の話や刀の色の話になる。

その時善逸が小声で呟く、「おかしな人だな」と。

 

「善逸」

 

虎咲が善逸の名を呼んだ時、善逸は(怒られる!)と思ったが、

虎咲の顔を見てその不安は消し飛んだ。

虎咲の顔は、「安心しろ、俺もだ」という顔だったからだ。

 

「溝口少年!刀の色は何色だ!」

 

「溝口!?俺は竈門ですよ!?」

 

名前を間違えられた炭治郎は、すかさず反論。

自分は黒色の刀だと杏寿朗に伝える。

 

「黒刀か!それはきついな!」

 

「え、そうなの?」

 

虎咲が声を出す。護柱隊の大月あずさも黒刀なのだ。

 

「あぁ!黒刀の剣士が柱になったと聞いたことは無いし、

さらにどの呼吸を極めればいいかわからないと聞く!」

 

「初耳だな」

 

その言葉と同時に、無限列車が速度を上げ始める。

伊之助はビクッとなっていたが、虎咲は大して気にしなかった。

 

「俺の所で教えてあげよう!それで安心だ!」

 

(面倒見の良い人だな…)

 

炭治郎がそう思ったと同時に、伊之助が窓から体を乗り出して叫ぶ。

 

「うおおおお!!速えぇええ!!」

 

「「何やってんだ馬鹿野郎!!」」

 

虎咲と善逸で伊之助を引っ張って車内に入れようとするが、

伊之助は中々車内に入ってこようとしない。

 

「俺、外に出て競争する!!」

 

「馬鹿にも程があるだろ!」

 

善逸に罵倒されるも伊之助は車内に入らない。

 

「そう危険だ!いつ鬼が出るかわからないぞ!」

 

「え?」

 

杏寿朗の一言で善逸の顔が一気に青くなる。

 

「嘘でしょ鬼が出るんですか!?この汽車!」

 

「善逸お前聞いてなかったのか、出るぞ」

 

善逸はそんなん聞いてねぇわ!!と吐き捨て、降車を懇願した。

だがこの汽車は既に速度も出ており、止まるのならば事故くらいだろう。

 

「少し連結部に行ってくる。風に当たりたい」

 

虎咲はそう言って席を立つ。

 

「おう!鬼が出たら殺しても構わないぞ!」

 

「わかってる」

 

そう言いながら、虎咲は連結部に向かう。

途中で車掌にすれ違うが、大して気にせずに歩く。

 

〜虎咲がいなくなった直後〜

 

「切符…拝見致します…」

 

未だに降車を懇願する善逸を他所に、車掌が切符を切りに杏寿朗の座席に向かう。

その時炭治郎は異変に気付いたが、それが何か分からずに眠ってしまう。

杏寿朗、炭治郎、善逸、伊之助は魂を抜かれたように眠ってしまった。

その瞬間、虎咲が車両に入る。

車掌は焦るが、虎咲は比較的優しい声で車掌に呼びかける。

 

「あなたが眠らせたんですか…」

 

「……」

 

車掌は持っていた錐でいっそ死んでしまおうかと考えてしまったが、

虎咲は車掌にある頼み事をする。

 

「俺も眠らせてください、どうすれば寝れるんですか?」

 

「切符を切れば…」

 

車掌がそう言った時、虎咲は無言で座席に座り切符を差し出す。

 

「では拝見致します…」

 

車掌が切符を切った瞬間虎咲は静かに眠りにつく。

車掌がその場にへたり込み、何かに「これでよかったのか」と聞く。

 

「お疲れ様、では幸せの夢の中へ」

 

口が付いた鬼の手にそう言われた瞬間車掌はその場に倒れて眠ってしまう。

 

「あの…私達は…」

 

手の後ろから”人間の“少年少女達が現れ、手はそれに答える。

 

「もう少しで眠りが深くなる。それまでここで待ってて。

鬼狩りは勘が鋭いから殺気や鬼の気配で起きてしまうかもしれない。

近付いて縄で繋ぐ時も体に触れないように気をつけて」

 

「はい…」

 

少年少女達の目には、光がない。全てに絶望している目だ。

 

「俺は暫くの間先頭車から離れられない。

準備が整うまで時間稼ぎよろしくね。幸せな夢を見るために」

 

「はい…」

 

機関車の上に、ある青年が立っていた。

その青年の左目には、「下壱」と刻まれていた。

 

「幸せな夢を見ながら死ねるなんてどんなに幸せなんだろうね。

どんなに強い鬼狩りだろうが関係ない。

人間の原動力は精神と心だ。

精神の核、それを破壊されればどんな人間でも生きる力を失う。

人間の心はもう硝子細工のように脆くて弱い。

さぁ、君はこれに耐えられるかな?」

 

下弦唯一の生き残りである下弦ノ壱魘夢は、機関車の上で細く笑ったのだった。

 

 




今日で最後の定期投稿です。
ちなみに投稿時間はとある列車のラストランの発車時刻になっています。
分かる人は分かるでしょう。(某蛇柱並みの上から目線)
これからも「鬼滅の刃 人と記憶の物語」をよろしくお願いします!


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第参拾弐話 幸せな夢?いえ、悪夢です

〜機関車上部〜

 

「楽しそうだね、幸せな夢を見始めたな。

深い深い眠りだ、君達はもう二度と起き上がる事は出来ないよ」

 

魘夢は機関車の上で呟き、再び口角を上げる。

 

「それにしても…他の下弦を葬り去った鬼狩りも大した事なかったな。

奴を殺せばあのお方から血を分けていただける!夢見心地だ!」

 

そう言いながら魘夢は闇夜に向かって高く笑ったのだった。

 

〜虎咲の夢の中〜

 

虎咲はある夢を見ていた、家族が全員生きている夢だ。

 

「兄さん!お帰り!」

 

妹の夏が腕に入ってくる。しかし、虎咲自身はあまり良い気はしなかった。

 

(予想以上に気持ち悪い血気術を使いやがる…。

そうだ、全員死んだんだ。俺の家族は)

 

少なくとも今の虎咲は刀も持っておらず、立体機動装置も付けていない。

ただ唯一残ったのは、何故か猟銃として家に飾ってあった

三八式と6.5mm弾一発のみだった。

 

「虎咲、酒飲むか?」

 

「何でだよ父さん。俺はまだ未成年だって」

 

(兎も角ここから現実に戻らなければならない。しかしどうやって戻る?)

 

しかし虎咲は閃き、三八式を担いで家の庭に立つ。

 

(転生する時は他殺の時だった…、現実に戻るには自害か!?)

 

この時虎咲の横をある少女が通り過ぎる。

そう、まだ幼かった幼馴染の胡蝶しのぶである。

 

「虎咲!?どうしたの猟銃なんか持って!」

 

目がいい彼女は当然すれ違う彼に気付いた。

この時、虎咲は往来の前で吐くまいと我慢していたが、

既に怒りは頂点に達していた。

 

(あの野郎…絶対に首を斬り捨ててやる…)

 

「…ごめん」

 

当時の虎咲ならあり得ないだろう無視、

彼は一目散に村から出ようと走る。

 

「よう!戸山の兄ちゃん!今日はどこに行くんだい?」

 

「戸山さん、おはぎありますよ!」

 

すれ違う町人は全員あの時死んでしまったり会えなくなってしまった人々だ。

彼はは耳を塞ぎながら道を走る。

ようやく町を脱し外れの森に踏み込んだ時に、

虎咲は体の奥底から悲しみの他にもう一つの感情が湧き上がる。

あの悪鬼を必ず葬らなければいけないという憎悪の感情だった。

 

(なんともまぁ気持ち悪い血気術を使う奴が居るもんだな…。

だが、もうこれで終わりだ。次は俺の番だ、待ってろよクソ野郎)

 

そこまで遠くない所にある飛鳥山の中で、虎咲は三八式を自分の首に押し込む。

そして迷いもなく親指を三八式の引き金に指をかける。

しかし、虎咲は引き金を引くのを躊躇った。

 

(本当に戻れるのか?現実に影響するのか?)

 

冷静になり少し思考を張り巡らせるために引き金から指を離す。

 

(いや、躊躇うな。現実に戻るためだったらなんだってやる。絶対に殺してやるからな)

 

「クソ野郎が」

 

そう言い残し虎咲は目一杯引き金を引き、辺りに肉片と鮮血が飛び散った。

 

 

〜虎咲が眠った直後〜

 

 

(そろそろかな…、縄を腕に繋いで…と)

 

彼女は新入りである。

家に帰る道中に魘夢に拉致されこの列車に乗せられた。

拉致された際に催眠を受け、魘夢に洗脳されてもなお正気を保っているが、

既に彼女の目に光は宿っていない。

 

(数を数えながら大きく息を吸えばすぐに眠りにつくって

アイツは言っていたな…。いち…にー…さん…)

 

少女はそう考えながら眠りにつく。

 

(ここが夢の中…現実と見間違えるほど精巧だ…)

 

町を歩きながら彼女は本体、つまり虎咲を発見する。

 

(猟銃を持ってどこへ行くんだろう…。

でも余計な事は考えるなってアイツが言っていたから…)

 

首をブンブンと振ってある場所を目指す。

 

(夢の端…何だそれ…聞いた事ないけど…)

 

すると少女は、何かに当たったように呻き声を上げる。

 

(何これ…?見えない壁…?もしかしてこれが夢の端…?)

 

少女は機械のように着物の袂から錐を取り出して空間を斬る。

すると、何やら雪が降り頻る空間に出る。

 

(これが…無意識領域…。しっかし広いなぁ…)

 

無限に雪が降り頻り、人が行き来する特殊な無意識領域。

そこで少女はある建物を見つける。

 

(何…?これ…。しかも無意識領域には人はいないはずじゃ…)

 

その建物には、「JR 長岡駅」と書かれていた。

少女は興味本位で駅のホームに走る。

そこにはやはり列車が止まっていたが、彼女の知る列車では無かった。

 

(汽車じゃない…、蒸気も出してないし…。何だろう、この列車は…)

 

現代で言うところの電車が止まっている。

しかし、電車という存在自体知らない彼女は戸惑うばかりだった。

そして電車の車体側面に、ある番号札を見つける。

 

(『クロハ481-3020』…これは何を意味するんだろう…)

 

そうこうしているうちにベルが鳴り響き、

列車が駅を離れて雪の中に消えていく。

 

(何だろう…この訳の分からない感じ…)

 

少女は何かに引かれるように駅の地下へ向かう。

しかし、この地下へ向かう階段は先程通りかかった時には存在していなかった。

不思議がる少女の意思をよそに、体は一人でに地下に進む。

 

「門…?」

 

地下には鉄でできた門があった。

しかし、鉄の南京錠で施錠されているため開かない。

その瞬間、少女の体が一気に上に持ち上げられる。

 

(…何故か門を見ただけで洗脳が無くなった気がする…。

これならアイツを殺せるかも…)

 

彼女はそのまま現実世界に引き戻されていった。ある決意を胸に。

 

 

〜虎咲side〜

 

「うわあああああ!!」

 

虎咲は飛び上がったような声を上げて起床する。

起床時に絶対出さないであろう声を上げたため正面に座っていた少女が起きる。

 

「大丈夫…なのかな…?」

 

案の定少し引き気味である。

まぁ夢から覚めるために自害したんなら誰だってあんな声上げるわと

虎咲は悲しくなった自分の心を慰めたのだった。

ここで虎咲は気付く。少女の腕と自分の腕が縄で繋がれているのを。

 

「……」

 

「……」

 

少女は気まずそうに顔を背けて窓の方を向く。

一方の虎咲は何かに気づいたように少女に問いかける。

 

「解き方は知ってるの?」

 

側から聞けば優しい声だが、少女は気づいた。

その声に明らかな殺意が滲んでいる事に。

 

「…そんな殺意を滲ませないで…。

知っていますが、代わりにお願いを聞いて欲しい…」

 

「お願い…?」

 

少女は有無も言わさず縄を解く。

手で丁寧に縄を解いて虎咲に向き直る。

 

「…その刀、見た感じ電線で繋がっているけど切り離しはできるの?」

 

「まぁ一応」

 

虎咲はそう言いながら立体機動装置の操作ワイヤーを切り離す。

 

「何でそんな事を聞くんだ?」

 

「…私は土方真莉。あの鬼を殺したい」

 

少女改め真莉はそう言いながら無表情だった顔を笑わせるのだった。

 

 



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今のところのキャラ設定

 

戸山虎咲(とやま こさく)出身地 東京府 北豊島郡滝野川村(北区滝野川)

 

身長/173cm

体重/59kg

年齢/18歳

 

この物語の主人公、

鬼滅の世界では胡蝶姉妹と幼馴染、

父親も進撃の巨人の世界から来た転生者であった。

12歳の頃に父親を猗窩座、母親、姉や妹を童磨にそれぞれ殺されている。

鬼滅の世界では神隠しに遭い進撃の巨人の世界へ飛ばされる。

実は前に一回転生を経験、そのときの経験でピアノが上手い。

蝶屋敷に引っ越した後は一週間に一回街へ赴きピアノ演奏を披露している。

自身で翼の呼吸を編み出し使用、刃の色は青と白は交互に変わる。

似の呼吸という呼吸を自作、

見ただけで血気術だろうがなんだろうと似の呼吸に割り当て使用できる。

(例:似の呼吸壱ノ型、破壊殺・滅式改)

 

装備品:隊服、立体機動装置、信煙弾、

三八式歩兵銃及び三十年式銃剣

 

呼吸:翼の呼吸:壱ノ型、雲煙過眼(左翼)

弐ノ型、全翼無連

参ノ型、為虎傅翼(

肆ノ型、霧散翼・改(左翼)

伍ノ型、集翼九連

壊ノ型、集翼九連・倍壊

雲煙過眼・壊速

延ノ型、為虎傅翼・延

終ノ型、炎翼終連

 

似の呼吸:壱ノ型、冬ざれ氷柱

弐ノ型、破壊殺・滅式改

参ノ型、絶対領域・改

肆ノ型、圧縮窒素

伍ノ型、結晶ノ御子・改

 

長谷川水葉(はせがわ みずは)出身地 東京府 北豊島郡本蓮沼村(板橋区本蓮沼)

 

身長/167cm

体重/…殺す

年齢/18歳

 

鬼殺隊の癸剣士、(当時)下弦ノ壱との戦いで虎咲に救われ、

友人の2人と共に蝶屋敷で働いている。

使う呼吸は水の呼吸、育手は元甲の剣士である、刀の色は綺麗な蒼。

 

石川(桑島)陽菜(いしかわ はるな)出身地 埼玉県 北足立郡川口町(埼玉県川口市)

 

身長/161cm

体重/41kg

年齢/17歳

 

鬼殺隊の癸剣士、水葉と同じく(当時)下弦ノ壱との戦いで虎咲に救われ、

友人の2人と共に蝶屋敷で働いている。

使う呼吸は雷の呼吸、育手は善逸と同じじいちゃんである、刀の色は黄緑。

弟子時代、陽菜が選別に向かう前に弟子に成り立ての善逸に

“初対面で”告白されたが、全力で拒否している。

(善逸はこの直後に雷に打たれ髪が変色してしまっている)

 

橘花風華(たちばな ふうか)出身地 神奈川府三浦郡横須賀町

(神奈川県横須賀市)

 

身長/168cm

体重/あの世で教えてあげる

年齢/18歳

 

鬼殺隊の庚剣士、水葉や陽菜と同じく(当時)下弦ノ壱との戦いで虎咲に救われ、

2人と共に蝶屋敷で働いている。

使う呼吸は花の呼吸、育手は花柱胡蝶カナエ、刀の色はピンク。

水葉と陽菜より一期上だが、歳が同じなので仲がいい。

髪にはカナエの継子の証である蝶の髪飾りをつけている。

 

雫石太一(しずくいし たいち)出身地 千葉県千葉町(千葉県本千葉町)

 

身長/169cm

体重/57kg

年齢/18歳

 

鬼殺隊の癸剣士、虎咲の同期で任務を共にする事が多い。

自分の家族は存命だが、友人を10人も殺害されたため鬼殺の道へ進む。

ちなみに両親は裕太の鬼殺隊入りを了承している。

使う呼吸は風の呼吸、育手はなんと不死川実弥、刀の色は濃緑色。

 

大月あずさ(おおつき あずさ)出身地 埼玉県北葛飾戸ヶ崎村(埼玉県三郷市)

 

身長/153cm

体重/37kg

年齢/17歳

 

虎咲の一期下の剣士、髪は肩にかかるかかからないかぐらいの長さで

髪色は緋色。使う呼吸は月の呼吸、刀は黒色。

家に伝わっていた書物を解読し、月の呼吸を独学で習得。

彼女は親を鬼に殺され匿ってくれた友人の家族も鬼無辻に殺された事から、

死神の子と呼ばれ、一時は子供であるため暴行を受けたことさえあった。

路地裏に連れ去られ、男達に襲われかけたあずさを助けたのが

当時まだ丙であった虎咲で、そこから彼女は鬼殺の道へ進んだのだった。

 

岩国児珠(いわくに こだま)出身地 一宮県長生郡一宮(千葉県長生郡一宮町)

 

身長164cm

体重51kg

年齢/17歳

 

髪は宍色で一本結び、紐を解けば腰より少し高い位置に髪が来る。

顔が女性寄りのためよくあずさに着せ替え人形にされる。

使う呼吸は雷と水、刀の色は黄色と蒼が交互に変わる特殊な色。

虎咲と同様の配色をしているが、関連性は今のところ不明。

彼は自分が住んでいた村が鬼に襲われ、自分だけが生き残ってしまう。

今は一軒家に住んでおり、帰る家はあるのだが、

彼はいつも張り付いたような笑顔で人に接しており、

表情から感情を察するのは不可能に近い。

 

鐡火山(てっかざん)出身地 不明

 

身長/170cm程

体重/軽そう

年齢/若そう

 

 

常にひょっとこの面をしているため素顔が分からず、

刀鍛冶の里の長である鉄珍でさえも彼の出身地すら分からない。

基本的に無口、自分は基本的に隊士の元に向かわず修を酷使する。

改造や製造などを行なうと人が変わる。

魔改造が大好きで、毎回立体機動装置は彼の手によって魔改造される。

何故か陸軍の機関銃や小銃を製作することが可能で、

第二清水町建造に大きく貢献した。

 

修(おさむ) 出身地 不明

 

身長/165cm

体重/51kg

年齢/18歳

 

時々暑苦しいと言ってひょっとこの面をずらす事がある。

顔は良いのだが、面が邪魔でそこまでモテない。字が綺麗。

縁壱零式の構造がめっちゃ気になるらしい。

 

佐藤 出身地 東京府北豊島郡板橋町(東京都板橋区)

 

身長/181cm

体重/68kg

年齢/32歳

 

第二清水町建築の現場責任者、両親は鬼によって殺害された。

建築の才能や統率の才能は抜群で、

そこを見込まれて虎咲に現場責任者に任命された。

時折冗談を飛ばすため部下も慕う優秀な上司。

彼が冗談で後藤に素手で鬼を殺したと言った夜。

後藤は第二清水町に出た雑魚鬼が

佐藤の豪腕によって殴り殺されていたのを目撃したらしい。



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第参拾参話 全てを終わらせるために

お久しぶりです!雷電風雨です!
鉄ヲタがお送りします!
EvansやNCSのthrowbackを聴きながら執筆いたしました!是非ご覧ください!
投稿時刻は雷鳥33号のラストラン大阪駅発車時刻です!(わかんねぇよ)



「…呼吸って何か知ってるのか…?」

 

「…知らない」

 

「…まず鬼殺隊は知ってるか…?」

 

「…何それ」

 

「…つまり何も分からんって事だな?」

 

「…うん」

 

真莉は先程のような声を上げて意見するという事はしなかった。

元々話すのが苦手なのだろうと虎咲は大して深掘りしなかった。

 

「うわあああああああ!!!」

 

「あ、炭治郎おはよう」

 

とんでもねぇ叫び声を上げながら炭治郎が起床。

虎咲は炭治郎がすぐに首を触って安堵する様子を見て察する。

 

「炭治郎は首を切ったのか?」

 

「あ、はい。虎咲さんはどうしたんですか?」.

 

「俺?この三八式を首に当ててバンだな」

 

虎咲は安全装置を作動させた三八式を首に当てる。

この二人の異常な会話に真莉は「気持ち悪い」と言いたげな顔になり、

禰 豆子は状況を呑めずに目を泳がせていた。

 

「あ、土方さん。縄を解いてあげて」

 

「……」コク

 

真莉は頷きながら炭治郎と少年を繋いでいた縄を解く。

 

「虎咲さん…この子は…?」

 

「あ、土方さん。俺の夢に侵入してきた子」

 

「そうですか…」

 

そして虎咲は信じられない事を口に出す。

 

「あ、炭治郎。この血気術は多分下弦の鬼だと思うんだよ。

そして何故わざわざこんな回りくどいやり方で人を襲うのか。

それは多分戦闘に向いていない血気術を使用するからだと思う」

「はい…」

 

「というわけで俺は後方支援に回るから。

しかも土方さんが奴を殺したいって言ってたからね」

 

「え…?」

 

困惑する炭治郎をよそに虎咲は

日輪刀を持った真莉を抱えて客車の屋根に上がる。

 

「土方さん、鬼は首を切れば殺せるが…本当に殺せるんだな?」

 

虎咲は真莉を見て言う、真莉は走りながらそれに答えた。

 

「…殺せるとか殺せないとかは関係ない。

ただ私は奴を殺さなきゃいけない気がするだけ」

 

先程のような決意を宿した目で真莉は汽車の進行方向を見据える。

それを見た虎咲は日輪刀を真莉に渡し、肩に掛けていた三八式を手に取る。

 

「…まぁ、覚悟があるなら問題は無いか」

 

三八式を軽く整備してから虎咲は立ち上がる。

 

「…使う事は無いだろうがな」

 

虎咲は三八式のコッキングレバーを引き、自嘲気味に呟く。

挿弾子で留められた”赤色に着色された”五発の6.5mm弾を薬室に押し込み、

素早い動作でコッキングレバーを押し戻して安全装置を解除する。

 

「さぁ…鬼退治に行こうじゃないの」

 

虎咲と真莉は先頭車を目指す。

しかし、前に行くにつれて増える鬼の気配に真莉は顔を顰める。

だがすぐに持ち直して真莉は勢いのまま先頭車に突入した。

 

「…あれ?いい夢を見せてあげたのに…。

寝返るなんて感心しないなぁ…」

 

突入した先、機関車の屋根に笑みを浮かべた鬼が立っていた。

その瞳には「下壱」と刻まれており、

その顔は少し微笑んでいるため不気味さが増していた。

下弦ノ壱は虎咲を見てさらに笑みをこぼす。

 

「やぁ、俺は下弦ノ壱の魘夢。お前かな?あの方が言っていたのは」

 

「多分俺だ。しかし奴も堕ちたな、こんな雑魚を差し向けるなんて」

 

「…洗脳の方が感心しない。お前は私が殺す」

 

「鬼狩りでもない奴に下弦の俺が殺されるわけないじゃ…は?」

 

その途端、魘夢の首が機関車の屋根に落ちる。

真莉が無表情のまま二本の日輪刀を逆手に持って頭だけになった魘夢を何度も刺す。

 

「…何故お前は死なない…?いや、何故手応えが無い?」

 

真莉は気持ち悪そうに消えることのない魘夢の頭部を見る。

 

「フフフ…フハハハハ!!今俺は気分が高揚しているから教えてやる!

お前らがすやすやと寝ている間に俺はこの列車と融合した!

この頭だって本物の頭じゃない、本体はまた別にある!

さぁ、お前たち二人は守り切れるかな?

この列車にウジャウジャいる二百以上の人間を守り切れるかな!?」

 

そう言言い残して魘夢の頭部は消滅し、

屋根に突き刺された虎咲の日輪刀だけが残る。

 

「…本体はこの列車のどこにいると思う?」

 

真莉は無表情のまま日輪刀を回収して虎咲に聞く。

 

「まず先に乗客を守らないといけないがな…」

 

「虎咲さん!」

 

日輪刀を持って客車の屋根をつたってきた炭治郎が叫ぶ。

 

「炭治郎か、あの鬼はこの列車と融合している。

乗客を守りながら鬼を討て!」

 

「了解です!」

 

炭治郎は屋根から客車に滑り込み、乗客を守るべく走る。

その瞬間、後方の客車から轟音と雷鳴のような音が聞こえる。

 

「うっしゃあああ!!ついて来い子分どもぉ!猪突猛進の伊之助様がお通りだぁ!!」

 

伊之助が客車の天井を突き破り、着地する。

それを見た炭治郎は伊之助に向かい大声を張り上げる。

 

「伊之助!この列車に安全な場所は無い!乗客を全員守れ!」

 

「ハッ!俺の方が先に気付いてたからな!」

 

「よし!お前達は四両目と五両目を守れ!俺達は前三両を防衛する!」

 

虎咲が三十年式銃剣を取り付けながら指示を出し、

三両目の扉に手をかける。

 

「…さぁ待ってろ、必ず私が殺してやる」

 

真莉も両手に持つ日輪刀を構え直して虎咲の後に続く。

 

「キモ」

 

虎咲は扉を開けたと同時に呟く。

そこには魘夢のものであろう腕が乗客を取り込もうとしていたのだ。

乗客は全員血気術で眠らされており、

腕が接近している事に気付きもしない。

 

ー翼の呼吸、弐ノ型、全翼無連・避人建ー

 

虎咲は銃剣を付けた三八式を振り回して魘夢の腕を斬り裂く。

銃剣は刀身が短いため威力は落ちるが、斬れれば大して問題は無い。

 

「土方さん、そっちは大丈夫?」

 

「…真莉でいい、あらかた片付いた」

 

「了解…」

 

日輪刀を振りながら真莉と虎咲は腕を斬り裂き続ける。

その時、炭治郎が一号車に現れた。

 

「虎咲さん!ヤツの首は機関車です!でも硬すぎて斬れません!」

 

「わかった、今行く」

二つ返事で答えた虎咲は、未だに無表情の真莉を引っ張って屋根に登る。

 

「いいのか?ヤツを殺さなくて」

 

虎咲は未だ乗客を襲う腕を斬り裂き続けるに真莉にエサを垂らす。

勿論、彼女は食い付いた。

 

「…よし、行こう」

 

(チョロい)

 

〜機関車運転室〜

 

「炭治郎!伊之助!首はどこだ!」

 

「虎咲さん!ここです!」

 

炭治郎は運転室の床を斬り続け、伊之助は周りから這い出る腕を斬り続けていた。

炭治郎が斬り続けていた床には、鬼の首の骨があった。

 

「真莉!」

 

「…わかってる!」

 

真莉は腕を目一杯振り上げ、首の骨に日輪刀を振り下ろす。

首が硬かったためか日輪刀が折れる。

しかし折れた刃は勢いをそのままに首を両断した。

 

「っぎゃあああああああ!!!」

 

列車全体が激しく揺れる。

首が斬られてのたうち回り、列車が大きく揺さぶられる。

 

「脱線するぞ!身を守れ!」

 

虎咲が叫んだ次の瞬間、

先頭車から一気に脱線する。だが、転覆はしなかった。

 

「煉獄さん!」

 

「戸山少年!鬼は君がやったのか!」

 

相変わらずデカい声で杏寿朗は喋る。

虎咲は耳を塞ぎながら首を横に振って真莉を指差す。

 

「君か!?少女!名を何と言う!」

 

「…土方真莉」

 

「そうか!近藤少j「土方です」すまない!俺はよく名前を間違えてしまうからな!」

 

(…てか近藤って誰…)

 

しかし真莉にそれを聞く気力は無く、力尽きたように地面に横たわる。

 

「…疲れた」

 

この真莉の呟きには虎咲も同意した。

その時、炭治郎が腹を押さえながら倒れる。

見れば血が出ており、顔色も悪かった。

杏寿朗が呼吸を使い止血するように促し、炭治郎は戸惑いながらも止血した。

杏寿朗は炭治郎を褒め、乗客の救助に向かおうとした。

だが、瞬間的に杏寿朗と虎咲の目が変わる。何かを察知したように。

 

「真莉、日輪刀を返してくれ」

 

「…ん?分かった」

 

虎咲はコードを日輪刀の柄に挿し直し、臨戦態勢を取る。

 

「煉獄さん、分かりますか…」

 

「あぁ!何か来る!」

 

ー似の呼吸、参ノ型、絶対領域・改ー

 

虎咲が技を展開した瞬間、絶対領域に見覚えのある何かがぶつかる。

ソイツの瞳には、「上弦」と「参」と刻まれていた。

そう、彼の父親の仇、上弦ノ参の猗窩座である。

 

「また一段と強くなったな!虎咲!」

 

「黙れ、お前はまだくたばってねえのかよ」

 

「お前を鬼にするまで俺はくたばらん!」

 

「あっそ、死ね」

 

ー翼の呼吸、伍ノ型、集翼九連ー

 

ー術式展開、破壊殺・空式ー

 

今ここに、因縁にケリをつけるべく二人の男が戦闘を開始した。

全てを終わらせるために。

 



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