ダンジョンで受け継がれる絆と出会うのは間違っているだろうか (逢奇流)
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第1話「出会い-エンカウンター-」
a-夢と噂と出会い


 はじめまして、逢奇流と言います。
 今作が初投稿となります。
 至らない点は多々あると思いますが、よろしくお願いいたします。

 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。



 また、この夢を見ている。

 密林を進む中、漠然とした既視感(デジャヴ)が突如としてカタチを成した。

 ただ密林をさまようだけの夢を僕はここ最近何度も見ていた。夢の中の僕がどうしてこんなところを歩いているのかはわからないけど、一度も止まることなく道なき道を進む姿はまるで求道者のよう……なんて自分のことなのに他人事のように感じてしまっている。

 夢に変化が現れたのは、王国との戦争がひと段落ついたころだった。密林を超えた先に石造りの遺跡が現れたのだ。それからはその遺跡の中に入り、入り組んだ道を歩く。

 

 ―初めて遺跡を見たとき、あの女神(ひと)といったエルソスの遺跡に似ているな、なんて思ったっけ……

 

 もう会えない彼女を思い出し、ズキリと胸が痛んだ。そんな感傷に浸る僕の心と切り離されているかのように、足は遺跡の奥へと向かっていった。

 長かったのか、はたまた一瞬だったのか、夢の中の曖昧な時間の流れでは判断がつかないが、僕は遺跡の最奥部にたどり着いた。

 そこには「石造りの翼」とでも表現できるような、奇妙な石碑が青白く発光していた。何かに誘われるように手を伸ばそうとしたとき、意識が目の前の光景から引き離されるのを感じる。あぁ、今日はここまでか。そうつぶやくと同時に夢は終わりを告げた。

 

 

 

 

 迷宮都市オラリオ、世界の中心とも呼ばれるその都市にはダンジョンと呼ばれる地下何十階層にも及ぶモンスターたちの巣窟がある。普通に考えればその上に街をつくるなんて正気の沙汰じゃないけど、モンスターたちから採取できる魔石といわれるドロップアイテムを加工した魔石製品は、人が生活するうえでなくてはならないものであり、その市場を独占できるオラリオには色々な人たちが集まるのだそうだ。

 実際、僕の生まれた村にはヒューマンと少しの獣人しかいなかったけどこの都市に来てからはエルフやドワーフといった様々な種族どころか、下界に降りてきた神様たちをいたるところで見かける。

 そんなオラリオを語る上で欠かせないのが、ダンジョンでモンスターと戦うダンジョンの冒険者の存在だ。神様の恩恵を受けて凶悪なモンスターと日々戦う冒険者を数多く有するオラリオでは武勇伝がこれでもかというくらいあふれている。

 かく言う僕も、オラリオの英雄譚に憧れて冒険者になった一人だ。

 

「おい、あの冒険者もしかして、【リトル・ルーキー】じゃないか?」

 

「【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネル? あの猛牛殺し(オックス・スレイヤー)か?」

 

 ダンジョンに向かう途中に同業者たちからひそひそと会話が聞こえる。

 オラリオに来て3か月くらいになるけど、最近はこうして噂されることも多くなってきた。まだこのムズムズする感覚にはなれないけど……

 

「お前、戦争遊戯(ウォーゲーム)見てねぇのかよ! あの白髪赤眼は間違いねぇって!」

 

「兎みたいで全然強そうに見えねぇぞ? 別人じゃね?」

 

 ……ああ言う反応をされるのもなんだか慣れてきた。

 これでももうレベル3で第二級冒険者になるんだけど、そんなに弱そうに見えるかなぁ。

 

「まぁ、ベル・クラネルはいいんだよ。それよりセオロの密林のうわさは聞いたか?」

 

「妙なバケモンが徘徊しているとかいう話だろ? うちの神も最近うるさくてな、振り回されるこっちの身にもなれっつうの」

 

 そんなオラリオだけどここ最近奇妙な噂が多く流れている。さっき冒険者たちが話していたセオロの密林に徘徊する怪人もそうだし、それ以外にも、迷宮にとどろく機械音や、何十M(メドル)もの巨大なドラゴンの影みたいな無茶苦茶なうわさがあちこちで広まっているらしい。

「暇だから来た」なんて言いながら千年以上も前に突如として下界に現れた神様たちなんて厄介事(おもしろそうなこと)の匂いを嗅ぎつけて、もうお祭り騒ぎで眷属たちを振り回して都市を騒がせている。

 幸い僕の神様……ヘスティア様は自重ができる神様だから、眷属の僕たちが振り回されてひどい目を見ることはないけれど。

 神様たちほど楽観的になれない僕たち冒険者は一連の騒ぎをダンジョンが稀によく起こす異常事態(イレギュラー)の前兆なのかもしれないと警戒している。

 今日はリリたちもいないし、そう深くまで潜るつもりはないけど用心したほうがいいのかもしれない。

 

 

 

 

 ダンジョン10階層。

 下級冒険者が主として活動するこの階層は弱者を振るい落とす関門として知られる。

 この階層から出現しだす大型のモンスターやごく低確率で遭遇(エンカウント)することがあるインファント・ ドラゴン等、レベル1の冒険者では苦戦は必須なモンスターたちによる洗礼により、1年近くかけてこの階層まで進出した冒険者は心をへし折られるのだという。

 とは言え、所詮は上層。壁を越え、ランクアップを果たしたレベル2以上の冒険者にとっては異常事態(イレギュラー)でも起きない限りさしたる問題にはならない階層である。

 そう、異常事態(イレギュラー)さえ起らなければ……

 

 

 

 

(何かが起きている……)

 

 ベルは第九階層の階段を下る途中で悟った。

 モンスターが現れない。普段なら人の気配を感じたとたんに殺意をぎらつかせて襲い掛かる人類の天敵がここに来るまで不自然なほどその醜悪な姿を見せない。まるで、何かにおびえるように息をひそめて迷宮の闇に溶け込んでいる。

 まだ3か月ほどの駆け出し冒険者だが、それでもこれまで積み重ねてきた経験や学んできた知識がこの状況の異様さをベルに教えてくれる。

 思い起こすのは2か月前、今日のようにモンスターが現れない状況で起きた異常事態(イレギュラー)ではギルドが公表しているその階層の難易度を逸脱する強さを持つモンスターであるミノタウロスが現れ、命からがら危機を超えた経験が警鐘を鳴らしている。

 

(どうしよう……。何が起きているか確認すべきか、それとも直感に従って引き返すべきか)

 

 冒険者は冒険してはいけない。専属アドバイザーのエイナの言葉が脳裏をよぎる。危険を感じたのなら素直に引くべきというのはベル・クラネルという冒険者をこれまで導いてきた指標だ。

 しかし、その根拠が直感という抽象的なものであることが、判断を迷わせる。これではギルドに報告しようにもどう説明すればいいのかわからない。何が起きているかだけでも確認したほうが自分以外の冒険者の安全のためになるのではないか。

 思考の袋小路に入りかけたときにベルのランクアップで強化された聴覚がかすかな音を拾った。

 

「…………ぅ……ぁぁ…………っ………………ぁ」

 

「っ! 悲鳴!?」

 

 迷宮の奥から聞こえたかすかな悲鳴を聞いたベルは迷わず10階層に突入した。

 短い草の生えた草原に、視界を遮る白い霧がルームに立ち込めている。

 先ほど聞こえた悲鳴の大きさと大まかに記憶している10階層の地図(マップ)を照らし合わせて異常事態(イレギュラー)が起きたと思われる場所に向け疾走する。

 不気味に乱立する木々を抜けた先に悲鳴を上げたと思われる小人族(パルゥム)の冒険者が腰を抜かしていた。

 

「大丈夫ですか!? 一体何が……」

 

 言葉が途切れる。

 目の前のありえない光景に、この世で最も危険な地であるダンジョンを探索する冒険者にあるまじきことに呆然とそれを見上げた。

 

 ―それは、10M(メドル)もの球状の物体だった

 ―それは、脈うつ黒ずんだ半透明の膜につつまれていた

 ―それは、生々しい鼓動を発するナニカの幼体を内包していた。

 

 ドラゴンのような肉体に背びれ、頭部に2本の長い角を持つ。

 まごうことなき、異形の体躯。

 だが……

 

「モンスターじゃない……!?」

 

 ダンジョンから生まれるモンスターは例外なく迷宮の壁から生まれる。

 地上に進出した劣化しているモンスターならともかく、モンスターが卵から生まれるなんて聞いたこともない! 

 何より、10M(メドル)ものモンスターなんてダンジョンに数体しかいない階層主しか聞いたことがない! こんな上層にいていい存在じゃない! 

 

「は、早くみんなに知らせないと……っ!?」

 

 自分の手に負える状況ではないとベルは冒険者を連れて撤退しようと決断するが、その選択はあまりにも遅かった。

 ビキリ、と嫌な音と共に目の前の物体から絶望が産まれ落ちる。

 

 ―これは、ありえなかった出会い

 ―神々すら予想できなかった邂逅(クロスオーバー)だ。

 

 麻痺する頭の片隅で思考すると同時に、敵意に満ちた眼光を発する生まれたての怪物が咆哮を迷宮に響かせた。

 

「グギャアアアアアアアアアアアアァァァ!!!!!!!!!!」

 




 ウルトラマン出てこなかった…
 ていうか戦闘すらしていない…


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b-だから僕は変身する

 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。


 迫りくる巨体が生む空気の圧を肌で感じた瞬間、止まっていた時間が動き出した。

 傍にいる小人族(パルゥム)の冒険者の鎧に指をひっかけ、攻撃を回避する。

 

「すいません! 乱暴で!」

 

「あ……、あぁ……」

 

 乱暴な回避の仕方だったことを謝るがパルゥムの冒険者は突然変わった景色に目を白黒させている。

 レベル3になっていろいろな相手と戦ってきたからなんとなく分かる。この人はランクアップをしていない、下級冒険者だ。あんな攻撃に当たったら一溜りもないだろう。

 

「僕が時間を稼ぎます。その隙に逃げてください」

 

「……っ! あんな奴相手に一人で戦うなんて無茶だ! 俺も一緒にっ!」

 

 僕の言葉に彼は一瞬躊躇した後、勇気を振り絞るように言った。

 実際、僕だけで戦ったところであんな化け物には敵わないだろう。同じ神様を信仰する眷属(ファミリア)でもない僕を囮にするなんてことをせずに、一緒に戦ってくれるという彼は勇敢な冒険者だ。

 だからこそ、この人は守らないと。

 

「大丈夫です。こんな見た目でもレベル3ですから、逃げ足には自身があるんです」

 

 だから気にしなくていい。

 僕の言葉に彼はその小さな肩を震わせた。そして、悔しそうに唇を噛むと覚悟を決めた表情で、「必ず応援を呼ぶ」と声を震わせながら言った。

 

「ギャアアアァァァ!!!!」

 

「走って!」

 

 再び僕たちを襲おうとする怪物の足にナイフを一閃する。

 神様から頂いた【ヘスティアナイフ】は、鍛冶の神であるヘファイストス様が自ら槌を振るった特注品(オーダーメイド)だ。例え、未知の怪物であろうとも、その切れ味は使い手を裏切らない。

 あまりの巨体故にそのダメージは微々たるものであろうが、その鋭い眼光がこちらに注がれる。それに怯むことなく僕は9階層に続く階段とは逆方向に走った。

 同時に階段に向かって駆けるパルゥムの冒険者の姿を視界の隅で確認しつつ、万が一にも、彼に敵対心(ヘイト)が向かないように僕の魔法を行使する。

 

「【ファイアボルト】!」

 

 照準を合わせた腕から炎雷が怪物の顔面に着弾する。

 僕の魔法【ファイアボルト】には詠唱が存在しない。魔法は、詠唱文が長いほど効果が高いと言われる。その法則に従えば僕の魔法は最弱といってもいいだろう。だが、この魔法は無詠唱故に、本来は不可能なはずの魔法の連射が可能になる。

 今みたいな囮のための牽制にはもってこいの特性だ。

 僕は間髪入れずに炎雷の8連撃を叩き込む。

 

「ガァァァ!!!!!」

 

 威力は低いとはいえ、あまりにもしつこい弾幕に苛立ったのか。

 怪物は首を大きく振りながら凶暴な咆哮をベルにぶつける。

 そして、咆哮とともに、角から光線を放った。

 

「!? 遠距離攻撃!」

 

 咄嗟に光線を躱すとベルは魔法による攻撃をやめ、より木々が生い茂る場所に飛び込んだ。

 戦う上で相手の情報を知ることは冒険者の生命線だ。既知のモンスター相手ならば、これまで必死に詰め込んできた知識がものを言うが、未知の相手と戦うときは、戦闘中に情報収集を行わなければならない。

 

(僕のこれまでの戦いで、完全な未知だった相手との交戦経験は数える程度)

 

 1か月半という前代未聞の速さでランクアップを果たしたベル・クラネルであるが、そのキャリアは3か月程度と、駆け出しといってもいいほどに足りていない。

 歴戦の戦士とは到底言えないその経験は、未知の存在との戦闘において致命的な隙をさらした。

 それまで雨あられのように降り注いできた光線が突如として鳴りやんだのである。それが何を意味するのか考えた瞬間、ベルは自身の体の異常に気づいた。

 

(!? 体のバランスが取れないっ、平衡感覚が狂っている!)

 

 立っていられず崩れ落ちるベルの姿に怪物はほくそ笑んだ。うっとおしい兎を確実に仕留めるために、彼は戦い方を切り替えていた。当たらないショック光線による攻撃を止め、その眼から催眠光線を照射したのである。

 変化した戦い方に対応できなかったベルは、怪物の狙い通りに大きな隙をさらしてしまった。

 

(まずい!)

 

 ランクアップしたばかりの頃、18階層で戦った極彩色のモンスターを思い出す。怪音波で立てなくなったベルめがけてモンスターは鋭い一撃を……。

 既視感に青ざめる。あの瞬間をなぞるように大木のように太い尻尾が迫る。

 違うのはあの時のように盾が手元にないこと。レベル3とは言えあの一撃を無防備に食らうのは致命傷になりかねない。せめてもの足掻きでもう一本のナイフを抜き防御の姿勢を無理矢理とるがどうにもならない。

 ベルはボールのように勢い良く吹き飛ばされた。

 

 

 

(…………………………………………)

 

 思考が纏まらない。

 ただ全身が焼けるように熱く、串刺しにされているかのような痛みに声が出ない。

 視界に使い手の手を離れ、光を失う得物(ナイフ)が見えた気がした。

 

「ぁ……ぅ……………………」

 

 ああ、負けたのか。

 色んな言葉が壊れた魔石灯のようについては消えていくなかで、その言葉だけがずっしりとのしかかってきた。

 なんてことはない。ベル・クラネルは突如現れた異常事態(イレギュラー)に手も足も出ずに敗北した。

 刹那を生きる冒険者らしい。どうしようもない、理不尽な最期だ。

 逃げたパルゥムの冒険者は大丈夫だろうか? 

 彼が生き延びてくれたら、この僕の死にも多少は意味があったのかもしれない。

 

(あぁ…………意識が遠のいていく…………)

 

 先ほどまで苛んでいた痛みも、もはや鈍化していく。あるいは、許容量を超えて認識できなくなっているのかもしれない。

 意識が拡張されていく、緩慢にすら感じる時間の中で、ベル・クラネルがこれまで見てきた情景が再生されていく。

 大好きだった祖父の死、失意の中で見た流星、憧憬(アイズ)との出会い、はじめての冒険、決死の旅路、荒くれ者たちの洗礼、迷宮の孤王(ゴライアス)との死闘、戦争遊戯(ウォーゲーム)戦闘娼婦(イシュタル・ファミリア)たちとの抗争……

 14年という短い人生の中でも、特に僅かなオラリオの思い出が、こんなにも自分の中で大きなものになっていたのかと苦笑しようとして……もう笑う力すらなかった。

 そして、命の灯と共に消えゆく意識の中で最後に思ったのは……

 

 世界の冷たさに打ちのめされる中、出会えた僕の神様だった。

 

「ッッ!!」

 

 霞がかっていた意識が晴れる。

 さっきまでピクリとも動かなかった手を握り締めた。

 

「何、諦めてるんだよ…………ッ!」

 

 約束したはずだ。自分の無様に気づき、無謀な突撃の末に死にかけたあの日。

 子どもの我儘そのものだった僕の意思を、尊重してくれながらも、瞳を潤ませて言ったあの言葉。

 

『……お願いだから、ボクを一人にしないでおくれ』

 

 本当は止めたかったはずだ、憧憬に追いつこうと躍起になる僕は傍から見れば危なっかしかったはずだ。それでも、僕の背中を押してくれた。あの神様(ひと)の言葉に僕はなんて答えた? 

 絶対、神様を一人にしないとそういっただろう……! 

 

「ぎっ……が…………あぁぁッ」

 

 絶望する暇があるなら拳を握れ。

 諦める言い訳を考える余裕があるなら覚悟を決めろ。

 神様との約束は、何が何でも守り抜け! 

 

「!」

 

 怪物が目の前の人間がまだ戦意を失っていないことに気づく。

 どうでもいい。

 近くの木に倒れこむようにもたれかかり、無理やりにでも立つ。

 どんなに惨めでも、無様でも最後に生きていればそれでいい。

 

 ―リン、リン

 

 鈴の音が鳴る。白い光の粒が腕に収斂していく。

 冒険者には基本的な身体能力を強化する【ステイタス】とは別に、ある条件のもと、特殊効果や作用を肉体にもたらす能力である『スキル』がある。

 僕の持つ唯一のスキルは【英雄願望】(アルゴノゥト)。効果は能動的行動(アクティブアクション)の強化。収斂する光を蓄力(チャージ)した時間と注ぎ込んだ体力と精神力(マインド)の量に応じてその効果は増大する。

 最大出力(フルチャージ)なら階層主すら屠る。英雄の一撃に全てを賭ける。

 

「ギャアアアァァァァ!!!!!!!!!!」

 

 しかし、狡猾な怪物はそんな時間を与えなかった。

 口から人一人なら簡単に呑み込めてしまう熱線を発射し、死にぞこないにとどめを見舞う。

 ―30秒の蓄力(チャージ)

 僕は目を強く吊り上げて砲声した。

 

「【ファイアボルト】!!!」

 

 同名の魔法。しかし、白い光粒に縁どられたそれは、先ほどまでとは比べ物にならない轟雷となって怪物へ驀進(ばくしん)する。

 ぶつかり合った二つの光は広間(フロア)に激震を走らせ……少しずつベルに迫っていた。

 蓄力(チャージ)不足。不完全な英雄の一撃では怪物は打倒できない。

 

「くっ……あああああああぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

 声を振り絞る。

 神様が与えてくれた恩恵(ちから)が発熱する。

 それでも、死はベルを逃がしはしない。着実に最期の時が近づいてきた。

 

(畜生、畜生、畜生っ!)

 

 (まなじり)に涙が流れる。

 再び絶望に心が支配されそうになる。

 目の前の光景を否定したくて、目を背けたその時──

 

 ────────―諦めるな

 

「……………………………………………………え?」

 

 威厳に満ちた声とともに、魔法を発する手の先にありえないものを見た。

 まばゆい光を放つ刀の様な宝具。

 その名は『エボルトラスター』。ベルは引き寄せられるようにそれをつかむと、刀を抜刀するように、勢いよくそれを抜く。

 

「うわあああああああああ!!!!!!!」

 

 少年を赤い光が包み、水の波紋のような光が霧の迷宮に広がった。

 




 結局ウルトラマン出てない!
 後、書き終えて気が付いたけど怪獣の名前も出てない。


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c-ウィル・ネクサス

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 崩れ落ちる人間の無様な姿を見て、瞳を細めた。

 手間をかけさせやがって、いい気味だ。

 この世界にあってはならない異物(イレギュラー)はそう、愚かな人間(ムシケラ)が命を散らす瞬間を嘲笑う。

 怪物は自分がここにいることが本来あり得ないことだと理解していた。

 そして、自分をここに連れてきた醜悪な存在による邪な(はかりごと)の道具にされていることも察していた。

 それでも、怪物が生きていけるのはこの霧の草原しかないのだ。だから、ここを縄張りだと主張し、近寄るあらゆる存在を排除し続けた。

 この世界の生物は元居た世界と比べるとしぶとい。人間は妙に頑丈だし、モンスターは際限なく産まれてくる。

 だがそれだけだ、産まれたばかりの幼体とは言え、迷宮の孤王(モンスターレックス)に匹敵するその巨体は単純に強い。矮小な存在の攻撃など歯牙にもかけず、のしかかるだけで獲物を圧し潰す。

 それで終わりだ。生まれながらに最強の力を持つ己こそが王なのだ。最強の生態系の頂点に君臨する一角は、有象無象が集ったところで、圧倒的な威風を崩すことはない。生物としての次元が人間とは違うのだ。

 故に我らは、その起源である地球で畏怖を持ってこう呼ばれたのだ。

 

 ──「怪獣」と

 

 人間が最後の力を振り絞って業火の魔法をぶつけてきた。

 無駄なことだ

 結末は決まっている。王の機嫌を損ねた愚か者は、地獄の業火に焼かれるのがお似合いだ。

 ちっぽけな魔法ごと焼き尽くしてやる。

 

 地球ではキングザウルス3世と呼ばれ、ウルトラマンジャックすら一度は地につけたナチュラル・ボーン・デストロイヤーの遺伝子を受け継ぐその力の前に人間の足掻きなど何の意味も持たないはずだった。

 しかし、彼は死にかけの人間が発した、目の前に広がる光の波紋を前に動揺する。

 それは、宇宙の頂点に立つ恒星の威厳。

 迷宮を覆う霧すら遮れぬ、偉大な純白の光。

 王の威光すら凌駕する神秘の輝きの気配に怪獣は思わず後ずさる。

 そして、一瞬、人間が発した光如きで狼狽えたことに強い屈辱を感じた。

 

 ー往生際の悪い

 

 死の運命は絶対だ。余計な手間を増やすな。

 光を見ても、動揺こそしたが、怪獣の余裕は変わらなかった。

 だが、光が収まった先で現れたものに、怪獣は絶句する。

 光は収束すると巨人の形を成した

 銀を基調とした体、胸には宝石のように赤く輝く命の輝き

 10M(メドル)程のキングザウルスより少し大きい12M(メドル)弱の光の巨人は、目に穏やかな、しかし力強い光を宿して怪獣を見据えた。

 構え、人のものとは違う言語で巨人は声を上げた。

 

「シェア!」

 

 片手は拳で片手は手刀、巨人は勢いよく正拳突きを見舞った。

 

「ギャアアアアァァ!?」

 

 ズン、と生まれて初めて感じる脳を揺さぶられる衝撃にキングザウルスはうめき声を上げる。

 

 こいつは俺を殺そうとしている! 

 目の前の敵は自分の命を脅かす存在だとこれまでにないほど力を込めて尻尾を振るう。

 しかし、巨人はそんな攻撃をバク転で軽々と回避して悠々と回避し、先ほどと同じ構えをとる。

 

「グギャアアアアアアアアァァ!!!!!!!!!」

 

 それが余裕に見えたのか、キングザウルスは怒りに我を忘れてショック光線、熱線、催眠光線を乱れ打つ。それを巨人は時に躱し、時に両腕の刃付きの籠手『アームドネクサス』で切り払う。

 キングザウルスがさらに弾幕を強めると、巨人は飛び上がった。

 

「────────────────」

 

 怒りを忘れ、呆然と空を飛ぶ巨人を見つめるキングザウルス。

 その隙を逃さず巨人は光の刃『パーティクル・フェザー』を飛ばす。

 怪獣の厚い皮膚すら切り裂くと思われた刃を、2本の角から発生させた光の壁で防ぐ。

 

「!?」

 

 驚く巨人に冷静さを取り戻す。

 大丈夫だ。自分には最強の盾がある。

 このバリアーがある限り、負けることは絶対にない。

 全身を覆うこの絶対の守りは破れない。

 確信をもってショック光線を浴びせる。これは躱されるが、休む間も与えず打ち続ければ、必ず奴には限界が来る。

 

「フッ!!」

 

 学習せずに同じ攻撃を繰り返す巨人を嘲笑う。

 再び展開されたバリアーは先ほどと同じように光の刃を防ぐ。

 やはり、奴はこの盾を突破できない。

 勝利を確信するキングザウルスは、バリアーを解除し巨人に勝ち誇った咆哮を上げようとして……思考を止める。

 視線の先には何もなかった。

 

「ギギャア!?」

 

 慌てて巨人の姿を探す怪獣の耳に音が聞こえた。

 

 ──リン、リン

 

 この音は、巨人になる前の……

 跳ね上がるように視線を真上に向ける。

 そこには上空で足に白い光粒をチャイムとともに収斂する巨人の姿。

 気づいたときにはもう遅い。

 5秒の蓄力(チャージ)

 巨人は銀の流星となって、キングザウルス目掛けて急降下する。

 

『アンファンスキック』

 

 冒険者のスキル(アルゴノゥト)で強化された蹴りは、最強の盾を出す暇も与えず2本の角をへし折った。

 怪獣の悲鳴がこだまする。

 巨人は急降下の勢いを利用して地面を滑り、必殺の間合いを確保する。

 もう、最強の盾を発生させる角はもうない、

 両腕にエネルギーを帯電させ抜刀するように開かれた両腕は十字に組まれた。

 

「ハアア……デヤァ!!!」

 

『クロスレイ・シュトローム』

 

 必殺を期して放たれた光線はキングザウルスにはとても耐えられず、絶叫とともに爆散した。

 

 

 

 

 光が解けていく。

 体から気力をごっそり抜かれたような倦怠感に、頭が霞む中、ベルはあたりを見渡した。

 天然の武器(ネイチャーウエポン)として、モンスターたちが使用し、下級の冒険者の持つ武具ならば渡り合えるであろう木々が無残にへし折れている。

 床の草原は荒らされ、ダンジョンの壁は怪獣による光線であちこちが抉れている。

 最後に発射した、クロスレイ・シュトロームの爆風により、霧が晴れているにも関わらず、モンスターは一体も見えない。まるで、何かに怯え続けているように。

 

「あ……」

 

 そこで気づく、あの光の中で握った宝具『エボルトラスター』がまだ自分の手にあることに。力を蓄えているように、そこから漏れ出す光が脈打っている。

 

「これは、なに……? どうして僕があんな……」

 

 光をもたらした者は何も答えない。

 少年のかすかな呟きだけが、迷宮に響いた。

 

 

 

 

 そこからどうやってホームまで戻ったか自分でもわからない。

 僕を見つけたヴェルフによると、玄関に入った途端に気を失ったらしい。

 何かあったのかと聞かれたけど、僕は答えられなかった。

 今日あったことを話して、みんなの僕を見る目が変わってしまうことが怖かったから、僕は俯いて、心配してくれるファミリアのみんなに何も言えなかった。

 そうして、自室でベッドにくるまっているけれど、考えがまとまらない。もう、訳も分からず、叫びだしそうだ。

 そんな時、コンコンとドアをたたく音が聞こえた。

 

「ベル君、少しいいかい?」

 

「神様……」

 

 一番来てほしくない人が来てしまった。

 下界に来るにあたって、自らに制限をかけて全知零能の存在になっているとはいえ、神様は、僕たち人類をつくった超越存在(デウスデア)だ。嘘はすべて見抜かれて、隠し事なんてできない。

 この神様(ひと)にだけは嫌われたくないのに……神様は僕が落ち込んでいると、すぐに気づいて、そばにいてくれる。

 嫌われたくないのに、そんな神様が少しうれしくて、僕は神様にだけはすべてを話してしまった。

 神様は深刻そうに黙り込んだ後、2つ質問をしてきた。

 ―その力を与えた存在と会話はできるか

 ―普通の人間の状態でも身体能力に変化はあるか

 僕はどちらにもいいえと答えると、次に神様は嘘をついてくれといった。

 その意味は分からなかったけど、僕は自分が女だ、と誰でもわかる嘘をついた。

 すると、神様は考えをまとめているのか険しい表情で僕の【ステイタス】を見ている。

 そして、落ち着いて聞いてくれよ、と前置きして自身の見解を語った。

 

「その光はこの世界とは別の場所から来ているのかもしれない。そして、君は【ステイタス】に変動こそないけれど、巨人に変身する能力を手に入れた」

 

 これは、非常にまずいことかもしれない。神様の言葉に僕は背筋がひやりとする感覚を覚えた。

 

「下界の要素以外で眷属(こども)が強化される。これを反則(チート)だととらえる神がいるかもしれないんだ。現にさっき君が嘘をついたとき、僕は眷属(こども)の嘘じゃなくて、神が嘘をついた時ような感覚がしたんだ」

 

 神様の言葉の意味を理解すると同時に、冷汗が流れた。

 神様の血(イコル)によってもたらされる恩恵(ファルナ)は、冒険者の能力を引き上げるが、あれは神様が任意で選んだ能力を与えているのではなく、眷属の眠れる力を引き出しているに過ぎない。

 神様たちはやろうと思えば、今の第一級冒険者を軽々と超える存在を量産できるらしい。しかし、意図的に能力をつけさえる行為は反則(チート)と呼ばれ、眷属の力を抹消した上でそれを行った神様は天界に強制送還され、二度と下界に戻れなくなる。

 この光を得たことはそんな反則(チート)行為に該当する可能性があるらしい。現に、神様たちには下界の人間が分かる能力がある。なのに、さっき、神様はその能力を発揮できなかった。

 

 それはつまり、今の僕は人間とは違う存在になっているということではないか? 

 そんな種族そのものが変質してしまう変化が、果たして下界の可能性と言えるだろうか? 

 

「もし、この光の存在が他の神に露呈した場合……最悪、君の冒険者生命が終わる」

 

 重要なのはそこじゃない! と叫びたかった。

 僕がこうなったのは、異常事態(イレギュラー)が起きていると知りながら突っ込んだ自業自得だ。でも、神様は何もしていない。何も悪くない神様が罪をかぶるなんてあってはいけないことだ。

 

「……君の気持ちはうれしいけど、他の神はそうは考えない。もしかしたら、これを機に足を引っ張ってやろうと考えるやつもいるかもね」

 

 全くこれだから神ってやつは……と、めんどくさそうにツインテールを揺らす神様は、僕の考えを見透かしたように大丈夫だぜ、と笑いかけた。

 

「要は、ばれなきゃいいんだ。だから、君はその力をなるべく隠していかなきゃいけない」

 

 わかるね? と言う神様な言葉に僕は頷いた。この人に迷惑をかけることは絶対にあっちゃいけない。なんとしても隠し通さないと……

 

「おっと、もうこんな時間だね。ボクはこれで失礼するよ。……それとも、もう少し一緒にいようか?」

 

 なんなら、添い寝してもいいぜ! といつものように冗談を言う神様に少し、笑みがこぼれた。

 

「いえ、大丈夫です。神様に迷惑はかけられません」

 

 全然迷惑じゃないんだけどなー、むしろウェルカムなんだけどなーと僕に気を使ってくれたのか冗談を小さな声で呟きながら部屋から出ていく神様だったが、ふと何かに気づいたようにこちらを向いた。

 

「そうそう、厄介ごとを運んできたけど、光自身は悪い奴じゃないと思うぜ? 多分、ベル君には、何かやらなきゃいけない使命があるんじゃないかなぁ……勘だけど」

 

 そう、言い残すと今度こそ神様は部屋を出ていった。

 神様の勘……天界の住人である神様たちは、時折そう言って予言じみた意味深なことを僕たちに投げかける。

 けして無視できない言葉に、再び僕は思考に没頭する。

 ──使命って何だろう。

 ──君はどうして僕を選んだの? 

 

 答えはいつまで経っても帰ってこなかった。

 




 かっこいいタイトルが思いつかない。
 だれか、センスを分けてくれ。


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第2話「不安-アンイージネス-」
a-狐兎対話


 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。


 光の巨人が倒れ伏す。

 目の前で、闇を纏った怪獣が(わら)っている。

 

 お前には何も守れない

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 巨人は怒りに拳を震わせ、力を振り絞って最後の光線を放つ。

 

 ──瞬間、全ては閃光に包まれた。

 

 怪獣は倒され、巨人は確実に止めを刺したことを確認すると、後ろを振り向き愕然とする。

 そこには瓦礫の山と化したオラリオがあった。

 

(これを僕が……?)

 

 呆然と当たりを見渡す巨人は足元に何かを見つけた。

 

 ──それは、見覚えのあるものだった。

 

 無残に破けたバックパック、ぼろぼろの着流し、罅割れた刀、燃え盛る紅色の着物……

 そしてあの日、僕が神様に送った、青い花弁を彷彿させる髪飾りが風にあおられて…………

 

 

 

 

「──────────────ッ!」

 

 声にならない絶叫とともに目を覚ます。

 突如変わった視界に、混乱する頭は何とか悪夢を見ていたのだと理解した。

 ドクドクと、早まる鼓動が痛くて思わず胸を抑えた。

 

「大丈夫っ、あれは夢だから……大丈夫…………」

 

 必死に自分に言い聞かせて、心を落ち着ける。

 恐る恐る自分の両手を確認するが、そこには、産まれてからずっと見てきた手が変わらず存在した。

 夢の中のような、赤い籠手に包まれた銀色(人外)の両腕では決してない。

 

(全部が夢…………じゃないんだよね)

 

 寝台(ベッド)の傍に置いてある、宝具『エボルトラスター』に視線を向ける。

 昨日のように強烈な光を放つことはない。あれは変身する時だけの効果だ。

 ……そんなことが当たり前のように分かってしまうことが恐ろしい。

『エボルトラスター』に触れた瞬間、その使い方も、変身した後の戦い方も、あの怪物が怪獣と呼ばれることも、いつの間にか頭に入っていた。

 神様は悪いものじゃないって言っていたけど、それでも考えてしまう。

 この力は僕に破滅をもたらすんじゃないかって。

 理解できないことがこんなにも恐ろしいことだなんて思わなかった。

 

(ダメだ、暗いことばかり考えちゃう)

 

 少し早く起きたんだ。この時間を利用していつも以上に朝の鍛練に取り組もう。

 僕は、頭をぶんぶんと振ると、何も考えずもう一度眠りたいという誘惑を振り払い、中庭に向かった。

 

 

 

 

 

 人数が増えると役割が分担できて余裕ができる。

 始まりは僕と神様、二人だけだった【ファミリア】も、何人もの仲間ができてパーティで探索できるようになった。

 僕がレベル3にランクアップしたのもあって、かつては苦戦した中層での探索もスムーズに行えるようになっている。

 潜れる階層が深いということは、より良質な魔石をとることができるということで、当然、【ヘスティア・ファミリア】の資金繰りも楽になるということだ。

 ……2億の借金が判明した今、微々たる物な気もするが。

 神様は自分の借金は自分で返すといって、僕たちの成果には手を出さないけど本当に何もしなくていいのかな? 

 

「ヘルハウンド3頭! 北西の方角から来ます!」

 

 命さんの索敵(スキル)に反応があった。

 前衛は各々の武器を構え、荷物持ち(サポーター)は後方で援護の準備をする。

 

「オラァ!」

 

 大剣を振りかざすヴェルフは、裂帛と共に斬撃を狼のモンスターに浴びせる。

 ランクアップを果たした上級鍛冶師(ハイ・スミス)の前には、中層のモンスターであろうと相手にはならない。

 そして、モンスターを察知した命さんも負けてはいない。

 間合いを見図り、脱力する。

 それを、隙と捉えたのかヘルハウンドが飛びかかるが、

 

「はぁぁっ!!」

 

 迂闊にも間合いに入り込んだヘルハウンドに抜刀術を繰り出す。

 武神(タケミカヅチ)仕込みの技は伊達ではない。

 首元を切り裂かれた狼は、何が起きたのか理解することもできず息絶えた

 このまま、問題なく撃退できると思われたが、中層は上層とは比べ物にならない物量で冒険者の余裕を揺さぶってくる。

 

「東南の通路からアルミラージの群れが接近しています!」

 

「おい! こっちはヘルハウンドがまた来やがったぞ!」

 

 サポーターのリリの言葉通り、東南から血濡れの兎の群れが迫ってくる。

 北西からは元々残っていた1頭と、新たに来た2頭のヘルハウンドが加わる。

 

(どうする、先にヘルハウンドを確実に倒すか、それともサポーター2人の援護に向かうか)

 

 刹那の思考、しかしその瞬間、懐に入れた『エボルトラスター』が発熱する。

 

(!? 近くに怪獣がいる!)

 

 僕にしかわからない情報が、僕から冷静さを奪った。

 目の前にいるヘルハウンドを強引にナイフで突き殺すと、そのまま反転、魔法を連射してサポーターを襲おうとしていたモンスターたちを攻撃する。

 

「ベル殿!?」

 

「ベル様! 無茶をしすぎです!」

 

 命さんとリリが声を上げるが、答えてる余裕はない。

 ヘルハウンドはヴェルフたちに任せ、炎雷(ファイアボルト)に怯むアルミラージの群れに飛び込み、双剣(ダブルナイフ)でその首を撥ねていく。

 

「っ……!! 後退します」

 

 リリの指示に従い、僕たちは モンスターたちが集まる広間(フロア)から脱出した。

 

 

 

 

 その後、開けたルームで簡易的な休憩ポイントを整えて、一時休憩することになった。

 リリからはさっきの無茶な戦い方を注意されちゃったけど、まだ気を抜くことはできない。怪獣の反応は近くで確かにするけど、いまいち具体的な位置がつかめない。

 あちこちに移動しているのなら、運が悪ければ遭遇(エンカウント)するかもしれないと、気を張っていると、サポーターとして同行している春姫さんが二属性回復薬(デュアルポーション)を渡しに来た。

 

「お疲れ様です。ベル様」

 

「ありがとうございます」

 

 春姫さんはつい最近、ファミリアに入ったばかりのレベル1の狐人(ルナール)だ。

 移籍したばかりで、色々となれないことも多いだろうに精力的に働いてくれている。

 休憩の間、さっきはあまり活躍できなかった、もうファミリアにはなれてきたか、と言った軽い会話を挟みつつ体を休めていると、春姫さんは突然「ありがとうございます」とお礼を言ってきた。

 お礼をされた内容に心当たりがなかった僕は、ちょっと混乱しつつ意味を聞くと、春姫さんは静かに語りだした。

 

(わたくし)はイシュタル様に拾われてからずっと、誰にも助けを求めることはできませんでした」

 

 元はサンジョウ家という貴族の箱入り娘だった春姫さんは、あるパルゥムの(はかりごと)によって実家を勘当されたところを、奴隷商に捕まってしまう。そこでイシュタル様に魔法の才能を見込まれ、抗争の道具として利用されていた。

 やがて、狐人(ルナール)の魂を封じ込めることで、妖術を自動で発することができるアイテムを作るための儀式が行われることになった時に、僕と出会った。

 

「アイシャ様のように親切にしてくれる方もいましたが、私は自らの運命に絶望し、心を閉ざしていました」

 

 ──そんな時に、あなたに出会った。

 

 ひとときの夢を見せてくれただけでなく、諦めた想いを紡いでくれる。

 あの満月の調べ。

 

「私はあなたに出会って救われました」

 

 だから、ありがとうと。

 そう伝える彼女の言葉は、感謝だけではなく、こう読み取ることもできた。

 

 ──ずっと、押し殺してきた想いをあなたが解き放ってくれたように、

 ──私もあなたの苦悩を共に背負いたい。

 ──一人で抱え込まないでください。

 ──仲間(私たち)を頼って。

 

 リリに呼ばれ、立ち去る春姫さんの背中を見て、僕は情けなさでいっぱいだった。

 

(気を遣わせちゃったな……)

 

 よくよく考えたら、気を遣うに決まってる。

 僕は昨日、突然玄関で倒れていたんだ。

 それなのに、いつも通りに振る舞おうとすれば誰だって違和感を感じるだろう。

 春姫さんはそんな僕を心配して、あんな話をしたんだ。

 

(春姫さんだけじゃない。リリも、ヴェルフも、命さんも……みんな僕に注意を向けていた)

 

 僕と命さんは隠し事ができない。なんて、前にリリに言われたことがあった。

 いつも通りの行動をとってたつもりだったけど、僕の拙い演技は最初から筒抜けだった。

 ファミリアの団長になったというのに、みんなに心配かけて、自分の情けなさに赤面しそうだ。

 

(こんな人たちを僕は疑っているんだ……)

 

 罪悪感に打ちひしがれる。

 だけど、もしも、みんなに嫌われたら。

 そう考えると、とても怖くて言い出せなかった。

 

(だけど、このままじゃだめだ)

 

 神様は他の神様にバレてはいけないといったけど、仲間(ファミリア)にまで隠せとは言ってない。

 いつか、ちゃんと言わないと。

 今はまだ勇気を出せないけど、いつか。

 

『エボルトラスター』がトクンと、淡い熱を持った気がした。

 

 

 

 




 ふと思ったけど、怪獣の解説もあったほうがいいでしょうか?
 アンケートを設置したので、皆さんの意見を教えてください。


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b-邪悪×襲来

 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。


 目標量のドロップアイテムを確保し、地上に帰還しようと話していると、突如ダンジョンが揺れ始めた。

 気を抜けば転倒しそうなほどの揺れに、ヴェルフたちが呻く中、『エボルトラスター』が、ベルに警告を告げる。

 

(近くに怪獣が!?)

 

「ごめん! 先に戻ってて!」

 

「ベル様!?」

 

 制止の声が聞こえるが、無視する。

 第一級冒険者ならともかく、この中層で活動する冒険者のほとんどは、怪獣なんてものと戦える力はない。

 異常事態(イレギュラー)が起きているダンジョンで単独行動なんて、とても褒められたものではないけれど。

 この力と共に与えられた使命はきっと怪獣に関係しているはずだ。

 だから、行かないと。

 ヴェルフたちが追ってくるが、この中でレベルは僕が一番高い。

 一気に加速して、振り切った。

 

 

 

 

「おい! 何やってんだよベル!」

 

 瞬く間にその姿を消したベルに、ヴェルフが声を荒げる。

 昨日からずっと様子がおかしかったが、いよいよ理解できない行動をとった。

 ベルだって馬鹿じゃない。この状況で、単独行動をすることの愚かさは分かっているはずだ。

 にも拘わらず、あんな行動をとったということは、そのリスクを負ってでもやるべきことがあるということだ。

 問題は……

 

「何故、自分たちに何も言ってくれないのでしょう……」

 

 【八咫白鳥】(スキル)でベルを探知しながら、命は悲しげに呟く。

 【ヘスティア・ファミリア】は団長のベル以外のメンバーは、全て他【ファミリア】からの移籍という、オラリオの中でも珍しい構成のファミリアだ。

 それはつまり、【ファミリア】の団員がベル・クラネルと言う人間にそれほどの好感を持っているということでもある。

 彼女は期間が過ぎれば、【タケミカヅチ・ファミリア】に戻る予定ではあるが、それでも、ベルとは確かな絆を持てたと思っていたのだ。

 だからこそ、彼が苦しんでいるときに頼ってもらえないことが悲しい。

 

「ど、どうしましょう……」

 

 オロオロと獣人の尻尾を揺らしながら、春姫はパーティーとしての判断をリリに仰ぐ。

 レベル1のサポーターで、非力な小人族(パルゥム)はあるが、彼女の頭のキレは仲間の誰もが認めるものだ。

 

「ベル様を追います」

 

 リリは迷わず即答する。

 彼女にとって、ベルは何よりも優先するべき事柄だ。

 異常事態(イレギュラー)が起きていようと、それは変わらない。

 

「なぜそこに向かったかはともかく、どこに向かっているかは推察できます」

 

 ベルは力任せにリリたちの追跡を振り切っただけだ。

 道を滅茶苦茶に進むといった、こちらを攪乱するような細工は何もしていない。

 素直に目的地までまっすぐ進んだ、ベルの居場所を割り出すことは、活動階層の地図(マップ)を全て記憶しているリリにとっては、たやすいことだ。

 

「ベル様が向かったのは恐らく、リリたちが前に利用した縦穴でしょう。ショートカットしてリリたちも追いかけます。」

 

 リリの言葉にパーティーは頷き、ベルの後を追った。

 

 

 

 

『エボルトラスター』に導かれた場所、かつて下った縦穴にはやはり怪獣がいた。

 悪魔のような相貌、全身は鋭利な棘で覆われ、両腕は龍の頭をくっつけたような歪なシルエット。どんな生態系を経たらこんな進化をたどるのか想像も付かない。

 凶獣・ルガノーガー

 50M(メドル)を超える巨体が、縦穴から顔を覗かせる光景は、子供のころに見た悪夢のように現実味がない。

 深紅(怪獣)の瞳と真紅(ベル)の瞳が互いを見据える。

 沈黙を破ったのは怪獣の咆哮と共に放たれた光だった。

 青白い破壊光線がベルに迫る。

 それに対してベルは、『エボルトラスター』と共に与えられた宝具である『ブラストショット』でバリアを形成し、攻撃を防いだ。

 階層をまたいだ攻撃。そんなもの、まるで風の噂で聞いた深層のドラゴンだ。

 お返しとばかりに魔法(ファイアボルト)を連射するが、ルガノーガーの胸の装甲に弾かれる。

 キングザウルスの時と違い、ここが縦穴である以上は大きな回避行動はできない。

 最短で怪獣の近くまで接近して、必殺を叩き込むしかない。

 しかし、ベル・クラネルにはその両方を成立させる手段がない。

 

(やっぱり、人間のままだと太刀打ちできない)

 

 ベルは『ブラストショット』のバレル下部をスライドし、波動弾を装填。

 ルガノーガーの顔面に標準を合わせて、トリガーを引く。

『ブラストショット』は単発式故に、【ファイアボルト】のように連射はできないが、その分威力は絶大だ。

 悲鳴を上げて仰け反るルガノーガー。

 その隙に、ベルは『エボルトラスター』を抜刀、右腕を後ろから前に回して宝具を空に掲げた。

 

「せあぁぁぁ!」

 

 

 

 

 春姫たちは轟音が鳴り響く縦穴には到着すると、まず、階層主以上になる強大な怪物を目の当たりにする。

 想像を絶する光景に言葉を失う一同。

 そして、怪物に憎々しげに睨み付けられる白髪に、春姫が声を上げる。

 

「ベル様!」

 

 白い短刀を天に掲げる姿勢のまま、こちらを見るベル。

 その目が大きく見開かれる。

 同時に短刀から赤い光が発せられ、光の波紋が冒険者たちの視界を埋める。

 輝きが収まった時、少年の姿はなく、そこには4M(メドル)程の光の巨人が立っていた。

 

「…………………………ベル…………様……?」

 

 

 

 

 どうしてここに!? 

 巨人(ベル)は現れてしまった仲間(ファミリア)に動揺する。

 本来、変身してすぐに飛行能力を駆使して縦穴を駆け抜けて、必殺光線を打つ予定だった。

 しかし、それは近くに誰もいないからこその作戦だ。

 あの破壊光線を乱射されれば、リリたちは跡形もなく消し飛ぶだろう。

 当初の作戦は完全に瓦解した。

 そして、それ以上に

 

 ―見られた。

 

 知られたくなかったこの姿を、見られてしまった。

 そのことが何よりもショックで、変身が終わっても、彼女たちを見つめてしまった。

 そして、邪悪はそれを決して見逃さなかった。

 目の前の敵にとって、そこの人間たちが致命的な弱点だと理解したルガノーガーは、破壊光線を滅茶苦茶に乱射した。

 崩れ落ちる縦穴の壁から出た破片は、人間にとっては凶器だ。

 顔を引きつらせて、回避行動に入るパーティーと、降りしきる岩の塊を、パーティクル・フェザーやその拳で粉砕する巨人。

 しかし、縦穴を通り抜けるために、大きさを抑えて変身したせいで、完全に防ぎきれず、落ちてくる破片をリリたちは懸命に回避する。

 必死で人間たちを守る巨人に向けて、両腕の龍の口から必殺を期した一撃が炸裂する。

 迫りくる、青色破壊光線にリリたちが死を覚悟する中、巨人が懸命に両腕を突き出す。

 

「グゥゥゥ!!」

 

『サークル・シールド』

 

 オリオン・ブルーの円形のバリアーが、同色の光線を防ぐ。

 しかし、ルガノーガーは気にせず、3つの口や肩の赤い棘から攻撃を続ける。

 

「魔剣を使え!!」

 

 ヴェルフの声に従い、サポーター二人はそれぞれ魔剣を振るう。

 嘗て王国(ラキア)はとある魔剣を軍隊で装備し、不敗神話を築き上げた。

 名をクロッゾの魔剣。

 その一撃は容易く城壁を壊し、魔法に長ける妖精(エルフ)たちの里を焼き払ったと言い伝えられている。

 ベル・クラネルの専属鍛冶師であるヴェルフ・クロッゾは、そんな伝説を作り上げた鍛冶貴族の末裔である。

 ヴェルフ・クロッゾの魔剣は、先代クロッゾたちの魔剣すら凌駕する威力で怪獣に迫る。

 しかし、ルガノーガーはまさしく桁違い。その破壊光線は星すら殺す。

 人間の世界では最強を誇った魔剣も、星を蹂躙する殺意の前に霧散した。

 

「────────────」

 

 常識外れの光景に思考が停止する。

 自分たちには、この暴虐の嵐は止められないと本能が悟った。

 

「ピギギャァァァァァ!!!!!」

 

 三つの顔が喜色に染まる。

 獲物の無残な最期を想像し、歓喜の咆哮をそれぞれ上げた。

 それが、不協和音となって迷宮に轟く。

 死神の足音が少しずつ、近づいているように春姫は感じた。

 




 星すら殺す(比喩表現に非ず)
 ダンまちキャラとウルトラ怪獣の戦力格差がひどい。


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c-絆に照らされたのなら

 飛び立てない僕に、君たちが勇気(ツバサ)をくれた。


「グ……クゥ……ウウウウゥゥゥゥ!!!!!!!!!!」

 

 押し寄せる圧力に光の巨人が呻く。

 滝のように絶え間なく聞こえる轟音が告げる。

 あの光の壁を失った時がお前たちの最後だと。

 

「ベル様……」

 

 苦悶の声を漏らす巨人の姿に春姫から少年の名が呟かれる。

 (ベル)が何に苦しんでいたのかようやく分かった。

 彼が不自然な挙動を見せるようになった昨日から、この巨人に姿を変化させる術を手に入れたのだろう。

 苦しかったはずだ。

 御伽噺を見ればわかる。この世界の歴史は異形の存在との争いの歴史だ。

 そんな歴史が積み重ねられてきた世界で、もしあの姿を晒してしまえば、この街に彼の居場所がなくなることは容易に想像できる。

 昨日から、彼は自分が世界から隔離されたような孤独感に苛まれていたのだ。

 

(ですが……)

 

 彼はそれでも戦った。

 後先考えずに、顔も知らない誰かが、怪物の脅威に晒されないようにと。

 あんな姿になっても何も変わってはいないのだ。

 愚かで、危なっかしくて、だけど、とても尊い光を放つ。

 

──(わたくし)が恋焦がれる少年のまま。

 

 なら、迷うことはない。

 私たちが彼から離れることなんてありえない。

 だから、伝えないと。

 純白の心は霞を払うことで、何者よりも輝くのだから。

 

 

 

 

 動けない。

 筋繊維一本でも緩めれば、守りを維持できなくなる。

 このままではジリ貧だと、ベルは思考を回すが逆転の策など浮かばない。

 時間が経つごとに力は失われ、焦りが加速し、思考が空回りする。

 

『このままじゃっ』

 

 刻一刻と近づく限界に屈しそうになったその時。

 

「【──大きくなれ】」

 

 ……(うた)が聞こえた。

 ゆっくりと背後を振り返る。

 そこには、変わらぬ目で巨人(ベル)を見つめる仲間たちと、懸命に詠唱し(うたい)、何かを差し出すように手を伸ばす春姫の姿があった。

 

「【()の力に()の器。数多(あまた)の財に数多(あまた)の願い。鐘の()が告げるその時まで、どうか栄華(えいが)幻想(げんそう)を──大きくなれ】」

 

 小さな頃、祖父に聞かせてもらった極東の英雄譚を思い出す。

 物語の中で、英雄の無事を祈り、一晩中神楽を踊り続けたという巫女。

 憧憬の景色と妖術(まほう)を行使する春姫が重なる。

 薄暗いダンジョンの僅かな燐光に照らされて、彼女の黄金(こがね)の髪が淡い光を放つ。

 その輝きは、詠唱が続くにつれて、彼女自身から迸る魔力の光によって徐々に強さを増していく。

 

「【神饌(かみ)を食らいしこの体。(かみ)(たま)いしこの金光(こんこう)(つち)へと至り(つち)へと(かえ)り、どうか貴方へ祝福を】」

 

 霧状の魔力が上空に集い、光雲を形づくる。

 その光景を覚えている。

 あの日、彼女を救うために、命さんと二人で【イシュタル・ファミリア】に挑んだ日に、精一杯ぶつけた僕の言葉に応えてくれた。

 あの、涙ながらの微笑みを。

 

「【──大きくなれ】」

 

 全てが終わった月の夜の瞬間(とき)、神の送還によって立ち昇る光の大柱に照らされた、二人だけの思い出。

 彼女を縛っていた黒い首輪(イシュタルの束縛)を壊し、

 

『貴方を助けに来ました』

 

『……ありがとう、英雄様』

 

 共に笑い合い、互いの温もりに身をゆだねた、あの出会いの物語。

 あの日と変わらぬ親愛を乗せて。

 光の巨人(ベル)の頭上に美しい文様の渦が出現する。

 怪獣の驚倒を置き去りにして、強大な柄のない光の槌が、あたたかな波動を発する。

 彼女は自分に許された、とっておきの奇跡を召還した。

 

「【ウチデノコヅチ】」

 

 光槌が巨人の全身を包み込む。

 体と心を奮い立たせる光が彼に教えてくれた。

 

──恐れなくていい、あなたには私たち(ファミリア)がいる。

 

「ッ!! ……ハアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 万の言葉より響く、全霊の魔法(想い)が彼に無双の力を与える。

階位昇華(レベル・ブースト)

 制限時間内に限り対象をランクアップさせる、最強の妖術。

 破壊の奔流を押し返し、バリアーごとルガノーガーに弾き返す。

 

「ピギャアアアァァァァ!!!!」

 

 突然の逆転に絶叫する怪獣。

 巨人は仲間たちに視線を落とす。

 レベルだけで言えば、あの怪獣には、吹いて飛ばされるような力しか持たないはずの仲間たちが、こんなにも頼もしい。

 心の(もや)は晴れた。

 

『もう誰にも負けない!!』

 

 ベルは勝利の確信をもって、胸に輝く宝玉・『エナジーコア』に手をかざす。

 そして、力強く手を振り下ろした。

 神秘的な水の音があたりに響き渡る。

 波紋のような輝きが巨人を包んだ。

 

「色が変わった……?」

 

 現れた新たな巨人の姿にリリたちは驚愕する。

 先ほどまでの銀を基調とした姿ではない。

 目が覚めるような白に赤のライン、胸に輝くY字の宝玉には新たに楕円型の宝石が増えている。

 身を覆う生体鎧も増え、ベルが普段着用する兎鎧(よろい)を巨人がまとったような姿になっている。

 それが、ベルの心の叫びに呼応したものだとリリたちも理解できた。

 先ほどまでの姿を幼年期(アンファンス)と呼ぶなら、ベルの心を表すこの姿は青年期(ジュネッス)

 敗北を重ね、屈辱にまみれながらも、バカみたいな白さを忘れずに駆け抜ける『未完の少年(リトル・ルーキー)』にふさわしい純白の第二形態。

 

 その名も『ジュネッス・ホワイト』! 

 

「ハアァァァ……ヘァ!!」

 

『アームド・ネクサス』同士を接触させ、右腕に光を宿し、上空のルガノ―ガーに向け、光線を照射する。

 

『フェーズシフトウェーブ』

 

 光はそのままルガノーガーだけでなく、巨人もファミリアも飲み込み円形のドームを形成する。

 黄金の雨のようなエネルギーが彼らを包み込み、光が消えたころには縦穴には何もいなくなっていた。

 

 

 

 

 ジュネッス最大の武器は必殺光線ではなく、異相、つまりは異次元空間を作り出す『フェーズシフトウェーブ』であるといっても過言ではない。

 この技によって形成される空間は『メタフィールド』と呼ばれ、巨人が、自らが存在する可能性を拡散し、その他の要素を排斥することで成り立つ空間である。

 この戦闘用不連続時空間に引きずり込むことで周囲への被害を防ぎ、かつ、自分を強化した状態で戦闘に臨める。

 しかし、そんなことを一切知らないヴェルフたちは大いに動揺した。

 

「おい! ここどこだ!?」

 

「15階層にも17階層にもこんな地形はありませんよ!?」

 

「あの空の色……なんと面妖な……」

 

「じ、地面が光って……はううぅぅ」

 

 赤土色の発光する地面、虹色のカーテンに包まれた空、どこまでも続く地平は或いは無限なのではないかと錯覚する。

 この世(あら)ざる光景にすっかり冷静さを失った4人は混乱を極めた。

 

 ―ドォォン

 

 しかし、少し離れた地点から鳴り響く轟音を春姫の獣人特有の聴覚がとらえると、パーティーは急いで、音のする方向に向かった。

 

 

 

 

「シェァ!!」

 

「グオオオオオォオォォ!!!!」

 

 巨人(ベル)とルガノーガーの戦いはついに最終局面を迎えていた。

『メタフィールド』の展開には、自身の存在を周囲に拡散しなければならない。

 すなわち、生命力を削るのだ。

 展開可能な時間はおよそ3分、それ以上は人の体が持たずに、適合者(デュナミスト)は死ぬ。

 距離を詰めることに成功した巨人は、ルガノーガーに格闘戦を仕掛ける。

 その大きさを10倍近く増し、49M(メドル)となった巨人は、『アームド・ネクサス』による斬撃を浴びせる。

 しかし、敵もさるもの巨大な両腕を、鈍器のように振り回し応戦する。

 

「フッ!」

 

 だが、接近戦ならば冒険者(ベル・クラネル)の十八番。

 師事した剣姫(アイズ)直伝の回し蹴りでルガノーガーの脳を揺らし、怯んだ隙に雷撃を発射する赤い棘と胸部の装甲を、【英雄願望(アルゴノゥト)】により強化された『アームド・ネクサス』によって破壊する。

 

「ギャアアア!!!! ッガァァァ!!!!」

 

 よろめく凶獣だが、ただでは終わらない。

 怒りに瞳を燃やし、大振りで振った右腕の振り上げが巨人の腹部に命中する。

 

「グアアアァ!!」

 

 大きく吹き飛ばされた巨人は即座に体勢を立て直す。

 距離は破壊光線に長けるルガノーガーが有利。

 しかし、一発外せばすぐに距離を詰められてとどめを刺される。

 ルガノ―ガーが両腕の照準を合わせる。

 巨人は『アームド・ネクサス』から光の剣を展開した。

 お互いの間に緊張が走る。

 

「グルルル……」

 

「ハアア……」

 

 先に動いたのはルガノーガーだった。

 全エネルギーを込めて、惑星すら破壊できる破壊光線を発射する。

 ……その数瞬前に横っ面を爆炎が襲った。

 犯人は彼が数分前まで矮小な獲物と侮った、ファミリアの持つ魔剣。

 ルガノーガーにとって最悪の意趣返しによって、彼の命運は定まった。

 爆炎で遮られた視界では敵を認識できず、放った光線は紙一重で躱され、巨人は地面を滑るかのような超スピードで接近してくる。

 

『マッハムーブ』

 

 音すら置き去りにして迫る光の巨人に、ルガノーガーは、両腕の龍の頭で懸命に防御の姿勢をとる。

 構わず振りぬいた光の剣は美しい軌跡を描き凶獣の首元に迫った。

 

『シュトロームソード』

 

 まるで抵抗なく剣はルガノーガーの首を通過し、輝きをまとう巨人は怪獣を置き去りにした。

 

 

 

 

 仲間たちが歓声を上げて巨人(ベル)の下に集う。

 リリが、見た目相応の子どものようにはしゃいでいる。

 ヴェルフはこちらに向けてサムズアップをしてきた。

 命と春姫は手をつないで駆け寄ってきた。

 巨人はそんな仲間たちに頷くと、光を解き小さくなっていく。

 輝きが収まると、元の少年の姿に戻ったベルが仲間の下へ駆ける。

 

──ごめん、ありがとう

 

 少年の言葉に笑みを浮かべる眷属たちは各々のやり方でベルを迎えた。

 その瞬間、自分が切られたことに気が付いたようにルガノーガーが爆散し、同時に『メタフィールド』も溶けるように消失した。

 

 

 

 

「結局、みんなにはばれちゃったわけか~」

 

 神様にダンジョンでの出来事を報告すると、神様は優しげに微笑みながら「よかったじゃないか」と声をかけた。

 

「リリはヘスティア様だけが知っていたことに納得いかないのですが……」

 

「まぁね! ボクとベル君の間には厚い絆があるわけだし? サポーター君が立ち入る余地なんてこれっぽっちもないからネ!」

 

「なんですって~!!」「なんだと~‼」といつものように喧嘩する二人を、周りがなだめる。いつもの光景が、こんなにも温かい。

 すこし感傷に浸っていると、笑ってないで止めろと言われちゃったけど。

 

「そうそう! ベル君! 思ったんだけどさぁ、君の変身した姿をずっと巨人とか光の巨人って呼ぶのは味気ないと思わないかい?」

 

 リリとの喧嘩が落ち着くと、神様がそんなことを言ってきた。

 たしかに、巨人のままだとなんだかゴライアスみたいでいやかもしれない。

 

「どうだろう! せっかく一件落着したわけだし、僕たちで名前を付けてみないかい?」

 

神会(デナトゥス)の様なものですか」

 

「名前を考える……ちょっと自信ありませんが……」

 

「いいな! やろうぜそれ! 血が滾るぜ……あの巨人の頭は兜みたいだったよな、ベルが変身する巨人だから兎耳形兜(ウサギミミナリカブト)……いや、ウサミン」

 

「あーはいはい。ヴェルフ様は命名禁止です」

 

 突然の申し出に少し戸惑ったけど、意外とみんな乗り気だ。

 僕も、かっこいい名前を考えるのは好きだしいいかも。

漆黒の堕天使(ダークエンジェル)】とか【無限の超新星(ビックバン・メビウス)】とか……

 

「あ、ベル君も命名禁止だぜ」

 

 なんで!? 

 

(どう考えても、()()な名前が好きそうだし。後で黒歴史思い出して、地獄を見る前に止めるのも親心だと思うんだよね)

 

「星の戦士なんていうのはどうでしょう、ダンジョンの中で輝く姿は星のようでしたから」

 

「確かにそうですね、では自分はカイジュウ? というものを倒したあの斬撃から、銀の流星という名前にしようかと」

 

「え、えっと、昔見た御伽噺ですが、槍と見紛う聖剣で竜を倒した話を思い出したので、光の勇者というのはどうでしょう」

 

「あ、最後の春姫さんの言ってる御伽噺分かった。シレイナの湖畔竜殺しのジェルジオだ」

 

「流石、英雄譚オタクたちだな……」

 

 うーん、みんなの名前もいいとは思うんだけど……

 もっと、こう、【銀河究極救世主(ギャラクシーアルティメットセイヴァー)】みたいな……

 

「じゃぁ! 最後はボクだね! 結構自信あるんだよ!!」

 

 さ、流石は神様……! 

 神会(デナトゥス)で付けられる冒険者の二つ名からも分かる通り、神のセンスはずば抜けている。

 きっと、僕たち下界の住民じゃとても思いつかないような素晴らしい名前なんだろう。

 ごくり、と唾を飲み込み神様の発表を待つ。

 

「いやいや、そんな神会(デナトゥス)みたいな頭おかしい名前つけないよ。こういうのはシンプルが一番なんだよ。光によって超人的な力を得た戦士なんだろう? だったら……」

 

 ―ウルトラマンなんて言うのはどうかな? 

 

 その名前を聞いたとき、トクンと『エボルトラスター』が反応した気がした。

 なんだろう、これまでうんともすんとも言わなかった光がこうも反応するなんて……

 

「……いいと思います。光もそれが一番しっくりくるみたいです」

 

「そっか! よかったよ!」

 

 ―ただ、

 

「あの……神様、命名権はないですけど、少しいいですか?」

 

「ん? なんだい?」

 

「神様の名前に少しだけ足させてほしいんです」

 

 僕はこれまで、何度も仲間に支えられてここまで来た。

 この光との出会いはそれを再確認させてくれた気がする。

 だから、あの戦士を示す名前はこれが一番いいんじゃないかと思った。

 

「ネクサス……絆の戦士、ウルトラマンネクサスがいいんじゃないかと思います」

 

『エボルトラスター』から淡い光が漏れる。

 今日、改めて知ることができたみんなとの絆を忘れないように、僕はその名を胸に刻んだ。

 




 ベル君は14歳。
 思春期真っ盛りです。 

 あと、ヴェルフが言った兎耳形兜は、実在する兜の名前です。


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◎第1話・第2話の怪獣・モンスター解説

 怪獣とモンスターの解説を作ってみました。
 簡単なものなので、間違いもあるかもしれません。
 これを機にウルトラやダンまちの原作にも興味を持っていただければ幸いです。


〇第1話 「出会い-エンカウンター-」

登場怪獣 『古代怪獣・キングザウルス』

 

-怪獣紹介-

 

古代怪獣・キングザウルス三世

体長:105M(メドル)

体高:45M(メドル)

体重:2万7000t

初登場:帰ってきたウルトラマン第4話「必殺!流星キック!」

 

解説:背中のヒレが特徴的な四足歩行の怪獣。

   口から吐く熱線は実は放射能で、角からはバリアーとショック光線、

   眼からは催眠光線が出せる。

 

   三世って、二世と初代誰だよと言う突っ込みはウルトラ怪獣あるある。

   元々は古代アトランティスで品種改良された怪獣キングザウルスの末裔と言う設定だった

   が、エピソードが没になり名前だけ残ったらしい。

 

   第4話にしていきなりウルトラマンを打ち負かした強豪怪獣。

   しかしリベンジでは、ウルトラマンが会得した「流星キック」により、

   バリアーがない上空から2本の角をへし折られバリアーは展開不能に、

   とどめはスペシウム光線で決められた。

   最初から上空でスペシウム光線やれよとは言ってはいけない。

 

   こんなんとタイマンしたら、どう考えてもベルが死ぬので、今作で出た個体は幼体。

   戦闘経験皆無で慢心しまくりのチュートリアルボスとなっていただきました。

   作者としては、怪獣らしい怪獣なのですごい好き。

   漫画ストーリー0のジャックVSキングザウルスは絶望感がすごかった。

 

 

 

 

〇第2話 「不安-アンイージネス-」

 

登場怪獣 『凶獣・ルガノーガー』

登場モンスター 『ヘルハウンド、アルミラージ』

 

 

-怪獣紹介-

 

 

凶獣・ルガノーガー 

体長:57M(メドル)

体重:6万6000t 

初登場:ウルトラマンマックス第28話「凶獣襲来」

 

解説:両腕が龍の顔という特徴的な外見を持つ怪獣。

   頭部と両腕の口から青い破壊光線、肩の角から電撃、尾の攻撃でエネルギー吸収と言う殺意

   あふれる性能。

   おまけに、胸部の装甲は鉄壁の防御力と隙が無い。

   

   冒頭でいきなり星を破壊すると言う衝撃的デビューを飾っており、

   その出自は謎に包まれている。

   

   一般の小学生を対象とした怪獣デザインコンテストで最優秀作品を取った

   「ルガノール」をもとにした怪獣。

   名前が違うのは商標とかの問題だろう。

   

   自然の一部だったり、人間の犠牲者と言う側面もない純粋な邪悪。

   ダンまちキャラとウルトラ怪獣の戦力差を示す怪獣として登場してもらいました。

   ルガノ―ガーの登場回は難しいテーマも風刺もない、

   子どもの考えた怪獣VSウルトラマンというさっぱりとした話でした。

   ウルトラでは視聴者考案のキャラも多く、あのウルトラの父も一般公募のデザイン。

 

 

-モンスター紹介-

 

 

ヘルハウンド

解説:『放火魔(バスカヴィル)の異名を持つ犬型モンスター。

   中層に出現するモンスターであり、その口から発する炎が13、14階層のパーティー全滅の

   原因は大体こいつのせい。

   ベルたちも、『サラマンダー・ウール』によって火の耐性を上げてないとやばかった。

   30M(メドル)先まで届く魔法攻撃は上層と中層の大きな違いの一つ。

 

 

アルミラージ

解説:角の生えた兎の見た目のモンスター。

   13階層の岩からとれる小型の石斧(トマホーク)を装備しており、

   身体能力こそ低いが集団戦だとめっぽう強い。

   技と駆け引きに秀でている【タケミカヅチ・ファミリア】が追い込まれた原因がこいつ。

   ダンまち世界のモンスターは人間にとって本能的嫌悪感をもたらす存在

   …なのだがこいつはその可愛い見た目のせいで倒すことに抵抗感を覚えるらしい。   




※ダンまち世界の重さの表記の仕方が分かりませんでした。
 中途半端なものになってしまい申し訳ありません。


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第3話「罪人-オリオン-」
a-鍛冶師の問い


 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。


 迷宮都市オラリオ。

 富と名声、この世のあらゆるものがここにあるといわれる、世界で最も活気あふれる都市。

 そんなオラリオも、月光に照らされる丑の刻には日中の喧騒を忘れ、透き通るような静寂に包まれる。

 そんな静止した世界の中で、寝静まる人々は気づかなかった。

 こうした日常の裏で、闇と光の戦いが行われていることに────────

 

 

 

 

 都市南西部の地下、都市の下水・汚水、そしてダンジョンから流れる水を排出する地下水路。

 その中でも、もう破棄された旧貯水槽で誰にも知られない戦いが行われていた。

 

「ヘァ!」

 

 ウルトラマンは渾身の打突を繰り出した。

 岩山ですら粉砕する一撃は、しかし、甲高い金属音により弾かれる。

 手に走る痛みに、思わず後退してしまうウルトラマン。

 そんな、ウルトラマンに黄金色の影が迫る。

 

「────────」

 

 キングジョー

 ペダン星の驚異的な科学力によって生み出されたロボット兵器である。

 鋼鉄の兵士は雄たけびを上げることもなく、淡々と敵対者(ウルトラマン)の頭蓋を砕こうと両腕で頭を掴もうとする。

 とっさに両腕で頭をかばうウルトラマンだが、キングジョーの腕部は徐々に頭に近づく。

 

『このままだとやられる!』

 

 キングジョーの怪力には勝てないと判断したウルトラマン(ベル)は、その体勢のまま全身から光を発生させた。

 

『オーラミラージュ』

 

 光の効果で硬直したキングジョーを蹴って距離を取り、『クロスレイ・シュトローム』を放とうとするウルトラマンだったが、背後を襲った衝撃に技を中断してしまう。

 

「グアア!! …………!?」

 

 振り返ると、そこにはキングジョーとは対称的な銀色の金属に覆われた鉄人の姿。

 三門の砲台を頭部に取り付けた新たなロボット兵器──インペライザーは両肩のホーミングレーザーを照射する。

 回避しても追ってくる光を懸命に回避していると、復活したキングジョーの体が4つに分離、全方向から体当たり(オールレンジ攻撃)を仕掛けた。

 これには、たまらずに吹き飛ばされたウルトラマン。

 

『ぐっ……まだだ!』

 

 しかし、ベルは怯まず戦意を奮い立たせる。

 体勢を即座に立て直し、右腕を突き出す。

 ウルトラマンとロボット兵器の射撃戦では、当然ロボット兵器に分がある。

 しかし、今代の適合者(デュナミスト)は神の恩恵を受けた冒険者(ベル・クラネル)である。

 キングザウルスとの戦いで【スキル】を纏ったように、【魔法】もまたウルトラマンは行使可能となった。

 ベル・クラネルを支える、彼だけの魔法を。

 

『【ファイアボルト】!!』

 

 10条の炎雷は、人の時とは比べ物にならない圧倒的破壊力をもって、二対の鉄人に着弾する。

 薄暗い貯水槽を照らす魔法は、キングジョーとインペライザーを吹き飛ばした。

 そして、反撃などさせないとばかりに、青白く光る美しい鞭を繰り出す。

 

『セービングビュート』

 

 全身に巻き付く糸を引きちぎろうと、キングジョーが暴れるが頑丈な糸はびくともしない。

 奥の手(分離)も封じられたキングジョーを空中へ投げる。

 大質量の鋼の塊がふわりと宙に浮いた瞬間、ウルトラマンは重力に引かれようとするキングジョーに突貫した。

 

『スピニングクラッシュキック』

 

 ウルトラマンが回転すると炎の竜巻がその身を包み、光輝く蹴りが突撃槍のように繰り出される。

 

 ──貫通(ペネトレーション)

 

 金色の城壁は爆散し、貯水槽を揺らす。

 そして、傍に着地したウルトラマンを攻撃しようと、インペライザーが頭部の三門の砲台を回し始める。

 しかし、ウルトラマンのほうが早かった。

 既に、空中で次の技の用意をしていたウルトラマンは十字に構えた両腕を突き付ける。

 

『クロスレイ・シュトローム』

 

英雄願望(アルゴノゥト)】で強化された一撃は、インペライザーの頭部を消し飛ばした。

 ゆっくりと立ち上がり、残心する。

 もう起き上がる気配がないと確認すると、ウルトラマンは変身を解いた。

 

 

 

 

「で? なにか言い訳があるなら聞くぞ」

 

 僕は現在、ヴェルフの鍛冶工房で正座をしていた。

 ごつごつした石の床が痛いです。

 なんでこうなっているかと言うと、僕が夜な夜なホームを抜け出していることをヴェルフに気づかれてしまったのだ。

 しかも今日は、変身後の疲労で注意散漫になったところを、下水道にいる魚のモンスター『レイダーフィッシュ』にかすり傷を負わされていた。

 見つかった途端、首根っこ掴まれて工房に叩き込まれたのである。

 

「か、怪獣がいるなら時間なんて関係……」

 

「もう一週間以上徹夜しているだろうが、【ステイタス】があるから平気とか抜かしたらぶっとばすぞ。大体、前に怪獣が出たのは5日前、4日間まるまる消耗して終わりだっただろうが」

 

 グゥの音も出ない。

 本当に4日間はただ街を彷徨(さまよ)って終わったし……

 

「近所で噂になってるぞ。歓楽街で騒ぎを起こした件と関連させて、【リトル・ルーキー】が女に飢えて夜な夜な街を徘徊してるってな」

 

 ひどい風評被害だ。

 そんなに女好きと思われているのだろうか。

 確かにオラリオに来たばかりの頃に、ダンジョンに出会いをホニャラララとか、ハーレムを求めて云々とか言ってたけど。

 ……うん。誤解されても仕方ないかも。

 

「しかも無茶なパトロールして、集中切れてレイダーフィッシュごときに負傷は笑えねぇぞ」

 

 レイダーフィッシュはそう強いモンスターではない。

 前にアイズさんやシルさんと猫探しをしたときに戦っているが、第一級冒険者がそばにいたとはいえ、ランクアップ前の僕でも戦えた相手だ。

 レベル3かつ、【ヘスティア・ファミリア】のエースを任されている僕が、簡単に傷つけられていい相手じゃない。

 

「ごめん……確かに、迂闊だった。気を付けるようにする」

 

 怪獣にばかり気を張って、冒険者としての役割を疎かにするのは違う。

 反省しよう。

 そうヴェルフに伝えると、ヴェルフは険しい表情で僕を見続けた。

 こ、これじゃダメだった……? 

 

「ああ、しっかり休むのはいい。けどなベル、それだけか?」

 

「え?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?()

 

「……………………………………………………………………………………………………………………」

 

 ヒヤリ、と背筋が凍った。

 思わずこぶしを握り締める。

 その反応が、ヴェルフに気づかせる材料になると分かっていたけど、過剰な反応を抑えられない。

 前から気になっていたんだ。と、ヴェルフは言う。

 

「俺たちに嫌われるのが怖かった。それは本音だろう。お前と同じ状況なら俺もそう思っただろうしな」

 

 声が出せない。それを言われたくないのに制止できない。

 

「けどな、お前のみた悪夢の話を聞いた時にそれだけじゃないとも思った」

 

 手が震える。抑えようとするけど止まらない。

 

「夢の中のお前は、俺たちに嫌われていたわけじゃない。俺たちを誤って攻撃に巻き込んでいた……お前が言ったことと微妙にずれている」

 

 脂汗がにじみ出る。灰色の床を水滴の跡が汚す。

 

「ベル、お前が怖がっていることはまだあるんじゃないのか?」

 

 あの無茶はそれを紛らわせるためではないか、と。

 ヴェルフは問いかける。

 そこに厳しさはない。

 ただ、長兄が弟に問いかけるような真剣さがあるだけだ。

 

「言ってくれ。このままお前が一人で苦しむのは俺もつらい」

 

 その温かさに、(まぶた)が熱くなる。

 その温かさにひかれてすべてをさらけ出したいという思いと、みんなに迷惑かけたくないという思いが葛藤する。

 しばしの沈黙の末、僕は恐る恐る口を開いた。

 

「神様が言ったんだ。僕には何か、使命みたいなものがあるんじゃないかって……」

 

 その言葉を聞いた後、心臓を掴まれるような思いをした。

 神様が出ていくときにポロリとこぼした言葉で助かった、とあの時は思ったんだ。

 神様なら、きっと僕の表情に気づいたから。

 

「僕はその時、()()()と思ったんだ」

 

 ずっと忘れられないあの女神(ひと)との出会いに。

 自分の無力に打ちひしがれて、生まれて初めて運命を呪った、涙の記憶に。

 

「アルテミス様が槍を僕に託した、あの時に」

 

 その言葉だけでヴェルフはすべてを理解した。

 同時に、ベルの心に残る傷の大きさに悔しくなる。

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)でベル・クラネルが名を馳せる少し前、ある出会いがあった。

 出会った少女の名はアルテミス。ベルをオリオンと呼び、ある依頼を持ち掛けた女神。

 依頼の地であるエルソスの遺跡までの旅路で、絆を深めた女神。

 そして……ベルがその手で殺めた女神。

 

「僕がアルテミス様に託された槍は、彼女を……殺す、ためのものだった……」

 

 ひどい話だ。

 槍の力を引き出すために、アルテミスに似た魂の持ち主であるベルが選ばれた。

『存在』と『存在』が惹かれ合う二人の繋がりを強くするために、仲良くなるようわざと仕向けたという。

 ヘルメス様にこの話を聞いた時、僕は怒ればいいのか泣けばいいのか、燃え盛る感情の出し方が分からなくて、途方に暮れてしまった。

 彼の狙い通り、数日だけの旅路は、ベルにとって一生忘れられない美しいものになった。

 そうしてたどり着いた遺跡で、アルテミスの本体を取り込み、世界を崩壊させる脅威『アンタレス』と遭遇する。

 世界の理すら覆すモンスターを止められるのは、神殺しの権能を宿す槍、『オリオンの矢』に選ばれたベルだけだった。

 そうして世界を救った(女神を殺した)少年は、心に深い傷を残したのだ。

 

「与えられた力で、また、大切な人たちを()()で殺すんじゃないかって……」

 

「ベル……」

 

 思いを告白するベルの痛々しい姿をヴェルフは哀れに思う。

 下界の住民にとって、神殺しは絶対の禁忌だ。

 生まれながらの悪人も、理性のタガが外れた復讐者も、それだけは犯さない。

 そんな、禁忌を望まずして背負ってしまったベルを前に、思わず立ち竦みそうになる。

 

(……っふざけろ!!)

 

 怯んでしまった自分を罵倒する。

 傷ついている弟分(ベル)にヴェルフは語りかけた。

 

「ベル、お前の苦しみを全部わかってはやれない。お前の使命の重さも理解はできないだろう」

 

 ビクリ、とベルの背中が跳ねる。

 ベルの苦しみは重過ぎる。

 心苦しいが分かってやれるとは嘘でも言えない。

 それでも、ヴェルフはいつもの笑みを浮かべた。

 

「だがな、俺はお前の専属鍛冶師だ」

 

 冒険者と鍛冶師が専属契約するという行為には強い信頼が必要だ。

 常に命がけの冒険者が最後まで頼りとする武器。

 それを打つ鍛冶師の腕と覚悟は生半可なものでは務まらない。

 

「俺はお前に打ち続ける。過酷に耐え抜く防具と運命を切り開く武器を」

 

 どこまでも駆け抜けるベル・クラネルが途中で倒れないように、

 彼にふさわしい武器を打つのがヴェルフの使命だ。

 

「大丈夫だ。俺もお前をずっと追い続ける」

 

 ──だから、一人で背負おうとするな。

 ──傷を抱えていたって、お前は自分の目指す未来に向かって走り抜けられる。 

 

 ヴェルフが語る精一杯の言葉に、ベルは泣きそうになって顔を逸らした。

 

 

 

 

 暗闇の中から、異形の影たちが現れる。

 

「奴が動き出すまでに時間もない。邪魔なウルトラマンを排除し、先に仕掛けるぞ」

 

 両腕に多機能アームを装着した異形の影が話し始める。

 漆黒の体を走る白い網目状のライン。

 赤い単眼が闇に不気味に輝く。

 ワロガと呼ばれる怪人は他の影を見渡し指揮を執る。

 

「しかし、ウルトラマンは強力だ。一筋縄ではいかんぞ」

 

 そう指摘する影に、ワロガは案ずるなと自身の背後に青い玉を出現させる。

 

「こいつを出す」

 

 球体が罅割れると黄色の光が漏れ出た。

 中に潜む存在はその存在感に圧倒される影たちを虚ろな表情で見据え、小さく唸り声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピポポポポッ…………ゼッットオオオォォォォォン……………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 




 劇場版を観た後にずっと書きたかった話でした。
 ダンメモで続きは描かれたけど、それはずっと先の話ですから。


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b-ALIEN ATTACK!

 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。


 夕日に照らされる路地を一人歩くベルはふと足を止めた。

 

(…………見られている?)

 

 オラリオに来てから、無遠慮な視線によく見られるようになって敏感になった感覚が自分に向く複数の視線に気が付いた。

 ヴェルフに注意されて、今日一日は休息日にしようとした僕だったけどいざ自由な時間になるとやることがない。

 そんな僕に、ヴェルフは暇だったらお使いをしてほしいと頼んできた。

 なんでも工房の設備に関する資料らしいんだけど、それをそろそろギルドに提出するころらしい。

 ところが、その担当がエルフで、かつてエルフの森を焼いた魔剣をつくるクロッゾに敵対心むき出しなんだとか。

 

「森を焼いた代償に、クロッゾは魔剣を創るスキルを無くしたんだ、それでいいだろうが」

 

 なんて愚痴っていたっけ。

 だから、代わりに行ってほしいとヴェルフは言っていた。

 ……多分、今の僕は暇があってあれこれ考えるより、簡単な仕事をして気を紛らわせた方がいいと気を使ってくれたんだろう。

 そんなわけで、僕は封筒を持ってギルドに向かっていた。

 しかし……

 

(確かに、近道するために人通りの少ない道を来たけど……()()()()()

 

 視線を感じるのだから、無人ということはないはずだ。

 戦争遊戯(ウォーゲーム)前の特訓で、アイズさんとティオナさんに二人の対人戦での経験を思い出す。

 敵対ファミリアに闇討ちされる前は、相手が人払いを済ませていることが多く、不自然なほど静かだという。

 付け焼刃の知識がどこまで正しいかわからないけど、護身用に持ってきた【ヘスティアナイフ】をいつでも抜けるようにしておく。

 すると、前方からエルフの女性が歩いてきた。

 

「すいません。少しお話があるのですが、こちらに来ていただきませんか」

 

 女性が話しかけてくる。

 その話し方に不気味なものを感じた。

 イントネーションはおかしくないんだけど、何かこう口が動いているだけの様な、奇妙な違和感。 

 

「? …………っ熱!!」

 

 女性の様子に警戒していると、背中に刻まれている【ステイタス】がチリチリと熱を発した。

 熱を発しているのは……アビリティ? …………【幸運】だろうか? 

 神様曰く、加護に近い効果を発揮する【幸運】が目の前の女性に反応している。

 その瞬間、能面の様なエルフの表情が僅かに苛立ちを見せた気がした。

 

(何かまずい!)

 

 直感に従い、ナイフではなく懐にある宝具『ブラストショット』を抜く。

 同時に、女性が襲い掛かってきた。

 幸い、女性の動きは一般人よりちょっと上程度。

 恩恵(ファルナ)を持つ僕は危なげなくポンプアクションを行い波動弾を装填、発射する。

 すると、女性の体からオオカミの様な怪人が吹き飛ばされた。

 

「いってぇ!? なんだ!?」

 

 ──しゃべった!? 

 

 明らかに人間ではない存在が喋ったことに驚愕する。

 

(この人に憑依していたのか!?)

 

 その時、首筋にヒヤリと冷たい感覚が走る。

 とっさに屈むと鈍器のようなものがブォン、と空振る音が聞こえた。

 振り返ると黒い体に赤い単眼が浮かぶ怪人が、その腕を僕の頭があったところに通過させていた。

 

「このへたくそが! しくじってんじゃねぇワロガ!」

 

「先に気づかれたのはお前だ、ウルフ星人。最近お前のミスが多い。人間どもの噂になっている」

 

 明らかに知性のある二人の怪人、ワロガとウルフ星人にベルの目が見開かれる。

 

「……ふむ。その反応、怪獣は知っていても宇宙人はこれが初見か。この世界の適合者(デュナミスト)よ」

 

 ワロガはそう呟くと、プランBに移行する、と言って空を見た。

 その視線の先には青い球体が……

 その瞬間、『エボルトラスター』が警告を発する。あれは危険だと。

 

(まずい、この人を保護しないと……!?)

 

 しかし、初動が遅れれば青い球によって町に被害が出る。

 思考は一瞬。

 ベルはそれに向けて砲声した。

 

「【ファイアボルト】‼」

 

 ベルの魔法は空高く舞い上がる。

 これで、近くの誰かが気づいてくれる。

 闇討ちしてきたということは、衆目の目に晒されたいわけではないはず。

 予想通り、ワロガとウルフ星人はその姿を消した。

 最後にこちらに来る人々の声を確認して、ベルは『エボルトラスター』を勢いよく抜刀、そのまま青い球に向けた。

 

「フッ!!」

 

 刀身から光があふれる。

 ベルの体がまばゆく発光すると、彼は空に向かい跳躍した。

 空中で徐々に大きさを増すベル。

 完全にウルトラマンに変身すると同時にジュネッシス・ホワイトに変化。

『メタフィールド』を展開し、青い球は光のドームに包まれて空に同化する。

 

 ──人々は、路地裏で倒れている女性に注目しており、誰一人として上空の異変に気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 青い球が割れ、中から『エボルトラスター』が警告した怪獣が現れる。

 黒と銀の体はウルトラマンと対照的で、頭部の黄色の機関が不気味に点滅する。

 虚ろな瞳がウルトラマンを見据えていた。

 

「シュンシュンシュンシュン…………ピポポポポッ」

 

 ゼットン

 対ウルトラマンに特化した、最悪の怪獣。

 数多のウルトラ戦士を苦しめた存在に、ベルも初っ端(しょっぱな)から全力で仕掛ける。

 これまで数々の怪獣を屠ってきた『クロスレイ・シュトローム』を発射するウルトラマン。

 必殺の輝きは、ゼットンの突き出した両腕の間に吸い込まれた。

 

『何が……ッ!?』

 

 驚くウルトラマンに向けて光線が返される。

 咄嗟に射線を胸部からずらすウルトラマン。

 光線は右肩にあたり、ウルトラマンは大きく吹き飛ばされた。

 

「ヘアアアァァァ!!!!」

 

 ふわりとした浮遊感の後、大地に激突する。

 痛みにのたうち回るウルトラマンを見ても、ゼットンは感情を見せずに淡々と火球を放つ。

 咄嗟に空へと逃れたウルトラマンは、次々と放たれる火球をアクロバティックに回避する。

 

『前の地下水路の2体と言い、今回の奴と言い、妙に感情を見せない怪獣が多い気がする……』

 

 喜怒哀楽がはっきりしていたキングザウルスやルガノーガーと違い、最近の怪獣はまるで感情がない。

 生物と言うより、本当に兵器のようだとベルは思った。

 光線が聞かないのなら格闘戦だと、ウルトラマンは『ジュネッスキック』を放った。

 しかし、その蹴りもゼットンを中心に発生するシャッターの様なバリアに防がれる。

 ウルトラマンが空中で反転して着地すると、続けて『ジュネッスパンチ』の構えをとる。

 すると、突如背後にゼットンが出現する。

 

『瞬間移動まで!?』

 

「ゼットォォオン………」

 

 至近距離で火球を連射される。

 ウランと発火液を体内で混ぜ合わせた火球の熱量は一兆度。

 これにはたまらずウルトラマンは吹き飛ばされ、エナジーコアの上にあるカラータイマーが点滅しだした。

 ここがメタフィールドで、ゼットンが弱体化していなければやられていたと、肝を冷やすベルだが頼みのメタフィールドの限界が見えてきたと悟る。

 

『……っまだだ!』

 

 ウルトラマンは渾身の力で巨大な竜巻を作り出す。

 竜巻はゼットンの巨体を高く浮き上がらせてから、勢いよく地面に向かって叩きつけた。

 

『ネクサスハリケーン』

 

 地面にめり込むゼットンにさらに『オーラミラージュ』を繰り出し動きを封じる。

 ゼットンが動けない間にウルトラマン(ベル)は【英雄願望(アルゴノゥト)】の蓄力(チャージ)を開始する。

 リン、リン、と輝く光粒がゼットンを照らす中、ベルは静かに告げた。

 

 ──1分の蓄力(チャージ)

 

 腕を光に纏い、ウルトラマンは勢い良く振りかぶる。

『ジュネッスパンチ』を凌駕するエネルギーを纏った鉄拳、その名も

 

『ジェネレードナックル』

 

 拳はバリアーごとゼットンの体を突き破る。

英雄願望(アルゴノゥト)】によって生み出された、尋常ではない衝撃がゼットンの体を崩壊させ、大爆発を引き起こす。

 同時に、『メタフィールド』の展開限界が来て、ウルトラマンの変身が解除される。

 人間に戻ったベルは、ウルトラマンの残滓によって赤い球体に包まれて地上に降り立った。

 

 

 

 

「ぐ、ああああぁぁぁぁぁ………………」

 

 プラン、とだらしなく揺れるボロボロの腕を抑えて呻く。

英雄願望(アルゴノゥト)】は諸刃の刃。溜めた力が大きければ大きいほど反動もでかい。

 武器は罅割れ、魔法後は精神力(マインド)が枯渇し、身体はボロボロになる。

 

「ギリギリ、だった……っ!」

 

 こうしてリスクを負わなければ、あのまま負けていた。

 敵の強大さに歯噛みする。

 とにかく、この消耗をどうにかしなくては。

 

(ホームで高等回復薬(ハイ・ポーション)を使って、後は『ストーンフリューゲル』を呼んで休まないと)

 

 よろめきながら、ホームに戻ろうとするベル。

 ギルドには行けなかったと、ヴェルフには謝ろう。

 そう、頭の片隅で考えた瞬間、冒険者としての勘が警鐘を鳴らす。

 同時に、足元に無数の赤い点が広がる。

 

(まずい、罠──)

 

 思考は閃光に包まれ、全身を焼く痛みにベルは絶叫した。

 

 

 

 

 気がつけばベルは倒れ伏していた。

 咄嗟に『エボルトラスター』の発生させるバリアーを展開したおかげで死ななかったらしい。

 もっとも、防ぎきれずに致命傷一歩手前の状況では、寿命が少し伸びただけだが。

 煙が晴れてきたとき、先ほどの二人の宇宙人が現れた。

 

「さて、予定通り奴をアジトに運ぶぞ」

 

 アジト……? 

 自分はどこかにさらわれるのだろうか、

 逃げようとしても少し、体が動くだけだ。

 

「また、あのバカでかい壁を超えるのかよ……」

 

 壁? 

 オラリオの壁と言えば……

 

「|オラリオの憲兵【ガネーシャファミリア】はせいぜい、出入口を見張っているだけだ。一度壁を越えれば、あとは生い茂る木々が我々を隠す」

 

 生い茂る木々……

 もしかして、アジトの場所は……

 

「分かってるつぅの、分かっていてもだるいんだよ」

 

「安心しろ、今回限りだ。こいつの光の持つエネルギーさえあれば我々の計画は始動する」

 

 ワロガが笑みを浮かべた気がした、

 悪意に歪んだ笑みを。

 

「あの、最強の殺戮兵器が完成すればすべては我々の思うままだ」

 

 なんとか、みんなに知らせないと、

 ベルは決して優秀とは言えない頭を懸命に回す。

 ふと、視界に真っ黒に焼け焦げた封筒が映った。

 元の色が分からないほど焼けた封筒だが【万能者(ペルセウス)】が発明したと言う、決して消えない羽ペンで書かれた宛名や住所はかろうじて読める。

 懸命に手を伸ばし、差出人住所に書かれたヴェルフ・クロッゾのクロッゾの部分を血で塗りつぶす。

 

「あぁ、俺たちを、この世界に引きずり込みやがったヤプールを出し抜けるぜ」

 

 彼らのそんな会話を最後に、ベルの意識は途絶えた。

 




 『ヴェルフ・■■■■』

 頭の良くない作者が必死に考えたメッセージです。
 ぶっちゃけ、ものすごい単純なので暗号とは言えない…


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c-エキストラステージ

 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。


「結局、ベル君は帰ってこなかったか……」

 

 ヘスティア、リリ、ヴェルフ、命、春姫は昨日から帰ってこないベルの探索状況の確認のため、居間に集まっていた。

 ヘスティアとベルをつなぐ恩恵はベルがまだ生きていることを告げるが、

 後はぼんやりとダンジョンにはいないということが分かるだけだ。

 

(ふざけろ……!)

 

 ヴェルフは自分が頼んだ使いの後に起きた出来事に、自責の念に苛まれる。

 そんな時に、ベルに託した封筒を焼け焦げた状態で見つけたときは心臓が凍るような錯覚さえ覚えた。

 

「ベル殿の目撃情報はありません」

 

「ギルドの担当の方にもお話をお伺いしましたが、ベル様は昨日は来なかったようです」

 

 ベルの行きそうな場所を回った命と春姫は成果が得られなかったことを報告する。

 手がかりがほとんど無い状態に焦る思考を抑えつつ、リリが口を開く。

 

「やはり、ヒントはヴェルフ様が発見した封筒のメッセージでしょうか」

 

 差出人欄が『ヴェルフ・■■■■』と、血で姓の部分だけ塗りつぶされた暗号と思しき細工。

 眷属たちはこれを、ベルによるメッセージなのではないかと考えた。

 

「これはヴェルフ様へのメッセージなのでしょうか?」

 

「あるいはヴェルフ殿に関する単語がヒントなのか……」

 

 春姫と命の言うように、このメッセージはヴェルフが関係する単語が答えだろう。

 鍛冶師、ヘファイストス、王国(ラキア)、鍛冶貴族……

 ヴェルフは自分に当てはまる単語を次々と並べていく。

 

「気になるのはヴェルフ様の名前ではなく、何故、姓を消したかですね……」

 

(クロッゾ)を消す……?)

 

 その瞬間、かつてベルに話した鍛冶貴族(クロッゾ)衰退の物語を思い浮かべた。

 王国(ラキア)が戦争時に精霊の森を焼き払ったことで、精霊の怒りを買ったクロッゾの一族は呪われ、

 ヴェルフが生まれるまで誰一人として魔剣が打てなくなった。

 

──姓を消す。

 

──クロッゾを塗りつぶす(消す)

 

 メッセージがこの逸話と関連しているように感じるのは気のせいか。

 

(メッセージがこの話を示しているなら、ベルの居場所は……)

 

 この逸話で居場所に関する言葉は『森』。

 このオラリオでそれに関連する場所は……

 

(【セオロの密林】か……?)

 

 太古にダンジョンからあふれたモンスターの子孫たちが多く生息する、オラリオから数刻も経たずに着く秘境。

 時折、友好派閥である【ミアハ・ファミリア】からの採取クエストで訪問する壁外の地である。

 ヴェルフの説を聞いたファミリアの面々はそれぞれの反応を返す。

 

 ──確かに【セオロの密林】で怪しい人影を見たという噂を聞いた。

 

 ──森と密林は厳密には違うのではないか? 

 

 結局、このままでは話を進められないと考えたヘスティアによって、ヴェルフの説を信じ【セオロの密林】に向かうことになった。

 

 

 

 

「あの人間から、エネルギーはまだ取り終わらねぇのか!」

 

 椅子を蹴飛ばし、ウルフ星人がワロガに食って掛かる。

 

「落ち着けウルフ星人。光の力の変換には時間がかかる。位相反転器官でもない限りな……」

 

 ワロガが冷静に答えると、その態度が気に入らないとばかりにウルフ星人の勢いが増す。

 

「こうしている間にもヤプールが俺たちの動きに気づくかもしれねぇんだぞ!」

 

「準備は最終段階に入っている。我々が警戒すべきはヤプールだけではなく、この世界の神々もだということを忘れるな」

 

 文明の発達した宇宙人たちが何故、強引な侵略を行わないか、

 それはこの世の理すら塗り替える超越存在(デウスギア)を警戒しているからに他ならない。

 

「中途半端に侵略しても、奴らに()()()()()()にされて終わりだ。故に奴らが我々に対応する間もなく計画を完遂する必要があるのだ」

 

 ワロガの言葉にウルフ星人はしぶしぶ引き下がる。

 その時、基地の外からモンスターたちの叫び声がひっきりなしに聞こえてきた。

 

「っち! 糞モンスター共が騒がしいな……おい! ファンタス星人‼奴らを追い払ってこい!」

 

 

 

 

「‼何者かが出てきましたが、人間ではありません……!」

 

 密林の中に隠されていた円盤を発見したリリたちは、付近に生息するモンスター・【ブラッドサウルス】の卵を円盤近くにぶつけた。

 案の定、怒り狂ったブラッドサウルスたちが押し寄せる中、円盤から出てきたのは肌が岩のようにごつごつした複数の人型の異形だった。

 茂みに隠れて円盤の入り口を見張っていた命の報告が、春姫を通じてリリに届く。

 リリは一瞬驚いたものの、すぐに怪獣と同じく別世界からの来訪者とあたりをつけ、冷静さを取り戻す。

 

「ベル様を救出するのが最優先です。無理に倒そうとせずにヴェルフ様たちがヘルハウンドを連れて来るのを待ちましょう」

 

 当初の作戦通りに動いてください。という伝言を春姫に届けさせる。

 やがて、ブラッドサウルスとは別方向から来たヘルハウンドの群れに異形……ファンタス星人たちが気づく。

 場は乱戦の体を成し混沌とし始める中、ヘルハウンドを擦り付けた後、大木の影でヴェルフが詠唱を開始する。

 

「【燃え尽きろ、外法の(わざ)】!」

 

 ヴェルフの魔法効果は対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)

 対象に魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を誘発させる魔法殺し。

 威力は対象の魔力に依存するため、地上の弱いヘルハウンドの魔力では爆竹程度の効果しかないが、今はそれで充分。

 

「【ウィル・オ・ウィスプ】‼」

 

 炎の魔弾を放とうとしていたモンスターたちが突如爆発する。

 突然のことに泡を食うファンタス星人たち。

 命はその隙を見逃さなかった。

 極東仕込みの忍の技を存分に発揮し、命は円盤内に悠々と潜入を果たした。

 

 

 

 

(!? 爆発……?)

 

 先のダメージと、宇宙人たちからエネルギーを奪われたことで、朦朧としていた意識が浮上する。

 宇宙人たちにさらわれたベルは聞こえる爆発音で混乱する宇宙人たちを見てチャンスと考え、怠さを訴える体に活を入れる。

 そして、幽閉されている牢屋の扉を破壊した。

 

「【ファイアボルト】‼」

 

 魔法に対する対策のされていない扉は簡単に吹き飛び、ついでに近くの見張りも吹き飛ばした。

 

(『エボルトラスター』や装備を取り戻さないと……ッ)

 

 部屋から出ようとしたベルは近くに人の気配を感じて身構える。

 そこに、忍装束の命が現れた。

 

「! ベル殿! ご無事ですか!?」

 

「命さん……そうか、来てくれたんですね……」

 

 ふっ、と肩の力を抜く。

 メッセージはちゃんと伝わっていたみたいだ。

 この部屋が分かったのは命さんのスキルである【八咫白鳥(ヤタノシロガラス)】で僕を探知したからだろう。

 

「ベル殿、これを装備してください。」

 

 命さんが差し出したのは、僕の装備と『エボルトラスター』だった。

【イシュタル・ファミリア】との抗争の時のように、作成時に神の血(イコル)が使われたヘスティアナイフから、眷属(ファミリア)の反応がしたおかげですぐ見つけられたらしい。  

 ありがとうございます、とお礼をしてそれらを受け取る。

 

「今のうちに……」

 

 命さんが言い終わる前に地震の様に地が揺れる。

 ここ最近、何度も味わった巨大生物が動く際の振動。

 僕と命さんは即座にリリたちの下に駆けだした。

 

 

 

 

 

「ビィィグアアアアァァァ!!!!!」

 

「な、怪獣が‼」

 

 乱戦の最中、突如雄たけびを上げて宇宙人・モンスターに襲い掛かる巨大な影。

 巨大な角を持ち、首元には錆のような緑青色の体毛、全身をびっしりと覆う鱗。

 3本の爪でモンスターを串刺しにし、醜悪な牙でファンタス星人たちを噛み砕いた。

 

「……いや、あれは怪獣ではない、超獣だ」

 

 仲間が(むさぼ)られているにもかかわらず、リーダー格のファンタス星人が冷静に分析する。

 

 超獣・オイルドリンカー

 殺戮兵器として生み出された生粋の邪悪。

 そんな存在が出たということは十中八九ヤプールが背後にいる。

 

(ゼットンはウルトラマンに倒されていない、こうなれば……)

 

()()を出せ」

 

「いいのですか? ワロガが黙っていませんが」

 

「いつから我々が奴の部下になった。構わん、やれ。」

 

 

 

 

「ヴェルフ! 何があったの!?」

 

 円盤から脱出したベルと命は魔法でかく乱していたヴェルフと合流し、状況を確認する。

 

「奴らが怪獣に襲われた! 一旦リリ助のとこに戻るぞ!」

 

 その時、円盤が突如2つに割れ、中から怪獣が現れた。

 その姿を見たときに、ベルは絶句した。

 先日倒したキングジョー(ロボット兵器)から、ゼットン(怪獣)が破り出ている。

 そう形容するのがふさわしい異形の名はぺダニウムゼットン

 ウルトラの星が産んだ最悪のウルトラマン・ベリアル。

 その因子により、キングジョーとゼットンを融合した最強の融合獣である。

 

「ピギアアアアアァァァァ!!!!」

 

 融合獣と怪獣が激突する。

 オイルドリンカーの白い爪とぺダニウムゼットンの赤い爪がぶつかり合い……オイルドリンカーの腕が引き裂かれた。

 絶叫とともに仰け反るオイルドリンカー。

 ぺダニウムゼットンはそれに対し、両腕にエネルギーを凝縮する。

 

『ぺダニウム・メテオ』

 

 オイルドリンカーも火炎放射で応戦するが、火柱はそれを容易く押し返しその体を粉砕した。

 爆発の光に照らされるぺダニウムゼットンはゆっくりとリリと春姫を見る。

 咄嗟に駆けだそうとするベルだったが、ダメージの残る体が思うように動かず、膝をつく。

 

(しまっ……リリ! 春姫さん!)

 

 ベルが手を伸ばす先でリリと春姫は手に握りしめる黄緑の短剣を同時に振った。

 瞬間、強烈な颶風(ぐふう)が怪獣を襲う。

 その勢いにぺダニウムゼットンの体は宙を浮き、仰向けに倒れた。

 あれは……クロッゾの魔剣? 

 

「魔剣じゃ怪獣は倒せないからな。なら、最初からサポートに特化したものを創ればいい。」

 

 ヴェルフはクロッゾの力が好きじゃない。

 はじめから壊されることが前提の魔剣を創ることが嫌で、名前も適当に決めてしまう。

 そんな彼が、あの魔剣を打ったのだ。どれ程心苦しい思いをしたのか。

 何も言えずに固まっていると、ヴェルフはいつものさっぱりした表情でベルに気にするな、と笑いかけた。

 

「言っただろ? 俺たちはお前を追い続ける。……だからお前はお前の目指すゴールを駆け抜けろ。」

 

 ヴェルフの言葉に胸が熱くなる。

 心の(よど)みが洗い流されるように、透明な感覚が僕を包み込んだ。

 

「っと、お客さんのお出ましか」

 

 円盤から、ワロガ、ウルフ星人、ファンタス星人等がこちらに向かってくる。

 威圧感すら伴う異形たちをみても、ヴェルフは飄々(ひょうひょう)としたまま大剣を担いだ。

 

「あの怪獣は任せた。だからベル……」

 

 ──あいつらは俺たちに任せろ

 

 ヴェルフの言葉に頷く、互いの獲物を見据えて背中合わせになる二人。

 ドン、とベルの背中をヴェルフが叩くと同時に、二人はそれぞれ駆けだした。

 ベルは走りながら、『エボルトラスター』を引き抜く。

 

「ああああぁぁあああああ!!!!!」

 

 刀身からあふれる光は、心なしかいつもより力強かった気がした。

 

 

 

 

 ウルトラマンに変身したベルを見たワロガは、ファンタス星人に激昂した。

 こざかしく弁舌を垂れようとしたリーダー格の頭を握りつぶし、中の機械部分をあたりのファンタス星人たちに投げつける。

 

「ぺダニウムゼットンを進化させろ!」

 

 ワロガの指示により、エネルギー光線が円盤からぺダニウムゼットンに照射される。

 エネルギーを受け取った融合獣は300M(メドル)以上の大きさになり、あたりに火球や電撃を走らせる。

 回避するので精一杯のウルトラマンにワロガは落ち着きを取り戻した。

 こうなってしまっては、最早隠し通すのは不可能。

 ならば、ウルトラマンを撃破後に速やかにオラリオを壊滅させ、主要な神々を抹殺するほかない。

 あのぺダニウムゼットン・エボルトならば、十分可能だ。

 

「始まったなぁ! まずはお前らから血祭りにあげてやる!」

 

 ウルフ星人が喜び勇んで襲い掛かる。

 それに対して、リリが咄嗟に動いた。

 

匂い袋(モルブル)です!」

 

 ブワッ、とあたりに煙が充満した。

 

 

 

 

(くっ……いつまでも持たない)

 

 ウルトラマンは迫りくる雷撃を垂直降下(テールスライド)で回避する。

 光から奪ったエネルギーを受けた怪獣の力は底知れない。

 中途半端な技を打ってもこちらが消耗するだけ。体力が不十分な状態で持久戦は自殺行為。

 ならば、一撃だ。

 

 ──リン、リン

 

 鈴音(チャイム)の音が密林に鳴り響く。

 蓄力(チャージ)はすでに開始していた。

 現在30秒のチャージ。

 

(必要なのは最大出力。それまでは回避し続けないと‼)

 

 姿は余計な消耗を極力抑えるためにアンファンスのまま。

 戦闘と並行しての蓄力(チャージ)など自殺行為だ。

 故に仲間(ファミリア)への援護はできない。

 でも……

 

『あそこはみんなに任せて、僕はここを任されたんだ!』

 

「シェア!」

 

 ぺダニウムゼットンの火球連射を紙一重で回避し続ける。

 ヴェルフの言葉を信じて、ベルは逆転の瞬間を待ち続けた。

 

 

 

 

 煙に視界を遮られる中、ファンタス星人の首筋に刃が走る。

 しかし、ガギィン‼という甲高い音と共に刀は弾かれた。

 

「!? まるで鉄のような……」

 

 必殺が弾かれたことに驚愕する命。

 生物に偽装したアンドロイドであるファンタス星人は、悪意に満ちた笑みを浮かべる。

 

「やはり下等な‼お前たちは我らの奴隷がふさわしい‼」

 

 手を伸ばすファンタス星人に、命は刀を捨てると跳躍。

 ファンタス星人の顔を両足で挟み込み、頭から地面に叩き込んだ。

 円月投(ミカズチ)、神タケミカヅチの名を冠するその技の威力は絶大で、その機械の頭を粉砕、沈黙させた。

 流れるように、ファンタス星人の残骸から離れると、命は苦無(クナイ)を投擲。

 匂い袋の直撃を受け、動けないウルフ星人の首筋を断った。

 

 ヴェルフはワロガと対峙していた。

 宇宙人の巨大化にはほんの僅かな隙が生まれる。

 一般人ならば何の意味もない数瞬は、ランクアップした上級鍛冶師(ハイ・スミス)には命とりだ。

 ファミリア最速のベルほどではないにしても、ヴェルフの俊敏もレベル2に恥じないもの。

 大剣を振り回し、ワロガを追い詰めていく。

 

「おのれ……巨大化さえすれば貴様らなど!!!!!」

 

「それを聞いてハイどうぞ、になるわけねぇだろうが!」

 

 しかし、ヴェルフには決め手がない。

 先ほどから、ヴェルフに春姫が魔剣を渡そうとしているが、その隙をワロガが見せない。

 千日手(せんにちて)

 膠着状態を破ったのは、光輝く鐘の音だった。

 

 

 

 

『溜まった!』

 

 ウルトラマン(ベル)蓄力(チャージ)を終えると同時に地面に着地する。

 同時にその姿をジュネッス・ホワイトに変化させた。

 そして、両腕の『アームドネクサス』を重ねる。

 雷のようなエネルギーが発生する両腕をゆっくり広げる。

 L字に組んだ両腕をぺダニウムゼットンの紫のエネルギーコアに照準した。

 

 ──3分の蓄力(チャージ)最大出力(フル・チャージ)!! 

 

『オーバーレイ・シュトローム』

 

英雄願望(アルゴノゥト)】により、限界まで強化された一撃は300M(メドル)のぺダニウムゼットンを飲み込む。

 展開したバリアーがガラスのように割れる中、これまで非生物的だった融合獣が絶叫を上げる。

 青白い光線は体中に巡り、ぺダニウムゼットンを構成する分子が分解されていく。

 ぺダニウムゼットンは爆発する間もなく体中を分解され、青い光の粒子となって砂の様に散って行った。

 

 

 

 

「なぁ! がっ……」

 

 あまりの光景に思考を停止させるワロガ。

 

「ヴェルフ様!」

 

 ヴェルフも思わず同様の反応をとりかけたが、春姫の声で我に返り魔剣を受け取る。

 

「さぁ! こいつで終いだ」

 

 紅い大剣を振りかぶる。

 ワロガがようやく反応するが遅い。

 

「烈進!!!!!」

 

 紅蓮の炎が驀進(ばくしん)する。

 ワロガは断末魔の叫びごと炎の中に消えた。

 

 

 

 

 急速に力を失う体がブラリ、と構えを崩す。

 糸の切れた人形のように地面に倒れこみかけたその時、彼を支えるものがあった。

 

「っとぉ! 大丈夫かベル」

 

「ヴェルフ……?」

 

 あまりの消耗にいつの間にか変身が解けたらしい。

 ぼんやりとする視界には、いつも兄のように思っている赤毛の鍛冶師の姿があった。

 

「あんまり心配させんなよ」

 

 そう言う彼の周りには、ファミリアの仲間たちが集う。

 だれも、欠けていない。

 人間よりも強大な存在ばかりだったのに、彼ら彼女らは逞しくこの戦場を生き抜いた。

 

「あぁ……よかった……」

 

 意識が遠くなる。

 無茶の代償に体が耐え切れなかったようだ。

 薄れゆく思考の中思った。

 心を蝕む過去の傷は消えてないけど、【ヘスティア・ファミリア】のみんながそばにいてくれれば、どんな困難とも向かい合える勇気がもらえる。

 そのことが、とてもうれしい。

 

 その日から、悪夢を見ることはなくなった。

 




 ベルとヴェルフの関係いいですよね。
 アニメ1期だと出番は割と後半なのに長年の親友みたいな空気で参加してるの。


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第4話「遠征-エクスピディション-」
a-とある団長の悩み事


 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。


「…………」

 

 息をひそめて隙を伺う。

 ベルの視線の先には黄緑色の(にわとり)

 冒険者ならば知らぬものはいないそのモンスターは、巧妙に気配を消した第二級冒険者に気がつかない。

 ジリ…………ジリ……、と距離を詰めていく。

 そして必殺の間合い(キラーゾーン)に入った瞬間、ベルはナイフを勢い良く抜刀した。

 

「はっ!」

 

「コケェ!」

 

 刹那の静寂の後、ぱたりと軽い物体が倒れる音がする。

 黄緑色の(にわとり)はモンスター共通の弱点である魔石を砕かれ、その体は灰と化す。

 宙にふわふわと浮かぶ羽毛も灰と消える中、ポトリとドロップアイテムが落ちた。

 

「…………ッ!! やりました!」

 

「お見事です! ベル殿!」

 

 今まで共に息を潜めていたみんなが歓声を上げる。

 現在僕たちがいるのは1階層。

 レベル3の僕が倒せて当たり前の相手しかいない階層で、何を大喜びしているかと言うと……

 

「あの『ジャック・バード』を見つけられるなんてついてます!」

 

 ジャック・バード

 滅多に姿を見せないそのモンスターにはある特徴がある。

 このモンスターを倒した時、必ず手に入るのだ。

()()1()0()0()()()()()()の価値を持つ一獲千金のお宝、『ジャック・バードの金卵』が。  

 

「相変わらずお前は運がいいな、ベル?」

 

「そうなのですか?」

 

「ええ、この前もリリ殿とヴェルフ殿が何度小型鶴嘴(マトック)を振っても出てこなかった『紅縞瑪瑙(ブラッド・オニキス)』をベル殿はただ一振りで……」

 

 みんなの口調も心なしか軽やかだ。

 宝くじを当てるより入手困難なドロップアイテムを手に入れたのだから当然だろうけど。

 今日は資金稼ぎのためにダンジョンに来たわけじゃないけれど、今は素直に喜んでおこう。

 

 

 

 

 事の発端は妙な噂を耳にしたところだ。

 曰く、安全地帯(セーフティポイント)のモンスターたちが騒がしい

 曰く、18階層に奇妙な人型の岩を見た

 18階層に関する噂が活発になる中、渦中のリヴィラの町から撤退する冒険者が続出していて、町のまとめ役のボールスさんは悲鳴を上げているらしい。

 この異常事態(イレギュラー)が多発する中、『エボルトラスター』がダンジョンに反応を示している。

 なにか、関係があるのではと小遠征を行うことになったのだ。

 

「贅沢を言えば【タケミカヅチ・ファミリア】とまた合同パーティーを組みたかったのですが、仕方ありませんね」

 

 なんて、リリは言ってたっけ。

 何が起こるかわからない場所に行くんだから戦力は万全にしたい、でも光のことは極秘事項だ。

 これがジレンマっていうのかな……

 

 僕の事情で選択肢を狭めてしまうことに罪悪感を感じる。

 僕は【ファミリア】の団長なのにそれでいいのかな。

 

「っ! みんな、気を付けて! ミノタウロスが来る!!」

 

 思考を中断し、もう何度も聞いてきた足音のする方向を睨む。

 腐れ縁、と言うほどに何度も戦っている人牛のモンスターの姿にナイフを握る手に力が入る。

 ミノタウロスの中層の中では断トツと言っていい身体能力はレベル1のリリや春姫はもちろん、ランクアップした命やヴェルフでも脅威だ。

 素早く周りを確認し、ミノタウロス以外の脅威がないことを確認したベルは兎のごとく飛び掛かった。

 

 

 

 

「お疲れさまでした、ベル殿」

 

 瞬く間にミノタウロスを撃破したベルに命が称賛の声をかける。

 ベルは少し照れ臭そうにありがとうございます、と言うと再び難しい顔で何事かを考え始める。

 ……相変わらず分かりやすい方だ、と命は思う。

 レベル3以上の冒険者は、大なり小なり得体の知れなさを持つが、ベルは良くも悪くもそれがない。

 

「ベル殿……何か気になることでも?」

 

 こうした時はしっかりと聞いたほうがいい。

 ベルは一人で何でも背負うところがある。周りの自分たちがしっかりと聞きに行くべきだろう。

 命の問いに、ベルは少し考えた後、話し始めた。

 

「僕は【ファミリア】の団長になったのにこのままでいいのか、って不安になっちゃいまして……」

 

 ベルの言葉になるほど、と納得する。

 世界最速兎(レコードホルダー)として前人未到の成長を続ける彼は、その力に対して心が未熟なままだ。

 未だ数か月の経験しかない14歳の少年が団員の命を預かる団長になったことによる重圧は相当なものだろう。

 

「僕はフィンさんや桜花さんのようにみんなの信頼に答えられる団長だって、胸を張って言えないんです」

 

 フィン・ディムナ

 都市最強派閥の一つである【ロキ・ファミリア】の団長。

 武勇はもちろん、その知略は他を寄せ付けずに、侮られやすい小人族(パルゥム)でありながら、団員たちから絶大な信頼を受けているという。

 

 カシマ・桜花

 命が元々所属していた【タケミカヅチ・ファミリア】の団長。

 仲間の命を第一に考え、そのために泥をかぶることも厭わない偉丈夫。

 

 どちらもベルの知る、【ファミリア】を率いる団長らしい団長だ。

 こうした人々の姿を見ているからこそ、尚更自信を失っているのかもしれない。

 

「僕は自分の都合で【ファミリア】を振り回してばかりで、こんな僕で本当にいいのかって思っちゃうんです」

 

 かつて【タケミカヅチ・ファミリア】は危機的状況に陥った時、桜花の指示のもとにベルたちにモンスターの擦り付け、怪物贈呈(パス・パレード)を行った。

 それは決して褒められたものではないが、仲間を守る団長としての決断だった。

 自分が同じ状況になった時、同じように決断できるだろうか。

 子供じみた綺麗事に囚われて、判断を誤るのではないか。

 そんな思いがベルからにじみ出ていた。

 しかし、

 

「ベル殿、常に正しい判断をすることが団長である、と言うわけではないと思います」

 

「え?」

 

【ファミリア】を決して危険にさらさない。時には冷徹な判断で他を切り捨てる。

 それも、団長に求められるものだろう。

 

 ──だが、それでは救われないものがいる。

 

「それが正しいのなら、あの日、救った春姫殿はどうなるのですか」

 

 あの時、【イシュタル・ファミリア】から春姫を救うことに【ヘスティア・ファミリア】としては何の意味もなかった。

 むしろレベル5や多数の上級冒険者を有する【ファミリア】を敵に回すだけで、リスクしかなかっただろう。

 これを団長失格と責める声もあるかもしれない。

 だが春姫を損得勘定で見捨てるベルならば、戦争遊戯(ウォーゲーム)の時にリリたちは移籍してまで彼を助けようとしただろうか? 

 

「【ヘスティア・ファミリア】の団長は《ベル殿》です。《ベル殿》だから、皆納得したのです」

 

 団長の重責は命では計り知れないだろう。

 しかし、勝手な願いだと知りつつも命は思うのだ。

 ベルらしさを失ってほしくはないと。

 お人よし(ベル)友達(春姫)を救われた彼女だからこそ、そう思う。

 

「……僕だから、団長」

 

 それはきっと、今のままでいいということではないだろう。

 今の自分が頼りない団長であることは事実なのだから。

 ベルらしくありながら、団長としての役割も身に着ける。

 それは雲を掴むように曖昧な話で、ベルにはまだ自分の目指す団長の姿は輪郭すら見えなかった。

 

 

 

 

『嘆きの大壁』を通過し、洞窟を抜けるとダンジョンにあるまじき明るさに思わず手で目を庇う。

 

「まだ慣れないな、この階層の明るさには」

 

 ヴェルフの言葉通り、この階層は天井に華のように夥しい量の白と蒼の水晶が生え渡り、それらが発光して空の様な暖かな光を生むのだ。

 ダンジョン=暗い所の図式ができていた当初はこの階層の明るさに面食らったものだ。

 

 目的の階層で『エボルトラスター』を抜くと刀身が淡く点滅している。

 怪獣か宇宙人がいるのはこの階層で間違いないだろう。

 

「この感覚は……東、かな?」

 

「では、東部の小川に拠点を作りましょう」

 

 リリの指示で拠点を作り出す。

 ここで活躍したのが、意外にも春姫だった。

階位昇華(レベル・ブースト)』秘匿のために基本籠の中だった彼女だが、大規模派閥(イシュタル・ファミリア)にいた経験から、ノウハウゼロの僕たちに色々と豆知識をくれた。

迷宮の楽園(アンダーリゾート)』と呼ばれるだけあって18階層の気温は快適だし、そうきっちりとしたものを用意する必要もない。

 おかげで、さほど労せずに準備を終えた僕たちは、夕餉(ゆうげ)の準備を早くから始められた。

 そんな時、春姫の尻尾がピクリと反応する。

 

「?」

 

「春姫さん? どうかしましたか?」

 

「いえ、向こうのほうから物音がしたような……」

 

 自信なさげに小川の反対側を指さす。

 モンスターや闇派閥(イヴィルス)だったら大変だ。

 僕と命さんが様子を確認しに行くと……

 

「うぅむ、この世の神秘を内包するというダンジョンに来たものの……いまいちピンとこない。ヤプールが妙なことを企んでいて、きな臭い今、素直に撤退するべきだろうか?」

 

 黒い仮面に赤い目、マントをたなびかせながらぶつぶつと呟く宇宙人の姿があった。  




 最初に出てきた『ジャック・バード』は特典小説で出て来たモンスターです。


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b-モンスター・ウォー

 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。


 黒い宇宙人を見つけたベルたちは油断せずに背後から忍び寄る。

 ヴェルフの話だと、前に戦った宇宙人は宇宙人には巨大化する能力がある事を仄めかしていたらしい。

 目の前の宇宙人もそうかは分からないが用心するに越したことはない。

 

「あまり気乗りはしないが、この世界に来て何も盗まないのも勿体無い。近くにあった街でも盗むとしよう。」

 

 ほかの宇宙人のように彼も侵略が目的なのだろうか? 

 余り穏やかではないことを言っている。

 

『どうしましょう?』

 

『一先ず身柄を抑えたほうがよいかと。良からぬことを考えているようですから』

 

 ベルと命は考えがまとめると同時に宇宙人が妙な動きをし始める。

 それが何を意味するかは分からずとも不味いことが起きると直感したベルは手を突き出す。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

 炎雷は火の粉を散らしながら宇宙人に直撃した。

 

「どわああぁぁ!?」

 

 ……なんか思っていた以上に吹き飛んだ。

 プスプスと焦げ臭い香りが立ち込める中、想定外の光景に動揺するベル。

 命も思わず硬直してしまった。

 

「ぼ、冒険者がこんなところにいるとは!? 不覚だった!」

 

 転がった状態のままそう叫んだ宇宙人の姿が消える。

 前に戦った怪獣と同じ能力(瞬間移動)に驚くベルの背後から宇宙人の声が聞こえた。

 

「あははは、どうかね冒険者君? この瞬間移動能力は? どこから現れるか分かるまい」

 

 咄嗟に回し蹴りを放つが何の感触もない。

 パチン、とフィンガースナップの音がすると、宇宙人はいつの間にか命の背後に回っていた。

 

「自己紹介が遅れたね。私は怪盗ヒマラ。この世のあらゆる美しいものを盗む怪盗だ」

 

 パチン、パチン、とベルたちを翻弄するかのように瞬間移動を繰り返す宇宙人ーヒマラは余裕綽々と言った様子で自己紹介を始める。

 

「君たちにはとても悪いがあの町は頂くよ。そこまで食指が動くわけじゃないがせっかくこの世界に来たからには、何かコレクションに加えなくては、怪盗の名が泣くのでね」

 

 落ち着け、と命は自分に言い聞かせる。

 瞬間移動は恐るべき能力だが、これだけ見せられれば発動のタイミングを見切るのは容易い。

 

(話の始まりには必ず自分かベル殿の背後に来る。そこを狙って……)

 

「君たちには我が光線で眠ってもらおうか。安心したまえ、私は野蛮なことが嫌いだからね、少し眠ってもらうだけ……」

 

「そこぉ!」

 

 ヒマラの姿が消えた瞬間、命は裏拳を放つ。

 

「グアアー!?」

 

 拳はヒマラの胸部に直撃し、ヒマラが木の幹に激突する。

 目を白黒させて悶絶するその姿は、道化師のように滑稽でベルと命を戸惑わせた。

 

「た、倒したんですか?」

 

「そ、そのはずですが……?」

 

 とりあえずヒマラを拘束した二人は仲間たちに相談するために拠点に引き返すことにした。

 

 

 

 

「つまり、侵略目的でオラリオに来たわけではないと?」

 

「何度も言っているが私は野蛮なことは嫌いだ。美しいものさえ盗めばそれでいい」

 

 拠点に戻り、リリの尋問を受けるヒマラ。

 最初は瞬間移動能力を警戒していたベルたちも、逃亡する様子がまるでないヒマラの姿につい気が抜けてしまう。

 先日に襲撃してきた宇宙人は邪悪な気配をプンプンさせたものだが、このヒマラはどこかのほほんとした雰囲気なのだ。

 いや、泥棒は悪いことなのだが。

 

(こんな宇宙人もいるんだ……)

 

 なんとなく怪獣・宇宙人は、モンスターのように凶暴だというイメージがついていたらしい。

 よく考えれば世の中にも色々な種類の怪獣・宇宙人がいるわけだし、決めつけるのはよくないかも?

 モンスターとは違って話せばわかってくれるようなこともあるのかな、なんていうのは楽観的過ぎるだろうか? 

 

「では最近18階層が騒がしいことと貴方に関係はありますか?」

 

「それは私ではない。最近ここに来た怪獣とモンスターの縄張り争いのせいだ」

 

 か、怪獣とモンスターの縄張り争い? 

 大きさが違いすぎてモンスターに勝ち目がなさそうだけど……

 

「そうでもない。ダンジョンのモンスター生成速度は凄まじい。気を抜けば怪獣とて鼻や口から侵入されて食い破られると思うよ。」

 

 モンスターも大概だった。

 怪獣の力ばかりに注目してたけど、人間にとってはモンスターの無限とも思える数も脅威だと改めて思い知る。

 18階層に集結したモンスターだけでも縄張り争いできる程度には戦力は拮抗しているらしい。

 

「まったく、この世界の生き物は凶暴すぎる。ヤプールの超獣にも負けていない」

 

 ふと、ヒマラが零した単語が気になった。

 ヤプール? 

 前の宇宙人たちも言っていたような? 

 

「それはともかく、そこの白髪の少年」

 

「ぼ、僕ですか?」

 

 急に話しかけてきたヒマラに緩みかけていた警戒を張り直す。

 前回のように僕がウルトラマンだと気づかれたかもしれない。

 注意して……

 

「何か美しいものを持っていないかい?」

 

「ふぁ?」

 

 やっぱり、この人の前だと真面目な空気が長続きしない。

 本当に唐突すぎて頭の悪い反応をしてしまった。

 

「いや、怪盗の勘がね?君が貴重なお宝を持っていると告げているのだが」

 

 何言っているんだろうこの人。

 状況が分かっているのだろうか。

 瞬間移動で逃げられるのかもしれないけれど、拘束されているのに自由すぎる。

 

「お宝って……あ」

 

 ホルダーの中から先ほど入手したドロップアイテム・『ジャック・バードの金卵』を取り出す。

 するとヒマラがこれまでにないほど声を弾ませた。

 

「おお! 美しい……高貴な金の輝きもそうだが、何より滑らかなその造形がいい。まさに黄金律の美しさだ」

 

 凄い生き生きとドロップアイテムの評価を始めるヒマラ。

 これはもしかして……

 

「あの、良かったらこれいりますか?」

 

「ベル様!?」

 

 最低100万のレアドロップを変質者(ヒマラ)に譲渡すると言う暴挙にリリが声を上げる。

 しかし、それ以上に、

 

「是非っっ! 是非ともいただきたい!!」

 

 ヒマラは興奮して前のめりになりながら大声を上げた。

 そんな彼の様子を見て、僕はこう告げた。

 

「だったらこれを上げますから、オラリオではもう悪いことはしないと誓ってくれますか?」

 

「むぅ? むううう……仕方ないか」

 

 かなり渋ったが何とか受け入れてもらえたようだ。

 

「『美しいものはすべて自分のもの』と言うポリシーには反するが、最近は物騒だ。ヤプールが動く前にこの辺りで妥協して撤退するか……」

 

 交渉成立。

 僕は拘束を解くと、金の卵をヒマラに渡した。

 ヒマラがそれに赤い光線を打つと、金の卵はどこかに消えてしまう。

 ……まだ、こんな能力を持っていたんだ。

 軽い態度に惑わされそうだが、ヒマラの能力は人間にとって十分脅威になる。

 本格的な戦いになる前に交渉できてよかった。

 

(でも、みんなには後で弁解しよう……)

 

 分かってくれるとは思うけど100万は大金だし、勝手に使ったことは謝らないと。

 

 

 

 

「……それで、少し確認したいんだが、その縄張り争いをしている怪獣ってどんな奴なんだ?」

 

 色々言いたそうなリリを制してヴェルフがヒマラに質問する。

 

「そういえば、私たちの調査とヒマラ様は無関係のようでしたね……」

 

「色々起きて忘れそうでした……」

 

 春姫さんと命さんの言葉に一件落着した気分だった僕はハッとさせられる。

 よく考えたら何も解決していない。

 ヒマラはただの不審者だ。

 

「うむ。怪獣の名はホロボロス、大きさは……この世界の単位だと56M(メドル)くらいかな? 青い体に白い体毛が特徴的な怪獣だ」

 

 お宝が手に入ったからかヒマラはスラスラと情報を口にする。

 

「オオカミやライオンに似た姿で、一匹で行動している。特に特殊な能力はないが身体能力が凄まじい。人間が相手にするのは自殺行為だと忠告しておこう」

 

「まぁ、あくまで偵察のつもりですから。案内していただけますか?」

 

 いいだろう。とヒマラが言うと視界が切り替わる。

 どうやら僕たち全員で瞬間移動したらしい。

 天井の水晶の様子を見るに拠点からさらに東へ進んだ地点らしい。

 

「ベル様! モンスターと怪獣の声が聞こえます!」

 

 春姫さんは狐耳をピクピクさせると、縄張り争いの音を捉えたと知らせてくれた。

しばらくすると、ヒューマンである僕の耳にも音が聞こえた。

 様々な雄たけびが入り混じって良くわからないけど、複数のモンスターと怪獣が争っているようだ。

 モンスターは基本的に同族同士でもなれ合わず、他種族だと争ってばかりだ。

 それなのにいくつものモンスターが協力し合うのは、人間を殺すときか、共通の敵が強大な場合。

 

 ドォン!! 、と爆発音が鳴り響き、吹き飛ばされるモンスターの姿を確認する。

 ミノタウロス、サーベルタイガー、バグベアー。

 どれも冒険者にとっては強敵ばかりなのに嘘みたいに空中に浮かんでいた。

 

「冗談だろ……」

 

 ヴェルフが引き攣った笑みを浮かべた。

 この先にいる怪獣の強大さを改めて思い知る。

 等身大の宇宙人を上手く撃破したことで知らず、浮かれていたのかも知れない。

 怪獣は生ける災害。

 そのことをヴェルフたちは思い出させられた。

 

「見えました!」

 

 リリの声に、木々の合間から見える闘争に目を凝らす。

 そこには無数のモンスター相手に橙色の凶爪を振り回す四足歩行の怪獣、ホロボロスの威風堂々とした姿があった。

 ホロボロスの咆哮が地下の楽園(アンダーリゾート)の豊かな木々を震わせる。

 泡立つ肌が、目の前の怪獣が規格外の脅威だと告げていた。

 

 しかし迷宮の怪物たちは怯まない。

 上層・下層から殺到するモンスターの足音は空気を揺らし、殺意が圧力を伴ったかのような錯覚を起こす。

 互いの闘志が際限なく高められていき、冒険者たちから滴る汗が大地を濡らした瞬間、状況が動いた。

 

「グオオオオオオ!!!!!!!」

 

 先に動いたのはホロボロスだった。

 雄叫びとともに突進し、その凶貌(きょうぼう)をモンスターの群れに突っ込ませる。

 肉食獣を思わせる強靭な牙はミノタウロスたちを分断し、大質量が大地に激突したことによる衝撃で周囲の木々はへし折れていた。

 しかし、モンスターたちも負けてはいない。

 同胞を喰らうために近づいたホロボロスの頭部に向かい、攻撃を仕掛ける。

 一体一体の攻撃は白い(たてがみ)に防がれるが、数十もの物量に任せた怒涛の攻撃網が少しずつ、だが着実にホロボロスに傷をつける。

 

 人類の天敵たちによる縄張り争いは苛烈を極め、春姫はその凶暴な空気に尻尾を丸めた。

 

「このまま突っ込んでしまっては、最悪怪獣とモンスターを同時に敵に回します。リリたちは東北に見える大木の地点までモンスターを分断。誘導します」

 

 この状況でもリリは即座に作戦を提案し、パーティーのリーダーであるベルに方針をまとめさせようとする。

 ベルも圧倒されかけていた思考を無理やりにでも切り替えて、今パーティーができる最適な行動を模索する。

 

「なら、僕は怪獣を隔離するためにここに残って……ヴェルフと命さん、リリはモンスターの方だけど春姫さんはどうする?」

 

「リリたちと一緒に行動します。レベル2が2人いても、あの数相手では不安が残りますから。それと、ヒマラ様はここで別れましょう。戦いに巻き込まれます」

 

 リリはそう言ってヒマラを見るが、ヒマラはこちらを見ていない。

 彼は怪獣とモンスターの激闘を見て何やら焦ったようすだった。

 

「まずい、モンスターの数が多すぎてホロボロスが苛立ち始めている……!」

 

 ヒマラの言葉にベルたちはホロボロスを再度注目する。

 確かにホロボロスは苛立たしげに首を振り、唸り声を上げていた。

 その時、蜂型モンスターのデッドリーホーネットの針が首元に突き刺さった。

 それが我慢の限界だったのか、ホロボロスは目を血走らせると怒号を上げる。

 風圧すら伴うそれにモンスターたちの勢いが止まると同時に、変化は起きた。

 

「た、立った!?」

 

 これまで四足歩行の獣らしい挙動を行っていたホロボロスがその両足で立った。

 そしてベルはその光景に既視感(デジャヴ)を覚える。

 そう、あれはミノタウロスとの一騎打ちの時、突如姿勢を変えたミノタウロスは必殺の一撃を持ってベルに……

 

「まずい!」

 

 突如変化したルーチンは凶兆の合図だ。

 これまでの冒険者経験からそう学んだベルは、怪獣とモンスターの直線状であるこの位置が最悪だと勘づく。

 少年が警告を発するより早く、ホロボロスは必殺の一撃を放った。

 

『メガンテクラッシャー』

 

 両爪から発せられる()()()()

 紫の光を発するそれは、モンスターたちをバターのように切り裂いても止まることはない。

 まっすぐと冒険者たちのほうへ向かってくる。

 凍り付く冒険者たち。

 その中でベルは真紅(ルベライト)の瞳を吊り上げて、懐から『エボルトラスター』を取り出す。

 

(ヒマラさんがまだいるけど、四の五の言ってる場合じゃない!)

 

「うわああああああぁぁぁぁ!!!!!」

 

 ベルは『エボルトラスター』を居合のように抜刀、斬撃を受け止めると共に変身した。

 突如発生した眩い光に目をくらませるホロボロス。

 そんな怪獣に、銀の弾丸となったウルトラマンが強烈な右ストレートを見舞う。

『マッハムーブ』と『アンファンスパンチ』の重ね掛けに吹き飛ばされたホロボロスを見据えながら、アンファンスからジュネッス・ホワイトへ転身。

 純白を纏った強化形態になったウルトラマンはすかさず『フェーズシフトウェーブ』を展開。

『メタフィールド』に怪獣とモンスターたちを閉じ込めた。

 

「このままモンスターの掃討にかかります! ヴェルフ様は前衛、命様は弓を装備して後衛に、春姫様は魔法の詠唱をしてください!」

 

 リリがすかさず指示を出すと、景色が変わり混乱するモンスターたちに大刀と弓矢の雨が降り注ぐ。

 体勢を立て直される前に、少しでも数を減らせと冒険者たちが突貫した。




 強大な個を誇る怪獣
 無尽蔵な群のモンスター
 どっちも、違うヤバさがありますね。


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c-猛れクラネル

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『………?』

 

 変身した瞬間、ベルは違和感を覚えた。

 ウルトラマンになるたびにあった全能感。それが、今回は少ない。

 それどころか巨大な体がズシリと重くなっている気がする。

 誤差と言えばそれまでだが……

 

「オオォォォーーーーン‼」

 

 怪獣の威嚇に意識を切り替える。

 今、戦闘に支障が出るほどの違和感ではない。

 まずは、戦いに集中しなくては。

 

 ホロボロスに特殊な能力はない。しかし、それはこの怪獣が御しやすいことを意味しない。

 小細工は不要。

 百獣の王のように力強く、しなやかな四肢は単純に強い。

 

『速い!』

 

 ウルトラマン(ベル)は怪獣の俊敏さに【英雄願望(スキル)】の使用は困難であると悟らされる。

 呑気に蓄力(チャージ)していたらその隙にその爪で八つ裂きだ。

 『パーティクル・フェザー』で狙い撃つがビクともしない。とんでもない耐久もあるようだ。

 着弾した部分から煙を登らせながら、ホロボロスはウルトラマンに組みかかる。

 

「ヌッ…グウウウ……‼」

 

 怪力を何とか振り払うが、ホロボロスはウルトラマンが強引に腕を払った隙を利用し、反転。

 後ろ足による蹴りを炸裂させる。

 低い位置から放たれた攻撃は抉るようにウルトラマンの脇腹に深々と刺さった。

 

 技巧など感じない、能力(ポテンシャル)任せの攻撃。

 圧倒的な力で相手を捻り潰す戦い方は、この世界のモンスターのようだ。

 

『だったら空中から仕掛ける!』

 

 戦いにおいて、相手を自分に有利なフィールドに引き込むのが常道。

 ホロボロスの遠距離攻撃は飛ぶ斬撃のみ。

 それは脅威だが、それさえ気を付ければホロボロスの対空能力は決して高くないだろう。

 先のぺダニウムゼットン戦で、攻撃を3分間躱し続けた経験を生かせる場面だ。

 そう判断したウルトラマンが空高く飛行した瞬間、命が叫んだ。

 

「っ!?後ろです!ベル殿!!」

 

 反射的に回避行動を取るが、僅かに足に熱が走る。

 後ろから迫っていたのは禍々しい光線だった。

 ウルトラマンは体勢を立て直し、下手人を確認する。

 そこには蛇の様な見た目をした怪獣が、口から単眼を覗かせてこちらを嘲笑うように両肩の触手を揺らしていた。

 

「ふざけろ……新しい怪獣だと!?」

 

 ヴェルフがライガーファングの牙を回避しつつ悪態をつく。

 いち早く怪獣の出現に気が付いた命は見ていた。

 空間に突如亀裂が走り、中から怪獣が現れた瞬間を。

 

(まさか、何者かに送り込まれた……?)

 

「ベル様!?」

 

「ウ、グアアァァァァ……」

 

 その時、リリが悲鳴じみた声でベルの名を叫んだ。

 上空の光の巨人が苦し気な声を出す。

 光線をかすめたウルトラマンの右足は、ビキビキと音を立てて石化し始めていた。

 

「まさか、あの光線の能力は……」

 

 命の呟きに応えるように怪獣は冒険者たちに向けて、醜悪な眼を向けた。

 虹彩にエネルギーが充填されていく。

 

「避けろおおぉぉ!!!!!」

 

 ヴェルフの声にパーティーは咄嗟に岩陰に隠れる。

 しかし、人語を解さないモンスターたちは反応が間に合わず、光線を真っ向から受けてしまう。

 絶叫を上げていたモンスターは、ビキビキという音とともにその体を変化させられ、微動だにしない石像になった。

 ガーゴルゴン

 あらゆる怪獣の中でも桁外れな石化光線を持つ魔獣は嗜虐に目を細め、石像たちを踏み潰した。

 

 

 

 

(出鱈目だ……こんなものどうしたら……)

 

 理不尽な怪獣の能力に命はポキリ、と心が折れる音を聞いた。

 仲間たちも顔を蒼白にして、岩陰から動けないでいる。

 怪獣が二体、うち一体は撃たれれば敗北確定の石化光線を有する。

 石化を防ぐには光線を回避し続けなければならない。しかし、人間にとってその光線は極太でそう何回も回避できる代物ではない。頼みのウルトラマンもよりによって足を封じられた以上敗北は時間の問題だ。

 詰みだ。もう勝機が見えない。

 たった一体怪獣が現れただけで、現実が淡々と可能性を摘み取ってしまった。

 

(申し訳ありません。タケミカヅチ様……皆さん……)

 

 もう地上に戻ることはできないと覚悟した命は、同郷の【タケミカヅチ・ファミリア】の仲間たちに詫びた。帰れなくて申し訳ないと。  

 春姫も、ヴェルフも、リリも、最期の瞬間を待って走馬灯を見ているのだろうか。

 いずれにせよ自分たちは終わる。怪獣が少し岩を回り込めば、そうでなくとも岩ごと踏み潰せば、脆弱な人間は原型も残さず息絶えるだろう。

 

 ……なのに、何故自分たちはまだ死んでない? 何故、モンスターたちがいなくなっても戦いの音が鳴らない? 

 凍ってしまいそうなくらいに、熱を失った体に鞭打って岩陰から顔を恐る恐る出す。

 そこでは変わらず殺意をまき散らす怪獣たちと

 

「シェア!!」

 

 片足が石化してなお戦い続けるウルトラマンの姿があった。

 ホロボロスの牙を『アームドネクサス』で防ぎ、絡みつくガーゴルゴンの触手を左手で懸命に引き剥がそうともがく。

 傷は増えていく。

 牙を防いでも爪がウルトラマンの鳩尾に深々と刺さり、触手から流れる青白い稲妻が体を焼く。

 状況は相変わらず絶望的、爪が突き刺さった鳩尾からサラサラと流血のように光が零れた。

 

「グアアアッッ……ウ、オオオオオォォォォォォ!!!!!」

 

 それでも彼の輝きは力強く、握った拳で懸命に触手を殴りつけた。

 何度も、何度も、力を振り絞って拳を振るい、雄たけびを上げ続ける。

 

『【ファイアボルト】‼』

 

 炎が冒険者たちを照らす。

 【ファイアボルト】によって視界を封じられたガーゴルゴンが絶叫を上げる。

 そんな怪獣に構わず、ウルトラマンは左腕の『アームドネクサス』で触手を切り裂く。

 一瞬の早業。それが産んだチャンスをウルトラマン(ベル)は見逃さない。

 自由になった左腕で(たてがみ)を掴み、上体の捻りだけでホロボロスを空中に放り投げる。

 

『ジュネッスホイップ』

 

 投げ飛ばされたホロボロスが悶絶する中、ウルトラマンは振り向きざまに肘内を繰り出す。

 

『ジュネッスエルボー』

 

 息を切らすように肩を揺らすウルトラマンのコアゲージが鳴り響く。

 それは、適合者(デュナミスト)の限界を告げるもの。

 適合者(デュナミスト)が諦めず、限界以上に戦っている何よりの証。

 少年の命がけの抵抗を伝える音色(ねいろ)は、仲間たちの心に再び火をつけた。

 

 その滑稽ともいえる無様な足掻きが命の心を掻き乱す。

 死を受け入れ始めていた体が諦めたくないと叫ぶ。

 リリが岩を支えに立ち上がる。ヴェルフが精一杯口元に弧を描く。春姫がその瞳に光を宿す。

 

「っっ! あああああああぁぁぁあぁぁ!!!!」

 

 次々と立ち上がる仲間たちに遅れは取れないと、命は強く大地を叩き、弱腰な己と決別した。

 

 

 

 

 

「【()けまくも(かしこ)きいかなるものも打ち破る我が武神(かみ)よ、尊き天よりの導きよ】」

 

 命は詠唱を開始する。

 春姫はすでに詠唱を完了させて指揮官(リリ)の合図を待っている。

 怪獣とウルトラマンという規格外同士の戦いで、自分たちにできることは少ない。

 致命打になりえない攻撃で、ほんの僅かな隙を生み出すだけだ。

 

 ヴェルフは魔剣を持ってガーゴルゴンの目を封じ、懸命に必殺光線を抑えている。

 しかし、それも魔剣が壊れるまでの一時のしのぎ、この作戦の成否は命がいかに詠唱を素早く終わらせるかに掛かっている。

 

「【卑小のこの身に巍然(ぎぜん)たる御身の神力(しんりょく)を】」

 

 詠唱に集中し、加速する感覚の片隅で命は考える。

 ベルのもう一つのスキル【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】のことだ。

 彼自身は存在も知らない、急成長の原因となるスキル。想い人を想うほど成長が加速するレアスキルを知った当初、命は「ズルイ」と思った。

 好きな人を想うだけで強くなれるなんて反則だ、と。

 しかし、ベル・クラネルと言う冒険者を見続けて思ったことがある。

 

 ──自分はここまで大きな想いを持ち続けることができるだろうか? 

 

 命には想い慕う(かた)がいる。その想い自体は恥じることのないものだ。

 しかし当初持っていた、この(かた)に認められたいという熱を初めの瞬間から変わらぬ熱さで持ち続けているかと問われると言葉に詰まるだろう。

 人は熱を持ち続けることはできない。一瞬燃え上がっても、少し経てば穏やかなものになるのが当たり前だ。

 【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】は熱量を維持し続けなければ、無用の長物だ。

 このスキルの効果を目に見えるほど引き出せる、尋常ではない心の熱こそ、ベル・クラネルの強さなのではないかと今は思うのだ。

 

「【天より(いた)り、地を()べよ】」

 

 バキン、と魔剣が砕けた。

 顔を強張らせるヴェルフに魔獣の眼が向けられる。

 散々梃子摺らせてくれた人間に対する怒りが込められているようだと、エネルギーが充填されつつある魔眼を見ながらヴェルフはぼんやりと考えた。

 数秒後に訪れる確実な死。

 しかし、必殺の光線が放たれる瞬間、ヴェルフの姿が虚空に消える。

 

「ガアァ?」

 

 思わず、光線を発射しようとした姿勢のまま固まるガーゴルゴン。

 姿を消した赤毛の鍛冶師は遠く離れているはずの命たちの近くに()()()()していた。

 

「お前…………」

 

「フッハッハッハ、何、せっかくお宝を頂いておいて何もしないのもどうかと思ってね。サービスだよ」

 

 ヴェルフを危機一髪で救ったヒマラは飄々とした態度で手を振った。

 そんな彼らを一瞥しつつ、リリが指示を出す。

 

「命様に【ウチデノコヅチ】を!」

 

「【──大きくなれ──────【ウチデノコヅチ】】!!」

 

 光の槌が命に降り注ぐ。

 位階が上がった命から魔力が(ほとばし)る。

 

 ベルが持つ熱の影響は彼自身に留まらない。

 荷物持ち(リリ)を孤独から救い、鍛冶師(ヴェルフ)の心を震わせ、巫女(春姫)の意思を強くした。

 そして今も、

 この体から溢れる熱い鼓動は、【位階昇華(レベル・ブースト)】によるものだけではない。

 

 熱い意思を伝播させる炎のような冒険者。

 それが、ベル・クラネル。

 まだ未熟な眷属たちを導く【ヘスティア・ファミリア】の団長。

 

 今も姿を変えて戦う少年の一助にと、命は詠唱を完成させる。

 

「【神武討征(しんぶとうせい)──────【フツノミタマ】】!!!!」

 

 ガーゴルゴンの頭上から、紫の貢献が出現し、魔法陣に似た文様を形作る。

 そして、重力の結界が完成する。

 疑似的な階位昇華(ランクアップ)を果たした命の魔法は、数十M(メドル)ものドーム状の結界を作り出し、ガーゴルゴンは重力に押しつぶされ、視線を足元に向けてしまう。

 光線はガーゴルゴンの足に直撃し、魔獣は自らの力で石化する。

 

『みんながやってくれた……今度は僕が!』

 

 ウルトラマン(ベル)は両腕をエナジーコアの前にかざし、胸部にエネルギーを溜める。

 それを隙と判断したホロボロスが、覆いかぶさるように圧し掛かるのをウルトラマンは両腕で止めた。

 

「グオオオオォォォォ!!!!!!」

 

「グ、アアアァァァ‼」

 

 それでも、強靭な腕力で強引に突破しようとするホロボロス。

 じわりじわりと、追い込まれるウルトラマン。

 しかし、彼にはその僅かな時間で十分。

 

「ハアア……デェヤ!!!!」

 

 エナジーコアから、極太の光線が発射される。

 強力な光線はゼロ距離からホロボロスに炸裂、暴獣は自慢の耐久で耐えようとするがあまりにも距離が近すぎた。

 光線はその分厚い皮膚を突き破る。

 

『コアインパルス』

 

 爆散したホロボロスを確認すると、ウルトラマンは技の反動で倒れた姿勢のままガーゴルゴンを確認する。

 既に命の魔法はない。

 このままでは魔獣は石化から復活するだろう。

 この位置から確実に仕留められる威力を持った必殺技で決める。

 

 思い浮かべるのは弓の名手たる彼女。

 零能の身とは思えない戦闘技術でモンスターと渡り合う女神、アルテミス様の弓使いをその身になぞる。

 本家とは比較にならないお粗末さでも今は十分。

 『アームドネクサス』に付与された光の弦を模した光弾が、真っ直ぐガーゴルゴンに向かった。

 

『アローレイ・シュトローム』

 

 光の矢は石像を真っ二つにして邪悪を打ち破った。

 爆発に限界が誘発されたように『メタフィールド』が崩れる。

 巨人の体も維持できなくなり、ベルは人間に戻った。

 

 

 

 

「なかなか面白い経験だったよ」

 

 疲労困憊のベルにヒマラは拍手とともに賛辞の言葉を投げかける。

 

「ヒマラさん、ヴェルフを助けていただいてありがとうございます」

 

「彼にも言ったが、サービスだよ。これで私は何の気兼ねもなくこの世界を去れる」

 

 そう言ってヒマラは背を向けた。

 

 ……! そうだ! 彼はこの怪獣騒ぎの真相を知っているのかもしれない。

 元の世界に帰える前に、それを聞き出さないと。

 

 ベルが去ろうとするヒマラを制止しようとしたのと同時に、ヒマラはポンと手を叩いて向けていた背を反転させた。

 

「ああ、そう言えばいい忘れていたね。この世界に怪獣を連れ込んだのはヤプールと言う怪人だ。」

 

 ヤプール

 先ほどヒマラが口にしていた固有名詞らしきもの。

 この前の宇宙人も口にしていた名前。

 

(それが、怪獣騒動の元凶? ……僕の果たすべき使命はこのヤプールを倒すこと?)

 

『エボルトラスター』を取り出し問いかけると言葉はなく、代わりに一度だけトクン、と小さな光を放った。

 言葉はなかったけど、きっとそれは肯定だ。

 ようやく、見つけた自分の使命に『エボルトラスター』を握る手に力が入る。

 

「気を付けたまえ、ヤプールは様々な宇宙の強豪怪獣たちを再現しようとしていると聞く。これまでとは比べ物にならない強敵になるだろう。」

 

 そう言って、今度こそ姿を消すヒマラ。

 静寂が僕たちを包む。

 仲間(ファミリア)の視線を感じながら、僕は『エボルトラスター』を見つめ続けた。

 

 決着の時は近いのかもしれない。




 今日から社会人、更新続けられるだろうか……?

 それはそうと、ダンメモでリヴェリアがベルを「炎のような冒険者」と表現したエピソードがお気に入りです。


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◎第3話・第4話の怪獣・モンスター解説

 調子に乗ってウルトラ怪獣やモンスター出し過ぎた……


〇第3話 「罪人-オリオン-」

登場怪獣 『宇宙ロボット・キングジョー』『無双鉄神・インペライザー』『宇宙恐竜・ゼットン』『ぺダニウムゼットン』

登場モンスター 『レイダーフィッシュ』『ブラッドサウルス』

-怪獣紹介-

 

宇宙ロボット・キングジョー

身長:55M(メドル)

体重:4万8000t

初登場:ウルトラセブン第14話「ウルトラ警備隊西へ 前編」

 

解説:ペダン星人により地球に送り込まれたぺダニウム合金で造られたロボット兵器。

   頭、胸、腹、足に分離可能。

   眼のように発行する部分から繰り出す『デスト・レイ』は強力。

 

   頑丈な装甲と凄まじい馬力であのセブンを格闘で圧倒した。

   しかし、倒れたら立ち上がれない弱点のせいで逆転された。

   流石にこの致命的欠陥は次の戦いでは改善されていたようだ。

 

   こいつに限らずロボット兵器は大体強い。

   グルマン博士によると、7つの文明がこれによって破壊されているらしい。

   

   ダンまち世界では、ファンタジーお約束のゴーレムは秘匿された技術。

   これまで気性がモンスターに似ている怪獣ばかりだったので、ベルは大苦戦しました。

   どうでもいいことだけど、こいつの怪獣図鑑の言葉のチョイス変じゃない?

 

 

 

 

無双鉄神・インペライザー 

身長:60M(メドル)

体重:6万t 

初登場:ウルトラマンメビウス第29話「別れの日」

 

解説:頭にガトリングをくっつけた凄い見た目のロボット兵器.

   ホーミング能力のあるレーザー、変幻自在の腕、自己修復能力を兼ね備えた鉄神。

   テレポートにより、神出鬼没と言えるほど突然現れるエンペラ星人の尖兵。

   

   ウルトラマンメビウスの中ボスであり、当時未熟だったメビウスを一度は完封した。

   バーニングブレイブとなったメビウスに敗れたものの。これはあくまでも量産機。

   再登場時にはメビウスの活動限界までテレポートで投入し続けるという戦法を見せた。

   

   エンペラ星人製のものでなければ再生能力はつけれないのか以後の作品では無いことも。

   それでも、ウルトラ戦士と単独で渡り合える量産機は脅威だが。

   OVAのキラー ザ ビートスターではこいつとキングジョー等の大群が現れた。

 

   一目でやばい敵とわかるデザイン。

   その火力にはネクサスも圧倒されました。

   初登場のインパクトとエピソードの素晴らしさで29話はおススメです。

 

 

 

 

 

宇宙恐竜・ゼットン 

身長:60M(メドル)

体重:3万t 

初登場:ウルトラマン最終回「さらばウルトラマン」

 

解説:昆虫の様な見た目の宇宙恐竜.

   ウルトラマンを圧倒する怪力、一兆度の火球、バリヤー、テレポート、光線反射等を駆使する。

   ウルトラマン打倒のためにゼットン星人に生み出された怪獣。

   

   ご存知、みんなのトラウマ。

   一体こいつのどこが恐竜なのだろうか。

   通称の件だけでなく、知名度に反して謎の多い怪獣。

   

   これまで登場した怪獣のキメラなのではとか。

   こいつは単独で現れないので、出現したときは何者かの陰謀だとか。

   送り込んだのはゼットン星人ではなく、宇宙人ゾーフィだとか。

   様々な考察のある魅力的な敵役。

 

   ベルをぼこぼこにした本怪獣。

   ベルが勝てたのは【英雄願望(アルゴノゥト)】の火力と、ネクサスに関する情報が宇宙人たちになかったから。

   その強烈な印象から派生形も多いウルトラの看板ともいえる怪獣ですね。

 

 

 

ぺダニウムゼットン 

身長:65M(メドル)(エボルト時300M(メドル)

体重:3万4000t 

初登場:ウルトラマンジード第12話「ジードアイデンティティ」

 

解説:ゼットンにキングジョーの装甲を装着したような姿.

   首元にはベリアル融合獣共通のカラータイマー。

   ベリアルの配下、伏井出ケイが変身する怪獣。

   

   昔から最強怪獣談義の常連であった二体を融合(フージョンライズ)した怪獣。

   比較的、ゼットンの能力を多用している。

   火球は山一つ消し飛ばすほどだが、反動も大きい。

   

   伏井出ケイが最も変身した融合獣であり、ストルム器官によって戦う度に強化された。

   ……まぁ、この辺りから彼のあだ名が「かわいそうな人」になったのだが。

   6つのウルトラカプセルの力を取り込んで、巨大化した姿は「エボルト」と呼ばれる。

   裏切り者のマスターではない。

 

   宇宙人たちの切り札。

   ウルトラマンタイガを見る限り、融合獣は割と作れるらしい。

   今作のエボルトはベルから少ししか光を奪えなかった劣化品。

 

 

 

 

邪悪生命体・ワロガ 

身長:66M(メドル)

体重:5万t 

初登場:ウルトラマンコスモス第13話「時の娘 前編」

 

解説:赤い単眼と様々な機能のある大きな腕が印象的.

   光を嫌い、夜間に活動する。

   腕から放たれる『アームズショット』とテレポートが脅威。

   

   ウルトラマンコスモスのトラウマ製造機。

   邪悪生命体の名前から、宇宙人ですらないとの説もある。

   コスモスの変身者であるムサシを嵌めるための作戦はどれも外道。

   

   ムサシは怪獣との共存を訴える一方、宇宙人には厳しいといわれるが、

   その原因がこいつではないかと言う考察もある。

   コスモス世界の宇宙人はどれも洒落にならない外道だというのもあるだろうが。

 

   コスモスの怪獣は多くが共存可能。

   それは、ゼノスと出会ってないこの段階では早すぎると苦労しました。

 

 

 

 

 

狼男・ウルフ星人

身長:1,87~57M(メドル)

体重:90kg~1万9000t 

初登場:ウルトラマンレオ第17話「狼男の花嫁」

 

解説:吸血鬼と狼男を足した様な見た目.

   変身能力があるが、血に飢えると元の姿になる。

   月を見ると狂暴化するなどまさに伝承の狼男そのものである。

   

   女性の血を好み、20歳以下の若い女子を狙う。

   体操選手の体に憑依し、その技を会得していた。

   

   なぜか等身大と巨大化時で姿が異なる。

   等身大だと狼らしい姿。

   巨大化時はむしろ蝙蝠に似ている。

   作ったスーツがアクションに不向きだったのだろうか?

 

   『ブラストショット』の憑依した者だけ攻撃するシーンの再現のため選出。

   ワロガと組んでベルを強襲しました。

 

 

 

 

友好宇宙人・ファンタス星人 

身長:2M(メドル)

体重:180kg 

初登場:ウルトラマン80第27話「裏切ったアンドロイドの星」

 

解説:岩のような肌に機械が取り付けられた不気味な人型.

   光線銃を主武装とする。

   

   正体は本当のファンタス星人が造った労働用アンドロイド。

   人間を見下し、感情を持つ存在を奴隷にしようとしている。

   ファンタス星人を滅ぼした後、その名を騙り地球人を嵌ようとした。

   

   視聴者には悪役すぎる見た目で、敵だとすぐばれた。

   地球人に似せた暗殺部隊もあるが、あまり強くない。

   UFOが変形したロボット兵器、ロボフォーが切り札。

 

   他の宇宙人を見下しており、

   最期は持ち前の傲慢さでワロガの怒りを買った。

   

 

 

 

-モンスター紹介-

 

 

レイダーフィッシュ

解説:地下水路に生息する魚型モンスター。

   本来は下層に出現するモンスターだが、ダンジョンから流れてきてるらしい。

   地上のモンスターは弱いが、それでも一般人には十分脅威。

 

 

ブラッドサウルス

解説:セオロの密林に生息する大型級のモンスター。

   30階層のモンスターだがこちらも劣化しており、上層レベル。

   ぶっちゃけ首の長いあの恐竜。

   地上のブラッドサウルスが産む卵は『二属性回復薬』の材料。

 

 

 

〇第4話 「小遠征-エクスピディション-」

 

登場怪獣

登場モンスター

-怪獣紹介-

 

豪烈暴獣・ホロボロス

体長:44M(メドル)(四足歩行時56M(メドル)

体重:4万4000t

初登場:ウルトラマンR/B第10話「湊家の休日」

 

解説:獅子のような見た目の怪獣。

   ロッソとブルが合体したウルトラマンルーブと互角の身体能力。

   両手の爪、『ホロボロスクロー』のラッシュである『メガンテクラッシャー』が必殺技。

 

   新世代(ニュージェネレーション)ヒーローズでは珍しい四足歩行の怪獣。

   R/B本編で度々湊兄弟の壁として登場した本怪獣だが、そのバックボーンは不明。

   あるいはO-50から青い瞳の少女が授かった一形態なのかもしれない。

 

   四足歩行の時と、二足歩行の時がある。

   クリスタルの絵からして本来は二足歩行なのだろうか?

   

   ダンジョンに現れた個体はモンスターと縄張り争いを繰り広げた。

   異なる人類の敵同士の戦いはクロスオーバーの楽しみの一つですよね。

 

 

 

 

石化魔獣・ガーゴルゴン 

身長:55M(メドル)

体重:5万5000t 

初登場:ウルトラマンX第9話「星の記憶を持つ男」

 

解説:蛇の様な顔の口の中に目があるという、不気味な怪獣。

   ギリシャ神話の怪物であるゴルゴーンのように見た相手を石化させる。

   というか、X世界だとゴルゴーンの伝承はこいつがモデルだと思われる。

   

   本作ではなかったが人間の言葉を解し、自ら発信することも可能。

   しかし、X本編でその知能は人を脅かすことにしか使われなかった。

   怪獣との共存を理想とする大地もガーゴルゴンとの共存は試みなかった。

   

   非常に強力な怪獣だが弱点もある。

   実はこいつ、石化光線に対する耐性が皆無なのである。

   なので、必殺技を反射されると自分の光線であっさり石化する。

 

   冒頭で示唆したこいつの犠牲者ですが、

   こいつが爆散すると同時に石化は解除されました。

   その時の冒険者たちは見た怪獣のことを話しましたが、幻覚と思われているようです。

 

 

 

 

 

怪宇宙人・ヒマラ 

身長:2~57M(メドル)

体重:100kg~4万3000t 

初登場:ウルトラマンダイナ「怪盗ヒマラ」

 

解説:黒い道化師のような宇宙人.

   テレポート、怪光線、異空間『ヒマラワールド』の創造が能力。

   赤いシートでくるむことで、物をヒマラワールドに転送できる。

   

   美しいものを盗むことが趣味。

   しかし、暴力的で野蛮な侵略行為は好まない。

   紳士的な態度や口調が特徴的な宇宙人。

   

   ……これだけ見れば威厳たっぷりの大物だが、いざ戦闘になると弱い。

   それまでの得体の知れなさが見事に霧散する。

   ダイナはこういうギャグ回がよくある。

   それでも人間相手なら十分凄い宇宙人なのだが。

 

   今作では【ヘスティア・ファミリア】と共闘する展開に。

   怪獣や宇宙人を単なるやられ役で終わらせたくないと思っていたら、ベルが交渉し始めた。

   おかげで第4話はダンジョン成分多めの話になりました。

 

-モンスター紹介-

 

 

ジャック・バード

解説:足の素早い鳥型モンスター。

   超レアモンスターでドロップアイテムが高値で売れる。

   最低100万ヴァリスと言っても分かりにくい人はじゃが丸くん10万個分と換算するといい。

 

 

ミノタウロス

解説:ご存知主人公の永遠の好敵手(ライバル)

   レベル2が複数で倒すモンスターであり、中層でもダントツの強さを持つ。

   追い込まれると四足歩行になり、突進攻撃を仕掛けてくる。

   作者はアニメのミノタウロス戦で小説購入を決意した。

 

 

バグベアー

解説:18階層から出現する熊型モンスター。

   エイナにより講習を受けているベル曰く「速いミノタウロス」。

   アイズとかはあっさり殲滅させているが、レベル3でも危険な相手。

 

 

ライガーファング

解説:18階層から出現する虎型モンスター。

   アニメ二期で春姫の身代金を稼ぐときに戦っていた相手。

   その牙は命の刀である『虎徹』の材料。

 

 

デッドリー・ホーネット

解説:22階層に出現する蜂型モンスター。

   レベル2を毒針で一撃必殺することから『上級殺し(ハイ・キラービー)』の異名を持つ。

   冒険者の下層進出の壁。




 スマホだと入力速度が落ちる……


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第5話「夢想-ナイトメア-」
a-会議のちサポーター


 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。


『怪獣や宇宙人をこの世界に連れてきた存在、ヤプール……』

 

 『ストーンフリューゲル』の中、真っ暗な空間でベルは宇宙人たちやヒマラが示唆した黒幕について考えていた。

 

『僕の使命はヤプールを倒すこと……?ヤプールはどこに?どうやって倒せばいいんですか?』

 

 目の前の巨人、ウルトラマンに問いかけるが、答えは帰ってこない。

 

『……どうして僕なんですか?』

 

 ここは冒険者の街オラリオ、ベルより強く賢い者など幾らでもいたはずだ。

 その中から自分が選ばれた理由がどうしても分からない。

 そう問いかけてもウルトラマンはなにも言わない。

 静かにベルを見つめているだけだ。

 

 静寂の中でふと、この巨人のことも考えた。

 不思議な存在だと思う。

 ベルは与えられた力に恐怖することはあっても、その力を与えた存在であるウルトラマン自体には恐怖を感じたことはない。

 

(どうしてだろう?この光は悪いものじゃないって神様が言ったからかな?)

 

 彼が僕に語り掛けてきたのは『エボルトラスター』を授けたあの時だけ。

 その後は何も語り掛けては来ない。

 ふと、おじいちゃんの言葉を思い出した。

 

──ベル、他人に意思を委ねるな

 

──これはお前の物語だ。

 

 思い出と目の前の巨人が重なる。

 もしかしたら、この光は見守っているだけなのかもしれない。

 決して僕の選択に干渉せずに、僕の信じる道を歩ませようとしているのだろうか。

 だとしても、もう少し融通を利かせてほしいが。

 

 意識がこの空間から離れていく。

 現実で『ストーンフリューゲル』による治療が完了したようだ。

 目覚めの時を待つ。

 そんな僕をウルトラマンは最後まで静かに見つめていた。

 

 

 

 

 

 僕が変身してから、【ヘスティア・ファミリア】ではオラリオで流れる噂を報告し合うのが日課になっていた。

 人のうわさと言うのは馬鹿にできない。

 これまで戦ってきた怪獣や宇宙人、その多くは人々に知られていないが、類似した噂はいくつもあるのだ。

 

「千草殿から聞いたのですが、最近起きた竜巻の中に大きな鳥の影を見たという話が増えているようです。」

 

「竜巻っていうと壁外か。ダンジョンだと上層から最近モンスターが減っているらしいな。掲示板の前で冒険者たちが稼ぎが少ねぇって嘆いてたからな。」 

 

 このような情報収集だと僕は無力だ。

 この町に来て日が浅いから人脈作りが不十分だし、そもそもコッソリ相手から情報を抜き出すなんて高度なことできない。

 シルさんなんかにはいつもしてやられているし……

 

「私の気のせいかもしれませんが、壁外の噂は減っている気がします。」

 

 春姫さんの言葉に僕も同意する。

 『セオロの密林を徘徊する怪人』こと、ワロガやウルフ星人を倒してから壁外の噂は激減している。

 皆無というわけではないけど、ダンジョンの噂が増加している今、壁外に目新しい噂は少ない。

 

「ヤプールという黒幕がこれらの元凶と考えると、噂の多いダンジョンに潜んでいるのかもしれません。」

 

 リリはこの騒動はヤプールの尻尾を掴むきっかけになると睨んでいる。

 そうなると、どの階層にいるのかが問題だ。

 【ヘスティア・ファミリア】単独で潜れる階層はそう深くないのだから。

 

「ヘファイストスのところでボクも色々探っているけど、そろそろ限界だ。眷属(こども)たちも神々も何かあるって勘づき始めた。いつ、ウルトラマンのことがばれても不思議じゃない。」

 

 神様の言葉は僕たちも薄々感じていることだ。

 今はまだ、闇派閥(イヴィルス)の策略だとか言われていて都市伝説扱いだけど、面白いこと好きの神様たちによる捜査も始まっているらしい。

 普段は軽いノリの神様たちだけど、彼らには下界の住人たちの嘘を見破る力がある。探りを入れられたらお終いだ。

 

「ボクたちは他の【ファミリア】が怪獣に気が付く前に、ヤプールなる黒幕を見つけ出し、撃破する必要がある。」

 

 神様の言葉に僕たちは頷く。

 そして、リリは地図を広げて今後の行動を説明し始めた。

 

「今後は顕著な変化がある6階層から9階層を中心に調べていきます。」

 

「大丈夫かな?僕たちのいつも活動している階層より浅いから違和感を持たれるんじゃ……?」

 

 僕たち【ヘスティア・ファミリア】は戦争遊戯(ウォーゲーム)から良くも悪くも注目の的だ。

 不自然な行動でほかの【ファミリア】から気づかれるのではないだろうか?

 

「名目上は春姫様やリリの育成のための経験値稼ぎ(レベリング)とします。春姫様が【ファミリア】に加入してからまだ日が浅いですから、波長合わせだと思われるはずです。」

 

 リリは僕の質問にスラスラと答えた。

 ……やっぱり、リリは凄い。

 こんな右も左も分からないような状況なのに道筋を示してくれる。

 

「怪獣の大きさを考えても。ダンジョンで攻撃を仕掛けてくる可能性は低いでしょう。ほとんど被害がなく、怪獣の存在が未だに噂で留まっていることが、黒幕が目立ちたがってないことの証拠だとリリは考えます。」

 

 そこで、リリの表情が僅かに曇った気がした。

 

(リリ?)

 

「万が一、襲撃があったとしてもパーティ全員で行動します。変身したベル様を援護するには十分でしょう。」

 

 次の瞬間にはリリの表情は普段通りのものになっていた。

 ……気のせいだったのかな?

 釈然としない気持ちでいるとリリが僕を見た。

 

「ベル様は『エボルトラスター』による敵の探知をお願いします。ヤプールを早期に見つけるにはウルトラマンの力が必要です。」

 

「う、うん。分かった。」

 

 結局、明日のダンジョンに備えて、今日は体を休めるように神様がまとめたことで、今日はお開きとなった。

 

 

 

 

「ベル君。ちょっといいかな?」

 

 夕餉(ゆうげ)の後、部屋に戻ろうとした僕は神様に呼び止められた。

 みんなが思い思いに過ごす中、僕は神様の部屋で二人で話し合う。

 

「ベル君も気が付いていると思うけど、サポーター君が色々考えこんじゃっているみたいなんだよねぇ」

 

(!神様もリリの様子に気が付いてたんだ。)

 

 僕の一瞬だけしか分からなかった違和感じゃ確信出来なかったけど、神様がそう言うなら間違いじゃなかったんだろう。

 でも、それならなんでそれを僕に話したんだろう?

 二人きりになるならリリを呼んだほうが良かったんじゃ?

 

「『なんで僕が呼ばれたんだろう~』って顔だね。相変わらず鋭いのか鈍いのか分からないなぁ……」

 

 はあああ~とため息をつかれた。

 ぼ、僕なにかしちゃったかな……

 

「ボクが行くよりベル君が話したほうがサポーター君のためになるからだよ。」

 

 敵に塩を送るみたいで気は進まないけどね!と、頬を膨らませながら神様はそっぽを向きながら言った。

 確かに僕は団長だし、なんでも神様に頼る前に自分たちでやるべきなのかも。

 

「あ~分かってないなこれは……安心すべきか、ガックリするべきか……」

 

 神様の反応に首をかしげる。

 結局、善は急げだ!と神様に部屋を追い出された。

 

 

 

 

 リリの部屋の前まで来たけど、なんだか緊張するなぁ……

 でも、いつまでもオタオタしてたら日が暮れる。

 腹を括ってドアをノックした。

 

「リリ?今いい?」

 

『ベル様?えぇと、どうぞ……』

 

 リリの部屋に入ると、リリは不思議そうに僕を見た。

 まあ、僕は女の子の部屋に気軽に遊びに来たことないし、不思議に思われても仕方ないけど。

 

「えっとね、神様がリリのこと気にしてる。みたいだったから、何かあったのかな……って」

 

 何とかリリの悩み事を聞こうと口を開いたけど、難しい。

 僕は相談事とかしてあげることがないから上手い聞き方が思いつかない。

 ダメだなぁ、僕。

 

「………あぁ、またヘスティア様に気を使わせてしまいましたか……」

 

 やっぱりお節介ですね、とリリは苦笑した。

 どうやら、部屋に来る前の僕と神様のやり取りを察したようだ。

 

「こんな時間にごめん……僕も気になったから来ちゃった。」

 

「いえ、リリこそ心配をかけて申し訳ないです。困ったら頼ると言う約束を忘れてました。」

 

「うん、あのときも言ったけど僕、馬鹿だから言ってもらわないと分からないんだ。……だから、遠慮なく言ってよ。」

 

 本当に情けないけど、話して貰わないことには何を言うべきかも分からない。

 リリは、本当に大したことじゃないんです、と前置きして語りだした。

 

「怪獣との戦いが激しくなるにつれて不安になって来たんです。リリは何の役にもたたないと」

 

「ヴェルフ様は魔剣を打てます、命様には斥候(スカウト)としての技能、春姫様にも強力な魔法があります。」

 

 【ヘスティア・ファミリア】はレベルこそ低いが、リリ以外はある分野においては髄を許さない技能を持つ。

 それに対してリリは荷物持ち(サポーター)だ。怪獣との戦いではあまりにも無力だ。

 

「リリが()()なのは仕方のないことです。ですが……」

 

 羨む心がどうしても出てくる。

 ……正直、考えたこともなかった。

 これまで、リリには何度も助けられたから、リリが言うように怪獣との戦いで頼りにならないなんて考えたこともない。

 

(たぶんこれは、リリのずっと持ってた本音だ。)

 

 リリの幼少期はお世辞にも恵まれていたとはいえない。

 過酷な盗賊時代の経験が、みんなに対する劣等感として表れたのではないだろうか。

 そして、それは怪獣という未曾有の危機を前に漏れ出てしまっている。

 

(今、安易な言葉を口にしてもリリには届かない気がする。)

 

 心の問題は根深い。

 今必要なのは理屈立ててリリを諭すことじゃない。

 辛いときに傍で寄り添うことだ。

 

「リリ、大丈夫だから。」

 

 そう言って彼女の小さな手を包み込む。

 彼女はなにも言わずに、ぎゅっと手を握り返した。




 終わりが見えてきました。


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b-花

 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。


『おのれぇ……忌々しいウルトラマンめ……』

 

 時間の流れもあいまいな異次元の狭間で、老人のようなしわがれた声が木霊する。

 黒い影がその姿を揺らめかせると、これまでこの世界で起きたウルトラマンの戦いが浮かび上がった。

 甲冑のようなウルトラマンの姿を憎らしげに睨み付けると、乱暴に映像をかき消した。

 

『我が大いなる計画に気がついているのは、このウルトラマンのみ。しかし、よりにもよってこのウルトラマンは……』

 

 たかが一体のウルトラマンならば、どうにでもなる。

 しかし、このウルトラマンは()()()では済まない力を秘めているのだ。

 

『しかし妙だな。()()ウルトラマンならば、儂に感知できる光の力がこの程度のはずがない。試してみるか。』

 

 影が手を翳すと突如ダンジョンの空間に亀裂が走り、中から怪獣が現れた。

 

『行けぇいファイブキング!冒険者共を血祭りに上げるのだ!』

 

 哄笑とともに亀裂は空間から消え、怪獣だけが残された。

 

 

 

 

 ダンジョン8階層。

 神様の刃(ヘスティア・ナイフ)を頂いたばかりの時期、そして、リリと出会ったばかりの時期に主戦場としていた階層。

 まだ2カ月程度のことなのに、ここに来ると久しぶりに感じるのはオラリオで起きたすべての出来事が濃密だったからだろう。

 

「冒険者様の姿が見えませんね……」

 

 春姫さんの言葉が薄暗い空間に響いた。

 最近の不穏な噂の数々に、それを裏付けるかのように姿を見せないモンスターたち、そのせいで冒険者は活動を自粛気味なのだろう、エイナさんも最近の魔石収集量が低下しているとこぼしていたっけ。

 

「しかし、噂の多い階層が上層ばかりというのは不可解です。もっと深い階層ならばこうして人々の噂になどならなかったはずですが……」

 

 ニードルラビットやキラーアントを処理しながら、命が疑問を口にした。

 確かに妙だ。

 正直に言って、18階層以下の場所で怪獣が出現したら僕たちだけで対処できなくなる。

 よく見積もっても中堅以下の【ヘスティア・ファミリア】が活動できる程度の階層で怪獣は目立ちすぎる。

 

「或いは怪獣を隠蔽する気はないのかもな、()()()()()()()()()()隠したいようだが……」

 

「出現頻度から言って怪獣の存在はいずれバレます。そうなれば芋づる式に宇宙人や黒幕の存在にもたどり着くはずです。わざわざリスクを負う意味分かりません。」

 

 怪獣の存在は知られてよくて宇宙人はダメなんて、確かに変な動きだ。

 怪獣を知られることがどう黒幕のメリットになるのか分からない。

 そんな風に会話をしながら進んでいると、『エボルトラスター』に反応があった。

 

「!みんな、下の階層から怪獣の反応が‼」

 

 この感じは多分10階層ぐらいだろうか?

 当初の9階層までと言う目標と少しずれたけど、確認しないわけにはいかない。

 僕たちは急いで下層に通じる階段に向かった。

 

 

 

 

 奇しくも僕の初変身の舞台でもあった霧の都には、既に怪獣の鳴き声が響いていた。

 

「この鳴き声、何体いるんだ……?」

 

 ヴェルフの呟く通り、霧の向こうからたくさんの鳴き声が聞こえていて、この先に待つ怪獣が複数体であると推察できた。

 いや、あるいは……

 

「いいえ、この声の重なり方には覚えがあります。」

 

 春姫さんがヴェルフの言葉を否定する。

 獣人の感覚はヒューマンとは一線を画す。

 僕たちにはわからないような微細な情報も、彼女は見逃さない。

 

「これは私たちが縦穴で戦った怪獣のように、一つの地点から重複して聞こえてきます。」

 

「つまり、あの時の様な合成獣(キメラ)のような怪獣ですか。」

 

 おそらく、リリの推測は正しいのだろう。

 春姫さんも無言で頷いた。

 

「一体ならばやりようはあります。いつも通りの体制でベル殿の補助に徹しましょう。」

 

「いえ、18階層では明らかに何者かによる横やりを入れられています。今回もそれがある可能性は高いでしょう。」

 

 命の提案にリリが待ったをかける。

 僕は前回気が付かなかったけど、あの時の怪獣は空間に生えた亀裂から出現したらしい。

 もう一体の怪獣との戦闘中に、ウルトラマン()の背後にできたそれが、僕たちの敵対勢力によるものであることは明らかだった。

 あんな直接的な介入が、あれきりなんてことは考えにくい。

 

「今、この場にいない怪獣の出現を前提に動きましょう。リリたちは霧に紛れてウルトラマンの援護と奇襲への警戒を行います。ベル様も奇襲の可能性を考慮して戦闘を行ってください。」

 

 リリはテキパキと役割分担を決めていく。

 春姫は魔法と魔剣による援護を行うので、ウルトラマンの補助。

 ヴェルフは怪獣がサポーターを狙った際の護衛を兼ねた、魔剣による援護。

 命はスキルやランクアップして強化されている感覚を生かした、新たに送り込まれる怪獣の探知。

 

「………リリはどちらをやるにも力不足ですから、荷物持ち(サポーター)として臨機応変にアイテムやポーションの補給を行います。」

 

 この瞬間、リリの表情が曇った気がした。

 まだ、昨日言ったことを気にしているのだろうか。

 確かに、サポーターは目立った活躍こそしないがパーティーの生命線だ。

 縁の下の力持ち(リリ)を軽んじる人なんてこのパーティーにはいないのに……

 

(認めていないのはリリ自身だけ。どうすれば分かってもらえるかな?)

 

 結局、今は何も言えず、僕たちは怪獣の声が聞こえるほうに向けて進んだ。

 

 

 

 

 やがて、霧の向こうに青い光がいくつも見えた。

 近づいていくと、それは徐々に怪獣の輪郭を持っていく。

 やがて、霧の中でもなんとか目視可能な距離にたどり着いた。

 現れた怪獣はリリが予想した通り、色々な怪獣が()()ぎされたような歪な姿。

 体中に様々な怪獣の眼があり、それが尚のことこの怪獣のアンバランスさに拍車をかける。

 きっと、黒幕によって戦うためだけに生み出されたであろうその怪獣の声は、ベルには生贄にされた怪獣たちの悲鳴のように思えた。

 

(もしかしたら、僕が最初に見た怪獣は、こうやって合成の為の生贄にするために育てられていたのかも……)

 

 恐ろしい想像に身を震えさせる。

 黒幕にどんな思惑があっても、これは許されない。

 こんな命を冒涜するようなこと、絶対にダメだ。

 

「みんな離れていて‼」

 

 激闘を予感し、パーティーを離れさせる。

 そして、『エボルトラスター』を抜刀したベルは光に包まれた。

 

「はああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 再びウルトラマンが白き世界に降り立つ。

 突如現れた敵にひるむことなく、怪獣は低い唸り声を上げる。

 

「シェエアア!!」

 

 ウルトラマンは目の前の異形にジャンプからの『アンファンスキック』をお見舞いする。

 それを怪獣ーーファイブキングは背中の翼を広げて飛行することで躱した。

 

『あんな継ぎ接ぎでも、空は飛べるのか!』

 

 ウルトラマンはキックの勢いのまま、スライディングのように地面を滑り、ファイブキングと距離を取った。

 一瞬の探り合い。

 ファイブキングは右手の鋏から、炎と冷気の合成光線を放つ。

 それを前転で回避するが、休む間もなく目の形をした盾からも光線が飛んでくる。

 『パーティクル・フェザー』で撃ち落とすが、貝殻を思わせるごつごつとしたドラゴンの兜を纏ったかのような顔から、無数の光弾を打ち出す。

 

『【ファイアボルト】!』

 

 負けじとウルトラマン(ベル)速攻魔法(ファイアボルト)で光弾を打ち落とす。

 目まぐるしく攻守が入れ替わる戦闘だが、【ヘスティア・ファミリア】は動じない。

 風の魔剣でファイブキングの射線をずらす。

 遠距離攻撃が飛び交うこの戦いで、その援護の効果は絶大だった。

 少しづつ、ファイブキングはウルトラマンの攻撃に押されていく。

 

「グガガアアァァァ!!ッ!!!!」

 

 自分の劣勢の原因が魔剣を打つ二人だと気づいた怪獣は、魔法の被弾も無視して額にエネルギーを集中する。

 二体の怪獣の破壊光線を混ぜ合わせた一撃は、たかが人間には過剰すぎる威力だ。

 

『ゴルメルバキャノン』

 

 ヴェルフと春姫を滅さんと迫る光の奔流。

 それに対し、『マッハムーブ』で二人の前に移動したウルトラマンは光の盾を翳す。

 

『サークルシールド』

 

 怪獣の必殺を懸命に押しとどめるウルトラマン。

 その背後に亀裂が走った。

 

「来ました!ベル殿!」

 

 命の警告に、全員が亀裂に注目する。

 どんな怪獣が現れるにしても、【ファミリア】全員が警戒しているこの状況で奇襲はさせない。

 現れるであろう敵への戦意を燃やすが……

 

『え……?』

 

 そこから出てきた予想外の姿に、皆絶句した。

 その怪獣の姿はこれまで戦ってきた存在からかけ離れていた。

 一言でその姿を現すならば「花」。

 ユリに似た黄色の巨大な花弁は、光弾が飛び交うこの戦場にはあまりにも似つかわしくない。

 

「植物型の怪獣……?」

 

 突然の出来事に巨大なユリの花に意識が集中する。

 その意識の隙間こそ罠だった。

 気が付くと、ダンジョンを覆う真っ白な霧の中に、不純物が混在していた。

 

(黄色い粉……?)

 

 それが、いつの間にかそこかしこに咲いていた小さな花から発せられる花粉だと認識すると同時に、リリの意識は闇に落ちた。




 ファイブキングの造形は凄いですよね。
 分かりやすく合体怪獣!って感じで。


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c-アウェイクニング

 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。


『みんなが……!?』

 

 突如意識を失った【ヘスティア・ファミリア】の団員たちの姿に動揺するウルトラマン(ベル)

 勢いが削がれた巨人に、ファイブキングは反撃とばかりに頭部から光線を発射しつつ、鋏で袈裟斬りに切り裂いた。

 

「ヘアァァァァ!!!!」

 

 ウルトラマンの胸の傷から光が吹き出す。

 このままではまずいと、ウルトラマンは距離を取るとジュネッス・ホワイトに変化した。

 敵に勢いを取り戻させないように、自分に有利な場所(メタフィールド)を展開するが……

 

『なんだ……?薄い?』

 

 ウルトラマンの展開する結界はいつもの力強さはなく、オーロラの先には覆い隠されているはずのダンジョンの光景が透けていた。

 

『それにメタフィールドにいるのに力が沸いてこない!?』

 

 度重なる変身

 生命力を削るジュネッス・ホワイト

 英雄願望(アルゴノゥト)の多用

 

 幾多の怪獣たちとの死闘の中で、ベルの体は既に限界に近づいていた。

 二大怪獣に追い詰められる。

 彼の命運を暗示するように、オーロラのカーテンが揺らめいた。

 

 

 

 

 夢を見る。

 父がいて、母がいて、暖かな笑顔のある、ありふれた家庭。

 リリの服はいつの間にか可愛らしい少女服に変化していた。

 夢の中の景色はとても温かい。

 

 何でもないその光景に思わず涙が溢れた。

 大丈夫か?と父が心配そうに顔を寄せる。

 怖くないよ、と母が慈愛に満ちた笑みを向けた。

 

──あぁ、これは夢ですね

 

 上手く回らない頭がぼんやりと答えにたどり着く。

 

 突如出現した怪獣、ギジェラ。

 百合の花のような姿の怪獣は、ある特徴がある。

 その体から放たれる花粉を吸った者を幸せな夢に閉じ込めるのだ。

 人間は苦しみに耐えることはできても、幸福には抗えない。

 かつてギジェラが出現した世界では、穏やかな夢にすべての人が囚われ、穏やかな破滅を迎えたという。

 

 そんな、悪魔の夢に気づくことができたのは、一重に恩恵(ファルナ)によって強化された心身のお陰だろう。

 

(でも、もうこのままでいい……)

 

 それでも誘惑には抗えない。

 かつて願った幸せ、手に入らなかった家族がここにいる。

 

 この世界の両親はリリを見てくれる。

 この世界のリリは綺麗なまま、自分を嫌いにならなくていい。

 

 溺れてしまう。

 脳をしびれさせる偽りの温かさが、リリの心を侵していく。

 

 泣き虫の少女がこの世界に引き込まれる。

 卑怯者の少女が警鐘から目を背ける。

 

 塗りつぶされていく思考。

 抗う気力をそがれ、痛みの記憶が遠ざかる。

 心が、何も知らない少女に回帰していく。

 優しい世界に完全に取り込まれそうになった瞬間、泥だらけの少女が、あの日の願いを忘れたのかと叫んだ。

 

「────────」

 

 思い出すのはあの日の涙。

 誰も必要としなかった泥だらけの少女に、差し出された手。

 

『サポーターさん、サポーターさん、冒険者をお探しですか?』

 

『混乱しているんですか?でも、今の状況は簡単です。半人前の冒険者が自分を売り込んでいるんです。』

 

 きっと、その言葉は彼にとってはそう大したことではなかったのだろう。

 彼は自分の中の思いをそのまま伝えただけ、でも、その言葉だからこそリリは救われた。

 自分自身にすら認められなかった少女は、彼にだけは求めてもらえたのだ。

 

『また僕と一緒にダンジョンに潜ってくれないかな、リリ』

 

 リリルカ・アーデは卑怯者、盗賊めいた悪行でその身を汚し続けた薄汚れた小人族(パルゥム)だ。

 それが彼女がこれまで歩んだ半生だ。

 今のリリにはそうした汚れた面がある事実は言い逃れようのない事実だ。

 しかし、ベルはそんな彼女を受け入れた。

 ならばこの夢に逃げて、現実を捨てるのは違う。

 

(リリは……誓ったんです。どんなことがあっても、リリだけはあの人を見捨てないって!)

 

 熱く、背中が発熱する。

 不滅(ヘスティア)の炉に火を汲べろ。

 あの日の思いを再び燃やせと自分に叱咤する。

 

 気が付けば、リリは荷物持ち(サポーター)の装いに戻っていた。

 耳を澄ませば微かに戦いの音が聞こえてくる。

 リリは今も戦う少年を目指し、暖かな光景に背を向ける。

 夢の中の優しい両親は、戻ってくるように必死に叫び続ける。

 だけど、リリは足を止めなかった。愛する少年(ベル・クラネル)がいるのはここではないのだから。

 

「………さようなら」

 

 最後に、振り向かずにかつての願いに別れを告げて、彼女は現実に帰還した。

 

 

 

 

 目を覚ますと、鈍い頭の痛みと全身を覆う気怠さに呻いた。

 まるで麻薬の様なものだと舌打ちしたい気持ちを抑えて、近くの仲間たちを確認する。

 昏睡する彼らが目覚める気配はなさそうだ。

 まずは仲間たちの目を覚ます。

 今は緊急事態、起こし方が手荒なことには目を瞑ってもらう。

 リリはバックパックから袋を取り出すと、それを一人ずつ嗅がせて回る。

 

「うおぇ!!!!」

 

「ふぎゅっ!?」

 

「こんっっ!!?」

 

 目を覚ました仲間たちは匂い袋(モルブル)の強烈な刺激臭に目を白黒させる。

 あまりの臭さに、先ほどまでの夢も忘れて悶絶していた。

 

「うぅ……こ、ここは……?」

 

 真っ先に正気に戻ったのは耐異常のアビリティを持つ命だった。

 自分が幻覚を見せられていたことに気づき、緩んでいた気を引き締める。

 ヴェルフと春姫も徐々に状況が理解できたのか、落ち着き始めていた。

 

「どうやら状況を説明する必要はないみたいですね。リリたちはこれから、あの花を対処します。」

 

 一足先に現実に戻っていたリリは、仲間たちが悶絶している間に作戦を考えていた。

 自身の考えをパーティーに伝えると、ヴェルフたちは彼女の指示に従い行動を開始した。

 

 

 

 

 コアが赤く点滅しだす。

 ファイブキングだけでなくギジェラまで攻撃に参加し始めると、いよいよウルトラマンは追い詰められる。

 ファイブキングの光線を『サークルシールド』で防いでいるが、その足は徐々に後退していく。

 

『このままじゃっ……!』

 

 もう時間はない。

 一か八かの賭けに出るべきだ。

 ベルは腹を括ると、残る力をすべて【英雄願望(アルゴノゥト)】に集中させようと決心した。

 体力と精神力(マインド)を消費する鈴の音を奏でようと光を収斂させようとしたその時、ギジェラに颶風が叩きつけられた。

 

「ギャアァァァァ!!!!」

 

 ギジェラは痛みで叫ぶと、風を起こした人間たちに殺意を向ける。

 

(リリたちが起きた?でも危ない!)

 

 目標を変えたギジェラの様子に、ベルは焦る。

 蓄力(チャージ)なんてしてる場合じゃない。すぐに助けないと、と仲間に向かって進む怪獣の進路に割り込もうとするが、

 

「────────」

 

 力強くウルトラマン(ベル)を見据えるリリの目を見て、彼女たちが無策ではないと悟る。

 なら、信じよう。

 拳を握って沸き上がる不安を押し殺す。

 

 ギジェラをリリたちに任せて、ベルは間違っても流れ弾が行かないように、ファイブキングとの戦闘を再開した。

 

 

 

 

 

 ドスン、ドスン、と馬鹿みたいに大きな足音が近づく。

 下手な建物より巨大な体を揺らしながら、ギジェラが迫る。

 ランクアップを果たしていない矮小な体が泣き言を言いそうになるが、精一杯の勇気を振り絞ってリリは風の魔剣を振るった。

 

「ヴェルフ様にレベルブーストを! 」

 

 しかし、魔剣という強力な遠距離攻撃の手段があるリリはまだましだ。

 ランクアップにより高いステータスを誇るヴェルフと命は、あの巨体相手に接近して注意(ヘイト)を稼ぐ。

 一瞬のミスが生死を分ける。

 リリはヴェルフの技量では危険と判断し、春姫による強化を指示した。

 

「【ウチデノコズチ】‼」

 

 たが、それでも一時しのぎに過ぎない。

 針の穴を通すようなギリギリの戦いはいつ崩れてもおかしくない。

 

(それでも、あの場所に行けばこの植物型怪獣は簡単に倒せるはずっ……)

 

 あたりの花々が再び花粉をまき散らす。

 先ほどのような生還劇を何度もできるとは思えない。

 パーティーが花粉を吸わないように、風の魔剣を持つリリたちは麻薬じみた粉を吹き飛ばす。

 

(この魔剣もそろそろ耐久限界が近い。なら()()()()()。)

 

 目標の場所まであとわずか。

 ここからが正念場だと、リリは怪獣の側面に回り込む。

 そして、(ひび)が入った魔剣をクロスボウに番える。

 

 狙いは頭頂部。

 ヴェルフと命を潰すために姿勢が不安定になった瞬間がチャンスだ。

 

 人間たちの必死の抵抗に苛立ったギジェラが姿勢を低くしたことを確認し、リリは魔剣を射出した。

 黄緑色の魔剣は怪獣の皮膚に突き刺さると自壊し、暴風を生み出した。

 あまりの勢いに倒れるギジェラ。

 

「ベル様‼今です‼」

 

 リリの掛け声にウルトラマン(ベル)はファイブキングを蹴って距離を取り、ギジェラのいる場所を確認した。

 ふと、エイナに教わった座学の知識が脳裏をよぎる。

 10階層のある地点に湧き出る液体、すぐに気化するそれは火をつけると爆発する。

 油のような性質を持つそれに気付かずに魔法で引火させるパーティーも多いと、炎の魔法を使う僕に注意してくれたことを。

 

 瞬間、リリの策を理解したベルは砲声する。

 

『【ファイアボルト】‼』

 

 炎雷がギジェラに着弾すると、空気中で気化したガソリンに引火して炎が爆発的に燃え上がった。

 

「ギヤァァァァ!!!!?」

 

 瞬く間に炎に包まれるギジェラ。

 苦しむように身を捩らせ、せめて人間たちだけても殺そうと腕をあげるが、

 

『うああああぁぁぁぁぁっっ!!!!』

 

 ベルはファイアボルトの連射可能という利点をいかし、行動を封じる。

 魔法の勢いでギジェラは花弁を散らしていき、やがて絶叫すら爆発の音で掻き消された。

 

「……ァ……ァァァ……」

 

 息も絶え絶えといった様子のギジェラに、ウルトラマンは必殺の『クロスレイ・シュトローム』を繰り出し止めを刺した。

 

「グガアアアアァァァ!!!!」

 

 背中を見せたウルトマンにファイブキングは光線を放つが、ウルトマンはそれを『アームドネクサス』で打ち払う。

 しかしファイブキングはそれに構わず、五つの怪獣の力をすべて活用した一斉射撃・『カタストロフィススパーク』でウルトマンも人間たちもまとめて葬り去ろうとする。

 

(みんなはもう限界だ。今度は僕が頑張らないと‼)

 

 仲間の奮闘を受けて心を震わせるベルは、最期の力を振り絞ってファイブキングに突撃する。

 乱れ撃たれる光線は一撃でも人間数人を蒸発させるには十分だ。

 一発たりとも通さない。

 

 手を手刀の形に構え、迫りくる光を右手のみで切り裂き進む。

 やがて、『アームドネクサス』は受けた光線を纏い始めた。

 闇のエネルギーが徐々に青白い光に変換されていく。

 その輝きにファイブキングが目をくらませた瞬間、ウルトマンは渾身の打突を繰り出した。

 

『スピルレイ・ジェネレード』

 

 本来は受けた光線を光弾として跳ね返す技を、女傑(アイシャ)との戦いのときのようにゼロ距離で撃つ。

 ベルの技の一つである【ヴォーパル・ファング】をなぞって放たれた一撃はファイブキングの体を()()()()()()()

 

『!?なに、この感触……っ』

 

 その時、ベルは怪獣の感触に違和感を覚えた。

 ドロリ、とスライムのように崩れるファイブキングの体。

 あまりに不自然な出来事にベルはヒマラの言葉を思い出した。

 

(ヤプールは強力な怪獣を再現しようとしている……こいつらはその成果ってこと?)

 

 5体の怪獣を結合した何かが死滅したことで活動ができなくなったのだろうか、ファイブキングの顔が虚ろな瞳でウルトマンを凝視する。

 異様な光景にベルもリリたちも動けなくなるが。

 

「ッグ…アァァァ……」

 

 限界が来たウルトマンは片膝をつき、変身が解除される。

 耐え難い疲労感にベルはその場に倒れこんだ。

 

「ベル様!?」

 

 リリが慌てて駆け寄る。

 ちょっと疲れただけだからと、すぐに立ち上がるベルだったが誰もが気づく。

 

──もう、ベルは限界だと。

 

 

 

 

『フハハハハハ……やはりそうか!』

 

 戦いの一部始終を見届けた影……ヤプールは配下が倒されたというのに上機嫌だった。

 

『力を感じぬわけだ!()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

 変身者の【スキル】で上手く誤魔化していたが、これまでの戦いを分析した上で気づけた。

 ()()ウルトマンにしてはエネルギーが少なすぎる。

 力の上限が低すぎるのだ。

 

『奴がノアになれないのであれば恐れる必要はない。他のウルトマンが合流する前に叩いてくれるわ!!!!』

 

 ヤプールの背後には無数の怪獣たちがひしめいている。

 遂に最後の戦いの幕が上がろうとしていた。

 




 次回からいよいよ最終決戦!


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最終話「英雄-ウルトラマン-(前編)」
a-ダーク・レイド


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 荒れ狂う嵐を引き裂くようにウルトラマンが飛翔する。

 標的は竜巻を自在に飛ぶ鳥のような怪獣マガバッサー。

 ヤプールによって再現された魔王獣は、地球のエレメントこそ持っていないがその力は他の怪獣に決して劣らない。

 

 ウルトラマンと互角の空中戦闘能力を見せつけるマガバッサーは鉤爪でウルトラマンに襲いかかった。

 咄嗟に『アームドネクサス』で防ぐがその一瞬、ウルトラマンは空中に停止してしまう。

 

『しまった!』

 

 自らの失策をベルは悟るが遅い。

 嵐に巻き込まれたモンスター、ハービィーが無数の弾丸となってウルトラマンに襲いかかる。

 堪らず吹き飛ばされたウルトラマンのエナジーコアが点滅し出した。

 

 このままではまずいと、ウルトラマンは『マッハムーブ』で嵐から脱出する。

 

 尻尾を巻いて逃げ出したその姿を嘲笑うマガバッサー。

 しかし、ウルトラマンは安全な距離を取ると反転。

 【英雄願望(アルゴノゥト)】を蓄力(チャージ)すると、ジュネッス・ホワイトに転身した。

 コアゲージが勢い良く点滅するが、構わずエナジーコアに腕を当て、『アームドネクサス』に弓の弦を顕現させる。

 ウルトラマンの超人的視力が、嵐を高速で飛び回るマガバッサーを捉えた。

 

 アルテミスの射撃を脳裏に浮かべながら、必殺の一撃を解放する。

 

『アローレイ・シュトローム』

 

 僅か10秒の蓄力(チャージ)

 それでも光の弓は数多のモンスターを切り裂きながらマガバッサーに向かう。

 

「ギャッッッ!!!!?」

 

 閃光を視認したときには遅すぎた。

 マガバッサーは真っ二つに切断され、爆発。

 急激に終息しつつある嵐に残された羽が散っていく。

 

 確実に仕留めたことを確認したウルトラマンは地上に降りて変身を解いた。

 

「~~~ッッ‼」

 

 途端に激痛がベルを襲い、地面に倒れ込む。

 ヒュー、ヒュー、と乾いた音が唇から零れる。

 

(身体中が痛い……このままだと帰れないな……)

 

 ベルはなんとか懐から『ブラストショット』を取り出すと、銃型(ガンモード)に変形させて上空に発射口を向けた。

 

 引き金を引くとエネルギーが銃口から迸り、空から何かが召喚される。

 『ストーン・フリューゲル』

 あの日、ベルの夢に現れた石碑は色を纏って光輝く。

 光はベルを優しく包み込み、鳥のようなその物体に彼を吸い込んだ。

 

 『ストーン・フリューゲル』は再び飛翔すると、雲を突き破るほど大きな塔のある街、オラリオに向かい弧を描きながら向かった。

 

 

 

 

『すいません……もう、限界が近いみたいです。』

 

 『ストーン・フリューゲル』の中にある空間で、ベルは大粒の汗を滲ませながら目の前の巨人に詫びる。

 

 『アンファンスの状態だったのに、こんな早くに活動限界が来るなんて……』

 

 もとより人には過ぎた力だ、ノーリスクなんて考えていなかったが代償は想像以上にきつかった。

 

 多分、もう何回も変身できるだけの力は残されていないだろう。

 

(こんなことで皆を守れるのかな……また、あの時みたいに……)

 

 体が疲れていると心も参ってしまう。

 一度は振り払った弱音が甦る。

 アルテミス様を守れなかったときと同じだ。

 弱い冒険者はなにも守ることなどできずに、涙を流すことになる。

 

『急がないと……まだ戦えるうちに』

 

 ウルトラマンに見守られるベルはそう呟き、目を閉じる。

 少しでも力を蓄えるために。

 

 

 

 

 『竈の館』

 【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム) を制した際に、手にいれた【ヘスティア・ファミリア】のホームの中庭に安置された『ストーン・フリューゲル』をヘスティアは静かに見つめる。

 

 本来、全知全能の存在である神の力、アルカナムを使えばこの一件は簡単に解決するだろう。

 しかし、今のヘスティアは零能の身だ。

 戦い、傷つくベルの姿を見るたびに、下界のルールが憎々しく思える。

 

 神の勘が告げている。

 今回の敵は尋常なものではない。

 ウルトラマンの力を持つベルであっても、厳しい戦いになると。

 

「結局、ボクは君を見守って物語を綴ることしかできないんだ。」

 

 ベルが今も眠る『ストーン・フリューゲル』を慈しむように撫でる。

 

「ベル君、忘れないでくれ。君は一人じゃないんだ。」

 

 ウルトマンネクサスになる前から、彼の心に(よど)みがあることは分かっていた。

 それが、彼女の神友(しんゆう)であるアルテミスとの別離が原因であることも。

 

 彼女の死後、神々は禁忌を侵したベルを咎めることはなかった。どんなろくでなしの神であったとしても。

 ベルがアルテミスに与えた死は、彼女にとって何よりの救いだったからだ。

 しかし、今にして思えば神のその態度が彼の心を決定的に傷つけたのかもしれない。

 アルテミスを殺した彼はきっと罰を受けたかったのであろう。

 しかし、神々は誰も彼を非難せず、謝りさえした。重いものを背負わせて済まないと。

 

「………ねぇ、ウルトラマン。もしかしたら君はそんな傷ついたベル君だから選んだのかな?」

 

 ヘスティアはなんとなしにあの銀の巨人に尋ねた。

 当然、返事は帰ってこないかった。期待もしていなかったが。

 ただ、ポツンと浮かんだ考えを口にしただけ、だがそれが正解なのだろうと漠然とした確信を持つ。

 

 この光は自分が人間に影響を与えることを良しとはしていないのかもしれない。

 だから、与えられる力に疑問を持つベルが選ばれた。

 使命以外の理由で力を使おうとも思えない彼が。

 だとしたら残酷な話だ。彼は力を使うたびにアルテミスとの別離を思い出している。

 

(まぁ、ベル君を利用するだけ利用して、後は知らないっていう奴ではないみたいだけど。) 

 

 そんなやつでもヘスティアは“いい奴”だと感じた。

 ベルの中から感じる暖かな光のせいか、妙に充実しているサポートのせいか。

 あるいは初めて変身した時に聞いたという台詞(セリフ)のせいか。

 だけど、自分にも(おや)の意地がある。光だけにベルを任せるわけにはいかない。

 

「なぁ、ベル君。君たちは有限の時しか生きれない人間なんだ。神とは違う、不完全な可能性の申し子なんだ。なら、答えはもう見えているんじゃないかい?」

 

 ヘスティアは初めての眷属に問いかけ続ける。

 今のベルにこの言葉が届くかは分からないけど、ほんの僅かでも彼の物語の一助になることを願って。

 

 

 

 

 傷つき、療養するベル。

 しかし、ヤプールは彼が完治するまで待つことはなかった。

 

『やれぇい‼スペースビースト・ペドレオン!恐怖の宴を幕開け‼』

 

 老人の声が『竈の館』に響くと同時に3・4M(メドル)程の触手を付けたナメクジの様な怪獣が突如館の中に出現した。

 

「なんだ!?」

 

「何奴!?」

 

 レベル2のヴェルフや命が非戦闘員を庇いながら戦闘するが、数が多すぎる。

 一体一体は対処可能でも、群れで襲ってくるならば話は別だ。

 能力と数の暴力に押し潰される。

 

(いけません!リリたちだけではジリ貧です!?)

 

 生理的嫌悪感を掻き立てる異形の群れと、自分たちの戦力差にリリは顔を青くした。

 そして、暴れまわる怪獣たちのおぞましい叫びはヘスティアの耳にも届く。

 

「なんだ!?なにが起きているんだ!?」

 

 混乱するヘスティア。

 その前に発光する『ストーン・フリューゲル』から飛び出したベルが現れる。

 

「うぇ!?ベル君‼?」

 

 突然出現した少年に目を白黒させるヘスティアだったが、明らかに衰弱しきったベルを見て、思わず駆け寄った。

 倒れるように前に進もうとするベルをヘスティアが慌てて支える。

 

「っ神様!変身します!」

 

「な……そんな顔で何言ってるんだ!もう君は限界だろう!?」

 

 死人のように真っ青な少年にヘスティアは声を荒げるが、ベルはふらつきながらも『エボルトラスター』を抜刀した。

 

「くっ……あああああああぁぁあぁぁぁ……!!!!」

 

 等身大のままウルトラマンに変身したベルはジュネッス・ホワイトに変化すると、『メタフィールド』を展開した。

 この空間の強みはどんな状況であっても、自身に有利なフィールドに相手を引きずり込めるところだ。

 ペドレオンという脅威を一気に無力化できるこの力を使い、体勢を立て直すことは決して間違いではない。

 しかし、今回の相手は格が違った。

 いつもの小金の光に包まれた空間が、闇に塗りつぶされる。

 

『愚か者め!貴様の『メタフィールド』なぞこのヤプールがとっくに見切っておるわ!!』

 

 空中に投影された長い帽子が特徴的な人型。

 異次元人ヤプール

 ついに現れた黒幕にウルトラマンは警戒を強めた。 

 

『ヤプール……‼この怪獣騒ぎの元凶!どうしてこんなことを!?』

 

『単純なことだ!超獣を生み出すマイナスエネルギー、嫉妬や差別と言った負の感情が豊富にとれるこの世界で俺たちは光の国を滅ぼせるだけの力を蓄える!』

 

 あまりにも勝手な理由に和解は不可能だと判断する。

 敵からの奇襲から始まり、『メタフィールド』も塗りつぶされた最悪の状況だが、諦めるわけにはいかない。

 戦意を振り絞ってウルトラマンは構えた。

 

「シェア!」

 

『そのためにもまずは邪魔な貴様から始末させてもらう!』

 

 その言葉とともに、人影が手を上げるとウルトラマンの前の空間がひび割れた。

 そこには無数の怪獣。

 

 絶望的な戦いが始まる。




 ウルトラシリーズの終盤はみんなボロボロになりますよね。
 そんな彼らの姿はかっこいいけど、痛々しいです。


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b-悪魔のグンゼイ

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 怪獣の群れが迫り来る。

 真っ先に飛び出して来た宇宙人らしき黒い影は、鋭い槍さばきでウルトラマンの首を薙ごうとする。

 

──その名はダークルギエル

 

──銀河の覇者と対をなす、永遠の停滞を司る巨人である

 

 咄嗟に『アームドネクサス』で防ぐが、ベルはその力に驚愕する。

 

『っ、強い……!でも‼』 

 

 無理やり穂先を『アームドネクサス』で滑らせると槍を地面に突き刺し、足で押さえる。

 動きが止まったルギエルの懐を捉えたウルトラマンは『ソードレイ・シュトローム』を展開、袈裟斬りに切り裂く。

 光の剣が黒い体に触れた瞬間、その姿がスライムのようのドロリと溶けた。

 

「!?」

 

 巨人の傷口からドロドロに溶けたモンスターのものらしき死体が姿を見せる。

 それを見たリリはヤプールは様々な怪獣・宇宙人を再現しているというヒマラの言葉が頭を過らせた。

 

「怪獣だけじゃなくて、モンスターも材料にしているのですか……?」

 

 血の気が引いた。

 本来は人類の天敵であるモンスターが哀れだと思うほど、その所業は常軌を逸している。

 

『かつてザ・ワンと呼ばれた怪獣。その細胞を宿したスペースビーストには他の生物を吸収して進化する性質がある。』

 

 そんなベルたちの様子に気をよくしたのか、ヤプールが饒舌に語りだした。

 

『私はネズミや虫の様な矮小な生物を取り込んだだけで一角の怪獣を生み出せるこの細胞を利用し、モンスター共を生贄に数々の強豪怪獣たちを再現することに成功したのだぁ!!!!』

 

 ヤプールが解説している間にもダークルギエルのコピーは槍を振りかざし、イナゴの様な小型の怪獣であるドビシの群れがウルトラマンに襲い掛かる。

 あまりの物量に、捌けなくなると判断したベルは空中に逃れる。

 背後から迫りくるイナゴの群れを魔法(ファイアボルト)で焼き払い、地上のリリたちが魔剣で薙ぎ払うがその数は一向に減らない。

 

『この世界は実に役に立ったぞ!不安定な治安のおかげで、怪獣たちの噂は人間どもから豊潤なマイナスエネルギーを確保できた!これだけの力があれば、忌々しいウルトラの戦士どもを根絶やしにできる!』

 

 突如、ウルトラマンの足に蛇のような触手が絡みつく。

 地上では、ドビシたちが合体し深海魚の様な見た目の複数体の怪獣ーカイザードビシを生み出していた。

 カイザードビシは触手を勢い良く引き、ウルトラマンを地面に激突させようとする。

 

「ヘアアアァァァ!?」

 

 ウルトラマンは『パーティクル・フェザー』で触手を切断しようと左腕を突き出すが、カイザードビシは顔の眼からの光線で狙撃して阻む。

 為すすべなく大地に叩きつけられたウルトラマンは痛みに悶絶するが、殺気を感じて咄嗟に飛びのく。

 先ほどまでウルトラマンが倒れていた場所が音波攻撃で抉れる。

 新たに現れたのは漆黒の翼に赤い目が特徴のおぞましい姿の怪獣──ナイトファング。

 次々と現れる怪獣にウルトラマンは息を切らせ、エナジーコアが赤く点滅を始めた。

 

『豊富なモンスターが採れるダンジョン!全能の力を持ちながらそれを自ら封じる愚か者()ども!そしてほどほどの力を持ち、怪獣のテストに利用できる冒険者!』

 

 そんなウルトラマンに一斉に怪獣たちが襲い掛かる。

 【ヘスティア・ファミリア】は必死に魔剣で援護するが、空を飛び交うドビシたちがわが身を盾にして攻撃を防いでしまう。

 ウルトラマンは何とか応戦するが、カイザードビシたちによる触手攻撃が腕に絡み、足を抑え、首を絞めることで動きが封じられてしまう。

 そこを逃さず、ナイトファングは口から火球『ファングヴォルボール』を連射する。

 炎に包まれるウルトラマンが膝をつき、エナジーコアの点滅が加速していく。

 命や春姫は魔法による援護しようとしても、怪獣たちが波のように襲い掛かる現状では詠唱する暇もない。

 

『ここは理想の実験場だ!手始めに神どもを天界に送還した暁には、超獣たちの育成所として永遠に利用し続けてやろう!』

 

 絶え間なく激痛が襲い来る中、ベルは遠くなり始めた意識で思った。 

 やはりヤプールと和解することはあり得ない。

 あの存在は人の負の心を糧とするこの怪人は人類を蝕む癌だ。

 絶対に光の力を持つ自分が倒さなければならない。

 

『……おやおや、少し話している間に随分と苦しそうではないか?紛い物の光ではそれが限界だったか?』

 

『……?何を?』

 

 突如言われた言葉に咄嗟に反応できなかった。

 そんなベルの様子にヤプールは満足そうに次の言葉を口にする。

 

『本来、適合者(デュナミスト)が変身するウルトラマンは、神に等しい力を持ったウルトラマンノアに変身できるだけの潜在能力(ポテンシャル)がある。しかし、お前のそれはノアを模した模造品のさらに失敗作だ。』

 

 ウルトラマンノア?

 模造品?失敗作?

 なにを言っているんだ?

 

『理解する必要ない。重要なのはお前が持つ光は我を倒すだけの力は持たないということだ!』

 

 ヤプールの言葉に呼応するように、ダークルギエルは槍に闇を纏わせてウルトラマンを刺し貫く。

 

「ガッ、グ…アァァ……」

 

 ウルトラマンは呻きながらも、槍を掴んでダークルギエルを捉えると『コアインパルス』で吹き飛ばす。

 風前の灯と言ってもいいボロボロの姿だが、その目の輝きはまだ消えていない。

 死力を振り絞って前へ前へと進もうとする。

 カイザードビシたちが徐々に引きずられ始めるが、ヤプールは自分に向かってくるウルトラマンの姿を見ても余裕を崩すことはない。

 

『流石だベル・クラネル。(ちまた)を騒がせる【未完の少年(リトル・ルーキー)】の名は伊達ではないということか。光を増幅できるお前が本来のネクサスに変身できればこれ以上とない脅威だった。』

 

 ヤプールが発射した光線が肩に突き刺さっても、ウルトラマンは歩みを止めない。

 凍えそうな心に灯をともし、こぶしを握り締めてヤプールを討とうと闘志を燃やす。

 

『しかし分かっているぞ?その光に選ばれたということは、心に傷を負っているということ!傷を持つ者にはこの怪獣が天敵だ‼やれぇい!ナイトファング‼』

 

 ヤプールの号令に従い、ナイトファングがウルトラマンの前に立ちふさがる。

 相手にしてる暇はないと、『ネクサスハリケーン』で吹き飛ばそうとするが、異なる世界で神と崇められたその怪獣の強固な体はビクともしない。

 ナイトファングは頭部の角から眼を出現させると、音波攻撃を再び飛ばす。

 すると、ベルの意識がこの異空間から飛び、過去に戻る。

 

『僕はそんなことのためにあなたと……あなたに!、あなたを!』

 

『お願い!撃って‼オリオン!』

 

 あの日の記憶が、あの時の想いのままベルの中で蘇る。

 あの日の絶望も……あの日の無力感も……

 あの日のナイフの感触も……

 

『うわああああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁ……!!!!?!?』

 

 ウルトラマン(ベル)が頭を押さえて絶叫する。

 

「おい!ベル!しっかりしろ!」

 

「ベル様!?何があったのですか!?」

 

ただ事ではない様子に仲間たちが必死に呼びかけるが、悪夢に囚われた彼には届かない。

 そうしてもがいていく間にも、活動限界は刻一刻と迫りくる。

 

「ウ……アァ……ッ!」

 

 頭を振り、悪夢を何とか振り払おうとするウルトラマン。

 しかし、そんな巨人の体にイナゴの群れが殺到する。

 ドビシたちはその銀の体を黒く覆い噛みつきはじめた。

 リリが匂い(モルブル)でウジャウジャと蠢く虫たちを追い払おうとするが、焼け石に水だ。

 

『この世界にウルトラマンは他に存在しない!もう我々の野望を阻むものはいなくなる!』

 

 怪獣たちが光線・光弾を放つ。

 一人に対する攻撃と言うにはあまりにも過剰攻撃(オーバーキル)なその光景に、仲間たちから乾いた息が漏れる。

 攻撃が止むとボロボロになったウルトラマンが現れた。

 ウルトラマンのエナジーコアが点滅していないとヴェルフは気づいた瞬間、弾かれるようにそこから飛び出す。

 

「ベル君!!!!」

 

 ヘスティアの声が闇に満ちた異空間に響く。

 巨人はその姿を消し、血まみれのベルが倒れ伏していた。




 ドビシたちがガイアとアグルに纏わりつくシーンはホントにトラウマになりました。


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c-再び光を

 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。


 ヤプールはボロボロの姿で倒れ伏すベルを確認すると、怪獣軍団を【ヘスティア・ファミリア】に向かわせる。

 ウルトラマンにとって人間は、時に途轍もない力を与える強力なファクターになるということをヤプールは痛いほど知っている。

 ベル・クラネルの信頼する仲間を確実に抹殺して初めて、ウルトラマンに勝利したといえるのだ。

 

『カイザーギドラ!ナイトファング!身の程知らずにも私に盾突いた人間共を皆殺しにしろ!』

 

 怪獣の(あぎと)が【ヘスティア・ファミリア】に迫る。

 怪獣たちの吐く喜悦の吐息を感じた春姫は、恐怖で手放しそうになる意識を懸命に繋ぎとめた。

 

 闇に覆いつくされた『メタフィールド』に揺らめく無数の赤目が、粘つくような殺意を発する。

 いっそ清々しいほど絶望的な詰み。

 ヤプールも人間たちも数秒後に迫る、残酷な結末を幻視した。

 

 だが、鍛冶師(スミス)はそんな未来を良しとはしなかった。

 誰よりも早くベルの下へ駆けだしていたヴェルフは、素早くベルを確保。

 ヴェルフはベルを右肩に背負うと、左手の魔剣で雷撃を行う。

 ヤプール特製の再生怪獣たちは微動だにしないが、雷鳴は信じられないほどの光を発し、ヤプールたちの目をくらませる。

 

「逃げろ!お前らあぁぁ!!」

 

「っ!御免!」

 

 ヴェルフがリリとベルを、命が春姫とヘスティアを抱えて駆け出した。

 怪獣と人間の戦力差は歴然としている。

 ベルが戦えない今、戦闘を継続することは不可能だ。

 

(特にウルトラマンの様子をおかしくしたあの怪獣は不味い!あれを俺たちにやられたら逃げることもできなくなる!)

 

 ギジェラの見せる夢に囚われてから、状態異常を発生させる怪獣には懲りている。

 ああいった手合いには正面から立つべきではない。

 主力であるベルが戦えないならばなおのことだ。

 

「ベル様が倒されたのに『メタフィールド』が解除されない…!?乗っ取られているのですか!?」

 

 ウルトラマンの展開した異空間が解除される様子がないことに気が付いたリリは動揺するが、頭を振って気を持ち直す。

 この状況で思考を停止してしまえば間違いなく死ぬ。

 ヴェルフの機転でできた僅かな時間を無駄にはできない。

 この世界を乗っ取られたとはいえ、地形そのものが大きく変化しているわけではない。

 この世界が構成された段階で、リリは戦術を考えるためにあたりの地形を把握していた。

 

「左手側の岩壁に向かってください!身を隠せそうな地形でした!」

 

 ヴェルフと命に指示を出すと、春姫にカモフラ―ジュを用意させる。

 かつて、【ミアハ・ファミリア】による依頼でパープルムスのドロップアイテムを集める際に食糧庫(パントリー)に潜伏したことがあった。

 この時のように冒険者はモンスターが跋扈(ばっこ)するダンジョンに、時には長期間潜らなければならない事がある。

 そんなときのために、リリは壁や地面に同化するための外套を『メタフィールド』用にアレンジしたものを用意していた。

 

 ヤプールたちの視力が回復した頃には、【ヘスティア・ファミリア】の姿は何処にもなかった。

 

 

 

 

 ヤプールが【ヘスティア・ファミリア】を見つけるために四方に飛ばしているギドラの羽音が聞こえる。

 

「狭いです!離れてください……!」

 

「仕方ないだろ……!太刀を放り捨てるわけにもいかないだろうが……!」

 

「声を上げては怪獣たちに……はううぅ……」

 

 岩壁の隙間にカモフラージュを施して隠れたリリたちは、窮屈そうな様子で息を潜める。

 リリとヴェルフが小声でいつものように言い合うのを春姫はオロオロしながら止めようとしていた。

 ヘスティアはそんな眷属たちの声を聞き流しつつ、傷だらけになったベルを見た。

 ベルは未だ目を覚ます様子はない。

 それどころか衰弱しきっており、回復薬(ポーション)を使用しなければそのまま命を失うところだった。

 

(ウルトラマンの力がベル君にとって負担が大きいのは分かっていたけど、こうなると再び戦うのは絶望的だな……)

 

 ヘスティアは戦いを司る神性ではない。

 戦力を量る勘も、戦況を読む力もない。

 それでも、この状況が絶望的なのは理解できた。

 リリやヴェルフがいつもの小競り合いをしているのも、この状況で必死に冷静さを失わないようにした結果なのかもしれない。

 

「………イナゴ(もど)きの群れはいったん離れたようです。」

 

 外の怪獣たちの様子をうかがっていた命の言葉に、少し脱力する。

 意識はしていなかったが、緊張して体が強張っていたようだ。

 

神の力(アルカナム)を使うべきか?いや、この状況を天界の神々が認知していなかった場合、ボクがヤプールたちを消し飛ばしても()()()()()()にされて終わりだ。ボクは強制送還され、恩恵(ファルナ)を封じられた【ファミリア】だけが残る。むしろ戦況を悪化させかねない……!)

 

 おそらく自分にできることはそう多くない。

 いつものように眷属(こども)たちの戦いを見守るだけ。

 後は他の神々に気が付かれない程度の神の力(アルカナム)を使い、眷属たちをサポートする程度だ。

 

「リリ助、この状況どうするつもりだ?」

 

 ヘスティアが思考の海から意識を戻すと、言い争いを切り上げていたヴェルフが単刀直入にリリに今後の動きを聞いていた。

 

「まず、大前提としてリリたちだけで怪獣を倒すのは不可能です。だからベル様が復活するまで逃げ続けることしかできません。」

 

「しかし……ベル殿が復活するまでと言っても、今のベル殿の衰弱は尋常なものではありません。いつ起きるかもわからないベル殿を生命線にするのは危険ではないですか?」

 

 命の疑問にリリはもっともな意見です、と頷いた。

 

「作戦とも言い難いものですが、ウルトラマンの復活については当てがあります。……春姫様の【ウチデノコヅチ】です。」

 

「わ、(わたくし)でございますか!?」

 

 自分の魔法がウルトラマン復活の切り札になるという、予想もしていなかったリリの発言に思わず声を出してしまう春姫。

 直後に「シー!!」と、【ファミリア】のメンバーに口をふさがれ、無言でコクコクと頷くことになったが。

 

「前の戦いで、【ウチデノコヅチ】はウルトラマンを姿が変化するほどに効果を発揮しました。ベル様にも後日確認したところ、確かにあの瞬間の【ウチデノコヅチ】の効果はけた外れだったと言っています。」

 

 このことから、リリはウルトラマンと【ウチデノコヅチ】は相性が良く、ウルトラマンの力を限界以上に引き出せるのではないかと推測していた。

 

「ベル様の弱まった光を【ウチデノコヅチ】でもう一度昇華すれば、ウルトラマンの力が再び戻るかもしれません。」

 

 推測に推測を重ねた作戦だったが、これ以上の策は思いつかなかった。

 『メタフィールド』に囚われてしまっている以上、ヤプールから完全に逃げ切るのは不可能と言っていい。

 そうなると【ヘスティア・ファミリア】にできるのは、ウルトラマンの復活の補助程度しかないのだ。

 

「しかし、この方法には問題があります。春姫様の魔力でリリたちの居場所が完全に露呈するということです。」

 

「つまり、ボクたちは逃げながら魔法の完遂を行わなければならないということだね?レベル1二人と(ボク)というお荷物を抱えた状態で。」

 

 ヘスティアの言葉に緊張が走る。

 無理だ、無謀だ。

 そんな言葉が頭に浮かんでは消える。

 

(でも、それはサポーター君が一番分かっているはずだ。)

 

 これまで【ヘスティア・ファミリア】を支えてきた頭脳役(ブレイン)が気づかないはずがない。

 リリには自分たち以上にこの絶望的状況が理解できてしまう。

 それでもこのか細い道を選んだ彼女は、小人族(パルゥム)が勇気に秀でた種族であるということを改めて実感させた。

 

「………やりましょう!リリ様!」

 

 しばしの沈黙の後、春姫が覚悟を決めた顔でそう言った。

 非力な二人の決意に、ヴェルフと命はそれぞれの仕草で彼女たちの選択を肯定する。

 

(結局、君たち頼りなんだ、ボクたちは)

 

 子供たちが傷つき、苦しんでいるとき、ヘスティアはいつも悔しく思う。

 どんなに大人ぶっていても、零能のこの身は彼らを癒すことも、共に戦うこともできない。

 せめて、目を逸らさずに最後までこの物語を見届けよう。

 それが【ファミリア】を率いる神の義務だと思うから。

 

 だが、この世界は残酷だ。

 決意を新たにしたところで絶望的な状況は変わらず、命は頭上から小さな物音を聞き取った。

 

「ヘスティア様!」

 

 命の警告の意味を理解する前にリリに突き飛ばされる。

 何かと体を起こすとそこには蜥蜴のような怪物が立っていた。

 

「ダンジョンリザード!?」

 

 ダンジョン上層に出てくるモンスターに声を荒げるヴェルフ。

 ヤプールの(しもべ)は怪獣のみと言う先入観に警戒が疎かになっていた。

 急いで大刀で両断するが、それより先にモンスターの咆哮が轟いた。

 

「不味い……!敵に位置を悟られました!!」

 

 リリの言葉と同時にモンスターの大群が雪崩れ込む。

 間一髪岩壁から脱出した【ヘスティア・ファミリア】だが、ドビシの羽音や怪獣の足音が近づいてきていることに顔を強張らせる。

 もう、隠れるのも困難なほどにヘスティアたちはヤプールに捕捉されている。

 希望は未だ目を覚まさない少年のみ。

 それでも、冒険者たちは唇を吊り上げた。

 

「……気張れよお前らぁ!!」

 

「このまま諦めるわけには行きません!」

 

 それは誰が見ても無理やりひねり出した、強張った笑みだった。

 この状況で、彼らは笑った。

 無謀でも、無様でも自分たちの為すべきことは変わらない。

 

「春姫様は詠唱を‼リリは皆さんの支援をします!」

 

「分かりました!」

 

 冒険しよう。

 その先に活路を見出す。

 この【ファミリア】を繋げた少年がそうしてきたように。

 

 眷属(こども)たちが命をとした戦いの火蓋を切ろうとする中、共に戦えないヘスティアは理解していた。

 彼らの想いが報われるか否かはベル次第。

 唇を強く噛み締めるとヘスティアはベルの手を握り、語りかけた。

 

「ベル君……恥を棚にあげて言うよ。立ってくれ……!君しかいないんだ、君だけが希望なんだ……っ!」

 

 力を使い果たしたベルから返事はない。

 それでもヘスティアは呼びかけ続ける。

 モンスターの鳴き声にかき消されないように、喉をすり潰さんばかりに声を出す。

 この言葉が少しでも力になるようにと祈り、少年が再び炎を灯して立ち上がることを信じて。

 

 

 

 

 神様……

 みんな……

 聞こえているよ。

 分かっているよ。

 

 だけど……動けないんだ。

 体が僕のものじゃないみたいに言うことを聞いてくれない。

 

(動け!動けよ‼みんな頑張っているんだ!僕だけ戦わないわけにはいかないんだ。)

 

 必死に自分を叱咤するが、体はピクリとも動かない。

 徐々に、徐々につま先から温度が消えていく。

 

(ダメだ……こんなんじゃダメだ……みんなが死んじゃう……)

 

 さっきからフラッシュバックする記憶が鬱陶しい。

 あの時もそうだった。

 守って見せると、絶対に救って見せると言って、結局運命に抗えずに女神の命を奪ったあの時と。

 

 守るんだと自分を鼓舞するたびに浮かぶ、もう一人の自分の嘲笑。

 

──その誓いはとっくに破ってしまっているじゃないか

 

──そんなお前の誓いに何の意味がある?

 

 ベルの心を縛る呪縛が、ヤプールの展開する『ダークフィールド』に呼応して少しずつ残された光を奪っていく。

 

 闇が徐々にベルを蝕み、意思を薄弱にしていく。

 一度屈してしまえばもう二度とたてなくなると理解しながら、諦めという誘惑に惑わされる。

 

 ついに『エボルトラスター』を手放しそうになった瞬間、その手に女性の手が重ねられる。

 

(────────────え?)

 

 その感触に閉じかけていた目を見開く。

 それは、あの月の夜の二人だけの舞踏会を思い起こさせて──

 

「そんな深刻な顔をするなオリオン。貴方らしくない。」

 

 青い髪の女神がそこにいた。




 ようやくこの時が来ました……!


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最終話「英雄-ウルトラマン-(後編)」
a-One Hope


 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。


 その姿を見た瞬間、思わず呼吸を忘れた。

 何度も夢に見た凛とした女神。

 きっと死んでも忘れられない、守れなかった彼女の名前は──

 

「アルテミス様……?」

 

 僕の口からこぼれた名前に、彼女は穏やかな微笑みを返す。

 その微笑みは彼女の命をこの手が奪った瞬間のままで、ベルの頬に涙が伝った。

 

「なん、で……」

 

 分からない。

 彼女は命を失い、その魂は転生の輪に還ったはずだ。

 あり得ない再会に混乱するベルを見ると、アルテミスは少し困った様子で話し始めた。

 

「さぁ、何故だろうな。死んだ私が、私のままここにいる理由は分からない。」

 

 表情も、口調も記憶のままだ。

 なによりも、彼女がそばにいることで感じる胸の温かさは嘘とは思えなかった。

 

「………っ‼」

 

 途端、感情が爆発した。

 ずっと、ずっと謝りたかった。

 僕じゃなければ、僕が上手くやっていれば、僕が強ければ。

 貴女は助かっていたのかもしれないのに。

 

「ごめんっ!……ごめんなさい‼僕は、僕じゃなければ……!!!」

 

 溢れる激情に振り回されて、想いを上手く伝えられない。

 馬鹿みたいに大粒の涙を流して、嗚咽をこぼすその姿はきっとみっともないのだろう。

 ただごめんなさい、と繰り返し膝を落とす僕を女神は静かに見守っていた。

 

 

 

 

「ぐうっ!!?」

 

 命の刀、虎徹が弾き飛ばされる。

 終わりの見えない襲撃に集中力が乱れた。

 隙を見せた獲物にモンスターたちが殺到する。

 

「ふざけろおおお!!!」

 

 ヴェルフが太刀を縦横無尽に振るい、命を狙うモンスターを薙ぎ払う間に刀を拾いなおす。

 しかし、その表情には疲労が見えた。

 モンスターの大群を食い止める命とヴェルフは既に肩で息をしている。

 体中に傷ができ、致命傷こそないが流れる血が徐々に思考を蝕んでいく。

 

(自分とヴェルフ殿では食い止められない……!春姫殿っ、早く詠唱を……)

 

 本来ならば、抗うことすら出来ずに圧し潰される戦力差をどうにか均衡させているのは、リリの指揮とヘスティアの神の力(アルカナム)だ。

 他の神々に気取られないギリギリの力で、敵の【ファミリア】に対する認識をずらし、攻撃しにくくしている。

 それによって消極的になっているモンスターの攻勢と、リリが要所要所で使用するアイテムで【ヘスティア・ファミリア】は生きながらえていた。

 

『ええい、往生際が悪い……集えドビシ共‼カイザードビシとなって神と人間に止めを刺せ!』

 

 ヤプールの声に呼応して、ウルトラマンを苦戦させた怪獣が姿を現す。

 カイザードビシは近くの岩山を砕き、岩雪崩を引き起こした。

 

「やばいっ、防ぎきれねえ!!」

 

 神の力(アルカナム)で認識をずらされていても、辺りをこうして無差別に攻撃されては意味がない。 

 迫る岩を砕いても砕いてもキリがない。

 周囲のモンスターたちごと圧し潰そうという、その容赦の無い殺意はまさに悪魔だ。

 

「ヘスティア様!」

 

 破片の一つがヘスティアに飛んでくるのを春姫が【ゴライアスローブ】で防ぐ。

 かつて、中層の冒険者たちを圧倒したイレギュラーのドロップアイテムは岩の破片程度では貫けない。

 しかし、衝撃は別だ。

 春姫は大質量の岩によろめき、詠唱を中断してしまう。

 霧散する魔力。

 だが、春姫は気力を振り絞って詠唱を(うた)い直す。

 

「【──大きくなれ】」

 

 彼女の魔法が一縷の希望になっていることに気が付いたヤプールは怪獣・モンスターたちに特攻を指示する。

 仲間たちも最後の希望を守らんと懸命に守るが、防御を通り抜けてしまった僅かな攻撃が春姫を襲った。

 

「【()の力にっ、()の器。数多(あまた)の財……に、数多(あまた)……の願いっ。鐘の()が告げるその時まで、どうか栄華(えいが)と、幻想(げんそう)を!!──大きく、なれ……!】」

 

 だが、今度は詠唱を途切れさせない。

 咄嗟のことだった先ほどとは違い、春姫は()()を決めていた。

 痛みも恐怖も乗り越えて、望む未来を掴むための覚悟。

 それは、あの日に少年が決めたものと同じ。

 

「春姫様の詠唱完結まで死守してください!」

 

 リリがボウガンでモンスターやドビシの目を潰しつつ、指揮を出す。

 体はとっくに悲鳴を上げている。

 それでも、その背にある少年の存在が少女の力を奮い立たせた。

 

「やってやるさ……!俺たちも冒険者だからな!」

 

 ヴェルフの唇は弧を描く。

 放っておけない弟分のために。

 神々に与えられた【不冷(イグニス)】の二つ名の通りに、心の火を燃やす。

 

「自分も、最期まで……!」

 

 命が残るすべての苦無(クナイ)を投擲する。

 かつて弱さゆえに侵した罪。

 それを許し、自分たちと絆をはぐくんでくれた少年に少しでも報いるために。

 

 未だ未熟な【未完の少年(リトル・ルーキー)】。

 だが、彼の数か月の冒険は様々な人々を惹きつけた。

 その証こそ【ヘスティア・ファミリア】。

 彼に人柄を慕って集う、構成員のほとんどが他派閥からの移籍という異色の【ファミリア】。

 

 誰よりも彼の冒険を見守ってきたヘスティアは確信する。

 彼らの想いがベルに届かないはずはないと。

 なら、それを届けるのが神である自分の務め。

 今も戦う彼らが待つ鐘の音に、もう一度立ち上がる力を。

 

「聞こえているかい?ベル君。みんなが君を待っている。確かに敵は強大かもしれない。でも、君には仲間がいてくれる。いざという時に支えてくれる【ファミリア】があるんだ!だから────」

 

 

 

 

 ベルはアルテミスにずっと押し殺してきた想いをぶちまけた。

 それは心にずっと引っかかっていた棘。

 仲間たちがその存在に気づきながらも、どうすることもできなかった罪。

 

「あの日、守ると約束したのに……!僕は何もできなかった……僕は英雄になれなかった……」

 

 月夜に照らされた泉で彼女に語った夢。

 英雄になりたかった。

 悲劇のヒロインなんてどこにもいない、みんなを救って見せる。そんな英雄に。

 その夢は、自分自身の手で破ってしまった。

 

 あの日から、ベルは守るという言葉を簡単に使えなくなってしまっていた。

 今度こそ救って見せるという決意の影で、英雄になれなかった僕ができるのかという疑念が湧いてくる。

 そんな葛藤を繰り返して、いつか完全に動けなくなることが怖かった。

 

 もう、発する言葉も思いつかなくて項垂れる。

 そんなベルの涙をアルテミスは優しく拭った。

 

「すまない。貴方をこんなにも思いつめさせてしまった。」

 

 女神は悲し気な表情で膝をついた僕に目線を合わせた。

 

「怖いんですっ、僕は守りたいって想いを抱く度に、また失うんじゃないかって!そんな僕がこの光を持っていていいのかって……」

 

 仲間の言葉は前を向く力をくれた。

 しかし、ベルは前を向いたことで、心の傷と向き合わなければならなくなった。

 

 漠然とした恐怖だった頃のように夢は見なくなっても、弱い自分の声は消えない。

 守る、なんてたいそうな言葉を使う資格はお前にあるのか?と自分を苛む声がもう一歩進む勇気を奪うのだ。

 

 自己嫌悪に打ちひしがれるベル。

 そんな彼にアルテミスは『エボルトラスター』を握らせた。

 そして、突然の行動に戸惑うベルにアルテミスは言った。

 

「………オリオン。貴方とその光は似ているのかもしれない。」

 

「………え?」

 

 言葉の意味を量り損ねる。

 似ている?

 僕と光が?

 

「数多の世界、マルチ・バースには人々を守る巨人。『ウルトラマン』と呼ばれる光の戦士がいる。」

 

 その中でも特に強力な力を持った戦士がいた。

 その名は『ウルトラマンノア』。

 

「彼に守られた人々は、やがてその力を再現した『ウルティノイド・ザギ』と呼ばれる守護者を生み出した。」

 

 当然、神に等しい力の再現などその高度な文明をもってしても一朝一夕でできるものではない。

 その開発には気が遠くなるような時間が費やされ、その過程で、様々な失敗作が生み出された。

 

「そんな歴史に消えた失敗作。それがお前の中にある光の正体だ。」

 

 人々を照らす希望であれと願われ、その期待に応えられなかった英雄のなり損ない。

 それがベルの変身する【ウルトマンネクサス】。

 

「ウルトマンの模造品の失敗作……」

 

 ヤプールの言葉の意味をようやく理解した。

 だが、ベルにはある疑問が浮かぶ。

 

「どうして僕にそんな光が……?」

 

「失敗作として破棄された彼は宇宙……虚無の空間の様なものを彷徨っていた。そして、無限の漂流の中で僅かに再現されたノアの権能を通してウルトラマンたちの戦いを知ったんだ。」

 

──始まりのウルトラマンがいた

──地球人より地球人を愛したウルトラマンがいた

──夕暮れに照らされて、人を信じたウルトラマンがいた

──地球人に変わらぬ願いを託したウルトラマンがいた

──地球人を愛し、その中で生きていくことを選んだウルトラマンがいた

──悲しみを越えて戦い抜いたウルトラマンがいた

──地球人の可能性を信じて、心を導こうとしたウルトラマンがいた

 

「そして思った。自分もこんな風に生きたいと。」

 

──超古代の力を持って、人々の力を束ねたウルトラマンがいた

──持ち前の明るさで、未来を示したウルトラマンがいた

──大地の力で地球の使者として降り立ったウルトラマンがいた

──調和を信じ、宿敵とすら分かりあったウルトラマンがいた

──最大限の力を持って、未来につないだウルトラマンがいた

──地球人と新たな関係を築き、無限の可能性を見せたウルトラマンがいた

──ゼロからのスタートを切り、突き進むウルトラマンがいた

 

「彼らのように、人と絆を紡いで生きたいと。」

 

──銀河の覇者として、未来からやって来たウルトラマンがいた

──地底の国から勝利をもたらすウルトラマンがいた

──地球人と心を繋ぎ、共に戦ったウルトラマンがいた

──宇宙の風来坊として旅を続けるウルトラマンがいた

──運命を覆し、ヒーローになったウルトラマンがいた

──兄弟の力を一つにして戦うウルトラマンがいた

──父の威光と向き合い、仲間と共に燃え上がったウルトラマンがいた

 

「……ウルトラマンになりたいと。」

 

──適合者たちに受け継がれる絆と共に、戦うウルトラマンがいた

 

「英雄になれなかった光が、貴方(オリオン)を見つけたのはきっと必然だった。」

 

 あぁ、本当に僕たちは似ている。

 なりたい自分になれなくて、それでも夢を諦められない。

 愚かな子供。

 だけど──

 

「光はウルトマンになろうと再び歩みだした。」

 

 それが、僕との違い。

 立ち止まってしまった僕と違って、光はまだ諦めていない。

 

「人間は不完全な存在だ。絶対の誓いなど背負うことはできない。」

 

「………そう、ですね。きっとそうだ。」

 

「でも、それでもきっと貴方たちはまた誓いを立てるだろう。何度打ちのめされても。」

 

 握った『エボルトラスター』が熱を灯す。

 それは、光が共に戦おうとベルを鼓舞しているように感じられた。

 

「………私が貴方に伝えたいのはこの言葉だけだ。ベル────」

 

 

 

 

「「────諦めるな!!」」

 

 二人の女神の声が夢と現実を繋ぐ。

 『エボルトラスター』の刀身から発せられた光が復活への道を示した。

 

「……っ!」

 

 全身を覆う倦怠感が払しょくされる。

 失われていた光が自分に蘇ったとベルは確信した。

 『エボルトラスター』を構えて右手で引きぬく。

 瞬間、発せられる暖かな光を確認すると、抜刀した刀身を左肩に当てた。

 宝具から発せられる鼓動を自分とリンクさせたベルは、『エボルトラスター』を勢いよく空に掲げた。

 

「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 ベルの身体は暖かな光を発し、その波紋はモンスターや怪獣を吹き飛ばす。

 モンスターと怪獣に囲まれていた【ヘスティア・ファミリア】は突如発生した光の波紋に驚き、振り返った。

 そして、彼らの視線の先には立ち上がった少年の姿があった。

 

「「「「ベル(様、殿)!!!」」」」

 

 仲間の歓声に応えるように空高く跳躍するベル。

 光は一層力を増し、彼を変身させる。

 闇が轟く異空間で、銀色の輝きを放つ巨人。

 ウルトマンは復活した。

 

「ヘアアア!!!」

 

 ジュネッス・ホワイトに姿を戻し、その目に仲間と神様を捉える。

 絶対に守る。

 誓いを再び胸に秘め、ウルトラマン(ベル)は力を解き放つ。

 

『ボードレイ・フェザー』

 

 空中で回転したウルトラマンの両手から12発の光の刃が打ち出される。

 光の刃はカイザードビシたちを切り裂き、消滅させた。

 攻撃の手は止まずに、そのまま『パーティクル・フェザー』で無数のモンスターたちをウルトラマンは屠っていく。

 

 猛威を振るった怪獣を次々と撃破する姿に【ヘスティア・ファミリア】は奮い立つ。

 

「ベル様‼ベル様が復活しました‼」

 

「良かった……」

 

 リリが普段の冷静さをかなぐり捨てて喜び、春姫は帰ってきた彼女の英雄の姿に目を輝かせる。

 

「さぁ‼行くぞ!ベルに……俺たちの団長に続け‼」

 

「応!!」

 

 先ほどまで疲労困憊だったヴェルフと命がその光を見て、活力を取り戻す。

 

 ベルの活躍が危機的状況に希望の光を灯したのを見たヘスティアは理解した。

 これが【ヘスティア・ファミリア】の冒険。

 これが冒険者ベル・クラネル。

 

「っ!いっけえええぇぇぇぇ!!!ベル君!!!!」

 

 少年の成長に滲む涙を振り払って、愛しい眷属(こども)に精一杯の声援を届ける。

 きっともう見ることのない、銀の巨人を脳裏に刻みながら。

 

 

 

 

『何故だ何故だ何故だ何故だ!何故、貴様は復活した!?』

 

 あと一息のところで、盤上をひっくり返されたヤプールは怒り狂う。

 狐人(ルナール)の魔法は完成していない。

 ウルトラマンが復活する要素など何もなかったはずだ。

 

『あの暗闇の中でみんなの声が聞こえた。だから、僕はまた変身できたんだ!!』 

 

『ふざけるなあああ!!』

 

 愛、友情、絆。

 すべてヤプールが嫌う言葉だ。

 そんなものは人間の勘違いに過ぎないと、嗤ってきたものに計画を狂わされた事実に怒髪天を衝く。

 

『何なんだお前は‼』

 

 目の前のウルトラマン……いや、そう呼ぶのも烏滸(おこ)がましい紛い物は決して脅威ではなかったはずだ。

 今だって、押せば倒れそうなほどにボロボロで、コアゲージは点滅したままではないか。

 なのに、何故ここまで圧倒される!?

 

『やれ、ナイトファング‼もう一度奴を地獄に叩き落とせぇ!!!!』

 

 ナイトファングは再び悪夢を見せようと音波攻撃を放つ。

 それをウルトラマンは華麗な飛行術で躱して見せた。

 そして、最後の音波攻撃を『アームドネクサス』で切り払うとベルは叫んだ。

 

『僕はベル‼ベル・クラネル‼神ヘスティアと契りを交わし、不滅の炎を貰った偉大な眷属(ファミリア)の一員‼絶対に、諦めたりしない!』

 

 『マッハムーブ』で距離を詰め、ナイトファングの腹に『アームドネクサス』の刃を突き立てる。

 絶叫する怪獣は、怒りのまま『ファングヴォルボール』でウルトマンを焼き尽くそうとする。

 しかし、ウルトラマンの変身者はベル・クラネル。

 彼には誰よりも早い魔法があった。

 

『【ファイアボルト】!』

 

 刃を伝った炎がナイトファングの体内で炸裂する。

 しかし、炎を発する怪獣であるナイトファングは火に対する耐性を持っている。

 よろめきながら、ウルトラマンを睨みつけて反撃を試みるナイトファング。

 しかし、ウルトラマンはそれより早かった。

 

『【ファイアボルト】‼』

 

『【ファイアボルト】‼』

 

 怒涛の3連撃で爆散させると、『アームドネクサス』を振り切る。

 触手を叩きつける間もなく倒されたナイトファングを尻目に、ベルは【ファイアボルト】を乱射した。

 次々と炎雷に飲み込まれるモンスターたち。

 【ヘスティア・ファミリア】の仲間たちも負けじとモンスターを屠る。

 

 やがて、銀の巨人が魔法を打ち終えた時、敵はいなくなっていた。




 ダンメモの一周年イベントは燃えましたね。
 ダンまちはベルの逆転劇も注目のポイントの一つだと思います。


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b-僕らのネクサス

 ご意見・ご感想、誤字報告をよろしくお願いいたします。


 体が軽かった。

 夢の中で何故アルテミスが現れたかは分からない。

 自分の心が生み出した幻想かもしれないし、ベルの中にある光が、彼女の姿を模して語りかけていたのかもしれない。

 或いは、本当に奇跡の再会だったのか。

 真実はどれだけ考えても辿り着けないままだろう。

 

 ただ、もうベルは立ち止まらない。

 きっとこの先も誓いを守れないときが来る。

 どうしようもない現実に直面することも。

 

 だけど、どんなに打ちのめされても、また誓いを新たに進み続けよう。

 人は……冒険者はみんなそうやって生きてきたのだから。

 だから、僕はまた誓う。

 絶対にみんなを守り抜くと。今度こそ失わないのだと。

 心の傷を受け入れて未来に進んでいくんだ。

 

 ベルの決意に呼応するように、ウルトラマンは雄々しい掛け声と共にヤプールに対して構えた。

 

「ヘア!!」

 

 

 

 

 状況は逆転した。

 ウルトラマンは復活したのだ。

 対してヤプールにはもはや(しもべ)はおらず、残るは本人のみ。

 

『おのれ……おのれ……!』

 

 しかし、ヤプールはその怒りを糧に力を生み出す。

 脆弱な人間に負けるなど闇に生きる者としてのプライドが許さない。

 

『光の国に対する備えだが……仕方あるまい‼』

 

 ヤプールの周囲に闇の波動が集まる。

 リリはその小人族(パルゥム)の優れた視力でそのエネルギー体がモンスターの形をしていることに気が付く。

 

 否、それだけではない。

 小人族(パルゥム)でなくても形をはっきりと視認できる異形、怪獣の姿をしたものもあった。

 これまで【ヘスティア・ファミリア】が戦ってきた怪獣がいた。

 一度も見たことがない怪獣がいた。

 そのどれもが、心なしか悲痛な顔で叫んでいるように春姫は感じる。

 

『絶望しろ‼ここからはウルトラマンと人間に敗北したすべての殺戮者たちがお前たちの敵だ‼』

 

 ヤプールを中心に重なりあった怪獣とモンスターが巨大な体を形作っていく。

 

「──────────────でけぇ」

 

 怪獣すら矮小に思えてしまう巨体。

 目測で大きさを測ろうとしても、ただ大きいとしか感じられない。

 あまりの大きさにヴェルフは自身の遠近感が狂ってしまったことを自覚する。

 

「こんなもの、どこを攻撃すれば……?」

 

 命の声は途方にくれていた。

 これまで戦ってきた怪獣ですら手に余る強敵だったのに、それを軽く越える化け物を相手にどう立ち回るべきなのか。

 完全に人間が戦っていい相手ではない。

 クロッゾの魔剣であっても、痛みを与えることすら出来ないだろう。

 

『ふはははは!!!!これこそ我が究極の切り札! 百体怪獣ベリュドラだ‼』

 

 嘗て、光の国の最悪のウルトラマン、ウルトラマンべリアルがギガバトルナイザーにより生み出した最悪の合体怪獣。

 ヤプールはこの世界に引き込んだ怪獣や宇宙人、そしてダンジョンのモンスターを生け贄にこの大怪獣を再現していた。

 

「何と戦うことを想定しているんだ……過剰戦力も良いとこだぞ‼」 

 

 ヘスティアの叫びは【ヘスティア・ファミリア】の偽りなき本音だ。 

 この世界の水準を嘲笑うかのような規模の戦力は、たちの悪い冗談の様だった。

 モンスターや怪獣(人類の天敵たち)が歪に継ぎ接ぎされた冒涜的な姿も相まって、ベリュドラは異様な威圧感を放ち冒険者たちを怯ませる。

 

 ベリュドラがその巨腕を挙げた。

 技もなにもない力任せの叩き潰し。

 しかし【ヘスティア・ファミリア】は悲鳴を上げながら、形振り構わずその回避に全霊を注いだ。

 

 世界に亀裂が走ったかのような轟音。

 衝撃によって体が空高く投げ出される。

 

「ハッ‼」

 

 このままでは地面に叩きつけられてヘスティアたちが危ないと、ウルトラマンは『セービングビュート』で仲間たちを自身の手のひらに保護した。

 

『馬鹿め!自分から手を塞ぐとは‼』

 

 その行動をヤプールが嘲笑う。

 ベリュドラを構成する怪獣やモンスターたちの目や口が一斉に光る。

 

──まさか……

 

 嫌な予感を感じた瞬間、ウルトラマンは上空に飛び立つ。

 それと同時に、ベリュドラの全身から光線が発射された。

 

『ベリュドラインフェルノ』

 

 赤、青、黄、緑、紫、白、黒。

 光線、電撃、火炎、爆発、毒撃。

 

 (おびただ)しい攻撃が瞬く間に空を埋め尽くす。

 ウルトラマンはそれらを最小限の動きで見切り、回避を試みる。

 空を自在に飛び回り、『アームドネクサス』で躱しきれない攻撃を防ぎ続けるが、少しづつ傷が増えていく。

 

『不味い……あんな大きさならどこかに死角があると思っていたけど、そんなもの何処にもない!体中に目と攻撃手段がある……!』

 

 階層主との戦闘経験から巨体故の弱点を突こうとしたベルは、どの角度からもベリュドラを構成する怪獣が威嚇し、攻撃してくるのを見て作戦を変えなければならないと悟った。

 復活したとはいえ、今の自分は紙風船のようなもの。

 本当は空っぽなのに、虚勢を張って外面だけを取り繕ってるだけだ。

 突けばあっという間に倒れてしまうだろう。

 

『無駄にエネルギーは使えない……でも、攻めるしかない!』

 

 怪獣を一体一体潰していては、間違いなく先にこっちが音を上げる。

 少しでも消耗を減らすように気を付けて戦わなければならない。

 ただでさえエネルギーを大量に失う光線技は、確実に仕留められると確信できるまで封印しなければ。

 『ジュネッスパンチ』や『ジュネッスパンチ』で脆いところを探っていく。

 何度も接近し、表面の怪獣たちを殴るがベリュドラはビクともしない。

 

『馬鹿の一つ覚えだな‼』

 

 鳩尾に『スピニングクラッシュキック』を放つ。

 しかし、ヤプールはその行動を読んでいた。

 キックが当たった瞬間、近くの怪獣や宇宙人たちがウルトラマンに絡みつく。

 動きが止まったウルトラマンに光線が雨あられのように襲い掛かった。

 

 咄嗟に手の中のヘスティアたちを庇う。

 そして背中にヤプールの攻撃が突き刺さり、ウルトマンは絶叫すら上げられず全身の痛みにもがく。

 手の中で轟音に揺らされるリリはヴェルフに指示を出した。

 

「ヴェルフ様‼魔法です‼」

 

「………っ‼【燃え尽きろ、外法の(わざ)‼】────【ウィル・オ・ウィスプ】‼」

 

 ヴェルフの対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)はウルトラマンに攻撃を加える怪獣やモンスターに集約し、効果をいかんなく発揮した。

 ヤプールは言った。ダンジョンのモンスターを生贄に様々な強豪怪獣を再現したと。

 このベリュドラを構成する怪獣たちもそうだというのなら、怪獣たちの光線にはこの世界由来の力──魔力が含まれているのではないかとリリは予想した。

 ならば、豊富な光線が武器のこのベリュドラには、ヴェルフは天敵となる。

 

 魔力暴発(イグニス・ファトゥス)で光線が止まった隙に、ウルトラマンは『アームドネクサス』で拘束を切り裂き脱出する。

 そして、エネルギーをさほど消費しない【ファイアボルト》で怪獣を焼き払う。

 多くの怪獣が倒されるが、さらに連撃を畳みかける。

 『ダークフィールド』の闇を『アームドネクサス』に収斂。

 闇を光に変換し、拳から撃ちぬいた。

 

『ナックレイ・ジェネレード』

 

 エネルギーはベリュドラの体を貫通したが、百体怪獣は揺るがない。

 無駄だとヤプールの嘲笑う声と共に、再び剛腕を振るった。

 それを躱すウルトラマンに、追尾効果のある光線が無数に放たれる。

 それを肩で息をしながら『サークルシールド』で防ぐ。

 

『ダメだ、表面の怪獣やモンスターをいくら焼いてもキリがない……』

 

 吹き飛ばした怪獣たちの奥にもウジャウジャと犇めく怪物の姿に、ベルは全身の疲れを隠せない。

 敗北の二文字が脳裏にちらついた。

 

「ベル殿!この怪獣の核はヤプールです!奴を討てば、無理やり継ぎ接ぎされた怪獣たちは自壊するのではないでしょうか!?」

 

 その時、命が声を上げる。

 ウルトラマンの手の中でベリュドラを観察していた命は違和感を覚えていた。

 ()()()()

 ウルトラマンになったベルの【ファイアボルト】は確かに強力だが、蓄力(チャージ)せずにここまで簡単に怪獣を屠れただろうか?

 大勢の怪獣やモンスターの融合、それは明らかに不自然な出来事だ。

 命は決して頭は良くない。

 しかし不自然なことを強行すると、必ずその代償があることはこれまでの人生で理解していた。

 

「妙に脆い怪獣……不自然な融合による拒絶反応が原因ならば、この原因であるヤプールを討つだけでこの怪獣は倒せるはずです!」

 

 ヤプールを倒せば、ベリュドラは倒せる?

 でも、それには問題がある……

 

「し、しかし、肝心のヤプールは何処に?」

 

 春姫の言う通りだ。

 表面上にヤプールはいない。

 ベリュドラを生み出した瞬間は頭部の辺りにいたと思うけど、今もそこに留まっているかは分からない。

 

『多分、腹部にはいない……さっきの攻撃で全く動揺がなかった。』

 

 何処を攻撃すればいい?

 思考が堂々巡りする。

 コアゲージの点滅が尚更焦りが加速させた。

 

『一か八か、頭を狙うしかない……!』

 

 もう時間がない。

 焦燥感に押されて、破れかぶれな考えが頭を離れない。

 残るエネルギーで技を繰り出そうとした瞬間、

 

──大丈夫。

 

 ふと、弓の女神の声が聞こえた気がした。

 親愛に満ちた穏やかな声で、荒れていた心が凪のような穏やかさを取り戻す。

 

 手に保護していた仲間たちをそっと地面に降ろすと、『アームドネクサス』を胸のエナジーコアに(かざ)した。

 生み出された光の弦が『ダークフィールド』の闇を照らす。 

 でも、これじゃ足りない。

 矢を番えろ、邪悪を貫く光の矢を。

 二つの必殺技、光の弓(アローレイ・シュトローム)光の剣(シュトロームソード)の融合。

 体内のほとんどのエネルギーを使い、撃ち出すウルトラマンネクサス最強の必殺技。

 

ファイナルモード『オーバーアローレイ・シュトローム』

 

 何処を狙えばいいのか、(やじり)に導かれるように答えは自然と出てきた。

 神技を体現する彼女(アルテミス)もこんな感覚で矢を射っていたのだろうか。

 そんな場違いな考えが脳裏を掠める。

 矢を引く左手に、蜃気楼の様なアルテミスの手が添えられている気がした。

 

 必中を確信して腕を引き抜く。

 光の矢は一直線にベリュドラの胸部を貫き、中に潜んでいたヤプールを両断した。

 

『ギャアアアァァァ!?ば、馬鹿な……何故……』

 

 手応えを感じた。

 先程体を貫いた時には感じなかった、会心の感触が。

 ヤプールの苦し気な声と共に、ベリュドラが崩壊していった。

 

 

 

 

 勝った。

 そう確信する【ヘスティア・ファミリア】だったが、ヤプールのしぶとさは彼らの予想をはるかに上回っていた。

 

『まだだ……まだ終わらん!!』

 

 崩壊していた怪獣やモンスターたちが闇のエネルギーに変換され、致命傷を負ったヤプールに吸収される。

 無数の怪物のエネルギーを取り込んで、強引に傷を癒したのだ。

 

「それだけじゃねぇ……奴の威圧感が増している!?」

 

 ヤプールの体から感じる闇の波動が強まった。

 その身に取り込んだエネルギーを我が物にしたのかと、ヘスティアは気づく。

 

「でも、そんな無茶は一時しのぎだ!すぐに力に器が耐えられなくなるだけじゃないか!?」

 

『ハァッ、ハァッ、流石だな全知の神……この身もそうは持たん。私の打倒光の国の野望は叶わないだろう。』

 

 ヘスティアの言葉を肯定する。

 死を前にしても、ヤプールは変わらない。

 底なしの悪意の体現者は、その体から血しぶきのように漏れ出す闇を意に介さず、その瞳に憎悪を燃やし続ける。

 

『だが!せめて貴様らも道連れにしていくぞ!ウルトラマンネクサス‼ベル・クラネル‼』

 

 ヤプールの業火が力を使い果たし、満足に動けないウルトラマンを襲う。

 為すすべなく炎に包まれたウルトラマンが悲鳴を上げる。

 

「ヘアアアァァァ!?」

 

『死ね!紛い物‼貴様のせいですべてが狂った!』 

 

 ヤプールの右手の鎌がウルトラマンの胸を滅多切りにする。

 そして、ついに片膝をついたウルトラマンを容赦なく踏みつけた。

 何とか反撃しようとするウルトラマンの攻撃を空間を歪めて回避し、ウルトラマンの背後から再び斬撃を食らわせて地面に叩きつけた。

 倒れたウルトラマンを何度も、何度も、鬱憤を晴らすように蹴りつけたヤプールは右鎌に闇のエネルギーを集中させる。

 

『この一発で……地獄へ行け!』

 

 【ヘスティア・ファミリア】から放たれた魔剣にビクともせず、止めの光線を放つ。

 ウルトラマンを貫いた光線が後方の岩山を砕き、爆発した。

 凍り付く仲間たち。

 ウルトマンの瞳は輝きを失い、最期まで抗おうと伸ばされた腕がトン、と軽い音と共に地に落ちる。

 

『これだけやってもまだ消えないのか……冒険者と言うのは本当にしぶとい。』

 

 ヤプールはウルトラマンの変身者であるベルの恩恵(ファルナ)が、辛うじて命をつなぎとめていることに気付き、うんざりとした様子で倒れ伏すウルトラマンを見下ろす。

 そして、確実に仕留めるために腕を振り上げた。

 

「させるかああああぁぁぁぁ‼」

 

 ベルを殺されてなるものかと、既に罅が走り始めている魔剣を手にヴェルフたちが立ちふさがる。

 止めを刺そうとするヤプールに対する【ヘスティア・ファミリア】の無謀な抵抗の声。 

 それを聞いたウルトラマン(ベル)の拳が固く握り締められた。

 

『絶対、諦めるもんか……っ』




 ヤプールのしつこさはウルトラファンなら誰でも知っていること。
 そして次回、いよいよ最終回です。


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c-英雄終極

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『えぇい!往生際が悪いぞ‼人間ども‼』

 

「貴方が言わないでください……‼」

 

 ヤプールと【ヘスティア・ファミリア】の戦い。

 否、それはもう戦いと呼べるものではなかった。

 ヤプールがウルトラマンを抹殺しようと放たれる光線。

 それを必死に眷属たちが防いでいるだけなのだ。

 

 人間は決して劇的成長はできない。

 冒険者の力の源である【恩恵(ファルナ)】はそれまでの人生の積み重ねだ。

 土壇場で覚醒すること等、あり得ない。

 

 人間と怪獣の格差は変わらないのだ。

 冒険者に怪獣は倒せない。

 ましてや、闇の力を増幅したヤプールには抗うことすら出来ない。

 

──なのに何故!?何故仕留めきれない!?

 

 ヤプールが攻撃するたびに、冒険者たちはボロボロに傷ついていく。

 能力(ステイタス)の低い荷物持ち(サポーター)など、余波だけで吹き飛びそうではないか。

 

 しかし、ウルトラマンはまだ健在だ。

 ヴェルフと命はヤプールからウルトラマンを守り続けていた。

 

 クロッゾの魔剣といえどもヤプールの攻撃を相殺することはできない。

 だが、光線を僅かに逸らすことはできる。

 二人はヤプールの光線に飛び込み、光が当たる直前で魔剣を自壊させることで一時的に火力を向上させていた。

 少しでもタイミングを見誤ることがあれば、人間など一瞬で蒸発する。

 そんな綱渡りをしても、成果はヤプールの数ある光線を1つ逸らすだけ。

 リスクとリターンの合わない自殺めいた遅延行為にヤプールは苛立ちを募らせる。

 

「道連れだとか言っておいて、倒れているウルトラマンに近づかないのは何故です!?反撃が怖いんでしょう!?どうせすぐに死ぬのに、今更ダメージを怖がるなんて馬鹿なんじゃないですか!?」

 

 なによりも苛立たせるのは小人族(パルゥム)の挑発だ。

 ヤプールも頭では理解している。

 あれは僅かでも勝機をつかむための揺さぶり。

 自分を苛立たせて隙を作ろうとする猿の浅知恵だと。

 

「あんな数の怪獣を取り込んでも頭は良くならないのですね!?無駄なことしてないで、一人でさっさと地獄に落ちてればいいんです!リリたちを巻き込まないでください‼ドブネズミにだってもう少しはまともな分別がありますよ!」

 

 だが人間、それもその中でも最弱と蔑まれる小人族(パルゥム)の侮辱にヤプールは怒りを抑えられない。

 頭が悪い?

 人間をはるかに凌駕する科学力を誇るヤプールに対する発言に、リリの思惑通りにヤプールの意識がウルトラマンから人間たちに向く。

 

『俺に対するその侮辱……‼後悔することになるぞ!』

 

「さっきから、私とか俺とか一人称が定まってないんですよ!何なんですか!?まさか、自分は種族の集合体とか言い出しませんよね!?一つの種族が集まった頭がソレなんて、喜劇を通り越して悲劇ですよ!!」

 

『……楽に死ねると思うな!』

 

 意地になって、単発の光線で仕留めようとするヤプール。

 ヤプールの(おぞ)ましい悪意に、正直腰が抜けそうなリリだが気を確かに持つ。

 冷静にさせてはいけない、気取られる。

 命の迎撃の頻度が僅かに減り、口元がかすかに動いていることを。

 

「【()けまくも(かしこ)きいかなるものも打ち破る我が武神(かみ)よ……尊き天よりの導きよ……卑小のこの身に巍然(ぎぜん)たる御身の神力(しんりょく)を……】」

 

 そして、こうしている間にも春姫が先ほどまで待機させていた詠唱を進めていることを。

 

「【神饌(かみ)を食らいしこの体……(かみ)(たま)いしこの金光(こんこう)……】」

 

 

 

 

『まだだ……‼』

 

 懸命に拳を握り、腕に力を入れる。

 深手を負ったとは言えベルも冒険者。

 戦争遊戯(ウォーゲーム)の時に負傷時の戦い方も訓練はした。

 

『もう、ジュネッス・ホワイトは保てない……』

 

 元々消費が激しかった強化形態を解除し、通常形態(アンファンス)に戻る。

 ただでさえ強力な今のヤプールと戦うには心許ないが、あのままではすぐに干からびていた。

 

『ウルトラマンとしての力がだめなら、僕自身の力で……‼』

 

 蓄力(チャージ)を開始する。

 ベルを信じて戦う仲間たち。

 その期待に応えるために、少年は英雄の一撃を用意する。

 

 この【スキル】は蓄力(チャージ)中は音と光が発せられる。

 そのため不意打ちには致命的に向かない。

 既にヤプールにも気づかれているだろう。

 

 だが、今は都合がいい。

 かつて新種のモンスターと戦った時、エルフの魔導士の詠唱にモンスターを反応させることで単調な攻撃を誘発し、前衛(ベル)の負担を減らしたことがあった。

 この【英雄願望(アルゴノゥト)】の脅威を知っているならば、無視はできないはず。

 

 冒険者としての技と駆け引きで、満足に戦えない体でも今やれることをする。

 往生際の悪さこそ、冒険者の強さだ。

 それをあの悪魔に見せつけてやる。

 

「ハアアアア……‼」

 

 【英雄願望(スキル)】の引き金(トリガー)を思い浮かべる。

 その憧憬の名はウルトラマンネクサス。

 適合者(デュナミスト)たちと絆を結び、人知れず邪悪から世界を守り続けた、光の巨人。

 共に戦ってきた誰も知らない英雄を幻想し、ベルは勝利の鐘を奏でる。

 

 やがて、鐘の音は大鐘楼の音に変わり。

 収斂する光の粒は、右手だけではなく全身に広がった。

 

 かつて黒いゴライアスとの戦いで到達した境地──限界解除(リミット・オフ)

 

 【神の恩恵(ファルナ)】すら超克する想いの丈が、常を超えた力を引き出す。

 

『今度こそ……誰も失わない!!』

 

 

 

 

『何だ!?あの光は!?』

 

 轟く大鐘楼の音色にヤプールが狼狽える。

 透き通るような神聖な音の波。

 生きとし生けるものを祝福するかのような福音は、人の悪意を糧とするヤプールを苦しめる。

 音が響く度に『ダークフィールド』の闇が晴れ、正常な『メタフィールド』に戻っていくのを感じたヤプールは再び立ち上がろうとするウルトラマンを悪魔のような形相で睨みつけた。

 

『何と忌々しい……闇を払う音色など、ビクトリーナイトのようなものではないか‼』

 

 小人族(パルゥム)の罵倒が続いていたが知ったことではない。

 あれは危険だ。

 あの光を生かしておいてはならない。

 体から怪獣たちの負のエネルギーを消すあの鐘は、ウルトラマンと同じヤプールの天敵だ。

 

 こだわりを捨て、光線を乱射する。

 一つ一つに突撃する先ほどまでのやり方では防げない。

 勝利を確信したヤプールは消し炭となったウルトラマンを幻視した。

 しかしその幻想は重力の檻に押しつぶされる。

 

「【天より(いた)り、地を()べよ。神武討征(しんぶとうせい)──────【フツノミタマ】】!!!!」

 

 全てを捉える重力の結界。

 それは怪獣の光線も例外ではない。

 ウルトラマンにたどり着く前に、ヤプールの攻撃は全て地に落ちた。

 

『何だと!?』

 

 まさかの防ぎ方に愕然とするヤプール。

 春姫はその隙を見逃さない。

 

「【(つち)へと至り(つち)へと(かえ)り、どうか貴方へ祝福を──大きくなれ】」

 

 両手を伸ばした先に見えるウルトラマンに微笑む。

 祈るようにささげられた光槌。

 ウルトラマンは彼女の視線に頷くと気力を振り絞って立ち上がり、魔法に手を伸ばす。

 

「【ウチデノコヅチ】!!!!」

 

 光の柱がベルを包み込む。

 これまでのダメージを吹き飛ばすような万能感に少年は雄たけびを上げた。

 

 

「オオオオオオォォォォォォ!!!!!!!!」

 

 そして、蓄力(チャージ)が完了した。

 放つは一撃必殺。

 ウルトラマンネクサスが最も信頼する技に全てを賭ける。

 

『クロスレイ・シュトローム』

 

 十字に組んだ両腕から放たれる光波熱線。

 ウルトラマンネクサスの代名詞ともいえる必殺技はヤプールに直撃した。

 

『何だ……この力はあああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!』

 

 英雄の一撃は過剰に強化されたヤプールをもってしても防ぎきれず、ジリジリと勢いに押され後ろに押し出される。

 チャンスは今しかない。

 残るすべての力を絞り出すため、ウルトラマンは声を上げた。

 

「ハアアアアァァァーーーー‼」

 

『おのれぇ……ヤプールの憎悪を舐めるなぁぁ!!!』 

 

 しかし、ヤプールはただでは終わらない。

 可視化できるほどの闇のオーラを発し、光線を受けながら一歩ずつウルトマンに近づき始めた。

 異様な執念に動揺するウルトマン。

 思わず悪魔の尋常ではない殺意に飲まれ始める。

 だが、

 

「頑張ってくださいベル様ァ‼」

 

「ここからだ!根性見せろ‼」

 

「あと少しです!」

 

「信じています‼」

 

 魔剣もアイテムも全てを使いつくした仲間たちからの声援が怯えた心に活をいれた。

 皆が必死に叫んでいる。

 喉を枯らさんばかりに、想いだけでも届けようと声を出していた。

 その声援に応えなくて何が英雄だ。

 何がウルトラマンだ。

 

「頑張れえええええ‼」

 

 最後に神様の声が聞こえた瞬間。

 ベルの中の光が覚醒する。

 エナジーコアが眩い光を放ち、ウルトラマンの底力を引き出した。

 

『コアファイナル』

 

 ベルと【ヘスティア・ファミリア】の絆が奇跡を呼び起こした、ウルトラマンネクサスの最後の切り札。

 エナジーコアから流れ出る光はウルトラマンの背後で形を成し始める。

 それはウルトラマンよりも大きな銀の巨人。

 それはベルの中に住まう光のオリジナル。

 それは決して希望を捨てない人々の心の力の体現者。

 

 諦めなかった彼らに世界を超えて光のエネルギーを与えるそのウルトラマンの名は……

 

『あり得ない……ウルトラマンノアが何故ここに!?』

 

 並行世界(マルチ・バース)のウルトラマンの出現に驚愕するヤプール。

 ウルトラマンの背後の幻影(ヴィジョン)として現れた神秘の勇者はウルトラマンと同じように十字を組む。

 時空を超越した援護によってアンファンスのまま、本来は不可能な究極最終形態(ウルティメイト・ファイナル・スタイル)の力、その一端を再現する。

 

『ライトニング・ノア』

 

 勢いを増し、稲妻超絶光線に進化した一撃により、ついにヤプールの足が止まる。

 

『ガッ……グ…おのれウルトラマン‼おのれベル・クラネル‼忘れるな!何度滅ぼうともヤプールは必ずこの世界に戻り、再び貴様らの前に……』

 

「いいや、そんな未来は来ない」

 

 ヤプールの言葉をヘスティアは切って捨てた。

 そこにいたのは普段の天真爛漫な少女ではない。

 威厳に満ちた、不滅を司る偉大なる神としての顔でヤプールの言葉を否定する。

 

「君はやりすぎた。神々(ボクたち)は異邦人と眷属(こども)たちの出会い(クロスオーバー)は認めても、君のような侵略者は認めない。さっきの融合怪獣のエネルギーで天界の神たちも君に気が付いた。神の力(アルカナム)が今後君のこの世界への来訪を禁ずることになるだろう。」

 

『おのれ……おのれええええええええええぇぇぇぇ』

 

 ヤプールは断末魔と共に爆散し、それと同時に異世界の戦士が作り上げた光の空間も消失した。

 

 

 

 

 縦も横もない世界。

 ベルとウルトラマンしか存在しない空間で二人は向き合っていた。

 ベルは穏やかな表情で銀の巨人に言葉を送る。

 

「貴方のお陰で僕は仲間を守れました。……ありがとうございました。」

 

 そんな言葉にウルトラマンは静かに頷いた。

 きっと、こうして顔を会わせるのは最後になるのにウルトラマンは無口なままらしい。

 つい、苦笑してしまう。

 でも、僕たちはこういう関係でいいのかもしれない。

 言葉はなくても、彼の温かい心を確かに感じたから。

 

「いつか別れなきゃいけない時が来るとは思っていたけど……いざその時が来ると何から言えば良いのか……」

 

 彼と共に戦った時間は驚くほど短い。

 精々数十年しか生きられない僕でもそう思うんだ、悠久の時を存在するウルトラマンにとっては瞬きの間の出来事なのかも。

 それでも僕も彼もこの短い物語を忘れることはないだろう。

 

 溢れ出る感情に振り回されないように自分を律する。

 情けない所をいっぱい見せたけど、別れの時くらいは格好を付けたい。

 

「貴方はこれから色んな所に向かうんですね」

 

 彼のウルトラマンになるための旅は始まったばかり。

 ここから受け継がれる絆の物語が紡がれていくんだ。

 きっと色んな人に出会いながら、長い長い時間を歩んでいくんだろう。

 彼の行く末を見届けられないのは残念だけど、僕はその旅路を応援したい。

 

「でも、貴方に変身できるのが僕だけじゃないのはちょっと悔しいかも」

 

 そう冗談を言ってみた。

 ウルトラマンの表情はお面みたいに変わらない。

 だけど何でか、彼が笑った気がした。

 だから僕も笑う。

 別れにはこの顔が一番だ。

 

 満ち足りた時間。

 このまま時が止まればいいのに、なんて未練が湧いてしまう。

 でも人に時の歩みを止める術はない。

 これが最後なんだ。

 

──あぁ、夢は終わりだ。

 

 意識が覚醒しようとしている。

 名残惜しけど、ここでお別れだ。

 

「さようなら。貴方に出会えて良かった。」

 

 僕の言葉にウルトラマンが頷いた。

 巨人の姿が遠くなっていく。

 そして現実の仲間たちの声に引かれて、僕もその姿に背を向けた。

 バイバイ、ウルトラマンネクサス。

 僕の、僕たちの英雄(ウルトラマン)

 

 

 

 

 世界の命運を賭けた戦いが終わり、日常が戻ってきた。

 街行く人々はこの世界で闇と光の決戦が行われたこと等、気づくそぶりもない。

 未だ市中に流れる怪奇現象の噂は存在するが、既に黒幕(ヤプール)は討たれた以上はそれも緩やかに収まるだろう。

 

 僕たちの生活もあの後何か劇的に変わったかと言われれば、そんなことはなかった。

 拍子抜けするくらい簡単に【ヘスティア・ファミリア】はウルトラマンのいない世界に慣れてしまった。

 何年もしたら、この思い出のことも夢だと思ってしまうのかもしれない。

 

 でも、あれから僕の肩から少し力が抜けたとみんなに言われる。

 僕は意識していなかったけど、今まではどこか無理をしているようで仲間たちに心配をさせていたらしい。

 

 アルテミス様のことを忘れたわけではない。

 むしろ彼女の思い出は絶対に忘れられないだろう。

 だから僕はその記憶をつらいだけのものにするのはやめる。

 あの無力感はなかったことにならないけど、あの女神(ひと)との出会いをつらいだけのものにしたくない。

 

 彼女との約束。

 一万年後に会うときは、笑顔でいたいから。

 

 だから、僕は走る。

 この先に待ち受ける運命を恐れず、受け止めるために。

 

「ベル様~。そろそろ出発ですよ~。」

 

「今日はウルトラマンの力なし、正真正銘【ヘスティア・ファミリア】のみの力で18階層を目指す日です‼気合を入れていきましょう‼」

 

 大丈夫。

 僕には仲間(ファミリア)がいる。

 みんなが一緒なら、どんな困難も乗り越えられると思えるから。

 

炎鳥(ファイアーバード)が大量発生しているらしいぞ。19階層のモンスターとはいえ、警戒は必要だな。」

 

「び、微力ながらお力になれるように頑張ります。」

 

 扉の前で待つパーティーの姿に笑みを浮かべる。

 今度はどんな冒険が待っているだろうか?

 どんな景色を見られるだろうか?

 

「気を付けて言ってくるんだぞ!みんな‼」

 

 どうか、ホームで僕たちを待つ神様が笑い転げるような物語であってほしい。

 それが一番僕たちらしいから。

 

「みんな、行こう!」

 

「「「「はい!!!(おう!!!)」」」」

 

 冒険しよう。

 またダンジョンで、新しい出会いが待っている。




──ダンジョンで受け継がれる絆と出会うのは間違っていくだろうか
──結論。絶対に間違いじゃなかった

 作者の逢奇流です。
 まずは本作を最後まで読んでくださったことに感謝を言わせてください。

 本当に、本当にありがとうございました。

 ダンまちとウルトラマンと言うちょっと無理のあるクロスオーバーでしたが、何とか完結できて一安心と言ったところです。

 劇場版でつらい経験をしたベル君。
 ダンメモのアフターストーリーである程度の救済はありましたが、彼が心の傷と向き合う話が見たいと思ったのが本作を考えたきっかけです。
 本当はキャラクターとしての怪獣やモンスターの脅威などプロットから泣く泣く削った部分も多く、小説を投稿することの難しさを実感しました。

 皆様のご期待に添えた内容だったかは分かりませんが、一人でも多くの方に楽しんで読んでいただけたならそれ以上の喜びはありません。

 それではまた、次の作品を書くことがあればよろしくお願いいたします。 


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◎第5話・最終話の怪獣・モンスター解説

これが最後の更新。
終盤なだけあって怪獣の数が多かったです。


〇第5話 「夢想-ナイトメア-」

登場怪獣 『超合体怪獣・ファイブキング』『超古代植物・ギジェラ』

登場モンスター 『ニードルラビット』『キラーアント』

-怪獣紹介-

 

超合体怪獣・ファイブキング

身長:75M(メドル)

体重:5万5000t

初登場:ウルトラマンギンガS第7話「発動!マグネウェーブ作戦」

 

解説:ファイヤーゴルザ・メルバ・レイキュバス・ガンQ・超コッヴを

   それぞれ頭、背中、右腕、左腕、下半身に合体させた怪獣。

   各怪獣の能力を使うことができる。

 

   ギンガとビクトリーの二人を一度は完封した強豪怪獣。

   しかし、UPGの作戦により復活した二人のコンビネーションで倒れた。

 

   未だ人気が根強い平成三部作の怪獣を合体させており、

   総集編では平成版のタイラントだと紹介された。

   

   今作ではヤプールの(しもべ)として登場。

   圧倒的な火力を見せつけました。

 

 

 

 

超古代植物・ギジェラ 

身長:53M(メドル)

体重:4万2000t 

初登場:ウルトラマンティガ第45話「永遠の命」

 

解説:巨大なユリの花の様な怪獣.

   本体である巨大な怪獣と端末である小さな花による植物群。

   その花粉には幸福な夢に落とし永遠の命を与える効果がある。

   

   ティガ世界の古代文明は、この怪獣によって滅びている。

   ぶっちゃけ麻薬であり、人々は夢から覚めるともう一度夢を見るために花を求める。

   ティガ本編でも花の虜になった民衆がウルトラマンを非難するシーンがある。

   

   平成の第一作として始まったウルトラマンティガ。

   その中には問題作と呼ばれるエピソードも多い。

   第45話もいままで積極的に人類の選択に干渉しなかった昭和シリーズとの違いが見て取れます。

 

   結構暗い背景の多いダンまちでは刺さる人も多そう。

   ただ、上級冒険者だと効かないかも。

   

 

 

 

-モンスター紹介-

 

 

ニードルラビット

解説:7階層に出現するウサギ型モンスター。

   武器の材料として重宝される額の角は強力。

   死角となる低い位置からの突きでベルも死にかけた事がある。

 

 

キラーアント

解説:7階層から出現する蟻型のモンスター。

   頑丈な甲殻と鋭い鉤爪によって『新米殺し』の異名を持つ。

   命の危機になると仲間を呼ぶフェロモンを発する。

 

 

 

〇最終話 「英雄-ウルトラマン-」

 

登場怪獣 『風ノ魔王獣・マガバッサー』『ブロブタイプビースト・ペドレオン』『暗黒の魔神・ダークルギエル』『破滅魔虫・カイザードビシ』『悪夢魔獣・ナイトファング』『百体怪獣・ベリュドラ』『異次元超人・巨大ヤプール』

登場モンスター『ハーピィ』『ダンジョン・リザード』『ファイアーバード』

-怪獣紹介-

 

風ノ魔王獣

体長:55M(メドル)

体重:2万t

初登場:ウルトラマンオーブ第1話「夕日の風来坊」

 

解説:青色鳥のような見た目の怪獣。

   存在するだけで家が粉々になるほどの竜巻を発生させ、

   サハラの砂漠に雪を降らせるという異常気象を引き起こした。

 

   ウルトラマンオーブ本編を通しての敵である魔王獣の一番手。

   魔王獣の特徴として額にあるクリスタルがつけられている。

   他の魔王獣は過去作の怪獣に「マガ〇〇」となっており、バッサーなる怪獣もいるらしい。

 

   第一話の気合の入った空中戦は見もの。

   CGを全然使わずに鳥の動きを見事に再現している。

   

   本作で出たのは正確には魔王獣ではない。

   しかし、消耗したベルには厳しい相手だった。

 

 

 

 

ブロブタイプビースト・ペドレオン

身長:2~50M(メドル)

体重:4万5000t

初登場:ウルトラマンネクサス第1話「夜襲 -ナイトレイド-」

 

解説:ナメクジのような怪獣。

   人間とガソリン、アルコールが主食。

   同族との合体融合、自己進化能力を持つ。

 

   ウルトラマンネクサスの敵であるスペースビーストは多くは寄生元の動物がいるが、

   ペドレオンは何だったかは不明。

   一説にはこの姿こそスペースビーストの本来の姿ともいわれている。

 

   人間の恐怖の感情が主食なので絶対に共存不可能な怪獣。

   ウルトラマンネクサス最終回時点でも戦いに終わりは見えない。

   

   能力と言い性質と言いヤプールが好きそうな怪獣ですね。

 

 

 

 

暗黒の魔神・ダークルギエル 

身長:ミクロ~無限大

体重:ミクロ~無限大 

初登場:ウルトラマンギンガ最終回「きみの未来」

 

解説:頭部に角が生えた鎧武者の様な姿。

   黒と赤の色彩が印象的な闇の支配者。

   どこかウルトラマンに似た印象の巨人。

   

   ウルトラマンギンガにおける様々な事件の黒幕であり、ギンガの宿敵

   ギンガSではその起源がギンガと同じだと語られるなど。

   光と対になる存在であると示唆されている。

   

   多くのウルトラマンや怪獣を人形化させる光線を持つ。

   この能力は歴代のラスボスにも有効な危険なもの。

   通常の光線としても強力である。

 

   こんな奴を簡単に再現できるはずもなく、本作のコピーに人形化能力はない

   ……まぁ、接近戦ではタロウにボコボコだったし、ダークスパークなしならこんなものかも。

 

 

 

 

破滅魔虫・カイザードビシ 

身長:62M(メドル)

体重:6万8000t 

初登場:ウルトラマンガイア第49話「天使降臨」

 

解説:無数のドビシが合体し、怪獣になった姿.

   魚の様な部分もあり、どこかクトゥルフ的な雰囲気がある。

   その無尽蔵に現れるドビシが尽きない限り、何体でも現れる。

   

   ウルトラマンガイアのトラウマ怪獣。

   ウルトラマンに群がるイナゴの群れは本当に気持ち悪い。

   

   ガイアでは根源的破滅招来体という詳細不明な敵が暗躍しており、

   最終章の大攻勢もそいつの仕業。

   ウルトラマンを追い詰めるが、その直後に噛ませ犬に。

   こんな奴でも根源的破滅招来体には捨て駒でしかなかった。

 

   ウルトラマンの弱点である時間制限。

   最終話ではよくねらわれる気がします。

 

 

 

 

悪夢魔獣・ナイトファング

身長:62M(メドル)

体重:6万2000t

初登場:ウルトラマンタイガ第7話「魔の山へ!」

 

解説:頭部にある口や複数の眼、巨大な黒い翼が特徴的な怪獣。

   鳴き声は人の泣き言にも笑い声にも聞こえる。

   頭の目から発する音波は相手に悪夢を見せる。

 

   九頭流村の守り神「赤目様」の正体。

   村人は村に立ち寄った旅人を生贄としていたが、

   やがて誰も来なくなり、村人から生贄を出しているうちに村は滅亡した。

 

   このエピソードはクトゥルフTRPGのような進み方をし、

   平成初期のシリーズのような妖しい空気を醸し出している。

   

   トラウマを抉る能力と適合者(デュナミスト)との相性最高じゃない?

   と言うことで登場してもらいました。

 

 

 

 

百体怪獣・ベリュドラ 

身長:4000M(メドル)

体重:測定不能 

初登場:ウルトラ銀河伝説

 

解説:ウルトラマンベリアルが怪獣墓場の亡霊たちと合体して生まれた怪獣.

   これまでのシリーズに出てきた怪獣たちが折り重なるように化け物を形どる。

   必殺技は全身から広範囲に放つ必殺技「ベリュドラインフェルノ」。

   

   ウルトラ銀河伝説はインフレバトルにより賛否両論ある作品だが、

   その極致ともいえる怪獣。

   レイオニクスであるレイの助力がなければ勝ち目はなかっただろう。

   

   百体怪獣とあるがどう考えても表面だけでその倍はいる。

   百と言う言葉にはたくさんという意味もあるので間違いではないが……

 

   一番出し方に困った怪獣。

   4000M(メドル)とか絶対ダンジョンに入らないじゃん。

 

 

 

 

異次元超人・巨大ヤプール

身長:50M(メドル)

体重:8万2000t

初登場:ウルトラマンA第23話「逆転!ゾフィ只今参上!」

 

解説:本来は子供にも負けるくらい貧弱なヤプール人。

   そんな彼らがウルトラマンエースを倒すために種族単位で合体した姿。

   蟹のような印象を与える鎌や体毛が特徴的。

 

   ウルトラシリーズ初のシリーズを通した巨悪系の敵。

   当時大人気だった仮面ライダーシリーズの影響を受けたのかもしれない。

   ……しかし、テレビでもゲームでも巨悪(笑)になりがちな気がする。

 

   とにかくしつこいことで有名で、ほとんど不滅の存在。

   中盤エースにやられてもその影響は絶大で、あの後味の悪い最終回に繋がった。

   

   ラスボスはザギと迷ったけど、こいつになりました。

   ストレートな悪役は書いてて楽しい。

 

 

 

 

-モンスター紹介-

 

 

ハーピィ

解説:25階層から出現する女面鳥体のモンスター。

   女面といっても皺だらけの醜い顔面らしい。

   おまけにとっても臭い。

 

 

ダンジョン・リザード

解説:2階層から4階層に出現するヤモリのモンスター。

   指の吸盤で天井に張り付いての不意打ちが得意。

   正直序盤に出るべきモンスターじゃない気がする。

 

 

ファイアーバード

解説:19階層に出現する鳥型モンスター。

   名前通り火炎攻撃が得意なレアモンスター。

   こいつが大量発生しているということは……?。




 短い間でしたが最後まで読んでいただきありがとうございました。

 最後に後学のためにアンケートを設置しますので、皆さんに気に入っていただけたエピソードを聞かせてください。
 ただ、アンケートは5択までで微妙に足りなかったので、各話のcパートにアンケートを設置しておきます。
 お手数をおかけしますがよろしくお願いします。


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