Lobotomy Corporation SS O-09-42「狡猾と狂騒の仮面」 (暁葵)
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Lobotomy Corporation SS O-09-42「狡猾と狂騒の仮面」

O-09-42は、杖を持ち、シルクハットと漆黒のスーツを身に纏い、笑っている仮面を被った人型のアブノーマリティである。

リスクレベルはALEPHで、E-BOX生産量は24、クリフォトカウンターは4。

EGO武器の名前は「終焉」。仕込み杖の武器で、ランクはALEPH。攻撃力は12~14で、BLACK属性。

射程は近距離で速度は普通。特殊能力として「鎮圧時、2体以上のアブノーマリティが脱走している場合、BLACKダメージを12増加させ、REDダメージを6増加させる代わりに使用者に14のWHITEダメージ」がある。

EGO防具は先ほどと同じく「終焉」。装備箇所は目で、見た目はO-09-42の仮面とシルクハットで、REDは脆弱の2.0でWHITEは耐性の0.7、BLACKも耐性の0.6、PALEも耐性の0.8を持つ。

特殊能力として「もし使用者がWHITEダメージを受けた場合、相手にREDダメージを与える」を持つ。

EGOギフトの獲得率は6%、内容は「WHITEとBLACKに対する耐性を4%上昇、本能作業の成功率が4%上昇する」というものだ。

 

作業方法は、四つ。

一つは「作業結果が悪いと、クリフォトカウンターが1減少する」…これは大体のアブノーマリティにある条件だ。

もう一つは「正義ランクが4の職員に作業させると、クリフォトカウンターが2減少する」…正義が4未満の職員に作業を一任するのが良いだろう。

そしてもう一つ「作業室に入る度に被っている仮面の表情が変わり、表情によって作業結果が変わる」…これは「今日は恥ずかしがり屋」と同じ特性で、これについては後に説明する。

最後に「全ての作業が、本能は〝喜劇〟、洞察は〝悲劇〟、愛着は〝恋愛劇〟、抑圧は〝惨劇〟に変わる」

 

ここからは、O-09-42の特徴について説明する。

「狡猾と狂騒の仮面」は、人間とのコミュニケーションが可能で、お喋り好き。それ故か、元の作業成功率が高く管理がしやすいアブノーマリティだ。

彼は日によって仮面の表情を変え、「嘲笑」と「悲嘆」、「憤慨」と「虚無」の四つの表情を持つ。「嘲笑」が最も成功率が高く、逆に「虚無」は最も成功率が低い。

先ほどの作業方法で言った「全作業が変わる」についてだが、これは少し特殊なのだ。

〝喜劇〟を選んだ場合、作業終了後、職員にMPとHPを40回復させる効果を持つ。

〝悲劇〟を選んだ場合、作業終了後職員のEGO武器のREDダメージを2減少させる代わりに、WHITEダメージを2増加させる。

〝恋愛劇〟の場合は作業終了時、職員に100%の確率でEGOギフトが与えられる代わりにランダムのアブノーマリティのクリフォトカウンターが1減少する。

〝惨劇〟を選択した場合、20%の確率で職員を殺害し、クリフォトカウンターを2上昇させる効果を持つ。

そしてこのアブノーマリティは非常に気紛れで、狂気が強く、他者が死に至ると喜ぶ異常な価値観を持っている。

 

O-09-42が脱走した場合について説明しよう。

「狡猾と狂騒の仮面」が脱走すると、周辺を徘徊する職員に仮面を取り付け、己が眷属とする。彼らは非常に獰猛な性格をしており、近くの作業をしていない収容室へと命令も無しに侵入し、クリフォトカウンターを0にする。

更に、O-09-42とその眷属含めて44人の職員を殺害すると、シルクハットを外して突然変異をする。

その姿は、普通の人のような外見から、黒い翼と炎を纏った巨人へと変貌し、杖を漆黒の大剣へと変化させ、無差別にそれを振るう。

その状態で更に12人殺すと、大剣から黄金のサックスに持ち替えて、施設全体に200のBLACKダメージを与え、元の状態へと戻る。

ただし、仮面の表情によって施設全体に与えるダメージ属性が違い、「嘲笑」であればBLACK、「悲嘆」であればPALE、「憤慨」ならRED、「虚無」であればWHITEの200ダメージを与える。

O-09-42を職員の手で鎮圧した場合、脱走したアブノーマリティは収容室へと戻る。

 

――――――――――――――――――――――

 

記録 「狡猾と狂騒の仮面」

 

ある焼失した修道院があった。そこで謎の仮面の男が立っているのを発見し、収容される運びとなった。

彼は非常にお喋りで、何処か愉快そうな表情と言動で職員に親身に接してくれる。彼は劇を鑑賞することが大好きで、収容室に行くたびに「喜劇が見たい」「悲劇が見たい」と我がままを言っていた。

そんな不思議な男と僕――フィルとの会話と記録した、いわば「手記」だ。

 

「ねぇ、君は誰なんだい?」

「ボク? ボクはねェ……まァ、ジャックと名乗っておこうか」

彼は何かを取り繕うように名乗る。彼――ジャックは、昔の話を饒舌に語りだす。

「ボクねェ、実は劇が大好きでねェ、よく友達と劇場に赴いて劇を見たものだ。ある時は喜劇を見て笑い狂い、ある時は悲劇を見て涙を浮かばせ、恋愛劇を見て心打たれ、惨劇を見て胸を抉られたりした。ボクはその劇の数々を見て感情を得た」

「どういう事なんだい?」

 フィルは問いかける。すると嗤っていた仮面に手を掛け、半オクターブ声音を低くして彼に告げる。

「……少し、後ろを向いててくれ」

 ジャックの言葉には、威圧感があり、気圧されてフィルは後ろを振り向く。彼は仮面を取り換え、「いいよ」と一言。フィルが振り向くと、慟哭する仮面に変わっていたジャックが居た。

「ボクね、昔は色々な人を殺してたの。豪傑な戦士や聡明な賢者、心優しき修道女……無差別に殺していった」

「君は殺し屋か何かだったの? それか、愉快犯だったの?」

「違うよ。ボクは単純に、自分の思うがままに人を殺してきた――と、少し重い空気になってしまったね! 悪い悪い、話を変えよっか」

 ジャックは後ろを振り向いて仮面を取り換え、元の笑顔の仮面へ戻る。

 その後は、様々な話をしてくれた。喜劇で主人公が金を貸してもらったという旨を友人に話したら勝手に金を奪うと勘違いされ、話が噛み違っていて面白かった話だったり、用意された服が勝手に発火する魔法の服で、友人の家でつまずき家が全焼するという話で笑ったり、恋人が貴族で離ればなれになって悲嘆したりと――様々な話を実験時間ぎりぎりまで話していた。

 次の日も、また次の日も、劇の話をして、愉しく笑っていた。

 

 だがある日、とある劇の話をしていた時、ジャックは不意に愉快な気持ちを失い、暗い雰囲気を漂わせていた。

 その時の劇の題名は「ニーベルングの指輪」だった。

「――そこで、ロキっていう悪い神様が二人の縁を断ち切ろうと色々と姑息な手段を用いたんだ。男が実はクズで女たらしや家が賄賂で生計を立てている貴族だと吹聴し、女を絶望させたんだ。あとね、女が女神であることを暴露させ、諦念させようとした――結果、彼らは引き剥がされ、バットエンド」

「……なんか、酷い話だね。ロキっていう神、なんて卑劣で狡猾なんだ! 人間の別離を笑いものにして、とんだクズで異常な畜生じゃないか!」

 フィルは、ジャックの話を聞いて感情込めて憤慨する。当然だ、結ばれようとしていた女神と人間の男の恋路を邪魔して最後には絶望に叩き落す…当然怒るだろう。

 ジャックは、溜息を吐いて、ある言葉を仄めかす。

「……やっぱり、キミもか。ボクのことを畜生と呼ぶんだね……はぁ……チッ」

 直後、彼は仮面を取り出し、取り付ける。その表情は、無表情であった。情も無く、深淵のような暗い表情であった。

 フィルは警戒し、後ずさりする。この状況を察知して、観察者は即座に援軍を要請する。

 ジャックは何処からともなく一本の巨大な漆黒の剣を手に取り、フィルを一刺しする。血が噴き出し、倒れ込む。

「ガハッ……ア……ァ……グッ。どうして……ッッ?」

「キミはボクの心を裏切った……! ボクの真の名前を教えてあげよう――ボクの名前はロキ。終焉と炎、狡知を司る魔神さッ‼」

 瞬間、彼は炎を纏って漆黒の翼を生やして肥大化していく。その姿は、形容し難いもので、恐怖を掻き立てられる。そしてジャック――否、ロキはサックスを取り出し、途端にそれを吹く。

その音色は不協和音で、まるで世界を滅ぼしかねない旋律であった。フィルは、朦朧とする意識の中、謝る。

「ご……めんな……ジャ………ッック――」

 

その後どうなったかは現在の職員では知る人間はいない。

彼らは必死に奮闘し、その末に彼を――仮面の男を鎮圧して見せた。彼はもとの姿へと戻り、再び普遍的で、狂気的な話を饒舌に語る――――

 

  チガウ、ボクハカメンヲカブッテイルダケニスギナイ。

   ボクハホントウノナヲ、ホントウノソウボウヲカクシツヅケ、ドコカキョウカンヲエヨウトシテイル。

    コレハ、ボク――フィル

 

     デハナク、ボク――ジャックニヨル「手記」デ、サイアクナル「喜劇」デアル。



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