聖剣聖剣って聖槍の方が強いから!!(迫真 (枝豆%)
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設定

かなりFateとの設定の違いを指摘されたので、作者的にはこの作品でこうしますよー。というのを一度出しておこうかと思います。

それでも「これ違う!」みたいな所があったら教えてくださいm(_ _)m


ロン

 

年齢:15歳(誕生日6月17日)

神器:【白亜の天翔馬】

 

武器:【最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)

 

最果てにて輝ける槍 真名解放前(①FGOのグレイEXTRA attackの槍)聖槍

 

最果てにて輝ける槍 真名解放(②乳上の持つロンゴミニアド)白銀

 

最果てにて輝ける槍 宝具=必殺(③乳上宝具ロンゴミニアド)黄金、なんか纏ってるやつ

 

(Fateのロンゴミニアドには枷その物が、聖剣エクスカリバーにならいそう在るべきだ!と具現化されたらしいが、今作では13の拘束そのものが存在する。成長を止める力も聖剣の力だが、本作品では逆で聖剣にそういうものはなく聖槍はその力を得る。

そしてFateには無い設定で胸の内中に入ったり、意識があり(ケイでは無い)、羅針盤の役割を担ったりする)

 

 

「簡単に(最果てにて輝ける槍)」

・すげぇオーラを持ってる槍。オーラが持ち主に影響及ぼす!(成長止まったり進めたり)

・なんかロンゴミニアドって呼んだら形態が変わる、3段階ある!

・奥に意識みたいなものがある。たまに話しかけてくる!

・最善の選択や虫の知らせみたいなことをしてくれる!

・なんか凄い宝具(必殺技)が放てる!(13こ枷があるけど最後の一つ(アーサー)は例外だから6つでもOK!)

 

 

 

装飾品:【世界樹の指輪(精霊憑き)】

 

 

 

容姿:灰色の髪に灰色の瞳、体の色素が薄いチビ。だが聖槍の神性を取り込んだお陰で少し大きくなった。でもまだ小さい部類。聖槍の影響で毛先が金色に、右の瞳が黄金になる。

 

 

 

聖剣計画の生き残りで、命からがら逃げ出した所で聖槍ロンゴミニアドに救われ所持するようになる。どこか違う場所へと歩き続け山に登ろうとしている所でオーディンと出会い名を与えられ拾われる。

 

体の成長は止まってきる。聖槍からの神性を取り込みすぎたため、体その物が神性を帯びた武器という扱いになり成長の必要性が無くなる。しかし、現状では討てない敵との激突に限り聖槍が所持者を強制的に成長させる。不老ではあるが不死では無い。

 

神性=聖なるオーラ(HSDD)の上位互換。

 

ヴィーザルの計らいで世界樹の指輪を身に付けており、その中にはシルフィという風精霊が憑いている。風精霊魔術を扱うことができて高威力広範囲の風を使うことが出来る。

 

 

技(現状)

 

騎駆剱穿(ストライク・スタリオン)

ードゥンに騎乗し、ドゥンの光速の移動と聖槍による光速の突きを合わせることでできる刺突技。範囲は狭いが大抵のものは攻撃が通り、貫けぬものはほとんど無い。

 

聖槍風槌(ストライク・エア)

ー光速の刺突、ドゥンに乗っていないので威力は【ストライク・スタリオン】に劣るが、範囲が広く威力も高い。

 

聖槍風霊槌(ストライク・エア)

ーシルフィの風を纏い発動する聖槍風槌の強化版。

 

 

最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)

ー聖槍の本来の姿を解放し、13の枷を外す許可を得ることで世界を破壊する一撃を放つことが出来る。しかし枷が6以上外すことが出来なければ発動することは出来ず、宝具を放つことは出来ない。

 

 

 

 

 

 

【時系列】

 

(9歳)

聖槍を宿しオーディンに拾われる。

戦乙女の学校に無理やり入れられロスヴァイセ(11歳)と出会う。

 

(10歳)

座学についていけず留年、自主退学をする。

 

(12歳)

教会の戦士と戦う。

聖槍の力を取り込み過ぎ肉体が成長した。

アーシア(13歳)と出会う。

世界樹でシルフィに出会い、契約する。

 

(13歳)

ヴィーザルにボコボコにされる

 

(14歳)

ヴィーザルから訓練を受ける

 

(15歳)

ヴィーザルから逃げて日本に旅立つ。

アザゼルの元で神器への理解を深める。

ヴァーリ(?歳)に出会う。




以前作っていたヒロアカの二次創作で交友関係まで載せてしまい、大バッシングを受けたので今回は控えます。
せめて原作に介入してからにしたい。

他にも設定で「こういうの載せて欲しい!」みたいな事があれば、載せたいと思います。


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いち

 随分と前の記憶。

 僕は施設の中にいて、毎日薬をうたれて実験されていた。

 聖剣のため、聖剣のため。

 

 大人はみんなそう言う。

 聖剣の適合者になるため、彼等はそういう。

 

 でも駄目だった。

 一人一人殺される。

 廃棄処分。大人はそう言った。

 

 悔しかった、痛かった、辛かった。

 誰も助からなかった。

 

 血塗られた部屋をみて震えが止まらなかった。

 少し前までみんなが笑っていた場所が、今では壁一面に血の跡がある。

 

 吐いた。胃の中には何も無かったのに、それでも嘔吐した。

 吐いて吐いて吐いて……喉から血が出るほど吐いて。

 

 疑問に思った。

 なんでこんな辛い思いをしないといけないんだろう。

 なんで僕達がこんな目に合わないといけないんだろう。

 

 僕らに聖剣の適性がなかったからこんな目にあったの? 

 

 

 だったら僕は聖剣が嫌いだ。

 憎んでると言ってもいい。でも聖剣が悪い訳じゃないってことも分かってる。

 

 

 

 

 ──空から光が落ちてくる。

 とても大きな力。

 

 聖剣なんて比じゃないこの武器は。

 

 施設を破壊すると同時に僕の前に降りてきた。

 

 周りはここに建物があったなんて誰も信じないほど吹き飛んだ。

 こんな場所残らない方がいい。

 

 目の前にある武器を手に取る。

 

 聖剣と違って適性がないから弾かれることは無い。

 

 しっかりと掴むことが出来た。

 

 強く握る。そして大きな力が僕に流れ込む。

 

 それと同時にこの槍の名前が僕の頭に流れ込んできた。

 

 ──最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)

 

 この日、家族を失った代わりに僕に力が手に入った。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 僕には家族がいない。

 いや、正確には少し違う。い()んだ。

 

 教会の非道な実験によって皆が死んだ。

 聖剣エクスカリバーの為だなんて馬鹿げた理由で出来ないと判断されると殺された。

 

 そして困ったことに僕は生き残ってしまった。

 家族のいないこの世界で、頼ることができないこの世界で。

 

 僕は生き残ってしまった。

 

「……これからどうしたものか……」

 

 手には黄金に光り輝く聖槍があり、それだけで目立ってしまう。

 どうにかならないのか? と思うとロンゴミニアドはそれに察したのか、僕の体の中に入っていった。

 決して刺された訳では無い。波紋のようなものが体の表面に現れ、中に入っていったのだ。

 

 目立つ槍は何とかなった。

 だが、どうするのが正しいのか……それを教えてくれた家族はもう居ない。

 

 ──タちドまるな

 

 心の中で何かが呟いた気がする。

 それは聖槍なのか、はたまた死んだ家族の誰かなのか……。

 

 それは今となっては分からない。

 ただ……。

 

「そうだね、立ち止まっちゃ駄目だ。歩き続けよう」

 

 槍に選ばれた。

 そんな使命感は微塵もない。

 

 ただ、死んでいった家族の分まで。少しでも長く生き延びて、僕達は無価値なんかじゃなかったと証明したい。

 それで教会の奴らに「ざまーみろ」って言ってやりたいな。

 

 そんなことを思いながら北へと向かった。

 特に北に向かった意味は無い。

 

 ただ、直感で動いた。

 それこそナニカに導かれた……そう思えるほど僕の足取りは軽かった。

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 旅? を続ける数日、僕は世界の広さを肌で感じた。

 歩いても歩いても果てが来ない大地、そして通じない言語。変わった味のする食べ物に飲み物。見たことの無い果実とあげればキリがない。

 

 ただ一つ確信めいたものがある。

 

 ──楽しい。

 

 

 世界は広い。

 僕の知った世界はとても狭い。

 

 そう思わせるほど、僕は何も知らなかった。

 小さく閉鎖的な部屋だけが僕の世界だった。

 

 できれば皆も連れてきたかったな……。

 …………ダメだな湿っぽくなってしまった。

 

 美味しいものを食べて笑顔になろう。

 

 

 

 

 でも、僕の幸せは長くは続かなかった。

 

 

「お前が聖遺物(レリック)の適合者だな。着いてこい」

 

 逃げた。

 もしかしたら胸の中にある聖槍を使えば一掃できるのかもしれない。

 でも、それに頼ったらいけない気がした。

 なんでかは分からない。

 

 逃げた。

 全速力で。

 

 狭い部屋でしか生活してこなかったからか、直ぐに息切れしてしまう。

 それでも懸命に走った。

 

 捕まればあの日々に戻る。

 そう思うと家族の亡骸が脳裏に浮かぶ。

 

「ハァハァ…………」

 

 肺が悲鳴をあげている。

 足ももう動かないと小刻みに震えて力が入らない。

 

 森に倒れるように寝転んだ。

 殆ど気絶だったと思う。酸欠になってあまり働かなくなった頭でそう考えながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 暫くして起きると僕は意識を失う前にいた茂みにいた。

 どうやら教会の人は上手くまけたようだ。

 

 あの教会の人が前の人達と同じように酷いことをする人じゃないのかもしれない。

 ……でも、あの制服を見ると思ってしまう。

 僕の家族のようになってしまうのでは無いのかと。

 

 前途多難。

 こういう時のことを言うのだろうか。

 

 一人で生活するのは楽しいが、それ以上に大変だな。

 

 うつ伏せの状態から仰向けになり、曇天を仰ぐ。

 楽しい日々であると同時に、僕の日常はこういう物になる。初めてその事に気付いた。

 

「楽しくて大変だ……」

 

 ぽつりと呟く僕の声に誰も反応することはなく、その嘆きは虚空に消えた。

 そっと胸を撫でる。そこには何も無い、だが少しだけ暖かいものが感じられるような気がした。

 

「走ろう」

 

 誰の手も届かない場所がいい。

 小さな山の上にでも行こう、そうすれば体力も鍛えられそうだ。

 

 目指すは山の上。

 登山を趣味にするのもいいかもしれない。

 

 あの施設から初めてでて世界の広さを知った。

 川は綺麗だし、山は大きい。

 

 そんな当たり前のことを僕は知らなかった。

 だから山に登ってみたい。高いところから、世界を見渡してみたい。

 

 そんなありふれた感情に任せて僕は山に望んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪山はとても寒い。

 足が冷たくなって、空気が薄くて……。

 

 とても寒い。

 体の芯まで固まりそうだ。

 

「お前さんやい、こんな所でどうした?」

 

 こんな寒い雪山でもお爺さんは普通の格好をして立っている。

 どうやら僕は相当体が弱いみたいだな、普通(・・)ならあんな感じで何事もなく雪山でいられるものなのだろう。

 

「ちょっとこの山を登ってみたくてね」

「その格好でか? 見たとこお前さん、体を鍛えてるってわけじゃ──ッ! ……ふむ、なるほど」

 

 お爺さんは少しだけ目を見開いたような仕草をして、髭をとくように触る。

 

「なるほどのぉ、まだ染っておらぬようじゃし。これも巡り合わせかのぉ」

「お爺さん?」

 

 少しお爺さんは長考し始めたみたいなので、先に進みたい。

 とりあえずボロボロでカチカチの体を使って前へと歩き出した。

 

「まぁもう少しゆっくりしていけ。老人の会話に付き合ってくれ」

「……は、はぁ」

 

 気の抜けた返事になった自覚はある。

 なんて元気な爺さんなのだろうか。

 

「お前さん、山に登りたいじゃったな?」

「え!? ……まぁうん、そうだね」

「なら儂に着いてこい。何せこの山は儂のナワバリじゃからな」

 

 もしかしてこの爺さんは凄い登山家なのかもしれない。

 そう思い僕は爺さんの後を歩いた。

 

 

 

 …………

 ……

 ……

 

 

 爺さんの足取りは早い。

 世の爺さんはみんなこれくらい歩くのが早いのだろう。僕はまだまだだな。もっと世界を見てみたい。そのためには歩くことが大事になる。

 

「ほれ、もう少し早く歩くぞい」

「……りよー……かい」

 

 だいぶ疲れた。

 凍死するかも知れないくらい体が冷たい。そしてそれと同じくらい体が熱い。

 何か得体の知れないものが体から出たがっている。そんな気がするほど体が熱い。

 

 時には幅1mもない氷の幅を渡ったり、傾斜がほぼ垂直な場所を登ったりと。そんな何度も死線を掻い潜ってやっと辿り着いた。

 

「到着じゃ。どうじゃ? 気持ちよかろう?」

 

 何日間歩いていたのかは分からない。

 それでも丁度雲も見えなくなり太陽の光が体を照らしてくれている。

 

「……ああ、とても綺麗だ」

 

 目を奪われる。

 初めて高所から見た世界は、また違った見え方をしていた。

 真っ白な雲が見下ろす形で見える。

 

 どこから来たか分からないほどの山脈の猛々しさ。

 それを全て見下す僕が立つ頂上。

 

 感動。

 その言葉以外に僕の体にうち震えるものを表す言葉はないだろう。

 

 

「見事。良くぞ着いてきた、才能ある少年よ。名を聞こう」

「……名前は……ない」

 

「ない? お前さん、どこの出だ?」

「教会の実験から逃げてきた。だからよく分からない」

 

 名前も本当はある。

 だが既に死んだ、そう処理されたはずだ。

 

 だから僕には名前が無い。

 そしてどこの出? という問にも答えられない。

 

「ふむふむ。なるほどのぉ」

「あ、別に辛くないし気にしてないよ」

 

「バカタレ、名前が無ければ不便かろう。特別に儂が名前を付けてやろう」

「いやいや、僕は別にそういうのは」

 

 

「──ロン。それで良かろう?」

「だから話聞けよ。…………はぁ、まぁいいや」

 

 少し強引でアグレッシブなじいさんから名前を貰った。

 必要な時に適当に考えるつもりだったけど、貰ったならいいや。

 

 

「名誉な事じゃぞ、儂から名を貰えるなど」

「名誉って、お爺さん実は偉い人だったの?」

 

「む? 知らんと着いてきておったのか? ならば名乗ろうか、儂は北欧の主神オーディンと呼ばれる神じゃ」

 

 どうやら僕の目の前にいるお爺さんは、登山をしすぎて頭がおかしくなった残念なお爺さんらしい。




オーディン、変なお爺さんと勘違いされるの巻


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「ハティ、スコル。お座り」

 

 あの爺さんに拾われてからそろそろ半年近くなる。

 最近では爺さんの周りの神達からも白い目で見られなくなった。でも、やっぱりそれは全員じゃない。例えばこの2匹の飼い主からは「下等な人間」と会話の語尾では必ず付いてくる。

 正直毎回言っててめんどくさくないか? と思うが威厳のようなものがあるのだと僕は気にしないことにした。

 

「よしよし、お前たちはいい子だな」

 

 僕のお昼ご飯を二匹に少し分けてやる。

 豚の丸焼きだが、狼にはこのくらいペロリと食べてしまうだろう。

 

 代わりに僕は以前街に出た時に買っておいたリンゴを食べる。

 

 この世界で僕は肉や魚より、果物やお菓子の方が好きだということが分かったのだが爺さんから飯も食えときつく言われた。

 大人は理不尽だ。

 

「偏食のなにが悪いんだよな〜。自分だって酒ばっかり飲んでるのにさ」

「聞こえておるぞ、ロン」

 

「げ、爺さん」

 

 爺さん。そう呼ばれたのは山で出会った老人、名をオーディンと言うらしい。そして一応神様である。

 神は神でも教会の信仰されてる神ではなく、北欧の神だ。

 

「ロンよ、そうフェンリルの子を持ち出すな、ロキがまた暴れるぞ」

「知らないよ、この2匹が僕のところに来るんだから。文句があるならハティとスコルにいいなよ」

 

「餌付けすれば懐いてしまうであろうが、餌付けをやめろ」

「そんなこと言ったって僕の昼ご飯一人で食べきれないし」

 

「ならば量を減らせばよかろう」

「爺さんが肉食えって言ったんだろ!?」

 

 ああ言えばこう言う。

 こんな思い切りのいい関係に慣れたことに素直に喜べないのもまた一興。それこそ本物の家族のようにすら見える。

 

「何も豚でなく野ウサギでもよかろうに」

「ウサギって可愛いじゃん、〆るとき掠れる鳴き声とか……ホントもう……」

 

「豚には感じんのか……」

「豚って可愛いの小さい時までだからね、大人は食べるに限るよ美味いし」

 

「なら全て食えばよかろう」

「肉が美味いのは4口目までだよ」

 

「何をドヤ顔で言っておるのじゃ馬鹿者」

 

 肉が美味いのは4口目までという暴論に対し呆れる主神オーディン。

 だが不思議と憎めないのが憎たらしい。拾ってから半年近く、オーディンにとってもロンはただの聖槍に選ばれた者と言うだけでは無くなっていた。

 

神器(・・)の方は上手く使えとるのか?」

「どうだろ、多分大丈夫じゃないかな? 喋んないから分かんないけど仲悪くはないと思うよ。元々そういうものなんでしょ?」

 

「聖槍に神器とは、出鱈目な存在じゃわい。いや、だから選ばれたのかもしれんのぉ」

 

「もう用がないならいくよ、じゃあね爺さん!」

 

 返事は聞かずに走り去った。

 ハティとスコルのように僕の神器も喜怒哀楽があればコミュニケーションが取れればいいんだけど。基本「Yes」か「No」しか反応しないし。

 厳格な感じなんだろうなー。

 

「【白亜の天翔馬(ドゥン・スタリオン)】」

 

 僕の神器を取り出した。

 聖槍とは違って、これは僕が産まれた時からずっと持っていたものらしい。爺さんはそういう知識に関してはとにかく凄い(語彙力)

 

 昔の英雄の馬だったらしいが、死んだことによって神器として生まれ変わったらしい。だから馬というよりも鎧? みたいな感じに思える。

 まぁ馬っぽくないということは確かだ。

 

 爺さんに聞いたところ、神器はだいたいそんなもんじゃ。とのこと。

 

 僕はドゥンに跨り大地をかける。

 知らない土地はいい、全くの未知を常に僕に教えてくれる。

 走ることは気持ちいい、風を切る感覚は全身が喜ぶ。

 

 少し景色を見たくなった。

 

「ドゥン、上にいこう」

 そういうと速さに掻き消えて聞こえるはずのない僕の声が届いたかのようにドゥンは空を駆けた(・・・・・)

 

 それは跳躍ではなく文字通り空を駆けた。

 空間に波紋を残して。

 

 大地を駆けるのもまたいいが、それと同じくらい空を駆けるものいい。

 

 色褪せる景色が常にいいものだ。

 

 世界は何と素晴らしいものか。

 

 北欧の山々を走り周り、随分と楽しそうなロン。

 少々子供っぽいが、ロンは子供である。歳にすればまだ10にも満たない程の幼子。

 

 大自然を相手にするにはまだまだ小さい。

 だがそれを可能にする神器に恵まれたことで、毎日こんなことをしている。

 

 爺さんを困らせて、スコルとハティに餌をやって、ロキにキレられて、ドゥンに跨る。

 

 そんなロンの生活はいい意味で変化を遂げる。

 

 

 

 ーーーーー

 

 

「ごめん爺さん? 聞き違いかも、もう一回言って貰える?」

 

 聞き違いかも、という限りなく低い願いはオーディンの次の一言で潰えた。

 

「じゃから北欧の学校へ通えと言っておるんじゃ」

「……それってあれじゃないの? 魔術とか魔法とか戦乙女になる場所じゃないの?」

「……まぁそうとも言えるのぉ」

 

「……爺さん……ごめん爺さん、実は僕、男なんだ」

「分かっておるわい!」

 

 ならなんでそんなほぼ女子校みたいな所に入れようとするんだよ。

 北欧の戦力は神と戦乙女しか見たことないぞ、それはつまり学校でもそんな感じなんだろ? 

 

「……てかなんで今更、爺さんも言ってたじゃん。僕はそこいらの戦乙女より強いって。今更その戦乙女の養成校に通っても僕が得られるものってないんじゃないの?」

「確かにロンは実力だけで言うなら下手な戦乙女よりは強い。ポテンシャルを見れば神クラスになることも充分にありえる。じゃがのロン、お前さんはまだ子供じゃ」

 

 子供って。

 確かにそうかもしれないけど、今更何も知らない無垢な子供になれって。それこそ冗談じゃない。世の中が綺麗事では回ってないことは既に知っている。

 世界の裏側ではどれだけ残酷な事が行われていたのかも。

 

 自分の住んでいる場所が普通だと思い込んでいた過去の自分。

 あの地獄が普通だと感じていた日々。

 

 それが如何に哀れな事かをロンはつい最近になって知った。

 

「行けば分かる、儂のこの眼にかけてもよい」

 

 オーディンは眼を賭けた。

 知識の為に眼を捨てた爺さんに眼を賭けると言われても嘘くさいが……。

 

 

「分かったよ、でも飽きたら辞めるから」

「やんちゃ坊主が」

 

 山での数奇な出会いから爺さんに拾われ、僕は正直頭が上がらない。普段はやんちゃして誤魔化しているけど、そこの所もしっかりと見透かされてるんだろう。

 あの爺さんの横顔を見た時にそう思った。あのニヤケ面は予めこうなることを予想していたんだと思える。

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 早い話が浮いた。

 それはもう浮きに浮きまくった。

 

 担任が主神からの推薦でここに来たから失礼の無いように。みたいな紹介をしたせいで完全に浮いた。

 元々浮くのは分かっていたが、担任がああいって浮いたから全ては担任のせいだ。

 

 数日通って分かったことは、僕と同じように浮いているのが一人いるということ。そして女子率が圧倒的というか、もう女子校の域だった。

 生徒も先生も全部女、これは肩身が狭い。

 

 初日で辞めてやろうと思ったが、爺さんに言われた手前そういうこともできない。

 僕は世界を広げるのは好きだ、自分が知らないことに触れたり見たりするとそれだけで心が踊る。何だかぽわぽわした気分になる。

 だが、性別変化とかそういう扉を開けたい訳じゃない。

 

 

 この瞬間にロンのぼっち生活が始まった。

 話相手はドゥンくらいだ、話しかけても帰ってこないが。

 

 休み時間は常に屋上で休憩か一人飯。

 常に楽しいことをしていた爺さんの近くや山では考えられない位の退屈さだ。

 

「あー……暇だな。昼寝しよ」

 

 午後はサボろう。

 そういうのも大事という根拠の無いものでサボることを肯定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、あの」

 

 屋上で寝ていると既に夕日が傾いている。既に授業は終わっているのだろう。

 そして僕がこの学校で声をかけられたこと。それがとても不思議だ。

 

「そろそろ下校時間……です……よ」

 

 少女はとても震えた声で僕に声をかける。

 何せ担任があんなことを言ったんだ、僕に何かあれば戦乙女としての未来が無くなるということも充分にありえる話。そんな危険な爆弾に寄り付きたくないだろう。

 それなのに声をかけた。

 

「え、あー。ありが……」

 

 声の方角を見た時少しだけ意外だった。

 なにせらその子は他の人とは違って、僕と同じような立ち位置にいる。

 

 

「ぼっちちゃん」

「ぼぼ、ぼっち!?」

 

「……あ、ごめん気にしてるよね」

 

 その言葉が琴線に触れたのか彼女は非常に動揺した。

 

「は、はァっ!! は!! べ!! 別に私はぼっちじゃありませんしッ!! 私は好きで一人でいるんですッ!!!」

 

 この動揺具合でロンは悟った。

(あ、これめっちゃ気にしてるやつだ)と。

 それと同時にちょっと泣きそうになっている、ということを。

 

「だ、第一あなたに言われたくないです! 初日からクラスの誰からも声をかけて貰えないし! 私でも初めの方は声をかけて貰えてましたから!! それにあなた転入してきて間もないのになんでサボってるんですか!! やる気あるんですか!!」

 

 あ、まだ続けるんですね。了解です。

 というか初めは話しかけられてたんですね、何をやらかしたら話しかけて貰えなくなったのかとても気になります。

 

「真面目に授業受けてるのにガリ勉とか真面目子とか言われて! 今は田舎者だなんて言われて!! どんどん浮いちゃって!! しまいには転入生にもボッチだなんて呼ばれて!! わ、わたすだってぇ! みんなと放課後にぺちゃくちゃお喋りしてぇさー!!」

 

「よし、分かった落ち着こう。なんかよく分からないけど色々わかったから落ち着こう……な?」

 

 多分田舎者って言われるのは、そうやって方言で話してしまってるからだよ。だなんて、この場ではちょっと言いづら過ぎる。

 というかこれがこの学校に入って初めての会話とか、僕も悲惨すぎるでしょ。

 

「ど、同情されたー」

 

 涙ながらにそんなことをいう彼女。

 もうなんなんだよこいつめんどくせぇな。

 だなんて思っても口には出しませんよ、ええ絶対口に出したらこれ以上泣くことは分かっていますしそんなことはしません。

 

「こんなチビに」

「んだと田舎モン! 情緒不安定過ぎんだろ最初のオドオドキャラどこに消えたんだよ! あとてめぇが田舎モンって言われんのは方言使ってるからだよ気づけ!!」

 

 ロンに身長の話をしてはいけない。

 この少女の心に色濃く記された。そしてこのロンという男、キレたらめちゃくちゃめんどくさい。ということも追記された。

 

 そこからはただの悪口の言い合い。

 基本的には「田舎者」と「チビ」の二種しか飛び交わなかったが、それなのに二人のメンタルはゲッソリと削がれた。

 

「……おいボッチ」

「私はボッチじゃありません!」

 

「名前は?」

「って聞いてませんし!? ……ロスヴァイセですよーだ」

 

「そっかー、ロスヴァイセか〜」

「なんですかその深みのある言い方は! だいたいまだここでサボってい──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロスヴァイセさ、お前僕の友達になってよ」

 

 

 

 

 




勇者(エインフェリアル)ルート突入。百均ヴァルキリーが友達になった?


銀髪、巨乳=最強

銀髪、巨乳、方言女子=神

神=ロスヴァイセ QED


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さん

 我が北欧の学校では月に一度の周期で魔獣の森に放り出される。

 何だか少しゲームの名称じみた名前だが、気分は憂鬱だ。

 

 この言葉を聞けば納得してくれるのではないだろうか?? 

 

 

 好きな人と組み班を作りなさい。

 

 

 初めてそんな残酷な言葉を聞いた。

 こんな残酷な事が言葉があったということに驚きだ。

 

 そういう訳で誰からも声をかけて貰えることはなく一人で魔獣の森に入らなければならない。こういう月一のイベントごとに一人で向かわなければいけない僕の気持ちは下がりっぱなしだ。

 

「はぁ、憂鬱だ」

 

 10歳くらいの子供が言うには早すぎるその言葉。だが、人生経験だけで言えば並の比ではない。

 

「ドゥン、空に」

 

 ロンはドゥンに跨り空に昇った。

 このイベントは何も魔獣を倒すことが目的では無い。サバイバル技術や罠の設置、野営の張り方と一日森に放り込まれるということに意義がある。

 だから平たくいえば生徒の自主性に任せる。とのこと、僕一人の為に野営するのも面倒だし、ご飯もさっき果物を採ったから余裕。

 このまま一日ドゥンと一緒に空に居よう。

 

 

 

 

 

 それにしても憂鬱だ。

 あの時の言葉、まさか断られるだなんて思って無かったから……。

 

 

「──友達になってよ」

「このタイミングでッ!!? い、い、いい……嫌ですよォ!!! ロンのばーかばーーか! 下校時間過ぎてますよ! べー」

 

 割と本気でああ言ったのに断られて挙句に暴言を吐かれ、最後は舌まで出された。多分暴言の延長戦であんな感じになったのだ……うん、そうに違いない。というかそうであってくれないと立ち直れない。話して数分でそこまで嫌われてたら、僕はこの学校を本気で辞める。

 

 ともあれ僕やロスヴァイセの浮いてる組はこの月一イベントに一人で臨む訳だが、今頃アイツも時間の潰してるんだろう。なにせガリ勉で優等生な訳だし。

 え、僕? 最近やっと読み書きが出来るようになりましたけど何か? 

 

 

「あー、もういいやご飯たべよ」

 

 勉強のことを考えるとお腹が減る。

 背負っている袋からリンゴを出して齧った。

 

 瑞々しさがあり北欧産のリンゴはとても美味しい。

 

 オーディンやその他の神々から離れたことによって、ロンの偏食は一気に進んでいる。朝はリンゴ、昼はぶどう、夜はミカンだなんてメニューはざらだし毎食リンゴということもよくある事だ。

 因みにロンはゴミを出すのが面倒だからといい、ぶどうとミカンは皮ごと食べる派だ。流石にヘタは食わない。

 

 そうやって半日くらい果実を齧りながら空にいると、所々で光が上がり始めた。夜間に魔法陣は良く目立つ。

 野営して各々仮眠を取ろうかというこのタイミングでだ、教師陣の性格の悪さが表立ってしまう。

 

 だが僕もそうは言っていられない。

 戦乙女とは本来空を飛べる。なのに僕と同じく空に陣取らない理由、それは。

 

 

「gyaaaaaaaaaaaaoooooo」

 

 空にいたとしても魔獣が攻めてくるからに他ならない。

 本物の戦乙女ならば分からないが、彼女らはまだ訓練生。空を飛びながら複雑な魔術の展開はちと厳しい。

 だが僕はやることが単純なので分かりやすい。

 ドゥンで駆けて蹴散らす。

 

 ただそれだけで勝ててしまうから神器とは偉大だ。

 こんなバケモノ地味た力を持つ神器ですら、13の最上位に位置する神器には適わないだなんて、それはもうバグの領域だろう。

 ドゥンは前足で空飛ぶ魔獣を踏みつけ、押し潰す。

 

 余りの脚力により魔獣は物凄い速度で地上に落とされ、地面には小さくクレーターのようなものが発生する。

 

 これの程度なら聖槍を取り出す必要も無さそうだ。

 何せあの槍は無駄に強すぎる。その事を考えると周りへの被害を考えた時に、ほかのクラスメート達が不憫でならない。

 

 ロンの槍の攻撃が衝撃となって森を削ぎ落とすことも充分にありえる。何よりドゥンで充分なのだからいいだろう。

 

 それから魔獣は留まることを知らずに延々と流れてくる。

 地上から狙われることは無いが、逆に空にいる魔獣は全て引き受けていそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 私は最近過ちを犯した。

 それは本来なら気にも留めないようなこと。

 

 転入生から「友達になって」といわれ断ってしまったことだ。

 正直な話、私には友達というものがいない。だからその言葉を聞いた瞬間は嬉しかった。それこそ、ばぁちゃんに連絡してしまいそうなほど。

 

 でもふと思った。友達ってなんだろう……と。

 

 何度も言いたくはないが私には友達はいない。放課後に友達と出かけて服を買いに行くことも、カフェでお茶することも、美味しいケーキ屋さんに行くことも。

 

 私は彼の友達になってもいいのか? 

 そう思った時、途端に恥ずかしくなった。

 

 私では友達になる事はできない……と。

 

 

 

 

 

 

 

 月に一度の学外合宿が始まった。

 いつもの様に一人で臨むことになるだろう。恐らく彼もそう。なぜなら私達には友達がいないから。

 あの時屋上で話していた楽しそうで活発なロンは教室にはいない。ずっと詰まらなさそうな顔をしている。それが悪い事ではないのかもしれない、それでも私は少し心苦しくなった。

 

 一人で野営をして一人で魔獣を狩る。

 この学校での単位で攻撃魔術を私はドンドンと取っている。代々ウチの家系はそういう戦闘面ではないのだが、家の居づらさなどから逃げた結果でこうなった。

 でも私は攻撃魔術には才能があったらしい。ドンドンと習得して実用段階まで持っていき、単位をどんどん稼いで近々飛び級する予定だ。

 

 彼は今どうしているのだろう。

 

 友達になるという誘いを断ってから。いや、多分あの屋上で話した時から私は彼を気にしている。

 そしてそれは恋などでは無いということも分かっている。

 多分それは罪悪感だ。

 

 その罪悪感が心に引っ付いて取れない。

 

 だから私が立派な戦乙女となった時には彼に。

 

 ──勇者(エインフェリアル)に。

 

 

「──しまッ!」

 

 気を抜きすぎた。

 背後から魔獣に回られ囲まれている。

 

 対一戦闘なら問題ないのだが、数が数だ。

 冷や汗がでる。

 

 こうなったのも自分が気を抜いていたことが原因。

 私の実力ではこの大群に勝てる確率は良くて五分五分。

 

 それでも、立派な戦乙女になると決めたのだから。この程度の窮地、乗り切ってみせる。

 

「やぁぁああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彗星の如く。

 黄金の光が地に落ちた。

 

 落雷のように速く、羽のように軽やかで。

 その光は私の周りを一掃した。

 

 手には黄金の槍。

 乗りこなすは白馬。

 

 勇者、英雄……。

 

 私は初めてこの目で見た。

 

 

 

「……白馬の王子様」

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 ──ヤリをヌけ

 

 

 途端に胸がざわめく。

 前にもあったこの感じ、何かの声が胸に谺響する。

 

 次第に胸は暑く、体は火照る。

 

 熱い、熱い! 熱い!! 

 

 雑魚相手に槍など不要。そう切り捨てていたのに、槍自ら出たがるなど聞いたことがない。

 これもまた聖槍の力なのか? 

 

 右手をそっと胸に添える。

 そしてその手を胸からそっと離す。

 

「こい、聖槍」

 

 真名を解放するわけにはいかない。

 必殺のアレを撃つには色々と手間がかかるし、何より真名解放するだけでも槍の神性で空間が持たない。

 

 だから今取り出した聖槍の形は黄金を包み込むように青いもので囲まれている。だがそれでも充分に強い武器だということが、この本来の聖槍の姿の化け物具合を教えてくれる。

 

 

 そして僕は槍の導かれるままにドゥンを動かし空を駆けた。

 地を蹴る音と遜色なく、地面には波紋と踏みしめる大きな音。

 

 

 目的の場所が見えた。

 ドゥンを下降させ僕は槍を構えた。

 

 空から僕は落ちる。

 黄金の槍と呼ばれる聖槍を持ち、あの少女の周りの敵を僕は。

 

 

 

 

 

 

 高速の突き。

 ただでさえロンの突きは音速を超える光速へと達している。

 

 その光速の突きとドゥンの光速の駆け抜け。

 その2つを合わせたなら、それは既に時空を超えると同等といえる。

 

 不可避で一撃必殺のその突き。

 

「【騎駆剱穿(ストライク・スタリオン)】」

 

 地面ごと魔獣を根こそぎ潰した。

 ある一部を除いて、そこはボロボロだ。

 

 彼女が立っている場所を除くと。

 

 

 大丈夫か? ロスヴァイセ──。

 そう声をかけようとしたら、彼女は思ってもみない言葉を呟いた。

 

 

「……白馬の王子様」

 

 真顔でそんなことを言うロスヴァイセ。

 確かに乗っている馬は白馬といえば白馬だ、それにこの聖槍も神性をほとんど押さえているこの状態ならそう見えるのかもしれない。

 ……でも。

 

 

 

「ポンコツで田舎モンで優等生でメルヘンは流石に属性詰め込み過ぎだぞロスヴァイセ」

 

 馬に乗っているにも関わらず、ロスヴァイセは思いっきりジャンプをして殴ってきた。

 

「ちょ! 何すんの!? 助けたんだけど!? 何故殴る!!??」

 

「私はポンコツじゃありませんしメルヘンでもありません!! 少しでも夢を見た私の純情を返してください!!」

 

「なんでだよ!? てか田舎モンは認めるのかよ! あと心奪われてる時点でメルヘンも確定じゃねぇか! なんだよ白馬の王子様って、今時いる訳ねぇだろ! ちょっとは羞恥心とか学べよポンコツ」

 

「ぽ! ポンコツ!? また言いましたね!!」

 

「いーやお前はポンコツだね! なんで囲まれたのに逃げなかった! というよりなんで囲まれた!! トロトロしてるから死ぬ目に会うんだよポンコツ!」

 

 ロンの言葉は核心をついていた。

 こんな馬鹿みたいな言い合いでも、それでも今回に限ってロンは全面的に正しかった。

 そしてその言葉をロスヴァイセも分かっている。自分の不注意がこんな結果を招いたこと、ロンが来なかったらもしかすれば殺されていたこと。

 

「……んなこと……わたすが一番……わがっでる!!」

 

「んなバカみたいなことしてぇ、ロンにだすげてもらっで! 情けないって、わたすが一番んわがっでる!」

 

 それはロスヴァイセの嘘偽りのない言葉だった。

 自分の不甲斐なさとか、そういった負のものが一気に押し寄せて。それで今爆発した。

 

 

 泣いた。

 ずっと泣いてた。

 

 かける言葉もない。

 

 

 でも、ここに居続けるのも危険だってことは分かる。

 

「ロスヴァイセ、後ろ乗れ。移動する」

 

 顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。

 あまり見るのも悪いと思い、視線を合わさずに手をつかんで引き上げて後ろに乗せた。

 

「ドゥン、上に」

 

 ドゥンのスピードも心做しか何時もよりゆっくりだ。

 こちらにかかる負担も少ない。

 

 

 ふと、心の声が聞こえた気がする。

 ロスヴァイセの心の声が。

 

 言うか言うまいか悩んだが、いつまでも黙っているのは辛いので声を出した。

 

 

 

「今ロマンチックだなーって、思ったろ。どこまでお花ばt──」

 

 

 

 ……痛い。




ロスヴァイセ、幼女=メルヘン(確信


最果てにて輝ける槍 真名解放前(①FGOのグレイEXTRA attackの槍)聖槍

最果てにて輝ける槍 真名解放(②乳上の持つロンゴミニアド)白銀

最果てにて輝ける槍 宝具=必殺(③乳上宝具ロンゴミニアド)黄金、なんか纏ってるやつ


【FGOとの違い】
胸から飛び出した時は①、胸から取り出し名前を聖槍からロンゴミニアドに変えると②、円卓の過半数を獲得できれば③。


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よん

 あれから数年経った。

 結果から言えば僕は北欧の学校を辞めた、ロセ(・・)とは仲良くなったし色々と面倒を見てもらったけど座学の点数が取れなさ過ぎて留年と同時に辞めた。

 ロセはドンドンと飛び級していき、そろそろ卒業資格を貰えるとのこと。僕の唯一の友達は意外と上手くやっていけている。

 

「まさか今代の勇者(エインフェリアル)が戦乙女の学校で留年とはのぉ。実に型破りじゃ」

「うるさいなぁ、野生児に勉強覚えろって方が無理あるよ。てか僕の場合は読み書きからできなかったし」

 

「遊んでばかりもいられんと言うことじゃ。これで身に染みたじゃろ?」

「まぁ、計算とか魔術とかは難しいから初歩しか出来ないけど。やっぱりないとあるじゃ便利さが違うね」

 

 初等魔術を一応会得しているロンの生活水準は少し上がった。

 例えば今まで焚き火をするのに態々木々の摩擦熱を使ってを火起こしていたが、今は初等の火魔術を使って燃やしている。

 

 そうやってロンは地道に原始人的な生活から水準をあげて、今やっとの思いで数世紀前くらいまでの生活をしている。電気などはまだ取り入れられないようだ。

 

「ところで爺さん、今日の依頼は?」

「なんじゃ、やけに聞き分けがいいのぉ。儂としては構わんのじゃが何かあったのか?」

 

「いやーロセが僕の生活のことニートっと呼んでくるんだよね、外で活動してるからニートじゃないっていったら、じゃあ『山ニート』っていうからさ。ちょっとは働こうかと」

 

「ロセといえば、確か学校でできた友達じゃったか? あんな女子(おなご)しかおらん花園におったんじゃからハーレムを作って帰ってくると思ったんじゃがな、たった一人だけは情けない」

 

「は!? べ、別にロセはそんなんじゃないし! てかハーレムってあんた何歳なんだよ自重しろエロジジイ」

 

 オーディンはある程度学校のことは聞いている。

 主に勉強めんどくさいとしか報告は無かったが、時折名前を聞くロセが友達ということは何となく分かっていた。

 如何にも戦乙女だと思うような性格かと思えば、ちょいと抜けてる、そう思えば飛び級する優等生。正直ロンの報告では謎だらけ過ぎてあのオーディンが実態を掴めていない。

 

「まぁよい。依頼という訳では無いのじゃが、どうも最近儂らのナワバリをチョロチョロしておる蝙蝠がいてのぉ」

「悪魔って奴だっけ?」

 

「そうじゃ、何人か戦乙女を派遣したのじゃが全て消息を絶たれている。恐らくやられたと見ていいじゃろう」

 

 途端に険しい表情になった。

 ロンの中で戦乙女が死んだ、というニュースは穏やかではない。それがロセであっても無くても、少からず一年で知らない仲ではなくなったということもある。

 

「分かった。じゃあ行ってくるよ」

「うむ、気を付けてな」

 

 それと同時にオーディンは少し気を落とす。

 学園に入れたことをほんの少しだけ後悔していると言ってもいい。

 

 勇者。北欧神話にとってその存在は神の次に強力である。

 だが神と勇者の間には大きな差がある。それは権能であり神格であり神性という神にのみ許された力の有無が大きく関わる。

 

 それ故に勇者は北欧の神々にとって娯楽と遜色はない。

 オーディンも毎回同じような勇者ばかり見てきた。それ故に飽き、一風変わった勇者を求めた。

 

 そんな時に出会ったのがロンである。

 初めて見た時、自殺願望かと思える無謀な行為をしていたにも関わらず聖槍の加護で何とか生きているような状態だった。

 名を与え、衣食住を与え、そしてもう一つの才能を見せた。

 

 神器。

 それもあの聖槍の本来の担い手を乗せていた馬の神器。

 

 オーディンは嗤った。

 知識を求め片目を犠牲にし、膨大な情報を得た時と同じくらいに笑った。

 

 面白い! 

 宿命を背負い、世界から寵愛を受け。それでも人間から愛を貰えない。

 

 聖遺物に愛され、亡き聖書の神に愛され。それでも信者からは愛されなかった男。

 

 

 こんな滑稽な話があるか。

 信仰する神から愛されているのにも関わらず、信者はそれを愛さない。

 

 

 道化だ。

 狂わしいほどの道化。

 

 だが今のロンはどうだろう。

 実力は今も変わらず伸び続け、近々神器の禁じ手に辿り着くだろう。

 

 恐らくロンは歴代最強の勇者と成れるだろう。

 だが、強いだけだ。強さなら神々にとって……オーディンにとっては蝿の様なもの。

 

 喜劇が欲しい。

 

 だがロンはまともな少年になってしまった。

 それは本来ならいい事なんだろう。

 

 ……だが勇者としては。

 決定的に面白味が欠けてしまう。

 

「ふぅー。弱ったのぉ」

 

 そして何より、危険なことから遠ざけたいという気持ちが芽生えてしまっているのも事実。

 この世界で誰よりも叡智な神が、こんな小さな悩み事に悩まされているのすら道化のソレだ。

 

「本当に弱った」

 

 

 ーーーーー

 

 

 空を駆けて周りを見渡す。

 本当にここらの山脈は素晴らしく美しい。

 

 圧巻の一言だ。

 ロンは高い場所にいることや綺麗な風景を見る事が一番好きだ。

 

 だからドゥンの上で空を駆ける事を非常に好いている。

 馬鹿は高い所が好き、とはよく言ったものだ。

 

「常々思うよ、神器がドゥンで良かった」

 

 逆にこの神器を持っていた故に聖剣を拒み、聖槍を寄せ付けたと言っても過言ではないが。それも含めてロンはドゥンが神器で良かったと考えている。

 恐らくドゥンがいなければ実験のとこに廃棄に巻き込まれていたかもしれないし、何より聖槍は降りてこなかった。それにオーディンに拾って貰えなかった。ロスヴァイセの窮地に間に合わなかった。

 

 

 ドゥンは必ず辿り着く。

 空を駆け、大地を走り、雷鳴の如く。

 

 そして道標の聖槍。

 

 

 ロンは何処へだっていける。

 

 

 ──槍を抜け

 

 ああ、何時ものあれだ。

 自分に危機が迫っている時、そして誰かの危機が迫っている時。

 

 そんな時に槍は何時も僕に語りかけてくる。

 

 大抵の敵には聖槍は過剰戦力だとは理解している。

 だがこの聖槍、かなりの目立ちたがりなのが玉に瑕だ。

 

「聖槍よ」

 

 最近になって聖槍からの神性がやけによく馴染む。

 握った感触と共に全身を覆うオーラの様なもの。それがココ最近は凄い。

 それこそ武器にある慣れ、では片付けられないほどの感覚。

 まるで聖槍と体が一体となる様な。

 

『……』

 ドゥンから不満が伝わってきた。

 余計なことを考えている暇があるなら気を引き締めろ。そう言われているような気さえする。

 

 ドゥンは基本的には無口だ。

 今まで言葉を発したのはたったの一度だけ。

 

 そんな無口な神器から不満が盛れた。

 

「ああ、わかってるよ」

 

 分かる。

 今回の敵は手練だということを。手を抜いて勝てる領域ではないということも。

 

 

 

 

 

 急降下。

 追われている一人の自分と同じくらいの子供に目掛けて、落雷の様に地に降りた。

 

「な!? コイツは」

 

 昔世話になった服装を着た組織の奴らがいる。

 そして、何故かその教会の祓魔師(エクソシスト)達は金髪のシスターを追っている。

 あと少し、ほんの少し遅れたら間違いなく殺されていただろう。

 

「退け! 我らは異端審問の結果、そこの魔女を殺すことが決議した! これは正義の行いである!!」

「何人たりとも邪魔はさせぬ!」

「然り!」

「然り!!」

 

 祓魔師達の圧にロンは参る。

 神を信じ、信者になることには何の文句もない。だが、上からの命令が全て正しいと思いその時点で思考が停止しているコイツらに嫌悪を抱く。

 

「はぁ、めんどくさいな……聞け! ここは北欧の主神オーディンの縄張りである! この美しき地を無許可で荒らし! 乙女の血でこの地を汚そうとするその愚行には目を瞑れぬ!! 去れ」

 

 形だけ。そう形だけでも、こう何ともらしいことを言えば後々正当性が生まれる。何せここは本当に北欧の神々の地であることには違いない。

 爺さんからは蝙蝠の討伐と聞かされていたが、こちらも随分と穏やかではない。

 

「黙れ異教徒! 我らが父に比べればオーディンなど恐るるに足らず!」

「然り!」

「然り!!」

 

(うわ、これダメだわ)ロンはそう思った。

 

「お嬢さん何したの? 奴さんプンプンだよ?」

「す、すみません! 教会の近くに傷だらけで倒れていた悪魔さんを治癒して」

 

 悪魔? 

 悪魔を治した? 

 

 どうもきな臭い。

 本来なら悪魔を治すなんて事は出来ないはずだ、それが教会のシスターであっても。だが、嘘を着いているわけではなさそう。

 となるとそれは事実だ。

 

 だがそれ以上に悪魔が教会の近くで倒れているものか? 

 ありえないだろ。逆に教会の奴らからボコボコにされた可能性の方が高い、そしてその悪魔を例えシスターでも治しに行くとは考えにくい。

 

 爺さんからの悪魔の依頼。

 そして悪魔を治したシスター。

 

 

 もしかしたら何か繋がりがあるんじゃないか? 

 

「退け異教徒! さもなくば貴様ごと」

 

 聖槍に力を込める。

 今回ばかりは敵の量と発せられる殺気で手を抜ける相手ではない。それはロンよりもドゥンの警戒で分かる。

 

 初めから全力で行こう。

 

 

最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)

 

 真名解放をしたのは随分と久しぶりだ。

 装飾から青の()が解ける、解けた楔の役割をしていた物は篭手となり身を守る防具となった。

 白銀に光るその聖槍。本来の姿により近くなったその力の塊は、この場において一番の存在感を示していた。

 

「お嬢さんコッチに来て」

「に、逃げた方が安全なんじゃ」

 

 そんなシスターの見当違いの発言にロンは笑った。

 その笑いを見て教会の人達は気味悪がる。こんな場所で笑えるものなのか……と。

 

 

「この場において、僕の傍より安全な場所なんて無いよ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「は、はい! 分かりました!」

 

 シスターを僕の後ろに乗せて教会の信者達を見渡す。

 

「貴様、それは聖遺物の……ならば魔女と共にその槍、返してもらう」

「自分達が世界の中心にいるだなんて思うもんじゃないぞ、クソ信者ども」

 

 

 なんでも自分達の思い通りにする教会側に色んな感情を込めて中指を立てた。

 そこには色んな感情があったはずだ。だがロンの中で1番大きかったのは苛立ちだった。このシスターだけでなく槍すらも自分達のものの様に扱うその態度。

 そしてなによりシスターの魔女認定だ。何があったのか知らないし、別に興味もない。でもこの格好を見るからに……。

 

 

 お前らは同じ仲間だったんじゃなかったのか? 

 

 使い捨てられた自分と、切り捨てられたシスター。

 どうにも自分と重ねてしまって、救わなければと心が叫ぶ。

 

 

 

 

 夜の北欧。

 教会の戦士、シスター、聖槍使い。

 歪な戦いが始まった。




北欧の山ってなんであんなに綺麗なんだろうね。一度だけスイスに行ったことあるけど、マジでずっと眺めてられる。



お気に入りの数と評価の数が今までで一番比例してない。
もっと頑張らないとタイトル詐欺って言われそうだ。


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日間ランキングの6位ありがとうございます。
(1~10でこの作品だけ赤グラフじゃない……恥ずかしい……)


 分かっていたつもりだった。

 だがそれでも本質は分かっていなかった。

 

 教会の戦士。それは幼少の頃から常に訓練を強いられた言わば戦のプロ。神器と聖槍というアドバンテージがあったとしても、そう簡単に拭いきれるものでは無い。

 

 

 光の銃でこちらを一斉に撃ってくる戦士たち。

 ドゥンは空を駆け上がり回避する。何発か狙いのよく避けられない弾はロンゴミニアドを用いて弾く。

 

 面倒事に首を突っ込んだ自覚はある。

 後悔はないが、大変なことになった。そう思ったのは仕方の無い事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢さん! もっとしっかり掴まって!!」

 お嬢さんの腕力ではドゥンの最高速度に耐えられない。

 

 それが教会の戦士たちを一人も落とせてない理由である。

 

 彼らは実に戦い慣れている。

 相手の嫌なところをつく、それ即ちロンにとってのデメリットになる所。つまるところシスターだ。

 

 彼らの最大の目的はシスターの殺害。

 ロンの聖槍はサブだと考えていい。

 

 じわじわと攻めてくるその面倒な攻撃にロンは少からず参っていた。

 何か一手がなければジリ貧。

 

 

 いっそのこと逃げるか? 

 ドゥンならそれも可能だろう。

 

 だが、それは問題の先延ばしにしかならない。ここで解決しなければ、それこそ無駄に終わる。

 

 

「随分と辛そうだな異教徒? シスターを捨てれば楽だろうに」

「お生憎様、僕が言ってるわけじゃないけど僕は勇者(ヒーロー)らしいからね。オッサンに囲まれた女の子をほっとけないんだよ」

 

「私はおっさんでは無い!!」

「うわ! ビックリした……突っ込むとこそこかよ……」

 

 小言を挟む余裕はまだ残してあるが、正直手詰まり。

 だからロンは──ドゥンを降りた。

 

 

「なに?」

 

 降りてシスターも降ろす。

 

「確かに僕は騎乗している時が一番強い。でも……」

 

 

「──君たち程度なら降りてても余裕かなァ〜」

 

 明らかな挑発。

 自分よりも歳下の子供に嘲笑され、見下され。

 いくら戦のプロと言えど、攻め入る隙は側面からならあった。

 

 

「貴様!!」

「──待て! お前ら!!」

 

 釣れた!! 

 

 ドゥンが最速で地を駆ける。

 その速さは目にも止まらぬ電光石火。【白亜の天翔馬】は力強く、それでいて光速の神器だ。

 頭に血がのぼり、視野の狭くなった相手に捉えられるほどノロマでは無い。

 5人の内の3人をドゥンが踏み潰した。目にも止まらぬ速さ、生きているかは分からないが、そんなことを気にしていられるほどの状況ではなかったことからドゥンに責める気は無い。だがそれでもシスターは顔を酷く歪ませた。

 

「陣形が乱れたね、はっきり言ってもう僕達の勝ちだよ」

 

「巫山戯るな!! 何故神器が手元から離れつつもそれ程までに強い力を維持出来る!? 答えろ!!」

 

「ちょっと考えれば分かるだろ? ほら神滅具にもあるんじゃなかったっけ? 独立型神器」

「聖槍に騎馬など!それはまるで──」

 

 

「──それで? 余裕が出来たから言うけどさ、まだ続ける?」

「……教会の命令は絶対、失敗など許されない!!」

 

 この時少しだけロンは分かった。

 別に同情とかでは無い、この信者たちも同じなんだと。

 仕方ないだなんて言わない、可哀想だなんて死んでも言わない。だから……

 

「誇っていいよ、今代の勇者(エインフェリアル)を少しでも追い詰めたんだから。アンタ達の連携は結構凄かった」

「──もう勝った気か? たかだか10年しか生きておらんガキが、世界の広さを知らない。神器使いがお前だけだと思ったのか??」

 

 

「【龍の手(トゥワイス・クリティカル)】お前のような希少な神器ではなく、極ありふれた神器だ。だが──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

 

 手にある銀色の篭手が教会の戦士を飲み込み、内に秘められていたであろう龍がこの世界に根を下ろした。

 

『gyaaaaaaaaaaaaoooooo!!!!!!!!!!!』

 

 昔に爺さんの繋がりでドラゴンを生で見たことがあるが、確かにそれと同じ力だと思われる。だが、あの北欧のドラゴンと比べるならばどうか? 

 

 あれには及ばない。

 圧倒的な力の塊。それこそが龍だ。

 しかしこれは紛い物。ロンの独立型のようなものなら話が変わったが、この神器はあくまで所持者と同化して龍となっている。

 

 

「お嬢さん、ちょいと失礼」

「きゃッ!」

 

 そのままシスターを放置しておけるはずもなく、大見得切った手前守り通す義務がある。腹の当たりに手を回しロンゴミニアドを持っていない左手でシスターを担ぐ。

 

『なんだ? 騎乗してこんのか? オレはお前を敵と判断した。捨ておけ、そこの聖女など狙わぬ』

 

 これは恐らくさっきの所持者の方ではなく、眠っていた龍の方。

 恐らく亜種の禁手により何もかもがイレギュラーなのだろう。

 

「僕はアンタ達のこと信頼してないからね、自分で守れる範囲に置いておきたいのさ」

『このオレを相手にその傲慢! 万死に値する!!』

 

 

 龍からブレスが飛んできた。

 ドゥンももう一人の教会の戦士と交戦しており、サポートを頼めない。

 

「【聖槍風槌(ストライク・エア)】!!」

 

 騎乗していたならばこの上の【騎駆剱穿】を放つことが出来たが、少し威力が落ちる代わりに広範囲の攻撃を可能にした【聖槍風槌】を使う。

 龍のブレスと同等の力を見せ、何とか凌いでみせた。

 

『オレの咆哮を止めるとはな。だが惜しいな、それでもお前に勝ち目はないぞ聖槍使い』

「あ?」

 

『オレの力を存分に使えればそんなことは無いが、現時点ではオレよりももう一人の神父の方が強い。いくら独立型神器と言えどオレと同等のお前が使役できる馬如き』

 

「知らねぇよタコ」

 

 ロンは龍の言葉に機嫌を悪くしたのか槍を握る力が強くなる。

 槍からの神性が体に増して肉体その物が強化される。

 

「【聖槍風槌(ストライク・エア)】!!」

 

 体を強化し、神性を一段と上げた攻撃が龍へと向かう。

 先程のよりも鋭く、そして力強い。

 

 ──だが。

 

『無駄だ』

 

 龍の翼によっていとも容易く振り払われた。

 聖槍から放たれる攻撃の方向を変えて、森がごっそりと削られる。

 

『見たところその技が中遠距離で使える最大威力とみた。そしてそれは通じない。聖槍使い、もう一度言う 聖女を捨てろ! その女を置きお前の槍の本体で攻撃しろ! それ以外の攻撃は無駄と知れ!』

 

「龍ってのは短気なもんなのか?」

 

 

 

 

 

「別に僕は戦いが好きって訳ではないし嫌いって訳でもない。強い敵と戦って心が高鳴るみたいのも知らないし、強い敵を倒したいとも思わない。アンタら龍はそういう訳にはいかないかもだけどさ……」

 

「──つまり! 別にアンタの言葉を聞く義理はない!!」

 

 ロン自身も分かっている。

 これが強がりであるということを。シスターを背負った状態では最速では動けない、そして何より龍の攻撃が当たった場合に受け身の取れないこのシスターは最悪死ぬ事もありえる。

 そうなれば今回の戦う意味が無くなる。なにせロンは教会に喧嘩を売りに来た訳では無い、腕の中の哀れなシスターを助けに来た。

 

『ならば死ね! 愚かな聖槍使い!!』

 

 龍が鉤爪を使って攻撃してくる。

 逃げることの出来ないこの状況、ロンも槍で応戦した。

 

 龍の鉤爪とロンゴミニアドが重なる。

 凄まじいその衝撃にロン自身も飛んで行ってしまいそうだ。龍の一撃を受けても傷一つつかない槍には感服する。

 

 北欧の学校で学んだ自己強化の魔術と槍から溢れる神性で何とか体を持ちこたえるが、さすがに龍の重量には耐えきれず体が悲鳴をあげる。

 

「んんッ!!!」

 

 何とか攻撃を逸らしてロンは後ろに下がった。

 力強い攻撃、もう一撃きたら正直受け取れるのは不可能だ。体力的にも肉体的にも。

 

「か! 回復します!」

 

 腕で担いでいるシスターが治癒をしてくれる。

 なんとこのシスター治癒魔術ではなく、神器による治癒を使うようだ。

 

 基本的にロンは神々や戦乙女に囲まれて生活していたので、人間だけが持てる神器を見たことは非常に少ない。なにせ希少なものだと聞かされていたからだ。だがこの状況はどうだろう。ドゥンが相手をしている神父を除けば全員が神器使い。

 

 なんとも言えない豪華感だ。

 

 だがそうも言っていられない。

 禁手。

 それはバグと呼ばれる現象に近く、その力は絶大である事が再認識できる。

 

 聖槍という最強の武具、その最高位に位置するロンゴミニアドでさえ太刀打ち出来ないのでは……。

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 違う、こんな物じゃない!! 

 本来の力を出し切れていない。

 

 もっとだ。

 もっと神性を高めろ。

 

 もっと波動を感じ取れ。

 こんな奴に手こずっている暇なんてない!! 

 

 

 

 

 シスターの治癒があったからだろうか。

 何時もよりもやけに神性を感じる。

 

 体に別のオーラが入ってきて、それとは別の慣れ親しんだオーラが槍から体に入ってくる。

 比較できる。ということで更に力の波動をより鮮明に感じ取った。

 

 そして限界まで酷使しても治してくれるシスターが今はいる。

 

 聖槍の最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)の本来の力を解放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 聖槍から黄金のオーラが溢れ出す。

 青色の篭手もそのオーラを帯びて、本来よりもさらに強く神々しいオーラを放つようになった。

 

 神性属性は体を強化する。

 強化して強化して、体の造りそのものを変えるほどの強化を施す。

 

 元々の灰色の髪に聖槍から流れる黄金のオーラが混ざり、毛先が灰色から金色(こんじき)へと変わる。

 目の色も両眼とも髪と同じく色素の薄い色をしていたが、聖槍を持つ右側の眼だけは瞳が黄金に変わる。

 

 心做しか体も少しだけ大きく、髪も長くなった気がする。

 聖槍による体の強制的な成長。

 

 最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)がロンの体を龍が討てる体にまで無理やり押し上げた。

 

『お前の中で今何が起きている!!?? お前は何をやっている!!!??』

「これはお嬢さんがいなければ結構やばかったな。ありがとう、君のおかげで勝てそうだ」

「元々は私のせいですから……」

 

「それでもありがとう、これで分かった 僕はまだまだ強くなれる」

 

 戦うことに、強敵を倒すことに興味はないとロンは言った。

 恐らくあの言葉に嘘はない。一番好きなことはドゥンで空をかけて景色を眺めながら果実を食べる。それがロンの中では一番のお気に入りだ。

 

 でも、それを理不尽に奪う者がいたら。

 それに抗わなければいけないのなら。

 

 ロンには力がいる。

 自分を通すために、何者にも屈しない力が。

 

『もう勝った気か!! 時間は稼いだ!! お前の神器もそろそろやられて二対一だ! 絶望的なのは変わらない!! お前の負けだ聖槍使い!!』

「前から思ってたんだけどさ。ドゥンは僕より強いよ、それもずっとね」

 

 ちょうどドゥンがこちらに現れた。口には倒したであろう神父が血を流している。

 物音がしなかったので決着は、随分と前に終わっていたはずなのに。

 

「シスター、君の名前は?」

「アーシア・アルジェントです」

 

「アルジェントさんか……よし、お礼だ。僕のとっておきを特等席で見せてあげるよ」

 

 ちょっと跳んだつもりだったが、体の思っていた以上の成長により随分と高く跳んだ。

 それに合わせる様にドゥンも駆け上がり、僕達を空中で拾ってくれる。

 

 

「聞け! 僕が持つ最強をもってアンタを打ち倒す!──聖槍…抜錨──」

 

 

 

十三拘束解放(シール・サーティーン)──円卓議決開始(ディシジョン・スタート)!!! 

 

是は、己より強大な者との戦いである事(ベディヴィエール)──承認。

 

是は、生きるための戦いである(ケイ)──承認。

 

是は、真実のための戦いである(アグラヴェイン)──承認。

 

是は、精霊との戦いではない事(ランスロット)──承認。

 

是は、邪悪との戦いである事(モードレッド)──承認。

 

是は、私欲なき戦いである事(ギャラハッド)──承認。

 

 

 13ある枷の6つを解いた。

 最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)の力はあまりに強大すぎる為、太古の昔この槍が歴史に初めて登場した時に名のある13人の騎士が枷を付けた。

 この力を無闇矢鱈に使ってはならない。そんな思いを込めて。

 そしてその枷の一つ一つに条件をつけた。それはその騎士が持つ誇りになぞって。

 そしてその枷が半数を超えた時に限り、最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)は輝きに満ちた一撃を放つことが出来る。そして全ての枷を解放した時こそ最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)は完成する。ギリギリ半数に届いただけでもこの輝き。全てを解いた時に世界は残っているのだろうか…。

 

 

 

 

 

 

 聖槍の枷が剥がされ、本来の力が解かれる。

 それは今までに見せた黄金の光の比ではなく。それは最早星の輝き。

 

 光の柱と称されたその聖槍。

 聖槍の周りを螺旋のように纏わりつく星の力。

 

 全てが霞むその輝きを。

 ロンは高々と掲げ詠を歌う。

 

 

 

 

 

「最果てより光を放つ──」

 

「其は空を裂き地を繋ぐ──」

 

「嵐の錨 ──」

 

 

 ドゥンはロンを連れて下に降りた。

 いつもの様な重力に任せた落雷の様なものでは無い。

 

 力強く、1歩1歩を踏み締めるように。

 ドゥンは懐かしさと感動で溢れていた。

 

 

 ──千年にも及んだ王の帰還を──

 

 

最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)ッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 世界は光に包まれた。




正直この13拘束がやりたくて書き始めたので、出来て満足。
次は主人公たちと絡ませたい!!


現時点では禁手のドラゴンより本体は弱いという設定です。禁手なしの人間なんで…でも聖槍の強化によって体を自在に使えるようになったら素の体だけで、あのドラゴンには勝てるようになるかも。

信者a(ドラゴン)強さ…英雄派の影のやつ
信者b(ドゥンが倒した)…ディオドラ

信者c.d.e(ドゥンが一掃した)…レイナーレ


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ロク

祝一位!!
だが、オレンジ……

評価の人数が倍近くなったんですけど…一位の恩恵すげぇ〜


 この技を放つことが出来る半数ギリギリでも地形が変わった。

 全てを解いた時、世界は正常に機能しているのだろうか。

 

 

 

 

「アルジェントさん、どうだった」

 

 龍を殺し、信者を殺し。血にまみれた中ではあるが何とか当初の目的であるシスターを……アーシア・アルジェントを救うことが出来た。

 

「……とても、怖かったです」

「そっか……」

 

 当たり前だ。

 シスターにとってこの日は殺されかけて、ドラゴンに狙われて、銃を撃たれて、光に包まれて。

 見るからに温室育ちのアルジェントには、この日の出来事。というよりもこれからの出来事に耐えられるか。

 

「……実は僕も結構限界でね、ちょっと寝る」

 

 手に持つ聖槍ロンゴミニアドは強制的に黄金の輝きを止められ、ダメ押しとばかりに篭手が封をしてロンの体の中へと入っていった。

 しかしドゥンだけは戻らない。いくら独立型神器といえ所持者の命令なしに動くことはできないのだが……アルジェントを守り通す。その意思が化身となったのか、それとも原因はロンにあるのか。現時点では不確かな点が多すぎる。

 

「……はい、ごゆっくりお休み下さい」

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 私アーシア・アルジェントは魔女と呼ばれています。

 最近教会の近くに傷付いて倒れていた悪魔を治療し、聖女から一変し魔女へと落ちてしまいました。

 今朝の話です。私が異端認定され教会から追放され行くところも無く森を歩いていたところに、彼等は来ました。

 

 恐らく異端審問官だと思います。

 見たことはありませんが、時期的にそういうことでしょう。

 

 手には武器を持っていて私は殺されるということが分かりました。

 

 

 

 走った。

 死にたくありません。

 私は必死に逃げました。

 

 主は乗り越えられない試練は私達に与えません。

 きっと、きっと誰かが…………

 

 そんな時です、彼が助けてくれたのは。

 何処の誰だか分からない彼は、何処の誰だか分からない私を守ってくれました。

 

 ……ヒーロー。

 彼は異端審問官にそう言っていました。

 

 私がお荷物になっていたのに、彼は私の目からしたら苦戦することなく……あの異端審問官を打ち倒したのです。

 

 天を駆ける白馬を乗りこなし、手には黄金に光る槍。

 

 

 私を助けてくれた彼は──神の使いなのでしょうか。

 

 光に呑まれ、次に周囲を見た時には森は消滅していました。

 ドラゴンさんも……それにお馬さんが…………お殺めになった者たちも。

 

 少し心苦しいです。

 彼は私を助けるために殺めた。

 それを責める権利が私にはない。

 

 ただ、私は彼に感謝をする。

 それ以外の感情を()は持ってはいけない。

 

 

「異変があったからジジイに行けって言われたから来たのに。膝枕とは随分といいご身分だな…………ロン」

 

 声がかかり後ろを振り向く。

 そこには紛れもない神がいた。

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

「……ん……ん?」

「よう随分とお寝坊だなロン、ジジイに見てこいって言われて来たが……なんだお前ちょっと育ったか?」

 

 目を覚ました時、ロンは何故かヴィーザルの背に乗っていた。

 あまり力の入らない体で少し後ろを見るとドゥンに跨っているアルジェントもいる。

 

「ヤリチンのお兄さん」

「誰がヤリチンのお兄さんだ! 落とすぞクソガキ」

 

「や? やりちん?」

 

 温室育ちのアルジェントには理解できない単語が飛び交った。

 ロンを迎えに来たのはオーディンの息子であるヴィーザル。ロンがオーディンと過ごす内に世話の掛かる弟として接してくれている兄貴分だ。が、その実態は大の女好き。数多の愛人を作ってヤることをヤりまくる種馬神。

 

「……槍の力を吸収し過ぎたかな」

「使いこなせていない状態で無理やり使うなんて無茶して。ロン! これは良くないことだってことは分かってるな?」

 

「分かってる……けど」

 

 けど、そうでもしないと勝てなかった。

 素の力なら勝てたかもしれない。でも、あの時のロンには中遠距離攻撃での破壊力が足りなかった。だから聖槍に頼り力を吸収した。

 それが最善だと思ったからだ。

 

「けどなんだ?」

 

 ヴィーザルの口調が強まる。

 

「ま、待ってください! 彼は私の為に──」

「お嬢ちゃん、自分の身を捨てなければ守れない勇者なんて迷惑以外の何物でもない」

 

「それでも──」

 

「アルジェントさん、この神が言うことは……概ね正しいよ」

「……はい」

 

 それでもアルジェントの不満は拭いきれていない。

 命の恩人を目の前でこうも言われては、バツが悪いのだろう。

 

「と、ところで……やりちん? 様、私たちは何処へ向かっているんですか?」

 

 アルジェントの悪意のないその言葉にヴィーザルは胸に押し留める。

 確かに自己紹介していないので、ロンから拾った謎の単語「やりちん?」がアルジェントにとってはヴィーザルの第一印象といえる。

 

 だから怒るに怒れない。

 むしろ無垢な少女から「やりちん」と言われる経験は初めてだ。

 

「ジジイの北欧の主神オーディンの元へだよ。あと俺のことは『ヴィーザル』って呼んでくれ。何なら義兄さんでもいいぞ!」

「……なんじゃそりゃ」

 

 担がれた勇者とは何とも締まらないもの。

 その光景を見てアルジェントは憂鬱だった表情とは打って変わって笑顔になった。

 

「けどロン、真面目な話お前の中に神性が入りすぎて純粋な人間とは呼べなくなっているぞ。それこそ半人半神のそれだ」

「……まぁーいいんじゃない? 元々神様に囲まれて生活してたんだし、そういう突然変異的なことがあっても」

 

「馬鹿者、試練を乗り越え神の座へと迎えられた訳でもなく生粋の人間が片足でも入るなど不満が上がるぞ」

「でも仕方なく無い? 必要だったんだから……。それにこれでチビじゃなくなった!」

 

「お前それが本音だろ」

 

 実はロン、チビと言われることが本当に嫌だった。

 ロン自身も何処の出身かは知らないけど、北欧の平均身長は高い。腰の曲がった爺さんでさえ見下ろされる始末。学校の帰りにロセと歩くと姉弟と呼ばれる始末。

 半人半神?? 神の座に片足踏み込んだ?? 

 

 否! 

 そんなものどうでもいい! 

 

 身長……有難い!! 

 

 

「これは早めに取り掛からないとな……」

 ヴィーザルが口にしたのはある勢力の動きが活発になってきたという鴉の報告をオーディン経由で聞いたこと。

 近々、それも数年後に過激化するテロ行為に向けて勇者を育てなければならない。

 

 如何にポテンシャルが歴代最高でも伸びなければ今がない。

 この13歳に求めるのは酷だが、相手は待ってはくれない。聖槍に代償を払いやっとドラゴンを討てる様では話にならない。

 

 ヴィーザルは北欧のシンボルである世界樹ユグドラシルを目視した。

 

「取り敢えずジジイに連れてくか」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

「ガッハッハッ! パトロールを頼めば女を連れて帰ってくるとは、さすがに儂の息子」

「ちげぇよ、それと息子はコッチだろ」

 

 オーディンの目前にいくと先ずはアルジェント関連でロンが弄られる。そして急な息子宣言、それはヴィーザルだろと呆れかえる。

 

「確かに神性が高まり擬似的とはいえ神格の様なものが芽生えておるのぉ。髪も瞳も所々にその片鱗を見せておる」

 

 元々灰色だった髪は毛先が、そして右眼があの時から戻っていない。

 

「しかも半日で儂と背丈が同じくらいにまでなりおって」

「このまま行くと余裕で見下ろせるね! ヤリチンのお兄さんも抜かれた時の準備しといた方がいいんじゃない?」

 

 そうは言うがオーディンにはロンがまともな成長はもうしないと分かっていた。それは叡智によって得られた恩恵で……。前ロンゴミニアドの所持者と同じく聖剣に、ロンの場合は聖槍に選ばれた時から成長は止まる。例外的に槍による強制成長を除外すれば、ロンは成長する手段がない。

 だが、オーディンは言うのを辞めた。

 

 可哀想だとかその類の理由ではない。

(あ、やっぱりコイツは道化だ)という意味で泳がせた。

 

「しかしロンよ、ドラゴン一頭に手こずるとは勇者の風上にも置けんな。遊んでばかりおらず鍛錬せぇ鍛錬!」

「ぐっ……わかってるよ……」

 

 オーディンから喝が入り、逃げ場を失うロン。

 確かに色々と思うところはある。遊び呆けた結果が教会の戦士との死闘。ドゥンの余裕さを見れば相手がそこまで強くないことは理解出来る。

 その程度の相手に追い詰められたということも。

 

「その事だけどジジイ、ロンを少し借りてくぜ」

「ヴィーザルよ、どうするつもりじゃ?」

 

「北欧らしくいこうと思ってな、ユグドラシルに少しな」

「ユグドラシル? ……なるほど、聖槍の次は精霊か。先代は湖のだったが今代はどうなるかのぉ……これは儂でも分からん」

 

「上手くいけばな……俺はたんにユグドラシルで肉体的に……」

「ならば儂は神器の方を何とかしよう。一人そういうのに詳しいのがいての」

 

 段々と進んでいく会話。

 その会話が何となくと断片しか話さないので何も言わなかったが、このままではどうも流されてしまう。流される前に一つ決めておかなければいけないことがロンにはあった。

 

「ちょっ! アルジェントさんをどうするか先に決めないと」

 

 ロンの言葉でオーディンとヴィーザルがやっと気付く。

 余所者とはいえ、ここまで露骨に忘れていれば恨みすら出ないだろう。何よりアルジェントにそういう負の感情は無かった。

 せいぜい思っていることがあるとすれば(仲がよろしいですねぇ)位のものだ。

 

「確かにそうじゃな……そこのシスターよ。お主はどうしたい?」

 

「私は……」

 

 言葉に詰まる。

 数日前までは言われた通りに人を治していた。それに疑問はなかったし、それでいいと思っていた。

 だが、それは既に過去の話。もう戻ることの出来ない昔の話。

 

「先に言っておくがこのバカが勝手にお主を庇っただけで、儂としてはお主を庇う義理はない」

 

「爺さん!」

 

 あまりの物言いにロンは声をあげる。

 だがオーディンではなくヴィーザルから強い威圧がきて、ロンは重圧に押し潰される。

 

「私は……分かりません。どうするのが正解なのか」

「じゃろうな」

 

「でも魔女と言われても私はシスターです。人を癒すことしかできないならそれを通してみせます」

「献身なシスターじゃのぉ。聖書の神もさぞ幸福じゃな、こんな信者に崇められて」

 

「ありがとうございます」

「ならば好きにするがいい。なに、少なくとも北欧ではお主に手出しはさせんように手をうっておこう」

 

「は、はい。ありがとうございます!」

 

 何はともあれアルジェントの処遇が決まり、一段落とはならなかった。

 

「では早い方がいいな、ヴィーザル! ロンをしっかりと連れて行け」

「わかってるってジジイ」

 

 逃げてしまわぬように、やる気のある今のうちにちゃっちゃと済ませるに限る。そう考えた二柱は行動を移そうとする。

 

 

「あ、あの! 御使い様!」

「……ん? 僕のこと??」

 

 アルジェントが頷く。

 どうやらロンのことを神の使いとまだ勘違いしているようだ。

 

「た、助けて頂いてありがとうございました!!」

「いいよそんな堅苦しくなくて。あと変な呼び方じゃなく普通にロンでいいよ、様もいらない僕はそんな大層なものじゃないからね」

 

「ならロンさん! 本当にありがとうございました!!」

「いいってアルジェントさん。困ったらお互い様でしょ」

 

 確かにアルジェントが発端だったが、自分の弱さに気づけたのは今回のおかげだ。更にアルジェントの治癒のお陰で神性を過剰に取り込めたと言っていい。言うなればアルジェントのお陰で身長が伸びた。

 そういう意味ではアルジェントはロンを助けている。だからこそのお互い様だ。

 

 北欧でのロンの初めての教会との小競り合いは、大きな物を得て終わりを迎えた。

 良くも悪くも、聖女と出会ったこの数奇な運命が後々になって実を結ぶ事となるが……。それはまだ先のこと……。




ロン

性別:男
神器:【白亜の天翔馬】
武器:【最果てにて輝ける槍】

技:【騎駆剱穿】ーードゥンに乗り、光速の移動と光速の突きによって得た貫通力を極細にして穿つ技。
【聖槍風槌】ーー騎駆剱穿程の貫通力はないが、広範囲に渡る風の攻撃が出来る。
【最果てにて輝ける槍】ーー13の枷を半数解くことで発動することが出来る。半数ギリギリでも魔王クラスの力は出せる。


容姿:灰色の髪に灰色の瞳、体の色素が薄いチビ。だが聖槍の神性を取り込んだお陰で少し大きくなった。でもまだ小さい部類。聖槍の影響で毛先が金色に、右の瞳が黄金になる。


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ナナ

作者ワールドが展開されています。でも必要だった…


オレンジ危険みたいな事言ってたら黄色も危なくなってきた模様…


「それにしてもロン、戦乙女の次は魔女だなんて……結構いい趣味してるよな」

「お前ら親子と一緒にするな! 僕は色狂いじゃない!! ……というかアルジェントさんは聖女って言われてたらしいよ」

 

「マジか!? 今代の勇者も聖女か〜。惹かれ合うものなのかね〜」

 

 連れられてきた世界樹の麓でヴィーザルとロンは会話をする。

 傍から見ればその会話は兄弟のそれ。ロンはヴィーザルとオーディンの二人のことを親子と言うが、ヴィーザルとオーディンからしてもロンは既に家族のようなもの。

 スケベジジイのオーディンに、変態兄貴に、生意気小僧。

 何ともバランスの取れた3人に見える。

 

 ヴィーザルの上の兄はしっかりと仕事をしていてヴィーザルの様に遊び呆けてはいない。何せ次の主神はヴィーザルの兄がすると言っていてヴィーザルもそれを了承している。

 基本的に自由な神だ。

 

 だからロンという弟分に時間を割いている。

 

 

「結局世界樹に何しに来たの?」

「そうだなー、ロンはココに来たことあるのか」

 

「まぁ一度ロセと来たことあるけど……別に大したものは無かったと思うんだけど」

「おぉ! やるな。学生の時にデートしに来たのか……ホントやることやってんな〜!」

 

「茶化すならマジで帰るよ」

「ゴメンって」

 

 ヴィーザルは基本的に巫山戯ている。

 お付の戦乙女がいないからか一段と増して巫山戯ている。ロンもこのテンションにはついては行けない。いくら体が神に近づいたとしても……精神は難しい。

 

 

「北欧魔術は知ってるな?」

「一応学校で……でも僕は初等の基礎中の基礎しかできないよ。身体強化と4大属性位しか……」

 

「大丈夫。恐らく勇者にとって一番適正の高いものはまだ試してないだろ?」

「勇者にとって? でも代が違うだけで戦い方とかは違うものなんじゃないの??」

 

「ああ、そうだけど勇者の本質は基本的に変わらない──それは恩恵だ」

 

 恩恵? 

 与えられるもの。

 確かにそれに引っかかるものがあった。

 

 

「神器は聖書の神から、聖槍は中に宿る神の意思から。そしてそれを経由して体が強化する。ロンも身に覚えがあるだろ?」

 

 全てに覚えがある。

 でも、それを言うなら…………。

 

 

「全てが与えられたものになるじゃないか……って? 何を恥ずかしがる、全てそうじゃないか。勇者ってのは基本的に他力本願な生き物だよ」

「……」

 

「あれ? ショックだった。でも与えられてそれを扱えるようになる、それには努力が必要だ。何せ神の気まぐれで人の身を超える力を与えられるんだ、そのままじゃ身を滅ぼす。そういう意味で勇者は短命なんだろうね」

 

「…………」

「まぁそんなことはいいんだよ。俺が今のロンなら使いこなせると思ったからここに連れてきたんだ。その力の名前が精霊……いや勇者の更に聖宝具の担い手が精霊と契約する時は聖霊と呼ぶんだったかな?」

 

 ロンは少なからずショックを受けていた。

 確かに全て貰い物だという自覚はしていた、だがそれを正面から言われるのは思っていたよりも堪える。

 

 聖槍や聖剣のことを聖宝具が古の戦で呼ばれていた名残がヴィーザルにはある。

 

「大丈夫、今のロンならユグドラシルが応えてくれるよ」

「……あてはあるの?」

 

「もちろん。その槍の先代のメイン装備は聖剣だったってのはジジイから聞いてるな? ならその槍に選ばれて何故聖剣が持てないか。考えたことある?」

 

「いや、そこまで真剣には……」

 

「俺も詳しくは知らないけどジジイが昔に零してたよ、先代の後悔を見ていた【白亜の天翔馬】が拒否してるって。俺も詳しく知らないからなんとも言えないけど多分ロンには適正はある、でも神器が拒んでる。そんな感じなんだ」

 

「そーなんだ」

 

 ロンは驚愕する。

 まさか自分に聖剣の適正があったということに。

 仮に、仮にだ。聖剣が元から扱えて、実験されたとして……。その時に僕の家族達は死なずに済んだんじゃないか? 

 少し吐き気がした。あの地獄をもしかしたら自分の手で作ってしまった。食い止めることが出来た。その可能性を知ってしまったから……。

 

「まぁ使えないものは仕方ないよ、多分適正があっても槍で慣れたその体が剣に順応するには時間がかかると思うし、槍の技量を伸ばす方が今は大事だ」

「まぁ、そうだね」

 

「という訳で先代のスペックがかなり引き継がれてる。そういう人を聖槍自ら選んでいるのかもね。だから聖槍、馬、聖剣。聖剣は省くとして先代はもう一つ適正があったんだ。それが風魔術」

 

「昔は今で言うところの必殺技を宝具って呼んでたんだ。これもジジイから聞いたけど、その風魔術の名前が風王結界(インビジブル・エア)。屈折率を弄って得物を見えなくしたり、その風の力でブッパしたり色々出来たらしいぞ」

 

「でも僕はそこまで強い風は……」

「そこで聖霊だ。聖槍が教えてくれる、あのシスターの元へ運んだように、危険を知らせてくれるように。必ず正しい方向に導いてくれる。もしお眼鏡にかなわなくても俺が北欧魔術を教えてやる」

 

 色々とヴィーザルにはお膳立てをしてもらっていたんだと自覚する。

 それは全てロンが強くなる。その為に。

 

「ここまでされて『やりません』は申し訳ないからね。やってやるよクソ兄貴」

「クソは余計だ、やんちゃ坊主」

 

 

──進め

 

──進め

 

──もっと進め

 

 胸の内に潜む聖槍に耳を傾ける。

 光の柱、星の欠片、金色の塔。そんな例えをされている。でもロンにとって……【黄金の羅針盤】と呼ぶのが一番しっくりとくる。

 

 無いわけでは無い、ある筈なのだ。

 それを示すように聖槍に動かされる。

 

──もっと

 

──もっと

 

──あの風を──

 

 

 

 

 聖槍に導かれて辿り着いた先には精霊がいた。

 世界樹に住み着いているのか、はたまたここに立ち寄っただけなのか……。

 だがどちらにしても、聖槍が示した。その事実は変わらない。

 この精霊がロンにとっての最善。いや、最強なのかもしれない。

 

 

《ん〜? ……はぁ〜。ん? 君はいつぞや……っと失礼、空似か……》

「おいクソ兄貴、ホントにこれなのか?」

「俺じゃなく槍に聞け」

 

《む? 失礼な連中ね〜、ワタシはまだ眠いのよ。さっさと何処かいってね〜》

 

 本当にこいつでいいのか聖槍。

 もっとマシな強そうな刺々しい雰囲気放ってた精霊いただろ。

 

「聴いてくれ緑の精霊! 僕に力を貸して欲しい!」

《やだ……ほら早く帰って〜》

 

「全然ダメじゃん!! ちょっと! マジで頼むよこの通り!」

《そんなこと言うならワタシを寝かせてよ〜》

 

 もうなんとなく二人は思う。

(これは無理じゃね?)と。

 

 話す余地がある相手ですらないし、そもそも今話した言葉がちゃんと頭に入っているかさえ怪しい。

 

「風魔術を覚える方が早そうなんだけど……」

「でも槍がこの精霊を指したんだろ? なら頑張るしかない」

 

「それはそうだけど……」

 

《……ZZZZZZZZZZZZZ…………》

 

 いや無理だわ。

 内心でそう思い、表に隠すことなく出す。

 

 事実無理だということはヴィーザルにもなんとなく伝わっている。

 

 

 諦めている雰囲気のなか、ロンは何だか面倒くさくなりご飯を食べることにした。オーディンから早めに行ってこい! みたいなことを言われていたが、ロンは目を離すと散歩に出かけたり果実を食って何処かへ行ったりぬらりくらりとしている。

 その発作のようなものが起きる前に色々と済ませたかったが、どうやら止められなかったみたいだ。

 

「お、今日もリンゴか〜。よくもまぁ毎日毎日飽きないな」

「肉とか魚より、やっぱり果物でし───あれ?」

 

 齧ろうと思ったが手元のリンゴが消えた。

 ん?? 

 

《ふんふんふん☆ウマウマ〜》

 

(こんのぉクソ精霊がっ!!!)

「ストップストップ! 逆にチャンスだって。ほら、まだストック無いの??」

 

 ぶち殺そうと聖槍を取り出したところをヴィーザルに止められる。

 しかしロンは止まろうとしない。仮に、仮に自分から上げたなら許したが……このクソ精霊は盗んで美味そうに食っている。ロンにはそれが許せない。

 

「まて! マジで止まって世界樹で精霊を殺すのは流石に不味すぎるから!!」

「止めるなアイツぶっ殺してやる」

 

《ウマウマ〜♡ウマウマ〜☆》

 

 ぶち殺してる。

 そう本気だ! 本気と書いてマジなぐらいマジだ。

 

「こ、こいつ! 食い意地だけで神クラスの身体能力発動してるぞッ!!」

「食い物、怨み、コロス」

 

「落ち着けッ!!」

 

 ヴィーザルが強めにロンを叩き、正気に戻した……と思いたい。

 ロンには恐らく先の龍戦のブレス以上の攻撃が体を駆け抜けて、意識が正常に戻る。

 

「ロンよく聞け! 多分お前とアイツは同類だ、果物を使って契約してこい」

「で、でも! 果物を分け、分けるのッわ!」

 

「どんだけだよ! 果物あげるだけで契約とれるなら安いだろ!」

「馬鹿野郎! 僕が朝から選りすぐりの新鮮なメンバーだぞ!! 安いわけねぇだろッ!!」

 

「ほら、今度俺の特権で何か凄い果物作ってやるから! あ! 確かドラゴンが好む果実があるって聞いたことあるな!」

「ほう! 話を聞こうじゃないかお兄様!」

 

「お前ホントいい性格してんな」

 

 

 やっとの思いでヴィーザルはロンを正気? に戻して目的である世界樹に住む精霊との契約に乗り出そうとする。

 

《ウマウマ〜☆》

 

「や、やい! 精霊さんよぉ〜」

 

 どこのチンピラだよ。

 そう思わせるが、何せ自分の大事なものを奪われても心広くは出来なかった。

 

《ん〜? ……ぷッ! ウマウマ〜〜♡》

 

 コノヤロウ鼻で笑いやがった。

 青筋がロンに浮かぶ。恐らく北欧に来てから一番と言っていいほどロンはキレている。

 

「果物ならおかわりあるからね〜」

 

《ウマウマ〜!? え、マジで!? サンキュッ》

 

 何故か比例するように精霊もウザくなる。

 しかしこれも堪えて、袋から果実を前に差し出した。

 

《ウマウマ〜……ちょっと、離しなさいよ!》

「これが欲しければ僕と契約を結ぶんだな! 精霊さん!!」

 

《あんたみたいな聖宝具持ってる奴と契約したらワタシが聖霊になっちゃうじゃない! いやよ! あんなのになったらロクな死に方できないじゃない!!》

「そこをなんとか」

 

《無理よ! だからさっさとこの手を離して果物を寄越しなさい!!》

「……ここにまだ山のようにおかわりがあります」

 

《…………》

「更に隣の北欧の神様がドラゴンが好む幻の果実を採ってきてくれるそうです」

 

 今ロンが果てしなくハードルを上げたのをヴィーザルは「え?」と言いたくなるが、今更何もいうまい。

 

《〜〜〜!!!》

「え? まだダメ? もう手札ないんだけど……」

 

《ま、まあ! どうしてもって言うなら取り憑いて上げてもいいけど……でも条件を出すわ! アナタに直接憑くのは嫌! 何か身に纏ってる物に取り憑く!!》

「そう言われても……じゃあ聖槍は?」

 

《それから逃げたいから言ってんのよ! 馬鹿なの? もうアンタの体に神性が馬鹿みたいに引っ付いてるじゃない! ワタシは聖宝具の余波で聖霊になんてなりたくないの。お分かり?》

「ゴメン、実は精霊が聖霊? に変わる理由を全然知らないんだけど……」

 

《教えて欲しければ、まずコレを渡しなさい!》

 

 ロンは手にある果実を精霊の方に投げる。

 この精霊曰くこうらしい。

 

 精霊は人間と契約する、所謂取り付くことでそれは完成されるらしい。取り付くと武器に精霊を宿す精霊装備や精霊が扱う魔術を人間を通して強化し莫大な力を発生させる精霊魔術がある。

 だが、今回問題になるのはロンが勇者であるということ。それと聖宝具を持っているということ。

 聖宝具とは聖属性を宿し伝説上に存在するような武器のことをいい、神性を纏うこともその条件に当てはまる。

 

 だがその絶大な力故に周りにも影響を及ぼす。

 ロンが神性に呑み込まれているように、周りのつまり取り付いている精霊にも危険が及ぶのだ。

 純粋な人間だったロンが半人半神に近い存在になった。聖宝具に宿る神性には体や人格までに変化を及ぼす。

 その神性を取り込む影響で精霊も聖霊に成るという訳なのだが……この精霊曰く、聖霊はロクな死に方をしない、とのこと。

 

「でも、僕身につけてるものとかないんだけど……」

《何よアンタ、ダサい契約者なんて願い下げなんですけど〜》

 

 何かアクセサリーを身につけている訳でもなく、聖槍以外に武器を身につけている訳では無い。神器もこの場合は違ってくるのだろう。

 

「それは慣れ親しんだものでなければいけないのかい?」

 

 ヴィーザルが精霊に尋ねる。

 

《別にそういう訳じゃないけど〜、やっぱりそれがベストね。適当なものに宿るのもいいけど、それだとワタシの力を引き出すのに時間がかかるわ!》

「何日??」

 

《そうね〜、特別製でないなら、だいたい一年ってところかしら〜》

「特別製? それだと?」

 

《ワタシにゆかりのある物とかよ〜、ちょうどこの世界樹の一部とかだったらそれに成れそうね〜。それならだいたい三日くらいよ!》

「世界樹すげぇえ!」

 

 ヴィーザルに目配せをする。

 世界樹ユグドラシルは北欧のシンボルの一つに数えられる程の代物だ。それを採るのは流石に無許可ではできない。そして本来なら採ることも許されないが、目の前には北欧の主神の息子がいる。

 

「……仕方ない、少しだけなら問題ないだろ」

 

 ヴィーザルは折れた。

 もうどうなってもいい、いっそやけだ。

 

 ヴィーザルは世界樹から蔦に葉に枝を世界樹から摂り指輪を造る。

 枝を丸めて指輪にし葉と蔦をその指輪に纏わせる。

 

 ヴィーザルにしては良いセンスの指輪だ。

 

「これなら入れそう?」

《ええ! それならイケるわ! あ! 右手に嵌めちゃダメよ、左手に嵌めなさい。見たところ右側だいたい汚染されてるじゃない! あ〜ヤダヤダこれだから聖宝具の使い手は嫌なのよ〜》

 

「まぁそう言わずに……あ、まだ名前教えてなかったな。ロンだ、お前は?」

《シルフィよ、カテゴライズするなら風精霊。よろしくね勇者(エインフェリアル)

 

 何とか当初の目的である精霊との契約を結ぶことが出来た。

 ヴィーザルの言う通りになったが、属性も風。聖槍が導いたのだから心配はいらないだろう。

 

「あ〜……ジジイになんて言おう……」

 

 ヴィーザルはここまで大事になるとは思っておらず、ロンを世界樹へ連れてきたことを後悔している。

 主神に無断で世界樹を採って装飾品を作ってしまうなど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして三日が経ち、やる気に満ち溢れているロンと反比例しヴィーザルは疲れた顔をしている。

 オーディンや兄弟達からユグドラシルでの出来事を色々と言われたのだろう。

 

 ゲッソリしていたヴィーザルはロンに修行を付けるという面目で、サンドバッグ兼指導係という立場にたちロンを絞った。

 

 




正直精霊のくだりはいらないと思ったけど、槍オルタの宝具のことを考えると風のバフがどうしても欲しかった。

それに……25巻のヴィーザルの(人工〇〇ネタバレ)みたいに……ね!

これからシルフィのおかげで槍が見えなくなるぞ〜〜!!

次は神器だ!!先生だ!!


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ハチ

一日空きましたが…どうぞ。


 あの地獄のような修行から逃げるように北欧から極東へと逃げてきた。

 ヴィーザルはあと十年修行を続行させる、みたいな事言ってたが爺さんからの鶴の一声でなんとか逃げることが出来た。

 本当にありがとうございます爺さん、これから優しくします。

 

 と、何故こんな極東へと出向いたのか……。

 それは僕の神器の関係である。

 

 槍術に関してはヴィーザルとの訓練という名の地獄でグンと上がった。今はヴィーザルの魔術でのバフ盛り完全体を5分なら耐えられるようになった……(白目。

 こっちもシルフィの風を纏っているのに、なんであんなに余裕でくるんだよ。必殺技……じゃなかった、宝具でブッパしたのに余裕で僕のこと回し蹴りしてきたし。マジで神やべぇわ、マジやばくね。

 

 ともあれそんな地獄から数年、爺さんの伝手に神器マニアがいて僕の神器を強くしてくれるのではないか? みたいな感じでアポをやっとの事で取ることができて、そのマニアがいる極東の日本にまで足を運んだ。

 

《ちょっと! ロン! ワタシ新鮮な果物がないと死ぬ病気なんだけど!! ワタシまだ北欧離れるの了承してないんだからね!!》

 

 左手の人差し指に嵌められた世界樹の指輪から直接話しかけられる。

 数年前からこの指輪に取り憑いた精霊シルフィである。

 

「仕方ないだろ、爺さんが行ってこいって言ったんだから」

《そんなの建前よ! ロン! ヴィーザルから逃げたくて来たんでしょ!! アンタがヴィーザルと仲良くしてくれないとドラゴンアップル食べられないんだけど!!》

 

 ドラゴンアップルとは冥界に生え、それしか食べられないドラゴンが出来てしまう程の美味な果実。以前シルフィの契約の為にヴィーザルが番外悪魔のメフィストの女王であるタンニーンから取り寄せたもの。

 月に数個しか分けて貰えないが、その味はこの世のものとは思えない美味さ(冥界産)。

 

「僕だって食べたいよ! でもそれでお忍びで食べたら半殺しにされたじゃないか!!」

《知らないわよ! ワタシ痛くないもん!!》

 

 人の気も知らないで! そう思うが精霊だから知るわけないか……と諦める。

 そうか、こいつ人間じゃないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 何やら色々あったが、空港の『産地直送』と書かれている果物コーナーからロンは選りすぐり選抜して購入しようとするが……。

 

「─────────」

「─────────」

 

「どうしよう言葉が通じないんだけど……英語はユニバーサル言語だから大丈夫って爺さん言ってたじゃんか!」

《流石に高位精霊であるワタシでも極東の島国の言葉までは知らないわよ〜! 果物食べたい〜!!!》

 

「うるさいよ! どうせ英語しかできないでしょ! 北欧からでたことないんだから!」

《な! 失礼な出来るわよ!》

 

「なら何がいけるんだよ?」

《……ド、ドイツ語……》

 

「例えば?」

《……だ、ダンケシェーン》

 

 その「ありがとう」とか「こんにちは」みたいなド定番を持ってくるあたり底が浅い。北欧のちょっと下に行った所にあるドイツやスイスを持ってきてもたかが知れている。

 そんはシルフィを鼻で笑い、日本人っぽいオバサンに何とかジェスチャーで伝えようとするロン。

 

 おばさんはチップに指を指してバツマークを作る。

 

「ノーじゃぱにーずマネー」

「I got it」

 

 おばさんのギリギリの英語を何とか理解する。

 

《え? 分かったの!》

「多分……知ってるシルフィ、ポンドって日本じゃ使えないみたいだよ」

《そうだったの!?》

 

 そんなバカ丸出しの会話をしても笑われないのは英語のおかけだということにも気付いていなさそうなロン。

 そして周りからは独り言をブツブツ呟く外国人という認識を受けている。

 

「おいおい! そんな調子じゃ俺の家になんざ一生たどり着かないぞ」

 

 シルフィと言い合いをしていると、内容が分かったのか近くにいた男が声をかけてくる。日本には珍しくかなりの高身長なオジサンだ。

 

「というか英語だ!」

「ったく、ガキのお守りは一人で手一杯だっつーの」

 

 ガキという単語にロンは反応した。

 身長もあの神々と比べれば低い方に位置するし、なにせもっと小さかった時はロセから散々チビ扱いされた。

 なのでロンにとってチビやガキという言葉はよろしくない。

 

「あ、あのねオジサン……どこの誰だか知らないけど。ガキ扱いは辞めてくれない──ってお守り?」

 

 キレる寸前のところで止まり、オジサンの言葉が引っかかる。

 

「心配して来てみりゃ、通貨も知らないガキだなんてな……こんなのが勇者とは世も末だな」

 

 爺さんから知らされていた人は堕天使という聖書の天使が堕天した存在の長、そして総督と呼ばれているのだと聞かされていたのに、まさか殆ど人間と変わらない(・・・・・・・・)だなんて。

 

「なんて言うか意外だね……もっと棘棘しいオーラだと思ったんだけど。思ったより人間っぽい」

「そりゃお前が囲まれてる北欧の神々からすれば俺なんざその程度の存在だ。比べる対象がデカすぎるんだよ」

 

「そっかやっぱりあそこは深淵(アビス)だったんだね」

「ヴァルハラだろ?」

 

 遠い目をするロン。

 その目はヴィーザルとの地獄の特訓(と称したサンドバッグ)を思い出す。やはりアレでも神様なんだよな〜。と思うロン。

 

「それじゃあ日本に着いた事だし、総督! ちゃっちゃと家に向かおう!」

 

 ロンは神器をだ──

 

「馬鹿野郎! こんなとこで神器を使おうとしてんじゃねぇよ!!」

 

 ──すことはなく総督はロンを殴る。しかもかなりの強いヤツだ。

 

「いきなり何するんだよ総督!!」

 

「いきなり何するは俺のセリフだ! こんな人通りの多い場所でなんてことしやがる」

 

 ロンにとってそういう常識と呼ぶものはない。

 生まれてから実験の日々、北欧に来てからは神々と戦乙女に囲まれる日々。身につけているものも聖槍に神器に世界樹という、裏の世界で最上位の存在に囲まれる生活が普通であり常識である。

 気まぐれにドゥンに跨って散歩したり、ハティやスコルに餌をあげたり。

 そういった物がロンにとっての日常だ。

 

「は? 総督の家に行くんだろ!? だったら早く行った方がいいだろ?」

「ダメだこいつ」

 

 総督は呆れ気味にロンをタクシーに放り込み、人間界のルール的に問題ない行動で……。

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 北欧から日本まで爺さんの息のかかったプライベートジェットで約20時間、そして日本に着いてから総督にタクシーに放り込まれて約1時間、長旅からやっと解放され総督の家にあった来客用の果物を頬張る。

 

「ん〜☆日本のも意外とイケるかも!」

「お前人んちに入って初めにするのがそれかよ」

 

「総督! これ結構行けるよ」

《ちょ! ワタシにも食べさせなさいよ!!》

 

 総督の言葉など二人は気にせず目の前の果物を食い漁る。

 それは傍から見ればカラスのそれだ。

 

「ったくオーディンからの頼みじゃねぇと即効で追い返してんなこりゃ」

「ところで総督、なんで神器なんて調べてんの?」

 

「いきなり来るな、あと総督はやめろ。アザゼルでいい」

 

 ロンの踏み込んだ質問にアザゼルはなんでもないように返す。てっきりロンはアザゼルには神器と深い関係があるのではないか、それこそ友を殺したら神器を探している。みたいな壮大な野望があるのかもしれない。そう思っていたが、返ってきたのは意外な答えだった。

 

「そりゃ趣味に決まってんだろ? あんな面白ぇモン中々ねぇよ」

「いや趣味か〜い」

 

 本当に思っていたより軽い理由だった。

 しかもそれが堕天使の総督だなんて、下が苦労人なのは確定したかもしれない。

 

 

「早速見せてくれよ、そこの精霊は神器とは関係ないんだろ? オーディンのジジイから聞いてるぜ、お前の神器のことは。あの騎士王が乗ってた馬らしいじゃねぇか! それも前例がないと来た!」

 

 アザゼルの言葉でドゥンが前例のないものなのを初めて知った。

 知識が知識なのでそこら辺のものは全てアザゼルから吸収しよう。

 

「だそうだ、お呼びだ…ドゥン!」

 ロンはアザゼルの興味をひく【白亜の天翔馬】を出す。

 幸いなことに神器は聖槍の神性の影響を受けていないようで、肉体的な変化は現れていない。

 至って普通の白馬だ。

 

「これがあの騎士王の馬ねぇ〜、それに世にも珍しい神器の中で更に珍しい独立型ときた。こりゃ研究のしがいが──」

 

 アザゼルがドゥンに手を伸ばそうとすると、ドゥンは嫌がったのかアザゼルを威嚇する。

 

「っておいロン! 警戒心剥き出しじゃねぇか! なんか解く方法とかないのか!?」

「いや、そう言われても……今まで何人か乗せたことあるけど、そんな反応初めてだし。あれじゃない? 悪人面だからとか!」

 

「てめぇなんてこと言いやがる! ったくこれじゃ詳しく調べられそうにねぇぞ」

 

 ドゥンを触る時に色々とヤバそうな顔だったなんて言えないロンはオブラートに包むことで伝えたが、どうやら返って無駄になったらしい。

 

 北欧の勇者は、ひょんなことから極東の堕天使の総督の元で厄介になることになった。




次回ヴァーリに会う。
そしてあと二、三話で原作inする


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(あ、これあげたら黄色になるやつや)


「なるほど、じゃあ僕は劇的な変化が無い限り禁手(バランス・ブレイカー)には至れない……と」

 

 あの龍との戦いで禁手がどれだけ強力かということは分かった。ならば今の状態でもありえない程強いドゥンが、禁手に至れば……。

 そう考えていたが、現実はそう簡単には運ばないらしい。

 

 アザゼルから禁手に至るには何か劇的な変化や神器への理解を深めなければいけない。そう言われた。

 何人かの神器の禁手をみているアザゼルにとって、ロンの神器は至る資格は既に持っているがあと一手なにか足りないというのが見解である。

 

「まぁ神器と深く理解し合えば話は変わる」

「深く?」

 

「そうだな……人間で言うところの深層心理ってやつだ。お前の神器【白亜の天翔馬】との深い所を知れ」

 

 深い所、そう言われると困る。

 ロンにとってドゥンは愛馬であり相棒であり半身である。

 

 深く知れ、というより全て知っているような。

 それこそドゥンが生まれた何百年も前から──

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーいドゥンさんやー、深いところを教えてくださいな〜」

『……』

「おいおいおいおいドゥンさんや〜」

『…………』

「おいおいおいおいドゥン──」

 

 後ろ足で蹴られた。

 このくそ野郎、いつか馬刺しにしてやる。

 

 アザゼルの言う通りに深い所を知る。というのが分からなかったので、まずは過度な接触を志そうと思ってやってみたものの、ドゥンからありがたい後ろ足で返事を貰った。

 恨み辛みが湧き上がったが、寸前で止めて喧嘩になることは避けた。

 

 勝敗はやる前から見えている(ドゥンの圧勝)

 それ程にドゥンとロンには差がある。

 それは聖槍をフルに使い、もう一度段階強制成長すれば話は変わってくるだろうがある意味それは禁じ手に等しい。現能力を使っての仮定の話だ。

 

 ひよっこ勇者と大英雄の愛馬では格が違うが、神器に美味しいところを持っていかれるのはそれはそれでいやだ。

 

 どうしたものか……。

 はっきり言って手詰まりだ。

 

 

「アザゼル、誰だこいつは?」

 

 アザゼルの家に上がってきた銀髪のチャラチャラした男に指を指された。見たところ生粋の人間という訳ではないらしい。

 

「こいつは北欧の勇者様だ。名前はロン」

「……どうぞ宜しく」

 

「そうか、俺は今代の白龍皇のヴァーリ」

 

 白龍皇?? その言葉の意味は分からない。

 でも何故か白龍という言葉に、少しだけ懐かしさを感じたのはなんでだ? 

 

「ったく白龍皇も知らねぇのかよ……お前の聖槍と縁があるだろ、これだから最近の若いモンは知識が足らねぇんだよ」

 

 そんなことを言いながらアザゼルはなんやかんやで教えてくれる。

 白龍皇とは。神々でさえ恐れた天龍の片割れ、曰くその力の塊は最強に近い存在だったという。

 大昔に3大勢力の戦争中に喧嘩で割って入り、挙句の果てには滅ぼされて神器として転生した大マヌケ。

 

「へぇー」

「それよりも勇者、少し手合わせ願えないだろうか? 北欧の勇者、この肩書きどれほどのものか確かめてみたくて」

 

「……ま、いいんじゃねぇの? 一応ヴァーリは禁手化に至っているし、俺がいるから死ぬことはねぇよ」

 

 少しだけ悩んだが、結局受けることにした。

 最強に近い存在。それだからこそ挑む価値がある。

 

 それに最近はヴィーザル以外との戦闘をしてこなかったので、自分がどれだけ伸びたか分からない。

 

 そう天龍に胸を借りるつもりで戦うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

 白龍皇ヴァーリのその言葉と同時に戦いは始まった。

 場所は少し離れたアザゼルが作った専用の空間である。

 

 前に出会った龍の神器とは違い、ヴァーリは龍の鎧の様なものを纏う。

 

「同じ龍の禁手化でも違うんだな〜」

「何の話だ?」

 

「いや、こっちの話」

 

 ヴァーリから聞かれるが、こればかりは何を言っても分からないだろう。それこそこれはロンの過去の中でしか語れない。

 

「まぁいい……始めよう!! 俺は強者との戦いを待っていた!!」

 

 ヴァーリは翼を用いて高速で動き出す。

 それに応じてコチラも新しい力を使った。

 

 

「シルフィ」

《分かってるわよ!》

 

 

我が身に宿れ(テンペスト)

 

 指輪が光る。

 シルフィが風の魔術を使い、ロンにバフをかけた。

 相手が龍の鎧ならば、こちらは風の鎧。見た目の違いは鉄が纏っているのでは無く風が纏っているということ。

 

 そして無手(・・)のロンにヴァーリは殴りかかる。

 この時のロンの心境は意外にも余裕だった。

 

(……遅い?)

 

 ヴィーザルとの戦闘を死ぬ思いで乗り越えたロンにとって、拳に重みがあろうとなかろうとその一撃は随分とスローに見えた。

 神の蹴りによって鍛えられた体。

 比べるには余りに酷だが、白龍皇の拳はそれ程までに遅く軽い。

 

 ロンは指を上から下に指して風をコントロールする。

 風の鎧。シルフィの風を纏うことでロンは勇者にとって最も適正が高いとされる精霊魔術を使いこなせるようになっていた。

 本来なら指で指す必要はないのだが、イメージのしやすさを求めた結果それを付けるようになった。

 

 ヴァーリは上から急に現れた暴風に直撃し地面と風に挟まれる。

 風の攻撃は基本的に透明であることから回避がとてもしずらい、他の炎や土ならば視認出来るのだが風は見えないもの。更に屈折率を弄ることの出来る水や風に関しては手の打ちようがない。

 

 

 

 挟まれて身動きの取れない白龍皇を見てロンは気付いた。

 自分が強くなっていることに……

 

 

 このまま風を与え続け、更には斬撃の風である鎌鼬を発生させてつつ風で巻き上げ失血死させる方法もあるのだが……あくまでこれは手合わせ。

 一度拘束を解いてヴァーリを元いた位置に風を使って返した。

 

 圧迫されたことによってヴァーリは息を荒らげている。

 風に支配されるということは生物にとって自然そのものを敵にしているということ。

 

「ハァハァ……これが勇者か……」

 

 初撃で随分と体力を削れたようだが、腐っても白龍皇。まだまだピンピンしてきるし、今の方が強さが増しているように見える。

 ほんの小手調べのつもりが、思ったよりも強い力で返されて少しビックリした。そんな所だろう。

 

「どうやら挑むのは俺の方だったみたいだ。禁手化に至らずこれか……是非とも至った時に手合わせ願いたい」

 

 この時にはロンも嫌でも気づく「あ、この人戦闘狂だ」と。

 

「そういうのは勝ってから言うものだよ。白龍皇さん」

「そうだな……違いない!!」

 

 続けての突進。

 2度目で確信する。恐らく中遠距離での攻撃がない。もしくは当てたところで意味の無い程の威力。

 二度目も使わないとなれば、それは確信に近づく。

 

 ロンは今回は風を操るのではなく、何かを持っている様な手の形をしている手を突進してくるヴァーリに向かって突き立てた。

 

 

「──グッ!!」

 

 何も無かったはずの空間から攻撃がヴァーリの腹に刺さる。

 何とか龍の鎧が身代わりとなり串刺しとはならなかったが、胸の内部分の鎧はこわされ生身が剥き出しとなっている。

 

「無手だと思った? 残念だけど違うよ」

 

 ヴァーリは二度目の魔術による攻撃を警戒し、どこから来ても対応出来るようにしていた。今回の突進も手から魔術の発動を感じなかったのでブラフだと思い攻撃に至った。

 間違いなく読み逃しは無かったはずだ、だが現にヴァーリは攻撃を受けている。

 

「……既に……魔術を展開させて武器を隠していたのか……」

 

 疑問ではない。ヴァーリは確信を持ってその答えに達した。

 魔術の発動には魔法陣や魔力の乱れが必ず起こる。なにせ空間に働きをかける術なのだから、乱れが起こるのは仕方の無いこと。

 それを見逃すはずは無い。だがそれを見せずに攻撃してきた。

 

 それは既に展開していた……もしくは神器による特殊な攻撃、目にも止まらぬ武術

 

 これしか考えられない。

 そして消去法で最初と最後の二択に絞られる訳だが、まだロンは本気を出していないことがヴァーリにも分かる。

 だから既に展開していた以外に見当がつかない。

 

 二度も初歩的なことに釣られた事に悔しさはあるが、それ以上にヴァーリには高揚感がある。

 

 これが勇者! 

 これが北欧! 

 これがヴァルハラ!! 

 

「風の屈折率をシルフィに弄ってもらってね、よく見れば魔力が集まり過ぎて空間に異変があるだろ? でも、それも確かには見えない」

「ああ、なにか持っているのは分かるが……得物が何なのか、長さがどれくらいなのか……正確には分からないな。武器が見えないというのは厄介だな」

 

 ヴァーリはこの魔術の厄介さについて考える。

 どちらかと言えばヴァーリは接近戦に持っていき、ドカドカと殴るタイプだ。だが得物を持つ相手と無手で戦うのはやや分が悪い。そこに不可視とあう大きなアドバンテージが付けば尚更のこと。

 だからヴァーリは自分の強みである白龍皇の能力を使用した。

 

 

Divede(ディバイド)

 

 触れたことにより白龍皇の半減の力は発動した。

 魔術により形成されていた不可視の槍が少しだけ綻びを見せる。

 

 だがシルフィの再形成により槍の不可視は戻された……。

 が、一瞬でも長さや太さが見えたことが幸い。ヴァーリはその類まれなる才能で槍の大きさと長さを一瞬で覚える。

 それに槍全体に半減の力を使ったのに、周りの魔術しか半減できなかったことに少し焦りを覚えた。

 

 勇者の持つ槍は神クラスのものでみて間違いない。

 それこそ世界に名を残すような武器であることに違いない。

 

「もういいか?」

 

 ロンの声でヴァーリはニヤける。

 戦いを求め、強敵を求め、力を求め……。

 

 あの組織に入らずとも、ヴァーリの欲した敵が目の前にいる。

 全てを使っても……それでも届かないと思わせる程の強者が。

 

 

「ああ、全開だ!」

 

 

 ── 我、目覚めるは

 覇の理に全てを奪われし二天龍なり

 無限を妬み、夢幻を想う

 我、白き龍の覇道を極め

 汝を無垢の極限へと誘おう

 

 

 

 

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)

 

 鎧は大きく姿を変え、人ですらなくなる。

 人間ではなく、それは龍と変わらない姿。

 

「やっぱり龍になるのかよ」

 

 ギリギリでしか倒せなかった龍の禁手を彷彿させるその姿。

 白龍皇、その名の通り白銀の体をし皇として強さも尋常では無いのだろう。

 だが……。

 

 

「なんていうのかな……弱くはないんだと思うけど」

 

 どこか物足りない。

 

 

 恐らくこの覇龍は白龍皇の中では奥の手と呼べるものなのだろう。

 力もそこから放たれる波動も、先程までとは段違いだ。

 

 それなのに……。

 

「ドゥン」

 

 出しはしたが。

 

 

 

 乗るまでもない(・・・・・・・)

 

 

 浴びせられる咆哮を風で相殺し、襲う爪を槍で受け止める。

 前はあれだけギリギリで堪えていたのに、まるで赤子の手をひねるように……。

 

 槍を持たない左手、つまり指輪の嵌めてある手を前に出し風を弄る。

 周囲に風を抑えて、自身が竜巻の目であるかのようにその場に留まる。

 

 ヴァーリも何をされるか分からないが、阻止しようと竜巻の中にいるロンを狙うが攻撃が中へと通らない。竜巻であると同時に結界としての役割すら担っている。

 

 

 槍を高々と挙げ、竜巻は槍にへと収束していく。

 段々と……結界の規模が狭く収縮し……。

 

 

 

 

 途端、竜巻は消えた。

 

 

 

 

 

 

 否、槍にへとその竜巻は纏ついたのだ。

 極小の大竜巻、それがロンの持つ槍に纏わりつく。

 

 ゆっくりとヴァーリの方を向け、槍を突き刺した。

 

 

聖槍風霊槌(ストライク・エア)

 

 前とは違い、本物の精霊魔術を使ったその技はドラゴンを一撃で致命傷を負わせるほどの力を手に入れていた。

 暴風がヴァーリへと向かい、風が過ぎた頃には無数の切り傷がついており龍となったヴァーリは大量の血を流す。

 

「まだだ、面白い! 面白すぎるぞ北欧の勇者!!」

 

 覇龍が解かれ、鎧と剥がれ落ち。それでもとヴァーリは嗤う。

 翼の神器でもう一度鎧を作ろうとする時。

 

《辞めておけ、ヴァーリ》

 

 翼から言葉が放たれた。

 

「なぜ止めるアルビオン、最高だ。最高なんだ止めてくれるな」

《勝てないさ。あの槍の持ち主はな》

 

 その言葉はロンに向けられた言葉なのか……。

 それとも以前所持していた王に向けられた言葉なのか……。

 

「そうだな、お前らそろそろ終われ! 空間がもう限界だ」

 

 外で興味深そうに見ていたアザゼルは空間が維持できないといい二人を外に出す。

 それが嘘か本当かも分からない。

 

 ただ、あのまま続けていればヴァーリは危ない状況だった。

 それだけでアザゼルが止めるには足りる。

 

 

「……ったく、これ以上強くなって何になるんだよ」

 

 オーディンから預けられた勇者は、過去現在未来全てを合わせても最強と呼ばれる白龍皇ヴァーリ・ルシファーを無傷で戦闘不能に追い込む規格外のバケモノ。

 それも見せたのは力のほんの少しだけ。

 

 禁手が必要なのかと、些か疑問は残るがアザゼルは新たな面倒事に頭を悩まされる日が来たことは間違いない。

 

(ったく、幹部の一人が最近不審な動きをしてきたのに……ここに来てもっと面倒なことになっちまったな)

 

 アザゼルは北欧でこの状況を悟って尚送り付けてきたクソジジイに向かって恨みを込めた。




次は一旦設定を入れることにします。
ほとんど完成してるので直ぐに出せると思います。



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ジュウ


あ、持ち堪えた!(フラグ


 ヴァーリに治療を施し一段落着いたところでアザゼルはロンに声をかける。

 

「お前さん、そんなに強くなってどうするんだ?」

 

 アザゼルは率直な質問を書いする。

 何せあのヴァーリを赤子の手をひねるように倒してみせたのだ、確かに強くなれる要素はある。だが、これ以上強くなる必要があるのか。

 そしてあるなら、それはどんなものの為なのか……。

 

 それがアザゼルは気になる。

 

「いや、別に何も無いよ?」

「は?」

 

「いや、だからそんな崇高な理由はないよ。敵討ち! とか復讐! とか世界平和! とか……僕が言うのはアレだけど。正直言って興味無い!」

 

 勇者がそれを言うか? 

 アザゼルはそう突っ込まずにはいられなかった。

 

「たまに思うんだよね。明確な目的とそれを達成する覚悟が無ければ強くなれない! みたいな事を言ってる人いるじゃん。でもそれ聞くたんびに思うんだよ「んなわけねぇだろ!」って」

 

「気持ち一つで強く慣れるなら世の中凄いことになってる。それは主人公から見える綺麗事だよ」

 

「主人公は何故か知らないけど、自分の努力を美化したがるんだよね。俺は才能だけでは無い! 血が滲むような努力をしてここまできたのだ!! みたいな」

 

 よく英雄譚やおとぎ話。所謂創作物ではよくある話だ。

 

 

「でもそれって主人公視点だからそうなっている訳であって、周りから見ればなんてことの無い。英雄譚が綺麗であるのは勝った方の視点でしか見てないからだよ。弱かった人が仲間と共に成長して悪を討つ。それはとても夢が溢れてて、魅力的で、感動的で……でも周りは違う。元々圧倒的な才能を持った化け物達が、愛やら恋やらを語っている間に理不尽な力に目覚めて選ばれなかった強者を倒す」

 

 ロンは語る。

 これはロン独自の考えであり、ツッコミどころはあるのかもしれない。

 でもアザゼルは聞くのを辞めなかった。

 

「ただの茶番だよ。付き合わされる側からしたらたまったもんじゃない」

 

 少し笑いながらそう語る。

 

「だから明確な目的を設定しなくても強い人は勝手に強くなる。世界はそういう風にできてるからね」

 

「龍が強者を寄せ付けるように──」

 

 アザゼルはヴァーリのことを脳裏に浮かべた。

 

 

「必ず選ばれた(・・・・)者には超えられる壁が用意される」

 

 確かに今回の事でヴァーリは一段と成長するだろう。

 自分を圧倒する相手との出会いによって。

 

「それは結果論だ、ヴァーリだって死ぬ可能性はある」

選ばれた(・・・・)って言ったろ? 別に強いものや才能溢れる者の事じゃない。……それにアザゼル、結果でものを語っては駄目なのかい?」

 

 アザゼルの顔が曇る。

 その言い方だと、選ばれたと思っていた者も死んでしまえばそうではなかった。それは究極の結果主義となる。

 

「確かにアザゼルみたいな研究者からしてみれば過程は大事なのかもしれないけど……僕達みたいな何かを背負わされた人は結果しか見て貰えない。違う?」

「だが──」

 

「あ、いや別に責めてるわけじゃないんだよ……っとだいぶ話が逸れたな……えっと……つまり! 目的とかないけど勇者だから力蓄えとこ……ってことで!」

 

 ロンは笑ってそう返す。

 今の会話に嘘偽りはない、本気でそう思っているし実際そうだとも言える。だが、それをアザゼルが肯定してしまえば……。

 

 ロンという人間は確実に壊れてしまう。

 そんな危うさが彼にはある。

 

 うちを覗こうとした時、出てきたのは煌びやかな勇者などではなく。

 堕天使の翼よりも深い黒いナニカだった。

 

「そうだな……まぁあってはねぇけど間違ってもねぇな。お前の中で新しい選択肢(答え)が見つかるまで、おまえは強くなればいい。強くなる目的を見つけるために強くなる……オーディンが言うように一風変わった勇者だよお前は」

 

 その特異性に畏怖と敬意を抱いて、アザゼルはロンが禁手に至るまで改めて面倒をみると覚悟を決めた。

 それと同時にコノ存在をヴァーリに近づけさせ過ぎない(・・・・)ようにすることも。

 強さに焦がれた少年が、この闇に侵食されないように。

 

 

 

 

 

「ロン、再戦をしたい体は戻った」

 

 ……アザゼル、決意折れる。

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ロン、一つ提案だ俺と組まないか?」

 

 ヴァーリは再戦で埋まるはずのない実力差に喜びながらも打ち震え、ロンにある提案をした。

 

「組む? なんの話?」

「──世界を敵に回さないか?」

 

 ヴァーリのどこか陳腐なセリフに笑おうとしたが、それは辞めた。

 どうやら冗談ではなく、その目には強い意志があったからだ。

 

「世界を……ね」

「ああ! 俺は最強を倒したい! 強い相手と戦いたい! ……だが、ここではそれはできない」

 

 

「そこでお前に出会った、俺より強い存在がいる! だが本気で相手はしてくれない。全てを出してくれない。決心がついた、やはり俺は敵に回ると。だがお前もそうなんじゃないか? 勇者という地位に縛られ自由がなくなるんじゃないか?」

 

「……まぁそういうことになるだろうな」

 

「俺とお前は似ている。どれだけ力を手に入れても満足のできない獣だ」

 

「…………いや、いいよ。確かに僕は恩義とかそういうので勇者やってるけど、別に嫌って訳じゃないし。悪も正義も僕にとっては大差ないけど……正義の味方の方が──幾分か素敵だろ?」

 

 ロンはヴァーリの勧誘を蹴る。

 その全貌までは知らないが、ヴァーリが何かやらかすんだろうな……程度にしか考えていない。

 ただ、家族に手を出した瞬間。

 

 ロンはヴァーリを殺す。

 予感や憶測ではない。

 

「ならここでの戦いはこれっきりだな」

「ん、了解」

 

 次は本当の殺し合いを。

 そして、もう二度と訪れない友としての道を。

 

 数少ない友達になれるのではないか、二人はどこかでそう思っていた筈だ。

 この二人が……もし、もしもの仮定の話だ。

 友となり、邪悪を打ち払う為に手を組んでいたなら……。

 

 

 それだけで、どれだけの命が救われただろう。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

「ヴァーリ、ちょっと頼まれてくれないか?」

 

 再戦で傷だらけになったヴァーリ。

 一応応急処置はしたが、もう一度グリゴリの方で治療をしてもらわないと動くことすらままならない。

 

「済まないアザゼル、こんな状態だ……」

 

「マジかよ……」

 

 自ら向かうという選択肢もある。

 だが、その場合はこの後に行われるであろう3大勢力の会議の場で話が拗れてしまう。

 堕天使の幹部であるコカビエルの暴走。

 

 それを止められるのは同じく幹部以上の堕天使か白龍皇程の神器の使い手。

 

 

「僕が頼まれようか? ヴァーリをこんなにしたの僕だし」

「……オーディンに貸しが……いや、これでチャラみたいなもんか……? 分かった! ロン頼まれてくれ」

「いいよ」

 

 まどろっこしい考えを今は捨てて、緊急事態の現状を何とかするために北欧の手札を使うことに決めたアザゼル。

 オーディンから何を言われるか分からないが、こうせざるを得ない状況を作ったのもまた事実。

 

「この町で俺と同じ堕天使の翼をした奴を回収してきてくれ。最悪殺しても構わん。名前は【コカビエル】」

「黒い羽根、堕天使、コカビエル……ん、覚えた」

 

 単語しか覚えていないことに少しばかり不安を感じるが、そうも言ってられない。町が滅びれば和平に向けての会議すら白紙に戻る可能性がでる。

 そして和平を結び協力しなければ、あの組織に対応出来なくなる。

 世界を敵に回しても気にしないような最強が頭にいる、禍々しい組織を。

 

「じゃあ最近消化気味だったからドゥンで移動しようかな……アザゼルに止められたから散歩がね〜」

「……はぁ、止めやしねぇよ。なるべく上空にいけよ」

「わかったてるって〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりに神器に跨り空を散歩する。

 北欧の山とは違って、町には明かりが無数にあり幾分先も見通せる。

 

 月明かりではない夜の明かり。

 ここまで増えると圧巻の一言に尽きる。

 

 そして光の柱を確認した。

 

 場所は恐らく学校。

 結界が張られており、そこだけ不自然と呼べる。

 

 何より光の柱に引き寄せられる。

 あの光が何故か、聖槍の光と似ていたから……。

 

 黄金の羅針盤が示してくれたのかは不明だ。

 それでも、他人事ではない。

 

 その認識が心にできて、何故か取り返さねば(・・・・・・)という想いにかられた。

 

 

 槍を風で隠し、真下へと構える。

 

我が身に宿れ(テンペスト)

 

 身体能力を上げて、更に槍にも風を纏わせる。

 

 下を見据え、一番力の強く黒い羽根をした堕天使に狙いを定めた。

 

 懺悔など聞く気もない。

 殺す可能性もあるし、アザゼルから殺してもいいと言われている。

 

 そして何故かドゥンの機嫌が頗る悪い。

 

 槍に力を込め、神速の一撃を放つ。

 

騎駆剱霊穿(ストライク・スタリオン)

 

 手の平代の大きさの刺突が、結界を紙でも破くかのように突き抜けて堕天使の胸部を貫通した。

 

 神速の一撃。

 その一撃に遅れて気付くように結界は崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 堕天使、悪魔、ドラゴン。

 常世の宴に勇者が入り込んだ。






ドゥンくん、激おこプンプン丸。


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ジュウイチ

祝 評価200人突破ッ!!!


「ずっと思っていたんだ……僕が……僕だけが生きていていいのかって。僕よりも生きたかった子が居た、僕よりも夢を持った子が居た──僕だけが平和な暮らしをしていいのかって」

 

 懺悔のように嘆く言葉を死者の思念に語り継ぐ。

 聖剣を恨み、赦せずにいた理由。

 そしてこれこそが最近の暴走の理由。生き残ってしまった故の責任感が木場にはあった。

 

 

 ──聖歌が聞こえる。

 どこからともなく現れた死者の思念。ソレが歌を唄う。

 それは、どこにでも有り触れたものなのかもしれない。でも木場にとっては、かけがえのないもの幼少期に何度も聞いたことのある今は無い懐かしさを思いださせる

 

 

 

 

 ────大丈夫

 ──── 皆集まれば……

 ──── 受け入れて

 ──── 僕達を

 ──── 怖くない、たとえ神がいなくても

 ──── 神様が見てなくても

 ──── 僕達の心は何時だって

 

 

『一つだ』

 

 ──── あの子だってまだ生きてる

 ──── 僕達の弟を

 ──── 任せたよ

 

「──ッ!!!」

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 神の不在。

 その言葉は予想を遥か上回る形でリアス眷属にダメージを与えた。

 

 回復役のアーシアは気絶し、信徒のゼノヴィアもやっとも思いで立つことが出来ている状況。生命線とも呼べるアーシアの離脱が痛すぎる。

 

 信徒のゼノヴィアも木場と並ぶ前衛である以上、それが消えるのは痛手と言える。

 

 その窮地を救ったのは赤龍帝だった。

 理由は残念としか言いようがないが、それでも劇的な変化を齎したのは兵藤一誠の心の力だった。

 

 イッセーは神器を昇華させ、一時的とはいえ莫大な力の増幅を成功させコカビエルを殴り飛ばした。

 

「面白い! 面白すぎるぞ赤龍帝!! 主の乳を吸うというだけでオレの顔に触れるだと!!」

 

 コカビエルは興奮する。

 戦争の前座としかみていなかったが、この赤龍帝は不純ではあるが龍の力を引き出すのが上手い。

 それこそ戦争の途中で割り込んできたあの天龍を……。

 戦争の続きを始められる。

 

「うるせぇ! ぶっ飛ばしてや──」

 

 悪魔になってまだ二ヶ月。

 堕天使のいざこざから始まり、無茶をして不死鳥を倒すという奇跡を起こしてきた赤龍帝。今も堕天使の幹部を殴り飛ばすという、本来ではありえないことをやってのけた。

 

 だが……。

 

「……クソッ、体が動かねぇ」

 

 過度な強化に体がついていけていない。

 赤龍帝の倍化は神をも屠れる力であり、その力は絶大だ。

 

 だが、その強化は体が耐えきれるという前提に存在するものであって、無闇矢鱈に強化すれば体がついていけず持ち堪えることが出来ないことは明白。

 

「……つまらん、やっと面白くなってきたところでこれか……これだから転生悪魔は。お前も落ちたな赤い龍!」

 

 途端に気分を落とすコカビエル。

 一気に上がった高揚を打ち消すには十分過ぎた。

 

「せめてもの褒美だ、一瞬でいかせてやる」

 

 手を上にかざし光の力で槍を作る。

 その大きさはさっきまで使っていたものの比ではなく、今までが遊びだったことがよく分かる。

 

「死ね、赤龍帝!」

 

 振り下ろす。

 赤龍帝に向かって光の槍が──

 

 

「──ブハッ!」

 

 上から途端に襲撃を受けたコカビエル。

 

 その光景に驚愕する面々。

 

 

 

 

 天から光が降ってきた。

 一線は邪悪な根源を突き刺し、致命傷を負わせる。

 

 その異様な光景は空から降りて来た。

 元凶と思われる少年、その身の丈の小さい子供は馬に跨り天から降りてくる。

 

 

「─あれは!?」

 

 なんなんだ。そう言葉は続かなかった。

 あまりの光景に誰も話しかけたがらない。それは自分たちが悪魔だから、堕天使と同じく根源は悪でありそれ故に滅ぼされる。そう思ったからだ

 

 だから、初めに声をかけたのは信徒であるゼノヴィアだった。

 

「お、お前は誰だ!?」

 

 コカビエルに致命傷を負わせ、何もなかったかのような顔をする少年に声をかける。

 

Should I say how? (なんて言えばいいだろ)

 

「お前が何者かなどどうでもいい! オレの前に強者が来た! となればすることは一つだけだろ!!」

 

 致命傷を負ったはずのコカビエルが立ち上がり、傷口を手で塞ぐ。

 指の隙間や覆うことの出来ない場所から血が吹き出るが、そんなことを気にする必要は無い。

 なぜならコカビエルの元に強者が現れた、それだけでコカビエルは心躍る。

 

Shut up(うるさい)

 

 シルフィの風を使って、上から暴風を起こす。

 ヴァーリに当てていた拘束の威力ではなく、人を殺せる威力の風だ。

 力強く、それでいて逃げられない。さらに地面にのめり込む程の威力。

 

Who are you? (あなたは一体何者)

 

 ゼノヴィアは少なからず恐怖を覚えていた。

 絶望の根源だったコカビエルをまるで遊ぶかのように手玉に取り、使い捨てる。異常だ、そしてなにより何故かは分からないが、あの少年からデュランダルやエクスカリバーに似た波動を感じる。

 

Uh…… It is the feeling like the hunted man(えーと、お尋ね者みたいな感じかな)

 

Is it not an enemy? (敵ではないんだな)

Of course I am a hero(勿論、僕は正義の味方だよ)

 

 二人の会話を普通の高校生なら聞き取ることは出来ないだろう。

 だが、この場にいる全ての年代の子供は悪魔か転生悪魔。転生悪魔がもつ自動翻訳機能が火を吹き聞き取ることができ話すことも出来る。

 

「あなたは何をしにここに来たの?」

 

 リアスがロンに向かって質問を問いかける。

 

「ちょっと知人からの依頼でね……コカビエルってコレであってるよね?」

 

 地に倒れ伏している堕ちた烏に指を指す。

 拘束を抜けることは未だにできず、回復や防御に回すのがやっとの状態。この見下された状況にすら声をあげようとしない。

 それ程までにコカビエルは追い詰められている。本来なら弱者の考えるような卑劣な手しか思い浮かばないのだから……。

 

「知人? あなたはどの勢力に属して──」

「うっそ……イザイヤ?」

 

 リアスの言葉を遮り、ロンは木場へと声をかける。

 気の緩い……そう思われるかもしれないが、木場の人生観から察するにこの再会はそれ程緩くはなく泣いて喜ぶ程のものだったと言えるだろう。

 だが、ロンはそうしなかった……。

 

「ま、まさかアル───」

「っとストップ! ()は……僕は今ロンって名乗ってるんだ。イザイヤも死んだんだろ?」

 

「……ああ、僕は木場裕斗で通ってるよ」

 

「そっか……裕斗か……。うん! 分かった裕斗ね」

 

「待ってくれ、君は一体どうして生きて──今何をしているんだ!!」

 

 堪えきれなくなった。

 力と意志と願いを施され、弟を任された。ロンを任された木場にとって……今この場での再会は偶然ではない。

 まだ、残っているものがある。

 それより何で今まで……。

 

 考えが纏まらないだろう。

 葛藤もある、不安も、再会できた喜びも、感動も。

 でも、一番大きいのは焦りだ。

 

 このままではどこかへ行ってしまう。

 

「あ〜、ごめん! ちょっと急ぎで頼まれてるんだよコレ」

 

 コレっといい指を指したのはコカビエルがさっきまでいた場所。

 

 

「油断したな! 人間風情がオレを抑えてい──」

 

 確かに感傷に浸っておりロンは油断していたが、もう一方はそんな油断などする訳がなく……。

 ドゥンはコカビエルを前足で踏んずける。

 

 肉が砕ける嫌な音がした。

 頭が潰れる果実のような音がした。

 

 コカビエルの体が地面に挟まれて潰れ、血が霧のように舞う。

 

「あ、ドゥンやり過ぎだよ……これ流石に死んだよな…………なんかむっちゃキレてんじゃん」

 

 嫌な匂いが辺りを充満した。

 ロンも溜息を吐きながら、頭をかく。

 

 最悪殺してもいいと言われたが、そこまでする程の相手では無かった。実際そこまで追い詰められた状況でも無かった。

 ただドゥンの機嫌がすこぶる悪い。

 

 ただそれだけの理由でコカビエルは死んだ。

 

『無視か? スタリオン』

『…………』

 

 どこか馴染みのあるような声がロンに届く。

 振り返れば見たことも無い青年、そしてら隣には懐かしの顔がもう一人いた。

 

「あ、アルジェントさんもいるんだ。なんか縁があるな〜……ロセもいたりして」

 

 北欧で一度顔を合わせたことのあるアーシアをみつけるが、どうやら気を失っているみたいだ。起こすのも悪いし、挨拶はまた今度でいいだろう。大丈夫だ、だって彼女は既に人間を辞めているのだから……。

 

「待ってくれロン! 僕は君に──」

「あー……うん! また来るからその時にね」

 

「違う! 僕は今君に話があるんだ!!」

「いや、ホント急ぎなんだよ。また──」

 

 

「──おい! 誰だか知らねぇけど!! ちょっとくらい木場の話を聞いてやってもいいだろ!! この───」

 

 木場とロンの間に入ってきたのは、立っているのもやっとなコカビエルを殴り飛ばしたヴァーリの白龍皇と対をなす存在、赤龍帝だった。

 そしてために溜めて放った言葉は、ロンの琴線に触れるあの一言。

 

 もしアーシアが起きていたなら止めれただろうが、気絶していてはどうすることもできない。

 敵に回してはいけない奴を一言で敵に回す一言。

 

 一誠は言ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──チビ!」




ロン・ドゥン「久しぶりにキレちまったよ、屋上行こうぜ」


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ジュウニ

みんなイッセー嫌い過ぎ(笑
好き嫌いが別れるキャラかもしれないけど、作者は嫌いじゃないよ。

あれだけシリーズが続いてるし、やっぱり魅力があるんじゃないかな?


「……あれ、俺…………は?」

 

 ボロボロの体でアーシアから治療を受ける一誠。

 何故こんな状況に陥っているのか理解できないという表情。

 

 周りは一誠を囲むようにしている。

 コカビエルと戦っていた時よりも、どこか服が破れていてアーシアからの回復を既に受けている様だった。

 

「イッセー、起きたのね」

 

 初めに一誠に声をかけたのはリアスだった。

 制服の大部分は破れており、弾けんばかりに大きな乳房は露となっている。だが、そのご褒美も今の一誠には気に出来ないほどの怪我。

 

「確か俺……あのちんちくりんに」

「イッセー君、もう彼にそういう事は言わない方がいい」

 

「何言ってんだよ木場、お前はアイツに……」

「大丈夫だよイッセー君。生きてる事がわかった、それだけでさっきまではよかったんだ……」

 

 さっきまでは、という言葉に少し引っ掛かりを覚えるが体の痛みがそんなことをすぐに忘れさせる。

 ヅキッ! という骨の軋むような痛みが全身に走り、悪魔になってここまで全身が動かない状況になるのはライザー戦の時以来だ。

 

「そういえばアーシアさんはロンと面識があるのかい? 気絶してる時にアルジェントさんって言ってたけど」

「はい! 以前北欧で助けてもらいました、それに北欧の主神オーディン様をはじめヴィーザル様に会わせてもらい北欧にいる間は良くしてもらってました!」

 

 ビックネームに驚くリアスやその面々。

 オーディンといえば北欧の主神。北欧神話のアースガルズといえば、知らぬものはいない戦力。

 

「そう、あの子がアーシアが言ってた子なのね」

「…………はい」

 

 アーシアが北欧から出て、各国を転々と歩き回りシスターとして活動していたのだが、最近に日本に呼びだされ堕天使に殺されリアスが転生悪魔として蘇らせた。初めは戸惑いを見せるかと思っていたが、意外にも受け入れることが出来ていた。その事についてリアスが聞くとアーシアは嬉しそうに語る。「以前助けて貰った男の子に好きな女性のタイプを聞くと『僕より長生きしてくれる人』と答えていたので苦ではありません」と笑顔で語っていた。

 

「彼は一体何者なの? 3大勢力に属しているの?」

 

 リアスはこめかみを抑える。

 自分の眷属が意外にも縁もゆかりもあることに対する驚きと、コカビエルをも軽々と屠る相手に目をつけられたこと。

 既にコカビエルの一件だけで負えないのに、これでは溜め込みすぎて爆発してしまう。

 

「私も詳しくそういう話はしたことはありませんが……ただ、皆からこう呼ばれていました──」

 

 

 

 

「──勇者(エインフェリアル)……と」

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 コカビエルを連れて帰ってきてからロンが荒れている。

 多分殺したコカビエルに何か言われたのは違いさなそうだ、とアザゼルは誤解するが真相は違う。赤龍帝である兵藤一誠に「チビ」と言われてからキレてアルジェントさんや木場、そしてその他の人間を除き全ての悪魔や半悪魔に風の鉄槌を与えた。そして比較的に一誠には強く。

 

 恐らく木場の友人である事からここまでする気はなかったのだが、神器から伝わる怒り。つまりドゥンから感じる怒気がロンに伝わりキレやすい状況を作った。

 何にキレているのかは分からなかったが、聖槍もかなり荒々しかったのは間違いない。

 

 そこまでキレる準備がされて、抗えるほどロンに煽り耐性はない。

 

 機嫌が悪いと同時に後悔の念にも駆られている。

 時間を作ってイザイヤ……裕斗に会いにいかなければ。

 

 今はそれで頭がいっぱいになっている。

 平然を装ったが、やはり死んだと思っていた家族が生きているのは嬉しいものである。それにあの地獄を共有した義兄弟なら。

 

 

「アザゼル? 明日オフ貰うね」

「……お、おう! ゆっくり休めよ」

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

「この学校だよな……なんか人多くない? 明らかにおっちゃんおばちゃんも居るし……」

 

 裕斗に会いに行こうと思ったが、あの学校以外に情報はなく。恐らくこの学校の制服で間違いないと思うのだが……如何せん知らない学校には入りづらい。

 

 右眼には眼帯をしている。アザゼル曰く北欧ではそう珍しくなかったかもしれないが、日本で外国人はかなり目立つそれにオッドアイなど注目の的になるから付けていけ。だそうだ。

 

 探すのはキツイので聖槍を頼ろうとしたが、この程度では羅針盤としての効果を発揮してはくれないみたいだ。やはりピンチぐらいにならないと胸がざわめかない。

 ならドゥンは? と思うが、未だにキレている。相当ご立腹のようだ。

 

 となれば……

 

「シルフィ」

《最近ワタシ使いすぎよ! 何か貢物でも無いわけ!》

「愛媛産のミカンで手を打とう!」

《よろしい!》

 

 シルフィの風を薄く周りに展開して、索敵する。

 とりあえず悪魔が持っている魔力を辿れば裕斗に会えると思い、風で魔力を探知する。

 

 新しい校舎に大きいのが二つ、少し低いのが四つ、小さいのが……いっぱい、古い校舎に小さいのが一つ、体育館に大きいのが一つ。

 大きいのは間違いなく裕斗では無いし、多分前に会った人達ではない。

 裕斗のは多分小さい部類に入ると思うが、校舎の方だと人が密集していそうだし、何よりあの赤いのに会いたくない。

 

「古い校舎かな〜」

 

 単独なら間違えても軽症で済みそうだし、当たりならゆっくりと話せそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何か厳重な封印が施されていたが、聖槍を使ってバレないように術式を破壊する。万一凄く大事なものがこの中にあって、隠しているとしたら誤解されそうなのでいっその事バレなければいい。という結論に至った。

 

「裕斗〜いる?」

 

 ジメジメとした部屋だ。

 それこそ幽霊がでてきそうな不気味である。

 

 何かカチャカチャという音が棺から聞こえてきたので、ロンはもしかしたら……程度の気持ちで蓋を開けてみる。

 

「……だ、誰ですかぁ」

 

 中には金髪の女の子が入っていた。

 

「失礼しました」

 何だか凄い不味いことをしているような気分だ。

 女の子のプライベートスペースを無理やりこじ開けた……みたいな事になったら非常に不味い。

 

 ともあれ裕斗ではなかった。

 行きたくなかったが、馬鹿みたいに悪魔の気配がしているところに行かなければならないのか……。

 

 蓋を閉めようとすると、違和感を覚えた。

 何かしらの攻撃をこの女の子から受けた。そう認識出来たのだ。

 

「な! なんで動けるんですかぁ!?」

 

 少女は涙目になりながら、魔眼と思われる力を発動していた。

 気を探ると神器の力がロンの体と周りの空間に停止信号の様なものがかけられている。

 

「なんでって……格の違い?」

「やだぁ! 怖いよぉ!」

 

「いきなり攻撃してくるお前もどうかと思うけどな〜」

 

 ロンだけが悪いみたいな言い方に少し疑問を覚えるが、目の前でガチ泣きされては怒るに怒れない。

 

「……てか君誰? なんでここにいんの?」

「それは僕のセリフですぅ、あなたこそなんなんですか?」

 

「僕? 僕はロン、ちょっと知人を探しててね。裕斗っていう名前なんだけど」

「ああ、裕斗先輩でしたか」

「知ってるの!?」

 

 予想外のところから答えにたどり着けるチャンスが降ってきた。

 こんなに早く本人に繋がるとは思っておらず、少々驚くロン。

 

「え!? あ、はい。僕も悪魔でリアス部長に仕える眷属です」

「へー、裕斗は悪魔になったのか〜。なんか皮肉がきいてるな〜」

 

 教会のモルモットから一転、魂を売って悪魔になる。

 教会側からすると、何とも皮肉なことだろう。いい仕返しだ。

 

「じゃあ裕斗だけを呼び出すとか出来ないの? 眷属だし」

「一応連絡は出来ますけど……多分僕から会いたいっていうと、他の人もついてきちゃうと思いますよ」

 

「んー、それは困る。てかなんで君はここにいるの?」

「あ、僕はギャスパーです。ロン君には効かなかったんですけど、僕の神器の力を操れなくて興奮すると勝手に力を使ってしまうんです。それが危険だから、ここで封印されてるんです」

 

「へー……大変だね」

 

 聞いてなかったのか! と言われるくらい興味無さげなロンに、ギャスパーも苦笑い。

 

「じゃあ暇なの?」

「え? ……まぁ、とくにやらないといけないことはないですけど」

 

「じゃあさじゃあさ! 暇なら遊ぼうよ。なんかこんなに暇そうな人初めてだからさ!」

「は! はい! いいですよ!!」

 

 

 思えば二人とも、ゆっくりと同世代と遊ぶということをした事がない。

 ギャスパーはハーフだった故に迫害され、それが影響し今は引きこもり。ロンもロセやアーシアと仲良くなったりしたが、やはりゆっくりと遊ぶということはしてこなかった。

 それにロンは気付いてはいないがギャスパーは生物学的には男。

 そういう男友だちという意味では初めての体験である。

 

 

 

 

 

 

 手始めにトランプ、ゲームにパソコン。

 など、現代的な遊びを教えて貰ったが、野生児のロンには難しく一勝もあげられていない。

 

「というかギャスパー強すぎない?」

「僕だって伊達に引きこもってませんから! ネット界では最強ですよ」

 

「マジかよ! すげぇな!?」

 

 オドオドしていたキャラとは一変、ダンボールから出てこないという不気味さはあるが自信に満ち溢れる程のオーラがギャスパーに纏っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は! 甘いな! まだジャンプが残ってる!」

「はい知ってます、だから復帰阻止します」

「ふざけんなぁぁ!!」

 

 

 

 

「これが神のフルハウスだ!!」

「あ、僕フォーカードです」

「NOooooooOOOO!!」

 

 

 

 

「やべぇ3ヘル飛んだ!」

「大丈夫です、もうダウン入れてます」

「すげぇなギャスパー!」

 

 

 

 

 

「お前これは詐欺だろ。顔コピペして契約者に送るのは……」

「いえいえ、みんな喜んでますよ。ウィンウィンってやつです」

「悪魔かよ」

 

 

 

 

 

 

 

 何時間遊んだのか分からないくらい楽しんだ。

 数時間? 数十時間? 

 どれだけ流れたか分からない時間。でも、今一番楽しい! という感情が大きい。

 友達、とはまた違ったものなのだろう……仲間、というのもまた違う。

 

 

 ロセといた時のような胸のざわめきもない、アーシアといた時のようなフワフワという気持ちもない。

 ただただ楽しい。

 綺麗なものを見て、美味しいものを食べて。

 それだけが娯楽と思っていたし、実際それしか触ってこなかった。

 

 それを教えてくれた。

 裕斗に会うという目的を忘れるほど、楽しく遊んでいた。

 

「あー、さすがに画面見すぎて目が疲れてきたわ。ちょっと寝てもいい?」

「はい、大丈夫ですよ。ここには僕以外来ませんから……ベットは棺の中なんで自由に使ってください」

 

 ゲーム初心者は目が疲れやすい。

 一日中睨めっこしていれば、さすがに疲れた。

 

 ギャスパーから棺を借りて仮眠をとる。

 

 

 

 

 

 ものの数時間しか寝てないが、周りがザワザワしてきたので目を覚ました。

 ベットは一つしかないので、横にギャスパーもいるのが確認出来る。

 眠いなーと思いながら意識が覚醒していくと、大人数の足音が棺の方へと近づいてくる。

 

 元々真っ暗な部屋だったが、棺の蓋を外から開けられることで少しだけ光が中に入ってきた。

 

 

 

 

『え?』

 

「え?」

「ん? おはよ」

 

 リアス眷属のギャスパーの隣にいる悪夢への驚き。

 眷属がこの部屋にいることへのギャスパーの驚き。

 ロン、起床。

 

 

 ロンの裕斗に会いに来る。という当初の目的は達成された訳だが、ある意味最悪の状況下で目的を達成してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、修羅場

ギャスパーと友達らしいことするssを見たこと無かったから入れてみた。絶対良い奴(確信


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