転生オリ主のテンプレ特盛ダイアリー  (昨日辛雪)
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オリ主日記(1)

邪道二次創作書いていてると、コテコテのテンプレが恋しくなって書きました。

楽しんでいただけたら幸いです。


1993年5月9日

 

 どうやら俺は転生したらしい。あまりの事態に頭がついていかないので、考えを整理するために日記をつけることにした。

 もっとも、今の俺は赤ん坊。当然、文字は書けないので、当分は脳内ダイアリーだが……

 

 転生、前世ではこのジャンルの作品が好きで読み漁っていたが、まさか自分が体験するとは夢にも思わなかった。

 神にも会ってないし、トラックにも轢かれてない。普通に床に就いたはずなのに、目が覚めたら赤ん坊になっていた。

 

 しかも、ただの転生じゃない。俺が生まれ落ちたのは異世界、正確には赤松健先生による漫画『魔法先生ネギま!』の世界だ。

 

 何故ここが『魔法先生ネギま!』の世界と分かるかって? 理由は簡単。今、俺を抱き上げている男にある。イタズラ小僧のような無邪気さを残す、人好きのする笑みをたずさえた赤毛の陽キャイケメン。そう、ナギ・スプリングフィールドが俺の父親だったのだ。

 

 一瞬、ネギ憑依モノかと思って焦ったが、自意識が覚醒した時、ネギと思しき赤子が隣のベッドで寝かされていた。ちょうど、彼は母であるアリカ・アナルキア・エンテオフュシアの乳にしゃぶりついている。

「ネギよ、あまり飲みすぎるでないぞ」

 むせてもなお母乳をせがむネギを母が優しくたしなめた。

 

 ネギはネギでちゃんと存在してくれていて正直ホッとしている。俺みたいな小市民は、憑依では依り代となる原作キャラへの申し訳なさが勝ってしまい、せっかくの異世界を満足に楽しめない。

 

 メタ的な表現だが、どうやら俺はオリキャラとして転生したらしい。これで、心置きなく前世でもファンだった『魔法先生ネギま!』の世界を満喫できるというものだ。

 

「ハハハ、ネギの奴食い意地はりすぎだろ。それに比べてハルカはガキのくせに、ずっと仏頂面だな。そこんとこ、アリカそっくりだ」

 そう言って俺の頬を指でつついた父が、母に睨まれて居竦まされている。「ハルカ」それが今生の俺の名前だ。

 まぁ、しかめっ面なのは転生者なのだから仕方がない。

 

 原作開始前のどこまでも暖かい日常の一コマ。ただ一点、気になることがある。両親のネギに向ける眼差しは慈愛に満ちている。

 しかし、俺を見る目にはどこか翳りがあるのだ。もちろん愛情も感じる。ただ、そこに潜む隠しきれない憂いの色。

 

 原作知識がある俺は、「大戦の英雄」と「災厄の魔女」の息子の存在が政治的なタブーだとは知っている。だが、それはネギとて同じではないのか?

 ネギと俺を分ける何か。それが今の俺には分からないでいた。

 

 

1993年11月12日

 

 転生してから、半年あまりがすぎた。最初は戸惑っていたが、今ではベィビーライフにもそれなりに順応している。

 この数カ月でいくつか分かったことがある。一つが、俺とネギは双子の兄弟で、俺のほうが先に生まれたこと。それを聞いて将来、

「なんだよ、ちっちぇえな」

とか言ってネギの前に立ちはだかってみたい衝動にかられたのは秘密だ。

 それは冗談として、ネギや両親の見てくれから容姿端麗な未来は約束されている。遺伝的に魔法の才能も申し分ないだろう。

 

 せっかく恵まれた転生を果たしたのだ。前世で憧れるだけだった、ゲームやアニメ・漫画の主人公達のように「格好良く」生きてみたい。

 中でもペルソナシリーズ。特にやりこんだ3のキタロー、4の番長、5のJOKERは思い入れが深い。彼らを目指して人生をロールプレイするのも悪くないだろう。

 喋り方もそれっぽくして、

「どうでもいい」

「そっとしておこう」

「ショータイムだ」

…… 日常会話で使えんな。

 ともかく、彼らのようにクールな態度の内に熱い思いを秘めた「(おとこ)」。それが、今生の俺が「なりたい自分」だ。

 

 次に、俺達が住んでいるのが、原作で魔族の襲撃を受けることになる村落であること。度々、家を訪ねてくるスタン老や幼いネカネの存在。乳母車で外出した際に見た村の景色から、まーず間違いないだろう。

 分かっていたことだが、この魔族の襲撃は所謂一つの死亡フラグだ。並みの魔法使いでは歯が立たない魔族の大群。

 原作通りの時期であれば俺は三歳、特典ありの神様転生者ならばともかく、俺では命を失う危険もある。よしんば命は助かっても、原作終了までヘルマンに石化されたまま、ということもあるだろう。

 みんなを見捨ててネギと一緒に行動する手もあるが、それでは「格好悪い」…… はたしてどうするか。

 今から頭の痛い問題だ。

 

1993年12月23日

 

 ここ数日、紅き翼(アラルブラ)のメンバーが頻繁に家に出入りしている。

 フード姿の変態イケメン、アルビレオ・イマ。咥え煙草とスーツが様になるイケオジ、ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ。穏やかな雰囲気と端正さを併せ持つサムライマスター、近衛詠春。筋肉ダルマのバグ野郎、ジャック・ラカン。

 どいつもこいつも人の顔を見るなり、

「あなたにはこの先、過酷な運命が待ちうけるでしょう。友人の息子に思うことではありませんが、あなたがどのような物語を紡ぐのか…… ぜひ、私のコレクションに加えたいものです」

とか、

「よお、坊主。嬢ちゃんじゃないが、お前も数奇な星の元に生まれたもんだ。だが、まぁ、お前なら乗り越えられるさ。なんたって、ナギとアリカの息子だからな」

とか、

「ハルカ君、木乃香をも凌駕する呪力を持つ君には、どんな未来が待ち受けるのか、私にも分かりません。ですが、私も出来る限り力になるつもりです。だから、どうか折れないでください」

とか、辛気臭いことばかり言いやがる。

 

 ああそれと筋肉ダルマなら、俺を数十メートル上空に放り投げた後、

「どーだ、ぼうず。俺様のスペシャルな高い高いは! おっ、これでも泣き出さないたぁ、いい度胸だな、オイ! って、こえーな。アリカそっくりの目で睨むんじゃねーよ」

なんて言ってたら、母のビンタで見えなくなるほどブッ飛ばされてたな。

 もっとも数分後には、

「いや~効いた効いた。しかし、旧世界(こっち)でここまで動けるたぁ、『帝国移民化計画』も捨てたもんじゃねぇな」

よく分からんことを言いながら、ピンピンして戻ってきたけど…… 原作通りの呆れた頑丈さだよ。

 

 彼らは以前から度々顔を見せていたが、最近のペースは異常と言っていい。彼らが来ると、決まって俺とネギはスタン老に預けられ、数時間後に皆沈痛な面持ちで帰っていく。以前まではなかった傾向だ。

 数日前、父が長期間家を空けたことがあった。帰ってきてから、時々父の様子がおかしい。何かに苦しんでいるように見えることがある。

 それ以来、夜な夜な母となにやら話し込んでいる。俺の知らないところで物語が動いている。なんとも、もどかしい日々が続いた。

 

 

 思い出したことがある、原作開始時点でネギは九歳。そして、父は十年前に造物主をその身に宿し封印されている。原作通りであれば、今のような家族の時間は過ごせていないはずだった。

 何故、原作ブレイクが発生したのかは謎だが、やはり歴史は収束する定めなのか。事態は着実に原作の流れに引き寄せられている気がする。

 

 原作で父は最終巻で復活していた。しかし、母がどうなったのか終ぞ語られることはなかった。

 もしかしたら、続編の「UQ HOLDER! 」で明かされたのかもしれないが、あいにくそちらは手つかずだ。完結してから漫画を読む趣向がこんなところで仇となるとは……

 

 出来ることならば、母を助けたい。共に過ごした時間は一年にも満たないが、惜しみなく愛情を注いでくれた大切な家族だ。

 だが、時は待ってはくれない。どうやら、約束の日は近いようだ。両親は旅支度をし、紅い翼の面々が家に集結している。

 思えば、昨日はずっと家族四人で過ごしていた。

 二人は別れを惜しむようにネギに言葉をかけると、ネギをスタン老に預け、俺を…… 俺を…… あれ? 俺は?

「さて、行くか麻帆良へ」 

 父は俺を抱きかかえたまま言った。

 えっ!? 俺も行くの!?

 




今回のMVPはゼクト。
彼が造物主の支配に抗い続けた結果、約半年のモラトリアムが生まれ、原作から分岐した平行世界が舞台。



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オリ主日記(2)

作中の魔法理論がガバガバなのは不可抗力ということで、どうか一つ。




1993年12月24日

 

 紅き翼とともに麻帆良学園都市に到着した。先方も事情は把握済みらしい。宇宙人みたく長い頭で、髭を伸ばした仙人チックな爺さん、近衛近右衛門が出迎えとして待っていた。

 てっきり、学園中央に聳え立つ、樹高二百七十メートルもの巨木、世界樹こと「神木・蟠桃(ばんとう)」へと向うのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。

 父は仲間と別れ、近右衛門とともに、俺を連れてどこかへと向かう。気がかりなのが、別行動をとる際、母が涙を浮かべて、俺の額にキスをしたことだ。まさか、今生の別れとは言わないよな。

 たどりついた場所は自然の中にひっそりと佇むログハウス。原作で見たことあるぞ、ここ。

 

 結論から言おう、俺の存在がバタフライエフェクトを引き起こした。父がエヴァンジェリンを「登校地獄(インフェルヌス・スコラテイクス)」の呪いから解放したのだ。

 

 ログハウスは原作の重要キャラ、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(以後、エヴァと呼称)の住居である。

 金髪のロングヘアーの幼女、まるで人形のような姿の彼女だが、その実「闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)」、「不死の魔法使い(マガ・ノスフエラトウ)」と恐れられた、元六百万$の賞金首で、吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウオーカー)にして最強無敵の悪の魔法使いだ。

 事実、原作でも最終巻まで最強格の地位を保っている。

 まさか、こんなに早く前世での推しキャラと出会えるとは想定外だ。

 

 彼女は原作開始から十五年前、今からだと五年前に、父に敗れ、学校から永久に出られない「登校地獄」の呪いをかけられた。それ以来、力も封印され、麻帆良学園本校女子中等部にて学生生活を強要されている。

 原作だと父は彼女に、

「光に生きてみろ、そしたらその時、お前の呪いも解いてやる」

と言って、卒業する頃に再会する約束をしていたが、スッポカしたまま消息不明となった。

 しかし、今、二年のブランクはあれ、確かに約束を果たしたのだ。

 ヤバイな。生まれてから一年もたたない内に、原作改変起こりすぎだろ。俺まだ何もしてないのに……

 これでは、原作知識という転生者のアドバンテージが失われてしまう。既に、原作の三巻内容とかメチャクチャだ。

 

 ただ、分からないのが、俺をこの場に連れてきた意味だ。

 エヴァは原作で当時既に既婚者だった父に告白して振られている。それでも、母のことを知らない彼女は最終巻まで片思いを続けていた。

 息子を見せることで、エヴァの未練を断ち切ろうとでもいうのか? それなら、ネギでもいいはずだ。俺が選ばれたのは偶然か?

 そんな、俺の不審をよそに、父は俺を、エヴァへと差し出す。

「おい、ナギ。なんだ、コレは?」

 その疑問はもっともだが、エヴァさんや、コレ扱いはちょっと酷くないか?

「俺の息子だ、お前が育ててやってくれ」

 親父ィ…… 父がすかさず爆弾を投下した。エヴァは当然キレる。

「ふざけるな、貴様!! いきなり現れて、息子だと!? 私に育てろだと!? 私の気持ちを知っていながらよくも抜け抜けと――!!」

 

 彼女が怒るのも無理はない。一途に思い続けていた相手と、やっと再会できたかと思えば、息子連れで、おまけにその養育を依頼される。

 とても、正気の沙汰ではない。俺だってキレる。エヴァの乙女心もズタズタだろう。

 力を取り戻した彼女の猛攻が、父を襲う。これぞ、まさしく「切なさ乱れ撃ち」。それを平然といなす父も父だが、俺もいるんだよ!? やめてください、死んでしまいます。

 

 エヴァの攻撃が途切れた時、父が原作を知る者ならば信じられない行動にでた。エヴァに向けて深々と頭をさげているのだ。

「頼む! 息子を…… ハルカを守ってやってくれ!! 俺はコイツの傍にいてやれない…… お前にしか頼めねぇんだ!」

 これには流石のエヴァも瞠目している。父を知っているからこそ、その驚きも一入(ひとしお)だろう。

 すかさず、近右衛門も父にならう。

「エヴァよ、ワシからも頼む。ナギの願いを聞き入れてはくれんかのぅ。その子を守るには、おぬしの名が必要なのじゃ」

 罵詈雑言を浴びせても、頭を頑なに上げない二人に、エヴァも根負けしたようで、

「はぁ、仕方ない。ジジィ貴様も協力しろよ。それと、ナギ、この貸しは高く付くからな」

と、渋々ながら俺を受け取った。

 というか、エヴァの名が必要って、「闇の福音」とか諸々のネームバリューだよな。俺の存在ってそこまで、厄ネタなのか。

 

 父の態度がエヴァが俺を受け入れた途端、いつもの砕けたものに変わる。

「いやぁー、エヴァンジェリンが引き受けてくれれば、安心だぜ。これで、俺も心置きなく仕上げにとりかかれる」

 仕上げ、その言葉が胸に突き刺さる。やはりそうだ。父はこれから造物主とともに眠りにつこうとしている。

 あの暖かな日々が終わる。それが想像以上に俺の胸を締め付けた。

 

「仕上げだと?」

 父の言葉にエヴァが反応する。

「ああ。あの大戦はまだ、終わってないってことさ」

「それは、どういう意味だナギ!?」

 彼女の疑問に父は答えない。ただ、別れを告げるだけだった。

「エヴァンジェリン。俺も、お前の気持ちは分かっているつもりだ。今も思い続けてくれてることもな。だけど、俺はお前に応えることはできない。既に愛する者がいるから」

 エヴァには辛い現実だろう。

 しかし、父は敢えて言葉にすることで、彼女の時間を動かそうとしている。

「あーなんだ。ほら、どうせならコイツをお前好みに育て上げればいいじゃねぇか。日本じゃ有名だろ? ゲンジなんちゃらってヤツ。それにハルカは俺よりもずっとイイ男になるぜ。なんたって俺とアリカの息子なんだからな」

 親父ィ、俺のハードルを爆上げすんなよな。でも、そんな顔で言われたら応えたくなるのが男の子ってもんだ。

 今の父はとても晴れやかな笑顔をしていた。息子の俺でさえ見入ってしまうほどの。

 

 父の言葉を受けたエヴァが俺を覗き込む。そして、恐る恐る指を伸ばしてきた。今こそ絶好のチャンス。とどけ、前世からの推しへの想い。

 俺は彼女の指を握り、

「エア」

と、なんとか声に出した。いや~単語を話すのは強敵でしたね。濁音には勝てなかったよ。

 

 失敗したかと思ったのだが、どうやら周囲の反応は違うようで、

「あー! ズリぃぞエヴァンジェリン。俺だって、まだ名前で呼ばれてないのに!」

「ほほう。これはこれは、将来有望じゃの」

と反応は上々だ。エヴァも心なしか頬を染めているようにも見える。

 さらにもう一発。彼女に手を伸ばしながら、

「エア、エア」

と繰り返した。

 これにはエヴァも気を好くして、俺を薄い胸板に抱き寄せる。赤ちゃんの魅力には誰も勝てないよね。

 

「ふん、いいだろう。ナギ、ハルカは今日から私のものだ。もう、返せと言っても遅いからな。私が育てる以上妥協はせん。私が直々に鍛え上げてやる。我が配下にふさわしい、立派な戦士…… 悪の四天王にな!!」

 あの~エヴァさんや、四天王はカマセ臭がするので、両翼とか右腕とかにしてくれませんかね。

 

 

1995年12月24日

 

 俺がエヴァに預けられてから、二年の月日が流れた。やっと脳内ではなく、ちゃんとした日記をつけることができる。

 呪いが解けた今でも彼女は変わらず、麻帆良のログハウスで暮らしていた。

 どうやら俺が成人するまでは、育児のバックアップが整ったここを拠点にするようだ。

 茶々丸の誕生だけでなく俺の強化プランのためにも、未来人・超鈴音との接触は必須なので安心している。

 

 二歳になり鏡で自分の顔を初めて見て、俺がエヴァに託された理由を悟った。

 予想通りの約束されたイケメンフェイス及び髪型こそ父譲りだが、金色に煌めく髪色も、眉尻が二股に割れた眉も、虹彩異色の瞳も、母の遺伝的な特徴を色濃く受け継いでいる。

 紅き翼面々が俺にあのような言葉をかけるわけだ。

 

 あの後、父は原作通りに消息を絶ち、母の安否も分からない。そこで何が起こったのか。それを知るには今の俺では何もかもが足りない。

 歯がゆいが、これが二歳児の現実だ。

 先月、父の死が公式な声明として発表された。その日、エヴァは俺を抱きしめ泣いていた。俺にはただ、彼女の背中をさすることしか出来ない。少しでもエヴァの悲しみを癒せればいいのだが。

 

 

1996年6月12日

 

 三歳の誕生日からエヴァは俺の修行を開始した。原作のシゴキを知っていたため戦々恐々としていたが、彼女も体の出来あがっていない子供に無理をさせるつもりはないようで、今は基本的な魔法の練習だけをしている。

 魔法を成功させると、彼女も喜んでくれる。それを嬉しく感じる自分がいるのだ。見た目幼女に褒められて興奮する…… 何かイケナイ扉が開いてやしないか?

 

 修行を始めるにあたり、俺はエヴァから詳しい事情こそボカされたが、自分の身を守るためにも力をつけなければならない運命にあるという話をされた。

 さすがに、「災厄の魔女」関連の話は三歳児には荷が重いと感じたのだろう、そのあたりのことを彼女が話してくれるのはおそらく俺を一人前と認めてくれた時。また、一つ目標が出来た。

 

 今日、日記を書いているのは他でもない、苦節一ヶ月の思考錯誤のすえようやくオリジナルの術が完成した記念だ。その名も「多重影分身の術」

 これは、本格的な修行を始めるまでに是が非でも習得したかった術だ。理由はサブカルチャーに浸かった人間ならば、お察しであろう。「NARUTO」の影分身を利用したチート修行法のためである。

 

 「NARUTO」のパクリじゃないかって? たしかにそうだが「ネギま!」の世界には存在しない術だから、オリジナルで間違っていない。

 この世界の影分身は、分身体に込めた魔力の密度によって実力が上下する。本体に近い強さの影分身を作ろうとすればするほど、魔力の消費が激しくなる。

 そのため、本体と同等の実力を持つ分身体の作成は、並みの魔法使いでは一体、実力者でも四体が限度だ。

 一度に多人数の分身体を作り出すこともできるが、結局は密度下げて数を増やしているにすぎない。そのため、「NARUTO」式の「多重影分身」とは全くの別物と言える。

 

 幸い、俺の魔力量は、原作で最大の呪力を誇る、近衛木乃香以上だと、彼女の父から太鼓判を押されているので問題はない。実際に、最大密度まで魔力を注いだ影分身を五十体同時に出現させることができた。

 

 ただ、課題もある。どれだけ魔力を込めようとも、分身体の密度が百%にならないのだ。

 試しに、この影分身に本を読ませ解呪したのだが、その知識は本体へ還元されなかった。現状では「多重影分身の術」を再現できたとは言えない。

 「NARUTO」の影分身は本体と分身で「チャクラ」の量が均一という特徴がある。やはり、密度百%の分身体を作れなければ、お話にならない。

 

 そこで、考えたのが、「NARUTO」の「チャクラ」は精神エネルギーと身体エネルギーを混ぜ合わせたもの。

 ならば、この世界で言えば「魔力」と「気」に置き換えられるのではないか。

 「ネギま!」世界の技術に「咸卦法(かんかほう)」というものがある。これは「究極技法(アルテマ・アート)」とも呼ばれる超高難度技法で、相反する「魔力」と「気」を融合して、身の内と外に纏い、強大な力を得るというものだ。

 俺は思った。これって実質「チャクラ」じゃねと。

 

 そして、一週間の修行のすえ「咸卦法」を身に付けた俺は、二週間で「咸卦の気」のコントロールを習熟させた後、それを用いて影分身を作成、見事に密度百%を実現したのだ。

 もっとも、エネルギーの消費も倍率ドンで、一度に出せる影分身の量も半分に減ったのだが……

 なにはともあれ、「咸卦の気」で作った影分身で修行をした結果、見事に解呪と同時に、分身体が修行で得た経験・知識の、本体へのフィードバックが確認された。

 これで、効率好く実力を磨くことが出来る。最強の俺への道の第一歩をやっと踏み出せたのだ。

 「多重影分身の術」を見せた時は、エヴァも目を丸くして驚いていたな。かなり、レアな表情だったから、脳内フォルダに永久保存しておいた。

 ただ、あの後、彼女が呟いていた、

「あの術は……いや、まさか……だが、ハルカという名に、あの容姿……本当にお前なのか……?」

という、言葉の意味は、いったい何だったのだろうか?

 

 改めて考えると、何気にチートだよな、俺の肉体って。デタラメな魔力量に、習得に年単位の鍛錬が必要な「咸卦法」を一月たらずで使いこなす才能。

 だが、慢心してはいけないな。才能とは種で、それを芽吹かせるのが努力だ。いくら、優れた才を持っていても、そこに胡坐をかいていては、せっかく出た芽も枯れてしまうというもの。

 それに、原作には一瞬で「咸卦法」を成功させたキャラもいたしな。

 勝って兜の緒を締めよ。成りたい自分、「クールな態度の内に熱い思いを秘めた漢」を目指してフレ! フレ! 俺!!

 




他作品の技術を、バンバン輸入できるのが転生者の強みかなと思いました。


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オリ主日記(3)

高評価、並びに、感想、お気に入り登録、してくださった方、ありがとうございます。

拙い作品ですが、読んでくれる人がいると知ることができ、励みなっております。

改めて、原作「魔法先生ネギま! 」という魅力的な作品と、出会えたことに感謝を。


1996年7月13日

 

 「多重影分身の術」を見せてから、エヴァの態度が少しおかしい。

 今までは完全に保護者の顔だったんだけど、時々、獲物を狩る肉食獣みたいな目で俺をみている。

 そういえば、ボディタッチも増えたような…… エヴァは不意に近づいてきては、俺の頬をつついたり、ほっぺたをムニムニといじくりまわしたりして、

「フフッ、かわいいものじゃないか」

なんて、意味ありげな笑みを残して去っていく。

 嬉しそうなんで、基本的に俺はなされるがままでいる。さすがに顔で遊ばれるのは不本意なので、ジト目で抗議するのだけれど、逆に喜ばれて終わるんだよな。

 しまいには、

「やはり、この反応…… フハハハハ! そうか、そうか。ハルカ、お前はニクイ男だな」

とか言って、笑いだす始末。何がそんなに楽しいのか、俺にはサッパリだ。

 ひょっとして、逆光源氏計画が本当に始動したのか?

 

1996年8月3日

 

 ベビィベッドを卒業してから、個別の寝室をもらったのだけれど、エヴァに一度抱き枕にされてからは、彼女の寝室で一緒のベッドで寝るのが常態化している。

 エヴァが言うには、

「ハルカ、お前今日からここで寝ろ。お前の暖かさが、快眠には最適だ」

らしい。

 確かに、子供の体温は高いという。それでも、冬はともかく、夏にクーラー効かせてまで俺を抱き枕にする意味を問うのは野暮であろうか?

 まぁ、俺としては役得でしかないんだが。ただし、寝ぼけて甘噛みしてくるのだけはやめて欲しい。

 

 エヴァの考えはともかく、俺としても、この部屋で眠るのは都合が良い。イヤらしい意味ではなく、理由はこの部屋の位置にある。

 エヴァと同じベッドを使うようになって気付いたのだが、月末毎に近右衛門がエヴァを訪ねてくる。爺さんはそこで、俺の育児にかかりきりでログハウスを離れられないエヴァのために、現在の魔法世界の情勢や、ネギの近況などの情報をエヴァに提供していた。

 俺に気をつかってか、必ず俺が眠った後の時間帯にやってくる爺さんをエヴァが出迎えるのは、決まって茶室だ。

 そして、この茶室、間取り的にエヴァの寝室のすぐ隣にある。ただ寝たふりをして、魔法で聴覚を強化していれば、特別なことをせずとも、自然と二人の会話が漏れ聞こえてくるのだ。

 

 盗み聞き、それが褒められた行為ではないと、自覚はしている。

 だが、俺が生まれた時点で、この世界と「魔法先生ネギま!」の乖離が起き始めている。原作知識に引きずられて判断を誤らないためにも、少しでも情報が必要なのだ。そこは大目に見て欲しい。

 二人のツメが甘いと思うかもしれないが、ログハウスにはエヴァが直々に結界を張ってある。外敵への備えこそしても、茶室に防音の魔法さえかけていれば、身内の幼児相手に警戒も何もないのだろう。

 

1997年3月28日

 

 麻帆良に来てから三度目の春が来た。俺はまだ何もしていないのに、原作が勝手にブレイクしていく。

 といっても、悪い方にではなく良い方にだ。だから、問題はない…… ないのだが…… 転生者が原作知識を活かして悲劇を回避という、生前よく見た方程式が完全に成り立たなくなってきている。

 

 原作との間で生じた差異は、俺の目下最大の懸念事項であった、故郷の村についてだ。そこは本来の歴史なら、昨年の冬、魔族の襲撃を受け壊滅してしまうはずだった。

 しかし、この世界では村は無事。住民も平穏にすごしている。

 

 近右衛門とエヴァの会話を盗み聞きして得た情報だ。まず間違いないだろう。それを知った時は、本当に嬉しかった。

 未来を知る転生者だからこそ、勝手に背負いこんでいた重荷。それをまず一つ下ろすことが出来た。

 

 二人のやり取りから、原作ブレイクが起きた原因についておおよその予測はついた。俺が思うに、村が惨劇を回避した要因は、大きく二つある。

 

 一つ目は、ネギの不在だ。

 ネギは原作でピンチに陥れば英雄である父が助けに来てくれると考え、自ら犬に追い回されたり、湖に落ちたりして危機を演出していた。

 従姉のネカネが自分を心配して流す涙を見て、ネギは考えを改める。これが原作の流れなのだが、ネギの無謀な行動に、この世界の村民は過剰に反応した。

 

 どうやら、俺の存在はスタン老以外には、父と母と一緒に死亡したと知らされていたようで、残されたネギだけは何としても守る。その強迫観念にも似た強い意識が、彼らを突き動かした。

 結果として、ネギが懐いているネカネが在学し、常時監視の目があるメルディアナ魔法学校に特例として押し込めてしまおうという判断に至ったらしい。

 現在、ネギは魔法学校で早くも頭角を現しているようだ。やはり、原作主人公は伊達じゃない。

 

 余談だが、近右衛門が友人であるメルディアナ魔法学校の校長から聞いたネギの天才エピソードを話すたび、エヴァが、

「フンッ! それがどうした、私のハルカはなぁ」

と張り合うのが、少しおかしかった。

 嬉しいような、こそばゆいような…… エヴァは意外と親バカなのかもしれない。

 

 二つ目は、近右衛門の情報操作だ。

 原作でネギの村、つまりは俺の故郷を魔族に襲撃させた黒幕がいるのがMM元老院。魔法世界最大の超巨大魔法都市国家、メガロメセンブリアの最高機関だ。麻帆良学園はその下部組織にあたる。

 麻帆良学園の学園長である近右衛門は、旧世界(地球のことを、魔法世界の住人はそう呼ぶ)の情報を魔法世界に報告するのも役割の一つだ。

 あの爺さんはその立場を利用して、上手い事MM元老院を振り回している。原作でも喰えないジジイの印象があったが、そんな生易しいもんじゃない。あれは、海千山千の老獪だ。

 まさか、嘘一つつかずに、情報を「いつ」「誰に」「どこまで開示するか」を工夫するだけで、世界をここまで思い通りに動かすとは……

 

 近右衛門は父の死が公式発表されると同時に、エヴァの復活を魔法世界に公表。さらに、MM元老院の印象を操作して「英雄の息子」としての側面をネギに、「災厄の魔女の息子」としての側面を俺に集約させた。

 そこで、母を陥れた一部の連中にだけ、俺がエヴァと行動を共にしていると報告を上げる。ご丁寧に写真付きでだ。

 するとどうだ。ヤツらの中で、ネギは「いつか使える駒」に、俺は「パンドラの箱」に早変わり。連中の目は俺に釘付けだ。権力で汚れたオッサンの熱い視線とかノーサンキューなんだがな。

 

 「災厄の魔女の息子」を恐れる一派にとって、俺は存在すら知られてはいけない存在だ。母の真実が公になれば、メガロメセンブリアの歴史は文字通り引っ繰り返るだろう。なんせ、母一人に大戦の責任を押し付けて、今も権勢を保っているのだから。

 

 そんな危険因子が、復活した六百万$の賞金首と一緒にいる。もし、エヴァを狙う賞金稼ぎが俺を目撃したらどうなるか…… 連中は俺の容姿が母そっくりだと確認しているのだ。さぞ、肝を冷やしただろう。

 エヴァの手配書は即刻棄却された。ヤツ等は自らの保身のために、エヴァを危険視する声を抑えなければならない。心ならずも、エヴァを擁護する立場に追いやられたのだ。

 手っ取り早いのが俺を始末することだが、肝心の俺は、そのエヴァに守られていて手出しができない。

 連中は八方塞がりで、俺のことを「災禍の落とし子」と呼び、忌み嫌っているとか。だから俺、まだ何もしてないっての…… 

 

 奴等にとってのアキレス腱である俺の情報を、迅速かつ内密に伝達したことで、近右衛門の評価はウナギ登りらしい。

 それでいて、何食わぬ顔で俺とエヴァを麻帆良で庇護しているんだから、大した役者だよ、ホント。

 俺にとっては、囲碁を教えてくれる気の好い爺さんなんだけどな、あの人。エヴァの趣味に付き合うために教わりはじめたんだけど、現職の学園長だけあって、教えるのがメチャクチャ上手い。

 最近ではエヴァと対局する時の、置き石もだいぶ減ってきた。

 

 しかしなんだ。役割が避雷針の転生者とは一体…… それにしたってエヴァのネームバリューありきだし。早く守られるだけじゃなく、

「エヴァは俺が守る」

って、言える男になりたいなぁ。

 

1997年5月9日

 

 四歳になり、体術の訓練を始めることになった。「多重影分身の術」を用いたインチキ訓練は、さらにエヴァの別荘を利用することで、修行効率を大きく上げることができる。

 

 エヴァのログハウスには地下室があり、そこには透明な球体で覆われた塔のジオラマがある。これこそが実はエヴァの別荘で、内部には魔力に満ちた広大な空間が広がっている。

 それだけでも十分破格の性能なのだが、その真骨頂は別荘の中と外で時間の流れが違っている点だ。中での一日が外での一時間に相当する。言うなれば「DRAGON BALL」の「精神と時の部屋」だ。

 もちろん、別荘の中で過ごした時間の分だけ歳はとるし、一度入ったら二十四時間出られないというデメリットはあるが、通常の何倍も修行の時間をとれるメリットはあまりにも大きい。

 さらに俺の場合、本体は別荘の外にいて分身体を中で修行させることもできるため、デメリットなど無いに等しいのだ。「NARUTO」と「DRAGON BALL」の修行法が合わさり最強に見える。

 

 原作の描写的にこの別荘には拡張性があり、別のジオラマを用意することで、極寒の雪山や、亜熱帯ジャングルといった様々な修行環境を作り出すことができる。

 ゆくゆくは、エヴァから別荘の一角を貸してもらって、そこの環境を、地球の十倍の重力、空気の薄さは地上の四分の一で、気温が五十度からマイナス四十度まで変化する、真っ白な何もない空間に設定して修行したいと考えている。

 

1997年5月18日

 

 今、俺はエヴァの別荘で体術を習うための、基礎となる体作りに励んでいる。こればかりは影分身は使えない。どんなにすごい技を覚えても、使い手が貧弱では意味をなさない。

 技術や知識の習熟には便利だが、影分身に筋トレさせたところで、本体の俺がパンプアップされる訳ではないのだ。

 

 エヴァの別荘を利用するようになってから、無精髭と眼鏡が渋いナイスガイ、タカミチ・T・高畑と交流を持つようになった。どうやらネギだけでなく俺も友人として扱ってくれるらしく、今では「タカミチ」とファーストネームで呼んでいる。

 彼は普段は麻帆良学園で教師をしているが、作中きっての実力者だ。エヴァとは同級生として親交があったらしく、時々修行に訪れている。

 

 イギリスに住む俺と同い年位の魔法使いの友人の話を、タカミチはよくしてくれる。どう考えてもネギのことだろう。家族だと明かすことはできないが、せめて何らかの形で情報を伝えようとする、タカミチなりの優しさなのだろう。

 でも、エヴァがいるところで、ネギの話題をだすと、

「フッフッフ。タカミチ、貴様は知らんだろうが、私のハルカは既に咸卦法をモノにしているぞ」

「なんだって! それは本当かい!?」

エヴァが対抗心剥き出しで、突っかかるんだよなぁ。しかし、爺さんの時も思ったが、「私の」ってのが、俺の名前の枕詞みたいになってきたな。

 

1997年6月5日

 

 今日はタカミチに居合拳を見せてもらう約束をしている。居合拳とは、ポケットを鞘代わりにした拳の居合抜きで、目にも止まらぬ速さでパンチをくりだし、不可視の拳圧で相手を射抜く技だ。

 ポケットに手を突っ込んでいるだけで周囲の敵対者が次々と倒れていく様は、スタイリッシュで厨二心をくすぐられたものだ。

 さらに、咸卦法を使うと、一撃の威力が大砲の着弾を思わせる豪殺居合拳となり、原作での描写がメチャクチャ好きだった。

 

 生前憧れていた技が今、目の前で披露されている。これに興奮しない男はいないだろう。

 ヤバイ、スゴイ、カッコイイなどと語彙力が退化する勢いで、歳がいもなく…… いや、歳相応にはしゃいでしまった。

「そうかい? そんなに喜んでくれるなんて思わなかったな。僕なんて、君のお―― あっ、いや、僕の師匠に比べたらまだまださ」

 タカミチは照れ臭そうに頬をかいている。というか今、ちょっと口が滑りかけてたぞ。大丈夫か?

 

「ほう、面白いことをやっているじゃないか。ハルカ、ちょうどいい機会だ。お前に最強無敵の魔法使いの実力を見せてやろう」

 何か、周囲の気温が2度位下がった気がする。おや? エヴァの様子が…… ひょっとしてアレか。俺がタカミチばかり褒めるから嫉妬しているのか?

 ここは、

「えっ、本当!? 見たい! 見たい! 」

と、流れに乗っておくのが、吉だろう。

「私は素直な子が好きだぞ、ハルカ。いいか、私の圧倒的な力を、しかと目に焼き付けておくんだぞ!」

 そうして、エヴァはノリノリで「凍る世界」みたい大呪文をポンポン披露してくれる。俺は持てる語彙力の全てを駆使して、全力全開でエヴァを褒めちぎった。

 いやしかし、魔法の冴えもさることながら、俺の声援に気をよくしたのか、ハミングをしながら呪文を唱えるエヴァも可愛かったな。

 タカミチは、なんか「温かい目」をしていた、ドラ○もんかよ。

 




ネギまを読み返して、作中の時間が西暦で進行しており、また、イベントによっては、大まかな日取りも分かるため、日付の書き方を変更しました。

また、エヴァをヒロインにする以上は、やはり、「UQ HOLDER!」も読まねばと思い、先日単行本を大人買いしました。

固有能力というロマン溢れる設定や、何処までオリ主をインフレさせても倒す相手に困らない安心感など、二次創作の幅が広がったと共に、やはり、私は赤松健先生の世界観が好きなのだと感じました。

あの世界に繋がらないからこそ、できることを、拙作で色々やっていこうと思うので、今後は「UQ HOLDER」のネタバレや近衛刀太の活躍をオリ主が代行する展開もあると思います。(次元の狭間のアレコレとか)

また、それに伴い、前話を一部、改訂しました。


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オリ主日記(4)

あらすじ改訂しました。

本話から、修行パートです。

残酷な描写タグは、修行相手がチャチャゼロだからです。


1997年7月3日

 

 基礎となる体づくりが一段落し、今日からチャチャゼロとの模擬戦をすることになった。

 ルールは簡単。チャチャゼロの攻撃から、咸卦法なしの状態で一分間逃げ切ること。もちろん、チャチャゼロは俺のレベルに合わせて手加減してくれるし、万が一に備えて俺は分身体を使う。

 この修行は、戦いの基本となる回避の技術を学ぶためのものだ

 

 しかし、俺は回避技術の習得以上に、修行を通して『殺し』を感じられるようになることを第一の目標にしていた。『殺し』とは、生前好きだったライトノベル「灼眼のシャナ」に出てきた概念だ。

 作品のヒロインシャナによると、戦いの場でうまく立ち回るのに必要なのは、『殺し』を感じることただ一つなのだという。

 『殺し』を感じられるようになれば、相手の『殺し』を避けることも、その隙間に自分の『殺し』を入れることも自在になるらしい。

 劇中の修行法は至ってシンプルで、見て慣れるというもの。シャナは主人公に、自分が繰り出す様々な『殺し』を見て感覚を磨き感触になれていくため、決して目を瞑るなと要求していた。

 

 俺は『殺し』の感覚を掴むため、

「チャチャゼロ、エヴァが君にかけた制限は忘れてもらって構わない。君が知る限りのあらゆる方法で、手加減無しに、俺を殺しに来て欲しい」

と、チャチャゼロに願い出た。

「ケケケ、言ウジャネーカ。後悔シテモ、知ラネーゼ」

 

 チャチャゼロの声を聞いた刹那、俺の首が飛んだ。

 ある程度予想はしていたが、分身体が破壊されると、経験は確かに本体にフィードバックされるが、分身体の作成に利用した「咸卦の気」は還元されない。そのくせ、痛みはちゃんと本体に還ってきやがる。

 これは失敗したかもしれない、俺は割と本気で後悔した。

 

1997年7月4日

 

 昨日は七体の影分身が破壊されたところで、俺が限界となり、そこで修行は中止となった。

 ほとんど何もできずにやられてしまったが、それでも目だけは絶対に閉じなかったことだけは褒めてやってもいいだろう。

 一分、それだけの時間が、果てしなく遠く感じる。

 正直、痛いしキツイし無力さを突き付けられるし、辞めてしまいのは山々だが、自分から言い出したことを、辛いからやっぱり無しにするなんて「格好悪い」。

 それに分かっていたはずだ。楽して強くなる方法なんて、どこにも無いって。

何よりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今の俺は、才能にも、環境にも、容姿にも、あらゆるものに恵まれている。

 そんな俺が諦めることなど、「何も持てなかった」あの日の俺が許さない。

 

 チャチャゼロに修行の再開を頼みに行く。

「ナンダ、マダ続ケルノカ。案外、根性アンジャネーカ」

 当り前だ。そう、当たり前なんだ。だって、俺の目標はエヴァを守れるほど強い男になること。そのためなら、こんなことでへこたれてはいられない。どんな痛みでも耐えきってみせる。

「オ前ガ、御主人ヲ? 大キク出タモンダナ、ケケケケ」

 やっば、声に出していたのか俺!?

 でも、それでいい。これで後には退けなくなった。必ず、この修行を完遂してやる。

 十六体目の分身体が破壊されたところで、一時中断となった。

 

1997年7月5日

 

 今日もほぼ何もできずに、チャチャゼロに刻まれ続けた。痛みにも多少は慣れてきたおかげで、今日の修行は分身体が二十四体やられるまで、続けることができた。

 たとえ小さくても、昨日よりは一歩前進だ。

 その甲斐あってか、何となくではあるが『殺し』というのが見えてきた。

 うまく言葉にはできないが、チャチャゼロが攻撃に移る一瞬、空気感というか、雰囲気というか、常に纏っている殺気とは別の何かが揺らぐんだよ。それも、彼女がどこを狙うか、どんな攻撃をしてくるかで少しずつ違っている。

 まぁ、分かったところで避けられなければ意味はないんだが…… 

 

 修行を始めて改めて思い知らされた。俺に足りないものは沢山ある。パワー・防御力・技術・経験・戦略、そして何よりも速さが足りない!!

 そういえば、「ネギま!」の世界には瞬動術ってのがあったはずだ。明日に備えて、練習しておくか。

 たしか、足先に「気」を集中させて、大地を蹴り、大地を掴む感覚だったか。

 とりあえず、原作のシーンを思い出してやってみたら、できちゃったよ。スゴイなこれ。一瞬で七~八メートルくらい移動したぞ。これなら、初撃は躱せるはずだ。

 「咸卦法」は使用禁止だが、「気」を使っちゃダメとは言われていない。試せるものは、何でもやってみるさ。

 

1997年7月6日

 

 今日も今日とて、チャチャゼロに稽古をつけてもらいに行く。

「懲リナイ奴ダナ、オ前エモ」

 当然だ。まず決める。そしてやり通す。それが何かを成す時の唯一の方法だと、前世で見たアニメキャラも言っていた。

 さぁ、来い、チャチャゼロ。今日こそ、一撃くらいは避けてみせる。

 チャチャゼロの中に『殺し』が見えた瞬間、俺も瞬動術を発動させる。俺は目にもとまらぬ速さで、チャチャゼロ目がけて突っ込んでいき―― あっ、マズッた。瞬動使うことに意識をとられすぎて、練習そのままに、前方に踏み込んでしまった。

 結局、切られて終わった。

 

 今回ので、俺がチャチャゼロから感じていたのは『殺し』で間違いないと確信を持てた。次は方向を間違えない。

 定位置につき、仕切り直しだ。チャチャゼロをよく観察し、『殺し』が生まれる刹那を捉える。

(今だ!) 

 瞬動で右に大きく跳ぶ。砂埃を上げながら着地。見れば、先ほどまで俺がいた場所で、チャチャゼロが振った鉈が空を切っている。

「面白レージャネーカ」 

 こちらを見た。すぐに次の攻撃が来る。しかし、一度目の瞬動の勢いが強過ぎたのか、体勢が不安定だ。それでも、何もしないよりはマシだろう。

 俺は二度目の瞬動で、なんとか回避に成功するが、バランスを崩して転んでしまう。そして、起き上がる間もなく、目の前にはチャチャゼロが…… 終わったか。

 でも、これで「五秒」は持ちこたえた。

 

 今日の反省点は、瞬動の際に力みすぎていたことだ。その無駄な力のせいで、安定感のある着地ができず、次の動きへ繋げられなかった。

 エヴァの書斎で調べて分かったのだが、瞬動の基本は「入り」と「掴み」であるそうだ。地面を掴んだり、離したりするのが基本動作なら、重要なのは「土踏まず」だろう。あとは、接地の瞬間に体幹を支える足の指の動きか。

 こればっかりは、一朝一夕とはいかないかもしれないが、物は試しだ。日常生活の所作を手ではなく、足を使って行ってみよう。

 エヴァに行儀が悪いと怒られた、無念。

 

1997年7月7日

 

 二十五体の分身体と一緒に、夕飯の後、自室に籠ってひたすら足でけん玉やら、ジャグリングやら、あやとりやら、曲芸じみた訓練を行った成果がでた。

 昨日とは、瞬動の精度が段違いだ。連続で瞬動してもバランスを保ったままだし、着地の時には砂埃もほとんど出ない。

 修行の中で、瞬動術の使いどころもようやくだが分かってきた。

 今日の成果は「十五秒」。上達が感じられるとやはり嬉しい。ただ、瞬動の直線的な軌道だけだと動きが読まれやすく、限界が感じられる。

 明日は虚空瞬動も試してみるか、足先で掴むのが地面から空気に変わるだけだし、できるはずだ。多分……

 

1997年7月8日

 

「オイ、行クゾ。今日モ、修行ヤルンダロ? 」

 今日は、チャチャゼロが俺を呼びに来た。珍しいこともあるものだ。

 昨日、修行の後で、俺の中に一つの疑問が浮かんだ。チャチャゼロの攻撃を避けるために、わざわざ、何メートルも移動する必要があるのだろうか?

 そう考えた俺は、ステップの要領で超高速短距離連続瞬動を編み出した。これ、普通の瞬動が両足で行う「入り」と「掴み」を片足でやらなければならない。だから、技の難易度は瞬動はもとより虚空瞬動の比じゃないくらい高い。でもまぁアレだ。そこは影分身の俺達が一晩でやってくれました。

 「多重影分身の術」と「別荘」の組み合わせは、やっぱり凶悪だな。こんな無理・無茶・無謀がまかり通るんだから。

 それと、この技の名前は「響転(ソニード)」にしようと思う。いくらなんでも超高速短距離連続瞬動では言いにくいし、使った時のエフェクトが「BLEACH」のそれっぽい。あと、なんと言っても、ネーミングがとってもオサレだ。

 せっかく、チャチャゼロから御指名が入ったんだ。この新技で一分の大台に乗ってみせる!

 

 えっ、結果はどうなったかって? もたせたぜ「三十秒」…… 先は長いな。

 

1997年7月12日

 

 日記をつけるのも久しぶりだ。ここ数日は、とてもじゃないがそんな気力はなかった。

 一体、どれだけの分身体が犠牲になっただろうか。

 その度に襲い来る痛みを無駄にしないためにも、最後の一瞬までしっかりと目を見開き、チャチャゼロから生まれる『殺し』を体に刻みこんできた。

 当初は、開始から数秒足らずで分身体を消滅させられていたが、次第に十五秒、三十秒と伸びていき、ついに今日――

 

 ― 四十五秒経過 ―

 チャチャゼロが二振りのダガ―によって放つ、衝撃波を伴った斬撃の嵐を、瞬動を使い、後方へ跳んで躱す。

 俺の回避行動の終点、「掴み」の瞬間を狙い澄ましたかのように大剣が投的された。瞬動の弱みである、僅かな切り返しのタイムラグ。それを狙ったのだろうが、響転を併用すればその弱点も消える。

 

―五十秒経過―

 チャチャゼロから『殺し』の気配が途切れる。今なら俺の『殺し』を差し込めそうだ。上手くいけば、あと十秒チャチャゼロを拘束できるかもしれない。

 そう思って、反撃に転じようとした俺を、猛烈な悪寒が襲う。チャチャゼロに殺され続けた俺だからこそ気付いた、微かな違和感。

 その正体が分からぬまま、本能に従って虚空瞬動で上空へと逃れる。

 一拍遅れて、チャチャゼロを中心にして編まれたクモの巣状の糸の結界が跳ね上がった。

 やはり罠か。危なかった。もし釣られていたら、今頃は細切れだ。

 

―五十五秒経過―

 チャチャゼロが無数のナイフを召喚。それが無軌道な刃の雨となって襲い来る。俺は即座に『殺し』の気配が薄いルートを割り出し、魔力でレールを敷くと、その上を滑るようにして殺意の網を抜ける。

 本日初公開の「BLEACH」式歩法「飛廉脚(ひれんきゃく)」だ。初速こそ瞬動に劣るが、流形の軌道は何者にも捉えられない。

 目の前には刺さっているのは、先ほど投げられた大剣! それを、即座に飛来したチャチャゼロが鋭く横に一閃する。

 

(敢えて逃げ道を残して俺を誘導したのか!?)

 

 それを腰を沈みこませて回避。遠心力を乗せて、続けざまに振われる逆風の剣撃は、全身のバネを駆使して上体を大きく反らすことでやり過ごした。切っ先が前髪を掠める。

(瞬動で一旦、距離をとるか? いや、ダメだ。チャチャゼロは既に懐に潜り込んでいる。この距離では、一歩の踏み込みが命取りだ )

 俺はチャチャゼロが生み出す『殺し』に感覚を研ぎ澄ませる。伊達に何百回とこの身に刃を受けてはいない。『殺し』の気配を見極めて、全てをいなし、反らし、受け流す。

 大振りの後、一瞬の隙をつき、特殊なステップを織り交ぜた「双児響転(ヘメロス・ソニード)」を発動。チャチャゼロの目を残像に引きつけて、瞬動で間合いの外側へと、退避した。

 

―六十秒経過―

 長かった。本当に長かった。だがこれで、一分間の課題達成だ。俺が安堵して大きく息をついたその時、重い衝撃とともに、胸元を刃が突き破った。

「御主人ハ一分デ合格ダト言ッテタガ、一分デ終ワリトハ言ッテネーゼ」

 そういや、そうだった…… 煙を立てて、影分身が消滅。課題達成の嬉しさと、散り際の痛みが本体へと同時に流れこんだ。

 

「マサカ、本当ニヤリ遂ゲルトハナ。大シタモンダ。誇ッテイイゼ、実際」

 これは、認められたのだろうか。チャチャゼロはエヴァが未だ弱かった頃から数百年もの間、共に戦場に立ってきたエヴァの相棒だ。

 そんな彼女のお眼鏡にかなったのならば、夢へとまた一歩前進できたことになる。

「デモ、スグニ気ヲ抜イテ、ヤラレテルヨージャ、マダマダ、ダケドナ」

 おっしゃるとおり。今のでやっと、最強の俺になるためのスタートラインに立てたにすぎない。カウンターも合わせられるようになりたいし、依然として課題は山積みだ。

 でも、それが嫌じゃない。だって、課題の分だけ強くなる余地があるということだから。

 

「チャチャゼロ。これからも、俺の修行に付き合ってくれるか? 」

「勿論ダ。コレデモ俺ハ、オ前ノコト、気ニ入ッテンダゼ」

 

 互いに拳を合わせる。修行を通して、チャチャゼロともだいぶ打ち解けることができたような気がする。本当はもっと穏当な方法で仲良くなりたかったのだが、こんな関係も悪くない。

 




チャチャゼロの会話は難しいし、戦闘描写は少ないしで、今回は難産でした。

もう一話、修行回が続きます。


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オリ主日記(5)

高評価くださった皆様、有難うございます。まさか拙作のバーが赤で埋まる日が来るとは思ってもおりませんでした。筆をとる上で大きなモチベーションになっています。

たくさんの高評価、感想、お気に入り登録を有難うございます。皆様のおかげで日間で一位にランクインすることができました。これを励みに執筆を続けていこうと思います。

誤字報告をしていただいた方々、まことに有難うございます。皆様のおかげで拙作の質を向上させることができました。たいへん感謝しております。

拙作を読んでくださった皆様に、改めてお礼申し上げます。



1997年7月14日

 

 体術の訓練と並行して攻撃魔法の修行も始まった。正式に修行を開始する以上、「師匠」と呼んだ方が良いのかとエヴァに尋ねたところ、

「いや、いい。ハルカには『エヴァ』と、ちゃんと名前で呼んでほしい」

と原作でも見たことがないような顔で言われた。

 いや、本当に何が起こっているんだ? 好感度上昇イベントなんて、まだ何もこなした記憶はないんだが…… 

 俺がアホ面さらしてるのに気付いたのだろう。エヴァは、

「不思議そうだなハルカ。フフ、今のお前では無理もない。いずれ分かるさ。そうだな…… ざっと、五・六年くらい後といったところか」

なんてマジマジと俺の顔を見て言うのだ。しかし、えらく具体的な数字が出てきたな。

 まぁ、分からんものを考えても仕方がない。今は目先のことに全力で取り組むさ。

 

 そう考えていたのだが、思わぬ所で「前世」に足を引っ張られることになった。

 俺という存在が日本語に馴染みすぎてしまっていて、ラテン語や古代ギリシャ語の呪文が頭に入ってこないのだ。英語力アジア最下位の国で生まれ育った弊害が、死後の世界で牙をむくとか誰も想像できないだろう。

 

 なんとか呪文自体は覚えられても、発音ミスって魔法が暴発すること多数。結果行き着いたのが、アンチョコ見ながら魔法を発動するスタイルだ。いくらなんでもダサすぎる。

 アンチョコさえあればちゃんと魔法は使えているので、センスは足りているはずだ。

 エヴァはエヴァで、

「麻帆良での日本語ベースの生活が仇になったか? いや、ヤツの息子と考えればこの戦い方は自然なのか? いっそ、アンチョコもアリでは…… 」

とか、おかしな方向に暴走する始末。いや、ナシだから。

 

1997年7月17日

 

 苦手を克服しようと努力するのは美点だが、得意分野でカバーしようとするのも人の知恵。俺は呪文を別の何かで代替する方法を模索することにした。

 

 最初に考えたのがリリカルでマジカルなデバイスだ。無詠唱魔法の存在から魔法を行使する際、必ずしも呪文を声に出す必要はないと考えられる。

 ならば、呪文の詠唱に相当する処理をコンピューターにやらせれば、自分は魔力を籠めるだけで魔法を発動することが可能ではないだろうか?

 俺は「多重影分身」を駆使して、必死にプログラミングを学び。呪文の詠唱過程をプログラミング言語に落とし込んだ。

 

 結論を言えば、コンピューターを使った魔法の発動には成功した。ただし、実戦では使えない。

 この時代のコンピューターのスペックは、呪文の詠唱過程を処理するには低すぎるのだ。声に出せば一言でも、データに変換しようと思ったら、そこに込められた信仰や歴史などもデジタル化しなければならない。

 すると複雑な情報処理能力が必要になり、コンピューターは巨大化。抱えながら戦うにしても、さすがに無理がある。

 それと単純にスペック不足で魔法の発動までのラグが大きい。これではアンチョコ片手に戦った方がマシだろう。

 やはりデバイスのような超科学の産物は超鈴音と接触するまではオアズケのようだ。

 

1997年7月20日

 

 デバイスの代替案として考えているのが、原作でネギが使っていた骨董品の魔法銃の仕組みを転用できないかということだ。使える魔法自体は一種類だけだが、引き金を引くだけで魔法が発動していた。

 そのカラクリを解き明かせば、詠唱無しでも魔法が使えるようになるかもしれない。

 幸い、エヴァは人形師としても超一流。人形作成のための工房には、魔導具を作るには十分なだけの設備と資材がある。

 手始めに、エヴァから工房使用と魔法銃の購入の許可をもらわなければ。

 

 で、エヴァに相談したんだけど……

「対価としてお前の血をいただこうか。悪い魔法使いに頼みごとをするとどうなるか、良い機会だから教えておいてやろう」

って、とても楽しそうに言うんだよね。

 別に血はかまわないけど、恥ずかしいから背後から抱きつくような体勢で首筋に牙を立てないで、腕とかにしてくれません?

 

1997年7月22日

 

 工房の利用許可は下りたので、早速魔法銃を解体してみようと思う。

 バラしてみると銃身に幾何学状の文様が記されている。試しに魔力を流してみると、魔法の矢が放たれた。

 なるほど、詠唱が持つ意味を幾何学文様で書き表すことで魔法を発動しているのか。

 これの法則性を見つけ出し詠唱を置換する作業は骨が折れそうだ。文様を刻む媒体についてだが、古今東西、創作分野で魔法の触媒といったら、やはりカードが鉄板だろう。

 

 思うように作業が進まない。理由は、本体である俺が体術修行組からのフィードバックで、時々使い物にならなくなるのもそうだが、詠唱を幾何学文様に置き換えるのが想像以上に難しい。

 ただでさえ多い情報量が、呪文の難度に比例して増加していく。加えて上位呪文になると古代ギリシャ語詠唱なんてものも出てくる始末。

 幸い、体術修行の方は出された課題はクリアしている。当面は影分身をこちらに優先的に回して人海戦術でやっていくしかない。

 

1997年7月25日

 

 雛型となる魔導具が完成した。金属製の菱形の立体で、上方部にはカードをスキャンする切れ込みがあり、側面には読みこんだ魔法を表示する電光パネルが付いている。なけなしの科学要素だな。

 カードに刻まれた文様を光魔法で読み込むことで魔法が発動するアイテムだ。暫定的にカードリーダーと呼ぶことにしようと思う。

 

 あとはカードを作るだけなのだが、普通の紙を使いましょうというわけにはいかない。耐久性もあるが神秘を内抱する以上、素材にもそれなりの格が求められる。

 そこで、カードの材料には敢えて仮契約を失敗させて作ったスカカードを使用することにした。

 魔法使いは魔法使いの従者(ミニステル・マギ)という前衛をこなすパートナーと契約を結び、ツーマンセルで行動するのが基本とされている。

 その際、従者契約のお試し期間として仮契約というものがある。これは魔法陣を敷き、その中で口づけを交わすと成立するもので、成功すればパクティオカードという魔法のアイテムが生み出される。

 これに対して、唇以外の場所にキスをするなどして失敗した場合に出てくるのがスカカードなのである。

 ちゃんとしたパクティオカードは無理だが、スカカードならば一般的な魔導具の改造と同じ要領で書き換えられる。

 やっていることは完全に魔法使いじゃなくて魔工技師なんだけど、エヴァは人形使いの血が騒ぐのか指導に熱が入っていたな。

 科学用語が嫌いなエヴァはデバイス作成時には退屈そうにしていたから、フラストレーションが溜まってたのかもしれない。

 

 ただ、スカカードの量産には苦労させられた。最初は影分身した自分自身とで仮契約を仕損じようとしたのだが、いくらマウス・トゥー・マウスじゃないにしても自分とキスするのは辛すぎる。

 そこで前世で好きだった創作物の美少女キャラに変化して、気を紛らわせる作戦を執ることにした。

 しかし、これにも大きな落とし穴があったのだ。

 エヴァがメッチャ見てくる。というか睨んでくる。しかも、心底冷え冷えする声色で、

「ハルカ、誰だその女は?」

とか聞いてくるのだ。室温が体感で二、三度は下がっている、魔力が漏れ出してますよエヴァさん! そんな状況で例え額であろうと口づけできるかって? 俺には無理、嫌い、しんどすぎ。

 イヤ、マジで怖いんだってエヴァが。

 

 そうはいっても、スカカードを出さないことには何も始まらない。適当にごまかして、

「この前読んだ小説のヒロインの姿を想像してみたんだけど、ダメかな?」

なんてフィクションの存在ですよとアピールしつつ作業を開始する。

 覚悟はしていたが、この後のエヴァの態度の変遷がヤバかった。舌打ちをする、額に青筋を浮かべる、もの凄い勢いで貧乏ゆすりを始めるetc……

 とうとう我慢の限界に達したのか、エヴァはとんでもない提案をした。

「おいハルカ!お前に私へ口づけをする栄誉をくれてやろう。唇は一人前になるまでは許可できんが、チャチャゼロからはよくやっていると聞いた。褒美だ、頬や額ならば特別に許してやる」

 腕を組み仁王立ちしながらも、視線は合わせず、頬には少し朱の色が差している。破壊力が強すぎる……

 しかも、

「なんだ、その女にはできて私にはできん理由でもあるのか? 」

とまで言われたら断ることなんて選択肢を選べるはずがない。

 

 そこからは理性がゴリゴリ削られる、ある意味で消耗戦だった。

 最初はドヤ顔で目を閉じていたのに、回数が増えるにつれ顔は真っ赤に染まり、

「んっ……」

とか、

「あっ…… やんっ!」

とか変な声まで出す始末。あなたそんなキャラでしたっけ?

 俺は耐えに耐えた。暴れ出そうとする本能を全理性にスクランブルをかけて撃沈。雑念を捨て、己の内を完全に「無」にしてやり過ごした。

 

 必要枚数のスカカードが貯まった。エヴァを見れば、茹で蛸みたいになっている。

 一時とはいえ煩悩を超克した成果なのだろうか、視界はクリアになり知覚が不思議と研ぎ澄まされ、雲の動きや木々のざわめき、星々の動きにいたるまでもが、あたかも手に取るように感じ取れる。まるで自然と一体化したかのような感覚だ。

 ひょっとしてコレ、覚醒イベントだったりしたのかな……?

 なんか今日はどっと疲れた気がする。

 

1997年7月27日

 

 カードの試作品第一号が完成したので、別荘の中で魔法を発動させてみようと思う。

 記念すべき一枚目は原作でネギの代名詞ともいえる魔法「雷の暴風」だ。

 カードリーダのスリットにカードをスラッシュして読みこませる。魔力の消費を確認して右腕を前に突きだすと、雷撃を纏った猛烈な旋風が一直線に放たれた。

カードリーダーのパネルにもちゃんと「雷の暴風」と表示されている。実験は成功だ。

 成功したのだが、何かが足りない気がする。何ていうか、味気ないのだ。

 理由はやはり音声がしないからだろうか? なまじ「魔法少女リリカルなのは」のデバイスを目指して魔導具の開発に着手しただけに、魔法の発動に合わせて魔導具から音が鳴るイメージが先行してしまっていたようだ。

 

 このままで運用するのは、いささか興が乗らないのでエヴァに頼んで声を録音させてもらうことにした。

「断る、なんで私がそんな面倒なことを」

 エヴァににべもなく断られてしまったので、某少年探偵も使っていた己のプライドをも傷付ける諸刃の奥義「おねだり」を使わざるを得なかった。

 敢え無く陥落したエヴァが採録をしている間、カードリーダーに音声認識機能を追加しますかね。

 こちらは魔法名を表示する機能に少し手を加えるだけなので、思いのほか作業は早く終わった。

 

1997年7月29日

 

雷の暴風(ヨウイス・テンペスタース・フルグリエンス)

 エヴァの声で術名が読み上げられ、魔法が天を穿つ。

 予備動作→ アナウンス→ 効果の発動。やっぱりこの一連の流れが様式美だよな。同じ魔法を使うにしても、テンションの上がり方が大違いだ。

 それにしてもエヴァに依頼して正解だった。流石は大魔法使い、発音が滑らかで美しい。エヴァの玲瓏たる声質も相まって聞いていて非常に心地よい。

 

 残るはカードリーダーをどのような武器に組み込むかだが、やはり基本に忠実に魔法使いらしく杖がいいだろう。

 先端や中央に取り付けたら扱いづらいので、石突の部分が妥当だ。長ものは持ち歩きに不便だから、中央部から前後にシャフトが伸縮する構造にしたい。

 そうなると基本的に中央部を握ることになるから、グリップを捲くことで使いやすさを向上させる。

 最後に先端を錫杖のような造形にすればオリジナル魔導具の完成だ。

 「多重影分身」を用いれば一人工場制手工業(マニュファクチュア)が可能だ、別荘を用いれば現実世界で五時間足らずで作り上げることができる。

 

 で、作ったんだけれども…… デジャヴュを感じるんだよなぁコレ。そう、あれはたしか前世の特撮番組で見たような気がする。

 思い出した。レンゲルラウザーだ、レンゲルラウザーだよこれは。色を緑に塗ってクローバーの意匠を加えれば完璧だ.

 一度そう見えると、コレじゃない感が凄い。仮にも転生者のメインウェポンがレンゲルラウザーってどうなんだ。

 いや、レンゲルも嫌いじゃないよ。でもさ、強化フォームを貰えなかったのが、なんていうか縁起悪く感じるんだよね。

 

 とりあえずコレは却下、作りなおしだ。

 そもそも、俺の戦闘スタイルは様々な歩法を駆使した近接戦闘だ。杖という選択肢からして間違えていた。

 作るならガントレット型だな。基本設計から見直しだが、やるならトコトンまでやってやる。

 さて分身体が作業している間、本体である俺は基礎体力の向上に努めるか。

 

1997年8月5日

 

 ガントレット型魔法具の開発には想像以上に時間がかかってしまった。だが、その甲斐あって満足のいくものに仕上がった。

 戦闘で使う用に選んだ魔法カード群、便宜上デッキと呼称しよう。このデッキを差し込む部分が左手腕に設けられており、そこにはカードの自動シャッフル機能が搭載されているので、物を動かす魔法を使えば欲しいカードを即座に引くことができる。

 カードを引くと光の魔法で構成された非実体のプレートが出現。そこにカードをセットすることで読み込まれ魔法が発動する。もちろん音も鳴る。

 また、このプレートには転送魔法も組込まれており、セットされたカードはデッキに戻る仕組みだ。

 「遊戯王」シリーズのデュエルディスクを参考に作ってみたのだが、想像以上に使い勝手がイイ。

 それにしても、ある意味これ以上の代物を科学の力だけで生み出した海馬コーポレーションの技術力は空恐ろしいな……

 




一話と二話を一部改稿いたしました。



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オリ主日記(6)ver.1.2

高評価並びに感想、お気に入り登録有難うございます。皆様のレスポンスが励みとなりもう一話休み中に完成させられました。

前話に関してですが、ご指摘いただいたバーコード関連の記述を改稿いたしました。
この反省を活かし、フワッとしているけれどスカスカではないSSを目指していこと思います。


1997年8月9日

 

 今日はタカミチが訪ねてきた。

 エヴァから俺の魔導具の話を聞いたらしく、ぜひ見せて欲しいとのことだった。

 思えば、俺自身浮かれていたのだろう。買ってもらったばかりの玩具を自慢する子供のようにはしゃいでしまった。

 どうも転生してから肉体に精神が引っ張られている気がする。大人の精神では羞恥を感じるような出来事もすんなり受け入れている自分がいる。

 心の防衛本能なのかもしれないが複雑な気分だ。

 

 タカミチは俺が魔導具で魔法を発動させるのを、食い入るように見ていたな。考えてみれば、生まれつき呪文の詠唱ができないというハンデを背負ったタカミチにとって、こいつは夢のマシンみたいなものかもしれない。

「ハルカ君。頼みたいことがあるんだけれど、いいかな?」

 案の定、タカミチの依頼は魔導具の制作だった。

 レンゲルラウザーもどきのカードリーダーを使えば手間でもないし、俺はそれを受けることにした。なにより魔法を使ってみたいという思いは男として共感できる。

「しょうがないなぁ、たかは太くんは」

 濁声(だみごえ)なのはお約束というやつだ。

 

 タカミチはどんな魔法を使いたいのだろうか? 念のため魔導具を試めしてみたいというタカミチの前に、

「この中からどれでも好きな魔法を選んでくれ」

とカードを並べる。俺の予想としては原作の父に憧れていたという趣旨の発言から、雷系の攻撃魔法だと予想していたのだが……

「ありがとう。じゃあ、これを借りようかな」

 そう言ってタカミチが手に取ったのは治癒魔法のカードだった。

 

 冷や汗が流れた。嫌な予感がする。そういえば、タカミチには「悠久の風」としての活動で世界中の紛争地帯を駆け回っている設定があったような……

 俺の不安をよそに、タカミチは自分の腕を少し傷つけて治癒魔法が発動するか実験していた。

 結果は無事に成功したのだが、問題はそこではなくタカミチがボソッと呟いた一言だ。

「よかった。これで救える命が少し増えた」

 誰に聞かせるでもなく、安堵から思わず漏れてしまったであろう言葉を俺の耳は確かに捉えた。

 やってしまった! これは茶化していい案件ではなかった!!

 魔導具が完成して調子に乗っていた。タカミチの来歴を考えれば魔法の使い道など容易に想像できた筈なのに…… 後悔が波のように押し寄せる。

「えっとさ、タカミチ。明日また来てくれないか。回復系の魔法はそんなにカード化してなくてさ。エヴァの別荘使って増やしとくから」

 我ながら歯切れが悪いったらない。タカミチから希望する魔法の種類を聞き出して今日は解散することにした。

 

1997年8月10日

 

「昨日は済まなかった。茶化すような物言いをしてゴメン」

 俺はそう言って、タカミチにベルト型に改造したカードリーダーを手渡した。

 バックル部分にスリットがあり、そこにカードを差し込むと魔法が発動。カードは自動で発動する転送魔法で腰側面に付けられたカードホルダーに戻る仕組みだ。

 タカミチは気にしてないと言いながらも、快く謝罪を受け入れてくれた。

 そして、もう一枚タカミチへとカードを差し出す。それは俺からの謝意の証。

「ハルカ君、これは?」

「そのカードにはあらかじめ俺の魔力を込めてある。即死でなければどんな重傷でも治癒が可能だ。ただし、効果は一度きり。使いどころはよく考えて欲しい」

 治癒魔法であっても、注いだ魔力によって効果が変わることは昨日実証済みだ。そのカードには影分身一体分、並みの治癒術師数人分に相当する魔力を込めておいた。

 これは保険でもある。原作通りであればタカミチは少なくとも作中で命を落とすことはない。

 しかし、俺が生まれたことでこの世界と原作とでは少しずつズレが生まれている。今まではそれがプラスに働いていたが、悪い方向に原作崩壊が起こらない保証はない。

 だから、昨日の申し訳なさと、無事でいて欲しいという思いを一枚のカードに託し、お守りとしてタカミチに渡すことにしたのだ。

「ありがとう、大切にするよ」

 よかった。どうやら喜んでくれたようだ。

「しかし、すごい技術だねこれは。でも、これ程の物を作る時間があれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ――…… 何…… だと……?

 

 言われてみればその通りだ。いや、薄々そんな気はしていたが、魔導具作りが楽しくて見ないフリをしていた。

「奴の息子なんだ、普通とは感性がズレていても可笑しくはあるまい」

 いつの間にか来ていたエヴァが会話に入ってくる。というか気付いていたのなら、なんで教えてくれなかったんだ?

「そういうところが可愛くもあってだな……」

 エヴァは口元に手をあてクスクス笑っている。タカミチもそれで納得しないでくれよ。

 どうしてこうなった。

 

1997年8月12日

 

 手段と目的が完全に入れ替わっていた。俺はエヴァを守れるくらい強くなりたいのであって、魔法が使えればいいわけではないのだ。

 今一度初心に帰ってみようと思う。俺の夢はエヴァの魔法使いの従者(ミニステル・マギ)になることだ。役割は砲台である術者を守る盾。

 前衛を任せられる以上、近接戦闘が想定される。そう考えるとあのガントレットは使いづらいと言わざるを得ない。

 殴り合いの中で魔法発動までのプロセスを踏めるかと言えば、ハッキリ言って難しいだろう。なぜ、そんな簡単なことに思い至らなかったのか……

 済んだことは仕方がない。切り替えていこう。

 

 タカミチに渡したカードリーダーで助かる命が一人でも増えたなら、あの時間だって無駄では無い筈だ。

 それに、ガントレットにだって利点はある。俺はネギとは違い魔法理論などという小難しいことは分からない。

 だが、魔導具を使えば同時に複数の魔法を発動することができる。原作でネギがやっていた「術式統合(ウニソネント)」ではないが、特定の相性がいい魔法を組み合わせることで「合成魔法(ミックス・レイド)」を発動することができる。

 せっかく作ったのだ、お蔵入りでは悲しすぎる。広域殲滅用の戦略兵器としては有効なのだ、切り札として運用していこうと思う。

 

 エヴァには偉大な魔法使い(マギステル・マギ)になることに興味などなく、エヴァのパートナーである従者になりたいという旨を伝え、そのための訓練を主にしてくれるように頼んだ。

 エヴァは、

「いいのか、一度口に出した言葉は取り消せんぞ」

と両手で俺の顔を挟み込み真っすぐ目を見て尋ねてくる。

 答えなど決まっている。俺は間髪いれずに頷いた。

「相変わらずズルい男だよ、お前は」

 エヴァは俺の額にキスをすると、その一言だけ残しサッと踵を返して足早に去っていった。

 言葉の意味はイマイチ分からないが突然のことに俺の顔は真っ赤に染まる。エヴァは今、一体どんな表情(かお)をしているのだろうか。

 

 それ以来、魔力運用の効率化などに主眼を置いた修行をするようになった。

 かといって、詠唱を用いた魔法の訓練を辞めた訳じゃない。俺には「多重影分身」の術があるし、身につけて損はない技術だ。根気よくやっていこうと思う。

 

1997年9月22日

 

 「咸卦法」を使っていて思ったのだが、この「咸卦の気」で肉体を強化するスタイルは「HUNTER×HUNTER」に出てくる「念」のオーラの扱いに似ている。

 今俺が行っている「咸卦の気」を全身に纏った状態は四大行の「纏」に相当するといえる。念ではないから「発」は無理だとしても、「咸卦の気」の一切を体の内に納める「絶」と、「咸卦の気」の出力を上げる「練」ならば問題なく再現できるはずだ。

 

 そう考えて暫く分身体に漫画で読んだ修行させていたのだが、やはり「咸卦の気」とオーラには近しい性質があるらしい。

 これからは四大行を組み合わせた応用技の習得を目指していこうと思う。

 

1997年10月15日

 

 目の前で葛葉刀子さんに神鳴流の技を披露してもらっている。彼女は眼鏡をかけたクール系の美女で麻帆良学園に在籍する魔法先生の一人でもある。

 タカミチがカードリーダーのお礼にと、俺の願いを請けて彼女に交渉してくれたのだ。

 俺はあの後自分の行く末を見つめ直した結果、格闘戦の技術を磨くことを優先すべきと定めた。

 しかし、近頃は我流での稽古では限界を感じるようになっていた。

 そこで目をつけたのが神鳴流だ。神鳴流は原作を読んだ者の厨二病を加速させたロマン溢れる剣術で、京都を拠点にした裏世界で活躍する退魔師の一族が継承している流派だ。

 頼んで教えてもらえるものでもないので、直に見ることで少しでも技を盗むことができればと思っている。

 今日のために体の一点に「咸卦の気」を集中させる「凝」を練習してきたのだ。この世界で「凝」を使い目に「咸卦の気」を集めると、人の体内を流れる「気」や「魔力」の流れが見えるようになる。

 これがあれば、何か神鳴流のヒントが得られるはずだ。

  

 素手での戦闘を主体とする俺が剣術に興味を覚えることに疑問を持つかもしれないが、原作で神鳴流は武器を選ばない流派とされておりデッキブラシで技を繰り出していたし、無手で行う技法もある。

 それに前世の知識がある俺は知っている。剣術だからと言って()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを。

 

1997年10月19日

 

 やはり天才か。

 自画自賛でしかない痛い発言だが、「凝」を使っていたとはいえ一度見ただけで神鳴流の技を再現できたのだから、こうも言いたくなる。

 我流故に粗が多いのは否めないが、それはチャチャゼロとの模擬戦の中で少しずつ削ぎ落としていけばいい。

 

 チャチャゼロには実戦形式で修行につきあってもらっている。彼女は刃物の扱いのスペシャリストだ。神鳴流もどきと組み合わせたもう一つの流派の習熟にも、チャチャゼロほどの相手はいない。

 前回の失敗から、俺は机の上だけで物事を進めると明後日の方向に突き進む傾向があると理解した。

 ガントレットも実際に戦いの場で使ってみたのなら、その欠点にも気付けていただろう。いくら今生ではウェールズ出身だからといって、「英国面」に向かう必要などないのだ。

 俺はネギとは違う。技でも何でも戦闘の中で体に直接叩き込むのが性に合っている。

 

 それともう一つ、原作知識を整理している時に思ったのだが、魔法使いとは違いラカンを筆頭に「気」の使い手は直接「気」をエネルギー弾みたいな感じで攻撃に用いている。

 もちろん魔法にも雷で相手を痺れさせたりとか、氷漬けにしたり、属性を付与することで得られる利点も多い。

 しかし、敵を倒すことだけを考えたら「咸卦の気」を凝縮してぶつけた方が早いのではないかと……

 「かめはめ波」とか再現してみたい技は色々あるのだが、俺はまず明確な修行法が明かされている「螺旋丸」の習得を目標に掲げた。

 さて、水風船をエヴァに用意してもらいますかねっと。

 

1998年6月13日

 

 日記を手に取るのも随分と久しぶりだ。気づけば俺も既に五歳。あれから、随分と修行に明け暮れる日々を過ごした。

 神鳴流などをミックスしたオリジナル拳法もだいぶ様になってきたし、無事に螺旋丸も会得できた。

 これは思わぬ収穫なのだが、この術は障壁頼りの魔法使いにとってはかなり有効性が高い。

 チャチャゼロとの修行をエヴァに目撃され、その流れで模擬戦を申し込まれたのだが、俺としても彼女にどこまで食らいつけるか興味があったし、新技の「螺旋丸」も試してみたかったので二つ返事で了承した。

 

 エヴァ相手に臆してもジリ貧になって負けるだけだ。しかけるのならば速攻あるのみ。瞬動で一気に距離を詰め、エヴァにはまだ見せていなかった螺旋丸で度肝を抜く作戦にでた。

 魔法障壁に阻まれることを覚悟していたのだが、何の抵抗もなく、むしろ直径が少し大きくなった螺旋丸がエヴァを直撃。彼女はきりもみ回転しながら飛んで行ってしまった。

 いったい何が起きたんだ!? 不死身だと知ってはいるが、さすがに心配になり駆け寄ると、

「ふふふふ、嬉しいよハルカ。まさか私に傷をつけられるまで成長しているとは…… どれ、少し本気を見せてやろう」

そこには目に妖しい光を灯し、全身から魔力を迸らせるエヴァの姿が。

 …… 俺は氷漬けになった。いや、あの状態のエヴァから三分以上逃げられただけでも褒められるレベルなんじゃないかな。

 

 後で分かったことだが、乱回転させた「咸卦の気」を球体に圧縮した螺旋丸が魔法障壁にふれると、障壁を構成する魔力を巻き込んで巨大化し威力を増すらしい。

 厳密には違うのだが、台風が周囲の暖湿気を呑み込み発達するようなものだそうだ。

 不思議なのが「NARUTO」のアニメだと螺旋丸は青い光を放っていたのに対し、俺の螺旋丸は虹色に煌めいている。これは世界の違いによるものなのか、それとも……

 

 しかし、五歳児のくせに修行漬けだな俺。それでもサイヤ人とドンパチやってた孫悟飯よりはだいぶマシだが。

「ハルカ、今後は私とチャチャゼロ。二人で稽古をつけてやろう」

「楽シミダナ、御主人。血ガ滾ルゼ」

 ゴメン、やっぱ辛ぇわ。

 

1999年3月2日

 

 修行・修行の連続で特に書くこともなかったのだが、今日は久しぶりに驚きがあったので日記にしたためたいと思う。

 来週からエヴァとチャチャゼロと一緒に京都旅行に行くことになった。

 俺も今年から小学生だ。一緒にいられる時間が少なくなるからと、エヴァ達が計画を立ててくれた。

 本来ならば入学はもう一年先なんだけど、エヴァの別荘で修行した結果として一年分俺の成長が早まり、急遽前倒しになったのだ。

 修行の時間が減るのは本意ではなかったんだけど、爺さんには

「子供の一年は大きいのじゃ、理解してくれんかのう」

と言われている。長年教育者として働いてきた男の言葉だ、無碍にはできない。

 ただ経費は爺さんが出してくれるのだが、関西呪術協会への使者も兼ねているとのことで、随行員として「明石さん」も同行するみたいだ。

 十中八九、原作に登場した明石裕奈の親父さんだろう。

 しかし、こんなに早く関西呪術協会の名が出てくるとは、

「六巻内容! なぜ六巻内容がここに…… 原作崩壊したのか? 自動でブレイクを? 六巻内容!」

みたいなことにならなければいいのだが……

 

 そういえば、俺の入学にあわせて、なんとあのエヴァが麻帆良で教鞭を執るらしい。エヴァから学校では「雪姫」と呼ぶようにと言われている。

 まぁ、賞金首ではなくなったとは言え無く子も黙るエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの名は無闇に名乗れないのであろう。

 あれ? そうなると俺の姓ってどうなのるのだろうか。スプリングフィールドはもちろんエンテオフュシアなど到底使えるはずもない。てっきり「ハルカ・マクダウェル」が公的な俺の名前だとばかり思っていたのだが……

「これが麻帆良での身分証だ。失くすなよ」

 エヴァから手渡された学生証に書かれていたのは「ハルカ・ゼーゲブレヒト」の文字。

 

 ちょっと待て、「ゼーゲブレヒト」だと!?

 

 確かに俺は金髪だし、右目が翠で左目が紅のオッドアイだが、聖王家はそもそも出てくる作品が違う。偶然、なのだろうか?

 俺の混乱を知ってか知らずか、エヴァは俺に語りかけた。

「ゼーゲブレヒトは、御伽噺にでてくる始祖アマテルの従者が名乗っていた姓だという話だ。お前は私の従者になるのだろう。ならば、そのくらいの男になってもらわねば」

 思わぬビックネームが出てきたが、どうやら俺の懸念は杞憂だったようだ。そう、胸を撫で下ろした時だった、

「そうそう。なんでもその男、次元の彼方より渡り来たとかいう逸話が残っていてな。魔法世界の御伽噺がずいぶんとSFチックだとは思わんか? どうだ、面白い話だろう」

…… おいまじか。

 




結構作中の時間は経過させたのに、物語がちっとも進んでませんね。
予定ではもっと話を進める予定でしたが、修行メイン回がまた続いてしまいました。

ですが、種はまけたと思うので次話以降で育てていきたいと思います。

修正箇所
ver.1.2:オリ主の小学校入学が一年早まったことを追記


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オリ主日記(7)

高評価並びに、感想、お気に入り登録ありがとうございます。

拙作を読んでくれる人がいると実感でき、週一での投稿を続けることが出来ております。

誤字報告をしてくださった方々ありがとうございます。大変助かっております。

少しでも間違いを減らせるよう努力していきますので、今後ともよろしくお願いします。


1999年3月3日

 

 京都旅行よりも、俺の中でウエイトが大きいのが「ゼーゲブレヒト」の名前についてだ。爺さんに聞いてみたんだが、アマテルの魔法使いの従者(ミニステル・マギ)についてまで言及した御伽噺は現在では失伝してしまったらしく、「ゼーゲブレヒト」の姓も初めて聞いたらしい。

 エヴァに尋ねると、

「ゼーゲブレヒトについて詳しく聞きたいだと? それなら別荘の書庫に昔集めた史料がある。気になるのなら自分で調べればよかろう」

と返された。それって今となってはかなり貴重なものだよな。

 でも、何でエヴァは「ゼーゲブレヒト」の史料など集めていたのだろうか?

「ム…… 余計な詮索などせず、とっとと行って来い」

 問いを投げかけたら、クッションを投げ返されて部屋を追い出された。解せぬ。

 

 エヴァが収集した史料で本棚の一角が埋まっていた。もしも失伝した原因の一端がエヴァにあったのなら笑えない。

 書物は当然ながら日本語で書かれてはいなかった。投げ出さずに語学の勉強を続けていて良かったと思う。

『男、次元の海より渡りけり。名をばオリヴィエ・ゼーゲブレヒトとなむいひける。虹を纏いてアマテルの盾と成りぬれば云々……』。

 そういや「魔法少女リリカルなのは」では女性だったけど、オリヴィエって男性名だったな。虹を纏う件はおそらく「聖王の鎧」のことだろう。

 書物には色々なことが記されていた。オリヴィエの瞳は俺と同じ紅と翠のオッドアイであったこと。彼が何らかの事故でこの世界に流れついたこと。そして、アマテルが作りだした魔法無効化領域内でも何故か魔法が使えたこと。

 これは完全にベルカ案件だわ。俺の虹彩異色の瞳も母や明日菜のパターン違い程度にしか考えてなかったが、まさか先祖返りに近いものだったとは。

 

 あれ? ってことはやっぱりこの世界、「魔法先生ネギま!」と「魔法少女リリカルなのは」がクロスしているのか!? 

 

1999年3月4日

 

 もしもここが「魔法少女リリカルなのは」とクロスオーバーしている世界ならばかなり危険だ。なにせアニメ一期から地球滅亡の危機に陥る作品だからな。

 身分証を得たおかげで図書館島を利用できるようになったのが役に立った。そこでインターネットで検索したら見つけてしまったのだ、海鳴市の名前を。

 この時は本当に焦ったよ。

 だが、調べていくうちに翠屋のホームページに辿り着き、この世界は「魔法少女リリカルなのは」とは明確に違う歴史を歩んでいたことが判明した。

 主人公の高町なのはがミッドチルダに行かず、翠屋を継いでいるのだ。しかも、結婚して苗字も変わっている。なんなんだよ経営者の「なのは・ハーヴェイ」夫妻って。見た目は完全に三期での成長した姿だったから、別人ということはないだろう。 

 

 何というか、非常に複雑な気分だ。高町なのはは前世で好きだったキャラだけに、戦いの無い世界で家庭を持っていることが嬉しくもあり、結婚していることがショックでもあり……

 おそらくだがこの世界、「魔法少女リリカルなのは」にとってはジュエルシードが飛来しなかったifにあたるのだろう。過去の新聞記事も漁ってみたが「闇の書」事件を彷彿とさせるような出来事も起きていない。

 古代ベルカで起こった「何か」が原作ブレイクの引き金となったのかもしれない。詳しいことは分からないが、正直なところホッとしている。

 

1999年3月8日

 

 明日から始まる京都旅行だが、どうやら楽しいだけでは終わらなくなりそうだ。

 例によってエヴァと爺さんの会合を盗聴して得た情報なのだが、今回俺とエヴァが京都に訪れることを爺さんがMM元老院にリークしていたらしい。

 今まで行方が分からなかった俺達の足取りが掴めた時、どの勢力がアクションを起こすのか。

 そして、それはどの程度の規模になるのかを知ることで、今後の危険性を見極めるのが目的だそうだ。

 

 しかも、今回の件には関西呪術協会も一枚噛んでいる。関西呪術協会の長は父の仲間でもあった青山詠春(現在は近衛詠春)なのだが、協会の中には彼が手綱を握れていない派閥があるという。

 それこそが先の大戦で西洋魔術師に恨みを持つ一派だ。すでに何者かが彼らを焚きつけるべく蠢動しているとのこと。まぁ、俺を亡きものにしようとする元老院の一部勢力だろうとは想像に難くない。

 ヤツらにとって俺は大戦の元凶である「災厄の魔女」の遺児。反西洋魔術師派を唆すのには俺以上の餌はいないだろう。

 詠春さんはこの動きを敢えて黙認し、関東魔法協会の使者でもある俺を襲わせることで、それを口実に邪魔な派閥を一掃しようという魂胆のようだ。

 

 ……オリ主は囮にて最適……。

 なぜだろう? 涙が溢れてきた。

 

 それと、俺に危険が及ぶ可能性についてだが、

「危険だと? ハッ、笑わせるな。そんなヤワな鍛え方はしていない。凡俗の魔術師などいくら集めたところで私のハルカの足元にも及ばん」

とエヴァが切って捨てた。その信頼が重いぜ。

 

1999年3月9日 6:00a.m. 麻帆良学園都市

 

 いよいよ、京都旅行当日だ。桜の季節には少し早いのは残念だが、この時期限定の特別展示などもある。心配ばかりしても仕方がない、楽しめるところは楽しまないと。

 エヴァはてっきりゴスロリファッションで来るという俺の予想に反し、年齢詐称魔法で大人の姿になりスーツを着崩している。

 前髪も普段のパッツンとは違い、右半分をかきあげていて非常に大人っぽい。グラマラスな体形も相まって、幻術と分かってはいるけれど目のやり場に困るったらない。

 エヴァさんや、俺の反応を面白がって胸元を見せつけてくるのを辞めてくれませんかね。キャリーバッグに乗せられたチャチャゼロは助けてくれないし。

 早く来てくれ明石教授!

 

「雪姫先生、そのくらいにしてあげたら? 真っ赤になっちゃってるわよ、彼」

 俺に助け舟を出してくれたのは、聞き覚えのない女性の声だった。見れば、長い黒髪でキッチリとスーツを着込んだ女性が立っている。爺さんも一緒だ。

「なんだ明石、もう来たのか。せっかく今いいところなんだ邪魔をするな」

 どうやらエヴァとは知己の間柄らしい。というか、明石って母親の方なのか!? 

 原作では彼女はこの時期にはもう鬼籍に入っているはず。また、原作ブレイクか? ブレイクなのか……?

「ハルカ君だったわね。私は今年から君の担任になる明石夕子。よろしくね」

「えっと……よろしくお願いします」 

 呆気に取られつつも、挨拶を返した俺の背中を夕子さんは

「元気が足りないわよ! 元気が!!」

とか言いながらバシバシ叩いてくる。

 そんな彼女を尻目にエヴァと爺さんが会話する内容を、俺は聴覚を強化して少しでも聞こえないかと試みた。

「おいジジィ。アイツ本当に大丈夫なんだろうな?」

「フォッフォッフォ、心配いらんて。彼女はこう見えても凄腕の魔法先生での。本国から派遣の要請も来るほどじゃ。まぁ、ハルカ君も麻帆良におるし断ったんじゃがな」

 また俺が原因かよ。

 

1999年3月9日 8:15a.m. 東海・山陽新幹線のぞみ新大阪行車内

 

 大宮駅を出発し、東京駅から新幹線に乗った。後は乗換もなく二時間もすれば京都駅に到着だ。

 今回同行するのは夕子さんだけかと思っていたのだが、案内として関西呪術協会の人も旅を共にするらしい。この人、格好が完全に神父なんだが本当に呪術師なんだろうか?

 朝飯は駅弁で済ませた。新幹線を利用するからにはぜひ食べておきたかったので、満足している。

 牛丼弁当のレヴューもしたかったのだが、イマイチ頭が働かない。子供の体では食後に乗り物に揺られていると眠気が襲ってくる。マズイな、とうとう船を漕ぎ始めた。

 隣に座っているエヴァが俺の様子に気付いたようで、自分の膝をポンポンと叩く。膝枕をしてくれるつもりのようだが、俺としては少し気恥ずかしい。

 エヴァはすごく期待に満ちた眼差しをしている。ここは素直に甘えておくのが吉か。

 彼女の太股に頭を乗せて、俺の意識はまどろみの中へと落ちていった。

 

1999年3月9日 2:30p.m. 京都市内老舗和菓子店

 

 午前中は軽く駅周辺を散策し、西本願寺や東寺などを訪れた。東寺で冬の特別拝観としてシンボルである五重塔の内部を見られたのは嬉しかったな。やはり、この時期の京都は普段は秘されている貴重な文化財を堪能できるのが醍醐味だ。

 昼は案内の人が行きつけだという料亭へと連れて行ってくれた。

 豆腐のコース料理なんて食べたのは初めてだ。中でも湯葉を天麩羅にする発想は前世でもなかったな。

 余談だが、あの神父さんには特別メニューとかいう赫々と煮えたぎるような麻婆豆腐が出されてたけど、よくあんなもの食えるよな。

 

 今はエヴァの希望で老舗の和菓子店に来ている。なんでも100年くらい前から訪れているお気に入りで、親父に封印される前まではよく通っていたそうだ。

 中でもエヴァが一番気に入っているという練り切りは桜色の可愛らしい見た目をしている。

 原作のイメージとは異なるなとエヴァを眺めていたのだが、彼女には俺が物欲しそうにしているように見えたのだろうか。

 菓子を一摘みして、

「なんだ? これが気になるのか。ほら、一つやるから口を開けてみろ」

これはいわゆる「あ~ん」というものか。二人きりならともかく他人の目があるだけで羞恥心がマッハだ。

「どうした、早くせんか」

 エヴァはニヤニヤしながら急かしてくる。チクショウ、俺の反応を楽しんでやがるな。俺は意を決して口を開いた。餌を貰う雛鳥もこんな気持ちなのかな。

「美味しい」

 思わず声に出してしまった。

 夕子さん達の生暖かい視線が辛い。というか案内の神父がメッチャ笑顔なのは何でだろう。

 そういえば、昔やったゲームに和菓子を出す魔法を使える主人公がいたな。

 

 完全な再現は出来ないだろうけどやってみるか。

 練り切りの材料は確か砂糖に白あん、つなぎの食材だったな。製法はカウンター越しに見た。

 こういうのは気分が大事だ。ちょっとエミヤのイメージもプラスして、

「――投影、開始(トレース・オン)

 何もない空間を両手で包みこみ、魔力とカロリーで像を結ぶ。

 掌を開くとそこには練り切りがちょこんと鎮座していた。成功だ。

「投影魔術―― 貴様、何者!?」

 真っ先に反応するのが、神父かい!

 

 それにしても、二人のエロゲ主人公の力が合わさり最強に見える。

 さて、味はどんなものかなと試食しようとした矢先に、エヴァに掠め盗られてしまった。

「まだまだ、修行が足らんな」

 そう言ったエヴァの瞳は俺に向けられているようで、その実、別の「誰か」を映しているように感じられた。

 それが何故だか無性に悔しくて、次こそは

「美味い」

と言わせてみせる。人知れず心に誓った。

 

1999年3月9日 4:25p.m. 京都市内某神社

 

 今のところ特段襲撃もなく、普通に観光を楽しめている。

 とはいえ何かあると分かっているのに、何の動きもないのもそれはそれで不安になるものだ。

 ここらで俺の方から仕掛けてみるか。

「エヴァ、俺はちょっとトイレに行ってくるよ」

「そうか、ならば私達はここで待っていよう」

 ここからトイレのある建物まではそれなりの距離がある。付いてくると言わないあたり、襲撃は無いと思っているのか、俺と同じようなことを考えているのか……

 俺もここ数年でそれなりの実力を付けた。

 エヴァからも

「逃げ足だけなら、既に私を超えているな」

と太鼓判をもらっているのだ。そうそう危機には陥らないだろう。

 

 用を足してエヴァ達の元へ足を向ける。結局襲撃はなかったな。原作では白昼堂々襲ってきたのだが、今回は違うみたいだ。

 そう思っていた矢先だった。

「虹彩異色の瞳に二股に割れた眉……。特徴の一致を確認。ようやく見つけたわ」

 俺の前に一人の女性、いや少女が立ちはだかった。

 コイツが刺客か? それにしては随分と若い。もっとも、「魔法先生ネギま!」の世界で見てくれの年齢は当てにならないが。

 年の頃は十五・六歳くらいに見える。容貌はかなり整っていて、濡れたような黒髪をボブカットにしている。

 体つきも女性特有の曲線美がハッキリと表れたシルエットで、彼女が漫画のキャラクターであればどれほど魅力的であったか……

 残念だが今は敵同士、ならば油断はできない。

 しかし、彼女の口から放たれたのは俺が予想だにしない言葉だった。

「エヴァンジェリン様はどこにいるのです」

 ……ん? 今エヴァンジェリン様って言ったか? 何者だこの女……。

「答えなさい、ハルカ・インペラトル・エンテオフュシア!」

 ちょっと待て、ソイツはいったい誰のことだ!?

 




私事なのですが、この度10年愛用していたノートPCがお亡くなりになりました。

タブレットでの執筆作業って想像以上に大変なんですね。

来週末には新品が届くので、また2話投稿できればと思っております。


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オリ主日記(8)ver.3

アンケートにご協力ありがとうございました。




1999年3月9日 5:00p.m. 京都市内? 山中

 

 何が起こってやがるチクショウ。 

 

 不審者の女に絡まれて

「悪いが人違いだ…… 俺はエンテオフュシアじゃない」

「誤魔化しても無駄よ、あなたからはエヴァンジェリン様の匂いがするもの」

みたいな、違う・違わないなどという不毛なやり取りに嫌気が差した俺は、とりあえず無視してこの場を去ることに決めた。

 エヴァに「様」をつけていることから、恐らく敵ではないのだろうが、別の意味でヤバそうだ。

というか「匂い」って何だ「匂い」って。

 一見すると堅物っぽいこの女だが、十中八九ポンコツ属性を持っている。このご時世で「エンテオフュシア」の名を出されて肯定するヤツがどこにいるんだよ……

 そう思い、瞬動術でズラかろうとした、その時だった。

 不意に、殺意も、害意も、敵意すらなく現れた鏡に俺の姿が映し出された刹那、どことも知れない山中に転移させられていた。

 

 逢魔が時、鬱蒼と茂る木々が異様な不気味さを醸し出している。

 ここはどこだ…… ?

「どうやら特殊な転移魔法のようですね。まったく、アナタが早くエヴァンジェリン様の元へと案内していればこんなことには――」

 なんでアンタまでいんだよ。ブツブツと愚痴を言う不審者の姿に脱力しそうになったのだが、唐突に襲い来たプレッシャーがそれを許さない。

 コツコツと足音を鳴らし、暗がりの中から一人の男が姿を現した。

 全身を黒い装束で覆い、フードの合間に見える肌は病的なまでに青い。長く伸ばした髪で隠され、顔の造りはよく見えないが、眼の下のクマが色濃く主張していた。

 全身に悪寒が走る。コイツ只者じゃない。魔法で呼び出したガントレットを装着し構える。

「オイオイ、そう身構えるなって『亡国の王子様』よ。ついうっかり殺しちまったらどーすんだよ」

「何の話だ?」

「あ~そっか、そっか。お前は知らないんだったな。しっかしよ、自分の出自も知らないとは憐れなもんだな、え?」

 ホントは転生者だから知ってんだけどね。そんなツッコミさえ心の中で入れている余裕もない。

 コイツから漂ってくる濃厚な死の気配に、俺の本能が警鐘を鳴らしている。

 心身を研ぎ澄ませて警戒する俺の様子が琴線に触れたのか、男はへばりつくような笑みを浮かべた。

 

「ククククク、別にとって喰ったりやしねーよ。安心しな、なんたってオレは心優しい『貴族』様だからなぁ」

 

1999年3月9日 5:15p.m. 京都市内? 山中

 

 じきに二十一世紀になるというのに“貴族”だと? それに貴族を名乗るには格好が陰キャによりすぎてはいないか?

「『貴族』、やはりアナタは真祖の―― !」

 不審者の女がいつの間に出したのか、長物のハンマーと日本刀を手にして言う。

 どうやら、俺の知る“貴族”と彼女達の言う『貴族』は別物らしいな。

「そういや、オマケがいたんだったな。まぁイイ」

 男は再び俺に視線を戻した。

「今日は人間から依頼を受けてこの場をお膳立てしてやったのさ。クク、ノブレスオブリージュってやつだ。ホラ来いよ」

 ヤツの言葉を受け出てきた脂太りの中年男性が、俺の前に膝を突いた。

 純白のローブと豊かに蓄えられた口髭を、全身から滲み出る薄汚い欲心が滑稽に見せている。

 ん……? コイツの服装は確か原作で見たMM元老院の……

「おおっ! お会いしとう御座いましたハルカ・インペラトル・エンテオフュシア様。さぁ、ワタクシと共に魔法世界へと参りましょう」

 

 このオッサンの話はとてもじゃないが聞くに堪えないものだった。

 最初こそ魔法世界最古の歴史を持つ旧ウェスペルタティア王家の狂信者かとも思ったのだが、実際は地球を魔法世界の支配下におこうとする思想を持った過激派の勢力であった。

 今もトリップしながら

「高貴なる青き血が流れる貴方様こそが、この地も魔法世界も統べるに相応しいのです。今こそ、王政復古の時!!」

なんて宣ってやがる。伏せた顔を覗けば、瞳孔が開いて目が完全にイッちまってるけど大丈夫か?

 

 だが、コイツの話の節々から現在のMM元老院の動向が推測出来たのは僥倖だ。

 過激派は元老院の中でも少数勢力ではあったが、俺の母親を陥れた上層部に加担することで一定の地位を得ていた。

 しかし、ある時上層部は俺の情報を隠匿するためにエヴァの懸賞金を取り下げる判断をした。どうやらエヴァが賞金首になったのには過激派の思惑が大きく絡んでいるようで、その流れの中でコイツらは切り捨てられたらしい。

 見切りをつけられ、いよいよ後が無い差し迫った状況を打破すべく、過激派の連中は上層部が急に方針転換した原因を探り俺に行き着いた。

 そして、俺を手中に収めることで上層部からアドバンテージを得ることを目的に、『貴族』の助力を得て今ここに至るというわけだ。

 

 救いようのない阿呆だな、本当に。

 狡猾な上層部のヤツ等が俺の情報なんていう秘中の秘をそう簡単に漏らすかよ。

 オッサンを使って俺と諸共に始末するつもりだと何故判らない?

 いや、そうか。コイツらを敢えて見捨てることで焦らせて、俺という撒き餌に喰いつかざるを得ないように誘導したのか。

 やってくれるな。連中を誘き出す囮であった俺を逆手にとって利用しやがった。

 

 おっ、長ったらしい与太話もそろそろ仕舞か。オッサンがすくっと立ち上がった。

 

1999年3月9日 5:30p.m. 京都市内? 山中

 

「では参りましょうか」

 オッサンが俺に手を差し出してくる。そんなもの俺が握るわけがないだろう。

「ついて行ってはいけないわ! 騙されてはダメよ!」

 不審者がそれを言うか?

 まぁ、安心してくれていい。リアルな五歳児ならわからんが、こちとら前世も合わせればソコソコの年はいってんだ。コイツの話を信じるほど脳内お花畑ではない。

 

「断る。生憎と今の暮らしが気に入っているんだ。それにアンタはどうにも信用できない」

 俺が拒絶するとオッサンがぶっちゃけ見え見えだった本性を現した。

「何も知らんガキが、下手に出ていれば付け上がりおってからに……!! 残念ですが王子には躾が必要なようですね!」

 小物のテンプレみたいなムーヴをありがとよ。

「その愚かものを取り押さえなさい。多少の怪我はやむを得ません。ゴルゴンゾーラの恐ろしさを教えてやるのです」

 オッサンの言葉を受けた『貴族』が鏡から五人ほど京の呪術師を呼び出した。彼等が関西呪術協会の不穏分子か?

 それにしても様子がおかしい。うわっ! 何だあれ後頭部からキモイ触手みたいのが見えたぞ! 

 

 呪術師が梵語を唱えると、鬼やら烏族やらの妖魔が次々に召喚される。

何や何や、久々に呼ばれたと思うたらおぼこい坊ちゃんが相手かいな

悪いなぁ坊主、呼ばれた以上は戦わなあかんのや

 妖魔といえども、子供相手に多勢に無勢では気が引けるようだ。先ずは小手調べのつもりか、二体の妖魔が俺の前に躍り出た。

「危ない!」

 不審者の女が俺を助けようと駆け寄ってくる。

だが、気遣いは無用。

虚刀神鳴御剣流(きょとうしんめいみつるぎりゅう)斬魔龍槌翔閃(ざんまりゅうついしょうせん)

 体内で一気に練り上げた「咸卦の気」を纏い高く飛んで、退魔の力を込めた手刀をもって俺を捕えようと近づいた鬼を叩き切り、返す刀でもう一体の妖魔を切り上げた。

 残念だったな、俺が前世の知識をもとに創りあげた厨二混合剣術は一対多の戦いも、化生との戦いも、ついでに言うなら剣士との戦いも全てが得意分野なのさ。

 

 不審者もゴルゴンゾーラとかいうオッサンも俺が妖魔を切り捨てたことに呆気にとられている。

 確かに五歳児にしては異常な戦闘力ではあるが、この歳でフリーザ様に挑んだ孫悟飯に比べれば可愛いもんだろう。

 「咸卦の気」で念能力の「円」を再現して、周囲の敵を探る。その数ざっと六十体ほどに囲まれているが、正直今の俺には脅威たりえない。

 いや、違う。妖魔のものではない人間の気配が一直線にこちらに向かってくる。

「『貴族』はん、ご迷惑と思いますけど、ウチ、そこの坊ちゃんと手合わせさせて頂きたいんですー」

 現れたのは十歳くらいに見える少女。ゴスロリ衣装に身を包み可愛らしい表情にのんびりとした口調をしているが、その手には二本の刀が握られており、眼鏡の奥から覗く瞳には確かな狂気が宿っている。

 月詠……!? お前、こんな年からバトルジャンキーだったのかよ!

「ったく、ガキに興味はなかったんじゃねーのかよ?」

「そないなイケズなことは、言わんといてくださいー」

 何回かのやりとりを経て、どうやら月詠と俺で一対一の死合をする運びになったようだ。途中ゴルゴンゾーラが抗議の声を上げたが、『貴族』に黙殺されて引き下がっていた。

 

「なんやおもろい剣術使うみたいやね、ボクは。ウチにも見せておくれやす」

 漫画作品において、とかく剣士というのは理不尽な存在だ。刀一本持つだけで人も鉄も、果ては時間や空間までも切り捨てやがる。

 剣を極めた相手にこちらが守りをいくら固めても無駄だということは、チャチャゼロに嫌というほど分からされた。ならば、やることは一つ。剣士が刀を振りきる前にその得物を破壊する。

「ほな、ウチから行かせてもらいますえー」

 俺を袈裟切りにしようと刀を振り上げた月詠に対して、俺は響転で一気に間合いを詰め、まだ速度が乗る前の刀身を峰の部分を掴んでへし折った。

「虚刀神鳴御剣流・活心の型・刃断ち」

 月詠は一瞬目を見開くが、すぐに心底楽しそうな笑みを浮かべる。

 彼女は残った刀を持つ左手を、刀の切っ先を俺に向けたまま後方へと大きく引いた。

 次に来るのは刺突か。

 ならば

「虚刀神鳴御剣流・菊」

俺は両の掌を敵に向け右腕を前に突き出す「鈴蘭」の構えから、月詠が突き出した刀を、腰と両肘を用いて梃子の原理で粉砕した。

 慣性の法則に従い俺の背後へと抜ける彼女に回し蹴りを食らわせ、意趣返しがてらゴルゴンゾーラの方へと蹴り飛ばす。

 月詠はゴルゴンゾーラにあわや直撃というところで、『貴族』の鏡に呑まれて何処かへと跳ばされた。惜しい。

 

 さてと、不意の原作キャラとの邂逅には驚いたが、この場を切り抜ける上での最大の懸念である『貴族』様は、月詠がやられてもなお、いっこうに動く素振りをみせない。ヤツが何もしないのならば一点突破で離脱を計るのも容易だろう。

 ゴルゴンゾーラに関しては俺のことを知った以上、MM元老院の上層部に消されるのは明白だ。厄介な敵なだけに、その抜け目のなさは信用できる。

 

 巻き込んでしまった手前、不審者といえども置き去りにするのは気が引けるので、彼女の手首を掴み離脱しようとした俺の背に、ゴルゴンゾーラが罵声を浴びせかける。

「ワタクシではなくあの悪党を選ぶとは、『災禍の落とし児』…… 親が親なら子も子ですねぇ、もう少し賢いと思っていましたが」

 俺のことなど好きに言えばいい。所詮は負け犬の遠吠えだ。

 だが、次にヤツの口から出た言葉は俺の足を止めるには十分すぎるものであった。

「それとも育ての親が悪いんですかねぇ、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。己を不死身にするために、無辜の民から命を奪った醜悪なバケモノ」

 ピクリと俺の肩が跳ねる。

「そういえば何故負けた筈のあの女が生きていたんですかねぇ? きっと色仕掛けでもしたんでしょう。あの汚らわしい淫売が!!」

 正直なところ転生者であることに引け目を感じていないといったら嘘になる。両親に愛されながらも、原作には存在しない異物である俺がこの世界にいてもいいのかと思い悩むこともあった。

 「魔法先生ネギま!」の世界を楽しむと嘯いてみても、頭の片隅で常にチラつくのは所詮、己など邪魔者でしかないという考え。

 そんな俺を救ってくれたのがエヴァだった。今も理由は分からないがエヴァは俺を必要としてくれた。

 家族だけでは満足できず、他者による承認を求めていた俺の浅ましい欲求を彼女が優しく満たしてくれた。それにどれほど救われたか……

 そして今もなお、俺はエヴァの威光に守られている。

 だから、彼女を侮辱するヤツの言葉は到底許せるものではない。

 

 この場からの逃げること。それが最善だと頭では分かっている。それでも、もう一人の自分が問いかけてくるのだ

「このまま言わせといていいのか?」

「お前はなんの為に力を求めたのか?」

と。

 そういえば、昔何かで聞いたことがある。“人を救うということは命だけじゃなく心も救うこと”だと。だったらそれは“守る”ことだって同じじゃないのか!?

 エヴァは自ら悪を名乗り尊大な態度をとっているが、その仮面の下にあるのは自分を殺しにきた相手の命すら背負ってしまう、誰よりも優しい一人の繊細な少女の顔だ。

 なら答えは一つだろう。あんな言葉エヴァに聞かせてはいけない。そんなことを言うやつをのさばらせてはいけない。

 ふと、不審者の女と目が合う。言葉にはせずとも、武器を手にした彼女の瞳は雄弁に語っていた

「私はあの男を許せない、貴方はどうするの?」

と。面白いことに、先ほどまでは幾ら言葉を重ねても分かり合えなかった彼女の心が、今は手に取るようにわかる。

 そして、彼女にも伝わっているはずだ

「決まっている、俺はアイツをぶん殴る」

という、俺の気持ちが。

 

 特段何かを示し合わせたわけでもないのに、俺と彼女は同時に駆け出した。

 初対面で名前すら知らない相手なのに、驚くほどに息が合う。

 彼女を背後から急襲する烏族がいれば、俺が蹴りで首を飛ばし、俺の不意を突こうとする単眼の大鬼があれば、彼女の白く輝く拳が巨躯を穿つ。

 たった二人、背中合わせの大立ち回り。何の根拠もないのに不思議と負ける気はしなかった。

 

「バ…… バカな⁈ 相手は二人なのですよ‼ それもこんな女子供に……!」

 狼狽するゴルゴンゾーラに対し、『貴族』の男は気だるげな態度を崩さない。

「みっともないから、そう騒ぐなよ。オマエの周りにゃまだ“別格”の連中がそろってんだろうが?」

 “別格”と称されていた妖魔は原作にも登場していた。雑兵共とは呪力の質も量も一味違っている。

「斯神其人を放逐しエデンの園の東に智天使と自ら廻る焔の剣を置いて生命の樹の途を保守り給う『まわる(フラッメウム・グラディウム・)焔の剣(アトクゥエ・ヴェルサーティレム)』」

 気合の一声をもって飛び上がった、不審者…… いや、今や戦友の女の背後から十字架を模した魔法陣が数多出現し、絨毯爆撃のごとく放たれた焔の剣が爆炎をまき散らしながら、妖魔達を焼き払う。

 俺も負けてはいられない。ゴルゴンゾーラはもう目の前なんだ、後はもう押し通るのみ。

「虚刀神鳴御剣流・雷光九頭龍閃(らいこうくずりゅうせん)!!!」

 壱・唐竹、弐・袈裟切り、参・右薙、肆・右斬上、伍・逆風、陸・左斬上、漆・左薙、捌・逆袈裟、玖・突き。以上九種類の斬撃を、両手の手刀に魔を滅する雷光を上乗せして一度に放つ突進技。

 回避も防御も不能なこの技の前では“別格”だろうが関係ない。等しく散っていくだけだ。

 守ってくれるモノはもういない。ヤツは驚きに目を見開き、脂汗を垂らしている。今更焦ったところでもう遅い。

「エヴァンジェリン様の道程を」 

「エヴァの優しさを」 

「「知りもしないくせに」」

 俺達は並走し、ゴルゴンゾーラの醜い顔面目掛けて

「「貴様が偉そうに彼女を語ってんじゃ――」」

「ないわよ!」

「ねぇ!!」

二人同時に拳を叩きこんだ。

 

1999年3月9日 5:45p.m. 京都市内? 山中

 後はもんどり打って倒れているゴルゴンゾーラにとどめを刺すだけだ。だが、前世で培ってきた倫理観がその選択を一瞬俺に躊躇わせた。

 だが、その甘さが仇になった。ゴルゴンゾーラの穴という穴からドロっとした黒い粘液があふれ出したのだ。

 呪術師たちにも同じ現象が起きている。今度は何事だよ。

「貴族様、これはどういうことですか!? お助け…… お助けください!!」

 全身が溶け出しながら縋り付くゴルゴンゾーラを『貴族』の男は足蹴にした。

「そいつは、できない相談だな。アンタ等に消えてもらうことも含めて俺の“お仕事”だからな」

 男がパチンと指をならすとゴルゴンゾーラと似たような姿の男達が鏡の中から放り出された。彼等も一様に黒い粘液を垂れ流している。

 

 流れ出た黒い粘液が辺りに満ちて、そこから沸騰したように泡が立ち次々と悪魔の姿を形作っていく。

 そうか、彼等は悪魔召喚のための生贄にされたんだ。

「元老院のお偉いさんからの依頼でね。恨むんだったらソッチを恨んでくんな」

 コイツ…… 元老院上層部からの刺客だったのか。

 ちょっと待って、おかしいぞ。だったら何故俺を襲わない?

 俺の疑問をよそに、ヤツは謎の言葉を残して消えていった。

「オマエが本当に“そう”だっていうなら、この状況から生き残ってみせな」

 

 言葉の真意は分からないが、最大の難敵が撤退してくれたのはありがたい。

 しかし、まだ楽観はできない。魔法使い、呪術師合わせて十人以上の命をくべたのだ、呼び出される悪魔の数は百や二百はくだらないだろう。

 原作で俺の故郷を襲撃した軍勢をも上回るかもしれない。

 まっ普通ならそう思うのだが、この悪魔の召喚法は如何せん完全に悪魔が呼び出されるまで時間がかかる。

 これだけの時間があれば俺なら「砲台」としての魔法使いの役割を十二分に全うすることが可能だ。

 

 ガントレットに光のパネルはとうに展開済み、俺の手には既に三枚のカードが握られている。

 攻撃の余波を受けないように、共に戦った友を肩に担いで上空へと移動する。

 上から見ると想像以上に広範囲にわたって黒い粘液が広がっている。ガントレットがなかったら、俺でさえ下手を打てば詰みかねなかった。

 だが、今回は相手が悪かったな。

「まさか親父の役目が俺に廻ってくるとは、因果ってのは不思議なもんだよ、ホントにな!」

 俺は三枚のカードを同時に光のパネルに読み込ませる。

雷の投擲(ヤクラティーオー・フルゴーリス)〉 

雷の暴風(ヨウイス・テンペスタース・フルグリエンス)

千の雷(キーリプル・アストラペー)

「その声はエヴァンジェリン様の……! それに『千の雷』ですって! その歳で最高難度魔法を無詠唱で扱えるっていうの!?」

 魔力のレールに乗せた彼女が、驚嘆して声を漏らす。そんな反応をしてもらえるなら苦労して作った甲斐があったというものだ。

 だが、驚くのはまだ早い。異なる複数の呪文を同時に発動することで生まれる新たな魔法、それが!!

融合魔法(ミックス・レイド)

 天空に巴の雷神紋が浮かび上がった。それが円を描くように六つに分裂し、サークルを作り出した。

 左手を高く掲げ、天に敷かれたサークルへと真・雷光剣を放つ。それにより術は完成し極大の雷球が生み出される。

「蹴散らせ『雷神演武』!!」」

俺が手を振り下ろすのと同時に、眼下より迫りくる悪魔の大群へ向けて放たれたそれは、轟音を響かせ、周囲の地形を完全に変容させながらも、かの地より表れ出でた魔の一切を討滅したのであった。

 




アンケートにご協力頂けた方ありがとうございました。

今回のような試みは最初で最後ですが、今後の投稿の参考にさせていただきます。

また、本話に限らず大きな改稿をした際にはver.表記をして、変更を加えたことを分かりやすくしたいと思います。

修正箇所
ver.2:OCG的な文中の表現を削除。月詠に関する記述の追加。
ver.3:エースの敗北者パロディを削除。オリ主と夏凛が協力する描写を追加。
   その他、細かいパロディセリフを修正。


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オリ主日記(9) ver.1.2

前話ではアンケートにご協力ありがとうございました。

感想欄に寄せられた意見も含め色々と参考になりました。

あのような状況でも高評価、誤字報告並びにお気に入り登録してくださった方、大変励みになりました。

なお、感想欄に書き込む際にはサイトの利用規約を遵守するようお願いします。





3月9日 6:00p.m. 京都市内? 山中

 

 ひとまず命の危機は去った。それなりに派手に闘りあったから、エヴァ達はこの場所に気づいてくれただろうか。

 それにしても…… 「融合魔法」の着弾点を中心に巨大なクレーター状に大地はえぐれ、融解した山肌がバターのように流れ出ている。鬱蒼と茂っていた木々は消し炭さえも残さない。

 幻術空間以外でこの術を使ったのは初めてだが、よもやこれほどの威力とは……。

 エヴァが口を酸っぱくして別荘での使用を禁じるはずだ。

「これはまるで……ソドムとゴモラを焼いた……。あなたはいったい何者ですか!?」

 そういえば、俺の方からはちゃんと名乗っていなかったな。

 共闘したからこそ理解できた、コイツはエヴァのことを本当に大切に思っている。

 なら、今の俺の名を教えても悪いようにはならないだろう。

「俺はハルカ。ハルカ・ゼーゲブレヒトだ。アンタは?」

「私は――」

 一瞬、目をパチクリさせた後。何かを察したのか、フッと笑って名乗りを返そうとした彼女の行為は、俺が彼女を抱えて跳躍したことで中断させられた。

 バトル漫画のお約束である、戦闘後の気の緩みを突いた不意の襲撃。一種のセオリーを警戒して張り巡らせていた「円」が捉えたのだ、先ほどの『貴族』と似た濃密な死の気配を。

 「殺し」の気配を感じ取った体は頭が命令を出すよりも早く反応し、回避行動をとる。

 ついさっきまで会話していた場所を「凝」で見ると、そこには無数の刃が通った軌跡が……。

 冷や汗が流れる。ほんの数秒でも遅ければ、俺は今頃微塵切りにされていただろう。

「ちょっとあなた! どこを」

 触っているのよ、と続くはずだった言葉は、暗闇から浮かび上がるようにして顕れた「殺し」の気配の発生源。その固有名詞に上書きされた。

「バアル……!?」

 

「へぇ、ヒト種にしてはやるようだ。アレを初見で躱してみせるなんてね」

 何なんだコイツ。見た目こそ背丈もエヴァと変わらぬくらいの長髪の子供でしかないが、その身にまとう雰囲気は異質に過ぎる。

 ヤツの目を見た時、俺は自分の首が刎ねられた姿を幻視した。

 思わず、首を手でなぞってしまう。問題ない、ちゃんと繋がっている。

 今ならば分かる。あのフード姿の『貴族』は俺に敵意や殺意を向けていなかったのだと。あの噎せ返るような死のイメージに殺気を乗せて向けられると、こうも足が竦むのか!

 

 相手は格上、臆していても死が待つだけだ。ならば‼

 出し惜しみはしない。油断している隙に、全力の一撃を叩き込む。

 己の中で最強のイメージの一人を自身に重ね、心を鼓舞する。

 両足で踏ん張り、左右の手首を合わせ腰の位置で開く。

 両の掌の間に全身の「咸卦の気」を収束。

 指の隙間から放射状に「咸卦の気」の光が溢れ出した。

 俺はその体勢のまま、瞬動術を使い、ヤツの目の前へと一瞬で移動。

 両手を前に突き出し、気合の咆哮と共に溜めこんだ力の全てを放出した。

「波ぁ――!!!」

 ゼロ距離で射出された「咸卦の気」は破壊の奔流となって、堅牢な何かを突き破りヤツを跡形もなく消し飛ばした。

 障壁を抜いての全力の『かめはめ波』だ。確かに手ごたえはあった……やったか?

 

「逃げなさい‼」

 その声にハッとする。肘から先だけ再生したヤツが、こちらにゆっくりと手を翳している。

 馬鹿な! 再生だと⁈ ありえない、ヤツの肉体は「咸卦の気」で完全に消滅した筈だ!

 既に「殺し」の気配は俺に向かっている。これは、マズイな……!

 焦りが俺の頭を埋め尽くした。その時であった、戦友の女が俺を突き飛ばしたのだ。

 次の瞬間、彼女の衣類がはじけ飛び、苦悶の声を漏らしながらのたうち回っている。

「イシュト・カリン・オーテじゃないか。なんだ? 復活していたのか」

 全身を復元したヤツはことも無げに言い放つ。

 知り合いか? いや、それよりも何やってんだ、アンタは!

「アッ……ガッ……大丈夫よ。何人も私の体を傷つけることはできないわ。だから、あなたは逃げなさい」

 何が大丈夫だ。確かに怪我こそしちゃいないが、ちゃんと痛みは感じているんじゃないか。

 逃げろだと。身を挺してまで俺を庇ったアンタを見捨てろって? 馬鹿を言うな、逃げるのならば二人一緒にだ‼

 

「うおおおおおおお!!!」

 脳裏にこびりついた死の映像を払拭するように雄叫びを上げ、右手首を蛇のようにしならせて勢いよく地面へと突き刺した。

 ―虚刀神鳴御剣流・斬岩土龍閃(ざんがんどりゅうせん)

 地表を貫いた俺の右腕を起点に、岩盤が捲れ上がり、地割れを起こしながら、土石流を形成し、凄まじい勢いでヤツを押し流す。

 油断するな、まだ終わっちゃいない。

 俺は魔法で四枚羽の巨大手裏剣・風魔手裏剣を呼び寄せると、土煙の中から立ち上がってきた人影に向かい、雷の魔法を上乗せした二枚の手裏剣をヤツからは一枚に視認される軌道で投擲した。

 ―風魔手裏剣(ふうましゅりけん)影風車(かげふうしゃ)

 ヤツは漆黒の剣を手にして一枚目の手裏剣を上へと弾き飛ばすが、二枚目には対応しきれず頬を掠める。

 自分の血が滴るのを見たヤツは不敵に笑うと、俺のほうへと手を翳す。それを視認したときには、無数の刃が俺を貫いていた。

 残念だったな、こっちは囮だ。

 ヤツの後方へと抜けた手裏剣が俺へと姿を変える。

 エヴァではないが、この手の最強格のキャラは御大層な障壁を張っていると相場が決まっている。「かめはめ波」を打った際に感じた壁のようなものがソレだろう。ならば、『螺旋丸』が有効なはずだ。

 掌に「咸卦の気」を回転・圧縮した塊を作り出した刹那、ヤツの影から突如飛び出してきた醜悪な魔獣に下半身を食い破られた。

「螺旋丸!!」

 その瞬間、最初に弾き飛ばされた手裏剣に変化していた本体の俺が、ヤツの頭上から流星の如く急襲。周囲に張られていた障壁を巻き込み威力を増大させた螺旋丸を、脳天からヤツに炸裂させた。

 解き放たれた乱回転する力が、半円型のドーム状に広がり、ヤツの足元から召喚された魔獣諸共、触れるもの全てを抉り削っていく。

 どうせまた復活されるんだろうが、ヤツ自身の力を乗算した渾身の一撃だ。肉体の再構成までにそれなりの時間を稼げるはずだ。

 俺は上着をイシュト何だっけか? とにかくないよりはマシだろうと彼女に羽織らせて、この場を離脱した。

 え? カリンでいいって? ならそう呼ばせてもらおう。俺のことはハルカでいい。

 

1999年3月9日 6:10p.m. 京都市内? 湖

 

 エヴァ達と合流するため、あの場を離れた俺達は森の一角に開けた場所を発見した。

 そこには湖があり、水上には橋で繋がった祭壇、その奥には注連縄が巻かれた巨石が祀られている。

 既視感を覚えるが、頭に霞がかかり詳細を思い出せない。前世では何度か京都を訪れたことがある。その時にこの場所にも来たのだろうか?

 まぁ、いい。長居は出来ないが、少し水を飲んでいくか。

 

 直接頭を水面につける。三月初旬の冷たすぎる水が、戦いで火照った体には丁度いい。

 そういえば、カリンはヤツの名を呼んでいたな。聞いてみるか。

「カリン。オマエはヤツをバアルと呼んだな、アレはいったい何者だ?」

 バアルと聞いてぱっと思いつくのがファンタジー作品でよく目にする古き神の名前だ。

 前世で親しんでいた作品では、物語の終盤に出てくる最強格のボスであった。

 クソったれ、最初からクライマックスなんて俺はゴメンだぞ!

 

 カリンの話によると、あのバアルとかいうヤツは俺の想像以上にヤバいヤツだった。

 ヤツの正体は人類の上位種、吸血鬼の真祖『貴族』。エヴァの不死身も造物主が連中を模して組み上げた術式らしい。

 あのフードの男が言っていた『貴族』の意味がやっと分かった。

 それにしても、そんな存在に一日に二度も遭遇するってどんな確率だよ。

 そもそも、「魔法先生ネギま!」ってラブコメ+バトルでも、ラブコメがメインの作品だったろうが、あんなインフレが極まったようなヤツを出していいのかよ。

 いや、待てよ。俺が覚えている限りあんなキャラ「魔法先生ネギま!」には登場してはいなかった。

 異物である俺が引き寄せたのか? それとも続編の「UQ HOLDER!」のキャラクターなのか? ダメだ、情報が足りない。

 

1999年3月9日 6:15p.m. 京都市内? 湖上の祭壇

 

「逃げるのは終わりかい? ヒト種にしてはソコソコやるようだけど、私にしてみれば赤子同然だ」

 ―ッバアル―‼ もう追いついて来たのか……。

「バアルと言ったな、何故俺達を襲う? オマエも地球を支配することが目的か?」

 考えろ、起死回生の一手を。会話に乗ってこいバアル。一秒でもいい何とか時間を稼ぐんだ。

「かつては魔法世界を利用した人類の教導を考えたこともあったが、今興味があるのはヨルダの実験作・偽真祖エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさ」

 狙いはエヴァ? 本物の真祖としては贋作であるエヴァが気に食わないのが理由か?

 ……違うな。それなら、エヴァを直接叩けばいい話だ。俺を狙った真意はどこにある?

「そこの薄汚れた裏切りの聖女が彼女の心の支えかと思ったけど、まさか君みたいな子供がそうだったなんてね」

 何の話をしている?

「本来、我々真祖は精神も人とは相容れないバケモノだ。でも彼女は違う。知りたいんだよ、君を失った時、彼女のか弱き精神がどこに行き着くのか……ね!」

 

 何の前触れもなくバアルの影から、蛇とも龍とも言えぬ四肢のない細長い体をした魔獣が湧き出した。

 ―水遁(すいとん)水龍弾の術(すいりゅうだんのじゅつ)

 俺は即座に印を結び、湖の水を龍の形に変化させ、襲い来る魔獣にぶつけ相殺する。

 カリンは自身の体を衛星軌道で周回する魔法の剣を作り出し、それを切り刻んでいる。

 クソ! 際限がない、無限湧きとかどんなクソゲーだ!

 バアルの元に集う魔獣の群れ……いや、あれはそんな生易しいものじゃない。無数の魔獣による悪魔の積層。純粋に物量でこちらを圧倒してくる。

 このままじゃジリ貧だ!

 

 まだだ、まだあるはずだ。この状況を切り抜ける方法が。思考を止めてしまえばそこで終わるぞ!

「ふむ、まだそんな目ができるとはね。君にも少し興味が湧いたかな。本当の絶望を知った時、君はどんな顔をするんだい?」

 魔獣が喰い合わさり、十メートルを優に超え、百メートルにも届かんとする悪魔の巨人を作り上げた。

 頭部は蛇の群体の間から無数の目がこちらを覗いており、腹部には巨大な口を備えている。

 これが『貴族』の力……! 出鱈目にもほどがある!!

 

 諦めるな。俺はまだ生きている! 命の灯が消えぬかぎり、どんなに無様だろうとあがいてみせる!!

我を封じた身の程知らずの小僧と似た気配がするから起きてみれば、面白いことになっておるな。おい小童、何故諦めぬ? 彼我の力の差は歴然……無為に抗わねば楽に逝けよう

 俺の脳内に何者かの声が響く。

 生憎だが、諦めるだの投げ捨てるだのって選択肢は前世に置いてきたんでね。

何故戦う。無駄だと知りながら、どうして闘志を燃やし続ける

 守りたい人がいるからだ。それにバアルの野郎が気に食わない、勝手な理屈で攻めてきたヤツなんかに素直に首を差し出すつもりはない!

その意気や良し、気に入ったぞ小童! 貴様に我の力を貸してやろう。心して聞け! 我が名は――

 ああ、そうか。ここは原作六巻で決戦の舞台になった……!

 

 巨人の悪魔が振り上げた拳が迫る。一撃目はカリンが召喚した翼の盾が防ぐも、幾筋もの罅が入り、二撃目はとても持ちそうもない。

 既に悪魔の巨腕は目前に迫っている。

 振りぬかれた拳が盾を突き破り、二人を圧殺する寸前、不意に出現した鬼の面に阻まれた。

 

「礼を言う、カリン。おかげで間一髪間に合った。『O.S.(オーバーソウル)両面宿儺乃神(りょうめんすくなのかみ)』」

 顕現するは全長六十メートルに達する、両面四手の巨躯の大鬼。「日本書紀」にもその名を記す飛騨の大鬼神・リョウメンスクナノカミ。

 祭神としてリョウメンスクナノカミが祀られていた湖、そこから発生する水蒸気を媒介にしてみたんだが、なんとか成功したな。

 原作では無手だったが、『O.S.両面宿儺乃神』の前面の右腕には大太刀が、肩甲骨のあたりから生えている腕は弓矢をつがえている。

 もっとも「日本書紀」の記述にはこちらの方が近いのかな。

 考察は後だ、この力でバアルをぶっ潰す!

 

 大太刀を一閃させて悪魔の腕を切り飛ばすと、『水遁・水龍弾』でバアルの周囲にまかれた湖水の水蒸気で『O.S.』することで疑似的に瞬間移動し、不意をついて大太刀で切りつける。

 地肌を抉りながら逆袈裟に振りぬかれた一太刀は、悪魔の巨体を真っ二つに両断した。

 切断面から湧き出した魔獣が怒涛の勢いで殺到すると、再び湖面に『O.S.』することで神気を込めた矢で悉く打ち払う。

 鬼神と悪魔。二体の巨人のぶつかり合い。形勢は僅かだが、こちらの優勢。

「馬鹿な! 貴様のような下等生物に私が!」

 このまま押し切れれば――

 

「ガフッ」

 吐血だと……さすがに力を使いすぎたか!

「アハハハハハ! ふん……底が見えたな人間。これで殺してやる!」

 バアルから触手のように伸びた無数の蛇によって宙に縫い付けられ、大口を開けた魔獣が迫りくる。

 クソ……! 体が動かない……!

 あわや魔獣に食い殺される寸前のところで、けたたましい銃声が鳴り響き、俺の体を貫こうとした魔獣全てが撃ち抜かれた。

「元気ではなさそうだけど、なんとか生きているみたいね」

 驚いて音のした方を見ると、スーツをボロボロにしながらも二丁のアサルトライフル型の魔法銃を構える明石さんの姿が。

「ボロボロジャネーカ! オ前エニ死ナレルト 御主人ガ面倒クセーカラナ 帰ッタラ鍛エナオシダ!」

 次いで、チャチャゼロが蛇を切り裂き、俺を解放してくれた。

 皆、来てくれたのか!

「そこの少年は私の友人の息子でね。傷つけられては困るんですよ。それに関西呪術協会の長としても貴方の蛮行は目に余ります!」

 近衛詠春……! 彼の来援は心強い。

 詠春が身の丈ほどもある野太刀を振るうと、不可視の斬撃が障壁をすり抜けてバアルの首を飛ばした。

 即座に再生を開始したバアルの頭部に、投擲された十字架を模した黒いレイピアが数本突き刺さりその動きを阻害する。鏡を小脇に抱えた神父は、第二射目の支度を終えている。

 巨体の悪魔ごと周囲一帯が凍り付く。これほどの氷結魔法の使い手は二人といない。エヴァだ‼

 

「ハルカ! 無事か!? 良かった……生きていてくれて……」

 人目もはばからず、エヴァが力いっぱい俺を抱きしめる。

 俺は弱いな。守りたいと思っている相手に助けられて、どうしようもなく安心してしまっている自分が悔しい。

「久しぶりだな、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。君のその反応……ベリトの言った通りその子供が君の――」

 厚い氷の壁を突き破って来たバアルに最後まで言わせず、焔の剣が降り注ぐ。

 この魔法はカリンか!

 

「バアル、貴様……よくも私のハルカに手を出してくれたな!」

 エヴァのそのセリフが開戦の合図となった。

 エヴァ、チャチャゼロ、詠春さん、カリン、明石さん、神父。この六人を相手取り一歩も引かないバアルの強さは、癪ではあるが認めざるを得ない。

 俺に残された力はあと一撃分のみ。見極めろ、確実に攻撃を当てられるその一瞬を。

 そして時は来た。エヴァの氷の茨がバアルを拘束したのだ。チャンスは今しかない!!

 俺は『O.S.両面宿儺乃神』が両手持ちした一本の大太刀にありったけの力を籠めた。刃が虹色に輝く魔力を纏う。

 これは飛騨の民を守るため大和の東征に立ち向かった宿儺の一太刀であり、エヴァを守るためにバアルに抗った俺自身の一太刀でもある。

 共鳴する二つの意思を宿した一振りは、侵略者に対する絶対の斬撃へと昇華する。

東征断刃不退転(とうせいだんぱふたいてん)!」

 俺達は巨体の悪魔諸共、横薙ぎに放った斬撃でバアルを一刀のもとに切り伏せた。

 

 バアルが復活しない。

 逃げたのかとも思ったが、バアルから感じていたプレッシャーと同等の圧を放つ発光体が俺の前に漂っている。

 バアルの魂なのだろうか?

 そしてそれは、あたかも既定路線であるかのように俺の体内へと吸い込まれていった。

 自分の存在が今までとは違う何かに書き換えられた、そして自分の中で眠っていた何かが揺り起こされた感覚が俺を襲う。

 極度の疲労で限界に達していた俺は、その己の身に起きたことの正体も知らぬままに意識を手放した。

 気を失う直前、あのフード姿の『貴族』の声を聴いた気がする

「あばよ、バアル……いや、()()()()()()。本当の名も忘れた()()()()()よ。ククク、さて祭りの始まりだ!」

と。

 

1999年3月11日

 

「お義父さんですか。ええ、木乃香の婿に関して有力な候補が見つかりまして――」

「ちょっと待て、詠春! それはハルカのことじゃないだろうな!? 私は認めんぞ‼」

「西の長、その計画を進めましょう。私も協力するわ」

「お二人とも、詠春様は電話中ですのでお静かに……」

 

 なにやら騒がしい声で目が覚めた。

 朝の陽射しが眩しい。気付けば俺は畳の部屋で寝かされていた。ここは関西呪術協会の総本山か?

 何か聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がするが、きっと思い過ごしだろう。

 この喧噪が日常に帰ってきたことを実感させる。

 結局俺は丸一日眠っていたらしく、起きた時にはもう最終日。

 せっかくの旅行なのに、京都で行きたい場所の半分も回れずに終わってしまった。

 俺が寝ている間に関西呪術協会との接見も終わってしまったようだし、蚊帳の外感が半端ない。

 そういえば、今回の戦いを通じてログハウスの住人が三人増えることになった。

 

 一人はカリン。まぁ、あれだけエヴァを慕っていればそうなるよな。

 ただ、俺達戦友だよな。起きてから感じる視線が妙に痛いんだが……。

 エヴァ、カリンに余計なことを言ってないよな?

 だから、意味深な笑いで誤魔化すなって。

 

 二人目は七尾・セプト・七重楼。ローブを着た長髪のイケメンなんだが、最初見た時は誰? ってなったよ。

 なんでも、元はバアルが作った人工精霊でエヴァ達の足止めの役を担っていたらしい。

 その後、光の精霊である性質を逆手にとられ鏡に封印。なぜか支配権が俺に移っていたらしく、麻帆良へ着いてくることになった。

 これって俺が取り込んじゃった謎の光球がらみの案件だよな。

 原作関係ないとこで、頭痛の種が増えるのはホント、止めてくれ。

 

 最後にリョウメンスクナノカミだ。おれはスクナ様って呼んでいる。あの戦いの後も、気絶した俺を守るように傍にいてくれたらしい。

 今も人魂モードでフヨフヨと俺の周りを浮いている。マスコットキャラにしては、いささか以上に威厳があり過ぎるけど、ネギにとってのカモミールしかり、相棒枠はお約束だよな。

 それにしても、あの土壇場での『O.S.』はかなりの賭けだった。

 何せ俺はせっかくスクナ様の助力を得られたのに、本体の封印を解く術を知らなかったのだ。

 霊体では戦えないので、なんとかしてスクナ様に実体を与えようとして思いついたのが、漫画「SHAMAN KING」の知識を利用した『闇の魔法(マギア・エレベア)』の応用だ。

 俺達の魔法は魔力を対価に精霊の力を借りて発動している。そして「SHAMAN KING」では霊の力を借りて戦っているんだが、その作品中の技術に『憑依合体』というものがある。

 これは霊を自分の体に憑依させることで、その力を扱えるようになるというものだ。そう、体内に取り込んだ魔法の力を行使できる「闇の魔法」とよく似ている。

 そこで考えたわけだ。ならば何らかの媒介を用意して、スクナ様の霊体を『闇の魔法』における『固定(スタグネット)』の状態にして、それに突っ込めば『O.S.』が再現できるのではないかと。

 試しに『固定』してみたら、スクナ様は人魂モードになったから、これはいけると思ったよ。

 古来より穢れを祓う神聖なものとされていた水は、スクナ様の媒介としては有効だし、幸い酸素を媒介にして『O.S.』を作り出しているキャラはいたから、気体を媒介にできることは知っていた。

 今振り返れば、案外分の悪い賭けではなかったのかもしれないな。

  

 なんにせよ、俺が今生きていられるのもスクナ様のおかげだ。これから宜しく頼むな、相棒!

「ああ、ハルカ君」

 何か用だろうか?

「リョウメンスクナノカミを連れていかれては困るのです。この地の重要な守り神であらせられるので」

 

 ……嘘だと言ってよ、詠春……。

 




私としても予想外なバアルの退場。

当初は原作組と一緒にヨルダの討伐+オリ主チームでバアルの討滅の二つを話の軸にしようと思いましたが、バアルのキャラが掴めなさすぎてこのような運びになりました。

力は作中でも最強クラスなのに、おまそれ発言から急に小物化したり、「きゅう」とか言っちゃったり、ボスからギャグまでこなせる役どころが多すぎて、未だ私にはバアルを扱いこなせるだけの実力がありませんので。

おかげで、タグを増やす羽目になりました。

ああ、インフレが加速していく。

修正箇所
ver.1.2:オリ主が『o.s.』を使えた理由に関する記述を3月11日の日記部分に追記


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オリ主日記(10) ver.1.2

高評価並びに感想、お気に入り登録有難うございます。モチベーションに繋がっています。

誤字報告をしてくださった方、ありがとうございます。大変助かっています。


1999年3月13日

 

 結局、リョウメンスクナノカミを連れて帰ることはできなかった。

 ただ、別れ際にスクナ様は餞別を残してくれたんだが……それも含めて俺の身に起こったことを検証したいという思いはある。だが、一先ずは後回しだ。

 

 先日、山中で行われた死闘の詳細はカリンからエヴァに報告されていたらしく、帰省する前に詠春さん達も交えて俺の生い立ちについて教えられた。

「本当は、お前が一人前になってから話す予定だったのだが……」

 少し歯切れが悪く切り出したエヴァの口調から悔しさが滲んでいるのが分かる。本来ならどのようなシチュエーションでエヴァは俺に真実を語ろうとしていたのか。潰えてしまった未来を思えば、あのゴルゴンゾーラとかいう俗物により怒りを掻き立てられた。

 

 内容としては転生者である俺にとって既知の事柄ではあったのだが、この場にいる誰もがそのことを知らない。

 ゴルゴンゾーラとの会話や普通に生活する上で知ることができる事とそれ以外の情報を、頭の中で整理しながら破綻のないようリアクションをとるのは大分疲れた。

 下手を打って前世の記憶を持っていることがバレたら一大事だからな。戦いとはまた別種の緊張を感じたよ。

 

 一部の権力者に大戦の黒幕・「完全なる世界」の首魁という濡れ衣を着せられ、民のために「災厄の魔女」の汚名を受け入れた母、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア。

 知識としては知っていたソレではあるが、母を知る人物から聞かされると、前世で漫画を読んだ時とは違った感じ方がする。

 詠春さんの口調や語感から隠し切れない憤りや悔恨の念が感じられる。その生々しい感情の吐露が、当時を生きた人の思いを俺に教えてくれた。

 

 エヴァを守れるような男になること。これが俺の第一目標であることは変わらない。ただ、母の汚名を雪ぐことも俺の人生における大きな命題として加わった。

 初めは何とか母を助けて、父と幸せな生活を送って欲しいとだけ思っていた。

 でもそれだけじゃダメなんだ。母の名誉を回復しないかぎり、大戦の後始末を母に任せることしかできなかった男達の無念は晴れない。

 「英雄の息子」としての役割をネギが担うのならば、「災禍の落とし子」である俺が負うべき責任とはなにか。今回の一件で方向性が少し見えた気がする。

 

「麻帆良の闇についても、少年に聞かせるべきではないかね」

 話に一段落ついたところで、神父が不意に口を挟んだ。

 エヴァだけじゃなく、明石さんや詠春さんも身を乗り出して反対している。

 チャチャゼロだけ楽しそうにしている点が引っ掛かるが、麻帆良の闇とは一体何だ?

「真実とは劇薬だ。その一端でも垣間見れば、人間は全てを求めずにはいられない。この少年は聡い。いずれ自身で麻帆良の抱える違和感に気づくだろう。その時、闇雲に動かれるよりこの場で話しておいた方が良い」

 

 麻帆良の闇? 

 二次創作によくある、認識阻害の結界を利用した一般人を盾にしているというやつなのか? そうだとは思いたくないが……。

「五歳の子供に聞かせる内容ではないと私は思うのですが――」

 神父の言葉にどこか納得した様子のエヴァとは異なり、なおも食い下がる詠春さんを

「それは先ほどの話も同じこと、ならば重要なのは少年がどう思うかでしかあるまい」

と神父が切って捨てる。押し黙る詠春さんから視線を外し、神父は俺と目を合わせて問う。

「知りたいかね」

と。

 俺はすかさず頷いた。

 説明役を買って出た明石さんを遮り、神父は言う。

「君達では話しづらかろう。ここは私にまかせたまえ」

 彼の口から語られたのは、俺の予想とは全く異なるものだった。

 

1999年3月14日

 

 ノックをして学園長室に入る。あの日、神父から聞かされた「麻帆良の闇」について……。

 昨日日記に綴ったことで、自分の中である程度考えを纏めることができた。

 だが、腑に落ちない点もいくつかある。それを明らかにするために爺さんにアポをとっておいたのだ。

 

「麻帆良が関西呪術協会を使ってMM元老院から送りこまれた間諜を消しているというのは本当か?」

 爺さんは普段は長く伸ばされた眉に隠された瞳、権力者達の欲望渦巻く伏魔殿を渡り歩いてきた者の瞳を見せ、肯定した。

 麻帆良学園都市はMM元老院の下部組織に位置しているが、地球(旧世界)にあることから自治が認められており、詠春さん曰く爺さんが学園長になってからは独立の気風が強いという。

 また、俺やエヴァの件然りMM元老院の思惑を無視して動くことも少なくない。当然ながらMM元老院の中には麻帆良に不審を抱くもの達がいる。

 

 彼等は定期的に間諜(スパイ)を麻帆良に放ち探りをいれてくる。麻帆良が用意した見せ札の情報を持ち帰る分には構わない。

 しかし、極秘指定の機密を知られた場合、関西呪術協会による麻帆良襲撃が起こり不幸な事故として間諜は処理される。

 麻帆良はその見返りとして、地球では手に入らない魔法世界由来の呪術媒体を提供している……。

 今回、俺達が京都に向かった裏の目的がコレだ。あの神父が関西呪術協会から派遣された暗殺者で、見返りが俺を囮にした造反組の粛清だったらしい。

 余談だが、天ヶ崎千草はエヴァに襲い掛かり、あっけなく氷漬けにされ独房送りになったとか。六巻内容終わったな。

 

 それにしても、二次創作ではお約束の関西呪術協会からの襲撃が出来レースだったとはな。

 不謹慎とは自覚しつつも、麻帆良に侵入した格上の術者と遭遇、死闘の末に覚醒して勝利という展開に憧れがあっただけに複雑な気分だ。

 

 この話を聞いて疑問に思ったのが、外部から暗殺者を雇ってはいけなかったのかということと、間諜の殉職理由が毎回関西呪術協会からの襲撃では怪しまれないのかということ。

 事実の確認は終わった。いよいよ本題に入らせてもらおう。

 

「実は前に一度、魔法使い専門の暗殺者に依頼したことはあったのじゃ。しかしの……」

 苦虫を嚙み潰したような顔をしているな。失敗でもしたのか?

「実行手段がの。ゲートがあるイギリスへの移動中に、間諜が乗った旅客機ごと爆破するというものだったんじゃ。無関係な命を巻き込んでしまったわい」

 爺さんが頭を抱えている。なるほど、この一件がトラウマとなり外部への依頼は控えているのか。

 旅客機ごと爆破……確かに、ターゲットを分からなくして麻帆良に疑いを向けずに間諜を始末するには有効な手立てだが、いくらなんでも犠牲が大きすぎる。

 しかし、まだ分からないな。暗殺に関西呪術協会を使う理由は何だ? 自分の古巣というだけではないはずだ。

 

「うむ、それはのMM元老院(うえ)の連中にとって、関西呪術協会が麻帆良を襲撃することは当たり前のようなものなんじゃよ」

 爺さんの話をまとめるとこうだ。

 大戦の前までは関西呪術協会と麻帆良は戦争状態にあり、関西呪術協会が攻め寄せた際には、双方共に多くの死傷者を出していたらしい。

 当時の関西呪術協会が麻帆良を攻撃の標的とした理由。それはズバリ麻帆良の地下にある魔法世界へと繋がるゲートの破壊だ。

 大戦によって魔法世界の都市オスティアが崩壊したことで、現在では閉鎖されているゲートの存在。それが魔法世界人の侵攻から日本を守ることを使命としていた関西呪術協会には許せなかった。

 その時期の関西呪術協会首脳部が太平洋戦争を経験していたメンバーであったことも、攻勢を激しくさせた一因となったのであろう。

 MM元老院達にはこの時のイメージが強烈に刻まれている。だから、爺さんが上げた「神木・蟠桃」を奪取するために関西呪術協会が定期的に襲撃してくるという、偽の報告で殉職者が出ても違和感を持つことはないのだという。

 

「ハルカ君、儂を軽蔑したかの?」

 部屋を出る間際に、爺さんから声をかけられた。いつもの飄々とした声音とは違った、弱弱しさを感じるトーンだ。

 確かに、現代日本の倫理感からすれば、どの様な理由があれど人の命を奪うことは許されない行為だろう。

 しかし、俺を取り巻く世界は「魔法」という常識では語れないもので構成されており、爺さんの決断があったからこそ、今の俺の暮らしがある。そう考えると、不思議と嫌悪感は湧いてこない。

 それに、俺はもう好々爺としての爺さんとそれなりに関係を築いてきたからな、今更冷酷な人間と見る事はできない。

 

 あの神父にしたってそうだ。彼は今回、麻帆良に送りこまれた間諜を殺したが、俺と京都で過ごした時は決して非道なだけの男ではなかった。

 麻帆良の闇のことで俺を気にかけてくれた理由を問うた時に、彼はこう答えた。

「私はこれでも君の父親には感謝していてね。あの男がいたからこそ、破綻者は破綻者なりに家庭を持って暮らしていられる。今回はその借りを返したに過ぎない」

 破綻者の意味するところは分からないが、筋は通そうとする人物であったし、奥さんのクラウディアさん? だっけか。時折、電話越しで彼女や娘さんと話している姿は、どこにでもいる父親のようにも見えた。

 

 総じて俺は仲良くなった人や身内に甘いのかもしれないな。甘さと優しさは違う。使い古された言葉だが、俺は案外甘さも悪くないものだと思っている。

 なんせ、元六百万$の賞金首を幸せにしようっていうんだ、そのくらいの甘さは必要だろう。

「軽蔑なんてしないさ。自分の生まれを知った今だからこそわかる、爺さんが俺を守るために色んな苦労をしてきてくれたんだって。だから、軽蔑なんてしない。俺、さ。まだまだ、エヴァに囲碁で全然かなわないんだ。だから、また教えにきてくれよ」

 そう言い残して閉めた扉越し、僅かに嗚咽が聞こえてきたのに気付かないフリをして、俺はその場から立ち去った。

 

1999年4月5日

 

 今日は入学式。憂鬱な二度目の小学生ライフが幕を開ける。

 保護者席には雪姫状態のエヴァとカリン。そして七尾セプ子が座っているのが見える。そう七尾セプ子である。セプ子。七尾・セプト・七重楼と名乗った青年は、麻帆良に着いたら、性別が女に変わっていた。

 つまりどういうことだってばよ? と疑問符を浮かべる俺にエヴァは、光の精霊である七尾・セプト・七重楼には元来決まった性別がなく、男女どちらにもなれるのだと教えてくれた。今では慣れたが最初見た時は、開いた口が塞がらなかったよ。

 エヴァはどうやら原作の舞台となった麻帆良学園女子中等部で教鞭をとるらしく、そっちの入学式はまた別の日だ。

 

 式の最中はこれから同級生となる子供達が足を揺らしたり、明後日の方向を向いたりと落ち着きがなかったな。姿勢を正している俺の方がむしろ浮いていた。

 それに、初等部では男女共学みたいだ。

 今は最初のホームルームの最中で、担任の明石先生がこれから学校生活を送る上での注意点などを話しているのだが、どいつもこいつも碌に聞いちゃいない。

 こいつらを見ていると、ガキの頃の自分もこうだったのかなと思い、妙に気恥ずかしくなる。コナン君はよくこんな環境に耐えられるな。

 

「みなさんが一日でも早く、この学校で楽しく生活できるよう。一年間、五年生のお兄さんお姉さんがペアになって色々なことを教えてくれます」

 そういや、あったな上級生とのペア制度。精神年齢は俺のが上だから正直面倒なだけなんだが……ん? そういや五年生って言ったよな。普通は六年生がやるもんじゃないのか?

「それでは、これから五年生のお兄さんお姉さんが入ってきてくれるから、みんな元気に挨拶できるかな?」

 少し考え事をしていた俺は突然の

「はーい!」

の大合唱にビクッとなってしまった。教室のドアが開き、子供達が続々と入ってくる。そのうちの一人、長い黒髪をした成長したら和風美人になりそうな女の子が俺の前にやって来た。

「ウチは近衛木乃香いうんよ。ハルカ君の話はおじいちゃんからよく聞かされとるよ。これからよろしくな~」

「こちらこそ、よろしく」

 彼女が差し出した手を握り返しながら答える。ここで、原作キャラとエンカウントするとは。

「でも不思議やね」

 不思議とは、何が?

「去年までは一年生とペアになるんは、六年生やってんけど。今年から急にウチらの学年になったんよ」

 それはいったい何故?

「なんや六年生は中等部へ進学するから、勉強する時間を確保させてほしいいう署名がおじいちゃんに届いたらしいえ」

 なるほど、理解したわ。俺の入学が早まった本当の理由はこっちか。

 




 ちょっとしたクロス要素として登場させた神父が、書き手の意思を無視して本編に絡んできて変な笑いがおきました。

修正箇所
ver.1.2:一年の面倒を見るペアが六年から五年になった理由を追記


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オリ主日記(11)

高評価、並びに感想、お気に入り登録ありがとうございます。執筆の励みになっています。

誤字報告くださった方、毎回助かっております。ありがとうございました。

前話の感想でいただいた年号のズレに関しましては、修正の方向性が決まったので該当記述をGWを目途に追記する予定です。






1999年4月6日

 

 小学校に進級したことだし、エヴァに以前貰った個室のベッドを利用したいと申し出ることにした。

 母や麻帆良の裏事情を知って以来、爺さんは俺にも情報を提供してくれるようになった。そのため、盗み聞きはもう必要ない。

それに、最近はエヴァが雪姫の格好のまま寝る時に密着してくるのだ。

 寝室に入る度にカリンが向けてくる視線もウザったい。だがそれ以上に京都で雪姫の姿を見た時、俺が赤面したのに味をしめたのか、エヴァのスキンシップが最近過激になってきている。

ワザと挑発するような所作の数々に俺の理性はボロボロだ。

 

 そんな訳で別々のベッドで寝ることを提案したんだけど

「なんだハルカ、カリンと一緒に寝たいのか?」

エヴァの予想外の返しに俺は言葉を失った。

 カリンを見れば、体を両手で抱きしめるように隠している。なんか若干顔を赤らめて俺を睨んでるんですけど、やめてもらえませんかね。どんな想像したんだよ。

 セプ子が今あの部屋はカリンが使っていると耳打ちしてくれた。確かに修行漬けで別荘と書庫の往復ばかりしていたけど、よもや自室を失っていたとは……?

 

 あっヤッベ、エヴァが玩具を貰った子供みたいな笑みを浮かべている。アイツがあの笑い方をした場合、高確率でヒドイ目に遭うんだよ。

 えっ? 何やってんの⁉ 雪姫状態のエヴァが不意にワイシャツのボタンを緩め、その肢体を惜しげもなく俺に見せつけてきた。早く隠せよ! カリンがガン見してんぞ!

 じわじわと近づいてくるエヴァから捕食者のオーラを感じ、一歩、また一歩俺も後ずさる。

 コツンと背中に硬いものがぶつかった……クッ、壁際に追い詰められたか。

 エヴァは俺の鎖骨の間から顎までのラインを指で撫で上げて、顔をクイっと上に向かせる。無理やり合わせられた視線の先で、エヴァの瞳は官能的な光を放っていた。

「そうかそうか、ハルカも色を知る年齢になったか。でだ。本当のところ、どの私が一番好みなんだ?」

 いや、どのって言われても全部なんですけど……

「この姿か?」

 エヴァはそう言うと、俺を抱き寄せて豊満な乳房へと沈みこませる。

「それとも、このくらいがいいのか?」

女子高生くらいの体形に年齢詐称魔法で変化したエヴァは、側面に回り込み、しな垂れかかりながら俺の腕をガッチリ挟んで、敢えて耳元に吐息がかかるように囁く。

「フフ、実はこの姿にそそられているんじゃないのか?」

 最後は元の十歳程の少女の姿で、背後からホールド。そのまま首筋に牙を立てて、吸血してきた。

「さぁ、答えを聞かせてもらおうか」

 再び前面からエヴァが真っ直ぐこちらを見つめてくる。血に濡れた唇を舌でなぞる仕草が艶っぽい……いや、そうじゃない。どうする? なんて答えてもドツボにはまる気がするぞ。

 

 誰か助けを! だめだ。セプ子はのほほんとしているだけだし、カリンはトリップ中、チャチャゼロは

「悪ッテヨリ、タダノイジメッコダナ御主人」

完全に楽しんでやがるな。クソッ、誰も頼りにならない。こんな時、タカミチがいてくれたなら。

 仕方がない。こうなったら三十六計逃げるに如かず、戦略的撤退だ!

「これで勝ったと思うなよ!」

 無駄に高度な歩法を駆使して、俺は脱兎の如くログハウスから逃げ出した。今夜は爺さんに匿ってもらおう。

 

……無理でした……

 

1999年4月11日

 

 エヴァの別荘で何もない空間に向かって手を翳す。すると光の刃が何本も同時に出現した、効果範囲内に敵がいれば木っ端微塵に切り刻まれてたことだろう。

 これが京都でバアルと名乗った『貴族』が使っていた謎の斬撃の正体だ。この技は、そうだな「空間殺法」とでも名付けよう。

 どうやらセプ子の言っていた

「ハルカ様の中にはバアル様の力が宿っておられます」

というのは本当のようだ。

 あの時俺の中に入って来た光の玉…… あれがバアルの力とみて間違いないだろう。なぜ不死身のはずの『吸血鬼の真祖』であるバアルが復活しなかったのか? なぜ俺はバアルの力を吸収することができたのか? 疑問は尽きないが、幸い俺の体は未だ普通の人間のままだ。その証拠に指を少し切ってみても超回復はしなかった。

 

 だが、全く変わった所がない訳ではない。俺の得意魔法は親父由来の雷と風だが、バアルの力を吸収して以来、光の魔法も完璧と言っていいほどに使いこなせるようになっていた。

 光魔法といえばカリンも体に光を纏って戦っていたので、教えを請おうと思ったのだが、彼女の魔法は「神聖魔法」という某一神教に由来する人々の祈りの力で、全くの別物らしく参考にはならなかった。

 

 「咸卦の気」の性質変化にも異変が見られた。「咸卦の気」は「NARUTO」に出てくる「チャクラ」とよく似ているのだが、これも「チャクラ」と同様に火・風・雷・土・水の性質に変化させることが出来る。

もっとも、俺は風と雷にしか「咸卦の気」を変換出来ないため、他の属性に関しては前世の知識からの推測でしかないがな。

 例えば京都で使った「水遁・水龍弾の術」の場合、「咸卦の気」を水に性質変化できない俺は大量の水がある場所でしか使えないという制限がある。

 性質変化できる特性は遺伝によって決まっているのだが、バアルの力を取り込んでからというもの、「咸卦の気」を本家には存在しないはずの光に変換できるようになっていたのだ。

 一体俺の体に何が起きている? 原理も詳細も分からないことに不安は募るが、分からないことをいつまでも考えていても仕方がない。取りあえずは、いずれ来る造物主と戦うためのギフトだとでも思っておこう。

 

 このバアルの力の他に俺の頭を悩ませているのが、リョウメンスクナノカミの置き土産だ。

 スクナ様は

「我の力の一端を小僧にくれてやる。器はあるのだ、再び相まみえる時までに使いこなしてみせろ」

と言って、俺の体に勝手に憑依した後、妙な感覚だけを残して湖の祭壇へと帰ってしまった。

 神様の考えることは、人間には計りかねる。

 

1999年4月15日

 

 スクナ様が残した力の正体が皆目見当もつかない。自分の中にどれだけ手を伸ばしても届かない不可思議な領域が存在しているような奇妙な感じだ。

 もしかして気と魔力を消費し尽くしたら、使えるようになるんじゃないかと思い、術を乱発しても徒に疲れただけだった。

 苛立ちが募っているのがバレていたのかエヴァから

「何を焦っているのか知らんが、少し頭を冷やせ」

と新技の開発がてら、氷の茨で小一時間その場に縫い付けられてしまった。

 

 不思議なことに、茨に絡めとられ身動きできずにいると、俺の中にあるスクナ様の残滓に徐々にではあるがピントが合っていくような気がする。

 力の輪郭は何となく見えてきているのだが、薄ぼんやりとしていて焦点が合わない。

 それでも、着実にスクナ様の力の鼓動は強くなっていく。

 結局この現象の正体を掴む前にエヴァの術が解け、体を動かした途端に力の感覚も霧散してしまった。

 あれはいったい……

 

1999年4月17日

 

 俺は今、エヴァの別荘で座禅を組んで瞑想をしている。

 先日の一件で、スクナ様が俺に託したのは動かないことで知覚できる力なのではないか、という仮説が生まれた。

 エヴァの書庫を漁ってみても、それに関する資料を見つけることはできなかった。ならば、転生者らしく試していくしかない。

 前世の記憶の中でその条件を満たすもの。それは「NARUTO」にでてくる「自然エネルギー」である。

 これは文字通り自然界に存在している、個人が保有するものとは比べ物にならない力なわけだが、体内に取り込むには自然と一体になるために微動だにしてはいけないという制約がある。

 そのため茨に拘束され見動きがとれなくなった時に、感じ取れたのではないかと考えたのだ。

 

 あの力の正体が「自然エネルギー」ではないかと意識してみると、スクナ様から託された力を核として、外部から微弱ながらエネルギーが流入しているのが分かる。どうやら、俺の仮説は間違っていなかったようだ。

 思えば、日本の神々は自然崇拝とセットになっている事例も少なくない。リョウメンスクナノカミが「日本書紀」の記述では「人」となっているのに、鬼神として顕現したのは農耕を指導した自然神として人々から祀られ、彼等の畏怖や祈りが形となった結果なのだろう。

 本来、「自然エネルギー」を感じ取れるようになるには相応の修行を要する。スクナ様は自身が信仰の対象となることで手にした「自然エネルギー」の一部を俺に与えることで、その過程を一足飛びにしたのだ。

 

 作中で主人公は「精神エネルギー」と「身体エネルギー」によって「チャクラ」を練り、そこに「自然エネルギー」を取り込むことで「仙術チャクラ」を生み出していた。「仙術チャクラ」を使用すると「仙人モード」と呼ばれる形態に変化して、「忍術」ではなく「仙術」が使用可能になり、すべての能力が大幅に強化される。

 俺に当てはめると「咸卦法」にこの「自然エネルギー」を合わせられれば、理論上「仙人モード」を使えるようになる。これを習得できれば劇的に強くなれるはずだ。

 

 「仙術チャクラ」は「気」・「魔力」・「自然エネルギー」を均一の配分で練らなければ発動できない。今のままでは「気」と「魔力」に対して取り込める「自然エネルギー」の量が少なすぎる。

 瞑想しながら思い出すのは、スカカードを生み出した際に到達した自然と一体になる感覚。あの時のように煩悩を捨て去り、「俺」と「世界」の境界を希薄にして、自然に溶けていく。

 するとどうだろう。大気に満ちた命の息吹が怒涛の勢いで俺に流れ込んできた。

 あれ? 力の量が多すぎないか⁉ いけない、制御がきかな――

 

1999年5月1日

 

 やっと謹慎が解けた。記憶がないとはいえ、あれだけ別荘を壊してしまったのだから仕方がないと理解しているのだが、二週間の修行禁止は酷くないか?

 それにしても、随分と久しぶりに叱られたな。もちろん自分の軽率な行動は反省している。それでも前世ではそれなりに大人をやっていたから、ああいった経験は新鮮だった。

 「自然エネルギー」は取り込む量が少なすぎれば「仙術チャクラ」を練ることができず、逆に多すぎると、動物に体が変化し、最悪の場合は石になってしまう。

 「NARUTO」では蝦蟇から仙術を教わっていて、「自然エネルギー」を吸収しすぎるとカエル化している描写があったが、鬼神であるスクナ様由来の力で暴走した俺はどんな姿になっていたのだろうか?

 不幸中の幸いで、別荘は外部から切り離された空間であった。そのため、流れ込んできた「自然エネルギー」の総量にも限度があり、エヴァ達との戦闘で発散できたようだ。

 怪我の功名ではないが、この謹慎期間にも意味はあったと思う。カリンやセプ子と言葉を交わす機会が増えたのだ。なんだかんだこれから一緒に暮らしていくんだ、相互理解を深めるのも必要だろう。

 

 本来であれば今日から修行再開といきたいところだが、木乃香に麻帆良を案内してもらう約束をしてるんだよなぁ。

 修行を禁止され暇を持て余していた俺は、学園長室に入り浸って爺さんと囲碁の対局をしていた。

 無遠慮に居座るのも悪いかと思ったのだが、木乃香から

「おじいちゃんからお茶にしよて誘われたんやけど、ハルカ君もこーへん? なんや珍しいお菓子もあるみたいやて」

と言われれば、わざわざ下級生の教室まで来てくれたのに無下にすることも出来ない。

 今回の約束も一緒にテーブルを囲んでいる時に、爺さんの発案から結ばれたものだ。あれ? ひょっとして俺、上手いこと乗せられている?

 

 別にデートという訳ではないが、今日の服装はかなり洒落ている。カリンがやたら乗り気でコーディネートしてきた理由には気付かないフリをしておこう。

 とはいえ木乃香のことは嫌いじゃない、むしろ好ましいとさえ思っている。この歳にして家事スキルは完璧だし、面倒見のいい彼女が、何かと俺の世話を焼こうとするのも微笑ましい。

 もっとも俺は保護者目線だし、木乃香は木乃香で俺を弟みたいに捉えているようだから、爺さんやカリンの望む展開にはならないだろう。

 

 時計を見れば約束の時間まであと十五分くらいはある。紳士の嗜みとして早めに来て、落ち合う予定の場所で待っていると

「あれ? ハルカ君早いんやね。待たせてもうたん?」

どうやら木乃香が来たようだ。

 ここは

「いや、俺も今来たところだ」

と返しておくのが鉄板だろう。

「えへへ。今日はお洒落して来たんよ。なぁなぁ、この服どうや? 似合うてる?」

 白いワンピースのスカートは端を摘み、クルリと一回転する姿は大変可愛らしい。素直に感想を伝えると、木乃香は喜んでくれた。

 

 木乃香に麻帆良を案内されるなかで、原作で見た場所をチラホラ発見した。気分は聖地巡礼しているヲタクのソレだな。

 今は高台のベンチで、木乃香が作ってきてくれた弁当を昼食にしている。ふと視線を巡らせると、そこには広大な麻帆良の風景が広がっていた。

 なんというか本当に広いよな麻帆良学園。とても一日では回りきれない。これなら「散歩部」なんて部活があるのも頷ける。

 そういえば、午前中に見て回った限りでは「超包子」を見つけることは出来なかった。やはり超鈴音はこの時代にまだ来ていないようだ。

 考えてみれば、彼女が現れたなら自らエヴァに接触しようとする筈だ。気長に待つしかないな。

 考え事をしていたからだろうか

「ハルカ君かわええわ。ほっぺにお弁当ついとるよ。景色に見とれんもええけど、食べる時はちゃんと食べるものを見なあかんよ」

 

木乃香に頬についてた米粒を指で掬われてしまった。彼女はそれをそのまま食べて、ご満悦の様子。

 あまり子供らしいところは見せなかったからな。「お姉ちゃん」として振舞えたのが嬉しいのだろう。

 アニメなどではよく見たシーンだが、いざ自身にされると殊の外恥ずかしいものだな。

 

 食後は休憩がてら、そのままベンチで会話していたのだが、木乃香は一人の少女が通りかかったのを見つけると

「千雨ちゃんやん。こんな所で偶然やね」

と人懐っこい笑顔で話しかけた。

 少し面倒そうにしながらも、律儀に受け答えしている少女の名は長谷川千雨。彼女も原作に登場していた人物だ。オレンジ色の長い髪を三つ編みにして二房に分けている。この世界の人って髪色がカラフルだよな。

思わぬ主要人物との遭遇には驚いたが、確かに今いるのは小等部の生活圏内だから、彼女がいても何ら不思議はないな。

 あの髪型は学園祭編でもしていたな。それにこの頃は、まだ眼鏡をつけてなかったんだなぁ、なんて二人を見ながら思っていると、千雨が俺の姿をその視界に収めた途端、一瞬フリーズ。再起動した彼女は血相を変えてこちらに詰め寄ってきた。

ガシっと肩を掴まれる。鍛えているから痛みはないが、掴まれた部分が皺となっており、かなり強い力で握っているのがうかがえた。

「お前……やっぱり夢に出てきた……」

 彼女の表情にあるのは焦燥感。一目惚れみたいなピンク色の展開でないことは一目瞭然だ。それにしても夢? なんの話をしているんだ?

「お前が私に何かしたのか!? お前も『魔法使い』って奴の仲間なんだろ⁉ なぁ!!」

 ドキリとした。何故ここで「魔法使い」の単語が出てくる⁉ ここには木乃香もいるのに――

 俺の知らないところでバタフライエフェクトの余波が生まれたのか? とにかく詳しい話を聞かなければ。

「落ち着け」

 ダメか。余程切羽詰まっているのか俺の言葉が届いていない。心配して声をかける木乃香も眼中にない様子だ。

 マズいな。あまりの剣幕に人が集まってきた。目立つのは避けたいんだが……

 

「何の騒ぎだコレは。この場は私が収める、お前達は下がっていろ!」

 助かった。雪姫状態のエヴァが野次馬共を散らせてくれた。これで少しはマシな状況になる。

「雪姫先生、よかったぁ」

 木乃香の少しホッとしたみたいだ。そりゃ、同級生が突然ああなったら不安になるよな。こういう時は子供の姿がもどかしい。

「先生? コイツがか?」

 肩を握る力が弱まった。千雨がエヴァを見て呆然としている。

「コイツとは随分な挨拶だな小娘」

「小娘って、あんたも私と大して変わんねー歳じゃんかよ!」

 この返しには、流石のエヴァも面食らっている。

 ん? エヴァの姿を改めて眺める。やはり何もおかしなところはない。幻術は解けておらず大人・雪姫の見た目だ。

「なにゆうとるの千雨ちゃん? 雪姫先生は大人の女やよ」

「よく見ろ近衛! どこからどう見ても、私ら位のガキじゃんか‼」

 必死な貌で雪姫を指さす千雨とは裏腹に、木乃香は言葉の意味するところが分からず只々困惑している。

 木乃香の様子に千雨は力なく項垂れ、そのまま座り込み泣き出してしまった。

「チクショウ。どうなってやがんだよ……もうやだ、こんな場所……」

 

 どう収拾つけんだ? これ……

 




「ネギま!」ssの鉄板ネタである千雨魔改造、当作でも始動です。

もう持たせるアーティファクトも決めているので、早く登場するシーンまで書きたいですね。



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オリ主日記(12)

高評価及び、感想・お気に入り登録ありがとうございます。
また、誤字報告して頂きとても助かっております。ありがとうございました。

以前指摘されていた。ハルカの入学年が一年早まっている理由を追記しました。読み直してもらうのも酷なので簡単にここに記したいと思います。
六年は来年中等部に上がるため、学問に専念させたいという署名が届く。学園長はそれを了承するも、木乃香とオリ主をペアに出来ないことに気付き、別荘で修行していることを理由にに入学時期を繰り上げた。

なお、本話もオリ設定だらけなので、ご注意ください。


1999年5月2日

 

 俺は今、図書館島の地下最深部、父の旧友であるアルビレオ・イマの居住区へと来ている。

エヴァと千雨も一緒だ。

 ダンジョンと化している図書館島の地下部分は千雨には危険なため、彼女を守るために抱きかかえて移動していたのだが、その時に聞こえた

「落ち着け私。コイツはアイツじゃないし私は私だ。これはあの女の気持ちであって私のじゃない。だから大丈夫」

という言葉の意味はなんだったんだろう。妙に顔も赤かったし。

 

 昨日は錯乱する千雨をエヴァが魔法で眠らせた後、爺さんにアポを取りタカミチを呼び出した。クラスメイトを心配する木乃香をタカミチに頼んで、俺とエヴァは眠ったままの千雨を背負って学園長室へ移動することに。

 千雨の様子を聞いた爺さんは、ガタっと机に手をついてえらく驚いていたな。

「なぬ! 認識阻害が効いておらんじゃと!?」

あの反応、千雨はやはりイレギュラーか。というかホントにあったんだな認識阻害の結界。

 

 改めてだが、麻帆良学園都市には二種類の結界が張られている。

 一つ目は対魔結界。エヴァのような魔に連なるモノの力を抑え込むもので、魔力と電力を用いたハイブリッド形式で運用されている。これは原作でも明言されていた。

 もう一つが認識阻害の結界だ。前世において「ネギま!」ファンの間でまことしやかに囁かれてはいたのだが、爺さんの話から実際に存在していることが判明した。

 これは簡単に言えば、効果範囲内では異常を異常と感じられなくなる魔法だ。

 

 麻帆良学園の設立コンセプトの一つが魔法と科学、二つの異なる分野を融合させた新たな技術の開発であるそうだ。そのため、麻帆良では現代科学ではオーバーテクノロジーとしか言えないようなシロモノが日々開発されている。

 もしこれが衆目にさらされるようなことになれば、世界は産業革命なんて目じゃない程の衝撃に見舞われるだろう。

 さらに、麻帆良には忍者や魔法使いといった一般常識からかけ離れた人物が沢山暮らしている。彼等の存在が公になれば、世間がその排斥に動くことは想像に難くない。

 そのため麻帆良の敷地内でどれほど非日常的なものを目にしようとも、スゴイの一言でかたづけるか、各個人の常識に当てはめて処理するように脳に働きかける魔法結界が麻帆良を覆っているのだ。

 樹高270メートルを超える世界樹がマスメディアなどに認知されていないのもこのためである。

 

 麻帆良学園内の至る所に認識阻害魔法の術式が刻まれており、世界樹の魔力を利用して効果を増幅し、学園全体を影響下においている。魔法先生の校内巡回は不審者の発見以上に、この術式に異常がないかを確認するのが主目的なのだそうだ。

 ちなみに、この認識阻害魔法には日進月歩改良が加えられており、現在は人々の認知に干渉することで、学園側が秘匿したい情報にだけピンポイントに効果が働くのだとか。一色理論だとか認知訶学だとか言っていたけど、メメントスとかないよな。

 

 でだ、結局爺さんにも千雨が認識阻害をレジストしている原因は分からないらしい。千雨個人は説得すれば魔法の隠匿に協力してくれるかもしれないが、なぜレジストできたのかを解明できなければ今後の結界の運用にも支障をきたす。

 いくつか仮説を立てては、ああでもない、こうでもないと頭を抱えていた俺達の前に、投影されたホログラムのように、胡散臭い白ローブの変態イケメン、アルビレオ・イマが突如現れた。

 彼は千雨の症状の原因に心当たりがあることと、知りたければ翌日指定した場所に訪れるようにと一方的に宣言して消えてしまったのだ。

 その後は目が覚めて少し冷静になった千雨に、彼女が感じている違和感には理由があること。それを日を改めてちゃんと教えることを約束して解散した。

 以上がこれまでの経緯である。

 

「まさか貴様がこんな所で油を売っているとはな、お前のことも散々探していたのだぞ!」

 エヴァがアルビレオを詰問している。原作を知っている俺としては後の展開が読めているだけに止めたかったんだがな。

 予想通り彼はエヴァの質問をのらりくらりと躱している。しまいには「えう゛あ」と書かれたワッペンをつけたスクール水着まで持ち出す始末。

「千雨さんに関する情報をお話してもいいのですが、その代わりあなたにはこれを着てもらいましょうか」

「待てぃ! 何だソレは!!」

 アルビレオさんはエヴァをからかって遊んでいる。普段は俺を振り回すエヴァとは違う彼女の一面を見られたのは得だが、その表情を引き出したのが俺ではないことに少しだけモヤモヤする。

 嫉妬しているのか俺は? 今からこれでは親父が復活した時が思いやられるな。

 

「ほらハルカ君もキティのスクール水着姿を見たがっていますよ」

「だから貴様! その呼び方は止めろと何度言わせ――何? それは本当か!?」 

 オイ、ふざけんな変態男。俺まで巻き込むんじゃねーよ。俺にそんな歪んだ嗜好はない! たぶんだけど。よって答えは「NO」だ。

 あれ? エヴァが薄っすらと頬を染めてチラチラとこちらを覗っている。もしかして、期待しているのか? 普段は大胆なクセにそんなしおらしい姿を見せられたら俺は……俺は……!

 

「それを着たエヴァも魅力的だと思う」

 別に俺が特殊性癖を持っているわけじゃないからな。あそこで否定するのはエヴァの可憐さに対して失礼だと思っただけだからな。

「ム……お前がそう言うのなら、今度二人きりの時にでも……」

 心なしかエヴァが嬉しそうに、千雨の俺に向ける眼差しが冷たくなったような気がする。

 アルビレオさん。もうアルでいいな、あの変態は。そっぽを向いた俺を見てニヤニヤしてやがる。コイツ俺で遊んでやがるな。ったく、どいつもこいつも人を玩具にしやがって!

 一つだけ良かったのは、先ほどまでガチガチだった千雨の緊張がほぐれていることだろう。まさか今までの茶番はこのために……

 いや、ないな。

 

「フフフ、エヴァンジェリン。まさかあなたのそんな反応を見れるとは思いませんでしたよ。どうです? オプションで眼鏡と猫耳とセーラー服を着ていたければ、サウザンドマスターの情報もおつけしましょう」

 ここで親父の情報を餌にするのか? そりゃエヴァにとってみれば喉から手が出るほど欲しいものだろうけど。

「いつまでも私が貴様に踊らされると思うなよ。与太話はもういいだろう。さっさとあの小娘について知っていることを吐け」

 そう言うとエヴァはアルからスク水をふんだくって、いそいそとバッグにつめた。なんだか予想外な反応だな。原作だともっと狼狽していたけど。

 アルも目を見開いている。彼にとっても想定外の返しだったんだろうか。アルはしばし呆然とした後、オレとエヴァを何度か交互に見て

「エヴァンジェリン、あなた本当に……フフフフフ、これは傑作ですね。もうショタコンというレベルでは――ぐふぅ」

 突然歓喜の声を漏らして何かを口走り、エヴァのボディーブローで沈められた。

 原作と違ってエヴァは封印を解かれているから、普通に攻撃通るのな。からかうのも命懸けなのによくやるよ。

 

「ゲホ、ゴホ、長年生きてきたからこそ、新鮮な発見というのは嬉しいものですね。お礼に私の知っていることをお話ししましょう。ですが、その前に千雨さん」

 急に話をふられた千雨が息を呑んでいる。見れば肩が震えていた。無理もないよな、気丈に振舞っていても彼女は普通の女児小学生だ。突然こんな場所に連れてこられて平気なはずがない。

 俺はせめてもの気休めに「俺がついている」という意思を込めて、肩に手を添える。俺にエヴァ教えてくれたように、一人じゃないと千雨に伝えたかった。

 すると、彼女はジト目で俺を見たあと、朱がさした頬を隠すようにアルに向き直る。

「まずは私達に話して欲しいのです。あなたが見た夢の内容を」

 

1999年5月3日

 

『ハルカくんありがとうな。千雨ちゃんのこと教えてくれて。うちメッチャ心配だったんよ』

「気にする必要はない。友達を思いやるのは当然のことだからな。それじゃぁ、お休み」

 木乃香へのフォローの電話を終え、受話器を置く。魔法関連のことはぼかしてだが、千雨はもう大丈夫だと伝えておいた。

 木乃香の声からは安堵の色が見てとれた。本当に友達思いの良い娘だな、彼女は。

 一息いれて、昨日のことに思いを馳せる。流石にあの展開は考えてもいなかったよ。

 

 千雨の夢の内容。お姫様として生まれたところから語られたソレは、初めこそメルヘンチックな夢だと思ったが、時系列が進むにつれ俺の中である疑念が生まれた。

 そして、戦争を止めるために傭兵としてナギ・スプリングフィールドを雇ったという話を聞いたことで、疑念は確信に変わった。

 千雨は夢を通して母の人生を追体験していたのだ。見た目だけならネギの方が親父に似ているが、俺はよく雰囲気が親父とそっくりだと言われることが多い。だからこそ、あの時千雨は夢の中の親父と俺を重ねたのか。

 千雨が俺にとっていた不可解な言動にも得心がいった。母の感情と自分の気持ちがゴチャ混ぜになって混乱していたんだな。

 

 千雨の夢は母が反逆者として国を追われ、親父を自分だけの騎士としたところまでで終わった。

 アルは

「千雨さん。あなたに話していただいた夢の内容は、ある女性が実際に体験した記憶です。その女性こそ、今あなたの隣にいるハルカ君の母君。アリカ・アナルキア・エンテオフュシア様なのです」

 と衝撃の事実を口にした。

 千雨と母の間には何らかの理由で霊的なパスが繋がってしまっており、それを通して母の記憶が彼女に流入しているのだと言う。

 確かに夢を通じて「魔法」を知ったのであれば、そういった事象に対して認識阻害が正常に作用しなかったことには頷ける。

 だが、全ての疑問が氷解したわけではない。今の説明では千雨がエヴァの幻術を見破った理由にはならないはずだ。

「千雨さんにはアリカ様の記憶だけでなく、その力の一部も渡ってしまっているのでしょう。認識阻害の無効化、幻術の看破、そのいずれもがアリカ様の『王家の魔力』によるものと考えられます」

 まるで俺の問いを予想していたかのように、こちらが口に出すのに先んじて、アルが答えた。

 

 「王家の魔力」か。原作では単語だけで詳しい説明がなかったけれど、ここにきてそれがどういうものか漸く分かった。

 始祖アマテルが持っていた「完全魔法無効化能力」。それが異なる魔法体系を有する異世界渡航者=彼女の魔法使いの従者となるオリヴィエ・ゼーゲブレヒトの血と混ざり合うことで突然変異した「固有能力」。それが「王家の魔力」なのだそうだ。

「オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。謎の多い人物ではありますが、太古の文献によりますと、彼は『ベルカ』なる土地から魔法世界に降り立ったとあります。」

 ちょっと待て、アル。今さらっと「ベルカ」って言ったよな。やはり「リリカルなのは」の要素が混ざっているのか。

 

 少し話が逸れた。魔法世界最古のウェスペルタティア王国、その王家であるエンテオフュシアの一族には稀に虹彩異色の瞳を持つ者が生まれる。

 彼等は一様に「完全魔法無力化能力」ないし「王家の魔力」を有しており、王位継承権を優先的に与えられるという。

 発現する「王家の魔力」の性質は各人によって違っているが、共通する特徴として魔力そのものに何らかの影響を及ぼすことが挙げられる。

 そして母の「王家の魔力」は「魔力絶対優先権」というものらしい。どのような魔法に対しても、込められた魔力の多寡に関係なく母の魔力的な干渉が優先されるという能力だ。政治の世界に身を置いていた母は、幻覚や洗脳といった知覚に作用する魔法への防御術式を無意識化でも使用できるようにしていた。

 だから千雨にも魔法による幻覚は通じず、認識阻害魔法も意味をなさない。原作で母だけが魔力消失現象の渦中でも魔法を行使できたのもこのためか。

 

「何を隠しているアルビレオ・イマ。ハルカの母親は行方不明の筈だろう。それが何故、麻帆良にいるその小娘とパスで繋がることができる?」

 エヴァの疑問ももっともだ。親父が世界樹の根本に造物主と一緒に封印されているのは原作知識で知っているが、母がどうなったかは分からずじまいだ。

 さぁ、どう答える? 

「それは彼女が世界樹の下で眠りについているからですよ。あなたの探し求めたサウザンドマスターと一緒に、ね」

 

 なっ‼ もうそんなところまで情報を明かすのか!? いや、待て。母もあそこにいるだと! 原作とはだいぶ違うじゃないか!

 アルが指を鳴らすと、結晶体のなかで母が背後から親父を抱きしめるような形で封印されている映像が映し出された。

 エヴァも息を呑んでいる。

「十六年前、『紅き翼』は始まりの魔法使い『造物主』の討伐に失敗し……六年前かろうじて封印に成功しました。三人の英雄の犠牲によって」

 アルは「造物主」の説明を続けた。その内容は前世の記憶と相違ないものであった。

 造物主は「不死」ではなく「不滅」の存在。

自らを倒した相手の肉体を乗っ取る「報復型憑依能力」を持った精神生命体だ。

 先代の依り代を倒した親父に憑依し、現在は諸共に封印されているのは分かる。しかし、三人の犠牲とは……?

 

「教えてくれ、アルビレオ・イマ。三人の英雄の犠牲とはどういう意味だ?」

「いい質問ですねハルカくん。あなたは知らないでしょうが、かつてナギには一人の師がいました。彼の名はゼクト、『造物主』の先代の依り代でもあります。ゼクトは『造物主』に完全に支配される最後の瞬間まで、自身の体を調べ上げ、その研究成果を我々に託しました」

 ゼクトか、原作ではあまり描写されていなかったが、「造物主」封印のキーパーソンだったとはな。

「私とアリカ様で、ゼクトから得られたデータをもとに一つの術式を完成させました。それはアリカ様自らが封印具になり、ゼクトを倒して新たに『造物主』に憑依されたナギを縛る楔となる魔法です。もうお分かりでしょう、今の魔法世界はゼクト、ナギ、アリカ様……彼等三人の犠牲の上になりたっているのです」

 おかしいな。母自身が封印具となるのであれば、造物主の封印が解けた後は役目が終わり、母も自由の身になるはず。原作で母が登場しなかった理由にはならない。

 

「あんたは母がその身を封印具に変える魔法を作ったと言ったな。その魔法を使ったら母はどうなる? まさかとは思うが……」

「ご安心を、彼女は今も生きています。もしも、あなたが将来『造物主』を討滅する方法を編み出したのなら、貴方の元へとアリカ様は戻ってきますよ」

 よかった。母は魔法を使った時点で死んだわけではないのか。ならば、原作では別の方法を使ったのか。

 

「別の方法ですか? 王家に古くから伝わる魔法『ヨルダの御手』をもってすれば、あるいは可能かもしれません。ですが、それをしてしまえばアリカ様は生命力を使い果たしてしまう。おそらく半年も生きられなかったでしょう」

 

 それが原作で母がいなかった理由か? どうして原作ではこの世界でとった方法で封印しなかったんだ……?

 そうか!この世界と原作では半年ほど時間にズレがある。造物主封印時にまだネギを妊娠中だった母は、命を捨ててでも出産することを選んだのか!

 

 アルの話を聞いた後、千雨の存在が外部に知られれば危険だと俺達は判断し、本人も同意したことで、ログハウスに新たな住人が増えることになった。

 エヴァがセプ子に電話して、帰ってみればもう離れが作られていたのには驚いたよ。光の人工精霊有能すぎるだろ。

 ベッドに体を沈めて己の手を見つめる。エンテオフュシアの血にオッドアイ。俺にも『王家の魔力』が眠っている可能性が高い。

 もしその力を扱えるようになれば、今よりもっと強くなれるのだろうか?

 目を閉じればアルと別れ際に交わした会話が思い出される。これほどの機密事項を話してよかったのかと尋ねた俺に

「どうして教えたのか、ですか? それは私がハルカ君。あなたに期待しているからですよ。私はずっとあなたの成長を見てきました。あなたは我々の想像をこえる魔法をいくつも編み出してきました。だからでしょうか、あなたならばあるいはと思ってしまうのですよ」

アルはそう答えた。

 前世では誰かに期待されたことなど一度もなかった。俺はもうあの頃とは違う。

「応えたい。いや、応えるんだ」

 ベッドの中で、俺は静かに誓った。

 




ゼクトさんのファインプレーによりアリカ様に生存フラグが立ちました。一度も登場していないのに、一番原作をブレイクしています。

千雨ちゃん。オリ主と同居開始。アンチ・ヘイトのタグ付いてますし、ハーレムに入れてしまっても構わんのだろう。

謎が多い『ヨルダの御手』と『王家の魔力』のオリ設定、「UQ HOLDER!」で謎が明かされるのが楽しみでもあり、生じる矛盾が不安でもありますね。


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