真剣で殺し愛夫婦の子供に恋しなさい (紅 幽鹿)
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第零話
誰もが寝ているであろう時間帯、一人の男が正拳突きを繰り返し、足元には流した汗で出来た大きな水溜りがあった……。
彼の拳からは空気を裂く音が聞こえる……。
男は、ただ我武者羅に何かに憑りつかれているかのように繰り返していた正拳突きを止めると、自分で持って来ていたのだろうか……大きな鞄からマネキンを自身の目の前に置くと、独特な構えをし……。
「疾ッ!」
拳を放ち、マネキンを木端微塵にした……。
男はマネキンだった塵を、これまた持って来ていたであろう竹箒で集め終えると、今度は鞄から一振りの刀を取り出し、素振りをし始める。
この素振りも正拳突きと同じように、ただひたすら繰り返し、また新たな水溜りが出来る……。
そして、鞄から三体のマネキン――マネキンにはそれぞれ『岩倉』、『千種』、『童帝』と書かれている――を取り出し、目の前に置く。
マネキンを置いた場所から距離を取り刀を振るうと、三体のマネキンの頸が飛んだ。
「……朝か」
首を飛ばしたマネキンの身体を鞄に詰め込み、落とした頸を綺麗に並べた後、男は太陽が昇っていることに気付いた。
太陽の光によって、先程までよく見えなかった男の姿があらわになる。
端正な顔に、女性のように線が細い身体、髪は脚の所まで長さがあり、その髪を三つ編みにし、三つ編みの先端辺りには、大きい紅色の玉が付いている。
「さて、家に帰って準備をして、一子さんにモーニングコールをしなくては」
男……
~~~~~~
~~~~~~
いいなあ、あれ。斬りたいなあ。今まで負けなしだなんて、燃えるなあ。と、先程人間テトリスなるものを完成させ、不良を空の彼方へ蹴り飛ばした武神こと、
うん、無いですね。僕は父さんのような変態剣士ではないですから、べつに人を斬り続けたいとは思いませんね。
まあ、この世には父さん以上に変態の人がいるようですし、父さんは一応、常識人の部類なんでしょう。
たぶん、おそらく……。
と、考えているうちにどうやら多馬大橋……通称、変態の橋に着いていたようです。
ちなみに、この橋が変態の橋と呼ばれている理由は僕が通う川神学園に在籍する奇抜な生徒が通るからです。
例を挙げるなら、禿げのロリコン、可愛い不思議系少女、バイセクシャルなイケメン、人力車で登校する生徒、年齢を考えずに変なキャラ作りをするメイド兼生徒などですかね?
え、僕ですか?……僕は至って普通ですよ。可愛い恋人がいる普通の生徒です。まあ、両親はあれですが……僕は至って普通です。普通です。普通です。普通と言ったら普通なんです。
さて、そろそろ学園に着きますね。今日も至って普通の日常を謳歌しましょうか。
改めて書き直しました。
よろしくお願いします
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第壱話
川神学園に着いた後、僕は自分のクラスであるS組に向かいました。
「おはようございます」
教室に入った時に挨拶をしますが、クラスメイトはほぼ全員机に向かって勉強をしています。流石Sクラスですね……ですが、挨拶ぐらい返してくれてもいいのでは?
と、将来の人間関係が心配になってしまう級友達のことを考えていると……。
「とおっ」
「おっと」
気の抜けた声が聞こえたと同時に、私の首に腕がまわせれ、背中に何かやわらかい感触が伝わってきます。
「おはよう、ユキ」
「うん、おはようソウシ」
白髪赤眼の少女……
うん、やっぱり薄情なクラスメイトとは違ってユキは優しいね。
「おはようございます、宗紫君」
「おはよう、冬馬」
「それで、放課後なんですが、僕と良いところに行きませんか?」
「はは、僕にそっちの趣味はないから断るよ。あと、尻は触らないでください」
と、僕の尻を触りながらとんでもないことを言ったのは
「ユキに若、宗紫が困ってるだろ?おはよう、宗紫」
「おはよう、
「いや違うから、俺の名前は
「ああ、そうだね、
「それも違うから!てか、俺はロリコンじゃねぇから、幼女を愛でているだけだから!!」
「世の中はそう言うのをロリコンって言うんだよ、準?」
と、危ない発言をするスキンヘッドの少年……
まあ、さっきから無茶苦茶言っていますが、僕と三人は幼いころからの知り合い、所謂幼馴染と言うものです。私たちの出会いについてはまたの機会にしましょう。
私は三人と少し会話をした後、金のタキシードの様なものを着たクラスメイトと、メイド服を着た実年齢を知ったら何回高校生やってるんだと勘違いされる同級生の方に向かいます。
「おはよう、英雄、あずみさん」
「おはよう我が友、宗紫!」
「おはようございます!それと、今失礼なこと考えていませんでしたか☆?」
と、金のタキシードを着たクラスメイト、九鬼財閥の御曹司、
「それで英雄、例の件はどうなりましたか?」
「ウム、それなら既に済ませた。先日あずみに宗紫の実家の方に送らせた」
「はい☆」
「そうですか、ありがとうございます」
僕は二人に礼を言ってから、自分の席に着きます。
すると、ちょうどS組の担任である
そして、授業も終え――途中の授業で顔面真っ白の先生の平安時代オンリーの授業でしたが――昼放課、僕は弁当を持ってとある場所に向かいます。
まあ、とある場所と言っても川神学園Fクラスに在籍している愛しの一子さんの元にですが……。
さあ、向かいましょう!
~~~~~~
~~~~~~
「なるほど、こう言うことなのね」
「ねえ大和、ワン子一体どうしちゃったのさ?」
「そんなの俺が知りたいよ」
川神学園Fクラスに在籍している俺こと、
ワン子が読んでいるのが漫画とかなら、俺たちはここまで悩まなかっただろう。だが、ワン子が読んでいる雑誌のタイトルには『男が求める女性像108式/男が浮気した時の残酷対処法』と書かれていた……。ワンコ、熱でもあるのか?
「今日は宗紫が来るらしいから……大和、愛してる」
「あ、なるほど。京、お友達で」
と、最後にとんでもないことを言ってきた、幼馴染の
すると、ガラッと教室の扉が開けられる音が聞こえたのでそちらの方を向くと、誰もが見ても美少年と言うであろう容姿を持つ――現にクラスメイトでイケメン好きの女子生徒から獲物を狙うような視線を向けられている――壬生宗紫が教室に入り、ワン子の方に向かってきていた。
宗紫が近づくたびにワン子は喉の調子を整え始める。お、一体、何をするつもりだ?
「こんにちわ、一子さん」
「ご、ご、ご、御機嫌よう、宗紫さん」
顔を真っ赤にし普段のワン子では考えられないような、お淑やかな声色を出しながら言い放った言葉に、宗紫や俺たち含め、教室内の空気が凍った……。
~~~~~~
~~~~~~
「ご、ご、ご、御機嫌よう、宗紫さん」
一子さんの発した言葉に教室内の空気が凍った……。
目の前には、自分が言った言葉が恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にする一子さん……まあ、とりあえず……。
「クッ、アハハハハ!」
笑っておきましょう。
「な、何よぉ」
「だ、だって、プッ、全然、一子さん、らしく……プッ」
僕が笑い出したことによって、教室内の皆さんも笑い出す……皆さんも一子さんのキャラに合わないと思ったのでしょう。
「何よぉ、笑うなよぉ」
と、笑いすぎたのか、周りの反応に若干涙目になる一子さん。まあ、ここまでにしておきましょう。
「ごめんなさい、一子さん」
「ファッ?!」
僕に突然抱きしめられたためか、一子さんは顔を真っ赤にして身体を硬直させる。
僕は一子さんの耳元に顔を持っていき……。
「それと、そういうのは皆さんのいる場所ではなく、もっと別の場所でやってください。アナタのそんな可愛いところは僕が独り占めしたいじゃないですか」
「う、うん」
僕の言葉にさらに顔を真っ赤にする一子さん、本当に可愛いですね。まさに、天使で女神。
「はいはい、これ以上ピンク空間を形成しないでね、主に男子が凄いことになってるから……それと大和、結婚しよう」
「京の言うとおりだ、あいつを見てみろよ。京、気持ちは嬉しいけど、お友達で」
「本当ですね
「ありがとう、宗紫」
「おい、余計なことを吹き込まないでくれ!!」
「ハハハ、いつも通りだねぇ」
大和の訴えとモロの苦笑いを無視して、僕はお弁当を広げ、5人で集まって食べ始めます。
そして、いつも通り教室内にあるテレビでニュースを見ながら昼食の時間を進めていくと……。
「取り押さえたの男子学生だって。イケメンかな?」
「勇気ありますよね、凄いです」
と、男子学生が無銭飲食犯を捕まえたと言うニュースが流れており、その感想を僕も普段お世話になっている和菓子屋の娘さん、
[男を取り押さえたお手柄の男子学生は、神奈川県川神市在住の
「ぶはっ!」
「妙技ムーンウォーク」
一子さんが飲んでいた牛乳を吹き出し京さんは華麗に避けますが、僕は考え事をしていた為、避けれず直撃した。
「あ、ゴメン。噴いちゃったわ」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
僕は牛乳で濡れた顔をハンカチで拭いてから、テレビの方に目を向ける……。
テレビに映っていた風間翔一――大和達はキャップと呼んでいますが――を見て、クラス中、主に女子が騒ぎ始めます。
まあ、翔一はイケメン四天王の一人ですし、女子の皆さんが騒ぐのは当然ですね。
と、あまり気にせずおかずを食べていると……。
[次のニュースです。昨日午前10時ごろ東京都渋谷で刃物を持ったひったくり犯を男子学生が取り押さえました]
ふむ、また男子学生ですか、最近の男子学生は凄いですねぇ。
[男子学生は、捕まえた犯人を持っていたロープで縛りあげると取られたバックを被害者の女性に渡し、その場を立ち去ったようです。女性の証言によると、脚の所まで伸ばした髪を三つ編みにし、三つ編みの先端辺りには、大きい紅色の玉の髪飾りを付けていたそうです]
ニュースの内容に皆さんの視線がこちらに集まってきているような気がしますが、気のせいでしょう。
「おい、宗紫?」
「いやいや、僕は全然関係ないですよ」
「男でそんな髪型をしてるのはお前だけだろう?!」
「キノセイ、キノセイ……」
「何故、片言?」
大和と京さんが疑いの眼差しで見てくるが気にしない、気にしない。
僕は皆さんの視線に晒せれながら、残りの時間を過ごすことになってしまった……。
ハァ、鬱だ……。
名前:
血液型:O型
誕生日:1月21日 水瓶座
身長:168cm
一人称:僕
あだ名:-
武器:刀剣類/拳
職業:川神学園2-S 玖錠降神流 石上神道流
家庭:父母健在。現在は一人暮らし
好きな食べ物:和菓子
好きな飲み物:玉露
趣味:鍛錬
特技:-
大切なもの:川神一子、日常
苦手なもの:-
尊敬する人:両親、両親の仲間、川神一子
詳細
壬生宗次郎、玖錠紫織の息子。
その容姿は、父と母譲りの顔であり甘いマスクの美少年である。
髪は長く、母親、父親と同じように髪をまとめている。
川神学園2-Sに所属しており、同じクラスの井上準、榊原小雪、葵冬馬とは幼馴染。
実家が実家なので、不死川心、九鬼英雄とも知り合い。
2-Fに所属している、川神一子とは恋人同士でありその付き合いは中学時代から続いており、その際に風間ファミリーのメンバーとも知り合った。
性格としては穏やかな感じだが、つい毒を吐いてしまううっかりさんでもある。
ごくありふれた日常を、恋人の川神一子を愛しており、それらを否定されると頭に血が上ってしまう。
争いは好まず、極力、戦わないようにしている。
しかし、彼の本質は……。
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第弐話
今日は水曜日、毎週水曜日には朝礼があるため全生徒が校庭に出て整列していた。
周りを見ると――特に一年生だが――欠伸をする者や、気怠そうにしている者、意識を何処かへ飛ばしている者がいた。はあ、そんなことをしていると……。
「たるんどるわ、渇っっっっ!!」
この川神学園の長、
「うむ、聞く体制ができたようじゃのう、それでは、ワシからの言葉じゃ」
姿勢を正したところを見て徹心さんは満足そうな表情になると喋りだす。
「お前達、腹は減っておるかの?名誉や金、力に飢えてはおらんか?女や男はどうだ? 飢えてはおらんか?飢えているならそれはいい。とても正しいどんどん飢えてハングリーになりなさい。奪い取り、つかみ取るために努力しなさい。競い合い切磋琢磨していきなさい。そのために決闘というシステムも用意しとる。白黒つけたければ活用しなさい。そして『何か』をつかみ取ってみなさい勝つという快感はやめられんよ。人生はより楽しくなる。ワシからのオススメじゃ。成功する秘訣は夢ではなく野心ということよの。といっても、ただ飢えるだけでは獣と変わらん。理性と本能を両立させて、楽しい人生を送ってくれることを願うぞい」
すると鉄心さんは視線を僕に向けてくる……。
「なーんも飢えとらん、平凡で普通の人生を送るのが一番だと思う奴、それはそれでいい。精神は腐っていきそうじゃが、それも生き方よのぅ」
……平凡な生活が精神的に腐っていく?何を言ってるんだ。闘争の世界の方が精神的に腐っていくだろう。ただちょっとした力があるだけで勘違いして、世界を支配した気分になっている馬鹿がいる。その闘争によって大切なものを奪われ絶望する人がいる。平凡な生活を守るために命をかけた人もいる。アンタは大切なものを奪われ、目の前で蹂躙された奴の気持ちが分かるのか……分からないよな、アンタはきっと今まで奪う側だったんだろう?所謂勝ち組で、敗北とは、死とは一番遠い場所に居て、本当の意味での敗者の気持ちが分からないだろう?なのに平凡な生活をごく普通な幸せを馬鹿にするというのなら……。
「宗紫!!」
「ッ?!」
一子さんに呼ばれ、思考を引き戻すと目の前に僕のことを心配そうな表情で覗き込む一子さんがいた。
「一子さん?」
「宗紫、大丈夫?顔が怖くなってたから……」
「……すみません」
周りを見てみると、僕と一子さん以外は校舎の方へ向かっていた……。クソ、一子さんにいらない心配をかけさせてしまった……。
「……宗紫」
「……一子さん?」
僕が顔を俯かせていると、一子さんが背伸びしながら僕の頭を包むように抱きしめてきた。トクントクンと一定のリズムで鳴る一子さんの心音を聞くと、心が落ち着いてくる……。
「宗紫の事だからさっきのおじいちゃんのお話で怒っちゃたんでしょ?」
「ウッ、それは……」
「だって、宗紫はごく普通の日常を大切にしているでしょ?さっきのおじいちゃんのお話は宗紫の考えを否定してるんだもん、宗紫がそれに怒ることなんてアタシでも分かるわよ」
「……ご、ごもっともです」
一子さんの抱きしめる力が強くなっていく……。
「それと、変なことはしないでよね。アタシ、宗紫に抱きしめられたり、抱きしめることが出来なくなるのヤダから……」
「ッ、一子さん!!」
「キャッ?!」
一子さんの言葉に我慢できずに、僕は一子さんを強く抱きしめる。
「一子さん、あったかいです」
「うん、アタシも。宗紫、あったかい……」
僕と一子さんは抱きしめ合い、お互いの体温を、幸福を感じあっていると……。
「ゴホンッ!!」
「「ハヒッ?!」」
咳払いする音に驚き、僕と一子さんは奇妙な声を出しながら抱きしめ合っていた体を離し、音が聞こえたほうを向くと……。
「妹に手を出すとは良い度胸だな、宗紫」
「お、お姉さま?」
「……百代、先輩?」
般若のような顔をした闘気漏れ出しの
「じゃ、じゃあ、一子さん、僕はこれで」
「う、うん、じゃあね」
一子さんに別れの挨拶をしてから僕は即座に教室のほうに向かって走り出す……。
「私は認めない、認めないぞぉぉぉぉぉぉ!!」
後ろから何か追ってくる音が聞こえてくるが、僕はなるべく気にせずに走り続けた……。
~~~~~~
~~~~~~
日は変わり木曜日、今日は人間力測定の日――人間力測定といっても所謂体力・身体測定のことですが――僕たち男子は体育館で計測していた……。
「あああ、やっぱりもう身長止まってるー!」
「俺様のように鍛えろ。見ろ、握力計振り切れたぞ」
今年の身体検査の結果に絶望するモロに、筋肉質で長身で、いつも実家の母親と両親のお仲間である曰く性欲界紳士道の住人さんから僕に送られてくるエロ本の処分をしてくれる
周りを見てみると測定の結果に一喜一憂している人たちがたくさんいます。まあ、S組の皆さんはあまり興味がないようですが……。
「壬生、168センチ、む、去年と変わらんな」
と、僕の身長を測って感想のようなものを言ってくれたのは、鬼小島と生徒たちから呼ばれ、恐れられているFクラスの担任教師である
父親が父親ですからね、身長があまり伸びないことは覚悟してましたが……残念です。まあ、父親よりは身長は高いですし、良しとしましょうか。
「壬生、次は座高を測れ」
「はい……」
僕は返事をしてから、座高の方へ向かうと……。
「で、どうだったよ宗紫」
「消えろ、ハゲ」
「だから、ヒデェ?!」
とりあえず、ニヤニヤしながら僕に近づいてきた準に毒を吐きながら、座高を測る……座高はそこまで高くないですか……。
「おや、宗紫君。お疲れのようですが、どうしたんですか?」
座高を測り終え、体育館でやることのなくなった僕と準と合流した冬馬と一緒に校庭の方へ向かう途中、冬馬に心配された……ああ、それは……。
「昨日、夜遅くまでシスコンとリアル鬼ごっこしてただけですよ……」
「それは……」
「ご愁傷様……」
二人は僕の肩に手を置き、憐れみにも似た視線でこっちを見てくる……。そんな視線で僕を見ないでくださいよ……。
僕たち三人はそのまま無言で校庭の方へ向かっていった……。
~~~~~~
~~~~~~
僕たちが校庭に着くと、写真を撮っていたFクラスの
「お、宗紫も来たのか」
「はい、ガクト。体育館の計測が終わりましたからね」
僕たちが近づくと、福本育郎が何とも言えない顔をされましたが、僕たちは気にせずに大和たちの会話に入ります。
「それで、どんな話をしてたんですか?」
「いや、うちの女子のレベルは高いなって話だよ」
大和の言葉に僕は頷きます。確かに、この学校の女子はレベルが高いですね。
すると、何処にスイッチが入ったのか福本が突然、語りだします。
「まずはエントリー№1川神一子。身長159センチ、3サイズ77、54、79。女っぽさはあまりないが、快活で話しやすく、一緒にいると楽しいので男人気が高い。スポーティー娘……と思われがちだが、実は既に彼氏持ちというのが現状」
……少し待ってください、どうして貴方が一子さんについてそんなに詳しいんですか?私だって知りませんよ一子さんの3サイズなんて……。
「わ、若、宗紫の顔が大変なことになってませんか?」
「え、ええ、今すぐにでも人を殺しそうな表情ですね……」
「お、おい、大和、あれはやばくねぇか?」
「おいおい、ヨンパチ死んだわ」
「いや、本当にそうなりそうで怖いからね?!」
後ろで何かヒソヒソと言っていますが、僕は気にしません。それよりも、どうやってこの
「続きましてはエントリー№2甘粕真与。身長149センチ、3サイズ74、52、73。頑張り屋の委員長で話していると和む。その体格故に特定の人達に崇められている」
「続きましてはエントリー№3椎名京。身長155センチ、3サイズ84、59、83。クラス最高級、美形で実は胸もある。だがクールすぎて人を寄せ付けない、それ以前にどう見ても大和の女」
「俺の女じゃないし、誰の女でもない」
「まぁな、でも周囲の奴からはそう見えるぜ」
「良く言われるよ……」
まあ、
「とまぁレベルの高い3人を例に上げてはみたが……周囲の関係や体型的な問題から突撃できないわけ」
約一名、突撃しそうな
「んで、結果あれに集中するわけ。小笠原千花。身長157センチ、3サイズ82、60、81。誕生日7月20日、血液型B型。現在付き合っている男なし。付き合いたい女&やりたい女№1の二冠!」
「フェロモンが堪らんよなぁ。ありゃ絶対誘ってる」
「おっと今のブルマの食い込み直し頂き!」
ガクトが感想を言い、
「ソウシ、うぇーい」
「だから、危ないよ、ユキ」
計測を終えたのか、ユキはいつもの気の抜けた声を出しながら、僕の首に腕をまわしながら背中に抱きついてきました。体操服のせいかいつもより柔らかい感触が伝わってきます。
「それとユキ、何度も言ってるけど、そう簡単に異性に抱きついてはダメだよ」
「えぇ、僕、ソウシなら平気だよ。ソウシのこと大好きだよ~」
「それは、冬馬と準もでしょ?」
「もちろん、だけどソウシに対してはloveの方だよ~」
このユキの発言の後に、男子の殺気を含んだ視線を感じましたが、それを上回る殺気が女子の方から感じ、そちらの方を向くと……。
「………」
一子さんが首を軽く傾けてハイライトのない瞳で此方を見ていました……。それを知ってか知らずかユキはさらに強く僕に抱きつき、それを見た一子さんの殺気――隣の京さんを若干怖がらせるぐらいに――は大きくなり、この状況は流石の僕でもドキドキします……二つの意味で、ですが……。
この後、女子と入れ替わるように男子は測定に入り、僕はまあまあの結果を出しました。
感想待ってます
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第参話
今日は一部を除いた学生が嬉しく感じる金曜日。
僕は後輩である黒髪を前をパッツン、後ろを二つで結んでいる少女、
「そ、それでですね、友達を作るために物を贈る練習、毎日300回してるんですが……」
「上手くいかないと?」
「……はい」
僕の言葉にまゆっちは暗い表情で頷きます……。
フム、まゆっちは確か地元で友達が出来ず、こっちに引っ越して来たらしいですからね。友達の作り方が分からないからかもしれませんが、この子は変なベクトルに頑張ってますね。
とりあえず、これだけは言っておきましょう。
「何ですか?友達に物を贈る練習って……そんなんだから友達が出来ないんですよ」
「ウッ……!」
「『うわ~、どストレートで言いやがった』」
「当然でしょ、松風?」
僕の言葉にまゆっちはさらに表情を暗くさせ、馬のストラップ――名前は松風――が感想を言う。
ちなみに、まゆっちが言うには松風は馬のストラップに宿った九十九神らしいのですが……正直言うと、ただのまゆっちの腹話術です。だが、まゆっちは腹話術では無いと言うので、彼女の意見を尊重して、僕の中でも九十九神という設定にしています……。
と、話が逸れてしまったが、彼女は根本的に間違っている。
何故なら……。
「まゆっち、松風、友達は『作る』んじゃない。『出来る』んだよ。」
「出来るですか?」
「うん。確かに自分から作りに行くのは大事だよ。だけど、それは何処ぞの軍師気取ってる大和みたいに『何か利益がある』友達を得る時だけだよ。本当の友達、利益云々じゃなくて……コイツと一緒にいたい。コイツとなら喧嘩してもいい、どんな事があっても絶対に見捨てない……。そう言う友達は出来るんだ。ただ自然と、まるで運命がそう決めていたみたいに」
「……私にも出来るでしょうか?そんな友達が……」
まゆっちは先程とは違う暗さを表情に出しますが……先程から何を言ってるんでしょうか、この子?
「僕とまゆっちはそう言う友達でしょ?僕は少なくともそう思っていますよ」
「ッ……はい!わ、私も、私もそう思ってます!!」
「『お、お~、ま、まゆっちに友達が出来た~!!』」
「やりましたよ、松風!」
まゆっちは瞳に涙を浮かべ、松風は嬉しそうな声色で喜び合う。
「まゆっち、そういう時は泣くんじゃなくて、笑顔ですよ。笑顔」
「は、はい!」
僕の言葉にまゆっちは頷き、笑顔を見せてくれました……。とても素晴らしい笑顔でしたよ?顔が強ばって、ヤのつく職業の人が裸足で逃げ出しそうな怖い顔でしたよ……。しかも、刀を持っているから怖さ倍増……。
「……すみません。さっき偉そうなこと言いましたが、考え直させてください」
「ど、どうしてですか?!」
「『と、とんでもない手のひら返しだぜ?!』」
いや、だって怖いですし……。
「ご、ごめんなさい!」
僕は逃げ出した……。父さん、母さん、両親のお仲間たちのような人たちを知っている僕でもあの笑顔は無理でした。
「ま、まままま松風、ど、どどどどどうしましょう?!」
「『落ち着け、まゆっち。とりあえず、友達第一号のみぶっちを追いかけるんだYO』」
「そ、そうですね、松風!お、お待ちください宗紫さん!!」
国の許可を得て帯刀している友達の女子高生に追われ、本気で逃げてそのまま学校の敷地内に入る男子高校生がいた……。僕だった。
……こうして僕はまゆっちからの逃走を成功させ、そのままSクラスに入室することが出来ましたとさ……。後で、まゆっちに謝っておきましょう……。
~~~~~~
~~~~~~
僕がまゆっちから逃走を成功させてから数時間が経ち、何の代わり映えのない朝のHRが始まる……と考えていた時期が僕にもありました。
朝のHRは、とある生徒によって一時中断しました。
何故なら……。
金髪で西洋系の顔立ちをした、性別女性の転校生が乗り込んできたからです……。
馬で……。
大事な事なので、もう一度言います。転校生が馬で登校してきたのです。
流石のSクラスの皆さんもザワつきましたよ。まあ、数名――準、冬馬、ユキ――はいつも通り――準はロリでないことを嘆き、冬馬は
それよりも、僕は……いや、僕たちSクラスは全員思いました。
あの転校生、典型的な日本を勘違いしている外国人だと……。
そして、我がクラスの委員長がいつも通りの登校スタイルで、転校生の前に現れたことによって、あ、絶対勘違いを加速させていると……。
普段、争っているSクラスの心が一つになった瞬間でした……。
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~~~~~~
転校生の衝撃的登場を見届けた僕たちは、この学園の特徴の一つである『決闘システム』によって、グランドに来ていました。
詳しい説明を省きますが『決闘システム』は学校側が認めればどんな形式で戦っても良い、合法的に生徒同士が行う決闘のことで、決闘が始まるということで、HRは中止になり、ほとんどの生徒が決闘を見に来たというわけです。
ちなみに、決闘をしたのは一子さんと転校生さんで、勝ったのは転校生でした。
一子さんの敗因はたった一つ、シンプルな答えです……てめぇは、私を怒らせた……と言う訳ではなく、ただ単に修行用の重りリストバンドを外さずに戦ったからです。
そして決闘を終えた今は、互いに付けた愛称に対する不満で睨み合っています。
と、そんな風に傍観してる場合じゃありませんでしたね。
僕は保健室から借りてきたコールドパックを持って、一子さん達の所へ向かいます。
「大丈夫ですか、一子さん?」
「宗紫?」
僕が近づくと二人は睨み合うのを止め、僕の方へ視線を向けてきました。僕はアイスパックを一子さん渡すと、一子さんは一言お礼を言ってくれてから転校生にレイピアで突かれた箇所を無言でアイシングをし始めます。僕は一子さんがアイシングしている間に転校生さんの方へ近づく。
「初めまして、一子さんの彼氏で、Sクラスの壬生宗紫と言います。転校初日から一子さんがすみません」
「いや、良い経験が出来たんだ、謝らないでくれ。自分はクリスティアーネ・フリードリヒ、クリスと呼んでくれ」
僕はクリスさんに謝罪し、握手を交わしながら自己紹介をします……。この時、Fクラスの男子――特にガクト、福本――から嫉妬や憐れみの混じった視線を向けられましたが、何故でしょうか?と、考えていると一子さんが僕の方へと近寄り……。
「えい!」
抱きついてきました。普段より積極的な一子さんに驚きつつも、僕も一子さんを抱きしめ、一子さんの体温と柔らかい感触を楽しみます。
「どうしたんですか、一子さん?」
「……クリのことばっかり見てた」
「いや、自己紹介しただけですよ?」
「そうだけど……うぅ、でもぉぉ」
一子さんは可愛らしい声を出しながら、若干上目遣いで見てきます……。ヤバい、僕の彼女が可愛すぎてヤバい!女神!
「一子さん、可愛すぎです」
「う、は、恥ずかしいこと言わないでよぉ」
「イヤです。一子さんは世界一可愛いですよ」
「うぅぅぅ」
一子さんは恥ずかしかったのか、抱きしめる力を強めて僕の胸の方に顔をうずめます。周りからピンク空間を形成するな!とか、誰かブラックコーヒーを!とか、この川神1のバカップル!とか、大和、私たちもバカップル呼ばわりされよ!とか、京、お友達で!とかが聞こえてきたり、クリスさんがシスコンにお姫様抱っこされてようが、知ったこっちゃありません。
今はこの一瞬の幸福を感じて……。
「もう我慢ならん!!」
と、僕の幸福の時間は一つの怒声で終了しました。
一体誰ですか、空気を読まずに叫びやがったKYは?と、思いつつ声が聞こえたほうを向くと……。
「うわぁ」
僕の視界にはKKKと言う文字付きの鉢巻をし、一子さんの顔をプリントしたシャツを着ている集団がいました。
「俺は親衛隊
KKKと名乗った彼は自分の持つワッペンを取り出し、僕の足元に投げつけてきました。
どうして、僕が貴方達と決闘しないといけないんですか?と言う気持ちを表情に出しながら首を傾げると……。
「貴様は、俺たちの女神である一子さんを誑かしている!そんな貴様を俺たちは許さない!!」
彼の言葉に賛同するように、他のメンバーであろう人たちも頷きます……。つまり、一子さんの彼氏である僕に嫉妬して、決闘という形で制裁を加えようとしているわけですね。
「わかりました。その決闘……」
僕は自分のワッペンを取り出し……。
「Sクラスの
「何故、此方なのじゃ?!」
制服ではなく着物を着て、黒髪で二つお団子を作っている女子生徒が叫ぶ声が聞こえますが……まったく、冗談なんですからそんなに慌てなくても……。
「とは冗談で、Sクラス壬生宗紫その決闘受けま……せん!」
「「「ハァァァ?!」」」
僕が勢いよく言い放った決闘しません発言によって、周囲はざわざわと騒ぎ始め、さらにはブーイングや非難するような視線を向けられる。
「う、受けんのか?」
「ええ、そう言ってますが、学園長」
確認のためか聞いてくる学園長に何言ってんだ、コイツ?って表情をしながら返答する。
そもそも……。
「僕が決闘を受けてあげる理由がまったくありません。結局は、私怨的なことでしょう? そんなことに時間を割いてあげるほど僕は暇ではありませんので……さあ、一子さん戻りましょう。あ、一応保健室にも行かないとですね」
「う、うん」
呆然とする皆さん、顔を真っ赤にして怒りで震えている宮本さんを無視して、僕は一子さんの手を取りその場から去ろうとする。
「き、貴様ァ!!」
「待て、宮本!」
すると、怒りの頂点に来てしまったのか宮本さんがこぶしを振り上げ、僕に殴り掛からんと走ってくる音と、宮本さんを制止しようとする小島先生の声が聞こえ……。
「ハァ」
溜息を吐きつつ僕は振り返り、宮本さんを少しだけ睨む。すると、宮本さんは額に汗を浮かべ拳を振り上げた不自然な状態で動きを止める。体調でも悪かったのでしょうかね?
「宮本さん。納得できないのなら、放課後に決闘しましょう。当然、観客はナシで、いるのは先生方、それでいいですか?」
「……わかった」
僕の提案にゆっくりとだが、頷く宮本さん。いやはや、納得していただいてよかった。
こうして、僕は周囲の皆さんと動けなくなった宮本さんを無視して、一子さんを連れて保健室に向かうのだった。
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第肆話
決闘が終わり一悶着があったものの僕は、無事一子さんを連れて保健室に到着することができた。
正直、向かっている途中で親衛隊KKKの誰かに闇討ちでもされるんじゃないかと思ってビクビクしてましたが、どうやら杞憂だったようですね。
しかし先ほどはいらっしゃった養護教諭の方が見えませんが、急用でもあったのでしょうか?まあ、致し方ありません。
「一子さん、制服の上を脱いでもらえますか?」
「わかったわ」
そう一言、了承してくれてから一子さんは制服を脱ぎ、僕にレイピアで突かれた部分を見せるように体の方向を変えてくれます。
正直、卑しい感情が出かけますが、それは頑張って抑え込む。一子さんも僕を信頼してくれているわけですしね。
「では、失礼して」
「ンッ」
突かれた部分に触れると一子さんから一瞬、甘い吐息のようなものが零れますが我慢、我慢です。気にしてはなりません。
「一子さん、痛くはないですか?」
「うん、大丈夫」
一子さんの返答に少し安心しつつ、ゆっくりと何処かに違和感を感じないかと慎重に触れ、確かめていく。
「……どうやら、骨に異常は見られませんし、筋肉の方もそこまで違和感は感じませんので大丈夫そうですね。一応、アイシングし続けておきましょう。一子さん、服着ていただいても大丈夫ですよ」
「わかったわ。ねえ、宗紫……どうだった?」
一子さんが着替えている間に、アイシング用の氷を準備しているとふいに一子さんに声をかけられる。どうだったというのは、先ほどのクリスさんとの決闘のことでしょう。そうですね……。
「無様。と、までは言いませんが、油断しすぎですね。重りを付けたまま戦うとは、完全に相手の力量を見誤ってる証拠です」
「はうわッ!」
僕の一言に、一子さんは奇妙な声を出して項垂れる。ここで、項垂れてもらっては困りますね。
「あとは、他の武に対する知識不足。フェンシングは全身有効のだってありますし、突きではなく斬る方面のもあります。フェンシングだからと言って足を狙うのは安直」
「ひうっ!」
「さらに言えば、足狙いのあの技。避けられた際の対応ができないってどういうことですか? 技というのは出して終わりというわけでありません、避けられる可能性、防がれる可能性、迎撃される可能性、様々な可能性があります。なので、相手がどんな行動をしてもそれの対応ができるようにしておくのが普通です。判断が遅く、未熟」
「や、やめろよぉ。こ、恋人だぞぉ」
僕の言葉に一子さんの目に涙が浮かび、時々幻視してしまう犬耳がショボーンと倒れている。
「恋人だからですよ。それに、一子さんは偽りを言ってほしくはないでしょう?」
「そうだけどぉ」
「だから、偽りなく言っているんですよ。ただ、まあ……強くはなりましたね。初めて出会った頃と比べて、遥かに」
「……ありがとう。でも、まだ宗紫の隣に立てるぐらいには強くなってないよね?」
「……ええ。でも、別にそこまで強くならなくても大丈夫ですよ。それに、いつも僕の隣にいてくれるじゃないですか」
いつも当たり前のように一緒にいてくれる。心を繋いでいてくれる。それだけで僕は嬉しいです。でも、一子さんは僕の返答には不満げらしく、可愛らしく頬を膨らませ目を据えながら僕を見てくる……一子さん、可愛すぎですか。
「違うの。アタシは……アタシは、宗紫と同じ場所に立って同じ景色を見るようになりたいの……宗紫を一人ぼっちになんてさせたくない」
「一子さん……」
「それにアタシ、夢が2つあるのよ」
「2つ、ですか?」
一子さんの言葉に自然と首を傾げる。一子さんの夢は川神院の師範代になることだったはず。現にそれを目指して鍛錬を頑張っている。しかし、もう1つ夢があることは知らなかった……。
「1つはね、宗紫も知ってるけど、川神院の師範代になること。もう1つはね、その、ね……そ、宗紫とずぅぅぅっと一緒にいることなの」
顔を真っ赤にしながらそうはっきりと言ってくる一子さんに、僕の顔も熱くなっていく。今の僕は、きっと人には見せられないほどに真っ赤になっているはず。
「そ、それは、
「
「そう、ですか……」
一子さんの真っ赤になりながらも真剣な表情を見て、僕の手は自然と一子さんの頬に伸び、触れる。
一子さんは何かを察したのか、目を瞑り真っ赤になりながらも何かを待つような表情に変わる。
「一子さん……」
「宗紫……」
僕の唇が、段々と一子さんの唇へと近づいていき……。
「お、おい、宗紫! 本当に決闘なんて大丈夫なの……アッ、す、スミマセンデシタ」
「うきゃっ?!」
「………」
僕と一子さんの距離が零になる直前で保健室の扉が、
「そ、その、すまんかった。本当に、すまんかった!」
大変申し訳なさそうに、それこそ土下座でもする勢いで謝罪してくる大和に、僕は溜息を吐く。まあ、彼の来たタイミングは本当に偶然でしょうし、仕方ありません。
僕は彼の謝罪を受け入れるつもりで笑顔を浮かべ……
「
「今、大和って呼び方に悪意……って、なんてことを、しようとしてやがるッ?!」
「今のうちに婚姻届けと子供の名前、考えておいたほうが良いですよ」
「お願いします。勘弁してください。本当に申し訳ございませんでした」
先ほどまで土下座する勢いだったのが、真剣に土下座して許しを請う大和に流石に僕の良心が痛んでくる。仕方がないですね。
「京さん、大和のことヌチョヌチョにして良いですよ」
「大和に痺れ薬を飲ませて、ヌチョヌチョにして良いと聞いて。ありがとう、宗紫」
「い、いつの間に?!」
「こうして、直江大和は椎名京から直江京となった少女と家庭を築き、幸せな一生を過ごしましたとさ。めでたし、めでたし」
「大和、愛してる」
「宗紫、変なエピローグみたいなの入れるな!京、お友達で!」
そう言いつつも、保健室の隅のほうへと追いやられていく大和をのほほーんと見ながら、大和が何かを言っている途中だったのを思い出し、攻防を繰り広げている大和と京さんに話しかける。
「京さん、結婚式には僕も呼んでくださいね。それで、大和は先ほど慌てた様子で何かを喋ろうとしましたが、なんでしたか?」
「当然、招待する。宗紫もワン子との結婚式の時は呼んでね」
「直江夫妻宛でよろしかったですか?」
「無論」
「おい、勝手に話を進めるな!もう簡潔に言うぞ、お前に挑もうとした相手、宮本剣吾は剣道部主将で全国常連の奴だ」
「そうですか……」
「そうですかって……相手がどれだけ強いか、分かってるのか?!」
先程までの京さんの求愛行動の時とは違い、真剣な声色で宮本さんのことを教えてくれましたが、僕の反応に大和は慌てはじめる。
「大和は心配しすぎですよ。それと、授業が再開しそうですし、早く戻ったほうが良いですよ」
「おい、俺は、お前のことを心配して……」
「京さん、大和よりも先に教室に戻ったら、強力な媚薬と痺れ薬あげ……」
「俺は先に教室に戻らせてもらう!」
「待って、大和」
僕の言葉を聞き終わる前に大和は大慌てで保健室から退出していき、京さんも大和を追いかけるように退出していく。
まったく、大和も心配性ですね。相手は、たかが全国常連でしょうに……。
さて、僕と一子さんも教室に戻らなければ。と、声を掛けるために一子さんの方を振り向くと……。
「そ、宗紫とアタシのけ、け、結婚式……」
いまだ赤い頬に両掌を当ててうれしそうな表情で、くねくねと恥ずかしがっている一子さんがいた……ハッ? 可愛すぎやしませんか。
~~~~~~
~~~~~~
保健室でくねくねしていた一子さんをなんとか再起動させてFクラスに戻らせた後、僕もSクラスに戻り席に着くやいなや、冬馬たちが近づいてきた。
「ソウシ、カズコ大丈夫だった?」
「ええ、骨も筋肉にも異常は見られなかったですし、大丈夫でしたよ」
「良かったぁ」
心底安堵したような表情を浮かべるユキに僕自身も嬉しい気持ちになっていると、冬馬が口を開く。
「宗紫君。決闘を受けて、本当に大丈夫ですか?」
「ハァ、冬馬もですか……。冬馬達は僕が強いこと知っているでしょう?」
「確かに知っていますが……。それより、私が言いたいのはKKKの事です」
「……あの一子さん大好き集団ですか?」
「ええ、彼らは親衛隊とは名ばかりの過激な集団です」
あの変態集団、冬馬がいつもより
「僕も聞いたことあるよー。カズコに近づこうとした男子生徒を闇から闇へ消してるんだってー」
え、あのユキも知ってる程の集団なんですか?それより、闇から闇ってなんですか?どっかの殺し屋ですか?
「でも、それは噂ではないんですか?そんな事が起こってたら、普通は学園長や教師が止めるはずでしょ?」
「それはそうだが……。アイツ等、証拠隠滅が上手すぎて、この学校の教師ですら証拠を掴めないらしい……」
「つまり、KKKはロリコンが戦慄するほどの集団なんですね?」
「ああ……って、俺はロリコンじゃねぇ?!ただ、無垢な少女たちを愛でたいだけだ!!」
いつも通りの準のセリフを聞いての本日2度目の、のほほーんという気持ちになりながらあのKKKの団長、宮本さんのことを思い出す。
「しかし、あの宮本さんからはそういう邪な気配はしませんでしたが……少々頭に血が上りやすい程度で、誠実そうな方でしたよ」
「お、お前、あんなこと言われて、誠実そうって……」
「宗紫君がそう言うのなら、彼はそういう事をしていないのかもしれませんね。そうなると、KKKの誰かがしてるのかもしれませんね」
「まあ、それも放課後の決闘で分かるかもしれませんし、気長に待ちましょう」
こうして、放課後までの時間を僕は普通に過ごし、決闘の会場である体育館へと向かうことになるのだった。
~~~~~~
~~~~~~
時は過ぎ、放課後。
KKK団長であり、剣道部主将である宮本剣吾は体育館内で姿勢を正し、精神統一を行っていた。
自分の言葉を無視してこの場についてきた団員たちが、色々と言ってはいるが些細な事。
深く心を落ち着けながら、少しだけ考え事をする。
自分たちKKK団は、様々な理由で川神一子に救われた者達で構成されている。彼女に救われ、世の不条理に心が折れながらも努力し、何度も立ち直った。
そんな彼女に何か恩返しがしたい、そういう想いでKKK団は設立された。
彼女の幸せが我々の幸福。それが団の信条だ。
だから、彼女が真に幸せなのなら、彼女ができようが彼氏ができようが我々は応援する。
しかし、壬生宗紫。彼だけは認められない。認めたくない。
優男で弱そうな男であり、しかも周囲に合わせた八方美人。自分よりも強い者と仲良くし、さも自分は凄いと言わんばかりの男……反吐が出る。
だからこそ、一子さんには相応しくない。俺たちが救わねばならない。
そう思っていた……。
思い出すは、一子さんと転校生の決闘後の出来ごと、まるで人を馬鹿にしたかのような態度に俺は頭に血が上り、教師の制止の声も聞かず拳を振り上げた。
だが、俺の拳は壬生宗紫に当たることはなかった。
あの男が一睨み、たった一睨みしただけで俺の動きは止まってしまった。
いや、アレは止めなければならぬ程に強烈だった。
心臓を鷲掴み……いや、違う。アレは剣だ。剣を突き立てられ挙動全てを封じられてるような、よく解らない感覚……いや、違う。あの感覚は本能では理解してしまってる恐怖だ、最も恐ろしい恐怖、死。
そんな感覚を一睨みで起こさせる壬生宗紫に戦慄し、それと同時に彼が自分の届かぬ遥か高みの存在であることを理解してしまった。
だが、男には引けぬ戦いがある、意地を通さなければならない戦いがある。
そう自分に言い聞かせ、深く息を吐き目を開けると共に奴は、壬生宗紫はこの場に来た。
「あ、もしかして遅刻しちゃいましたか?」
まるで、ただ遊びに来たかのように……。
~~~~~~
~~~~~~
川神学園、体育館。本来ならこの時間帯は部活動に所属生徒によって賑わっているのだが、今日だけは違った。
体育館の中央にはレプリカの日本刀を腰に差した二人の男子学生、宮本剣吾と壬生宗紫。そして、この学園の長である川神鉄心。
周囲には武闘派である教師とKKK団の団員が、二人の決闘を見守っている。
「両者、時間無制限で良かったかの?」
「はい」
「ええ、そうですね」
宮本剣吾は緊張気味に、対して壬生宗紫は普段通りの表情で答えると川神鉄心は頷きつつ、この決闘の勝敗のルールを再確認する。
「どちらかが敗北を認めるか、戦闘不能になるまではワシらを止めんよ。しかし、危険なことになれば戦闘を止め、勝敗を決めさせてもらうぞ」
「はい」
「ええ、分かりました」
川神鉄心の言葉に同意をし、宮本剣吾は刀を鞘から抜くと、剣先を水平より少しさげた構え、守りの側面が強い地の構えをとる。
対して壬生宗紫は、鞘から刀すら抜かず、自然体のままでいる。
「KKK団、団長! 宮本剣吾!」
「2-S、壬生宗紫」
「それでは、はじめい!!」
二人が名乗り、川神鉄心により開始の合図が出された瞬間――
「はっ?」
宮本剣吾、そしてKKK団の団員2名の頸が宙を舞った……。
まるで刀で頸を斬られたかのような切断面から血すら流れ出ない、完璧な斬首。宙を舞っていた頸は引力によって、床にゴロッと落ちる。
落ちた頸に付いている表情には生気がなく、死人のよう……。
この起こってはいけない現実を受け止めるのに教師陣、学園長ですらも数秒掛かる。
そして、理解したと同時に駆け出し……。
「おや、皆さん。そんなに慌ててどうしましたか?」
壬生宗紫の声によって、全員が現実に戻される。
教師陣の目には先程の凄惨な光景はなく、頸を押さえ息が荒く片膝をついてはいるが、しっかりと生きている宮本剣吾と白目を剥き気絶しているKKK団の団員2名がいた。
「それで、宮本さん。どうします? 続けますか、続けませんか?」
爽やかに聞いてくる壬生宗紫の問いに、剣吾は唇を噛みしめながら声を震わせ、認める。自身の敗北を。
「……俺の、負けだ」
目の前の男が、化け物であるということを……。
「勝者!2-S、壬生宗紫!」
「有難うございました。では、お先に失礼させていただきますね」
一度も使用することのなかったレプリカの刀を丁寧に返却すると、彼は先程の決闘などなかったことのように、軽い足取りで帰っていった。
悔しさで涙を零す、男子生徒など気にせずに……。
宮本さんは、ただ相手が悪すぎただけで、ほんとはお強い人なんですよ
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第伍話
今日は、風間ファミリー――アタシ、キャップ、お姉様、大和、京、モロ、ガクト幼馴染メンバー――の金曜集会。
風間ファミリーの秘密基地であるとある廃ビルに集まって、何気ない時間を過ごす。そんな集会。
まあ、今日は転校生のクリス――私はクリと呼んでいる――を風間ファミリーに入れるかどうかの議題があったけれど、メンバーの多数決の結果、様子見という形になったわ。
でも、正直……。
「クリス云々は別に良いとして、宗紫にファミリーに入って欲しいよな」
と、大和が私の考えを代弁するかのように言うと、皆も確かに。と、普段は私の彼氏である宗紫を追いかけまわすお姉様でさえ賛同してくれる。
「でも、本人があまり乗り気じゃねぇんだよなぁ」
「乗り気じゃないと言ってもなかなか金曜日に来れないだけみたいだし、暇があるときはこっちに顔を出してくれてはいるから、ほぼファミリーに入ってるものだと考えても大丈夫だと思うよ」
「よし! なら、宗紫はファミリーの仲間だな!」
ガクトの言葉にフォローを入れるような形で言ったモロに、キャップが力強く宣言すると、皆も快く頷き始める。
アタシの大好きな人がみんなに認められているのを感じて、私も自然と笑顔になる。
「でも、不思議だよなぁ。出会ったのは中学生ぐらいだけど、それこそ風間ファミリーができた頃からずっといるような感覚になるんだよなぁ」
「分かる」
「俺様もついうっかり小学生の頃の話とかして、何それ知らない。って表情とかされるときあるしな」
「そうなると、あの頃の大和を宗紫は知らないんだよね」
「み、皆。そんな目で俺を見ないでくれ。や、やめろぉ」
京の言葉に、みんな一斉に温かい瞳で大和を見ると、大和自身は当時の黒歴史を思い出したのか身体を震わせる。
「身悶える大和も素敵、結婚して!」
「京、お友達で……そういえば、宗紫のやつ決闘どうだった?」
いつも通りの直江夫婦のやり取りを繰り広げながら、大和はふと思い出したかのようにアタシの方に視線を向け、みんなも心配だったのか、一斉にこっちを見てくる。
私は皆に携帯のメール画面を見せながら……。
「無事、勝ったらしいわ!」
と、胸を張りながら告げると、皆が安堵の表情を浮かべつつ、わっ!と盛り上がる。
「宗紫のやつ勝ったのか!」
「ふ、ふん。ワン子の彼氏なんだから勝って当然だ。勝ってなかったら、二人の仲を引き裂いていたところだ!」
「ちょ、ね、姉さん。照れ隠しだからってそんな冗談、言わないでくれよ。ほら、ワン子の表情が……」
「あー、あれは……。とりあえず、ご愁傷様」
京と大和が何故かおびえているけど、アタシは気にしないわ。お姉様、とりあえず後でお話し、しましょう?
「まあ、とりあえず、だ! 今度、宗紫の奴が来たらアイツの勝利を盛大に祝ってやろうぜ!」
「「「おー!」」」
アタシの彼氏が、皆に愛されていて嬉しい。と、思いながら頬を緩ませていると……。
「それじゃあ、もう一つの議題。壬生夫妻の質問会はじめるぞ」
「ふぁ?!」
キャップがとんでもない議題を始めようとしていた……。
「ちょ、ちょっと! 急に壬生夫妻なんて言わないでよ!」
「あ、突っ込むところ、そこ、なんだ……」
モロの呟きなんて気にしないわ、ええ、気にしないわ。
「まだ結婚してないのに!」
「でも、いずぅれぇは?」
「するわ」
巻き舌風に言いながら京の言葉に対して、私は即答する。
ええ、するわよ。必ず宗紫さんと結婚するわよ。
「ま、待て! 結婚なんて、私はみとめ――」
「はい、質問。ワン子は宗紫のどこが好きなの?」
「遍く総て」
「おぉ。ワン子、遍くなんて言葉、知ってたんだな」
お姉様の言葉を遮るように出された京の質問に即答すると、大和に失礼なことを言われる。アタシだって、宗紫とのお勉強会で頑張ってるんだから!
「それじゃ――」
様々な宗紫とアタシに関する質問が出されて、全部即答する。こんな風に楽しい時間を過ごしながら、今回の金曜集会は過ぎていった……。
~~~~~~
~~~~~~
風間ファミリーが金曜集会を開いている同時刻。
川神市で最も治安の悪い場所、親不孝通りにあるアパートの一室にて壬生宗紫は腕を組み、目の前に置かれている3つの段ボール箱を見ながら悩んでいた。
3つの段ボール箱に貼られた送り状の依頼主名の部分には『壬生宗次郎』、『壬生紫織』、『坂上覇吐』と書かれており、普段は送ってこない人物の名前が、しかも2つの段ボールよりも一際大きい段ボールであることが彼の悩みの原因だ。
「覇吐さんと母さんの送ってきたものは『アレ』でしょうが……父さんは何でしょうか?まさか、母さんたちと同じものではないでしょうし……」
疑問を抱きつつ、宗紫は段ボールを開封していく。母親と彼の両親の仲間である坂上覇吐の段ボールの中身には、彼が想像していた通りの品……。青少年の聖典でもあるエロ本が隙間なく詰め込まれていた。さらには詰め込まれているエロ本のジャンルは様々であり、まさに古今東西ありとあらゆるエロ本が詰め込まれていると言われても過言ではなかった。
「ハァ、よくこんな沢山のエロ本を送ってきますね。頭、お花畑なんですかね?」
軽く言葉の毒を吐きつつ、数本エロ本を取り出し部屋の隅に置き、残りは幾つかの透明なビニール袋に仕分けしていくように入れていく。
「これは大和、これはガクト、これはモロ、これは……。ああ、川神鉄心さんと百代さんにもいろんな意味でお世話になっていますから、段ボールで梱包して送ってあげましょう。さて、問題はこの父さんの段ボールですね……」
エロ本の仕分けを終えると、自然と彼の父親が送ってきたモノへと目が向けられる。
「さて、残りは父さんの段ボールですが……はてさて、何が入っているのやら」
恐る恐ると、段ボールを開けていく。中身は緩衝材カラーコーンが詰められており、贈り物は見えない状態になっている。
「ハァ、ここまで厳重にするなんて、そんな立派なものを父さんが持っているとは――」
緩衝材を除けつつ父親に対しての文句を言っていた宗紫の言葉が止まる。
緩衝材に包まれていたモノ、朱色の鞘に納まっている日本刀を手に取り、鞘から抜いて刀身を露にする。
刃こぼれ一つなく、まるで流水のような美しき波紋。見る者すべてを魅了するかのような刀身だ。そんな刀を数秒見つめた後、宗紫はゆっくりと息を吐きながら刀を鞘に納める。
「いい刀ですね……。しかし、僕たちが刀を所持しておくのに一般の方と違い、面倒な手続きをしないといけないのを、父さんは分かっているでしょうに」
苦笑いを浮かべつつも、どこか嬉しそうにしながら宗紫はケータイを取り出し、とある人物へと電話をかける。
「あ、もしもし。あずみさん? ちょっと、日本刀所持したいので諸々の手続き九鬼の方でお願いできますか? お礼として、今度の仕事の給金は半額か無償でいいですので」
[ハァ?! いや、なんであたいが――]
「ありがとうございます! よろしくお願いしますね!」
壬生が、日本刀を所持する為の手続きを頼む宗紫に対して文句を言おうとしたあずみだったが、宗紫はその言葉を遮るように一方的に感謝の言葉を述べ、通話を切るのだった……。
「さて、明日の準備をしないとですね」
こうして、壬生宗紫の夜は過ぎていく。
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第陸話
今日は土曜日。一部の社会人、学生以外にとっては休息の日。
僕こと壬生宗紫は、友人たちとの待ち合わせの為に仲見世通り前にいた。
「おはよう、ソウシ」
「おっと、だから不意打ちの抱き着きは危ないですよ。ユキ」
僕の言葉に可愛らしい笑みを浮かべながらも決して抱き着きを止めないユキに、困ったような笑みを浮かべていると彼女のスピードについて来られなかったのだろう。少しだけ、息の荒い冬馬と準が遅れてやってくる。
「ハァハァハァ、急ぎすぎですよ。ユキ」
「ハァハァ、若の言うとおりだぜ。さすがの俺もだいぶ距離のある所からの全力疾走はキツイ……」
汗を流し、息を整えながら自身に抗議する二人にユキは僕に抱き着いたまま……いえ、より一層強く、身体を密着させながら。
「だって、愛している人を誰よりも早く抱きしめたいし、抱きしめられたいんだよ」
「ええ、分かっていますよ」
「ハァ、分かってるよ」
と、普段のユキとは違い、真剣な声色、狂気すら孕んでいるであろうその言葉に二人も何処か諦めたかのように言う。
榊原小雪は壊れている。それは二人と出会うずっと前から。
彼女の以前の家庭環境のせいか、それとも僕に出会ったのが原因か、それとも
まあ、しかし……。
「とりあえず、ユキ。離れてくれませんか? 先ほどから柔らかいものが2つほど物凄く強く感じるのですが……」
「ワザと当ててるんだよ、ソウシ。気持ちいい? 興奮した?」
「……ノーコメントで」
空を見上げて、努めて気にしていないという風に装う。僕の様子に準は笑ったので、思い切り男のシンボルを蹴り上げることで手打ちとし、僕たち4人は仲見世通りに入っていく。
~~~~~~
~~~~~~
「ソウシ、あのマシュマロ買おうよ」
「宗紫君、あのアクセサリーなんてどうですか?」
「宗紫、今日も天使たちは元気だな」
と、仲見世通りを歩きながら色々と言ってくる友人たちに僕は自然と笑みを浮かべ。
「ユキ、マシュマロは家にたくさんあるでしょう。あのマシュマロの山が半分になった時に買いに来ましょうね。冬馬、あまりアクセサリーは……正直、この髪飾りでも十分目立っていますし、
「まって?! なんで俺だけ辛辣?!」
過剰に反応する準に僕は中指を突き立て、さも当然と言わんばかりの表情をしながら。
「いや、今のご時世そうでしょう?」
「おい、中指突き立てないで?! それに、俺のことをロリコン、ロリコンと言うが、お前だってある意味で言えばロリ――」
「準、一子さんのことを言っているのなら、今日から自分の女性名でも考えたほうが良いですよ」
「ス、スミマセンデシタ。ナニトゾムスコダケハ……」
「……純子ですかね?」
「うーん、珠理とか?」
「いえいえ、露梨というのは如何ですか?」
「ヤメテェ! 俺のライフはゼロよ?! って、二人とも宗紫にのらないでくれぇ」
どこか疲れたように言う準に、冬馬は軽く謝罪し、ユキは囃し立てる。僕も悪ふざけが過ぎましたし、誤らないと……。
「今日から、露梨ですね。良かったですね、準……いえ、露梨。貴方が大好きな種族と同じ名前ですよ」
「おい、マジで呼び続けるのか? なあ、宗紫? 宗紫?」
「冗談ですよ、準。それよりも、いつものところに向かいましょう」
「うぇーい。準、本気で焦ったね」
冷や汗を流しながら真顔で近づいてくる準を軽く流しつつ、自身の目的地でもあった和菓子店に向かってまっすぐ進むと、忙しい時間が過ぎたのか、普段は客で溢れ、忙しそうにしている看板娘が手持ち無沙汰なのか店の前の道を掃除していた。
「おはようございます。千花」
「おはよー、チカ」
「おはようございます。小笠原さん」
「おはよう、小笠原」
「みんな、おはよう。まあ、もう朝はとっくに過ぎてるけどね」
そう言いながら、千花は掃除道具を片付けに店の奥に向かって行き、その間に僕たちは購入する商品を選んでいく。
しかし、やはりここの店は素晴らしいですね。どの商品も魅力的でどれかを1つを選ぶのは難しい。さて、どうしたものか……。
「みんな決まった?」
「僕、きな粉ー」
「なら、私はおはぎで」
「俺は栗羊羹だな」
「な、なら……」
僕が熟考している間に戻ってきた千花にみんなが注文し始め、慌てて今日の和菓子を決めようともう一度、魅惑の和菓子たちを見る。
きな粉餅。いや、豆大福。いや、ここは桜餅に。いや、でも、しかし……。あぁ、どうしてこんなにも僕を惑わせるのでしょうか……。
「宗紫、いつものにする?」
「……はい」
このままでは埒が明かないと思ったのでしょう。千花の言葉に僕はただ頷くしかありませんでした。
これも総て、此処の和菓子が魅力的なのが悪いんです!
~~~~~~
~~~~~~
「やはり、此処の和菓子はパーフェクト、パーフェクトですね」
「はいはい、ありがとう。みんな、お茶どうぞ」
「いつもすみませんね」
「べつに大丈夫よ。それに宗紫達は昔からの常連さんだしね」
店の側に設置された椅子に座りながら湯呑に淹れられた熱いお茶を受け取り、ユキと冬馬、準もお礼の言葉を口にする。そんな僕たちの膝の下にはそれぞれが注文した和菓子の乗った皿が置いてある。
きな粉餅におはぎ、栗羊羹。そして、
「しかし、まあ、あんなに悩むんだったら全部頼んじまえばよかったろ、宗紫。お前の懐なら余裕だろ」
栗羊羹を黒文字で一口サイズに切り分けながら、先ほどのことを思い出し苦笑いを浮かべながら言ってくる準にほんの少しだけムッとなりますが……。
「解ってないですね、準。そんなことしたら和菓子の風情がなくなってしまう。確かに和菓子は美味しい。神が与えたもうた最高の贈り物にして、兵器。特に此処の和菓子はヘタな高級店より素晴らしい。だからこそ、その甘美を享受したく沢山食べてしまいたくなる。だがしかし、和菓子とはそうではないのです。和菓子とはそういう風に食べるのではないんです。和菓子は風情を感じるのです。そう、ほんのり残る――」
「あぁ、ストップ! ストップ! お前の和菓子講座は何度も聞いてるから、ちょっとした冗談だから!」
「……そうですか」
慌てた様子で僕の和菓子語りを止める準に不承不承ながらも了承する。準にはまた3時間、いや4時間ほどの和菓子講座をしないといけませんね。
「うっ、悪寒が……」
「準の純ケツを狙ってる人間の視線でもあったんじゃないんですか? あ、今うまいことを言えた気がします」
「全然うまくねぇよ! クソ、何処だ、何処にいるんだ?」
自分の尻を両手で隠すように覆いながら、真っ青な顔で周囲を見渡す準を尻目に僕は購入した久寿餅を食べる。
あぁ、これですよ。この味にこの触感。やはり此処の店は最高ですね。
自然と表情が綻びるのを感じつつ、久寿餅を食し、熱々のお茶を飲むという行為を繰り返していると……。
「まさか、俺の純ケツを狙っているのはお前なのか、宗紫?」
「その首刎ね飛ばすぞ、貴様」
「準、心臓えぐるよ?」
「ヒエッ」
僕とユキの真剣な声色に、準の顔が青を超えて白くなる。
これが僕の日常。遊んで、買い物をして、馬鹿なことを言う。僕たち友人たちのありふれた日常なのです。
~~~~~~
~~~~~~
日が落ち、人工の光が道を照らす時間。
小雪達と別れた宗紫は、街灯の下で誰かと通話していた。
「ハァ、百代先輩が寮の風呂釜を壊したと?」
『そうじゃ。かなり元気が有り余っておるようじゃよ』
宗紫の通話相手は、宗紫の通う学校の学園長にして、武術の総本山である川神院のトップである川神鉄心のようであり、鉄心の言葉を聞きながら彼のその表情はみるみると不穏な色に染まっていく。
「そうですか……。それで、僕にどうしろと?」
[お主に、
「お断りします」
[その理由を聞いてもいいかの?]
「まだ時期ではありませんので。それに……」
[それに?]
「いえ、なんでもありませんよ。とりあえず、その願いはお断りしますので」
そう告げて、宗紫はまだ何か伝えようとした鉄心の言葉も聞かず、一方的に通話を切る。そして、星のない黒い空を見上げ。
「僕自身、まだ総てを棄てる覚悟ができていないのだから……」
誰に聞かれることのない彼の呟きは、夜空に吸い込まれるように消えていった……。
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第漆話
休日が終わり、誰もが嫌な気分になる週の初め。
僕は早朝の鍛錬を終えた後に、互いの指を絡めあった手繋ぎ――所謂、恋人繋ぎ――をしながら一子さんと共に登校していた。
「それでね。土曜日の夜に、お姉さまとおじい様宛の宅急便が届いてね。何かの懸賞品が当たったのかもって思って、アタシ二人の目の前で開けたの。そ、そ、そ、そしたらね、中身は、その、えっと、え、えっちぃほ、本だったの……」
と、頬を染め、恥ずかしいのか身体をもじもじと動かしながら言う一子さん。ハァ、可愛すぎませんか。
しかし、二人が目の前にいたとはいえ、開けたのは一子さんでしたか……。ちょっと、失敗し……失敗していませんね、うん。一子さんの恥ずかしがっている姿を堪能出来ていますし。
まあ、ちょっとフォロー入れておきますか。
「ふふ、それは災難でしたね。しかし、百代先輩が6、70代SM趣味で、学園長が貧乳活発JK趣味だったとは」
「……ねぇ、宗紫。どうして、二人に届いた本の種類を知っているの?」
「アッ、ヤッベ……」
つい、一子さんの魔性の魅力に中てられ、口を滑らせ失言してしまった。先ほどまで恥ずかしそうにしていた一子さんでしたが、今は据わった目で、じーっとこちらを見てくる……。
「え、一子さん可愛すぎです」
「にゃっ?!」
「アッ、ヤッベ……」
またしても一子さんの魔性の魅力に中てられ、口を滑らせ本音を言ってしまった。ばっちりと聞いてしまった一子さんも――普段は周囲からワン子と呼ばれている彼女だが――猫みたいな声を出して、顔を真っ赤にしてしまう。幾分か握られている手の力も強くなり、体温も高くなっているように感じる。
「そ、そのね、そ、宗紫。あ、あまり、そういう事、急に言わないで……ど、ドキドキが止まらなくて、し、心臓にわ、悪いの……」
「あ、そ、そうですか……。す、すみません。もう、言わないように気を付けます……」
「あっ、ち、違うの! 止めて欲しいってことじゃなくて! そ、そのね、宗紫の言葉、私嬉しいのよ。嬉しいんだけど、嬉しすぎて頭が沸騰しちゃいそうなの! それに、ドキドキも凄くて、宗紫にこの音聞かれてるんじゃないかって考えると、また恥ずかしくって……」
「一子さん……」
「そ、宗紫……」
依然、顔は赤いままでもじもじとしながらも上目遣いでこちらを真っすぐ見てくる一子さんに、僕は一子さんを抱き寄せ、顔を近づけていく。
あの時、保健室でできなかった事を、
「ゴホンッ! 天下の往来でそういうことをするのは流石に如何なものだと思うぞ」
「……
幾度も幾度も僕たちの逢瀬を妨害してくる大和に文句を言おうと、声のした方向を振り向くとそこにはいつもの見慣れたメンバーや大和が立っていたのではなく、先週の決闘でお世話になった宮本剣吾さんがあきれたような表情で立っていた。
~~~~~~
~~~~~~
宮本さんに少し周囲の目を気にしろとお説教をされた後、宮本さんに話があると言われ、僕は彼に連れられ近くの土手に来ていた。
一子さんには心配されましたが、登校時間もありますので先に学校に向かってもらいました。
さて……。
「話があると言われましたが、以前の決闘での復讐とかですか?」
「いや違う。決闘での勝敗は完全に、壬生お前の勝ちだ。心残りがあるとすれば、お前に一太刀も、いや違うな……。始まる前からお前に負けていたことぐらいだな」
「……そうですか。では、話とは?」
「ああ、それは……」
宮本さんはゆっくりとこちらの方に居住まいを正し、まっすぐと目を合わせてくる。そんな宮本さんに対して、僕はどんな攻撃が来てもいいようにと、ほんの少しだけ
さて、これで不意打ちによる即死は恐らくないはずですが、宮本さんは何をするつも――
「本当にすまなかったッ!!」
「……うん?」
何が起こったのでしょうか? 僕はなぜ宮本さんに綺麗な土下座で謝罪されているのでしょうか? てっきり、暗器的なもので不意打ちされるものだとばかり。しかし……。
「あの、とりあえず顔を上げてください。それと、なぜ僕は謝られているのでしょうか?」
「俺はお前を、優男で弱そうな男であり、しかも周囲に合わせた八方美人。自分よりも強い者と仲良くし、さも自分は凄いと言わんばかりの男だと、一子さんには相応しくない軟弱な男だと決めつけていた……」
「そ、そうですか。しかし、ひどい言われようですね」
「だが、実際は違った……。壬生宗紫さん、貴方は俺たち剣士が目指す遥か高みに存在する人……いや、一本の刃だ。そんな相手に俺は無礼を働き、あまつさえ一子さんとの仲を裂こうとした。このような事をしたのは自分が未熟者だったからだ……本当にすまなかった」
そう言って、宮本さんはまた深々と頭を下げる。宮本さんは頭に血が上りやすいが誠実そうな人だと思っていましたが、まさかここまでとは……。僕自身もまだまだですね。
「いえ、とりあえず顔を上げて立ち上がってください。僕自身そんなに怒っていませんし、それに貴方ほどの実力者を欺けるほど擬態に成功しているのなら僕自身的には嬉しい限りですし」
「擬態?」
「ええ、まあ、はい。実力を隠すといいますか。何と言いますか……。まあ、正直に言うと、僕的には
「そうか……」
何処となく納得できてなさそうな表情を浮かべながら、宮本さんは立ち上がる。
ええ、まあ、完全に理解してほしいとは思いません。世界の倫理観と言うものに縛られて、常に呼吸ができてないようなものと言うのは理解しなくていいものですしね……。
「さあ、宮本さん。学校に向かいましょう。このままだと遅刻してしまう可能性がありますし」
「あ、ああ、そうだな」
僕と宮本さんは自身の鞄を持ち、学校へと向かうため土手を上がろうとする。
ああ、そうだ。これだけは言わないと……。
「宮本剣吾。お前は強くなる。それこそ、剣聖と呼ばれるものやそれに連なる者たちに迫るほどに、だが努々忘れるな。剣を求めすぎれば、それは人斬りという道に向かうことになる。常に心を鍛え、剣を鍛えろ」
「……はい、解りました」
「ああ、それとこれは関係ないことですが、決闘でお二人気絶したでしょう? その方たちを調べてみてください。ちょっと面白いことになるかもしれませんよ?」
「あ、ああ、分かった?」
困惑しながらも了承してくれた宮本さんに感謝しつつ、僕たちは学校へと向かった。
数日後、数人の男子生徒が退学処分、豚箱行きになりましたが……まあ、関係ないことでしょう。
何故か一子と宗紫が良い雰囲気になると出現する大和君。
さて、感想待ってます!
感想が私の活力に変わる!!
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第捌話
では、第捌話どうぞ!
宮本さんと会話をした日から時間が経ち、今日は水曜日、祝日。
今日に至るまで、クラスメイトの心が大和たちに泣かされたり、僕の住んでいる場所の近くで怪しい薬が売られていたり、見ず知らずの男性の純ケツが掘られたりしていましたが、些細なことでしょう……。
さて、そんなごくありふれた日常を謳歌している僕は、本日、一子さんをデートに誘おうとしていたのですが、どういうわけか九鬼のプライベートジェット機に乗せられています。
まあ、乗せられている理由は分かりますが……。
「お仕事ですか、クラウディオさん?」
「はい、そうでございます。壬生様」
つい先ほどから、気配を少し殺しながら待機していた執事服を身に纏った老紳士、九鬼財閥従者部隊序列3位、クラウディオ・ネエロさんに確認をとると、予想通りの返事が返ってくる。
まあ、お仕事なら仕方ありません、一子さんとのデートはまた別の機会にしましょう。
しかし……。
「あの先ほどから可愛らしく睨んでくるお隣の幼女は誰でしょうか? 額のアレからして九鬼の人間でしょうけど」
「フハハ! 我の名前は
「これはご丁寧にどうも。僕は壬生――」
「知っておる。名は壬生宗紫。剣神、
クラスメイトとその姉を彷彿とさせるような態度で自己紹介をしてくる、額にバツ印の傷をつけた和服姿の準が如何にも喜びそうな体系の少女に僕は苦笑いを浮かべつつも自己紹介をしようとするが遮られ、一部の人間でしか知りえない情報を告げられる。
紋様に余計な情報を伝えたのは、クラウディオさんか
まあ、そんなとより、彼女に睨まれていた理由は解りましたね。
「なるほど、だから先程僕を睨まれていたのですね」
「……兄上や姉上ほど素晴らしい方だ。それなのに、兄上の気持ちに応えない川神一子や姉上を倒した川神百代が苦手だ。そして、壬生宗紫。お前も……」
「それは失礼しました。しかし、紋様は英雄と揚羽さんが大好きなんですね」
「うむ! 兄上、姉上は――」
大好きな姉と兄の話の為か饒舌に語りだす紋様に、僕は笑顔で適当に相槌を打っておく。変に敵対心みたいなものを抱かれ続けるのも面倒くさいですしね。幼子には好きなものを語らせて気分良くさせておくのが一番です。
しかしまあ、本当に嬉しそうに語られる。紋様の喋り方も相まって、久しぶりに、姉のような二人――なんとなく凄くて偉い桃色髪の方と、真面目で時々脳筋な銀髪の方――に会いに行きたくなってしまいますね……。
「壬生、聞いておるのか?」
「ええ、聞いていますよ。僕にとって英雄は素晴らしい友ですし、揚羽さんは素晴らしい武人ですからね」
「そうか、そうか! それで、兄上は――」
僕の言葉が嬉しかったのか、若干表情を綻ばせ、話の続きを再開する紋様。そんな彼女の話は現地に到着するまで続いた……。
~~~~~~
~~~~~~
紋様の姉上、兄上がいかに素晴らしいか講義を終え、たどり着いたのは某大国の成金邸の庭。
どうやらここで各国の政治家達のパーティがあるらしく、紋様はそれに参加するようである。
僕と紋様、クラウディオさんはその成金邸に入場した後、紋様はクラウディオさんを連れて政治家たちの集まる庭へ、僕は成金邸の隅の方で待機している。
しかし、まあ……。
「仕事の内容も告げずに行ってしまうなんて、薄情だと思いませんか? 不良爺?」
「フン、仕事の内容は俺が告げると言っておいたからな。壬生宗紫、飢えた獣」
つい先ほど僕の背後に現れた執事服をまとった不良老人、九鬼財閥従者部隊序列0位、ヒューム・ヘルシングに問うと、彼は毒づきながら返答してきた。まったく……。
「誰が飢えた獣ですか、獣と言うなら貴方もでしょうに。あ、いえ、獣じゃないですね。ペットでしたね。これは失礼」
「貴様……」
「はいはい、殺気を出さない、出さない。見ず知らずの成金さんが失禁していますからね。そもそもその程度の児戯に等しい殺気で僕が怯むとでも? 早くお仕事の内容を言ってくださいよ」
僕の言葉が癪に障ったヒュームは、僕にとっては微風レベルにもならない殺気をぶつけてきますが、深呼吸をして落ち着いたのか殺気を抑えて仕事の内容を話し始めます。
「ハァ。今回の仕事の内容は紋様の護衛。それだけだ」
「完結的な説明有難う御座います。しかし、そんな仕事、僕は必要ですか?紋様の側にはクラウディオさんがいますし、それにアンタもいる。僕、必要ないでしょう?」
「念には念をというやつだ……。ほら、貴様の刀だ」
そう言いながら、ヒュームは中身の入った刀袋を僕に放ってくる。
ハァ、まったく。人の刀をそう雑に扱わないで欲しいですね……。
「中身は、以前あずみさんにお願いしたものですか?」
「ああ、そうだ。まったく、面倒なことを九鬼に押し付けるな。お前が……いや、壬生が刀剣所持をするための手続きがいかに面倒くさいかしっているだろう?」
「だからこそ、頼んだんですよ。ちなみに、この刀の銘とか分かりました?」
「銘か? 確か
「建速ですか……さて、お仕事は紋様に悟られないうちに邪魔者の排除。それでよろしかったですか?」
「壬生宗紫、その年齢でボケたのか? 俺は、紋様の護衛だと言ったんだ」
「ええ、それは覚えていますよ。だからこそ、邪魔者の排除と言ってるんですが……ペットさんこそ、齢のせいで鈍りましたか?」
「貴様ッ!」
お互いに煽りながら言い合っていると、僕個人に対してだけ沸点の低いヒュームはまたも殺気をぶつけてくるが、一瞬で殺気を引っ込め神妙な面持ちに変わる。
「確かに貴様の言う通りかもしれんな……。一人、いや二人か?」
「本当にボケたんじゃないんですか? 三人ですよ。二人はプロの方なんでしょうね。気配の消し方が巧い。ですが、巧いだけで完璧に消せているわけじゃありませんね。それで、あなたが察知できなかった3人目ですが……これは、プロ中のプロ。感覚的なアレですが、貴方達がよく言う壁を越えた人間か、片足だけでも入ってる人間って感じですね」
「それで?」
「貴方にはプロの方をお任せしますよ。僕はプロ中のプロの方をいただきますね」
僕の言葉が何処か気に入らなかったのか、ヒュームは一気に不機嫌な表情に変わり、睨みつけてくる……あ、此奴。強い方と戦いたかったんだな。でも、譲ってやるつもりはありませんよ。
「ハァ、これは紋様の護衛でしょう? なら、貴方が近くにいる敵を倒さないとどうするんですか。それに、3人目を見つけたのは僕ですから、早い者勝ちというわけですよ」
「……仕方がない、今回は譲ってやろう。だが、やりすぎるなよ?」
そう余計な一言を残し、ヒュームは二人を狩るべくこの場から去っていった。
「ハァ、本当に余計なお世話ですよ……さて」
周囲に人がいないのを確認してから刀袋から刀を取り出し、腰に差す。そして、勢いよく鞘から刀を抜く。刀身は刃こぼれもなく血も啜っていない、綺麗な刀身のままだった。
「さて、試し斬りまでいける相手だと良いんですがね……」
逸る気持ちを抑えつつ丁寧に納刀し、僕も3人目がいる場所に向かうのだった。
~~~~~~
~~~~~~
場所は某大国の政治家が開いているパーティ会場の少し離れた木々が生い茂る森の中。
そこにソレはいた。
迷彩柄の服を身に纏い、その両の手を血で赤黒く染め上げた男。
男の周囲には十数人の黒いスーツのようなものを着た屈強な男たちが倒れていた。
倒れている男たちは誰もが動かず、人体で重要な器官の一つである心臓が位置する場所には、ぽっかりと穴が開いている。
この光景を第三者が見ればすぐに理解するだろう。
迷彩服の男が一人で黒いスーツたちを殺害したのだと……。
黒スーツの男たちは、今回のパーティーの警護の依頼を受けた者たちだった。誰もが特殊な経歴を持ち、ただの犯罪者達や武を嗜むもの程度に後れを取るはずがなかった。九鬼の従者部隊、上位陣とまではいかなくともそれより下の者たちには引けをとらない強さがあると自負していた。
だが、その自負は迷彩服の男が現れた瞬間に砕け散った。
男達には何が起こったか認識すらもできなかっただろう、いや認識はできたのかもしれない。ただ、それは一瞬。自分の心臓を素手で握りつぶされたという事実のみだったが……。
「フゥゥゥゥ」
迷彩柄の男は深く息を吐く。それは自身の心を落ち着かせるためか、それとも殺した男たちの弱さに対する落胆からか……。
だが、迷彩柄の男は直ぐに思考を切り替える。
自身の目的はスーツの男たちを殺すことではない。自身の視線の先にある会場にいる九鬼紋白の誘拐、そして巨額の身代金を要求する。それが受けた依頼だった。
男は依頼を完遂するために会場の方へと歩を進める。
その際、ふと男の依頼主が言っていた言葉を思い出す。
身代金を手に入れるまでは九鬼紋白を好きにして良いと、もし身代金を相手が払わなければ九鬼紋白はお前のモノだと。
その言葉を思い出し、男の顔が自然とニヤける。男の脳内には自身が九鬼紋白を、まだ穢れも知らぬ無垢な身体を穢す光景が浮かび上がっていた。
「(あぁ、彼女を自身のコレクションの一人にしよう。何度も穢し、何度も自身の遺伝子を宿らせよう。他のコレクション達も新しい仲間が増えてさぞ喜ぶだろう)」
自身が戦利品として獲得してきた他の少女たちと同じように、自身の子を胎に宿した紋白を想像しながら、男は足取り軽く目的の場所へと向かおうとする。
だが……。
「おやおや、これは凄いですね。すべて、一撃ですか……ふむ、傷口から見るに武器の類ではなく貫手のようですね。しかし、人体を容易く貫手とは……凄まじい修練をしたようで」
「ッ?!」
突然背後から聞こえきた声に男は振り向き、構えを取り視線を向ける。視線の先には腰に刀を差し、興味深げに死体の傷口を観察する独特な和服を着た少年――壬生宗紫が立っていた。
「(一体いつそこに立っていた⁈ そもそも人が現れたのなら気配でわかる。なのに此奴はまるで――)」
「まるで、気配を感じなかったですか? ああ、お気になさらず結構ですよ。ただ、僕が修めてる武術の初歩を使ったにすぎませんから」
「ッ?!」
男は自身が考えていた言葉を言い当てられ、さらに使った技術が初歩の初歩で会ったことに驚愕する。
そして、男の思考は先ほどまでの淫らなものは一切に無くなり。その総ては目の前にいる少年に埋め尽くされる。男は一体何なんだと、自身より一回りも年齢が違うであろう少年のこの落ち着いた様子は何なんだと。何故、俺はこんなにも目の前の存在に恐怖しているのだと……。
「さて、長話や膠着と言うのは面倒ですし、はじめましょうか?」
その言葉が殺し合いの合図となった。
先に駆け出したのは男の方である。それは男の持つ自尊心からか、恐怖からかは解らない。
だが、男は常人ならば視認できない速度で宗紫に向かって駆け、そして自身が最も信頼する一撃必殺の貫手を心臓に向かって放つ。
宗紫は男を視認できていないのか、構えもせず動こうともしない。その様子に男は安堵する。
しかし……。
「ふむ、案外速いですね。でも、これが最高速度というわけではないでしょう?」
男の必殺は宗紫の心臓ではなく、虚空を貫いていた。
男は何が起こったのか理解できない。確かに心臓を貫こうとした。だが、目の前の少年はその場から一歩も動かず自身の必殺を避け、余裕そうな表情を浮かべている。
「どうしました、攻撃しないんですか?」
「舐めるなァァァァァ!!」
宗紫の言葉に自尊心を煽られた男は、彼の命を奪わんと、突き、貫手、蹴りを人体の急所を抉らんと殺意を持って放つ。
だが、宗紫は技が完全に放たれる前、男の初動の時点で自身の拳や蹴りを当てることで技を潰していく。
そんな神経をすり減らす、綱渡りのような打ち合いを数十合繰り返し宗紫の表情は変わらず、反対に男の表情は険しいものになり息を荒く、動きは大雑把になる。
その隙を見逃すほど宗紫は優しくはなかった。
「フンッ!」
「ガァッ?!」
宗紫は周囲が地震と錯覚する程の踏み込みで男の懐に潜り込み、がら空きとなった腹部に向かって拳を放つ。
落雷と見紛う程の強力な拳を受けた男は数メートル先まで吹き飛び、地面を転がりながらもなんとか勢いを殺し立ち上がる。しかし、腹を押さえ、苦悶の表情を浮かべその場から一歩も動けずにいた。
「まさか、ただ一度の攻撃で終わりというわけではありませんよね?」
そう言いながら、宗紫は腰に差していた刀を鞘から抜き、露になった切っ先を目の前の男に向ける。
「本番はこれからですよ。さて――」
ゆったりと身体を半身にし、刀を真横に、切っ先を相手の目に向けるような構えを取る宗紫は何処か期待するような表情を浮かべながら……。
「簡単に壊れないでくださいね?」
人という生物の枠組みから外れた
感想待ってます!
では!
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第玖話
もっと、文章力を高めなければ……。
では、第玖話どうぞ
ヒューム・ヘルシングが九鬼紋白を狙う刺客2名を排除して、数分。彼は、壬生宗紫が消えた森の中に来ていた。
目的は、壬生宗紫の生存確認とあわよくば壁越えの者との決闘だった。しかし、ヒュームの目的は一つを除いて果たせずに終わる。
森の奥に近づくにつれてどこか生理的嫌悪を感じさせる、鉄のような臭いが濃くなっていき、周囲の木々は異様なまでに綺麗な切断面だけを残し消えていた。
そんな異様な光景にヒュームは歩を速め、目的たる人物がいる場所に到達し、ソレがあった。
ソレは両手足を切断され、達磨のようにされた男。いや、達磨にされているだけなら、どれだけマシだったか……。
両目は潰されたのか、閉じられた瞼から赤黒い血とそれとは違う、ドロリとした何かが流れ出ており、舌を斬られ咽喉を潰されたのか叫び声を上げることもできない。しかも、このようなことを行った人物はそういうことに詳しいのか、切断された舌を無理やり伸ばし、枝で固定して窒息しないようにしてある。
そして男の股間部分、そこからも血が滲み出ており、簡単に
ヒュームはそんな無残な姿になっている男を一瞥した後に、この世な惨状を作り上げた人物に溜息を吐きながらも視線を向ける。
「……やり過ぎるなと言っただろう、壬生」
「やり過ぎていませんよ、死んでいませんし」
そう返答しながら、宗紫の視線は先程まで戦っていた男に視線が向いている。その瞳には何処か諦めや期待外れといった考えが見え隠れしていた。
「ハァ、試し斬りの相手にもなりませんでしたよ……。ところで、そこの男に聞きましたが、今日まで様々なご令嬢やご子息達を攫っては身代金を貰って、その方々達を返さずに色々と愉しんでいたそうですよ。使えなくなった者は売り払ったか、地面の下だそうで……あ、生きている人たちの居場所も聞きましたので、親御さん達の所へ返してあげてくださいな」
そう、つまらなさそうに言いながら、宗紫は地面に転がっている男を一瞥してからゆっくりとこの場から去っていこうとする。
そんな宗紫に何を思ったのか、ヒュームは一言だけ声をかける。
「壬生、生きづらいか?」
その言葉に宗紫はヒュームの方に振り返り、何処か疲れたような表情を浮かべ……。
「ええ、全力を出せない。互いに高め合う様な存在がいない。自分の魂は、
何処か悲しみを含んだ声色で彼は返答し、その場からゆっくりと去っていた。
~~~~~~
~~~~~~
政治家パーティも終わり、帰りの道中も紋様の揚羽さん、英雄講義を聞き、ある程度仲良くなってから自宅に戻った後、僕は風間ファミリーが毎週金曜日に行っている金曜集会の会場であるとある廃ビルに来ていた。
僕自身、風間ファミリーに入っているわけではないですが、彼らのご厚意で時々この金曜集会に参加させていただいています。
ちなみに、一子さん、大和、まゆっちから送られてきたメールで皆さんがだいぶ活躍したことが分かりましたので、鯛の刺身を持ってきております。しっかりと痛まないように対策を施して。
さて、扉を開いてからの一言目は何にしましょうか。と、考えながらドアノブに手を掛けると……。
「よくも好き放題言ってくれたなァァァ!!」
「皆さん、どうしました?」
「あ、宗紫……」
室内から京さんの憤怒を持った絶叫が聞こえたと同時に、努めて冷静に迅速に扉を開けて室内に入る。
室内では、京さんの態度に困惑しているクリスさんとまゆっち。そんなクリスさんに今でも飛び掛からんとする京さんに、京さんを押さえる大和と百代先輩。普段と変わらないように見えるが静かに怒気を滲ませているモロ、そして、努めて冷静であろうとしている一子さんにガクトがいた……翔一さんはまだ来てないご様子。
この状況から見るに、クリスさんが京さんの地雷原でタップダンスでもしたんでしょうね。
まあ、とりあえずは……。
「クリスさんとまゆっちは、僕と一緒に屋上に行きましょう。残りの皆さんは京さんのケアの方お願いしますね」
皆さんが頷いて了承してくれた後、一子さんに鯛の刺身を預けてから僕は二人を連れて屋上へと向かった。
~~~~~~
~~~~~~
二人を連れて屋上に来て、数十分。二人にはある程度、精神的に落ち着いて欲しかったので、僕は何も喋らず、ずっと夕日を眺めていた。
「あの、宗紫さん。どうして私たちは連れてこられたんでしょうか?」
「自分も教えて欲しい」
と、ある程度、精神的に落ち着いてきたのか、二人から質問がとんできた……。いやはや、何にも理解してないか、此奴ら。
「ハァ、実直、真面目、謙虚と言うのは美徳でもありますが、時には害悪でしかありませんね」
「どういう意味だ?」
「いえいえ、こちらのお話ですよ……さて、クリスさん。貴方は他人の地雷原と言いますか、心でタップダンスをするのが御趣味の人間だと思いますが……」
「なッ?! 私にそんな趣味はない!」
「実際、京さんに対してやってるんですよ。お堅い貴方のことですし、風間ファミリーに対して、遊ぶのなら家でもできる。こんな廃ビルさっさと取り壊すべきだ。とでも、言ったんでしょう? それが地雷原タップダンスですよ」
「だが、私は世間でも当然の意見を言っただけだ」
「ハァ、だからいい加減気づけよ、阿呆」
「阿呆だと?!」
阿呆と言う言葉が気に入らなかったのか、怒りながら詰め寄ってくるクリスさんに対して、僕は一歩も引かず、なるべく冷静に対処しようと考える。だが、まゆっちは僕に対して不穏な空気を感じたのか、オロオロしながらもクリスさんを見守り、いつでも刀を抜けるようにと、刀袋から少しだけ柄の部分を出して準備していた。
そういう所はいい子なんですよね、まゆっち。
さてさて、本題を喋っていかないと。
「とりあえず、どうして京さんが怒ったのか。僕が答えを教えても意味がないでしょう。ヒントと言うか、簡単な例えを頭が折れず曲がらずなクリスさんでも解るように」
「壬生、馬鹿にしているだろう?!」
「ヒントとしましては、このビルをクリスさんのとても大切なものに置き換えてください。そして、その大切なものに対して、他人に皆さんに対してクリスさんと同じようなことを発言されたことを考えてください」
「……それは」
「ご理解できましたか? 貴方が京さん、皆に対して言った言葉の愚かさを」
「……あぁ」
ヒントと言うか、実質的な答えを聞いてクリスさんは失言の重大さに気づいたようで、後悔の色を浮かべながら、顔をうつ向かせる。
「まあ、そこら辺は戻った時にしっかり謝りましょうか」
「ああ……」
「では、次にまゆっち」
「ひゃ、ひゃいぃぃぃ!!」
と、急に話を振られて驚いたのか、ヤの付く職業さん方も裸足で逃げ出す表情を浮かべなら上ずった声で返答してくる。まゆっち、とりあえずその表情止めましょうか。いろいろ勘違いが起こりますよ。
「まあ、まゆっちはとてもいい子ですから、クリスさんみたいなことは言ってないでしょう。でも、友人たちに対して自分なんかが、とか言ってません?」
「それは……」
「ハァ、昔からそうでしたが、友人に対して自分を卑下する発言は駄目ですよ。前にも言いましたよね? まあ、あの時は遠回しな言葉でしたが……友人たちとは対等なんです。だから、しっかりと自分をもって接しなさい」
「……はい!」
と、クリスさんとは違い、明るく可愛らしい表情でまゆっちは返答する。本当に解ってくれてるといいんですが……。
「さて、お二人とも、そろそろ戻りましょうか。クリスさんはしっかりと謝罪してくださいね」
「あぁ……」
こうして、二人との会話を終えた僕は、二人を連れて皆さんがいる部屋に戻ることになった。
あ、クリスさんに対しての大和のフォローもするつもりでしたが、忘れてました……。まあ、そこら辺はご本人に任せておきましょう。うん。
感想お待ちしています!
感想がもらえると、私もタップダンスして喜びます!
では!
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第拾話
クリスさんが京さんに謝罪し、まゆっちが全員に謝罪して風間ファミリー内の空気が少しだけ良くなった頃、ファミリーのリーダーである翔一が、バイト先の余りであろう大量の寿司――恐らくネタはたまご――を持って、部屋に入ってきた。
流石は翔一と言うべきか、ファミリー内の空気を察知して、大和に詰め寄り今回のあらましを聞き、二人には寛大な処置が施された。
そして、関係修復の意味合いも込めての旅行の話になり、ファミリーの皆が僕も誘ってくれて、明後日2泊3日の旅行に出発することになりました。
そして、僕が持ってきた鯛の刺身と翔一の寿司で軽いパーティが開かれ、いい感じに金曜集会も終了しそうだと思っていました。
ええ、この後は問題なく終わると思ってましたよ。
どうしてこうなった。そう思いつつ前方に視線を向けると、鋭い視線で僕たちを見てくる一子さん。その背後には、一子さんの纏う空気が怖いのか距離を取ってるファミリーの皆さん。そして、僕の真横には一子さんの鋭い視線とそれに含まれた感情をぶつけられて顔を青くするまゆっち。
こういうのは、前門の修羅とでも言えばいいんですかね……。
「ねぇ、まゆっち。どうして、流れるように、当然のように、宗紫の隣に座ってるのかしら?」
「あわわわわわわ……」
「『お、お、落ち着くんだぜ、まゆっち! びーくーるだ、まゆっち!』」
あわわとしか言わないまゆっちを落ち着かせようとする松風。さらにこの場の混沌さが加速していく……。
いや、まあ、ソファの隅の方に座ってしまった僕が悪いんでしょうね。まゆっちは幼少期からの癖で隣に座ってしまっただけで……ハァ、目の前の
「一子さん」
「なぁに、宗紫?」
グンッと勢い良く、まゆっちから視線を外してこちらを見る一子さんに分かりやすく、僕は自身の膝のあたりをポンポンと軽く叩いて、示す。
「一子さん、どうぞ……」
「……ふぁっ?!」
僕の行動の意味を理解した一子さんは、先程までとは違い、頬を赤く染め、一気にしおらしくなり、自身の背後の皆さんとまゆっち、僕の膝とコロコロと視線を変えていく。
「来ないんですか?」
「え、あう、あの、その……お、お邪魔します」
そんなことを言いながら、一子さんはゆっくりとまるで壊れ物を扱うように僕の膝に尻を乗せて、背中を僕の体に預けてくる。僕はそんな一子さんが膝から落ちないように、片腕をまわして一子さんの腹部に置いて支える。
「そ、その重くない?」
「全然」
「そ、そっか」
いまだに頬は赤いままですが、一子さんはふにゃっとした可愛らしい笑みを浮かべる。
すると、一子さんの機嫌が良くなったのが分かったのか、まゆっちは安堵の表情を浮かべ、距離を取っていた皆さんも近寄ってくる。
「流石、宗紫」
「いやはや、そこまでのことじゃないですよ、京さん。ほら、後ろの
僕の視線の先を辿るように京さんがそこに視線を向けると、今にでもハンカチを噛みそうな、いや、噛み千切りそうな女性が一人……。
「あぁ、宗紫。月明かりのない夜道には気を付けて」
「まあ、その時は一子さんと一緒に帰って、お泊りでもしますよ」
「え?! お、お、お、お泊り、り、り?! そ、そんな……アタシ、に、におい……下……地味……か、買わな……。は、ハジ……が、頑張ら……」
と、ブツブツと何か言いながら、顔を真っ赤にし、若干ショートし始める一子さんを愛おしく感じながら、頭を撫でつつ……。
「京も大和にやってもらうと良いですよ」
「そうする。大和、私と一緒に
「いや、意味わかんないからね?!」
いつもの大和と京の夫婦漫才にほっこりしつつ、視線はそのままに、他のメンバーの方に耳を傾ける。
「……人目がある中で、あれはいいのか?」
「良いんだ。アレが二人みたいなものだしな……だが、ワン子とイチャイチャラブラブチチュッチュッしてるのは、許せんッ!!」
「いや、モモ先輩。それは、認めてるのか、認めてないのか、どっちなのさ?」
「どっちもだ!」
「アレが包容力か……ハッ! 俺様も宗紫ぐらいの包容力を身に着ければ、モテるんじゃ?!」
「いや、ガクトには無理でしょ。ほら見てよ、真っ赤なワン子と対照的に宗紫なんて全然涼しい顔だし、ガクトの場合、邪な気持ちがすぐ顔に出るでしょ?」
クリス、百代先輩、モロ、ガクトが恐らくこちらを見ながら好き放題に言っていた。しかし、モロ。少し、少しだけ訂正させてください……。
ぶっちゃけると色々我慢の限界なんですよ、僕。
自分から勧めておいてアレですが、一子さんは先ほどから座り心地のいい箇所を探すためか、お尻をモゾモゾと動かして僕の下半身を移動してるんですよ。一子さんの柔らかいお尻の感触が服越しとはいえ僕の下半身に伝わって大変ですし、背中を僕の体に預けているものですから、一子さんの甘く、ほのかに優しい匂いが僕の鼻腔を刺激してきてますし、一子さんが落ちないようにする為とはいえ、片腕は一子さんの腹部を触っているわけで……。
ええ、僕の下半身に鎮座するソハヤ丸を抜刀しないように集中してるんですよ。
「しかし、本当に流れるように宗紫の隣に座ってたな、まゆっち。もしかして、元カノとかか?」
と、僕の裏の努力を知らない、京さんの追撃を往なした大和がニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら僕たちに聞いてくる。その言葉にまゆっちは先程の一子さんの顔を思い出したのか顔色を青くして、一子さんは先程とは違い不安そうな表情で僕を見てくる。
まあ、べつにあの程度なら言っても大丈夫ですか。大和が追及してきたのなら、巧く躱せるように頑張ればいいですし。
「ハァ。大和、それは違いますよ。僕とまゆっちは家族ぐるみで付き合いがあっただけですよ。それこそ彼女と言うよりは友人とか妹みたいなものです」
「そ、そ、そ、そうです! わ、私にとっては兄みたいなもので!」
「お、おう、そうか」
いや、まゆっち。ヤの職業の方、顔負けの強張った顔を向けてはいけませんよ。大和が引いちゃってますからね。
まあ、まゆっちのおかげで大和からの追及――特に僕の両親に関係するもの――もなさそうですし、彼女には感謝ですね。
しかし、そうは上手くいかないのが世の中の常で……。
「家族ぐるみと言うことは、宗紫の両親は武道家だったのか?」
武神としての勘か、それとも別の何かか、掘り下げができない大和に変わり、百代先輩が僕の家族についての話を掘り下げてくる。
しかし、まあ……。
「いいえ、僕の両親は武道家ではありませんよ」
「そうか……」
僕の言葉に百代先輩は解りやすいようにガッカリとする。もし武道家だったら、戦ってみたいと思ったのでしょうか、それほどまでに強者との戦いに飢えているんですね……。
でも、百代先輩が求めているとはいえ、あまり両親との戦いはおすすめしたくはありません。あの人たちは武道家という高尚な存在なんかではありませんから。
「ええ、残念ながら僕の両親は――」
「『何、言ってんだYO! みぶっちのパピー、マミーは、まゆっちのパピーを倒しちまうくらい強いじゃないか!』」
「――馬刺しにしてやろうか、この駄馬」
僕の言葉を遮るように言い放った松風の爆弾発言に、つい汚い言葉が出てしまった。いけない、いけない。僕の言葉に皆さん引いてますし、少し落ち着いて……。
「やりましたね皆さん! 馬刺しが追加されますよ!」
「お、お、お、お待ちください! 松風には後で私からきつく言いますから! 何卒、何卒、松風の命だけは!!」
「『そうだぜ、みぶっち! おいらは全然美味しくないぜ!!』」
「えーと、此処に包丁はありましたっけ?」
「待つんだ、三人、三人なのか? いや、それより、どうして平然と
「あはは! やっぱり、おもしれぇ!」
「それより、宗紫! お前の両親はそれほど強いのか?!」
松風を解体しようとする僕、松風を守ろうとするまゆっち、命乞いをする松風、僕たちにツッコミをする大和、爆笑する翔一、僕の両親について詳しく聞こうと詰め寄る百代先輩達……。
一瞬にして、またも混沌と化した金曜集会。
姦しながらも楽しい時間を過ごしながら、今日も僕たちの一日は終わっていった。
感想待ってます!
次回、女子会! だったらいいなぁ
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第拾壱話
文章力が欲しい……。
女子会と言う名の何かです。
では、第拾壱話どうぞ
誰もが寝ているであろう時間帯、壬生宗紫は正拳突きを何度も繰り返しており、彼の足元には流した汗でできた大きな水溜りがあった。
数百か、数千か、数万か、どれ程正拳突きを繰り返したのか解らないが、自身が満足したのか正拳突きを止めると、気持ちを落ち着けるかのようにゆっくりと深呼吸を繰り返す。
そして、両拳を自身の腰の辺りに持っていくような構えを取り。
「川神流、無双正拳突き」
次の瞬間、膨大な数の正拳突きが一息に繰り出され、何もない空を裂いていく音だけが周囲に聞こえる。
川神流無双正拳突き。武神とまで呼ばれる川神百代が最も使用する技。だが、宗紫の放ったソレは、威力、スピード、正確さ共に、川神百代に匹敵するか、それを上回るものだった……。
「ふむ……。やはり、数十回見たうえでの技の模倣だとこの程度ですか。やはり、もう少し基礎を固めていかないといけませんね。さて、あとは一子さん、ユキ、まゆっち、準、心、英雄、あずみさん、京さん、クリスさんの技もやっていきますか……おや?」
そう言いながら、持ってきていた大きな袋のようなものから、薙刀、弓、矢、日本刀、レイピア、小太刀などを取り出して、色々と準備をしていると側に置いてあった宗紫の携帯電話に着信音が鳴る。
時間も時間であり、疑問に思いながらも携帯電話に表示された『夜行さん』という文字を見て納得し、宗紫は通話ボタンを押して、電話に出る。
「はい、もしもし……お久しぶりですね。しかし、こんな時間にかけてくるとは、普通の人なら寝てる時間帯ですよ」
かかってきた電話相手は知り合いなのか、ちょっとした言葉の毒を吐きつつ返答する。
「しかし、『触覚』でしたっけ? わざわざそれを介して連絡するなんて、珍しいですね……魂の案内仕事は良いんですか? ええ、ええ、知ってますよ。ちょっとした軽いやり取りじゃないですか……それで、どうして電話してきたんですか?」
苦笑いを浮かべながら、当事者間以外が聞いたらあまり理解できないような言葉を言いつつも、宗紫は電話相手の本命の話を聞き、段々と真剣味を帯びた表情になってくる。
「……ええ、分かりました。では」
話を聞き終えると、言葉少ない返答をしてから宗紫は通話を切る。そして、少しだけ明るくなった空を眺めながら軽く息を吐く。
その表情はどこか哀しげな色が浮かんでおり……。
「遂に、総てを捨てないといけない時が来ましたか……」
その寂しげな言葉は空に吸い込まれるような小さな呟きだった……。
~~~~~~
~~~~~~
風間ファミリーと宗紫さんと一緒の旅行に行く前日である、今日。
アタシは旅行の準備のために、京と一緒に島津寮の前で、とある人物を待っていた。
「ワン子、だいぶ時間が経ってるけど、行かないの?」
「もうちょっと待って、たぶんあと少しで……」
「おはよう、カズコ」
「おはよう、ユキ。ただ、この抱き着き方はいろいろと問題があると思うわ。色々な意味で」
物凄い勢いで真正面からアタシに向かってジャンピング抱き着きをしてきたユキに対してちょっとだけ文句と言うか、注意をする。
なにせ、今のアタシの状況と言えば、首にユキの腕が回され顔が近く、足も腰に巻きつくかのようにしっかりとホールドされて、ユキとアタシの密着具合が凄いことになっているのだから。
そのせいで、アタシの胸にこれでもかと言わんばかりに、ユキの凶悪すぎる胸が潰れんばかりに押し付けられ、ユキが落ちないようにと支えるように掌をお尻に置いている……え、なに、胸とお尻のこの柔らかさ?! この弾力?! マシュマロみたい……いや、それ以上ね。
「アハハ、カズコ。お胸とお尻、揉まれるのくすぐったいよぉ」
「ユキ、揉んでないわ。ただ、戦力分析を……って、そんなこと大声で言わないで?! 近隣住民の方にあらぬ疑いが!!」
「送信っと」
「京、何を送信したのよ?!」
「え? 宗紫に、ワン子とユキの浮気写真を」
「なんてことをしてくれたの?!」
とんでもないことを言ってくれた京の言葉に戦慄しつつも、アタシはユキを優しく地面におろしてからすぐに携帯電話を取り出して、宗紫に京が送信した写真の状況の理由をメールしようとする。すると、私がメールを打つよりも早く、宗紫からのメールが私の携帯電話に届く。届いたメールの内容を見ると、そこには……。
「え? ユキと、末永く、お幸せに……あ、あはは……」
メールの内容に絶望して、アタシは地面を膝に付き大きく項垂れる。あはは、宗紫に嫌われちゃった……。アレ、可笑しいわね。視界が滲むわ。少し、暗くなってる気もするし。
「送信っと」
「……計画通り」
近くで、京がまたどこかに写真を送信して、ユキがどこぞの腹黒みたいなこと言ってるけど、気にしないわ。
そうよ、まずは宗紫さんにしっかりと連絡を入れれば、解ってくれるはずよ! まだ、宗紫とバージンロードを歩いていないんだから!
~~~~~~
~~~~~~
宗紫に、メールを100件ほど送信した後、アタシ、京、ユキは買い物を終えて近くのファミレスに来ていた。
アタシたちの足元には、それぞれ買った日用品や旅行用品、大量のマシュマロが置かれている。
するとおもむろにユキが大量購入した中から一袋だけ取って、開ける。そして、マシュマロを一つ取り出して、京の目の前まで持っていくと、ユキはほんわかした表情を浮かべながら……。
「京、マシュマロ食べる?」
「うっ、マシュマロは今世では、見たくない食べ物……」
「そっか……」
マシュマロを京に拒絶されたユキは寂しそうな表情を浮かべる。でも、ユキ。これには深い事情があるのよ……以前、宗紫を怒らせた京は、お仕置きと称して、宗紫の家に大量にあったマシュマロをひたすら食べさせられたのよ。その結果、京の体重は2キロ、胸は1サイズ増量して……あれ? 体重は増えてるけど、胸も大きくなるなら別に……って、違う、違う。とにかく、見ると気持ち悪くなるぐらいには食べ続けさせられたから、今ではマシュマロが苦手になっちゃったのよね。
けど、宗紫のおしおきかぁ……。
「ねえねえ、京。カズコはどうして、優しい表情したり、怖い表情になったり、真っ赤にしてニヤけたりな、百面相してるの?」
「宗紫とのぬるぬるネチョネチョな妄想してるから」
「そっか。僕とおんなじだ」
「って、私はそんな、ぬ、ぬ、ぬるぬる、ね、ね、ネチョネチョな妄想なんてしてないわよ?!ただ、私の場合、宗紫さんのおしおきって、どうなるのかな? って、考えてただけよ!」
「わんこはまぞ」
「マゾじゃない!」
どこぞの黒いべんぼうみたいな事を言う京に私は思いっきり否定する。ええ、アタシはマゾなんかじゃないわ。ただ、宗紫ならいいかなって思ってただけで……あぁ、駄目。考えるのは止めましょう。このままじゃ、色々と恥ずかしくて死んじゃう。
あと、ユキ? 今は追及しないけど、アタシ、貴方の発言もしっかりと覚えているわよ。
「けど、色々付き合わせてごめんなさい、ユキ。日用品とかマシュマロとか解るけど、下着まで一緒に買わなくてもよかったのに……」
「僕、楽しかったからいいよ。それに胸もお尻も大きくなって、今つけてるのはきつくなってたからちょうどよかったし」
「……は?」
「ユキの何気ない一言が、ワン子を傷つける」
京が何を言ってるのか解らないけれど、え、ユキ、まだ成長するの? もう成長しきって、それじゃないの? アタシなんて、まったく成長しないわよ? いろいろな意味で……。
「これもソウシに毎日、揉んでもらってるからかな?」
「……は?」
「ヒエッ」
今度は京が怯えてるけど気にしない。え、毎日、揉んでもらってる? どういうこと? 私もまだ宗紫とは
「あ、今日買った下着、宗紫に見せるんだ。前回のは、どうして前側に穴が開いてるのか、訳が分からないって不評だったけど、今回は普通のと、透けてるの買ったから大丈夫かな?」
「……は?」
「あわわわわわわ」
京がまゆっちみたく慌て始めたけど、気にしないわ。それよりも……。
「ユキ、久々にキレちゃったわ。河川敷に行きましょう?」
「いいよ。カズコを誰よりも早く、抱きしめてあげる」
互いに笑みを浮かべながら、荷物を持って席から立ち、河川敷に向かう。いまだにあわあわしてる京だけを残して……。
ちなみに、河川敷での対決の後、私はもう一度お店に行って、ユキの言っていた下着を購入した入したわ。べつに変な意味合いなんてないわよ。対決後、ユキに見せてもらったその下着のデザインが可愛いなぁ。って思っただけよ。えぇ、それ以外の理由なんてないわ。
あと、宗紫には明日、色々聞かないと……。メールの返信が無いこととか、ユキの言っていた件に関してとか、色々と、ね。
フフ、フフフ、フフフフフ……宗紫、覚悟しておいてね?
京とユキが仲のいい理由は、後程。
そして、活動報告でアンケート?していますので、どうぞ見てみてください。
感想待ってます。では!
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第拾弐話
無茶苦茶ですが、楽しんで下さったら嬉しいです
キャラ崩壊注意です。
では!
今日は風間ファミリーとの旅行、当日。僕は、集合場所である川神駅の方に向かっていた。
前日に、京さんとユキ、一子さんが買い物に出かけて色々楽しんだらしいことは、昨晩、家に来訪して下着姿を披露してきたユキから聞きましたが……いやはや、まさか京さんとユキがあんなに仲良くなるとは、思ってもいませんでした。
二人とも元いじめられっ子という共通点はありますが、片や
これも全て、一子さんの性格のおかげですかね。しかしまあ、それが原因で一子さんの周辺ではプチハーレムが形成されてるわけで。英雄に忠勝――
しかし、まあ……。
彼らになら、僕がいなくなった後、一子さんのことを任せることができます……。
と、色々と思考を巡らせているうちに集合場所である、川神駅に到着していました。駅構内ではすでに風間ファミリーが集結しているようで、集合時間通りとはいえ、どうやら僕が一番遅かったようだ。
「すみません、遅れました」
一番最後なので、皆さんに謝罪しつつ小走りで皆さんのところに向かう。きっと皆さん、最後の僕に笑いながら軽口を言ってくるんだろうなぁ。と思っていると、僕の考えとは違い何故か皆さんの表情は慌てており……。
「宗紫、逃げろォ!!」
「逃げて、超逃げて!!」
と、直江夫妻が真剣で慌てている声色で僕に逃げるように促してくる。
はて、なぜ逃げないといけないのでしょうか?という疑問を抱きますが、その答えは僕のすぐ背後から聞こえてきまして……。
「ねぇぇ、宗紫……」
まるで地の底から聞こえてくるような声色が気になりつつも振り向くと、僕の一子さんがまるで幽鬼のような表情で立っており、その拳は表情とは違い力強く握りしめられて……。
「この浮気者ォ!」
「オワッ?!」
僕の鳩尾辺りを的確に狙った、それこそ一子さんの武道家として出せる威力を持った拳が放たれる。
僕は少しばかり拳に込められた一子さんの
「か、一子さんどうしました? しかも、浮気って……」
「……フン! ユキに聞いたんだから。宗紫、ユキが毎回購入してきた下着をユキが着けてる状態で見せてもらってるって、ユキのあのマシュマロおっぱいは宗紫が毎日揉んで育てたって!」
……コイツは、公衆の面前で何を言っているんだ? と、いけない、予想外過ぎて口調が……。まあ、一子さんの言ってることは事実ですし、否定は出来ないんですが、訳だけはしっかりと話さないといけませんね。
「一子さん、一子さんが言ったことは事実ですし、その事実を否定することは出来ません。でも、理由はしっかりとあるんですよ」
「……やっぱり、アタシみたいなちんちくりんは嫌だった?」
「ハァ、嫌だったら恋人なんてなってませんよ。それに、体型とかではなく、僕は一子さんの中身に惹かれたんですよ……」
まあ、ここ最近は、一子さんのその肉体……お体にドキドキしてしまうこともありますが……。
「でも、紫宗は……」
「そのユキのことに関しては、確かに恋人がいるのに軽率な行動でした。ただ、言い訳させて頂くと、下着に関しては幼少の頃からの……彼女がまだ榊原小 雪ではなかった頃からの習慣でした。胸云々に関しては訓練をしてる時の毎度おなじみのような事故です……一子さんも知ってると思いますが、彼女のスピードは僕自身でも捉えられない程に速い。まるで、誰にも触れられたくない。と言わんばかりに……。そんなスピードで動かれては、僕自身は殆ど勘で動かざる得ない。それで動く度に、手がユキの胸に当たってしまっているんです」
「……酷い言い訳。宗紫さん」
「……はい。酷い言い訳です。でも、その言い訳も事実なんです。ごめんなさい、一子さん。今後は気を付けるようにします……許して貰えませんか?」
僕がそう言うと、一子さんは無言のまま空いてる片手を背中に回し、顔を僕の胸の辺りに埋めるように、ぎゅっと抱きしめてくる。
一子さんの女性特有の柔らかさに、匂い、体温を一瞬で感じ、どきっ、としてしまうが、そんな状態にあることを一子さんが知るわけもなく、ゆっくりと確かめるように顔を動かし、まるで僕の感触を感じるかのように顔を擦る。
「か、一子さん?」
「……ユキの件は、今のこの状態で許してあげる。宗紫がユキとあんなことや、こんなことをしたのは事実だけど、アタシと言う恋人を放っておいて、ユキと……あんなことや! そんなことや! こんなことを!! したのは事実だけどッ!!」
「か、一子さん、なんかエキサイトしてませんか? 心なしか、腕の力と、顔と体の密着具合が強くなってる気が……」
「でも、許す。アタシは宗紫の恋人だもん。アナタは誰にも渡さない。だから許してあげる」
「一子さん……ありがとうございます」
より一層、抱きしめる力を強めてくる一子さんに、僕も空いてる片手を彼女の腰に回し、抱きしめる。
彼女のぬくもりが、より一層強くなり幸せな気分になる。とても、大切な
父から聞いた、母から聞いた、覇を吐いた男から聞いた、あの仲間たちから聞いた、一度だけ見た、
僕もできることなら、そういう人間でありたい。でも、僕は――。
「昼ドラ並みの修羅場が始まったと思ったら、とんでもない甘ったるい光景を見せられた」
「ウェェ、口の中と言うか、全身が甘ったるいなぁ」
「大丈夫、大和? 一応、缶コーヒー、ブラックもあるけど」
「モロ、それ、俺にもくれ」
「なあ、公衆の面前であれは良いのか、まゆっち?」
「あ、あわわわわ……」
「『刺激が強いぜ。しかし、あの小さい頃のみぶっちを考えると、人はこうも変われるのか』」
「ははは、アイツら本当に仲がいいよな!」
僕の思考を遮るように、友人たちの声が聞こえる。あぁ、しまった、忘れていた。此処は川神駅だった。こんな場所で、先程までのやり取りなんてしていたら、大変なことに……いえ、時既に遅しですね。友人たちを除く、周囲の人間の視線、表情が痛い……。ニヤニヤするもの、嫉妬の視線を向けて来るもの、写真を撮り逃げるように去って行く赤髪の益荒男、軽蔑の視線を向けて来るもの……。
うん? 何か今変な人物がいたような……。
まあ、そんな事より、早くここから逃げなければ!!
「か、一子さん、今すぐここから逃げましょう! さあ、早くこのずっと味わっていたい一子さんの抱擁を止めてくだ……一子さん?」
僕の言葉に全く反応を示さない一子さんを訝しむ。そういえば、おかしかったんだ。エキサイトしていたとはいえ、友人たちの声が聞こえれば、公衆の面前の状況であれば、彼女は凄く可愛く即座に離れる。
なのに、彼女は今この状況でも全く離れない。
一体、どうして……。
「か、一子さん?」
「……きゅぅぅぅぅ」
「一子さんッ?!」
埋めたままの顔を優しく体から引き離し顔を見ると、一子さんは顔を真っ赤にし、目を回しながら気絶していた。
「一体、どうして?!」
おのれ、あの視界の端に移った益荒男の仕業か!!
「あぁ、あんな長時間近距離でいたから、宗紫成分を過剰摂取したせいだね」
「知っているのか京電」
「うん、アレは大好きな人の近くにいると起こる現象だよ。ワン子は、たまにドロッてしたり、過激になるけど、根は純情だから。大好きな、大好きな、大好きな宗紫と長時間近距離で、匂いと肉体の感触とぬくもりを摂取し続けて、純情リミットがブレイクしたんだよ。ちなみに、大和。私はそうならない様に、夜な夜な忍び込んで、摂取して馴染ませてるから、安心してね」
「いや、別の意味で安心できないから」
京と大和、二人の茶番を聞き流しつつ、僕は一子さんの抱擁を優しく解き、お姫抱様抱っこのような姿勢に変える。
電車に乗り、一子さんを早く休ませなければ。あと、先程から無言で怒気を放ってくる武神から逃げなければ……。
「おい、宗紫――」
「こんなところにいられるか! 僕は電車の方に向かわせてもらう!」
「おい、待て!宗……うわぁ、なんだあの動き、気持ちわるっ?!」
一子さんを休ませるため、武神から逃れる為、僕は無駄に
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壬生宗紫が、駅で変態機動をしている同時刻。
川神学園学園長室に3人の人物が居た。
一人は川神学園の学園長にして、武道の総本山とも謳われる川神院の総代である、川神鉄心。
一人は、見目麗しい外見に、物静かな雰囲気を醸し出す男性。世界に剣神と謳われる
一人は、野性的だが品が有り、宗次郎よりも背の高い女性。宗次郎と同じように世界に拳神と謳われる
その3名が、学園長室に備え付けられているソファに座り、教師と保護者のような形で、対面していた。
「しかし、お二人方が来たときは大変驚きましたよ。何の連絡もありませんでしたからな。ただ、ここに来る前にいたモンスターペアレントに殺気を当てるのは如何なものかと……」
「まあ、僕たち自身がある意味、流浪の民のようなことをしていますからね。連絡なんてできませんよ。殺気の件は……まあ、此方の話の方が重要ですからね。さっさと話し合いをしたいが為に黙ってもらいました」
「私は止めときなよ。って、言ったけどね。宗次郎は大切な大切な息子に関することだからって、先走っちゃって」
「紫織さん、茶化すのは止めて下さい。それに、大切な大切な息子と言うのは貴女もでしょう。 知っていますから、時たま玖錠降神流の技術を無駄に活用して、バレない様に、宗紫の様子を見に行ってるのを」
「ごめん、ごめん……って、それバレてたんだ」
若干の殺気を込め、視線を鋭くしながら紫織を見る宗次郎。そんな宗次郎の殺気に対してまったく物怖じもしない。むしろ、それこそが日常だとでもいう態度のままの紫織。
鉄心は、そんな、
「ああ、こんな話をしている場合ではなかったですね、鉄心。今日は大切な話が合って来たんですよ。」
「ああ、さっきも言っていましたな……それで、話の内容とは?」
その鉄心の問いに、宗次郎はゆっくりと、相手に届きやすいように、これから起こる鉄心の苦労を考え、労りを混ぜつつ、告げる。
「ええ、うちのバカ息子が考えている、武神(笑)の決闘と、決闘後の自主退学についてのお話ですよ」
益荒男、一体どこの紳士なんだ?
宗紫両親は、若干親ばか入ってます。
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