モテる為に異世界転生してヒーロー目指すわ‼ (自己顕示欲MAXマン)
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異世界転生で彼女を作る?で、できらぁ!!

見切り発車
着地点なし
モテたい
俺ツエーしたい


2020/11/13 編集


『おぉ、人間よ。死んでしまうとは情けない』

 

 唐突すぎる…。

 俺はついさっきまで通勤の道を歩いていたはずだ。なのに『ワシ神じゃよ☆』とテヘペロウィンクをするおっさんと文字通り何もない空間でなんで向かい合ってるんだ?

 …やめろ、萌袖でぶりっ子ポーズをするな。うわきつレベルじゃねぇ。

 

『仕方ないのぅ。今北産業で説明してやるわい』

 

『通勤中

 不幸なことに

 鉄骨が

 アスファルトに咲く

 一輪の花』

 

 もう三行じゃないし、短歌だし、きれいな表現してるけどそれってYO!!

 

『勘が鋭くて神様うれしい。もちろん、君の潰れた頭部の事だゾ!』

 

 もうホントこのおっさんなんなの…。自由すぎない?

 

『神様は自由なもんじゃ。居るか居ないかも信じる人しだい。ただし、君は今から信じざるを得なくなるんじゃがな』

 

 おっさんが正面に手を掲げると、球体状の光が水晶のように何かを映し出す。

 ファンタジーじゃん!

 

『お前を異世界転生させてやる。なに、神様の気まぐれ・血まみれ・ボンバイエみたいなもんじゃ!』

 

 どんなもんじゃ?

 異世界転生の前に俺は死んだことすらも実感できてないんですけど!?

 

『自分が死んだことに気づく方が稀じゃろ。椅子から落ちただけで死ぬこともあれば、雷が直撃しても死なんやつもおる。要は君が信じるか信じないかじゃ。信じる者は救われるっていうじゃろ?…まぁ、気まぐれなんじゃがな!』

 

 ワハハ!と豪快に笑う自称・神。

 いや、言われてしまえばそうなんですけどね。

 

「じゃあ、俺の転生する世界とかは神様が決める感じですか?」

『それがなぁ、ワシって現代人と考えが違うみたいでな?流行りも常識も全然噛み合わないから転生させても死んだ後に苦情が殺到してなぁ…。しまいには地獄の閻魔様…ワシはえっちゃんと呼んどるんだが、ソイツから「貴様!私の仕事を増やすのも大概にしろ!」と折檻くらってな…』

 

 腕を組み文字通り(´・ω・`)顔になる。いや、どうやってんだそれ。

 

『で、今回からは要望を聞くことにした。要望を言ったからには自己責任じゃからな!あ、日常系とエ○ゲとハーレム系は却下な。ワシ、楽してイチャラブしてる奴見ると天罰落としたくなるから』

 

 えらい安い天罰だな。…アニメの世界とかも行けるんですか?

 

『余裕余裕!むしろ異世界転生とかオタク君しかわからんじゃろ?順応できる奴はみんなアニメや漫画の世界に行きたがるからな。君の前の奴はGA○TZ。その前がバトル○ワイヤル。その前がベル○ルクだったかな?その前の社畜は迷宮○ラックカンパニーじゃ!』

 

 バカやめろお前ホントふざけんな。

 なんで転生してベリーハードを凌駕して難易度デスになってんだ!せめて王道のドラ○ンボールとかにしてやれよ!一般人だったとしても、死んでも生き返らせてくれるし。

 

『いやワシ、ドゥラグォンボゥル(流暢な発音)なんて知らんし。パンちゃん最高に可愛いとか思ってないし』

 

 駄目だこのロリコンもう手遅れだ。疲れてきたしさっさと転生先の候補でもあげよう。

 

「エイ○ン」

『奇乳小学生のうどん踏み回がネットで話題になって人気になった漫画じゃろ?ハーレムじゃん。却下』

「天然格闘少女ち○ろちゃん」

『完全にエロ目的。観客で楽しむつもりじゃろ?却下』

「…い、異種族○ビュアーズ」

『お前ホントにスケベじゃな。これだから童貞は』

 

 どどどどど童貞ちゃうわ!!社会人になってから先輩にそういうお店に連れて行ってもらったわ!!え?今何歳って…に、21歳!(28)

 

『ワシこれからえっちゃんと飲みに行く約束しとるからさっさと終わらせたいんじゃけど。なんか適当に少年誌系統でいい感じの無いの?海賊とか世紀末とかオススメじゃぞ!』

 

 世紀末は(ありえ)ないです。

 しかし、このままダラダラしてたらこのおっさんのことだからヤベー世界に飛ばされる事間違いなし!コーラ飲んだらゲップ出るくらいに明らか。なら、せめて好きなキャラのいる世界に…

 

「ゼ…ゼロつか」

『君はルイズの事好きでも、ルイズはサイトしか見ないよ?』

「貴様!俺の願望を速攻で折るんじゃねぇええええ!!」

 

 全力で四つん這いからの地面に拳を叩きつける。ルイズルイズうわあぁああああ!!

 ハッ!我を忘れてる場合じゃない!…いや、あるじゃないか!ハーレム狙えそうだけどそういった描写が少なく、学生で、夢いっぱいの漫画が!

 

「僕のヒーローアカデミア」

 

 ぽつりと呟いた俺の言葉を聞いた瞬間、神の肩がピクッと動いた。

 満面の笑みで俺の顔を見ると、一枚の用紙を光から取り出し俺に投げ渡す。

 はよ拾えとか言うな。一応神様だろお前。

 

『そうそう、そういうのが聞きたかったんじゃ。やっぱり戦闘シーンがないと見てて面白くないからな。そこに要望と能力書いてね。1分以内』

 

 ハァ!!?1分って!!

 驚愕する前にさっさと書いちまおう!要望は精神面を漫画基準にしてくれ。一般人の俺が戦闘とか出来るわけないからな!で、顔を人並みに…人並み以上『あんまり欲張ったら天罰な』人並みで!

 こ、個性…個性って急に言われても…

 

『あと10秒~』

 

 ホワアアアァァァァ!!!?

 もうええわ!「カッコよくて強いやつ!」これでフィニッシュ!!

 

『ほいほい、内容確認。……精神面を漫画基準って草wチキンすぎじゃろw』

 

 草に草生やすな。舌足らずな悪魔に怒られるぞ。

 …しかし、これで俺も異世界転生者か。出来の悪いSSみたいな流れだが、今はそんな事は重要じゃない!重要なのは原作キャラと会える事だ。麗日、蛙吹、八百万、芦戸、耳郎、ケミィ、トガちゃん…。魅力的なキャラクターがたくさんいるんだ!誰か一人とは絶対いい感じになってやる!

 

『確認オワタ。じゃ、今から転送するからな』

 

 唐突に体が光に包まれていく。王道な流れに感動すら感じていたその時、ヒョコリと神様の背後から一人の少女が現れた。

 

 『かっちゃん遅い!何時まで閻魔様を待たせる気!?』

 

 ゲェー!!褐色ロリ!?…悪魔超人みたいな声出たわ。

 おっさんあんたマジのロリコンじゃねぇか!っていうか鼻の下デロデロじゃねぇか!やめろこっち見んな!羨ましいからこっち見んな!!しかもかっちゃんって今から行く世界のキャラと被ってんだけど!!

 

『じゃ、ワシも今からデェト☆じゃから。第2の人生謳歌すんじゃぞ!…あと、言い忘れたがイレギュラーが入るわけじゃから、多少のバグとか歪みは大目に見てくれよな!』

 

 ちょ!?最後に不穏な言葉聞こえたんですけどーーーー!?

 

 俺のツッコミが虚しく響くこともなく、俺の意識は光の中に飲み込まれていった。

 

 




エイケンとちひろちゃんはエッチなのでお勧めですよ。
もちろん少年誌ですよ!

…れ、レビュアーズはアニメ化されてるし…(震え声


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幼少期〜小学生
嘘!?私の個性珍獣!?


この物語は作者のご都合主義と適当さでできてます。


2020/11/13 編集


 早くも俺がヒロアカの世界に生まれ落ちて4年が経った。

 それまでの経緯は割愛する。なんでかって?中身28歳の男が母親のおっぱい吸う描写とか、オムツ替えられてる時の心境とか聞きたいのか?あと、うんこ漏らす時の不快感。そういうのは、そういったお店に行って自分で体験してきてくれ。

 俺の心はボロボロだ…。

 

 家庭環境くらいは説明するが、異世界転生者に都合の良いように両親は多忙で、家の事は訪問家事を行ってくれる的な人を雇ってる感じだ。つまりそれなりに高収入な家庭に生まれたってわけ。

 日中は保育園、送迎バスで帰宅してからはその人が炊事・洗濯・家事を行ってくれて定時退社。

 俺はその後一人ぼっちになる。…いや、これ普通の子供なら耐えられないな。

 

 そして、明日はいよいよ個性診断の日なわけだ。誰に説明してるかって?恐らく、俺の成長を片手間に監視してるロリコン神様にだよ。

 

「強くて格好いい個性…と、お願いしたは良いけどどうなる事やら」

 

 

 母親の個性は『突然変異種(アルビノ)』

 アルビノ自体は動物でも人間でも起こるわけだが、母親の場合は個性で発現した。自分の成長を思ったように変えれてしまう。ただし、進化であるから戻ることが出来ない。大人になってからは使うことのない個性だな。今はその個性をふんだんに使って手に入れた美貌と知力と体力で仕事をしてるらしい。

 

 父親の個性は『ワニ』

 ワニって言っても体格が大きいわけじゃないから、恐らくカイマン種じゃないかな。なんで分かるのかって?適当だ適当。

 

 

 しかし、正直言うと嫌な予感がビンビンしてるわけよ。

 個性が突然変異とワニでしょ?フラグじゃん。絶対白亜紀まで遡って恐竜デビューじゃん。いや、格好いいから良いんだけど。でもなぁ…あの感性がズレてしまっている神様が選んだ個性だろ?

 明日が不安だなぁ…

 

 良いのか悪いのか、俺の予感は的中するのだった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 病院の待合室。周りにはキャッキャッとこれから診断されることを心待ちにしているような子供達。そんな中、俺は気づいてしまった。

 祈るように待合室の椅子に座る緑谷インコの姿があった。漫画ではそういった描写はなかったハズだ。もしかすると、個性がないって事が信じられなくて今回のような大型の病院に診察を受けに来たのか?早速バグ出てんじゃねーか、神様しっかりしろよ。

 もちろんその隣にはこの世界の主人公である緑谷出久が座ってる訳で…これはちょっとした感動ですよ!

 じわじわと異世界転生したって実感がわいてくる感じ。原作のキャラを目の当たりにして、心臓もバックンバックンと高鳴っている。後は俺の個性だけだ。

 

 「導 凌空君。診察室までどうぞー」

 

 来ちまったか俺の時代。マッマとパッパに手を引かれ、俺は診察室へと入った。

 

 

 

 

 

 数分後、鏡の前で立ち尽くす俺と「可愛い!!」やら「何とも興味深い…」やら両親と医者の三者三様の感想を聞き流しながら、俺は自分の姿に絶句する。

 

 まずは二足歩行ができる。これはいい。

 次に、瞳が赤く鋭い。これもカッコいい。プラス点。

 そして、ウサギのような耳が生えており、体毛が白く、ウサギとヒヨコを足したような60cm台の姿である。

 

 えっ、未確認生命体じゃん。

 

「恐らく、奥様の個性がお父様の個性に何らかの影響を及ぼした結果だとは思いますが…。爬虫類ですらないとは私も驚きです。過去の遺伝子なども関係しているかもしれません」

 

 遺伝で爬虫類からこんな生物生まれますかねぇ!?

 両親は特に気にも留めず「ありがとうございました」と一礼すると、俺の手を引いてその場を後にしようとする。

 てやんでい(江戸っ子)。俺の言いたい事は終わってねぇ!

 

 宇宙人捕獲の様に両腕を持ち上げられ、足を床と擦る様に運ばれていく俺はまんまUMAであっただろう。ふと、すれ違い様に緑谷出久と目が合った。

 希望にすがるような、不安に揺れている目。自分の憧れていた人物に、目標に、子供が平等に持っているであろう夢を見る権利、それが揺らいでいる。

 

 ま、安心しろ。今は絶望かもしれんけど、将来的にはオールマイトの個性を引き継いで立派に主人公するんだから!

 次逢うときは恐らく雄英高校だろ。…まぁ、俺が入れなくなった可能性が否めないんだがな…。

 やってらんねぇよなぁ!!

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 数日後。ちょっと考えればわかることだったんだ…。

 個性の診断が終われば保育園の振り分けが変わる。個性の相性とかもあるからな。磁石の個性の奴と砂鉄の個性の奴が一緒にいたらもうめんどくさそうじゃん?ガスと火とか、電気とアルマイトとか。

 もうここまで言えば分るよな?いるんだよ…爆豪勝己と緑谷出久が…。

 爆豪は元気に個性自慢。緑谷は教室の隅の方で放心状態。仕方ないとは言え見てて辛いな。

 いや、他人事じゃねぇよ俺の個性も辛いよ!なんだウサギとヒヨコって!自宅帰ってから俺も放心状態で30分くらい自分の姿眺めてたわ!不幸中の幸いとして、この個性が『変形型』であること。自分から発動することで姿を変えられる。Mt.レディみたいなもんだ。

 俺の希望は母親の個性『突然変異種』がいい方向に転がることだが…もうどう足掻いてもマスコットキャラへ進化するかキモカワになるかの二択だろ…タスケテ。

 

 

 昼食終わりに昼寝組と遊ぶ組に分かれるわけだが、今日から俺は昼休憩は個性発動の時間にする。

 理由?ちょっとでも進化の可能性を上げるために、この姿で動く!ただし、見られたら恥ずかしいから隠れて行動する。幸いにも前世の保育園に比べれば個性の問題などで校庭は大きく作られてる。先生方の監視はあるだろうけど、子供達(俺も子供だが)に見つかって愛玩道具にされるよりは数倍いいだろう。

 

「しかし、身体能力自体は割と高いのでは?」

 

 木から木へ静かに飛び移りながら自身の能力を推察する。でもなぁ~、これが最終形態だとしたらもうどうしようもないよな。最悪、美人なお姉さんのペットとして生きるしかないか?ミッドナイトは猫好きだからワンチャンあるんでは?夢が広がるな。

 

「はー、つらたん。ぶべぇ!?」

 

 やっぱ、自分の体じゃないって制御が利かないのね…。

 強かに顔面を木に打ち付け落下していく体。しかし、そんな俺を地面と衝突する前に誰かの手が抱き留めた。顔を両手でクシクシと拭った後に目を開けると、珍しい物を見たと驚いた表情の主人公・緑谷出久がいた。

 

「え、えっと、大丈夫?」

「おう、助かったわ。サンキュー」

「シャベッタアアァアァァァ!??」

 

 失礼な!中身は人間だぞ。驚いて俺を放り投げた緑谷はそのまま地面に尻もちをつく。俺は投げ出された体を華麗に回転させながら地面に顔から着地する。

 ぐおおおおおお!!

 

「あ、ごめ、ごめんね」

 

 心配しながら駆け寄って来る。緑谷の顔を見れば目が赤くなっており、涙の跡も見える。そうだよなぁ、受け入れられないよな。ましてや、個性診断後に皆が自慢げに個性の話をしてる所に一人だけ入れないなんてのも酷な話だ。

 

「気にすんな。で、お前はどうしてここに一人でいるんだ?」

「えっ…。その、一人で居たくて」

 

 しどろもどろになりながら、顔を背ける。よくよく見ればオールマイトのぬいぐるみが近くに落ちていた。俺はそこまでテチテチと移動し、それを緑谷へ渡す。

 

「オールマイト好きなのか?」

「う、うん!すっごくカッコいいんだよ!!笑顔で皆を助ける最高のヒーローなんだ!!」

「ほ~ん。俺は美人のヒーローにしか興味ねぇなぁ」

 

 オールマイトの話を振ると、暗く落ち込んでいた顔が一瞬でパッと明るくなる。さすが偉大なる抑止力様やでぇ…。

 適当に相槌を打っていると延々と話を続けていく。もうこの頃からヒーローオタクの片鱗を見せるのね。4歳やで?早すぎない?

 

「で、将来はヒーロー志望って事か」

 

 俺のこの一言にビクッ肩を震わせた後、会話が止まる。そして、ジワジワと目元に涙が溜まっていく。いや、別に意地悪をしたいわけじゃないんだよ?でもさ、将来的にワンフォーオールの力を手に入れるなら、意識だけでも早めに前向かせてる方がいいでしょ。たぶん。

 

「無理だよ。だって、僕、無個性って言われたもん」

「そうか。じゃあ無理だな!」

 

 俺の心無い一言に耐え切れなくなったのか、大粒の涙をボロボロと零す。大声で泣きたいだろうに、嗚咽を噛み殺そうと必死になりながらじっと俺の瞳を睨むように見続けている。

 真っ直ぐで奇麗な目をしてるなぁ。やっぱり、主人公はこう言う真っ直ぐな目がいいよね!今、泣かせてるんですけどね!

 

「で、諦めて何もしないのか?」

「き、君に何がわかるの!?個性がある人に僕の気持ちなんてわからないよ!」

 

 っていうか、4歳なのにかなりしっかりしてるな。この辺も何かご都合主義的神様バグが発生してるのか?なんにせよ会話が成り立つ分には最高に都合がいいけどな。

 

「なんて言ってほしいんだ?無個性でもヒーローになれる。って、今日会ったばかりの妙ちくりんな生命体に言われて、それで満足できるのか?前に進めるのか?」

「……そんなのわかんないよ。どうすればいいのかも、何をしたらいいのかもわかんないよ!!」

「なら笑って前見るしかないだろ。お前の憧れのヒーローはどんな相手にも負けないんだろ?」

「そう…だけど。でも、個性がないんだよ?」

「無いからって何もしないよりはマシだろ。個性の研究だって完璧じゃないんだ。手違いとか、個性を渡す個性だってあるかもしれないだろ?」

 

 大丈夫ですよね!?ネタバレしてますけどセーフですよね?神様!!

 

『う~ん。セウト!!』

 

 どっち!!?

 

「それに、暗い顔で落ち込んでるより笑顔の方がいい。俺も出来るだけ一緒にいてやるからさ」

「ほ、ホントに?無個性だけどいいの?」

「無個性は関係ないだろ。そんなこと言いだしたら俺なんか珍獣だぞ。下手したら新種の生物ってことで捕まるぞ」

 

 冗談めかして言うと、涙を拭いながらも歯を見せて笑う。うんうん、二人なら不可能なんてないさ~♪ってやつだな。この歌知ってる?

 

「知らない。僕の名前は緑谷出久」

「もうちょっと興味持てよ。名前か…」

 

 握手をしようと手を差し出してきたが、俺の動きが止まる。正直、一緒に居るとは言ったけどメインストーリーには絡みたくないんだよなぁ。強い個性なら全然本名を名乗るんだが、雄英入りが怪しくなった今となっては雄英入学まではアドバイザー的な立ち位置がいい。適当に名乗っとくか。

 

「リードだ。やっぱ男の子は笑って元気なのが一番だな」

 

 そう言いつつ、握手をしようと手を差し出したら緑谷が手をよけた。

 あぁん!?このクソガキ自分から握手しようと手を出して置きながら避けるってどういうこっちゃ!!俺の珍獣ハンドが気に入らないってか!?自慢じゃないがフワフワのサラサラやぞ!

 しかし、どうもそう言う訳では無さそうだ。表情を見ればさっきまでニコニコしていたはずなのに、今は頬を膨らませている。例えるなら拗ねた女の子がやるような…やるような……うせやろ?

 

「僕、女の子なんだけど。…バイバイ!!」

 

 …ごめん。

 

 

 

 

 これが俺と、何故か女の子になっている緑谷出久との出会いだった。

 

「神様。これってリセマラとか出来ます?」

『ガチャか?今はベル○ルクピックアップじゃけどやるか?』

「おとなしくこの世界で頑張ります…」

 

 前途多難だなぁ…。




導くを英語にすれば偽名の意味がわかります。
女の子って精神的な成長男の子より早いよねっていう。


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この世界の緑谷が転生者みたいに頑張るんですけど、メンタルがややメンヘラ気質なのは俺が関わってるからだと信じたくない。

思いつきと気まぐれとノリで作成している。
酒飲んだらもっと面白くなるのだろうか。


2020.11.19 編集


 あれから月日は経ち……って言うと、かな~りの時間が経った様に聞こえるが、今は小学6年生。12歳になった。…結構経ってるやん。

 なんでそんなに長い期間端折るんだって?むしろ小学生の間に大きな出来事があると思うか?まぁ、掻い摘んで話していくけど。

 

 幼稚園の期間、緑谷は爆豪の後ろを付いていく原作と同じ流れだった。俺とは昼休みの時間だけ一緒に行動する感じだった。ちなみに変身前の姿は見せてないし、生身の状態では緑谷とは接点を持ってない。いや、正体を明かしてもいいかなぁ~って思ったときもあったんだけど…まぁ、それも話すから待ってくれ。

 初手で緑谷と会った時点で、雄英高校じゃなくても何らかの事件には巻き込まれそうな気がするんだよね…。それなら少しでも優秀なヒーローの多い所に居るのが良いんじゃないかと思った。だから俺も雄英目指します!ただヴィランを目の前にしたら粗相をする自信がある。愛くるしいだろ?(中身28歳)

 ついでに、このヒヨコウサギモドキの個性で入学できるならな!!

 

 小学校に上がると爆豪の横暴さが増して、周りの奴らも緑谷の事をデクって呼ぶようになった。集団心理なのかもしれないが、時に子供は大人よりも恐ろしいと感じる。いや、最近は大人も似たようなもんか。子供大人だらけだからな。俺も含めて。

 んで、小学校でも昼休みに落ち合う流れは変わってない。時には屋上だったり、校舎裏だったり、空き教室だったり。俺と緑谷の関係は変わらず続いていた。

 ただ、小学校高学年にあがった頃によくある(ねぇよ)『私、将来〇〇と結婚する!』事案が発生した。え?詳しく聞きたい?やだよ…いや、わかりました!説明しますんで天罰は勘弁してください神様!ベル○ルク送りは嫌だ!!

 

 んじゃ、回想勝手に読み取ってください…。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 「ホントにかっちゃんは僕に容赦ないんだよ?この前だって遊びに行くから付いてこいって言いながら―――」

 

 昼休み。いつもの日課になっている緑谷との二人の時間。

 幼稚園の頃は俺の大きさも60cm台と可愛らしい大きさだったが、6年生の今では100cm程まで成長した…大きさだけが。個性の成長?んなもんねーよ!!

 

 そんな俺を抱き枕のように抱きかかえながら、ブツブツと自身の幼馴染である爆豪勝己への愚痴を零している。俺の頭を撫でながら。

 内容の大体は遊びに誘ってくれるのに、ついていけば意地悪ばかりされる。

 「ホントに男の子って子供だよね」って内容。

 

 ………ヘイヘイそれってYO!!おじさん知ってるぜ!男子特有の気になる子に意地悪しちゃうやつなんじゃねーのかYO!ん?それだと原作では濃厚なBLと言うことに…?いや、俺は轟×デクを押すね!

 

「ねぇ、ちゃんと話聞いてる?絶対変なこと考えてるでしょ?」

 

 べべべべべつに考えてないデスヨー。いだだだだ!毛を引っ張るな!てっぺんハゲたらヒヨコウサギハゲモドキになるだろ!学名にしても長すぎるだろ!

 

「はぁ~、意地悪するくせに帰ろうとしたら物凄い勢いで怒ってくるし。僕はどうしたら良いの?リードが意味深げに『時が解決するさ』って言ったから信じて待ってるけど……あれはもう前世からの業だと思うよ?」

「前世から徳を積んでると仮定して現在あの状態ってなると、アイツはあと何回生まれ変わったら綺麗になるんだよ」

「多分、やり直しを重ねる毎に煮込まれていってるんじゃないかな。もう煮詰まってるよ」

 

 爆豪嫌われすぎ。普通はこうなるよなぁ。原作の緑谷が爆豪について行ってたのって憧れが大きかったからなんだろうけど……そこに俺が割り込んだ形だもんなぁ。

 え?ヒヨコウサギハゲモドキが割り込めるわけ無いだろうって?まだハゲてね―よ。というのも、やっぱり女の子って話を聞いて寄り添ってくれる人に心許すわけじゃん?つまり―――

 

「かっちゃんには文句しか無いけど……。リードは本当に優しいよね。ねぇ、前言ってたこと……僕、本気だよ?」

 

 こういう事。やめ、耳元で甘くささやくな。お前小学生の癖にマセやがって!

 やっちまいましたねぇ!!そりゃあ夢が絶望に変わる時に「大丈夫。俺が『出来るだけ(重要)』一緒に居てやるよ」って言われて、その言葉通りに約7年間も昼休みだけだけど一緒に居て、日常生活の相談聞いたり、幼馴染に対する愚痴聞いたり、ヒーローになる為に出来ることを話し合ったり、愛玩道具のように可愛がられたり、時にはストレスのはけ口に毛を毟られたり。

 愛着湧いて貰わないと俺がキレるわ!!毟るな!!

 

「あ~、前も言ったが俺達はまだ子供だろ?そんな焦って相手決める必要なんて―――」

「ヤダ。リードじゃなきゃヤダ。僕は君がいたから今も夢に向かって努力できてるんだ。これからもずっと一緒じゃないと絶対イヤだ」

 

 おぉう…もう。

 この努力っていうのは「ヒーローへの希望持ってるなら体くらい鍛えろよ」の俺の一言だ。こんなもん俺じゃなくても言えるだろ!…あぁ、俺が言ったから効果抜群だったのか。

 原作緑谷君よりも今の緑谷さんの方が現時点では確実にスペックが上だ。で、持ち前のオタク気質を生かしてヒーローオタクはそのままに行動力を獲得した彼女は、ヴィランとの戦闘が起きれば野次馬として即参加、データを即メモ、分析、知識として吸収していく。使える動きなら体術として練習するといった「あれ?緑谷さんも転生してましたっけ?」と言わんばかりのスーパー小学生なのだ。

 ワシが育てた(白目)。どうしてこうなった。これ、下手したらオールマイトから個性もらえなくなったりしないよね?「それだけの知識と執念があるなら、他の道でもヒーローのように戦っていける!」とか言われないよね?

 

 そんな俺の一人問答で相手にされなかったのが癪に障ったのか、俺を抱きかかえている腕に力を込める‥な!込めるな!苦しい!!

 

「すぐにリードは自分の世界に入る。お仕置きだよ」

 

 お仕置きで死んだらそれはもうお仕置きじゃないんだよなぁ!

 

「お前な…もしも俺が引っ越しとかでここに来れなくなったらどうする気だ」

 

 その瞬間、緑谷の腕の力がピタッと止まる。

 後ろを振り返り顔色を窺うと、ハイライトの消えた瞳が俺を射抜く。oh…。

 

「冗談でも言って良いことと悪いことがあるよ。ずっと一緒だって言ったじゃない」

 

 ずっと一緒なんて一言も言ってないんだよなぁ……。

 不味いな。これ、このままだとヒーローになる理由が『俺との約束だから』にすり替わったりしないよな?

 

「緑谷。お前は俺が居なくなったらヒーローを目指さなくなるのか?」

「えっ?べ、別にそういう訳じゃないけど……支えてくれるんだよね?ね!?」

 

 俺を抱きしめる手が震える。確かに緑谷は強くなった。性別は違うが、このまま行けば原作よりも確実にOFAの力を引き出せるだろう。だけど、俺に依存しすぎている。憶測になるが、原作の緑谷君はストレスをヒーローへの憧れで発散していたのだろう。動画を見るなり、研究するなり、言わば趣味だ。だけど彼女の場合は俺がストレスを受け止めている形になってしまっている。精神面では原作よりも脆くなってしまうかもしれない。

 

「そりゃ、支えれる限りは協力するつもりだ。だけど絶対はないんだ。ヒーローになるなら、俺が居なくても立てるようになって欲しい。オールマイトを目指すのなら、それこそ一人で何百、何千、何億の思いを背負わなきゃいけないんだぞ?」

 

 俺の言葉に何も言い返せずに俯き、肩を震わせる。

 そうは言ったものの11歳である。我儘だって言いたいし、今からそんな重いこと言われても理解するほうが難しい。そんな事はもちろんわかってる。だけど、彼女にはこの世界を救う責務がある。あくまで原作知識なんだけどね。

 

「まっ、今の所は居なくなる予定もないから安心しろって。何かある時はちゃんと話すから」

「……絶対だよ」

 

 俺の後頭部に顔を埋めて、グリグリとウサギヒヨコモドキ羽毛を堪能する。

 ……お前、涙と鼻水拭いてないよね?少し、すこ~しジメッとしてるんですけど。

 

「……知らない。でも、リードの伝えたいこともわかったから……がんばるね。」

 

 空はこんなに青空が広がってるっていうのに、俺は女の子を泣かせて、個性は一向に強くならないし。

 本当に女の子とイチャイチャできるのかねぇ…。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 こんな感じです。

 え?もう女の子とイチャイチャしてるだろって?いや、緑谷は何ていうかそういう対象じゃないっていうか……。長く居すぎて見れないというか……。俺も幼馴染みたいになってんじゃね―か……。

 

「リク、部屋にいるのか?」

 

 部屋で神様と脳内会話していると……ここだけ見たら頭おかしいやつじゃねぇか。ちなみに、リクは家族間での呼び名。

 それはさておき、父親が部屋をノックする音が聞こえた。

 ここ最近は何故か母親も父親も自宅に帰ってくる時間が増えた。そうは言っても、互いの自室で忙しなくゴソゴソと何かをしているようだった。仕事関連だろ、どうせ。

 

「入ってきていいよ、父さん」

「相変わらず整理されてる部屋だな。我が子ながら感心するよ」

 

 ワニの顔をした父親が入ってくる。格好いいよなぁ。なんで俺は…。

 自己嫌悪に入りそうになった俺を気に留めるでもなく、父親は数枚の紙が入ったプラスチックスリーブを俺に渡してきた。

 

「父さんと母さんの都合で一時的に引っ越すことになった。日程や時間、学校への提出書類はそこに入っているから、父さんの作った指示書通りにするんだぞ。聞きたいことがあったらまた言うように。それだけだ。……荷物は纏めなくていいからな。業者にやって貰う予定だ」

 

 ほ~ん、引っ越しかぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 ファ!!?

 

 

 

 

 

「それだけだ」

 

 ちょちょちょパッパ!!あまりにも急すぎるんですけど!?パッパ!聞こえてます!!?

 俺の焦りも虚しく、父さんはまた自室へと戻っていった。

 

 

 これ、緑谷に言うの超嫌なんですけど…。



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俺はまだ変身をあと2回残してるって思いたい…。

このお話どこに向かってるんだろう…


 憂鬱だ…学校に行きづらすぎる。

 どれくらいかというと、嫌いな上司に無理やり飲みに連れて行かれて自慢話だけされつつありえないくらいのアルハラを受けて次の日、遅刻で二日酔いの中満員電車で出勤する感じ。もう仮病使うよね。

 

 今が小学校6年生の11月。冬休み前だ。

 引っ越し自体は卒業してからになるので今の時期に言う必要もないかもしれない。ただ、今の緑谷の状態を考えると早めに言っておかないと不味い。

 卒業する直前に「俺、引っ越しするから一緒の中学校には行けないんだ」なんて言った日には大泣きして俺の羽毛という羽毛を全てむしり取られる気がする…。

 ただのハゲモドキになっちゃう。………ただのハゲモドキってなんだ。もうそれ唯のハゲなんだよな。

 

 とりあえず、こういう事は日にちが経てば経つほど言いにくくなるんだ。納期までの書類が一人では間に合わなさそうだけど言いづらくて、ズルズル日にちが経って、ギリギリに言ったら「なんで早く言わねぇんだ!!」って言われるやつだ。前世で数え切れんくらいした。正直すまんかった守山…。

 

 『ちなみに、守山君は君の葬式出席してないぞ。旧友とのカラオケのほうが大事だったみたいじゃよ』

 

 守山ァァァァ!!一応同期なんだからそこは出席しろや!!ってか、自分の葬式事情聞くの複雑だわ。でも聞いちゃう!ちなみに可愛がってた後輩の式守ちゃんは来てくれてました?

 

 『式守ちゃんはそもそも君の事を仕事が出来ないのに先輩面してくる顔面偏差値23.19の男。通称ブサイクって評価だから来るわけないよね』

 

 聞くんじゃなかった!!神様のありがたいお言葉、しっかり胸(心)に響きましたよ!!

 …涙出るわ。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 「昨日はいつもとランニングのコースを変えて走ってたんだけど、ヒーロービルボードチャート上位のシールドヒーロークラストがヴィランと戦ってるところでね―――」

 

 今日も変わらず絶好調でヒーローオタクっぷりを披露してくれる緑谷。そんな中、俺は気が気じゃない。今は優しく触られている自慢である頭部の羽毛だが、言うタイミングを失敗すれば空に舞うことになるだろう。

 緑谷の今日の機嫌は上々。ヒーローの戦いを間近で見れたこともありテンションも高い。この状態であれば、案外すんなりと受け入れてくれるかもしれない。

 

 「あ~…緑谷?」

 

 「それで相手の―――。え?どうしたの?」

 

 普段から緑谷の会話を遮ることが少ないからか、物凄く不思議そうに尋ねてくる。とりあえず、もしもの事を考えて緑谷の腕の中からスルリと抜け出ると座っている緑谷の正面に立つ。

 やべぇ、なぜか緊張する。思ったよりも挙動不審になってるかもしれない。

 

 「え~っとだな…その、大事な話があるんだが……いいか」

 

 何を言われたのか分からずに一瞬キョトンとした表情を見せる。しかし、見る見るうちに表情が明るくなり、目をキラキラと輝かせながら同じ様に俺の正面に立つ。

 

 「うん。いいよ!」

 

 よし、落ち着け俺。深呼吸だ…ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。ってラマーズ法やないかい!

 もう使い古されたクソみたいな一人ボケツッコミを脳内で行っていると、正面の緑谷がなにかブツブツと言っているが―――。

 

 「やっぱり冬休み前だし、返事は早めにして計画を立てようって思ってくれたのかな?それにしても返事が遅いよ…フフッ。恋人同士になったらやっぱりデートだよね。水族館とか映画館にも一緒に行きたいし、何だったら一緒にトレーニングとか部屋で勉強会もいいよね。何よりクリスマス!クリスマスデートで、そ…そのまま良い雰囲気になって……とか。駄目だよ!僕達まだ小学生なのにっ!でもでも…リードも人間の姿を見せてくれるだろうし…凄く、ドキドキしてきたかも…」

 

 ちょっと聞こえねぇなぁ。屋上だと風もあるから小声の独り言は流石にな…。懸念点は、体くねらせながら物凄い速度で唇動いてるところなんだよな。あれ、分析中のブツブツと一緒の速度なんだけど俺が分析されてるの?むしりやすい所?やめてよね…。

 一つ咳払いをすると、独り言を続けていた緑谷がハッと我に返る。俺は一つ大きく息を吸い、意を決したように声を出した。

 

 「緑谷、俺…引っ越しすることになった!」

 

 「はい!不束者ですが………えっ?」

 

 「え?不束者!?」

 

 こいつ俺の引越し先に居候する気なの!?嘘でしょ!?

 

 「ひ、引っ越し?嘘だよね?だってこの間居なくなる予定はないって言ったじゃんか!!」

 

 物凄い剣幕で言い寄ってくる。コワイ!!そして、そのまま押し倒され肩を抑えられてしまえば体長100cmしか無いか弱い珍獣はもう身動きすら出来ないのだ。やめてよね…君が僕と本気で喧嘩したら、僕が君に勝てるはずないだろ?

 って言ってる場合じゃないぞ!?完全にハイライトオフだし肩を抑える力はどんどん強くなイデデデデデ!鳥の骨は脆いんだからやめろ!あれ?骨はウサギなのか?もうこの体ややこしすぎる!

 

 「痛いし重い(精神)からどいてくれ。ちゃんと説明す…あだだだ!」

 

 グリグリと力を強めてくる。もうコイツ凶暴すぎる…原作の緑谷君の面影ないよ!誰だこんなゴリラに育てたやつは!?……俺か。

 

 「引越し先はどこなの?遠かったら……僕、何するかわからないかも」

 

 ヒェ!?一体、何をする気なんでしょうねぇ…。ってか、本当に小学生なの?ガチで緑谷出久転生者説無いよね?

 

 「東京だ東京!ここから新幹線で1時間程!そんなに遠くないから顔を離せ!近すぎる!!」

 

 東京と1時間という言葉を聞いた途端にパッと離れる。

 そして、ハイライトの戻った瞳で笑みを見せる。

 

 「なぁんだ!!東京だったら休みの日とかに会えるね。遠くに行っちゃうのかと思ってびっくりしたよ。……ホント、ビックリしたよ」

 

 俺はお前の鬼気迫る言い寄り方に命の危険を感じたわ。クソザコ珍獣なんだからもっと優しく丁重に扱えよな。

 俺は背中についたホコリを手で払おうとして、手が届かないことに気づいた。もうこの体痒い所に手が届かないとかそういうレベルじゃないんだが。

 緑谷はそんな俺の行動が分かっていたのか、ポケットから動物用の櫛を取り出しゴミを取ってくれる。…そんなの常備してたの?いつから?もう付き合いも長いけど初めて知ったんだけど…。

 

 「それで、何時から引っ越しなの?」

 

 「来年の春だな。卒業までは居れるみたいだ。つっても、どうせ中学校の途中で帰ってくることになりそうな気がする。勘だけどな」

 

 「リードの勘は結構当たるもんね。個性が動物だから第六感?が鋭いのかな?」

 

 第六感は霊感とか電磁波とか五感で感じれないものであって、実は別世界で28年生きてましたっていう経験則から放たれるテストのヤマ勘は含まれません。

 

 「じゃあ連絡先教えてよ!今までは何かとはぐらかされて来たけど引っ越しするなら良いよね?」

 

 「駄目です。絶対調べて住所割ってくるでしょ」

 

 「そそそ、そんな事しないよ~?」

 

 目が泳いでるし滝のように汗かいてるんだよなぁ…。それくらい教えても良いじゃんって神様がニヤニヤしながら言ってるけど、第六感がそれは絶対にやめとけって警笛を鳴らしながらブレイクダンスするくらいに自己主張激しいから絶対教えない。このロリコン神は絶対に俺の困惑を楽しむ気だ。

 

 「ううぅぅ…じゃあ、僕はこれから何をモフって生きればいいの…」

 

 用法用量を守るためにモフり離れしてください。俺もこの個性をこのままマスコット的な立ち位置で置いておく気はないので。

 

 「えぇ!?じゃあその愛くるしい姿でヒーロー目指さないって事!?それは駄目だよ!人類の損失だよ!?正直色んな人に可愛がられる所は見たくないけど、リードの可愛らしさと共に共存するおっさん臭さは絶対に人気でるよ!?」

 

 おっさん臭い言うな。愛らしいテディベア座りしてるだけやろがい。雰囲気はしゃ~ない。中身おっさんだし。

 

 「…じゃあ絶対に帰ってきてよ!!中学校で待ってるから!!」

 

 気がはえーよ。まだ引っ越しまで期間あるんだから。…あぁ、原作よりも現時点では強くなってるだろうに、精神面だけはどうにもならないなぁ。女の子だもんな。

 

 「ほら、泣くなって。まだまだ引っ越しまで時間あるのに会う度に泣くのか?引越し後にストレスで禿げたらどうするんだ。俺がな」

 

 「それは駄目。僕が毟るためにあるのに」

 

 「毟るな!!」

 

 軽口を叩きながらも、俺の腹あたりに顔を埋める。そして、埋めた所がジンワリと湿っぽくなっていく。…あの時は後頭部ガビガビになってたんだよなぁ。

 あれから8年か。長い付き合いになっちまったなぁ。

 

 「俺が居なくなったら愚痴聞いてやれなくなるけど大丈夫か?爆豪に好き勝手言われても我慢できるか?」

 

 「…負けない。リードが居なくても頑張る」

 

 「ちゃんとトレーニング続けていけそうか?」

 

 「…やる。リードとの約束で、僕の夢だから。だからヒーローになるのを諦めない」

 

 それだけ聞けたら十分だ。…いかん、俺も今生の別れみたいな雰囲気を出してしまった。緑谷のくせっ毛だが、サラサラとした髪を撫でる。

 急にガバっと顔を上げると、緑谷は決意したように宣言した。

 

 「僕、卒業式まで一人で頑張ってみる」

 

 「それは昼休みの会う時間を無くすってことか?」

 

 「うん。今までずっとリードに甘えてきてたから。引っ越ししたら毎日会えないし…今のうちから慣れとくよ」

 

 弱々しくも笑顔を作る緑谷に心が揺る。もう正体も見せて良いんじゃね?と、神様のセルフナレーションが入るが俺にその気はない。もうホント嫌な予感しかしてない。言ったが最後、俺のタイトル回収できなくなる未来が見える。このままエピローグからのスタッフロールな展開が見えた。縦読みで早く助けに来て展開だこれ!

 

 「そうか、頑張れよ!!」

 

 いてぇ!!お前蹴るな!や、やめて!ぼ、暴力反対!暴力反対ーーー!!

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 まだ続くのかって?あんな中途半端な所で切られたら微妙だろ?今回はもうちょっと頑張るわ。神様同士の動画投稿サイト『GodTube』略して『GT』で俺の生き様が人気らしいからな。ちなみに、再生数と高評価はロリコン神の神界評価になるらしい。俺にも還元しろや。

 

 話が大きく逸れたが、俺はあれ以降個性は自宅でしか使ってない。なぜかって?緑谷が学校中探し回ってるんだよ。俺の正体を、冬休み前からも、冬休みが明けてからも。

 こえぇよ…一回俺のクラスまで来てたが目がマジだった。完全な猛禽類の目をしていた。「ウサギとヒヨコの混ざった99.2cm台に変身する男性の個性の人知りませんか?」って聞き回ってた。

 もちろん俺にも聞きに来てたよ。普通に「知らん」って素っ気なく言ったらもうどっか言ってた。俺100cmなかったんだな…何時測られたの?

 

 ちなみに下校中に緑谷に絡む爆豪を見たが凄かった。

 もう完全なガン無視。爆豪の口汚い暴言なんて意にも介さず校門前で俺の情報を聞きまわってた。爆豪は自分以外の男を探し回ってる緑谷に苛ついてるみたいだった。

 最初の方は「ソイツとはどういう関係なんだ!」とか「無視してんじゃねぇぞクソナード!」とか「俺がソイツ見つけてぶっ殺してやる!」とか言ってたな。

 ちなみに最後の言葉は言った瞬間に空気が死んだ。ニコニコと色々な生徒に声をかけていた緑谷がピタッと止まったかと思えば、ハイライトの消えた目で何を言うわけでもなく振り返った姿勢のまま爆豪を見つめてるのが印象的だった。1粗相。

 爆豪は「何見てんだクソが!」って気づいてないみたいだったけどお前そういうとこやぞ!?

 

 何とか正体がバレることもなく卒業式まで来たんだが、緑谷が限界だった。こいつ中学生活大丈夫なのか?

 恐らく見つけれるだろうと根拠のない自信があったのだろう。小学生なんてそういうものだ。若いって良いな(白目)

 とりあえず、卒業式後に屋上の何時もの場所で待機する。校門前は親と写真を撮ったり、友達同士でワイワイと賑わっている。

 

 「リード!!!」

 

 「おっ、やっときどうわぁ!!?」

 

 おもっくそ飛びつかれた。内臓出るかと思った。

 

 「んんんんんんん!!もふもふ!もふもふ!スーハースーハー!!」

 

 えぇ…(ドン引き)

 これがお腹あたりとかなら引かないんだけど、何で股ぐらに顔突っ込んでくるの?あれか?猫大好きおばさんが「猫はね、肛門の匂いを嗅ぐのが挨拶なんですよ。スゥ~…うん、グッドスメル!」ってやつと一緒なの?

 

 「やめろバカ!流石にそこはタグにR-18入れないと駄目になるだろ!わきまえろ!!」

 

 バシバシと緑谷の頭部を叩くと、すでにある程度満足したのかスッキリした顔だった。小学6年生にしてこの将来性。有望株ですね(?)

 

 「うん、グッドス「言わせねーよ!!?」」

 

 キャラ崩壊ってレベルじゃないんで勘弁してくれ。一応あなたのベースは主人公の緑谷出久君なんですから…。頼みますほんと。

 

 「ごめんごめん。久々の珍生物に我を忘れてた」

 

 もう特殊性癖じゃん…。誰のせいだ!?はいはい俺俺。知ってる知ってる。

 

 「……ねぇ、本当に引っ越しちゃうの?」

 

 「何を今更。そうなると思って決まってからすぐに報告したってのに。まぁ、緑谷が寂しがるのは分かってた。だからこんな物を用意した」

 

 俺は録音と再生ができるボイスレコーダーを緑谷に渡す。これは親にお願いして買ってもらったものだ。誕生日とお年玉とかを貰わないので、頻度によっては色々と高価なものでも買ってもらえるのだ。今の所は筋トレの道具とギターと今回のボイスレコーダーだ。

 

 「こ、こんな高価なもの貰えないよ!!」

 

 「んじゃ、貸しとくわ。俺が戻ってきた時に返してくれ」

 

 「…リードって本当に優しいね。気が変わっちゃった」

 

 …え?気が変わ…ってあぶねぇ!!?

 緑谷の全力のタックルを横っ飛びで回避する。小学生の身体能力だが、この世界の人間はぶっちゃけ体の上限が普通よりも高い。相澤消太が個性以外は一般人なのにあんなに動けてることが証明だろう。

 つまり、屋上の扉の前に陣取って姿勢を低く構えをとっている緑谷の身体能力は既に小学生を超えているってことだ。

 

 「何のおつもりでございますの?」

 

 「このままお別れは寂しいから、思い出を作ろうと思って」

 

 舌なめずりをし、ギラリと眼光が光る。あー、もうめちゃくちゃだよ(キャラブレイク)

 

 「どんな思い出かは気になるが、今回は遠慮しておこうかな。久々に会ったおかしなテンションで黒歴史を作らせるわけにはいかないからな」

 

 そして、お前は一つ勘違いをしている。俺が何時までもマスコットキャラだと?そんな未来は否だ!見せてやるぜ!俺の華麗な進化した個性ってやつをよぉ!!

 

 「ドラアアアアアアアアアア!!」

 

 「え!?キャアアアアアアアアアア!!」

 

 俺は緑谷とは逆方向へ走り、一回の跳躍で転落防止の金網を飛び越える。校舎は3階建て。高さは約14メートル。そのまま落ちれば即死だ。

 俺がクルリと空中で姿勢を変えて後ろを見ると、緑谷が真っ青な顔で金網にしがみついている。

 その緑谷の目の前で、俺は背中へと力を込める。背中からメリメリと肉が裂ける音が聞こえ、数秒の後コウモリのような翼が生える。そうなんです、天使の羽じゃなかったんです。ランドセル背負ってたのにね(?)

 

 「緑谷。正直、本当に中学生の間で帰ってこれるかは分からない。だから、雄英高校で会おう!俺もそこを目指して頑張るからさ!じゃあな!!」

 

 呆気にとられ、安心からかペタリと座り込んだ緑谷に元気に声をかけると、物凄い怒号で叫んでいる教師から逃げるように全力で帰宅した。だ、大丈夫だ俺。個性登録は変身だけど『ヒヨコ』で登録してるからバレへんバレへん。…神様、隠蔽お願いします…。

 

 

 

 

 

 『余談じゃが、自宅に帰った緑谷少女は今日の自分の行動を無事に黒歴史認定したようじゃ。「あんなの…あんなの僕のキャラじゃない…ッ!」と言いながら布団を被り、枕に顔を押し付け悶えまくったそうじゃ』

 

 『レコーダーの中身?それは流石に無粋じゃろう。神様だってやって良いことと悪い事の線引くらいあるよ。…ベルセルク送りは違うのかって?…まぁ、神様は気まぐれじゃし是非もないね!』

 

 

 

 「ううぅぅぅぅ!リードのアホー!!」




元ネタ解説

『やめてよね~』
ガンダムSEEDの主人公がイキって「やめてよね。僕と本気で喧嘩したら、君が僕に適うはずないだろう」から

『縦読みで~』
パワプロくんポケット4?あたりのエンディングネタ。

『グッドスメル!』
中川翔子

『天使の羽』
ららんら~んランドセル~は~
ててんてん天使の羽~





世代バレたりしないよね?


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中学生
このフラグだらけの世界で生きていける気がしない。


読み終わるじゃろ?
下に『評価』ってボタンがあるじゃろ?
ポチって欲しいんじゃよ。
何が変わるって?

俺のやる気が出る


 漫画風に言うと中学校編ってやつか。

 小学校編の内容が薄かったのは、そもそも中身が28歳のおっさんとガチの小学生が同じ様に仲良く出来ますか?って話なのよ。想像してくれ。

 

 小学生が1クラス30人居る中に、一人だけおっさんが混じって勉強してるの。

 

 もう不審者じゃん。幸い見た目は子供だけれども俺の心境はそんな感じよ?かと言って、体育とかで当たり障りなく過ごしてたら「お前何手ぇ抜いてんだよ!」ってその日からイジメのターゲットになるとか最近の子供恐ろしすぎるでしょ…。

 俺の取った行動は、主犯格以外の取り込めそうなやつに賄賂(お菓子やカード類)を配り、少しずつ少しずつコチラの陣営に引き込みながら引き込んだ奴のツテで更に勢力を拡大し、地盤が整った所で一斉に主犯格を裏切り「え?前々から俺達仲良かったけど?」って超笑顔で主犯君と話し合いをして丸く収まったよ。主犯君のその後?小学校では良くしてもらったよ(ニッコリ)

 

 そんな俺も今日から中学生なわけで、精神時間的には28歳+12歳でもう40歳なんですよ。おっさんからおじいさんになりそうですね。こうやって考えると、転生者ってかなり歳食ってるよな…。

 

 「うぃ~っす…」

 

 初日の登校だが俺は自分らしさを崩さない。なぜならこの同年代よりも明らかに落ち着いた(ジジくさい)雰囲気に「え、格好いい(トゥンク…)」ってなる女子がいるはずだ!

 

 「きゃ~!すご~い!!」

 

 「どうやってるのそれ!?綺麗―!!」

 

 ほら見ろ。俺に集まる黄色い声援。俺の時代始まったな。

 ……んなわけねぇだろ!!もう既に教室の中心に人だかりができてて、俺の前世の一生分でも太刀打ちできないくらいの黄色い歓声を浴びてる野郎が既にいやがる!!中学生のくせに!!中学生のくせに!!中学生のくせにぃ!!

 

 『3回も言った!や○やでも2回なのに!!』

 

 いや、落ち着け俺。ここはCOOLになるんだ!所詮は毛も生えてない(俺も)、皮も剥けてない(俺も)、尻の青いアザも取れてない子供(俺も)だ。イチイチ目くじら立ててたら精神が持たないぜ。

 

 『全部自分にも刺さっとるけどええんか?』

 

 こまけぇこたぁいいんだよ!(AA略)

 とりあえず、俺の席は中心人物の後ろの席。そう、今、完全にメスゴリラの個性が入ってる筋肉モリモリマッチョマンの女子が腰掛けてる席なんだよ。…やめてよね……君が机に座ったら、机が耐えれるわけ無いだろ?ばばっば!メキメキ言ってるから!!初日から机無いとか絶対変なあだ名つくヤツじゃん!!俺、動きます。

 

 「申し訳ないけど、ここ俺の席だからどいて「ウッホホ!!」グホォ!!?」

 

 

 ゴリラ女子の肘うち みぞおちに当たった 効果は抜群だ

 

 

 『流石だぞ!人間の急所を野生の本能でわかってるんだな!』

 

 言ってる場合じゃねぇえええええええええ‼

 あまりの激痛に膝から崩れ落ち四つん這いになる。アカン、三途の川の向こうで守山が手を振ってる…。

 

 『勝手に殺すな。守山君、今日は彼女とデートじゃよ。彼女はアスナに似てる』

 

 守山アアアアアアアアアアァァァァ‼

 

 「君達、すまないけど道を開けてくれないか?」

 

 守山への怒りで痛みに耐えていたところに手が差し伸ばされる。

 顔を上げて手を伸ばしてきた相手を見れば…クッソ優男系のイケメンやんけオイコラ。

 ほんの少しだけ青みがかった長い白髪を靡かせ、中学生とは思えない落ち着いた雰囲気。しかしその中には、掴み処の無い雲をイメージさせる不思議な佇まいがあった。

 

 「いや、大丈夫だ。自分で立てるング」

 

 なんか癪に障ったから無理して立ち上がったら痛みで変な声出た。パンパンとホコリを払う。まだみぞおちが痛むが、初日から情けないのはさすがに恥ずかしい。

 一通り落ち着いたところで冷静に周りを見ると、何やら周りの生徒達がヒソヒソと話をしている。

 これはもしかして…。俺、また何かやっちゃいました?

 

 「君はこれを見ても何も感じないのかい?」

 

 目の前に立つ優男が自身の上。空白の部分を指差す。

 なぁにこれぇ?えっ、裸の王様ゲームしてるの?馬鹿には見えない何かがあるの!?いやいや、俺は結構な秀才よ?

 

 

 

 

ば な な

 

 

 

 戯れはこの辺にしておこう。

 

 「俺の目が悪いからか、天使や悪魔の類は見えないな」

 

 俺の返答に優男の眉がピクリと動く。それと同時に周りの生徒がザワザワと口々に話し始める。

 

 「嘘でしょ?これだけの蝶々が飛んでるのに何も見えないの!?」

 

 「花も奇麗だし、きっと個性が羨ましくて見えないふりをしてるのね!なんて浅ましい男!」

 

 「ウッホ!ウッホホホ、ウッホウッホ!!」

 

 誰かこいつを動物園に連れて帰れ。

 

 「…面白い。僕の名前は摩花 氏取(まばな しや)。勝手に名乗っておきながら図々しいとは思うんだが、名前を教えてくれないか?」

 

 ニコニコと笑っている目がほんの少し開かれ、俺を観察した。…ような気がする。その前に、こいつ本当に中学生か?ぶっちゃけ怖いんだけど。

 

 「…導 凌空(みちびき りくう)だ」

 

 「凌空か。凌は『しのぐ』や『越える』といった意味がある。両親は君に空を越え、不幸を凌ぐ他者を導くような人間になって欲しくてそんな名前を付けたのかもしれないね」

 

 「しらんがな」

 

 あっ、思わず口から出てしまった。

 摩花は俺の反応が意外だったのかポカンと呆気にとられた。そして、俺のあまりにも心無い返事に周りの反応は凄まじかった。主に女子が。

 イケメンの相手の名前を褒めるカッコいいムーブにあてられ、それを最悪のリアクションで返した俺に対して超がつくブーイングの嵐。ゴリラに至ってはドラミングをする始末。お前ホント動物園に帰れ。

 そんな中、摩花はクスクスと笑う。おぉん!?お前人の不幸が楽しいタイプか?

 

 「そういう事じゃないよ。ただ、僕の個性が効かないという事は……君と一緒ならヒーローを目指していけそうだ。もうすぐHRが始まるのが本当に残念だよ。また休み時間にゆっくり話そう」

 

 そういうと、俺の両手をギュッと握る。やめろ気色悪い!

 俺が心底嫌そうに手を振り払うのを見て、満足そうに俺の前の席に座る。気付けば周りの生徒もみんな席についており、立っているのは俺とゴリラだけだった。

 

 「さっきは肘当ててごめんウホ」

 

 「話せるんかい!!」

 

 俺のツッコミと同時にチャイムが鳴った。…これは中学生活の先行きが早くも不安になってきたぜ…。

 

 

 

 

 そして、学校生活の初っ端といえば恒例の自己紹介タイムである。思い思いに好きなアーティストだったり、食べ物だったり、自分の個性だったりを話していく。

 

 「僕の名前は摩花 氏取。この通り、自然を見せる程度の個性さ。これから仲良くして貰えると嬉しいな」

 

 そして、周りの女子が口々に「カッコいい」だの「美しい」だの「氏取×凌空…ありですね」とか…オン!?一人おかしい奴いたぞ!?しかも俺が受けなの!?やだよ!!

 確実に敵が一人いる事に冷や汗をかいていると、前の席の摩花が戻ってきた。そして、席に座ると早々に後ろを振り返る。つまり、俺の顔を見る。

 

 「さぁ、次は凌空の番だよ。出来れば個性についても一言欲しいな」

 

 コイツもう名前で呼んできやがる…。俺はため息を一つ吐くと気だるげに教壇まで歩いていく。ここは一発、ガツンとインパクトのある自己紹介で女子の注目を……?

 

 前に立って、生徒を見回すことで初めて分かった。一番後ろの窓際の席、退屈そうに窓の外を眺める金髪の少女。髪の毛を特徴的なお団子ヘアーにしてるアイツ。原作を知っていればわかる…アイツは…。

 こちらの視線に気づいたのか目線を向けてくる。思わず顔を下に向け、あたかも緊張してますよ感を出して誤魔化す。心臓がバクバクと早鐘を打つ。

 待て待て、落ち着け俺!KOOLになるんだ!深呼吸して、前を向いて、何もなかったようにさっさとこんな自己紹介を終わらせよう。

 改めて正面を向いた時、背筋を無数の針で刺されるかのように鳥肌が立つ。

 

 『トガヒミコ』が笑っていた。真っ直ぐに俺を見つめて。

 

 ヒュッと息が吐きだされる。吸ったはずの息が栓をなくしたように漏れていく。震えそうな声を隠し、ゆっくりと自分の名前だけ告げる。

 

 「…導 凌空」

 

 名前だけ言うと早足に自分の席へと戻り、突っ伏して外の情報を遮断する。前の席から「意外だな。あがり症なのかい?」と言われるが、今の俺に答える余裕はない。今はとにかく、焼き付いてしまったアイツの笑顔を振り払いたかった。

 

 俺の原作知識は文化祭編までだ。だからこそ分かりかねるのは、あの笑顔が偽りなのか、自然なのかだ。俺の記憶では連続失血死事件の主犯。だが、いつからだ?あいつはいつ、どこで犯行に及ぶんだ?

 頭の中をグルグルと恐怖が支配していく。人間はわからない事に恐怖を感じるとよく聞く。まさしくそれだ。原作通りの殺人鬼のなのか、それとも、緑谷の様にイレギュラーを含むのか。

 

 「ワタシの番ですね!」

 

 俺の肩がびくりと跳ねる。要領を得ない自問自答を繰り返しているうちにアイツの番が来てしまう。トントンと軽い足取りが後方から教壇へと向かって遠のいていく。俺はゆっくりと顔を上げて、恐怖の対象を見る。

 普通だ。見る限りは普通の女の子だ。その、普通の女の子が話し始める。

 

 「トガです!トガヒミコ!!楽しい学生生活にしたいと思っています!」

 

 「トガちゃーん!好きな男の子のタイプはー!?」

 

 生徒の一人が冗談交じりに声を上げる。周りからは笑いや「やめなよー!」と諫める女子の声が聞こえる。至って普通の学園生活の風景だ。きっと俺だけだろう、ここまで恐怖を感じているのは。

 

 「好きなタイプですか?そうですね~…」

 

 周りの生徒は摩花を見たと思っただろう。だけど、違う。

 アイツは俺を見ている。勘違いかもしれない?確かにその通りだ、でも俺にはわかる。その証拠に―――

 

 

 

 「今、目が合ってる人が気になります!」

 

 

 俺を真っ直ぐに見据え、彼女は笑顔でそう答えた。

 




元ネタ(抜けてたら切腹しません)

『3回も言った~』
・某黒酢のCM

『こまけぇこたぁいいんだよ』
・アスキーアート

『筋肉モリモリマッチョマン』
メイトリックス

『さすがだぞ!~』
・ホップ君

『ング』
・ジオング

『ば な な』
頭のいい人、悪い人ツイッターで一時期はやった絵

『KOOL』
ひぐらしのなく頃に、前原圭一
ネットではやった造語


余談ですが
『背筋を無数の針で刺されるかのように鳥肌が立つ』
って表現ですが、俺が肝試しにお墓に行った帰りに感じた感覚です。
なんだったんでしょうねぇ…。


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ストーリーには、ユーモアとほんの少しの影を混ぜて

怖かったよぉおおお!!
お気に入りが40から150越えた時は正直何かの不正でアカBANされると思ったよぉおお!
あ、コメントを未登録者でもできるようにしたんで!
俺のHNで主張してるもの見ればわかるな?そういう事だよ!


 昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴る。

 授業が終わるたびに机に顔を突っ伏して誤魔化してきたが、さすがに昼食は食べたい。喉も乾いた。あとトイレ行きたい……漏っちゃう。

 

 授業中も休み時間もトガヒミコの発言の意味を考えていたが分かる訳も無く、時間だけが過ぎて腹をくくらなければならない状況だ……。

 ゆっくりと顔を上げると摩花が俺の眼前で細い眼をさらに細め、ニコニコと待機していた。お前、休み時間の度にその体勢で待機してたんじゃないだろうな?

 

 「もちろん待っていたさ。君が動揺すれば僕の個性が通用するかと思ってね。……ただ、今の君を見れば無駄だったようだ」

 

 やはり君には通じないようだ。と、大げさにヤレヤレポーズを決める。いちいち芝居がかった動きをする奴だ。

 

 「んなことより、トガヒミコはまだ席にいるのか?」

 

 コソリと周りに聞こえないように尋ねてみる。

 摩花はスゥッと薄目を開けた後、先ほどと同じような笑顔に戻り―――。

 

 「あぁ、彼女なら席にはいないよ」

 

 と、言う。

 他の女子と一緒に食事に行ったのなら僥倖!今のうちに飯を済ませて、トイレにも行って、今日の所は接触せずに戦略的撤退をするべきだ!

 

 勢いよく上体を上げた所で俺の視界が真っ暗になる。敵襲!?敵襲ー!!

 

 「ンフフ……だーれだ?」

 

 アッ(心停止)

 声の主はお察しだろう、トガヒミコだ…。だが、今はそんな事は問題じゃない!!

 生まれてこの方女子と触れ合ったこともない俺が触れられている!?しかも世の男性が可愛い女の子にやられたい事TOP10にランクインしてそうな『だ~れだ?』までセットでついてきている。このプレイおいくらです?

 ちなみに、その他の上位には膝枕、耳かき、抱き着かれて頭グリグリ、添い寝、よしよし等があるぞ!

 

 『最後の二つはバブみ感じたいだけじゃろ』

 

 シャラップ!!誰が『頑張れ頑張れ』されたいマンじゃい!されたいわ!!

 しかし、これはどうしたもんだ…。今日一日は接触を図らない予定が向こうからアクションを起こしてきた。手が柔らかい。こうなってくると無視するのもおかしな話だが手がちょっと冷たいのは冷え性なのだろうか?……やばい思考が阻害されている。女の子特有のプニプニ感で何か恐怖とか割とどうでも良くなって来てるし、なんだったらちょっといい匂いするけどよくよく思い出したらこれ摩花の匂いだわ。

 ここまでにかかった思考は約0.4秒。さすが異世界転生者、思考力が伊達じゃない!

 

 「……導君、固まって動かなくなってしまいました」

 

 「本当に微動だにしないね。もう10秒は経ちそうだけれど」

 

 10秒経ってんじゃねぇかバーカ!!俺のバーカ!!

 このままじゃ話が進まないし、名残惜しい……事もないけれど返事を返そう。

 

 「あ~、トガヒミコ…ちゃんだっけ?」

 

 「正解です!!覚えててくれて嬉しいです!!」

 

 「あっ……」

 

 パッと手を離すと、軽くステップを踏むように空いている俺の隣の席へと座る。思わず切ない声が出たけど気のせいだゾ!!しかしやべぇ……近くで見るとマジで可愛い。トガヒミコでこの可愛さだと雄英高校に入学したら俺はどうなるんだ…。

 入学できるかも分からない未来に思いを馳せていると、摩花が立ち上がり大げさに腕を広げる。

 

 「君の事が気になる男女が集まったんだ!ここはひとつ、親睦もかねて一緒に昼食なんてどうだい?もちろん拒否権はあるよ?僕は全力でついていくけどね」

 

 見たらわかる、滅茶苦茶めんどくさい奴やん!

 

 「賛成です!ワタシも導君の事が知りたいです!」

 

 右手を上げて、賛成の意を表明するトガヒミコ。

 見たらわかる、滅茶苦茶可愛いヤツやん!!いや待て、ここで冷静にならないで何時なるんだ!?別に焦って初日からコンタクトを密にとる必要なんて―――。

 

 「二人の昼食代は僕が出そうじゃないか」

 

 「何してんだ早く飯食いに行こうぜ!席がなくなっちまうよ!」

 

 金には困ってないが、他人の金で食べる飯が美味い事だけは知ってる。

 俺が立ち上がり教室から出ようとすると、一足先にトガヒミコが「じゃあ、先に行ってますね!」と軽い足取りで食堂へと向かっていった。

 その無邪気な後姿を見ていると、後ろから摩花が静かに話しかけてくる。

 

 「君は現金だねぇ…。だけど、裏表のない人物だという事は容易に想像できたよ。余談だけど、彼女が君の目元を抑えていた時に首筋とうなじ辺りを見ていたんだ。つまり、彼女はうなじフェチか鎖骨フェチの可能性が高いとみた」

 

 んなわけねーだろ。あいつは血液フェチだよ。

 なんて言える訳も無く、摩花に「そんなに魅力的に見えるか?」と冗談交じりに聞くとまじまじと首筋を観察された後で「あぁ、男の僕から見てもとても美しいと思うよ?」と言われる。

 トガヒミコとはまた別の鳥肌が立った。命と貞操の危機とか笑えねぇよ……。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 「では、運命的な出会いにカンパーイ!」

 「カンパーイ!!」

 「……うぃ~」

 

 どうしてこうなった!!どうしてこうなった!!

 トガヒミコが居るだけでも相当なイレギュラーなのに、原作と全く関係のないオリジナルのキャラクターにまで好かれてしまうなんて……。テコ入れにしては早すぎるだろ!のちの展開考えてるのか!?

 

 『私にもわからん』

 

 使えねぇ…。まるでダメなおじいさん。略してマダオだな。

 

 『お?神に喧嘩売るとか正気か?天罰っちゃう?』

 

 ごめんなさい許してくださいなんでも島村!!ダブルピース!!

 いつもの脳内やり取りをしている間にもトガヒミコはパスタを、摩花はサラダと皿うどんが混ざった何かお洒落なヤツを食べ始める。

 俺?俺はサーロインステーキ定食。1800円。摩花が目元ヒクヒクさせてたけど、奢るって言ったのはあいつだから……俺は悪くねぇ!!

 

 「さて……1800円なんて言う学生には痛い出費をさせたんだ、今回は避けないでおくれよ?」

 

 ちらりと自分の財布の中を覗くような仕草をする。いやらしい動きしやがる。

 へいへい、何なりとお聞きください。

 

 「じゃあ、改めて聞くけれど……本当に僕の個性が効いていないのかい?トガさんは見えてるよね?」

 

 「はい!お花がいっぱいでキレイです!!」

 

 そういいながらトガヒミコは花畑から花を掬う様な動作をする。そうは言われても見えてないものは仕方がないし、反応のしようもない。そもそもお前の個性がどんなモノなのかも理解できてないぞ。

 俺の返事を聞くと、顎に手を当て考え込むように唸る。隣ではトガヒミコも摩花の真似をする様に「う~ん」と考える動作をすうわぁ可愛い!

 

 「どうやら本当の本当に見えないようだね。じゃあ簡単に言わせてもらうと、自分の認識できる範囲に幻を見せるのさ。今は君とトガさんだけを意識して使用しているから、花と戯れているトガさんは変わった女の子と思われているだろうね」

 

 摩花の真似をするだけして、再び花を宙に投げるような動作をしていたトガヒミコがピタリと動きを止めた。その後、ゆっくりと両手を膝の上に置くと無言で摩花を恨めしそうに見るが、そんなことお構いなしに話を続けていく。

 

 「僕の目標はご多分に漏れず、ヒーローになることだ。しかし、如何せん戦闘が得意じゃない。だからこそ僕の個性の範囲に入っても影響を受けない君の力が必要なんだ!一緒に雄英高校を目指さないか!?」

 

 大げさにパン!と両手を合わせ懇願してくる。時折ちらりと俺の顔色を窺うように片目を開けて様子を伺いながら……。

 

 「お前なぁ……。そんなこと言われても今日会ったばかりだぞ?それに、俺の個性を知らない状態で―――」

 

 「おぉその通りだ!君の個性を知らないとコンビを組む際に支障が出てしまうかもしれない!!さぁ!ぜひ個性を教えてくれ!!」

 

 俺が言い終わる前に待ってましたと言わんばかりに言葉を遮ってくる。身振り手振りを付けて。ぶっ飛ばしてぇ……。

 

 「導君の個性、ワタシも気になります!!」

 

 しかし、俺の話になると退屈そうにしてた雰囲気から一転して、トガヒミコも身を乗り出さん勢いで食いついてきた。

 なんでぇ?もうこの際だし無個性って嘘ついてもいいんだよな―――。

 

 

 

×   ×   ×

 

「お前は仲間に入れてやらねー!!」

 

「グズ!ノロマ!」

 

「何ニヤニヤしてるの?マジでキモイ……」

 

「さっさと○ねよ」

 

×   ×   ×

 

 

 

 駄目だ!こんなに好意的に俺を受け入れようとしてくれているのに嘘なんてつけない!ついちゃ駄目だ!

 

 「あ~、まぁ、変身の個性だよ。つっても全然戦闘向きじゃないんだけどな」

 

 声が震えた。一瞬、過去の自分がフラッシュバックした。

 今の俺とは違う容姿、体型、知能。周りの目線が常に冷たかった。

 

 「変身ですか?ステキですね!!」 

 

 「戦闘向きではないか…。言いにくそうだし今回はその回答で満足しておくよ。親しくなったら教えておくれよ?」

 

 しかし、今の俺に向けられている視線はとても暖かく感じた。

 純真無垢に無邪気な笑顔を見せるトガちゃん。相変わらず芝居がかった動作で人差し指を俺に向けてウィンクする摩花。

 この瞬間、俺はこの為に生まれ変わったんだと直感した。この世界では俺に好意的な人は緑谷しかいなかった。何せ小学校時には虐められかけた訳だから。

 これが人によっては当たり前の友達の作り方なのかもしれない。しかし、俺にとってはこの普通のやり取りがどれだけ遠かった事か……。

 

 「…あぁ、よろしくお願いします」

 

 「えっ?泣いてるんですか?大丈夫ですか?ヨシヨシします?」

 

 「そんなに僕と親しくなれるのが嬉しいのかい?仕方がないなぁ!今回は特別に胸を貸してあげるよ!!」

 

 ちげーよ、これは1800円の油が目元から出てきてんだよ。

 俺の返答を聞いた摩花が「じゃあ、今度からは身の丈に合った値段の物を頼むんだね」と嫌味たらしくいってくるが、今はそれすらも心地よい。

 

 

 

 何にも縛られない俺の中学校生活のやり直しが始まった気がした。

 

 




今回ちょっと短いですけどユルシテユルシテ…



いつもの元ネタコーナー
抜けてたら乳首ドリルしません!


『今はそんなことは~』
スパロボのキャラで居た気がする…

『バブみ』
トガヒミコは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!!

『頑張れ(はぁと)頑張れ(はぁと)』
伊  東  ラ  イ  フ

『見たらわかる滅茶苦茶○○なヤツやん!』
宮川大輔(お祭り男)

『マダオ』
銀魂

『なんでも島村!ダブルピース!!』
アイドルマスターシンデレラガールズの島村卯月
俺は星輝子と夢見りあむ推しです。すこれ。


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ゲームとテストとお前と俺と……プラス1。

ちょっとの間は日常回が続きます。
中学校編は更新がちょっと長くなるかも……是非もないね!
なんか読んでみたい日常編のリクエストあったら前向きに検討して善処します。(書くとは言ってない)
そう、ネタが………


 俺達が出会って約二ヶ月。五月の終わりには最初の試練である中間テストが待ち受けているという事もあり、五月に入ってからは勉強会を行っていた……俺の家で。

 まぁ分かるよ?俺の家は両親が基本的に仕事で居ないから門限が許す限りは居ても良い。何なら泊まってくれても構わないさ!ただし摩花、テメーは駄目だ。

 そして、部屋が広い。俺の部屋は恐らく二十畳……ってどれくらい?

 

 『ググったら5.69m×5.69mって出てきたぞい』

 

 全く実感の湧かない数値をありがとう。とにかく、男二人と女の子一人で勉強するくらいは余裕ってことだ。

 最初こそ遠慮気味に、真面目に勉強に励んでいた摩花とトガちゃんだったが、今となっては―――。

 

 

 フウウゥゥゥゥゥゥッイヤッフウウウゥゥゥゥゥ!!

 

 

 「あぁ!ズルイです反則です!!時間差でコウラを投げるなんて条約違反です!!」

 

 「僕はこう見えても負けず嫌いでね。負けたほうがオヤツを買いに行く……なんて罰ゲームは避けたいのさ!」

 

 お前らは本当に遠慮しなくなったな。家の主を放ったらかしにしてマ○オカートするとか神経疑うわ。しかもこれ二日目だからな?坊主でも三日は保つんだぞ?

 

 「ぐぬぬぬぬ!!えいえいえい!!」

 

 「あっ、こら…直接攻撃するのこそ反則だろう!?いてて、的確にスネを蹴るのはやめたまえ!」

 

 ラストラップに差し掛かった辺りから、トガちゃんは実力で勝てないことを悟ったのか強硬手段に出る。……スカートからチラリチラリと見える健康的な太ももが俺の目線を釘付けにする。

 俺が抗えぬ(美)脚に目を奪われている間に勝負の決着がついていた。俺の眼前では両手を上げて誇らしげにガッツポーズをするトガちゃんと、完全にorz状態になっている摩花の姿だった。えぇ……そんな落ち込まんでも。

 

 「く…くそぅ。見てくれ凌空君!スネに青タンできる威力で容赦なく蹴ってくるなんて、女性としての恥じらいが足りない証拠だと思わないか?」

 

 普通に失礼だろそれ。

 トガちゃんが無表情でスクッと立ち上がった瞬間、目にもとまらぬ速さで自身の鞄を引っ掴み玄関へとダッシュする摩花。普段のにこやかな表情は、どこか切羽詰まった雰囲気を帯びていたのは気のせいではないだろう。

 

 「今から急いで買ってくるから!!オートロック開けないで締め出しにするとか無しだからね!?」

 

 一か月も付き合うとお互いに砕けては来るが、あいつは第一印象よりも砕けすぎでは?俺の中では某超能力者のふんもっふ!をイメージしてたが、それにしてはユニークすぎる。表情は常にニコニコしてるからあんな感じなんだがなぁ。

 摩花が無事に玄関から出て行ったのを見送ると、服の裾がチョイチョイと引かれる。そちらを見れば、トガちゃんが笑顔でコントローラーを俺に差し出していた。

 

 「一緒にやりませんか?」

 

 笑顔の際、口から覗く八重歯が最高にキュートなトガちゃんだが、俺は鋼の意思を持った男だ。入学して最初のテストがどれほど大切かも理解している。よって、俺の答えはすでに決まっているのだ。

 

 「やる~~~~!」

 

 鋼の意思(笑)

 言い訳させてくれ。お前らも目を瞑って想像してくれ……。

 お前の目の前にはトガヒミコが居るんだ。制服だ。座り方は女の子座りで、右手に持ったコントローラーを俺に差し出してくる。袖は勿論、萌え袖だ。で、満面の笑顔じゃなくて、少しはにかんだ感じで、八重歯がちょろっと見えるくらいの表情で首をかしげながら言うんだ―――。

 

 『ワタシに勝ったら……好きにしていいよ?』

 

 はい勝った~~~!俺の優勝~~~!!(?)

 失礼しました、記憶を捏造してしまいました。あぁ、なんで俺は気づけばコントローラー握ってるの……やるって言ったからか。

 そもそも俺はゲームが苦手なんだ。カードゲームやボードゲームならできるが、グリグリ動くアクションとかレースゲームなんて体が左右に動くくらいにはぶきっちょなのに…。ジャンプしたら両手上げます。

 

 「じゃあ始めますね!」

 

 ふわっとした感触が俺の右肩に触れる。視界の端で確認すると、トガちゃんが俺の真横に座っている。この時点で大いに動揺する俺。もちろんスタートダッシュなんて出来る訳も無く、盛大にその場でケツを振る俺のキャラクター。対してトガちゃんは、もうコツは掴んだと言わんばかりにスタートダッシュを決めていた―――。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 「ワタシの勝ちです!」

 

 駄目だ……ゲームに集中するどころか、触れ合ってる肩にばかり意識がいってまともにプレイすらできてない。カーブの時に体が傾くと密着度が上がるから、反射的に反対に傾けたらコントローラーも反対に入れちゃってるっていうね……。

 トガちゃん、めちゃめちゃ満足そうな笑顔でこっち見ますね!もう一回?一回で十分わかったでしょ?勝てないって……。

 

 「次、負けたらバツゲームです!凌空君が勝ったらゴホウビあげちゃいます!」

 

 「どうやら封印されたこの目を使う時が来たようだな……」

 

 「個性は反則ですよ?」

 

 「脳内設定だから無問題だね」

 

 男には、負けるとわかっていても戦わなければならない場面があるんだ。

 自然とコントローラーを握る手にも力が入る。ステージ選択のランダムが動き出す……カーブの多いところは嫌だ!カーブの多いところは嫌だ!……おぉうふ。

 

 「んふふ……これは勝ちましたね」

 

 「まだだ……まだ終わらんよ!」

 

 勝負は始まってすらないんだ!凌空先生の次回作にご期待ください!!

 スタートの合図を示すシグナルへ画面が移る。一つ、二つ……コントローラーを持つ手が緊張で震えるが、全神経をシグナルのタイミングへと集中させる。

 

 「今だ!!」

 

 俺のキャラが優雅にケツを振る。……気合だけで技術をカバー出来たら苦労しねぇんだよ!!

 隣でトガちゃんがクスクスと笑っているのが聞こえるが、試合はまだ始まったばかりである。しかし、如実にゲームセンスの差が出ている。俺とトガちゃんは段々と離されていく……せめて落ちないようにカーブくらいは曲がり切らないと!

 

 「んにににににに!!」

 

 「ちょ、ちょっと凌空君!体がスッゴク傾いてます!重たいで……きゃあ!」

 

 「ホワッタァ!!?」

 

 曲がるのに夢中になりすぎた為、バランスを崩してトガちゃんの方へと倒れこんでしまう。え?普通に考えてそんな事にはならないだろうって?……なっとるやろがい!!

 トガちゃんを床ドンする形で俺が覆いかぶさってしまう。トガちゃんとも目が合い、お互いに何を言う訳でもなく沈黙の中で見つめあう。

 手入れの行き届いた細い眉毛、艶やかな長いまつ毛、ほんの少し朱が差している頬、際立つ白い肌、そして吸い込まれそうな瞳。少なくとも、まじまじと見つめてしまえる程の時間そのままの体勢だった。

 

 「凌空君?駄目ですよ、女の子の顔をそんなに近くでジーっと見つめたら」

 

 そんな俺の行動に対して、特に動揺している様子もなく、トガちゃんは答える。俺はハッとして飛びのくように離れ、背を向けるように正座する。顔は自分でもわかるくらいに熱くなっているが、気分は無礼を働いた侍が打ち首を待つような心境である。……お許しくだせぇ。

 

 ヒタリ……と、首に何か冷たい物が触れる。右の首筋をスーッと撫でるように上下に動く。時折、緩く押し付けるように動かしながら。

 

 「……これは、ワタシの不戦勝ですよね?」

 

 「お代官様!そんなご無体な。あれは事故ですぜ!?」

 

 「ダメです」

 

 少しでも和むように時代劇調に言ってみたが、俺の命運もここまでのようだ。……そもそも、この首に当たってるものは何なのか……。

 

 

 ピンポーン!!ピンピンピンピンポーン!!

 ピピピン、ピピピン、ピンピンポーン!!

 

 「うるせぇなアイツ!!」

 

 唐突なチャイム連打。一瞬で誰の仕業か理解し、俺の怒りが有頂天になる。

 オートロックの開錠ボタンを乱雑に押すと、玄関の外から走るような足音が聞こえ、靴を脱ぎ損ねて前のめりに転倒しながら摩花が突っ込んできた。

 霊長類最強程は行かないが、鋭いタックルで見事に押し倒される俺。

 

 「おぉっと!ナイスキャッチ。助かるよ凌空君!やはり持つべきものは友人だね」

 

 「キャッチしたつもりもないし、何なら俺がキャッチされてんだよ!!さっさと退け!熱いし重いしお前の髪の毛長いから口に入りそうなんだよ!!」

 

 「そう言った趣向は女子のいない場所でするものだと思うが……君の頼みなら仕方がない」

 

 「お前話聞いてる!!?どけって言ってんだルルォオ!?」

 

 じゃれてくる摩花を退かせようと奮起していると、唐突に放ったトガちゃんの蹴りが摩花の脇腹にヒットする。「んぐぅ!?」と情けない声を出しながら横へ倒れたのを確認して、ついでに俺も一発蹴りを入れてから離脱する。

 

 「蹴る事はないだろぅ!?」

 

 「バツゲームを邪魔したからです。あと、チャイムは一回鳴らせばいいって教わりませんでしたか?」

 

 冷めた目で摩花を見下ろすトガちゃん。な、なんて冷たい目をしてるんだ……まるで養豚場の豚を見るような明日には出荷されちゃうのね……って目つきだ。

 そんなトガちゃんが俺の方にクルリと向き直ると、俺の手を取り、手首にピシャっとおおぉぉっぉ!!?

 

 「痛いんですけど!?」

 

 左手に持っていた定規でしっぺをしてきた。そこそこ強い力で。

 首筋に当てていたのは定規だったのか……ってか、首にしっぺしようとしてたとか実は結構おこです?

 

 「当たり前です!むしろこれくらいで済んでカンシャしてほしいです!」

 

 「申し訳ございませんでした」

 

 華麗なジャパニージ土下座を披露する。

 すると、先ほどの会話を聞いていた摩花がダメージから復帰すると―――。

 

 「あ、あんな事って!?僕がいない間に何をしていたんだい!?会ってまだ二か月ほどだっていうのに節操がないんじゃないかい!?」

 

 「何をカンチガイしてるか知りませんが、摩花君は帰って来て早々ウルサイです」

 

 「な、なにおぅ!?」

 

 気づけばトガちゃんと摩花が言い争いを始めた……が、ものの数十秒で買ってきたお菓子をお互いに吟味しながら、再びゲームのコントローラーを握りキャッキャし始めた。君達は何なのマジで……当初の目的忘れてない?

 そんなテスト前の風景だが、猶予があってもほぼ毎日こんな感じだったからテストの結果は言わなくてもわかるだろう。

 

 トガちゃんは赤点ギリギリだった。何だかんだでゲームする前の勉強時間は無駄ではなかったようだ。俺は中の上くらいだった。歴史や理科が俺のいた世界と微妙にズレてる事もあってミスが目立ってしまった。

 

 摩花は学年10位以内だった。なんで?

 




いつもの元ネタコーナー
抜けてたら亀ラップしません!!

『ただし摩花、テメーは駄目だ』
ボボボーボ・ボーボボの「ただし漬物、テメーは駄目だ」

『20畳』
20畳はベッドが二つ入ってるビジネスホテルの部屋くらいの大きさです。

『マ○オカート』
答えやん…。

『orz』
今の世代はもう使わないだろうなぁ。
人が落ち込んでるみたいに見えるやつ。OTLもある。

『どうやら封印された~』
中二病。闇に飲まれよ!!

『まだだ……まだ終わらんよ!』
Zガンダム。クワトロバジーナ。
いったい、何アズナブルなんだ……。

『霊長類最強』
言わずもがな。多分ワンパンマンとタメ張れると思う。

『な、なんて冷たい目をしてるんだ……まるで養豚場の豚を~』
ジョジョの奇妙な冒険2部だったかな?私は2部がお気に入り派。ジョセフみたいな主人公が最高にすこだぁ……。


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中の上って言われてもピンとこないし、何ならお前は特上じゃねぇか。

更新遅くなりましたが、日間ランキング乗ってましたね!ありがとうございます!
あ~、自己顕示欲が満たされるんじゃぁ~(恍)
スクショ撮るくらいには浮かれてましたねw

これからも導凌空君をよろしくお願いします。
今回は普段の倍の長さあります。理由はお分かりですね!?(ジョルノ風)


もっと私をすこって……


 今日は摩花から自宅への招待を受けて、現在は待ち合わせ場所にいる。

 季節は夏休みの七月。夏休みを犠牲にする補修が心配事項ではあったが、中間テストの頑張りようは目を見張るものがあった。主にトガちゃんの。それでもあいつ等はゲームしてたけど……。

 雄英高校に行くんならもっと勉強に身を入れないといけない事もわかっているんだが……どうしても三人で遊ぶ時間が楽しすぎる。と言うかトガちゃんと一緒に居るのが楽しい。摩花?あいつはホラ、役回り的にウザキャラだから……。

 

 「今、失礼な事考えてたりしなかったかい?」

 

 「ピィッフゥ↑!?」

 

 唐突に肩を叩かれ予期しない声が漏れる。駅前のモニュメントで待ち合わせていた事もあり、人通りが多いため俺は他人からの視線を一身に浴びてしまう。やめろ!そんな目で俺を見るなぁ!!

 

 「くっくっく……どんな驚き方してるんだい。おかげで僕まで注目されてしまったじゃないか」

 

 見慣れたオーバーリアクションで「ヤレヤレ」と首を左右に振る。なまじ見た目がよすぎる為、学生服ではなく私服にもなると、女性からの注目は3.14倍(適当)くらいには上がる。

 腹立たしい事に、こいつと外を歩くとやたら街角のアンケートやモデルの誘いに出くわす。そしてそいつらは俺を見ると「あぁ……君はいいかな」って言う。毎回思うんだけど失礼すぎませんかねぇ!?

 

 「君だって見た目は全然悪くないさ。むしろ中の上はあるよ?前髪で目元を隠している事と、猫背気味の姿勢の悪さが印象を変えているんだよ」

 

 いつも言ってるだろう?と、俺の前を歩きだした摩花に付いていく。誰が三枚目キャラだ!!

 トガちゃんは家族で行く所があるとかで、そちらの用事が終わる時間に合わせて待ち合わせをしていた。今はトガちゃんに合流するために向かっている……の、だが―――。

 

 「すみません!よかったら街角アンケートにご協力いただけませんか!?」

 「私、芸能事務所のスカウトでして!よければ名刺だけでも!」

 「あぁん!アタシのお店で働かない?アナタなら絶対人気になれるわ!」

 

 あぁんもぉう……。

 街角アンケートを取ってる女性、芸能事務所スカウトの男性、あとオカマ。お前、男女問わずモテモテだなぁ!!もげろ!!

 

 「アラ?隣のあなたも姿勢が悪くて目元まで髪の毛がかかってるから分かりにくいけれど……童顔気味でかなりの原石じゃない?アタシのお店でズッポリ磨いていく気ないかしら?」

 

 何をズッポリして、ナニを磨くんですかねぇ……。

 しかも磨くのアナタの剣だったら僕は何も磨かれないし、何なら貞操というものを失うんですけどねぇ。ってやめろ!髪の毛を上げようとするな!うわ腕毛すごい!!

 

 「悪いけれど、僕はモデルにも芸能人にも興味がないんだ。行こうか凌空君、このままだと遅刻して姫の機嫌を損ねてしまう」

 

 髪をかき上げる仕草をしながら華麗に断りを入れる。周りの奴ら「オォー」じゃねぇし、メスの顔してるアンケートの人もさっさと仕事に戻れ。そしてオカマ、さりげなくケツを触るな。助けて……。

 いつの間にか囲まれていた状態から抜け出していた摩花を追う様に、俺も全力でこの危険地帯(オカマ)から逃げる。人込みを抜ける際に、ポケットに何か入れられたのでちらりと確認すると……。

 

 

 

 店名『六欲店・阿那瑠地獄』

 源氏名『夜のスーパーエンジェウ・ガブリエル ゴリ美』

 

 

 

 癖が強すぎるんじゃぁ…。こいつもゴリラだし、店名これア○ル地獄じゃん。やっぱり俺の貞操近い将来開通されるの?ヤなんだけど。どうせならトガちゃんに『それ以上はいけない』。

 

 「君もスカウトされてたじゃないか。行く事になったら教えておくれよ、贔屓にするから」

 

 普段のにやけスマイル二割り増しみたいな顔で俺を見るな。それに行くんじゃなくて逝っちまうんだよなぁ……俺の精神が。

 盛大なため息を吐きつつも目的の場所へと向かう。途中で車椅子で段差を上手く登れない高齢夫婦の手伝いをしたり、外国人から道を聞かれたりもあったが全て対応しておく。英語?出来る訳ないじゃん。フィーリングよフィーリング。

 アイ アム ペン!!

 

 「君と一緒に行動する度に思うんだけど、君も声をかけられたり声をかける事も多くないかい?」

 

 「たまたまだろ。ヒーローが気付く前に気付いて声をかけてるだけだ。別にヒーローに絶対やってもらわないといけないってルールもないしな。」

 

 「それにしたって、わざわざ君がやる事でもないだろう?ヒーローはそういう事も業務に入ってるんだから、彼らに投げればいいのさ」

 

 「……逆に聞くけど、ヒーローが居たら人助けしなくていいのか?違うだろ?たとえ人が見てなくたって日頃の行動が自分を作るんだ。公民館とか便所のスリッパ並べるのだって、店で飯食った後にごちそうさまと伝えるのだって誰が見てるわけでなくても、やる事に意味があるんだ。……あぁ、クッソ!お前俺がこういう事言うのわかってて嫌味な聞き方したな!?」

 

 摩花の方を見れば、腹立つにやけ面でコッチを見てやがる!お前のそう言う所がトガちゃんの辛辣な態度につながってるんだぞ!!チラっと聞いたけど、個性使って悪戯したことあるってマ?

 

 「それは誤解さ。トガさんを喜ばせようと君の幻覚を見せたりしてないさ」

 

 そら嫌われるわ。マジで何してんの?ってか、勝手に俺を使うな。

 どうなったのか問い詰めようとした所で待ち合わせ場所についた。公園の入り口で待ち合わせだが、近場にはカフェや移動販売車が止まっており、公園のベンチでは若者から中高年と様々な人達が休憩している。大きめの総合病院も見える。

 俺はカフェオレを買ってベンチで座って待つことにした。摩花は隣のOLさんと何か話してる。内容?キョーミないね。ケッ!

 

 

 待つこと数十分。信号を挟んで向かい側にトガちゃんとご両親の姿が見えた。トガちゃんが此方に気付くと、両親を置いて手を振りながら真っ直ぐに走ってくる。

 

 あぁ^~私服が可愛いんじゃぁ^~。

 

 夏用の制服も、半そでから覗く細い腕が目の保養に108役くらい買ってくれてますが、今回の私服姿もたまりません!ボーダーのカットソーにデニムパンツ、スニーカーというスポーティータイプで来るなんて……ッ。あ、摩花が当日は動きやすい服でとか言ってたわ。見直したぜ!

 

 「凌空君、コンニチワ!!お待たせしましたか?」

 

 「全然待ってないよ。あと3年は待てる」

 

 「学校卒業しちゃいますね!」

 

 俺の冗談に対しクスクスと笑う。遅れてトガちゃんのご両親が俺の前まで歩いてくると、トガちゃんは俺の後ろに移動する。……なるほど、これが初顔合わせってやつなんですね!?

 

 「娘さんを僕に下さぶべっ!!」

 

 俺の全力の告白は、全てを言い終わる前にトガちゃんに頭を叩かれて阻止された。……違うのね。

 

 「君が導 凌空君だね?娘から話は聞いてるよ」

 

 えっ、何の話してるの?チラリとトガちゃんの方を見れば目をそらされた。ねぇ!なんの話したの!?

 

 「ははは、大丈夫だよ。学校が楽しいって、この前笑顔で話してくれてね。娘も思春期なのか気難しい時があって……全く話さない時もあったんだが、マトモに学校生活を送れているみたいで安心しているよ。ありがとう」

 

 はぁ?マトモって、こっちのトガちゃんは普通じゃね?

 トガちゃんの両親がお礼を言いつつも、世間話へと話題がそれた所で俺の背中が引っ張られた。振り返ると、トガちゃんが服の裾を摘まんで俯いていた。あぁ、はいはい……仰せのままにですよ。

 

 「すいません、色々とお話ししたいのは山々なのですが……」

 

 「あぁ、それもそうだね。こんな暑い日に外で長々と話すのも良くない。もう一人友達がいるんだよね?確か……摩花 氏取君だっけ?彼はどこに?」

 

 俺は無言でOL五人を相手に楽しそうに談笑している優男を指さす。

 

 「アイツは何時もあんな感じなのでお礼を言う価値も無いですよ」

 

 「そんな連れない事言わないでおくれよ」

 

 だからお前は急に現れるのをやめろ!

 

 「呼んでないのに来るんですか……。摩花もう帰っていいですよ、道案内ご苦労様でした」

 

 「今日も一段と辛辣だね!?」

 

 摩花とトガちゃんが何時ものように言い争いを始める。その姿を心から安心したような表情で見つめる両親。……原作では家庭状況がどうなってるのかわからないけれど、今がご両親にとって幸せなら、俺が異世界転生した意味が少しはあったのかもな。

 

 「って言うか、今日は摩花の家に行くんだろ?帰られたら困るって」

 

 「凌空君はワタシとデートしたくないんですか?」

 

 じゃ、摩花。そういう事だから……。

 

 「待て待て!僕に味方はいないのかい!?」

 

 トガちゃんの家族も含めて皆が笑顔になる。

 改めてトガちゃんのご両親にお別れをして、今日の目的地である摩花の家へと三人で向かうのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 「ここが僕の家だよ。一般的な家庭に比べると少し大きいかもしれないが、そこは目を瞑っておくれ」

 

 ……この豪邸が一般的な家庭よりも少し大きいだったら、一世帯はスーパーマーケットみたいなでかさの家になるわ。

 

 「摩花はやっぱり金持ちだったんだな。これからも仲良くしてくれよな金くれ」

 

 「金くれ」

 

 俺が流れるように両手を指し出して金品を求めると、俺の口調を真似してトガちゃんも同じ動作をする。えぇぇ……カワイイ。

 

 「君達、お金をせびるのはやめるんだ。そして、差し出してるその手を引っ込めなさい。正しくは家でもあり、僕の父親の仕事場だよ。僕の父親はゲーム会社の社長なんだ」

 

 ゲーム会社にしても野球のドーム球場ばりに広いし何作ってるんだよ。

 神は二物を与えないとか言うけど、こいつ与えられすぎだろ。どうなってんだよ。

 

 『パワプ○でも天才選手とか確率で出るじゃろ?それじゃよ』

 

 はぁ~?俺もリセマラ……したらベル○ルク送りだったな。あの漫画俺が生きてる間に完結するの?

 

 「こんな所で立ち話するのも何だし行こうか」

 

 摩花が指紋認証を行い、受付の警備員に従業員証のような物を見せると、従業員専用であろう扉が開いた。企業名が隣に書いてあり『花月堂』と書いてあった……。あー、あのマリ○カートもどきお前の会社の商品じゃねぇか。そら勝てんわ。この世界の任○堂的な立ち位置はお前の親父の会社なのね。

 

 真っ白な廊下を進んでいくとエレベーターがあり、乗り込めば摩花が結構な上階のボタンを押す。ここにきてから圧倒されっぱなしで、俺もトガちゃんも口数が減ってしまっている。ってか、俺たちはどこに向かってるの?

 

 「今回は僕がアイデアを出した体感型ゲームをプレイしてもらいたくて呼んだんだ!ヒーロースーツの技術は上がっているのに、ゲーム業界は技術の浸透が遅くてね。僕は一人のゲーム会社の息子として、また、ゲーム好きの一人として、ゲームの文化を発展させていきたいんだよ」

 

 立派な考えだな。でも、そんなにゲームが好きなら開発を目指すものじゃないのか?それが何でヒーローを目指す事になってるんだ?

 俺の何気ない発言を聞いた摩花の表情が真剣な顔つきになる。普段はニコニコと閉じている糸目を開き、何かを思い出すようにゆっくりと話し始める。

 

 「僕はこれでも小学生の時に一度だけイジメにあってね。この容姿だからクラスの女の子からモテすぎて、上級生に目をつけられたんだ。今まで好意を寄せられた事はあっても、敵意を向けられたのはそれが初めてで、とても恐ろしかったのを覚えているよ。で、恥ずかしながら学校に行くのが怖くなってしまって、家に引きこもっていたんだ。二人の姉も心配してくれてたんだけど、姉にイジメてきた上級生の名前を出すのは恥ずかしくてね……僕みたいな人間には学校は退屈なんだって嘯いてた。今思えば、きっと二人は気づいていただろうけどね」

 

 恥ずかしげにポリポリと頬を掻く。その飾らない姿が普段の演技がかった様子ではない事から、きっと今の状態が摩花氏取の等身大の姿なんだろう。

 俺もトガちゃんも横槍を入れること無く静かに聞く。今は摩花の話す声と、エレベーターから聞こえてくる機械の音だけが微かに響く。

 

 「その時に、とある童話を見たんだ。それが『シンデレラ』さ。……笑ってくれて良いんだよ?ただね、憧れたのはシンデレラじゃなくて魔法使いさ!夜の12時には魔法が解ける。その間は夢を見せることが出来る……正しく僕と同じだと思わないかい?だけど、魔法使いがなんで見ず知らずの女の子にそこまでしたのか不思議でね……」

 

 エレベーターが目的の階につき、階層を無機質な機械の声が告げる。自動扉が開くと、摩花が目的の場所まで歩いていくので、俺とトガちゃんも後ろを付いていく。

 

 「魔法使いの行動の意味が分からなくてうんうん唸ってた。そんな時、姉二人が様子を見に部屋に入ってきたんだ。本当に魔が差してね……姉に対して個性を使ってみたんだ。今まで個性を使ったこともなかったから、頭痛と吐き気で物凄く目眩がしたのを今でも覚えているよ。まるでガラス瓶に入れられてシェイクされてるみたいだったよ。だけど、それ以上に姉の笑顔が忘れられないんだ」

 

 過去を思い出すように空間を見つめる。そして、ゆっくりと俺に目線を交錯させる。

 

 「あの時の二人の笑顔が離れないんだ。僕の胸の高鳴りも……!その時に子供ながらに思ったのさ。人を笑顔にすることに理由なんていらないってね。その日から色々な人を笑顔にする為に、僕は僕なりに努力を重ねてきたってわけさ。ヒーローになるのは、僕がこれから見せるゲームの宣伝塔に僕自身がなるためでもある。そして、ヒーローになった僕にしか、笑顔にできない人も大勢いるはずだからね」

 

 「この世の中は、個性を持っている人と持っていない人、強い個性の人と弱い個性の人、病気のない人と病気のある人……常に平等じゃないから、夢を見ることすら平等ではない。だけど僕の個性なら、泡沫の幻であっても、人を笑顔に……夢を見せてあげる事が出来る。目が見えない人に花畑を見せることも出来る。耳が聞こえない人に波音を聞かせることも出来る。僕の個性は脳に直接影響を与える事も出来るからね。だけど、それが必ずその人の幸せに繋がるわけじゃない」

 

 何時ものいけ好かない糸目ニヤニヤ面に戻ると、一つ咳払いをして二枚扉の前に立つ。プレートには何の飾り気もなく『試作機』とだけ書かれている。

 

 「これは多くの子供達や、夢を捨てた大人達の救いになって欲しい。無個性の人達を世界で活躍するヒーローにする事は僕には出来ない……しかし、だけども!ゲームの世界ならどうだい!?どんな自分にでもなれるとするなら?手から火を出し、目からビーム、腕も伸びて、分身が出来て、ワンパンチで敵を倒せるようなヒーローにだってなれる!誰にも迷惑はかからず、ヴィランを倒し、ヒーローになる!自分だけの夢を叶えられるんだ!!……ゲーム内だけ、だけどね」

 

 見慣れた大げさな動作をしながらキラキラと無垢な少年のように瞳を輝かせ熱弁するが、最後に一言、少し寂しそうな表情をしながら付け加える。

 

 「追記事項になるけど、人を笑顔にする喜びが胸に刻まれた日から僕は他人を思いやれない人が大嫌いになったとさ。……まぁ、いじめっ子には悪いことをしたよ。反省と後悔はしてないけどね!」

 

 絶対コイツを敵に回すのはやめよう。なんか精神的にやられそうな気がする……。

 

 「扉の前で長く話し込んでしまったね。今日のメインは僕の過去じゃないんだ、未来へ向けた体験をしてほしくて二人を呼んだんだからね。……しっかり笑顔になって帰って欲しい!!これは僕の挑戦の第一歩でもあるからね!!」

 

 噛みしめるように最後の一言を告げると、ゆっくりと扉を開いた。

 

 

 

 

 そこにはコンテナ室の様なものが部屋の角に設置するように置いてあり、中央には巨大なモニター、そして、上の階層からコチラを見渡せるようにガラス張りの部屋が全面グルリと張り巡らされている。どうやらシステムの状況を見るためなのか、従業員らしき人がパソコンを見たり、コチラを見ていたりとまちまちである。

 摩花がにこやかに手を振ると、作業をしていた作業員も皆が手を止め笑顔で手を振り返す。コイツ、唯のお坊ちゃんじゃないな。別に手を止めろと指示された訳でもなく、全員が自発的に手を止めて返事を返す。きっと従業員とも、今日ナンパしてたOLを相手にするように笑顔で話しかけてるんだろう。ウザキャラのくせに憎めないやつだ。

 

 「君は失礼な事を考えると口の端が上がるって知ってたかい?」

 

 そう言いながら俺の頬をムニムニと揉む。やめめめめめめ!オラァ!

 摩花の手を勢いよく弾き、華麗なバックステッポゥ!で離れる。男のくせにしなやかでスベスベした手してんじゃねぇ!!

 

 「手入れは欠かさないからね。そう言えば、トガさんにあげたハンドケア一式は役に立ってるかい?」

 

 「めんどくさくてやってないです!!」

 

 「いい笑顔で素直に答えるねぇ!!結構高いんだよ!?」

 

 ショックそうにトガちゃんへ詰め寄る摩花だが、トガちゃんは意にも介さずモニターの前へと移動する。モニター画面には複数のキャラクターが並んでおり、『種族』や『職業』と書かれていた。

 試作機と言う割にはかなり金がかかってそうなんだが……。

 

 「当たり前だろう?僕の挑戦の第一歩なんだ。お父さんにはかなり無理を言ったよ……」

 

 だけど、かなりのものだよ!これは!!

 と、普段は見せないような無邪気な演技も見せる。いや、演技じゃないのか?もう普段の大げさな仕草の見過ぎでわからん!!

 

 「摩花の過去のお話が長すぎて退屈でした!そんなやり取りはもういいんで、早く本題に入ってください」

 

 トガちゃんの刺々しい物言いに、摩花も咳払いを一つして、モニターを指差しながら説明を始めた。

 

 「これはね『Virtual(バーチャル) Reality( リアリティ) Battle( バトル) Simulator( シュミレーター)』。略す必要もないけど『VRBS』って僕らは呼んでる。正式名称もまだ決まってないからね」

 

 モニター下にあるスイッチを押すと、キーボードとマウスが出てくる。それを操作して、画面を動かしながらキャラクターの説明を始める。

 

 「このゲームはあそこにあるコンテナ室で機器を体に取り付け、その中で動く事で実際にゲーム内で走ったり物を掴んだりが出来るのさ。この機器を軽量化・無線化するのにどれだけの苦労があったことか……うぅん、開発の話はまた別の機会に。その際に僕達の身長と体重も自動的に測ってくれるのさ」

 

 「トガちゃんのスリーサイズも?…いてぇ!?」

 

 「凌空君は叩かれるのわかって聞いてますよね?」

 

 「データは暗号化されて保管されるから、一般の人にはわからないよ。細かい数値を入力すれば、その人の身体能力に合わせた動きも可能だけど、今回は種族と職業を選ぶ事で能力が振り分けられるんだ」

 

 そういいながら種族を『獣人』、職業を『軽装』に選択する。

 画面には虎のような顔をした細身のキャラクターが立っており、片手剣を腰に差している。

 

 「まぁ細かい設定は触ってもらえばいいと思う。折角の体感型のゲームなんだし、何が強いとか関係なく好みで一度やってみようじゃないか!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 コンテナ室は思ったよりも結構な大きさの空間になっており、中では設備を設置してくれる作業員とモニターでデータを取っているらしき人達がいた。

 

 「きつかったり、違和感があったら遠慮なく言ってください」

 

 透き通るような青色の髪をした女性の作業員が声をかけてくれる。あのねぇ、この人すっごい美人さんなの……。VRヘッドギアつけられる時に胸が目の前にきてすっごくこわかったの(大嘘)

 

 「問題ないです。で……なるほど、手を動かしてタッチパネルの要領で選択していけばいいのか」

 

 俺の目の前には複数の種族や職業がずらりと並んでいた。その中に『魔法使い』という文字が見える。まぁ、十中八九摩花はこれだろうな。

 俺は摩花がさっき選んでいた獣人を選択する。次に職業だが……え~、結構ありすぎてわからん。案外こういう時はランダムとかがよかったりしない?

 ランダムボタンを軽い気持ちで押すと『職業』の枠が『特殊』になり、選ばれたのは『進化』だった。……えっ?俺の個性あいつにバレてたりしないよね?まだ話してないよ!?

 

 「それは現段階では試作状態で、外枠はありますが中身のデータはほとんど入っておりません」

 

 あ、なーるほど。びっくりしたわ。

 じゃ、もう一回選択肢しなお……せないんですけど?

 

 「試作機なので、一度選んでしまうとキャンセルできません。一戦目はそれでお願いいたします。あと、職業の選択枠からも外れてしまっていますので、装備も出来ません。では、スタートします」

 

 はー!?クソゲーやん!!二度とやるかこんなクソゲーーー!!一回目なんですけどね!。

 

 

 俺の意志とは裏腹に、画面にはそれぞれの選択した職業と種族が表示される。

 

 

 ・M.Siya 『エルフ・魔法使い』

 

 ・T.Himiko 『人間・吸血鬼』

 

 ・M.Riku 『獣人・進化』

 

 

 俺のMはモンスターのMってかぁ!?前世はM禿!よろしくな!!

 半ばやけくそになりながらも、最新技術による世界観のリアルさに没頭していくのを感じていた。





長すぎですかね?
長かったら今までと同じように4000文字くらいで纏めようと思います。

コロナ流行ってるんで、外に出ないで皆もSS書こうぜ?
俺の更新がおせぇ!!って思ってる方は未完成の前作とか見てくださってもええのよ?


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ラブ&ピース。は良いんですが、地雷増えてません?

もうめっちゃ悩んだ。
でも、SSやし好きにしたろ思いました。プロット壊れた。

はよ雄英高校行きたい……
緑谷VSトガちゃんイチャイチャ大合戦やりたい…見たくない?


 どうも導凌空です。

 職業選択をミスった事により、メインコンテンツである戦闘はトガちゃんと摩花で行っているのですが……。

 

 「ちょちょちょ!タンマタンマ!!魔法使いに近距離戦のスキルはないんだって!」

 

 「そんなの知りません!はい、オシマイです!」

 

 「ぐああああぁぁぁ!!?」

 

 俺の目の前では障害物を巧みに使い、摩花を翻弄するトガちゃんの姿があった。凄くイキイキとした表情で文字通り摩花をなぶり殺……ンン!弄んでいる。言い方変えても駄目だな。

 う~ん、トガちゃんって原作では警察とかから逃げているうちに気配の消し方?を身に着けたんじゃなかったか?見てる限り、気配を消してるかはわからないけど動きは素人っぽくないけどなぁ。

 

 「ううぅぅ……僕が作ったゲームなのに。僕が世界で一番やりこんでるはずなのに……」

 

 完全に心を折られてしまった摩花はうずくまる様に地面に伏せて、ブツブツと独り言を言う機械になってしまった。しかも脳波コントロールできる!

 しかし、よくできてるよな。空も緑も水もリアルだし。戦闘ゲームじゃなくて、もっと色んな用途で発展していけば間違いなく世界の役に立つぞ。……摩花は将来安泰だな。

 

 「どうしたんですか?」

 

 俺が優雅に空を飛ぶ鳥に目を奪われていると、トガちゃんが声をかけてきた。えぇ、返り血のエフェクトで血まみれじゃないですか……。似合ってるね。

 

 「……女の子に血が似合うなんて冗談でも言っちゃ駄目ですよ」

 

 ん?予想してた反応と違う。なんかこう「そうですか!?とってもウレシイです!!」って満面の笑みを見せるかと思えば凄く微妙な表情をされた。

 

 「そんな事より、何を考えていたんですか?」

 

 俺が腰かけている切り株に同じように腰を下ろす。近いっす。ってか、もうお尻密着してるし、顔めちゃくちゃ近いし、あぁぁ!これがヴァーチャルじゃなければどれほどよかったことか!!全力で鼻呼吸したら匂いかげないか!?

 

 「スーハースーハー!!ウエッホエホ、ウホウホ!!流石に大自然の空気は吸えないんだなぁ…って思ってたところだよ」

 

 「んふふ、凌空君はやっぱり変わった人ですね!」

 

 いやいや、君も結構変わってると思うけど。と、言った瞬間に足を踏まれるであろう発言はやめておく。

 しかし、トガちゃん何か戦い慣れしてない?動きがすごくスムーズだったんだけど。

 俺の疑問に対してピクリとトガちゃんの眉が動く。それと同時に、普段の天真爛漫さからは想像できないような瞳の揺れも感じた。……えっ?なにかあるの?

 

 「……凌空君の個性の変身ってどんなやつなんですか?」

 

 えー、唐突やん。今の所は珍獣だけど?

 クスリと笑うと「能力とか発動の条件はあるんですか?」と詳しく聞かれる。今更減るもんでもないし、恥ずかしいけど説明するか。

 

 「ウサギとヒヨコを足して、背中から翼の出る珍獣になれる。ただし手が短くて背中はかけないし、運動能力も劇的に上がる訳でもないし、誰かさんのせいで頭頂部がややハゲかけてる」

 

 流石のよわよわ個性っぷりにトガちゃんも噴出してしまう。いや、別にいいんだけどね?こんな奴が雄英目指すなんてやっぱ無理だよなぁ……。

 

 「そんな事ないですよ。ヒーローを目指すことにご両親からは何も言われないんですか?個性についても」

 

 「つってもなぁ……。親は仕事が一番で俺の事は幼い時からほったらかしだし、雄英の話をした時も『迷惑をかけないなら好きにしなさい』って言われた程度だから。場合によったら理解のあるいい親って聞こえるかもしれないけど、俺の場合は単純に興味がないんだろうな」

 

 俺が生まれてから5歳までの間は普通の親だったんだが、急に仕事一辺倒になってしまった。あそこまで来るとワーカーホリックってレベルじゃない気がする。そのおかげで好きにやってはいるけどな。

 

 「……ワタシもヒーローに憧れてたんです」

 

 ……ファッ!?えっ!?この世界のトガちゃんヒーロー志望なの!?

 俺の驚きを置いていくように、トガちゃんは淡々と語りだす。

 

 「ワタシの個性は人の血を使うんです。それで、自分の個性を知ろうと思って、小学生の時に友達の血を少し分けて貰ってたんです。あっ!傷つけたりしてないですよ!?ちゃんと事情を説明して、指先に針を刺して、少し出た血を分けて貰ってたんです!……それでも変な事をしてるって自覚はありました。ある日、血を貰っている話が両親の耳に入ってしまって……それからはヒーローに関係する物全てを捨てられて、見ることも禁止されてしまいました」

 

 ……マトモやん?このトガちゃん今の所は個性が不憫なだけで普通のヒーローに憧れて、個性を研究をしようとしてた女の子やん?

 

 「……自分の憧れのヒーローも見れなくて、血を貰っていた話が周りにも広まってしまって同級生も寄り付かなくなってしまって……。本当に辛かったです。そんな時に中学校で知らない顔の人を見つけました。それが凌空君でした!」

 

 あの笑顔と気になるっていうのは単純に知った顔じゃなかったからってことなのか?それはそれで寂しい!あの時は命の危機と同時に可愛い女の子からの猛烈アピールを受けれると思ってワクワクしてたのに!!いや、それでも女の子と一緒に遊べるのは前世からは考えられない進歩なんだけどね。

 

 「凌空君がワタシの事情を知らなくて、都合が良いから話しかけただけなんです」

 

 って言っても、今は仲いいからいいじゃん?気にしなくてよくね?

 トガちゃんはキョトンとした顔で俺の顔を見る。いやいや、許して貰えると思ったから話したんでしょ?

 

 「そ、そうですけど……拍子抜けと言いますか」

 

 うわ~、豆鉄砲食らったみたいな表情のすごくらしくないトガちゃん新鮮だわ。でも、トガちゃんも雄英高校に来たら絶対楽しいよな。前衛トガちゃん、後衛摩花、応援が俺。完璧な布陣じゃん?

 

 「今はヒーローになりたいって思わないの?」

 

 「なりたいです!!……でも、両親が許してくれないだろうし」

 

 「ちゃんと話し合っていないんだろ?きっとあの時は両親もびっくりしたんだろ。自分の可愛い娘が他人の血を飲んでるなんて知ったら、誰だって驚くだろうし。今日会った感じだと、今なら話くらいは聞いてもらえるんじゃないか?」

 

 トガちゃんの目を真っ直ぐに見つめてゆっくりと話す。いいじゃん、ちゃんと思ってくれてる両親なんだから。きっとわかってくれるよ。俺みたいに一か月に3回顔を合わせれば運がいいレベルにまで疎遠になってしまった両親に比べれば全然いいさ。

 

 「……ホントですか?」

 

 「不安だったら俺も一緒に行くからさ。大丈夫だよ」

 

 トガちゃんの手をドサクサに紛れて握る。へへっ、ヴァーチャルだから流石に体温は感じねぇぜ。妄想力でカバーするしかねぇ!!

 ただ、表情だけはわかる。ものっそいはにかんでるのだけはわかる。さすが摩花、細かい表情の変化に対するこだわりだけはプラス点入れとくわ。

 

 「……凌空君って、他の人にもそんな事言ってませんか?」

 

 俺の手を振りほどくと、照れ隠しなのかそっぽを向かれる。あー、似たようなこと言ったような記憶もあるけど……。

 

 「……女の子ですか?」

 

 「うん」

 

 「は?」

 

 そんな瞳孔開いた眼で見ないでください死んでしまいます。細かい表情の作りこみやっぱマイナス点にしとくわ。手のひらドリルで本当にすまない。

 

 「ゲームしてる場合じゃなくなりました。今すぐ直でお話ししましょう。すいません、ログアウトお願いします」

 

 言うや否や、トガちゃんの姿が消える。えっ、俺また何かやっちゃいました?

 摩花の方を見ると物凄いジト目で見られていた。えっ、俺が悪いの?

 

 「君は良い奴だとは思うけど、女性の扱い方はきちんと学んだ方がいいと思うよ?」

 

 お前に言われるとクッソむかつく。

 

 『凌空君。早く来てください』

 

 ……俺は静かにログアウトボタンをオプションから選んで入力した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 場所は移って俺たちが待ち合わせで合流した公園。

 気づけば時間も結構立っていたようで、昼間の温度に比べれば幾分か過ごしやすい気温には変わっていた。決して俺の正面で無表情ハイライトの消えたトガちゃんに恐怖して体感温度が下がっているわけでは無いと信じたい。あれ?このハイライト消えてるのデジャヴを感じる。

 

 「あの……何かお気に障りましたでしょうか?」

 

 「本気で言ってるんですか?」

 

 ……本気じゃなかったら聞かないダルルォ!!?と、逆切れしたら二度と口きいてもらえそうにないので「ハイ、ワカリマセン」と答える。摩花がスマホで俺のこの姿を録画しているが本当にアイツ何なの?

 

 「ワタシと二人で遊びに行った回数と場所、覚えてますか?」

 

 二人きり?基本は摩花も入れた三人だったじゃん。俺がそう答えると、摩花から「僕がドタキャンした日は含まないよ」と言われる。そうだ!お前ドタキャン滅茶苦茶してたわ!それだと……一回目のショッピングと、二回目の映画館、三回目が水族館だっけ?

 

 「ちゃんと覚えてて嬉しいです」

 

 そりゃあ、トガちゃんと一緒だったから覚えてるけど。なんで摩花「あっ、こいつ駄目だ」って顔してんの?トガちゃんもあきれてない?

 

 「トガさん、これは計画失敗だよ。まさかここまで唐変木だとは思っていなかったよ」

 

 「気が合いますね。ワタシも理解しました」

 

 なんなん?俺が悪者なの?んな事ないよな!?俺、変な事言ってないよな!?

 ……神様来てくれねぇ!?いつもは俺の問いかけにすぐに来てくれるのに今回は出るまでもなく俺が悪いってか!?

 

 「……決めました。ワタシも雄英高校に行きます。(そして、凌空君を独り占めしてた女を…)」

 

 なんか最後の方ブツブツ言ってるけど……トガちゃんが前を向いてくれるなら嬉しいよ!(現実逃避)

 とんでもない爆弾をセットしたような気がしないでもないけど、大丈夫大丈夫。雄英に入学する頃になったら収まってるって!

 

 

 「おい!誰かあの子を止めろ!!」

 

 

 ほにゅ?

 男性の切羽詰まった声の方を向くと、8階ほどある高さのビルから女の子が飛び降りようとしていた。えぇぇ、超展開スギィ!!

 

 「トガちゃん!とりあえずヒーローに連絡してくれ!」

 

 「わ、わかりました!」

 

 俺と摩花は現場の近くまで走っていく。気づいた人間が少ないのか人は疎らで、今すぐに飛び降りてしまうとヒーローが間に合わない可能性もある。下では個性を使って作り出したのか、シーツを数人で引っ張って構えているが安全かはわからない……。時間を稼ぐことができれば―――。

 そんな俺の思考とは裏腹に、迷いなく少女が身を投げた。小柄な体の腰ほどもあるオレンジの長髪が風で揺れる。

 

 「私が助けるさ!!」

 

 そういいながら一人の男が大きく跳躍し飛びだした。姿から見てヒーローでは無さそうだ。空中を跳ねるように飛んでいき、少女を自身の個性で弾く。そう、弾いたのだ。少女の体は大きく跳ねて、スピードを増し、元々の落下点であったシーツを大きく離れていく。

 その時、身投げした少女と目があった気がした。まるで絶望しているような、何も信じられないと訴えるような光の無い瞳。夢が叶わないと思っていた時のあの女の子、緑谷と被る。

 ドクンと心臓が跳ねた。それと同時に俺の中の何かが強く訴える。『俺を使え』と。

 

 「摩花ァ!!飛ぶから肩貸せぇ!!」

 

 「このシャツ結構高いんだけど、しかたないね」

 

 摩花が中腰になったのを確認し、左足で背中を踏み、右足で肩を踏み込み跳躍する。摩花も動きを合わせてくれたおかげで思ったよりも飛べた。そして、久しぶりに俺は個性を使い珍獣の姿へと変身する。

 翼を生やし、滑空する。少女が小柄な事もあり、しっかりと抱き留めた所で俺は体の異変を感じた。確実に体がでかくなっている。それどころか、全体的な能力も上がっている気がする。

 

 「……これは降りた後で検証だな」

 

 ゆっくりと地上へ降りた所で少女の全体を見る。可愛らしい整った顔立ちだが、両目には大きなクマがある。そして、小柄な体だけど……その、お胸が大きいでございます。

 個性を解除して、今も何が起きたかわからないといった表情の少女に目線を合わせるようにしゃがみ込む。

 

 「あー、大丈夫?君の一大決心を無駄にした事は申し訳ないけど、さすがに見て見ぬふりはできなかった」

 

 人を助けた経験、ましてや、自殺しようとした人間に声をなんてかければいいんだよ!わかんねぇよ!!

 しかし、俺の内面の困惑とは裏腹に少女が次に取った行動は俺にハグをすることだった。

 

 「あぁ、これが運命ね!もう何も信じられなくて死のうと思っていた矢先にヒーローでもない人に助けてもらえるなんて!!」

 

 アワワワワ!!お山がお山が二つのお山が僕の体にふんぐるいふたぐんそわかそわか。

 今まで受けた事のなかった破壊力ばつ牛ン!な、お胸の暴力にやや放心していると前髪を上げられ、まじまじと顔を見られた。ちょ、恥ずかしいんでやめてもらっていいっすかね?

 

 「いつかお礼に伺います。ありがとう!」

 

 そう言って俺の頬にキスをすると走り去っていってしまった。いやまてぃ!(江戸っ子)

 お前これだけ周りを騒がせながら二人は幸せなキスをして終了ちゃうぞ!(俺はしてない)。一番に助けに行ってた人は警察に連行されてるのに、お前も事情聴取とかあるやろがい!!

 

 生まれて初めての頬チュッチュに心臓バックバクの謎テンション。だから気づかなかったんだ。女の子を見送る俺の後ろでトガちゃんがゴミを見るような目をしてたの。果たして、見てたのは俺の方なのか走り去っていった女の子のほうなのか。

 教えてくれた摩花はただただ「どちらにしても、知る必要はないと思わないかい?触らぬ乙女になんとやらだよ」と頑なに教えてくれなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 「はぁぁぁ~、リード今頃どうしてるのかなぁ」

 

 中学生になって夏休みになった。その間もリードを探して東京に足を運んでいるけれども、全然見つけることが出来ない。あまりにも遠出をするせいでお母さんからも夏休み中は行かないようにと禁止令を出されてしまった。……ううぅぅぅ!リード分が足りない足りない!!

 

 そして、こんな気分になった時はリードから貸してもらっているボイスレコーダーの音声を聞く。入っているのは一言、二言で「頑張れ」と「気負いすぎるなよ」だけである。なんだか励ます言葉だけじゃなく、休ませるような言葉を入れているのが彼らしくて少し笑ってしまう。

 

 「……よし!元気も出てきたし、いつもの動画サイトでヒーローの研究でもしようかな!」

 

 パソコンのお気に入りサイトから無料動画サイトを開くとTOPに『一般人が飛び降り自殺の少女を助けた!』との動画タイトルが目に入った。

 

 「へ~!ヒーローでも無いのにすごい人もいるんだなぁ。僕も負けてられないな」

 

 そう言葉に出しながらも少し複雑な気分は拭えない。「個性があるから出来るんじゃないか」と言う黒い感情を、先程聞いたリードの声で押し込み、どんな個性の人が救出したのか確認するために動画を再生する。

 動画は監視カメラの映像のようだった。それでも画質は良い為、誰がどんな個性で助けたのかわかりそうだ。

 

 少女がビルから身を投げる。そして、真っ先に空中を跳ねるように跳躍し上昇していく男性。空気を固定する個性なのか?空気を蹴れる個性なのか?……と、考察を重ねていると、男性が少女を抱きとめるわけでもなく弾いた。

 

 「えっ!?」

 

 てっきりあの人が助けるものだと思っていた僕は声を漏らしてしまう。彼の個性は空気中に弾性のある何かを設置する個性なのか!?ならなぜ、抱きとめて一緒に降りないんだ!!

 

 「摩花ァ!!飛ぶから肩貸せぇ!!」

 

 何故か心臓が高鳴った。聞いたことのない声なのに、何故か知っている気がした。そして、僕が知っているよりも大きく、真っ白な体毛で、翼を羽ばたかせて力強く飛ぶ生物が映った。根拠はないけど確信があった。絶対にこれはリードだと。

 

 少女を地面に下ろすと頭頂部が見えた。……うん、ごめんねリード。毟るのもうやめるよ。

 そして、個性を解除すると僕の想像していたよりも小柄な少年が映る。後ろ姿だから顔がわからないけれど、それだけでも僕には十分感動的だった。

 

 「早く会いたいよ、リード」

 

 胸の鼓動が高まり、顔が熱くなる。きっと、今の僕は恋する乙女の表情をしているのだろう。が、次の瞬間その高まりは一瞬で冷たいものへと変化する。

 助けた少女がリードの頬へキスをした。

 

 

 「は?」

 

 放心。

 

 「……い、いいいいや、落ち着くんだ僕!命を助けられて気分が高まって……って事も全然考えられる!自殺しようとしてたって書いてたけど、ネットの見出しだしホントかどうかわからないし!あれくらいは許さないと彼女(予定)としての度量が小さいと思われるかもしれないし―――」

 

 ブツブツと独り言を言っている間にリードの後ろに二人の影が映る。一人は長髪の中性的な顔立ちの人。もう一人は髪をお団子にした服装から見ても明らかに女の子。少ししてリードが立ち上がると……。

 その女の子がリードの腕に抱きついた。

 

 「は?」

 

 ふ……ふふふふふふ。

 僕が居ない間に随分楽しい事になっていそうだね、リード。

 雄英高校が今から楽しみだよ。それまでに絶対に見つけてみせる。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 「○○中学校の……導凌空さん」

 

 監視カメラの映像をハッキングして、見やすいように画像処理もかけた私の動画の再生数がドンドンと伸びていく。アンチコメントはすぐに消去していく。

 それとは別に、助けてくれた彼の情報を集めながら今日の温もりを思い出す。

 助けられた時は力強く、初めて声をかけられた時は困惑したような、髪を上げて見た表情は童顔気味な少年。思い出すだけでキュンキュンしてしまう。

 

 「導さん、待ってて下さいね」

 

 募る思いを原動力に、私は生きている喜びを噛み締めていた。

 




なんか、原作知ってる身からすると出会い方は違えど最高のパートナー同士を引き裂いたみたいでちょっと興奮しますね(ゲス)



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俺はただモテたかっただけなのに世界は許してくれない?(前編)

超☆難☆産
6回くらい書き直して心壊れかけたので現実逃避に核の落ちた世界で生活してました。
どうぶつの森?核ミサイル落としてそこもウェストバージニアにしてやるよ(ゲス顔)


俺のこんなSSをお気に入りにしてくれてる人と評価してくれてる人みんなだいすこ


 人が大勢いる住宅地。その中で三人を囲むように人だかりができている。

 導凌空と摩花氏取に相対しているのは、如何にもヴィラン顔だがどう見てもモブっぽい男。

 

 「行くぜ摩花!!」

 

 「やれやれ、咄嗟になると思い切りがいいですね」

 

 モブに向かって駆けだす凌空。160cmの小柄な体がメキメキと音を立てて変化していく。

 今までの愛でられる珍獣ではなく、羽毛を捨て、黒と紺色の混じったような体表を露にする。

 細く伸びた腕と足には鋭い爪を光らせ、蝙蝠のような大きな羽にしなやかな爬虫類を思わせる尻尾。そして、ウサギとヒヨコを足したような愛らしい容姿ではなく、獰猛さを感じさせる恐竜に近いが、少し細くシャープなフォルムへ変化している。

 全長は約2m程にまでに伸び、口角を上げると覗く牙、鋭く紅い瞳をギラつかせ、両手と羽を広げて迫りくる姿は、ヒーローというよりも戦隊モノに出てくる悪役の幹部と言っても差支えがなさそうである。

 

 「ジャアアアアァァァ!!」

 

 叫びながら迫りくる怪物に対し、男は怯まず凌空の顔めがけて拳を叩きつける。しかし、直撃したはずの拳は空を切り、怪物の体が花吹雪になり舞い散る。

 一瞬、舞い散る花びらに目を奪われ唖然とするも、背後から大きな影が被さったことに気付く。振り返れば、体を捻りこみ『必殺の一撃を撃つ準備ができました』と言わんばかりの姿。紅く鋭い瞳が肩越しに男を捉える。そして―――。

 

 「ッッッガァ!!」

 

 至近距離で口から爆発するような衝撃波を放つ。男は紙切れの様に吹き飛び、ビルに突き刺さる様に叩きつけられた。

 大技の反動のせいか、見慣れたヒヨコウサギモドキの姿になった凌空と摩花が並び立つ。

 

 「加減というものを知らないんですか?」

 

 「……死んでないよな!?やっちまったかあれ!?」

 

 肩をすくめる摩花と、アワアワと焦り散らかす珍獣の姿。

 その一部始終をディスプレイに流しニヤニヤする摩花と唖然と見つめる俺。いや、何作ってんの?

 

 「対戦ゲームの演出っぽく出来てるだろう?僕達の対人訓練もどきの動きをキャプチャーして作ったんだ。君の助けた女の子が手伝いに来てくれるからあっという間に終わったよ。トガさんのもあるけど見るかい?」

 

 いや、ホントなにしてるんですか……。雄英高校の受験まで三ヵ月切った今でやる事じゃないだろ。

 

 

 あれからあっという間に月日が流れた。その間にあった大きなイベントは、トガちゃんの両親説得イベント(強制参加)と、助けた女の子からのお礼(拒否権無し)だった。俺の意思なんてないんですよ……。

 では、説明と言う名のご都合主義な回想を見てもらおう。神様オナシャス!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 「駄目だ駄目だ!お前の個性は人の血を使うんだぞ!ヒーローなんて目指すものじゃない!」

 

 「そんなの関係ないです!ワタシはワタシらしく生きたいんです!!どうしてやりたい事を我慢しないといけないんですか!!」

 

 「そもそも、娘を命の危険に晒すような職業に何故賛成しなければならないんだ!」

 

 帰りたい……(泣)

 もうかれこれ三十分はこれである。堂々巡りの無限ループって怖くね?

 放課後に「凌空君、今日はワタシの家に来ませんか?」なんて首傾げはにかみスマイル見せられたから「やったぜ!これはワンチャンありますぅ!?」って喜び勇んで家に入ったら、トガちゃんのパパンが超笑顔で「大事な話は彼も関係するのかい?」って青筋立てたスマイルしてた。一回死んだ。

 大丈夫。多分、私は二人目だから……。

 はやなみぃ!!

 

 現実逃避しないと心が壊れちゃう。

 パパンはトガちゃんに普通の女の子として過ごして欲しいみたいなんだよね。根底がこれだから、理由をつけて許してくれない感じ。親心なんだろうなぁ。

 だからって全てを頭ごなしで否定するのも違うと思うんだけどな。何事も受容する心とお互いの及第点を見つけることが平和への道ってね。ラブ&ピース!

 

 「もういいです!パパのわからずや!!足クサい!!」

 

 「待ちなさい!!足クサいは関係ないだろう!!」

 

 なんでシリアス展開にギャグぶち込んだの!?あっ、席立つタイミング逃した!!

 あっあっあっ、パパンこっち見ないで……怖すぎて漏らしちゃう。

 

 「ヒーローを目指すようにと君が唆したのか?」

 

 「唆した訳じゃないです。両親としっかり話し合うべきじゃないかって言っただけです」

 

 「……なぜ君は被身子について来たんだ?」

 

 俺が知りたいわい!!いや「一緒に行くから(イケボ)」って言ったからだよなぁ……。

 やだよぉ、帰りたいよぅ。

 

 「……親として子供の夢を応援してやるべきなのはわかっているし、そうしたい気持ちもあるんだ。だが何故かわからないが、そう思った瞬間に娘には普通の生活を送らせるべきだと思ってしまう。先ほどもそうなんだ。あんなに真剣に話す娘の要望を聞いてやろうと思ったはずなのに私の中の何かが拒否するんだ。……おかげで娘とはぎくしゃくしているし……何かの呪いにかかっている気分だよ」

 

 自身の顔を手で覆い、後悔からか大きなため息をつく。

 ……呪い?またまた御冗談を!ここが学園都市ならいざ知らず、今回は呪術なんて無しのヒロアカですよ?イレギュラーなんて……ないよね?

 まぁこんな少ない情報で分かる事なんてないし、一緒に居るって言ったのにトガちゃんをほったらかしにする方が不味いし、パパンも反省してるみたいだしトガちゃんを探しに行こう。その前に―――

 

 「トガちゃんを応援したい気持ちがあるなら大丈夫だと思いますよ。それに、自分の言った言葉でそこまで落ち込む優しいお父さんをトガちゃんが嫌っている事も無いと思います。進学希望を出すまでに時間はまだありますし、ゆっくり自分の心と向き合って、一緒に娘さんの夢を応援しましょう」

 

 よし、それっぽい事言えた気がする!トガちゃんパパンも心なしか頷いて、さっきよりも生きた顔してるし後は娘への愛じゃよ!愛!!

 靴を履いて玄関から出ようとすると―――。

 

 「ところで、最後の方で私の事をお父さんと呼び、被身子の事を娘と呼んでいたが……私は君のお父さんではないし、予定もないぞ?娘とはいったいどういった―――」

 

 お邪魔しましたーーー!!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 「喧嘩して公園のブランコって、なかなか定番感あるよね」

 

 トガちゃんはあっさり見つかった。「トガヒミコを見つけろゲームの事か?簡単だったよ」ってやりたかったのに……。

 

 「……凌空君、パパに何も言ってくれませんでした」

 

 そんなアホな事を考えている俺に対して、俯いたまま言う。いや、あの剣幕の中で俺が発言しても「凌空君は黙っててください!!」ってなるの目に見えてたし……。

 

 「トガちゃんさ、自分がヒーローを目指す理由を話してないよね?憧れてるっていうのは聞いたけど、きっかけを聞いてない。さっきの言い合いの時もそこだけは言わなかった。どんなヒーローに、どのように憧れたのか。それがないとパパ…んんッ!お父さんも共感しづらいとは思うよ?」

 

 俯いたまま動きが止まってしまった。とりあえず隣のブランコに腰かけ、遠くでボール遊びに興じている子供達を眺める。

 数分して、数回深呼吸をする様に大きく呼吸を行うと意を決したように固い雰囲気で話し始める。

 

 「……笑いませんか?」

 

 「内容次第かな。イテテ!わかったわかった、笑わないから!!」

 

 固い雰囲気は俺の言葉で崩壊し、その結果としてトガちゃんが頬を膨らませながらガスガスと俺の足を蹴ってくる。なんでこの子こんなに乱暴になっちゃったの!?……これも俺のせいなの?緑谷と言い罪深い男だぜ(白目)

 

 「……夢を見るんです。主人公はワタシで、緑色の髪をした男の子に恋をしてるんです」

 

 ポツリポツリと話し始めるトガちゃんの表情は遠くを見るようだった。夢だけど、過去を思い出すようにゆっくりと丁寧に話を続ける。

 

 「だけど、その世界のワタシはきっと悪者なんです。人をナイフで切って、血を吸って、恍惚の表情を見せる。きっと、それがワタシの最大の愛情表現」

 

 「ある日見た夢では大けがをしている男の子と出会った夢、そして再び出会う夢。何度も何度も夢の中で彼と会い、その度にワタシなりの最大の愛情表現を彼に向ける。つまり、彼を傷つけて、血を吸って、彼と一つになる事」

 

 一つ一つ、あたかも自分が行ったかのように鮮明に話を続けるトガちゃん。しかし、途中から話が頭に入ってこない。それはつまり―――

 

 

原作の『渡我被身子』なんじゃないか?

 

 

 トガちゃんのお父さんが言ってた事も、原作の罪を犯した娘に対して強く思っていた感情が残っているって事なのか?

 これも神様バグと一言で片づけられるならそれに越したことはない。しかし、俺の背中を這うようなこの悪寒と汗は何だ?

 今までの原作とは違う点は女の子の緑谷、血への欲求がないトガちゃん、気持ちと心が合っていないトガちゃんのお父さん、トガちゃんの夢に出てくる渡我被身子とおそらく緑谷出久。

 今までは深く考えていなかったが、この世界の原作と違う部分は本当にただのイレギュラーなのか?何か別の力が働いてるんじゃないのか?

 俺の思考がグルグルと答えの出ない自問自答を繰り返す。俺自身、なぜここまで焦りが出ているのかわからない。あえて言うなら、今この瞬間、何かフラグが立ってしまったような気がする。

 

 「そして、ワタシはその男の子を殺したんです」

 

 トガちゃんの口から殺した、と言う言葉が出たことにより思考の海から引き上げられる。

 ……緑谷出久を殺した?

 待ってくれ。勝手に勘違いのドツボにハマっている可能性も否定できないけれど、情報の整理が追い付かねぇ!

 

 「夢なのにリアルでした。ナイフを突き立てる肉の感触、温かな血液の温度と独特のぬめり、鉄の香り、彼の痛みにくぐもった声、恐怖で歪む表情。その全てがワタシを突き動かす。彼の血をすすり、人生の絶頂のような感覚を味わう所で目が覚めたんです。……これが最後に見た、ワタシと彼が出てくる夢でした。凌空君に会う数日前だったと思います」

 

 落ち着かない頭と心を無理やりにも整理しながら、トガちゃんの方を向く。

 彼女の表情は、どこか原作の狂気を匂わせるような冷たい目になっていた。そして自身の肩を抱くと、ブルブルと小刻みに震えだす。息も荒く、顔色も真っ青になっていく。

 

 「この夢を思い出すたびに怖いんです。ワタシが……本当のワタシが『どっちかわからなくなる感覚』になるんです!ワタシは他人を傷つけたくないし、血の味も好きじゃないです。でも、あの夢の中では美味しく感じたんです!!男の子を刺してる時、感じた事が無いくらいにキモチイイって思ったんです!それが怖い!!」

 

 ボロボロと大粒の涙を流し、自分の感じた事の無い未知の恐怖に耐えている。そんな彼女を後ろから強く抱きしめる。勢いよく移動したせいで、隣ではガチャガチャとブランコが乱暴に揺れている。そんなブランコの音に負けないように強く抱きしめる。

 

 「凌空君?」

 

 なんて声をかければいいかなんてわからん。こちとら泣いてる女の子を抱きしめるのも初めてだ。ただ、今ここにいるトガちゃんが原作の渡我被身子とは別だって事はわかる。この先の事なんてわからないけど、確かな事は俺がトガちゃんと友達で、絶対に味方で居たいって事だ。

 

 「……そんなもう一人のワタシになりたくなくて、ヒーローを目指すんです。ワタシは違う、夢は夢だって乗り越えるために。憧れも最初はこじつけでしたけど、最近、ちょっと本当になってるかもです。誰かさんの影響を受けてるかもしれないです」

 

 誰だトガちゃんの憧れになろうとしてるヒーローは!!同じ血を使うブラドキングか!?おっさんやんけ!俺も中身おっさんやで!!

 って、だめだ!シリアスが長すぎて……

 

 「……トガちゃんシャンプー変えた?」

 

 「雰囲気ぶち壊しです」

 

 俺のシリアスモードは長く持たないんだよ。トガちゃんに大きくため息を吐かれ呆れられた。

 顔を見合わせると、そんな不器用な感じが可笑しく感じてお互いに少し笑った。

 

 「不思議と凌空君に会ってからは、あの夢を見なくなりました。それでも寝る前には不安になりますけど……」

 

 「大丈夫だよ。これから先も俺は一緒に居るからさ」

 

 抱きしめっぱなしだった事を思い出して、トガちゃんを離し、照れ隠しに移動しながら夕日を見る……って、もう夕方じゃねぇか!?意外とシリアス出来るじゃねぇか……。

 

 「じゃ、そろそろ帰ろうぜ」

 

 振り向き、トガちゃんを見る。

 夕日に照らされて真っ赤になった顔、どこか惚ける様に俺を真っ直ぐに見つめている。

 もしかして惚れ直した?

 

 「……はい、前回に引き続いて今回もやられちゃいました。プロポーズまでされちゃいましたし」

 

 ……ん?プロポーズ?

 俺が頭上に「?」を浮かべているとブランコから立ち上がり、俺の両頬に手を添えて、数分見つめ合ったのちに口を開いた。

 

 「絶対、一緒に居てくれるんですよね?」

 

 …………アッー!!?しまったアッー!!?緑谷の時の失敗を再びやらかすとかまるで成長していない!

 いや、それは言葉の綾って言うか、坂本ま○や、平野○!

 

 「そうかそうか、泣いてる娘を抱きしめただけでは飽き足らずそんな事まで……」

 

 トガちゃんの頬に添える手をゆっくりと退かし、恐る恐る後ろを向くとトガちゃんのパパンが立ってた。

 言い方的に途中から聞いてたんですか!?

 

 「お、お父様…これには誤解が」

 

 「まだお父様じゃない!それに誤解もイソメもソメワケもあるか!今日は晩御飯を食べていきなさい!!そこでゆっくり話を聞こうじゃないか!!」

 

 ぴ……ぴぇん。

 

 トガちゃんの顔色を窺うと、それはそれは嬉しそうに微笑んでいましたとさ。 

 

 

 

 

 



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俺はただモテたかっただけなのに世界は許してくれない?(中編)

遅れましたが、日間ランキング30位ありがとうございます。
これも全てお気に入り、感想、評価をくれる皆様とトガちゃんのお陰です。
サンキュートッガ!

誤字脱字報告ありがとうございます!!
脳みそクルミなんで助かります!リードをリークって打ってたやつはマジで恥。
控えめに言って失踪したかった……。

何か前後編にしようと思ったら長くなったんで分けてます。次の更新は今回よりも間が空かない……かも?
ま、長いからって内容があるとは言ってないんですけどね!
内容が無いよう!っつってな!!(激寒ギャグ)


このSS続けれてるの本当に感想と評価を下さる皆様のお陰です。
10話まで続けれると正直思ってなかった。絶対エタると思ってた。
長くてもあれなんで、今回もお楽しみいただければ幸いです。


 災害の凄まじさを物語るかのように倒壊した建物。あちらこちらでは火も上がっている。

 そんな中、二人の男女と相対する如何にもヴィラン顔だがどう見てもモブっぽい男。

 

 「凌空君。援護お願いしてもいいですか?」

 

 「トガちゃんのお願いなら喜んで!」

 

 可愛らしく両手を合わせてウィンク一つ。隣に立つ導凌空はグッとサムズポーズを決め、了解の意を示す。

 凌空の返事を聞くや否や、低い姿勢で男へと迫る。勿論、凌空も少し離れて距離を詰めていく。

 緩急や目線、フェイントを交え、トガヒミコは持ち前の俊敏性をいかんなく発揮していく。

 要所にある瓦礫を上手く使い、物陰から物陰へと暗殺者の様に目線を切っていく。男が完全に見失うのは仕方のない事だった。

 

 「俺も見失っちゃった……」

 

 そして、凌空も見失った。

 

 ボソリと情けない言葉を呟きながらも、トガヒミコが気を引いていたお陰で男にはあっさりと接近していた。

 黒い瞳が紅く染まり、160cmと言う男性では小柄な体がメキメキと音を立てて変化していく。

 今までの愛でられるだけだった珍獣から(中略)戦隊モノに出てくるような悪役幹部に近しい風貌へと変化する。

 

 「ジェヤァアアアアアアア!」

 

 耳を刺すような咆哮。そして、ギラリと光る爪を隠すこともなく相手へと振り下ろす。

 男は硬質化した左腕で防御するが、縦に四本の傷がしっかりと残っている。

 カウンターを取る様に男が反撃の為に右腕を振りかぶった所で―――

 

 「ワタシも混ぜてください」

 

 耳元で甘く囁くような少女の声を聴いた瞬間、全身が電流を浴びたように痺れる。

 トガヒミコの右手には改造スタンガン。それを容赦なく男の首筋に突き立て自由を奪う。

 

 「凌空く~ん!いいですよぉ!!」

 

 上空へ向かって呼びかける。トガヒミコの合図を聞き、何時の間にやら空中で待機していた凌空が羽を折りたたみ急降下を始める。

 グングンとスピードを増していく凌空の体。男とトガヒミコに到達するまであと数メートルと言う所で男の肩を踏み台に、トガヒミコが凌空の首元に飛びつく。そして、するりと背中へ回る。躊躇いなく行うその行動は、お互いの親密さを見せつける様である。

 

 

 「凌空君!必殺技名言いますよ!」

 

 「オッケー!」

 

 急降下から男の頭を鷲掴みにすると、そのままの勢いで地面を引き摺っていく。そして壁に叩きつける瞬間―――

 

 「「グライビングスクラッチ(です)!!」」

 

 二人の息ぴったりな技名合わせと同時に轟音が響く。男は壁に埋まったままピクリとも動かなくなった。

 トガヒミコと凌空は壁に叩きつけた際の破片などを気にして大きく距離を取った場所に着地をする。そして、凌空は個性を解除する。

 

 「我ながら恐ろしい威力…うわっとぉ!?」

 

 「んふふー、大勝利です!」

 

 勝利を喜ぶように凌空へ抱き着くトガヒミコ。

 ……って、おい!

 

 「トガさんの分もあるって言ったじゃないか。作った方の身としてはお披露目しないと」

 

 俺が回想している間にゲーム演出(トガちゃんVer)を流されていた。ってか、前のもそうだけどモデリングも一から作ってんの?

 

 「勿論だとも。ヒーローの対戦ゲームは人気だからね。僕が勉強ついでに製作したのさ」

 

 いや、だから受験勉強をだな……。って、言いたいんだがこいつが一番成績良いんだよなぁ。

 

 「モデルの使用料とりますよ?」

 

 突然、背中に柔らかな二つの感触を感じる。しなやかな両腕が俺の首に巻き付き、ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 予想はついてるかと思うがトガちゃんである。

 

 回想ではカットされた『突撃!渡我家の晩御飯』はそれはそれは平和……うん、平和に終わった!

 トガパッパからは進学の事や俺の両親の事、トガちゃんとの関係などそれはそれは多くを語り合いましたとも。最終的には許されたのか「二十歳になったら一緒に酒でも飲もうじゃないか」と晩酌のお誘いもいただいた。

 トガマッマは凄い美人さんだった。どう見てもトガちゃんはマッマ似だな。イメージ的にはトガちゃんをもっとお淑やかにして、ロングヘアーのニコニコしてるお姉さんって感じ。……ん?マッマ何歳だったん……深く考えるのはやめようね!

 マッマは終始ニコニコとパッパと俺とのやり取りや、トガちゃんが話している姿を見守っていた感じかな。御飯が美味しい事を伝えると何も言わずにガンガンご飯をよそってくれました。加減して。

 

 「凌空君!折角ワタシが抱き着いてるのに反応なしですか?」

 

 「どちらかと言うと反応しないように現実逃避してるんデス」

 

 トガちゃんはあの日から家族仲の修復が進んでいるようで日常会話でも家族の話をしてくれるようになった。…基本的には思春期女子特有のパッパと洗濯物一緒は嫌だとか髭がだらしないとかだけどね。(裏でパッパに話したら泣いてた)

 そして、よくわからないんだが俺へのボディタッチも増えた。

 もうすっごい増えた!俺が鋼のメンタルを持っていなければ今頃「お前がママになるんだよぉ‼」してたかもしれないくらいには増えた。

 今後も精神的に戦い続けなければならない。いや、負けても良いのかもしれんが……駄目だ、そうなると社会的に俺が死ぬ。体もってくれよ(主に下半身)

 

 「んふふ~。今日の凌空君分補充です」

 

 猫の様にグリグリと背中に顔全体を押し付けてくる。その度に背中に当たる二つのお山が形をかえ……。

 ンアァァァァ‼3倍界王拳だああああぁぁ‼(血涙)

 

 「ズルいわヒミコちゃん!今日は抜け駆けは無しって話したのに!」

 

 身長110cm程の小柄な体、大きな瞳には縁どられたような隈、大きなツインテールを上下に揺らし、俺とトガちゃんの間に割って入る。

 飛び降りた所を助けた少女『相場愛美』…原作で言う『ラブラバ』である。いや、少女って言うか大学生だから俺より年上なんだけどね……。

 

 「ゴメンナサイ。凌空君みたらつい……」

 

 「もう!約束の凌空さんブロマイド(盗撮)渡すのやめようかしら」

 

 「あああぁぁぁぁ!ゴメンナサイ、ゴメンナサイ!」

 

 勝手に俺の写真配るのやめてもらっていいっすか?

 そんな彼女も唐突に俺の家に凸ってきて……色々あった末に今は大学生をしながら、バイトもしながら、暇な時間は摩花の手伝いに来ているようだ。本人にゲーム制作に興味があるのかを聞いてみると「無いわ。凌空さんに会う口実よ」と即答だった。後ろで聞いていた摩花がすげぇ絶望した顔してた。

 

 「……凌空君、彼女物凄く優秀だから君からも口添えしてくれないかい?今回のこれだってモデリングは僕だけど、プログラムで三ヵ月はかかるだろう所を彼女は一人で二週間だ。プログラムに対する知識が広く、深すぎる」

 

 女性二人のやり取りを仲睦まじく眺めていると、摩花がコソッと俺に耳打ちをしてくる。今回は息を吹きかけたりなどちょっかいなしのガチトーンである。

 って言われてもなぁ……条件が『俺も摩花の会社で働く』だから無理だぞ?プログラムはおろかゲームすら下手糞なのに。

 

 「そこは問題ないさ!いずれは僕がヒーロー事務所を立ち上げるからそこに所属してくれればいい。それなら嘘はついてないことになるだろ!?たのむよお~」

 

 うわっ!お前は抱き着いてくんな!相変わらずいい匂いさせてんのがむかちゅく!!

 しかし、このやり取りはもう長く続かないんだ。なぜかって?今までは摩花を止める役がトガちゃんだけだったんだ。もうみんな「あっ(察し)」ってなったかな?

 

 「「何してるんですか?」」

 

 今までキャッキャッと笑顔ではしゃいでいたテンションから一転。背後にどす黒いオーラが見えるかのようにトガちゃんと愛美さんが摩花を見つめる。

 

 「えっ?いやぁ、これも男同士の友情の確認と言うか……。ね!凌空君、ユウジョウ‼」

 

 摩花が冷や汗をかきながらも差し出した右手をペシリと払う。一瞬でいつものニコニコ面がサーッと青くなっていく。

 さて、ここからは摩花がひたすら言い訳をする見苦しいシーンになるので……そんな皆様のために~?  

 

 

 ク○キー☆ではなく、相場愛美もといラブラバが参入するまでの流れを回想で見ていただくとしよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夏休みも終わり学校への登校日初日。

 

 誰もが一度はやらかす『夏休みの宿題忘れ、持って行き忘れ、登校日忘れ』のスリーポカを前世で三冠王した俺に死角はなかった。ちなみに三冠王の三連覇だ。ドラフト一位間違いなし!

 前日のうちに鞄に入れた宿題の数々を改めて確認し、家でも殆ど会う事の無い両親が置いてくれている生活費の一部を財布に入れ、一学期と変わらない足取りで家を出た。

 

 「あー、今日から学校生活の再開か。夏休みはイベント色々あったなぁ」

 

 摩花の家(会社)へ行ったり、トガちゃんの両親と会ったり、海に行ったり、トガちゃんの宿題を手伝ったり、他にも色々と回想してない部分でもイベントはあった。気になる人は初回版のBlu-rayかDVDを購入してくれ。

 まだまだ気温が高く、吹き出る汗でペットリと張り付く前髪が鬱陶しい。しかし、それ以上に何やら視線を感じる。

 汗で張り付いた前髪を分けながらも周りを伺うと、こちらをチラチラと見ている人達が一部いることに気付く。

 

 これはあれか?異世界転生オレツエー主人公特有の「あれ?俺、また何かやっちゃいました?」を使う時が来たのか?

 なんてアホな事を考えながらも、正直、理由の分からない注目程恐ろしい物はない。

 電車内でも学生が男女問わずに俺をチラチラと見ながら小声で話しているようだった。

 ふと頭に過ぎったのは―――

 

 

俺を指さし、笑い、存在を否定する人々の影。

 

 

 その影を頭を振り、奥底へと無理やりに沈める。

 

 気にしたって仕方ない。それに、今の俺には摩花にトガちゃんだっている。

 ゆっくりと目を閉じる。二人が言い合いをしていて、俺に気付くとキザったらしく小さく手を振る摩花と、それとは正反対に元気に手を振るトガちゃんの姿。

 目的の駅に着くと、早く二人に会いたい為か歩く速度は速くなり、歩幅も大きくなる。

 俺は前世よりもしっかりと前に進めている。それを体現するかのように真っ直ぐ学校へ向かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 結論から言うと、俺のそんな疑心暗鬼な考えは杞憂だった。

 むしろその『逆』だった。

 

 「動画見たぞ!お前すげぇカッコいいじゃん!!」

 「摩花様にくっついてるゴミムシかと思ってたけど凄いんだね!ダンゴムシに昇格するね!」

 「ウッホホ!ウホッウホッ!凄いわ‼」

 

 いや、素直に褒められるのは何年ぶりだろうか…って、誰だゴミムシって言ったやつ!あとゴリラ、最初から普通に話せ!!

 どうやら飛び降りた少女を助けた動画がアップロードされていたらしく、クラスに入るなり囲まれて質問攻めである。

 前世で囲まれる時はカツアゲかリンチの二択だったので素直に嬉しい。……囲まれた瞬間は「ヒィェ‼」って情けない声も出たが致し方なし。

 俺の周りには他クラスからも人が集まり密集地帯になっていた。もう暑苦しい……。

 普通に話しかけてくる分には構わないんだが、女子の比率が男子よりも高く、何故か髪や腕を気安く触ってくる奴らが居てうれs……困る!

 

 「はいはい、凌空君は聖徳太子でも高性能AIでもないんだからね。この僕がMMDで動画を作成してきたから、詳しく知りたい人は今日の放課後に視聴覚室へ来ておくれ」

 

 普段は女子の輪の中心にいる摩花が声をかければみんなはそちらを向く。そして、いつもの調子で色香を振りまき統率を取ってしまう。きっとアイツの前世はインキュバスなんだと思う。異○族レビュアーズからの転生者じゃん。 

 

 「モテモテでよかったですねぇ~」

 

 俺の周りにいた人だかりが散会した事により一息ついていると、俺の後ろからトガちゃんが声をかけてきた。

 

 「あんなのモテてるうちには入らないだろ。唯の興味本位に―――」

 

 振り返りながら率直な感想を述べようとすると、トガちゃんの表情に目が行った。

 もうね、すっごいむくれてるの。今までも原作では見せないようなはにかんだ表情や泣き顔なんか見てきたけど、今回の表情もポイント高いですよ。もう通算五回以上は萌え死んでるよ。早く成仏してクレメンス。

 

 「何が『モテてるうちには入らない』…ですか!明らかに凌空君を狙ってる女子もいました!散々、摩花君の腰ぎんちゃくとか虎の威を借る狐とか付け合わせのミックスベジタブルとか好きかって言ってたくせに……」

 

 俺そんなこと言われてたの!?ヘコむ…。

 しかし、俺以上に荒れているトガちゃんの心理がわからない……。

 

 「まあまあ、そんなに怒らんでも……。人から嫌われるよりは数億倍マシだろ?」

 

 俺の言葉にキッと一瞬鋭い視線を向けるが、すぐに「ぐぬぬ…」と納得いっていない表情へと変わる。わー、今日は今まで見た事の無いトガちゃんの表情見放題だぞ!?

 

 「なに鼻の下伸ばしてるんですか!もういいです!凌空君なんて知りません!イーっだ!」

 (凌空君を狙う女の子が増えるだけでも憂鬱なのに、全然ワタシの気持ちも知らないで!)

 

 なんで怒られたん?え、マジでなんで怒られたん?

 

 「君は僕にモテてて羨ましいって言うけれど、僕から言わせてもらえば君も相当恵まれていると思うけどね」

 

 前の席の摩花が俺に振り返り言う。

 いやいや、だから今回のモテ方なんて一時的なもんだろ?恵まれてるも何も時間が経ったらいつも通りになるっての。

 

 「はぁ~、君は本当に何と言うか……人畜無害で自己評価が低いのも魅力だと思うけど、いつか刺されるんじゃないかい?」

 

 それはお前だろインキュバス。

 俺の返答に対しても、額に手を当て「駄目だこいつ」みたいな雰囲気を出してくる。

 解せんわぁ……。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 結局、放課後になってもトガちゃんとは話す機会を作ることができなかった。

 休み時間になる度に声をかけに行こうとするも、すでにいなかったり、俺の周りを囲む人だかりに阻止されてあっという間に放課後だ。

 チャイムと同時にトガちゃんの席にダッシュしたら、トガちゃんは窓からひらりと飛び降りそのまま走って帰ってしまった。ここ三階なんですけど?

 

 追いかけようとした所で摩花から「あれだけ避けてるんだし、今日はそっとしておいてあげた方がいいんじゃないかい?」と言われた。

 それ大丈夫?よくある「来ないでって言ったら来てよ!」って言うパターンじゃないよね?俺、トガちゃんの家知ってるから追いかけた方がいいとかないよね?

 なんて考えているとワラワラと俺目当てで人が集まってきた。もう正直ウンザリなので俺もトガちゃんの真似をして窓から飛び降り……ようとしてあまりにも怖かったので、普通に「ごめん、今日は急ぎの用事があるんだ」って言って人込みをかき分けて帰った。……ほら、個性がまだ安定してないかもしれないし(震え声)

 

 

 

 で、自宅に着いたってわけ。

 高級マンションの無駄に広く、部屋数の多い所に一人きり。両親は勿論仕事。俺が中学校にあがってからは家政婦的な人も朝の掃除と洗濯だけになった。

 手洗いとうがいを済ませると自室へ戻る。スマホの通知が点灯していたので確認してみると、トガちゃんからメッセージが入っていた。

 何となく嫌な予感を感じつつ開いてみると―――

 

 「なんで来てくれないんですか」

 

 ―――と、一言だけ入っていた。

 

 「摩花さぁ……」

 

 俺は心の底からガックリと肩を落とすと「だって摩花が行かなくていいって言ったから……」と、某アニメのハカセのような返事を送っておく。

 「わかりました」と短い返信が返ってきたのを確認すると、スマホを机の上に置きベッドへと倒れこむ。

 明日どうしよう……。

 

 

 ピンポーン!

 

 

 おん?オートロックの電子音じゃなくて、玄関前のチャイムが鳴ったな。これまさかのトガちゃんパターン?

 マンションのオートロックを解除する暗証番号があるのはご存じだとは思うが、摩花とトガちゃんにもバレないように毎回開けていた。のに、トガちゃんにはバレた。理由を聞くと―――

 

 『肩と腕と目の動きでわかりますよ?手で隠してもムダです』

 

 ―――って、笑顔で言われた。絶対トガちゃんの前ではお金下ろさないって心に決めた。

 今日はあんな出来事もあったので待たせるとさらに機嫌を損ねてしまうかもしれない。既に手遅れな気もするけど……。

 恐ろしいけど早く開けてあげよう。

 

 恐る恐る扉を開けるとトガちゃんよりもさらに低い位置に頭があった。身長だけ見れば小~中学生っぽくある。

 黒のスカートにブーツ、白のフリルシャツに可愛らしい蝶ネクタイ、俺と目が合うと少し頬を赤らめ、おずおずといった調子で話し始める。

 

 「あの、あの時、助けてもらった者です。お礼を言いに来ました。これ、つまらない物ですが……」

 

 あっ、俺こいつ知ってるぅ!ラブラバじゃん……って、アイエェェェ!!?

 ナンデ!?ラブラバナンデ!?ちなみに初めて漫画で見たときは一番キャラデザ良いと思った。

 一発キャラにするには惜しすぎると思う。そう、ベ○ータの様に‼

 

 「あ、あの……」

 

 あまりの動揺ぶりにほったらかしにしてしまっていた。とりあえずは無難な挨拶からだよな。

 え?どうやって家の場所を探ったのか聞かなくていいのかだって?もう並大抵の事では驚かんよ……。

 

 「わざわざありがとう。これは紅茶かな?あんまり詳しくないけど味わって飲むね」

 

 もう超☆爽やかスマイルを見せておく。目元は前髪で隠れてるから見えないだろうけど…。

 俺のイケメン返答に驚いたのか大きな目をパチクリとさせる。

 おいおいなんや、俺が二枚目キャラ演じたらあかんのかい。

 

 「……怖がらないの?」

 

 「なんで?」

 

 「だって、住所を教えてもない人が訪ねてきたのよ?しかも中身も分からない物を持って。……普通なら扉すら開けてくれないはずだわ」

 

 えー、まぁ普通の人はそうだろうけど俺と言う存在が普通じゃないしぃ……。

 それに雰囲気を見ればわかる。彼女も人から傷つけられた側の人間だ。

 よくイジメにあった人間に対して「それはお前にも原因があるだろう?」っていう奴がいる。じゃあ理由があれば一緒になって人を傷つけていいのか?それは違うだろ?

 俺は十九巻までのヒロアカしか知らないから、彼女の過去に何があったのかはわからない。ただ、そんな過去を持っていそうな相手に冷たく出来るような人間じゃない。

 

 「別に害を及ぼそうって訳じゃないだろ?深くは聞かないよ」

 

 少し照れくさくて目線を外してしまう。童貞臭いって言ったやつ、怒らないから出ておいで。

 

 「……グスッ」

 

 「え?」

 

 「ううぅぅう……ヒグッ、うぅうぅううぅぅ!」

 

 ちょ、待てよ(キムタ○)

 いや勘弁してよ!夏休み中にトガちゃん泣かせて、夏休み明けたらラブラバ泣かせてるとか女の子泣かせすぎじゃない!?あ、緑谷も過去に泣かせてましたねぇ。泣かせた女は数知れず!(不名誉)

 

 「どどどどどうしたの!?どこか痛いの?ポンポンペイン?」

 

 ほんのりピグレット。

 玄関で女の子を泣かせている所をご近所さんに見られるとあらぬ噂が立つ、さらにトガちゃんから詰め寄られるフラグも立ちそうなのでお家の中へ入ってもらう。

 リビングのテーブルについてもらい、貰ったばかりの紅茶をいれてみる。詳しくは知らんけど蒸したらええんやろ?ちなみに俺は一回使い終わったティーパック二つを一緒にしてもう一回使う派です。貧乏くさいとか言うな。

 

 「あー、砂糖は二つでいいか?」

 

 俺の問いにこくりと頷く。ミルクは俺の独断と偏見で投入する。好きなミルクティーは午後の紅茶。午前に飲まない事が俺のこだわり。

 ちなみにコーヒーはモーニングショット派。エナドリはモンスター派。

 う~ん、誰得情報!もう何話したらいいのかも分からないし、なんならテンパってるから纏まりがない。自分で淹れた紅茶を一口飲んでみる……。

 う~ん、自分のに砂糖入れ忘れた!渋い!

 

 「取り乱してすみませんでした」

 

 ええんやで。

 なんてフランクな返答をする余裕はない。

 

 「その、こんなに優しい言葉をかけられたのが初めてで……嬉しくて」

 

 可愛い。

 なんなんこの守ってあげたくなる系。緑谷が幼馴染系、トガちゃんが友達系、ラブラバは妹系って事?神様!ヒロアカってギャルゲーでしたっけ!?

 

 『おっ、天罰の時間か~?神の宣告撃っちゃう~?』

 

 久々の出番で自分のライフ払ってまで天罰撃ちたいのか……。あんたにも閻魔ちゃんいるでしょうが。

 ラブラバは紅茶を一口飲み、深呼吸をする。

 

 「自己紹介させてください。私は相場愛美、大学二年生です」

 

 (。´・ω・)ん?

 大学二年生って事は二十歳?俺が今十三歳だから七歳上?うせやろ。妹系と思っていたらお姉さんだったでござる?

 っと、ちゃんと俺も自己紹介しておかないとな。

 

 「俺は導凌空。えーっと今は―――」

 

 「毛糸中学校一年生、血液型はA型、小学校は静岡県の折寺小学校出身、趣味はヒトカラ……ですよね」

 

 スゴーイ、ナンデモシッテルンダネ。

 そうか、原作でもハッキングが得意みたいな事言ってたな。まぁこの程度の情報はくれてやらぁ!

 

 そこからは多少遠慮しながらも他愛ない話をしていた。ふと時計を見るとすでに十八時を回っていた。

 俺の目線に気付いたからか「長居してしまって申し訳ありませんでした」とペコリとお辞儀をする。成人しているとはいえ女性を独りで帰らせるのもあれなので駅までは付き添った。

 

 去り際に「本当に優しいんですね」って言われたけど……普通じゃない?これくらい皆するでしょ?

 あとはお別れの言葉が『さようなら』ではなくて『また明日』だったんだよね。明日も来るのか……。まぁ、明日は幸い学校も休みだし……あぁ、トガちゃんが摩花を引きずって突撃してくる可能性があるのか。いや、ほぼ確定だよな。

 

 ……まぁなんとかなるやろ…。

 改めてテーブルに着くと、冷めきってしまった紅茶を一気に飲み干す。

……砂糖入れ忘れて飲まなかったの忘れてたわ。渋い。





~今回の一言~

『自己顕示欲MAXマン』て名前が日刊ランキング乗ってるの自分で見てて面白い
我ながら恥も外聞も気にしない素直なHNだわ


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俺はただモテたかっただけなのに世界は許してくれない?(後編)

感想・評価ありがとうございます。
現状100%感想返せますのでもっと来てもええんやで(ニチャァ)

何時まで中学校編してるんやって?
書いてる作者も思ってる。でもトガちゃんとのイチャイチャがあれば許されるでしょ?
オレ シッテル オマエラ トガチャン スキ

ラブラバ話し方違和感あってもユルシテユルシテ


 

 「おはようございます、導様」

 

 女性の声に起こされる。枕元に置いた時計を確認すると七時半を示していた。

 休日なのになんでこんな時間に起きるのかって?昨日の出来事の後だ、トガちゃんは摩花の首根っこを掴んで十中八九遊びに来る……という名の刑罰を言い渡しに来るのだろう。せめて心を落ち着ける時間くらいは作っておこうというささやかな準備である。

 寝ぼけ眼を擦りながらあくびも一つ。そんな俺の様子をクスクスと控えめに笑う声が聞こえる。

 

 「朝食の準備をしますので、お顔を洗ってリビングまでお越しください」

 

 眠すぎて瞼が開かないが、声からしていつもの家事手伝いの人じゃなさそうだ。

 父さんと母さんの会社繋がりで雇っていた人達はみんな愛想が悪かったから、それに比べれば今回の人は好感を持てる。……起こしに来てくれたのはありがたいんだけど目覚まし消してたっけなぁ?ま、よくある事か。

 止めてないはずの目覚ましが止まっていて、次起きた時には遅刻確定の時間とか一瞬で血の気引くよね。あれほど飛び起きるって表現が似合う状況ってないと思うの。

 

 洗面台で顔を洗い、歯を磨く。

 余談だが俺は朝食前にも歯を磨く。理由は舌も洗うからなんだが、物凄くえずきやすい為、食後にやると……まぁ、出ちゃうよね。だから朝一番に歯を磨くようにしている。

 どれだけ綺麗に歯を磨いても舌の上が口臭の原因だからみんなもしっかり磨こうな!!

 

 「オエエェェェ!」

 

 ……さて、寝ぐせはあえて直さないでおこう。すげぇアホ毛みたいになっているがむしろ良き。

 こういったワンポイントでトガちゃんの機嫌が直る事もあるので戦略的に有効だ。なんか知らんが、俺の寝癖をトガちゃんが丁寧に撫でることで直し終わった後はニコニコしてる事が多いからな。遅刻しそうで髪を見れてない時はいつもお世話になっております。

 

 リビングへ向かっていると、ふんわりと漂って来る香ばしいパンの香り。そして、パンの付け合わせとして王道的な食欲を誘う卵とベーコンの匂いに思わずゴクリと唾をのむ。

 おいおいおい、今回の人ガチで大当たりじゃねぇの?今までの人なんてシリアルと牛乳置いてるだけだったぞ。腹いせに毎回一袋食べきってやってたわ。あぁ~^糖尿病になっちゃう^~。

 これこそ俺の求めていたThe家政婦さんって感じ?むしろメイドさん?いやぁ~、これで年上のお姉さんとかだったら最&高からの交&際考えてもおかしくないよね?

 

 「おはようございます。朝食の準備できてますよ」

 

 リビングに付いた俺の目の前には、可愛らしいピンクのフリル付きエプロンを着用した相場愛美さんが立っていた。

 

 「ヒョ?」

 

 思わず目が点になる。が、落ち着こう。そうだ、COOLになるんだ。KOOLじゃないぞ。外でひぐらしなんて鳴いてないんだ。

 何食わぬ顔で「ありがとう、頂くね」と伝えると「はい!召し上がってください!」と物凄く嬉しそうな笑顔を見せる。朝は血圧低いんだけど一気に上がったわ。

 

 俺が席に着くとすかさずティーポットから紅茶を注いでくれる。……年上の女性に失礼だとは思うんだが、小さい体でチョコチョコと動く姿が何とも愛らしい。一生懸命動くたびにツインテールが上下にピコピコと揺れるのも目を引く。……あと、お胸についた立派なおっpゲフンゲフン!

 雑念を首を振る事で払い、相場さんが入れてくれた紅茶を一口含む。

 ミルクなしのストレートだが明らかに俺が淹れたものと味が違うことが分かる。俺が淹れた紅茶を例えるなら高級な素材から繰り出される煮汁。彼女の淹れた紅茶は高級な素材から繰り出される何かめっちゃ美味い紅茶。ボキャ貧で悪かったな!

 パンは俺好みの少し焼きすぎたくらいの歯ごたえのある固さ。ベーコンエッグは味について手の加えようがないからパセリを散らして彩を作る。そして、紅茶とは別に少し温めた牛乳も置いてある。最高じゃん?

 あっという間に完食。はい、エド○ン。

 

 「ご馳走様、美味しかったです。色々と聞きたい事はあるけれど……」

 

 俺の素直な感想に相場さんは「キャッ!」と自身の両頬を押さえて照れる仕草をする。そして、一つ咳払いをすると―――

 

 「オホン。今日から導様ご家庭の家政婦に配属となりました、相場愛美と申します。よろしくお願いいたします」

 

 マジ?それって父さんも知ってる感じ?

 

 「はい、導強顎(きょうがく)様もご存じですよ。平日は大学もあるので午前のみになります」

 

 待って『平日は』って言ったよね?休日は?

 

 「勿論、一日お仕事させていただきます。休憩時間はこちらで過ごしても良いと許可もいただいてますので」

 

 実質、同居やん!アカン、このままじゃ俺の理性が死ぬぅ!

 若い男女が一つ屋根の下、何も起こらないはずもなく……って薄い本の導入始まっちゃう!!

 っと、そんなこんなで八時半じゃん(現実逃避)。俺の勘がそろそろトガちゃん達来るって言ってるし着替えはしないと。

 

 「父さんが決めた事には口出しできないしなぁ。相場さん、これからよろしく。あと、俺に対して敬語はいらないですよ。むしろ俺がちゃんと敬語使った方がいいんですかね?」

 

 昨日初めて年上って知ったからな。

 俺の問いに対して首をブンブンと大きく左右に振る。そして、大きな瞳を真っ直ぐに俺に向ける。

 

 「いいえ、そのままでいいわ!それと、私の事は相場さんじゃなくて……名前で呼んでほしい」

 

 最初の勢いから段々と尻すぼみになり『名前で呼んでほしい』の部分が蚊の鳴くような小さな声になる。

 

 「わかった、これからよろしく愛美さん。あと、俺の事も様付けじゃなくて適当に呼んでくれればいいんで」

 

 「んんんんんんん!!ウフフ、ウフフフ!」

 

 これ聞いてないね。

 悶えるようにその場で小さく足踏みをする。こんなに可愛い女性が年上なわけがない(ラノベ感)

 って着替えるんだったわ。いかんな、最近物忘れが……。

 

 「洗い物しておきますね、凌空さん!」

 

 語尾にハートがつきそうな言い方でテキパキと食器を重ねて持っていく。流し台の前には小さな背を補うための踏み台まで用意してあった。何かエプロンしてるせいか新婚感出てていけない気持ちに……。

 改めて冷静になると、この状況も説明しないといけないのか。詰んでね?

 部屋に戻って考える事を放棄しながらも適当に取った服は、愛着の少ない『何かあっても後悔しない』服を自然と選んでいるのだった。

 

 

 

~~~数十分後~~~

 

 

 

 ピンポーン!ピンピンピンポーン!!

 

 

 

 恐る恐るオートロック側のインターホンを覗くと、既に疲弊し、ニヤケ面が無表情になってしまっている摩花と、その摩花の斜め後ろで腕組をして異様にニコニコしているトガちゃんの姿だった。

 

 「導凌空さんは外出されております。ご用件の方は―――」

 

 「凌空君、もうそんなギャグで止まるような状態ではないと僕はいたたたた!背中ツネるのやめておくれ!」

 

 へへっ、ブルって来たぜ。これが武者震いってヤツか(違)

 少しでも摩花を犠牲にストレスの発散をしてもらおうと時間稼ぎを考える。が、この考えは完全に裏目になる。知ってたらもう速攻開けてたよ。うん、ホントだよ?

 

 「凌空さん、悪いのだけど洗剤の替えが―――」

 

 

 「今 の 声 誰 で す か ?」

 

 

 「凌空君、逃げるんだ!!ここは僕が食い止め―――」

 

 摩花が言い終わる前に画面が切れた。恐らくトガちゃんはロックを解除して直接扉の前まで来るのだろう。

 俺はすべてを悟り、扉の鍵を開けてからその前に四つん這いになる。

 

 「あの、何をしているの?」

 

 「自分の罪の数を数えています」

 

 ジャパニーズ ド☆ゲ☆ザ!

 下手したら入室と同時に頭踏みつぶされそうだけどもうこれしかない。そういえば、前世の俺の死因も地面に脳漿ぶちまけたんだっけ?ハハハ、笑えねぇ…。

 ブルブル震えながら辞世の句を読んでいると、顔に手を添えられ頭をあげさせられる。目の前には愛美さんが立っていた。おぉう、ちょうど目の前に二つの大きなメロンが……。

 

 「寝ぐせくらいは直さないと……」

 

 そういうと、どこから出したのか霧吹きと櫛を取り出し寝癖を直し始める。俺の目の前で揺れるメロン。

 ブルアァ!ブルアァ!ベリーメロン!(ベリーメロン!)。Vの華麗な力が股間に集まってしまう!!

 

 「なかなかガンコね!ちょっとごめんなさいね」

 

 普段は柔らかい俺の髪が今日に至っては強情だったらしく、後ろ跳ねが治らないみたいだ。そして、問題は愛美さんが横に回ってやればいいのに身を乗り出して俺の後頭部を覗こうとしたって所。つまりね―――

 

 迫ってくる、巨大な破壊力を持ったメロンが!!

 もうだめだ、この世の終わりだ。石ころ一つなら押し返せたかもしれないが、今回の相手は二つでしかも石ころじゃねぇんだ。男の夢が詰まってんだ。

 俺はすっと目を閉じて心を無心にする。ウヘヘヘ、マダカナー。

 

 

 「凌空君!覚悟はでき…………ア?」

 

 「エヘヘヘ、ウヘヘヘ……ヘァ!?」

 

 

 父さん、母さん、先立つ不孝をお許しください。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 「「「「…………」」」」

 

 ち、沈黙が重い。

 先ほどのラッキースケベは俺と愛美さんの説明で収まってくれたものの、トガちゃんの迫力ある「皆さんでお話しましょう」との一言により、今は四人でテーブルにつき何を話すでもなく沈黙が続いている。ま、摩花!お前女性の相手得意だろ?この空気何とかしてくれ!

 俺がチラリとアイコンタクトを送ると、一瞬ニコリと笑ってスッと無表情に戻った。諦めろってか。

 

 「初めまして。今日から導家の家政婦をする相場愛美です」

 

 「ワタシはトガヒミコって言います」

 

 先手を取ったのは愛美さんだった。ペコリとお辞儀をする。

 それに対してトガちゃんも自己紹介を返した。表面上は笑顔だけど―――

 オレ シッテル、アレ ツクリワライ。

 

 「家政婦って事は平日も休日も一緒って事ですか?」

 

 「平日は朝だけだけど、休日は一日中になるわね」

 

 「うううぅぅ!そんなのダメです!凌空君はスケベでむっつりで性欲魔人だから女性とずっと一緒なんて、腹ペコのライオンの檻にウサギを放置するようなものです!!」

 

 ひどい言われようである。しかし、俺はライオンではなく珍獣なのだよ。ってか、そんなにスケベニュアンスだしてなくなくなくない?今後出会うであろう峰田よりは数億倍マシだろ。摩花も何か言ってくれ!

 

 「確かにムッツリではあるね」

 

 なんでニコニコ顔で元気になってんだよ。

 しかし、トガちゃんと摩花の言い様に愛美さんは特に驚く事もなく微笑む。えっ、なんの微笑みです?

 

 「私は凌空さんになら別に構わないわ」

 

 これ微笑みの爆弾投下やん。アリガトウゴザイマスじゃねーんだよ。二つ○をつけてチョッピリ大人でもねーんだよ。

 

 「ダメです!凌空君よりこの人の方が危ないです!!今ここで止めます!!」

 

 そう言うと立ち上がり戦闘態勢をとる。やめろ、家で暴れるな。

 摩花に至っては「おっ、面白いことになってきやがった」って顔に書いてる。さっきまで無表情だったのは何だったんだお前は。

 

 「そうね、トガさんとはきちんとお話しした方がよさそうね。凌空さん、申し訳ないけれどお部屋を一部屋貸してもらえる?」

 

 「え?あぁ、部屋なら腐るほど余ってるし俺の隣の部屋使ってもらっていいですよ。マジで何もないんで」

 

 俺のその言葉を聞くと飄々とした面持ちで歩いていく愛美さん。トガちゃんも後に続くように歩いていくが、途中で振り返り―――

 

 「凌空君、ワタシ絶対に認めませんから。何かあった際にはよろしくお願いします」

 

 縁起でもない事言うな。しかも何かあったら俺がパッパに殺されるわ。

 二人の後姿を見送った後、俺は机に突っ伏しながらため息を吐く。えー、大丈夫なのこれ?ガメオベラしないよね?

 

 「凌空君!一緒に聞き耳立てに行かないかい?絶対面白いよ!」

 

 お前、目キラッキラやんけ。行きたきゃ一人で行ってくれ。

 俺の本能が言ってる。あの二人は絶対に敵に回してはいけないって。

 

 「僕は行くよ!昨日と今日とトガさんには痛い目にあわされたんだ。昨日だってちょっとした悪戯の気分で凌空君を引き留めただけなのに……少しくらいは楽しんだっていいじゃないか!」

 

 こいつは本能的に長生きできないタイプだな。ってか、行くなっていったの確信犯か。それもそうか、こいつほどモテてるヤツがあの場面で止める方がおかしいわな。

 あ……行ってしまった。けどすぐに帰ってきたしなんか大きい茶封筒持ってきてるけどそれ何?

 

 「いや、扉にこれが貼ってあって……摩花は入る前に確認することって書いてあるんだよね」

 

 え、何このマル秘ってかかれたやつ。ガキ使みたい。俺も見ていい?

 

 「ダメに決まっているだろう。僕は他人の秘密には興味があるが、自分の秘密は他人には見せないんだ」

 

 は?キレそう。

 俺が摩花に肩パンしようと繰り出した拳は額を抑えられるだけで止められた。正しくは拳が届かなくなった。身長差もそうだけどリーチ差もえぐくない?メダカ師匠じゃないんやぞ。

 

 「はぐぅ!?こ、これは駄目だ!!」

 

 いつの間にやら封筒の中身を確認していた摩花の顔が耳まで真っ赤に染まる。普段の胡散臭い表情からは想像のできないような赤面である。こいつ顔はイケメンだから赤面したら可愛いじゃねぇか。ハッ!俺はノンケだぁああああ(絶叫)

 

 「凌空君、彼女は敵に回してはいけない。……彼女は僕達と出会う前から情報を集めていたって事か」

 

 いや、マジでどんな弱み握られてるんだよ。

 しかし、さすがラブラバって感じだな。なんかこのまま諜報員としてヒーローいけるんじゃね?これは雄英高校卒業後の『モテる為に異世界転生してヒーローになった!』編で大活躍しそうだな。

 

 「きゃあああああああああああああああ!!」

 

 突然の部屋からの大絶叫。トガちゃんの声である。……えっ?トガちゃん?

 その後も時折「あぁ!?」や「こんなっ!」とバリエーションに富んだ大きな声が聞こえてくる事三十分。愛美さんとトガちゃんが部屋から出てきた。トガちゃんは少し顔を赤らめ、視線をきょろきょろと動かし落ち着きがない。

 えっ、キマシなの?

 

 「あの、凌空君。唐突なんですけど相場さんと一緒に凌空君の服をプレゼントするので採寸の為に血を下さい。決して悪用しないのでお願いします少しでいいので」

 

 マジで唐突だしなんでそんなに早口なの?えっ、何、怖いんだけど。

 身の危険を感じゆっくりと後ずさる。と、じりじりとトガちゃんも近づいてくる。摩花ぁ!とめろぉ!!

 

 「止める訳ないだろう?」

 

 「だよなぁ!!」

 

 くそ、考えろ!トガちゃんが急に矛先を俺に向けたのには何か理由があるはずだ。観察するんだ!表情、目線、雰囲気から服装に至るまで観察し、違いを見つけるんだ!俺が物語の主人公なら何か起死回生の一手があるはずだ!!

 

 トガちゃん足・今日は黒のミニスカート。生足が眩しい。

 トガちゃん服・白のシャツにニットベストのガーリースタイル。オシャレ。

 トガちゃん顔・俺を追い詰める普段見せない真剣な表情。可愛い。

 トガちゃん雰囲気・可愛い

 

 答え・可愛い

 

 ってバカ!!なんの打開策も見つかってないし、トガちゃんが可愛い事を再確認するだけとか今更確認せんでもわかってるわ!!

 あぁ、壁まで追い詰められた。摩花はスマホを構え、愛美さんもスマホ構えてるってお前もかい!

 クソッ!ここまでか……く、苦し紛れだ!!

 

 「アッ!トガちゃんゴ○ブリ!!」

 

 「キャア!!」

 

 トガちゃんの足元を指さしほぼ全人類が消滅してくれと願っているであろう生物の名を叫ぶ。飛び跳ねた瞬間に太ももが見えた。ついでに摩花もビビって飛んでた。お前さぁ、俺の思い出に毎回入り込むのやめない?

 その時、ひらりと一枚の紙がトガちゃんの服から落ちた。それは俺の寝顔の写真だった。寝ぐせ的に今日のヤツですねこれは。

 

 チラリと愛美さんを見ると目を逸らされた。トガちゃんに至っては赤面しながらバツが悪そうにしている。

 

 「買収されてるやんけえええええ‼‼‼」

 

 きっと俺の訴えは地球の裏側にだって届いたはずだ(精神的に)

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 はい、回想終わり!

 その日から相場愛美も遊びに行くときは参加するようになった。

 トガちゃんとはさらに仲良くなり「愛美ちゃんなら凌空君分けてもいいですよ!」と言っていた。俺は分割できるものではありません。

 これが大体の相場愛美もといラブラバが俺達と交流するようになった流れである。

 

 そして次回は雄英高校の学校説明会の為に静岡に凱旋する。説明会遅くないかって?毎年希望者が多くて抽選になるんだとさ。

 愛美さんは大学生だから無理だけど、摩花にトガちゃんに俺の三人。全員雄英高校受かれたらいいなぁ。




次回、静岡に降り立つ!
長くてもあと4話以内には雄英高校に入学するから!


あと、更新した際にお気に入りが減って、新しく増えてるのを見ると
「厳選されてるなぁ」って気分になる。

見たくない人は見なくていい。これこそが正しい選択の自由。
でも凹むのは凹む。


ちなみに低評価はあんまり気にしてない。あれ、評価してる人の今までにつけた評価☆全部見れるんですよ。
皆も見られてるかもしれないから気をつけようね!


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原作君大遅刻!!急げ原作、風の様に‼

感想・評価・誤字修正いつも感謝してマース!読者皆にバーニングラァブ!(物理)
更新遅いって?ほならね(略

今回も割と難産だった……
2話分書いたところで「この展開変じゃね?」ってなって書き直せそうなところ探していったら1話目の三分の一からとかほぼ全部書き直しやん?俺の脳みそGOサインガバガバすぎやろ。ちゃんと判定して。

なんか読みました報告をツイッターに投稿できるようになったんですか?自己顕示欲MAXマンの鬼エゴサが始まってしまう……。


 季節は十月。雄英高校の受験日まで約三ヵ月といった所である。

 使い古したイヤホンを装着し、トレーニングと試験対策の為に早く家に帰りたい僕の前には幼馴染とは認めたくない人物が立っていた。ちょうど教室の扉の前に立たれているため、文字通り足止めである。

 

 「おいデクぅ、お前まだ雄英受ける気なのかァ?」

 

 爆豪勝己。子供の頃からの腐れ縁。

 今年の進路希望に雄英高校と書いてからは毎日のように絡んでくるようになった。

 

 「僕の勝手でしょ?」

 

 「無個性のお前が受ける意味なんてないって言ってんだよ。平凡な中学校から『初めて』の、『唯一』の、『雄英進学者』って『箔』がお前一人で台無しになるって言ってんだよ!」

 

 両の手から個性である爆破を小さく発動させ、高圧的に迫る。そんな彼に一つため息をつく。

 

 「僕一人が受験するくらいで台無しになるような箔なんてメッキと一緒じゃない?すぐに剥がれるよ」

 

 「ンだとぉ!?」

 

 よほど僕の言い方が気に入らなかったのか、もともと吊り上がっている目をさらに吊り上げ、オマケに額に青筋まで立てて睨んでくる。

 はぁ~、本当に昔から変わらない。

 

 「爆豪君は自分に自信があるんでしょ?」

 

 「その呼び方もやめろクソが!当たり前の事をいちいち聞くんじゃねぇ!お前の『無個性』と俺の『爆破』、どう比べても、逆立ちしたってお前よりも俺が優れているのはわかりきってる話だろうが!アァン!?」

 

 「じゃあ、個性のない僕なんかに構わずに好きにすればいいじゃない。流石に毎日毎日無個性無個性って言われると事実でもヘコむからさ」

 

 僕は『彼』との約束を守るために今も努力はしている。それでも無個性と言う事実は変わらず、受験日が近づくにつれ不安により心身共に蝕まれていく。それでも今も流れる彼の声が、折れてしまいそうな僕の柱を支え続ける。それほどまでに僕にとっては大きな存在だ。

 

 「無個性を無個性って言って何が悪いんだァ!?ンなにヒーローになりてぇなら来世に託して屋上からワンチャンダイブしろや!」

 

 屋上からのダイブ―――。

 

 「………クスッ」

 

 「アァ!?なに笑ってんだ!」

 

 「あぁ、ごめんごめん。ちょっと思い出し笑い」

 

 屋上からダイブと聞いて浮かんだのは、卒業式の日に言いたい事だけ言って飛び降りた『リード』の姿。

 僕のおかしなテンションのせいで黒歴史とワンセットになっていたから忘れていた。

 うん、やっぱり落ち込んでる暇なんてないよね!かっちゃん……爆豪君に割く時間なんて僕にはないんだから。

 

 「悪いけれど、早く帰りたいから通るね」

 

 「話はまだ終わってねーぞデク!イヤホンくらいとれやクソが!」

 

 かっちゃんの手が僕のイヤホンコードを掴む。イヤホンはかっちゃんの元へ引き寄せられて行き、僕の胸ポケットから使い古された、それでも大切に磨いている再生機能付きのボイスレコーダーがするりと顔を出す。

 気付いた時にはかっちゃんの腕を掴み、間違ってもレコーダーがポケットから落ちないように留める。自分の大切な物を乱雑に扱われた苛立ちと、咄嗟の行動の為に掴む腕にも力が入る。

 ギリリとかっちゃんの制服の袖が音を立てる。想像していた力よりも強かった為か、ハッとした表情で僕を見るかっちゃんを真っ直ぐに見据えて言う。

 

 「 離 せ 」

 

 「……チッ!」

 

 忌々しそうにコードを離す。僕はイヤホンの差込口が歪んでないかなど一通り確認し、特に問題がないことを知るとレコーダーを守る様に胸に抱えた。よかった……。

 

 「……そんなにソレが大事なのかよ」

 

 かっちゃんが今までの荒々しい口調とは打って変わって静かに聞いてくる。

 顔を見れば先ほどの怒りの表情ではない。その瞳に敵意はなく、純粋に疑問として投げかけているのだと理解する。

 

 「うん、とても大切な宝物なんだ。僕の大切なだんn……親友からのプレゼントなんだ」

 

 思い出すだけで心臓が高鳴り、顔が赤くなっているのが分かる。我ながら自分の気持ちの大きさに気恥ずかしさすら感じる。

 

 「……クソがァ!」

 

 かっちゃんは近場にあった椅子を力いっぱい蹴り飛ばし、荒々しい足音と共に去っていった。

 急に荒れた理由はわからないが、年がら年中荒れている幼馴染の事はさほど興味がないので考えないでおく。

 そんな事よりも早く帰ろう。どれだけ険しい道のりだとしても、僕は雄英高校に行かなければならないのだから。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 「長かったですー……」

 

 雄英高校の説明会を終えて、俺と摩花とトガちゃん。そして、保護者として同伴してくれた愛美さんの四人で近場にあったドドールコーヒーで休憩を取っていた。

 トガちゃんはコーヒーを飲むよりも先に両手を伸ばし机に突っ伏してしまい、机の上に無防備に置いていた俺の両手をにぎにぎと弄ぶ。コーヒー持てないけどトガちゃんの手の感触を感じれるならむしろコーヒーいらないよね。

 

 「しっかし、長いだけあって流石の情報量だったな。学校説明のパンフレットだけでも赤本くらいの量あるぞ」

 

 むしろこれはパンフレットにする必要あるか?俺は鞄からパンフレットを取り出そうとして、良い様に弄ばれている両手の事を思い出す。う~ん、贅沢な悩みだ。すると、隣に座っていた愛美さんが俺の鞄からパンフレットを取り出し、俺に見えるようにペラペラとページを捲ってくれる。

 

 「君のその姿を雄英の教師が見たらそれだけで受験資格はく奪な気もするけど…今更だね。それよりトップニュースを見ていたんだけど、僕達が学校の説明会を受けている間にヴィランが暴れていたらしいよ」

 

 マジぃ?チョベリバじゃん。あ、チョーベリーバッドの略ね。

 東京もヴィランのニュースには事欠かないが、静岡も変わらず治安が悪いんだなぁ。んで、どんなヴィランよ?

 

 「怪物化の個性を持った人みたいね。対応したヒーローはシンリンカムイと本日デビューのMt.レディってヒーローよ。動画見る?」

 

 隣にいる愛美さんが俺に体を寄せてスマホの画面を見せてくれる。ふわりとシトラス特有の柑橘系の匂いが鼻腔をくすぐる。俺が芳香剤など、好んで柑橘系を選んでるから合わせてくれたんだろうか。

 

 「ワタシも見たいです!」

 

 行儀が悪いのも関係なく、机から乗り出しスマホを逆さから見るようにのぞき込む。俺のおでことトガちゃんのおでこが触れてしまっているが些細な問題だ。トガちゃんからはフローラルな優しく甘い香りがした。

 

 「僕も見せておくれ」

 

 お前も来るんかい!って、狭い狭い!しかもお前の香水はウッディ系の落ち着きある香りなのがむかつく!って言うかお前だったら何つけててもむかつくって言うわ!ごめんな、でも言うわ!

 

 「キャニオンカノン!!」

 

 俺がトガちゃんや愛美さんの接近にドキドキしている間に動画は半分ほど進んでしまっていた。ちょうどM.tレディがヴィランを見事な飛び蹴りでノックアウトした場面だった。

 

 「本日デビューと相成りました、Mt.レディと申します。以後おみシリおきを!」

 

 お尻がえっちだぁ……あ痛ぁい!!

 トガちゃんからの頭突きを貰い目の前に星が散る。トガちゃんは「フンッ!」と鼻を鳴らしながら席に着くと、すごい勢いでコーヒーをストローですすっていく。が、シロップを入れてなかったため途中で「うぇ~」と苦味からか舌を出す。は?可愛すぎかよ(半ギレ)

 

  ……ん?ちょっと待ってください、これってもしかして『僕のヒーローアカデミア』の一話だったりします?

 おいゴラァ!原作ぅ!今何月だと思ってんの!?十月よ、十月!本来四月に行わないといけないイベントを六ヵ月も遅らせてどうすんだ!……いや、マジでどうすんだ!?

 

 「そろそろ帰りましょう。長居して帰る時間が遅くなると親御さんも心配するわ」

 

 愛美さんが椅子から飛ぶように降りる。足がついてなかったからね。

 それに続くように摩花とトガちゃんも席を立つ。どうする!?せめて事の顛末くらいは確認しといたほうが絶対いいよな?何より、緑谷がオールマイトから力を譲渡してもらえないとマジでこの世界のタイトルが変わっちまう!

 店を出た三人から少し離れるように俺も店外へと出る。何かいい理由ないか?何か……何か……。

 

 「離せゴラァ!くっそおおぉぉぉ!!」

 

 (。´・ω・)ん?何か俺の後ろ騒がしくない?

 怒号にも近い声に気付いて振り向いた時、俺の視界はきちゃない水分と、鬼のような形相で爆破を繰り返す爆発頭の男が目に入った。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

~時間は少し遡り~
 

 

 

 「雄英高校の筆記は問題ないとして、やっぱり実技がどうなるかだよね。過去五年の実技試験の情報を集めてみたけれどどれも信憑性が薄くて―――」

 

 口癖になってしまっている独り言を言いながらも、雄英高校の過去問を読みながら帰路につく。風は追い風で、今の気分とは真逆の様にグイグイと背中を押してくる。

 

 「無個性……か」

 

 自嘲気味に呟いてみる。どれだけ自分を鼓舞して、リードの声に励まされても事実は変わらない。それでも努力を続けるのはそんな不安に押しつぶされないためでもある。自分の納得いくまで努力して、雄英高校に落ちた時、僕はどうなるんだろうか?いや、個性がない時点で落ちることはほぼ確実なのかもしれないけれど……。

 

 「だ、駄目だ駄目だ!マイナスな気持ちなんてよくないぞ、緑谷出久!周りの言う事よりも、僕自身が目標を強く思って前に突き進まないと!!」

 

 自分を落ち着けるように大きく息を吸い込み、気合を入れる。その時、臭ってきたのは下水のような不愉快な匂いだった。

 とっさにイヤホンを胸ポケットにしまい、耳を澄ませる。自分の背後から微かに水分が狭い管を通って出てくるような音が聞こえる。

 大きく前へ転がる様にいた場所から距離を取る、直感による行動。すると、さっきまで立っていた場所にベシャリ!と泥の塊が覆いかぶさった。よかった、何もなかったら今頃羞恥で顔が真っ赤になっていたところだ。

 

 「どうやって気づいたのかは知らないが、俺好みの可愛い女の子じゃないか。悪いけれど、その体を貸してくれないか?」

 

 振り返って声を発している方向を見ればヘドロの様な体の人が立っていた。

 体を貸してくれって事は乗っ取ったり出来るという事か。それに、あいつの後ろにあるマンホールから水が足元まで続いている。僕の背後をとれたのは、マンホールの蓋を開けることなく出れたからか。つまり、あの体は水分なんだ。

 ここまでの分析を行いながらもヴィランへの目線は逸らさない。

 

 「悪いけど、この体は未来の旦那様の為にあるんだ。他をあたって欲しいな」

 

 じりじりと距離を取りながらも策を考える。打撃が効かないとなると僕にできる有効な手段は逃げるだけだ。

 

 「初物っぽい発言だな。へへへ、こいつは楽しめそうだ!」

 

 目の前のヘドロヴィランの大きな口がニチャアと口角を上げる。それと同時に悪臭が此方に漂ってくる。間違っても捕まりたくない。こんな奴の為に僕の貞操があるわけでは無いのだから。

 

 やっぱり初めてはリードと付き合って二年目くらいのクリスマスデートでプレゼントの交換なんかしてリードはネックレスか指輪をくれて僕が感動して涙ぐみながらお礼を言おうとリードの顔を見上げた時にそっと唇を奪われて僕は何も言えなくなってしまってリードの腕に抱き着く事しかできなくてそのまま二人で夜の街に消えていくように―――。

 

 「抵抗するんじゃねぇぞ!!」

 

 「うわぁ!!」

 

 幸せな未来予想図(妄想)を描いているって言うのに容赦なく攻撃してくるなんて!

 体が水分だからか、思ったよりもリーチのある右手をサイドステップで避けて距離を取る。そして、胸ポケットのイヤホンをスマートフォンに差し替えアプリを起動する。これは緊急時に一番近くにいるヒーローに自動的に繋がるSOSアプリだ。

 コールが二回なると「もしもし」と男性が出てきた。なんだか聞き覚えのある声の気もするが今は気にしている場合じゃない。何せ現在もヘドロ男の攻撃を掻い潜りながらの通話なのだから。

 

 「現在ヴィランに襲われています。場所は―――」

 

 欠かさなかったイメージトレーニングのお陰か、場所と近くの目標物を伝える。しかし、その姿にヘドロ男が気付かないはずもなかった。

 

 「くそ、チョコマカしやがって!お前はまたの機会に可愛がってやる!」

 

 悪役っぽい台詞を残し、ヘドロ男はマンホールの隙間から逃走した。それと同時に通話していたイヤホンからは力強い男性の声が響いた。

 

 「もう大丈夫!なにせ―――私が来た!」

 

 イヤホン越しから聞こえていた声が自分の背後から聞こえた。振り返れば、自分の憧れで、目標で、ヒーローになりたいと思わせてくれた人物。オールマイトが立っていた。 

 ってオールマイトぉ!!?

 

 「ハッハッハ!少し遅くなってしまってスマナイ!何せ今日はそこかしこでヴィランが活動するものだからてんやわんやでね!慣れてきたとはいえ半年では知らない道も多くて困ったものだよ!で、そのヘドロのヴィランはどこに行ったんだい?」

 

 オールマイトは自分の額に手を当て、周りを見渡すようにぐるりと回る。

 僕はヘドロヴィランの特徴を改めて伝え、出てきた場所と逃げた場所がマンホールからであることを伝える。

 

 「今日はヴィランも多く出ているからヒーローも多い。私は高い所から見張り、迅速に対応する方がよさそうだ。ヴィランの報告ありがとう!次は液晶越しで会おう!」

 

 「ま、待ってください!僕はあなたに―――」

 

 「おっと、すまないがサインはまた次の機会だ!今日は割と余裕が無くてね!さらばだ!」

 

 こちらと話す余裕がよほどないのか、腰を落とし飛ぶ体制に入る。

 僕の体は自然とオールマイトの両足を掴む。次の瞬間には、途轍もない重力と風圧を感じ空を飛んでいた―――。




言ったかもしれませんが、凌空と摩花の外見の説明が少ないのはワザとです。
皆さんに想像して読んでもらいたいからです。

でも、そのうち細かいキャラ紹介とか書かないとあれですよね。雄英高校入学前くらいには書こうと思います?ってか、いります?
何にせよ楽しんで読んでいただけることを祈ってます……(謙虚)


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緑谷ちゃんは止まらない。

書き溜めだったはずが何も進まず投稿することに。

自己顕示欲が欲しくなったので初投稿です!


 今日は何故だかヴィランの活動が激しい。雄英高校の教師として活動するために四月に訪れてから、ここまで複数の事件が発生しているのは初めてだ。

 ニュースに乗るような大きな物は少ないが、小さな小競り合いや万引き、ひったくりが多発しており、ベテランからルーキーまで多くのヒーローが駆り出されている。

 

 私も忙しく動き回っており、稼働時間にあまり余裕がないため、折角ヴィランの通報をしてくれた少女に対してそっけない態度を取ってしまった。

 それがいけなかったのか―――

 

 「オールマイト!少しでいいんです、お話をさせてください!」

 

 この緑髪の少女はあろう事か、大きく跳躍した私の両太ももをガッチリと掴んでいた。

 

 「コラ!熱狂が過ぎるぞ!……って、内またをなぞるんじゃない!」

 

 「少しでいいんです!ほんの少し、ちょっとだけですからぁ!!」

 

 言葉の勢いと比例するように、必死に掴まろうとしているのか内ももを少女の指が這う。それどころか手の位置が少しずつ上がっていき、鼠径部へと近づいてきている。

 

 「わ、分かった分かった!近場に降りて話を聞くからそれ以上動かしちゃイカン!」

 

 少女の言動と行動がマスコミに知られでもしたら一大事である。出来るだけ少女を刺激しないようにビルの屋上へと降りると、そっと手を外す。……危ない所だった。

 そんな私の危機感なんて露ほども知らずに少女はしっかり立つと―――。

 

 「強引な行動をとってしまい、すいませんでした。僕の名前は緑谷出久と言います」

 

 スカートについていたホコリを払い、礼儀正しく自己紹介と一礼をする。少し癖のあるフワフワとした緑髪が肩の下まで伸びており、おとなしそうな雰囲気をしているが瞳の奥には年齢以上の覚悟を持った色を感じる。この子は何者なんだ?

 

 「聞きたい事は一つです。個性が無くてもヒーローになれますか?」

 

 静かな口調で私を真っ直ぐ見つめる。おとなしい口調とは裏腹に、その眼からは確かな気迫を感じる。

 しかし、私は命を懸けて前線で戦ってきた。同じヒーローが命を落とす場面だって見てきた。そんな私が無責任に無個性の少女に「あぁ、君だってヒーローになれるさ」などと、夢を見せるだけの甘い言葉を言えるわけがない。

 

 「悪いが、力がなくとも成り立つ仕事じゃない。プロは何時だって命がけだ。君の気迫と覚悟は十分に伝わっている。それでも、無責任に君に夢を持たせるような発言は出来ない」

 

 「……そうですよね。オールマイトだって無個性はヒーローになれないって言いますよね」

 

 少女は一つ息を吐くと、遠くを見る。その姿に、私は思わず目を逸らしてしまう。

 ……私だって無慈悲な現実を突きつけて、少年少女が落ち込む姿は見たくない。しかし、それ以上に私の軽率な発言で夢を持たせてしまい、取り返しのつかない事故が起こってしまってはいけないんだ。

 

 「なら、僕は初めての無個性のヒーローになります」

 

 私はハッとして緑谷少女の顔を見る。

 落ち込むわけでもなく、自棄になっているわけでもない。むしろ、覚悟が決まったと言わんばかりの表情をしている。

 緑谷少女は前置きを作る様に数秒目を閉じると、ゆっくりと話し始める。

 

 「僕が四歳の時に無個性と診断されて、お母さんからは励ましの言葉でもなく謝罪の言葉を聞かされた時に『あぁ、僕はヒーローにはなれないんだな』って、子供ながらに実感したのを今でも鮮明に覚えています」

 

 「周りの人達が羨ましくて、何もない自分が悲しくて、悔しくて……そんな時に言われたんです。『個性が無いからって何もしないのか?お前の憧れのヒーローはそんな事で諦めるのか?』って。本当はもっと厳しい言われ方をした気もします。四歳の子供によくもそんなこと言えたなって今でも思います。でも、彼は僕の言ってほしい言葉を言ってくれたんです。無個性でもヒーローになる事を諦めるなって」

 

 まるで大切な宝箱から一つ一つを確認するように話す。その言葉の節々には、無個性だから感じる劣等感や虚無感も見え隠れしている。そして、それを越えるようなヒーローに対する憧れ……いや、決意を感じる。

 

 「君はそこまでして何故ヒーローになりたいんだ?」

 

 聞かずにはいられなかった。

 これだけの強い意志を持った少女が無個性だという事が信じられない。そういった気持ちが沸々と湧いてくる。

 私はこの少女に強い興味を抱いている。

 

 「あなたの様に人々を笑顔で救うヒーローになりたい。無個性だと馬鹿にされ続けながらも、脅されながらも、僕は努力を怠ったことはありません。だからこそ、ヒーローになる事が僕の全てです!」

 

 きっぱりと言い切るその言葉には嘘が無かった。

 若い少年少女達が「将来は○○になるのが夢」などと、軽い気持ちで現実を理解しきれていない甘い想像など微塵もなく、日々現実を突きつけられながらも腐らず、緩まず、少女は自分の心と戦い続けて、今、ここにいるんだ。

 私の背筋をゾクゾクとした期待が満たしていく。無個性である彼女が個性を得てヒーローになった所を見てみたいと私の心が叫んでいた。

 

 「何より雄英高校に入学できないとリードに会えないしそんな事になったらそれこそ僕が何をするかわからないしその為なら毎日の勉強もトレーニングも苦にならないしリードに会うためなら無個性のままでもヒーローになるしか選択肢がないわけだし最後の手段としては雄英高校の普通科に入学するしか―――」

 

 な、何やら小声でブツブツ言いだしたが……この少女の将来性は確かだ!雄英の彼には断られてしまったが、この子なら―――。

 

 

 

 

BooooooM!!

 

 

 

 その時、遠くで爆発が起こった。

 緑谷少女はいち早く反応し、鞄から双眼鏡を取り出し爆発のあった場所を確認する。ちらりと見えた鞄の中には教科書のほかに『リード攻略計画No.69』と書かれたノートが見えた。ゲームの攻略だろうか?

 

 「かっちゃん!?と、人助けの映像に映ってた……ッ!」

 

 緑谷少女は鞄を置いたまま走り去ってしまう。と、それと同時に私の体から煙が噴き出し始める。

 

 「しまった!あまりにも特殊な少女だったから話すのに夢中になりすぎた!!」

 

 とても興味深い少女との話だったため完全に時間を忘れていた。むしろ、不思議なほど長く維持できていた事に驚きだ。

 私はしぼんだ体を忌々しく思いながら、緑谷少女の鞄を持って爆発現場への最短ルートを走った。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 アッボボボボ!ウッボァッボボボ!

 このドブ、深い!オボボボボ!

 

 巻き込み事故の様に俺はヘドロのヴィランに取り込まれていた。隣には緑谷から話で聞いてた爆豪勝己が爆破の個性をまき散らし、街を破壊しながらも必死に抵抗を続けていた。

 その割には俺は余裕そうだって?最初はマジでヤバかった。何せ服は水分を含んで重くなるし、ヘドロは纏わりつくしで正直死ぬと思った。兎にも角にも少しでも体を軽くするために珍獣形態になり服を脱ぎ捨てると幾分動きやすくなった。何より、ヘドロヴィランは俺よりも爆豪優先で取り込みに行ってるから割とフリーなんだよな。

 

 「凌空君!助けに―――!」

 

 「やめるんだ!死にたいのか!?」

 

 トガちゃんが助けに行こうと人込みをかき分けたまではいいが、先頭のヒーロー達に取り押さえられてしまう。遠目からでもわかるが今にも泣きだしそうな表情をしている。ごめん、結構余裕だから安心して。

 しかし、爆豪が暴れてるせいでヒーローが動けないし被害が広がってるのは、マジで災害、これは論外。(韻踏み)

 しゃ~なし助けてやるか。

 

 「大丈夫か―?」

 

 「ブハッ!んだこの珍獣!?」

 

 お礼を先に言え。

 爆豪の口元のヘドロを手で剥がして助けてやったのにこの言われよう。

 

 「苦しいのはわかるけど暴れたら被害広がっちゃうし何とかならない?」

 

 「ンだとクソが!俺はこんな奴には負けねぇんだよ!」

 

 いや、もう十中八九負けてるし……。何なら原作では君がバカにし続けてた緑谷君。もとい、緑谷ちゃんに助けられるんやで?もうそろそろ緑谷ちゃんが登場して君に「君が助けを求める顔してた!」って名言と共に救助に―――

 

 「リイィィィィィドオォォォォ!!」

 

 まって、俺の予想と違う登場するヤツだろこれ。

 声のした方向を見れば、ビニールの大袋を持ち、住宅の屋根から屋根を軽々と飛び移りながらもすげぇ『笑顔』で向かってくる緑谷出久ちゃんの姿が見えた。怖い。

 オールマイトが笑顔で人を助けるって言うけど、今の君のキラキラの笑顔は逆に怖すぎる。

 

 「おい、アイツを止めろ!笑顔で突っ込んでいってるし、頭のイカれた自殺志願者かもしれん!」

 

 申し訳ない、俺のせいです。

 数人のヒーローが屋根の上で緑谷を止めようと待ち構える。しかし、その全てをいとも簡単に掻い潜り、あっという間にヘドロヴィランの隣の家の屋根に到着する。アイツの身体能力どうなってるの?ヒーローが一般市民に個性使えないのはわかるけど、それでも戦闘のプロを掻い潜るって何?

 

 「絶対助けるからね!」

 

 「アァン!?お前の助けなんていらねーんだよ!!」

 

 緑谷の言葉に即座に爆豪が反応するが、緑谷の耳には全然届いていないようだ。だって俺に向かってウィンクしてんだもん。お前ちょっとくらい反応してやれよ。幼馴染なんだろ。

 緑谷は手に持っていた大きいビニール製の袋から白い何かを取り出し、それを破いて内容物の粉をヘドロヴィランへとまき散らす。

 

 「なんだこれは!?」

 

 ヘドロヴィランは訳も分からず粉を払っているが、緑谷の持っているものが見えた瞬間俺はわかった。

 介護用のオムツを破り内容物であるポリマーを撒いているのだ。ポリマーは水分を含むと、粉状の小さい粒が膨らんで大きな粒になる。誤って洗濯機に衣類と一緒にぶち込んでポリマーをまき散らした日には地獄を見るぞ。

 緑谷が袋全てのオムツを引き裂き、ポリマーをまき散らし終わる頃にはヘドロヴィランの体全体にポリマーが付着しており、ボロボロと崩れる部分も出てきた為、体の維持が難しくなっているようだ。これなら人体に害もないし原作でもやれば……あぁ、爆豪が暴れてたからこういうのが出来なかったのか。

 

 「今行くから!」

 

 自分がスカートなのも気にせずに一直線に飛び降りてくる。ぱ、パンツ見えた!爆豪は見るな!

 

 「調子に乗るんじゃねぇ!!」

 

 ヘドロヴィランが大きな右手で叩き落とすように攻撃を行う。しかし、ポリマーで所々固まってしまっている脆い手を、緑谷は空中での回し蹴りでバラバラに砕く。ってかまたパンツ見えてるって!お前ワザとだろ!!

 そのまま爆豪の顔面を踏みつけ、俺をヘドロから引き抜くと一回の跳躍でヘドロヴィランの射程から離脱した。

 

 ……ってええええええええ!!違う違う!

 オレチガウ!アイツタスケル!!ゲンサクコワレル!!

 

 「あぁ、リード!自慢の毛並みがヘドロとポリマーで酷い事に……一緒に休憩できる所で綺麗にしようね♡」

 

 「助けて!!犯される!!」

 

 俺の悲痛な叫びが響き渡る。

 

 「……けんな。フッザケンナアアアァァァァ!!」

 

 そんな俺の叫びをさらに大きな怒号が掻き消す。それと同時に轟音と爆風が辺り一面を包みこむ。緑谷は俺を庇う様に抱きしめてくれるが、小学校から中学校にかけて成長したんであろうたわわな部分が俺の顔を包み込む。

 つまり息ができない。ヘドロヴィランじゃなくて乳で窒息とかマジィ?

 

 「おいデクゥ、ずいぶん舐めた真似してくれんじゃねぇか」

 

 緑谷のπから抜け出して声の主を確認する。そこには額に青スジを立て、手の平から小さな爆発を起こし、顔面に見事な二足分のスニーカー痕を付けた爆豪が立っていた。

 だが緑谷は気付かない。俺の体を持ち上げ「大丈夫!?ケガしてない!?」とぐるんぐるん回しながら隅々まで見……やめ、お股はみちゃらめぇ!そんな所ケガしないから!!

 

 「……ぶっ殺プゥオ!?」

 「凌空君大丈夫ですか!?」

 

 爆豪が何やらしようとした所で、背後からトガちゃんが爆豪を力強く押し退け俺の隣に来る。爆豪は盛大に金網のフェンスに顔面から突っ込む。そして、ピクリとも動かなくなった。こ、この人殺しぃ!

 遅れて愛美さんと摩花も俺を囲むように安否を聞いてくる。うん、俺は大丈夫だから一人くらい爆豪の心配してやれよ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 その後はヒーロー達が飛び散ったヘドロヴィランを回収する事で事件は解決した。

 緑谷は勝手な行動を取った事でヒーロー達から説教を食らっていたが、恐らく全く堪えてないってか話を聞いてない。俺にバッチンバッチン目線を送ってくる。待っててやるからちゃんと話を聞け。

 トガちゃんと摩花は久々の珍獣形態にテンションがあがり、愛美さんも可愛らしい動物を見た時のリアクションだった。トガちゃんに至っては「ペットとしてウチに来ませんか?」って言ってた。これでも中身は人間なんです。いや、美少女に飼われるって事自体はご褒美では……。

 爆豪はヴィランを制圧したタフな学生として表彰される……予定だったのだが、顔面にできた二足のスニーカー痕と、金網に激突した網の痕で顔面おもしろ偏差値80を越える高得点だったため怒り狂いながら帰って行った。

 取材を受けていれば次の日には人気者になれただろうに。不名誉かもしれんが。

 

 珍獣状態でヘドロとポリマーでどろどろになった服を回収していると、ガリガリの金髪の男性(オールマイト)が緑谷へ近づいていく所だった。名刺を渡して話している所を見ると、オールマイトのマネージャーって設定を使って後日話す予定なのかな?ま、なんにせよ緑谷のOFA継承が上手くいきそうで良かった。

 

 この後、帰ろうとする俺達(俺)を何としてでも家に泊まらせようとする緑谷と、急に現れた馴れ馴れしい相手に敵意を剥き出しにするトガちゃん、そして、それを傍観する摩花と、さらっと俺の羽毛の手入れをする愛美さんのカオスな空間を遠目で眺めるオールマイトという何だこれ状態になるが、それはまた後日談にしておこう。

 

 なんにせよ、原作通りに話が進みそうでよかったよかった(白目)

 

 

 




次回更新は未定。
また更新予定とか進捗は活動報告に書きますので。


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立った!強化フラグが立った!!

1ヶ月以上も空いてしまった。
疾走してないからユルシテユルシテ


  ~~~♪

 

 「おん?」

 

 雄英高校の試験を一か月後に控えた金曜日の夜、スマホから着信を伝えるメッセージが鳴る。この音楽は緑谷だな。

 一人一人設定してるとかマメだなって?違うぞ、過去にトガちゃんからのモーニングコールを寝ぼけたまま出てしまい、前世の可愛がっていた後輩の名前で呼んでしまったのだ。

 ……その後はどうなったんだって?言わなくてもわかるだろ?

 

 「ノックしてもしも~し」

 

 思い切り抓られた両頬の痛みを思い出しながら通話ボタンを押すと上ずった声で「ひぅ!?」と言う緑谷の声が聞こえた。

 

 「も、もしもし……リードの声が耳元で聞こえるって刺激的で体に悪いね」

 「じゃ、体調を鑑みて切るぞ~」

 「ままま待ってよ!まだ十秒も話してないじゃない!」

 

 俺の冗談を全力で真に受ける。深呼吸を数回した後、ゆっくりと話し始める。

 

 「えっと、明日って空いてるかな?」

 

 明日か。基本的にはトガちゃんと摩花で勉強会をしてるんだが、明日は時間が合わずフリーなんだよな。愛美さんも最近は大学の卒業が近いようで就職活動を行っているし……。

 

 「暇っちゃ暇だな」

 「じゃあ明日、市営多古場海浜公園で会わない!?その、えっと、あ!その後、晩御飯も一緒に食べれたらな~……なんて……」

 

 最初の畳みかける勢いから最後には尻すぼみになる。

 市営多古場海浜公園ってゴミだらけで有名な海岸じゃねぇか。そういえば原作でも緑谷君の体作りの為にゴミ集めがあったんだったか。って事は、無事に力の譲渡は完了したみたいだな。

 

 「いいぞ、何時集合?」

 「いいの!?じゃあ南口の入り口で待ち合わせで!時間はお昼食べてからの一時でどうかな?あと、運動するから動きやすい服装とタオルと着替えと―――」

 「オーケー、おめかししてドレスコードで向かうわ。じゃあ、また明日」

 「えっ!?そ、そんないいお店でディナーなんて予定に……ってリ―――」

 

 緑谷の焦り声を聞きながらスマホの通話終了ボタンを押す。

 実技試験に向けてトレーニングは行っていたわけだが、どうにも体格のせいなのか思ったように筋肉は付かず結果にコミットすることはなかった。力仕事はお世辞にも得意とは言えない。

 

 「ま、少し早めに行って体操くらいはしとくか」

 

 それでも気分転換とトレーニングには丁度いいだろう。おそらくオールマイトも来るだろうし、あわよくば個性の指導も受けようかな。

 翌日が遠足の子供のような気持ちを感じながら、俺は着替えなどをリュックに詰め始めるのだった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そして、約束の時間の一時間前。

 海浜公園の南口に到着すると見える範囲にゴミはなく、砂浜がキラキラと太陽を浴びて光っていた。まぁ、冬と言う事もあり気温はお世辞にも温かいとは言えないが。

 時間に余裕がある事だし、南口から北口方面へと散歩していく。北へ向かうにつれて小さなゴミから大きなゴミ、そして粗大ゴミへと種類が変わっていく。どうやら北側は手付かずらしい。

 

 「くしゅん!」

 

 粗大ゴミを横目に散歩していると、一層高く積まれたゴミ山から女の子のくしゃみが聞こえた。

 ……行きたくねぇ~。こんなゴミしかない所に女の子がいる時点で嫌な予感しかしねぇ。が、何か事件に巻き込まれた子がいるとかこの世界じゃ余裕であり得る訳だし……

 俺は恐る恐るゴミ山へと近づいていき、出来るだけ音を立てないように辺りを探る。頼むから鬼も蛇も出ないでくれ!出るなら美少女だけにしてくれ!

 

 「あなたが―――お迎え?」

 「アッザム!?」

 

 びっくりした!びっくりした!!

 唐突に後ろから声をかけられたら誰でもビックリするし心臓口から出るかと思った!喉の手前まで来てたから呑み込めてよかったわ!

 後ろを振り返ると一人の少女が立っていた。

 

 身長は130cm程。黒髪のロングストレートで右目を隠し、左目には眼帯。日本人形の様な可愛らしさと不気味さを纏っている印象だ。そんな両目隠しの少女が立っていた。全裸で。……ファ!?

 

 「ちょちょちょ!なんでゼンラァ!?」

 「今日は―――お迎えが来る日だから―――洗って別の場所に干していた。そしたら―――無くなってた」

 

 え?なに、その年で浮浪者なの?

 ってか緑谷達の掃除の区画に入ってて捨てられたヤツでは?兎にも角にも女の子をこんな寒空の下で全裸のままにしておくわけにもいかない。本人は気にせずどこも隠さないから丸見えだけど……丸見えなのは良くない!……良くない!(鋼の意思)

 

 「とりあえずこれ着て」

 

 前かがみになりつつも鞄から予備で持ってきていたジャージの上下を渡す。俺には些かダメージが大きいようだ、血が流れ過ぎてる。どこにとは言わないが。

 俺の渡したジャージをまじまじと眺めると上を着始める。って下からじゃないんかい!優先順位がおかしい!そして、上着を着終わった後に大切な部分が辛うじて隠れた状態のまま俺の前まで歩み寄ると、右手を差し出してくる。えっ、やっぱりお金取るとかそういう系だったの?

 

 「パンツ」

 「渡せるかぁ!!」

 

 普通は他人の異性が履いてたパンツとか履かんだろ!しかも俺の真っ赤な勝負パンツをそう安々と渡せるかってんだ!

 俺の脳内では悪魔が「ゲヘヘ、ロリっ子の生足魅惑のマーメイド」と囁き、天使は「ダイスケ的にもオールオケー!」とRevolutionしている。天使さん願望に負けないで!!

 そんな俺の現実逃避も虚しく、待ちくたびれたと言わんばかりに俺の鞄を漁る為に少女が目の前にしゃがみこんだ。

 

 「あtfjkひうくいあ!!?」

 

 も、モザイクでしか見た事の無いイケナイ部分が!!!

 俺の体は衝撃(童貞による拒否反応)に耐え切れず物理的に後方へ吹っ飛んだ。……異世界転生する前の年齢+今の生きた年数=彼女無しの俺にはあまりにも刺激が強すぎる。鼻血出てないよな?って言うか神様さぁ!ああいう部分は謎の光で見えなくするのがお決まりだろうが!または都合のいい物を配置したりさぁ!ゴミはそこら辺にあるんだから工夫してくれや!!

 

 「―――着替え、ありがとう」

 

 あまりの衝撃に神様にキレ散らかしているうちに着替えが終わったようだ。

 俺もチビではあるが、さすがに彼女ほど身長が低いわけでは無いのでサイズは合っていない。とりあえず、ダボダボのままで転んではいけないので袖と足を捲っておく。長さは萌え袖になる程度にしておこう。

 

 「あなたは―――誰?」

 「今更か……導凌空って言うんだ。空を凌ぐって書く」

 「空を凌ぎ―――導く―――」

 

 独特の喋り方だな。なんか透き通り過ぎているというか、靄がかかっているというか……頭に響かない。残らないと表現するほうが正しい気がする。

 

 「お礼に―――願いを一つ叶えてあげる。―――遠慮はなし」

 

 神龍か何かか?しかし、この独特の雰囲気を見ていると本当に叶えてくれそうだし、かと言って胡散臭さもあるし微妙だなぁ。アンケートでも取ってみるかぁ?満場一致で叶えてもらうって未来が見えたけどな!

 俺が中々願い事を言わないからなのか、それとも俺の疑念に満ちた視線が気に入らなかったのか、目の前の両目隠れの少女は「ジトー」と口で言いながら俺を急かしてくる。

 まぁ、願いが一つ叶うというなら当面の目標的には―――

 

 「雄英高校の実技試験が近いんだけど、俺の個性って戦闘向きじゃなくてさ。何か良い知恵ないかな?」

 

 ここで単刀直入に「力が欲しい!!」なんてヤベーフラグを建てるわけがない!絶対に人の姿を保てなくなる。すでに珍獣だろだとかいうマジレスは受け付けん。

 

 「そう―――力が欲しいの」

 

 言ってないよね!!?

 わざわざ避けたルートに何で強制的に戻すの!間違った選択肢選ぶと延々と同じ問答をさせられて結局開発者の意図した選択肢を選ぶしかないイベントなの?

 そんな俺の全力のツッコミに怯むことなく少女は俺の両頬をガッチリ掴む。すると、前髪が陽炎のように揺らめき、右目が段々と露わになる。

 見るもの全てを魅了するような紅玉の瞳。人間ではありえない縦長の瞳孔。そして誰をも寄せ付けぬ、他者よりも格上であると言わんばかりの威圧感があった。

 

 「―――うん、貴方の個性は歪。本来宿るはずだった個性が―――この世の理から外れた力によって捻じ曲げられ、調和を失った―――きっと、貴方を担当する神様はバカ」

 

 もう仰る通りだわ!あのクソジジイある日から忽然と姿を消して呼んでも出てこねぇ!

 

 「………なんて言った?」

 「今、貴方の歪みを断ち切る力を」

 

 急に辺りが暗くなる。顔をガッチリと押さえられているから目を動かして見ることしか出来ないが、さっきまで晴天だった天候が次第に暗くなっていき、大気を震わせるような雷鳴が龍の唸りのように迫ってくる。

 ひょっとして不味いのでは?もうこれ予想的中の未来予知では?

 

 「ちょちょ、タンマタンマ!今日は朝の占いで10位とかいう微妙な位置だったし、保険の適用忘れたし、今日は勝負パンツじゃないしぃ!」

 「10位のラッキーアイテムは眼帯――この儀式はそもそも保険適用外――私が勝負パンツを履いてるから私は失敗しない―――おーけー?」

 

 俺の早口に対して、同じく早口で返事を返しニコリと微笑む。少女のような可愛らしい童顔には不釣り合いの真っ赤な右目が威圧感を放ち続ける。

 ダラダラと冷や汗が滝のように流れる俺を意にも介さず、少女は真上へ放り投げた。

 

 「その勝負パンツ俺のオオオオォォォォ!!」

 

 俺の咆哮は落雷の轟音と共にかき消され、俺の視界は一瞬にして真っ白に染まる。

 朦朧とした意識の中、声が聞こえた。

 

 ごめんなさい………と。

 



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俺の必殺技part1

あー、評価がギリギリ赤にならないなぁ~
7.95ってもうあと0.5上がれば赤評価なんだけどな~
こんなんじゃ、俺、世界を救う気なくなっちまうよ

冗談ですって!現状でも割と満足してますって!!
あ、活動報告も更新してますので良ければどうぞ
お気に入りユーザー登録をすれば活動報告の更新時に通知行くんでお勧めですよ!

次回でやっと実技試験行けそうですね…
漫画だったらここまでで2巻ぐらいまで出てるぞ


 と、言う夢を見たんだ。

 

「夢を見たんだ……じゃないよ!!約束の場所には居ないし、電話しても出てくれないし!僕がどれだけ心配してたかわかってるの!?」

 

 あの後、俺は約束の時間を一時間オーバーして眠りこけていたようだ。起きた時には携帯の着信件数が百件を超えてて声にならない声が出た。全て留守電付きだから更に怖い。

 俺の体験した話(少女の裸は除く)はもちろん信じてもらえず、落雷があった話を緑谷にしてみたが「こんな晴れた昼間に雷なんか落ちるわけ無いでしょ!!」とめっちゃキレられた。……怖すぎて漏れそう。

 かれこれ三十分ほど正座で説教をされているがそろそろ勘弁してほしい。

 

「ちゃんと話し聞いてるの?○すよ?」

「ゴメンナサイ!聞いてます!!」

 

 何でこんなに凶暴になったの?強化しすぎたんだ……。

 

「まあまあ。何事もなく無事だったんだし、反省もしてるみたいだから許してあげたらどうだい?」

「オーーーー八木さんがそこまで言うなら!」

 

 絶対オールマイトって言いかけただろ。大八木さんって誰だよ。

 緑谷と八木俊典(オールマイト)は二人でワタワタした後、こちらに背を向けてコソコソと何やら話している。十中八九、正体がばれないように発言には気をつけてくれと釘を差しているのだろう。もう知ってるけどな。

 

「しかし緑谷に個性が出たって話も驚いたが、一人で海岸のゴミ拾いを二ヶ月で半分以上終わらせてるってのも凄いな」

 

 遅れてやってきた十月のヘドロヴィラン事件。そこから二ヶ月でこの進捗なのは理由がある。

 そもそも原作の緑谷君はヒーローに憧れてはいたが体を鍛えたりはしていなかった。だが、この世界の緑谷ちゃんはかなり体が引き締まっている。

 ゴミ拾いと言うにはハードな運動により、緑谷は真冬だと言うのに額から滝のように汗を流す。ジャージの上着を腰に結び、半袖から伸びる腕は素人目で見てもかなり引き締まっていることがわかる。

 

「……リード、あんまりエッチな目で見ないでよね」

 

 俺の目線に気がつき注意をしてくる。が、なら何で両腕を上げて伸びをしたり、体を反らしてボディラインを強調するんですか?言ってることとやってること違いません?

 

「君はヘドロヴィラン事件の時に巻き込まれていた少年だね?緑谷少女から話は聞いているよ」

 

 八木俊典が緑谷の物であろうタオルとスポーツドリンクを片手に俺に話しかけてきた。

 前回は話すことも出来なかったが、改めて間近で見ると病的なまでに体が痩せている。しかし、瞳の奥の輝きは彼がオールマイトの姿でなくとも隠しきれないほどの輝きを秘めているように感じる。

 

「初めまして、導凌空です。単刀直入に聞きますけど、緑谷の個性って現状どれくらい使えてるんですか?」

「……緑谷少女は本当に凄いよ。彼女の個性は扱うために下地が必要でね。その為に考えていた海浜公園の掃除というトレーニングプランだったんだが、彼女は既に下地ができていて、何なら個性の出力をコントロールしながら今もゴミを運んでいるんだ」

 

 はぁ!?じゃあ何か、あいつは既に低出力ながらもフルカウルで動いてるって事なのか?

 さよならヴィラン連合。負ける要素ねーわ、風呂入ってくる。

 

「それに私……じゃなくて、オールマイトから個性の使い方などの指導を任されていたんだが、恥ずかしながら現状では教える事が無い状態でね。今は緑谷少女の運んだ粗大ゴミを運搬する運転手みたいなものさ」

 

 教える事が無い。と寂し気にいいながらも、その瞳は千年に一人の逸材を見つけたアイドルプロデューサーの様な瞳の輝きを隠しきれていない。

 そりゃあ誰だって後継者が天才型だったらワクワクもするよな。なら、お暇ついでに平和の象徴から個性の使い方についてご教授頂きたいものだ。

 

「緑谷に教える事が無いのなら俺に何か教えてもらえませんか?」

「導少年にかい?しかし、君の個性は何とも言えない姿に変身する事だろう?ヘドロ事件の時に見ていたよ」

 

 オールマイト公認の何とも言えない姿……。しかし、過去に人型のまま個性が発現したこともある。条件さえ分かれば人型のまま個性を使用する事だって不可能ではないと思うんだが。

 

「相葉さんを助けた時には人型だったからわざとあの姿になってるんだと思ってたよ」

 

 山のようにあったゴミをトラックへ乗せ終わり、緑谷がタオルで額の汗を拭きながら話に入ってくる。……男の汗だと何か暑苦しいのに、女の子の汗だと爽やかさを感じるのって不思議じゃね?

 あぁ、男が爽やかさを出す条件に『ただしイケメンに限る』があるんだったな。くたばれ。

 

「俺があの姿でいるメリットが何かあるのか?」

「マスコット的な?」

 

 それだと実力不足で雄英高校に受かれないんだよなぁ!

 今までは何となく原作をなぞろうと雄英を目指していたわけだが今は違う。トガちゃんとも一緒に居たいし、ヒーローになって摩花とチームを組むのだって面白そうだ。そして、これから現れるであろう敵に立ち向かう緑谷の力になりたいっていうのもある。……愛美さん?なんかあの人ずっと家にいて家事とかやってくれそうなんだけどどうなんだろうね?通い妻って言われても言い逃れできないよね。

 

「と言う事は、身の危険や強い思いの時に個性をコントロールできるのかもしれないね。実際、ピンチがきっかけで個性が開花し、そのままヒーローデビューまでした人もいるくらいだからね」

 

 八木さんは緑谷にスポーツドリンクを手渡しながら話す。

 そういう事言うとフラグになるからやめてください。俺のフラグ回収率舐めてると大変なことになりますよ。実際に今日すでに回収してますし。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「寒い」

 

 まぁ十二月の海辺なら当たり前の話だ。

 真上に上っていた太陽も傾き始め、段々と周りも暗くなり始めた。そんな中、緑谷は上がった体温と下がった外気の差から白い息を吐きながら汗だくで洗濯機をトラックへ積み込む。

 海岸に残ったゴミの山は俺と全裸少女が出会った場所のみ。家電製品や業務用の冷蔵庫などが辛うじてバランスを保つように浜辺に突き立っている。この動物タワーバトルで出来上がったような塔を『廃品タワー』と名付けよう。じきに解体されるが。

 

 俺はと言うと、早々に筋肉がお亡くなりになったので緑谷の様子を見学することにした。が、何時間も真冬の海辺に立ってるとか寒いに決まっているわけで……やむなく珍獣に変身した。この姿は夏は涼しく、冬は暖かく、水を弾き、衝撃にも強いという優れものだ。モンスターをハンターする世界だったならさぞかし重宝する素材に違いない。……その場合、俺、狩られるんだけどな。

 

「リードのその姿って暖かいの?」

 

 現状運べる最後の粗大ごみをトラックに詰め終わり、緑谷が話しかけてくる。

 完全にシャツは汗でべったりと張り付き、薄い緑色をした下着が微かに透けて見えている。

 落ち着け俺。わだかまりややましさの無い清んだ心。それが明鏡止水。

 

「どこ見てるの?……あっ!?もう、リードのエッチ!」

「あべし!?」

 

 女性は男性が思っているよりも視線に敏感に気付くって言うけど本当だったんだね。見てた俺が悪いのは認める。

 でもな、照れ隠しに笑顔でグーパンチを腹にぶち込むのはただの暴力だろ。「あ~っと、リード君吹き飛んだー!」じゃねぇんだぞ。

 俺の体は高く積まれた廃品タワーに打ち付けられる。ふっ、羽毛が無ければ即死だった。

 ……ガクッ。

 

「あわわ!ご、ごめんねリード!」

「お前、ツッコミに個性を使うな。同じ学校のゴリラよりも痛かったぞ」

「えっ、リードの学校ってゴリラ飼ってるの?」

「いや、ゴリラが授業受けてるけど?」

 

 誰の事か覚えてない人は四話を読み返そうね!ちなみにゴリラ♀のお父さんはガブリエル・ゴリ美だ。分からない人は七話を読み返そうね!

 思ったよりもダメージが大きく別世界と対話を始めている気がするがどうなんだ。

 緑谷がすぐに駆け寄り俺を抱き上げる。

 

「緑谷少女、危ない!」

 

 聞こえたのは八木さんの声だった。俺の体が廃品タワーにぶつかったことで頂点に積まれていた業務用の冷蔵庫が落ちてきていた。

 緑谷は俺を抱えたまま横っ飛びで回避するが、勢い余って俺を放り投げる。ってか、俺の扱いさっきから雑じゃない!?なんなの?

 上を見ればグラグラと波打つように廃品タワーが揺れている。早く離れないと確実に倒れてくるな。

 

「助かったよありがとう。……と言いたい所だが、元を正せばお前が俺を殴ったのが悪いんだからな。立てるか?」

 

 俺が緑谷に手を伸ばすも緑谷は首を左右に振る。いやいや、割と危ないからさっさと離れようって―――。

 

「ごめんね。力加減できなかったのも、さっき放り投げちゃったのも個性の使い過ぎで疲れちゃったからなんだ。それに―――僕は間に合わないから」

 

 緑谷の視線が自身の足へと向き、ゆっくりと上を見上げる。緑谷の右足は巨大な冷蔵庫の下敷きになっていた。

 それに俺が気づくと同時に、バキバキと上空から何かが割れる音がした。日も落ちてきて薄暗くなってきた砂浜、俺と緑谷のいる場所に覆いかぶさるように影が重なる。

 見上げれば、先ほど落ちてきたもの程ではないにしろ大小様々な電化製品が降り注ぐ。

 

 おいおい、どうするんだよこれ。

 確かに俺一人なら悠々と離脱できるだろう。しかし緑谷を置いて逃げるって案は即却下だ。なら俺が緑谷に覆いかぶさってみるか?残念ながら珍獣の体では緑谷を庇いきれない。チビの俺がさらにチビになってるわけだからな。

 こういうピンチの時こそ主人公は何かを閃くものだろ?―――いや、それだと緑谷が画期的なアイデアを閃いて助かる流れだが……現実は非情なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……世界が止まっている気がした。あの時の少女の声が脳内に響く。

 

『―――大丈夫、勇気を出して―――』

 

 勇気出すだけで何でも解決できるなら何不自由ない世界だっただろうな。

 俺が今求めてるのは現状を打開できる能力。

 想いも理想も実現する力が無かったらただの妄言で現実が見えていないだけだ。

 

 

×   ×   ×

「あなたが何もしなければ私は―――!!」

「本当に仕事を増やすのだけは一丁前だな」

「いつも口だけ。偽善者……」

「もう来なくていいよ。居ても居なくても一緒だしサ」

×   ×   ×

 

 

『―――貴方はこの世界が好き?』

 

 大好きに決まってるだろ!?

 前世では居なかった優しい友人に、こんな俺を好きだって言ってくれる女の子に、人の命を救えたよくわからん個性。なにより、この「僕のヒーローアカデミア」の世界が俺は大好きだ!

 俺はこの世界に来て救われているんだ!

 

『なら、もっと変わるべき。―――人はいつも行動しないで後悔する。でも、変わる人はいつだって行動する人……良くも悪くも、正しくても間違いでも』

 

 そんなこと言ったって、この状況で俺に出来るのは八木さんがオールマイトに変身してこの状況を打開するのを祈るくらいしか―――

 

『―――そのための力を貴方へ託した。あなたが変わる力、大事なものを守る力』

 

『個性は困難を耐え、自身の限界を凌ぎ進化する。空の様に広く澄んだ心で貴方は人を受け入れ、共に歩み導く』

 

『―――恐れずに個性を使うべき―――』

 

 ……いや、凄くかっこいい雰囲気でマジで異世界転生物の主人公ポジっぽい所、誠に申し訳ないんだが……。

 力を貰ったのは聞いて理解したし、俺が今後も不思議展開で色んな人と仲良くしていくのも分かった。でもさぁ、肝心の力の使い方を聞いてないって言うか……。

 

『………………あ』

 

 おいいいいいいいいぃ!(オタク特有のツッコミ)

 バカバカ!メイの馬鹿!!凄く意味深な回想と大きな敵を感じさせる伏線はわかったけど大事なのは現状なんだよ!!

 

『えっと―――ふぃーりんぐ?かんがえるなかんじろ?』

 

 なんの解決にもなってな『―――時間切れ。ばいにゃん』

 あ、はい。ばいにゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 ハッ!?よくあるご都合主義な「この間0.2秒の出来事」ってテロップ入る不思議空間の力が切れた!

 横目でチラリと緑谷を見ると両目を固く結び、後に訪れる衝撃に覚悟を決めているようだ。

 

 「あーーー!!やればいいんだろ!?フィーリングだろうが、考えるな感じさせろだろうが何だろうがやってやるよ!!」

 

 つまりはイメージだろ!?いつも想像するのは最強の自分って赤色のオカンも言ってた!トレースオン!(やけくそ)

 俺が想像するのは摩花が何時ぞや作ってたゲームの技だ。えっと……口から衝撃波を出す『バークエクスプロージョン』だったか!?

 イメージだ!イメージしろ俺!腹で何かエネルギー作って、こう……上にあがってきて……何かそれが熱い感じで……えっと、熱さはたこ焼きまるっぱで飲み込んじゃった感じで……。

 

「なんで離れてないの!!早く逃げてよ!!」

「うるせぇ!今集中してるんだから話しかけるな!」

「なっ!リードみたいなちんちくりんの珍獣が集中したくらいで何かできる訳ないでしょ!早く僕を置いて逃げてよ!それで傷物になった僕を責任取るって言って妻として迎えてよ!!」

「なんかヤベーのが聞こえたから全力で集中するわ」

「ひどい!!」

 

 目線を上に向ける。大小様々な製品が重力に従い勢いを増して落ちてきている。しかし俺が一つ一つの物体に集中すると、それらが少しずつ速度を落とし、最終的にはスローモーションに見えてきた。

 頭は妙にスッキリしている。いつの間にか頭の中のイメージ映像が俺の中で『出来るもの』と認識している。

 やるからには全力だ!ヒーロー目指すなら必殺技は叫ばないとな!!

 

 

 「バークエクスプロージョン!!」

 

 

 ヤバかった。何がヤバかったかって?

 まず音。凄い炸裂音だった。打ち上げ花火の爆発音をもっと下品に炸裂させた感じ。ブリュリュ!じゃないよ?

 で、次に衝撃。駆け寄ってた八木さんが風圧で吹き飛んでた。オールマイト死んだら流石にダメだよね?無事な事を祈るしかない。

 んで、威力。結論から言うと落ちてきていた物は勿論だが廃品タワーも吹き飛んでいた。ついでに緑谷の足に乗ってた冷蔵庫も転がっていった。んで、こんだけの威力のもの口から出した俺の体だが……。

 

「いやぁ~……この威力で反動もリスクもないのはイカレてるでしょ」

「うぅん、リードが反動で砂浜に埋まってなかったら納得したんだけどね。これ、コンクリートの上で真上に撃ってたら体潰れてたと思うよ?」

 

 だよねぇ。これ、真上に撃った衝撃で俺の足元の砂も一瞬で吹き飛んで無傷だった感じだもんな。……ん?その理論もおかしくない?それだと腰骨とか首の骨が先に耐えれなくない?

 ……意外と俺の体って丈夫だった説が上がってきてない?

 

「八木さん大丈夫そう?吹き飛んでたように見えたけど」

「頭から刺さってるけど手足動いてるから大丈夫だと思う」

 

 それは大丈夫と言うのだろうか?犬神家スタイルかよ。

 まぁ、緑谷も無事そうでよかった。悪いけど体抜いてくれない?やっぱ脱力感が半端じゃないわ。指一本動かせそうにない。これがめぐ○ん状態か。

 

「……リードさぁ、僕が妻に行くって言ったらヤバイとか言わなかった?」

 

 ……あの、緑谷さん?なんでハイライト消しながら僕を見下ろしてるんでせう?あ、足大丈夫そうですね!痣になってますけど骨に異常が無そうで安心しました!それで本当に、誠に、恐縮なんですけど……僕の体を砂場から抜いていただけると……。

 あの、緑谷さん?なんで八木さんを引っこ抜いた後、僕に一瞥もせずに離れるんですか?僕の事大好きなら恩を売る大チャンスですよ!?ねえ!助けてって!!これから潮が満ちてくるんだから本当にヤバいって!!緑谷あああぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 俺はその四時間後に緑谷から掘り起こされた。だんだん迫りくる波の音と暗闇は確実に俺の心を壊しに来ていた。

 俺の涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をハンカチで優しくふき取り―――

 

「ごめんねリード。でもね、僕だって傷つくんだからね」

 

 と言いながら優しく抱きしめてくれた。もう俺は緑谷を怒らせないようにしようと心に誓った。それと同時に、こんなに優しい女の子に失礼な事を言ってしまったと深く反省もした。

 

 

 

 PS.一部始終を見ていた八木さんから

 

「導少年。君から見えなかったと思うから言わせてもらうけど、君を慰めてる時の緑谷少女は凄く笑顔だったよ。僕が見た事ないほどの……ね」

 

 と言われた。心なしか八木さんは震えている気がした。

 どうやら俺の事を好いてくれる女の子はみんな俺を肉体的にも精神的にもいたぶるのが好きらしい。

 その日の夜は見えなかった緑谷の笑顔が何となく想像できてしまい、なかなか眠る事が出来なかった。

 

 

 

 




あ~あ、俺に文才があればなぁ~
もっとすこってもらって自己顕示欲満たせたのになぁ~


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努力の結晶は尿路結石

何とか一か月以内に更新できた…。
前回は本当に評価と感想ありがとナス!!

やっぱり評価バーが赤色だと嬉しい!ウレションでた!!(出てない
俺の中で緑谷ちゃんの可愛さが上がってきてしまっている……


 とうとうこの日が来てしまった。

 何の日かって?雄英高校の実技試験日だ。

 筆記試験は予想以上に手ごたえがあった。これも全てトガちゃんと摩花、そして『愛美印の雄英高校過去問+対策と傾向』と言うとんでもねぇアプリを作成してくれた愛美さんのおかげだ。

 もうドンピシャの場所しか出なくて実は雄英のPCハックしたんじゃないかと一人で震えてた。実際に愛美さんに質問してみると「ふふっ、いくら私でもそんな事しないわ」と微笑んでいた。……ホントぉ?

 

「トガさん、リードが歩きにくそうだから離れた方が良いと思うよ?」

「そうですか?今まで『全く』言われた事ないので大丈夫だと思います」

「……ふ~ん。いままでね……」

 

 んで、今は緑谷にトガちゃんに摩花の四人で雄英高校へ向かっている所だ。

 時間には余裕をもって向かっているので何かあっても大丈夫だ。

 

「そうだよねぇ、トガさんがくっついても自己主張が少ないもんねぇ」

「……どういう意味ですか?」

「いや、どこがとは言わないけど……ほら、僕って少し大きいからくっ付くと、ね?」

「…………」

 

 あのさぁ。

 確かに何かあっても遅れないように早めに集合しようって言ったのは俺だ。でも、身内でトラブル起こそうとするのはやめちくり~壊れちゃ~う(俺の精神が)

 言わせてもらうが、緑谷は緑谷の良さ、トガちゃんはトガちゃんの良さがあるんだからそんな事で険悪にならな―――

 

「リードは黙ってて」

「凌空君は黙ってて」

「アッハイ……」

 

 俺を挟んで目線でけん制していた両者の視線が俺に集中する。

 試験前にズボンとパンツ履き替える事になったらどうする気だ。

 

「まさかトガさんや相場さん以外にも彼女がいるなんて知らなかったよ」

 

 摩花がいつもの目を細めた笑顔で近づいてくる。その理論だと俺は三股かけてる事になるが、お付き合いは誰ともしてないぞ。

 あと、あんまり近づくと威嚇されるから気をつけろよ。

 

「いやいや、動物じゃないんだからそんなことある訳―――」

「「シャーーー!!」」

 

 摩花が冗談交じりで俺の肩を後ろから叩こうとした瞬間に、緑谷とトガちゃんが標的を変える。

 摩花は瞬時に手を引き「何もしてませんよ~」と言うアピールなのか、空を見ながら鳴らない口笛を吹く。相変わらずの大根役者ぶりだな。

 しかし、道に三人並んで歩いていると幅を取り過ぎだな。と言うか、俺の服の裾を掴んで緑谷が離れているから余計に幅を取っている。

 

「緑谷、別に袖を持つ事が悪いってわけじゃないんだが、道に広がりすぎてるからもう少しこっちに寄ったらどうだ?」

「えっ!?」

 

 俺の問いかけに対し、顔を赤らめモジモジと指をいじりだす緑谷。

 って、あだだだだ!なんで脇腹抓るんですかトガちゃん!?……いや、そんな恨めしそうに「ムーッ!」とか頬を膨らませて言われてもうわ可愛い。

 

「だって……この前海岸で会った時はトレーニングの気持ちになってたし、普通に話した時にはいつもの珍獣の姿だったし……その、素のリードと明るい所で話したりくっ付くのは恥ずかしくて」

 

 は?ピュアかよ。

 待て待て、君散々「リードじゃなきゃヤダ」とか「思い出を作ろうと思って」とか言いながら押し倒してきたりしたよね?滅茶苦茶してきてるよね?珍獣の時にはまたぐらに顔突っ込んでましたよね?

 少なくとも今、目の前にいる緑谷はゲームで言うなら恥ずかしがり屋の大人しいヒロインって感じだ。

 普通に可愛いなチクショウ!

 

「へ~、ワタシに離れろって言ったのはそういう理由だったんですね~」

 

 トガちゃんがニヤーっと口角を上げる。そして俺の右腕に絡ませていた腕を解き、そのまま手のひら同士を合わせ指を絡める。いわゆる恋人繋ぎをしてくる。

 緑谷が声にならない悲鳴を上げているのを横目に、空いた左手を俺の左の腰に添えさらに密着してくる。

 ……これは恥ずかしい!!待って!待ち合わせ場所で緑谷と出会ってから急に手を繋いで来たのにも驚いたけど、そこからエスカレートして腕組になったのも正直恥ずかしかった。なのにコレはイカんでしょ!イカんでしょ!!

 

「それは許せない!いますぐリードから離れろーー!!」

「離れるのはソッチです!凌空君は渡しませんーー!!」

「ギエエエェェェェ!!?」

 

 唐突に始まる綱引き合戦。もちろん綱は俺。

 昔にこういう話がある。大岡裁きと言うんだが、簡単に言えば子供の親を主張する母親が二人いて、どちらが本当の母親かを決める為に子供の手を二人の母親が持ち、引き合うというものだ。

 で、結論は「子供が痛がる事を本当の親がするはず無い」って事で先に手を離した母親に子供を預けるって話があるんだが……。

 

「リードおおぉぉぉ!!」

「凌空君んんんん!!」

「お……オーエス、オーエあががががが!!」

 

 この二人は一向に離す気配がない。試験前に負傷してリカバリーさんのお世話になるのはヤダー!

 

「道の真ん中でジャマだ!!」

「へぶっ!」

 

 俺の背中が誰かに蹴飛ばされる。その勢いで俺が地面にうつ伏せに倒れると、さっきまで両手を掴んでいたトガちゃんと緑谷も俺に覆いかぶさるように倒れこむ。重いとか痛いの前に柔らかいって感想が正直なところです。

 二人から抱きかかえられるように起こされ後ろを見ると、爆豪勝己がそれはそれは不機嫌そうな顔で立っていた。

 

「あ、顔面スニーカー網目痕マン」

「網目はテメェのせいだろうが!ぶっ殺すぞ!!」

 

 トガちゃんがケラケラと笑いながら爆豪を指さして言う。その隣では緑谷も口元を押さえて噴き出すのを隠しているが肩がプルプルと震えている。

 その姿が気に入らず般若の様に目を吊り上げ激怒する爆豪。だが、俺の目線は爆豪の後ろにいる摩花に向いていた。

 その顔はいつもの細められた胡散臭い笑顔ではなく、少し目を開き、無表情で爆豪の後姿を見ていた。

 

「ハッ!試験前から両手に女はべらせてずいぶん余裕そうじゃねぇか!一人は頭の悪そうな女に、もう一人は無個性の糞ナード。そんな二人組の中心に地味でチビの陰キャモブ男。ピッタリの組み合わせだなァ!」

 

 地味でチビの陰キャモブ。略してJCB…では無いですね。

 ぶっちゃけどうでもいい。悪口や嘲笑は前世で文字通り浴びるほど受けてきた。今更この程度の言葉で怒り狂って「野郎ぶっ殺してやあぁぁる!」とはならない。が、トガちゃんと緑谷を馬鹿にするのは話が変わってくる。

 俺は緑谷とトガちゃんよりも一歩前に出て爆豪と相対する。

 

「俺の事は何とでも言ってくれ。全然刺さらん。だがな、緑谷とトガちゃんの悪口は撤回しろ。そもそも、お前は緑谷に言うことがあるんじゃないのか?緑谷のお陰でお互いにヘドロのヴィランから助かることが出来た。お礼の一つくらい―――ッ」

 

 俺が全てを言い切る前に爆豪が俺の胸ぐらを掴もうと動く。しかし、その手が届く事はなかった。

 爆豪の伸ばした手は緑谷がガッチリと掴み、トガちゃんはいつの間にか爆豪の背後に回り首に爪を当てるように手を添えていた。……あの、そんな事頼んでないのでおやめください。

 あとハイライトさん帰ってきて(懇願)

 

「僕も同じ気持ちだよ。僕の事は何だって言えばいい。だけど、リードを馬鹿にする事は許さない」

「何もわかってないアナタが凌空君を蔑むのは許しません」

 

 爆豪は緑谷とトガちゃんの動きに一瞬目を見開くが、すぐにいつもの不機嫌そうな表情に戻り緑谷の手を払う。そして、まだ手を退けようとしないトガちゃんとのにらみ合いが始まる。

 一触即発の雰囲気の中『パチーン!』と乾いた音が響いた。

 

「まぁまぁ、こんな所を雄英の教師に見られたらそれこそ試験前に失格だよ。ここはお互いに何もなかった事にしようじゃないか」

 

 音の正体は摩花の指パッチンだった。……あんなめっちゃ響く爆音の指パッチンあるか?心臓がバクバクしてるんだが。

 トガちゃんがゆっくりと手を退け一歩下がると、爆豪は大きな舌打ちを一つ落として肩を怒らせながら去って行った。

 

「悪い、二人の事を言われてカッとなった。……らしくないな」

 

 摩花に頭を下げて謝る。中身が大人なんだから「ハハッワロスw」とでも言って流せばいい話だった。

 しかし、顔を上げると摩花がいつものニヤケ面で大げさに話し始める。

 

「らしくない?むしろ逆さ。自分よりも友達の悪口に怒る姿は想像通りだったよ。君と言う人間を如実に表しているよ。……まぁ、彼に憤りを感じているのは僕も同じだけどね」

 

 ゾクリと背筋を冷たい物が走る。摩花の目線は爆豪の歩いて行った道へ向けられている。

 表情こそ変わらないが、摩花が静かに怒っているのを俺はその日初めて見た。

 

 

 

 

 

 

 試験の説明についてはカットだ。正直、転生者の俺からすれば漫画と説明はさほど変わらなかった。……ひそかに恐れていた試験内容が別物になるってイレギュラーが無くて本当に良かった。

 

 ざっくり説明すると十分間の市街地戦でポイント制の敵を倒しまくれって事。巨大敵も予定通り出現するみたいだ。まぁ、俺には関係ない話だがな。

 ちなみに、原作では緑谷が飯田からブツブツ煩いと注意を受けるシーンがあったと思うが、今回はグルグル眼鏡をかけた黒髪ツインテの女の子が注意をされていた。

 

「しかし、愛美さんが親父にこんなの頼んでたなんてなぁ」

 

 俺は今、白を基調としたヒーロースーツに身を包んでいた。首から真っ直ぐ下に赤色のラインが伸びており、股関節に沿って二股に分かれ、腰側にラインが回っている。また、左右腹部と背中側にも斜めに四本の紺色のラインが入っている。ちなみに、素材は俺の毛だ。

 ……珍獣の毛だからね!毛根を生贄にするほど体を張る気はない!

 

 実技試験の三日前になって愛美さんからこれを渡された。俺の父さんがサポートアイテムの会社に勤めているのは知っていたが、まさか息子の為にスーツを作ってくれるなんて……と、感動したのもつかの間、これは愛美さんが自分のお金で父さんに発注依頼を出したものだと言う。

 羽毛自体は一度だけ毛がどれ位の期間で伸びるのか実験の為にカットした事があったのでそれを送ったらしい。

 カットした毛は変身し直したら元通りだったが、未だに緑谷に毟られていた頭頂部は薄い気がしてならない。

 

 スーツ自体の性能は伸縮自在って感じだ。珍獣になるたびにヒーロースーツが脱げてたんじゃ話にならないからな。後は、もともとの性能である耐熱・耐寒・耐刃・耐衝撃・防水と、ある一定のレベルまでなら万能の力を発揮する。強くね?

 

「ありがたいけど、俺からは何もお返しできそうにないです」

 

 と愛美さんに言うと―――

 

「私が凌空さんにプレゼントしたかったの。お返しは、雄英高校の合格通知を貰って喜ぶ笑顔がいいわ!」

 

 と満面の笑顔で言われた。……ホレてまうやろ!!

 自分のスーツの経緯を思い返していると、カツカツと手に持った杖で床を軽く鳴らしながら摩花が現れる。

 

「お待たせ。トガさんや緑谷さんはまだみたいだね」

「女の子は着替えに時間が掛かるもんだからな。しかし、お前の格好は俺と違って鮮やかだな」

 

 摩花は魔術師の様なローブを羽織り、杖を持って現れる。こいつヒーローと言うかコスプレイヤー臭いんだが。

 ローブは鮮やかな淡い青色に、色とりどりの花びらの刺繍が施された見たらわかる高いヤツ!で、杖に関しては先端は鉄の様になっているが全体的な材質は木製の様だ。上部は丸形になっており、中央には大きなベルが取り付けられ、周りには蝋燭の芯の様な物が複数生えている。

 

「お待たせしました!」

「ごめんね、遅くなっちゃった!」

 

 遅れてトガちゃんと緑谷も合流する。

 緑谷は学校指定のジャージ、トガちゃんに至っては制服のままだ。

 ヒーロースーツやアクセサリー等は値段がピンキリになるから本来は学校に入学し、学校と提携しているサポート会社に要望を出し作るものだからな。

 俺と摩花がおかしい……いや、この時点でフル装備の摩花が一番おかしい。

 

「わぁ~!摩花君の衣装すっごく綺麗だね!!花びらを刺繍にしてるって事はそれに関する個性なの?でもそれだと杖の用途が何かわからない。先端が鉄製って事は武器として使用する事も想定してるって事かな。重さを少しでも緩和するために木製にしているのはわかるけどそれだと上の部分を丸形にしてしまうと重心のバランス的に突きの際に使いづらいよね。じゃあ、そもそもの僕の考えている杖の用途が武器ではないってこと?それもそうか、そうじゃないとベルの理由がつかないし、周りに付いている蝋燭の芯の様な部分も―――」

「凌空君止めてくれないかい!?目つきも含めて物凄く怖いんだけども!!」

 

 あ~、そういえばそんな性格でしたね。

 チラリと時間を確認すれば会場集合の二十分前だ。

 思い返せば前世ではこういった大会なんて出た事なかったな。さらにはロボットと戦うんだもんな。

 ……あぁぁぁぁ!イカン、急に不安になってきやがった!!誰でもいいからオラに元気ぃ分けてくれぇ!

 

「凌空君、緊張してるんですか?」

「あー、そうらしい。面接と筆記試験は全然大丈夫だったんだが、戦闘となるとなぁ……」

 

 社会人やってりゃ面接も打ち合わせも機会なんて幾らでもあったからな。

 震える手を見ながら握ったり離したりを繰り返す。

 大丈夫だ、俺だってやれる事をやってきた。その成果は目隠れロリ神様とのイベントの後にも実感できてたじゃないか!

 目を瞑り何度も自分を鼓舞するも心臓の音は落ち着く様子が無い。

 

「大丈夫ですよ!」

 

 俺の手が優しく包まれる。目を開けると、満面の笑みを浮かべるトガちゃん。

 

「凌空君と一緒にワタシも摩花も頑張りました!凌空君の頑張りをワタシ達は知っています。そして、ワタシ達の頑張りも凌空君は知ってますよね?」

「……俺の頑張りに関しては忘れたくても忘れられないよ」

 

 手合わせと称して背後に回られたトガちゃんに何回チョークでオトされたか……。

 目を開けるたびに膝枕されてて、笑顔のトガちゃんと目が合う。で、また手合わせしてオトされるの繰り返し。

 無限ループって怖くね?

 

「凌空君はワタシと摩花が試験に落ちると思いますか?」

「いや、受かるだろうな。確実に俺よりは可能性がある」

「なら大丈夫です!」

 

 どゆこと?

 

「凌空君はワタシ達が受かると思ってます。その受かると思われているワタシ達も凌空君は受かると思ってます。何も心配する事ないです!!」

 

 これはもしかして『お前を信じろ!俺が信じるお前を信じろ!』ってニュアンスのヤツか?男前すぎん?

 トガちゃんが手を放し、ピョンと一歩後ろへ下がる。

 「えへへ」と少しはにかみながら、緊張を感じさせない無邪気な姿は妖精のように軽やかだと思った。

 

「みんなで合格してタコパしましょう!行ってきますね!」

 

 手を振りながらスキップで自身の会場へと向かっていく。あの様子だとトガちゃんが一番危なげなく受かりそうだな。

 

「トガさんの言う通り、僕達は君の努力を知っているから何も心配していないのさ。僕の事務所に君を誘うためにも、こんな所で躓かないでおくれよ?」

 

 摩花は一つウィンクをすると、杖で音を鳴らしながら去っていく。

 ……アイツは何で歩くだけで人の視線を集められるの?相変わらずのイケメンだな一割くれ。

 っと、あとは緑谷―――

 

「……何してんの?」

「リードが緊張してるって言うから!ハグはストレスを軽減するって言うから!」

 

 後ろを振り返れば両手を広げ、顔を真っ赤にして目を瞑ったまま立っている緑谷がいた。すしざんまい?

 と言うか、よく見れば羞恥だけの肩の震えじゃないな。明らかに俺よりこいつの方が緊張してるだろ。

 

「そう言いつつ、今はお前の方が緊張してるんじゃないのか?」

「……アハハ、こういった事には鋭いよね。なんで朴念仁なの?」

 

 誰が朴念仁じゃ。俺ほど人の機微に敏感な……なんか以前にもこんな事言わなかったっけ?

 っと、俺の事より今は緑谷か。どうしたもんか。こういう時はご褒美があるといいとか聞くな。

 

「んじゃ、お前も合格してたらタコパに呼んでやるよ」

「いいいい良いの!!?」

 

 おわぁ!どんな食いつき方だ!

 さっきまでのしおらしさなんて感じさせない超速の接近。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

「そんなに嬉しいもんか?女子で集まってパジャマパーティーとかクリパとかするんじゃないのか?」

 

 俺のこの発言に緑谷は肩を落とす。え、そんな不味いこと聞いた?

 

「出来る訳ないよ。小学校から中学校まで爆豪君に絡まれてる女子だよ?他の女の子なんて怖がって近づいてこないよ」

 

 あー(察し)

 確かにあんな奴が付きまとうような人とは話しにくいよな。女子ならなおさら怖いよなぁ。

 

「爆豪君が全部悪いわけじゃないんだけどね。僕だって授業が終わったらトレーニングと勉強の為にすぐに帰ってたし、自業自得の部分もあるんだ。だから、誘われて凄く嬉しいんだ……」

 

 ……これは原作でも当てはまってるのかもしれないな。

 原作の緑谷君も同級生で仲のいい友達がいるなんて描写が無かった。流石に一人や二人は仲のいい友達くらいはいるはずだもんな。……ま、俺には居なかったんですけどねー!

 むしろ人は集まるけどいつも嘲笑の対象でしたからねー!いやー、人気者ってツライネー!

 

 俺は今も俯いている緑谷の頭をワシワシと撫でる。

 最初こそ肩を跳ねさせたが、俺が撫でていると分かった途端におねだりする犬の様に頭を押し付けてくる。

 

「緊張は解けたか?」

「……うん!今ならなんだってできる気がする!!」

 

 手を離すと名残惜しそうに瞳を潤ませてきたがこれ以上は駄目だ。思ったより可愛すぎて俺が駄目になる。

 緑谷はニコッと笑うと自分の会場へと駆けだす。

 途中で振り返り「リードもタコパにいないと意味ないんだからね!」と手を振られた。

 あれだな、何度も言うけど俺は本当に恵まれてるな。だからこそ―――

 

「うっしゃあ!!どんとこい仮想敵!俺の血と汗と涙と血尿の結晶見せてやるぜ!!」

 

 心臓の鼓動は、今も落ち着かない。

 だけどこの鼓動は緊張とは違う。

 みんなの思いによる高揚感が俺を会場へと走らせた。




モチベの維持が下手糞だから書き溜め出来ないの致命的なのでは?
皆さんの感想と評価でこのSSの更新は成り立っております。


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お待たせしました凄い奴等!

内緒にしてたけど評価と感想の感謝を込めて連日更新なんだ。

申し訳ないですが、無言低評価に対して「一言残していけや」って気持ちが強くなってきたので一言制度実施しました。

次回は息抜きドタバタコメディを挟んで雄英高校編へ行きたい所存。


~~~~~~~~~~

 

 

「夏休みも終わって一年生で初めての冬休みが来るわけだけど……僕達が雄英高校を目指しているという認識に間違いはないね?」

 

 摩花の父親が所有するビルの地下。そこには中学校の体育館程の広さをした空間があった。

 なんでも、身に着ける体感型の装置の起動実験の際に使われるところらしい。今はもっといい土地があるので現在ではただの空きスペースなんだとか。

 そこにホワイトボードを立て摩花が立っている。ちなみに、俺とトガちゃんと愛美さんはジベタリアンである。

 せめてパイプ椅子くらい用意しろや。

 

「凌空君、お尻が痛くなってきたので膝を貸してください」

「左がヒミコちゃんで右は私が使うわね」

 

 ふにゅっとした感触が俺の両太ももへとかかる。

 チラリと振り返る様にトガちゃんと愛美さんが俺の顔を確認する。そして、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 ……摩花、もう今日はこれでいいんじゃないか?

 

「早くもやる気をなくさないでおくれ。そもそも、これは雄英高校に受かるために必要なトレーニングなんだ」

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 で、その棒の先にボクシンググローブつけた奴は何?

 俺知ってる、亀田棒ってやつだろ?

 

「僕がこれで君を突くから、君はこれを避ける。あ、目を瞑るたびにペナルティがあるから」

 

 ファッ!?

 無理無理カタツムリ!お前それを目を瞑らずに一般人が出来る訳ないだろうが!

 そもそも避けれるかすら―――

 

「トガさ~ん」

「ほっ!よっ!はっ!……もっと早くても大丈夫ですよ!」

「ね?」

 

 軽々と避けていくトガちゃん。と言うか、摩花の突きのスピードも結構速いんだが…。なんでトガちゃんちょっと楽しそうなの?

 そもそも何が「ね?」なんだよ。トガちゃんが規格外すぎるだけだろ。

 ……いや、まてよ。俺だってヒロアカ世界に転生したわけだし、漫画補正が掛かってて案外できるかもしれない?

 よっしゃどんとこい!!

 

「へぶち!!」

「はい、目を瞑ったのと当たったのでペナルティ」

 

 慈悲をくれ……。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「無理無理無理無理!!」

「凌空君、ちゃんと手加減するから大丈夫です」

「じゃ、はじめ~」

 

 摩花はマジで何考えてるの!?手合わせで俺がトガちゃんと戦えるわけないでしょ!?

 しかし、やるしかない。もしかしたら個性も進化するかもだし!手が事故で胸に当たるかもしれないし!そう、事故で(強調)

 兎にも角にも目の前のトガちゃんから目を逸らさないように……そら―――(。´・ω・)ん?

 

「つ・か・ま・え・た」

「―――ッ!?―――ッ!??」

「あぁ、そんなに暴れると……あんっ!」

 

 なんでトガちゃん背後にいるの?

 ってか、何か息できないし意識が―――。

 

 

 

 

 ハッ!……夢か。

 

「おはようございます!」

 

 あぁ、トガちゃんおはよう。

 いやぁ、恐ろしい夢を見たよ。なんかいきなりトガちゃんと手合わせするってなって容赦なく首絞めてオトすんだもんね。雄英入学の為のトレーニングだからって優しいトガちゃんがそんなことするはずないもんね。

 

「はい!じゃあ二回戦行きましょう!」

 

 ……夢じゃない?

 

「どんどん行きますよ!これも凌空君の為です!」

 

 おいおい、死んだわ俺。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――!―――じょうぶ!?」

 

 何か声が聞こえる。って言うか、あれは皆でトレーニングを始めた初日だったか?

 そもそも、俺は何してたんだっけ?

 

「君、大丈夫!?聞こえてる?」

 

 目を開けるとマスクをつけた女性のヒーローがいた。

 

「ミッドナイト?」

「そう、私はミッドナイトよ。立てる?実技試験は出来そうなの?」

「実技試験?……あああぁ!!」

 

 実技試験と聞いた瞬間に一瞬で脳が覚醒する。

 そうだ、プレゼントマイクの開始の合図で生徒が一斉に駆けだした。

 その時、誰かに突き飛ばされて転倒。そのまま我先にと先頭を争う大勢の生徒に蹴られるわ踏まれるわで意識がなくなったのか。

 って待て!今始まってどれくらいだ!?

 

「開始して一分経過って所よ。それを聞くって事は続行するのね?」

 

 当たり前だろ!トガちゃんと摩花に励まされ、愛美さんからスーツのプレゼントをもらい、緑谷に励ましの言葉を送った俺が落ちる訳にはいかない!!

 幸い体はどこも痛くない。このスーツのお陰だ。

 愛美さんマジ天使!

 

「ありがとうございました!俺、試験に戻りますんで!」

「本当に大丈夫?」

「一分なんてちょうどいいハンデですよ!何より、俺を信じてくれてる友達を裏切りたくない!」

 

 個性を使用した姿へと変身をする。

 体長自体は変わっておらず、相変わらずのウサギとヒヨコを足したような真っ白な羽毛に包まれた姿。

 しかし、決定的な違いがある。それは腕が生えた事。

 今までは例えるならポケ○ンのアチャ○的な感じだった。それが進化して体長そのままにワカシャ○に進化した感じ。これで背中がかけますね!

 

 急いで生徒たちが走って行ったであろうルートを追いかけるように走っていく。

 駆けていく際に後ろから「あぁ、青臭い性格といい個性を使用した愛らしい姿……イイッ!飼いたい!!」って聞こえた気がするが…でも今は、そんな事どうでも良いんだ。重要な事じゃない。

 ……さすがの俺も分かるよ?多分、フラグなんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 流石に一分も出遅れたら絶望的か?

 残っているのはぶち壊された仮想敵の残骸だけ。恐らく市街地の裏手とかにまだ数体は残っているんだろうけど、一体一体を探して撃破するんでは圧倒的に時間が足りない。ここに引き寄せる手段でもあれば別なんだが……。

 

 「……あるじゃん!」

 

 そもそも仮想敵は何で俺達生徒を発見している?

 恐らくは視覚と音だろう。そして俺にはきったねぇ花火みたいな爆音を出す技がある。

 

 「3割くらいプロージョン!!」

 

 海浜公園の時のように全力で打つと動けなくなるので三割くらいの力をイメージして上空にぶっ放す。

 それでも衝撃は相当のもので、周りのビルのガラスがビリビリと揺れる。ヒビの入っていたガラスに至っては乾いた音を鳴らしながら窓枠から外れ、地面に落ち、軽い音を鳴らす。

 

「ブッコロス!!」

「ブッコロス!!」

 

 おっ!来た来た。こんな感じで後追いしていけばそこそこのポイントには―――。

 

「ブッコロス!!」

「ブッコロス!!」

「ブッコロス!!」

 

 お……おぉ、なかなか来るじゃん?

 だが、俺の血と汗と涙と血尿が出るほどのトレーニングに比べれば五体くらい朝飯前ってや―――。

 

「ブッコロス!!ブッコロス!!」

「ブッコロス!!ブッコロス!!」

「ブッコロス!!ブッコロス!!」

「ブッコロス!!ブッコロス!!」

「ブッコロス!!ブッコロス!!」

「ヌッコロス!!ヌッコロス!!」

 

 あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!?

 何これ!リスポーン地点なの!?馬鹿じゃないの!?ってかまだまだ集まってきてるんですけど、これ下手したら前の方まで音が響いてて全ての敵を俺が集めたりしてないよね!?

 ……いや、むしろチャンスだ!(白目)

 人間に気軽に撃てない俺の必殺技だが、この雄英高校の試験に関しては超絶メタなチート技である。

 恐らくこれが撃ち納めになるだろう。……なるよね?

 

 その為にも技を撃つ方向が大事だ。

 このまま脳死で「^q^あう~」って正面にエクスプロージョンすると破片はどこに飛んでいく?恐らく俺よりも先にいる生徒大多数に被害が出るだろう。そんな事すれば即失格だ。

 

 俺は目の前じゃ飽き足らず、全方面に展開する数えるのも億劫になる仮想敵へと突っ込んでいく。

 右、左、正面とメカの腕やミサイルが飛んでくる。その全てを避ける。

 

『目を瞑るって事は恐怖心に負けているって事さ。そして、目を瞑るという事は無防備な時間が出来るという事。恐怖を乗り越える、これはヒーローになる為に最低限の素養だと僕は思っている』

 

 普段のニヤケ面はどこへやらな摩花が真面目に言った一言。あぁ、本当に言ったとおりだ。

 振り下ろされる鉄の腕を避け、背後から撃たれるミサイルや弾丸を正面の仮想敵の背後に回り、射線を塞ぐ事で回避する。

 

『凌空君は相手からどう見られているかわかりますか?ワタシは全てわかります!だから認識からズレる様に動くと相手が見失っちゃうんです。人の意識、視線、予測からワタシという存在がズレる事で、その人の世界から一瞬だけワタシという存在を消す事が出来るんです!』

 

 俺を数百回と失神的な意味でオトしたトガちゃんの言葉が脳裏に過る。

 正直、発言の内容は天才過ぎて「トガちゃんまつ毛長いなぁ」と全然関係ないことを考えていたが、手加減なしでオトされまくりながらの手合わせは確実に力になっている。

 

 完全に四面楚歌な状態ではあるが、むしろここまで密集してしまうと図体の大きい仮想敵は小回りが利かない。それに引き換え俺の小柄な体はネズミの様に狭い隙間をすり抜けていく。ネズミ……ウサギ?ヒヨコ?

 誰がヒヨコウサギモドキだ!!

 

『導さんは一つの事に集中して視野が狭くなることがあるの。視界は広く持つこと。柔軟な発想は大切だけれど、情報はそれ以上に有利を生むわ。情報を制してこそ選択肢の幅も可能性も広がるのよ』

 

 愛美さんが俺達の動きをデータとして処理しながら話してくれた。

 状況把握に情報整理は戦闘を有利に運ぶためには必要なファクターだ。それは現在の立ち回りに生きている。

 

 最後尾の仮想敵、その股下を抜ける。

 振り返ればざっと見た感じで……わかんねぇくらいの機械が蠢き、ひしめいている。

 何度挫けそうになっても根気よく俺を励ましてくれた三人の顔が浮かぶ。それと同時に、誰よりも努力してスタートラインに立った緑髪のあいつが励ましてくれている気がした。

 任せろって、俺も絶対合格するから!

 

 大きく息を吸い込み、体の奥底でマグマの様に煮え滾るエネルギーをイメージする。

 鳥の様な鍵爪でコンクリートを砕き、一歩も引かない気持ちを表すように強く踏みしめる。

 新しく生まれた両の腕は重心を支えるため地面に。

 そして、必ずみんなと一緒に入学するという強い気持ちを一撃に籠めて放った。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 実技試験から二日後。

 雄英高校の正規教職員と臨時職員が一同に集まり、会議室にて評論会を行おうとしていた。

 

「それじゃあ、今年の入学生の総評をはじめようか」

 

 ネズミの姿ではあるが二足歩行の足でしっかりと立つ『根津校長』が二度手を叩く。

 大きなディスプレイには入学が確定した実技総合成績という名の生徒のリザルトが映し出される。

 

「まずは異端な動きを見せた渡我被身子ちゃんだね!」

 

 モニターが移り変わり、複数のカメラ画面を映した。

 多くの動画が再生されていく。その中で複数のカメラに彼女が移りこむ事が一切無い。

 

「見ての通り、彼女は絶対に一つのカメラにしか姿を現さなかったのさ!物陰、人影、仮想敵の影……あらゆる視線を遮るものを利用して静かに仮想敵を排除していく。ヒーローの表現としては良くないとは思うけれど、暗殺者という表現しか浮かばないよ」

「彼女の個性は変身。純粋な戦闘には一切関わりが無い、しかし身体能力と類稀なる才能で成果を出した。文句のつけようが無いな」

「存在に気付かず、彼女が停止させた仮想敵に他の奴らが目線を取られる。その間に自分は次の目標へ動く。実に合理的だ」

 

 教員であるブラドキングとイレイザーヘッドが唸る。

 その言葉の裏には、カメラの位置をも瞬時に把握し、最小限の露出で任務をこなすヒーロー像が既に出来上がっているからだ。

 テレビへの露出を避けるアングラヒーローのイレイザーヘッドからすれば他人の気がしない部分もあるのかもしれない。

 

「うんうん。じゃあ次は彼さ!」

 

 続いて映し出される画面には長身の美男子。ジャージ姿で実技試験に挑む人が多い中で気品のあるローブに身を包んでいる。

 

「正直、彼を合格にするかは判断が難しかったのさ。何せ『妨害行為は即退場』な訳だからね」

 

 動画の中では爆破の個性の生徒についていき、取りこぼした仮想敵を漁夫の利の様に撃破する姿だった。

 不自然な点があるとすれば、その取りこぼしが程よい破損具合であるという点である。

 

「彼ノ個性ダト、合格スルニハソレシカナイ」

「勿論それも分かっているさ。幸いにも彼が個性を使用した生徒はみんな合格しているからね。今回はお咎め無しという事にしておくのさ!」

「……何より、個性が強すぎる。雄英高校に入学させないのは後々の不利益にしかならない」

 

 エクトプラズムの発言に対し、根津校長が理解を示す。それに対して臨時の職員達からも賛同の意見が聞こえる。

 中には「カンニングと一緒の行為ではないんですか?」と発言する者もいたが、今回の試験内容では一部の生徒は完全に無力になってしまう場合もある。今回は彼が合格するための工夫であり、不合格者も出なかったため不問とし、来年の試験内容を見直すことでその場は収まった。

 

「話が少し脱線してしまったね。次はこの子さ!」

 

 画面が変わり、緑髪の少女が映し出される。

 純粋な体術と周りを察知する洞察力で仮想敵を撃破しながらも、負傷した人や危険が迫っている人を助けていく。

 動画を見ていた教職員からは口々に「これが受験生なのか?」と疑問の声が聞こえる。

 そんな中、オールマイトは心の中で鼻を高くし、ガッツポーズを決めている。

 

「撃破ポイント、救助ポイント合わせて79ポイント。文句なしの動きさ!将来が楽しみな生徒が入ってきたね!」

「新米ヒーローでも通用しそうね」

「少しパワー不足かもな!」

 

 次々耳に入ってくる後継者の高評価にオールマイトの耳はピクピクしっぱなしである。

 根津校長はその姿を見ながら気づかれないように微笑み、ある意味、本題である生徒の名前を挙げる。

 

「導 凌空君」

 

 今までの喧騒が嘘のように静寂に包まれる。

 かくいうオールマイトもその名を聞いた瞬間に気持ちが切り替わる。

 

「筆記試験一位、実技試験も撃破ポイントのみで80点の一位。人格も学校からの推薦状やミッドナイトから聞いていた。だけど、色々と問題があるのも確かさ」

 

 モニターの画面が切り替わると、ドローンにより上空から取られたであろう動画が流れる。

 数える事も億劫になるほどの仮想敵の密集地帯をスルスルとすり抜けていく白い物体。それが密集地帯を抜け、四つん這いのような姿勢になった所で映像が途切れている。

 

「これについては現場にいたミッドナイトから直接話を伺った方が早いね」

 

 根津校長がミッドナイトへ視線を向ける。視線の先には頬杖をつき、うっとりしたような表情で画面を眺めるオンナの顔をした香山 睡の姿だった。

 数秒してから自身へ集中する視線に気づき、急いで姿勢を正し、いつものミッドナイトの表情になる。

 

「すみませんでした。私は負傷した生徒や、興奮して個性の調整を行えなくなった生徒への対応の為に現場で待機していました。彼はスタート時に複数の生徒に足蹴にされ、気絶していました。声をかけた際にも大きく取り乱すことなく、真っ直ぐに試験に復帰したのを確認しています」

 

 淡々とした口調で話す。聞いている限り、不幸ではあるが普通の生徒である。

 

「それから数分後に遠くで爆発のような音と衝撃があり、セットしていたカメラが破損したと連絡があった為、不測の事態の可能性を考え現場へ急行しました」

 

 再びモニターにはひしめき合う仮想敵を潜り抜けていく場面になる。

 

「軽く五十はいるんじゃないのか……」

「いやいや、もっといるだろこれ」

 

 誰かが呟く。まるで波紋が広がる様に次々と口を開いていくのはその異常性からだろう。

 オールマイトは海浜公園での出来事を思い出していた。

 

 落ちてきた数多くのガラクタを一瞬で粉砕した衝撃波。

 あの威力も私と緑谷少女を気遣っての一撃だったのかもしれない。その一撃を今回は躊躇いなく放ったのだ。どういう状況になるのか想像するのはそれほど難しくはない。

 

 動画が流れ続ける。そして、一撃を放った後の衝撃で画像が乱れていた映像の続きが流れ始める。

 

「おいおい……」

「この威力で怪我人が出なかったことが奇跡なんじゃないのか?」

「彼が最初の方向からこの一撃を放っていたら確実に怪我人は出たわ。でも、わざわざ撃つ方向を変える為に仮想敵の間を潜り抜け、ポジションを変えた」

 

 その一撃の痕跡はオールマイトの攻撃を連想させるような威力だったことを物語る。

 地面を抉り、市街地のガラスは全て割れ、仮想敵は跡形もなく消滅したものから大破したものまで様々である。

 皆が一様に冷や汗を流し、唾を飲み込む。もし、彼が敵になってしまったら誰が止めるのか?と。

 

「正直に言うとこの80点も憶測の採点なのさ。何せ一瞬で粉々に吹き飛んだわけだから、点数を送る為の信号すら発信できなかったんだからね。何にせよ文句なしの合格には変わりないよ」

 

 その後、全力の攻撃の為か地面へと倒れ伏してしまう。

 戦闘ではちょうど巨大敵が現れ逃げ惑う生徒たちが引き返してきている所だった。

 

『え、ちょちょちょ!また俺踏まれる流れなのでわ!?……ギエピー―――!!!』

 

 映像は丁度ここで終わっている。

 今年の合格者の一覧を見る根津校長は人知れず確信していることがあった。

 

 二年前に入学した生徒は今ではビッグ3と言われる程だ。だけど今年の生徒はそれを超えるほどの粒ぞろいであると。

 

 

 

 雄英高校の黄金期を知らせる鐘の音が聞こえる様だった。

 

 




リードの個性
当初と予定が変わって着地点が迷子気味なのは作者がよく分かってる

でも伏線だから。
IFストーリーで補完されるから(メソラシ


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本当の本当にスタートライン

大変遅くなりました。
前回は日刊ランキング6位ありがとうございました。
スクショしてます。

次回から雄英高校編です。
話を読み返すついでに、過去のSSの中身を今の間の取り方に編集予定です。
お楽しみください。


『導 凌空様、第2診察室までお越しください』

 

 広々とした総合病院の椅子に腰かけている俺の名前を女性看護師が呼んだ。

 長時間座っていた為に軋む臀部と、腰の痛みを誤魔化すように一伸びして、言われた診察室へと向かう。

 

 なんてことはない、個性の定期検査だ。

 一般の人達なら個性の検査なんて定期的に行う必要が無い。しかし、俺の個性は今も変化しているイレギュラーな個性である。その為、一定の期間が来るとメールが届き、診察に来なければならないのだ。

 

「失礼します」

「はいはい、そこにかけてね~」

 

 専門医である眼鏡をかけた男性に促されるまま丸椅子へ腰を掛ける。

 検査内容は個性に関連する装置から、血液検査、レントゲンと様々である。現在の専門医になる前は検査をしても―――

 

『よくわからんけど変化してるね。体に異常はないからヨシ!』

 

 といった具合に適当に匙を投げられていた。

 個性の検査にも勿論お金がかかるし、それが特殊な個性検査になってしまうと莫大な金額がかかってしまう。

 当たり前の話だ。その人専用の装置を一から開発する可能性だって出てくるわけだからな。流石にそんなお金を両親に出させるわけにはいかないので、一般の検査を今もなお受けているわけだ。

 現状は何の成果も得られてない。

 

「まず、前回のレントゲンと今回のレントゲンを見てほしい」

 

 どうやら今回も何かしらの変化はあったようだ。

 医者が見せるレントゲンは、俺が個性を使用した状態の全身レントゲンである。

 

「まず骨密度が変わっている、これは昔から見られた変化だね。しかし今回は腕が生えて……ココと、ココ。形が変わっている事に気が付かないかい?」

 

 芯を出していないボールペンで円を描くように腹部から胸部辺りまでと、喉から顎部分を指す。

 言われてみれば骨格と言うか、骨を映している白い部分が変わっている気がする。

 これは細顔になったって事ですか?

 

「そんな美容整形みたいなことは起こってないよ。僕は変身型個性専門医だから、動物の姿になる個性は多く見てきた。今回の骨格の変化は、より大きく声を響かせるような骨に作り替わっているんだよ。だけど、私が注目しているのはそこではなく、変身した際の『骨の作りが変わっている』事なんだ」

 

 大きな黒縁メガネのズレを直すように人差し指で弾きながら話を進めていく。

 

「君の個性は変身型ではなく『複合型』と言う事だ」

 

 ……つまりどういうことだってばよ?

 

「脳たりんの君にも分かりやすいようにかみ砕いて説明しよう。今までの検査では、君の個性はよくわからない生物へ『変身』する個性と認識されていた。その過程の成長で体が大きくなったと思われていた。しかし、実際には違った。骨格の作りが変わったことにより、君の個性は『変身』する能力と『自分の体を作り替える』能力の二つが備わっていることが判明した。」

 

 マジ?それってつおい?

 俺のいまいちピンと来てない曖昧な返事に対し、正面に座っている専門医はメガネがずれるのもお構いなしに顔を近づけてくる。

 

「つおい?だと。強いに決まっているだろう!?個性というものは使えば使うほど強力になるものだ。ではその『進化という個性』はどうなる?進化という個性で自分のスタイルに合わせて最適化された体を作りながらも、作り替えれば変えていくほど君の個性はさらに強力になっていくんだぞ。まだまだ進化条件などに謎は残るが、どれだけの選択肢を備えた個性なのか理解できてるのか!?」

 

 ぺぺぺっぺー!唾飛び過ぎだって!落ち着けって!

 俺の言葉を聞くと「すまない、熱くなりすぎたようだ」と、あまりの興奮で額に浮かんでしまった汗を拭いながら、メガネのズレを丁寧に直す。

 ついでに、アンタの口から降った雨でしっとりした俺の顔も拭いてくれよ。

 

「とにかく、これからは何か個性に変化が出るたびに診断を受けに来るように!なんだったら今すぐに大学病院で事細かに、尻の皴の一本に至るまで観察させてもらっても……」

 

 おいバカやめろ、俺はそういうプレイは望んでない。なにより男に見られて興奮する性癖もない。

 

「もちろん、若い女性もいるぞ」

「マジぃ~?……っは!行きませんからね!?」

 

 危ない危ない、危うく篭絡されるところだった。なんて高度な駆け引きをしてくるんだ。

 

「全くもって高度ではなかったと思うけどね。なんにせよ、その個性は一過性の進化なのか、複数の姿へ枝分かれして変身できるようになるのかが今後の注目すべきところだね」

 

 専門医はカルテに何かを綴りながら言う。

 それって戦隊ヒーローで言うと、様々なフォームに変身できるって理解でいいですか?

 

「あくまでも可能性の話だよ?まだまだ個性には謎が多いからね。とりあえず、個性変更届はいったん保留だね。謎が多すぎるから報告書も作れそうにないし。また次の検査日を楽しみにしているよ」

 

 看護婦さんが退出しやすい様に扉を開けてくれる。

 

「個性変更届かぁ。ちなみに現状で俺の個性の名称に候補はあるんですか?」

 

 振り返りながら聞いた俺の質問に対し、黒縁メガネの担当医『藪 幸助(やぶ こうすけ)』はメガネを拭きながら答える。

 

「多くの可能性と多様性を持った個性だからね。潜在する能力(ポテンシャル)でどうだい?ひねりがなくていまいちだろうけど本決まりじゃないからね。軽く院内の人たちにアンケートでも取っておくよ」

 

 軽いノリで手をひらひらと揺らす。もう話すことはないから帰れってことだろう。

 潜在する能力……ねぇ。脳裏に海浜公園での出来事が思い浮かぶ。

 

 

『今、貴方の歪みを断ち切る力を―――』

 

 

 ま、何とかなるだろ。闇落ちとかしなければなんでもいいよ。

 俺は藪さんに一礼すると、今頃仲良くタコパの準備を行っているであろう皆へ診察が終わったとメールを送った。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「ワタシの切ったタコの方が断面が絶対に奇麗です!」

「僕の切ったタコは定規で測ったかのように均等に切れてるもんね!」

「「んぎぎぎぎぎぎぎ!!」」

 

 帰宅してから目に入ってきたのは、キッチンでピンク色のフリルのついたエプロンをつけてるトガちゃんと、シンプルな緑色のエプロンをつけた緑谷が……仲良さそうではない感じでエキサイトしている。

 

 一方、摩花と愛美さんはタコ焼き機を出したり、食器やコップを並べたりと和やかに動いている。いや、摩花は横目で二人のやり取りを笑いを堪えながら見てるな。

 

「あっ!凌空君お帰りなさい!!」

 

 俺が帰宅した事に皆が気付くと、一番先にトガちゃんが両手を広げて向かってくる。……包丁を持ったままで。

 信頼してるけど包丁は置いてから来なさい!ホント危ないから!

 しかし、ビビりながらも受け入れる態勢に入った俺の元までトガちゃんがたどり着く事はなかった。

 

「普通に考えて包丁持ったままで向かっていくとか危ないよね。何考えてるの?」

「……ワタシを止める時には包丁は持ったままでいいんですね」

「あぁ、僕としたことが。うっかりしてたよ」

 

 緑谷が左手で包丁を持ったままのトガちゃんの右手を掴んで制止する。しかし、その緑谷の右手には包丁が握られている。昼ドラかな?

 

「二人とも包丁は置きなさい。今日は雄英高校合格のお祝いなんだから仲良くしなきゃダメよ」

 

 愛美さんが俺のコートと鞄を自然な流れで受け取り、そのまま壁にかける。

 その様子を見た摩花が「まるで夫婦のような自然なやり取りだね」と茶化すと、愛美さんは顔を赤らめながら「もう!そんなこと言っても何も出ないわよ!」と両手で頬を押さえながら体をくねらせる。

 その様子を緑谷とトガちゃんは「うぐぐ」と声を出しながら見ている。その間も包丁は握ったまま。

 う~ん、平常運転ですね。……感覚がマヒしてきてるって?

 感覚マヒの一つや二つも仕方ないやろ(白目)

 

 

 

 

「それじゃあ、雄英高校合格を祝して……カンパーイ!!」

「「「かんぱーい!」」」

 

 俺の乾杯の音頭に合わせて全員のコップが触れ合い、心地よい音を鳴らす。

 今回は全員でタコ焼き機を囲めるように丸型のテーブルを用意した。ちゃんと座布団も用意してある。俺の右隣に座ってハフハフとたこ焼きを食べてる摩花のように、地べたに座らせるような事を俺はしないのだ。

 左隣に座っている愛美さんがたこ焼きをお皿に盛って渡してくれる。紅ショウガ付きで。

 俺は紅ショウガが好きだから大盛なのはありがたい。

 

「ふふっ、凌空さんが紅ショウガを好きなのは知ってるわ。たこ焼きのマヨネーズがからしマヨのほうが好みなことも……ね」

 

 そういいながらお手製であろうからしマヨの入った小鉢も一緒に渡してくれる。……俺が紅ショウガを好きな事も、からしマヨが好きな事も話した事がないのに何で知っているのだろうか。

 

「凌空君、食べさせてあげるのであ~んしてください」

 

 いつの間にやら隣の摩花を押しのけ、肩が触れ合う距離までトガちゃんが移動してきていた。え?摩花はどうしたって?

 あいつは弾き飛ばされて床に転がっている。ヤムチャしやがって……。あいつは何も悪くないんだが、しいて言うなら二人の視線を気にせず、俺の隣に座ってしまった不幸を呪うしかない。

 

 そんな余計な事を考えている間にも、グイグイと体を押し付けるようにトガちゃんの侵略が止まらない。とりあえず、一つたこ焼きを食べれば収まるかと思ったが……。

 

「ふふっ、素直に口を開けてくれる凌空君……カアイイです」

 

 どこかうっとりとした表情を見せながらも次のたこ焼きを準備している。どうやら俺が満腹になるまで続けるつもりらしい。しかし、こんな状況であいつが黙ってるわけもなく……。

 

「り、リード!ぼぼぼぼ僕もあ~んしてあげるよよよよよ!」

 

 顔を真っ赤にしながらもトガちゃんに負けないように体を押し付けてくる緑谷。手元プルップルですけど大丈夫?

 愛美さんは鼻歌を歌いながら元々緑谷の座っていた位置でたこ焼きをクルクルと回している。

 な、なんで譲ったんです!?

 

「雄英高校の合格祝い、主役は私じゃなくて貴方達よ?」

 

 大人の余裕を見せるように、出来上がったたこ焼きを大皿に移していき、型に生地を流し込んでいく。気づけば摩花も復活しており、正面に座りつつも「僕も主役なのに……なんで扱いが変わらないのさ」と膝を抱えながらもたこ焼きを食べていた。

 お前……落ち込んでるフリしてるけど、抱えてる膝の間からスマホのカメラで俺の困る様を録画してるの見えてるぞ。お前は本当にブレないな。

 

「ねぇ、無視しないでよ……」

 

 緑谷が俺の視界に入るために顔を寄せ、耳元で囁く。あー、これ知ってる知ってる。お前が小学校の時にマスターした技だよね。おかげで心拍数が爆上がりだよ。さらに自ずと体が密着するからどこがとは……ど・こ・が・とは言わないけど当たってるよね!もう、わりかしたわわな二つの膨らみが僕の腕を包み込まん勢いで形を変えるよね!うれしいね!(困っちゃうね!)

 

 一瞬、本音と建前が逆転した気もするが気にせず緑谷のたこ焼きも食べる。

 パアァと効果音が聞こえそうなくらいの明るい笑顔を見せたかと思うと、次の瞬間には見下ろすように斜めの角度で俺の隣を見る。まぁ、トガちゃんを見てるよね。

 俺、物凄い威圧感を感じて固まる事しかできないんだけど。

 

「あえて聞きませんでしたケド、地味緑谷(じみどりや)さんは何で凌空君にそこまで厚かましくできるんですか?」

「僕とリードは幼稚園から小学校卒業まで仲良くしてきてたからね。そういうトガささやかさんはリードとどういう関係なのかな?」

「……どこ見てささやかって言いました?」

 

 緑谷の目線が明らかにトガちゃんの胸部辺りで止まり「ハンッ」と鼻で笑う。

 見なくてもトガちゃんの怒りのボルテージが上がっていくのがわかる。その証拠に俺の腕を握る力が段々強くな……らないでぇ!!これいつものパターンだから!もうお約束みたいなやつだから!!

 

「ワタシは凌空君に抱きしめられて『これから先も一緒にいるからな』って告白されたことあります」

「は?」

 

 ギョエエエエェェェ!腕を雑巾絞りのようにネジるのやめえぇぇ!

 

「僕だってリードに告白したし、股に顔を埋めたことあるし!!」

「「ええええええええええええ!!?」」

「あっはっはっはっは!!!」

 

 トガちゃんと愛美さんの驚愕の叫びが二重奏を奏でる。珍獣の時だから!珍獣の時だから!!

 ってか摩花てめぇ爆笑してんじゃねぇよ!!

 

「アッタマきました!元々仲良くできないと思っていたんです!」

「それはこっちの台詞だよ!隙があればリードにベタベタして、この泥棒猫!」

「そっちが途中からしゃしゃり出てきたんです!」

「残念でしたー!出会ったのは僕の方が先だから本妻は僕です~」

 

 右も左もデッドヒート。諦めてたこ焼きを食べようとしても体が左右に揺さぶられるから口に入らない。何なら箸で鼻の穴突いたし。

 ってかやめて、左右に揺らさ……ゆら……ゆ……。

 

「はいはい、そこまでにしなさい。凌空さんの顔色真っ青よ」

 

 俺の背中に緑谷にも負けない二つの感触。後ろから俺を抱きしめるように愛美さんが仲裁に入ってくれる。

 

「「ご……ごめんなさい(です)」」

 

 さすがに俺の顔色を見て反省したのか、二人とも離れてくれる。ただし、目線での牽制は続いているので怒りの炎が鎮火したわけではなさそうだ。

 

「いやいや、凌空君と一緒にいると本当に楽しいよ。ムードメーカーでありながらトラブルメーカーでもある。退屈しないよ」

 

 今まで映像を録画する為に空気になっていた摩花がクックッと喉を鳴らす。

 まぁ、そうだな。俺自身も緑谷と幼稚園で出会って、ヴィランじゃないトガちゃんと中学生で仲良くなって、ラブラバである相場愛美さんを飛び降りから助けるなんて思ってもみなかったよ。あと、原作には出てこないオリキャラ扱いのお前が雄英高校に入学するのも驚きだ。

 

「雄英高校にも三人で……失礼、緑谷さんも含めると四人だね。なんにせよ全員が合格できたことだし、ここでヒーローになろうと思ったきっかけと、目指すヒーロー像を話すなんてどうだい?」

 

 えー、俺そういうの苦手なんですけど。

 しかし、緑谷とトガちゃんは乗り気のようだ。これが若さか。年取ったら顔から火が出るほど恥ずかしい思い出になってたり、一生それで弄られることもあるんだぞ。

 

「では、言い出しっぺの僕からだね!トガちゃんと凌空君には話したけれど、自宅で読んだ絵本の魔法使いがきっかけだったね。それを真似て個性を使って、姉にドレスを着せた姿を見せた。その時の姉さんの笑顔が僕のルーツさ」

 

 演説するかのように手を広げて話す姿はいつもと変わらない、どこかふざけている様な掴みどころのない摩花だ。

 

「僕の目指すヒーロー像は『人を笑顔にさせるヒーロー』。その為なら、どんな自分にだってなるし、どんな夢でも見せよう。泡沫の夢であってもね」

 

 こいつ普段はニコニコしすぎてて胡散臭いんだが、真面目な雰囲気出すだけで元々の素材の良さで空気作れるのずるくない?顔面偏差値で殴ってくるのやめーや。

 

「じゃ、次はトガさんね」

「えぇ、ワタシですか。摩花の次ってだけで嫌なんですけど……」

「いつもながら辛辣すぎやしないかい!?」

 

 コホン、と一つ咳払いをすると、目を瞑ったままゆっくりとトガちゃんが話し始める。

 

「正直、何がきっかけで憧れる出来事があったのかは詳しくは覚えてません。気付けば憧れてて、ワタシがワタシである為に絶対になるんだって思ってました。両親からは反対されてて、将来をどうしたいのか不安になる事もありました。でも、そんな時に一人の男の子が励ましてくれました」

 

 目を開けると、いつもの愛嬌のある笑顔で俺を見る。

 

「その人の隣でずっとい続ける為に、ワタシがワタシである為にヒーローを目指します」

 

 もう俺しか見てないじゃん。視界の端で緑谷がブスッとしながら「リードが浮気した」って言ってるけど、別にお前と付き合ってたわけじゃないからな?浮気ではないぞ。

 しかし、トガちゃんって憧れてるヒーローがいるみたいなこと言ってなかったか?

 

「それなら、よく考えたらそんなに好きじゃなかったです。でも、将来ヒーローになるだろうな~って人のファンですよ?」

「ヒーローに詳しくないけれど、私も同じかも」

「そうなってくると僕も同じだね!同じヒーローに憧れる……すばら―――」

「摩花は駄目です」

「なんでさ!!?」

 

 トガちゃんと愛美さんが熱視線を俺に送り、摩花も便乗しようとするがあっさりと弾かれる。

 和やかムードの中「じゃあ、次は緑谷さんです」とトガちゃんからバトンを渡される。

 さっきまでは恨めしそうと羨ましそうが半分半分のような表情だった緑谷がしどろもどろに狼狽える。ある程度はっきりとモノを言うようにはなったけど、人前に立つのは苦手なままなんだな。

 

「えっと、僕はオールマイトに憧れてて……小さい時からずっとヒーローになるのが夢だったんだ。あんな風に人を笑顔で助けれるヒーローになるんだって」

 

 愛美さんも摩花も微笑ましい表情で見守っている。かくいう俺も保護者参観を見に来ている父親のような気持ちを感じている。(何処がとは言わないが)大きくなって……と言った心境だ。

 

「でも個性診断の時に僕は無個性って言われたんだ。それから数日は本当に何もする気が起きなくて、オールマイトの動画を見ても胸が熱くならなくて……それとは別に目元が熱くなっちゃう始末で……。歳を重ねていったら、きっとヒーローになるって夢も忘れてたと思う。……忘れたつもりだろうけどね」

 

 昔のショックを思い出してか、声が震え、鼻頭がほんのり赤く染まっていく。

 しかし、俯き気味だった顔を上げ、真っ直ぐに俺を見据えると、涙目でありながらも笑顔で続きを話していく。

 

「そんな僕の所に珍獣の見た目をしたヒーローが舞い降りた。……いや、舞い降りたというよりも落ちてきた、かな?その珍獣は無個性だって打ち明けた僕に言った『無個性でヒーロー?無理だな』って」

 

 緑谷以外からの刺さるような視線が俺に向けられる。

 そんな言い方してないです!……いや、無理だなって言ったのは確かですけど!

 

「でも、続けて言ってくれた『諦めて何もしないのか?笑って前を向け』って」

 

 自分の胸に手を置く。色々な感情が溢れてしまいそうな胸の内を確かめるように、ゆっくりと手を握りこんでいく。

 

「僕はずっと彼の言葉に助けられてきた。これからも助けられるんだと思う。でも、僕が目指すのはオールマイトのような『笑顔で人を救えるヒーロー』だ!そして、名実ともに有名になって、その人が逃げれないように大々的に結婚の宣言をするんだ!」

 

 う~ん、最後に何か変なのが混じらなかったか?そんなに鼻息荒く俺の方を見られても俺は了承しないよ?国外まで逃げる事も視野に入れるからね?

 

「絶対に逃がさないからね」

「ヒェ」

 

 いい話だと思って聞いていたら壮大な計画の一端を聞いてしまった。

 トガちゃんも「なるほどその手が……」って思案してるみたいだけどやめようね!お互いの気持ちを尊重しましょう!主に俺の気持ちにも重点をおいてもらって……。

 

「じゃ、次はリードの番ね」

「この流れで言いたくねーんだけど」

 

 しかも俺の番になった瞬間に摩花が「ほらほら、もっと広い所に立って!」とか言いながらわざわざ立たせてきた。

 俺の前には緑谷、摩花、トガちゃん、愛美さんが一列になって座っている。

 何とも言えない沈黙が辺りを包み、俺自身も心なしか緊張してきた。

 

 改めて皆の顔を見て思い出した事は、ここが僕のヒーローアカデミアの世界だという事。

 ここには俺を叱る口うるさい上司も、仕事を押し付ける同僚も、陰口を言う後輩も、俺を虐めていた同級生も、見て見ぬふりをした教師も、全員いない。新しい世界だ。

 その新しい世界で俺はこんなにも大切な人達を得る事が出来た。

 

「あ~、何と言うか……別に何かに憧れてるとかはなくてだな。むしろヒーローには疎い俺がヒーロー目指すなんて、人によったら馬鹿にされるかもしれないんだけど……」

 

 こんなはっきりしない俺の話も茶々を入れず、真剣に聞いている。

 最初は原作に関わる気なんてなかった。でも、緑谷と出会って、摩花やトガちゃんと会って、みんなが雄英を目指すって聞いて、これから起こる未来を知ってる俺だけが逃げるなんてしたくなかった。

 

「こんな俺でも誰かの力になれたり、成り行きで人を助けて……そのまま家事手伝いさんとして雇ってたり、本当によくわかんない出来事が起こってるとは思う。でも、これだけははっきりしてて、俺は皆と一緒に居たいって事で……」

 

 前世には居なかった、大切な人達を守りたいんだ。

 

「……まぁ、そういうことよ」

「凌空君テレてます!」

「リード、顔真っ赤だよ!」

「うるせえええぇぇぇぇ!!」

 

 恥ずかしさを隠すように摩花へフライングボディプレスをかますと「なんで僕ばっかり!!」と悲痛の叫び声をあげた。

 その上に覆いかぶさるようにトガちゃんと緑谷が続き、愛美さんがクスクスと笑っていた。

 

 

 雄英高校入学と言う、本当の原作のスタートラインが目前に迫っていた。

 

 

 



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始まるぜヒーローアカデミア!

 アニメや漫画のシーンで入学式に桜並木を歩いていくシーンを見ることがあるが、実際の桜のシーズンは三月の中頃の為、入学式の四月には散り始めている事の方が多いかもしれない。

 あるあるな出会いの演出で、桜並木を歩いていると唐突に強風が吹き、桜が舞い上がり、そこに立つメインヒロインに一目ぼれするなんて展開は誰しもが聞いたことあるのではないだろうか。

 ……何、シチュが古いって?こちとら転生してからの年数も合わせれば四十代になるんだから知識も古くて当たり前だ。

 

 そもそもなんでこんなことを考えてるのかというと、かろうじて二十代(当時)にして異世界転生を果たした俺が再び高校生活を送り、さらには転生先のヒロアカ世界でもエリートコースど真ん中の雄英高校に入学したなんていう奇跡からくる興奮が作用している可能性も否めなくはない。が、それ以上に大きな原因として……。

 

「みてよリード、雄英高校が見えてきたよ。何回見ても大きいよね!」

「凌空君と同じ学校に通えるだけでもシアワセです!」

 

 右手にトガちゃん、左手に緑谷。と、語呂がとあるカード名に似た感じになってしまっているが、桜以上に嬉しい両手に花を地でいっている状態にあるからだと思う。

 花より団子とはよく言ったものだと思う。……何がとは言わないが、団子よりは明らかに大きい。

 

「雄英高校の大きさや、俺と学校に通える喜びを全身全霊、有頂天外、喜色満面で表してくれるのはありがたいが……毎度の事ながら俺を捕獲するかの如く腕をとるのはやめていただけないんでしょうか?」

 

 俺の諦めにも似た訴えに対し、二人は声をそろえて答える。

 

「無理だね」

「無理です」

 

 知ってた。

 そんな様子を摩花は一歩後方の定位置から眺めている。自身の顔面偏差値をブーストするイケメン笑顔を貼付け、しかし、心底楽しんでいるように喉をくつくつと鳴らしながら見守っている。

 

「いい加減に観念したらどうだい?」

「何をいい加減にするのか、何を観念するのかについて俺は心当たりが無くてな」

 

 マジで言ってるわけでは無いが、始まった学校生活が一日目にして終了しかねないので俺は何も言わない。

 これが一番、正しいと思います。

 

「二人とも、まだまだ先は長そうだね」

「摩花うるさいです」

 

 トガちゃんの振り向き様の蹴りが摩花の脛にヒットする。

 笑顔のまま顔を青くし、声にならないうめき声を出しながらその場に蹲る。

 お前はそろそろ口は災いの元という言葉を覚えた方がいい。

 

 

 

 

 教員や在校生から奇異の目で見られながらも何とか1-Aの教室へ到着することができた。

 初日から遅刻するのは前世で経験済みの為、時間に余裕をもって出発したのは完全に正解だといえよう。ちなみに初日遅刻は学生時代ではなく、社会人での話だ。バチくそ怒られたのを覚えている。

 

 バリアフリーにしてもデカすぎな教室の扉を開け、目に入ってくるのは漫画で見たキャラクター達だ。

 刺さりそうな髪型の切島や「高校生の破壊力じゃねーぞ!」と叫びたくなるようなモノをお持ちの八百万。そして、机の上に両足を乗せたどう見ても素行不良ですありがとうございます!な爆豪もいた。

 この様子だと飯田君の説教はまだ始まっていないようだ。

 

 俺は拘束されていた両腕をやんわりと解き、自分の席に鞄を置こうと爆豪の横を通り過ぎる。そして椅子に座ったと同時に爆豪が俺の前に立っていた。

 おっ、喧嘩か?言わせてもらうが俺はかーなーりー弱いぞ?

 

「お前はデクの何なんだ?」

 

 両手をポケットへつっこみ、見下すような姿勢で話しかけてくる。

 なんなんだって言われてもなぁ……。

 

「まずは自己紹介だろ?俺は導凌空。緑谷とは……まぁ友達以上親友未満みたいな感じだ」

「えっ!恋人以上兄妹未満じゃないの!?」

 

 いつの間にか鞄を自分の席に置き終わった緑谷が俺の右後ろに立っていた。と言うか、どんな関係だよそれ。そもそも恋人でもないのに以上をつけるな。

 

「緑谷さんには荷が重いのでワタシが凌空君の恋人以上奥様以上になります!」

 

 緑谷をけん制するように俺の左後ろへとトガちゃんが移動する。

 奥様以上って何になるつもりだ。まさか二人で一つの超人バ○ム1か?今の子、絶対わかんねえよ。

 

「あー!何かで見た事があると思ったら、動画サイトで人気になってた飛び降りを助けた男の子!?」

 

 両耳たぶからイヤホンジャックを垂らした女子、耳郎響香が声を上げる。それと同時に教室のいたるところから声が上がる。

 切島鋭児郎や上鳴電気が席まで来て「あれお前だったのかよ!」と興奮気味に話せば、トガちゃんや緑谷には「ねぇねぇ、二人は導君とどういう関係なの?」と芦戸三奈と葉隠透に詰め寄られている。

 それとは少し離れた所からは「アイツ入学早々で女を二人はべらせてるとか○ね」と頭ポンデリングの峰田実が血の涙を流しながら俺を睨んでいた。すまんて。

 

「……そうか、お前がデク言ってた奴って事か」

 

 ぽつりと一言呟くと、爆豪は自分の席へと戻り、再び足を机の上に乗せた。

 そういえば摩花は何してるんだ?どうせ後方オタクの様に笑顔でこの状況を楽しんでいるんだろう。周りを見渡してみると、摩花は八百万と話をしている所だった。

 

「摩花さんも雄英高校に入学でしたのね」

「そういう百ちゃんは特待生枠だよね。流石の一言だよ」

 

 どうやら二人は面識があるらしい。まぁ、摩花はあんなんでも大企業の息子。八百万さんは会社は分からないけど金持ちって事は何かしらの社長の娘って事だろうし可笑しくもないだろう。

 

「君は机の上に足をのせて、雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳が無いとは思わないのか!?」

 

 おぉ!この流れは爆豪と飯田の初コンタクトか。やっと原作の流れをこの目で見る事が出来るんだな!

 

「ンだとコラ!偉そうに!」

 

 爆豪が椅子を倒しながら勢いよく立ち上がり、飯田へと詰め寄っていく。

 まってまって!原作そんなにエキサイトしてなかったよね!なんで教卓辺りでガンの飛ばし合いが勃発してるの!?ってか、飯田君も普通にそういうの受けて立ててしまうタイプなのね。

 

「まぁまぁ、学校生活初日からそんなにカリカリするなってぇ。カリカリするのは駄菓子の梅干しとベーコンって相場が決まってるわけだし」

 

 こんな状況をGTA(グレートティーチャー相澤)に見られでもしたらガチの初日除名があり得るので体を張って止めに行く。

 

「…すまない、初日と言う事で僕……俺も緊張していたようだ。私立聡明中学出身の飯田天哉だ」

「俺は導凌空。進行形で俺もこの状況に死ぬほど緊張してるけどな」

 

 何せ爆豪の息が届く距離でガンつけてきてるからな。角度によってはほっぺにチュウと思われても仕方ないぞ。

 まて、猛烈に嫌な予感が……ッ!

 

「かっちゃん!リードに何してるのおおおお!!!」

 

 今までキャイキャイと女の子で集まって話していた輪から、緑谷が抜け出したと思った瞬間には俺と爆豪を引き離すように肩を掴み、左右へと別ける。が、力が強すぎる!

 爆豪はぶっ飛ばされて壁へ、俺はそのまま教室の出入り口へ。その時、扉がガラリと開いた。

 

「お友達ごっブジュリュリュリュリュリュリュリュ!!」

「あっ」

 

 俺が尻もちを着いた瞬間、誰かの話声を遮る様に半固形物の何かが勢いよく押し出される的な音が聞こえた。

 隣に誰かが立ってる気配がするので見てみると、可愛らしい丸顔の女の子が口元を押さえて、この世の終わりのような表情で立っていた。視線は俺のお尻の後ろ位に固定されてる。

 あぁ、見たくない。絶対にろくでもない事になってる。俺は恐る恐る麗日が見ている先へと視線を向けた。

 

 見るも無残に顔面三秒メシ塗れになった寝袋ミノムシマンが横たわっていた。顔中ゼリー塗れに加え、口や鼻からも噴出されるほどの勢いだったようだ。

 しかし、ゼリーに越しでもわかる鋭い視線と目が合った瞬間、俺は天を仰いだ。

 

 

「導凌空の次回作にこうご期待ください……」



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