障害を持つ彼は異世界で何を見る (逢魔時王)
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オリ主紹介

オリ主のプロフィールです。

どうぞ。


 

 名前:木場タケル

 

 生年月日:2003年4月28日

 

 身長:160センチ

 

 体重:48キロ

 

 容姿:肩にかかる程度に長い黒髪で、前髪で少し目が隠れているが、

    顔立ちは至って普通

 

 好きなモノ・事:特撮・アニメ鑑賞、漫画、物作り

 

 嫌いなモノ・事:意味もなく人の趣味を馬鹿にする人間、足を引っ張

         る人間(自他問わず)、集中をかき乱す存在、

         騒がしい子供や小動物

         

 

 備考:元は関西に住んでいたが、小学校の頃両親が離婚し母に引き取

    られる。

    その後今の地に引っ越し、其処で近所付き合いの傍南雲ハジ

    メと出会い以降行動を共にする様になる。

    幼少期から独特の感性を持ちよく癇癪を起こすなどしていた

    が、その後自閉症が発覚。以来、母や事情を知る南雲一家の協

    力や、自制心の成長によってある程度改善される。

    尚、本人はあまり自覚がないが、自閉症の影響で関心のないモ

    ノにやる気が沸かないだけで、基本的なスペックは平均より

    上。

    身長が低い事を少し気にしているが、自分からネタにする事も

    ある。見た目の割に結構健啖家。

    また特別扱いを嫌い、学校側に障害の事は告知していない。

    なので、校内で自閉症を知っているのはハジメのみ。

    少々独特ながらも一般的な良識も持ち合わせており、己の障害

    に対しては周囲にはあまり問題無いように振る舞っている

    が……

    普段は人の視線を嫌い目立つ行動はしないが、感情が昂ると

    周りを気にする余裕がなくなり気にしなくなる。素面に戻る

    と、羞恥心が倍増する。

    時折り空気が読めない発言をする事があり本人も自覚している

    為、人の顔色を伺いすぎるきらいがある。

 

 生い立ち

 

0歳……関西の病院で生まれ、その地で暫く暮らす。

 

8歳(小学二年生)……父の浮気、父方の祖父母との不和により離婚。

          親権は母が取り、関西を離れ今の地に越してく

          る。

          越した先で隣人であった南雲一家と知り合い、

          親同士で意気投合。息子であるハジメとも知り

          合い行動を共にするようになる。

 

10歳(小学四年生)……周囲との認識の違いを感じた母によりカウン

           セリングを受けさせられ、【高機能自閉症】

           と診断される。

           事情を知った南雲一家の協力の下、改善させて

           いく。

 

13歳(中学一年生)……中学に上がり、この頃にはかなり改善される。

           その後、物作りに興味を示し、自ら技術を磨い

           ていく。

  

16歳(高校一年生)……ハジメと共に近場の高校に進学。     

           当初は波風もなく平穏な学校生活を送る。

 

17歳(高校二年生)……この頃からハジメをターゲットにしたイジメが

           見受けられる。自身も巻き添えの様な形で被害

           に遭わされる。




こんな感じですかね。

細かい性格などはまた随時本文内で書いていこうと思います。

ではでは、チャオ〜


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1話 障害を持つ彼は異世界に転移する

 記念すべき連載第1話です!

 それではどうぞ!


 ──月曜日──

 

 多くの学生がこの日から始まる一週間を憂鬱な気分で迎えるだろう。

 そしてここにも、そんな気分で学校へ足を運ぶ2人の少年がいた。

 

「滅びろ月曜日……」

 

「ちょ!?記念すべき初連載の初台詞でそんな物騒な事言わないでよ!?」

 

「そう言うてもまた一週間が始まるかと思うとテンション上げれへんし、取り敢えず月曜に毒吐いてストレス発散を……」

 

「とんだ八つ当たりだよ!やめてよ!この作品ただでさえ作者の実体験とかも載せる予定なのに!今からそんな暗い雰囲気でいたら読者が逃げるよ!」

 

「いやお前も初っ端からメタ発言のオンパレードやめぇや。」

 

 と、少々危な気な発言をしながらもツッコミを入れているのは『南雲(なぐも)ハジメ』。

 ゲーム会社を経営する父と、人気少女漫画家の母を両親に持つ少年。本人も両親の影響から漫画やゲームなどの創作物を好み、“趣味の合間に人生を”を座右の銘とする、所轄オタクである。

 そして道すがら物騒な発言をしている関西弁の少年こそ、この物語の主人公、『木場(きば)タケル』

 身長は160センチ程の小柄な体格で、ハジメ同様創作物……特に特撮等のヒーロー物が大好きな一見普通の少年だが──

 

「──そういえば」

 

「うん?」

 

「先週末、また病院行ったんだよね?」

 

「ああ……まあ、近況報告というか、簡単なカウンセリング程度やけどな。」

 

「……そっか。」

 

 ──カウンセリング

 

 普通に日常生活を送っている人からすれば然程縁のある言葉では無いが、タケルの場合は違う。彼には先天的な障害がある。

 

自閉症(じへいしょう)

 

 発達障害の一種であり、世間にも一定の認知度がある。その症状の一例として──

 

 1、言語障害や知能障害を持つ。

 

 2、コミュニケーション能力に難があり、相手の気持ちになって考えるのが不得手。

 

 3、興味の対象となる物が極端に狭く、それ以外の物への興味関心は希薄。

 

 4、常同行動や反復行動が目立ち、時折奇声を発したり自傷行為に及ぶ事もある。

 

 5、感覚過敏

 

 等、これら以外にも様々な症例があり、人によって個人差も存在する。

 中でも言語・知能障害が有るか否かで更に分けられ、それらの障害の見受けられない比較的症状の軽い状態は【高機能自閉症(こうきのうじへいしょう)】や【アスペルガー症候群】に分類され、社会に貢献している人材も少なくない。

 タケルはこの症例で日常生活は普通に送っており、学校も障害者学校ではなく普通の高校へ通っている。

 

「しっかしまあ、しゃあない事やけど毎度おんなじ受け答えばっかりでやる意味あるんかなぁっと思うわ……」

 

「まあ、学校では僕と喋るか部活やってるかしかしてないからね。」

 

「代わり映えのせえへん毎日やのう……」

 

「そういう割には刺激を求めてる感じじゃないよね?」

 

「まあ、無理に求める必要もないしな。それよりも、昨日の日アサ見たか?」

 

「うん!怒濤の展開だったよねぇ。」

 

「ある程度は予想出来立てけど、まだまだ先は見えへんなぁ。んで、今後の考察なんやけど──」

 

 

 ◇

 

 

「──であるから!今後の展開としてh「ストップ!学校着いたからここまでにしよう?」いや!まだいける!きっと!多分!maybe !」

 

「現実逃避しないの……ほら、行くよ。」

 

「はあ、メンドクサ……」

 

 考察をしていた時とは裏腹に気怠そうに呟くタケル。そんな彼に微笑を溢しながらも内心共感しているハジメ。

 そして、2人の気持ちを代弁するかのように重たいドアを開ける。すると──

 

「よおキモオタ共!今日も仲良くオタク談議で登校か?どうせエロゲ の話でもしてたんだろwww」

 

「うわキメェwwwエロゲ とかマジで気色悪いわぁwww」

 

 入ってきた人物がわかるや否や、接近し何が面白いのか草生え散らかして笑っている。

 『檜山大介(ひやまだいすけ)』『斉藤良樹(さいとうよしき)』『近藤礼一(こんどうれいいち)』『中野信治(なかのしんじ)』この4人はよくハジメとタケルに絡んでくる。特に檜山はこのグループのリーダー格であり、率先して詰ってくる。他のクラスメイトも基本的に友好的な目を向ける者はいない。

 確かにハジメとタケルはオタクであるが、キモオタと称される見た目をしているわけではない。

 ハジメはイケメンとまではいかないが整った顔立ちをしており、清潔にも気を遣っている。コミュ障というわけでもなく受け答えもハッキリしている。

 タケルは障害の事もあり、ハジメや家族以外には暗めな印象を与えるものの、少々ズボラながら不潔とまではいかないレベルの身だしなみをしている。

 そんな彼等が何故この様な目に遭っているのか……その要因は──

 

「南雲君、おはよう!今日も遅刻ギリギリだね。もっと早く来ようよ。あ、木場君もおはよう!」

 

 ──彼女だ。

 

白崎香織(しらさきかおり)』……タケル達の通う高校において二大女神と称される程の美少女である。

 容姿だけでなく、性格は責任感が強く面倒見がいい。周囲の人間からよく頼み事をされ、それを嫌な顔一つせずに引き受ける懐の深さをもつ。

 そんな彼女は何故か2人──否、正確にはハジメを良く構うのだ。 

 両親の仕事を手伝って居ることから徹夜になることがザラにあるハジメは授業中に居眠りが多い。そのためか周囲からは不真面目な生徒扱いされ、そんなハジメに対して香織がニコニコと屈託のない笑顔で話しかける様子に納得できない男子の嫉妬が生み出したのが今のこの状況だ。

 女子もまた香織に面倒を見てもらって尚、態度を改めないハジメ(ついでにタケル)に対して不快感を抱いている。

 

「あ、ああ、おはよう白崎さん。」

 

「……おはよう(俺はついでですかそうですか……)」

 

 と、2人が挨拶を返すと同時に、周囲から尋常ではないレベルの殺気が放出される。敢えて言葉を付けるなら「何お前ら如きが女神様と話してんだ?ああ!?」という感じである。

 正直ハジメからすれば何故彼女が自分をここまで構うのか謎であり、なんなら少し迷惑そうまである。彼女本人がハジメの置かれている状況を理解してないが故仕方ないのだが……

 タケルはオマケみたいな扱いに内心苦言を申しながらも一応挨拶はする。香織にとって最優先事項はハジメと話す事であり、それ以外は二の次なので、タケルの存在を認識するのが一拍遅れたのである。

 まあ、タケル自身香織のようなグイグイくるタイプの人間は苦手であり、殆どトバッチリのような形でこの状況に置かれているので、忘れられてた方が寧ろありがたいと言えば有難いのだが……

 尤も、小悪党程度は無視すれば済む話……彼等が問題視してるのは香織に次いで話しかけて来た面々。

 

「南雲君、木場君、おはよう。毎朝大変ね。」

 

「香織、また彼等に世話を焼いているのか?全く、香織は本当に優しいな。」

 

「全くだぜ。そんなやる気のない奴等には何言ったって無駄だと思うけどな。」

 

八重樫雫(やえがししずく)』……二大女神の内の1人である。身長172センチのモデル体型であり、キリッとした目や長い髪を纏めたポニーテール、実家の剣術道場で鍛えられた引き締まりながらも出るところはしっかり出ている抜群のプロポーションを持つクール系美少女。

 男子人気はさる事ながら女性人気も凄まじく、噂によれば『義妹(ソウルシスターズ)』なる物が後輩女子に複数人いるとかいないとか……

 

天之河光輝(あまのがわこうき)』……容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能というまさに完璧超人を絵に書いたような男子生徒。

 加えて小学校から雫の実家の道場に通っており、雫とは幼馴染であり、その雫の親友でありこちらも旧知の中の香織ともよく行動している為、可愛い女子が2人もそばに居るという天が二物も三物も与えたような人物である。

 それでも告白する女子は後を立たないのだが……

 

坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)』……190センチの大柄な体格と鋭いながらも陽気さのある目、鍛えられた体を持つ男子生徒。

 見た目や発言からもわかる通り“熱血・努力・根性”が大好きな如何にもな脳筋タイプである。

 そのため日ごろからやる気のなさそうなハジメやタケルは嫌いなタイプの様で、今も一瞥しただけでそっぽを向いている。

 

「おはよう、八重樫さん、天之河君、坂上君。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」

 

「はぁ、どうも……」

 

 ハジメが普通に、タケルが気怠げに挨拶すると、またもや周囲からは濃密な殺気が飛んでくる。

 もう勘弁してくれと言わんばかりに苦笑するハジメ。

 対してタケルはどこ吹く風。幼少期より障害から来る奇怪な行動で周りからの侮蔑的な視線は慣れているので、物理的被害がなければこの程度は気にならない。

 

「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君達に構ってばかりはいられないんだから。」

 

 そんな2人に光輝が忠告をする。光輝の目にも2人は香織に迷惑をかける不真面目な生徒として写っているようだ。

 

「あはは……(別に甘えてないんだけどなぁ……)

 

「……はぁ」

 

 そんな光輝の忠告を曖昧な笑みで受け流しながら心の中で反論するハジメとため息を吐くタケル。

 光輝は少々思い込みの激しい性格で反論すれば後の展開が面倒臭そうだったので、それ以上は両者口を噤む。

 

 だが「直せ」と言われても、ハジメは現在将来のために父母の現場でバイトをしており、専門的な技量もバッチリ備わっている。人生設計的には今の生活習慣を治す必要性が無い。

 タケルに関しては先も述べた通り、トバッチリなので直すもクソもない。歳を経る毎に幾分かマシにはなっているものの、いかんせん自閉症は未だ確実な治療法が見つかっておらず、足踏み状態なのも原因である。

 尤も、ハジメ以外の学校関係者に障害の事は言っていないので、周囲から見て良い印象を抱かれないのは本人も自覚しているが、クラスの状況的に態々いう必要性を感じていない。

 

「ごめんなさいね?2人とも悪気はないんだけど……」

 

 この場で最も人間関係を把握している雫が、こっそり謝罪してくる。それに対してハジメは苦笑しながら、タケルは心底面倒臭そうに肩を竦める。

 そうこうしていると始業のチャイムが鳴り、皆一斉に席に着く。ついでタケル達も席に着き、今日の授業が始まるのだった。

 

 

 ◇

 

 

「タケル、おかえり。お昼にしようか。」

 

「何や?待っとらんでも先食うとったら良かったのに……」

 

 時は流れて昼休み。学生達が各々持参した弁当や購買で買ってきたパンなどに舌鼓を打ちながら雑談する時間。

 野暮用で職員室まで出向いていたタケルが戻ると、まだ昼を取っていないと思われるハジメが出迎える。

 

「いやぁ、起きたら昼休みになってて……どうせ直ぐ済むから待ってようと思ってさ。」

 

「まあ、確かに盛大に寝とったなぁ。今日も今日とて。」

 

「あはは……」

 

 タケルの指摘に苦笑いで返すハジメ。そんなこんなで回りに少し遅れる形で昼食を取り始める両名。

 

 ──じゅるるる、きゅぽん!

 

「……毎度思うけど、お前ようそれで足りるよな?」

 

「そう?結構持つよ?僕に言わせればタケルの方こそ、体型の割にはよく食べるよね?」

 

「育ち盛りなもんで!」

 

「育ち盛り?…………ふっ。」

 

「張り倒すぞコラ。」

 

 午後のエネルギーを10秒でチャージしたハジメに対し、普通より少々多めの弁当を平らげながら疑問を投げかけるタケル。

 その問いに逆に問いを返すハジメに半分冗談で返すと、少しの沈黙のあと鼻で笑われたのでツッコミを入れる。

 小学校の頃から家も近所で一緒にいた者同士ならではの掛け合い……だがこの日は諸々の事情でいつもと違い教室でゆっくりしたのが災いしたのか、ニコニコと満面の笑みを浮かべて這い寄る悪魔……もとい女神がいた。

 

「南雲君珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな?あ、木場君も。」

 

 ハジメは内心「しまった」と呻いた。いつもならこんなことないのに……と後悔してみても時すでに遅し。

 先の香織の発言により、比較的平和だった空間に再び不穏な空気が立ち籠める。

 いや、もう本当になしてわっちに構うんですか? と意味不明な方言が思わず飛び出しそうになった。因みにまたも悪意なくついでのように扱われたタケルはとういうと……

 

「もぐもぐもぐもぐ!」

 

 喋りかけるなと言わんばかりの勢いで弁当を頬張っていた。我関せずの体制を貫くつもりらしいそれを見て、援軍は期待できないと察し1人で抵抗を試みるハジメ。

 

「あ~、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河君達と食べたらどうかな?タケルもここで食べたいだろうし……」

 

 そう言い、しわくちゃの容器を見せながらタケルの分まで断りを入れる。それですらヘイトを買いそうだが致し方ない。

 

 しかし、女神様にはこの程度の抵抗は無意味のようだった。

 

「木場君、凄いねその量……どこに入るんだろう……って、南雲君はお昼それだけ!?駄目だよちゃんと食べなきゃ!私のお昼分けてあげるね?」

 

(もう……ホント勘弁してください……)

 

(ここまで来たら逆にスゴ……くないな、すまん。)

 

 抵抗する気力も潰えたのか項垂れるハジメ。完全に傍観者としてみていたタケルも内心呆れていると、そこに寄ってくる影が3種……光輝達だ。

 

「香織、こっちで一緒に食べよう。南雲も木場ももうお腹が一杯のようだし、折角の香織の手料理を無理にねじ込む……なんて無作法な事、俺が許さないよ?」

 

 光輝の“イケメンスマイル”攻撃!

 

「え?なんで光輝君の許しがいるの?」

 

 しかし香織には効果がなかった!

 

 少々天然の入った香織の素の返しに思わず「ブフッ!」と吹き出す雫。 

 場になんともいえない空気が漂い、ハジメなぞは(もういっそこの人たち異世界に召喚でもされないかな~……)と、現実逃避を始めていた。

 そんな空気にいたたまれなくなったのか、光輝は今まさに昼食を食べ終えたタケルに矛先を向ける。

 

「木場!」

 

「……なんやねん。」

 

 面倒くさいという感情を滲ませながらも返答するタケル。

 

「お前また提出物が遅れたらしいな!教科担任の先生が困っていたぞ!少しは期日通り仕上げれるよう努力したらどうなんだ!」

 

「……ああ」

 

 「期日通りに提出する」……至って正論であり、人として普通のことだ。だが、自閉症患者にとって()()()()()()()()()()というのは簡単なことではない。

 期日を守るにしても、自閉症患者に多い症例として「スケジュール上手く組めない」「期限を守るという言葉に縛られ、その通りに動かされる事に苦痛を覚える」などがある。タケルもその気があり、小・中学校の頃は課題を忘れるなどは日常茶飯事だった。

 それに比べれば現在は殆どの課題は遅れずに出しているのだが……

 

「他の教科の課題はギリギリでも遅れずに出すのに、どうして美術はいつも提出が遅れるんだ!」

 

 そう、美術ばかりはそうはいかない。

 タケルは幼少期から物作りや絵、書道などには「たとえ遅れてでも納得のいく作品を提出する、できなければ絶対に提出しない」という並々ならぬ拘りがある。実際中学の頃、書道の授業で最後に一番気に入った作品を先生に提出するという事だったのだが、何枚書いても納得のいく書が書けず「書いた内から選んで」と言われても頑なに提出しなかった。

 それ程までの拘りを持つタケルにとって、期日を守るためとはいえ半端な作品を出すという事は、内申が下がる事より余程キツイ事だった。

 これもまた自閉症の症例であり、この興味・関心への拘りを貫いて大成した人物も多く居り、事実タケルも小学校の頃から何度か書道で賞をとっており結果も出ている。

 タケル自身障害を言い訳にはせず、極力自力でどうにかしようと試みてはいるものの、やはりどうしても其処の拘りは捨てられないようだ。

 

「……遅れる事を問題視してへんわけやない……けど、半端な作品出すのは絶対嫌なんや。妥協した作品なんか出したってええ事なんかない。俺にとって内申が下がる事よりも、その拘りを捨てへんことの方が大事やねん。」

 

 其処にあるのは明確な意志。普段自己主張をしないタケルだが、譲れない部分に関して指摘されればしっかりと主張する。

 それでも今まで見せたことのない、クラスの中心人物たる光輝に面と向かって反論するタケルの姿に周囲は呆気に取られている。

 ハジメはそんなタケルの姿に優しい笑みを浮かべ、普段のタケルの態度に良い感情を抱いていない龍太郎も、その姿には内心感心していた。

 光輝はタケルの威勢に一瞬気圧されたものの、すぐに持ち直しさらに反論する。

 

「そんなのただの言い訳だ!提出期限を守れないというのは、君の将来のためにもならないんだぞ!」

 

 正論である。なので、それに対してタケルは反論しない。障害を言い訳にするのは簡単だが、タケルのプライドがそれを許さなかった。

 そして、ヒートアップした光輝はさらに続ける。

 

「いつも南雲と一緒になってヘラヘラと、そんなだから()()()()()()()()()ができないんだ!少しは物事を深く考えろ!普通のこともできないような奴──

 

 

──人として失格だ!」

 

 

「──っ!」

 

 その言葉に僅かながらタケルの顔が歪む。

 タケルの事情を知らないとはいえ光輝の言葉はの一介の学生としてはさすがに過ぎた発言であり、これにはハジメも怒って反論しようと、雫や香織、そして偶々教室で生徒と談笑していた社会科の教科担任である畑山愛子(はたやまあいこ)も、これ以上ヒートアップする前に止めようと近づいた次の瞬間!

 

「な!?」

 

 光輝の足下を中心とし円状に広がる、魔方陣らしきモノが現れたのだ。

 その魔方陣は徐々に広がりやがて教室全体を包み込む。

 愛子先生が「皆!教室から出て!」と叫ぶも時すでに遅く、眩い光が教室に居た面々を覆う。

 

 

 

 しばしの間が開き、光が薄れると──

 

 

 

 

 

 ──そこには教室の備品だけが残り、確かにいたであろう人間達は忽然と姿を消していた。




如何でしたか?いやはやリアル忙しいもんで1話書くのに大分かかっちゃいました(笑)

さて、今まで読み専だった私がついに筆をとって書いた初連載。正直不安で一杯です・・・

それでも頑張っていきたいと思うので感想など頂ければ幸いです。あとアドバイスなんかも頂ければ・・・

それではまた次回、チャオ~


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2話 障害を持つ彼は狂信者の話を聞く

まだ人物紹介と1話しか投稿していないのに……お気に入りが20件!?多いのか少ないのか普通なのか……

 兎に角!お気に入りして頂いた方や感想を書いて下さった方の応援に応えるべく!これからも精進します!

 それでは第2話、Ready GO!(金尾ボイス)


 光が収まり、残像を振り払うと辺りを見渡してみる。 

 まず目に入ったのは巨大な壁画だった。神々しい迄の金髪をたなびかせた人物と、それを取り囲むように草木や動物が描かれている。

 まるで金髪の人物を崇拝するかのような絵は、目を見張るほど美しいはずなのに、どこか薄ら寒さを感じた。

 

「タケル!」

 

 ふと呼ばれて壁画から目を離し振り返ると、ハジメが目前まで迫っていた。どうやらタケルの安否を確認しに来たようだ。

 周囲を見ればクラスメイト達や愛子先生もおり、皆困惑しているようだ。

 

「これは……あん時教室におった人間が全員おるっちゅうことか?」

 

「みたいだね。それにしても、ここは一体……それにこの絵も……なんか、ちょっと怖いね。」

 

 どうやらハジメもタケルと同じ感想を壁画に抱いたらしい。タケルも同意する。

 

「まあそこら辺の話は、今俺らを取り囲んどる此奴らがしてくれるやろうなぁ。」

 

 見れば、自分含むクラスメイト達を取り囲む複数の人影があった。

 皆自分達に対し祈るように跪き頭を垂れているというどこか不気味な光景。

 全員が同じ白地と金の刺繍の入った服を着ており、その中から、ひときわ豪華で煌びやかな装いの老人が前に出てこう言った。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ。」

 

 落ち着いた声に優しげな表情を浮かべ自己紹介を始めるイシュタルと名乗る老人。

 だがタケルとハジメには、その笑顔にはどこか裏があるように思えてならなかった。

 

 

 

 

 その後、一行は1つの部屋に案内された。おそらく晩餐会等でも開くのであろう煌びやかな装飾が至る所に施されており、10メートルはあろうかという机が数台並べられていた。

 タケル達は其処に座らされ、話を聴く態勢を作る。

 尚、困惑していた生徒達は光輝の鶴の一声で押し黙った。そのカリスマには本職教師も涙目である。

 そんな光輝達は上座に近い席に座っており、それに続くように仲の良いモノ達が並んで座る。タケルとハジメは最後尾の席に腰を下ろすと、示し合わせたかのようにメイドがカートを押してやってくる。

 

 そう、メイドだ。

 肥えたオバサンではなく総じてレベルの高い綺麗な生メイドに、一瞬にして男子達の目が奪われてしまう。そして、そんな欲望に忠実な男子を女子達は一撃必殺の絶対零度並みの形相で見る。

 ハジメも例に漏れず凝視してしまうが、突如寒気を感じ前を見ると……笑顔なのに全く目が笑っていない香織が目に入り、思わず「ヒェッ……」と声を漏らす。 

 タケルはというと、自身のそばに来た爆乳メイドをガン無視し、腕を胸の前で組んだ状態で目を伏せる。やはりこう言った類いには興味を示さないのか──

 

 

 ──と思いきや、去り際にチラッとその揺れる双丘を目に焼き付ける。障害者であれど男子高校生……エロの前ではやはり無力のようだ。

 

 そんなこんなで、男子の形見が少々狭くなった後、イシュタルが口を開く。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され。」

 

 そう言い、一行が呼ばれた事に対する説明を始める。要約すると──

 

1、トータスには人間族・魔人族・亜人族の3つの種族がおり、亜人族は人間族の愛玩道具……いわゆる奴隷として愛でられ、人間族と魔人族は古の時代から争いを繰り返している。

 

2、力で魔人族に劣る分数で勝負していたが、魔族が魔物を使役し始めたことで数の優勢がくずれる。

 

3、力で劣る人間族は徐々に押され始める。

 

4、一計を案じたイシュタル達が祈りを捧げると、エヒト神から神託がもたらされる。ざっくり言うと「異世界から勇者を召喚し、力をつけさせよ。」とのこと。

 

5、その言葉通り、地球から勇者とその一行を召喚し今に至る。

 

 ──ということらしい。

 

 この話を聞いたタケルはというと……

 

(死ぬほどどうでもいい……)

 

 ものすごく淡泊だった。元々他者への関心の薄いタケルにとって、この世界の事情など知ったことではないらしい。

 そんなタケルの思考を知ってか知らずか、イシュタルは続ける。

 

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい。」

 

 イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。

 イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。

 

「うわぁ……ジジイの頬染め顔とか誰徳やねん……キモチワルッ!」

 

「シッ!聞こえるよ!……まあ、概ね同感だけど。それより、どう思う?」

 

「どうって?」

 

「イシュタルさんの事、怪しくない?」

 

「……まあ、定石通り行くなら……疑ってかかった方が良いやろな。」

 

「……だね。」

 

 ハジメはエヒト神という不確かな存在を疑いもなく信じるイシュタルに警戒を強める。

 タケルはハジメほど感じ取れたわけではないが、普段そういう類いの作品を読んだりしている事もあり、最悪のパターンを想定する。

 自閉症の特徴として「人の言葉の裏に隠された意味を理解できず、皮肉を字面通りに受け取りやすい」というのは以前例に挙げたが、タケルも例に漏れずその傾向にある。

 小学校の頃などはあからさまな皮肉を字面通りに受け取りあまつさえお礼まで言ったそうだ。

 現在はさすがにそこまでではないが、それでもそういう面は残っており、そこは洞察力の高いハジメがカバーしてくれている。本人もなるべく警戒するようにしているが、ちょうど良い塩梅が分からず警戒し過ぎて疑心暗鬼に陥る事があるため、ハジメのサポートは心から助かっていると言える。

 そうして2人が周囲に聞こえない程度に話し合いをしていると、バンッ!!と勢いよく机をたたいて立ち上がる人がいた。

 

 愛子先生だ。

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 イシュタルの提案を真っ向から拒絶する愛子先生。大人として、教師として未来在る若者を守ろうと奮闘しているようだが悲しいかな……身長150センチ程の小さな体に加え顔立ちも幼く、生徒達からは「愛ちゃん先生」と呼ばれ親しまれ(遊ばれ?)ている彼女が怒っても、むしろ微笑ましい光景にしか映らず、生徒達もどこか和んでいる様子。

 もっともタケルは「無意味なことを……」と、何処ぞのゲーム会社の社長の様な口調で冷めた反応をしており、ハジメも次にイシュタルから出るであろう言葉を予見し和むどころではないのだが……

 そしてその予見通り、イシュタルから最悪の展開を助長する言葉が発せられ、生徒達は再び戦慄する。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です。」

 

 空間が時を刻むのを忘れてかのような静寂が訪れる。重苦しい空気の中愛子が再び疑問を投げかける。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

 そんな当然の疑問に、イシュタルは顔色一つ変えずに返す。

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

 

「そ、そんな……」

 

 そう言い脱力した様子でヨロヨロと椅子に腰を落とす愛子。

 それを見てようやく自分たちのおかれた現状を理解したのか、途端にざわつく生徒達。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

 

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

 

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

 

「なんで、なんで、なんで……」

 

 もはや阿鼻叫喚のパニック状態だ。だが無理もない……突如一方的に知らない世界に召喚されたと思えば帰れないと告げられたのだから。

 ハジメとタケルはこの展開を予想していたとはいえ、やはり現実を突きつけられれば多少くるものがある。タケルに至っては、これから自分たちがしなければいけない事を想像して先程から動悸が収まらず、顔色も悪い。

 そんな状況を打開しようとしたのか、光輝が勢いよく告げる。

 

「皆落ち着け!ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい。」

 

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします。」

 

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな。」

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

 そう高らかと告げる。爽やかかつ勇ましく宣言するその姿に生徒達は落ち着きを取り戻す。愛子は「えぇ!?」と驚愕していたが……

 

 次いで光輝の幼なじみ達も名乗りを上げる。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

 

「龍太郎……」

 

「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ。」

 

「雫……」

 

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

 

「香織……」

 

 熱血らしく友の呼び声に賛同する龍太郎、納得はしないが現状他に方法がないからと仕方なさそうに了承する雫、親友がやるならと不安に顔を曇らせながらも続く香織、思惑は違えどクラスの中心たる面子が参加を表明した事により、次々と賛同し始める生徒達。

 

「……最悪だ。」

 

「自称天才物理学者の真似して機上に振る舞おうとしてるとこ悪いけど、顔色悪いよ?大丈夫?」

 

「……とりあえず、あのキラキラネーム一回どついて良い?」

 

「ややこしくなるからやめて。」

 

「へい……で、どうする?」

 

「……今は下手に反対しない方が良いと思う。この世界の情報が皆無な上に、もし身一つで放り出されたら……」

 

「ああ……人生終了の未来が見えるな。はぁ……死ぬほどめんどくさいけど、やるしかないか。」

 

「うん……」

 

 そう2人が話している間も、クラスの皆はヒートアップしている。愛子が涙目で必死に止めようとしてるが聞く者はいない。

 その様子を満足げに見るイシュタル……だがハジメはタケルの心配をしながらも見逃さなかった。

 生徒達がパニックになっているとき、まるで何故エヒト神に選ばれているというのに嘆いているのか……とでもいうような侮蔑的な視線、そして光輝の宣言を聞いたときの──いい人形を見つけたような不気味な笑顔を……

 その事をタケルにも伝え、2人はイシュタルへの不信感を最大まで上げた上で今後の身の振り方を思案するのであった。




 如何でしたでしょうか?

 まだまだ感覚が掴めない今日この頃……

 ところで、とある方の感想にも書いたのですが、実は私自身自閉症を持っており……それが判明したエピソードにこんな物があります。

-ー貴方は薄汚れてボロボロの服を着ています。そこへ1人の人物がやって来て君の服を見てこう言いました。
 
「それ、とっても良い服だね。」

--さて、貴方はこの言葉にどう言う感情を抱きますか?

 そんな質問をされました。普通なら上記の台詞は完全に嫌味です。言葉尻に草生やしてるレベルです。
 ですが、当時の私はこう答えたそうです。

--嬉しい。

 それを母から聞いて、正直ゾッとしました。そんな嫌味すら私は字面通りに受け取っていたのか……と。
 今では流石にそこまで露骨なのはわかるようになりましたが……それでも含みのある言い方をされるとわからない事はザラにあります。警戒はするようにしているのですが、やはり良い塩梅がわからない為疑心暗鬼になりそうです……
 その点、タケルにはハジメという支えがいるのでまだ大丈夫ですがね。
 それでは、皆さんもどうかご注意の程を……

 また次回、チャオ〜


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3話 障害を持つ彼は自信の能力をどう見るのか

 文字稼ぎはまずいというご意見をいただきましたので、オリ主紹介の内容を書き足しました。

 正直これで良いのかわかりませんが是非ご覧ください。

 お気に入りも感想ももらえているのですが、いまいち伸び悩んでいるのでは……作者の技量が足りないのか……はたまた障害というテーマが受け入れ難いのか……これからもっと精進せねばと思う次第です!

 さあ……第3話!ついにタケルの天職が明かされます!

 それでは皆さん、Are you  Ready?

 Ready Go!
  


 

 戦争参加を表明した後、一行は教会の正門前にいた。巨大な門を通れば、目の前には雲海が広がっていた。

 イシュタルによれば、この聖教教会の本山があるのは【神山】と呼ばれる高山の頂上であり、今から麓にある【ハイリヒ王国】へ向かう為下山するのだと言う。

 ハイリヒ王国は、エヒト神の眷族たるシャルム・バーンと呼ばれる人物が建国した王国であり教会とも密接な関係にあるため、既にこちらの事情を把握し受け入れ体制も整っているのだそう。

 曰く、そこで訓練をして戦いに備えるとの事。確かに現状タケル達には知識も力もない。エヒト神の加護があると言っても自分の力を把握せずにいきなり実践など、愚作でしかないのは火を見るより明らかだ。

 

(にしても……まさかここから麓まで歩いて下山するとか言わんよな?)

 

 と、タケルが嫌な想像をしていると……

 

「勇者様方、どうぞこちらへ。」

 

 そう言い柵に囲まれた円形の台座に乗るように促すイシュタル。巨大な魔方陣の描かれたそれに対し、生徒達は興味津々の者や戦々恐々とする者など様々な反応を示しながらも言われた通りに台座に乗る。

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん──“天道”」

 

 全員が乗り込んだのを確認したイシュタルがそう唱えると、魔方陣が燦然と輝き台座が動き出す。そしてそのまま滑らかに淀みなく、まるでそこに見えない道でもあるのかというように山を下っていく。

 

「はぁ……流石は異世界。ってとこか?」

 

「うん。多分だけどこんな高所にいるのに誰も体調を崩してないのも……」

 

「結界かなんかを展開してるって訳か……」

 

 そう2人が分析している間も、台座はグングンと下っていき雲海へと突入する。

 他の生徒達は初めて見る魔法に大はしゃぎしていおり、不安そうな顔をしていた者も、これにはそんな感情を忘れて見入っていた。

 雲海を抜け下を見れば、まず目に入るのは巨大な城。そしてそこから放射状に、所謂城下町が広がっていた。そのまま台座は王宮に隣接するように建ってある高い塔へと降りていく。

 

「下にいる人たちからしたら、僕たちってどう映ってるだろうね?」

 

「……まあ、文字通りの“神の使徒”……かねぇ?チッ……なんや気に食わんのぉ。」

 

 その言い分に口には出さないがハジメも同意する。恐らくここまではイシュタル……ひいてはエヒト神の思惑通りであろう。そしてまるで操られているようでありながらも、今はそれに従うしかない歯痒さに鬱屈とした気分になる両名。

 

「正直半信半疑だった。けどこんなモノまで目の当たりにしたら、エヒト神が実際にいるってのも十二分にあり得る話だ。……嫌でも思い知らされるよ。僕たちが無事に帰れるかの是非は……神の意志一つなんだって事が……」

 

 その言葉を聞き、再び表情が険しく歪むタケル。

 

「それでも、今はやれることをやるしかない。」

 

 続くハジメの言葉に、険しい表情のままうなずくタケル。未だ動悸の続く心臓を黙らせるように拳を握りしめ気合いを入れ直す。

 

 

 

 

 塔から王宮へと続く空中回廊を渡ると、教会に勝るとも劣らない煌びやかな空間が広がっていた。

 一行は国王の待つ玉座の間へと案内される。道中メイドや使用人などが期待や尊敬などが入り交じった眼差しを向けてきて、生徒体もすっかり有頂天になっていた。

 もっともハジメやタケルを含む一部生徒は居心地が悪そうにしていたが……

 

 玉座の間に続くであろう絢爛な扉の前に着くと、両サイドに控えていた門兵が大声で来訪を告げる。イシュタルは中の返事を待たずに扉を開け、一同は目の前の光景に驚愕する。

 室内には初老の男女と、自分たちよりも幾らか年若いであろう少年少女がいた。皆豪華な装いをし、男性は冠をかぶっている事からも分るように、現ハイリヒ国王その人だろう。その側で付き従うよう寄り添っているが王妃、少女たちは王女と王子であることは想像に難くなかった。背格好から考えるに、姉弟であろう。

 

 だが問題はそこじゃない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 呆然と佇む一行をよそに、国王はイシュタルへと歩み寄り差し出された手にそっとキスをする。

 

「うへぇ……おっさん同士のキスとかまじで誰徳やねん……キモすぎて涙出てきた……」

 

「ちょっ、抑えて抑えて!」

 

「……ていうか、立場的には教会のが上なんかい。」

 

「図に表すと[エヒト神>教会>王宮]って感じなんだろうね。」

 

 そうこうしている間に話は終わったようで、その後はあれよあれよという内に勇者様一行の召喚成功と戦争参加容認の祝儀と銘打たれた晩餐会が開かれた。

 その席で王子であるランデル殿下が香織に一目惚れをし執拗に迫っていたところ、光輝が止めに入り一悶着起こりかけたが最後は姉であるリリアーナ王女に窘められて退散するという一幕があった。だが、タケルはこれからの事を考え食事も喉を通らず終始上の空で、周りの喧噪も耳に入ってはこなかった。

 食事後各自与えられた部屋に案内される。

 

(衣食住は充実して待遇も良い。端から見れば天国やろうけど……やっぱり戦争って事は、つまり()()()()()もせなアカンやろうし……はあ、どうなるんやろ……)

 

 そんな不安を抱え明日からの訓練の事を考えながらも、激動の一日を過ごした反動からかすぐに深い眠りへと誘われる。

 

 こうして、タケル達の異世界転移一日目の夜は更けていった。

 

 

 

 

「お前たちが神の使途、勇者一行か!俺はこの国の騎士団長メルド・ロギンスだ!よろしくな!」

 

 翌日、早速訓練をする為に集められた生徒達。そこで待っていたのハイリヒ王国騎士団団長のメルド・ロギンスだった。団長というだけあって威厳を感じさせる佇まいであるが、物腰はフランクであり豪快に笑って自己紹介をする。曰く、

 

「これから戦友になろうって奴らに、堅苦しい挨拶など必要ない!」

 

 とのことらしい。

 

 タケルは正直どうでも良かったが、変に気を遣われるよりはマシかと考え肯定的に受け取った。

 

「さて、まずは皆手元のプレートを見てくれ。」

 

 そう言われ、事前に配布されていた12センチ×7センチ位の銀色のプレートに目を落とす。

 

「それはステータスプレートと言ってな。今は何も書かれていないだろうが、これに自分の血を垂らすと数値が浮かび上がる。それが現時点での自分のステータスだ。そしてこれはこの世界においてもっとも安全な身分証明書にもなる。迷子になってもこれがあれば安全だぞ?」

 

 そう冗談めかして言うと、1人1人に梁を渡す。

 

「プレートに魔方陣が描かれているだろう?其処に血を垂らしてくれ。それで所有者の登録が完了する。次に「ステータスオープン」と言えば、ステータスが開示されるはずだ。だがまあ質問は許してほしい。なんせ神代のアーティファクトの類いだ。俺にもどういう原理かは皆目見当もつかん。」

「アーティファクト?」

 

 アーティファクトという聞き慣れない単語に光輝が質問をする。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな。」

 

 その話に納得したように頷き、恐る恐るといった面持ちで針を指に刺す生徒達。

 タケルもそれに続くように針を刺し血を垂らす。すると──

 

===============================

木場タケル 17歳 男 レベル:1

天職:創作者

筋力:20

体力:15

耐性:30

敏捷:40

魔力:40

魔耐:30

技能:思考具現化・火属性適性・雷属性適性・複合魔法・属性耐性・気配感知・言語理解

===============================

 

 ──表示された。

 

(“創作者”?)

 

 タケルは見慣れない単語に疑問符を浮かべる。

 他の生徒も開示された情報にいまいちピンときていないのか曖昧な表情をしているが、予想していたのかメルドから説明が入る。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない。」

 

 どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

 羨ましそうに告げるメルド。一報話を聞いていたタケルは……

 

(聞けば聞くほどゲームみたいやな……それにしても、“創作者”って何ぞや?字面的には何かを作りそうやけど……)

 

 昔プレイしたゲームの内容を思い浮かべながら、尚自身のステータスの概要が気になって仕方のない様子。

 

「次に“天職”ってのがあるだろう? それは言うなれば“才能”だ。末尾にある“技能”と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな。」

 

 その説明を聞き、概要こそ不透明であるモノの“才能がある”と言われて多少気分が上がるのを感じるタケル。

 そこで思い出したようにハジメの方を見ると、彼も同じ気持ちのようでほくそ笑んでいた。

 だが、次のメルドの言葉でハジメの顔が一気に凍り付く。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな!」

 

 そう言いガハガハ!と豪快に笑うメルドに対し、ダラダラと冷や汗をかいて顔面蒼白のハジメ。何事かとタケルが近づいて声をかける。

 

「お、おい……どないした?」

 

 するとハジメは、死んだ目でステータスプレートを差し出し見るよう促す。其処には──

 

===============================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・言語理解

===============================

 

 ──恐ろしい程にド平均なステータスが書かれていた。

 

「Oh……」

 

 これにはタケルも絶句しプレートを返す。

 

「……タケルはどうだったのさ?」

 

 そう問われ、自身のプレートを渡すタケル。

 

「ステータスは……平均より上か。まあ、タケルって興味ないことは基本全力でやらないだけで……基礎スペックはそこそこ高いからね。」

 

「いや、別にそんなことh「あるの!」……はい。」

 

 有無を言わせぬ迫力に押し黙るタケル。だがハジメもやはり、其処に書かれた天職が気になるようだった。それでもすぐに納得したようにプレートを返却する。

 

「“創作者”……か。詳しい事は分らないけど、字面通りなら確かにタケルにとっては天職だろうね。」

 

「そうか?正直ピンと来てへんねやけど……」

 

「何言ってるの!この間だってPCのアプリで絵を描いてみたって言って見せてくれた作品……あんなの普通は思いつかないからね?そりゃタケルが第一人者って訳ではないけど……技能にもあるように、タケルには自分の思い描いたモノを形にする才能が確かにあるって……僕は思ってるから。」

 

「……小っ恥ずかしいこというなや、アホ。」

 

 心からそう思ってるという風に発言したタケルに、悪態をつくタケル。だがその顔には僅かに赤みが差しており、一目で照れ隠しだとわかる。

 そんな最中、メルド大声で叫ぶ。

 

「おお!こいつは凄い!」

 

 その様子に生徒達の視点が集中する。見ればどうやら光輝のステータスを見ているところのようだ。開示された内容は以下の通り。

 

============================

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

==============================

 

「嘘やん……」

 

 思わず声を漏らすタケル。其処に書かれていたのは、まさしくチートの権化とも言うべきステータスだった。

 

「流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は2つ3つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

「いや~、あはは……」

 

 照れくさそうに頬を掻く光輝。どうやら彼の勝ち組人生はここでも健在のようだ。

 因みにメルドのレベルは62、ステタースの平均値は300でありトータスではトップレベルの強さを誇っている。光輝はレベル1の時点ですでにその三分の一にせまっており、成長次第ではあっという間に抜いていくだろう。

 その後もステータスの開示は続き、皆良い反応を示している。そしてついにタケルの番が回ってくる。視線を浴びながらという居心地の悪い状況ではあるが、促されるままプレートを見せる。

 

「ほう……ステータス・技能共にそこそこか。にしても、“創作者”か……」

 

「……何か問題でもあるんですか?」

 

「いや、非戦闘職で字面通り物を作り出す事に長けていてな。正直俺もあまり詳しくないが、まあ!ステータスも技能も悪くないから、訓練すればどうにかなるだろう!自分なりに生かす方法を考えていけば良い!」

 

「……ども。」

 

 そう言うとそそくさと戻るタケル。ハジメを除く他の面々は戦闘職だったらしく、ニヤニヤと馬鹿にしたように笑みを浮かべている者もいる。

 ついでハジメの番だが……ステータスを見た瞬間明らかにメルドの表情が曇る。

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

 歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。

 その様子にハジメを目の敵にしている男子達が食いつかないはずがなく、檜山がニヤニヤとしながら声を張り上げる。ついでとばかりにタケルを巻き込んで。

 

「おいおい南雲に木場ァ。お前ら非戦闘職かぁ?鍛冶職とか物作りでどうやって戦うってんだよwwwメルドさん、その2つの天職って珍しいんすか?」

 

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな。創作者の方は数こそ少ないが、別段なにか功績を打ち立てたという話はない。」

 

 檜山の問いに気まずそうながらもありのまま伝える。それを聞いてさらに調子に乗り始める小悪党。

 

「おいおいお前らそんなんで戦えるわけ?俺嫌だぜぇ、役立たずの巻き添えで死ぬなんてよぉ。」

 

 2人の間に入り肩を組んでくる檜山。

 

「さぁ、やってみないと分からないかな?」

 

「……肩組むな鬱陶しい。お前には関係ない。」

 

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

 

 鬱陶しいと言う感情を隠さないタケルの意見を無視しプレートを奪い去る。

 そして内容をみるや取り巻きと一緒になって馬鹿笑いを始める。

 

「ぶっはははっ~!なんだこれ!木場の方は兎も角、南雲のほうは完全に一般人じゃねぇか!」

 

「ぎゃははは~!むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」

 

「ヒァハハハ~!無理無理! 直ぐ死ぬってコイツ! 肉壁にもならねぇよ!」

 

 あまりの物言いに流石にキレそうになるタケル。香織も憤然と動き出すも、それより先に待ったをかける者がいた。

 

 愛子だ。

 

「こらー! 何を笑っているんですか! 仲間を笑うなんて先生許しませんよ! ええ、先生は絶対許しません! 早くプレートを2人に返しなさい!」

 

 「ウガー!」っと怒るその姿に毒気を抜かれたのか、2人にプレートを返却する。そして愛子は笑顔で2人に歩み寄り優しく肩をたたく。

 

「南雲君、木場君、気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。お二人だけじゃありませんからね!」

 

 そう言って「ほらっ!」と愛子は2人に自分のステータスを見せた。

 

=============================

畑山愛子 25歳 女 レベル:1

天職:作農師

筋力:5

体力:10

耐性:10

敏捷:5

魔力:100

魔耐:10

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

===============================

 

 それを見た瞬間ハジメは膝から崩れ落ちた。一瞬期待してしまった分ショックも大きかったようだ。タケルの方も乾いた笑みを浮かべている。

 確かに非戦系の天職であることは一目で分る。だが、書かれているステータスは他の例に漏れずチートだった。

 

(農業系のステータスが振り切れとる・・)

 

 兵糧は古くから其処を狙った作戦を立てるなど、戦においては最重要な要素と言っても過言ではない。

 現に愛子のステータスをみたメルドが……

 

「我が国の食糧問題が解決するやも知れん!」

 

 と、大慌てしているのが何よりの証拠。

 

「南雲君!?どうしたんですか!?先生何かしちゃいましたか!?木場君もどうしてそんな生暖かい目で見つめてくるんですか!?あれぇ~?」

 

 事の原因たる愛子は何故こうなっているのか理解できずオロオロしている。

 

「あらあら、愛ちゃんったら止め刺しちゃったわね……」

「な、南雲君! 大丈夫!?」

 

 愛子の天然攻撃に苦笑いする雫、未だに項垂れているハジメに駆け寄る香織。

 一応ハジメとタケルにたいする嘲笑を止めるという当初の目的は達成されたものの、それよりも遙かに大きいダメージを食らった事を感じながら、いよいよ訓練が開始された。




 如何でしたでしょうか?

 タケルの天職については色々と悩みましたが、やっぱりこれが一番かなぁっと思いました。後、これ書いていて思ったんですが、障害と個性ってどう違うんだろうって。

 実際問題其処の定義って曖昧でアスペルガー症候群についても「これは一つの個性ではないか?」という意見もあるそうです。難しいですね……

 因みに劇中でハジメの語ったPCの件は作者の実話を元にしています。作者は年明けに遂にPCを購入したのですが、そこでPowerPoint、通称パワポ見つけまして……普通は企画書などを作る際に用いられるのですが、作者はそこにあった図形ツールを見て、

「これで何か作れないかなぁ」

 と思い立ち、こんなモノを作りました。

 
【挿絵表示】


 作者的には動画サイトなどでこう言うのよく見るのでそんなたいしたことしてるつもりはなかったんですが……家族に見せたところ、

「頭おかしい」
「普通はそんな発想浮かばない」

 と言われました。まあそう言われてもピンとは来なかったんですけど(笑)

 一般の人に取っての普通が自閉症に取って普通ではないように、その逆もまたあり得るということ。本人達はそんなたいしたことをしている気はなく、自分の思い描いた事を普通にしたら自然とできてたって感じです。

 なんか自分語りみたいになってしまいましたが、様は自閉症って悪いことばかりじゃないねって事です(伝われ!)

 今後はそういう部分もどんどん掘り下げようと思っていますので、どうかお待ちください。
 
 ではでは、チャオ〜


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4話 障害を持つ彼は戦争に何を思う

 文章が長い……もっと絞った方がいいのかなぁっと思う今日この頃です。

 さて、4話です。早くも前書きで喋る内容が無くなってきましたが…取り敢えず今週のゼロワンの感想でも(全く関係ない)

 119之助が炎と煙に巻かれながら瓦礫を支えるシーン、或斗が物言わぬ身体となってしまった119之助を労い運び出すシーン、穂村隊長がそんな119之助を讃えるシーン、僅か30分の間でこんなに泣けるシーンが満載とかどうなってんだ!(泣)

 とまあだいぶ逸れましたが…第4話です。

 それでは、Ready GO!


 

 王宮内にある工房、そこにタケルはいた。

 先日の件の後、宝物庫にある武器やらが運ばれ、生徒達は各々自分にあった武器を選んだ。

 だがタケルはどれもしっくり来ず、ならばと自身の技能を磨く傍ら武器を製作して見たいとメルドに進言した。流石に2つ返事とはいかなかったが、タケルの意志を感じ取ったのか比較的簡単に許可を貰えた。

 それから約二週間程、この工房に入り浸り作業をしていのだが、“創作者”という天職の者にとってはこうして技術を覚えるだけでも経験値が貯まるらしく……

 

===============================

木場タケル 17歳 男 レベル:5

天職:創作者

筋力:45

体力:40

耐性:100

敏捷:100

魔力:110

魔耐:110

技能:思考具現化[+思考速度上昇]・火属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇]・雷属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇]・複合魔法・属性耐性[+火属性効果上昇][+雷属性効果上昇]・気配感知・言語理解

===============================

 

 良い感じにステータスが上がっていた。特に技能の伸びが凄じく、四六時中工房に入り浸っているせいか派生技能が幾つも増えていた。

 

「──フ、フフフフ!!ウヒヒヒヒヒ!!遂に……遂に完成したァ!現時点での最高傑作がァ!ヴェハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 人がいない事を良いことに普段見せないテンションで喜び震えている。もしこの光景を見ている者がいたならば、きっとドン引きするレベルだ。

 それから暫く恍惚とした様子で出来上がった代物を眺めるタケルの姿があったとか……

 

 

 

 

「全くタケルの奴……僕に食事の事アレコレ言う割には自分だって熱中したら気にしないんだもんなぁ……」

 

 その日ハジメは少し怒った様子で廊下を歩いていた。理由はタケルが殆ど食事も取らずに工房で作業をしている事。

 周りをが気にならなくなる程の集中力を発揮するという自閉症の典型的な特徴であるが、長所でもあり短所でもある。こんな風に食事を取ることすら忘れてしまう事は流石に無視できず、苦言を申そうと工房に向かっている最中だ。

 

「あっれ〜?南雲じゃん。何してんだよこんな所で?」

 

「っ!……檜山くん。」

  

 が、その道中いつもの様に取り巻きを引き連れた檜山がハジメに絡んできた。

 ハジメも正直相手にはしたくないが、ここで無視すれば後々面倒な事になりそうなので返答する。

 

「あ〜、ちょっとタケルに用があって……」

 

「木場ぁ?そういやここ最近は一緒にいる所見ねえなぁ?」

 

「う、うん。ずっと工房に篭ってるみたいだから……じゃあ、そういう事だから行くね?」

 

 早々に切り上げて立ち去ろうとするハジメ。

 

「まあ待てよ。お前さぁ?訓練してるのに全然強くなんねえじゃん。どうなってんだよなぁ?」

 

「えっと……それは……」

 

 去ろうとするハジメを引き留めニヤニヤしながら質問してくる。ハジメはその問いに歯切れ悪く返答に困る。

 ずっと工房にいるタケルと違い、訓練にも参加しているのだが、それでもハジメのステータスはというと──

 

==================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:2

天職:錬成師

筋力:12

体力:12

耐性:12

敏捷:12

魔力:12

魔耐:12

技能:錬成、言語理解

================================== 

 

 ──見事に均一に増えている。しかもお世辞にも伸びが良いとは言えない状態で。

 ハジメも自身の成長率の悪さには頭を抱えており、訓練の休憩の合間を縫って図書館に足を運んでいる。訓練には座学も含まれてはいるのだが、それだけでは補いきれない知識を貪る為だ。

 因みに勇者様である光輝は既にレベル10に達しておりステータスも当初の倍になってるそうだ。

 と、ハジメが答えあぐねている隙に取り巻き集団が周りを取り囲む。

 

「しっかしまあ、お前も不憫だよなぁ?」

 

「え?」

 

「学校では針のむしろだわ。異世界に来てみりゃゴミみてえな天職だわでよぉ〜。流石の俺も可哀想になってきたぜ。」

 

 微塵もそう思ってないであろうニヤケ顔でハジメを嘲笑う。そもそもハジメが学校でそんな状況になっているのは自分達のせいだというのに……

 それでもこれくらいならば幾ら言われても大したダメージにはならない。そう思っていた矢先──

 

「しかもあんなキチガイ野郎といつも一緒だもんなぁ?俺なら怖くて寄り付かねえぜ?あんな気持ち悪い奴。」

 

 聞き流せない一言を、近藤が呟いた。

 

「……は?」

 

 「いつも一緒」、そんな言い回しをされる仲の人物など、1人しか浮かばなかった。

 

「それ……どういう事?」

 

 感情を抑え込みながら聞き返す。そんなハジメの様子に気付いていないのか続ける近藤。

 

「俺のダチにアイツと同じ小学校の奴がいてよ?其奴から聞いた話がえげつねえの何のって。何でも授業中もボーっとしてて喋りかけてもあんまり話さねえし、意味不明な行動したり、かと思えばいきなり怒って机やら椅子やら投げつけてたらしいぜ?」

 

「うわぁ、何だそれ!完全に頭イカれてんじゃん!」

 

 何が面白いのか昔の話を持ち出してゲラゲラと笑っている。

 確かに、今の話は真実だ。だがそれらは全て障害からくるものであり、そもそもタケルは理不尽に当たり散らすなんて事は絶対にしない。タケルが暴れたのは周囲からの心無い言葉で傷付いたからだ。ただ単に加減がわからず、一気にメーターが振り切れてしまっているだけなのだ。

 

(耐えろっ!今は怒るべき時じゃない!)

 

 ハジメは一言物申したい気持ちで一杯だったが、ここで騒ぎを起こせばタケルの耳にも入り、そうなれば彼は深く傷つくかも知れない。 

 拳を握り締め耐えるハジメ。だが檜山は、決定的な一言を口にしてしまう。

 

「もしかしたら将来人も殺しちまうかもなぁ?いや、もしかしたら既に……頭イカれてるような奴ならあり得るかもなぁ!ギャハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 その言葉をを聞いた瞬間、ハジメの中で何かがキレる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

「──黙れ。」

 

「……あぁ?」

 

「お前達がタケルの何を知ってるっていうんだ!何も知らない癖に!知った風にアイツの事を語るな!」

 

 檜山達はタケルの障害については知らない。だが、それで許される範疇は優に越していた。

 檜山は普段とは違い声を荒げて怒鳴るハジメに一瞬怯んだが、すぐに持ち直して不愉快そうに顔を歪ませる。

 

「雑魚の癖に口答えしてんじゃねえぞ!コラァ!」

 

 ──ドカッ!!

 

「がはっ!?」

 

 格下と断じていたハジメに口答えされた事が気に食わなかったのか、勢いよく蹴り飛ばす。ステータスの差もあり、壁まで吹き飛ぶハジメ。

 

「おいおい、威勢のいいこと言った割にはこの程度で終わりかよ!」

 

「弱っちいにも程があんだろ!ヒャハハハハハ!!!」

 

 そんなハジメを嘲笑う小悪党集団。その中から斎藤がある提案をする。

 

「なあ大介ぇ?コイツこのままじゃ弱すぎるしよぉ?俺たちで鍛えてやろうぜ?」

 

「おお?良いねぇ?まあ、勿論やり方は……俺達流だけどなぁ!」

 

 そう言うと何やら詠唱を始める檜山。

 

「ここに風撃を望む──」

 

 不味いっ……そう思い逃げようとするも蹴られた時のダメージが残っており上手く動けない。

 

「──“風球”!」

 

 そんなハジメに風を纏った球状の物体が飛んでくる。檜山が最も得意とする風属性の初級魔法だ。

 

「ぐあっ!?」

 

 まともに食らってしまい蹲るハジメ。

 しかし攻撃の手が緩む事はなく……

 

「ほらほら何寝てんだよ!ここに焼撃を望む──“火球”」

 

「うぐっ!!」

 

 今度は中野の放った火属性の初級魔法がヒットし、既にハジメは満身創痍であり立つ事もできない様子。

 

「ここに風撃を望む──“風球”」

 

 お次は斎藤が檜山と同じ魔法で追撃してくる。

 もはや身動きが取れないハジメは覚悟したように目を瞑った──

 

 

 

 ──だが

 

 

 

 待てど暮らせど衝撃が襲ってくる事はなかった。

 

 ハジメは恐る恐る目蓋を持ち上げる。するとそこには……

 

「──これはちょっと度が過ぎるんとちゃうんかぁ?」

 

 自身を守るように立つ、旧知の友の姿があった。

 

「タ、タケル……」

 

「よう。なんか久しぶりな気ぃするけど……えらいボロボロやな。」

 

「まあ、確かに数日ぶりだけど……ていうかそれ!」

 

 久方ぶりの快諾の余韻に浸るでもなく、ハジメはタケルが()()()()()()()()を指差す。

 緑を基調とした何処かとあるフルーツを連想させるデザインの盾。その名は──

 

「……メロン、ディフェンダー」

 

 ぽつりと呟くハジメ。

 特撮ヒーロー『仮面ライダー』のシリーズの1つに登場する武器であり、その概要はハジメもよく知っていた。

 

「何で……そんな物がここに……」

 

「作った!」

 

「作った!?タケルがこれを!?」

 

「おう!“思考具現化”で見本を作って、それを元に忠実に再現したんがこのメロンディフェンダーや!どう?凄いでしょ!最高でしょ!天才でしょ!」

 

 ハイテンションで見せてくるタケルに「えぇ…」と声を漏らして愕然とするハジメ。

 確かに昔から興味を持った事への熱中の仕様は凄まじかったが、まさかこんな物まで作るとは思ってもみなかったようだ。

 と、ふとタケルの手に細かい切り傷が幾つもある事に気付く。

 

「ちょっ!?どうしたのこの傷!」

 

「え?ああ、刃も再現しようとして何べんか切ってしもて……」

 

「そんなトコまで再現したの!?間違っても人間相手に使わないでよ!?」

 

「使うかアホ!何処ぞの悪魔の科学者やあるまいし、人間で試すような事せえへんわ!…………多分(ボソッ)」

 

「最後ので台無しだよ!ていうかさっきその悪魔の科学者みたいな台詞言ってる時点で信用できないからね!?」

 

 いつの間にか傷の痛みも忘れていつものようにタケルと掛け合いをするハジメ。

 その様子を見てポカーンとしていた檜山達だが、少ししてようやく再起動した。

 

「おぉいこらぁ何普通に駄弁ってんだ!!無視すんな!」

 

 その声でパッと振り返るハジメタケル両名。

 

 

 

 

「「……あ、忘れてた。」」

 

 2人そろって完全に思考の彼方へ追いやっていたらしい。それでも再度認識するとメロンディフェンダーを構えるタケル。

 

「ていうかまだ居ったんか……もうええからどっか行けよ。これ以上手出しするようやったら──」

 

 ハジメとのやり取りで怒る気が失せたのか投げやり気味に言い放つ。その様子にイラッとしながら煽ってくる檜山。

 

「するようだったらなんだよ?どうせお前が何しようが--」

 

「お前ら全員実は男色家で、ハジメに対して鼻息荒しながら迫って性的暴行を加えようとしたって大声で吹聴するぞ!」

 

「--ってオオイコラァ!!テメェなんて事考えやがる!」

 

「その話題はやがてトータス全土まで広がって、街を歩けば指を差され笑われる……良かったな?注目の的やぞ?」

 

「悪い意味でな!?」

 

 物凄く悪い顔で檜山達を煽るタケル。もはや側から見たらどちらが悪役かわからず、助けられたハジメですらちょっと引いている。

 そんな事が暫く続き、終わる頃には檜山は肩で息をして疲れ切っているのに対し、タケルは余裕そうに耳垢をほじっていた。

 

「はぁはぁ、テメェ……とことんおちょくってやがるな……だったら!実力行使で目に物見せてやるよ!お前ら!」

 

 そう檜山が取り巻きに呼びかけると皆一斉に詠唱を始める。

 

「さっきのは防がれたが、同時攻撃ならどうだぁ!」

 

 タケルはメロンディフェンダーを構え防御の姿勢をとる。そして、今まさに魔法が放たれようとしたその時!

 

 

 

 

 

 

「何やってるの!?」

 

 そう叫ぶ声が聞こえそちらに目をやると必死の形相で此方に駆けてくる香織の姿があった。その後ろにはいつもの面子も揃っており、その瞬間目に見えて狼狽しだす檜山達。

 

「いや、これは……勘違いしないで欲しいんだけど、俺たち南雲の特訓に付き合ってて──」

 

「っ!?南雲君!」

 

 香織は言い訳する檜山を無視して、ハジメに駆け寄り傷を癒す。後から来た雫達は檜山達に事の顛末を追及する。

 

「特訓……ねえ?その割には随分と傷のつき方が一方的だけれど?それに、木場君が彼を守る様に立っていたのはどう説明する気?」

 

「そ、それは勘違いした木場が割って入って来ただけで……」

 

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない。」

 

「全くだ。くだらねえ事してる暇があるならテメェ等自身の特訓でもしてろってんだ。」

 

 クラスカーストトップの面子から非難されればさしもの檜山も何も言えず、そのままそそくさと取り巻きを引き連れて去っていった。

 

「あ、ありがとう。白崎さん。」

 

 どうやら治療が終わったらしく、ハジメが香織に礼を言う。

 

「ううん、このくらい何でもないから。それよりもいつもあんな事されてるの?何だったら私が──!」

 

「だ、大丈夫だから!別にいつもこんな事されてる訳じゃないし……気にしないで?」

 

「でも……」

 

 香織が介入すれば話が拗れると考え、要請を拒否するハジメ。香織も食い下がるが、再度明確に拒否され渋々引き下がる。

 

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ。」

 

 渋い顔をする香織を見かねた雫が苦笑いしながら折衷案を出す。ハジメも同じく苦笑しながら了承する。

 

「まあ、どうしても気になるようやったら団長にでも話して処分下してもらえばええやろ。裁かなアカン問題はしっかり裁いてももらわな──」

 

「いや、その必要はないだろう。」

 

「……はあ?」

 

「檜山達だってきっと反省してる。告げ口の様な事はするべきじゃない。第一今回のことだって不真面目な南雲の態度をどうにかしようと尽力しようとしただけかも知れないだろう?訓練のない時は図書館で本を読み漁ってるだけ……そんなんじゃいつまでも弱いままだ。俺なら訓練がなくとも自主的にトレーニングする。南雲、いくら弱いからと言っても努力を怠るもんじゃない。そんなんじゃ君のためにもならないぞ。」

 

 あまりにも無茶苦茶な理論を振りかざす光輝に、もはや開いた口が塞がらないというような表情で固まるハジメと香織。雫も頭を抱えている。

 

(駄目だ……この人には何を言っても無駄なんだ……)

 

 改めてそう判断しその場から立ち去ろうとするハジメ。だが──

 

「……軽いねん、お前の言葉は。」

 

 そう呟く声が聞こえる。小さな声だったが、それは全員の耳にしっかりと届いた。そして皆の視線が声の主……タケルに集中する。

 

「どういう意味だ?木場。」

 

 光輝が発言の意味を問う。

 

「努力すればアイツ等の態度が変わるとでも?あの性根まで腐りきってる連中がそんなことでコイツへの態度を改めるとでも思ってるん?アホ抜かせ変わるわけないやろ。そもそも上に言うかどうかを何でお前が決めんねん。それを決めるのは被害者であるハジメやろ。」

 

「だが、檜山達だって話せばわかってくれる!それに何ださっきから!クラスメイト相手に処分だの何だのと軽々しく言うな!人の人生をなんだと思ってる!」

 

「話す態勢も作る気のない奴に何話せっちゅうんじゃ。半端に注意したところで聞き流すんが関の山やろ。むしろイジメがひどなる可能性のが高い……そうなる前に相応の処分を下した方が良いって俺は言うてんねやろうが。そもそも……お前人の人生云々なんか気にもとめてへんやろ。」

 

「そんな事はない!俺はいつだって皆のことを考えt「ホンマに考えてるんやったら、軽々しく“戦争に参加する”なんぞと言うかい。」──!?」

「お前日本史の時間何聞いてんねん。戦争=殺し合いやろうが。我が国が経験し今なお世界各地で繰り広げられ、大勢の人間が死に残されたモンが悲しみに暮れる……そんな事にお前は安っぽい正義感擬きで首突っ込んだんや。しかも俺等を巻き込んでなぁ。」

 

「そ、それは……だが!君だって結局参加を表明したじゃないか!」

 

「そらそれ以外に選択肢がなかったからや。あったら参加なんぞするかい。」

 

 吐き捨てるように告げるタケル。その態度に光輝は怒りを隠さずに問いただす。

 

「なら君は!この世界の人々がどうなっても良いのか!」

 

 こう言えば流石に考え改めるだろう……光輝はそう思いタケルの返答に期待を抱く。

 

 だが──

 

「ええよ別に。どうなろうが知ったことか。面倒な事に巻き込まれてこっちは良い迷惑や。」

 

 吐き捨てる様に出た言葉に光輝は信じられないモノを見る目で責める。

 

「な!?それでも人間か!?どうしてそんな酷い事が言える!?」

 

「酷い?俺に言わせりゃお前のがよっぽど酷いけどなぁ。」

 

「何だと!?」

 

「言うたやろ、安っぽい正義感擬きでクラス中巻き込んだって。いつ死ぬかもわからへん様な事に軽々しく返事なんぞしよって、お前一体何様や?」

 

「そんな事させない!俺が皆を守ってみせる!」

 

「どういう根拠があってそう言えんねん。自惚れんのも大概にせえよ。お前1人にできることなんかたかが知れてんねん。」

 

「そんなのやってみなければわからないだろ!」

 

 ヒートアップする言い合い。ハジメ、香織、龍太郎はハラハラしながら様子を伺っており、雫は何を考えているのか、ジッとタケルの方を見つめていた。

 そして光輝は、突如何かを確信したかのように「ハッ!」と声を上げほくそ笑む。

 

「そうか……わかったぞ。何だかんだと理由をつけてはいるが、結局お前は怖いんだ!自分が死ぬのが!それで訓練にも参加せずそんな盾なんか作って自分の身を守ろうとしている!自分の事ばかり考えて、とんだ臆病者じゃないか!」

 

 合点がいったとでも言うように、メロンディフェンダーを指さしここぞとばかりに責め立てる。

 これにはさしものタケルも動揺し──

 

「当たり前やろ、そんなこと。」

 

 ──てなどいなかった。

 

「……え?」

 

「何ビックリしてんねん。死ぬのが怖くて何が悪い?ここはゲームの世界やないねん。死んだら残基が減るだけとか、コンティニューできるとかないねん。死んでまえばそこで終わり……土に還って人生終了や。それが怖くて何が悪い?」

 

「そ、それは……」

 

 その返答に光輝が逆に動揺する。いつも自己主張しないタケルにここまで返されるとは想像していなかったようだ。

 それでも今更引き下がれないのか、尚も食い下がってくる。

 

「だが……それは──!」

 

 

 

 

「そこまで!」

 

 と、そこで雫が2人の間に割って入り静止させる。

 

「光輝、もうやめなさい。これ以上貴方が何を言おうと無意味よ。」

 

「で、でも!」

 

「でもじゃない。木場君……ごめんなさい。光輝にはよく言っておくから、ここは任せて貰えないかしら?」

 

 そう言いタケルに承諾を求める。

 

「別にどうでも良いし、好きにせえや。」

 

「……ありがとう。」

 

 その言葉を最後に踵を返してその場から立ち去るタケル。ハジメも慌ててそれに続く。

 後方では光輝が尚も喚いていたが、その全てを無視してさっさとその場を後にした。

 

 因みにメルド団長への直訴は「騒ぎを大きくしたくない。」というハジメ当人の意見で、タケルも渋々納得した。

 

 その後、流石に一度も参加しないのはまずいと思いタケルもハジメと一緒に訓練に参加した。訓練後、メルド団長から今後についての知らせを告げられる。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

 そう言って伝えることだけ伝えるとさっさと行ってしまった。タケルとハジメは溜息を吐きながら明日からの訓練に思いを馳せていた。

 

 

 

 

 ──翌日──

 

 一行は【オルクス大迷宮】へ遠征する道中にある宿場町【ホルアド】で、新兵訓練の際に利用する王国直営の宿泊施設にて一夜を過ごしていた。

 

「とうとう明日、大迷宮突入か……」

 

「うん、どうやらこの世界には【七大迷宮】と呼ばれる迷宮があり、【オルクス大迷宮】はその一つらしい。階層は全部で100層。魔物の強さがはかりやすくて、新人冒険者にも人気らしいよ。」

 

「ふ~ん。」

 

 タケルとハジメは同室であり、明日挑む迷宮について情報をまとめていた。そんな時、ハジメが不安そうに声を漏らす。

 

「……大丈夫かな。」

 

「わからん。けどここまで来たら、やるしかないやろ……ふわぁ~……」

 

「寝不足?昨日も遅くまで調整してたもんね。もう寝ちゃったら?」

 

「悪いけど……そうさせて貰うわ。」

 

 そう言ってベッドに潜るタケル。

 

「お休み、不安なんもわかるけど……はよ寝ろよ。」

 

「うん、お休み。」

 

 挨拶を交わし、しばらくすると意識を手放すタケル。

 

 その後自室に2人の女性が訪ねてくるのだが、熟睡していたタケルは知る由もなかった。

 

 その部屋を見つめる、濁った視線にも……




 
 如何でしたでしょうか?ぶっちゃけ詰め込みすぎたかなぁっと思いながらも、ここまでやりたかった所存です。

 さて、今回出てきた武器について軽く説明しますと……

 名称:メロンディフェンダー
 概要:平成ライダーシリーズ15作目『仮面ライダー鎧武』に登場する4号ライダー『仮面ライダー斬月』の装備しているメロンの皮を模した大型の盾。先端には『ハサイシン』、側面には『ソクトウエン』と呼ばれる刃がついており、敵に押し当てて斬りつけたり、投擲武器としても使用可能。  

 こんな感じになってます。因みに作者お気に入りのライダーの1人です。
 こんな物作るくらいのめり込むって、あり得ない様であり得るんですよねこれが。特に自閉症の様な人は自分の興味のある事はとことん極めるんです。

 これからもドンドンこういうのは出していきます。
 
 それではまた次回、チャオ〜


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4話裏話 友は彼女らと何を語る

 さて、連投でございます。

 と言っても今回は原作であった香織とハジメの密会に雫をプラスした話なんですがね。

 タケルが眠っている間に何を話していたのか…

 それでは、Ready GO!


 

 タケルが眠りについた後、自身も寝ようと床に向かうハジメ。しかし、それを妨げる様にドアがノックされる。

 

「(誰だろう?こんな時間に……)はーい。」

 

 ハジメが返答するとドアの向こうから2種類に声が聞こえて来る。

 

「あわわ!起きてたよ雫ちゃん!どうしよう、私髪変じゃないよね?ね?」

 

「落ち着きなさい香織。大丈夫だから。」

 

 聞こえてきた声の正体に一瞬面食らうも、このままにするのもどうかと思いドアを開ける。

 

「あ!な、南雲君!ごめんね?こんな夜遅くに……」

 

「ごめんなさい、香織がどうしても貴方に話があるっていうから……」

 

 ドアが開いた瞬間慌てる香織とあくまで冷静な雫。

 対照的な反応を示しているが、今のハジメにそれを気にする余裕はなかった。

 

(何で2人とも、ネグリジェ姿なんだよおおおおお!!!!!!)

 

 そう、2人に格好が余りにも際どく目にやり場に困っていた。

 ただでさえ二大女神と称される程顔立ちの整った2人だというのに。それでも何とか平静を装って対応する。

 

「じゃあ、ここじゃ何だし……中に入る?」

 

「う、うん!」

 

「お邪魔します。」

 

 中に入った直後、ふとベッドで眠るタケルが目に入る雫。

 

「あら、木場君はもう寝ちゃってるのね。」

 

「うん、昨日もアレの調整を夜遅くまでしてたみたいだから。」

 

 そう言うと部屋の隅に立て掛けてあるメロンディフェンダーを指差す。

 

「あの時も思ったけれど、良くこんなのが作れるわね……」

 

「アハハ、それに関しては流石に僕も驚いたよ。」

 

 そんな話を切り上げ、早速本題に入るハジメ。

 

「それで……話とは?」

 

「……香織。」

 

 雫が香織に話すよう促すと、キュッと口を真一文字に結んで後、意を決して話し始める。

 

「明日の迷宮だけど……南雲君には町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから! お願い!」

 

 身を乗り出してそう訴える香織。その様子にハジメは少々疑問を抱く。

 

 自分が弱いとはいえ必死すぎないか?──と。

 

「えっと……確かに僕は足手まといとだは思うけど……流石にここまで来て待っているっていうのは認められないんじゃ……」

 

「違うの! 足手まといだとかそういうことじゃないの!」

 

 ハジメの言い分を慌てて否定する香織。どういう事か聞こうとするが、話すのが辛いのか俯いてしまう。雫はそんな香織の手を握り、代わりに話し始める。

 

 

「香織は……どうも夢を見たそうよ。」

 

「……夢?夢ってあの寝てるときに見る夢?」

 

「ええ。さっき少し寝てたんだけど……突然跳ね起きて、どうしたのか聞いてみたら……」

 

「聞いてみたら?」

 

「夢の中に南雲君が出てきて、出てきたんだけれど……呼んでも無反応。いきなり走り出して、全然追いつかずに最後には……」

「最後、には?」

 

 なんとなくその続きが予想できるハジメは恐る恐る聞き返す。

 

「……消えてしまうそうよ。」

 

「……そっか。」

 

 其処まで聞くとハジメは未だに服の裾をギュッと掴んで俯いている香織に向き直る。

 

「夢は夢だよ、白崎さん。今回はメルド団長率いるベテランの騎士団員がついているし、天之河君みたいな強い奴も沢山いる。むしろ、うちのクラス全員チートだし。敵が可哀想なくらいだよ。僕は弱いし、実際に弱いところを沢山見せているから、そんな夢を見たんじゃないかな?」

 

 そう、所詮夢は夢。

 香織の見たそれが何を意味してようが、そんな不明確な理由で同行を拒否しようものなら今度こそクラスでの居場所を失うだろう。流石にそれは避けたいハジメは精一杯の言葉で香織を励ます。

 それでも香織の表情が晴れないのを見ると、ある提案をする。

 

「それでも、どうしても不安が消えないなら……守ってくれないかな?」

 

「え?」

 

 正直男としてはかなり恥ずかしい提案であり、香織も雫もキョトンとしている。

 言ったハジメも顔から火が出るかと思うくらい内心羞恥心に悶えていたが、それでも耐えながら言葉を紡ぐ。

 

「白崎さんは“治癒師”だよね? 治癒系魔法に天性の才を示す天職。何があってもさ……たとえ、僕が大怪我することがあっても、白崎さんなら治せるよね。その力で守ってもらえるかな? それなら、絶対僕は大丈夫だよ。」

 

 そう言うと、暫し沈黙が訪れる。そして香織はクスッと笑みを浮かべハジメの目を見る。

 

「変わらないね。南雲君は。」

 

「?」

 

「南雲くんは、私と会ったのは高校に入ってからだと思ってるよね? でもね、私は、中学二年の時から知ってたよ。」

 

「え?」

 

 予想外の香織の言葉に必死に記憶を探るハジメ。しかしいくら探ってもそれらしい記憶はない。

 

「ごめん……何かあったかな?」

 

「アハハ、大丈夫。知らなくても無理ないよ。私が一方的に知ってるだけし……私が最初に見た南雲くんは土下座してたから私のことが見えていたわけないしね。」

 

「ど、土下座!?」

 

 どんな状況だ!?と困惑するハジメに香織は昔を懐かしむ様に話す。

 

「うん。不良っぽい人達に囲まれて土下座してた。唾吐きかけられても、飲み物かけられても……踏まれても止めなかったね。その内、不良っぽい人達、呆れて帰っちゃった。」

 

「そ、それはまたお見苦しいところを……」

 

 もういっそ殺してほしいと思うくらいハジメの顔は赤くなっていた。まさかそんな現場を見られているなんて想像もしていなかったのだろう。

 しかし香織は馬鹿にするでも嘲笑うでもなくただただ微笑み続けた。

 

「ううん。見苦しくなんてないよ。むしろ、私はあれを見て南雲くんのこと凄く強くて優しい人だって思ったもの。」

 

「……は?」

 

 

 

 

「だって、南雲くん。小さな男の子とおばあさんのために頭を下げてたんだもの」

 

 小さな男の子、おばあさん……そう言われてようやくハジメも思い出した。

 

 男の子が不良連中にぶつかった際、持っていたタコ焼きをべっとりと付けてしまったのだ。

 男の子はワンワン泣くし、それにキレた不良がおばあさんにイチャもんつけるし、おばあさんは怯えて縮こまるし、中々大変な状況だった。

 偶然通りかかったハジメもスルーするつもりだったのだが、おばあさんが、おそらくクリーニング代だろう──お札を数枚取り出すも、それを受け取った後不良達が更に恫喝しながら最終的には財布まで取り上げた時点でつい体が動いてしまった。

 とは言うモノの、喧嘩とは無縁の生活をしていたハジメ。タケルと言い合いをする程度ならあるが、流石に殴り合いはしたことがなかった。その結果相手がドン引きするくらいの土下座で粘るというなんとも格好良いのか悪いのかわからない解決法をとるに至ったのだ

 

「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。光輝君とかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし……でも、弱くても立ち向かえる人や他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。……実際、あの時、私は怖くて……自分は雫ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった」

 

「白崎さん……」

 

「だから、私の中で一番強い人は南雲君なんだ。高校に入って南雲君を見つけたときは嬉しかった。……南雲君みたいになりたくて、もっと知りたくて色々話し掛けたりしてたんだよ。南雲君直ぐに寝ちゃうし……起きてても木場君と話してて中々タイミング掴めなかったけど……」

 

「あはは、ごめんなさい」

 

 苦笑し謝罪するハジメ。香織が必要以上に構う理由が発覚し、さらに予想外の高評価を受けていたことにむずがゆくなる。

 

「だからかな、不安になったのかも。迷宮でも南雲君が何か無茶するんじゃないかって。不良に立ち向かった時みたいに……でも、うん!」

 

 香織は決然とした眼差しでハジメを見つめた。

 

「私が南雲君を守るよ。」

 

 ハジメはその決意を受け取る。真っ直ぐ見返し、そして頷いた。

 

「ありがとう。」

 

 そう言いしばらく見つめ合うと、どちらともなく「プッ!」と吹き出して笑う。そのまま暫し2人して笑っていると……

 

「……もう喋っても良いかしら?」

 

「うわぁ!?」

 

「きゃあ!?」

 

 すっかり蚊帳の外に放り出されていた雫が声をかけると2人も思い出したように声を上げる。

 

「人がいること忘れてイチャついてくれちゃってまあ……」

 

「「い、イチャついてないよ!!」」

 

 からかうように雫が言うと揃って顔を真っ赤にしながら否定する。ただその声が大きかったのに気付いたのか口を押さえタケルの眠るベッドを確認する香織。

 

「スー……スー……」

 

 まるで意に介さないように眠るタケル。その様子に香織はホッとする。

 

「心配しなくても、この程度の音量じゃタケルは起きないよ?」

 

「そうなの?」

 

「うん、全然。」

 

 断言するハジメ。流石に長い付き合いなので分るようだ。

 

「南雲君は、木場君との付き合いは長いのよね?」

 

「うん、小3の時に関西から引っ越してきて、家が隣同士だったからね。」

 

「そう……木場君ってどんな人なの?」

 

「え?」

 

 突然の質問に困惑するハジメ。そんなハジメを見て雫も続ける。

 

「いえね?私も正直木場君への印象は良いか悪いかで言えば悪い方だと思うわ。授業中はボーッとしてるし、提出物も忘れる。真面目な生徒とは言えない行動が多いから……」

 

「まあ、それは……うん。」

 

 ハジメもその点は否定できない、というかタケル自身否定しないだろう。現に教室で光輝に注意された時も、反論せずに甘んじて受け止めていた。

 

「けど昨日、光輝の言い分を真っ向から撥ね除けるあの姿、正直目を離せなかったわ。普段見せる姿とは全然違う、毅然とした態度……あれを見て、どちらが本当の彼なんだろうって……」

 

 自分の素直な感想を述べる雫を見て、腕組みしながら考えるハジメ。

 

「うーん……何というか、“どちらが”と言うよりも“どちらも”本当のタケルとしか言えないかな?」

 

「どちらも……本当の木場君?」

 

「うん、確かに普段のタケルはボーッとしてるよ。正直付き合いの長い僕でも何考えてるのか分らない時もあるし。タケルはさ……興味がないんだよ。大抵のことには。」

 

「え?」

 

「興味の幅が極端に狭いんだ。そして興味の外に在ることには無関心、逆に興味のあることは徹底的にやる。ようは振れ幅大きいんだよ。本人も“自分のパロメーターは0と10しかない”って言ってたし。正直、クラスメイトに関しても炉端の石ころ程度にしか思ってないと思う。」

 

「そ、そう。そこまで極端なのね……」

 

「何か……凄いね。」

 

 雫と香織はそろって驚愕している。ハジメも流石に本人に了承も取らずに障害の事を話すわけにもいかないので、掻い摘まんで話す。

 

「でも……だからこそ凄いんだよ。」

 

「「え?」」

 

「興味関心をもったモノへの探究心が凄まじいんだ。だれがなんと言おうと拘り抜いてみせるその姿勢、格好良いって思う。それにぶっきらぼうだけど、結構真面目で優しいところもあるよ?責任感もあるから頼まれた事任されたことは絶対にやりきるしね。」

 

「それは……確かにね。」

 

 楽しそうに誇らしげに話すハジメを見て、昨日のことを思い浮かべる。ハジメを守るように立つタケル……普段はむしろハジメの後ろに隠れているイメージなのに。

 

「私も……彼のようになれればなぁ(ぼそっ)」

 

「え?」

 

「何でもないわ。さて、もう遅いしそろそろお暇しましょうか。」

 

「あ、うん!じゃあね南雲君!また明日、おやすみなさい。」

 

「お邪魔しました。おやすみなさい。」

 

「おやすみ……あ、八重樫さん!ちょっと……」

 

 部屋を出て自室に戻るとする2人の内雫だけを呼び止めるハジメ。

 

「どうしたの?早く戻らないと香織に嫉妬されちゃうのだけれど。」

 

 からかうように言うが、真剣な表情のハジメを見てすぐに切り替える。

 

「白崎さんにあんな事言った手前、当人の前では言い辛かったんだけど……もし僕に何かあったら、その時は、タケルの事を出来るだけ気にかけてあげてくれないかな?」

 

「……どういう事?」

 

「詳しくは言えない。それでも……万が一の時は、お願いします。」

 

 そう言うと頭を下げるハジメ。慌てて頭を上げるように促す雫。

 

「……どうして、私なの?愛ちゃんや、メルドさんだっているのに……」

 

「メルドさんはいい人だと思う。でもそのバックにいる教会関係者が正直信用できないし……先生は色々忙しそうだから。八重樫さんなら周りの事をよく見てるから適任だと思って。負担をかける様なことを頼むけど、お願い。」

 

 ハジメとしても同級生である彼女に頼むのは気が引けるが、もし自分に何か不幸がありタケルの側にいれなくなった時の事を考えると、身近な人物で頼れるのは雫以外にいなかった。

 

「……わかったわ。どれだけ出来るか分らないけれど、やるだけのことはやってみる。でも忘れないで……貴方も一緒に地球に帰るのよ?そうしないと、香織が怖いからね?」

 

「アハハ……うん。分ってる。」

 

 お互いに苦笑しながら約束を取り付ける。

 

 その後、雫とも別れ部屋に戻ると、床に入りすぐに寝息を立てて夢の中へと旅立つのだった。




 はい。というわけで裏話でした。

 ようやっとヒロインの雫をまともにしゃべらせることが出来た…相手タケルじゃないけど。まあ今回は原作の会話とタケルの事を駄弁っただけですがね。

 最後に雫に頼みごとをするハジメ。実際原作でも雫に対しては一定の信頼を置いてましたからねぇ。

 さて、次回は遂に大迷宮……タケル達の運命や如何に!

 ではでは、チャオ〜


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5話 障害を持つ彼は迷宮の不条理を知る

 
 はい。第5話です。

 今回はぶっちゃけちゃうと奈落落下まで突っ切っちゃいました。

 途中で切ろうかなぁっと思ったんですが、長さが半端になっちゃいそうで結局最後までやる事に……

 結果今回も七千字越えという……まあ1万字越えの方に比べれば三千字も少ないですし?(言い訳)

 とまあそんなこんなで、Ready GO!


 

「気持ち悪い……オェッ!」

 

「いや初っ端からグロッキー過ぎでしょ!?」

 

 一夜明けて一行は【オルクス大迷宮】へ挑戦していた。

 もう既に何層かクリアしているのだが、何やら青ざめた様子のタケル。

 

「だってお前……あんなん見たら誰かって気持ち悪いやろ……」

 

「まあ……前衛の天之河君達も顔引きつってたしね。」

 

 その理由は迷宮に巣食う魔物『ラットマン』。筋骨隆々のネズミ型の魔物であり、その出立は控えめに言っても気持ちが悪い。特に小動物全般NGなタケルにとっては地獄以外の何物でもない。

 そんなこんなで序盤からタケルが精神的ダメージを受けていると、前衛にいる香織とその友人であるロリッ娘の『谷口鈴(たにぐちすず)』とメガネッ娘の『中村恵里(なかむらえり)』の3人が魔法でラットマンの軍勢を吹き飛ばしていた。

 ……それはもう跡形もなく。

 

「何あのグランドジオウがアナザー電王に叩き込んだ必殺技レベルのオーバーキル……」

 

「見ていない人には分からない例えをありがとう。」

 

「じゃあダイナマイティングライオンレイダーを中身ごと剥いだメタルクラスタホッパーのような──」

 

「うん、一旦ライダーから離れようか?」

 

 そんな話をしていると香織達がメルドから注意を受けている。やはりオーバーキル過ぎたらしく、魔物からドロップされる魔石の採取も念頭に入れるようにとの事。

 その後も入れ替わり立ち替わりで魔物を倒していき、遂にハジメとタケルの番だ。

 

「よし、まずはハジメからだな!じゃあコイツを倒してみてくれ!」

 

 そう言うと既にいくらかダメージを受けて満身創痍なラットマンを用意される。万全の状態ではステータスの低いハジメには危険と判断したのだろう。物凄く微妙な顔をしながらハジメが前に出る。

 

「“錬成”」

 

 その瞬間、地面に穴が開きラットマンが落下する。何やら悲鳴が聞こえたのでメルドが穴を覗いてみると、無数の岩が突き出してラットマンを串刺しにしていた。

 

「ほう、錬成は鍛治に奴立つとだけ考えていたが使い方次第ではこんな事も出来るのか……正直不安だったが、中々良かったぞ!」

 

 褒められ自然に顔が綻ぶハジメ。訓練中に編み出し実戦で使うのは初めてだったが、上手くいった事、褒められた事は素直に嬉しいらしい。

 

「次はタケルだな!お前はハジメ程ステータスが低いわけでもないし……普通に倒してみるか!」

 

「はい。」

 

 其処へタイミング良く出現したのは『コボルト』。犬の顔をした二足歩行のモンスターで、武器として剣を用いている。タケルを見るや一気に間合いを詰めて剣を振り下ろす。

 

「ッ!ウラァ!」

 

 すかさず反応しメロンディフェンダーでガッチリ受け止めると、そのまま一気に押し戻す。

 

「──!グルァアアアアア!!」

 

 押し戻された事に苛立ちを覚えたのか、一心不乱に襲いかかってくるコボルト。タケルはメロンディフェンダーを振りかぶり──

 

「せいやぁ!」

 

 ──ぶん投げる。そのままコボルトの首をまるで豆腐でも切るようにアッサリと切断し手元に戻る。首無しとなったコボルトの肉体は、力なく倒れ込み砂のように消えていった。

 

「盾としてでなく投擲武器としても使えるのか……危なければ介入するつもりだったが、要らぬ心配だったみたいだなぁ!ワハハハ!」

 

「……ども。」

 

 褒められているのに、余り嬉しくなさそうに呟きハジメの元へと戻る。

 

「どうしたの?褒められたんだから喜べば良いのに……」

 

 見かねたハジメがそう尋ねると……

 

「褒められた事は素直に嬉しいけど……あんな風に動物の形したモンの首はねるんは正直ええ気持ちやない……ウップ…」

 

「ああ、成る程……」

 

 グロ系が駄目という訳ではないが自分で手を下したとなれば別であり、やはり気持ちの良い物ではないらしい。顔を青くして口元を押さえているタケルを心配そうに見つめるハジメ。

 ふと視線を感じそちらを見ると、雫と目が合い互いに苦笑する。

 

(ちゃんと気にかけてくれてるんだ。今度何かお礼しないとなぁ。)

 

 心の中で感謝の意を伝えておく。そして、特に問題という問題はなく今回の最終目的地である20階層に到達した。

 

「ここまでは、ある程度順調に来てるね。」

 

「そらあんだけチートなステータスしてたらこんな序盤の階層で躓かへんやろ。経験積んだ兵士もおるし、トラップを見つけれる『フェアスコープ』とかいうアイテムもあるしな。ただ……」

 

 そこでいったん言葉を句切るタケル。

 

「……ステータスが高いだけでクリア出来るほど、甘いことも無いやろ。」

 

「……だね。」

 

 と、そこで前衛の香織と目が合い、ニッコリと笑顔を向けてくる彼女にハジメは照れ臭そうに目をそらす。

 不満そうな顔をする香織だが雫にからかわれてすぐに意識を迷宮攻略に戻す。

 

「お前等何かあった?」

 

「うぇ!?な、何かって?」

 

「な~んか、こないだ迄と雰囲気が違うような感じがしてのう。」

 

「あ、ああ……実は昨日タケルが寝た後色々あって、まあそれ関連だとは思う──!?(バッ!)」

 

 と、そこで何かを感じ取ったのかいきなり周囲を見渡すハジメ。

 

「な、何や?どないした?」

 

「いや……今視線を感じて……気持ちの悪い。嫌な視線を……」

 

「……またあの小悪党共が睨んでんのとちゃうか?」

 

「どうだろう……今までのよりも更に濁った視線だったんだけど……」

 

 不安に駆られながらも、20階層攻略の為に態勢を整える。と、その時タケルの“気配感知”の技能に反応があった。

 

「……いる。」

 

「え?」

 

「姿は見えへんけど、確かにおる……っ!」

 

 そう言うのと同時に突如前方の壁が変色し、2本の腕が生えたゴリラのような魔物に変化する。

 

「ロックマウント、擬態能力がある魔物だ!二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

 メルドが叫ぶと、光輝達が陣形を整える。天職“拳士”の龍太郎がロックマウントをはじき返し、その隙に光輝と“剣士”の天職である雫が斬りかかろうとするも、足場が悪く上手く動けないでいた。

 その隙にロックマウントが後ろに下がり大きくのけぞる。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」

 

 ビリビリと洞窟全体を揺らすような叫声が響き渡る。

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

 ダメージこそないがその声に一瞬ひるんだ前衛組。

 その隙にロックマウントが岩を投げつけてくるが、魔法支援組の3人が魔法で迎撃しようと詠唱を開始する。

 だが、そこで予想外の事が起こる。

 

「──!?ひぃ!?」

 

 誰かがそんな声を漏らして詠唱が止まってしまう。

 見れば投げられた岩の正体もまたロックマウントだった。しかも体を大きく広げ抱きつかんばかりの勢いで飛んできている。

 どうやらその様子が気持ち悪くて気を取られた様だ。

 

「おいおい!詠唱止めんなや!死にたいんか!」

 

 言うが早いかメロンディフェンダーを投げ飛ばす。偶々近くで索敵していたことも功を奏し、発見が手早かった様だ。

 メロンディフェンダーはそのまま空中浮遊中のロックマウントに激突、勢いを殺されたロックマウントそのまま地面にキスする結果となる。

 

「良いぞタケル!コラお前たち!戦闘中に怯むんじゃない!」

 

 そう叱りつけながらメルドが落下したロックマウントを倒す。叱られた3人はションボリしながらも、先ほどの光景が目に焼き付いてしまったのか少々青ざめている。

 すると、その様子を見て死の恐怖に怯えていると思ったのか、光輝が怒りの形相で残ったロックマウントを睨み付ける。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

 そう言うと彼の持つバスターソードが眩い光を放つ。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ──“天翔閃”!」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 慌ててメルドが制止するも、頭に血が上った光輝はそのまま剣を振り下ろす。

 その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 その後、やりきった様に「ふぅっ!」と息を吐くと、満面の笑みで振り返る。

 香織達の安否を確認しようとしたのだろうが、そこで待っていたのはメルドからの鉄拳だった。「へぶぅ!」と珍妙な声を漏らして頭を押さえる光輝にメルドが一喝する。

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

「っ!す、すみません!」

 

 メルドの言葉に自分のしたことの重大さを悟ったのか、即座に謝罪する。

 その後ショックだったのか多少落ち込んでいる光輝に香織達が励ましの言葉を投げかけているとメルドがタケルに近寄ってくる。

 

「タケル、良くやったな!あそこで咄嗟に武器を投げつけて行動を阻害するのは良かったぞ。」

 

 満面の笑みで賞賛するメルドに対する反応に困っていると、香織達も礼を言うために寄ってきた。

 

「ありがとう木場君!助かったよ!」

 

「いや~、結構男らしいところあるんだねぇ!鈴からもありがとう!」

 

「そ、その……ありがとう」

 

 三者三様に礼を述べられ、遂には盾で顔全体を隠してしまう。

 

「べ、別に……目の前で死なれたりしても、寝覚めが悪いだけやし……礼言われることとちゃうし……」

 

 顔を隠しながら言い訳するように告げるその様子は、誰が見ても照れ隠しであるとわかる。それが可笑しかったのか、クスクスと笑う香織達。

 

「ねえ南雲君、もしかして木場君って……褒められるの慣れてないの?」

 

「うん、昔からああ言う感じだから、周りからは白い目で見られる事の方が多かったしね。」

 

「そう……」

 

 雫はハジメの言葉に少し思うところがあったのか、微笑んでタケルを見つめる。そんなやりとりをしていると、ふと香織が何かを見つけたように声を漏らす。

 

「あれ……何だろう?凄くキラキラしてる。」

 

 見ると先ほどの光輝の攻撃で抉れた地表から何かが剥き出しになっており、煌びやかなに輝きを放っていた。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。加工して女性用の装飾品として売られる事もあるらしいぞ。」

 

 メルドの説明にウットリとした様子で、鉱石を見つめる女性達。タケルも綺麗だとは思うがそれ以上の感想は浮かばず、興味が失せたようでそっぽを向く。

 そんな中、何か良からぬ事を考えたのか檜山が動き出す。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言うと、壁をよじ登り鉱石を取り出そうとする。そんな檜山の独断行動をメルドが一喝する。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

 明らかに聞こえているであろうに、檜山はその声を無視し続け、とうとうその手が鉱石に触れたその瞬間──

 

「団長! トラップです!」

 

「ッ!?」

 

 フェアスコープで確認を取っていた団員が声を上げる。同時に鉱石から魔方陣があふれ出し、皆を包み込む。まるであの日、このトータスに召喚されたときのように……

 

「くっ、撤退だ!皆急げ!」

 

 メルドが慌ててそう命じるも時すでに遅く、光に包まれた一行は謎の浮遊感を感じた後、叩きつけられるようにお尻から着地する。

 

「ここは……」

 

「……さっきまでおった場所でないことは確かやな」

 

 どうやら転移系のトラップだったようで、一行は巨大な石造りの橋の上にいた。そしてその片側には上へと続くであろう階段がある。それを見つけた瞬間慌ててメルドが指令を出す。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 その切羽詰まった様子に生徒達も慌てて立ち上がると、一斉に走り出す。

 

 ──だが、何故メルドはここまで焦っているのか?

 

 ──それは、仮にも迷宮に設置されたトラップが、ただ転移するだけでは終わるはずがないと知っているからだ。

 その予想を裏付けるように、階段付近の床から魔方陣が出現し、そこから鎧を着た骸骨のような魔物が大量にあふれ出す。

 更に階段があるのとは逆の通路の方からも魔方陣が現れ、巨大な体躯の四足歩行の魔物が出現した。

 

 それを見た瞬間、絶望したような顔でメルドが呟く。

 

「まさか……ベヒモスなのか?」

 

 

 

 

 階段付近は阿鼻叫喚に包まれていた。生徒達は突然別の場所に転移されしかも魔物に囲まれているという状況にパニックを起こし、陣形はバラバラでそこかしこから悲鳴が上がっている。

 

「くっ!確実に20階層の遙か下の階層みたいやのお!魔物の強さが段違いや!」

 

「う、うん!しかも皆パニックを起こしてる……ステータス的には切り抜けられる可能性はあるのに、冷静じゃない分上手く対処できてない!」

 

 襲い来る魔物『トラウムソルジャー』の大群を受け流しながらどうしたものかと思案する。だがその思考は周囲から聞こえる悲鳴によって遮断される。

 

「ああもう!やかましいて全然思考がまとまらん!」

 

 『感覚過敏』……自閉症の症状の一つであり、人間の五感が過剰に反応してしまうというモノだ。例えば視覚が過敏な者は色々な物に目移りしてしまうし、触覚が過敏な者は人との物理的な接触を極端に拒む傾向にあり、複数持ち合わせる者もいる。

 タケルは聴覚が過敏であり、集中して取り組みたい時に音があると途端にかき乱されてしまう。蚊の鳴くような声でも気が散るのに、悲鳴など以ての外。

 しかもハジメがいる故大分マシではあるがタケルも不足の事態には弱く、軽くパニック状態なのも冷静な思考が出来ていない要因だ。

 

「くそっ!そもそもあのボケナスがトラップに引っかからんかったら……ん?──!?」

 

 諸悪の根源たる檜山への恨み節を呟いていると、ふと視界の端に女子生徒が今正にトラウムソルジャーに切り伏せられようとしているのを捉える。どうやら恐怖で動けない様だ。

 

「だあああくそ!!」

 

 それを見るやその間に割って入り、メロンディフェンダーで斬撃を受け止める。

 

「おいコラぼさっとすんな!死にたくなかったらとっとと立て!」

 

 一喝するとその女子生徒は「う、うん!」と言って立ち上がる。対してタケルは少々不安定な態勢で受け止めたことで力が込めにくく徐々に押されていた。

 

「“錬成”!」

 

 と、そこでハジメが駆けつけ錬成で地面を隆起させる。それは波打つように広がり数体のトラウムソルジャーを巻き込んで橋の方まで押しだし、遂には諸共落下していった。

 

「大丈夫!?」

 

「ああ……けど状況は最悪やぞ……」

 

「……足りないんだ……皆を引っ張るリーダーも、此処を突破できるだけの火力も……」

 

「……そう言えば、あのアホ勇者どこ行った?」

 

 見渡してみると──いた。遥か前方、橋の上でベヒモスと対峙していた。しかも最悪な事にベヒモスはピンピンしている。

 

「あんのボケェ!こんな状況なら即刻撤退すんのが吉やろ!これやから嫌いやねんアイツは!」

 

「でも……今この混沌とした状況を切り抜けるには彼の力が必要だ。タケル……ごめん、行ってくる!」

 

「は?あ!おい!」

 

 そう言うと光輝の元へ駆けていくハジメ。呆然とそれを見送ると、更にイライラした様に頭を掻き毟る。

 

「くそっ!言うてもアイツが戻ってくるまで持たへんやろこの状況!」

 

 既にボロボロの生徒達、団員達も応戦しているのだが如何せん数が多い上に、パニック状態の生徒が連携を乱している。

 未だ鳴り止まぬ悲鳴……冷静になろうにも、状況と己の障害がそれを許さない。

 

(檜山(アイツ)がトラップに何ぞ触れへんかったら……あのアホ勇者があんな大技ぶっ放して壁を抉らへんかったら……エヒトとか言う駄神が俺らを召喚せえなんか言わんかったら……!!)

 

 幾つもの最悪の状況が重なった結果、遂にタケルの我慢の限界値が振り切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃかあしいんじゃあああああああああああ!!!!!!!!こんのボケナス共がああああああああああ!!!!!!!」

 

 ロックマウントのそれより遥かに大きい咆哮。それは生徒達の意識を向けさせるには十分だった。

 

「お前ら今まで何しとったんじゃ!!!“こういう状況ではパニックになりましょう。”とでも言われたんか!!!戦争に参加する言うた時点でこんな状況に陥る事も想定に入れとけド阿呆!!!悲鳴あげる暇あるんやったらとっとと陣形立て直せやウスノロ共!!!」」

 

 普段見ない厳しい言葉で叱責するタケルに面食らいながらも、その物言いに不満の表情を浮かべる。だが、どうやら恐怖心を和らげる事には成功した様で各々陣形を立て直して行く。

 因みに言った本人は本当にただ苛立っていただけなのだが……

 

 そして、徐々に押しては来ているがやはり決定打がなくジリ貧になっていたその時──

 

「“天翔閃”!!」

 

 光輝が前線から復帰しトラウムソルジャーをなぎ払う。メルド他前衛組も同じく戻ってきて存分に力を振るい活路を切り開いていく。 

 生徒達はその様子に一気に調子を取り戻し、遂に階段前を陣取った。後はここを上ればこの状況を抜け出せる。

 

 だがそこで、香織が待ったをかける。

 

 

「皆、待って! 南雲君を助けなきゃ! 南雲君がたった一人であの怪物を抑えてるの!」

 

(……はあ!?)

 

 その言葉でタケルは再び橋の方を見ると、そこには地面を隆起させて必死にベヒモスを食い止めるハジメの姿があった。

 

「そうだ! ハジメがたった一人であの化け物を抑えているから撤退できたんだ! 前衛組! ソルジャーどもを寄せ付けるな! 後衛組は遠距離魔法準備! もうすぐハジメの魔力が尽きる。アイツが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

 メルドが即座に指示を飛ばす。生徒達は気を引き締め直し各々態勢を整える。タケルもまた後衛組として詠唱の準備をする。

 そして魔力がほぼ尽きたのかハジメがこちらを見てくる。それと同時にこちらも詠唱の準備が整い、それを確認したハジメが離脱したのを見届けると……

 

「撃てえええええええええええええ!!!!!」

 

 その声で皆一斉に様々な属性の魔法弾を放つ。それらはベヒモスに降り注ぎ、ダメージこそたいしたことは無いが足止めとしては充分機能している模様。

 このままハジメがこちらに来れれば、皆無事に帰れる……そう誰もが思った次の瞬間──

 

「な!?」

 

 火属性と思われる魔法弾が突如軌道を変えてハジメに襲いかかった!突然のことで回避が間に合わなかったハジメはまともに食らってしまい吹き飛ぶ。

 なんとか立ち上がるものの、吹き飛ばされたショックからか、足下が覚束ない。その隙にベヒモスがハジメを捉え、一歩踏み出した。

 そして度重なる負荷により耐えきれなくなったのだろう……石橋が崩落を始めた。ハジメはなんとか向こう岸まで渡ろうとするが間に合うはずもなく……その結果──

 

 

 

 

 ──ハジメは奈落へと消えていった。

 

 そしてその様子を、タケルはただただ呆然と見ていた。手を伸ばすでもなく、泣き叫ぶでもなく、まるで目の前で起こった事をまだ処理できていないかのように……その瞳は、奈落の暗闇をジッと捉えていた。




 如何でしたか?

 タケルは落ちません。ハジメのいない環境で彼がどう変化するか……将又しないのか…てそれを見届けて下さい。

 それではまた次回、チャオ〜


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6話 障害を持つ彼は己の現実と葛藤する

どうもこんにちわ。

前回話した通りタケルは落ちません。ハジメのいない環境で頑張ってもらいましょう。

それでは第6話、Ready GO!


 

 “南雲ハジメが奈落へ転落した”

 

 クラスメイトがそれを受け入れるのは多少の時間が必要となった。そしてその現実を受け入れざるをえない理由となったのは、彼女の悲痛な叫び声だった。

 

「離して! 南雲君の所に行かないと! 約束したのに! 私がぁ、私が守るって! 離してぇ!」

 

 香織は今にも奈落へ飛び込みハジメの後を追わんばかりの勢いでもがいている。その香織を雫と光輝が必死に抑え静止する。

 

「香織っ、ダメよ! 香織!」

 

「香織! 君まで死ぬ気か! 南雲はもう無理だ! 落ち着くんだ! このままじゃ、体が壊れてしまう!」

 

 雫は香織のハジメへの想いを知っている、故にかける言葉が見つからずただただ名前を呼び続けることしかできなかった。

 だが、光輝は違う。精一杯香織を気遣う言葉を投げ掛けるも、其処に含まれるハジメの生存は絶望的だとでも言うような発言によって、余計に香織の冷静さを奪っていた。

 

「無理って何!? 南雲君は死んでない! 行かないと、きっと助けを求めてる!」

 

 体が壊れんばかりの勢いで暴れる香織の様子を、クラスメイト達はハラハラしながら見ていた。

 地球にいた頃、香織がハジメを構う事を快く思っていなかった者も、今の香織の様子を見ればただの親切心で構っていた訳ではない事も容易に想像がつく。

 だがこのまま行けば香織の体は本格的に壊れてしまう……一行が不安気に見守る中、メルドが徐ろに近付くと、香織の首筋に手刀を落とす。するとカクンっと長い髪を振り乱して意識を失う香織。どうやらこれ以上は危険と判断し、無理矢理意識を刈りとった様だ。

 その様子に不満を覚えたのか、光輝がメルドを睨みつけて一言物申そうとした時、我先にと雫が礼を述べた。

 

「すいません。ありがとうございます。」

 

「礼など……止めてくれ。もう一人も死なせるわけにはいかない。全力で迷宮を離脱する。……彼女を頼む。」

 

「言われるまでもなく。」

 

 そう告げると先導する為にその場を離れるメルド。怒りの捌け口を失い不満気な様子の光輝に雫が叱咤する。

 

「私達が止められないから団長が止めてくれたのよ。わかるでしょ? 今は時間がないの。香織の叫びが皆の心にもダメージを与えてしまう前に、何より香織が壊れる前に止める必要があった。……ほら、あんたが道を切り開くのよ。全員が脱出するまで。」

 

 その言葉を聞き冷静さを取り戻した光輝は香織を龍太郎に預け、前線へと向かう。雫も一行に続こうとするが、其処でふと未だに棒立ちしている人物に声をかける。

 

「木場君?」

 

 件の人物であるタケルの名を呼ぶ。

 

「…………」

 

 聞こえていないのか、反応を示さず奈落の奥の虚空を見つめていた。雫はその様子に違和感を覚えたが、今は脱出を最優先すべきと考え先程より大きめに呼びかける。

 

「木場君!!」

 

「……っ!……え?」

 

 ようやく反応したタケル。だが、何故呼ばれたのかわかっていない様子。ポカンとしながら雫を見上げていた。

 

「その……迷宮から脱出するから、早く行かないと……ね?」

 

 そんなタケルに少し畏怖の感情を抱きながらも、要件を伝える。

 

「……ああ、わかった。」

 

 何処かボーッとした様に返事をし、隊の後ろから付いていく。

 雫は何となく最後尾を歩かせるわけにはいかないと思い、自分がその後ろを歩く事にした。

 

 

 

 

 とっぷりと日も暮れたホルアド、無事迷宮から脱出した一行は前日に宿泊した例の施設で一夜を過ごしていた。

 そしてハジメとタケルの自室には、未だにボーッとした様子でベッドに腰掛けるタケルの姿があった。

 だが次の瞬間、目を見開いて立ち上がると一心不乱にトイレに駆け込んだ。

 

「うげええええ!!オエッ!!ゲホッゲホッ!!」

 

 突如こみ上げてきた吐き気に苦しみ悶える。それでようやく完全に意識が明転した。少々趣味の悪い目覚め方ではあるが……

 

「はぁはぁ……くそっ!」

 

 フラフラと立ち上がると部屋を出る。どこを目指すでもなく歩いていると、中庭へと到着した。そしてあの時……ハジメが落下した時の様子を思い浮かべる。

 

(ハジメが落ちた……ハジメが……)

 

 噛み締める様に思考を巡らせる、だが……どれだけ考えても悲しみの感情は湧き上がってこなかった。

 

「……何で……何でやねんっ!何で何にも感じひんねん!目の前でハジメが……友達が落ちたんやぞ!?せやのに何でっ!」

 

 意味がわからないという様に頭抱える。その時、タケルの脳内に声が響く。

 

──決まってるやろ?

 

「っ!?」

 

 聞こえた声に愕然とする。直接響く様な声がガンガンと脳を揺らしていた。

 

──お前(オレ)が、周囲の人間に一切の興味がない障害者やからやろ?

 

「違う!ハジメは……ハジメは違うんや!ずっと一緒におったんやぞ!?そんなその他大勢と同列な訳ない!」

 

──いいや?変わらんよ?お前は結局自分以外の事はどうでも良い。その証拠にお前はハジメが落ちた時、こう思ったはずや……

 

 

 

──“自分が落ちんくて良かった”ってなぁ!

 

「──!黙れえええええええええ!!!!!!」

 

 頭を掻き毟り、頭に響く声を掻き消そうと暴れる。

 

「俺はそんな事思わへん!そんな事思ったらあかんねや!!

 

──現実を受け止めろよ。それがお前の障害やろ。何も恥じる必要なんかない。自己中な思考になるのは自閉症の特徴やろ?お前の中の自己中な自分自身……それがオレや。

 

「例えそうやとしてもそんなん理由にならへん!そんな事考えるのは、人としてあかんねや!頼むから俺の頭から出ていけぇ!!」

 

 まるでチグハグな感情。二重人格などを疑われかねないほどだが、昔はこうではなかった。

 昔のタケルは感情の赴くままに行動しており、それ故他人への配慮が出来ないという欠点があった。それが成長に伴い我慢できる様になったと言えば聞こえは良いが……要は感情を押し殺しているのだ。

 “自分さえ良ければ良い”という自己中心的な感情と、“そんな事は許されない、考えちゃいけない”という自制心が半端に混ざり合い、複雑に入り乱れタケルを苦しめていた。それでもハジメや母の手前なんて事ない様に振る舞っていたが、今回の一件で一気に溢れ出してしまった。

 

──もう楽になれや。このまま押さえ込んでもええ事ないぞ?

 

「うるさい!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇ!!」

 

──お前があの勇者を嫌ってるんは自分を重ねたからやろ?独善的で現実から目を背けてるその姿に自己中な自分自信を見たんや。

 

「そんな事ない!俺はちゃんと現実を見て障害と戦ってる!あんな奴と一緒にするな!」

 

──なら何でお前はもがいてる?オレという存在、感情を否定してる?それが何よりの証拠やろ?“そんな事思ったらアカン”という良心とオレの存在がグチャグチャに混ざり合った結果、お前の心は既にボロボロや。

 

「そ……れは……」

 

 否定は出来なかった。現に今こんな幻聴紛いの言葉に苦しめられている程にタケルの心は弱りきっているのだから。

 

──それでもお前は周りには明かさず耐える。自分の力だけで頑張ろうとすると言えば聞こえは良いやろうが……その実お前は怖かっただけや。全て話して否定されるんが!拒絶されるんが!結局お前は誰も信用なんかしてなかった!

 

「……うるさい、うるさい!!!」

 

──自分1人で何とかしたくても、お前の障害はそれを許さへん。周りのサポートが必要不可欠や。でも、そのサポートをお前は少なからず煩わしいとも思ってた!違うか!?

 

「っっっ!ぐうううううう!!!!!」

 

──そして自己嫌悪する事でお前はそれを否定してきた!お前は周囲の人間どころか、自分すら信じられへんねや!

 

 負の感情が押し寄せてくる。ハジメがいなくなり隙だらけになったタケルの心に、今まで抑圧していた感情が一気に押し寄せて来た。

 

──お前は結局ずぅっと、1人ぼっちやねん!

 

「やめろおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

 

 暴れ続けるタケルだが、そこでふと視界に像を捉える。恐らくエヒト神を形どったであろう巨大な像に徐ろに近づく。そして──

 

「消えろ…消えろ…消えろ……消えろおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 雑音を消し去ろうと思い切り仰け反ると、そのまま銅像目掛けてその頭を振り下ろす。

 

 

 

 

 

「やめて!!!」

 

 ──だが、衝撃が襲う事はなかった。誰かがタケルを後ろから羽交い締めにして抑えていた。

 背中に感じる特有の温もりと高音の声はその正体が女性であると認識させ、そして声の位置から自分よりも頭一つ分は大きいであろうこともわかる。そこから導き出される人物は──

 

 

「──やえ……がし?」

 

 ──八重樫雫、その人であった。

 




さて、今回は少々短めでお送りしました。

タケルの溜め込んでたモノが幻聴となって爆発しましたねぇ。

でもコレってあながち非現実的な事じゃないんですよ?何故って作者がそうだから。流石に幻聴は聞こえませんが……

自閉症由来の自己中な思想と、成長と共に育った自制心が拮抗して心がグチャグチャになる。もはや軽い鬱状態です。

実際自閉症やアスペルガーの人は派生して鬱病になったりもするみたいですしね。

さて、最後は済んでのところで雫に静止させられましたが、その後どうなるか……

それではまた次回、チャオ〜


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7話 障害を持つ彼は己の呪縛を解き放つ

さてさて、評価バーに色がついてることに驚きながらも、まだまだ精進すべき課題の多さに四苦八苦しております。

前回はタケルが暴走しているところを雫が止めるというところで終わりましたが、さてどうなることやら。

では第7話、Reay GO!


 

「何やってるのよ!?そんな事すれば怪我じゃ済まないかもしれないのよ!?」

 

 雫は未だ目を覚さない香織に付き添っていたが、ふと外の空気を吸おうと部屋を出た時叫び声が聞こえ駆け付けてみれば、タケルが像に頭を打ち付けようとしている現場に居合わせ慌てて止めに入った。

 --だが、今のタケルにはそんな事はどうでも良かった。

 

「……離せ」

 

「え?」

 

「離せやボケェ!!どいつもコイツも!邪魔すんなや!何で俺の自由にさせてくれへんのじゃああああああ!!!!!」

 

「ちょっ!?落ち着いて!」

 

 ジタバタと暴れるも、女性とはいえステータスも身長も自分より高い雫の拘束を振り解けない。

 

「くそっ!くそっ!クソがあ!!消えてまえどいつもコイツもぉ!エヒトも!イシュタルも天之河も!クラスの連中も役に立たへん教師も!俺の足ばっかり引っ張る連中全部消えてまえ!!!」

 

 雫は困惑していた。いつものボーッとした様子でも、光輝に物申した時の毅然とした様子でも、褒められて照れくさそうに誤魔化してる様子でもない。そのどれにも当てはまらない、駄々を捏ねる子供の様な姿。疑問に思いながらも、今最優先にすべき事を考え必死に取り押さえる。少しでも力を抜いてタケルが抜け出してしまえば、何をしようとするか……想像に難くはなかった。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」

 

 遂には獣の様な唸り声をあげながらジタバタともがく。それでも拘束を解く事ができないと、やがてだらんと力が抜けた。

 前触れもなくいきなり暴走が止んだことに、雫が不思議に思い肩越しに覗き込むと──

 

 

 

 

 

 

「……うぅ……ヒック…うわぁあああああ……」

「…えぇ?…泣い、てる?」

 

 ──泣いていた。直前まであんなに暴れていた人物が今度は泣いている。そのあまりに情緒不安定すぎる光景に雫は本気で混乱したが、それでも万が一の為に泣き続けるタケルをしっかりと抱きとめていた。

 

 

 

 

 

 

「……ヒック……おい」

 

「何?」

 

「……離してくれ、もう暴れたりせぇへんから……頼む。」

 

 暫くして漸く泣き止んだタケルは、嗚咽を漏らしながらも落ち着いた声で雫に懇願する。

 先のこともあり多少警戒はしたが、いつまでもこうしていては話も聞けないと思い拘束を解いた。

 すると、タケルはその場にストンと腰を下ろす。俯いて動かず表情は読み取れないが、あまり大丈夫とはいえない状態であるのは先の暴れようからも明らかである。

 どう声をかけるべきか……雫が黙りこくって思考を巡らせていると、その様子に疑問を覚えたのかタケルが逆に問いかけてきた。

 

「何も……聞かへんのか?」

 

「え?」

 

「明らかに異常やろ。あんな暴れて……かと思えばいきなり泣いて……お前も混乱したやろ?」

 

「それは……」

 

「……ええよ。あのアホ勇者や小悪党共ならともかく、お前ならまだ話しても……聞いたところで何も変わらんやろうしな…」

 

 どこか投げやり気味に言うと、ポツポツと話し始める。自身の障害について、ハジメ家族や母以外には言ってこなかった事を初めて同級生に語る。

 その間、雫は真剣な顔つきで黙って話を聞いていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「──とまあ、こんな感じや。どうや?異常やろ?」

 

 全てを語り終えると、自嘲した様に笑うタケル。その目には光が点っておらず、全てがどうでも良いとでも言いたげな雰囲気だった。

 

「残念やけど、これが普通やねん。周りから見たら異常に見えるやろうけど、俺にとっては普通の事や。」

 

「……」

 

 雫は黙りこくって、動かない。あまりの事に声も出ないのかと思いながら尚も言葉を紡いでいく。

 

「今まで自分なりに頑張って来たんやけどなぁ……イラッとする事があっても耐えて、取り繕って……必死に表に出さん様にしてたんやけどなぁ。結局、何にも変わってへん。自己中で頭のおかしい人間って事かのぅ……ハハ」

 

 笑いながら自分自身を貶す。そんな惨めな姿を晒しているタケルを見兼ねて、雫が徐に口を開く。

 

「……何で笑ってるのよ。」

 

「は?」

 

「何でそんな風に笑えるのよ!馬鹿じゃないの!?あんな風に暴れるくらい、泣き出しちゃうくらい心が弱ってるのに!とっくに壊れててもおかしくないのに!笑えないわよ!辛いもの!悲しいもの!」

 

 よく見れば雫の目に涙が溜まっている。だが、タケルには理解できなかった。何故泣いているのか、自分の事でもない他人の事なのに……

 

「っ……何でお前がそんな顔すんねん。お前には関係ないやろ。」

 

「あるわよ!もう話聞いちゃったもの!そんな話聞かされて、ほっとけって方が無理な話でしょ!?だから──!」

 

「それが迷惑なんじゃ!」

 

「!?」

 

 雫の言い分に我慢できないとばかりに声を張り上げるタケル。その声に雫の口が閉じられる。

 

「説明したからなんや!?何か変わるんか!?そんな簡単な事やない!そんな簡単に解決したら苦労なんかするか!露骨に面倒見られても鬱陶しいだけや!これ以上は踏み込むな!ほっといてくれ!」

 

 ハァハァと息を切らしながらまくし立てるタケルに怯みながらも、雫は何処かその姿に違和感を覚える。

 

(自己防衛の為だけ?…それにしては、苦しそうにしてる。鬱陶しいと思ってるのは嘘じゃないだろうけど……それとは別の感情がある様な……)

 

 そこまで考えて「ハッ!?」と何か思い至った様にタケルを見据える。

 

「……怖いの?」

 

「……はあ?」

 

 唐突な質問に疑問符を浮かべるタケル。

 

「誰かが障害の事を知り自分の事を気遣ってくれても、自分はそれを鬱陶しく思うかもしれない。そしたらいつか爆発して罵詈雑言を浴びせてしまい相手を傷つけてしまうかもしれない……それが怖くて、貴方はずっと我慢してきたんじゃないの?」

 

「っ!?違う!見当違いも甚だしい!自惚れんな!俺は本気で鬱陶しいと思ってんねん!ただそれだけや!お前の感情なんか知ったこっちゃない!」

 

「じゃあ何で、貴方は今そんな辛そうな顔しているの?」

 

「っ!?そ、そんな事は……」

 

 そう言われてペタペタと顔を触る。触ったところで自分がどんな顔をしているのかわかるわけではないが、その行動自体が雫の仮説を立証していた。

 

「……ほら、やっぱり、貴方は自分が思ってるよりずぅっと優しい心の持ち主なのよ。」

 

「あ……あああ……っ!」

 

 “完全に見透かされている”……そう思いながらも、意地になって否定し続ける。

 

「違う…違う違う違う!俺は自己中で最低な人間や!周りの気遣いもずっと鬱陶しく思ってた!皆消えればいいのにって!お母さんだってそうや!ずっと疎ましかったんや!障害なんか持った状態で産みやがってって!何でもっと普通に産んでくれへんかったんやってぇ!」

 

 最低な発言だ。自分を産み育ててくれた親の侮辱。普通ならば激怒されてもおかしくない……だが、雫は悲しげに、どこか慈愛のこもった声で問う。

 

「じゃあ、言えば良かったんじゃない?それを貴方のお母様に全部ぶちまけちゃえば楽になれたんじゃない?自己中で最低な人間と称するなら、どうして言わなかったの?」

 

「……っ……それは……」

 

 答えられなかった……否、答えはすでに出ているのに、自分の中の意地がそれを邪魔していた。

 

「……ほら、やっぱり貴方は……とっても優しい人よ」

 

 そう言うと、真正面からタケルを優しく抱きしめる雫。

 

「な!?お、おい!?」

 

 タケルは雫の突然に困惑し引き剥がそうとするも、続く雫の言葉に自身の中の何かが崩れていくのを感じた。

 

「大丈夫だから。私は、貴方が何を言おうと否定しないから……受け止めるから……だからもう、我慢しなくて良いのよ?」

 

「──っ!?」

 

 優しく包み込むような柔らかな声。その瞬間、タケルの頬を温かい物がつたう。それが自身の涙であると理解した瞬間、今まで溜め込んだ感情が、波のように溢れだした。

 

「あ…あああ…ああああああっ!」

 

 堰を切った様に再び溢れ出す大粒の涙。それで服が濡れるのも構わずしっかりと雫はタケルを抱きしめる。

 

「苦しかった!心が壊れそうなくらいに辛かった!誰かにぶち撒けてまいたかった!でも……言えんかった……だって、あんなに良うしてくれるハジメとその家族に…こんな醜い本心聞かせたくなかった……お母さんだって、ホンマやったらもっと健康な、普通の子供に産んであげたかったって思ってるはずやもん!何不自由なく友達と遊んで、健康に育って欲しいって思ってるはずやもん!そんなお母さんに、あんな酷いこと言える訳ないやんかぁ!」

 

「うん……うんっ」

 

 雫の胸に顔をうずめ、泣きじゃくりながら本心を吐露するタケル。雫はそんなタケルの言葉を一言一句聞き漏らさずに受け止める。

 

「俺が我慢すればそれで大丈夫やって!そうすれば皆傷付けんですむって!そう思ってた……でも、そうすればするほど……自分の心がボロボロになっていった。どんどんどんどん廃れていって、醜くなっていった!……もう、嫌や……何で、何で俺ばっかりこんな目に合わなあかんねん!もっと、もっと──」

 

 嗚咽を漏らしながら、力一杯貯めて最後の本心を続ける。

 

「──普通が、良かったぁっ……ああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 誰にも話せず、ずっと仕舞い込んでいた本心。決して綺麗とは言えないかもしれない……だがその全てを雫はしっかりと心に刻み付けた。

 

「……頑張ったわね。でも、もう無理しなくていいから……もっと泣いてもいいから。今は一杯、枯れるまで涙を流していいからね?」

 

 まるで、悪夢にうなされた子供を優しくあやす母の様に……決して離すことなく抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

「……一度ならず二度までも、すまん」

 

「い、いや…私も勢い余って抱きしめたりして…ごめんなさい。」

 

 一通り涙を流した後、素面に戻った両名は自分たちの体勢に度肝を抜き、残像が見えるのではないかと言う速さで離れた。

 

(やってしもた…幾ら精神的に限界やからって…普通同級生の女子の体に顔埋めて泣くか!?)

 

(何やってんのよ私!?幾ら木場君が余りにもボロボロで健気で見てられないからって…普通抱きしめたりする!?)

 

 顔を真っ赤にしてガチガチに固まる2人。居住まいを正して俯いた姿勢で向かい合っているその光景は、側から見ればかなり異様だろう。

 

((な、何か……話さん(話さない)と!))

 

「「あ、あの……あ、どうぞどうぞ!」」

 

((アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!))

 

 見事に被ってしまいまた微妙な空気が流れる。と……

 

 

 

 

「……ククッ!」

 

「……フフフッ!」

 

「「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」」

 

 今度は2人して笑い出す。そのまま暫しの間笑い続けた後、雫が切り出す。

 

「もう、大丈夫なの?」

 

「……分からん。でも、かなり楽にはなった。」

 

 まだ少し不安げながらも笑顔を見せる。

 

「溜め込んだもん全部出して、だいぶマシや。完全に消えた訳ではないけども、もう大丈夫やと思う。多分やけどな?」

 

「そう、なら良かったわ。」

 

 微笑み返す雫に、頬を掻きながら言葉を捻り出すタケル。

 

「…あー、その……お前が居てくれへんかったら、多分……もっと酷い事になってたかも知れへんし……助かったって思ってる。」

 

「別に良いわよこのくらい「だから!」ん?」

 

「あ、ありが……とう。」

 

 これ以上ないくらい赤面して、消え入りそうな声で礼を告げるタケル。

 

「……プフッ!」

 

「な!?お前人が精一杯勇気振り絞ってお礼言うたっちゅうのに!」

「だってぇ…ふふっ…明らかに言い慣れてないんだろうなぁって感じで言うんだもの。しかも…ふふふ…顔真っ赤だし!あはは!」

 

「〜〜〜〜〜〜!?もう知らん!寝る!」

 

 肩を強張らせ怒ってますアピールをしながら部屋へと戻ろうとするタケルの背中に雫が呼びかける。

 

「木場君!」

 

「……ん?」

 

 そして、先程と同じ優しい笑顔で告げた。

 

「おやすみなさい。」

 

「……ああ、おやすみ。」

 

 挨拶を交わすと、踵を返してその場を後にする。もう頭の中のもう一人の自分が呼び掛けてくることはなく、その顔は最初ここに来た時とは似ても似つかないほど、晴れやかなモノだった。

 

 

 

 

 

 ──宿を出たとある一角。夜遅いこんな時間に男が1人座り込んでいた。

 その顔は醜く歪み、ほの暗い笑みを浮かべている。

 

「ヒ、ヒヒヒ。ア、アイツが悪いんだ。雑魚のくせに……ちょ、調子に乗るから……て、天罰だ。……俺は間違ってない……白崎のためだ……あんな雑魚に……もうかかわらなくていい……俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ……」

 

 その男──檜山は誰かに言い訳でもする様に呟いている。

 そう、この男こそがあの時ハジメに魔法弾を放った犯人だ。

 当初から香織に歪んだ愛情を抱いていた檜山は、ハジメの事が邪魔で邪魔でしかたなかった。

 故にあの時、溜まりに溜まった鬱憤が爆発し、とうとう悪魔に魂を売ったのだ。

 

 

 そして、そんな檜山を陰から見つめる者が1人……その人物は徐に檜山に近づいていく。その顔は檜山以上に醜く歪んでおり、まるでそれは、自身の目的遂行の為……他の全てを捨てでもそれを成し遂げんとする、そんな覚悟の現れの様だった。

 

 

 そして物語は、更なる混沌へと誘われていく──




いかがでしたか?

今回のは作者が書きたかった話の一つなんですよねぇ。しかし、端から見たら低身長の男子が長身の女性に取り押さえられているという異様な光景という……

まあそれはさておき、全部ぶちまけてやりましたよ!そしてそれを受け止める雫のオカン力!

この二人の関係性は之からもドンドン描写していくのでご期待頂ければ幸いです。

最後になりましたが、前回の投稿の際誤字報告していただきました『春はる』さん、ありがとうございました。

それではまた次回、チャオ~


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8話 障害を持つ彼は愚か者への慈悲を持たない

 はい8話でございます。

 リアルは忙しく若干遅れましたが、どうぞご覧ください!

 それでは、Ready GO!


 

 王宮内の訓練場、そこで金属同士がぶつかり合う音が響いていた。

 昼間など出入りする者が多い時間帯ならば不思議に思う事はないだろうが、時間は早朝……陽が昇ってまだ間もないと言うのに、1組の男女が得物を手にして対峙していた。

 

「……ふぅ」

 

 片や木場タケル、その手に持つ得物はメロンディフェンダー。

 

「……はぁ」

 

 片や八重樫雫、その手に握る得物はサーベルの様な柄のついた刀状のアーティファクト。

 互いに一つ息を吐き呼吸を整え、暫し静寂が訪れる。

 そして──

 

「「────!」」

 

 同時に前進し、互いの距離を詰める。

 

「はああ!!」

 

 雫が上段から刀を振るい──

 

「がぁ!!」

 

 ──それをタケルがメロンディフェンダーで受け止める。

 

「「……っ」」

 

 そのままギリギリと互いの得物を押し付け合う。このままジリ貧かと思われたが、すぐにその均衡は破られた。

 

「──脇がガラ空きよ?」

 

 ──ドスッ!

 

「オグゥ!?」

 

 中々の力で死角から鞘で脇腹を突かれたタケルは奇妙な悲鳴を上げて蹲った。

 

「だ、大丈夫?」

 

 その様子に、攻撃を加えた雫も心配そうに覗き込む。

 

「ええトコ入ったぁ……ちょうど力緩めた所にモロ……ああ、フーディーニってこんな気持ちで死んだんやろか……」

 

 目尻に涙を浮かべながらも割と余裕そうなタケルを見て、「ホッ……」と安堵の息を漏らす雫。

 

「今のが八重樫流刀術の技の1つ『無明打ち』よ。さっきみたいな鍔迫り合いの状態で死角から鞘で攻撃する、まあ不意打ちみたいなものね」

 

「不意打ちってか騙し討ちの気もするけど……はぁ……やっぱり盾一本やと限界あるなぁ」

 

「そうね。投擲武器として使うにしても、戻ってくるまで丸腰状態じゃ……」

 

「ええ標的やろな。特にトラウムソルジャー戦みたいな乱戦状態やとお荷物もええとこや。はぁ……せめてもうチョイ筋力と体力があればなぁ……」

 

 そうぼやくとステータスプレートを取り出す。

 

===============================

木場タケル 17歳 男 レベル:15

天職:創作者

筋力:110

体力:120

耐性:140

敏捷:150

魔力:140

魔耐:140

技能:思考具現化[+思考速度上昇][+体術模倣]・火属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+連続発動]・雷属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+連続発動]・複合魔法・属性耐性[+火属性効果上昇][+雷属性効果上昇]・気配感知[+熱源探知]・言語理解

===============================

 

「この数日で迷宮潜る前よりもレベルは3倍になったけど……どうもステータスの伸びが悪くなってるなぁ……特に魔力が」

 

「派生技能は増えてきてるんだけどね……特に体術模倣なんて最初に披露された時はびっくりしたわよ。いきなり私の動きをほぼ完璧に真似てくるんだもの」

 

「言うても見た側から模倣できる訳ではないけどな……今の所はじっくり見て脳に焼き付けへんと……後、あくまで模倣は模倣。自分の体が追いつかへんかったら半端になって逆に危険やし」

 

「でも、動体視力は結構あるのね?眼球が私の攻撃をしっかり捉えているのが見えたわ。まあ、体が追いついていなかった様だけど……」

 

 雫の言う通りタケルは動体視力が人並み以上には高い。が、その反面運動神経があまり高いとは言えず、見えても反応出来ないのが難点であると当人も認識している。

 

「体育でやる野球なんかは無理なく当てれるんやけどなぁ。素早い攻撃やとやっぱり体が追いつかん」

 

「……まあ、焦っても仕方ないわ。自分のペースでやるのが1番なんでしょう?」

 

「まあな……そしたら行くわ」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

 ハジメが消息を絶ち、タケルが雫に本音を吐き出してから早5日。

 あれ以来、タケルは早朝に1人で訓練していると言う雫の元に出向いて共に模擬戦などをしてレベル上げを図っている。

 事の発端としては、件の翌日にタケルが何か言いたげな雰囲気を出しているのを見かねた雫が声をかけた事だ。

 曰く、「あれだけぶち撒けたんだから今更でしょ?」とのことらしい。

 それでも多少渋っていたが、結局はこの早朝訓練への参加を打診するに至った。

 

「今はそれ程でもないけど、あの時は顔を真っ赤にしてたわよねぇ……ふふっ、良い傾向って事なのかしらね?」

 

 タケルが去った後、素振りをしながら当時を振り返り感慨にふける雫。

 その顔はまるで子の成長を喜ぶ母の様に、優しく綻んでいた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「う〜ん……やっぱ今のままやと火力不足やんなぁ……」

 

 数刻空いて工房。そこでは相変わらず眉間にシワを寄せて悩むタケルの姿があった。

 

「このまま魔力の伸びが悪いと、周りとの差がドンドン広がって終いには完全に足手纏いや……それだけはぜっっったい嫌やし!」

 

 それが他人であれ自分であれ足手纏いを嫌うタケルにとっては、今の状態は芳しくはないらしい。

 だからと言って闇雲に武器を作っても何も変わらないのはわかっているのか、完全に手詰まりの状態らしく頭を抱えて唸っている。

 

「──あ〜、アカン頭痛なってきた……一回外の空気吸おう……」

 

 それなりの時間頭を使っていた反動か頭痛を覚えて外に出る。

 すると血相変えて雫が走ってくるのが見えた。

 

「あ!木場君ちょうど良かったわ!」

 

「何や?また誰か何かやらかしたか?」

 

 探し他人を見つけた様に駆け寄ってくる。何事かとタケルが問うと、微妙そうに顔を歪める雫。

 

「う、う〜ん?やらかしたと言うか……やらかした事についてと言うか?」

 

「はい?」

 

「兎に角!今すぐ訓練場に行くわよ!貴方にも……いいえ、貴方が1番関係のある事なんだから!」

 

「え、あ、はい……」

 

 矢継ぎ早に捲し立てられ軽く放心しながらも、先を急ぐ雫の背中を追う。

 

(え?俺、なんかしたっけか?)

 

 そんな不安を抱き、モヤモヤしながらも訓練場に到着する。そこには殆どの生徒が集まっており、何人かはタケル達が入ってくるのを認識していたが、殆どはある1名の生徒に視線を落としていた。

 

「それで?ようやく部屋から出てきたと思えば、何の用だよ檜山」

 

 その中の1人『永山重吾(ながやまじゅうご)』が件の人物──檜山に問いかける。

 直後、檜山は膝を付き勢い良く額を床に擦り付ける。その様子に一同が唖然としていると、その状態のまま絞り出す様に言葉を紡ぐ。

 

「皆すまねぇ!!俺が……俺があの時トラップに引っかかったせいで……こんな事に!!本当にすまねえ!」

 

 必死に謝罪の弁を述べる檜山へ向けられる眼差しは冷ややかな物だった。やはりあの状況を招いた事は許せないのだろう。

 だが、皆それ以上は気まずそうに顔を逸らすだけで何も追及しない。

 

「……閉明塞聡、てか?」

 

「え?」

 

 その様子にボソッとタケルが呟くと、隣りにいた雫が反応した。

 

「現実から目を背けてる……これ以上アイツを追及して、あの事にも触れられたらどうするかってな」

 

「あの事?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事」

 

「っ……」

 

 それを聞いて雫も合点がいった。確かにあの時ハジメに当たった火球が誰の放ったモノかは特定できておらず、ここ数日皆その話を持ち出そうとはしていなかった。

 

「怖いんでしょうね……もし自分だったらって思うと……」

 

「どっちみちこれ以上の追及はされへんやろうし、多分アイツも狙ってこの場で謝罪してるまであるやろうなぁ」

 

「……でしょうね」

 

 と、ボソボソと会話している2人を他所に、光輝が檜山へと近づいていく。

 そしていまだに膝をついた檜山の肩に手を置くと、優しげな声で語りかけた。

 

「檜山、よく勇気を出して言ってくれたな。ありがとう」

 

「天之河……」

 

「犯してしまった罪は消えない……だが、これからしっかり償って行こう!大丈夫、俺も一緒に頑張るから。それが、死んだ南雲への弔いになる!」

 

「ああ……悪りぃ……」

 

 そう呟くと、再び俯いてしまう檜山。

 きっと光輝の言葉で感動しているのだろうと、学のない者なら思うのだろうが……

 

(ヒ、ヒヒヒヒ……上手く行ったぜ!)

 

 その顔は醜く歪んでいた。その事からも分かる様に檜山は1ミリも反省などしていない。

 あの日、迷宮から帰還した日に檜山は、とある人物と交渉した。その人物はハジメに火球を故意に当てたのが檜山であると認知しており、それをネタに協力を要請してきたのだ……自らの目的を果たす為に。

 そして檜山もまた、己の野望の為、その要請を受けたのであった。

 

(アイツの言うとおり、この場での謝罪は有効みたいだなぁ!勇者様様だぜ!)

 

 その人物は手始めに檜山へクラスメイトに謝罪するよう命令した。

 勿論初めは渋ったが、目的遂行の為に立場を一定にしなければいかず、最後は苦い顔をしながら承諾した。が、ただ謝るのではなくこの状況で謝罪させたのは理由がある。

 光輝だ。彼のカリスマで檜山の罪への追及を抑え、元にとまではいかなくとも比較的穏便に済むよう取り図った。

 要するに光輝は2人に体よく利用されたのである。あとはこのまま徐々に計画を進めていくだけ……檜山がそう思いほくそ笑んだ時──

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で?」

 

 そんな声が聞こえた。そこまで大きい声でもなかったが、全員の耳に届いたらしいその声のする方を向くと……腕組みをしてこちらを見据えるタケルがいた。

 そのまま汚物でも見るような目で前に出ると再び声を発するタケル。

 

「それで終わり?」

 

「それで終わりって……一体何が言いたいんだ木場?」

 

 要領を得ないタケルの問いに光輝が疑問を投げかける。

 

「まさかと思うけどこれでチャラとか言わんよな?一緒に迷宮攻略したらそれでええんか?コイツの所為でどんだけの人間が危険に晒されたと思ってんねん。コイツの所為で人1人消息絶ってんねんぞ。最低でも豚箱にぶち込んでくれんと納得いかへんのう」

 

「ぶ、豚箱だと!?お前……大事な仲間になんて事を言うんだ!」

 

 タケルの発言に光輝が食ってかかるも、どこ吹く風と言うようにタケルは続けた。

 

「“大事な仲間”?俺の目には地べたに這いつくばった生ゴミしか映ってへんけど?」

 

「な!?貴様それでも人間か!この間の時と言い、どうしてそんな事が平然と言えるんだ!」

 

「事実を言うただけや。コイツは罪を犯し、未だにそれに対する裁きを受けてない。それ相応に処分を下すのが道理ってモンやろ?あん時もしたやろこの話、鶏かお前は」

 

「だからと言って牢屋に入れるだなんて残酷すぎる!何をされるかわかったモンじゃない!」

 

「ええやん別に。寧ろ神の使徒って立場からしても殺させる事はない分全然マシやろ?」

 

「例え殺されなかろうが、受けた仕打ちに対する恐怖は簡単に拭える物じゃない!俺はさせないぞ!そんな事しよう物なら、俺が絶対に止めてみせる!俺は絶対に仲間を見捨てるような事はしない!」

 

 高らかに宣言する光輝。それを見て場の空気が光輝一色に染まりかけていたが、それでもタケルは淡々と言葉を紡いだ。

 

「そうやってお前が放った言葉が、どれだけ周りに影響を及ぼすか考えた事あるか?」

 

「……何?」

 

「これも前言うたけどなぁ、お前がそうやって何の根拠もなく言うた言葉でも、“天之河光輝が宣言した”ってだけで箔がつくんや。現に戦争参加の表明をした時も、殆どの連中にはお前がおるから大丈夫って、これまた根拠のない安心感が生まれた。今もあの生ゴミを許すような空気が生成されつつある」

 

「っ……い、一体何が言いたいんだ!」

 

 タケルの発言に苛立ちを隠せない様子で食ってかかる光輝。その光輝に対し、タケルはトドメとばかりに言い放つ。

 

「そのちっこい脳味噌使(つこ)てよう覚えとけや。言葉っちゅうんはなぁ、とんでもない凶器やねん。」

 

「……は?」

 

 突然何を言ってるだコイツは……とでも言いたげな顔の光輝を尻目に続けるタケル。

 

「言葉は時に、どんな刀よりもよう人の心を傷つける刃となり、どんな縄よりも人の心を縛り付ける。本人は何気なく放った言葉でも、相手にとってはそうとは限らん。お前のその無責任な言葉が、どれだけ周りの心を傷つけてるんか……考えるだけで頭痛なるわ」

 

「な、なんだと!?俺が皆を傷つけているとでも言いたいのか!?そんな事はない!俺はしっかり皆を引っ張っていけている!」

 

 「皆そうだろう!?」っと周囲に目を向けるも、タケルの言葉に思うところがあるのか皆一様に目を背ける。その様子に内心焦りを抱く光輝。

 すると……徐に雫が前に出てきた。

 

「雫……」

 

 安堵したように顔を綻ばせる光輝。きっと雫なら、付き合いの長い彼女ならば賛同してくれる……そう思ったのもつかの束の間。

 次の雫の言葉で再び凍りつくこととなった。

 

「私も木場君に賛成。然るべき処分を受けるべきだわ」

 

「な!?何を言ってるんだ雫!?」

 

 訳がわからないと言うように光輝が雫を問いただす。

 

「別におかしな事は言ってないでしょう?木場君が言ったように罪を犯したのなら当然の処置よ」

 

「そ、そんな……」

 

 光輝は絶句した。余程雫がタケルに賛同したのが理解できないようだ。

 

「わ、私も!」

 

 また別の声が上がる。発したのは園部優花(そのべゆうか)

 “投術師”の天職を持つ切れ長の目が特徴の勝気な女子生徒であり、迷宮においてトラウムソルジャーに襲われていた所をタケルに助けられた人物である。

 

「その……迷宮では助けてくれて、ありがと。だからって訳じゃないけど!私も木場の意見に賛成する!」

 

「……ん」

 

 礼を述べられた事や賛同してもらえた事に、こそばゆい物を感じながら短く返事をするタケル。

 

「光輝」

 

「……龍太郎」

 

 光輝にとって最後に砦とも言える龍太郎。彼ならばと期待を抱くも、当の本人はガリガリと後頭部を掻いて難しい顔をした。

 

「細けぇ事ぁわからねぇけどよ、男ならしっかりケジメは付けた方がいいと思う」

 

「り、龍太郎?」

 

「……悪りぃ。今回ばかりは、お前に賛成はできねえよ」

 

 そう言いタケルを取り囲む輪に加わる龍太郎を見て、いよいよ信じられない物を見る目を向ける光輝。 

 それが引き金になったのか、檜山を許せない気持ちが元からあった生徒達は、次々とタケルに賛同して行った。残る生徒もオロオロと狼狽るだけで、別段光輝を擁護する者もいなかった。

 

「何で…何でなんだ皆!どうして俺より木場を信用するんだ!そんな不真面目な奴に!」

 

 遂には余裕もなく吐き捨てる光輝に、雫が物申した。

 

「違うわよ」

 

「え?」

 

「木場君だからって訳じゃないわ。元々檜山君への処遇に疑問を覚えていた人達が、こうして集まっただけ。そのきっかけとなったのが偶々木場君だっただけよ」

 

「っ……くっ……!」

 

 苦虫を噛み潰したように表情を歪ませる光輝。そして成り行きを見守っていたのか、メルドが訓練場に入って来るとすっかり蚊帳の外に追いやられていた檜山に告げる。

 

「大介、お前は地下牢に収容させてもらうぞ」

 

「……え?」

 

 呆然とする檜山だが、すぐに脂汗をかき動揺する。

 

「ま、待って下さいメルドさん!檜山は充分反省しています!ですからどうか!」

 

 往生際悪く光輝が食い下がるも、毅然とした態度でメルドがそれを制した。

 

「駄目だ。俺としても、今回の大介の失態をこのまま見過ごす訳にはいかん」

 

「なら!俺が直接掛け合っt「アホか」っ!何だと!?」

 

「お前はこの状況が分からんのか?クラスの殆どはお前の意見に賛同してへんねん。お前1人が掛け合ったところでどうこう出来るかい」

 

「……っ」

 

 そう言われクラスメイトの顔を見渡すも、タケルの言うように肯定的な視線は感じ取れなかった。それにより、光輝は完全に押し黙ってしまう。

 

「そう言う事だ。ほら大介、行くぞ!」

 

 メルドは話は終わったとばかりに檜山を連行する。流石にこの展開は予想していなかったのか抵抗を試みる檜山だが、当身を喰らわされ一瞬で意識を刈り取られ、そのまま担がれて連れて行かれてしまった。

 

「木場君」

 

「ん?」

 

 呼ばれてそちらを見ると、雫が優しい笑顔を向けており、一言呟いた。

 

「お疲れ様」

「……ん」

 

 労いの言葉をかけられ、再び短く返事をするタケル。

 

 その様子を忌々しげに見る光輝だが、居た堪れなくなったのか足早に訓練場を跡にし、そのまま戻っては来なかった。




 いかがでしたか?

 まあ檜山は暫くは豚箱行きですね。タケル1人じゃあ恐らくはこうは行かなかったでしょう。単に雫がいてくれたから、こうして物申したりできたし、今回の結果を生み出せたと考えてます。

 いやはやどうしようか考えて考えて結果この形に収まりました…

 では長々と語るのもアレなので

 また次回、チャオ〜


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9話 障害を持つ彼は彼女等と共に手を伸ばす

さあ、9話でございます。

文章はこれで良いのかとか……言い回し間違ってないかとか、色々思いながらも書き綴っております。

その辺の事も良ければ感想欄にでも書いて下さい。

それでは、Ready GO!


「あ〜……ようやっと解放された……あのアホ共揉みくちゃにしおってからに……」

 

 訓練場での一件の後、その場を後にしたタケル。

 だが、どこか疲弊した様子で廊下を歩いていた。

 

「まあまあ、それだけ貴方の啖呵が皆の心を動かしたって事でしょう?」

 

 隣を歩く雫がフォローを入れる。

 

「アホお前背の低いモンがあんな揉みくちゃにされるんがどんだけキツイかわかるか?特にあの脳筋!」

 

「脳筋?……ああ、龍太郎の事ね?」

 

「そう!俺は160センチでアイツ確か190くらいある言うてたやろ!その身長差で肩バシバシ叩かれるって結構痛いんやぞ!?」

 

「それは、まあ確かに……」

 

 檜山が連行され光輝が退出した後、タケルの意見に賛同した生徒達が一様にタケルを称賛してきた。

 特に優花と龍太郎に関しては顕著なもので、バシバシと肩を叩かれて今尚痛むらしい。

 それでも賛同してもらえた事は素直に嬉しいのか、愚痴を言う声もいつもより何処か弾んでいた。

 

「それにしても……言葉は凶器、か」

 

「ん?なんかおかしかったか?」

 

「いいえ?秀逸な例えだと思うわ。説得力もあったし、私も……」

 

 そこで、何か思うところがあるのか言葉が途切れた。

 

「私も?」

 

「……何でもないわ。それほど気にするような事じゃないし」

 

「……ならええけど……俺が言えた事ちゃうけど、あんま溜め込んだら体に悪いぞ?」

 

 過去の自分を振り返りながら忠告すると、笑みを浮かべて雫が返答する。

 

「ありがとう。でも大丈夫、本当に対した事じゃないから」

 

「ほ〜ん……」

 

「……ねぇ、さっき言ってた事も、やっぱりその障害が関係しているの?」

 

 雫はタケルの言い分が何処か自分の経験に基づいたもののように思え、疑問を投げかけた。

 

「まあな……やっぱり人間同士や。ついポロッと言った言葉で相手が傷つく事はザラにある。特に俺みたいな奴等にとって、言葉言うんはより繊細なモンや。やからあのアホ勇者みたいな根拠の無い言葉は大嫌いやねん」

 

「……そう」

 

 そこで沈黙が訪れる。タケルはもう質問は終わりなのかと内心ソワソワしていたが、ふと雫が提案してくる。

 

「ねぇ、ちょっと付き合ってくれる?」

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 “付き合って欲しい”そう言われ連れてこられたのは、香織の眠る部屋だった。

 あの日以降香織は目を覚まさずずっと眠った状態であり、雫が頻繁に様子を見に来ていた。

 

「……香織」

 

「ええんか?男が入っても……」

 

「私が良いって言ってるんだから大丈夫よ。それに、万が一何かしようものなら……どうなるかわかるわよね?」

 

 ニコッと笑っているがその目は全く笑っておらず、何か黒いオーラまで見える。

 

「せえへんせえへん。これっぽっちもする気ないって」

 

「私の親友に魅力がないとでも言うの!?」

 

「めんどくさい父親かお前は!?やのうて俺にそんな度胸あるように見えるんか!?」

 

「……ごめんなさい」

 

「……おう」

 

 微妙な空気が流れた。そのまま暫し沈黙が続いた時……

 

「ん…う、ん……」

 

 香織が身を捩ってゆっくりとその目を開いた。

 

「!?香織!?目が覚めたの!?」

 

 それを見た雫が真っ先に駆け寄ると、まだ意識がハッキリしない様子で香織が問いかけてくる。

 

「し、ずく……ちゃん?」

 

「ええ、私よ。良かった……本当に良かったっ!」

 

 手を握りしめ心の底から安堵したように声を漏らす雫に、香織も徐々に意識が覚醒していく。

 

「雫ちゃん……私、何で……確か迷宮にいて……それから……ハッ!南雲君!南雲君は!?無事なの!?無事だよね!?」

 

 あの時の事も思い出しようで、跳ね起きて問い詰めてくる。

 

「……香織……落ち着いて聞いて。あの日からもう5日経ってる……そして南雲君は……」

 

「っ…いや……!」

 

 この事実を伝えれば香織は深く傷つく事になる。だがそれでも言わなければいけない……故に、最悪恨まれようとも伝えようと決心し雫は言葉を紡いでいく。

 

「ここにはいないわ。彼はあの時……奈落へと消えたのよ。生存は、絶望的でしょうね……」

 

「いや!聞きたくないそんな事!どうして…どうしてそんな事言うの!?いくら雫ちゃんでも許さないよ!私の南雲君への想いを知ってるのに!そんな残酷なこと言うなんて!」

 

 涙を流して雫を非難する。

 香織とて雫を責めても仕方がない事は重々わかっているのだが、約束したにも関わらず想い人を護れず目の前で失ってしまったショックで冷静な思考ができていなかった。

 

「そうね……よく知ってるわ。恨みたければ、好きなだけ恨んでくれて構わないわ。でも、だからこそ言わなくてはいけないと思ったの。それだけ彼の事を想ってる貴方にこそ、しっかりとありのまま事実を伝えるべきだと……」

 

「っ……」

 

 真剣に自身を見る雫に、香織の熱はドンドン冷めていった。そして絞り出すように声を発する。

 

「ズルイよ……私が、雫ちゃんを恨むなんて出来ないってわかってるのに。わかってるよ……南雲君が落ちた事も、あんな場所に落ちて生きてる方が奇跡だって事も……うぅ…グスッ……」

 

 ポタポタと涙が布団を濡らす。

 

「それでも、それを認められない自分の中からドス黒い感情が込み上げてきて……雫ちゃんを責める事で全部否定しようとした……ごめん…ごめんね、雫ちゃん……うわぁあああああああん!!!!」

 

「……良いのよ。私こそ酷な言い方をしてごめんなさい」

 

 堰を切ったように大粒の涙を流して泣く香織を雫が抱きしめる。その様子を見ながらすっかり存在を忘れられたタケルはというと……

 

(……俺もあん時あんな風に縋り付いて泣いてたんやと思うと……クソ恥ずいやないか!)

 

 あの時の事を振り返って密かに羞恥に身を悶えさせていた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「グスッ……ごめんね?思いっきり泣いちゃって……」

 

「良いわよ、親友なんだからこう言う時くらい遠慮なんてしないでも」

 

「うん!ありがとう雫ちゃん!」

 

「ふふっ、どう致しまして」

 

「アハハ!」

 

「ふふっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──おい」

 

「きゃあ!?」

 

「ひゃあ!?」

 

 泣き止んだ途端、完全に自分を放置して笑い合う2人に我慢できなかったのかタケルが割と低めの声で呼びかけると、ビクッとして勢い良くコチラを見る両名。

 

「あ、ごめんなさい!完全に忘れてたわ!」

 

「忘れんなや!お前が誘たんやろがい!そらこっちも?流石に泣いてる時とかは自粛したけども?その後もキャッキャッウフフとまあ百合の花咲いとんちゃうかとばかりにイチャつきよって……甘ったるうてしゃあわないわ!」

 

「百合の花なんて咲いて無いわよ!変なこと言わないでくれる!?」

 

「わ、私は忘れてなかったよ!?」

 

「嘘つけお前に至ってはハナっから俺の存在認識してへんかったやろが!」

 

「ソソソソンナコトナイモン!」

 

「片言の上に吃っとるやないか!バレバレにも程があるわこの暴走機関車!」

 

「ブフッ!?」

 

「ぼ、暴走機関車!?ひどいよ!よくわかんないけど確実に馬鹿にしてる事だけは伝わってくるよ!ていうか雫ちゃんも吹き出すくらい笑わないで!」

 

「ご、ごめんなさい。ふふっ…余りにも的を射過ぎてる渾名だったから……ぷっ!」

 

「〜〜〜〜〜!?もう!2人とも知らない!」

 

 一通り言い合い拗ねる香織を雫がなだめ落ち着かせた後、タケルが本題を切り出す。

 

「で?お前これからどうする気?」

 

 その問いの意味を理解できない香織ではなかったが、直ぐに答えが出せずにいた。

 己の実力不足、最悪の結末が待っているかもしれない恐怖……それが渦巻いて、彼女の決心を鈍らせていた。

 その様子を見兼ねて、とある言葉を口にする。

 

「“手が届くのに、手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔する。それがいやだから手を伸ばすんだ”」

 

「え?」

 

「俺の好きな言葉の一つや。その人はある時、助けられたかもしれん命を救うことが出来んかった。それ以来病的なまでに自己犠牲の精神で人を助けてきた。助かる可能性が少しでもあるなら、全力でその手を伸ばす……てな?」

 

「可能性があるなら……全力で……」

 

「確率は限りなく低い。けどゼロやない。極々僅かかも知れんけど……お前や俺の手はまだ届く可能性がある。勿論強制はせえへんよ。危険な道のりや、怖気づこうが誰にも責めさせへん。お前が後悔せえへん道を選べ」

 

 そこで言葉を切る。後は、彼女の意思次第であるからだ。

 

「……するよ。絶対にする……今ここで立ち上がらなきゃ、確実に後悔する!掴みたい、その手を!……でも、今のままじゃ全然力が足りない。私の手だけじゃ届かない……だからお願いします!2人の手も貸して下さい!」

 

 迷いを振り切った曇りのない眼で協力を要請する香織。

 雫はそんな香織の強固な意志を読み取り、ギュッとその手を握った。

 

「当たり前じゃない。好きなだけ貸してあげるわよ」

 

「ありがとう、雫ちゃん!」

 

 友情を確かめ合うように手を握り合う雫と香織に、また先程のようにピンクな空間が形成されるのではと危惧していたその時──

 

「雫! 香織はめざ……め……」

 

「おう、香織はどう……だ……」

 

 ──光輝と龍太郎が入ってきた。恐らくは香織の容態を確認しようと途中で合流したのだろうが、何故か2人とも入ってきた瞬間固まってしまった。

 それが不思議だったのか訝しげな顔で雫が尋ねる。

 

「あんた達、どうし……」

 

「す、すまん!」

 

「じゃ、邪魔したな!」

 

 顔を赤くしてそそくさと立ち去る2人。その様子を雫と香織は呆然として見ていたが、タケルは2人が逃げた理由に関しては察していた。

 

「一体なんだって言うの?」

 

「……まあ、様子見に来たら幼馴染2人が見つめ合ってる現場に遭遇した……なんてあったら逃げるわなぁ」

 

「な!?あいつ等……!」

 

「ほっとけ。戻ってきてもややこしなるだけや」

 

「……まあ、それもそうね」

 

 そんな会話をしていると、香織がジーっとこちらを見ている事に気づく。

 

「雫ちゃんと木場君って、そんなに喋った事あったっけ?」

 

「「え?」」

 

「私の知る限りじゃ、教室とかでも喋ってるの見た事ないなぁって思って……私が寝てる間に何かあったとか?」

 

「えっと……それは……」

 

 チラッとタケルを見る雫。デリケートな部分であるが故に、話すべきか悩んでいるのだろうが、当のタケルの意志は決まっていた。

 

「お前にも、話しといたほうがええな」

 

「……大丈夫なの?」

 

「これから協力して行こうって奴に話さへんのは道理に合わへんやろ?」

 

「……そうね」

 

「ただまあ、あんま気持ちの良い話ではないから、心して聞けよ?」

 

「う、うん」

 

 そうして雫に話したのと同じように香織にも説明した。一言一句に魂を乗せて話すタケルに、居住まいを正して耳を傾ける香織。雫はタケルが話している間、ずっと側について心配そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「──とまあこんな感じやな。現状コレを知ってるんはハジメを除けばお前等2人だけや。ホイホイと話すもんでもないしな」

 

 自身の障害について、あの夜雫との間に起こった事、全てを話終えると、少々重い空気が流れる。

 流石に笑い飛ばせるような内容ではないので、どうしたモノかとタケルが考えていると……

 

「木場君は……」

 

「ん?」

 

「木場君はどうして……そこまで頑張れるの?」

 

 唐突な香織からの疑問。要領を得ないと言うように聞き返すタケル。

 

「何で、とは?」

 

「だって、普通逃げ出したくなるよ!聞いただけでも息苦しくなるのに……私だったら、多分障害を盾にして色んなことから逃げちゃうかも知れないもん。でも、木場君は全然逃げてない……どうして?どうしてそこまで頑張れるの?」

 

 唯々純粋な疑問。だが、それはタケルにとっては疑問ですらなかった。

 

「俺がそうしたかったら、そうせなあかんと思ったからや」

 

 当たり前のように答えるタケルに今度は2人して唖然とする。

 

「お前の言うように、障害を理由に逃げる事はできるやろうな。実際俺もちっさい頃は色んな事から逃げてた。しゃあない事やって開き直ってた……でもある時、こんな言葉を聞いた」

 

 そこで言葉を区切り、呼吸を整える。

 

「“弱かったり、運が悪かったり、何も知らないとしても、それは何もやらない事の言い訳にならない”」

 

「それって……」

 

「初めは正直あんま意味わからんかったけど……成長するにつれてわかってきた。世の中には自分より重い症状の障害を持ってる人がアホみたいにおる。やのに、何を俺は今までこの程度の事で色んな事から逃げてたんやってな」

 

「けど!それは……」

 

 あの夜の事を思い返し雫が反論しようとするが、それを制す。

 

「勿論俺に障害があるのは事実やしそれを無視する事はできひんよ?でも、逃げるんは違う。向き合わなあかん。弱くても運が悪くても障害を持ってても、やりたい事が、なすべき事があるのなら……足掻いて足掻いて足掻き尽くさんといかん!……それを教えられた気分でな。それ以来は自分のやりたい事、しなあかん事には全力で挑もうって決めてんねや。……とまあこんな感じ?」

 

 話を終えてジッと2人の反応を待つ。

 

「……凄いね」

 

「ん?」

 

「ええ……改めて、貴方は凄い人だって思えたわ」

 

「何や何ややめろむず痒いやろが」

 

 意図していなかった称賛の言葉に身を捩るが、お構いなしに2人は続けた。

 

「だって、それだけしっかり自己を確立している人なんて早々いないわよ」

 

「うん、私なんて大体雫ちゃんに付いて行ってるから」

 

「皆そうよ。今回の事も、さっき貴方が諭したように、光輝という光に本能的に引き寄せられたが故の現状。自己をハッキリさせず状況に流されてしまった皆の失態……」

 

「言ってもまだ高校生だもん。分別をつけれる歳だけど、まだまだ親に守られて生きてる身分じゃ、そうなるのも仕方ないのかも……あ!そういえば……あの火球を放った人は見つかったの?」

 

 ふと思い至った疑問を投げかけるも2人揃って頭を振る。

 

「まだや、どいつもこいつも触れられたくなさそうにしてる。まあ檜山に関しては豚箱に放り込んだけどな」

 

「そうなの?」

 

「ええ。最初は光輝に取り計らいでお咎めなしになりかけたけど……木場君がそれを制してね。最終的には殆どの生徒が彼に賛同したわ」

 

「へえ!凄い!」

 

 話を聞いた香織からキラキラとした尊敬の眼差しを向けられ思わずたじろぐタケルだが、威張る事もなく寧ろその時の事を思い返し鬱陶しそうな顔をする。

 

「別に思った事言うただけで、ああなったんは結果論や。しかもその後揉みくちゃにされたし……」

 

「も、揉みくちゃ?」

 

「木場君に感心した皆が担ぎ上げたのよ。ギュウギュウ詰になってたわよ」

 

「ヘぇ〜、見たかったなぁ」

 

「アホか、こっちは押し潰されそうな……勢い……で……──!?」

 

「?木場君?」

 

 雫は急に言葉を詰まらせて固まるタケルに疑問に思い声を変える……だが、反応はなく不安になって来た時……

 

「──八重樫」

 

「え?」

 

「すまんけど……暫く早朝訓練行けんかも知れん」

 

「何かあったの?」

 

「思いついたんや!新しい武器のアイデアを!今すぐ工房に缶詰する!やからすまん!行ってくる!」

 

 そう言うや部屋を出て工房へと全力ダッシュするタケル。

 

「あ!ちょ!?……行っちゃった」

 

「やりたい事に全力……何というか……凄いね」

 

「もう月並みな言葉しか出てこないけどね……全くもう」

 

「……ふふっ」

 

「ん?どうしたの?」

 

「だって、雫ちゃん文句言ってる割には凄く楽しそうだよ?」

 

「え!?そんな事ないと思うけど……」

 

「わかるよ。だって親友だもん!」

 

「……はいはい」

 

 揶揄ってくる香織を去なしながらも、内心ドキッとしていた。

 

(確かに……彼とああやって話すのが楽しい事は認めるけども……)

 

 認めると同時に、雫には一つ懸念材料があった。

 

(彼の揺るぎない意志を見る度に……ずっと蓋をしていた感情が湧き上がってくるような感覚に襲われる……これは一体……)

 

(いいえ……わかってるはずよ雫。この感覚の正体を……これはきっと──)

 

 1人の少年がその殻を破り変化するのと同時に、その少年と深く関わる彼女の心にもまた、1つの変化が生じていた。

 その変化を感じ取りながら、友と共にやるべき事をやろうと発起する雫であった。




 ふう…話…進まねぇ…

 さてさて今回登場した2つの格言。知っている人は知っていると思いますが、一応簡単に説明しておきます。

・【手が届くのに、手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔する。それがいやだから手を伸ばすんだ!】
 
 平成ライダーシリーズ第12作『仮面ライダーOOO(オーズ)』の主人公、火野映司の名言。

・【弱かったり、運が悪かったり、何も知らないとしても、それは何もやらない事の言い訳にならない】
 
 平成ライダーシリーズ第8作『仮面ライダー電王』の主人公、野上良太郎の名言。

 やっぱりライダーネタは書いてて楽しいなぁ。これからもチラホラと仕込んでいくんで興味ある方は御覧ください。

 それではまた次回、チャオ〜


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10話 障害を持つ彼は彼女の想いを知る

 遅くなりましたぁ!(土下座)

 なんかこう筆が乗らず…手気がつきゃ前話投稿から2週間近く経ってて……こんな作者の駄文小説で良ければお付き合い下さい!

 それでは記念すべき二桁!第10話!

 Ready GO!


 

 その日、雫は王宮の工房の扉の前にいた。

 

「まさか、アレから何も食べずに作業してるって訳じゃないわよね?」

 

 突如部屋を飛び出して行って数日タケルの姿を見ておらず、流石に心配になりここまで足を運んだ。

 

「失礼しま〜す……」

 

 恐る恐る扉を開けるとまず目に入ったのは無数の剣や盾などの武器。

 無造作にそこ彼処に放られており、長い間その状態なのか埃を被っている物もある。

 

「メルドさんはもう使われていないって言ってたけど……当時のものかしら?」

 

 武具に紛れて美術品などもあり、完全に物置に使われている感が満載である。

 そのまま奥まで進むと目的の人物を発見する。

 

「あ、木場君」

 

 呼びかけるも返事がない。

 何かしらの作業をしているタケルの顔は真剣そのものであり、周囲の事は何も目に入っていない様子。

 

(聞いてはいたけど、物凄い集中力ね……て言うか、アレ何作ってるのかしら?)

 

 雫はその異常なまでの集中力に感服すると同時に、その手で生み出そうとしている代物に興味が湧いた。

 作業台には幾つもの部品が並んでおり、今はそれを組み立てている段階の様だが、その出立はこの世界のイメージにはそぐわない機械的な物だった。

 

(確か前聞いた話によれば、雷属性の魔法で電気系統のやり繰りをしてるんだったかしら……)

 

 トータスでは地球と違い機械文明は発達していないが、その代用として魔法が取り扱われている。だが、人間には精密機器を作り出せるほど細かい魔力の調整はできない。

 その理由として、人間族は魔人族及び亜人族と違い、“魔力操作”の技能が発現しないことが挙げられる。

 故に本来ならばタケルにも不可能なはずなのだが……

 

(“思考具現化”との併用で、擬似的な魔力操作を可能にしているとは聞いたけど……聞けば聞くほど可能性の底が知れないわね……)

 

 半分呆れながら心の中で雫がボヤいていると、タケルが作業の手を止めた。

 

(あ、終わったのかしら?)

 

 そう思い改めて声を掛けようとすると……

 

「ふ、ふふふ……ウヘヘへ……」

 

(……え?)

 

 突如笑い出したタケルに呆然としてしまう。

 当のタケルはそんな雫に気付く様子もなく出来上がった代物を恍惚とした顔で撫で回している。

 

「嗚呼……最高。最高の出来栄えやろコレ!?このカラーリングこのフォルム!全てに置いて完っ璧や!はぁ……堪らん……ずっと眺めてたい……ウヘヘヘヘッ……フヒヒヒヒッ……」

 

 その光景を目の当たりにした雫はと言うと……

 

(どうしよう……申し訳ないけど流石にちょっと気持ち悪い……)

 

 だらしのない表情で物騒な物を撫で回す光景は少々刺激が強かったのか、割と本気で引いていた。

 

 その時──

 

「ウヘヘヘヘ……ウヒヒ──!?のわああああああ!!??」

 

 ふと此方を向いたタケルが雫の存在を認識し、素っ頓狂な声を上げて飛び退く。

 

「い、いつから其処に!?」

 

「えっと……笑い出す少し前?」

 

「声掛けよ!?」

 

「掛けたわよ!没頭してて気付いてなかったんでしょう!」

 

「……マジで?」

 

「マジよ」

 

「…………」

 

「…………」

 

 何とも言えない空気が流れ.、どうしたものかと2人して考えていると……

 

 ──グゥ〜!!

 

 中々の音量で腹の虫を鳴らすタケル。雫はそれ聞いて「ハァ……」呆れた様に溜息を吐く。

 

「やっぱり碌に食べてないのね……」

 

「いや、今日はまだ食べてへんってだけで何も食うてへんわけでは……」

 

 反論するが、ジトッと皆既的な目で見られてしまう。

 

「“今日は”って言うけど、もう夕方なんですけど?」

 

 そう、空は既に茜色に染まっており夜の闇が直ぐ其処まで近づいている時間帯。にも関わらずタケルは今日一度も食事をとっていない。

 それ程作業に没頭していたのだろうが、流石に何か食べないとそれで体を壊せば元も子も無い。

 

「もう……ほらコレ。パン貰ってきたから」

 

「……申し訳ない」

 

「別に、このくらい大した事じゃ無いわ」

 

 雫はガツガツとパンを頬張るタケルに苦笑しながら、先程完成したであろうソレを見てずっと疑問に思っていた事を口にする。

 

「アレって、確か仮面ライダーの武器よね?あの盾もそうだけど」

 

「むぐっ……よう知ってるな」

 

「香織がね、南雲君の好きな物をもっと知りたいって言って、私も一緒に色々見てるから」

 

「……思考がストーカーと似てる気がするのは気のせいやろか?」

 

「言わないであげて……あの子なりに、その、アプローチの取り方を考えてたのよ……」

 

「もう一考して欲しかったなぁ……で?どうやった?」

 

「え?」

 

 質問の意図がわからず、聞き返す。

 

「感想。どやった?」

 

 どうやら仮面ライダーを視聴した感想を聞いてるようで、雫も「ああ……」と得心する。

 

「そうね、正直最初は子供向け番組っていうので多少偏見のようなモノはあったわね」

 

「ほう?」

 

「……けど、いざ見てみたらとても子供向けとは思えない内容が詰まっていて驚いたわ。特にあのフルーツの奴なんか……子供が見るには重すぎるでしょう?」

 

「鎧武か、まああの作品は脚本家からして鬱展開になるって放送前から予想されてたくらいやからなぁ……なるほど、だからメロンディフェンダーの事も知ってたわけか」

 

「ええ、あと今放送されてる奴もね」

 

「ゼロワンやな。一時期低迷したけど今は盛り返してきてることやな……はぁ……地球に戻ったら撮り貯めした奴一気見やな。……いや、間隔開けて見る方がええかな?」

 

「あら、どうして?」

 

「作品によっちゃ一気見した方が良い奴もあれば、間を置いて見た方が楽しめる奴があるかなぁ。今後の展開について色々考察するんも醍醐味の一つや」

 

「筋金入りね……そんなに好きなの?」

 

「当ったり前やろ!!」

 

 突如スイッチが入ったように大声で肯定するタケルに、雫は思わず「キャッ!?」と短い悲鳴を漏らす。

 その様子に気づいていないのか、マシンガンの様に喋り始めるタケル。

 

「戦闘シーン、新フォームや新ライダーの登場、戦闘以外のストーリー!とてもお子様番組という括りには収められへん内容が其処には詰まってるんや!これを好まずして何とする!?」

 

「え、ええ……確かに面白かったけど……」

 

「せやろ!確かにメインターゲットは子供や!そこは間違いない!それでもストーリー自体は大人も楽しめる内容になってるんや!勿論人それぞれ好みもあるし、長い歴史の中で駄作と銘打たれた作品もあるのは事実!しかし!評価するならば隅から隅までしっかり見た上でするのが制作者への礼儀や!見もせんと噂や偏見だけで評価するなんざ笑止千万愚の骨頂!「特撮なんかガキが見るモンやろぉwww」とか宣っとる奴はなぁ!そうやって否定することで自分が大人であると主張して優越感に浸りたいだけの小っさい人間なんや!違うか!?」

 

「わ、わかったから落ち着いて!誰もそんなこと言ってないから!」

 

 過去に何があったのか、ヒートアップするタケルを必死に宥める。

 

「っ……はぁ……はぁ……すまんっ……熱くなったっ……」

 

「いや、まあ……貴方の作品愛はこれでもかって程伝わったから」

 

「好きなモノを理解しようとするという点では誰にも負ける気はせんなぁ!」

 

 自信満々に胸を張るタケルに苦笑しながら、何処か思うところがある様な顔の雫。

 

「羨ましいわ……好きな物をそうやって公言出来るのは……」

 

「ん?」

 

 その言葉に既視感を覚えるタケル。そして、先日の「言葉は凶器」云々の時に見せたあの顔を思い出す。

 

「……やっぱお前なんか隠してるなぁ?」

 

「……」

 

「別に無理に話せとは言わんけどなぁ……俺も何か出来るかはわからんし。けど……俺そもそも最初は公言なんかしてへんかったよ?」

 

「え?」

 

「最初はなぁ……俺も何となく中途半端に大人ぶって特撮好きとか隠してたんよ。ハジメは兎も角周りの連中に悟られへん様に」

 

「うそ……」

 

 雫は先程の嬉々として語る様子を見たからか半信半疑だった。それに先のテンション程でなくとも、教室でハジメと普通にそう言う談議をしていた記憶がある。

 

「まあ思春期特有のモンなんかねぇ?そもそも周りに弱みとか見せたく無いタチやったからなぁ。それで溜め込みすぎて前お前にも迷惑かけた訳やし。でも……ある時こう思ったんや」

 

 其処で胡座をかいた体制で腕を組み自信満々に胸を張って言った。

 

「何で周り気にして好きなモン隠さなあかんねや!……ってな?」

 

「!!」

 

 その言葉に雫は雷に打たれた様な衝撃を感じた、目を見開いてタケルを見る。

 

「周りがどう思おうがどう言おうが好きなモンは好きなんやからしゃあないやん。そら実害があって周りに迷惑かけてたら話は別やろうけど……そうやないんやったら別にとやかく言われる筋合い無いし」

 

「……」

 

「そらまあTPOは弁えなあかんやろうけど、それさえ守ってたら別にええやん?まあ、そんな簡単な事でもないからお互い悩んだりしてるんやろけどな」

 

(……ああ……そう言う事か)

 

 雫はその話を聞いて、ずっと自身の中で燻っていたタケルへの感情の正体に気づく。

 

(羨ましかった……それに少し嫉妬もしたかしら)

 

 好きな物を公言するのは簡単に聞こえるが、周囲から理解されず否定されるのではないかと考えると、どうしても踏み出せない。

 タケルと自身も例に漏れずそうであったが、タケルはそれを乗り越えている事に、いつしか雫の中には羨望と嫉妬の入り混じった複雑な感情が生まれていた。

 それに漸く気付きタケルの言葉を振り返ると、胸がスッと軽くなるのを感じた。

 

「……私ね」

 

「おう」

 

「……ぬ、ぬいぐるみとか、可愛い物が……大好き……なの」

 

 頬を赤らめて吃りながら伝える。

 

 ──笑われて馬鹿にされないだろうか?

 

 ──イメージと違うと幻滅されないだろうか?

 

 意を決して伝えはしたものの、やはり不安は拭いきれず鼓動が早まるのを感じながらタケルの反応を伺う。

 

 すると……

 

「うん」

 

「……え?」

 

 ただ一言、それだけ返ってきた。表情を見ても別に驚いてる訳でも笑いを堪えているわけでも増してや侮蔑的な顔をしている訳でもない……唯々普通の表情で普通に返してきた。

 

「え?なんか間違えた?もっと驚いた方が良かったか?ワー、マジデー、イガーイ」

 

「片言の上に感情が篭ってない!」

 

「いやそう言われも、実際驚く様な趣味でもないし……もっとこう、「刀で人を斬った時の感覚が堪らなく大好きなの!」とかやったら流石に反応できたけどなぁ……悪い意味で」

 

「人を勝手に快楽犯罪者みたいに言わないでくれる!?」

 

「せやったらええやん。別に女子が可愛いモン好きでも今時男子でも好きやっちゅう奴はザラにおんのに。普通普通」

 

「でも……私みたいなのには似合わないでしょう……」

 

 その言葉に心底信じられないモノを見る目をしてタケルが吠えた。

 

「はああああ!?お前なぁ!お前が似合わんかったら世界中の大半の女に似合わんやろ!?頭沸いてんのかふざけてんのか!?」

 

 それに対して雫もムキになり反論する。

 

「そ、そんな事ないわよ!ほら!見てよこの手!マメとタコだらけで硬くなって……女の子らしい手なんて言えないわよ。身長だって大きくて……良い事なんてないし……」

 

「お前俺の前でよう身長の話できたなぁ!?分けろそんな言うやんたっら!10センチ程俺に恵め!」

 

「論点そこ!?」

 

 やはり身長が低い事を気にしているのか、ズレたキレ方をするタケルに突っ込む雫。

 

「大体女らしい手ぇとかようわからんし!何やったらお前の手の方はそんななる位努力してるって事やろ!ほなええやないかそれで!」

 

 その言葉で雫の過去の忌まわしい記憶が呼び起こされる。

 

「っ……だって……だって言われたもの!」

 

 

 

 

 

 

「「貴方女だったの?」って!」

 

「──!」

 

 それを聞いて急激に頭から熱が引いていくタケル。

 雫のトラウマ、彼女が本当の自分をひた隠しにする様になった要因。

 

「……イジメか?」

 

「……ええ、小学校の頃だけどね」

 

 雫は一瞬失言したと思ったが、すぐに半ば投げやり気味に話し始めた。

 

「私の家が剣術道場で、光輝が其処の門下生で幼馴染だってのは知ってると思うけど……その関係もあって光輝とは大体いつも一緒だったわ。私自身実は密かに光輝の事好きだったし」

 

「……マジで?」

 

「今は違うけどね?でも光輝って、当時からあの感じだから……好意を寄せる女の子が大勢いたわ。その殆どが、光輝に如何にか好かれようと手を尽くしてた。対して当時の私は、髪も短くて服装もボーイッシュなもの。加えて身長もそこそこ高くて剣術も嗜んでいたから其処らの女子より力も強い……」

 

(……何となぁく、オチが読めてきた)

 

 雫の話を聞いてタケルは胸糞の悪い最後を想像していた。

 それを裏付ける様に雫の話は続く。

 

「わかるでしょう?他の子からしてみれば、そんな見るからに女っぽくない私が幼馴染という理由だけで光輝の側にいるのに、なんで自分たちは……て思ったんでしょうね。そこからは想像通りの展開よ……口汚く罵ってきたり、突き飛ばされたり……でもやっぱり……一番ショックだったのはさっきの言葉だったわ……」

 

 服の裾をギュッと握りしめ俯きながら話す雫。

 正確な表情を読み取ることは出来なかったが、悲痛な気持ちであろう事は明らかだ。

 

「私だって……別に好きで大きかったわけじゃない。剣術だって別に好きじゃなかった……お父さん達に言われるままにやってただけ。本当はもっと女の子らしい事がしたかった……髪を伸ばしてかわいい服を着て……それで……それで……」

 

 別に雫の父等は剣術をすることを強いた訳ではない。ただ単に軽く進めてみたら後に引けなくなり今に至ったのであり、その事を当人達も内心気にかけていた。

 雫自信もそれを理解している。が、しているが故に余計に心配かけまいと躍起になった。

 

「アイツには……天之河には言うたんか?」

 

「……ええ。正直誰かに縋りたかったし……当時の私にとっては、光輝は本当に王子様のような存在だったから。……でも、それは間違いだった」

 

「予想は出来るが……どないなった?」

 

「……「キチンと話し合えば、彼女達もわかってくれる」、そう言って話をつけに行ったわ」

 

「チッ!あんのボケェッ……!」

 

 タケルはその対応に思い切り毒づいた。タケルも過去障害の事で周囲から浮き、イジメに遭っていた経験がある為、光輝の対応が最悪の手であることが容易に理解できた。

 

(そんなモンで治まったらこの世からいじめ問題なんぞとっくに消えとるっちゅうんじゃド阿呆!)

 

 確かに話し合いで片がつけばそれに超したことはないだろうが、雫の例のようにプライドの塊の様な連中にそんなことをしてしまえば「告げ口をした」とし、より状況が悪化してしまうであろう事は想像に難くない。

 

「そこからはまあ、別段珍しくもない経過よ。イジメはエスカレートしその後学校側に露見、それで沈静化したわ。私の光輝への恋心と一緒にね」

 

 すべてを話終え、自嘲するように笑う雫。

 

「……なんとなぁく思ってたけど、どことなく似てるよなぁ俺等。いじめられたり、悩み抱えて自分押し殺したり……」

 

「……似てないわよ。貴方の障害に比べれば私の悩みなんて……比べるのもおこがましいでしょ?」

 

「アホか」

 

 雫としては“障害を抱えたタケルに比べれば自分の悩みはちっぽけなモノである”、そういう意味を込めた言葉だったのだが、タケルにとっては違ったらしい。

 

「悩みの重さなんか人それぞれや、他人に推し量れるようなもんやない。お前にとってその出来事は自分を騙すようになるくらい重いトラウマなんやろ。やったら他人と比較なんぞするな」

 

「木場君……」

 

「しかしまぁ……嫉妬に狂った女っちゅうんは怖いのぅ」

 

「そうね。私も痛感したわ……」

 

 暗くなった雰囲気を吹き飛ばそうと軽めに言ったが、雫の表情は晴れない。どうしたものかと思案し、あることに思い至る。

 

「それやったら、今度その元いじめっ子共に会ったら言うたったらええんちゃうか?」

 

「え?」

 

「自分は二大女神言われるくらい綺麗になったぞ!お前等はどうぞ下らん種馬の尻追いかけとけぇ!……ってな?」

 

「そ、それはどうなの?」

 

 タケルの提案に軽く引いた様子で返答する雫。タケルはそれに対し、ケラケラと笑いながら返す。

 

「ええやろぉこれくらい別に~。そのくらいの事したかってバチ当たらんって!なんやったら何発かド突いても──」

 

「嫌それは流石にやり過ぎだから!もう……フフッ」

 

 タケルとの問答に思わず笑みがこぼれる雫。それを見て「ホッ……」と息を吐くタケル。

 

「ようやく笑ったか……」

 

「あら?元気づけてくれたのかしら?」

 

「は、はぁ!?アホ言うな!いつまでも辛気くさい顔されたらコッチの気が滅入るんじゃ!」

 

 そう言ってそっぽを向くが、頬には僅かに赤みが差していた。

 

「……ありがとう」

 

「……ん」

 

 お互いに短く言葉を交わす。

 先日のタケルの件を合わせても、似たもの同士の傷の舐め合いと一蹴されればそれまでだろうが……それでもこの瞬間、2人の間には何者も踏み入る事のできない繋がりが生まれたのは明白だった。

 

(子供っぽくて……目を離したら何をするかわからないくらい手がかかるのに……其の内に秘められた強さ……確かな意志……それが見え隠れする度に、目で追っている……)

 

「全く……不思議な人ね(ボソッ)」

 

「ん?なんか言うたか?」

 

「何でもないわ!それより、新しく作った武器について説明してくれる?」

 

「──ほう?聞くか?聞くんか?良えやろう!聞かせたるわ!」

 

「ふふっ、はいはい」

 

 その繋がりは、少女にそれまでとは違う感情を生み出させたが……その全貌を知る者はまだ居ない──




 はい!如何でしたでしょうか?

 2週間待たせた割にはそこまでクオリティ高い物でもないでしょうけども……取り敢えず今回は雫とタケルに関係を前進させました!

 タケルは思った事はズバッと言います。その為不器用ながら気遣いはできるがお世辞は言えません。

 つまりそう言う事です。

 雫の中に新たに生まれた感情とは一体なんなんだー(棒)

 後ゼロワンの今後の展開も超期待!(関係ない)

 とまあ本編も後書きも纏りがありませんが、今後ともよろしくお願いします。

 改善点なども有れば送っていただければ幸いです!

 それではまた次回、チャオ〜


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