港の星たち (太平洋の鯨)
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二つの姉妹
1話


 

 「人類の天敵とは何か?」この問いに対して、それまでは「大型肉食生物」「人間」「細菌」と人によって回答はバラバラであった、人類が制海権を奪われる日までは。

 

 2036年4月某日、太平洋を航行する大型豪華客船が消息を絶つ事件が発生した。当初はなんらかの事故であるとされ、各国が救助活動に乗り出し、一人の生存者を発見した。全世界がその生存者の口から語られる真実に注目が集まった。彼は海に浮かぶ女性が大砲で攻撃したとその証拠として彼が撮影していた映像からも確認されたが、誰もが彼の話を信じなかった。それから世界中の海で商船や軍艦が消える事件が相次ぎ、本格的な調査を開始したアメリカ軍によって再度その姿が確認され、その時初めて人類は敵対する何かを存在していることを知った。 

 

 日本でも各分野の有識者が招集されその正体について会議が行われた。その有識者の一人が、その敵対するその何かの映像を観て「まるで深海から来たような不気味な白さだ」と発言し、それからは日本では半公式的に深海棲艦と呼ばれるようになった。

 

 その後各国は、単独ないし協力をして深海棲艦の排除に乗り出した。だが、それに対する有効な対抗手段を人類はまだ持ち合わせていなかった。

 深海棲艦は人とほぼ同じサイズという特性上、遠距離から誘導弾を当てることが難しく、また例え当てたとしても第二世界大戦時の戦艦並の装甲を持ち合わせており効果的では無かった。それに気づいた時には人類は敗北した。特に自衛隊に関しては海上警備行動で任務にあたったが、海上自衛隊の全艦艇の9割が海の藻屑となった。核兵器を用いて対処した国もあったが大した戦果は無く、かえって周辺の海域を汚染するだけであった。

 

 深海棲艦は単に人類から制海権を奪っただけではなく、人が多く住む沿岸都市や軍事基地に対しても攻撃を始め、その攻撃及びそれによって引き起こされた食料危機、経済危機によって70以上の国が無政府状態に陥った。

そんな絶望的な中、人類に救世主が現れた。深海棲艦と同じ海に浮かぶ少女であった。彼女らは自分らは第二次大戦時の軍艦の生まれ変わりだと主張し、深海棲艦を撃退てみせた。多くの人々が困惑したが、人類が彼女らを頼る他が無く、少女の姿をした軍艦『艦娘』と呼ぶことにした。

 

 日本政府は深海棲艦から制海権を取り戻すための方針を決めた。日本という国は法治国家であり文民統制が敷かれている。自衛隊が出動するのには根拠が必要であり、深海棲艦に対する出動根拠が話し合われた。

 当初、自衛隊による防衛出動または引き続き海上警備行動による方法が議論された。前者は発動の度に国会での承認が必要であるため時間を要る上、また交戦権が無いためこちらから攻撃をしかけることが難しい。海上警備行動に関しても前者ほどではないにしろある程度の手続きが必要であり、迅速な対応が出来ない。そこで、政府が出した結論が災害派遣による害獣駆除であった。災害派遣によるは現場指揮官レベルで発令できるため、非常に迅速かつ柔軟に対応出来ることがメリットであった。

 また、制海権を取り返す範囲が日本周辺海域だけではなく、遠く離れた海外でも必要があった。そこで、政府は現地政府から災害派遣の要請を受け、それを受け災害派遣で害獣(深海棲艦)を駆除するという形で海外での活動を容易にした。その為、政府は深海棲艦を害獣という認識をし、公式では特定害獣と呼ばれるようになった。

 

 一方で艦娘に関する扱いには苦労した。当初は艦娘を人間とみなそうとする動きはあったが、艦娘の兵器としの特殊性、また未知の原子で構成されていた。そもそも人間とは?という議論があり、艦娘をスムーズに運用するためにも、自衛隊の保有する兵器であるという結論に至った。

 それから、数年の月日たち日本周辺から敵を排除し、東南アジア諸国周辺の海域までの安全を確保し、日本の生活水準は徐々に取戻しつつあった。

 

 



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2話

筆者は自衛隊の知識に関して未熟な部分が多いので、設定の矛盾に関してはご容赦ください。また、一部艦娘の行動に関して不愉快と思われる描写があると思います。筆者としましては貶めたりする目的ではありません。それでも、不愉快と思われる場合はブラウザバックをお願いします。


2039年 1月16日 PM 14:43  

海上自衛隊 横須賀基地  第二会議室

 

 今年は歴史的な暖冬であり、まだ真冬であっても昼には気温が15度を超える春らしい陽気が続いていた。横須賀基地に所属する第一護衛艦隊群は1日に行われる二回の演習は昼と夜に分かれている。その昼の部の演習が終わり、演習結果の講評がされている最中にある艦娘が発言した。

 

「五航戦の子なんかと一緒にしないで」

その声の主は、黒髪サイドテールで周りからいつもむすっとしていると評されている空母加賀だった。かつて太平洋戦争で開戦時の日本軍の進撃の中核をなした空母、それが現代では艦娘として第二の生を受けていた。

 

「ちょっと、あんたこの私に文句があるの!?」

すぐさま反論したのが、緑髪のツインテールが逆立つほど興奮している瑞鶴、彼女もまた同じように二度目の生を受けた艦娘だ。

 

「そうよ、あなたたち五航戦では私たち一航戦、二航戦には練度がはるかに及ばないわ。一緒にいてもただの足手まといになるだけだわ」

 

「何を言っているの!?今日だって、私と翔鶴姉は飛龍さんを中破判定に追い込んだのよ!練度がかけ離れているわけないじゃない!飛龍さんはさっき私たちが一航戦や二航戦のようになれるって言ってくれたばかりじゃない!」

 

 本日行われた演習は、二航戦の蒼龍と飛龍と五航戦の瑞鶴と翔鶴による実戦形式で行われた。結果は、蒼龍が小破、飛龍が中破、瑞鶴と翔鶴ともに小破判定を受け、五航戦の判定勝利となった。飛龍は瑞鶴に対して「実力がついてきたね。すぐに私たちと艦隊を組めるようになるよ」と言い、それに対して加賀が上記の発言をしたのであった。

 

「気付かなかったの?飛龍さんはわざと直掩機を下げていたのよ。あなたは手を抜いた相手に勝った気でいてうかれていたのよ」

加賀が淡々と説明する。

 

「えっ!?そうなの?私は飛龍が手を抜いていたと気付かなかったな」

蒼龍が驚きながら答える。

 

「本当なんですか飛龍さん!?」

瑞鶴が顔に不安を浮かべながら問う

 

「いや、直掩機を下げていたのは事実だけど、手加減していたわけではないんだけどなぁ」

飛龍が何かわけがありそうな感じで答える

 

「これではっきりしたわね。五航戦は私たちには遠く及ばない、ただの足でまといだと。今度の作戦から外してもらうように提督に進言するわ」

 

「そんな勝手が通るはずがない…もしかして、あなたがその身体を使って提督さんを誘惑するのかしら!!まったくいいご身分だこと!!」

 

「あなたがそんな貧相な身体しているひがみにしか聞こえないのだけど?」

「何を!!言わせておけば!!!」

 

これまで溜めてきたストレスと疲労が原因でついに瑞鶴は加賀をこぶしで殴った。加賀は一メートルほど吹き飛び、倒れた。

ついさっきまでの騒ぎが嘘のように一瞬静かになった。

だが、そのあとはそれ以上に騒がしくな

ることは言うまでもない。

 

「瑞鶴!?あなた何をしたのか分かっているの!?」

ことの顛末を静観していた翔鶴が動揺しながら瑞鶴に問いただす。

 

「加賀さん?大丈夫ですか!?」

蒼龍が加賀の下に駆け寄る。

 

「ええ、このくらい…なんともないわ…」

加賀が殴られたほほに手を当て答える。

 

「ああっ…翔鶴姉…でも、私…」

 

「瑞鶴さん、いくら加賀さんの方にも落ち度があったとはいえ手を出してはいけません。私は練度は努力さえすればすぐに追いつくものだと思います。この顛末は私の方から提督に報告させて頂きます」

翔鶴と同じく騒動を静観していた赤城が動いた。

 

「赤城さん…私…」

 

「分かっています。これが普段の瑞鶴さんではないことはここの誰もが知っています、もちろん加賀さんも。私は提督に寛大な処分が下されるように取り計らってきます。それまでは自室で待機しているのがいいでしょう。あと、蒼龍さん飛龍さん、あなたたちは加賀さんを明石さんのところへ連れていって下さい」

 

「はい」

 

「了解しました」

二人は加賀に付き添い部屋から退出する

 

「加賀さん…ごめんなさい…」

瑞鶴が出ていこうとする加賀に謝罪する。

だが加賀からの反応は無かった。

その後、赤城は瑞鶴に慰めるように頭に手をポンと置いた後、退出した。

残された姉妹二人は

「瑞鶴、何があっても私はあなたの味方よ」

翔鶴は瑞鶴を抱きしめる

 

「翔鶴姉…」   

それに応じて瑞鶴も強く抱きしめた。

「とりあえず、部屋に戻って休みましょ」

二人の姉妹はお互いを支えるように寄り添いながら自室へと向かった

 

 

2039年 1月18日 PM12:29

海上自衛隊 横須賀基地 第一護衛艦隊群司令官 執務室前

 

 昼の12時からの一時間は艦娘、隊員とともに基本的には昼休憩の時間であり、ほとんどが食堂で昼食をとっている。それは瑞鶴にとっては都合が良かった。昨日の事件のことで、艦娘たちから困惑と心配の両方の視線を向けられていることはわかっていた。実際、執務室に向かう道中で艦隊を組んだことがある松型駆逐艦の子が話しかけようと寄ってきたが、何も言わずにそのまま帰ってしまった。艦娘の食堂と執務室の建物は離れているので、出くわしたはのその子だけであった。恐らく、提督はそのへんの事を配慮してのこの時間だったと思う。

 

瑞鶴は執務室の扉を前にして、唾を飲み込んだ。

果たして、これからどんな処分が言い渡れるのか?

謹慎処分、営倉、あるいは酒保の利用禁止などを考えていた。。

まさか、解体処分ってことはないよねと自分に言い聞かせていた。

顔をバシバシ叩いて、気持ちを整えて意を決して扉を叩いた。

 

「どうぞ」

中から男性の声が帰ってくる。つまり提督だ。

 

「失礼します」

瑞鶴は恐る恐る中に入っていった。

 

中には提督が一人で正面に配置されたデスクで礼儀正しく座っていた。

瑞鶴は何度もこの部屋に入ったことがあるが未だに落ち着かない。

部屋の調度品は帝国海軍時代を彷彿とさせる豪華なもので揃えられていて、目を取られてしまう。そうしていると、加賀からは「落ち着きが無い」と何度か注意された。

 

「空母瑞鶴、ただいま到着いたしました」

敬礼しながら瑞鶴があいさつをする。それに応じて提督も敬礼を返す。

 

「ご苦労、まあ今回の件はいろいろと面倒だったよ」

ため息交じりに話す、年齢は50代後半に近いが白髪は無く、丸眼鏡からは若干鋭い眼光を覗かせているこの男こそ瑞鶴たちの直接的な上司、第一艦護衛艦隊群の司令官だ。名前は高崎大輔と言い階級は海将補、かつては海上幕僚監査部に長く在籍した経歴を持つ自衛隊きっての頭脳派の提督だ。冷静沈着で堅実な采配が艦娘自身からも定評があり、瑞鶴は提督というよりは、霞が関にいる官僚という印象を持っていた。また、海上幕僚監部というのは海上自衛隊の防衛計画を担う機関であり、昔でいうところの軍令部に相当する。

 

「この度は、私自身の身勝手な行動により、艦隊と提督にご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ありませんでした」

提督は謝罪した瑞鶴にコクリと一度うなずいたあとにもう十分というジェスチャーを出した。

 

「なにせ、艦娘による暴行事件なんて初めてだったかたね、どう対応していくのか僕の一存では決められなかった。隊員同士なら簡単だったけど、そうはいかなかった。今回の事件を防衛省の海上幕僚監部に報告したところすぐに回答が返ってきた」

高崎提督は少し瑞鶴に目配りをさせる。対して瑞鶴はごくりと唾をのみこむ。

 

 

 

「その回答というのが…気分を害してしまったら申し訳ないが、君たち艦娘は人間では無く兵器であるというのが我が国としての見解だ。兵器同士の暴行事件に対する法律やルールなんて今のこの国には存在しない。よって、今回の事件に対する処分は無いというのが決まった」

 

 実際のところ艦娘に関する法律は少ないがいくつか存在する。それはあくまで艦娘を運用する自衛隊への法律である。その中に、艦娘の取り扱いについては艦娘という特殊性から非人道的行為は禁止され、待遇に関して自衛隊隊員に準ずる処遇を受けるよう努力しなければならないといされている。文字通り解釈をすれば、艦娘も他の自衛隊員と同じ処分を受けるのではあるが、あくまで努力義務であり、必ずしも同じ扱いをする必要はない。事実として艦娘はいくつかの行動が制限されており、基地からの外出が認められない等がある。

 

 今回は瑞鶴が起こした暴行事件は艦娘を運用してからは初めてのことであった。これまでは、艦娘による遅刻や怠慢な行為に対しては口頭で注意するなどの軽い処分がとられていたが、暴行事件となると正式に処分をする必要がある。防衛省は今後の艦娘運用に影響しかねないと考え、今回の正式な処分を見送った。

 

 

「えっ!!今回の事件は不問ということですか?」

 瑞鶴は思わず驚愕し声を上げた。自分たちの立ち位置は理解してはいたが、それによって今回の事件が不問になるとは思いもしなかった。正直処分は軽い方がいいなとは心の底では思っていたが、いざ無いとなると納得いかないところがあった。

 

「だが、もう一つ防衛省からの指令が来ている。それが、空母瑞鶴は本日付で、第一護衛艦隊群から第四護衛艦隊群への転属が決定した」

 

 現在の自衛艦隊は四個の護衛艦隊群(EF)を保有している。護衛艦隊群とは主力艦隊の事であり、二個の護衛艦隊(ED)よって編成されている。海上自衛隊の艦隊編成を簡単に説明すると、横須賀に第一護衛艦隊群(第一護衛艦隊・第二護衛艦隊)、佐世保に第二護衛艦隊群(第三護衛艦隊・第四護衛艦隊)、呉に第三護衛艦隊群(第五護衛艦隊・第六護衛艦隊)、佐世保に第四護衛艦隊群(第七護衛艦隊・第八護衛艦隊)と構成されている。付け加えると、護衛艦隊のうち奇数が水上打撃部隊で、偶数が空母機動部隊である。瑞鶴が所属を正式に言うと第一護衛艦隊群の第二護衛艦隊であった。各護衛艦隊ごとに、その編成の特徴から主任務が定められている。、例えば、第一護衛艦隊群の場合は海外に展開する大規模害獣群拠点を排除、第四護衛艦隊群は領海に接近する敵艦隊への即応での対処などと決められている。

 

 また艦隊司令官についても、艦娘の運用するにあったっては基地から指令を出すだけで可能であり、先の深海棲艦との戦いで多くの将官を失い深刻的な人材不足であるため、各護衛艦隊群の司令官がその所属する両護衛艦隊の司令官も兼任することになった。この高崎提督の役職を正式に言うと、第一護衛艦群司令官兼第一護衛艦隊司令官兼第二護衛艦隊司令官とゲシュタルト崩壊寸前であるので護衛艦隊群司令官とだけ名乗っているのがほとんどである。

 

「これが…今回の処分ですか…?」

瑞鶴が驚き言葉を漏らす。

 

「いや、今回の事件とは関係ない」

提督は建前として否定する。 

 

 先述べたように艦娘への正式な処分は難しいところがある。しかし、今回の事件が何のお咎め無しでは艦娘からの不信感が出てしまう可能性があり、規律が緩むんでしまうことが懸念された。そのため、別項目として異動の辞令を下すことで実質的な処分を下すことを決断した

 

「…了解しました。謹んでこの度の辞令を受けます」

全てを察した瑞鶴は実質的な処分を受け入れた。

 

「早速、明日の昼過ぎにここから出発してもらう、それまでに別れの挨拶を済ませておくように。それと、明日の早朝カウンセリングを受けるように」

「はい」

「現第四護衛艦隊群の司令官は昔僕の部下だった人でね。優秀で人柄も問題ないから心配する必要は無いよ。それと、最後に誤解しないで欲しいが…僕は加賀とはそんな関係ではない…」

高崎提督が最後に瑞鶴から目を逸らし、ボソッと言う。

意外な返答に瑞鶴はニカッと笑って「分かってますよ」と言い、執務室を後にした。

 

 




筆者は二次創作を執筆するのが初めてであり、まだ不慣れな部分が多いです。何かアドバイスを頂ければ幸いです。


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3話

2041年1月17日 PM13:44

海上自衛隊 横須賀基地 艦娘宿舎 翔鶴・瑞鶴の自室

 

「瑞鶴!!大丈夫だったの!?処分はどうだったの!?」

自室に入るなりすごい勢いで掴みかかってくる翔鶴に若干戸惑いながら瑞鶴がことの顛末を説明する。

 

「ああっ…良かったわ…解体処分にならなくて…本当に心配したんだから…」

翔鶴から心の底から安堵しているのが見てとれる

「でも…翔鶴姉と離れることになっちゃう…」

 

瑞鶴は先ほど言い渡された内容を翔鶴に説明した。

 

「私もさみしいわ、でも沈まなければまた一緒に戦えることが出来るわ」

「翔鶴姉…」

「それまでは決してあきらめずに頑張るのよ」

「私、加賀さんに謝りたい。いくら馬鹿にされたとはいえ手を出してしまったから…別れる前にちゃんと謝りたいの」

「加賀さんは明後日まで出撃しているの、だから会えないわ」

加賀と赤城が共に出撃していたことを瑞鶴は知らされていなかった。

「そう…残念…」

「加賀さんも瑞鶴の気持ちはよく分かっているわ、それにまた会う機会はすぐに来るわ」

「ありがとう、翔鶴姉。安心したら、なんだかお腹が減ってきちゃった」

「そうね、今から間宮に行きましょう。今の時間帯ならみんなで出払っていて貸切状態よ」

「うん、今日は甘いものをお腹いっぱい食べたい」

瑞鶴は残された時間を翔鶴と心行くまで過ごすと心に決めた。

 

 

 

2041年 1月18 日 AM 1:23

海上自衛隊 横須賀基地 艦娘宿舎 翔鶴・瑞鶴の寝室

この時間は一部の任務中の艦娘を除いて寝静まっている時間だ。いつもは寝ているが瑞鶴は不安などから寝る事が出来なかった。

 

「瑞鶴…寝れないの…?」

そんな様子を察してか、翔鶴が瑞鶴に声をかけた.

 

「うん…やっぱ翔鶴姉と離れるのさみしいし、不安…」

基本的に艦娘の部屋は姉妹艦同士の相部屋となっている。部屋にはベッドが二つ配置されており、窓側を翔鶴、通路側を瑞鶴が使用している。

 

「じゃあ、今日は一緒に寝ましょう」

そう言って、ベットから起き上がった翔鶴は瑞鶴のベットに入った。

「二人で寝るのには少し狭いけど…近くに瑞鶴を感じられていいわ」

瑞鶴は翔鶴の体温の暖かさを感じていた。

 

「私も幸せ」

「まさかこうして一緒に寝るなんて、軍艦だった時は思いもしなかったわ」

「今度はずっと一緒にいたかったのにな…また離れ離れになってしまうなんて…私また一人でやっていけるかな…」

瑞鶴は思わず弱音を吐いてしまう。

 

「大丈夫よ、あなたは強い子だもの、あなたはどんな状況でも立派に戦ったわ、私がいなくなってからも」

「あの時は本当に寂しかった、マリアナで翔鶴姉と別れてから、自分の出来ることをするそれしか考えられなかった…」

「本当に良く頑張ったわ。あなたは私の誇りよ」

「ありがとう…翔鶴姉」

「私たちが離れ離れに私たち姉妹は絆は不滅だわ」

瑞鶴はこの時間が永遠に続いて欲しいと心の底から願った。

 

 

2039年 1月18日 AM 13:28

海上自衛隊 横須賀基地 ヘリポート

 寒気が上空に流れ込んだ影響でこの時間でも気温が6℃近く、これまでの暖冬が嘘のように今朝は寒かった。朝一で前日に提督に言われていたカウンセリングを受けた。艦娘は定期的にカウンセリングを受けることになっており、その内容は質問に答えたりなんかのテストもどきだったりと退屈だと艦娘からの評判が良くない。瑞鶴も苦手な一人であり、特に今回は一時間以上拘束され退屈で死にそうだった。

 

 そんなカウンセリングから解放された、瑞鶴は執務室で提督に挨拶を済ませ、その足でヘリポートまで移動した。艦娘の移動方法は基本的に艤装を使って海上を移動である。空母のような主力艦が海上を移動するときは必ず護衛の駆逐艦が同伴する。今回の場合は、移動するのが瑞鶴だけであり、移動の安全性とコストパフォーマンスを考慮した結果、自衛隊の保有する航空機を使っての移動となった。艤装に関しては専門のチームが瑞鶴と同じ便で運搬することになってる。兵器を移動させるのにいろいろな法律が絡んでいるそうだ。私服などの荷物は後日届くことになっている。

 

 ヘリコプターのローター音がこだまする中、瑞鶴は翔鶴たちと最後の別れをしていた。翔鶴の他にも瑞鶴と仲の良かった子に心配してきてくれた子、そして件の松型駆逐艦の子も来てくれた。

 

「瑞鶴、ちゃんと暖かくして寝るのよ。今日なんて寒いから風邪ひいちゃうから…やっぱ一人だなんて心配だわ…」

翔鶴は瑞鶴の手を握り少しあわてる様子で心配する

「あはは、翔鶴姉は心配し過ぎ。昨日の夜は一人でやっいけると言ってくれたじゃない」

「でも、急に不安になってきて…」

「大丈夫、絶対向こうでも活躍してみせるから」

瑞鶴は翔鶴に心配をさせまいと気丈に振舞う。

 

「瑞鶴さん、そろそろ時間です」

パイロットが瑞鶴に登場を促す

「はい。それじゃあ、翔鶴姉にみんなありがとうね。元気でね」

そう言葉を言い残して、ヘリに搭乗しドアを閉めた。

ヘリは瞬く間に上昇していき、翔鶴たちはすぐに豆粒以下の大きさになり、見えなくなった。瑞鶴はヘリに乗るのが何度かあったが、今ほど眼下に広がるその景色を目に焼き付けようと思ったことは無かった。

 

 



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4話

2039年1月18日  PM14:21

日本列島上空 輸送機格納庫

 

ヘリは自衛隊の厚木飛行場に着陸した。そのあと、輸送機に乗り換えた。ここで、瑞鶴の輸送を担当する自衛官5名ほどと合流し同乗した。

瑞鶴は輸送機はそこまで好きじゃない。民間の飛行機には乗ったことは無いが、それでも居住性の悪さは感じる。いつか、翔鶴とファーストクラスなるものに乗って旅行をしたいと思ってはいるが、今この現状では夢のまた夢である。

 

 離陸をしてから30分ほどして機体が安定してきから、一緒に同乗している自衛官たちが思い思いの行動をしていた。小説を読む者、目を閉じて休む者、中にはスマホで国会中継をを観ている者がいてその音が瑞鶴の耳に入ってきた。

 

『清原総理、今回は艦娘の艦隊をインド洋に派遣すると決定しましたが何故ですか?』

 

『えー、今回のインド洋への派遣につきましては、インド政府からの特定害獣(深海棲艦)の駆除要請がなされたため、自衛隊法の災害派遣に基づき派遣の決定を致しました』

 

『清原総理、あなたは以前国民の生活を向上させる目的と周辺諸国の安全確保以外では艦娘の派遣は無いと答弁でおっしゃっていましたね?今回派遣予定のダッカ周辺はすでに国民が内陸に退避していると聞いています。そこはどうお考えですか?』

 

『それにつきましては、未確認情報が多く断定できないものがあります。また、ダッカはインドの要所であり、この地を人類の手に取り戻すことで日本国民の生活の向上につながるという認識であります』

 

『清原総理、あなたは日本・オーストラリアの航路の確保が最優先とおっしゃっていましたが、今回の派遣で遅れる可能性はあるのでしょうか?また、それによって日本周辺の防衛が甘くなるのではないのでしょうか?』

 

『今回の派遣とは別にすでに航路の確保への作戦は決定しております。また、日本周辺の特定害獣はすでに99%以上排除されているのでそれは考えられません』

 

『清原総理、艦娘は兵器だとう閣議決定がされて以来議論が全く行われていません。そもそも艦娘とは何か、特定害獣と呼ばれる深海棲艦とは何かという議論を再開してもよろしいのでは

無いでしょうか?』

 

『それは三年前に有識者を交えた討論で最終的な決定がでたと考えております。ヒトとはホモ・サピエンス種及びその近縁種であり、艦娘及び特定害獣は未知の原子で構成されているのためそれには該当しません。また、艦娘と特定害獣の違いにつきましては、艦娘はの人類との意思疎通が可能であり、対して特定害獣は意思疎通が不可能であることが…』

 

「あーっ、マジムカつく!この野党の人って批判ばっかしてて何もしていじゃん!」

瑞鶴の隣に座っていたスマホで中継を見ていた20歳前半であろう自衛官が声を上げた。

 

「瑞鶴ちゃんもそう思うよね?俺らは瑞鶴ちゃんたちの事兵器じゃなくて人間だと思っているからね」

その少しやんちゃさが残る若い自衛官は押し気味で同意を求めてきた。

「あっ…ええと…」

艦娘のタブーの1つが政治的な発言及び活動をすることである。それを自覚している瑞鶴はこれは政治的な発言にあたるのか考え、回答に困っていると

「この馬鹿!!余計なことをしやがって!!」

この自衛官の上司と思しき30後半であろう体格の良い隊員が、若い自衛官を咎め殴った

「痛っ!!パワハラですよっ!隊長!」

「うるせえ、自衛隊にパワハラも糞もあるか!瑞鶴さん、うちの馬鹿がこんな真似をしてしまい申し訳ありません。根はいいやつなんですが…おつむが少々悪くて…それにこの頃隊員の育成が追い付いていなくてですね…」

隊長と呼ばれた自衛官は若い自衛官の頭を手で下げさせ謝罪をしてくる

「ああ、いいんです。自分たち艦娘のことを心配していてくれてるのだなと少しうれしかったです」

「ほら、瑞鶴ちゃんはいいって言っているじゃないですか!」

「社交辞令だろ…」

年季の入った自衛官はもはや怒りを通り越して呆れていた。

そんな様子を見て瑞鶴は苦笑いするしかなかった。

 

 

2039年1月18日 PM16:24

海上自衛隊 舞鶴基地 ヘリポート

 

 その後は特に何も無く、基地近くの飛行場に輸送機は着陸し、その後は輸送機に同乗していた自衛官の護衛の下、また、ヘリコプターに乗り換えて舞鶴基地まで移動した。ヘリコプターが着陸すると、壮年の男性が出迎えた。

「瑞鶴さん、長旅お疲れ様です。私は第四護衛艦隊群主席幕僚の梅野です」

一等海佐の階級章をつけた40代前半であろうこの男性は敬礼する。幕僚というのは昔で言うところの参謀に相当する。

「私は空母瑞鶴です。今後ともよろしくお願いします」

瑞鶴は敬礼を返し、あいさつを済ませる

 

 その後、この梅野幕僚は瑞鶴の輸送担当者と書類をいくつか交わし、飛び立っていったヘリコプターを見送った。

先ほどまで、ローターの騒音が無くなり静かになる。

「それでは瑞鶴さん、提督が執務室でお待ちしていますのでご案内します」

 

 瑞鶴は舞鶴についてから、最初に感じたのが横須賀とは比べ物にならない寒さだった。ここの寒さは横須賀の寒さとは質が違う、身に染みるような突き刺さる寒さを身を持って実感していた。

執務室までの道すがら見覚えのある何人かの艦娘たちとすれ違い、5分ほど歩くと執務室にだどりついた

梅野幕僚がコンコンとノックする。

 

「どうぞ」

今朝とは違い若い女性の声が返ってきた

「失礼します」

梅野幕僚が入室し、瑞鶴は後に続いて入室した

執務室の中にはデスクに座っている40代後半と思しき男性とその横に綺麗な黒髪ロングの女性が立っていた。

 

「和田司令官、空母瑞鶴をお連れしました」

「梅野くん、ありがとうございます。実は先ほど、監部から新たな指令が来ていまして、後程向かうので、先に幕僚たちを集めておいてくれませんか?」

「はい、了解しました」

一礼をし、梅野幕僚は執務室から退出した。

「挨拶が遅れてしまいましたね。私は第四護衛艦隊群司令官の和田晋太郎です。瑞鶴さん、高崎さんからはお話は伺っております。これから大変だとは思いますけどよろしくお願いします」

 

 この和田と名乗る男性は、海上幕僚監部と護衛艦の艦長としての実績が評価され、二年前に海将補に昇進し、それと同時に第四護衛艦隊群の司令官に任じられた。自衛隊内ではどんな命令でも着実にこなす、その安定性が高く評価されている。見た目は、体格が良く若干の日焼けをしており、瑞鶴は高崎提督とは違い自衛官らしい見た目をした司令官という印象を持っていた。

 

 

「はい、本日付で着任することになりました空母瑞鶴です。今後ともよろしくお願いします」

「そして、ここにいるのが第7護衛艦隊旗艦の榛名です」

提督が横に立っていた巫女服の女性、かつては戦艦として終戦まで戦い抜いた榛名を紹介した。

「初めまして、私は戦艦榛名です。瑞鶴さん、これから一緒に頑張りましょう」

榛名が瑞鶴の正面まで寄って行き、自己紹介をして右手を差し出し握手を求めた。

 

「こちらこそよろしく、服装から金剛型の榛名か霧島かなと思っていたけどあたっていたんだね。横須賀にいた時は金剛と比叡と良く艦隊を組んでいたんだ」

瑞鶴がそれに応じて手を差し出して握手をする。瑞鶴は先ほどまで外にいた影響なのか榛名の手が温かく感じた。

 

「お姉さま方が大変お世話になったみたいで、瑞鶴さんありがとうございます」

榛名が頭を深く下げる。

「いやいや、そんなことないよ。あと頭を下げなくていいよ。むしろこっちがお世話になったというか…いい妹さんを持てて金剛と比叡は幸せだね」

瑞鶴は頭を上げるようにと榛名に促す。

 

「そんなことありません…榛名はまだお姉さま方には足元にも及びません…」

そんな中、執務室にノックをせず入室してくる来訪者がいた。

「提督、作戦が終わったぜ」

突然入ってきた茶髪で少しきつい感じのする釣り目の女性は提督のデスクの前まで歩み寄る。

 

「提督、これが今回の報告書だぜ。確認をよろしくな」

その女性は報告書らしき書類を提督に差出す。

受け取った提督は書類に一通り目を通してうなずく。

「報告書には不備が無いみたいですね。摩耶さん、お疲れ様です。明日の出撃には遅れないでくださいね」

「ん、了解、というか提督、こいつ新入りなの?見た感じ空母っぽいけど?」

「ああ摩耶さん、この方は今日からこの艦隊への着任した空母の瑞鶴さんです」

提督が摩耶に瑞鶴を紹介する。

 

「よろしくなっ、あたしは重巡麻耶、また船だった時のように艦隊を組もうぜ。というか、提督も水臭いぜ、新入りが来るなら早く教えてくれたっていいだろ?」

「ちょっ、摩耶あなた…敬語を使わないと提督さんに失礼なんじゃ…」

瑞鶴は思わずタメ口で話す摩耶を注意してしまった。瑞鶴も着任当初は敬語が上手く使えず加賀に何度も注意されたことがあり、とりわけ言葉使いや所作には敏感であった。

 

「それは別にかまいませんよ、むしろ私としては無理して敬語を使わない方が、艦娘の皆とより良いコミュニケーションが取れると思っています。だから、瑞鶴さんもしゃべりやすい言葉使いでもかまいませんよ」

提督は少し笑いながら、気楽でいいんだよとジェスチャーを交えながら語ってくる。

 

「だとよ、瑞鶴も敬語なんて堅苦しいものなんて使わなくていいんだぜ」

「そうなんだ…」

瑞鶴が困惑しながら答える

「すぐに慣れますよ」

榛名が微笑む

 

「瑞鶴さん、話がだいぶ反れてしまいましたが明日から本格的に任務に就いてもらいます。明日はまず10:00にこの執務室に来てください、紹介したい人がいます。それと、福本舞鶴地方総監は出張のため本日は不要です、挨拶は後日改めてして下さい。このあと歓迎会をと考えたのですが、今回の話が急だったもので…代わりと言ってはなんですが、今日は伊良湖で思う存分楽しんできてください、費用はこちらで持ちますので。榛名さんと摩耶さんは瑞鶴さんにこの基地の案内して下さい。もちろん、あなた方の伊良湖での飲食代を出します」

「やったぜ!提督、ありがとうなっ!」

摩耶が大はしゃぎして喜ぶ

 

「榛名もご一緒してもいいのでしょうか…?」

「食事は人が多い方が楽しいですからね。領収書の提出を忘れないで下さいね?」

「はい、了解しました」

「では、今日は楽しんできて下さいね」

提督が敬礼をする。それに応じて三人の艦娘も敬礼を返す。

その後三人はそのまま執務室を後にした。

 

 



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5話

2039年 1月18日 PM 17:03

海上自衛隊 舞鶴基地 リトルマイヅル 酒保「伊良湖」前

 

 艦娘は基地から外出することが許されていない。艦娘の安全及び機密の保持のためである。艦娘は深海棲艦に対抗する唯一の手段であり、人のサイズながら第二次大戦の軍艦と同じ戦力がある。その人という形の特性上、反社会勢力、敵対国家に誘拐されるリスクがあり、誘拐されるのが空母や戦艦といった主力艦だった場合の損失と言うのははかり知れないものがある。また、艦娘は兵器であるという政府の認識上、艦娘単独で基地からでるのは難しい。今回の瑞鶴の輸送にあたっては、専門のチームのもとで厳重に法を守った上で自衛隊の基地以外には下りず行われたものである。

 

 そんな艦娘たちの為に自衛隊は各基地の一角に防衛省共済組合が運営する複数の飲食店、アパレルショップ、カラオケ等の娯楽施設と小さな商業施設並の十数件程の店舗を用意した。もちろん、自衛隊員も利用することは出来るが基本的には艦娘が優先されている。そういった施設の一帯を艦娘たちは、リトルマイヅルなどと言った愛称をつけている。

 

「ここが洋服屋さんであそこがエステサロンです」

榛名が瑞鶴に店舗を紹介する。

「なあ瑞鶴、今度あそこのボーリング場で艦娘たちと大会を開くんだけど参加しないか?」

「ありがとう、横須賀でもボーリングを何度か遊んだことがあるからぜひ参加したいわ」

「おう!横須賀にもボーリング場があんのか、なら基地対抗ボーリング大会ってのもあったら面白そうだよな!」

「確かに面白そうね」

瑞鶴は笑って答える。確かに、所属の違う艦娘同士の交流というのは少なかった。そういった面では何か交流イベントがあれば面白のではないかと瑞鶴は考えた。

 

「ここが伊良子です。早速入りましょう」

榛名がそう言って、伊良子と書かれている暖簾を付けた、おしゃれな居酒屋風の店に入った。それに、瑞鶴も摩耶も続く

内装は40名ほどが入れるほどの広さで、喫茶店と居酒屋を足して割ったような内装だった。

既に何組かの艦娘が食事をしており、将校らしき自衛官が数名ほどいる。

 

「いらっしゃいませ」

中に入ると青っぽい黒のポニーテールをした割烹着姿の女性が出迎えた。

「伊良湖さん、お疲れ様です。こちらが本日着任した瑞鶴さんです」

「瑞鶴です。伊良湖さん、よろしくお願いします」

「話は提督から聞いていますよ、今日は瑞鶴さんのために腕によりをかけたので楽しんでいって下さいね」

伊良湖が笑顔で答え、瑞鶴たちを席まで案内する。

 

「お飲み物は何に致しますか?」

伊良湖が早速飲み物の注文を取ってくる

「あたし、とりあえず生」

「榛名も生ビールでお願いします」

「じゃあ、私も生で」

「承知いたしました」

注文を取り終えた伊良湖は厨房へ戻っていく。

 

「とりあえず生という文化って舞鶴にもあるんだ」

瑞鶴が不思議そうに言う

「横須賀にもあんのか、不思議だよな離れていてあまり交流もないのに」

摩耶が答える。

「そうですね、確か榛名が着任した当初はそんなのは無かったのですが」

三人の艦娘が何気ない疑問にうーんと頭をひねる

 

「はい、生ビール三つです」

伊良湖が注文された生ビールのジョッキを三つテーブルに置く

「あっ、伊良湖さん、少しいいですか?」

瑞鶴が伊良子に声をかける。

「いいですよ」

「今、三人で話していたんですか、とりあえず生という文化っていつから艦娘の中で定着したのか考えていたんですよ」 

瑞鶴が質問を投げかける。

「あっ、それですね、確かそれは、艦娘の皆さんがここを利用する自衛官さんの真似をしたのだからと思います。最初の方は艦娘の皆さんは最初の飲み物を選ぶのに時間がかかっていましたからね、とりあえず生の便利さに気付いて、それを真似して定着していったのだと思います」

「ああ、そうか。納得がいったぜ。おーい、お前たち!お前たちのせいで生ビールばっか飲むようになったんだぜ!責任とってこれからは奢れよな!」

摩耶が大声で離れていて飲んでいた隊員に

 

「そりゃあ、無いですよ摩耶さん」

隊員の一人は笑いながらおどける

それにつれられて、瑞鶴、榛名、摩耶、伊良湖も笑う

「すぐに、お料理をお持ちしますね」

そう言い残し再び伊良湖は厨房に戻る

 

「飲み物も来ましたし乾杯しましょうか?」

「そうだな」

摩耶が榛名に同意する

「乾杯の音頭は榛名にお任せ下さい。この度は瑞鶴さんの着任と今後の活躍を願って、乾杯」

「乾杯-っ」

「乾杯―っ」

三人はグラスを当てて、そのまま口に運び飲む

ガタンとグラスをテーブルに置いた音が響く

 

「んやっぱ、何度飲んでも仕事後のビールは最高だな!」

「そうですね、榛名もそう思います。仕事終わりというのは空腹に次ぐ最高のスパイスだと思います」

「今日、私は仕事はしてないけど疲れたわ。朝からカウンセリングを受けてそれから移動だったし」

「今日カウンセリングを受けたんですか?榛名はあれ苦手ですね…何か質問攻めで疲れます」

榛名が不満をこぼす

「あたしも嫌いだせ…面倒だから適当に答えたら怒られるしな…何のためにやっているんだろ?」

「提督に聞いたことがあるんですが、心の健康とかというのを調べているらしいですよ。それが戦闘のパフォーマンスに影響するとかで」

榛名が摩耶の疑問に答える

「くっだらねー、心の健康なんてしっかり飯を食って寝ればいいよな?」

「そうですよね、でもあれには何か別の意図がありそうですけど」

 

艦娘たちが不満をこぼしていると、伊良湖が料理を運んできた

「お待たせしました、本日はいい寒ブリが入ったので寒ブリのフルコースです。まずは、ブリの刺身とブリ大根です。そのあとにブリしゃぶとブリの照り焼きとブリの兜焼きをお持ちします。何か追加注文があれば申しつけて下さいね」

テーブルに大皿に盛られたブリの刺身と小鉢のブリ大根が置かれる。

「えっ、こんなに豪華でいいの?」

瑞鶴が予想以上に豪勢な料理に驚く

「提督が楽しんでこいとおっしゃっていたのでいいのでしょう。摩耶さん、これは上等な日本酒が無いとお料理に失礼ですよね?」

榛名が摩耶に同意を求める

「ああそうだな、伊良湖さん、一番高い日本酒を人数分持って来てくれ」

「はい、承知いたしました」

榛名と摩耶はやったとグータッチをした。

 

「うーん、このブリ最高じゃないっ!こんな美味しい魚は久しぶりだわ!」

瑞鶴はブリの刺身の美味しさについ声を上げてしまう。

「だろっ?日本海の魚は最高だぜ、これだから海を守っている甲斐があるってもんだ」

「これじゃあ、お酒が進んでしまうわね。でも、摩耶あなたは明日早くから出撃があるのにこんなに飲んでもいいの?さっき提督がいってたよね」

瑞鶴が摩耶に質問する

「大丈夫だよ、相部屋の鳥海が朝起こてくれるから」

摩耶が答える

「姉妹艦同士相部屋というのは良いですよね。榛名は旗艦になってからは霧島と

一緒にいる時間が減ってしまってさみしいですね」

「そういえば、ここの提督さんってどんな人なの?」

瑞鶴が二人に質問する

「あー、とにかくいい奴だな、采配も文句は無いし、あたしとしては特に不満は無いな」

「そうですね、榛名も艦娘のことを大事に思って下さる優秀な提督だと思います。でも、少し欠点が…」

榛名が摩耶の方を見る

「ああ、あれか…確かにあれはな…」

摩耶が若干しかめっ面をする

「あれって何よ?」

瑞鶴は提督に致命的な欠点があるのか不安になった

「それはですね…」

「それは?」

「たまに…よく親父ギャグをおっしゃる事ですね」

「はあ!?」

瑞鶴は予想外の回答に開いた口がふさがらなかった

「瑞鶴…おまえはまだ聞いたことがないからそんなことが言えるんだ。文字通り空気が凍りつくことが何度も見たことがあるぜ。あいつのおやじギャグは真冬のアリューシャンより寒いぜ。最近は減ってるけどな」

摩耶が深刻そうに答える

「でも、私はギャグを披露している時の提督の顔は好きですよ」

「ああ、やったぜみたいな顔をするよな。ドヤ顔というやつ?本当にいい顔するよな」

「…」

瑞鶴は言葉を失ってしまった。親父ギャグを言う司令官?なによそれ?と思った

 

「この話はこのくらいにしといて、何で瑞鶴は急にこっちに来ることになったんだ?」

摩耶が瑞鶴に質問をする

「ああ…その…」

瑞鶴は答え辛い質問に困惑した。正直に話すか、それとも言葉を濁すか

「あっ…わりいな、答えたくなかったら無理して答えなくてもいいんだぜ」

摩耶が地雷を踏んでしまったのかと後悔し、瑞鶴に気を遣う

「ありがとう、でもいいんだ…ここで全部話した方がすっきりするだろうし。実は数日前、先輩の空母と言い争いをしてしまって、ついカッとなって思わず殴ってしまったんだ…」

瑞鶴はいっその事話すことを決めた。ここで言葉を取り繕っても時間が経てば、そのうち噂として伝わってくる。なら、真実を全部打ち明けた方がいいと判断した。

「そりゃ、大変だな…その先輩ってやつは酷いな。少し話しているだけでも瑞鶴はいい奴って分かるのにそれを殴るまで怒らせるとか、足手まといだとか邪魔とか言ってきたんだろ?どうせ」

「いや、でも半分当たってるかも…それが原因で言い争いが起きたのだけど、直接的な原因ではないから…その、ひ…」

「ひ?」

摩耶が聞き返す

「私の事を貧相な身体って言ったの、それで気づいたら殴ってしまっていたの…」

「あはははははははははは!!!」

瑞鶴の予想外の発言に摩耶が大声を出して、テーブルをバシバシ叩いて笑う

「ちょっ…ひどいじゃない!何でそんなに笑うのよ!」

瑞鶴がついムッとする

「あはははははは…いやっ、ちょっと予想外過ぎて…わりぃ…でも、貧相な身体って言われてか…榛名もおかしいと思うよな?」

榛名は腹を抱えてうつむいて笑いを必死に堪えている。摩耶からの問いかけに対しても止めてと首を振る。

「榛名もひどいじゃない!こうなったら、死ぬほど飲んでやる!明日の事なんて知らないわ!」

「おおいいぞ!おーい!伊良湖さん、追加の酒をどんどん持って来てくれ!」

 

 

2039年 1月18日 PM23:13

海上自衛隊 舞鶴基地 艦娘宿舎 瑞鶴の寝室 

 

 あのあと、日本酒の一升瓶2本とワインを1本空けた。伊良湖から出てから三人でカラオケに行き、大はしゃぎをした。最後の方には三人とも呂律が回らなくなっていた、これは二日酔い確定ねと瑞鶴は思った。でも、こんなに楽しく飲んだのはいつぶりだろう?また機会があれば同じメンバーで飲んでみたいと思った。店を出て千鳥足の三人は宿舎まで戻りそこで解散した。

 

 艦娘の部屋割りは基本的に同型艦同士で新たに舞鶴に着た瑞鶴には二人部屋を一人で利用することになっている。舞鶴の宿舎は横須賀の宿舎とほぼ変わらない広さに部屋にベットが二つといくつかの家具が配置されている。瑞鶴は入口側のベットに腰掛けた。

いつも横を見れば、翔鶴がいた。だが、ここにはいない。

「やっぱり、一人では広いわね…」

瑞鶴は大きさは対して変わらないこの部屋をかなり広いと感じていた。同時にさっきまで飲んでいた榛名と摩耶には相部屋の姉妹艦がいることが羨ましくなった。

 



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