Fate/Grand Order Episode of Drifters 廃棄漂流戦場関ヶ原 宝知らぬ武者 (watazakana)
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前半戦・天文台と日の本侍
一節 intro


藤丸立香は夢を見た。

 

彼らは追われていた。この地は日本。駆けるは馬と鎧武者。敵は多数、我は少数。絶対的不利の中で、彼らは決死の撤退を決行していた。赤の旗に白丸、その中に白の十字を掲げる武者達の願いは一つだった。

 

「大将は死んでも逃す。大将さえ故郷に落ちれば、必ず故郷が天下を取る」

 

故に、彼らは強かった。天下分け目を獲った武将の勝利に泥を塗るくらいには。二世紀半後に天下を奪うくらいには。

彼らの一部が本隊から離れる。これは決して疲労からではない。大将を逃す時間を、命で買おうとしていた。彼らは命が惜しくない。なぜなら、誇り高くあれるからだ。故郷に殿が落ちられれば、必ず死は無駄にはならないからだ。

 

それはともかく、本隊から分かたれた囮には、赤い武者がいた。彼は日本刀を上段に構え、腰を落とし、左足を限界まで後ろに伸ばし、その傾きと一直線になるように上半身を前傾させる。グッと力を込め、雄叫びと共に突出した。馬の首を騎兵の胴ごと両断する技量、膂力には敵総大将の直属、四天王の一角をも「美事也」と唸らせた。

彼は名乗りをあげる。酷いノイズで聞き取れなかったが、よく通る、猛々しくも爽やかな声だった。

敵の槍足軽は直属を守ろうと密集し、彼に向かって槍で威嚇する。尤も、首級をとることしか考えないいかれを相手するので、威嚇よりも殺すつもりしかないのだが。

彼はその槍に臆しない。窮しない。真っ正面から突撃し、跳び、自ら槍へ────

 

 

 

 

藤丸立香は目が覚めた。

 

 

「英霊の夢……」

 

奇妙なまでにリアルだった。こういった夢は稀によくある。

 

英霊の夢。英霊が成した偉業、最期、想い、そういったものをマスターは見る。へっぽこ魔術師でも、超一流魔術師でも、サーヴァントのマスターならばそれは変わらない。

 

しかし、今見る必要はもうないのだ。3000年にわたる人類史を燃料とした魔術王による時間遡行は彼女たちカルデアの「冠位指定」により失敗に終わった。3つの魔術王の残滓と並行世界の夢も綺麗に片付け、現在人類史は正常に時を刻んでいる。

夢に出てきた英霊は恐らく赤い武士だろうということは想像できた。しかし彼は見たことのない英霊だった。勘違いだろうか、ダ・ヴィンチちゃんにでも訊こうかな、そう思いながら伸びをして制服に着替えた瞬間である。

やかましいサイレンがカルデア中に響き渡った。

 

「え、何⁉︎」

『サーヴァントが一騎突然現れた!霊基グラフにはない未確認サーヴァントだ、赤い和武装の黒髪、今召喚室を蹴破って徘徊中、マシュと藤丸くんは今すぐ管制室に来ること!ああもう修理代だってバカにならないんだぜ⁉︎勘弁してくれ!』

 

声の主はダ・ヴィンチちゃんだった。しかし、どこかで見たことのある特徴……

と思えば藤丸の部屋のドアが開く。メタリックでオートな自動ドアの立てる音はまさにSF。開いたドアから見える右の桃髪と左のアメジストの瞳は、最近来た海賊のサーヴァントに言わせれば「綺麗すぎて死にそう(全年齢向け婉曲マシマシ要約)」。確かに綺麗だよね。

 

「先輩、急いでいきましょう!ダ・ヴィンチちゃんとカルデアがピンチです!いろんな意味で!」

 

彼女はマシュ・キリエライト。元シールダーのデミ・サーヴァントだ。同時に藤丸立香の相棒のような存在であり、「一度焼却された世界を救う旅の、相棒であり主従であり先輩後輩の仲である」という、この世に二つとあり得ぬ関係にある。別に愛し合うなどそういうアレではない。藤丸に恋の花は百合であろうとなかろうと、咲くのはまだ先の話である。

 

 

カルデア管制室

「来たかい、現在未確認サーヴァントは食堂で信長と喧嘩してるよ。霊基はバーサーカー。召喚室で勝手に起動した術式から出てきた英霊だ。食堂はエミヤくんの仕事場だから、今頃彼が仲裁に入ってるんじゃないかな。彼の魔力が高まっている」

 

今が冠位指定の只中じゃなくてよかった。今は退去したサーヴァントも多いからまだマシだった。と彼(彼女?)はぼやく。

 

「食堂に行きましょうか?そのサーヴァントが誰なのか、なぜ来たのか、会えばわかるかもしれません。朝食もまだですし」

「そうだね、私も行きたい」

「じゃあ藤丸くんにお願いしよう。ここにひとり分朝食が残ってるんだ。マシュは話があるから、ここで食べながらでも話そう」

「あ、はい」

 

マシュはちょっとしょげながらも、すぐに立ち直りダ・ヴィンチと話を始め、藤丸立香は食堂へと向かった。

 

 

数分前

 

「何をする島津十字!」

 

魔力で編まれた10挺の種子島が火を吹く。間違いなく史実より殺傷力の高い代物で食堂はみるも無惨。エミヤは速攻でバーサーカーに伸され、首を取ろうとしたバーサーカーに織田信長が銃撃、バーサーカーは被弾こそすれど尽く急所を外していたというところだ。奥歯を噛む。

 

「確かにわしの種子島は命中が悪いがあれだけ撃って急所ゼロは無いじゃろ……おう、島津十字!名のある武者じゃな?ワシの知る武者かも知れぬ、名を申せ!」

 

島津十字、そう呼ばれた赤武者は応える。

 

「島津!島津◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎」

「え?なんて?」

「島津◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!」

「人語で喋れよ!もう良い、島津の大名あたりか?」

「主ゃ何ぞ、女子がないごて鉄砲持ってこげなようわからん所で傾き者みたいな格好しちょる?おいは女子の首は獲らん。さっさと失せい」

「まあ待て、話くらい聞かんか。お主の目的は何ぞや?なぜあの赤アーチャーの首を狙う?」

「首級。何も分からんなら、走って敵の首級ば獲る。寝てん覚めてんおいはこれ一つぞ。して、あん男は襲ってきよった。敵じゃ。敵なら首級を挙げればよか」

 

信長は会話不能と判断した。この男はバーサーカーだ。できなくても何ら不思議はないが、これほど自己完結した加害的な狂気がカルデアに何を齎すか、想像に難くない。

 

「おう、赤いのの弓の方、起きろ。それでも鯖か」

「ぐぇ」

 

信長は足元に転がるエミヤの白髪を足で小突く。よろめきながらもエミヤは立ち上がった。

 

「宝具を使え。お主の固有結界でわしらを閉じ込めよ」

「……まあ、そうなるだろうな。詠唱中の防御は頼むぞ」

「応」

 

I am the bone of my sword.

 

「おう、なんか妙なこつせんで首置いてけや」

「はぁ?負けてもおらんのに首出す馬鹿がどこにおる?さっさと座に帰れ戯け者」

 

Steel is my body, and fire is my blood.

 

信長の牽制射撃に、バーサーカーは距離をとる。

 

I have created over a thousand blades.

 

「主ゃさっきからなんぞ、女子のくせに種子島ば大量に出して、えんずか?」

「は?えんず?」

 

Unknown to Death. Nor known to Life.

 

「ん?違うんか?」

「わし初めて聞いたわ。なにその痛い名前。エミヤ、ちょっと待った方がいいかもしれん」

 

Have withstood pain to create many weapons.

 

しかし、エミヤの詠唱が止まらない。というかあと2節くらいで発動する。

 

「おい聞け赤いの!待て!」

 

Yet, those hands will never hold anything.

 

「待てっつってんじゃろうが話を聴けェ!」

 

ゴンッ゛。鈍い音がした。エミヤの側頭部を信長が種子島の銃床で全力一撃。筋力Cとはいえどサーヴァントの全力は痛い。エミヤの足元から走る魔力の渦は虚空に発散され、彼は膝をつき、倒れた。

 

ここで藤丸立香が現場に到着した。現在へと繋がる。

 

「え、なにこのぐだぐだ現場」

 

 

 




プロフィールを更新しました

サーヴァントステータス

【CLASS】バーサーカー
【真名】不明
【性別】男性
【身長・体重】175cm・65kg
【属性】中庸・狂

【ステータス】
筋力B+ 耐久A 敏捷B++ 魔力E 幸運C+

【クラス別スキル】
狂化:EX
ただ狂い破壊することに特化したバーサーカー特有のスキル。彼は無意識化で自身の意思によるランクの調整に成功しているようだ。

薩摩兵子の矜恃:B
「女首は恥ぞ」という自縄自縛。例え狂い切っていても、女であれば(彼の中で)手加減する。彼による攻撃は女性を殺せない。


【固有スキル】
狂奔:EX
彼には戦さの才能がある。人を戦さへと駆り立てる才能がある。彼の言葉を聴いた者は、みるみる力が湧き、何者をも恐れず、何者にも惑わされず、致命傷を負わない限り、瀕死になっても戦闘可能になる

???
ストーリーの進行で解放

???
ストーリーの進行で解放

【宝具】
???
ストーリーの進行で解放


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1-2 関ヶ原へ

前回のあらすじ

藤丸立香は夢を見た。とある武士の夢だった。目を覚ました直後、サイレンが鳴り響く。なんでも、召喚式が勝手に起動し、バーサーカーのサーヴァントが現れたとか。いろいろあって食堂に駆けつけた立香が目にしたものは、ボロボロの食堂とノッブの足元に倒れるエミヤ、数mほど距離を取ったまま困惑している夢で見たバーサーカーだった。とてもぐだぐだオーラが溢れていた。


藤丸立香が事情を聞いているころ、マシュ・キリエライトはダ・ヴィンチちゃんから話を聞いていた。

 

「コーヒー、美味しいかい?」

「はい、とても美味しいです」

 

だろう?私が淹れたんだぜ、不味いとは言わせない!と鼻を得意げに鳴らすダ・ヴィンチちゃんは自他共に認める天才である。モナ・リザをより華やかにした感じの彼(彼女?)は「ところで」と打って変わってシリアスな表情を浮かべ、話を切り替えた。

 

「特異点が見つかった。原則カルデアスとレイシフトは凍結されているが、縁もない上に勝手にサーヴァントが召喚されたという超異例の事態だ。調査のために使った」

「特異点の攻略のために、スタッフを。というわけですね」

「ああ、だがこれがあのバーサーカーの召喚された原因なら、この特異点、明らかにおかしい」

 

触媒もなく、カルデア側が召喚の呪文を詠唱したわけでも無い。ならばここではぐれサーヴァントがたまたま現界したとでも……?確かにここカルデアは魔術工房でもあるし、霊地ではある。召喚室はその中でもとびきりのものだ。しかし、とダ・ヴィンチは会話しながら思考する。

 

「ああもう情報が足りない!ホームズはどうなんだい?」

「………………」

 

オールバックの全体的に黒い英国紳士は、顎に手をやりながら考え込んでいる。あれではまだ聞き出せそうに無い。

 

「あっちもあっちか……」

「事情聴取とりあえず終わりましたー」

 

と、藤丸立香は管制室にバーサーカーを連れて入る。

 

「お、ちょうどいいところに来た。さぁ、話を聞かせてもらおうじゃないか、バーサーカー」

「ばぁさぁかぁ?知らん。おいは島津◼️◼️◼️◼️◼️◼️ぞ」

「「「はっ?」」」

 

突然のよくわからない発言(物理)に、今度は三騎のサーヴァントが困惑した。

 

 

カルデアのみんなは事情を聞いた。

 

「うーん、よくわからないということがわかったよ。まあいい、あの時だって『よくわからない』は付き物だった。今回も事件が終わる頃にはわかるだろうさ。さて、藤丸クン、もうわかっているだろう?」

「特異点、ですよね?」

「そう。特異点が発生した。時代は西暦1600年。場所は日本関ヶ原」

 

藤丸立香とバーサーカーが反応した。

 

「「関ヶ原⁉︎」」

「1600年の関ヶ原といえば、関ヶ原の戦いですね。豊臣家と徳川家が天下をかけて争った、天下分け目の大戦さ。日本史上最も重大な武士同士の戦さの一つです。本来なら魔術王の聖杯があってもおかしくない特異点ですね」

「待て待て、お前ら(おまあら)は関ヶ原へ行くち言いよるんか⁉︎」

「そうだけど?」

「おるみぬよりも奇怪な奴らよ……」

 

今更すぎて忘れていた。彼はレイシフトを知らない。レイシフトはいわばタイムトラベル。対象を霊子に変換し、任意の時代に投影する過去改変の技術。これについて説明すると「よく分からん」という一言で片付けられた。ダ・ヴィンチちゃんの額に青筋が走り、必死にマシュと藤丸立香がとりなす。

 

「はぁ……言っておくけど、島津もそこに行くんだぜ、関ヶ原に。君はこの異常事態の中心だからね。まず気を付けて欲しいことがある。この特異点の島津軍に会わないこと。特異点解消と同時に特異点での出来事は史実の人の記憶から消えるが、特異点で起きた事象は消えない。特異点で死んだ人は史実でも同じ時間に死ぬのさ。原因は変わるけどね。君の性格上史実での君と相対すれば即殺し合いが始まる。そこで特異点での君が死んでみろ、()()()()()()()()()()()()()()()()?君の言っている事が真実なら、サーヴァントである君、特異点にいるだろう生前の君のどちらかが死ねば君はそこに戻れない」

 

島津の言っていること、それはオルテという大帝国を島津と織田信長、那須与一、オカマが仕切り、晴明やおるみぬら十月なんたらと協力して人類廃滅を謳う廃棄物(えんず)と戦う異世界で散歩して昼寝して起きたらここにいた───という突拍子もないものだった。

しかし彼はバーサーカー。とても腹芸のできる人となりでないことも相まって、とりあえずその言葉を信じるしかなかった。その事情に合わせて作戦を練り説明するダ・ヴィンチちゃんだったのだが………島津はそのダ・ヴィンチちゃんの説明をほぼ全てどうでも良さそうに聞いていた。

 

「ちょっと待ってて、対城宝具持ってくる」

「ダ・ヴィンチちゃん待った!早まるな!」

 

カルデアの危機がぐだぐだに訪れてしまった。

 

 

『要員、各配置についたかい?よし、今回のオーダーの要点を纏めよう。まず第一目的は特異点にある聖杯の回収。いつもと変わらないように聞こえるが、今回ばかりは何もかもが異質だと思った方がいい。並行世界ですらない、正真正銘の異世界からの干渉を受けている可能性が高い。できる用心はするように。そして史実には出来る限り干渉しないこと。いいかな?』

「いいかな?じゃあないわ!なんでわしが関ヶ原へ行かねばならん⁉︎」

 

コフィンの中に押し込まれる織田信長は名一杯に拡声されたダ・ヴィンチちゃんの声に抗議する。ちなみに「何故(ないごて)女子(おなご)が戦さに行くか、邪魔ぞ、帰れ」と言っていた島津は巴御前に説得されて渋々藤丸立香と織田信長(島津はまだ信じてない)の同行を承諾した。今は早々にコフィンの中に入ってまだかまだかと急かしている。

 

『だって関ヶ原の戦いって君の死後間もない頃に起こってるじゃないか。知名度補正で強くなれるし』

 

妥当な判断だよね、だからごめんね。とダ・ヴィンチちゃんは悪びれる様子もなくすっかすかの謝罪を共に正当化した。

 

「絶対ロクな死に方せんぞアイツ」

 

と、ノッブもコフィンへ入り、藤丸立香も魔術礼装:カルデア戦闘服を身に纏い、コフィンの中へ。

 

『アンサモンプログラム スタート。霊子変換を 開始します。 レイシフト開始まであと 3 2 1…… 』

 

『全行程 完了(クリア) ドリフトオーダー 実証を 開始 します』

 

瞬間、1人と2騎の視界は黒く塗りつぶされ、体は宙に浮く感覚に陥る。次第に一条の光が中央に差し込み、体は加速する。慣れていても吐き気を催すくらいの圧が4秒ほどかかり、視界はだんだんと白い光に包まれた。

 

 

 

光は弱まり、草原と山々が縁を取る。色彩が戻って、見た景色は───

 

「日本だ……」

「ほう?これはなかなか」

「戻ってきたっちゅうんか……本当に……!」

 

否。これは間違った歴史。帰ってきたわけでも、戻ってきたわけでもない。いずれ無くなる、聖杯の生み出した歪み。ただそっくりなだけの関ヶ原である。さぁ、これより始まりますは最大の合戦の裏にあった、誰も知らない夢物語。夢想特異点 関ヶ原における聖杯探索の始まり始まり。

 

人理定礎値:DRIFTERS

夢想特異点 廃棄漂流戦場関ヶ原

宝知らぬ武者

 

 




期間限定加入サーヴァントを入手しました。

☆4バーサーカー 島津のバーサーカー

「おいはサーヴァントでも、バーサーカーでもなか。おいは人ぞ。おいはおいの理で走る。首級を獲るために突っ走るのみぞ」

【CLASS】バーサーカー
【真名】不明
【性別】男性
【身長・体重】175cm・65kg
【属性】中庸・狂

【ステータス】
筋力B+ 耐久A 敏捷B++ 魔力E 幸運C+ 宝具???

【クラス別スキル】
狂化:EX
Busterカードのダメージアップ

薩摩兵子の矜恃:B
バトルスタート時自身にガッツ状態(1回、HP1の状態で復活)を付与。女性の敵を自身の攻撃では倒せない[デメリット]


【固有スキル】
狂奔:EX
味方全体に攻撃力アップ&精神弱体無効&ガッツを付与(3T)

心眼(戦):B
回避系スキル。再臨1回目で解放

首級狩り:A
即死成功率up系スキル。再臨3回目で解放

【宝具】
???

Busterらしい。ストーリー進行で解放


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二節 おっさんズ・キル

前回までのあらすじ。

突然なんの脈絡もなく召喚された島津のバーサーカー。彼の召喚と同時に発生した特異点の名は関ヶ原。これは偶然とは思えない。よし、調査しよう!ということで藤丸立香、織田信長、島津のバーサーカーの3人がレイシフトし、聖杯の探索および特異点の解消を試みるのだった。


藤丸立香達がレイシフトを完了した時を同じくして、関ヶ原のある山中、ガサガサと茂みを分け入る人影がいた。

 

「ここは……間違いねえ、美濃の関ヶ原だ……!てことは夢かぁ……あ〜あ、日本の夢なら夢でもいいから米が食いてぇなあ……」

 

その人影を付け狙う人影も居た。その人影は木の上から音もなく忍び寄り、弓に矢をつがえ、引き絞った。狙うは茂みの人影。

幸い彼は全く気付く素振りもない。大丈夫、落ち着いて、手を離すだけ、さあ、今だ───

 

「応、殺気も臭いも消せてねえぞ。さっきから付け回しやがって、正直言ってキモい」

 

バレていた!木の上の人影と茂みの人影の眼が合う。木の上の人影の弓は手の震えを伝播し、狙いをつけられない。汗が身体中から絞り出されるようにだくだくと滲み出る。

……しかし、しかしだ。構えているのはこちら。眉間を抜けられればそれでいい。上は自分が取っている。妙な動きをした瞬間、射抜いてやる───

そういった思考は、得てして死を招く。戦場では、こういった身の丈に合わぬ勇気を持つものから死んでいく。勇気は油断に他ならない。

静謐が人影ふたつを取り囲んで数秒、先に動いたのは茂みの人影だった。懐から火縄銃を取り出し、木の上の人影向けて発砲。驚くべきはその速度、精度である。

 

「俺の陣地に入ったら、この種子島と黒色火薬(たまぐすり)と俺の兵が相手してやるよ。一人も帰さん。絶対にな」

 

瞬間、茂みの人影の頭上を矢が駆けた。同時に木の上の人影が地に落ちる。その人影は、眉間を違いなく射抜いていた。決して、決して木の上の人影が素人であったわけではない。彼が英霊であったことがこの勝負を決めたのだ。そう、茂みの人影はサーヴァントである。

 

 

「本能寺から異世界に飛んで国盗りしたら、今度は関ヶ原で遭難、か……もうイヤこの巷!」

 

 

お米食べたあああああああいという心からの叫び声がそんな英霊の陣地中を駆け巡った。

 

 

 

 

銃声が響いた。

 

「ほう、単騎で種子島か、いい度胸しとるのう。わしなら絶対やらんがな」

「刀で突貫しちょるかもしれんぞ。殿なら銃で牽制したのちに殺到っす。兵子が少なかならやるぞ」

「それは島津しかやらんわこの蛮族。敵前逃亡しながら味方を盾にして敵中突破するとかなにそれこわい」

 

アーヴァントはサーヴァントで勝手に状況を推測し始めた。藤丸立香は辺りを警戒する。

 

「マスターよ、そんなに警戒するものでもないぞ。種子島の射程よりも遠いし、恐らくはぐれの英霊じゃ。こっちに向かわん辺り、迷子といったところかのう?」

「え?なんでわかるの?」

「種子島は鬨の声、集団で使えばこそ真に意味のあるものぞ。わいらはここにおる。わいらはお前を狙っちょるぞ、ちな」

「そう、種子島は音で存在を主張する。そんなことすれば、増援が来るかもしれない。だが彼奴は撃った。『俺の陣地に入った奴は一人も返さぬ』という宣言よ。それだけ自信のあるという表明じゃな」

「なるほどぉ」

 

だから英霊じゃないかと思ったわけよと締めくくる戦国の英霊の講義に藤丸立香は感嘆した。

 

『さすがはその時代の英雄だ、確かにこの近くの山に広大な範囲で魔力反応がある。信長や島津の推測通り、恐らくはキャスターのサーヴァントが魔術工房を作ったんだ。こうなってはキャスターの絶対有利は……ん?いや待て、拡がっている!?キャスターの陣地が霊脈を無視して拡がっているぞ!』

「「は?」」

 

魔術師が魔術を行使するには魔術回路なる神経のようなものを使うが、魔術をちゃんと使えるかどうかは霊脈にも左右される。基本的に魔術師は魔術工房を作る際、最大限魔術や儀式が行えるように質のいい霊脈の通る霊地の上に作る。聖杯戦争で有名な冬木も、全体的な霊脈の質が良かったので聖杯降霊の土地に選ばれた。

逆を言えば、霊脈の質が良くなければ魔術は行使しがたいのだ。それはキャスターという魔術師のクラスでも覆ることはない。キャスターは魔術師のクラスであり、魔術工房を作り自身の要塞へと場を作り替える陣地作成のクラススキルを持っているが、この霊脈の無視具合は半端ではない。

 

『じわじわとではありますが、キャスターの陣地は先輩たちがいる伊勢街道あたりのすぐ後方、南宮山(なんぐうさん)の中腹を中心に、まるで区画をとるかのように作成されています、これにどのような意図があるのか……』

「決まっちょる。()()()()()

「ほう、なるほどなぁ。()()()()()()()()()

「お(まあ)(ない)を言っちょるんかわかりゃせんど」

「まあそうだよネ」

 

帝都のアレとは、戦線(レッドライン)と呼ばれる陣地である。かつて藤丸立香が迷い込んだ特異点・帝都で行われた聖杯戦争に設けられた特殊ルール。あまたの英霊の中でもそれぞれのクラスにおいて最強を勝ち取った、7騎の英霊に割り当てられた恩恵を授ける陣地。その聖杯戦争は、互いの陣地を奪い合ういわば国盗り合戦だった。

結局、それはキャスターがある願いのために設定したものだったが、今回も似たようなこと──もっと言うなら、帝都のそれよりももっと前の段階の──をやろうとしているのかも知れない。

 

「そいで、()()()()()ちもんが無けりゃ困るんか」

「そうだね、それがないとカルデアからの補給が十分じゃなくなるし」

『困りましたね。この近くにはそこしか安全な霊脈がありません。かといって敵か味方かもわからないキャスターの陣地に入るのは危険すぎます。もう少し妥協して、最低限召喚ができる霊地を探して「うし、行くか」……はい?』

 

マシュの話している途中ずっと準備運動をしていた島津は突然走り出した。

 

「あ!おい待て島津十字!キャスターの陣地内に何も対策せずに行く馬鹿がどこにおるか!マスター、背中に!」

「あ、うん!」

 

藤丸立香は困惑した。島津のバーサーカーは思考が全く読めない。普通に会話できると思ったらスパルタクスのように暴走する。

 

「補給兵站は兵法の要ぞ!拠点無き兵子はただの野伏せりじゃ、それにおいは走ることしか知らぬ!」

「だあああかあああらあああ!!キャスターの陣地をどうにかせん限りはどうにもならんて言うておろうがこの馬鹿島津!」

『悔しいことに、島津の言うとおりだ。このあたり、本当に霊脈の質が悪い。こんな土地がなぜ特異点になれるのかわからないくらいにね。この霊脈は本当に奇跡だ。逃してはいけない。そのうえキャスターの陣地を攻略する手立てはさっき言ったことが理由で今の私たちにはない。今すべきことはキャスターとの接触だ。藤丸クン、頼んだよ』

「はい、了解です」

 

信長も不承不承で了解した。

 

 

 

「マスター、気をつけよ」

「へ?」

『陣地内に入ってから、敵性反応が多数確認されました。恐らく使い魔かと』

「さっきまで島津十字がバッサバッサなぎ倒した後を追っていたから襲ってこんかっただけじゃな」

「そういうことなら……!」

 

藤丸立香の右手が赤く光る。正確には令呪──英霊を縛り付ける三画の絶対命令権──が光り輝く。

 

「ノッブ、戦闘は避けて移動に集中して」

「応、元よりそのつもりよ」

 

聖杯探索は現地の英霊や一緒にレイシフトしてきた英霊の助けを受けて成すものだが、戦闘ばかりはそうはいかない。だから藤丸立香は呼ぶ。カルデアに記録された英霊の『影』を。短時間の顕現ながらもサーヴァント本来の力を持つ影は、幾度となく藤丸立香たちを、カルデアを、人類史を助けてくれた。

 

「───来たれ英霊!」

 

そのサーヴァントは、剣製の弓兵。赤い弓兵。抑止の尖兵。その真名は───

 

「エミヤ!」

投影開始(トレース、オン)

 

短い詠唱で幾本もの剣が投影される。その剣は寸分過たず木の上にて弓を構える使い魔たちに深々と刺さる。すると使い魔共々魔力に還り、霧散した。

 

『敵影、消失速度を発生速度が上回っています!』

『キャスターの完全有利な場所に入ってたらまあそうなるよね。だが霊脈の座標まであと少しだ。キャスターの霊基反応もその近くにある。信長、念のために宝具の準備を』

「承知した。しかしまあ……」

「どうしたの?ノッブ」

「いや、なんでもない」

 

織田信長には、一つの疑念があった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『自身がキャスターだったら』という脳内演算を、織田信長は島津が突っ込んで行って以来ずっとやっていた。その結果は()()()()()。これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なくらいあり得ない。なぜならサーヴァントとは言え『生き物が』布陣を敷くからだ。聖杯によって与えられた知識はあっても、自身の成功を伴ったその信頼は絶対的である。何より使い慣れない誰かの実績は自身の戦術、戦略の相性が合わないとき、最後に見るものは自らに押し込まれる刃だ。どれほどの手口を真似ても、必ず誤差は出るのだ。

しかし、その気持ち悪いほど一致した布陣は、今なら異常に役に立つ。

 

「お、いたいたあの馬鹿島津。マスターよ、霊脈を盗る、その意図は大方見通されておるじゃろ。相手のキャスターはえらく賢しいようじゃの。」

『そこが霊脈の座標だ。キャスターはその近くにいる。何処から何が来るかわからない。気をつけたまえ』

 

気付けば、山の斜面の中で妙に平らな場所に出ていた。

 

「おお、遅かったな」

「お前が速すぎるんじゃよこの蛮族。それからダ・ヴィンチ、何処から何が来るか?その程度、最初から承知しておる。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

魔力で編まれた火縄銃、種子島が信長たちを取り囲む。

 

「じゃが相手が悪かったな。わしをわし如きが倒せると思うな」

 

銃口を外に向け、一斉に発砲した種子島は、取り囲んでいた伏兵を一人残らず撃ち抜いた。

しかし、その直後である。信長の頬が銃弾でわずかに掠め取られた。

クヒヒと、下卑た笑い声が響く。

 

「おぉ、恐いのう。1人の馬鹿がここへ来て、二人の女がふざけたカッコで追って来たと思えば種子島で俺の兵を蹴散らすとは、その馬鹿は別としてお前らえんずか何かか?」

「そん声聞いたことあっど。主ゃ、ノブか?」

「応よ、◾️■。……なんでそんな女ホイホイ連れてんの?」

「知らぬ」

「おう島津十字、そんくらい知っとけや」

「ちょっと待って、島津とキャスターって知り合いなの?」

「応。あいつは織田信長ぞ」

「如何にも。俺は織田前右府信長。第六天魔王とは俺のことよ」

 

一瞬、静寂が訪れる。

 

『な…………っ!』

『ほほう!』

「えっ」

「はぁ⁉︎」

「ん?」

 

多種多様な反応。これには信長(おっさん)も困惑。

 

「え、なんか俺言っちゃいかんこと言った?」

 




イベントPUサーヴァント
織田信長(キャスター)☆5

サーヴァントステータス

【CLASS】キャスター
【真名】織田信長
【性別】男性
【身長・体重】168cm・60kg
【属性】中立・中庸

【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷C+ 魔力A+ 幸運A

【クラス別スキル】
陣地作成(将):A
自身に有利なフィールドを築くスキル。この信長の陣地作成は特殊であり、霊脈の有無問わず、侵略するように陣地を築き上げる。他の陣地に対する優越権を有する。
ゲーム内の性能は、「自身のアーツ性能アップ&フィールド内の他のキャスターのアーツアップ無効」

道具作成:D
遠い異世界において黒色火薬を量産したという逸話に基づくスキル。しかし実際に量産できたのはエルフのおかげなのでランクは低い。
ゲーム内の性能は、「自身の弱体成功率アップ」


【固有スキル】
カリスマ:B-
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。生前は王として君臨した三者は高レベル。Bランクであれば国を率いるに十分な度量。しかし、彼は謀反に遭い、天下統一は成せなかった。それ故にマイナスが付いている。
ゲーム内での性能は、「味方全体の攻撃力をアップ(3T)」

革新軍略:B+++
戦争における革命、すなわちパラダイムシフトをやってのけた者のスキル。その性質上、星の開拓者にも通じるものがある。人にのみ許されるスキル。Aランクともなれば電撃戦や航空機の主力運用の考案などに匹敵する。
ゲーム内では、「敵全体の防御力を大ダウン(3T)&味方全体のアーツ性能をアップ(3T)&宝具威力を大アップ(1T)」

謀反慣れ:A
謀反されまくった信長ならではのスキル。味方の不意打ちすら敏感に感じ取り、何がなんでも生き残る才能。
ゲーム内では「自身に回避状態を付与(3回、3T)自身にガッツ状態を付与(3T)」

【ゲーム内でのコマンドカード構成】
BBAAQ

【宝具】

火薬の智将魔王
(だいろくてんまおう)

ランク:C
分類:対軍宝具
レンジ:30
最大捕捉:100人〜300人

キャスターである織田信長はサモナー(召喚師)である。500人、自らの配下を召喚し、火縄銃による一斉砲火を敵に浴びせたのち、騎武者と足軽で蹂躙する。イアソン型宝具だが、この召喚には少なくとも召喚対象の同意が要らず、イアソンの宝具よりも使い勝手は良いが、イアソンの方がノッた時の質が良いので、一応差別化はできている。また、役割を果たした配下は消滅する際、残りの魔力を味方に還元する。

ゲーム内ではアーツの全体宝具。一体当たり5ヒット。
「自身の宝具威力アップ(1T)+敵全体に強力な攻撃&味方全体のNPをチャージ(OCで効果アップ。20%から5%ずつ上昇)」


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3節 信長カプリッチオ

ゾッゾッゾッゾッゾッゾ…………

白い廊下が黒に浸食される。

「………」

廊下では場違いの、なんともアナログな仕事机の男は新聞を読んでいた。彼は今、不機嫌である。

「またかEASY」
「ええそうよ、またよ。民生屋」

黒いロリータの少女は不機嫌そうな白い廊下の男を嘲るように、見下し、ほくそ笑む。

「暇つぶしに他の人類も滅ぼしてやろうと思ったのよ。その世界は私たちの争う世界よりも遥かに脆く崩れやすいの」
「……」

彼は彼女が嫌いである。とにかく嫌いである。故に淡々と。感情を混ぜてはならない。

「EASY、君の好きにはさせない。失せろEASY。私は君が嫌いだよ」

ああコイツ、コイツの態度が気に食わない。機械のように同じ言葉を投げてくる。面白くない。淡々としていて面白くない。なんか私が負けたみたいに思えてくるじゃない。負かしたい。負かしたい。

「あらそう、私も貴方が大嫌いよ。紫。せいぜい足掻くことね。私の廃棄物に、貴方の漂流物が勝てるわけないんだから」

少女は、EASYは闇に消えた。黒の浸食は止み、白の廊下は復活する。

「……次」

男は、紫は新聞をたたみ仕事を再開した。


藤丸立香は事情を話した。

 

「ほーん、言うなればお主らはおっぱい機関みたいなやつで、この歪んだ歴史を正しい形に戻す、とな?」

「おっ……⁉︎違うよ、カルデアだよカルデア!」

「そいを言うなら十月の奴ばらではなかか?」

 

藤丸立香は赤面しつつもキャスノブ(キャスターノッブの略)に反論する。

 

「それで?俺にどうしろって?まあ決まってんだろうが、言ってみよ」

「特異点解消のためにこの霊地とあなたの力を貸してください」

 

キャスノブは大きくため息をついた。

 

「やだ」

「なんで⁉︎」

「めんどくせーから。なんで俺が動かんといかんのだ?そんな天命じみたこと信じるとかサーヴァントの皆さん頭おかしんじゃねーの」

 

藤丸立香の願いは真っ向から単純な理由で軽く拒否された。

 

『こちらからもどうかお願いしたい。これまで聖杯絡みの事件は現地の英霊との協力なしには解決できなかった。だから事件解決のために、どうか力を貸してもらいたい』

「かるであとやらは虚け者の集まりか?ここは俺の領地で、ここは俺の城だ。それを『貸す』だぁ?覚えとけ、一国の主はんなこた絶対にしねえ。最後のケツに火がついてもな。そんなに欲しけりゃ俺と戦さでもして奪い取れ」

「おう、ノブ。そがいに言う必要はなかろうが。前ん時よろしくやればよか」

「■■、お前は少し黙っとれ」

「そうじゃ、わしには異議がありまくりじゃ」

「ノッブはもっと静かにした方が「いいや黙らん!だいたい、こんな下卑たおっさんがわしと同じ織田信長ァ⁉ぬかせ、虚けが!」

 

独り会話に乗れていない弓ノッブがついにキレた。無理もない。ただのおっさん(のように見える不審な中年男)が国民的アイドルの名を名乗るようなものだ。本人からすれば絶句&通報モノ、戦国だったら手討ちモノだ。

 

「ククッ……虚けだぁ?そちこそ本物の虚けではないのか?いいや、虚けを通り越していかれか?俺が信長、俺こそが織田前右府信長よ。天下統一を目前に、49で明智光秀(キンカンあたま)に謀反され、妙な世界に飛ばされて人類滅亡に抗う大戦さを仕切る第六天魔王ぞ」

 

確かに戦術眼や戦略の法則は全てがなんの誤差なく一致している。それは事実であり、二人は互いに互いを信長その人であるという確からしい根拠としている。しかし、互いに『異世界の同位体』を考えたことがなかった。その許容ができなかった。弓ノッブは男であることを容認できなかった。キャスノブは若々しい女であることを容認できなかった。しかし、彼らは真実に信長である。どちらも真でありどちらも偽なのだ。それ故にタチの悪い口喧嘩となり、今にも取っ組み合いを始めようとする両者を最初に見兼ねて声を上げたのは島津のバーサーカーであった。

 

「ああやがます!」

 

皆が静かに島津を見る。

 

「どちらが信長かなんぞ、そん下卑た野郎に決まっちょる!」

「えっ、そこは『そんなの知らん』って一蹴するとこじゃない?」

「それこそ知らぬ」

「えぇ……」

「わはは、見たか自称信長!」

「お前もうるさか」

「えぇ……」

 

もう何がなんだかよくわからないバーサーカーに全体がぐだぐだしてきた。

 

『話の腰を折るようで申し訳ないが、ミスターノブナガ』

「ん?」

 

また新たに雰囲気ブレイカーが顔……いや、声を出す。

 

「あっホームズ」

『君を協力させるためにもういくつか情報を与えよう。勿論、断言できる範囲内でね』

「……随分と正直だな。狙いは何ぞ?」

『ミスターノブナガが我々カルデアに協力せざるを得ない情勢にすること。恐らく貴方はハッタリの類は一切通用しない人種だ。だから隠さず言おうと思ってね』

「ほう」

『まずこの世界には人類存続が危うくなる大事件が起きるとき、抑止力という防衛機構が作動する。抑止力は本来この世界とそれに類する並行世界の中でしか力を振るえない。英霊を記録する「座」から抑止力は英霊を召喚するのだが、本来遠い異世界という虚数事象の先に存在する記録など持っていない。つまり今回、ミスターシマヅの精神ををカルデアに召喚、いや、()()()()ものは、人間世界を守ろうとするもっと別の何かだ。それが何なのかは分からない。しかし彼がなんらかの理由によりカルデアに派遣されることで、遠い異世界であるはずのカルデアと縁ができ、異世界のノブナガが座に記録された。そうして初めて抑止力が貴方を召喚した。つまり、ミスターノブナガはこの特異点の歪みを正すパズルの、重大なピースの一つだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「抑止力ってのが俺を必要だから召喚した、か……」

 

それこそハッタリじゃねえのか。

キャスノブの猜疑心は消えない。それじゃあまるで天命が本当に存在するみたいじゃねえか。気持ち悪い。そんな気持ちが漏れていたのか、声の主に勘づかれていた。

 

『もちろん、これだけじゃない。この特異点が解消できなければ最低でも今の日本という国家は崩壊する。そうなれば、世界は突然のズレに耐えられず、人類は自壊する』

『「「はぁ⁉︎」」』

 

この名探偵、あまりにもにこやかにヤバイ宣言をしやがった。ダ・ヴィンチちゃんは「今言うことかよ」と手で顔を覆い、藤丸立香、マシュ、弓ノッブの口はあんぐりと開けたまま塞がらない。

 

「俺たちに、人類の救世主になれと?」

『そうなるね。もしこの特異点が崩れても貴方は座に還るだけ。それだけならまだいいかもしれないが、精神そのものをここにおかれたミスターシマヅは死ぬと見たほうがいい』

「なっ……」

『シマヅの証言をもとに考えるなら彼は今、元の世界で夢を見ている体で肉体のみ元の世界で放置されている。この特異点で人理定礎が崩壊すると、もちろんミスリツカも死ぬし、ミスターシマヅの精神も特異点諸共砕け散り、彼は一生目覚めることがないまま、そちらの世界も人類廃滅に向かう』

「……世界と◾️◾️、両方を人質に取るか……」

『貴方は抑止力に選ばれた。貴方は()()()()()()()()()() ですよ。あぁ、あとひとつ』

「まだあるのかよ!」

『カルデアには米がいくらかあってね、この霊脈で拠点を設けたらいくらでもとはいかないが、米をそちらに送れる』

 

キャスノブはこの一言で陥落した。お米食べたいの衝動には勝てなかったのである。

 

───それはそれとしてだ。

 

「ホームズ、それはどういうことじゃ⁉︎人理焼却の危機は去ったのではないのか⁉︎」

「そうだよ、魔神王も倒して、残った魔神柱だって倒したし、魔神王が倒された後の特異点なんて範囲狭かったし本来の人類史に影響ないのが殆どだったじゃん!」

 

人理を救った組からすればトンデモ案件だ。魔神王亡き今でも世界の危機が去ってないのだから。

 

『ははは、実はこの特異点、観測範囲が亜種特異点よりも遥かに大きい。これから言えることは───』

「今語ることじゃない、って言いたいんでしょ」

 

さすが、よく分かっている。と、のらりくらりに言うのは、今はまだ触れるべきじゃないではないということの暗示だ。藤丸立香はぶつくさ言いながらもキャスノブと向き合う。

 

「信長殿、どうかご協力を」

「ここが終われば二つの世界が滅びるだぁ?分かったような口利きやがって、こちとら召喚されたらされっぱなしで山ん中に放り出され、徳川の兵が俺を見つけたら撃ってくるわ射てくるわ切りかかってくるわ、挙句の果てに(かぶ)いた格好のいかれじみた女と傾いた格好以外は普通の女と◾️◾️が乗り込んでくるわ、散々だったんだぞ」

「……」

 

やはり、だめか。そうした考えが藤丸立香を支配する。

 

「だが、この特異点とやらをとらねえと、俺も死ぬし◾️◾️も死ぬ。俺たちの新世界の全人類が死ぬんだ。そりゃあやるしかねえよなあ……」

 

面倒くさそうにしているが協力してくれるようだ。

 

「何より、米が食えるからな」

 

 

 



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4節 信長コンチェルト

前回までのあらすじ

勝手に召喚され、勝手に暴走し、勝手に突っ走る。そんな勝手尽くしの島津のバーサーカーとそれを抑え込む弓ノッブ、そして彼らを纏める(体にもならず引っ張り回されてる)最後のマスター藤丸立香は関ヶ原に降り立ち、霊脈探しを始めるも、そこはキャスターが先に陣取っていた!その上そのキャスター、名を織田信長というのだ。ホームズの脅しもあってキャスターノブナガ、略してキャスノブはカルデア側につくことになる。一方面と向かって島津に存在を全否定された弓ノッブの明日はどっちだ!


時は遡り、昨日の夜 徳川陣地、本拠地───

 

「俺の預かった斥候兵は全滅した。申し訳ない。主人よ」

 

主人と呼ばれたその男、それすなわち徳川家康である。

 

「情報は、持って帰ったのだろうな?」

「織田信長がキャスター……妖術師の英霊として現界し、南宮山の霊脈を独占している。タチの悪い陣地だ。陣地内に入れば存在と位置情報、大まかな行動が信長にバレる」

 

近代風の格好をした男は、一言一言静かに簡潔に、分かるように説明する。

 

「天下の一つも取れず英霊に昇華されるとは、まあ信長らしいといえばらしいか」

 

狸の発する雰囲気は重苦しいものに変わった。表向きは少し微笑んでいるくらいだろうか。声に怒気や憎悪は無い。しかし、戦乱を生きた者には分かるのである。隠せない怒り。地雷を踏み抜かれた怒り。それは殺気としてにじみ出るのだ。側近たちの額に冷や汗が浮かぶ。

 

「西軍には3日の停戦協定を結ぶ。使いの馬を出せ。それとは別に各備から人員を割きそれで新しく備を編成する。名を『狩り備』とし、南宮山に配置せよ。侍大将は手前が務めよ。編成は翌日夕までに済ませ、明後日の昼に戦さを始める。以上だ。下がってよい」

「御意」

 

剣兵は姿を消し、史実と変わらない風景となった。

 

「この戦さは、後の世に要らぬものを削ぎ落とす戦さなのさ。死霊なんか徳川の世には要らない。ここで終わらせるぞ、織田信長」

 

 

あの信長は、間違いない。()()()()()()()()()()()()()()()()()。だとしたら、あの()()()()も間違いなくいる。

 

「……」

 

「普段から無口だ」といつも部下に言われた。同僚にも。上司にも。だがわざわざ言葉にするような激しい感情は起きないのだ。愛していても、嫌いでも、恐ろしくても、愉しくても。

だが、今は心の底から恨めしく思う。心の底から殺してやりたいと思う。この衝動はあのいかれバカに対する憎しみだ。言葉にしないと、どうにかなりそうだ。

 

「この世界にもいるならば、俺は何回だって殺す。俺と、俺たちが、何回でも切り刻んでやる」

 

戦さを愚弄し、戦さで笑い、戦さで死に、俺たちを殺したその十字を、今度こそ俺の手で───

 

 

現在、黄昏時 

 

「拠点よし!」

「米よし!」

「魔力供給よし!」

「今からここをキャンプ地とする!」

 

一度は言いたかった、水曜のアレの名言その1を言い切った藤丸立香は名状しがたい達成感の虜になった。

 

「きゃんぷ?藤丸は何を言っちょるかわかりゃせんど。日の本言葉喋れ日の本言葉を」

「島津十字、お主には風情というものは無いのか」

「ごめんなー、こいつバカなんだよーこういうヤツなんだよー」

 

一度協力体制に入ると、空気は途端に緩み出した。そんな空気をもう一度締めるのも、カルデア司令官であるダ・ヴィンチちゃんの仕事だ。

 

『えーコホン、いいかな?』

「応、良いぞ」

『無事拠点も出来たことだし、今の状況を確認しよう。本来、この時代の関ヶ原は信長亡き後、天下を統一した豊臣秀吉が死んで起きた戦さだ。「天下分け目の関ヶ原」とも言われるがね、そのような規模の戦争でもかかった時間は半日だ』

「まっこと度し難か戦さじゃったど」

(((お前が言うのかそれ……)))

 

東軍にハブられ、西軍に馬上から話しかけられてキレて、薩摩の軍勢は事実上孤立。目に映るもの全てに襲い掛かった結果徳川の井伊軍に包囲され、ただ敵前逃亡するのもアレだからと敵中突破しつつ敵前逃亡。徳川四天王である井伊直政の死の原因になったり徳川の勝利に泥を塗ったりと、島津家だけでなく薩摩全体がやべえ奴らであった。他にも、報復は全力でやるくせに準備・現地に到着から実行までに翌日と待たないほど血気盛んであったり、敵本丸に単身突っ込んで返り討ちに遭い敵が「討ち取った」という宣言として自身の本丸にそいつの持ってた島津十字の旗が掲げられているのを見て「島津が勝った」と勘違いして全員で攻め入り見事制圧したりと、戦闘民族の筋金入りっぷりを示す逸話には枚挙にいとまがない。

そんなやべえ奴ら筆頭の島津家の人間がこう言うのである。

島津について少しでも知ってる人間ならば「それお前が言う?」と思うのは当然だろう。知ってて思わなかった人間にはきっと薩摩の才能があるだろう。おめでとう。

 

『ところで、キャスター』

「信長と呼べ」

『では信長、この地に召喚されてからどのくらい経つ?』

「2日だ」

『開戦の気配は?』

「皆無だな。徳川の斥候兵は昨日から湧いてきたが、ただの人間よ。1日経っても帰ってこないってんなら徳川も気付く」

「ほう、なら徳川は此方に向けて手を伸ばすはずじゃな。わしの見立てなら……」

「明日の昼じゃ」/「明日の昼だろ」

 

織田信長ズは確信して言った。

 

「薩摩は当日に夜襲かけっど」

「それはお前んとこがおかしいんじゃよ島津十字」

 

島津のバーサーカーをあしらいつつ、弓術双方のノッブが徳川襲撃の対策を立てる。流石は信長同士、考え方に違いがないので一切の滞りなく、たびたびこの上なく嫌そうな顔を互いに向けながら戦略を組み立てて行く。少し詰まったら島津のバーサーカーが口出しし、そこからヒントを得てさらに戦略を構築する。

 

しかし、ここへ来てここまでの戦略が瓦解するような発言がキャスノブの口から出た。

 

曰く、「そういや、昨日の夕べに明らかに人間じゃねえのが斥候に混じってたな」

 

日も暮れて、藤丸立香も火起こしをやっている中出た爆弾発言。キャスノブと島津以外、その場にいる全員が「そういうの早く言えよ……」と、地に膝をつきうなだれた。

 

 

夕飯後───

 

藤丸立香は状況を整理した。

 

「まずはキャスターとバーサーカーの出自について。これは遠い異世界から来たサーヴァントと生身の魂がサーヴァントという殻を纏ったものということだね。次に、関ヶ原の戦いはまだ始まってない。戦争前夜なのか戦争に異常が起きているのか、これはわからない。最後は私たちが置かれている現状について。東軍は斥候を幾らか出していて、キャスターはこれを殲滅しちゃった。だから纏まった量の兵士がこっちに来る。試算だと明日の昼。そして徳川の軍勢にはサーヴァントがいる。と、こんな感じ?」

『そんな感じです』

「困ったことに真名どころかクラスすらもわからん」

「知るかよんなもん」

「開き直るなよ……」

『斥候兵に混じっていたという発言からすると、アサシンのクラスかもしれないね』

「でも信長に気付かれてるから気配遮断はないよね」

「いや、アレの陣地は魔力を察知する。わしらみたいなサーヴァントは、たとえ気配遮断持ちでも身体を構成する魔力は隠せんじゃろうて」

 

厄介なことになった。とインテリ組は奥歯を噛んだ。せめてクラスに関する手がかりがあれば対策も打てたかもしれないのに。

 

『何にせよ、クラスに関する手がかりがないならばあらゆる可能性を考えねばならない。一番ありえるクラスはアサシン。これを前提とした作戦を立て、それからクラス別で対策法を分岐させる。それでいいかね?ノブナガ』

「そうじゃな」/「そうだな」

 

またも両者嫌な顔。ともかくどうにか徳川の軍勢と鉢合わせにならないようにせねばならない。しかし未だ何もわからぬ状態。結局この日の成果はキャスターの織田信長を味方にするのみにとどまった。

 

 

夜。

 

「応、どがんかしたか、こげな遅きに腕立てばしよって」

「あぁ、島津」

 

藤丸立香と島津は初めて2人きりになった。

 

「安全とはいっても、これまで見張りとかしてたことが多かったから、なんか落ち着かなくて」

「そいで鍛錬ばしちょるんか」

「うん」

 

 

私はたまたま生き残ったんだ。たまたま生き残ったから世界を背負わされた。勿論楽しかったこと、勉強になったこと、嬉しかったこと、沢山あったよ。でも、すっごくきついんだ。魔術師じゃないから魔術なんてこの礼装でやってきた。世界を救うクセしてこの手から沢山の命がこぼれた。魔術があったら、私じゃない魔術師が生き残ったら、って今でも思う。マシュに守られてばっかりだし、私にできることは全然ないんだって思う。でも、できることがないというのはできることを増やしちゃいけないことじゃないと思うんだ。だからこうして鍛錬してるの。

 

私は不思議なものを見る顔の島津に事情説明兼愚痴を始めた。カルデアのみんなやマシュに言えばいいと人は言うだろうけど、そんなことは微塵も思えないことを島津に話した。当の島津は興味なさげだったけど、最後まで話させてくれた。

 

「おいは戦餓鬼ぞ。十二の頃、敵の首ば獲って親父(おやっど)に褒められてから、おいは走って敵の首級ば獲るこつしかおいは知らん。おいはお前が思っちょることなぞいっちょん分かりゃせん。戦えい。戦って、死ぬときにさぱっと死せい。そん時は、おいが黄泉の魁になっちゃる」

 

それだけ言ってにかりと笑い、島津は元の場所に戻って寝た。

バーサーカーに言っても無駄だってことは知ってたけど、スパルタクスみたいなこと言うなあ。スパルタクスの方が難しいけど、どっちも自分の中で解決してることを延々と話すっていうか。

 

「うーん、とりあえず、今のまま出来ることをしろってことかな?」

 

夜は更け、筋肉の負荷も程よい感じになった。明日も早いし、そろそろ寝よう。

 

 

朝が来る。

 

徳川の備が来る。

 

男がキャスノブの陣地に足を踏み入れた瞬間、男の足元で大爆発が起きた。

 

「……ッ!!」

 

開戦の狼煙は今、上がった。




島津のバーサーカー

霊基再臨

スキル習得
心眼(戦):B
自身に回避状態を付与(1T)&敵全体のクリティカル発生ダウン(3T)

白兵戦において最も大事なこと、すなわちどれだけ傷を受けずに相手へダメージを入れるかについてのスキル。彼は戦場にあるものを全て使い、最低でも急所には当たらない身のこなしと戦術を組む。


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5節 逃げるは恥だからぶっ殺す

じわり

紫が広げた白紙にじわりじわりと字が浮かぶ。それはまるで新聞のように。
デカデカとした一面の見出しには、

『徳川、織田狩りを始む』

という文字が。
紫は沈黙を守ったまま読み進めていく。

『徳川の編成した狩り備は、織田信長が拠点として構える南宮山中腹に向け進軍。侍大将が先陣を切るも織田の陣地に足を踏み入れた途端に侍大将の足元が爆発した。これを以てカルデア及び織田信長は、戦闘態勢へとついた』

紫はやはり無表情だった。新聞を畳み、次の書類へと取り掛かる。

「次」


大爆発が起きた。

 

「うっひょお……やっベーなコレ」

 

キャスノブの目はめちゃくちゃに輝いている。恐らくリボルバーの連射を見たとき位にワクワクしていた。

 

『即席の魔力感知型地雷、大成功だね。いやあ、黒色火薬で爆弾を作るだなんてやったことないし考えた事なかったけど、そこは万能の天才である私の設計のおかげだね!』

「作業したの信長とノッブなんだけどね……」

 

「下手に扱えばみんな吹き飛ぶ」という脅し文句で藤丸立香と島津は当然ながら除外され、火薬の扱いに長けた信長ズに任せた結果がコレである。濛々と立つ黒煙は悲鳴と特有の臭いを乗せて藤丸立香たちの鼻に届く。

 

「まあ、何はともあれじゃ、奇襲なぞ狡い手を使われずに済んだのう」

「応。戦さば始まっど。おいは斬り込みばすっ」

「ならわしはこの馬鹿が死なんように種子島で前線を狩る」

「俺は指示を出す。念話が要るから藤丸を借りるぞ」

 

サクサクと決まる役割。まだ爆発から2分と経っていないのにも関わらず、全員が全員()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そう、予定調和のような進み具合だ。

 

「ああ、そうだ」

 

キャスノブは思い出したように声を上げると、手を軽くたたいた。

 

「場は整った。さあ来い、俺の天下を獲りに行くぞ。『火薬の智将魔王(だいろくてんまおう)』」

 

宝具、展開。彼の宝具は召喚術。最大500人の兵を呼ぶ宝具。彼が真名を開放すると同時に一人二人と武士や西洋風な痩せ身の軽装兵士、背の低い重装歩兵が現れる。

 

「げぇっ、宝具!?信長、宝具使うの!?今ぁ!?」

「いいだろ、俺の勝手よ。魔力とやらはたいして使わんしな」

『……どうやら本当のようだ。これはただの召喚魔術だ。人間ではロード級の魔術師が四苦八苦してやっとできる程度だがキャスターのサーヴァントならそこまでの苦労はないだろう。メディアの竜牙兵を少し上回る程度の魔力規模だし、カルデアの支援さえあれば全く気にする必要はないだろう』

 

ダ・ヴィンチちゃんは少し驚いたような声を上げた。本来宝具というものは魔力消費が多いのだ。ランサークラスによくある「持ってる武器そのものが宝具」だったり、一部のサーヴァントにある常時発動型宝具だったりしない限り、強力な代わりに現界中に何発と撃てる代物じゃないことが多い。

 

「まあとにかく、こいつらをうまく使え。信長を騙るならこの位できんとなあ?お前らは中級指揮官(くみがしら)だ。足軽の指揮は任せたぞ」

「いいけどわしは騙ってなどおらんわ」

「応。そいがおいの性に合っちょる」

「じゃあみんな、頼んだよ!」

 

行動、開始━━━

 

 

 

「敵の状況知らせい」

「『騎馬隊なし、長槍組と弓組がそれぞれ見える範囲で80と42。鉄砲組はだいたい75』」

「旗組は?」

「『旗組は見えない』」

「で、あるか。では、攻撃を始めよ」

 

 

 

(攻撃始め、だって)

 

藤丸立香から合図が念話で届く。弓ノッブは口角を上げた。

 

「はい皆の者、放てい」

 

狩り備の頭上から、弓の雨が降る。地雷といい、木の上から放たれる矢といい、完全に狩り備は織田軍のペースに乗せられていた。

 

「次、種子島衆、撃てい」

 

今度は茂みから火縄銃の狙撃。狙撃といっても命中率がお粗末な種子島では茂みの中に隊列を敷いて撃っているのだが、一回の斉射だけでも十分な成果があった。

 

そして━━━━

 

「おぉおおおぉおぉおぉおおおおおおおおおおぉおぉぉぉおお!!!」

 

猿叫。およそ人間の出せる声ではない獣物の雄叫びが木の間を駆け抜ける。

半ばパニックに陥った狩り備の兵士らは声の主を見た。

 

「首、置いてけェ!」

 

声の主は日本刀を上段に構え、腰を落とし、左足を限界まで後ろに伸ばし、その傾きと一直線になるように上半身を前傾させる。グッと力を込め、雄叫びと共に突出した。

声の主は島津。その十字が足軽たちの目に入った途端、皆動揺の色を顔に浮かべた。

 

「なぜ島津がここに⁉︎」

「我らは南宮山にいる怪異の討伐に向かったのではなかったか⁉︎」

 

 

ここは1600年の関ヶ原。石田方の島津が徳川のすぐ近くにいるとあれば、それは大事に発展しかねない。

こんな時でも、組頭は冷静である。

 

「狼狽えるな!あれこそ人の真似事をする妖の類なるぞ、退治して名をあげるべし!」

 

そう声を上げると、混乱していた兵士たちが突然統率の取れる集団となった。流石の器量である。最も、その器量を見せれば、その後に見るのは死なのだが。

 

「首ぃ、首よこせェ!」

「なっ⁉︎速っ……」

 

精神体といえどサーヴァントの規格に収まっている以上、人間がサーヴァントに勝てる道理もなく、目にも止まらぬ速さで組頭の首は一閃。鎧をも両断するその怪力はバーサーカーの名に相応しい。足軽たちの防衛も無意味に、その人間離れした速度を前に、組頭は斃された。

 

 

組頭の首を刎ねた後は、簡単だった。逃げる雑兵は弓ノッブの種子島や地雷で捌き、死屍累々の山を築く。そうした後に、初めて島津に届く斬撃が狩り備から放たれた。

 

「あの戦い方……やはり貴様か、島津!」

「応」

「お前は殺す。絶対に殺す。和平も、恭順も、降伏も、死以外の何も認めない。お前が島津であることが、お前を殺す百万の理由にも勝る。死ね。ただただ死ね」

 

霊体化を解き現れたのは、黒の外套に隊服姿の近代的な男。島津に剥き出しの憎悪をぶつけ、島津は無反応。両者に共通するのは、相手を殺すことしか考えていないこと、それだけだった。

男の周囲を風が取り巻く。その風は刀を持つ人の形を取り、島津へと斬りかかった。島津はそれを刀でいなす。いなしきれない斬撃は避ける。しかし、男の方は近づかせるつもりが無く、状況は男の有利のまま動かない。

 

南宮山の戦いは、今ここに始まった。

 

 

(やばい)

(やばいって何が?)

 

念話で弓ノッブの話を聞いていたが、突然やばいと言い出した。

 

(サーヴァントが出た。しかもアサシンじゃない。多分セイバーじゃな)

「はっ⁉︎」

「?どうした藤丸」

「サーヴァントが出たらしいです……セイバーのサーヴァントが……」

「特徴を聞け特徴を」

「わ…わかった」

 

キャスノブはここでは動じない。もとよりサーヴァントが現れるのはわかっていたこと。彼の作戦にサーヴァントが出ないことはなかった。

 

(特徴は?)

(黒い外套にわしみたいな隊服。それなりに背のある男で、相当入れあげてた女を寝取られた感じの雰囲気出してる。アヴェンジャー適正ありそうなやつじゃよ)

 

そのことをそのままキャスノブに言った藤丸立香。当のキャスノブは「何言ってんだコイツ」とでも言いたげな表情で思考したのち、思い出したと言わんばかりの声をあげた。

 

「あー!()()()()()のアイツかー!」

「ベルリン?」

「違う、ゔぇるりな。アイツはえんずだ」

「エンズって……世界廃滅のために化け物従えてるやつら?」

「そうそいつら。ウヒヒ、であるかー、あのバカに釣られやがったかー」

 

計画通りの大チャーンス!キャスノブは心の中でガッツポーズを決めた。

 

「あの弓兵を退かせい。後は俺の宝具でやってやるよ」

 

 

「おい島津十字!一旦退くぞ!」

「おいは気にせんで退きやんせ。おいは、そこの日の本侍に用がある」

「ハァ⁉︎馬鹿言うなよ馬鹿島……何?マスター、そのキャスターは真ににそう言っておるのか?……で、あるか。ならば是非もなし。ならばキャスターにとことん問い詰めてやる」

 

撤退しようとした弓ノッブは憤懣やる方なしな様子で単騎撤退する。

 

「島津、マスターを悲しませるようなつまらん真似は絶対するな。あやつは普通が似合う人間じゃ。マスターの精神状態は作戦に響く。やったら終いの始まりになろう。お前も、わしもな」

 

そのような言葉を残して。

 

「話は済んだか」

「応。主ゃ律儀なやつだの」

「うるさい。お前の全てを踏みにじって斬り捨てなければ満足などできようものか」

「なら、続きといこうか。そん首、置いてけ」

「島津なぞに誰が渡すか。俺と、俺の『新撰組』が斬ってやる」

 

男の真名は土方歳三。

 

「真名解放。宝具開帳。ここより先は死線と思え。斬り捨てよ。薩奸死すべし」

 

セイバーの霊基を以て現界した、遠い異世界において廃棄物と呼ばれる復讐者である。

 

『新撰組』

 

風が新撰組の剣士の形を取り斬りかかる。島津はそれをそれまでと同じようにいなすも、剣の速さ、重さ、数、全てがそれまでよりも大きく上回る。流石の島津も押されてしまい、腕で十字を作り頭を守る姿勢に入ると、至るところを斬り刻まれる。それでも傷が深くないのは、ひとえに心眼スキルのおかげだろう。

これが真名解放された宝具の威力。最優と謳われるセイバーの、最強の長所の全力活用である。

 

「どうした島津、てめえはその程度か!英霊として現界したにも関わらず、その程度しか力を出せないのか!」

 

憎しみと憤りの声が上がる。だが、それは純然たるそれらではなかった。僅かだが、もっと何か別の━━━

 

「おいは所詮戦餓鬼ぞ。英霊なんぞではなか。おいは人ぞ。突っ走ることしか知らん、ただの戦餓鬼ぞ」

 

瞬間、土方の頬を銃弾が掠めた。

 

「……」

 

新撰組は掻き消えて、土方は銃口が突き出す茂みを睨む。しかし、その一瞬は見逃されなかった。

 

「応、まだ終わっとりゃせんぞ」

「っ⁉︎」

 

島津は一つの瞬きを終えぬうちに土方の懐に入り、刃を彼の首めがけて振り抜く。

が、セイバーである土方も剣技で負けてはいない。音速を超えるかの瀬戸際を行く一閃を刀で受け止め、島津にできた隙を新撰組で突く。しかし、無理な体勢ながらもすんでのところで後ろに下がった島津が負うはかすり傷。

 

「……」

「……」

 

沈黙が訪れた。種子島の狙撃兵は土方歳三を狙っている。島津が離れたからには、何か動きを起こしただけで一斉射撃が土方を襲う。たかが種子島と侮るなかれ。この種子島は弓ノッブの使う種子島を参考にキャスノブが新たにデザインした対英霊火縄銃である。一方島津は血を流しすぎている。地味かつ威力も低いとはいえ宝具をまともに受けて立てる英霊はそうはいない。つまり島津は余裕そうな顔をしていて実は限界なのだ。

両者は、膠着状態に入った。

 

その膠着は、土方が少し驚いた顔をしたところで崩れる。

 

「……了解だ。撤退する」

 

突然土方は霧散した。霊体化による戦線離脱。サーヴァントだからできることだ。

 

「また逃げられた」

 

それだけ言って島津はどさりと仰向けに倒れた。

 

 

徳川は苦笑した。

 

「腐っても英霊、ということかな。人間をどれだけ連れたところで英霊にとっては烏合の衆、あの剣士のような者が複数揃っていなければ織田信長を倒せやしまいよ」

 

徳川は理解の早い男である。故に英霊の有用性を理解していた。土方は徳川唯一の英霊で、他の英霊6騎を手中に収めるは不可能と判断した。故に生かす他ないのだ。何せこれは天下を分ける大戦さでもあり、願いを叶える杯を奪い合う大戦さでもあるからだ。どれも個性が強く、こちらが最善策を組んでもその通りには動かない英霊もいておかしくない。替がないということのなんと不便なことか。

 

「備を再編する。侍大将を剣士の英霊、その他は『新撰組』とする。皆の者、戦さを始めるぞ」

 

関ヶ原の戦いは、ここに開幕しようとしていた。




イベントPUサーヴァント

土方歳三(セイバー) ☆5

サーヴァントステータス

【CLASS】セイバー
【真名】土方歳三
【性別】男性
【身長・体重】176cm・75kg
【属性】秩序・悪

【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運D 宝具C-

【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。サーヴァント自身の意思で弱め、有益な魔術を受けることも可能。Bランクでは、魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
ゲーム内では、「自身の弱体耐性をアップ」

騎乗:E
乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
セイバーであるという名目で付与されたスキルのため、ランクは低い。
ゲーム内では「自身のQuick性能アップ」

薩奸死すべし:B
その生前から強く恨み、自身が廃棄物となった元凶に対する想いの力。
その実中身は復讐者と同じであり、名前は自己申告。
ゲーム内では「自身の被ダメージ時に獲得するNPアップ&自身を除く味方全体<控え含む>の弱体耐性ダウン」

【固有スキル】

鬼の副長:A
土方歳三の代名詞。新撰組の死因一位の元凶。規律に厳しく、厳格な規律を好んだ超硬派を通り越して超強硬派な彼を体現するスキル。本来ならば面識のあったと記録に残るサーヴァントが新撰組の規律違反もしくは敵になったとき、そのサーヴァントへの攻撃に特効が乗るという代物だが、本来聖杯戦争に現界しないため、何者かにいじくられ、原型を留めないまでに変質した。
ゲーム内では「味方全体のQuick性能を大アップ&攻撃力をアップ(1T)」

戦の玄人・帥の素人:B
己が戦線に立つなら無双の力を発揮し、ともすれば戦況を変えかねないが、指揮する側になると策は読まれ、尽くが裏目にでる、決定された運命のスキル。
ゲーム内では「自身の攻撃力を大アップ(3T)&味方全体の宝具威力強化解除<デメリット>」

廃棄物:C
人類廃滅を謳う、哀れで凄惨な最期を迎えた復讐者のスキル。本来他のスキルになるはずだったが、何者かに改造された。
時代に取り残された男は、戦さ狂いと罵られ、仲間の弾で死に至った。だが人類のことはわりとどうでもいいと思っており、薩長と自分についていかなかった者達がとても憎いだけ。全人類を積極的に滅ぼそうとする廃棄物と比べたらランクは低め。
ゲーム内では「NP獲得量アップ&毎ターンNP獲得状態を付与(3T)」


【ゲーム内でのコマンドカード構成】
BBQQA

【宝具】

新撰組
(しんせんぐみ)

ランク:C-
分類:対人宝具
レンジ:10
最大捕捉:5〜10人/秒

厳密には己が覚えている今は亡き新撰組隊員を「呼びかける」だけの宝具。土方歳三を触媒に、亡霊に呼びかけ、それに応じた者を使役する。ただし、その使役には強制力は無く、本当に忠誠心の強い者のみが土方歳三を味方する。その隊員は空気でできた魔性の類であるが、その斬撃は重く、斬鉄すら可能にする。新撰組で有名な人物は、尽くが呼びかけを拒否しているようだが……

ゲーム内では全体Quick宝具。一体当たり6hit。
「自身に必中を付与(1T)&敵全体に強力な攻撃」


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6節 カルデアの國

前回までのあらすじ

カルデアに突然現れた島津のバーサーカーは、カルデアのマスターと織田信長と1600年の関ヶ原にレイシフトし、特異点を解決する戦さを始める。レイシフト先で最初に出会った者は、なんと島津と世界を同じくする異世界の織田信長だった。この世界の、アーチャーの信長と異世界の、キャスターの信長。同じ思考回路をしていると思われる両者だったが、関ヶ原の聖杯戦争にて召喚された異世界のセイバーの登場により、徐々にズレが起きていく。一方、異世界のセイバーは薩州を酷く憎んでいるようで……


「なんだコノヤロウここどこだバカヤロウ!俺の愛機もいねえしよォ!とっとと状況説明しろやコノヤロウ!!」

「何言っちょるかさっぱりわがんねぇ!コノヤロウバカヤロウじゃわからん!薩摩の言葉喋れ薩摩の言葉を!」

「薩摩ぁ?ここ薩摩か!」

「違うわ阿呆。ここは美濃、関ヶ原じゃ。主ゃそがいなこつも分からんでここに来たんか阿呆」

「んだとバカヤロウ!お前の方が阿呆だバカヤロ……え?今ここがなんつったコノヤロウ」

「美濃の関ヶ原じゃ。あとバカヤロウコノヤロウやめろコノヤロウ」

「ってことは……関ヶ原で戦があるってのか……!」

「戦さば行く自覚も無かったんか主ゃ……」

 

赤い武者と航空兵は揉めに揉めた末、共に戦うことを決め、赤い武者の手甲は、ほんのり赤く光った。彼らに訪れる運命は、如何に。

 

 

「ここの特異点でわかっていることは、異世界のサーヴァントが思ったよりもいること。まずは島津のバーサーカー。次に異世界の織田信長。そして異世界のセイバー」

『ヴェルリナと呼ばれる都市で行われた威力偵察の大将に、その異世界のセイバーはいたそうだが、薩摩を酷く憎んでいたらしいね、島津』

「応」

『だとしたらやはり、新撰組かな。その様子だと病弱の逸話があった沖田総司は除外できる。……土方歳三か、いや、近藤勇の線もある。マスターは依然不明。その辺キミの陣地で分かったりしないかい?信長』

「無理に決まってんだろ。俺の陣地は万能じゃねえ。俺の戦いを有利に進めるための陣地だ。陣地内しか魔力探知はできねえし、誤差だってある。そもそも霊脈起点に陣地張ってるから現在地と宝具使うかどうかの判別がギリギリだ」

 

魔力の濃ゆいところからちょっと濃ゆいの探せと言われてもムリということらしい。確かに比較的新しい英霊で魔術師の逸話も無い織田信長ではその二つができて万々歳のようだ。そう考えるとグランドロクデナシや神代の魔術師が化け物じみて見える。

 

「でも、これでセイバーが埋まった。最優が判れば気も楽になるね」

「気だけじゃがな」

『しかし、やることはたくさんある。勝たせるべき徳川の軍勢とは敵対関係となった現状は痛いし、現地の協力を得ないままに介入するのも難しい。まずやるべきは……』

「仲間づくりだね」

『そういうことだ。だがカルデアのことを話して信じてもらえるかと言えばそれも無い。どうやって現地の協力を得る口実を作るか、これに限る』

「では、こんなのではどうだ?」

「?」

「まず、セイバーのサーヴァントがおったろう。まあ他にも6騎居るらしいが、まあ今日以前に面識があって、備作ってまで俺を狩りに来たくらいだからな、アイツが徳川唯一の英霊と言っていい。ソイツを石田側にぶつける。恐らく石田側は大損害を出す。だがそうはならない。適当に襲わせて、それを俺たちが大急ぎな感じで駆けつけて、石田側を助ける。質問は?」

『それでは徳川が負けてしまうが?』

「その辺は適当に裏切るんだよ」

『襲わせてって……その人たちは見殺しにするのですか⁉︎』

「ああ、有り体に言えばな」

『そんな……私達はそんな嘘をついてまでしなきゃ、この特異点は解決できないんですか⁉』

 

マシュは絶句する。そんなこと、許容できるはずもなかった。彼女らの旅において、また藤丸立香の旅において、生きる人の犠牲が出ることを前提とした作戦などなかった。手段はいつも選んでいた。

彼女はここで生まれて初めて、「目的のためなら何でもする」という外道を具体的に感じ取った。道理もへったくれもない、命を命と見ない作戦に、マシュは強く反発する。

 

「ああそうだ。お前ら、現地の協力がなきゃ解決できんだろう。俺だってそうだ。虐げられてる小せえエルフの村ひとつから蜂起させるのにその村人何人死んだと思ってやがる」

「ハナから戦さちそういうもんぞ。何処ん誰かもわからんもんが言葉だけで協力せいち言うても信じるもんはおらぬ」

「俺たちみてえな不審者集団は取り入る連中に協力せざるを得ないと思わせ、認めさせねばならん。そんな状況にするための材料があるなら使わねばならん。でなきゃ俺たちが斬り捨てられるぞ」

 

理にはかなっている。どこの誰とも知れない未来人の存在なんて信じるはずがない。徳川とはすでに敵対し、石田につくとしても石田は負かさねばならない。どの道過去の生きる人を踏みにじる作戦になるのだ。

 

『先輩……!』

 

マシュは悲痛な声を藤丸立香に向ける。藤丸立香は苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「マシュ、これから出る犠牲は、これまで見えなかった犠牲と同じだよ。フランスで、私たちはジルドレさんの兵士を犠牲にして勝った。ローマではネロ王の軍隊をすり潰して掴んだ勝利だったし、オケアノスもロンドンも、アメリカもそうだった。イスラエルも、ウルクでも、時間神殿でも」

『ですが、彼らは知っていました!どこかがおかしいって、それに対する必死の抵抗でした!』

「じゃあ、私が下総でなにも知らない村一個犠牲にして生き残ったのは間違い?」

『……っ』

「私もできればこんな作戦取りたくない。でも、そうしなきゃ私たちが定礎崩壊に間に合わない。命を数で数えて欲しくはないけど、幸せを数で考えたくないけど、私は生きたいから、この作戦を取るんだよ」

 

藤丸立香は、一言ひとこと選んでマシュへと届ける。そう、これまで自分らは気づかなかっただけ。カルデアは犠牲を前提にした作戦を言葉に出さなかった。でも、言葉に出さなかっただけ。周りはみんな人死にが前提で、死人は出た。陽動だって、死が前提の作戦だ。ウルクでそれをやっている。だからね、私たちはもうそんなこと言えないんだ。

 

「確かに理不尽なものよ。わしらサーヴァントに人間が勝つ道理などなし。それを石田側は恐らく知らない。武者は尽く無意味に死ぬじゃろ。じゃがな、マシュ、それだけで戦国の世の者を想うでないわ」

『……え?』

「もとより理不尽はつきものぞ。道理もくそったれもない。そんなことは承知で戦さに来ておる。理不尽なのは変わらない、死も変わらない。ただ死の原因が変わるのみよ。戦国武者、日の本侍は国のため死ねれば本望じゃ。極論ではあるが、切腹か、戦さで死ねれば及第点じゃよ」

 

マシュは何故こうも反対するのか。それは何も知らない他者を踏み台にすることへの忌避からでもあったが、踏み台にされた他者への哀れみからでもあった。いや、むしろその方が強かった。

前者はともかく後者はただ自己満足的な押し付けで傲慢な考えなのだと弓ノッブは言うのだ。かつてジウスドゥラ━━━もとい山の翁が忠告したことがマシュの脳裏によぎる。

 

━━━ 哀れみは時に侮辱となる。覚えておきなさい。謂われのない憐憫は悪の一つであり、謂われのない慚愧も、また悪の一つ━━━

 

「ただ、他者を踏みにじる不快はゆめゆめ忘れるな。常に憤りて、最後の手段として選ばれよ。忘れたら、わしらみたいになるからな」

『はい……わかりました。到底承服できるものではありませんが、特異点解決のため、その作戦に賛同します』

 

マシュは割り切れたようだ。ただ、申し訳ないなと藤丸立香は思う。

 

「話は済んだか?」

「おい元凶お前のせいやぞ」

 

まるで他人事のように訊くキャスノブにはもっとなんとかならなかったのかと弓ノッブが詰った。

 

「えぇ〜?どうせ徳川についてもあの英霊じゃあ協力無理だろー」

「もうその話はいいから次の作戦考えよう?」

「そうだな……ならば、これではどうか?」

 

 

同刻、関ヶ原の戦いは始まった。凪のような静寂が一転、怒号と雄叫びと銃声と怒号と怒号が狭い盆地を埋め尽くす。そんななか、()()()()()()()()()()()()()()がその怒号たちにかき消されていった。具体的には機械の音。ガソリンを燃やし、定圧変化によるピストン運動が二枚の刃の回転となり、風を巻き起こす音。現代で言えば、セスナや自動車のエンジンの音である。しかし彼は近代の者。なれば一つしかあるまい。

 

それは戦闘機のエンジン音。彼が愛し、彼が愛された空を行くための乗り物。かつて彼はそれで空の要塞の尻尾を掻き切った。かつて彼は空の要塞を一度に2機撃墜した。かつて彼の愛機は己が持つ武器によって死んだ。

それは、宝具という形で蘇ることとなる。魔力はその真名に規定された形を忠実に作っていった。

 

「おっ、いいじゃねえか。よくわかんねえが、間違いねえ。俺の愛機だ」

「未来にはこげなもんが空を飛びよるんか……!」

 

赤い武者は目を丸くする。この機体の名前は『紫電改』。彼の機体であるという主張の強い黄色の線が体幹尾翼側に二本走っている。

 

「よし、それじゃあ行くか」

 

彼は紫電改に乗り込み、風防を閉める。本来ならエンジンを回すためにもう1人必要だが、魔力で構成され、魔力で飛ぶこの愛機に、そんなものは必要なかった。

 

「俺の弾に当たんじゃねえよコノヤロウ」

「当たらんようにするが、当たったらごめん」

 

なにかと幼稚さの見られる喧嘩腰の会話だが、この2人には妙な信頼が生まれつつあった。

 

「ワレ三四三空二〇一飛『新撰組』隊長、菅野一番!目標、我ガマスターノ勝利!突撃ス!」

 

関ヶ原の戦いは、最初から予測不可能となる。




イベントPUサーヴァント

菅野直(☆4)


サーヴァントステータス

【CLASS】ライダー
【真名】菅野直
【性別】男性
【身長・体重】160cm・68kg
【属性】混沌・中庸

【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷C+ 魔力E 幸運C 宝具C

【クラス別スキル】

対魔力:D
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。サーヴァント自身の意思で弱め、有益な魔術を受けることも可能。Dランクでは、一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
ゲーム内では、「自身の弱体耐性をアップ」


騎乗(空):A-
乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
空を飛ぶもの限定ではあるが、高い騎乗スキルを有する。
ゲーム内では「宝具を使用した後、自身のBuster性能アップ(一回)」

【固有スキル】
カリスマ:C-
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。生前は王として君臨した三者は高レベル。C-ランクでは国家運営は出来ないが、志を共にする仲間とは死を厭わない強固な繋がりを持つ。時には上官をも呑み込む強烈なもの。悪用すれば原住民に自分を神だと思い込ませられることもある。
ゲーム内での性能は、「味方全体の攻撃力をアップ(3T)」

撃墜王:A
空中戦において無双した者が持つスキル。彼の場合、味方を庇ってまで戦い勝った逸話と無数の爆撃機や戦闘機を完封同然で屠ってきた逸話を基に近代の英霊の弱点を補って余りある強化を自身に施す。
ゲーム内では「自身の宝具威力を大アップ(1T)&自身に回避状態を付与(3回・2T)+自身にターゲット集中を付与(1T)」

竜殺し(異):B
異世界へと転移した漂流者の1人である彼は、異世界において既に4騎の竜を撃墜しているため、本来幻想種の頂点にある竜種に傷一つつけられないほど神秘の薄い菅野に、竜種限定で幻想種に対する一撃必殺級の特効が付与されている。
ゲーム内では「自身に〔竜〕特攻状態を付与& 自身に〔竜〕限定のクリティカル威力超アップを付与&自身にスター集中を付与」

【ゲーム内でのコマンドカード構成】
BBBAQ

【宝具】

『新撰組』隊長、突撃ス
(われ、かんのいちばん)

ランク:C
分類:対軍宝具
レンジ:63
最大捕捉:20人

彼の愛機、紫電改の隊長機を魔力で構成し、彼はそれに乗る。そして機銃を掃射するという代物。バーサーカーのランスロットの宝具「騎士は徒手にて死せず」ではジェット戦闘機を自身の宝具として操っていたが、菅野のスキルによる超絶強化のせいでそのランスロットの宝具とタメが張れるという、近代英霊にあるまじき性能をしている。しかし、彼の最大得手は空中戦であり、対地戦が基本となる聖杯戦争では真価を発揮しにくいというデメリットもある。
ゲーム内ではBusterの全体宝具。一体当たり8hit。
「自身に〔空を飛ぶ〕特攻を付与&敵全体に強力な攻撃&スター獲得(10個)」


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7節 紫電が来る

前回のあらすじ
順調に進んでいた、瞬瞬必生(と書いて無計画と読む)な従来のプロットには存在しなかった菅野デストロイヤーがログインした。やったね!プロット大幅変更だ!(無限の妄想)でもゴールは同じだからあんしんして!


異世界のセイバー襲来の翌日、関ヶ原の戦いは幕を明けた。

 

「応、作戦を始めるぞ。おいは徳川を襲う」

「じゃあわしは撹乱じゃな。お前の兵を借りるぞ」

「おう、じゃー俺は藤丸連れて西軍後方行くわ」

「よし、それじゃあ、作戦開始!」

「「「応!」」」

 

こうしてカルデア軍は動き始めた。

霊脈には偽装結界を張り、サーヴァントの身体能力を活かして各々の持ち場へつき、為すべきを為す。即ち島津は最前線で東軍狩り、弓ノッブはキャスノブの宝具を指揮して島津の補助、キャスノブは迂回路を行き西軍の後方で戦況把握である。

順調にいけば、異世界のセイバーはもう少しで姿を現し、島津は退却する。西軍に損害をある程度出したところでこちらの全力を出し、セイバーを撤退に追い込む。これを機に西軍と同盟を結び、半日以内に聖杯戦争を終わらせ、特異点の原因となる聖杯を確保すると同時に裏切る。なんなら聖杯に徳川の勝利を願う。

 

しかし、現実は誰かの脚本通りには行かせてくれない。織田信長の書いた脚本を破り捨てたのは、戦闘機のエンジン音だった。

 

「は?」

「何ぃ⁉︎」

「げぇ!」

「あ゛ぁ⁉︎」

 

各々が理解不能といいたいような声色で声を上げた。

 

『信じがたいが、照合した結果、あれは紫電改と呼ばれる日本の局地戦闘機だ。黄色のストライプはあるかい?』

「は、はい!」

『あれは宝具だ。中にちゃんとサーヴァント一騎分の魔力反応が見られる。しかし、異世界ではあり得るってのか、これほどまでに近代的な英霊は本来英霊として成り立たない!』

 

戦場の驚愕を気にせず、ただ空は己だけのものとして振る舞う英霊は、所構わず機銃掃射を仕掛けてきた。しかし、その先にはいる。異世界のセイバーがいる。セイバーは新撰組を召喚し、己に向かう銃弾を全て叩き落とした。

 

「だが手間は省けた、◼️◼️!」

「応!」

 

異世界のセイバーの前に、島津は立ち塞がる。

 

「織田信長は何処だ」

「知らぬ」

「そんな訳があるか。今はてめえなんざどうでもいい。織田信長を出せ」

「知らぬもんは知らぬ。物わかりの悪い奴じゃの」

 

それだけ言うと、島津は刀を構える。

 

「ならば、この場の者を殺し尽くすまで」

 

真名解放━━━

 

「うし、行くど」

 

宝具開帳━━━

 

島津は得意の構えをとる。

 

ここより先は死線と思え━━━

 

土方歳三を取り巻く空気は人の形をとり、宝具にふさわしい体を成す。

 

斬り捨てよ。薩奸死すべし

 

島津の踏み込みは10mはあるだろう距離を0まで縮め、首筋を一閃しにかかる。前回の比ではない。今回は明らかに音速を超えた斬撃だった。衝撃波が辺りに響き渡る。

 

『新撰組』

 

しかし、またしてもすんでのところで新撰組が防御する。そしてその刀は超音速の一振りに耐えきれず、甲高い音を立てて折れてしまう。

 

「!!」

「死ね」

 

土方歳三はその隙を見逃さなかった。しかし、また心眼で回避される。そして弓ノッブの援護射撃がセイバーを威嚇する。

 

「……」

 

目の前には島津、その先にあるは織田信長の鉄砲隊。ヴェルリナを思い出す布陣だ。俺が勝った(まけた)あの戦い。クソバカとの殴り合い。

 

━━━ああ、本当に不快だ。

 

あの殴り合いを思い出すと正気を保てない程に。凪いだ心に波が立つ。そこまで引っ掻き回してくれるあのバカに腹が立つ。

 

「やはり、いまここで殺す。島津、てめえは、不快だ」

「戦さじゃもの。目の前におる将ば逃すうつけはおらん」

 

再び、英霊同士の殺し合いが激しさを増した。空から度々来る機銃掃射は2騎共に人間離れした速度と剣術で回避する。刀の折れた島津がリーチにおいてさらに不利になったはずだが、先ほどと遜色ない立ち回りをしている。心眼で避け、勘で避け、見て避け剣術で避け一撃をくれる。土方の外套に刃が届く。しかし土方はうろたえずにカウンターとして手甲を斬りつけた。

 

と、突然土方の動きが止まった。

 

「……何故だ」

「応、どがんかしたか」

「俺はここで殺さねばならん相手がいる!貴様は黒王ではない。邪魔をするなら貴様も殺す、いい」

 

突然、土方は消えた。跡形もなく、島津の目の前から消えた。あとに残るのは、武者たちの怒号と雄叫びと、戦闘機の駆動音のみである。

 

「……なんぞ今のは」

 

 

松尾山西部 山腹

 

『今、セイバーのマスターは令呪を切った。待ってて、魔力検索かける。転移先は━━━』

「危ねえ伏せろ!」

「どぅわっ⁉︎」

 

キャスノブに背負われている藤丸立香に急降下するような感覚が襲い掛かった。直後、木々がキャスノブの首の位置の高さで両断されていく。

 

「ひぇ……」

『もうわかってると思うが、君たちの背後だ』

「それ早く言えんのか」

『無理だね。魔術はそんなに万能じゃない』

「くそッ」

 

キャスノブが舌打ちする間にも異世界のセイバーはゆらりゆらりとこちらに向かう。

 

「逃げて信長!」

「あぁ?なぜだ」

「キャスターは陣地がないとセイバーに正面からの殴り合いじゃ勝てない!」

「ハァ⁉︎それもっと早く言えよ!」

『昨日観測したセイバーと同一人物とは思えない魔力規模だ。令呪でブーストかけたな、セイバーのマスター!こうなると神霊でも持ってこないと今の状況じゃ勝てない、今すぐ逃げるんだ』

「魔術礼装変換、カルデア制服起動、『瞬間強化』!」

 

藤丸立香の服装はオレンジの戦闘服から白のカルデア制服へと変わり、キャスノブに強化を施す。

 

「走って、速く!」

「なんで俺が使いっ走られなければならんのだ!」

 

キャスノブが一度踏み込むと、先ほどの島津を上回るスピードで木々の間を抜けていく。

『瞬間強化』、カルデアの制服に刻印された魔術式。一騎という数的に限定はされているものの、その英霊の力を一瞬だけ段違いに強化するという優れものである。

残念ながらキャスノブの俊敏ステータスは異世界のセイバーにやや劣る。あらかじめ距離を取らなければ死ぬのだ。

 

『宝具で兵士を呼べるかい?』

「無理だ!走るので精一杯だってのによ、指揮なんざ出来るか!それに、予備50人でどうにかできる奴じゃねえだろアイツは!」

「うわっ本格的に追ってきた!」

「この強化いつまで保つ⁉︎」

「あと20秒少し!」

「短えよ!せめて1分は保たせろばーか!」

 

キャスノブはそう怒鳴ると懐から使い捨ての種子島を取り出して、そこらの木に撃った。木は幹を抉り穿たれ、セイバーの道を断つ。それをセイバーは木っ端微塵に斬り捨てて、また追ってくる。

 

「やっぱ時間稼ぎにもなんねえか!」

「道だ!」

「中山道だな、最低でも平原部には出てえ、あとどんくらいだ⁉︎」

『この速度ならあと30秒!』

「どんどん距離が詰められる!30秒保たない!」

「ああクソ!せめて谷を抜けられれば!」

 

この世には、どうしても詰められない時間というものはある。ゲームで言うところのRTAの理論値なるものだろうか、「ここから先はどうやっても短縮できない。何千、何万と試行しても、これがベストであり須臾刹那の間も縮めることは能わず」な、そんなものだ。今、キャスノブたちはその理論値を実行できることしかしていない。木を倒したのも最高速度の中でだったから、タイムには全く関わらない。そう、藤丸立香たちはRTAの理論値に至るすべての条件をクリアし、平原に出るまでの時間も須臾刹那の間だって縮められない。最善を尽くして尽くして、尽くした先の最善だって借り入れた。

 

━━━それでも、土方歳三は平原に出るまでに追いつくのだ。

 

顔は見えない。見ようとすれば遅れが出る。遅れが出ると殺される。現に2人の背中は全開の殺気でひりついている。心拍数もフルスロットルで冷や汗も滝のように。

遂に足音がすぐ後ろに聞こえてきた。風の音が聞こえる。間違いようもない。『新撰組』の音だ。もう射程内に入っているだろう。

 

「死ね」

 

でも諦めはしない。万に一つの偶然を、可能性を斬らない。最後まで足掻いて足掻いて、諦めなかった人たちに軍配は上がるのを知っているからだ。

 

「来い、ベオウルフ!」

 

土方の腹にケルトの拳王が蹴りを入れる。土方は道端の石の如く吹き飛び、ここぞとばかりにベオウルフがトドメを刺しにかかるも、新撰組によって霧散する。

 

「やっぱりサーヴァントの影じゃダメか…!」

 

稼げる時間に対して藤丸立香の体力消費が激しすぎる。不意打ちだから初撃が入っただけであり、連発できるものでもなければ、二度目が今の土方に通じるわけでもない。

 

今度は魔力放出じみた踏み込みで一気にキャスノブたちとの距離を詰める。

 

「今度こそ、死ね」

 

ああ

 

死ぬ

 

終わる

 

そう2人が心の底で感じ取ったときだった。

 

「それはいけないでござるよ、これより先はわが主人の布陣なれば」

 

矢が新撰組の刀を断つ。

 

「っ……」

 

しかし土方は止まらない。他二つの新撰組で斬りかかる。が、それらも矢で。

 

「あれ、殺すつもりで射たんですがね、外してしまうとは」

 

私の矢も衰えましたなあと、道化のような言い草がこだまする。

 

「……アーチャー」

「おや、存じておいでか。その珍妙な格好、私の矢すら退く刀のもののふ、其方が『せいばあ』でよろしいな」

 

土方歳三は目線だけで射殺せるくらいに剣呑な視線を矢の飛んできた方向に向けた。

 

「邪魔を、するな、アーチャー」

「怖いですなあ。どうせこの戦さ、1人、いや、1騎しか生き残れまいよ。なればそこまで執着することはないでありましょう?」

「喋るな、てめえを、ここからでも、叩っ斬る、くらいは、造作も、ないぞ、アーチャー!」

「ははぁ、それは事実と見える。この谷は狭うございますれば、この那須資隆与一などという弱小な英霊など、如何様にもできましょう」

「与一って……」

「与一……与一じゃねえか!」

 

那須与一、異世界では織田信長と島津と共にエンズに立ち向かう武者の1人だ。信長は声をかける。

 

「おや、どちらさまで御座いましょう?でもここにいるってことは、この戦さに参加してるってことですよね?」

「あぁ?何言ってんだお前。俺だよ、織田信長だよ」

「はて、何を言っておられぬのかわかりませんなあ。ですがいい情報を貰いました。『織田信長公がこの戦さに加わっていた』。これはおおきな情報となりましょう。それで、背負っておられる女子は如何なる者にてありや?」

「私は、藤丸立香。カルデアのマスター」

「ほう、天文台の方だったか。しかし不運なことだ。信長公に背負われたせいで死ななくてはなりませぬ。どうせこの戦さには1騎しか勝者はおりません。信長公とせいばあ殿、藤丸殿には我が弓で死んでいただきましょう」

『アーチャーの魔力、増加中!気をつけろ、宝具だ!』

 

南無八幡大菩薩、我が国の神明、日光の権現、宇都宮、那須の湯泉大明神、願はくは、あの扇の真ん中射させてたばせたまへ。

 

木陰が金色に彩りはじめた。

『魔力増大中、馬鹿な、サーヴァントとはいえど人間が出していい魔力出力じゃない!それこそダビデのような、神々の祝福がなければこんな神霊級の魔力を秘めることはできない!織田信長、なんとしても防ぐんだ!魔力を盾状にして、純粋な障壁として展開してくれ!』

「魔術礼装変換、アトラス院制服起動、『オシリスの塵』!」

「ええい、何故与一が敵対せにゃならんのだ!」

 

織田信長と自身に砕けぬ防御結界を張り、織田信長は重ねて防御魔術を張った。

 

これを射損ずるものならば、弓切り折り白害して、人に二度面を向かふべからず。

 

━━━射角調整完了。各神性援護領域、歩合調整完了。魔力収集割合……6割、7割、8割……十全也。霊基出力、安定臨界。突破。超臨界後再安定。再定義。余剰魔力、概念礼装「破盾」。

 

いま一度本国へ迎へんとおぼしめさば、この矢はづさせたまふな。

 

「これこそは、扇穿ち抜く神仏の矢。『破扇弓・与一の弓』」

 

瞬間、道が5mほど、抉り取られた。

 




島津のバーサーカー


霊基再臨

スキル習得
首級狩り:A
自身に即死成功率アップを付与(3T)&自身のArtsとQuickのコマンドカードに〔人〕属性の敵に対し中確率の即死を付与(1T)&自身のBuster性能を大アップ(1T)

首をとる能力。戦国の白兵戦において勝つために必要な技術。十二のころからそのことにのみ見つめてきたため、その剣術は剣豪には至らないもののその技術は間違いなく武人の頂点に匹敵する。



ここからが本題。
後書きらしい後書きも今回が初めて。また新しい鯖が出ましたがこいつは「異世界の」アーチャーではないです。自分で考えた型月の与一(のつもり)です。具体的なマテリアルは出しません。だって原作で出てこられたら自分の立つ瀬がないから(今更)。原作で実装されるまでの妄想ということでひとつよろしく!


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8節 考察はディナーの後で

前回までのあらすじ
カルデアに突如現れた島津のバーサーカーと今更ながら現れた特異点。特異点を解決するために島津、織田信長、藤丸立香は1600年の関ヶ原へとレイシフトした。その先には異世界のキャスター、織田信長と異世界のセイバー、土方歳三。キャスターの織田信長とは仲間になれたものの、その織田信長が土方のつく徳川勢に喧嘩を売っており、また島津をひどく憎む土方の気性もあって、徳川とカルデアは全面的に対立することとなる。そして迎える戦さの当日、紫電改が飛ぶ関ヶ原で石田に取り入らんとするカルデアはキャスター信長と藤丸立香の2人で西軍後方へと回り込む最中、土方の強襲に遭う。逃げるカルデアに追いつく土方。もはやこれまでと諦めかけたその刹那、アーチャー・那須与一が参戦。彼はいきなり宝具を開帳し、藤丸立香ごと、二騎のサーヴァントを消そうとしていた━━━


「おやぁ?私としたことが、外してはいないようですが、ダメですなぁ。盾の破壊の概念をたたき込んだのですが、無傷で立たれると困ります」

「へっ…これが与一か、えげつねえ」

「多分、この与一は異世界のじゃない」

「俺から見たらガッツリ異世界だけどな」

 

見ると、信長たちの立つ場所とその後ろ以外が大きくえぐれていた。

与一はため息ひとつ吐いたのち、苦笑を浮かべる。

 

「二重に張っておられたか。それなら流石に私如きが編み出した概念破盾も厳しい。そしてせいばあ殿は……令呪の転移で避けた気になられたか。どこにおるのかわかりませんが、当てるのは与一の役目にございますれば」

『因果逆転系の宝具か。900年前の英雄、それも知名度が名だたる武将と並ぶ最高クラスだ。おそらく戦闘力は牛若丸以上、単純な宝具の強さなら、セイバーとは桁違いに上をいく』

 

2人は生唾を飲む。

 

「いやいや、そこまで持ち上げられても困りますよ。今は弾道調整に忙しいので、貴女がたに弓を向けていられません」

 

ほら、矢を必中の弾丸とする神仏の加護を得たのに調整は自らしなければならない。こんなに弱小な英霊、どこにいましょう?と、与一は自虐の笑みを浮かべる。

 

「なんで、私たちよりセイバーを?」

 

藤丸立香は恐る恐る訊く。

 

「なぜか、それはせいばあ殿が最優と呼ばれているからです」

「……それだけ?」

「えぇ、現状は最優と呼ばれるせいばあ殿が最も脅威だ。加え彼はてきゃすたあ殿……織田信長公に執心して、いや、させられている。おかげでせいばあ殿を真っ先に仕留められる。もし今仕損じたとあっても、貴女がたがいれば必ずせいばあ殿は貴女がたの目の前に現れるはずだ。故に貴女がたを生かす次第にて候。その命、な捨て奉りそ」

 

なるほど……とキャスノブは歯噛みした。これは「キャスターなぞいつでも殺せるからまずはセイバーを殺してからだ」というある種の侮り。挑発にも取れるが、彼にはそんなつもりはないようだ。

 

「主人の元に行かれたか、せいばあ殿もその主人も一掃する良い機会だ。ああお二人、これが終われば次は貴女がたです。今のうちに逃げた方がいいですよ」

「お前逃げても絶対殺すだろ。むしろ逃げられた方が良いと思っておる」

「おや、バレましたか」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。お前がおっかねえのは理解してんだ」

「聖杯に与えられる知識と生前の知識を以って、ですか……ん?」

 

与一が突然顔をしかめた。

 

「どうした?」

「あー、矢が墜されましたね。せいばあ殿、主人に恵まれましたな。まさか神仏の加護を纏いし矢を撃ち落とすとは」

 

神仏の加護を纏った矢には、相当の神秘が宿っている。与一は知らないが、神秘はそれを上回る神秘に打ち消されるという原則がある以上、矢を撃ち落とすには与一が纏わせた加護以上の神秘が必要になる。それこそ神霊そのもの、もしくは格上の神の加護を纏った一撃だ。

それを知るものだけが動揺した。驚愕した。戦慄した。与一はそんな感情の揺れを気にすることなく続ける。

 

「さて、私は貴女がたを生かす理由があります。とく行かれよ。大丈夫、背中を射抜いたりしませんよ。これは主人の方針でもあります故」

「……だとよ。俺は信じられんがな」

「……見る限りトリスタンの弓みたいなものじゃ無いみたい。私が礼装で防御するから、ここは逃げよう」

 

藤丸立香の見立てではあるが、彼の弓に礼装の防御は有効だ。宝具は扇を射抜いたあの逸話と同じだろう。盾の破壊という概念を何かしらの魔力で付与したということは、宝具級にならないとそういうことは起きないのだ。原則、宝具は連発できない。ということは、ああいった防御解除、盾破りはそうそう撃てない。

 

「……ならば、そうするか」

 

見立てをダ・ヴィンチちゃんに検証してもった結果、それは真と出た。

 

「戻るぞ」

「えっ?」

 

キャスノブは元来た道を走り出した。やがて木々の間に姿を消す。

 

「……バレておりましたか」

 

与一は舌打ちをした。念のために平原で仕掛けておいた罠を、一切その素振りすら見せなかったのに、見切られてしまった。

 

━━━ お前は俺を知らねえだろうが、俺はお前を知っている━━━

 

その言葉に妙な気を覚えた。確かに織田信長なるもの、聖杯の知識で情報は知っているものの、思考回路の全てを知るわけではない。行動を理解できても、完全な予測はできない。だが、()()()()()()()()()。与一の行動を、計略を、具体的に予測したのだ。そこには勘もあるだろう。それでもこれは……

 

「……やはり侮れない。天文台も、その天文台と手を組んだ智将も」

 

情報戦で有利を取ったと言いたいところだが、互いに真名を明かした状態で宝具と(なぜか)思考回路を知られた己が不利だ。が、憂うどころか笑みが浮かぶ。

 

「……面白い」

 

今はこちらが不利。しかし不利な中での逆転劇は面白いことこの上なし。己の勝利を確信する者の鼻柱を叩き折ることの愉悦よ、有頂天の者をどん底に突き落とす悦びよ、これらを何と形容しよう。これからの愉悦に昂る感情よ、これを何と言い表そう。

我慢しても堪えられぬ口元の歪みはついに決壊し、谷間には笑い声がこだました。

 

「兄上たちよ、大明神よ、権現よ、義経様よ!ご照覧あれ、与一はこの戦、見事勝ち抜いて見せます故!」

 

 

カルデア・キャスノブ陣営・山中帰路

 

「ねえ!ねえ信長!」

「何ぞ」

 

ため息の後煩しそうにこっちを見る目。めちゃくちゃ怖い。

 

「何で引き返すの?目的は西軍に取り入ることでしょ?」

「ああ、それか」

 

確かに説明せんとわからんよなと信長は訳を語る。

 

曰く、「那須与一ってのは、俺たちドリフの仲間だ。与一とはそれなりの付き合いだから、与一のやり口くらい知っている。

お前の世界でも、俺の最後にいた世界でも、同じ『織田信長』ならば思考が同じであった。で、あるならば。そっちの与一は俺たちも知る与一とも少なくとも『戦の思考』だけは似てるだろうと踏んだのだ。与一は徹底的に殺る奴だ。ある意味◼️◼️……そういやこの名前聞こえないんだったな、あのバカよりも怖い奴よ。逃げる方向には必ず罠を仕掛けている。ならば来た道を戻るのが一番よ」

 

「西軍はどうするの」

「戦場を突っ切って迂回する」

 

それ迂回じゃないんだけど?人生RTAする最適解なんだけど?私死んだら終わりなんだけど?

 

「突っ切るにもヤケじゃねえ。俺ぁ魔術師の階位で召喚されてるからな。流れ弾程度を防ぐくらいの結界なら張れる」

「なんでそれでいて迂回路取ろうとしたの?」

「うるせー!こちとら魔力防御なんてさっきのが初めてなんだよ!やり方とか知らん以上できるわけねーだろ!」

「あーそうだったね……信長ごめんよー」

 

かくして、私と信長は戦場へと駆けていくのであった。

 

 

カルデア管制

 

「マシュ、さっきの矢を撃ち落とした魔力は、心当たりがあるかい?」

「いえ。この時代、魔術師が神霊の加護を纏うことはほぼありません。神代からあまりにもかけ離れています。神秘も少ないこの関ヶ原で、そんなことがありえるのでしょうか」

「ああ、()()()()()()()()()。でも起きてしまった事象だ。絶対に何かある。ホームズ、そのところどうだい?」

「(……魔術師?いや、そもそも極東に居たのは魔術師ではない。修験道、仏道、神道、陰陽道……およそ聖杯戦争とは無縁のものだ。トリスメギストスも言っていたが第一次聖杯戦争自体発生のきっかけは西洋にある。異世界にゆかりのあるものだろうか……だがまだ確定するには情報が足りないから)今語ることはできない」

 

カルデア管制にいる者は皆ため息をついた。

 

 

 

某所

凄まじい光がこちらに降りかかってきた。

 

「因果逆転の必中の宝具か、英霊は誠に度し難いなあ」

 

江戸の狸はため息交じりに腕を振るった。その腕は魔力の光を発していて、振るった腕から魔弾が飛んでいく。そして、矢を撃墜。側近からは嘆息の音が出た。

 

「人が人ならざる力を得て何と為すか。剣兵よ」

「知らん。それを言うならお前だってそうだろう」

「ははは、()()()()()()()()()()()()

 

からからと徳川はわざとらしく笑った。

 

「それで、僕は令呪を三画失った。貴重な令呪だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、術師の英霊に注力してれば二画は浮いた令呪だったんだよ」

 

土方の額に冷や汗が垂れる。

 

「君はとうに人間をやめていると彼女から聞いた。敵をなぎ倒す駒だとも。だからこうして僕は君を英霊として雇っている。どうか忘れないでほしいな」

「……分かった」

 

凄まじいまでの圧が土方を屈させた。決して、彼の雰囲気ではない。魔力の乗った声だ。対魔力を以ってしても通じるその圧力、メデューサの魔眼に匹敵する。

 

「ならばよろしい。引き続き織田信長の殺害に注力せよ。バーサーカーとは、戦わざるを得ない時のみ戦闘を許可する。ただし、離脱の目処が立ち次第全力で撤退、織田信長殺害に移ること。以上を令呪一画を捧げて命ずる」

「……」

「続けて第五の令呪を以って命ずる。この命に背いた時、その自我を漂白すること」

 

赤の紋章を構成する二画が弾けた。それは魔力の重石となり、土方歳三という男の霊基にのしかかった。

 

「よろしく頼むよ、廃棄物」

 

 




少し遅れ気味でしたね、今回なかなか難しかったので気分が乗る日が少なかったのです。ご容赦くだされ


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8節-2 僕らの6時間戦争

前回のあらすじ

与一は宝具ぶっぱしたけども結局戦果なし。自称人でなしの徳川アンド土方歳三チームは仲が最悪に悪くなる。織田信長アンド藤丸立香チームは魔力防御を習得したため戦場を突っ切ることに決定。

これは一方その頃のお話━━━━


「なんじゃああああああああああああ!!!!!!!!!?」

 

弓ノッブは絶叫した。島津は目が輝いた。

 

飛行機。戦闘機。腹は白、背は濃緑。翼にあるのは真っ赤な日の丸。尻尾の付け根に二本の横線。その機体の型番はN1K2-J。かつて連合国と名乗った大国からのあだ名は「George21」。大戦末期にある航空隊に集中配備され、空を守ってきた陸上極地戦闘機。名は「紫電改」。これを宝具とし、英霊となりうるはただ一人。

 

「また鉄砲が来る、逃げろ!」

 

クラスはライダー、真名を菅野直。

 

機体は頭を下げて、弓ノッブと突っ込んでいく。両翼にある20mm機関砲の咆哮が上がる直前……

 

「ぉおおおおおおおぉぉおおおおおおおッッッッッッ!!!!!」

 

刀が翼に刺さった。それは投擲。島津の短刀が紫電改の主翼に深々とその刃を埋める。

 

「刺したぁああああああああああ!!!?」

 

そしてその刺さった位置は運良く機銃砲塔に刺さり、爆発する。紫電改は大きくバランスを崩し、青い粒子となって消えた。そして、落下していく人影が一つ。その人影目掛けて跳んで向かう人影一つ。

 

「首ぃ、よごぜやあああああああああああッ!」

「ちょっ、待っ……!」

 

菅野の首に狙いを定め、掲げた刀を一気に振り下ろす。刃は首にスラリと食い込んで……

 

「あぁ⁉︎マスターが俺の愛機ぶっ壊しやがったのかコノヤロウ!マスターだからってなんでもかんでもして良いと思ったら大間違いだバカヤロウ!」

 

ない。合掌の形で刀を止めている。真剣白刃取り、まさか島津はそうあるなどと思わなかった。いや、想定こそしたが意表を突かれた。そして何よりマスターという最近になって聴く単語。しかし島津を指しては決して言わない単語に妙に引っ掛かった。それが一瞬の油断になった。

 

「ウゥおおおおおおおおるァアッ!」

「っ!」

 

島津の体は刀ごと振り回され、森の中へ投げ落とされた。そこに菅野の飛び蹴りが追撃する。

 

「島津!」

 

弓ノッブは己の銃を顕現し、森に向かった。が、

 

「バカヤロウコノヤロウうるさか!ますたあなぞあん女子で十分ぞ!おいはますたあではなし、他を当たってくいやい!」

「……本当に別人かァ?」

「応。主ゃが何を言っちょるかいっちょんわかりゃせんど」

「んな訳ねえだろバカヤロウコノヤロウ!お前のその島津十字!俺は知ってんだよコノヤロウ!」

「知らぬもんは知らぬ!」

 

そこでは殴る蹴る突く撃つ斬るの殺し合いではなく、ただの口喧嘩が起きていた。

 

「信長からも何ぞ言えい!」

「あぁ゛?信長が関ヶ原にいる訳ねえだろ本物のバカヤロウかこのバカヤロウ」

「ところがどっこい居るんだよネ。わしこそ第六天魔王波旬、織田信長じゃもの」

「あぁ゛?信長が女な訳ねえだろバカヤロウ。2人揃って嘘下手バカかコノヤロウ」

「殺す」

「あーハイハイどうどうどうどう島津鎮まれ」

 

弓ノッブは島津をあやしながらふと気になったことを口にする。

 

「そういえば……ライダーかの?お主コイツをマスターとか言っておったな?」

「それがどうしたコノヤロウ。アイツは俺のマスターだ」

「いやいや、コイツサーヴァントなんじゃよ。バーサーカーのサーヴァント」

「は?」

「だから人違い。人間だったらひとっ飛びで鉄の鳥と同じ高さまで跳べんし鳥の翼に短刀投げんから。というか霊基とかそういうアレで気づかんかったの?」

 

沈黙。図星。どうやら気づかなかったようだ。弓ノッブは本物の馬鹿かコイツという目で菅野を見た。

 

「オラァ」

「ノブァ!反論できないからって殴ってくんな!」

「ふんぬ」

「島津も殴り返すな!なんかヤバイことになってる気がするから!ああもうなんでこんなにぐだぐだなんじゃ!」

 

 

菅野直は事情を聞いた。

 

「てことは、俺のマスターは生前のコイツで、コイツはカルデアってとこから来たバーサーカーのサーヴァント、要するに別人ってことかよバカヤロウ」

「そのバカヤロウやめれコノヤロウ」

「島津ちょっと黙っとれ。マスターが島津とはいいことを聞いたのう。わしイイコト思いついた」

「顔がめちゃくちゃ悪いけど大丈夫かこのアーチャー」

「このため息が出るほどカッコ可愛い美少女に何を言うかライダー」

 

キャラが濃すぎて胃もたれするこのメンツで、最初の悪巧みが始まる。

 

「ライダー!わしらと手を組まんか?」

「あ?」

「お主のマスターは島津十字とわかっただけ十分じゃ。じゃが、わしは十分以上を獲りに行く!島津は故あってここで死んではならんのだ。どちらにせよな。サーヴァントとはそれだけで十分に強い。じゃが、それが7騎集うのが聖杯戦争。単騎で6騎相手するよりも皆で6騎を相手するのが良かろう。最後に残った者らで争えば、背後から刺されたり、愛機に刀ぶっ刺されたり、島津を直接狙われなくなる」

 

弓ノッブは得意げに語る。

 

「つまり条約を結ぶんじゃよ。友好条約をな。期限はキャスターとライダーが残りになるまで。わしらは島津の護衛、ライダーへの不可侵、他サーヴァントとの戦いへの協力。お主らはわしらカルデアへの全面協力、カルデアへの不可侵。これでどうじゃ?」

 

どうだ、飲むか。吐くか。弓ノッブは見定める。菅野は口元を歪める。

 

「がっはははははははは!お前、敵になるってのに協力しろって言ってんのか!そんなバカヤロウどこにいるんだよコノヤロウ!」

 

答えはヒーヒー笑い出すだった。めちゃくちゃ決まったキメ顔が途端に小っ恥ずかしくなっていく。

 

「あのー。ライダーさーん?」

「あー、俺はいいんだけどよ、まずはマスターと会え。サーヴァントはマスターに従うもんだからよ」

 

なるほど、口に含んだままか。まあマスターのサーヴァントという自覚があるのは殊勝なことだ。と感心していると、木の上から殺気を感じた。

 

「応、主ゃら。わいらが大声出すもんじゃけん、敵に囲まれちょっぞ」

 

視認できる中でも、25は下らない。しかし、所詮は普通の兵士。神秘のない攻撃はサーヴァントには通らない。傷の一つも付いてはくれない。なんとも虚しき奇襲よ。そう弓ノッブは心の内でため息をつき、片手をあげる。

 

「出でよ種子島」

 

30挺の火縄銃を顕現させ、全方位に構える。

 

「撃───」

 

森に発砲音が響いた。マズルフラッシュは弓ノッブの方から出たのではない。木の上からであった。そこまでは良かった。しかし、ここからが良くなかった。

 

つう、と弓ノッブの頬に暖かなものが伝う。なんだか耳が熱い。右側頭部から硫黄の焼ける匂いがする。

触れてみると、赤い液体がベットリと手の平にこびりついた。

 

「ほう」

 

傷を負った。ただの兵士と思っていたが、これはこれは、神秘を纏った一撃のようだ。なるほど、わしは侮っていた。わしの世にはもう出ぬものと思っておったよ。

 

火縄銃を手づから握り、サーヴァントでなければ反応できないような速度で標準を定め、撃つ。捨てる。撃つ。捨てる。撃つ。

 

「魔術弾の類かのう?化生(けしょう)如きが、なんとまあ高等な装備を使っとるものじゃ。お主ら、誰から貸してもらった?()()()()()()()()()()()()()

 

それは怒りだった。神仏衆生の天敵である第六天魔王波旬、それが側面としてある織田信長が必ず蔑む、神仏衆生。化生のくせして神仏に名を連ねるおこがましさ。この感情を言葉にするにはそれに見合う単語は存在しないだろう。

 

織田信長としての在り方がそれを許してはならないものと言うのだ。本人に聞いても、それはなんかむかつくで終わるものだが。

 

それはさておき、化け物は次から次へと湧いてきた。このまま続けても埒が開かないと、森から出る形で撤退する。そうしてさっきの戦いの中へ戻ると同時に、少女と少女を負うおっさんのコンビが現れた。

 

「「「あ」」」

 

 




くううう難しい。ここから中盤ですぜ


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半戦 関ヶ原戦線
9節 ドッペル島津


前回までのあらすじ
カルデアに現れたバーサーカーとともに特異点である関ヶ原へと向かった藤丸立香と織田信長。彼女らはその旅先で異世界の織田信長を味方につけ、いよいよ関ヶ原の戦いを始めた。また、その裏で聖杯戦争も始まっていく。異世界の浸食を受けた聖杯戦争は、異世界のセイバー、異世界のライダーなどイレギュラーをポンポン出していく。特に異世界のセイバーは、この特異点の島津のバーサーカーをマスターにしていた。織田信長はこれによって「同盟を組まんか?」と誘い、ライダー、菅野直は「俺はいいがマスターが最終の決定をするからマスターに逢おう」と返答。というわけで島津のバーサーカーのもとへ行こうという時、アーチャーやセイバーに狙われた異世界の信長と彼に背負われて戦場を駆る藤丸立香と遭遇した。


「おお、マスターか。お主ら、石田の方へ行ったのではなかったか?」

「いや、これがカクカクしかじかで」

「なるほど、それなら是非もなし!ちょうどいい、わしら今島津の陣へ行こうとしておる。史実の陣地を見せよダ・ヴィンチ!」

「オッケー!」

 

藤丸立香の腕輪から空間投影されたのは史実の地図。現在地は最前線、北国街道上の平地である。兵士たちは軽装で走り回る藤丸立香たちの首を獲ろうとしばしば襲い掛かる。そんな兵士たちをカルデア一行は裏拳で吹き飛ばし、刀の鞘で引っ叩き、ヘッドロックの後投げ飛ばし───

 

要するに、ちぎっては投げちぎっては投げの状態だった。

 

「ところでノッブ、どうして島津軍に?」

「ああ、それがかくかくしかじかでな」

「なるほど、って、はぁ⁉︎」

 

藤丸立香は絶句した。

 

「いやーそう思うじゃろ?」

「だって島津の魔力Eだよ⁉︎むりむり、私がいうのもアレだけど無理だってマスターなんて!」

「なんだバカヤロウ、俺のマスター気に入らねってんならぶちのめすぞコノヤロウ」

「いや気に入らないわけじゃないよ……⁉︎」

「とりあえず、盟約を結ぶ件、どうじゃ?」

「私は賛成だよ。こっちの島津もそんなようだし。ダ・ヴィンチちゃんは?」

 

うーん……と悩んでいる声。オーダー開始前に『島津を島津と会わせない』と言っていた手前、会ってしまった影響を改めて考えると躊躇いが生まれる。ライダーがいるから殺し合いには発展しないだろう。しかし、やはり二の足を踏んでしまう。

 

「ここの土地は特異点ちもんやろ?」

 

そこへ、島津が乱入する。

 

『え?ああ、そうだけど?ここは聖杯という魔力の塊が、歴史に異変を起こしているのは確かだ』

「ならこいは特異点ぞ。因が同じこつ、ないごて異な果になる?主ゃらは主ゃらのやって来たようにやれば良かでなかか?ないごて迷う」

 

絶句。カルデア管制含め、その場にいた全員が口をアングリと開け、目を点にした。

 

「馬鹿じゃない……」

「急に島津のIQが上がった……」

「いつも突貫しかしない島津が……」

「馬鹿島津お前馬鹿じゃなかったのか……」

「コイツ馬鹿だけど馬鹿じゃないんだよな……」

「あ゛ァ⁉︎敵かコノヤロウ」

「誰が馬鹿かー!!!」

 

訂正。異世界のライダーだけは全く聞いていなかった。

 

『……ミスター・シマヅの言うことは確かに的を射ている。この特異点は実際にカルデアスで観測されている以上、この世界の歪みであることは間違いないからね』

 

ホームズはうなずき、ダ・ヴィンチちゃんはさらに眉間のしわを深く刻んだ。

 

『ええい、こうなればやってみるしかない!第二魔法をも超えたものだ、魔術理論的に考えても私たちがわかるはずもない!ただし!シマヅはここのシマヅとぜっっったいに!戦闘しないこと!』

「ええい、わかっちょる!」

「結局はこうなるか!面白い巷じゃの!」

 

 

島津陣営・豊久衆

 

「豊久殿!怪しげな衆が面会を求めとりもす!かるであと名乗る連中にごわす!」

「あぁ?知らぬ者ぞ。首級にす」

 

現地の島津は刀を抜き、陣地から出ようとした。しかし───

 

「おーおーここが島津の拠点かぁ」

「お、マスター!」

「ん?らいだぁ?」

 

ライダーの登場で殺意は一旦何処かへと消えた。しかし、その隣の人間が目に入った瞬間、刀の塚に手を当てた。おぞましい殺気が彼に向く。

 

「らいだぁ、主ゃら何ぞ」

「ん?どうしたマスター」

「主ゃ何を連れてきた?怪しげなるもんば連れて来っはよか。じゃっどんそいは何ぞや」

 

視線は島津のバーサーカーへと向いていた。

 

「化生の類か、鬼か、あの世からわいらの首を獲りに来たか」

「ハン、化生も何も、おいはおいぞ。島津◼️◼️◼️◼️◼️◼️、おいはそれ以外の何者でもなか」

「まぁ化生の類っちゃあサーヴァントみんなそうなんだけどネ……」

 

島津のバーサーカーとこの土地の島津。全く同じ顔、全く同じ体格、全く同じ声。眉をひそめ、じり、じり、攻撃的な心をあらわにしていく。威嚇、警戒、それが伝わり、衆の者は皆手持ちの武具を携えカルデアに向けた。

 

「あー……えっとぉ……これってもしかして……」

 

藤丸立香は流れを悟る。

 

「そうじゃな、ライダーのマスターだと言うから、こういうことにも耐性がついとったと思ったんじゃが……」

「んなこと言っとる場合か!お前ら戦闘準備!藤丸立香を守り通せ!」

 

 

「……ハン、つまらん。薩摩ん兵子はこいまで弱か覚えはなかぞ!」

 

結論から言えば、圧倒的だった。島津のバーサーカーは一撃必殺、薩摩はタイ捨流の太刀筋を全て避け、全て受け流した。そして島津に切っ先を向けた。

 

「……腹ばかっさばく。介錯は頼んまあ」

「戦じゃものな。ならさぱっと死せい」

「待って」

 

本気で待ってほしいと、藤丸立香は止めに入る。

 

「こいはしきたりぞ。侍大将が殺生を握られれば、そいは城が落ちた城主も同然。ならばおぃが腹ば裂いて、そん責を取らねばならぬ」

「いや知らないから!!島津は死んじゃダメだから!島津がいないと、とにかくヤバいの!」

 

本当に命が軽いなこの戦闘民族っ!と藤丸立香は心の中で罵った。

 

「あ、そいぞ。忘れとった。おぅ、おまぁが死んだら親父殿を守れん。そがいなこつになれば薩摩は終わり。薩摩が徳川ば倒すは夢のまた夢ぞ」

 

今更に島津のバーサーカーは思い出して、もう一人の島津を諭しだす。

 

「とにかくマスター、話だけでも聞かねえ?」

「らいだぁ、おまぁは本物か?」

「んだよ、信用ねえなコノヤロウ」

『妖術ばかり使われて困惑しているかもしれないが、紛れもなくそのライダーは、ミスターシマヅ、君のサーヴァントだ』

「……話せい。全部話せい」

 

取りつく島は浮かび上がったようだ。藤丸立香は事情を話した。

 

 

「───ってことなの。力を貸して欲しい。私は、私たちは戦う。そのためにここへ来た。私の生きる時代のために」

 

藤丸立香は知っていた。あの夜、島津はどのような考えを持っているのかを知ったから。どんな言い方をすれば良いか知っていた。

 

「うし、わかった!薩摩が天下を取るなら、おいはその魁になる。聖杯戦争も関ヶ原も勝つのみぞ!」

 

説得には成功したようだ。

 

「議は成立したな。じゃあこれから俺たちが作戦立案をする。まず、確認されたサーヴァントは廃棄物であるあの侍、よくわからんそっちの与一、漂流物であるこっちの俺とこっちのバカ、そっちの俺モドキ、ライダー」

「未確認はランサーとアサシンじゃな。すでに開戦されておるならこの二騎の生死は不明かのう」

「つか聖杯?ってやつはどっからきたんだ。俺の世じゃ全く耳に入らんかったぞ」

「聖杯は魔術王とかいう天竺のさらに西の国の王が作ったやつじゃな。それを時代時代の大事な場所に置いてボンってやつよ」

「よくわからんことがわかった」

 

少し話の逸れはじめる参謀二人。

 

「でもわからないのが、どうしてはぐれ同士で戦争をやるわけではなくマスターがいる聖杯戦争なのかってことじゃな」

「ん?なんかおかしいのか?」

()()()()()()()()()()()()()()()()。聖杯戦争としては真っ当。真っ当すぎる。逆にはぐれのキャスターと違う時代のマスターがここでもマスターにカウントできるのがおかしいんだよネ」

 

魔術王、いや、魔神王の作った特異点では、マスターとなっている人間はほとんどいなかった。サーヴァントの魔力源は聖杯や土地に依存しており、マスターとなっていた者もギルガメッシュ王や女神ロンゴミニアドくらいだ。しかも召喚方式の違いで、令呪など持っていない。今回は何もかもが違うのだ。令呪を持ったマスターがいることが異常であり、全てのサーヴァントにマスターがいることも異常である。()()()()()()()()()()()()()()()()()のが、この特異点の異常のひとつだった。

 

「まあそれはそれとして、真っ先の脅威はアーチャーとセイバーじゃな」

「与一と廃棄物か」

 

与一は、神仏の加護を纏い、超威力の矢を放つ。その上「矢が命中する」という結果を作って放つので、必中の矢になった。挙げ句の果てに一枚だけなら防御状態を無視できると、厄介極まりないサーヴァントだ。

廃棄物は、新撰組を呼び出して数の暴力を行う。宝具のランクこそ低いが多対一の戦闘もでき、戦闘センスも他サーヴァントと引けを取らない。令呪によるもの思われる戦闘力の向上はともかく、先述の与一の矢を撃ち落とすという離れ技もやってのけたので、マスターは尋常ではない可能性も出てきた。

廃棄物はカルデアを狙い、与一はそのカルデアを襲いに来る廃棄物を狙っているという構図がある以上、カルデアはそんな二騎を相手にしなければならない。

 

「与一は藤丸をやろうと思えばいつでも狙える。必中であるからには、受けるサーヴァントが必要だな」

「せめてマシュがいればな……いや、今では詮無きことか」

 

弓ノッブの歯噛み。

 

「俺がやるにも、廃棄物のマスターは確実に俺を狙っている。アイツの餌として俺は機能せねばならんからな。俺と交戦経験のある戦バカが組んで廃棄物の相手をしよう」

「わしの援護は要らんな?お前の雑兵でどうにかなるじゃろ」

 

そしてキャスノブはマスターの盾にならず、廃棄物を斃す為に自らが囮になると言った。弓ノッブはそれを請負う。

 

「与一が神性を纏うなら、わしが一番相性が良いな。ならばわしがマスターの護衛を行う。ライダーはその宝具で廃棄物のマスターの居場所を突き止めよ。森に神性を借りた獣がおったじゃろ?あの辺は臭い。探ってみよ」

「応」

「薩摩の衆は指揮系統を全て据え置きだ。サーヴァントは物の怪の類だからな、人間の攻撃は通じない。相手にしないこったな。今まで通りにやってくれ。異論はないな?」

 

全員から肯定の声が聞こえた。

 

「それじゃあ始めようか。聖杯戦争、開始!」

 

藤丸立香は満を辞して、作戦開始の合図を執った。

 



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10節 島津戦線異常ナシ!?

───重い。

体が重い。心が重い。視界が重い。匂いが重い。音が重い。

全て令呪によって課せられたものだ。「織田信長だけをターゲットにする」。それが俺の、存在意義だと。

ふざけるな。俺は島津を殺したいだけだ。織田信長なんぞいつでも殺せる。
だのにアイツは織田信長を最優先で殺せと、それ以外には認めないと言ってきた。

まるで昔の俺だ。俺はあそこで、函館で、生にすがる腑抜け共に戦狂いと罵られた。今や俺は、そんな腑抜けと同じか……

いや、違う。
俺は、腑抜けなどではない。

断じてあんな見苦しいくそったれ共ではない。

俺は、俺は───


『トシさん、難儀だねえ。でも、自分を見失っちゃいけないよ』

どこからか声が聞こえた。それは、とても懐かしい声だった。

『トシさんには、まだ見つけるべきものがあるんだから』


重い首を持ち上げ前を向くと、変な格好をした女とその前に織田信長がいた。

「……」

周りの景色は視界から消えた。身も心も感覚も研ぎ澄まされ、錘のように感じていた全てが今までなかったかのようだ。理性が消えていく。あの声も聞こえない。あるのは、そう、殺害衝動。

───俺は、途方もなく飢えていたのだ。


ザっ、と彼の軍靴が地面を擦る音を聞くのは、2度目だ。だが2時間ぶりである。

 

「信長」

「如何にも。俺が第六天魔王、織田前右府信長である」

「死ね」

 

やはり、瞬きをする間も無く距離を詰めて、キャスターの信長に斬りかかった。

 

「おっと、危ねえな……そんなにお前ののマスターは余裕がないのか?いや、余裕がないのはお前の方か……!」

 

廃棄物のセイバーは素人目に見てもかなり焦っているのが見える。それを信長がさらに煽り立てる。ああもう綱渡りするなあ!とりあえず援護っ!

 

「バーサーカー!」

「応ッ!」

 

私の一声で赤い武者が草原から飛び出す。首目掛けて一直線、島津のバーサーカーの刀は放たれるが、それに初めから気付いていたかのようにセイバーはしゃがみ込み、島津のバーサーカーは突然現れた空気の流れに殴り飛ばされた。

 

「……島津、お前は黙っていろ。てめえは信長の後だ」

「お前、()()()()()()()()

「黙れ」

 

セイバーはただ前しか、信長しか見ていなかった。

 

「セイバー……?」

「どうした藤丸」

「いや、ちょっと……何か焦ってるだけじゃないような気がして」

 

けど今はそんな違和感の正体を考察する暇なんてない。島津は信長の『火薬の智将魔王』によって現れた兵士と連携し、セイバーに切りかかるが、そのすべてがかすりすらしない。回避のスキルを持っているのかな、なら……!

 

「礼装転換、『ロイヤルブランド』!バーサーカー、『必至(届け)』!」

 

必至、回避状態を無効にできるほど精緻な動きをさせるスキル。セイバーの攻撃がさらに磨きのかかる一撃になる。正直、アレを受けて立てるサーヴァントが思いつかない。そう思わせるほどの鬼気迫る動きと雄叫びが草原中に響いた。

 

「チ  ィ エス トォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

「……」

 

刀を振り下ろした。次に、耳をつんざく金属音。

 

「……うそ」

「……やはりか」

 

セイバーは直立のまま動かず、刀は半ばに抜いたまま、その刀身でバーサーカーの一撃を切っ先で止めていた。

 

「テメエは……すっこんでろ!!」

「!!」

 

またも風で飛ばされる。

 

「くっ、お願い沖田さん!」

 

赤い令呪をきらめかせ、サーヴァントの影を召喚した。名は沖田総司。天才にして虚弱、魔法に至る剣士。彼女の剣技はセイバーの中でも目を見張るものがあるが、今回はそれが目当てではない。

 

「バーサーカーの援護っ!」

「承知」

 

その一言で彼女は消える。縮地の歩法で転がるバーサーカーを受け止めた。

 

「バーサーカーの援護は良いが、俺たちはどうするよ、どんどん俺の兵切ってこっち来るぞ」

「そっちも!ニトクリス、ヘシアン・ロボ!」

 

ニトクリスの魔術で現れたミイラにセイバーの足を取らせ、移動ができなくなったところでロボが『遥かなる者への斬罪』で首を確実に刈り取ろうとする。が、

 

「真名解放。宝具開帳。ここより先は死線と思え。斬り捨てよ。薩奸死すべし。『新撰組』」

 

ここから先がセイバーの本気だった。

 

ミイラは瞬時に八つ裂きにされ、影とはいえど、宝具を発動したロボですら相手にならず宝具ごと微塵に斬り伏せられた。

 

「……な……っ!」

 

少し動揺した。けどまだ、まだだ!

 

「沖田さん、突破口作って宝具!バーサーカー!吶喊!」

 

沖田さんが突破口を拓くため、亡霊の群れに風穴を開ける。そこへ、バーサーカーが吶喊。そして、沖田さんの足は独特のリズムを作り出す。

 

「一歩、音越え」

 

音速に至り、周囲の亡霊は吹き流された。

 

「二歩、無間」

 

沖田さんの姿が消える。

 

「三歩、絶刀ッ」

 

次に姿を現した時は、セイバーの背後。

 

「『無明三段突き』!!」

 

防御不可の突きを、セイバーは刀で受け止めようとした。しかし、宝具によって現れる超局所的な事象飽和は刀を砕き、そのまま頸動脈に刃を滑らせた。

 

「……!!」

「そん首貰うた!!」

 

結果は誰にも見えていた。このままバーサーカーが行けば、セイバーの首は落ちる。

 

だが、そうはいかなかった。バーサーカーはこのまま行けなかったのだ。何かに弾き飛ばされて、首に刃がとどかなかった。

 

「……流石に、これだけの戦力では織田信長を狩れるわけにもいかないようだね。剣士の英霊よ、其方を過小評価していたことは謝ろう」

 

届かせなかった正体が、沖田さんを光線で貫く。

 

「沖田さん!!」

 

沖田さんは魔力の塵となってしまった。沖田さんは心眼を持っているのに、それでも回避できない殺気の無さ、予備動作の無さ。それは明らかに只者じゃない。加えてこれからしばらくは英霊の影を召喚できない。つまり、ノッブと信長、島津のバーサーカーで対処しなければならない。状況は、良くなかった。

 

『藤丸立香、すぐに逃げろ!ソイツの魔力は神霊級、いや、実在する神と同レベルだ!今の状況では勝てない!神秘の格が違いすぎて、話にならない!』

「何やら言っているけど、君たちはもっと先の未来の人だね?困るな、君たちはその時代で生きるべきなのに」

「お前はっ……」

「信長だけを殺すつもりだったけど、そうもいかなくなった。この時代を起点にするには、不純物がない状態じゃなきゃダメなんだ。例えば、死人が生きてここにいるとなればまずいんだよ。

ああ、僕のことかい?僕はサーヴァント・徳川家康。セイヴァー、救世主のクラスとして顕現した」

「救世主……?」

 

甲冑姿の青年は、徳川家康と名乗った。徳川家康が、救世主……?救世主ってキリストとかブッダとか、そういうのじゃないの?

 

『セイヴァー、救世主のクラスと言ったね。だがサーヴァントと言うには霊基が高すぎる。本来は何だ?グランドクラスか?それとも、人類悪か?』

「名探偵か、君の話は知っているよ。まさか英霊にもなるとはね。僕はセイヴァー。それ以上でも、それ以下でもない。セイヴァーという霊基がこうなのさ。少なくとも、僕はそう思う」

「徳川家康が、救世主の逸話を持ってるの?」

「ああ、持っているとも。この関ヶ原の戦いに勝利し、天下を泰平に導いた逸話があるじゃないか。2世紀半の安寧をもたらした、武将最後の英雄。これだけでも十分ではないかな?少なくとも、500年かけても天下を泰平にするどころか、人を人たらしむことすらできなかった神仏の類よりは」

「は?お前竹千代?三河の?今川と親父に良いよーに使われてたあの?へー、あん時の坊主が神仏貶して救世主名乗るとか尊大になったもんだなオイ」

「……織田信長。帰る場所なき過去の遺物。君は最初に涅槃へと導こう」

 

温かみのあった家康の口調が嘘みたいに冷淡になった。

 

「信長、これマズいんじゃない?怒らせたんじゃない?」

「知るか!」

 

家康背中から輪光の光背が伸び、光の球が浮き出る。その光は暖かく、自然と極楽浄土を思わせるものだった。

だが、私は知っている。藤丸立香は知っている。こんな状況で神様っぽいヤツが考えるのは、どれだけ耳触りが良くても倫理観が人じゃない!

 

「いや、だめだ!あの光はなんかやばい気がする!」

「おい!」

「撤退するよ!令呪をもってバーサーカーに捧ぐ!」

 

右手の刻印の一画が光り輝く。

 

「令呪か。そんなもので逃げられるとでも?」

 

光は家康の指に集中し、島津のバーサーカーに向けられる。その光線は島津に向かって真っ直ぐ伸びていくが、させない。

 

「ニトクリスっ!」

 

光線を褐色の少女が魔術で受け止める。その光をそらしたことを確認し、バーサーカーへ、命ずる。

 

「この地帯から私たちを連れて撤退!」

「ッ!」

 

令呪の一画が弾けた途端、島津は信長と私を抱えてあり得ない速度で駆け出した。たぶん音速に近い。こんな加速、礼装がなければ死んでる。

 

 

光は遠く。追ってくる気配はない。そのことに安堵しつつ、微妙な不安が心にかぶさった。

 

 

一方、ノッブ方面軍。

 

「……なんのつもりじゃ?」

 

ノッブの前には、気さくな美少年がいた。アーチャー、那須与一。日光権現、宇都宮、那須温泉大明神といった神性の加護を受けた矢を放つ、厄介な相手だ。狙撃に回られれば、並のサーヴァントでは勝ち目がない。それはアーチャーというクラス全てに言えることではあるが、那須与一はとりわけそうだった。だが彼は、ノッブの目の前にいるのである。

 

「おかしいと思いません?」

「は?」

「あなた一人で三千の銃を撃てるのに、私は一人でひたすら一矢ずつかけ射ねばならぬ。一つの矢が飛んでくれば、三千の銃を以って対応するでしょう。不公平すぎます」

「聖杯戦争はハナからそういうもんじゃろ」

「ええ。ですが、聖杯戦争は英霊の誇りをかけた戦いでもある。ですから私は一の矢を。あなたは一の銃を携えて、早撃ち勝負といきません?」

「うつけが、魂胆見え見えすぎて話にもならんわ」

 

誇りもクソもない源氏の者だ。了承した途端に真名解放からの宝具じゃろ。詠唱していたのも知っている。

 

「ですよねー…そういうわけで、英霊になってから()()()()()()()()()()()()()

「編み出した?」

 

与一は弓を引く。魔力で矢を編む。

 

「この生前で射た全ての矢を、ここで」

「まさか……!信長兵!方陣形、全方位、全方向対応射角にて備えよ!」

 

与一は天才ではない。秀才であった。凡人が天才に比肩するが如くの努力を積み重ね、源平一の射手となったのだ。その努力の跡全てを魔力で再現する、即ち、文字通り生前に射た矢の本数分を相手にぶつける第二宝具。

 

「『兵の夢跡』」

 

与一の矢は二本、四本と分裂する。それがノッブたちに到達するまでには、矢の総数はノッブが対応できる数の3倍を優に超えていた。

 

「こんなの聞いとらんわ……!『三千世界』ッ!」

 

信長から貸与された信長兵も15人と雀の涙。とても対応できるものではない。

自分の持てる全力で与一の矢を撃ち落とす。足りない、足りない、足りない!手数が足りない!肩に矢が掠った。腕を矢が貫いた。脇腹に矢が刺さった。

 

「グゥウ……っ!」

「あっははははははははは!さすがの魔王も形無しですね!兄上たちを思い出して、とても良い気持ちです。マスター、今首をそちらへ持て来たります故、しばしお待ち候へ!」

 

与一は矢をつがえ、引き絞る。そして、指に込めた力を解く直前―――――

 

ノッブの背後から、光があふれた。

 

「!!」

「うわっまぶしっ!?」

 

それはノッブから生まれた光ではなかった。少し離れで戦闘していた藤丸立香たちの場所で光があふれていた。その光はあまりにも尊く、反射的に拝みたくなる衝動が沸き起こる。

 

 

「ははぁ、なるほど!そう来ましたか!かような場所で、天は最高の思し召しを私に賜られた!マスター、少しばかり疾くすべし議がございますれば、これより帰還しても?……相分かり申した。あな、もののついでなれど、しかと信長の首も奉らむ」

 

与一が満を持してノッブの方を向けば、満身創痍で片膝をついていたはずのノッブの代わりに、木箱が置かれていた。木箱からはひもがはみ出しており、チリチリと火が箱へ近づいていた。

 

「なんですかこ……まずいっ!」

 

紐にともった火が木箱に至ったと同時に、木箱は無数の破片と炎、そして暴力的な衝撃へと姿を変えた。

なるほど、これが爆弾というものだろう。私の後の世で生まれた、効率的な殺傷兵器。

 

「……ぐっ、こんなたいそうなものをあの女は隠し持っていた……しかも悟らせることはなく……!しかもあの短時間で姿すら消したと……!?あな恐ろしや戦国の英雄!それでこそ斃しがいのある英霊ぞ!」

 

ああ、我が奉りし神性の降臨と戦いがいのある後世最大の英雄が同時に現れるなど!

与一の胸は、まるでクリスマスの朝にプレゼントが枕元にあることに気づいた子供のそれのような、かつてない高揚に満ちていた。



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短編・外伝・エクストラ
千文字強の短編:舞台の上のさらに上にて


ちょっとそれた話になります。FGOから少し離れて、ドリフターズのあの二人の会話をどうぞ




『カルデア、島津との盟約を結ばれり』

『関ヶ原の戦い、中盤に突入す。各武将の裏切り相次ぐ』

 

白紙から浮き上がった新聞の1面はこうだった。2面には『カルデア、動く』とある。

 

『民生屋』、『紫』なるアーリア人風で丸メガネをかけたやや痩せぎすの男は、貴重な昼休みをこうして趣味に使う。不思議な新聞で世界を見て、一喜一憂。2000年代以前と思われるアナログな職務机一面に散らかった(しかし整った)モノたちは放置して、人間を観察する。

 

───そう、人間観察。彼の趣味は人間観察だ。とは言っても、某人魚姫を書いたこじらせ作家のそれのような趣味ではない。世界の上から人の営み、人類の進化を見守る。彼はその世界に介入できるが、極力介入はしない。喩えるならば、サッカーや野球の観戦のような感覚だ。だが例外は存在する。今読んでいた新聞の状況、「カルデアとかいう傍目から見たら不審者集団にスポットライトが当たる関ヶ原」なんて状況は、その例外の中の一つだ。

 

そうそう、話は紫の趣味についてだが、昼休みには趣味に没頭する紫の元に、たまに邪魔が入る時がある。例えば……

 

ゾッゾッゾッゾッゾッゾッと白を黒が浸食し、シンプルな黒いロリータ服に身を包む黒髪美少女がドヤ顔しに来た時とか。

 

今まさにそんな時である。

 

「……失せよEASY」

「あら、まだ何も言ってないじゃない?」

 

紫は、彼女が嫌いである。同様に、彼女も紫が大嫌いである。白と黒で対照的な二人だが、嫌いな相手に対する対応も対照的だ。

 

「失せよEASY」

「失せてあげない。誰がアンタの指図で動くと思ってんの?」

「……」

 

紫は無視する作戦に出た。

 

「アンタも色々頑張ってるだろうけど、今回限りは何やっても無駄よ。サーヴァントが束になっても、精神だけの島津も、カルデアとかいう組織も、()()()()()()()()()()()、全て無駄よ。アンタがどれだけ人に頼ろうと、()()()()()()()()()()()。神代の終わりとは違うわ。人が軟弱になる時代に、全盛の神が負けるわけないじゃない」

「……フッ」

 

無視する作戦は失敗してしまった。わずかに鼻から笑いが出てしまった。紫にとってそんな言葉は可笑しくて堪らなかったからだ。それを見てEASYの嘲笑は加速する。

 

「あら?空元気?負けを認めちゃったから笑うしかなくなったのかしら?無様なことね!」

「いいや、違う。神なんぞに頼っておいて、後で敗北した時、どんな顔をするのかを考えると可笑しくてね。EASY、哀れな女。神は君のような哀れな者に手を差し伸べるべきだったのに」

 

EASYの顔は瞬く間に紅潮した。ああ、その無表情!ぶっ壊したくて堪らない!今の状況を見てそう思えるのね、能天気なやつ!ああくそ、お高くとまりやがって、気に入らない!

 

「せいぜい吠え面かくことねッ!!アンタなんか大ッッッッッ嫌いよ!!!!!」

「奇遇だな。私も常にそう思ってるよ、EASY」

 

できれば二度とこないでくれと声をかけつつ、退却していく黒にちらと目を一瞬やり、そしてわずかに不機嫌な心が求める癒しのままに、新聞へと目を落とした。3面には、『聖杯発見す』『島津「宝具?知らん」』といった見出しが現れた。

 

さて、何故神と手を結んだというEASYが絶対的有利にしか見えない中で紫は不敵にああ言ってのけたのか?それはEASYが嫌いだからというのもあるが、決して空元気などではない。紫は信じているのだ。人間の強さを。紫は信じているのだ。人の中の可能性を。きっと彼は、ある作家とは気が合うだろう。「人類皆強大」を座右の銘に人を愛する、ある作家と。

 




EASYは煽り耐性とか怒りの免疫ってあんまりないから扱いやすい感じはするけど、紫はかなり奥ゆかしく感じて、煽り台詞はこれでいいのかとかなりシミュレーションしました。「紫はそんなこと言わない」と言いたい方は感想を、「この作品、良いな」と思った人は感想をお願いします。多分どんな感想でも多分執筆速度は上がります。感想乞食ムーブやってますが、純粋にやる気が出るんですよね。どうしてでしょうか。まあ次回、「島津戦線異常ナシ!?」をお待ち下さいな


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