隻狼が荒れ寺で仏を彫っていたらいつの間にか荒れ寺ごと幻想郷にいた件について (荒北龍)
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変わり者の住まう寺

 

 

 

─────多くを斬った。

 

ひたすらに、その身が血で染まり続けてもなお、斬り続けた。

邪魔をするものは、大義、武功、覇業、求道、欲心、修羅……憎悪も憤怒も悲哀も何区別なく斬った。

為さねばならぬことがある。その為なら、邪魔するものは誰であろうと、容赦なく斬った。斬り伏せた。

数多の人を斬り、人ならざる者を斬り、神を斬り、不死を斬り、友を斬り、恩人を斬り、師を斬り、義父を斬り

 

 

主も斬った。

これを修羅と言わず、なんと言うのだ。俺は死に損なった。

 

しかし俺は、修羅にもなりぞこなった。

人を殺し続けた末に目にしたものは、【何も無い】

俺には人斬りの才があると言われたことがある。しかし、それが無くなれば、自分には何も残らない。

 

 

ただの抜け殻でしかないのだ。

 

 

 

 

§

 

 

 

気がつけばそこに寺があった。

それそれはみすぼらしく、ボロボロで、入口には夥しい程の札が貼ってある、ある意味異質な寺だと、人里ではもっぱらの噂である。

そして薄暗い寺の中に、男が1人座っているのだと。

黒く、ホコリやゴミが絡んだ汚い髪を後ろで束ね、左腕は半ばから切り落とされ、背中には紅い鞘の大太刀と、横には諸刃の刃をし、蓮の花の形をした鍔と、珍しい刀を横に置かれている。

その刀からは異質な気配が感じられるらしい。

 

人里では、種族の中で最も弱い人間が集まる街。ここでは妖怪たちが人を食ったり、襲ったりすることを固く禁じられ、それを破ったものには、巫女である博麗霊夢に死を持って罰せられる。無論巫女は人間であり、また様々な異変から幻想郷を守った巫女として、その実力は誰もが認める。故に妖怪たちは"人里は"襲わない。そんなことをすれば自分たちが確実に殺されると知っているからだ。

しかし、人里の外になると、それは妖怪たちが蔓延る異形の世界。

人間風情がたちいれば一日と原型をとどめることすらままならぬ世界。あまたの妖怪が住む森では、人間が一人や二人居なくなっても、誰が殺したか、誰が食ったか、さすがの巫女と言えど、それを特定するのは不可能に等しい。

しかし、この幻想郷にはいくつか掟がある。その中で最も知られるのが、

 

「一つ、人里を襲うべからず。その者には死の覚悟」

 

「二つ、妖怪山に普通の人間入るべからず。その者には死の覚悟」

 

「三つ、妖怪が食べるのは外来人に限る」

 

矛盾だらけのこのルール。

しかし、このルールのおかげで幻想郷は今も昔も平和が保たれ続けている。特に巫女と言う存在。

幻想郷における、巫女は警察のようなものをはたす。

悪さをするものを退治し、異変を起こした者に重い罰を与える。それが巫女の役目である。

特に人里には、好んで人里を守る妖怪や、中には神すらも住まうと言われている。

人里はある意味幻想郷における、最も安全な場所と言えるだろう。

 

しかし、外来人の男は人里に足を運ぶことは愚か、人里には近づくこともせず、人里から離れ、妖怪たちの住まう森で、好んで寺に住んでいるだとか。

しかも男は昼夜問わず、なにかに取り憑かれたかのうに、仏を彫っているそうで、その彫る仏は、仏らしからぬ顔をしている。

 

 

────怒りに狂っている顔をしているのだというのだ、仏が。

 

人里では嘘か誠か、そんな変わり者の男の噂が今では人里中に拡がっているとか、いないとか。

 

 

 

§

 

 

 

 





感想夜露死苦


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透明妖怪だと思った?残念無意識妖怪でした


久しぶりの二次創作だから結構時間がかかりました。すみません。


 

 

 

 

 

外が自分の居た場所と異なることはすぐにわかった。

 

しかし、それを気にしてどうにかなるものでもなし。俺が仏を彫ることに変わりはない。

そんなことを思いながら、後ろに広がる自分とは異なる世界を見ようとすることも無く、ただただ仏を彫り続ける隻狼。

無くした左腕の代わりに足で木材を押さえ、誰に教わったわけでもなく、自分の頭に思い浮かんだ顔を彫り続けた。そしてそれは決まって鬼のように憤怒する顔であった。

まるで仏師殿が作った鬼の様な顔をした仏たちのように、そして自分はそれを彫っていた仏師のように。

そんなことを考えていても、結局はどうにもならない。そう思うと、重い瞼を一度閉じて、無心になり、仏を彫る。それは最早隻狼にとって日課でしかない。何も考えずに、仏を彫り、出来上がればまた新しい木材で仏を彫る。

そうしているうちに、また一つ、憤怒した顔の仏が出来上がる。

果たしてこれを仏と呼んでいいのか、自分にはそれを考える余力すらない。

しかしながら、この不自然にも仏の腕に引っかかっている黒く可愛らしい帽子(・・・・・・・・・)を不自然に思う余力くらいはある。

隻狼は不自然に思いながら帽子を仏から掴み取り、マジマジと、自分の見たことも無い布地やデザインに少し興味が引かれた。

そしてまた、どこかで感じたことのあるこの違和感。そう確かこの、()()()()()()()()()違和感は確か···············

 

「あの白い布を被った猿以来か ··········」

 

あの幻覚のような世界に迷い込んでからずっと何かに見られているような違和感。他の三匹の猿を殺しても、その違和感は消えず、その違和感には恐怖すらした。

ほぼ勘で自分の背後を斬り裂いた。無論俺の刀は空を斬ったと思ったが、それは血肉を斬ったよく慣れた確かな手応え。そして猿は現れた。あの時の感覚によく似たこの感覚。

一度は遅れをとった。しかし二度も同じ過ちを繰り返すほど"元忍び"も甘くはない。

 

「何をしている」

「いったぁ!」

 

すると、諸刃刀に触れようとする自分の真横にいた少女のデコを軽くデコピンしてやると、少女は驚きと痛みに声を上げてデコをさする。

隻狼はそのまま帽子をぽすりと被せてやると、デコをさすって涙目になっている少女を見て隻狼は(少し強くやりすぎたか)と少し負い目を感じながら、軽く頭を撫でてやった。

 

「ねぇねぇ!どうやって私を見つけたの!?」

 

そう思ったのもつかの間、少女はすぐに顔を上げ、その純粋無垢な瞳を輝かせながら、こちらを見上げる。

 

「··········勘だ」

 

隻狼は無愛想に淡々と答えながら、仏を彫る作業に戻る。

 

「おじさんは何者なの?」

「······························仏を彫るだけしか出来ないただの"うつけ"だ」

 

自分はもはや忍びではない。ならば身分を隠す理由もない。しかし、名乗る名すら持ち合わせていない。故に空っぽで、何も無く、また己の道すらも見失った愚か者。

そんな者をうつけと言わずなんと呼ぶ。

狼、隻狼、修羅、御子の忍び、様々な名で呼ばれたが、今となってはそんな大層な名など、主を手にかけた時には既に捨てた。

己をうつけと名乗る隻狼に、少女は首を傾げた。

 

「うつけ?変ななまえ。おじさんて人間だよね?」

「··········いかにも」

「仏を彫るのって楽しいの?」

「···············いや、そうでも無い」

「じゃぁなんで彫るの?」

「····················さぁな」

「えーー、教えて教えて!」

 

「本当の名前教えてよー!」

「どこから来たの?」

「この仏全部おじさんが作ったの!?すごーい!」

「おじさん元は忍びなの?すごいすごい!!じゃぁ影分身とか螺旋丸とかできるの!?」

「私は古明地こいし!」

 

何者かと話すのはいつ以来だろう。この荒れ寺で仏を彫り始めて早数年。たまにエマが様子を見に来るが、たいして話すことも無く、ただただ自分のそばに座って、自分の仏を彫る姿をどこか懐かしそうに眺めていた。

そんな懐かしき記憶に浸りながら、こいしと呼ばれる少女の質問にそれとなく返す隻狼。

そんな少女からの質問は終わることを知らず、少女が質問しては、隻狼が答える。そんなことが幾度が続くと、不意にこいしからの質問の声色が変わった。

いや、それは質問と言うより、誘いだった。

 

────ねぇおじさん、かくれんぼしよ?

 

「····················」

 

その誘いに、隻狼は口を閉ざした。

この誘いを受けるか、それとも断るか。受ける理由もなければ、断る理由もない。

しかし、この誘いにはなにか意味があるのだろう。少女の瞳からは、そんな何かを期待するようなものが感じた。

少しの間、隻狼は少女を見つめると、仏を彫っていた手を止める。

 

「···············このようなうつけでよいのならば」

「本当!?それじゃぁおじさん鬼ね!」

 

少女は上機嫌なのか、腕を広げてクルクルと回ったりぴょんぴょんとうさぎのように跳ねたり、隻狼の周りをスキップしたりと落ち着かない様子。

そうしているうちに、いつの間にか寺の入口に立って隻狼を見つめていた。

 

絶対見つけてね?

 

そしてにっこりとどこか期待に満ち満ちた笑みを浮かべるこいしに、隻狼は相変わらず静かに、淡々と

 

「···············御意」

 

と、短く返事をするのであった。

 

 





面白かった次回が楽しみだと思ったり、誤字脱字があったり、なんかアドバイスがあったり、間違ってるところがあったら感想お願いします

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ひとりぼっち、見みえた見つけたり

 

 

 

「···············」

 

こいしは消えた。()()()()()を始めた途端、意識する前にこいしはどこかへ消えた。それはまるでこいしという存在が元々存在していなかったかのように。

それにも関わらず、隻狼は驚くことは無い。

なぜなら彼女は消えた訳では無い。ましてや姿を消したわけでも、音をなくしたわけでも、気配を消した訳でもない。彼女は()()()()()()()()()()()()なのだから。なのに彼女は誰も見つけることが出来ない。

 

(·························)

 

何だ、この人も結局私が見えないんだ

こいしはそんなことを思いながら、隻狼に顔を近づけた。普通であれば見た目が少女にしても、急に顔を近づけてくれば驚くか、後ずさるが、それをしないと言うことは、自分が見えていないと言うあかしだ。

こいしはガッカリしたように隻狼の顔を見つめて目を細めた。

 

(バイバイ、私を見つけてくれてありがと。とっても嬉しかったよ、"うつけ"のおじさん)

 

きっともう自分を見つけてくれる者は誰もいないのだと、そんな思いを胸に、先程までの胸に満ちていたあの期待と愉快な気持ちは失ってゆく。

かわりに、先程までの笑みは失せ、目は黒い絵の具で塗りつぶしたかのように不気味に黒く染まり、その視線は氷より冷たく、恐ろしい。そして、ひどく興醒めした。

こいしは隻狼に背を向けて荒れ寺を出ようとする。どうせこの寺には元々用はない。人里で噂になっている『妖怪山近くで怒った仏を掘る奇人』を聞いて暇つぶし来た程度なのだから。きっとこの寺を出れば、こいしは隻狼の事など忘れ、また別のことに意識を向けるだろう。

そしてこれからどこにゆこうか、次は何を見ようか、そんな思いを胸に、寺の外へ出ようと足を前に出した刹那、その思いは手首の軽い違和感によって一瞬にして消えてしまった。

 

「───────アハッ、ミツカッチャッタァ♡」

 

後ろを振り向けば、荒れ寺を出ようとする自分の手首を強く掴む隻狼の姿が自分の目にはっきりと写った。

そして今度は先程とは比べ物にならないくらいの期待と、愉快な気待ちと、頭がおかしくなりそうなほどの興奮と快楽が身体中を駆け巡った。

 

「··········見つかったのに嬉しそうだな」

「うん!だってはじめてなんだよ?誰かが()()()()()()()()()()()()()()

 

きっと少女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだろう。でなければ"この程度"のことでここまで喜ぶはずがない。

 

十中八九この妖術は自分の意識とは別に発動しているらしい。もしもこの妖術が自分の意識で自由自在に操れるならば普通、妖術を見破られて悔しい、などそう思うはずなのに、こいしはそれとは別に顔では隠しきれない程の喜びを露わにしていた。

想像もつかないだろう。自分だけがこの世から存在するのに存在しない、透明人間のような人生。

どれだけ叫んでも、触っても、願っても、それは届くことは疎か、見つかることはなく、意識さえされない世界など、生きるに値するだろうか。

 

否。それは見失ってしまいそうなほど、気の遠くなってしまうほど、辛く、哀しく、退屈で、ただ見ていることしか出来ない世界など、生きる意味すらない。

 

それでもこいしは生きることを選んだ。どれだけ自分が言葉を発してもそれは誰の耳に届くことがなくとも

 

たとえ自分がそこに居ても居ないものと認識されようとも

 

たとえ何百人、何千人と、自分の存在に気が付かぬとも、それでも、それでもなお少女は、こいしは

 

生きる道を選んだ。

 

退屈で退屈で、自分の存在が誰からにも気づかれなくとも、ただただそこに漂うだけの存在になろうとも、それでもこいしは生きることを選んだ。

 

もしもこれがこいしでない誰かなら、その者はそれに耐えられず、自害を選ぶだろう。

それほど辛い世界なのだ、こいしの生きてきた世界とは

 

「···············どうした、これでおしまいか?」

「····················!それじゃあ今度は本気で()()()から、絶対見つけてね!」

「·········良かろう」

 

 

そんなひとりぼっちの世界で生きてきた少女の"遊び"に付き合ったくらいで、きっとバチは当たらぬだろう。

そんな思いを背に、再び自分の視界から消えるこいしに対し、隻狼は再びこいしを見つけることだけに意識を向けた。




最近ジャンプの方が暑いですね。とくに鬼滅の刃とか。
そういえばチェーンソーマンと呪術廻戦 のキャラが横に並んでても違和感がない気がするの自分だけっすか?
さて、今日はここまでです。また次回会いましょう。
あ、早く今月号のジャンプ買わなきゃ

高評価おねがいします


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こんな所で久しい名を聞いた

 

 

 

 

「うつけさんの持ってるその刀。ずっと前に紅魔館で見たよ」

「···············そうか」

 

そう言って何度か『かくれんぼ』をした後、こいしが何かを思い出したかのように俺の腰に携えていた『開門』を指さしながら答えた。

 

そう言ってすぐにこいしは「今度は"うつけ"さんが私に会いに来てね」とだけ言い残してどこかへ消えてしまった。それはまるで嵐のような子で、隻狼は久方ぶりに体を動かしたせいか、それとも歳のせいか、体がどっと重くなるのを感じながら、こいしが言った『紅魔館』と言う単語が頭から抜けなかった。

この刀は"葦名 弦一郎"と、その祖父である"葦名 一心"と刀を交えた末に預かった代物。

 

もしかすればこいしの見間違えという線も···············とはまるで思えない。何せこのような刀は探したとて早々に見つかる代物ではない。

それにこのような異質な刀を見た目が似てるだけの刀と見間違えるはずもない。ましてや嘘をついているなどとはとても思えない。そもそもこの刀は元々俺のいた世界のものであって、元は弦一郎が所有していたもの。

もしやすると三つ目の不死斬りという事は··········それもありえまい。

 

そうして隻狼はこれ以上考えても埒が明かないと、紅魔館にいけばきっと何故そこに不死斬りがあったのか、不思議とわかる気がした。

 

····················紅魔館、縁があればいつか

 

そう思いながら空を見上げれば、既に日は沈み、外は暗くなり、星々と、大きく欠けた綺麗な三日月が地上を照らし、木々やその間に生える竹草の葉の上で鈴虫が鳴いている。

今日は良い夜だ、と呟きながら荒れ寺には戻ろうとすると、既に少女は立っていた。

 

「こんばんわ。あなたが人里で噂の『奇人』ね?····················随分と貧相ななりね」

 

そこに立っていたのは青みのかかった銀髪に、月の光に反射してギラつく赤い瞳はルビーさながら。身長は一般的な9、いや10歳くらいの人間の身長とほぼ変わらず、見た目はほぼ人間の幼女であるが、背中からはえる異質な黒い翼を見るだけでこの者は人間でないと隻狼の思考が断言させる。

頭にはナイトキャップを被り、周囲を大きな赤いリボンで締めており、全体的に白い服装で、腰や裾にはナイトキャップと同じように赤いリボンで縛られており大きめのスカートは踝辺りまで届く長さ。

 

「···············迷子?」

「違うわよ!!」

 

そんなことは隻狼も百も承知、言うなれば、ただ言ってみただけと言うやつである。

少女も思わず反論する。

 

「まぁ見た目が見た目だから仕方ないわね。まったく、不便な体よ」

 

少女は小さくため息を吐いて、口から愚痴をこぼすと、仕切り直しと言わんばかりもう一度隻狼の顔を見て笑顔を取り戻す。

そして今度は礼儀正しくスカートの左右の端を軽く摘み上げると左足を右足の真後ろに持ってゆき、軽く頭を垂れながら少女は名乗る。

 

「私は紅魔館現当主にて、偉大なる吸血鬼一族であるスカーレット家長女 レミリア・スカーレット。こう見えて貴方より年上なのよ」

「···············」

「あら、私がせっかく礼儀正しく名乗ったのだから、あなたも名乗るべきじゃないかしら」

 

少女、ことレミリアの口は空に浮かぶ三日月のように口の項を吊り上げながら、まるで隻狼を見下すかのように笑っている。

だが、レミリアの言い分も正しい。しかし、自分には名乗るほどの大層な名は持ち合わせてはいない。

 

「··········元忍ゆえ、名乗る名など持ち合わせてはいない」

「···············ふぅん。随分と無愛想なのね、"弦一郎"の言った通りだわ」

「····················」

「ふふ、なんで知ってるか知りたそうね」

 

なぜ、とは言うまい。

自分がこの異界に居るように、自分以外の誰かが元いた世界の者がここに居ても、それは何らおかしなことではないのだから。

 

「ねぇ、あなたが殺したんでしょ?弦一郎を」

「···············いや」

「あら、そうなの?」

「あ奴は······俺との戦いの末、自害した」

「·························ふぅん」

「最後まで、葦名の事を言っていた」

「····················そう」

 

レミリアの笑みが消え、代わりにどこかガッカリしたような、残念そうな、そしてほんの少しだけ悲しそうに目を細めながら視線を少し下にずらす。

そしてほんの数秒だけ、その虚ろな瞳を隻狼に向け、隻狼を凝視した。

しかしレミリアはすぐに何かに呆れたように、わざわざ隻狼に気づかれるようにわざと大きくため息を吐いて、少しだけ目を細めた。

 

「···············どうして人間の武士はすぐ死にたがるのかしら。どうせ短い運命のくせに···············本当に馬鹿な奴」

 

隻狼が口を開けることは無い。なぜなら自分は、忍であり武士ではない。

レミリアは気を取り直すかのように、こちらに目線を合わせ、ニッコリと絵で描いたような笑みを浮かべ、再び会釈した。

 

「これからあなたを私の屋敷、紅魔館にご招待するわ」

 

今度はイタズラ好きの少女がうかべる、楽しそうな、そしてどこか悪意の籠った笑みで

 

 

「勿論、あなたに拒否権などないわよ」

 

 






おっそくなりましたァ!
やー!オリジナルの方も書いてたらすっかり時間食っちゃいまして!
そういえば最近はシャーマンキングの葉アンにすっかりハマっちゃいまして、やーごめんなさい<(_ _)>〈 ゴン!〕
そんなわけで今度は紅魔館に隻狼がご招待!
そして、レミリアと弦一郎に一体どんな関係なのなか!乞うご期待

┌(┌ ^p^)┐テンション高いな


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腑抜けな忍びが二人

 

 

「ほぉ、あの時の腑抜けではないか」

「····················弧影衆」

 

弧影衆

 

政府の忍であり、その戦い方は独特で、主に刀ではなく足を使い、その技は仙峯寺拳法の伝書に書かれた仙峯脚にも似た戦い方をしている。

他にも下段、突き、そして脛の部分にクナイをくくり付けその威力を強め、懐に隠したクナイは遠距離から敵を仕留めるため。

そして戦う際は、常に外套で左腕を隠しているが、不意打ちを狙ったものなのだろう。

そして弧影衆には左腕を毒に侵し、その腕を凶器に使う者もいる。

他にも口笛を使い忍犬を使う物。

そしてその弧影衆一人一人が実力者でおり、そのものたちを束ねる者が、自らの名を捨て"太刀足""忌み手"などと評される。

そして今、その弧影衆を束ねる実力者である"太刀足"が紅魔館の門のど真ん中に立っている

 

「あら、知り合い?」

「1度殺した」

「10回ほど殺して1度殺されかけた」

「あまりいい関係じゃなさそうね」

 

その割にはあまり敵対してないわね、とつけ足しながら、レミリアはどこかおかしな単語が聞こえたような、と思いながら門を開ける。

 

ちなみにこの幻想郷では死にかけの人や、1度死んだ人間も紛れ込む。どうやら紫がいじくったのか、殺されて蘇生されてから幻想郷に来る人間も少なくはないので、レミリアが引っかかった言葉は殺したという単語では無いのは確かだ。

 

「····················拾われたか」

「拾われたのだ。お前に殺されたあとな」

「瀕死でぶっ倒れてたし、殺すのもなんかもったいないから拾ったのよ。それにこいつ掃除も料理も警備も一流で助かってるのよ」

 

かつて何度も自分を蹴り殺し、斬り殺した相手は、今では屋敷の掃除や料理やらをやっていると聞いた隻狼は、随分と忍びが丸くなったなと思ったが、それは自分も同じか、と思うのであった。

 

「それじゃぁ門番はもういいから、次は窓拭きお願いね」

「いいだろう」

 

そう言って一足先に太刀足は屋敷の中に入っていった。

 

「···············弦一郎は、何がしたかったのかしらね」

「葦名を守りたかった。それだけだ」

 

弦一郎はずっとそうだった。

葦名を愛し、葦名を守り、葦名の為に戦い、最後は己の無力を嘆きながらその使命を祖父に託した。

人は弦一郎を愚か者などと罵るかもしれない。

弦一郎がした事は歴史に名を刻む程のことでは無い。

小さな国が、大きな国に潰された、有りきたりの話。

しかし、それでも葦名弦一郎は、倒れず、諦めず、血反吐を吐きながら、禁忌に手を出しながら、自身の身体などとうの昔に壊れてもなお、弦一郎───

 

止まらなかった。

 

───俺とお前は似ているな

 

「あぁ、そうだな」

「···············?」

 

その姿が、その生き様が、修羅の道に片足を入れたその瞳瞳が、その鬼のような不屈の精神が、どこか自分に似ていた。

 

「ねぇ、弦一郎は死ぬ前に私と約束したことがあるのよ。その約束、弦一郎を殺したあなたが果たす義務があるんじゃない」

「····················」

「沈黙はYESでいいのかしら?」

 

三日月型に口角を上げ、異様に発達した牙を見せ、背中に生えたコウモリのような翼を広げ、どこか怪しい雰囲気をだす彼女の姿は、幼女の姿ながら、500年生きた吸血鬼だと確信させた。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

「それじゃぁまずは屋敷の窓拭きからね」

「····················」

「またあったな。そしてここではお前の名前は新入りだ。わかったか新入り」

「···············承知した」

 

三角巾を頭に被り、雑巾とエプロンをつけた弧影衆の姿と、全く同じ装備をつけられた隻狼の姿は、何故か絵になっていた。




FANBOXの方でリクエストやってるんで、そちらもどうぞ。

リンクも一応貼っときます→(https://ryuseime.fanbox.cc/)


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捨てた名、与えられた名

 

 

 

 

 

「「·····················」」

 

かつて幕府に雇われた忍、弧影衆が筆頭の一人太刀足と、葦名から御子を護ろうと修羅に堕ちた御子の忍。

お互いに名はなく、忍としての字名を与えられ、お互いはそのまま人としての名を与えられることはなかった。

ただ、主の命令通り命を奪う殺戮兵器として生き続けた。

 

二人は黙々と部屋の掃除をしていた。

 

 

「我はここに来て数年経った」

 

 

突然太刀足が口を開き、その話を狼は無視することなく耳を傾けた。

 

 

「人を殺さずに貰う銭···············存外悪くはなかった」

 

「···············そうか」

 

「俺はもう、忍として終わってしまったようだ」

 

「そう、か··········」

 

忍として終わる。

それは死ぬ事では無い。

道具である事をやめた時、忍は忍で無くなる。

人としての情を持ち、人殺しに疑問を抱き、何も考えずに誰かを殺すことの出来ない忍びなど、それはただの人斬り。

忍びは何か考えてはならない。

忍はただ、道具として何も考えず、目の前の敵を殺し、主君の命令に従えば、それでいい。

それ以外を得た時、その者は忍びでは無い。

 

そして、自分もこの男のように既に、忍としての自分は死んでしまっていた。

 

 

「他の弧影衆はどうなった?」

 

「···············」

 

 

弧影衆は大勢斬った。

おそらく太刀足の仲間と呼べるものは誰一人この世に残ってはいまい。

それほど多くを斬った。

後悔はない。気の毒とも思わん。

自身の目的のために邪魔な者は大勢殺してきた。

今更も今更というもの。

 

何より、腐っても忍。

死ぬ覚悟もない臆病者など、誰もいなかった。

死んだら、それまでだったということだ。

 

「そうか」

 

太刀足はそのあと何も言わなかった。

ただ淡々と掃除場所を言い、掃除を進め、何も言わず、掃除が終われば姿を消した。

 

「あいつね、最初の頃はもっと反抗的だったのよ」

「···············」

 

突然自分の後に現れたレミリアに隻狼は驚きはしなかった。

ただ、かつて首のない妖怪と戦った際、逃げようとした瞬間突然背中から現れ、自分の後ろの穴に手を突っ込まれて殺された経験を思い出し、レミリアから距離を取り、サッと尻を隠した。

 

「何よ、何もしないわよ」

「いや、なんでもない」

 

何かとんでもなく失礼なことを思われたと思いながらも、そこは流した。

 

「···············影か」

「あら、鋭いわね」

 

隻狼は自分の影を見つめながら、再びレミリアを見た。

影に入る物の怪は見たことがなかったが、自分の影のようなものを飛ばし、複数体になって戦う者がいた事を思い出す。

幻術か、あるいは妖術か、どちらにせよ目の前の女もそれに似たようなことが出来るのだろう。

 

「アイツから渡すよう頼まれたわよ」

「···············これは」

「わざわざ手紙なんて渡さなくても、直接話せばいいのに。て言うか私に雑用押し付けるなんていい度胸してるわねアイツ!私雇い主なんだけど!」

 

 

そんな愚痴を零しながらも、隻狼に太刀足からであろう手紙を渡される。

 

───今夜、門の前へ来い。主無き忍よ

 

 

 

 



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