篠ノ之束と共に目指す無限の可能性 (マスターBT)
しおりを挟む

夢を束ねて善となす

受診して書いたらぬるぬる動いたので。投稿してみました。
過去最高に長い短編です。どうぞ。


「わたしね!これで宇宙に行くのが夢なの!」

 

茹だる様な夏の日。偶々、親戚に用があったから訪れた神社で、私より遥か年下の10歳前後の少女の夢を聞いた。

その子は年齢にしては成熟しており、偶々機械工学を学生の頃学んでいた私だから理解できた図面を一から作っていたのだ。

それに対してちょっとした横槍を入れたのが気に入られた要因だったのだろう。

怒涛の勢いで意見を求められ、答えていきそしてあの時、夢を聞かされた。きっと、彼女の熱意を知らないままでいたら、若しくは子供だからと受け流していたら、私と彼女の関係が構築される事はなかっただろう。

 

私は彼女の熱意を理解していたし、不思議と実現できるかもしれないと思っていた。

だから私はこう答えた。

 

「良い夢だな。では、私はその夢を支えよう。なに、政界で凍りきっていた私に熱意を教えてくれた礼だ」

 

「ほんと!?」

 

「あぁ、本当だとも。男に二言はない」

 

「完成したら善さんも乗せてあげるね!」

 

「楽しみにしていよう」

 

差し出された小さな小指に自分の小指を結び、約束する。

これが後にISを生み出し、天災として世に名を知らしめす篠ノ之束と、日本総理大臣になる私、野上 善太郎の物語が始まった瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束と別れ、彼女の両親に挨拶をしに行く。

彼女から受け取った熱意を冷ます訳にはいかない。今、私は好奇心に身を任せ全てにチャレンジしていた少年時代に戻った様な気分だった。仕事場に戻りまずなにをすべきか。彼女の夢を支えるには良質な研究所と彼女を異端と思わない研究者を集める必要がある。

それと資金もだ。それらをどうするか考えながら、立ち去る旨と娘さんの夢に協力するという話を両親にしなければならない。

 

「あら善太郎さん、もうお帰りですか?」

 

「はい。少々、やるべき事を見つけたので。しかし、その前に束さんのご両親であるお二人に話をしておきたい事があるので、旦那さんを呼んで貰っても良いでしょうか?居間かどこかで腰を落ち着けて話をしたいので」

 

私の話を聞きながら、奥さんの顔色がどんどん青ざめていく。

…ふむ、これはどうにも嫌な予感がするな。

 

「束が何かしましたか!?一体、どんな無礼を?

あぁ、すみません。あの子変でしょう?私らがなにを言っても全く聞かないんですよ。今度、言い聞かせておきますので今回は許してください」

 

怒涛の勢いで話し、私にペコペコと頭を下げてくる。この光景に私は絶句した。

親は確かに子が悪い事をすれば叱る。しかし、親は子の味方なのだ。血を分け腹を痛め産んだ子。可愛くないわけがない。

だというのに、今私の目の前の光景は異質だ。私は一度も、束さんに何かをされたとは言っていない。

なのに関わらず、この態度。もう、親の中で外部の人間が束の話=悪い事となっている。

 

「……いえ、束さんは私に何もしていませんよ」

 

言いたい事をグッとこらえ、言葉を発する。我慢するために握り締めた拳がめちゃくちゃ痛い。

だが、ここで私が理性を手放し怒ったところで何も変わらない。

 

「本当ですか!?では、なぜ私達に話を?」

 

「それをここで済ませる気はありません。私は居間で待っていますので、旦那様を呼んで来てください。では」

 

スッと頭を下げ足早に居間へと向かう。

そうでもしなければ我慢の限界が来てしまうと思ったからだ。確かに彼女は異質だ。

だが、その異質さを認め共に歩んでやるのが親ではないのか…!

怒りを必死に抑え、深呼吸をし居間で待つ。喧しいばかりの蝉の声がこの時ばかりは、私の意識を逸らしてくれる。

しばらくそうしていると、篠ノ之夫婦がやってくる。旦那は剣を振っていたのだろう。

道着を着たままだ。私が急いでる風に見えたのだろう。

 

「束のことで話があると聞きましたが」

 

「はい。まずは、お二方座ってください。落ち着いて冷静に話をしましょう。

私は束さんの苦言を言うためにこの場を用意した訳ではありません」

 

未だ強張った顔の二人を安心させるために言ったが意味はない。

ガチガチの表情のまま二人は私の前に座る。

その姿に隠しきれないため息を零しつつ、私は口を開く。

 

「偶々、機会があったので用事を済ませた後、奥さんに出会うまでの間束さんとお話をさせていただきました」

 

「一体、どんな話を…?」

 

「彼女の夢の話です。今の技術では到底叶うことのできない、しかし理論は通る製図。

それを私は目の前で見ました。驚きましたよ、あの歳の子が元機械工学を専攻していた私すら即座に答えられない質問をするのですから。

そして同時に私は思いました。彼女の才覚を鈍らせる訳にはいかないと」

 

無意識のうちに自身の言葉に熱が宿っていた。

彼女から受け取った熱意が私を燃やしているのだろう。この熱はもはや抑えられるものではない。

 

「私は政界の人間です。故にこれから彼女が受け入れられる環境作りに邁進するつもりです。

お二方への話とは、私が全ての手筈を整えた後彼女を迎えにくるので、その時私に彼女を預けてほしいというものです」

 

深々と頭を下げる。娘を目の届かぬところに出すと言っているのだから、ここで打たれたり罵倒されたりしても受け入れよう。

私がした提案というものはそれ程までに酷なものだ。しかし、返ってきた言葉は全く予想していないものだった。

 

「…善太郎さんや。アレを過大評価していないかね?」

 

「いえ!決してその様な事は……」

 

顔を上げ旦那さんの顔を見て言葉を失う。

まさか、私の熱意が全く伝わっていないとは思わなかったのだ。

 

「アレはどこか壊れている。生まれつき、人として持つべきものを持っていないんだ。

知っているかね?私達すら興味のない顔で見てくるのだ。その辺の道端の石を見るような目をする時だってある。

確かに頭は良いのかもしれない。だがね、私にはアレが上手くやっていけるとは到底思えん」

 

「…私もそう思います。善太郎さんが何を見出したのかは分かりませんが……」

 

……さて、どうしたものか。

旦那さんは私の目を見て堂々と、奥さんは俯きながらも自分の言葉におかしいところはないと思っている。

彼女はこんな環境で生きてきていたのか……自分を理解されず娘いや人として見られているかも怪しい。

家でこれなら学校ではもっと酷いだろう。これでは説得は……

 

『約束だよ!』

 

脳裏に嬉しそうに笑っていた彼女が過ぎる。

私は両頬を勢いよく叩いた。凄まじい音がなりご両親が驚いた顔で見てくる。

私は何を諦めていた?この程度で、彼女の夢を支えると言ったのか私は。情けない!彼女の才覚を信じたのは誰だ。

私だ。彼女が諦めていないのに私が諦めてどうする。彼女が超えなければならない山はもっと険しい。

 

「ふぅぅぅ…失礼、驚かせましたね」

 

「いえ…それで目は覚めましたか?」

 

旦那さんが何故か安心した顔で言ってくる。

どうやら私の先ほどの行為を自分に都合よく解釈したのだろう。だが、違うぞ間違っている。

 

「いいえ。私は彼女という無限の夢を見続けます。これからもね。

お二人が言うことが分からないと言うわけではありません。ですが、私は私が見た彼女の笑顔を見限る事は出来ません。

2年…いや、1年待ってください。必ず、1年以内に彼女の居場所を作ってみせます。

それまでに私が彼女を迎えに来れなければ、貴方達の言葉が正しかったと。現実は残酷だと受け入れましょう」

 

スッと立ち上がり二人を見下ろす。

これは私の意思表示だ。私は二人では辿り着けない場所に行ってみせるという。通じるなんて思わない。

きっとこの二人の中で私が少女の夢に踊らされる可哀想な人という評価は覆られないだろう。それで結構。

 

「お二人にとっても都合が良いでしょう?

自分たちの悩みの種が消えるのですから。暇を見つければ私はここに来るつもりです。貴方達に任せていては、束さんの心が腐っていく」

 

「…………分かった。1年待とう。

だが、それを過ぎればここで発した無礼の数々の詫びをしてもらいますからね」

 

「構いません。では失礼」

 

約束はこじつけた。

もうここにいる理由はない。座ったままの夫婦に軽く礼をし私は居間を出る。そのまま、玄関へ行き外へ出る。

暑苦しい日差しと外気が私を出迎えるがそれらを無視する。

 

「善さん!」

 

「ん?束ちゃん、何か用かね。私は今から仕事に戻らなきゃいけないのだが」

 

立ち止まり、振り向く。

走ってきたのか少しだけ息が乱れている彼女。彼女は目一杯空気を吸い込み口を開く。

 

「1年!私、ずっと待ってるから!!善さんが迎えに来てくれるの待ってるからね!!」

 

走ってきた時より大きく肩を上下に動かしながら、彼女は私を見送る。

全く、そんな姿で背を押されてしまってはやる気が溢れてしまうじゃないか。

 

「あぁ!必ず、君を迎えに行こう!!」

 

大きく手を振る彼女に同じく振り返しながら篠ノ之家を後にする。

車まで戻ると秘書が何やら冷たい目で私を見ていた。何故と疑問に思ったのでその目は何かね?と聞いてみると一言。

 

「ロリコン」

 

と返された。

……違うぞ!!私にそんな趣味はない!!どうやら最後の大声でのやり取りは全て聞こえていたようだ。

マスコミが居なくて良かったと心の底から思ったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秘書の誤解を解きつつ、事務所に戻った私はまず現在の首相に連絡を入れた。

優秀な人材を集めるのには私のコネと権限では足りない。可能なら首相からそういう仕事か役職を。贅沢を言うなら国全体で動いて欲しい。

一応、私が所属する党が与党なのは幸運だ。首相と知らない仲ではない。

総理秘書にアポを入れ、電話を切った私はそのまま次の電話をする。日本での大手企業に片っ端から連絡するのだ。

無論、支持する束がまだ少女であるためすぐに良い返事は貰えない。なんなら罵倒される時すらあった。それでも根気強く連絡をしていく。

日が落ち、世界に暗闇が訪れる時、一つの企業が答えてくれた。

企業の名は『倉持技研』現在、様々な分野に手を伸ばす企業だ。すぐにでも面会したかった私は無茶を承知で今からでも良いかと伝えた。

すると、それで構わないと返事をされたので自分の車で倉持技研まで向かった。

 

「…ここが倉持技研か」

 

無茶な要望に応えれてくれた倉持技研。明かりはまだ灯っており多くの人が働いていると分かる。

受付を通り倉持技研の社長の部屋に案内される。

 

「ようこそ倉持技研へ。私が社長の倉持 優作だ。野上 善太郎議員」

 

白髪で柔和な笑顔を浮かべ握手を求めてくる。

それに応じ互いに話し合いのテーブルにつく。私は早速彼に束の夢の話をした。

彼女がその身に似合わぬ大きな才覚がある事を。全てを伝え終わり反応を待つ。

 

「…ふむ」

 

彼が一言発するだけで唾を飲み込む自分がいる事に自覚した。

顎に手を当て真剣に考えている様子の倉持社長。その姿をじっと見つめ、部屋には時計が時を刻む音のみが響き渡る。

 

「…貴方はどこまで彼女の夢を支えるつもりかね?

彼女の願いが叶ったとして、優れた技術は争いを生む。軍事転用され争いが起きるかもしれない。

貴方は彼女の発明一つで起きるかもしれない人災を未然に防ぐところまで支えきる覚悟はあるのかね?」

 

この人は夢物語と見ていない。

彼女の夢の先を見ている。そうか、確かにそうだ。彼女に争いの意思がなくても優れた技術は争いを生む。

そう、第二次世界大戦に使われた原爆の様に。アインシュタインはあの様に使われる願いなんて持っていなかった。

 

「…そうですね、今貴方の言葉を聞き私は熱に浮かされていたと自覚しました。

ありがとうございます。落ち着いて物事を見定める事が出来そうです」

 

「それは良かった。電話越しでも分かるほどの熱量だったからね。

私はその熱を知りたかったからこうして話をしに来て貰っているのだが」

 

「それに関しても感謝します。それと、先ほどの返事ですがその覚悟を今決めました。

必要とあればこの国のトップに立ち、それらの法を全て定めます。決して、彼女の技術が、彼女の夢が汚されない様全力を尽くします。

ですから、お願いです。貴方の力を、倉持技研の力を篠ノ之束に貸してください!!」

 

椅子から降り土下座する。

今の私には頭を下げることと確約されない未来の約束をする事しかできない。それでもそれをするしかないのだ。

全ては夢のためだ。

 

「……ふっ、顔を上げてください。

分かりました。我々、倉持技研は力を貸しましょう。少女の夢が形になるところを共に見届けましょう」

 

「あ、ありがとうございます!!!!!」

 

差し出された手を握りしめる。

こうして私と倉持技研の間に、共同の目的が生まれた。そこからの話は早かった。

倉持技研が企業である以上、利益を出さなければならない。束は夢を叶える、私はその夢を支えたい。

だから、利益を倉持技研に出すという事で話がついた。勿論、今後複合企業でやっていく場合になっても良い様に話を詰めた。

流石は社長だ。私より経済の知識がありそれらをどう使うかが上手い。

ある程度話を詰めていき、今日は解散となった。

その後、私は総理と話をし3ヶ月の月日がかかったが、束の夢を支援する為の役職をくれた。

その権限と倉持社長のコネを借り、必要な施設、人員を日本各国からかき集めた。夢の準備段階が全て整った。

 

 

 

約束の1年が、2ヶ月後に迫った日。私は篠ノ之家を訪れていた。

休む事を極力せず、働いた結果白髪が増えたが束は気づいてくれるだろうか。一応、合間合間機会を作り会ってはいたが。

乙女か私は、ぐるぐると心配ばかりして。想い人に会う前の思春期の少女か。いい年したおっさんが全く。

自分でツッコミを入れ、インターホンを押す。すでに束の両親には迎えにいくと話てある。

扉が開き、父親が出てくる。

 

「どうも。約束通り迎えに来ました」

 

礼をし、つまらないものですがと土産を渡す。

流石に手ぶらで来るわけにもいかない。まぁ、私個人としては手ぶらでも良いと考えていたのだが、秘書に止められた。

娘さんを貰いに行くんだから礼儀を通せと。

 

「…本気ですか?」

 

この後に及んで私が意見を変えると思っているのだろうか。

 

「えぇ。その為にここまで準備をし私はここに立っているのです。

束さんは何処に?時間を無駄にする訳にはいきませんので」

 

彼らに向ける礼儀はすでに私の中で失われつつある。

早く束を引き取り、彼女の夢が叶う瞬間を見届けたいのだ。彼女を迎え入れて初めて、スタートラインに立つのだから。

揺るがない私の態度にいよいよ折れ、家に入れてくれる。無言のまま、居間に通される。

 

「あ、善さん!」

 

荷物をまとめていた様子の束が私に駆け寄ってくる。

優しく抱き上げ、視線を合わせる。すると、ニコニコと嬉しそうにしてくれる。とても可愛らしい歳相応の顔だ。

 

「元気にしてたかね?約束通り迎えに来たぞ」

 

「うん!束さんは元気一杯だよぉ!ちゃーんと荷物も纏めてあるもん」

 

誇らしげにする彼女の視線の先には、機能性を重視したアタッシュケースと工具類を詰め込んだ大きなバックがある。

どちらもこの歳の子が持つものではない。私の前では歳相応の顔を見せるが、それでも根底は変わっていないなと思う。

 

「では行こうか。束ちゃん、ご両親に挨拶を。

当分、この場所には戻ってこれないかもしれないからね」

 

床におろしてあげると凄く不満そうな顔で私を見る。

すまないな。この別れを変わってやることは出来ない、束が人として為さねばならぬことだ。

ゆっくりと私から視線を外し、両親を見る束。

 

「お父さん、お母さん、さようなら。私は仲良くなりたかったけど、二人はそうじゃなかったみたいだね。

善さんと一緒に行くから心配しないで。新しく生まれる妹と仲良くね。きっと、もう会うことはないでしょう」

 

ぺこりとお辞儀をする束。

完全に引き離すつもりはなかったのだが、どうやら束は今生の別れにするつもりのようだ。両親を見れば涙なんて流していない。

……やはり、この両親ではきっと束は歪んでいっただろう。

 

「いこっ!善さん」

 

荷物をいつのまにか持って私の手を引っ張っている。

目を離したのは一瞬だぞ?いやはや、そっちの才能もあるのかこの子は。

 

「では、失礼します」

 

彼女の両親だった人達に礼をして去る。

泣き声も、私を最後まで呼び止める声も、娘を見送ろうとする姿すらこの家にはない。あぁ、本当に束はこの家で邪魔だったのだろう。

 

「束ちゃん」

 

「なにー?善さん」

 

純粋無垢な顔で私を見る。

この顔に隠された苦痛を私は分かってやれない。その苦痛はこの子自身のものであり、他者が勝手に推測していいものではないからだ。

もっと早く彼女を知っていれば……いや今、後悔しても時間は戻らない。

 

「…私が代わりに一杯愛してあげるからな」

 

「……うん」

 

私が頭を撫でてやると、堪えていたものが一気に決壊したのか束はボロボロと涙を流す。

声は出さない。それが彼女の意地のように思えた。

私は子供の扱いが上手い訳ではない。そもそも結婚していないから子供を持ったことすらない。それでも、束を愛そうと決めた。

彼女の夢を支え、応援しながら彼女が両親から貰うはずだった愛情を。目一杯、溢れるくらい愛してやると。

車で待機している秘書の前にたどり着く直前で束は泣き止んでいた。

 

「…女の子、泣かせたんですか。善太郎さん」

 

「不可抗力だ。束ちゃん、この人は私の秘書の」

 

「柊 優衣です。よろしくね、束ちゃん」

 

ススっと私の後ろに隠れてしまう束。

 

「よろしくね!」

 

「…」

 

回り込んだ秘書の挨拶も避けられる。

うーむ、この人見知りをまずどうにかしないとな。恐らく、ずっと理解されなかったから人と接するのが恐怖でしかないのだろう。

私のように好奇心を刺激する相手なら兎も角、そうではない人間には恐怖心を抱いている。

が、この秘書は生憎諦めが悪いぞ。私がこうして考えてる間もずっと、挨拶を続けている。ずっと、私に隠れる束に限界がきた。

私はデブではない。隠れる面積が狭いのだ。

 

「よろしくね!」

 

「……よろしく」

 

とても小さい声だったが返事をした。

秘書はその場でガッツポーズをして喜びに浸っている。なにをしているだか全く。

 

「挨拶は済んだか?では、行こう。君の夢を叶える場所へ。運転を頼むぞ」

 

「分かりました。どうぞ、こちらです」

 

秘書が車のドアを開ける。

束の手を握ったまま、車に入る。荷物は、トランクに入れておいた。

 

「ねぇねぇ、善さん」

 

「どうかしたかね?」

 

「こことここがどうしても上手くいかないんだけど」

 

そう言って取り出された製図。

かなり複雑に絡んでおりぱっと見ただけでは何がなんだか分からない。まじまじと見つめ、ブツブツと回路を読み解いていく。

こんな真剣に機械の事を考えるのは学生の時以来だ。

 

「…ここだね。出力のバランスが取れていない。

配線をこう、組み替えるといい。いや、待てそれではこの部分に悪影響が出るから…それならここの優先を切り替え…ふむ。今の私ではこれが限度だが良いかね束ちゃん」

 

私は専門家ではない。

キラキラとした目で私を見てくる彼女の期待に応えられるのは長くてあと一年だろう。

すでに真剣に考えなければ答えを出せない領域だ。やはり早急に彼女の居場所作りを進めておいて良かった。

私の返答を聞き、あーでもないこーでもないと製図を弄っている束を見つめる。

彼女はきっと世界を変える。いや、作り変えるかもしれない。無限の可能性を秘めいつか大成するだろう。

 

「ずぅぅっと束さんを見つめてどうしたの善さん?」

 

「…いや、なんでもないさ」

 

頭を撫でてやると嬉しそうに笑う。

彼女が作り変える世界で私は変わらず、彼女を見続けよう。人ではないナニカの様でもなく、いずれ見られることになるであろう天才としてでもなく、ただの篠ノ之束として。

 

「さぁ、着きましたよ。此処が新しい束ちゃんのお家兼研究室です」

 

「うわぁ!…」

 

倉持社長と共に用意し、複数の日本企業を巻き込み作り上げ世界規模で見ても超高性能な器具、実験施設を備えた連合企業『ワンダーランド』を創設した。

私は運営に関わることが出来ないので、現在は連合に加盟してくれた社長達で運営が行われている。

 

「こっちに来たまえ。案内しよう」

 

キョロキョロとしている束を呼び、手を握りながらワンダーランドを案内する。

受付や食堂などといった基本的なところから案内し、その後彼女の仕事場というのはあれだが、研究室へと向かう。

すでに集めた技術者、研究者達がそこで彼女が来るのを待っているのだ。

 

「さぁ、束ちゃん。此処が君の夢を実現する場所であり、彼らが君の夢を共に見てくれる」

 

専用のカードで開く扉を開き、束を室内に入れる。

中にいた総勢、30名余りが盛大に歓迎する。私と束の夢語りを本気で信じてくれた者達だ。

そのキッカケである束が目の前に現れて歓迎しないはずがなかった。

 

「ようこそ!束ちゃん!!」

 

「ねぇねぇ、君の設計図を見せてくれよ。話を聞いてから気になって気になって仕方ないんだ!!」

 

「ちょ、抜け駆けは許さないわよ。私だって気になってるんだから」

 

「ほぅ、こんな子が……儂も随分歳を取ったがまだ、驚くことがあるんじゃなぁ…」

 

「その工具随分使い込んでるね…もしかして試作品みたいなのとかあったりする!?」

 

……うん。興奮しすぎだ君達、落ち着きたまえ。

ほら、借りてきた猫の様に束が驚き私の後ろに隠れてしまってるじゃないか。

だが、彼らと束は仲良くなれるはずだ。何故なら、この場にいる全員が束の夢を馬鹿にする事はない。本気で彼女の夢を実現させる為に集まったのだから。

 

「さぁ、束ちゃん。これから長い付き合いになる人達だ。

私が保証する。彼らは君を君として見てくれる。その夢を理解できないものとして放棄することも無い。私は君の夢を支える事しかしてやれないが、彼らは並び立ってくれるだろう」

 

「…善さんは一緒に立ってくれないの?」

 

「少なくとも技術面においては無理だ。私には私が成さなければならない責務がある。

君の夢は余りに大きい。大きな夢というのを実現するにはそれだけの人員がいるのだよ。しかし、忘れてはならない。

開発に関わった人間だけが必要な人材という訳ではないのだ。一つの物事の後ろには数多くの物事が連なる。

私が今言った並び立つとは、研究・開発においてだ。見方一つを変えれば私と君は並び立つことも出来るだろう。無論、その為には夢を実現させるしかないがね」

 

私は日本という国が篠ノ之束を受け入れられる形にし、諸外国から束に危害が及ばない様にしなくてはならない。

その為には此処で一緒に研究・開発をする訳にはいかない。だから並び立てない。

しかし、夢が叶い宇宙へ束と共に行けばその瞬間、私は彼女と並び立つことが出来る。これはそういう話なのだ。

 

「…うん、分かった!善さんと一緒に研究が出来ないのは少し…ううん、とっても寂しいけど。

一緒に飛べる様に、束さん頑張るね!」

 

本当に聡い子だ。

 

「あぁ。これからはもう少し君と居られる時間も増えるだろう。

その時に研究の進捗を教えてくれ。そして、何より楽しんでくれ。此処は君が君で居ていい場所なのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、いくつもの月日が流れた。

私は束の研究成果を国に逐次報告し、政府の官僚達に篠ノ之束がいかに重要か教え込む毎日。

くだらない陰謀も阻止するようになってからは、日本の暗部、更識と関係を持つ様になった。当主の楯無さんにはかなり世話になっている。

ただ、事あるごとに見合い話を持ってくるのはやめてほしい。私は束の夢が叶う瞬間まで家庭を持つ気は無いのだ。

現在、中学3年生になった束は相変わらず研究・開発にゾッコンだ。

教材を渡したら中学1年時点で高校3年までの問題を1日で完璧に答えていた。分かっていたが、彼女に義務教育は必要ないらしい。

ワンダーランドの研究者達とも仲良くやれている様で、研究室からはいつ訪れても、あーでもないこーでもないと言い合いをしている姿を見かける。

そして、今日。束考案の宇宙服、通称ーー『インフィニット・ストラトス』を学会で発表するのだ。

束が要求するものには全然足りないが、基礎理論は構築され試作品が出来上がった。

今以上に研究を進める為に学会で認めれたという実績を手に入れる。

 

「あー、もぅ!分からず屋の老害どもめ!!」

 

がしかし、結果はダメだった。

試作品とはいえ、すでにところどころオーバーテクノロジーが見え隠れしている。

自分たちの利権が無くなるのを嫌がった連中に見事、封殺された。

 

「くそっ…政府の人間は認めてた。でも、それはきっと善さんがずっと仕事してくれたからだ。

私は私に出来る事で彼らを納得させられなかった」

 

「…それが分かっているなら私から言うことは何もない」

 

スッと部屋に入るとまぁ、予想通り。物に当たっている。

色んな物が床に散らばっている。…ん?まじまじと全体を見ていると私と共に息抜きに出かけたゲームセンターで取ってあげたフィギュア。

誕生日に贈った置き時計。研究者達も連れて訪れた夢の国の写真盾。床に散らばっているのは彼女自身の持ち物のみ。

誰かとの思い出の品は一切、落ちていない。

ふふっ、全く愛らしい。

 

「…無理やりにでも認めさせてやる方法は思いついてる…でも、それをしたらきっと束さん達の夢は叶わない…

試作品で駄目なら完璧な完成品を用意してやる…!」

 

束に近寄りわしゃわしゃと頭を撫で回す。

全く、今度は熱意を持ちすぎるなこの子は。

 

「完璧な完成品を用意する必要はない。科学は機械は未完であるから発展するんだ。

君は君の仲間達と共に、究極の未完成を作ればいい。発展が無くてはどれだけ素晴らしい技術も意味はない」

 

「でもそれじゃ…あいつらを見返せない……」

 

「ふむ。そうだな、副産物があるだろう?」

 

「あっ!」

 

私の一言で理解してくれた様だ。

本当に一つを言えば、百を理解する子だ。全く、もう少し面倒をみさせてくれ。

 

「少しは遠回りになるがね。だが、実績が出来れば君をただの子供と見る大人も居なくなるだろう」

 

「うん!まっかせてよ!確か、アーちゃんとミーくんが研究したら面白そうって言ってたのがあるんだ。

ISの方は一旦、他のみんなに任せて…こうしちゃいられない。善は急げっていうもんね、行ってくるよ善さん!!」

 

さっきまでのテンションは何処へ。

元気に部屋を飛び出していく束。その背を見送り私も束に背を向ける。私の仕事はあちらにはないからな。

 

「善さん!」

 

「む?」

 

元気な束の声で後ろを振り向くと、声と同じく元気一杯の笑顔を浮かべ私に外れるんじゃないかという勢いで手を振っている。

 

「やっぱり善さんは、私の背中を押してくれるのが上手いね!!ありがとーーう!!」

 

じゃあねそれだけ!!

と、完全に見えなくなる。彼女は私をずっと気に入ってくれている。

もう彼女の知識に私はついていけない。だが、それでも昔と同じ様に彼女は私を慕ってくれている。

 

「…これぐらいどうという事はないさ。

あの日、私が君から受け取った物に比べればね」

 

この後、束は数多くの分野で様々な実績を残した。

しかし、その全てが助手として記録されており主任ではない。なぜ?と思ったが、私も私で選挙活動が忙しく聞けなかった。

そして彼女が認めれなかった日から、2年。

ワンダーランドとして取得した特許は200件に及び、その8割に束は助手として名を連ねていた。

実績を残せとは言ったが、うむ。流石だな。

 

「本日、第××代内閣総理大臣を拝命いたしました。野上 善太郎です」

 

私はISを軍事利用させない為に、総理大臣になった。

ここに至るまで各地に赴き、束の研究を手伝っていたという情報が何処からか漏れ、嗅ぎつけたマスコミから逃れつつ、今日も迎えた。

…仕事を終わらせたら久し振りに束と食事に行こう。かなりの間、ゆっくりと話せていない。

 

「私は約束通り科学技術の進歩に尽力します。勿論、その先に国民皆様一人一人の幸福に繋がると信じているからです。

人は科学を発展させ、繁栄した生き物です。故に、我々の真髄はそこにあると思っています。

日本を取り巻く情勢は様々ですが、国民の皆様の期待に応えられる様していく所存ですのでよろしくお願いします」

 

マスコミ達からの質疑応答となり様々な質問に答えていく。

中には私を怒らせようという魂胆が見え見えの質問があったが、そんなもので腹を立てていては政治家など務まらんよ。

ゆっくりと確実に丁寧に質問に答えていく。残り時間がわずかとなった時、その質問はきた。

 

「はい、総理。今、とある高校生との関係が有名ですが、彼女との関係をお答え頂けますか?

我々の調査では総理は未成年に手を出している犯罪者なのではないか、貴方の権限が彼女に強く干渉していませんか?

ただの少女があそこまでの特許取得などあり得ないでしょう」

 

……まだ、彼女をそう見る輩は多いのか。

 

「ふぅ…私は彼女を引き取り娘の様に大切に想っています。

だからこそ、貴方の誠実さを欠いた質問には些か苛立ちを隠せません。彼女の努力と成果は彼女のものです。

決して、私が捻じ曲げてまで取得させたなどという事はありません!それと、いい機会ですから此処で言わさせてもらいます。

私は今の様に、子供だからと、大人ではないからと認められるべき才能や功績が無かったことにされるという事がこの先起きない様に努力してゆきます。

未来は我々大人が作るのではないのです。未来ある子供達が創造するのです。

今の日本は、それを忘れている!」

 

あぁ…しまった熱が入りすぎた。

これが余計な波を生まなければ良いが…しかし、そんな心配は杞憂だった。

あの放送でどうやら私はある種微笑ましい総理として認識された様だ。これはこれで恥ずかしい。

ちょっと外に出かければ「お父さん総理」と呼ばれる。変な愛称が付いたものだな。

 

「…むぅぅ、善さんは束さんの大切な人なのにぃ」

 

「なに、私は総理として日本を愛しているが、個人としては束ちゃんを愛しているとも」

 

「えへ、えへへ…」

 

今は束と共に食事に来ていた。

道中、お父さん総理だ!って呼ばれる状況が気に食わないのかレストランに着いてからもずっと頬を膨らませていた。

せっかくの時間なのにそれでは私もつまらない。だから、正真正銘私の想いを伝え落ち着かせた。

こういう言葉も悪意ある編集をされると大変なのだが……娘の機嫌を悪いまま放置することなんて出来ない。

 

「最近はどうだ?上手くやれてるかね」

 

「うん!あと、少しで究極の未完成品が出来るよ!

そうしたらテスト飛行で一緒に飛ぼう?顔は、フルスキンのISだからバレないし!やーん、束さん天才」

 

「…ふむ。事前に予定日を教えてくれれば空けておこう。

君との約束だ。何より優先するとも」

 

「ほんと!?んっとねー、予定通りに進めば1ヶ月後かな。

束さんが乗るISは『白騎士』、善さんが乗るのは『白兎』って名前だよ。どっちも束さん命名ですブィブィ」

 

「束ちゃんが『白兎』ではないのかね?」

 

「うぇ!?え、えっと……笑わない?」

 

照れた様子で視線を彷徨わせる束。

その子供らしい姿にふと安心を覚えながら私は頷く。

 

「…私にとっての騎士は善さんで……だから初めて宇宙に行くときは…善さんに関係するものに乗りたくて…

それでね?そう考えたら…善さんには私に関するものに乗って欲しくなって……だから白兎」

 

「…はっ、ははははっはははは!」

 

「もう笑わないって言ったじゃん!!」

 

「いやすまない。もし娘がいればこんな気分かと思ってね。

なるほど、ドラマで父親が娘の結婚を嫌がる理由が分かった」

 

愛情を注ぎ、それに応えるように成長していき自分より上になっても、変わらず可愛らしい事を言ってくれる。

確かにこれが自分からしたらポッと出の男に向くのなら、悲しい気持ちになるのも分かる。

やれやれ、結婚せず父親の気分を味わうとは。

 

「もー!恥ずかしいんだからね」

 

「悪かったって。それなら、楽しみにしておくとしよう。白兎に乗れる時を」

 

「うん!待っててね。束さん、全力全開で頑張っちゃうから」

 

えへへっと笑う束。

これは仕事を全力でこなして空き時間を作らなければな。この表情が悲しみに変わるのは見たくない。

この日は食事を終わらせ、ワンダーランドまで共に話しながら戻った。私の私室もワンダーランドにあるからな今。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、束が宣言した通りの日。

私はフルスキンのIS、白兎を纏い会場にいた。無論、この日の為に全ての仕事は片付けた。

秘書に死ぬほど心配されたが、もはや慣れた。まだ外には発表していないが、ISの為の法も用意してある。

 

「では、説明はここまで!実機試験を実際にお見せします!…来て。白騎士」

 

束が指輪になった白騎士に祈ると、全身が光に包まれ私と同様、フルスキンのISを身に纏う。

僅かに宙に浮かぶその姿に集められたマスコミが派手に写真を撮る。

 

「そしてもう一機。この白騎士と同様、とても大切な一機白兎!

今回はこの二機で初フライトを行いたいと思います」

 

おっと、出番だ。

本当に私だとバレないよな。束の宣言を聞き、彼女に頼まれていた様に上空から横に降り立つ。

名の通り白いIS。全体的に兎モチーフなのが少々、私としては恥ずかしい。

 

『では、カウントダウン入ります!

10・9・8・7・6・5・4・3・2・1、Go!!』

 

しれっと進行役を担っている秘書の合図と共に私と束は一気に飛翔する。

と言ってもスタートダッシュ以降は束に手を引っ張って貰っているのだが。仕方ない、訓練する時間が足りなかった。

ぐんぐん高度を上げていき、やがて成層圏を突破し高度110km、宇宙へとたどり着いた。

 

「…おぉ、これは…」

 

私は目の前の景色に感動する以外の手段を失った。

眼前に広がるのは私達の暮らす青い地球。少し視線をズラせば広がる漆黒の宇宙。

そして、手を握った先には共に夢を見ると誓った少女。きっと、私はこの瞬間、誰よりも幸せだ。

 

「…凄い。私達、漸く来れたんだね…」

 

「あぁ、凄いな…」

 

共に感動しながら宇宙に滞在する事、4分。

私達のISが警告音を派手に奏でる。それにより私達の意識は現実に帰ってくる。

宇宙に滞在し続けるにはまだまだ改善点が多いのだった。

 

「やばっ、急いで戻らなきゃ!」

 

「そうだな…束、ありがとう」

 

「それはこっちのセリフだよ、善さん!」

 

互いに笑いながら地上へと戻る。

この時、二人して忘れていたのだが、我々の会話は地上に放送されている。つまり、私の正体が一瞬でバレた。

つまり地上に戻ってからの方が大変だった。この時、初めて互いに言い合いをする事になるのだが、それは別のお話だ。

数年後、ISは世界各国で宇宙開発用として使われる様になる。

軍事利用をさせない様に先駆けて法を整備していた日本を見本として、各国で軍事利用が禁止されたのだ。

 

「…随分と立場が凄いことになったな」

 

私は第三者視点してISの運用を見守る機関、通称IS委員会の初代委員長に任命された。

日本の総理も続けたままだ。権力が私に偏りすぎな気がするが、束以外にISを理解し政治的知識と手腕があるのが私だけだった。

次代を生み出す機関、IS学園で育った人間が世に出てくるまでIS委員会を動かさなきゃならなくなった。

 

「あはは、良いじゃん。それだけの力量があるって認められた訳なんだから」

 

束はISを発表し実験に成功した時点で、ワンダーランドの代表取締役となった。

社長としての彼女を支えるのは倉持 優作さんが担っている。

ISの生みの親として、そして彼女の友人として今は世界各地に技術提供の社員として散り散りになった当時の研究員達の居場所としてワンダーランドを守っている。

 

「それはそうなのだがね。少しは私に休みが欲しいものだ。

結局、あの一度以降共に宇宙に行けていない。束ちゃんの夢はどんどん大きくなっていく、その景色をもっと私は見たいというのに」

 

「それなら!今から一緒に行こうよ!だいじょーぶ、善さんが居なくてもここの人達なら優秀だから行けるって」

 

そう言ってあの日の様に私の手を引っ張る。

私もそれなりの歳なのだがら労ってくれ。言っても聞かないのは分かりきっているし、痛いといえば即座にナノマシンを投与してくれる。

それに絶妙に加減されているのも分かってしまうから私は何も言えなくなる。

 

「あっ、委員長!?どちらに!?」

 

「すまない。ナターシャくん、束ちゃんを止められなかった」

 

「あっはははは!!」

 

「もぅ、お願いですから問題ごとだけは起こさないでくださいねー!」

 

慣れた様子で見送るナターシャ副委員長になんとも言えない気分を感じながら、私は束と共に走る。

あの日、誰にも認められず縮こまっていた子がまっすぐ、前を向き笑っている。

この光景が見れるだけで私は満足だ。彼女は未だに進化していく。

無限の可能性を秘め、大いなる宇宙へと飛んでいく。

 

「おいで、白騎士!」

 

「また付き合ってくれ。白兎」

 

ISを纏い飛翔する。

やれやれ、無限の可能性に付き合うというのは本当に大変だな。

 

「いっくぞー善さん!」

 

まぁ、この子が笑顔ならその苦労も報われるというものだ。

 




作中年齢
篠ノ之束:11(初登場)→15歳(試作完成時)→17歳(白騎士、白兎テスト飛行)→19歳(ワンダーランド社長)

野上 善太郎:30(初登場)→34歳(試作完成時)→36歳(テスト飛行時)→38歳(総理兼IS委員会委員長)

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。