ニンジャスレイヤー・ウィズ・ワンダラーズ (安戸玲浅)
しおりを挟む
ネイザー・ニンジャ、ノーア・ヒューマン
「安い、実際安い」 「タダオーン!今なら実際大サービス、サポートも安心な」
大音量の広告音声が、重金属酸性雨の雨音を吹き飛ばすが如く鳴り響く。その下にはたくさんの人影。全員が、トレンチコートなどの雨避けとサイバーサングラスをつけている。
「アイエエ…雨ナンデ」
「段ボールがないナンデ!」
路地裏に目を向ければ、哀れにも職を失ったサラリマン崩れのホームレスや浮浪者が段ボール・フートンで雨をしのいでいる。フートンすら無い者は、恐らく明日死んでいるだろう。
ここはネオサイタマ。
鎖国体制を敷く日本の首都だ。
もはやこの町に希望はなく、あるのは権謀術数と虐げられる弱者のみ。あるいはIRCネットの束の間の安息か。
「金目のモンある?」
「なかったら殺そうぜ!」
「「エヒヒーッ!」」
「アイエエエエエ!!」
路地裏の浮浪者たちを理不尽に痛め付ける人影がある。ナムアミダブツ!彼らは暴虐なアンタイブディズム・パンクスだ!その上、違法麻薬ZBRを服用しハイになっている。浮浪者が戦っても勝ち目はまずないだろう。それは浮浪者も知っている。
「マネー、マネーあるからヤメテ…」
「ザッケンナコラー!」
「アイエエエエエエ!アイエエエエ!」
コワイ!パンクスの一人がヤクザスラングを発した。これは免疫のない市民に絶大な恐怖を起こさせる!
「アイエエエエ…」
浮浪者は恐怖のあまり失禁!
「金目のモンくれコラー!アーッ!?」
パンクスが手持ちのフランベルジュで浮浪者に切りかかる!
「アイエエアバーッ!」
ナムアミダブツ!フランベルジュにより浮浪者の左腕がケジメされた!意に介さずパンクスは持ち物漁りを始めた!
「アバーッ!アバーッ!」
「オッZBR!アタリがイイ!」
「マネー素子大量ヤッター!」
「アバーッ!アバーッ!」
傷口を酸性雨に晒されのたうちまわる浮浪者!やはりパンクスは無視!ブッダ!彼らに情は無いのか!?
「イヒヒーッ浮浪者アリガト…アレ?」
「ア…ア…」
浮浪者は出血多量で絶命していた。
「もう一人位殺そうぜ!今日アタリいいし」
「あの娘にしようぜ!ファック&サヨナラだ!」
人が死んだ程度でZBRトリップは醒めない。彼らを止めることは出来ないのだ。
次にパンクスが狙いを定めたのは、無防備にも路地裏ですやすやと眠っている子供だった。だがパンクスの予想と違い、少年である。ブロンドヘアのガイジンで、体躯は細くさながらジョルリのようだった。
「ヒヒヒ…アレ?男?」
「男でも穴はあるだろ、ファックしようぜ…アレ?ツノ生えてる?オカシイナンデ」
少年の額には赤い角がそそり立っていた。やや上に反っている長い角は、薬物でラリっているパンクスでも流石に不思議に思えた。
「…で、でも実際穴があるだろ!ファックだ!」
パンクスは角をZBRの幻覚だと信じ、少年の服を脱がし始めた。細く美しい脚とマイコめいて扇情的な肌があらわになる…その時、少年のまぶたが開いた。ヒスイのような目が回りをゆっくり見回す。
「…ん」
「アッ起きた!」
脱がしていたパンクスが叫んだ!もう一人がフランベルジュを少年に突き付ける。
「テメッコラー!暴れたら殺すぞッコラー!」
「…はあ」
フランベルジュを突きつけられているにもかかわらず、困惑した様子で恐怖を見せない少年に、パンクスは不思議に思った。が、服を脱がす事はやめない。
「あっやめてください、服はこれしか」
「ウルッセーゾコラーッ!アーッ!?」
「アッヤメロー!」
言われるより前に、フランベルジュが少年の首に振り下ろされる!ナムアミダブツ、この少年は間もなく、先ほどの浮浪者とおなじ運命を辿ることだろう。フランベルジュがイナズマめいて振り下ろされた。
だが、そこには…おお…ブッダ!
少年の姿は無い!
そして、パンクスの2m先には…新たな人影が!しかしその体躯は人間の姿ではない。
「「アアーッ!?」」
パンクスは同時に困惑し、同時に膝をつき、同時にフランベルジュを取り落とした。まるで双子だ!
その目の前にいた者は、足でフランベルジュを一つ踏み砕いた。ハヤイ!まるでニンジャだ!
「アアーッ!!」
やけになったパンクスが隠し持っていたクナイ・ダガーを手に飛び掛かる!危険なヤバレカバレだ!このような攻撃が当たるはずもない!瞬く間に背後に回り、組付かれ…
「アバーッ!」
ゴウランガ!首の骨が折られた!そのままパンクスは倒れる。もう一人のパンクスは、幸い壊されなかったフランベルジュを拾うこともできず、ただその場で失禁していた。
そのパンクスに向き直り、少年であろう者が近づいてくる。それに恐怖し、失禁しながら、パンクスはニューロンを高速で動かしていた。
(((こんなことってあるか?アイツ何なんだ?あんな急に変身して、首を…アイツはまさかニンジャ!?)))
「アイエエエエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」
「……ニンジャ?」
いつしか異形は少年の姿になっていた。ニンジャ?ニンジャとは何か?疑問が彼の防衛本能を打ち消したのだ。
「…その、教えていただけますか」
「…アッ、ア」
「あ?」
「アイエエアバッ!アバッ!アバババーッ!」
パンクスが吐血!小刻みに痙攣し、急性ZBR中毒で心臓破裂を起こし死亡!インガオホー!
「ええ…」
少し引いて見ていた少年は、この状態で見つかったらまずいことになる、と思った。そして、すぐに服を着直すと、走り出した。
ーーーーーーー
なんで?何でこんなことに?待ってくれ、どうしてぼくはここにいるんだ。そもそも、ここはどこだ?……整理しよう。ぼくはあの…月のコンピュータを壊して、そのあと投げ出されて…最後に、地球が見えた。ぼくらの故郷が。…爆発したはずの?でもそこまでは覚えている。
それで、どういうわけかぼくはここにいる。
なぜ?どうしてここに…
「「「ザッケンナコラー!」」」
「!!」
考える時間は、ぼくにないらしい―少年はフランベルジュを拾い上げ、噂を知った迎撃クローン・ヤクザに相対した。そう、その通り。少年に考えなど必要とされない。
少なくとも、今この時には。
《ネイザー・ニンジャ、ノーア・ヒューマン》終
小説を書くのは初めてなので至らぬところもありますが、ニンジャアトモスフィアのせっしゅができたら幸いです。
《登場人物》
少年
金髪翠眼の少年。だが角が生えている。なにやらニンジャめいた人ならざるパワとアトモスフィアを漂わせているが、ニンジャではないと言う。ネオサイタマにいる理由は本人にもわからないらしい。
パンクス
ネオサイタマでは珍しくない、過激派アンタイ(註:アンタイ=Anti,アンチ)ブディストたち。テンプル襲撃前夜祭の主催を行っており、夜な夜な浮浪者狩りで資金を稼いでいた。
註:フランベルジュ…ニンジャの発明品である、蛇のようなくねくねとした刀身を持つ剣。通常の剣に対し、傷口が深く抉れる形になるため、中世の剣士に恐れられた。刀身が波打つ炎の様に見えるため、フランス語のflam(炎)に由来して名付けられた。彼らに限らず、アンタイブディストは何故か骨董品のような武器を好んで使う。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
レイド・オールド・トーキョーベイ
ニンジャめいた少年は、恐怖パンクス二名を殺害した。そのまま、ネオサイタマをあてもなくさまようが…
重金属酸性雨と工場煤煙が漂うネオサイタマに、少年はいた。少年の耳には、雨音に混じり広告音声が聞こえる。彼には、それでこの街の実情をおおむね知ることができた。暴力と欺瞞に溢れた、未来の成れの果て。ここは故郷に似ているが、しかし自分のいた世界ではないらしい…迎撃ヤクザを屠った少年は、自分の精神が
そしてそれ以上に、自分の鋭敏なニューロンが、ネオサイタマに渦巻く悪意を察知していた。
ネオサイタマに渦巻く悪意、それは必ずしも、少年の考えすぎではなかった。ソウカイヤ。この街、あるいは日本を裏から牛耳る団体。その構成員のほとんどが、ニンジャである。ニンジャはけして伝説でもなく、ましてカトゥーンの存在でもない。実在するのだ。そして―ここに一人、その組織の首領がいる。
「「「アーレエエエエ!」」」
「ムッハハハハハ!ヨイデワ・ナイカ!」
―この男。
「はぐれニンジャの捕獲ないし討伐…よかろう、サンシタニンジャの良い訓練となろうて」
「御理解アリガトウゴザイマス」
おおよその判断は彼が下す。そしてソウカイ・ニンジャにより搾取が行われる―恐るべきタテワリ搾取構図。
それがこの世界の基本であり、覆されることはない。
そして、はぐれニンジャ―すなわち少年は、その犠牲者となるのだ。
少年は歩いた。ひたすらに。何処かもわからなければ、何処に向かうべきかもわからない……ただあてもなく。
ここはどうやら、「オールド東京湾第七埠頭」なる所らしい。文字が普通に読めて助かった。…その時!
「イヤーッ!」
狂人めいた叫び!その声の主は、街灯に立ち、金属製の星型円盤を投擲!これは―スリケンだ!
少年は身を屈め回避!そして…少年を強い風が包み込んだ!
風がやんだとき、少年の体躯は…おお、ゴウランガ!まさしく異形のものになっている!その胸、足は金属に覆われ、胴は青いサイバネワイヤめいて青く発光する。背中にはバーニアめいた翼が、そして頭部は…鳥!獣とも機械ともつかぬ体躯を、襲撃者は不思議に眺め、
「対象は体が大きく変化…ヘンゲ・ヨーカイジツの一種の模様。メンポなし。珍しいな」
IRCレコーダーに記録している。そして、
「ドーモ、初めまして。アサイラントで―グワーッ!?」
少年だったものはイナズマめいた速さでアサイラントに近づき蹴り飛ばした!CRAAAAASH!!!
「グワーッ…卑怯なり!アイサツ中にアンブッシュとは!スゴイ・シツレイだ!」
アイサツはニンジャの神聖不可侵の儀式であり、古事記にもその記述がみられる。だが…
「アイサツってなんですか」
「!…何たる愚の骨頂!神話に対する冒涜か!」
「…その、ぼくはニンジャではないので」
ナムサン!確かにニンジャでなければアイサツになど縛られぬ!だが…この体躯でニンジャでないだと!?
「嘘をつくなっ!イヤーッ!」
アサイラントの高速スリケン投擲!これは彼のカソク・ジツと習熟したカラテにより、アンタイ戦車ミサイル並みの威力を誇る!そのスリケンが5枚…いや、七枚!これを一撃でも食らえば、たとえニンジャでも実際致命傷は免れない。それを、少年は―HYUUUM!
「アイエエ!?バカナー!」
なんたる所業か!いかなる原理か、少年はイナズマめいて急加速、スリケンに突進し、それをすり抜けて超音速で突破したのだ!アサイラントは逃げながら、
「…敵ニンジャのジツは強大!急加速し、物体を透過!遠距離スリケンでの撃破は絶望的でグワーッ!」
少年の渾身の右ストレート!倒れるアサイラント!少年が倒れたアサイラントに、もう一度殴りかかる!カイシャクだ!しかし…
「負けるか!ウオオーッ!」BLAAAAAAM!
ウカツ!近付きすぎたか!?アサイラントの隠し持つキャリバー50重機関銃がブレーサーから現れ、火を吹く!重金属弾はスリケンには劣れど威力は高い。このまま少年は死ぬというのか!?
「ハッ!」POW!POW!
少年のサイバネめいた掌がひかった!その光は、重金属弾を反重力めいた力で弾き返す!そして、少年の腕から―
赤く発光する収束レーザーが放たれる!
「アバーッ!」
アサイラントの左胸を、心臓を貫いた。
「ク…貴様…名前を答えろ」
BLAM!IRCレコーダーが砕かれた。
少年は、静かに、されど貴族めいて気品のある声で答えた。
「フォウ・ミサキ」
「そう…か、フォウ=サン…サ…サヨナラ!」
アサイラントは燃え上がるような叫びと共に、爆発四散した。
ーーーーーー
少年―いや、フォウは疑問がますます増えたように思った―ニンジャなる存在は、昔は聞いたこともなかった。けれど、あんな奇怪な存在は信じられない。やっぱりぼくは幻覚を見てるんじゃないか?つまりここも本当はネオサイタマでもなくて、ニンジャもいないのでは?
フォウは困惑し、思考を打ち切った。ともかく、今夜の寝床を考えなければ。この雨には打たれないに限る。
(((もう一度、ここから都市部へ行ってみよう。そうすれば、地図位は見つかるかもしれない。それに、寝床も不自由はしないだろう。まずは都市部に向かおう)))
フォウはまた、歩き始めた。ただし今度は、明確な目的地へ。
《レイド・オールド・トーキョーベイ》終
短編が多いですが、更新ペースは正直遅くなりそうですねはい。
《人物》
アサイラント
ソウカイヤのアンダーカード(下部構成員。したっぱ)ニンジャ。カソク・ジツという特殊なユニーク・ジツを使い、遠距離戦闘に非常に適正を得ている。反面、近接戦におけるカラテはほとんど有していない。ラオモトにはサンシタ呼ばわりされていたが、その遠距離攻撃は実際高い脅威になりうる。が、割りとそれだけ。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
マン・クライビング・マッドネス
物語は原作と違い、原則時系列順で進めていこうと思っています。
「イヤーッ!」
HYUUM!
「イヤーッ!」
ZZZZAAP!ZAP!
「イヤーッグワーッ!」
ソウカイヤの末端ニンジャの左胸は、真っ赤なレーザーに貫かれる!迅速な一撃に、ニンジャ動体視力を以てしても対応は不可能!そのまま、ニンジャは崩れ落ち…
「サヨナラ!」
爆発四散!読者の皆様のために、この哀れなニンジャを紹介しよう。彼の名はモルフォ。生体移植したサイバネ四枚翼で空中から来襲するニンジャであった。
「…」
フォウはぼんやりと、ニンジャの遺した四枚翼がひらひら落ちていく様を眺めていた。ソウカイヤははぐれニンジャ掃討にあまり積極的ではなく、追っ手もおそらくこれで最後だろう。ようやく得た、束の間の安息。目深に被ったキャップとフードで角を隠し、都市部のホームレスのように過ごし続け、もうそろそろ一ヶ月が立つだろうか?
「…お腹すいたな」
このような狂気的状況においても、出る言葉は市民と何ら変わりない。ただし、フォウは市民とは違う、鋭敏な洞察力を持っていた。暗黒メガコーポの巧妙な罠に嵌まり、安易な大量消費に走る市民と違う洞察力。人間的なものではなくて、むしろ―ニンジャのような。そして彼は幸運なことに、自分の洞察力を信じる傾向にあった。わずかな12年の経験でも、その半数以上は地獄のような戦場で得たものだ。
「…ここにしよう」
フォウはその洞察力で、いつも有害成分含有の食品を無意識に避けていた。今日選んだのは回転スシ・バー。有害成分含有を最小限に抑えた、老人たちの憩いの場だ。ここウナギ・ディストリクトのスシ・バーにしては、なかなか治安が良い。
「イラッシャイマセ!」
「タマゴで」
「ハイヨロコンデー!」
イタマエの握ったタマゴ・スシが、テーブルに運ばれた。このスシ・バーは注文も可能な、半回転形式だ。
ショーユ・サーバーをプッシュし、少しのショーユをスシにかけてから、手で摘まんだスシを口に
「「「 金を出せ!
俺たちゃニンジャだ!!!」」」
唐突に現れたニンジャを名乗る三人組!だが、その身なりはフォウの知るニンジャのそれではない!
「ニンポだ!ニンポを使うぞ!」
ニンポとは、カトゥーン・アニメでニンジャが使う荒唐無稽な特殊能力である。むろん、現実のニンジャが使うハズがない!…しかし、日本人のニューロンには遺伝子レベルで「ニンジャへの恐怖」が刻み込まれている。それを突いた犯罪なのだ。とはいえ、実際安い悪事である。
「…払います」
「ワ、ワタシも!」
「アイエエ…」
店主を皮切りに、客も次々とクレジットやマネー素子を出し始めた。フォウは―ここで初めて、危機感を覚えた。彼が苦心して、追っ手の遺品を売ったり空き缶回収で得たなけなしのマネーだ。ここでとられるとつらい。
(ここはぼくが鎮圧してしまうべきか?でもそれはそれでまずい)
つまらないことを考えているうちに、狂言強盗団はフォウの元へ近づいていく。マズイ!ああ、もうすぐそこに
「「「ズラカルゾー!」」」
資金に満足した強盗団はフォウを気にも留めず、駆けていった。まだ市民たちは恐怖におののいているが、フォウは半ば安堵してスシを頬張った。
ーーーーー
食べ終わって、フォウはスシ・バーを出た。珍しく、雨は止んでいる。初めて、ネオサイタマの月夜を見た。フォウが月夜を見ることはあまりないが、月に行った事ならある。だが、その時の事をフォウはあまり思い出さない。思い出したくもない。その前後の出来事は、彼の強いトラウマであった。
「…大原や/蝶の出て舞う/朧月」
ポエット!江戸時代の伝説的ハイクの引用であるが―考えていただきたい。フォウはハイクの知識など無い!では、このハイクを詠んだのは―
「おお、なんたる気品とシンピテキか―ドーモ、初めまして、フォウ=サン。ツジギリ・マッシャーです」
ブッダファック!なんたる間の悪い来襲か!しかもニンジャ!あの実際チンケな強盗団等ではなく、本物のニンジャだ!
「また、追ってきたのか」
「追っ手がどうだか知らないが、私はその組織とは実際無関係だ。それよりも―私は
「…何の話を」
「その声」ツジギリ・マッシャーが指差した。彼の手は薄い長手袋が付けられている。
「その声。その目。その角!君に興味が尽きない」
「…そうですか」
フォウは風を纏い、鳥人となり―
HYUUUM!
風変わりな風切り音が響く!
「イヤーッ!」
ツジギリ・マッシャーが右に反れ回避!
「イヤーッ!」
振り返って真後ろのフォウの首に手を引っ掛ける!そして変態的に顔を近づけ、言った。
「そう、その姿も。ニンジャでないというなら何だ?
私はネェー…君に「恋」してるのかもねぇ」
ブッダ!フォウは底知れぬ悪寒を覚えた。首にかけられた手を…どうする!?レーザーめいた武器を使えば、自分もろとも絞め上げられる。さらに相手はカーボンナノタタミを応用した装甲装束!並のエルボーでは貫通できぬ!
それならば!
「ああ―今すぐ君と…何ッ!?」
今、フォウは全力の脚力でジャンプした!その脚力は常人の3倍を優に越す。そして、首にかかった手を軸に90度回転!ナムアミダブツ!このまま落下すれば、ツジギリ・マッシャーといえど衝撃に耐えられず死亡するのは必至!
「クソ、イヤーッ!」
ツジギリ・マッシャーは首から手を離し、地面に両足で着地した。
「成る程、あくまでも私の好意を拒否するのだね」
「何が好意だ」
着陸したフォウが答えた。彼にとっては、今戦う事が最優先だ。
「それならば―こちらも、少し手荒い事を。イ ヤ ー ッ !」
おお…ブッダも照覧あれ!ツジギリ・マッシャーの手に、超自然の力で巨大な鎖と鉄球が!
「さ、闘おうじゃないか」
フォウは、無言で構えて応じた。
「イヤーッ!」
右に反れ回避!そして攻撃チャンスを伺い、右手よりあの赤いレーザーを発射!ZZZZZAP!…だが!
「イヤーッ!」
なんたる強度!鉄球は真正面からレーザーを受け、弾いた!再び振り下ろされる!
「イヤーッ!」
左に反れ回避!そして攻撃チャンスを伺い、右手よりあの赤いレーザーを発射!ZZZZZAP!…だが!
「イヤーッ!」
なんたる強度!鉄球は真正面からレーザーを受け、弾いた!再び振り下ろされる!
「イヤーッ!」
右に反れ回避!そして攻撃チャンスを伺い、右手よりあの赤いレーザーを発射!ZZZZZAP!…だが!
「イヤーッ!」
なんたる強度!鉄球は真正面からレーザーを受け、弾いた!再び振り下ろされる!
ブッダ!これでは埒が開かない!くわえてバリキドリンクで疲れ知らずのツジギリ・マッシャーに対し、フォウは多少なりとも疲労していく。これでは
HYYUUM!
「ほう、一気に近づいたか…息のかかる距離に!」
ツジギリ・マッシャーのクサリ・モーニングスターをあの高速移動で回避し、一気に懐へ!
「ハッ!」
「グワーッ!」
渾身のストレート!カーボンナノタタミ装束によって威力は大幅に軽減されたが、間合いを崩すには十分!だがそこへ―
CRAAAASH!
ワッザ!?近辺のススキを薙ぎ倒し現れたのは…
ヤクザスーツに天狗の面を被った男!
何が起こったかまるで理解できない両者の元に、彼は歩み寄る。
「…神々の使者、ヤクザ天狗参上!」
この沈黙ををツジギリ・マッシャーが破る。
「…ド、ドーモ。初めまして。ツジギ
―BLAM!!BBBBBLAM!
「 ア バ ー ッ !?」
ナムアミダブツ!ヤクザ天狗の持つ赤漆塗りヤクザガンが、論理トリガによる高速射撃でツジギリ・マッシャーを肉クズに変えていく!ヤクザガンは個人兵器としてはトップクラス威力を誇る。それを2丁拳銃で発射すれば、ニンジャといえども当たれば実際死ぬ!
「ア…アバッ…貴様…イヤーッ!」
ツジギリ・マッシャーが最後の悪あがき!回避軌道をとり、腰のカタナを構えるが…
「…ニンジャは剣を持っていたので、それを抜いて、大祭司のしもべに切りかかり、右耳を落とした…」
ヤクザ天狗のサイバネ・アイは正確にツジギリ・マッシャーの進路を追従し…ヤクザガンで偏差射撃!
「…そして後にニンジャはユダと名乗り、あの男を暗殺した」
「 ア バー ッ !」回避不可能!ツジギリ・マッシャーは乱雑に切られた紙のようになり、血をぶちまける。ついに…
「 サ ヨ ナ ラ ! 」
爆発四散!
「…?……??」
目の前の事が全く信じられぬフォウは人間に戻り、その光景を眺めていた。ヤクザ天狗がこちらに歩み寄る。そして、争いで落としたフォウの財布を拾った。
「あ、ありがとうございます」
「…これはニンジャクエストの報酬として頂戴する」
なんだと!?フォウは耳を疑った。ニンジャクエストなど依頼した覚えはない!
「いや、それはぼくのお金で」
「頂戴する」
「大事なものなんです」
「ザッケンナコラーッ!」
右ストレートがフォウの顔面に命中!痛い!
「ザッケンナコラーッ!」
続き左ストレート!フォウの頬から出血!
「ザッケンナコラーッ!」
もう一度右ストレート!
「…本当にダメなのだな?」
「はい。これがなくなると―」
「ならばお前を」
「天狗の国に連れてゆく」
ヤクザ天狗の声はジゴクめいて輝いていた。ブッダ、この男は本気なのだ。
「…っ!わかりました!出しますから…」
そう言った時にはもう遅く、ジェットパックで飛び去るヤクザ天狗に連れ去られる。戦闘の疲労か、ニューロンの休眠現象か、フォウの意識は遠のいていった。
ーーーーー
「…ん」
車の音で目が覚める。…ここはヤクザ天狗の車?盗聴設備と顔写真が至るところに張られている。コワイ!
「カネを…聖戦のための寄付をしろ」
「はい」
財布からありたけのクレジットとマネー素子を渡した。結構な量で、一ヶ月は困らないであろう。
「…十分にあるな。釣りだ」
「えっ、ありがとうございます」
「泣いているな、まだニンジャの恐怖が抜けぬか」
確かにフォウは泣いていたが、それはニンジャではなくヤクザ天狗に対する恐怖の念だ。
「…っは、はい」
「これを使うといい」
ヤクザ天狗の手には…オモチとセンベイ?
「センベイを額にあて、オモチを咥えてみろ」
「はい」
「目を閉じてみろ。ピンク色の光が見えるか?」
「…っ見えっ、みえます」
もうフォウにはヤクザ天狗に従う以外の道が見えない。
「オモチを吐き出してみろ。ニンジャソウルが黒いシミになっているはずだ」
「なってます」
フォウは震える声でまたも嘘をついた。ただピンク色の光の代わりに、
(ああ、このひとはくるっているんだ)
という確信に近いものが見えていた。
唐突にドアが開け放たれ、車が止まった。
「またニンジャが出たら私を呼べ。この聖戦は困難ゆえ。また贖罪をせねばならぬ。サラバ!」
「ありがとうございました…うっ」
「オ…オイ、ダイジョブか?」
車が行き去るのを見ると、フォウは崩れ落ち泣いた。
その洞察力で彼の狂気をより敏感に知ったからか?明日の食い扶持に困ってか?真相はわからない。ブッダでさえも。ただ、フォウは心配そうに寄ってくる
《マン・クライビング・マッドネス》終
現在、次話の執筆が難航しております。おゆるしください。
人物名鑑
ツジギリ・マッシャー
ネオサイタマを夜な夜な徘徊し、気に入った子供を弄ぶ野良ニンジャ。強力なテレキネシス・ジツを使い、鉄球などによる攻撃を行う。ソウカイヤに目を付けられれば命がない事を把握していたため、あくまでニンジャ能力は趣味の子供虐殺以外には使わないよう注意を払っていた。
ニンジャ強盗団
本名はタロ、ジロ、サブロ。ニンジャに成りすます強盗で生計を立てている。彼らは後にニンジャとなり本物のアトロシティを働くことになるが、その話をここで語ることはできない。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
ハンマー・オン・ザ・シックル
ニンジャスレイヤー・ウィズ・ワンダラーズ
「ハンマー・オン・ザ・シックル」
ーーーーー
「エー、マイクチェック、オーケー」
「整列オーケーか?」
「オーケー!始めます!テツオ=サン、ドーゾ!」
赤マントと二本の巨大ノボリを背負う、テツオと呼ばれた男が前に。ゆっくりとした足取りで歩いていく。ゴーグルとスカーフで覆われた顔は、強そうには見えない。しかしその姿は、さながらゴルゴダの丘を歩むあの男めいて力強い。
「ミナサン、本日はお集まり頂き感謝します。この―イッキ・ウチコワシ第七十二回労働会議に」
彼こそはバスター・テツオ。この共産主義団体、イッキ・ウチコワシの書記長―いわばトップというべき存在である。
ーーーーー
「…して、このところの暗黒メガコーポの暴虐は留まるところを知らず。特にオムラ社に至っては、新兵器を投入し、我々に対する掃討戦を行う模様です」
「圧政に反対せよ!決断的闘争の時だ!」
「同志キンバシ!落ち着いて!今ここで革命を行えば、待つのは敗北のみ!」
「では何もしないのですか!?同志たちを見殺しにしようとも!」
キンバシが、震える手を抑えさらに叫ぶ。労働集会は、このような討論形式で行われるのが通例だ。
「同志キンバシ。それは組織の理念に反する。そのために、我々も手を打ってある。まずは―」
独立ホログラフィーに赤い文字列と写真が写された。
そこには…ブッダ!ニンジャめいた装束を纏った男!
「今後オムラ社による攻撃が予想されるトットリーヴィル。ここは実際プロレタリアートが多い。彼らを守るためなら暴力も辞さない。そのため―専属迎撃隊と、ラプチャー=サンを派遣する。彼は湾岸警備隊出の戦闘のプロだ」
「湾岸警備隊!」
「何てことだ、我らにも光筋が!」
「来るべき革命の戦力となるぞ!」
「さらに、諸君。驚かないでほしいが―ラプチャー=サン以外にも、戦闘メンターは多くいる」
会場は狂喜乱舞の声で溢れた。有るものは情報量の多さに涙しながらガッツポーズを行い、いつしか倒れていた。
ーーーーー
「キンバシ=サン!飲みませんか」
「おお、飲もう飲もう、同志!」
会議が終了し、過激派に見合わぬ温和なノミカイとなった会場にて、だいたい同い年であろう二人はパックド・サケを酌み交わした。
「仕事はどうだい、同志ノバシ」
「そりゃもう、実際順調ですよ!オルグ(勧誘)もね」
「おお、ずいぶん模範的な!わたしもやっとるが、やはり臆病なもんで、ちょびっとずつしかできなくて」
「それでも、決断的一歩ですよ!カンパイ!」
彼らは実際かなり温和かつ小市民的だが、共産主義を信奉し、その為には死も辞さない過激派でもある。そして、その戦闘力は高い。一つの目的のため、ニンジャでもない市民は戦えるのだ。
名誉という、麻薬めいた陶酔のために。
「それで…本当なんですか?その…オムラの」
ノバシの目付きが、酔っぱらいとは思えないほど鋭く光った。キンバシもそれに応える。
「本当だ。あいつらの新型兵器がロールアウトした」
「となると…実際我々の出番ですか」
「そうだろうな。全く、あいつらも懲りないもんだよ」
三十路半ばの男二人はハカマ姿から着替え、戦闘ジャケットに着替え始めた。そのジャケットには―
「オムラ対策チーム」
「実際革命的な」
など、威圧的な文言がショドーされていた。
ーーーーー
ノバシはやや感傷的に、すぐ近くの死体に目を向ける。キンバシの上半身はネギトロめいて原型を留めず、骨と肉の区別もつけられない。
「対策チーム!点呼ォー!」
「ハイ!」
「ハイ!」
「ハイアバーッ!」
物陰に隠れながら、ノバシは叫んだ。十人の精鋭、オムラ対策チームは今や半数もいない。すべて―
「ピガ…投降を、受け入れます。オムラは、寛大です」
すべて、今ノバシの目の前に居座る殺人マシーンによって、無残な死を遂げた。この殺人マシンの名はモーターヤブ。サスマタと自動ガトリングガンを装備し、いかなる悪路もカンガルーめいた逆関節の脚部で突破する、一台で一軍に匹敵する比類なき虐殺マシーンである!
「ア…アイエエエエエ!」
失禁しながら全力で逃げるノバシ!そこに大騒音を立てながら追うモーターヤブ!自動ガトリングが予備回転を始めた!
「オムラは寛大、寛大です」
BRATATATATATATA!
「アイエアバッBRATTATATATATA!
なんたる狂気の制圧射撃!これでは蟻がイーグルに向かうようなものだ!
「アイエエエエエエエエ!アイエエエエエ!」
「アッ、ノバシ=サン!アバーッ!」
しかし、幸運にもノバシは逃走する事ができた。生き残った仲間と、キンバシたちの死体を残して。
ーーーーー
「…それで、同志は逃げ帰ってきた」
バスター・テツオの静かな声が、会場に響く。
「…ハイ」
「スッゾコラー敗北主義!」
「自己批判せよ!総括だ!」
「総括!総括!総括!」
怒りに我を忘れた一般構成員たちの怒声が響く。「総括」とは、もともとは反省会めいたなんかを意味していたが、今やイッキ・ウチコワシ内での社会的ムラハチを意味する。
「皆さん、落ち着いて。同志ノバシはモーターヤブの写真を持ち帰った。実際、進歩的未来のためになっている」
バスター・テツオの深く寛大な言葉に、群衆は水を打ったように静まり返った。
「しかし、この愚行は敗北主義的。名誉挽回のため、同志ノバシへはトットリ村への異動を提案する」
「ハイ…ヨロコンデー!」
明らかに死出の旅にもかかわらず、ノバシの眼は決断と喜びに満ちていた。進歩的未来。そのイデオロギーが、ノバシをはじめとする一般人に洗脳めいて強力に染み付いていた。バスター・テツオの高いカリスマ性が、それを助長する。ノバシは決意の足取りで、輸送ヘリコプターへと向かっていった。
ーーーーーー
「はあ…戻れるのは良いけど」
フォウは夜行バスの車内で力なく呟いた。一応ホームレスまがいの生活は出来ていたのだ。あの日までは。
(((またニンジャが出たら私を呼べ)))
「…ヤクザ天狗…?もうやだあの街…」
あのヤクザ天狗なる発狂マニアックに金を巻き上げられ、挙げ句ナゼかネオサイタマから遠く離れた中国地方まで運ばれたのである。
「何がしたかったんだ?ともかく、ネオサイタマに戻らなければ」
フォウはなぜ、ここまでネオサイタマに拘るのか?その理由は二つ。一つは、「そこでなければ暮らして行けない」事。日本で暮らす事は厳しい。ましてや常識を知らないフォウはなおさらだ。角を隠す理由付けも必要だし、働く事もできない。
そして、もう一つは。
(あそこは確かに危険なところだ。でも…何だかぼくは、離れたくない。いや、
根拠のない、全くの憶測。だが、ニンジャなる超自然的存在に絡まれ、更には狂人にも絡まれたフォウはすでに人間不信を発症していた。そのため、自分を信じてバスで再びネオサイタマに戻ろうと考えている。資金はオイランめいた退廃サービスで稼いだ。何ヵ月か続いた悪夢のような生活に戻りたくないのだ。だが―
「現在渋滞中。しばらく停車ドスエ」
はあ、とフォウはまたもため息をつき、燃えるように赤い空を眺めた。闇夜に不釣り合いな赤い空を―その時!
CRAAAAASH!
「アイエエエエ!?」
バスのすぐ右上を、鋼鉄の機械が踏み潰した!そいつから見て2時方向に、フォウの乗るバスがあった。逆関節の体は戦車程もあり、背面に威圧的なカタカナで「モーターヤブ」と描かれている。…おお、その効果か運転手は失禁している!マッポのパトランプのように、赤いLEDがひかった。
「着地点、座標補正、ありがとうございます、ご迷惑おかけします」
不快な合成音声が、雨音に混じり聞こえた。ああ、この暴力機械こそ、ノバシ率いるイッキ・ウチコワシ部隊を殲滅したモーターヤブである!
モーターヤブは蒸気を吹き上げながら、身を屈め、そして大ジャンプした。そして下り坂のハイウェイを、車を潰しながら下っていく。その先に、フォウは見覚えがあった。
「…トットリーヴィル!」
そこはフォウがヤクザ天狗に降ろされた場所であった。そしてフォウは衝動的にバスを降り、トットリーヴィルへ走る…おおブッダよ、寝ているのですか!?この少年に慈悲の視線をも与えないというのですか!
ーーーーー
フォウがヤクザ天狗から解放され、錯乱状態にあったとき、トットリーヴィルの住民は余所者に優しく介抱をしてくれた。それはフォウにとってはこれ以上ない喜びだったのだ。それが今、踏みにじられようとしている!
HYYUUUM!
フォウの周囲に、変わった風切り音が響いた。鳥人と化したフォウの特殊能力、ゼロ移動である!
ハイウェイを駆けろ。急げ。モーターヤブまで、あと20メートル。さらにゼロ移動。あと17メートル。急げ!モーターヤブにRPGが命中。損害はない。近くにレジスタンス。一人が死んだ。あと10メートル。ゼロ移動。6メートル、3メートル―
CRAAAASSSSSH!
「ピガガーッ!」
間に合った!フォウのドロップキックがモーターヤブ右側面に炸裂!僅かによろめいたが、損害は軽微らしい、こちらに照準を定める。近くのレジスタンス二人は無事。バイクで逃げて行く。モーターヤブのガトリングが照準し―
「排除します」
BRATATATATATA!!
火を噴いた!フォウはゼロ移動で回避し、カンガルーめいた逆関節の脚部に手をかざし、オレンジ色の光弾を発射!
DROOM!DROOM!
一部は弾かれたが、脚関節部に命中!大きく抉れた弾痕がいくつも形成されていく!
「ピガガーッ!」
脚部に修理不能の大ダメージ!バクチクめいた連続爆発!モーターヤブはよろめきながら蒸気を噴き出し、立て直しを図るが…
DROOM!DRRRRRRROOM!
ナムアミダブツ!低威力といえど、装甲貫通には十分な火力の光弾がワン・インチ距離で無慈悲にモーターヤブを襲う!燃料ボックス貫通!人工頭脳部貫通!
「ピガッピガガガ!ピガガーッccda/be^@::*sakjddd^d」
断末魔のBEEP音をかき鳴らした後、モーターヤブはもんどりうって倒れた。煙を吐き、自動ガトリングは使い物にならないほど変形している。
「…!」
だが安心はできない。なぜなら、モーターヤブはあと三台あるからだ。
しかし一台倒せたことは大きい。トットリーヴィルの生存可能性は実際高まった。と言えども余韻に浸るヒマはない。フォウはすぐに、ゼロ移動でトットリーヴィルへと向かった。
―-----------------------------
ZZZZAP!
「ピガガーッ!」
CRAAAAAAAAAAAASH!!!
フォウの右手から放たれた赤く輝くレーザーがモーターヤブの装甲を貫徹した!すでに住民のグレネードで装甲がひしゃげていたモーターヤブはもはや虫の息!
あとはとどめを刺すのみ!フォウがモーターヤブに手をかざし、あのオレンジ色の光弾を―
「キエーッ!」
フォウの頬をかすめ、羽飾りのついた矢がモーターヤブの関節部に容赦なく突き刺さった!アブナイ!そしてこれがとどめとなったか、モーターヤブはセンコ花火めいた火花を散らし機能停止した。
フォウはそれより早く、矢の発射された見張り台を目視していた。そこにいたのは、長弓を携えた女ニンジャであった。
「…」
フォウはその女ニンジャに丁寧に感謝のお辞儀をした。彼女もそれに応えオジギしたが、垣間見えた眼光はぞっとするほど無感情であった。
「いいぞ、ガンバレ!気を抜くな!」
住民のリーダーが、せわしなく走り回ってメガホンで声援を送っていた。そのうちにフォウのところに近づいてから、立ち止まり、怪訝そうに離れた。
「ん?なんだ、あンた」
「ぼくは―」
そこまで言って、自分がまだ変身を行ったままと知り、すぐに姿を人間に戻した。
「えっと、数ヶ月前に介抱していただいたフォウ・ミサキです。村がすごい事になっていたので、帰ってきました」
リーダーは優しくほほえんだあと、フォウに向き直った。
「フォウ=サンも戦ってくれるのか、ありがとう。まずはラプチャー=サンに伝えねば」
「アイエエエエ!!」
KABOOOOM!
「アバーッ!?」
突如、ライフルでモーターヤブを迎撃していた家屋が根元から爆発四散!これはいかなる怪奇現象か!?そこを悠々と歩くのは、肥満したシルエットのニンジャ!ボムディフェンス装束を着込んだ、オムラ社の企業戦士ニンジャである!
「グッハハハハハハ!」
たちまち銃撃が大量に浴びせられるが、ニンジャはブリッジで流麗に回避!しかし、そこへ超音速で追いすがる鳥人を視認し、バック転で脱出!
ニンジャのいた所に着地したフォウが、速やかにニンジャを発見した。家屋の上に立ち、嘲笑の笑みとともにアイサツした。
「ドーモ、エクスプロシブです―おっと、ほれ!」
アイサツを完全無視してフォウが発射したオレンジ光弾をジャンプで回避し、カウンターに高分子バクチクを投擲!
HYUUM!
エクスプロシブ自慢の高分子バクチクも、当たらなければ効果は全くない。回避主体の戦闘スタイルであるフォウは、エクスプロシブが最も対処の難しい相手であった。
「コシャクな!イヤーッ!」
いかなる罵声を叫んでも、バクチクが当たる確率は変わらない。バクチクの狙いはみるみる逸れていく。
しめたーフォウは、エクスプロシブが集中力を失う時を待っていたのだ!建物を飛び移り、レーザーの射程内まで距離を詰めていく。
「オイ、そのオバケ!」
不意にエクスプロシブが、フォウに話しかけた。フォウは足を止めたが、攻撃姿勢は崩さない。話が終わり次第、攻撃するつもりである。
「その家屋にはバクチクが仕掛けてある」
「!!!」KABOOM!
その刹那、フォウのいた家屋が爆発四散!フォウは辛くもゼロ移動で脱出したが、それでも無視できぬダメージだ!。全身火達磨、身動きはとれないだろう。
「注意は一秒、後遺症が死ぬまで」
エクスプロシブは冷静そのものといった口調で、哲学剣士ミヤモト・マサシの格言を引用した。・・・おお、ナムアミダブツ!彼の罵声も、苛立ちも、全ては演技でしかなかったのだ!
「このトットリーヴィルは俺の庭も同然だ。この十分の間に、しっかり仕込ませてもらった」
フォウにゆらゆらと歩み寄るエクスプロシブは、余裕そのものであった。
「まったく、ニンジャのイクサの決着は一瞬よ・・・ロクな抵抗もできずに退場する気分はどうだ、鳥人間?」
「…貴様、それは撤回してもらおう」
フォウは少し口角を上げて、挑発的に言ってみせた。エクスプロシブが眉間にしわを寄せる。
「ほう?自分を見てそれが言えるかね」
「そうかもしれない、だが」フォウはそう言った後、エクスプロシブを指差した。
「予想外の出来事も、考えるべきだ」
「イヤーッ!」
横から飛んできたニンジャの飛び蹴りがエクスプロシブに炸裂!
「グワーッ!?」
エクスプロシブをけった青紫のニンジャは、フォウに向き直った。
「我々に手を貸していただき感謝します」
「いえ、こちらこそ」
フォウは言葉を返し、すぐにエクスプロシブに視線を向けた。
「やれやれ、サンシタが一人増えて面倒なことだ。ドーモ、初めまして、エクスプロシブです」
「ドーモ、エクスプロシブ=サン。ラプチャーです」
ラプチャー・・・そう、イッキ・ウチコワシのメンバーである。彼もニンジャだったのだ!
「ほれ!」
エクスプロシブがバクチクをアンダースローで投擲!ラプチャーは直立不動のまま掌をかざした。
「イヤーッ!」
奇怪!掌から発せられた空気は、バクチクを空中に押しとどめた。バクチクは空中で爆発し、ラプチャーには何もダメージがない。これがラプチャーのジツ、テレキネシス・ジツである!
…そして、静かにラプチャーが腰を沈める。腕は戦闘態勢へと移行し、足が力強く地面を蹴った!
「イヤーッ!」
ラプチャーのパンチがエクスプロシブに…届かない!エクスプロシブが体型に見合わぬ俊敏さでかわしていたのである!しかし、これを予想しなかった訳ではない。すぐに切り返し、エクスプロシブの進路を予測して再びパンチ!…だが!
BRATATATATTA!
「グワーッ!?」
ラプチャーをモーターヤブの銃撃が襲う!すかさずエクスプロシブが勝機とみて反撃!
「イヤーッ!」
エクスプロシブのバクチクが至近距離で炸裂!ラプチャーには致命傷だが、ボムディフェンス装束を着込んだエクスプロシブには全くの無傷!
「グワーッ!」
フォウは、無力さに歯噛みしながらこれを見ていた。身動きのとれないフォウにはどうすることもできない!
「さあさ、どうしてくれようか…グッハハハ!」
残酷な笑みとともに、悠々と歩くエクスプロシブ!・・・しかし、その首筋を狙う影がある。その影は、エクスプロシブに飾りつきの矢を放った!
「!」
エクスプロシブほどの玄人が、それを察知せぬ筈がない。首筋を狙った矢は、エクスプロシブの腕の中で折り取られていた。
「ニンジャの真似事か」
「キエーッ!」
「よせ、アムニジア=サン!」
アムニジアと呼ばれた女ニンジャはラプチャーの制止も聞かず、スリケンを投擲した。命中する筈もなく、エクスプロシブはアムニジアの目の前に立っていた。
「…設置完了!グッハハハ!」
「アイエエ!?」
次の瞬間、アムニジアの豊満な胸元に、首輪のごとくバクチクが備えられていた!
「さあ、花火を見せてもらおうか!」
狂ったように笑うエクスプロシブ!この状況はラプチャーも、フォウも何もできない!
「なるほど、確かに面白そうだな」
この場にいる誰でもない、ジゴクめいた声が響く。
「ナニヤツ!…いない」
エクスプロシブが辺りを見回しても、人影は見当たらない。
「花火になるのはオヌシだ、エクスプロシブ=サン」
「アイエッ!」
そこにいたのは、新手のニンジャであった。赤黒いニンジャ装束、「忍」「殺」と描かれたメンポ。伝わる殺気。彼からびりびりと伝わる怒りに、フォウはめまいさえ覚えていた。
「ドーモ、皆さん。初めまして。ニンジャスレイヤーです」
そして言った。「ユカノ、迎えにきたぞ」
「ユカノ…?」
アムニジアは困惑した様子で、苦しそうに繰り返した。
「お前は私を知っているのか?」
「ああ」
そう話すニンジャスレイヤーの手には、バクチクがある。アムニジアに付けられていたはずのバクチクが!現れると同時に彼が取り外したのだ!何たるハヤワザ!二人の会話に、エクスプロシブが割り込んだ。
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ちなみに、そこのラプチャー=サンと鳥野郎にはバクチクを仕掛けておいた」
「何!」
フォウはすばやく首のバクチクを取り外し、放り投げた。着地するや否や爆発!だが、先ほどの戦闘で致命傷を負ったラプチャーは取り外すことも適わない。力を振り絞るフォウをラプチャーは制止した。
「フォウ=サン、俺はもうダメらしい。残念だが、お別れだ」
そして、ニンジャスレイヤーに叫んだ。
「ニンジャスレイヤー=サン!エクスプロシブ=サンを倒してくれ!」
そして、壊れた足で誰もいない方向へ跳び、
「ラプチャー=サン!」
「サ ヨ ナ ラ !」
アワレ、バクチクの起爆でラプチャーは爆発四散!
それをせせら笑うエクスプロシブ、対峙する二人のニンジャ。時はウシミツ・アワー、苛烈かつ壮絶なイクサは、まだ序章にも過ぎなかったのである。
ーーーーーー
「サヨナラ!!」
バクチクの爆発の中で、エクスプロシブはこの叫びとともに燃え尽きた。残骸と化したモーターヤブが近くに鎮座している。アムニジアは負傷したフォウを連れて逃げ、ニンジャスレイヤーのみがエクスプロシブと戦った。逃げるとき、フォウは彼のイクサから目を離せなかった。あまりにも一方的。戦えば命はないだろう。
フォウは一種の恐れに近い感情を抱いていた。かのヤクザ天狗に近い、底知れぬ狂気に触れていた。
「アタヤマ、アシ、イリダ、ホヤマ、ノバシ、カンダ、・・・」
戦いが佳境を過ぎ、最後のモーターヤブが倒された時、フォウは野戦病院めいた家屋で治療を受けていた。レジスタンスリーダーが戦死者の名前を名簿から消す傍らで、狂気のイクサがニューロンを巡りに巡っていた。子守唄のように響くリーダーの声が、フートン内のフォウを幾月ぶりかの安心した眠りにいざなっていった。
傷は一晩で完治した。フォウの回復速度は常人のペースを逸している。
「ニンジャスレイヤーさんは、どこに行きましたか」
「それが、我々にもわからない」
ニンジャスレイヤーは消えた、リーダーはそう形容するほかなかった。
「…フォウ=サンはこれからどうするんです?」
「とりあえず、なんとかしてネオサイタマに行きます」
フォウは淀みなくそう答えた。リーダーは、かねてから考えていた事を口にした。
「その、イッキ・ウチコワシに入る気はありませんか?ここなら身分もないし、安定した生活ができますよ。実力や努力次第で、ヨメも頂けるかもしれません」
「すみませんが、それはやめておきます。嫁なんて、ぼくにはいりません」
フォウは微笑していたが、リーダーはその寂しい表情に酷い空虚さを覚えた。少年の心には、狂気とも、怒りとも違う感情が巣食っていた。
「…それなら、仕方がありませんね」
リーダーは静かに、腰を上げた。フォウも立ち上がり、着替えて家屋を出た。
「今までありがとうございました。もしも縁があったら、また」
「「「「「オタッシャデー!」」」」」
見送りのレジスタンスに一礼し、ネオサイタマを目指し再び歩く。一年に数度しかない晴れの日光をさんさんと浴びながら、ケオスの町へ。
「ハンマー・オン・ザ・シックル」終
見りゃわかりますが、この話は「スシ・ナイト・アット・ザ・バリケード」とリンクしております。あわせて読むと、より細かくイッキ・ウチコワシが描写されるのでアブハチトラズな。
人物名鑑
ラプチャー
イッキ・ウチコワシの革命戦士ニンジャ。カラテはそこそこだが、未熟か、ジツの使い方が悪かったか、エクスプロシブには比較的すぐに倒されてしまった。テレキネシス・ジツは比較的白兵戦に向かないため、後方支援やサポートに徹すれば勝機はあっただろう。
エクスプロシブ
オムラ社の企業戦士ニンジャ。オムラ開発の高分子バクチクを扱う。なかなかのワザマエを持つ男であったが、ニンジャスレイヤーにはいかにシツレイな手を用いても勝つ事はできなかった。
ニンジャスレイヤー
「ニンジャを殺すニンジャ」。そのカラテ・ワザマエ・セイシンテキすべてが常軌を逸す強さを持つ。彼は師匠の孫娘である「ユカノ」を探し、トットリーヴィルに現れたようだが…
今回は本編とのリンクを重視して書きましたが、次話は完全オリジナルになります。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
ビヨンド・ドリーム
ニンジャスレイヤー・ウィズ・ワンダラーズ
「ビヨンド・ドリーム」
「・・・ええ、はい、何ですって?」
セバタは玄関で思わず聞き返した。折角の休日に訪問者が来たと、嫌々ながらインターホンで話した。だが、その訪問者はカルト宗教であったのだ。
「我々は実際仲間を求めています。共にペケロッパ神を信仰するものを」
「スミマセン、そういうのは」
セバタは予期せぬ来訪に困惑したが、追い返そうとした。しかし。
「わたしはブッダでじゅうぶん―」
「セバタ・タカムネ。19歳。男。オナタカミ社のプログラマーとして働くが、その実違法メガデモを制作、販売する脱法ハッカーであり」
「ヤ、ヤメロ!」
セバタは思わず叫んだ。自分の何一つ違わぬ経歴を淡々と話されては、誰もがこうするであろう。しかもセバタの場合、肉親にも秘密にしていた経歴だったのである。なんとなく、逃げ場がない事を悟った。
「…それで、オレに何をしろって言うんです」
「我々はあなたを求めているのです。そのハッカー、メガデモ製作者、プログラマとしての実力は実際テンサイ級に達します。この三つを会得するものは珍しい」
「…」
「その点からみて、スカウトしようと」
「…入信の手続きは、どこでとれますか」
あまりにもすんなり承諾されたため、ペケロッパはやや面食らったようだが、すぐに説明がされた。それを聞きながら、セバタは自分の人生の行き当たりばったりなところを恥じた。
バイオモミジが家屋を包み込み、冷たさの増した重金属酸性雨が雨戸を打っていた。
「・・・我が手には/血塗れのマサカリと/蘇我稲目の首/我が軍勢とともに/高野山へと進め/空海を殺せ!・・・」
「オイ、アツミ」
セバタは凄まじいブラックメタル騒音の中、弟に話しかけた。年が離れた、自分とは間逆の道に進んだ弟。いまや未成年でありながらバリキナイトにも参加するようになった。乱暴にプレーヤーのスイッチを切り、ぎろりと兄を見つめる。
「なんだよ、兄ちゃん」
「兄ちゃん予定ができたからな、明日家空ける」
「そうかよ」
「お前もたまには勉強しろよ」
その言葉を聞いた途端、アツミの手が金属バットを握り締めた!兄を容赦なく殴打!
「わかったようなクチきいてんじゃねえコラーッ!」
「グワーッ!」
セバタはすぐにフスマを閉めた。慣れっこだ。フスマには「アンタイセイ」「ブッダをファックする」「最澄と薬物前後」といったひどく冒涜的な文言が殴り書きされていた。
実のところ、セバタは内心この家庭にうんざりだった。プログラマ職もいまひとつ退屈で、刺激がほしくて違法行為に手を染めたのだった。人生を単なるプログラマで終える気は毛頭なかった。自分をもっとアッピールしたかったのかもしれない。ペケロッパなる、狂気カルトに入信するよう考えたのもそれだろう。セバタは自分が滑稽に思えた。
(((イディオットかよ…だけど)))
しかし、三つの経歴を知り、それを前向きに評価してくれたのはペケロッパくらいであった。眠りにつくセバタのニューロンに、疑問が渦巻いては消えてゆく。
(((ここであれば、オレを受け入れてくれるのか?オナタカミのプログラマでもなく、メガデモ作者でもなく、オレ自身を?)))
ーーーーー
やや早起きな弟のブラックメタル大騒音で、セバタは朝を迎えた。ベジタブル・スシを食い、弟の分をフスマのもとに置いた。こうすれば、アツミも文句は言わない。セバタはスーツに着替え、ネクタイを締めた。長髪をゴムで後ろにまとめ、顔を洗う。プログラマではあるが、外見には実際気を使っていた。フォーマルなスーツに身を包んだ姿は、一見女性のようにも思える。セバタはハンドヘルドIRC端末でUNIXを起動し、集合時間を確認してから、家を出た。
「あなたが、セバタ=サンですね」
ペケロッパの家紋タクシーがセバタの前に止まり、ノイズ交じりの合成音声で運転手が話した。
「ハイ」
セバタは家紋タクシーでペケロッパの説明を聞いていた。なんだかよくわからない話だ。
「・・・して、いずれは全世界を1bit化することが、我々の重点目標です。肉体とは、ローカルコトダマ空間を入れた箱にしか過ぎません。その肉体をいくら汚そうが、精神に影響はない。…おっと、スミマセン」
唐突に運転手がタクシーを停め、車載UNIXにLAN端子をジャックインした。サイバネ義眼がアサッテの方向を向き、手がだらんと伸びる。
「///gate,gate,para some gate...」
謎のチャントをうわごとのように唱え始めた。セバタに渡されたパンフレットにあった、「礼拝」であろう。しかし、やはりセバタは困惑を隠せなかった。今さらながら、この宗教に関わったことを後悔した。恐らく入信しても、実際これは慣れないだろうな、と思う。やがて、運転手が我に帰る。
「礼拝は欠かせないものですから」
「アッハイ」
そして、家紋タクシーは郊外のビルに止まった。案内のまま、セバタは入り口へと向かった。
「ここが、我々ペケロッパの唯一の物理サイトです」
そこは壁を埋め尽くすほどのプリント基板が増設された、巨大UNIXが鎮座する場所であった。そして、モニタとキーボード、LAN直結端子が備えられている。ザゼンドリンクのパックも置かれている。人はセバタと運転手以外誰もいない。
「ここで、入信の儀式を執り行います」
運転手がLAN端子を指差した。ジャックインせよ、と言うことだろう。自分の首筋にあるLAN端子を探り当て、コードをタイピング鍛錬で鍛えられた指でつまんだ。
「・・・俊敏な茶色の狐が怠惰な犬を飛び越す…!」
古に伝わるハッカー・チャントを唱え、LAN端子をジャックインした。彼の目は虚ろとなり、がくんと頭が下がった。彼の意識が肉体を抜け、IRCネットワークへ入ったことの証拠である。セバタの前に七つのトリイ・ゲートウェイ。超音速で通過。通過?こんなことは初めてだ。頭上に、黄金の立方体が見える。幻覚か?すぐに視界が暗転し、論理肉1体0が10謎の空1間01を舞1う011010101・・・
ーーーーー
ーーーーー
…0100101110101001/プツン!
「オツカレサマドスエ」
「アイエッ!アイエエ…」
セバタの意識が現実世界に戻った。しかし、重篤な頭痛がセバタのニューロンを襲う。頭を抱え、さらに流れ出る鼻血を拭く。2分ほどして、収まったセバタは黙って見ていた運転手に話しかけた。
「…これが、儀式、ですか」
息も絶え絶えにセバタが問いかける。
「ハイ。…何か?」
「…黄金立方体が、トリイ・ゲートウェイを・・・」
「何ですって?コトダマ空間!?」
血相を変えたように、運転手はセバタを掴んで叫んでいた。ペケロッパ・カルトの教義において、死者に会えると伝えられるコトダマ空間に触れたと気づいたのは、説明を受けた入信後の事であった。
ーーーーー
「アツミ、オハヨ!」
セバタは笑って、フスマの奥の弟に言った。答えてはくれないが、これは続けることにしている。ペケロッパに参加してから、セバタは憑き物がとれたように明るくなった。世間には新興カルト教団と認知され、あまり良く思われていないペケロッパであるが、セバタにとって実際それはどうでもよかった。
そして、彼は再びペケロッパにあしを踏み入れている。自分を見つめなおさせてくれた、ペケロッパに。・・・といって、実際に足を踏み入れているわけではない。目を閉じ、LAN端子をジャックインして、IRCネットワークでメンバーとチャット会話するのだ。
#PEKEROPPA:SnEa:現実でもチャット重点。物理会話よりもチャットが実際便利な(1.2)///
#PEKEROPPA:Agrws:実際チャットの方がわかりやすいですからネー(0.9)///
カッコの中に示されているのはタイプ速度である。このタイプ速度は、基本的には早ければ早いほどよい、とされている。多少の小細工あれど、ハッカーのワザマエはタイプ速度に依存するのだ。セバタがIRCチャット内にログインした。この会話が何よりの支えである。
#PEKEROPPA:SBTA:ドーモ(0.09)///
#PEKEROPPA:SnEa:ドーモ、SBTA=サン 仕事は終わったんですか?(0.8)///
#PEKEROPPA:SBTA:ハイ、終わりました 実際大変ですがやりがいある洗練された仕事です(0.4)///
セバタは違法ハッカーではあるが、実際ワザマエはテンサイ級である。この中ではタイプ速度は群を抜いて早い。チャットから、相手の息を呑む音が聞こえる気がした。
#PEKEROPPA:Agrws:ところで SBTA=サン(0.2)///
#PEKEROPPA:SBTA:なんでしょうか ワタシで良かったらお答えしますよ(0.3)///
#PEKEROPPA:Agrws:コトダマ空間に入ったというのは実際本当ですか?(0.7)///
セバタの生体入力が一瞬止まった。思ったよりもはるかに認知がハヤイ。ごまかそうとも思ったが、Agrwsの質問からして、隠し通すことはできないだろう。
#PEKEROPPA:SBTA:ハイ、本当です ですが実際今に至るまで一度しか入れたことがありません 今後もムリでしょう(0.4)///
この考えは嘘ではなく、セバタの本心であった。なぜコトダマ空間に入れたかはわからないが、意識が01の波に飲まれたあたりで、自分の力量不足がわかった。これから十年、二十年後はともかく、今はムリだろう。
―だが、ナムアミダブツ、慈悲か悪意か、セバタの理解を超える解決策を、ペケロッパ・メンバが提示したのだ!
#PEKEROPPA:SnEa:ザゼンドリンクをキメるのはどうですか?実際、ヒサツ・ワザとして活用されています(1.0)///
ザゼンドリンク!ニューロンに電流走ったセバタは、LAN端子を首筋から抜き、急いで重金属酸性雨防護コートを羽織った。最低限の素子マネーを持った。
「オイ兄ちゃん、カナガワのフロッピーどこに」
「悪い!アツミ、兄ちゃんちょっとコケシマート行くから、留守番しといてくれ!」
いつになく気さくな弟がフスマから出てきたが、少しかまっていられない!すさまじい速度でドアを開け、近所のコケシマートに直行すべく駆けるセバタ!カンオケ・ホテルを横切り、「あッサボテンシティ?」のネオン看板も無視!そのままザゼンドリンクを一ダース購入し、落ち着いてコケシマートを出た。見ると、雷が鳴る激しい酸性雨が降っている。すごいな、と他人事のように思って、なんとなく歩いていた。
「……ン?」
セバタがふと横のバイオモミジの木に目をやると…そこには、少年がいた。ネオサイタマの子供にしては色素の薄い感じの肌で、金髪、無垢そうな緑に光る目が可愛らしいが、その眼は超能力を持っていそうなほど輝き、超自然アトモスフィアを感じさせる。そして、額には…角?
「あの…ぼくの顔に、なんかついてますか?」
見つめすぎたか、怪訝そうにセバタを見る。そりゃ立派なモノがついてるよ、と言いそうになったが、自制して非礼を詫びた。
「スミマセン。ネオサイタマだと、コーカソイドは珍しいので」
「こーかそいど、って何ですか?」
「…エッ、知らない?」
セバタはしばらくその少年にコーカソイドの説明をしていたが、我に帰って、すぐ帰らなければならないと思った。自宅にはカワイイな弟がさみしく待っているかもしれない!
そう思うといても立ってもいられなくなったセバタは、少年に別れを告げた。
「スミマセン、少し用事がありました。あなたも何処かでフートンを探した方がいいですよ。それでは、オタッシャデー!」
「あっ、ちょっと」
急ぎ足で別れのアイサツを済ますと、コートを振り落としそうな勢いでまた走った。弟もそうだが、ザゼンドリンクを試してみたい気持ちも強い。
できる事なら、もう一度コトダマ空間に入ってみたい。セバタのニューロンを、そんな考えがよぎった。アツミはこんな兄を呪うだろうか、自分よりもUNIXを尊ぶ兄を?だがそれも、あとで考えればよい。やって見よう。やってみればわかる。
「ただいま、アツミ・・・アツミ?」
自宅マンションの扉を開いて、アツミ部屋のフスマが開いていることに気づいた。UNIX室にもいない、トコノマにもいない―家にいないぞ!
「ピ、ガ、ガ、ガガガガガガガガ!ピガ!」
「アイエッ!」
監視UNIXカメラが黒煙を噴いて故障!アブナイ!UNIXはオーバーフローするとばくはつをおこす!
「ピガガガ!」KABOOOM!
UNIXカメラがばくはつした直後、セバタはトコノマを良く見回した。すると…読者の皆さんにもしプログラマめいた緻密観察眼の持ち主がいれば、見えることであろう・・・わずかながら、壁に焦げた痕跡!スタン・ジュッテである!何者かが襲撃し、弟を連れ去ったのだ!
「ハーッ、ハーッ…!」
セバタの背中に嫌な汗が降り、開けっ放しの扉から酸性雨が流れ込む。緊張し、無意識に手がホームポジションに移行した。
-やることは一つしかない。タンスから護身用の銃器を取り出した。試製MP-IIIK、オナタカミのよしみでもらったものだ。弾丸を込め、自作の有線LAN接続機をマウントし、生体端子にジャックイン。ホルスターに差込み、カツ、カツと靴音を立てながら、ドアをくぐり、閉めた。
ーーーーー
「ザッケンナコラーッ!アーッ!?」
「スッダロゲッカコラーッ!」
「アイエエエエ!アイエエエエ!」
・・・おお、ナムアミダブツ!陰湿かつ、狂喜の集団リンチである!だがこれも、ネオサイタマではチャメシ・インシデントである!リアルヤクザ崩れの中年モヒカン率いる、無秩序無軌道テクノヤンクたち!彼らはもとアツミを立ててやっていたが、トツゼン手のひらを返してリンチしていたのである。理不尽!なんたるマッポー的心理暴力!これもまた古事記に記されしマッポーカリプスの一側面か!…そこに新たな人影が!セバタのエントリーだ!
「アツミ!アツミ!?」
ぐり、ぐりと音を立て、焦点のあわない濁った目がセバタを見つめる。ウカツ、わざわざ叫んだのは失敗であった!
「…ア?テメッコラー!スッゾスッゾスッゾコラーーー!!!」
だいぶ興奮している!ZBR中毒症状か!?
「なんだよアンタァ!このガキの連れか?チンチン=カモカモかっコラーッ!」
「「「「チンチン=カモカモかッコラーッ!!」」」」
「アッへ!オイ、アツミ=サァン、テメエの便器マイコが来てくれたぞオ!?」
「ケツ・ノ・アナ!ケツ・ノ・アナ!」
彼らは五年ほど前、あるいは去年くらいまではマジメで、ソンケイを持つ物であったかもしれない。だが、今はこの通りただのジャンキーである。
全身傷だらけの、しかしまだ反抗心のある目でアツミが恨めしげにテクノヤンクを見つめる。だがすぐに、釘バットで背中を打たれた。血の混じった咳!
「アンタら、そいつはな」
セバタが平静を努めて言った。だが、その目は見開かれてオーガの如く、声は震えている。そして、MP-IIIKを構え、脳内の論理トリガに意識を集中した。
「そいつはな、オレの、弟だ!Wasshoi!」
BLAM!BLAM!BLLLAAMM!
「アバーッ!?」
「アイエエエ!?アバーッ!」
セバタが己を奮い立たせる日本人的シャウトを叫んだかと思うと、瞬く間に二人のテクノヤンクが脳漿をザクロめいてぶちまけ即死!連続殺でポイント倍点!
「「アイエエエエ!!」」
残る二人は奥ゆかしさの欠片もなく失禁し、逃げようとする!しかし、セバタがMP-IIIKの狙いをテクノヤンクから逸らす!なんたるアサッテ!だが…
「イヤーッ!」
BLAM!
CRASHHHHHH!
「「アバーッ!」」
ゴウランガ!弾丸の命中した赤いドラム缶が爆発し、その破片がテクノヤンクを貫通殺!アブハチトラズだ!
「ア…アイエエ!アイエエエ!」
哀れ中年モヒカンは失禁し、銃口に著しく恐怖!
「アイエエ、ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!」
ドゲザ!セバタの怒りと狂気は、薬物で恐れを忘れた、落ちぶれリアルヤクザをも震撼せしめたのだ!ゆっくりと歩み寄るセバタ!彼の精神に渦巻いていた怒りは消え去り、今やゼンめいたシンプルな思考があった。
あと一発でアウト・オブ・アモー。たくさん撃てば実際当たりやすい、太古のレベリオン・ハイクである。だが、リロードをする手間を考えれば、この方法は実際ウカツであった。
「ヤメテ!デンチュウニゴザル!アイエエエエ!!」
涙しながら許しを乞うモヒカン!哀れ!善良な市民であれば、同情を禁じえないだろう。だがセバタは、
「…右の頬を打ち、」
「…エ?」
「そのまま左の頬を殴れ!イヤーッ!」
BLAM!
「アバッ!」
無慈悲!情にサスマタを突き刺せば、メイルストロームに流される。セバタには、もとより生かしておく気などなかった。モヒカンどもにブッダの慈悲は降りなかったのだ。アツミはもはや放心していた。
「さ、家に帰るぞ!アツミ」
セバタはとびきりの笑顔でそう言った。アツミはそれに従ったが、
ーーーーー
「まったく、一体何をしでかしたんだ?兄ちゃんに相談くらいしてくれよ」
道を戻りながら、セバタは上機嫌に言った。実際本当に上機嫌ではなかったが、こうでもしないと頭がおかしくなってしまいそうだ。
「…なあ、アツミ、オレは寂しかったんだぜ。少しでもいいから話し―」
「アーッ!アーッ!火の用心!」
奇声をあげながらチギリキを連打する防火説法モンクがすれ違った。気まずい空気!何とも話しにくい空気となってしまった。
「・・・兄ちゃん」
静寂を破ったのはアツミであった。不器用そうに話し出す。
「兄ちゃんはさ、おれの事ちゃんと考えてるのかよ」
「何だ急に…当たり前だ。兄として当然だろ」
アツミは、ばつが悪そうにくすりと笑って、それから言った。
「それじゃあ、今度あんな奴ら来ても、兄ちゃんが守ってくれよ!兄の務めだろ!」
セバタは肩透かしを食らったように思い、それから不意に嬉しくなった。小さいことではあるが、自分を頼られるというのはこれまで一度とあっただろうか?
「…わかったよ。オレがアツミを守ってやる。あっでも、バリキドリンク飲むの控えろよ!」
「エー、ナンデ!?」
セバタは子供をあやすように、人指し指を立てて言った。
「バリキドリンクはな、あんまり飲んでると髪の毛真っ白になっちゃうんだぞ!」
「ハハハ、カトゥーンかよ!騙そうったってムダだぜ!」
酸性雨吹きすさぶ中、ネオサイタマに似つかわしくない談笑が聞こえる。まるでアビ・インフェルノ・ジゴクに生えるサクラのように輝いて、夢と希望を持っていた。セバタには、またこのマッポーを生き抜く小さな希望を持ったのである。
ビヨンド・ドリーム#終
<><><>NINJA SLAYER WITH WONDERERS<><><>
<<前の話 目次 次の話>>
EPLOGUE
重金属酸性雨の応酬のなか、死んだように眠る少年がいる。読者の皆さんならおわかりであろう、トットリーヴィルにいたフォウ・ミサキである。彼はなんとかネオサイタマで物乞いをしたり空き缶拾いをしたりして、久しぶりの平和を謳歌していたのだった。そのフォウに、長髪の人間が歩み寄った。
「オイ、少年!」
「ん…あなたは…どっかで会いませんでしたか?」
セバタである。セバタは以前にも増して元気そうだ。活力がある。照れくさそうに、フォウに話しかけた。
「キミ、実際ここだと死ぬぞ。オレの家で匿ってやろうか?…いや、ホラ、困っている奴を助けないのは腰抜け、って言うから」
フォウは少し考え込んだ。が、下手に路上でのたれ死ぬよりも、屋根くらいはあったほうが良い。
「じゃあ、お願いします。案内していただけますか」
「ハイ、ヨロコンデ!」
威勢よくセバタが答え、二人はセバタの家に進路を変更した。
「ただいま!」
「お邪魔します」
フォウはセバタの家に入った。キレイ!どんよりとした外装とは裏腹に、光る囲炉裏と、よく手入れされた漆黒トーフめいたUNIXが目に映った。整然と並ぶザゼンドリンクの空き瓶も、キレイさを強調していた。
「キレイだろ?良く使ってるからな」
そう言って笑うセバタの目は、片目が淡く光っていた。サイバネ義眼である。ペケロッパは、自分の身体をサイバネ置換することで信仰心を高めるのだ。
「じゃあ、オレは礼拝してくるから、ゆっくりしていってくれ」
礼拝室へ行くセバタを見送ったのち、フォウは仰向けに寝転び、天井に目をやった。呪ってさえいた運命が自分をここに呼んだと思うと、なんだか恨めしい。フォウのいた世界はネオサイタマを越すマッポーぶりだったが、住み心地は良かったのだ。どちらの世界で、といわれたら当然そちらを選ぶに決まっている。
「楓…」
意図せず、名前が口から出た。…七瀬 楓。フォウの想い人である。彼女が自分の存在意義であり、生きる理由だった。…そう思っていたのに。
多くの人はもし親友に再会したら、多いに喜び、幸運を祝うことであろう。フォウも、そうだった。彼女が総力をもってフォウを殺しにきた事を除けば、だが。
「・・・ふんっ!」
・・・辛気臭い話はよそう、ここで生き残ることを考えろ。フォウは己を奮い立たせ、意味もなく立ち上がって倒立をした。大丈夫、ぼくは元気だ!
「beeep...beep.縺翫↓縺�■繧�s縺溘☆縺代※繧�k縺励※縺�◆縺�>縺溘>縺�◆縺�」
…ワッツ?フスマから聞こえる、訳のわからぬ声!フシギ!
「縺�繧後°縺溘☆縺代※」
その声は連続して鳴り響き、止む気配を見せない。オバケか!?
「…」
そおっとフスマに忍び寄り…耳を澄まして…それから、右手でぐいと開けた。そこには…おお、ナムアミダブツ…!なんたる冒涜的光景か!
「縺溘☆縺代※繧�k縺励※縺溘☆縺代※縺ェ繧薙〒縺ェ繧薙〒」
ウドンめいて無数かつ乱雑に繋がれたコード。そのコードが繋がる先は人である。右腕は裂かれたように分裂してUNIXに繋がれ、左腕はない。かつて左腕があった場所には、サイバネ単繊維ケーブルが束ねられている。繋がれているのはアツミである。脳髄も、背中も、何かに繋がれていない場所はない。・・・ブッダデーモンも、かように残酷なことはしないであろう。コワイ!奥のワータヌキの置物も、この無残な光景に目を剥いていた。
「・・・!・・・」
フォウはこの筆舌に尽くしがたい状況にあって、しかし平静を保っていた。何とか。・・・だが。
(((これをやったのは、まさかセバタさんなのか?)))
そっちの方が、フォウには驚きであった。彼は狂気を発するような人ではなかったし、ましてやフォウのセイシンテキが狂気を感じ取ったわけでもなかった。だが、これを他の誰かがやったとでもいうのか?・・・困惑し固まっていたフォウは、ニューロンを最大限に動かし事態の把握に努めていた。
そのニューロンを、背後の物音が刺激した。物音。礼拝を終えたセバタの足音である!フォウはフスマを右腕で音もなく閉めた。そして座った。まもなく、セバタがショウジ戸を開けて出てくる。
「あっセバタさん、水ってどこで飲め」
「おういアツミ、ダイジョブか?」
セバタはまるでフォウがいないように振る舞い、フスマを開けた。またも、筆舌に尽くしがたき光景。だが全く動じず、フスマの中に入る。
「どうかしたのか?そんなにしゃべって」
「縺溘☆縺代※縺溘☆縺代※縺ェ繧薙〒」
「そうか、まったく、いつもこうやって素直に話してくれればなあ!」
セバタは元気そうにハハハと笑った。フスマの奥で、じょぼじょぼと液体が落ちる音がする。アツミが失禁したのだろう。今はもう、アツミと呼ぶべきではないかもしれないが・・・
「もう、また粗相しちゃったのか。世話のかかる弟だよ」
そう言って、広がる汚物を拭き取るセバタ。セバタの目には一片の狂気も見えず澄んでいた。あるのは喜びである。
「繧�k縺励※縺溘☆縺代※縺翫↓縺�■繧�s縺ュ縺医%繧阪@縺ヲ」
「ふふ、そんなに褒められるとお兄ちゃん照れちゃうぞ!」
頬を薄く染めて笑うセバタに、フォウは一種のアワレミさえ感じた。彼は、狂気を狂気と認識していないのだろう。やがて、セバタは酔ったように目を潤ませて、アツミだと思われるものに顔を近づけた。何かを熱心にささやいている。フォウは目をそむけ、考えるのをやめることにした。
「アッ、そういや名前を聞いてなかったな。キミ、名前はなんと言うんだ」
不意に話されてやや面食らったが、落ち着きを取り戻してフォウは名乗った。
「ぼくはフォウ・ミサキといいます」
「そうか、フォウ=サン。水はあそこの水道から飲んでくれ、ところで」
そこでセバタは、唐突に話を打ち切った。そして、こともなげに、
「さっきフォウ=サン、フスマの中見たか?」
「いえ、何も」
フォウはさらりと返した。例の発狂マニアックのおかげで、狂気には慣れている。するとセバタは笑顔を作り、フォウに言った。
「あそこに、オレの弟が住んでんだ。今度でいいから、アイサツしてくれ」
その話を聞きつつ、フォウは複雑な気持ちを整理していた。
(((ようやく定住できたと思ったけど…人生そんな楽じゃないか。
そう考えて、自嘲ぎみに笑った。
(((…どっちも、大して変わんないかな。ハハ・・・)))
やはり、
ビヨンド・ドリーム「エピローグ」終
人物名鑑
セバタ
本名、セバタ・タカムネ。テンサイ級のハッカーであり、エンジニアとしてオナタカミ社で働いている。機械を愛すあまり、マイコや卑猥なヤブサメ・ビデオに興味がなくなってしまい、反動的に弟に倒錯的愛情を抱いていた。自分でも異常性を自覚しており、それゆえ表立った行動はしていなかったが、ペケロッパの教義やテクノヤンクの騒動で人知れずタガが外れてしまったようだ。現在は自分が狂っていると考えておらず、弟と幸せな日常を送っていると錯覚している。ちなみに薬物耐性が実際高い。
アツミ
セバタの弟。14歳。年が離れた兄がいわゆる「できる奴」だったことにコンプレックスを抱いており、ブラックメタルやアンタイセイ運動に傾倒していた。終盤で和解こそできたが、セバタの倒錯には最後まで気づけなかった。彼は、今もなおコトダマ空間に苦しんでいるのかもしれない。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
ザ・ソング・オブ・パワ
「強くてスゴイ!だから凄い。オムラは大きく、つよくなる」
重金属酸性雨の雨音の中、誇張広告ツェッペリンがマイコ音声でがなりたてる。昼にも関わらず、その街は真っ暗だった。
「ワーオ、パッパオー!」
「ララバイ的ブッダ」
「実際健全?いえ猥褻重点な」
その下をロボットのように動く市民。全員が編笠やトレンチコートで身を守り、何人かは指がケジメされ、また何人かはほとんど義体と化している。
「アー?キル・ナイン・ユー!コロース!」
「アイエエ!アイーエエエエ!」
そして路地裏で理不尽に殺されるホームレス。この日本の首都ネオサイタマにおいて、あまりにも普遍的な光景である。この裏では、暗黒メガコーポが陰謀をめぐらせ、さらにその裏で邪悪ニンジャ組織が私腹を肥やしているのだ。薬物と猥雑マイコサービスが氾濫するネオサイタマで、民主政治は今や衆愚政治と化し、存在するハズもないカイジュウ対策が大真面目に論じられている始末だ。...そして、
「頭上を見ろ、ビジョンは、ハードコア・・・」
やさしい旋律を口ずさむのは、頭に角を生やした少年。フォウ・ミサキである。フードを被り、防水パーカーを着て町を歩く。今日は同居人のセバタにおつかいを頼まれ、わざわざ酸性雨に打たれている。フォウは、実際あの狂人から一刻も多く離れたかったので、いまここにいるという訳である。
だが、必ずしもあの狂人が悪夢なわけでもなかった。外を見ることは実際楽しい。自分の不幸せを忘れられるからだ。ニンジャなる怪奇存在に絡まれることも無くなって久しく、この世界に漂着してからもう半年が経とうとしていた。
「イラッシェー!」
「すみません、ザゼンドリンクを1パック」
フォウはもしかすると、一生をこの世界で過ごすことになるかもしれない。だが、それを解決する方法などあるだろうか?自分が何故ここへ来たのかもわからないのに、どうやって帰るかなぞ見当もつかなかった。たぶんこうやって、ネオサイタマの住人として生活するようになるだろうな―そのくらいの考えしか、今のフォウにはない。
「ただいま、セバタさん」
「おかえり!フォウ=サン!」
屈託のない笑顔でセバタが出迎えた。長髪を後ろで結び、PVCハカマを着用した姿に、UNIXのモニタ光が反射している。腕は青くサイバー発光する義手になっていた。淡く光るサイバネアイを細めて笑う彼はおおむね善良に思えるが、実のところ弟を改造・監禁する異常性愛者である。フォウにとってはほとんどブッダデーモンのような存在だ。
「ザゼンドリンクは買ってきてくれた?」
「買いましたよ。はい」
ザゼンドリンクはセバタが好んで買う商品である。なにやら大量に飲んでいるのだが、好物だろうか?
「あんまり飲みすぎないでくださいよ。吐かれたら、そうじ大変ですから」
「ハハ!悪い、でもさ、ホラ、何でも使えって言うだろ」
セバタは笑って言った。そして、指でLAN端子を持つとフォウに言った。
「そうだなあ、フォウ=サンは少し待っていてくれよ。しばらくしたら、ゴハン作るからさ」
そう言って、目を閉じ、LAN端子をジャックインすると、ザゼンドリンク4瓶をグラスに入れて一気飲みした。
「はッ、あああ・・・」
サイバネアイの右目がチカチカと明滅し、白目を剥いてがくがく身体を震わせる。そして、糸が切れるように倒れ、キーボードに頭を突っ伏した。コトダマ空間なるものに入った、ということらしい。もっとも、フォウにはラリっているようにしか見えないのだが・・・
(((やっぱり狂人は狂人だな)))
フォウは思い、用意してくれた寝室に針路を変えた。
フスマを開けると、一筋のシワもない、整然としたフートンがフォウを出迎えた。奥にはやはり整然と、「不如帰」とショドーされている。セバタの几帳面と手先のワザマエが発揮されたのであろう。寝心地は想像以上に良さそうだが、フォウはまだ寝る気は無かった。ごそごそとタンスから手帳とペンを取り出す。自分のこれまで体験したことを書くつもりなのだ。
「ええと・・・・・・??」
だが、フォウには重大な問題があった。ボールペンが使えない!エンピツが無いかどうかも探したが、発見できなかった。発見できないからには書くこともできない。苦慮とともに、フォウは手帳をしまった。無意識にショドー紙を殴りつけようとして、左腕で押さえる。ストレスが溜まっている証拠だろうか?
「どうしようか…」
壁にもたれかかりひとりごちる。なんとなく、自分の腕がなまっているような気がして恨めしい。どうごまかしても、心の奥底で自分は戦いを求めているのだ―自分が病的に嫌がっていた戦いを。
重金属酸性雨はその思いをも洗い流すように、箱舟伝説の豪雨めいて降り続けていた・・・
ーーーーー
酸性雨が降り続ける。降る酸性雨は免疫の無い市民を殺し、機械を錆び付かせる。屋根無い限り、酸性雨からは逃げ出せない。
「・・・」
それは、
だが、ブッダも彼女に対する慈悲を持たない。この街で、神など信じない方がよいだろう…だが!
「…!」
ホーリーブッダ!彼女は生きていた!双眸を開き、機械的に辺りを見渡す。黒い髪と瞳は、
「イプシロン」
彼女は喉に繋がれたコードを震わせ、そう言った。だが、その声には何の感情もこめられていない。まるでUNIXの合成音声の如く無機質である。立ち上がり、当ても無く歩き始めた。右腕がキシキシと音を立てる。…ブッダ!彼女は一体何者だと言うのか!?
ーーーーー
「おうい、フォウ=サン!ゴハンできたぞ!」
「…んぁ、はい…」
死んだように壁にもたれかかり、眠っていたフォウはセバタに叩き起こされた。考え事をしていると、なんだか眠たくなってしまった。結局自分の疑問にケリをつける事はできず、そのまままどろんでいたのだった。
「ホラ、久しぶりに頑張ってみたんだ。成せば成るもんだな!」
チャブ・テーブルに奥ゆかしく並べられているのは、スシソバであった。スシがソバにトッピングされている。
「こ…れは、食えるんですか」
「食えるよ!ダイジョブ、任せとけ」
恐る恐る、すすってみると…ソバ・ツユとソバ・ヌードルが絶妙なバランス!オイシイ!フォウは夢中ですすっていた。
「ハハハ、随分がっついてるな。落ち着いて食べな、急いだヒキャクがカロウシしたって言うだろ」
そのコトワザの意味はよくわからなかったが、フォウは一呼吸おいて、目を輝かせてセバタを見た。
「…すいません、ぼくこんなおいしい物食べた事なくて」
「そら面白いジョークだ!ハイスクールでもそんなの聞いたこと無いぜ」
「違いますって!本当です!」
恐れていたはずのセバタの優しみに触れ、フォウは初めて楽しくセバタと語り合っていた。時は日没に差しかかろうとしている。…日没しても、大して明るさは変わらないが・・・
ーーーーー
少女は歩く。義手の状態はキシキシという音にしては順調である。…ネオサイタマにおいて女性が一人出歩くことは、死地へ赴くことに等しい。だが、彼女にはあまり人が近づかなかった。ファック&サヨナラを趣味とするヨタモノでさえも。何故か?それは、彼女の超然的アトモスフィアが知らず知らずに人を遠ざけていたからである。彼女を前にした人間は、ニンジャとは違う威圧感を憶えるのだ。
「…イプ、シロン、」
断続的に彼女は呟く。まるで壊れたフロッピーのように繰り返す。それしか考えていないかのように。後は、何かを捜すように辺りを見回すのみ…
ーーーーー
「…それでさ、コトダマ空間に行くと、上のほうに黄金の立方体が見えるんだよ」
「それ幻覚かなんかじゃないですか?」
「そんな訳ないだろ!実際フォウ=サンにも見てもらいたいな」
ジョークには聞こえない。マジメに聞いていたフォウであったが、そこは流石に苦笑いした。
「遠慮しておきますね」
「それで、いろいろ調べてみたらさ」
セバタの語り口が急に真剣になった。その目は鋭くなり、顔から笑顔が消える。フォウも連鎖的に真剣な顔となっていた。
「オヒガンとコトダマ空間って、やけに似てるんだ」
「おひがん?」
「アノヨ、って言ったらわかりやすいか。要するに、死後の世界ってやつ」
死後の世界…フォウは固唾を飲んだ。自分の今まで殺してきた相手は皆、そこにいるのだ。
セバタが語りを再開した。
「まあ、とにかく、そことコトダマ空間は似ているんだ。黄金立方体、七つのトリイ・ゲートウェイ・・・」
ーーーーー
「…イプ…」
一体どこまで、この少女は歩くつもりだろうか?動きにまったく疲れは見られないが、ネオサイタマの工場ばい煙と、酸性雨が確実に義手や身体を蝕んでいるはずである。…やがて、ジョルリ人形めいて不自然に倒れた。前のめりに道路に突っ伏す。すぐ立ち上がろうとするが、突如、頭をかかえ苦しみ始めた!だが、表情ひとつ変えず無表情、年に反してやや大人びた顔がいっそ不気味ですらある。まるで廃品オイランドロイドだ!そして、不意に宙を向き、憎しみをこめた声で宙空に言った。
「イ…フォ…ウ、……美…咲…!」
ワッザ!?彼女はフォウのことを知っているというのか!?仮にそうであれば、何たるブッダのイタズラであろうか!…酸性雨の騒がしい雨音すらも、彼女のジゴクめいた叫びを掻き消すことは不可能だった。
ーーーーー
「でも、そのオヒガンに行かない限り、本当にそうかわかんないじゃないですか」
「いやさ、それオレがオダブツじゃないか。コワイだよ」
「その昔の本が本当かもわからないでしょう」
セバタの小部屋は、興味を持ったフォウとセバタによる論戦の場と化していた。セバタの仮説についての。その仮説というのは、
「やっぱりよくわかんないですよ、その―コトダマ空間とオヒガンが同じ空間だとか何とかっていうのは」
こういうものである。だが異世界人であるフォウはもちろんのこと、当のセバタも判断しかねていた。それもこれも、確証がないのだ。コトダマ空間はともかく、オヒガンから行って帰ってきた者はいないからだ。頼りになるのは古事記くらいだろう…そこに、かなりマジメな顔をして、セバタが喋った。
「でも、オレはなんとなくそうだと思うんだ。自分の奥底がそう言っている」
「えっ、はい?」
ザゼンドリンクのやりすぎか、セバタは幻聴が聞こえているんだろうか―フォウは本気で、セバタを心配した。すると、セバタはヘラっと笑って見せた。
「あの、大丈夫ですか?」
「ジョークだよ、まさか信じてないよな?頼むぜ、フォウ=サン!」
「ええ、はあ…」
せっかく温まっていた堪忍袋を冷やされてしまい、フォウは肩透かしを食らったように思ってその場にへたり込んだ。そこに、セバタが座り込む。
「いやさ、あんたの言うコトも間違ってないと思うんだけど」
セバタはいたって穏健に、議論を振り出しに戻した。
ーーーーー
少女は、だんだんと歩く半径を絞っていった。彼女のサイバネアイと未知のパワをもって、
「…!」
そこに、窓へ映る人影。そこから一瞬見えたのは―金色に光る髪、無垢そうなヒスイめいた眼、燃えるような赤い角。間違いない!少女は耳から伸びる耳栓めいたコントロールロッドを、耳に挿し込んだ。電子音声が耳から流れる。
「操縦者、座標位置確認中」
「操縦者情報確認。パスコードを入力してください」
「
その瞬間!3kmは離れた場所から無数の欠片が少女めがけ飛翔!フシギ!これはいかなるジツによるものか!?そして、無数の欠片が瞬く間に人型を形成してゆく!
「認証完了。
七瀬 楓。賢明なる読者の皆様ならおわかりであろう、フォウ・ミサキの親友である!彼女はみたび甦ったのだ。この残酷なイクサのために!
「オール・システム・グリーン。基本形態に移行します」
時間にしてわずかコンマ数秒、異常な素早さで、七瀬を中心に3m大の赤い巨人が生成された。それはブーメランめいた投擲武器を持ち、まっすぐにマンションの一室を見据えている。そして、
CRAAAAAASH!
「アイエエエエ!!」
ブーメランを投擲!不幸な隣人を巻き込みつつマンションの壁に甲羅めいたヒビを入れた!
ーーーーー
CRAAAAAASH!
「アイエエ!?」
「うおッ!」
セバタの三インチ先の壁に唐突なヒビ!すわ、テクノヤンクの報復か!?
「ブッダミット!フォウ=サン、タンスからMPを」
フォウはすかさず、タンスの引き出しからMP-IIIKを取り出そうと立ち上がった。だが―
DOOOOM!
「アイエエエ!」
「………え」
ナムサン!第二撃がカーボン壁を完全に破壊!だがようやく、この壁を破壊する者が見えた。…しかし、そこに見える巨人は、フォウの想像だにしない存在であった!
「フォウ=サン、さっさと逃げろ―フォウ=サン?」
「…そんな、そんなワケが」
予想外。その言葉が、もっともフォウの心を代弁した言葉だろう。唇が固まり、冷や汗が背中を伝う―彼女はもう死んだ、ぼくが殺したのだ―では、なぜここにいる?
「フォウ=サン!」
「!!」
はっと、セバタの叫びで我に帰った。
「フォウ=サンはさっさと逃げろ」
「でもセバタさんは!」
そう言うと、セバタはぐっと笑って言った。その目には、奥ゆかしく悲壮な決意が浮かんでいる。
「オレは、兄なんだ。弟を助けない兄にはなりたくない」
そこまで言うとセバタは、ぽん、と力強く肩を叩いた。
「これでお別れだ。オタッシャデー!」
フォウは精一杯に笑顔を作って、ものも言わず駆け出した。だが逃げる気は無い。
自分で撒いた種は、自分が片付けなければならない!
「…困ってる奴を助けないのは腰抜け、だよな」
セバタはそう呟くと、まだ壊れていないフスマを開けた。無数のコードにつながれた弟が見える。そのコードをほとんど断ち切ると、ソクシンブツめいた状態の弟を抱えて足早に出て行った。
フォウは3m大の巨人を前にしてなお、やはり信じられなかった。もう一度、彼は戦うことになったのだ―かつての親友を殺す戦いを。そして、フォウはあの巨人の名を知っている。あの忌まわしい「救世兵器」の名を―
「セブンフォース…!」
今や親友に情け容赦なく刃を向ける少女に、少年はそう呟いた。…和解など望むべくもない。平穏もまた許されないだろう。ああ、ブッダも照覧あれ。これぞ、まさにジゴクだ。どこまでも無慈悲なイクサの幕が、今切られた。
ザ・ソング・オブ・パワ
アドーア・ミー、アイ・アム・サルバーション・ウェポン終
「フラッシュバック、セブン・フォース」に続く
次回最終回です。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
フラッシュバック、セブン・フォース(最終回)
「フラッシュバック、セブン・フォース」
「…」
いったい何が、彼を導くのか?彼をここまで不幸な道へと!鳥人に姿を変えたフォウと、楓の乗るセブンフォースが、静かに見合う。…彼はこの光景に、強いデッジャブを憶えた。遠く、さらに遠くに置いてきた思い出の中に…
ーーーーー
「フォウ、あなたはたたかわなくていいのよ」
やさしく、百合のように美しい声がフォウの耳をくすぐる。楓は慈愛の女神のように、フォウの髪を撫でた。
「…なんで?」
「それはね」
子供をあやすように、楓はもったいぶって話した。そして、女性らしい繊細な右手で細く華奢なフォウの腕をとる。
「
守る。その言葉は嘘ではなかった。彼女は有事の際に彼を、いや、人類を護る兵器となるのだから。
ーーーーー
そして本来「救世兵器」たりえるハズだった
HYUUUM!
フォウがゼロ移動!後ろに回りこみ、右手から赤いレーザーを―セブンフォースの隙間から電子音声!
「フォース・コード識別。ランサーです」
ワッザ!?すると、瞬く間にセブンフォースの左手が後ろエルボー!よけきれずフォウがモロに食らった!
CRAASSSH!
「ぐ はッ!」
受身こそ取ったが、ダメージは免れない。それよりも、この攻撃が意味するところは―
(((攻撃が、対応されている…!)))
こちらも二度目なら、彼女もまた二度目である。かつて受けた攻撃など、彼女のUNIX並みの判断力の敵ではないのだ!
SYUH!SYUH!SYUH!
さらにそこへブーメラン投擲!すかさずフォウは伏せて回避!だが、戻ってきたブーメランは回転しながら地面をかすめ飛ぶ!アブナイ!
HYUUUM!
この程度の回避など、フォウにとっては正にベイビー・サブミッションである!ブーメランが当たったように見えても、フォウの時空操作ゼロ移動はブーメランを透過し突破したのだ!
そして再び、二人は見合った。互いに有効打なし、ゴジュッポ・ヒャッポ。仕切りなおしのようにまた元の場所に戻っていた。
ーーーーー
「やめなさい!」
「っ…なんだよ、くそ」
楓に怒鳴られた少年はそう吐き捨て、面倒臭そうにその場を離れた。フォウを残して。
「フォウっ、だいじょうぶ!?」
「…ぁ」
全く無抵抗で殴られ、蹴られていたフォウは、傷口を押さえようともせず横たわっていた。…彼は、何にも反応を示さなかった。少年の暴行にも、楓の治療にも。
「…彼―彼女とすべきでしょうか―には、
フォウを連れてきた青年は、にべもなくそう告げた。その男がどうして来たのか、楓は覚えていない。…ただ、それから彼女のもとにフォウが「贈られて」きたのは鮮明に覚えている。
「これは、キミのものだ。
それから、フォウは彼女の「所有物」となった。食事、洗浄にいたるまで、フォウは彼女の管理下に。
ーーーーー
HYUUUM!
ゼロ移動、
HYUUUM!
さらにゼロ移動!追いすがるセブンフォース!ポン・パンチめいて地面に勢い良く足を突け、虚空を殴る動作!
BYOOOOM!
なんたる非現実的動作か!ロケットパンチ!フォウはゼロ移動で辛くも回避!…しかし、帰ってきた前肢を受け取るセブンフォースに、わずかなスキが生まれた!
ZZZZAP!
右手から
ようやく、有効打を与えることに成功した。だが、まだ足りない。セブンフォースには、あと数発は当てないと倒せないだろう。…それならば、フォウにも秘策がある。数インチ先のセブンフォースが、悠々とフォウに距離を詰めていく…
JYUUUM!
そこにフォウがゼロ移動で颯爽と突撃!…だが、先ほどのそれとは全く違うものだ!フェニックスめいた緋色の焔を纏っている!フォウに機動性で劣るセブンフォースは回避できず命中!
CABOOOM!
勢いよく超硬セラミックが四散し、辺りをしめやかに彩った。
…これがフォウの奥の手、ゼロ移動爆装である!このワザを受けたものは焔と光速突撃により、ほとんどの場合即死するのだ!
「…くッ!」
…だが、ふつう万全の状態でなければ放てないゼロ爆装を手負いで放つことは、文字通り「命を削って」放つ事でもあった。傷は更に深く刻まれる。
痛みは増大し、余計なダメージさえ受けてしまったが、実際キンボシ・オオキイだ―だが、フォウは警戒を崩さなかった。何故か?次に起こるコトを彼は良く知っている。それは!
第二形態である!紫色に変質した超硬セラミックが、鈍角ウニめいた球体を再構成!…そして、
KYURURURURURURUR!
道路をなぎ倒し、ぞんざいに置かれたホロ街路樹をひき潰し、フォウに迫る!
ーーーーー
鉄筋コンクリートの壁と、シリコン建材の床。そこには、流動食の容器が置かれている。
「フォウ、おいしかった?」
答えない。目は虚空を向いたまま、だらしなく口を開けている。…返事の代わりか、フォウの太ももを一筋の水がさらりと濡らした。
「あっ」
フォウの漏らした小便を掃除し、さらに
「キレーだよな、あの新入り」
「そそ!ホントに男かよ、あいつ!」
そこまでは聞き流していたが、直後に言った言葉は理解できなかった。
「
楓は駆け出した。まるで親の仇に再会したとでも言うように、子供部屋をぬけ、廊下を走りフォウのいるところまで走り通した。
言葉の意味がわからなくても、楓がここまで過剰に警戒するのは無理からぬことでもない。事実、フォウは彼らの「おもちゃ」であったし、彼らは総じて無知だった。むろん、楓を含めて。
(((わたしが、フォウを守らなきゃ。こんなやつらから、守ってあげるんだ)))
フォウが楓に所有されてから、セブンフォースは日を追うごとに強くなっていった。戦況が目に見えて悪化していくなかでも、その戦力比をたやすく覆せる存在。誰もが、「救世兵器」の勝利と人類の復活を信じてはばからないほど、実力は凄まじいものだった。
「それで、そのセブンフォースはどうなった」
「はあ、あれはまだ調整中でして、」
武官の硬く握られた拳が、机を勢い良く叩いた。白衣の男のめがねがずり落ち、恐怖の声が唇から漏れる。
「私が何度その言葉を聴いたと思っているんだ!その調整が一度でも終わった事があったか!?」
「セブンフォースは、
「
今までの兵器と全く違う、
ーーーーー
なぎ倒される街路樹!フォウは俊敏に、「おなしやす」のネオン看板を足伝いに飛び、シベリア横断バッファロー殺戮鉄道めいた凄まじさで走るメドウーサフォースを飛び越えた!
POM!POM!POM!
メドウーサフォースの側面から機雷発射!こぶし程もある機雷が、フォウの乗る安普請ビルめがけ恐ろしい速度で飛ぶ!フォウは右手でランサーを発射!
ZZZZAP!
だが、メドウーサフォースはランサーを上回るほどの速度に加速し回避!そして…
「!!」
安普請ビル壁を回転しながら上り始めた!
HYUUUM!
すぐにゼロ移動でフォウは横とびに脱出!そのまま道路へ着地し、ウキヨエ・トレーラーを破壊しながらハリキリ・ハイウェイへと続く環状線へ疾走!
KYURURRURURR!!
「アイエエエエ!?」
それを追うメドウーサフォース!ネオン看板やテリヤキ・ラーメン屋台をもすべてひき潰し、フォウ以外を気にも留めず走る走る!時は深夜帯にさしかかり、マグロ・ツェッペリンが投げかける広告音声の下、古事記にも予言の形跡がないマッポー的イクサは第二段階へと突入した…!
フォウはどうしたのか?傷を一刻も早く癒すべく、彼は足場に家紋タクシーやダットサンを踏み抜きながら食事処を捜していた。食い逃げは犯罪だが、この状況ではそう言っておられない。元の世界ではもう少し便宜を図れたが、このマッポーではそれも不可能だ。
(((どこかに…食事場でなくても…!)))
スシ屋は比較的近くにあった。ドンブリ・ポン社のチェーン店!それは悪魔の魚めいて有毒ばい煙をひっきりなしに煙突から噴出し、ネオサイタマの環境破壊に一役買っていた。その店の頭上はるか4m上から、フォウは拳を突き出し落下!
CRAAAASH!!
「アイエエエエ!?」
「ワットファックニンジャ!?」
「ニンジャ!?ナンデ!?」
不幸な客の悲鳴を尻目に、傷だらけの鳥人はテーブルに置かれていたバイオ笹タッパーを手に取り、フタを破りとって中のケバブ・スシを口に放り込んだ。美味くは無いが、栄養はあったらしく傷がみるみる内に回復していく。フォウは知らなかったが、スシはエネルギ回復に実際有用な優れた食事である!…と、そこへ!
CRA-TOOOOOM!!
「アイエエエ!?」
「アバーッ!」
突如現れた球体は、粉末成形スシ・ジェネレータと店員をひき潰すと、フォウを視認してさらに速度を速めた!メドウーサフォース再来!
「くそッ!」
HYUUUM!
フォウは穴の開いた壁にゼロ移動すると、パルクールめいた機動で路地住宅の壁をよじ登りながら逃走!逃走しながら振り返り、右手からランサーを照射!
ZZZZAP!
命中したが、その防御力は
POMPOMPOM!
ナムサン!メドウーサフォースの側面下部からまたも機雷を発射!それらは自動で爆発し、爆炎で路地の退路を塞いでゆく!あっという間に、フォウの右手からは炎しか見えなくなった。さらに、炎の壁は厚い。ゼロ移動できないよう、対策されているのだ。
「…よし」
だが、フォウにとってこれはチャンスでもあった。近距離からランサーで掃射し、短期にカタをつければ良いのだ。それに、逃げ場が無いというのは
そしてこの状況ならば、やる事は一つであろう―すなわち、待つことだ!
行き止まりに行き、そこに突撃してくるのを待つ。フォウのやる事は、ただ落ち着いてランサーを撃ち、さもなくばゼロ爆装すればよい。先ほどと違い、体力は万全である。だが、その戦術は同じ穴のフェレットとタヌキ。いつカワイイなフェレットがタヌキになるか、フォウにもまだわからない。
(((そんな心配はするだけ無駄だ、後悔は死んでからすればいい!)))
セバタの家に置かれていたビジネスブックに書かれていた文言である。その通りだ、と読んでいて妙に納得したものだった。
KYURURURURUR!
そこに、容赦なく迫るメドウーサフォース!フォウは狙い澄まして右手からランサーを照射!
ZZZZAP!
照射!あと4メートル!
KYURURURURUR!
ZZZZAP!
照射!あと2メートル!
KYURURURR!
ZZZZAP!
照射!あと1メートル!
HYUUUM!
フォウは迎撃を不可能と判断し、ゼロ移動を以って回避した。そのまま地面を蹴って飛び上がる!彼の脚力は実に常人の三倍以上!「マイコ・レンタ」のネオン看板を蹴り、電飾オカメの鼻を蹴り割り果てしなく上昇!ゴウランガ!まるで平安時代のニンジャだ!
DAT!DAT!DAT!
そしてさらに、重金属酸性雨で錆び付いたビル壁をよじ登る!パルクール・ヒキャクめいた跳躍で、フォウはアッという間にビルの屋上にたどりついた。
KYURURURURR!
そこへ、あくまでフォウを追い上るメドウーサフォース!だが、この状況においては高所をとったフォウに圧倒的な分がある!強い敵は落とし穴に落とせ。哲学剣士ミヤモト・マサシの格言である。
ZZZZAP!
ZZZZAP!
一方的にランサーを照射!しかし、メドウーサフォースに打つ手なし!状況はまさにオーテ・ツミである!…だが!
FLAAAAASH!
やはりミヤモト・マサシの言葉で、「二度ある事は三度四度と続く」というものがある。何たる偶然か、セブンフォースもそれは同じであった。若草色に輝く、半人半風の
HYUUUM!
フォウは態勢を整えるべく、ビルからゼロ移動した。なんたるアサッテ!その方向にビルは無い!落下するぞ!すると、背部の独立ノズルが発光!まもなく、しめやかにオレンジ色の噴煙を上げた!カッター翼が高揚力フラップめいて跳ね上がり、暗黒な空に飛び立つ!
GWOOOOM!
これも、フォウのニンポめいた特殊能力の一端である。短時間ながら、この状態であれば空中機動が可能になるのだ!…だが、それを黙って見るシルフィードフォースではない!反重力スペースクラフトめいたフシギな軌道を描き、空へ飛翔した!
ネオサイタマの暗黒の空に、二人の非ニンジャ存在が激闘を始めようとしていた。その空域に、新しくエントリーする影があった。ネオサイタマ空軍、トンビF-34の二機編隊である。単発単座の軽量戦闘機は、ユーフォめいて猛追するシルフィードフォースのサイドエリアに張り付いた。
「ヒアエー、ヒアエー。エート、そこのオバケに告ぐ。貴方はニッポンの領空を侵害している。指示に従い、着陸せよ。なお空港は実際3km先にある」
欺瞞!物腰柔らかそうに告げているが、実際は最寄の空港から70km離れている。強制着陸させるフリをして、さっさと撃墜するつもりなのだ。だが、そもそも無線は届いていない。
「リピートする。貴方は―アイエエエエ!?」
カブーム!
一瞬にして、F-34の機体後部は無残にもネギトロじみた様相に姿を変えた。ナムサン、背後にはシルフィードフォース!ネギトログラインダー棍棒めいた若草色の巨大アームが、カーボンナノタタミ製の戦闘機を叩き割ったのだ!…しかし、それを実現するには卓越したワザマエが必要になる。何たるハヤワザ!その事を差し引いても、もはや人間業とはとても思えないタツジンぶりである!
「アイエエ!アイーエエエエエエ!!」
「イ、イヤーッ!」
パニックになりながら墜落する僚機を無視し、まだ撃破されていなかったもう一機がミサイルを発射!ミサイルは空中を華麗に飛び回り、ハイウェイの夜空に蒼い衝撃めいたスモーク航跡を作り上げた!…だが、ミサイル軌道の合間を縫うように飛びつつ、シルフィードフォースはそれらを物ともせず回避してゆく。しかし、ついに一発が
「ヤッツケター!」
勝利を確信したパイロットは、無意識にそう叫んだ。だが、なんたるウカツか!標的はパイロットの思ってもみなかった行動に出たのである!
めいたアーム・ユニットがミサイル目掛けて振り下ろされた!
カブーム!
ミサイルは弾着0.4秒前に迎撃された。この間わずか0コンマ7秒!ゴウランガ!なんたる要撃戦術!彼女はこの行動をすべて手動で行ったのだ!
「アイエエエ…無理だコレ」
パイロットは古のリアル・ニンジャめいた恐怖の動きに失禁しながら、もはや操縦をも放棄した。ほどなくして、無人機めいたマニューバ軌道で機体背部をとったシルフィードフォースは、彼に僚機と同じ運命をたどらせたのである。
フォウはその間に、ある程度距離をとる時間があった。しかし、フォウの特殊能力は
やがて、カタのついたシルフィードフォースが目にも留まらぬ速さで疾走する。
それはフォウをあざ笑うように夜空を跳ね回り、フォウの後ろをとろうとした。直後、フォウはノズルの出力を引き上げて急接近!悲鳴を上げながら、翼がきしんだ。シルフィードフォースが、UNIX並みの反応速度で機体を動かしてフォウから離れる。アーム・ユニットをクリーンヒットさせんとしているのだ!
HYUUUM!
ゼロ移動でさらに距離を詰めるフォウ!シルフィードフォースは振り払うべくアームパンチで対抗!ゼロ移動直後のノーガードを突かれパンチが炸裂!
カブーム!
「ぐはッ!」
胸元にパンチが命中!金属がひしゃげ、バチバチと火花が散る。フォウはその状況でなお、右手を振り上げランサーを照射!
ZZZZAP!
真っ赤なレーザーは空気の精を貫きこそすれ、さしたるダメージは与えなかったようだった。ナムアミダブツ、これではもうオシマイだ!戦闘妖精は勝ち誇るように、その体躯を沈めた。フォウのニューロン内に、鋭敏な電子音がこだました。それは過剰反応を起こす痛覚と共存し、さらに増幅させた。ああ、これがウワサに聞くソーマト・リコールか…
いや、違う。これはソーマト・リコールなどではない。これは、この音は
JYUUUM!
CABOOOOM!!
またも辺りはボンボリめいて照らされ、ゼロ爆装直後のフォウに眩しさを感じさせた。フォウは激痛に顔をしかめながら、ボンボリ光の中心を見据える。…そこには、細身なライオンをかたどったような四足歩行メカが鎮座していた!コワイ!
「ミャオーウウウーーッ!」
ここはネオサイタマ、タマ・リバー上流。オオヌギ・ジャンク・クラスターヤードの住民たちが原始的な畏れをもって遠巻きに眺めている中、とうとう時はウシミツ・アワーに突入し、このジゴクめいたイクサも佳境に差し掛かろうとしていた…
それを、さらに上空で注意深く偵察する者がいる。ナムアミダブツ…ニンジャの偵察兵!
彼の名はヘルカイト。残虐なる組織ソウカイヤ上層部、シックスゲイツの一員である!ソウカイ・ネットで通報を受け、上空から偵察しに来たのだ!
「おかしいな、ニンジャソウル反応皆無…」
無理も無い。そこでイクサをする二人はニンジャではないからだ。彼のステルス凧には「ヤリで刺す」「キリステ」などの威圧的文言が並ぶ。タケヤリやバクチクで武装した、油断ならぬニンジャである!
「まあよい、ニンジャでなければ殺すのみ!」
なんたる恐怖!いかに彼らがニンジャでなくとも、ここまでされる謂れはないハズだ!…実際ヘルカイトは聖ラオモトに対する忠誠心が先行してしまうことも多い。そのため、かえってラオモトの不興を買うこともあるほどであった。
しかしそれ以上にヘルカイトは策士である。この状況では2対1になってしまいかねない。虻蜂取らずということも実際ありえる―だからこそ、ヘルカイトは一片の慈悲もない残酷な判断を下した!
(((このまま戦わせ、一人となったときトドメを刺す!)))
なんたる無慈悲!…否!これが「
フォウは戦闘ポジションを維持しつつ、歩み寄る
「ミャオオオーッ…」
「…!」
大きく伸び、飛び掛るアルテミスフォース!彼女のそのダイヤモンドチタンの如きツメを持ってすれば、いかにフォウといえど引き裂かれサシミとなることは間違いない!
HYUUUM!
間一髪!ゼロ移動で回避!光速移動から開放された直後フォウは振り向き、鋭いエメラルドめいた双眸で彼女を見やった。
(((前と同じ、尻尾先端が弱点か!)))
「ミャオオオオーーッ!」
しかし!アルテミスフォースの尻尾がLED電飾めいてひかる!
「させるか!」
ZZZAP!
BLAAAAAAM!
フォウのランサーが尻尾を打ち抜くのと、ボンボリじみた光弾がフォウに命中するのが同時だった。
「ぐはァーッ!」
フォウの絶え絶えの声帯は、やっとのことで言葉をつむぎ出した。嘴から吐血!血液はアルテミスフォースに浴びせられ、それを彼女は甘んじて受ける。オオヌギの貧民たちはもしかすると、彼女の石像めいた頭部に満足そうな笑みが浮かんでいるように思えたかもしれない。それほどに残忍で、遺伝子の中に刻まれた古のニンジャ大戦の記憶を呼び起こすような恐ろしい光景が繰り広げられていたのである…!
フォウはそこにカンジめいて倒れ伏していた。腹部に大きな傷。ニューロンがしめやかに赤く明滅。オタッシャ重点である。血液の流入が阻害されたか、片目がよく見えない。
(((ぼくは…死ぬのか?)))
その負傷は、もはや彼に正常な思考を困難なものとしていた。フォウは目の前に、病的に白い教会のような施設を幻視した。先ほど朝露めいて消え去ったソーマト・リコールは、再び彼をアノヨへの道にいざなっていたのだった。
(((あれは…ぼくの家。たしか場所は―)))
静岡なる場所にあった
(((Xiタイガー…彼が楓を殺したんだったなあ)))
未知の怪物が、友人を今まさに殺そうとする光景。そして、
(((あの時はキミがいてくれて…今、キミは何処にいる?)))
ふと目を開けると、
(((…ついさっきから、分かってたじゃないか。ぼくに道は、)))
フォウは地面に手を突き、
そうだ、彼の進む道は。
「ぼくに道は、一つしか無いんだ」
「ミャオオオーッ…!」
敵はたしかに、そう唸った。
再び飛び掛るアルテミスフォース!ゼロ移動で回避!フォウは彼女の背後に回る格好となった。
HYUUUM!
「ミャオオオオーーッ!」
尻尾が発光!二度とならず見た光景!フォウは手をかざす!
BLAAAAAM!
POW!POW!
ゴウランガ!フォウから放たれた黄色い光がシールドめいて光弾を吸収した!フォウには一切ダメージなし、それどころかエネルギーを吸って回復!全快こそ不可能だが、重篤なダメージを治療してオタッシャ重点状態を脱し、このイクサを続けるのには十分な量だ!
ZZZZAP!
ランサーを照射しけん制!尻尾に命中したが、やはり進攻を止めるには至らない!そこで、フォウはゼロ移動!またも彼は敵の背後に回りこんだ!
「ミャオオオオーーッ!」
本能的にアルテミスフォースは尻尾を発光させ、光弾を発射!…しかし、これは巧妙なフォウの罠であった。光弾はスデに見切られている。その光弾をわざと発射させ、それを吸収し回復する算段なのだ!オウマイブッダ!
BLAAAAAM!
POW!POW!
なすすべもなく吸収される光弾!そして…フォウは全快を成し遂げた!
「ミャオオオーッ…!」
それをUNIX並みの判断力で悟ったアルテミスフォースは後ろに飛びのき、飛び掛るように体を伸ばし始めた。フェイントをかけているのだ。しかし、確実にこのイクサの決着はつかんとしていた。もう彼女に勝つ道は残されていない。彼女がフォウを襲った時、このイクサは終わるのだ。
「ミャオオーウウーッ!」
ヤバレカバレか、それとも限りなく低い勝算に賭けたか。彼女は猛然と、目の前の鳥人に飛び掛った。
ーーーーー
フォウは空を見上げていた。時刻は11時、晴れ。燦々と照る太陽の下、フォウは空を飛ぶエアバスを見た。近くの宇宙港に着陸するらしく、かなり近辺を飛んでいる。
「何してるの?」
「あ、楓!」
フォウは顔を輝かせて、楓の元に駆け寄る。そして、ロックのかけられている窓を指差した。
「飛行機が飛んでるよ!あれには誰が乗ってるのかな」
「あれにはね、昨日ここを出たいいだが乗ってると思う。戦いに出かけるんだって」
戦い。それは、セブンフォース完成までの時間稼ぎだった。だが、彼女はついに今に至るまで「
(((わたしは七瀬楓。フォウを守るもの。それ以外に、何があるというの?)))
いつかの訓練の際口にした言葉だったが、この言葉は
「戦いか、みんなすごいなあ。ぼくも、戦いに行けないかな?」
「あなたはいいのよ、たたかわなくても」
「?」フォウはきょとんとしてしばし止まり、尋ねた。「どうして?」
「決まってるでしょ」
楓はそう返すと、ふふっと笑った。
「わたしがあなたを―えっ、どうしたのフォウ!?」
フォウに腕をぎゅっと掴まれ、楓はたじろいだ。振り払うことはしない。
フォウは楓の右手を掴んだままひざまずいた。りりしく見えなくも無いが、慣れない事をして顔を真っ赤にしている。
「その…ぼくが、きみを守るから!ぼくの、友達だから…」
気恥ずかしくなったらしく、声はだんだんと小さくなっていった。最後にはもう赤面してしまい、言葉を終わらせることはできなかった。
「…それじゃ、いいこと?フォウ」
少し間をおいて、不意に楓が喋った。彼女は上品に笑っている。
「もしわたしに何かあったら、わたしを守って。そのあと必ず、フォウを助けるから!」
それを聞いて、フォウは満足そうにうなずいた。そして、彼は女王に忠誠を誓う騎士のように楓を見上げる。
「ぼくが、必ずきみを守る。この命にかえても!」
ーーーーー
楓、守存。
かならず、命にかえても。
JYUUUUM!
猛然と突撃したアルテミスフォースに、ゼロ爆装のホノオが襲った。それは
「―!!」
いつものように別形態に移行しようとしたが、無駄だった。ゼロ爆装のダメージは、コックピットブロックにも進行していたのだ。
(((殺った…勝ったぞ!)))
確かな手ごたえ。一瞬の歓喜が、フォウに訪れた。
そのとき、フォウには見えた―コックピットブロックが砕け、七瀬楓の姿。楓は慌てない。当然だ。フォウは知っている。彼女はもう楓ではない。あれは脳下垂体以外すべて機械。ロボットなのだから。しかし、回避行動をとる事はしなかった。機能停止したわけでもないのに?おかしい。機械なら、活動停止するその瞬間まで抵抗するはずだ。ではどうするか?
彼女はただ、フォウを一瞥した。怨みと憎悪の目つきで。そして、口を動かす。
それを見た次の瞬間、楓は周囲の残骸もろとも蒸発している。
爆発。炸裂する閃光が、ウシミツ・アワーのオオヌギ・ジャンク・クラスターヤードを昼間のように照らした。
「アイエエエエ!?アイエエ!」
「ワッザ?ニンジャ…?」
住民たちは今さらのように悲鳴を上げたが、ニンジャでないことを遺伝子的に感知し困惑している。これはニンジャでなければ説明できないにもかかわらず、ニンジャではない…?
「ニンジャじゃない…ニンジャ類似存在?」
「アイエエ…ニンジャ類似存在ナンデ」
我に帰ったフォウは、ただその場に立ち尽くしていた。彼がこれからどのような道へ行こうと、彼は絶対に忘れないだろう。否、忘れることはできない。彼女が言った、最後の言葉。
「うそつき」彼女は確かにそう言った。その四文字は、今まで受けたどのような創傷よりも深くフォウをえぐった。
「―ああ、楓。キミはぼくを信じてくれていたんだ」
「Wasshoi!!」
その言葉が、フォウの上部を飛び、背後に移動した。近くにはセスナ機の音が聞こえる。
背後に立っていたのは、いつか見た赤黒のニンジャ装束を着けたニンジャだった。彼はあるハッカーから情報を得て、またヘルカイトの出現からそれを確信し現れたのだ。
おそらくヘルカイトは救援を呼ぶか、「あそこには何も無い」と撤退するかだ。彼にとってはどちらでもよい。最終的に全員殺すのだから。
「アイエエエエエエ!?」
「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」
「ニンジャ!ニンジャ類似存在!?アイーエエエエ!!」
「ドーモ、初めまして。ニンジャスレイヤーです。…ニンジャ殺すべし」
本物のニンジャに遭遇しNRSを起こした住民を尻目に、ニンジャスレイヤーは丁寧にアイサツした。
(((ニンジャ…ニンジャか)))
フォウはもう、どの世界においても生きる意味が無いように思えた。そしてまた、こうも考えた。この見ず知らずの世界で卑しきニンジャとして戦い、殺されることが、自分に対する一筋の救いだろうか?
フォウの中でかろうじて維持されてきた均衡は、すでに崩れていた。そもそも、楓のいない世界に生きる意味などない。
(((…どうせ、死ぬなら)))
フォウは振り返った。ある動作を行うために。それは
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。フォウ・ミサキです」
「フラッシュバック、セブン・フォース」終
ニンジャ・ウィズ・ワンダラーズ#終
#NEOSAITAMA:Schweizer1f:THANK YOU FOR READING!///
#NEOSAITAMA:Schweizer1f:AND,GOODBYE!///
人物名鑑
七瀬 楓
12歳の少女。セブンフォースを操る事ができた唯一の人間だったが、その事とフォウの友人であったことからXiタイガーの人質にとられる。その後手違いで殺害され、フォウの参戦(「エイリアンソルジャー」の冒頭)の遠因となった。しかし、後に超能力の源である脳下垂体以外を全て機械に置換され、フォウと対峙することになった。そのときも含め、今回の戦闘は二回目。
今渡の際のセリフは、彼女の本心か、それともプログラムされた感情に過ぎなかったのだろうか?
ご拝読ありがとうございました。フォウ・美咲の物語は、これでおしまいです。
もしかすると、また忍殺世界ワープものを書くかもしれません。
その時があったら、また読んでいただきたいと思います。
そして最後に、読者皆様方、
「エイリアンソルジャー」を制作した、セガ並びに開発会社トレジャーの皆様と、
「ニンジャスレイヤー」を執筆したブラッドレー・ボンド、フィリップ・N・モーゼズ両氏、並びに翻訳を行っているほんやくチームの方々に最大限の敬意と感謝をもって、この作品を結びたいと思います。ありがとうございました!
目次 感想へのリンク しおりを挟む