ヤンデレのヒロインに死ぬほど愛されて眠れない13日の金曜日の悪夢 (なのは3931)
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1

13日の金曜日なので突貫作業で書きました。
誤字などは14日の土曜日以降に修正致します。


20世紀後期、アメリカのニュージャージー州、クリスタルレイクでキャンプをしていた子供達の中でその事件が起きた。

 

 キャンプに来ていた子供の一人が湖に溺れて行方不明になった。

警察や捜索隊が付近をくまなく探したが子どももその遺体も発見できずやむなく捜査は打ち切られた。

 

 子供の名は【ジェイソン・ボーヒーズ(11)】という()()()であり、一種の性分化疾患を患っていた為、生まれた頃は男性であると診断されていた。

 性別の間違いに気付いたのは彼女に第二次性徴が起きた直後であり、それまでは女々しい少年だと周囲からはからかわれていた。

 第二次性徴に入った彼女の体は目まぐるしく女性らしくなっていき、十代に入ったばかりでありながら大人の女性並のプロポーションを持ち、元々中性的だった顔は美少女と言って差し支えない容姿に変わっていった。

 この変化は彼女にいい結果を生まなかった…彼女はまだ思考が幼い男子からは嘲笑の対象であり、一部の大人びた男子からは性的な魅力を持った対象で、男子より思考が大人びた同じ女子からは元男性への嫌悪と彼女の美貌に対しての嫉妬の対象で、その差別と偏見は一部の女子を結託して虐めコミュニティの団結を図る女性特有の現象の恰好のターゲットとなってしまった。

 

故に彼女は男性らしくなく、女性らしい自身の姿にコンプレックスを抱える事になる。

 

 彼女が完全に孤立していたかというとそうではなく、彼女が()だった頃からの友人が一人だけ居た。

その友人は子供にしては同世代の子どもからしたら異常な程の大人びた思考を持ち、その容姿は一流のスターの様に整った顔立ちだった。

 彼はそんなジェイソンの境遇に理解を示し彼女を変わらず()()として接した。

 

 

だが周囲の人間、特に女子グループはその状況を良しとしなかった。

 

 彼女達は少年がジェイソンばかりに目を向ける事に憤慨し、彼に窘められ面白くなかった男子や彼に女子の人気を奪われ嫉妬した男子、そしてジェイソンに対し性的な欲望を持った男子たちを焚き付けて、キャンプの日に事件が起きた。

 

 女子達は少年を呼び出し集団でアプローチを試みた。

中には少年に対して性的な誘惑をしてくる女子も何人か居た。

 そして女子達が少年をジェイソンから引き離した隙に、男子達は彼と湖で待ち合わせをしていたジェイソンを襲撃、彼女を集団で強姦しようとしたのだ…

 必死で抵抗を試みた彼女は暴れた際そのまま湖へ転落し、女子の異様な雰囲気に違和感を感じジェイソンの元へ駆け付けた少年の目の前で深く冷たい湖の底へと沈んでいった…

 

 この悲しい事件が発生した原因は性分化疾患への周りの理解の薄さや子供達のまだ未熟な残酷さ以外にも存在した。

 当時このクリスタルレイクのキャンプで子供達の管理責任者であったキャンプカウンセラー達はあろうことか子供達の監視を怠り、カウンセラーの寝室で猿の様に盛りあっていたのであった。

 故に事態の防止及びジェイソンの救助が遅れ、彼女は帰らぬ人となった。

この事をジェイソンの親族は叫喚し責め、キャンプ場の運営は一時的に停止した。

 

 この事件の後子供達は然るべく処罰を受けたが年齢故にすぐに解放。残された少年は転校し別の地に移った。

 ジェイソンの家族はこの事が原因で離婚、彼女の母親は精神を病み、カウンセラーやキャンプに来た子供達に怨みを撒き散らしながらその生涯を終えた…

 一時的に凍結していたキャンプ場はその後波風が収まった頃に再開した。

 

だがこの【ジェイソン・ボーヒーズの悲劇】はこのクリスタルレイクにおける残虐な事件の数々の始まりに過ぎなかった…

 

 このキャンプ場で幾度となく事件、事故が多発し度重なる殺人事件や行方不明事件、放火などの被害を経て遂にはキャンプ場が全面閉鎖となりクリスタルレイクは【血のキャンプ場】として近隣住民から忌み嫌われるようになった。

 

 

 

~ 7 years later ~

 

 

 とある陸軍学校の一室、その中で初老の恰幅の良い男性が書類に目を通していると一人の青年が無造作にドアを開けて入ってきた。

 

「校長!これはどういう事ですか!?」

「部屋に入る時はノック位したまえ…どういう事とは具体的に何の事を指しているのかね?ストロード君?」

 

会話から察するにこの学校の校長であろう男がストロードと呼ばれる青年に語りかける。

 

「演習訓練の場所の事です!何故クリスタルレイクへ!?あの場所が立ち入り禁止な事は知っているでしょう!?」

「まぁ落ち着きたまえ、そこに座りなさい…」

 

興奮した様子の青年を必死に宥めて校長は口を開いた。

 

「確かに立ち入り禁止になっているが今回特別に許可してもらった」

「許可の問題じゃありません!あの場所は危険なんだ!!不用意に入っていい場所じゃない!!」

 

「…君の話は聞いている、気持ちは分かるがもう決まった事だ。あの地の雰囲気は生徒に緊張感を与えるのに最適だろう」

「…雰囲気じゃなく実際に危険なんだ…!必ず取返しのつかない事になる!!あそこには彼女が…ジェイソンがいるんだ…」

「ストロード君、ジェイソンは居ない。もう死んだんだ。彼女の母親ももう居ない。あそこはただの寂れたキャンプ場だ…君も過去に囚われるのはやめて今を見たまえ…」

 

 そう言って手で合図をされ彼は部屋を追い出された。彼はあの場所がどれ程危険なのか分かっていない。

そうで無くても立ち入るべき場所じゃない。

 

「…過去は永遠についてくるんだ。そして今を進む人間の足元になお絡みつき続けるんだ…。」

 

あの場所は呪われている。ジェイソンの怨念があの地に今も住み続けているんだ。

 

~ A few weeks later ~

 

 彼は演習でやむなくクリスタルレイクの近くまで来ていた。

ちょっと前まではチームで行動していたがふとした間に他のメンバーとはぐれてしまったのだ。

 

「こちらストロード!聞こえますか?ああ!クソッ!」

 

 相変わらずここは無線が繋がり辛い。

 

(だから来るべきじゃなかったんだ…!)

 

この森は磁場の影響か無線が伝わり辛くおまけに見通しが悪く、外部からも孤立していて連絡手段も少ないのだ。

何らかのアクシデントがあった場合はとんでも無い事になりかねない。

おまけに周囲の人間は『血のキャンプ場』を敬遠し意図的に避けてるのだ。救助は期待できない。

 

「どうしたものか…」

 

その時、不自然に後ろの草むらが揺れた。

 

(…なんだ?)

 

動物だろうか?だが音からして小動物ではないだろう。

 

(熊なんて居たか?まさか人か?)

 

人だとしたらうちのチームの仲間だろうか?それとも別のチーム?

 

 

それとも……

 

 

「…誰だ?大人しく出てこい…」

 

携帯訓練の為に持っていた小銃を構えて警告する。

 

「俺と同じ軍学校のものか?それとも近所の住民か?答えないのなら…」

 

そう呟き引き金に指を掛ける。

 

「手を上げて出て来ないなら撃つ…!3、2…1!」

 

 

「あぁ~分かったッ!?撃たないでくれ!?」

「私達隣のキャンプ場のカウンセラーなの!」

 

…出てきたのは如何にもなカップルである男女であった。

女の方は肩の紐が下がっているし男の方に至ってはズボンのホックが外れチャックが下まで下りている。

 

(何をしていたのやら)

 

呆れと安堵からため息が漏れたが丁度いいので彼らの力を借りよう。

 

「済まない、演習中に仲間とはぐれてしまってね。君らのキャンプに行っていいか?」

「ああ、いいけど…ここは立ち入り禁止じゃなかったっけ?」

 

「ああ、そうだなここには本来俺たち陸軍学校の生徒以外は居ない筈だ」

「やべっ」

「もう、馬鹿なんだから!」

 

 藪蛇をつついて困惑する彼らをよそにこれからを考える。

夜までには合流するかせめて連絡を取らないと…。

 

そう思いながら彼は森を後にするのだった。

 

 

 

 

「あいつ何処へ行きやがった?」

「どうやらはぐれたようですね」

 

数人の銃を持ったグループが周囲を見渡している。

どうやら彼と同じチームメイトの様だ。

 

「どうだか?アイツここが怖くなって逃げたんじゃねーの?」

「確かに彼は常に何かに怯えてましたけど…」

「そりゃそうだ、なんでもアイツはここであった事件の当事者らしいぜ?」

 

そう言って彼は一つの本を見せる。

 

『彼は救世主か、死神か?それとも真犯人か?少年Lの凄まじき半生!』

 

そう表紙に書かれていた本を一人が手に取りパラパラとページをめくった。

 

「少年L…レオン・ストロードのことか?何々?彼の人生は生まれた頃から血に塗れており、赤ちゃんの時、彼の姉弟のわずか6歳ばかりの()()がその上の長女とその恋人をハロウィンの夜に殺害、その後父親も殺害。その姉は精神病院へ行き母親はショックで自殺」

 

「その後里親に引き取られるも入園した幼稚園の先生が子供ばかりを狙った大量殺人鬼であり彼がその殺人鬼の女性のお気に入りにされていた所で殺人鬼は事故で死んでしまう…これって…」

 

()()()・クルーガーだ。子供を殺して欲情してた世紀の変態さ」

 

「6歳の頃にはまた周りで殺人が起き、彼は持っていた()()()()()()おもちゃの人形に殺人鬼チャールズ・リー・レイの魂が宿っていると言っていた為精神病院へ。そこでも先生などが何者かに殺される事態へ」

 

「母親も同じ事を呼びかけ発狂していた為彼女を精神病院へ入れ、新しい里親の元へ。そこでも周りで事故や事件が起きる…」

「グッドガール人形か!確か入学したての頃にもそんな騒ぎがあったな!」

 

彼らは入学当時に彼が人形を没収され、その後演習中に銃の弾薬がペイント弾から実弾へすり替えられる事件が起こった。犯人はレオンだとか人形が動いていたなどあらぬ噂は確かに飛び交ってはいた。

 一気にこの話の信憑性が増してきた。

 

「やばいだろ?そしてここだ。アイツはクリスタルレイクへも来てる…そしてコイツの恋人がここで死んだらしいぜ?」

「マジかよ…」

 

あまりの内容に皆、言葉を失う。

本当だとしたらとても壮絶な過去だ。

 

「俺は内心アイツが全ての事件の黒幕じゃないかって疑ってるぜ。今だって…逸れた振りして俺達を狙っているかも」

「おい!やめろよ!」

「冗談だって、それにあんなカマ野郎が殺しに来ても返り討ちだっての!」

 

そう笑いながら彼らは進んでいる。だが彼らは気付いていなかった。

 

 

 

彼らの後ろを何者かが覗いているのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺り一面が血に染まっている。

 

 

傍には先程まで談笑していた生徒たちの死体があった。

 

その中心には布で顔面を覆ったおそらく女性であろう人物が立っていた。

 

彼女は死体には目もくれず彼らが持っていた本を穴が開くほどの形相で見つめていた。

 

とあるページに写る青年の写真を熱心に見つめ一言だけ呟いた。

 

 

「――――――ミツケタ。」

 

彼女は森を進みキャンプ場へと進んで行った。




リハビリ作です。


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2

※この作品にはグロテスクな表現及びハレンチなシーンが登場します。


過酷な人生を背負わされた青年、レオンの不幸は生まれた時から始まっていた。

 

 彼はイリノイ州のハドンフィールドでマイヤーズ家の長男として生まれた。

だが彼が生まれて間もない年のハロウィンの日、二番目の姉である『ミシェル・マイヤーズ』は自身の父親と長女ジュディス・マイヤーズとその恋人を殺害し精神病院へ入れられた。

 

 ミシェルの精神分析と治療を担当したサム・ルーミス医師は彼女のことを生まれながらの【純粋な邪悪】と発表した。

 

母親は自分が生み出して愛情を注いだミシェルの異常性を理解した事で絶望しレオンを残したまま命を絶った。

 

 レオンはオハイオ州の里親の元へと引き取られた。

彼の新しい生活は中々良好であった。

 優しい両親と毎日を過ごし平和な幼児期を過ごしていった。

 

彼の生活をサポートしていたのは里親だけではない。

 

「レオーン!砂遊びは終えて園内に入りなさあぃ」

 

彼が通っていたバダム幼稚園。その先生が彼を中に呼び寄せた。

 

「今行きまーす、フレデリカ先生!」

 

 レオンは彼女の元へと駆け寄る。

フレデリカと呼ばれた女性は肩まで伸ばしたブロンドの髪と澄んだ青い眼、ボーダー柄の赤いセーターが特徴的でその上にエプロンを身に着けているのがいつもの姿であった。

 彼女はおっとりとしたとても整った顔をしており、彼女の顔立ち通り落ち着いた物腰で子供達にとても優しい性格で彼女の親達からはとても評判だった。

 さらに言うと彼女の美貌とそのシンボル的なセーター越しでも分かる豊満な肉体は、アメリカでの理想の美の姿であり子供達の父親や近所の男性からは、その性格も相まってフレデリカを理想の女性であるとまで評し隠れていない人気があった。

 

 彼女は既婚者であったが唾を付けようとする男性は独身既婚者問わず居た、だが彼女の退け方はとても鮮やかで

 

「私、今はもっと若い子たちに夢中なの♡」

 

…と子供等を抱きしめるのがお決まりであった。

因みに抱きしめられるのが特に多かったのはレオンである。

 

 砂まみれでレオンはフレデリカの元へ向かった。

 

「あらあら♪ずいぶん汚れちゃったわねぇ~。それじゃあ…」

 

彼女はそんなレオンの姿を見て、とても含みを持った表情で言葉を続けた。

 

 

 

「隅々まで、お身体キレイキレイに…しないとね♡」

 

 

 

そう言うと彼を脱衣室に連れて行った。

 

「ほぉら、ばんざ~いしてぇ」

「ばんざーい…」

 

恥ずかしがりながら衣服を脱がされるレオンの姿に彼女は密に興奮していたのだった。

 

 

 フレデリカ・クルーガーはその性格の良さからは考えられない裏の顔を幾つも持っていた。

その一つがこの所謂ロリコン・ショタコンと評されるモノである。

 

(ああ、なんて可愛いんだろう…♡)

 

恥ずかしがる幼児を少しずつ脱がすのはとても興奮する。

 

衣服を脱がせ、逃げられなくすると彼女はレオンの前で腰をくねらせデニムを脱いだ。

 

「レオンくん、先生の脱ぎ脱ぎするのを手伝ってほしいなぁ♡」

「…うん」

 

そう言ってレオンの前に体を寄せる。

 

 身長的に脱がせれる場所は一つしかない。

目線の位置から彼女の下半身を目の前で直視するのを分かってて脱がさせたのだ。

 

「さあ、上も脱いじゃおうね♪」

 

 彼女は最後にトレードマークといえるセーターを脱ぎ、豊満な上半身を露わにした。

その後レオンを持ち上げ、抱きかかえたままシャワー室へ入った。

 身体を見せつけてから密着させて己の欲望を満足させる事に成功したのだった。

 

「ほらキレイキレイしましょうねぇ~」

 

 

身体をシャワーで流しながら手で撫でる。

 

入念に、じっくりと、やらs…優しく全身を丁寧に。

 

ほんの一部の箇所だけかなりじっくりやった気がするが気のせいだろう。

 

お尻の方も重要だ、なにせ排泄器官だ。しっかりと洗わなくては。

 

 

レオンはフレデリカの洗い方に違和感を持ったが心地よかった為気にしなかった。

 

(ああ、なんて滑らかな肌なのかしら♡)

 

幼児の柔らかな体を触っていると、彼女の中にもう一つの欲望の方が沸き上がってくる。

 

(ああ、駄目よ。彼は、レオンだけは傷付けては駄目…)

 

思わず自製の手袋に手を伸ばしそうになるのを彼女はグッと堪えた。

 

触るだけ、そう触るだけだ…

 

 

そちらの欲望まで開いてしまったらレオンは壊れてしまう。

 

彼は私のお気に入り、特別なのだから…

 

 

「…ふぅ。今度は先生をゴシゴシしてほしいゎ~♡」

「これ、なに?先生?」

 

 彼女が差し出したのは子供用の手袋だった。

断面がザラザラとしているのが分かった。

 

「垢を落とせる生地で出来てるのよぉ。大人は子供よりお肌が頑丈だからそれで洗ってね♪」

 

彼女はその手袋で入念に全身を擦らせた。全身を…一部分を特に。

 

「あんっ!?」

「ごっごめんなさい!?痛かったですか?」

 

嬌声もとい悲鳴を上げたことで彼を心配させてしまった。違う、そうじゃない。

 

「いいえ問題ないわ♡むしろもっと激しく擦ってくれてもいい位よぉ♪大人はちょっと痛い擦るくらいがちょうどいいの♡」

 

 そう言ってレオンにもっと強く体を擦らせる事を強要した。

彼に自分をいたぶらせ彼の中から湧き出そうとするナニカを放出しようとした。

 

「…ふぅ、そろそろいいかしら。じゃあそろそろ出よっか♪」

 

 一時思わず昂り過ぎて抱きしめたまま「こうすれば全身を効率よく洗えるわ!」と擦りつけた時は危うく脱線しかけたと自分でも反省している。後悔はしていない。

 

「今日の事は二人だけの秘密だからね♡先生はレオンが大好きだからまた遊ぶ為には他の大人には喋ったら駄目よ?他の人に知られたら恥ずかしくてもうできなくなっちゃうわぁ」

 

そう言ってボォっとまるでのぼせたように夢うつつなレオンにキスをして服を着せて別れた。

 

 

ああ、なんて心地よい時間だったろうか。

 

しかし彼女の真の欲望はまだ発散しきれていない。寸止め状態だ。

 

彼女は自分が真の絶頂を迎える為に仕事が終わった後に遠くに赴いた。

 

 

 

 

 

 

ああ、今日はどんな子にしよう。男の子?女の子?小さな子?ティーンエイジャー?

 

そうだ男の子にしよう。レオンよりちょっと年上位の彼が成長して性を理解した辺りがいい。その方が()()のも簡単だ。

 

 

そうだあの子にしよう!今見た時ピンとキタ!ああ、興奮してきた!

ボロを出さないように、慎重に、万全の体制で!ああ、もう手が届く!

まだ我慢して!ここでは駄目だ!誘導しよう!人の居ない所へ!

 

 

さぁ始めよう♡♡♡

 

「ねぇキミ?ちょっといいかしら?」

 

「…はい?」

 

 

 

 

「はぁ……♡はぁ……♡」

「…………」

 

全身が濡れているのを感じる。行為を終えて噴出した()の液が自身の顔にさえかかっているのが分かる。

 

 

「すごく、良かったわ♪私何度もイッチャったもの♡」

 

 

 そう言ってフレデリカは少年の頬を撫でる。

少年はまるで放心状態といった感じだ。

 

「そう…キミもイケたのね♪」

 

 

 

指先で愛し気に体を滑らす。

 

その指は驚く程長く、そして鋭かった。

 

「ああ、まだこんなに…♪」

 

少年の体を隈なく舐める。

 

彼の体も全身ビショビショだ。

 

舐めても舐めても体液が溢れて際限が無い。

 

 

「…ふぅスッキリしたわぁ♡」

 

 

自分と少年を絶頂へと導いた自身の手を見る。

 

彼女の右手は鉤爪だった。

 

そしてその爪には赤い血液が滴っていた。

 

フレデリカは見知らぬ少年を鉤爪で殺したのだ…。

 

爪の刃を舌で舐めて鮮血を舐り取る。

 

その後鉤爪のついた手袋を外して立ち上がった。

 

 

 

「……あら?」

 

自身に違和感を感じて下を見る。

 

 

ボトリッ…!

 

少年の一部だったモノが硬直を解いたことで地面に落ちた。

 

「あらら、昂った勢いで思わず切り取ったままだったけど咥えたままだったのね…」

 

誰も見ていないというのに思わず照れてしまう。

 

「えへへ、ってちょっとヤダァ♪」

 

 

 

「この子本当にイってるじゃないのぉ♪またママになっちゃったらどうしよぉ~?」

 

 

赤と白の汁を噴出しながら未だピクピクと痙攣した肉片を愛おしげに見ながら呟いた。

 

 

 

フレデリカ・クルーガーは殺人鬼だ。

 

それも子どもをターゲットにした狂人で更にそれで性的興奮を覚えている節がある。

 

誰にも知られてはならないし理解してもらおうとも思わない。

 

彼女は自分がおかしい事を知っている。

 

だが自分を変えるつもりはない。

 

おのれの欲望に忠実に生きる事の何が駄目なのか?

 

正直に生きればいい。自分の為だけに人を殺してれば満足だったのだ。

 

 

 

 

 

 

彼に出会うまでは……!!

 

 

 

(眼を見た瞬間分かった…!彼の中に眠る強大な闇を!!)

 

新しく来た少年を見た時ピンと来た。彼は自分と同じだと!

 

 彼の家系を調べたら彼の姉の事件を知った。

成程、彼女も中々に邪悪、いやもしや自分より狂ってるかもしれない。

 彼女はもう精神病院に入れられてしまったが彼は違う。

 

彼も彼女と同じ様に邪悪な可能性を秘めている。

 

(教え込めば彼もなれるかもしれない…)

 

 

自分と同じ殺人鬼に…いやもしかしたら…!

 

 

(後継者に、なれるかも…♡)

 

 

自分の胸が熱くなるのを感じた。

 

この幼児に私はトキメいている!

 

こんな想いは初めてだった。

 

 

「この子をよろしくお願いしますね、先生」

 

 彼女の里親が今日も彼を預けに来る。

私の意図を知らずに…

 

 

彼なら私の気持ちを理解してくれる…

 

 

彼なら私と同じ殺人鬼になれる…

 

 

彼ならきっと…!

 

 

「ええ、レオンの事は私に任せてください…!」

 

 

私の恋人に相応しい人になってくれる!!

 

 

フレデリカの、のちの凶悪殺人鬼、『レディ・クルーガー』、『殺人ママフレデリカ』、『クレイジーショタコンおばさん』など様々な悪名で呼ばれ、

 

通称『フレディ』

 

と呼ばれた女性とレオンとの数奇な運命の始まりであった。




無印の残忍さと、リメイクの変態ぷりから小物っぽさを抜いて両方合わせようとしたのに美少女化したフレディ見ながら書いてたらすげー変態ができてしまった。
バトル・ロワイアルにこんな娘いたよね


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3

世界に蔓延るコロナウイルスの影響で遅れました。

嘘です本当はT-ウイルスのせいです。


子供というのは純粋だ。

 

大人の様に濁ってはいない。いや、染まっていないという方が正しいか。

 

 子供は無限の可能性を秘めている。というよりは大人が自身の可能性に見切りをつけ諦めていくのがほとんどであり、ある程度は子供の頃から決まっているのだが。

 子供の頃は見える世界が狭く、大人になればもっと色んな事が出来ると思っていたが…実のところ大人になって一見世界が広がり行動範囲が広まった様に見えても、実際に行動するのはとても狭く窮屈な世界でしかない。

 仕事や家庭、世間の評判などに縛られ子供の頃夢に描いた冒険などは更に夢のまた夢となってしまう。

大人とは既に完成品であり進む先にあるのは成長ではなく調整である。

 ほぼ決まった未来を上手く行く様に合わせるだけでとても退屈なものだ。

 

 だが、子供は違う。

決まっていない様々な未来を進む事が出来る。才能、環境、運。

 色々な条件があるがそれらがまだ未確定な以上あらゆる可能性に満ちていると言えよう。

スポーツでほぼ結果の分かり切った後半の展開よりも前半の何が起きるか分からない状態の方が楽しいものだ。

優れた完成品以外は完成品よりも未完成の作品の方が引き付けるのである。

 

 

 

 だからこそ私は子供が好きだ。

 

 

そんな子供達を見守り彼等が望む道に進める様に、

 

彼等が見たがった遠い世界を見れるように、

 

彼等がより良い形に完成するように。

 

 彼等を導く存在になりたい。

だからこそ私は先生になったのだ。

 

 

 

 

 

……というのが()()()の理由である。

 

 実際は違う。創るのが、完成させるのが好きなのではない。

本当は壊すのが好きなのだ。

 

 

 ほぼ決まった未来を歩む大人よりも可能性に溢れた子供の未来を奪う方が何十倍も気持ちいい。

 見たかった世界の狭さに絶望する前に、世界の先を知らぬまま命を奪う方が残酷だろう。

優れた名作でもなければ完成品よりも、作っている最中の未完成品を壊された方が人は絶望するものだ。

 生まれながら壊れており、より良い未来など無かった自分だから、子供の未来を壊す事に快感を感じる様になったのであろう。

 

 壊すことが、殺すことが生き甲斐だった。

一時期結婚し、創る事もしてみたがやはり本能は壊す方を望んでいたのだ。

 

 

 だが彼を見てから私はその奥に眠る才能に惹かれて創り、育てる存在となろうと思ったのだ。

 

 

子供というのは純粋だ。

 

 だからこそ平気で大人がやらない事、やれない事もしてくるのだ。いいことも…悪いことも。

 ある日子供が外でトンボを捕まえてくる事があった。

そんな時子供はトンボの翅をむしり取り、水辺に落とし、トンボが溺れるのをケラケラ笑いながら見ていたのだ。

大人になったら虫に触るのも嫌な人間も多いし道徳的に殺しを好まなくなるものだ。

 純粋無垢故の残虐性、嫌悪感や恐怖心の欠落…それ等は子供特有の事であり大人になったら価値観の変化で矯正されている場合が多いが、ごく稀に存在する。

 邪悪な因子を持った子供が…

そう言った子供は普通の子供でもある程度持っているリミッターが働かず、害虫を殺す様に平然と人を殺せる人間に育ちやすいのである。

 育った環境、もしくは本人の性格故に殺人鬼へと変貌するのだ。

私やレオンの姉のミシェルは後者であるがレオンは前者の方であろう。

 とても素直で疑いを知らない、彼と接して分かった事は良い意味でも悪い意味でも有望な精神性であるという事だ。

 彼を幼い頃から教育すれば強盗、殺人、強姦、食人嗜好あらゆる犯罪を嫌悪感無くこなす怪物へと成長する事だろう。

 

 だが彼は純粋だ。それも異常なまでに。

もし無垢な彼が邪悪に染まる前にそれらの行為に拒否感を持ってしまったとしたら、たとえどんな状況でも闇に染まる事のない光の存在になってしまうだろう。

 彼が悪を許さない正義の者になったら生まれながらの悪人である自分とは袂を分かつ事になる。

それだけは避けねばなるまい。

 

 

そして彼を殺人鬼にする為の教育が始まった。

 

 始めは普通に接するだけだった。優しく、好意的に。

彼に好かれる様に。

 

 レオンが絵を描いたら褒めてあげた。砂場で遊びお城を作ったらまた褒めた。

彼の好感度を上げるとともに正しい事をしたら褒めてあげる事を教え込んだ。

 

彼を誉めて撫でてあげると顔を赤くして照れてるのがとても可愛らしかった。

 

レオンは褒められる事を喜び、褒められる事を積極的にするようになった。

 

そうだ、それでいい。

 

そして次のステップへ進む機会が来た。

 

 幼稚園内に蜂が入ってきた。

それをレオンに駆除させる事にした。

 

 彼は「どうして?」と疑問を持っていたが蜂は先生達を傷付ける。

だからアレを殺して先生を守ってほしいと訴えた。

 

 

 まるで姫を守るナイトの様な気になったのだろう。

そうすると彼は即座に蜂をスリッパで叩き落とした。

その後足で捻り潰して殺した事を報告にきた。

 

なんて手際の良い子だろう。彼を誉めてあげまた頭を撫でた。

 

 

 その後は彼に虫の駆除をお願いする事にした。

蜂に刺されることもあったが彼は褒められるとケロッとしてまた蜂を駆除しに行った。

 

 

その後はゴキブリを駆除してほしいと伝えた。

 

彼は「ゴキブリも危害を加えるの?」と聞いてきたが危害を加えるのではなく『気持ち悪いから』殺してほしいと訴えた。

 

 この言葉には周りの人間も同意しており彼は疑問なく忌々しいGを駆除した。

勘違いしないでほしいが私だって女の子なのでゴキブリは普通に嫌いである。

やろうと思えばできるがやってくれるなら純粋に駆除してほしい。

 

彼はゴキブリを駆除し個人の感情で生き物を殺していい事を知った。

 

それからは彼と一緒に虫などを殺す事が増えた。

防衛や感情だけでなく知的好奇心を引き出し虫をバラせばどうなるかを教えてやったりもした。

虫をイグアナなどの餌にして食わせる事で殺す事に意味を持たせたりもした。

 

 

そして遂には虫の脚を全てもぎ、その悶える様を観て喜ぶようになった。

 

ああ、これでいい。

人間は合法的な動機があれば、その過程で悪意ある振る舞いを平然と行えたりするのである。

 

その後は殺しの対象が少しずつ大きくなっていった。

虫からミミズ、カエル、蛇。爬虫類まで進化した。

 

 休日にレオンをアライグマの狩りを手伝わせた。

ライフル銃でアライグマを撃ち殺すとその姿を見て彼は目を輝かせていた。

 

男の子という生き物はやはり銃に惹かれるものなのだろう。

 

 アライグマ、そして兎なども彼と一緒に狩った。

レオンに銃を握らせ撃ち殺したりもした。

 自分の肩にストックを当てて彼の後ろから抱きしめるとレオンが照れてるのが分かった。

 

なんて可愛いんだろうこの子は…

 

その後、私の前でそのキレイな顔をふっ飛ばしてやるとばかりに銃を構えたレオンが引き金を引き見事に兎を撃ち殺した。

 

ああ、やはりこの子は殺しの天才だ。

 

凄い凄いと撫でてあげると彼は褒められた喜びだけでなく獲物を仕留めた快感に打ちひしがれているようだった。

 

その後兎を彼の目の前で調理して食べた。

 

目の前で兎の内臓を引きずり出した時のギョッとした顔はとても痛快だった。

 

おいしいという事は重要だ。

彼は生き物をその手で殺したが、平然とそれを受け入れて殺した兎の肉を頬張っている。

 

 いい傾向だ、動物の血や内臓を見ても平然としてる辺りかなり素質があると言える。

彼に対する想いが昂っていくのがわかる。

 

ふと彼を見ると口元にソースのようなものが付いているのが分かった。

 

「ほら、付いているわよ?」

 

そう言って彼の顔に手を伸ばし…

 

 

 

 

 

彼の顔に手を添え口元を舐めとっていた…

 

「先生、汚いよ…」

「先生の舌はばっちくないわよ」

「でも僕お顔汚れてるから…」

「だから綺麗にしてるんじゃない♪」

 

自分でも無意識にやってしまった。

だがやってしまった以上もう突き進むのみだ。

 

「ねぇ、キスって知ってるかしら?」

「キス?」

 

「そう、キス…大好きな人と唇と唇を合わせるの」

「どうして?」

「それが儀式だから、そして心地いいからよ」

「儀式?」

「そう、儀式…結婚する時とか恋人さん同士になる時とか、大好きって気持ちを確かめ合う時とか」

 

彼はちょっと考えてキスの事を理解したようだった。

 

「ねぇ…レオン、先生とキスしてくれない?」

「えっ?」

 

「先生、レオンの事が大好きだから…キス、したいの…レオンは先生の事好き?」

「…うん、僕、先生の事好き…」

 

「っ!じゃあキスしてくれる!?」

「う、うん…!」

 

「じゃあ…!」

 

 

ギュっと目を瞑ってソレに備える。

 

顔が熱い、自分の顔が赤くなっているのが分かる。

これほどドキドキしてるのは何時ぶりだろうか?

 

いや、今までこれ程緊張した事はなかった。

初めて女になった時や人を殺した時でさえ興奮はしていたが緊張はしていなかった。

 

こんな気持ちは初めてだ。

 

「じゃあ、やるよ?」

「う、うん!いいわよ!」

 

彼が迫ってくるのが分かる。

 

彼の吐息を感じる。

 

生暖かい体温を感じる。

 

(ああ、来る!レオンのが私のに!)

 

 

―――そして

 

 

……ちゅっ♡

 

「っ!?♡」

 

(触れた!?今確実に触れたわ!)

 

柔らかい感触が触れた時、体に電気が流れたようだった。

 

ああ、なんて気持ちいいんだろう…!

 

「…これでいい?」

 

レオンも心なしか頬が紅い、彼も満更でもないのであろう。

 

 

「…もっと」

 

「えっ?」

 

だがまだ触れただけだ、一瞬、ちょんっと。

 

「キスっていうのはもっと唇を合わせ続けるの!触れただけじゃ足りないわ!」

「そ、そうなの?」

 

やはりよく分からないか。

仕方ない、こうなったら

 

「私から行くしかないわね…!」

「先生…?んっ!?」

 

有無も言わさず唇を合わせた。

 

そのまま唇をこじ開ける様に舌を滑り込ませ彼の口内に差し込んだ。

 

「っ!?~~~~!?」

 

「っぷはぁ…!これが大人のキスよ…♡」

 

 唇を離して顔を見ると彼の目がトロンとしてるのが分かった。

まだ互いの舌先には名残惜しそうに糸が引いていた。

 

 

(なんて気持ちいいのだろう、好きな人とするキスというものは…!)

 

 心が幸福な気持ちで満たされていくのが分かる。

人を殺した時でさえ味わった事の無い高揚感を感じた。

 

 

…もしも人を殺す前にこの感覚を知っていたら、私は殺人者にはならなかったかもしれない。

 

しかし私は人殺しだ。

 

今までも人を殺してきたしこれからも人を殺すだろう。

 

 ウーパールーパーやトンボなど、水生生物が陸に出てしまったせいで肺呼吸に頼る事になったが故に、以前の様な水中での暮らしには戻れないのと同じだ。

 最早殺人鬼は殺し抜きでは生きられない、普通の生き方など到底出来っこないのである。

 

 

 だからこそ彼を殺人鬼(自分と同じ)にしたい。

彼と共存する為に。彼に認められる為に。

 

自分が殺しを止められないのなら彼にも殺しの味を思い知らせればいい。

 

 

 きっと彼だけには自分を偽り続ける事は出来ない。

彼の前だと自分は冷静でいられない。いつかきっとボロが出る、だからこそ。

 

自分の全てを見て認めてほしい。

 

殺人鬼としての自分を愛してほしい。

 

だからこそ彼を同じ目線に立つまで育てる必要があるのだ。

 

 

(生き物を殺す事の抵抗感は十分に薄れた…後は人を殺すのみね…)

 

 

常人と人殺しの明確な境界線。後はそこを越えるだけだ。

 

 

 その後照れ臭くなって今日は解散する事にした。

フレデリカは上機嫌でレオンを彼の家に返し、自宅のベッドの上で枕に顔を埋め、今日の出来事を思い出しながらはしゃぐのであった。

 

 

その後フレデリカとレオンの関係はエスカレートしていった。

 

休みに会っていちゃつくのはもちろんの事、幼稚園の中でもなんとか時間を作って彼との時間を作っていちゃついた。

 

とうとう自分の欲望を抑えきれなくなりシャワールームで裸の度の越えたいちゃつきをするようになった。

 

 

これはもうあれだ、行くところまで行くしかないわね。

 

レオンには殺しでもアッチの意味でも更に進ませてやりたい。

 

そう思ったフレデリカはレオンを遂に自宅に呼んだのであった。

 

 

 

 

 

 

今日は先生のお家に呼ばれた。

 

幼稚園やお外で遊ぶことは多かったが先生の自宅は初めてだった。

 

 自分の家で待っていると玄関からインターフォンがなった。

母親がドアを開けると玄関に居るのがフレデリカである事が分かった。

 

「おはようございます、朝早くから申し訳ございません」

「いいえ、いいんですよ!むしろありがたいわ。幼稚園が休みの日なのに面倒見てもらって」

 

「大丈夫です。私()()()()()()()()なので♪お宅のレオン君は転園してきた時からずっと仲良くやってきて、もう自分の子供の様に思っているんです!だからうちの娘ともぜひ仲良くなって欲しいんですよ!」

 

「あら、お宅にもお子さんがいらっしゃるの?」

「ええ、娘が一人、レオン君と年も近いですわ」

 

 

母親と先生が会話を始めた、自分も先生とお話ししたいのに。

 

「あら、もしかしたらうちの子のお嫁さんになるかもしれませんわね!」

「それは無いです。絶対。」

 

強い口調と笑顔だった先生の顔が能面の様になるのを見て母が一歩引くのが分かった。

 

「そ、そう?でも仲良くはなれますよね?」

「ええ、もちろん。ですがうちの子と恋人になろうなんて私の目が光ってる内はさせませんわ♪」

 

二コリとほほ笑むが目が笑っていない。

 

(過保護なんだろうか…?)

 

その後変な疑念を持った母をよそに先生の元にようやく呼ばれる。

 

 

「先生!」

「レオン君、おはよう!」

 

やっと会えた喜びから先生の体に抱き付くと彼女も僕の頭を優しく撫でてくれた。

 

「それじゃあ行きましょうか。レオン君」

「うん!」

 

彼女に促されて車に乗り込み先生の自宅に向かった。

 

車を運転する先生をそっと見やる。

 

 肩まで伸びた眩しいまでの金髪を隠す様に帽子を被り、サングラスで目元も隠した姿はミステリアスな印象を受ける。

なんでも自分の姿をなるべく隠しつつ印象を残したいという変な思考を持っているらしい。

自分だとバレたくは無いが自分の姿を皆に知ってほしい…?変わっていると思う。

 その糞ダサセーターもその一環なのかと聞いたが顔を真っ赤にして、仕事中にはしたない女だと思われない為だとか‶作業"をする時などに汚れが目立たない様に敢えて着ているのだと言っていた。敢えてね。

 

 よくよく見ると明らかにショックを受けていた気がする。

『女の子の服装を悪く言っちゃ駄目なんだゾ☆』と彼女に言われてからはふれないようにしてるが…。

 

百歩譲っても糞ダサいと思う。

 

 

それから少しして先生の住んでいる家に辿り着いた。

 

中々に広い家だ。綺麗な庭に大きな倉庫の様なものもある。

 

「広い家だね」

「ええ、とても快適よ。入って、どうぞ」

 

家の中に案内され、そこに住む彼女以外の住人に出会った。

 

「初めまして、君がレオン君だね?」

「おはようレオンくん、わたしキャサリン!よろしくね!」

 

先生の旦那さんと、一人娘のキャサリンだ。

 

 二人共とても優しくいい人という印象だった。

なんでも旦那さん曰く妻には頭が上がらないらしい。

 

まぁ如何にも気弱そうな主人とグリズリー相手でも嬉々として銃を持って挑み、刃物で平然と内臓を引きずり出しそうな先生ではそうもなろう。

 

「それじゃあ私は仕事に行ってくるよ。後を頼むね」

「ええ、行ってらっしゃいアナタ」

 

それから少しして旦那さんは出かけていった。

 

「今日一日はレオン君を預かるからキャサリンも仲良くしてね」

「はーい!」

 

先生は娘に僕の事を告げた後にこちらに来て本題について告げた。

 

 

「今から準備するからそれまで娘と遊んでてね?」

「うん、待ってる」

 

そう言うと彼女は『ヨシ!』と笑って倉庫に入っていった。

 

 

「レオンってママと凄く仲良いよね?」

「そう?仲は良いと思うけど普通じゃない?」

 

適当にボカシてみたがやはり家族が見ても明らかに態度が違うらしい。

 

「ううん、だってママは私達の前でもあんな顔しないもん」

「そうなんだ…」

「そうだよ!」

 

キャサリンに言われた事がうれしくなって笑みがこぼれそうになる。

 

自分は先生の特別なのだ。家族よりも、もっと深い。

 

それがとても嬉しかった。

 

 

 

それからしばらくキャサリンと遊んだ後に先生がやってきた。

 

「キャサリン~!ちょっとレオン君に手伝ってほしい事があるから借りるわねぇ?」

 

そう言うと僕を倉庫の中に連れて行こうとした。

 

「ママ、もしかしてレオンを地下室に連れてくの?」

「ええ、そうよ?」

 

「私やパパも入れてくれないのに?」

「お仕事に関する事だからレオンは良いの、絶対に覗いちゃだめよ?」

「む~~~っ!」

 

 

キャサリンは明らかに不満げだったが構わずに僕を倉庫まで連れて行った。

 

そこには地下室へと続く階段があった。

 

「この家はあの人のお金で建ててもらったものだけどこの地下室の設計には私しか口を出してない、秘密の場所よ」

「秘密の場所?」

 

「そう、秘密基地みたいで素敵でしょ?」

「たしかに、クールだ」

 

「女っていうのは秘密がある程美しくなるのよ。自分だけの空間を持つ事が家族で仲良くするコツでもあるわね」

 

この先が先生だけのプライベートな場所なのだ。

 

そんな所に僕を連れていってくれるのはとても嬉しい。

 

「鍵が開いたわ、どうぞ」

 

そこは変わった空間だった。

 

薬品やらガソリンやら何か分からないものやらの独特な臭い。

 

様々な工具や器具、刃物などが置いてある。

 

ただの物置かと思えばシャワーやベッドまで置いてある。

 

「この部屋に住んでるの?」

 

「まさか!あのベッドは一時的に休みたい時に使うの、シャワーは作業で汚れた体を綺麗にしなきゃならないからつけたのよ」

 

「作業ってここでは何をするの?」

 

「貴方といつもやってることよ、生き物をバラシて楽しむの。でも血塗れで戻ったら怖がられちゃうでしょ?」

 

そうか、狩りや解体か。そう言われるとこの中の物の用途も説明がつく。

 

思考に耽ってる自分をよそに先生は本題を語り始めた。

 

 

 

 

「ねぇ?レオン…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間を殺してみたいとは思わない?」

 

 

 

 

何とも返答に困る内容だった。どう答えればいいのか。

 

「人を殺しちゃ駄目ってママもパパも言っているよ?」

 

「そう、法律上はね?でもパパもママも法律をちゃんと守ってる?」

 

「それは…」

 

 

 僕は知っている。ママは信号をこっそり無視しているし、パパは変な葉っぱを焼いて吸っている。

それは所謂犯罪で悪いことだ。

 

「誰だって本当はこっそり法を破ってる、必要だったり欲望の為にね。それに…」

 

そう言って先生は近づいて僕の前で屈み唇にキスをした。

 

「こうやって大人の私と子供のレオンが愛し合うのは犯罪、法律違反なのよ?」

 

「そうなの?」

 

「そう、それって本当に悪い事かしら?法に違反してるだけで私はこんなにも貴方のことが好きなのに…レオンは法に反してるから嫌だっていうの…?」

 

「そんなこと…!ないよ……」

 

そう言うと彼女はニッコリとほほ笑んだ。

 

「そう、本当に信じるべきなのは法律や決まり事じゃなくて、『自分の心』よ?」

 

「そう…かな?」

 

「そう…何もあたり構わず殺せばいいという訳じゃないの。私達の‶愛"を邪魔しようとしたり、私や貴方を傷付けようとする人間には躊躇せずに戦いなさいという事よ。それが必要なら躊躇っちゃ駄目。殺さなきゃ守れないモノもこの世にはあるのよ」

 

彼女はそう語った。言い分もそうだが先生が言っているからこそ正しいという説得力を感じた。

 

 

「それじゃあもしもの時の為に練習しよっか♡」

 

そう言うと先生は奥から人形を取り出した。

 

 

 

「ジャ-ン!!グッドガイ人形~!」

『やあ、ボクはフレッド!』

 

グッドガイ人形だ。この前発売したものだ。テレビCMで見た事がある。

 

「この子を悪い奴に見立てて試してみよっか♡」

『仲良くしてね!』

 

そう言うと人形を床に置いて此方に促した。

 

「さあ、ここにある物を好きに使っていいわよ♪あのキモイ人形を殺っちゃいなさい!」

『お休みの時間かな?』

 

そこにはいろいろな武器があった。

 

バットに包丁、マチェット、斧、ハンマー。十分に凶器になりそうなものから、釘打ち機や鞭などの特殊な物もあった。

 

時おり先生が置いてある鉤爪をチラチラと見ているのが分かったが僕はウルヴァリンよりサイクロプス派なので無視する事にした。

 

「いっぱい武器があるんだね、サムライソードやシュリケンは無いの?」

 

「さ、流石にジャパニーズソードやスリケンはないわね…」

 

 

がーんだな、出鼻をくじかれた。

 

「じゃあライトセーバーは無いの?」

 

そう言うと先生はため息を吐いた。

 

「あのねぇ?これは遊びじゃなくて特訓なのよ?おもちゃじゃ人間は殺せないわ」

 

「でも、正直いきなり言われても気乗りしないよ」

 

「がーんだわ、出鼻を挫かれたわ…」

 

先生は僕の反応にガックリきていたがやがて諦めたように気持ちを切り替えていた。

 

「あ♡じゃあじゃあ!別の勉強をしましょう!」

 

「別の?」

 

一体何をするのだろうか?僕は先生の反応を伺った。

 

 

「んふふ、せっかくベッドもある事だしぃ~。そろそろ大人の愛し合い方について学びましょう♡」

 

「大人の…愛しあい方?」

 

「そう、キスは子供でもできるけどその先は大人しかできない領域があるの!だからこのグッドガイ人形君で実践してあげるわぁ♡」

『大人しくしててね?』

 

そう言うと先生は人形の口にキスをした。

 

「っ!?」

 

「今は私とこの子は恋人さんなの♡」

『キミは友達~僕のバーディ~♪』

 

その後先生は糞ダサセーターと下着を脱いでツルツルになった。

 

グッドガイ人形も同様だ。

 

ていうかグッドガイ人形の下になんかドえらいモノが付いていた。

 

なんだあのでっかいモノ…♂

 

どうやら特殊な改造をしていたらしい。

 

その後先生は人形の顔に跨った。

 

「お互いの部分を綺麗にしなくちゃね…♪」

『吐き気がするよ!』

 

グッドガイ人形が跨った先生から殴られたが本来の工程には必要ないようだ。

 

「んふふ、レオンはまだ子供だからここまで大きく固くもならないのよねぇ♡」

『しゃぶれよ』

 

 

 

 

この光景を見ていると自分の中の感情のナニカが沸き上がる気がした。

 

怒り、悔しさ、劣等感、嫉妬。それらが自分の感情を黒く染めているのが分かる。

 

それは僕と先生だけがする事だ。

 

キスも、先生の裸も、キレイキレイも。

 

全部僕だけのモノだ…!

 

 

 

「ほらぁ、よく見てレオン!これが大人の愛し合い方よおおおお!!」

『楽しいね!』

 

 

先生がグッドガイ人形に抱き付いてカクカクする様はまごうことなき変態である。

 

 

だがその姿を見た時自分の中のナニカが切れた。

 

 

「先生から…離れろぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

「キャッ!?」

『グエー』

 

 

気が付けば包丁を手に取りグッドガイ人形の眉間に突き刺していた。

 

先生が離れたのを確認してグッドガイ人形についた黒光りのテカった棒を金属バットでへし折った。

 

 

『アッー!』

「この!デカいからって調子のんな!作り物がァッ!!」

 

(性欲を持て余した結果、とんでも無い事になったわね…)

 

レオンの嫉妬心が彼の良心を押しのけ破壊衝動へと昇華したのだ。このことはフレデリカにとって思わぬ収穫だった。

 

 

その後レオンは斧を頭の上まで大きく振りかぶり、グッドガイ人形のその両腕を切断した。

 

 

「この!どうだ!参ったか!」

『楽しいね!』

「ぷっ…アハハ!まだまだ足りないそうよ、レオン殺っちゃいなさい♪」

 

「舐めやがってくそったれぇ!!」

 

その後は凄惨な光景だった。

 

アイスピックや刃物でめった刺しにし。マチェットやチェーンソーで切りつけ、ハンマーで叩き潰し、ケツにツルハシを叩きこんだ。

 

 

そして…

 

 

 

『ブルスコ…ファー…』

 

「はぁ…はぁ…」

 

「レオ~ンそろそろ決めちゃいなさ~い♪」

 

フレデリカはレオンに鉤爪を投げた。彼の手に合う専用のものだ。

 

お風呂でのやり取りもこれを使う為の布石に過ぎない。

 

これは自論だが人を殺す感覚はその手で直接味わうものなのである。

 

「私とお揃いの鉤爪よ!それでトドメを刺しちゃいなさい!」

 

彼はその鉤爪を右手にはめ込み、グッドガイ人形の髪を掴み頭を持ち上げた。

 

 酷い面だ。髪は半分以上引き抜かれ、目元は抉り取られ、頬はドリルで開けた穴だらけ、口の歯はボロボロだ。

 

 

レオンは右手を横に大きく振りかぶり――――

 

 

 

―――――人形の首を切り落とした。

 

 

 

 

 

 

『モルスァ』

 

「ざまぁみろこの野郎…」

 

(やったわ。)

 

 

 

 レオンは立派に成し遂げたと言えよう。惚れ惚れする程の殺人術だ。

天性の才能だ。彼がこのまま育てば世界で最も恐ろしい殺人鬼になる事だろう。

 

「よくできたわね。偉いわレオン」

 

「先生…」

 

フレデリカはレオンの鉤爪の付いた手を取り頬ずりをする。

 

「今の感じを大事にしなさい。貴方は優秀になるわよ。私と一緒に居るのに相応しい位に」

 

「本当!」

「ホントよ、ホント」

 

レオンが顔を輝かせるのを見て微笑ましくなる。

 

これでいい。

 

大人の愛し合う行為はまだできないがそれよりも深いモノで二人は繋がっている。

 

彼はもう殺しを問題なくこなせるだろう。

 

後は()()を調達して実践するのみだ。

 

 

フレデリカは楽観的に、この後の未来を予想しながらシャワーでレオンと復習していたのだった。

 

 

だが彼女の想定は思わぬ所から音を立てて崩れて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ママ…変だよ…地下室で何をやっているの…?」

 

 

娘のキャサリンは二人の様子を扉の裏から見ていた。

 

明らかにあの二人のやっている事は異常だ。

 

(パパに伝えなきゃ…!)

 

彼女は地下室の秘密を知ってしまった。見てしまった。

 

そしてその中身が母親の真実の中の氷山の一角でしかない事を幼い彼女はまだ知らなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオンは優秀で純粋な子だ。

だから悪意を学ばせれば彼はそれをいとも容易く吸収する。

このままいけば最悪の悪人になれる。

 

正義という光あるモノに歪まされさえしなければ……

 

フレデリカは気付いていなかった。

 

自分のような邪悪な存在が身近に平然と過ごしているのなら。

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、ナンシーだったっけ?そんな所で突っ立って何をしてるんだい?」

 

「……レオン、くん…?」

 

 

光り差す聖なる存在もまた身近に居るのだという事を…

 

 

 

 




未完成の作品をぶっ壊されるのはお前の方だよクルーガー!


あぁ^~早くフレディぶっころころしたいのに無駄なパート入れでぐだっちまったぜ

一度殺人鬼になったら一般人には戻れないっていうのはティファニー辺りがピッタリはまりますね。


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4

ランキングに乗っててビックリ
ありがてぇ…


 レオンはある日外で遊んでいた。あくまで家のすぐ傍の道路脇程度のものだ。

無論親も庭の直ぐ傍に居たし、自分も道路に出たら危ないことも分かっている。

 まあ人通りも車の通りも殆どなく道路で遊んでもあまり問題無いように思えるが…。

 

ふと歩道を見ると少女が立っているのが分かる。

 

 隣の家に住む少女のナンシー・トンプソンだ。

同じクラスに居る子だから覚えている。クラス写真も撮った。

 

 

「やぁ、ナンシーだったっけ?そんな所で突っ立って何をしてるんだい?」

 

「……レオン、くん…?」

 

気まぐれで声をかけたが彼女が涙を流している事に気付いた。

 

「何故…泣いてるんだい?」

 

「ひっく、猫ちゃんがぁ…」

 

 彼女が指さした先には猫の死体があった。

身体が轢きつぶされ赤い部分が露出している。

大方車にやられたんだろう。この町で車に轢かれるなんてドジな猫だと思った。

 

「死んじゃってるね」

 

「えっぐ、うん」

 

「内臓が飛び出ているね、グロいのが苦手なのかい?」

 

「そんなんじゃないわっ!!」

 

いきなり声を荒らげるナンシーに思わず驚愕したが、まったくもって意味がわからない。

 

「じゃあなんだ?血しぶきで服が汚れた?それとも弾けた肉片が体にぶつかったのかい?」

 

「なんで分からないの…?悲しいのよっ…!」

 

「悲しい……?」

 

猫が死んで、悲しい。その理由が上手くピンと来なかった。

 

 

「本当ならもっと生きれた筈なのに…可哀そうだわ」

 

 

 可哀想?生き物が早く死ぬと可哀想なのか?

事故で死んだなら避けられなかった猫の生存力の限界だったという事だ。何を悲しむことがあるのか?

 

「寿命が来る前に死んだならそれだけの命だったって事じゃないの?」

 

「違う!命が理不尽に奪われることはあってはならない事よ!」

 

「それが、許せないの?」

 

「許せないし、辛くて…悲しいの…」

 

 

 

まただ。また、悲しい。

 

 

「君が轢かれて死んだわけじゃないだろ?君は痛くも無いし苦しくもない筈だ。体は万全なんだから」

 

「違うわ、違う。体じゃなくて心が痛いの…」

 

「ココロ……?」

 

心臓が痛いという意味でもないんだろう。ならやはり感情ということか。

 

 

「誰だって大事な物が壊れたり、大切な人や生き物が死んだら悲しい筈よ…?貴方にはそういうモノが無いの?」

 

 

失ったら嫌なモノ、辛い者。自分にはたった一つだけ心当たりがあった。

 

 

「先生……」

 

 

フレデリカ先生、優しくて、綺麗で、カッコイイ。自分にとっては無くてはならない存在だ。

 

もし彼女が唐突に居なくなってしまったら…

 

 

「悲しい、かもしれない」

 

彼女が死んでいなくなるなんて嫌だ。僕はそう思った。

 

しかし納得した事で新たな疑問が湧き上がる。

 

 

「でも、その猫は君が可愛がっていた猫なのかい?」

 

「いいえ、違うけど…」

 

 

そうだ。彼女が猫を飼っていた様子は無かったし、どこかの猫と親しくしていた記憶もない。

 

「仲の良い猫じゃなかったなら悲しむ必要なんてないじゃないか」

 

「そんな事無いわ!無関係だとしても生き物が死んだりしたら悲しいもの!」

 

「でも僕たちが食べる肉は生き物を殺して食べるよね?虫は平然と殺すし害獣や害虫は率先して殺す」

 

「そうね、生きてる内には命を奪わなければならない事もあるし奪われる事もあるわ。だからこと限りある命を大切にして不用意に奪うべきじゃないのよ」

 

成程、少し分かった気がする。

 

 

「でももう悲しむのは止めなよ。命を失って悲しみ続けるのは辛いだろ?牛や豚の加工場を見に行った事がある。一々悲しんでいたら辛いだけだよ」

 

「そうかしら…?確かに悲しい事も乗り越えなければならないわ。でも死を悲しむ事は悪い事かしら?」

 

「悲しむのは心が弱いからさ。死に慣れて心を強くするべきだ」

 

先生が言っていたような事を語るがどうやら彼女は受け入れられないようだ。

 

 

「それは、違うわ。違う。誰かが死んで悲しいと思う事は誰かを思いやれるってことだわ」

 

 

 

(思い、やる…?)

 

 

「誰かを思いやれるという事は素晴らしい事だわ。それは強さよ。弱さなんかじゃない」

 

「強さ…」

 

「誰かを思いやり、優しくなれるから、人は支え合える。共存できる。世界ってそうあるべきだと思うの」

 

 

それは世の中を知らない、子供の綺麗事だった。

 

実際はそんな世界じゃない。世界はそんなに優しくは無いし、優しさの裏には利益が隠れているものだ。

 

 

 

だが…そうであろう、そうでありたいと願う彼女の言葉でレオンは自分の中のナニカが変わったきがした。

 

先生と過ごし、想う日常は素晴らしいモノだった。彼女に優しくされたからこそ今の自分があるのだ。

 

 

「…猫を動かそう」

「えっ…?」

 

 

ふと呟いた自分の言葉に彼女は理解が追い付いて無い様だった。

 

 

「このままじゃ…きっと、可哀想だから……」

 

「っ…!?そうね……そうだわ…」

 

 

その後、猫を運び出し土の中に埋めた。

 

血と泥で汚れたのを親に見られた時は怒られたが、正しい事をしたと自分の中では思っている。

 

 

 

この日、たった一人の少女との出会いで起きたことがレオンの中の価値観を一変させた。

 

フレデリカが手塩にかけて育てた曇りなき邪悪な思想は、純粋な子供の慈愛の心によって歪んでしまったのだ。

 

 

 

そしてフレデリカの不幸はそれだけでは済まなかった。

 

 

この日を境に完璧に世間を欺いてきたメッキがメキメキと剥がれることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それは本当かい?」

 

 

「うん、地下室でママとレオンくんが二人っきりで遊んでたの」

 

フレデリカの娘キャサリンはフレデリカの旦那でもある父に真実を語った。

 

「本当に二人は…裸で遊んでいたのかい?」

 

「うん、色んな物や玩具で遊んでた」

 

「…遊んでただけじゃあないか?」

 

「ううん、抱きしめ合ってキスをしてた。何度も何度も」

 

 

何ということだ。出会った時から子供が好きだと言っていたがまさかそういう事だったとは。

 

思えば彼女は最初から子供が欲しい様子だった。

 

彼女の様な美女から迫られて男としては天にも昇る気持ちで行為に及んだが、娘が出来た後はあまりそういう行為は行わなかった。

 

幼稚園の先生になろうとしたのも下心あっての事だとでもいうのか?

 

 

(確かめなければ…)

 

「キャサリン、僕はちょっと倉庫に行ってくるよ」

 

「地下室に行くの?」

 

「そうだ、ママはもしかしたら隠れて悪い事をしているかもしれない、調べて来るよ。ママには秘密だぞ。絶対だ」

 

そう言って父親は地下室へ向かった。

 

その先に何が待ち受けているかも知らずに…。

 

 

 

 

「ふふ~ん♪ふ~~~ん♪」

 

 陽気に車を運転しながらフレデリカは帰宅していた。

今日も一人少女をイカせてきた所だ。

 

自分の欲望を解放した事で気分良く明日も過ごせそうだと呑気に思っていた。

 

彼女の歪んだ日常が今日崩壊する事も知らずに…。

 

 

 

「ただいま~帰ったわよぉ~!」

 

玄関を開けて家族を呼ぶ…が、反応が無い。

 

不思議に思い居間に行くと娘が座っていた。

 

「あら?ちゃんといるじゃなぁい?」

「…お帰りママ」

 

出かけていたわけではないらしい。

 

 

しかし娘は居るのに面倒を見ている筈の夫が居ない。

 

「キャサリン、パパはどこ?」

 

「えっと、今は居ないみたい」

 

 

居ないって事は無いだろう。車は車庫にあったしいつも着ていく上着もある。

 

外に行った様子もない。

 

夫の書斎や寝室、風呂場も探したが見当たらなかった。

 

 

まさか、そんな事…あっていい筈がない。

 

「……キャサリン、パパはどこに居るの?」

 

「し、知らないよ…」

 

 

 

 

「答えなさいッッッ!!!」

 

 

気付いたら娘には出したことの無い怒号を浴びせていた。

 

娘はビクリと慄き、目を伏せた。

 

 

「…地下室に行ったのね?」

 

ピクッと揺れた後、驚愕の表情をしていた娘はなおも口を噤んでいたが最早語るまでもなくその反応が夫の居場所を表していた。

 

 

「ちょっとパパの所に行ってくるわ」

 

「ッ、パパはッ…!?」

 

「約束を破る人にはお仕置きをしないとね。貴方はここで待ってなさい」

 

 

 

 その後震える娘をよそに急いで地下へ向かった。

もしもあの男が中の隠している物まで見ているとしたら…

 

 

消さなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

そこは酷い空間だった。

 

多量の機材が置いてあり薬品や油と何やら分からない異臭がそこはかとなく漂っていた。

 

取っ散らかった中で一際異彩を放つのは中央に置かれたベッドと端に取り付けられたシャワーだろうか。

 

ベッドをよく見ると盛り上がっている。何かがあるのだ。

 

毛布を捲ると、そこに居たのはグッドガイ人形だった。

 

初期衣装の服は取り払われ、下には大人の玩具が取り付けられていた。

 

「なんということだ…」

 

娘の言う事は真実だった。

 

そして先日、少年を家に呼んだ事を鑑みるに…

 

 

「あの子に手を出している…!?」

 

自分の妻の不貞、それも明らかな異常性癖に戦慄し更に辺りを見渡す。

 

もしかしたら彼だけではないかもしれない。

 

ふと、小綺麗な棚が目についた。

 

証拠があるかもしれない!

 

そう思った彼は引き出しを開け中の資料を拝見した。

 

 

そしてそこに記されたモノは彼の想像を遥かに上回る物だった。

 

 

「なっ!?なんだ!?これは…!!?」

 

 

何をされたのか想像すらしたくない、恐らく子供の写真。

 

そのおぞましいまでの姿に恐怖と吐き気がこみあげてくる。

 

 

「うっ!?オゥエエエェ……」

 

信じられ無い、人間の所業じゃない。妻は何故こんなものを?

 

その時、写真の横にある文章が目に付いた。

 

子供達の詳細な情報、殺し方、そしてそれらをなした者の恐ろしい記録。

 

まるで夏休みの子供の絵日記の様に嬉々として殺しの感想を書いているのが理解しがたかった。

 

 脳が狂気なる文字を理解する事を拒否して、文から目を離した時、気付いた。

子供達の写真をもう一度見やる。

 

写真は残虐な物の前におそらくはその被害者であろう子供を写していた。

 

それらの姿にはいずれも見覚えがあるのだ。

 

顔写真の横の文字の方へ目を移すと、やはりそうだ。

 

中には詳細な個人や住所を表す物が幾つかあった。

 

 

 

そしてそれらは此処、スプリングウッドを示していた。

 

つまり彼等はこの町で行方不明となった子供達だったのだ。

 

原因不明の行方不明事件、子供が居る家庭には警察からも注意喚起されていた。

 

当然我が家もそうだったし妻に至っては子供を預かる幼稚園の先生だ。

 

一層注意しなければならない立場だ。

 

 その妻の秘密の部屋に何故こんな物がある?

ああ、違う本当は分かっている。だが認めたくない。理解したくない。

 

あの優しい妻がこんな恐ろしい事をしているなんて信じたくはないのだ。

 

だが本当にそうだとして?妻が帰ってきて僕がこの書類の中身を見た事に気付いたら…。

 

(妻が帰る前に戻らないと…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしているのかしら?」

 

 

 

 

 

 

「?!や、やあ帰ってたのかい?」

 

見つかった。

 

「この中には入っちゃ駄目だって約束してたわよね?」

 

「ああ、そ、そうだったね。つい忘れてたよ!」

 

「なんだか挙動不審ね?汗も凄いし」

 

「そりゃあ怒られそうな時は焦るさ、うん…。この部屋籠ってるし汗もかくさ!」

 

「そう?私にはまるで……」

 

 

 

 

 

 

「見てはいけないモノを見てしまった様に思えるケド?」

 

 

 

マズい…!?バレている!?確実に!?

 

妻をなんとか説得しなければ。

 

「も、もうあんなこと止めるんだ!」

 

「へ~ぇ♪やっぱり見てたんだァ…。」

 

「二人でやり直そう!生まれ変わるんだ!一緒に!」

 

「そうね…心機一転やり直さないとねぇ?」

 

 

妻はじわり、じわりとこちらに近づいてくる。

 

 

「その為には過去を暴こうとするものは取り除かないとねぇ…♪」

 

「待て、待ってくれ!頼む!!」

 

 

 

フレデリカは右手に鈍器を持ち、こちらに振りかぶり―――

 

 

そして僕の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は先生はまた先生のお家に呼び出された。

なんでも今日は僕にとって特別な日になるとか言っていた。

 家の中にお邪魔し、居間に連れられると、準備があると言って先生は席を立って行った。

 

 

「ねぇ、レオン君…」

 

 先生が居なくなったのを見計らったかのようなタイミングで声をかけられた。

先生の娘のキャサリンだ。

 前に会った時は朗らかで明るいイメージがあったが、今日は表情が暗く今にも泣きだしそうな顔をしている。

 

「どうしたの?ひどい顔をしているけど…?」

 

「パパがね、帰ってきてないの…」

 

 

パパ?先生の旦那さんか。物静かで優しそうなイメージがあったがどうしてしまったんだろう。

 

「どういうこと?いつ居なくなったの?」

 

「あのね、ママがレオン君と地下室に入ってくのを見たって言ったら、パパが地下室を見に言っちゃったの」

 

 

成程、あの日の事を見られていたのか。

 

「それから?パパは戻って来たの?」

 

「ううん。その前にママが帰って来ちゃったの。それで怒って地下室に行っちゃって、その後ママだけしか帰ってこなかったの…!」

 

「先生だけ?旦那さんは帰ってこなかった?先生は何か言ってた?」

 

「パパは悪い事しちゃったから、喧嘩して…追い出したんだって…」

 

 

 先生がそれだけ怒ったのか?なんの理由があって?

確かにあの部屋は秘密の部屋だと言っていたが、それほど問題になる物があるようには見えなかった。

 いや、前に来た時は詳しく詮索なんてしていなかった。

もしかしたら自分も知らない秘密が何かあるのではないか?

 

キャサリンの方を見る。先程会った時から辛そうな顔をしていたが、語っていくうちに涙を流していた。

 

彼女は悲しんでいる。大切な家族を失って。

 

 

「パパが居なくなるなんて嫌だよぉ…」

「…分かった。僕もパパの居場所を探ってみるよ」

 

「本当?」

「うん」

 

 

 先生は多分旦那さんがどこに行ったか知ってる筈だ。

聞いてみたら分かるかもしれない。

 

「レオーン、こっちに来て頂戴~」

 

「っ!?ママだ…!?」

 

先生が近づいて来るのを察してキャサリンは自分の部屋の中にそそくさと隠れてしまった。

 

先生は僕の目の前に現れると肩を抱いてあの部屋へ連れて行こうとしていた。

 

「ねぇ、旦那さんはどこに行ったの?」

「ああ、()()()?その事に関しては地下室に行ったら話すわ」

 

旦那さんの事を尋ねた時には、普段の彼女からは想像もできない冷たい反応が返ってきた。

 

おかしい、今日の先生は変だ。

 

地下室に入り先生はドアに固く鍵を閉める。

 

「今日はレオンには遂に一人前になってもらおうと思ってるの♡」

「…一人前?」

 

地下室を見渡していたら先生からよく分からない発言が聞こえた。

 

「そう、一人前の人殺し。自分の身や大切なモノを守る為には戦う事も必要となるわ。そんな時に此方を傷付けようとする人間を殺せなければ大変な事になってしまう。だからいつでも殺せるように慣れておかないとね?」

 

 

人を殺す…彼女はそれを当然の様に語っていた。

以前の僕ならそれを平然と受け入れていただろう。

 

だが今はどうだろうか?

 

 少女のナンシーと話した事を思い出す。

彼女は死を悲しみ、それを平然と受け入れてはいけないと語っていた。

 しかし世の中は正当防衛という言葉がある。アメリカは治安が悪いし事件に巻き込まれる事もある。

犯罪者は銃を持って殺しに来るが住民は銃を用意して守る権利がある。

警察は犯罪者を殺すし戦争では人は人殺しを正当化している。理由ある殺人なら許されるのではないか?

 

自分でも正直分からなくなっていた。

 

 

「レオンは私を好き?愛してくれる?」

「…もちろんだよ先生。僕は先生を愛している」

 

僕の言葉を聞き、先生は顔を染め、天を見上げて心の中で何かを叫んでいた。

 

「もちろん私もよ、でもね。私達の愛を邪魔しようとする人間がいるの。こいつよっ!!」

 

先生は診察台の様なものに被せていたシートをどけた。

 

そこに居たのは全身を拘束され猿轡をされた彼女の夫だった。

 

「旦那さん…?どうしてこんなところで捕まっているの!?」

 

「こいつは私達が愛し合っているのを妬み、その関係を壊そうとした。言ったでしょ?私は人妻だし貴方は子供。世間一般では愛し合う事自体が許されてはいないしバレたら犯罪になるわ。だからバラされる前に捕まえたの」

 

「ン゛~!ン゛ン゛~ッ!?」

 

彼は必至の形相で何かを伝え、縋るかのように此方を見つめていた。

 

「こいつを逃したら私と貴方は離れ離れになってしまうわ…レオンもそれは嫌でしょ?」

 

「それは…そうだけど…」

 

「なら」

 

鉤爪の付いたグローブを差し出し、僕に嵌めて言った。

 

 

 

 

 

 

 

「殺しなさい」

 

 

淡々と、冷酷にそれが当然であるかの様に言ってのけた。

 

 

「私を愛しているんでしょう?なら()()を殺してその愛を示して頂戴。大丈夫、今殺せばバレたりなんかしないわ。バレなきゃ犯罪じゃないのよ」

 

そう、多分今彼を殺した方が万事うまく行くんだろう。

 

だが彼女達の姿が脳裏に映った。

 

 

猫が死んだのを見て涙したナンシー。

そして父を心配して涙を流したキャサリン。

 

彼女等の姿想像し思った。これでいいのかと。

 

自分達の為だけに殺すなんてしていいのかと。

 

ナンシーは間違っているというだろう。

 

キャサリンは父親の死を悲しむだろう。

 

 

 

 

だから、僕は――――――

 

 

 

 

 

 

「……出来ない」

 

 

「…………なんですって?」

 

 

心底理解できない。彼女はそんな顔をしながら此方から目を逸らさずに首を傾げた。

 

 

「殺すなんてできない。よくないよこんな事」

 

「何を…!?何を言ってるの!?何を、何故…どうして!?何でなの!?貴方は殺れる。殺せる筈よ!?」

 

 

貴方はそんな子じゃないと訴えかけるが、揺るがない。

 

 

「殺せないんじゃない、殺さないんだ。殺すなんて間違っている。他の方法がある筈だ」

 

「ないわ!ないわよ!!これが一番正しいの!貴方なら分かっていた筈!何故そんな事言うの?誰に言いくるめられたの!?」

 

「誰の言葉でも、考えて、決めたのは僕だ。気付いたんだ」

 

 

「違う、違う、違うッ!!貴方は至高の殺人鬼になれる素質を持っている。私には分かるのよ!」

 

「だとしても、僕は人殺しにはならない」

 

決意を込めて断言すると彼女は項垂れ、崩れ落ちた。

 

「そんな、じゃあどうすればいいの?」

 

「もうやめよう、こんな事。やり直そうよ」

 

彼女に駆け寄り、言葉を投げかける。

 

すると彼女は涙を流しながら微笑み、呟いた。

 

 

「そうね。やっぱり良くないわね。こんな事」

 

そう言うと立ち上がって身なりを整えだした。

 

「今日はもう帰りなさい、家まで送るわ」

「先生…」

 

「貴方を帰したら主人を解放して、謝って、それで元通り!明日からまたやり直せるわ!」

 

 

 

 

その後先生は僕を家まで送り、僕に最後のキスをして、自身のケリをつける為戻っていった。

 

 

 

地下室の階段を下りていく。

 

一段一段、ゆっくりと。

 

(どうして…?)

 

固く締められたドアを開け鍵を閉める。

 

(どこで間違った?)

 

自分の非を探すが思い当たらない。強いて挙げるなら多少スケベが過ぎたことぐらいだ。

 

拘束された男を見やる。

泣きそうな面で助けを求めていた。

 

 

「あの子は才能ある、至高の殺人鬼になれた筈だった!!」

 

右手に着けた鉤爪を振りかぶり、男の体を切り裂く。

 

「~~ッ!?ン゛~ッ!?」

 

 

「誰だ!?誰があの子を変えた!?何があの子を変えたのよッ!?」

 

鉤爪を振りかぶる度に鮮血が噴出し、フレデリカの体を真っ赤に染める。

 

 

「私と同じ、殺人鬼に、理解者になれる筈だったのに!!」

 

内臓が飛び散るのも構わず、一心不乱に右手を振り回していた。

 

 

「どうして…どうしてよぉ…!」

 

「……」

 

膝をつき、涙ながらに訴えても向かいにいる人間は瞳孔を開きがっくりと項垂れ、こと切れていた。

 

 

 

 

 

その日からフレデリカの状態は徐々に悪化していった。

 

 

 レオンにはその後父と和解したと嘘をつき、娘には夫は出張に行ったと言っておいた。

警察には涙ながら夫が居なくなった事を訴えて被害者アピールをかました。

 それで平穏に生きていれば穏やかに生きる事もできただろう。だがそうはならなかった。

 

 

彼女は殺人癖が落ち着くどころか、反動で大きくなってしっていた。

 

以前は時期を見計らっていた殺人が、なりふり構わなくなっており、地元警察も大きく動くようになってしまった。

 

 

 

 

 

ある日警察が再び家にやってきた。

フレデリカは自身の失態を恥じ、神経が冷え込むのを感じた。

 

自身は夫を殺された被害者であり、追い払うような真似をする事も出来ずに事情聴取に応じるハメになった。

 

 

 

「クルーガー夫人、貴方の旦那さんが行方不明になったと言ってましたよね?」

 

「ええ、そうなんです。あの人を早く探してください!」

 

警官共は含みを持った目で互いにアイコンタクトを取った後に私に告げた。

 

「ええ、ですがちょっとおかしくありゃしませんかね?」

「…どういう事ですか?」

 

「ここ最近行方不明事件が頻発しています。ですがその被害者はいずれも未成年の子どもであり、ご主人の様な成人男性が行方不明のケースは他にありません」

 

「なにが言いたいんですか?」

 

警官は間を置いてから意味深に語り始めた。

 

 

「お宅のご主人は事件の直接的なターゲットではなく、事件に巻き込まれたか、この事件に深く関わっている可能性が高いんですよ」

 

「そんな…まさかうちの主人が!?」

 

自分でも白々しい演技だと思うが自分は何も知らない被害者の妻を演じなければならない。

 

「ええ、なので再度お伺いしたいんですが行方が分からなくなった日の朝まではご主人は家にいらっしゃったんですね?」

 

「ええ、それがなにか?」

 

 

まさか感づかれたのかと内心冷や汗が流れる。

 

「いえね、ご主人が居ないと判明した後私らはご主人の車を発見しました。お宅のご主人はいませんでしたがね。ですが一つ妙な事がありましてね…タクシーの運転手が夜に車があった近くでクルーガー夫人。貴女を乗せたと証言しているんです」

 

「……」

 

「ご主人が行方不明になる前日です。貴女の様に美しい女性が夜に一人で、何故あんな所にいたんでしょうね?」

 

 

マズい、車を遠くに隠したのがバレている。このままでは全てバレてしまう。

 

 

「ええ、本当はあの日に車で主人と喧嘩してたんです…」

 

「…喧嘩?ですか?」

 

苦し紛れの言い訳になるが言うしかない。

 

「ええ、そのまま喧嘩離れして私は車から降りて…そのまま主人は帰って来ませんでした。まさかあの後居なくなるなんて…!」

「クルーガー夫人、落ち着いて。…分かりました。本当はご主人を最後に見たのは通報した前日だった。そうですね?」

 

「…はい。そうです。疑われるのが…怖くて、つい嘘をついてしまいました…ごめんなさい…!」

 

 

咄嗟の言い訳に警官はメモを取りながら此方を見据えると呆れながら説明した。

 

 

「気持ちは分かりますがこれからはしっかりと真実を告げてくださいよ。それじゃあ」

 

「はい。すみません。主人を見つけてください…!」

 

 

その後、警官は車に戻り、帰っていった。

 

 

警官は車内で一緒に居た同僚に話しかけた。

 

「なあ、お前クルーガー夫人をどう思う?」

「綺麗な女性ですよね」

 

「馬鹿。クロかどうか聞いてるんだよ」

「確かにさっきの様子は変でしたけど、ガイシャは皆冷静じゃないでしょう?」

 

「まぁそうだな」

「あんな優しそうな女性が子供を攫いますかね?子供好きで優しく、周囲の評判もいい。犯人像からは最も遠い存在だ」

 

「決めつけるのは早計だ。これ程狡猾な連続失踪事件の容疑者だ。計算高く、上手く自分を隠しているに違いない」

「そうでしょうか?」

 

「何より怪しいのは嘘がバレたその後だ。慌てる所か一瞬で新しい前提を用意しやがった。かなり頭が回るよ、あの女は。気に食わん」

「はぁ」

 

「過去の事件を洗うぞ。フレデリカ・クルーガーの事もな」

 

そう言うと彼等はパトカーを発進し、仕事場へと向かうのだった。

 

 

 

 

マズい、完全に疑われただろう。

このままでは大っぴらに暴れる事は出来なくなる。

忌々しい警察め……!

 

上手く行かない事に腹が立ってくる。

イライラを解消したくてもそれ(殺し)が出来ない以上どうしようもない。

 

フレデリカが抱える問題は更に自分の首を絞める結果となった。

 

 

 

 

 

 

「ナンシー、さあお家に入りなさい」

「…うん」

 

娘を幼稚園から連れ帰った時、彼女の母親のマージ・トンプソンは娘の様子がおかしいことに気付く。

 

「ナンシー?どうしたの?」

 

 

心配して娘の肩を抱く。すると。

 

 

ジワリと手に湿り気を感じた。

 

不思議に思い肩を見ると服の繊維が赤く滲んでいる事に気付いた。

 

 

「ナンシー!?大変!?」

 

慌てて家の中に娘を連れ込み服を捲ると、娘の背中に無数の引っかき傷のようなものがついているのが分かった。

 

 

「酷い、一体誰がこんな事!?クラスの子なの!?ロッド?グレン?ディーン?最近来たレオンって子?!」

 

「違うの…」

 

「じゃあ誰なの?」

 

震えながら首を振る娘はその後恐るべき真実を告げた。

 

「フレデリカ、先生。毎回誰かがこっそり呼び出されて引っかかれたり傷口を舐められたりするの…」

 

 

驚愕の事実だった。こんな残酷な事をしたのは子供を守る立場の幼稚園の先生だったのだ。

 

 

警察から警戒されていたフレデリカは警察のせいで殺しが出来ないと、自分の殺人欲求が晴らせないフラストレーションから幼稚園の生徒に『おイタ』をするようになっていったのだ。

 

 

「ドナルドを呼んでくるわ、他の親御さんにも連絡を入れないと…!」

 

マージは夫の元に連絡を入れた。

 

 

 

 

「ドナルド!奥さんから電話だ!!」

 

 

フレデリカについて調べていたドナルド・トンプソンに同僚が連絡を入れてきた。

 

 

「こんな時に何だってんだ…?おい、マージ、どうした?」

 

 

『ナンシーが幼稚園の先生に暴行されたの!』

 

「なんだって!?一体誰だ!?いや幼稚園の先生…?まさか…!?」

 

ドナルドは自分の中で情報が一つになっていくのを感じた。

 

そして、妻から告げられた言葉はその想像どおりになった。

 

 

『やったのはフレデリカ・クルーガー先生よ…信じられ無い…!あんな優しい先生が娘をこんな傷だらけにするなんてっ!?』

 

「分かった、すぐ行く。待ってろ」

 

 

 電話を切ったドナルドは全身の血が沸騰するのを感じた。

行方不明者は数年に渡って発生していた。

 その数は凄まじい数に及んでおり行方不明者は大半が未成年の子供だった。

 

その犯人が娘の通う幼稚園の先生で、そいつが娘を、傷付けた…!

 

 

「おい、ドーナツ食ってる場合か、すぐにフレデリカ・クルーガーを逮捕する準備をしろ」

「おいおい一体何だってんだ?」

 

呑気におやつを頬張っている同僚をぶっ叩き車のキーを取る。

 

「行方不明事件の犯人は例のクルーガー夫人だ。奴め、痺れを切らして手を出しやがった。よりによってうちの娘にな」

 

「おいおいマジかよ…」

 

「あのアマ、絶対許しはしないぞ!」

 

 

 

 

 

自体は収束へと動き出した。

 

フレデリカはスプリングウッド市警に逮捕され、裁判にかけられることになった。




主人公のレオンの由来はラクーンシティで不幸に見舞われ続ける泣けるイケメンから取りました。
5秒ぐらいで考えました。レディ・クルーガーは2秒程でクレイジーショタコンおばさんは3秒です。後でフレディの女性名がフレデリカとかいうクッソ可愛い名前なのに気付いたので多用しております。
かなり行き当たりばったりですがよろしければこの後も本編を読んでいただくか俺がもっときゃわいいホラー美少女書いてやんよという需要が増えてくれたらそれはとっても嬉しいなって思ってしまうのでした。


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5

一時期ランキング2位とかなっててビックリ。実質世界1位です。
ホラー美少女の記事の閲覧数が上がっててフィギュア紹介する人が不思議がってたけどもしや皆見に行ったのか…?


夢を観ていた。

 

砂場で子供が楽しく遊んでいる。

 

間違える筈の無い。愛する我が子だ。

 

自分が迎えに来た事を伝える為にその名を呼ぶ。

 

【レオーン!迎えに来たわよー!こっちにいらっしゃーい!】

 

その声を聴いて直ぐに黒髪の少年が振り向き駆け寄ってくる。

 

 

ああ、なんて愛しい子なんだろう。

 

彼の為なら何でもできる。この命だって投げ捨ててもいい。

 

ふと彼の後ろに立つ女性の姿に気付いた。

 

地元でも評判の高い先生だ。

 

【お仕事お疲れ様です。レオンくんはとてもいい子にしていましたよ】

 

【本当ですか?ウチの子は活発だから何か迷惑かけて無いか心配だったんですけど…】

 

本当に、活発な我が子も彼女の前では借りてきた猫のようだ。

 

 

 

【ええ、本当に――――

 

 

 

 

―――――可愛らしい子ですわ♡】

 

 

 

 

そう言うと彼女は自分の右手を頬に添え、恍惚な表情を見せた。

 

あの時、私が気付いていればあの子は―――

 

 

 

 

 

 

 

フレデリカ・クルーガーの逮捕から、連続行方不明事件への関与を裏付ける証拠はスムーズに集まっていった。

 

彼女の娘キャサリンと一際親交の深かったレオンの証言、地下室で見つかった事件の残虐さを物語る証拠の数々が彼女の犯行を証明しており、被害を受けた子供は数十人もの数に及んでいる事が分かった。

 

この恐ろしい事件はスプリングウッド中を震撼させ、この恐ろしい殺人鬼を有罪にする事を求めた。

 

実際にフレデリカ・クルーガーの有罪判決を皆が確信していた。

 

だが事態は思いもよらない結果を迎える。

 

 

「警察は令状の無いまま逮捕に踏み切っており、逮捕は不当な物と判断します」

 

「精神鑑定の結果当時の被告は精神に問題があり、責任能力が無いと判断されます」

 

「証拠はいずれも被告人を事件の直接的な犯人と結びつけるには不十分であると…」

 

「事件の参考人は子供であり物事の判断を正確に出来ているとは言えず…」

 

 

雲行きが怪しかった。裁判官も、弁護士もまるで彼女の味方であるかのような発言を繰り返していた。

 

傍聴席は被害者の遺族で埋まっており、彼等がざわつくのが感じ取れた。

 

 

「静粛に!以上の事から被告を証拠不十分により…無罪とする」

 

 

 

裁判長の驚きの発言により裁判所は騒然と化した。

 

被害者の遺族は泣き叫ぶ者、異議を申し立て怒鳴り込む者、被告や裁判官に掴みかかろうとして取り押さえられる者などでごった返した。

 

その中心で、口元を上げるフレデリカの余裕の表情があった。

 

 

 

 

 

逮捕直前、誰かと待ち合わせる女性の姿があった。

 

フレデリカである。

 

彼女は普段の姿からは想像もできないファッションをしていた。

 

普段は露出を抑えた糞ダサセーターにデニム、動きやすいスニーカーなど女らしさを隠した格好だった。

 

 だが今の彼女は胸元を大きく開いたVネックの服を着て、下はお尻が見えるのでは無いかと言わんばかりのホットパンツを穿き、足元は黒のブーツを履いた全体的に扇情的な姿が目立つファッションであった。

 今の姿を見ても誰も普段の彼女を連想する事は出来ないだろう。

 

彼女のその美貌と経産婦とは思えない魅力的なスタイルを表に出したまま、車に乗った男性と接触した。

 

そこに居たのは彼女に無罪判決を言い渡した裁判長その人であった。

 

彼女は知っている。自分が途方もなく魅力的な存在であると。

 

フレデリカはその美貌を遺憾無く発揮し利用する狡猾さを持っていた。

 

身体を押し当て、普段子供達をいたぶっていた右手で男の胸元から下腹部まで軽く撫でるだけで、この世の男共を自分に服従させる事が出来たのだ。

 

裁判官、弁護士、精神科医、警察内部まであらゆる人間にまで手が及んでおり、自分が捕まってからも彼等は自分の手足の様に動いてくれた。

 

子供を持たない独身男性程その傾向は強かった。

モテない男には彼女の毒牙を耐える事が出来なかったのであろう。

 

逮捕される事を恐れた彼女の対策はとっくの昔に出来ていたのである。

 

 

 

 

「あのアバズレめ、裁判官共を篭絡しやがったな」

 

判決に納得のいかない遺族達が集まって愚痴を溢していた。

 

「あいつが犯人だって事は皆分かってる!なんで有罪にしない!?」

 

「色目なんか使いやがって!そんなんでうちの子を殺した罪が無かった事にされてたまるか!」

 

全体が怒りに震える中、ドナルド・トンプソンは一人の女性に申し訳なさそうに語りかけた。

 

 

「すまない、俺が先走って逮捕しようとしなければあんなことには…」

 

「自分の子供が傷付けられたんですもの、冷静になれなくたって当然よ…」

 

「だが、君は一番許せない筈だ、奴にレオン君を辱められたのを知ったんだからな…」

 

「まさかあの子があんな目にあってたなんて…母親失格だわ…!?」

 

女性の名はグヴェンと言いレオンの里親になった女性だった。

 

「どうして気付かなかったのかしら!?毎日送り向かいしていた筈なのに!気付いていればあの子は!!」

 

「あの女の正体に気付かなかったのは皆同じだ。皆が悔やんで、あの女に怒っている」

 

ドナルドはグヴェンを落ち着かせた。そして言葉を続けた。

 

 

「あの女を追い詰める方法はまだある…!」

 

そう言うと彼はチラリと、車の上に乗った男を見た。

 

 

「皆聞いてくれ!!あのクソったれの司法はあの女を裁かなかった!!」

 

 

男は大声で叫び、皆の注目を集め、そして言葉を続けた。

 

「皆はそれでいいのか!?あの女を野放しにして!!」

 

「いいわけない!!」

「ショタコン女を許すな!!」

 

周りの遺族も彼の言葉にヒートアップしていく。

 

「なら行動しよう!司法があの女を裁かないなら、俺達がアイツを裁くんだ!!」

 

「皆で武器を持ってあの女に復讐するんだ!奴が釈放された事はむしろチャンスだ!俺達であの女をぶっ殺すんだ!!」

 

男の言葉に周囲の人間はざわついた。

 

殺す。

 

それはあの女と同じ事をするという事だ。

 

「俺には息子が居た!あの子は俺の人生の全てだった!息子の命を奪われた借りを返す為なら俺のこの後の人生全てがムショで終わったってかまわない!我が子の未来を奪ったあの女の未来を奪ってやるんだ!!」

 

「そうだ!俺も戦うぞ!!」

「あの女を殺せ!!」

 

皆が男の言葉に同町し始め集まったのを見てドナルドが動いた。

 

 

「お前ら、聞け!」

 

 復讐に湧きだった遺族が静まりかえった。

ドナルドは警官であり、目の前で犯罪予告をかましているのだから逮捕される恐れもあったからだ。

 

なによりその手に握られたショットガンが彼に反抗する勢いを奪っていた。

 

 

「俺は警察だ。悪事を働く人間をしょっぴく立場にある。…お前らが犯罪を犯そうとするならば俺は止めなければならない」

 

ドナルドの言葉に車の上の男を始め皆が息を呑むのを感じた。

 

「だが警官の本分は悪人の蛮行を止める事だ。あの女は()()()()人を殺す。警官をやってきたから分かる。アイツは子供を殺さなければ生きられない存在だ。どんな手を使ってでも止めなきゃならん」

 

ドナルドは男の胸にショットガンを投げ渡し、パトカーのトランクを開けた。

 

そこには銃や鈍器、刃物といった警官の武器や押収品が沢山入っていた。

 

「何より俺も警官の前に人の親だ。娘を傷付けられて黙っちゃおれん」

 

 

彼は拳銃を手に持ち、叫んだ。

 

 

「警察はあの女に対する報復には目を瞑る!!二度とこのエルム街で子供を殺せないようにしてやれ!!」

 

警官がその職務を放棄し、殺人を全面的に認めた。

 

これにより迷いがあった者達も武器を持ちフレデリカ・クルーガーの殺害に一致団結した。

 

 

『キル・ザ・フレディ』をスローガンに掲げ皆がフレディの家へと向かった。

 

 

 

フレデリカは荷造りの用意をしていた。

 

大人共の様子がおかしい。何かを企んでいる。

 

自分は殺しのプロだ。殺意には人一倍敏感なのだ。

 

車や人が同じ場所を目指していれば自分の事について話しに集まっていると分かる。

 

今日中に姿を消さなければ。

 

最低限の物と金、そして逮捕される前に唯一隠した我が身の一部といえる鉤爪を持った。

 

 

(必要な物は揃った、後は一番大切なモノが一つ)

 

キャサリンが施設に預けられた為、彼女に必要な者はたった一人だった。

 

 

車でいつもの道を進む。

 

目的地に着いた時、車が無いのを確認して扉の窓を叩き割った。

 

その後は一目散に階段を駆け上がり扉を開け、そこに居た少年の口を薬品のかかったハンカチで覆った。

 

少年はなす術もなく昏倒し、フレデリカは彼を一しきり撫でると自らの肩に乗せて車に連れ込んだ。

 

 

「パーペキね♪」

 

流れるような作業。子供をいたぶるのを我慢したフレデリカの犯行はものの一分程度で達成しており誰にも感づかれていない筈だった。

 

 

「……!?レオンくんが!パパに連絡しなきゃ!?」

 

隣に住む少女ナンシーはその犯行を偶然にも見ていた。

 

ナンシーだ。

 

またナンシーである…。

 

 

 

 

「クソッ!出し抜かれた!?」

 

フレデリカの自宅は既にもぬけの殻であり大人たちのイライラが募った。

 

そんな中ドナルドのパトカーに無線連絡が入った。

 

「何だ?こっちはフレディの家がもぬけの殻であの女を探すので忙しいんだぞ?」

 

 

『こっちもその件についてだ。あのアマ、グヴェンさんのお子さんを誘拐して逃げたらしい!ナンシーが教えてくれた』

 

「なんだと!?あのビッチめ!!最後にやりやがった!?」

 

『ホシは閉鎖された工場の方に行ったらしい。奴の旦那が働いていた所だ』

 

「分かった、すぐ向かう!」

 

ドナルドは無線を切ると皆に叫んだ。

 

 

「フレディは廃工場に居る!!レオンを攫って隠れているらしい!!」

 

「なんですって!?」

 

「皆行くぞ!?これ以上アイツに子供を殺させるな!!」

 

パトカーのサイレンを点灯させ、車を発進した。

 

皆がその後ろを追従する形で車の行列が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

「う、ううん…?」

 

レオンは薄暗い空間で目が覚めた。

 

機械の作業音が鳴り響き、ボイラーの蒸気の音が吹き鳴っている。

 

立ち込める熱気は不快感を露わにさせた。

 

腕は縄で固く縛られており自由にもがけない。

 

「あら♪目覚めたかしら?」

 

「先生……」

 

そこに居たのは自分の先生だったフレデリカ・クルーガーであった。

 

 

「もう先生じゃなくなったんだけどね」

 

「…なんで僕を攫ったの?」

 

「…一緒に逃げる為よ」

 

(一緒に、逃げる…?)

 

彼女が何故逃げようとするのか分からない。

 

「どういうこと?」

 

「私は裁判で見事にも無罪を勝ち得た。私は世間一般では悪い事をしてないと証明されたのよ。なのにこの町の大人共ときたら…今度は自分達が法を破って私を殺しに来ようとしているわ!」

 

 

大人たちが…?まさかそんな事をするなんて…。

 

 

「だから私はこの町から逃げる事にしたの。お願いレオン、私と一緒に来て!」

 

「なんで、僕なの?」

 

「貴方は私の全てよ!キャサリンもいなくなった!私には貴方しかいない!貴方が傍に居てくれるなら人殺しだって止めれる!だからお願い!!一緒に逃げましょう!私は今も貴方を愛しているわ!!」

 

フレデリカの悲痛な訴えはほとんど真実の様に思えた。

 

 

「僕も先生が好きだよ、大好きだ。…でも一緒には行けない。ママやパパを置いていけないよ」

 

「……」

 

「大体いきなり攫うなんて更生してないって言ってるようなものじゃないか!家のドアまで壊して!人殺しはしないなんて言葉信じられ無いよ!」

 

 

「……しゅん」

 

 

幼稚園児に説教される成人女性(元先生)の姿がそこにあった。

 

 

「ええ、そうね。やっぱり受け入れてはくれないのね。…でもいいわ。無理やりにでも貴方を連れていくわ。私が貴方を大人に育ててあげる♡理想の相手にならないのならせめて愛玩動物といて私の元に置いておくわ」

 

「お断り……だねッ!!」

 

「ッ!?」

 

 

レオンは縄を壊れた機械の尖がった亀裂で切り、手元にあったスパナを投げた。

 

フレデリカはかろうじて右手の手袋部分で自身の顔に飛んでくるそれを防いだ。

 

「…やるわね、流石私が見込んだ子♪トロい奴なら当たってたわ♪」

 

フレデリカが手を退けた時には既にレオンは逃げ出した後だった。

 

 

「捕まえたら手足を捥ぐ事も視野に入れなきゃならないかしら…?」

 

(体の全てが美しいあの子の体を削るのは気が引けるけど…あ、でもダルマにしたら赤ちゃんみたいで可愛いかも…♡)

 

と、自分が脱線している間にレオンを見失いかけている事に気付き慌てて後を追いかけた。

 

 

 

 

「待ちなさ~い♪」

 

「くっ!?もう来た!?」

 

やはり大人と子供ではコンパス(歩幅)に違いがあり過ぎる。

 

レオンは機材や荷物を載せるパレットを道に倒し時間稼ぎをした。

 

「ああっ!?もうじれったいわねぇ!!」

 

フレデリカはブーツでそれを蹴り飛ばして道を作って進んだ。

足を上げてパレットを割る際に見えたホットパンツの合間に目を奪われそうになるが、止まってしまったらゲームオーバーである。

 

レオンは進んだ先の非常扉を閉めた。

 

「非常扉なら鍵なんてかけれないっ!ってキャアンッ!?」

 

フレデリカがそう判断しドアを開けた瞬間、鉄パイプの殴打が彼女を襲った。

 

咄嗟に右手の鉤爪で防いで事なきをえた。

 

「ふっふっふっ、惜しかったわねぇ♪でももう終わりよっ♡」

 

「ッ!?…ていッ!」

 

レオンは攻撃が防がれた瞬間扉を蹴り上げ、フレデリカを扉に挟みこんだ。

 

「アイタァ!?」

 

咄嗟の連撃に対応できず腕を挟まれたフレデリカは痛みで悶絶した。

 

 

その隙にレオンは距離を取り逃げ出した…が

 

 

 

進んだ先は何も障害物が何も無く、そのまま進んだら追いつかれる事が必然だった。

 

「見つけたわよぉ♪オイタをする子はお仕置きしてやるんだから~!」

 

フレデリカの姿が視界に映る、どうする!?辺りを見回したその時、熱く熱を吹かすボイラーの配管を見た。

 

レオンはフレデリカの方へ逆走し勢いをつける。

 

「あら♡諦めてくれたのかしら?」

 

フレデリカは一瞬レオンの真意に気付かなかったが目線の先のボイラーの配管を見て気付いた。

 

「ちょ!?まさか飛ぶ気!?」

 

配管の丁度レオンの首元くらいに、子供一人がギリギリ入れる程の隙間が空いていた。

 

ボイラーを稼働していたのは演出の為もあるがこのような隙間を通れない様に熱する為であったのだが…。

 

「ハッッ!!」

 

レオンは失敗したら捕まるどころか、当たった所を火傷、最悪皮膚が鉄にくっつき焼け死ぬ恐れのある道を平然とチョイスした。

 

そして見事にボイラーの隙間を抜け大きく引き剥がす事が出来た。

 

もしも彼の行動に迷いがあったら、ボイラーの隙間に僅かばかり届かずその体をバーベキューにしていただろう。

 

 

「あぁん、もうっ!?敵に回したら本当に厄介だわ!」

 

 

フレデリカは改めて自分の意中の少年のポテンシャルに驚愕した。

 

(あの子大人になったら無数のレーザー光線をその身一つで全部回避しそうね…)

 

 

「大分距離を取った…これなら!」

 

パイプの隙間を抜けた道を突き進む。

 

まだまだ彼女の姿は見えない。

 

これは撒けるんじゃないか?

 

そう思ったが曲がり角を抜けた先を見た時その考えは消失した。

 

 

 

(行き止まりッ!?)

 

 

通路はそこで終わりだった。

 

隙間を探して最奥まで進むが、ここは奥の奥であり他に通ずる道など見当たらなかった。

 

(逃げ切れなかった…?違う、逃がされてる様に見えて、最初からこの場所にフレデリカから誘導されたんだ!?)

 

 

ギ…ギギギ…

 

「…ッ!?」

 

 

金属が擦れる音がする。

 

間違いなくフレデリカの鉤爪の音だ。

 

 

ガリ…ギギギギギギギィ…

 

 

「フ~ン♪フンフンフンフフフン♪」

 

フレデリカは鼻歌を歌いながら壁に爪を擦りつけ、自分が近づいていることを逃げる獲物に聞かせ恐怖を募らせていた。

 

 

場数が違う。

 

彼女は同じような追いかけっこを何度も繰り返してきた。

 

そして生存者が居なかったという事は一度たりとも逃がした事が無いという事だ。

 

 

ギギギ…、ギ……

 

爪が壁を擦る音が止んだ…?

 

 

 

 

 

「見ぃつけた♡」

 

 

 

その時、フレデリカが壁の向こうから姿を現した。

 

「手こずらせてくれたわねぇ?僕ちゃん?でももうチェックメイトの段階よぉ♡」

 

仁王立ちをし、ツメをシャキシャキと鳴らす彼女は最早勝利を確信した様子だ。

 

 

 

 

だがその時レオンは気付いた…。彼女のホットパンツと生足の隙間に見えるイチモt、…一抹の希望を。

 

 

 

 

(あれは、排気口だ…!)

 

そう、完全な密室空間を作る事などできない。

 

進む時にはその姿は見えなかったが、振り向けばそこに道はあったのだ!

 

 

「なぁに?私の体をジロジロ見ちゃってぇ?まぁいつもはこんな恰好しないんだけどぉ、愛する彼との駆け落ちだしぃ?攻めた格好も良いんじゃないかって思ったのよぉ♡」

 

「……」

 

「ノーコメントォ?」

 

「…いいや、セクシーだとっても。えっちだ、凄く」

 

「ふふん。ありがとぉ♡…それじゃあいくらでも見せてあげるから、私の元に来なさぁい?」

 

「鬼ごっこなら最後まで勤めを果たそうよ」

 

「仕方ないわねぇ?捕まえてあげるわぁ♪」

 

フレデリカが一歩ずつ近づいて来る。

 

一歩、また一歩。

 

そして目の前にやって来た。

 

 

「それじゃあこれで…ゲームオーバーよッ!!」

 

 

フレデリカが此方に手を伸ばす。

 

 

(今だ!)

 

 

「貴女がな!!」

 

「?!キャアッ!?」

 

 

レオンが叫んだその時フレデリカの顔面に唐突に蒸気が吹き出した。

 

レオンがバルブを捻りパイプから蒸気を噴出させたのだ。

 

そしてそれは身長差がある為レオンには当たらずフレデリカの上半身だけを焼きだした。

 

 

「ギャアアアアアアアアッ!?!?」

 

 

高熱の蒸気でフレデリカが身をもがかせている内にレオンは排気口の取っ手を開けて外に逃げ出す事に成功した。

 

「待ちなさあああああい!!レオオオオォンッ!!」

 

 

逃げるレオンに対して敗北したフレデリカは呻き声をあげる事しかできなかった。

 

 

外に出たレオンが見たのはサイレンを鳴らしながら近づくパトカーの姿だった。

 

 

「お~い!?」

 

「レオン!?無事だったか!!アイツは!?」

 

自分の姿を見せると中から警官が姿を現した。

 

たしかナンシーの父親である。

 

 

「フレデリカなら中に居るよ!」

 

「中に居るだと?皆!奴は中に居るぞ!!」

 

「何!?よし皆、武器を持て!」

「ぶっ殺してやるぞ糞が!」

「フレディを殺せ!」

 

 

警官の言葉で皆がいきり立ち銃や刃物を取り出した。

 

「ね、ねぇ?何してるの?」

 

「もう大丈夫だから、子供は下がっていろ。ここからは大人の仕事だ」

 

 

オカシイ、なにか良くない事がおきようとしている。レオンはそんな気がした。

 

 

 

 

 

(マズい、あいつ等…皆銃を持ってるじゃない!?)

 

 

遺族の殆どが武装しており鉢合わせたら最後、自分の命は無いだろう。

 

慌ててフレデリカは出入口を全て封鎖しに回った。

 

 

「クソ、ドアを閉めやがった!」

「回り込め!」

 

「ああ、駄目だ全部閉められたぞ!?」

「撃て、撃て!」

 

小五月蠅い銃声や殴打する音が絶えまなく響くがこれで一安心だ。

 

 

「おい、何をやってる?」

 

「あの女入り口を閉じやがった!」

 

そうこうしてたら警官が姿を現した。私を捕まえたドナルド・トンプソンだ。

 

「自分から逃げ道を無くしてくれたなら丁度いい、入り口を全て見張れ!」

 

「そうだ!車からガソリンを持って来い!!ここに撒いてアイツを焼き殺すんだ!!」

 

「そうだ!今から持ってくる!」

 

(ヤバい…!このままじゃ殺される…!?)

 

フレデリカは自身が絶体絶命である事を理解した。

 

 

「ねぇ!レオン!?先生を助けて!ねぇ!?」

 

「皆どうしちゃったの?可笑しいよ!どうして殺そうとするのさ!?」

 

「あの女を生かして置いたらまた人が殺される」

 

「もう誰も殺せないよ!チェックメイトだ!勝負はついたよ!簡単に捕まえられる!」

 

「逮捕しても有罪に出来ないんじゃ意味が無い。こうするしかないんだよ!」

 

「違う、違うッ!!殺さない方法なんて幾らでもある!!本当はあんた達が殺したいだけだ!!」

 

 

レオンの言葉に皆がたじろぐ。

そう、なにも殺さなくてもいい、自分達で監禁してもいいしダルマにしてしまえばもう殺しは出来ない。

皆怒りのあまり殺すこと以外の選択肢を取らないのだ。

 

 

「そうよ殺さないでくれたら何だってするわ!?貴方達私をいやらしい目で見てたでしょう?許してくれたら毎日好きなだけ奉仕するわ!?いい条件でしょう!?」

 

「ふざけんなクソビッチ!!」

 

「やっぱ殺そうぜコイツ!!」

 

駄目だ、このままでは先生が殺されてしまう。

その時、母親のグヴェンの姿が見えた。

 

 

「ッ!?母さん!!お願い皆を止めてよ!こんなの絶対おかしいよ!!」

 

「…っ!レオン…!?」

 

母さんならきっと聞いてくれる。きっと皆を止めてくれる。

 

「怒りに任せて殺すなんて駄目だ!それじゃあ皆が憎んでいる殺人鬼と同じだよ!」

 

「グヴェン、耳を貸すな!」

 

「レオン…!」

 

「母さん!!」

 

「思い出せ!この子を里子にした原因はなんだ?お前の本当の息子を殺したのは誰だ?」

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 

 

【お母さぁ~ん!】

 

愛しい我が子を思い出す。

 

黒髪で可愛らしい愛しの我が子。

 

あどけない表情で向かってくる我が子を抱きしめる。

 

私がお腹を痛めて産んだ最愛の子。

 

この子の為なら何だって出来る。そう思った。

 

 

【本当に、可愛らしいお子さんですわ!】

 

この子の幼稚園の先生が話かける。

 

 

【ええ、私の自慢の息子なんです!】

 

そう言って、息子と手を繋ぎ、車に乗った。

 

一日で最も幸せな時間。私はそう思った。

 

 

自分達を見続ける邪悪な視線に気づかずに…

 

 

【ええ、なんて可愛いんでしょう…本当に――――】

 

 

 

 

 

 

【殺しちゃいたいくらい♡】

 

 

 

 

【レオ~ン?雨激しくなってきたからお家の中に入りなさ~い!】

 

外で雨合羽を着てはしゃぐ息子に叫ぶ。

 

新しくプレゼントした合羽、パラソル、長靴。

 

それらを身に着けた息子は元気に外に飛び出して行った。

 

 

【レオン?聞こえないの~?雨で聞こえないのかしら?】

 

 

そう思い傘を持って外に出た私が見たのは恐ろしく残酷な光景だった。

 

 

【レオン?…ッレオン!?嘘…嫌ああああああっ!?】

 

 

そこに居たのは、刃物で全身をズタズタに切られ、冷たくなった我が子の姿だった。

 

 

 

【ッチ…!死体を処理できなかったわ…!】

 

初めての殺人、その興奮に気を取られ証拠の隠滅にまで手が回らなかった。

 

【次からは上手く殺らないと…もっと沢山の子を殺す為に…】

 

フレデリカは雨で右手に着いた血を流しながらそう誓った。

 

 

 

 

【落ち着いて、君は悪くないよ…】

 

【いいえ、私が目を離してさえ居なければ…】

 

 

子供用の小さな棺。ここに入るのはどう考えても早すぎる。

 

 

【本当に、災難でしたわね…】

 

【先生…。】

 

【彼は私のクラスでも一際輝く存在でした…。それがこんな事になるだなんて…!】

 

フレデリカが感情の爆発に耐え切れず口を右手で覆い、顔を逸らす。

 

【本当に…ウッ…犯人の事を許せませんわ…幼稚園の生徒は皆我が子の様に思っていたのに…ウウッ!】

 

【息子の為に、ありがとうございます…!】

 

【絶対に、これ以上うちの子供達を傷付けさせませんわ…ウッ!バダム幼稚園の子たちは必ず守ります…!】

 

【そう言っていただけると息子も少しは浮かばれます。では…】

 

レオンの葬式で彼女は言った。もう二度とこんな目に子供達を合わせないと。

 

 

 

 

 

【ウッ、ウウッ、……ウックク!ア~ッハッハッハッ!!ありがとうですって!殺した本人に向かってンフフ!バッカみたい!!】

 

 

それが嘘だったと気付いていれば…。

 

 

 

 

 

【養子ですって?私の子供はあの子だけよ!】

 

【いい加減前を向くんだ!レオンもそう思ってる!】

 

【そんなわけないわよ!】

 

【あるさ!あの子は君の事を思える優しい子だった!あの子の為にも前を向いて生きるんだ!殺人鬼に屈しちゃいけない!】

 

【そう、そうね…分かったわ。養子縁組を受けるわ…】

 

私はようやく前を向いて、そしてあの子に出会った。

 

 

 

何故か印象に残った金髪の可愛らしい少年。言われなければ男の子と気付かない者もいるだろう。

 

【あの子は?物静かな子ね?】

 

【ああ、あの子。彼は、あの、訳ありの子なの…その、家族が殺されて引き取られたのよ…】

 

【そう、なの…。……私と同じね…名前はなんていうの?】

 

【レオンという名です】

 

【レオン!?】

 

只の偶然、私にはそう思えなかった。

 

 

 

【決めたわ。私あの子を養子にするわ…!】

 

【…分かった】

 

 

 

 

【レオンくん、私が今日から貴方のママよ。よろしく】

 

【…よろしくお願いします】

 

彼は無垢で純粋な子供だった。

 

せめてこの子には世界の残酷な部分を知ってほしくないと思った。

 

 

 

 

 

【この子をよろしくお願いしますね、先生】

 

大切な新しい我が子。

 

その子から離れるのは怖かったが、息子の為に泣いてくれた、子供たちを守ると誓った先生を信じて、レオンをバダム幼稚園へ再び預けた。

 

 

 

 

【ええ、レオンの事は私に任せてください…!】

 

彼女はそう答え、あの時の様にほほ笑んだ。

 

全て、全て嘘だった。あの女は私達を騙していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――母さん?」

 

 

「ッ!?レオン…?」

 

 

「決断しろグウェン!あの子の仇を取るんだ!」

 

夫が即席の火炎瓶を差し出す。

 

 

「ええ、そうね。ごめんなさいレオン。貴方の為なら何だってできるってそう言ったのに…」

 

 

レオンはそんな事を望んでいない。

 

 

あの子はそんな事を望む様な子供じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

「でも…あの女だけは許しはしない……!!」

 

 

「ッ?!母さん!!」

 

「御免なさい()()()。母さんを許して…」

 

 

 

 

そう言ってグヴェンは火炎瓶を手に取り、工場の窓へと放り投げた。

 

 

 

「なんてことを…ッ!?」

 

 

 

火炎瓶は工場のガラスを突き破り、フレデリカの体を燃やした。

 

 

「ぎゃあああああっ!?あつっ、アツイィィィィッ!?」

 

 

フレデリカの絶叫が響き渡る。

 

 

「誰か、助けてェェェェェェ!?レオン!?レオーンッ!?」

 

燃え広がるセーターを右腕で引き裂きながらレオンに助けを求める。

 

彼女にはもうそれしか出来る事が無かった。

 

「先生!?センセェェェェェェェッ!?」

 

「行くなっ!君も死ぬぞ!?」

 

炎は入り口にかけたガソリンに引火し、もはや消す事も出す事も出来ない状態と化していた。

 

「ざまぁみろぉ!」

「いい気味だ!」

「死ね、苦しんで死ねぇ!!」

 

遺族達の恨みのこもった言葉を吐く姿を見て、レオンは狂気を感じた。

 

 

今までフレデリカから殺人の訓練を受けてきた。

 

だが本当に人を殺した事は一度も無いしその死を見た事が無かった。

 

あのフレデリカでさえもレオンに人を殺す瞬間を見せた事は無かった。

 

歪んでいる。

 

火を着けて苦しむ彼女を見てあざ笑う彼等の顔を見て、そう思った。

 

なんて恐ろしい顔をするのだろうか。

 

 

「レオーン…!?レオ…ン…」

 

「先生!」

 

「おい、危ないぞ!?」

 

壊れた様に自分の名を呼び続けるフレデリカの声に居ても立っても居られず飛び出した。

 

 

「先生!どこなの?先生!」

 

レオンはドアの前で彼女を呼び続けた。その時。

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!?」

 

「うわぁ!?」

 

フレデリカは扉を開けて目の前に飛び出してきた。

 

恐ろしい姿だった。

 

服は焼け落ちたのか自分で裂いたのか殆ど全裸の状態だった。

 

だが最早その美しい容姿も見る影もなく、全身は焼け爛れ、美しかった金髪も全て焼け落ち、まるで焼けたゴブリンの様な顔になっていた。

 

 

「許さないわ、貴方達…。必ず復讐してやるぅ…!」

 

「危ないぞ!寄るなっ…!うっ!?」

 

ドナルドがレオンを庇う様に立ち塞がると彼女のその姿に戦慄した。

 

 

「この私を、殺した程度で終わらせたと思うなよ…!これは始まりなのよ!私は先程悪魔と契約したわ…!お前らの子供を、全員!!お前らの目の前で醜く殺してやるぅ…!一人も逃しはしない、泣き叫びながら死ぬ我が子を見ながら後悔して死ねェッ!アッハッハッ、ア~ッハッハッハッ!!」

 

 

右手の爪を指しながらそう言うと満足したかのように前に倒れた。

 

 

「先生!?」

 

「ああ、レオン。貴方をあんな醜い大人になんかさせないわ…。貴方がもう少し大きくなったら必ず迎えに行く…!そして若く美しい姿のまま私と永遠に生きるの…。だからそれまで待っててね…?」

 

「何を言ってるの?!訳が分からないよ!?」

 

「ああ、レオン。愛してるわ……」

 

そう言って、フレデリカは倒れ、そのまま動かなくなった。

 

 

「先生!?センセェェェェェェェッ!!」

 

レオンがいくら呼んでも、返事は返ってこなかった。

 

 

 

「レオン!?大丈夫なの!?」

 

母親のグヴェンを始め、レオンの父、ナンシーの母マージなども集まってきた。

 

 

「…何が殺人鬼だ、人殺しはお前たちじゃないか…」

 

 

フレデリカは殺人鬼だったかもしれない。

 

だが彼女を殺したのは他でも無い彼等だ。

 

 

「必要の無い殺しをして、満足して!悪魔はお前たちの方じゃないかァッ!?」

 

 

少年の悲痛な叫びが焼け跡で木霊した。

 

 

フレデリカは殺人鬼であったが間違いなく彼にとって最愛の人であった。

 

奇しくも彼にとって命の大切さを教える要因になった存在は、この世で最悪な殺人鬼であったのだ。

 

彼の最愛の人を殺し、人の人生を奪う邪悪な殺意を見せたのはあろうことか自分の親たちであった。

 

こんな皮肉があるだろうか?

 

 

 

 

彼はこの先、誰かを助ける為にこの先命を懸けるようになるだろう。

 

誰かの命を奪おうとする悪意と戦うだろう。

 

 

最悪の殺人鬼フレデリカ・クルーガーは、

最善の英雄を死をもって生み出した。

 

 

彼にはこの先どれ程の不幸が待ち受けているのだろうか?

 

それはまだ分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが例の殺人鬼の証拠品か?」

 

「趣味悪ぃな、股間にディルドー付けてやがる」

 

『君は死ぬ~まで、僕のバディ~!』

 

「うおっ!?喋った!」

 

「おいおい、気味悪ぃな。」

 

 

『アメリカの人形は…キモ過ぎて萌えなあああああああああいっ!!』

 

「おい、丁度CMやってんぞ」

 

「喧嘩売ってんじゃねーか」

 

『グッドガイ人形に加えて、新たなトモダチ!』

 

『グッドガール人形!これぞ、メイドインジャパン!!』

 

 

「おいおい、今度は女の子売り出したぞ」

 

「日本人はイッちゃってるよ。あいつら未来に生きてんな」

 

 

『どれだけ~愛してるか~分からないよね~』

 

 

「おうおうこんな可愛い子に愛されたらたまんねぇな」

 

「お前ロリコンかよ…?でもかなり可愛いよな。絶対買った後股に穴開けられて突っ込まれるわ」

 

 

まるで本物の美少女のような少女が歌う映像を眺めながら男たちは片付けに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

『キミのこと~ぜぇったぁい~放さないよ~♡』

 

 

 

 

 

テレビの向こうを見つめる少女の映像だけがそこに残った。




アッベンジャーズ!アッセンボゥ…!

何とかフレディ存命期編終わりました。
彼女とはしばらくお別れです。

主人公って基本舞台装置なイメージあるけど、レオン君を思うコメントもあって嬉しかったです(小並感)
正直チョイ・ボンゲとか変なあだ名付けられると思ってました。

殺人鬼を女の子にしたら、映画で単純な悪役でしかなかった殺人鬼をまた違った視点で観れるんですよね。

中でもレザーフェイス一家の逆襲は視点が途中で生存者から殺人鬼に移ってるんですよね。
大分自分の価値観に影響を与えたと思います。


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6

「ファ~ッ!?またDSBTだ!?地下に三回吊らせろ!!」

「やぁ、ジョージィ~。小説書いてる?」

「」フルフル

「ええ~?なんで?一度はランキング乗ったんだよ?みんなきっと待ってるよ、続き書こうよ?」つ風船

「お前の設定が面倒過ぎて他作品に支障出まくりで下手に書いたらシナリオぶっ壊れるんやろがい、なんやねん『ダークタワー』て」

「確かに『I.T』は小説版で少年期にチョメチョメするし、30代後半まで主人公が子供作れないから子供作るシナリオ全部没さ。オイラが宇宙から来た神的な何かとかなせいでヒロインの中で明らかにバランス崩壊起きている。wikiに『ダークタワー』でスティーブン・キングの小説全てと繋がってるとか書いてて作者が白目向いてるのも分かる。でもア○ンジャーズみたいで俄然創作意欲が湧いて来るってもんだろ?」

「面白そう!東方ロスト○ードやるわ!」

「待てや!」

「ジョージィ、コト○キヤ見てみ?」つフィギュア

「ペニーワイズのホラー美少女フィギュア!!」

「そうだこの前発表されたやつ…可愛いだろ?オイラのTS小説書きたくなった?」

(おまえ出るの大部先やん…)

「oh…まさかまだ続き出来てないの?君の話を皆待ってるんだ!」

「大して読まれないと思って適当に書いてたお下品な下ネタも?」

「え…うん(棒読み)。作者も次からはよく考えて下品な下ネタやるらしいから勘弁して?さぁ早く執筆作業に戻るんだ。モニターに向かって…」

(しゃ-ねぇ書くか)スッ…

「映画数十本分のシナリオとキングの小説(400作品以上)が待ってるぞ!」

「アアアアアア~~~~ッ!!?」



ジョージィと作者は死んだ。シナリオの予習とDBDのアーカイブと東方LWでGW中に一話も書けなかったのだ。正直すまんかった。ハンニバル・レクター博士カッコよすぎやろ(現実逃避)

ペニーワイズフィギュア化おめでとう!


俺はその後、大切な「家族」を失った…

 

 

 

 

 

とある町の玩具工場で作業員たちが新商品の人形の制作に取り掛かっていた。

 

子供向けの少女を模した人形だ。

 

 

 

「そういやおい、知ってるか?俺達が今作っているこのお人形さんの秘密」

「あ?なんだよ?いきなり?」

 

男たちは自分達が今作っている女児向けの人形の噂について話していた。

 

「グッドガイ人形の主なターゲットは主に子供、男女問わずだ。だがうちらが作っているこのお嬢さん方のターゲット層は、年端もいかない少女、そして実は成人の男性なんだよ…」

「こんな玩具をおっさんが愛でる趣味があるのか?」

 

同僚の問いに男はチッチッチッと舌を鳴らす。

 

 

「グットガイ人形からグッドガールにラインが更新されて新しく付いた機能あるだろ?」

「ああ、グッドガール人形、がシ~シ~ってするやつか?」

 

同僚が腰を前後に振り排尿を表現すると彼は正解だと気分よく頷いた。

 

「そうそう、それだ」

「なんだ?出力上げてウォーターカッターにでも出来るか?それでタバスコ入れて経血ビームでも検討してるとか?」

 

同僚は人形の股から赤い液体がドバドバと吹き出す光景を勝手にイメージして気持ち悪くなる。

 

 

「違う、もっと単純な事さァ、人形が発売してからしばらくしてな、とあるものが裏で出回るようになった」

「あるもの?」

 

「これだよ…」

 

 

男は鞄からソレを取り出した。

 

スベスベとしながらも柔らかい触り心地をしているソレは女性器を模した筒のようだった。

 

「あぁ~…もしかしてコレって、アレか?」

「アレだよ。そしてこいつを排尿用のわが社の物を外して取り付けると…」

 

 男が人形の股の部分を弄りプラスチックの固い物を取り外す。

そしてその後できた空洞にさっきの筒を差し込む。

 するとピッタリと人形の身体に一致した。

 

「ワァオ、スゲェや…」

「大したモンだ。商品はできるだけ拡張性があった方がいいが、まさかこんなことまで想定してたとはね」

「こりゃあ野郎に売れる訳だ。女の子を模した人形を抱きたい変態が買ってたんだな」

 

 

男たちはニヤニヤと笑いあう。自分達がこんな変態染みた物を作っていたとは、まったくお笑いである。

 

「てか、それ私物か?」

「ああ、こいつを持ち帰って俺もこの人形といっちょ遊んでみようかと思ってね」

「おいおい、ここにも変態がいたぜ!」

「社内テストさ!うちの看板製品をチェックするのは社員として当然のことさ!」

「クククッ…言ってろっ!」

 

 

「おい、何をサボっている!」

 

「やべっ!?」

 

 話し込んでいた所を口うるさい上司に見つかった。

彼は仕事熱心な部下の元へなじろうと詰め寄った。

 

 

「ここで何をしてるんだ土屋?」

「ええ、ちょっとこいつを見ておりまして。どうやら問題なかったようですな、ははは」

 

「…なら俺が人形を戻したらお前らはとっとと仕事に戻れ、お前らが駄弁る為に給料を払っている訳ではないぞ」

 

(あっ…)

(やべぇ~…)

 

 上司は男たちの顔を一瞥すると人形を持って帰って行った。

 

その後人形をコンベアに乗せて、パーツを挿げ替えた個体は奥の方へと流れていった。

 

 

「……ふぅ、危なかったな!」

「いや良くないだろ!?どうすんだアレ!オメコ入れ替えたままだぞ!?」

 

「しかしオナホ付けた物を流しちゃったのでライン止めてくださいなんて言ったらクビだぜ?」

「客にバレたらクビどころか会社に訴えられるんだが!?」

 

「大丈夫だって、どうせ子供が見てもよく判らんだろうし、大人が見ても『ワォ、流石は日本製だ!ココもとってもリアルだなパンパン』で終わりさ。アメリカ人は馬鹿だからな」

「さりげなくハメてんじゃねーか」

 

男の冗談に同僚も段々と落ち着いていく。

 

「とにかく、俺たちが言わなきゃ大丈夫だって。な?」

「わかった。黙ってりゃバレないよな。何事も無かったかのように戻ろう」

 

彼らは自分達に暗示をかける様に呟くと元の工程へと戻っていった。

 

 

 人形はケースへと入れられ他の人形と共に段ボールへと詰められた。

段ボールに書かれたシールには人形の詳細が書かれていた。

 

 

【グッドガール人形】

 

【対象年齢6歳以上】

 

【19XX/〇〇/△△】

 

【日本製】

 

【シカゴ行き】

 

 

 

 

 

 

チャイルド・プレイ

 

 

 

 

 

アメリカ、イリノイ州。

 

 

シカゴの夜中の静かな街並みをパトカーのサイレンの音が鳴り響き、その静けさをかき消していた。

 

 

「はぁ、はぁっ…」

 

 

その音から逃げるように走る一人の男がいた。

 

 

「絞殺魔だ!追え!サウスサイド通りだ!」

 

逃げる男の足に警官が銃弾をくらわし、脚を引きずらせることに成功した。

 

(クソ!これじゃ逃げ切れねぇ!?)

 

 彼の名はチャールズ・リー・レイ。

【湖畔の絞殺魔】と呼ばれニュージャージーなどで殺人を繰り返し、アメリカ全土を恐れさせた連続殺人鬼だった。

 

 

「やべぇ逃げろ!?」

 

チャールズの先で待ち構えていた車が彼の様子を見て急発進していった。

 

「くそっ!?エディィッ!!待ちやがれ!!置いていくんじゃねぇ!!」

 

 

 彼には事件の共犯者が居た。

だが彼は追手の存在を知ると否や、車を移動させて合流することを拒否し逃げ出したのだった。

 

 

「畜生、また裏切られた…。あいつもあの女と同じだ…!」

 

 

(絆で結ばれた家族だと思っていたのに…俺の妻は俺を簡単に通報して見捨てやがった…)

 

「愛していたのに…ずっと一緒になりたかっただけなのに…」

 

 自分が信じていた人間に裏切られる悲しみと怒りは図りしれないものだった。

だが今はそれをどうこうするよりこの状況を乗り切らないといけない。

 

銃撃が再び飛んでくる。チャールズは咄嗟に目の前の建物に隠れた。

 

(ん?そうだ、ここに逃げ込むか…)

 

『Toys』

 

ふと隠れた玩具屋の扉を銃で破壊し、警報が鳴り響く中玩具置き場の列の裏へと隠れる。

 

屋内で警官を待ち伏せる事にしたのだ。

 

 相手はこちらが負傷していることを知って攻め急いでいる筈だ。

 

(それをこちらが逆に叩く!…今だッ!) 

 

 

「ッ!?」

 

チャールズは玩具の隙間から見えた警官に発砲した。

 

だが彼の相手であったマイク・ノリス刑事は咄嗟にそれを回避し、逆にチャールズに反撃を加えた。

 

「グッ!?」

 

それはチャールズの身体に命中し、それが彼の致命傷となった。

 

(畜生、このままじゃ終わりだ…)

 

「聞けェ!!デカ野郎ォ!!必ず復讐してやる!!裏切者のエディもろともぉ!!何があろうともなぁ!!」

 

 だが自分はもう助からない。

なんとか姿を隠し玩具の棚の間を抜けて、()()()()()()を探す。

 

 

「誰か、誰かいねぇか…?」

 

 

もう限界だ。身体が均衡を保てなくなり人形が陳列している棚へと倒れ込んだ。

 

 

『グッドガイ人形』と書かれた看板を見て自分がなぎ倒した玩具へと目を向ける。

 

(人形、人の形なら器になれるんじゃないか…?)

 

 

そう思いチャールズは箱を開封し謎の呪文を唱え始めた。

 

 

 

 

アデ デュイ デンベラ

 

天よ、我に力を与え給え!!

 

 

突如、おもちゃ屋の上に暗雲が立ち込め、渦を作り雷が鳴り響いた。

 

マイク刑事は異常な事態に少しばかり動揺した。

 

(奴は一体何をしているんだ?)

 

 

ラバーウ メルスィーア ダ ボイ シャイオ

 

 

サクゥゼ エンテン メ ポア デ モット

 

モルティメ ルデォクォル デ モッ ォシェイテッ

 

アデゥレイ ポウ デ ボアデセイテ デンベラ!

 

アデゥレイ ポウ デ ボアデセイテ デンベラ!!

 

アデゥレイ ポウ デ ボアデセイテ デンベラァァァァァァァ!!!

 

 

 

チャールズが呪文を唱え終えたその瞬間、建物に雷が落ち、まるで火薬庫に落ちたかのような大爆発を起こした。

 

 

 

「ヴワ゛アアアアアアッ!!?」

 

 

マイク刑事は大爆発で盛大に吹き飛び、窓ガラスを叩き割って道路へと放り出された。

 

 幸い大事にはならず、すぐに起き上がりチャールズの元へと向かったが、建物の内部は崩壊し全ての物が瓦礫と共にスクラップと化していた。

 

 

「絞殺魔は?…ッ!?」

 

 

彼は爆心地の中心で既にこと切れていた。

 

その横には子供向けの人形がまるで彼を看取るように横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

幼稚園の教室でレオンは絵を描いていた。

 

「レオ~ン。こっちに来てぇ♪先生と遊びましょ~う?」

 

「先生…?」

 

 

彼に声をかけたのは死んだ筈のフレデリカ先生だった。

 

「積み木で遊ぶ?砂遊びする?そ・れ・と・も…♡」

 

そう言うと否や、彼女はお気に入りの糞ダサいセーターの端に腕を交差させて手をかけた。

 

彼女がスルスルとセーターを捲り上げるのを見て思わず喉を鳴らしてしまう。

 

 

 

 

だが彼の期待は無残にも打ち砕かれた。

 

セーターを捲って見えたのは彼女の滑らかな白肌ではなく、醜く焼け爛れたピンクの地肌だった。

 

「ヒッ…!?」

 

「よくも私を見捨てたわね…。貴方もあの世に道ずれにしてあげるわ…!」

 

焼け爛れゴブリンの様になった彼女が憎しみを込めた顔で睨みつける。

 

 

「違う、僕は…先生の事を…」

 

助けたかった。そう言おうとしても声が出せない。

 

彼女は鈎爪を嵌めた右手を振りかぶり、レオンに向けて激しく切りかかった。

 

 

 

 

「ウワァァァァァッ!?」

 

 

 

思わず声を上げて、起き上がり目を覚ます。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

先程の幼稚園の景色は消え去り、先生の姿も消えていた。

 

 

「夢か…」

 

 

 辛い過去が夢に出ていたのだろう。

自分が目覚めた場所はオハイオ州から少し離れたシカゴにある、未だ慣れない新しい住処のベッドの上だった。

 

レオンはベッドから降り朝食を食べにリビングへ向かった。

 

 

 

 

 

「おはよう母さん」

「おはようレオン、よく眠れたかしら?」

「…うん」

 

 

新しい街並み、

 

新しい我が家、

 

 

 

そして新しい…両親。

 

 

レオンはもはやグウェン達を親として冷静に見る事が出来なくなっていた。

 

それは両親も同様で、「自分には親としての資格が無い」と親権を放棄したのだ。

 

 

「学校は楽しい?お友達は出来た?」

 

「ううん、まだ…」

 

「そう…、早くお友達が出来るといいわね…」

 

 

 新しく母親となった彼女はまだ里親になって日が経ってないが、レオンの事をとても大切に思っていた。

 彼は幼いながら二度も事件に巻き込まれ、自分の家族を失ったらしい。

この子を守ってあげたい、心の傷を癒してあげたい。そう思った。

 

彼は優しい子だ。ちょっとませている所もあるが純粋で他人を思いやれる良い子だ。

 

彼が私の為に朝食を作ってくれた時は思わず笑みが零れたものだ。

 

 まぁ、溢れんばかりのシリアルに床がビチャビチャになる程のミルクをかけた物と、カリカリに焦げた真っ黒いトーストに拳程の拳骨マーガリンがトッピングされた物が運ばれてきた時は思わず苦笑いをしてしまったが。

 主食がダブってしまっていた。ご丁寧に食事が流し込めるように配慮されたのかオレンジジュースがLサイズでサービスされていた。

 ミルクも合わせると主食とドリンクのダブルデートである。

 

彼の事は自分ができる限りフォローしてあげたいと思っているが、それは完全にはなり得ないと思っている。

 

きっとこういう子には同年代のお友達が必要になる所が必ずある筈なのだ。

 

「そうだ!レオンにプレゼントがあるの!」

 

そう言って彼に包装された巨大な箱を渡した。

 

「うわぁ、ありがとう母さん!開けていい?」

「ええ、もちろんよ!」

 

そう言った瞬間、彼はビリビリと包装を破り裂いた。

 

中に入っていた物とは…

 

 

「これ、グッドガイ人形?」

 

 用意したのは巷で話題のグッドガイ人形だった。

本物の友達がまだ出来ないなら、せめて疑似的なお友達を用意してあげようと思ったのだ。

 

 なにせ『死ぬまで一緒の友達』が謳い文句の人形である。

無駄にクオリティ高くて若干ゃ気持ち悪さを覚える所もあるが。

 それにしてもアニメチックだ。目ン玉デカいなおい。

 

「あ~…」

「あら、気に入らなかった?もしかしてこういうの嫌いだった?」

 

「いや、何というか…思わぬ所で旧友と再会した事に困惑してる所かな?嬉しいよ、うん」

「ほんと?」

 

「ホントホント!なにせ死ぬまで遊んだからね!激しく遊びすぎてぶっ壊したけど!いや~また会えてうれしいよ~♪かぁ~!たまんないねしかし!」

 

 

何かを誤魔化すような変なテンションだが気に入ってくれたようでよかった。

 

彼女は知らない。

 

レオンにとってその人形はどこぞの変態が跨ってカクカクしていた記憶とそれに嫉妬して出会った初日にあの世に送ってやった記憶しかないことを…。

 




アメリカでは20世紀後半は里子の問題、里親のたらい回しが問題となっていたそうな(ウィキデリカ先生談)

『チャイルド・プレイ2』ではその社会問題が作品に大きく反映されていた気がします。


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7

ハーメルンホラー界隈の13日の金曜日を目指してハーメルンにおける彼岸島ぐらいのポジに立つのが夢です。


とあるお店で二人の女性が世間話をしていた。

 

 

 

「グッドガイ人形ってあるわよね?何ドルくらいするっけ?」

 

「グッドガイ?ああ、たしかサイズによって違うけど、どれくらいのを選ぶの?」

 

「ちょっと待って、サイズが何種類かあるの?」

 

 

チラシに乗っている一つの人形だけだったので彼女は複数のバリエーションがある事を知らなかった。

 

 

「もちろんニーズに合わせてあらかじめ大きさを変えれるのよ。一応死ぬまで一緒とは謳い文句で言ってるけど実際には子供が大きくなるにつれてニューモデルやワンサイズ上の物を新たに買わせる読みも込めてるわね」

 

「中々にきたn…強かな販売戦略ね。なんて会社だったかしら?」

 

「え~と、タ〇ラ?ト〇ー?それともバ〇ダイだったっけ?」

 

「ストップ、これ以上はちょっとまずいわ」

 

「ああ、思い出した!名前はプレイパルス社だったわ!かなりがめつい商売してるわよ」

 

「そうなの?」

 

 

プレイパルス、日本の玩具メーカーの中でもかなり大きな規模を誇る企業だ。

 

グッドガイ人形の成功によって前述の企業らを含めてもトップ争いに食い込める程にまで業績が拡大した。

 

複数のバリエーション、関連グッズ、そして女児向けのグッドガイ人形の女の子バージョンを最近発売し、他企業を追い抜こうと画策しているのだ。

 

 

「目安としてはたしか3歳以上からの小さいのは27.56㌅、6歳以上の中くらいのは39.37㌅、8歳以上対象の最大サイズは50.906㌅だったかしら?」

 

 

「ずいぶんと細かいわね…?」

 

「元の単位が㎝換算なのよ。やーよねぇ、面倒臭いんだから単位をヤード・ポンドに変えればいいのに」

 

「本当よね、なんで変えないのよ。馬鹿なのかしら?」

 

 

彼女達はマイノリティという言葉を辞書で引くべきである。

 

 

「確か㎝換算だと70㎝、100㎝、129.3㎝に分けられるわね」

 

「129.3!?なんで元の単位でも微妙な数値なのよ!?」

 

 

 

※ジャップの国の某ネコ型タヌキロボのサイズである。

 

 

「まぁ大きい程金がかかるわね、コストもその分増えるし。小さいので100ドルは掛かるわ。後はサイズ上げるごとに20ドルずつ値上がりしてくわね」

 

「100ドルか…ちょっと厳しいかも」

 

 

 彼女はシングルマザーであり、お金に余裕が無い。

旦那が不幸にも天国に旅立ってしまった故に余裕が無くなってしまった為である。

 

故に愛する子供には愛情を注いであげたいが、旦那が居ない以上自分が働いてお金を稼がなければならずそうもいかない。

 

子供の世話でさえ友人を頼らねばならないことも多い。学歴も無い女では薄給の仕事にしがみ付いて働くしかないのだ。

 

 

「言っとくけどグッドガールの方は更に10ドル上がるわよ」

 

「嘘でしょう!?ああ、もう全然足りないわ…」

 

新製品とは言え男の子のより高くしなくてもいいじゃないかと内心愚痴る。

 

 

「女の子っていうのは金がかかる物なのよ」

 

「人形じゃないの…」

 

「グッドガイ人形より機能が増えてるからね」

 

「へえ、どんなハイテク機能が付いてるのかしら?」

 

さぞや凄い機能が付いているんだろう、アッと言わせる程の。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おしっこができるわ」

 

 

「意味分からないわ」

 

 

おしっこ?何?日本人は変態なの?

何を考えてこの機能を付けたの?

 

 

「ちゃんと理由があるのよ。おしっこする人形を子供がお世話することによって女の子の母性を育てる役割があるの」

 

「そんな深い理由があったの…日本では大和撫子を育てる為に幼い頃から教育をしているのね…」

 

 

 

 

「因みに129.3㎝(小学4年生の平均身長)の方にも付いてるわ」

 

 

「なんでよ!!?いつまでお漏らししてるの!?」

 

 

なぜその年の少女にまでお漏らし機能を付けたのか、コレガワカラナイ

 

 

「言っとくけどすごい機能なんだからね?戦場で遭難した米兵が人形に入っていた水を飲んで無事生還した記録がもう残っているわ」

 

「どんな状況よ!?絵面が酷過ぎるわ!なんで持って行ってんのよ!!」

 

「精神衛生の為に許可されたらしいわ。第二次大戦では捕虜になったフランス兵が架空の少女を愛でることでナチスの虐めにも精神を壊される事なく生還したという記録があるのよ」

 

「いや脳内ぶっ壊れてるじゃない」

 

 

※実際にあったらしい

 

 

「買えるのはグッドガールの道具セット位しか無いわね…後は洋服にしておきましょう…」

 

 

これなら40ドル程で収まるだろう。

 

 わが子がグッドガイやグッドガールの出てる番組を毎回欠かさず観ているのは知ってるし、お人形が欲しいのも分かっている。

 

でも無理な物は無理なのだ。

 

 

ああ、どこかその辺にお人形が落ちてたりしてないだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

路地裏の掃き溜めで浮浪者がゴミを漁っていた。

 

先日玩具屋が吹っ飛んで中の玩具もゴミとして廃棄されていたのだ。

 

ほとんどが使えないものだろうが中には元の製品と遜色ない物もあるかも知れない。

 

売りに出せば小銭位稼げるだろうと踏んでいた。

 

 

「ガラクタ、ガラクタ、どれもガラクタだ。まともな物は流石に持ち帰るから当然だが…ん?」

 

 

人形の箱だ、それも今話題のやつだ。

 

少し折れ曲がったり潰れたりはしているが中身もちゃんとある。

 

 

「ワァオ!当たりだ!しかも裏でも大人気のグッドガールじゃあねぇか!大当たりだ!」

 

 

グッドガール人形、裏では変態紳士に改造されたものが売られたり、秘密のポケット(意味深)にヤクを隠して子供に密輸させたりとやりたい放題の大ヒット商品である。

 

「状態も良いな、そのまんまでも売れるぜこれは」

 

中の人形は損傷が全く無い。流石は日本製だ。

 

 

男は気分よくその箱を持ち出してゴミ置き場を後にした。

 

(へへ、上手くいったな…)

 

 

 

 

 

 

 

「カレン!ちょっと、聞いて例の人形を浮浪者が持ってたのよ!」

「ええ?なんで浮浪者が?」

 

 

「とにかく今売りに出してるから早く買いに行きましょう!」

「でも今は仕事中よ?」

 

「こどもの為でしょ?ほら、早く!!」

「分かった、分かったわよ」

 

 

二人が仕事場の裏口を抜け路地裏に出るとそこで廃品を売っている浮浪者が居た。

 

浮浪者が持っている商品を入れるショッピングカートの中には確かに例の物があった。

 

「これ、これよぉ!!」

「ね?言った通りだったでしょ?ねぇコレいくら?」

 

 人形の箱を手に持って喜ぶ。

ああ、あの子もこれで満足してくれるわ!

 

 

「50ドルだね」

 

「50!?廃品でしょ!?10ドルで十分よ!!」

 

「おたくこいつの価値をわかっちゃいないね、40」

 

「冗談じゃないわよ!!」

 

「嫌ならやめな。こいつが欲しい客はいくらでもいるんだ」

 

親友のマギーが何故浮浪者ごときがここまで偉そうにボッタクろうしてるのかと憤慨するが元より手に入れるならここしか無い。

 

 

「マギー、いいのよ。買うわ」

 

「いいの!?壊れてるかもしれないのよ!!」

 

「あの子の為だもの」

 

「はいよ奥さん。お子さんきっと喜ぶよ」

 

「不良品だったらどうすんのよ!」

 

「これくれてやるよぉ!」

 

 男が自分の股間を指さして馬鹿にしてくる。

これがなかったら絶対に関わりたくない屑である。

 

 

「最低!」

「いいわよ、別に。仕事に戻りましょう♪」

 

カレンは我が子へのプレゼントが手に入った事で気分が良かった。

 

 

 

 

「ずいぶん長い休憩だね、バークレイさん」

 

仕事場に戻った先に居た上司の姿を見るまではだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は貴方にプレゼントがあるの」

 

「うわぁ!ありがとママ!開けていい!?」

 

「ええ、もちろんよ」

 

 

何とか用意したプレゼントを渡した時の我が子の笑顔を見て笑みが零れる。

 

頑張って用意してきて良かった。

 

心からそう思えた。

 

 

ビリビリと包装を破ると例の物が姿を現した。

 

 

「これ、グッドガール人形!?」

 

「ええ、そうよ」

 

 

 

 

 

中身を見た()の感激した顔を見て日々の辛い疲れも吹っ飛ぶのが分かる。

 

父親を失ってから満足に欲しい物を買ってあげる事も出来なかった。

 

我が子のこんな笑顔を見たのは本当に久しぶりだ。

 

 

 

 

「ありがとうママ!!愛してる!」

 

「ええ、私もよ……アンディ」

 

 

 今日はずっと一緒に遊んであげたい。

だけどそうも言ってられない。

 

「ごめんなさいアンディ、ママは今日ちょっとお仕事があるの。誕生日なのにごめんね?」

 

「ううん、大丈夫。グッドガール人形がいるから!」

 

 本当に嬉しいのね、私が居ない寂しさも何のそのと言った感じだ。

ちょっと嫉妬してしまいそうだ。

 

 

「マギーが貴方の事預かってくれるからね」

「うん、分かった」

「あ、そうだ」

 

アンディにはまだ伝えてないことが一つだけあった。

 

「マギーに新しく子供が出来たから、その子と一緒に遊んであげなさい」

「マギーおばさん赤ちゃん生んだの?!」

 

「うふふ、違うわよ♪里子って言ってね、親の居ない子供を引き取ったのよ」

「へぇ~、なんて名前の子なの?女の子?」

 

 

 

「男の子なんだって、名前は……『レオン』よ♪」

 

 

「レオン…かっこいい子かなぁ?」

「すごくカッコいい子よ!期待しちゃっていいわよぉ~♡」

 

「もう、そんなんじゃないよママァ…」

 

 

 親友の子供だ。

お互い会う機会も多くなるだろうし、正直そういう事ももしかしたらあり得るかもなんて心の中ではちょっと期待している節があるかもしれない。

 

 

プップッゥ―――――!!

 

 

「あら、マギーが来たわね!それじゃあママはもう行くから!」

 

「行ってらっしゃいママ」

「ええ、行ってくるわ」

 

カレンが出ていくのと入れ替わりでマギーが入ってくる。

 

 

「アンディ、いらっしゃい。車に乗って」

「うん、マギーおばさん」

 

車の後部座席のドアを開けるとそこには金髪の可愛らしい少年が座っていた。

 

「やぁ」

「はぁい。あなた、レオン?」

 

少年の隣の席に座って話かけてみた。

 

「そうだよ」

「わたし、アンドレア。アンディって呼んで」

「よろしく…アンディ」

 

 彼の横には人形が置いてあった。

オレンジがかった赤髪をしており、ブルーの眼に、鼻先にはソバカスが付いている。

 愛らしい顔をしたこの顔を見間違えるわけがない。

 

「ねえ、それグッドガイ人形?」 

「うん、そうだよ。今日貰ったんだ」

 

「私もね、ママに買ってもらったの!」

 

そう言って自分のグッドガール人形を見せる。

 

「へぇ女の子か、可愛い顔をしてるね」

「そうなの!!」

 

「ふふ、レオン。アンディより先にお人形口説いてどうするのよ?」

「あぁ…アンディも可愛いと思うよ」

「そ、そう…?」

 

(この子女の子引き込むの早いわね、将来刺されなきゃいいけど)

 

出会って速攻口説いていく天然タラシの片鱗をマギーはレオンから感じ取ったのであった。

 

 

それからはアンディがレオンにお人形の話をして盛り上がっていた。

レオンはアンディの言葉にその都度相槌を返して付き合っていた。

 

家に着いてからは一緒にお人形で仲良く遊んでいた。

 

(本当に良かったわ、アンディも楽しそうだし、レオンも仲良くできる友達が出来ればきっと良くなると思う)

 

 

マギーはこの出会いを素直に喜んでいた。

 

この出会いが悲劇の始まりだと知らずに。

 

 

 

 

 

(あのガキと毎日ままごとして遊ぶだと?冗談じゃねぇぜ)

 

 

 

 

「二人とも、ご飯よ~早くいらっしゃ~い!」

 

「は~い!」

「分かった」

 

ダイニングから聞こえたマギーの呼び出しに従い二人はリビングを後にした。

 

 

「やれやれ…ようやく行ったか」

 

去り行く子供を確認するかのように少女の人形のプラスチックの目玉がギョロッと動いた。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇレオン、ご飯食べたらお人形喋らせてみようよ!」

「ああ、そういや喋らせれるんだっけ…」

 

 何だかんだで彼は人形と喋る機能を使っていなかった。

前に喋らせた時はなんか腹立つ喋り方してたからだろう。喋らせたいとは特に思わなかったのだ。

 

 二人は食事の後に人形の元へと向かった。

二人で人形に話しかける事にしたのだ。

その様子をマギーは後ろで眺めることにした。

 

 

「私アンディ、貴女の名前を教えて?」

 

アンディは少女の人形を抱いて話しかけた。

 

すると…

 

『やぁ、I'm(僕は) ルーク!君の友達さ!ハイディホ~!』

「え?」

 

「おばさん、この子おかしいよ?この子は…」

「本当ね…男の子みたいな名前ね…?まぁそういう子もよくいるわよ。アンディみたいにね」

 

アンディが感じていた違和感に自分も気づいた。

あの浮浪者、ガワだけグッドガールのグッドガイ人形を売り付けやがったのね!

 

マギーはカレンが騙されたことを悟ったが名前以外はさほど差は無いことは分かっているのでアンディをわざわざ悲しませることも無いと黙っている事にした。

 

 

「ほら、レオンも喋らせてよ!」

「うん、分かった」

 

言われた通りに、人形を抱きかかえて喋らせるボタンを探ろうと体を弄る。

 

『んぁ…♡』

「ん?今喋ったかな?おーい?」

 

反応があったので喋りかけてみるが、返事が無い。

 

「気のせいかな?もっと弄ってみる?」

『やぁ、僕と友達になってよ!』

 

「わぉ、喋った!?」

 

喋らないと思ったら急に喋り出した。なんなのこれ。

 

「ようし、じゃあ友達になろう。君の名は?何て呼べばいいかな」

『僕h…』

 

「あ~待って、その声聞いた事あるな。よし、君はハン=ソロだ!」

『待って』

 

「嫌?じゃあオビ=ワン」

『いや待って』

 

「じゃあアナキン?」

『それ前の話の君のモデルだよね?いい加減スターウォーズから名前取るのやめない?』

 

「そう言えば日本の国民的アニメのパロディに出てたダーク・シディアス役のヤクザに声が…」

『チャッキー!!僕の名前はチャッキーだよ!!』

「おおう…」

 

 えらく人間臭い反応をする人形である。

良く出来ているなぁとレオンは感心した。

 

 

 

『君はバディ~死ぬまで~一緒~♪』

「あははっ!」

 

 チャッキーの歌を聴きながらレオンが踊る姿を見てマギーは微笑んだ。

お人形と楽しく遊んでいる彼はとても楽しそうだ。

 

 彼がこのまま元気になってくれればいいけど…。

 

 

「アンディ、お家に帰るわよぉ」

「うんママ、今行く!」

 

 カレンがアンディを迎えに来たようだ。

アンディに帰り支度をさせて玄関まで届ける。

 

「じゃあね、レオン。また遊ぼうね?」

「うん、待ってるよ」

 

 二人共すっかり仲良しになれたようで安心である。

去り行く車を見送った後にレオンを寝室に連れて行った。

 

「さぁ、もう寝る時間よ」

「うん、でもチャッキーは?」

 

そう言えばあの人形はどこに行ったんだろうか?

 

マギーが家を探すとリビング方ででテレビの明かりが見えた。

 

テレビの前のソファーにはチャッキーと呼ばれた人形が座り込む様に置いてあった。

 

(こんな所に置いたからしら?)

 

 

『次のニュースです。【フレディ】に続いて現れた連続殺人鬼【湖畔の絞殺魔】ことチャールズ・リー・レイが逃走中に警官の手によって射殺されました。共犯のエディ・プルートは未だ逃走中です』

 

 フレディ…その名を聞くと彼の事を思い出す。

彼女にどんな残酷な目に遭わされたのか…。

 詳しくは語られなかったがきっと彼も辛いだろう。

 

「ほら、レオンの元に戻りなさい」

 

仮にも我が家のお金で買ったレオンの物なので優しく持ち上げてレオンの部屋へと連れていく。

 

「ほら、チャッキー連れて来たわよ」

「ありがとう、母さん」

 

(母さん、か…)

 

 自分が彼にしたことは玩具を与えたくらいだ。

母親として上手くやれてるだろうか…?

 

(ええい、これから母親らしくしてあげればいいのよ!)

 

「お休みレオン。愛してるわ」

「僕もだよ、母さん」

 

レオンの顔にキスすると電気を消して扉を閉めた。

 

あの子の為に明日からまた頑張らないと!

 

 

 

 

「僕たちも寝ようかチャッキー」

 

レオンはチャッキーにキスをしてベッドに入った。

 

またこの時間だ、静寂の時間。

 

誰かが一緒に居る時は気が紛れていたが一人になるとあの時の事がよぎる。

 

「うぅ…先生ェ…!」

 

思わず涙が流れてしまう。

人形を抱きしめて気を紛らわすも体の隙間から悲しみが溢れるようだ。

 

孤独感に苛まれる。今夜も彼女の夢を観るのだろう。

 

誰も本当の僕の気持ちを分かってはくれない。

 

誰も、誰も…。

 

 

「うるせぇな、おちおち寝ても居られねぇ」

 

「…誰?」

 

何処からか声がしたが辺りに人は見当たらない。

 

「ここだよ、ここお前が抱いてる奴だよ」

「…チャッキー?」

 

ハッと自分が抱きしめていた人形を見やる。

 

そこには先程よりも表情豊かなグッドガイ人形が居た。

 

「君は…何なの?普通の人形、じゃないよね?」

「勿論よ、俺はチャールズ・リー・レイ。訳合ってこの人形の中にお邪魔させて貰ってるんだよ」

 

チャールズ・リー・レイ?最近テレビよく出てた人だ。

 

「確か、先生と同じ殺人鬼だってニュースでやってた…」

 

「なんだ知ってるのか?まあいい、言っておくが俺は人を殺めた事があるが殺しを楽しんでいるわけじゃねぇぞ?俺が信仰してる神様が悪い奴を殺せって俺に命じたのさ。そのおかげで死んだ後も再び蘇らせてもらったわけだ!」

 

「神様…?」

 

神様、という事は偉い存在なんだろう。

 

そんな方に命じられたってことは間違ってないの?

 

「でも誰かを殺したら駄目だよ…」

「そりゃそーだ、ごもっとも。だから例え神様の命令でも、もう一度貰った命は誰も殺したりなんかしないクリーンな生き方をする事に決めたのさ。今俺の所に来たのもお前を助ける為さ」

 

「…僕の為?」

 

「そう、お前…大切な人が居なくなって悲しんでいるんだろう?先生が居なくなって悲しくて涙を流してる。でも誰にも言えやしねぇよなぁ?何せ自分が死んで悲しんでいる相手は子供を20人以上殺した最低最悪の殺人鬼だ。俺でもここまで殺しちゃあいねぇ」

 

「…うるさいな」

 

「だから誰にも話せない。話してもどうせ理解なんてされない。マギーって母親もアンディってガキもお前の本当の心の傷を分かってなんかくれねぇんだ。あいつ等は所詮何の不自由もなく悲劇にも出会わず、邪悪の世界を知っちゃあいねぇんだ。お前の理解者なんかになれはしないしお前の心を慰める事なんてできりゃしねぇ」

 

「だからなんだよ!もう黙ってろよ!」

 

そんな事言われなくても分かってる。

 

「落ち着けよ、俺はお前の友達になりに来たんだぜ?」

 

「だれがお前なんかと!」

 

「ヒッヒッヒッ!まぁ待て。俺はお前さんの気持ちがよぉ~く分かる。他の平和ボケした奴らとは違う。お前の大切な【フレデリカ】の事も嫌ってなんかいねぇしな。俺も()殺人鬼だ、誰かを殺さなきゃいけなかった奴の気持ちもよ~く分かる。文句を言う奴なんか人生ぬるま湯に浸かってるような平和ボケしたカスだけよ。本当に修羅場に出会って生きて帰った奴はそんな事言いやしねぇ!本当に命懸かってる時に残るのは決断して生き残った奴と迷った挙句死ぬ奴の二種類だけだ!お前さんの先生もどうしようも無い理由があったのさ」

 

「まるで知ってるかのように話すね…」

 

「知ってるのさ!俺は一度あの世に行ってフレデリカと出会った」

 

「っ!?本当!?」

 

こいつが先生と!?本当に!?一体何を話したのか?!

 

「ああ、本当さ。あの女言ってたぜ?レオンが悲しんで無いか心配だわ!誰か彼を慰めてあげて!本当は私が慰めてあげたいけどそれは出来ない。ああ、誰か彼を助けてってな!それを聞いた神様が徳を積んだ俺様を蘇らせてお前を慰めに来た訳よ。蘇れないフレデリカの代わりにな」

 

「そんな、事が…?」

 

「だから俺にだけは本音を隠す必要は無ぇ。俺だけが本当のお前を理解してやれる。さっき歌ったろ?俺はお前のバディだ。お前と毎晩一緒に寝てやる。だからもう泣くなよ、親友?」

 

 

何故だろう?彼の言葉はとても心地よくて心に響く。

 

チャッキーが本当に先生に言われて来たのかな?

 

神の使いだって言っていた。

 

なら悪い奴じゃないのかな?なら…

 

「うん、分かった。僕もう泣かないよ…」

 

 

彼を信じよう。

 

信じたいと思った。

 

彼と友達になろう。そう思った。

 

「分かったならもう寝るんだぞ?ママが起きちまうぞ?」

 

「うん、お休み。チャッキー!」

 

そう言って僕はチャッキーの口にキスをした。

 

「…ぁあ?」

 

ポカンとしたチャッキーの顔を後目に眠りの世界へと落ちていった。

 

 

「やれやれ、とんだマセガキだなぁこいつは…」

 

フレデリカとかいう女はこいつに何を仕込んだんだろうか?なんだか気になってしまう。

 

 

「しかし、クッ…うっへっヘっ!ガキを騙すなんてチョロいモンだなぁ?」

 

 

エディの糞野郎がどうなったか気になって、ニュースを見た時にあのガキが映っていたのは驚きだったが、こいつも驚くべき過去を持っていたものだ。

 

 

(だからこそ簡単に騙せるってもんよ…)

 

闇を抱えた人間を普通の人間が理解する事なんて出来ねぇ。

 

だが同じく闇を抱えた人間なら簡単に理解できる。

 

都合のいいカモにするのも簡単よ!

 

精々俺の為に都合よく動いてくれよ?()()

 

 

チャッキーは子供向けの人形とは思えない醜悪な顔でニヤリとほほ笑んだ。

 

 

 




レオン「チャッキー…マイ、フレンド!」

チャッキー「嘘やぁ~!?」(CV:山崎○正)


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8

「ちょっとあんた!次の話は出来たの!?」
「うるせぇな~脳内のカーチャン…今やってるよ…!」

「そんな事言って!ピコピコばっかりやってるじゃないの!」
「今4周年記念なんだよ~!」

「あんたねぇ…早くしないと地上波でレディ・プレイヤー1が放送されるよ!」
「うっせぇな…だからなんだってんだよぉ?」

「あんた知らないのかい!?チャイルド・プレイからチャッキーが出るんだよ!」
「え、マジで?今すぐ書きます!!」


チャッキーが出るよ!シャイニングも出るよ!キングは複雑!

レザーフェイスのホラー美少女フィギュアのモデルがでましたねぇ…
ふくよか…悪くない


「チャッキー!ほら、投げるよ!」

「へいへい」

 

 

子供の様な二人組が外でボールを投げあっている。

 

「それ!」

「へぇ、中々やるじゃねぇの」

 

少年の投げた球を少女染みた顔の子供がキャッチした。

 

(やれやれ、何が悲しくてガキと呑気に玉遊びしなきゃならねーんだ…)

 

 チャッキーことチャールズ・リー・レイはこの日常にフラストレーションを感じていた。

今自分と遊んでいる相手、レオンはどこか抜けてる様に見えて勘が鋭く、チャールズが悪さを企もうとしても中々抜け出す隙を見せなかったのだ。

 

それ故に彼は何もできず唯々悶々と日々を過ごしていた。

 

(こいつは罪をおっ被せるのに丁度良いガキだと踏んでいたが、思いのほか面倒なガキだったようだぜ…)

 

 レオンの経歴は少年という身でありながら犯罪者になってもおかしくないような境遇を歩んでいる。

チャールズはその事を目に着け、彼を自分の隠れ蓑にする事にしたのだ。

 

 だがいざ夜に抜け出そうとすると先程までスヤスヤ眠っていた癖にベッドから降りた瞬間に目を見開き「どこに行くの?」と、問い詰めて来るのだ。

 あのガキはどうやら誰かが居なくなる事に敏感になってるのかぬくもりを失くした途端に身体が反応しているようだった。

 渋々ベッドに戻れば両の手で羽交い絞めにされその日はもう二度と動けなくなってしまうのだ。

 

(だが学校が始まれば変わるだろう)

 

 レオンはもうすぐ学校に入り午前中は授業を受ける事になる。

そうすればこの人形の姿では自由に外を歩くこと自体は難しいだろうが、自由に行動する時間も増えるというものだ。

 

(精々今の内はガキの御守に付き合ってやるとするか…)

 

そう思いながらレオンから受け取ったボールを適当に投げ返す。

 

「そらよ」

 

「うわぁ、へなちょこな球だなぁ。女の子みたいだ」

 

 

「あ゛ぁ゛?」

 

 このガキ今なんて言った?このオレ様をへなちょこだぁ?

せっかくガキでも取れる様に山なりにかるぅ~く投げてやったのになんだその言い草は?

 

 確かに今時分の身体は女児の様な姿になってはいるが、おめぇ俺の身体能力はチャールズ・リー・レイの身体の頃のままだぞ?

 おめぇどころか大の大人を腕力だけで一捻りする事だってチョロいんだ。

凶器を殺したい奴の頭にぶん投げてぶっ殺したことだってある。

 

(ガキが…舐めてると潰すぞ!)

 

なら思い知らせてやる…自分の全力投球で一つ痛い目に遭わせてやる!

 

「オラァ!」

「お、今度はいい球だね」

 

「な、何ィィィィィッ!?」

 

チャールズが全力で投げた球をレオンはいとも容易く捕球した。

 

 

(ば、馬鹿な!?今の球速は80マイルは出ていた筈だ!?)

 

「今度はこっちの番だぞっ」

「っ!速ぇ…!」

 

捕球が出来ない程では無いが6歳辺りの子供が投げる球にしてはかなり速い。

 

「ほら~早く返してよ~」

 

(このガキ!あんまり調子に乗るなよ!)

 

一先ずは一緒に生活するのも我慢してやる…が、どちらが上かはハッキリさせておかないと気が済まない。

 

「ドゥリャアッ!!」

 

「そ~れ!」

 

気付けば彼はレオンとのキャッチボールに夢中になって勤しんでいた。

 

 

チャールズ・リー・レイは感情的になりやすく、熱くなった一時の感情で物事をそのまま実行する事がある。

 

 ()()が付いたのだってその所為だ。最初は計画的に物事を進めていてもカッとなって周りに注意を向けるのが疎かになり失敗した。

 

そののめり込みやすい性格が少しずつ今の彼の計画を狂わせる事になるとは、今の彼には思いもよらないだろう…

 

 

「母さん、ただいま!」

「あら、レオンだいぶ汚れちゃったわねぇ」

 

気付けばレオンはチャッキーとの遊びに夢中になり過ぎて汗や砂などでだいぶ汚れていた。

 

「洗濯するからお風呂入ってらっしゃい」

「うん!チャッキーも一緒に洗ってくる!」

「え?…壊れないかしら?貯水出来るし確か防水だった筈よね…?」

 

 マギーはお風呂に向かうレオンを見送りながら物思いにふけ、我が子の替えの服を用意しに行った。

彼があそこまではしゃいでいた事など今まで無かっただろう。

 やはりあの人形を買って正解だった。マギーはそう思った。

 

 

(マズい…非常にマズいぜこりゃあ…!)

 

 チャッキーは先程までの自分の愚かさを恨んだ。

外でマジになって遊んだせいで全身が薄汚れている。

 

「チャッキー、服脱がないの?」

 

そのせいで今、身体を風呂場で綺麗にされようとしている。

 

(そんな事になったら女の人形だってバレちまうだろうが!)

 

 万が一自分が入替わった事がバレたら面倒な事になるかもしれない。

ガキ一人なら問題ないがあの女に告げ口されたら男物の人形と最悪取り換えられるかもしれない。

 カレンとかいう女ならなぁなぁで済ませたかもしれんがマギーとかいう女は確実にクレーマータイプ!

問い合わせして回収だのされたらたまったもんじゃない。

 カレンに連絡されても面倒だ。入れ替わりが完全にバレる。

 

(何とかやり過ごさなきゃな…)

 

「俺ゃぁいいよこのままで、人形だし洗わなくたって平気さ」

「駄目だよ!帰ったらバイキンを持ち帰らない様に隅々まで綺麗にしなきゃ駄目って先生も言ってたもん!」

 

(それはただの変態の言い訳だろうが!)

 

変態淑女の教育をチャッキーは心底恨んだ。

 

「後で自分で洗うって」

「駄目だよ!一人じゃ汚れが取れない所があるかもしれないだろ?」

 

「ねーよ!…そうだ!俺様は水に濡れると壊れるかもしれないんだ。だからお風呂は勘弁してくれ」

「大丈夫でしょ?だって君日本製でしょ?簡単には壊れないよ」

 

(ファッキンジャップ!)

 

 信頼と安心の日本製。象が踏んでも壊れない。

戦地から爆撃を受けても生き延び帰還したグッドガイ人形の信頼性を今回ばかりは恨んだ。

 

「ほらいいから脱ぎなよ。万歳してホラ」

「…ばんじゃ~い」

 

オーバーオールを脱がされて、シャツも脱がされる。

 

「ま、待て!」

「なんだよ?まだなんかあるの?」

 

ここで何とかしなきゃヤバい。

 

「脱ぐ!脱ぐけど…こっちを絶対見るなよ!」

「なんで?」

「恥ずかしいだろ!見られたら!」

「男同時なら恥ずかしくないだろ?」

「俺は男同士でも恥ずかしいの!」

「もしかして小さいから恥ずかしいとか?子供の内は小っちゃいから気にしなくていいって先生も言ってたよ」

 

(このガキ人が気にしてる事を!小さいどころか無ェんだよ!コッチは!)

 

「レオン?まだ入って無いの?」

 

(マズい!?)

 

「分かった!脱いだ!ほら行くぞ!」

「わっ!?もう急かすなって…!」

 

 速攻で中に入りシャワーを付けて、お湯を出す。

お湯の湯気を濃くして、なるべく見えない様にしてやった。これなら大丈夫だろう。

 

(後は湯舟にでも浸かってりゃバレないだろ…)

 

チャッキーは一安心し、無い胸を撫で下した。

 

…がレオンの入浴方は変態仕込みのスキンシップに溢れたものだった。

 

「ほら身体をキレイキレイにしようね~」

「んひっ!?何しやがるッ!?」

 

 突如後ろから抱きかかえられ手で直接胸を洗われた。

 

「洗ってやるって言ってんじゃん」

「一人でやれるって言ってるだろーが!!大体なんだその触り方はッ!?いっ、イヤらしいぞテメェ!?」

 

「先生と洗いっこするときはいつもこんな感じだったよ?」

 

いい加減にしろよその先公!こんなFool(純粋)な子を騙しやがって!変態!ビッチ!ババア!

 

「いいからやめ…んぁっ♡」

「ん?なんだ?おかしいぞ?」

 

しまった。下の方を触られた。ていうか何だ今の声は?俺の声か?

 

「チャッキー…」

「な、何だよ…!」

 

レオンが此方にズイッと詰め寄る。

 

「お股見せて」

「はぁ!?何で見せなきゃなんねーの!?お前アレか?!ホモなのかおい!?」

 

「いいから見せて!!」

「おっおい…やめっ!?」

 

 チャッキーはレオンに対して背中を向けて()()を隠していたが、レオンがチャッキーの膝を自分の方へと向けた為半回転してスッ転んだ。

本来なら力の差で負ける事は無いが此処は浴室であり滑りやすかった。

 摩擦を失った身体は抵抗を失い勢いそのままに滑ってしまったのだ。

 

 

「……」

「いってェ…!?」

 

 

 転んだ拍子に咄嗟に身体を安定させようと脚を広げていた。

そのまま尻もちをついてしまった為、開脚したまま脚は天を指しているが…。

 

 

所謂おっぴろげである。

 

 

「……無いじゃんッ!?」

「う、うるせえ!?み、見るなっ!?」

 

バレた!?

 

 思わず股を手で隠そうとするが時既にお寿司である。

だがジャパニーズHAJIRAIの心が芽生えたのか隠さずにいられないのだ…。

 

「……」

 

 

くぱぁ♡

 

 

「けっこうグロい!?先生と一緒!!」

「広げるなぁッ!?」

 

 

幼稚園の同級生のIT(ソレ)をプールの後に見た事があるがもっと可愛らしいものだった気がする。

明らかな大人のIT(ソレ)である。

 

 

「なんで!?落としたの!?」

「落とすか!!」

 

「じゃあ何で無いの!!」

「俺だって好きで無いんじゃねぇよ!!」

 

例え目の前のこどもチソチソ程度だとしても男としては欲しかった。

 

だが現実は非常である。

我が身に有る筈の剣は無く、あるのは只の鞘であった。

男としての尊厳を失ったのだ。

 

「女の子だったのか…」

「自分が女だとは思っちゃいねぇよ。いいか、誰にも言うなよ!」

 

「ええ~どうしよっかな~?」

「おいおい、俺が不良品だと思われたらお別れだぞ。それでいいのか!?」

「えっそれはヤダ!」

 

「じゃあ俺様が喋る事と一緒で誰にも漏らすんじゃねぇぞ!!」

「わかったいわない!!」

 

(ちょっろっ…)

 

 変に警戒してた自分が馬鹿みたいだ。

そもそもこんなガキ一人、口先一つで誤魔化すなんて朝飯前だというのに何故バレるのを躊躇ったのか?

 というか身体を見られる事自体を嫌がっていた気がする。

一体何だというんだ…?

 

 

「それにしてもチャッキーが女の子だったとはね」

「女じゃねーし」

「だから身体触られた時女の子みたいな可愛らしい声を上げてたんだね」

 

 

「あ゛?今なんつった?」

 

俺が女々しい悲鳴を上げたって?冗談いうなよ小僧ォ!!

 

 

「俺がそんな情けない声をあげてたと思うか?」

「あげてたじゃん」

 

「あげてねぇ!!じゃあまた俺の身体洗ってみろ!全然声なんてあげね~からよぉ!!」

「じゃあ僕が全身洗いきるまでに無反応で通したら君の勝ちね?先生だって倒した事もある僕腕前を見せてあげる♪」

 

そう言ってレオンは両手をわきわきとさせる。あの変態園児に何させてんだ。

 

 

(へっ、女をとっかえひっかえしていた経験豊富な俺様が少し前までハナタレ幼稚園児だったガキに後れを取るわけ無ぇだろう?)

 

 

さっきはいきなり触られてビックリしただけ…

 

身の程って奴を分からせてやる…

 

本気で向かえばこんな青二才なんかに…

 

 

絶対に負けない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ンヒィ!?…アッ…アッ…ッ!?チョットマッテッ!?

 

 

 

 

 

ソレ駄目ダッテ!?反則ゥ!!ラメラッテ…ン゛ォ゛ッ!?

 

 

 

 

 

ワカッタ…俺の負けでいいから…!エ…勝負ハ最後マデ…?

 

イヤイヤ無理ダッテムリィ、ムリィィィィィィッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ゛ッ……♡ン゛ッ…♡ハヒィ……♡」

「全然我慢できてないじゃん」

 

「う…、うるへぇ……♡」

 

 

そこには、全身を痙攣させタイルに突っ伏すくそざこメスドールの姿があった。

 

 

(馬鹿な…!?俺様がこんなガキに!?)

 

 

チャッキーは不思議だった。自分の身体がここまで敏感だったとは思えない。

 

(まさか、女の身体になった所為だとでもいうのか!?)

 

 

女性の快楽は男性のソレに比べておよそ10倍にも及ぶという話を昔、当時の女のティファニーに言われた事がある。

 

確かにヤバかった。

特に下半身のIT(ソレ)がヤバかった。

 

 まるでそういう事をする為だけに付けられたかの様に敏感だった。

開発した女を弄んでいる時の様な悲鳴を何度も上げてしまったのだ。

 

「激しいおしっこ沢山してたね、先生でもあんなに出してないよ」

「うるへー…、おしっこ機能の調子が悪かっただけだ。説明書にあっただろ…」

「はいはい、これ以上やるとのぼせちゃうからあがろうか」

「んぉー」

 

最早ただのお人形状態である。

レオンに引きずられる様にチャッキーは浴室を出た。

 

 

「あがったよ~」

「お帰り、随分騒がしかったわね?」

 

「チャッキーのお風呂ボイスが豊富で沢山遊んでたんだ」

「あらぁ、良かったわねぇ」

 

その後レオンは夕ご飯を食べ、ベッドに着いた。

 

チャッキーはその間結局、何もできなかった。

いつもと同じだ。

 

ただいつもと違うのは…

 

 

「チャッキー、お休み…」

 

「…おう…」

 

レオンが寝る前に口付けをする。

それをチャッキーは渋々受け入れた。

 

 

(酷い一日だった…)

 

 

自分が女の人形になった事を嫌でも実感した。

耐えがたい屈辱である。

 

 

(だが…)

 

 

あの感覚、レオンに弄られた時の感覚…

 

 

(めっちゃ気持ちよかった……!!)

 

 

しばらくの間…自由に動く目処が立つまで…

 

(それくらいならこいつとの遊びに付き合ってやってもいいか…)

 

 

自分らしくは無いと思ったが、チャッキーはそんな事を思いながら眠りに落ちた。

 

 




徹夜して書いてチャッキーの恐ろしい素顔を出せるとこまで行けると思ったらクソみたいな下ネタ書いて終わりますた。
これじゃこれからレディ・プレイヤー・1観る人にチャイルドプレイを誤解される!(棒読み)
今では反省している。


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9

13日の金曜日なのにまだチャイルド・プレイですが投稿しますん。
待たせてすんまそん。


「それじゃあレオン、行ってくるわね」

「分かったよ。行ってらっしゃい母さん」

 

「ごめんね、数時間だけお仕事入っちゃったのよ。すぐに戻るからおとなしくしててね?愛してるわ」

「僕もさ」

 

マギーがレオンの頬に口付けをして名残惜しそうに仕事に向かって言った。

 

玄関の前で手を振っていたレオンだったが、マギーがドアを閉めて鍵を掛ける音を確認し去っていく足音を確認した後にその演技を解除した。

 

 

「……行ったか?」

「うん、始めようか」

 

部屋の裏からチャッキーがゆっくりと現れる。彼の手には長物が握られていた。

それと同じ物を部屋から取り出しお互いに向かい合う。

 

「……」

「……」

 

 

双方とも沈黙を保っていた。共にに相手が動き出すのを待っているのだろう。

長く続いた膠着だったが、ふとした瞬間。その膠着は破られた。

 

 

ピィシュゥウィィン!!

 

 

近未来的な音とともに互いに持っていた棒に淡い光が灯る。

 

 

「波ッ!!」

 

ブォン!!

 

先に仕掛けたのはレオンだった。彼の持った青い光の剣が音を立て縦の軌道の光の扇を作りだす。

 

「甘いッ!」

 

ピチュゥンッ!!

 

チャッキーはそれをいとも簡単に赤い光の剣を横に構えて抑えた。

 

「パダワンよ、それでは勝てぬなぁ」

「ちぃ!?」

 

レオンは果敢に攻め続ける。

だがそのどの攻撃もチャッキーを攻め落とす事は出来ない。

 

「動きは速いが単調で読みやすい、幾つもの修羅場を潜り抜けた俺からしたらあくびが出るような攻撃だ」

「なぁにぃ~?!」

 

彼の挑発に思わず感情が昂ぶりそうになるがそれこそヤツの思う壺だと言う事にレオンは気づいていた。

 

(落ち着け、チャンバラの極意はMANGAで見た筈だ…。呼吸を整えろ。心を燃やせ!)

 

「はああああ!!」

「っ!?おおおっ?!」

 

レオンの流れる様な攻撃の連打に思わずチャッキーも受けながら後ずさる。

 

(よし、MANGAの主人公がやっている『型』はチャッキーにも通じる!)

(このフォームは【アタル】…いや【シエン】か!)

 

(いける!)

流れる様な技の連携に勝機を見出したレオンはライトなセーバーを振りかぶる。

 

「と、でも思ったかぁ?」

「何ッ!?うっ!?」

 

チャッキーは床に落ちていた洗濯カゴを此方へ蹴り上げた!

奴は押されて下がるフリをしてソレがある所まで下がっていたのだ。

 

ブォンッ!!

 

カゴを払いのけたその瞬間に勝敗は決した。

チャッキーはその隙にレオンの頭に一撃を加えてこの戦いは決着を迎えた。

 

 

「イテテ、卑怯じゃあないか?チャッキー?」

「バーロー、卑怯も糞もあるか。どんな手を使っても勝ちゃあいいんだよ」

 

「シスのやり方だそれ」

「ジェダイの騎士道精神で勝てるか馬鹿。なぁ迷えるパダワンよ?戦いで一番大事なのはなんだと思う?」

 

チャッキーの言葉にレオンは顎に手を添え考えた。

 

「技術?精神?フィジカル?やはり呼吸?」

「素晴らしい、全て間違っている(あと呼吸ってなんだよ)。大事なのは勝つ事、戦いってのは大抵負けたらそれで終わりだ。相手の隙を突きどんな手を使ってでも相手を倒す。卑怯だのなんだの言われようが勝てば官軍よ。負ければ次なんてねぇんだからよ?」

 

卑怯ではあるのだろう。だが彼の言葉は中々に的を得ていた。

 

「お前は勝ってここに居る。お前の先生は負けておっ死んだ。それが全てでそれ以外は無ぇ。負けたらお前ぇもあいつみたいなる、それだけよ。だからどんな手を使ってでもいいから常に勝てる方法を考えろ」

 

「分かった!もっかいやろ!」

「話聞いてた?」

 

話を終えたやいなや()()を要求するその太々しさに思わず呆れながら再びライトなセーバーに光を入れた。

 

 

 

 

 

「ドアを開けて先に進む?」

「進むに決まってんだろ!罠なんて置きやがって、発動したら即死の罠をシレっと置いてんじゃ無ぇぞ。この先もどうせなんか有るんだろ?」

 

 

チャッキーは小さなフィギュアをチェスの駒のようにカツカツと前に進ませる。それを見たレオンは自作のルールブックを見ながらその後の展開を説明する。

 

「チャッキーの前には恐ろしい怪物が現れました。その名も怪物【デモゴルゴン】。デモゴルゴンは顔を此方に向けて今にも襲い掛かりそうです」

「…その化け物はどれだけ強いんだ?」

 

「…噛まれるとそのまま食べられて一撃で死んでしまいます」

「バランス考えろやクソが!これだからガキは!」

 

悪態を突きながらもゲームを投げずにチャッキーは付き合う。

 

「勝てなそうだし逃げるわ」

「ええ!?ゲームとしてそれは無いよ」

「こんなバランスにしたオメ~が言うな!撤退だ撤退!」

 

「しかしデモゴルゴンも追いかけます」

「来ると思ってたわ。そういえばここの部屋にはどんな生物も踏めば即死の罠があったよな?」

「えっ」

 

チャッキーの言葉は予想外だったのかレオンは驚きの声を上げる。

 

「デモゴルゴンが部屋に入った瞬間に床のスイッチに石投げて罠発動するわ。するとどうなる?」

「あっあっ、…デモゴルゴンは上から落ちてきた先の尖った大木に体を貫かれ爆弾で爆発四散します…」

 

「なっはっはっ!大事なのは(ココ)の使い方よ!悪党は頭を使わないと成り立たないのよ!かぁ~っ!!気分が良いねぇ!」

「汚い奴だ…」

「止せよ照れるだろうがよ!」

(褒めて無ぇよ)

 

 

レオンとチャッキーは勝負と称して様々な遊びを二人でしていた。

 

その中でこと戦いなどの要素が多いものではチャッキーはまるで指南をするような場面があった。

それほどレオンの中には目を見張るモノが有り、チャッキーはついつい口を滑らせてしまうのだった。

 

 

「キャッチボールなら互角の筈!」

「バァロォ!こんなんで負けてられるかよ!」

 

お互いが夕方まで汗を流し切磋琢磨し…

 

 

「ああああああああああああああ!!?」

 

「チャッキーは弱いなぁ~」

 

洗いっこで最後にはチャッキーがボロ負けするのがいつもの流れであった。

 

 

 

 

(俺は何をやっているのかねぇ…?)

 

 

レオンの部屋のベッドで寝そべるチャッキー…チャールズ・リー・レイは今の状況に疑問を感じていた。

 

一度死んでからここで第二の人生を謳歌し、ムカつくヤツを殺していけばいいと思っていたが実際の所一度たりとも外に出てもおらずあの警官もエディの糞野郎も殺せちゃいない。死ぬ間際の復讐を果たせてはいないのだ。

 

だが今の生活を心地よいと感じる自分が居た。レオンとのごく普通の生活、自分の荒んだ人生でこれ程まで穏やかで楽しい日々はあっただろうか?

 

 

「チャッキー、そろそろ寝ようか」

 

「…ああ」

 

レオンは生意気だが彼とのやり取りは決して怒りが爆発するほどではない。むしろ彼とのやり取りを楽しんでいた節があった。

 

「レオン」

「ん?」

 

「楽しいか?その、最近は?」

「楽しいよ、チャッキーが来てから毎日が楽しくなってきたんだ」

「…そうか」

 

そう言って笑顔を見せる彼を見てチャールズは思った。

ああ、自分は過去の自分を捨てれるかもしれないと。

 

彼と共に居る為なら殺人衝動も抑えて普通の生活を送れるかもしれないと。

わずかながら確かに、そう思った。

 

「俺も楽しいよ。お前と勝負するのは。人生でこれ程楽しかったのは初めてだ」

「うん」

 

「ずっとこんな日々が続けばいいな」

「そうだね」

 

「…でもお風呂入る時に擽るのやめてくれないかあれコチョいんだよ」

「え?やだ、チャッキーが悶えるの楽しいじゃん!」

「…クソが!!」

 

この会話も喋りながら楽しくなっている。まぁアレは自分が自分で無くなるようでガチでキツいのだが…正直気持ちいから仕方ない。アレを仕込んだ奴は相当変態だろう。

 

「寝たら明日になっちゃうね」

「明日また遊べばいいさ」

 

「でも眠れないよ」

「じゃあ子守唄でも歌ってやろう。…俺たちゃbuddy(親友)♪死ぬまで一緒♪」

 

「ふふっ、それグッドガイ人形が歌うバディソングじゃん」

「これしか歌えないからな。心配しなくても明日も、これからも」

 

 

 

 

「お前は親友だよ」

 

 

 

 

「うん…そうだね」

「ほら、お休みの時間だ。はよ寝ろ」

「うん、お休み」

 

チャールズの言葉に安心したのか、レオンはスヤスヤと眠りに落ちていった。

 

「ずっ友だよ、お前は」

 

そう呟いてチャールズも明日を思い寝床についたのであった。

 

 

 

 

だが平和な時というのは長くは続かない物である。

 

 

「レオン、今日は早起きだな?今から遊ぶか?」

「チャッキー、ごめん。今日から転校した学校の新学期なんだ…」

 

「え…?」

「だからお家に帰るまでは君とは遊べないんだ」

 

予想外の言葉にチャールズは狼狽える。そうか、レオンには学校があるのか。

 

「そ、そうか」

「ごめんね、帰ったら遊ぼう」

「…ああ」

 

彼は静かに窓の隙間からレオンが通学用のバスに乗るのを見ていた。

 

レオンはあのアンディという餓鬼の隣に座った。

何を話しているんだ?やけに楽しそうじゃあないか?

 

レオンが自分以外と楽しそうに話しているのを見ると、かつて自分の中にあった黒い感情が膨れ上がるのを感じた。

 

(いけねぇな。変わるって決めたんだろ?)

 

自分を抑えようと誰も居ない家で時間を潰すしかない。

くだらないワイドショーやら見たり部屋を探索したり。

 

(おや?この部屋はレオンの父親の部屋か?)

 

部屋には鍵が掛かっていたが、時間に余裕の有る自分なら容易にこの程度の鍵など開けられる。

 

「ほう、中々個性的な部屋だ」

 

安全ピンでサッと扉を開いて中を見た彼は少し驚きつつも中を見渡し面白い物でも見るように探索する。

 

「これは中々。いい趣味してんな…」

 

肌色の多い雑誌を見ながらアイツの父親も中々えげつない性癖してるなと感心してしまった。

レオンには近づけない様にしよ。

 

 

 

 

「ただいま~」

 

「よぅ、お帰りレオン!」

 

レオンが遂に帰ってきた!ようやく二人でまた遊べる。そう思った…が。

 

「それじゃあ…」

 

「ごめんチャッキー、学校から帰ったら宿題をやらなくちゃいけないんだ」

「え?そんなの別にやらなくてもいいじゃあないか?」

 

「駄目さ。やらないとウンと叱られるんだよ?」

「あぁん?そんな奴が居たら俺が…」

 

「何?」

「いや、なんでも無ぇ…」

 

そう言ってベッドに彼は寝転がった。

 

その後レオンは何とか宿題を終わらせたがその頃には母親が帰ってきてしまった。

 

その日はレオンと大して遊ぶことが出来なかった。

 

 

 

次の日、またレオンが登校するのを窓の外から見送った。

 

バスに乗り、アンディと会話する姿を冷めた目で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「チャールズ・リー・レイはどういった殺人鬼か」

 

ボサボサな髪の男性が大衆の前で話始めた。スクリーンにはチャールズの顔写真が映っている。

 

「衝動的な殺し屋、計算高い犯罪能力。それは彼の一面の一つでしかない」

 

「彼を怒らせた者には皆、死が待っていた。だが、彼が一番の狂気を生み出すのは人に怒りを覚えた時ではない」

 

スクリーンにどこかの家族の写真が映った。親しみやすそうな男性。お腹の膨らんだ女性。全身が少しぷっくりとした少女。

 

一見してとても幸せな、理想的な家族に見える。この先未来も幸せが待っている事は想像に難しくない。

 

「この理想的な一家はこの後チャールズによってズタズタにされた。チャールズはこの一家に憧れ、あろうことかその一員…いやその中心に自分が入り込もうとした」

 

写真がスライドしていく。葬式の写真だった。先ほどまで笑っていた妊婦が涙を流して棺に縋り付いており、子供は父を探すような挙動をしていた。

 

そして妊婦の女性の肩に手を置いてる男性が居た。そう、チャールズ・リー・レイである。

 

「彼は女性を慰めるように近づき、その悲しみを共有しようとした。…まるで旦那の代わり、いや、自分こそが彼女の夫のように」

 

新たな写真が映る。それは部屋だった。

 

そこには妊婦の女性が居た。ベッドで寝そべっており腹から血を流している。その周りには夥しい数の向日葵が添えてあった。

 

「彼女たち残った家族はその後チャールズ・リー・レイに監禁された。彼は自分を父親で有るかのように一家の妻と娘に振舞った。愛する妻に‶毎日"花をプレゼントし子供を勝手に幼稚園に連れていき、自分に従わない家族を容赦なく、躾けた。赤の他人が、だ。」

 

「彼は自分が一家の主だとまるで信じて疑わなかった。しかし彼はそうでも周りはそう思ってなど断じていない。結局この事件がきっかけで天才的殺人鬼のチャールズ・リー・レイはアシが付くことになる」

 

男はスクリーンから正面に向き直り言葉を投げる。

 

 

「彼はこの後シカゴで死亡が確認された。だがもし彼が生きていて誰かの目の前に現れた時、本当に恐ろしいのは嫌われた時ではなく、彼に好かれた時であろう事は想像に難しくない」

 

 

 

 

 

 

 

留守番をしているチャールズは唐突に口を開いた。

 

「俺たちゃ~友達♪死ぬまで一緒~♪」

 

彼は歌を歌う。

 

「只の友達じゃあない♪君は親友♪」

 

グッドガイ人形が歌う、バディソングを。

 

「どれほど愛してるかは分からないよね♪」

 

部屋を漁り彼の映った写真を見やって歌を続ける。

 

「君のことを絶対離さないよ~♪」

 

 

誰も聞いていない、親友に向けた歌を彼はひとりで口ずさんでいた。



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10

ギリギリ


レオンが学校に通う日々にも慣れてきたとある週末の朝頃。

 

「もう!日曜だってのに仕事に行かなきゃいけないなんてどうかしてるわ!」

 

マギーはろくでもない命令をしてきた×××な上司の事を思い出し、頗る不機嫌になっていた。

 

(週末はレオンと一緒に過ごせると思っていたのに…!)

 

マギーは不満を頭に浮かべて脳内で愚痴るが、彼女と友人のカレンはどうも上司に目を付けられたようで、面倒な役を押し付けられたという事だ。

 

(子供が居る親の休みを奪うなんて!だから仕事しか生き甲斐の無い独身のままなのよ!)

 

「レオーン、今日はママお仕事に行かなきゃいけないの」

「うん、分かってるよママ」

 

マギーはダイニングで朝食を食べている我が子の頭を撫でる。

 

「でも心配しないで。日曜だから早めに帰るし、アンディも一緒に居るからね。それに―――」

 

 

 

「今日は僕が見ているから問題ないよ、マギー」

 

 

キッチンの方からエプロン姿の爽やかな顔立ちの男性が姿を現す。

 

「シェイン、本当にごめんなさいね。ようやく休みが取れたのに」

「良いさ、愛する妻と可愛い我が子の為なんだからたまの日曜くらいどうってこと無いさ」

 

そう、このシェインと呼ばれた男はマギーの夫でありレオンの養父と言える存在である。

 

「それに普段はレオンと一緒に居れないからね、僕としても願ったり叶ったりだよ」

「そう?なら良いんだけど?」

 

シェインは微笑みながら妻を労わる、とても優しい自慢の夫だった。

 その時、軽快なチャイムの音が玄関の方から鳴り響いた。

 

「ああ、カレンだわ!今開けるわ~!」

 

マギーが玄関の覗き穴を確認し、鍵を外してドアを開け、カレンと人形を抱えたアンディを迎えた。

 

「おはようマギー、シェインさんもおはようございます」

「おはようカレン」

 

「やぁ、おはようカレンさん…それにアンドレアちゃん」

「おはよう、おじさん!わたしの事はアンディって呼んでいいよ!」

「そうかい?じゃあ今日はママ達が帰って来るまでおじさんが一緒に遊んであげるからね、よろしくアンディ」

 

『ハッピーうれピーよろピくねー♪』

「ハハハ、お人形さんも挨拶が出来て偉いな!」

 

アンディは人形の機能で挨拶を返した。

 

「シェインさん今日はすみません、うちの子まで預かってもらって…」

「いえいえ、全然構いませんよ」

 

申し訳なさそうに謝るカレンを後目にシェインは二人の子どもを見ながら言葉を続けた。

 

 

 

 

「僕は小さい子どもが大好きですから」

 

 

 

 

 

 

『ハッピーうれピーよろピくねー♪』

『あたしのケツにキスしな!』

 

「アハハ、変な台詞ゥ~!」

「ねぇ二人ともそろそろお腹が空いてきてないかい?」

 

しばらく人形遊びを楽しんでいた二人、そこにシェインが現れて昼食を食べたいか尋ねた。

 

「もうこんな時間か、僕もうお腹がペコペコだよ」

「ワタシも!」

 

「ハハッ、そうかい?ならもうお昼ごはんにしよう!せっかくだからホットケーキでも作ろうか?」

「本当!?ワタシホットケーキ大好き!」

「僕も食べたい!」

 

「よーし、おじさんがとっておきのホットケーキを作ってあげよう!」

「「わーい!!」」

 

 

シェインは慣れた手つきでホットケーキミックスを取り出し、生地を混ぜ合わせフワフワのパンケーキを作ってみせた。

 

「わぁ~おいしそう!」

「おじさん料理上手なんだね」

 

「子供たちに喜んでもらえるよういっぱい練習したんだよ。ああ、そうだ!飲み物も用意しないとな!オレンジジュースでいいかい?」

 

「うん!」

「右に同じく」

 

二人の言葉を聞いてシェインは置きっぱなしの人形の前を通り、コップに飲み物を注ぎ二人に渡した。

 

「それじゃあ頂こうか」

 

「うん、おいしい!」

「おいし~!」

 

「ふふん、そうかい?」

 

シェインは二人の言葉に得意気な笑みを浮かべた。

 

「さて、じゃあコレを食べた後はおじさんもお人形遊びに加わってもいいかい?」

 

「いいよ~♪」

「ウメッ、ウメッ…!」

 

「ハハッ、そんなに詰め込んだら喉に詰まってしまうよ。ほら…ジュース飲んで…」

 

「ングッ、ングッ…」

 

ジュースを流し込む二人を微笑ましい様子で見守りながら見つめていると、アンディが目を虚ろにしてウトウトし始めた。

 

「僕、なんだか眠くなってきたよ…」

「ワタシもぉ…」

 

「そうかい?じゃあとりあえずお昼寝にしようか」

 

「ウン…」

 

「二人ともグッスリとお眠り…」

 

やがてスヤスヤと寝息を立てた二人をベッドに運び、シェインはニッコリとほほ笑んだ。

 

 

 

「本当に。可愛らしいなぁ…♡」

 

 

その姿を放置された人形がジッと見ていた。

 

 

 

 

 

「まったく、今日は災難だったわ」

「早く帰りましょ、アンディは大人しくしていたかしら」

 

マギーとカレンは突発の出勤を終えてマギーの自宅へと向かっていた。

 

そして家の近くに辿り着いた時に何やら人だかりができている事に気付いた。

 

「やだ、何かあったのかしら?」

「何か事件なの?内のマンションの方じゃない…?」

 

二人は自分達と同じ世に見に来た多くの野次馬と、その奥に何台かのパトカーが止まっている事に気付き近くの人間に事情を聞いた。

 

「すみません、このマンションに住んでるんですけど何かあったんですか?」

「あのマンションから人が飛び降りたらしいよ。ほら、あの部屋」

 

「やだ……!?ウチの部屋じゃない!?ちょっと、通してッ!!」

 

 

マギーが見上げた先の割れた窓、そこはまさしく自分が住んでいる部屋の場所であった。

 二人は慌てて階段を上り自分の部屋へと向かった。

 

「ちょっと、関係者以外立ち入り禁止だよ!」

 

「この部屋の者よッ!!誰かが飛び降りたって、私の…夫と子供が今日家に居た筈なんですッ!!」

 

話を聞いた警官が家の中へ目配せして、中からスーツ姿の警官が姿を現す。

 おそらくはここのトップであろう。

 

「マイク・ノリス刑事です。あなたはこの部屋の家族の?」

「妻です。仕事で出かけてて、家には夫と子供、それと…」

 

「うちの子どもも預かっていた筈です!」

「貴女は?」

 

「彼女の同僚よッ!同じ日にシフトが入ったから彼女の旦那さんに面倒見てもらってたの…!うちの娘は…!?」

 

マイク刑事と名乗る男は話を聞いてゆっくりと話し始めた。

 

「落ち着いて聞いてください、まず()()()()は無事です。奥さんはこちらへ…」

 

刑事が手招きして外の窓の下までマギーを誘導する。

 

「残念ですが…落ちた人物が旦那さんなら、我々が来た時には既に…」

「そんな…!?」

 

「辛いでしょうが…本人かどうか確認してもらえますか…?死体ですので痛々しいですが…」

「……はい」

 

了承を経た刑事は膨らんだブルシートへ手をかけた。

 

「顔を確認してください、左半分は潰れていますが…」

 

「うちの……夫です…ッ!」

 

「…そうですか」

 

確認を終えた刑事はブルーシートで顔を隠し、どうしたものかという様子で歩き回ったのち、語り始めた。

 

「辛い光景を見せた後に追い打ちをかけるようで心苦しいのですが、旦那さんはその…」

 

「…なんですか?」

 

「先程は顔だけを見せましたが、彼はどうやら…全裸の状態で窓から落ちたようなのです。その…娘さん達と居るあの部屋で…」

 

「何…!?娘……?ウチの子は男ですよッ!?」

 

「なんですって?それは…その、なんだ。どういう事なんでしょうね?」

 

お互いの情報が頭に入り両方が混乱して固まってしまう。

 

「とにかく、それなら子ども達の所へ行きましょうか」

 

刑事へ促されてマギーは部屋へと戻る。

 

 

そこには…

 

「マギー!レオンくんが!!」

「マイク、彼女にどっちの子どもが娘さんか聞いたんですがね…」

 

「子ども達は無事なんですか!?」

 

「今はまだ眠っています。台所に睡眠薬が置いてありました。」

 

「どういう事?なんで家にそんな物が…!?」

「今はそれよりまずこの子を見てください。この子が息子さんという事ですか?」

「っ!?なによ…これ!?」

 

マギーが見たその先に居たのは紛れもなくレオンだった。

 

だが…

 

「ちょっと失礼しますよ」

「おいっ、暴力の可能性があるからって捲らなくても…」

 

 

「…やはりこの子は男の娘だ。だが女児モノのスカートを履いている。ベッドに傍にある下着も紛れもなく女児モノだ…。」

「どういう…事…!?」

 

「ご主人の部屋は?」

 

「…こっちです。普段は私も入った事はありません…」

 

「全くないと?夫婦なのに?」

「ええ、恥ずかしいから絶対入るなと…」

 

 

マイク刑事はフムと唸ると奥へ進んでいく。

 

部屋の扉は半開きになっていた。

 

「入っても?」

「…どうぞ」

 

刑事はゆっくりと扉を開けて、明かりのスイッチを点ける。

 そこには…

 

「嘘でしょ……!?」

 

「真っ黒ですな。児童モノのポルノ写真に、いかがわしい香りのする無数のビデオ、これは後で部下にチェックさせる。大量の女児モノの衣装、人形、それに…Japanese HENTAIッッ!!」

「ありゃりゃ、こりゃ酷い。」

 

数々の証拠が一つの確信へと至る。

 信じていた夫の真実に気付きマギーは深く絶望した。

 

「どうやら子どもなら少年でもイケるようですな。むしろ表紙を見る限りそちらの方が多い。」

 

「そんな…彼は傷ついたあの子を助けてあげたい、支えてあげたいって言って養子にするのを賛成してくれたのに…」

 

「心の底では違ったようですな。客観的に見ても彼は顔が良い。同じくらいの女の子ならほぼ100%好きになるでしょうな。彼が女の子だったら100%男の子が」

「中性的ですもんね彼」

 

マギーが失神しそうになった所でマイクは話を切り上げて本題に戻った。

 

「でだ、おそらく旦那さんは奥さんが居ない今日に目を付け‶犯行"を行おうとした。レオンくんの写真は無かったが本人が撮ったと思われる子どもの写った写真やビデオがいくつかあった」

 

「……」

 

「だがなんらかの事故が起きて旦那さんは窓から落ちた。彼の遺体は身体の一部が欠損しており多量の出血をしていた」

 

「身体の一部…?」

 

「あ~その、男性器です。平たく言えば。」

「ジャック」

「ごめん、直接的過ぎた」

 

マイクはオブラートに包まない同僚を窘めたがどのみち隠しても仕方ない事だ。

 

(ベッドから窓迄血痕が続いている、あそこで露出していた()()を傷つけて痛みに苦しみそのまま窓に突っ込み、落ちた…という事か?)

 

マイクは事の推察を簡潔にだが頭の中でまとめていた。

 その時。

 

 

「あれ?母さん?」

「レオン!?目が覚めたの?」

 

マギーが慌ててレオンに近寄る。

「身体は大丈夫?痛い所は無い?」

 

「うん、大丈夫…なんか下がスース―する。なんでスカート履いてるの?」

「なんででしょうね?ほら着替えましょ!いいですよね?」

 

「ええ、その服は一応回収しますが…」

 

マイクはマギーに睨まれたが一応証拠品ですのでと付け足して、レオンを着替えさせる事にした。

 

 

「しかしなんでガイシャはあんな所怪我したんだ?」

「分からない…誰かが傷つけたか、自分で痛めたか…」

 

「そもそも消えたアレは何処よ?その…()()は?」

「さぁな…ベッドの下かな?」

 

マイクはベッドの下を体を伏せて確認する。

 

「ん…?血痕だ。薄っすらとだが」

「どこ?」

「ここだ、若干擦れてる」

 

その時、マイクはレオン着ていた女児服をもう一度確認した。

 

デニムのスカートにボーダーの上着の衣装。何処かで見覚えがある。

 

「ああ、そうか。部屋に落ちてた人形と同じなんだ」

 

あの人形を見ているとあの日の事を思い出して嫌な気持ちになる。

 

「ん?ああそれ、子どもに流行っている人形だな」

「そのようだな」

 

「まぁガイシャみたいな拗らせた男にも人気あったらしい。裏で別売りされてる女のアレの玩具を付ければ小さな子どもと疑似的にやれるわけだ、こんな風に」

 

ジャック刑事はシェインの部屋から持ってきたであろうグッドガール人形を持っていた。

 

「スッポンポンだ、コレを着せたんだな」

「彼の衣装を見るに偽物じゃ満足できなくなってたわけだ」

「そうだな…クサッ⁉」

 

マイクは思わず人形から衣装へ目線を移す。

 

「ん?服にも血痕が付いてる」

 

ボーダー柄で分からなかったが確かに背中の方に擦ったような血痕が付いている。

 

何かが引っ掛かる…マイクはそう思った。

 

「刑事、コレ足跡ですかね?」

 

鑑識が台所で靴跡のようなモノを見つけた。

ホットケーキミックスの粉を踏んでいたようだ。

 だがとても独特な靴跡である。いいセンスしてる。

 

マイクはふと思い立ってレオンの元へ行った。

 

「やぁレオン」

「ハァイ刑事のおじさん」

 

「君のその靴は何だい?」

 

マイクは彼が着替えて靴を履く時にふと見えた足跡が気になった。

 

「グッドガイ・シューズだと」

 

「へぇ、見せて貰っていいかな?なるほど、銃に、カウボーイハットか!」

「まさか、ウチの子を疑ってるんですか!?まだ子どもよ!!」

 

「そんなこと無いさ、気になっただけさ」

 

 

(被害者は痛みで悶えながらホットケーキミックスを落としたのだろう。)

 

(ならこの足跡が付いたの事故発生以降になる)

 

(サイズは間違いなく子どもの足、まさかな…)

 

「アンディ!起きたの?」

「っと、目が覚めたか」

 

仮にもここで死人が出ているわけだからレオン同様アンディを無理に起こさない様にしていた。

 

「アンディ?気分はどうだい?」

 

「んん…気持ち悪い…」

 

目覚めたアンディは何か気分が悪い様だ。

 

カレンが台所へ向かおうとするが…

 

「うっぷ、オヴェェエエエッ!?」

「アンディ!?大丈夫!?」

 

「睡眠薬の副作用かもしれない、本来は小さい子ども向けじゃないから体調が悪くなったのかも…」

「ヴヴェェェッ!?」

 

 

ビチャビチャ―――

 

 

―――ボトリッ……

 

 

「何か吐き出したぞ!?」

「喉に引っかかってたんだ、だから余計に吐き気を催した…ッ!?オイオイこれは…!?」

 

「嘘でしょ…」

 

「…オーマイガー」

 

 

「い、イヤアアアアアアアッッ!!!???」

 

 

響き渡るアンディの悲鳴、言葉を失う大人たち、

 

その姿を尻目に床に落ちた人形の顔がほほ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鑑識に伝えろ…無くなったガイシャの一部が見つかったってな」

 

 

 

 

 

 

 

「アンディは?」

 

「大分錯乱してたから、母親と一緒に子ども用の精神病院に行かせた。数日は様子は見る事になるだろう、それで収まったら良いがな…」

 

マギーは親友とその娘を事を思いながらマイクに訪ねたが返ってきた答えは辛いものだった。

 

「レオンくんは?」

「もう寝かせるわ、だからもう帰って頂戴。人が居ると五月蠅くて眠れないわ」

 

「この家で寝るのか?事件があった場所だ」

「ここは、私達の、家よ!!私達が居る所!!警察が居座るばしょじゃない!!」

 

「分かった、証拠も集まったし帰るよ」

 

マイクは怒りと悲しみでどうにかなってしまいそうなマギーから逃げるようにマンションを後にした。

 

 

「ふぅ、照合結果は?」

「被害者の切り取られた部分と一致したよ、子どもサイズの歯で噛み切られてた。」

「アンディの歯型とは?」

「精神科医が今はまだ駄目だってよ」

 

パトカーに乗り込み運転をしているジャックと結果を尋ねる。

 

「そっちはどうだった?」

「もうグチャグチャって感じだったな」

 

「だろうな、子どもを任せれる位自慢の夫が死んだ上に正体はロリコン野郎だったんだからな、おまけに死因が子どもを眠らせて悪戯しようとしたら、ガキがフランクフルト食う夢見たせいでナニを噛みちぎられてパニック。そのまま窓から全裸で落下死ってんだから、言葉も出ねぇ」

 

「本当にそんな単純な話だろうか?」

「おいおい、まさかあの子どもを疑ってるわけじゃないよなぁ?」

 

「分からん、だがあの子には何かある気がする」

「おいおい…」

 

「あの現場には引っかかるモノが沢山あった…そして彼はその事に対して無関係じゃない…」

「……」

 

「孤児院から引き取ったと聞いている、アンディに比べて彼はこういう事に慣れてる感じだった。過去に何かあるのかもしれない」

「勝手にしろよ、俺は手伝わんゾ」

「分かってる」

「なら急いで帰るぞ」

「警察なんだから交通法は守れよ」

 

軽口をたたきながらマイク達の車は警察署へと向かって行った。

 

 

「それじゃあレオン、今日は色々あって疲れたでしょう?今日はもう寝なさい」

 

「うん、分かったよ母さん…」

「愛してるわ」

「僕も」

 

レオンの頬にキスをしてマギーはそっと扉を閉めた。

 

その後しばらくしてレオンはリビングにこっそり抜け出した。

 

「…母さんもう寝た?」

「ああ、もうぐっすりというよりぐったりだ」

 

「はぁ、昼にあれだけ寝て眠れるわけないじゃん」

「だよな」

 

「義父さんがまさか子供に手を出す変態だったとは、まさか×××しようとしてアレ噛まれて死ぬだなんて」

「お前×××知ってんのか?」

 

「先生がやってくれたことあるよ、あれ気持ちいいよね」

(そいつの方が数百倍変態だわ…)

 

「でもなんか引っかかるんだよね」

「ん?どういうこった?」

 

「なんていうかうまく言えないけどそんな単純な話じゃないっていうか…誰かがなんかしたんじゃないかな」

(……こいつ、やっぱ勘が良いな)

 

だが、レオンの子の違和感は使えるとチャールズは思った。

 

「そりゃそうさ、真犯人は別にいるんだからよ」

「どういう事さ?」

「どういう事も何も俺は人形だから動けなかったけどバッチリ見てたってことだよ」

「本当!?」

「マジ」

 

身を乗り出したレオンに対し勝利を確信したチャールズは言葉を続けた。

 

「あれは他殺だ、犯人の正体も分かったしそいつの隠れてる場所も知ってる」

「なんで?」

「昔仲間だった、というかあいつに俺が裏切られて死んだんだからここにいる。俺はあいつに騙されたんだ。それで昔の俺は人を殺してしまった。騙されてな。そんで俺は報いを受けてお陀仏さ」

「……」

 

「だが俺はここに居る。つまり神は俺に償いをしろ、真の悪を倒せって言ってるのかもしれねぇ」

 

チャールズは拳をグッと握って決意に燃えた顔をしている。

 

そしてレオンは…

 

「…捕まえよう、そいつを」

「ああ、ぶっ殺…捕まえないとな…」

 

「そいつの名前は?」

 

チャッキーはその言葉を聞いてテレビをつける。

 

『連続殺人鬼、チャールズ・リー・レイの共犯者とされる【エディ・カプート】は現在も逃走中。ここ、シカゴに潜伏中のものと思われます』

 

「こいつだ……!!」

「こいつがおじさんを…!?」

 

 

(待ってろよエディ。俺は裏切り者を絶対に許さないからな…)



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