問題児達と第一位が異世界に来るそうですよ (デクナッツ)
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箱庭召喚編(原作第1巻)
プロローグ


from 学園都市

 

 

第三次世界大戦の終戦宣言が公表されてから数日後

 

世界は平穏を取り戻しつつあった。

 

そして主人公達もこの町に帰還していた。

 

彼もその中の一人

 

色の抜けた白い髪、異質な赤い目、線の細い体は現代デザインの杖で支えられていた。

 

学園都市の第一位一方通行(アクセラレータ)

 

だが今の彼には獣のような獰猛さが感じられなかった。

 

戦争が終わったから、それだけでは説明できない

 

例えるなら彼を構成していたピースがまとめて喪失してしまったような

 

それは比喩ではなく現実であった。

 

いつも隣にいる少女はいなかった、ロシアで知り合った少女もそこにはいなかった。

 

二人ともこの世界にいなかった。

 

戦争の被害にあった訳ではない。ではなぜ彼女たちが消えてしまったか答えは簡単だ。

 

『彼が殺したから』

 

これもまた比喩でなく現実

 

戦争終了間際に突如として出現した二体の天使

 

これを食い止めるために彼は能力の暴走を引き起こし、戦場を黒い翼が蹂躙した。

 

彼が守るべき少女達の場所も例外では無かった。

 

彼の希望、彼の守るべきもの、彼の一番大切なもの

 

その最上位に位置する少女達を彼は自らの手で粉砕したのだった。

 

「チッ、もともと守るなんて行為は俺には不可能だったんだよ・・・」

 

静寂な空間に声が反響している。話し相手などいないのだから返事はこない。それでも声を出さずに入れなかった。

 

「一度狂った人生は修復なんて効かねェんだよ。」

 

自分の不甲斐なさ、世界の理不尽さ

 

「なんで俺に関わった連中ばかりが傷つかなきゃいけねェんだよ」

 

彼だって分かっていた。世界なんてものは簡単には変わらない。それなら自分のほうから変わらなくてはならない。

 

しかし今まで変わろうとすれば全てが裏目に出てきた。

 

レベル6を目指しても、打ち止め(ラストオーダー)を守ろうとしても、まるで世界が自分を嘲笑うかのように・・・

 

もういっそ世界なんぞ壊してしまおうかと危険な思想がよぎり、電極のスイッチに手をかけた。

 

そのおかげだろう、能力を使用してすぐに上空に違和感を感じた

 

ふと上を見上げるとピンク色の手紙が流れてきた。警戒を解かず睨みつけながら

 

それを掴むとシンプルなデザインに一方通行様と簡素に書かれていた。

 

空間移動能力者(テレポーター)の仕業かと思ったが、空間が切れる特有の音は響いてこなかった。

 

さらにもう一つ大きな問題点がこの手紙にはあった。

 

(この手紙・・・ 俺の反射が適用されねェのか?)

 

これが一番の違和感。現在彼は能力を行使している状態だがこの手紙は一瞬の抵抗もなく彼の手に触れた。

 

「誰の仕業だか知らねェが・・・タイミングが悪かったなぁ。」

 

差出相手がずいぶん可哀そうに思えてきた。

 

「ストレス発散のお手伝いをしてもらおうか」

 

これから彼の玩具になるのだから。

 

何の迷いもなく手紙を開けた・・・    

 

 

 

 

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、

 己の家族を、友人を、財産を世界の全てを捨て、

 我らの“箱庭”に来られたし』

 

暴力的な考えはすぐに消え失せた、

 

なぜか彼にはこの文が温かく感じれたのだった。

 

「忘れてもいいのか・・・?」

 

弱弱しくつぶやいた

 

結局今の彼は逃れたかったのだ、大切なものを守れなかった重圧から・・・

 

一方通行(アクセラレータ)はこの世界から消失した、この世界を忘れるために

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字の報告、ご指導、ご鞭撻
よろしくお願いします


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第一話 召喚

前回はたくさんの感想、お気に入りありがとうございました。
これからも週一ペースで投稿できるようにします。
それでは本編です。(短いけど)


(・・・ここはどこだ?)

 

辺りを見わたすことで少しずつ自分の置かれた現状が理解できた。

 

なんせ上空4000mの地点に投げ出されていたのだから。

 

目に映るのは広大な自然、天幕に覆われた未知の都市、そして世界の果て・・・

 

これで彼は完全に理解した、ここが今までと全く違う世界であることを

 

気持ちの半分は驚愕、困惑に染まっていた。しかしもう半分ではこの世界に見惚れていた。

 

彼は魅了されていたのだ。動物達が地上を走りまわる、ごく自然な情景に。

 

今まで暗部から見えていた醜い世界とは雲泥の差まさに天国と地獄だ。

 

しかしこの光景もいい事ばかりではないようだ。

 

なぜなら、あまりの感動に自分の置かれた現状を脳裏の端にどけてしまったのだから。

 

自由落下している者を待つのは地上なのだから、幸いなことに〔?〕彼らを待っていたのは固い地面ではなく大きな湖だった。     

 

彼らは抵抗虚しく湖には高い水柱が作られたのだった・・・

 

 

 

 

なんとか水中から脱出して〔前回より能力は使いっぱなし〕電極を切ると

 

「・・・・・・・・・・じゃねえかのか。」

 

「・・・・・・・ないもの。」

 

二人の男女が愚痴をこぼし合っていた。

 

先ほどから『彼ら』と表現していたとおり落下していたのは一方通行(アクセラレータ)だけではなかった。

 

彼を含めて4人と一匹がこの場所にいた。

 

一人は乱暴な言葉遣いで、いかにも問題児という雰囲気の少年

 

一人は上品な言葉遣いで、いかにもお嬢様という雰囲気の少女

 

この二人が今ほど愚痴を言っていた奴らだ。

 

さらに体についた水をバサバサと払っている猫が一匹

 

その猫に小声で話しかけている小柄な少女が一人

 

そんな風に観察していると、いつの間にか自己紹介となっていた。

 

「逆廻十六夜だ」

 

「久遠飛鳥よ」

 

「春日部耀・・」

 

説明通りの順番で自己紹介が進んでいった。

 

「・・・あなた怪我してるの?」

 

ふと猫を抱えた、春日部と言う少女が尋ねてきた。

 

まぁ杖をついているのだから疑問に思うのも無理はない。

 

「まだあなたの名前を聞いていないわね」

 

視線が集中していた。今までも敵意、殺意、憎悪で視線を向けられる事はいくらでもあった。

 

しかしこんなふうに好奇心で注目されることはいつぶりだろうか

 

不思議なことにこの空間は居心地が良かった。

 

「別に怪我をしている訳じゃねェ歩行障害があるだけだ。」

 

何年ぶりだろう皮肉もこもっていない純粋な自己紹介なんて

 

一方通行(アクセラレータ)だ、以後よろしく」

 

 

 

 

なぜだろう空間が一瞬で静寂に包まれた。

 

「厨二病?」

 

「もやし?」

 

今まで心の中を渦巻いていた謎の感動は消え失せてしまったようだ。

 

「ブッ殺すぞお前らァァ」

 

経験したものなら分かる、自分が馬鹿みたいに思えるそんな気分だった。

 

なおも逆廻と久遠に弄られるなか、春日部一人がなにか言いたそうな目で彼を見ていた。

 

 

 




申し訳ございません。
感想でいただいた代理演算についてですが3、4話ぐらいになってしまうと思います。
今回も誤字脱字報告お願いします。


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第二話 兎の出現

友達の小説をみて、コメディー要素を書いてみたいと思い挑戦しましたが、
力不足っすね。


もやし(一方通行)を弄り倒した問題児一同の関心は再びこの箱庭へ戻った。

 

「ハ~、普通は呼び出した張本人が説明に来るもんだろ。」

 

「そうね、無責任な世界だわ。」

 

そして愚痴に戻ってしまったようだ。

 

 

 

side黒ウサギ

 

(ムー、不味いのです。召喚されてからほんの数分で蹴落としあいになるとは・・」

 

現在黒ウサギは問題児達から10m程の草の中で絶賛潜伏中だった。

 

(しかし本当に彼らはコミュニティのために働いてくれるのでしょうか?)

 

彼女の目に映るのは金髪の軽薄そうな少年、気高くお嬢様といった感じの少女、何事にも無関心を貫いている少女、白髪赤目の獣みたいな少年

 

正直いってみんなのために労働という行為が見るからにできない人達だった。

 

異世界から呼び出したのは彼女だが、召喚される人物については、干渉することができなかった。唯一彼女が知っているのは、

 

彼らが人類最高クラスのギフト保持者ということだけだった。

 

(だけどいくら強力なギフトでも、有効利用しなければ宝の持ち腐れなのです。)

 

そんなことで脳内をフル活用していたら急に頭上から声が降ってきた

 

「仕方がねえな。こうなったら、ここに隠れている奴にでも話を聞くか?」

 

 

 

side問題児

 

 

「何だ、あなたも気付いていたの?」

 

「もちろん。かくれんぼじゃ負けなしだぜ。そっちの二人も気付いていたんじゃねえか?」

 

「あれだけ敵意に似た視線向けられたらなァ。」

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる。」

 

どうやら全員がその存在に気付いていたようだ。

 

4人の敵意や警戒の視線がナニカが隠れているであろう草陰に集中した。

 

「い、嫌だなーそんな視線で見つめないでください。ウサギは孤独と狼が弱点なのですから。」

 

草陰からは明るい雰囲気でウサ耳が飛び出してきた。そう『ウサ耳』がである。

 

「う、うさぎ!?」

 

「ヤハハ、ウサギにしちゃあ育ちすぎじゃねえか?」

 

十六夜の言うとおり、彼らの前にいるウサギは子供が想像するような小動物ではなく

 

どこから見てもただのバニーガールだった。

 

・・・それも目に毒だと思えるぐらいにメリハリのある体つきである。

 

何が言いたいかというと一方通行の好みとは正反対の女の子だった。

 

(チッくだらねェもっとマシな案内人はいねェのかよ)

 

その結果彼の不快指数はうなぎ上りもいいところだった。

 

「このウサ耳本物?」

 

さっきまで隣にいたおとなしい少女は目を輝かせてウサギに迫っている。

 

「はい!黒ウサギのウサ耳h   ふぎゃ!?」

 

そして問答無用で引き抜こうとしていた。

 

「へ~これ本物なのか。」

 

「じゃあ私も。」

 

ピンと立っていたウサ耳は問題児たちの格好の餌食となった。

 

「ギャァぁ 抜けるゥ 黒ウサギのチャームポイントガぁぁー」

 

ようやく近づい付いてきた一方通行(アクセラレータ)|に最後の望みをかけ、

 

「そこの白い方どうかお助けくださいぃ」

 

涙ぐみながら願いを乞うた。さすがの問題児たちもやり過ぎたかと一歩引くと、

 

「こっちはストレスで爆発しちまいそォなんだよ。」

 

さらに一息置き

 

「そういう事情だからその耳、根菜類みてェにキレイに一発抜かせてもらおうか。」

 

問題児たち4人はアイコンタクトを取ると一斉にウサ耳に飛び付いた。

 

「ぅぅうぎゃあああァァ」

 

憐れ黒ウサギ頼む人選を間違えたようだ。何と言っても彼はいくら泣き叫ばれようが全く動じず暗部の仕事をこなしてきた、

 

生粋のロリコン(戦闘員)なのだから。

 

それからも数十分間黒ウサギの絶叫は辺りに撒き散らされていた。

 

 

 

当時近くにいた参考人 仮名 サカマキさん クドウさん カスカベさん

 

「「「あの表情をされながらさらに弄ろうと思う彼は相当な鬼畜か、ホンモノのホモ野郎だと実感しました。」」」

 

 

 

______________________________________________________

 

 

 

 

「ううぅこれは学級崩壊なんて騒ぎじゃありません。死人が出るレベルです。」

 

今にも消え入りそうな声でつぶやいた。

 

だがしかしこの程度で自分の行いを改めたら問題児の名折れ。

 

「「「「さっさと説明しろ。」」」」

 

胃に穴が開きそうな気分で黒ウサギは説明を始めた。

 

「まず自己紹介から私は帝釈天の眷属の黒ウサギです・・・」

 

ここからテンション低く説明が始まった。

 

(こいつには悪いが話を聞く気には無らねェな)

 

まぁ学園都市第一位の頭は考え事をしながら話しを聞くことなんざ朝飯前なのだろう。

 

これは彼も分かったことで自分の世界に閉じこもるようだ。

 

(しかしこの世界は今までとは別種の世界ってのは今までの出来事で容易に分かる)

 

世界の果てがあり、ウサ耳生えてる女がいれば普通はそう思うだろう。

 

(そうしたら一つの疑問が出る。なんで俺が能力を行使できるかだ)

 

そう今の彼はミサカネットワークの補助がないと能力どころか歩くことはおろか、話すこともできない。

 

(考えらる可能性は二つ。一つはここが異世界なんかじゃないという可能性)

 

しかしすぐに首を横に振る。

 

(ありえねェこんな浮遊島は学園都市だって造れねェ)

 

彼はロシアで空を浮かぶ大地を見たが、ここはそれの比ではない大きさだ。

 

(となるともう一つの可能性、何らかの方法でこの世界にも電波が送られている?)

 

だがこれも少し無理がある考えだった。

 

(今の状況じゃあ可能性を推測するだけか・・・)

 

結局、彼は頭で時間の無駄という判断を下したようだ。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
ここで一つ質問があるのですが、一話あたり1000字ギリギリは少ないでしょうか?
何と言っても初心者で読みやすい量がわかりません・・・
良かったら感想とかで教えて下さい。


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第三話 箱庭の説明?

すいません今回はかなり短めです。



黒ウサギとやらの話を要約すると

 

・ここは修羅神仏が集う『箱庭』という都市

・自分たちが持つ力(超能力など)はギフトと呼ばれている

・箱庭には『ギフトゲーム』と呼ばれる、ギフトなどをチップに使うゲームが存在する

・必ずどこかの『コミュニティ』に属さなければならない

 

こんな話をダラダラと語られ、ようやく終わった。

 

現在4人はウサギによって語られたことは噛みしめているようだ。

 

「大体この世界については理解できたわ。でもなぜ私たちはこの世界に召喚されたのかしら?」

 

第一声を発したのは久遠だった。

 

「そ、それは皆さんがこの世界で面白おかしく暮らしていただくためです。」

 

この黒ウサギの慌てふためきように4人は少なからずの疑問を思ったが、

 

「ふうん」と久遠の意味深な答えで一旦棚上げになった。

 

「ならギフトゲームについて少しいいかしら。」

 

「Yes箱庭に召喚した黒ウサギには皆さんの疑問に答える義務があるので」

 

黒ウサギもさっきより不自然なくらいのテンションの上がり方で返答した。

 

「このギフトゲームというのは箱庭の法そのものと考えていいのかしら?」

 

黒ウサギについて疑問が残るものの、現在必要なことは情報だと全員が理解していた。

 

「なかなか鋭いですね。しかしこの箱庭でも、強盗などは犯罪ですし、殺人などはもってのほかです。」

 

久遠はそれで箱庭のルールを理解したことで満足したらしい。

 

「じゃあ俺からも一ついいか」

 

「Yes何についてですか?」

 

黒ウサギは今まで一言も発さなかった一方通行(アクセラレータ)に少しばかり油断していた、

 

「ならこの箱庭ってのは治安がいいところなんだろうなァ?」

 

この質問が来るまでは・・・

 

黒ウサギはあまりの衝撃に言葉を発することができなかった。

 

「おいおいここは人外魔境なんだろう。そんな奴が一人でも暴れたら街なんかすぐ終わっちまうだろォが」

 

「Yes・・過去に何度もそのような被害があります。」

 

少しずつ言葉を選ぶように話し始めた

 

「しかしその様な者達を取り締まる機関も存在しています。」

 

「逆にいえばそんな機関がねェといかねェぐらい危険なのかよ。」

 

「なんだよお前そんなことぐらいでビビってんのか?」

 

逆廻に茶化されたが、それは少し違う。

 

「いや違ェそんなゴミを処理するために呼ばれたんじゃないかってビビってんだよ」

 

また暗部みたいなことをさせられるのではないかそれを恐れていた。

 

「いえそんなことは暮らしていくうえで出会ったら戦いになるかもしれません。しかしそんなことを目的として召喚したわけでありません。  フゥア!」

 

黒ウサギも自分の失言に気づいたのだろう。これでは何かしらの目的があって召喚したといってるようなものだ

 

「そうか安心した。じゃあこの召喚はお前の善心によるものなんだな」

 

あえて遠回しな言い方で核心を尋ねる。

 

しかし黒ウサギは俯いてしまい話しは続かなくなってしまった。

 

傍から見れば一方通行が黒ウサギを苛めているワンシーン、

 

そんなところを問題児たちが見逃すわけが無く3人からジト目で睨まれた。

 

「チッまぁ汚れ仕事じゃねェだけマシか。」

 

「・・・ありがとうございます。」

 

今は言えないのだろう。それぐらいは理解できる問題児たちだった。

 

「では質問は尽きないでしょうが続きは本拠のほうで。」

 

無理に笑顔を作っているのが手にとるように分かった。

 

「待てよ、まだ俺が質問していないだろ。」

 

待ったをかけたのは逆廻だった。

 

「……どういった質問でしょうか? ルールについてですか? それともゲームそのものですか?」

 

「そんなことは腹の底からどうでもいい。この世界はおもしろいか。」

 

先ほどのように笑っている目ではなく真剣な目。それもそのはず手紙には全てを捨てて箱庭に来いと書かれていたのだから。

 

「Yes箱庭は外界より面白いことを、黒ウサギは保証します!」

 

本物の笑顔で黒ウサギはそう告げた。




もうすぐテストということもあり投稿スピードが
一時的に低下するかもしれません。
本当に申し訳ございません。


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第四話 糞野郎との出会い

投稿遅れてすいません。
しかし今回はいつもより多めに書きました。
いつもより誤字多いかもです。


「ついてくるのですよ!」と先導している黒ウサギについて行くと

 

そこには先ほど空から見た都市とはかけ離れた大きさのモノが見えてきた。

 

「あら?先ほどより大きく見えるのだけど。」

 

「Yes.この箱庭は見る角度により見え方が変わる特殊なギフトが付いているのです。」

 

それからも女子組での談笑が続いた。もう一方はというと

 

「なぁ少しついてこないか、世界の果てぐらいまで。」

 

物騒な相談事をしていた。

 

「悪りィなこんな姿じャあお前についてはいけねェだろ」

 

確かに杖をついている状態では一日がかりでも辿りつかない可能性がある。

 

「お前のギフトってやつを使えばいいじゃないか。」

 

そう彼のギフトを使えば1分足らずでつくことができるだろう。しかし

 

「俺のは、時間制限付きなんだよ。こんな世界で乱用はしたくない。」

 

まだ余裕はあるが無駄遣いはなるべく避けたい。

 

「そうかい無理に誘って悪かったな。」

 

言うや否やものすごい速度で走って行った。

 

そこからは整備されていない道を無言でついて行った。歩きにくくてストレスを溜めながら。

 

数分間その道を進むとようやく入り口と思われるものと、

 

ダボダボの布切れを被った少年が見えてきた。

 

「ジン坊ちゃん!召喚された方々をお連れしましたよ。」

 

「ありがとう黒ウサギ。そちらの御三方が?」

 

「はい!こちらの御四人様が・・・あれもう一人いませんでしたか!?俺問題児っていう雰囲気の方が。」

 

黒ウサギの視界には先ほどまでいたはずの坂廻がいなかった。

 

「十六夜君のことかしら?彼なら、世界の果てを見てくるぜっと言って、走って行ったわ。」

 

「なんで止めてくれなかったのですか!」

 

「...止めてくれるなよと言われたから。」

 

さすが問題児、他人のことなどこ吹く風だ。

 

「せめて黒ウサギに言ってください。」

 

「黒ウサギには言うなよと言われたわよ。」

 

「絶対嘘ですよね、面倒くさかっただけでしょ!」

 

「「うん」」

 

「この問題児共ぉぉぉ」

 

黒ウサギは何処からか取り出したハリセンで、平等に三人を叩いた。

 

だがこの仕打ちに一方通行(アクセラレータ)は納得できなかった。

 

「心外だ。俺は誘われたが断った」

 

「理由をお聞きしても?」

 

「面倒くさいから」

 

「同罪だボケぇぇぇ!」

 

もう一度ハリセンの音が辺りに響いた。

 

 

 

そして現在、坂廻を除いた問題児達は冴えない顔のジンという少年とカフェに来ていた。

 

黒ウサギは絶賛問題児狩りと題して走り去ってしまった。

 

「僕はコミュニティのリーダーを務めているジン=ラッセルです。齢11になったばかりの若輩ですが、よろしくお願いします。」

 

若いのに態度もしっかりしていて好印象な少年である。若干の胡散臭さが残るものの。

 

とりあえず話しを聞くことにした。

 

「お前がリーダー?あのウサギじゃあねェのか?」

 

「えっと…前リーダーが人種だったため僕が務めさせてもらっています。」

 

そういう制度なのだろうか、しかしこの子がリーダーでは便りなさすぎるのではないか。これが一方通行(アクセラレータ)が抱いた感想だ。

 

その後も外から見れば和気あいあいと話しているような光景が続いた。

 

ジンは冷や汗でびっしょりだったが。

 

しかしこの光景は長くは続かなかった。一匹の大型猫の乱入によって。

 

「おやおや。弱小コミュニティ『名無し』のリーダーのジン君ではないか」

 

そいつは断りもしないで堂々と相席してきた。

 

「あなたはどちら様かしら?」

 

語調は普通通りだが少々の嫌悪が出ていた。

 

「これは失礼しました。私はこの辺り一帯を納める「フォレス・ガロ」のリーダーをしているガルド=ガスパーです。」

 

先ほどの無礼と今の態度でギリギリ及第点といったところか。

 

「それで何か御用かしら?」

 

「率直に聞きます。あなた方はこの餓鬼のコミュニティに属するおつもりですか?」

 

そうよと久遠が答えると、ようやくジンが口を開いた。

 

「ガルド=ガスパー!あなたの同席は認めていません!それに他人のコミュニティの話しに首を突っ込むな。マナー違反だ。」

 

「黙れ。それにマナーだ?おいおいお前は箱庭のルールすら破っているじゃないか。」

 

お世辞にも仲は良さそうでない。だがこの話しには聞き捨てならないワードがあった。

 

パンパンと久遠が手を叩き二人を落ち着かせ、

 

「確かにマナー違反だわ。でもジン君が破ったルールとは?」

 

ジンは青い顔に、ガルドは汚らしい笑みを浮かべていた。

 

これだけでジンが何か知っていること分かった。

 

「失礼ですがあなた方は、こいつらのコミュニティの現状を既にお聞きしましたか?」

 

「詳しくは聞いていないわね。」

 

この返答を聞くともの凄い形相でガルドがジンを睨んだ。

 

「ハッ。やっぱりか、この餓鬼はあなた方を騙してコミュニティに入れようとしています。」

 

この場にいる全員の視線がジンに集中した。しかし肝心の彼は口を閉ざしたままだった。

 

「よろしければ私の方からお話しましょうか?」

 

「なっ!ガルド=ガスッ「ジン君黙りなさい」グッ」

 

久遠の一言で、驚いた表情になり口を閉じたジン君

 

いや閉じさせられたと言った方がいいかもしれない。これが久遠のギフトなのだろうか。

 

「許可もおりたことで。まずコミュニティというのは人間でいうチーム、組織、国家のようなものです。大なり小なり様々ですが。」

 

「そこは知っているわ」

 

それは既に黒ウサギも話していたことだ。

 

「確認までに。そしてコミュニティで一番重要なのが『名』と『旗印』です。分かりやすく言えば国名と国旗ですね。このカフェにも、ほらあちらに。」

 

ガルドの指す方を見ると六本の傷をモチーフとした旗があった。

 

「旗は自分達の縄張りを主張するため、名は言わずとも噂をされるのだって名前ですし。」

 

「とりあえず二つの重要性は分かったわ。それでジン君のどこに問題が。」

 

勿体ぶって咳払いをして

 

「彼らにはその二つとも存在しません。」

 

久遠も流石に声も出ないようだ。

 

「昔は人類最強のコミュニティと呼ばれるぐらい素晴らしかったらしいですよ。まぁ今では過去の栄華ですがね。」

 

「なんでそんなことに・・・」

 

「それは簡単。ゲームに負けたからですよ。」

 

だがそれでは黒ウサギの話しと矛盾が生じる。

 

「そんなに高い掛け金、最初から断ればいいじゃない。」

 

そう、そんなに強いコミュニティなら無理な勝負する必要は無かったはずだ。

 

「いえ、断れません。断ることができません。」

 

多分三人は同じ顔をしていただろう。驚愕に染まった顔を。

 

「彼らは敵に回してはいけないものを敵に回した、箱庭の天災を。」

 

「て、んさい」

 

誰が発した声だろう、まるで強みのない声だ。

 

「比喩ではありません。主催者権限というものを悪用し強制的にゲームに参加させられる。」

 

これが一方通行(アクセラレータ)が恐れていたやつらなのだろう。

 

「その名は魔王。」

 

だが一方通行の考えは甘かったようだ彼が想定していた敵は精々能力を持った人間の暴走程度だった。

 

しかしこの世界の『魔王』は天災。一人の能力でそう言い表せるのはlevel5からだろう。

 

いや修羅神仏が集うとまで言えばエイワス程かもしれない。

 

冗談じゃねェこれが一方通行(アクセラレータ)の本当の気持ちだった。

 

「まあ、そんな連中とはそう簡単に出会いませんよ。」

 

さすがにガルドもプレッシャーをかけすぎたかとフォローした。

 

「ご忠告ありがとう。それであなたは親切にお話に来ただけなの?」

 

再度ガルドに問う

 

「これは提案なのですがうちのコミュニティ『フォレス・ガロ』に加入しませんか?」

 

やはり勧誘が目的のようだ。

 

「我々はこの地域じゃあある程度名をはせています。周りを見てください。」

 

多分周りの旗を見ろと言っているのだろう。

 

「ねぇ。周りはこの虎の刺繍が施された旗ばかりつまり我々の配下です。」

 

言いながら自分のタキシードのマークを指差した。確かにそこにも虎の刺繍があった。

 

「何もない『名無し』と我々どちらがいいか考えるまでもありません。どうですかレディー御二方?」

 

「・・・ちなみにこの白い彼はいらないのかしら。」

 

ガルドが求めたのは久遠と春日部だけで一方通行(アクセラレータ)には誘いがなかった。

 

「はい。コミュにお荷物は入りませんから。」

 

人のいい笑みで答えた。

 

((これは死亡フラグですね~))

 

久遠も春日部も同じ考えのようだ。

 

「さてどうしますか?」

 

「そうね春日部さんはどうするの。」

 

「私は友達さえ作れればどこでもいい。」

 

「あら、なら私が友達第一号に立候補してもいいかしら?」

 

先ほどの重苦しい空気は消え和やかな雰囲気が漂っていた。

 

「なぜそのような話に?よければお話しよろしいですか。」

 

それでは納得ができない輩もいたようだ。

 

「話しも何も春日部さんのジン君ところで問題ないそうよ。そして私もあなたのところに行く気はないわ。まだ話が必要かしら?」

 

「なぜだ・・」

 

犬歯をむき出しで紳士の姿は消え失せてしまった。

 

「ふん。私久遠飛鳥はこちらに来る前から財閥のお嬢様。そんな暮らしが嫌だからこの箱庭にきたのよ。それなのにまた裕福な生活に戻れと言うの悪いけどそんなのはごめんだわ。」

 

見間違うことのない拒絶。だがそれでは困る

 

「考え直してくだ「黙りなさい」うっ」

 

またも久遠はギフトと呼ばれるものを行使した。精神干渉系なのだろうか?

 

「というかなんであなたのような三下臭する人がこのあたり一帯を支配するようになったのか教えてくださる?」

 

これは単なる気分転換の質問だった。どうせワイロかそのあたりだと分かっての質問。しかしこの後この場を静めるほどの返答が返ってくる。

 

「各コミュニティから人質を取ってゲームさせた。」

 

ガルドは驚きの表情を隠せず、しかし声だけはハッキリと出ていた。

 

「このゲスが・・」

 

声が聞こえてきた。自分がまずいことを言っているのも理解できた。しかし止めることができない。

 

「それからは配下のコミュニティから女子供を人質にとり無理やり言うことを聞かせた。」

 

「その人達はどうしたの」

 

まだ余裕のある声色で、聞きたくない核心について問う。

 

「もう殺した。最初に連れてきたやつらの泣き声がうるさくてすぐに殺した。それからは自重しようとしたが頭にきてまた殺した。最近はさらってすぐに腹心の部下に喰わせ「黙れ」グッ。」

 

「似非紳士どころかとんだゲスやろうね。」

 

久遠は自分の心の怒りを抑えようとしていた。

 

しかし怒りを持ったのは久遠だけではない。一方通行(アクセラレータ)も等しく怒りをおぼえた。

 

目の前のクソ猫は彼の逆鱗にを逆なでするに充分なことを自白したのだから。

 

無自覚に電極のスイッチを押していた。そして彼の手はガルドの首にのんびりと近づいていた。

 

誰もが想像した。この華奢の手はいとも簡単に罪人の首をはねるだろうと。

 

「待ちなさい」

 

しかしそんな彼を止める存在がいた。久遠飛鳥彼女の言うことは絶対なのだから。

 

一瞬彼の体も硬直した。だが怒りに身を任せる彼を支配するには及ばなかった。

 

「そんなに睨まないでほしいわ。私から提案があるだけよ。ここは箱庭らしく決めましょう」

 

何が言いたいかは理解できた。

 

『ギフトゲーム』で決着をつけるのだと。

 

 

 

 

「はっロリコン!」

 

先ほどまで自分から話す気が0だった春日部が一方通行(アクセラレータ)を指差して叫んだ。

 

そう彼女は召喚されたときに弄らなかった。弄ろうか迷っていた。

 

それからずっと弄るタイミングを見計らっていたのだ。

 

最悪なタイミングだが・・・

 

「ふざけんなぁぁぁ」

 

能力を行使した状態で暴れればどうなるか、それは誰にでもわかることだろう

 

 

六本傷 被害記録 テーブル 3つ 椅子 個数不明 窓ガラス 十数枚

 

 

「これは酷いとミサかは他人事のようにつぶやきこの場を去ります。」

 

あまりの小さな声で誰にも聞きとられることはなかった。




ようやくミサカネットワークについて触れられた!
次回は白夜叉と会うことになると思います。
そこで初めてのオリジナルゲームを入れる予定です。


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第五話 元魔王ロリッ娘BBA

たくさんの感想ありがとうございました。
とても参考になり、これを糧に頑張っていきます。



「このお馬鹿様方!」

 

黒ウサギの叫びがやかましい。

 

しかしこれでは敬っているのか、罵っているのか判断できない。

 

「あなた方は馬鹿ですか、馬鹿なのですか、馬鹿ですね!」

 

どうやら罵っているようだ。

 

「ヤハハ。いいじゃねぇか減るもんじゃないんだから。」

 

先ほどから黒ウサギが怒っているのは俺達がギフトゲームを設定したかららしい。

 

「十六夜さんは黙っていてください。このギフトロールを見たらわかります。かなり危険なゲームになる可能性だってあるんですよ!」

 

 

 

ギフトゲーム「処刑か黙秘」

 

プレイヤー

久遠 飛鳥

春日部 耀

一方通行

ジン=ラッセル

 

クリア条件

ガルド=ガスパーの打破

 

詳しい内容は当日本拠に記載

 

 

「ふ〜んこれって危険なのか。」

 

「何を言っているの私達が虎一匹程度に負けるとでも。」

 

坂廻の今の言葉を挑発と受け取ったらしい。

 

「確かに負けても黙秘を約束させられるだけです。」

 

このゲームは名のとおり勝てばガルドの死亡。負ければガルドが自白した事を今後一切口にしないという契約で行われる。

 

「しかしよく見てください。このゲームは敗北条件すら書かれていません。」

 

「こちらの全滅が敗北条件かもしれねぇってことか。」

 

つまり降参は認めないということ

 

「それこそ問題ないわ。正直一対一でも負けないもの。」

 

確かに久遠のギフトで支配すれば勝利だ。

 

「いえ。もしかしたらクリアに制限が掛かるかもしれません。例えば時間制限だとか。」

 

「それは違反にはならないのか?」

 

どうやら黒ウサギはゲームの審判権限というのを所持しており、ゲームが正当かどうかを確認できるらしい。

 

「あまりに報酬と釣り合わなければどうにかなるかもしれません。でも今回は報酬にガルドの命が入っているので多少の無茶は通ると思われます。」

 

それは参った。少しでも長引くルールになるだけで一方通行は敗北に近づく。

 

(少なくとも電極のバッテリーはどうにかしねェとなァ)

 

「ごめん僕のミスだ黒ウサギ。来たばかりの久遠さんに任せっきりだったから」

 

確かにあの場でジンだけはゲームについて多少の知識はあったのだから。

 

「い、いえ済んだことは仕方ありません。それよりもゲームをどうするかです。」

 

流石にジンくんを虐めるのは気が引けた。黒ウサギだって問題児に囲まれながら他に気を使えるかと言えば即答はできない。

 

「しっかし一日そこらでできることなんてたかが知れているだろ。」

 

「はい。そこで黒ウサギに提案があります。なるべく十全にギフトを使えるように自分のギフトについて知っておいて損はないと思います。」

 

そこでと黒ウサギが何処かの方向を指差し

 

「ギフトを鑑定しに行きましょう。」

 

この言葉にいい顔をする問題児は例外なくいなかった。

 

「じゃあ僕は先に本拠に帰っているよ。」

 

ジンを除いた一行で鑑定へと向かった。

 

そして歩くこと数分、『サウザンドアイズ』というコミュニティの前まで来ると人悶着行われた。黒ウサギと久遠と店員によって。

 

「うちは時間外営業は行っていません。お帰りください。」

 

「なんて商売魂が腐った定員なの。」

 

「全くです。というかまだ五分あるじゃないですか!」

 

「そうですね箱庭の貴族たるウサギを愚弄する訳にはいきません。では確認までにコミュニティの『名』と『旗印』を提示してください。」

 

これは新手のいじめなのだろうか?

 

「うちは『ノーネーム』っていうコミュニティなんだが。」

 

「はいどちらの『ノーネーム』ですか?」

 

飄々とした態度の逆廻だったが話の全容を理解して肩をすくめてしまう。

 

勝負あったか、という顔の店員と悔しさでにじめる顔の黒ウサギが対照的だ。

 

ここは少しお話(脅し)をしようかと思いゆっくりと前に出ると、奴が現れた。

 

「く・ろ・う・さ・ぎぃぃぃぃぃ」

 

それは店内から出てくると黒ウサギの豊満な胸に幅跳びの選手顔負けの水平ジャンプで飛び込んだ。

 

「ぎゃゃゃぁぁぁああああ」

 

黒ウサギの絶望の顔と店員の呆れた顔は少しばかり似ていた。

 

「なぁ店員あれはこの店のサービスなのか?それなら俺はほかのパターンで。」

 

「断じて違います。」

 

二人とも割と真剣に話していた。内容はともかくとして。

 

「それなら俺は違う幼女でェ頼もうかァ。」

 

「黙れ」

 

店員の態度は客に対してどうなんだろう。

 

「いやはや黒ウサギの胸はやはり揉み心地が違うのお。」

 

ある程度触って満足したのか。それはようやく黒ウサギから離れた。

 

「すまんの。そこの店員の非礼は詫びよう。よかったら店に入ってくれ。」

 

「しかし白夜叉様・・」

 

「『名』がないと知って聞くなど、嫌がらせにも程があるじゃろう。」

 

どうやら上下関係はしっかりしているようだ。

 

分かりましたというと店員は店へと案内した。

 

一方通行も最後についていくと、

 

「待てそこの白いの。」

 

さすがにこの年の奴に命令されるのはいい気分にはならない。

 

あぁと振り返ると、

 

そこには先ほどからいるのは別人の奴がいた。

 

訂正しよう。姿形は全く変わってない。しかしそこにいる奴のオーラはエイワスに匹敵する程濃密で強大な殺気で覆われていた。

 

「次にここの店員に手をあげようとすれば、それ相応の罰を受けてもらう。」

 

常人では精神が病んでしまうほどの恐怖。それが一人から発せられた。

 

「フヒッハハアァァハハハハハァァ」

 

これは一方通行(アクセラレータ)の笑い声。周りから見れば狂ってしまったと思われるだろう。

 

しかしこれは喜びの笑いだった。当たり前に強敵がいることに。

 

今まで彼は頂点。小細工や対自分用の能力に屈することは学園都市でもあった。しかし真正面から彼を打倒できたのは一人の無能力者と一体の天使だけだった。

 

しかしそれに匹敵する奴にそう簡単に会える世界。

 

ここならば一方通行は普通に生活を送れる可能性がある。

 

彼が望んでいた普通を掴めた喜びが彼を充満していた。

 

しかし喧嘩を売られたのだから、しっかりお返しをしなければならない。

 

「っハハハあーーあ。なぁ」

 

彼の発していた雰囲気がガラッと変わった。

 

「忠告ありがとよ。だが次に仲間を侮辱されたら。俺もどォなるか分かんねェぞ」

 

これは宣戦布告。自分より遥か強者への。

 

「ふふっ覚えておこう。」

 

踵を返して彼は店内へと入った。

 

 




前回の後書きを完全に無視する形になり、
誠に申し訳ございませんでした。
(一応白夜叉は出ましたが・・・)
尚ガルドのゲームは名前こそ違いますがルールとか変わりません。


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第六話 ギフトの鑑定と贈呈

前回、話が進んでない。遅すぎということだったので
かつてないスピード投稿をしました。
今回は白夜叉とのオリジナルゲームが入っています。



店内は閉店時刻に迫っているため客の姿は見受けられない。

 

しかし片付けの最中のようで慌ただしさは拭えない。

 

「すまんのう。今回は私の私室で勘弁してくれくれ。」

 

この待遇に文句を言うものはいなかった。

 

「まず自己紹介からさせてもらおう。私は太陽の運行を具現化した存在とでも思ってもらえばいい。箱庭では星霊と呼ばれる種じゃ。四桁の門三三四五外門に本拠を構えておる。白夜叉じゃ。黒ウサギのコミュニティとは古い縁があってな少しばかり力を貸しておる。まぁ器が大きい美少女だということじゃ。」

 

先ほど嫌というほど力量差を思わせられたが、このざっくばらんとした口調を見る限り敵以外には非常に友好的な人物なのだろう。

 

「外門というのは何かしら?住所のようなもの?」

 

好奇心に駆られ久遠が質問した。

 

「そうじゃなあ、住所であり身分の位を表すものともいえる。」

 

「身分?箱庭には差別区域でも設定してあるのかしら。」

 

まるでその実情を見たような悲しい目をした久遠。

 

「いやいや。実力さえあればどこに住んでも問題ないぞ。」

 

「つまり住んでるところが実力に直結するのか?」

 

逆廻も参加して会話が進む。

 

「ふむ。簡単に説明すると箱庭は七つの層で構成されている。中央が一層目、端っこが七層目じゃ。そして一層目を一桁外門、二層目を二桁外門という。桁が少ない外門がより実力が大きい。」

 

つまりここは最弱ってことか。

 

「一~四桁が上層、五桁が中層、六~七桁が下層と呼ばれ、各コミュニティが上へ上へと目指している。ふん、つまり私は上層に本拠を構えているのじゃ。」

 

無い胸を偉そうに張って言った。

 

「じゃあお前はこのあたりで一番強いってことでいいのか?」

 

問題児達の目は怪しく光っていた。

 

「ふふ。もちろん東側の階層支配者だぞ。この東側の四桁より下で私に並ぶものはおらんよ。なんといっても私は最強の主催者なんだから。」

 

「ハッそりゃあいいな。つまりお前を倒せば俺たちが東側最強のコミュニティってことか?探す手間が省けたじゃないか。」

 

白夜叉の挑発とも取れる言葉に簡単に乗ると、

 

「ちょお待ちになってくだ」

 

「まぁよい黒ウサギ私も暇を持て余していたところじゃ。」

 

黒ウサギの静止の声を払い、引き受けたようだ。

 

「しかしおんしらが望むのは挑戦か、それとも決闘か?」

 

意味深な発言とともに、視界が暗くなった。

 

だがそれは長くは続かなかった。今は太陽と湖畔とオーロラが見える絶景と称して文句ない場所が見えていた。否、立っていた。

 

「ここはどこなの?」

 

「ふふ。ここは私が所有するゲーム盤の一つ。その中じゃ。」

 

ここがゲーム盤?地平線が見えるほどの大きさだぞ。

 

さすがの問題児達も声も出ないようで圧倒されている。

 

「もう一度聞くが挑戦なら手慰み程度に遊んでやる・・・しかし決闘を選ぶというなら私も魔王のプライドにかけ全身全霊をかけ勝負をしよう。」

 

これは多分警告。強者だから分かる弱者がコンクリートのシミになるように意味もなく死んでいく様を。彼女もそんな光景を嫌というほど見たのだろう。

 

「参った。こんなのを見せてもらったんだ。今日のところは試されてやるよ。」

 

「ふふ。他はどうする。」

 

あの逆廻が譲歩したのは意外だった。

 

「ええ。今回は私も試されてあげます。」

 

「左に同じく」

 

どうやら力の差が分からない馬鹿はこの場にはいなかったようだ。

 

「さておんしはどうするのじゃ」

 

聞かれたのは一方通行(アクセラレータ)。店の前であんな啖呵切った手前どうするのか楽しみだと白夜叉の目は言っている。

 

「悪いな。万全な状態なら一対一で決闘を選ぶんだが今は手負いに近くてな。そんなやつを痛めつけても面白くねェだろ。」

 

チラッと自分の電極の残り時間を見ると能力使用可能時間は三分程度これは今日一日持たない。

 

「そうか。箱庭の弊害というなら、我々が手を貸さねばなるまい。」

 

白夜叉は扇子で一方通行(アクセラレータ)の首元を差し、

 

「おんしのソレもし私の試練を破った暁には、何とかしてやろう。」

 

先ほど喧嘩を売った奴に塩を送るマネをするのかと怪訝な目で見ると、

 

「なに貴様とて黒ウサギの同志、無碍にはできんよ」

 

ではゲームを開始するかのと白夜叉が手を叩くと、

 

何故か自分たちの手には契約書類と呼ばれる紙を握っていた。

 

これも彼女からすればちょっとした手品ということか。

 

戦慄が五割、呆れが五割で紙を見た。

 

 

 

 

ギフトゲーム名「inferior planet」

 

ゲームマスター 白夜叉

 

プレイヤー 逆廻十六夜

      久遠飛鳥

      春日部耀

      一方通行

 

クリア条件 指定されたものを当てろ

 

クリア方法 より多く我が身を喰らうものを当てろ

 

敗北条件 プレイヤー側の降参

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                          サウザンドアイズ印

 

 

 

 

 

「もう!白夜叉様!脅かすのも大概にしてください!そもそも白夜叉様が魔王を名乗られたのはもう何百年も前の話ではないですか。」

 

「てことは元魔王様ってことか?」

 

先ほど魔王という言葉もあり引いたが騙されたようだ。

 

「昔のことなどどうでもいい。それよりゲームは解けたかの?」

 

有耶無耶にされたが過去より今だ。

 

「チッ単なる言葉遊びじゃねェか。簡単すぎるんじゃねェの。」

 

「俺も解けた。結構単純だったな。」

 

男性陣は答えにたどり着いた。しかし女性陣は、

 

「さっぱり分からないわ。春日部さんはどう?」

 

「この我っていうのが白夜叉だっていうことは分かったけど。私に分かるのはそこまで。」

 

春日部が言ったのは食べられる方、そこから食べる方を当てないとならない。

 

逆廻と順番を決めるとまず逆廻が、

 

「春日部が言ったことは当たっている。だがさっきの自己紹介を思い出せ。白夜叉は太陽の運行の具現化した存在と言った。だから我を太陽と当ててみる。するとどうなる?」

 

二人とも少し考える素振りを見せ、白夜叉はホォと面白いものを見るような目でこちらを見ていた。

 

「「日食」」

 

「正解だ」

 

そうこれは日食をキーワードに、つまり太陽を隠すモノを当てるゲーム。

 

「じゃあ正解は月ということかしら?」

 

逆廻は自分の出番はここまでという風に目を合わせてきた。

 

「そこが二つ目のひっかけだ。ゲームの名前をよォく見てみろ。これは和訳すると地球より内側の『惑星』ってことだ。月は衛星だろォ、つまり答えは水星か金星に絞られる。」

 

inferior planetとは地球を含まない水、金までの惑星を差す英語だ。

 

「で答えはどちらなのかしら?」

 

「さすがの久遠だって水星と金星がァどっちが地球にちけェかぐらい分かるだろ?」

 

嘗めてるのかしらっと言い迷いながら金星よねと答えた。

 

「当たってる。そしてクリア方法は我が身を『より多く喰らうもの』だ。月ってのはそこまで大きくないが、太陽を完全に隠すことがある。それは地球からの距離がちけェからだ。つまり答えは・・・」

 

「「「「金星」」」」

 

「正解じゃ」

 

さすがの白夜叉も自分のゲームがこうも簡単に破られると、残念そうだ。

 

しかし残念そうなのは彼女だけではなかった。久遠と春日部も自分の力で解けなかったことに対して残念そうにしていた。

 

「ふむ二人には別のゲームを用意しよう。少しこの童にやる恩恵の準備もせんといかんしの。」

 

といい新しい契約書類を渡すと、自分と白夜叉だけが最初にいた和室に戻っていた。

 

「ゲームを見ないでいいのかよ」

 

構わんと答え、何やらごそごそと物置の中を探していた。

 

まぁ彼女のことだ分身でも何でもできるのだろう。

 

それより今は自分の電極を何とかすることだ。だが本当にこの世界に充電できるものがあるのだろうか?電気という概念があるかさえ分からないところだ。

 

「あったあった。これをおんしにやろう。」

 

出てきたのは一体の人形だった。嘗めているのだろうか?

 

「そんな目で見るな。これは第三永久機関『コッペリオ』というギフトじゃ。」

 

一方通行(アクセラレータ)は理解できないという目で彼女を見ていた。第三永久機関など学園都市でさえ作ることはできまい。あの都市は風力発電で賄っているが、これがあれば乱雑に立っている風車は一つもいらなくなるだろう。

 

「驚くのも無理もない。しかしこの箱庭はありえないと思える物がいくつとして作られ、生み出されている。まぁこれは頭一つずば抜けているがの。」

 

「いいのか?あのゲームとは報酬が釣り合わねェと思うんだが。」

 

「私とて星霊の端くれ口約束とはいえルールぐらい守るわ。」

 

一つの電化製品を充電するのに第三永久機関を使用するのは正直に言えば勿体なにも程がある。

 

「それにこの子は不憫でのお。この箱庭では恩恵でほとんどが何とかなり、ほかの動力源を頼りにするという機会はそれほど多くないんじゃ。使ってやってくれんかの?」

 

道具として使われないというのは、一番の悲しみなのだろう。

 

「俺には使わせてもらうこと以外に選択肢はねェだろォが。」

 

これが狙ったことなら策士恐るべしといったところか。

 

 

 

「これからよろしくお願いしますね。マスター。」

 

さてこの声は誰から発せられたのだろう。無論一方通行(アクセラレータ)ではない。かと言え白夜叉にしては声が高すぎる。残る選択肢はというと・・

 

「お前話せるのか?」

 

「もちろん動力があるのですから使わなければもったいないでしょう。」

 

この人形はこれからも彼の相棒として共に戦うのだろう。

 

「ふむ。しかしそれだけでは常時満タンという訳にもいかないんじゃないかの?」

 

白夜叉は彼の首元を差し、聞いた。

 

「はい。私の力ではこれを使用するときの電力と同じ程度の電力しか使えません。現在使用しているモードですと着実に充電されますが。」

 

何か問題があるのだろうか?

 

「言っておくが変わりはないぞ。戦闘中に使うことは不可能だ」

 

「自分の部屋に置いとけとでもいうのか?」

 

それではかなり不便なんだが・・・

 

「いやこのギフトカードに収納すれば問題ないのじゃが・・・」

 

「カードに入れておけば充電できる量はかなり減ります。具体的に言えば今のモードと同程度しか充電はできないと思ってください。」

 

つまり普段の生活では電力は消費しなくなるということか。

 

「いや。それでいい。少なくとも今よりは使い勝手がよさそうだ。」

 

それならしっかり30分戦えるし、途中どこでも充電できるのだから。

 

「あちらのゲームも終わったようだ。カードは彼らと一緒に配ろうくれぐれもそれを大切に使うのじゃぞ。」

 

白夜叉が手を叩くとまた目の前が暗くなった。

 




今回コッペリオを出したため、
リリちゃんが出るサイドストーリーは書きません。
次回ミサカネットワークがなぜ使えるのかを詳しく書きます。


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第七話 妹達との邂逅

投稿が前回から遅れてしまい申し訳ございません。
春って忙しいんですね・・・
4月はこのようなことが続くかもしれません。私的な理由ですみません。


ジンを除いた「ノーネーム」の面子は帰路についていた。

 

和気藹々といった雰囲気はなく重苦しい空気も感じられた。

 

原因はあの後の白夜叉の言動だった。

 

一方通行(アクセラレータ)もその時の様子を思い浮かべていた。

 

第三永久機関を一旦片づけた白夜叉によりゲーム盤に戻された時、ゲームは終わる寸前だった。

 

グリフォンに跨った春日部はゴールと思われる門をくぐりクリアと思われた。

 

グリフォンから彼女が落ちるまでは、

 

しかしその落下は最悪な事態には繋がらなかった。

 

’彼女が宙を歩いたから’

 

これは超能力あふれる学園都市ですら、少なくとも一方通行(アクセラレータ)は地面を踏みしめるように空を歩く能力は聞いたことがない。

 

白夜叉も関心したようでギフトについて迫っていた。

 

「ちょうどよかったです。今日はギフトの鑑定をお願いに来たのでした。」

 

黒ウサギのこの言葉に露骨に嫌そうな顔をする白夜叉。

 

専門外もいいところ何じゃが・・・と呟き迷っている様子だったが、

 

ポンと手を打ち合わせ何か名案が出たという感じだった。

 

「ふむ。おんしらは勝者じゃ主催者として求める物はやらなくてはならない。少し高価なものだがなにコミュニティの再興の前祝としてちょうどいい。」

 

ポンと手を叩くとそこには透明なカードが四人の前に現れた。

 

掴むとそのカードは自分が染み出しているように色がついてきた。

 

その色は人それぞれでカラフルな色を醸し出していた。

 

そんな中俺の色は浮いていた。

 

黒に黒を塗り付けその行為を何回も行ったような黒。漆黒という表現すら生ぬるいと感じてしまう黒。

 

その上には血を連想させるような赤色の一方通行という文字

 

さらに申し訳程度の白の亀裂が横に三本走っているだけのカード

 

しかしこれは俺の特徴を正確に表していると自嘲の笑みを浮かべた。

 

黒は俺の大半を占める心の色、赤は自分が浴びた血の色、

 

白は自分に好意を向けてくれた・・・

 

「おんし大丈夫かの?」

 

どうやら自分も知らない間に顔を青くしていたらしい。

 

気遣うように俺を見てきたがその眼は驚愕に染まってきた。

 

「おんしそのカードの色は・・・」

 

視線はそちらに誘導され、色は先ほどと変わりなくただの黒のカード。

 

「黒一色のギフトカードそれは魔王の証なのです。」

 

そこから長々と尋問をされて、まだ白の3本の亀裂が入ってるということを伝えることでようやく解放された。

 

「しかしその三本の線、おんしの精神状況に左右されていると思われる。」

 

なんでもこのカードを作ったのは予言の魔神ともいわれるラプラスの魔王によって作られているらしい。その三本も予言の可能性があり、極度の精神異常で黒に飲み込まれるらしい。

 

俺が気に病んでいるのはここの場面(なんといっても人を殺すことがとてもタノシク思えるような思想を持っているのだから)だった。

 

ほかの特に春日部と久遠は最後の別れ際に発せられた一言。

 

「待ておんしら、魔王や強敵に本当に戦う気があるのかの?」

 

「当たり前だ。これだけ楽しい世界に来れたんだせいぜい楽しまなきゃな。」

 

坂廻が四人の気持ちを代弁して答えた。

 

「ふむそこの男二人はともかくおんしら二人は間違いなく死ぬぞ。」

 

と女子二人にキツイ言葉をかけたためだ。

 

その結果この重苦しい空間が作られてしまったのだ。

 

現在位置は数時間前にいた六本傷の旗を掲げたカフェの近く。

 

そこで彼は一つの視線を感じた。

 

複数ではなく単数

 

それも今いるこの団体に向けでは俺個人に向けての視線。

 

そのため俺以外は気づいていない。

 

そこでなるべく穏便に片づけるという選択肢を選んだ。

 

「黒ウサギちょっと寄り道していくから先帰っててくれ。」

 

むっと怒りそうな顔だったが坂廻に止められ

 

「俺もついて行ってやろうか?」

 

この笑い方を見るにこいつは気づいていたようだ。

 

「いらねェよ」

 

そう。これは俺のお客様なんだから。

 

黒ウサギたちの背を見送り踵を返すと、そこには想像もしない人物が立っていた。

 

驚きのあまりに声も出ない状況で

 

「お久しぶりです。でよろしいのでしょうかとミサカはクローン特有の悩みを投げかけてみます。」

 

容姿はlevel5の第3位の超電磁砲そっくりで軍用ゴーグルを着用した少女。

 

口調は抑揚がない単調な声。

 

「おっと自己紹介がまだでした。私はミサカ18888号です。と製造番号とともにアピールします。何をそんな驚いた顔をしているのですか。と疑問に思います。」

 

妹達、一方通行(アクセラレータ)が10031人殺してきたクローンの総称。

 

「なんで・・おまえがここに・・・・いる」

 

掠れながらようやく出せた言葉。

 

「なんだそんなことですか。とミサカは素早くネットに接続します。」

 

彼女たちは微弱な電波を随時発し自分たちのネットワークを形成している。

 

「回答が来ました。信ぴょう性はミサカが保証しましょう。」

 

一回咳払いをして、

 

「ここにミサカがいる理由ですが、それはあなたがここにいるからです。とミサカは単純明快な回答を述べてみます。本当ですよ?。」

 

理解ができなかった。つまりこいつらは俺に振り回されて来てしまったのか?

 

「有力な理由が二つあります。一つ目はあの実験に関わっています。あなたはlevel6という人以上の人になろうとしていた。そしてミサカ達はその生贄という表現が正しいのでしょうか?ともかくそういった存在は箱庭にも前例が多くあるそうです。」

 

生贄その言葉を被害者から言われると、分かっていてもグサッとくる。

 

「二つ目ですがあなたは代理演算ができることに疑問を感じなかったのですか?」

 

いくら考えても出なかった答え、しかし一方通行(アクセラレータ)は薄々分かってきた。

 

「ミサカ達は一週間前にバラバラの場所に召喚されました。その時ミサカ達には一つの命令だけが残されていました。それはネットワークを構築すること、この世界であなたが能力という面で不自由無く生活するため召喚されたのだとミサカ達は決定しました。」

 

・・・それでは道具同然ではないか

 

「くそッ・・・お前らを守ろうとしてもその結果は、お前らから日常を奪っちまったってことかよ。本当に俺は何一つ守れてないじゃねェかッ。」

 

そう何一つ。無力な少女一人さえ。

 

「何か勘違いしていますよ。とミサカはあなたの言論を訂正します。確かに前までの日常は手の届かない世界に来てしまいました。」

 

自分の罪だ。せめて最後まで聞かなければ。

 

「ですがミサカ達は皆この世界で満足しています。なぜならこんな微弱な能力ですが、この世界なら活用する方法はいくらでもあるのですもの。兵力として以外に期待してもらえるだけでミサカは満足です。」

 

そこには邪悪が一欠けらも無い笑みが浮かんでいた。

 

「最後に一ついィか?」

 

「あの二人はどうなったんだ?」

 

ロシアで最後に見た少女たち。

 

「あの二人を打ち止めと番外個体を指すのであれば不明としか答えられません。今この箱庭には20000人のミサカがいますが誰も分かっていません。」

 

気付いただろうかこの言葉は本来ありえない数字が入っていた。

 

「20000人だと?」

 

妹達の総数は20000人だったが一方通行は既に10000人以上を殺してきたのだ。

 

「・・・これは憶測の域を過ぎませんが、一つ目の理由の生贄は生死を問わず妹達という概念で召喚されたのではないか考えています。」

 

つまり箱庭は生死の差なんて無いようなものなのだろうか。

 

「なら打ち止めだって、あいつだって妹達の最終信号じャねェか!!!」

 

ゆっくりと彼女は首を横に振り、

 

「忘れたのですか?あなたがlevel6になるためのノルマを。」

 

それは20000人の妹達を殺害すること。

 

「つまり・・・」

 

「はい。番外個体はおろか打ち止めも対象にならないのです。」

 

この結論は間違いなく彼の頭のねじを一本吹き飛ばした。理性という名の強固なねじを。

 

「なんであいつばかり・・・・毎度毎度犠牲を強いられなければならねェんだよ。」

 

彼は電極のボタンを押してはいない。しかし風は彼の思うままに動き、重力のベクトルは効かなくなったような気分だ。まるで世界が彼の言うことを聞くように。

 

「落ち着いてください!とミサカは叫びます。あなたは自分が自由に生きれるフィールドを自ら壊すつもりですか?」

 

「俺は自由に生きる権利なんて最初からねェんだよ。」

 

ミサカだって怖かった。いつ彼が自分に牙をむくか分からない。だが叫んだ。

 

「ここはあなたが全力を振るったて忌み嫌われる世界ではありません。ならその力を存分に罪滅ぼしにでも使えばいいじゃないですか。」

 

誰のためでもない彼女の元上位個体のために。

 

風はピタッと止み、暗い雰囲気は消し去ったようだ。

 

彼女は一方通行に新たなくぎで打ちぬいたのだ。

 

「頑張ってください。微力ながら応援しています。」

 

彼の目の前にはクローンとは思えない優しい笑みを浮かべた女の子が立っていた。

 

 

 

 

 




さて長々と引っ張ってしまった代理演算ですが、
妹達は少し早くに箱庭入りをしていました。
彼女らも数多のコミュに参加しているという設定なので
もしかしたら活躍の機会もあるかもしれません。
(ちなみに本文で書くところが無かったのですが第三永久機関は彼のカードに入っています。)


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第八話 ガルド戦序盤

大変長らくお待たせしました。
なんと1ヵ月投稿をしていませんでした。
中には失踪したと思われた方もいると思います。
申し訳ございませんでした。



現在時刻 20:30  

 

彼は一人で大浴場の湯船に浸かっていた。

 

別に彼が一人を望んだわけではないが、戦力外の餓鬼は自分達プレイヤーの世話を全力で行うという理由で一緒に風呂には入ることができないらしい。

 

当然女子組とはいることはない。

 

そうして上記に該当しない人物といったら坂廻とジンだが、

 

坂廻はコミュニティの敷地内にいる「お客様」の始末にノリノリで行ってしまった。

 

噂をすればドゴーンと暴力というにはあまりに強大な音が聞こえてきた。

 

結果が見えてるからこうして風呂に入っているのだ。

 

ジンに関してはどこにいるかさえ分からない。

 

大方この音に反応して外にでも向かったか。

 

というわけで彼は一人で大浴場を堪能して明日に英気を養うのだった。

 

 

翌朝彼は叩き起こされた。彼専用の世話係によって。

 

「全く早く起きてください。ゲームがあるのでしょう!」

 

その者の名はコッペリア。人のサイズには及ばないがパワーが桁違いだ。自分の何倍もある毛布を放り投げるのは一体どれくらいの電力が必要なのだろうか。

 

「分かってる。くそ朝はよえェンだよ」

 

こんな時、常時能力が使えないのが恨めしい。

 

そのあと彼女をカードに入れて未練たらたらで自室を後にした。

 

待ち合わせの外にたどり着くとそこには妙に力んだジンが待っていた。

 

「遅いですよ一方通行(アクセラレータ)さん!あなたはゲームへのやる気がないんですか」

 

寝起きの彼の気分を害すには十分な言葉だった。

 

そんな不穏な空気を感じたのかひょっこり黒ウサギが出てきて、

 

「まあまあ、全員そろった訳ですし遅刻する前に向かいましょう!」

 

どうやら彼が最後だったらしく、黒ウサギの後ろには三人が綺麗に整列していた。彼女にトラウマでも持ったのだろうか。

 

道中、六本傷のカフェで激励されたが、奇妙なことを言っていた。

 

「配下を敷地内から一匹残らず追い出したそうですよ」

 

これは彼の視点からだが、正直あの虎と一対一をやってもジン以外は負けることはないだろう。

 

それは多分あの虎も理解したはずだ。それなのにわずかでも希望がある数の利を自ら棒にふったというのだ。これも何かの作戦なのだろうか。

 

わずかな疑問が残る中、一同はフォレス・ガロ本拠に到着した。

 

目の前にあるのはフォレス・ガロの本拠のはずだ、しかし無数の木が生い茂り、ツタが住居の壁に絡まっており幽霊屋敷もいいところだ。

 

「さすがァ虎のコミュニティ。ジャングルにお住まいかよ」

 

「い、いえフォレス・ガロのコミュニティは一般的な住居のはずだったのですが・・・それにこの草たちまさか彼女が?」

 

分からないことは多いがそれよりゲームに集中しなくてはならない。

 

「皆さんギフトロールがあったのですよ!」

 

 

ギフトゲーム名「断罪か黙秘」

 

ゲームマスター ガルド=ガスパー

 

プレイヤー ジン=ラッセル

      久遠飛鳥

      春日部耀

      一方通行

 

クリア条件 プレイヤー側はギフトの使用は可能だがギフトでゲームマスターに攻撃を与えること          はできない。

      

      ゲームマスターを殺害するには指定された武具を使用する。

 

クリア方法 ゲームマスタの殺害

 

敗北条件  プレイヤー側の全滅

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                          フォレス・ガロ印

 

 

 

 

「単純明快でよかったじゃねえか」

 

「よくありません!敗北条件が全滅で、ガルドにギフト効果がないも同然。これのどこが良かったのですか!」

 

どうやら配下を追い出したのも人数差を契約で対等になるようにわざとやったらしい。

 

「こうなったら飛鳥さんが一番不利になります」

 

身体能力0でギフトが相手の直接支配とはお荷物と変わらないな。

 

悔しそうにしているが今回の場合はゲームとギフトの相性が悪いそれだけの話だ。

 

「精々頑張れよ」

 

「ご武運を」

 

坂廻と黒ウサギが消え、ゲーム開始の合図のように鳥たちが羽ばたいていった。

 

「とりあえず指定されたギフトを探しましょう」

 

まだ若干の緊張は残っているようだがリーダーとして引っ張っていくつもりらしい。

 

 

 

「あァだりィなんで目の前に宝箱おいてねェんだよ」

 

「あなたまだ開始三分よ」

 

と言われても杖を突くには根やツタの自己主張激しい道は何度もバランスを挫きそうになるのだが。

 

「もしかするとガルドが武器を傍に置いているのかもしれません」

 

自分を唯一打倒できる存在、それを相手に取らせたくない。その心理は理解できる。

 

「それもルール違反にならないのかしら?」

 

指定された武器がないとこっちの攻撃は無意味。その上武器を自らの懐に入れておけばこちらは詰みだ。

 

「はい。ルール違反にはなりません」

 

諦めているようにも見えた。だがその眼は死んでなかった。

 

「しかしこれはチャンスです。ガルドが武器にひどく執着している今、彼の優先事項はこちらの攻撃への防御ではなく、武器の略奪を防ぐことだけでしょう」

 

「…それは分かるけど肝心の攻撃が通らないんじゃ何をしても」

 

「そォいうことか。それなら僅かだが勝機がある」

 

『こちら』の攻撃が通らないから奴は屠れない。なら目標は奴の殺害ではなく

 

「こちらの攻撃が通らなくても、バランスを崩せばあの巨体は倒れます。それに通らないのは『こちら』の攻撃だけです。高所からの落下や意図しない落下物はその限りではありません」

 

これで4人のプランが完成した。

 

ジン=ラッセル 退路の確保

久遠飛鳥    ガルドの注意を引く囮

一方通行    死角からの激しいアタック

春日部耀    建物等への攻撃による落下物の誘発、指定武具の確保

 

「なぜですか僕だってギフトを持っています。皆さんと戦います」

 

ジンは退路の確保という役に納得がいかないようだ。

 

「ならお前は他の役を俺達より十全にこなせるのか?」

 

これにはジンも言葉が詰まる。人類最高規模のギフト保持者と自分とではあまりに開きがあった。

 

「ただこの作戦だと春日部さんの攻撃をあなたも躱さないといけないわよ」

 

多数の瓦礫の回避(というか防御)これは彼の十八番といっても過言ではない。

 

「そっちは心配すんな。ただ奴の居場所が掴めねェのが問題だ」

 

彼は自分への殺気についてはかなり敏感なほうだ。その彼に悟らせないとは場所探しにも骨を折りそうだ。うんざりと考えていると、隣にいたはずの春日部が天高く上昇していた。

 

彼女の眼は人の眼をしていなかった。生命の目録に記憶されている友達の眼を借り、普段ならぼやけて見える距離にいるガルドをはっきりと視認した。

 

「見えた。あの建物の中」

 

空から指をさす方向には確かに大きな建物がある。距離は100Mと少しといったところだろうか、

 

「じゃあ早速行こうかしら。罪深い虎の退治に」

 

三人が躊躇無く足を進めた。しかし彼には一方通行(アクセラレータ)にはどうにも引っかかることがあった。

 

(奴はこちらを警戒していないのか?)

 

「なァ春日部。ガルドはどこにどんなふうにいた?」

 

「えっと建物の三階で脱力して立っているみたいな感じだった」

 

そうかと呟きもう一度考えたが答えは出なかった。

 

上から見下ろせるガルドなら容易にこちらの動きを窺えたはずだ。

 

しかしそれをしなかった。こちらの察知を恐れたのだろうか?

 

「ではみなさん僕はここに残ります。皆さんも危険を冒さず武器を入手したら一旦撤収してください」

 

ガルド邸に着きジンとは別れた。

 

今は建物の二階。ここで三人も別れる。

 

「ジン君はああ言ってたけど3人で決着をつけましょう」

 

「うん。あの子はガルドと戦って勝てる確率はほとんどないと思う」

 

「それなら誰もしくじるんじゃねェぞ」

 

三人で意志を確定し各々の持ち場へ向かった。

 

彼はガルドがいる部屋の隣にいた。隣といってもドアはなく厚さ15cm程の壁があるだけだ。しかしこの程度能力を使う彼には障害物にもならない。

 

ここで彼は自分の役割の最終確認をしていた。

 

ガルドは殺す。仲間に傷一つつけさせない。

 

彼が昔に犯した罪はどう足掻いても、帳消しにはならない。ならこの世界でせめての罪滅ぼし。害は駆逐し、他は救う。単純であり難しい目標。

 

(それがどうした。できるできないじゃねェこれは義務なんだよ)

 

決意を決め作戦は決行された。

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAA」

 

「薄汚い虎止まりなさい」

 

久遠がドアを開けた瞬間雄叫び上げ突進した一匹の虎。

 

今は音がやんだが彼女の拘束は長くは持たないはずだ。

 

瞬時に判断し、チョーカーのスイッチをオンにする。

 

床を蹴り前に進む。だが目の前の光景は予定とは違っていた。

 

部屋の後ろには確かに剣が刺さっている。

 

しかしそれを無視して久遠に飛びつこうとした。

 

(こいつ武器に見向きもしねェのか!?)

 

今回久遠を囮にしたのは言うまでもなく、このゲームに適さないギフトだったからだ。

 

しかし采配ミスだった。彼女の肉体は虎に掴まれるだけで四散する脆い肉体だ。

 

彼は自身のギフトの効果を信じ、久遠と虎の間に飛び込んだ。

 

「GYAAAAAAAA」

 

やはり久遠のギフトの効果はすぐに切れて虎が突撃してくる。

 

敵のタックルを諸に浴びる。普段の彼の能力が発動すれば、虎は全身の骨を砕き即死だっただろう。

 

だがこのゲームでは反射が正常に発動しなかった。

 

彼の能力は自身の体を絶対に守る。

 

このゲームで彼の能力はガルドに絶対に通らない。

 

その二つの絶対の掟どうしの衝突は相殺で終わった。

 

ガルドの巨体は彼を傷つけることができず見えない壁に当たるようになった。

 

しかし反射は発動せずガルドの体は五体満足のままである。

 

両者の攻防は決定打がなく拮抗しているように見える。だが一方通行(アクセラレータ)のほうが明らかに不利に戦闘は続けられた。制限時間の枷によって。

 

(マスター、電力の消費が異様に早いです。このままでは!)

 

脳内にテレパシーのようにコッペリアの警告が発せられる。

 

「チッこのままじゃジリ貧だあの剣がねェと意味がない。久遠、部屋の入口まで下がれ!」

 

 

 

 

今の自分には何もできないことぐらいは彼女にも理解ができた。

 

大人しく彼に従って下がるとそこにはこの建物の入り口にいるはずのジンがいた。

 

「ジン君なんでここにいるの!」

 

「僕だって戦える。少しでも戦力があったほうがいいはずだ」

 

彼女には今の戦闘で一つ分かった。強者は弱い味方がいることで全力を発揮できないと。

 

仲間にギフトを使うのは乗り気ではなかったが、止むを得ない。

 

「ジン君全速力でこの建物から脱出しなさい」

 

どんなに強い意志があっても彼女の支配からは逃れられない。

 

しかしジンはある意味では彼女のギフトに背いたことになるのかもしれない。

 

ジン一人を逃がしたつもりの彼女を突然抱き上げ一目散で走り出したのだから。

 

「ちょっジン君下しなさい止まって」

 

久遠飛鳥とジン=ラッセルは戦闘から脱出した。

 

 

 

 

久遠を下がらせた彼はタイミングを伺っていた。

 

剣を奪うチャンスを。

 

だが同時に思想は違った謎に走っていた。

 

(こいつこんな強力な一撃だったか?)

 

明らかに昨日とは威力が違う。そして狂ったように腕を上げ振り下ろす。

 

先ほどから攻撃は効いていないのに単調にただ攻撃する。

 

(どうなっていやがる、まるで理性がねェ野獣みたいに…『野獣』?)

 

昨日と違う点、紳士然とした姿ではなくただの虎。人の面影は見る影もなかった。

 

(こいつ人の全てを失ってただの虎になったのか?)

 

この答えは50点だった。なぜならガルドは人を失い、鬼という一つの種族手に入れたのだから。

 

ただの虎なら彼にも勝ち目があった。虎になく人にあるもの、それはかなり多いが、この戦闘で重大な役目を果たすのは知能だった。

 

(自分が武器でやられることすら忘れている今なら!)

 

ガルドの猛攻は止まらないが、彼は背中から暴風を生み出した。

 

ガルドを武器との対角線上から退けるために。

 

暴風は収束され指向性のある二対の竜巻となりガルドを襲う。

 

本能的に危険だと判断したガルドは右に大きく跳んだ。ゲームにより傷つくことはないのに。

 

だが一方通行の思考はそこで停止した。剣は壁に刺さっていなかった。

 

そこまでなら春日部が作戦通り剣を手に入れたのだろうと考える。

 

だが剣を持って真っ直ぐこちらに向かっていたら?

 

きっとガルドが彼に猛攻を繰り出している背後を攻撃しようとしたのだろう。

 

しかし彼女の目の前にあるのは隙だらけのガルドの背中ではなく、自分に向かってくる暴力的な竜巻。避けることも、防ぐこともできない。精錬された威力。そもそも敵の背後を討とうと突撃している春日部には、そんなことができる訳がなかった。

 

爆発にも似た轟音が当たり一体に響き渡った。

 

彼には信じられなかった。今は粉塵が舞い視界が悪い。だから彼は願った。目の前に春日部がいないでくれと、叶わないと脳では理解しながら。

 

数秒して良好になった視界の先には。床に血をぶちまけ、腹に穴を穿った少女が剣とともに横たわっていた。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
現在活動報告でアンケートを実施しています。
内容は視点についてです。
5月16日金曜の23時59分までやってるので良かったら是非!


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第九話 ガルド戦中盤

長らくお待たせしました。
春日部耀の重症を受けたところからのスタートです。


またやってしまったのか?

 

呆然と彼はそこに立つ。ここが戦場の真ん中だということも忘れ。

 

何かの間違い・・・そんな現実逃避は目の前の少女から発せられる情報が許さない。

 

赤い液体から出る鉄の異臭然り、床を少しずつ侵食する生々しい光景然り。

 

彼は昨日、妹達の一人と交わした周りを守るという約束は彼の手でことごとく破壊された。

 

頭の中には悲しみが湧いてこない、それどころかショックもない。

 

そこにあるのは一つの自己嫌悪のみ。

 

「…ソヵ    クソガァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアア   」

 

自己を否定し、能力を恨み、そんな自分も否定する。

 

否定を否定で上書きする。今の彼の精神は正常とは対極の位置にいた。

 

どっぷりと精神が黒に染まっていく______

 

その結果起きるのは能力の暴走だった。

 

能力使用モードのままの彼の暴走はここにいる人間には止められない。

 

まるで生きた鎌鼬が生成されたようだ。甲高い音を立て窓ガラスは割れ、棚の中の本は埃の様に舞い上がる。

 

床には所々に亀裂が入り、建物からも異様な音が鳴る。

 

だがこの場には一体彼を止めることができる『もの』が存在した。

 

『落ち着いてくださいマスター!そこの少女はまだ息があります。恩恵を止めてください』

 

その声は彼には伝わらない。精神が黒に閉ざされた彼に外部からの情報は通らない。無論目の前の傷だらけの少女も。

 

仕方ありません。その言葉を最後に暴風は嘘のように止んだ。

 

それだけでない。彼は立っていることもままならず、床に崩れ落ちる。

 

『…情ケナキ…主人……電…切レル…糸セズ…待ツベキ』

 

今の彼は脳内に響く言語を理解することもできない。

 

以前に鉛玉を頭にブチ込まれた影響、それは彼から言語能力と能力の基盤となる演算能力を失わせた。

 

そんな彼を日常で暮せるようにしたのが首の周辺にあるチョーカーだ。

 

「アァァxtb…ヒキ…krガァア」

 

しかし今の彼は歩くことも話すことも、勿論能力を使うことすらできない。つまり代理演算の恩恵が正常に機能していなかった。

 

だがその状況は長く続かなかった。

 

『すいませんマスター、無理やり停止させたら悪影響が』

 

今度はしっかりとコッペリアの声が聞こえ、理解できた。

 

「お前…コイツに何をしやがった?」

 

首を指で突き、いつも以上にドスの聞いた声で尋ねる。

 

『今申し上げたように強制終了させただけですよ。』

 

謝るというには全く悪気を感じさせない謝罪。

 

「チッ、あの餓鬼みてェな真似すんじァねェよ」

 

打ち止めは妹達の最上位個体としてネットワークを束ね、好きなように操れた。そのため彼から能力を奪う芸当も可能だった。

 

しかしコッペリアにはネットワークに干渉する術は持ち合わせていなかった。

 

だが彼女は今、電極の電源装置とでもいうべき存在だ。電気の流れを断ち切り一時的に能力を取り上げることができた。

 

使用中の電化製品のコンセントを引き抜くのと同じ行為だ。

 

『しかしあのままでは春日部さんがさらに危険に晒されてましたよ?』

 

言うまでもなくボロボロだった春日部は先ほどよりもまた生傷ができていた。

 

『後悔は後にして下さい。それよりあの虎を消してゲームを・・・逃げられましたか』

 

見渡してもガルドの姿は視認できなかった。あちこちの窓が割れているため逃走は容易だったのだろう。

 

『ック!ゲームが終わるまで治療もできません、このままでは彼女は出血で』

 

言っている今も彼女の体からは血が出続けていた。

 

どうしますかマスターと尋ねようとしていたコッペリアだが、彼の顔を見て行動が変わった。

 

『何か策がおありで?』

 

「あァ誰一人殺してたまるか…コイツは俺が何とかする」

 

先ほどの絶望に塗れた顔ではなく、真剣に現状と目を合わせていた。

 

「能力を使うが・・・今度は邪魔すんじャねェぞ」

 

第三永久機関は確信した、このゲームの勝利を。

 

『はい!ご存分に』

 

ピッという現代的な電子音と共に学園都市最強の能力が目覚める。

 

しかし今度は殺戮のためではない。今までも数回行った誰かを助けるという行為のために。

 

「悪りィなァ…虎が誰に喧嘩うったかァ分かってんのかァ」

 

今までの自分への違和感、彼は打ち止めをも手にかけた自分の能力を恐れていた。

 

だがそれでは守るなんて行為が成立するわけもない。

 

彼は乗り越えた自分の能力への恐怖を。

 

「さァ全部守ってやる、それを邪魔すンなら獣だろうが天使だろうが神様だってブッコロシテやる」

 

彼の覚醒を終えてゲームは終盤を迎える___________

 




あっれれ~おっかしいぞ~ガルド戦終わるはずだったのにな~
本当にすいません全然話が出てきませんでした。
近いうちに次話出します。


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第十話 ガルド戦終盤

ダラダラと書いて長くなってしまいました
読みにくかったらすいません・・・
感想良ければ書いてください


服の上からでも分かる痛々しい傷の数々を見下ろし、改めて自分の過ちの重さを感じる。

 

「さてサクッとクリアしてやるか」

 

誰に言うわけでもなく、開始の合図を上げる。

 

『マスター具体的にはどういった作戦で?』

 

敵のガルドも他の味方も傍にいない以上できることは限られてしまう。

 

「とにかくコイツを安全な場所に連れて行く、久遠は…あいつどこに行きやがった?」

 

後ろに下がれと言っておいたが、部屋の中はおろか建物の中は物音もしない。

 

『リーダーの子と合流したのでは?』

 

正確にはジンを逃がそうとギフトを使って自分も巻き込まれてしまったのだが、二人はそれを知らない。

 

「チッ、こんな時に援軍0かよ」

 

しかしこのまま動かないのではゲームをクリアすることはできない。

 

「とりあえず春日部とその剣を持って二人と合流するとするか」

 

華奢な少女を両手で抱え、開いている指で剣を挟む。

 

「案外重いじゃねェかコイツ」

 

『…女性を抱えて一言目にそれはいささか失礼ではないでしょうか』

 

呆れたような声音で注意する様子は人間と大差なかった。

 

というか流石の一方通行(アクセラレータ)でもそれぐらいのマナーは理解しているつもりだ。

 

「違ェよ、重いってのはこの剣の方だ」

 

銃に関してはそれなりの知識がある彼だが、剣や刀はサッパリだった。

 

しかし手元にある剣は、そんな彼から見ても大きさと不釣合いな重量を持っていた。

 

『これはギフトですね。使用者によって性質が変わる類の』

 

持ち手が限られる剣、ゲームの妨害のつもりだろうか。

 

『これはチャンスですよ!マスターとは相性が悪いようですが、残りの二人に適性があるかもしれません』

 

「これからの方針はリーダークンとの合流に決定したみてェだな」

 

床を蹴り、一歩で先ほどいた位置から100mほど前に進み停止する。

 

言うまでもないがそこは辺りに足を着く場がない空中だ。

 

「見つけた」

 

空中から俯瞰したおかげで思ったよりも早く二人を発見した。

 

「チッ、ガルドの方は隠れてんのか遠くまで行ったのか見えねェな」

 

あわよくば敵の位置も確認するつもりだったが、重症者を抱えて索敵をするのはあまりに無謀。

 

ガルドの方は諦めて二人のもとに降下を始めた。

 

 

 

 

「飛鳥さん二人のもとに戻りましょう。今ならまだ間に合います」

 

飛鳥のギフトにより無意識とはいえ、戦場からダッシュで逃げたというのは彼を傷つけるに値したらしい。

 

「聞いてジン君!今のガルドは獣も同然、私たちが行ったら二人の足手まといになるのよ」

 

彼女だって悔しかった、初ゲームを皆と協力してクリアしたかった。

 

しかしそんな夢物語はガルドと相対してすぐに壊れた。

 

自らのギフトは10秒と待たずに効果が切れ、彼が飛び出してこなかったら今頃あの爪で肉薄されていただろう。

 

だが彼女が最も悔しかったのはそこではない。

 

自分を守ってくれた彼が発した言葉「下がれ」の一言。

 

そこで確信した、自分は邪魔になってしまうと。

 

「で、でも」

 

ジンは引き下がらない。何やら昨日コソコソと十六夜と何かしていると思ったが、何か吹き込まれでもしたのだろうか。

 

「あなただって分かるでしょ。誰も傷つかずにクリアするのが方針でしょ」

 

彼女だって本当は戦いたい。白髪の彼にかけてもらいたかった言葉は手伝ってくれだった。

 

しかし物事は二人が思っているより早くさらに悪く進んでいた。

 

 

 

 

「おい」

 

声をかけると、なんで上にという風にキョトンと彼を見ていたが、その視線はすぐに傷ついた春日部に向けられた。

 

「春日部さん!」

 

「いったい何があったの?」

 

二人とも慌てた様子でこちらを窺うが、今は答える余裕がない。

 

「手当は俺がやる。二人はこの剣で奴を倒してくれ」

 

傷だらけの少女を手早く床に寝かせ、剣を向けて注文をする。

 

「頼む、お前らしかいないんだ」

 

 

 

 

目の前の現状に彼女は理解が追い付かなかった。

 

しかし心はひどく冷静で、怒りを抱いていた。

 

「分かったわ、すぐに終わらせる。それまで春日部さんを頼んだわよ」

 

ガルドは自らの手で葬る、葬らなけれべならない。それが戦場から逃げてしまった罪滅ぼしだった。

 

「僕も協力します、囮ぐらいはできるでしょう」

 

まだあちらの世界では小学生の高学年といった年頃なのに、ジンは大人も躊躇うほどの覚悟を持っていた。

 

「行きましょう、友達を傷つけた代償は大きいわよ虎風情が!」

 

2:1のハンティングが今始まった。

 

 

 

森の中をジンと二人でゆっくりと警戒しながら進む。

 

剣は彼女が持ち、ジンは液体の入ったバケツを持っている。

 

最初は剣は僕が持ちますっと言っていたジンだが、いざ持とうとするとあまりの重さに持ち上げるすらできなかった。

 

しかし彼女が持つと剣の性質は打って変わり、何も持っていないと思うほど軽く、さらにもう一つ特殊な恩恵が使えるようになったのだ。

 

二人の作戦は先にガルドを見つけてからの奇襲から成り立っていた。

 

そのためガルドに先に発見されるとこの作戦は成り立たない。

 

頭上から降ってくる虎により作戦は変更が余儀なくされた。

 

「ッ! ジン君避けて!」

 

その爪で肉を切り裂かんと向けている姿からは危険だというのが容易に感じられた。

 

このままではジンが殺されてしまう、すぐに理解した彼女はギフトを使用した。

 

「ジン君、前方に走って頭を守りなさい」

 

言うや否やすぐにジンは命じられたとおりに動く。

 

それの確認も惜しんで、彼女も大きく後ろに跳ぶ。

 

予想より上をいく獣の攻撃は、地面に小さなクレーターを作る。

 

「これほどなの・・・」

 

この威力には彼女も正気に戻ったジンも戦慄を覚える。

 

「一方通行さんの言った通り、その剣に臆することなく突っ込んできますね」

 

「ええ、そうね・・・」

 

自分を殺すことのできる唯一の武器に恐れを抱かないのは、少しばかり引っかかりを感じるが、今はどうにかして攻撃を避けるかに全神経を注いで戦う。

 

「せめてワンテンポ彼の注意をひければ・・・」

 

何かないか、何かないかと必死に考える。しかしその思考が油断につながった。

 

「飛鳥さん!!!」

 

気が付いた時には獣は目の前で拳を振り上げていた。

 

 

 

『マスター急いでください、この出血量では一瞬も命取りになります』

 

コッペリアから見ても春日部はなぜ生きているのか不思議に思うほどの状態だ。

 

『しかしマスターは一体何ができるのですか?』

 

これは一方通行を愚弄している訳でなく、どう見ても戦闘系ギフトの彼に医療の術が無いのは明白だからだ。

 

「お前も言っただろ一刻の余裕もこいつにはねェンだよ」

 

言いながら春日部の傷の大まかな位置を確認する。

 

「右側の腹部と左のわき腹が一番大きな傷だな」

 

すまねえェ一言謝り、自分で言った傷に両手を近づける

 

『どうするの______________

 

ですかの声は出なかった。

 

一方通行(アクセラレータ)は近づけた指を勢いよく彼女の傷口に突っ込んだのだ。

 

『なっ!!』

 

あまりの衝撃にコッペリアも声が出せずにいる。

 

このままではそこらじゅうの傷口から彼の指の圧迫によりさらに多い血を流すだろう。

 

止めなければなない、先ほどの様に強制停止による能力の停止を試みる。

 

「・・・ま・・て・・よく見ろ」

 

力の籠ってない彼の声から、何事だと現状に目を向ける。

 

『血が・・・出ていない?』

 

「血の向きを操作している。腹部は動脈を、わき腹は静脈を一滴も零してやるものか」

 

『マスターの恩恵は一体なにが・・・」

 

先ほどの戦闘からコッペリアは自らのマスターの、一方通行(いっぽうつうこう)の人類としては破格と言ってよい、そう思えるほどの恩恵を宿しているとハッキリ分かった。

 

しかし今目の前で、同じ恩恵は治療という全く違うベクトルの最高峰のスペックを発揮している。

 

彼のギフトの本質が掴めなかった。

 

「おい、おい聞いてんのかコッペリア」

 

『ハッハイどうしました』

 

あまりの驚きに意識を自分の中に閉じ込めていたため、声をかけられ素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「どうもこうもねェよ、お前のギフト使いながら俺の能力は後どンくらい使えんだ」

 

言われて初めて気付いた、先の能力使用とは比べ物にならないほどの電力を使用している。

 

『・・・後3分程です』

 

 

 

3分これを聞きやはりと思う。

 

今までのゆうに2倍を超える量の演算が求められている。

 

それはひとえに、二つの向きの向き操作だけが原因ではない。

 

今やっていることは血管の穴に透明なホースを作っているようなもの。

 

一滴も零さない、この言葉は比喩などでなく本当に実現させようとしている。

 

反射は相手の攻撃をそのまま返すだけで、演算の量は意識することもないぐらいだ。

 

単に向きを操作するだけなら、それに変数を加えるだけで可能だ。

 

しかし今それをやると、大きな二つの傷からの出血は防げるが、血液に加えた力はそのまま無数の傷口から勢いよく噴出するだけだ。

 

そのため今やらなければならないのは、触れた血の量から最適な角度で、圧力で変数に入力する。

 

それを常時、さらに二つ傷口から操作するために並列に考えなければならない。

 

昔の彼でも頭を抱える量の操作だ。首の機器にも、妹達にも相応の負荷がかかるのは予想できた。

 

「足りねェくそッどうすりゃいい・・・」

 

何か突破口を考えなければならない、しかし少しでも思考を別に割けば能力の維持は不可能になる。

 

そんな時コッペリアは、第三永久機関として、元人類最終試練として決意していた。

 

人類の、彼の能力を最後まで視ると。

 

『マスター私に制限時間を延ばす方法があります。』

 

 

 

コッペリアからの突然のカミングアウトから危うく能力を停止させるところだった。

 

「・・・な・に?」

 

言語能力も代理演算に依存しているせいで、能力に全てのキャパシティを割くと言葉が片言になるが彼女の言ったことは理解できた。

 

『白夜叉様も言っていた通り私がカードから出て顕現すれば、供給できる量は飛躍的に上昇します』

 

「・・・・」

 

確かにコッペリアはこちらに出せば充電の残量を気にする必要はなくなる。しかしそれは

 

「あの・・あ・と・・白夜叉との契約で・・戦闘中、ゲーム中は・・お前を外に出さないと」

 

第三永久機関として異常なほどのエネルギーを生み出す彼女だが、その分決して彼女自体は強くも、丈夫でもない。

 

『構いません、私の意志で出るんです。白夜叉様も気にし過ぎなんですよ』

 

後半は不貞腐れたように言い放ったが、前半のは彼女の決意なのだろう。

 

『あと1分程です。決めてください。』

 

「・・・頼む・・お前の力を貸してくれ」

 

彼の目の前にあまりに緻密で綺麗な人形が現れる。

 

『仰せのままに』

 

人造の中で最高峰の人形が

 

 

 

「どのくらい持ちそうだ?」

 

先ほどとは違い言葉はしっかりと出て来る。何でもこの機器の欠陥らしく、充分な電力があれば起きないようだ。

 

『良かった。私の供給電力の方が消費電力を上回っています』

 

「なら時間は・・・」

 

『ハイ。時間を気にせず使っていただいて結構ですよ』

 

何とか勝機が見えてきた。心に少しの余裕ができたその時

 

ゴォォォン あたりに轟音が鳴り響く。

 

「チッ、奇襲には失敗したのかよ」

 

『マスター気持ちは分かりますが参戦は不可能ですよ』

 

今の春日部を放置することなど出来ないし、両立すると演算が追い付かない。

 

ゴォォォン また同じ音が鳴る。

 

「このままだと、あいつらがくたばるンのも」

 

絶望の雰囲気が飲み込むほんの手前に、打破できる可能性が目覚める。

 

 

 

体中が痛い。いっそ神経が切れてほしい、そう思えるほどに体全体が痛い。

 

そんな中でも意識の奥深くからの音が彼女に届いた。

 

聞き覚えのある声。昨日であったばかりで彼女は少し怖がっていた主の声だった。

 

しかし不思議なことに今聞こえてくるのは、今までと違いひどく弱弱しく聞こえた。

 

彼女自身も衰弱しているというのに。

 

意識を取り戻せば痛みはさらに増すだろう。

 

だが現状が知りたかった。今何が起きているのかを。

 

 

 

クッッッ

 

苦悶の声 と共に春日部耀の体は僅かに動く。

 

彼は急いで血流の変数を操作する。

 

「私は一体・・・あなたは」

 

目を覚ました春日部は空を仰ぎ視界に入った存在に驚いているようだった。

 

「ゲームはどうなったの」

 

上体を起こそうとするが無理な動きで傷口から血が垂れる。

 

「無理すんじャねェまだゲーム終わってねェよ」

 

一方通行(アクセラレータ)だって気まずかった傷つけた少女が目の前で目が覚めることは、しかし

 

「今久遠とリーダークンがあの剣を持って戦っている」

 

飛鳥とジンも確かに心配なはずだ。今もゴォォォンと音が鳴りやまない。

 

「あ、あなたが看病してくれていたの?」

 

顔をこちらに向けるが、彼は今までにない焦りを覚えていた。

 

「そんなところだが、やり方は最悪だぞ」

 

腹部に感じる違和感の正体にも気付いるのだろう。

 

だが彼女は首横にを振り

 

「ううん。私は即死クラスの重症だったはずだもん・・・ありがとう」

 

顔を少し赤くして照れているのだろうが感謝する相手を間違えている。

 

「その傷はもとはといえば・・・俺が・・・・

 

「私が悪いのコミュニケーションを取らなかったから」

 

有無を言わせたくない気持ちは分かる、今は怪我人の気持ちを汲み取るべきか。

 

ゴォォォン また同じ音が鳴る。だが音がこちらに近づいている。

 

『マスターこのままでは二人が』

 

コッペリアの声でゲームに意識が移される。

 

「分かっている・・・だが」

 

そこで目を春日部に向けてしまった、これは失態だったのだろう。

 

勘のいい彼女は自分が原因で攻撃できないことを悟ってしまったのだから。

 

「私に作戦がある」

 

 

 

 

「本当にいいのか?」

 

彼女言う作戦は間違いなくギリギリの彼女の体をさらに痛めつけるだろう。

 

「私はここで出来た友達を見殺しにしたくない」

 

決意の重さからもう何も言うことができなかった。

 

「じゃあいくよ後はよろしくね」

 

彼女の目はガルドを探したとき同様に猛禽類のものとなっていた。

 

「見つけた・・・ぐぅぅぅ」

 

彼女の昨日できた友達のギフトの風力操作。その力で久遠達がいるあたりまでの木々が力無く倒れていく。

 

「・・・・・」

 

そこで春日部は意識を失う。どこか満足げな顔だ。

 

『マスター!!』

 

春日部の力のおかげで視界に入った戦場ではガルドが腕を振り上げ久遠を殺さんとしていた。

 

「届けぇぇぇぇ」

 

背中から竜巻を生み出しガルドの腕にぶつける。

 

やはり傷つけることはできないが警戒させて一歩ひかせることはできた。

 

後は頼んだぞ心の中でバトンを二人に渡し、再び春日部の止血に力を注ぐ

 

「血管がそこらじゅうで広がってやがる・・・おいコッペリア演算処理の速度上げるぞ」

 

はいと一言言い、速度を上げたことで彼女の力も追い付かなくなった。

 

それでも数秒でも伸ばすと全力を尽くした。

 

 

 

飛鳥は覚悟した自分の最期をこの腕で粉々になるのだろうと。

 

目を瞑らず、その光景を見ていた。

 

しかし背中から吹く強風が奇跡を運んでくれた。

 

後ろにあった木々は左右に分かれて、ガルドの動きも一瞬硬直する。

 

この風には見覚えがあった、春日部さんの昨日見せてくれたギフト。

 

もう一つ戦場をかき乱す風が訪れた。次の風は暴風。

 

否竜巻と呼ばれるほどの風がガルドの腕を打つ。

 

近くにいる飛鳥にも余波は伝わってくるが、仲間がくれたチャンスを無駄にしないと構える。

 

そしてそのチャンスが来る。竜巻をを恐れたガルドが後ろに跳んだのだ。

 

「今よジン君」

 

ジン君も了解したという体で持っていたバケツの中身をガルドにかける。

 

GHHHHAAAAAAAAAという叫び声が辺りに響き渡る。

 

その液体は決して獣に効くものではなかった。

 

なぜならそれはガソリンだから。

 

もしかしたら体を汚されたのを怒っているのかもしれない。

 

「終わりよガルド=ガスパー」

 

剣を向けて宣言する。

 

ガルドもそれに応え突進してくる。

 

彼女の持つ剣、彼女が持った時にだけ発動するギフト。

 

「燃え上がれ剣よ、我に目の前の罪人を討たせたまえ」

 

ギフトの正体は業火。その炎が飛鳥のギフトの効果でさらに威力が増す。

 

「GHAAAAA」

 

「ハッッッ!!!」

 

飛鳥の一振りで木々も、草も虎も炎上しだす。ガソリンを撒いたのはこの為だ。

 

しかしその炎もガルドを倒すには至らない。契約で守られた体はそれでも傷つかない。

 

だがそれで充分なのだ。

 

「GHAAAAAAAAAAAA

 

ガルドは傷つかないにもかかわらず火のついた体を爪で引き裂く。

 

火は獣の恐れる象徴のようなものだ。

 

自我も忘れ、ひたすらに炎を払う。

 

「言ったはずよ終わりと・・・ハッッッ」

 

全力を込めた突きがガルドの腹部を突き刺す。

 

断末魔は聞こえなかった。まるで灰のように粉吹雪となり散って行った。

 

ゲーム終了だ。




ストライク・ザ・ブラッドに似たセリフに気付きましたか?
大仰なセリフって思いつかないんですよね・・・


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第十一話 キャッチボール

薬品と湿布の入り混じった臭いの部屋で彼は目を覚ました。

 

「ようやくお目覚めですか?」

 

目の前に現れた人形が心配そうな顔で覗き込んでくる。

 

「あァ、問題はねェ」

 

頭に軽く痛みが残るものの、これといった不自由は無かった。

 

「そうですか。でも今日は安静にしていてくださ…何立ち上がってるんですか!?」

 

「別に怪我もしてねェから寝ている必要はないだろ」

 

それにもう一つ確認したいこともあったのだ。

 

壁に立てかけられていた杖を腕に嵌めて、ベッドごとを区切ったカーテンを2枚(・・)開けた。

 

「コイツの体は大丈夫なのか?」

 

隣のベッドにいたのは、華奢な一人の少女。

 

「…見ての通りの重傷ですよ。意識もまだ戻っていませんし、ただ黒ウサギさんが言うには命に別状はないそうですよ」

 

そこに眠っているのは先のゲームで傷ついた春日部耀だ。

 

「マスターもあまり気に病まないでください。あの後飛鳥さんたちの活躍でゲームにも勝てたんですよ、それはあなたたち二人の貢献があったからこそです」

 

「…行くぞ逆廻達にも生存報告は必要だろ。それに」

 

今話題にしているゲームの真の悪党についても聞いておかなければならない。

 

 

 

「これはどういう状況だァ?」

 

応接間のドアを勢いよく開けたものの、眼前の光景には首を傾げることしかできなかった。

 

黒ウサギは驚き尻餅をついている。

 

逆廻十六夜は無警戒という様子で乾いた笑みを見せている。

 

そして二人の視線の先には窓ガラスを割って侵入してくる金髪美少女がいた。

 

「昔のノーネームに所属していたレティシアだ。よろしく」

 

窓を割って入って来たにしては優雅な一礼だった。

 

 

 

「つまりガルドとのゲームはレティシア様が仕掛けたものだったというのですか!?」

 

様付けはよせと笑っているものの肯定しているようだった。

 

「新ノーネームを崩壊させたかったのか?」

 

先ほどとは打って変わって真剣な顔の逆廻の問いかけ。

 

「いや、確かめたかったんだ。君たち新しい加入者の実力を」

 

逆廻に習うように真剣な表情でレティシアは答える。

 

「テストってことか、それにしては随分危険だったんじゃねェか」

 

最後に久遠とジンが勝てなければ文字通り全滅だっただろう。

 

それにはレティシアと名乗る少女もばつの悪そうな顔で

 

「そこの男が打倒魔王だなんて宣言しなければ、こちらもあそこまでしなかったさ」

 

何でも昨晩やってきた暴漢に魔王の相手を引き受けると宣言していたらしい。

 

それを聞いた黒ウサギの顔はどんどん青くなっていく。

 

「ヤハハ、それはともかく確かめたんだろ?テストの結果はどうだったんだよ」

 

どうやら逆廻はこの話題を続ける気はないようだ。

 

ふむと顎に手をかける仕草をしてから

 

「その前にそこの白い貴方に詫びよう、申し訳なかった」

 

一方通行(アクセラレータ)の方を向き頭を下げてきた。

 

「謝罪先を間違えてるぞ。俺は怪我どころかあやうく…」

 

あやうく仲間を殺すところだったのだ。

 

「そんな思いをさせてしまったことにだよ。本当にすまない」

 

気まずい空気にしたくなかったのか少女は口早に逆廻への返答をした。

 

「あの少女二人は難しいな。小さいほうの子は確かに一流のギフトだ索敵、戦闘共に優れている。ただ彼女自身戦闘経験がないのだろう、あの事故の原因はそこだ」

 

彼が重傷を与えたときのことを言っているのだろう。

 

「もう一人の子は、正直ギフトの検討もつかなかった。木々や草花を操るかと思いきや、ゲームの剣のギフトにも効果があるようだし…戦闘向けでない気はするのだがな。それと本人の経験不足も否めん」

 

「随分辛烈なご感想じゃないか。まぁ的を射ていると思うが」

 

少女の意見は逆廻も薄々感じていたことなのかもしれない。

 

「そして白い君だが、どうやらゲームの選択を誤ったようだな」

 

参ったよという体のジェスチャーを見せてくる

 

「それは活躍しすぎてか?それともあまりに残念すぎてか?」

 

苦笑いという表現が最も正しいと思える顔で逆廻は問いかける。

 

それに対してどちらでもないと頭を横に振る。

 

「単純に私には理解できなかったんだよ君の能力が」

 

「出し惜しみしていた記憶はねェんだがな」

 

それに対しも横に振る

 

「そういう意味じゃない、君のギフトが万能すぎるのだよ」

 

そうだろうかと彼は首を傾げる、彼の能力は触れたものの向き(ベクトル)を操るだけで使い道は限られていると言える万能にはほど遠いものだ。

 

そんな彼を見て少女は、では例を挙げようと言い出した。

 

「始めはガルドの突進から身を守った、次に背中から二本の竜巻を生み出した、さらには傷ついた少女の手当までやってのけた。これが一つのギフトではあまりの大盤振る舞いだ」

 

指を突き出して説明している彼女を見て彼も何となく納得した、理屈が分からなければ能力の関連性は全く見えてこないのだと。

 

「ンなもん簡単に手の内晒す訳ねェだろォが」

 

バレて困ることもないが一から説明するのも億劫というものだ。

 

「つまり君たちのギフトは複雑すぎるのだよ。これでは評価のしようがない」

 

また先ほどのように参ったのポーズをとる。

 

彼はこの話はこれで終わりだと席を立とうとした、隣のバカの余計な一言が無ければ。

 

「ヤハハ何難しいこと考えてんだよ」

 

逆廻がレティシアに向かって笑いながら話しかけていたのだ。

 

「理解できなければ試せばいい、なんで分かりませんでした締めようとしてるんだよ」

 

この場面での試すとはゲームをしようぜの意訳だろう。

 

「ほう、その考えはなかった」

 

手をポンと叩き首肯して見せた。

 

このままでは巻き込まれると直感した彼はすぐさま退室しようとするも

 

「お前も参加に決まってんだろ」

 

逆廻に先手を打たれていた。何でだと目で問いかけるが

 

「さっきの話でお前のギフトに興味持ったからだよ」

 

あまりに自分勝手な意見で反論する気もわかなかった。

 

 

 

 

ギフトゲーム名「メネラオスとパリスの一騎打ち」

 

ゲームマスター レティシア=ドラクレア

 

プレイヤー 逆廻十六夜

      一方通行

 

クリア方法 槍で相手を討つ

 

敗北条件 相手からの槍を受け止められないまたは投げれない

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                                   印

 

 

 

「トロイア戦争関連か・・・ふ~んゲームは単純な力比べでいいんじゃないか」

 

要約すると槍を使って三角キャッチボールをするということらしい。

 

「順番は今いる立ち位置で構わないな?」

 

異論がないのを確認した少女は翼を出し空中に飛んだ。

 

箱庭の吸血鬼は空まで飛べるのかと呑気な声が聞こてくる。

 

因みに順番はレティシア→一方通行→逆廻十六夜という一周で行われる。

 

「ジャッジは黒ウサギが行うので不正はできませんよ!」

 

無駄に元気な声が開始の合図だった。

 

 

 

 

上空から見た景色は彼女がいた二年前からは想像もできない荒地になっていた。

 

本当はノーネームの解散させるように言いに来たのだがなと心の中で思う。

 

しかし伝えることができなかった。言い淀んでしまったのだ。

 

彼ら彼女らがコミュニティを再建できるではという僅かな希望に。

 

自分でも無責任だと思っている。ギフトを持っているとはいえ、全く関係ない子供を自分たちの尻拭いに利用しようとしているようなものだ。

 

「難しく考えるな・・・か」

 

もう一度下を見ると軽薄な笑みを一人が向け、気だるそうな顔を一人が向ける。

 

それを見ているとこれからゲームだというのに、考え事をしている自分がバカにしか思えない。

 

「ではいくぞ」

 

今出せる全力を槍に乗せ、白い少年に放った。

 

 

 

「あァー何でこんなことやんなきゃならねェんだよ」

 

やる気の無さを体全体を使って表現するもゲームは始まったらしく、少女が投げた槍は重力も相まって尋常でない速度で落ちてきた。

 

「並みの空力使いよりかはやるじゃねェか」

 

しかし残念ながら彼の予測の範囲内であった。

 

右手を前にかざし、左手で電極のスイッチを押す。

 

こうなると彼は槍の雨が降ろうとも気にせず生活できる。自分に向かってくるそれはハエと同義だ。

 

「ほら・・・パスだ受け取れ」

 

右側にいる逆廻に声をかける。

 

彼の行った行動は目の前まで来た槍に、かざしていた右手で払っただけだ。

 

右手が槍に触れることで下方向に掛けられた運動方向を逆廻がいる右方向に変換された。

 

「さァてどうする逆廻」

 

気だるいといいつつも彼は逆廻十六夜という男のギフトにだけは興味が向けられていた。

 

 

 

「何だよそれ面白れーじゃねえか」

 

一方通行から回ってきた槍は少女が放ったのと全く同じ速度で横向き(・・・)で向かってきた。

 

(ただ力を加えるだけじゃこうはいかない。まるで理解できねえじゃねえかその恩恵(ギフト)

 

一方通行と十六夜はある種同じ狙いでゲームに望んでいた。

 

相手の恩恵(ギフト)のレベルを見極めるその一点で。

 

「ヤハハ考えるのは後回しだ、あんな面白いのを見せられたんだからな応えなきゃ不義理ってもんだ」

 

そう言いながら重心を下げ体を捻る。

 

一方通行(アクセラレータ)から飛来してきた槍は業物と見えるが、本来想定される向きとは明らか異なって力を加えている。そのためだろう柄の部分と剣先は負荷に耐えられず折れてしまい、槍全体も三日月のように湾曲しかけている。

 

掴もうと思えば掴める。だが

 

「それじゃあ面白くない」

 

一方通行(アクセラレータ)が魅せたのは、槍に触れただけで軌道を曲げるという行為。

 

ならば彼とて同様の現象を魅せるべき、その考えに至り実行する。

 

「オラァァァ」

 

掛け声とともに捻っていた体を回し、蹴り(・・)に力を収縮させる。

 

槍と十六夜の足が拮抗するのも一瞬、即座に槍の勢いは衰え、上方向に第三宇宙速度で駆け出した。

 

既に槍には原型は無く球状で吸血鬼のもとに帰っていった。

 

 

 

天高くから観察を続けていたレティシアは彼らの出鱈目加減に驚愕を通り越し安堵を覚えていた。

 

これほどの力があれば有象無象の魔王など蹴散らせてしまうだろう。

 

いや、もしかすればこのコミュニティを崩壊に追い込んだ魔王さへも。

 

そんな思考を巡っている今も十六夜の槍は速度を落とさず、向かってくる。

 

しかし文字通り全力で投擲した彼女には受け止めることはおろか、避けることもままならない。

 

否、今の彼女では万全の状態でも受け止めることは不可能だろう。

 

フッと彼女の口角が自然と上がる。このままでは十六夜が投げた槍が体を潰し絶命するだろう。

 

だがもう十分だった、このゲームで彼女の命と引き換えにコミュニティ’    ’の復興への希望を示したのだから。

 

「冥土の土産には十分過ぎるくらいだよ」

 



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第十二話 衝突とその先

1巻の部分は今回を含めて4話で終了します。
具体的にペルセウスとの衝突(今回)、ルイオスとの会合、
ペルセウス戦、後日談といった感じで書いていきます。
今後も応援お願いします。



「いけない!」

 

レティシアの様子を見て、彼女の様態が悪いことは明らかだ。

 

それどころか悪化は顕著で恩恵、霊格の摩耗の域に達していた。

 

そこまで想像したところで黒ウサギは躊躇いを感じていた。

 

仲間を疑うことが仲間への最大の裏切りだとよく知っていたがために。

 

その短い葛藤が生死を分けた。

 

レティシアを助ようとする黒ウサギの跳躍が、十六夜の蹴りにワンテンポ遅れてしまっていた。

 

十六夜の全力と黒ウサギの全力は速度という一面で言えば、ほぼ同等。

 

理論的に言えばこれでは十六夜が飛ばした槍が先に到達するだろう。

 

しかし上空に向け上昇する槍はすでに原型を失い、風の抵抗を受けやすく僅かに減速していた。

 

そのため黒ウサギは絶望的に間に合ってしまった。

 

文字通り自らを犠牲にする形で。

 

 

 

突き飛ばされた。その事実を体全体で受けた衝撃と空中での不安定な体制が物語る。

 

しかしなぜ?彼女がその思考に埋もれる前に、分かりやすい形で答えが提示された。

 

髪に、顔に、腕に、服についたそれ。

 

それは冷たいという感覚であり、ドロッとした感触、いやそんなものが無くても分かる。鼻腔をく

 

すぐる鉄の匂いは吸血鬼にとって最愛の液体なのだから。

 

顔を引き攣らせ、今にも泣きそうな表情で頭上を見上げる。

 

彼女の目に映るのは、槍の破片を深々と左肩に食い込ませた同志の姿。

 

どうやら本体の部分は躱したようだが、そんなものは何の足しにもならない。

 

「く・・ろうさ・ぎ?・・・・黒ウサギッッ!!」

 

幼い容姿の吸血鬼の叫びは月をバックに幻想的に散っていった。

 

 

 

「出血は止まったが、派手にやられっちまったな」

 

そんな軽口をうそぶくのも憚られる様態の訳だが、黒ウサギが求めるのは心配されることではない

 

事を十六夜は知っている。

 

「申し訳ありません、ご迷惑をかけて」

 

「全くだ、お陰で学ランの片腕を止血に使っちまった」

 

口調とは裏腹に黒ウサギの手当ては大部分が十六夜の尽力によるものだ。

 

「私が悪い、私が本当のことを隠していたから」

 

そんな中、空気を読まずに自責の念を吐露する声。

 

「レティシア様は悪くありません。黒ウサギの腑抜けが招いた事故です」

 

そこに怪我人がフォローする。

 

そんな悪循環が出来つつあったが、しかしそれは無粋な横槍で掻き消される。

 

 

 

「今夜は随分客が多いじゃねェか」

 

その声にハッと振り向く黒ウサギとレティシア、既に気付いていたのか十六夜だけは正確に敵のい

 

る空中をゆっくりと見渡す。

 

「何者だ!コミュニティの敷地を無断で徘徊する恥晒しが、名を名乗れ」

 

今まで見せなかった怒気を全身から湧き出し、敵に殺意を向ける。

 

「名無しが何様・・・いや所有物のお前こそ何様だ吸血鬼」

 

冷静に観察すると、お客様は皆レティシアに敵意を向け他は雑草のように気にしていない。

 

そしてレティシアはこの声に僅かだが心当たりがあった。

 

「まさかお前たちは・・・」

 

「如何にも誇り高きペルセウスのコミュニティだ」

 

十六夜も一方通行も詳しいことは一つも知らない。しかし目の前の相手がレティシアが現在いるコ

 

ミュニティなのだろうと容易に推測できる

 

ならばレティシアをすぐに差し出し、お引取り願うのが定石のだろう。

 

しかし

 

「そっちの事情に律儀に付き合うほど今日の俺は寛容じゃねぇぞ」

 

十六夜からしてみれば、よく理性に手綱を引かせたと感心するほどだ。吸血鬼の来客に、2度の仲

 

間の負傷、そして新たに殺気を覗かせる客。我慢のし過ぎは爆発という形で返すのが十六夜流だ。

 

この十六夜の宣言により平和的解決は遥か彼方に消え去った。

 

 

 

まるで自分たちを見下すような少年の態度に空中にいる面々は嘲笑し、憤った。

 

言うまでもなく彼らは十六夜の実力を知らないし、ノーネームは格下の屑だと侮っている。

 

「よし消えないってことは死んでも文句ないってことだな」

 

物騒な台詞を当たり前のように吐き、屈んで手の平サイズの石を5個ほど拾い上げる。

 

その奇行に敵もといペルセウス一行は首を傾げ、多分な隙を作る。

 

「簡単に死ぬなよ交渉材料」

 

腕に抱えられていた石は例外なく、第三宇宙速度で敵の腹部に吸い込まれていった。

 

 

 

「貴様よくも同士を」

 

十六夜の独断とその他諸々で撃ち落とされた敵の5人は死にはしなくとも、地面で伸びている。

 

「この程度で英雄のコミュニティなのか?俺の中で箱庭の株が大暴落だぜ」

 

尚も挑発を続ける十六夜はついに敵の琴線に触れた。

 

それはプライド、自尊心を傷つけられた報い。名無しが相手では尚更だろう。

 

「英雄を貶めたなガキが、我々のプライドは恩恵を持って返させてもらおう」

 

ニヤリと十六夜の口角が自然と上がる。

 

前述のとおり十六夜は今日一日で相当の我慢を強いられた。しかし先に示したのはその半分以下に

 

過ぎない。

 

快楽主義を掲げる十六夜にとって今日という日は不完全燃焼なのだ。

 

ガルドとのゲームは見ているだけ、レティシアとのゲームは期待はずれ、ならば今の十六夜が求め

 

るものは何だろうか。

 

答えるまでもない、自分が満足できる相手だ。

 

結局この挑発は自分の欲求を満たすための口車だった。

 

「来いよ、英雄の名を語るに相応しいか確かめてやる」

 

ただし、その目には多大な熱意が爛々と輝いていた。

 

 

 

ペルセウス一団を指揮していたのはリーダーではなく、コミュニティのナンバー2と謳われる男だ。

 

先ほど十六夜に啖呵を切ったのもこの男。

 

コミュニティを愛し、誇りを持っている。そのため先ほどのように蔑まれれば憤る。典型的な箱庭

 

育ちとでも言うべきなのだろう

 

そしてコミュニティの為なら容赦しないのも典型的といったところか、ギフトカードに忍ばせてい

 

たネックレスを躊躇無く眼前に持ってくる。

 

コミュニティ中で最高の恩恵であるソレは勿論彼の私物ではない。現リーダーに渡された吸血鬼捕

 

獲用の一時的な獲物に過ぎない。

 

しかし彼の中で捕獲は頭の隅に追いやられ、十六夜を倒すことのみに使用する。

 

「永久に石のまま人生を終えろ」

 

猛烈な光が手元より放たれ、ノーネームの4人は土地ごと石化するはずだった。

 

 

 

「ふーん、ヘルメスの鎌とやり合えるのかと思ったが・・・」

 

頭上の男が発した光は十六夜の期待とは違ったのか少々の落胆が滲んでいる。

 

「いけない!この光に浴びてはダメだ!」

 

しかしレティシアの叫びを聞いて十六夜は一つの答えに辿り着いた。

 

「ペルセウスの浴びてはならない光か、おいおい前言撤回だこの野郎、面白いもの出してくれた じゃねえか」

 

英雄ペルセウスの伝説の中で最も有名なのは妖怪退治と言える。

 

その妖怪こそが目を見ただけで相手を石にする力を持つとされる。

 

そしてその妖怪の力を分かりやすい形で恩恵にしたとしたら。

 

「ギリシャ神話でもポピュラーな伝説だぜ、今日一日我慢したご褒美には十分だ」

 

そう言いながら膝に力を込め、光めがけて跳躍する。

 

十六夜はこの世界に来て一度だけ恩恵を破壊したことがある。

 

世界の端と言えるべき場所で戦った巨躯の蛇神。

 

奴は水を操る恩恵を駆使して海水をさながら竜巻のように操作して攻撃してきた。

 

しかし十六夜は歯牙にもかけず、水の柱を蹴り飛ばした。

 

それは水という分かりやすい形での攻撃、しかし今回は光という曖昧な形。

 

逆に言えば形が違うだけで恩恵ということに変わりはない。

 

銃弾と同じだ。それぞれ銃から放たれるが、口径も威力も違う。

 

それなら十六夜は異なる銃弾で襲われたときどうするか、勿論等しく潰す。

 

ならばやることは同じだ。腰を捻り、力を集中させ、解き放つ。

 

誰もが目を疑った。

 

光は十六夜の足先を石化させようと飲み込もうとするが、足を振りぬいた時には光の根幹のような

 

ものが砕け散り辺りに振りまかれた。

 

 

 

嬉々として光に突っ込む十六夜を尻目に、レティシア、一方通行はすぐさま防御に徹する。

 

具体的には一方通行が首の電極に操作するのに対して、レティシアはその背後に隠れる。

 

十六夜が蹴りぬいた光は散弾のように辺りに放たれ、その一つは一方通行目掛けて突き進む。

 

しかし能力を使用した彼はどんなものも寄せ付けない、その点レティシアが隠れ蓑にするには最適

 

の配役と言えたのかもしれない。

 

光は速度も衰えず、とうとう額に到達する。

 

一方通行は何も考えず反射を選択し、そのまま何事も無く跳ね返るはずだった。

 

能力を行使するその瞬間、説明の付かない悪寒と俗にいう嫌な予感というやつが彼に襲いかかる。

 

一度も受けたはずがない攻撃、しかし彼はこれを知っている。

 

何故かなんて分からない、ただ彼はこれを知っている。

 

そしてその光の正体がどういった物なのかを強制的に知らされる。

 

演算の失敗。

 

光は180度反転するはずが実際はその半分にも満たない角度に折れ曲がった。

 

そしてその先にいたのは

 

 

 

その場にいた3人は驚愕に息を飲んだ。

 

一方通行から屈折した光は寸分違わず一人の少女に駆けていった。

 

怪我をして安全地帯で横たわっていたウサギの少女に。

 

黒ウサギが完全に石化するのに1秒も掛からなかった。

 

レティシアは只々その光景を呆然と見つめ、嘆く。

 

「どうして・・・なんで・・・」

 

すぐに一方通行を問い詰めようと睨むも、まるで生気を失ったかのような表情を見て言葉を詰まら

 

せる。

 

それは十六夜も同じだ。怒りの矛先をどこに向けるべきか分からいといった風だ。

 

しかし一人だけ思想を他と共有していない者がいる。

 

一方通行だけは黒ウサギの事ではなく、光の正体を考える。

 

先ほどの現象は第三次世界大戦末期に全く同じものと対峙していた。

 

そうなるとあれは・・・その思考から先に進めないでいた。

 

 

 

そして混乱は敵も変わらない。

 

「どうしますか?」

 

光を放ったリーダーの側に控えていた男が顔を白くして問う。

 

逃げ出した吸血鬼や名を愚弄した少年なら石化しても問題などない。

 

しかし黒ウサギはある種イレギュラーが過ぎた。

 

ノーネームの一人であることに変わりはないが、その正体は月の兎であり、箱庭で絶大な力を有す

 

る審判権限を所持しており、尚且つフロアマスター白夜叉の専属審判をしている。

 

それはつまり、最悪の場合白夜叉を敵に回す可能性さえ見えてくるのだ。

 

「・・・箱庭の貴族を拉致する、吸血鬼との交換材料に使える」

 

一種極限の状態に立つと、人はブレーキの掛けどころを見失ってしまう。

 

リーダー以外の面子も冷静を保っている者は一人も居らず、正しい行いと信じて突き進むのだった。

 

 

 

混乱に陥ったノーネーム面々を更に追い込む事態が起こる。

 

突如としてそこにいたはずの黒ウサギが姿を消したのだ。

 

しかしレティシアだけはこの恩恵を知っていた。

 

「ハデスの兜だ、奴ら黒ウサギを奪っていくつもりか」

 

落ち着いて上空を見ると敵の姿も見えない。

 

完全に手詰まりだった。

 

レティシアは跪きながら小さく呟く。

 

「私のせいでこうなったのか?私のせいで黒ウサギは・・・」

 

「落ち着けよ、黒ウサギを奪っても得はないだろ。相手は交渉の席を設けるはずだ」

 

既に落ち着きを取り戻した十六夜は先を読み続けるかのように答える。

 

その目にはペルセウスの光と戦った時とは比べ物にならない熱を灯して。

 




一つ設定の追加というか確認をします。
一方通行は打ち止めに対して羊皮紙を使っていません。
その為自身の能力が粒子加速装置に酷似していることに気付いていません。
以上です。


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第十三話 交渉

先ほどの面子に飛鳥とジンを加えた中心メンバーで数時間前まで兎がいた談話室に集う。

 

追求の声が絶えないように思える状況であるが、端的な説明の後には永遠のような静寂に部屋は包

 

まれ、一段と今の緊迫した状況を醸し出していた。

 

誰が淹れたかも思い出せないコーヒーが、カップの中で微動だにせず自らの色を主張する。

 

そんな泥沼の現状の前ならば溜め息だってつきたくなる。しかしそれは事態の進展には繋がらない

 

のは明白であり、代わりとなる言葉を吐き出す。

 

「ンで、これからどォするつもりなんだ」

 

捻って捻って出てきた言葉がこれなんだから、学園都市一のコミュニケーション能力だって欲しく

 

なる。

 

十六夜は目の前の虚空を変わらず見つめ、レティシアはバツが悪そうに顔を背ける。

 

先程から話の進まないのは当事者の3人の態度に半分の原因があるだろう。

 

残りの半分は事実上の最高権力者が顔を真っ青にしているためではあるが、今は言及しない。

 

だがどうやら一人、溜め息を抑えていたストレス持ちがいたようだ。

 

「先鋒から何も来ないのだから、こちらから接触すべきだと思うけど」

 

もう我慢の限界といった表情を隠さず伝えてくる。

 

何も彼らは、考え無しに膠着に甘んじていたわけではなかった。

 

十六夜の考え、さながら誘拐犯からの犯行メッセージを待ち構えていたのだ。

 

だが、どうやらその可能性は霧散したようだと数時間で感じられた。

 

「よく考ええみろ、お嬢様。所有物を持ち帰ってくるように命令したら、どこの者かも知れない女を誘拐して部下が帰って来るんだぞ」

 

それが箱庭の貴族と呼ばれるならば尚更だと、無言を貫いてきた十六夜が問いかける。

 

「なら十六夜君は、まだここで待機してるべきだと言うの?」

 

まるで相手のリーダーの肩を持つような発言に対し、質問を質問で返す。

 

いやと否定して、おもむろに立ち上がる。

 

「待ちに待ってやったんだ、乗り込んだところで無礼も何もないだろ」

 

フラストレーションが溜まっていたのは同じだ、と言った風を見て思う。

 

徹夜確定かと。

 

そこには先ほどの鬱陶しい空気はなくなり、代わりに音無き闘志が湧いている。

 

仕方がないと、目の前の黒い液体を飲み干し倣って立ち上がる。

 

口に残る苦さは、どこかスッキリとしていた。

 

向かう先はサウザンドアイズの支店、困ったときの夜叉頼みとは物騒な話だ。

 

 

 

店はとっくに閉店しているものだという予想は、店の前に立つ仏頂面の店員に砕かれた。

 

「また入れないつもりかしら」

 

ファーストコンタクトが悪かっただけに、あまり良い印象を持てない飛鳥は小声で呟き、その光景

 

が容易に想像できることが嫌になる。

 

そんな時間のロスを覚悟で向かい合うと、またしても意表をつく返答がくる

 

「お待ちしておりました。白夜叉様のお部屋にどうぞ」

 

その口調からは客を持て成す色が伺え、さらに待っていたとまで言う。

 

まるで彼女の本当の意図が分からぬまま連れて来られた部屋。

 

彼女の意図を憶測する所要時間は40秒足らず。

 

つまり

 

「俺達より厄介なのがいるから早く追い出せ、てかァ」

 

言葉の端々で名無しを馬鹿にし、店員が来ると軟派する、まさに珍しくもない外道がそこにいた。

 

 

 

「だからー、さっさとそっちの吸血鬼を渡せって言ってんだよ」

 

これだから理解力の低い下層の屑は、と先ほどから会話は終始一方的、どうやら上の階層にいる自

 

分は自然と会話の主導権を握っているとお考えらしい。

 

こちら(特に飛鳥)が黒ウサギ誘拐の件を問いただしても、レティシアを盗んでいるのだから罪は

 

無いとおっしゃられる。

 

あまりの退屈さに目の前の男を敬ってみたが、反吐が出そうだ。

 

「こいつを返せば、黒ウサギも返してくれるのか首領様?」

 

十六夜に至ってはセールスマンもびっくりの営業スマイルをしながら会話する、という遊びをここ

 

に来てずっと行っている。

 

「おいおい、俺達は名のある英雄のコミュニティだぜ、汚名は頂けないんだよ」

 

十六夜の笑みを、自分に媚びているのだと勘違いして気分を良くしている。確かに傍目から見る分

 

には随分可笑しい遊びと言えよう。

 

「ルイオス=ペルセウスの名にかけて誓おう」

 

満面の笑みの裏側では交渉の成立目前でほくそ笑んでいるのだろうか。

 

しかし、この遊びの最も楽しいところは最後の掌返しにあるのだろう。

 

その証拠に十六夜の顔には邪悪さが垣間見えてきた。

 

「お断りだぜ、色男」

 

 

 

「ハッ身分を弁えろ!下層の屑ども」

 

「それなら屑にお恵みでもしてくれよ、上層の屑様」

 

十六夜の無礼を通り越し見下す態度に、ご立腹のルイオスだが、唯の一つだけ譲らない方向性があ

 

るそうだ。

 

「ならギフトゲームで決着をつけましょうよ、それがこの世界のやり方でしょう」

 

「おいおい、お前たちと同じ土俵に立ってやると思っているのか」

 

ギフトゲームはやらない。一向にこの方針は変えないようだ。

 

「そんなに十六夜君が怖いの?あなた自分が格上と思っているのでしょう」

 

きっとこの憶測は間違ってない。先程からチラチラと十六夜の姿を盗み見て、十六夜には強く出れ

 

ないようだ。

 

「バカを言え、神格保持者を倒したと聞くがその程度だろ」

 

しっかり調べているところに、どうしようもないヘタレさを感じてしまう。

 

こちらにだってゲームをできない理由ってものがあるんだよ、と前振りして

 

「第一そこの女は買い手が決まっているんだ。今さらゲームで取り返すなんてできないぜ」

 

レティシアを指差しながら話は続く。

 

「お前たちそいつのギフトカードは見たのか?」

 

ハッと目を見開くレティシアを見て、ルイオスはいやらしい笑みを浮かべる。

 

「お前たちのところに代償なしに行けるわけがないだろう、そいつは恩恵を魔王に奪われ、わざわ

 

ざ霊格まで誰かさんに渡して来たんだよ」

 

十六夜、一方通行、それにレティシアを加えた3人で行ったギフトゲーム、人間である2人に歯が立

 

たなかったのは、弱体化が原因だったのだろう。

 

苦虫を噛むような少女の表情に一様の満足を得たルイオスは最後の提案をする。

 

「分かっただろ?そこの女にお前たちが期待しているほどのパフォーマンスはないんだよ」

 

さあ、早く交換といこうか、と話を終わらせてくる。

 

確かにルイオスの言っていることは正しい。こちらに価値が有るのは間違いなく黒ウサギの方だろう。

 

だが問題児集団の筆頭、逆廻十六夜だけはそんな面白く無い交渉を善しとしなかった。

 

「なら相手が提示した金額以上の代物を賭ければ、ゲームをしてくれるのか?」

 

ノーネーム一同の、いやジンの顔色が真っ青になる。

 

金も富も名声もないためノーネームなのだ。ペルセウスが満足するものなど彼らには無い。

 

「面白いジョークだ、お前たちにそんなものがあると?」

 

一拍おいて十六夜は最後のカードを切る。

 

「お前も言っていただろ、箱庭の貴族の兎には価値が有るだろ」

 

鮮やかな手口。相手が黒ウサギ価値が提示してくれるのを待ち、切り札にする。

 

一方通行でさえ交渉の勝利は確信した。

 

 

 

その言葉を聞き三者三様、いや今は六者六様の表情を見せる。

 

無論最初は驚愕の表情を皆するが、その後はそれぞれだ。

 

ルイオスは考える素振りをし、ジン信じられないものを見るような顔をする。

 

後の白夜叉、レティシア、飛鳥でさえも憤怒の表情を惜しげなく晒している。

 

唯一人だけ笑みを浮かべる中。

 

「面白い、最高だよ仲間を賭けるとはたまげたよ、あぁいいぜそのゲームなら乗ってやる」

 

腹を抱えて笑う姿は自分の勝利した後を考えているらしい。

 

待てという高い音が後方より聞こえてくるが、それを黙殺して話は進む。

 

「小僧、黒ウサギを取られたら、お前の首は分かっておるのだろうな」

 

という星霊の脅しも、どこ吹く風のようだ。

 

「ゲーム内容は、そうだなお前たちの最高難易度のやつでいいぜ」

 

その先の話は細かいルールだったか、黒ウサギの扱い方だったか記憶に残ってすらいない。

 

一つだけ心に残っているのは、逆廻十六夜という人間は自分と全く同じ人種であるという既視感と言うか、期待はずれと言うか、結局彼が考えたのも全く同じ切り口だったというだけだ。

 

しかしゲームの内容は決まり、1周間を待つだけとなった。




最後の訳が分からないような文は次の次ぐらいで解説するので少々お待ちを。


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第十四話 殺し合い

長文になってしまい、投稿間隔が空いてしまいました。
本当にすいません。


1周間という時は長いようで短い、それを証明するようにペルセウスとの会談後のギスギスした雰

 

囲気は一向に晴れ無かった。

 

ゲーム開始前であるのに、流れる会話は最低限のものでしかない。

 

「お嬢様、不満があるのは分かるが役割はこなしてくれよ」

 

「分かっているわ囮でしょ、悔しいけど黒ウサギが景品なのだから手を抜く気はないわ」

 

十六夜の交渉手段は最善のものだと思えるが、飛鳥の態度は未だに尖っている。

 

「私も、全力でサポートする」

 

口ではこう言っているが、耀も、ここにはいないレティシアも思うところがあるようだ。

 

「それで、お前はどうするつもりなんだ?」

 

自分に向けられた指、それに釣られる複数の視線から問われる。

 

「俺は敵の脳(ブレイン)を潰す。」

 

敵の脳、それが示すのは作戦司令部や本部と呼ばれる、敵の中枢の部分。

 

そこを叩くことのみを意識して、入念に準備を行ってきた。

 

その成果こそが、杖の内側に隠し持っているソレだ。

 

チラチラと見える黒は無機質さを醸し出し、それが命を刈り取るために作られた事を主張している。

 

「ふ~ん、まぁ俺からのプレゼントも活躍させてくれよ」

 

意味深とも取れる笑みを最後に各自の持ち場にバラけた。

 

 

 

視認されると、ゲームマスターを打倒する権利が剥奪されるゲーム。難易度の高さ言わずもがなだ

 

が、それはどんな実力者でも不慮の事故で失う可能性を示唆している。

 

故に囮の飛鳥はともかく、なるべく見つからないように立ちまわなければならない。

 

先程から轟音が鳴り響いている城内、多分飛鳥による陽動だろう。

 

そんな中、最低限まで息を潜め柱に背を寄せる。

 

城内の二階で指揮系統の位置を探っていると、中央を真っ直ぐ突き進む道から、怒声と共に兵士た

 

ちが送り出されている。

 

去り際に作戦司令部の悪態を吐く兵から推測するに、その奥に本部が居座っているのだろう。

 

そう当たりをつけ、次にどうやって攻め落とすかをシミュレーションする。

 

幸い、その道に兵士の姿は無く、強行突破も狙える可能性がある。

 

城の奥行きを考えると、能力を使えば五秒と掛からないで走り抜けることができる。

 

しかし、一本道であるために隠れる場所が無い。敵と出くわすと、ゲームの縛りを受け入れなけれ

 

ばならなくなる。

 

さらに、一定間隔で吐き出される兵士は底が見えず、敵の数も予測できない。

 

そうやって脳内で叩きだした結論から、その後の行動を決定する。

 

自分という戦力を無駄にする可能性を極限まで下げなければならない。つまり待機だ。

 

今も戦っている飛鳥には悪いが、雑兵の数を搾り取るまで働くことになるだろう。

 

 

 

お願いします、どうか皆様ご無事で。届かないことは承知で何度も祈り続ける。

 

「そう心配するな黒ウサギ、彼らなら有象無象にやられまい」

 

ノーネームのメンバーの安否を耳を使って随時気にしている黒ウサギにレティシアが話しかける。

 

「しかし、耀さんは怪我をしたばかりですし、人数差だってあるのですよ」

 

徐々に尻すぼみになっていくが、それは最もだ。

 

人数差はもちろん、敵は五桁のコミュニティの兵士、つまり訓練によって磨かれた戦闘集団なのだ。

 

ノーネームの四人も常軌を逸した恩恵を保有しているが、それを扱っているのは年端もいかない子

 

どもたちである。

 

考えこんでしまう二人に外野から声が投げかけられる。

 

「おいおい、せめて僕のところに来てもらわないと面白く無いだろ。そして僕と戦って見せてやる

 

よ最強種の一片を」

 

厭らしく首元を指さすルイオスに、最大限の嫌悪を向け皆の無事を祈った。

 

 

 

現状維持を決定してからどれほどの時間が経っただろうか。

 

音は静まり返り、勝敗があらかたついたのか、先ほどから打って変わって静寂が支配している。

 

好機だ。

 

どちらが勝利したにせよ、戦力の逐次投入は一度収まった。

 

ならば今が突入の数少ないチャンスだろう。

 

「マスター、見つからず、殺さずなんて縛りを作ると自分の身を滅ぼします」

 

脳内に忠告が告げられる。自分の仕事に集中しろと。

 

「フン、誰が殺し御法度って言った、すぐに片付けてやる」

 

久しぶりの感覚、誰かを守るという足枷と殺しを避けるという箍が外れていく。

 

純粋に殺しを求めていく。まるで暗部にいた時のように。

 

左手は杖を首筋にまで持ち上げ、スイッチに手をかける。

 

静寂をぶち壊す轟音を足元に発生させ、前へ突き進む。

 

 

 

「小娘一人に我らの兵力のほとんどを使うことになるとはな」

 

作戦司令部の護衛を任された三人の男は今日はフリーだと予想していた。

 

「相手はリーダーも含めて五人だとさ虐めかよって思ったが」

 

しかし敵はペルセウスの総戦力とぶつかり合い、まだギリギリの均衡を保っているらしい。

 

これが他人事なら手放しで褒め称えたい程の快挙だろう。

 

「昔なら、こんなに手間取らなかっただろう。作戦司令部もリーダーも腐っちまっている証拠さ」

 

人の耳を気にしないでいい場所なら、皆そろって上への愚痴をこぼす。

 

現在の内部状況の悪化が顕著であることは明らかだろう。

 

「どうせ今日はオフなんだ、どうだ酒でも持って来る・・・」

 

最後まで言うことも叶わないで意識が消えていった。

 

 

 

廊下の奥まで進むと両脇に階段、中央に一つのドアを保有するフロアが見えた。

 

さらに、そこにいる三人の兵士も。

 

どうやら作戦司令部の位置はビンゴのようだ。

 

素早く無力化する順番を決め、そのように体を動かす。

 

距離を零にするやいなや、此方に背を向ける男の背中を強めに撫でる。

 

男の体は想定されてない角度に曲がり、骨からは嫌な音が響き、高速で前方のドアに衝突する。

 

ポカンと男の方を向く残りの二人を待たず、予定通り体格のいい男の背後に回り込む。

 

流石はプロということか、すぐに反応して体を反転させようとするが、もう遅い。

 

杖を床に捨て、左手で男の手を掴み、右手を真っ直ぐにして男の首の横に上げる。

 

所謂手刀。しかし鍛え込んだ技ではなく能力を使った力技。

 

故に一瞬とはいかず、肩の接合部と首の骨がミシリと悲鳴を上げ、もう一度力を込め首を落とす。

 

残りの一人は細身の女で恐怖に体を支配され、満足に動くことも出来ないようだ。

 

そこまで計算して決めた順番だったため、予定調和といったところか。

 

既に首のない死体と化した男から、杖から外しておいた黒光りする拳銃の銃身だけ見せ発砲する。

 

銃弾は女の腹部と心臓を打ち抜き予定した工程を完了した。

 

一息つき、殺しを実感する。異世界での日常から洗い流される気分だ。

 

しかし感慨に浸る時間は無いようだ、ドアに男をぶつけるのはやり過ぎだったようで、此方に向か

 

ってくる気配を感じる。

 

左手で構えていた死体を放り捨て、床を蹴り、階段に避難する。

 

 

 

「二人とも見て来なさい」

 

ドンと大きな音と微かな揺れから、部屋の外で何か起きたのは予想できる。

 

部屋の中にはボディガードをいつもしている腕利きの兵士が二人。

 

命令を発した男を含め、兵の重鎮にして作戦指揮を行う三人。

 

そして秘書にしては若すぎるように見える女が一人。

 

外の兵士が言っていたように、相手を侮り、作戦が思うように進行しなかったことで苛立ちが伺え

 

る。

 

ハデスの兜のレプリカを所有している二人のボディガードが目の前で透明となりドアを開ける。

 

そして視界は失われた。圧倒的光量によって。

 

 

 

階段の手すり付近で身を小さくして、存在感を消すと、腰のあたりに手を向ける。

 

そこに一つぶら下がっているのが手榴弾。

 

拳銃は自前のものだが、元から手榴弾は戦闘に用いてなかった。

 

ならば、なぜ存在しているか、それこそがゲーム開始前の十六夜の笑みから読み取れる。

 

敵を追い込むのに、必要な物を頭に思い浮かべ、結局頭を下げ作らせたものだ。

 

威力もさることながら、音は恐怖を誘い、光と煙幕は視界を遮る。

 

狭い部屋を蹂躙するにはちょうど良い産物だろう。

 

上部に付いているピンを外し、ドアが開くのを静かに待つ。

 

そしてその瞬間が来ると、静かに放る。

 

期待通りの効果とともに、爆風が辺りを散らかす。

 

部屋の中からは手に取るように混乱が伝わり、爆心地には二つの死体が顔を見せる。

 

立ち上がると共に、煙幕の効果が切れる前に部屋に突入する。

 

三人の中年の男がそこにはいた。

 

 

 

爆風で目をやられ、聴覚だけで様子を探らなければ無い。

 

とは言え、事態を理解することはそれほど難しくも無かった。

 

侵入者は音を隠す気もないのか、一歩一歩が分かる。

 

そして、立ち止まるとすぐに、自分以外の二人を撃ち殺した。

 

発泡とともに短い悲鳴が聞こえ、恐怖で後ずさる。

 

「あとはおっさんだけか、目が潰れているみたいだが・・・」

 

自らの生殺与奪を決めている様子は今までに経験したことの恐怖を感じ、同時に作戦を決める上で

 

最低限の犠牲として自分も行ってきたことを思い出す。

 

「これはゲームじゃないか、命までなぜ奪う」

 

なるべく穏やかな声音で問いかけ生きる道を探す。

 

一瞬敵の動きが鈍るのが確認でき、光明が見えた気分でいた。

 

「そりゃあお前、ゲームっつーのがァ殺し合いだからに決まってンだろ」

 

敵の打倒、それが示すのは敵を殺せと同義である。

 

まるで言っていることが理解できないまま、頭に銃弾を打ち込まれ、死を受け入れた。

 

 

 

「作戦終了か」

 

手榴弾を使ったこともあり、部屋の内部は滅茶苦茶だが、ホワイトボードを見るに、確かに作戦を

 

決める場だったのだろう。

 

緊張の糸が解れる僅かな油断、そこはまだ敵の本拠地であったのだ。

 

「マスター左です」

 

ダッという重い銃声、拳銃程度では生み出せない力が含まれているのだろう。

 

しかし熱風で呼吸系をやられないように、能力は消していなかった。

 

反射により打ち出された銃口に吸い込まれ、持ち主は衝撃に耐えれずに倒れ、銃は床に転がる。

 

今度こそ能力を消し、拳銃を構え仕上げをする。

 

指に力を加える寸前に、床に落ちた銃を一瞥する。

 

「メタルイーターだと」

 

危うく拳銃を手から滑り落とすレベルの驚愕。

 

なまじ銃器に詳しかったのが幸いし、銃の正体が看破できた。

 

学園都市製の対物ライフル。

 

そして、妹達が使用していたメインウェポン。

 

恐怖で歪んでしまいそうな顔をそのまま、床に倒れた女に向ける。

 

茶色の短髪の上に軍用ゴーグルを着け、顔も数日前に見た女と瓜二つであった。

 

「お久しぶりですとミサカは非礼を詫び、治療をお願いします」

 

 

 

部屋にあった治療具で、銃弾で痛めた手を応急処置をした。

 

何でも煙幕により、此方を視認できず攻撃しただけで、敵意は無いということで和解がされた。

 

「それはいい、何でこんなところに居やがった?」

 

どこか言葉を選ぶような表情をして、紡ぎだす。

 

「ミサカたちはそれぞれ、様々なコミュニティに客分として招かれています。」

 

本当に所属しているコミュニティは同一であるが、二万体が別々のコミュニティの客分として生活

 

しているらしい。

 

そして彼女たちは四桁のコミュニティの所属になるらしい。

 

「ミサカ達はある使命のために生き返り、召喚されました。」

 

 

 

オリュンポス十二神の人柱ヘルメスを主神にするコミュニティは情報伝達に重きをおく特徴的なコ

 

ミュニティである。しかし広大な箱庭の情報伝達を一瞬で可能にする手段は未だに整備されていな

 

かった。それで目を着けられたのがミサカネットワーク。主要コミュニティに一人ずつ客分という

 

扱いで送り込まれ、コミュニティ同士の情報伝達手段として重宝されている。

 

 

 

衝撃は先程の比でない。

 

それが事実なら彼女たちは

 

「自由もなく、使われているってことか」

 

それでは奴隷と変わらないではないだろうか。

 

「先ほども言ったとおりミサカ達は客分として無碍にはされていません。自由とは行きませんが皆

 

楽しんでいるのですよ」

 

慌ててフォローする彼女はしかし浮かない顔のまま話が続く。

 

「しかし最近の情報では魔王という箱庭の天災の情報が載せられ、不安はあります」

 

情報伝達をするということは、知りたくない情報も耳に入ってくるということだ。

 

そこで話を切り上げ、無理矢理作ったような笑みでこう嘯く。

 

「ミサカはゲストのためこのゲームに参加していません。その為あなたのゲームマスター打倒の権

 

利はまだあるのでは?」

 

ギフトロールには確かに権利を保有していることが記されている。

 

しかし、このまま背を向けていいのか?

 

この世界でも出会い、共に戦った奴らはいる。

 

妹達と彼らを天秤にかけるような真似をして、結論を出した。

 

室内を埋め尽くす呪いの光が来なければ自らの意思を宣言できたのだが。

 




切りが悪い終わり方で申し訳ございません。
次回は短めになるかと思います


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第十五話 決着

続きをまだ待っている人が居ましたら、更新をせずに申し訳ございませんでした。感想欄にも書きましたが、一巻部分が終了したら中身を手直ししたいと思います。


妹達の一人である少女の前に躍り出る間も無く、視界にあるものは全て光に侵食されていく。

 

破壊ではなく固定、もっと具体的に言えば石化の力。

 

触れたものを舐めずりますかのように振るう力は、まさに暴君のそれだ。

 

そんな説明不可能な力の前では大型銃も役には立たず、少女は自らを客分として招いている味方の攻撃に晒された。

 

少女だけでは無い、敵味方も弱者強者も平等に巻き込む攻撃が目の前で起きている。

 

だが驚きはしない、『ペルセウスとは       』

 

そうして、少女の全身の自由と感覚が失われる寸前に、納得とこれから戦いを挑むであろう少年に心痛な面持ちで見つめていた。

 

 

 

指先は思考を巡らす必要もなく、条件反射で電極に吸い込まれる。しかし、問題はこれからだ。石化の光は所謂『魔術』に近しい類であるため反射は不可能。より詳しく言えば、反射を実行するために光を解析することが超能力者である彼には不可能だ。さらに、よしんば解析出来たとしても、伴う副作用に蝕まれ、攻勢に転じることが出来なくなる。

 

とはいえ、ベクトル変換は石化の光に対して全くの無力かと言えば、答えは否だ。ノーネームの領地での戦闘からも分かる通り、不完全で不確かな変換なら行える。最悪の場合、変換の角度が浅くなると、自分に突き刺さるというリスクを覚悟すればだが。

 

右手を前に差し出す動作に躊躇いは存在せず、2つは静かに衝突する。

 

彼が選んだ選択は、前者でも後者でも無い完璧な反射だった。

 

少しだけ昔話をしよう、ロシアで水流を操る魔術師に襲われたことがあった。形を持たない筈のそれは鋭利に変形され、飛来してきた。つまりこの時点で自然界では不可能な挙動が施され、反射する際に、水を槍に変形するプロセスが解明できず、不完全な反射となってしまった。

 

けれども、今彼を襲う光はどうだろう。光は屈折もしなければ、物質を貫通する訳でもない。ただ『触れた先から徐々に石化していく』だけだ。

 

ならば、『触れた光の性質だけを反射』すればよい。つまり、ある意味で自殺行為のようなものだ。

 

理解できる自然現象(この場合は光線)のみを反射するのに副作用は発生しない。けれども、その一瞬で体内に注がれる恩恵(この場合は石化の呪い)を防ぐことも、勿論出来ない。

 

例えばその恩恵が、必殺の呪いならば意味の無い行為になってしまう。けれども今回は『徐々に』石化していくのだ。

 

光は指先から綺麗に反転する。

 

神魔が蔓延る箱庭では、一方通行という能力を、真正面から打ち砕く恩恵が溢れているのだろう。

 

しかし、それは前の世界でも少なからず存在していた。木原数多も、垣根帝督も、彼の能力を上回ってきたはずなのだ。それでも勝利を掴んできたのは、一重に能力を支える彼の頭脳による成果だ。

 

それはこの箱庭でも変わらない。足りないものを補い、敵の心理を揺さぶり、確実で下劣に勝利を掴む。

 

この戦闘もそうだ、一度の敗北から、敵の手の内を把握して現状の手札の最適解を導きだす。

 

だが、石化の光に蝕まれた爪先を眺めると、異物を付着した部分と生身との境界が言いようのない違和感を生み出す。

 

ところが、不思議とその違和感から不快感は浮かんでこない。石化の光の正体、十六夜曰く、白夜叉と同じ星霊という存在で、箱庭でさえ三種しか存在しないという最強種の一柱なのだそうだ。そんな化け物を相手取り、湧いてくる感情がこの程度のものなら、むしろ僥倖なのかもしれない。

 

今ごろ十六夜とジンはルイオスと戦っている頃だろう。十六夜なら間違っても番狂わせが起こさないという妙な信頼が持ててしまう、それほどにあいつは自信家で傲慢で、宣言通りに行動する。

 

力量の面で見ても、女連中と比べれば自分の戦い方を理解している。それどころか彼の恩恵は未だ底が見えないという点で、敵よりも警戒するべきではないかとさえ思えてしまう。

 

無造作に腕を振り、壁にぶつけることで石となった部分を強引に削る。そうして電極を元の状態に戻せば今日のノルマは完了だ。

 

完了のはずだ、頭では理解できているのにコツンコツンと杖が地面を叩き、自然と足も前に出る。

 

「妹達は俺が殺した、だがなァ生き返らせたンなら、最低限の誠意ってものがあるだろォが」

 

妹達が生き返ったところで、彼が行った行為は有耶無耶に出来るわけがない。ならば、殺した責任はとる。

 

具体的には、客分として招待しているルイオスには教育が必要だろう。

 

もし、万が一にそれが彼女達を呼び出し、援助している大派閥も同罪であったなら・・・

 

「サービス残業だ、とりあえずスクラップは確定なンで、覚悟しとけよ坊っちゃん野朗」

 

今は目の前の問題を片付ける、糞野郎の炙り出しなんざその後ですむ、気負うこともはない今までと何も変わらないのだから。

 

 

 

「何なんだお前はァァァ!?」

 

こんな台詞を吐き出す時点で、思考を放棄しましたと宣言しているようなものだが、それも仕方ないのかもしれない。

 

ノーネームに所属するただの人間は、最強種の星霊と相対して、撹乱するでも遠距離から攻撃するでもなく、正面から掴み合いを始めたのだから。

 

本来星霊とは、星の運行を司ることを目的に生まれてきているため、星の上でのみ生命を育むことで生きながらえる人間では、霊格で勝ることはまずありえない。

 

そして、勝敗に関わる要因として次に考えられるのは恩恵の効果だろう。しかし、星と人という戦うことがバカバカしく思える差、スケールの違いを埋めるほどの恩恵など存在するのであろうか。

 

恩恵とは文字通り、その者を神、星、あるいは世界が讃え、その者の偉業を形作って生まれる。

 

ならば、逆廻十六夜が残した偉業とは一体どれほどのレベルなのだ。

 

既に自暴自棄に陥り欠けているルイオスは、無策で翼の靴を利用した空中からの攻撃を仕掛ける。勿論、十六夜ならこの程度ではアルゴールを掴みながら対処出来たが、その必要はなくなった。

 

「ッッ!」

 

突然飛来してきた拳大もある石を急旋回して回避する。

 

何事だと、飛んできた方角を警戒すると、色は白く体も細い少年が杖に身体を預け立っていた。

 

 

 

「なかなか愉快な光景じゃねェか」

 

十六夜と掴み合う星霊アルゴーンは、名前負けしない巨体で、人間など煩わしいハエのようだ。しかし口からは苦痛が漏れ、表情にも余裕はなさそうだ。

 

その戦闘から目線を外し、ゆっくりとしゃがみ込み石を拾う。

 

援護は要らなそうに見えるが、彼が用があるのはペルセウスの当主の方だ。十六夜は一対二を望んでいるのかもしれないが、今回は我慢してもらう。

 

能力を使用モードに変え、学園都市最強の片鱗を引き出す。そうして、華奢な腕には似合わない石塊を手首のスナップのみで放る。

 

ベクトル変換されたそれは、当たれば致命傷は必須の速度で突き進む。ルイオスは咄嗟に気付いて回避するが、そこに目は向けない。あくまで石は牽制に過ぎない。

 

目を瞑り、脳内に語りかけるような感覚でコッペリアと話す。

 

「全力の使用は後どのくらい持つ?」

 

ここに来るまでの戦闘で、節約しながらも使い続けたため余裕はないだろう。

 

「10分ほどですね、時間を気にして戦ってくださいね」

 

十六夜の方も真面目に戦い始めたのか、振動が戦況の激化を物語っている。勝敗が決まるのも時間の問題だ。ならば、こちらも問答を含め手短に済ませるとしよう。

 

視線をルイオスに戻すと、外見から判断したのか、表情に油断が露骨に現れている。

 

「おいおい、味方でも盾にして石化の光を防いだのか?石を投げるだけの恩恵じゃあ、僕は倒せないよ」

 

ペルセウス座の伝説なら彼も少しは知識がある。要は十六夜が戦っているアルゴールを倒して英雄となったのがペルセウス。ルイオスはその末裔ということだ。

 

そんな歴史は彼にはどうでもいいのだが、油断は命を脅かす。重要なのは10分以内に倒せるか否かだ。

 

視線を固定したまま臨戦態勢を解かずに、電極を戻す。彼の目的は妹達の置かれている実態を確認することだ

 

「お前に一つ問う、ペルセウスに客分として招かれている妹達・・・つっても分からねェか、ライフルを構えた電気系能力者をどのような待遇で扱っている」

 

聞かれている質問の意図が分からないのか、首を傾げながら、とりあえず答える。

 

「どのようって、あの通信機だろ?便利な物だよ、商談は出向くことなく行えるし、あれを考案したコミュニティの頭主は、相当頭がキレる奴だろうね」

 

『便利な物』と言った時点で青筋が浮かび上がり、処分は決定したが話はまだ終わっていない。

 

「俺が聞ィてんのは待遇だ、あのウスノロの光を浴びて、今石化してンのはどう思う」

 

その質問を聞くとルイオスはニタニタと厭らしく笑い出す。

 

「何だお前あの機械に惚れたのか?いやぁ傑作だ、女の一つや二つ分け与えるぐらいは寛大な僕だけど、あれはダメだ。借り物だし、莫大な利益を生み出しているしね」

 

急に饒舌になったルイオスの口は止まらない。

 

「一応は客分という身分だから、普段は良い物を食べさせ自由も与えているよ。でも彼女は客であって仲間じゃない、言ってみれば、壊れないでくれればそれでいい」

 

人間味が薄くて僕はああいうの嫌いなんだよね、と付け加えてようやく口が止まる。

 

ああやはりそうか、妹達を箱庭に呼び出したコミュニティは、彼女達を機械として扱うことも厭わないということだろう。六本傷の18888号は充実した生活を送っていたようだが、冷遇されている者は確かにいるのだ。

 

「・・・くていだ」

 

何だ?と聞き返してくるルイオスを、真紅の瞳で射抜き応える。

 

「スクラップ確定だつったんだ、このクソ野郎がァァァ」

 

間髪を容れずに電極を押し、勢い良く足元を蹴り飛ばす。石畳が突然弾幕に切り替わり、速度を出して飛来してきた事に面食らったようだが、距離と高さの優位がルイオスに味方する。

 

「その速さは脅威だが、空も飛べないようじゃこの僕は倒せ―――」

 

「誰が空も飛べないっつったんだァ?」

 

ルイオスは英雄の末裔として決して身体能力は低くは無いが、目と鼻の先に接近して来たのを、知覚すら出来なかった。

 

「1分だ、1分で調理して挽き肉同然にしてやる」

 

腕を顔の横に持ち上げ、裏拳のようなスタイルで顔に叩きつける。そのすべての動作はゆっくりで、威力を感じさせない。故に、ルイオスも回避を忘れ一挙手一投足に目が釘付けになる。

 

しかし、それは悪手だ。ベクトルの変換の値を変化させるだけで威力はどうにでもなる。結果、ルイオスは無抵抗の身体に、顔面の左を殴打され意識を奪われて落ちてゆく。一方通行という能力を初見で把握するのは不可能に近いため、本質を知るためには授業料が高く付く。

 

だが、腐っても高位生命体のルイオスも簡単には死なない。常人なら首の骨を折っているかもしれない攻撃を食らい、起き上がれるのは賞賛するべきだ。

 

しかし、武芸も積まず、修行で身体を磨いてもいない、先祖の血だけでは彼には遠く及ばない。一切の容赦無く攻撃を飛ばす。

 

竜巻を背中に従えるかのようにして飛行しているため、武器が常時用意されているようなものだ。四本の竜巻を器用に操作して、回避される予測先を計算して配置する。

 

先ほどの一撃と竜巻を自由に操る恩恵を前にして、ルイオスは自分と敵の実力差を思い知らされる。隙無く飛んでくる竜巻を具足の力をフルに発揮して、転げ回るようにして直撃だけを避ける。しかし、この至近距離で爆風が吹けば、削れた地面さえ無数の凶器となり、ルイオスに牙をむく。

 

「グッ・・ウッ・・・カァッ・・・」

 

声にならない悲鳴を上げながら、荒れ狂う竜巻の支配下を脱する。腕、足、額からも血は滲み、あらゆる方向から圧力を受けたために、平衡感覚も狂わされた。それでも、圧倒的な命の危機から脱したことを僅かに安堵する。

 

そして、その張本人が目の前に居て再度絶望する。

 

先ほどと同じようにゆっくりと手が近づき、まるで、恐怖の本能が反応したかの様に大きく後ろに飛ぶ。しかし、彼は床を蹴るだけでその距離を零にして腹を撫でる。

 

サッカーボールの様に浮かび上がり、綺麗な弧を描き地面に吸い込まれる。腹部を強打したことで、吐き気が我慢出来ずに喉奥から飛び出てくる。

 

「ヴヴヴェェェェいいいヴヴヴェェェ・・・・・ハァハァ…」

 

小刻みに震える身体からは恐怖だけでなく、生まれて初めて血を大量に吐いたことで、熱が体外に流出することを学ばされた。

 

頭の中はとっくに、死にたくないという信号に支配されて、恐怖で身体は硬直している。このままでは死は避けられないと悟り、必死に何かないかを考える。

 

そして思い出す、これはゲームだ。レティシアを手放し、黒ウサギも手にはいらないのは不味いが、死の恐怖の前ではそれも霞んでしまう。

 

無感動に近づいてくる化け物に向かい、両手を挙げ降参の意思を伝え、ゲームは終了に・・・

 

「白旗挙げて降参ってか?甘すぎじゃねェか、手前ェはそんなイージーモードやってんじゃねェンだよ」

 

地面を蹴り抜き、弾丸となった小石を全身で受け、さらに数メートル吹き飛ばされる。地面を転がりながら、降参も受け入れてもらえない事実に、理性が消え去りギフトカードからハルパーを出すと、彼に向かって振り下ろす。

 

頭上に振りかぶられた金色の鎌を見る事もなく、ベクトル変換の最もオーソドックスな使い方である、反射を使用する。

 

ゴブリッという刺殺の音とも、まして人体が発するとも思えない音が鳴り響く。カランと床に鎌が落ちる音と、ルイオスの叫び声がハーモニーを奏でる。

 

流石は神造の武器ということか、ハルパーには傷一つ付いていない。しかし、その使い手は肩が不自然に膨らみ、壊した人形のような方向に折れ曲がっている。

 

コミュニティの長として、修羅神仏の集う箱庭の中とは思えないほどに、贅沢で安全に暮らしてきたルイオスは痛みの耐性など皆無だった。

 

半ば屍となったルイオスを見下しながら、顔面を掴むようにして持ち上げるが、寸前の抵抗が嘘のように無抵抗だった。

 

「一応忠告しておくが、これから話すのは懇願でも助言でもねェ、ただの脅迫だ。お前が断れば、脳漿、眼球がどこに飛んでくか保証は出来ねェからな」

 

首を微動だに出来ないようで、口をパクパクするのを肯定と受け止めて話を続ける。

 

「なに、難しィ事は言わねェよ。妹達の待遇の改善を確約しろ、具体的にはお前たちの幹部と同等の扱いにする事、それと、あいつを外敵から命懸けで守れ、石化は勿論、傷の1つでも与えてみろお前たちのコミュニティに落日の痛みってやつを与えてやる」

 

どうすると問うと、『約束します』と搾り出したような声で返答する。

 

十六夜の方も勝敗が決まったのか、倒れ伏したアルゴールの上でふんぞり返り、此方を眺めていた。

 

彼の方も目的は遂行出来たため、掴んでいる坊っちゃんにはもう用は無い。

 

特に考えるでも無く、十六夜に放り投げ、希望通りの一対二の延長戦を黒ウサギ達と外野で観戦して勝負は決着した。

 

 

 

 

以降、ペルセウスは六桁に転落し、ノーネームは報酬としてレティシアを獲得し、黒ウサギを守り抜いた。

 

十六夜とジンはその後も何か画策していたようだが、コミュニティとしては最善の結果を掴んだのではないだろうか。

 

後は己の課題だけだ、ペルセウスでの妹達の待遇改善はクリアしたとして、あと19998人の妹達の現状を彼は把握出来ていない。とりあえずは手当り次第に解決するにしても、いずれ限界を迎えるであろう。

 

彼女達が送り込まれた理由は上層、下層での緊急時等の連絡用途だと聞いている。彼の実力云々の前に、個人の力の及ぶ範疇で無いことは明白だ。

 

それでも、その時が来たら・・・

 

「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」

 

レティシアが帰還した事で、質素ながらパーティーを行っていたのだが、突然問題児三人による宣言により、賑やかなムードは消え去った。

 

それから、黒ウサギとの漫才を横目に、覚悟はその時に決めればいいのかと先送りにして、現状の平和を享受することにした。




次に後日談を書き、一旦更新を止めさせていただきます。春頃に連載を再開できたらと思います。


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第十六話 決意

チュンチュンと鳴り響く小鳥のさえずりに、カツンカツンという一定のリズムが混ざり合う。

 

早起きという習慣の無い彼には、少しキツい時間帯ではあるが仕方がない。

 

彼は今、コミュニティの脱退の紙を現当主の部屋に放り投げ、夜逃げの真似事をしているのだから。

 

逃げるならば、それこそ夜の方が良いのではないか?と考える者も居るかもしれないが、このコミュニティには十六夜、耀、黒ウサギと人間離れした五感の持ち主が在席しているため、正直どの時間でもあまり変わりないのだ。

 

それならば、早朝にバタバタと年少組が朝食作りに励んでいる時間の方が、バレにくいのではないかという浅はかな考えで行動している。

 

「よう、こんな早い時間からお出かけか?」

 

勿論、効果があるとは思わなかったが。

 

「チッ・・・春日部も黒ウサギも出て来なかったんだから空気読めよ」

 

女性陣の部屋を通り過ぎて来たのだが、幸い誰とも顔を合わせずにここまで来れたのだ。

 

「ヤハハ、それは悪かった。でもこの時間に杖の音がするのは異常事態だと思ったんでな」

 

冗談めかした言葉とお似合いで、大袈裟に肩をすぼませて話は続く。

 

「いや聞きたいことは山ほどあるんだぜ、何でコミュニティを脱退するのかとか、どうして箱庭に来て間もないお前に、話しかけてくる女がいるのかとか、チラッとその女に瓜二つの容姿の女をペルセウスで見た気がしたんだが、あれが誰だかとか、とりあえず、何で逃げるのにわざわざ杖をついて出ていくんだ?空飛べるんじゃなかったのかよとか」

 

軽薄な笑い声ではあるが、パズルのピースは揃っているとでも主張したいような、長口上を発する。

 

「好きに考えてろ、お前がノーネームにご執心なのと同じで、俺にも目的が出来た。それだけだ」

 

億劫そうな顔はそのままで、右手だけが電極に近付く。十六夜にとっては戦う理由が用意されたような状況だ。はいさようならで、素通りさせてもらえないのは明白だ。

 

「行きたきゃ行けよ、俺はお前の親じゃない。それとも止めて欲しいのか?」

 

戦う意志が感じられないことに虚をつかれ、表情も呆けたものになっているだろう。それほどに十六夜の態度が意外で、その真意が掴めなかった。

 

「コミュニティの脱退は自由だと思うぞ、少なくともこんな零細コミュニティに残るやつは超がつくほどのお人好しだけだ。だがらお前も好きにしな」

 

コミュニティという心の中にあったわだかまりを強制的に開放するような言葉。来る者も去る者も拒まないというのは、去ることを許さない暗部にいた彼には少し新鮮で、しかしその冷めっきた人間関係にはどこか懐かしさを覚えた。

 

元より戻るつもりはない、掲げた目標がそんな余分な思考を許さない。

 

そうかい、と一言だけ残しその場を後にする。

 

自分は甘えすぎたのだ、頼り頼られる人間関係に。

 

「あっそうそう、言い忘れていたが、自分からコミュニティを脱退するやつの再加入は楽じゃないからな」

 

独り言のように淡々とした言葉、だが不思議と耳を傾けてしまう。

 

「もし戻りたくなっても、コミュニティ総出で入団試験だから覚悟しとけよ」

 

「ハッもう少しまともなコミュニティになってから言いやがれ」

 

カツンカツンと振り向きもせず進む。

 

くだらない、甘すぎる誘い、だが全てが終わったならば、そういう未来も悪くないと思える程度には魅力があった。

 

 

 

 

「ふむ、黒ウサギには恨まれてしまうのお」

 

彼がノーネームから向かったのはサウザンドアイズの支店、白夜叉のもとだった。

 

「お前は知ってンじゃねェのか、二万人の妹達が箱庭に召喚させられた理由を」

 

妹達を守るという義務を果たすためにやらなければならないことは多い。

 

だが、大前提である敵さえ彼は知らないのだ。

 

「ふむ、ぬしが言っておるのは、ヘルメスが提示した『箱庭間伝達プログラム』のことかの」

 

手慰みに扇をバシバシと開閉している仕草とは裏腹に、白夜叉の視線ははるか遠くに向いているようだった。

 

「その名前は知らねェが、そいつのコミュニティの客分としてバラ撒かれているはずだ」

 

先の戦いの時に、妹達の一人はたしかにそう言っていた。

 

「ぬしが何をしたいのかは知らぬが、手を出さないほうがいいとだけ言っておく」

 

今までの何処か焦点の合ってないような視線とは異なり、真っ直ぐに眼と眼が合う。深い深い視線だ。その瞳の奥に映るものは長い年月の生、途方もない戦いの数々、その二つを備える白夜叉だからこそ持てる気迫なのだろう。

 

箱庭の上層への介入など身を滅ぼすだけだ

 

あそこは人知の及ぶ場所ではない

 

力、知識、勇気を持って挑んでも敗れる魔境である

 

上等だ

 

「頼む」

 

頭を下げても眼だけは離さず訴える。

 

白夜叉は折れない志を確かめると、嘆息気味に力を緩め提案する。

 

「よかろう、ぬしの企てに少しばかり力を貸そう。なに、私も我を通すばかりの上層で迅速に普及していったのを訝しんでいたのでな、両者ともに利益があるわけじゃの」

 

さあて何からしてみようかの、と再び扇子をバチバチ開閉すること三回、白夜叉は勢いよく立ち上がり、扇子を事らに向けてくる。

 

「よし、まずぬしにはサウザンドアイズの客分の位を授ける、いつまでも無所属ではいられるまい」

 

次に、と口にする白夜叉は口元に薄く笑みを浮かべ、

 

「ぬしにはこれから北の54545外門に向かってもらう、そこのサラマンドラには妹達とやらもいた事だしの」

 

 

 

 




とりあえず、これで連載を中止させていただきたいと思います。
手直し、書き溜めができたら、また投稿していきたいなと思います。
一巻分でしたが今まで読んで頂いて、本当にありがとうございました。


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