魔力に極振りしたいと思います。 (刀祢凛子)
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魔力特化と初めてのVR

1話はほとんど原作のまんま。
基本はアニメ基準で、作風は原作っぽいのを目指しました。できてるといいな。
がっつりオリジナルになるのは2話以降の予定ですが、予定は未定です。


『――はーい!……呼ばれちゃった、じゃあとにかくやってみてね。絶対、絶っ対面白いから!』

そう言い残して友人の白峯理沙(しろみねりさ)はグループ通話から抜けていった。

 

『あ、ちょっと理沙!』

それに対してもう一方の友人、本条楓(ほんじょうかえで)が抗議の声を上げるが、既に通話から抜けていったため届くはずもない。

 

『うーん……ゲームなんて殆どやったことないんだけどなぁ』

楓は画面越しにも伝わってきそうな大きなため息をつきながらそうひとりごちた。

 

「ふふっ」

今までにももう何度も見たようなやり取りだったが、それが何だか可笑しくて、神園雛乃(かみそのひなの)は思わず笑ってしまった。

手元には理沙に押し付けられるように買ったゲームのパッケージと、それを動かすためのハードがある。

パッケージには剣や杖を持った男女が数人描かれ、NewWorld Onlineと鮮やかな文字で書かれている。

 

『もー!笑い事じゃないんだよ?理沙はいっつも私たちを振り回して……』

 楓は他人事みたいに笑う雛乃にそう苦言を呈すが、その顔には満更でもなさそうな、でも少し困ったような笑顔が浮かんでいた。

 

「ふふ、でも何だか断れないんですよね?」

そう言いながら、雛乃は画面に映るように理沙から渡されたゲームを始めるためにやることが書かれたメモを掲げた。楓も同じものを受け取っていたし、おそらく手元にあるだろう。

 

『そうなんだよねぇ……あんなにキラキラした目を見たら、無理だなんて言えないよ……』

 

「私たちと一緒にゲームできるって信じ切ってるみたいなキラッキラな瞳でしたね」

雛乃の言う通り理沙は二人が始めることを信じて疑っていない。始めないというのはどうにも理沙が可哀想に思えて二人にはそんなことできそうも無かった。

 

『仕方ない……!設定やろっか』

 

「はい、そうしましょう。では、また後で」

 

『うん!じゃあまたゲームの中で』

ゲーム内で合流することを約束して通話を切り、雛乃はハードの電源を入れる。

楓のことだから、きっとなんだかんだ言いつつも楽しむだろうし、楽しいことになるに違いない。雛乃はそんな予感を抱きつつ、初期設定を開始した。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「これで初期設定はおわりですね」

雛乃はVRこそ初めてだったが、それなりにゲームはする方だったのでメモをチラ見しつつも恙なく設定を終えた。そして電脳世界へとダイブする。キラキラとした光のトンネルを抜ければ、そこはもう電子の世界、ゲームの中。とは言え、まだゲーム側の設定が残っているためいきなり街の中という訳ではなく、青白く発光するキューブが一面を埋め尽くす設定用の空間だ。

 

「名前はいつも通りノノでいいですよね」

雛乃は慣れた様子で他のゲームでもいつも使っている名前を入力し決定を押す。空中に浮かぶパネルが消え、クリスタルのような様々な形の武器が浮かび並ぶ。どうやら初期装備を決める必要があるようだ。

 

「大剣、片手剣、短剣、双剣……理沙ちゃんはこれ選びそうですね。あとは、メイスに杖、大盾、大斧……うーん、楓ちゃんがどれを選ぶのかまったく想像がつきません」

幾つかある装備を眺めながら友人二人がどの装備を選ぶか考えていた雛乃だったが、あまり時間をかけるのもいけないと、もともと使うと決めていた装備を選択する。

 

「私はいつも通り魔法使いですかね」

雛乃はゲームで武器や職業が選べる時は決まって魔法使いを選んでいた。

特にこれといった理由はなかったのだが、反射神経が悪いと自他ともに認める雛乃は近距離で咄嗟の判断が要求されるようなアクションが苦手で、ほとんどのゲームで遠くから魔法を連打することが多くいつの間にか魔法キャラを好んで使うようになっていた。

並んでいた武器が消え、新しい画面が表示される。

 

「ステータスは【STR】【VIT】【AGI】【DEX】【INT】……あれ、HPとMPにも振れるんですね……ふむ」

雛乃は画面を見つめたまましばらく悩むように顎に手を当てていたが、何かを閃いたように魔力、MPにすべてのステータスポイントをつぎ込んだ。

当然の如くポイントの振られていない他のステータスは初期値だ。魔法使いなので攻撃力と防御力はともかく、素早さに振っていなければ現実と同じ速度になってしまうし、器用さに振っていなければ魔法が狙ったところに飛んでいかない。そもそも賢さに振っていないせいで肝心の魔法攻撃力が酷い事になっている。

当の本人は何やら考えがあるらしいが。

 

「次は外見……身長は変えられないんですね……」

せめて楓ちゃんは超えたかったのに、と呟きうなだれるが、その楓も身長が変えられれば限界まで高くしようとするだろうし、雛乃が楓の身長を超えることは残念ながらないだろう。

ちなみに楓の身長が145センチあるかないかで、雛乃はギリギリで140センチはあるといったところだ。

可愛らしいその容姿と小さな体躯から学校では密かに二人そろってマスコットのように好かれているが、知る由もないことである。

身長はコンプレックスだが、現実と身長、体重を変えるとゲームにも現実にも悪影響が出るため仕方なかった。

 

「髪の色は白くして……眼の色も変えられるんですね、じゃあ目も白くして、と。これくらいでいいですかね」

決定ボタンを押すと同時、雛乃の体が光に包まれる。そして、目を開けるとそこは活気あふれる城下町の広場だった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「遅!なんで……?」

雛乃が目を開けるたのとほぼ同時に、聞きなれた声でのそんな叫びが聞こえてきた。

声のした方を見れば、見慣れた顔が。

 

「そんなに待たせちゃったんでしょうか……かえ、っと、本名はダメですよね」

声を掛ければ届く距離ではあったが、本名で呼ぶわけにもいかず、かといってどういう名前でプレイしているかもわからないため、雛乃は歩いて楓に近寄っていった。

 

「ん?あれ?……遅いですね!」

周りを歩く人と比べ、雛乃の歩みは亀かナメクジかというくらい遅かった。思わずそう叫んでから、楓が遅いと声を上げた理由に思い当たり苦笑してしまった。

 

「あれ、雛ちゃんの声……」

雛乃が叫んだことで近くに雛乃がいることに気が付いたのか、楓はきょろきょろとあたりを見渡す。

すぐ近くに見慣れた小ささの人物がいる事に気が付き視線を向けるが、髪の色が真っ白という似ても似つかない特徴に困惑していた。

 

「えっと、雛ちゃん?だよね?」

楓は自信なさげに問いかけた。

友人の顔を見間違えることはよっぽど無いとは思うものの、髪の色も目の色も違うためまったくの別人に見えなくもない。

 

「そうですよ、ただここではノノという名前です。なのでノノって呼んでください。そっちはなんて呼べばいいですか?」

そんな楓に対し雛乃もといノノは間違っていないと肯定しつつ、本名では呼ばない様にとやんわりと訂正と注意を入れる。

 

「わかった、私はメイプルだよ。友達なのに自己紹介するなんて変な感じだね」

ノノの注意に素直に頷いて自分のプレイヤーネームを告げる楓ことメイプル。

すでに親友ともいえるほど仲がいいのに、初めて会ったかのように自己紹介をするのが可笑しかったのか、二人して笑い合う。

 

「もしかして待たせちゃった?」

ひとしきり笑った後、メイプルは先程のノノの台詞を思い出しそう問いかけた。

 

「いえ、私も来たところです。さっきは自分のあまりの遅さにびっくりして叫んじゃいました」

すこし前の自分と同じ勘違いをしているメイプルに思わず少し笑ってしまったものの、ノノはそんなことはないと訂正する。

 

「遅いって、もしかしてノノちゃんも?」

メイプルは何か思い当たる節があったのかこてんと首を傾げる。

とりあえず落ち着いて話せるようにと、二人は広場中央の泉の縁に腰掛けた。

 

 

「それにしてもノノちゃんの髪、真っ白だね。そんな設定あったんだ?」

メイプルはノノの真っ白な髪を見ながら、そんな疑問を口にする。

身長が変えられないことに落胆してそのまま設定を終了していたメイプルは、外見をある程度変えられることに気が付いていなかった。

 

「はい、ほかにも目の色とか肌の色とか、髪型も変えれましたよ。私は髪の色と目の色だけですけど」

そんなノノの返事に、メイプルはほえーと間抜けな声を上げながら私も何か変えればよかったかなと呟いている。

 

「まあ私はこのままでいいや。それで、なんで歩くのが遅いかだよね」

 

「予想はついてるんですけど、ステータスを見れば分かると思います」

そんなことより、と話を戻したメイプルに大体の予想はついているノノがそう答える。

 

「そうなの?えっと、ステータス!」

ヴォンという音と共にメイプルの前に半透明の青いパネルが浮かび上がる。

メイプルはノノが見やすいようにパネルを横にずらす。

 

----------

メイプル

Lv1

HP 40/40

MP 12/12

 

【STR 0〈+9〉】

【VIT 100〈+28〉】

【AGI 0】

【DEX 0】

【INT 0】

 

装備

頭 【空欄】

体 【空欄】

右手 【初心者の短刀】

左手 【初心者の大盾】

足 【空欄】

靴 【空欄】

装飾品 【空欄】

【空欄】

【空欄】

 

スキル

なし

----------

 

「私のはこんな感じですね」

ノノがそう言って右手を小さく動かすと、メイプルと同様のパネルがあらわれる。ノノも同じくメイプルが見やすいようにパネルをメイプルの方にずらした。

 

----------

ノノ

Lv1

HP 26/26

MP 2024/2024

 

【STR 0】

【VIT 0】

【AGI 0】

【DEX 0】

【INT 0〈+16〉】

 

装備

頭 【空欄】

体 【空欄】

右手 【初心者の杖】

左手 【空欄】

足 【空欄】

靴 【空欄】

装飾品 【空欄】

【空欄】

【空欄】

 

スキル

なし

----------

 

「うわ、全部0だ……えっと、VITが防御力だよね?STRは強さで……AGIは素早さ……あ!もしかしてそういうこと?」

メイプルがステータスを一つずつ確認していく中で、あっと声を上げる。

 

「はい、多分そういうことだと思います。AGIが低いから、歩くのも遅いんじゃないでしょうか」

ノノがそれに同意するように返す。

 

「あはは……これやっちゃった?」

 

「やっちゃいましたねぇ……えへへ」

0が並ぶステータスを見ながらあははえへへと笑い合う。意図せずやってしまったメイプルは乾いた笑いで、確信犯であるノノはにへらと緩んだ笑顔だったが。

普段あまりゲームをやらない楓でも0が並んでいるのはよくないことだと推測できた。

今までの人生でも0が良かった事は少ない。

 

「どうしよう、理沙はいないし、ログアウトしてやり直そうかな?」

 

「どうしましょう……私は確信犯ですけど、メイプルちゃんの場合はただのやらかしなんですよね」

二人そろってしばらくうんうんと唸って考えて出た案は、とりあえず一回戦ってみるというものだった。それでどうしても駄目そうならその時は仕方ないので、作り直そうということに決まった。

 

「で、えーっと、どっちに行けばいいの?」

 

「えっと、どっちなんでしょう?」

メイプルはノノにそう尋ねるが、ノノもこのゲームは初心者だ。二人そろってまた首を傾げた。

二人ともわからないので知ってそうな人に聞こうということで、たまたま近くを通りかかった金髪の女性に声を掛けた。

 

「あの、すみませーん……え」

金髪の女性はまさか自分が呼ばれているとは思っていないように、すっと横を通り抜けていった。

 

「すみません!あのっ!」

 

「ん?どしたの?」

めげずにもう一度声を上げたメイプルに女性が気付き、振り返った。

メイプルがモンスターと戦うには何処に行けばいいのかと尋ねると、女性は快く教えてくれた。

 

「おぉ、初心者さんたち。モンスターなら西へ行くと森があるから、そこなら最初のレベル上げにちょうどいいかな。じっとしてても向こうからいろいろ出てくると思うよ」

 

「ありがとうございます、行ってみます」

メイプルがお礼と共に頭を下げるのに合わせて、ノノもお辞儀をする。

 

「がんばれー」

西の森へ歩いていく二人に手を振って見送りながら、女性は声援を送った。

 

 

 

町の外にも町中程ではないが人がおり、ここで戦えば誰かの目には留まりそうだった。

 

「ここは人がいるし、もうちょっと奥まで行こっか」

 

「そうしましょう」

メイプルとノノは、そのままてくてくと歩いて人のいなさそうな森の奥までやって来た。

 

「よし、ここならいいかな……モンスターさん何処からでもかかってきていいよ!」

そんな楓の声に反応したのかはわからないが、リンゴで作った兎を大きくしたようなモンスターが草むらから飛び出してきた。

兎が体当たりを仕掛けてくるがそのスピードはかなりのもので、現実と同程度の速さでしか動けないメイプルに躱せるはずもなく。

 

「え!?わっ、ごめんなさい!」

何に対して謝っているのかよくわからない謝罪の声を上げながら、何を思ったのか構えていた大盾をずらしてしまいメイプルはお腹で兎の突進を受けた。

 

「痛っ……く、ない?おおお、凄い!痛くない!凄いよノノちゃん!」

そう言ってノノの方を見たメイプルの視界に入って来たのは、ターゲットをノノに変更した兎の突進をもろに顔面に受けてふっ飛ばされ、光となって散っていくノノの姿だった。

 

「の、ノノちゃーん?!」

メイプルと同じく【AGI】0のノノが兎の突進を躱せるはずもなく、そしてメイプルと違って【VIT】も0なノノは、最弱モンスターの一撃で儚く散っていくのだった。

 

 



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