シャミ桃ホワイトデー

シャミ桃ホワイトデー

　バレンタインデー、世間では女性が男性に思いとともにチョコを贈る。

　昔はそういう風習だったのだが、気が付くとそれは女性同士で、友チョコという文化に置き換わっていた。

　そんな２月１４日のある日、シャミ子からチョコをもらった。

『闇おちせよ、しゃみ子より』

　イチゴジャム臭の凄まじい匂いに驚いたが、私にはイベントを共に楽しむ友人や興味を持つ機会がなかなか無かったため純粋にうれしかった。

　そんな２月１４日から早１か月、時は３月１４日に移り変わる。

　イベント事に疎い私は、今日がホワイトデーであることを、早朝の河川敷でのランニングで見かけたバスラッピングで気がついた。

　見た瞬間に、あ…まずい…と、シャミ子からチョコをもらっていた事を思い出し、急に襲い掛かる胃痛を背負い、ランニングを切り上げ商店街へと足を運ばせた。

「どうしよう…」

　シャミ子に貰ったチョコレート、宿敵チョコのお返し。

「何を渡せば喜んでくれるかな…」

　なにはともあれ、まずは情報を集めよう。

「皆シャミ子にチョコって貰った？」

　皆にメッセージを送ると、それぞれすぐに返信が帰ってくる。

「もしかしてホワイトデーのお返し？…今頃？私もう渡したわよ？」

「えぇ…ちよもも…そういうとこだぞ！」

「千代田さん、シャミ子ちゃんの乙女心が傷ついちゃうなー」

　ミカン、杏里、小倉と皆、辛辣な意見に増す胃痛をこらえ、意見を仰ぐ。

「それで、みんなは何渡したの？」

「柑橘類のフレーバーの入ったクッキーよ」

「肉球マドレーヌ増し増し増しセット！」

「自家製マカロン～魔力味～だよ」

　基本的にはお菓子なんだ…じゃあマシュマロとかにしようかな。

「じゃあ私はマシュ・・・」

「マシュマロだけは避けたほうがいいわ」

「マシュマロはやめとけよ～」

「マシュマロ以外ならたぶん大丈夫だよ」

　マシュ・・・まで打ち込んでる途中ですぐに返信が帰ってくる。

　マシュマロはなんで駄目なんだ……？

　シャミ子の好きなお菓子など聞いたこともない、それでいてかぶらないお菓子…

「ど、どうしよう」

　本当に思いつかない、何にしようか…

　うろうろとお菓子売り場に足を運ばせ物色していると、不敵なニコニコ顔で近づいてくる狐の姿が現れる。

「あ、桃はんや」

「・・・・リコさん、奇遇ですね」

「前も死にそな顔で店ぶらしてたな～…ホワイトデーのお返し？」

「・・・・・・・・・・」

　本当にこの女狐は目ざとい。

「何買おうか迷ってんやろ」

「・・・・ちなみにリコさんは何か返したんですか？」

「私はお手製のチョコケーキや～」

　もともと手作りの予定は無かったが、これでチョコをそのまま返す線も無くなった。

　いよいよ何も思いつかない。

「他の皆もシャミ子はんにお返ししたんやろ～なになに～？」

「…えぇっとこんな感じです」

　ラインの画面を見せふむふむといった表情で、それぞれのプレゼント品を見比べる。

「へぇ…みんな足の早そなお菓子ばかりやね～シャミ子はん食べきれるやろか」

「そうですね…ん？」

「どないしたん？」

「足が早い…腐りやすい…あ！そうだ！！」

　日持ちして食べるのに時間のかかるお菓子…これだ！

「これどうです？」

「んん～ええんやないの～？喜ぶと思うで？」

　にやりと意味深な表情に笑顔を浮かべた顔に少し警戒するも、恐らくこの判断は間違っていない、シャミ子も喜んでくれるはず。

「桃はん？渡すときにはバラを一輪添えたほうがええよ？」

「もう騙されないですからね？」

「えぇ本心なのに～」

　意地の悪い笑顔でオススメされたが、確かにこれだけだとちょっと味気ないかな…プレゼントって感じしないし…

　売り場を見回すと、ふとお菓子売り場の中央の看板に目が行く。

　【１００種のフレーバー販売中！今なら好きなフレーバーを店内で加工します！】

「うん、これも一緒に買っとこうかな」

「えぇ…ほえ～…」

　プレゼントにも向いてるし、合わせてプレゼントすればちょうどいいぐらいのボリュームだろう。

「桃はん…ええんか？」

「え？これ不味い？おいしくなかったり？」

「いやおいしいとかやなく…まぁ桃はんがいいならええけど」

　いぶかしげな態度に私の判断が間違っているのか気になるが、これで目的の物は購入できた。

　あまり慣れ合いたくないので、包装の終えたお菓子を受け取り足早に立ち去ろうとする。

「よし、それではリコさんさようなら」

「桃はん？ひとつだけええ？」

「なんです？」

「それ渡すときはこう言ってみ？」

　すっと近づき耳打ちしてくる。

「…それ言ったほうがいいの？」

「ええで！バッチリや！」

　満面の笑みでオススメされる。

　まぁそれくらいなら…

「わかりましたよ、それでは」

「ほなさいなら～」

　なんだかんだと探しているうちに、もう昼過ぎの時刻になっていた。

　ぱんだ荘に戻ってくると、すでにお昼ご飯の準備を終えたシャミ子が出迎えてくれる。

「あ、桃！お昼ご飯ありますよ？食べます？」

「うん、いただくよ。その前に…はい、これ」

「えっ…桃、これ…」

「バレンタインのお返し、どうぞ」

「あ、ありがとうございます！開けてみてもいいですか？」

「うん、どうぞ」

　しっぽを左右に震わせ、喜びの動きを見せる。

　よかった…喜んでくれたみたいだ。

　ラッピングを丁寧に剥がし、出てきたのは小さな小箱だ。

「これは…キャラメル？」

「キャラメルなら日持ちするし、時間をかけて食べられると思って」

「あ…あの…それ以外には特に意味はないんですか？」

「別に？…ないけど？」

「そ、そうですよね～あはは～」

　なぜかがっかりしたしっぽの動きに、キャラメル嫌いだったのかな？と不安になる。

　それなら…これも渡しておこう。

「あ、あとこれも貰ってくれる？」

「これは…」

「飴玉、桃のフレーバーがあったから買ってみたんだ」

「も…桃！？本当にいいんですか？」

「うん？シャミ子桃の香り好きだって言ってたから…桃味嫌いかな？」

「え！！？いや…す…好き…ですけど」

「なら貰ってよ、結構おいしいらしいから一つ食べてみてよ」

「い、いただきます」

　手渡された飴玉の入った袋を受け取り、中の桃色の飴を口に含むシャミ子。

　ころころと柔らかいほっぺが膨らみ、口の中で転がしている。

　思わず『可愛い…』と口に出そうになり、口を手で覆う。

　そこでふと、そういえばリコさんに言ったほうがいいって言われていたフレーズを思い出した。

「シャミ子？」

「なんです？これ結構おいしいですね」

「しっかり『桃』を味わって食べてね？」

「な。な。。。ななんな！？」

　顔を真っ赤にさせ、急に騒ぎだす。

「なななな！！きゅ！急に何ですか！！」

「いや…桃味だから、え…やっぱりあんまり好きじゃなかった？」

「好きとか嫌いとかそうじゃなくて…うもぉ！桃！」

「やっぱり嫌いなんだ…」

「んん！！好きです！大好きですよ！桃！！もぉ！これで勝ったと思うなよぉおお！！！」

　思わぬプレゼントの中身、セリフに取り乱しながら今日もパンダ荘は騒がしく一日を過ぎていく。

　頑張れシャミ子よ！鈍感桃色魔法少女にいつかぎゃふんと言わせるんだ！

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ミカンの部屋にて・・・・

「…桃、ホワイトデーのプレゼントの意味知ってるかしら？」
「知らぬだろうな、逆にシャミ子はあらかじめ調べているであろう、耳年まぞくなところがあるからな」
「そうよねぇ…まさか飴とかキャラメルとかではないとは思うけど…まさかねぇ」
「大丈夫じゃろう、まぁ飴とキャラメルを選んでおったら茶化してやるけどな！」
「じゃあ後で様子を見に行きましょうねリリスさん」
「うむ！」

　この後、真っ赤な顔のシャミ子に慌てる桃を茶化し、空の果てに投げ飛ばされたご先祖であった。