鯖癌の亡者 (斗掻き星)
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β民の渇望

サバイバル・ガンマン

 

良くも悪くも話題になったそのゲームのサービス終了の時が迫る。

私、オルタンシアはυ(ユプシロン)サイドの傭兵としてε(イプシロン)サーバーとの最後の抗争に参加していた。

まあ私はβ(ベータ)民と呼ばれる人種であり、υ(ユプシロン)に組した理由も特にない。

最後の場として此処を選んだのは、ここの連中が最もガチで戦争をしているから。

 

「イプシロンは一人としてにがすなァ!」

「殺せ殺せ殺せえェエエ!!!」

 

あちこちで叫び声と銃声が鳴り響く。

うーんこの…戦争狂(ウォーモンガー)な感じはここ特有だよね…!両手で銃を抱えながら、

 

「アハァアア!トリガーァ!ハッピイイィーーイ!!!」

 

ラリってしまった哀れな奴の頭を抜きつつ戦場をかける私。

あぁ…いい!今日の私は絶好調だぜ!ヘッショキメまくってやるから覚悟しなぁ!

 

「あなたが落としたのはこの鉄の斧ですね!?はい!プレゼントォ!!」

「人違いです返却返品クーリングオォフ!!!」

 

絶好調も束の間、突如生えてきた泉の精とユーモアを交わしつつ腕と腕(1:1)交換。

これが淑女の嗜み…ッ!

慣れたとはいえ痛いなあ…!しかしこれこそがバーチャルリアリティ!痛覚100%上等!

でも逃げます。右腕なくなっちゃったからね。こんな時こそ集中せねば。

 

「というわけでさらば!」

「ああっ!逃げるな臆病者がああ!」

 

ふはは!何とでも言いたまえよ。見たところSTR偏重の君には追い付けまいて。

 

主戦場からは離れ、木の根元に座禅スタイルで座り込む。ログイン前にはライオットブラッド摂取済み!

集中…ッ!神の啓示に神経を研ぎ澄ませ…!

イメージするのはそう、ピンと張り詰めたピアノの弦を叩き切る感じッ!!

 

ッスゥーーーーーーフゥーーーーーーぅ

 

来たァ!これこれこの感じィ!今なら何でもできる気がする!もう何も怖くない!

泉の精(筋肉ムキムキマッチョマン)も敵じゃない!

 

「見つけたぜえ!ぶっ殺してやるよおぉおお!!!」

「泉の底にお帰り下さァい!!」

 

たとえ片腕でもしっかり狙って…レッツトリガーハッピー!

ッハァーー!!腰だめ全弾ヘッドショットォ!!!

最高最高!全身のカフェインが沸騰しそう!

袈裟懸けにバッサリ切られちゃったけどシニャスシニャス!

走れ私!乱戦極まる最前線へ!

 

 

 

 

とまあハイになった私が敵陣に突っ込み包囲されて、二人ほど道ずれに無事死亡したのがもう何年前だったかな?過去最高に気持ちよかった死だったけど鯖癌はそのまま閉鎖。当時JKだった私の有り余るエネルギー全てを注いだゲームの閉鎖に涙も零れかけた。その後は順当に進学、就職と進んで現在ふつーのOLをしております。昔ほどのめり込んではいないけどゲームもそこそこ楽しんでる。

 

けど…

 

「オルタンシアさん?大丈夫ですか?ボーっとして」

「ん、ああごめんなさい大丈夫」

「そろそろ交戦距離です。準備しましょう?」

「わかったわ。戦術は昨日と一緒よね?」

「はい!でもオルタンシアさんとパーティ組めるなんて、私今でもちょっと信じらんないですよ!」

「そんなに?私なんて時々ランキングの端っこに名前が載る程度よ?」

「でも何持たせても強いってあちこちで評判ですよ!」

 

まあβ民やってた頃は本当に何でも使ってたからなあ。

今度投げナイフでも試してみようかな。

 

「それじゃあ期待に応えられるように頑張ろうかな」

「私も頑張ります!」

 

なんというか、被弾しても何ともないのは味気ないというか刺激が足りないというか…。

 

思えば思うだけ、あの血生臭い魅力は私を惑わせる。

 

 

あぁ

 

もう一回だけでいいから

 

殺りたいなぁ…っ!

 

 

 




短い?私も書き終えてそう思った
文章量はこれから頑張って増やす

もうちょっと冷静な感じの娘かと思ったらガンギマリJKだった
それもまたよし

やりとりがギャグ調になっちゃったのはユーモアとブラックジョークが戦争の華だという私の信念
でもシリアスな感じも書きたい
μサーバーに放り込むとか…?

オルタンシアちゃんが最後にやってたのは某GG〇的なゲーム
多分良ゲー
もちろん痛くない


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JK、鯖癌に触れる〈β〉

オルタンシアちゃんと鯖癌の馴れ初め。


「ねぇねぇ、陽花(はるか)!面白いゲームがあるんだけど!」

 

ゲーム好きの友人、一華(ひとか)の言葉。あらゆるゲームをおすすめされるが、偶に地雷が混ざっている。

 

「サバイバル・ガンマンっていうんだけど!」

「どんなの?」

「えっとねぇ、痛い!」

「は?」

 

彼女の紹介してくれるゲームはネットで良い評価を受けているものから、クソと評されるものまで実に様々。

今回はクソかな?

 

「あのね、無人島で色々狩ったり、人と殺しあったりするんだけど」

「うん」

「痛覚が100%再現されてるの!」

「つまり?」

「切られたり撃たれたりするとリアルに痛い!」

 

やばいゲームじゃん。大丈夫なのかそれは色々と。

 

「ショック死とか」

「配慮されてる!」

「私痛いのイヤなんだけど」

 

自ら痛みに飛び込むとかドМの遊びじゃん。業が深いね人類はやっぱ。

 

「でも陽花っていつも冷静じゃん」

「で?」

「流石に腕切られたら叫ぶよね?」

「一華はいつからそんなサイコパスになったの?」

 

中学からの付き合いだがこんなヤバい娘じゃなかったはず…。

いや割とこんなものか?そういえば一緒にコオロギ食べさせられた記憶があるわ。うぇ。

 

「ね、いいでしょ?今回は私が買うからさ、やろうよ一緒に!」

 

上目遣いでのおねだり。一華のこの顔にはいつも勝てない。

まぁいいか。いつも通り、

 

「わかったよ。やってみる」

 

文句はプレイしてから、ね。

 

 

 

「あ、いたいたー!オルタンシア!」

 

私を見つけて走ってくるプレイヤー。

名前はアネモニー。一華が好んで使うプレイヤーネーム。

要するに目の前のニコニコ笑顔のプレイヤーとは一華である。

 

オルタンシアは私のプレイヤーネーム。

本名、紫微陽花(しびはるか)から連想したアジサイを、オシャレにフランス語にして、オルタンシア。

 

「アネモニー、これからどうするの?いきなり腕切り落としたりしないよね?」

「んー、まぁまずは釣りとか狩りとか…」

「釣りね、わかった行こう」

 

 

 

海に面した岩場に来た。

 

「あ、私釣り竿持ってないんだけど」

「これ使ってー」

「ありがと」

 

釣り糸を垂らす。そして待つ。

 

待つ…

 

かからない。

 

「アネモニー」

「なにー?」

「人と殺しあうって言ってたじゃん?」

「うん」

「死ぬとやっぱ痛いの?」

「めっっっちゃ痛い」

 

うわぁ…こわぁ…

 

「そのうち慣れるよ」

 

うわぁ…嫌な慣れだなぁ…

 

「オルタンシア、竿をよく見て。油断したら痛い目見るよ」

「え?これ釣りだよね?」

 

あ、かかった。

 

「え、あ、ちょっ」

 

え、引きつよくない?

 

私は釣り竿を手放すこともできず。

海に引きずり込まれた。

 

 

 

いっっっったぁあ!?

噛まれた!?何に?魚!?いや待って群がってきた!

逃げなきゃ…!いや魚から泳いで逃げられるわけ…っ!

 

ああああああ!痛い痛い痛い待って痛い痛い!!!

ああっ!くっそまじかこのゲーム!痛すぎ!

あああいたいいたいいたいぃいぃ!!!

あああああああああああああああああああああ!!!

 

 

 

私、リスポーン。

 

「大丈夫?」

「大丈夫なわけないでしょ馬鹿なの?」

 

生きたまま魚に食べられる経験とかしたくなかったわマジで。

このゲームやってる人ガチドМだろうこれ。

 

「平気そうだね」

「あんたマジでサイコじゃん」

「でもこのゲームの魅力は対人戦だよ!」

「殺しあうとか正気じゃないでしょ」

 

ハッキリ言えば怖い。

あの痛みをまた感じなければならないと思うと尻込みする。

 

「さっきよりは平気だとおもうよ?」

「その心は」

「逃げられるし反撃できるからね!」

「…なるほど」

 

実際さっきは水中で逃げる事も反撃する余地もなかった。

そう考えると楽…なのかな?

 

「じゃ適当に歩き回って見つけた人から襲撃しよう!」

「大丈夫なのそれ。文句言われたりしない?」

β(ベータ)サーバーだし大丈夫でしょ!そもそもあんまし人いないし!」

 

 

 

アネモニーと歩き回ること数分。

二人組のパーティを発見。

 

「見つけたけど。どうするの?」

「とつげき」

「えぇ…作戦は…」

「必要ない必要ない。じゃ私突っ込むから。ビビらず前出てね!」

 

いやビビるが。この女に恐怖心はないのか…?

 

「ごきげんよー!!!」

「うわあぁビビったなんだこの女!」

「はよ撃ち返せはよ!」

 

突如として始まる銃撃戦。

ビビらず突っ込め、か。

ふうぅー…。

 

古今東西、恐怖を打ち消す時は。

 

「うああああああ!」

 

叫ぶ!!!

 

「うおおもう一人いた!」

「手を動かせや手をォ!」

 

ビビりの方が私を狙う。銃口が私を捉える。

こっわ!やっぱ怖い!走れ走れ!走れば当たらない!

 

撃ち出された銃弾の一つが私の右の太ももを貫く。

 

「っしゃあ!」

 

いっっった!!!やっぱ当たるよね!走っても!

でも止まるな!止まればもっと当たる!

 

痛いのを我慢し走る。

めっちゃ痛いしなんなら熱い。

 

目の前の木に隠れ呼吸を整える。

深呼吸。

よし!

 

「仕返し!」

 

ピストルを撃つ。

身を出した瞬間おなかと左肩に鋭い痛み。

それでも私の撃った弾は四発が命中。敵はうつ伏せに倒れこむ。

やったか!?

 

敵の体は消えてない。まだ死んでない?

リロードして、頭を狙って、撃つ、撃つ、撃つ!

 

「死体はすぐには消えないよ」

「うわっ!アネモニーかびっくりした。そっちは倒したんだよね?」

「うんバッチリ!」

 

緊張が解けて座り込む。

撃たれたとこが焼けるように痛い。

 

「意外と大丈夫でしょ?」

「まぁあの生き地獄よりましだけどでもめっちゃ痛いから」

 

人によっては倒れてもおかしくないでしょこの痛み。しかめ面になっちゃうわ。

そんな私をニコニコ笑顔で見つめながら、

 

「私も結構始めたばっかだから、しばらく一緒にプレイしようね!」

「…まぁ、いいけど」

「やった!」

 

なんだかんだ一華のこの顔が好きなのだ。私は。




あれ?百合?

前回よりは長くなった。成長だね。

最初は友達に誘われただけのJK。最終的にガンギマリJK。

お魚にパクパクされるシーン難しすぎた。実体験がないからさぁ。
実際戦闘シーンとか割と苦手。難しい。要練習だね。

別サーバーの人とか書きたいけど、鯖癌が果たしてどこまで「できる」ゲームなのかが分からない。
例えばι(イオタ)サーバーは熱心に空路開発してたみたいだけど航空機の発展具合とかによって結構お話変わってくるよねみたいな。


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定番の質問〈β〉

最近よく一緒にゲームをする子に、こんな質問をされた。

 

「無人島に何か一つ持っていくとしたら、みたいな質問あるじゃないですか」

「あるわね」

「私、船が最適解だと思うんですけど、オルタンシアさんは何です?」

 

自分で持ち込む物が選べるんなら、それはもちろん…

 

「斧ね」

「え?斧?どうしてですか?」

「斧があれば筏が作れる。筏があればどこにでもいけるじゃない」

 

脳みそを筋肉に蝕まれたφ(ファイ)の連中でさえ斧だけは振った。つまり斧こそが至高。

 

「それ船じゃダメなんですか?」

「壊れたらどうするのよ。燃料の問題とかあるし、そもそも船じゃ狩りができないわ」

「…オルタンシアさんって結構たくましいですね」

「まぁね」

 

 

おまけ

 

τ(タウ)サーバー出身者の場合

 

Q:無人島に何か一つ持っていくとしたら?

 

A:ライオットブラッドってご存知ですか?知ってる?素晴らしい!では無人島生活という前提を踏まえて私がおすすめするライオットブラッドはこちら!迅速にあなたの脳を覚醒させる!青白く輝く暴徒の血!ライオットブラッド・クァンタムです!クァンタムは速い効き目が特徴のライオットブラッドですが、隠されし効能がもう一つあるのです!これを飲めばどんな料理でも食べられるようになります!あなた、無人島経験は?ない?そうですか。無人島では必ずしも美味しい料理に舌鼓を打てるとは限りません。ヘビはご馳走の類、時にはそこら辺に生えてる雑草を食べますし幼虫だってプチッと食べます。そんな時に心強い味方になってくれるのがそう!ライオットブラッド・クァンタムです!グビッといけばどんなにまずい食材でも素敵な栄養源に早変わり!餓死の心配をする必要はもうありません!え?危険性?あるわけないじゃないですかhahaha!あなたは今年の抗議デモはご覧になっていないらしい。このライオットブラッド・クァンタムも例に漏れず合法ですよ。安心して飲んでください。ですが飲むタイミングには注意する必要があるかもしれませんね。まずは狩りのお供に一本。そして食事時にもう一本が好ましい飲み方でしょう。それ以上は…気を付けた方が良いでしょう。もちろん合法なのでなんら恥じ入ることはありませんが。いやぁしかし、今日は良い日だ!ライオットブラッドはあらゆる場面において我々の心強い味方であり、善き隣人だということが証明されましたね!さぁ皆さまライオットブラッドを手に取って。今後とも皆さまにライオットブラッドのご加護のあらんことを!




おまけが七割。あれ?

ありとあらゆる鯖癌出身者にこの質問したいね。

私なら醤油。
醤油かければ何でも美味しくなるからね!みんな醤油飲もう!(気狂い)


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θ民の渇望

θサインによる意思疎通は意訳でお届けします。


θ(シータ)サイン。

とある島で使われていた無声の言語。

人を避けながらも人を求めた彼らの言葉は、声より速く、声より遠く、その意思を伝達する。

 

 

 

『虎、そっち行きました。建物裏』

『殺った。どうする龍、一度帰るか?』

『時間も遅いしそうしましょう』

 

会話をするには遠すぎる距離で意思を疎通する二人のプレイヤー。

虎、龍と呼び合う二人の頭上には、なまくら虎徹、龍角=サン、と表示されていた。どちらもゴツイ男性のキャラメイクである。

二人の手が忙しなく切り替わる。

 

『龍、何か収穫はあったか?』

『やっとSRにスコープが付きました。そっちは?』

『金SMG。当たりだな』

 

二人のプレイするゲーム、ウィークミート・オンライン、縮めてWMOはプレイヤー同士が戦う銃撃戦ゲーム。倒した敵プレイヤーの持ち物は全て自分の物とできる。そうして強くなったプレイヤーはさらなる強さを求めて強者の集う中央へと進んでいく。最終的に装備品の総価値で決まるランキングに載ることがこのゲームの目的である。

 

『しかし三日生き延びたのは初めてだな。運がいい』

『ええ、やはりあの宿屋は当たりですね』

『そうだな。早いとこ戻ろう』

 

WMOでは宿屋以外でのログアウトは推奨されていない。仮に街中でログアウトした場合、アバターは残り、他のプレイヤーに倒されてしまう。宿屋の場合は安全にログアウトすることができる。そして中央に行けば行くほど宿屋は数を減らすのだが、二人は宿屋が少なくなるエリアに差し掛かりながらも、宿屋の確保に成功していた。

 

『虎、新たなパーティを発見しました。四人でロケラン持ちがいます』

『てことは物資を漁った奴らか。だがまぁ、いけるな』

『ええ。ロケランは私が抜くので虎は接近戦を。フォローします』

『了解だ』

 

なまくら虎徹が敵パーティに十分に接近したのを見計らって龍角=サンがロケットランチャーを抱えたプレイヤーを狙撃。ヘッドショットが決まりダウンすると、なまくら虎徹が飛び出しすぐさま先頭のプレイヤーに銃弾を撃ち込む。残り二人は散開して身を隠した。

 

『後ろに十二人のパーティを確認しました。引きましょう』

『ロケランだけ回収する。敵は帰り道にいるがどうする?』

『…各自で遠回りしましょう。宿屋集合で』

『分かった』

 

 

 

他プレイヤーにバレないよう宿屋まで帰ってきた二人。

 

「…お疲れ様です」

「…おう」

 

端的に言葉を交わす。二人は無言で宿屋に入り、そのままベッドへ寝転がる。

 

「…ではまた」

「…ああ」

 

短い言葉と共に二人はログアウトした。

 

 

 

「くっそ!何なんだよチクショウ!」

 

突如として前衛が二人死んだ。そして次の瞬間には地面が爆ぜ、今度は三人が死んだ。

警戒して森を進んでいたはずのパーティは当初六人だったのが一瞬で彼一人になった。

恐らく複数人に狙われているだろうことは分かったが、どこにいるのかも分からず、また一瞬にして味方を殲滅させられた恐怖が彼を逃げの一手へと走らせた。

 

「くそが!ここまで来て死ねるか!!!」

 

死に物狂いで走って逃げる。

 

『あと一人。狙えるか?』

『任せてください』

 

その言葉の直後に最後の一人は散った。

鬱屈した森を静かに進む一つのパーティ。龍角=サンとなまくら虎徹は中央へ進出すべく、新たな宿屋を探していた。しかし一つの宿屋を利用できるのは一つのパーティのみ。故に先ほどのようにパーティ同士が接触すると自ずと銃撃戦へと発展する。

 

『しかし、なかなか見つかりませんねぇ。場所変えますか?』

『どこもこんなものだろう。森に宿屋があれば大きなアドバンテージになる』

『根気よく探しましょうか…。最後の彼の走った方向にでも進んでみましょう』

 

そうして進んで行った先、少し開けた場所に出て、先頭を進んでいたなまくら虎徹の目に入った物が二つ。

一つは宿屋。

そしてもう一つが、

 

「ッ!敵発見!」

 

敵のパーティ。

なまくら虎徹はすぐさま声を上げたプレイヤーを射殺。森に戻って龍角=サンへとハンドサインを飛ばす。

 

『敵十数人、気づかれないように後ろの奴から殺してくれ』

『わかりました。移動に少し時間がかかります』

『了解』

 

なまくら虎徹は短く息を吐いてから、身を出し敵を撃つ。木々を遮蔽としながら森を駆け敵を撃つ。

木や宿屋に隠れた敵には手榴弾を投げる。姿を見せた敵から撃っていく。

 

『虎、左側三本目の木の裏に敵がいます』

『助かる』

 

振り向き、撃つ。目に見える敵は全て排除。龍角=サンのいた位置からも数発の銃声。見れば十数人いたプレイヤーは全て地に伏していた。ある程度周囲を警戒した後、二人はそれぞれ装備品を回収し始めた。

二人は離れた位置で作業しながらも、ハンドサインを交わす。

 

『数が多いパーティだと収穫が良いですね』

『ああ。武器防具はほぼ揃ったし、今後は本格的に戦闘だな』

『ランキング五十位くらいにはなりたいですね』

 

雑談しながらも回収を終えた二人は勝ち取った宿屋へと無言で入っていく。

そしてベッドに寝転がり、すぐにログアウト、とはならなかった。

 

「…こうしてあなたとゲームをしていると、たまに無性に鯖癌をしたくなります」

 

龍角=サンの発した、音のある短くない言葉。

 

「…俺もだ。このゲーム、結構緊張感はあるが、それでも…なんというか、物足りない」

 

珍しく会話をしている二人の声は、弾んだものではなかったが、

 

「懐かしいですねぇ…」

「ああ。あの頃は会話なんぞ全くしなかったが…」

「ふふ、そうでしたね…」

「ああ、そうだった…」

 

二人の思いは一致していた。

 

すなわち

 

また、殺りたい

 

と。




ウィークミート・オンラインはミミズ的サバイバルゲームだと思っていただければ。
ランキング上位は席を離れる事を許されない少々クソ香るゲームです。
初めてゲームの設定とか考えたんですが、結構楽しいですねこれ。

θサイン使える人達の連携プレイが書きたかった。
連携…上手く書けてるやろか。

実際戦闘中はそこまで複雑な意思疎通はできないだろうというのが私の見解ですが、単語の応酬だけではなんだか寂しいと思ったので、意訳と前置きさせてもらいました。




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Japanese NINJA 〈χ〉

身を隠す。息を殺す。

眼前には終わりなき戦争。日常的に繰り広げられる殺し合い。

昨日酒を飲み交わした奴が次の日には死体となり。

子どもたちの学び舎に爆弾が降る。

そう、日常なのだ。これが。狂っていると思うかもしれないが。

だからこそ私は伝えねばならない。

 

だからこそ、私は。

 

カメラのシャッターを切るのだ。

 

 

 

「今日は長引いてるな」

 

独り言をこぼす。誰にも気づかれないと分かっているから。

窓からカメラを構えてシャッターを切る。よく撮れてるな。緊迫感が伝わってくる。

画面をスクロールして今までの写真を見返す。これ映り悪いな…削除。おっこれいいな。

やはり子供たちの笑顔は良い。後でARにしよう。

 

「っと。終わったかな」

 

銃声が止む。戦闘が終わったようだ。部隊と合流しよう。

 

 

 

「よっボブ。お疲れ様」

「うわっ!おいジョージ、毎度音もなく近寄るのはやめろ!」

「ははは。職業病だ勘弁してくれ。煙草いるか?」

「へへ、わりぃな」

 

佐竹譲二。親しい奴はジョージと呼んでくれる。

現在アフリカのとある国に置かれた、アメリカ軍の拠点地にて一服中。新聞社の依頼でこの部隊と行動を共にし始めて一か月、隊員との仲も良好だ。

 

「へいボブ。スープを…おっとやっぱりジョージもいたな。一つ余計に貰ってきて正解だ」

「ありがとうジョン。今日の君はハンサムに撮れたぜ。見る?」

「お、いいね。後でデータ送ってくれ。ハニーに見せてやりたい」

「おいジョージ、俺は?」

「今日の君はちょっと残念だな。奥さんには見せない方が良い」

「ははは!確かにこりゃひでぇな!」

 

ボブとジョン。部隊内でも特に仲の良い二人である。

黒い肌でスキンヘッド、そしてムキムキマッチョなのがボブ。

白い肌でワイルドな顔、そしてムキムキマッチョなのがジョン。

 

「しかしどの写真も予想外のアングルだ。戦闘が始まると消えるし、ゴーストみたいだな、ジョージは」

「ハハッちげぇぞジョン。こいつはJAPANの出身だ。つまりジョージの正体はNINJAさ!」

「俺は極めて一般的なカメラマンだよ」

「その極めて一般的なステルス術、今度俺に教えてくれよ」

「いいよ。コツは心拍をコントロールすることだ」

「オゥ…ジャパニーズNINJA…」

 

心音は小さければ小さいほど良い。当然だ。

などと話している間にスープを飲み終わった。美味しくはないがゲテモノよりマシ、そんな味。

 

「器、返してくるよ」

 

 

 

「おい、どこ見て歩いてんだ?このモヤシ野郎」

 

器を返しに行く道中、ぶつかられた。避けたのにも関わらずだ。他部隊のゴツイ男で、ガタイがえげつない。

対する俺は標準的日本人。体格差は歴然である。

つまりどういうことかというと現在地に尻をつけている。

 

「はぁ…目が悪いなら眼鏡をかけた方が良い。世界が変わって見えるぞ」

 

皮肉りながら立ち上がる。

 

「言うじゃねえか腰抜け野郎が…!」

「腰抜け?ハハ、ジョークが上手いな」

「後ろでコソコソ写真撮ってるだけの腰抜けだろうがッ!!!」

 

後ろで写真を?そんな馬鹿な。

 

「俺はいつも、誰よりも前で写真を撮ってる。モチロンお前よりも」

「ハッ!ぬかせ嘘つき野郎が」

「戦場で俺を見つけられないからって現実逃避はよせよ」

「俺は後ろに目は付いてねんだよ」

 

俺が嘘ついてると思って余裕そうだな。

あぁ、そういえば。

 

「お前がなっさけない顔で応急手当受けてる写真があったな。モチロン前から撮った奴。見る?」

 

ほらこれ。

 

「この猿がぁッ!!!」

 

キレた。振るわれる拳はひとまず躱す。

 

「おいおい、暴れないでくれよ」

 

まずはギャラリーにアピール。そして彼らが男を止めに動き出す寸前に。

顔に振るわれた拳を躱す。伸びきった腕を掴み、そのまま前に引き倒してやる。

 

「ぐぇっ」

 

手刀をそっと突き立てる。

こっちがどれだけφ(ファイ)の連中にボコられてきたと思ってる。本職かくれんぼのχ(カイ)サーバー出身とはいえこんぐらいできなきゃ孤島じゃ生き抜けんわ。

男から手を離す。暴れ出そうとする男はギャラリーに拘束される。

ボブとジョンが駆け寄ってくる。騒ぎを聞いて見に来ていたご様子。

 

「おい、大丈夫か!?」

「ケガは?」

「してないし、多分あいつも擦り傷くらいだろうさ」

 

と、いうか

 

「見てたんなら助けてくれても良かったのに」

「いやぁあれだけ大口叩いたんだ。どうするのかちょっと気になるだろう」

「そしたらあれだぜ。お前ホントにNINJAなんじゃねぇのか?」

「ハハハ、まさか。日本にも忍者はあんまりいないよ」

「…いるのか?」

「気付かぬうちに目ん玉に鉛玉ぶち込むのが現代の忍者さ」

「…おっかねぇな」




χサーバー出身のJapanese NINJA。
戦える戦場カメラマンというロマン。心音抑制は基本スキル(適当)
だいぶお気に入りのキャラとなりました。

χの人達はよく他サーバーに遊びに行ってたんじゃないか…?という妄想。
でも誰もχサーバーで人を見ないからχ出身だと気付かれない、みたいな。

目ん玉に鉛玉ぶち込む忍者…一体何-skyなんだ…


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メイド、JGEに行く!〈?〉

「入りますよ、お嬢様」

 

声をかけて部屋へと入る。幼い主を起こして差し上げるのもメイドの務めです。

 

「おはようございます、ましろ!さあすぐに出かけましょう!」

「おはよう御座います、お嬢様。今日は随分と早起きですね」

「当たり前です!今日はJGEの日ですから!早く行きましょう!」

 

まあ、随分と前から楽しみにされていたようですから。

今日はジャパン・ゲーミング・エキスポの当日。お嬢様は今シャングリラ・フロンティアというゲームにハマっておられます。そのシャンフロのブースが出展されていると知ったお嬢様が旦那様におねだりして優待チケットを入手されたのは記憶に新しいことです。

とはいえ、

 

「そのような格好ではなりません。九条の人間たる者、相応の装いをしなければ」

 

九条日万凛(ひまり)。私の主の名です。お嬢様は日本でも屈指の名家、九条家の一人娘です。私、七橋真白は九条家に雇われている、ただのメイドです。

 

「ではましろ。ひまりの服を選んでください」

「お嬢様。一人称は‘私‘と」

「むぅ。私の服を選んでください」

 

お嬢様の服はいつも私が決めています。お嬢様も女の子ですから、数年もしない内に自分で選びたくなると思いますが…。クローゼットを開けると煌びやかなドレスばかり。これは旦那様と奥様の趣味の影響です。お二方共に筋金入りの西洋趣味で、邸宅の見た目はほぼお城。内装もそれに準じたものです。家の中では男性の使用人には燕尾服を、女性には中世風のメイド服を着用させています。私が自前のメイド服を見せた時は大層喜んでいらっしゃいました。主人と趣味が合うのは良い事です。

 

「こちらはいかがでしょう?」

「地味じゃないかしら」

「あまり目立っては良くありませんから」

 

私が選んだのは白を基調とした比較的地味目(当家比)のドレス。素材が良すぎますが子供服として違和感はあんまりないでしょう。あんまり。

まぁそう大した意味はないでしょうが。なぜなら、

 

「ましろはメイド服で行きますからね!」

「はい。分かっていますよお嬢様」

 

私がメイド服ですから。普段外出をお伴するときは目立たぬよう、庶民のお姉さんといった格好をするのですが、去年のJGEの動画をお嬢様がご覧になった時、少々派手な格好をした、所謂コスプレイヤーというものが映っていたのです。お嬢様は、これならましろもメイドのままお外に出れますね!などと仰って私の今日の服装が決まったのです。私はメイド服でなくともメイドですよ、お嬢様。

 

「では!行きましょう!はやくはやく!」

「まだ髪も梳いておりませんよ」

 

一通り身なりを整えるやいなや、お嬢様はお部屋を飛び出して行かれました。せっかちな…。

居間というには少々広いお部屋に行くと旦那様と奥様がいらっしゃいました。

 

「お父様、お母様、おはようございます」

「おはよう、日万凛」

「おはようございます、日万凛」

 

お二人は今日も貴族風の装い。

 

「真白もおはよう」

「おはようございます、真白ちゃん」

「おはようございます旦那様、奥様」

 

勿論お二人には今日の予定は伝えてありますが、予定は口にして繰り返すのができるメイド。

 

「今日は朝食はとらずにすぐ出発となります」

「ああ、そうだったね。いってらっしゃい」

「楽しんできてね~」

「行ってきます!」

 

 

 

お嬢様はとにかく早く会場に着きたかったようで、朝食は移動しながら、と決めたのはお嬢様です。最近は自主的に物事を決められるようになって、好ましい事です。

 

「ましろ、何か良い事でもあったのですか?」

「お嬢様が立派になられて嬉しいな、と考えておりました」

「? よくわかんないけどありがとうございます」

 

お嬢様の手には私の作ったサンドイッチが。どう食べても具材が外に飛び出ないように作り上げた一品です。味はお店のものにも劣らないはずです。

 

「ごちそうさまでした。やっぱりましろのお料理が一番おいしいです!」

「ありがとうございます」

 

何とも嬉しいお言葉。でも料理長が聞いたら泣いちゃいますから程ほどにしてくださいませ。

 

「あとどれくらいで着きますか?」

「二十分ほどです。そろそろ新東京国際展示島(メガフロート・サイト)が見えるはずですよ」

「う~ん…あっ!あれですか?」

「うん…?あぁ多分それですね。目が良いですねお嬢様」

 

自分が一番に見つけた、と鼻高々なお嬢様。大変可愛らしい。

 

「お嬢様、何処を回るかもう決めていらっしゃいますか?」

「もちろんです!まずはシャンフロのところに行きます」

「はい。そして?」

「そして…えっと…ひ、ひととおり回ります!」

「わかりました」

 

計画的未計画。大変結構です。メイドがお嬢様を楽しませてみせます!

 

 

 

そして到着。お嬢様の目に入るのは、人の群れ。

 

「私が一番じゃない…!?」

 

お嬢様は自分が一番乗りだと思っていたご様子。まぁ珍しく早起きしていましたからね。

 

「まだ暗いうちから並んでいた者もいるでしょうから」

「ズルくないですか?」

「安心してください。私たちには優待チケットがあります。並ぶ列は多分…あちらですね」

 

などと私が案内しようと思ったら。

 

『Welcome to Japan-Gaming-Expo !!』

「わ!チケットがしゃべった!!!」

 

お嬢様が手に持っていたチケットのカードからARが展開され、

 

『私はJGE公式キャラクター、ポラリス! 優待チケットの入場方法について説明させていただきます!!』

「かわいい!」

 

シロクマの女の子が映し出されました。どうやらこのポラリスさんが案内してくれるようです。

私のチケットのポラリスさんも喋っていますが…あ、案内切れますねこれ。案内は一人で結構ですよ。そうしてポラリスさんの案内に従って待機列に到着。こちらにもそれなりに並んでいますね。

 

「ねえましろ?」

「なんでしょうか」

「どうやってあっちまで行くの?」

 

現在私たちの立つ場所と新東京国際展示島(メガフロート・サイト)との間には橋はありません。

ですが…

 

「内緒です。びっくりしますよ」

「びっくり…?」

 

そろそろ時間ですかね。ポラリスさんがクルクル回ってとある場所を示します。そちらに目を向けると…

 

『時間が来たよ! 優待チケットをお持ちのお客様は一時間早く入場することができます! さぁさご覧ください! メガフロート・サイトに繋がる浮上展開橋ブリッジが現れまーす!!』

 

海を割って出てきた柱が展開したり連結したり。何とも格好いい演出で橋が出来上がりました。

あちこちで、おぉ!と声が上がります。

 

「わあぁ…!」

 

お嬢様ってこういうカッコイイの好きですよね。私も結構好きです。

 

そうして感動の声を零すお嬢様の目は。

 

楽しみで仕方がないとも言いたげに、輝いておられました。




書きやすい…!原作のイベントに沿って書くのがこんなにも書きやすかったとは…!
過去最長にも関わらずいまだJGEは始まっていない。すばらしい…!

今回は出身サーバーを隠してみることにしました。予想してみてね!
かなり細かくて微妙ですが伏線っぽいのはあります。細かいけどね!

JGE書き終わったらひまりちゃんのシャンフロも書いてみたいですね。





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メイド、優待の時間〈?〉

私たちの立つ地と新東京国際展示島(メガフロート・サイト)に橋が架かると、あちら側から次々とゴルフカートらしき車がやってきます。優待組はこれに乗って会場へ向かうようです。

 

「おおー。けっこうはやいです」

「あまり身を乗り出してはいけませんよ」

「はーい。むふふ」

 

現在のお嬢様はというと、それはもうニッコニコです。この上ないです。どうやら海から橋が出てきたのがお気に召したご様子。

 

そしてシャンフロブースに到着した私たちを出迎えてくれたのは、

 

「おおお…!ジークヴルム!ジークヴルムですよましろ!」

「ええ。凄いですね。壮観です」

 

まだ新大陸に行けるようなレベルではなかった私たちは先日の大規模イベントには参加できませんでしたから、こうして巨大なジークヴルムを見るのは初めてになります。

 

「かっこいい…!ひまりも、もっと強くなってはやく新大陸に…!あの人みたいに…!」

「頑張りましょうね」

 

しかし、決意を固めてらっしゃるところを申し訳ありませんが、

 

「一人称は‘私‘ですよお嬢様」

「あぅ。えっと、わたし、強くなります!」

「はい。一緒に頑張りましょう」

 

二人で拳を握りしめたところで、

 

「お嬢様、どこから見ますか?」

「えっとまずは、自キャラの肖像画、を作りに行きます!」

「わかりました。あっちですね」

 

マシンには複数人入れるようです。お嬢様は勿論自分のアカウントでログイン。

 

「設定、ご自分でなされますか?」

「うん。やってみます」

 

色々表示したり、ポーズを変えたりするお嬢様。試すのは大事な事ですね。

 

「あっ!ましろもいます!ツーショットとれますよ!」

「おや、私とで良いのですか」

「はい!ましろとがいいです!こんな感じでどうですか?」

 

お嬢様はご自分の姿に、私はお嬢様より少しだけ高い身長にキャラメイクしています。

見た感じは小さい女の子二人が並んでいる構図。少々物足りないですね。

 

「背景をお花畑にしてみるのは如何ですか」

「わ。かわいくなりました!それならこうして、こうしてこうして…」

 

最終的にはお花畑で向かい合って座った、二人の花冠を被った少女が笑い合っている作品に仕上がりました。お嬢様は美的センスも優れていらっしゃいます。

 

「折角ですので、ホログラムスタンドにいたしましょう」

 

旦那様からはかなりの軍資金を預かっております。普通の買い物では使いきれない程の。

ホログラムスタンドは一つ一万円。余裕です。

 

「お嬢様。これ、私の分も作っていいですか?」

「え?もちろんいいですよ」

「ありがとうございます」

 

というわけで自らの財布からも大英雄福沢諭吉を取り出し、先ほどの肖像画のホログラムスタンドを二つ作りました。そうだ、折角ですから、

 

「お嬢様、取り出して頂けますか?」

「わかりました。えっと、こっちはましろのですね。はい!どうぞ!」

「…ありがとうございます。これは私の宝物にしますね」

「ひまりもです!ましろとおそろいです!」

「…お嬢様。一人称は」

「あっえっと、わたしと、ましろのおそろいですね。えへへ」

 

…大変可愛らしい。これ程慕って頂けて、メイド冥利に尽きるというものです。

 

「お嬢様、もう何個か作ってみませんか?人は並んでいませんし」

 

これこそ優待チケットの特権です。

 

「作ります!ましろも手伝ってください!」

「はい。もちろんですよ」

 

そうして私たちはさらに二枚ほど、肖像画を作りました。

二枚目からはハガキで良いとお嬢様は仰られましたので、ハガキに印刷です。五百円。安いです。

ひとしきり肖像画作りを楽しみましたので、次は。

 

「あちらにNPC画集が売っているようですよ。見てみましょうお嬢様」

「はい!」

 

画集はサンプルが何枚か展示されているようです。かなりクオリティが高いのですね…。この、剣の上に立つ喪服の女性の絵、かなり良いですね。生死の入り混じった独創的な雰囲気が素敵です。

 

「あっ!」

「お嬢様?どうかなさいましたか?」

 

お嬢様は一枚の絵をじっと見つめていらっしゃいます。その絵を見てみると、

 

「おや、これは…」

「サイガ-100様…!かっこいい…!」

 

お嬢様の憧れのプレイヤー、サイガ-100様が描かれておりました。数多の剣を従える彼女はシャンフロにてトップクラスのプレイヤーであるようです。お嬢様は彼女に会ったことがあるらしく、現在剣士のジョブで懸命に励まれています。目標は努力の原動力になりますから。

 

「ましろ、これ、欲しいです」

「買って参ります」

 

一冊六千円。まぁ納得のお値段ですね。こちらは一冊。お嬢様の分だけです。

お嬢様は絵をずっと見つめて、離れる様子はございません。

そろそろ一般組の入場時間なのですが…

 

「お嬢様、そろそろ移動しましょう。一般の方が来て一番混み合うのはここです」

「あとちょっと…だめですか?」

「はぐれてしまってはもう見つける事ができないかもしれません」

「わかりました。家でじっくり見ます」

「バスがあるようですので、こちらへ」

 

一般入場時間まであと十分ほど。あれだけの人が並んでいたのですから早めに移動して損はないでしょう。ましてシャンフロという人気コンテンツのブースが混み合うことは必至です。

お嬢様第一。

 

そうして私はお嬢様の手を取りながら、バスへと入って行くのでした。




選ばれし者のみに与えられる一時間の余裕。
多分肖像画作れない人とかいると思うのです。

シャンフロにおける真白は日万凛のレベルを追い越さないし、ユニーク自発してもやらないという接待プレイ(?)をしています。そのせいでユニーク発生したりしませんかね?

次回はいよいよ…
そうです鯖癌センサーです。
でも出身鯖内緒にしたのはいいものの、どういう形で答えを発表したらいいのか、正直何も思いつきません。いとやばし。


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メイド、気づく〈?〉

天啓…ッ!


『ポラリスターイム!』

 

私のポケットからポラリスさんの声が。そういえばお嬢様のチケットは私が預かっておりました。

取り出してみればポラリスさんの見た目が少々変化していました。

 

『ヴィジットボーナスが追加されたよ! いっぱい貯めると最後にいいことがあるかも!!』

「ましろ、ヴィジットボーナスってなんですか?」

「…分かりません。なんでしょうか…」

 

ヴィジット…ブースを訪れればポイントが追加されるということでしょうか。

ですが広い上にブースの数も少なくありません。全てのブースを訪れるというのは非現実的でしょう。ですので、

 

「まぁ多分、そう大事な事でもないように思います」

「そうなのですか?」

「たくさんのブースを見て回ってくださいね、ということかと」

「なるほど」

 

そんなこんなで次のブースへ。

シャンフロブースでなくともやはり人はいるもので、一つのブースに長くとどまることはしません。

ちらっと見てお嬢様のお気に召した物があれば買う、といった感じでぶらぶらしていると、

 

「ましろ、あれは何ですか?」

 

見れば、ARゲームをプレイする高校生くらいのカップルが。

 

「スワローズネスト社のブースですね。近くで見ますか?」

「見ます!行きましょう!」

 

チラシがあったので見てみますと、スクラップ・ガンマンというゲームのようです。

新感覚ハック&ショットアクションと銘打ったそれは、倒した敵から奪ったパーツで銃を強化しながら戦うゲームだそうです。

 

「おお…かっこいいですね…」

「……」

「ましろ?」

 

…何か違和感が、いえ既視感ですね。なんでしょうか。今まで銃を扱うゲームはいくつかプレイしてきましたから、既視感があっても不思議ではありませんが…。

 

「ましろ?」

「すいません。何でしょうかお嬢様」

「どうかしましたか?」

「いえ…何もございません」

 

というかこれは…ゲームというより、あのプレイヤー(彼氏さん)に既視感が?

あの動き、どうにも身に覚えが…。

 

 

 

 

まさか。

姿形どころか、性別すら違いますが…。

いえ、あの非常識的な近接戦は誰にでもできるものではありません。

間違いありません。

彼は、

 

「μ-skY…!」

「みゅー?」

「いえ何でもありません」

 

気難しい職人気質の方でしたから、このような場にいるとは驚きです。

数年ぶりにあのゲーム…サバイバル・ガンマンのことを思い出しました。

思えばそのころでしたか。人に仕える、という事をし始めたのは。

懐かしいものです。

 

「ボス戦…!あれ?足だけ?」

「おそらくARゴーグルをしていれば全身が見えるのかと」

「なるほど。私も見てみたいです…」

「では並びましょうか」

「でも、あれ…」

 

お嬢様が待機列の入り口を指さすと、そこには人の形のシルエットが描かれた看板がございました。身長制限があるのですか。

 

「測ってみますか?」

「…いちおう、測ってみます」

 

看板に並び立つと、身長は足りておられませんでした。お嬢様は同年代と比べても背は低い方でございますから、致し方ないでしょう。

 

「むぅ。これが…ARゲーム…!」

「えっと、製品版はお嬢様のサイズも用意されるかもしれませんよ」

「むぅ。まぁ、できないものはしかたありませんね」

 

聞き分けの良いお嬢様。素晴らしいです。

 

「ではましろ。あなたがプレイしてきてください」

 

ん?

 

「お嬢様ができないのであれば私もしませんが…」

「遠慮はいりません。どうぞプレイしてきてください」

 

どうなされたのですかお嬢様。

 

「目を、キラキラさせていたではないですか」

 

お嬢様…

 

「ましろも楽しんでくれたほうが、わたしはうれしいです!」

「…ありがとうございます」

 

顔に出ていましたか…。まだまだ未熟者ですね。

折角ですのでお嬢様のご厚意に甘えさせて頂きましょう。

とはいえお嬢様を一人にするわけにもいきません。少し離れて護衛をしている同僚に連絡を入れて、少しの間仕事を変わってもらいましょう。

 

「あっ!鈴木さんも来てたんですね!」

「はは、奇遇ですね日万凛お嬢様。真白を待つ間、私とお話しませんかな?」

「します!ましろ、わたしはここで鈴木さんと見てますからね!」

「分かりました。…すいません鈴木さん」

「これくらいなら構いませんよ。行っておいで」

「ありがとうございます」

 

では待機列に向かうとしましょう。

 

 

 

「スワローズネストブースにようこそ!お一人様ですか?」

「ええそうです」

「他のお客様とペアを組んで頂く事になりますが、よろしいですか?」

「構いません」

「ではこちらへどうぞー!」

 

先に並んでいた方とペアになるようで、列のかなり前の方へ連れて来られました。

というかほぼ最前列ですが。

 

「お待たせしましたお客様!こちらの方とペアを組んで頂きます」

 

私とペアを組むのは女性の方。二十代の中頃くらいでしょうか?

おとなしい雰囲気の方です。

 

「え、メイド…?あの、よろしくお願いします…」

「真白と申します。よろしくお願いいたします」

「あ、えっと、葵です」

 

まずは挨拶。共に戦うのですから、大事な事です。

 

「あの、コスプレ…ですか?」

「いえ、仕事着です」

「…?あ、コスプレのお仕事を?」

「いえ、私は侍従をしております。つまりメイドです」

「本物…!?」

 

声は細々としておられますが、なかなかお喋りな方のようです。

 

「えっと、今日はどうして…?」

「お嬢様のご厚意で先行プレイをさせて頂く事になりました」

「お嬢様…!その、メイドさんって普段どんなお仕事を…?」

 

どうやらメイドに興味があるようでしたので、事細かに話して差し上げました。

なかなかお話が弾みまして、すぐ私たちの番が回ってきました。

 

「あの、こういうゲーム得意ですか…?」

「経験はあります。足手纏いにはなりませんよ」

「あ、その、頼りになります…」

 

なんというか、自信の無いご様子。

 

「不安ですか?」

「あ、いえ、その、ARは初めてなので…」

「私もです。何とかなると思いますよ。大丈夫です」

「あ、ありがとうございます」

 

スタッフの指示を受けながら、ゴーグル等を装着し、ARコントローラーを持って、ARスペースへ進んで行きます。ドキドキしますね…!おっと、冷静に。平常心。

横を見ると、葵様は相当緊張しておられます。私は笑いかけて、

 

「楽しみましょう!」

「あ…はい!」

 

いざ!スクラップ・ガンマン!




ヘナチョコ葵さんとワックワクのメイドさん。

身長制限は私が勝手に付け加えた要素です。
あんまり設定付け足したくはなかったんですが、致し方なし。
無理のある設定ではないと思いますので…!

出身鯖は多分次で明らかにできるかと思います。

プレイスタイルが際立ち過ぎてあちこちに身バレするサンラクさん好き。


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メイド、再会の時!〈?〉

「それではスクラップ・ガンマン先行デモプレイ! 一面【空母撤退戦】を始めます!!」

 

スタッフの掛け声と共にARが展開されます。いよいよです。

葵様と話してこそいましたが、ゲームの流れは先のカップルで予習済みです。

私達の現実が拡張され、ゲームが始まります。

眼前に現れるはスクラッド。これを撃てという、要するに敵です。

 

「ハック&ショット」

 

敵を倒し、パーツを奪う。ARなのにリコイルがあるとは。弾道も真っ直ぐ、というわけではないですし、こだわりが凄いです。

 

先のプレイを見て分かった事といえば、銃だけが攻撃手段ではないということ。

そして弾丸は節約した方が良いだろう、ということです。

 

「真白さん。脚を狙いましょう。銃剣は無理のない範囲で」

「了解です」

 

葵様も当然気付いていらっしゃる。銃剣突撃は少々リスキーですから。

彼のように派手ではありませんが。堅実に行きましょう。

 

「大きいのは私が。真白さんは雑魚を」

「お任せ下さい」

 

中ボス的体力多めの敵は葵様が引き受けて下さるようで。

雑魚の相手は得意分野ですが。何か葵様雰囲気ちがくないですか?ハキハキしてます。

などと考えながら雑魚共の脚を撃ち抜きます。視界外に飛んでいく雑魚敵達。

生かさず殺さず。懐かしい感じです。

 

「カバーを」

「了解」

 

葵様に群がる雑魚共の処理も私の役目。

というか本当に葵様の雰囲気が違います。先ほどまでオドオドしておられたのに、今はすごくキリッとしています。ゲーム中は人格が変わる的なお人でしょうか。

 

しかし少々弾薬が心許ないですね。そういえばパーツを使った攻撃がいくつか…。

剥ぎ取ったパーツをそのまま射出。ダメージ0。しかし怯むなら十分です。

 

『曲がります』

 

私達の乗る装甲車の運転手の声。直後に揺れが来ます。

そこを狙って群がってくるスクラッド達。葵様の近くから倒していきます。

 

「ありがと」

「お気になさらず」

 

葵様は私の倒したスクラッドからパーツを奪って弾丸に。それを使って体力の多い敵をスムーズに処理していきます。サポートが上手くいくと気持ちが良いです。

 

そして鳴り響く警報。ボス戦です。その全容はすこぶる巨大。戦闘機を取り込んだボス、ガージェット・ファイアの装甲は堅牢で、弱点である推進器部分を攻撃せねば倒せません。

 

葵様が口を開き、ゲーム前の様子からは想像できないような凛とした声を紡ぎます。

 

「弾薬は私の方が余らせてるから」

 

癖のある銃を握る感覚。

 

「私が車を降りて攻撃する」

 

敵を無力化する感覚。

 

「真白さんはここからヘイトを集めて」

 

主様(・・)の、感覚。

 

どれもこれも、

 

懐かしい。

 

「お任せ下さい!」

 

ああ、それと、

 

「装甲車を降りる際は後ろに転がって受け身を取ると良いかもしれません」

「え、わかったわ」

 

飛び降りる葵様。予想通り、残機は減りませんでした。受け身の知識を要求されるとは…。

後に残った私の役目はひたすら撃つこと。

 

乱射、乱射。少しでもダメージが通らないか探りながら。

 

派手な音を立てて背中の推進器が爆ぜます。

葵様にヘイトが向かないよう、ひたすら乱射です。

 

そして幾度かガージェット・スクラッドの背から爆音が響き、

 

「よっし最後ォ!」

 

巨大な敵は全身を軋ませて崩れ落ちます。

 

「あ、忘れてた」

 

倒れ来る巨大スクラッド。しかし私に抜け目はございません。

既に装甲車を降りていた私は放心している葵様の元へ駆け、抱き上げて走り去ります。

これで!ノーデスクリア!です!

 

「すいません…」

 

戻られたのですか?

 

「いえお気になさらず」

 

クリア評価A…。ノーデスなんですが…。雑魚のキルが少ないからでしょうか…。

 

「あの…そろそろ降ろして頂いても…?」

 

現在の葵様というと、私にお姫様抱っこをされております。

恥ずかしいのでしょうか。

 

「申し訳ありません」

「あ、いえその、ありがとうございます」

 

葵様をそっと降ろします。その後二人でクジを引いたりゲームの感想を言い合ったりして、

 

「では、葵様。ありがとうございました。楽しかったです」

「あ、私もです。ありがとうございました」

 

一礼、そして葵様に背を向け、お嬢様の元へ歩き出します。

どうにも初対面とは思えない方でした。楽しかったですね。

 

「あ、あの!」

 

葵様が私の裾を掴んで引き留めました。私は振り返って、

 

「どうか、なさいましたか?」

「あ、の。えっとその…間違ってたら…申し訳ないんですけど…」

 

口にするのを躊躇っておられるご様子。

 

「あの…シロ!ですか!?」

 

 

「そう…です。あなたは…」

 

かつて私の属した島。上流階級たる主様方と家畜達の島。名をλ(ラムダ)サーバー。

そこで私は主様方に仕え、狩りに料理に働いておりました。

そして今目の前にいる彼女は、

 

あなたは。

 

「スター☆レイン様?」

「うっ…その名前は…恥ずかしいから…」

「ご健勝そうで何よりです。こんな所で再開できるとは、私は嬉しいです!」

「あ、私も、嬉しい…です」

 

モジモジしておられる。こんな方でしたか…?いえこちらが素なのでしょう。

鯖癌の時はいつも、先程のように凛としておられましたから。

 

「その、シロは、女の子だったのですね…」

 

そういえば男アバターでバトラーをしておりましたね。

 

「スター…いえ葵様だって。普段はこんな感じなのですね」

「うぅ…ゲームの時は、その、没入できるから…。恥ずかしい…」

「ふふ、ギャップがあって素敵ですよ」

「んっ…その、ありがとうございます」

 

照れる姿も可愛らしい…。

しかしここにはお仕事で来ています。昔話に花を咲かせたいところですが、

 

「私は仕事に戻らねばなりません。連絡先を交換しましょう?またお話できるように」

「あ、よろしくお願いします…」

 

 

 

「では。また遊びましょう、主様?」

「…はい。その、またね、シロ!」

 

一礼。葵様に背を向け今度こそ歩き出します。

 

 

 

「どうだった?ましろ」

「お嬢様には感謝してもしきれません。ありがとうございます」

 

深く頭を下げます。

 

「楽しかった?」

「ええ。とても」

「よかった!」

 

お嬢様にはあの巨大ボスの絵を描いてプレゼントしましょう。

 

 

 

そうして私は、あの懐かしい日々を思い返しながら。

 

お嬢様の隣を歩くのです。




ヤシロバードさん、爆釣&爆釣。

というわけで正解はλ(ラムダ)サーバーでした。
上流階級に仕える人がいてもおかしくないかな…と。

メイドの鯖癌時代はバトラーでした。
狩りをしたり、料理をしたり、たまに自分を料理したり…?

あと前話で二人プレイ固定の設定を付け足した、と言ってましたが、
本編読み返したら書いてありました。はずかしい…。


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