チキンハートの武偵生活 (シオシオクレソン)
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プロローグ
厄介事


後ろ向きなことばっかり言ってるけど、根が善良で人を見捨てられない。
チキンだけど、腹をくくったらすごい。
そんな主人公を書いてみたかったんです。


「ああもうどうしてこうなるんだぁぁぁ!!」

 

 この日、ある一人の男が自分の運命を呪った。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 モノレールに揺られやってきたのは南北2km、東西500mに及ぶメガフロートである学園島、その一角にある東京武偵高校。その名の通り武偵を育成するための高校である。

 

「うわーやっぱでかいなー」

 

 そうつぶやくのは大きなギターケースを背負った男、姓は妻鳥(めんどり)、名は誠実(まさみつ)。普通に名乗れとツッコまれそうな狙撃科(スナイプ)志望のちょっとかわった趣味を持つごくごく普通の武偵(自己申告)である。

 

「にしても、ちょいと早く来すぎたかなぁ」

 

 試験開始二時間前。武偵志望の受験生もまだまばらである。やたらとからんでくる義理の妹のうっとうしさから逃れたのはいいものの、これではフライングスタート。競技ならペナルティものだ。

 

(試験前に復習…は、やんなくていいか。ここ偏差値低いし)

 

 東京武偵高校の偏差値は45にも満たない。一応偏差値60はある彼ならば楽勝で合格できるレベルだ。

 

(地図もちゃんとあるし、おまもりも全部持った。朝食も食べたから大丈夫!なはず…)

 

 いや、朝食がカ〇リーメイトオンリーというのはちゃんと食べたのうちに入らないと思うのだが。

 

「よし、暇だから整備しよう!」

 

 誠実は時間をつぶすために愛銃たちの手入れを始めた。どう考えても道の端っこでやることではないが、悲しいかな、時間帯のせいもあってこの行為にツッコミを入れるものは誰一人としていなかった。別に絡んだら面倒くさくなるだろうなと思われて放置されているわけではない。ないったらないのだ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「よしよし、いつにも増して輝いてるぞーセレナー」

 

 一時間弱ほど道の端っこで銃の手入れを続けている誠実だが、だれの目にも止まっていなかった。受験とあってみんなピリピリしているためだろうか。ちなみにセレナとは彼が所有する黒塗りのM110 SASSの名前である。セミオート式の狙撃銃としては精度が高いナイツアーマメント社のSR-25の発展型であるこれは、おそらく狙撃科の試験で一番使用するであろう銃だ。

 

「うーし、こんなもんかな」

 

 あらかたの整備が終わりM110 SASS(セレナ)をギターケースの中にしまう。なぜこんな目立ちそうなことをやっていたのに誰にも注目されなかったのか。きっと影が薄いからではないはず。きっと。Maybe…。

 

「きゃっ!?」

「うおっ!?」

 

 そんな誠実の目の前で防弾制服を着た男と巫女姿の女子の衝突事故が起こる。これだけならただのせっかちな巫女さんの不注意で終わるのだが、その女子を追いかけてきた奴らによって緊急事態に変わる。

 

「おいおい、なんで逃げるんだよ。俺たちと遊ぼうぜ」

 

(チャラッ!何コイツほんとに武偵?てゆーかもうすぐ試験だってのに女子追っかけてナンパするかフツー?)

 

 やってきたのは不良然とした三人組。どうみてもまじめに武偵をやるようなやつには見えない。ランクもせいぜいDが限界だろう。

 

(そもそもあきらかに格上のやつ追っかけるなよ。逃げてたのもたぶん人馴れしてないからだろうし)

 

 途中からしか見ていなかったが、剣士に必要な歩術を走りながらもやっていたことからなかなかの腕前であることはたやすく想像できる。Bランク以上は堅いだろう。

 などと相手の実力を考察をしている間に先頭にいた不良が殴り飛ばされた。きれいに入ったのかピクリとも動かない。

 

「大丈夫だお嬢さん。そんな悪夢、ここで終わらせてみせるよ」

 

(お前はなにを言っているんだ。悪夢を終わらせるってなにさ、自分で祓えるだろ)

 

 殴り飛ばした張本人である黒髪の男のキザなセリフにツッコミを入れる誠実。確かにコスプレではなく本職の巫女ならば悪夢くらいどうにかなるだろうが、ツッコむべきなのはそこではない。

 

「テメェなにしやがる!」

 

 残された不良の一人がホルスターからワルサーP38を抜き放ち、黒髪の男に向ける。誠実はこの場合巫女をかばっている方を助けるべきなのだろう。だが頭の中で『ここは傍観者に徹しようぜ!』と言うマッコウクジラ並の悪魔と『ここはやっぱり助けなきゃ!』と言うミジンコにも劣る影響力しかないの天使がせめぎあっているため、何のアクションも起こさない。

 

「死ねぇ!」

 

 

 

 バァン。一発の銃声が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あ、やっちまったぜ)

 

 火を噴いたのは誠実の持つスタームルガー社開発のシングルアクション式リボルバー、スーパーブラックホーク。持ち主たる誠実につけられた名前はアーシャ。.44マグナム弾を使用する強力なハンドガンだ。

 そんなもので自動拳銃を撃ったらどうなるか。答えは簡単。ぶっ壊れます。

 

「ぐぅぅ、テメェ…!」

 

 横からマグナム弾を当てられた衝撃と壊れた拳銃の破片が当たった影響から右手を負傷。おそらく数日は使えないだろう。

 

「ぐぁ!?」

 

 撃鉄を起こしそのまま無防備な胴体に一発。防弾制服とはいえ衝撃を打ち消すものではないため、その体を数ミリほど浮かし、不良は地面に倒れた。ミジンコ以下の天使にそそのかされた男に片手間で倒されるというよくわからない屈辱を味わう羽目になったかわいそうな不良なのであった。まる。

 もう一人の不良は黒髪の男にククリナイフで襲いかかっていったが、逆に背負い投げでコンクリートの地面に叩きつけられ、返り討ちにされていた。

 

「ありがとう助かった、さすがに二人を相手にするのは面倒だからな」

 

「いやいやうそつけ、お前さん絶対余裕で倒せるだろ。俺の援護にもならないアレなんて必要なかったろ。というわけでこれにて御免!サラダバー!(超早口)」

 

 これ以上厄介ごとに巻き込まれたくないので即退散。三十六計逃げるに如かず。巫女さんが何か言っていた気もするが全速力で逃走した。無駄に韋駄天の如き健脚を駆使した瞬間である。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「ああ、やっちゃったよまじでやっちゃったよどうしようやばいやばいやばい」

 

 彼はその後の狙撃科(スナイプ)の試験でSランクに格付けされた。ここまではよかった。Sランクという武偵の目指す頂点ともいえる位置にまで来れた。だがしかし、そのあと遭遇した少女と会話したのがまずかった。水色ショートカットの少女と。

 

(やばいよあれ無表情だったけど目がやばかったよウサギを見つけた猛禽類みたいな目ぇしてたよ次あったら確実に撃ち殺されるぜまじやばい)

 

 とりあえず今後は厄除けのおまもりを大量に持ち歩くことに決めた誠実なのであった。

 

「あーもうこれ以上ネガティヴになっても仕方ないな!気を取り直して新たな寮生活へ!」

 

 いままでまとっていたネガティヴオーラを払拭し、意気揚々と寮の扉を開ける。何事もない武偵生活を目指して。

 

「「あ」」

 

「あの時のキザ男!」

「あの時のガンマン!」

 

 さらば平穏。さらば安泰。

 

「ああもうどうしてこうなるんだぁぁぁ!!」

 

 この日、ある一人の男が自分の運命を呪った。

 




妻鳥誠実
チキンだけど狙撃科Sランク。
ご先祖は三人ほど。個人的には一人を除いて教科書に載らないレベルの知名度だと思ってます。

ご先祖その一
名字と狙撃能力の由来。ウィキでも略歴が四行で終わってた。サーヴァントなら知名度足りなくて他のと一緒になりそう。
クラスはアーチャーかガンナーだと思う。

ご先祖その二
回りくどいけど名前の由来。誠って入ってるけど別に誠の羽織の人ではない。時代は同じぐらいだと思うし幕府関連なのは同じだけども。
サーヴァントならセイバーかアサシン。代によってはクスリ作ってたからキャスターもあるかも…?

ご先祖その三
レキに苦手意識があるのとおまもりとかいっぱい持ってる由来。
サーヴァントならセイバーかキャスター、某僧正さんと同一視するならアサシンやライダーもある。(このあとアサシンで実装)


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厄日

「ああ、もうやだ絶対呪われてるよ俺…」

 

 彼、妻鳥誠実は現在試験前にミジンコ以下の天使にそそのかされて助けてしまった男と同室と言うショックからめちゃくちゃネガティヴになっていた。それはもう後ろへ向けてNATO弾並の速度で移動しているかのようだ。

 

「いや、そんなにネガティブになることないだろ。このくらい俺もよくあるし」

 

「どーせ俺なんて雌鶏ですよ。タマゴうまされて絞められて内臓引っこ抜かれて煮るなり焼くなりされて食われるんだ…」

 

「いやおまえ男だろ」

 

 男なのに妻鳥(メス)といはこれいかに。

 

「そういう名前なんだよ…」

 

「はぁ…。あ、俺の名前は遠山キンジ。よろしくな」

 

「妻鳥誠実。つまのとりって書いてめんどり、誠実って書いてまさみつだ…誠実って呼んでくれ…」

 

「珍しい名字だな。少なくとも俺はほかに聞いたことがない」

 

「どっかのサイトで調べたけど1200人ぐらいしかいないそうだよ」

 

 口下手なキンジの話術にまんまとのせられ、普通に会話し始めた誠実。ちょろいな。(確信)

 

 

 

 ピンポーン

 

 

 

 そんなこんなで陰険なムードを脱した部屋に、控えめなインターホンの音が響き渡る。

 

「だれだ?」

 

「じゃあ俺が見てくるわ」

 

 ネガティヴから完全に立ち直った誠実は自ら尋ね人の正体を見破りに行く。

 

「はーい、どなたですか…」

 

 扉を開け沈黙。目の前には大和撫子。どこかでみた顔である。

 

「あ、もしかしてあの時の…」

 

「うわああああ!!今日は厄日だあああああ!!」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「へー、二人とも幼馴染だったのかー、へー」

 

「まあそうなるな」

 

「あはは…」

 

 何とかキンジと白雪の奮闘によって平常心を取り戻した彼は、二人の話を聞いていた。万年ボッチな誠実からすれば、目の前の二人はとても輝いて見える。

 

「へー、神社のから出られなかった白雪をキンジが外に連れ出して以降こんな感じと」

 

「うん、そうだね」

 

「ふーん。どう考えても俺いらない子でしたね本当にありがとうございました」

 

 突如わけのわからないことを口にしたかと思えば、首筋に日本刀を当て始めた。自分の軽率な行為を恥じ入ってのことなのだろうが明らかにやりすぎだ。

 

「おい待て誠実!何やってる、やめろ!」

 

「離せ!俺はもう自分が惨めで惨めで仕方がないんだ!頼むから自分の首くらい斬らせてくれぇぇぇ!」

 

 誠実の暴挙を食い止めるべく羽交い締めにするキンジと、なんとかして日本刀を奪い取ろうとする白雪。その二人を振り払おうと暴れる誠実。一種のカオスがここに誕生した。

 

「馬鹿なことはやめろ!」

 

「そうだよ!生きていればいいことあるよ!」

 

「うるさぁぁぁい!俺は首を斬り落としてマイクになるんだ!」

 

「「マイクって誰!?」」

 

 首なし鶏で検索。グロ注意です。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「いやごめんごめん、俺小心者だからこんなんなっちゃうんだよねー」

 

「はぁ…」

 

 再び平常心を取り戻した誠実は、己の行為について弁明していた。いや小心者だからという理由でここまで錯乱するものではないと思うのだが…。

 

「あ、それはそうと自分の荷物の整理全然してねーや。ちょっと荷物もってくるわ」

 

「ああ」

 

 唐突に重要なことを思い出し、席を立つ誠実。キンジと白雪が荷物の正体に気が付くまであと十秒。

 

「いよっこいしょっと」

 

「…なぁ、これがお前の荷物か?」

 

「正確にはその一部かな?」

 

「一部!?」

 

「てことはまだあんのか!?」

 

「そうだよ。残念ながら仕事に必要だからまったく減らせないんだぜ。あ、一番上の段ボールさわんないでね。中身全部おまもりとか護符だから」

 

「まさか段ボール一杯に入ってるのか!?」

 

「箱越しでもすごく複雑な術がかけられてるのがわかるよ…」

 

「そうなんだよねー。俺ったらチキンハートだからこれくらいしないとぐっすり眠れないんだよ」

 

「こ、今度お祓いするよ…?」

 

「なんというか、難儀な性格だな」

 

「妻鳥クンもそうだそうだといっています。てゆーか俺ほんと呪われてんじゃないかな…。こないだも並んだレジが一番遅かったし外出したら蘭豹先生に出くわして絡まれるしカップ焼きそば湯切り失敗するしそもそもあれ焼きそばっつってるけど焼いてないじゃんお湯でもどしてるじゃん焼売も焼いてないやんってツッコんだら中国語じゃ焼は過熱するって意味だって言われたしさーほんとなんなんだよ」

 

 後半からはもはやただの愚痴である。

 

「やっぱり今お祓いした方がいいのかな…?」

 

「いやそういう問題じゃないだろ」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「ふふふふふ…しあわせ…」

 

 今現在誠実は日課である武器の整備をしていた。彼が持ってきた荷物のうちの過半数が銃器関連のものだというのだから驚きである。

 

「どんだけ持ってきてるんだよお前は」

 

「いやいや先刻言った通りこれ全部仕事道具だから。全部必要なんだよ。断じて趣味で集めてるんじゃないし、仮にそうだとしても全部実用性があるからいいんだよ」

 

「いや半分趣味だって認めてるようなもんだろ。聞いてもないのに話してるじゃないか」

 

 反論しつつもコルト・ファイヤーアームズ社製作のアサルトカービンライフル、M4カービンのクリスの整備をする手は止めない誠実。ほかにもグレネードランチャーや手榴弾を所持しており、もはや武器商人と呼んでも差し支えないレベルだ。

 

「まったくもーうちの子たちの良さがわからないなんてほんとうにかわいそうな奴だなぁキン太くんは(ダミ声)」

 

「誰がキン太くんだ。銃の何がいいんだよ」

 

「なっ、まさかの全否定!?よろしい、ならば説明だ!銃の良さを余すことなく語りつくしてくれるわ!これでお前もガンマニアだ!」

 

「あ、これはまずい」

 

 誠実の変なスイッチを押してしまったことを察したキンジ。だが気づいたときにはもう手遅れなのであった。(悲しみ)

 

「まずはこのM4カービン、クリスの魅力から伝えよう!見るがいい!この小柄なbodyを!M16A2の直系ながら銃身はなんと14.5インチ!すなわちおよそ37cmしかないのだ!銃床もテレスコピックストックでコンパクトに!さらにピカニティー・レールと銃身の括れによってM723では装備不可なM203、PEQ-15やM26MASSを装備し着飾ることもできるのだ!さらにさらにこのNATOのSTANGマガジンを―――(以下M4カービンの特徴についての発言が続く)」

 

 M4カービン関連で数刻語り続けるような奴はそうそういないだろう。だが忘れてはいけない。今までに語ったのがM4カービンのみであることを。

 

「次はこの子!AR-10のマリアだ!歩兵用ライフルの礎を築いたアーマライト社の代表作であるAR-10は、1950年代の自動小銃と比較すると無骨で軽量、セミオートの射撃精度も高く、当時最高のバトルライフルと呼んでも差し支えないだろう!これほどまでにすぐれたものが何の爪痕も残さず消えてゆくはずもなく、世界で最も多く使われた軍用銃であるAK-47と並ぶほどの知名度を誇るM16に踏襲されている!この基本構造はユージン・ストーナーによって開発され―――(以下AR-10についての発言が続く)」

 

「もう、もうやめてくれ…」

 

 その後夕食を作りに来た白雪が発見するまで、誠実の講義は止まらなかった。

 




誰にとっても厄日と言えます

誠実
狙撃科の他にも諜報科、探偵科、装備科でもやってけるハイスペック武偵。
ネガティヴとオタク気質が同居した結果、情緒不安定を疑うような言動に。少なくともまともな人間ではない。

キンジ
原作主人公。
ヒステリアモードでも認識できない程の早撃ちをした本人があんなのでびっくり。
誠実の講義にげっそり。

白雪
絶滅危惧種の大和撫子。
ガチで呪われてそうな誠実にお祓いするつもり。


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四重奏

とりあえず主人公の強いところを見せなきゃと


 カルテット。一年生は全員参加の実戦テスト。遠山キンジ、武藤剛気、不知火亮、妻鳥誠実のチームは毒の一撃(プワゾン)に向けて作戦会議をしていた。

 

「すいません、なんで俺が目なんですかねぇ」

 

 攻撃用フラッグに接触されないように立ち回る必要がある大役を、なぜか誠実が押し付けられた。

 

「いやだってお前逃げ足速いじゃん」

 

「逃げ足早いから攻撃されないと思ったら大間違いだぞ剛気ィ!車両に乗ったら事故事件が起きる呪いにでもかかってしまえー!」

 

「おいばかやめろ」

 

 確かに彼はSランク武偵の名に恥じないレベルの実力を持っているし逃げ足も速い。だがそれはあくまで狙撃科(スナイプ)としての実力だ。殺傷可能範囲(キリングレンジ)こそ対物ライフルなどを使えば3000m超と東京武偵高校最長だが、跳弾などの精度は同じく狙撃科(スナイプ)Sランクのレキには一歩劣る。それに逃げ足に関してもヒットアンドアウェイには必要な技能、遠距離から攻撃して即退散と言うものであるため相手が最初から近距離にいる場合はあまり役に立たない。

 

「そもそもキンジは強襲科(アサルト)のSランクじゃないか!俺より適任だと思うんですけど!?」

 

「…よし、これで行こう。解散!」

 

「待ってそこ重要だよ!?ちょっま、おい待て逃げるな卑怯者!亮以外の二人とも覚えてろよ!ドアブリーチング弾でお前らのベッドボロボロにしてやる!」

 

 ちなみに対戦チームのメンバーはレキ、中空知美咲、平賀文、峰理子。かなりやばい女子の集まりである。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 ついにやってきたカルテット当日。

 

「お前チキンだけどキレるとやばいんだな」

 

「まったくもってその通りなのだよ剛気くん。理解してくれたついでに俺のフラッグもって逃げていただけるとうれしいかな」

 

「そいつは無理な相談だ」

 

「デスヨネー」

 

 このチームは比較的明るく過ごしていた。

 

「それにしても誠実、お前はレキに目をつけられてるらしいが大丈夫なのか?」

 

「言わないでちょうだい!大丈夫じゃないから空元気出してんじゃないか!今からでも変わってほしいですよぉ!あ、そうだ(唐突)SVDのことをおさらいしよう。英語でDragunov sniper rifle、ロシア語でСнайперская винтовка Драгуноваというこの銃はエフゲニー・F・ドラグノフ氏が設計、イズマッシュ社が製造しているセミオートマチックラ―――(以下ドラグノフ狙撃銃についての発言が続く)」

 

「だめだこりゃ…あ、レキがこっち見た」

 

「ガス・シリンダーがぬわあああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 いつものネガティヴモードに突入した誠実。それを見たキンジは啓示により、レキの名を利用することをひらめく。誰が見ても効果は覿面、作戦成功であった。

 

「おま、そらないだろ!やめてよねそういうの!レキの眼光ものすごいんだからねあれ!わかる!?顔無表情なのに目だけ『許さん、お前だけは…』みたいな感じで親の仇見るような目なんだよ!?あれ絶対目で人殺せるよ!ブラフマーストラ出ますよあれはァ!」

 

 訂正、ネガティヴオーラは消えたが今度はチキンハートがやってきたため戦略的敗北。やかましさはさっきの三割増しだ。これはこれで厄介である。

 

「まあ落ち着けって。今必要なのはレキがどこから狙ってくるかだろ」

 

「そうなんだけどさ!話逸らしてんじゃないよ!」

 

 レキは基本的に動かない。同じ箇所から何度も狙撃する。そのため狙撃するのに絶好の位置を探す。

 

(たぶんあっちも察してるんだろうな…)

 

 仮にも狙撃科(スナイプ)Sランクの誠実がいるため、どこを狙うか推測しているのはわかっているだろう。そうなってくるといかに相手の裏を掻くかが重要になる。スナイパー同士の戦闘は相手より有利な位置を取った時点でほぼ勝敗が決まるのだ。

 

「狙撃ポイントの候補はいくつかあるよ。でもレキは二重跳弾狙撃(エル・エル)とかできるから参考にしかならないぜ」

 

 射線がまっすぐではないというだけで狙撃地点の推測は数段難易度が上がる。しかもそれをするのが狙撃科(スナイプ)のSランクなのだから場所の特定など至難の業だ。

 

「とどのつまりめちゃくちゃ速く不規則に動いて弾丸を躱すしかないんだよね。できるかこんなもん!なんのために狙撃科(スナイプ)入ったと思ってんだ!」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「あーあ始まっちゃったよどうしよう」

 

 相変わらずネガティヴオーラをまとっている誠実は、孤独に試験場を歩いていた。なぜひとりなのかというと、二人一組でもレキの狙撃には無力だから、そもそも誠実の動きが変則的かつ速すぎて誰もついてこられないからである。そもそも人ごみに紛れたとはいえ、ヒステリアモードのキンジを撒くほどの技能を持つ相手と並走しろと言う方が無理な話である。

 

(気配を消しているとはいえ銃声すら聞こえないのは明らかに不自然だな。そういえば一人耳がいいやつがいたなぁ…エコーロケーション?)

 

 歩きながらも相手チームの作戦についての推測を続ける。臆病ということは危機察知能力に長けているということでもある。

 

(どれ、ちょっとやってみるか)

 

 体を倒し地面に耳を付ける。

 

(うーん、重機みたいなのが動いてるな。あんまり速くはなさそうだな、キャタピラか?)

 

 地面から重機の種類を割り出すという離れ業。これでチキンハートとネガティヴオーラがなければ…。

 

(…あれ?急に速くなったぞ。こっちに来てるしこれはヤバイ!)

 

 謎の重機の接近を確認した誠実はとりあえず狭い路地に逃げ込んで様子をうかがうことにした。レキの跳弾に注意しつつ。

 

「あははははは!いっけータ〇コマ!」

 

「とつげきなのだー!」

 

 道路を我が物顔で突き進んでいく重機関銃搭載のブルドーザー。それに搭乗している理子と文の高笑いがビルの谷間に響いている。

 

「…なんやあれぇ」

 

 思わず方言がちょっと出る。『そんなのどこにあったの!』とか『タ〇コマって多脚戦車じゃないか!』と言いたいのを我慢しブルドーザーの背後を見送る。それがいけなかった。

 

(!マズルフラッシュ!?)

 

 とっさに近くのマンホールの蓋を盾にし、身を守る。が、レキに捕捉され、さらに魔改造ブルドーザーにも見つかってしまった。

 

「あ、マーくん発見!バックだよあやや!」

 

「あいあいさーなのだー!」

 

 理子の号令により後退するブルドーザー。この魔改造されまくった重機に適用されるかあやしいが、ブルドーザーは効率的に動くために後ろ向きの方が速いのである。つまりどういうことなのかと言うと

 

「いぃぃやぁぁぁひかれるぅぅぅ!」

 

 こういうことだ。

 

「くふふ、マーくんおっそーい!」

 

「速く走らないとひいちゃうのだ!」

 

「そこのおバカが撃ってこなかったらもっと速く走れるんですけどねェ!」

 

 もっともおバカが撃たなくてもスナイパーの狙撃は止まらないが。

 

「ちきしょうめぇ!今日は厄日だ!」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 命からがら逃げ切った誠実は息を切らしながら通信をかけた。

 

「はぁ…はぁ…もしもし、聞こえてる?」

 

『ああ、聞こえてるぞ。もっとももう俺たちふたりだけだがな」

 

「えぇ?もしかして、魔改造ブルドーザーに轢かれちゃった?」

 

『いや、狙撃科(スナイプ)のお姫様に撃たれたよ』

 

「あ、うん、そですか(キンジキャラ変わってるぅぅぅ!?なにごと!?まさかドーザーとレキのストレスで新たな人格が誕生したとでもいうのか!?)』

 

 違います。ヒスってるんです。

 

「それはそうと、そっち誰か倒した?」

 

『ああ、人見知りなお嬢さんを捕まえたよ』

 

「…中空知美咲さんね、わかった」

 

 一瞬誰のことかわからなかったが、あのメンツで人見知りなのは一人しかいないため特定できた。

 

「なあキンジィ」

 

『どうした』

 

「俺がブルドーザーどうにかするからレキを何とかできる?」

 

『できるぞ』

 

「俺が狙撃できる位置に行くまで気を引いてくれればいいからさ」

 

『わかった』

 

 レキの気を引き続ける。かなりの難易度だがヒステリアモードのキンジならしばらく持つだろう。

 

「さて、でかい口叩いたんだからやるっきゃないか」

 

 そう言いつつ、水道と石鹸に手を付けた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「うーん、マーくんどこいったんだろー」

 

「にげあしはやすぎるのだ…」

 

 魔改造ブルドーザーはそのままなめらかなアスファルトの坂を上っていく。

 

「あれ?水が流れてきたのだ」

 

「じゃあこの先にいるのかな…ってうわわわわ!?」

 

 いままで安定して坂を上っていたブルドーザーが、水が流れてきた途端、キャタピラが空回り坂を滑り降りはじめた。

 

「速く止めないと…ギャンッ!?」

 

「ど、どうしあぴゃっ!」

 

 ブルドーザーの制御を取り戻すべく動いていたふたりだったが、どこからか飛来したゴム弾が直撃し、昏倒した。

 

「…いやー、こんなうまくいくとは思わなかったぜ」

 

 建物の陰から顔を出した誠実はそううそぶく。石鹸を溶かした水を流したのも、ゴム弾を撃ったのも彼である。

 

(目のフラッグはどっちも持ってないな、どうしよう。蜂のフラッグ持ってるのキンジだけだし、亮もやられちゃってるし)

 

 一瞬でレキが保有しているという事実に行きついてしまった。今動ける蜂のフラッグ持ちはキンジだけ。そのキンジもレキに狙撃されているため近寄れない。

 

(ヤベーイ!キンジを接近させるには俺が引き付けなければならない!でも俺が囮とかないわー、まじないわー。いややらんきゃならんのはわかってるんだよでもひけちゃうよね、うん。…でもほかに方法がない!ちくしょう、今日は厄日だ!)

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「いやだなもー!もしもしキンジ聞こえてる!?」

 

『聞こえてるぞ!どうした!?』

 

 通信機から時々ベレッタ92Fの銃声が聞こえることから銃弾撃ち(ビリヤード)をしているのだろう。

 

「レキが目を持ってる!俺が狙撃して引き付けるからその隙に接近して!OK!?」

 

『わかった!』

 

「ああ、もう!どうとでもなりやがれー!」

 

 半ばやけくそになりながらM110を構える。レキを狙える絶好の位置だがこちらの方が低いので不利だ。

 

「あ、やべばれた」

 

 引き金を引く直前、スコープ越しにレキと目があった気がした。実際あっていた。ドラグノフのスコープを破壊したが、レキの視力は6.0。スコープがなかろうが誠実が今いる地点まで狙撃できる。

 

「ほらキンジ急げ!俺がレキに倒されないうちに!」

 

 レキの撃ってくるゴム弾を正確に撃ち落していく誠実。レキのドラグノフの弾倉に入るのは10発。対して誠実のM110の弾倉には20発入る。

 

「まあ下がるよねそりゃあ」

 

 残弾数で劣るレキはいったん下がり射線から逃れる。なにもない屋上では跳弾狙撃(エル・スナイプ)もできない。

 

(深追いはだめだな、撃たれて終わる。この場合キンジが出てくるタイミングに合わせて撃つしかないか。やだなーめっちゃリスキー)

 

 心の中でうだうだ言っているが突破策がそれしかない時点で選択肢なんてあってないようなものだ。仕方がないので通信機を介してキンジにモールス信号で5秒きっかりに同時に攻撃することを伝えた。

 

(3、2、1、今!)

 

 誠実はキンジより少し早く飛び出す。これは万が一キンジが狙われていたときのためである。レキのいる屋上の高度に跳躍で到達した誠実のM110のスコープがレキを捉える。ちょうどドラグノフの銃口がキンジに向いていた。

 

「当たれ!」

 

 さまざまな祈りを込めた一撃。

 弾丸はドラグノフが火を噴くよりも速く到達。銃身を跳ね上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…疲れた」  

 

 役目を終えた男が一人、地面に仰向けになっていた。

 

『終わったぞ、俺たちの勝利だ』

 

「そうかい」

 

 彼は思った。うどんたべたい、と。




誠実
一人で魔改造ブルドーザー止めた人。やればできる子なんです。

キンジ
中空知のでかいアレでヒスったベッドこわされた人。レキを相手に最後まで生き残るやべーやつ。

剛気
ベッドこわされた人その2。レキにやられた。


名前しか出てこなかった人。レキにやられた。

レキ
狙撃技術がやばい人。二人瞬殺。

理子
探偵科のバカ(偽)なやつ。ゴムとはいえNATO弾には耐えられなかった…。


平賀源内の子孫な人。ブルドーザーは試験場で見つけた。

美咲
通信機器で滑舌よくなる人。エコーロケーションでキンジの位置を割り出したがヒスられて捕まった。


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サブタイトル:暗号作ってみた
是非解いてみてくださいね!
あ、感想で全部書いちゃだめですよ。答え合わせになる程度で。


 

 本日はキンジとともに任務(クエスト)。銃器を大量に密輸入している闇組織を強襲したのだが…。

 

『おい!ガトリング砲持ってるなんて聞いてないぞ!』

 

「こっちも殺傷可能範囲(キリングレンジ)が1500m以上ありそうなスナイパーがいるなんて聞いてないから御相子だよぉ!なにあれ!M200持ってたんだけど!?あの人絶対スナイパー来るの予測して位置取りしてたよぉ!殺気を撃つ直前まで消せるなんてチートだよチーターや!堪忍してぇな、あの人絶対元武偵か傭兵だよ!ということだからまた潜伏場所変えてるし見っけて倒すまで援護できません!しばらく一人でがんばれよ!」

 

『おいおい、あんなもん食らったらミンチだぞ!?それまで持ちこたえられるわけあるか!』

 

「仮にもSランクなんだから頑張りんしゃい!」

 

『お前もSランクだろ!』

 

「うひゃぁあぶねぇ!髪の毛持ってかれたぁ!」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「ひどいものをみた」

 

「お前はいいだろ、無傷だし」

 

「ああ、確かにあたくし無傷ですのよ。それは認めよう。だけどM4カービン(クリス)はスコープをやられたんだぞ!?ふざけるな!ふざけるな!バカやろぉぉ!ゆるさん、まじでゆるさんあのスナイパーめ。次あったら蜂の巣にしてくれるわ!」

 

「おい9条どこいった」

 

「不幸な事故だったということにすればいい、おわかりいただけただろうか?」

 

「いただけねーよ。さっき蜂の巣って言ってただろ、どうやったらそれが不幸な事故になるんだよ」

 

「そりゃぁあれですよキンジくん。火薬庫にパチンコ玉詰め込んで爆破」

 

「証拠隠滅ってレベルじゃねえだろ!そこまで行くと爆弾テロだ!」

 

 任務を終え、帰路に就く二人。キンジの方は無傷とはいかず、左腕に包帯を巻いている。

 

「とりあえずその話は側溝にでも捨てといて、今日の晩飯どうする?でかい仕事終わらせたんだし多少豪勢にしてもいいでしょ」

 

「捨てるな話を。そうだな…あ、すき焼きが食いたいな。せっかくだし白雪も呼ぶか」

 

「おうそうしろそうしろ、よべよべー。今更だし」

 

 白雪がキンジたちの寮に入ってくるのはもはや暗黙の了解だ。おおっぴらに文句をいうやつはもう男子寮にはいない。

 

「ねぎはあったはずだから牛肉と白菜と豆腐買ってくるわ。先帰って鍵開けといて」

 

「わかった」

 

 物騒な話を墓地に送り平然と夕食の話をはじめるこの切り替えの早さよ。キンジは寮に帰り、誠実は買い出しに走る。

 

「すっき焼っきすっき焼っき~。ザンギリ頭をたたいてみればー文明開化の音がするー。あれ?こっちは牛鍋か?そういやすき焼きと牛鍋ってどう違うんだ?」

 

 すき焼きは煮焼きするものだが、牛鍋は単に煮ているものだ。似てるようでちがうんです。

 

 ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー

 アノノアイノノォオオオォーヤ

 

「やべ着メロこのままだったわ」

 

 おかしな着メロが鳴る大量のおまもりのついたケータイを開く。表示されたのは誠実にとっても意外な人物の名だった。

 

「はーいもしもし?いやーそっちから電話かけてくるとは思わんかったっすよ。やっぱりやるんです?」

 

『―――――――』

 

「そんなに執着せんでもいいんじゃないんすか?しんどいですよその道は」

 

『――――――?』

 

「ふふ、おk把握。了解です。いろいろと手をまわしておきますよ。報酬は実家宛でよろしゅうおねがいしますわ」

 

『―――――――』

 

「はいはい、あの子と一緒にしないでくだせーね。契約は守って、どうぞ」

 

『――――――?』

 

「そっちも大概じゃないすかやだなーもー。正義の味方なんてがらじゃないですよ。ばっさりやるほうが性に合うんすよ」

 

『―――――――』

 

「いわれるまでもなくよろしくするっすよ。あぁ、アフターケアになんかよこしといてくださいね。俺じゃそこんとこどうにもならんのでね。それとなにかの縁で母にあったら、もういっぱいだから拾ってくんなって言っといてください」

 

『――――――?―――――――』

 

「はーい、さいなら。――――さん」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「うーい、買ってきたぜー」

 

 大量の買い物袋を持った誠実の帰還である。ちなみに買い物袋はすべてエコバックだ。

 ちきゅうにやさしいめんどりくん。

 

「おう、遅かったな」

 

「ごめんね誠実君、私も買い出しに行けばよかったよね」

 

「いや俺貧弱だけどこのくらい持てる程度には鍛えてるけど?あと肉屋で松阪牛売ってたから買ってきたぜ。たんとお食べ」

 

「え、高かったでしょ!?いいの私なんかが食べて?」

 

「いーのいーの食っちゃって。こないだお祓いしてくれたお礼も兼ねてるから」

 

「そっか、ありがとう誠実君!」

 

「よかったな白雪」

 

「うん…!」

 

 危険な任務から無傷で帰ってきて浮かれているのか、奮発して高級品を購入してきた。Sランクゆえにかなり金には余裕があるのである。

 

「よーし、ちゃっちゃと晩飯作ろうや」

 

「割り下はできてるよ。私焼き豆腐作るね」

 

「はいありがとう。キンジはガスコンロ物置から持ってきて食器並べて」

 

「わかった」

 

 こうして平和な日々は過ぎていく。いつ崩れ去るとも知らずに。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「いやーとんでもねーなおい。またマスコミが来てるぜ」

 

「追い返してくれ。今は兄さんについてなにも話したくない」

 

「へいへい、了解。それにしても無粋な連中だなー、肉親がいなくなって傷心中だってのに、わざわざ傷をえぐろうとするなんてさ」

 

 遠山金一が豪華客船の爆発事故で海に消えて一週間。マスコミは未だにキンジに取材しようと躍起になっている。

 

「兄さん…」

 

 キンジは遺品である金一のバタフライナイフを握りしめる。

 

「おーいキンジィ。思いを馳せるのは結構だけどもメシはちゃんと食べなよ。死因栄養失調とかお兄さん泣くぜ?」

 

 キンジはここ最近自分から食べようとしていない。仕方がないので誠実が無理やりリビングまで引っ張ってきて、白雪が食べさせてやっとだったと言えば分かるだろうか。なおこのとき白雪がちょっとトリップしていたのは内緒である。

 

「…そうだな。また白雪に食わせてもらうわけにもいかないしな」

 

 ベッドからのそのそと起き上がる。

 

「そうそうお前宛に手紙来てたよ。後で読んどけなー」

 

「手紙?」

 

「そうだよ、ほれ」

 

 封印のされた白い封筒を手渡す。

 

「差出人は…遠山金一!?」

 

「そうそう、例のあれの前に書いたみたいだね。ごたごたしてて手紙あるの忘れてたわ」

 

「なんで俺に手紙を…?」

 

「さあね。こないだでかい任務受けたからかもね。あ、メシは後でもいいぞー」

 

 手紙にはこう書かれていた。

 

キンジへ

 

 たまたま聞いたのですが、危険な任務に行ってきたようですね。怪我はしてませんか?

 兄として危ないことをしてほしくないのですが、それが君の心根から決めてのことなら、

 はげんでくれと言うしかないのかもしれません。私は知っての通り武偵としてかの毛利の三本矢の誓いを立てたり

 論文を読んで医学を学んだりもしましたが、おそらく一番必要なのは自分の視界の内で苦しむ誰かを救うこと。

 君がその手で救うために動いてくれるなら幸いです。でも、それでもいつか禍福は糾える縄の如しと言う通り、

 禍が降りかかることになるでしょう。そんな時は一歩のぼらずに五歩下がってでも落筆点蠅できるよう努めよう。

 ギリギリまで頑張ってみよう。そうすればきっと新たな視点が見つかり、暗雲をも割断しうるでしょう。

 たとえ国を敵に回しても、きっとキンジなら大切な何かを守り抜くでしょう。その強さをキンジは持っている。

 あなたの兄はそう思っています。今はまだ心の奥底に眠ったままの宝石が目覚めた為らば、

 晴天の太陽のように、まわりを照らすでしょう。

 

 露ひかる

 名もなき山の

 つゆけきを

 畝広がりて

 芦屋そまりゆ

 

                                        金一より

 

 

「…うーん」

 

「なんか詩的というか暗号的というかよくわかんない手紙だな。五歩って下がりすぎじゃない?あと最後の和歌とかつゆがかぶっちゃって変な感じになってない?」

 

「そうだよな…五歩下がる…」

 

「うんじゃま、俺はもどるわ」

 

「ああ。…もどる……!…まさか、そういうことか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー…難解な手紙だった…」

 

 戻った誠実は朝のお父さんのようにソファにふんぞり返りながら新聞を読んでいた。

 

「それにしても、大変なことになったなぁ」

 

 彼の持つ新聞の一面は、()()()()()()()()記事が飾っていた。

 

 




誠実
暗躍する料理できる系ヘタレ。実は探偵科の方が向いてる。

キンジ
朝起きたら兄が英雄になってた。たぶん引きこもりはすぐに脱する。

白雪
良妻賢母な大和撫子。意外と誠実と波長が合う。

金一
英霊(死んでない)になったお兄さん。手紙についてはきかないで。


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番外:妻鳥誠実の憂鬱 

次から原作に入りますねー。

ついでにキンジに向けた暗号の解読法をあとがきに書いときますね。


●その一 丑三つ時

 

「ガタガタガタガタ(93Rと破魔札装備)」

 

「…おい誠実。なにやってるんだ」

 

「ギャーッ!!(乱射)」

 

「待て待てやめろ!」

 

「悪霊退散!悪霊退散!臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!(破魔札バシバシ)」

 

「だからやめろって!」

 

「キエエェェェェェェエ!!」

 

 心霊番組見た後。

 

 

 

 

 

 

 

●その二 家事

 

「おーい、キンジィ」

 

「なんだ?」

 

「掃除するからそこどいてー」

 

「わかった」

 

 

 

「おーい、キンジィ」

 

「なんだ?」

 

「洗濯するけどなんかある?」

 

「じゃあこれ洗っておいてくれ」

 

 

 

「おーい、キンジィ」

 

「なんだ?」

 

「今日の夕飯肉じゃがとおでん、どっちがいい?」

 

「じゃあおでんで」

 

 

 

「…私のアイデンティティが!」

 

 家事ができる妻鳥君。

 

 

 

 

 

●その三 メール

 

 モスカーウモスカーウユーメミルアンディサン

 

「メールか」

 

From:母

Sub:報告

 

家族が増えた(金髪少女とツーショット)

 

P.S.

実家に帰ってくるなら東京ば〇奈かってこい

 

「い、一度ならず二度までもぉぉぉぉぉ!!」

 

 自由人な母。

 

 

 

 

●その四 メールⅡ

 

 モスカーウモスカーウユーメミルアンディサン

 

「こ、今度はなんだ…!?(戦々恐々)」

 

From:理子

Sub:今度ヒマだよね!

 

レキュったら私服もってないんだって!

次の日曜日に買いに行くからマーくんもついてきてね!

 

「せ、せわしないっすわぁ…(冷汗ダラダラ)」

 

 わかってやってる。

 

 

 

 

●その五 買い物

 

「ねえねえマーくん、これかわいいと思わない?」

 

「エエ、トテモカワイイトオモイマス(死んだ目)」

 

「…(無表情)」

 

「ねえねえマーくん、レキュすっごいかわいいと思わない?」

 

「エエ、トテモカワイイトオモイマス(死んだ目)」

 

「もう一声!」

 

「ワーイ、レキサンカワイイヤッター(死んだ顔)」

 

「よかったねレキュ!」

 

「…」

 

 わかってやってる。(二度目)

 

 

 

 

●その六 強襲科

 

「おらやれやぁ!」

 

「俺狙撃科なんですけど!?」

 

「いいかげん諦めろや妻鳥ぃ!」

 

「いやいやいやあんな人外魔境に放り込まんでくださいよ蘭豹先生!死んじゃいますよ俺!こんなゴキブリが入った瓶の口を腹に押し当てて火であぶるようなまねはやめてくださいよぉ!食い破られて死んじゃいますよぉ!」

 

「おら存分に殺しあえや!」

 

「いぃぃぃやぁぁぁぁ!」

 

 最後まで生き残った。

 

 

 

 

●その七 カラオケ

 

「マーくん、キーくん!カラオケいこうよ!」

 

「断る」

 

「おれもいろいろあるんでかえらせていただきまーす!(方向転換)」

 

「逃がさないよマーくん!(しかしまわりこまれてしまった)」

 

「ちくしょーめー!」

 

 ざんねん!りこりんからはにげられない!

 

 

 

●その八 カラオケⅡ

 

「slash.アコガレ・ドット・コム みんなでね未来をクリック!」

 

「なんか本人が歌ってる気が…」

 

「言うなし。マーくんもなんかうたってよー」

 

「えー…」

 

「そうだレキュも呼ぼう!」

 

「歌わせていただきます(即答)」

 

 レキには勝てない。

 

 

 

●その九 カラオケⅢ

 

「Moskau! Moskau! wirf die Gläser an die Wand Russland ist ein schönes Land」

 

「なんでこの曲?」

 

「着メロ」

 

「…マーくん実はレキュのこと好きなの?」

 

「苦手です(真顔)」

 

「あ、うん」

 

 嫌いなんじゃない、苦手なんだ。




暗号の解説

自分でも難しいものだと思っているので解読方法を書きたいと思います。

これはシーザー暗号を五十音に応用したものです。
え?シーザー暗号がわからない?調べてください(丸投げ)
今回の場合、「あ」が「か」になるといった具合にあいうえお順にすると五個後ろの字になります。
文の中のでちゃってるところはダミーなんで無視します。

 たまたま聞いたのですが、危険な任務に行ってきたようですね。怪我はしてませんか?

 兄として危ないことをしてほしくないのですが、それが君の心根から決めてのことなら、

 はげんでくれと言うしかないのかもしれません。私は知っての通り武偵としてかの毛利の三本矢

 論文を読んで医学を学んだりもしましたが、おそらく一番必要なのは自分の視界の内で苦しむ誰

 君がその手で救うために動いてくれるなら幸いです。でも、それでもいつか禍福は糾える縄の如

 禍が降りかかることになるでしょう。そんな時は一歩のぼらずに五歩下がってでも落筆点蠅でき

 ギリギリまで頑張ってみよう。そうすればきっと新たな視点が見つかり、暗雲をも割断しうるで

 たとえ国を敵に回しても、きっとキンジなら大切な何かを守り抜くでしょう。その強さをキンジ

 あなたの兄はそう思っています。今はまだ心の奥底に眠ったままの宝石が目覚めた為らば、

 晴天の太陽のように、まわりを照らすでしょう。


 露ひかる

 名もなき山の

 つゆけきを

 畝広がりて

 芦屋そまりゆ

これのあたまの一文字を取り出します。

 「た兄は論君禍ギたあ晴露名つ畝芦」

これをひらがなに直します。

 「たあはろきわぎたあはろなつせろ」

露を「ろ」、畝を「せ」、芦を「ろ」と読むのがポイント1。

これをずらすと

 「なかまをしんじなかまをはぬてを」になります。いやはぬてをってなんやねん。

ここでポイント2。和歌のところを逆にします。

 「なかまをしんじなかまよたすけよ」見えてきたけどまだ違うぞ?

ここでさらにポイント3!和歌のだぶってるとこの漢字だけもとに戻します!

 露ひかる
 名もなき山の
 つゆけきを
 畝広がりて
 芦屋そまりゆ

露とつゆがだぶってますね。
 
 「なかまをしんじなかまをたすけよ」

 「仲間を信じ、仲間を助けよ」武偵憲章第1条になりました。

はい、これでキンジに向けた暗号が解読できましたー。やったね!
ダミーに関しては

私「よし暗号でけたープレビューしよ」

私「…ず、ずれてる…!1行あたりの文字数がちがうの忘れてた…!」

私「仕方ない、出ちゃったところをダミーにしよう」

ということがありました。



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武偵殺し編
遭遇


修学旅行まで浮かんでるんですがねぇ(書けるとは言ってない)

なんか誠実君が置いて行かれそうなんですよねー


「起きろキンジィ。新学期早々に遅刻する気かね」

 

「まだ目覚ましも鳴ってないだろ。もうすこし寝させてくれ」

 

「だめじゃだめじゃ、今すぐ起きろ。じゃないと白雪が合宿でいない間、家事やらんぞ」

 

「わかった起きる!起きるからやめてくれ!」

 

 今キンジは家事を白雪と誠実に任せきりにしている。その二人の助けなしで生活するなどほぼ不可能だ。

 

「ほれほれ、さっさと着替えなさい。俺の勘だとそろそろ白雪が重箱持ってやってくるぞ」

 

「…なんでそんな具体的なんだよ」

 

「白雪が来るだけだとインパクト薄いじゃん」

 

 ピンポーン

 

「ほら来たぞ」

 

 控えめなインターホンの音が聞こえる。誠実とキンジは玄関にかけて行きドアを開ける。扉の先には重箱を持った白雪が立っていた。

 

「…ほんとだ」

 

「だろ?」

 

「?」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「はあ、ひどい目にあった」

 

「どうした?ガチャ三回回したけど三回ともおんなじやつが出てきたときの俺みたいな顔してるぞー」

 

「ということはあったんだな…」

 

「こないだは五回やっても同じ結果だったぜ☆ぶっちゃけ泣きそう」

 

「…まあ、がんばれよ」

 

 不幸。あまりにも不幸。しかし今に始まったことではないのが不幸たる所以…かもしれない。

 

「あはははは…ああ、そういえば話は変わるけど、このクラスに転入生が来るらしいぞ」

 

「転入生?」

 

「そうそう、ほらあの人」

 

 誠実の指さす先には、ピンク色の髪をツインテールにした小柄な少女の姿があった。

 

「ゲッ…」

 

「先生、あたしアイツの隣に座りたい」

 

「良かったなキンジ!なんか知らんがお前にも春が来たみたいだぞ!先生!俺、転入生さんと席代わりますよ!」

 

 焦るキンジとは裏腹に、話はトントン拍子で進んでいく。現実は非情である。

 

「キンジ、これ、さっきのベルト」

 

 そしてアリアのこの一言。

 

「理子分かった!分かっちゃった!―――これ、フラグバッキバッキに立ってるよ!」

 

 壮大に囃し立てかねないやつが真っ先に反応した。これはまずい。

 

(あ、これはまずい。まじでやばい。理子ォ!ヤメロォ!それ以上はいけない!)

 

 大変なことになる未来を予知した誠実は心の中で、理子にその先は地獄だから止まるようとに叫ぶ。もちろんあたりまえのことだが届かない。届くはずがない。

 

「キーくんはベルトしてない!そのベルトをツインテールさんが持ってたってことは―――彼女の前でベルトを取るような何らかの行為をしたってこと!つまり2人は熱い熱い恋愛の真っ最中なんだよ!」

 

(言っちゃったよこのおバカァ!)

 

 盛り上がる生徒。焦るキンジ。冷汗が止まらない誠実。小刻みに震えるアリア。

 

 ズキュンキュン!響く二発の銃声。犯人は顔をちょっと熟れたトマトのような赤色に染めたアリアだ。

 

「れ、恋愛なんて…くっだらない! 全員覚えておきなさい! そういうバカこと言うやつには―――風穴開けるわよ!」

 

 教室は静まり返った。

 

(速報が入りました。先ほど東京武偵高校2年の妻鳥誠実さんの鼻先を、ガバメントの銃弾が通り過ぎたとのことです)

 

 誠実も静かだった。思考が明後日の方向に飛んでいなければ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「ねえアンタ」

 

「はーい?」

 

 またしても蘭豹に強襲科に連れ込まれそうになったが、命からがら逃げのびた誠実。買い物を終え、男子寮の階段の前までたどり着いた彼は、アニメのような声をした少女に呼び掛けられた。

 

「キンジの寮がどこか知らないかしら」

 

「知ってるも何も、俺ルームメイトだから」

 

「そう、なら好都合ね。私を連れて行きなさい!」

 

 いったいキンジに何の用があるのか、誠実は訝しんだ。

 

「はーい、仰せのままに」

 

 それでも連れて行ってしまうあたり、少々お人よしじみている。

 

(うーん、今日の夕飯もう一人分増やした方がいいかなー。でも合宿前だから白雪がなんか持ってくるかも…あ゛!?)

 

 誠実は気が付いた。気が付いてしまった。白雪がアリアと相対した際の危険性に。

 

(いやいやいやいやいや…いやまだだ!まだ終わらんよ!まだあわてるような時間じゃない!大丈夫だ、もしかしたら白雪が来ない可能性が…ないな…)

 

 あの白雪がキンジに何も言わずに合宿に行くなど万に一つ、億が一にもありえない。夢や希望があっても救いはこの世にはありませんでした。

 

(…もうどうにでもなーれ!)

 

 最悪の未来を予見した誠実は、考えるのをやめた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「ここが俺とキンジの寮だよ…おーいキンジィ!客だぞー!」

 

「お邪魔するわ」

 

「客…はぁ!?神崎!?なんでこんなとこに!?」

 

「アリアでいいわよ。ところでシャワールームはどこかしら?」

 

「あっちっす」

 

「ありがと、使わせてもらうわ」

 

「お、おい…」

 

「まあまあキンジくんちょっとお話ししましょうや」

 

「なんだよ…わかったわかったから引っ張るな!」

 

 アリアがシャワールームにいるうちにキンジをリビングへ連れて行く誠実。

 

「キンジ、心して聞け。この後おそらくだがこの後白雪がやってくる。今日の献立は和食にしようと思う」

 

「ああそうか…って違うだろ!なんでアリアを連れてきたんだ!」

 

「なんかキンジに用があるって言ってたから案内した。後悔も反省もしていない。そしてこれについては元々お前さんの撒いた種だ自分で何とかしたまえ」

 

「はぁ!?いったい俺がなにを…まさかあれか!?」

 

「なんだい、心当たりがあるんじゃないか。そしてこれからのことを考えよう」

 

 自分のやったことに後ろめたさをまるで感じていない、というよりかなぐり捨てた誠実は、原因を察して頭を抱えるキンジに精神的な追撃を行う。

 

「これからのこと…?」

 

「そうそう、さっき言ったとおりたぶんこの後…」

 

「なにコソコソしてんのよあんたたち」

 

「…イエ、ナンデモゴザイマセン」

 

 魔王襲来。じゃなくて、シャワーを終えたアリアが二人の後ろから話しかけてきた。

 

「まあいいわ、トオヤマキンジ!」

 

 シミひとつないきれいな指をビシィッ!といった効果音が付きそうな勢いで突きつける。

 

「あたしのドレイになりなさい!」

 

 コロンブスだ!コンキスタドールがでたぞー!(錯乱)

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「つまり仕事仲間が欲しいということかいな」

 

「そうよ!あたしはいままでどんな犯罪者も逃がしたことはなかった。でもそこのバカは逃げ切ったのよ!」

 

「バカ言うな。そもそもパートナーならそこの誠実でもいいだろ。一応Sランクだし」

 

「俺を売るなよバカキンジ、非売品だ。あとSランクって言っても狙撃科のだからね?あっち強襲科だからそもそも土俵が違うんだよなぁ」

 

「だからバカ言うな」

 

 武偵ランクがSランクだとひとくくりにしても、比較対照が前衛と後衛であるがゆえに評価するべき点がまるで違う。

 

「で?キンジはあたしのパートナーになる気になったかしら?」

 

「ならん、断る。俺は俺で忙しいんだ、そこの誠実にでも頼め」

 

「だから俺を売るなバカキンジ。またベッドボロボロにすっぞ」

 

「だからバカ言うな。あと買い替えが面倒だからやめろ」

 

 あーだこーだ言ってうだうだと会話がヅルヅル長引いていく。こうしている間にも悪夢が迫ってきているというのに。

 

「ほらさっさと帰れアリア。もう夜だぞ」

 

「いやよ、帰らないわ。あんたがうんと言うまでここに泊まるから」

 

「…はぁ!?」

 

 唐突に爆弾を投下したアリア。これには妻鳥君も昇天。(死んでない)

 

「ふざけんな、絶対だめだ!今すぐ帰れ!」

 

「うるさい!泊まってくったら泊まってく!」

 

(夕飯、きんぴらにするか)

 

 言い争うキンジとアリア。一方の誠実は今日の献立を考えていた。リビングはまさしくカオスであった。

 

「だーかーらー!」

 

 ピンポーン

 

 いまだに言い争う二人を意に介さず、インターホンが鳴る。来ちゃった。

 

「…ふぅ、キンジ出てきて。四十秒でなんとかするから」

 

「あ、ああ」

 

「ちょっとどういうことなの!?」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「どうしたんだ白雪?」

 

「えっとね、明日から合宿でご飯作れなくなるから…あ、誠実君がいるから迷惑かも知れないけど、今日のお夕飯にどうかなって、作って持ってきたから。…よかったらこれ食べてください!」

 

 顔を赤くした白雪が風呂敷に包まれた重箱を手渡してきた。中身は今旬のたけのこ料理。

 

「ほーん、たけのこかー…」

 

 キンジの後ろから気配もなく出没した

 

「うおっ!?」

 

「あ、誠実君。今日のお夕飯にどうかなって持ってきたんだけど、もしかしてもう作っちゃった…?」

 

「いやまだ。手間が省けて助かるよ」

 

「そっか…」

 

 実際には『あ、色かぶってる…めんどくさいから作らなくていいか』といった思惑だった。物は言い様、オブラート。

 

「あ、じゃあ私帰るね。またねキンちゃん、誠実君」

 

「ああ」

 

「はーい」

 

 満足したのかそのまま帰っていく白雪を見送った二人。リビングに戻ったキンジは衝撃的なものを目にした。

 

「なあ、誠実」

 

「なんだねキンジィ」

 

「これはなんだ?」

 

「ふむ、苦渋の決断でした。わかりますね?」

 

「いやわからん」

 

 お札のついた紐でぐるぐる巻きにされたアリアの姿があった。これのどこが苦渋の決断なのか。

 

 




誠実
ストレスで思考がおかしくなっちゃった。

キンジ
まだ強襲科Sランク。

アリア
ついに来た原作ヒロイン。

白雪
通い妻。ただし誠実が大体やっちゃう。


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白刃

 アリア襲来の翌日。思考が明後日の方向にすっ飛んでいた誠実は、屋上で理子に絡まれていた。

 

「ねえねえマーくん」

 

「なんだね理子。お昼ご飯ならさっき俺の弁当半分持ってったろ」

 

「おいしかったよ、さすがマーくん!…じゃなくて、アリアんのことどう思ってる?」

 

「アリア?なんで?」

 

 いつも脈絡がない理子だが、今回はいくらなんでも突拍子がなさすぎる。誠実は訝しんだ。

 

「いやー突然来たって聞いたからさ、メイワクしてるんじゃないかなーって」

 

「まあ迷惑してるわな、だってアリアったら魚の小骨取れねーんだもん。なんで俺が取らにゃならんのだ。確かにいやがらせっぽく出したけどさー。あ、別に食い物粗末にしてるわけやないよ」

 

「…いやがらせに魚ってちっちゃくない?」

 

「露骨だと絶対M1911かバリツ来るもん。避けたら避けたでまた怒り出すんだよああいう手合いは」

 

 なんだかんだ相手の性格について理解している誠実。観察眼はスナイパーの絶対条件とは本人の談。

 

「ふーん…アリアんのことしっかり見てるじゃん。もしかしてあんなとこも見ちゃった?」

 

「ああ見たぞ」

 

「…ふぇ!?」

 

 理子の冗談に真顔で答える。こんな返答をされるとは思っていなかったのか、理子は顔を赤くして慌てる。

 

「…ほ、ほんとに!?」

 

「ああ、本当だとも。あの慎ましやかで滑らかなbodyは素晴らしいね!」

 

「ななななな!?」

 

 心底楽しそうな顔で語る誠実と、真っ赤な顔をしてうろたえる理子。

 

「ま、マーくんがこんなえっちい子に…!」

 

「まあガバメントの話なんだけどね!ははははは!」

 

「…え?」

 

 わざと誤解をまねくような話し方をしていたのは理子をからかうため。こやつめ愉悦部か。(確信)

 

「…う」

 

「う?」

 

「うわぁぁぁん、マーくんのばかぁぁぁ!」

 

 誠実に散々もてあそばれた理子は泣き叫びながらも脱兎のごとく屋上から逃げ出した。

 

「…いや、まじ泣きすることないじゃん」

 

 残された彼はそうつぶやくのだった。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「おら、キビキビ歩け!」

 

「俺は囚人か犯罪者なんですか?」

 

「ある意味そうや」

 

「ある意味ってどの意味なんですか!?」

 

 呼び出しという禁じ手を使われ、強襲科に強制連行されていく途中の誠実。蘭豹先生にはほとほと参る。

 

「今日はそこの火野と戦えや。おーい火野ォ!ちょっとこっちこいや!」

 

(下級生って言っても強襲科だしなぁ…。どうしよう、まずいぞ)

 

 一年とはいえあの蘭豹がじきじきに指名するような相手だ。油断すれば世紀末のヒャッハーのようにボコボコにされるだろう。

 

「火野ライカです。今回はよろしくおねがいします」

 

「妻鳥誠実です、よろしく…」

 

「使うのは刃物だけだぞー」

 

「それ俺圧倒的に不利じゃないですかねぇ!?」

 

「不利だからできねぇとか抜かしてんじゃねぇぞゴラァ!」

 

「そこまで言ってませんから!だからM500下ろしましょ、ね!?そんなもん当たったら吹っ飛んじゃいますから!」

 

 狙撃科所属の誠実にとってはかなり不利な条件だが、ぶちぎれた蘭豹を止める方が火急を要する事態だ。

 

「はあ、まあさっさとやれ」

 

「…わかりました」

 

「…はぁ」

 

 なんとか酒を飲ませて、なんとか酒を飲ませて(二回目)荒御霊を鎮めた二人は、それぞれ腰を落とし日本刀とタクティカルナイフを構える。

 

「フッ!」

 

 先に動いたのはライカ。ナイフを肩目掛けて振り下ろす。

 対する誠実は柄で手首を押さえてナイフを止めた。

 

「せいッ!」

 

 そのまま弾き返し、一度左手を峰に当て心臓あたりに片手で平突きを放つ。

 

「ぐぁっ!」

 

 ライカはとっさにナイフで往なそうとするが、躱し切れない。切っ先が左肩に直撃し、苦悶の声を上げる。

 一方の誠実は追撃せず後退する。

 

「このォ!」

 

 反撃に出るためライカは飛び上がり、ナイフを大きく振りかぶる。

 つられて誠実も目で追い、刀を車に構える。

 

(かかった!)

 

 ライカは内心でほくそ笑む。誠実の一歩手前に着地した瞬間、体制を低くして視界から外れた。

 

「やぁ!」

 

 体も腕もつき出し、全身の力を籠め、今出せる最速の一撃を放つ。

 隙だらけの誠実には防げない、そんな確信がライカにはあった。だがそれはもろくも崩れ去った。

 

「…?」

 

 一瞬、ほんの一瞬誠実がにやりと笑った。

 ライカはこれに刹那ながらも目を取られてしまった。これが致命的な隙だった。

 

「なっ…!」

 

 右腕に不意に衝撃が伝った。誠実によってナイフを蹴り上げられたのである。

 そしてそのまま滑らかに円を描くように、首筋に刃を突きつけた。

 

(あ、あぶねぇぇぇ!これ負けたらなんてどやされるかわかったもんじゃないからね!こりゃ助かったわー!)

 

 なお誠実の心の中はこんな感じな模様。いろいろと台無しである。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 モスカーウモスカーウユーメミルアンディサン

 

「メール?誰からだ?」

 

From:母

 

「…めちゃくちゃ嫌な予感がする」

 

Sub:アメリカなう

 

夫婦でアメリカに旅行中だったんだが変な奴が変なとこで変なことしてたから懲らしめてきた。

(めちゃくちゃいい笑顔の母と、ひきつった笑みの父。後ろには白衣のおっさんが数人転がっている)

 

P.S.

東京ば〇奈だからな?東京のバナナじゃないからな?

 

「どんだけ好きなんや東京ば〇奈!じゃなくて何やらかしとるんやこの人はァ!」

 

 

 




誠実
勝ったけどやっぱりこういう類は苦手。意外とSっ気あり。

理子
からかってるせいで反撃された。

コルト・ガバメント(M1911)
慎ましやか(比較:デザートイーグル)で滑らか(グリップ・セーフティー)

ライカ
出したかった、悔いはない。誠実の戦い方に違和感をおぼえる。

蘭豹
強襲科の教師。誠実曰く、母親に似ている。

誠実の母
めっちゃフリーダム。そして肉食系。でも東京ば〇奈大好き。

誠実の父
胃薬がおともだち。奥さんフリーダムだし猫みたいにこども拾ってくるので胃潰瘍。だれかたすけて。


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銃弾

読者が悲鳴を上げるような暗号が作りたい(ドS)
まあ暗号出せる内容にならんのですがね!


 

 

 

 雨の降りしきるこの日、東京武偵高校行きのバスがジャックされた。

 

「ねえキンジ」

 

「なんだ?」

 

「あれなに?」

 

「ああ、あれは誠実のルーティーンみたいなもんだ。触らぬ神に祟りなしだ、ほっとけ」

 

「…」

 

「お前ならできる絶対できるお前はやればできるんだ誠実お前はできるそうだ俺はできるんだ!よし!」

 

 女子寮の屋上には何やら話し込んでいるなにやら話し込んでいるキンジとアリア、ドラグノフを抱えて体育座りしているレキ、そしてガラスに映った自分に激励の言葉を送っている誠実の四人がいた。なにこれカオス。

 

「よーし、覚悟完了!ところでアリア、今回のバスジャックは前のチャリジャックと同一犯だと思うんだけどあってる?」

 

 唐突に元に戻った誠実を特に気にすることもなく、会話を進める。

 

「ええ、この事件は間違いなく武偵殺しの仕業よ!」

 

「ちょっと待て、武偵殺しは捕まったんじゃないのか?」

 

「いいえ、捕まったのは偽物よ。真犯人はまだ逮捕されてないわ。まあそれについて詳しく話す暇はないから。今はバスの車内にいる全員を救助すること、それだけを考えていなさい!」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 誠実たちはジャックされたバスへ向かうため、二組に分かれて車輌科(ロジ)が手配したヘリに搭乗している。

 

「見えました」

 

「ああ、うん見えますね。窓際に指定の制服着てる人が見えるよ」

 

『おまえら視力どうなってんだよ』

 

「左右ともに6.0です」

 

「俺もそんなもんだね。スナイパーは目が命なんだぜ」

 

 かなり離れた地点で走行するバスの乗客の服装を目視で確認するという離れ業。レキはともかく、誠実だって一応狙撃科のSランク。できない道理はない…たぶん。

 

『はぁ…それよりまわりに何もないのか?』

 

「今のところ確認できません」

 

「まあ近づいてきたところでレキに撃たれて終わりだろうね」

 

『それに関しては同感だな』

 

 レキの目に入った時点で標的はほぼ確実に倒される。それは彼らの中でも常識だ。なんだったら見えてなくても撃ち抜きそうだ。

 

『そろそろ行くわよキンジ!』

 

『え!?ちょっと待てよ!』

 

 そういってアリアがバスへ飛び降りた。一方のキンジは置き去り。

 

「ほらキンジさっさと降りろー。パートナーを一人で行かせるなー」

 

『わかってる!』

 

 軽口をたたく誠実にせかされたキンジはワイヤーを伝ってバスの屋根に降りる。二人の武偵を降ろしたヘリは、バスがトンネルに入るため距離を取って上昇する。

 

「…なあレキ」

 

 自身が苦手とするレキとの会話を試みる。任務中なのだからと頑張って勇気を出したようだ。

 

「どうしました誠実さん?」

 

「なんでバスの後方がボロボロかわかる?」

 

 誠実が見つめる先にあるバスは、後ろが異様にボロボロになっている。

 

「おそらくサブマシンガンで撃たれたのでしょう。武偵殺しはUZIや爆弾を使った手口が多いと聞きます」

 

「だよねぇ…じゃあ撃ったやつはどこ行った?」

 

「後退したのでは?」

 

「まあそうかも知れないね。バスに爆弾仕掛けてるなら戦略としてありだろう。で、その後退したやつはどこ行った?」

 

「…そういうことですか」

 

 彼らは気が付いてしまった。武偵殺しが待ち伏せしている可能性に。

 

「やるとしたらこちらが援護できないトンネル内部かな?」

 

「おそらくそうでしょう。あちらがトンネルを出るまでは手が出せませんから」

 

 誠実は思わずため息をついた。バスはすでにトンネルに入っている。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「アリア、アリア!クソッ!」

 

 頭から血を流すアリアは、キンジの声にこたえない。

 

(まさか二台もいるなんて…!)

 

 トンネルの内部では、二台のUZIを載せたルノーが待ち伏せていた。一台は退けたものの、もう一台の攻撃によってアリアは左手と頭部を負傷し、気絶。このままでは二人纏めて蜂の巣だ。

 

(あの二人もトンネルの外だから援護射撃は出来ない…そもそもあっちがこっちの状況についてわかってるかも定かじゃない!)

 

 まもなくトンネルから出るとはいえ、すぐにあちらからの援護があるかどうか。

 

「頼む!来てくれ!」

 

 キンジの切実な願いは―――――届いた。

 

 トンネルを出てすぐ、バスの左に接近してきたルノーのタイヤが破裂した。

 

『おーいキンジ!現状はどうなってる!?』

 

 無線から聞こえてきたのはルームメイトの声。見上げるとドラグノフを構えるレキと、AR-10を掲げてヘリの側面から身を乗り出している誠実の姿があった。どうやら誠実が狙撃したようだ。

 

「アリアが頭を撃たれて負傷した!」

 

『そうか、頭揺らすなよ!』

 

 ヘリが降下し、バスのほぼ真横までくる。

 

『私は一発の銃弾、銃弾は人の心を持たない』

 

 レキの詩のような言葉が聞こえる。

 

『私は一発の銃弾、銃弾は人の心を持たない。ゆえに、何も考えない。ただ、目的に向かって飛ぶだけ』

 

 ドラグノフの銃口が火を噴き、付けられた爆弾を撃ち落した。ポチャリと水に落ちた音の後、巨大な水の柱が上がった。

 

『え?爆発デカすぎない?あれ戦車吹っ飛ぶよね!?絶対配分間違えてるよ!バスじゃなくて別の何か吹っ飛ばす気だったのかな!?』

 




誠実
今回かなり冴えてた。自己暗示しないとやってけない。ちなみにしばらく活躍しない予定。

レキ
まだ銃弾。銃弾じゃ飛んでって終わりじゃん。作者はそう思った。

アリア
アニメ声な原作ヒロイン。今回は飛び降りてもらいました。

キンジ
原作主人公。ヒスってたらどうにかできたかも。


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曇天

今回誠実くんは戦闘しません!
だって誠実くんは裏でイロイロやるのが似合ってるから!




 キンジは行ってしまった。アリアを救うために。

 

「せめて一言いれてほしかったなあ!完全に乗り遅れちゃったよ!まあ俺飛行機苦手だから不幸中の幸いかもしれないね!…いややっぱりキンジを一人で行かせたのはまずいかな…でも俺がいっても足手まといかもしれないし…」

 

 誠実は置いて行かれた。空での戦闘には参加できません。(悲しみ)

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 武偵殺しによってハイジャックされた旅客機の中。誘われたキンジとアリアは、カウンターに腰掛けるキャビンアテンダント…に変装した武偵殺しの姿を捉えた。

 

「今回も、きれいに引っかかってくれやがりましたねえ」

 

 変装メイクをマスクのようにはがしていく武偵殺し。

 

「Bon soir.キンジ」

 

 マスクの中から現れた顔に、彼らは覚えがあった。そう、理子だ。

 

「アタマとカラダで人と戦う才能ってさ、けっこー遺伝するんだよねぇ。武偵高にお前たちみたいな遺伝系の天才がそれなりにいる。もちろんそうでないのもいるけど……でも、お前の一族はとびっきり特別だよ、オルメス」

 

「あんた…一体何者っ!?」

 

 理子は心底愉快そうに答える。

 

「理子・峰・リュパン4世。それが理子の本当の名前」

 

 リュパン4世。すなわちフランスの大怪盗、アルセーヌ・リュパンの曾孫だ。

 

「でも…家の人間はみんな理子のことを『理子』とは呼んでくれなかった。お母さまが付けてくれたこのかっわいー名前をね。呼び方がおかしいんだよ」

 

「おかしい…?」

 

「4世、4世、4世、4世!どいつもこいつも、使用人どもまで4世さまってさ…理子をそう呼ぶんだよ。ひっどいよねぇー」

 

「そ、それがどうしたってのよ。4世のなにが悪いって──」

 

 アリアがその言葉を口にした途端、理子は笑みを消し、烈火のごとく憤った。

 

「悪いに決まってんだろ!あたしは数字か!?DNAか!?あたしは理子だ!数字じゃない!」

 

 その迫力に、キンジもアリアも言葉を失う。

 

「曾お爺さまを超えなければ、あたしは一生あたしじゃない、『リュパンの曾孫』として扱われる。だからイ・ウーに入ってこの力を得た。この力で、あたしはもぎ取るんだ、あたしを!」

 

「待ってくれ、お前はなにを言ってるんだ!?オルメス、イ・ウーってなんだ、『武偵殺し』は…本当にお前の仕業だって、そういうのかよ!?」

 

「あ、『武偵殺し』?あんなのただのプロローグ、ただのお遊びよ」

 

 キンジの言葉に興が冷めたのか、淡々と語りだす。

 

「オルメスの一族にはパートナーが必要なんだ。曾お爺さまと戦った初代オルメスには、優秀なパートナーがいた。だから条件を合わせるために、お前をくっつけてやったんだよ」

 

「何もかも計画通りってわけか」

 

「うーんそうでもないよ?バスジャックでチームまで組ませてお膳立てしたのに、キンジがアリアとくっつききらなかったのは、予想外。―――理子がやったお兄さんの話をするまで動かなかったのは意外だったなー」

 

 今の一言でキンジの頭に血が上った。

 

「くふふ、ほらパートナーさんが怒っているよ?一緒に戦ってあげなよー。あ、そうだ。いいこと教えてあげる。キンジのお兄さんは理子の恋人なの!」

 

「いい加減にしろ!」

 

「キンジ、落ち着きなさい!挑発に乗っちゃだめ!」

 

 怒りのあまり、アリアの声も届かない。ベレッタを握る手に力を込める―――その瞬間、銃声が一発。M92Fが破壊された。

 

「ノン、ノン。ダメだよキンジ。今のお前じゃ、戦闘の役には立たない。それにそもそもオルメスの相棒は戦うためのパートナーじゃないの。もっと頭を使わなきゃ」

 

 いつの間にかワルサーP99を握っていた理子。アリアはそんな隙だらけに見える彼女に向かって飛び出す。

 

「アリア、二丁拳銃が自分だけだと思っちゃダメだよ?」

 

 スカートの内側からもう一丁のP99を取り出し、構えた。

 

「このッ!」

 

「あはははは!」

 

 激しく、そして優雅。お互い至近距離から銃弾を放つ。銃を持つ手を弾き合う。

 

「キンジ!」

 

 弾数で劣るガバメントを使うアリアが弾切れを起こすのは必然。それゆえに彼女は、理子の腕を両脇で押さえたのは正しい判断だと言えるだろう。

 

「双剣双銃。奇遇よね、アリア。理子とアリアは色んなところが似てる。家系でしょ、キュートな姿もそう。それと二つ名」

 

「え…?」

 

「あたしも持ってるのよ、双剣双銃の理子。でもアリア、アリアの双剣双銃は本物じゃない。お前はまだ知らないこの力のことを!」

 

 理子が超能力者でなかったならば。

 

「うあっ…!」

 

 理子のテールが突如うごきナイフを握る。アリアは右からの一撃は凌いだものの、左のナイフに側頭部を切られた。

 

「あはははっ! 歳月が経ち過ぎちゃったのかもねぇ、お爺さま。こいつ、パートナーはおろか自分の力すら使えてない。勝てる! 勝てるよ! 理子は今日、理子になれる! あは、あはは、あははははは!」

 

 はるか上空、荒れ狂う暗雲を行く機内に、理子の笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 理子が爆弾で壁に穴をあけて逃走し、ジェットエンジンにミサイルを撃ち込まれた。アリアとキンジは機体を着陸させるため、パイロットのいないコックピットで操縦桿を握っていた。

 

『あー、あー、聞こえますか?』

 

「ああ、聞こえてるぞ」

 

 無線から誠実の声が聞こえる。

 

『ならいいや、今そっちどうなってる?』

 

「パイロットが負傷して、エンジンが壊された」

 

『えぇ…一応飛べてるんだよね?』

 

「ああ。でもメーターの数値がどんどん減ってるな」

 

『燃料漏れてるじゃねえか!』

 

 武藤の声も聞こえてくる。ジェット機の操縦などやったことがない二人にとって、車輌科Aランクの彼は心強い援軍だ。

 

『その様子だとあんまり長く飛べなさそうだな。最悪だねほんと』

 

「ああ、確かに俺一人なら最悪だな。でもアリアが隣にいるから最高だ」

 

「はあ!?な、なにいってんのよバカキンジ!」

 

『ちくしょう!こんな時に惚気かよ!あとで轢いてやる!』

 

 通信機の向こうはどうやらにぎやかになっているようだ。

 

『あー…剛気にかわって現状説明するぞ?いま羽田空港は自衛隊がいて使えない。防衛大臣が撃墜許可したらしい。おおかた東京に落ちたら大変だー、とでも思ってるんだろうね。そん時の音源入手したからあとでマスコミ各社にばらまいてやる!』

 

 どうやら誠実は防衛大臣の判断にご立腹なようだ。

 

『まあいいや、さっき言った通り羽田は無理。で、他に着陸できそうなとこはどこにあると思う?』

 

「…空き地島か」

 

『もともと空港造る予定だったらしいし、そこが一番良いんじゃないかな?あ、灯りについては今みんなが勝手に運んでるからご心配なく。仲間を信じ、仲間を助けよだし』

 

「…そうだな、ありがたい」

 

『おうおう、ありがたがってくれ。このあと絶対反省文書かされるよー』

 

 学校の備品を勝手に持ち出すのだから当たり前だ。だが乗員乗客を救うためならば、安い代償と言えるだろう。

 

『まあ操縦するのはそっちだから。おーい剛気ー。キンジたちにジェット機の操縦方法教えてやってー』

 

『おう!』

 

 武藤の指導の下、無事着陸に成功したキンジとアリア。ちなみに防衛大臣はマスコミ各社と民衆からバッシングを受け、辞任したという。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「ヒィィィ!反省文50枚なんて聞いてねえよ!チクショウ!キンジのやつ轢いてやるぅぅぅ!」

 

「ああもう、今日は厄日だぁぁぁ!」

 

 




誠実
置いていかれて反省文書かされる羽目になった人。ブ、ブラド戦ではめっちゃ活躍する予定だから!(震え声)

キンジ
原作通り理子と対戦。やっぱり主人公ダネ!

アリア
原作通り理子と対戦。結構重傷だと思う。

理子
武偵殺し。下着姿でスカイダイビングとかヤバイと思いませんか?

剛気
車輌科Aランクの頼れる人。反省文キツイっす。


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番外:妻鳥誠実の溜息

これ挟んで次から魔剣(デュランダル)編に入りますねー。

暗号作ってみた

白き星は文字を刻み
かがやきはただ夏を示す

人の名前が出てきます。
即興なんでクオリティについては目を瞑ってください


●その一 クレーンゲーム

 

「なんで取れないのよぉぉぉ!(ガラスバンバン)」

 

「そりゃあ簡単に取れたら商売あがったりだろ」

 

「店によってはあらかじめアームの力弱くしてたりするしね」

 

「なにそれ!詐欺じゃないの!」

 

「残念ながらペイアウト率調整の為の設定項目ってやつだから訴えても無駄なんだよなぁ(オテアゲ)」

 

「ムキィィィ!(じだんだ)」

 

「しょうがねーな(二個取り)」

 

「あー!なんで!?」

 

「やり方が悪かったんじゃない?」

 

 お金がどんどん消えていく沼。

 

 

 

 

●その二 共同任務

 

「ねえレキさん」

 

「なんですか?」

 

「狙撃科Sランク二人より狙撃科Sランク一人と強襲科Sランク一人の方が合理的だと思うんですけど?」

 

「誠実さんが前に出れば良いのでは?」

 

「確かにそうなんだけどさ!そうじゃないんだよね!なんで俺と組むのかがわかんないの!」

 

「…風が言ったのです」

 

「おのれモンゴルの風!」

 

 レキがモンゴルの少数民族出身なのも知ってる模様。

 

 

 

 

 

●その三 共同任務Ⅱ

 

「…ねえレキさん」

 

「どうしました?」

 

「明らかに30人以上いるよね?」

 

「そうですね」

 

「あの中に突っ込めと?」

 

「そうですね」

 

「俺のこと嫌い?」

 

「いえ」

 

「えぇ…?」

 

 疑う誠実。

 

 

 

 

 

●その四 恐怖のメール

 

 モスカーウモスカーウユーメミルアンディサン

 

「メールか…」

 

From:母

 

「またあなたか(あきらめ)」

 

Sub:報告

 

 

家族が増えた(白髪少女とツーショット)

 

 

P.S.

 

 

東京ば〇奈はまだか

 

「な、な、ナッチョンガッソン!(ケータイスパーキング)」

 

 三人目の義妹。

 

 

 

 

●その五 電話

 

 バルサミコスヤッパイラヘンデ

 

「電話?もしもし?」

 

『誠実!ももまん買ってきて!もうないのよ!』

 

「あれだけあったのに!?食いすぎでしょ!夕ご飯入んなくなるよ!」

 

『大丈夫よ、そのあたりはちゃんとしてるから!』

 

「食べられなかったらももまん無期限禁止!」

 

『えぇぇぇ!?』

 

 まるでおかん。

 

 

 

 


 

 

 

 

芥「作者と!」

 

誠「誠実の!」

 

二人「「なぜなに質問箱ー!」」

 

誠「…なんなんですか、これ?」

 

芥「番外編のネタが尽きて1000字行きそうになかったんだ!すなわち文字数稼ぎ!」

 

誠「はあ…。それはそうと芥ってなんですか?」

 

芥「クレソンの和名のオランダガラシの漢字である和蘭芥子からとったんだ」

 

誠「へー…」

 

芥「それはそうとさっそく質問に答えていくよー!」

 

誠「いったいどこでそんなもん募集してたんですか?」

 

芥「初回なのにはがきが来てるのと同じシステムだよ」

 

誠「いっしょにすんな!」

 

芥「はーい、じゃあ最初の質問ねー。ニックネーム、『LICO』さんから!」

 

誠「ニックネームの意味がねェ!」

 

芥「『お二方どうもこんにちは』はいこんにちはー。投稿深夜だけど」

 

誠「ラジオ風のシステム!?というかメタい!」

 

芥「『四話の《暗》でマーくんが電話していたのは誰ですか?』あーこれネタバレになるから言えませんねー。まあそれだけじゃイジワルなんでヒント。作中で言及されてるまたは名前が出てる人物です」

 

誠「そのあとの流れでわかると思いますよ?」

 

芥「いやいや、もしかしたらあややちゃんかもしれないよ?」

 

誠「ブルドーザーこわいのでやめて」

 

芥「あ、はい。んじゃ次行きまーす。ニックネーム、『white☆snow』さんから」

 

誠「やっぱ隠す気ねえ人しかいねぇ!てゆうかそんなニックネームにしてんの!?」

 

芥「『みなさんこんにちは、芥ってだれですか?』はいこんにちは、やっぱり見にくいですか。まあ自分でもコイツだれだってなりますから仕方ないですね」

 

誠「自分でもそうなってんの!?だめじゃん!」

 

芥もとい作者「それでは気を取り直していってみよー!『誠実君の得意料理を教えてください』だってさ」

 

誠「へいへい、ブリ大根デース」

 

作者「ちがうだろオラァ!鳥の唐揚げだろォ!?共食いが好きなんだろォ!?」

 

誠「違いますよこの野郎!名字をいじるなぁ!」

 

作/者「ぎゃー!」

 

誠「あ、やべ。…まあいいか、ほっときゃ治る」

 

 捨て置かれた作者。




答え合わせ
星はすなわち九星のこと。
白は一と六と八。
いろはと読めますね?
これを四行のいろは歌に合わせます(wiki参考)

九星の魔法陣をかざします(これもwiki参考)
()()()にほへと ちりぬるを
()()()たれそ つねならむ
()()()おくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす

白の数字のところだけ読みます。
ゐのう 『ゐ』は『い』にします。
いのう

次。かがやきは九曜です。
夏は太陽と火星です。(説明めんどくさくなった)
頭文字とって、たか
ただはそのまんまです

よって出てくるのは
伊能忠敬(いのうただたか)です。

我ながらクオリティひっく。


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魔剣(デュランダル)
雰囲気


私は昔、手相占いをしたら頭脳線が見つかりませんでした。ナゼダッ!


 SSRに寄った帰り、誠実は買い物をしてエコバックを携えながら廊下を歩いていた。

 

「キンちゃん…キンちゃん…」

 

「うわぁ…こりゃやばい…」

 

 黒いオーラを纏った白雪を発見。誠実は予見した。アリアと会わせたときに起きるであろう惨劇を。

 

(何としてでも止めねばぁぁぁ!)

 

 幸い白雪の攻略方法はわかっている。

 

「ちょいちょい、白雪。なんか深刻そうだけどどうしたのさ」

 

「キンちゃん…あ、誠実君。こんにちは、あれ?もうこんばんはかな?」

 

「こんばんはって大体5時過ぎから使うらしいから、こんばんはなんじゃないかな?」

 

 滑り出しは良好。問題はこの後だ。

 

「ねえ誠実君、キンちゃんの部屋にほかの女の子が入り込んでるって聞いたんだけど、知らない?」

 

 そう、これ。

 

「ああ、いるね。居候みたいなのが一人」

 

「へぇー…」

 

 ごらんのとおり肯定した途端、どす黒いオーラを発しだした。内心ガクブルしている誠実だが、己の平穏のために説得を試みる。

 

「落ち着け落ち着け、やばいオーラ出てますよ!」

 

「はっ!ご、ごめん」

 

「別に謝られるほどのことでもないし。それに入り込んでるって言ってもほんと何もしてないからね、そいつ。それに比べて白雪はちゃんと家事やってるからキンジにとっても大助かりだと思うぞ?」

 

「き、キンちゃんが大助かり…?私がいれば…?」

 

(よっしゃかかったぜヒャッハー!)

 

 説得に応じてくれそうな気配を察知した誠実。心の中ではフィーバーしていることだろう。

 

「そうそう。そもそも幼馴染の大和撫子とぽっと出の居候じゃあ、好感度が違いますよー」

 

「えへへ…そんなあキンちゃん…」

 

(…さっそくトリップしてるなー)

 

 キンジとくっつける可能性をにおわせた途端、白雪は妄想の海にどっぷりと浸かってしまった。

 

「それにたとえ居候の子だろうとやさしくする人なら、きっとキンジも好きだと思うよ?」

 

 誠実 の かいしん の いちげき!

 

「好き…!?キンちゃんが…!?」

 

「そうそう!」

 

 どうやら誠実の平穏は守られそうだ。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「この泥棒猫ー!」

 

「なんなのよあんた!」

 

 やっぱりダメでした。

 

「はいどうどう!白雪ストーップ!我々の部屋で暴れないでくださーい!」

 

「落ち着けアリア!こんなところで暴れるな!」

 

「放して誠実君!キンちゃんをあの泥棒猫から助けなきゃ!」

 

「だから落ち着きなさい!お前さんがここで暴れたらキンジに多大なる迷惑がかかるんだぞ!?」

 

「き、キンちゃんに迷惑!?そ、そんな!私はただキンちゃんを助けようと…!」

 

「だからそれがだめなんだってば。部屋で暴れちゃダメなんだってば。そもそもアリアはキンジの仕事仲間だから白雪が心配してることなんてなにもないヨ。ほんとだよ?」

 

「ほ、ほんとに?」

 

「ほんとほんと。ルームメイトの俺が言うんだから間違いない。メンドリクンウソツカナイ」

 

 キンジの事となるとやはりチョロい白雪。これなら誠実でも言いくるめられそうだ。

 

「そもそもあの子はぽっと出、君は幼馴染。君はあの子より有利。あの子よりキンジのこといろいろ知ってる。OK?」

 

「うん、そうだよね!私がキンちゃんのお嫁さんなんだから!」

 

 そこまでは言ってない。そんなことはだれも言ってない。

 

(…もうどうにでもなーれ☆)

 

 白雪の思考に追いつけず、ついに誠実の脳がオーバーフロー。誠実は考えるのをやめた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「やばいやばいやばいやばい!」

 

 この日、誠実は切羽詰まった表情をして全速力で走っていた。尋問科の綴先生呼び出されたため、なのだが普通に考えてここまで急ぐのはおかしい。ならばなぜこうなったの。理由は単純、早く来なければ蘭豹とレキを差し向けると脅してきたのだ。教師がそんなことするな!とかいってもそういう先生だから仕方ない。仕方ないは魔法のことば。

 

「しつれいしまぁぁぁす!」

 

 ズドーン!

 

 誠実は勢いそのままに、扉を吹き飛ばし入室。高澤淳介風のかっこうで床に倒れ伏した。

 

「は、早めに来ましたよ…」

 

「そうだねー」

 

「え、えっと誠実君はなんでそんなに急いで来たの…?」

 

「あれ?白雪?なんで?じゃないや理由ね、いや綴先生に早く来ないと蘭豹先生とレキ差し向けるぞ的なことを…はっ!?ま、まさか!?」

 

「くっくっく…」

 

 とんでもない事実を察してしまった誠実は、謀ったな!?とでも叫びそうな形容しがたい表情を浮かべた。

 

「えーっと…妻鳥誠実、Sランク武偵。絶対半径(キリングレンジ)は3415メートルで全武偵の中でも五指に入る。中学時代は―――」

「アーアーキコエナイキコエナイナニモキコエナイナニモキキタクナイマッタクモッテキキトレマセーン!」

 

 途中まではおとなしく聞いていた誠実であったが、中学生時代の話に入った途端、顔を青くして耳を両手でふさぎ、大声で叫び始めた。よほど聞きたくない、または聞かせたくない話なのだろう。

 

「そんなに嫌がる話でもないのになー」

 

 そんなに嫌がる話だからこんなになっているんだろうが、そんなツッコミを入れるものはいない。

 

「それより誠実。白雪の護衛をしたらどうだぁ?」

 

「護衛?なんで必要なんですか?白雪ってそんなの必要なほど弱くないでしょ?」

 

 呼び出されて早々に護衛任務に就くように勧められた。白雪はSSRのAランクであるため、本来ならば護衛など必要ないはずなのだが。

 

「いやぁ相手が普通ならいらないんだけど、今回普通じゃないんだよなー」

 

「普通じゃない?どういうことですか?あ、そこで覗いてる二人もなかなか非常識ですよ?」

 

「…気づいてたのね」

 

 誠実が指さす先、排気口からピンク髪の少女、アリアが這い出てきた。

 

「それはそうとアンタSランクだったのね、知らなかったわ」

 

「いや、この学校のSランクなんて数えるほどしかいないじゃないか…。俺なんてキンジのルームメイトくらいの認識しかされてなかったのか…ははっ」

 

 一応Sランクの自負があった誠実であったが、アリアの知らなかった発言でネガティヴモードに突入した。そもそも前に言ったはずなのだが…。

 

「俺なんてどうせ、どうせこの程度の存在なんだよ…」

 

「落ち着け誠実!だれもそこまで言ってない!」

 

 結局誠実が正気を取り戻すまで話が進むことはなかった。

 

 




誠実
キリングレンジ3415mなヘタレスナイパー。ちなみに狙撃の最長記録は3540mだそうです。

白雪
キンジ大好きさん。誠実とは結構親しくしてる。直接会うまでは名前しか知らなかった。

キンジ
誠実ほどではないけど自己評価低め。ヒスってなくても強め。

アリア
何度も言われてたのに誠実がSランクであることを覚えていなかった。一種の誠実の才能かもしれない。



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護符

腹を下しました。トイレから出られません…。


「なにやってんだアリア」

 

「見ての通りこの部屋を要塞化してるのよ。魔剣(デュランダル)、絶対捕まえてやるわ!」

 

 天井にナニカを設置するアリアを見て質問したキンジ。問いの答えは魔剣(デュランダル)確保のため、と言うものだった。

 

「でも魔剣(デュランダル)は都市伝説って言われてんだろ?誰も見たことないんだし、いないんじゃないか?」

 

「んなわけねぇやろキンジこの野郎!この前の武偵殺しだって、今の今まで正体不明だったじゃないか!」

 

「うぐっ…」

 

 絶妙に痛いとこを突いてくる誠実に、キンジはとっさの反論することができない。

 

「そもそも相手がめちゃくちゃ強い怨霊の類いで、誘拐に関してもマジもんの神隠しだったらだったらどうすんだよ!

 ああいうやつは銃も剣も効きゃしないし物理的な対処なんてできないぞありゃあ!ああやべえ塩盛って結界張んなきゃ。破魔札、破魔札はドコダァ!」

 

 頭が回るのかと思いきや、実際は心霊現象が怖かっただけのようだ。

 

「そもそも超偵専門の誘拐犯とか絶対やばいじゃん!人間だったとしても魔剣(デュランダル)本人も超能力者とかいうオチじゃないこれ!?

 ああもうやだなんでそんなヤバイのに目ぇつけられちゃうのさ白雪ィ!たしかにおたくそういうタイプなのは知ってるけどさ!なんなの!?もーやだ絶対俺役立たないよ!こんなことになるならさっさとアドシアードにエントリーしてりゃよかったかなぁ!?いやあああああああああ!俺なんてどうせ出来損ないだよコンチクショウ!」

 

 実は答えにもうたどり着いているのだが、それを本人が知る由はないが。

 

「だ、大丈夫だよ誠実君。ちゃんと結界張ってれば怪しい人は入ってこれないから」

 

「そうだよね、大丈夫だよね?デュランダルって言ってるくらいなんだからフランス人なんだよね?陰陽術で構成された結界の突破方法とかわかんないよね!?そうだ落ち着け誠実。相手は素人、お前はプロだ。行ける行ける、絶対大丈夫。OK?OK!よしやるぞー!」

 

 はじかれたように、突如再起動した瞳孔開きっぱなしな誠実は、大幣や案といった神社で使っているような道具を自室から持ち出してきた。

 

「なんでアイツ、あんなもの持ってるの?」

 

「ああ、それは誠実君の実家が陰陽師の家系だからだよ」

 

「「…え!?」」

 

 唐突なカミングアウト。

 

「そうだったのか!?」

 

「うん、平安時代から陰陽師をやっている由緒ある家系なんだって。今は誠実君のお父さんが頭目をやってて、いっぱいお弟子さんがいるそうだよ」

 

「へー…」

 

 誠実の出自に驚きを隠せない二人だが、ここで一つの疑問が浮かぶ。

 

「じゃあなんで陰陽師なのに幽霊を怖がってるんだ?陰陽師って怨霊を祓うのが仕事なんだろ?」

 

「陰陽師だからだよ!」

 

「ひゃあっ!?アンタいきなり出てこないでよ!」

 

「え、なにこの扱い…」

 

 キンジの問いに答えに来た誠実。いきなりの出現に驚くアリア。ぞんざいに扱われて軽くネガティヴになりかけているので、できることならやめていただきたいものだ。

 

「で、陰陽師だからってどういうことだ?」

 

「いやね、なまじ本物が()えちゃうわけだから怖いのよ。アレ普通に攻撃しても全然効かないから。それに心霊番組に時々まじってるガチの奴って、普通の人にも見える=めっちゃ強い奴なのよ。近寄ったら軽く呪われちゃうぐらいの奴だから。陰陽師ってそんなの祓うんだぞ?めちゃくちゃ怖いんだよ!」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「ふーん…アリアが授業中、キンジが休憩時間、放課後に二人とも、と…。俺にお仕事はないんですか!?」

 

 本来ならば誠実が引き受けるはずだったこの仕事、すっかりキンジとアリアのコンビに役割を取られてしまった。

 

「ならレキと一緒に見張ってればいいわ。一応狙撃科のSランクなんでしょ?」

 

 つい最近まで記憶の端にもなかったくせにー!と毒づきそうになった誠実であったが、ここでアリアに癇癪を起されても困るため、なんとか押し黙る。

 

「でもなー…レキと一緒に?えー…」

 

「なに?アンタレキ嫌いなの?」

 

「嫌いではないんだけどさ、苦手なんだよ。あの宝石みたいな目で見られるのがちょっとね…」

 

「ふーん」

 

「いやふーんじゃないんだけど!?これ俺にとっちゃ死活問題なんですけど!?」

 

「知らないわよそんなの。それよりちゃんと仕事しなさい!」

 

「…へーい」

 

 何度も言うが、これはもともと誠実が引き受けるはずだった仕事である。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「はいキンちゃん、あーん!」

 

「い、いや自分で食べられる…」

 

「くぅぅぅぅ!」

 

(うわあ…修羅場だ、修羅場ってるよ…)

 

 満面の笑みで自分が作った料理を食べさせようと、箸を出す白雪。

 恥ずかしいのか、顔を赤くして躊躇うキンジ。

 怒っているのか、はたまた焼きもちを焼いているのか、こちらも顔を赤くしているアリア。

 そして不幸にも、三角関係による修羅場に巻き込まれてしまったが、最後の悪あがきのように気配を遮断してご飯を食べる誠実。何度目かのカオスがここに爆誕した。

 

(別に対岸から修羅場見るのはいいんよ、別にいいんよ。でもこんな至近距離でとか堪忍してはしいわー。完全に巻き込まれてますわー。アリア止めるのとかやりたくないですねほんとに)

 

 心の波を出来るだけ消すために思考を明後日の方角に向ける。明らかに現実逃避だが、比較的有効な手段であると言えなくもない。

 

「というかこれ明らかに作りすぎじゃないか…?」

 

 満漢全席もかくやというレベルでテーブルに乗せられた大量の料理に目を向ける。料理作りに少しながら参加した誠実も、割と強めに止めたのだがこの通り。はりきった白雪を止めきれず、このありさまである。

 

「そうよね!あたしもそう思ったの!」

 

 そんな誠実の言葉に便乗してきたアリア。やはり白雪は好きではないようだ。

 

「なによアリア!そんなこというならご飯抜きだよ!」

 

「なによ白雪!誠実も何とか言いなさいよ!」

 

「巻き込まないで…俺を巻き込まないで…俺は小石…河川敷の小石だから…」

 

 アリアと白雪の喧嘩がヒートアップする中、誠実は流れ弾を恐れて縮こまっていた。ちなみにキンジは黙ってご飯を食べていた。

 

 




誠実
陰陽師の家系と言う衝撃の事実。おまもりやお札を大量に持っていたのもこのため。

キンジ
白雪と同棲中。部屋は人間も幽霊も寄せ付けない鉄壁の要塞と化した。

白雪
Sランク4人に護衛される。アリアへの態度は多少軟化している。

アリア
魔剣絶対捕まえるウーマン。相変わらず白雪は気に入らない。

ご先祖その三
京都の陰陽師でレキのご先祖ともかかわりがある。


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腹下りで駄文しか書けない…あれ?いつもか?
みなさんも消費期限にはご注意を。


「帰ってきたか誠実!頼む、白雪を止めてくれ!」

 

「えーっと…なにこれ?」

 

 買い物を終えて帰宅した誠実は、風呂場にて半裸のキンジと脱衣途中の白雪を目撃した。

 

「いったいこれは何があったんだ?」

 

「実は…」

 

「…はっ!?」

 

 キンジが事のあらましについて説明しようとする中、自身の直感がアリアの気配を察知した。十秒足らずでこの部屋に到達しそうだ。

 

(まずいぞこれは!このままいくと間違いなくやばい!)

 

 この状態を見たアリアがどうなるか脳内シミュレーションした結果、全員の不利益にしかならないことがわかった誠実。その間わずか0.2秒。

 

(くっそー!やるしかない!あれをやるしかない!)

 

 意を決して行動を起こすことにした。もうどうにでもなれと、半ばやけくそになって。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「どわあああああああああ!?」

 

 扉の前まで来ていたアリアの耳に、誠実の悲鳴が届く。

 

「ちょっとどうしたのよ誠実!」

 

 慌てて扉を開け放ち、室内に突入したアリアの目に、風呂場から這う這うの体で下半身を引きずる誠実の姿が映った。

 

「あ、アリア大変だ!手を貸してくれ!俺の手には負えない!」

 

「な、何があったのよ!?まさか魔剣(デュランダル)!?」

 

「いや、違う!だがやつよりも数段厄介だ!」

 

 狙撃科所属とはいえ、武術の心得がある誠実をここまでにする強敵。

 

「ゴキブリだ!馬鹿でかいゴキブリが現れた!」

 

「えっ、な、なんですって!?」

 

 その者の名は黒き絶望(ブラック・ディスペアー)、ゴキブリ。全人類の敵、ゴキブリである。

 

「ど、どうしよう!?」

 

 対G戦闘においてはまさしく歴戦の猛者である誠実に、これほどまでの深手を負わせるほどの相手だ。実戦経験がほぼないアリアでは到底太刀打ちできないだろう。

 

「落ち着くんだアリア!ベランダの倉庫からありったけの殺虫剤を持って来い!それまでは奴は俺が抑える!」

 

「そんな、アンタを置いていくなんて…!」

 

「俺は膝に洗濯機を受けてしまってな…しばらく走れそうにないんだ。だから早く行け…!」

 

「…うん!死ぬんじゃないわよ!」

 

「ああ…」

 

 アリアは知らなかった。ゴキブリは洗剤で死ぬことを。

 アリアは気付かなかった。これが己をだますための茶番であることに。

 アリアはわからなかった。これが魔剣(デュランダル)に対する挑発であることが。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 誠実が捕え、殺虫剤を装備したアリアが、通常の三倍サイズの黒い彗星(ゴキブリ)(誠実の式神)にとどめを刺した後、体を張った猿芝居が功を奏したのか、キンジが東京湾に突き落とされることはなかった。が、新たな問題が発生した。

 

「なんなのよキンジのやつ!魔剣(デュランダル)が狙ってるのに花火大会だなんて!」

 

「いや、ノリノリで浴衣着ちゃってる奴のセリフじゃないぜそれ」

 

「べ、べつにいいじゃないの!前から着てみたかったとか、そんなんじゃないだから!」

 

 現在アリアは金魚のあしらわれた藍色の浴衣を着ている。一方の誠実は相も変わらず、防弾制服に大きなギターケースというスタイルを貫いているが。

 

「まあそれは別にいいとして、レキも来るって話だったけどちょいと遅い気がするぞ?俺たちがちょっと早かったせいもあるかもだけどさ」

 

「そうね、あのレキが遅れるなんてそうそうないし…」

 

「お待たせしました」

 

 二人があーだーこーだと話しているうちに、話題の中心になっていたレキが現れた。

 

「わーお」

 

 ところどころ白い花があしらわれた薄い青色の浴衣姿。ヘッドホンとドラグノフの入ったバッグすら一種の装飾品のようだ。

 

「アンタも浴衣着てきたのね」

 

「ええ。店の前を通りがかったところ、呼び止められまして」

 

「そっかー。よく似合ってると思うよ」

 

「ありがとうございます」

 

「それじゃあこのあたりを見張りましょ。誠実は白雪の近くを見張って、レキは向かいの島を警戒してなさい。魔剣(デュランダル)を見つけたら必ず呼ぶこと、いいわね二人とも!」

 

「言われるまでもないよ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

(はー…春になったとはいえ、さすがに夜になるとさぶいなー)

 

 人ごみを避けつつ白雪とキンジの後をつけていた誠実。傍から見れば完全にやべーやつ、もしくは白雪のストーカーだが、本人の気配遮断能力によって通報は避けられた。仮にストーカー容疑で捕まったら、武偵三倍刑があるのでしばらく太陽のもとには出ることはかなわないだろう。

 

(それにしても…)

 

 白雪の携帯が、キンジが離れたところを見計らったかのようにメールを受信した。まるでどこかから見ているかのようだ。

 

(うーん…さすがに魔剣(デュランダル)の背格好がわからないからどうにもならんなぁ)

 

 変装していれば、本来の姿とは異なるため多少なりとも違和感を感じるだろう。だがそれは本来の姿と異なるため、つまり本来の姿がわかっているからだ。そもそも魔剣(デュランダル)は都市伝説とまで言われる存在だ。言い方は悪いかもしれないが、要するにツチノコやビッグフットなどと同列に語られるようなものだ。誠実ももちろん正体を知らないため、それが魔剣(デュランダル)かどうかの判別は不可能なのだ。

 

(とりあえずレキかアリアが見つけてないか後で聞いてみるか)

 

 そういうわけで魔剣(デュランダル)の特定は断念。再び白雪のストーキング、もとい護衛任務にもどった。

 

(そういや夕飯食べてないな…あ、弁当の献立どうしよう…)

 

 結局アリアもレキも、この日は魔剣(デュランダル)には遭遇しなかった。

 




誠実
結構適応力も演技力も高い。

キンジ
東京湾回避。

白雪
メールの中身はばれてないと思う。

アリア
誠実の猿芝居(迫真)に騙された。

レキ
浴衣着てきた。作者の文才ではかわいく表現できないのがつらい。

作者
マーライオン。しょくちゅうどくにはきをつけて。


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まだ腹の調子悪いしストックないし大変です。


「…クソッ!」

 

 アドシアード当日。こんな人が見ているなかで誘拐なんてありえない。そんな油断をしていたがゆえに、魔剣(デュランダル)への警戒を怠っていたキンジは、護衛対象たる白雪を見失った。

 

(アリアも誠実も魔剣(デュランダル)はいると言っていた…なのに俺は…!)

 

 キンジは魔剣(デュランダル)の存在を信じてはいなかった。そんなものいるわけがない、そう考えていた。だが現実はどうだ。

 

「白雪…」

 

 守ると誓ったというのに白雪はさらわれてしまった。

 

「クソッ!」

 

 キンジは焦る。その焦りが思考をさらにどん底へと導く。

 

「落ち着けキンジ」

 

 不意にキンジの足元の一部が抉れ、聞き覚えのある声が耳に響いた。

 

「誠実か!」

 

「いったん落ち着けよ、そんなんじゃ誰も助けられないぜ?」

 

 マテバ2006M(フェルナンダ)をキンジの鼻先に向けながら、冗談めかしておどけて言う。

 

「…そうだな。誠実、目撃情報は?」

 

「最後に姿を確認できたのが地下倉庫前だ」

 

 一転して真剣な表情でキンジの問いに答えた誠実。その目は瞳孔が開いたままだ。

 

「地下倉庫…」

 

「そういうことをするにはピッタリだとは思わないか?」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「このあたりで銃を撃つと危険かー。俺のアイデンティティがなくなっちゃうなー。近接戦闘は頼んだよ」

 

「俺に頼むな、その腰に佩びてる刀は飾りなのか?」

 

「相手の剣がマジもんのデュランダルだったらどうしようもないからある意味飾りだね、うん」

 

 デュランダルは、ローランの歌に登場する聖剣。柄に聖遺物が埋め込まれているとされ、ローランがへし折るために岩に叩きつけたところ、岩の方が両断されたという逸話が残っている。

 一方、誠実が持っているのは無銘の日本刀。受け流しならまだしも、真正面からデュランダルを受け止めようものなら確実に折れる。

 

「そもそもデュランダルは聖剣だろ?なんで魔剣になるんだ?」

 

「さーねー?同じく聖剣のアロンダイトは、持ち主である『湖の騎士』ランスロットが裏切って戦友の兄弟を斬ったから魔剣に堕ちたって話があるけど、デュランダルにそういう話があったとは聞かないなー。せいぜい奪い合いが起きたってくらいだったと思うぞ」

 

 この二人は相手に警戒していることを悟らせないため、くだらない雑談を続けている。あまり意味はないと思うが。

 

「そういえば、クラブのジャックはランスロットだったな。ダイヤのジャックもヘクトールっていうデュランダルを持っていたことのある人物だし。ほかにもスペードのジャックはカール大帝の騎士、オジェ・ル・ダノワ。ハートのジャックはジャンヌダルクの戦友、ラ・イルだったと思うよ」

 

「なんでそんなの知ってるんだよ」

 

「せめて知恵だけでもと思って。ちなみにトランプって本来は切り札って意味で、ほんとはプレイングカードとしか呼ばないそうだよ」 

 

 豆知識がポンポン出てくる誠実。魔剣(デュランダル)が見ているかもしれないというのに、雑談に興じている。何度も言うがあまり意味はないと思う。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「やっぱり魔剣(デュランダル)も超能力者だったかー。…これなんて言ったっけ」

 

 魔剣(デュランダル)によって床にくぎ付けにされたキンジを後目に、投てきされたナイフのようなものの名前を、脳内の検索エンジンで探っていた。

 

「そんなことしてる場合じゃないでしょ!?さっさと行くわよ!」

 

「フランスならヤタガンかなあ…でもヤタガンってこんなんだったっけ?」

 

 思考の海どっぷりと浸かってしまった誠実。手に持ってるそれ、証拠品では?

 

「ほらいくぞ!」

 

「だー!わかったから、わかったから襟首つかまないで!歩く、自分の両足で歩くから!」

 

 アリアとキンジに襟首を掴まれ、ずるずるとひきずられていく。こうまでしなければ動かないあたり、とことん集中するタイプであることが容易に推測できる。

 

「そーいえばなんかジャラジャラいってた気がするな。鎖でぐるぐる巻きにされてるのかな?」

 

 その数分後、鍵付きの鎖で拘束された白雪が発見された。

 

「「ほんとだった…」」

 

「いやこんなの当たってもしょうがないんだけど」

 

「そ、それより早く鍵を…って水!?」

 

 急いで白雪を解放しようとする三人の足元を大量の水が流れていく。

 

「これも魔剣(デュランダル)の仕業か…!」

 

 こうしている間にも、水嵩は増していく。このままいけば5分足らずで天井まで見たされてしまうだろう。

 

「こりゃ迷ってる場合じゃないな!」

 

 右胸のホルスターからベレッタM93R(アンジェラ)を抜く。

 

「錠前だけ撃ち抜く!」

 

 ガキン!弾かれた。

 

「…」

 

 左胸からコルト・パイソンハンター(ケイト)を引き抜く。

 

「錠前だけ撃ち抜く!」

 

 ガキン!弾かれた。

 

「…」

 

 右腰のホルスターからスタームルガー・スーパーブラックホーク(アーシャ)を引き抜く。

 

「錠前だけ撃ち抜く!」

 

 ガキン!弾かれた。

 

「マグナムが効かねえぞ!?いったい何製なんだコイツ!こうなったら…!」

 

 自慢の銃の弾丸が通用しないのが頭に来たのか、ギターケースからM320がとりつけられたM4カービン(クリス)を取り出し、構える。

 

「待ちなさいよ誠実!そんなの使ったら白雪まで吹き飛んじゃうわよ!」

 

「こうなったら魔剣(デュランダル)から鍵を奪うか、自力で開けるかしかないか…」

 

「ピッキングするにしてもなー。アリアは泳げないから除外するとして、俺も繊細な銃をいくつか持ってきてるからだめだな」

 

「ちょっと!私は浮き輪さえあれば泳げるから!」

 

「そんなものはない」

 

 それを世間一般では泳げないというのだ。

 

「それじゃ、さっさと行ってくる。土左衛門にはなるなよ!」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「おーい、キンジィ。だいじょぶか?」

 

「俺は問題ない。ただ白雪が…」

 

「さっきのあれで流されたか…あれ、スパコンのとこに誰かいるな」

 

「!白雪じゃないの、大丈夫白雪!?」

 

 大きく水が流れる音を聞きつけ駆けつけた二人。魔剣(デュランダル)の仕掛けた罠を斬りながら歩いてきた誠実は、スーパーコンピューターに寄りかかっている人影を発見した。アリアはその人影を白雪と断定し、駆け寄った。

 

「うん、ありがとうアリア」

 

 だがなにか違和感を感じる。本当に些細な、しかし確実になにかいつもの白雪と違うものがある。

 

「どうしたのキンちゃん?」

 

「ところで白雪、唇は大丈夫か?」

 

「唇?なんともないよ」

 

 なるほど、そういうことか。

 

「アリア、離れろ!」

 

 出し抜きにベレッタM92Fを向け、発砲した。

 

「ちょっとキンジ、どういうこと!?」

 

「どうもこうもないね。ひとつ確かなのは、そこの白雪が偽物ってことだろうね。でしょ?」

 

「そのとおりだ」

 

 抗議の声を上げるアリアをおざなりにして、誠実もマテバ2006M(フェルナンダ)を向ける。

 

「ぐぅ…!」

 

 白雪(偽)が息を吹きかけた途端、アリアの両手が凍り、銃を落としてしまう。

 

「おたくいったい何モンだい?本名デュランダルですってわけじゃないだろ?」

 

 じりじりと距離を詰めながら誠実が問いかける。

 

「そうだな。魔剣(デュランダル)とは他人につけられた名、本来の名は別にある」

 

「本来の名?」

 

「そう、我こそはジャンヌ・ダルク30世。かの聖女、ジャンヌ・ダルクの末裔だ!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「はぁ!」

 

「セイッ!」

 

「おっとっと」

 

 魔剣(デュランダル)あらためジャンヌ・ダルク30世は、誠実と白雪の二人を相手取り、尚も圧倒していた。

 

「誠実君大丈夫!?」

 

「ぶっちゃけ刀の方が先にダメになる!てかその刀思いっきり打ち合っても刃こぼれしないとかどうなってんのさ。1000万ぐらいならキャッシュでお支払いできるぞ」

 

「非売品です!」

 

 誠実の刀は名刀や業物ではなく、一振り15万円で売られていそうな普通の刀だ。うまく受け流してはいるものの、刃が削れて無くなるのも時間の問題だ。

 

「どうしたその程度か?口ほどにもないな」

 

「まあそうなるよねー。それ貸してくれる?」

 

「え、だ、ダメ!これは星伽に伝わる刀!誰かの手に渡るなんて…!」

 

「さっきそこの聖女サマ30世にとられてたのはノーカンですか?」

 

「えーと、そのー…」

 

「ふざけているのか貴様らは?」

 

 そんなすごい刀を見たら誰だってそうする、誠実もそうする。

 

「どのみちこのままだと詰みだな、なんか切り札ある?」

 

「…あるよ。ちょっとだけ、ほんのすこしだけでいいから時間を稼いでくれるかな?」

 

「ふーん…。時間を稼ぐのはいいが、別に倒してしまってもかまわんのだろう?」

 

「ほう、大きく出たな」

 

「…おまえそれを言いたかっただけだろ」

 

「自己暗示強めにかけたからハイになってんだよ」

 

 白雪の言葉にあっさり応え、あまつさえ倒してしまうつもりらしい。自己暗示のご利用は計画的に。

 

「というわけでしばらくお相手させていただくよ。あーあ、イロカネアヤメが使えたら楽におわるだろうに」

 

「フン、所詮唯の剣をもった少々超能力が使えるだけの武偵がこの私に勝てるとでも思っているのか?」

 

「要は刃を打ち合わせなければいいわけだし、慢心してる相手に剣術で劣るほど弱くはないと思うのだけどね」

 

 これが自己暗示なしなら、ひたすらに後ろ向きな発言をしていることだろう。

 

「あらよっと!」

 

 左手でベレッタM93Rを抜き、それぞれ右肩、左肩、鳩尾に向けて銃弾を放つ。

 

「そんな攻撃が当たると思ったのか?」

 

 直撃コースの二発を切り捨て、体を捩ることで残りの一発を躱す。

 

Non.(いいや)

 

「ガッ!?」

 

 突如背中に衝撃が伝わる。どうやら今の一瞬で背後を取ったようだ。

 

「ハァッ!」

 

 振り下ろされたデュランダルの刃を刀で右に受け流し、地面に押さえつける。

 

「ていっ!」

 

「グハッ!?」

 

 そのままのかっこうで鉄山靠を鳩尾に放ち、ジャンヌ・ダルクを吹き飛ばす。

 

「どーよ!多少なりとも目は覚めたろ!」

 

「ゴホッゴホッ…ああそうだな。先ほどの発言は訂正しよう」

 

「できることならこのまま白旗あげてくれるとうれしいんだけど…」

 

「それは無理だな」

 

「デスヨネー」

 

 いまだ戦意が衰えないジャンヌとは対照的に、誠実は早くも逃げ腰だ。

 

「まあこうなることは想定済みだ。あとは頼んだよ白雪!」

 

「はい!」

 

 準備が整ったのを察して白雪と選手交代。置き土産に刀をジャンヌに投げつける。

 

「チィッ!」

 

 投てきされた刀を弾く隙に、イロカネアヤメを納刀した白雪が接近する。

 

「星伽候天流奥義、『緋緋星伽神』!」

 

 抜刀。炎を纏ったイロカネアヤメがデュランダルを斬り落としにかかる。一瞬の拮抗もなく、不滅の剣は紅蓮の刃に敗れ去った。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「お、折れてるぅぅぅぅ!音からしてやばいと思ってたけどマジか!くそぉぉぉ!」

 

「うるさいわよ誠実!」




誠実
通称、武器商人。自己暗示しないと刀で切るのは無理。

キンジ
途中から出番がなくなる。
?「俺をおいていった罰だ!」

アリア
あんまり出番ない。

白雪
誠実といっしょに戦った。結構相性はいい。

ジャンヌ・ダルク30世
敗因:誠実が思ったより強かった。


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番外:妻鳥誠実の退屈

これ挟んで無限罪編いきまーす。


●その一 料理

 

「ちょっとこれ作りすぎじゃないですかねぇ」

 

「全然作りすぎじゃないよ。このくらいしないとキンちゃんのお嫁さんにはなれないもん」

 

「いや、ものには限度というものが…」

 

「もっとがんばって作らないと!」

 

「はなしをきいてくれません」

 

 貴様らの頑張りすぎだ!(シャア並感)

 

 

 

●その二 任務中

 

「レキさんレキさん」

 

「どうしました?」

 

「なんでおんなじとこから監視してんの?」

 

「いけませんか?」

 

「個人的にはいけないと思います」

 

 一緒に任務。

 

 

 

 

●その三 阻止

 

「落ち着きんしゃいアリア!」

 

「ムキー!」

 

「ちょ、なんでガバメント抜いてんの!?やめて!部屋の中で撃たなギャーッ!」

 

「風穴ぁぁぁ!」

 

 阻止失敗。

 

 

 

●その四 花火

 

「約束する、俺が白雪を守る」

 

「キンちゃん…」

 

(俺はいったいなにを見せつけられているんだ)

 

 やはり誠実は不憫。

 

 

 

●その五 供養

 

「ごめんよ、ごめんよ…」

 

「こんなことする必要あるの?」

 

「俺はないと思うが…」

 

「あるに決まってるでしょうが!理子にM9ぶっ壊された奴が何言ってんだよ!この子は俺が弱いばっかりに、俺が最期乱暴に投げたばっかりに折れちゃったんだから!持ち主が俺じゃなかったら、もっと大事にされてたんだろうな…」

 

「…ん?」

 

 壊れると毎回こんな感じ。

 

 

 

●その六 やっぱりメール

 

 モスカーウモスカーウユーメミルアンディサン

 

「えー…」

 

From:理子

Sub:終わったよー!

 

司法取引おわったから来週登校するね!

また理子のためにご飯作ってねー♡

 

「…堪忍してー」

 

P.S.

東京ば〇奈がどうとか聞いたけどほんと?

 

「…(死んだ魚のような目)」

 

 

 


 

 

 

作「作者と!」

 

誠「誠実の!」

 

二人「「なぜなに質問箱ー!」」

 

誠「またネタ切れですか」

 

作「まったくもってそのとおりなのだ!そして誠実くんが斬っちゃったせいで者がどこかに行っちまいました!」

 

誠「新生活を始める季節ですしね、そろそろ独り立ちしたかったんでしょう」

 

作「どゆこと!?者って巣立つものなの!?」

 

誠「そもそも俺だって実がどっかいっちゃってるんで気にすんな」

 

作「それもそうだね!というわけで今回も質問届いてるよー!」

 

誠「募集なんてしてないでしょ?」

 

作「誠実くん、逆に考えるんだ。これは説明回なんだ、と」

 

誠「はいはい。さっさと読んでください」

 

作「誠実くんが冷たくて辛い。んじゃ読みマース。ニックネーム『LICO』さんから」

 

誠「もうツッコまないぞ。もうツッコまない」

 

作「へーい。『お二方どうもこんにちは』はいこんにちは!『マーくんっていったい何丁銃持ってるんですか?』だって」

 

誠「そうですねー。まず拳銃が、スタームルガー・スーパーブラックホーク(アーシャ)コルト・パイソンハンター(ケイト)マテバ2006M(フェルナンダ)ベレッタM93R(アンジェラ)の四つですね。普段持ち歩いてるのが」

 

作「コレクション用の奴も合わせるともっとあるんだよね」

 

誠「そうですね。じゃあ次、ライフル。AR-10(マリア)M110 SASS(セレナ)M4カービン(クリス)が現段階で出てますね」

 

作「設定上だとダネルNTW-20とかSVLK-14Sもあるね。おっと、もう一千字超えてるから終わりまーす」

 

誠「適当すぎるだろ!」

 

イ/乍「ギャー!」

 

誠「やべ、またやっちゃった。…まいっか☆」

 




誠実
ギャグなら斬れる。

作者
きっとプラナリアみたいに復活する。


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無限罪編
回帰


うおおおお!筆がのらねぇ!

というより下痢が治らんという話なんですけどね。


「やっほーマーくん、ひさしぶりー!」

 

 SSRから帰ってきた誠実を出迎えたのは、本来ならばいないはずの理子だった。

 

「おー、ひさしぶりー。まあそんな長く会ってなかったわけじゃないけど。それと一つ言わせてもらおう、なんでここにいる?登校は明日だろ?」

 

「くふふー、なんででしょー?」

 

「理由はどうあれ理子が来ることは想定してなかったからご飯抜きね」

 

「えー!?」

 

「まったく…。来るなら来ると言えばいいのに」

 

「ぶー!それじゃサプライズにならないじゃん」

 

「突然出て来られたら反射的に撃っちゃうからやめなさい」

 

 背後を取られると無意識に腰のリボルバーを抜いてしまうほどに体になじんでいるようだ。どこぞの13もぶんなぐるだけで済ますというのにこの臆病者は…。

 

「まあそれはそうとなんか用があって来よったんでしょ?」

 

「そのとーり!さすがマーくん、察しが良くて助かるよ!」

 

「なんだかんだ付き合いながいしな。んで、要件は?」

 

「よくぞ聞いてくれましたー!じつはキーくんとアリアんが理子と一緒にドロボーすることになったんだ。だからマーくんはそのサポートをしてくれるぅ?」

 

「…は?」

 

 不幸にも、またしても厄介事に巻き込まれてしまった。やはり運命には抗えないようだ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 現在キンジとアリア、そして誠実は理子に呼び出され、オタクの聖地たる秋葉原に足を運んでいた。

 

「なによ、溜息なんて」

 

「ただでさえ少ない幸運がなくなるぞ」

 

「もうどん底だから問題ないんですー。それよりもキンジ、知らないのかい?」

 

「なにをだ?」

 

「理子指定の店がメイドカフェであること」

 

「「…はあ!?」」

 

 今明かされる衝撃の事実。誠実の口から飛び出したその情報は、二人を驚愕させるのに十分すぎる威力があった。

 

「おいおいふざけんなよ。なんだってそんなとこに呼び出すんだ?」

 

「なんでも理子は常連らしいよ。色々手回ししてんのかもね」

 

「「…」」

 

 それっぽい情報に納得してしまった二人。

 

「はあ、やだなーメイドカフェ」

 

「なに?もしかしてメイド嫌い?」

 

「べつにそうゆうわけじゃないんだよ。ただ、ああいうとこにいる人ってだいたい輝いてるからさ、そういうのと対比すると自分が惨めで惨めで仕方なくなるんだよね。ああ、もうやだ…」

 

 足取り重い三人。特におおきなギターケースを背負った青年は、この世全ての悲しみを一身に受けているかのようだったという。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「「「おかえりなさいませご主人様、お嬢様!」」」

 

「うわあ…」

 

「実家もこんな感じね」

 

「さすが貴族」

 

 メイドたちにあっけにとられるキンジとは対照的に落ち着いているアリア。ついでに誠実も平然としている。目が死んでいるが。

 

「やっほーみんな元気ー?」

 

「いやどこが?こんな状態のキンジが元気に見えんならお前さんの目はただのガラス玉だね」

 

「きゃー!そんなに理子の目キレイ?じゃんじゃん見ていいよ!」

 

「そういう意味で言ってんじゃないんですけど!?」

 

 遅れて登場したメイド服姿の理子に、ネガティヴオーラを纏って抗議したがどこ吹く風。

 

「いやーごめんごめーん!でもいい体験でしょ?」

 

「どのへんがいいのか全然わかんないよ!」

 

 ボケ続ける理子。ツッコみ続ける誠実。傍から見れば夫婦漫才にしか見えないだろう。

 

「あーもーらちが明かない!ご用件はなんですか!?てかわざわざアキバのメイド喫茶に呼び出す必要なんざありゃしないでしょ、えぇ!?」

 

「もう、そんな怒んないでよ。とりあえず話はあっちでしよ?」

 

「…もうどうでもいいよ話が進むなら。理子がこんなんなのは前から知ってたし」

 

「ほめても何も出ないぞー?」

 

「ほめてなーい…。ああ、もうやだ死にたい…」

 

 怒りの炎鎮火、というよりは真っ白に燃え尽きた。誠実はこの世全ての悲観を背負った。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「それで?ほんとにどういう依頼なんよ。もったいぶってないではよ言って」

 

「んもー、マーくんたらせっかちだなー。まあこれから言おうと思ってたんだけどさ」

 

 一刻も早くメイドカフェのキラキラした雰囲気から逃れたい誠実は理子を急かす。

 

「今回二人には紅鳴館に潜入してあるものを取り返してもらうよ」

 

 紅鳴館と聞いて紅魔館が脳裏をよぎらないものがいるだろうか。いや、いるはずがない。(反語)

 

「あるものって?」

 

「お母様からもらったロザリオ」

 

「はあ!?なんでそんなものを私たちが―――ムグッ!?」

 

「はいちょっとお静かに」

 

 理子の割とどうでもいい(アリアの考えでは)ものを取ってこいという話にアリアは激昂し、突っかかろうするが、向かいに座っていた誠実が投げつけた呪符が口にくっつきしゃべれなくなる。

 

「あれはお母様が生きてた頃にくださった、大切なものなの。それなのにブラドは…!」

 

 うつむき、悲痛な胸の内を明かすように語る。

 

「…まあこの話は終わりにしよ!それよりマーくん、例のものは出来てる?」

 

「できてるよ」

 

 無理やり空元気で話を変えた理子に大した動揺も見せず、誠実はギターケースからノートパソコンと数枚のコピー用紙を取り出した。

 

「…なんだこれは」

 

「紅鳴館の見取り図と防犯装置のデータだよ。マーくんが一晩でやってくれました!」

 

「一晩どころか一日中かかったわ。式神とマルチタスクがなかったらできないね」

 

 誠実は強力な式神の使役が出来ない代わりに、大量に弱い式神を使えるのだ。ゆえにこういった情報収集においては他の追随を許さないほどの実力を持つ。ぶっちゃけ狙撃科から転科した方がいいと思うのだが。

 

「じゃあこれを使ってドロボー大作戦といこー、えいえいおー!」

 

「はあ…」

 

「それよりアリアを放っておくなよ」

 

「あ、忘れてた」

 

「ンムー!」




誠実
弱いけど式神めっちゃ使える。

理子
誠実を無理やり誘った…と思いきや誠実もノリノリだった。

キンジ
原作通り。

アリア
原作通り。


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追跡

深夜テンションで書き上げました。


「…ん?」

 

 のんきに門のあたりを歩いていた誠実の耳にエンジン音が届く。

 

「誠実!ついてきてくれ!」

 

「へ!?ちょまああああああああ!」

 

 バイクに乗ったキンジに襟首を掴まれ強制連行。これは痛い。

 

「待て待て待て待て!襟首つかまないで!痛い痛い痛い!あとズルズル引き摺られてかかとが削れていくぅ!」

 

「靴なんて買い直せばいいだろ」

 

「この靴デリンジャー仕込めるように自分で改造したやつだから予備そんなにないんだよ!それとレキさんなんてかっこうしてんの!?下着姿で外出て来ないで!?」

 

 己を連れて行くキンジの後ろのレキ。下着姿でも平然としている。

 

「緊急時ですので」

 

「緊急時云々じゃなくて俺の精神が削られてしまいますわ!頼むから着て!?なんか着て!?俺の予備のジャージでよろしければ後で着て!?ブレザーオンリーじゃ絶対寒いでしょ!あと俺が連れて行かれる理由を説明していただけますか!?」

 

「女子更衣室に侵入したコーカサスハクギンオオカミの追跡をしています。捕獲を手伝ってください」

 

「女子更衣室に侵入したコーカサスハクギンオオカミの追跡!?待って待って情報が多すぎて思考がカオスなんだけど!?いや待てこの辺あたりまえだけどオオカミの生息地じゃないし飼育してる動物園もないよね!?金持ちの道楽で飼ってたのが逃げ出したのかな!?」

 

「いや、あの動きは明らかに訓練されていた。おそらく何者かが意図的に解き放ったものだろうな」

 

「絶滅危惧種を軍用犬代わりにするとか正気の沙汰じゃねぇ!?これはもしかしてあれですか!ブラドが送り込んだ刺客とかいうオチですか!?」

 

「可能性は高いな」

 

「ああ何たることだ!もう今日は厄日だ!」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 誠実たちがいるのはコンクリートがむき出しになった建設中のビル。例の狼がここに逃げ込んだのをレキが確認した。

 

「ブカブカだな」

 

「仕方ないでしょーが、結構身長差あるんだから」

 

 今レキが来ているジャージは明らかにサイズがあっていない。それもそのはず、誠実との身長差はおよそ30センチ。そりゃそうなるわ。

 

「狙撃には問題ありません」

 

「おおありだよ。袖丈詰める時間ないから安全ピンでごまかすけどそのままなんてダメだからな!」

 

 そういってギターケースから安全ピンを取り出し、チクチクとジャージにさし始めた。誠実のギターケースの中は一体どうなっているのか。

 

「さて、これでよし」

 

「…なあ二人とも、麻酔弾は持ってるか?」

 

 キンジが問いかける。どうやらオオカミを殺すのはためらわれるようだ。

 

「俺は持ってるけどドラグノフにもベレッタにも口径合わないぞ」

 

「仕方ありません、通常弾で仕留めます」

 

 レキは表情を変えず、そう宣言する。

 

「まあ通常弾でも殺さずに行動不能にする技はあるからキンジが憂いてる事態にゃならんと思うぞ」

 

「そうなのか」

 

「俺にでもできるんだからレキもできるだろ?」

 

「ええ。どうやら考えていることは同じようですね」

 

「そのようで」

 

 ギターケースからライフルを取り出しながら、そうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「ところでキンジ」

 

「どうした誠実?」

 

「なんでレキと一緒にオオカミを追っかけてきたんだ?」

 

「…ノーコメントだ」

 

「まさか女子更衣室で覗きしてて、ばれた後にオオカミがやってきてそのままってことはないよねー」

 

「…ノーコメントだ」

 

 ばれている。明らかにばれている。

 

「キンジィ」

 

「な、なんだ?」

 

「今日のご飯は抜きだ。雑草でも食べるがいい」

 

「はあ!?」

 

 思わず声を荒らげたものの、例のオオカミは出て来ない。

 

「出て来ないってことはあれだな、罠仕掛けてんな」

 

「ずいぶんと賢いオオカミだ」

 

「それはそうと数十m先の足跡が途切れてる。たぶんそれが罠だな」

 

 相変わらずの目の良さで罠かどうかを判断した。

 

「追い立ててレキに仕留めてもらうか」

 

「お前は撃たないのか?」

 

「2km以内ならレキの方がうまいし、仕方ないよね」

 

 そういいながらM9銃剣を装着したM4カービン(クリス)を構える。

 

「なら俺が先に行く。援護は任せたぞ」

 

「任されるのはいいが別に倒して―――」

 

「やかましい」

 

「ア、ハイ」

 

 違法改造のベレッタM92Fを構えてキンジはじりじりと距離を詰めていく。

 

「ガウッ!」

 

「来た!」

 

 鉄筋コンクリートの柱の陰からオオカミが飛び出しキンジを襲いにかかるも、キンジにうまく躱され足にワイヤーをくくりつけられる。

 

「かわいそうだがここまでだな」

 

「いやキンジ邪魔だしもうすでに逃げそうなんだけど!」

 

 もちろんオオカミの方もただで終わるつもりはないらしく、自らワイヤーを外して逃げ出した。

 

「ああそっちは…」

 

 オオカミが逃げ出した方向、そちらはレキが狙っている。

 一発の銃声ののち、オオカミの姿が見えなくなった。

 

「レキが外した…?」

 

「いや、あれは頸椎のあたりを掠めて圧迫して動けなくするっていうとんでもない技だよ。あの距離でやるとはさすがはレキ」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「もうまもなく動けるようになるでしょう。逃げたければ逃げなさい。ただし次は私の矢があなたを射抜く」

 

 レキは無表情ながらも、筆舌に尽くしがたい威圧感を発しながらオオカミを見つめる。

 

「主を変えなさい。今から私に」

 

 オオカミは抵抗するでもなく、レキの言葉に素直に従った。

 

「それで、この子どうするんだ?」

 

「飼います」

 

「え、飼う?女子寮で?」

 

「はい」

 

「餌どうすんの?カ◯リーメイト食わせるわけにもいかないだろうし」

 

「魚肉ソーセージを与えます」

 

「栄養が偏るでしょうが!ちゃんとしたもの食わせてあげなさい!」

 

 やはりオカンか。(確信)




誠実
強制連行。戦闘ではあまり見せ場がなかった。

キンジ
覗き魔。盗んでないけどバイクで走りだす。

レキ
オオカミ生け捕り。ところでブカブカのジャージ着たレキってかわいいと思いませんか?

コーカサスハクギンオオカミ
これが後のハイマキであることはまだ知らない。←


質問とかがあったら感想でお答えしますね!


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吸血鬼

しばらく投稿が滞りそうです。
あといつの間にかバーに色がついていました!皆様ありがとうございます!
ランキング100位!?うそぉ!?


 本日より紅鳴館へハウスキーパーとして潜入することになっているアリアとキンジ、そしてなぜか後方支援担当の誠実が集まっていた。

 

「いやー今日は天気がいいねぇ。洗濯物がよく乾きそうだ。個人的には晴れって嫌いなんだけど」

 

「そうだな…。それはそうと誠実」

 

「なんだいキンジィ」

 

「なぜ俺は女装させられているんだ」

 

 いつのまにやらキンジは銀河鉄道999のメーテルを黒髪にしたような美女に変身していた。否、変身させられていた。ちなみにアリアは茶髪のかつらをかぶって多少のメイクを施された程度だ。

 

「普通に考えてみたまえよ。君ら仮にもSランクの武偵だろ?そんな二人が臨時のハウスキーパーなんてしょぼい仕事をするだろうか。いや、するはずがない。ならなんでこの仕事を受けたんだ?ということになって警戒されるだろうから変装は仕方ないということでご納得いただきたいんです」

 

「どこが仕方ないんだ!変装する理由はわかった。だがだからと言って俺が女装する理由にはならないだろうが!」

 

 キンジのいうことは間違っていない。間違っていないが言う相手を間違えている。それはもう致命的なまでに。

 

「プライバシーの保護とかいろいろあるからあえて誰とは言わないけど、とある人から『キンジを女装させてくれ』という依頼をされたんだ」

 

「理子だな!?理子なんだな!?」

 

「ははは、さあ笑え!」

 

「笑うか!」

 

 黒幕を理子と断定したキンジの憤慨を後目に、ギターケースから取り出したデジタル一眼レフカメラを構えて笑顔を催促する誠実。ほんとコイツのギターケースはどうなっているんだ。

 

「そもそもお前と関わった日から前から悪かった運がさらに限界突破したんだぞ!?これくらいのストレス発散をさせてくれたっていいじゃないか!」

 

「絶対それがメインだろ!」

 

「ンッン~聞こえんな~」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 所かわって横浜ランドマークタワー。全国でも五指に入る超高層ビル。

 

「…理子、悪い子だ」

 

「ななな、なにやってんのよ理子!」

 

(ああこりゃだめだ)

 

 その屋上で誠実は、こんなところに来てしまった己の失策を悟った。

 

「ごめんねキーくん。理子的にはロザリオが手に入ったら、欲しいカードは全部そろっちゃったの」

 

 理子はニヤリと口元を歪めた。

 

「もう一度言うよ。理子、悪い子だ。でも俺は許すよ女性のウソは罪にならないからね」

 

(お前は何を言っているんだ)

 

 キンジの発言に呆れつつ、誠実はロングバレルのXM109(リアーナ)を取り出した。別に理子とキンジをミンチにしようと企んでいるわけではない。

 

「まあなんとなくそんな気がしてたわ」

 

「とりあえずおとなしくしてた方がいいぜ。五体満足でいたいだろ?」

 

「…ねえ誠実、そんなもの使ったら防弾制服着てても死ぬわよ」

 

「大丈夫だよ。強烈なソニックブームで脳震盪を引き起こすだけだから」

 

「…」

 

 白い目で見られた。かなり変態的な技術ではあるが、仮にも狙撃科のSランク。できないことはない。

 

 

「まあいいや、養殖用牝犬って言われたことある?」

 

「養殖用牝犬…?」

 

「泥水と腐った肉しか与えられないで、狭い檻で暮らしたことある?ほらよく悪質ブリーダーがやってるじゃん。それの人間版。想像してみなよ」

 

「な、何の話よ」

 

 今まで笑みを浮かべながら話していた理子は、突然感情を爆発させる。

 

「ふざけんな!あたしはただの遺伝子かよ!あたしは数字か!違う違う違う!あたしは峰理子だ!5世を生むための機械なんかじゃない!」

 

 一通り叫んで落ち着いたのか、また静かに話し出す。

 

「そんなものって訊いたよね。このロザリオはリュパン家の全財産を引き替えにしても釣り合う宝物だって、ご生前にくださった一族の秘宝なんだよ。だから理子は檻に閉じ込められてた頃も絶対にとられないようにずっと隠してたの」

 

 ワルサーP99を握る力を強める。

 

「そしてある夜、理子は気づいたんだ。このロザリオ、いやこの金属は理子に力をくれるって!」

 

 触手のように動く髪にナイフを握らせる。

 

「さあ、決着をつけよう、オルメス。お前を斃して理子は曾御爺様を超える!お前たちは、あたしの踏み台になれ!」

 

 理子がそう叫んだ瞬間、電流が走るような音が響き、力なく倒れた。

 

「小夜鳴先生…!?」

 

 下手人は東京武偵高校の非常勤講師、紅鳴館の管理人である小夜鳴であった。

 

「遠山君、神崎さん、そして妻鳥君。ちょっとの間動かないでくださいね」

 

 小夜鳴がそういうと、後ろから二頭のオオカミ―――以前とらえたハイマキと同じコーカサスハクギンオオカミが現れた。

 

「前には出ない方がいいですよ。今の位置より少しでも私に近づくと襲いかかるように仕込んであります」

 

「よく飼いならされてるな。腕の怪我もオオカミと打った芝居だったってことかよ」

 

「あなたたちが紅鳴館でやっていた学芸会よりはマシだと思いますがね」

 

「…なあキンジィ。ないとは思うけどもしかして梅雨時で蒸し暑いからってカツラ脱いでるとこ見られたとかいうオチ?」

 

「…」

 

「おいこら無言で目をそらすな。そうなんだな、そうなんだな?沈黙は肯定だぞ?」

 

 そうこうしているうちに、小夜鳴が理子の武器を放り捨てている。

 

「皆さんどうか動かないでくださいね。この銃、三十年前の粗悪品でして、トリガーが甘いんです。うっかりリュパン4世を殺してしまったらもったいないですからねぇ」

 

「どういうこと…? なんであんたが、リュパンの名前を知ってるのよ! まさか、あんたがブラドだったの!?」

 

「彼はもうすぐ此処に来ます。狼たちもそれを感じて昂っている」

 

 アリアの問いに、小夜鳴は静かに答える。

 

「…なるほど、そういうことか」

 

 その一方で、誠実の灰色の脳細胞は一つの答えを導き出した。

 

「理子に頼まれた後に個人的にあんたのことを調べていたんだが、アンタの出身だという学舎にアンタの記録はなかったし、戸籍にも小夜鳴徹なんて人物は存在していなかった」

 

「ほう」

 

「ブラド=小夜鳴かと一瞬思ったが、それなら理子が気付かないはずがない。そこで俺はこの答えにたどり着いた。小夜鳴徹というのは人間に擬態するための人格であると。これなら話したことも会ったこともないという話の辻褄も合うし、情報を共有できるのも説明がいく」

 

「やりますね、妻鳥君。狙撃科より探偵科のほうが向いているんじゃありませんか?」

 

 そんな誠実の推理に、小夜鳴は称賛の声を上げる。

 

「まあここで講習と行きましょう。遺伝子とはきまぐれなもので、両親の長所が遺伝すれば有能な子。両親の短所が遺伝すれば無能な子になります」

 

 理子の頭を踏みつけながら語り続ける。

 

「この4世はその失敗ケースといえます。残念なことに調べたところリュパン家の血を引きながら―――」

 

「やめ、ろ…そ、れ、を…言う…な――オルメスたちには…関係な…い」

 

「優秀な遺伝子が一切遺伝しなかったのです」

 

 そういわれた理子は地面に顔を押し付けた。

 

「自分の無能さは自分が一番よく知っているでしょう、4世さん? 私はそれを科学的に証明したに過ぎません。あなたは初代リュパンのように1人で何かを盗むことができない。先代のように精鋭を率いたつもりでも、この通りです。無能とは悲しいですね。教育してあげましょう、4世さん。人間は、遺伝子で決まる。優秀な遺伝子を持たない人間は、いくら努力を積んでもすぐ限界を迎えるのです。今のあなたのようにね」

 

 ポケットから理子のロザリオと似たような十字架を取り出し、理子の口に無理やり突っ込んだ。

 

「そのガラクタを昔していたようにしっかり口に含んでいなさい」

 

「いい加減にしなさいよ!理子をいじめて何の意味があるの!?」

 

 小夜鳴の行為に堪忍袋の緒が切れたのか、怒りをぶつけるアリア。

 

「絶望が必要なんです、彼を呼ぶにはね。彼は絶望の唄を聞いてやってくる」

 

「理子に一度盗ませたのも深い絶望に叩き落とすためか」

 

「その通り。やはり聡いですねあなたは。まあそのおかげでいい感じになりました。遠山君しっかり見ていてくださいよ?私は人に見られていると掛かりがいいので」

 

 小夜鳴が纏う気配がだんだんと変化していく。

 

「ウソ…だろ…?」

 

「そう、これはヒステリア・サヴァン・シンドローム。しばしの別れです。これで彼が呼べる…」

 

 体が膨張していく。

 

「 さあ かれ が きたぞ 」

 




誠実
頭の回転は速いほう。

キンジ
女装させられた。なおすぐばれた模様。

アリア
変装したがカツラ脱いでばれた。

理子
原作通りブラドが加虐。


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「久しぶりだな4世」

 

「ブ…ラド…」

 

 キンジの射撃を意にも介さず、理子の頭を鷲掴みにしたまま語る。

 

「檻に戻れ、養殖用牝犬。これがお前の人生最後の光景だ。しっかり目に焼き付けるんだな!ゲバババババ!」

 

 理子は抵抗できず、ただただ大粒の涙を流す。

 

「あ…アリア…キンジ…誠実…」

 

 絞り出したようなか細い声で名前を呼ぶ。

 

「た、す…けて…」

 

「「「言うのが遅い!」」」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「まずは理子を助けるわよ!誠実、オオカミは任せるわ!」

 

「了解!」

 

 言うが早いか、クイックドロウで二頭のオオカミを失神させる。

 

「逮捕してやるわよブラド!ママの冤罪99年分をしっかり証言させてやるんだから!」

 

「ゲバババババ!このオレをタイホと来たかホームズ家の娘!」

 

「アンタが一番正体不明でやり辛かった。けど、警戒もせずにあたしの前に姿を見せた。覚悟しなさい!」

 

「吸血鬼と人間は捕食者と餌の関係だ。狼がネズミを警戒すると思うか?」

 

「世の中には毒を持ったネズミもいるのよ」

 

 ネズミは疫病や病原菌を運んだりするため、ペスト菌での死者を合わせると殺した人数は億を余裕で超える。結構侮れない存在なのだ。

 

「アリア下がれ!」

 

 後方に居た誠実がXM109ペイロード(リアーナ)でブラドの左腕を吹き飛ばし、落下する理子をキンジが受け止めた。

 

「おいおい誠実、レディーの扱いがなってないんじゃないか?」

 

「ちょいと雑だったのは承知してる!問題は相手が25mm口径弾食らってもすぐ再生することだな!」

 

 伏射の体制のままスコープを覗く誠実の視線の先には、すでに左腕が再生しているブラドの姿があった。

 

「やっぱりあの目の部分を破壊しなければならないらしいな」

 

「しかも再生する前に全部とかムリゲーじゃないか?しかも肝心の四つ目が見当たらないし」

 

 C4爆弾で丸ごと爆破するという手もないことはないが、設置する時間が足りない。

 

「ついでに言うと自己暗示する時間がなかったから近接戦闘できません!」

 

 誠実は臆病ゆえに近接戦闘ができない。正確には刀で直接相手を傷つけることに強い抵抗があるのだ。それを自己暗示で誤魔化しているのだが、それでも相手を斬ることができない。

 今の状態でブラドの魔臓を斬れと言われてできるはずもない。

 

「仕方ないな、俺がやる。誠実は理子を連れていってくれ」

 

「言われるまでもないね!」

 

 臆病な誠実は理子を連れ、傷に障らない程度の速度で場を離れた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「ふぅ…ここまでくれば大丈夫かな…」

 

 理子をコンクリートの上にそのまま寝かせるのは憚られるのか、ギターケースから毛布を取り出している。

 

「ねえ、マーくん…」

 

「うん?」

 

「なんでひとりで逃げなかったの…?あたしを囮にすれば…もう巻き込まれないのに…」

 

 理子が弱々しく尋ねる。

 

「さあ、なんでかねぇ?」

 

 誠実は自分でもわからない、といった表情で答える。

 

「あそこで一人で逃げて、このビルに爆弾なんかを仕掛ければ楽にブラドを倒せたはず。それがある意味一番合理的だってわかってた。なのに今から自分の力で倒そうとしてる。なんでだろうね」

 

 白鞘の刀を握り、そう語る。

 

「でも、理子を守りたいとも思ってるかな?」

 

「…狙撃科に逃げた、臆病者のくせに…?」

 

「そうなんだよねぇ。自己暗示しなきゃまともに戦えないような俺が、そんなことを思ってるんだよねぇ」

 

 理子の辛辣な言葉も気にせずあっけらかんと答え、ポケットから小さな十字架を取り出す。

 

「ほら、大事なものならしっかり持っときな」

 

「…!これ、お母様の、ロザリオ…!でも、いつの間に…?」

 

 狙撃するため後方に居た誠実が本物のロザリオを回収する時間はなかった。

 

「そんなの最初からさ。紅鳴館の調査をした時からね」

 

 誠実が使役する式神は弱い。真正面からの戦闘ならウサギにも負けかねない程だ。だがその弱さゆえに、いかなるセキュリティーもすり抜けることができるという唯一無二の特性を持つ。それに加えて本物と見分けがつかない偽物を作成する技術を持つ。それゆえに誰にも悟られることなく紅鳴館でロザリオをすり替え、キンジに偽物を盗ませ、理子の手に渡るように仕向けられたのだ。

 

「普通ならこんなことしようとは思わない。でも理子だから、やろうって思ったんだ」

 

「理子だから…?」

 

「そうだよ。だって理子は()の――――」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「人間を串刺しにするのは久しぶりだが、串はコイツでいいだろう。ガキ共、作戦は立ったか? 銀でもニンニクでも何でも持ってこい。俺はこの数十年の遺伝子上書きで、何もかも克服済みだ。まあ、いまだに好きではないがな」

 

 ブラドはいつの間にか基地局のアンテナをへし折って自らの得物にしていた。

 

「ホームズ家の人間はパートナーがいると厄介だと聞いたんでな、まずは遠山キンジ。お前からだ。ワラキアの魔笛に酔え!」

 

 胸部が尋常でない程に膨らむ。

 

 ビャアアアアアアウヴァイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!

 

 ランドマークタワーを揺らすほどの咆哮。音が内臓を揺さぶり、脳が震える。耳を塞ぎ、堪えるので精一杯だ。

 

「ど、ドラキュラが吼えるなんて聞いてないわよ…!」

 

 尻餅をついていたがすぐに立ち上がるアリア。しかし一方のキンジは呆けて動かない。

 

「フンッ!」

 

 アンテナが振るわれる。このまま振るわれればキンジに当たる。だがキンジは動かない、動けない。

 

 

 

「させないよ」

 

 振るわれたアンテナが、バラバラに斬られた。

 

「なッ!?」

 

「ほれ、ボケッとしてんじゃねえぞキンジ!」

 

 キンジの目の前には、白鞘の刀を持った誠実の姿があった。

 

「ちょっと誠実!いままで何やってたのよ!」

 

「いやーちょっと手間取っちゃってさー」

 

 怒鳴るアリアにいつものように語りかける。ただ纏う覇気はいつものものとは明らかに違う。

 

「ゲババババ!妻鳥誠実か。いまさら何しに来やがった」

 

「斬りに来た。たまには逃げずにやるのも悪くないだろう?」

 

 ブラドの問いに、柄に手をかけながら答えた。

 

「ゲバババババ!おとなしく逃げていればオレに殺されずに済んだのになァ!」

 

「そっちこそ、理子に手ぇ出してなかったらひどい目に合わなかったかも知れないのにねぇ」

 

 一閃。

 

「…は?」

 

 ブラドの両腕が前触れなく地に落ちる。

 

「まあこんだけしゃべくってるんだから、多少痛めつけられても大丈夫でしょ」

 

 そう、誠実が目視で確認できない程の速度で両腕を斬りおとしたのだ。

 

「…やるじゃねえか。だがいくら切ったところでオレは倒せねぇぞ?」

 

「はは、確かに。でもその様子だとその慢心が己を滅ぼすと気付いていないみたいだな。無限罪のブラド!」

 

 瞳孔が大きく開いた眼でブラドを睨み付ける。普通の睨みならば対した効果はない。だが誠実のそれは訳が違う。

 

「…ッ!?な、なんだこれは!体が動かねェ…!」

 

「だから言ったろ?慢心が己を滅ぼすと」

 

 柄を強く握り、腰を落とす。

 

「ついでにもう一つ教えてやろう。罪人は罪からは逃げられない、処刑人からは逃げられない」

 

 一閃。両脚を斬られ、ブラドが膝をつく。

 

「悔い改めな、串刺し公(カズィクル・ベイ)

 

 一閃。両肩と右わき腹から血が噴き出る。

 

「「ぶわぁーか」」

 

 閃光。旧式リボルバーがブラドの舌を撃ち抜いた。

 

「ガァァァ…4、世おまえ…!」

 

「あたしは四世じゃない、峰理子だ!」

 

 誠実のスーパーブラックホークを握った理子が、倒れ伏したブラドに吠える。もうすぐ朝日が登る。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

『普通ならこんなことしようとは思わない。でも理子だから、やろうって思ったんだ』

 

『理子だから…?』

 

『そうだよ。だって理子は()義妹(いもうと)だろ?』

 

 

 

 

 




誠実
FGOで言えば悪特攻・人型特攻・急所判定特攻・魔性特攻・地特攻持ち。刺さる相手には滅法強いが刺さらない相手には弱い。

理子
一話からの伏線。

ブラド
悪属性・人型・急所丸見え・魔性・地属性。めっちゃ刺さる。


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番外:『思い出』

今回は過去話です。
理子と誠実の出会い、ついでに誠実の母親も登場します。


「おーい、マサー!まったく、どこに行ったんだ?」

 

 腰まで伸びた黒髪を揺らしながら、広大な屋敷を歩く。彼女の名は妻鳥真誠(まこと)。一条堀川に拠点を置く日本最大の陰陽師集団、その頭目である妻鳥忠実(ただみつ)の妻にして、公儀御様御用(こうぎおためしごよう)を務めてきた山田家の十六代目当主だ。

 

「おーい、マサー!」

 

「はいはいお呼びでしょうかMy Mother!」

 

 天井板を外して降りてきた、この陽気な少年の名は誠実。山田家十七代目当主の座が約束されており、また、歴代きっての剣才の持ち主でもある。

 

「どこから出てきてるんだお前は」

 

「天井裏からデース!」

 

「まあいいか」

 

 両方ボケだと収拾がつかないので非常に困る。

 

「よろこべ、マサ。お前に妹ができたぞ」

 

「へー、やっとっすか。毎日毎日オアツかったのに全然デキないもんだから僕心配してたん―――」

 

「フンッ!」

 

「スヴェルドロフ!?ヤクザキック断固反対!鳩尾直撃コースでしたけど!?」

 

「気にするな」

 

「はい」

 

 危うく死ぬところだったがすぐに黙った。

 

「妹と言っても義理のだ」

 

「義理のってことは…」

 

「そうだ」

 

 この屋敷では孤児を引き取って陰陽師や剣士の育成をしている。事実ここに住む陰陽師のほぼ全員が、元孤児だ。

 

「欧州でコウモリの親子に捕えられていたのを見かけて、連れ帰ってきたんだ」

 

「欧州でコウモリの親子に捕えられていた!?どゆことなん!?母上何してはるん!?」

 

「とりあえず連れてくる」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「連れてきたぞ。ほら、あいさつしな」

 

「…うん…」

 

 真誠が連れてきた少女は目も当てられない程にみすぼらしかった。

 

「えーっとこんにちわ。お名前聞いてもいいかな?」

 

「りこ…」

 

「りこちゃんか。素敵な名前だね」

 

「うん…お母様がつけてくださったの…」

 

 目の前の少女の衰弱具合に、さすがの誠実も神妙にならざるをえない。

 

「母さん」

 

「なんだねマサ」

 

「なんでこないなってるん?」

 

「前に言ったコウモリの親子の仕業だ。一応ボコボコにしておいたが、また関わって来るかもしれんな」

 

「まあこの屋敷に強襲かけるほど馬鹿じゃないでしょ」

 

 この屋敷には幾重にも結界が張られており、物理的にも魔術的にも侵入はほぼ不可能。それに仮に侵入に成功したとしても、大量の式神に袋叩きにされるのがオチだ。無謀にもほどがある。

 

「ま、いっか。ご飯作って来るよ。りこちゃん、なにか食べたいものある?」

 

「え、でも…」

 

 ぐぅ~。

 

「ははは、せって(急いで)作ってくるわー」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ほら、たんとお食べ」

 

「え…?これ、たべていいの…?」

 

 目の前に置かれた大量の料理。これほど豪勢な料理はいつ以来だろうか。

 

「もちろん!そもそも僕は君のためにこれを作ったんだ、食べてくれないと困っちゃうよ」

 

「まったくだ。おかげで私が忠実さんに作るものがない」

 

「そもそも大雑把なせいでほかの使用人さんからも止められてるじゃないですかやだー!」

 

「なーんーだーとー?」

 

「いでででで!やめちくりー!アイアンクローはやめちくりー!」

 

 哀れ誠実。地雷原でモトクロスをして見事に踏んづけてしまったようだ。

 

「…ふふ、あはははは!」

 

 そんな愉快な様子を見て、虚ろだった表情が一転。笑い出した。

 

「「…ははははは!」」

 

 つられて二人も笑い出す。広い屋敷に笑い声が響いた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

『なんてことがあったな』

 

「ほんとなつかしいわー」

 

『あのころは私のことおかあさんって呼んでたし』

 

「俺のこともおにいちゃんって呼んでたなー」

 

「もう、二人ともやめてよー!いまの理子がかわいくないみたいじゃん!」

 

『「いや、今もかわいいと思うぞ」』

 

「そ、そうかな…?」

 

『「そうそう」』

 




誠実
まだ陽キャだったころ。

理子
ブラドのもとを逃げ出す前に連れて行かれる。

真誠
九代目山田浅右衛門こと山田吉亮(ご先祖その二)の子孫にして誠実の母。めっちゃ強い。






山田家に伝わる処刑術の一種。罪人の動きを封じ、そのまま斬る。罪人以外には効果がない。

保刀
山田家に伝わる試刀術の技の一つ。刃を傷つけず、なおかつ鮮やかに斬る。


処刑術の一種。人を斬る罪悪感、抵抗、その他もろもろを抑え込む自己暗示。なお誠実はこれを副作用が出るまで強くしなければまともに斬れない模様。


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番外:温泉研修

嘔吐注意です。


「頭痛がする…は、吐き気もだ…!な、なんてことだ…この誠実が、気分が悪いだと…?」

 

「そりゃああんなに強くしたらそうなるよ」

 

「なんでそんなになるまでほっといたんだよ!」

 

 ブラドの件がすべて片付いたあと。尋問科の顧問である綴梅子につれられ、温泉旅館へ研修に行くことになった。しかし―――

 

「だ、大丈夫誠実くん?」

 

「…大丈夫じゃ、ないです…」

 

 この通り誠実は自己暗示の強烈な副作用と乗り物酔いに悩まされていた。もはやアドレナリンだとかエストロゲンだとかそんなチャチなものじゃないもっと恐ろしいものの片鱗を味わっている状態だ。

 

「おい武藤、もっと揺らさないで運転できないのか?そろそろ誠実が限界だ。このままだと車内でリバースするぞ」

 

「無茶言うなよ。これでも丁寧に運転してるんだ、これ以上に丁寧に運転なんてできっこない」

 

「…仕方ないな。誠実、吐け。吐けば楽になる」

 

「あ、もう…だめ…オロロロロロ!」

 

 しばらくお待ちください。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「うえぇ…」

 

 到着するも未だ復帰せず。

 

「まったくマーくんったらー」

 

「いったい何をしたらそんなことになるんだ」

 

 やさしく声をかけ、背伸びをしながら背中をさする理子と、後遺症ガン無視で突っ込んでいった誠実に呆れているジャンヌ。

 

「たまには、見栄も…張りたいよ…おえっ…」

 

 アーシャ(スタームルガー・スーパーブラックホーク)を理子に貸さずに自分で撃っていればこんなことにはならなかったのだが。

 

「うぅ…俺より重傷だった理子が…ピンピンしてるのに…うおぇ!」

 

 誠実はこんな状態なのに強制的に参加させられた。自由参加とはいったい。

 

「無駄話はそのへんにしとけー。これから研修をする宿に向かう。村の人にはくれぐれも失礼のないようにな」

 

「失礼云々の前に、吐瀉物と大量の武器を携帯してる奴はどうすオロロロロロロ…!」

 

「そのへんに捨てとけ」

 

「はーい、じゃあねマーくん♪」

 

「オロロロロロ!(特別意訳:この恩知らずー!お前の昼飯だけ日の丸弁当にしてやるー!)」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「つ、ついた…」

 

「よう誠実、遅かったじゃねえか!もうみんな風呂入っちまったぞ?」

 

「そうかい…で、なんでコブ作ってんの…?」

 

「覗きに失敗して落ちた」

 

「アホちゃいます?」

 

 まだ復帰できていないにしては的確なツッコミだ。

 

「…それにしても、この宿…嫌な感じがするな…」

 

「そうか?」

 

「まあただの勘だから、気にしなくてもいいよ」

 

 その勘は当たっているのだが、それを本人が知る由はまだない。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「…え?記憶がない…?」

 

「そうなの。理子はこれ研修だと思うんだけど…ってすごい震えてるけどどうしたの!?」

 

「ややややっぱりこの宿なんかいるよぜったい幽霊いるよだって心霊現象おきてんジャンやっぱりおれの勘は間違ってなかオロロロロロロ!」

 

 臆病と嘔吐が合わさり最弱に見える。実際戦闘では役に立たないだろう。

 

「なあ誠実、武藤見なかったか?」

 

「ままままさか剛気も巻き込まれオロロロロロ!」

 

「あーあ…。どうかしたのキーくん?」

 

「理子もいるのか…。一緒に部屋に戻る途中に急にいなくなったんだ」

 

「オロロロロロ!(特別意訳:これは確実に何かいるぞ!破魔札どこやったっけ…)」

 

「理子も一緒に探してあげるよ~♪」

 

「やめろくっつくな!」

 

「おぇ…とりあえず、結界張っておこ…」

 

 それでももともとバックアップに長けている誠実は、何かしておかなければならない。というよりは何かしなければ恐怖に押しつぶされそうなのだ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「先生まで…」

 

 キンジたちの目の前には、吊るされた二人の姿がある。

 

「やっぱりマーくんが言った通りなのかも…」

 

「誠実が言った通りってどういうことだ?」

 

「マーくんはこれを幽霊の仕業って言ってたの!マーくん陰陽師だから何とかできるかも!」

 

「でも誠実は車酔いで全然使えないじゃない!どうすんのよ!」

 

 頼みの綱の誠実はいまだダウン。

 

「どうしよう…私で除霊できるかわからないし…」

 

「話は聞かせてもらった…」

 

「え、マーくん!?」

 

「アンタ、体は大丈夫なの!?」

 

「はは、大丈夫だ問題なオボボボボボ!」

 

「やっぱりダメじゃないの!」

 

「大丈夫だ、除霊の儀式くらい問題なくできオロロロロロ!」

 

 不安だ、とても不安だ。

 

「ナウボウおえっ!アラタンノウオロロロロ!」

 

「やっぱりダメじゃない!」

 

 詠唱途中に嘔吐してしまうあたりかなりの重症だ。

 

「タラヤヤ・ノウおえっ!マクシセンうえっ!ダ・マカバサラおえぇぇぇ!」

 

「マーくんもうやめて!」

 

 終わらない詠唱。迫りくる幽霊。はてさてどうなりますことやら。To Be Continued (続かない)

 




後遺症と乗り物酔いの二重苦の誠実くん。だめそうです。

作者が腹下りで苦しんでた時に思いついたネタでもあります。



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砂礫の魔女編
懐古


腹痛が治りません…。


「はー…疲れた」

 

 早々に訓練を切り上げ、帰路に就いた誠実。決してサボりではない。

 

「ただいまー。まあ誰もいないか」

 

 ここに良く来るメンツは全員この時間帯に用事がある。いるはずがない。

 

「おかえりなさーい」

 

「…は?」

 

 誰かいた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 誠実の寮にいたのは、キンジの兄…姉?のカナだった。

 

「えーっと、なんでおるんすかカナさん」

 

「ちょっとこの学校に用事があったの」

 

「ほーん…。もしかしてキンジとアリアにちょっかい出してきたんですか?」

 

「まあ、そうともいうわね」

 

「はぁ…」

 

 悪びれずにそう言い放つ。誠実は頭が痛い。

 

「それにしてもあなたとキンジが同室だとは思わなかったわ」

 

「教務科の陰謀を疑ってますよまったく…」

 

 ガックリと肩を落とす。科の違うSランク武偵二人を同じ部屋に割り振るなどふつうはあり得ない。

 

「ふふ、その様子だとあの二人は以前あなたに会ったこともおぼえてないみたいね」

 

「キンジはおろか白雪も京都の陰陽師の子供に誠実って人がいるらしい程度にしか思ってなかったみたいですよ。まああの頃とは髪型も性格も変わっちゃってるんで気付かなくても無理はないと思いますけど」

 

 少年期はテンションが高く、呪術では有用だということで髪も伸ばしていた。いまではヘタレでネガティヴで、髪も短くなっているが。

 そもそも星伽神社に足を運んだのも親が陰陽師だからという理由であり、自主的に行ったわけではない。むしろ乗る気ではなく、二度三度行っただけでそれ以降は顔を出してもいない。

 

「それはそうと、例のものはあるかしら?」

 

「もちろんです」

 

 お互い懐から茶封筒を取り出し、差し出す。

 

「あなたにこんな才能があっただなんて意外ね」

 

「まあ変装させるだけならできますし、多少ならカツラに編みこんだ術式で誤魔化せますしね」

 

「で、カツラを脱がれてばれたと」

 

「いっそのことくっついて取れない仕様にすればよかったっす」

 

「それはそれで困りものね…」

 

 陰陽師としては占いが致命的なまでに下手で、めちゃくちゃ弱い式神しか使役できない誠実。そんな彼にも道具作成と陣地作成にはいささかの自信がある。具体的に言うとランクB以上は堅い。

 

「それで?他にも用があってこんなとこに来たんでしょ、英霊さん?」

 

「まだ死んでないから霊じゃないし、英と言われるような存在じゃないわよ」

 

「それもそうっすね。イ・ウーで汚されちゃったみたいですし」

 

「…汚されたってかなりいかがわしい言い方よね。そこまで間違ってないけど」

 

「ははは、実際そういうつもりで言ったんですよ。だってイ・ウーってピー!(自主規制)が大流行してるんでしょ?それにピー!(自主規制)ピー!(自主規制)ピー!(自主規制)

 

「いったいどこでそんな話聞いたの!?」

 

「理子からっす(大嘘)」

 

「はぁ…」

 

 おもわずカナは溜め息をつく。こればっかりはどうしようもない。

 

「ははははは、ジョークですよjoke!処刑人冗句!」

 

「よそで言われたら社会的に殺されそうだわ…」

 

 目がイっちゃってる誠実のJOKEにはほとほと参る。

 

「あと泊まるアテがないならウチが懇意にしてるホテルがあるんでそこ使ってください」

 

「明らかに今言うことじゃない気もするけどありがとう。相変わらず根回しが速いわね」

 

「そういうのは得意ですから」

 

 実際得意なので始末に負えない。

 

「で、先ほどの答えね。私はアリアを殺しに来たの」

 

「ふーん…」

 

 先ほどまでのほのぼのした雰囲気が一転、殺伐とする。

 

「あら、やるつもり?」

 

「ご自由にどうぞ。こっちの方が速いですから」

 

 早撃ちではほぼ互角でも初速は誠実のリボルバーが上。威力も上。弾頭の重量も誠実が上だ。そもそも誠実のリボルバーはシングル・アクション・アーミーを改良したブラックホークの強化モデルであるスーパーブラックホーク。カナのピースメーカーでは敵うべくもない。

 

「…」

 

「…」

 

「はあ、やめたわ。どうせ早撃ちで勝っても居合抜きで対応されそうだし」

 

 闘気を引っ込めて、手をひらひらと振る。室内なら完全に誠実の間合いであるため、この距離ではカナに勝ち目はない。

 

「この部屋直したばっかりだからまた壊すのは堪忍してほしいですし」

 

「いったい何があったの?」

 

「白雪とアリアがキンジを巡って大暴れしたんすよ。キンジのやつ、女難の相でもあるんですかねぇ?」

 

「…さぁ…?」

 

 如何に姉(兄)といえど、こればかりは答えようがなかった。

 

「そういうわけで、はよ帰って下さい。カナさんがいると絶対ここ修羅場になるんで」

 

「そうね…」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「頼む誠実!助けてくれ!」

 

「ヤメロォ!俺を巻き込むなァ!もうすでに胃薬が手放せないんだ!これ以上厄介事を持ってくるなァ!」

 

 アリアとキンジがカナの話で大ゲンカ。御覧のとおりキンジが誠実に泣きつくほどの大事になってしまった。

 

「そこをなんとか!」

 

「ええい、はなせはなせ!今度の七夕の祭りにでも誘えばいいでしょうが!」

 

「さっきまで喧嘩してたんだぞ!?できるわけないだろ!」

 

「あーもー!携帯貸して!俺がやる!」

 

本文:今度の七夕の祭りに来てくれないか?嫌なら嫌で構わない。俺はそこにいる。

 

「はい送信っと」

 

「…いやどういう文なんだよ」

 

「気にすんな。伝われば無問題」




誠実
記憶から排除されてたので聞き手にまわってた。

キンジ
アリアとけんか。

カナ
誠実とは顔見知り。キンジを女装させるように頼んだのもこの人。







アドレナリンを大量に分泌して興奮状態にする。
要するにラリってる。


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博打

ふ、筆がのらねぇです…!
せっかく休みなのに…!


「頼む誠実!手伝ってくれ!」

 

「俺単位足りてるからやんなくてもいいんだけど!?」

 

 キンジに泣きつかれている誠実。実は三年の二学期までの単位をすでにとっている。

 

「そもそも仕事なら白雪とかに頼めばいいでしょうが!」

 

「もう頼んだ!でもあと一人足りないんだ!」

 

「く…くそぅ!」

 

 またしても貧乏くじを引く羽目になりそうだ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「…似合わないな」

 

「仕方ないだろ」

 

 結局押し負けて任務を受ける羽目になった誠実はボディーガードの格好をしていた。キンジ扮するIT社長の護衛役らしい。

 

「それはそうと社長。白雪が写真撮影を求められていますが、止めなくてもよろしいのですか?」

 

「そっちこそ理子が絡まれてるけど止めなくていいのか?」

 

「「…止めてくるか」」

 

 キンジは白雪の元へ。そして誠実は理子の元へ。

 

「よっこいしょっと」

 

「ぐ、うぅ…腹が…!」

 

 といっても狙撃科でも《ヘタレスナイパー》の異名で通っている誠実は、バニーガール理子に絡んでる奴に直接文句言う度胸なんてものは持ち合わせていないので、ちょっと遠くから呪術で腹下り状態にする。汚いなさすが誠実きたない。

 

「…うわぁマーくんえげつないねー」

 

 これにはさすがの理子もドン引きである。しかたないね。

 

「そんなに言うほどかなぁ?」

 

「言うほどだよー」

 

 急な下痢は大敵だ。言うまでもない。

 

「そもそも助けてあげたのにその言い様はどうなのさ」

 

「別に助けてもらうほどのことじゃなかったのにー」

 

「じゃあ俺の自己満足ということで」

 

 相変わらず絡んでくる理子をぞんざいにあつかう誠実。処刑人と怪盗の子孫という一見して相容れないもの同士のようだが、兄妹仲自体は良好なようだ。

 

「もー。マーくんったら素直じゃないなー。理子が心配だったって正直に言えばいいのに」

 

「リコガシンパイダッタ(棒)」

 

「カタコトでさらに棒読み!?」

 

「ははは…あん?」

 

 仲睦まじくしゃべくっている最中(さなか)、誠実が何かの気配を察する。

 

「どしたのマーくん?」

 

「銃の準備しときな。なんか来るよ…!」

 

 理子に注意を促すや否や、カジノのガラスを破って人型の何かが急襲した。

 

「なんじゃありゃあ」

 

 悲鳴を上げ逃げていく客を後目に、右手にAR―10(マリア)、左手にマテバ2006M(フェルナンダ)を持って侵入者を観察する。ただしかなり後ろからだが。相変わらずのチキンっぷりだ。

 

「うーん、なんだろうねこれ」

 

 エジプト神話に登場する冥界の神、アヌビスのような姿の何かが目の前にいる。割とどうでもいい話ですが、ジャッカル男で画像検索したら北〇の拳のジャッカルが出てきました。あろ!

 

「理子、いったん下がれ。たぶん魔術で操ってるゴーレムだこれ」

 

「じゃあマーくんの専門だ!後は任せたよー!」

 

「任せるなぁぁぁ!」

 

 理子の無茶ぶり(ノーマル誠実にとっては)にキレつつ懐から一発の銃弾を取り出し、マテバに装填する。

 

「くらえ犬人間!」

 

 やけくそになりつつ発砲し頭部に直撃させる。なんということでしょう。アヌビスのような姿のゴーレムが、あっという間に砂になってしまいました。

 

「どうよ!破魔矢ならぬ破魔弾だ!」

 

 効果は抜群なようだ。

 

「なにそれ!理子にもちょうだい!」

 

「残念ながら9mm弾は作ってきてないんだよ!」

 

「えー!?」

 

 いかんせんすべて手作りなので量がない。それゆえに357マグナムとNATO弾に限定しても、80に到達するのがやっと。

 

「仕方ないからパイソンハンター借りるね!」

 

「あ、ま、待って!ケイトォォォ!」

 

 ケイトが左胸のホルスターから攫われた。

 

「いやっほーい!」

 

「ケイトにゃ破魔弾入ってないよ!」

 

「それ早く言って!?」

 

「言う前に持ってったろ!」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「おらおらかかってこいや犬人間!お前なんかこわかねぇ!そのへんてこな顔を吹き飛ばしてやる!」

 

「いやそんな後ろで言われても…」

 

 M110(セレナ)を膝射で構えながら、ジャッカル男を挑発する誠実。たぶん意味はない。

 

「おおっと!」

 

 唐突に飛んできた虫をクイックドロウで撃ち落す。だいたい2cmの大きさの動く標的に一発で当てる技量はさすがである。これでヘタレチキンがなければ確実にモテていただろうに。

 

「スカラベか」

 

 フンコロガシと言ってはいけない。スカラベはエジプトでは太陽の運行を司っているケプリと同一視されることもある神聖な生き物。そのおかげでケプリの顔はスカラベだ。雑コラではない。断じてない。

 

「虫には触るなよ!呪われるぞー!」

 

 虫の異様な雰囲気から呪術の類いであると察し、注意を促す。

 

「ってうひゃあ!」

 

 天井なんて見なきゃよかった。シャンデリアのあたりにびっしりとジャッカル男がくっついている。

 

「どうした?」

 

「キンジ上上!」

 

「上?うわぁ…」

 

 絶句。

 

「まったく、今日は厄日だな」

 

 弾頭が七つついたM24手榴弾に破魔札を張り付け紐を引き抜く。

 

「全員下がれ!巻き込まれるぞ!」

 

 床を踏みしめ、思い切り投げつける。大爆発に巻き込まれ、ジャッカル男たちが吹き飛んだ。

 

「やったか!?」

 

「ごめん一匹取り逃がしたわ」




誠実
いったいどこにあんなもの隠してたんだ。

キンジ
フラグ立てた。

理子
割と仲は良い。


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