深海棲艦に殺されたら、提督として戦うことになりました。(旧題)一度死んだら提督として戦うことになりました。 (名無しの兵六)
しおりを挟む

第1話 復活

衝動的に書いてみました。


 深く、深く、沈んでいく。意識が遠のく。千切れた自分の身体の一部が視界に入る。輝く水面を見ながら目を閉じ、人生にお別れを告げようとすると、

 

「まだ、死んでもらっては困ります。」

 

 声がした。トーンの高い声だ。まるで頭に響くようだ。

 

「貴方には生きてもらいます。」

 

 “身体が千切れているのに?”

 

「ええ、そして、彼女たちの指揮官として、共に海原を駆けてもらいます。」

 

 “彼女たち?今も、水面(みなも)の向こうで戦っている彼女たちのことか?”

 

「そうです。そして、貴方には特別な力を授けましょう。思い描いてください。彼女たちと肩を並べ戦う自分の姿を。」

 

 そう言われて、彼女たちと共に戦う自分を思い浮かべる。姿は「HALO」のマスターチーフみたいなミョルニルアーマーMark VI Gen2がいいな。水上で戦うのだから、「ガンダム」のドムのようにホバー移動ができるように脚部には推進器を付けて欲しい。デザインはできるならドムのようなものでなくて、高機動型ザクⅡみたいな感じがいいな。装備は、彼女たちを守れるように、ジム・ガードカスタムのガーディアン・シールド。攻撃用の武装は、UNSCの装備一式とビーム・サーベル、ロング・レンジ・ビームライフルかな。

 

 これだけあれば、彼女たちの足を引っ張ることはないだろう。

 

「大丈夫ですか?それではいきますよー。」

 

 体が泡に包まれ、バラけた肉体が元に戻っていく。そしてミョルニルアーマーが装備される。腰の後ろにはロング・レンジ・ビームライフル。左右の腰にはビーム・サーベル。手にはガーディアン・シールドとMA5Dアサルトライフル。そして体の横にはUNSC武器コンテナ。

 

 そんな状態で水面にドンドン近づいていく。気になることがあったので聞いてみた。

 

「ところで、君は?」

 

「貴方たちの言うところの“妖精”さんです。」

 

「姿は見せてくれないのかい?」

 

「一段落したらお見せしますよ。」

 

「あぁ、そうだね。まずはアイツらを彼女たちや仲間たちと一緒に駆逐しないとな。」

 

「そうですよ。それでは、そろそろいきますよ。派手に登場といきましょう。(みなと)大尉。」

 

「おう。」

 

 水面は目の前、もうすぐ水面だ。すると、周りが光に包まれ、水しぶきと共に海上に立った。流石は妖精さんやってくれる。光が収まると、目の前には、“彼女”がいた。そして、うしろには仲間の乗った救命艇がある。みんな驚いた目で自分を見ている。すぐ、正気に戻った“彼女”に武器を向けられる。

 

「貴方、何者?」誰何(すいか)され、

 

「自分は(みなと) 海斗(かいと)大尉であります。」

 

 敬礼をしながら答える。すると、“彼女”と仲間たちは一斉に、

 

「はぁっ!?」

 

 と声を上げた。そこまで、驚かんでも。まぁ、死んだと思った人間が生き返ったら驚くか。“彼女”とはいうと、肩を震わせていた。あっ、ヤベ、怒らせちゃった?

 

「すみませんでした。少佐。驚かせてしまって。」

 

「そうよ。全く持って人様に自分の血を浴びせておいて!!このクズ!!」

 

 えぇ、そこまで言わんでも・・・。でも、目じりに涙が溜まっているのを見ると、強がりと言ったところかな。

 

(かすみ)少佐にはご迷惑をおかけいたしました。しかし、自分は最善と思われる行動を取ったまでです。艦娘と一介の大尉では、艦娘の方が今後の戦いには必要な存在です。」

 

「だからって、敵爆撃機から私を守るために、救命艇から跳んで死ぬことは無いでしょう!!敵の爆撃が当たっても中破、悪くて大破程度よ。沈みはしないわ。」

 

 そう言いながら、敵駆逐艦に対して正確に命中弾を与え、撃沈する霞少佐。俺もガーディアン・シールドで救命艇を守りながら、アサルトライフルで対空射撃をしている。

 

「それでもです。我々、船乗りは自分の乗艦を大事に思います。他艦でも同じです。まして、我々と(くつわ)を並べて戦ってくださる艦娘の皆さんには感謝しかありません。」

 

「っ!?わかったわ。とりあえず、生きていたことは喜んであげる。でも、姿形があまりにも変わり過ぎじゃない?」

 

「それは、妖精さんに言ってください。妖精さんにどんな姿になりたいか聞かれて、正直に答えたらこうなったんです。」

 

「貴方、妖精さんが視えて、話せるの!?」

 

「いえ、まだ、自分の妖精さんは姿を見せてくれませんが、声は聞こえます。ちなみに少佐の艤装にいる妖精さんは視えます。」

 

「この戦闘が終わったら、ちゃんと上官に報告するのよ。そして、提督になって私たちと共に戦いなさい。いいわね。」

 

「了解しました。まずは、目の前の敵ですね。」

 

「そういうこと。貴方の乗艦、“あぶくま”をやったヤツらを沈めるわよ。」

 

 




見てくださりありがとうございました。

続くかどうかは気分次第ですかねー。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 逆襲

とりあえず、続きができましたので投稿します。


 右手に持ったMA5Dアサルトライフルを背中に懸架し、腰からに懸架してあるロング・レンジ・ビームライフルを手に取る。そして、水平線の彼方(かなた)に見える敵に狙いを合わせる。

 

「空母を狙っているの?この距離じゃ当たらないわよ。接近しないと。」

 

「大丈夫です。当ててみせます。」

 

 言うと同時に引き(がね)を絞る。瞬間、銃口から光の(すじ)が発射される。光速に近い速度のビームは空母ヲ級を容易(たやす)く貫いた。その周囲に展開している軽空母ヌ級も撃ち抜いていく。ヲ級を2体、ヌ級を6体仕留めたところで、ロング・レンジ・ビームライフルのエネルギー残量がレッドゾーンに入った。また、腰に懸架しチャージを始める。手にはまた、MA5Dアサルトライフルを装備する。

 

 そして、近くに展開していた駆逐艦イ級、ロ級。軽巡洋艦ホ級を接近しながら、撃ち抜き、ガーディアン・シールドで押し潰し、ビーム・サーベルで切り裂いていく。程なくして、半径2kmの周辺海域から深海棲艦は沈み姿を消した。ちなみに俺はミョルニルアーマーのシールドのおかげで、損傷1つない。そんな俺の姿を見て、霞少佐と同僚たちはあんぐりと口を大きく開けている。

 

「えーっと、自分なにかやらかしましたか?」

 

「“やらかしましたか?”じゃないわよ!!何なの貴方。光線が出る銃で空母群を沈めたと思ったら、敵の侵攻部隊の先鋒を単独で撃破。ふざけてるの!?ホントに人間なの!?」

 

「ふざけて無いですよ。大真面目です。そして、1回死にましたが人間です。」

 

「はぁ、もういいわ。兎に角、直近の脅威は排除されたってわけね。それじゃ、救助活動に移りましょうか。“あぶくま”はもう駄目ね。傾斜角が40度近いもの。確か、近くに同型艦のDE-234“とね”がいたわ。そちらに救命艇を曳航しましょう。」

 

「了解です。自分と少佐だけですか?」

 

「いえ、朝潮少佐と満潮少佐が近くに展開しているから2人を呼びましょう。私が通信を入れておくから、貴方は2人を迎えに行って。こことここのポイントね。まだ戦闘中だろうから、貴方ならすぐ終わらせることができるでしょう?」

 

「買い被り過ぎです。では、行きます。」

 

 霞少佐に海図で示された海域まで全速力で移動する。ホバー移動なので水の抵抗を受けずにグングン加速する。大きな波はジャンプして飛び越える。曳航している武器コンテナが暴れる。置いてくればよかったかなとも思ったが、すぐにその考えは無くなる。艦娘艦隊とDDG-172“しまかぜ”を囲む深海棲艦艦隊が見えたからだ。

 

 ロング・レンジ・ビームライフルでは、貫通した際の誤射が怖い。素早く武器コンテナから実体弾のSRS99-5 対物ライフルを取り出し、撃った。命中した瞬間、重巡洋艦リ級が爆沈する。さらに、続けて3発、1マガジン撃ちきる。3発とも軽巡ホ級と駆逐イ級に命中し、撃沈した。

深海棲艦の敵意がこちらにも向けられる。敵が砲撃を開始する前にM45D タクティカルショットガンを取り出し、ガーディアン・シールドを構え一気に接近する。敵の砲撃は俺の背後に着弾し、盛大に水飛沫(みずしぶき)を上げる。敵が再度、照準を合わせる前に懐に入りショットガンをお見舞いする。こいつは確か、戦艦ル級だったか。穴だらけになりながらも一発耐えたのでもう一発、今度は頭部にお見舞いする。頭部を吹き飛ばされた戦艦ル級は、ゆっくりと沈んでいく。残った深海棲艦は駆逐艦のみで逃げ出そうとしていたが、そんなことは許さん。今までの鬱憤と共に全艦を沈めた。

 

 1人の艦娘が近づいて来た。敬礼をして迎える。相手も答礼をしてくる。

 

「助かりました。本艦娘艦隊の旗艦を務めている重巡洋艦“古鷹”です。貴方は、えーっと艦娘ですか?」

 

「いえ、自分はDE-229“あぶくま”砲雷科員の湊大尉であります。わけあって、このような姿となっております。」

 

「そうなんですね。まぁ、戦争には不思議なことが付き(まと)うものですから。ところで、大尉はなぜこの海域に?」

 

「ハッ!!実は“あぶくま”は現在戦闘不能となりまして、総員退艦しました。そのため、戦闘海域に救命艇が・・・。」

 

「皆まで言わなくて結構ですよ。乗員救助のために手が足りないのですね。誰を派遣しましょう?」

 

「霞少佐からは、朝潮少佐と満潮少佐の両名の助力を得られればということでした。」

 

「あら、霞ちゃんが1人で頑張っているんですか。わかりました。朝潮ちゃんと満潮ちゃんを向かわせます。」

 

「ありがとうございます。それでは、自分は霞少佐の指揮下に戻ります。」

 

 そう言って俺は全速力で“あぶくま”のもとに戻った。もちろん、道中会敵する深海棲艦には死をまき散らしながら。それが、後々、どうなるかも知らずに。

 

 “あぶくま”に到着したころには、深海棲艦が引き始めたという情報が入ってきた。なんとか、今回も本土上陸は防げたようだ。よかったよかった。そう思っていると、救命艇に乗っている“あぶくま”艦長の山下中佐からお呼びが掛かった。霞少佐もらしく、2人で中佐のもとに向かった。

霞少佐曰く「さっき、追撃戦に入るようにとの指令があったからそのことじゃないか」ということだ。というか、無線の周波数合わせるの忘れてた。さっと気づかれないように無線の周波数を合わせると、確かに「損傷が小さく、残弾、燃料に余裕のある艦隊は、通常艦隊、艦娘艦隊問わず深海棲艦を追撃せよ。」と繰り返している。

 

 山下中佐からの指令も同じで、損傷している霞少佐が此処に残り、救助を続け、俺が深海棲艦の追撃を行うことになった。俺は、了解の意を込め敬礼しその場を離れた。さて、この体の限界を試してみようか。




続きは火曜日くらいかと。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 昇進

 第2次首都圏防衛海戦と名付けられた海戦は、日本国防軍の圧倒的勝利に終わった。というか俺が終わらせてしまった。山下中佐と霞少佐と別れて追撃に移ったあの後、俺は妖精さんに貰ったこの装備の限界を知りたくて、撤退中の深海棲艦を文字通り、殲滅してしまった。

 

 そのせいで俺は今、防衛省の統合幕僚監部に呼び出されている。俺は直立姿勢で、事務官が読み上げる、当日の俺の行動について認否をしている。目の前に座る統合幕僚長に統合幕僚副長、その他、お偉方の面々が、信じられんという表情と(ひたい)に手をやって何事か考えている。

 

 「以上です。」と事務官の言葉と共に、誰ともなくため息が漏れる。

 

「戦艦27、正規空母21、軽空母33、重巡洋艦43、軽巡洋艦42、駆逐艦51、輸送艦・補給艦102。これを1人で成し遂げた。圧倒的戦果だな。どうかね新しい階級章は?」

 

「はい、幕僚長閣下。佐官となり給与が上がったのは素直に嬉しいですが、同時に指揮する部下も増えるとなると、その責任に押しつぶされそうです。」

 

「はは、よく言う。副長はどうかな?」

 

「幕僚長、私は例の案、賛成です。どのみち避けては通れない道なのですから。」

 

「ふむ、他のみんなはどうかな?」

 

「賛成です。」「私も。」「賛成です。早く着手すべきかと。」・・・・。

 

「みんなの考えはわかった。あとは、湊少佐の意志次第だな。」

 

「あの、一体何のことでしょうか。」

 

「横須賀、舞鶴、呉、佐世保の各鎮守府に続き、新しく泊地を柱島に造る。そして、貴官をそこの責任者、まぁ、世間の言う“提督”として任命したいと我々は思っているのだよ。」

 

「急な話しですね。ですが、ご命令ならお受けいたします。」

 

「命令というよりも、“妖精さん”たちが君にさせるようにと言うのだよ。柱島に泊地を造るのも“妖精さん”からの要請だ。・・・親父ギャグではないからな。」

 

「はい、幕僚長閣下。柱島泊地に提督して着任する件につきましては喜んで拝命いたします。」

 

 幕僚長はそれまでの硬い表情から笑みを作り、

 

「貴官ならそう言ってくれると思っていたよ。早速だが江田島の“赤レンガ”で提督課程を受けてもらう。通常なら6か月間だが、柱島泊地の完成する9月には課程を終えてもらう。つまり、3か月のみだ。補講などで穴埋めはする。また、泊地司令長官ということもあり、貴官には将官になってもらう。今、この部屋を出た瞬間に中佐だ。課程修了時に大佐、泊地司令長官着任と同時に准将になってもらう。以上だ。質問は?」

 

「はい、幕僚長閣下。通常の鎮守府では、鎮守府司令長官の隷下に提督資格を持つ者が複数人着任しますが、柱島泊地ではどのような扱いになるのでしょうか?」

 

「貴官の懸念も最もだが、柱島泊地にはしばらくは貴官のみとなる。他にも“妖精さん”が基地や泊地を造るよう示している場所があるのでな。熟練の指揮官はそこに配属したい。それに、各鎮守府でも提督資格者の数が足りん。去年、2013年に艦娘と深海棲艦が現れてから約1年。この1年間で第1次首都圏防衛海戦。憲法改正。自衛隊から国防軍への変更。“艦娘法”の制定。色々とあったが、今回の海戦では新たな貴官という英雄が生まれた。これは、日本国としての希望だ。まだ、質問はあるかな?無い?よろしい。喫茶スペースで貴官の初期艦娘が待っている。彼女と合流し、江田島に向かいたまえ。退室を許可する。貴官の活躍を祈っているよ。」

 

 俺は敬礼をして、統合幕僚監部の会議室を出て、防衛省庁舎の喫茶スペースへと向かう。「さて、どんな()が初期艦娘なのかな。“妖精さん”はわかる?」

 

 右肩に乗っているセーラー服を着て髪をおさげにしている彼女に声を掛ける。

 

「さぁ?私もそこまで万能ではないですからねー。」

 

「半身が吹き飛んだ人間を復活させといてなんて言う。」

 

 うりうりと左手の人差し指で頬を(つつ)く。「やめてくださいよー」と、言う彼女に「ごめん、ごめん。」と謝りながら、ポケットに忍ばせてある金平糖(こんぺいとう)を渡す。「もう」と可愛く頬を膨らましながら、金平糖を受け取る彼女に微笑ましさを感じながら通路を歩く。

 

 喫茶スペースに着く間に、すれ違った職員たちの反応は様々だった。まぁ、メディアとかでも結構取り上げられたからね。技術研究本部にも1日中、テストを受けさせられたしなぁ。そんなことを考えながら、喫茶スペースに着いた。さて、どこにいるのかなっと。あ、あの後姿は、

 

「霞少佐。」

 

 銀色がかった長髪を右にサイドテールで纏めている少女に声を掛ける。

 

「久しぶり、というほどではないわね。まぁ、元気そうでよかったわ。それと、はい、これ。昇進おめでとう。湊中佐。改めて朝潮型駆逐艦10番艦の“霞”少佐よ。これからよろしく。」

 

 新しい中佐の階級章を渡され、それを付けると、右手を出されたので、

 

「こちらこそ、まだ、提督の卵だけどよろしくお願いします。」

 

 と言って、握り返した。一緒に戦った仲だ。これからの新しい生活に期待と不安が混ざるが、霞少佐がいる分、気楽だろう。




次は木曜日か金曜日になると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 提督課程受講

とりあえず1話できたので投稿します。


 江田島の地を踏む。そして“赤レンガ”こと“国防海軍幹部候補生学校”に来るのは、卒業してから5年ぶりか。ふむ、30前に中佐になって、9月には准将。各鎮守府の提督たちの中では史上最年少の将官だな。こうして客観的に自分を見ると妬みの良い対象だな。

 

 そんなことを考えていると、背中を“バンッ”と叩かれ、

 

「ボサッとしてないでちゃっちゃっと行くわよ。」

 

 霞少佐が荷物を持ってズンズン進んでいく。俺も彼女に続いて後をついて行く。ミョルニルアーマーと装備群?今頃、学校に運び込まれているはずだ。学校の門で憲兵から誰何(すいか)を受けるので、それぞれ身分証明証を見せ、階級を告げる。「少々お待ちを。」と憲兵が中と連絡を取る。「案内係が来るそうです。中でお待ちを。」と憲兵に言われ、詰所のなかで待たせてもらう。

 

 しばらくすると、詰所のドアがノックされた。「どうぞ。」と声を掛けると、「失礼します。」と言って、白い制服に身を包み、霞少佐よりも銀色が強い髪を後ろに束ね、眼鏡をかけた女性が入ってきた。階級章が大佐だったので、2人揃ってすぐに起立して敬礼をする。大佐が答礼をし、手を下ろすのを確認して、自分たちの手を下ろす。

 

「提督課程の担当をしている香取型練習巡洋艦1番艦の“香取”大佐です。湊中佐、霞少佐よろしくね。」

 

 香取大佐は笑顔で手を差し出す。俺たち2人はそれぞれ握手をした。その後、寮に案内されたが、同室だった。いや、同室って・・・。

 

「あの、他に部屋は?」

 

「ごめんなさいね。すべて埋まっているのよ。まぁ、初期艦娘との相互理解を深められると思えばいいんじゃないかしら。」

 

「いやいや、自分はいいとしても、霞少佐は艦娘。女性ですよ!?霞少佐も嫌でしょう?」

 

「別に、私は嫌ではないわよ。肌だって、この間の海戦で見られているし。下着も見たでしょう?」

 

 そう言いながら、2つあるベッドの1つに荷物を置く霞少佐。そして、荷物の収納、整理を始める。こうなってしまっては俺に拒否権などない。俺も自分の荷物を広げ、収納、整理していくのだった。その間に、寮での決まり事を香取大佐が口頭で述べるが、既に知っていることだったので、以前と変わっている所だけ覚えるようにした。

 

 数分後には荷物の整理が終わったので、香取大佐の後について行き、練兵場へと向かった。何でも、俺の実力を直に見たいらしい。対戦相手は香取型練習巡洋艦2番艦“鹿島”大佐。鹿島大佐は既に海上で待機していた。俺も急いでミョルニルアーマーを着込む。装備は、ペイント弾入りのMA5D アサルトライフルとガーディアン・シールドといった基本的なものだ。

 

 香取大佐の合図で演習を始める。俺は最初からブースターを()いて加速する。そしてすれ違いざまに、フルオートにしたアサルトライフルの弾を浴びせる。背後で水柱が上がるのがわかった鹿島大佐の砲撃だ。まあ、盛大に外れたが。そんな感じで、スピードを生かした戦法で鹿島大佐を翻弄(ほんろう)しつづけた。

 

 演習の結果は、ガーディアン・シールドにも被弾を一切しなかった俺の完全勝利となった。青いペイント弾を全身に浴びた鹿島大佐は笑顔で、

 

「第2次首都圏防衛海戦の英雄と戦えて光栄でした。ちなみに私たちの演習は、各教室のモニターに配信されていましたから、今頃、英雄の到着に湧き立っているはずですよ。」

 

 と言ってくれた。え、そんなん聞いてないんだけど。一気にここでの生活のハードルが上がったよ。演習の後は、香取大佐に提督課程のみんなに俺のことを紹介されたあと、第2次首都圏防衛海戦の最前線で艦娘たちと戦った者としての話しをした。ちなみに霞少佐は、初期艦娘課程の方にいっている。

 

 提督課程では、とにかく“妖精さん”の機嫌を損ねないこと、艦娘を同じ人権の保障された人間として扱うことを耳に胼胝(たこ)ができるほど説明された。“艦娘法”によって艦娘の人権が保護されるまでは、かなりひどい扱いだったそうだ。1週間近く休みなしでの戦闘などを普通に行っていたらしい。

 

 そりゃあ、食料は少量でも燃料などの補給をしっかりすれば艤装(ぎそう)が動いて戦えるとはいえ、本来、数百人~3千人近くの人員を乗せて運用していた軍艦が、人の姿となってこの世に顕現(けんげん)したのが艦娘だ。“妖精さん”の助けがあるとはいえ、一兵卒から艦長級の働きを1人でしないといけないのだから大変だ。だから、倒れる艦娘が続出した。“艦娘法”施行や艦娘に関する理解の深まった今はそんなことはないそうだ。憲兵もいるしな。

 

 まぁ、そんなこんなで久々の学生生活?はあっという間に過ぎていった。そして、同期達より一足早く提督課程を終えた俺は、大佐へと昇進し、呉鎮守府で一夜を過ごし、完成したばかりの柱島泊地へと向かった。




見てくださりありがとうございました。

次は2日後くらいだと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 提督就任

次は2日後に投稿すると言いましたね。あれは嘘です!!

いや、仕事終わりにカチャカチャしていたら、なんか1話できましたので投稿させてもらいます。


 柱島泊地までは、すがしま型掃海艇“みやじま”に送って貰う。霞少佐は艤装を付けて“みやじま”と並走し、荷物だけ載せている。俺の装備は、重量があるので、陸軍のCH-47JAで空輸してもらっている。

 

 最初は俺もミョルニルアーマーを着て行こうとしていたが、呉鎮守府で准将の階級章を貰った時に、事務官から「着任の挨拶があるので、制服の方がよろしいかと。」と言われ、仕方なく、お堅い制服姿だ。

 

 さて、柱島泊地の桟橋に着いた。艇長にお礼を言い、“みやじま”から降りる。桟橋の向こうに見えるグランドには、憲兵隊が整列して待っている。そこから数人が、荷物持ちのために桟橋に来ていた。彼女たちに荷物を預け、俺は制帽を(かぶ)りなおし、()を進める。上陸した霞少佐も列の端に加わっている。荷物はとりあえず執務棟の入口に投げ入れとくよう指示した。

 

 そして、服装を(ただ)して準備をしてもらったお立ち台の上にあがる。

 

「湊 海斗司令長官閣下に敬礼!!」

 

 憲兵中隊の率いる大尉の掛け声と共に、憲兵中隊200名と霞少佐が敬礼をする。俺は答礼をし、手を下ろす。それを確認して全員が敬礼を解く。

 

「本日より、この柱島泊地の司令長官として着任する湊准将だ。長ったらしい挨拶は嫌いなので簡潔に。初期艦娘の霞少佐は“第2次首都圏防衛海戦”を共に戦い、生き残った強者(つわもの)だ。私もメディアなどでは“英雄”などと言われているが、ただの人間だ。だからこそ、間違いを犯すこともあるだろう。そういう時は、遠慮なく注意していただきたい。ただし、逮捕されるようなことはしないので、諸君らの手錠が活躍する機会はないだろう。それでは、これからよろしくお願いする。以上だ。」

 

「敬礼!!」

 

 俺は答礼をし、お立ち台から去る。そのまま、霞少佐を手招きし、一緒に執務棟へと向かう。背後では憲兵大尉の「解散!!」の声が聞こえる。

 

「どうだったかな。挨拶は。」

 

「まぁ、いいんじゃない。威厳は無かったけど。」

 

「手厳しいね。」

 

「甘くはしないわよ。」

 

「それは、もちろんだとも。指揮官として提督として、俺はまだまだ未熟者だ。霞少佐にも迷惑をかけるが助けてくれるかな?」

 

「フンッ!!せめて“クズ司令官”にならないように助けてあげるわよ。」

 

「ハハ、“クズ司令官”ね。気を付けるよ。」

 

 そう言いながら霞少佐と歩いていると、「湊司令。」と後ろから声を掛けられた。振り向くと敬礼をしている憲兵大尉がいた。俺と霞少佐が答礼をする。「どうかしたかな?」と聞くと、

 

「泊地内の施設をご案内しようと思いまして。」

 

「中隊長が(みずか)らかい。有り難いね。ところで名前を教えてもらってもいいかな?一応、リストを貰ってはいるけど、自己紹介は大事だろう?」

 

「ハッ!!申し訳ありませんでした。自分は、坂本(さかもと) 龍子(たつこ)憲兵大尉であります。本泊地に駐留する柱島憲兵中隊の中隊長の任を拝命しております。」

 

「“坂本 龍馬”みたいな響きだね。」

 

「はい。父が高知出身で坂本龍馬の大ファンでして、龍馬に近い名前にしたかったと言っておりました。」

 

「なるほどね。さて、次は霞少佐の番じゃないかな?」

 

「ええ。朝潮型駆逐艦10番艦の“霞”少佐よ。これからよろしく。」

 

「よろしくお願いします。少佐。」

 

 霞少佐が手を出し握手をする2人、俺は帽子を整えて、

 

「最後に俺か。あぁ、公式の場以外では、“俺”で通すから慣れて欲しい。さて、自分で言うのは恥ずかしいが、“第2次首都圏防衛海戦の英雄”こと湊 海斗准将だ。名前の由来は、海に関わる仕事に着いてほしかったそうだ。今ではこうなって、親の念願は叶ったわけだ。よろしく。坂本大尉。」

 

 俺も握手をするために右手を差し出す。坂本大尉はそれを両手で握る。ん?怪訝に思い、坂本大尉の顔を見るとまるで少女のように顔を輝かせていた。

 

「こここここここ、光栄です。“第2次首都圏防衛海戦の英雄”とこうして握手できるとは!!防衛省が公開している准将閣下の動画見ました。閣下の頭部カメラと各艦娘の頭部カメラのみの動画でしたが、あの動き、活躍はまさしく“英雄”です。ご本人のお顔は、写真でしか見れませんでしたが、こうして直接、拝見させていただくと、本当に男前でありますなぁ。・・・はっ!!申し訳ありません。上官にこのような態度を取ってしまい・・・。」

 

「いや、いいよ。気にしないで。大尉の様な美人にそう言われると、男冥利につきるね。ありがとう。ところで、手はもういいかな?・・・ん、ありがとう。それでは、案内を頼むよ。」

 

「了解しました。では、ご案内させていただきます。まずは・・・。」

 

 坂本大尉に案内されながら、執務棟に入る。すると、霞少佐が近寄ってきて、

 

「さっきの鼻の下を長くした顔は、“クズ司令官”だったわよ。」

 

 と背伸びをして耳元でボソッと言ってきた。“クズ司令官”のハードル低すぎませんかねぇ!?霞少佐!?




次の話こそ2日後くらいになると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 初めての建造

すみません。また嘘をつきました。今日も1話投稿します。


 霞少佐からの“クズ司令官”判定を1回くらい、肩を落としながら坂本大尉の後をついて行く。長い髪を上手く後頭部に纏めてうなじが見える。こういう時身長が高いと役得だなぁ。霞少佐に“クズ司令官”判定をくらわないように、表情は引き締めたままだけど。

 

 執務棟では執務室、司令長官室、指揮室、各会議室などを説明を受けながら見てまわった。因みに、荷物はとりあえず“司令長官室”に投げ入れておいた。その後は、食堂に娯楽室、講堂兼体育館、グラウンド、憲兵隊舎、艦娘寮、入渠室、備蓄倉庫などを見てまわり、最後に、工廠へと案内された。

 

「陸軍さんが運んでくれた、閣下の艤装と武装もこの中にあります。ご確認をお願いします。」

 

 そう言って、坂本大尉が明かりをつける。そこには4つの人が1人は入れるぐらいのカプセルがあり、その横にミョルニルアーマーがあった。ミョルニルアーマーに近づくと、“妖精さん”が出てきた。

 

「やぁ、数時間ぶり“妖精さん”。」

 

「どうも、数時間ぶりです。湊准将。」

 

 両の手の平を広げると“ピョンッ”と飛び乗ってきた。そのまま彼女は定位置の右肩に収まった。ふむ、ずっと“妖精さん”ではあんまりだな。名前を知りたい。(たず)ねてみると、

 

「ありませんよ。名前は。湊准将がつけてくださいよ~。」

 

「フムン。“ピクシー”では安直すぎるな。ミョルニルアーマーから“コルタナ”とかか?う~む。そうだ“ミク”はどうだろう?アステカの女神で“ミクテカシワトル”というのがいて、生と死を司るんだ。また、生の再生のために地上にも現れるらしい。今回、俺という存在を死の淵から(よみがえ)らせた君にはぴったりだと思うが。それに漢字で書けば“未来”ともなる。」

 

「ん~。“ミク”ですか・・・。いいですよ。その名前。気に入りました。」

 

「それじゃあ、改めてよろしく“ミク”。」

 

「こちらこそよろしくです。」

 

 そうして俺は左手の人差し指をミクは全身を使いながら握手をした。

 

「“妖精さん”、いえ名前を付けたから“ミク”さんとの話しは終わったかしら?」

 

「あぁ、待たせて申し訳ない。霞少佐。坂本大尉。さて、工廠に来たのだから、建造をしたいな。しかし、さっきからほかの“妖精さん”が見当たらないな。」

 

「呼びましょうか?」

 

「いいかい?ミク。」

 

「お安い御用です。お~い、みんな仕事の時間だよ~。みんなが呼んでいた湊司令官が来たよ~。」

 

 ミクが肩の上から声を上げると、どこからともなく“妖精さん”達が現れた。その数は、“妖精さん”の視える霞少佐も驚くほどだった。集まった、“妖精さん”達は綺麗に整列して俺を見ている。

 

「ねえ、ミク。もしかして泊地中の“妖精さん”が集まってる?」

 

「ええ、たぶん。」

 

「フムン。ならば、自己紹介だな。“妖精さん”達。自分が今回、柱島泊地司令長官に任じられた湊 海斗准将だ。これから、みんなには泊地の円滑な運営に協力してもらいたい。よろしくお願いする。」

 

 帽子を取り、頭を下げる。すると、「ウォー!!」「ヤッタルデー」「“英雄”ガキター!!」など騒ぎ出した。なんとか、受け入れてもらえたのかな。

 

「じゃあ、みんな持ち場に戻って。」

 

 そう言うと、「ハーイ」と言って、工廠要員以外は飛んで行ってしまった。さてと、工廠に来た一番大事な要件を済ませましょうかね。

 

「みんな、これより召喚建造を行う。召喚したいのは、工作艦の“明石”給糧艦の“間宮”“伊良湖”軽巡洋艦の“大淀”だ。この4名は鎮守府あるいは泊地、基地の運営に欠かせない存在だと、教育を受けた。どうか、よろしく頼む。」

 

「任せてください。私と工廠長が全力でやらせてもらいます。そうですね・・・。1500に来てください。それまでには終わっていると思います。」

 

「わかったよ。ミク。霞少佐、1500には召喚建造が終わるそうだ。艤装を置いて執務室へ行こう。書類仕事が待っている。坂本大尉は通常業務に戻ってよろしい。案内ご苦労様でした。」

 

「いえ、それでは、中隊指揮に戻ります。失礼します。」

 

 坂本大尉の敬礼に答礼をすると工廠を出て行った。霞少佐は、“妖精さん”達に手伝ってもらいながら艤装を外している。

 

「見ていて楽しい?」

 

「ああ、これでも男だからな。整備されているところ見ると、何というか、ガンダムとかボトムズ的なカッコよさを感じるよ。」

 

「そのガンダムとかボトムズってのはよくわからないけど、てっきり下着が見えたりするのを期待しているのかと思ったわ。」

 

「フムン。期待していた方が女性としては嬉しいのかな?」

 

「さあ?人によるんじゃない。・・・っと、これで終わりね。ありがとう“妖精さん”。」

 

「それでは、執務室に行こうか。ミクはどうする?」

 

「私は、ここでしっかりと指定の魂と心が召喚できるように待機しています。ただし、望んだ艦を召喚建造できるのは今回だけですよ。次回からの召喚建造はランダムになりますからね。」

 

「ああ、わかっているとも、提督課程では口酸っぱく言われたよ。召喚建造をし過ぎて資源を無駄にするなとね。それでは、後はよろしく。1500には来るよ。それと、昼食はちゃんと()ることいいね?」

 

「了解です。」

 

 そう言いながら、俺は金平糖を何粒かハンカチの上に置いておく。あとは、勝手に食べてくれるだろう。霞少佐に「待たせた。」と言い、一緒に執務室へ向かう。新しい仲間たちが楽しみだ。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 初出撃

「ふぅ。」息を吐きながら書類仕事で凝り固まった肩をまわす。ミク達に召喚建造をお願いしてから、俺と霞少佐は執務室で書類の整理と処理を行なっている。間に昼食を挟んだが、それ以外に休憩は取っていない。

 

 斜め右方向に机がある霞少佐は、疲れなど見せず、黙々と書類仕事をこなしている。姿勢よく仕事をこなしている姿は、美しいものがあった。そうやって、見惚(みと)れていると霞少佐が、

 

「どうしたのよ。さっきからこっちを見て。私の顔になんかついてるの?」

 

「いや、手慣れているなぁと思ってね。」

 

 「見惚れていました。」なんて正直に言ったら、また“クズ司令官”呼ばわりされてしまう。当たり障りのない返答をする。

 

「前の所属、横須賀鎮守府では、持ち回りで“秘書艦”があったから、そのおかげね。」

 

「そうだ、聞きたかったことがもう一つある。江田島では聞けなかったが、なぜ少佐は俺の様な新人提督の“初期艦娘”になろうと思ったんだ?」

 

 書類にサインする手を止め、まっすぐに霞少佐を見て質問をする。霞少佐もこちらをしっかりと見て、

 

「あんたが、あまりにも危なそうに見えたからよ。“第2次首都圏防衛海戦”であんたは私をかばって死んで、生き返った。その後の戦闘の姿も、巨大な盾と、ビームライフルだっけ?あれを駆使して、敵の注目を自分に集め、護衛艦や艦娘たちに被害が出ないように立ちまわっていた。そのあんたの姿がとても危なっかしく見えたの。あんたが提督になるって話を聞いた時には、私が側で見守ってやらないと、あんたはまた誰かをかばって死ぬと思ったのよ。それが理由よ。」

 

「つまりは、俺のため?」

 

「まあ、そうね。あんたと国のためね。あんたがいなくなると国防戦力激減だし。」

 

「なるほどね。わかったよ。変な質問に答えてくれてありがとう。」

 

「どういたしまして。さあ、1500まで残り時間は少ないわ。さっさと残りの書類を終わらせましょう。」

 

「ああ、そうだな。」

 

 その後は、黙々と書類仕事をこなして、1430までには本日分の書類が終わった。追加が無ければだが。霞少佐が「お茶を入れてくるわ。」と席を立った瞬間、俺の机の赤電話が鳴った。非常時の緊急出動要請時しか鳴らない電話だ。俺はすぐに受話器を取り、スピーカーボタンを押す。

 

「こちら、柱島泊地司令長官の湊准将。」

 

『横須賀鎮守府司令長官室、秘書艦の大淀中佐です。現在、徳島県室戸岬沖にて、海上護衛任務を遂行中の第11護衛隊のDD-152“やまぎり”より入電。“敵機動艦隊と接敵、艦娘艦隊が迎撃中。また、敵増援を確認。至急救援求む”です。呉鎮守府には既に・・・。』

 

「霞少佐!!俺が出る。呉の救援艦隊よりも俺の方が速い。あとは頼む。あっ、新たに召喚建造が終了した艦娘たちへの泊地案内も頼んだ。帰ってきたら戦勝会だ。それでは、大淀中佐、切ります。」

 

『ちょっと、ま・・・』

 

 最後まで聞かずに、受話器を置き、工廠へと駆けていく。なぜか霞少佐もついてくる。

 

「霞少佐は、執務室で待っていてくれていいんだぞ。」

 

「上官の出撃なんだから、見送るわよ。ところで、どう行くつもり?」

 

「跳んでいく。」

 

「ハァ!?」

 

「跳躍を何回も繰り返し、四国を縦断して室戸岬沖まで行く。これが一番速い。跳躍中はブースターによる推進もできるしな。500km/h以上は出るそうだ。ミクが江田島で教えてくれた。」

 

「あんたって、ホント規格外ね。」

 

 そうこうしているうちに、工廠に着いた。

 

「ミク!!召喚建造中にすまん。ミョルニルアーマーで緊急出動だ。“妖精さん”達、手伝ってくれ。武装は腰にロング・レンジ・ビーム・ライフル。左手にはガーディアン・シールド。右手にはMA5D アサルトライフル。M45D タクティカルショットガンは背面に。ん、そうだ。ガーディアン・シールドの中には弾倉と予備弾を頼む。左腰にはビーム・サーベル。右腰にはM6H ハンドガンだ。」

 

 ミョルニルアーマーを装着しながら、指示を出す。ミクが召喚建造カプセルの前から離れ、他の“妖精さん”達に作業の指示をする。そして、工廠に着いて150秒後には出撃準備が完了した。海に面した出撃用の扉が開かれる。

 

「それじゃあ、霞少佐、ちょっくら行ってくる。」

 

「ええ、無理をしないようにね。それと、無事に帰ってきたら今度からは“霞”呼びでいいわよ。」

 

「はは、それはいいね。・・・湊 海斗出るぞ!!」

 

 そして、俺は出撃した。まずは、海上でブースターを吹かし、500mほどまで上昇、その後推力を後方に集中して前進する。着地点は人家のない林や森、山の中だ。そうして跳躍を繰り返し、25分後には室戸岬沖まで来た。もう一度、高く跳ぶと戦闘の光が見えた。

 

 落下しながら、アサルトライフルをガーディアン・シールドに収納し、腰からロング・レンジ・ビーム・ライフルを構える。敵の増援艦隊はまだ交戦距離に入っていないらしいが、戦艦ル級が2体いる。うち1体に照準を合わせ、引き金を絞る。発射されたビームが戦艦ル級の装甲容易く貫き、爆沈させる。そして、着水した俺は、ホバーにより浮きながらブースターを吹かし戦闘の真っただ中に突っ込んでいった。

 




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 新しい仲間

 深海棲艦機動艦隊は、護衛隊の艦娘艦隊と“やまぎり”が抑えている。俺は、現在接近中の深海棲艦打撃艦隊を仕留めるべきだろう。通信で艦娘艦隊旗艦“古鷹”中佐と“やまぎり”艦長の田元中佐にそう伝える。というか、この場での最上位者は俺だから、命令に近い形となった。まぁいいだろう。

 

 さて、1体沈められた深海棲艦打撃艦隊は警戒のためか、複縦陣で進んでくる。これは倒してくださいと言わんばかりの陣形だな。ロング・レンジ・ビーム・ライフルを構え、駆逐級を2体引き連れている重巡リ級に狙いを定め、最大出力で撃つ。狙い通り、ビームはリ級を沈め、駆逐級も消滅させた。おかげでロング・レンジ・ビーム・ライフルはチャージ時間に入ってしまったけど。

 

 ロング・レンジ・ビーム・ライフルを腰に懸架し、背中からM45D タクティカルショットガンを手に取り、残りの戦艦ル級と軽巡ホ級を沈めるため突撃する。ル級とホ級が砲撃してくるが、全てかわし、ホ級の(ふところ)に飛び込んだ。ゼロ距離でショットガンを撃ち放つとホ級の上半身の上半分が消し飛び、そのまま沈んでいく。

 

 ル級は、主砲と一体となっている大盾の様な艤装をこちらに向け撃ってくる。ガーディアン・シールドで防ぐまでも無く、ミョルニルアーマーのシールドが弾いてくれる。ショットガンを背中に懸架し、腰からビーム・サーベルを抜き放ち、すれ違いざまに一閃。盾のように構えた艤装を簡単に溶断し、ル級は上半身と下半身が泣き別れし爆沈した。

 

「敵増援の打撃艦隊を殲滅した。戦艦2、重巡1、軽巡1、駆逐2。以上。」

 

『流石ですね。湊閣下。先日よりも動きが洗練されてのでは?』

 

「さあ、どうだろうね。ところで古鷹中佐そちらに援護に向かおうか?」

 

『いえ、大丈夫です。こちらもヲ級とリ級を沈めたので、あとは駆逐級のみです。掃討戦に移行します。閣下には我々が戻るまで“やまぎり”と船団の護衛をお願いします。』

 

「了解した。田元中佐聞こえていたか?」

 

『はい、湊閣下。聞こえていました。本艦も対空戦闘でだいぶ消耗しました。是非とも古鷹中佐たちが戻るまで、本船団の護衛をお願いします。』

 

「了解。では、そちらに向かう。」

 

『後部甲板を()けてありますので、そちらへ着艦してください。』

 

 そうして、“やまぎり”の後部甲板に着艦し、チャージの終わったロング・レンジ・ビーム・ライフルを構え周辺警戒を開始した。(さいわ)いそれ以上の敵増援は現れず、古鷹中佐たちも戻ってきたので、2,3言葉を交わし、柱島泊地へと帰還の途についた。

 

 工廠に戻るとワッと4人の女性に囲まれた。写真や動画で見たことがある、明石、間宮、伊良湖、大淀だった。

 

「提督、素敵です。あんな風に戦えるなんて。今度、その艤装詳しく見せてください。」「貴方の元に召喚されて、私、感激です。」「私もです。間宮さんと一緒に美味しいごはんと甘味を作って、泊地を元気一杯にさせます。」「戦闘艦である私もあそこまでの動きはできません。さすが、提督です。」

 

 と、口々に言ってきた。なぜ、俺の戦闘の様子が?と思って工廠内を見渡すと、出るときにはなかった大型モニターがあり、俺の頭部カメラが写した映像が映っていた。さてはと思い、

 

「ミク?」

 

「ごめんなさい。みんなにお願いされてやっちゃいました。」

 

 ぺこりと頭を下げるミク。俺は彼女を両手で包んで右肩に乗せて、頭を撫でた。

 

「ミクなりに一生懸命にやってくれたわけだろう?責めはせんよ。ただ、今度からは、資材管理の観点から、報告や相談をしてくれると助かる。な、霞。」

 

「ええ、そうね。ま、モニターの設置程度なら資材1桁で済むという事だったから、私が許可をしたの。責めるなら私を責めなさい。」

 

「さっきもいったように、責めはせんさ。(連絡)(相談)(報告)がしっかりしていればな。」

 

「そう、そうね。あ、それとおかえりなさい。」

 

「ああ、ただいま。」

 

 ふむ、こうして「おかえり」と言ってもらえるのは何年ぶりだろうか。艦乗りになってからは、実家に帰るよりも両親が基地の近くのホテルまで来てくれることが多かった。昨年、深海棲艦が現れてからは、両親とも電話でさえ会話する時間が少なくなった。今度、電話をしよう。

 

 そんなことを考えていると、明石が俺を覗き込んでいた。「どうした?」と聞くと「素顔が見たい」と言う。そういえばミョルニルアーマーを装着したままだった。「少し待て」と言い、ミクと妖精さん達に手伝ってもらい、ミョルニルアーマーを外す。1人でも外せるが、時間がかかるんだ。これが。

 

 素顔を見せると、明石、間宮、伊良湖、大淀の4人は「おお~」と揃って声を上げた。どういう意味で声を上げたのか聞いてみる。すると内容に差は有れど、4人とも「思ったよりもずっと男前だった。」という趣旨の返答をしてきた。ふむ、坂本大尉の時といい自覚は無いが俺は結構イケメンなのか?

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。まずは、

 

「明石、間宮、伊良湖、大淀。俺たち柱島泊地は君たちの着任を大いに歓迎する。これからよろしく。」

 

 そう言って、握手のために笑顔で右手を差し出すのだった。

 




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 歓迎会

 さて、時刻は1650だ。もうすぐで終業時刻を迎える。まぁ、提督業は常在戦場で終業時刻なんて関係ないんだけどなー。でも、今日は、明石たちの歓迎会をする予定で準備を憲兵隊にお願いして進めてある。

 

 とりあえず、執務室へ移動して改めて、自己紹介を受ける。それと同時に4人に少佐の階級章を渡す。その後の説明は霞に丸投げし、戦闘詳報の作成に取り掛かる。終業時刻の1715まであと10分しかないが、俺1人の出撃だったし、ちゃちゃっと済ませよう。

 

 はい、無理でした。戦闘詳報終わりませんでした。なにせ途中で統合幕僚長から直々に電話がかかってきて、お叱りを受けていた。曰く、「1人で出撃するな。自重しろ。」との内容だったが、守るつもりなどない。命令を(くだ)されたわけではないのだから、好きなようにさせてもらう。そのせいで統合幕僚監部の連中の胃に穴が()いても知らん。

 

 そして、時間は1800目前。会場となる食堂には俺1人だけで移動をする。歓迎される側の4人には霞についてもらう。食堂に着くと、坂本大尉が迎えてくれた。今回は、各人の好きな物がわからなかったのでビュッフェ形式にしてもらった。非番だった憲兵隊員諸君申し訳ない。

 

 最後に漏れがないか、俺と坂本大尉でチェックをしていく。うん、大丈夫そうだ。全部のチェックが終わり、俺は廊下で霞たちを待つ。1800きっかりに霞たちは来た。霞を先頭に大淀、明石、間宮、伊良湖の順だ。

 

 俺は扉を開け中に入る。マイクの所まで移動する。さあ、歓迎会の始まりだ。

 

「時間となったので、今回、柱島泊地に新たに着任した艦娘たちの歓迎会を始める。さあ、入ってきてくれ。まずは、朝潮型駆逐艦10番艦の“霞”少佐。次に、大淀型軽巡洋艦1番艦の“大淀”少佐。次に、明石型工作艦1番艦の“明石”少佐。次に、給糧艦の“間宮”少佐、最後に同じく給糧艦の“伊良湖”少佐だ。1人ずつ挨拶を貰おうと思う。まずは霞少佐から。」

 

 そう言って、霞にマイクを渡す。

 

「長ったらしい挨拶は苦手なので、すぐすませるわ。朝潮型駆逐艦10番艦の“霞”よ!ガンガン行くわよ、これからよろしく。」

 

「大淀型軽巡洋艦1番艦の“大淀”です。戦列に加わりました。艦隊指揮、運営はどうぞお任せください。これから、よろしくお願いします。」

 

「明石型工作艦1番艦の“明石”です。戦闘は苦手ですが、少々の損傷なら私がばっちり直してあげます。これからよろしくお願いします。」

 

「給糧艦の“間宮”です。食事や甘味はお任せください。明日の朝食から私と伊良湖ちゃんが担当しますのでよろしくお願いしますね。」

 

「同じく給糧艦の“伊良湖”です。間宮さんと一緒に皆さんの(しょく)を支えていきますので、よろしくお願いします。」

 

 各人の挨拶が終わるごとに拍手は鳴り、伊良湖への拍手が終わるタイミングで伊良湖からマイクを受け取り、

 

「みんな、挨拶ありがとう。それでは、これより乾杯をする。各員、飲み物の準備はよろしいか?・・・いいようだな。それでは、新たな仲間たちと柱島泊地の更なる発展を願って乾杯!!」

 

「「「「「乾杯!!」」」」」

 

「それでは、皆これからは好きなように食べて、飲んでほしい。」

 

 そう言って、マイクを置き席につく。食事を摂りに行くのは、全員がとり終わってからでいいだろう。非番の憲兵隊員たちは頑張ってくれたらしくかなりの量があるしな。すると、霞が、「はい、これ。」と食事を盛ったプレートをテーブルの上に置いてくれた。どうやら、自分の分を取るついでに、俺の分も取ってくれたらしい。

 

「ありがとな。」

 

「まぁ、これくらいはね。今日は秘書艦でもあるし。」

 

 そう言いながら、自分の席に戻る。明石たちも憲兵隊員たちと仲良くできているようだ。やはり、憲兵全員を女性で固めたのは結果的に良かったようだ。そんな様子を微笑ましく眺めていると、ポケットに入れている携帯電話が鳴った。これは、赤電話と同じ役割を持つ携帯で、赤電話が3回鳴っても出ないときに転送されるようになっている。俺と霞はそっと会場を抜け出す。

 

「こちら、柱島泊地司令長官の湊准将。」

 

『こちら佐世保鎮守府司令長官の野元中将だ。深海棲艦が東シナ海を大挙して北上している。至急増援を()う。』

 

「了解。しかし、本泊地は本日稼働したばかりですので、送れる人数が1人のみですが。」

 

『1人でも構わない。兎に角、戦力が欲しい。』

 

「了解。」

 

『頼んだ。』

 

 携帯電話をしまうと、霞に、

 

「そんじゃ、そういうことだから、行ってくる。」

 

「はいはい、私が行きたいところだけど、距離が距離だからね。輸送隊が欲しいわね。」

 

「今度、上申してみよう。あとのことは任せた。」

 

「いってらっしゃい。怪我でもしたらただじゃ済まさないわよ。」

 

「了解した。」

 

 走って工廠まで向かう。工廠に着くとすぐに「ミク!!」と呼びかける。すると、ミョルニルアーマーの方からふよふよとやって来た。

 

「どうしたんです。」

 

「深海棲艦の大群が東シナ海を北上中だ。佐世保鎮守府に応援に行く。ミョルニルアーマーは大丈夫だな。」

 

「もちろん、あと、駆動系と推進系をいじったので、動きやすさと速度が向上しましたよ。」

 

 説明を聞きながらミョルニルアーマーを装着する。武装は前回と同じだ。

 

「それは、素晴らしいな。今回はついてくるかい?」

 

「もちろんですとも!!」

 

「それでは、湊 海斗、出るぞ。」

 

 俺は佐世保鎮守府目指し暗闇の海に飛び出していった。

 




見てくださりありがとうございました。


次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 佐世保鎮守府防衛戦(甑島沖海戦・その1)

 暗闇の空を跳ぶ。先々の航空管制には空域に入る前に連絡を入れている。まぁ、500mぐらいまでしか跳ばないから、空港の近くとかでない限りニアミスの危険性は少ない。さて、もう少しで佐世保鎮守府の正門が見えてくるが、あ、あれか。

 

 “ズシン”と正門の前に着地をする。すぐに憲兵が誰何(すいか)してくる。ヘルメットを外し、身分証明証を見せる。用件を話すとすぐに、野元中将に会えるよう手配してくれるそうだ。数分後、佐世保鎮守府の大淀が息を切らせながら走ってきた。

 

「す、すぐに中将の所へ。装備はそのままで結構です。すぐ出撃してもらうことになります。」

 

「それでは、案内を頼む。」

 

 大淀は来た道をまた走り出した。俺もそのあとを駆け足でついて行く。スパルタンⅡ並みに強化された視力が出港していく護衛艦隊と艦娘艦隊をとらえる。執務棟に入るとその中も慌ただしく、事務官が駆けまわっていた。大淀と俺をみとめるとすぐに道を譲ってくれた。

 

 執務室の中では野元中将が、隷下の提督たちに指示を出していたが、敬礼をしている俺の姿をみとめると、すぐに近寄り答礼し、

 

「よく来てくれた。随分と早かったな。」

 

「ええ、跳んできましたので。それで、戦況は?」

 

「ああ、夜間哨戒に出ていた艦娘艦隊が敵偵察艦隊と(おぼ)しき集団と交戦し、これを殲滅。その間、築城基地と鹿屋基地からスクランブルしたF-2とP-3Cがそれぞれ、北上中の深海棲艦群らしき航跡を確認した。現在は哨戒艦隊が接敵するために南下中だ。」

 

「では、自分は南下中の哨戒艦隊と合流しましょう。」

 

「そうしてくれると助かる。」

 

「それでは、出撃()ます。」

 

 敬礼をして、執務室を後にする。大淀に案内してもらい、ヘリポートまで向かう。そこならブースターを吹かして跳んでも大丈夫だろう。ヘリポートではヘリボーン艦娘艦隊が装備の確認をしていた。CH-47JA“チヌーク”が来るまで待機だそうだ。早く出撃したそうにしていた。大淀と手空(てす)き要員に“帽振れ”で見送られて、暗闇の空へとブースターを吹かし跳躍する。

 

 通信で送られてきている位置情報で進路を確認しながら跳んでいく。

 

『哨戒艦隊が敵先遣艦隊と(おぼ)しき艦隊と交戦に入りました。』

 

「『了解。ああ、戦闘光が見えた。あれか。これより哨戒艦隊と共に敵艦隊に攻撃を開始する。』」

 

『了解。哨戒艦隊の旗艦は川内型軽巡洋艦1番艦“川内”中佐です。以降の通信は彼女とお願いします。』

 

「『了解。』『・・・こちら、柱島泊地司令長官の湊准将。援護に来た。これより合流する。川内中佐、応答を』。」

 

『こちら川内中佐です。現在、戦闘中ですので、最低限の返答しかできませんが、ご容赦を。』

 

「『了解。それと、口調は普段通りでいいぞ。』」

 

『え、そう。なら、いつも通りにやらせてもらおうかな。さあ、みんな夜戦だよ!!気合い入れて、楽しむよ!!』

 

「『この通信には返答しなくてよろしい。現着まで30秒、・・・20秒。・・・10秒、9、8、7、6、5、4、3、2、1、着水!!攻撃を開始する。』」

 

 川内たちの後方100m付近に着水する。それと同時に一番近く (それでも250mほどは離れていたが)にいた駆逐イ級にアサルトライフルの弾丸を浴びせる。10発ほどで爆沈する。その間に川内たちの近くまで進出する。

 

 川内は、彼女はまるで(おど)るように、夜戦をしていた。ステップを踏むたびに攻撃を交わしては、反撃を行い深海棲艦は砲撃を喰らい沈んでいく。ちなみに、彼女が旗艦を務めている艦隊の艦娘たちも中々というか、かなりの手練れだ。俺の記憶が正しければ、鳥海、天龍、綾波、夕立、江風か?

 

 しかし、旗艦を重巡の鳥海ではなく、軽巡の川内に任せるとは野元中将も思い切ったことをする。しかし、はたから見ても川内の指揮に問題があるようには見えなかった。さて、暗闇に目が慣れている深海棲艦の皆さんにサプライズをプレゼントしようか。

 

「川内、これより、敵艦隊にむけて探照灯ではないがライトを照射する。目を潰されるなよ。」

 

「了解。みんな聞いたね。准将のタイミングに合わせるのよ。」

 

「5、4、3、2、1、今!!」

 

 ミョルニルアーマーのヘルメットに装備されているライトを最大出力で点灯する。暗闇の中に、戦艦タ級をはじめとした戦艦群と護衛の重巡、軽巡、駆逐の姿が浮かび上がる。こちとら原子炉直結の出力のライトだ。深海棲艦たちの動きが一瞬だけ止まる。その一瞬で集中砲火を受けた戦艦たちが沈んでいく。

 

 俺もアサルトライフルを撃ちながら敵の中心へと突撃していく。敵の攻撃はガーディアン・シールドで防ぎ、エネルギーシールドで(はじ)く。ふむ、集中砲火を受けてもだいぶ耐えられるな。これなら、もうちっと敵の中心部に突っ込んでも・・・。

 

「海斗さん、敵が魚雷を発射しましたよ!!」

 

「ありがとう、ミク。『警報!!敵の魚雷を確認。各員、回避運動を。』ミク、ヘルメット・ディスプレイに魚雷を表示できないかな?」

 

「やれると思います。・・・どうですか?」

 

「おお、流石(さすが)だ。ビーム・ライフルで薙ぎ払ってやろう。」

 

 ロング・レンジ・ビーム・ライフルを構え、銃口を魚雷の突き進む海面に向け、最大出力で薙ぎ払うように撃つ。海水が蒸発し、ビームが命中した魚雷が爆発していく。それでも、何本かは川内たちの方へ向かう。それを、1本ずつロング・レンジ・ビーム・ライフルで狙撃していく。後ろからは敵の攻撃が続いているが、全てエネルギーシールドが弾く。

 

 最後の1本を撃ち抜くと、ビーム・ライフルのエネルギー容量がレッドゾーンに入っていた。腰に懸架し、チャージを開始する。川内たちからは援護を感謝する通信が入る。敵の数は多いが、なんとかなるかもな。




見てくださりありがとうございました。


次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 佐世保鎮守府防衛戦(甑島沖海戦・その2)

『こちら鹿屋基地第1航空群第1航空隊第11飛行隊、コールサイン“ジュピター”。ハープーンを持って来た。どこに撃ち込めばいい?』

 

「『こちら湊准将。現在この海域での指揮を()っている。ジュピターには南に展開している敵艦隊群へ攻撃を。敵の退路を断つ。間違っても高度を下げるな。近づきすぎるな。対空砲の餌食になるぞ』『川内、鹿屋基地からハープーンが届いた。南の敵艦隊群を圧するから、北上(ほくじょう)の勢いが強まるぞ。気を付けろ。』」

 

『了解!!みんな、聞いてたね。気合いを入れなおすよ!!』

 

『了解。攻撃を開始します。』

 

 南の空に一瞬だけ光が(とも)る。十数秒後には、海面にいくつもの火球ができた。結構な数が命中したらしい。

 

「『よくやった“ジュピター”素晴らしい戦果だ。』」

 

『ありがとうございます。補給後、再度出撃します。では一時帰還します。グッドラック。』

 

『その役目、我々が引き継ぎます。遅くなりました。築城基地第8航空団第6飛行隊、コールサイン“アーチャー”です。ASM-2の射程に敵艦隊群を捉えました。これより攻撃を開始します。』

 

「『“アーチャー”可能なら南に展開している敵艦隊群への攻撃を願う。』」

 

『了解。』

 

 そして、また火球ができる。いやはや、既存兵器もまだまだイケるな。“アーチャー”も補給のため基地に戻る。しばらくは、俺と川内率いる艦娘艦隊のみだ。予想通り、敵は北上(ほくじょう)速度を上げてきた。そうはさせん。

 

 今、佐世保基地からはCH-47JA“チヌーク”に搭乗した重巡を中心とした遊撃艦隊2艦隊と、海上は戦艦艦娘を中心とした通常艦隊、艦娘艦隊の混合打撃艦隊が南下中だ。ヘリボーン艦隊は、あと30分ほどか?打撃艦隊は足の遅い戦艦がいるから3~4時間後だろう。

 

 ふむ。折角の少数での迎撃戦だ。増援が来るまでに接近戦をしておこう。アサルトライフルをガーディアン・シールドに懸架し、ビーム・サーベルを構える。ヘルメットのライトとピンクの光線を(ほとばし)らせているビーム・サーベルのおかげで、深海棲艦どもの注意が俺に向く。それでは、行くとしようか。

 

 ブースターを最大出力で吹かしながら、敵を切り払っていく。装甲の厚い戦艦だろうが薄い駆逐艦だろうが、分け隔てなく簡単に溶断していく。敵の(まと)う雰囲気が変わってきた。それは“恐怖”と“焦り”だ。それもそうだろう。人間1人と1個艦娘艦隊に北上(ほくじょう)を阻止されているのだから。

 

 まあ、そんなことは関係ない。俺はただ沈めるだけだ。あー、しかし何体沈めたんだ。頭部カメラの記録映像を確認すればわかるんだろうけど。

 

「ミク。俺って何体ぐらい沈めた?」

 

「えーっと、戦艦が32、重巡が68、軽巡が56、駆逐が87ですねー。補給艦・輸送艦は後方の方に展開しているみたいですねー。センサーの範囲広げます?」

 

「いや、今のままでいい。川内たちは?」

 

「善戦してますよ。でも、流石(さすが)に疲労が見え始めているみたいですね。」

 

「よし、一度、川内たちと合流する。」

 

 そして、俺は一気に川内の近くまで跳ぶ。着水点にいた、戦艦タ級を串刺しにして沈める。

 

「いやあ、噂には聞いてたけど凄いね。1人で200体以上沈めるなんて。増援の必要あったのかな?今、向かっている艦娘()たちの活躍の場なくなっちゃうねぇ。」

 

「呑気に言っているが、結構被弾しているな。小破、いや中破程度か。」

 

「さすが戦う提督。よくわかるね。他の艦娘()たちも似たような状況だよ。あと、燃料と弾薬が心許(こころもと)ないかな。」

 

「なら、退け。命令だ。ここで、お前たちが沈んでは意味がない。」

 

「だけど、甑島に五島列島が近すぎる。ここは命に代えても・・・。」

 

 “パンッ”と川内の頬に平手打ちする。

 

「こんなところで、命を捨てるな。無駄にするな。大丈夫だ。敵は俺が止める。それに、ヘリボーンが来たみたいだ。ここから5km北の地点に反応を検知した。だから、今日はここまでだ。いいな。」

 

「了解。川内艦隊、整備と補給のため退きます。」

 

「よし、後退を援護するから背後は気にするな。さあ、行くんだ。」

 

「死なないでね。准将。」

 

「“第2次首都圏防衛海戦の英雄”を舐めるな。」

 

 そう言って、川内たちと別れる。俺は、敵に突っ込み、川内艦隊は敵から追撃を受けずに粛々と後退していく。ビーム・サーベルとガーディアン・シールドを構え直す。

 

「さあ、まだ終わりじゃねえぞ。深海棲艦ども。」

 

 深海棲艦にとっての悪夢は、まだ終わっていない。




見てくださりありがとうございました。


次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 出頭

 はい、俺は今、統合幕僚監部にいます。目の前には怒り心頭といった感じの幕僚長と呆れた顔の幕僚幹部。幕僚長が口を開く。

 

「呼び出された理由はわかっているな。」

 

「さて、何のことだか、小官にはわかりかねます。何せ、朝食後いきなりチヌークが来たと思ったら、今ここにいるという状況ですので。」

 

「1人で出撃するなと連絡入れたはずだ!!なぜ、また出撃した!!」

 

 ダンッと机を拳で叩きながら聞いてくる。

 

「国防のためです。日本国の領土と領海、人命を守るためです。」

 

「その命の中には貴官は含まれないのかね。」

 

「一度死んだ命です。惜しくはありません。」

 

「残される部下の気持ちを考えんのかね。」

 

「新しい司令長官なり提督が着任すれば落ち着くでしょう。彼女たちも軍人です。」

 

 俺の返答を聞いた幕僚長は「ふう」と息を吐き、椅子に体重を預けた。

 

「それで、今回の戦果は、戦艦が43、重巡が76、軽巡が78、駆逐が121、補給艦・輸送艦が152。それに、空母と軽空母が合わせて87か。また、随分と沈めたな。」

 

「今回は、夜間戦闘でしたからね。空母艦載機を警戒せずにすみましたから、意外と楽でした。しかし、敵の編成からは、明らかに橋頭保(きょうとうほ)の確保を目的とした艦隊群だったと小官は愚考(ぐこう)します。」

 

「そうだろうな。我々もそう考えていた。」

 

「小官としては、もう一度、このような艦隊群が現れると考えております。」

 

「ほう。聞こうじゃないか。」

 

「はい、四国方面あるいは近畿方面です。先日、室戸岬沖にて海上護衛部隊を救援した際に交戦した敵艦隊ですが、これは威力偵察のための艦隊だったのではと考えました。首都圏防衛海戦のときも今回の佐世保鎮守府防衛戦でも、深海棲艦は1個あるいは2個艦隊を事前に派遣しています。そして、そのどれもが逃げずに最後の1体が沈むまで戦っております。そして、必ずと言っていいほど、電波を飛ばしていたこともわかっています。よって、小官は四国方面、あるいは近畿方面に近いうちに大規模な深海棲艦の侵攻があると予想しております。」

 

「まて、なぜ敵が電波を出していたと知っている。情報部しか知らないはずだ。」

 

「小官には頼れる相棒がいますので。」

 

「“妖精さん”か・・・。」

 

「はい。名を付けまして“ミク”と呼んでおります。」

 

「“ミク”漢字で書くと“未来”か・・・。」

 

「はっ。本人にも気に入って(いただ)けました。」

 

「フムン。それでミクさんはどこにいるのかね?私は“視える”人間だが、見当たらないな。」

 

「“技術研究本部を見てくる”と言って、飛んでいきました。一応、通信機を携帯していますので、呼び戻しましょうか?」

 

「いや、いい。何か意味があるのだろう。好きにさせておきたまえ。さて、今日、貴官を呼び出したのは叱責(しっせき)のためだけではない。湊准将、少将に昇進だ。」

 

 そう言って幕僚長は少将の階級章をもち立ち上がり近づく。俺は敬礼し、少将の階級章

を受け取る。

 

「それと、艦娘を4人連れていけ。吹雪型駆逐艦の2番艦“白雪”と4番艦“深雪”。天龍型軽巡洋艦2番艦“龍田”。赤城型正規空母1番艦“赤城”だ。」

 

 そう言いながら、4人の詳細が書かれた資料を渡される。

 

「は?」

 

「“は?”ではない。この4人とも横須賀鎮守府にて召喚建造された。しかし、横須賀鎮守府の司令長官の長野大将をはじめ各提督は、すでに4人とも配属済みだ。今までは、既にその艦娘が配属されている提督のもとに同じ艦娘が重複して召喚建造されることは無かった。されるとしても艤装のみで、これは解体や近代化改修に・・・。提督課程を受けた貴官には“釈迦に説法”だったな。まぁ、今回、長野大将が召喚建造したら、この4人が顕現(けんげん)した。そして、口々に貴官のもとに配属してほしいと希望した。」

 

「面識はありませんが。私の名前を出したのですか?」

 

「いや、“新しく出来た柱島泊地の司令長官の指揮下に入る”と言ったそうだ。」

 

「それは、また奇怪な・・・。いや、もしかすると、顕現されたのは昨日ですか?」

 

「そうだが、どうした。」

 

「小官も昨日、4人の艦娘を召喚建造しました。軽巡“大淀”、工作艦“明石”、給糧艦“間宮”、“伊良湖”です。この4人はミクの力によって召喚建造しました。つまり、狙って顕現(けんげん)させたのです。しかし、純粋な戦闘艦は大淀のみでしたから、ミクが何らかの働きかけをしたのかもしれません。」

 

 そう言いきると、ふよふよとミクがやって来て俺の右肩に座った。幕僚長と“視える”お偉方の視線が俺の右肩に(そそ)がれる。

 

「よくわかりましたね。確かに私が“妖精ネットワーク”で、日本で最大規模の鎮守府、横須賀鎮守府の工廠妖精のみんなに頼みました。あの時の柱島泊地の戦力は海斗さんと霞少佐、大淀少佐のみでしたから、早急に戦力を整えようと思いまして。」

 

 Oh・・・。やってくれましたよ。この頼れる相棒は。この中でミクの声が“聞こえる”のは俺だけだ。ミクが言ったことをそのまま言うと、幕僚長をはじめ全員が頭を抱えた。




見てくださりありがとうございました。


次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 一服

 シンと静まり返った幕僚監部の中で、最初に口を開いたのは幕僚長だった。

 

「つまり、ミクさんは他の鎮守府にいる妖精にお願いという(てい)で、指示を出せるのかね?」

 

「はい、できますよ~。」

 

「できるそうです。」

 

「今後は控えるようにお願いしてほしい。それが難しいのなら貴官の許可を得るようにしてほしい。」

 

「いいですよ~。海斗さんの言う事なら聞きます。」

 

「小官の言う事なら聞くそうです。」

 

「そうか、ならばよかった・・・のか?まぁ、いい。取り敢えず話しは此処までだ。全員ご苦労だった。あぁ、湊少将はこのあと、私の執務室に来るように。」

 

 それを合図に室内にいる全員が起立して幕僚長に敬礼する。無論、俺も。お偉方が退室していくのを尻目に俺は、最後まで室内に残り幕僚長とともに退室し、執務室へ向かう。部屋へ入るなり、

 

「海斗君お疲れさま。」

 

真護(まもる)叔父さん。まだ、職務中ですよ。」

 

「甥との小休憩を咎める者などいないさ。茶でも入れよう。適当に腰掛けておいてくれ。」

 

 そう、言われ応接用のソファーに腰かける。ミクには専用のハンカチを敷いて金平糖を置く。すぐに真護叔父さんは3人分湯呑と急須を持って来た。そして対面に座る。

 

「ミクさんはどのくらい飲むかな?」

 

「少しでいいですよー。ありがとうございます。」と言い頭を下げる。

 

「少しでいいそうです。それとお礼を言っています。」

 

「うん、“視えて”いるからね。動きでわかるよ。しかし、さっき初めて容姿を見たけど、他の妖精さんとは違うよねぇ。他の妖精さんは艦娘の誰かしらと似ていたりするし、工廠とかで働いている妖精さんたちも、どこの鎮守府でも同じ格好だしねぇ。まあ、他の妖精さんに指示を出せるのだから特別な妖精さんなんだろうね。」

 

「ですね。俺も死の淵から生き返らせてもらいましたから。」

 

「全く、海斗君が一度死んで異形の姿になって甦ったという報告を受けたときは、兄さんと義姉さんになんて話せばいいかと思ったよ。」

 

「でも、人間離れした身体能力にはなりましたよ。オリンピックに出場できれば、メダルを取れるくらいにはなりましたね。」

 

「全くだ。ミョルニルアーマーだっけ?あれを装備すれば1人で敵を殲滅するなんて、それにビーム・ライフルにビーム・サーベル!!まさか、生きているうちに見られるとは思わなかったよ。」

 

「叔父さんのガンダムのDVDコレクション見まくってましたからねー。影響を受けるのは必然ですよ。」

 

「だったら、ガンダムの姿でもよかったじゃないか。なんでマスターチーフ?」

 

「いやぁ、人間にとってヒーローで敵にとっての悪魔ってマスターチーフしか思い浮かばなかったんですよ。」

 

「“連邦の白い悪魔”とか“踊る黒い死神”とかでもよかったじゃないか。」

 

「まあいいじゃないですか。強力な戦力となる駒が手に入ったんですから。」

 

「軍人思考だねぇ。」

 

「軍人ですから。」

 

 ハハハと2人で笑い、それが休憩の終わりの合図となった。どちらともなくソファーから立ち上がり、お互いに敬礼をし、

 

「さて、湊少将。先程も述べた通り、4人の艦娘と柱島泊地に帰還したまえ。」

 

「了解しました。」

 

「無理はするなよ。」

 

「それは、保証できませんな。」

 

「貴官は“英雄”だ。戦死してもらっては困る。」

 

「死にませんとも。」

 

「貴官の活躍を祈る。」

 

「ありがとうございます。では。」

 

 俺は、ミクを右肩に乗せ幕僚長執務室を後にした。さて、4人の艦娘を迎えに行こう。横須賀鎮守府かな?

 

「そうですよ~。」

 

「思考を読んだ!?」

 

「そんなわけないじゃないですか。雰囲気で判断しただけですよ。」

 

「そう・・・。それじゃあ、横須賀鎮守府に向かうかな。チヌークはまだいるかな~。」

 

「いなければ?」

 

「電車と歩きかタクシー。」

 

「少将の威厳もへったくれも無いですね。」

 

「28の若造に威厳を求めないでおくれ。」

 

 ミクとの会話を楽しみながら、ヘリポートに向かう。すると、朝に乗ってきたチヌークがいた。よかった。パイロットたちは、機体の点検をしていた。

 

「やあ、朝ぶりだね。横須賀鎮守府に行きたいんだが、頼めるかい?」

 

「准将、あっ、昇進されたんですね。おめでとうございます。少将閣下。幕僚長直々の命令で、本日は閣下の空飛ぶタクシーとして使ってください。それに横須賀鎮守府は元々の飛行予定に入っていましたから問題ありません。また、横須賀鎮守府では1機のチヌークと合流予定です。」

 

「ああ、それは、艦娘たちを乗せるためだね。」

 

「おお、艦娘さん方に会えるのですか。期待しても?」

 

「本人たちが嫌がらない範囲で声をかけるくらいだったらな。」

 

「ありがとうございます。」

 

 そう言って、敬礼をして彼は操縦席へ向かう。俺はその姿に苦笑しながら席に着いた。そうして、チヌークは横須賀鎮守府へ向かって飛び立った。




見てくださりありがとうございました。


次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 増員

 横須賀鎮守府に着くと、まずは横須賀鎮守府司令長官の長野大将へ挨拶に行った。案内役の中尉に先導してもらい執務室へ向かう。中尉が執務室の扉をノックし俺が来たことを告げると、入室の許可が出た。

 

「柱島泊地司令長官の湊少将であります。若輩者ですがよろしくお願いいたします。」

 

「横須賀鎮守府司令長官の長野大将だ。自ら前線に立つ“英雄”に会えて光栄だ。こちらこそよろしくお願いする。ところで、霞は元気かな?」

 

「はい、できたばかりの泊地ですので、助けてもらっています。」

 

「それなら、良かった。彼女は少々口が悪いところがあってね、ただ正論を言うものだから私の隷下の提督たちからは距離を置かれていたんだ。」

 

「霞の助言は的確ですからね。」

 

「ほう、階級なしの名前呼びを霞が許したか、それは重畳(ちょうじょう)。さて、本題といこう。本日、来てもらったのは他でもない、そこに座っている4人の艦娘をそちらの泊地の配属として、連れ帰ってもらいたい。」

 

「了解。統合幕僚監部で話しは聞いてきました。それと、私の妖精さんがご迷惑をおかけしました。」

 

「先ほど、幕僚長から話しは聞いた。(にわ)かには信じがたいが、目の前には実際に起こった結果の4人がいるのだからな。信じるとも。それと、迷惑とも思ってはいない。国防戦力が増えたのだ。良い結果に収まったと私は思っている。」

 

「はっ!!ありがとうございます。」

 

 帽子をとり、礼をする。その後、4人の艦娘に向き直る。4人ともすぐに起立し、敬礼をする。答礼し、

 

「私が諸君らの提督となる柱島泊地司令長官の湊少将だ。以後よろしく頼む。口調は公の場以外では普段通りで構わない。」

 

「航空母艦、赤城です。空母機動部隊を編成するなら、私にお任せくださいませ。」

 

「初めまして、龍田だよ。」

 

「白雪です。よろしくお願いします。」

 

「深雪だよ。よろしくな。」

 

 と簡単な自己紹介を受けながら1人1人と握手をする。その後は、長野大将に改めてお礼を言い、4人とともに執務室をあとにする。ヘリポートに向かって歩きながら、

 

「説明があったかもしれないが、君たちにはこれからヘリにて柱島泊地に向かってもらう。無論、俺も一緒だ。搭載する艤装の関係上。3人と1人に分かれてもらわないとならないのだが、どうする?」

 

「それなら、大型艦の私が提督とご一緒しましょう。」

 

「ふむ。ほかの3人は異存は?・・・無いようだな。それでは、すぐにでも出発しよう。なにせ、柱島泊地には、戦闘艦は霞と大淀しかいないからな。ああ、ちなみに、2人とも少佐だ。君たちと一緒だな。」

 

「ところで提督は私たちのことをどう思っているのかしら~。」

 

「どうとは?質問の意図が読めんが、俺は君たち艦娘のことを部下であり、頼れる戦友あるいは相棒だと思っている。」

 

「私たちは一度沈んだりした軍艦なのよ?兵器とは思わないのかしら~。」

 

「思わん。艦娘法で君たちの人権は保障されているし、何より、俺は君たちを兵器として見れん。見るとしても同じ軍人としてだな。」

 

「ず、ずいぶんキッパリと言うのね。正直、化け物とか言われると思っていたわ。」

 

「俺も一度、死んだ身だ。1人で深海棲艦を3桁以上沈める俺の方がよっぽど化け物じみていると思うがね。」

 

 俺の発言に目を丸くして驚く4人。そんなんで驚かれても困るのだが。さて、着きましたるはヘリポート。すでに燃料の補給をすませて、離陸準備をしている2機のチヌーク。横須賀鎮守府で合流したチヌーク、コールサイン“キャリアー18”には龍田、白雪、深雪の3人が艤装とともに乗り込んだ。俺と赤城は、朝からずっと面倒を見てもらっているチヌーク、コールサイン“キャリアー07”に搭乗する。機長の上田少佐は赤城と会えてテンションがもの凄く上がっていた。頼むから、安全に飛行してくれよ。

 

 席に着き、ベルトを締めると、赤城が隣に座ってベルトを締めた。それを確認したロードマスターの安納(あのう)中尉が上田少佐に合図を送ると、ローターの回転数が上がり、キャリアー07から順に離陸していく。ある程度の高度に到達し、機体が安定するとベルトを外す許可が出た。赤城は早速バブルキャノピーから機外の様子を目を輝かせて見ている。

 

 俺はそんな彼女を横目にミョルニルアーマーの側まで行き、ミクを起こす。横須賀鎮守府ではずっと寝ていたからなぁ。

 

「どうしました海斗さん?」

 

「ミョルニルアーマーを装着したい。イヤ~な予感がする。」

 

「深海棲艦ですか?」

 

「さあな。わからん。だが、何となく装着していた方がいいような気がしてならないんだ。」

 

「わかりました。それでは、装着を始めましょう。」

 

「おう、お願いする。」

 

 俺がミョルニルアーマーを装着し始めると、機内の搭乗員も気づいたようで何事かと聞いてくる。俺は、取り合えず「勘だ。」とだけ答えて、装着を続ける。やはり、ちゃんとした設備が無いと時間がかかる。やっとヘルメットまで被り終わったときに、俺の予感は的中した。上田少佐が大声で告げる。

 

「閣下。和歌山沖に深海棲艦の大艦隊が現れたそうです。」




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 出撃

 上田少佐の告げた内容に機内の空気が張り詰める。ほう、流石の一航戦。赤城は取り乱すことなく自分の艤装の確認を始めた。コックピットに向かうと上田少佐から声をかけてきた。

 

「勘が当たりましたね。閣下。」

 

「当たってほしくは無かったがね。通信は何処からだい?」

 

「横須賀鎮守府です。現在、当機は浜松上空を通過中です。」

 

「了解した。『横須賀鎮守府応答せよ。こちら柱島泊地司令長官の湊少将。』」

 

『こちら、横須賀鎮守府大野中佐です。第2潜水隊群第4潜水隊SS-505“ずいりゅう”が接敵し、報告しました。』

 

「『“ずいりゅう”はどうした?』」

 

『攻撃後は潜航して退避するという通信を最後に現在、通信不能です。』

 

「まあ、潜水艦だからな。潜航したら通信できなくなるわな。『現在、こちらは浜松上空を通過中。空中出撃し、敵艦隊に攻撃を開始する。以上。』」

 

『了解。当鎮守府と呉鎮守府でも艦娘艦隊、通常艦隊の進発を進めております。すでに、ヘリボーン艦隊は離陸済みです。到着まで持ちこたえてください。幸運を。』

 

「『ありがとう。』上田少佐。俺は此処から出撃する。」

 

「了解。安納中尉、後部ハッチを開けろ。湊少将が出撃する。『キャリアー18。こちらキャリアー07。湊少将が当機より出撃する。接触に気を付けろ。』」

 

 後部ハッチが開き、キャリアー18が進路を変更するのが見える。

 

『キャリアー18、了解。』

 

「少将!!大丈夫ですよ!!ご武運を!!」

 

「ありがとう。少佐。赤城少佐。君たちについては追って命令を伝える。それまでは大人しく柱島泊地まで向かうこと。いいな。」

 

 赤城の肩に手をおいてしっかりと伝える。

 

「はい、わかりました。」

 

「よし!!安納中尉行ってくる。」

 

「戦果を期待します。ご武運を。」

 

 安納中尉とグータッチをして、

 

「では、出るぞ。行くぞ、ミク。」

 

「りょーかいです。」

 

 後部ハッチから飛び降りる。十分チヌークから距離を取ったら、ブースターを吹かしチヌークを追い越して一路深海棲艦の艦隊群へ向かう。武装はいつも通りといえばいいのだろうか、右手にMA5D アサルトライフル、左手にガーディアン・シールド、背中にM45D タクティカルショットガン、腰はロング・レンジ・ビーム・ライフル。あとは、M6H ハンドガンにビーム・サーベルだ。

 

 さてさて、いつも通りにアサルトライフルからロング・レンジ・ビーム・ライフルに持ち替える。先手必勝ってね。会敵するまで柱島泊地に通信を入れる。すぐに、

 

『こちら柱島泊地坂本大尉です。』

 

 霞でも大淀少佐でもなく坂本大尉が出た。

 

「『坂本大尉。湊少将だ。なぜ君が?霞少佐や大淀少佐はどうした。』」

 

『はっ、お2人とも赤電話が鳴りましたので、工廠にて艤装をつけ出撃準備中です。』

 

「『了解。それなら、2人に直接連絡しよう。ありがとう。大尉。』」

 

 一旦、通信を切り、周波数を合わせ直し霞を呼び出す。

 

「『俺だ。湊だ。現在、帰還中のチヌークから空中出撃し、敵艦隊へ接近中。そちらはどうだ?』」

 

『こっちは今、私の艤装がつけ終わったところよ。緊急出撃は初めてだから大淀少佐は少し手間取っているわね。今回の作戦が終われば緊急出撃の訓練した方がいいかもね。で、何か命令かしら?』

 

「『現在、2機のチヌークが4人の艦娘を乗せて柱島泊地へ向かっている。この4人は、吹雪型駆逐艦の2番艦“白雪”と4番艦“深雪”。天龍型軽巡洋艦2番艦“龍田”。赤城型正規空母1番艦“赤城”だ。彼女らと作戦海域へ行く途中で合流してほしい。彼女たちにはヘリボーンしてもらう。』」

 

『搭乗員割りは?』

 

「『白雪、深雪、龍田がコールサイン“キャリアー18”。赤城がコールサイン“キャリアー07”に分乗している。』」

 

『それなら、私と大淀少佐がキャリアー07に作戦海域に行く途中でピックアップしてもらって、作戦海域の近くまでみんなでヘリボーンした方が良くないかしら?』

 

「『確かに、そうだな。確認しよう。』『こちら湊少将。キャリアー07、柱島泊地に行く途中の海域で霞少佐と大淀少佐をピックアップし、その後ヘリボーンは可能か?』」

 

『こちらキャリアー07。可能です閣下。』

 

「『それなら、よろしく頼む。』『霞、湊だ。キャリアー07の了承がとれた。以降はキャリアー07と連絡を密にするように。それと、ヘリボーン艦隊の旗艦は霞が(つと)めろ。君が艦娘として積んだ戦闘経験を生かせ。』」

 

『了解しました。霞少佐、旗艦の任につきます。』

 

「『武運を。以上だ。』」

 

『少将こそ、武運を祈ります。』

 

 霞との通信を終え、ロング・レンジ・ビーム・ライフルを構え直す。

 

「さて、ミク。そろそろ、深海棲艦がセンサーに引っかかってもいいんじゃないかな?」

 

「ですねー。あ、エコーがありました。精度は落ちますが、もうちょっと範囲を広げます。・・・うわぁ、凄い数ですねぇ。ディスプレイに表示します。」

 

「うおっ、凄いな。この数は。隙間が無いじゃないか。でも、この距離ならビーム・ライフルで狙えるか。」

 

「大気での減衰を考えても、最大出力で撃てば戦艦級でも沈めますよ。」

 

 ロング・レンジ・ビーム・ライフルを構え、センサーと連動させながら照準を合わせる。

 

「当たれ!!」

 

 ビームが大気を切り裂いて、深海棲艦群に向かう。そして、閃光。直後に爆発音。開戦の合図は上手くいったようだ。俺は、ヘルメットのなかで(わら)った。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 鬼神誕生

ロイ1世様、誤字報告ありがとうございます。


 俺の攻撃をくらった深海棲艦群は空母艦載機を繰り出してきた。それをアサルトライフルで撃ち落としながら接近をする。また、深海棲艦は対空射撃もしてくる。しかし、艦載機の放つ豆鉄砲と対空射撃はすべてエネルギーシールドが弾いてくれる。ガーディアン・シールドを構えるまでもない。

 

 アサルトライフルの弾倉はミクがせっせと替えてくれた。おかげで、絶え間なく撃つことができた。しかし、自分の身体よりも大きい弾倉を軽々と交換できるのは、やはり“妖精さん”の力だよなぁ。と思わずにはいられなかった。

 

 深海棲艦群の防空網を突破し、進路を塞ぐように着水する。着水と同時に砲弾が飛んできたが、ガーディアン・シールドで防ぐ。衝撃は来るが、貫通もしないし、ヒビすら入らない。そらそうだ。宇宙世紀の装甲技術で作られたモノなんだから。砲撃が一段落すると俺の番だ。

 

 前衛の駆逐艦と軽巡を中心とした水雷戦隊群をアサルトライフルで沈めていく。時折、重巡がいたが、それはガーディアン・シールドで押し潰した。ビーム・サーベルを抜くまでもない。敵の艦載機は、俺と味方の距離が近いせいで攻撃を躊躇っている。時たま、急降下爆撃で投弾してくるのがいるが、その時は、手近な駆逐艦をむんずと掴み、盾代わりにしている。一石二鳥だ。

 

『全軍へ、こちら第601飛行隊第2飛行班コールサイン“アスター02”これより、航空管制を行う。』

 

「『柱島泊地司令長官の湊少将だ。現在、戦闘海域にて展開しているのは俺だけだ。好きなだけASM-2とハープーンを撃ってくれ。』」

 

『了解しました。それと閣下、コールサインを。』

 

「コールサインか考えて無かったな。マスターチーフと同じシエラ117じゃいかんな。素直にシエラ01にしとくか。どうかなミク?」

 

「いいんじゃないですかー。それと、アサルトライフルの弾倉残り15です。」

 

 ミクが弾倉を替えながら答えてくれる。残弾480発かあ。

 

「ありがとう。『アスター02、湊少将だ。コールサインは“シエラ01”だ。』」

 

『了解。シエラ01。ヘリボーン艦隊の到着まで45分です。』

 

『それだけあれば、十分に殲滅できるな。他の空軍機、海軍機の動きは報告しなくてよろしい。誤射をしてもいいから、とにかく敵の射程外から撃つように専念させろ。敵の航空隊も健在だ。』

 

『了解。ゴッドスピード(幸運を祈る)。』

 

 さてと、敵の前衛として展開していた水雷戦隊群はあらかた潰し終わった。生き残りは、後方に下がり空母群の護衛につくようだ。沈む順番が遅れるようになっただけだ。さてさて、お次は戦艦と重巡を中心とした打撃艦隊群だな。

 

 舌なめずりしながら、襲い掛かる。ガーディアン・シールドは肘のラックに固定し、自由になった左手にはハンドガンを握っている。まずは戦艦タ級を1体喰らう。顔面にアサルトライフルを弾倉1つ分叩き込む。顔面を吹き飛ばされたタ級は膝から崩れ落ち沈み始めた。俺は(わら)いながら次々と標的を定めては沈めていく。

 

「調子いいですねー。でも、その表情は怖いですよ?」

 

「おう、ミクにはヘルメット越しにも視えているのか?」

 

 話している間に1個艦隊を殲滅し終えた。次だ。ここから先には行かせん。

 

「はいー。ヘルメットの中に超小型カメラを仕込みましたのでそちらで。あとでみんなで見ようと思いまして。」

 

「気づかなかったな。しかし、こんな表情を見られると戦闘狂だと思われないかね。」

 

「まあ、いいんじゃないですか。海斗さんの1面ということで。」

 

「そんなもんかね。」

 

「そんなもんです。」

 

 ま、泊地に戻ればわかるだろう。おっ、センサーに飛翔体がASM-2かな。そう思った次の瞬間には着弾し、空母ヲ級が次々と吹き飛んでいた。負けてられないな。さらに殲滅速度を上げる。3次元の動きをする俺に深海棲艦どもは着いてこれないようだ。

 

『こちらアスター02。シエラ01応答を。』

 

「『シエラ01。』」

 

『シエラ01。現在戦闘中の敵艦隊群の後方からさらに敵の増援を確認。一度後退を。』

 

「『ネガティブ。このまま継戦する。』」

 

『閣下。貴方の戦果はこちらでも確認しています。敵の進撃速度は落ちています。どうか一度後退を。』

 

「『無理だな。どうやら、俺はこの戦闘を楽しんでいるようだ。ヘリボーン艦隊が到着するまでは後退せんよ。』」

 

 また、艦隊を複数沈める。アサルトライフルの残弾が0になったのでショットガンと持ち替える。

 

「『獲物はまだいる。喰らい尽くしてやるさ。』」

 

『了解。シエラ01。ヘリボーン艦隊到着まで38分です。しかし、容赦ない攻撃ですな。全てを焼き尽くすおつもりで?』

 

「『航空管制が暇になったかアスター02。』」

 

『ええ、先程攻撃をした飛行隊を再出撃のため帰還させましたから、しかし、1人で戦況をひっくり返すとは、バケモノですか?それとも、悪魔?』

 

『そんな生易しいものじゃないだろう。ああいうのはな“鬼神”というのだよ。』

 

 ハハ、流石だ真護叔父さんは良く分かっている。アスター02のその言葉には、そのセリフで返さないとな。

 

『アスター02。シエラ01と幕僚監部は直接やりとりをさせてもらう。』

 

『了解しました。幕僚長閣下。』

 

『シエラ01。命令だ。ヘリボーン艦隊が到着するまで、何があっても敵を北上させるな。喰らい尽くせ。以上だ。』

 

「『了解しました。幕僚長閣下。』」

 

 俺はヘルメットの中で笑みを深める。獲物はまだ大量にいる。さらに増援も北上中。守り抜いても英雄。戦死しても英雄。最高じゃあないか。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 殲滅

 明日から新年度ですね。仕事がクッソ忙しくなると思いますので、定期的な更新ができなくなるかもしれません。ご了承ください。


 さあさあ、存分に殺し合おうじゃないか。深海棲艦の諸君。おっと、リ級よ、そんなところで棒立ちしているとハンドガンの餌食になるぞ。ほら、頭が吹き飛んだ。ネ級も何を驚いている?懐ががら空きだ。ほら、簡単にショットガンの射程内だ。上半身が木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 

 やっと、深海棲艦の艦載機群も覚悟決めたようだ。相打ち覚悟で攻撃してくる。でも、もう遅い。深海棲艦群の中に潜り込めば、ガーディアン・シールドが不要になるほどの生きた盾がいる。それらを利用して、空の攻撃から逃れる。

 

 そんな感じで中衛を殲滅していると、ショットガンの弾が切れた。残りの射撃武器はハンドガンとロング・レンジ・ビーム・ライフル。ふむ、十分だ。

 

「ミク、潜水艦の反応は?」

 

「んー、今のところはありませんね。泊地に戻ったら曳航式のソナーでも作ります?」

 

「そりゃあいい考えだ。生きていればな。」

 

「生き残れますよ。センサー見てください。」

 

「ん、これは、ヘリボーン艦隊か?随分と早いご到着になりそうだな。」

 

「そういうことです。深海棲艦の増援が着く頃には合流できます。」

 

「なら。艦隊の負担をもう少し減らしてやらんとな。」

 

 ミクと雑談しながら、中衛の深海棲艦群を(ほふ)っていく。綺麗に隊列を作っている艦隊には貫通力のあるビーム・ライフルを、散らばっている敵にはハンドガンをお見舞いしていく。そして、遂に、

 

「ハンドガン、弾切れです。カンバンですよ。海斗さん。」

 

「おう、了解。んじゃ、ビーム・サーベルの出番だな。」

 

 ビーム・ライフルを連射しながら、ビーム・サーベルを抜き放つ。そう、このロング・レンジ・ビーム・ライフルは連射できるんだよ。『逆襲のシャア』のνガンダムのビーム・ライフルみたいに。ミクに聞いたら、「ビーム・マシンガン並みに連射もできて、ハイ・メガ・キャノン並みに最大出力でも撃てるようにしときました。」ということらしい。いやあ、ロマンだよねー。ちなみにビーム・サーベルもハイパー・ビーム・サーベル並みの出力まで上げても問題ないらしい。

 

 というわけで、中衛を殲滅して後衛の空母機動艦隊群と戦艦打撃群、それに輸送艦・補給艦群の始末に取り掛かりますよー。まずは、敵艦載機の舞う空にロング・レンジ・ビーム・ライフルを最大出力で薙ぎ払うように撃ち、敵艦載機群を消滅させていく。ビーム・ライフルをチャージ中はビーム・サーベルの二刀流で敵深海棲艦群を切り裂いていく。戦艦の厚い装甲もビームの前にはアイスクリームのように溶断されていく。

 

 そんな感じで、深海棲艦を駆逐していると、

 

『こちらアスター02。シエラ01応答を。』

 

「『シエラ01だ。どうした。』」

 

『ヘリボーン艦隊の射程内に入りました。退避を。』

 

「『ネガティブ。俺ごと撃つように。命令だ。』」

 

『・・・了解しました。』

 

 数十秒後、後方から飛んできた砲弾が深海棲艦群に着弾するのを確認した。

 

「この威力、重巡がいるな。楽になりそうだ。『こちらシエラ01。アスター02、ヘリボーン艦隊は現在交戦中の深海棲艦群ではなく、その後方の第二波に向けて欲しい。可能か?』」

 

『アスター02。了解しました。』

 

「『こちらシエラ01。幕僚長閣下、深海棲艦の侵攻艦隊第一波は小官のみで防ぎきれます。残りは、戦艦と空母が数体に輸送艦・補給艦のみです。』」

 

『わかった。他のヘリボーン艦隊は第二波に向けるように指令を出す。以上か?』

 

「『以上です。』」

 

『よろしい。取りこぼしが無いようにな。』

 

「『了解。』ミク、聞いた通りだ。残りの敵を殲滅する。」

 

「わかりましたー。でも、通信中に空母も戦艦も沈めちゃいましたから、輸送艦・補給艦のワ級のみですねー。」

 

「それでも、1体でも上陸させるわけにはいかん。」

 

「ですねー。あ、後方では深海棲艦第二波への砲撃戦が始まっているようですよ。」

 

「それは重畳(ちょうじょう)。そんじゃ、サクッと()るか。」

 

 というわけで、有効な反撃手段を持たないワ級は逃げまわるのみで、俺に捕捉され次第、沈められていった。ようやく最後の1体を沈めると、一気に周囲が静かになった。遠くからは砲声が聞こえる。それに交じってジェット機の排気音も。みんな、深海棲艦第二波にかかりきりだ。

 

「ミク、今のところの俺の戦果は?」

 

「えーっとですね。戦艦102体。空母・軽母143体、重巡176体、軽巡・雷巡236体、駆逐427体、輸送艦・補給艦378体ですねー。」

 

「はん、バケモンだな?」

 

「幕僚長が言っていたように“鬼神”でしょう?」

 

「そうだな。そうだった。さて、『こちらシエラ01。アスター02、深海棲艦第一波の殲滅を終了した。戦果は、戦艦102体。空母・軽母143体、重巡176体、軽巡・雷巡236体、駆逐427体、輸送艦・補給艦378体。以上だ。』」

 

『アスター02、了解。あー、幕僚長閣下より、通信です。中継します。』

 

『やってくれたな湊少将。いや、これだけの戦果を挙げたのだ。昇進させんとな。さて、貴官の活躍が陛下のお耳に入った。覚悟しておけ。以上だ。』

 

「『覚悟とは何ですか!?幕僚長閣下!?』畜生、切りやがった。実家に帰ったら、叔父さんの作ったガンプラを俺色に染めてやる。」

 

「まあまあ、落ち着いて。あ、これは・・・。」

 

「どうした?ミク・・・。って、うお、海が光っている。」

 

「・・・新しい魂と心が宿っていくのがわかります。艦娘が誕生します。海に還ったモノ達が海から還ってきます。」




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 ドロップ艦娘

 6つの金色の光の(すじ)が海面から天高く昇っている。6つ!?

 

「あー、ミクさんや。もしかすると6人の艦娘が生まれてくるということなのかな?」

 

「ええ、そうです。楽しみですね。」

 

 楽しみって、というかいきなり6人も増えるのか・・・。やっていけるのか俺?今の艦隊さえまともに指揮を執っていないんだぞ。そう思っている間に金色の光が消えていく。そこには、確かに6人の艦娘がいた。ふむ、資料通りだと、加賀型正規空母1番艦“加賀”、金剛型高速戦艦1番艦“金剛”、青葉型重巡洋艦1番艦“青葉”、天龍型軽巡洋艦1番艦“天龍”、吹雪型駆逐艦1番艦“吹雪”、朝潮型駆逐艦3番艦“満潮”。うん、これで、1個艦隊を十分に組める戦力だ。まあ、兎に角、挨拶だ。ヘルメットを外し、

 

「初めまして諸君!!私は柱島泊地司令長官の湊 海斗少将だ。諸君らは今後、別命が無い限り私の指揮下にて戦列に加わってもらう!!よろしく頼む!!」

 

 一斉に敬礼をしてくる。俺も1人1人の目を見ながら答礼する。答礼が終わると、すぐにヘルメットを被り、

 

「諸君らの自己紹介はまた後でだ。早速で悪いが戦闘に参加してもらう。異議のあるものは?無いか?ならばよろしい。『霞、あと何分で合流できそうか?』」

 

『あと、10分よ。』

 

「『了解。現在、新たに艦娘6人が指揮下に入った。いわゆるドロップ艦だ。』」

 

『・・・っ!!了解。船速を上げるわ。修正して7分後ね。』

 

「『了解。』『こちらシエラ01。アスター02、応答を。』」

 

『アスター02。』

 

「『ドロップ艦が6人現れた。柱島泊地艦隊との合流をもって進発するがよろしいか。』」

 

『了解しました。それでは、シエラ01のタイミングで進発をお願いします。』

 

「『了解。』さて、諸君、戦闘準備をするように。艤装に問題は無いか?気持ちはどうだ?落ち着いているか?・・・ふむ、問題ないようだな。」

 

「司令官!!」

 

「おう!!霞少佐か、よく来た。すまんな。急に旗艦を(つと)めさせて。」

 

「問題ないわよ。って満潮姉さん!?ドロップ艦の1人って満潮姉さんだったのね。」

 

「あら、霞じゃない。また、一緒に戦えるのは嬉しいわね。それはそうと、司令官と随分と仲が良さそうね。」

 

「司令官が提督になってからずっと一緒だからよ。」

 

「はいはい、お喋りはそこまでだ。霞少佐、君には今のまま艦隊を率いて欲しい。」

 

「了解。」

 

「加賀、金剛、青葉、天龍、吹雪、満潮は俺が直接指揮を執る。いいな。」

 

「「「「「「了解 (デース)。」」」」」」

 

「よろしい。これより私の率いる艦隊は柱島泊地第1艦隊、霞少佐の率いる艦隊はこれより柱島泊地第2艦隊とする。第2艦隊はすぐに進発。深海棲艦群第2波と戦闘中の味方への援護だ。霞以外はその体での初陣だ。無理はするな。援護に徹しろ。では、武運を祈る。」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

 旗艦の霞が率いる第2艦隊が進発する。俺はその間に、第1艦隊の陣形を考える。旗艦は金剛で、加賀を中心にした輪形陣を組むように指示を出す。普通の船と違って、人間が陸上で動くようにサッと陣形を(ととの)えられるのも艦娘の強みだよな。

 

「『こちらシエラ01。アスター02、応答を。』」

 

『アスター02。』

 

「『柱島泊地第2艦隊が深海棲艦群第2波に対し進発した。6人中5人が初陣だ。管制を頼む。』」

 

『了解。他艦隊の援護に入れるように配置します。柱島泊地第1艦隊はどうしますか?』

 

「『第1艦隊は私が直接の指揮を執る。』」

 

『了解。ご武運を。』

 

「『ありがとう。』さて、第1艦隊、進発するぞ。」

 

 そこからは、何といえばいいのか消化試合のような戦闘だった。第1波が文字通り1体残らず全滅したので戦意が落ちていたのだ。俺が驚いたのは、深海棲艦にも戦意というモノがあることだった。まあ、でも艦娘の対極に位置する存在ならそうなのかもな。第1艦隊のみんなはよく動いてくれた。俺の支援なしで、敵の戦艦打撃艦隊を殲滅したときは正直、驚いた。

 

「素晴らしいな。諸君、今日、顕現したばかりとは思えない。」

 

「いえ、あの程度の敵、鎧袖一触です。」

 

「そうデース。私たちの力を舐め無いで欲しいデース。」

 

「それでも、だいぶ消耗したな。後方に下がれ。」

 

「な、なんで私たちが下がらないといけないのよ!?」

 

「満潮少佐、自分の姿をよく見ろ。中破まではいっていないが小破はいっているだろう?」

 

「ぐっ、たしかにそうね・・・。」

 

「なら下がれ。いいな。」

 

「でも、目の前に展開している敵艦隊を潰さないと下がれないぜ。どうすんだ?」

 

「そこは、私が援護する。」

 

「あのう、でしたら司令官の戦う姿を記録したいのですが・・・。」

 

「ふむ、ミク何か持っているか?」

 

「コンパクトデジカメなら。」

 

「持ってんのか・・・。青葉少佐、これを使いなさい。使い方はわかるか?」

 

「あ、はい。妖精さん達が教えてくれるみたいで大丈夫です。」

 

「よし、では私の発砲と同時に後退だ。」

 

「「「「「「了解 (デース)。」」」」」」

 

 ロング・レンジ・ビーム・ライフルを最大出力で撃ち、薙ぎ払う。射線上にいた深海棲艦たちはビームに焼かれ消滅していく。それを唖然とした表情で見ている第1艦隊の面々。後退しろって言ったよね。俺。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 勝利そして・・・

「金剛!!後退しろと言ったはずだ!!」

 

「So、Sorryね。提督。つい・・・。」

 

「いいから後退だ。追撃戦が・・・」

 

『こちらアスター02。戦闘海域に展開中の全艦隊へ。深海棲艦群が後退を始めた。追撃せよ。1体たりとも逃すな。』

 

「チッ・・・。言わんこっちゃない。いいか、柱島泊地第1艦隊、全員、俺から離れるな!!いいな!!」

 

「「「「「「了解 (デース)」」」」」」

 

 アスター02に指示された通りに追撃戦に移行する。俺は、最大出力で撃ったロング・レンジ・ビーム・ライフルを腰に懸架し、チャージしながら継戦する。ガーディアン・シールドとビーム・サーベルで、第1艦隊を守りながら25ノットほどで前進する。金剛の砲撃と加賀の航空攻撃を中心になるべく敵の射程外から攻撃をする。

 

 敵にとっては嫌な攻撃だろう。結構な反撃が飛んでくる。それを、ビーム・サーベルで切り落とし、ガーディアン・シールドで防ぐ。クソッ、防衛対象がいると高速戦闘ができん。そのとき、ビーム・ライフルのチャージが完了した音が鳴った。すぐにビーム・ライフルを構え、

 

「ミク、正面にいるのは深海棲艦だけだな!?」

 

「少し待ってくださいー。はい、そうですね。10時の方向から2時の方向にかけては深海棲艦のみですねー。」

 

「フルチャージで撃つ。サポート頼む。」

 

「了解ですー。」

 

「金剛、しばらくサポートができなくなる。自分たちで(さば)いてくれ!!逃げてもいい!!」

 

「OK!!みなさん頑張りまショー!!」

 

 第1艦隊の士気が上がる。これなら大丈夫か?兎に角、俺は目の前に広がる深海棲艦群に集中だ。味方を巻き込まないように位置取りを調整しながらビーム・ライフルを構える。そして、引き金を絞る。今までで1番デカいビームの奔流(ほんりゅう)が深海棲艦群を呑み込んでいく。そのまま、2時の方向、右側に徐々にずらしていく。次々と火球が生まれては消えていく。

 

 ビームの照射が終わった海面は瞬間的に煮沸し、泡立ち、水蒸気が立ち込めていた。ビーム・ライフルも冷却とチャージのため、腰に懸架しなおす。そして、またビーム・サーベルを構える。

 

『こちらアスター02。シエラ01応答を。』

 

「『シエラ01。』」

 

『シエラ01。艦隊を率いて後退をしてください。深海棲艦群は先程の攻撃ですでに壊滅しました。残党狩りは高練度の艦隊で行います。』

 

「『了解した。柱島泊地第1艦隊及び第2艦隊は後退をする。』『霞少佐。後退だ。』」

 

『了解。第2艦隊後退します。』

 

「よし、あとは、『キャリアー07。ピックアップ準備を頼む。』」

 

『キャリアー07。了解。』

 

 さて、これで後退準備は出来たかな。ああ、疲れた。そうだ、泊地に連絡をしないと。

 

『こちら柱島泊地。坂本大尉です。』

 

「『柱島泊地、湊少将だ。柱島泊地艦隊はこれより後退する。勝ったよ。』」

 

『おめでとうございます。』

 

「『ありがとう。間宮少佐か伊良湖少佐は近くにいるかな?』」

 

『食堂にいらっしゃるかと。』

 

「『なら、伝言を頼む。“6人艦娘がドロップした。その6人の歓迎会と今回の海戦の祝勝会を今晩開催したい。準備を頼む”以上だ。坂本大尉。憲兵中隊からも補助を出してもらえないだろうか?』」

 

『了解しました。部下に命じます。』

 

「『では、頼む。以上だ。』」

 

 よし、これで出すべき指令は出したかな。俺も後退するか・・・。

 

警報(アラート)!!警報(アラート)!!こちらアスター02、和歌山沖に展開する全艦隊、全部隊へ!!撤退中の深海棲艦群より、高速で移動する物体が北上中!!数は・・・1!!新型の深海棲艦だ!!すでに追撃艦隊に多数の損害が出ている!!高練度の艦娘艦隊は迎撃せよ!!敵はボギー01とする。』

 

 げえ、大人しく退いてくれんか・・・。まあ、数は1ということだし、俺が退いても・・・駄目だろうなあ・・・。嫌な予感がビンビンする。

 

「ミク。」

 

「はいー。」

 

「死中に活を求めるぞ。」

 

「りょーかい。」

 

「すまんね。つきあわせて。同僚たちが()られるまえに()らんとな。」

 

「いいんですよー。海斗さんを甦らせて戦場に送り込んだのは私なんですからー。一蓮托生ですよー。」

 

「よし。金剛少佐は此処で輪形陣を維持しつつ、霞少佐の第2艦隊と合流し、後退。キャリアー07とキャリアー18に拾ってもらえ。『霞少佐も今のは聞こえたな?』」

 

「了解デース。」

 

『了解。』

 

「『こちらシエラ01。アスター02。応答を。』」

 

『アスター02です。どうしました。』

 

「『ボギー01を沈める。位置を指示しろ。それと、現在、迎撃に出ている艦娘艦隊は退かせろ。命令だ。』」

 

『了解しました。誘導を開始します。艦娘艦隊の後退は上に判断を仰ぎます。』

 

「『了解。頼んだ。』」

 

 さてさて、ボギー01はどんな敵かね。ビーム兵器が効けばいいが。まあ、今、考えていても仕方ない。アスター02の誘導指示に従い進むだけだ。俺はヘルメットの中で(わら)った。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 VSボギー01

鷺ノ宮様、誤字報告ありがとうございます。訂正いたしました。


 アスター02の誘導を受けながらボギー01に近づいていく。そして、アスター02からはボギー01の情報が入ってくる。

 

「『アスター02。つまりだ、ボギー01は、魚雷を撃ち、艦載機を搭載し、戦艦と同等の装甲と主砲を持ち、速力は巡洋艦並みと。』」

 

『そのようです。シエラ01。』

 

「『なんだ、その欲張りセットは!?』」

 

『いえ、小官に言われましても・・・』

 

「『すまん。それで、艦娘艦隊の後退は?』」

 

『認められました。交戦しつつ撤退中です。』

 

「『よし、横やりを入れてやろう。』ミク、ボギー01はセンサーの範囲内には入っているな?」

 

「はいー。」

 

「それでは、ビビらせてやるか。」

 

 ロング・レンジ・ビーム・ライフルを構え、センサーと照準を同調させ、通常出力で撃つ。爆発音はしない。

 

「外した!?いや、ビームを避けたのか!?」

 

「みたいですねー。」

 

「勘が鋭いのかね。」

 

「どうでしょうねー。案外、まぐれかもしれませんよー。まあ、戦うまではわからないですよー。」

 

「それも、そうか。センサーに反応が、向かってきているな。」

 

『こちらアスター02。シエラ01。ボギー01がそちらに進路を変更した。全艦隊の後退も滞りなく行えそうだ。』

 

「『こちらシエラ01。アスター02は全艦隊の後退を支援するように。こちらへの管制支援は必要ない。』」

 

『了解。幕僚監部と技術研究本部から指令があります。“ボギー01の遺体を回収すること”以上です。』

 

「『ふざけているな。ようは綺麗に殺せということだ。了解した。と伝えてくれ。・・・っと、ボギー01の射程内に入ったようだ。砲撃されている。これより交戦を開始する。』」

 

『ゴッドスピード(幸運を祈ります。)』

 

「『ありがとう。』さて、ミクよ、()りますか。」

 

「ええ、()っちゃいましょー。」

 

 幕僚監部と技術研究本部のリクエストに応えるため、武器をロング・レンジ・ビーム・ライフルからビーム・サーベルに持ち替える。綺麗な状態と云えば、急所を突いて殺すしかないからなぁ。加速してボギー01を視界にとらえる。

 

 ふむ、容姿は人間にだいぶ近いが、デカい尻尾が生えておりその先端に主砲などの艤装がついている。他の艤装は、胸の部分をはだけさせたレインコートみたいなモノを頭まで身に付けている。胸は残念ながらビキニを付けている。それで、あれは背嚢か?ふむ、よくわからん。そんな感じで観察していると、

 

「海斗さん、上ですー。」

 

 ミクの声に反応し、空を見ると深海艦載機群がいた。センサーにも反応が増えていく。おいおい、マジで艦載機積んでんのかよ。ガーディアン・シールドを構えながら、ロング・レンジ・ビーム・ライフルに持ち替える。モードはマシンガンモードだ。ビームの弾幕を空に張る。100機くらいはいるんじゃないだろうか。はっきり言ってウザったい。

 

 うをっ!?こっちが浮いていると気付いて魚雷を投げてきやがった。しかも、装備している対空砲で外れた魚雷を撃ち抜き、空中で爆発させて地味なダメージを与えてきやがる。クソが!!ミョルニルアーマーが(すす)だらけじゃねえか!!

 

 しかも、あの表情、まるで(わら)っているかのような表情、ムカつく。チャッチャッと艦載機群を片づけて、殴ってやる。さらにビーム・ライフルを連射する。命中さえすれば簡単に墜ちていく。3分もせずに墜とし終わった。

 

 ふむ、意外な表情をしているが、油断大敵だぞ。隙だらけだ。というわけで、簡単に懐に入れた。加減した掌底を顎にくらわせる。のけ反ったところに、人間なら心臓のある場所へビーム・サーベルを差し込む。すると、口から血を吐き、目から生気が失われていく。勝った。そう思い、ビーム・サーベルを腰に懸架する。と、同時にガーディアン・シールドに衝撃が走る。

 

 なんだと思い見てみると、尻尾が主砲を撃って来た。それを回避し、一旦距離を置く。尻尾と人間体の部分は脳の指令系統が別か!?ならば、もう1度、ビーム・サーベルで止めを刺すだけだ。ビーム・サーベルを抜きビームを展開する。尻尾の砲撃をかわしながら接近し、おそらく脳があるであろう所にビーム・サーベルを突き立てる。そして、反撃に備え、後方に跳ぶ。着水すると同時に、尻尾が崩れ落ちた。

 

 よし、今度こそ勝った。おっと、沈み始めているな。早く回収しないといけないな。持ち方は、ファイヤーマンズキャリーでいいな。このまま東京まで運んでいこう。ヘリよりもその方が速い。

 

「『アスター02。こちらシエラ01。ボギー01を撃破。遺体は東京まで直接持っていく。場所の指定はあったか?』」

 

『確認します。・・・横須賀鎮守府に運搬するようにとのことです。そこからはヘリで輸送するとのことです。』

 

「『了解。あー、疲れたよ。』」

 

『お疲れさまでした。閣下。』

 

「『ありがとう。』ミクもありがとな。」

 

「いえいえー。しかし、尻尾が無ければ艦娘に似ていますよねー。」

 

「艦娘どころか普通の人間の女の子に見えるよ。全く、味方も女性なら敵も女性。嫌な戦争だ。」

 

「でも、終わらせないと島国の日本は干上がりますよー。」

 

「そこだよな、問題は。まあ、取り敢えずはこの遺体を横須賀鎮守府に引き渡して、さっさと柱島泊地に戻って、ドロップ艦娘たちの歓迎会と戦勝会をしないとな。」

 

「そうですねー。楽しみですー。」

 

 そんな感じでミクと雑談しながら一路、横須賀鎮守府を目指すのだった。

 

 ちなみに途中で追い越した艦娘艦隊からはギョッとした顔で見られた。失敬な。任務を忠実に遂行しただけなのに。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 検体搬送と召喚命令

「先ほどぶりだな。湊少将。それと、ご苦労様。貴官のおかげで損害が最小限に抑えられた。うちのヘリボーン艦隊もみんな無事に帰還中だ。」

 

 横須賀鎮守府敷地内に着地するなり、横須賀鎮守府司令長官の長野大将が自ら出迎えてくれた。背後には長野大将隷下の提督たちが“気を付け”の姿勢で待機している。

 

「どうも、長野大将閣下。このような格好ですので、敬礼が出来ないことをお許しください。」

 

「いや、気にしないでいいよ。しかし、コイツが新しい深海棲艦か。だいぶ、人に近いな。ふむ、艦載機と魚雷を積んでいるということだったが・・・。」

 

「ええ、艦載機は100機以上で、魚雷も普通に撃ってきましたし、投げつけてもきましたよ。また、尻尾の艤装の主砲は戦艦並みでした。速力は巡洋艦並み。要は高速戦艦ですな。装甲厚は、ビーム・サーベルで止めを刺したのでわかりませんでしたが、人の部分と尻尾の部分は別の系統で動いているようでした。」

 

「100機だと!?正規空母の艦娘よりも多いではないか!?それに、高速戦艦並みの速力。ううむ。恐ろしいな。遠距離偵察を行う際は重装備の艦隊を編成すべきか・・・。いや、すまんね。足を止めさせてしまって。遺体を搬送するヘリはヘリポートで待機中だ。案内は・・・。」

 

「あ、覚えているので大丈夫です。それでは、失礼いたします。」

 

「うむ、それではな。」

 

 長野大将と提督たちの敬礼に見送られ、ヘリポートへと向かう。ヘリポートに着くと、チヌークが2機と、UH-60JA“ブラックホーク”が2機。そして、レンジャー徽章をつけた陸軍の2分隊。それを率いる陸軍中佐が敬礼をしてきた。

 

「陸軍中央即応集団中央即応連隊第1中隊の神山中佐であります。新型深海棲艦の検体の輸送護衛の任につくよう命じられました。」

 

「このような格好で答礼ができず申し訳ない。海軍柱島泊地司令長官の湊少将だ。早速だが検体はどの機体へ運べばいいかな?」

 

「はい、あちらのチヌークへお願いします。また、少将閣下には幕僚監部への召喚命令が出ておりますので、もう片方のチヌークへお願いいたします。」

 

「了解、それでは、少し離れてくれ。・・・よっと、こんな感じでいいかな?尻尾があるからうつ伏せだが。」

 

「問題ありません。それでは、我々はこれで、失礼いたします。」

 

 敬礼をされたので答礼をする。すぐに彼らはそれぞれのブラックホークに搭乗し、1機のチヌークと2機のブラックホークは飛び立っていった。さて、俺も行きますか。残された1機のチヌークに乗り込み、

 

「大尉、よろしく頼む。」

 

「はい、閣下。」

 

 ふう、ようやく一息つける。ミョルニルアーマーは脱ぐのが面倒くさいから着たままで行ってやろう。戦場帰りをすぐ呼びつけるとは、真護叔父さんも人使いが荒い。いや、他の幹部か、現場を知らん“背広組”だろう。“背広組”だったら嫌みの1つでも言ってやるか。いや、口で勝てる気がせん。まぁ、防衛省につくまで休んでおこう。

 

「ミク、アーマーロックしてくれ、少し休む。」

 

「了解ですー。」

 

 そうして、束の間の休息を味わった。夢を見た。深海へと沈んでいく夢。バラバラになった俺の身体とともに。そして、海底に着くと同時に深海棲艦たちが群がって来て、俺の身体を貪り喰らう。やめろ、俺はまだ死なん。死んでたまるものか!!

 

「海斗さん!!」

 

 ハッと目が覚める。ミクによって起こされなければ、俺は夢の中で最後にどうなっていたのだろうか・・・。とりあえずは、

 

「着いたのか?」

 

「着陸アプローチに入ったみたいですよー。」

 

「わかった。アーマーロック解除。・・・よし。動くようになった。大尉、接地しなくてもよろしい。この高さなら、降下しても問題ない。ロードマスター、後部ハッチを(ひら)け。降りる。」

 

「了解。」

 

「送り届けてくれてありがとう。」

 

 その言葉と同時にヘリポートへ向けて飛び降りた。着地をすると、目を丸くしている“背広組”の連中がいた。チッ、やはりこいつらか、俺を呼んだのは。

 

「柱島泊地司令長官の湊少将だ。幕僚監部への召喚命令が出ていると横須賀鎮守府で連絡を受けた。このまま、幕僚監部へ出頭すればよろしいか?」

 

 フリーズしている“背広組”を押しのけ、“制服組”の海軍少佐が出てきた。

 

「ご案内いたします。どうぞ、こちらへ。」

 

 少佐の後をついて歩いていく。庁舎内に入ってからバタバタと“背広組”の連中が着いてきた。少佐は歩く速度を速めた。“背広組”とはどんどん距離が離れる。そして、幕僚監部についた。ついに“背広組”は追い付けなかった。フンッ!!安全なところでヌクヌクしているからだ。前線に放り込みたい衝動に駆られる。

 

「閣下。ヘルメットだけはお外しください。」

 

「おお、そうだな。少佐、ありがとう。」

 

「いえ、それでは、準備はよろしいですか?」

 

「ああ。大丈夫だ。」

 

 少佐は俺の返事を聞き、扉をノックする。

 

「湊少将をお連れしました。」

 

「どうぞ。」

 

 幕僚長閣下の声が聞こえる。少佐が扉を開けてくれる。室内に入る。さて、何を言われるのかね。




見てくださりありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 昇進その2

「湊少将、まずは深海棲艦群の殲滅による上陸阻止および新型深海棲艦の検体の確保、ご苦労だった。ああ、姿勢は楽にしてよろしい。ヘルメットとシールドは・・・。置いたら机が潰れるな。そのまま、保持しておいてくれたまえ。」

 

「幕僚長閣下のご理解が早くて助かります。」

 

「森原少佐も案内ご苦労様でした。ところで他の迎えに行った事務官たちはどうしたのかね?」

 

「はっ。湊少将閣下の降下に驚きまして、固まっていたので時間の無駄だと思いまして放っておきました。」

 

「ふむ。統括官と首席参事官は今後このような事が無いようにしていただきたい。」

 

「「わかりました。」」

 

「それでは、森原少佐は退室してもよろしい。」

 

「はっ。失礼いたします。」

 

 彼女は綺麗に敬礼をして退室していった。さて、何を言われるのかな。周囲のお偉方の表情からして悪いことではなさそうだ。

 

「さて、湊少将なにから話すかな。まずは、通信でも言った通り現時点をもって中将へ昇進だ。おめでとう。」

 

「閣下、それはないのでは?小官は自分の任務を全うしただけであります。」

 

「貴官が挙げた戦果はそれほどなのだ。大人しく昇進したまえ。さあ、新しい階級章を受け取りたまえ。」

 

「はっ。ありがとうございます。」

 

 中将の階級章を受け取る。すると、ミクが出てきてミョルニルアーマーに付けてある少将の階級章を外し、中将の真新しい階級章を付けてくれた。

 

「それと、陛下のお耳に貴官の活躍が入ってな。勲章を授けるべきとご意見を(おっしゃ)ったそうだ。旭日大綬章(きょくじつだいじゅしょう)だそうだ。式典は日程調整のうえ後日、伝えられる。」

 

「は?いや、いきなり大綬章は・・・。」

 

「貴官の気持ちもわからんではないが、戴いておくことだ。いいな。」

 

「了解しました。」

 

「よろしい。今回もよくやってくれた。今後は艦隊運営が本格化するだろうが、頑張ってもらいたい。何か質問はあるかね?無い?ならば、退室してよろしい。柱島泊地へ戻りたまえ。」

 

 敬礼をして退室をする。さて、柱島泊地へはどうやって帰るかな。ヘルメットを装着する。同時に、ディスプレイに柱島泊地への最短経路を表示する。ふむ、跳ぶほうが早いか。だが、人口密集地を横切るな。よし、海路に変えよう。

 

 防衛省のヘリポートから跳び、早速東京湾に着水してブースターを吹かし高速移動を開始する。大小さまざまな船でひしめき合っているが、その間を間隔を十分に開けて縫うように海上をホバー移動する。横須賀鎮守府に帰還する艦娘艦隊と通常艦隊ともすれ違った。お互いに敬礼をして通過した。通常艦隊は手空きの者達が帽振れをしてくれた。

 

 さて、もうそろそろ柱島泊地だ。通信を10分前には入れてあるから工廠にはスムーズに入れるだろう。ん?センサーに反応?この大きさは人だな。海上でこの反応ということは艦娘だろう。12人ぶんの反応がある。強化された視力で水平線を見やると霞を中心に柱島泊地の第1艦隊、第2艦隊の艦娘たちが立っていた。

 

 俺の姿を認め、会話ができる距離まで近づくと、金剛が「Burning Love!!」と言って手を広げ飛びついてきた。俺は金剛をそのまま抱きしめる。金剛のそれを合図にみんなが寄ってきた。最後に霞が寄って来て、

 

「おかえりなさい。無事に帰って来て何よりだわ。」

 

「ああ、みんなも無事そうで良かった。霞、ありがとうな。」

 

「フ、フン。お礼を言われる筋合いはないわ。私は自分の職責を果たしただけよ。」

 

「その当たり前のことをするのが中々に難しい。誇っていいぞ。」

 

「そ、そう?なら、素直に受け取らせてもらうわ。あら、昇進したのね。中将ねぇ。大将でも良かったんじゃないかしら?」

 

「それは、御免被る。仕事量と責任がこれ以上増えるのは嫌だからな。」

 

「ムー。テートクゥー。私たちのことを忘れてもらっては困りますヨー。」

 

 金剛が俺の腕の中でむくれながら言ってくる。他の艦娘もジト目になっている。

 

「君たちのことを忘れたわけではないよ。ただ、霞は初期艦娘として、秘書艦として俺を支えてくれているからね。どうしても頼ってしまうんだよ。」

 

「なら、これからは私たちを頼りなさい。」

 

「満潮姉さん・・・。」

 

「ああ、そうさせてもらおう。さ、工廠に艤装を置いて損傷している者は入渠してくること。それで、全員が揃ったら、食堂で歓迎会をしよう。」

 

 そう言いながら、みんなが艤装を外すのと一緒に俺もミョルニルアーマーを外す。すると、加賀がジッと俺を見ていた。

 

「どうした?加賀。」

 

「いえ、素敵な二枚目の提督で嬉しいわ。」

 

「お褒めの言葉、ありがとう。でも、彼女いない歴=年齢の28歳だから、気のせいだよ。」

 

「えー、テートクはカッコイイですヨ!!」

 

「はいはい、そんなことはいいから、早く入渠して傷を癒してきなさい。わかったね。」

 

「リョーカイ、デース。」

 

 俺は、ミョルニルアーマーを見ながらミクに呟いた。

 

「いい()たちだ。俺たちが守ってやらんとな・・・。」

 

「そうですねー。普通の人間と艦娘の関係と逆転しているようですけど、それだけの力がありますからねー。」

 

「ああ、誰も死なせん。そこでだ、ミク。ミョルニルアーマーの色を変更したい。」

 

「どのような感じで?」

 

「全身は黒色で、首とかの装甲の末端部分は金で縁取った深い赤色でお願いしたい。」

 

「目立ちますよ?」

 

「それで、いい。敵の攻撃は俺が引き受けるさ。」




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 歓迎会その2

 柱島泊地司令長官執務室に入ると坂本大尉がいたので声をかける。

 

「坂本大尉、留守をありがとう。もう、自分の職務に戻っていいよ。」

 

「はっ。あ、昇進されたのですねおめでとうございます。それでは、自分は業務に戻ります。」

 

「ありがとう。業務後はまた歓迎会だ。楽しんでくれ。」

 

「はい。では、失礼いたします。」

 

 坂本大尉は敬礼をして、退室していった。さて、1715まで書類作業を頑張りますか。おっと、その前に食堂に内線を、

 

『はい、食堂。伊良湖少佐です。』

 

「『執務室、湊中将だ。準備の方の進み具合はどうかな?』」

『はい、憲兵の方々も手伝ってくれていますので、1715までには終了します。』

 

「『よろしい。今回は10人も艦娘を迎えたから量が多くて大変だろうが、頼んだ。』」

 

『了解です。』

 

 受話器を置くと、ノックの音が響く、おそらく話しが終わるまで待っていてくれたのだろう。

 

「どうぞ。」

 

「失礼するわ。」

 

「ああ、霞か、どうかしたかい?」

 

「ん、書類仕事を手伝おうと思ってね。あと、満潮姉さんたちの泊地案内は大淀さんがしているわ。」

 

「そうか、ありがとう。まあ、1715までそれほど時間も無いし、簡単なものから済ませよう。」

 

「そうね。なら貴方は戦闘詳報を仕上げなさいな。昨日分もあるでしょう?他の書類は私がやっておくから。」

 

「そうだな。では、お言葉に甘えて。」

 

 そうして、黙々と書類仕事をこなしていく。気が付くと1715を知らせるチャイムが鳴っていた。うーんと背伸びをして肩をほぐす。すると、机にお茶が置かれた。ありがたくいただく。

 

「ありがとう。霞。」

 

「別にこのくらいはどうってことはないわよ。一応、あなたの確認が必要な書類以外は全部処理が終わったわ。また、明日でも目でも通しておいて。」

 

「ホント、助かるよ。さて、食堂に移動しようかね。ほかの艦娘(こ)らの案内はお願いできるかい?」

 

「ええ、任せなさい。湯呑みも置いときなさい。私が片しておくから。」

 

「それじゃ、任せた。あ、ミクも呼ばないとな。工廠に寄ってから食堂へ向かうよ。」

 

 そう言って執務室を後にする。工廠に着くとミョルニルアーマーの塗装変更は既に終わっていた。流石はミクと妖精さん達だ。

 

「おーい、ミク。歓迎会が始まるから食堂に行くぞ。明石少佐も早く移動するようにな。」

 

「了解です。提督、私も霞ちゃんと一緒で名前のみでいいですよ。」

 

「そうかい。なら、今後は明石と呼ばせてもらおうか。」

 

「はい。」笑顔を見せる明石。

 

「海斗さん。お待たせですー。」

 

「おう、ミク。ほんじゃ、食堂に行くか。」

 

 ミクを肩に乗せて食堂へ向かう。そういえば疑問に思っていたことがあったんだった。

 

「なあ、ミク。初めて会ったときと最近までは語尾を伸ばす喋り方じゃなかったよな。なんで語尾を伸ばすようになったんだ?」

 

「いえ、こちらが素ですよー。前は、まあ緊張感が必要かなーと思いまして、あのようにハキハキとした喋り方にしていたんですよー。」

 

「ほう、そうだったのか。」

 

「はいー。」

 

「っと、話していたら着いたな。さてさて、どんな感じかな。」

 

 食堂の中は準備万端といった感じで、今回もビュッフェ形式に大皿に料理が綺麗に盛り付けてあった。ひな壇の席も10人分ちゃんと用意されている。よしよし、不備はなさそうだ。眺めていると、厨房から間宮少佐が出てきた。

 

「やあ、間宮少佐。流石は給糧艦だ。素晴らしいね。」

 

「いえ、憲兵の方々に伊良湖ちゃんも手伝ってくれたからですよ。それと、私と伊良湖ちゃんは、名前呼びで結構ですよ。」

 

「明石からも言われたよ。呼び方のこと。それじゃ、今後は間宮と伊良湖と呼ばせてもらおう。」

 

「はい、お願いしますね。」

 

 そう言うと、彼女は厨房に戻っていった。

 

 1745。歓迎会の開始時刻だ。既に当直いがいの憲兵隊員たちも揃っている。廊下には、霞が10人の艦娘たちを率いて待っているだろう。さて、始めるか。席から立ち上がり、マイクを手に取り、

 

「これより、今回、柱島泊地に配属となった10名の艦娘の歓迎会を始める。霞少佐、入室してくれ。」

 

 霞を先頭に金剛、赤城、加賀、青葉、天龍、龍田、吹雪、白雪、深雪、満潮と入ってきた。それぞれの席の所で立ち止まる。

 

「では、1人ずつ自己紹介をしてもらおう。まずは金剛少佐からだ。」

 

 そうして、10人全員が1人ずつ自己紹介を始める。まあ、1人あたり1分少々で簡潔にしてくれたので、乾杯の時間が早まりそうだ。間宮と伊良湖に目配せし、10人のグラスに飲み物を注いでもらう。最後の満潮が自己紹介を終え、席に着く。

 

「それでは、新たな仲間たちと柱島泊地の更なる発展を願って乾杯!!」

 

「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」

 

 みんなの乾杯の声が食堂に響く。さて、食事を最初に取りに行くのは金剛少佐たちからだ。俺は最後に取ると言っているので、金剛少佐たちが取り終えたら、他のみんなも食事を取るために席を立っていく。みんな笑顔で楽しそうで何よりだ。そうだ、今度からは酒も出せるように準備しておこう。酒の好きな艦娘もいるそうだからな。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 日常の朝

 起床時間の6時よりも1時間早く起き、ジャージに着替え、グラウンドへ向かう。すでにそこにはジャージ姿の霞となぜか満潮がいた。

 

「おはよう。霞、満潮少佐。ああ、敬礼は無しだ。」

 

「おはよう。司令官。」

 

「おはようございます。司令官。」

 

「ところで、なぜ満潮少佐が?霞はいつも通りだからわかるが。ああ、満潮少佐。口調は気にせんでいいよ。霞のように気軽に話してくれ。」

 

「それでは、お言葉に甘えて。同室の妹が。起床時間よりも早く起きて、ジャージに着替え部屋を出て行ったら、姉として気になるのは普通じゃないかしら?」

 

「それもそうだ。霞は昨夜にでも説明はしなかったのかい?」

 

「出撃と歓迎会で疲れて、お風呂に入ったらそのまま寝ちゃったのよね。」

 

「ふむ、昨日はバタバタした1日だったからな。ところで、満潮少佐は今から何をするか聞いているかな?」

 

「体力づくりのためのランニングと軽い筋トレでしょ。それと、私も霞と一緒で階級は付けないでいいわよ。」

 

「わかった。今後は公の場以外では満潮と呼ばせてもらおう。」

 

「ええ、そうしてちょうだい。」

 

「では、始めるか。」

 

 そう言って、準備運動をしてグラウンドを走り始める。すぐに霞に満潮も続いてくる。一度死んで甦ってからはスパルタンⅡ並みの身体能力を手に入れたので、すぐに2人を引き離し、追い抜かす。既定の周を走り終えると、今度は筋トレだ。腕立て伏せをしていると、

 

「司令官、あんた何者よ?私が艦だった時も体力お化けみたいな乗組員はいたけど、あんたほどじゃなかったわよ。」

 

「腕立て伏せをしながらの返答で悪いが、実は、一度死んでね。」

 

「ハア!?」

 

「本当よ、満潮姉さん。コイツ、私を守るために盾になって一度死んだのよ。」

 

「なんで、生きているわけ?」

 

「ミクが、ミクって俺の艤装にいる妖精な。あいつが甦らせてくれた。そして、その時、強い体が欲しいと思ったんだ。みんなを守れるぐらいの強い体がな。それで、今の肉体を手に入れた。生前と見た目は変わっていないがな。よし、もうそろそろで0600だ。今日はこのくらいにしておこう。」

 

「それじゃ、また、食堂で。」

 

「ああ、今日の予定も確認しよう。」

 

「はいはい。それじゃあ、満潮姉さん、朝食前に汗を流しに行きましょう。」

 

「え、ええ・・・。」

 

 そう言って、2人と別れた俺は、司令長官私室に戻り、シャワーで汗を流す。シャワーを終えて出てきて制服に着替えていると、ベッドの中でもぞもぞしていた彼女が起きていた。

 

「おはよう。ミク。」

 

「おはようございますー。今日もトレーニングですかー。」

 

「まあね。ルーティンになっているからねぇ。」

 

「疲れを溜めすぎないように気を付けてくださいよー。」

 

「わかっているよ。おっ、起床ラッパだ。朝飯食いに食堂に行こう。」

 

「はいー。」

 

 そう言って、右肩にちょこんと乗るミク。そうして、俺たち2人は食堂に向かう。入り口では霞と満潮が待っていた。

 

「すまん、またせたかな?」

 

「いえ、私たちも今来たところよ。」

 

「そんじゃ、飯にするか。ミクは妖精さんたちの所に行っておいで。」

 

「それではお先にー。」

 

 そう言って、フヨフヨと宙を漂いながら、妖精さん専用の朝食が用意されているスペースに向かって行く。俺たちはお(ぼん)を手に取り、今日の朝食のA定食かB定食をそれぞれ注文する。ちなみに、Aが純和風の定食で、Bが洋食だ。洋食なのに定食なのは名前を考えるのが面倒くさかったからだ。わかればいいんだよ。わかれば。

 

 朝食を霞と満潮と一緒に摂っていると、憲兵隊員や金剛少佐をはじめとした艦娘たちもやってきた。金剛が手を振ってきたので、笑顔で振り返すと、顔を赤くして俯いた。回りの女性陣からジト目で見られる。俺、なんか悪いことしたか?金剛はその赤い顔のまま、俺たちの近くにきて、

 

「ご一緒してもいいですか?」

 

 と聞いてきたので、「席の決まりはないから、金剛少佐の好きに座るといい。」と言うと「Thank you」と返答し、俺の対面に座った。まぁ、両隣は霞と満潮がいるからな。自然とそこになるわな。因みに金剛少佐は洋食のBだ。俺は、霞と今日の予定を確認しながら箸を進める。行儀は悪いがね。

 

「よし、じゃあ、今日はそんな感じで行くか。赤電話が来たときはまたその時に対処しよう。他には何かあるかな、霞。」

 

「私からは特に何もないわ。満潮姉さん、金剛少佐は何か気づいたことある。」

 

 そう霞が話しを振ると、金剛少佐が、

 

「私たちも階級を外して名前で呼んで欲しいですネー。」

 

 と言ってきたので、

 

「ん、わかった。金剛たちも公の場以外では俺への口調は普通に普段通りでいいぞ。」

 

「Really?」

 

「本当だとも、現に霞と満潮は普通の口調だろ?」

 

「それでは、遠慮なくそうさせてもらうネー。」

 

 そう言うと彼女は、笑顔で朝食を食べ進めるのだった。ちなみに赤城をはじめとする残りの艦娘たちもその話しが聞こえていたようで、課業開始時間まで仲を深めることとなった。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 日常の昼

 0830から課業を開始し、現在は1000。小休憩をするにはよい時間だ。秘書艦の霞に声をかける。

 

「少し休憩するか。」

 

「そうね。お茶を入れてくるわ。」

 

「なら、俺は茶菓子だな。間宮の羊羹(ようかん)でいいか?」

 

「十分すぎるわ。」

 

「そんじゃ、ちょっと取ってくるよ。」

 

 そう言って、執務室を出て私室に向かう。途中、窓からグラウンドを走る、大淀をはじめとしたこの世に顕現したばかりの艦娘たちが見えた。ジャージでは暑いからか、みな体操着にブルマという格好だ。吹雪たち駆逐艦と天龍、龍田、大淀、青葉あたりはそこまで違和感がないが、金剛や赤城、加賀などの大型艦は何というかイケナイ感じがする。スタイルが良いから余計にそう思う。なんで、体操着にブルマなんだ?

 

 そんなことを考えながら執務室に戻る。すでにお茶を淹れおわった霞は、羊羹の到着を待っていたようだ。俺はタッパーに入った羊羹を取り出し、「ほれ、これが霞の分な。」と、タッパーから5cm厚に切った羊羹を2切れ小皿に乗せ、霞に渡す。俺も2切れだ。霞は見るからに嬉しそうだ。なんか、キラキラしている。確かに間宮の羊羹は美味い。俺も一口齧るたびに口が(ほころ)びそうになる。

 

 さて、15分ほどの小休止を終え、書類仕事に戻る。俺は戦闘詳報を書きながら(3つの海戦のことについて書かなければならず、面倒くさい)、霞が処理してくれた書類に目を通し、確認印を押す。資材関係の書類が多いのは、うちができたばかりの泊地だからだろう。

 

 そして、時刻はすぐに1200になる。霞とともに食堂へ向かう。そうして歩いていると、前方から金剛が物凄い勢いで走って来て、「バアアアァァァァニング!!ラアアアァァァブ!!」と叫んで両手を広げ跳び、抱き着いてきた。金剛は俺の胸に顔を埋めながら、

 

「エヘヘ、テートクの匂いネー。」

 

 と、顔を(ほころ)ばせていた。どうしたんもんかと思っていると、霞が助け舟を出してくれた。

 

「金剛さん、そうしていると司令官が歩けないわ。せめて手を繋ぐ、ぐらいにしてくれないかしら?」

 

「Oh、ソーデスネー。Sorry、テートク。」

 

「いや、気にせんでいいよ。そんで、手を繋ぐんだったか。ホレ。」

 

 左手を差し出すと、両手で握ってきた。それだと歩きにくいだろうに。そして、なぜか右手を霞が握ってきた。なして?「理由は聞かないで」と言われたので、特に気にせず食堂に向かう。あ、あれか今の俺って“両手に華”の状態か。ふむ、なかなかに悪くない。2人とも可愛くて綺麗だし、良い香りもするし。世のモテている男どもはこれを味わっていたるのか。羨ましいものだ。男としても人としても。

 

 さて、食堂に着いた。流石に食堂内まで手を繋いではいられない。お盆が持てないからね。ちなみに、昼食は、麺類、ご飯類、パン類からそれぞれ選べるようなっている。朝よりも種類が豊富だ。ちなみに俺はカレーにした。今日は金曜日だからね。

 

 席に着くと、両隣に霞と金剛が着席する。そして、目の前には青葉だ。彼女は、ミクから貰ったコンデジで食堂の風景を撮っていて、今は俺達3人の写真を撮りたいとのことだった。断る理由も無かったので、俺は了承した。他の2人もだ。

 

 ちなみに、霞は牛丼、金剛はサンドイッチセット2人前、青葉が俺と同じカレーだが、大盛りだ。大型艦である2人には通常サイズだと足りないのだろう。ふむ、メニューの改定も間宮と伊良湖とともに考える必要があるな。赤城と加賀なんか、ラーメンに丼ものを頼んでいる。

 

 昼食を終え、執務室に戻る。防衛省に送る書類をFAXし、コピーを取る。原本は封筒に入れ、使送便だ。憲兵隊舎まで行き、使送便の手続き処理をする。霞は金剛たち相手に艤装をつけて教導だ。哨戒任務や護衛任務に出したいが、艦娘の練度が足りていない。うちの泊地では初期艦娘の霞が突出して練度が高い。せめて霞同様の第1次改装を行い“改”になるまでは、最前線へ出したくはない。また、艦娘の数も足りない。せめて今の倍はいないと、ローテーションが組めない。

 

 ということで、俺は今、工廠に来ている。工廠内に入るとすぐにミクが肩に乗り、明石が笑顔で「いらっしゃい。」と言ってくれた。ふむ。

 

「明石よ。流石に男の俺の前で、タンクトップ姿というのはどうかと思うぞ?」

 

「いやあ、この格好の方が動きやすくて。」

 

 確かに、制服であるスカート姿ではなく、作業着姿だ。

 

「わかったよ。格好のことは目をつむろう。それで、早速だが新しく艦娘を召喚建造したい。大丈夫か?」

 

「大丈夫ですよ。資材量はどうしますか?」

 

「取り敢えず数を揃えたい。3人分は各資材とも30で。最後の1人は燃料300、弾薬30、鋼材400、ボーキサイト300でお願いする。」

 

「空母狙いですか?」

 

「ああ、軽空母でもいいから航空戦力が欲しい。」

 

「わかりました。全員の建造が終わってからお呼びした方がいいですか?それとも、1人ずつ?」

 

「4人全員の建造が終わってからでいいよ。それじゃ、あとは頼んだ。ミク、ミョルニルアーマーを着ける。俺も教導に出るぞ。」

 

「了解ですー。ペイント弾の用意をしときますねー。」

 

「頼んだ。」

 

 俺が加わった教導は、金剛たち顕現したばかりの艦娘たちに、悲鳴を上げさせることになってしまったが。まあ、練度の差だな。うん。

 




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話 日常の夕方

 教導を1530までで終了した俺は、残りの教導については、霞に任せることにした。とりあえず、柱島の演習海域をいっぱいに使って、実践演習をするという。「ほどほどにな。」と言って、工廠に戻る。すると、明石が、

 

「一応、4人分の建造が終わりました。中身が艦娘か艤装かはまだ、わかりませんけどね。」

 

「まあ、とりあえずは、ご対面といこうじゃないか。」

 

「はい、では開けます。」

 

 4基の建造ポッドが開く、最初の2基からは、おそらく駆逐艦、3基目からは、軽巡洋艦か?そして、4基目からは艤装からして空母の艦娘たちが出てきた。

 

「初めまして。自分がこの柱島泊地司令長官を務(つと)める湊 海斗中将だ。それぞれ、自己紹介を頼む。」

 

「特型駆逐艦“曙”よ。って、こっち見んな!!この糞提督!!」

 

 おおう、いきなりの罵倒。これは、霞や満潮に近いものを感じるな。

 

「私は叢雲。あんたが司令官ね。ま、せいぜい頑張りなさい。」

 

 うん、頑張りますとも。

 

「はーい、お待たせ?兵装実験軽巡、夕張、到着いたしました!!」

 

 元気があってよろしい。しかし、兵装実験艦の夕張か、明石と話しが合いそうだな。

 

「航空母艦、鳳翔です。ふつつか者ですが、よろしくお願い致します。」

 

 おお、空母だ。やったね。しかも、日本初の実用空母の“鳳翔”ときた。期待できるな。

 

「うむ、4人ともよろしく頼む。それと、諸君らは現時点で少佐の階級を与えられる。では、これより、泊地の設備や各部屋なんかを案内しよう。艤装を外して、着いて来てくれたまえ。」

 

 そうして、4人を引き連れ、執務棟や食堂に娯楽室、講堂兼体育館、グラウンド、憲兵隊舎、艦娘寮、入渠室、備蓄倉庫などを見てまわった。

 

「どうだったかな?何か不明な点などは無かったか?」

 

「はい。」

 

 おずおずといった感じで鳳翔が小さく手を挙げる。

 

「ん、なんだい、鳳翔少佐。」

 

「その・・・、戦闘とかとは全く関係ないのですが、厨房に入るには許可が必要なのでしょうか?」

 

「ふむ、一応は責任者は間宮になっているが、別に構わんよ。出入り自由だ。ただ、消費した食材などは、厨房のホワイトボードに書いてくれると助かる。自分からもあとで間宮と伊良湖に話しておこう。」

 

「わかりました。ありがとうございます。それと、もう一点あるのですが・・・。」

 

「どうぞ。」

 

「私たちに階級をつけて呼ぶのはやめていただけないでしょうか?何か他人行儀な気がしまして。」

 

「わかった。ほかの3人をそれでいいのかな?」同時に頷く3人。

 

「では、公の場以外では、階級を付けずに呼ばせてもらおう。それと、口調だが、自由でいいぞ。他の艦娘たちにもそのように許可を出している。他に質問はあるかね?無い?ならばよろしい。もし、今後、生活していく中で困ったことやわからないことがあったら、先輩の艦娘や憲兵、自分に聞いてくるといい。それでは、工廠にもどり、訓練を終えたみんなを迎えようじゃないか。」

 

 そう言って、工廠に向かう。工廠内から視える海域に続々と人影が現れてきた。その姿を見ている4人を工廠において、明石に「後のことは霞に任せると伝えてくれ」と言うと、俺は食堂に向かう。

 

 食堂に入り、厨房に向かうと、今日の分の歓迎会の準備をしていた間宮と伊良湖が気づいて、簡単なお茶と茶菓子を出してくれた。俺は、それを戴きながら、今日の朝食時に思ったことを伝えた。つまり、大型艦用の量を用意したメニューが必要ではないかということだ。間宮と伊良湖の2人ともすでにそれには気づいており、明日の朝食分からは対応ができるとの事だった。そして、今夜の歓迎会も昨日の歓迎会での用意した食事の量の減り具合を鑑(かんが)みて、多くするとのことだった。流石はプロだ。ん?ちょっと違うか。まぁ、いいさ。

 

 それと、鳳翔が厨房を使いたいようだということも伝えておいた。それに関しては、間宮と伊良湖ともども問題なしということだった。早速伝えてあげよう。そのほうが気持ちよく厨房を使えるだろうし。

 

 さて、それでは、執務室に戻るか。1715までまだ時間がある。執務室に入るとシャンプーの良い香りが漂って来た。霞がすでに秘書艦席に座って作業をしている。シャンプーの香りは霞からだった。

 

「早かったね。ちゃんと髪は乾かしたのか?」

 

「ちゃんとしたわよ。私は他のみんなより被弾が少なかったからね。今頃、私のペイント弾を浴びたみんなは反省会よ。」

 

「そんなにかい?」

 

「ええ、まだ人型の利点を生かしきれてないわね。どうも、艦の頃の記憶に引っ張られるみたい。」

 

「ふーむ、なら、訓練がまだ必要だな。実戦には耐えられか?」

 

「まあ、この前の海戦でも動けてはいたから、大丈夫だとは思うわ。」

 

「そうか、まあ、やらせてみないとわからないことではあるな。そういえば、鳳翔たちはどうした?」

 

「1715に執務室に出頭するように伝えたわ。また、私が連れて食堂に向かえばいいのよね?」

 

「そうだな。お願いする。」

 

「しかし、歓迎会続きね。」

 

「仕方ないさ。メンバーが増えるわけだから。」

 

「まあ、本人たちも嬉しそうにしてくれるから、いいのかしら。」

 

「なんか問題が起きても、責任を取るのは俺だから気にしなさんな。」

 

「気楽ね。」

 

「命がかかってないからね。」

 

 そんな感じで駄弁(だべ)りながら、霞と書類仕事を進めていく。1715のチャイムが鳴るまではすぐに感じた。チャイムが鳴り終わったと同時に執務室の扉がノックされる。

 

「どうぞ。」

 

「失礼します。」

 

 と言いながら鳳翔、夕張、叢雲、曙の4名が入室してきた。鳳翔に厨房の利用許可を間宮と伊良湖から貰ったことを伝え、あとは霞に任せる。「霞から話を聞くように」と言い、執務室を出て食堂へ向かう。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話 日常の夜

 食堂についた俺は、間宮と伊良湖に準備状況を尋ねる。まあ、入った時点で食事の準備などほとんどすんでいたから、確認を兼ねてだね。

 

「どうだい、準備は順調かな?」

 

 厨房に入り、間宮に尋ねる。

 

「はい、提督。今回は、お酒もお出しします。と云ってもビールのみですけど。」

 

「いやいや、ビールだけでも十分だと思うよ。どうやって手に入れたんだい?時間が無かっただろうに。」

 

「非番の憲兵さん達が定期船で岩国の街まで行って買ってきてくれたんですよ。今後は港町にある商店さんから定期的に仕入れるようにしたいですね。」

 

「なるほど、あとで坂本大尉に礼を言っておこう。しかし、ふむ、確かにそうだな。呉鎮守府からの補給物資は必要最低限のモノだからなあ。食事は兵站の基本であるし、士気にも関わる。食堂に仕入れるモノは1週間分をリストに(まと)めて、提出してほしい。そうすれば、経費で仕入れることができる。」

 

「わかりました。来週の月曜日には提出できるようにしますね。ところで、味見されます?」

 

 うむ、魅力的な申し出だが、

 

「いや、ありがたい申し出だがみんなと一緒にいただこう。」

 

 しかし、間宮よ。距離が近くないかい?というか胸が当たっているんだが。君の豊満な胸は、童貞には刺激が強い。と、そこに扉が開き、憲兵たちと金剛たちが入室してきた。俺は、そっと間宮から離れて、坂本大尉の所に向かった。

 

「坂本大尉。今日は君の非番の部下たちに間宮がお世話になったようだ。ありがとうと伝えておいてくれないか?」

 

「わかりました。伝えておきます。しかし、今晩も美味しそうですね。」

 

「まあ、間宮と伊良湖が腕によりをかけて作ってくれたからね。楽しんでくれよ。」

 

「はい。」

 

 その後は、定位置に向かい、マイクを握る。1745になった。霞たちはすでに扉の前で待機しているはず。咳払いを一度して、

 

「これより、今回、召喚建造によって顕現してくれた4名の艦娘の歓迎会を始める。霞少佐、入室してくれ。」

 

 霞を先頭に鳳翔、夕張、叢雲、曙と入ってきた。それぞれの席の所で立ち止まる。

 

「では、1人ずつ自己紹介をしてもらおう。まずは鳳翔少佐からだ。」

 

 そうして、4人全員が1人ずつ自己紹介を始める。間宮と伊良湖に目配せし、4人のグラスに飲み物を注いでもらう。最後の曙が自己紹介を終え、席に着く。

 

「それでは、新たな仲間たちに乾杯!!」

 

「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」

 

 みんなの乾杯の声が食堂に響く。さて、食事を最初に取りに行くのは鳳翔たちからだ。先日と同じく俺は最後に取ると言っているので、鳳翔たちが取り終えたら、他のみんなも食事を取るために席を立っていく。

 

 今回は酒 (と云ってもビールのみだが)があるので、アルコールが欲しい者は、早々にビールに手を付けていた。俺は下戸なので、ビールは断りソフトドリンクで楽しんでいる。鳳翔と間宮、伊良湖は早速、仲良くなったようだ。楽しそうに話しをしている。

 

 そんな感じでみんなの食事の光景を眺めていると、料理を盛った皿を目の前に置かれた。

 

「私のchoiceデース。テートクの好みだと良いのですガ・・・。」

 

 料理を持ってきてくれた金剛がモジモジとして言ってくる。可愛いな。オイ。

 

「ありがとうな。金剛。」

 

 そう言いながら頭を()でると、「ふわあ・・・。」と言って顔がとろけた。本当、可愛いな。教導していた時の鬼気迫る凛々(りり)しい表情とは打って変わって、力が抜けた表情は物凄く可愛い。中学から男子校で防大での喪男の俺には眩しすぎる。世のモテる男たちなら、ここで口説いたりすんだろうなあ。

 

 そんな、俺と金剛の様子を見ていたのであろう。夕張と明石が物凄い勢いで来て、

 

「「私も頭を()でてください!!」」

 

 と言ってきたので、金剛には一旦、離れてもらい、右手で明石、左手で夕張を()でた。明石には「艤装の整備や工廠関係ありがとな。」と声掛けし、夕張には「これらからよろしく。したいことがあったら何でも相談してくれ。」と声掛けをした。2人とも力の抜けた表情で「「ふわぁい。」」と返事?をした。

 

 2人を()で終わると、今度は間宮と伊良湖が()でて欲しいと言ってきた。2人の後ろには霞と曙を除いた残りの艦娘たちが列を作っていた。えっと、全員、()でないといけない感じかな?これは。

 

 最後の赤城と加賀を撫で終わると、霞がグラスを持って近づいてきた。

 

「乾杯よ。」

 

 俺もグラスをもち、乾杯をする。

 

「あなた、まだ料理に手を付けていないじゃない。食べながらでいいわよ。」

 

「では、行儀は悪いがお言葉に甘えて。いただきます。」

 

 そう言って、箸を手に取り食事を始める。あ、唐揚げ美味しい。

 

「みんな、あなたの所にこれて良かったと言っているわ。でも、さっきのは凄かったわね。」

 

「女の子を()でるなんて、ほとんど経験が無かったから、最初はおっかなびっくりだったよ。」

 

初心(うぶ)ね。」

 

「まあ、彼女いない歴=年齢の28歳だからな。」

 

「そうだったわね。」

 

 クスリと笑う彼女はどこか大人びて見えた。いや、実際にそうなのだろう。艦娘法によって、20歳以上として扱われているという理由だけではなく、先の大戦を経験してきたモノだからこその雰囲気なのだろう。そんな考えをしながら、俺は、霞と歓談しながら箸を進めた。平和な夜だ。明日も平和ならいいのだが。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話 出撃(四国沖夜戦・その1)

 ああ、クソ、歓迎会の時に、フラグみたいに「明日も平和ならいいのに」と思わなければよかった。0206、司令長官私室に備え付けられた赤電話が鳴っていた。2コール目で出て部屋の電気をつける。

 

「柱島泊地司令長官の湊中将です。」

 

『呉鎮守府司令長官の田之上中将だ。』

 

「深海棲艦ですか?」

 

『そうだ、うちの夜間哨戒艦隊が接敵した。四国沖だ。こちらも緊急出撃の準備を進めている。ヘリボーン艦隊は0220には離陸できるが、いかんせんチヌークは足が遅い。到着まで時間がかかる。通常艦隊と艦娘艦隊はいわずもがなだ。日が明けるまでに戦域に着けばいい方だろう。ということで貴官の出撃を要請したい。』

 

「了解。ちなみに敵の規模は?」

 

『接敵したのは水雷戦隊だそうだ。しかし、水上電探には、後方に多数の反応があるとのことだ。』

 

「先日、あれだけ沈めたのに、まだ、きますか。」

 

『敵も必死なのだろう。』

 

「では、出撃準備にかかります。0215には出撃できるかと。」

 

『頼んだ。哨戒艦隊の旗艦は重巡の那智だ。よろしく頼む。』

 

 そこで、電話は切れた。取り敢えず、ズボンと上着のみを身に付けて工廠に走る。工廠に着くと、明かりをつけ、

 

「ミク、緊急出撃だ!!ミョルニルアーマーの用意を頼む。武装はいつも通りで。」

 

「了解ですー。」

 

 寝起きのミクは目をこすりながらも、てきぱきと準備をこなしていく。海に面する出撃用の扉も開いていく。俺もミョルニルアーマーの装着をする。そして、ヘルメットをかぶろうとしたときに工廠のドアが開く。

 

「私も連れて行きなさい。」

 

 そこには、霞が立っていた。彼女は起き出してきた妖精さん達に手伝ってもらいながら、艤装をつけていく。

 

「よくわかったな。起きていたのか?」

 

「お手洗いに行くときにあなたの部屋の明かりがついたのが見えたからよ。」

 

「それは、また、何とも絶妙なタイミングだったな。」

 

「全くよ。あ、妖精さん。魚雷は両手両足に装備して、主砲はもう一つ手に持つわ。ヘッドセットは、・・・あった、ありがとう。」

 

「重装備だな。」

 

「あなたなら、この状態の私を抱えても跳んでいけるでしょう?」

 

「無論。」

 

「それじゃ、出撃しましょうか。」

 

「変なところ触らんようにするが、触ってしまったらすまん。」

 

「いいから、とっとと出撃よ!!」

 

「了解!!ミク行くぞ。」

 

 苦笑を浮かべながら霞をお姫様抱っこし、前回同様、太平洋まで跳ぶ。四国は人口が少ないが、それでも、人々の営みを感じる明かりがついていると綺麗だ。霞もそう思ったのか、「綺麗ね。」と呟く。俺は首肯(しゅこう)した。金曜日、いや、日付が変わっているから土曜日か。みんな夜更かししているのだろうと思うと、笑みがこぼれる。この一般市民の生活を守るためにも、今夜のうちに深海棲艦群を殲滅しなければ。

 

 太平洋上に出て南進をすると、明らかな戦闘光が確認できた。すぐに通信を入れる。

 

「『こちら柱島泊地司令長官の湊中将だ。呉鎮守府所属、夜間哨戒艦隊の旗艦“那智”は応答せよ。』」

 

『那智です。中将。』

 

「『あと、240秒で到着する。私と駆逐艦娘“霞”だ。我々は遊撃戦力として敵に当たる。そちらの状況は?』」

 

『敵水雷戦隊を撃破しましたが、現在は、後続の打撃艦隊と砲撃戦の真っ最中です。負傷者は小破相当が2のみです。噂に名高い“鬼神”の援軍、期待させていただきます。』

 

「『おうよ。存分に期待してくれ。そして、もう少し、持ち(こた)えてくれ。』霞、速度を上げる。着水後は自由戦闘だ。中破相当の損傷を負ったら連絡し後退すること。いいな?」

 

「了解。地獄を見せてやるわ。」

 

 そうして、飛翔速度を上げる。限界一杯の600km/hだ。

 

「『この通信に返答は不要だ。着水まで、10秒、9、8、7、6、5、4、3、2、着水!!展開し、攻撃を開始する。』行くぞ、霞!!」

 

「ガンガンいくわよ!!ついてらっしゃい。」

 

「おう。さあ、深海棲艦どもに“鬼神”の恐怖を(きざ)み付けてやろう。」

 

 センサーの反応が多すぎる。昨日の昼に1000体以上を沈めたばかりのはずだ。なのに、まだ、これほどいるのか・・・。敵の底が知れん。

 

『こちら第601飛行隊第2飛行班コールサイン“アスター01”。これより、航空管制を行う。』

 

「『アスター01。こちら柱島泊地司令長官湊中将。コールサイン“シエラ01”。最初に荷物が届くのはいつだ?』」

 

『空軍は第3、第6、第8飛行隊が既にスクランブルしました。最初にASMの射程に到達するのはおそらく、第6飛行隊になります。海軍は第1航空隊が順次スクランブルを行なっています。』

 

「『よし、なら深海棲艦群の後方に攻撃を集中するよう要請する。敵の今までの編成だと、後方に上陸用の輸送艦・補給艦がいる可能性が高い。航空管制は任せた。海上はシエラ01がやる。』」

 

『了解しました。シエラ01。』

 

「さて、霞、空の武士たちが長大な矢を放つまでは俺たちも存分に暴れるぞ。」

 

「ええ、あなたは早く那智さん率いる哨戒艦隊の援護に。この程度の敵なら私の練度で十分に翻弄(ほんろう)できるわ。」

 

「ならば、頼んだ。」

 

 そうして、俺と霞は別れ、それぞれに殲滅を開始した。俺は、那智が率いる哨戒艦隊へ、霞は深海棲艦群が北上しないように動く壁となっている。アサルトライフルで深海棲艦を沈めながら、哨戒艦隊のもとへと辿(たど)り着いた。

 

「すまん、遅くなった。」

 

「いえ、閣下。お早い到着ですよ。」

 

「負傷者は?」

 

「増えていません。」

 

「ならば、よろしい。さあ、逆撃をしてやろう。指揮権を一時預かるぞ。」

 

「どうぞ。」

 

「みな!!これより敵、深海棲艦群に逆撃を喰らわす!!自分たちが有利だと思っている奴らにその考えが間違いだったと思い知らせてやるのだ!!総員、突撃にいいぃぃぃ、移れええぇぇぇ!!」

 

 掛け声と同時に、ライトを最大出力で照射する。暗闇に浮かび上がり、動揺をする深海棲艦たち。流れをこっちにこのまま引き寄せてやる。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話 出撃(四国沖夜戦・その2)

 すでにアサルトライフルの弾は切れた。今はショットガンで、近接戦闘を行なっている。駆逐艦程度ならば距離が多少あっても撃破できるが、軽巡以上だと難しい。俺は、ライトを照らし囮となりながら、深海棲艦を沈めていく。哨戒艦隊も確実に深海棲艦を撃沈できている。

 

「狩れ、狩り尽くせ!!」

 

 声を荒げながら、深海棲艦艦隊群に突っ込んでいく。駆逐艦はガーディアン・シールドで圧殺し、軽巡の頭をガーディアン・シールドの突きで吹き飛ばす。重巡がショットガンで穴だらけになりながら沈んでいき、戦艦はショットガンの至近距離での連射を喰らい、大穴をいくつも開け爆沈していく。

 

「きゃあっ!!」

 

 突如響いた悲鳴に後方に視線を送る。哨戒艦隊の“電”が被弾したようだ。すかさず、ガーディアン・シールドを(かか)げながら、支援防御にはいる。ふむ、見た目だと中破相当だな。他の駆逐艦、暁、響、雷は小破相当、旗艦の那智は小破。随伴艦の足柄も小破か。

 

「『アスター01。呉鎮守府のヘリボーン艦隊は?』」

 

『土佐湾上空です。110ノットで飛行中。戦闘海域へは113分後に展開できます。』

 

 遅いな。チヌークの最大速度に近いが、那智たちは113分も敵の艦隊群とは戦闘は出来ない。ハンドガンで深海棲艦に対しヘッドショットを決めながら、

 

「那智中佐、各員の残弾を確認後報告。」

 

「了解、各員、残弾報告。・・・。閣下。魚雷はゼロです。砲弾が残り3割です。」

 

「退け。退却だ。」

 

「しかし、まだ、敵は!!深海棲艦はいます!!」

 

「命令だ。聞け。お前たちの命を此処(ここ)で散らすわけにはいかん。退却援護は俺がする。『湊中将より田之上中将、応答願います。』」

 

『田之上だ。』

 

「『哨戒艦隊は駆逐艦娘が1人中破相当、他5名は旗艦を含め小破相当。残弾は3割です。退却させます。その後は、自分と霞少佐が防衛戦闘を行います。』」

 

『大丈夫なのか?2人で戦線を支えきれるのか?』

 

「『支えてみせますよ。“鬼神”ですよ?自分は。』」

 

『わかった。すまん。那智たちを退却させてくれ。』

 

「『了解。』と、いうことで君たちの司令長官も退却を決定した。命令に従いたまえ、軍人ならね。」

 

 那智中佐は(うつむ)きながら、

 

「貴方はひどい人だ。我々が断れない状況にするとは。そして、貴方と貴方の艦娘のみで、増援艦隊が到着するまで戦線を支えようなど、欲張りだ。」

 

 俺は、顔だけ振り返り、

 

「すまんな。俺は、そういう人間なんでな。さあ、退却したまえ。那智中佐。」

 

「了解しました。生きてください。」

 

「今週の予定に俺の通夜と葬式は無いよ。早く艦隊をまとめろ。」

 

 俺はそう言いながら、弾切れになったハンドガンを懸架し、ロング・レンジ・ビーム・ライフルを構える。ビーム・ライフルの前では、戦艦だろうが重巡だろうが装甲の厚さは関係ない。ただ、暴力的な光の筋に貫かれるか、呑み込まれるだけだ。

 

 那智中佐が艦隊をまとめ終わり、「退却します。」との言葉とともに退いて行った。さて、ひとまず目の前の深海棲艦艦隊群を殲滅しますか。ミクに霞の現在地をセンサーに表示させる。うわあ、敵に囲まれている。でも、通信が何も無いということは、中破まではいってないということだ。それでも、今の状態はキツイはずだ。早く、援護に向かおう。

 

 ロング・レンジ・ビーム・ライフルを最大出力で薙ぎ払うように撃つ。ビーム明かりが周囲を照らし、光の筋が通り過ぎた場所では、爆発が起こり、溶解した深海棲艦たちが次々と沈んでいく。ビームの明かりが消え去ると、綺麗さっぱり海面上には何もなくなっていた。この戦域はもう大丈夫だ。霞の方へ向かわなければ。そして、跳ぶ。

 

 着水した戦域は、それはもう酷いモノだった。高速で動く霞にまともに照準を定められないものだから、深海棲艦の同士討ちが発生していた。しかも、霞は探照灯を点けていないのが、さらに拍車をかけている。

 

 そこへ、俺が降ってきた。ライトをつけて。深海棲艦たちは、やっと獲物を見つけたと思ったらしいが、残念。既に跳躍中にめぼしい奴らは沈めた。残るは、霞を至近で包囲していたお前らだけだ。霞に当てないためにビーム・サーベルに切り替える。そして、斬りまくる。数分で片がついた。残りの深海棲艦艦隊群は、まだ、後方だ。

 

「霞、状況報告。」

 

「損傷は小破以下、撃ち終わった魚雷発射管への被弾のみ。残弾は主砲が4割、機銃が6割ね。あなたみたいに格闘兵装が有ればよかったのだけど。」

 

「今度、明石に言って作ってもらうか?」

 

「そうね。小刀程度はあれば便利かもね。」

 

「さて、敵の後続とは何分後に接触かな。『アスター01。こちらシエラ01。深海棲艦艦隊群の前段部を殲滅した。後段は何分後に接敵かね。』」

 

『シエラ01。深海棲艦艦隊群の後段部は航空攻撃により進撃速度が鈍りました。先頭がシエラ01のいる海域に到達するまで132分です。』

 

「『ヘリボーン艦隊のほうが20分早いな。現状の位置で小休止をする。』」

 

『了解。深海棲艦艦隊群に何らかの動きがあった場合は報告します。』

 

「『頼む。』さて、ミクさんや。海面が光っているな。」

 

「そうですねー。ドロップ艦ですねー。魂が還ってくるのがわかります。」

 

「また、ドロップ艦?運がいいのね。あなた。」

 

「まあね。さて、誰が来るのかなっと。」

 

 光が収まると、7人の艦娘たちが立っていた。7人!?前も思ったけど多すぎませんかねぇ・・・。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話 出撃(四国沖夜戦・その3)

 さてさて、誰が来たのかなっと。えーっと、記憶が正しければ、空母の蒼龍に飛龍、翔鶴に瑞鶴。戦艦の扶桑、重巡の愛宕、摩耶か。全員、大型艦かぁ。空母たちは退避させて、扶桑を旗艦に、愛宕と摩耶で護衛しつつ、柱島泊地に戻ってもらうか。全員、この世に顕現したばかりでボーっとしているようだ。まあ、夜だしね。とにかく、

 

「傾注!!私は柱島泊地司令長官の湊中将だ。諸君らはこれより私の指揮下に入ってもらう。異存のある者はいるか?」

 

 直立不動の姿勢をとっている彼女たちは特に反応を示さなかった。

 

「それでは、これより扶桑を旗艦とし柱島泊地へ向かってもらう。現在地は四国沖だ。柱島の場所はわかるかね?」

 

「はい、提督。」

 

 扶桑が答える。他のみんなも頷く。

 

「それでは、行動を開始したまえ。」

 

「「「「「「「了解。」」」」」」」

 

 扶桑たちは進路を北にとり、移動を開始した。それを霞とともに見送る。

 

「愛宕さんか摩耶さんには残ってもらえばよかったんじゃない?夜戦は、まだ終わってないのよ?」

 

「んー、いや、ヘリボーン艦隊も接近中だからな。それに、顕現したばかりで深海棲艦艦隊群との夜戦はきついだろう。相手が1個艦隊なら考えたがね。」

 

「まあ、確かにそうね。」

 

『アスター01よりシエラ01。深海棲艦艦隊群より複数の艦隊が速力を上げ突出してきています。速力は巡洋艦並みです。』

 

「『おいおいアスター01。まさか例の“尻尾(しっぽ)付き”じゃないだろうな。』」

 

『シエラ01。そこまではわかりません。百里の第501飛行隊が偵察飛行中です。接近するように指示を出しましょうか?』

 

「『いや、危険は犯せん。いくら、RF-4EJが超音速機でも、対空砲火のまぐれ当たりがあるかもしれんからな。こちらで接敵する。』」

 

『了解しました。突出してきた艦隊群をαとします。残りはβとします。αまでの会敵予想時刻は93分後です。このままだと、ヘリボーン艦隊とほぼ同時です。』

 

「『αに“尻尾付き”が混じっていたら、ヘリボーン艦隊が危険だ。αに対して迎撃行動を開始する。』」

 

『了解。ご武運を。』

 

「『ありがとう。』さて、霞。君はどうする?この場で、ヘリボーン艦隊と合流してもよいし、俺と一緒にα艦隊群を叩くのもよしだ。」

 

「選択肢を与えてくれるなんて優しいのね。それとも、優柔不断かしら。」

 

「さあ、どっちだろうな。優柔不断では無いと断言したいが、他人から見たら違うかもしれんから何とも言えん。」

 

「ま、今は、どっちでもいいわね。私は、貴方と共に行くわよ。」

 

「それでは、一緒に深海棲艦どもに地獄を見せてあげようか。」

 

 俺は、霞をお姫様抱っこし、ブースターを思いっきり吹かす。月明かりが照らす海上を、炎の尾を引きながら前進していると、水平線の彼方から、ぽつぽつと発砲炎が見えた。

 

「この距離で発砲か。“尻尾付き”がいやがるな。しかも、複数。」

 

「あの、戦艦のくせして、速度は巡洋艦並み、魚雷も撃てて、艦載機も100は搭載しているってやつよね?」

 

「そうだ。“尻尾付き”は俺が相手をする。霞は他を頼む。」

 

「了解。」

 

 後方で、大きな水柱が何本も立つ。α艦隊群の姿がはっきりとわかってきた。やはり、“尻尾付き”がいる。計24体。それに率いられるように、120体の重巡、軽巡、駆逐がいる。俺は、霞を海上に降ろし、そこで、分かれて攻撃を開始する。

 

 俺は、1体の“尻尾付き”目掛けてロング・レンジ・ビーム・ライフルを撃つ。人型の部分に命中し、上半身を蒸発させたが、尻尾がまだ生きており攻撃してくる。う~ん、中々にグロテスクな光景だ。すぐに尻尾にもビームを叩き込み黙らせる。まずは、1体。α艦隊群の中で、爆発が起こる。霞も攻撃を開始したようだ。

 

 敵は俺のライトに気を取られていたから、完全な奇襲になったのだろう。発砲炎がそこかしこで見られるようになった。俺は“尻尾付き”にビーム・ライフルを撃ちながら、

 

「『アスター01。こちらシエラ01。α艦隊群はあの“尻尾付き”に率いられたやつらだった。“尻尾付き”は計24体。現在、4体を沈めた。』」

 

『了解しました。それと、ヘリボーン艦隊が展開準備を始めました。』

 

「『了解。以上だ。』」

 

 さらに2体をビーム・ライフルで沈める。残り18体。夜間は艦載機群による攻撃が無いから、昼間戦闘よりは楽ができる。しかし、相も変わらず、魚雷は投げて空中で誘爆させてきやがる。損傷にはつながらないが嫌になるね。

 

 約20分後、深海棲艦α艦隊群は俺と霞の2人で殲滅し終えた。それと、時を同じくして、ヘリボーン艦隊が展開を始めたとの報告が入る。後退しようとしたとき、海面が光る。ドロップ艦だ。今回は2カ所が光っている。2体のドロップ艦娘か。誰だろうな。

 

「誰が来るかな?ミクわかるか?」

 

「さあ?誰が来るかは、私にもわかりませんねー。ただ、魂が還ってこようとしているのはわかりますので、艤装のみのドロップではありませんねー。艦娘のドロップですよー。」

 

「そうか、ならいいかな。」

 

「ちょっと、私には、あなたとミクさんの会話は、わからないんだから説明してくれない?」

 

「ああ、まあ、端的に言えば、艤装のドロップじゃなくて、艦娘のドロップだと云うことだ。」

 

「わかりやすい説明ありがと。さて、本当、誰が来るのかしらね。楽しみだわ。」

 

 霞が言い終わると同時に、光が収まり、2人の艦娘が立っていた。

 

「陽炎型駆逐艦8番艦、雪風です。どうぞ、よろしくお願いしますっ!!」

 

「駆逐艦島風です。スピードなら誰にも負けません。速きこと、島風の如し、です!!」

 

 おお、駆逐艦だ。元気があっていいね。扶桑たちとも違い、意識がはっきりしているようだ。ん、なんで霞は口をあんぐりと開けて驚いているんだ?折角の美少女が台無しだぞ。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話 出撃(四国沖夜戦・その4)

覇道神さま、第30話の誤字報告、ありがとうございました。訂正いたしました。


「私は柱島泊地司令長官の湊中将だ。2人にはこれより私の指揮下に入ってもらう。」

 

「了解です。司令官。」

 

「了解でーす。提督。」

 

「うむ。」

 

「“うむ。”じゃないわよ。このクズ司令官!!」

 

 おおう、久しぶりのクズ呼ばわり。どこがいけなかったのかね?

 

「どうした、霞?そんなに怒って、可愛い顔が台無しだぞ?」

 

「かわっ・・・。って、そんなことはどうでもいいの。提督課程で習ったでしょう。艦娘の中にも顕現が希少な艦娘がいるって、さっきの、蒼龍さん、飛龍さん、翔鶴さん、瑞鶴さんの4人もそうだけど、その上をいくのが雪風と島風なのよ!?」

 

「あー、確かにそう習ったな。希少とかそんなに気にしていなかったからな。」

 

「少しは気にしなさいな!!」

 

「まあまあ、落ち着こう、霞。雪風と島風が戸惑っている。」

 

 視線を雪風と島風に向けると2人ともオドオドしていた。

 

「うっ、まあ、そうね。で、2人はどうするの?退避させるの?」

 

「うーむ。なあ、雪風と島風、2人が背負っているのは魚雷だよな?」

 

「「はい!!」」

 

「そんで、島風は自立型の連装砲が3基、雪風は手持ちの連装砲が1基だな。よし、霞を旗艦に駆逐隊を組む。」

 

「「了解!!」」

 

「なんでよ!?初めての戦闘なのよ?しかも夜戦よ。」

 

「艦娘ではな。艦時代の記憶もあるだろう2人とも?それには戦闘の記憶もあるはずだ。違うかね?」

 

「雪風には艦の頃の記憶がありますよ。」

 

「私もー。連装砲ちゃんたちもだよー。」

 

「なら、いけるだろう。俺が囮になるし、霞がマズイと思えば撤退していいよ。」

 

「あー、もう!!わかったわよ。」

 

「よし、それでは雪風と島風は霞を旗艦とし、駆逐隊として戦闘行動をとること、中破相当の損害を受ければ、中破に至らなくとも、旗艦の霞に撤退の意見を具申すること。よいか。」

 

「「了解!!」」

 

「それでは、霞、後は頼む。俺は先行して、敵を引っ掻き回してくる。」

 

「了解。無理をしないようにね。」

 

「もちろんだとも。それでは、また後で。」

 

 ブースターを吹かして、一気に加速する。島風が「私よりはっやーい!!」とか言ってたが、速さにこだわりがあるのかな?自己紹介のときも“スピードなら誰にも負けない”って言っていたし。服装も(きわ)どかったしなあ。

 

 っと、そんな考えをしているとすでにβ艦隊群の射程内だ。戦艦の砲弾が雨あられと降ってくるが、俺の移動速度に着いてくることができず後方ばかりに着弾する。まあ、海面を500km/h以上で駆け抜ける物体って、そうそう無いからなあ。しかも、ライト点けているから格好の獲物だよな。俺って。

 

 でも、獲物は俺じゃなくて、お前らなんだよ。ロング・レンジ・ビーム・ライフルを構え、連射をする。命中するたびに爆沈していく深海棲艦ども。混乱して隊列が乱れつつあるな。ふうむ。逃げられる前に後方の輸送艦・補給艦を中心に叩くか。俺は、一気に跳んで、β艦隊群の後方に立つ。要は退路を断ったわけだな。

 

 輸送艦・補給艦は護衛の水雷戦隊や重巡戦隊と共に単装砲に高角砲を撃ってくる。まあ、ミョルニルアーマーのエネルギーシールドの前では無力なんだけどね。原子炉の出力配分をエネルギーシールドに回しているおかげでだいぶもつ。その代わりにビーム兵器が使えない。だが、素手でも十分だ。マスターチーフと同じ肉体から繰り出すパンチは、重巡の装甲を貫き、ワ級の頭を握りつぶす。そうして、格闘戦のみで戦闘を行なっていると、β艦隊群の中で水柱が高く上がった。

 

『こちら霞。司令官。駆逐隊、現着したわ。魚雷も大半が命中。初手はこちらがとったわ。』

 

「『よくやった。霞、探照灯だけは点けるなよ。敵の集中砲火を浴びるぞ。俺がライトで敵の注目を集めているから、霞たちは闇夜を味方に敵の喉元を食い破れ。以上だ。』」

 

『了解。いくわよ。島風、雪風。』

 

 霞たちも上手くやっているようだ。勝てるな。この海戦。ヘリボーン艦隊が到着さえすれば、火力で押せる。まだなのか、ヘリボーン艦隊は。

 

「『アスター01。こちらシエラ01。ヘリボーン艦隊はまだか?』」

 

『シエラ01。それが、ヘリボーン艦隊は、撤退中の艦娘艦隊を発見したと言って、今、誰何(すいか)を行なっている所です。』

 

「『その艦娘艦隊は旗艦が扶桑で、随伴艦が愛宕、摩耶、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴の艦隊か?その艦隊は、ドロップ艦の艦隊だ。私の、俺の指揮下にあり、柱島泊地への撤退を指示した。それをヘリボーン艦隊に伝えろ。そんなことで誰何(すいか)をせずに早く援護に来いと言え!!早くだ!!』」

 

『りょ、了解しました。』

 

「『クソッタレ。指揮官は誰だ?融通の利かない奴め。』」

 

「落ち着いてくださいー。海斗さん。」

 

「ああ、ミク。すまないな。ちと頭に血が上った。『霞、ヘリボーン艦隊は期待できそうにない。俺たちだけで殲滅するぞ。ワ級どもは頼む。護衛の戦闘艦は俺が相手をする。』」

 

『了解。さっきの通信、こっちにも聞こえていたわよ。』

 

「すまんな。もう、大丈夫だ。『アスター01。先程の通信はすまなかった。』」

 

『いえ、お気になさらず。お気持ちはわかります。』

 

「『ヘリボーン艦隊には期待はせん。俺たちだけで殲滅する。以上だ。』」

 

『了解しました。一応、任務ですので、ヘリボーン艦隊は誘導しますが、ご了承を。そして、閣下たちにご武運を。』

 

「『ありがとう。殲滅したら、また連絡を入れる。』」

 

 そう言いながら、手近なタ級の頭を握りつぶし、ネ級をガーディアン・シールドで押し潰す。返り血を浴びながら戦闘を続けていく。相も変わらず、敵の攻撃はエネルギーシールドが弾いてくれる。リチャージモードにも入らないから防御を捨てて、攻撃に専念できる。深海棲艦どもも主砲、副砲以外に機銃でも攻撃をしてきている。なりふり構ってられないってか?ハッ!!効くかよ。そのまま、沈め、沈んでしまえ。こっちには、(まも)るモノがあるんだよ。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話 出撃(四国沖夜戦・その5)

 深海棲艦β艦隊群の中心で暴れまくる。ライトを照射しているから、敵の砲弾に機銃弾がとんでくる。それらをすべてミョルニルアーマーのエネルギーシールドが弾く。逆に俺が仕掛ける接近戦に対応できずにドンドン沈んでいく。駆逐艦をはじめとした非人型はガーディアン・シールドで押し潰し、人型は頭を握りつぶし、胴体に穴を開ける。後方では霞が率いる駆逐隊がワ級相手に優勢に戦闘を進めている。

 

 そして、戦闘艦の最後の1体を沈めた。ワ級はまだ数体が残っているが、手を出そうとしたら、

 

「私たちに任せて。」

 

 と、霞が言ってきたので、戦いの様子を見守ることにした。もちろん、ライトでワ級を照らしながら。数分でワ級は全滅した。

 

「『アスター01。こちらシエラ01。深海棲艦β艦隊群を殲滅した。目視できる範囲では生き残りはいないようだが、どうだ?』」

 

『シエラ01。こちらでも確認しました。501飛行隊からも同様の報告です。増援も確認できません。我々の勝利です。』

 

「『ふう、そうか。では、柱島に帰島する。管制に感謝する。』霞、雪風、島風。柱島泊地に帰るぞ。っと、またドロップか?」

 

 海面が光っている。今度も2カ所だ。ミクが「魂が還って来るのを感じますから、艦娘ですねー。」と言ってきた。ふむ、それじゃあ、この世に顕現されるまで待ちますか。霞たちが(そば)まで来る。光が収まると、2人の艦娘が立っていた。

 

「鈴谷だよ!!よろしくね!!」

 

「ごきげんよう、(わたくし)が重巡、熊野ですわ!!」

 

「私は柱島泊地司令長官の湊中将だ。よろしく。2人にはこれより私の指揮下に入ってもらう。私の(そば)にいるのは、駆逐艦の霞、雪風、島風だ。柱島泊地にはあと、18人の艦娘が所属している。今回の戦闘でのドロップ艦娘は11人だから、計30人が柱島泊地の所属だ。紹介は、柱島泊地に戻ってからしよう。さあ、帰ろう。」

 

「「「「「了解。」」」」」

 

 5人とともに、柱島泊地へ向かう。戦闘は気にしないので最大船速だ。最上型の2人の35ノットに合わせている。現在時刻は午前4時12分だ。泊地に着くのは10時過ぎかあ。あ、いや、扶桑たちに追いついて合流して、一番遅い扶桑に合わせれば、最大船速でも25ノットだから、そうしたら昼前かな。夜明けも海上か。ふむ。泊地に一報を入れておこう。当直の憲兵隊でいいか。

 

「『こちら湊中将だ。』」

 

『柱島憲兵中隊、井上少尉であります。』

 

「『すまん、井上少尉。夜間に緊急出撃があり、私と霞少佐で出撃し、現在帰還中だ。到着は1140前後になる。大淀少佐から(みな)に伝えるように、起床ラッパ後に大淀少佐に伝えてもらってもいだろうか。』」

 

『了解しました。』

 

「『それと、ドロップ艦娘が11人と間宮と伊良湖、明石に伝えておいてくれないだろうか。』」

 

『そちらも了解しました。ご無事の帰還を泊地一同、待っております。』

 

「『ありがとう。』ふう。」

 

「お疲れですねー。」

 

「まあね。さて、後は呉鎮守府だな。通信出るかな・・・。」

 

『呉鎮守府司令長官秘書艦の大淀中佐です。』

 

「『柱島泊地司令長官湊中将だ。田之上中将はいらっしゃるかな?』」

 

『申し訳ありません。今は通信に出れない状況でして・・・。』

 

「『了解。では、報告だけ。深海棲艦艦隊群の殲滅に成功。現在、ドロップ艦娘と共に柱島泊地へ帰投中。以上だ。』」

 

『了解しました。お疲れ様でした。湊中将。』

 

「『ありがとう。中佐。』あー、終わった。これでいいだろう。」

 

「あら、文句は言わなかったの?」

 

「霞、言えるわけないだろう?おそらくは、隷下の提督の誰かの艦隊だったんだろうな。田之上中将があんな指揮をするはずがない。」

 

「ふーん。ま、あなたがいいのなら、私も別に気にしないわ。」

 

「そうしてくれ。嫌で面倒なことは気にしないでおくに限る。」

 

 柱島と呉へ通信を入れ、霞と雑談をしていると後ろから腕に抱き着かれた。誰かと思って見てみると鈴谷だった。

 

「ねえねえ、提督さー。顔を見せてよ。ヘルメットでまーったくわからないんだけど。」

 

「ん、見たいのか?」

 

「そりゃあねえ。顔で指揮能力が決まるモノじゃないけど、これから命を預ける相手の顔は拝んでおきたいじゃん?」

 

「雪風と島風、熊野もそうか?」

 

 3人とも頷く。ならば、外すか。鈴谷に腕から離れてもらい、ヘルメットを取る。

 

「おおー!!中々の男前じゃん!!うんうん、鈴谷は気に入ったよ。熊野もそうでしょ?」

 

「え、ええ。そうですわね。確かにハンサムですわ。」

 

「司令官、カッコイイです!!」

 

「素敵な提督で安心したわ。ねー、連装砲ちゃん。」

 

 思い思いの感想を述べる4人。まあ、なんだ。(けな)されているわけではないからいいか。しかし、うーむ。俺がハンサムねえ。自覚はないんだけどなあ。でも、甦ってからはよく言われるようになった気がするな。

 

「なあ、ミク。俺の顔とか記憶いじってないよな?」

 

「いじってませんよー。中身はいじりましたけどー。」

 

「だよなあ。」

 

「死線を超えてきたわけですから、それが(にじ)み出ているんじゃないんですかねー。」

 

「そんなもんか。」

 

「そんなもんですよー。それじゃあ、私は少し休ませてもらいますねー。」

 

「おう、柱島に着くまでゆっくり休め。」

 

 そう言って、ミクは背中部分、正確に言えば肩甲骨の間に設置された、自分専用の部屋へと戻っていった。まあ、妖精さん仕様だからパッと見は、全然わからないんだけどな。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話 帰還

「どうなるかと、思ったが無事に合流できてよかった。」

 

 高知沖で扶桑たちに追いつき、ともに柱島泊地へ向かう。ちなみに扶桑たちにも素顔を見せたら、鈴谷達と同様の反応をした。ま、嫌われないよりはマシだな。太陽は既に、水平線からその姿を現し、俺たちを照らしている。朝飯食いそびれたなあと思っていると、扶桑が、

 

「すみません。鈍足な私のせいで遅くなってしまって。」

 

「そんなことは、気にするな。本当なら迎えのヘリが来るのが普通だが、泊地として稼働して日が浅いのでね。まだ、専属の輸送隊がいないんだ。」

 

「それでも、私の速力が遅いのには変わりはありません。艦隊運営にも支障が出る場合は解体も・・・。」

 

「解体はしない。誰であろうとだ。それが俺の方針だ。速力が遅いのなら、戦艦としてのその火力を当てにさせてもらう。だから、2度と解体などと言うな。」

 

 扶桑の(そば)まで行き、ヘルメット越しだが、しっかりと目を見て言う。

 

「わかりました。提督。」

 

 そして、小さな声で「ありがとうございます。」と言ってくれた。いやあ、いきなり、指揮下の艦娘が解体を希望するなんてビックリだよ。しかし、先の大戦を経験しているからこそ、味方の足を引っ張らないようにしたいという思いがあるんだろうなあ。特に扶桑型の最期は酷いものだったというしな。そこが引っかかっているんだろう。

 

 んー、なんか雰囲気が重くなったなあ。何か、なかったかな・・・。あ、妖精さんにあげるための金平糖があった。金平糖を取り出し、みんなに配る。甘いモノを口にしたことで、みんなの顔が(ほころ)ぶ。うんうん、リラックスしてくれたようだ。

 

「司令、ありがとうございます。美味しいです!!」

 

「おお、そうか。だがな、雪風。泊地に着けば、もっと美味しいモノがあるぞ。なにせ、厨房には間宮と伊良湖の2人と鳳翔がいるからな。期待していいぞ。」

 

「本当ですか!!間宮さん達の料理や甘味、楽しみです!!」

 

 雪風が目を輝かせながら言ってくる。俺は雪風の頭を()でながら、

 

「ああ、だから泊地までもう一踏ん張りだ。気を抜かないようにな。近海の深海棲艦の潜水艦は、海軍の潜水艦が狩っているから数は少ないが、絶対にいないと言いきれないからな。」

 

「はい、了解です!!でしたら、雪風は、艦隊の前方に出て対潜・対空警戒にあたりたいと思います。」

 

「よし、頼んだ。あまり、(こん)を詰めないようにな。」

 

 雪風は敬礼をして、増速をし、艦隊の前方に陣取る。島風も、

 

「それじゃあ、島風は後方を警戒しますねー。行くよー、連装砲ちゃん。」

 

 そう言って、艦隊の後衛に着いてくれた。中衛は霞がいるから大丈夫だろう。

 

 豊後水道を抜け、瀬戸内海に入る頃には日が随分高い位置にきていた。ふむ、昼飯には間に合うな。そのことを伝えると、心持ち、みんなの船速が上がったような気がする。いや、煙突から出る煙の量が増えたな。扶桑も機関を一杯にしているが、さらに回しているようだ。楽しみなのはわかるけど、無理はしないでほしいものだ。

 

 泊地には、密かに通信を入れ、間宮とやり取りをし、今回のドロップ艦のみんなの昼食にデザートを1品、追加してもらうようお願いしている。ちなみに普段の昼食にもデザートを付けるようにしているから、デザートが2つになるわけだな。ここは、俺のポケットマネーから補填するつもりだ。

 

 柱島が見えてくると、みんなから歓声があがった。船乗りにとって帰る港があるということはいいことだからな。

 

 1143に泊地に着き、工廠内に入ると、大淀と明石が迎えてくれた。明石はみんなをそれぞれの艦種の艤装置き場に誘導していく。俺はミクと工廠妖精さんの手を借りながらミョルニルアーマーを外していく。

 

 また、大淀から午前中に起きたことの報告を受ける。どうやら、夜間に俺と霞の2人だけで緊急出撃していったのを、みんな大小はあれど怒っているらしい。それと、幕僚監部からの連絡があったようだ。うーむ、幕僚監部のほうは嫌な予感がする。厄介事が増えそうな予感だ。

 

 艦娘のみんなは、怒りながらも、日課のトレーニングなどはしっかりとこなしてくれているらしい。ボイコットなんてされずによかった。さて、どう言い訳をしようかと思っていると、工廠の扉が開かれ、

 

「バアアアァァァァニング・ラアアアァァァブ!!」

 

 と、金剛が突っ込んできた。それを優しく受け止める。金剛は顔を上げ、俺を見上げながら、

 

「テートク、私たちは怒ってイマース。なんで、私たちを連れて行ってくれなかったんデスカー!!」

 

「いや、君たちは、まだ練度も低いし、高速の輸送手段が無かったからな。」

 

「なら、なんで霞を連れて行ったんデスカ!?」

 

「たまたまだよ。たまたま。その時間に霞が起きていたからだよ。」

 

「ムー。」

 

「ほれ、金剛、食堂に行くぞ。昼食の時間だ。扶桑たちにも飯を食わせてやらんと。」

 

「わかりました。でも、後で、ちゃんと聞かせてヨネー。」

 

「飯食いながらでもいいか?」

 

「行儀は悪いケド、OKよ。」

 

 ふう、落ち着いて飯は食えそうにないなあ。まあ、みんな、無事に柱島泊地にたどり着けたんでいいだろう。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話 輸送隊配属

 金剛たちのお小言を聞きながら、昼食を摂り、執務室で扶桑たちの正式な着任挨拶を受ける。空母組は赤城、加賀、鳳翔に。扶桑は金剛に。重巡は青葉に。駆逐艦は霞に。それぞれ教導をしてもらうようにした。なので、艦娘のみんなは午後については海上訓練だ。

 

 そして、俺は幕僚監部に連絡をしている。秘書官が出たが、すぐに幕僚長閣下が直々に出られた。

 

『統合幕僚長の湊海軍大将だ。』

 

「『柱島泊地司令長官の湊海軍中将です。』」

 

 少し間が空き、

 

「海斗君、人払いをした。いつも通りの言葉遣いでいいよ。」

 

「わかりました。真護(まもる)叔父さん。それで、何か用件があって泊地に連絡したんでしょう?」

 

「せっかちだねえ。総務部、運用部、後方補給官との調整が終わってね。CH-47JA2機だ。それと、艦を2隻あげるよ。DDHだ。」

 

「まさか、ひゅうが型ですか!?」

 

「そんなわけないでしょ。DDH-143“しらね”とDDH-144“くらま”だよ。」

 

「ほう、以前の海自の顔が、俺の指揮下に入りますか。いいですねえ。あの、後部格納庫と飛行甲板は外洋での長期の艦娘運用に使えますね。自衛装備もありますし・・・。待てよ。叔父さんまさか・・・。」

 

「うん、たぶん、海斗君の考えているまさかと我々が出す指令は一緒だよ。“外洋にてタンカー、コンテナ船等の商船を護衛し、日本の補給線を維持せよ。道中、遭遇する深海棲艦は極力排除すること。”もちろん、今すぐにとは言わないよ。他の鎮守府でも(おこな)っているから、それが、君の所に来たということだね。」

 

 マジか。それはマズイ。錬成が終わっていない。正直に伝える。

 

「まだ、艦娘の錬成が終わっていませんよ。」

 

「それは、わかっているよ。ただ、新型DDHの件で“しらね”と“くらま”を除籍しようという動きがあってね。少しでも戦力を残しておきたくてね。DEにDDが戦没しすぎた。虎の子のDDGが残ったのは幸運だった。」

 

「ええ、確かに。第1次・第2次首都圏防衛海戦では手ひどくやられましたからね。」

 

「全くだ。ちなみに柱島に滑走路を敷設するという案もあったんだよ。」

 

「はあ!?2kmちょっとしか無いんですよ?」

 

 率直に俺は、驚く。あの島を縦断するように敷設しないと無理だからだ。島民の理解は得られないだろう。

 

「まあ、戦闘機は無理でも、連絡機や輸送機は使えるからね。」

 

「何か、隠していますね。叔父さん。泊地には呉からの艦船輸送か回転翼機のみで十分です。固定翼機の輸送機は必要ないはずです。」

 

ODST(ヘルジャンパー)だよ。ミクさんの技術で再現しようとしていた。それを君に率いてもらうつもりだったみたいだ。」

 

「だった。ということは?」

 

「その案は潰したよ。ODST(ヘルジャンパー)は普通の人間だ。スパルタンとは違う。これが、スパルタンⅡ、Ⅲ、Ⅳのいずれかとミョルニルアーマーだったら考えたかもしれないけどね。」

 

 ミクさぁん、技術研究本部で何をやっていたんですかねぇ。

 

「まだ、レイバーの方が現実的ですよ。叔父さん。それか、戦闘妖精雪風ですね。」

 

「あー。戦闘妖精はいいね。あれだけの機動とサポートができる機体があれば、深海棲艦に制空権は渡さなかった。」

 

「でも、F-4EJ改やF-15J/DJの有用性を証明できたじゃないですか。」

 

「まあね。それと、今回の最後の用件だけど、海斗君。君は大将へ昇進ね。霞少佐は中佐へ昇進。四国沖夜戦は2人でやりすぎたよ。」

 

「呉からのヘリボーン艦隊がいけないんですよ。貴重な時間をドロップ艦娘に対して誰何(すいか)をするとか、考えられません。指揮官は責任を取るべきです。俺も霞もヘリボーン艦隊の到着を心待ちにしていたんですよ?音声ログ送りましょうか?」

 

 少し、怒りを声音に乗せて伝える。

 

「いや、呉の田之上中将から連絡があったよ。彼の隷下の夜間当直の提督の艦隊だったようだ。その提督がまた問題児で、自分の行動は全て正しいと思っているような人物らしい。」

 

「なんで、そんなヤツが提督しているんですか?よく、艦娘も着いてきてますね。」

 

「いやあ、艦娘からも苦情があったから、提督資格を剥奪するつもりだったらしい。ちなみに、父親が左の政党所属の議員だ。」

 

「あー、はい、なんとなくわかりました。政治の事には首は突っ込みませんよ。俺は。」

 

 ため息をはきながら伝える。叔父さんは笑いながら、

 

「ハハハハ、海斗君には、この魑魅魍魎(ちみもうりょう)の渦巻く世界は耐え切れんだろうね。あの、やり取りを見るとすぐキレると思うよ。」

 

「でしょうねえ。庁舎を廃墟に変えてもいいのならば、すぐにでも、加わりますよ。」

 

「いやあ、そうなると、爽快だろうねえ。」

 

 ハハハハとお互いに笑い合う。

 

「ま、そういうことで、近く、君を召喚することになるね。まあ、早くて1週間後くらいかな。準備があるからね。それと、勲章、旭日大綬章(きょくじつだいじゅしょう)の件だけど、宮内庁からはまだ何も言ってこないんだよね。」

 

「いらないんですけどねー。勲章。」

 

「まあ、貰っときなよ。テレビは見ている?海斗君、マスメディアから“日ノ本の鬼神”って呼ばれているよ。駐在武官からも“デーモン”とかいわれているねえ。アメリカの駐在武官は息子さんがマスターチーフのファンらしくて、君に会いたいと言っているらしいよ。」

 

 へー、世間ではそんな風に言われているのか。如何にも“関係ありませんよ”という感じを(かも)し出しているが、幕僚監部の報道官の案件でしょうに。

 

「はあ、大使館からのレセプションがあれば、武官として応じますよ。」

 

言質(げんち)は取ったよ。さて、これで大体の話しは終わったかな。あ、最後に僕のガンプラは無実なので手を出さないであげてください。」

 

「そんじゃ、80スープラにします。」

 

「それもやめて!?」

 

「それでは、閣下、小官はこれで失礼します。」

 

「ちょっ、まっ・・・。」

 

 なんか言っていたが、切ってやった。上官だけど関係無い。スパルタンとミョルニルアーマーの力をもってすれば、80スープラなど簡単に拉致(ハイエース)できるからな。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話 改二

 幕僚監部への電話を終え、時計を見ると、1500を過ぎていた。体を伸ばし、席を立ち、食堂に向かう。なんか甘いモンでも食おう。

食堂に着くと、休憩のためか、艦娘のみんながいた。

 

「やあ、みんなも休憩かい?」

 

「ええ、そうよ。初日から飛ばし過ぎて無理させても意味ないでしょう?練度は上がるかもしれないけど。あなたが急げって言うなら急ぐけど。」

 

「俺はそんなこと言わんよ。ただ、上(うえ)がな。幕僚監部に連絡したら、CH-47JA2機とDDHの“しらね”と“くらま”が配属されるらしい。長距離の護衛任務を任される可能性がある。」

 

「今の練度だと無理ね。」

 

「キッパリ言うな。霞は。」

 

「命がかかっているもの。」

 

「そうだな。」

 

 そんな会話をしながら、席に着きながらチョコレートパフェを伊良湖に頼む。他のみんなは、羊羹とお茶か。霞だけは季節のフルーツパフェを食べている。俺の視線を感じたのか、霞は、

 

「みんなが間宮さんの羊羹が食べたいというものだからね。ちなみに、今、全員2本目よ。ちなみに私のパフェは1杯目。」

 

「間宮さんの羊羹がこんなに食べられるなんて、鈴谷、幸せだよ~。」

 

 鈴谷の言葉に霞以外のみんなが頷く。

 

「なら、満足のいくまで食べるといい。ただ、晩飯が入るぶんの腹は空けとくように。後悔するぞ?」

 

「まだ、昼食よりもおいしいモノが食べることができるってこと?」

 

「まあ、新しく着任したみんなの歓迎会だからな。豪華だぞ?先任の者に聞くといい。しかし、連日、歓迎会ばかりだな。」

 

「いいじゃん、いいじゃん。鈴谷達をのけ者にしないでよー。」

 

「のけ者にする気などないのだが・・・。」

 

「はい、提督。ご注文のパフェですよー。」

 

 伊良湖がよいタイミングでパフェを持ってきてくれた。スプーンを手に取り、パフェを一口分すくい、鈴谷に差し出す。鈴谷はキョトンとしていたが意味が分かったのか、笑顔でパクついた。

 

「っ~~!?美味しい!!パフェってこんな味なんだ~。鈴谷、感激~。」

 

 そんなに喜ぶものだから、霞以外のみんなに1口ずつあげていたら、俺の食べる分はほとんど無くなっていた。まあ、いいか。みんな、羊羹以外の甘味も覚えたのだから。

 

「まだ、世の中には美味しい甘味は沢山あるぞ。折角、人の身体(からだ)を手に入れたのだから、いろんな体験をするといい。申請してくれれば費用は出すぞ。」

 

 そういうと、みんな顔を見合わせた。ふむ、まずは世の中にどんなモノがあるかを知ってもらわないといけないな。共用パソコン数台と複数の情報誌を取り寄せよう。福利厚生は充実させなければ。

 

「そういえば、あなた、これから時間ある?」

 

 パフェを食べ終わった霞が聞いてきた。俺が頷くと、

 

「演習しましょ。みんなには見学してもらうの。いいでしょ?」

 

「ああ、いいよ。やろうか。霞は実弾で、俺はペイント弾だな?」

 

「ええ、それでやりましょう。」

 

 というわけで、霞と1対1の演習をすることになった。工廠でそれぞれ艤装と装備を着ける。俺は、MA5DアサルトライフルにSRS99-5対物ライフル、M6Hハンドガン。霞は61cm四連装酸素魚雷発射管4基に12.7cm連装砲に10cm連装高角砲。ちなみに霞の機関は缶とタービンを交換してある。

 

 工廠から出て、お互いに距離を取る。約1km。審判役は大淀。そして、岸壁には艦娘たちと手空きの憲兵たち。十分なギャラリーだ。

そして、大淀の号砲と共に演習が始まる。

 

 俺は、対物ライフルを構え、向かってくる霞に撃つ。すぐに1マガジン撃ち尽くす。命中弾はかすったのが2発のみ。他は全て避けられた。しかし、勢いは殺せた。ふむ、霞は腕を上げているな。

 

 アサルトライフルに持ち替え、突撃を開始する。霞はそれぞれの連装砲を水平撃ちしてくる。それをすべて避ける。当たらないとみると、魚雷を放り投げて、空中で撃ち抜き爆発させ、俺の逃げ道を塞ぐ。だが、残念。頭上が空いている。跳躍しブースターを思いっきり吹かし、霞の背後に着水する。

 

 霞は振り返りながら、連射してくる。俺は、ブースターを全力で吹かしながら、攻撃をかわし、接近する。250mの距離をきったら、すぐにアサルトライフルの三点射を繰り返す。霞の身体に艤装にペイント弾が付着していく。

 

 霞の表情がゆがむ。それでも、俺は、射撃をやめない。霞もだ。しかし、これで、決着だ。下方にブースターを吹かし、海水を巻き上げ、視界を霧で覆う。その間に、視界を奪われた霞に近づき、ハンドガンを突きつける。

 

「負けたわ。全力で動いたけど、まだまだね。」

 

 霞が負けを認め、俺の勝利となった。霞はスッキリとした顔をしている。切り替えが早いのは彼女の長所だと思う。工廠へ戻る道中に、ミクが出てきて、

 

「海斗さん。霞さん、改二になれますよー。今の演習で練度が達しましたー。」

 

「本当か?ミク。」

 

「本当ですよー。」

 

「霞!!改二になれるそうだ。」

 

「はあっ!?ホントなの?」

 

「ミクがそう言っている。本当だ。」

 

 そういうと、霞は、喜色を浮かべ、「なら、早く工廠に戻らないとね」と船速を上げて工廠へ向かう。俺は、一足先に工廠に着き、ミクと明石、工廠妖精さんに改二の準備をさせる。準備が終わる頃には、全身ペイント弾だらけの霞が工廠に着いた。とりあえず、ペイント弾を洗い流してくるように指示を出す。いそいそと、風呂場に向かう。さて、艤装の方の汚れは、俺が落としておくか。

 

 霞が上機嫌で工廠に戻ってきたのは、20分後だった。すでに、改二への準備は済んである。霞は、艤装をつけ改造用のポッドの中に入る。明石とミク、工廠妖精さんが手順通りに事を進めていく。数分後、「終わりましたよ。」という明石の言葉とともにポッドが開く。

 

「改装された朝潮型駆逐艦、霞よ。もちろん、ガンガン行くわ。ついてらっしゃいな。」

 

 出てきてそう言った霞は、艤装も変わり大人びた感じだ。特に背とか伸びたんじゃないだろうか。まあ、とりあえず、この言葉は言っておかないとな。

 

「改二、おめでとう。これからもよろしく頼む。」




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話 青葉と新聞

昨日は更新できず、申し訳ありませんでした。


 いやあ、昨日の歓迎会は盛り上がった。特に、雪風、瑞鶴、摩耶、鈴谷のはしゃぎ具合は見ているこっちも楽しくなるものだった。さて、今日は起床してからはいつも通りのルーティンをこなして、書類と格闘中だ。ちなみに、朝のルーティンに金剛が加わった。あのスタイルに体操着にブルマは、童貞の俺には破壊力があり過ぎる。

 

 そんなことを考えながら、書類仕事をしていると、秘書艦の霞がこっちを見ている。

 

「どうした?霞。」

 

「今、変な事を考えていたでしょう?んー、そうね。スケベなことを。」

 

 俺はギクッとしながらも、平静を装い、

 

「いやいや、そんなことは考えていないぞ。」

 

「いーえ、絶対に考えていたわ。そうね・・・。今朝の金剛さんの姿とか、かしら。」

 

「もし、そうだとしても、手は出さないから安心してくれ。」

 

「金剛さんや鈴谷さんは、手を出して欲しそうだったけどね。」

 

「からかわんでくれ。年齢=彼女いない歴の28歳だぞ。ムリムリ。」

 

「はぁー、金剛さん達が可哀想だわ。折角、人の身体(からだ)を手に入れたのに、恋愛ができないなんて。」

 

「そ、そういう霞はどうなんだよ。」

 

「私は、そういうことは横須賀鎮守府では無かったわね。ただ、憧れはあるわね。」

 

「ほう、それは興味があるね。ちょうど1000だ。茶飲み休憩でもしよう。お茶請けは何がいいかな。」

 

「チョコがいいわね。お茶は私が用意しとくから。」

 

「了解、部屋から持ってこよう。」

 

 そう言って、席を立とうとするとノックの音が響いた。霞と顔を見合わせ「どうぞ。」と声をかけると、

 

「失礼シマース!!」

 

 と、体操着にブルマ姿の金剛が入室してきた。その手にはお盆を持ちティーポットとカップ、お茶請けが乗っていた。

 

「テートクは1000にお茶休憩をすると聞きましたので、紅茶を持って来タヨー。」

 

 笑顔で、応接机に紅茶セットを展開していく金剛。体操着にブルマがこれほど似合わない光景も無いな。

 

「金剛、基礎体力作りの最中だったのでは?」

 

「終わらせマシタ。伊達に高速戦艦を名乗ってないヨ。」

 

 明るく返された。霞を見ると、諦め顔で頷いていたので、霞と金剛の3人でお茶休憩をすることになった。俺が応接用のソファに座ると、隣に金剛が座ってきたので、動揺する。なんで、汗をかいていたはずなのに、こんなに良い匂いがするんだ。とか、髪をアップにしているからうなじが見えて色っぽいとか思ってしまう。

 

 そして、対面のソファに座った霞がジト目で俺を見てくる。いや、これは不可抗力だろ。目で訴えると、ため息をつかれた。

 

「金剛さん。司令官は女性に免疫が無いから、あまり誘惑しすぎないようにね。」

 

「エッ!?この格好のどこが誘惑になるんデスカー?」

 

「司令官、説明してあげたら。」

 

「いや、そんなん恥ずかしいだろ!?金剛も期待を込めた目で見るんじゃない!?あー、もう、折角のお茶を楽しませてもらおうかな。」

 

 そう言いながら、金剛の淹れた紅茶を飲む。思わず「美味い」と口に出してしまった。金剛が顔を輝かせながら、

 

「嬉シイネー。テートク、スコーンも食べて。間宮に聞きながら作ったから、うまく出来ているとは思うケド・・・。」

 

 スコーンに手を伸ばす。うん、美味い。

 

「美味しいよ。金剛。紅茶もお茶請けのスコーンも両方、美味しい。ありがとうな。金剛。」

 

 言いながら、金剛の頭を撫でる。「ふわあ・・・。」と言いながら、とろけた表情になる。対面の霞が、

 

「初期艦で秘書艦の私には無いのかしら?」

 

 と言ってきたので、身を乗り出し、頭を撫でる。「霞ってこんなキャラだったか?」と聞くと、「ウルサイ。あなたは黙って撫でておけばいいの」と言われ、右手で霞を、左手で金剛を撫でる時間となった。しかし、2人とも髪がサラサラだな。撫でていて心地よい。

 

 そんなところに、爆弾が現れた。ノックされたので反射的に「どうぞ。」と言ってしまった。「司令官、失礼します。」その言葉とともに青葉が入って来て、この光景を見られてしまった。青葉は即座にコンデジを取り出し、笑顔で写真を撮って、

 

「青葉、見ちゃいましたー!!」

 

 と言いながら走り去っていった。あとには、ポカンとした表情の、金剛と霞が残された。何をされたか理解し始めた2人は顔を真っ赤にして、

 

「青葉ー、待つデース!!」

 

「青葉さん、待ちなさい!!そのデータを渡しなさい!!」

 

 と言って、追いかけて行った。俺は、敷地内放送のスイッチを入れ、

 

「湊大将だ。今すぐ、青葉少佐を執務室に連れてきた者には、甘味を休暇の時に岩国で奢る。好きなだけだ。繰り返す、・・・。」

 

 スイッチを切り、金剛の淹れてくれた紅茶を飲む。うん、やっぱり美味い。放送をしてから5分後、執務室にノックの音が響く。「どうぞ。」と声をかけると、「失礼しまーす。」「失礼します!!」と島風と雪風がワイヤーでグルグル巻きにした青葉を運んできた。

 

「ご苦労様。ちょっと待っていてくれ。」

 

 A4用紙を1枚取り出し、それを半分に切り、それぞれに甘味券と書いて、俺の署名と捺印(なついん)をする。それを島風と雪風の2人に渡し、

 

「好きな時に使うといい。しかし、俺の都合で行けない場合もあるから、いくつか候補日を決めておくこと。いいね。」

 

「はーい。ありがとう。提督。」

 

「ありがとうございます。司令。」

 

「うん、行ってよろしい。」

 

 2人とも礼を言って執務室を出る。残されたのは俺と青葉だけだ。執務室の鍵をかけ、青葉の拘束を解く。「ワイヤーを素手でちぎるなんて・・・。」と言っていたが、スパルタンの力をもってすれば、このくらいの太さのワイヤーぐらいは余裕でちぎれるんだよなあ。

 

「さて、青葉。俺が言いたいのはわかるな?」

 

「はい・・・。データを消します・・・。」

 

「いや、俺はそのデータの使い道を聞きたかったのだが。」

 

「あ、そうなんですね。実は“泊地新聞”を作りたいなあと思いまして。」

 

「なるほど、その記事としてさっきの写真を使いたいと。」

 

「はい、そうなんです。」

 

「俺は、構わんが、霞と金剛にも許可を得ること。これは、今後もそのようにしてもらう。また、誹謗中傷も認めん。事実のみを書くこと。以上が守れるか?」

 

「守ります。」

 

「よろしい。ならば“泊地新聞”の発刊を認めよう。必要経費は都度、書類にて報告すること。」

 

「ありがとうございます!!司令官!!」

 

「まあ、まずは、後ろの2人の許可を得るんだな。頑張れ。」

 

 そして、青葉は霞と金剛に連れられて行った。さて、仕事の続きだ。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37話 錬成開始

どみにおん様、36話の誤字報告ありがとうございます。訂正いたしました。


 昼食の時間になり、やっと青葉は解放されたようで、青い顔をしていたが、目は輝いていた。ふむ、艦娘のやる気や興味を持つことにもっと、関心を寄せる必要があるのかもしれないな。同じ人間なのだから。

 

 そう思いながら、昼食を1人で摂っていると、霞と金剛が両隣に座ってきた。2人ともほのかに(ほお)が赤くなっている。理由は聞くまい。青葉と何かしらがあったのだろう。黙々と食事を続けていると、霞が、

 

「今日の午後の予定はどうするのかしら?さっき、執務室をのぞいたら書類は全て終わっているみたいだったけど。」

 

「うーむ、どうするかな。錬成を俺がしてもいいかな、とは思っている。」

 

「テートクが相手デスカー。勝てる気がしないデース。」

 

「錬成だから勝つ必要はないさ。今後の戦闘に生かしていく何かを掴んでもらえたらよいとは思うけどな。」

 

「なら、そのようにしましょうか。紅白試合でもやろうと思っていたけど、新しく配属になったみんなに、あなたの実力をしめすには丁度いいかもね。」

 

「では、そのように。1330より始めよう。審判役は霞が、他の艦娘たちは実弾で、俺はペイント弾で行う。場所はいつも演習海域だ。他の艦娘への通達よろしく頼む。」

 

「了解したわ、司令官。」

 

「了解デース。」

 

 昼食を(たい)らげ、膳を下げると、その足で工廠に向かう。

 

「ミク、居るか?」

 

 工廠の扉を開け、声をかける。食堂にはいなかったから此処(ここ)にいるはずだが。すると、

 

「はい、ちょっと待ってくださいー。」

 

 と返事があった。フヨフヨと宙を漂いながらミクが向かってくる。手の平を差し出すと、その上にちょこんと座り聞いてきた。

 

「どうかしましたかー。」

 

「ミョルニルアーマーのリミッターを全て外してもらいたい。原子炉も同様に。1330から、霞を除く艦娘たちと演習を行う。武装は、MA5Dアサルトライフル、SRS99-5 対物ライフル、M45D タクティカルショットガン、M6H ハンドガンで全てペイント弾だ。あとは、ガーディアン・シールドだな。」

 

「了解しましたー。みんなー、やるよー。」

 

 ミクが声をかけると工廠妖精さんたちがミョルニルアーマーに集まり、ミクの指示の(もと)、各リミッターを外していく。その様子を眺めながら、またミクに声をかける。

 

「ミク、作業をしながらでいいんだが、今度、うちにも輸送隊としてCH-47JAが2機配備される。それと、満載排水量6,800tの護衛艦が2隻も配備される。ヘリポートと格納庫、1万t以上の艦が接岸できる岸壁と設備を整備してほしい。」

 

「ドライドックは必要ですかー。」

 

「あれば便利だね。しかし、無理をしてまでは必要はないね。」

 

「了解でーす。我々、妖精の力をお見せしますよー。そういえば、明石さんが何か話しがあるって言っていましたよー。お会いしました?」

 

「あー、食堂にはいたが、声はかけなかったな。ちょっと、聞いてくるよ。」

 

「はいー。あとはお任せあれー。」

 

 工廠を出て、食堂へ向かう。明石とはその途中で出会えた。大淀と会話しながら歩いてくる。

 

「明石。」

 

「あっ、提督。どうしました?」

 

「いや、ミクから明石が俺に何か話しがあると聞いたんだが。」

 

「あ、はい。大淀とも話しをしていたのですが、酒保を工廠の近くに開けないかと思いまして。お給料が貰えるんですよね?なら、それを使う場を提供したいなと思いまして。」

 

「いいんじゃないか。要望書にして提出してくれ。準備は手伝おう。」

 

「ありがとうございます!!」

 

 そう言って、右腕に抱き着いてくる。おおう、明石の豊満な胸に腕が埋まる。彼女いない歴=年齢の童貞にはキツイぞ。明石は笑顔になりながら、

 

「今から工廠ですよね?一緒に行きましょう。」

 

 と抱き着いた状態で言ってくる。大淀に助けを求めようと思い、彼女を見たら、大淀も「えいっ」という掛け声とともに左腕に抱き着いてきた。あー、なんかもう頭が一杯だ。そのまま、フラフラと工廠へ向かった。

 

 工廠に着くと、すでに霞が艤装を着ける準備をしていた。入ってきた俺を見るなり、

 

「この、クズッ。」

 

 と言われた。いや、俺から望んだ状況じゃないんだが。工廠に入れば、2人とも離れてくれた。大淀は自分の艤装のもとへ、明石は霞と大淀に艤装を着ける手伝いを始めた。俺は、ミョルニルアーマーのもとへ行き、ミクに手伝ってもらいながら、装着していく。最後にヘルメットを被り、ディスプレイの表示が正常か確認をする。よし、問題無しだ。右手に対物ライフル、腰にハンドガン、背中にアサルトライフル、左手にショットガンを懸架したガーディアン・シールドを持ち、

 

「お先に行くよ。」

 

 そう言いながら、工廠から海原へと出る。今日は天気も良く、波も穏やかだ。ホバーで移動しても揺さぶられない。

 

 時刻は1320。間宮と伊良湖、明石に審判役の霞を除く、柱島泊地に所属する艦娘たち26人と海上で対峙する。お互いの距離は2.5km。すでに艦砲の射程内だ。さて、彼女たちは数が多いからか、いささか気が緩いところがあるな。

 

 俺の戦闘を見たことがある者は、ほどよく緊張している。ふむ、やるか。霞に「準備完了。」と伝える。向こうもそう伝えたのか、霞が号砲を撃つ。すぐに発砲炎が上がる、俺は、ブースターで加速しながら、海面を滑走する。そして、対物ライフルを構え、引き金を引いた。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38話 鬼神

 艦娘たちの初撃は全て外れた。俺の後方で盛大に水柱を立てている。逆に俺の撃った弾は白雪の顔面に命中した。真っ赤なペイント弾が白雪の顔を彩る。そのまま、白雪に向けて、弾倉1つ分撃ちきる。

 

 顔面に腹部、脚部に主砲と魚雷発射管、機関部を真っ赤にした白雪は霞によって「白雪、大破。」と判定された。俺の戦闘を見たことのある金剛たちは、すぐに主砲の攻撃に加え、中口径砲、小口径砲、果ては機銃や高角砲まで使って攻撃をしてきた。なかなかよい対処法だ。

 

 あの濃密な弾幕の中に飛び込むのは少し危険だ。だから、極力、数を減らす。次に深雪に狙いを定めると、銃口が向いたのがわかったのか、こちらに直進してきて、

 

「簡単にやられてたまるかあ!!喰らえっ、深雪スペシャル!!」

 

 と、魚雷を投擲してきた。ふむ、柔軟な発想だ。魚雷を12.7cm主砲で撃ち抜き誘爆させる。だが、避けるのも容易い。そう思っていたら、爆炎の中から深雪が飛び出してきて、そのままタックルを喰らわせにきた。5万馬力のタックルをガーディアン・シールドで受け止める。シールドに機銃が撃ち込まれる音が響く。

 

 俺は、リミッターの外れたミョルニルアーマーの性能一杯に左手を振り切った。深雪はそのまま空高く放り出されてしまった。「いかん」と思い、落下地点に先回りして、抱きとめる。深雪は目をまわしていた。取り敢えず、ハンドガンで白雪と同じ個所にペイント弾を撃ち込み、霞に回収を頼む。

 

「はあっ、なにやっているのよ。あなたは。深雪、戦闘不能。」

 

 金剛、加賀、青葉、天龍、吹雪、満潮以外の艦娘たちに動揺が走るのがわかる。次の標的は、急いで艦載機を発艦させようとしている空母勢だ。対物ライフルを連射しながら、一番近い蒼龍に接近する、直掩(ちょくえん)の摩耶が弾幕を張りながら進路妨害をしてくる。

 

 それを、(かわ)しガーディアン・シールドで受け、逆に摩耶に対物ライフルで命中弾を与えていく。「摩耶、主砲破損。機関損傷。船体損傷。中破相当。」霞の判定の声が響き、摩耶の動きに制限がかかる。その間に、横滑りし、発艦体勢をとっていた蒼龍の右舷に回り込み、対物ライフルを連射する。「蒼龍、大破。」霞の声が無慈悲に響く。

 

「そんなあ、提督、速すぎるよ~。それにペイント弾なのに痛いじゃない。」

 

「油断大敵ってことだな、痛い思いをしたくなければ、戦訓にするんだ。」

 

 そう言って、頭を撫でるとすごすごと隊列から抜けていった。此処までで90秒経っていない程度。そして、艦娘たち隊列の懐に入れた。武器をショットガンに切り替え、引き続き空母を狙う。行きがけの駄賃代わりに、摩耶にショットガンを撃ち込み、大破判定させる。「摩耶、大破。」

 

「ふっざけるなあ!!何もできなかったー!!」

 

 叫んだところで時間は戻せないぞ。摩耶よ。さて次は、2航戦繋がりで飛龍を喰らうか。俺が狙いを定めたのがわかると、飛龍は、「ヒィッ!?」と悲鳴を上げ後退を始めた。直掩の愛宕が間に入る。

 

「提督~、ここは通さないわよ~。」

 

「甘いな。愛宕。」

 

 海面に面したブースターを思いっきり吹かし、簡易的な霧の状態を作り出す。霧の向こうから、砲弾が飛んでくるが、スパルタンとミョルニルアーマーの反応速度で避ける。そして、俺は愛宕の背後にまわり、ショットガンを連射する。あっという間に愛宕は真っ赤になった。

 

「あらあら、やられちゃったわね。ちょっと、やりすぎじゃないかしら?」

 

「そういうなら、もっと訓練して強くなれ。霧が晴れるまでむやみ動くなよ。誤射されるぞ。」

 

「はあい。」

 

 さて、飛龍は・・・。いた。あの人影は間違いなく飛龍だ。霧から飛び出し、飛龍を仕留めようとすると、そこには主砲をこちらに向けた扶桑と夕張、叢雲、曙がいた。良い連携だ。一斉に主砲が吹くが、全て躱す。愛宕に飛んでいきそうな奴だけを、ガーディアン・シールドで弾いた。

 

「そんな・・・、嘘・・・。」「今のを避けるなんて。」「あー、もう、なんで機銃すら当たらないのよ。」「クソ提督、クソ提督ぅ!!」

 

 最後のはなんか違うが、格の差を、戦闘経験の差を見せつけることができたかな。飛龍は逃走に転じている。なら、先に、この4名から相手にしようか。ショットガンを構えたときに、霧が晴れ、「愛宕、大破。」と霞の声が響く。その瞬間、4人が一瞬だけ動揺した。

 

 その一瞬のうちに、扶桑の懐に飛び込み、顔に一発、腹部に一発、6基の主砲に一発ずつ、機関部にも一発を撃ち込んだ。その次に、ハンドガンを抜き、夕張に対して、扶桑と同じようにペイント弾をお見舞いする。「扶桑、夕張、大破。」響く霞の声。

 

「私、主砲の多さが自慢だったのに・・・。こんな姿じゃ・・・。」

 

「いろいろ積みすぎちゃったのかしら。ハア・・・。」

 

「退避するときは、誤射の砲弾に気を付けるんだぞ。それと、そんなに落ち込むな。」

 

 さて、これで、今の俺の目の前にいるのは叢雲と曙の2人だ。2人ともなんか涙目になっていないか?まあ、それでも、撃つんですけどね。ドンッ!!とブースターで加速し、一気に距離を詰める。

 

「沈みなさい!!」

 

「うざいのよ!!蹴散らしてやるわ!!」

 

 沈みもしないし、蹴散らされもしないさ。2人仲良く、ペイント弾で真っ赤になりなさい。そして、数秒後には、ショットガンとハンドガンによって、全身を真っ赤に染めた2人がいた。主砲と機銃で弾幕張っていたけどねえ、あれじゃあ、まだまだかな。「叢雲、曙、大破。」ちょっと、トーンにあきれた感じが含まれ始めているぞ霞。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話 瑞鶴

 さて、演習が始まり、170秒。残るは戦艦が金剛。空母が赤城、加賀、飛龍、瑞鶴、翔鶴、鳳翔。重巡が青葉、鈴谷、熊野。軽巡が大淀、天龍、龍田。駆逐艦が吹雪、満潮、島風、雪風。計17名だ。空母勢がこんなに残っているのは脅威だな。

 

 というわけで、空母から仕留めよう。発艦作業している空母勢のところまで一気に距離を詰める。金剛、青葉、天龍、龍田、大淀、吹雪、満潮、島風、雪風は実戦を経験していることもあって、冷静に防御陣を固める。

 

 ただ、護るべき空母たちがパニックを起こした。飛龍、瑞鶴、翔鶴が発艦作業を中断して、逃走に転じたのだ。これは、実戦ではしてはいけない。特にあの“尻尾付きの欲張りセット野郎”がいたら、いい的になってしまう。

 

 だから、ここで地獄を見てもらおう。防衛艦隊をブースターの加速で振り切り、恐怖を顔に貼り付けて逃げる3人に追いつく。

 

「追いついたぞ。」

 

 そう告げると、3人とも高角砲に機銃をしっちゃかめっちゃか撃ってきた。まあ、抵抗をする気力がある分、良しとするか。3人ともにショットガンでペイント弾を撃ち込む。そして、最後に瑞鶴に撃ち込もうとしたとき、

 

「爆撃隊、提督さんを爆撃してぇ!!」

 

 と叫んだ。上空をみると九九式艦爆が爆撃体勢に入ったのが見えた。咄嗟に3人をガーディアン・シールドで覆う。投弾された爆弾が爆発する音が響く。ようやく、爆撃音が消えた時には、霞が大声で演習の中止を命じていた。

 

「演習中止!!中止よ!!全員、武装から弾薬を抜きなさい。空母は艦載機を収容すること。上官命令よ。」

 

 霞がこちらを見て頷く、俺も頷き返す。

 

「瑞鶴、なぜこんなことをした。瑞鶴自身も翔鶴も飛龍さえもいるのに、なぜこんな自爆まがいのことをした。一歩間違えれば、大惨事だったんだぞ?」

 

 瑞鶴は涙を流しながら、

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

 

 と繰り返していた。どうしたもんかと思っていると、霞と金剛、赤城に加賀がやって来て、「後は私たちが。」と言ってくれたので、瑞鶴を彼女たち4人に任せ、俺は、残りの艦娘たちと工廠へと向かった。工廠に着いても重い空気がみんなの間に漂っていた。

 

 工廠に着き、ミョルニルアーマーを外すなり、艤装を外した龍田が聞いてきた。

 

「瑞鶴さんはこの後、どうなるのかしら~?」

 

「どうなるとは?」

 

 すると、龍田は鋭い目つきで言った。

 

「解体をするの?」

 

「しない。する理由が無い。あの、自爆まがいの攻撃もパニックに陥ってしたものだと思っている。訓練と実戦を積めば大丈夫だろうと俺は信じているよ。」

 

 そう答えると、いつもの“ぽわん”とした雰囲気に戻り、

 

「なら、よかったわ~。さあ、みんなでお風呂に行って、このペイントを洗い流しましょうね~。」

 

 そう言って、艦娘寮へ向かって行った。先程までみんなの間に漂っていた、重い空気も霧散して、みんな、口々に今の演習の感想を言いながら寮へと向かって行った。俺は、明石と工廠妖精さんに交じって、艤装を綺麗に洗い流す作業を(おこな)った。

 

 最後の艤装を磨いていると、霞を先頭に金剛、加賀、赤城、そして瑞鶴が戻ってきた。瑞鶴の目の周りが真っ赤になっているのは、見なかったことにしてあげよう。俺は、瑞鶴の前に立ち、

 

「艦娘を続けられるか?」

 

「提督さん、私を許してくれるの?解体しないの?私はいていいの?」

 

「ああ、許すし、解体もしないし、瑞鶴、お前は此処(ここ)にいていいんだ。」

 

 そう言うと、瑞鶴は涙を流し始めた。おっとぉ、こういう時は世のイケメンたちはどうしているんだ?取り敢えず頭を撫でるか。すると、声をあげて泣き始めた。霞が背後から「抱きしめてあげなさい」と言ってきたので、その言葉に従い、抱きしめる。すると、俺の胸に顔を(うず)めて泣き続ける。落ち着くように頭と背中を()でる。

 

「後は任せましたよ。提督。」

 

「提督、瑞鶴は繊細(せんさい)な子なの。(なぐ)めてあげて。」

 

「あなたにあとは任せたわ。」

 

「テートク、アフターケアは大切ネー。」

 

 霞たちがそれぞれ、小声で(ささや)き、工廠から出ていく。おい、俺1人でどうしろというんだ。瑞鶴は、まだグスグスと泣いているから、撫でる手を止めることはできないし、ホントどうするかね。

 

「瑞鶴、再度聞くから辛いと思うが、今日の演習でなんであんな自爆まがいの攻撃をした?」

 

 そう聞くと、瑞鶴は俺の胸に埋めた顔を上げて、目が合う。俺は撫でるのをやめた。

 

「怖かったの・・・。」

 

「怖かった?何がだい。」

 

「ペイント弾で真っ赤に染まっていくみんなを見て、提督さんに殺されるかと思ったの・・・。ダメだよね、私。実戦でも無いのにその様子を見ていただけで取り乱すなんて・・・。」

 

「ダメじゃないさ。逆に実戦に出る前に知れて良かった。」

 

「じゃあ、やっぱり、私は解体・・・。」

 

「しないって言っているだろう?訓練をしよう。ペイント弾は全て赤で。そうして、徐々に慣れていこう。」

 

「慣れることができなかったら?」

 

「フムン。まあ、秘書艦や艦載機による近海哨戒をしてもらうかな。仕事はいくらでもあるんだから。」

 

「私、便利屋じゃないんだけど。」

 

「知っているさ。5航戦、幸運艦の“瑞鶴”だろ。艦の時代は最期までよく頑張ったな。」

 

 そうして、頭をまた撫でる。瑞鶴は笑顔になりながら言う。

 

「くすぐったいわ。でも、嫌いじゃないかも。」

 

「そうかい。それならよかった。」

 

 アフターケア成功かな?そう思っていると、「提督さーん」と言って抱き着いてきた。

 

「もっと、撫でてよ。」

 

「ああ、いいとも。」

 

 そう言いながら、瑞鶴を抱きしめながら、彼女の頭と背中を撫で続けた。「んふふ~。」と上機嫌なようだ。なんか、猫を相手にしている気持ちになってきたぞ。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話 泊地改装

どみにおん様、誤字報告ありがとうございました。訂正いたしました。


 瑞鶴を(なぐさ)め終わって、2人して工廠を出ると、青葉がカメラを持って待っていた。

 

「お2人ともお疲れ様です!!瑞鶴さん、司令官に抱きしめられたということでしたが、いかがでしたか!?是非とも、感想を!!」

 

「あー、青葉、今回の件はあまり、新聞に載せて欲しくはないんだが・・・。」

 

「えー!?折角の特ダネだと思ったんですけど・・・。」

 

「ふむ、ならば、泊地の改装を行うというネタはどうかな?」

 

「ほう、それは興味があります!!」

 

「それでは、執務室で話そう。瑞鶴は、ペイントを落としてきなさい。その後は、ゆっくり落ち着いていなさい。午後の課業は無理してしなくていいから。まずは、心を落ち着かせるのが大事だよ。」

 

「わかったわ、提督さん。ありがとう。」

 

 そう言う瑞鶴の頭を「気にするな」と言いながら撫でる。瑞鶴は「もう大丈夫だから。」と顔を赤らめて言いながら艦娘寮へと向かう。ふむ、乙女心はわからんなあ。そう思っていると、青葉が真正面に立って、

 

「司令官、青葉も撫でてください。さっきの演習、頑張っていたんですよ。」

 

 そう言われたら、撫でるしかない。グレイッシュピンクの髪をすくように頭を撫でる。(ほお)をほんのり赤く染め、小さな声で「きょーしゅくです・・・。」と呟く姿は、まさに美少女そのものだ。まあ、艦娘たちは、みんな、いつも美少女だが。

 

 さて、5分ほど撫で、「執務室に行こうか。」と言うと、「はい!!」と元気よく返事をして、一緒に執務室に向かった。執務室に入ると、霞が秘書艦用の机で応接用のソファに座っている金剛と赤城、加賀と話し合いをしている所だった。俺が入ると、ピタッとそれがやんだ。

 

「お邪魔だったかな?」

 

「いえ、ただ、あなたの隣にいるのが、瑞鶴さんではなくて青葉さんだということの説明を求めるわ。」

 

 他の3人も頷いていたので、瑞鶴は(なぐさ)め終わって、落ち着いたので艦娘寮に戻ってもらったこと、青葉に新聞の特ダネになりそうな話しを今からしてあげることを説明した。

 

「納得してくれたかな?」

 

「理解はしたけど、納得はしていないわね。瑞鶴さんも連れてくればよかったのに。」

 

「確かに、そこまでは頭がまわらなかった。」

 

「この朴念仁。」

 

「ストレートに言われると、キツイね。それで、4人は瑞鶴の事で話しをしていたのかな?」

 

「あなたは、ストレートに言わないとわからないでしょうに。そうよ。金剛さんたちと瑞鶴さんのことについて話していたの。」

 

「席を外した方がいいかな?」

 

「別にいいわよ。話し合いの結果としては、あなたに任せるに決まったから。」

 

「そうかい。それでは、任せてもらいましょうか。青葉もソファに座りなさい。」

 

「はい、司令官。」

 

 青葉と俺がそれぞれ座ると、金剛が紅茶を淹れてくれた。礼を言うと、微笑んでくれた。あー、(いや)しだなぁ。

 

「さて、青葉だけに話すつもりだったが、霞たちにも聞いてもらおう。一応、新聞が発行されるまでは、あまり口外はしないように。」頷く5人。

 

「ミクと工廠妖精さん達には既にお願いしてあるんだが、1週間後には俺の幕僚監部への召喚に合わせて、うちにも輸送隊としてCH-47JAが2機配備される。それと、満載排水量6,800tの護衛艦が、艦名を言えば、DDH-143“しらね”とDDH-144“くらま”の2隻も配備される。そのため、ヘリポートと格納庫、1万t以上の艦が接岸できる岸壁と埠頭、設備、ドライドッグの設置がされる。また、工廠に酒保も設置する予定だ。これは明石の要望だな。今月末にはみんなに給料が支払われる。それを使える場を(もう)けようということだな。」

 

「ヘリと護衛艦の件は事前に聞いていたけど、酒保の話しは初耳ね。」

 

「さっきの演習をする前に明石と話をしたからな。」

 

「あら、そうなの。だそうよ。青葉さん。特ダネにはなったかしら。」

 

 青葉は笑顔になりながら、

 

「はい、十分に。ありがとうございます。司令官。」

 

「新聞製作、頑張ってくれたまえ。期待しているよ。」

 

「はい!!青葉、頑張ります!!金剛さん、紅茶美味しかったです。ありがとうございました。では、司令官、失礼しました。」

 

 そう言って、青葉は執務室から出て行った。残った4人とは今後の演習の方針について話し合った。とりあえず、戦場の恐怖に立ち向かえるように鍛えるということで話がまとまった。そんで、アグレッサーは俺がやることも決まった。

 

「鬼神としては嬉しいんじゃない?」

 

「部下に(おそ)れられるのは嬉しくないなあ・・・。」

 

 そういうと、霞を含め4人に笑われた。「上官なら恐れられるのを喜びそうなものだけど。」というような趣旨の言葉を4人全員に言われた。解せぬ。明るい職場づくりを目指しているというのに。笑顔が絶えない。アットホームな職場です。うん。ブラック企業の募集文句だね。

 

「とにかく、泊地の改装が行われるので、妖精さん達が出入り禁止にしたエリアには入らないこと。いいね。」

 

「なら、青葉の作るNewsPaperにも載せるように伝えておきマース。」

 

「ああ、頼んだよ。金剛。」

 

 すると、部屋のドアがノックされる「どうぞ。」と声をかけると、青葉がカメラ片手に肩で息をしながら入ってきた。

 

「どうした、青葉。」

 

「し、司令官、1隻分のドックと岸壁、埠頭、クレーンなどの設備ができています!!ヘリポートと格納庫はもう完成間近です!!」

 

「は!?」




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話 妖精さんの本気

「うーわー、ホントにできてらあ。」

 

「呑気に言っているんじゃないの!!司令官なんだから、あなたは。」

 

 霞たちと共に現場に向かった俺だったが、なんというか、景色が一変していた。1万t以上の艦が接舷できる岸壁。天高くそびえるクレーン群。400m以上はあるドライドックが隻分。コンクリートと金属製の桟橋も設置されている。さらには、大型ヘリポートが3基。格納庫もすでにできつつある。せいぜい3k㎡の島にそれは立派な軍港ができつつある。

 

 霞たちと共に、妖精さんの作業の様子を眺めていると、フヨフヨとミクがやって来た。ミクが工廠にいなかったのは此処(ここ)にいたからか。

 

「どうですかー、海斗さん。我々として、結構、頑張ったと思うんですがー。」

 

「あ、ああ。流石だ。俺の予想を大きく超えたモノだ。参加した妖精さん達はミクを含め、食堂で甘味を大いに楽しむといい。」

 

「ありがとうございますー。課業終了までにはすべて終わると思いますー。」

 

「そうかい。それはよかった。」

 

「それとですねー。石油の貯蔵施設と、真水の生成装置を設置したいのですが、大丈夫でしょうかー。」

 

「うん?真水?なんでまた。」

 

「やはり、軍事施設ですから、真水くらいは自前で供給できるようにしたほうがいいと思いましてー。幸い、周りは海ですし、塩も取れますよー。」

 

「うん、まあ、任せるよ。それと、護衛艦乗りやヘリの要員用の住居が欲しいね。家族持ち用と独身用の2つ。」

 

「わかりましたー。それと、ありがとうございますー。明日はそちらを着工しますー。」

 

「ああ、よろしく。じゃあ、執務室に戻ろうか、みんな。」

 

 執務室に戻るまでの道中はみんな無言だった。霞だけは俺をジッとジト目で(にら)んでいたが。

 

 執務室に入ると、

 

「あなた、あれ、どうするの?幕僚監部に報告しないといけないわよ。」

 

「そうだよなあ、妖精さん達が本気を出したら、あんな風になりましたじゃ納得しないかね?」

 

「どうかしら、ミクさんが本気を出した前例が目の前にいるから何とも言えないわね。」

 

「うーむ。そうだ。青葉、上に提出する資料用に、さっきの作業現場を詳細に、カメラで撮影してきてくれ。」

 

「了解しました。司令官。青葉、取材じゃないけど行きまーす。」

 

 青葉が元気に出て行く。残ったのは、未だにジト目の霞と金剛、赤城に加賀だ。

 

「さて、ミクを筆頭とする妖精さん達の本気のおかげで、泊地から本格的な軍港になりつつある柱島泊地だが、まあ、名称はこのままだろう。しかし、厄介事が来るかもしれん。」

 

「それは一体?」加賀が聞いてくる。

 

「他の提督が着任するかもしれん。もちろん、俺の隷下としてだが。幕僚監部は、妖精さんの指示で他にも基地や泊地を造ろうとして、提督課程に多くの提督適正のある軍人を陸・海・空問わずに放り込んでいるからな。司令長官が(つと)まらんと判断された者たちは、必然的に稼働中の鎮守府やウチに来るわけだ。」

 

「それなら、断ればいいのでは?」赤城が提案してくれる。

 

「それが、難しい。DDHが2隻配備されるということは、霞には以前言ったことだが、遠洋任務が増える。その時、指揮できる人間が複数人いないといかん。お前たちもその方がやりやすいだろう?」

 

「確かにそうデース。でも、私のハートはテートクのものダヨー。」金剛がウィンクしながら言う。

 

「ありがとう。金剛。艦娘の最上位者の霞に指揮権を一部委譲してもよいが、それだと艦娘としての力が十全(じゅうぜん)に発揮できないだろう。こうなれば、幕僚監部に頭を下げながら、脅すしかないかな。」

 

「随分と物騒なことを言うのね。でも、嫌いじゃないわ。私も変なやつが、提督として着任してくるのは迷惑だし。」

 

「ハハハ、霞はストレートに言うなあ。よし、そんじゃあ、とりあえずは青葉が撮影してくる写真をもとに、報告書を作ろうかな。みんなも付き合わせて悪かった。夕飯までまだ時間があるから、午後の課業をしてくれ。」

 

「「「了解 (デース)。」」」

 

 そうして、金剛たちが出て行く。残ったのは秘書艦の霞と俺のみ。

 

「で、幕僚監部には本当にしかけるの?」

 

「ああ、もちろんだとも。ミョルニルアーマーで乗り込んでやろう。折角、大将になったんだ。階級でおせるとこはおそうかね。」

 

「ダメだったら?」

 

「ふむ、希望者全員で軍を()めるか?アメリカにでも行けば再雇用してくれるだろうさ。」

 

「そうはならないことを祈るわ。私は日本のために働きたいもの。」

 

「ああ、俺もさ。取り敢えずは“背広組”には口を挟ません。」

 

 さて、上の連中はどうでてくるかな。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42話 召還

 さて、真護叔父さんいや幕僚長閣下から伝えられた召喚日となった。幕僚監部には事前にミョルニルアーマーで来るということを伝えている。あまり、色よい返答は得られなかったが、まあいいさ。行きはミョルニルアーマーの飛翔能力で、帰りは配備されるCH-47JAに搭乗する。同行者は無し。希望者はいたが、「訓練しろ。」と言って黙らせた。霞も最上位者として泊地司令部に残ってくれた。

 

 さて、現在時刻は0955。吹きさらしの防衛省のヘリポートで出迎えを待っている。正確には“背広組”の出迎えをだが。“制服組”は前回と同じ森原少佐が迎えに来てくれていた。9月の終わりだから寒かっただろうに、10分前には来てくれていたらしい。

 

 1000になった。“背広組”は遅刻決定だな。森原少佐に幕僚監部へ案内するよう指示する。彼女は「了解。」と綺麗に敬礼して、先導として歩き始めた。途中のエレベーターで、最上階に上がってくるやつがあったが、無視だ無視。そのままエレベーターに乗り、幕僚監部の階で降りる。

 

 廊下にいる職員は“背広組”は会釈を、“制服組”は敬礼をして道を譲ってくれる。大将に昇進して良かったことだなこれは。そして、いつもの部屋に入る。前回と違うのは、森原少佐も一緒の点だろうか。

 

 幕僚長閣下に敬礼し、報告する。

 

「湊海軍大将。召喚命令に応じ出頭しました。」

 

 閣下は答礼をし、

 

「ご苦労。席に着きたまえ。皆もだ。」

 

 その言葉に俺と幕僚監部のお偉方 (俺よりも階級の低い者もいるが)、森原少佐が席に座る。

 

「さて、湊大将の柱島泊地には本日付けで輸送隊としてCH-47JAを2機配備する。受領して帰還すること。それと、DDH-143“しらね”とDDH-144“くらま”が指揮下に入る。質問はあるかね。」

 

「1点だけ。チヌークと2隻のDDHは泊地で改装してもよろしいでしょうか。」

 

「例の妖精さんの件かね。」

 

「はい、そうです。小官には彼女たちのさせたいようにさせるつもりですので。」

 

「国防戦力の増強に繋がるのであれば、許可しよう。」

 

「ありがとうございます。それと、お願いがあります。」

 

「何かね。」

 

「艦娘の霞中佐を大佐へ昇進させていただきたい。戦績は十分なはずです。DDHの両艦の艦長は大佐のはずです。艦娘の指揮権を彼らに(ゆだ)ねたくない。」

 

「その件は一旦預かる。」

 

「1週間です。」

 

「なに?」

 

「1週間で結論を出してください。これは要求です。それと、別に大佐でなくても准将でもよいですよ。艦娘初の将官にはなりますが。」

 

 「ううむ」と幕僚長閣下が唸っていると、

 

「湊大将!!貴官は何を考えているのか!!」

 

「ああ、統括官は何か問題でもあると言いたいので?」

 

「軍は貴官のおもちゃではない!!国民を守るための機関だ!!貴官は軍を何だと思っている!!幕僚長、彼の指揮権を取り上げるべきです。スタンドプレーが目立ちすぎます。」

 

「しかし、彼のおかげで、深海棲艦の大規模侵攻を防げた。」

 

「彼がいなくても、他の者たちがいます。まだ、海軍にはDDやDE、DDGにDDHも残っています。航空戦力もまだ十分にあります。米軍もいます。死力を尽くせば・・・。」

 

 あー、これだから現場をしらないやつは嫌いなんだ。キレた。

 

「死力を尽くせばだと!?だったら、軍人は何人死んでもいいってか!?」

 

 そう言って、統括官の座る席に迫る。室内にいた警備の憲兵が止めようとしてくるが、何の障害にもならない、彼らを引きずりながら統括官の席に迫る。

 

「おい、俺の質問に答えろ。お前は、軍人は死んでもいいと思っているのか!?」

 

「そ、それが、軍人の仕事だろうに!!それに、死ぬのは貴官たちが弱いからではないか!!それに、まだ、予備役もいる。戦死者、戦傷者の補充はきく。艦娘も失えば、建造すればいい!!」

 

 統括官がその言葉を吐いた瞬間、部屋の空気が一変した。今まで静観していた“制服組”のお偉方の目つきが鋭いモノに変わった。さすがに統括官もその空気を感じとったようで、目をキョロキョロと世話しなく動かしている。

 

「いや、悪かった。統括官に変わり、私が謝罪しよう。彼の言葉は言ってはならないモノだった。」

 

 そう言って、首席参事官が立ち上がり頭を下げる。

 

「口や態度はどうとでも取り繕える。貴方も統括官と同じなんでしょう?我々、軍人を物か数字としか思っていない。」

 

「違う!!」

 

「何がですか?貴方は統括官と同じ文民だ。前線に立ったこともないのに、なぜ違うと言えるのです。」

 

「・・・息子が、・・・息子が、護衛艦乗りだった。第1次首都圏防衛海戦でDEの“おおよど”に乗っていた・・・。“おおよど”が撃沈されたと聞いたとき、脱出できていると思っていた。しかし、奴らは、深海棲艦どもは脱出艇まで攻撃して、息子とその仲間たちの命を奪った。遺体も遺骨も見つかっていない。私は奴らが憎い。だが、悲しいことに私には力が無い。しかし、貴官の様な“英雄”が現れてくれた。貴官は奴らを何度も殲滅しくれた。その時、私は初めて息子の遺影に向き合い、“仇をとってくれる人が現れた。私はその人を全力でサポートする。直接ではないが仇をとってやれる”と言えた。繰り返すが、私は、君たち軍人や艦娘を物だとか数字で見てはいない。全員が1人の人間だと思っている。統括官もそうだと思っていたのだが、残念だ。そして、申し訳ない。」

 

 震える声でそう言って、再度、頭を下げる。幕僚長、真護叔父さんを見ると(かす)かに頷いた。事実のようだ。

 

「あー、大人げ無かったですね。首席参事官、(つら)いお話をさせてしまい申し訳ありません。皆様方にも統括官も、申し訳ありませんでした。」

 

「いや、私こそ心無い発言をしてしまい申し訳なかった。簡単には許せないだろうが、許してほしい。そして、幕僚長、先程の発言は撤回します。現場にいる、最前線で戦っている湊大将の意見です。一考してもよいかと。」

 

「そうかね。」

 

「はい、幕僚長。」

 

「わかった。それでは、この話はこれで終わりだ。首席参事官、気分が落ち着かなければ、落ち着くまで席を外してもよいが。」

 

「いえ、幕僚長。大丈夫です。」

 

「では、次の話しに移ろうか。湊大将、柱島泊地に提督を1人着任させる。面倒を見てくれたまえ。」

 

「了解。ちなみに、今はどこに?」

 

「すぐ近くにいるだろう。森原少佐だよ。」

 

「へ?」




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第43話 部下ができました

「へ?ではないよ。湊大将。彼女、森原少佐が君の隷下の提督となる。ついては、彼女は今日から中佐に昇進となる。森原少佐、こちらへ。」

 

「はい。」

 

 そう返事をして、彼女が幕僚長閣下の前まで行く。他のお偉方は全員が起立している。俺もそれに倣(なら)い立ったままだ。

 

「長い間、本庁勤めをさせて申し訳なかった。君の初期艦娘の電少佐も横須賀鎮守府で鍛えられただろう。だが、2人を引き離してしまい、意思疎通の時間をおもうように設けてあげられなかったのが残念だ。同期達よりは遅いが、今、ここで中佐の階級章を渡そう。湊大将の補佐を頼む。森原中佐。」

 

「了解です。閣下。身命を賭して、提督として恥じない戦果を挙げてみせます。」

 

 そう彼女が言うと、全員が拍手した。俺の時には無かったじゃねえか。と思いつつも拍手をする。すると、彼女がこちらに歩いて来て敬礼をする。

 

「よろしくお願いします。湊大将。」

 

 答礼をするときになって、ようやくヘルメットを被りっぱなしだと気付いた。ヘルメットを取り左手に抱え、答礼をして、

 

「ああ、よろしく。」

 

 と言いながら右手を差し出す。グローブ越しなのは許してほしい。彼女は俺の右手を両手で包み、目を輝かせて、

 

「よろしくお願いいたします。湊大将の、鬼神の下(もと)で戦えるのを光栄に思います。深海棲艦に命を奪われた人たちの無念を晴らしましょう!!」

 

 おっと、目が合ったが、この目はヤバい目じゃないか。真護叔父さんをチラッと見ると、咳払いをして、

 

「森原中佐。横須賀鎮守府への車の手配をした方が良いのではないかな?」

 

「あっ、はい、閣下。申し訳ありません、湊大将。車の手配を忘れておりました。すぐに準備をしてまいります。」

 

「ああ、頼む。」

 

 「失礼します。」と言って、森原中佐が敬礼をして退室していく。すると、誰からともなく、ため息をついた。そこに真護叔父さんが、

 

「あー、諸君、今日は此処までだ。それぞれの職務に戻ってくれ。」

 

 と言ったことで、皆、部屋を出て行く。残ったのは俺と真護叔父さんのみ。

 

「あー、叔父さん。森原中佐は何かあったのかな?」

 

「ああ、彼女の弟がDD-124“みねゆき”の乗員だった。これだけ言えばわかるだろう?」

 

「あー、はい。“みねゆき”も第1次首都圏防衛海戦で沈みましたね。ということは、彼女は復讐心で自衛官に?」

 

「君は、女性の年齢をもう少しよく考えて発言するべきだ。彼女は、防大出の25歳だよ。まあ、復讐心は本当だが。提督課程での成績も優秀だったが、彼女の狂気を前線に出してもいいものか悩んでいてね。そこへ、君がスパルタンとなって甦り、泊地司令長官となったわけだ。しかも、戦績をあげて今は大将だ。」

 

「なるほど、よい生贄というわけですね。俺は。」

 

「まあ、そう拗(す)ねないでくれ。“しらね”と“くらま”にはシーホークを1機ずつ付けるから。」

 

「ほう、いいですね。わかりました。彼女の面倒を見ますよ。初期艦娘も一緒の狂気を持っているわけじゃないですよね?」

 

「ああ、大丈夫だ。どちらかと言えば、ストッパー役として配置した。」

 

「なら、大丈夫ですね。・・・っと、彼女が戻って来ます。」

 

「・・・スパルタンの聴力は凄いね。」

 

「まあね。」

 

 そこで、扉がノックされた。真護叔父さんが「どうぞ。」と言うと、「失礼します。」と言って、森原中佐が入ってきた。敬礼しながら報告をする。

 

「湊大将。お車の用意ができました。」

 

「ああ、ありがとう。それでは、幕僚長閣下、森原中佐をお預かりします。」

 

「うむ、よく鍛えてくれ。」

 

「はい、間違いなく。」

 

 鍛えるの中には色んな意味が入っているんだろうなあ。複雑な思いで敬礼をし、答礼を確認してから退室して、ヘルメットを被る。エレベーターで下りる時に森原中佐が申し訳なさそうに言ってきた。

 

「あの、閣下。お車なんですが、クラウンが閣下の体格に合わないので、ハイエースにしました。」

 

「ああ、別に構わんよ。」

 

 そう言って、用意されたハイエースに乗り込む。ううむ、ミョルニルアーマーのままだと、ずっと身を屈めていないといけないなあ。でも、脱ぐの面倒だからいいか。しかし、シートベルトができないから高速を使えない。下道での2時間近くの移動になるなあ。

 

 横須賀鎮守府への道中は、車内では森原中佐と談笑をして過ごした。第1次・第2次首都圏防衛海戦の話しは避けて、会話を進めた。最初期の提督課程を受けているからか、彼女は艦娘という存在に最大の敬意を持っているようだ。

 

 横須賀鎮守府に到着すると、すぐに司令長官の長野大将の執務室へと案内された。案内してくれた憲兵が扉をノックし、

 

「湊大将と森原中佐がお越しになられました。」

 

 そう言うと、「どうぞ。」と言う返答が聞こえたので、案内してくれた憲兵に礼を言って、執務室の扉を開け、中に入る。ヘルメットを左手に抱えた状態で敬礼をし、答礼を受けて手を下ろす。

 

「よく来てくれた。さ、“電”君の提督となる森原中佐だ。そして、その上官となる湊大将だ。」

 

「初めまして湊大将閣下。暁型駆逐艦4番艦の“電”なのです。」

 

 敬礼と共に自己紹介をしてくれる。俺も答礼と共に自己紹介をする。

 

「柱島泊地司令長官の湊 海斗海軍大将だ。よろしく。」

 

 今度は、森原中佐に向き直り、

 

「電は、この鎮守府で鍛えてもらいました。司令官のご期待に沿えるよう頑張ります。」

 

「うん、電、これからよろしく。」

 

 ふむ、初期艦娘との仲は良好か、良かった。

 

「湊くん。ヘリポートで君の所に配属になるチヌークが2機待機している。受領して、帰還してくれるかな。」

 

「了解しました。長野さん。森原中佐、電少佐、ヘリポートへ行こうか。」

 

「「了解 (なのです。)」」

 

 ヘリポートでは既にチヌークがエンジンを始動していた。コールサインは“ガルム01”と“ガルム02”らしい。真護叔父さんがなんかやったな。これは。そして、機上の人となった俺たちは一路、柱島泊地を目指すのだった。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第44話 妖精さんの本気・その2

 森原中佐と電少佐は、着任当日の歓迎会のおかげもあってか、すぐに泊地に慣れてくれた。着任2日目の本日は、艦娘の召喚建造を行い、指揮下の艦隊戦力を整えるつもりのようだ。指揮系統は違うが、明石と、なぜか工廠に教練が無いときは居付いていることの多い夕張に、力を貸すようにお願いしておいた。これで、スムーズに事が進むだろう。

 

 さて、本日の大目玉は、何といっても“しらね”と“くらま”の到着だ。楽しみで仕方がない。俺ではなくミクたち妖精さんがだが。できたばかりのドライドックにぶち込んで、改造をしようとしているらしい。

 

 そういうわけで、俺は、ミクと秘書艦の霞と共に岸壁にて両艦を迎える。右舷側に乗組員が整列して敬礼している。俺と霞はそれに対して、答礼をする。すぐに接舷作業が行われ、“しらね”の艦長が代表として、挨拶を行う。

 

「“しらね”艦長、牧原大佐です。本時刻をもちまして“しらね”及び“くらま”は柱島泊地司令部の所属となります。よろしくお願いいたします。」

 

 そう言って、敬礼をする。背後に並んだ乗組員達もだ。俺は答礼をし、

 

「両艦の着任を心より歓迎する。困難な任務が多くなると思うが、よろしく頼む。」

 

 そう返事をし、手を下ろす。

 

「さて、早速だが、両艦ともドライドックに入渠してもらいたい。妖精さん達が改造するそうだ。」

 

「了解しました。航海要員のみで行います。他の要員はどちらに?」

 

「ああ、憲兵が泊地内を案内する。中野中尉、あとは頼む。」

 

「はい、閣下。それでは、我々、柱島憲兵中隊第1小隊が皆さんをご案内します。」

 

 そう言って、憲兵たちが乗組員たちをグループ分けし始めた。

 

「それでは、閣下。小官たちは艦をドライドックに入れます。」

 

「頼む。ドック要員はいるから心配せずに操艦してほしい。」

 

「了解しました。」

 

 そして、2隻ともドックに入るため岸壁を離れる。それを見送ると、ミクと霞と一緒にヘリ格納庫へ向かう。ミクが陸軍第1ヘリコプター団隷下の第1輸送ヘリコプター群第106飛行隊から引き抜いた2機のCH-47JAを改良したと言ったのだ。いつやったのか聞くと「夜のうちにやった」と答えた。仕事早いな。それで、今からパイロット含めた第106飛行隊より来ている隊員にどこを改造したのか、説明することになっている。

 

 格納庫に着くと、既に全員が揃っているようだった。柱島泊地輸送ヘリコプター隊隊長を務めるガルム01こと青野中佐の号令で全員が敬礼をする。答礼をして、「みんな楽にしたまえ。」と言う。全員が休めの姿勢をとる。

 

 そして、チヌークを見る。うん、形が凄く変わっているね。まず、ローターが4枚となった。そして、空中給油プローブ。ここまではいい。なんで、胴体中央部から主翼が出ているんですかね。ミクに説明を求める。

 

「まず、機体は米軍で使用しているMH-47Gを元にしましたー。グラスコックピット化はもちろん、燃料タンクの大型化、空中給油プローブ、各種レーダーの追加、自衛用火器として小型化したM68ガウスキャノンをローディング・ランプと機体前部に装備していますー。エンジンも高出力化、省エネルギー化に成功しましたー。そのため航続距離は2,000km、最高速度は350km/hまで出せますー。上昇限界高度は変わりませんー。最後に主翼ですけど、これは技術実証機モデル347を元にしていますー。そのため、胴体が延長されていますー。また、先程言った速度向上にも一役買っていますー。可動式で、垂直に近くまで仰角を変えることができますー。また、予備燃料タンクとしても使えますー。また、ハードポイントを設けたのでパイロンの設置も可能ですー。勿論、航続距離を延ばすための燃料タンクも着けることができますー。ま、そのくらいですねー。飛行をしてみて問題点があれば報告書として提出してもらえたら、改良しますのでー」

 

 ミクの説明をみんなに通訳する。全員がポカンと口を開けていた。俺も立場が無ければそうしたい。青野中佐が挙手したので、頷いて了承を示す。

 

「今から、試験飛行を行っても?」

 

「よろしい。ただし、念のために1機ずつだ。改造して墜落しましたなんぞは困るから無理はしないように。」

 

「了解しました。」

 

「それでは、あとは、頼む。整備マニュアルは機内に置いてあるそうだ。よろしく頼む。」

 

 そう言って、格納庫をあとにする。背後からは歓声が聞こえる。ま、怒られるよりかはいいか。しかし、“しらね”と“くらま”にはどのような改造をするつもりなんだろうか。執務室に戻りながら、ミクに聞いてみる。

 

「あー、まずはですね、後部格納庫をヘリと艦娘の艤装の両方に対応したものにしますー。また、後部甲板両端に艦娘が発艦するためのスロープを取り付けますー。」

 

 おっ、だいぶ普通な内容だ。

 

「それと、機関を“次元波動超弦跳躍機関”、ようは“次元波動エンジン”にしますー。そして、武装の73式54口径5インチ単装速射砲を、“陽電子衝撃砲”いわゆる“ショックカノン”にしますー。もちろん、実弾も撃てるようにしときますよー。74式アスロック8連装発射機は撤去して、少しかさばりますがVLSを設置します。GMLS-3は改良してそのままですかねー。Mk.15高性能20mm機関砲は対空パルスレーザーに置き換えますー。また、防御面は“次元波動振幅防御壁”つまり“波動防壁”を使えるようにしますー。これで、深海棲艦の攻撃を無力化できますよー。」

 

「は、波動砲は?」

 

「お望みなら付けますが、陸地が射線上にあると消滅しますよー?」

 

「いや、聞いただけさ。」

 

 全然、普通じゃなかった。宇宙戦艦ヤマトじゃねえか。しかも、ショックカノンってようはビームだろ。やべえ、“しらね”と“くらま”の2隻が深海棲艦を蹂躙する様子しか思い浮かばねえ。

 

「あ、艦載機のSH-60Kも改造しないとですねー。」

 

 あー、そーですねー。ヤバい、どーしよ。




見てくださりありがとうございました。

武装面にしか出ていませんが、タグにヤマトって追加した方が良いのでしょうか?

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45話 妖精さんはやらかします

 ま、できてから悩めばいい。幕僚監部にもできてから報告すればいい。とりあえずは、書類仕事が俺を待っている。ミクは「工廠に行きますー。」と言って、フヨフヨと飛んでいった。「森原中佐と電少佐を頼むぞー!!」と声をかけると、サムズアップしたので大丈夫だと信じたい。

 

 そして、数分後、工廠から内線がかかってきた。嫌な予感を覚えつつも、受話器を取る。

 

「はい、執務室、湊大将だが。」

 

「提督!!ミクさんって何者なんですか!?建造で電ちゃんが「姉妹艦がきてくれると嬉しいです。」って言っていたので、資材配分を森原中佐と夕張ちゃんと考えていたら、ミクさんが来られて、話しを聞いたらサムズアップして、建造を開始したら暁型の3人が建造できましたよ!?」

 

 全然っ、大丈夫じゃなかった!?ミクさーん、何、本気を出しちゃっているんですかー!?先程のサムズアップは嘘だったん?

 

 いや、待てよ。俺は、「森原中佐と電少佐を頼む。」と言った。そして、電は「姉妹艦にきてほしい。」と願った。で、俺から電のことを頼まれたミクはそれを叶えた。ということは、俺が原因ですね。執務机に“ゴンッ”と頭をぶつけ、

 

「明石、多分、それ、俺のせいだ。」

 

「えっ、提督の指示だったんですか?」

 

「いや、俺は「森原中佐と電少佐を頼む。」と伝えたから、電少佐のそれを実現したんだろう。」

 

「うわっ、凄いですね。ミクさん。・・・あっ、それじゃあ、ミクさーん、工廠に併設して立派な酒保をお願いしますー。なんて、言っても大丈夫ですかね?」

 

「大丈夫じゃないよ。」

 

「ですよねー。って、あら、ミクさんに工廠妖精さん達、みんな笑顔でサムズアップしてどうしたんですか?そっちは工廠の出入り口ですよ?って、なんか基礎作り始めている!?どどどど、どうしましょう!?提督!?」

 

「明石が、そんなこと言うからだ!!すぐ、そっちに行く!!」

 

 そう言って、受話器を置いて席を立ち、駆け足で工廠に向かう。秘書官の霞もついてくる。

 

「霞、なんでついてくる?ついてくるなら入口の表示灯は工廠に切り替えたんだろうな?」

 

「もちろん、切り替えたわよ。ついてくる理由?面白そうだからよ。それに、青葉さんにも無線で知らせたわ。」

 

 能力を無駄に使っているんじゃありません。と云うことは、現場の様子がなんとなく頭に浮かぶ。そして、現場はそれ以上、想像より上だった。すでに、酒保の建物ができていた。しかも、内装まで。簡単な服飾雑貨売り場まである。まさに、地方スーパーだ。

 

 青葉は既に来ていて、ミクから貰ったコンデジで写真を撮っていた。後から聞いた話だと、青葉の貰ったコンデジはミク謹製らしく、性能が凄いらしい。いや、まあ喜んでいるならいいけど。

 

 青葉は一通りの写真を撮り終わると、明石にいつ開店するのか、どのような商品を仕入れるのかなどを質問していた。俺に質問が来る前に工廠に入ろう。

 

 工廠に入ると、夕張と森原中佐、電少佐に明石が報告してきた暁型の3人がいた。6人とも俺と霞が近づくと、すぐに気づいて敬礼をしてきた。答礼をし、楽にするように伝える。

 

「森原中佐。暁少佐、響少佐、雷少佐には説明は終わったのかな?」

 

「はい。いいえ、閣下。まだ説明をしていません。」

 

「ふむ、それなら、君の執務室でしたまえ。ああ、途中で食堂により、間宮から羊羹を人数分貰うといい。緊張しながらよりも甘い物を摂りながら、リラックスして話しをしたほうがいいだろからね。間宮には私から伝えておこう。」

 

 そう言って、工廠内の電話で食堂に内線をかけて間宮に羊羹を用意するように伝える。

 

「ありがとうございます。閣下。」

 

「気にしないでいい。部下との親交を深めるのも指揮官としての役割だ。新たな部下たちを大切にしたまえ。」

 

「はい、閣下。それでは、失礼します。みんな、ついて来て。」

 

 森原中佐はそう言って、電少佐たちを引き連れ工廠から出ていった。残ったのはミクと夕張と霞。しかし、ミクはすぐに、

 

「“しらね”と“くらま”がドライドックに入渠したみたいですー。排水も開始しているみたいなので、そちらの改造に取り掛かりますねー。」

 

 そう言って、工廠妖精さんを連れて工廠を出て行ってしまった。入渠が終わったということは、両艦の艦長が改めて着任挨拶に来るはずだ。執務室に戻らないと。困惑している夕張に「それじゃ、後は任せた。」と言い、霞と共に執務室に戻る。

 

 戻って、30分もしないうちに扉がノックされた。「どうぞ。」と声をかけると、坂本大尉が、

 

「しらね艦長の牧原大佐とくらま艦長の佐野大佐をお連れしました。」

 

 そう言って、脇に避けると両艦長が礼をして入室し、敬礼をしながら、着任挨拶をする。

 

「しらね艦長、牧原大佐です。改めてよろしくお願いいたします。」

 

「くらま艦長、佐野大佐です。着任いたしました。よろしくお願いいたします。」

 

 俺も答礼をし、挨拶をする。

 

「はい、これからよろしくお願いします。2人とも席に着いてください。坂本大尉、ご苦労でした。業務に戻ってください。霞中佐は2人にお茶を。」

 

「はい、閣下。失礼いたします。」

 

「了解しました。司令官」

 

 敬礼をした彼女に、答礼を返し、霞にお茶の準備を始めに行った。俺は、2人の対面のソファに腰かける。男3人となった執務室で最初に発言したのは佐野大佐だった。

 

「失礼ですが、岸壁での際とお言葉遣いが違いますね。」

 

「ああ、こちらが素ですね。まだ、28の若造なので、年上の方に命令口調はなかなか難しいですね。ああ、キレたりした時はまた違いますが。まあ、ああいう公式の場ではちゃんとしますよ。見ていたでしょう?」

 

「ええ、立派な司令官ぶりでした。“鬼神”と噂になっていますので、戦々恐々としていたのですよ。元護衛艦乗りの閣下なら我々を上手く使ってくださるでしょう。期待しています。」

 

「ありがとうございます。佐野大佐。それでですね。お2人に見ていただきたものが。時間が無く、即興ですが、両艦の改造箇所をまとめた資料です。どうぞ。」

 

 そう言って、資料を2人に渡す。2人とも最後までパラパラと斜め読みすると、

 

「「冗談でしょう?」」

 

 と声を合わせて言ってきた。冗談じゃないんだよなあ。これが。




いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。さて、世間はGWですが、私の周りはそういかないようでして、更新がさらに遅れるかもしれません。

 個人的なことで恐縮ですが、身内が昨日の午前2時頃に救急搬送されまして、手術をしたのですが、予断を許さない状況にあります。それがどのような結果に終わるかはわかりませんが、まあ、そのような事情のため、投稿が遅れるということですね。

 仮眠をとっていますが2時から起きているので乱文になっております。お許しいただけたらと思います。皆さまも体調にはお気をつけください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第46話 日常・その2

遅くなりました。申し訳ありません。


「閣下、これは、あの、言いにくいのですが、“宇宙戦艦ヤマト”の武装ですよね?」

 

「そうですよ。佐野大佐。お2人ともヤマト世代でしたか?」

 

「ええ、まあ、我々ぐらいの年代だとヤマト・ガンダム世代でしょうね。ね、牧原さん。」

 

「閣下。佐野君の言うとおり我々世代には親しい武装です。しかし、実際にこれを使う日が来るとは・・・。」

 

 あら、改造については特に問題ない感じかな。よかったよかった。そのタイミングで扉がノックされる。「どうぞ。」というと、霞がお茶とお茶請けを持ってきてくれた。「ありがとう。」と礼を言うと、霞は「気にしないで。」とそのまま、秘書机で書類仕事の続きをする。

 

「さて、お2人には、まあ、この改良された艦で、艦娘たちと連携して深海棲艦を叩いてもらうことになります。上の思惑は船団護衛のようですが、強力な両艦を遊ばせておくつもりはありませんので、ご覚悟を。」

 

「それは、もちろんです。しかし、この改良は他の護衛艦にもするべきでは?“はたかぜ”型も主砲が2基ありますので、ショックカノンに改良できれば戦えます。」

 

「そこは、妖精さん次第ですよ。牧原大佐。私は彼女たちの要望に(こた)えているだけにすぎないのですから。」

 

 そこに、窓からミクがフヨフヨと飛んできた。俺は2人に「失礼。妖精さんが来ました。」と断って、会話を始める。

 

「どうした、ミク。何か問題が?」

 

「いいえー、改造箇所を追加したいと思いましてー。まず船体の延長ですねー。艦首部と艦後部をそれぞれ、10mずつ延長したいんですー。そして、対空パルスレーザーも2基追加配置したいですねー。それと、飛行甲板を耐熱仕様にして、海斗さんがブースターを吹かしても大丈夫にしたいですねー。あと、補強もして、改造したチヌークが着艦できるようにしたいですー。あと、電子装備の(たぐい)も最新鋭のものに変えますー。了承してもらえるでしょうかー?」

 

「ふむ、両艦長に尋ねてからかな。少し待ってくれ。」

 

 そのまま俺は、2人に対して、乗艦の新たな改造点を伝えた。2人とも二つ返事で了承してくれた。ミクにそれを伝えると、

 

「ありがとうございますー。あ、SH-60Kについては改造点を書類にまとめて出しますねー。」

 

「ああ、お願いするよ。」

 

 そう言うと、フヨフヨと飛んで出て行った。去り際に、

 

「あ、燃料プラントをはじめとした各資材のプラント作っておきましたからー。」

 

 と、とんでもない爆弾発言をして。俺は思わず頭を抱えてしまう。そんな俺を心配した2人から「大丈夫ですか。」と声をかけられる。手を振り、「何でもない」と言って、

 

「兎に角、改めてこれからよろしく頼みます。宿舎の方はご案内が必要ですか?」

 

「いえ、大丈夫です。それでは、我々はこれで。」

 

 お互いに敬礼し、2人は退室した。そした、ぐったりとソファにもたれかかり、

 

「年上の佐官級の部下なんて、扱いに困るよ。」

 

 と愚痴(ぐち)を吐くと、霞が、

 

「まあ、いい人たちそうじゃない。それに何かあっても憲兵隊もいるしね。」

 

「そうなんだがね。さてさて、どうなることやら。」

 

「兎に角、今のあなたは書類仕事をすること。いいわね。」

 

「わかっているさ。しかし、霞も丸くなってきたよな。」

 

「セクハラよ。」

 

「違うよ!!性格がだよ。最初は“あんた”呼ばわりだったじゃないか。それが、いつの間にか“あなた”呼びだからね。そう思っても仕方ないだろう?」

 

「まあ、最初はキツイ言い方だったとは思うわ。呼び方が変わったのは、何となく?」

 

「なんで、疑問形なのさ。」

 

「自分でもよくわからないからよ。さ、仕事よ仕事。」

 

「はいはい。」

 

 その後は、1200まで黙々と書類仕事をこなした。今日の昼食は食堂に行かずに、持ってきていたカップ麺ですませようとしたら、

 

「ちゃんと、3食、栄養のあるものを食べなさい。」

 

 と霞に言われ、結局は食堂で昼食を摂ることになった。霞に「お前は俺の母親か!?」と言いたかったが、拳が飛んできそうなのでやめた。

 

 食堂に着くと、それなりに混雑していた。“しらね”と“くらま”の乗員やヘリコプター隊の隊員といった要員が増えたからか。大きめに作っておいてよかった。ミク達には感謝だな。

 

 定食を受け取り、霞と共に席を探していると、

 

「提督ー!!こっち、こっち。2人分空いてるよ!!」

 

 と鈴谷が手招いていた。妹の熊野が「はしたないですわよ。」と注意していたが、その表情は、言葉と裏腹にキツイものでは無かった。

 

「お言葉に甘えて、座らせてもらおう。」

 

 そう言って、霞と共に席に着く。

 

「提督ー。もっと、フランクな感じで行こうよー。折角のお昼なんだし。」

 

「鈴谷、いくら提督が心の広い方でも、そのようなことは・・・。」

 

「いや、熊野、鈴谷の言う通りだな。少し肩の力を抜かせてもらおう。」

 

 そう言って、襟を少し緩める。霞は視線を向けてきたが特に何を言うこともなく、食事をすすめる。俺も鈴谷と熊野と閑談しながら、食事をすすめていくのだった。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第47話 デート?の約束

第46話の誤字報告ありがとうございます。一応、”ひまつぶしにのんびりと話をすること。”という意味で”閑談”を使用しましたので、ご提案された”歓談”でもよかったのですが、このままにしておきます。ご了承ください。
また、かなり助かりますので、今後も誤字報告をお願いいたします。


「そーいえば、提督って彼女いない歴=年齢の28歳って本当?」

 

 いきなりぶっこんでくるな鈴谷は。隣の熊野が少し呆れているぞ。

 

「ああ、本当だよ。中学校から男子校で、その後は、防大だったからな。まあ、それでも、彼女がいたやつはいたけどなあ。」

 

「ふーん、提督は彼女が欲しいと思わなかったの?」

 

「あんまり思わなかったかな。男友達とゲームしたりするのが楽しかったからなあ。」

 

「まあ、もしかして提督は同性愛「違うぞ、熊野。」・・・申し訳ありません。早とちりをしました。しかし、お仕事に就かれてからでも、女性と出会う機会は皆無では無かったのでしょう?」

 

「ああ、そうだが、陸に帰って来た時は、両親と会ったり、バイクでツーリングしたり、車でサーキット走ったり、天気が悪い日はゲームしたりしていたからなあ。」

 

「「ああ、なるほど。」」

 

 おい、鈴熊コンビ、声を揃えて憐れんだ目で見るのはやめろ。いいじゃないか。趣味なんだから。それに、ライダー仲間、ドライバー仲間はできたぞ。ほとんど年上のおっさんばかりだけどな。

 

「そんな、2人はどうなのさ。その身体になって、なんか恋愛じみたことをしてみたいと思わないのかい?」

 

「鈴谷は、してみたいと思うかなあ。憲兵さんに借りた女性誌っていうので、オススメのデートスポットとかあったから、そういうところに行ってみたいな。」

 

(わたくし)は、そうですわね。オシャレな街でウィンドウショッピングを楽しみたいですわね。それで、オシャレなカフェで一時(ひととき)でも過ごせればとは思いますわね。」

 

「ふむ、結構しっかりしているな。霞はどうなんだい?」

 

「私に話しを振るの?ま、私はその人の趣味に付き合ってあげたいわね。恋人となるなら、理解者でありたいから。」

 

「霞は真面目だな。」

 

 そう言って、頭を撫でると、霞は顔を赤くして俯いてしまった。あ、こんな大勢の人がいる中でするもんじゃなかったな。最後にポンポンと優しく頭を撫でて終えた。

 

「んで、提督はどういう女子()が好みなのさ。教えてよー。ここなら()り取り見取りでしょ?」

 

「言葉をもう少し選んでくれ。まあ、確かに女性が多い職場になったと思うけど、俺なんかと付き合いたいと思う女性(ひと)なんて、いないだろう?」

 

「さあ、どーだろうね。少なくとも私は提督から告白されたら、OKって答えるけどね。」

 

「嬉しいことを言ってくれるな。しかし、それは、俺としか接していないからかもしれんぞ。(さいわ)い、今日から“しらね”と“くらま”、ヘリコプター隊には独身男性隊員も多くいることになる。そういう者たちの中から選んでもいいんじゃないか?」

 

「えー、でも、提督は、顔が整っているし、体も適度に鍛えているし、私たちに優しいし、階級もその若さで大将だし、何より強いし。提督以上の男の人ってなかなかいないよ。」

 

「ふむ。そんなもんかね。」

 

「そんなもんだよー。ところで、提督のバイクって島に持ってきているの?後ろに乗せて欲しいなあ。」

 

「ああ、そろそろ持ってこようとは思っていたんだが、忙しくてな、実家のガレージに置いてある。」

 

「へえ、排気量は?」

 

「変なとこに興味を持つな。250ccだよ。ホンダのVTR250というV型2気筒のネイキッドバイクだ。」

 

「速いの?」

 

「いわゆる、最高速でいえば大排気量のバイクに負けるな。ただし、ジムカーナなどの競技になるとわからん。ライダーの腕次第だ。君たち艦娘と同じで適材適所というのがあるのさ、バイクにも。」

 

「ふーん。そんじゃあさ。提督のバイクが島に届いたら最初に私を乗せてよ。タンデムっていうんでしょう?」

 

「よく知っているな。」

 

「借りた雑誌に書いてあったよ。」

 

「わかった。島にバイクが届いたら鈴谷を最初に乗せよう。約束だ。ヘルメットもこちらで用意しておこう。」

 

「ラッキー。ありがとね。提督。」

 

 そう言って、笑顔でウインクをしてくる鈴谷。美少女のウインクは破壊力抜群だな。心拍数が一気に跳ね上がった気がする。霞はそんな俺をジト目で見て、

 

「よかったわね。デートの約束ができて。」

 

「デート?なんのことだ?ところで、霞もバイクに乗ってみるか?」

 

「えっ!?いや、その、私は・・・。」

 

「いいじゃん、いいじゃん。霞中佐も提督のバイクの後ろに乗ればさ。仲間意識が深まるかもよ。」

 

「す、鈴谷さんがそう言うなら、鈴谷さんの次に私をあなたのバイクに乗せてもらおうかしら。」

 

「ああ、わかった。霞のヘルメットも用意しておこう。ちなみに2人ともフルフェイスだからな、髪形が崩れたとか化粧が落ちるとかいうなよ。」

 

「はーい。」

 

「わかったわ。」

 

 それじゃあ、あとで、実家に電話して、送って貰う手筈(てはず)を整えるかな。父さんには週一でチョイ乗りしてもらっているから、状態は大丈夫だろう。ん、熊野が何か言いたそうな顔でこっちを見ているな。

 

「熊野、どうした?お前も乗りたいのか?」

 

「違いますわ。いえ、違わないのかもしれませんが、鈴谷と霞中佐だけが、提督と2人きりで出かけることができるのを羨ましいと思いまして。」

 

「なら、熊野は別の日に岩国の市街地にでも行くか?俺も市長に着任の挨拶をしただけで、街のほうには行ってないからな。」

 

「ええ、是非ともご一緒させてください。」

 

「そんじゃ、決まりな。詳しい日は追って決めよう。この職業は休みの日でも緊急出動があるからな。当日に急に行くぞってなっても大丈夫か?」

 

「はい、大丈夫ですわ。」

 

 満面の笑みで答えてくれる熊野。喪男(もおとこ)にはその笑顔は(まぶ)しすぎる。浄化されてしまう。そして、俺は、忘れていた。会うたびに己の気持ちをぶつけてくる彼女の存在を。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第48話 昇進・その2

 背後から何か強烈な圧力を感じる。振り返ると、金剛が笑顔で立っていた。ただし、いつものような天真爛漫な笑顔ではなく、頬をピクつかせ、こめかみには青筋が浮かんでいる。背後には険しい表情の仁王(におう)が見えるようだ。ふむ、怒っているな。なんでだ?

 

「・・・ヘーイ、テートクゥ、今の話しは本当デスカー?」

 

「霞たちとの話しの事かい?本当だよ。」

 

「霞中佐ならまだしも、鈴谷や熊野と一緒に出掛けるなんて・・・!!」

 

 ああ!!新参者である、鈴谷や熊野を先に外出に誘ったから怒っているのか。・・・な?まあ、物は試しだ。言ってみるか。

 

「金剛も時間がある時に一緒に外出するか?まあ、行き先は岩国市街地までだが。」

 

 すると、先ほどの笑顔とは違い、花が咲くような明るい笑顔となり、

 

「本当デスカー!!約束デスヨー。」

 

 と言って、抱き着いてきた。おう、座っている状態だから、顔に柔らかい二つのモノの感触がじかに伝わる。喪男の俺には威力があるぞ。金剛。ていうか、やっぱいい匂いがするな。

 

「金剛、金剛。嬉しいのはわかるが、ここは食堂だ。時と場所をわきまえるべきだな。」

 

「ワカリマシター。それじゃ、お誘いを待っているからネー。」

 

 金剛はそう言って離れて自分の食事の置いてある席に戻った。ふう、危なかった。あれ以上、密着されると色々とね。そんで、今は、鈴熊コンビと霞からジト目で見られている。不可抗力だろうに、今のは。その視線に気づかない振りをして

 

「さ、飯の続きだ。」

 

 と言って、食事をすすめる。3人ともため息をついてから食事を再開した。まったく、深海棲艦相手に戦っているときの方が、まだ(らく)だな。

 

 昼食後はまた書類仕事だ。Wordで書類を作成してはプリントアウトし、使送便用の封筒に入れる。ミクが中心となって行った“しらね”と“くらま”2隻とチヌークの改造箇所をまとめるのには時間がかかった。しかも、今度はSH-60Kまで改造しようというのだから、また、それをまとめるのかと思うと気分が憂鬱(ゆううつ)になる。

 

 1500になると、休憩をとる。今日は、緑茶と友人が送ってくれた小城羊羹だ。羊羹の表面が糖化して何とも言えない食感になっている。それを食しながら霞と共にゆったりとした10分間を過ごす。

 

 休憩時間が終わり、仕事に戻ろうとすると、電話が鳴った。赤電話ではない通常の電話だ。相手は、幕僚長からか。すぐに、電話を取る。

 

「『こちら柱島泊地司令長官湊大将であります。』」

 

『ああ、海斗君、口調はいつも通りでいいよ。人払いしてあるからね。』

 

「『それでは、こちらも人払いをします。少々お待ちください。』霞、申し訳ないが、15分ほど席を外してくれないか。」

 

「わかったわ。工廠に行って艤装の点検と酒保の様子を確認しておくわ。終わったら内線をお願い。」

 

「了解した。」

 

 霞が部屋を出るのを確認し、扉に鍵をかける。

 

「『お待たせ。叔父さん。そんで、なんのようかな?』」

 

『ああ、この前、海斗君が言っていた霞中佐の昇進の件だけど、とりあえず、今の時点から大佐に昇進ね。階級章は追って使送便で送るから。それと、来月には准将に昇進させることが決まったよ。』

 

「『へえ、大佐になるのは、簡単に納得できるけど、准将か。艦娘初だね。何か(たくら)みごとでもあるんじゃないの?』」

 

『まあ、(あた)らずと(いえど)も遠からずって所かな。この前の四国沖夜戦で活躍したのが、新聞にも取り上げられていたのは知っているだろう?』

 

「『ああ、俺のカメラ映像から切り取ってデカデカとした写真に“鬼神の相棒、此処に有り!!”とかなんとか書いてあったよね。』」

 

『ま、それで、人権団体が騒ぎ出してね。“艦娘に将官がいないのは差別だ。”的なことを言ってね。それで、政府と協議した結果、直近で戦功を挙げている霞大佐がターゲットになったわけ。』

 

「『それじゃあ、今後は艦娘の将官が増えるということ?』」

 

『さて、どうかな。なかなか、たった一人で深海棲艦艦隊群の足止めと撃破に貢献した艦娘って少ないからねえ。そうポンポンとは出てこないと思うよ。』

 

「『フーン。統括官あたりが反対すると思ったけど。』」

 

『いや、彼が生の編集していない戦闘映像を見たいと言ったから見せたら、一気に変わってね。“湊大将には本当に失礼なことをした。”とかなり反省していたよ。』

 

「『えっ、俺の戦闘映像を見せたんだ。吐かなかった?』」

 

『いやあ、何回もトイレと往復していたよ。』

 

『だろうね。ま、霞の昇進はありがたいよ。ホントに。』

 

「『そう言って、もらえると嬉しいね。だから80スープラの件は・・・』」

 

「『それと、これとは話しが別だよ。じゃあね、叔父さん。』」

 

『ちょ・・・、まっ・・・。』

 

 切ってやった。そして、そのまま工廠に内線をかける。3コールで霞が出た。

 

『こちら、工廠。霞よ。』

 

「『おっ、霞か。丁度よかった。幕僚長との話しは終わったよ。霞に関することだった。電話ではなんだから、執務室で話そう。戻ってこられるかい?』」

 

『ええ、大丈夫よ。それじゃあ、切るわね。』

 

「『ああ。』」

 

 数分後、霞がノックとともに入室してくる。

 

「悪かったね。席を外させて。」

 

「いいわよ。あれぐらい。で、用件は?」

 

「ああ、君の昇進が決まった。今日付で大佐に昇進だ。そして、来月には准将となり、艦娘初の将官となる。おめでとう。」

 

「あ、ありがとう。なんか実感がわかないわね。」

 

「そんなもんだろうさ。階級章が届いたら渡すから、それまでは、中佐の階級章で我慢してくれ。」

 

些末(さまつ)なものよ。気にしないわ。」

 

「ならば、よかった。今夜は、予定は空いているか?昇進祝いだ。夕食後に秘蔵のワインを出そう。」

 

「満潮姉さんを呼んでもいい?」

 

「ああ、いいぞ。ただし、満潮までだ。他の子までまわす量が無いからな。」

 

「了ー解。楽しみにしとくわ。」

 

 そういって、霞はフフフと笑顔になるのだった。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第49話 魔改造護衛艦の出渠

 長く期間があいてしまい申し訳ありませんでした。仕事量を増やすコロナが憎いですねえ。死滅してくれないかなあ。


 本日は、ミクと工廠妖精さん達に魔改造された“しらね”と“くらま”の出渠(しゅっきょ)の日だ。一昨日、ドライドックに入渠(にゅうきょ)したばかりなのにもう出渠(しゅっきょ)とは仕事が早いねえ。っていうかね。昨日、作業の進捗状況を見に行ったら、ドライドックに壁と天井ができていて、ミク曰く、「偵察衛星対策で夜に作りましたー。弾道ミサイルの直撃にも耐えますよー。」というモノらしい。柱島の西側がドンドン軍港化していっている。まあ、なんか苦情が来たら幕僚監部にぶん投げよう。そうしよう。

 

 そんで、新しく大佐の階級章をつけた秘書艦の霞と、牧原大佐と佐野大佐、森原中佐と電少佐をひきつれドックに向かう。両艦の乗組員は既にドックにいるはずだ。両艦とも出渠したら、そのまま、四国沖に出てテストを行い、四国をぐるっと周って柱島に帰投という感じの任務を与えた。

 

 勿論、艦娘が適正に輸送できるかもテストするから、それぞれ、1個艦娘艦隊つまり6人の艦娘を乗船させる。“しらね”には、旗艦の金剛以下天龍、龍田、島風、雪風、鳳翔。そして、俺とミョルニルアーマー。“くらま”には、旗艦の霞以下扶桑、赤城、加賀、愛宕、摩耶だ。

 

 因みに、今日の出渠予定とその編成を決めた時に、俺の指揮下の艦娘全ての艤装の缶とタービンは工廠で新しく製造したものと取り換えている。扶桑が30ノット出せるようになったよ。ミクと工廠妖精さんが一晩もかからずやってくれました。やったね。

 

 まあ、そんなこんなで戦力の展開能力という点については、チヌーク改 (仮称)を中心に大部分が強化されたわけだ。ああ、チヌーク改でのヘリボーン訓練もしないとなあ。青野中佐たちの慣熟訓練が終わったらすぐにでも実施しよう。

 

 そんなことを考えていると、ドライドックについた。憲兵が規則通りに誰何をしてくるので、身分証をそれぞれ提示してドックの中に入る。前後合わせて20m延長され、前部にVLSを備え、後部甲板には艦娘発着用のスロープを両舷に備えた両艦は、それ以外は何の変哲もないように見えた。外側はだが。中身は魔改造のオンパレードだ。

 

 軽く訓示を述べ、森原中佐に俺が不在の間の泊地を託し、“しらね”にちゃちゃっと乗艦する。ドライドックに海水が入り始める。そして、機関が、波動エンジンが始動する。蒸気タービンの音でもガスタービンの音でもない、今までアニメの中でしか聞いたことのない音が響く。充分に海水が入れられたら、ゲートが開く。

 

「両舷前進微速。」

 

 牧原大佐の操艦指示で出渠する。遅れて“くらま”もついてくる。柱島泊地沖合いで単縦陣を組み、速力をあげ豊後水道へ向かう。さて、艦隊司令席に座ったままでもいいが、格納庫に収納されている改造されたSH-60Kでも見に行くか。

 

 牧原大佐に格納庫に行くことを伝え、艦橋を出る。艦内もミクと工廠妖精さんの手が加えられているからか、就役から30年以上たった今でも古臭さというか、よれた感じが全くしない。新造艦に乗っているかのようだ。

 

 格納庫に着くと整備員たちが、妖精印の整備マニュアルを片手に呆然とSH-60Kを見ていた。俺に気付くと敬礼をしてきたので、答礼をし「気にするな。」と付け加える。うん、わかっていたさ。魔改造されているって。でも、チヌーク改と同じように主翼を付ける必要あったのかなあ。しかも、格納庫に収まるように折り畳み式だし。

 

「ミクー。説明を。」

 

「はいー。了解ですー。見た目の大きな違いは主翼がついたことですねー。これは、チヌークと同じようなものですので細かい説明は省きますー。ドアガンは、機銃と小型化したM68ガウスキャノンの両方を用途に応じて使い分けられますー。換装は30分あれば可能ですねー。それと、空中戦もできるように90式対空誘導弾と99式対空誘導弾を主翼に取り付けられますー。レーダーもそれ用に増設しましたー。他は、エンジンをいじって出力を上げて、省エネ化したぐらいですかねー。あ、あとASM-2も搭載できますよー。」

 

 やべえ、ただでさえ高性能機のSH-60Kが魔改造で化け物と化している。ていうか、ガウスキャノン好きだねミクは。え、ハヴォック核爆弾も搭載できる?ハハ、ワロス。せめてスパルタンレーザーくらいに抑えとこうよ。え、それも可能?今回の練習航海が終わったら改修するって・・・。ミクさんよ。俺が君の言ったことを整備員に言ったら白目剥いたぞ。もっとこう、彼らにも優しさを・・・ね?

 

 格納庫で一騒動あり、艦橋に戻ると、牧原大佐はCICに入ったようだ。航海要員しかいない。俺は艦隊司令席に座って、目の前の景色を眺める。内海だからか、とても平和な空気が流れている。だが、豊後水道を通り、日向灘を抜けて太平洋に出たら(深海棲艦)らがやって来る可能性が高まる。

 

 前回の海戦でだいぶ沈めたとはいえ、まだ、敵の本拠地も目的もわからないままだ。各国は躍起(やっき)になって探しているが、なかなか掴めない。ただ、この前の“尻尾付きの欲張りセット野郎”じゃなかった、呼称“戦艦レ級”のような特に強いやつが報告されている地域もあるようだ。そこに派遣とかになったらどうするかね。

 

 そんなことを艦隊司令席で考えていると、航海科の一士がコーヒーを持ってきてくれた。礼を言って、受け取る。それと、同時に艦内電話がなる。すぐに一士が出て、

 

「艦長から司令官へです。」

 

 と受話器を渡してくれた。内容は、SH-60K改 (仮称)の飛行訓練を行いたいとの事で、ついでに前方哨戒も行わせるつもりらしい。俺は不許可にする理由も無いので、許可を出した。さて、テスト航海らしくなってきたじゃないか。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第50話 魔改造護衛艦の実力

 文字数が少ないですが、更新します。


 日向灘を抜け、1100過ぎには太平洋に出た。燃料も主機の耐久性も気にしなくていいので、豊後水道に入ってからは常に前進一杯の43ノットで駆け抜けてきた。ちなみに、先行していた2機のSH-60K (コールサイン:スカーフェイス01)は、呉に潜航状態で帰還中の潜水艦SS-593“まきしお”と警戒任務に就くために日向灘を抜けていたSS-600“もちしお”をいとも簡単に発見した。

 

 いやあ、高性能すぎるね。しかも、300km/hを超える速度が出たと聞いた時は頭を抱えたよ。もし、空軍のC-1とかを魔改造したらどうなるんだろうか。C-130なんてガンシップに使われるぐらいだから、MACガンとかで武装されるんだろうな・・・。うん、考えるのはやめよう。しかし、外海に出たのに全然揺れないな。

 

「航海長、スタビライザーを使っているのか?」

 

「はい。いいえ、閣下。スタビライザーは使っておりません。ただ、妖精さんの作られたマニュアルによりますと、艦中央底部に姿勢制御装置の設置をしてあると書いてあります。」

 

「なるほど。ありがとう。外海に出ても揺れが少なかったものでね。」

 

「確かにそうですね。以前の本艦とはまるで別物です。」

 

「今回の改装は迷惑だったかね。」

 

「そんなことはありません。深海棲艦に対抗できる手段を手に入れることができたのです。喜ぶことはあっても悲しむことはありません。」

 

「そう言ってもらえると助かるよ。操艦指揮に戻りたまえ。」

 

「はっ、閣下。」

 

 やっべえ、ミクさん達なんか色々とやっちゃっているよ。この分だと、他にもなんか俺の知らない兵装とかありそう。

 

『対空・対水上見張りを厳となせ。』

 

 牧原大佐の命令がスピーカーから聞こえる。すでに、艦橋横のデッキには見張り員が厳重に見張りをしている。改めて下命するとは何かあったのか?俺もCICに行こう。航海長に、

 

「CICに行く。」

 

 と告げ艦橋を出る。そのまま足早にCICに入室し、牧原大佐のもとへ向かう。小声で、

 

「何かあったのか?」

 

 と問う。大佐は頷いて、

 

「帰投中のスカーフェイス01が対水上レーダーに微弱な反応を捉えました。深海棲艦の反応に似ているとの事でした。この地点です。現海域からですと、約110km。本艦のレーダーでも捉えました。この光点です。四国方面に向かい移動中です。そう遠くはない場所です。」

 

「大佐はどうしたい?」

 

「意見具申を致します。本艦と“くらま”の両艦で、迎撃行動に移るべきかと。四国からは200kmの距離になります。相手が空母機動艦隊ですと、空襲の恐れがあります。」

 

「よし、ならやるか。波動防壁を忘れるなよ。」

 

「了解。“くらま”に通信、“深海棲艦ト思シキ反応ヲ探知。コレヨリ確認ヘ向カウ。我ニ続ケ”だ。」

 

「大佐、後は任せた。艦橋に戻る。」

 

「了解しました。」

 

 そして、艦橋に戻って、1時間弱、1230を過ぎたあたりで(深海棲艦)らを補足した。すぐに艦内電話でCICの牧原大佐を呼び出し、

 

「『武器使用自由。制限無く使え。』」

 

『了解しました。』

 

「通信士、“くらま”に打電。“武器使用自由”とな。」

 

「了解しました。」

 

「さて、どうなるかな。」

 

 艦橋から双眼鏡を使い、深海棲艦の編成を確認する。戦艦タ級1、空母ヲ級1、軽空母ヌ級2、駆逐イ級2の空母機動艦隊だ。しかし、編成が軽い。深海棲艦が前回の戦闘から立ち直っていない証拠か?

 

 双眼鏡から目を離すと、艦体前部に設けられた、2門の主砲が旋回し、照準を合わせている所だった。ピタッと止まると、砲口から青いビームが深海棲艦に向かって伸びる。後続の“くらま”からも発射されたようで、計4本のビームが深海棲艦空母機動艦隊に向かう。双眼鏡で敵を見る。命中した瞬間、戦艦タ級1、空母ヲ級1、軽空母ヌ級2が光の奔流(ほんりゅう)に飲まれて文字通り、消し飛んだ。

 

『ハープーンを発射する。艦外の者は艦内に退避。』

 

 その放送がかかった15秒後にはVLSから1発のミサイルが残った駆逐イ級に向かって飛翔していく。“くらま”からも同時に発射されたので、2本のミサイルの航跡が空に残る。程なくして、火球が2つ見えた。イ級も沈めることができたようだ。

 

 両艦の戦闘能力は充分にわかった。はっきり言って、現代艦で両艦の攻撃を防ぐことはできないから、ある意味で最強の護衛艦だろう。ミクさんやべえよ。深海棲艦を一方的に殴れるとか、最高じゃないか。

 

 さて、今度は艦娘達との連携だな。昼食後はそれをするように命令するかな。上手くいけばいいが。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第51話 高速戦闘艦隊

 どうしてこうなった。俺は頭痛のする頭に手を当て、“しらね”と並走している扶桑たちを見る。そう、扶桑が、初の純国産超弩級戦艦が43ノットでついてきている。

 

 またミクと工廠妖精さんたちがやってくれた。艦娘艦隊と“しらね”と“くらま”の連携訓練を始めるためのブリーフィング時に扶桑がこぼした、

 

「缶とタービンを入れ替えても30ノットがやっとの鈍足の私が、艦隊の足手まといになってしまいます。」

 

 という言葉に対して、

 

「そんなことはないぞ。自信を持つんだ扶桑。お前は鈍足なんかじゃない。な、ミク。」

 

 と返答をしたことによって、ミクと工廠妖精さんたちの何かに火がついたらしく、“しらね”と“くらま”の両艦に乗艦中の艦娘達の艤装をいじり、全員が45ノット出せるようにした。

 

 それが、今、目の前に広がる光景の理由だ。妖精さんの感性がわからん。他の鎮守府や提督の艦娘に同じようにしないのかと問うたら、首を横に振られた。解せぬ。

 

「艦娘達があんだけ出せるようになったなら、“しらね”と“くらま”も、もう少し出せないものかな。」

 

“しらね”艦橋の司令官席でそう呟くと、

 

「できますよー。」

 

 とミクが返答してきた。え、どこにいたのさ。気づかなかったぞ。ていうか、今、まだ速度が出せると言ったよな。

 

「ちなみに何ノットだ。」

 

「50ノットですねー。」

 

 思わず、飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。危ない、危ない。というか50ノットってヤバ過ぎだろう。

 

「50ノット!?艦体に負荷は?」

 

「艦体にも機関にも負荷はかかりませんよー。ちょちょいといじるだけですからー。」

 

「え、今からするのか?」

 

「はいー。お任せ下さいー。」

 

 そう言って、止める間も無く艦橋から出て行った。俺は、ミクを止めるために伸ばした手を所在なさげに宙に浮かせていた。そして、艦橋の航海長をはじめとする航海科要員の視線が痛い。妖精さんが見えない人間たちからしたら、俺が独り言を言って勝手に慌てているように見えたことだろう。

 

 しかし、ここにいる者たちは全員、俺が妖精さんと会話することができることを知っている。だからこそなのだろう。航海長が近寄って来て聞いてくる。

 

「閣下。その、申し訳ありません。妖精さんとの、おそらくミクさんとの会話を聞いてしまいました。本艦と“くらま”の船速を50ノットまで上げるとは本当のことでしょうか?」

 

「ああ、本当だ。しかも、今からするそうだ。」

 

「今からですか!?」

 

「今からだ。牧原大佐にも説明せんとな。CICに行ってくる。」

 

 そう言って艦橋を出てCICに入る。大型の情報画面には、2個艦娘艦隊がそれぞれの乗艦である“しらね”と“くらま”を中心に、2つの輪形陣を作っているのが光点でわかる。表示されている情報には速力も出ているが、見間違うことなく“43ノット”と出ている。

 

 また頭痛を感じながら、牧原大佐の肩に手を置く。

 

「どうされました、閣下?」

 

 そう聞いてくる彼に、艦橋でのやり取りを伝える。そうすると、最初は戸惑っていたが内容を理解すると、彼の顔は喜色満面になった。

 

「高速戦闘ができますな。用兵・戦術・戦法が変わります。幕僚監部に報告すれば戦略も変わるでしょう。よいですね。戦闘艦らしくなってきました。小官は歓迎しますよ。」

 

 わーお、戦闘狂?まあ、自分の指揮する艦が強化されるわけだから嬉しいのは当然か。その時、鳳翔から通信が入った。

 

『方位150方面へ進出していた偵察機が南下している敵艦隊を発見しました。距離は約200kmで、編成は戦艦3重巡1駆逐2です。航空攻撃の許可をお願いします。』

 

「閣下。どうされますか?」

 

 牧原大佐が聞いてくる。()れる獲物を()らない理由は無い。

 

「マイクをくれ艦長。本艦内への放送と全艦娘、“くらま”にも繋いでくれ。・・・。ありがとう。『全艦、全艦娘に告げる。鳳翔少佐の偵察機が深海棲艦打撃艦隊を発見した。敵は南方に逃走中だ。艦隊進路150。速力43ノット。空母は直掩機以外を全て攻撃に向かわせろ。スカーフェイス隊も発艦準備。艦隊より前進し警戒にあたれ。敵に遭遇した場合は武器の使用を許可する。以上だ。』ああ、くそ、戦争だ。」

 

 本当に最悪だ。深海棲艦どもを海の藻屑にできると考えるだけで嗤いが込み上げてくる。俺のその狂気を目にしたのは牧原大佐だけだ。彼は目深に帽子を被りなおし、指示を出す。必要な命令は出した。残念なのは、俺の手で屠れないということだろうか。今すぐにでもミョルニルアーマーを着込み、前線へ行きたいが今の俺は艦隊司令だ。肩書を此処まで忌々しいと強く思うのは、初めてかもしれないな。

 

 ま、何にせよ俺の仕事は此処から艦隊全体に的確な指示を出すことだ。

 

『こちら鳳翔、攻撃隊全機発艦終了。』

 

『こちら赤城、攻撃隊発艦終了まで約5分。』

 

『こちら加賀、同じく攻撃隊発艦終了まで約5分。』

 

『こちらスカーフェイス01。離艦準備にかかる終了まで10分。』

 

『こちらスカーフェイス02。同じく離艦まで10分。』

 

「『よろしい。赤城と加賀の航空隊が発艦し終えたら、すぐに攻撃に向かえ。スカーフェイス隊は初の交戦になる可能性が高い。ガウスキャノンの能力を過信しすぎるな。攻撃隊で叩ききれなかったら、艦隊戦だ。総員、気を引き締めろ。さあ、狩りの時間だ。』」




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第52話 艦隊戦

 赤城と加賀が攻撃隊を発艦し終わり、鳳翔の攻撃隊と合わせて南下して逃走中の深海棲艦打撃艦隊に向かわせ既に数十分。前進警戒しているスカーフェイス隊のおかげもあり、空襲の様子はよく把握できた。

 

 結果として空襲にて敵艦隊の全艦を撃沈。流石に流星改に彗星一二型甲の攻撃には耐えきれなかったか。

 

『こちらスカーフェイス01。深海棲艦と思しき艦隊を発見。IFF応答なし。』

 

「『こちら湊大将。1個艦隊のみか?距離は?』」

 

『はい、レーダーではそれのみです。距離は艦隊進路050の方角へ150kmです。』

 

「『近いな。わかった。引き続き警戒にあたれ。』牧原大佐、艦隊戦をやる。艦娘艦隊のみでだ。本艦と“くらま”は万が一のための援護に徹する。」

 

「了解しました。しかし、対空レーダーに反応が無いとすると、また打撃艦隊ですかね?」

 

「わからん。なにせ、標的は小さいからな。ま、兎に角、油断さえしなければいい。艦橋に上がる。」

 

「了解。」

 

 CICから出て艦橋に直接向かわず、格納庫へと向かった。理由は簡単、万が一のためにミョルニルアーマーを装着しておくためだ。ミョルニルアーマーを自分一人で装着していると、ミクがフヨフヨとやって来た。

 

「機関の改良は終わったのかい?」

 

「はいー。両艦とも終わりましたよー。海斗さんは出撃ですかー?装着お手伝いしますよー。」

 

「おう、手伝ってくれるとありがたい。それと、出撃ではないな。新たに敵艦隊を発見した。今度は艦載機による空襲ではなく、艦娘艦隊による直接攻撃を行う。だから、万が一のための保険だよ。これを着込むのは。」

 

「なるほどー、それですと、艦内を動き回るにはガーディアン・シールドとロング・レンジ・ビーム・ライフルは使えませんねー。SRS99-5 対物ライフルとM739 ライトマシンガン、M6H ハンドガンにビーム・サーベルぐらいになりますねー。」

 

「ああ、それで、充分だろう。ま、俺が出ないにこしたことはないがね。」

 

「そうですねー。はい、終わりましたよー。」

 

「あいよ。神経回路を繋いでっと、うし、各部異常なし。大丈夫だな。そんじゃ、艦橋に上がるか。ミクはどうする?」

 

「もちろん、ついて行きますよー。」

 

 そう言って定位置の右肩に乗る。俺がミョルニルアーマーで艦内を歩き、艦橋を目指しているとすれ違う乗組員全員がギョッとした顔をする。まあ、こんなゴツイ装備の人間が歩いているのだから、当然か。

 

 俺は“ゴンッゴンッ”と足音を響かせ艦橋に入る。航海長含め全員が一瞬だけ固まったが、すぐに自分の作業に戻る。俺は艦内電話を取り、CICへ連絡を入れる。

 

「『牧原大佐、目標の動きはどうだ?』」

 

『こちらに気付いた様子はありません。なお、これより敵艦隊を“エネミーα”と呼称します。』

 

「『各艦娘、“くらま”への伝達は任せる。以上だ。』」

 

『了解。』

 

 さて、エネミーαはどんな構成だろうか。そろそろ、偵察機の報告が入ってもいいものだが・・・。

 

『こちら加賀。偵察機が敵艦隊“エネミーα”を補足。構成は戦艦4重巡2。単縦陣で航行中。接敵を続けます。』

 

「『艦首はわかるか?』」

 

『待ってください・・・。わかりました。戦艦は全てタ級です。重巡はネ級です。全艦が黄金色の(もや)のようなモノに包まれているようです。』

 

「『上位種!?flag shipか!?』」

 

『そのようです。』

 

「『各艦隊の旗艦の意見が聞きたい。』」

 

『第2艦隊、霞大佐です。ミクさんを中心とした妖精さん達に強化された私たちです。やれます。』

 

『第1艦隊、金剛少佐デス。こちらもやれます。』

 

「『わかった。無理はするなよ。』『艦隊司令より全艦隊に通達。これより、艦娘艦隊は空母を後方に退避させエネミーαに接敵、攻撃し撃破せよ。空母は、“しらね”と“くらま”で護衛する。スカーフェイス隊は全周警戒。』」

 

 艦橋から眺めていると、俺の命令通り、艦娘艦隊から鳳翔、赤城、加賀の3空母が離脱し、“しらね”と“くらま”の間に入り単縦陣を作る。そして、艦娘第1艦隊と第2艦隊が艦列から外れ、それぞれ単縦陣を作りながら前進していく。俺は、その姿に敬礼をして見送る。艦橋にいる者も敬礼している。うん、良い関係が(きず)けているようだ。

 

 十数分後、通信が入る。

 

『第1艦隊、金剛デス。電探にエネミーαの反応有り。これより、観測機を発艦させ、弾着観測電探射撃を行う。』

 

『第2艦隊、霞です。こちらも扶桑が電探にエネミーαを捉えた。弾着観測電探射撃を行う。』

 

「『了解。被弾には気を付けろ。中破相当の損害を受けたら退避しろ。以上だ。』」

 

 そして、さらに数分後。

 

『第1艦隊、金剛、これより弾着観測電探射撃を行う。』

 

『第2艦隊、扶桑も弾着観測電探射撃を行う。』

 

 彼女たちが向かった海域をヘルメットのズームアップ機能を利用して見る。砲炎と砲煙が上がるのが確認できた。

 

『第1艦隊、金剛。エネミーα旗艦に夾叉(きょうさ)を確認。砲撃を続ける。』

 

『第2艦隊、扶桑。エネミーα3番艦と思しき戦艦に命中弾。砲撃を続行。』

 

『第2艦隊、霞大佐より報告。本艦を旗艦とし、天龍、龍田、島風、雪風による水雷戦隊を臨時編成。エネミーαに接近し砲雷撃を加える。』

 

『第2艦隊、愛宕。摩耶と共に水雷戦隊突撃のための支援砲撃を行う。』

 

 見える砲炎が激しさを増す。逆にエネミーαからの砲撃も始まったようだ。水柱が艦娘艦隊の近くに何本も上がる。その水柱を縫うように霞が率いる水雷戦隊がエネミーαに接近する。エネミーαは接近する水雷戦隊には副砲と重巡ネ級で対応するつもりのようだ。エネミーαの単縦陣の排煙が4本と2本に分かれるのが見える。

 

 その瞬間、ネ級の周囲に水柱がいくつも上がり命中弾もあったのか、艤装が燃え始めた。金剛、扶桑の戦艦副砲群と愛宕、摩耶の重巡による支援砲撃、さらに天龍、龍田による近接射撃のようだ。霞たち駆逐艦も砲撃を始める。しかし、酸素魚雷の有効射程内のはずだ。早く発射し、離脱すべきだ。

 

 だが、霞はさらに距離を縮める。エネミーα戦艦群との距離が1万mを切った時点で魚雷を発射するのが見えた。すぐに煙幕を張りながら、退避に移る。行きがけの駄賃とばかりに、最初に損傷を()っていたネ級に砲弾を叩き込みながら前進一杯で駆け抜ける。ネ級はついに耐え切れず機関部から爆炎を上げながら轟沈した。

 

 もう1体のネ級は前進してきた愛宕と摩耶に、手玉に取られている。さらには空からの援護が加わる。スカーフェイス隊だ。ガウスキャノンの射程内に入った瞬間に援護射撃を始めた。空に光が走るたびにネ級の艤装に穴が開いていく。ネ級は粘ったが最終的には愛宕と摩耶の放った酸素魚雷で吹き飛んで爆沈した。

 

 残ったのは金剛と扶桑、タ級4体の砲撃戦だが、高速で動きまわり、弾着観測と電探による砲撃を繰り返す2人にflag shipであるはずの4体は翻弄(ほんろう)されまくっている。さらに、眼下には霞たち水雷戦隊の放った酸素魚雷が接近している。

 

 最初に沈んだのは最後尾の4番艦だった。砲撃の標的になっていなかったほぼ無傷の4番艦だったが、酸素魚雷が連続で命中し高く水柱と爆炎が上がるのが見えた。水柱が消えたら、既にそこには何もなかった。

 

 さらに、魚雷は命中する。3番艦に2本、2番艦に2本、旗艦に1本だ。旗艦は魚雷の命中で体勢を崩したところに金剛の集中砲火を受け、炎に飲まれながら沈んでいった。3番艦も魚雷命中後に扶桑の放った砲弾が直撃し、爆沈した。

 

 最後に残った2番艦は逃走しようとしたが、すぐに追いつかれ、霞たち9人とスカーフェイス隊から集中砲火を受け、四肢をもぎ取られながら、それは、無残な最期を()げた。

 

『テートクへ、第1艦隊、旗艦、金剛より報告。エネミーαの無力化を確認。損害は各艦、至近弾による損傷のみ。補給後に戦闘継続可能デス。』

 

『艦隊司令へ、第2艦隊、旗艦、霞より報告。第1艦隊と同じくエネミーαの全艦撃沈を確認。損害も第1艦隊と同じく至近弾による損傷のみ。補給後、戦闘継続可能。』

 

『スカーフェイス01より、報告。近海に敵艦隊の艦影は無し。』

 

「『総員、よくやった。順次、帰還し補給を受けるように。』」

 

『『『了解!!』』』

 

「ふー、終わったな。俺の出番が無くて良かったよ。」

 

「海斗さん、緊張しっぱなしでしたもんねー。」

 

「仕方ないだろう?全く、疲れた。だが、全員無事に帰還するまでは油断できん。」

 

「そうですよー。勝って兜の緒を締めよ、ですよー。」

 

「うん、そうだな。しかし、俺以外にも艦娘と同等の活躍ができる人間がいればいいんだがなあ・・・。」

 

「海斗さんと同じような人ですねー。わかりましたー。」

 

「ホントにわかっているのか?ある意味人外だぞ?」

 

「海斗さんを甦らせるときに色々と覗きましたのでー。期待してくださいー。」

 

「ああ、わかったよ。期待させてもらおうか。」




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第53話 お仲間

期間があいてしまい申し訳ありません。コロナの野郎のせいでお上から降ってくる仕事量が増えたことが原因です。


 深海棲艦flag ship艦隊を撃破した後は艦娘第1艦隊、第2艦隊ともに母艦に補給のために一時帰艦し、損傷が激しい者は治療と艤装の補修を受ける。今回はそこまでの損傷は無かったので、彼女たちは補給後すぐに艦隊防衛のために母艦を中心に展開する。

 

 スカーフェイス隊も燃料の補給を行ったら、すぐにスカーフェイス01のみが前進警戒のために飛び立つ。スカーフェイス02は仮眠を取りつつ待機だ。室戸岬沖を通り過ぎ、針路を北に取るまでの間、スカーフェイス01だけで3体の潜水艦を狩った。うち1体はガウスキャノンで仕留めたそうだ。1日目はこうして終わった。

 

 2日目は何事も無く始まった。いや、正確に言えば“深海棲艦との接触が無く”と言った方がいいのかもしれない。艦橋の司令官席で(くつろ)いでいたら【艦隊60ノット化計画】という冊子をミクが持って来たのだ。   

 

 内容は、【“しらね”と“くらま”のスクリュープロペラを取り外し、波動エネルギーを放出して推進する方法へ変更。また、後進用として艦首底部に小型の推進器を複数配置、戦闘機動用としても艦体横の喫水下に小型の推進器を複数配置。艦娘については“改”になり積載容量に余裕ができた時点で缶とタービンを改造する。】というモノだった。

 

 あれかな、俺達は深海棲艦じゃなくてゴジラとでも戦うのかな?ん?もう一つ冊子がある。【“しらね”及び“くらま”の武装強化について】えー、もうおじさんお腹いっぱいだよ。恐る恐る中を見ると、【煙突をダミーとしVLSを設置。艦底部に前方と後方へ発射可能な収納型の魚雷発射管を設置。両艦への波動防壁の応用による潜航機能の追加。】というモノだった。もろにヤマトじゃねえか。コレ。

 

 読み終わった2冊をため息と共にミクへ返す。

 

「何日でやれる?」

 

「ドライドックで1日あれば十分ですー。」

 

「許可する。あと、この冊子を2冊用意すること。艦長の両大佐へ説明せんといかん。」

 

「わかりましたー。」

 

「それと、明石か夕張に頼んで決済用の文書を作って貰わんといかん。ひな形を任せるよ。」

 

「了解ですー。」

 

「では、行ってよろしい。」

 

 そう言って、金平糖の入った小さな巾着を渡す。ミクはそのままフヨフヨと艦橋を出て行った。ミクが出て行ったのを宙を浮く巾着で確認した牧原大佐が艦長席から問いかけてくる。

 

「何かあったので?」

 

「あった。後で牧原大佐と佐野大佐のところに2冊の冊子が届くと思う。両艦の強化案が載っている。」

 

「まだ強化するのですか!?」

 

「らしいな。柱島泊地に戻ったらまたドック入りだ。」

 

「了解。」

 

 そして、太平洋から淡路島を迂回し瀬戸内海へと入ると、行きかう艦船の量と密度が一気に増えるので艦隊の速力を半速程度に抑える。まあ、それでも20ノット出ているんだがね。1610には帰港できた。帰港して接舷すると、スカーフェイス隊はヘリ格納庫へ、艦娘たちは工廠へとそれぞれ向かう。航海要員以外を降ろした“しらね”と“くらま”は離岸し、ドックへ向かう。俺は、秘書艦である霞を迎えに行くために工廠へ向かう。

 

 工廠にはいつも通り明石と夕張がいて、森原中佐と暁型の4人もいた。俺と霞に気付いた全員が敬礼をしてくる。答礼をして楽にするよう声をかける。どうやら、森原中佐が召喚建造を2人分頼んでおいたのが終わったようで、その出迎えに来たようだ。

 

「誰が来るか楽しみだな。中佐。」

 

「ええ、できれば、重巡以上の()に来てほしいですね。私の所は電少佐たちのみですから。」

 

「つまり、火力が欲しいと?」

 

「率直に言えば。ああ、でも、霞大佐も駆逐艦ですが先の夜戦ではかなり活躍されましたよね。」

 

 急に話しを振られた霞が少し慌てて答える。

 

「あの時の私は、装備が長期戦を予想して重装備だったからよ。4連装魚雷発射管を4つ。主砲を2つ。機銃は載せられるだけ載せたもの。それに、司令官が敵のど真ん中で暴れまわっていたしね。」

 

「なるほど、でしたら、湊大将のように高火力、高機動、耐久力が備わっている艦娘がよいですね。となると、金剛型でしょうか?」

 

「さあ?そこは、提督である貴女が考えることよ。」

 

「そうですね。では、明石少佐、建造ポッドを開けてください。」

 

「了解しました。中佐。」

 

「俺も見ていていいかな?」

 

「どうぞ、閣下。」

 

「私たちもイイデスカー?」

 

「おう、金剛、それにみんなも回航お疲れさん。」

 

「ええ、金剛少佐、一緒に迎えてあげて。」

 

 そして、まずは一つ目の建造ポッドが開く。中からは和洋折衷というような服装の艦娘が現れた。

 

「軽空母、龍驤や。独特なシルエットでしょ?でも、艦載機を次々繰り出す、ちゃーんとした空母なんや。期待してや!!」

 

 ほう、軽空母か幸先いいじゃないか。

 

「よろしく龍驤。私が貴女の提督になる森原中佐です。よろしくね。」

 

「よろしゅうな~、司令官。んで、後ろのごっつい兄ちゃんは何者や?横は朝潮型の霞よな。」

 

「ああ、私がここ柱島泊地司令長官の湊大将だ。森原中佐の上官にあたる。よろしく。」

 

「私は、湊大将の初期艦娘の霞大佐よ。よろしく。後ろのみんなは全員が湊大将指揮下の艦娘。森原中佐の艦娘は暁型の4人と龍驤少佐、貴女だけね。ま、あと1人建造ポッドから出てくるみたいだけど。」

 

「お2人ともよろしゅう~。期待通りに活躍させてもらうわ。しかし、うちともう1人が今日、建造されたんやね。楽しみや。」

 

「それじゃあ、2つ目の建造ポッドを開けますねー。」

 

 明石がそう言って、【開】と書かれたスイッチを操作すると中から声が聞こえてきた。聞き覚えのある声、いやHALOプレイヤーなら必ず聞いたことのある声だ。

 

「降下ポッドってのはこんなに時間が掛かったか?それに衝撃もしねえ。一体どうしたってんだ。・・・。ここは、どこだ?チーフは?ODSTは?他の海兵隊員は?ドーンは?」

 

 ジョンソン軍曹が建造ポッドから出てきた。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿できると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第54話 ジョンソン上級曹長

遅くなってしまい申し訳ありませんでした。


 俺がいた海面にビームが着弾し、続けて俺を追うように2発着弾する。着弾した箇所は高熱に(さら)され海水面が蒸発している。間髪入れずにバズーカの発射音が聞こえる。すぐにブースターを吹かし、水平移動で避ける。散弾が海面に着弾し子弾頭が爆発を起こす。

 

 俺も反撃に右手に持ったロング・レンジ・ビーム・ライフルを目標に撃ち込む。しかし、目標は光速に近いビームをバレルロールで回避する。逆に肩部ミサイルを6発全て撃ち込んでくる。左手に持ったライトマシンガンで撃ち落としながら、海面をホバー移動し距離を取る。

 

「クソッタレ!!空中で自由落下中にビームをバレルロールで回避だと!?」

 

 俺は悪態をつきながら、ライトマシンガンで弾幕を張る。それを何でもないように、目標は簡単に避ける。

 

 これが、アルファヘイローからいやそれ以前から海軍特殊戦司令部の特殊訓練を受けて反乱軍と戦い、生き抜いた猛者の実力か。反撃をしながらそんな風に考える。すると、目標は撃ち尽くした肩部ミサイルポッドをパージし、青緑色のゴーグル・アイを(きら)めかせビーム・サーベルで斬りかかってくる。俺もロング・レンジ・ビーム・ライフルを腰に懸架し、ビーム・サーベルを展開して(つば)迫り合いになる。

 

「流石ですな。大将閣下。」

 

「そっちもなジョンソン上級曹長。すぐにそれを使いこなせるとはさすがだ。」

 

 そう模擬戦闘の相手はエイヴリー・J・ジョンソン上級曹長inスターク・ジェガン (サイズは2mほど)。なんでこうなったんだ。俺はこの状況になった原因を思い出す。

 

 

「改めまして、UNSC海兵隊所属エイヴリー・J・ジョンソン上級曹長であります。」

 

 ジョンソン上級曹長は建造ポッドから出てそう自己紹介をしてくれた。恐らく、軍服姿の俺と森原中佐がいたから軍事施設と判断したんだろう。UNSCの軍服と同じ白色だしな。

 

「ようこそ、地獄へ。ジョンソン上級曹長。我々は君の着任を歓迎する。私は日本国国防海軍柱島泊地司令長官の湊大将だ。彼女は私の部下の森原中佐だ。」

 

「これは、申し訳ありません。大将閣下、中佐。」

 

 そう言って、見事な敬礼をしてくるジョンソン上級曹長。それに俺と森原中佐が答礼を行い、現状を簡単に説明する。

 

「つまり今のここは2552年のHALOではなく2014年の地球の極東アジアの日本で、しかも、深海棲艦という海から侵攻してくる化け物どもと戦っている。ということですか?」

 

「そうだ。付け加えるなら、人類側は押されている。認めたくはないが地球のほとんどの制海権が奴らの手の中だ。」

 

「そして、自分は深海棲艦と対等以上に戦える艦娘として建造されるはずのポッドから出てきたということですね。しかも、こちらの世界では自分はゲームの登場キャラの1人と。なるほど、現状の把握は出来ました。」

 

「理解が早くて助かる。しかし、今回の貴官の召喚建造はある意味イレギュラーだ。ああ、貴官の能力に問題があるというわけではない。ただ、貴官には艤装や武装が無い。海上で戦う手段が無いのが問題だ。」

 

「確かにそうです。閣下のミョルニルアーマーを拝見させていただきましたが、脚部は大幅に改良されているようでした。あれは海上移動をすためにでしょうか?」

 

「その通りだ。貴官にもそのような装備があれば良かったのだが。何か良い方法はないものか・・・。」

 

 森原中佐とジョンソン上級曹長と3人でウーンと唸っているとミクがやって来た。

 

「海斗さんー。できましたよー。」

 

「すまん、2人ともミクが話しがあるようだ。それで、できたって何がだ?」

 

「そこのエイヴリーさんの装備ですー。」

 

「はっ!?」

 

「こっちですー。」

 

「あー、2人ともミクがジョンソン上級曹長の装備を準備したらしい。見に行こう。」

 

「小官の装備を先程の妖精さんでしたか?彼女が?」

 

「そうらしいな。ほれ、森原中佐も。ジョンソン上級曹長は貴官の指揮下に入るのだから、装備の確認をせんと戦術が()れんだろう?」

 

「そうですね。」

 

 そして、ミクに案内され装備製造ポッドの置いてある所に向かう。そこでは、既に一基のポッドが開いていた。中を見ると、緑色の装甲に灰色の追加装甲に追加ブースター。さらに肩部には大型の3連装ミサイルポッド。そう、RGM-89S“スターク・ジェガン”が鎮座していた。

 

「これを、エイヴリーさんにはミョルニルアーマーのように装着していただきますー。武装は隣のポッドに。さらにその隣のポッドにはUNSCの装備一式がありますー。」

 

「ちなみに装甲材は?」

 

「チタン合金セラミック複合材ですよー。軽巡くらいまでの主砲の直撃には耐えると思いますー。流石に重巡以上の主砲となると厳しいかもしれませんが、複合センサーで砲弾を迎撃可能ですので、問題ないかとー。」

 

「しかし、被弾してしまったら修理に時間が掛かるだろう?その場合はどうするんだ?」

 

「脚部ユニットだけでも装着可能ですのでー。海上移動は問題ないかとー。それと、エイヴリーさんの装備は違うモノをいくつか作成する予定ですのでー。」

 

「まるで。ジョンソン上級曹長が現れるのを知っていたようだな。」

 

「はいー。エイヴリー・J・ジョンソンさんは私が顕現させましたー。彼の魂はゲームの登場人物なのでありませんでしたが、プレイヤーの彼への親愛の情や崇敬の情が彼の魂を形成しましたー。しかし、かれはスパルタンのような強靭な肉体は持っておらず、コールドスリープを使用していたとしても68歳と高齢でしたので、保険のために、まずはRGM-89S“スターク・ジェガン”を装備として作成しましたー。」

 

 俺は頭痛を覚えながらも、ミクの言ったことを2人に説明する。すると、ジョンソン上級曹長が口を開く。

 

「ふむ、ミクさんでいいでしょうか?彼女が言うことが本当ならそうなのでしょう。しかし、“高齢”という言葉はいただけませんな。閣下。この“スターク・ジェガン”を装備した小官と模擬戦をしていただきたい。ロートルの底力をレディ方に見せて差し上げましょう。」

 

 そして、今に至る。ジョンソン上級曹長の言うところの“レディ”達も艦娘、憲兵など役職関係なく岸壁に集まって見ている。もちろん、男性諸君もだが、こちらは小さくても生の動くモビルスーツを見られて興奮しているようだった。ふむ、お披露目としては良かったのかな。

 

 そう思っていると、蹴りを喰らい吹っ飛ばされる。体勢を整えると、すぐに出力を絞られたビームが降ってくる。出力を模擬戦用の最低にしていても着弾した海水面は蒸発する。それを避けながら、ライトマシンガンで模擬弾の弾幕を張る。ああ、クソ。まずはこの模擬戦を終わらせんといかんな。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿したいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第55話 スクランブル

結局、ジョンソン上級曹長とは3回模擬戦を行った。3回とも俺の勝ちだったが、海上戦闘での経験の差だろう。これはすぐに解消されると思う。スターク・ジェガンの大推力を()かした高速機動や高高度飛翔による攻撃は中々に厄介だった。HALOでは、狙撃系の武装をよく使用していたからか、射撃の精度は驚嘆に(あたい)するものだった。スターク・ジェガンのビーム・ライフルが短銃身タイプで良かった。Zやリゼルのような長銃身なら危なかったかもしれない。

 

 接近戦もビーム・サーベルと海兵隊式格闘術を織り交ぜながら仕掛けてくるものだから、防戦一方だった。格闘徽章やレンジャー徽章を持っていればまた違ったんだろうけどな。こちとら数か月前まで船乗りだったんだから仕方ないな。しかし、これで森原中佐の艦隊も上手く編成ができるんではなかろうか。遠距離からは龍驤、戦艦の砲戦距離からはジョンソン上級曹長、近接戦闘にはジョンソン上級曹長プラス暁型の4人。日本近海ならこれでいけるはずだ。模擬戦の意見交換の際にでも助言しておこう。工廠に戻りながらそう考える

 

「閣下。」

 

「どうした上級曹長。」

 

「はい、今、森原中佐と少し通信でやり取りをしたんですが、艦娘のお嬢さん方は空挺のようなことをなさるとか?」

 

「ああ、そうだ。回転翼機に搭載されるからヘリボーン艦隊とも言われるな。」

 

「それのスクランブルをこちらの艦隊に回しては貰えないでしょうか。聞いてみれば暁少佐たちは模擬戦闘のみ、龍驤少佐は自分と同じタイミングでこの世に顕現(けんげん)したというではないですか。早々に小規模の実戦に投入し、経験を得たほうが良いかと小官は愚考します。」

 

「ふむ、ならば条件がある。難しいことではない。私の配下の艦娘も別枠のヘリボーン艦隊として随伴することが条件だ。不測の事態に備える。」

 

「小官はそれで構いません。中佐ともお話しをしてみます。」

 

「ああ、それがいいだろう。他には?」

 

「極めて個人的な要望ではありますが葉巻はありますか?最初に装備されている分では5本しかなくて。」

 

「ああ、貴官といえば葉巻だな。ふむ、どうにかしてみよう。それと、上級曹長。」

 

「なんです?」

 

「暁少佐たちは大戦を経験した軍艦の生まれ変わりではあるが、今の身体になってからの戦闘は初めてだ。さっきの模擬戦のような狂気をあまり出すなよ?」

 

「閣下も甘いのか厳しいのか。了解しました。しばらく基本的には艦のように砲撃戦のみに集中しましょう。」

 

「ああ、頼む。ただし、当たり前だが緊急時は除く。その時は徹底的に敵を叩け。」

 

「了解です。お嬢さん方の命は(まも)りきりますよ。」

 

 その会話から2日間は特に何も起こらなかった。いや、イベントはあったが。模擬戦の翌日に“しらね”と“くらま”の改装が終わったとミクに聞いて、注水前のドライドックに見に行ったら喫水線下が様変わりしていた。というのも推進器であるスクリュープロペラが無くなっており、2本の筒状のモノがそこにはあった。

 

 ミクに聞いてみると、水上・水中速力の増加のために噴射式の推進器に変えたそうだ。後進はどうするんだと聞くと、前部側面にも同じ物をつけたそうだ。そして、艦底部魚雷発射管。短魚雷に潜水艦搭載の長魚雷も撃てるらしい。ヤベーなこれは。艦体側面の小さな扉は横移動するための噴射装置との事。横移動って・・・。艦体、折れないか?・・・折れないのか、ならいいのか?兎に角、両艦長にはしっかりとマニュアルを渡しておくことを伝えた。

 

 そして、公試をした両艦長の評価はかなり高いものだった。60ノットを超える船速、前方、後方、側方への(すみ)やかな機動。水中速力30ノット近くを保持する潜航機能。VLSと魚雷発射管の増設による単艦による打撃能力の向上などなど。

 

 最大船速を出した時は艦首が少し浮き、増設された手すりに掴まっていないと後方に吹き飛ばされそうだったとも報告された。それと、きしみ音が無くなったともあった。艦体補強までしていたのか。でも、性能を考えると当たり前だよなあ。

 

 ま、実戦でどうなるか話しは別だがな。実戦で思い出した。森原中佐の艦隊は霞と鳳翔、ジョンソン上級曹長が良い感じに(しご)いてそれなりの練度になってきているらしい。2日間でそこまでするとはね。見学を一回したが、あれをするくらいなら実戦をしたほうがまだましだ。正規空母4人、戦艦2人VS駆逐艦4人、軽空母1人の模擬戦なんて被弾しない方が奇跡だと思ったね。

 

 そんなこんなで森原中佐の艦隊は一応、実戦に投入できる段階まではいった。ただし、一戦のみの制限付き。スクランブル配置だからそれでいいだろう。定期哨戒はP-3Cや空軍、呉鎮守府の艦隊がしてくれているからね。こちらも、もう少し艦娘の人数を増やして、今の変則的な哨戒行動から定期的な哨戒行動がとれるようにしないといけない。

 

 そんなことを思っていたからか、赤電話が鳴る。すぐに取る。

 

「『はい、柱島泊地、湊大将。』」

 

『こちら鹿屋航空基地。哨戒飛行中のP-3Cが接敵。足摺岬、南東136km地点。北東方向へ進行中。』

 

「霞、海図だ。『了解、すぐにヘリボーン艦隊を向かわせる。接敵中か?』」

 

『一定距離を保ちつつ接敵中です。』

 

「『他の艦隊は?』」

 

『見当たらないそうです。追加の報告があがってきました。編成はおそらく戦艦2、軽巡以上が1、駆逐3との報告です。』

 

「ちときついがいけるな。森原中佐を呼ぶんだ。スクランブルだ。『了解。何か変化があれば連絡をくれ。以上だ。』」

 

『了解しました。』

 

 さて、森原艦隊の初陣といこうか。森原中佐がジョンソン上級曹長と共に執務室にやって来たので、出撃の命令を出す。

 

「電少佐たちを出撃ですか・・・。」

 

「中佐、失礼ですが嬢ちゃんたちも自分も既に覚悟はできています。ご命令を。」

 

「上級曹長・・・。わかったわ。閣下。スクランブルのご命令、確かに受領しました。」

 

「よし、ならば、中佐はガルム01に搭乗するよう電少佐たちに命令を出しなさい。君の部下だ。君の責任を持って命令を出しなさい。霞大佐は、金剛、飛龍、蒼龍、天龍、満潮、雪風と共に出撃準備。ガルム02に搭乗。以上。」

 

「「「了解。」」」

 

 3人が部屋を出るとガルム隊にチヌーク改の離陸準備をさせる。一応、増槽(ぞうそう)を装備するように指示を出す。さて、森原中佐の艦隊は上手く敵を殺せるかな。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに更新します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第56話 森原艦隊

 作戦指揮室で予定海域へ向かうチヌーク改のジョンソン上級曹長と霞のヘッドカメラの映像を森原中佐と眺める。勿論、指揮のためだ。霞たちのほうは世間話をしながらリラックスした感じだが、森原中佐の艦隊のほうは、緊張している暁型の4人と龍驤に対してジョンソン上級曹長がいろんな話題で話しかけ、その緊張をほぐしてあげているようだ。

 

「どうかな。中佐。初めての指揮は?」

 

「はい、閣下。まだ戦闘に入っておりませんので、何とも言えませんが、彼女たちの緊張が此処まで伝わってくるようです。いえ、実際に私も緊張しているだけかもしれません。」

 

「ふむ、私も気がきくことが言えればよいのだが、生憎と場数はそれなりに踏んでいるが、上級曹長のように人生経験が足りん。だから、提督課程でも嫌というほど聞いただろうが、この言葉を贈ろう。“艦娘を信じろ”とな。」

 

「お1人、娘ではない方が混じっていますが?」

 

「そこは気にしないでほしかったな。まあ、そんな返しができるのなら大丈夫だ。ほどよい緊張というモノだよ。」

 

 そこからしばらくはとりとめのない会話をしながらヘッドカメラの映像と、映し出される会敵予想海域の海図を眺めていた。そして、とうとう初陣の時間だ。

 

『こちらガルム01。霞大佐、降下5分前です。出撃準備を始めますがよろしいですか?』

 

『こちら霞。作戦に変更なし。予定通りに。』

 

『了解。』

 

 森原中佐のほうも“ガルム02”と交信をしている。ちなみに、なぜ、ガルム01と俺が交信せずに霞としているかというと編成を見ればわかる通り、霞は通常6人編成の艦隊の7人目となっている。そう、今回の俺の艦隊の指揮は霞が()る。将官に昇級する前の良い実績になるからな。

 

「森原中佐、ガルム02との通信が終われば電少佐たちに声をかけてあげるといい。」

 

「あっ、はい。そうですね。了解しました。『電少佐、聞こえる?今から・・・』」

 

 これでヨシと。さて、俺も最高指揮官らしいことをしますか。

 

「『霞大佐を始めとした淑女諸君聞こえるかな?聞こえて無い者がいたら返事をしろ。・・・よし、いないようだな。ま、冗談はさておき、今回の海戦は基本的に森原中佐の艦隊のみで深海棲艦の殲滅を行う。森原艦隊が窮地に陥らない限り手出しはしないこと。それで、ここからが本題だ。今、確認できているのは1個艦隊のみだが、もしかすると、“尻尾付き”が出てくるかもしれん。あれは、単体で半個艦隊の働きをするからな。もし出てくれば問答無用で叩け。難しい場合はすぐに俺に救援要請を出せ。以上だ。質問は?無い?よろしい。それでは、諸君に海神(わだつみ)のご加護があらんことを。』」

 

『了解。みんなで生きて帰ってくるわ。』

 

 霞との交信が終わると、チヌーク改の後部ハッチが開いていく映像が流れる。ローターで巻き上げられた海水のせいで視界は(もや)に包まれているようだ。ロードマスターが降下サインを出すと、霞を先頭に金剛たちが降下を始める。30mほど離れたところでも森原艦隊がジョンソン上級曹長を先頭に降下を始めているのが、霞とジョンソン上級曹長のヘッドカメラでわかる。

 

 全員が着水すると、ガルム隊は高度を上げ、艦隊上空の哨戒飛行を開始する。普通のヘリボーンならヘリは離脱するんだが、妖精さん印、いや、ミク印の魔改造を施された2機のチヌーク改は搭載されている兵装のガウスキャノンや増槽のおかげもあって、原型機よりも攻撃能力と滞空時間が格段に上がっている。そのため、今回の出撃で試験的に上空哨戒をしてもらうことになった。

 

 さて、海上に展開した艦隊の様子はどうかな。俺の艦隊は問題なく旗艦の金剛を先頭に単縦陣で航行中。その1kmほど後方を霞が追従しながら、細かく指示を出している。森原艦隊はジョンソン上級曹長を先頭にして暁型の4人が龍驤少佐を護衛するように輪形陣を組んでいる。龍驤少佐は攻撃隊の発艦を進めており、あと5分もあれば全機発艦完了とのことだ。

 

 ふむ、軽空母1人による攻撃か。戦艦級を目標にするか巡洋艦級を目標にするかで砲雷撃戦に突入した場合の難易度も変わってくるだろう。さあ、森原中佐はどうする。

 

「『龍驤少佐。ここは確実性を狙うわ。巡洋艦級を狙いなさい。その後、第二次攻撃が可能ならば戦艦級を狙うように。』」

 

『了解や。でも、第二次攻撃が不可能だったらどないするん?』

 

「『そこは申し訳ないけど、上級曹長に2体の戦艦級の相手をお願いすることになるわ。』」

 

『お任せください。中佐。遠距離狙撃には自信があります。それに、スターク・ジェガンの機動性をもってすれば大丈夫でしょう。お嬢さん方だけには仕事はさせませんよ。』

 

「『ありがとう。上級曹長。』」

 

 思い切った決断をしたものだ。第一次攻撃隊に巡洋艦級を狙わせるとは。だが、確かにスターク・ジェガンとジョンソン上級曹長の腕前を考えれば、アリなのかもしれない。ビーム・ライフルとビーム・サーベルは戦艦の厚い装甲を紙のように撃ち抜き、切り裂くだろうし、肩部ミサイルポッドの大型ミサイルは相応の破壊力を戦艦にお見舞いするだろう。

 

 さて、森原艦隊の後方に位置する俺の艦隊、霞が指揮を()っているから霞艦隊とでもいおうか。指揮官である霞のヘッドカメラで龍驤少佐の第一次攻撃隊が目標へ向かい飛行していくのが映し出される。それに前後して飛龍と蒼龍が直掩隊を上げた。ま、これで不意打ちには対処ができるだろう。

 

 作戦指揮室の中で時間だけが過ぎていく。そこへ、

 

『こちら龍驤。やったで!!敵の重巡リ級を撃沈や!!それと、敵艦隊の編成がわかったで。残りは戦艦ル級2体、駆逐ロ級3体や。ただ、攻撃隊の損耗が酷くて第二次攻撃は不可能や。それと、敵艦隊がこちらに気付いたようで進路を変えて進行中や。ごめんなぁ、司令官。』

 

「『いいのよ。龍驤少佐。気にしないで。ジョンソン上級曹長、やれるわね。』」

 

『もちろんです。中佐。』

 

「『それでは、上級曹長が2体のル級を相手にしている間に電少佐達は3体のロ級に接近し砲雷撃戦でこれを撃滅すること。龍驤少佐は戦闘海域から離れた場所で上空警戒。』」

 

『『『『『『了解。』』』』』』

 

 森原中佐と電少佐達の通信が終わると、ジョンソン上級曹長のヘッドカメラの映像が目まぐるしく変わり始めた。高速でジグザグ機動をしながら敵艦隊に接近するつもりのようだ。左手に持ったビーム・ライフルからは閃光がいくつも放たれる。

 

『艤装の装甲は貫通するが、致命傷まではいかんな。次は胴体と頭部を狙う。ハイパー・バズーカを持ってくるべきだったかもしれん。』

 

 そんなジョンソン上級曹長の呟きが聞こえた瞬間、敵艦隊より閃光が走った。発砲炎だ。

 

『敵艦の発砲炎を確認したのです。ジョンソン上級曹長、回避を。』

 

『電少佐、了解です。こちらでも確認できましたセンサーに(とら)えているので迎撃します。』

 

 ジョンソン上級曹長の言葉と共に“ヴォォォォォォッ!!”と断続的に頭部のバルカン・ポッド・システムの発射音が聞こえてくる。高度な火器管制システムにより敵弾は空中で迎撃されていく。

 

「凄い・・・。」

 

 森原中佐がカメラの映像を見て呟く。確かに1週間もしないでこの練度は凄まじい。スターク・ジェガンのアーマーにもまだ十分慣れていないだろうに。そんなことを考えていると、さらに動きがあった。ジグザグ機動をやめ直線機動に移った。

 

『懐に入り、ビーム・サーベルで仕留めます。電少佐達はロ級をお願いします。』

 

『了解なのです。無理をしないでほしいのです。』

 

『無理をしなければUNSCの海兵隊員は務まりません。それに、相手は“プラズマ”ではなく“実弾”です。いけます。』

 

 電少佐のヘッドカメラでは、左手に持ったビーム・ライフルを撃ちながら、右手にビーム・サーベルを持ち、タ級2体に急接近するさまが映し出されている。タ級はビーム・ライフルに貫かれながらも何とか反撃をしているが、全て(かわ)されている。見ているこっちがかわいそうに思えるほどだ。

 

 ジョンソン上級曹長ことスターク・ジェガンは、タ級まで約30mの距離に近づいた瞬間、ジャンプした。位置的に太陽を背にしているのだろう。事実、タ級2体の弾幕が薄くなった。そして次の瞬間には、ブースターを吹かして急降下してきたスターク・ジェガンに、先頭のタ級が頭部から一気に唐竹割りを喰らって爆沈した。スターク・ジェガンはすぐに距離を取り無傷だ。

 

『敵の動きが止まった。今なのです。みんな一斉砲撃開始。魚雷は無しなのです。』

 

 電少佐達も砲撃戦を開始した。4人分の砲撃をくらってロ級2体が炎を上げ沈んでいく。残り1体のロ級はスターク・ジェガンに対応するか電少佐達に対応するか迷っているようだった。しかし、その迷いが命取りになるのが戦場だ。すぐに測距を完了させた電少佐達の砲撃がロ級に途切れることなく降り注ぎ、水柱が上がる。水柱が収まった時にはロ級の姿は海面には無かった。

 

 最後のロ級撃沈の少し前に残り1体のタ級とスターク・ジェガンとの勝負はついた。スターク・ジェガンは蹴りを喰らわせ、タ級が態勢を崩した瞬間を狙い、心臓部付近にビーム・サーベルで刺突した。タ級は目を見開き、口から血を吐き出して、ゆっくりと倒れて沈んでいった。

 

「なかなか良い初陣だったな、森原中佐。」

 

「はい、閣下。しかし、霞大佐の艦隊が後詰で控えていてくれたからこそ出来た戦法です。」

 

「謙遜するな。その状況をしっかりと活かしたのだから、君たちの手柄だよ、中佐。電少佐達が戻ってきたら褒めてあげるといい。ああ、ジョンソン上級曹長にはこれを渡したまえ。これのほうが彼は喜ぶだろう。」

 

「これは?・・・葉巻ですか?」

 

「そうだ、彼の好みに合うとよいのだが。私は煙草(たばこ)や葉巻、パイプをしないので善し悪しがわからんのだよ。知人に聞いて取り寄せた。まあ、まずは今回の報奨として5本だな。」

 

「お気遣いいただきありがとうございます。」

 

「気にしないでいい。さて、『ガルム隊、霞大佐、作戦終了だ。帰還するように。』」

 

『ガルム隊、了解。』

 

『こちら霞。なんだか不完全燃焼だけど了解したわ。』

 

「『日本近海が平穏なことはよいことさ。』」

 

『そうね。帰ったら甘い物が食べたいわ。通信終わり。』

 

 ガルム隊がそれぞれ艦娘とジョンソン上級曹長をピックアップしていくのを、森原中佐と共に眺める。全員の搭乗が完了しガルム隊が『RTB』の通信をよこしてくる。森原艦隊の初陣が上手くいって良かった。




見てくださりありがとうございました。

次回は近いうちに投稿したいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第57話 戦力増強?

 鹿屋航空基地からは新たな敵艦隊の発見の報は無く、作戦指揮室で森原艦隊と霞艦隊が柱島へ戻ってくるのを、映像と輝点で確認する。帰還するまでの時間森原中佐と共に今回の海戦を振り返る。

 

「今のところ森原中佐の艦隊に必要なモノは、中・遠距離での打撃能力だな。最大火力がジョンソン上級曹長と龍驤少佐のみでは心許無(こころもとな)いだろう。ああ、決して電少佐達を出撃させるのが悪いと言っているわけではない。駆逐艦は対潜・対空戦闘もこなせるからな。それに、弾数制限は厳しいが魚雷も持っている。充分に戦艦を沈めることができる。ようは今後の中佐の艦隊戦力の増強を早めた方が良いということだな。」

 

「仰りたいことは理解できます。しかし、狙った艦娘を召喚建造などできません。」

 

「確かにそうだ。俺はミクの力を借りることによって戦力を整えている。中佐にも同じことができるとは思っていない。まあ、気長に召喚建造をするしかないさ。」

 

「そうですね。ジョンソン上級曹長のようなイレギュラーは今回のみにしてほしいです。とりあえず戦艦が欲しいですね。閣下の指揮下には金剛少佐と扶桑少佐がいますが用兵はどうでしょうか?」

 

「ふむ、金剛少佐は高速戦艦で主砲が4基、扶桑少佐は速力は劣るが主砲が6基で、それぞれの特色があり用兵もそれに合わせたものを考えていたが、演習でも見てもらった通り、ミク達が機関や装甲をいじったおかげで、2人とも高速重戦艦とも言える存在になってしまったから、俺の用兵は参考にならんぞ。」

 

「“しらね”と“くらま”についてはどのようにお考えですか?私が使用しても良いものでしょうか?」

 

「そこは問題ないが両艦とも武装面・防御面を強化し過ぎたせいで艦娘の出番を奪うぞ。勿論、ある程度のまとまった敵を相手にするなら別だが。」

 

「ならば、他の鎮守府同様に艦娘を運用するのが最善でしょうか?」

 

「さてな。最善かどうかは俺は答えられん。なにせ戦争だからな。何が起こるかわからん。ただ、参考にするのは大いに良いと思う。」

 

 その後は、龍驤少佐の航空攻撃の正確さや駆逐隊の活躍、そしてジョンソン上級曹長の艦娘とは異なる三次元の戦闘に接近戦を録画された各人の映像を見ながら振り返った。

 

 ある程度の時間が経ち、森原艦隊と霞艦隊を出迎えるために工廠まで森原中佐と共に向かう。なぜ、ヘリパッドのある格納庫ではなく工廠へ向かっているのかというと、ミク達妖精さんの働きにより工廠近くにヘリパッドが新たに設置されたからだ。この短時間でよくやるよ。報告を聞いた時は、思わず明石に内線で確認してしまった。

 

 工廠ヘリパッドに着いてからしばらくすると、南の空に2機のチヌーク改の姿が見えてきた。グングンと近づいて来て、1回工廠をフライパスしてからゆっくりとヘリパッドへ進入する。タッチダウンすると同時に後部ハッチが開き、艦娘のみんなとジョンソン上級曹長が降りてきた。う~む、美少女達の中にスターク・ジェガンがいると異質だなあ。まあ、ミョルニルアーマーを装着する俺が言うのもなんだけどね。

 

 電少佐達は森原中佐の前に整列して帰還報告を始める。先に艤装を外させて入渠した方が良いと思うがね。こちらは、艦隊指揮官の霞と旗艦を(つと)めた金剛のみが残り、残りのみんなは入渠に行った。霞と金剛が敬礼しながら報告を行う。

 

「報告します。閣下から指揮権をお預かりした旗艦金剛以下6名の作戦指揮を終えました。今回の任務の主目的である森原中佐指揮下の艦隊の援護ですが、飛龍と蒼龍に直掩機を出撃させるのみで(おも)だった戦闘行動はありませんでした。しかし、出撃をしたため疲労回復も兼ねて念のために入渠するように指示を出しました。以上です。」

 

「艦隊旗艦、金剛が報告しマス。我が艦隊の損耗は無しデス。援護目標の森原中佐指揮下の艦隊にも目立った損傷はありませんデシタ。以上デス。」

 

「よろしい。両名ともよくその(にん)を果たしてくれた。大佐たちも入渠するように。報告書は明日までに提出すること。以上だ。」

 

 そう言って、答礼をする。これで、一応のお堅い上官と部下のやり取りは終わりだ。俺は姿勢と口調を崩し、

 

「まあ、何とか無事に帰ってきてくれてうれしいよ。霞も金剛も手間をかけたな。」

 

「手間というほどでは無かったわ。ただ、あんたの代わりに艦隊指揮を執るというのはなかなか難しいものね。常に広い視野を持っていないといけないし、情報も聞き漏らさないようにしなければならない。正直なところ旗艦を(つと)めたほうが楽だと思ったわ。」

 

「ワタシはいつも通りだったから、ノープロブレム、デシタ。」

 

「ん、そうか。だが、霞は来月から将官になるのだから全体指揮をできるようにならなければな。金剛にはこれからも旗艦としての活躍を期待させてもらう。すまんな、引き留めて。入渠にいきなさい。」

 

 2人とも返事をして、工廠で艤装を外して入渠に向かう。森原中佐達のほうを見てみると、そちらも話しが終わったみたいで、電少佐達が工廠内で艤装を外している。ジョンソン上級曹長のスターク・ジェガンは俺のミョルニルアーマーの横に固定され、装甲のロックが解除されジョンソン上級曹長が出てくる。UNSC海兵隊の野戦帽を取り出して被り、葉巻を(くわ)える。森原中佐が渡したやつだ。

 

「中佐。ここは火気厳禁でしたか?」

 

「いいえ、この区画は大丈夫よ。でも早速吸うのね。」

 

「まあ、自分も演習以外の初めての海上戦闘で新兵のように緊張していたようです。葉巻は自分にとって精神安定剤のようなものですから。」

 

「あら、歴戦の上級曹長でも初めては緊張するのね。」

 

「からかわんでください。中佐。まったく、閣下も笑っていないで何とか言ってくださいよ。」

 

 おっと、俺に話しを振るか。

 

「中佐、からかうのもそこまでだ。上級曹長、怪我はなかったか?」

 

「はい、閣下。あのスターク・ジェガンはとにかく頑丈でして、敵の対空砲や副砲の直撃などものともしませんでした。衝撃もそれほど大きくありませんでした。演習の時の模擬爆弾や主砲の模擬弾をくらった時のほうがよっぽど衝撃がありましたよ。」

 

「ふむ、確かに。結構な煤がついているが弾痕は無いようだな。よろしい。まあ、ゆっくり一服しておくといい。森原中佐はどうする?建造でもするかね?」

 

「そうですね。今回の作戦成功報酬資材の結果次第でしょうか。」

 

「全ての資材を1,000ずつ渡そう。」

 

「そんなに!?よろしいのですか?」

 

「まあ、初陣のご祝儀みたいなものだ。それにウチは資材に関してはプラントのおかげで自給自足ができるからな。気にしないでいい。」

 

「ありがとうございます。早速、建造します。」

 

 そう言って、森原中佐は敬礼をして明石のもとへ向かう。ジョンソン上級曹長も敬礼して工廠から出て行く。さて、俺も執務室に戻ろうかね。

 

 執務室では既に入渠をすませた霞が業務を行なっていた。

 

「早かったな。ゆっくりでよかったんだぞ。」

 

「中央にあげる報告、2個艦隊分でしょ?早く済ませとこうと思ったのよ。」

 

「森原中佐からの提出はまだだが?」

 

「だから先に私の指揮した分を終わらせて、すぐに中佐の報告書をチェックできるようにしておくのよ。」

 

「そうか、そんじゃ、俺も残りの仕事をしますかね。」

 

 そう言って、霞と2人で黙々と業務をこなしていると、ノックの音が響く。時刻は既に16時を過ぎている。「どうぞ。」と声をかけると、「森原中佐、入ります。」と森原中佐が入室してきた。

 

「今回の戦闘詳報の作成が終わりましたので、お持ちしました。」

 

「メールでもよかったんだぞ。まあ、ご苦労だった。書類は預かってチェックをしたのち上に報告する。不備があった際は、内線でいいか?」

 

「はい、お願いします。小官はこれから工廠に向かいますので、すぐに出ることはできないかもしれませんが。」

 

「携帯に転送されるように設定してあるなら問題ない。工廠というと召喚建造が完了したのか?」

 

「はい、先程、明石少佐より連絡がありまして。」

 

「ふむ、ならば、私も見ておきたいな。霞大佐、戦闘詳報のチェックを頼めるか。」

 

「ええ、お安い御用よ。新しい仲間によろしくと伝えておいて。」

 

「了解した。では、中佐行こうか。」

 

 森原中佐と共に工廠へ向かう。しかし、建造開始してから終了までの時間が短すぎる。戦艦ではなく重巡だったのだろうか?まあ、工廠につけばわかることだ。

 

 工廠には明石と夕張の他にジョンソン上級曹長がいた。なんでも、自分の装備であるスターク・ジェガンの(みが)きなどの簡単な整備を行なっていたらしい。確かに帰還時よりも綺麗になっている。まあ本題はそこではなく新しい艦娘なのだが、明石と夕張の目が泳いでいる。問い詰めると、またミクがやらかしたらしい。

 

 ということは、建造時間が短いが出てくる艦娘は重巡以上の可能性があるということか。森原中佐に向かって頷くと彼女は頷き返し、建造ポッドの前に立つ。明石の操作でポッドが開く。

 

「私が、戦艦長門だ。よろしく頼むぞ。敵戦艦との殴り合いなら任せておけ。」

 

 その挨拶と共に長門型戦艦1番艦長門が森原中佐の指揮下に入った。これで戦力増強になったな。ん?そういえばなぜ、夕張は装備室の扉の前から微動だにしないんだ。明石も最初は夕張と並んで立っていた。怪しいな。

 

「夕張少佐、すまんが装備を確認しておきたい。装備室を見せてもらえないだろうか?」

 

「だだだだだダメです!!あっ・・・、その・・・、さっき荷崩れを起こしまして、中は大変なんです!!だから閣下でもダメです!!」

 

「ならば、片付けを手伝おう。こちとら人の何倍もの力があるからな。」

 

 そう言って、(かたく)なに退()かない夕張を腕力にモノを言わせ抱きかかえてどかし、装備室の扉を開ける。

 

「なんだ・・・、これは・・・。」

 

 そこにはプロト・スターク・ジェガン、ジェスタ、ジェダ、グスタフ・カールというRGM系列が存在していた。俺は逃げ出そうとしていた明石と夕張を捕まえて問いただす。

 

「やったのは、またミクだな?」

 

 2人とも高速で頷く。

 

「ミク、出てこい。そこにいるのはわかっているんだ。」

 

 そう言うとミクがミョルニルアーマーから出てきた。俺はため息をつきながら明石と夕張を解放し、ミクに説明を求めた。

 

「エイヴリー・J・ジョンソン上級曹長のスターク・ジェガンは確かに高性能ですが、海斗さんのミョルニルアーマーのようにシールドがありませんー。ですので、敵の攻撃を受け続けると装甲の劣化が起きますー。最悪、破壊されちゃいますねー。もちろん、その前に修復をしますが、戦況によっては追い付かなくなる可能性がありますー。そのために予備として作成しましたー。」

 

「理由はわかった。理解もできた。だが、今後は勝手に作成しないこと。それを約束してくれ。」

 

「海斗さんがそれを望むなら、いいですよー。」

 

 そんな疲れたやり取りを終え、工廠から執務室に戻る。森原中佐は長門に泊地の簡単な案内をしにいった。執務室に入ると、霞から、

 

「なんかあったの?凄い顔しているわよ。」

 

 そう言われたので、工廠であったことを話す。霞は驚きながらも冷静に、

 

「戦力増強になったのなら良かったじゃない。前向きに考えましょう。」

 

 まあ、確かにそうなんだが。まあ、考えるのも疲れたし、さっさと戦闘詳報をFAXで幕僚監部に送って、コピーを取って原本は使送便封筒に入れて送る。戦闘映像はメールとDVDに出力して送る。これで、今日の仕事はお終い。終了!!

 

「霞、飯食いに行くぞ。それと、長門の着任祝いをしてやらんといかん。」

 

「間宮さんと伊良湖さんなら了承してくれたわよ。」

 

「仕事が早い秘書艦で助かるよ。」

 

「お褒めの言葉、ありがとう。」

 

 その後は、長門1人だけの着任ということで小規模な着任祝いをして、就寝した。そして、翌日の朝、私用の携帯にかかってきた統合幕僚長の真護(まもる)叔父さんからの電話で目が覚めた。

 

「おはようございます。叔父さん。朝早くからどうしました。」

 

「おはよう。海斗君。ま、私は君の送った戦闘詳報と戦闘映像のおかげで寝てないんだが。ああ、で本題だけども、実は陸軍からMS艤装を融通してくれないかと言われてね。どうにかならないだろうか?」

 

「へっ!?」




見てくださりありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第58話 空挺

かなり期間が開いてしまって申し訳ありませんでした。


『降下まであと60。』

 

『各員、装備の最終確認。』

 

『ロードマスターより機長及び降下要員へ、カーゴベイ・ハッチを開きます。』

 

『小隊長。各員、最終確認終了です。』

 

『よし、降下準備完了。目標の変更も無し。訓練通りにやるぞ。』

 

『『『了解。』』』

 

『降下まであと10。・・・5、4、3、2、1。降下開始!!』

 

『降下開始だ!!降下、降下。』

 

 1万mを飛行中のC-1のカーゴベイから暗闇の夜空に飛び出す映像が“くらま”のC.I.Cに設置されたモニターに表示されている。俺はそれを見ながら牧原大佐に聞く。

 

「上手くいくだろうか?」

 

「どうでしょう?閣下とジョンソン上級曹長の訓練を1週間とはいえ受けたのですから大丈夫でしょう。」

 

「なら、いいがね・・・。」

 

 腕を組みながらモニターを睨むように見る。ディスプレイには複数の映像が同時に映っており、降下中のRGM-86Vジム・ナイトシーカーの様子がよくわかる。

 

 今回の作戦は陸軍第1空挺団に新設された特務機動装甲小隊のうち小隊長の大尉含め10名が参加した夜戦になっている。海軍のP-3Cが夜間哨戒で発見した日本近海の深海棲艦艦隊に対する夜間迎撃を艦娘艦隊によるヘリボーンではなく、ヘリよりも航続距離のあるC-1輸送機によって輸送されたMS艤装を着込んだ空挺団により高高度降下襲撃を仕掛ける。

その成果如何(せいかいかん)で今後の部隊運用を勘案するというのを統合幕僚監部と陸軍のお偉いさんから聞かされている。

 

 ナイトシーカーの中身は形式番号でもわかる通りジムⅢそれも高性能のヌーベル・ジムⅢとなっている。スターク・ジェガンには性能面で劣るが生産コストを考えるとここが限界だった。なにしろ1機作るごとに大型召喚建造に掛かる最大資源の3~4倍を持っていく。それがお偉いさんたちの頭を悩ませている。ちなみにスターク・ジェガンはスペックダウンをして6倍でジョンソン上級曹長の愛機は8倍だそうだ。

 

『イェーガー1。目標を補足。攻撃を開始する。各員、攻撃自由。制動は高度50で最大出力だ。』

 

『『『了解。』』』

 

 敵艦隊からの対空射撃の中を降下し続ける映像が映し出されているイェーガー1の画面にZやリゼルが使用している長銃身のビームライフルが映り光線が幾条も海面に向かっていく。すぐに爆発が海面上で起こる。巡洋艦級と駆逐級に命中したらしく対空射撃の濃度が薄くなった。優位に進められている戦闘を眺めながら、

 

「“くらま”と金剛少佐達を動かす。敵艦隊群の後方距離6万の位置だ。」と命令を下す。

 

「了解。しかし、近すぎませんか?夜が明けると空襲の恐れがありますが。」

 

「敵の艦載機が発艦できる時間になるまでに決着がついていなければ、控えの我々が手を出すことを許可されているのを忘れたのかい?」

 

「いえ、忘れてはいませんが・・・。」

 

「なあに。保険だよ保険。本艦と金剛少佐達が戦闘に参加することは無いだろうさ。」

 

「はい、閣下。『航海長、北東方面に進出。船務長、敵艦隊群との距離が6万5千になったら艦娘艦隊を降ろす。準備を頼む。』」

 

『『了解。』』

 

 また、意識をディスプレイに映し出される映像達へと向ける。全員無事に着水できたようで、海面を滑るように移動している。今回確認された深海棲艦艦隊は5つ。速力から推測して戦艦中心の打撃艦隊という予想だったが、少し外れたな。2つは機動艦隊だ。夜間の戦闘では足枷にしかならないのに、なぜこのタイミングで岩手近海に現れたのか。まさか、無差別爆撃でもするつもりだったのか?

 

 その答えはすぐにわかった。

 

『小隊長、敵空母より敵機の発艦を確認!!あの金色を纏った目が青く光っている奴です!!データにはありません。』

 

『新種か!!総員、敵機の撃墜を最優先だ!!データで見た艦載機と形が違う。油断するな!!』

 

 確かに映像でも確認ですることができる。1体だけ特別なヲ級がいる。

 

「すぐにデータを取れ。新種だ。」

 

「厄介ですな。夜間の空襲というのは。」

 

「全くだよ、大佐。少し前の自分を殴ってやりたいね“油断しやがって”とね。」

 

「しかし、つくづく我々の常識外のことをしてきますね。」

 

「ああ、あの“尻尾付き”のレ級もだな。あれは、反則技だよ。」

 

「しかし、やってやれないことも無いのではないでしょうか?」

 

「うん?どういうことだい大佐。」

 

「深海棲艦に出来ることなら時間はかかるでしょうが妖精さん達がどうにかしてくれそうな気がするのです。」

 

「あー、確かに。俺や“くらま”や“しらね”という前例もあるからなぁ。」

 

「そういうことです。しかし、空挺は優秀ですね。もう敵機を撃墜し終わったみたいです。」

 

 牧原大佐の言葉通り、最後の1機が頭部バルカンの連射を浴び爆散した。そこからは、特にイレギュラーも無く掃討戦の様相を(てい)していた。10体のナイトシーカーは2体1組のエレメントを組み、効率よく深海棲艦を沈めていく。あのビームライフルはロング・ビーム・サーベルとしても使えるからか、積極的に接近戦を行なっている。

 

 というか、ナイトシーカーの威圧感すごいな。中身はヌーベル・ジムⅢなのにあの頭部装甲のおかげで凶悪に見える。爆沈した深海棲艦の返り血も浴びているからかもしれないが。ビームが(きら)めくたびに深海棲艦が沈んでいく。逆に深海棲艦の攻撃はナイトシーカーの機動力によってほとんどが回避されている。追加されたブースターは伊達では無いようだ。

 

 小一時間の戦闘により深海棲艦艦隊群は文字通り全滅した。新型ヲ級というイレギュラーもあったがよく戦い抜いたと思う。特務機動装甲小隊はこのまま海上をC-1との会合点まで移動し、持ち前の推力を活かして海面からジャンプしてカーゴベイからC-1へと再搭乗する手筈になっている。推進剤の残量も十分あるようなので“くらま”で回収しなくても大丈夫なようだ。今のところは。

 

「大佐。C-1に全員が再搭乗するまで現海域に(とど)まる。」

 

「了解。・・・失敗しないとは思いますが?」

 

「ああ、訓練では上手くいっていたみたいだが、今回は戦闘があったからな。念のためだ。待機所に行ってくる。」

 

「了解。」

 

 格納庫の真下に設置されている艦娘待機所には金剛をはじめとした天龍、青葉、島風、満潮、曙の6人が(くつろ)いでいた。

 

「いよお、君たちの出番は無さそうだよ。」

 

「Oh、テートク。確かにモニターで見ていましたが、陸軍の皆さん圧倒していましたネー。でも、ヲ級が夜間空襲を仕掛けてくるとは思いませんデシタ。」

 

「ああ、それは俺も驚いた。砲戦を仕掛けてくるヲ級は確認されていたが夜間空襲を仕掛けてくるヤツは今回が初めてだ。まあ、もしかすると他の国では既に交戦済みの可能性もあるがね。」

 

「情報を秘匿しているってことかしら?」満潮が尋ねてくる。

 

「さあ、どうだか。日本も含めて国のお偉いさん方の考えることなんてわからんよ。」

 

「まあ、そうね。変なこと聞いて悪かったわ。」

 

「しかし、オレたちの出番は今回は無しかー。」

 

「いいじゃないですかー。戦闘せずに出撃手当を貰えるんですから。青葉は欲しいカメラ貯金をしていますから!!」

 

 天龍が頭の後ろで手を組みながら愚痴る。青葉が妖精さん製コンデジ以外にカメラを求めているのは知ってはいたけど貯金をしていたのは知らなかったなあ。

 

「まあ、敵の新種も確認できたし結果的には良かったのかもね。提督はどう思っているのよ。」曙が伸びをしながら聞いてくる。

 

「まあ、俺も結果的には良かったとは思っているさ。ただ、ここにきての新種だからなあ・・・。また、大規模攻勢に出るんじゃないかと心配ではあるな。ただ、索敵網の限界があるから難しい所だよなあ。」

 

「ふーん、そこまで考えているのね。油断しているよりかははるかにマシね。」

 

「油断できるもんかね。こちとら1回死んでいるんだから。」

 

「そういえばそうだったわね。提督も一応、艦娘(こちら)(がわ)に近い存在だったわね。」

 

「ねえ、ねえ、提督ー。帰還するだけなら少し海上を走りたいんですけど。」

 

 島風がゆるーく伸びた状態で聞いてくる。

 

「んー、そうだな。いいぞ。ちょっと待て。・・・『牧原大佐。夜間航行訓練を希望する艦娘を降ろす。』」

 

『了解。両舷微速。格納庫及び後部甲板は艦娘の発艦準備。』

 

「何人降りる?」

 

 全員が手を挙げた。

 

「『牧原大佐。希望者は全員だ。通常通りの発艦手順でお願いする。』」

 

『了解。』

 

「そんじゃまあ行ってこい。あまり“くらま”から離れすぎるなよ。」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 元気なことだ。俺はそのまま待機所を出て後部上甲板に出る。遠くの海上では時折、光が尾を引いて昇っていくのが見える。方角的に空挺がC-1に回収されているところなのだろう。

 

 格納庫のシャッターが開く音と共に金剛たちが出てきた。

 

「金剛少佐、敵艦隊は確認されていないがくれぐれも気を付けてくれ。」

 

「了解デース。それでは行ってきますネー。」

 

 手を振りながらスロープで海面に降りていく。俺は敬礼でそれを見送りC.I.Cに戻る。

 

「C-1から通信がありました。“全隊員の収容を完了。帰投する。”とのことですよ。」

 

「ありがとう、大佐。」

 

「金剛少佐たちは前と比べますとだいぶ柔らかくなってきていますね。」

 

「ああ、だがそれも同じ柱島泊地の仲間だからだろう。よその鎮守府に行けばどうなるだろうな。」

 

 そう言いながら金剛たちのヘッドカメラの映像をモニターで眺める。島風は強化された俊足を()かして“くらま”の前に出て、踊るような機動をしながら索敵・警戒に就いている。青葉と満潮、天龍と曙がそれぞれ“くらま”右舷側と左舷側の索敵・警戒に、金剛が後方の索敵・警戒に就いている。

 

「そういえば、金剛少佐達を見て思い出したのですが“近接戦闘パッケージ”でしたか、あれは量産なさるのですか?」

 

「あれはコストが馬鹿にならないからウチだけの試験運用で終わるだろうな。ミク達妖精さんには悪いが。」

 

「まあ、確かに柱島泊地の艦娘さん達とよその艦娘さんでは、能力に大分差があるみたいですからね。島風少佐のように素早く敵の懐に飛び込み喉を()き切るという芸当はなかなか難しいでしょう。」

 

「全く、喜んでいいのかどうなのかだな。だが、ミク達には感謝しているよ。」

 

「それは小官も同じ思いです。“くらま”を改造していただけなければ、深海棲艦と互角以上に戦うことなどできなかったでしょうから。」

 

 そんで後日、幕僚監部に呼び出され特務機動装甲小隊に関する意見を求められたけれど、C-1の航続距離とナイトシーカーの推進剤の関係でどうしても作戦行動半径が狭いために主戦場が陸から近い所になってしまうのが難点ということのみを伝えた。練度やナイトシーカーの性能は問題なかったからな。はあ、これで仕事が1つ片付いたー。




見てくださりありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第59話 意地

 11月に入ったばかりのこの日、幕僚監部に呼び出された。近海警備はナイトシーカーの増産によってかなり安定してきているはず。他に何か問題があったか?案内の士官を断り、部屋へと向かう。

 

「湊海軍大将入室します。」

 返事を待たずに入室する。どうせ俺より階級が上の者なんていない。役職上、上なだけだ。

 

「すまんな、急に呼び出して。」

 

 幕僚長が開口一番に謝罪の言葉を出す。

 

「いえ、ですが小官を呼び出すほどです。余程外部に漏れないようにする必要がある案件なのでしょう?」

 

「うむ、実はな中東との輸送航路が深海棲艦の襲撃を受ける頻度が増えてきている。」

 

「それは、また一大事ですな。」

 

 幕僚長が椅子を指さしたので着席する。

 

「それでだ、貴官の指揮下にある艦隊を出して欲しい。“外洋にてタンカー、コンテナ船等の商船を護衛し、日本の補給線を維持せよ。道中、遭遇する深海棲艦は極力排除すること。”の命令は忘れてはいないだろう?」

 

「忘れてはいません。しかし急すぎます。既存の艦娘搭載の護衛艦隊では無理ですか。」

 

「無理ではないが、無茶ではある。」

 

 さて、どう言うべきかな。森原中佐ではなく俺の指揮下ということだから、戦艦は金剛、扶桑。空母は鳳翔、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴。重・軽巡洋艦は青葉、鈴谷、熊野、愛宕、摩耶、天龍、龍田、夕張、大淀。駆逐艦は霞、吹雪、白雪、深雪、叢雲、曙、満潮。補助艦艇は明石、間宮、伊良湖。間宮と伊良湖は基本的に動かすことはしたくないな。それに駆逐艦の人数が少なすぎる。

 

「幕僚長閣下。小官の指揮下にいる艦娘では駆逐艦級の人数が少ないため任務の遂行は難しいかと。」

 

「無理ではないのだな。」

 

「はい、無理ではありません。“くらま”か“しらね”を共に送り出します。しかしながらそうなると、通常の民間航路警備などの任務に支障が出ます。」

 

「ふむ。」

 

 幕僚長が思考の姿勢をとると幕僚副長が首を突っ込んできた。

 

「召喚建造はしていないのかね?」

 

「ええ、できませんでした。RGM-86V“ナイトシーカー”の増産に“妖精さん”達は付きっきりでしたし、今は陸軍より新たに要望のあったMS艤装を開発中です。それらの資源は補填してくださっていますが、ハッキリと言って足りません。常に不足気味で泊地のプラントを最大稼働させています。」

 

 そう言うと陸軍大将の幕僚副長はバツが悪い顔をして引き下がった。

 

「他の鎮守府と協力してはどうだろうか?新たな泊地や警備府はまだ完成していないが既存の鎮守府には十分な人数の提督と艦娘がいる。」

 

 空軍中将の総務部長が話しを引き継ぐ。

 

「それも難しいかと。柱島泊地の艦娘の艤装は大幅な改良を受けています。そのため共同戦線をはるよりもある程度の艦隊行動の自由を認めてもらえれば別ですが。」

 

「護衛艦隊の指揮系統を分けるというのかね?」

 

「ま、簡単に言うとそうなりますな。ですが無理でしょう?」

 

 肩をすくめて答える。

 

「ならば、護衛艦隊の枠組みから外せばよいだけだな。」

 

 幕僚長の言葉に皆が注目する。

 

「船団の護衛艦隊の指揮下から外れ、先行して露払(つゆはら)いの役目ならこなせるだろう?」

 

「遊撃艦隊としてお使いになると?」

 

「その通り。どうかね?」

 

「命令ならば。」苦虫を噛み潰したような顔をしながら答える。

 

「よろしい。では、命令書は次期海上護衛任務の日程が決まり次第だ。退席してよろしい。」

 

 クソッタレ。こうなりゃあ陸も空も巻き込んでやる。

 

 柱島泊地に戻るとすぐに霞に状況を説明した。

 

「で、どうするつもりよ?」

 

「取り敢えずは、おおすみ型輸送艦1番艦“おおすみ”と高G耐性のあるパイロット8人、特級射撃徽章持ち1個分隊を要求する。」

 

「そして、またミクさん達の力を借りるということね。“おおすみ”の改造で航空機運用をできるようにして、射撃に特化したMS艤装を生産。というところかしら?」

 

「流石、よくわかってらっしゃる。というわけで、分捕るための準備をしよう。」

 

「はいはい。」

 

 こちとら最年少の海軍大将で救国の英雄、さらには旭日大綬章の内定者、統合幕僚長の甥っ子。うん、分捕る脅し文句には困らない肩書きばかりだな。

 

 そんなこんなで書類を書き上げて霞にチェックしてもらうという作業を続けていると内線が鳴った。工廠からだ。

 

「『はい、湊大将。』」

 

『あ、提督。明石です。先程、提督宛のお荷物が届きました。二輪車です。』

 

「『ああ、了解。終業後に取りに向かう。・・・いじるなよ?』」

 

『了解です。それにいじる暇なんてありませんよ。陸軍さんのMS艤装の最終確認で忙しいんですから。』

 

「『ああ、そうだったな。すまんすまん。しかし、最終確認ということはすでに出来上がっているのか?』」

 

『はい、えっとですね。ミクさんが渡してくださった資料によると、RGM-79SP“ジム・スナイパーⅡ”だそうです。』

 

「『それはそれは。丁度いい。さらに1個分隊分を用意してくれ。』」

 

『え~、まあ、1機できていますから2番機以降は工期の短縮は出来ますけど。』

 

「『なら、頼む。それと、ミクに伝言を。“メイヴ”の生産を6機許可する。以上だ。』」

 

『ちょっ!?それって、凄く厄介事の臭いがするんですが!?』

 

「『間宮と伊良湖の“特別カフェ”1週間分でどうだ?』」

 

『了解です。任せてください!!』

 

 受話器を置くと霞がジト目でこちらを見ていた。

 

「・・・揚げもみじ饅頭が食べたいわ。それとカキ料理とアナゴご飯。」

 

「わかった。今度の休みの時に厳島に行こう。」

 

「わかっているじゃない。さっ、書類の続きをしましょう。」

 

 赤電話が鳴ることも無く、定期哨戒艦隊の帰還報告を受けて終業時刻まで書類仕事を続けた。チャイムの音ともに背伸びをして、

 

「霞、今日はここまでだ。」

 

「了解。今日もお疲れ様。」

 

「おう、お疲れ。そんじゃ、VTRを受け取りに工廠に行くか。霞も後ろに乗るわけだから一応見ておくだろう?」

 

 執務室を出て工廠へ向かう。途中で鈴熊コンビに会ったので声をかけると見てみたいということだったので4人で工廠内に入る。

 

「VTRを取りに来たぞー。」

 

「あっ、はーい。」

 

 作業着の上半分を腰に巻いたタンクトップ姿の夕張がやって来た。

 

「提督のバイクはこっちです。」

 

「すまないな。忙しいのに。」

 

「いえいえ、すきでやっていることなので。っと、こちらになります。一応、エンジンをかけさせてもらいました。でもキャブレター仕様なんですね。チョークを引きましたが遊びも十分にありました。アイドリングも安定していました。吹け上りも良かったですよ。灯火類にタイヤの空気圧、ブレーキパッド残量、チェーンの張り全てOKでした。今からでも乗れますよ?」

 

「いや、今日はやめとくよ。」

 

「そうですか。しかし、ビキニカウルにサイドとアンダーカウル、マフラーの交換もされていてパニアケースをつけるマウントもあって結構手を入れられているんですね。」

「まあな。マフラーはモリワキの既製品。パニアケースマウントはモトコって会社にワンオフで作ってもらった。(※どちらも実在の会社名です。)」

 

「サーキットを走られるんですよね?完全にツーリング使用という感じがしますけど?」

 

「まあ、バイクのほうは走行会とジムカーナが多かったからな。車は割とガチだったけど。国内Bライセンス持っているからな。」

 

「ほうほう。で、お車は何をお乗りに?」

 

「サーキット用はGT-R R33だな。普段乗りはインプレッサWRX STIだ。」

 

「どっちもお金かかる車ですねー。」

 

「というか、夕張がそこまで詳しいとは思わなかったぞ。その証拠に霞たちを見ろ。置いてきぼりをくらったかのような表情になっているじゃないか。」

 

「ああ、いえね。酒保に入る雑誌って趣味系も多いじゃないですか。それで、バイクと車の雑誌を試しに買ったら・・・。」

 

「ハマったわけだな。」

 

「はいっ!!お給料が貯まれば免許を取ってバイクや車に乗りたいと思っています。それが今の1番の目標です。」

 

 目を輝かせてそう言う夕張の頭を撫でながら、

 

「それならそういう趣味はこの戦争に勝って長く楽しまないとな。俺も頑張るよ。」

 

「はい、私、やりますよー!!」

 

「ほんじゃ、まずは演習を増やして力をつけないとな。」

 

「ええー、ミクさん達の改良した艤装があるからいいじゃないですかー。」

 

「慢心はダメだ。」

 

 ここで再起動した霞と鈴熊コンビも会話の輪に加わる。

 

「上官としてではなく、同じ艦娘として言わせてもらうと演習はやっといて損はないと思うわよ。」

 

「そーそー、何というか艤装が段々と自分の身体(からだ)に馴染んでいくのがわかるんだよねー。」

 

「言いたいことは全て言われてしまいましたわね。まあ、あえて言わせていただくなら(わたくし)達の艤装の可動部の消耗状況が以前よりも改善されていると思うのだけどいかがかしら?」

 

「確かに。明石を手伝ってみんなの艤装の整備をしているけど1カ月前より作業量が大分減ったわね。・・・鈴谷の“艤装が馴染んだ”っていうのはそういうことなの?」

 

「うん、そーいうこと。」

 

「ま、だから演習には積極的に参加してほしいわね。明石さんや夕張さんにも。」

 

「わかったわ。」

 

 バイクを取りに来ただけなのに話し込んでしまった。もう夕飯の時間だ。

 

「俺はVTRを宿舎になおしてくるから、みんな食堂に行くといい。夕飯だ。」

 

「あら、もうそんな時間なのね。それじゃあ、鈴谷さん、熊野さん行きましょうか。夕張さんはどうするの?」

 

「んー、もう少し作業してから明石と一緒に行くから気にしないで。」

 

 そういうことで工廠にて霞たちと別れVTRを宿舎になおしに行った。KOMINE (※実在の会社名です。)のモーターサイクルドームを買っておいたので、それに収納する。これで雨露をしのげる。ミクはガレージを建ててくれるって言ってくれたけど丁重に断った。流石に軍所有の敷地内に個人の趣味の物はね。

 

 夕食後に鈴谷と霞のヘルメットとプロテクター入りジャケットをそれぞれの部屋に届けた。サイズは事前に申告してもらっているので大丈夫なはず。値段を聞かれたので正直に答えたら驚かれた。もっと安いモノだと思っていたらしい。いや、命を守るものだからお金はかけるよ?お金を払うって言ってきたけどプレゼントということにして押し付けて部屋を出た。艦娘のパジャマ姿は破壊力バツグンだなあ・・・。喪男には毒だから早く自室に戻って“エースコンバット”でもしようっと。

 

 翌日も“おおすみ”とパイロット、特級射撃徽章持ちを分捕るための書類を霞と共に作成していた。すると、ミクがやって来た。

 

「おはようございます~。」

 

「おはよう。ミク。何かあったか?」

 

「いえ、昨日のうちに伺うつもりだったんですが、鈴谷さんや霞さんと仲良くお話しされていたのでー。それでですね、制作するのは“ジム・スナイパーⅡ”1個分隊分と“FFR-41 メイヴ”でよろしかったんですよねー。」

 

「ああ、そうだよ。」

 

「でも、“メイヴ”は有人機ですよ。“FRX-99 レイフ”の方がよろしいのではないかと思いましてー。」

 

「俺も最初はそう思ったが、この戦争から人間を排除したくなかったんだよ。だからMS艤装も渋々だが建造している。」

 

「ヒトの意地・・・ですかー?」

 

「まあ、そんなもんかな。」

 

「わかりましたー。でも、“メイヴ”を運用できるようにするには滑走路が必要ですよー?」

 

「ああ、艦載機として使うつもりだ。おおすみ型輸送艦1番艦“おおすみ”を分捕るつもりだ。」

 

「それなら、改装しないといけませんねー。改装図案は明石さんと夕張さんと一緒に作成して今日中にお渡ししますねー。具体的な案があった方が上の方々を納得させやすいのではないでしょうかー。」

 

「確かにそうだな。頼む。」

 

 そう言いながら金平糖の小袋を渡す。ミクは嬉しそうに受け取ると、

 

「了解ですー。では、失礼しましたー。」

 

 と退室していった。ミクの退室と同時に霞が口を開いた。

 

「“この戦争から人間を排除したくなかった”なんて1回死んだのによく言えるわね。神様にでもなったつもり?」

 

「そんなわけあるかよ。ミクにも言ったが、意地だ。()られたから()り返す。それだけさ。」

 

「それが、全人類の意志ではないことは考えているんでしょうね。あなたの意地に他人を付き合わせて死なせたりするのは・・・。」

 

「そんなことはしない。これは俺の意地だ。戦いたくない人は戦わなくていいんだ。」

 

「それがわかっているなら私から言うことは無いわ。ごめんなさいね。気になったから。」

 

「いや、気にしていないから大丈夫だ。むしろ、そういうことはどんどん言ってほしい。」

 

「わかったわ。これからも秘書艦らしく諫言(かんげん)するわ。」

 

「お手柔らかに。」

 

 そう言って、笑い合った。




見てくださりありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第60話 鈴谷とお出かけ①

前回の投稿から時間がかなり空いてしまい申し訳ありません。同時に投稿している別作品にも書きましたが、仕事が原因で心身に不調をきたし療養中でしてなかなか投稿できませんでした。これからゆっくりですが投稿していきたいと思います。


 統合幕僚監部だけではなく海、陸、空の各幕僚監部にも霞と共に作成した要望書を送りつけた。使送便とFAX、メールの3つでだ。気づかなかったとは言わせてなるものか。

 

 んで、陸軍からは追加のMS艤装のジム・スナイパーⅡを配備してくれる礼としてその程度は簡単に融通できると返事が来た。空軍は新型機が欲しいとねだってきたので、ミクの力を借りてFFR-31“シルフィード”とFA-1“ファーン”の仕様書と必要資源を書いたモノを送ったら食いついた。これで、特級射撃徽章持ちと高G耐性のあるパイロットの確保は完了っと。

 

 我が海軍は結構渋っていたが真護叔父さんが統合幕僚監部にも働きかけてくれたみたいでなんとか“おおすみ”を確保できた。

 

 結果を霞と喜んでいるとミクがやって来て、

 

「ドックの増設と岸壁設備を整えておきましたー。それと空いている敷地内に短いですがアレスティングワイヤーとカタパルト付きの滑走路を作りましたー。これで通常の滑走路を造らずに“メイヴ”を陸上でも運用できますよー。それと、ジム・スナイパーⅡの艤装も1個分隊用意できましたよー。」

 

「早いな。」

 

「お急ぎのようでしたのでー。それと、“おおすみ”を改装するための耐熱甲板、電磁カタパルトと波動エンジン、対空パルス・レーザーも準備できていますのでー。」

 

「ありがとう。流石だな。」

 

 そう言って甘味の入ったいつもより少し大きめの巾着袋をミクに渡す。頭をぺこりと下げ執務室から退出していった。霞にミクとの話しの内容を伝えるとかなり驚いていた。

 

「もうそこまで準備していてくれるなんて流石ね。」

 

「全くだ。ああ、そうだ。明日は休日だから鈴谷とツーリングに行ってくる。約束した日から大分遅れてしまったがな。」

 

「あら、そうなのね。気を付けて。私との約束は忘れてないでしょうね?」

 

「もちろん。ちゃんと厳島に連れて行くさ。」

 

 翌日、朝一の定期船で岩国市街地へと向かう。泊地ができる前は高速船のみだったが泊地への大型資材運搬のために中古のカーフェリーを政府が引っ張ってきて補助金を出しながら運行している。

 

 そのカーフェリーに鈴谷とタンデムしている状態で乗り込む。船員の誘導に従ってVTRを止める。エンジンを切って先にバイクから降りる。タンデムシートは前席よりも座面が高い位置にあるので鈴谷の手を握りながらゆっくりと降ろす。

 

「泊地の門から港までの短い距離なのに凄くドキドキしちゃったよー。」

 

 鈴谷はそう言いながらヘルメットを外してその独特な髪を潮風になびかせる。

 

「ふむ。そんなに速度は出していなかったんだがな。海上を移動する時の方が速かったかもしれんぞ?」

 

「てーとくはさー、“さーきっと”だっけ?それで地上をそれなりの速度で走るのにも慣れているんだろうけど、こちとらバイクに乗ったのは初めてなんだからね。目標物が無い海上とそこらへんに物がある陸上とでは速度の感じ方も違うってもんよ。」

 

 船室に繋がる階段を上りながら鈴谷と会話を続ける。

 

「そういうもんかね。俺はあんまし感じなかったけどな。あ、そう言えば鈴谷、お前さんバイクに乗ったのは初めてと言いながら、バンクさせるときはこっちに合わせてくれていたじゃないか。運転しやすかったよ。バイク初心者は逆方向に体を動かす人が多いからバランスをとるのが大変なんだけどな。」

 

「えへへ~。実は夕張のバイク雑誌の中にタンデムの仕方を特集してあるのがあって、夕張から借りてイメトレしていたんだよね~。鈴谷褒められて伸びるタイプだから、もっと褒めて褒めて~。」

 

「あいよ。人目があるからこんぐらいな。」

 

 そう言って頭を撫でる。「ありがとね。」と言いながら笑顔を向けてくる。喪男には眩しすぎるな。船室に入り、席に着くと私用タブレットを取り出し、今日の行程を説明していく。

 

「岩国市街地に着いたら高速道路を使って角島へと向かう。その後は西に向かい長門市で昼食休憩をとって秋吉台へと向かう。そして岩国市街地で早めの夕食を摂り柱島へと帰島する。スムーズにいけば移動の時間は8時間かからないと思う。」

 

「それじゃ、いま0630着の便だからその角島と秋吉台では観光に時間がさけそうだね。昼食とか夕食は考えているの?」

 

「んー、一応はな。チェーン店ではなくその土地のお店にするつもりではあるよ。ご期待に沿えればいいけどな。」

 

「うん、うん!!期待しちゃうよ!!あ、そうだ。私、別に名産品とか特産品が食べたいとかは無いからね。美味しいモノなら何でもいいよ!!」

 

「そう言ってくれるとハードルが下がって助かるよ。」

 

 行程の説明を終え雑談へと移行する。鈴谷は目を輝かせながらタブレットに映る目的地や食事の写真を眺めている。それを微笑ましく思いながら明日以降の予定を頭に浮かべ手帳を開く。明日には“おおすみ”が到着しそのままミク達妖精さんの改装工事を受ける。3日後には陸軍と空軍から要請した人員が到着する。訓練は陸軍のMS艤装訓練の方についてはジョンソン上級曹長が行なうが“メイヴ”の方は搭乗員たちに体で覚えてもらうしかないか。

 

 そんな風に考えながら手帳を見ていたら、港への到着アナウンスが聞こえてきた。タブレットを操作しながら笑顔を浮かべている鈴谷に声をかけVTRのもとへと向かう。ジャケットを羽織りグローブを付け、ヘルメットを被る。インカムのスイッチを入れて鈴谷がタンデムシートに跨るのを手伝う。彼女がしっかりと着座したのを確認して俺もVTRに跨る。接岸し、ランプが降りていく。誘導員の指示に従ってフェリーから降りる。

 

「さてと、そんじゃあ行きますか。」

 

「行っちゃおー。」

 

 鈴谷の返答を合図に港から最初の目的地“角島”へと出発する。道中の高速道路ではインカム越しに雑談をしながら流れていく風景を楽しんだ。国道435を通りもう少しで角島という所でふと鈴谷が聞いてきた。

 

「そういえば、この2,3日は工廠の妖精さん達が動きまわったり、新しくドッグを造ったり、敷地内にカタパルト造ったり、霞大佐と何かしていたよね?何していたの?」

 

「ああ、うちの泊地でも中東方面への遠征艦隊を出して欲しいと上から言われてな。ま、その対応といったところだ。」

 

「へー、人選とか決まっているの?」

 

「そこまで詳しくは決めてないが、赤城と加賀、扶桑は決定だな。それと、天龍と龍田も。」

 

「重巡と駆逐艦は?整備は妖精さんがいるとしてさ。」

 

「そこが問題なんだよなぁ。残留戦力で航空戦力は鳳翔、飛龍と蒼龍、翔鶴と瑞鶴がいるから問題ないとして、直接打撃力の要である戦艦が金剛のみになるから5人の重巡のうち誰を編入するか悩みどころなんだよ。駆逐艦は人数が少ないし。」

 

「それじゃあさ、少し時間があるなら私と熊野の練度を上げて航空巡洋艦に改装して、扶桑さんも練度を上げて航空戦艦に改装してから遠征艦隊に編入したらどうかな?水上機をたくさん積めるから哨戒や対潜能力の底上げができると思うんだけど。」

 

「まあ、確かに。そうすれば駆逐艦の人数の少なさも補えるか・・・。というか鈴谷は自分が航空巡洋艦に改装できるのを知っていたのか?」

 

「ん~、今後も踏まえて霞大佐や明石さんから聞いていたの。情報は大事だからね~。でも、練度を上げていけば軽空母にもなれるなんてビックリしたよ~。」

 

「まあ艦種が全く変わるものな。驚くのも仕方ないさ。」

 

「それで、打撃力は金剛さんは勿論だけど青葉さんと愛宕さん、摩耶ちゃんを改装して対処するしかないんじゃないかな。」

 

「そうなるよなぁ・・・。おっ、角島大橋が見えてきたぞ。」

 

「おお、ホントだ。大きいねぇ。」

 

「このまま橋は渡らずに手前でちょっと県道を外れて脇道に入るからな。そこからなら橋を真正面からよく見えるんだよ。まぁ、別に橋のすぐ脇に展望台もあるんだがな。」

 

「いいじゃん、いいじゃん。その脇道に行ってみようよ。」

 

「了解。」

 

 脇道へと入り角島と角島大橋の両方がよく見えるところで停まって降りた。ミニ三脚を取り出しデジカメをセットして鈴谷と記念撮影をする。撮影した画像をデジカメのモニターで確認し、VTRに跨り角島大橋から角島へと向かう。

 

「青い空に青い海!!気持ちがいいね~。」

 

「ああ、そうだな。艤装をつけて海上を移動するのとは違う良さがあるだろう?」

 

「ホントに。ああ、艦娘に生まれ変われて良かった~!!」

 

 そんなやり取りをしながら角島を楽しみ昼食休憩のために長門市へと向かう。




見てくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第61話 鈴谷とお出かけ②

 昼食休憩のために寄った長門市では、地鶏と地魚を出しているお店を選択した。焼き鳥や仙崎イカなどを堪能できた。鈴谷は、

 

「美味しいね。もっと食べたいな~。おかわりしてもいい?」

 

 と、焼き鳥を両手に持ちながらおねだりしてきたので焼き鳥の盛りをもう1皿頼んだ。それもあっという間に平らげてしまったけど。

 

 支払いをする時にお店の人から、

 

「いやあ、おいしそうに食べてくれてありがとね。軍人さん。それと、素敵な彼女さんね。」

 

 と言われたので否定するのもなんだかなあと思い、

 

「ええ、自慢の彼女ですよ。しかし、何故、私が軍人と?」

 

「テレビでよく見る顔だったから覚えていたのよ。お名前は覚えていないのだけど英雄さんでしょ?」

 

「・・・まあ、はい。」

 

「守ってくれてありがとね。今度来たときはサービスするわよ。」

 

「ありがとうございます。それでは、ごちそうさまでした。」

 

 と言って店を出たら鈴谷が顔を真っ赤にして俺を睨んできた。原因に心当たりがあったので、すぐに謝る。

 

「彼女なんてことにしてしまってすまなかった。」

 

「・・・怒ってないよ。さあ、早く次の目的地に行こうよ。」

 

 ふむ、怒ってないなら何なのだろう。乙女心の機微はわからんなあ。まあ、怒ってないのならばこのまま秋吉台まで向かうとするか。

 

 秋吉台は美祢(みね)市にある国定公園で、日本最大級のカルスト台地だ。四国カルストと福岡県北九州市の平尾台と共に日本三大カルストの1つでもある。

 

 カルストロードと呼ばれる県道242号を走っているとふと鈴谷が呟いた。

 

「綺麗・・・。まるで深海棲艦との戦争なんて無いみたい。」

 

「おう。こういうのもいいだろう?」

 

「うぇっ!?聞こえていたの!?」

 

「インカムがばっちり拾ったよ。」

 

「・・・恥ずかしい。私のキャラじゃないよね?」

 

「ん?そんなことは無いと思うぞ。鈴谷だって生きているんだから綺麗なモノを綺麗と思って思わず口に出すのは自然な事だろう。」

 

「ふ~ん。そう言ってくれるんだ。ありがと。」

 

 その後はカルスト展望台と大鍾乳洞“秋芳洞”を見てまわった。鈴谷はずっとテンションが高く。その姿を撮りながら俺も楽しんだ。

 

 秋吉台から岩国市街地へ向かい走行していると、鈴谷がポツリと、

 

「明日からまた日常かぁ・・・。ねえ、日常が戦争っておかしくない?」

 

 そう聞いてくるので、

 

「んなこと言ってもな、俺もお前さんも軍人だ。敵が攻めてくるなら戦わんといかんだろ。」

 

「でもさ、深海棲艦なんて一昨年までは影も形もなかったんでしょ?私達、艦娘なんか深海棲艦が現れてから確認されたわけなんだし、まるで私達が深海棲艦を駆逐する兵器・・・。」

 

「それ以上言うと怒るぞ。自分たちを兵器と一緒にするな。あれは感情の無い戦うための道具だ。」

 

「でも私達には艦だった頃の記憶があるよ?だったら今使っている兵器にも似たようなことが起こってもおかしくは無いんじゃない?」

 

「ならそんとき考えればいい。いいか、お前たち艦娘は深海棲艦と同等以上に戦うことができるというだけで権利も保障されている。ある意味、新人類みたいなもんなんだよ。」

 

「そんな生物学者みたいなこと言っていいの?」

 

「ハっ!個人の感想だ。んなごちゃごちゃしたもんは考えんでいいさ。勝手に学者先生達が判断してくれるさ。」

 

 そう言うと鈴谷は自分のヘルメットを俺のヘルメット後部にゴンゴンとぶつけながら、

 

「なんか難しく考えていた私が馬鹿みたいじゃん。」

 

 と言うので、俺は笑いながら、

 

「そうさ、難しく考えることは無い。今、生きている。美味い飯を食って、仲間と共に戦い、国を護る。そして、今日みたいに少しの息抜きをして英気を養い戦場へとまた向かう。それでいいじゃないか、兵士なんていうもんはさ。」

 

 と答える。

 

「それならさ・・・恋・・・とかしてもいいのかな?」

 

「おう、いいぞ。ただし任務に支障が無い範囲でな。」

 

「わかってるってば。その・・・ありがと。」

 

「?どういたしまして。」

 

 その後は、雑談をしながら移動しているとあっという間に岩国市街地に着き、夕食を食べて柱島行きのフェリーへと乗る。その中でふと思い出したかのように鈴谷が小声で聞いてきた。

 

「そういえば、私の胸の感触どうだった?ずっと背中に当たっていたでしょう?」

 

 俺はため息をつきながら、

 

「鈴谷、お前は胸部プロテクターを付けていて俺も脊椎プロテクターを付けていたんだ。わかるはずないだろ。」

 

 そう答えると鈴谷は顔を真っ赤にして、

 

「ならこうしてやるー!!」

 

 と俺に覆いかぶさって来た。それも丁度、胸が俺の顔に当たるように。かなり驚いたが、鈴谷の心音が伝わってくると次第に冷静になれた。鈴谷の両肩に手を置いてゆっくりと引き離し、

 

「好きな奴ができたらしてやるといい。感触は・・・その・・・かなりよかった・・・。」

 

 そう言うと、

 

「この鈍感!!」

 

 怒って船室から出て行ってしまった。しかし、鈍感だと?もしかすると鈴谷って俺のことが好きなのか?う~む、判断に悩む。

 

 泊地までの帰り道のタンデムはお互いに無言だった。艦娘宿舎まで鈴谷を送り届けると、

 

「ありがとね。おやすみなさい。」

 

 とササっと宿舎の中に消えた。俺は、VTRを停めた後にまだ電気のついている執務室に向かった。

 

 ノックして入ると執務室では霞と満潮が談笑していた。

 

「あら、お帰りなさい。」

 

「お帰りなさい。司令官。鈴谷さんはどうしたのよ?」

 

「ただいま。俺の携帯に連絡が無かったから何も無かったようで安心したよ。それで、鈴谷の事なんだが・・・。」

 

 霞と満潮に食堂で彼女に間違われたことや帰りのフェリーでのことを話すとジト目で、

 

「はあ、このクズ!!鈴谷さんの気持ちにちゃんと答えなさいな。」

 

「霞の言う通りね。司令官、あんたはこのまま逃げちゃだめよ。」

 

「しかし、上司と部下だぞ?それに鈴谷も他の男性とあまり触れ合ってないからだろうし。」

 

 そう言うと、霞がお茶を一口飲み、

 

「ねえ、司令官。扶桑さんや金剛さんを始めとした軽巡以上の艦娘達はみんな泊地内の男性隊員から声をかけられた経験があるのよ。その相談に初期艦娘である私の所に相談にも来ていたの。」

 

「それは初耳だ。」

 

「みんなから口止めされていたからね。」

 

「それは俺が頼りないからか?」

 

「その逆よ。みんなあんたに好意を抱いているの。あ、ちなみに私と満潮姉さん含む駆逐艦もよ。」

 

「はあ!?」




見てくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第62話 長距離船団護衛任務部隊結成

 霞から衝撃の告白をされた翌日、よく眠れなかったが今日はFFR-41MR“メイヴ”の搭乗員とMS艤装のRGM-79SP“ジム・スナイパーⅡ”の装着員が配属される。彼らの母艦となる“おおすみ”も既にこちらへ向かって呉を出港したとの報告があった。

 

 0900になると同時に執務室の扉がノックされ入室を許可する。

 

「失礼いたします。本日付で本泊地に配属となりました隊員の方々をお連れしました。」

 

 扉を開け22名の新規隊員を引き連れ入室し敬礼した坂本大尉が元気よく報告してくれる。

 

「坂本大尉、ご苦労。通常任務に戻ってくれたまえ。他の者も楽にしたまえ。」

 

「了解しました。」

 

 そう言うと坂本大尉は部屋を出て行く。

 

「諸君。私が柱島泊地を預かる湊海軍大将だ。艦娘艦隊の提督も務めている。ああ、此処にはもう1人提督がいるので紹介を後でしよう。さて、諸君らは此処に配属された意味を理解していると考えてよろしいかな?八島空軍中佐。」

 

「はい、閣下。我々は閣下の指揮下で新型機を受領し作戦行動をとるように(めい)を受けました。」

 

「よろしい。陸軍はどうかな?中条陸軍大尉。」

 

「はい、閣下。我々も閣下の指揮下に入り、MS艤装を受領後に特務中隊として作戦行動をとるように(めい)を受けております。」

 

「よろしい。実によろしい。地獄へようこそ。共に深海棲艦どもを潰すぞ。」

 

「「了解しました。」」

 

「堅苦しいのは此処までだ。改ましてようこそ柱島泊地へ。お2人と部下の方々を歓迎します。あ、素の言葉遣いがこっちなので公の場と命令を下す時以外はこんな感じですのでよろしくお願いします。正式な着任式は“おおすみ”が到着してからです。ああ、どうぞそちらのソファにお座りください。霞大佐、お茶と菓子を頼むよ。」

 

 2人が応接ソファに座り、霞がお茶を持ってきてくれたのでそれぞれの装備品の書類を渡す。他の隊員達はパイプ椅子に腰掛けながらだ。

 

「こちらがFFR-41MR“メイヴ”のでそちらがRGM-79SP“ジム・スナイパーⅡ”に関する、まあ説明書みたいなものです。全員分用意してありますので。」

 

「ありがとうございます。“メイヴ”に関しては映像資料として“戦闘妖精 雪風”を視聴しましたがあれと遜色ないモノと考えてよろしいでしょうか?」

 

「ええ、そうです。ですから改装した“おおすみ”での運用も可能になります。大尉は何か質問がありますか?」

 

「はい。いいえ閣下。ありません。ガンダム好きが集まりましたので。」

 

「わかりました。それでは案内を呼ぶのでお茶を飲んでゆっくりしてください。」

 

 そう言うと、秘書机に戻っていた霞が電話で案内役の憲兵を呼び出した。彼女らが来るまでは新規隊員全員と歓談して過ごした。全員が渡された装備の仕様書を見てかなり驚き、喜色を浮かべていた。まあ“メイヴ”は現代技術の戦闘機ではほとんど(かな)わないだろうし、“ジム・スナイパーⅡ”も性能自体“スターク・ジェガン”には劣るものの超長距離狙撃能力はピカイチ出しな。驚くのも無理はないし、ガンダムファンならなおさらだろう。

 

 ほどなくして案内役の憲兵が2名やって来た。中佐達と大尉達はそれぞれの憲兵に案内されながら執務室を後にした。俺は大きく背伸びをして息を吐き自分の机に向かう。

 端末を開くとメールが来ていたので確認をする。霞の准将への昇進通知だった。階級章は使送便で送付済みとのことだ。霞にこの話をすると、

 

「あー、これで私も将官なのね。艦娘なのに将官。何だか不思議な感じだわ。」

 

「まあ、実際に艦娘初の将官だからなあ。なんやかんやとあるだろうが困った時は頼ってくれ。」

 

「ありがとう。ご厚意に甘えさせてもらうわ。」

 

「とりあえずは、業務中で酒はダメだが秘蔵の玉露と間宮羊羹で一杯やろう。俺がするから霞は座ったままでいいぞ。」

 

 霞と間宮羊羹を楽しんでいると卓上電話が鳴った。通常回線のほうだ。

 

「はい、湊海軍大将。」

 

『テートク、金剛デース。“おおすみ”が来ました。只今、扶桑と夕張が先導中デース。』

 

「了解した。岸壁に向かおう。」

 

『了解デース。』

 

 受話器を置くと霞と共に執務室を後にする。岸壁に着くと非番の隊員達が野次馬として集まっていた。また、森原中佐も暁達を連れて来ていた。

 “おおすみ”が着岸し乗員たちが降りてくる。最後に艦長の出原中佐が降りてきて八島中佐達と中条大尉達も含め、今日配属される全員が俺の前に整列する。

 

 俺が一歩前に出ると全員が敬礼をする。答礼をして「休め。」と号令をかける。

 

「私がこの柱島泊地を預かる湊海軍大将だ。私が諸君らに求めるのは軍人としての節度ある行動、態度、生活といった基本的な事と、深海棲艦を共に潰すことだ。よいか?」

 

「「「了解しました!!」」」

 

 指揮官3人が気を付けの姿勢で敬礼をすると他の者も同様に敬礼する。俺は答礼しながら、

 

「諸君らの着任を心より歓迎し、ここに柱島泊地長距離船団護衛任務部隊結成を宣言する。」

 

 と努めてにこやかに言った。霞たちに後から聞いたら獲物を狙う鬼のような笑顔だったと言われた。解せぬ。

 

 さて、場所を移して執務室。“おおすみ”艦長の出原中佐と改めて挨拶をする。ま、八島中佐や中条大尉にしたことと同じようなことだ。“おおすみ”の改装後の諸元表を見た出原中佐は、

 

「これだと軽空母では?」

 

 と言ってきたが、

 

「事実上“メイヴ”と艦娘、MS艤装の運用特化艦になりますね。下手な軽空母よりも打撃力はありまよ。」

 

 と言うと、乾いた笑みを浮かべてお茶をすすっている。そうなるよなぁ。波動エンジンを搭載して対空パルスレーザーにリニアカタパルトの設置、それに伴う最上甲板の延長と船体の延長。これだけでも驚くのにさらに細かい箇所を上げたらきりがないくらいだからなあ。

 

 中佐の肩に手を置いて、

 

「まあ、妖精さん達を信じてください。うちの泊地では戦死者も事故死者もゼロですから。」

 

 そう言うと中佐は長く息を吐いて、

 

「了解しました。英雄の仰ることです。信じましょう。」

 

 と言って今度は普通の笑顔を見せてくれた。

 

 中佐をドックまで案内の憲兵に引き継ぎ、霞以外に人がいなくなると俺は一気に力抜けた。だらけた状態で事務仕事をしながら、

 

「なあ、霞。昨日の話の続きなんだが、ホントに俺の指揮下にいる艦娘のみんなって俺のことが好きなのか?LIKEじゃなくてLOVEなのか?」

 

「はあ・・・。満潮姉さんと一緒に言ったでしょ。好きよ。LOVEよ。」

 

 マジだったかぁ・・・。年齢=彼女いない歴の俺からすると一挙に30人もの女性に好意を寄せられているなんて信じられん。

 

「霞が俺を好きになった理由を聞いても?」

 

「ええ、いいわよ。減るもんじゃないし。まず、最初に意識し出したのは・・・そうね、ここに着任した時かしら。坂本大尉とあんたが結構仲良く話していたじゃない。そのときにね何か悔しいというか羨ましいというか何とも言えない感情が渦巻いたの。それからは、あんたのことを意識して見るようになったわね。秘書艦だし。だからかしら、あんたを好きになっていっている自分に気付いたのよ。」

 

「なるほど、わかった。確かに霞とは付き合いが一番長いからな。そう言われると納得する。しかし、他の艦娘はどうだ?提督課程を一緒に受けたわけでもない。長い期間一緒にいたわけでもない。」

 

「それは、青葉さんね。」

 

「青葉?」

 

「ええ。青葉さんが新聞を作っているでしょう?」

 

「泊地新聞か。それがどうした?」

 

「それに“今日の司令長官”というコーナーがあるでしょう。あれと過去のあんたの特集記事でみんながあんたという人間のことを知ったのよ。あとは日常の触れ合いね。艦種や職種を問わず平等に接しているから好感度は天井知らずよ。」

 

「・・・聞かなきゃよかったかも。みんなとどんな顔をして会えばいいんだ?」

 

「とりあえず笑っておけば?あ、でもさっきの獲物を狙う鬼みたいな笑い方はダメよ?」

 

「・・・善処します。」

 

 とりあえず、柱島泊地にて俺専用の艦娘ハーレム?ができそうです。あ、あと柱島泊地指揮下の長距離船団護衛任務部隊が無事?できました。




見てくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第63話 初船団護衛任務・その1

 メイヴ配備の艦載機隊をガルーダ隊、ジム・スナイパーⅡ艤装配備の部隊を第1特機中隊として呼称するようになり、1週間が過ぎた。その間の両隊の訓練量は凄まじく、ガルーダ隊は改装された“おおすみ”への発着艦を問題なく行えるようになり、第1特機中隊は俺とジョンソン上級曹長との演習で勝ち星を上げることができるようになった。

 

 ま、そうなると必然的に新しい任務が割り振られるわけで、俺は一通のメールと睨めっこしていた。

 

「はい、お茶。どうしたのよ。腕を組みながらパソコンの画面をじっと見つめて。」

 

「おお、霞、ありがとう。これ、見てくれよ。」

 

 そう言って、霞を俺の側に招く。

 

「なになに、“明朝、大阪港から出港する鹿児島経由沖縄行きの船団を護衛せよ。他の鎮守府からの増援について緊急時以外は無い。航空支援は状況に応じて要請せよ。護衛艦は柱島泊地所属の艦のみとなる。”あら、長距離船団護衛任務の予行演習みたいね。護衛する民間船は3隻のみだし。」

 

「いけるかねぇ?」

 

「“おおすみ”出すんでしょ?なら、大丈夫じゃないかしら。ガルーダ隊の機動なんて機銃じゃ追えないわよ。それに第1特機中隊の超長距離狙撃もあるわけだから、大丈夫じゃないかしら。艦娘艦隊は以前話していた通りの編成を試してみる?」

 

「扶桑、赤城、加賀、天龍、龍田、鈴谷、熊野に加えて俺の8人で交代しながら6人編成を維持するってやつか。」

 

「ええ。私としては駆逐艦がいない分、夕張さんを加えてもいいとは思うけどね。」

 

「それ、前も言っていたよな。確かに実験艦として様々な兵装を必要以上に搭載できる彼女の実力は高い。が、整備のためにミクと妖精さん達を何名か連れて行くから留守番組の明石の補佐をして欲しいんだよ。」

 

「全く、お優しいことね。」

 

「優良な職場でありたいからな。」

 

「“くらま”と“しらね”はどうするのかしら?」

 

「森原艦隊の警備行動の際の乗艦にするから置いていく。実際の長距離船団護衛任務でも置いていくつもりだからな。他の国の目がある。」

 

「目立っても今更だと思うけど。」

 

「それを言われるとな・・・。ま、とにかく任務だ。扶桑、赤城、加賀、鈴谷、熊野、天龍、龍田を1300に執務室に集合するように伝達を頼む。俺は、ガルーダと第1特機、“おおすみ”に行ってくる。」

 

「了解したわ。」

 

 手早くメールを印刷し、俺は執務室を出てガルーダ隊の搭乗員室に向かう。丁度、2機のメイヴが飛び立っていく。重力なんて知らんとばかりにドンドン上昇し雲の中に消えていった。それを見届け、ガルーダ隊の搭乗員室の扉をノックし中に入る。八島中佐達が起立しようとするので手で制す。

 

「そのままで結構ですよ。上から命令が来ました。これです。どうぞ、中佐。」

 

「ありがとうございます。おかけになってください。おい、誰か閣下にお飲み物を。」

 

「ああ、大丈夫。気にしないでください。この後も2カ所いかないといけないので。」

 

「わかりました。・・・ほう、ついに実戦ですか。」

 

「はい、実戦です。奴らが出てくればですが。」

 

 その言葉にガルーダ隊全員の目つきが変わる。狩人の目だ。

 

「模擬戦ばかりでしたからね。いい腕鳴らしになるでしょう。」

 

「頼もしいですね。ところで空間受動レーダー、“フローズンアイ”の使い勝手はどうです?」

 

「いいですね。RCSの小さいメイヴを捉えることができるので、深海棲艦共の艦載機も楽に見つけられるでしょう。他の索敵機器の能力も高いですから。主翼上ハードポイントに対空ミサイル、主翼下と胴体下部のハードポイントにレーザー機関砲と気化爆弾、クラスター爆弾、対艦ミサイルを積めば偵察艦隊程度なら殲滅できるでしょうな。」

 

「では、その際は大いに期待しましょう。自分は第1特機と“おおすみ”に行きますので、不明な点がありましたら、執務室に霞准将がいるので彼女に言伝(ことづて)してください。」

 

「了解しました。」

 

 敬礼に答礼し、搭乗員室を退室する。第1特機の所に向かう途中でMS艤装を着込んだ第1特機の面々と遭遇した。海上戦闘訓練から戻ったばかりのようで、ブースターの噴出口の周りには海水が蒸発して塩が付着している。彼らが敬礼をしようとするのを手を軽く振って遮る。

 

「中条大尉、任務です。訓練じゃない、実戦です。ま、そのままの状態だと窮屈でしょうから、艤装を外しておいてください。艤装のメンテもあるでしょうからまた後で寄ります。」

 

「了解しました。閣下。」

 

 そのまま、岸壁沿いに歩き“おおすみ”の元にたどり着く。“くらま”は森原艦隊と共に四国沖の哨戒任務に出ており“しらね”と“おおすみ”が係留されている。“おおすみ”の下にたどり着き見上げる艦体は延長され200mを超えて、全通甲板はさらに前方と後方に十数m延び、舷側エレベーターが増設されている。そのまま艦内に入り、艦長室に向かう。ノックをして名前を告げると、出原中佐が扉を開き中に招いてくれた。コーヒーの準備を頼もうとしたのを断り、用件を伝える。

 

「ふむ、純戦闘艦ではない本艦にガルーダ隊、第1特機中隊、それに閣下が直率する艦娘艦隊が1個艦隊分と予備人員ですか。深海棲艦共にやられるヴィジョンが浮かびませんな。ああ、ですが民間船は流れ弾に留意しなければなりませんな。そうなれば機関を入れ替えて速力が上昇し、波動防壁を使用できる本艦が盾になりましょう。」

 

「大丈夫ですか?各部隊の離艦や着艦作業があるでしょうに。」

 

「まあ、何とかなるものですよ。お任せください。」

 

「それならば、そのお言葉を信じます。今回の作戦の成否がこの艦にかかっています。よろしくお願いします。」

 

「了解しました。」

 

 答礼をしながら艦長室を出て“おおすみ”を下船する。そのまま第1特機中隊の所に向かう。MS艤装の格納庫に入ると、妖精さんと夕張が陸軍の整備員と一緒にジム・スナイパーⅡのメンテナンスをしていた。俺に気付いた夕張が声をかけてくる。

 

「あ、提督。中条大尉は事務室にいますよ。」

 

「ありがとう、夕張。どうかね、整備の方は?」

 

「一応、今は手が空いていたんで手伝っていますけど、私と妖精さんがいなくても陸の整備士さんだけで十分にできると思います。まぁ、こればっかりは実戦を経験しないとわからないですけど。」

 

「いや、それで十分だ。ああ、これをあげよう。食堂の甘味券だ。明石と使うといい。」

 

「ありがとうございます。提督。」

 

 にっこりと笑う夕張の頭を撫でるとそのまま事務室に向かう。

 

「中条大尉、湊です。入ります。」

 

「どうぞ、閣下。」

 

 すぐに第1特機中隊の隊員が扉を開けてくれたので礼を言い、大尉に今回の任務を伝える。

 

「ようやく我々も役目を果たせるのですね。」

 

「あまり気負わないように。MS艤装があるとはいえ、被弾すれば損壊する場合もあるのですから。」

 

「はい、本中隊の全員が無事に帰還できるように指揮を執ります。」

 

「よろしい。訓練後の忙しい時間に申し訳ありませんでした。それでは失礼します。ああ、大尉はもう少し話しがあるので着いて来てください。」

 

「了解。」

 

 MS艤装格納庫に行き作業を眺めながら話しをする。人目も少ないのでいつもの口調に戻る。

 

「大尉、率直に聞かせてください。貴官らは人型の敵を殺せますか?」

 

「それが命令であれば。はっきりと言わせていただければ我々陸軍は対艦誘導弾を配備していた部隊や高射特科隊、攻撃ヘリコプター隊以外は深海棲艦と直接の交戦はありません。それこそ、先日の習志野の空挺の行った攻撃が初めての直接交戦になりますね。そう言えば、交戦後に小隊から中隊へと名称変更を行わせたというのは本当でしょうか?」

 

「ああ、あれですか。本当ですよ。2機の“ナイトシーカー”を追加配備し中隊にしました。MS艤装は原作通りに3機1個小隊と扱うようにも決めました。あの時は手探りでしたからね。」

 

「なるほど。そんな裏話があったのですね。ありがとうございます。」

 

「いえいえ。それで、人型の敵を殺す覚悟のほどは?」

 

「できています。それが女性の形をしていたとしても。」

 

「実に素晴らしい。指揮官の覚悟無くして部下はついてきませんからね。明日からの数日間は頼りにさせてもらいますよ。」

 

「はい、閣下。」

 

「それでは。」

 

 そう言って第1特機中隊の隊舎を後にして執務室へと戻る。

 

 今日の昼食は執務室で済ませた。

 

 1300には扶桑、赤城、加賀、鈴谷、熊野、天龍、龍田の7人が執務室に集まった。任務について説明をすると、扶桑は不安顔になり赤城と加賀は平常のまま、鈴谷と熊野は少し緊張した感じで天龍はやる気に燃え、龍田は笑みを浮かべている。

 

「全員が練度の上昇で改造を受け終わっている。自信を持て。今回はいつも通りに深海棲艦を沈めるだけではなく、民間船の護衛がある。難易度は高いがこれから増えてくる任務のうちの一つだ。腹を括ってくれ。」

 

 そう言うと、赤城が挙手をする。

 

「提督、質問があります。」

 

「おう、疑問点はなんでも聞いてくれ。答えられる範囲だがな。」

 

「ありがとうございます。では、今回の旗艦はどなたが務めるのでしょうか?」

 

「鈴谷だ。次席艦は熊野。理由も言った方がいいな。まず、今回の作戦、数日以上は確実にかかる。初の泊地に帰港せずに行うものとなる。それをふまえて、全員の役目を考えた。扶桑を旗艦にするのを最初に考えたが、最大直接火力に装甲防御を持っているので主に昼戦に投入したい。であるからその次に火力、防御も高く、夜戦も得意な重巡の鈴谷と熊野の2人を選んだ。空母の赤城と加賀の2人を旗艦にしなかったのもそうだ。それで、軽巡の天龍と龍田だが、2人には対空砲と爆雷を目一杯積んでもらい、艦載機・潜水艦キラーとして縦横無尽に駆け回ってもらうために艦隊指揮は荷が重いと思って外した。決して指揮能力が無いと言っているわけではないから誤解しないように。俺が駆逐艦の霞を旗艦にしたのは何回も見ているだろう?艦種で区別はしない。ただ、今回は役割で区別した。それだけだ。これでよかったかな赤城?」

 

「はい、詳しく説明してくださりありがとうございます。」

 

 赤城が綺麗なお辞儀をしながら礼を言う。そしてすぐに手が挙がる、天龍だ。

 

「提督、オレからもいいか?装備面でのことなんだが近接戦闘パッケージは全員装備か?」

 

「ああ、そのつもりだ。何か問題があったか?」

 

「いや、確認だ。提督は格闘戦が起きると思っているのか?船団護衛で。」

 

「さあな。だが、有った方が何かと役に立つだろう。特に今回は天龍と龍田には駆逐艦並みの働きを期待している。船団の真正面を警戒していたら敵と遭遇しましたって場面もあるだろう?」

 

「ま、あるだろうな。」

 

「その場合、天龍、お前は退くか?」

 

「・・・あー、退かないかもな。援護を要請して敵を釘付けにするかな。」

 

「そんで、お前なら乱戦に持ち込んで、ご自慢の太刀で敵を切り裂くわけだ。敵は誤射を恐れて発砲できない。さらに接近して、近接戦闘パッケージのM6Hハンドガンとナイフ、閃光手榴弾で敵をさらに混乱させる。違うか?」

 

「全くもってその通りになりそうだぜ。なあ、龍田。」

 

「ホントね~。流石は提督だわ~。ちなみに私にも同じようなことを期待しているのかしら~。」

 

「いや、龍田は龍田なりの戦い方があるだろう?大破しなければいつも通りでいいさ。」

 

「了解しました~。」

 

「さて、他に質問は?ないなら鈴谷と熊野以外は解散。宿泊用の荷造りでもしておくんだ。」

 

「「「「「了解。」」」」」

 

 敬礼に答礼。扶桑、赤城、加賀、天龍、龍田が退室し、鈴谷と熊野が残る。

 

「霞、茶と菓子を頼む。鈴谷、熊野、ソファにかけてくれ。任務の中身をつめるぞ。」

 

「了解。玉露でいいかしら?」

 

「おう、頼んだ。」

 

 霞が給湯室に向かう。鈴谷と熊野の2人がソファに座ると鈴谷が口を開く。

 

「無理無理無理、旗艦なんて無理。」

 

「無理じゃない。命令だ。旗艦をするんだ鈴谷。」

 

「鈴谷のことが嫌いなの提督!?」

 

「んなわけあるか。好き嫌いで旗艦を決めたりしねぇよ。理由はさっき言った通りだ。大丈夫。俺もいる。熊野もいる。1人で気負うな。悩んだらすぐに相談しても構わない。」

 

「そうですわ。(わたくし)がおりましてよ。」

 

「う~、提督~、熊野~。・・・わかった。やるよやればいいんでしょ。」

 

「おう、そのいきだ。任務達成のあかつきには何か言うことを聞いてやろう。」

 

「・・・ホント?」

 

「ああ、可能な範囲で頼むぞ。大金が欲しいとか権力が欲しいとかは無理だからな。」

 

「わかっているってば。それじゃ、頑張りましょうかねー。」

 

 「おー」と鈴谷が両手を挙げていると霞が戻ってきた。さて、本題の任務の中身についてつめていきますかね。




見てくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第64話 初船団護衛任務・その2

 早朝、大阪港で護衛対象の3隻の民間船と合流する。陣形は天龍が先頭に立ちそれに続くように“おおすみ”と民間船。両翼を鈴谷、赤城ペアと熊野、加賀ペアが固め、最後尾に扶桑が続く。龍田は“おおすみ”内で待機中だ。上空にはすでにガルーダ3、ガルーダ4が発艦して哨戒飛行を開始している。

 

「“瀬戸内海を使うな”と当日に追加命令が来るとはなぁ・・・。」

 

 “おおすみ”のCICで出原中佐を相手に愚痴る。

 

「まあ、仕方がありません。新たに3隻も追加されてしまったわけですから。瀬戸内海は狭すぎます。」

 

「自分も元艦乗りだからそれはわかるが、だからといって・・・。いや、愚痴は此処までだ。任務に集中しよう。」

 

「そうですな。本船団の現在位置は此処です。徳島県蒲生田岬の南西49.2km地点です。同県室戸岬沖で変針し、鹿児島県佐多岬沖を経由し錦江湾(鹿児島湾)へと入ります。距離にして575km越えです。本船団は約11ノットで航行中ですので約29時間後には鹿児島の桜島にお迎えされることでしょうな。」

 

「・・・長い29時間になりそうだな。」

 

「ええ、ですから、閣下もその装備を外しておかれてはいかがですか?」

 

 そう、俺はミョルニルアーマーを着込んでCICの中に立っている。はっきりと言って異様な光景だろう。しかし、常人を超えた能力を持つこの体にはほとんど負担にならない。しかし、他のCICの隊員達には圧迫感があるだろう。俺は小声で、

 

「大丈夫です。自分がいると皆が必要以上に緊張するでしょうから散歩でもしてきます。何かあったら呼び出してください。周波数は大丈夫ですね?」

 

「はい、閣下。」

 

 出原中佐も小声で返してくれる。さてとサッサとCICから退散しましょうかね。

 

「あとは任せた、艦長。」

 

「了解。」

 

 そう言って軽く敬礼を互いにして俺は退室する。そのまま、格納庫兼艦娘等発艦口へと降りる。ガルーダ隊と第1特機中隊に声をかけながらメイヴとジム・スナイパーⅡの様子を見る。どちらも整備員がしっかりと整備しているようで表面が鏡のように反射してミョルニルアーマー姿の俺を映す。

 

 今度はリニアカタパルトと着艦装置が設置された最上甲板に向かう。季節的には秋から冬に入りかけている時期だからか空が澄んでいるように思う。風が強い甲板上で“レインボーギャング”こと甲板作業員達がシミュレートを行なっている。アメリカ海軍での役割分担をそのままパクってきた、というか第7艦隊から直伝してもらっているのでかなりできはいい。

 

 その様子を横目で見ながら、艦の先端に向かう。10km先で天龍が対潜運動の“之字運動”をしながら航行しているのが見える。ミク達妖精さんが艦娘の機関をかなりいじくっているからかなりの高速で海面上で之字運動を行なっている。幸い、まだ1隻も敵潜とは遭遇していない。まぁ、日本近海の海中には通常潜水艦隊が広く展開して潜水艦狩りを行なっているからなぁ。数で押されたら不利だけど。

 

 そんな感じで天龍を眺めていたら、通信が入る。

 

『どうした、提督。艦内が息苦しくなったか?』

 

「『こちとら陸上勤務前は艦乗りだぞ、そんなわけあるか。上手くいっているかの確認だよ。そっちこそ調子はどうだ?龍田と変わらなくても大丈夫そうか?』」

 

『オレは大丈夫だ。敵さんも出てこないしな。龍田にはゆっくりしておいてくれと伝えてくれよ。』

 

「『了解。』だとよ、龍田。」

 

 俺が天龍を眺めはじめた頃ぐらいから後ろにいた龍田に向かってそう言う。龍田は着けていたヘッドセットを外して、笑いながら、

 

「天龍ちゃんらしいわ~。でも、無理をさせたくないわね。」

 

「わかっているさ。予定通りにガルーダ3、4が帰艦するのと同じころに交代だ。」

 

「了解しました~。」

 

 そう言って龍田は艦内に戻っていく。さてさて、敵は仕掛けてくるかね?

 

 そう思っていると出てくるモノで、赤城たちの航空攻撃が不可能になる日没直前を狙うように南西から深海棲艦共が現れた。戦艦級と重巡級を中心とした直接打撃艦隊群だ。先行して潜水艦との接触もあったが龍田が難なく沈めてくれた。

 

 “おおすみ”が増速して艦首を深海棲艦側に向ける。俺はリニアカタパルトに取り付けられたオプション、ミョルニルアーマー及びMS艤装射出用脚部ロックシステムに固定され、若干、前かがみになりブースターの出力を徐々に上げながら射出に備える。カタパルトオフィサーが発艦合図を出すとともにブースターの出力を最大にする同時にカタパルトが作動し、一気に350km/h近くまで加速し、発艦する。

 

『目標を捉えました。これより援護射撃を開始します。』

 

 俺の発艦が終わり、ジェット・ブラスト・ディフレクターが甲板に収納されると“おおすみ”の最上甲板に膝立ちで並んでいるジム・スナイパーⅡ10体が現れる。それらのロング・レンジ・ビーム・ライフルからビームが次々と放たれる。まもなく鈴谷達との交戦距離ということで砲撃態勢に入っていた戦艦ル級を数条のビームが貫く。弾薬にでも命中したのか轟音を立て爆沈する。他にも駆逐級が3体ほどビームに貫かれて沈んでいく。ビームが伸びていった遠くの方でも爆発したような光と音が確認できる。

 

『こちら第1特機中隊。これよりロング・レンジ・ビーム・ライフルの冷却とチャージを開始します。』

 

『こちらガルーダ2。戦果確認中。戦艦級3、巡洋艦級10、駆逐級20の撃沈を確認。』

 

 援護射撃が止み通信が入る。着水した俺と鈴谷たちは深海棲艦と交戦しながらそれを聞く。

 

「初陣にしては上々だと思うがどうだろうか?扶桑はどう思う?」

 

「ええ、今後も期待してよいかと思います。提督。射撃精度も素晴らしいものでした。」

 

 隣で主砲を斉射しながら扶桑が応える。戦線を維持しているのは扶桑、鈴谷、熊野、俺の4人で龍田は天龍との交代で対空・対潜兵装満載の状態なので、対潜警戒をしながらの後方からの援護射撃に徹している。赤城と加賀は航空戦力が使用できないので高射砲の水平射撃で援護をしてくれている。

 

「クソっ、やはり駆逐艦が欲しいな。」

 

 扶桑に愚痴る。

 

「召喚建造をしてこなかったツケですよ、提督。」

 

「仕方ないだろう。他のモノに優先して資材をまわしていたからな。ま、自業自得というところか。」

 

「それ、自分で言う?」鈴谷が呆れた顔で言う。

 

 反論しようと口を開きかけたところで、ガーディアンシールドに衝撃が走る。かなりの衝撃だ。攻撃してきたのは例の尻尾付き“航空高速戦艦レ級”だ。ご自慢の尻尾で一撃をくらわしてきたようだ。

 

「鈴谷、俺がコイツの相手をする。他は任せた。」

 

「了解、鈴谷達に任せてよ。扶桑さん、行くよ。赤城さんは援護射撃を継続してね。龍田さんは潜水艦に注意を払って、潜水艦を発見したらそっちを優先して。」

 

「『ガルーダ隊は敵の増援を発見した場合は、攻撃をして足止めしておいてくれ。』『第1特機中隊、これより混戦になる。狙いは慎重にな。』」

 

『ガルーダ1、了解。』『ガルーダ2、了解。』

 

『第1特機、了解しました。』

 

 さあ、レ級との殴り合いだ。といっても、ビーム・サーベルを展開したら距離をとられてしまった。俺の情報が共有されているのか?いや、交戦した深海棲艦は全て沈めているから知りようがないはずだ。ふむ、直感的な警戒心か?

 

 とりあえず、ビーム・サーベルを収め、アサルトライフルを構えて連射する。命中弾がレ級のコート?に弾かれる。取り敢えず、装填している弾倉分を全弾撃ち込む。弾かれてもダメージが入った箇所はあるようで血を流している。俺とレ級の戦っている背後では第1特機中隊からの援護射撃が再開されたようでビームの明かりが周囲を照らし、盛大な爆音が響き渡る。

 

 俺は空になったアサルトライフルの弾倉をすぐに交換し、射撃しながら距離を詰める。移動速度はこっちのほうが速い。すぐに近接戦闘の範囲に捉える。アサルトライフルを腰に懸架し、ビーム・サーベルを展開する。今度は退く間は与えない。

 

 出力を上げ刀身を伸ばしたビーム・サーベルで艤装付きの尻尾を切り裂く。尻尾が叫び声をあげているが無視して返す刀で尻尾を切り落とす。今度はレ級本体が叫んだ。だがそれもすぐに止む。横薙ぎしたビーム・サーベルが首を刎ね飛ばしたからだ。力を失ったレ級だったものはゆっくりと沈んでいく。それと同時に通信が入る。

 

『こちらガルーダ1。敵艦隊の殲滅を確認。近海にも反応なし。』『ガルーダ2も敵の反応を確認できない。』

 

「『わかった。ガルーダ1、2は哨戒任務に戻れ。』『艦娘は全員“おおすみ”に帰艦。補給と整備、休養だ。』『第1特機中隊は各機、艦娘が防衛していた位置で護衛を開始。装備は各自の判断に任せる。』『“おおすみ”はソナーの感度を上げておけ。天龍と龍田の代わりに対潜警戒だ。』『以上、総員かかれ。』」

 

『『『『了解。』』』』

 

 ふう、第1目的地の鹿児島に着く前にこれかよ。沖縄に着くまでにはどのくらい戦うんだろうな。つーか、あれだな。1艦隊編成分の艦娘だけでは足りん。霞に増援を送ってもらい鹿児島で合流するように段取りをつけるか。




見てくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第65話 初船団護衛任務・その3

 “おおすみ”の艦体指令室に戻るとすぐに通信端末を起動して、霞を呼び出す。起きているか?

 

『はいはい、何かご用件かしら?』

 

 寝間着姿の霞が画面に映る。

 

「『ああ、そうなんだが、寝ていたか?私室の端末だろう?』」

 

『ええ、そうね。雑誌を読んでいたところよ。で、用件は?この時間にということは急ぎかしら?』

 

「『まぁまぁぐらい程度の急ぎ、かな。』」

 

『なによ、それ。で、詳しく話してみなさいな。』

 

 ということで、霞に先程の海戦のことと人員が足りないことを正直に話した。

 

『ま、そうなると思っていたわ。一応、即応救援艦隊としてガルム1と青葉さん、夕張さん、大淀さん、島風、雪風の5人を準備させているわ。』

 

「『その5人なら大丈夫だろう。いつこちらに?』」

 

『明朝、朝食が終わってからガルム1で空輸するわ。その時には鹿児島でしょ?丁度良くないかしら。』

 

「『そうだな。それでお願いしよう。じゃ、すまなかった。ゆっくりしてくれ。』」

 

『はいはい。あんたも気を付けるのよ。じゃあね。』

 

 そう言って、手をヒラヒラと振って霞は端末の回線を閉じた。俺は長く息を吐きながら椅子の背もたれに体重を預ける。

 

「これで、艦娘12人体制に、か。なんとかなるか。第1特機中隊にガルーダ隊もよくやってくれているしな。とりあえず、休むか。」

 

 着替えてベッドに横になるとすぐに睡魔がやって来て深い眠りに落ちる。

 

 翌朝、季節的に日も上りきらない時間に目を覚まし、いつものルーティンをこなしていく。“おおすみ”は最上甲板が広いので、ランニングの場所にも困らない。ランニングを終えて、一息ついていると、

 

「おはようございます、提督。朝からトレーニングなんて昨日の夜の疲れはありませんの?」

 

 そう言いながら熊野が近づいてくる。ポニーテールが風になびいている。

 

「そこまで疲れてはいないかな。熊野はどうだ?」

 

(わたくし)は大丈夫でしてよ。」

 

「それじゃ、大丈夫じゃない奴がいるんだな?鈴谷か?」

 

「ご明察。やはり、艦隊旗艦は精神的なプレッシャーになっているようですわ。」

 

「なるほどな。んじゃ、まあ、飯の前に顔でも出しとくか。部屋、入るぞ。」

 

「ええ、そうなさって。食堂の席は確保しておきますわ。」

 

 そこで熊野と別れて、艦内の艦娘居住区画に向かう。女性である艦娘に艦内でも安らげるように特別に作った区画だ。“しらね”と“くらま”にも在る。入るには憲兵に許可を貰わないと入れないようになっている。ちなみに、俺の部屋はその区画のすぐ(そば)だ。

 

「おはよう。鈴谷少佐に用事があるのだが、入室許可をお願いしたい。」

 

「おはようございます。閣下。鈴谷少佐に確認をとりますので少々お待ちください。」

 

「ああ、それなら、これに熊野少佐から入室許可のサインをもらって、彼女の身分証を預かっている。」

 

 それを確認すると、

 

「確認いたしました。どうぞ。」

 

「ありがとう。」

 

 居住区画につながる水密扉が開かれる。さて、鈴谷と熊野の部屋は・・・、ここか。ノックをすると、鈴谷の半分寝ぼけたような声が返ってくる。

 

「はぁい、だれぇ?」

 

「俺だ。」

 

「うぇっ!?提督!?」

 

「おう、入ってもいいか?」

 

「えっ、ちょっ、いいよ?」

 

「なんで疑問形なんだよ。入るぞ。」

 

 笑いながら扉を開け、部屋に入ると鈴谷が寝間着姿のまま顔を真っ赤にしてプルプルしていた。なんか可愛いな。

 

「なに、大したことじゃない。昨日の戦いはよく指揮をとれていたからな、そのことを伝えておこうと思ったんだよ。」

 

「それだけ?」

 

「それと、これな。俺のガンカメラの映像を切り取ってプリントアウトした。」

 

 それには鈴谷が前線で指揮をとりながら、敵を攻撃している姿が写っている。

 

「まぁ、初旗艦の記念にはなるだろうからな。折角だから貰ってくれないか?」

 

「あ、えっと、ありがと。」

 

「どういたしまして。さて、そろそろ朝飯の時間だぞ。その寝間着姿のままじゃいかんだろ。」

 

「あっ!もうそんな時間だったんだ。急いで準備するから一緒に行こうよ。待っといてくれない?」

 

「わかった。」

 

 そう言って、部屋を出て扉の(そば)で待つ。その間に扶桑、天龍、龍田、赤城、加賀に何をしているのか問われることになるのだが、まあ、仕方のないことだ。

 

 食堂では熊野が隅の目立たないところにキチンと3人分の席を確保していた。士官食堂?堅苦しいからあんまり使いたくないんだよな。

 

「ありがとうな。熊野。」

 

「どういたしまして。鈴谷も元気になったようでなによりですわ。」

 

「いや、俺が行かなくても、多分、大丈夫だったんじゃないか。」

 

「それは、違いますわ。姉妹ですからわかりますもの。提督から何かして戴いたのでしょう?」

 

 熊野がそう言うと、鈴谷は少し耳を赤くして俯きながら、

 

「・・・鈴谷が戦っている所の写真を貰ったの。」

 

「あら、それは何よりですわ。ちゃんと提督が貴女のことを見ていたと云うことではありませんか。ねぇ、提督?」

 

 おう、話しを振られた。

 

「ん、まぁ、そういうことになるな。」

 

 そう答えると、鈴谷がバシバシと叩いてきた。痛くはないが、俺、なんか変なこと言ったか?

 

 朝食を終えて、部屋で各々が提出してきた戦闘詳報をまとめていると、出原中佐から錦江湾(鹿児島湾)に入ったと報告が来た。これで、一息つけるかな。午後には、荷降ろしと荷積みをするそうだ。その間に柱島からの増援が到着するな。

 

 最上甲板でガルム1が着艦するのを眺める。後部ランプが開き、青葉、夕張、大淀、島風、雪風が完全装備で降りてきた。

 

「みんな、すまんな。俺の予想が甘かった。」

 

「気にしないでください。司令官。頑張りますよ!!」

 

 みんなを代表して青葉が宣言してくれる。

 

「それは、有り難いが、無理をさせるつもりはない。ま、兎に角、今は装備を格納庫に置いてくるんだ。私物はそれぞれの部屋にキチンと持っていくように。」

 

 全員が改造を受けているから護衛艦隊の戦力を底上げできるだろう。後は、イレギュラーが起こらないことを祈るのみか。




見てくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第66話 初船団護衛任務・その4

 現在、鹿児島を出発し、最終目的地の沖縄の那覇港へと南下中だ。航路は東シナ海を通るようにしている。船団の前方を天龍や龍田に代わり、対潜警戒をしながら島風が航行している。両翼は前日と変わらず、最後尾も変わらずだ。青葉、天龍、龍田、夕張、大淀、雪風は艦内待機としている。第1特機中隊も艦内待機。空ではガルーダ5、6が哨戒飛行を行なっている。

 

 C.I.Cの中でレーダーの輝点を眺めていると、通信が入る。

 

『ガルーダ5より、“おおすみ”。フローズンアイにて未確認機を発見。通常レーダーでも確認。機数は1。IFF(敵味方識別装置)応答なし。南西方向より船団に向かっている。』

 

「『ガルーダ5、目視で確認せよ。』『赤城、加賀は艦載機の発艦用意。』」

 

『ガルーダ5、了解。接近する。』『了解です。』『了解しました。』

 

 C.I.Cに設置されたディスプレイの1つがガルーダ5のガンカメラ映像を映し出す。高度2万mからの急降下だ。すぐに最高速度のマッハ3.3に到達する。そして、目標を捉える。

 

『見えた。深海棲艦の艦載機のようだ。』

 

「『ガルーダ5、攻撃許可。』『赤城、加賀は偵察機の発艦始め。偵察範囲は南西方向だ。』」

 

『ガルーダ5、了解。』

 

 “ヴォオオオ”とメイヴの20mmガトリング砲の音が響くと同時に、深海棲艦艦載機と交差し、遅れての爆発音。

 

『敵機、撃墜を確認。哨戒飛行へ戻る。』

 

 そして、メイヴは大空へと舞い戻っていく。

 

「赤城少佐と加賀少佐が偵察機を発艦完了。」

 

 オペレーターの声と共に、レーダー上に映る輝点が増える。赤城と加賀の放った偵察機だ。

 

「よし、偵察機には識別をしっかりとつけておくんだ。ガルーダ5、6にも情報を送れ。」

 

「了解。」

 

 さぁて、深海棲艦は網にかかってくれるかな。

 

 30分も経たずに赤城から通信が入る。

 

「発見しました。空母機動艦隊群です。空母機動艦隊3つと直接打撃艦隊2つで編成されています。東シナ海を北上中。」

 

「よし、『赤城、加賀は攻撃隊を編成し、空母を沈めろ。』『鈴谷、第1艦隊はあくまで船団護衛が目的だ。第2艦隊で攻撃をする。』青葉、天龍、龍田、夕張、大淀、雪風は第2艦隊として緊急出撃。旗艦は青葉。『ガルーダ5、6は足止めのためASM-2で攻撃を開始。敵航空隊が出てきた場合は交戦も許可。』」

 

『ガルーダ5、了解。』『ガルーダ6。』

 

『攻撃隊の発艦を開始します。』『鎧袖一触です。』

 

『鈴谷、了解。』

 

『青葉です。第2艦隊は5分後に出撃可能です。』

 

 よし、今のところ先手を打てているはず。

 

「閣下、第1特機中隊はどうされますか?」

 

 出原中佐が進言してくる。

 

「・・・第1特機中隊は待機だ。こちらが手薄になりかねない。代わりにガルーダ1、2を出す。」

 

 青葉達を行かせるのではなく、第1特機中隊を行かせるべきだったか?悩んでいると、ガルーダ5から通信が入る。

 

『攻撃成功。敵艦の撃沈を確認。防空軽巡2、駆逐6。これより、制空戦闘を行う。』

 

 ガルーダ5のガンカメラから送られてくる映像では、海原に8本の黒い煙があがっているのが確認できた。ガルーダ5がマッハ3で敵艦隊に近づき、ガトリング砲と対空ミサイルを斉射して一気に距離をとる。送られてくるデータと画像で敵艦載機を撃墜したことが確認できる。先の大戦時のレシプロ機程度の能力しか持っていない敵艦載機はメイヴの敵ではないことが改めて理解できた。

 

 赤城と加賀の航空隊は順調に敵艦隊へと接近しつつある。ガルーダ5、6の働きのおかげで敵要撃機とも接敵していない。つまり、被害ゼロで敵艦隊に魚雷と爆弾をお見舞いすることができるわけだ。

 

『司令官、青葉です。第2艦隊、全艦娘出撃しました。単縦陣で敵艦隊へ向かいます。』

 

「『わかった。戦果に期待するが、無理はするな。』」

 

『了解です!!』

 

 第2艦隊が船団から離れていくのをレーダーで確認する。オペレーターが詳細な進路を適宜、青葉に伝えている。

 

「ガルーダ1、2の発艦終了。敵艦隊へ誘導します。」

 

 別のオペレーターがガルーダの誘導を行う。マッハ3で飛ぶ化け物航空機が4機も制空戦闘に参加するんだ。敵の航空戦力もこれで終わりだな。

 

 ガルーダ隊4機の制空戦闘が始まってから数分で敵の戦闘機は全滅した。まさに、一方的な殺戮劇だった。マッハ3を超える簡単に超えるエンジン。滅茶苦茶な三次元運動を可能にする主翼。高度な戦術コンピューター等々を搭載したメイヴを駆るガルーダが負けるはずがなかった。そして、赤城からは朗報が伝えられる。

 

『提督、私と加賀さんの攻撃隊の急襲は成功しました。敵空母4、軽空母1を撃沈。戦艦1、重巡1を大破に近い損害を与えました。こちらの損害は被弾した機はいますが、被撃墜はゼロです。』

 

「『よくやった。攻撃隊は帰艦させろ。第二次攻撃の用意を。』」

 

『了解です。』

 

 赤城からの報告にほっと一息つく。そして、レーダーに映る第2艦隊の輝点を見つめる。空襲を受けた敵の背後から回り込むようにオペレーターに誘導させており、今のところは上手くいっているようだ。15分後には攻撃を開始できる。その間に、ミサイルと20mm弾をほぼ撃ち尽くしたガルーダ1、2、5、6を帰艦させ、ガルーダ3、4を発艦させる。

 

 ガルーダ3、4が敵艦隊上空、高度22,000mに到達したころには、20,3cm砲を搭載した青葉と大淀、夕張が砲撃を開始していた。制空権を確保しているので弾着観測射撃を電探射撃と併用して行なっている。青葉達と分かれ天龍、龍田は増速しながら剣と槍を構える。雪風はその2人の後を追うように航行している。

 

 天龍のガンカメラからの映像には、敵艦隊が接近を防ごうとあらゆる砲や機銃で攻撃してきている様子が映し出される。天龍は左手に持ったシールドで上手くいなしている。

 

『こんな攻撃じゃ、オレ達は止められねぇぞ!!』

 

 そう言いながら、艤装備え付けの14cm単装砲を撃って敵を怯ませる。相対距離が5,000mを切ったところで、青葉が魚雷発射の指示を出す。この時、第2艦隊は青葉率いる第1戦隊と天龍率いる第2戦隊にVの字形に分かれていたので発射された魚雷は敵艦隊の中心で交差し、命中する。

 

『やりました!!大型艦に命中!!敵艦隊の行き足が止まります!!皆さん、接近戦です!!』

 

『おっし、じゃあ、先陣はオレが切るぞ!!』

 

 すぐに天龍が鋭く加速して、敵艦隊の反撃を無視しながら接近し、一番手近なイ級駆逐艦に刀を突き立てる。イ級は赤い炎を傷口から吐き出しながら、小規模爆発を繰り返し沈んでいく。天龍は次にル級戦艦に狙いを定めて、シールドを顔面に突き立てると同時に、シールドに内蔵されているパイルバンカーを打ち出す。一気に顔を吹き飛ばされたル級は仰向けに倒れそのまま沈んでいく。

 

 雪風のガンカメラの映像もまた凄かった。配布した近接戦闘パッケージのナイフとM6H ハンドガンを使い、人型は目の部分を正確に貫き、人外型は12,7cm連装砲の近距離で怯んだところを脳天にナイフを突き刺し唐竹割りをしていっていた。いつもの愛らしい姿からは想像もできない戦い方だ。まぁ、龍田も同様なんだが。

 

 青葉、夕張、大淀の3人は、大型艦を常に3対1の構図に持ち込み、20,3cm砲の集中砲撃で適切に沈めていく。小型艦には副砲代わりの高角砲と機銃で牽制を行いながら、接近しナイフで仕留めていく。

 

 第2艦隊の交戦から1時間と()たずに、戦闘は深海棲艦空母機動艦隊群の全滅で終わった。帰ってきた青葉達は返り血とかすり傷だらけだったので、すぐに入渠を命じた。

 

「終わりましたな。」

 

 出原中佐が声をかけてくる。

 

「ああ、終わった。しかし、あの方面からだと台湾海峡を通るはずだ。中国軍や台湾軍は何もしなかったのか?」

 

「したくてもできなかったのでしょう。艦娘が召還されているのは、限られた国だけですから。」

 

「今のところはな。さて、今は悪石島の西方沖か。明日には那覇港かね?」

 

「おそらくは。」

 

「部屋に戻っている。何かあったら呼び出してくれ。」

 

「了解。」

 

 そう言ってC.I.Cを出る。

 

 部屋に戻って、第2艦隊が帰艦してからしばらくすると八島中佐が今回の空戦の報告書を持ってきてくれた。流石、仕事が早いな。

 

「今回は、ガルーダを全機、逐次に投入してしまいました。最初から全機投入すればよかったと後悔していますよ。」

 

「仕方ありません。“おおすみ”での運用は今回が初めてでした。意見具申をしなかった小官にも責はあります。」

 

「確かにそうですが、中佐の上官は私です。私の失態です。さて、報告書の提出、ありがとうございます。今後の運用に活かさせてもらいます。ご苦労様でした。」

 

「はい、失礼しました。」

 

 敬礼と共に退室する。俺は扉が閉まったのを確認して大きく伸びをする。さて、俺も艦隊指揮についての報告書を仕上げるかね。端末に向き直り、報告書を書いていく。

 

 報告書を書き終わり、チェックのために霞の秘書艦用端末にメールを送信する。自分で淹れたお茶で一息ついていると、扉がノックされる。

 

「青葉です。」

 

「入っていいぞ。」

 

「失礼します。」

 

 青葉が扉を閉める。

 

「今は2人だけだから口調もいつも通りでいいよ。」

 

「ホントですか!?ありがとうございます!!では、早速報告です。第2艦隊全員、入渠をすませて部屋で交代まで待機中です。」

 

「で、それだけを言いに来たんじゃないんだろう?内線で十分のはずだ。」

 

「それでは、司令官、今回の戦闘のMVPはだれでしょうか!?」

 

「は?」

 

 MVP?なんだそれ。

 

「あ、実はですね。司令官は以前からその時に一番活躍した艦娘に甘味券などのご褒美をあげていたじゃないですか。」

 

「うん、まあ、しているね。」

 

「でも、霞准将から司令官が青葉達の想いについて知っていると聞きまして、そうであるならこれは普通のご褒美では足りないんじゃないかと艦娘達の間で話し合いになりまして、活躍した艦娘をMVPとしてもっとこう、何と言えばいいのか、司令官の想いがわかるご褒美が欲しいのです!!」

 

「お、おう。わかった。でも、先日の戦闘の後には、鈴谷達は何も言わなかったぞ?」

 

「それは、司令官が一緒に戦って、鈴谷さん達以上の活躍をしていたから言いにくかったんだと思いますよ。」

 

「なるほど、わかった。それでは、今回のMVPを伝えよう。青葉、君だ。初旗艦を務めて第2艦隊をよく指揮していた。」

 

 そう言うと、青葉はポカンとした表情で固まったあとにワタワタとし始めた。

 

「え?青葉がですか?」

 

「そうだ、理由も述べたぞ。さて、ご褒美は何がいいかね?女性の喜びそうなモノについてはあまり知識が無いんだ。青葉は何がいい?」

 

 青葉は顔を真っ赤にし、俯きながら、小声で言う。

 

「・・・てほしいです。」

 

「ん?すまん、もう一度。」

 

「だから、ギュッと抱きしめてほしいです!!」

 

 聞き返したら大声で返事が返ってきた。防音部屋だからよかった。普通の部屋なら廊下まで筒抜けだぞ。まぁ、いいか。青葉の望みを叶えるかね。そう思いながら席を立ち、青葉に近づく。すると、青葉は後退(あとずさ)る。

 

「おい、青葉、それでは抱きしめられんぞ。」

 

「へ!?いや、その、心の準備がですね・・・。」

 

「ハイハイ、大人しく抱きしめられなさい。」

 

 そう言いながら、スパルタンとしての身体能力を活かして青葉に向かってダッシュする。青葉はそれに反応できずに固まっている。俺はそのまま青葉を優しく抱きしめた。

 

「これで、良かったか?」

 

「ふぁい・・・。もう少しこのままで。」

 

「ああ、いいぞ。お前の気の済むまでしといてやるから。」




見てくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第67話 初船団護衛任務・その5

おっさんばかりで申し訳ありません・・・。


 入渠終わりで良い香りのする青葉を抱きしめて10分ほど経っただろうか。そろそろ離してもいいんじゃないかと思い彼女に声をかける。

 

「青葉、もういいか?」

 

「ダメです。司令官成分の補充にあと20分は必要です。」

 

「なんだよ、その司令官成分って。ま、一度、離れよう。喉が渇いた。」

 

「むぅ、なら、仕方がないですね。」

 

 そう言って渋々といった感じでお互いにはなれる。青葉をソファに座らせて、併設されている給湯室に行き、コーヒーと茶菓子の用意をする。あ、青葉は何がよいか聞かんとね。

 

「青葉―。コーヒーと緑茶どっちがいい?」

 

「司令官と同じものでいいですよー。」

 

「んじゃ、コーヒーな。」

 

 インスタントコーヒーをちゃちゃっと淹れ、茶菓子と一緒にトレーで運ぶ。

 

「ほい、コーヒーと茶菓子な。鹿児島で買ったかるかん饅頭だ。」

 

「ありがとうございます。でも、座るならソファよりそっちがいいですね。」

 

 そう言って青葉は俺の膝の上に座る。

 

「何やってんだ。俺の膝上なんて固いだけだろう?」

 

「さっきの続きですよ。さ、コーヒーをいただきましょう。」

 

 こりゃ、梃子(てこ)でも動かんな。青葉からは相変わらず良い香りがするし、俺みたいな喪男には・・・ご褒美なのか?世間的に見るとご褒美なんだろうな。うん。

 

 そんな感じで青葉とお茶の時間を過ごし、満足した青葉は部屋に帰っていった。なんかキラキラしていたけど、気のせいだろう。食器を片づけそう思って仕事を再開しようとすると、ノックも無しに扉が開く。こんなことをできるのは1人だけだろう。

 

「なんだ、ミク、もう整備のほうは終わったのか?」

 

「はいー。整備員さん達も鍛えられていますから予想よりも早く終わりましたー。メイヴも艦娘艤装も万全ですよー。」

 

「そりゃあ、良かった。特にメイヴは資材をつぎ込んだからなぁ。っと、ホレ、甘味だ。」

 

 そう言って常備している金平糖を渡し、給湯室で緑茶を淹れて出す。

 

「ありがとうございますー。まあ、私達に出来ることをしているだけですからー。」

 

「それでも、助かっているのは事実だ。上申して少佐相当の階級か勲章でも貰うかい?」

 

「そんなもの必要ありませんよー。こうして甘味がもらえるだけで十分ですー。」

 

「欲が無いな。」

 

 苦笑いしながら仕事に戻る。端末を操作していると受信メールフォルダに霞からの返信が来ていた。内容は統合幕僚監部が今回の作戦の映像データを欲しがっているというものだった。泊地に帰還後に送るようにすると返信する。すぐに了承のメールが来た。

 

 その後も仕事を続け、特に問題も無く奄美大島沖を通過中との報告を受けた。背伸びをして時計を見ると夕食の時刻になっていた。“おおすみ”に乗艦してからは、艦娘の誰かが必ず夕食に誘いに来てくれる。今日は誰だろうかと思っていると、扉がノックされる。

 

「提督、扶桑です。」

 

「入っていいぞ。」

 

「失礼します。夕食のお時間ですので・・・。」

 

「ああ、わかった。」

 

 そう言って、席を立ち扶桑の後を歩く。艦娘達と乗員の食堂は区切られていないので、必然的に艦娘達と俺が入ると、全員が敬礼する。それに対して答礼し、気にせず食事を続けるように言うのが今回の任務での恒例行事となっている。しかし、1日3回これをずっと繰り返すのは面倒だ。かと言って、士官食堂で食べるのは艦娘達の気が進まないらしい。帰還後には此処を要改修だな。

 

 夕食を終え、部屋に戻り仕事の続きをしていると、中条大尉が訪ねてきた。とりあえず、ノンカフェインのコーヒーを2人分淹れ、話しを聞く。

 

「それで、話しとは何です?」

 

「はい。那覇から大阪までの復路で深海棲艦と遭遇した場合は、迎撃に第2艦隊ではなく、我々、第1特機中隊を投入してほしいのです。」

 

「理由を聞いても?」

 

「それは・・・。」

 

 黙り込んでしまった。ふむ、思い当たるのは1つしかないけど、言ってみるかね。コーヒーを一口飲み、

 

「上からの命令でしょう?」

 

 そう言うと、ハッとした表情になった。当たりっぽい。

 

「どうせ、空軍出向組の八島中佐達、ガルーダ隊が戦果を挙げていることに対抗してのことでしょう?第1特機中隊も先日の戦いで戦果を挙げたではないですか。」

 

「しかし、あれは艦上からの狙撃でした。地味過ぎたようです。上としてはもっと派手な映像が欲しいとの事で。」

 

 馬っ鹿じゃねぇの。戦闘に地味とか派手とか無いだろう。

 

「大臣官房の広報課の連中ですか?」

 

「・・・はい。」

 

 ハー・・・。背広組うぜぇ。いや、これは制服組(こっちがわ)も絡んでいるか。広報課の連中を前線で働かしたら良い映像がとれるんじゃねえの。あー、クソ。俺としてはもう少し先にと考えていたんだがな。仕方ない。

 

「わかりました。復路で深海棲艦と遭遇した場合は第1特機中隊を出します。」

 

「ありがとうございます。」

 

「しかし、心許(こころもと)ないので、装備を追加します。ミク、いるか?」

 

 ミクを呼ぶと寝室からフヨフヨとやって来た。

 

「はいー、なんです?」

 

「話しは聞いていただろう?復路の航程に入るまでに第1特機中隊のジム・スナイパーⅡに追加装甲つけるんだ。ああ、重量が増えるからその分の増加ブースターも忘れずにな。できるだろう?」

 

「はいー、おまかせあれー。それじゃあ、今からとりかかりますねー。」

 

「頼んだ。」

 

 ミクはそのまま部屋から出て行く。妖精さんの見えない中条大尉には、急に扉が開いたように見えただろう。

 

「大尉、今の妖精さんとのやり取りを聞いていたと思いますが、ジム・スナイパーⅡを強化します。中隊の整備員にも周知してください。」

 

「了解しました。要望をお聞きくださりありがとうございます。」

 

 そう言って敬礼をして、部屋を出て行く。俺はラフに答礼して見送った。そして、少し考えてから、夕張を呼び出す。

 

「お待たせ、提督。どうしましたか?」

 

「ん、いや、大したことじゃないんだ。ミクがな第1特機中隊のジム・スナイパーⅡに追加装甲と推進装置を取り付ける作業に入っている。見学したければ許可を出すぞ。」

 

「ホントですか!?ぜひ。」

 

「そんじゃあ、これ持ってけ。」

 

 そう言って、簡易的な許可証を渡す。夕張は喜色満面の笑みで受け取り、

 

「ありがとうございます!!」

 

 と言って部屋を出て行く。念のために第1特機中隊の整備班に事前連絡を入れておく。ミクのほうは大丈夫だろう。さて、やることも済ませたし寝るか。

 

 当直士官からの艦内電話で目を覚ますと、もうすぐ那覇港に到着すると報告してくれた。着替えて艦橋に上がると出原中佐がいた。

 

「おはよう、みんな。」

 

 艦橋要員の敬礼に答礼をしながら、言う。司令官席に腰掛けると、コーヒーを持ってきてくれた。礼を言って受け取る。

 

「これで、まあ一安心ですかな。」

 

 同じくコーヒーを受け取りながら出原中佐が声をかけてくる。

 

「ま、ここまで来れば、空軍と第5航空群の援護にも期待ができるからな。ああ、そうだ、事前の打ち合わせ通り、半舷休息をとらせるように。那覇港には丸二日もいる予定だからな。」

 

「ええ、その件は大丈夫です。」

 

 そして、手招きして周囲に内容が漏れないように小声になって言う。

 

「沖縄地本からの連絡では、市民団体が抗議のため集まっているそうです。」

 

「その件も関わらないように周知してあります。」

 

「杞憂でしたね。」

 

「いえ、ありがとうございます。」

 

 出原中佐は礼を言って艦長席に向かう。ふう、こんな状況になっても反軍・反戦・反艦娘団体の動きが活発なのがムカつく。物資が来なくなって干上がりかけたことを忘れているんじゃないか?いや、忘れているんだろう。ま、地本と警察が上手くしてくれるだろうさ。事前に説明しているとはいえ、鈴谷達には余計な精神的なダメージを与えたくないからな。

 

 さて、那覇での休息は予想よりも良かったようだ。港の付近には地本も把握していなかった、友好的な市民団体が多数を占めており、艦娘には花飾りを送ったりしてくれた。反軍・反戦・反艦娘団体は隅っこのほうで拡声器と街宣車を使いがなり立てていたが、地本が車とバスを手配してくれていたので、乗員達や艦娘達はそれを無視して市街地へと向かうことができた。

 

 みんなが楽しむ一方、俺は地本で本部長の中間陸軍少将と面会をしていた。

 

「沖縄にも鎮守府とまではいかないまでも泊地ができればいいのですが・・・。」

 

「まあ、全ては妖精さん次第ですから。今のところ泊地として稼働しているのが、私が指揮する柱島泊地のみということもその事実を物語っています。」

 

「大将閣下のお力でどうにかできないでしょうか?」

 

「私のパートナーである妖精さんに相談してみましょう。海軍司令部壕に沖縄方面根拠地隊という先の大戦の前例がありますので。しかし、司令部を設置できる状況下なのでしょうか?」

 

「知事や県議会、各市町村長に議会は是が非でもといったところでしょうか。市民団体も以前のように反軍・反戦・反艦娘団体が活動中ですが、友好的な団体が増え、抑えとなっています。」

 

「私は、艦娘達が県民から理不尽なことをされないか心配なのですよ。こちらの都合で召喚建造しておいて、県民が反感の意思を持って接するなどあってはならないことですから。」

 

「ええ、その通りです。地本が総力を挙げ支援します。」

 

 さて、ミクはどんな返事をしてくれるかねぇ。




見てくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第68話 初船団護衛任務・その6

 復路の出港は往路と違い昼過ぎとなった。那覇港から沖に出て、船団を組む。今回は、統合幕僚監部と陸軍の希望という圧力もあったことから、迎撃任務に()くはずの第1特機中隊が警戒にあたっている。ジム・スナイパーⅡは改造を施され、陸軍お馴染みの濃緑色だった機体に黒い追加装甲と増加ブースターが装着されている。ミクによると柱島泊地に戻ったら、もう少し改造を武装面で施すらしい。ジム・スナイパーⅡじゃない何かになりそうだ。

 

 10機のうち半数の5機が出ている。2機が前方警戒、残りが左右後ろの警戒。敵潜を警戒するために曳航式のソナーを装備している。主武装はロング・レンジ・ビーム・ライフルからHWF GR・MR82―90mm、通称“ジム・ライフル”を装備している。

0083のジム・カスタムが装備していたやつだ。しかし、90mmは流石に大き過ぎるので9mmとしている。90mmなんて一昔前の戦車砲と同等だぞ。まぁ、9mmのライフル弾も十分に殺意が高いよな。

 

 それと、対敵潜用にシールドに魚雷ポッドとパイルバンカーを仕込んである。ミクによると魚雷は曳航ソナーと連動したアクティブ・ホーミングらしい。水上艦相手にも使えるとか。それと、他は頭部6mmバルカンポッド、ビーム・サーベルくらいか。

 

 陽が落ちて、夕食を終え部屋に戻って仕事をしていると、艦内電話が鳴る。

 

「湊だ。どうした?」

 

「閣下、出原です。今すぐC.I.Cへお願いします。遭難信号を受信しました。」

 

「遭難信号?わかった。すぐ向かう。」

 

 上着を羽織り、部屋を出てC.I.Cへ向かう。こんな場所で遭難信号だと?他の船団が動いているという情報は無かったはずだ。厄介事のような気がする。そう思いながらC.I.Cに入る。

 

「中佐、状況を説明してほしい。」

 

「はい、閣下。7分ほど前に哨戒飛行中のガルーダ4が遭難信号を受信しました。この地点です。」

 

 印がついている場所を見る。100kmと離れていない。70~80kmほどか?

 

「数は?それとどこの船だ?」

 

「数は1。北の船です。」

 

 はい、厄介事ー。

 

「民間船か?」

 

「貨物船のようです。左舷から煙を噴いているそうです。映像を。」

 

 モニターにガルーダ4からの映像が映し出される。確かに貨物船だ。左舷側から盛大に煙が立ち上っている。灰色の中に赤い炎の色も混じっているように見える。

 

「近くにいるのは俺達だけか?」

 

「救助だけでしたら、新田原か那覇の救難隊、海保の10管だけでも大丈夫でしょう。しかし、遭難信号を発した理由が何らかの攻撃を受けてのモノでしたら我々か、佐世保鎮守府のヘリボーン艦隊しか対応できません。」

 

「あの貨物船に何が積んであるにしろ、助けないと寝覚めが悪いな。第1特機の中条大尉を呼んでくれ。至急だ。」

 

 すぐに中条大尉がやって来る。

 

「大尉、今すぐに動かせるジム・スナイパーⅡは何機だ。」

 

「私も含めて、2小隊、5機です。」

 

「臨検をやったことは?」

 

「ありません。」

 

「海難救助もないな?」

 

「はい。」

 

 俺はため息をついて言う。

 

「今からその2つをやってもらう。北の貨物船の遭難信号を受診した。助けに行く。俺もついて行こう。何かあっても俺が対処する。いいな?出撃準備だ。」

 

「了解!!」

 

 足早に去っていく大尉の後ろ姿を見送り、出原中佐に命令を下す。

 

「船団の進路はそのまま維持しろ。今から救助に向かうと無線で送れ。平文で広域無線だ。救助対象船が持たん場合は、船員だけこちらに連れてくる。その場合の監視のために何名か腕利きを待機させといてほしい。」

 

「了解しました。」

 

「それでは、後は任せた。」

 

 そう言ってC.I.Cを後にし、部屋にいったん戻り、ミクを連れて格納庫へ向かう。既に中条大尉達はジム・スナイパーⅡ艤装を装着し終わっていた。装備は現在、警戒にあたっている連中と同じ物だ。俺もすぐにミョルニルアーマーを着込む。

 

 カタパルトを使って順次、射出され集合するとガルーダ4と“おおすみ”からの誘導に従って対象に向かう。増加ブースターのおかげか、中条大尉達は俺と同等のスピードで海上を移動している。

 

「『大尉、なかなか良さそうだな。』」

 

『はい、閣下。増加装甲も着込んだ時にはそれほど重さを感じませんでした。シールドのほうも、魚雷ポッドとパイルバンカーが内臓されているとは思えないほどに取り回しが良いです。』

 

 中条大尉も気にいってくれたようでよかった。さて、問題の貨物船が見えてきた。ズームして見てみると、甲板上で人のようなモノが動いて、火元に向かって放水をしている。どうやら乗員はまだ生きているようだ。

 

 さて、到着したのを知らせるか。ヘルメット内臓の外部スピーカーの音量を最大にする。生憎と韓国語は話せないので、英語で通達する。

 

「こちら、日本国海軍柱島泊地所属“おおすみ”搭載部隊だ。貴船の遭難信号を受診したので救助に来た。責任者は無事か?」

 

 すると、貨物船の外部スピーカーから返答があった。相手側も英語だ。助かった。

 

「助けてください。魚雷攻撃を受けました。」

 

 この付近で活動している海軍の潜水艦はいないはず。いたとしても民間船に魚雷なんぞ撃たん。深海棲艦がいるのか!?

 

「わかった。船はもちそうか?」

 

「わかりません。消火活動中ですが浸水が激しいです。」

 

「我々は貴船を攻撃した潜水艦を探し出し、沈める。船が持たないとなったら、救命艇を降ろせ。」

 

「わかりました。」

 

 話しのわかる相手でよかった。さて、潜水艦を炙り出すか。

 

「『中条大尉、対潜水艦戦闘だ。』」

 

『了解。』

 

 大尉が指示を出し、ジム・スナイパーⅡがバラけていく。15分ほど探索したところで、俺のソナーに引っかかるものが有った。念のために、その付近を数周する。間違いない。深海棲艦の潜水艦だ。

 

「『大尉、深海棲艦の潜水艦を発見した。データを送る。』」

 

『了解。これより、攻撃を開始します。』

 

 ジム・スナイパーⅡ5機のシールドから小型の魚雷が1本ずつ発射される。それに気づいた深海棲艦の潜水艦は逃げようとしたが、すぐに魚雷が追い付き命中する。と同時に大きな爆音と水柱が上がる。

 

「あの大きさの魚雷の威力じゃねえぞ、これ。」

 

 無線を切ってポツリと言うと、ヒョコっとミクが右肩に乗り、

 

「凄いですよねー。みんなで頑張ったんですよー。どうやったら現代の魚雷と同程度の威力を持たせることができるかって。それで、試行錯誤して、あんな感じになりましたー。」

 

「・・・ちなみに、試行錯誤の時間は?」

 

「う~ん、小1時間といったところでしょうかー。」

 

 それって、試行錯誤っていうのかね。ま、脅威の排除は終わった。

 

「あとは、あの貨物船をどうにかしないとな。」

 

 そう言って、貨物船に目をやると、鎮火したのか煙が薄くなっていた。しかし、喫水線付近に着弾したために、ドンドン海水が流れ込んでいる。船の傾斜角も徐々にだが増していっている。これは、船員だけでも退避させるか?色々と外交上、面倒なことになるが。そこにミクが素晴らしい提案をしてくれた。

 

「あー、あの程度なら私だけでも直せますよー。流入した海水は自力で排水してもらわないとですけどー。30分ほどお時間戴けますかー?」

 

「直せるのか!?よし、わかった。船長と話してみよう。」

 

 と言うことで、大尉達と合流し、船長にミクの話しを持ちかける。彼は諸手(もろて)を挙げて承諾してくれた。ミクが作業する間は、ミクの直衛に俺。貨物船の全周囲警戒に大尉達をあたらせた。

 

「ところで、船長、この船の積み荷は?」

 

「食糧ですよ。」

 

「修理が終わったら、臨検しても?」

 

「どうぞ。」

 

「よいのかね?船長が決めても。政治委員がいるのでは?」

 

「私が兼任していますので。」

 

「なるほど。」

 

 そして、本当に30分も経たずに魚雷で穴の開いた船体の修理が終わった。ミクが言うには「竜骨(キール)にダメージが少なかったから。」らしい。船長には、帰国後は念のためドック入りしてキチンと整備するように伝え、ミクと中条大尉のみを伴い、積み荷の確認をしていく。

 

 2時間ほどで確認は終わり、申告の通りすべて食糧だった。しかし、ミクの早業には驚いた。流石は妖精さんだ。

 

 船長を始めとした船員達に見送られ、貨物船を後にする。

 

「『中条大尉、よくやってくれた。』」

 

『いえ、閣下の助けがあってこそです。』

 

 謙遜しながらも、嬉しさが声色に混じっているのに気づくが、あえてそこはつつかないでおく。“おおすみ”にも帰艦する旨を通信で伝える。まぁ、なんとか終わってよかった。

 

 はい、よくなかったです。帰艦してミョルニルアーマーを脱いで自室に戻るなり、鈴谷、熊野、青葉、扶桑に拘束されて、艦娘居住区画の娯楽室で“おおすみ”乗艦中の艦娘に囲まれた。ちなみに、ミクは逃げた。ちくせう。

 

「なんでこうなっているかわかる?」

 

 鈴谷が問う。

 

「わからん。俺は何かしたのか?」

 

 赤城がため息交じりに言う。

 

「なぜ、今回の出撃、貨物船の救助に私達、艦娘艦隊を投入しなかったのですか?速力は劣りますが、後衛は十分に果たせると思いますが。」

 

「え、いや、君達には往路で活躍してもらったから休んでもらおうと思って。」

 

 そう言うと、鈴谷がダンッ!!と壁に拳を打ち付ける。強化されているはずの壁がへこんでいる。

 

「鈴谷達は!!そんなに弱くない!!鈴谷達は、みんなを守るために、提督のために存在しているの!!」

 

 鈴谷が涙を流しながら叫ぶ。他のみんなも今にも泣きそうな顔をしている。

 

「提督、超人的な力を持つ提督から見たら私達は頼りないですか?」

 

 扶桑が尋ねてくる。俺は首を横に振りながら答える。

 

「そんなことはない。みんなのことは頼りにしている。」

 

「それならば、なぜ今回は第1特機中隊と提督のみの出撃だったのですか?理由をお聞かせ下さい。」

 

 目を潤ませながらも、落ち着いた扶桑の声に、俺はため息まじりに言う。

 

「このことは、絶対に外に漏らすな。いいな?この部屋を出たらすぐに忘れるんだ。実は統合幕僚監部と陸軍の圧力があった。第1特機中隊の活躍が少なすぎるとな。それで、復路の船団護衛や迎撃任務には第1特機中隊についてもらった。以上だ。」

 

 そう言うと、みんなポカンとした顔をして、次第に怒りに顔を歪ませ始めた。これはマズイと思い、

 

「おい、俺達は軍人だ。上からの命令は絶対だ。それを忘れるな。その怒りはこの部屋の中だけにとどめておけ。いいな。」

 

「でも、提督、鈴谷達は艦娘なんだよ!?深海棲艦と戦うために生まれてきたんだよ!?鈴谷達の存在意義がなくなっちゃうじゃん!!」

 

「無くならん!!お前たちは、艦娘で軍人で俺の部下で、しっかりと人権を持った1人の日本国民だ。この世に生まれた時点でお前たちには、存在意義がある!!」

 

 そう俺が言うと、一気に静まり返った。鈴谷も涙が引っ込んだようだ。そして、逆にいたずらを思いついた子供のような笑みを浮かべ、

 

「ふーん、ならさ、今回のこの騒動の原因は、提督の部下である鈴谷達にしっかりと事前に説明をしなかった提督に非があるよね?」

 

「否定はせんよ。」

 

「なら、鈴谷達の心を傷つけた補償をしてもらいます!!」

 

「何を企んでいる鈴谷?」

 

「なーんにも。ただ、補償のために鈴谷達、全員にハグしてほしいなぁと思っただけ。慰めて?」

 

 最後は天使のような笑顔で言ってきた。俺はため息をつき、両手を広げる。そして、1時間以上の時間をかけて鈴谷達を順番にハグしていった。美女、美少女達を抱擁(ほうよう)出来て役得なのだろうけど、なんか素直に喜べない。




見てくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第69話 おおすみ大改造

 初の船団護衛任務を終え、柱島泊地に帰還してから会議を開いた。出席者は“おおすみ”艦長の出原中佐、ガルーダ隊隊長の八島中佐、第1特機中隊の中条大尉、艦娘艦隊旗艦の鈴谷、そして俺とミク、書記を買って出てくれた霞の7人だ。

 

「さて、皆、疲れているところ申し訳ないが、記憶が新しいうちに情報を共有したいと思い、招集させてもらった。今回の船団護衛任務での問題点を挙げて欲しい。」

 

「よろしいでしょうか?」

 

 八島中佐が手を挙げる。

 

「今回、我々ガルーダ隊は全機が“おおすみ”に搭載され運用されましたが、整備班のほうから格納庫が狭く作業がしにくいという不満点が上がりました。また、出撃する際もエレベーターに乗せるまでが神経を使ったという意見もありました。我々、パイロットは哨戒飛行時間を長くとるために空中給油機が欲しいと感じております。また、個人的意見ですが、航空管制用の艦橋設備を充実させていただきたいとも思いました。以上です。」

 

「ふむ、わかった。次は誰かね?」

 

「では、我々、第1特機中隊より要望です。まず、出撃用のカタパルトをメイヴ用とは別に設置していただけないでしょうか?メイヴ用は1基ですが、我々の大きさならば艦橋の前に2基ほど設置が可能ではないでしょうか。ジム・スナイパーⅡ自体は復路にてミクさんを始めとする妖精さん達に改良していただけたので不満はありません。以上です。」

 

「それでは、次に“おおすみ”を代表して小官から述べさせていただきたいと思います。以前の改装により、速力、防御面、索敵面は大幅に向上しましたが、折角、ソナーを装備しているので魚雷を装備できないかお聞きしたいです。」

 

 出原中佐の意見を聞いてミクを見るとサムズアップしていたので大丈夫なのだろう。

 

「わかった。ミクと相談して、“おおすみ”本体の武装面強化を図る。最後に鈴谷少佐。」

 

「はい。小官達が思いましたのは、迎撃速度です。柱島泊地の艦娘は機関を改造しているとはいえ、60ノット(約111,12km/h)が精一杯です。提督や第1特機中隊の展開速度と比べると約3分の1でありますので、ヘリボーンができるように1個艦娘艦隊を輸送できる艦載ヘリコプターの配備を求めます。」

 

「貴官らの意見はよくわかった。霞准将、記載のほうは問題ないかね。」

 

「問題ありません。」

 

「よし、では解散とする。皆、お疲れ様でした。」

 

 敬礼をして退出するみんなを見送る。残ったのは鈴谷とミク、霞だ。

 

「どうすんのよ。“おおすみ”を再改造しないといけなくなったわよ。」

 

 霞の言葉に反論ができずにうなだれる。

 

「まぁまぁ、遅かれ早かれ、こうなっていたと鈴谷は思うけど?」

 

「鈴谷さんはコイツに甘すぎです。」

 

「鈴谷は霞准将も随分と甘いと思うけどなぁ。だって、提督不在の間の書類をほとんどさばいていたんでしょ?」

 

「そう言われると、まぁ、私にも甘い所があるのかなとは思います・・・。」

 

 なんか変な空気になったので、話題逸らしにミクに話しかける。

 

「なぁ、ミク達妖精さんが考えている“おおすみ”の改造案はどんな感じなんだ。ホワイトボード使っていいからさ。」

 

「はいー。えーっとですね。まず艦体を6分割しますー。右舷前方、左舷前方、右舷中央、左舷中央、右舷後方、左舷後方ですねー。それで、全幅・全長の拡大をこのくらいしますー。全幅は50.2m拡大して76m、全長は120m延長して298.0mとなりますー。高さはいじりませんー。」

 

 そう言いながらホワイトボードに数値を書きこんでいく。いや、これ、DDHの“ひゅうが”型よりでかくね?ニミッツ級の背中が見えてくる大きさじゃねぇか。霞と鈴谷もポカンとしてミクの書く“おおすみ”改造案を見ている。

 

「もちろん、武装面も強化しますー。対空パルス・レーザーを増やすのは当たり前として、近接防空ミサイルのRAMを搭載しますー。それと、VLSを設置して対艦・対潜攻撃能力を付与しますー。余裕があれば船底に収納式の魚雷発射管も設置したいと思いますー。」

 

「うん、武装面はそれで終わりかな?」

 

「はいー。一応はこれで様子見ですねー。設備面ですが、中央エレベーター1基、舷側エレベーターを4基としますー。メイヴ用、ようは航空機用のカタパルトは2基に増設しますー。第1特機中隊と海斗さんのためのカタパルトも設置予定ですー。このあたりですねー。艦橋は航海・作戦用と航空管制用の2基を設置しますー。機関も次元波動エンジンの増設を行い機関出力を上げますー。多分、広島県の電力くらいなら賄えるんじゃないでしょうかー。」

 

「そいつは凄いな。で、いつからとりかかる?」

 

「今すぐにでも、と言いたいところですが、皆さんの私物等あると思いますので、それを移動させてからですねー。私は工廠に行ってきますー。」

 

「わかった。すぐにとりかかろう。」

 

 俺は、霞と鈴谷にミクの言ったことを伝える。2人ともすぐに了承してくれた。霞が出原中佐を始めとした“おおすみ”乗組員と第1特機中隊員達に。鈴谷がガルーダ隊員と艦娘達にそれぞれ私物の移動の命令を伝えに行く。さっきまでの変な空気は吹っ飛んだようだ。

 

「しかし、何万tになるのかね、これは。」

 

 改めて俺はミクの書いたホワイトボードを見ながら呟く。基準排水量はニミッツ級の74,000tを超えないだろうが、それでも、日本海軍の最大級艦になるのは確実だ。

 

「さて、追加のヘリコプター隊を上にねだるかねぇ。」

 

 背伸びをしながら執務室に向かう。できれば、ガルム隊と同じ陸軍第1ヘリコプター団隷下の第1輸送ヘリコプター群第106飛行隊からCH-47JAを引き抜いて、ミク達に改造させることができれば一番なんだが。

 

 SH-60Kも悪くはないが、積載量はCH-47JAが絶対によい。あの扶桑や金剛の戦艦艤装を装着しながら載せることができるからなぁ。それに今、近接戦闘パッケージの拡大版として、艤装の小さい艦娘向けにミョルニルアーマーやMS艤装を基にした中・遠距離用の戦闘パッケージも開発中なんだよなぁ。防御力も底上げするから戦艦艤装並みの大きさになりそうだというのがミクの意見だからな。

 

 とりあえずは上申書という体裁で上にかけあおう。端末を立ち上げて作業に入る。上申書が出来上がる頃には、霞が戻ってきた。

 

「すまんな、小間使いさせて。」

 

「別に。伝令も立派な任務の一つだと思っているから。」

 

「ああ、確かにそうだな。言い方が悪かった。」

 

「気にしてはいないわ。で、何か書類を作っていたんでしょう?原本は使送便で送るの?」

 

「ああ、そのつもりだ。ま、メールでも送るけどな。機密性は低いから。」

 

「へぇー、どんな内容なのよ。」

 

 霞が書類をさばきながら上申書の内容を聞いてきたので、掻い摘んで中身を教える。

 

「ふーん、いいんじゃないかしら。でも、短期間でこんなに融通してもらうと他の鎮守府から嫌みを言われそうね。」

 

「なあに。霞たちのおかげで泊地立ち上げからの短期間で充分過ぎるほどの戦果を挙げているからな。それに各鎮守府の司令長官とは人脈があるから心配無用さ。」

 

「それならいいけど。それじゃ、使送便に持っていくわね。」

 

「ああ、お願いする。」

 

 一仕事終え、背もたれに体重を預け少し楽にする。そろそろ、交代制で秘書艦を霞以外の艦娘達にもお願いするべきかな。戦闘での練度も上がってきていることだしなぁ。そんなことを考えていると、扉がノックされる。

 

「司令官、青葉です。」

 

「入っていいぞ。」

 

「失礼します。」

 

 青葉がコンデジを首からぶら下げて入ってきた。

 

「何かあったか?」

 

「いえ、“おおすみ”がどうも大改造されると聞きまして、その様子を取材したく許可をいただけないでしょうか?」

 

 少し悩む。ま、ミクが許せば大丈夫だろう。青葉に「少し待ってくれ。」と言い、工廠に内線をかけて明石にミクがいるか確認をする。まだ、いるようなので明石に今からそちらに行くことをミクに伝えてもらう。

 

「よし、そんじゃ、工廠に行ってミクの許可を貰おうか。ああ、俺としては問題ないから安心してほしい。」

 

 そう言って、青葉と共に工廠に向かう。

 

 工廠に着くと、ミクはミョルニルアーマーとスターク・ジェガンの整備の指揮を執っていた。俺に気づくと、「休憩ー。」と他の妖精さん達に言って来てくれた。

 

「海斗さん、どうかしましたかー?」

 

「いや、作業の途中にすまないね。実は、青葉が“おおすみ”の改造作業現場を見て、できれば撮影して泊地新聞の記事にしたいらしいんだよ。その許可を、と思ってね。」

 

「大丈夫ですよー。ただ、明日、“おおすみ”がドック入りしたらすぐに始めるので、時間は大丈夫ですかー?丸1日の作業になりますよー。」

 

「ああ、明日は青葉を含む船団護衛任務に就いた艦娘は休養日だ。しかし、1日ですむのか?あの大規模な改造が。」

 

「勿論ですー。工廠の皆にも手伝ってもらうので大丈夫ですよー。それに、早く完成した方が海斗さんも色々と動きやすいかと思いましてー。」

 

「ありがとう、ミク。」

 

 ミクに礼を言い、青葉にミクが許可してくれたことを伝えると、とても喜んでもらえた。そして、改造が1日で終わるであろうことにかなり驚いていた。気持ちはわかる。

 

 翌朝、朝食後に“おおすみ”のドック入りが行われた。その様子も青葉はカメラで撮る。乗員が下船するとミク達妖精さんが集まり始めた。

 

「それじゃあ、みんな頑張ろうねー」

 

「「「「「はーい。」」」」」

 

 ミクの声掛けで作業が始まる。溶断機らしきモノを持った妖精さん達が“おおすみ”を改造設計図の通りに切断していく。10分少々で終わってしまった。6分割された“おおすみ”は盤木を継ぎ足され、その上に置かれる。その後は、事前に準備してあった資材に妖精さん達が集まる。

 

 皆、俺達から見たら「それは無理だろう。」という量の資材を増設する部分に配置していく。その作業で30分ほど。そして、また溶断機らしきモノを持った妖精さんが増設部分に加工していない資材をあて繋げていく。すると資材が変化し、“おおすみ”に合うように曲部などが構成されていく。

 

 1時間ほどでその作業が終わり、船体は完成した。最後に、武装面と設備面、内部の配線・配管。波動エンジンの増設をおこなったが、昼食前には新生“おおすみ”が誕生した。

 

 俺は夢でも見ているのか?




見てくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第70話 新たな仲間

 新生“おおすみ”を出渠させるときに同席した上級士官たちは皆が一様に遠い目をしていた。あの霞や森原中佐でさえだ。岸壁に接岸すると、“しらね”と“くらま”が小さく見えてしまう。出原中佐に操艦の感想を聞くと、小型艦のような反応速度で驚いたとのことだった。まぁ、そうだろうな。

 

 ちなみに中条大尉に見せたら、フーンという感じで、

 

「ラー・カイラムとかいけるんじゃないですか?マクロスでもいいですけど。」

 

 と平然と言ってのけた。いや、多分、資材を用意したらできるんだろうけど、面倒ごとがこれ以上増えるのは嫌だから、やらない。ちなみに中条大尉達、第1特機中隊のジム・スナイパーⅡは増加装甲・増加ブースターに加え、背面に折り畳み式の2基の超電磁砲(レールガン)を装備することになった。ミクによると中距離用だそうだ。まぁ、そこまでぶっ飛んだ兵器じゃなくて安心した。

 

 さて、先日の船団護衛任務の際の報酬資材は全て“おおすみ”の改造に(つい)やしたので、現状は資材生成プラントと定期供給の資材のみ備蓄されている。森原中佐と分け合いながら使っているが、船団護衛任務中にプラントの生成能力を妖精さん達が向上させてくれたらしく、“おおすみ”の改造をした現在でも艦娘を召喚建造できる分量の資材が貯まっている。

 

 そういうわけで、久しぶりに召喚建造を行う。今回は霞と金剛が一緒に立ち会う。先日、秘書艦を試しに持ち回り制にしてみたいと皆に提案したところ、全員が手を挙げてくれて、最終的にジャンケンで順番が決まった。その試し期間の開始が今日からだからだ。ちなみに皆とって秘書艦業務は初めてのことなので、霞が試し期間中は補佐に着いてくれている。(よう)は今日の秘書艦は金剛ということさ。抱き着き癖がなければ良い()なんだがなぁ。

 

 さぁ、召喚建造だ。今回は駆逐艦娘を中心にしたいと思っている。そして、ミクの力は使わずにしてみる。工廠に着くとタンクトップ姿の夕張が迎えてくれる。明石は酒保の方にいるそうだ。ミクもやって来てくれたが、今回は助力を断る。ミクは笑顔で、

 

「頑張ってくださいねー。困ったことがあればいつでも呼んでくださいー。」

 

 そう言って、ミョルニルアーマーの整備に戻る。つーか、整備のたびにミョルニルアーマーはプチ改造されているんだよなぁ。まるで、俺がミョルニルアーマーの性能に慣れるのを見計らうように。そんなことを考えながら建造ポッドの前に立つ。4基の建造ポッドに最低限の資材を入れて、召喚建造を始める。建造ポッドが動き出し、完了時刻が映し出される。うん、これなら駆逐艦娘は確定だろう。

 

 召喚建造が完了するまで、何をしようかと考えていると、以前、ミクがジョンソン上級曹長のスターク・ジェガンの予備だと言って、好き放題造ったRGM系列のMS艤装があったな。あれをちょっと使ってみるか。

 

「なぁ、召喚建造が終わるまで金剛か霞、どちらか模擬戦しないか?そっちは実弾でいいよ。俺はあそこにあるMS艤装を試してみる。」

 

「なら、折角だから金剛さんがいいわね。私は審判をするわ。金剛さんお願いできるかしら?」

 

「OKデース。」

 

 どれにするかな・・・。小説版のグスタフ・カール軽装型にしよう。小説通りの細身の機体だからミョルニルアーマーのように動かせるだろう。Gジェネで出ていた重装型はそのうち試すさ。

 

 そして、グスタフ・カールの装着を始める。センサー起動、各部のロックよし。原子炉の稼働を確認。出力上昇中、安定域に入った。神経接続開始、・・・完了。これで動けるようになった。ちなみに神経接続ができるのは俺だけだ。他のMS艤装は脳から発信される電気信号を艤装が読み取り稼働する。だから、神経接続のできる俺より少しだけ動きが遅い。

 

 ペイント弾の入った模擬戦用のライフルを手に取り、海へと出る。既に5km先には近接戦闘パッケージを装着した金剛が待機していた。

 

「『待たせてすまんな金剛。』」

 

『大丈夫ダヨー。』

 

『2人とも準備はよさそうね。では、今から模擬戦を始めるわ。私の空砲が合図よ。』

 

 ドンッ!!と岸壁にて霞が空砲を鳴らす。それと同時に金剛が主砲で砲撃を開始する。俺は8発の主砲弾を頭部バルカンで撃ち落とす。流石、センサー系が優秀だ。金剛は増速しながら接近を始めた。両手に持ったM6H ハンドガンと主砲、副砲、各銃座で攻撃してくる。主砲弾と副砲弾は頭部バルカンで迎撃できるが、ハンドガンと銃座の銃弾は無理だな。

 

 ペイント弾を撃ちながら、回避行動をとりつつ、左手には膝横から抜いたビーム・サーベルで当たりそうな銃弾を薙ぎ払う。おぉ!!上手くできた。スパロボみたいで面白いなコレ。

 

『何デスカー!?今の!?』

 

「『ははっ、秘儀、薙ぎ払いってな。』」

 

『ズルイデース!!』

 

 ペイント弾を体をひねり(かわ)しながら金剛が文句を言いつつも主砲を撃ってくる。ほう、かなり練度を上げたな。俺はバルカンで迎撃しようとする。すると、砲弾が空中で炸裂した。

 

「三式弾か!?考えたな。だが、甘い。」

 

 背中のメインブースターを最大出力で噴かす。三式弾の弾子の雨を()(くぐ)り、金剛に急接近する。金剛はそれにハンドガンで冷静に対処する。おれはフレキシブル・シールドで防御し、さらに接近する。

 

 金剛はワンマガジン撃ち終えると、すぐに両手でナイフを構える。接近戦は俺の領分だ。刺突と薙ぎ払いを仕掛けてきたが、どちらも(かわ)して金剛のおでこに力を抑えたデコピンをする。

 

「痛いデース。」

 

「俺の勝ちだな。『霞、判定を。』」

 

『金剛少佐の頭部損壊判定により、湊大将の勝利。凄かったじゃない。特に金剛さんはペイント弾を上手く(かわ)せていたわね。艤装への被弾は有ったけど小破にもいかない被弾数だったわね。司令官はいつも通りの人外機動をありがとうってところかしら。』

 

「『俺への評価が酷いな。まぁ、いい。帰投する。工廠で合流しよう。』」

 

『了解。』

 

「金剛、帰投するぞ。入渠も許可するが、どうする?」

 

「ん~、大丈夫ネ。汗もそんなにかかなかったからネー。」

 

 そう言って、体を寄せてくる。

 

「折角だから、ヘルメットとってくださいヨー。」

 

「あいよ。」

 

 そう言って、プシュッと軽く音がして頭部パーツを外せるようになり、外す。

 

「うん、やっぱり提督は素顔の方が素敵ネー。」

 

 笑顔でそう言って、右腕に抱き着いてくる。さて、こういう時には、どう反応すればよいのだろうか?そんなことを考えているうちに工廠に着いた。海面から上がり、MS艤装を元の場所に格納する。

 

 建造ポッドの前では既に夕張と霞がスタンバイしていた。程なく艤装を置いた金剛も合流し、最後にミクがやって来る。建造ポッドに表示されている時間は4基とも0になっている。それでは、ご面会といきましょうか。

 

「ミク、ポッドを開けてくれ。」

 

「了解ー。」

 

 4基のポッドが開き、中から艦娘が出てくる。今回も艤装のみの所謂“被り”は無かったようだ。

 

「アタシ、綾波型駆逐艦“朧”。誰にも負けない・・・多分・・・。」

 

「綾波型駆逐艦“漣”です、ご主人様。こう書いて“さざなみ”と読みます。」

 

「特型駆逐艦・・・綾波型の“潮”です。もう下がってもよろしいでしょうか・・・。」

 

「僕は白露型駆逐艦、“時雨”。これからよろしくね。」

 

 ポッドから出てきた順に名乗ってくれた。

 

「私がこの柱島泊地司令長官の湊 海斗だ。階級は大将。共に戦えることを嬉しく思う。よろしくお願いする。」

 

「私は、朝潮型駆逐艦10番艦の“霞”よ。階級は准将で、泊地の副司令みたいなことをしているわ。」

 

「私は、金剛型高速戦艦1番艦“金剛”デース。階級は少佐デス。みんなと一緒ネ。」

 

 俺達もそれぞれ名乗り、用意していた少佐の階級章を4人に渡す。

 

「それでは、今から簡単にだが君たちの立ち位置について説明する。君たちは先の大戦で・・・。」

 

 と、世界の現状、艦娘の人権や軍における福利厚生などの待遇等々について説明を5分ほどで簡単に行う。それが終わると、泊地内の案内をする。とは云っても俺は司令官業務があるので、岸壁で新生“おおすみ”の巨体に驚いている4人の残りの案内を秘書艦補佐の霞に任せる。元々、その予定だったので問題は無い。俺はラフに敬礼して金剛と共に執務室へと戻る。

 

 昼食のために食堂に行くと、漣が手を挙げて招いていたので、注文したモノを受け取り、金剛と共に漣達のテーブルに向かう。テーブルには、霞、漣、曙、朧、潮、時雨がいた。

 

「ご主人様ぁ、“ぼの”が居たなら最初に教えてくださいよ~。」

 

 席に着いた俺に漣がそう言ってくる。

 

「あぁ、すまん。確か第7駆逐隊で一緒だったんだよな。」

 

「そうですよ~。霞准将に教えてもらうまで会えなかったんですから~。」

 

「ダメだよ、漣ちゃん。提督にそんな口調は・・・。」

 

「え~、ダメなんですか~?」

 

「ん?いや、そんなことはないぞ。公的な場以外でならそんなに(かしこ)まらなくていい。霞、説明はしたんだよな?」

 

 一応、霞に尋ねる。

 

「したわよ。まぁ、潮さんのは、そういう性格だと思っておけばいいんじゃないかしら。」

 

「ふむ、そんなもんかね。ま、泊地にいるときぐらいは気楽にいこうや。さぁ、とりあえずは、飯だ飯。間宮と伊良湖、鳳翔が作ってくれているから上手いぞ。」

 

 俺は笑顔でそう言いながらカレーを食べるスプーンをすすめる。

 

「話しがわかるご主人様でよかった~。」

 

 漣がニコニコと笑顔で安堵していると、朧が質問してくる。

 

「提督自身が深海棲艦と戦っているって本当ですか?」

 

 俺は、口の中のカレーを呑み込み、水を一口飲んで答える。

 

「ん、本当だ。まぁ、最近は少なくなっているんじゃないかな?なぁ、霞。」

 

「さぁ、どうだか。あ、コイツのスコアは参考にしなくていいからね。4桁いっているから。」

 

 そういうと、新参組は皆、口をポカンと開けて俺を見る。俺は手をヒラヒラと振りながら言う。

 

「装備のおかげさ。もし、俺の実力を見たいなら模擬戦するか?付き合うぞ。」

 

「いいんですか!?」

 

 朧が前のめりで聞いてくる。

 

「勿論だとも。1400から始めよう。取り敢えず、飯を食え、飯を。」

 

 さてと、どんな感じでするかね。そして、霞、そんな目で見ないでくれ。ちゃんと仕事はするから。




見てくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第71話 模擬戦

 さて、模擬戦だ。審判は霞。相手は漣、朧、潮、時雨の新参組の4名に曙、吹雪、叢雲、白雪、深雪、満潮の6名を加えた10名だ。装備は駆逐艦の標準的な装備に加え、新参組以外は近接戦闘パッケージを身に付けている。後は、各々の好きなような装備を追加している。ちなみに弾は実弾だ。

 

 俺は、ペイント弾入りのアサルトライフルと背中に対物ライフル、右腰にハンドガンと左手にはガーディアンシールド。ビーム・サーベルが使用できないので木刀を2本左腰に下げている。

 

 すでに互いに5kmをあけて正対している。審判の霞から全員へ向けての通信が入る。

 

『総員、聞こえているわね。これより模擬戦を行うわ。艦娘側は実弾を使用するから、司令官の損傷度合いはわかるけど、司令官が使用するのはペイント弾だから、艦娘側の損害はそれぞれの妖精さんが判定して、損傷度合いに応じて性能を落としていくわ。司令官を倒すか、艦娘側が全滅判定を受けるかまで模擬戦は終わらないから集中しなさいよ。では、始め!!』

 

 ドンッ!!と空砲が撃たれると同時に、既に射程内なので砲弾の雨が降ってくる。それをジグザグ機動で回避しながら距離を詰める。もちろん、それに比例して機銃が加わり弾幕も濃くなっていく。避けきれない砲弾はガーディアンシールドで受け流す。受け流した砲弾や機銃弾が後方で水柱を上げる。

 

 MA5D アサルトライフルと入れ替えでSRS99-5 対物ライフルを構える。腰だめ撃ちで初の反撃をする。銃弾が白い尾を引きながら空気を切り裂き飛んでいく。4発をすぐに撃ち終わり、ガーディアンシールドに隠れながらリロードする。

 

「キツイな。」

 

「なら終わりにしてあげるわ。」

 

 ガーディアンシールドの陰から満潮が右手にハンドガンと左手にコンバットナイフを持ち現れた。クソッ!!モーショントラッカーから目を離していた、油断した!!最大戦速である60ノット(約111k/h)の勢いの乗ったコンバットナイフの振り下ろしに対して、俺はブースターで勢いよくスライドして回避し、ハンドガンは対物ライフルの銃身をぶつけることで銃口を逸らし回避する。

 

「よくやるわね!!」

 

「それは、こっちのセリフだ。船団護衛任務に出ている間に、かなり鍛えたな。上官として嬉しいぞ。」

 

「お褒めの言葉ありがとう。」

 

 そう言いながら、回し蹴りを放ってくる。パンツ見えたぞ今。

 

「おい、対人相手にそれはやめないか?スカートだからパンツが見えたぞ。」

 

「残念、ペティパンツっていう見せパンよ!!」

 

 回し蹴りの勢いのまま、ナイフの薙ぎ払いを仕掛けてくる。それを対物ライフルの銃身で滑らせて()らす。勢いがついている満潮は少し前のめりになる。もらった!!対物ライフルを高く放り投げ、右手でナイフを持った満潮の左手を掴み、グイッと引っ張り、足を引っかける。そのまま、バランスを崩して海面に倒れるかと思いきや、踏ん張って体勢を整えようとする。しかし、その一瞬で充分。俺は木刀を振り向こうとする満潮の首に軽く当てる。一文字に赤のペイントがついた。

 

『満潮少佐、頸椎(けいつい)部に損傷、戦闘続行不能と判断。離脱しなさい。』

 

「くっ、まだまだと云うことね。」

 

 そう言って、満潮は模擬戦域から離脱する。俺は、ガーディアンシールドに身を隠しながら放り投げた対物ライフルをキャッチし、次に備える。すると、ガーディアンシールドに加わる衝撃に変化が増えた。

 

「あいつら、深雪の真似をして魚雷を投げて撃ち抜いてやがるな。」

 

 少し、顔を出すと、魚雷だけでなく爆雷も投擲(とうてき)している。これは当たったらエネルギーシールドを結構もっていかれるかもしれないな。まぁ、満潮との接近戦の後にすぐに機動戦をしかけなかった俺の自業自得か。

 

 対物ライフルからアサルトライフルに持ち替えブースターを噴かしてジグザグ機動を開始する。モーショントラッカーで確認をしながら距離を詰めていく。皆、後進しながら砲撃をしているが、速度はこちらの方が上だ。すぐに追いつく。

 

「なめんなクソ提督!!」

 

 曙の声と共にガーディアンシールドに衝撃が走る。そのままガーディアンシールドで押し返し、ガーディアンシールドから体を出すと、片足を大きく上げてバランスを崩している曙がいた。スカートの中が丸見えだ。多分、蹴りをくらわしたんだろうな。俺の視線に気づくと、

 

「こっちを見るなぁぁ!!スケベ!!」

 

 と言われてしまった。

 

「ん?見せパンを着ているんじゃないのか?」

 

「あんなの準備がいい奴だけよ。」

 

 あっ(察し)。すぐに視線を逸らし、アサルトライフルをワンマガジン分上半身があるであろう場所に叩き込む。

 

『曙少佐、上半身に致命弾多数被弾。撃沈判定よ。離脱しなさい。』

 

「覚えてなさいよ。クソ提督!!」

 

 薄ピンク色のパンツのことをか?とは言わない。ここは普通に(ねぎら)いの言葉をかける。

 

「良い蹴りだったよ。ご苦労さん。」

 

 そして、そのまま戦闘続行だ。ガーディアンシールドを此処からは武器として使う。つまりは体当たりだ。

 

「ちょ、深雪さまが標的か、マジかよ。なら、喰らえ深雪スペシャル!!」

 

 そう叫んだ深雪は魚雷と爆雷を同時に投げて撃ち抜いて爆発させる。爆風を思わずガーディアンシールドで防ぐ。そして、ガーディアンシールドを払いのけるように深雪が(あらわ)れた。両手にコンバットナイフを持っている。

 

 左からの刺突を(かわ)し、右からの薙ぎ払いをアサルトライフルの銃床で受け止める。(かわ)したナイフが再度、迫ってくる。それを左足で蹴り上げる。鈍い音ともにナイフが海面に落ちる。

 

「いってぇぇぇぇ!!これ、絶対、手首が折れたよ!!」

 

『深雪少佐、小破。痛いなら離脱してもいいわよ。』

 

「『冗談言っちゃいけないねぇ。この深雪さまは、そうそう簡単には退かないよ!!』というわけで、司令官、喰らえ深雪スペシャル2号!!」

 

 深雪が痛みをこらえながらもさらに攻撃を加えてくる。ナイフの連撃をアサルトライフルで(さば)きながら、他の艦娘の動きを見る。深雪が俺に接近しすぎているせいで、砲撃が行なえないようだ。だったらこうしよう。

 

 左手でガーディアンシールドを保持したまま深雪を抱きしめる。深雪は顔が真っ赤になり、

 

(はな)せぇー!!」

 

 と左手に持ったナイフの柄で俺の背中を叩くが、5万馬力相手にもミョルニルアーマーはビクともしない。深雪とガーディアンシールドという2つの盾を持ち、突撃する。まぁ、深雪はガーディアンシールドの内側にいるので、攻撃が当たることはまず無いだろう。衝撃は多少くるかもしれないが。

 

「深雪を盾にするなんて僕は感心しないなぁ。」

 

「時雨、戦場ではそんな甘いこと言ってはいられないわよ!!」

 

「わかっているさ。」

 

 時雨と叢雲が突っ込んでくる。時雨は近接戦闘パッケージを付けていないのにナイフを持っている。あぁ、深雪がさっき落としたやつか。叢雲は自前の槍を構えて刺突してくる。

 

「なら、返してあげよう。」

 

 そう言って、接近しつつある時雨に深雪を押し出す。2人とも思わぬ形で衝突することとなり、一瞬だけ硬直する。叢雲の刺突をターンしながら回避し、アサルトライフルのワンマガジンを未だに離れていない時雨と深雪に叩き込む。

 

『深雪少佐及び時雨少佐、大破相当の被害を受け戦闘続行不能と判定。戦域から離脱しなさい。』

 

「いってぇー。絶対折れているよな、コレ。」

 

「多分ね。早く入渠した方がいいかも。」

 

 叢雲の攻撃を(かわ)しながら痛がっている深雪に謝る。

 

「すまんな。深雪。」

 

「いいよ、いいよ。司令官が本気で戦ってくれていたってことなんだからさ。」

 

 痛みに耐えながらも笑顔でそう言ってくれる深雪は強いな。時雨と共に戦域から離脱する。

 

「これで、遠慮なくあんたに攻撃できるわね。」

 

「それは、こっちのセリフだ。叢雲。」

 

 槍の刺突をガーディアンシールドで強く弾く。そのせいで叢雲はバランスを崩すが、体勢をすぐに立て直す。アサルトライフルでペイント弾を撃つが横滑りで回避されて致命弾とならない。偏差射撃を織り交ぜてもターンして(かわ)す。フィギュアスケーターみたいだな。

 

 そうこうしていると、叢雲との距離が20mほど離れた。待っていましたとばかりに吹雪達の砲撃が再開される。すぐにガーディアンシールドで防ぐがこのままでは(らち)が明かんな。推進剤の残量を確認し、最大推力で100mほどジャンプする。太陽と重なると同時にガーディアンシールドを手放し、アサルトライフルとハンドガンでペイント弾の雨を頭上から降らせる。

 

『漣少佐、潮少佐、頭部被弾により大破相当と判定。戦域から離脱しなさい。』

 

「そんなぁ、ご主人様強すぎぃ。」

 

「・・・遊ばれちゃった。」

 

 遊んでは無いぞと言いたいが、舌を噛みたくないので無言でドンッ!!と着水する。着水と同時にさらにブースターを噴いて吹雪達の背後に周り込む。アサルトライフルとハンドガンは予備弾倉をガーディアンシールドに収納していたので2丁を手放し、赤のペイントで真っ赤に染まった木刀を2本とも抜刀する。

 

「!?、接近戦用意!!」

 

 吹雪が号令をかけるが、ちと遅かったな。最大推力で白雪にショルダータックルを仕掛ける。

 

「カハッ!?」

 

 と肺の空気が出る声と共に白雪の身体が後方に弾き飛ばされる。完全に吹き飛ぶその前に木刀を振り両足に赤い線を付ける。吹き飛ばされた白雪は水切り石のように海面を跳躍し、止まる。まぁ、近接戦闘パッケージには胴体に防具がついているから致命傷になってはいないだろう。

 

『白雪少佐、両足の切断により大破相当と判定。』

 

 白雪はすぐに起き上がり、俺に向かって通信を繋ぐ。

 

『司令官、次は負けませんよ。』

 

「『おう、練度を上げて再戦してくれ。』さて、残りは吹雪、叢雲、朧か。朧は初日なのによく動けているな。」

 

「褒めていただきありがとうございます。でも、まだ負けたわけではないので。」

 

 そう言いながら、直線的な動きで主砲を撃ってくる。

 

「まだ、人の身体に慣れないだろう?動きが艦船のソレだぞ。」

 

 すれ違いざまに胴体を斬りつける。返す刀で背面の艤装も斬る。どちらにも赤のペイントがたっぷりと付着した。

 

『朧少佐、身体の両断と艤装の損傷により撃沈判定。戦域から離脱しなさい。』

 

「再戦、させてくださいね。」

 

「おうよ。」

 

 吹雪のナイフと叢雲の槍を(かわ)しながら答える。朧が十分に距離をとったのを確認し、

 

「では、これで終わりにしよう。」

 

 そう言って、海面に向いているブースターを噴かす。巻き上げられた海水で視界が狭まる。吹雪と叢雲だけだが。俺は、モーショントラッカーで2人の位置を確認し、それぞれを一刀両断する。そして、視界が晴れると霞が俺の勝利を告げる。

 

『今回の模擬戦は、艦娘の全滅により湊大将の完全勝利。』




見てくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第72話 日常・その3

「新たな4名の仲間の着任に乾杯。」

 

「「「「「カンパーイ!!」」」」」

 

 夕食は時雨たちの歓迎会となった。艦娘だけでなく、憲兵隊、ガルム隊、ガルーダ隊、第1特機中隊、各艦の乗組員たちで参加できる者も参加している。人数は少ないがね。強制参加は好かんからね。官舎でゆっくりと過ごすのも個人の自由だ。

 

 料理に関しては、今回もバイキング形式だ。酒も出している。まぁ、みんな控えめに呑んでいるがね。俺はビールをチョビチョビ呑んでいる。時雨たちは・・・ジュースにしたようだ。柱島泊地に所属している艦娘たちが()わる()わる時雨たちに挨拶をしている。各部隊の隊長たちも様子を見て挨拶に行こうとしているようだ。

 

 2時間ほどで歓迎会を一旦締めると、そこからは無礼講となる。艦娘以外は皆が官舎に帰る。俺も霞、間宮、伊良湖、鳳翔にあとを頼み、執務室へと戻る。席に着き、端末を立ち上げる。メールの受信歴を確認すると、統合幕僚監部から“おおすみ”の件で召喚状が届いていた。

 

「ま、そうなるか。ふむ、使送便で召喚状が届いてからの出頭ね。“了解しました”っと。送信。さて、誰が秘書艦の日になるかね。ガルム隊にも明日には知らせておこう。」

 

 時雨たちの召喚建造の成功についても報告書を作成し終えていたので、端末と執務室の明かりを落として私室へと向かう。

 

 部屋に着いてからは風呂に入る前に私用のPCでネット動画を流しながら軽く筋トレをする。風呂に入り寝間着に着替えると扉がノックされた。時計を見ると2200を過ぎていた。誰だろうかと思い扉を開けると金剛がいた。

 

「・・・テートクゥ。今日は秘書艦だったのに全然一緒にいられなかったデス。わがままを言いますが、少しだけ付き合ってもらえないカナ?」

 

 モジモジとしながら潤んだ瞳で見上げてくる金剛を追い返してしまうのも可哀想だと思い、

 

「あまり片付いていないがそれでいいなら、どうぞ。ソファにでも座っておいてくれ。」

 

 と言って部屋に入れた。んで、気がついた。今、俺は生まれて初めて家族以外の女性を自分の部屋へと招き入れてしまった。あ、ミクは除くぞ。まぁ、変に意識しないでおこう。

 

「酒はさっき呑んでいただろうから、サイダーでいいか?」

 

「いいデスヨー。」

 

 冷蔵庫からサイダーとチーズを取り、食品入れからスナック菓子をとる。そして、床に座ろうとすると金剛がソファの隣をポンポンと叩くのでそちらに腰掛ける。

 

「こんなもんでいいか?」

 

「ハイ!!」

 

「そんじゃ、初秘書艦お疲れさま。」

 

「アリガトウゴザイマース!!テートクも模擬戦を2連続お疲れさまデース!!」

 

 お互いの労働のねぎらいを口にしてサイダーで乾杯をする。その後は、お互いに他愛のない話しをする。肩を並べて戦ったからか、それとも本当に俺のことが好きだからなのか、時間が経つたびに金剛が迫ってくる。喪男には辛いので新しい話題を振る。

 

「そういえば、統合幕僚監部から召喚状が来る予定なんだ。その時、一緒に新宿に行くか?終わったら東京観光でもして帰ろう。」

 

「え、本当デスカ!?」

 

「嘘は言わんよ。デートの約束をしていただろう?有休をそこに合わせてとろう。1泊2日なら充分だろう。行きと帰りはガルム隊に頼めばいいさ。飛行訓練になる。ま、公私混同ぎみだがね。」

 

「でも、霞准将や熊野は良かったんデスカ?お2人のほうが先約だったはずデス。」

 

「もちろん、霞や熊野とも出かけるとも。今度の土日にでも誘おうと思っていたさ。」

 

「なら、早く声をかけた方がいいデース。女子の準備には時間がかかりますからネ。もしかすると、今度の土日は断られるかも知れまセーン。」

 

「ふむ、そうか。そうだな。明日にでも予定を確認しよう。助言をありがとう、金剛。」

 

 そう言って、頭を撫でる。すると金剛は俺にもたれかかってきて、

 

「テートクは、ワタシ達の気持ちについて知っていると霞准将から聞きました。・・・キスをしてくれませんか?」

 

 と言ってきた。は?キス?接吻?いやいや、俺なんかがファーストキスを奪っちゃいかんだろ。金剛は目をつぶってこちらに上半身をのりだしてきている。あー、うん、わかった。するしかないか。

 

 俺は意を決してキスをした。金剛の瑞々しい唇にではなく、前髪をかき上げて額にだが。そっと口づけをしてすぐに離れる。

 

「すまん、金剛。俺にはこれが精一杯だ!!」

 

 すると、金剛は笑顔で、

 

「エヘヘ、いいデース。今はこれで。」

 

 と抱き着きながら優しく言ってくれた。あー、優しい()だ。しかし、この抱き着き癖はどうにかならんかな。

 

「金剛、統合幕僚監部では抱き着かないようにな。」

 

「大丈夫デース。時と場所をわきまえますカラ。」

 

「もうすぐで2400だ。部屋に戻れ。巡回中の憲兵に誰何(すいか)されたら俺の仕事を手伝っていたとでも言えばいい。」

 

「わかりました。では、Goodnight。」

 

「ああ、お休み。良い夢を。」

 

 金剛を見送り、片付けをしてベッドに入る。模擬戦で疲れていのかすぐに眠りに落ちた。

 

 起床ラッパの1時間前0500に起きる。いつも通り、ジャージに着替えグラウンドに出る。霞、満潮、金剛といつものメンバーに今日から鈴谷と熊野が加わる。そしてなぜか今日の秘書艦の深雪がいる。もちろん、運動着姿で。

 

「深雪、秘書艦だからといって俺の自主トレには付き合わなくていいんだぞ?」

 

 俺は準備運動をしながら言う。深雪も準備運動をしながら言う。

 

「だって、折角の秘書艦だよ?好きな人と長く居られるんだから好機(チャンス)はモノにしないとね。深雪さまは霞准将のように長く一緒にいなかったし、金剛さん達のように大人な体型じゃないからね。一緒にいる時間を長くして深雪さまの良いところをアピールしようってわけ。」

 

「なるほど。まぁ、今でも充分にアピールできているけどな。俺なんかと一緒にいるために早起きしてくれたわけだし、自分の想いを伝えてくれたしな。」

 

 そう俺が答えると、霞から指摘が来る。

 

「“なんか”っていうのはいただけないわね。あんたはしっかりと実績を上げているでしょうに。それに、時雨さん達4人を除く、あんたに好意を持っている私達30人が馬鹿にされているようでムカつくわ。」

 

「それは、すまなかった。謙遜しすぎも身を滅ぼすか・・・。」

 

「まぁ、日本人の美徳ではあるわね。いきすぎなければだけど。っと、準備運動終わり。ねぇ、深雪さんはこの後のトレーニングも付き合うの?」

 

 霞が深雪に尋ねる。深雪は「もちろん!!」と元気よく答える。そんな深雪に霞が、

 

「いい、司令官の、あいつのペースについていこうとは考えないで。あいつは文字通り化け物並みの身体能力を持っているから潰れちゃうわ。」

 

 と脅す。俺の自主トレを見たことのある4人、満潮と金剛、鈴谷はウンウンと頷き、熊野は少し困った顔をする。その様子をみて深雪は、

 

「わかったよ。深雪のペースでやらせてもらう。ごめんな司令官。」

 

「謝ることはない。陸上は俺のフィールドだからな仕方ないさ。それじゃあ、みんな始めようか。」

 

 そうして、いつものルーティンを行う。深雪はしっかりと自分のペースで出来ているようだが、俺が2回周回遅れにして抜かしたら「えぇ・・・。」と言って絶句していた。その後の腕立て伏せなどの筋トレも信じられないモノを見る目だった。まぁ、仕方ないな。

 

 朝食を摂ったあとは執務室で霞と深雪を交えて今日の予定を確認する。“しらね”は既に哨戒任務のために出港している。四国沖を通り四国をグルっと周るような航路だ。60ノットで大体8時間程度の航程になる。もちろん接敵が無ければだが。

 

 その“しらね”に艦載艦娘艦隊として、扶桑を旗艦に青葉、龍田、時雨、赤城、加賀の6名が随伴している。もちろん魔改造されたSH-60K改も1機搭載されている。さらにその露払いとしてガルーダ隊が哨戒飛行を開始している。

 

 そして、残った“くらま”と“おおすみ”はそれぞれ、近海で訓練を行い、艦娘達もヘリボーン艦隊に選出されていない者は自主訓練や休息をとるなど思い思いのことをしている。そして、ヘリボーン艦隊を輸送するCH-47JA改“チヌーク改”を有するガルム隊はローテーションでスクランブル待機をしている。

 

 んで、俺が今日は基本的にデスクワーク。秘書艦の深雪と秘書艦補佐の霞も俺と同じということになる。3人で端末を使いそれぞれ書類を作成したり、筆記で処理をしていたりすると、ドタドタと廊下をかけてくる音が聞こえた。強化された俺の聴覚からしばらくして霞も気づいたようで手を止め顔をあげる。深雪はまだ気づいてないようだ。

 

 足音が扉の近くになると深雪も気づき、

 

「なんだ、騒がしいな。」

 

 とぼやく。それと同時に扉がバンっと開かれた。俺はその人物に注意をする。

 

「ノックぐらいしろ、曙。」

 

 曙が第7駆逐隊の漣、朧、潮を伴ってやってきた。まぁ、3人は少し遅れての入室だったが。

 

「クソ提督、なんで時雨少佐が出撃で、同日配属の朧達は泊地待機なのよ!!」

 

「別に深い意味があるわけではないさ。新兵の教育には熟練兵のサポートが多くできたほうが良いと思ったからだ。次回の哨戒任務には朧を、その次は漣を、その次は潮を、と考えてはいるがね。それで、今回、時雨が一番だったのは強化した艤装に早く馴染んだように見えたからだ。もちろん、指揮官目線として。」

 

「それじゃあ、朧達は強化した艤装にまだ慣れきってないというの!?」

 

「落ち着け、曙。俺は“馴染んでいる”とは言ったが“慣れている”とは言ってないぞ。習熟度でいえば、4人とも同じだ。ただ、俺は妖精さん達と話しができるからな。時雨の艤装の妖精さんが「イケる。」と言ったし、先程も言った通り馴染んでいるように見えたから今回出撃させた。わかったか?」

 

「・・・っ!?わかったわよ!!」

 

 そう言って曙は執務室を出て行く。それを潮と漣が追いかける。朧だけが残り聞いてくる。

 

「提督、朧達の艤装の妖精さんは何も言わなかったんですか?」

 

「いや、3人とも「イケる」と答えてくれたよ。すまんな。馴染んでいるかどうかは俺の勘だから。」

 

「いえ、いいんです。出撃をさせてくれるなら。それと曙がすみませんでした。失礼します。」

 

 一礼をして退室する。まだ、午前中でこれかと思いフゥとため息をつくと、深雪が笑顔で、

 

「やっぱり司令官って優しいな。みんなのことを考えてくれているんだから。司令官の指揮下で戦えることが深雪さまは誇らしいぞ。」

 

 と言ってくれた。元気出た。




見てくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第73話 対潜戦闘

 昼飯を霞、深雪、吹雪、白雪と一緒に摂り、午後の業務に手を付ける。昼飯のあとでしかも天気も良く、暖房もほどよく効いているのでなんだか心地がいいな。フワフワとした感触を味わいながら書類に目を通しサインをしていくと、無線電話が鳴る。表示は“ガルーダ4”からのものだ。外部音声にしてから受話器を取る。

 

「『湊大将だ。』」

 

『こちらガルーダ4。北進中の駆逐級の“はぐれ”を1隻見つけました。本隊はガルーダ3が捜索中です。沈めますか?』

 

「『少し待て。』どうしたほうがいいかね?」

 

 霞と深雪に尋ねる。

 

「私としては、今後のためにも捕獲をして研究にまわす方がよいと思うわ。」

 

「ん~、深海棲艦だろ?沈めちゃえばいいじゃん。深雪なら沈めるけどなぁ。」

 

 2人とも正反対の意見を出してくれた。確かに捕獲して研究が進めば対深海棲艦用の武器の開発もできるだろう。しかし、逃げ出すなどしてしまったら、駆逐艦といえども暴れられたら警察の力では無理となり、軍を投入しての市街戦となるだろう。悩むがこんなチャンスはなかなか無い。捕獲することにしよう。

 

「よし、霞の案を採用して捕獲する。『ガルーダ4、そのまま接敵を続けろ。“しらね”より艦娘艦隊を出撃させ、捕獲する。』」

 

『ガルーダ4、了解。』

 

 ガルーダ4との通信を切り、“しらね”につなげる。

 

「『柱島泊地、湊大将だ。』」

 

『閣下、牧原です。』

 

「『ガルーダ4から通報があっただろうが、はぐれの駆逐艦が近くにいる。扶桑少佐たちを出撃させ、捕獲してほしい。』」

 

『了解しました。捕獲後は武装を封印して“しらね”にて柱島まで曳航でよろしいでしょうか?』

 

「『頼む。』」

 

『了解しました。状況を開始します。』

 

 あとは無事に捕獲できたと報告が来れば万々歳だな。扶桑がしきしているから大丈夫だろうけど。そして、敵の本隊はどこだ?ガルーダの眼からは逃れられないと思うが。

 

「敵の本隊が見つかってないのが不思議だね。」

 

 深雪が言う。同意しながら不自然な点に気づく。

 

「そうだな。ちょっと待てよ、『ガルーダ4、“はぐれ”は損傷しているか?』」

 

『いえ、どこも損傷していません。カメラでも確認しました。・・・おかしいですね。損傷していないのに速力が低い。10ノット出ていません。』

 

「罠かもしれんな。『ガルーダ4、すまんが高度を下げて海面下を確認してくれ。』」

 

『了解。』

 

 一旦、ガルーダ4との通信を切り“しらね”につなぐ。

 

「『牧原大佐、湊だ。艦娘艦隊は出撃したか?』」

 

『いえ、まだです。』

 

「『では、そのまま待機だ。』」

 

『了解しました。』

 

 これで、よしと。あとは隣室の指令室に移動しよう。あちらのほうが機材が揃っている。

 

「霞、深雪、指令室に移動するぞ。」

 

 2人を連れて指令室に入る。指令室の機材は24時間常に電源が入っており、中央のディスプレイには現在任務を遂行中の“しらね”やガルーダをはじめ、各鎮守府の艦隊の状況も映し出されている。これは、ミク達が造ってくれたからできているのであって、通常の指令室ではこんなに情報は表示されない。

 

 指令室に入って2分も経たずにガルーダ4から通信が入る。

 

『各種赤外線装置に引っかかりました。潜水艦です。5隻います。』

 

「やはりいたか。『ガルーダ4、その目標を追尾可能か?』」

 

『可能です。』

 

「『“しらね”より艦娘艦隊を対潜装備で出撃させる。上空援護を。』」

 

『了解。』

 

 そして、“しらね”にも敵の罠だったことを伝え、捕獲命令を取り消し扶桑たちを対潜装備で出撃させるように命令を下す。扶桑とガルーダ4は直接、やり取りをするように伝えるのも忘れない。

 

「いやー、よくわかったね。司令官。」

 

「深雪の一言のおかげだな。“敵の本隊が見つかってない”という。」

 

「あー、あれかぁ。特に意味も無く言ってみたんだけどな。でも、こうして役に立ったようならなによりさ。」

 

「おう、扶桑たちを奇襲から守れた。」

 

 そう言いながら、深雪の頭を撫でる。霞がジト目で見てきたのですぐにやめたが。

 

「さて、“しらね”からは無事に扶桑たちが出撃したな。」

 

 ディスプレイには“しらね”から離艦し、目標へと向かう6個の輝点が現れる。そのまま、最大戦速で目標へと向かう。目標の上空でガルーダ4が周回機動をしている。

 

「あら、もう発艦したのね。」

 

 霞の言う通り扶桑、赤城、加賀が艦載機を発艦させているのが扶桑のヘッドカメラで確認できる。そして小さな輝点がディスプレイに増える。扶桑は瑞雲、赤城と加賀は烈風と爆雷搭載の彗星、流星で構成された戦爆連合のようだ。

 

 ちなみに、重巡以上の大型艦艇にも近接戦闘パッケージには数は少ないが爆雷も装備されている。なので扶桑、青葉、赤城、加賀も数は少ないが爆雷の投下ができる。聴音機のみでアクティブ・ソナーが無いので命中精度はお察しだが。ふむ、そこらへんの改造もミクと相談してもいいかもしれない。

 

 次第に瑞雲と戦爆連合に速度によって差が出始める。戦爆連合の第一波攻撃でどれだけ敵潜を沈められるかが勝負だな。

 

『こちら、ガルーダ4。駆逐級が対空戦闘態勢に入りました。』

 

「『よし、ガルーダ4、ASM-2で確実に仕留めろ。』」

 

『了解。』

 

 ディスプレイ上でガルーダ4からASM-2が発射されたことが表示される。駆逐級までの距離と予想命中時間が表示され、数字を刻み始める。そして、ASM-2を示す輝点が駆逐級に重なると時間差で駆逐級の輝点が消える。

 

『命中を確認。敵艦の爆沈を視認。警戒監視に戻ります。』

 

「『よくやった、ガルーダ4。』さて、扶桑たちは今ここだ。そして、赤城と加賀の戦爆連合がここ。少し離れて扶桑の瑞雲隊がここ。ガルーダ4から送られてくるデータによれば敵潜には動きはない。深度も変えて無いようだ。」

 

「ふん、甘く見られたものね。」

 

「どうかな。深雪はどう思う?」

 

 深雪に尋ねる。

 

「う~ん、深雪としては駆逐級が沈められたのに敵潜が戦域を離脱しないのに違和感を覚えるかな。だって、駆逐級は釣りで言う餌だったわけだから、それを失ったら普通は引き上げるよね。」

 

「確かにそうだな。なら、奴らの目的はなんだ?」

 

「隠密行動に長ける潜水艦が危険を冒して近海まで来たのなら情報収集じゃないかしら?」

 

「霞、そう思う根拠は?」

 

「えーっと、こんなことを言うと自惚れているみたいで嫌なんだけど、私達の泊地が稼働し始めてから西日本での深海棲艦の撃沈数が上がっているじゃない。もし、私が深海棲艦のお偉方ならその理由を知りたいと思うの。それで、実際に駆逐級を囮にして隠密性に優れた潜水艦で相手の探知能力と処理能力のデータを得ようとするんじゃないかしら。」

 

「と、なるとだ、敵潜の配置を確認しよう。先程沈んだ駆逐級の前に1隻、すぐ後方に2隻そして、100mほど開けて最後尾に2隻。定石で云えばこの最後尾の2隻が情報収集担当艦だろう。」

 

 そう言うと、霞も深雪も頷いて同意の意思を示してくれた。

 

「なら優先順位は決まったな。『扶桑、赤城、加賀、最後尾の敵潜から沈めろ。情報収集艦の可能性が高い。』」

 

『了解しました。赤城少佐、加賀少佐も大丈夫です。』

 

「『よし、頼んだぞ。』『ガルーダ4、敵潜の監視を続行。1隻たりとも逃すな。』」

 

『了解。』

 

 ガルーダ4が高度を下げて5,000mで敵潜を中心に周回機動を行う。そして、敵潜は相も変わらず7ノット程度で北進を続けている。そして、赤城と加賀の戦爆連合による空襲が始まる。

 

 ガルーダ4から送られてくるカメラ映像では海面にいくつもの大きな水柱が上がるのが確認できる。その中の1つの赤外線カメラが敵潜の爆沈を捉えた。冷めた青色表示の海水が瞬時に赤色に変わる。

 

「よし、まずは1隻。」

 

 航空機用爆雷は彗星三三型はあと2発、流星はあと5発残っている。40機の瑞雲もまだ投下していないから各機1発ずつだ。残りの4隻を仕留めるには十分だろう。僚艦が撃沈されようやく発見されていることに気づいたのか、残りの4隻は散開し始めた。そのうちの2隻が扶桑たちのほうへと変針する。

 

「『扶桑、敵潜が2隻そちらに向かっている。魚雷に注意。』」

 

『ありがとうございます。提督。時雨少佐、龍田少佐が前方で敵潜への警戒をしていますので、大きな問題はないかと。』

 

「『まぁ、油断はするな。窮鼠は猫を噛むぞ。』」

 

『了解しました。』

 

 ディスプレイとガルーダ4からのカメラ映像には瑞雲隊も合流し2隻目へと爆雷を投下している様子が映し出されている。数十個の水柱の中に爆炎が混ざる。これで2隻目も沈んだ。3隻目は残った爆雷を全て投下され、一瞬で海の藻屑となった。

 

 扶桑たちのほうへ向かった2隻は魚雷を放ってから転進した。しかし、60ノットで航行している扶桑たちは難なく避けて、龍田と時雨が敵潜へと接近し、敵潜を中心に円運動しながら爆雷を投下する。1隻は爆沈したようで、海面が盛り上がり爆炎が上がる。もう1隻はたまらずに浮上をする。

 

「『扶桑、沈めるな!!捕獲できるなら捕獲してくれ。』」

 

『了解しました、提督。龍田少佐、時雨少佐、敵潜の捕獲できそうかしら?』

 

『大丈夫よ、扶桑少佐。時雨少佐、敵潜が潜航しないように機銃で外殻に損傷を与えましょうね。』

 

 無線から機銃の発射音と悲鳴のような叫び声が聞こえる。深海棲艦のモノか?龍田のヘッドカメラの映像を拡大表示するとどうやらそのようだ。頭を抱えてうずくまっているように見える。指令室のデータベースと照合すると不明と出てきた。確かにカ級でヨ級でもないようだ。新型か?

 

『・・・、ウゥ、ヤ、ヤメテ・・・。投降スルカラ・・・。』

 

「しゃべった!?」

 

「しゃべったわね。」

 

「しゃべったな。」

 

 霞と深雪もしっかりと聞いたようだ。攻撃をしていた龍田と時雨も戸惑っているようで、

 

『・・・提督、私の耳、爆雷でおかしくなっちゃったのかしら。目の前の深海棲艦が話したように聞こえたわ。』

 

『僕も聞こえたよ。深海棲艦は話さないんだっけ?』

 

「『俺と霞准将、深雪少佐も聞いた。深海棲艦の個体が我々、人間の言葉を話すとは聞いたことが無い。まぁ、深海棲艦が現れて1年半しか経っていないからな。例外もいるんだろう。捕獲できそうか?』」

 

『ええ、大丈夫よ。投降するって言っていたから。近接戦闘パッケージの“捕縛ワイヤー”を使うわ。時雨少佐、手伝って。』

 

『うん、わかったよ。』

 

 龍田のカメラからの映像では頭に艤装?を載せた深海棲艦が四肢の自由を奪われ捕縛されていく。あ、胸デッカイな。ていうか髪で隠れてわからなかったけど何も付けて無い!?すぐに映像を旗艦の扶桑のカメラに切り替える。

 

「見たでしょ?大きかったわね。」

 

 霞が腕組みしながら聞いてくる。その横で深雪は笑いをこらえている。

 

「・・・見た。大きかったっ!?」

 

 言い切る前に霞のドロップキックを脇腹に喰らった。艤装を付けて無いとはいえ、生身でも鍛えている艦娘の蹴りだ。なかなかに重い。脇腹をさすりながら、

 

「良い蹴りだったぞ霞。そして、深雪、真似をしようとしない。だから、その屈伸をやめなさい。」

 

 「ちぇ~。」と深雪は不満を漏らしたがやめてくれた。霞もドロップキックが命中してスッキリしたようだ。

 

「さて、あんた、この後どうするのよ?」

 

「とりあえずはウチで面倒を見る。俺の知る限りでは生きて意思疎通のできる深海棲艦の捕獲は初めてだからな。中央の出方を見たい。」

 

「お人好しね。」

 

「深雪はそんな司令官が好きだけどな。」

 

 そう言いながら深雪が抱き着いてくる。霞に目をやると、諦め顔をしながら頷いたので、深雪をワシャワシャしてやった。猫とじゃれている気持ちになるな。そんなことをしながら扶桑のカメラ映像を見ると、青葉が曳航して龍田、時雨、赤城、加賀が近接戦闘パッケージのM6Hハンドガンとコンバットナイフを深海棲艦につきつけている。扶桑は全周囲警戒か。

 

 “しらね”が帰港したら箝口令を泊地全体に敷こう。牧原大佐にも“しらね”乗員の箝口令を徹底するように命令を出しておこう。さて、どうしたもんかね。新型深海棲艦さんよ。




見てくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第74話 新型深海棲艦・その1

 扶桑たちが捕獲した潜水艦の新型深海棲艦は“しらね”に乗艦させ、格納庫で手足に拘束を施す。その際に格納庫で待機していた整備要員は移動させる。手足を拘束した深海棲艦はそのまま、応急処置用の展開式ストレッチャーに載せられその肢体が見えないように毛布を被せる。そして、扶桑たちは二人一組で見張りを開始する。

 

 それらの行動を扶桑のヘッドカメラ映像で確認しながら、その都度、艦長の牧原大佐や扶桑に指令室から指示を出し続けた。深雪は途中で飲み物を持ってきてくれたり、提出までの期限が短い未決裁の書類を持ってきてくれたりした。おかげで、俺は指令室で書類仕事の続きができた。

まぁ、“しらね”に搭載した時点で、指揮を霞に委任してもよかったんだが相手は新型だからな。何かあった時には俺が責任を取るべきだと思ったんだよ。現在、上空哨戒はガルーダ5と6が行なっている。

 

 “しらね”はその後、接敵も無く無事に瀬戸内海に入った。ここまでくれば、もう庭みたいなもんだ。何かってもミョルニルアーマーで現場まで行ける。さて、“しらね”が戻ってくる前に警備体制を整えないとな。憲兵隊はもちろん動かすが、深海棲艦が暴れた際に取り押さえるには艦娘か艦娘並みの力が必要となる。

ということで憲兵中隊の坂本大尉と第1特機中隊の中条大尉を指令室に呼び出す。

 

「何か問題でも起きましたか?」

 

 坂本大尉が聞いてくる。

 

「ただいまの時刻をもって泊地内に箝口令を敷く。憲兵中隊は厳戒態勢をとってほしい。」

 

「了解しました!!」

 

「そして、内容だが、新型の深海棲艦の捕獲に成功した。潜水艦だ。今は、“しらね”にて拘束中だ。」

 

 そう言うと、2人が息を呑む。

 

「閣下、私共、憲兵隊は捕虜の移送も行いますが、生きた深海棲艦の移送は前例がありません。」

 

「だろうな。というわけで中条大尉、第1特機中隊の出番だ。」

 

 中条大尉が姿勢を正す。

 

「現在、扶桑少佐率いる艦娘艦隊の監視下で拘束中だ。“しらね”が接岸したら、すぐに深海棲艦の監視を引き継いでほしい。可能か?」

 

「はい、可能です。2個小隊の2交代で監視にあたります。」

 

「よろしい。ああ、今回はRGM-79SPではなくRGM-96X“ジェスタ”を使用しろ。工廠で受領後に任務にあたれ。中条大尉は退室してよろしい。」

 

「了解しました。失礼しました。」

 

 敬礼に答礼をし、中条大尉を見送る。扶桑たちが深海棲艦の捕獲に成功したと聞いてすぐにミクに連絡し、資材を目一杯使用していいからフルスペックのジェスタを12機用意させたんだよ。この短時間でよくやってくれたと思う。そして、憲兵中隊用にも装備を準備している。

 

「坂本大尉、憲兵中隊も工廠にて装備を受領したまえ。ODST(軌道降下強襲歩兵)用戦闘服が用意されている。迷彩服3型よりも高性能な戦闘服だ。分隊ごとに受領してくれ。工廠が混み合うからな。」

 

「了解しました。受領後は第1特機中隊の支援にまわればよろしいでしょうか?」

 

「そうだ。通常業務との(あわ)せてということになるので、分隊単位で任務にあたってくれ。以上だ。質問が無ければ退室してよろしい。」

 

「了解しました。失礼しました。」

 

 強化された聴覚で坂本大尉が十分に離れたことを確認すると、深く息を吐きながら椅子に座り込む。深雪が温かいお茶を渡してくれる。

 

「ありがとう、深雪。どうしてこう、次から次へと厄介事が起こるかねぇ。退官したい・・・。」

 

「おっ、それはもちろん深雪達を嫁に貰って退官するんだよな?」

 

「あのねぇ、深雪。この国は一夫一妻制だから無理だよ。」

 

「内縁の妻でもいいよ?」

 

「そういう話しじゃないんだよなぁ・・・。」

 

 指令室のディスプレイに映し出される映像と輝点を眺めながら答える。

 

「深雪さん、既成事実を作ってしまえばこのクズ司令官は落とせるわよ。」

 

「既成事実?」

 

 霞が深雪に小声でなんか言っている。クソッ、俺の聴力でギリギリ聞き取れない声量で話してやがる。でも、その話しを聞いている深雪の顔が段々赤くなって、俺の下半身と自分の下腹部を交互に見ている。あっ!!まさか、既成事実っていそう言うことか!?

 

 霞が深雪から離れると、

 

「ねぇ、しれぇかぁん。深雪とつきあいを深めようよ。」

 

 とろんとした眼差しと口調で深雪が近づいてくる。

 

「おい!!霞、何を吹き込んだ!?」

 

「別に?“雄しべ”と“雌しべ”の話しをしただけよ。」

 

「やっぱりか!!それは、いかん!!おい、深雪、流されるな。しっかりと意識を(たも)て。」

 

 俺は、深雪の両肩を掴み揺さぶる。そうすると、深雪は目を閉じて唇を差し出してくる。そうじゃないんだよなぁ。どうすっかね、これは。金剛と同じ対応をしてみるか。すぐに深雪の前髪をかき上げて額に口づけをする。これでどうだ!?

 

 数秒後、何をされたか理解した深雪は更に顔を真っ赤にして聞いてくる。

 

「ししししし司令官、今のは!?」

 

「あー、その、なんだ、深雪たちの気持ちに応えるのは今はこれが精一杯だと思ってくれ。伊達に28年間も喪男をしていたわけじゃないんだよ。相応の心の準備やら法の壁やらがあるからな。」

 

「・・・わかった、ありがと。」

 

 そう言って、深雪は壁際まで下がりエヘヘと笑っていた。俺は霞に向き直り言う。

 

「頼むから変なことを吹き込まんでくれ。」

 

「別に変な事じゃないでしょう?あんたのことを時雨さん、漣さん、朧さん、潮さん以外の皆が好きだというのは前に教えたじゃない。」

 

「それはそうだが・・・。」

 

「でも、なんか手慣れた感じだったわね。さっきの接吻。」

 

「へっ!?いや、あー、あれだ、漫画とかでよくあるシーンじゃないか。」

 

「ふーん、私はてっきり金剛さんにしたことで慣れたのかと思ったわ。」

 

「っ!?」

 

「あ、金剛さんを責めないでね。ただ、あんなに幸せオーラを出していると気づくわよ・・・。」

 

「あー、うん、そうだな。そうだ。金剛はそういう艦娘()だったな。隠すのは難しいわな。」

 

「というわけで、初期艦娘の私にもして頂戴な。」

 

「・・・本当に俺でいいのか?」

 

「あんたがいいのよ。」

 

「わかった。」

 

 そうして、霞の額に口づけをする。はぁ、指令室で何をやっているんだろうね、俺は。霞は凄く満足したような顔をしている。

 

「っと、そうだ、森原中佐にも教えていた方がいいよな?」

 

「この泊地でしばらく匿うんでしょ?なら、味方は1人でも多いにこしたことはないわ。ただ、森原中佐は深海棲艦への恨みがねぇ・・・。」

 

「そこは、俺が何とかする。」

 

「そ、ならいいんじゃないかしら。」

 

 というわけで森原中佐と秘書艦の電少佐を呼び出す。

 

「すまんな。中佐。」

 

「いえ、電少佐たちの訓練中でしたので問題ありません。」

 

「そうか。では、本題に入ろう。扶桑少佐たちの艦娘艦隊が新型深海棲艦を捕獲した。潜水艦だ。」

 

「本当ですか!?」

 

「本当だ。こちらの攻撃で多少傷ついてはいるが意思疎通が図れる。つまり、我々の言葉を話せる。なぁ、中佐。今、この話しを聞いてどう思った。」

 

「沈めてやりたいと思いました。」

 

「それだけかね?」

 

「いえ、意思疎通が図れるとのことでしたので、話してみたいと思いました。」

 

「ふむ、理由は聞かないでおこう。中佐、君が彼女に危害を加えないと約束するならば、話せるように調整しよう。どうかね?」

 

「是非ともお願いします。」

 

「ああ、わかった。話しはそれだけだ。訓練中に呼び出してすまなかった。ああ、そうだ。ジョンソン上級曹長に言伝(ことづて)を頼む。」

 

「はい。」

 

「“ODST用戦闘服を憲兵中隊に装備させている。勘違いしないように。”以上だ。退室してよろしい。」

 

「はっ。」

 

 指令室を退室する森原中佐を見送る。その数分後、扉をノックされた。ふむ、誰も呼んでないが先程聞こえた足音からして坂本大尉と中条大尉か。

 

「憲兵中隊、坂本大尉です。入室許可を願います。」

 

「第1特機中隊、中条大尉です。同じく入室許可を願います。」

 

 大当たりだ。

 

「どうぞ。」

 

 と俺は言い、深雪が扉を開く。そこにはジェスタ艤装を装着しミョルニルアーマーを着込んだ俺並みのデカさとなった中条大尉とブーツとヘルメット分だけ身長が高くなった坂本大尉の姿があった。

 

「「失礼します。」」

 

 同時にそう言って指令室に入ってくる。入ると同時に2人ともヘルメットを取り敬礼をする。俺はラフに答礼し聞く。

 

「どうだ、中条大尉、慣れそうかね?」

 

「出力が上がっているのでジム・スナイパーⅡと同じように感じます。総推進力は下がっていますが、全備重量も下がっているので今まで通りのように対応可能かと。」

 

「それはなによりだ。坂本大尉はどうかね?」

 

「はい、閣下。この多機能ヘルメットのおかげで隊員間の連携が向上できるかと思います。着用した感じも悪くなく武装も今まで通りのモノが使用できるので、問題はありません。」

 

「よろしい。では、“しらね”が到着するまでは待機していてくれ。」

 

「「了解。」」

 

 俺は、ディスプレイに映る輝点と映像を見る。さぁ、もうすぐ会えるな新型深海棲艦。こちとら知りたいことが山ほどあるんだ。洗いざらい吐いてもらうぞ。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第75話 新型深海棲艦・その2

 新型深海棲艦を載せた“しらね”を出迎えるために俺はミョルニルアーマーを着込んで係留用の岸壁に立っている。他に第1特機中隊と憲兵中隊から坂本大尉が直率して2個小隊が万が一に備え待機している。それと、ついて来なくてもいいと言ったのだが、霞と深雪もいる。2人とも近接戦闘パッケージまで付けた完全武装だ。あ、勿論、森原中佐もジョンソン上級曹長と電少佐を連れて来ている。

 

 サイドスラスターを巧みに操りながら“しらね”がスーっと接岸する。接岸作業が終わると同時に、格納庫から伸びる後部スロープで扶桑たちがストレッチャーに載せた新型深海棲艦を運び出す。その様子を眺めていた森原中佐は怒りと悲しみが混じった表情をして両手を固く握っている。第1特機中隊は不測の事態に備え、半数がビーム・ライフルをストレッチャーに向けている。憲兵中隊は余人が立ち入らないように警戒をしてくれている。

 

 程なくして俺のところへ扶桑たちがやってきた。

 

「提督、扶桑以下6名帰還しました。」

 

 扶桑が敬礼して報告する。俺は答礼をしながらねぎらいの言葉をかける。

 

「ご苦労だった。小規模な戦闘と予期せぬ結果があったようだが無事に還ってきてくれて安堵している。さて、堅苦しいのはここまでだ。全員、楽にしてくれ。扶桑、このストレッチャーに載っているのが新型深海棲艦か?」

 

「ありがとうございます。はい、その通りです。新型深海棲艦の潜水艦となります。」

 

 ストレッチャーに横たわる深海棲艦は龍田と時雨の機銃攻撃で負った傷口から未だに出血しているようでかけられた毛布が点々と赤くなっている。

 

「傷の状態を調べたい。この場合は医務室がいいか?どう思う、霞。」

 

「ええ、医務室で見ましょう。工廠だと暴れられた時に危ないから。」

 

「よし。扶桑たちはそのまま工廠に行って入渠に。ここからは第1特機中隊と憲兵中隊が引き継ぐ。」

 

「わかりました。それでは、失礼します。」

 

 扶桑たちが敬礼をして、工廠へと向かう。

 

「さて、俺達は医務室に向かうぞ。霞、深雪、戸田先生に先触れを。」

 

「了解したわ。いきましょう、深雪さん。」

 

「おう。」

 

 霞と深雪が駆けていく。俺は、第1特機中隊の中条大尉と憲兵中隊の坂本大尉に指示を出す。

 

「第1特機中隊は医務室前の警備を。憲兵中隊は建物へと出入りする人間の管理を。」

 

「了解。」

 

「了解しました。」

 

 2人がそれぞれ隊に指示を出し始める。俺はストレッチャーに拘束されている深海棲艦に近づき話しかける。

 

「俺の言葉がわかるか?」

 

「・・・ワカル。」

 

「今からお前の治療のために移動をする。そこには医師や看護師がいる。非戦闘員だ。理解できるか?」

 

「医師ハ治療ヲシテクレル人。看護師モ同ジ。武器ヲ持タナイ。」

 

「そうだ。もし、お前が先生達に手を出そうとしたら俺がお前を殺す。だから、治療の間は多少痛くても大人しくしていろ。いいな?」

 

「ワカッタ。」

 

 ふぅ、なんとか意思の疎通はできたようだ。中条大尉に声をかけ、第1特機で医務室までストレッチャーを移動させる。ジェスタが集まっていると特殊部隊感が凄いな。ガンダム好きなら写真を撮りたいに違いない。ちなみに俺はヘルメットカメラの機能で写真を撮っている。

 

 医務室に入り、男性医師で中佐の戸田先生に引き渡す。第1特機は医務室に繋がる扉や窓のところで待機する。戸田先生は新型深海棲艦に掛けられていた毛布を剥ぎ、冷静に傷口を確認していく。流石、第1次・第2次首都圏防衛海戦で前線にて治療行為を行なっていた人だけのことはある。

 

「閣下、傷の手当の前に弾丸が体内に残っていないかレントゲンを撮り確認したいので補助をお願いできますか?それと、輸血の際の血液型も調べておきたいので採血をしてもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、大丈夫だ。艤装はどうする?」

 

「そのままで。」

 

 そしてまず、採血をした後にストレッチャーごとレントゲン室に運び入れる。レントゲン撮影台の上にストレッチャーから移乗させるときに呻かれたが気にしない。戸田先生の指示に従い、深海棲艦の体位を変えて撮影していく。

 

「終わりました。診察室へ戻しましょう。」

 

 またストレッチャーに移乗させ診察室へと戻る。しばらくしてレントゲン室から撮影したモノを持って戸田先生が出てきた。

 

「6発が体内に残っています。他の傷口はこのまま縫合しますが、麻酔いりますかね?あぁ、それと、血液型はABでした。」

 

「さぁ、どうだろうな。本人に聞いてみよう。」

 

 俺は深海棲艦に向き直り聞く。

 

「お前の体内には弾丸が6発残っている。それを取り出さなければ治療が進まない。だが、その前に他の傷口を縫い合わせ止血する。縫い合わせの時に麻酔は必要か?」

 

「・・・大丈夫ダト思ウ。」

 

「よし、わかった。中佐、お願いする。」

 

「ええ、では縫合しましょう。一応、女性なので傷口が目立たないように真皮縫合を行います。おーい、池田君、これから縫合するぞ。輸血の準備も頼む。AB型だ」

 

「はい、先生。」

 

 手術着を着た男性看護師の池田少尉がカートを押して手術室からやってきた。カートの上には様々な医療器具が載っているが、門外漢のおれにはさっぱりわからん。あ、輸血パックとメスだけはわかるな。

 

「さて、深海棲艦さん。今から消毒をしながら傷口を縫っていく。消毒はしみるだろうが暴れんでくれよ。」

 

「ワカッタ。」

 

 そして、治療が始まる。戸田先生は慣れた手つき血管に針を刺し、輸血を開始する。そして手際よく縫い合わせていく。ベテランだからなのかみるみるうちに止血がされ傷口が塞がっていく。

 

「よし、これで大体は終わりだ。このままここで弾丸の摘出もしよう。そこまで深くはないようだかね。」

 

「はい、先生。松下さんを呼んできます。オペ室で待機していますので。」

 

「ああ、頼むよ。私もちょっと着ておこう」

 

 そう言って、池田少尉は女性看護師の松下大尉を呼びに行く。というか、弾丸の摘出なんてそう簡単に出来るもんなのか?よくわからんなぁ。ランボーとかだと熱したサバイバルナイフで傷口を・・・としていたけどなぁ。

 

 戸田先生は治療用のエプロンみたいな処置着から手術着に着替える。

 

「中佐、俺はいてもいいのかね?」

 

「閣下にいてもらえたほうが安心ですね。暴れてもすぐ取り押さえてくれるでしょう?」

 

「まぁ、そうだがね。医療行為とは言え医療関係者でない俺が、敵とはいえ女性の裸体を見るのはどうなんだと思ったんだよ。」

 

「気にされない方がいいですよ。それにこの医務室では私の指示が1番だと思ってください。そう思えば気が楽でしょう?」

 

「まあな。」

 

 そんな感じで雑談をしていると、新しいカートと共に池田少尉と松下大尉がやってきた。

 

「よし、それではやろうか。」

 

 戸田先生の掛け声とともに弾丸摘出術が始まる。メスで傷口を切り開いて、なんか引っかけるような器具で松下大尉が傷口をよく見えるようにしている。そしてハサミみたいな器具を使って弾丸を摘出する。早いな。

 

「いやぁ、浅い所で止まっていてよかったよかった。次に行きますね。」

 

 そう俺に縫合しながら報告して次の弾丸の摘出を行う。いや、俺にいちいち報告しなくてもいいんだけどな。先生はこういうところが律儀なんだよなぁ。艦娘が入居するほどでもない軽い怪我をした時も内線で報告してくれるし。

 

 そうこう思案しているうちに3個目も無事に摘出し縫合を終えるところだった。

 

「さて、では次に一番難しいところをやろうか。」

 

「?どこなんだ、中佐。」

 

 質問をすると、下腹部辺りを指差す。それでもわからず首をかしげると、

 

「ここですよ。ここ。鼠蹊部になります。」

 

 そう言って深海棲艦の股間付近を指で丸くなぞる。あ、ちょっと今、深海棲艦がビクッとしたぞ。しかし、凝視しにくい場所だな。

 

「弾丸の侵入痕はもっと上のほうにあるようだがそこまでいっているのか。」

 

「ええ、骨盤の近くでとまっています。靭帯や動脈、静脈にリンパ管、神経などが通っていますので少し難易度が上がりますね。あっ、血が跳ねるかもしれませんので注意してください。では、切開していきます。」

 

 そう言ってメスで開口部を切り開く。

 

「ああ、よかった。血管は大丈夫みたいですね。このままサッサと終わらせます。」

 

 そして、言った通りに4個目も無事に摘出した。残りの2個もすぐに摘出し、手術は無事に終わった。ちなみに深海棲艦は痛みのあまりに気絶していた。仕方ないな。俺も麻酔無しの手術なんてされたら耐えられる自信なんて無い。

 

「ありがとう、中佐。さて、医師の立場からの意見を聞きたい。この深海棲艦を独房にいれるべきかね?」

 

「いえ、2~3日はこちらで様子を見ます。思いの外、出血をしていたようでかなりの量の輸血をしましたから。」

 

「わかった。護衛と見張りに第1特機中隊をつける。何かあれば中佐が指揮を()るんだ。」

 

「戦闘指揮は経験があまり無いんですがねぇ。仕方ありません。了解しました。」

 

「レンジャー徽章と空挺徽章を持っていてよく言う。」

 

「ハハ、趣味ですよ、趣味。まぁ、とにかく患者は小官の管理下でしっかりと治療します。」

 

「頼んだ。貴重な情報源だ。」

 

 そう戸田先生に言って、医務室を後にする。報告書を上げたら今度の召喚の時に絶対に小言を言われるな。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第76話 新型深海棲艦・その3

 新型深海棲艦を手術した翌日、俺は幕僚監部からTV会議をするという連絡を始業前に受け、今は執務室で端末のカメラ機能を起動させて幕僚監部の面々に対して報告を行っている。1つは“おおすみ”の大改装について、もう1つは捕獲した新型深海棲艦についてだ。

 

 “おおすみ”については、仕方ねぇなという空気の中、流れで認められた。まぁ、今の日本に艦載機なんてウチの“メイヴ”6機しかねえもんな。そんだけで空母なんて言われたら軽空母持っている国が泣くぞ。

 

 んで、新型深海棲艦について、まずは呼称をということで潜水艦“ソ級”というモノが付けられた。ウチで捕獲した個体は公的にソ級1号という呼称で呼ぶように言われた。それと、しばらくウチで面倒を見て報告書を上げるようにも言われた。俺個人のみかと思ったが、日常生活で接触のあった者は全てらしい。1行でもマル秘報告書として扱うとのことだった。

 

 それと、箝口令はソ級の体力回復を待って解除してよいとのことだった。幕僚監部も隠し通せるとは思っておらず、近いうちに世間に公表だけはするとのことだった。ま、ここは政治も絡んでいるんだろう。メンドイから俺はパスだが。

 

 そんな感じで、俺の召喚の件についてだがそれは取り消しとなり金剛との約束をどうするかなぁと思っていたら、旭日大綬章の授与の日程が決まったので受け取りに来いとのことだった。イラナイと言ったが聞き入れてもらえなかった。仕方ないね。

 

 ま、金剛との約束を破らずに済みそうだ。

 

 さて、今日の秘書艦は愛宕なんだが、秘書艦補佐の霞の俺に対する視線が昨日よりもかなりキツイんだが何かしたか?ふむ、始業前はいつものルーティンをこなして朝食を愛宕を加えたいつものメンバーと摂り、TV会議に臨んだ。ん~、わからん。ここは変に小細工せずに直球で聞くべきか。

 

「なぁ、霞、俺はなんかしたか?いつもより視線がキツめなんだが。」

 

「昨日の自分の行動を思い出しなさい。」

 

「昨日の行動ね。手術の後は、ソ級の艤装を取り外したりしてそれをカメラで撮って、執務室で他の動画と合わせて確認していたぐらいだろう?」

 

「つまり、あんたは敵とはいえ、女性の裸体を眺めていたわけでしょ?」

 

「ちょっと待ってくれ。あれは、仕事で仕方なくだ。わかるだろう?」

 

「わかるけど・・・。ああ、もう!!やっぱりこの感情は慣れないわね。」

 

「何の感情だ?」

 

 俺が問うと、愛宕が答えを言ってくれた。

 

「提督~、それは“恋心”あるいは“乙女心”ですよ~。」

 

「なるほど。ふむ、業務に支障があるほどなら休むか?精神面の不調は放っておくといかんからな。」

 

 そう言うと、霞は顔を真っ赤にし涙目になって俯いた。

 

「提督~、それではダメですよ。ホント鈍感なんですから。」

 

 愛宕からダメ出しを喰らう。

 

「え?あーっと、霞、一仕事終わったから甘味でも間宮の所に行ってもらってこよう。んで、景色のいいところで少しゆっくりしようじゃないか。・・・嫌か?愛宕はしばらく1人で大丈夫か?」

 

 そう言うと、霞は「わかったわ。」と言い、愛宕は満面の笑みで空中に丸を描いてくれた。よかった。霞にライディングウェアを着て寮の前で待っているように言うとキョトンとしていたが意味が分かったようで、ほんの少し笑顔を見せてくれた。俺は間宮と伊良湖の所に行き温かい茶と切り分けられた羊羹、最中(もなか)を貰い、自室に戻り、着替えてVTRに跨り、艦娘寮へと向かう。

 

 寮の入口に着くと、すぐに霞が出てきた。意味をはき違えずヘルメットも持ってきていた。

 

「んじゃ、ちょっくらプチツーリングといこう。霞、跨れるか?」

 

「少し怖いわ。」

 

「まぁ、鈴谷もそんなこと言っていたな。大丈夫だ。すぐ慣れるさ。取り敢えず、手は俺の腰に回すか、肩を掴むといい。その方が安心だろう?」

 

「なら、腰に。」

 

「よしきた。」

 

 霞の手が腰にしっかりと回されたことを確認してVTRを発進させる。目指すは柱島の北端の岬。そこで江田島のほうを見ながらゆっくりしようと思う。目的地まで走っていると、インカム越しに霞が話しかけてくる。

 

「ごめんなさいね、さっきはあんな態度をとって。ホントに自分でもよくわからなかったの。」

 

「まぁ、俺も悪いところはあったしな。それに霞が最初期の艦娘だとしてもこの世に生を授かってから約1年半ぐらいだろう?仕方ないさ。それに霞はまだ抑えられている方だと思うぞ。人間なんて刃傷沙汰になることもあるからなぁ。」

 

「ああ、確かに。新聞やTVで時々ニュースになるわね。」

 

「そうそう。いつの世も最終的に人間が一番怖いのさ。昔から鬼も悪魔も化け物も人間の姿をしているしな。」

 

「フフ、確かにそうかもね。それに鬼はあんたの専売特許じゃない。ねぇ“鬼神さん”?」

 

「う~む、恥ずかしいな。」

 

 そんな他愛ない会話をしながらだと、目的地までもすぐに着いてしまう。タンデムシートから降りる霞に手をかして、2人で岬の平らな場所にレジャーシートを広げ、間宮と伊良湖の甘味を温かいお茶と共に楽しむ。

 

「そういえば、改めて、旭日大綬章おめでとう。」

 

「まだ貰っていないけど、ありがとう。」

 

「しかし、つい数か月前はあの江田島で提督課程を受けていたなんて信じられないわね。」

 

「ホントに。しかも短期講習ときたもんだからびっくりしたよ。」

 

 そんな感じで思い出話をしていると30分も経っていた。霞に「そろそろ戻ろう」と声をかけると、ぐいと首元を引っ張られ、キスをしてきた。

 

「えーっと、今のはキスということでいいのか?事故では無く。」

 

「ええ、そうよ。ふむ、羊羹と最中のおかげか甘いファーストキスになったわね。」

 

「平然とした口調で言っているけど、顔が真っ赤だぞ。」

 

「あんたもおんなじもんよ。」

 

「そらあね。で、理由は?」

 

「あんたの最初は初期艦娘の私がもらうわ。もちろん、みんなにも承諾を得ているわ。」

 

「え?いつの間にそんなもんが決まったの?驚きなんですが。」

 

「いいから、とっとと帰るわよ。」

 

 そう言って、霞は道具を持ってVTRのもとへと向かう。俺も荷物を持ち後を追う。

 

 執務室に戻り、霞の言ったことの真偽を愛宕に確かめると本当だったらしい。そして愛宕からは、笑顔で、

 

「フフ、提督、次は私、愛宕にしてくれます?」

 

 と誘ってきたが「また、今度な。」と言って断った。すると、愛宕は笑みを深めて、

 

「しっかり者の提督で私は嬉しいわ~。でも、いつでも待っていますからね♪」

 

 と言われた。確定事項なんだ・・・。んー、金剛との東京行きも少し怖くなってきたな。貞操の危機かもしれん。

 

 昼食後はソ級の見舞いに行く。ODST用戦闘服を着込んだ憲兵に誰何され、建物の中に入り、入院区画でもジェスタ艤装を着込んだ第1特機中隊員に誰何され病室に入る。もちろん、入室の際にはノックをして返事を受けてから入る。一応女性だからな。

 

 患者用の病衣を着ているせいか肌の白さが余計際立つな。それに点滴の輸血パックの血液の赤色も。

 

「よお、調子はどうだ?痛み止めが効いているだろ?」

 

「ウン、昨日ノ麻酔無シノ手術ヨリカハ大分マシ。」

 

「そうか、艤装は昨日、お前が気絶している間に外して工廠で厳重保管してある。取り戻そうなんて馬鹿な真似は考えるなよ?」

 

「ワカッテイル。アンナ痛イ思イハ二度トシタクナイ。」

 

「それはなにより。ところで今日は見舞い以外に報告があってな。お前さんと同型は“ソ級”と呼称するようになった。そしてお前は“ソ級1号”として公的には呼称される。しかし、俺としては(いささ)か固い呼び名だと思っている。なので、この泊地にいる間は別の、そうだな愛称とでもいうべきか、それで呼ぼうと思っている。どうだ?」

 

「名前ヲクレルノ?ナラ貰ウ。」

 

「希望はあるか?」

 

「ナイ。イヤ、ワカラナイ。ドノヨウニ名ヲ付ケテイイノカ。」

 

「だろうな。泊地の人員に公募のような感じで愛称を決めるがいいか?」

 

「是非モ無シ。任セル。」

 

 どっかの戦国武将みたいな返事をしやがって。

 

「飯はどうだ?内臓に損傷はなかったから俺達が食うものと一緒のモノを出したんだが。」

 

 そう言うと、前のめりになり、

 

「トテモ美味カッタ。降伏シテ良カッタト思ッタ。」

 

「そ、そうか。まあ、この泊地にいる間は飯の心配はしなくていい。さて、今日は此処までにしよう。明日、また来る。」

 

「ワカッタ。」




読んでくださりありがとうございます。

みなさん、よいお年を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第77話 受勲

1週間投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。

今年も拙作をよろしくお願いします。



「緊張して疲れたー。」

 

「お疲れ様デース。テートク。」

 

「取り敢えず、どっかで飯を食おう。緊張が解けたら腹が減ってきた。」

 

「了解デース。ホテルではドウデスカー?着替えないといけないデスヨ?」

 

「そうだな、そうしよう。」

 

 今日は俺に対して旭日大綬章を授与される日で、前日から金剛と共に東京に来ていた。ちなみに、大改装した新生“おおすみ”を幕僚監部の面々が見学するのは明日になっている。それで、俺は宮中にて天皇陛下から労いのお言葉を戴き、勲章を直に礼服に付けてくださった。前例のないことらしく、宮内庁の職員や総理大臣が固まっていた。

 

 今の俺と金剛は海軍の第2礼装に外套を羽織っている。流石にこれで動くと目立つな。金剛の提案通りにホテルへ戻って着替えよう。今日は午後から半休、明日1日は有休をとっているから、金剛と東京を散策できる。

 

 タクシーでホテルに戻って、互いの部屋で着替えてホテルのレストランに向かう。お高いホテルだが、昼はランチ営業をしていることもあって、ドレスコードが無い。だから、俺達もラフな格好で入れる。まぁ、ホテルの従業員には俺のことがバレているからかこんな格好でもVIP扱いだ。

 

「ランチのコースを2人分で。食前酒はいりません。紅茶をお願いします。」

 

 席に着いて注文をする。あれこれ悩むよりはコース料理の方がいいだろう。金剛にも確認はしているしな。

 

 料理を楽しみながら金剛と今後の予定を話し合う。

 

「改めて江戸城跡を散策するのもいいな。今は報道陣もはけただろうし。」

 

「アー、それなら私は靖国神社に行きたいデスネ。」

 

「ああ、勿論、そのつもりだ。多分、今の予定だけで2~3時間は時間がかかるだろうな。となると、その後は銀座辺りにでも行くか?歩いていけば夕飯に丁度いい時間になる。」

 

「そうですネ・・・。ウン、OKデス。」

 

 そんな話しをしていると、泊地専用のマナーモードにしていた携帯が鳴る。俺は金剛に断わってから席を立ち、レストランの外で着信を取る。

 

「湊大将だ。どうした?」

 

『明石です。閣下、お休みのところすみません。』

 

「気にするな。で、急ぎか?」

 

『はい。ミクさんがそちらに行きたいと紙に書いて伝えてきたものですから、どうしたものかと思いまして。』

 

「なるほど、ミクはいるか?」

 

『はい、お電話代わりますね。』

 

 そう言って、明石がミクに受話器を渡すやり取りが聞こえる。

 

『海斗さん、私を横須賀まで連れて行ってくださいー。“おおすみ”は今日、横須賀へ出港するんですよねー?』

 

「“おおすみ”の件はそうだが、なぜこちらに来たいんだ?」

 

『う~ん、嫌な予感がしたから。ではダメですか~?』

 

「待て待て。横須賀には俺のミョルニルアーマーも置いてあるんだぞ?それでもか?」

 

『はいー。』

 

「・・・わかった。第1特機中隊と共に来るんだ。いいな。」

 

『ありがとうございますー。』

 

「明石、聞こえていただろう?霞と中条大尉に話しを通しておいてくれ。」

 

『了解しました。』

 

「また何かあったら連絡してくれ。」

 

 そう言って、電話を切る。俺のミョルニルアーマーも金剛の艤装も横須賀鎮守府に預けてある。通常の深海棲艦が押し寄せてきても、ミクの支援無しで乗り切ることができると思っていたが、ミクはそうではないと思っているようだ。横須賀鎮守府に警告を出しておくべきだろうか?

 

 そんなことを考えながら席に戻ると金剛が心配そうに、

 

「何か悪い報告デシタカー?」

 

「いや、ミクが嫌な予感がするから、“おおすみ”と共に横須賀へ来たいとのことだった。」

 

「ンー、ミクさんがそう言うなら横須賀鎮守府の長野大将に相談しておいたほうがいいかもしれませんネ。」

 

「そう思うか?」

 

「ハイ、軍人として。」

 

「わかった。取り敢えず食事が終わってから連絡しよう。」

 

 昼食を終え、一旦部屋に戻り横須賀鎮守府へと電話をかける。電話受付の者に名前と階級、軍籍番号を伝え長野さんに取り次いでもらう。長野さんはすぐに電話に出てくれた。

 

『テレビ中継を見たよ。旭日大綬章(きょくじつだいじゅしょう)おめでとう。しかし、“おおすみ”がこちらに来るのは明日のことだろう?どうかしたかね?』

 

「ありがとうございます。実は長野さんにお願いがありまして、私の相棒の妖精さんのミクを覚えてらっしゃいますか?」

 

『ああ、覚えているとも。他の鎮守府の召喚建造に干渉できるなど前代未聞のことだったからなぁ。』

 

「そのミクが嫌な予感がするので“おおすみ”と共に横須賀へ来たいとの事でした。既に許可は出したので、明日には“おおすみ”と共に到着すると思います。」

 

『ふむ、あの妖精さんがか・・・。わかった。念のため、今日から1カ月ほど哨戒艦隊を増やしておこう。海や川に面した首都で被害を受けていないのは東京だけだからな。なにより君と配下の艦娘達のおかげで九州侵攻も四国・近畿侵攻も未然に防がれた。私が深海棲艦の日本担当だったら焦るな。』

 

自棄(やけ)になる可能性が高いと?」

 

『推察だがね。まぁ、こうして事前に助言をしてくれたんだ。やってみせるさ。第1空挺の特機も増強されている。やれないことはないだろう。では、連絡に感謝する。』

 

「お忙しいところ失礼しました。」

 

 長野さんが受話器を置くのを待って、通話を切る。まぁ、今の俺にやれることはやった。あぁ、そうだ、幕僚長の真護叔父さんにも話していた方がいいか。すぐに電話をかけて、長野さんと似たようなやり取りをして終わる。長野さんと違ったとこで今回は海軍航空隊と空軍もしばらく哨戒飛行の回数と密度を増強するということか。ま、なにはともあれ打てる手は打った。金剛との休日を満喫しよう。

 

 部屋まで金剛を迎えに行き、江戸城跡を散策する。金剛はロングスカートにハイネックニットを合わせてトレンチコートを着こなしている。美人が()える。金剛の希望で手を繋ぎながらブラブラとする。平日だからか江戸城跡はあまり人が多くない。ゆっくりと史跡を見てまわれる。そのまま、北桔梗門から日本武道館のほうへと歩く。靖国神社はタクシーで行くより徒歩で行きたいとの金剛の希望があったからな。

 

 江戸城田安門を出ると、道路を挟んで左手側に靖国神社の大鳥居が見える。鳥居をくぐり大村益次郎像を過ぎて、本殿での正式参拝をする。参集殿内の受付で名前を書いたら凄く驚かれた。周囲の参拝客の皆さんにも素性がばれてしまい記念撮影を頼まれてそれに応じた。また、皆さん金剛のことを彼女だと思っていたらしく艦娘であることを伝えると拝み始めた。まぁ、先の大戦で戦没した戦艦が現代に甦って、また国のために戦っているんだもんな。仕方ない。

 

 そんなちょっとしたトラブル?もあったが、その後は巫女さんが1人案内についてくれて遊就館ではスムーズに見学ができた。先の大戦に触れた展示物に対して金剛は思う所があるのか瞳を潤ませていたので、そっとハンカチを渡した。

 

 その後は来た道を戻り、銀座へと向かう。んー、そう言えば銀座に行くのは初めてかもしれないな。秋葉原とかには行ったことはあるが。

 

「ネェネェ、テートク。木村屋の“あんぱん”を食べてみたいデス。」

 

「あー、老舗だったな。俺も名前は聞いたことがある。夕食の前に行ってみるか。」

 

「ハイ!!」

 

 というわけで木村屋に行ってみると、カフェやディナーを提供するレストランもあるらしく、カフェであんぱんを食べ、レストランでディナーコースを楽しんだ。その後は、三越に行き色々と買い込んだ。

 

 ホテルへ戻り、シャワーを浴びて寝間着姿で寛いでいると、扉がノックされた。

 

「テートク、金剛デス。」

 

「どうかしたか?」

 

 と言いながら扉を開けると寝間着姿の金剛がいた。そのまま廊下に立たせているのも悪いので部屋へと入れる。

 

「折角ですから、テートクともっとお話しがしたいなぁと思って。」

 

「俺は構わんが、酒もつまみも無いぞ?それでいいなら・・・。」

 

「あ、さっきルームサービスを頼みマシタ。ちゃんと自分のお給金から出しますヨ。」

 

「手回しのよいことで。金は俺が払う。少しは甲斐性のあるところを見せようじゃないか。」

 

 ルームサービスで酒とつまみで互いの口を軽くし、談笑しながら日付が変わるギリギリまで楽しんだ。就寝前にはキスをした。艦娘全員に霞とキスをしたことが知れ渡ってしまったからな。ちなみにその先まではいっていないぞ。年齢=彼女いない歴の童貞の意気地の無さをなめるな。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第78話 光る右手

そろそろMS艤装にガンダムタイプを仲間入りさせてもいいのかなと思い始めました。やっぱり空挺からでしょうかね。


 いつも通りの時間に目が覚める。いつものルーティンを行うために部屋を出ると金剛もジャージに着替えて部屋を出るところだった。小声で声をかけてくる。俺も小声で返す。まだ5時だからな。

 

「テートクは絶対に早起きすると思ってマシタ。いつものですよネ?」

 

「ああ、そうだ。ここから皇居外苑まで走り、外苑を数周してからホテルに戻り、筋トレだ。」

 

「了解デース。今日は本気を出さないでくださいネ。みんながビックリしちゃいますから。」

 

「わかっているさ。金剛に合わせるよ。」

 

 フロントにカードキーを預け、早朝の東京の町を皇居外苑目指して走る。金剛を追走するような形で走っているのだが、これってストーカーと間違われないよな?嫌だぞ、職質を受けるのは。

 

 最初はそう思っていたが、マスクとかで顔を隠さなかったのが良かったのだろう。すれ違う警察官からは敬礼されて、おじいちゃんおばあちゃんからは拝まれた。これが旭日大綬章の力か・・・。

 

 皇居外苑に着くと金剛と共に皇居方面へ向かい敬礼をする。そして外苑を走り出す。平日でも結構な人が走っている。金剛のペースに合わせて5週してからホテルに戻り、一緒に俺の部屋で筋トレやストレッチを行う。その後は、汗を流すために金剛は自室に戻り、俺はそれを確認してからシャワーを浴びる。

 

 朝食を摂った後は制服に着替えて横須賀鎮守府に向かう。勿論、金剛も少佐の階級章を付けた制服に着替えている。艤装を装着する時の服は、艤装と共に横須賀鎮守府で預かってもらっている。んで、防衛省が手配してくれた車に乗り込み出発する。

 

 1時間ほどで着き、横須賀鎮守府司令長官の長野大将に挨拶に行く。憲兵の先導で執務室まで向かう。すれ違う艦娘や提督たちから目礼をされながら進む。執務室に着くと案内の憲兵がドアをノックして告げる。

 

「長野司令長官、湊大将と金剛少佐をお連れしました。」

 

「どうぞ。」

 

「失礼します。」

 

 そう言って憲兵が扉を開け、俺と金剛が室内に入る。そして、敬礼をする。長野大将の答礼を待ってから手を下ろす。

 

「思いの外、早かったんじゃないかね。取り敢えず、座ってくれ。金剛少佐もだ。吹雪少佐、お茶を頼む。」

 

 礼を言いながら金剛と席に着く。

 

「“おおすみ”は浦賀水道に入ったとの連絡が来たよ。接岸まであと小一時間といったところかな。」

 

「ご迷惑をおかけします。」

 

「何を言う。国防戦力が上がったのだよ。手薄だった九州・沖縄の。喜ばしいことだよ。」

 

「はぁ。しかし、妖精さん達の気まぐれでもありますから。」

 

「それは仕方がないことさ。彼らを縛れる者などいないからね。」

 

 話しが一旦途切れたタイミングで吹雪少佐がお茶を出してくれる。「ありがとう。」と礼を言い、口をつける。

 

「聞いているだろうけど幕僚監部の面々はヘリで来る予定だ。」

 

「はい、“おおすみ”を上空から見たいとのことでした。」

 

「まったく、ミクさんは輸送艦をとんでもないモノに仕上げたものだね。全長298m、全幅76m。専用の艦載機を運用し、ウェルドッグも備え艦娘艦隊の輸送・整備・補給もできる。さらにはMS艤装装備の陸軍の特機中隊か。“くにさき”や“ひゅうが”、“いせ”にも同様の改造を施してほしいね。」

 

「ハハハ、資材が枯渇しますよ。」

 

「ああ、間違いない。ホントに面白くて不思議な存在だよ妖精さんは。」

 

 そうしてしばらく雑談をしていると、長野大将の机の緊急通報用の赤電話が鳴る。

 

「長野だ。・・・空軍から?航空隊はどうしている。・・・なるほど。確かに分が悪いな。少し待ってくれ。湊君、金剛少佐、ミクさんの悪い予感が当たったぞ。敵襲だ。出られるかね?」

 

 長野大将が受話器の送話口を塞ぎながら聞いてくる。

 

「勿論です。金剛少佐もいけます。」

 

 金剛が頷く。

 

「よし、わかった。すまん、待たせた。陣容と数は?・・・230体もの深海棲艦が陣形を組まずに進軍しているのか!?艦種は!?・・・確認できていないか。わかった、ヘリボーン艦隊も出撃させる。第1空挺団の特務機動装甲大隊は動いているな?・・・ならばいい。報告ご苦労。」

 

 そう言って、受話器を置く。長野大将は俺と金剛を見ながら説明する。

 

「空軍の哨戒網に敵が引っかかった。高高度からの発見なので艦種の特定はできないようだが、最低でも230体の深海棲艦が首都圏を目指してやってきている。完全に奇襲だ。各鎮守府にも連絡はいっている。一応はヘリボーン艦隊を先行して出撃させるそうだ。間に合うかどうかは別としてな。空挺の特機大隊も出撃準備に入っている。ま、ようするにだ。我々、横須賀鎮守府と君達2人で迎撃の先陣となるということだ。」

 

「わかりました。金剛少佐とともに出撃準備に入ります。また、“おおすみ”に対しても反転し迎撃行動をとるように下命します。」

 

「頼んだ。幕僚監部の面々には私から説明しておこう。武運を祈る。」

 

 敬礼をして執務室を出て、工廠に向かう。

 

 工廠では横須賀鎮守府所属の艦娘達が出撃準備を整え、各艦隊が出撃していく。俺と金剛は更衣室で艤装を着込むために着替えて、それぞれミョルニルアーマーと艤装を装着する。誘導員の指示に従って出撃の順番を待つ。デカいところだとこういう役職もいるんだなと呑気に考えていると、すぐに俺達の番が回ってくる。港内では周囲に合わせてゆっくりと、しかし、バラけ始めると俺と金剛は最大戦速で前進を開始する。60ノット(約111km/h)で最初に出撃した艦娘艦隊を追い抜く。

 

 すでに“おおすみ”には命令を下し、第1特機中隊の第2小隊と第3小隊が出撃し、ガルーダ隊は全力出撃をしている。浦賀水道を抜けると“おおすみ”の巨体が見えてきた。俺はさらに加速して金剛を引き離し、“おおすみ”の甲板に着艦する。すぐにミクと他の妖精さんがやってきた。すぐそばには台車に載せられた何かがある。な!?これはまさか・・・。

 

「シャイニングフィンガーですー。最初はゴッドフィンガーにしようと思ったんですけど、やはり最初はシャイニングフィンガーかなーと思いましてー。両手分ありますのでミョルニルアーマーの上から装着しますねー。2分ほどで終わりますー。」

 

 ミクがそう言うと妖精さん達が作業を始める。俺は、両手に持っていた装備を置いてただ突っ立っているだけだ。シュールだな。その間に出原中佐と通信で話す。

 

「『敵の艦種はわかったか?』」

 

『はい。ガルーダ隊からの報告で目視できる全てがレ級とのことです。』

 

「『・・・最悪だ。何としてでも他の艦隊が到着するまでに数を減らす。』」

 

『了解しました。本艦も突っ込みます。波動防壁がありますから盾と良い(まと)になるでしょう。』

 

「『頼んだ。こちらも作業が終わったようだ。出る。』」

 

『ご武運を。』

 

 俺は妖精さんたちが離れていく両手を見る。うん、どこからどうみてもモビルスーツのマニピュレーターだこれ。前腕部にはシャイニングガンダムと同じように青色のブースター付きアームカバーが装備されている。これでミョルニルアーマーにて強化されたスパルタンのパンチ力がさらに上がるよ。やったね!!

 

 じゃねえだろう、俺。これってどのくらいの資材を突っ込んだんだ。ミクに聞きたいが時間が惜しい。神経接続のおかげでシャイニングフィンガーの使い方もわかる。HUDにもシャイニングフィンガーについてミョルニルアーマーのアップデートが完了したと出ている。俺はそのままMS用のカタパルトにて射出される。少しだけ先行していた金剛に追いつく。

 

「ヘイ、テートク。腕が凄くごっついヨ。」

 

「必殺技ができた。“シャイニングフィンガー”だ。」

 

「ヘー、どんなのデスカ?」

 

「指を液体金属で覆って、手のひらに供給したエネルギーを使い敵を爆砕するってやつだ。」

 

「えげつないネー。模擬戦じゃ使えないネ。」

 

「まぁな。ただ、今回の敵には相応(ふさわ)しい装備だ。」

 

「あ、艦種がわかったんデスカ?」

 

「230体の全てがレ級だとよ。」

 

「エー、速い上に無駄に硬いし対空戦闘もしないといけないし、面倒な相手デスネ。」

 

「余裕そうだな。」

 

「テートクやジョンソン上級曹長よりは楽な相手ですヨ。弾道も捉えられますし。」

 

「なら、期待しようか。」

 

「ハイ!!背中は任せてネ!!」

 

 金剛のやる気はいい感じだ。改になってからだいぶ練度を上げているからな。

 

 レ級の大群まで100kmを切ったところで通信が入る。

 

『ガルーダ1より、シエラ01。』

 

「『シエラ01、感度良好。』」

 

『敵艦集団より艦載機の発艦を確認。これよりマイクロミサイルポッドによる迎撃を開始する。』

 

「『了解、撃ち漏らしは任せておけ。ユーコピー?』」

 

『アイコピー。』

 

 通信が終わると同時に上空から無数のマイクロミサイルポッドが白い尾を引いて降下してくる。そして、一定の高度に達するとマイクロミサイルポッドから無数の小型ミサイルが発射される。無数の炎の花が空中に咲き、海上ではマイクロミサイルポッドの直撃を受けたレ級が炎を噴く。それを俺は自分の眼とメイヴのカメラ映像をHUDの右上に表示して見ていた。

 

「『露払い後苦労。』」

 

『ガルーダ3、4、5、6は補給に戻らせ、その間の上空警戒はガルーダ1、2が行なう。』

 

「『コピー。』金剛、41cm砲の射程に入ったな?」

 

「はい、HUDにガルーダからの敵先頭艦の位置データも表示されていマス。いけますヨ。」

 

「よし、撃ち方はじめ!!」

 

 俺の号令と共に金剛の41cm連装砲4基8門が火を噴く。

 

『命中を確認。レ級2体が爆沈。』

 

 ガルーダ1からの報告が入る。敵の反撃が来る前にすぐに移動をする。敵艦集団を中心に反時計回りをしながら徐々に接近していく。俺の指示で第1特機の2個小隊は反対側から半包囲網を形成しつつある。ガルーダからの映像で彼らのロング・レンジ・ビーム・ライフルが的確にレ級を仕留めていくのを確認する。

 

 さて、俺も動くか。

 

「金剛、ここはまかせてもいいか?」

 

「ハイ、大丈夫デス!!この距離でなら砲弾も殴り返せますヨ。」

 

「なら、頼む。俺は突っ込む。」

 

「テートク、ゴッドスピード!!」

 

 金剛に成功を祈られて、俺は全ブースターを最大出力で加速しレ級集団に突っ込む。

 

「さて、ではいくか。俺のこの手が光って唸る、お前らを倒せと輝き叫ぶ!!シャーイニング、フィンンガー!!」




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第79話 海戦終了

 一発目の“シャイニングフィンガー”でレ級集団を引き裂いた。そのおかげといっては何だが第1特機中隊の2個小隊と合流できた。

 

「先程のは“シャイニングフィンガー”ですか?」

 

 第2小隊長の山下少尉がロング・レンジ・ビーム・ライフルを撃ちながら話しかけてくる。俺も右手に持ち直したアサルトライフルを発砲しながら答える。

 

「ああ、そうだ。」

 

「ということは“シャイニングフィンガーソード”が使えるのでは?あれなら広範囲の敵を薙ぎ払えるかと。」

 

「装着したばかりで出力の調整が難しくてな。」

 

「ああ、なるほど。」

 

「それでは、もう一度“シャイニングフィンガー”をお見舞いして金剛少佐の所に戻る。こちらは任せたぞ。」

 

「はい、閣下。」

 

 アサルトライフルをガーディアン・シールドに収納し、“シャイニングフィンガー”を発動する。強く発光する右手に触れただけでレ級の艤装を肉体ごともぎ取っていく。通り過ぎた後には爆沈していくレ級の列が出来上がる。もっとも、俺はそれを見ることはできないので、ガルーダからの報告でわかる。

 

「よっと、ただいま、金剛。」

 

「お帰りなさい、テートク。」

 

 そんなやりとりをして笑い合う。戦場でするやり取りじゃねえからな。

 

「何体沈めた?」

 

「ガルーダ2に観測してもらっていたんですけど、7体ほどを砲撃で沈めマシタ。」

 

「この短時間で上々だな。」

 

「ヘヘンッ!!ACEデスネ!!」

 

「まったくだ。この海戦が終われば昇進の話しが来てもおかしくないな。」

 

 そんな軽い雑談をしながら、俺と金剛は銃弾と砲弾をレ級群に向けて叩き込んでいく。

 

『“おおすみ”C.I.Cより通達。第1空挺団特務機動装甲大隊2個中隊が降下準備に入った。各自、援護を。降下地点をHUDに送信し表示する。』

 

「ほぉ、敵集団の正面に降下か。RGM-86(ジム・ナイトシーカー)の性能をフルで使う気だな。整備の連中が可哀想になる。さて、金剛、敵の艦載機を優先して潰すぞ。」

 

「了解デース。」

 

 ガルーダのマイクロミサイルポッドによる攻撃で数は減らしたが、まだ敵の艦載機は残っている。俺はロング・レンジ・ビーム・ライフルに持ち替えて艦載機を墜としていく。金剛は1番、2番主砲をレ級に、3番、4番主砲に三式弾を装填して艦載機の攻撃に振り分けている。器用だな。

 

『こちら、第1空挺団特務機動装甲大隊第2中隊長柳岡少佐。コードはズール01。戦域の全部隊へ通達。降下地点に到達。降下を開始する。』

 よし、数の面では敵が優勢だが、質ではこちらが上回り始めたぞ。敵集団の先頭で爆発が立て続けに起こる。その後にすぐ爆音が響いてレ級が爆沈する。ほう、降下しながらの襲撃もかなり良くなっているじゃないか。

 

『ズール01より通達。オールズールの着水を完了。戦闘行動に移る。』

 

「『シエラ01よりズール01。シエラ01と艦娘1名が7時~10時にかけて展開。“おおすみ”搭載の特機中隊2個小隊が2時~4時にかけて展開している。HUDに表示されているか?』」

 

『はい、確認しました。』

 

「『各員、接近戦に突入する時は報告を。ビーム・ライフルのビームだとレ級ごとダメージを与えるぞ。』」

 

『『了解。』』

 

 こんなハイテク装備で同士討ちなんて目も当てられんからな。うん?敵の中央集団に動きが・・・。ってこっちに突撃してくる!!ロング・レンジ・ビーム・ライフルで狙撃する。が、(かわ)された。あいつら全員目が赤く発光して、オーラを出している。エリートだ!!

 

『シエラ01より全部隊へ!!敵レ級エリートの集団が20体、突撃してきた。こちらで対処するが、他のレ級の対処をお願いしたい。』

 

『ズール01、了解。』

 

『ガルーダ、了解。』

 

『第1特機、了解。』

 

『“おおすみ”、了解。』

 

「よし、金剛、やれるな?」

 

「勿論デース。」

 

 金剛の返事を合図に、俺はロング・レンジ・ビーム・ライフルを連射する。初撃のビームを(かわ)したのは偶然だったようで、今度は被弾している。それでも通常のレ級とは違い直撃は避けているけどな。

 

 すぐにエネルギー残量がレッドゾーンに入る。ロング・レンジ・ビーム・ライフルを腰に懸架し、アサルトライフルを構える。懐に飛び込めれば接近戦ができるんだがなぁ。20体のレ級エリートの弾幕は凄まじい。あと、艦載機がうぜぇ。地味にエネルギーシールドを削っていく。

 

 こうなったら、自棄(やけ)だ。

 

「金剛!!俺は突っ込むから援護を頼む!!」

 

「っ!?了解デス!!」

 

 ブースターを全開にして突撃を開始する。ガーディアン・シールドから半身を出してアサルトライフルを連射し艦載機を墜とす。弾切れになったらマガジンを交換せずにガーディアン・シールドに収納し、ビーム・サーベルを展開する。

 

 こちらの意図に気付いたのか攻撃が激しさを増すのがシールドに加わる衝撃でわかる。やはり20km離れた所からの突撃はマズかったか?まぁ、最大速度の600km/hまで加速しているからすぐだ。耐えてくれよガーディアン・シールド!!

 

 金剛の砲撃による援護も的確で敵の艦載機を墜としてくれている。それでも全てを撃墜できるわけではない。生き残った機がシールドを避けて体当たりを仕掛けてくる。エネルギーシールドで弾くが衝撃が凄まじい。相手も300km/h以上は出ているから仕方がないか。その時、通信が入る。

 

『ガルーダ3より通達。敵艦載機に対してガルーダ3~6のミサイル攻撃を行う。』

 

 そして、上空からマイクロミサイルポッドが降り注ぎ、無数のマイクロミサイルを広域にばら()き、敵艦載機が墜ちていく。それと同時に俺もレ級エリートの集団と接触する。まずはシールドによる体当たりをお見舞いする。“ゴギャッ!!”という鈍い音を立てて直撃を受けた1体が吹き飛ぶ。どっかの骨が折れたな。

 

 その場でターンをしながら突撃の勢いを殺し、ビーム・サーベルを構え直す。さて、目の前には吹っ飛ばした奴も含めれば20体のレ級エリート。周囲には通常個体とはいえ50を軽く超えるレ級達。始末の仕方に悩むな。ああ、エリートは1体ぐらいは原型を留めておいた方がいいだろうな。研究のためにも。

 

 では、いくか。身の丈もあるガーディアン・シールドを背中に懸架する。何気に初めてかもな。空いた左手は“シャイニングフィンガー”を起動する。レ級エリートが砲撃してくるが、それを(かわ)し至近にいた1体目に近づく。ビーム・サーベルを突き刺そうとすると、尻尾が犠牲になって防御した。まあ、だからこその左手なんだがね。そのまま左手を頭部に伸ばし軽く握る。それだけでレ級エリートの頭部が爆散し、沈む。

 

 2体目はすれ違いざまにビーム・サーベルで胴を薙ぐ。防御しようとした尻尾ごと溶断されて沈む。次の3体目はありったけの火力を叩き込んできたが、ビーム・サーベルで砲弾を薙ぎ払って近づき、貫手(ぬきて)の“シャイニングフィンガー”で心臓部を潰し、尻尾の頭部艤装を爆砕する。

 

 4体目になるとニヤケ顔が無くなって少しは必死さが出てきた。ま、やることに変わりはない。ブースターを噴かし接近して尻尾を切り落とし首を落とす。5体目は距離を取ろうとしていたので、4体目の死体を投げつけて動きを阻害する。怯んだところをビーム・サーベルで唐竹割りにする。

 

 そうして、レ級エリートを19体沈めた。最後の1体に近づくと、意外なことに両手を挙げた。そして、生き残った艦載機を全て収納し、艤装の尻尾の主砲も俺から逸らす。周囲をチラ見するとウチの第1特機と金剛は勿論のこと、第1空挺団の“ズール”2個中隊がレ級を沈めながら近づいてきている。残りのレ級も20体はいないな。たった今、金剛のナイフで(のど)()き切られ、18体になった。

 

 まぁ、ここまで劣勢になったら自分の命がおしいわな。うし、捕縛するか。

 

「そこの両手を挙げているお前、話すことはできるか?」

 

「・・・デキル。上手クハ話セナイカモ。」

 

「そんだけできれば上等。降伏をするということでいいか?」

 

「ウン、ミンナ死ンジャッタシ・・・。アタイ1人ジャ勝テナイヨ。」

 

「ならば、よし。今からお前を拘束する。抵抗すれば沈める。」

 

「ワカッタ。」

 

「『シエラ01より、この戦域の全部隊へ。敵のレ級エリート1体の降伏を確認。これより、捕縛し“おおすみ”へと運び入れる。“おおすみ”の第1特機中隊の第1、第4小隊は受け入れの準備をするように。また、金剛少佐も同行するように。他は残存的兵力の掃討だ。』」

 

 各自から『了解』の返答を貰い、“おおすみ”へ向けて針路を取る。途中で金剛が合流し、警戒にあたってくれる。さて、コイツはどうしたもんかね。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第80話 レ級と大戦艦ゲット

 さて、降伏したレ級エリートのみを残し全滅した229体のレ級集団が沈んだこの海域でまた1人の艦娘がこの世に顕現(けんげん)しようとしているみたいだ。俺の目の前の海面が光輝いているからな。しかも少し桜色を帯びているような感じもするな。既に空挺は帰投用のC-1に回収され、残っているのは柱島泊地の面々だけだ。光が一層強くなると人影が現れた。光が収まるとその艦娘が自己紹介をしてくれる。

 

「フッ、ずいぶん待たせたようだな・・・。大和型戦艦二番艦、武蔵。参る。」

 

 全員がポカーンとする。MS艤装を装着しているので表情が見えないが第1特機の面々も同じだろう。え?大和型?しかも武蔵?大和型の顕現って召喚建造でも確認されていなかったよな。・・・報告書が厚くなるな。

 

「ようこそ、武蔵。私が柱島泊地司令長官の湊海斗海軍大将だ。今日から貴官には海軍少佐の階級が与えられ、私の指揮下に入る。」

 

「了解した。・・・口調は改めた方がいいか?」

 

「んにゃ、公式の行事とか以外では素のままでいいぞ。俺もそうしているし、他の艦娘もそうしている。な、金剛。」

 

「イエス!!テートクは気さくな方デスカラ、気を張らなくても大丈夫ネ。」

 

「ん、では改めてよろしく頼む。ところで、提督は皆がそのような甲冑?をつけて前線で戦うのか?」

 

「いんや、俺だけだね。」

 

「なら、顔を見せて欲しい。」

 

「あいよ。」

 

 そう言って、ヘルメットを外す。武蔵はズイと顔を寄せてマジマジと俺の顔を見る。

 

「ふむ、なかなか男前ではないか、相棒。」

 

「そいつはどうも。しかし、武蔵の艤装姿は何というか大胆だな。」

 

「このさらしのことか?気になるか?」

 

「まぁな。防御がしっかりと出来るか不安ではある。金剛みたいに近接戦闘パッケージを付ければ防御力が上がるぞ。」

 

「ふむ、接近戦用の装備か。考えてみよう。」

 

 武蔵との会話をここで切り上げ、降伏して捕縛したレ級エリートを“おおすみ”のウェルドッグから艦内へと収容する。艦内では第1特機中隊の第1小隊及び第4小隊がジェスタ艤装で待機していた。武器はビーム・ライフルではなくジム・ライフルを手にしている。まぁ、艦内だと貫通するビームより実弾がいいだろうな。

 

 さて、中学生ぐらいの背の高さのレ級エリートを大人の男が囲んでいるという(全員MS艤装)異様な光景だが、まずは、やることがあるな。武装の解除だ。

 

「おい、今からお前は仮称“レ級01”だ。わかったか?」

 

「ワカッタ。」

 

「ではまず、レ級01、武装の解除をしろ。」

 

「武装ノ解除?ドウスルンダ?」

 

「わからねえのか・・・。おーい、ミク、いるか?」

 

 わからないことはミクに相談するのが一番だ。

 

「はいはーい。お呼びでしょうかー?」

 

「おう、このレ級01の武装の解除ってできるか?」

 

「できますよー。艦娘の整備室へと行きましょうー。」

 

 整備室の前までは第1特機が護衛し、室内では俺と金剛、武蔵、レ級01にミクを含めた妖精さん達のみとなった。

 

「では、背中の艤装と尻尾の武装を外していきますねー。」

 

 ミクの掛け声で妖精さん達が動き出して、レ級の武装解除を始める。背中の背嚢みたいなモノに予備弾薬や艦載機を小型化して収納しているようだ。空になった背嚢を背負って、

 

「軽クナッタ!!」

 

 とはしゃいでいる。尻尾のほうも大人しく武装が外されるのを受け入れている。作業が終わると次は入渠をさせる。俺の放ったビームで結構な火傷跡やケロイドがあったからな。勿論、見張りのために金剛と武蔵も一緒に入渠する。

 

 その間に俺はミョルニルアーマーを外し、シャワーをサッと浴びて着替える。んで、入渠が終わるまでミクと後付“シャイニングフィンガー”の事に着いて話し合う。資材については、ヌーベル・ジムⅢの半分ほどとのことで安価なのか高価なのかよくわからず?マークを頭に浮かべていると、ジム・カスタムは無理だけどジムⅡならいけるという言葉に何となくだけど納得してしまった。

 

 使用した感想を聞かれたが、う~む、何と言えばいいのか、じゃじゃ馬とまではいかないが使用する人間を選ぶとだけは言っておいた。しばらくは“シャイニングフィンガー”の調整・改良を行い、最終的には“ゴッドフィンガー”を造るつもりのようだ。シャイニングガンダムとゴッドガンダムを造ったほうが早くないかと言ったら、ミョルニルアーマーにつけるからこそロマンがあると熱弁された。ロマンがあるなら仕方ねぇな。

 

 っと、ロマンについて熱く語っていたら金剛たちの入渠が終わったようだ。整備室にやってきた金剛と武蔵は少佐の階級章を付けた制服を着ている。レ級01は尻尾穴がいたセーターとスパッツを着込んで短パンを履いている。コートも新調したモノになっている。武蔵の制服とレ級01の服については妖精さん達が片手間で仕上げてくれた。

 

「よし、武蔵とレ級01、似合っているぞ。武蔵は艦内を自由に歩き回っても構わんが、レ級01は俺か金剛と常に一緒に行動しろ。わかったか?」

 

「了解した。」

 

「ワカッタ。」

 

「仰せの通りに。」

 

 ん?なんか返事が1人分多いぞ。金剛を見るが首を横に振る。うん、まあ男性の声だから違うとは思っていた。そんじゃ、誰だ?3人を見回すとレ級01の尻尾と目?があう。俺は尻尾を指差しながら

 

「お前、話すことができるのか?」

 

 と聞いた。すると流暢な日本語をイケオジヴォイスで発してきた。

 

「はい、閣下。(わたくし)と主人のレ級01は、あの集団の中で唯一話すことができる存在でした。」

 

「なんで、レ級01と違い流暢に話すことができるんだ?」

 

「それは(わたくし)にもわかりかねます。」

 

「そうか。レ級01は自分の尻尾が話すことができることを知っていたのか?」

 

「ウン、知ッテタ。移動シテイルトキモ戦ッテイルトキモ話シテタ。」

 

「なぜ、黙っていた?」

 

「聞カレナカッタカラ。」

 

「急に話すと驚くかと思いまして。」

 

 まぁ、確かに驚くわな。そしてレ級01の言い分もわかる。

 

「よし、今からお前は仮称“レ級02”だ。いいな。」

 

「かしこまりました。」

 

「他にも話せる艤装はあるのか?」

 

「さあ、どうでしょう?(わたくし)共は建造されてすぐに今回の海戦に投入されましたから。」

 

「なるほどな。指揮系統はわかるか?」

 

「より強力な者が上にいるとしかわかりません。」

 

「性別は?レ級01は女性体だが。」

 

「性別はありません。」

 

「わかった。取り敢えずは解散だ。レ級01、02は俺と一緒に執務室に来い。金剛は武蔵に部屋を案内してから執務室に来てくれ。」

 

「ワカッタ。」

 

「おおせのままに。」

 

「了解デース。」

 

「ミクはどうする?」

 

「ここでミョルニルアーマーとシャイニングフィンガーの調整をしておきますー。」

 

「わかった。よし、ではレ級01、02、行くぞ。」

 

「ハーイ。」

 

「御意。」

 

 緊張感ねぇなぁ。一応、暴れてもすぐに取り押さえられるように俺の左斜め前を歩かせる。後ろからは行き先が同じ方向の金剛と武蔵も着いてくる。そして、すれ違う乗組員からはギョッとされる。あー、事前に全艦放送をしとくべきだったか。そんなことを考えながら艦娘居住区画との境につく。ここで金剛と武蔵とは一旦お別れだ。

 

「レ級01、執務室はこっちだ。」

 

 そう言って、扉を開ける。

 

「ボーっとしてないで、適当に座れ・・・ないか。そこに寝そべってもいいぞ。」

 

 ソファを指しながら言う。レ級01は恐る恐るといった感じでソファにうつ伏せになる。ふむ、問題ないようだな。端末を立ち上げながらレ級01、02へと質問をする。

 

「なぁ、痛覚って繋がっているのか?それと、上位の指令権はどちらが握っている?」

 

「感覚は繋がってないかと。01が被弾した時に痛みを知覚することはありましたが感じることはありませんでした。指令権については主人である01のほうかと。(わたくし)のほうでは01の航空兵装などの艤装を動かすことはできませんでしたから。」

 

「なるほど。01、お前わかっているか?」

 

「マァ、ナントナク?感覚デ戦ッテイタカラワカラ無イナァ。」

 

「大雑把だな。ちなみに今後、研究所に行くのと俺の所に残るのはどちらを希望する?」

 

「研究所ッテ何サ?」

 

「ふむ、簡単に云えば色々と調べる所だな。死体となったレ級を渡したことはあったが、生きているレ級ならば、ふむ、そのまま実験をされるかもな。」

 

「痛イノ?」

 

「痛いんじゃないか?お前たち深海棲艦は艦娘のように法で人権を保障されていないからな。生きたまま体を刻まれる可能性もある。俺もあそこが何をしているかはわからん。」

 

「ソレハ嫌ダ!!」

 

「02は?」

 

(わたくし)も嫌ですね。」

 

「なら、俺の所で捕虜として預かるようにしよう。美味い飯は出してやるから安心しろ。」

 

 そんなやりとりをしていると艦内電話が鳴る。

 

「『湊だ。』」

 

『艦長の出原です。閣下、幕僚監部のお偉方を乗せたヘリが着艦許可を求めていますがどうしましょうか?』

 

「『行動の早いことで。許可をしてください。どうせ、レ級エリートを捕獲したことと武蔵が顕現したことは、バレますから。着艦後は会議室まで案内して下さい。』」

 

『了解しました。それとレ級の捕獲について全艦放送で周知してもよろしいでしょうか?』

 

「『はい、周知の方をお願いします。』ふう。」

 

 受話器を置き、ため息をつく。間をおかずに出原中佐による全艦放送が流れる。それを聞きながら考える。お偉方の相手は苦手だが、レ級については真護叔父さんなら何とかしてくれるだろう。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第81話 統合幕僚監部乗艦

「ようこそ、新生“おおすみ”へ。お出迎えできずに申し訳ありません。」

 

「気にしないでくれ、湊大将。見学を申し出たのはこちら側だからな。戦闘の後だというのにすまんな。」

 

「いえいえ。皆さん席に座られましたか?・・・では、中条大尉、現時刻よりこの会議室を中心に重点防護だ。幕僚監部の方々お1人ずつに護衛をつけたまえ。」

 

「了解。第1特機、行動開始。」

 

 突然のことに理解が追い付いていない幕僚監部の面々を尻目にジェスタ艤装を着込んだ第1特機中隊が会議室に入ってきて、幹部の一人一人の背後に立つ。驚いた顔で幕僚長が聞いてくる。

 

「これは一体何事かね?」

 

「幕僚長閣下、今から重大な報告事項があります。大和型戦艦2番艦の武蔵が顕現しました。」

 

「なっ!?それは本当かね!?」

 

「はい、事実です。そして皆さんに護衛を付けたのがもう1つの理由です。レ級エリートを1体が降伏しましたので捕虜としました。前回、報告した潜水艦ソ級同様に意思疎通が可能です。」

 

「・・・信じられん。2人を見せてもらえないだろうか?」

 

「勿論です。金剛少佐、執務室に待機している2人を連れてきてくれ。」

 

「了解デス。」

 

 しばらくして金剛が制服姿の武蔵と私服のレ級01、02を連れてきた。

 

「小官から紹介します。今回の海戦で顕現しました武蔵少佐と降伏し捕虜となった仮称レ級01、02です。」

 

 武蔵は敬礼をして、レ級01と02は頭を下げる。

 

「湊大将、武蔵少佐の件はわかった。今後は柱島泊地で活躍してもらうことになる。気になったのは貴官がレ級エリートを01、02と呼んでいたことなのだが。」

 

「はい。どうやらレ級は尻尾にも意思があるようなのです。レ級01、02それぞれ挨拶を。」

 

「レ級01ト呼バレテマス。ヨロシク。」

 

「02と呼称されております。皆さま、よろしくお願いいたします。」

 

 幕僚監部の面々の目が点になる。まあ、驚くよなぁ。っと、武蔵のことを忘れてもらっては困るな。

 

「幕僚長閣下、武蔵少佐のことも。」

 

 そう言うと真護叔父さんは気を取り直して、

 

「あ、ああ、そうだな。君が武蔵か。頼りにしているよ。」

 

「任せていただきたい。あー、・・・幕僚長閣下?」

 

「ああ、自己紹介をしていなかったね。私は湊真護海軍大将だ。統合幕僚監部にて幕僚長を務めている。」

 

「湊?提督の名前も湊だったが・・・。」

 

「湊海斗海軍大将とは叔父と甥の関係さ。まあ、だからといって優遇したりはしていないがね。」

 

「なるほど。道理でどこか似ていると思いました。」

 

「まぁ、君と私が直接に顔を合わせることはあまり無いだろうけどね。甥っ子をよろしく頼むよ。」

 

「勿論です。閣下。」

 

 そんな感じで2人がいたって普通の会話をしていると他の幕僚監部の面々を再起動し始める。俺はそれを確認して再度言う。

 

「幕僚長閣下と武蔵の挨拶が終わったところで、レ級01、02についてです。以前、レ級の検体を出しましたが、アレでは今回のような事例を予測できなかったのですか?」

 

「ああ、そうだ。湊大将、君がビーム・サーベル以外の武器で止めを刺していたなら良かっのだがね。」

 

「あっ、もしかして、尻尾のほうの脳がビームで蒸発していました?」

 

「まあ、そういうことだ。残った組織で尻尾のほうにも脳があり、レ級は人間体のほうに1つ、尻尾のほうに1つの計2つあることまではわかっていた。だが、ここまで分離独立しているとはわからなかった。」

 

 ため息交じりに真護叔父さんが言う。そこにレ級02が、

 

「いえ、(わたくし)もそこまで分離独立はしていないのですよ。優先権は本体に、レ級01にあります。」

 

「なるほど。で、湊大将は彼らをソ級のように柱島泊地で捕虜として扱うつもりかね?」

 

「そうしないといかんでしょう?意思疎通の取れる相手を研究のために刻んだとなったら軍への批判は想像もつかんですよ。」

 

「確かに。仕方ない。ソ級とレ級ともに軍病院での検査のみとしよう。人間にやるのと同じだ。MRIは磁気を使用しているから除外するが、血液採取にCT、レントゲンなどの検査をさせる。」

 

「わかりました。泊地に帰還次第、ソ級にも伝えましょう。」

 

「世間についての公表はどうするね?」

 

「そうですね。ソ級、レ級1、02では人権団体が騒ぎそうですので、愛称を付けたいと思います。公表はそれ以降でお願いします。すぐに公表しなかった理由は・・・、療養と地上での生活に慣れるためとしておけばよいでしょう。」

 

「では、それでいこう。さて、金剛少佐達には申し訳ないが退室してもらえないだろうか?」

 

 敬礼をして退室しようとする金剛を少し呼び止め、小声で、

 

「執務室、使っていいからな。」

 

 と伝える。彼女は小さく頷き武蔵とレ級01、02を連れて会議室から出ていく。さて、説教の時間だな。

 

「湊大将、皆まで言わんでもわかるな?」

 

 真護叔父さんが幕僚長として聞いてくる。

 

「無論です。この“おおすみ”の件でしょう?自分でもやり過ぎたと思いました。」

 

「なら、よいのだ。」

 

 あれ?怒られる流れではないのか?

 

「妖精さん達のしたことだ。しかもミクさんがその指揮をとったわけだ。貴官では止めらなかっただろう?」

 

「ええ、全体の作業はほんの数時間の出来事でしたし、艦体を6分割にして巨大化させる作業自体は本当にすぐでしたから見ているしかありませんでした。」

 

「わかった。皆もそれでよろしいか?首席参事官、報道官、それぞれ問題は無いだろうか?」

 

「私が報道官の分までまとめてお答えします。妖精さんのしたことなので国会においては流されるでしょう。資材についても補充要請がきているわけではないので問題ないかと。報道についてですが、世論は前向きにとらえてくれるでしょう。深海棲艦に対抗するための新たな手札が英雄の下に誕生したのですから。以上です。」

 

「ということだ。湊海斗海軍大将、今後も励むように。」

 

 俺はその言葉に敬礼で応える。

 

「それでは、“おおすみ”の件はこれで終わりだ。湊大将、着席したまえ。先程の海戦について軽くでいいので説明を願えるかな。無論、報告書は別に出してもらうがね。」

 

「了解。先程終結した海戦ですが、敵はレ級230体による・・・・。」

 

 10分ほど時間をかけて説明をする。“シャイニングフィンガー”の(くだり)で目を輝かせたメンバーがいたが無視をする。世代だからね。仕方ないね。んで、ガンカメラの映像も使いながらの説明が終わる。

 

「なんともまぁ。よく、戦線が破綻しなかったものだ。」

 

「空挺がよくやってくれましたから。」

 

「ナイトシーカーか。中身はヌーベル・ジムⅢだったかね。」

 

「はい。ですが、武装のビーム・ライフルは長銃身型ですので、射撃戦において遅れはとりません。無論、近接戦闘もですが。」

 

 俺がそう言うと、真護叔父さんは頷き話しを続ける。

 

「今、我々の警護についているのはジェスタかね?」

 

「はい。柱島泊地所属の第1特機中隊のMS艤装となります。超長距離戦の場合は陸軍と同じジム・スナイパーⅡを使用します。ジム・スナイパーⅡの性能は陸軍がよくご存知のはずです。」

 

 俺がそう言うと、陸軍大将の幕僚副長が頷きながら言う。

 

「確かに。錬成の終わった部隊から島嶼(とうしょ)部に配属しているが、駐在地の面積をとりすぎないのがいい。“はぐれ”や水平線上にさえ姿が見えれば1個艦隊を撃破できている。しかし、やはり数が足りん。」

 

「そうなのですか?幕僚長閣下。」

 

 真護叔父さんに話しの軸を戻す。叔父さんは苦虫を噛み潰したような顔をしながら言う。

 

「日本は大小合わせて400を超す有人島があるからな。MS艤装を装備した特務機動装甲隊は3人で1個小隊、4個小隊で1個中隊だ。であるから戦力と人員の疲労、訓練などを考えたら、1つの島に最低でも1個中隊の配備となる。それが400だ。最低でも4,800のMS艤装が必要となる。整備員も教育しなければならない。しかも、建造できるのは柱島泊地のみだ。この現状を如何とするかだな。」

 

「用意できない数ではないですね。ただし、時間がかかります。整備員の錬成は陸軍にお任せします。まぁ、この話しは時間がかかりますよ。仕方ないです。」

 

「わかってはいるんだがね。すまん、愚痴だったな。」

 

「いえいえ、あぁ、そうだ。今回、メイヴから発射して使用したマイクロミサイルポッドの導入についてどう思われました?我々も使用するのが今回が初めてだったのですが、思いの外、良い戦果を残せました。」

 

「ああ、あれか。1発の対艦ミサイルの周囲に数十発の小型対空ミサイルを仕込んでいるように見えたが?」

 

「その通りです。発射母機は敵艦を補足してマイクロミサイルポッドを放てば、ポッドに内蔵されているセンサーが空中目標に反応してマイクロミサイルを発射します。量産性に重点を置いているので複数のマイクロミサイルが1つの目標へ向かうこともありますが、数で押せます。」

 

「確かに。仕様書は用意できるかね?」

 

「はい。ただし、今回の実戦での運用を踏まえてになりますのでお時間をいただきます。」

 

「構わないさ。FFR-31“シルフィード”とFA-1“ファーン”の実戦部隊が間もなく稼働を始めるので、その部隊に優先配備したい。」

 

「ほう、シルフが生産できましたか。」

 

 少し驚きながらも、まぁあれだけの設計図を渡したんだから当たり前だなとも思う。その後は、30分程雑談をし、幕僚監部の面々はヘリにて市谷の防衛省に戻る。最後まで警護についていた第1特機中隊を労い、執務室に戻る。

 

 扉を開けると、金剛が抱き着いてきたので頭を撫でてやる。それを武蔵とレ級が不思議なモノを見る目で見ていた。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第82話 横須賀へ

 ソファに座っても未だに抱き着いている金剛を武蔵が何とも言えない表情で見ていた。

 

「武蔵、どうかしたか?」

 

「ん、いや、そのだな・・・。随分と距離が近いと思ってな。」

 

「ああ、それか。すぐに知ることになるだろうが、泊地に在籍していて俺の配下にいる艦娘は、みんな俺に好意を持っていてくれてね。何かと距離が近いのさ。武蔵は別に無理して俺の事を好きにならんでいいからな。」

 

「ん、わかった。ちなみに所属の艦娘は何人いるのか聞いてもいいか?」

 

「金剛に聞かなかったのか。駆逐艦が13名、軽巡が4名、重巡が3名、航空巡洋艦が2名、空母・軽空母艦娘が7名、戦艦が1名、航空戦艦が1名、あとは後方支援要員として明石、間宮、伊良湖がいる。戦艦は武蔵も加入したから2名になるな。それと初期艦娘は駆逐艦の霞だ。階級は准将だ。柱島泊地の事実上の副司令だな。あとは全員が少佐だ。」

 

「了解した。艦娘の人権についてなどは金剛少佐に教えてもらった。」

 

「そうか。金剛もしっかりと仕事をしていたんだな。偉いぞ。」

 

 そう言って、金剛の頭をワシャワシャと撫でる。

 

「もう!!褒めてくれるのは嬉しいケド、髪形が崩れちゃうネ。」

 

「すまん、すまん。まあ、公の場以外ではこういった感じだ。慣れてくれ、武蔵。」

 

「ああ、承知した。」

 

 武蔵が頷く。しかし、ホントに目のやり場に困る格好だったな。今は制服だからいいけど。その後は、レ級も交えて雑談をしながら報告書を書いていく。

 内線が鳴る

 

「『湊だ。』」

 

『閣下、横須賀に入港します。』

 

「『わかった。すぐに上がる。第1特機中隊もジェスタ艤装で最上甲板に並ぶように通達を。』」

 

『了解しました。』

 

 受話器を置いて、武蔵とレ級に向かって言う。

 

「君らのお披露目は、また後日となる。しばらくはこの部屋でゆっくりしていてくれ。今回は金剛のみが艤装をまとって整列だ。」

 

 金剛と共に艤装を身に付けるために格納庫へと一旦下りる。俺はミョルニルアーマーを。金剛は戦艦艤装と近接戦闘パッケージを身に付けて、舷側エレベーターで最上甲板へと上がる。戦艦艤装は幅があるからな。艦内では移動ができんよ。

 

 エレベーターが上がりきると、なるほど、この光景は素晴らしいな。メイヴが6機全て露天係留状態にされており、一番目立つところに第1特機中隊が並んでいる。金剛はそのまま第1特機中隊の横に並び、俺は艦橋へと上がる。艦橋内へと入ると操舵している出原中佐以外が敬礼してくるのでラフに返礼する。

 

「固くならんでいいよ。いつも通りにやろうじゃないか。しかし、艦橋からの景色は壮観だな。」

 

 ホントにデザインと大きさだけなら完全に空母だもんな。6機のメイヴが係留されているのを見ると更にそう思う。これでもまだ一応はおおすみ型輸送艦1番艦“おおすみ”であって艦種変更もされていないからなぁ。

 

 埠頭が近づいてくると大勢の軍人や艦娘が“おおすみ”を見上げていた。タグボートを使わずに接岸する。すぐに舫い綱で艦を係留する。それが終わると最上甲板で整列していた皆がそれぞれの部署に戻る。

 

「出原中佐、明日と明後日はそれぞれ半舷休息にしよう。柱島泊地へは明々後日(しあさって)に帰投する。見学希望者は軍の関係者なら許可しよう。はあ、疲れたよ。」

 

「了解しました。お疲れ様です。」

 

「ちと早いが、俺と第1特機中隊、ガルーダ隊は休息に入る。深海棲艦が出現したら、緊急出撃するのですぐに電話をよこしてくれ。」

 

 そのまま艦橋をあとにして、整備室まで下りる。エレベーターで下りてきた金剛と合流する。

 

「なかなかよい感じだったネー。」

 

「まぁな。」

 

 お互いに装備を外しながら雑談をする。明るく話してくれる金剛は本当に良い艦娘()だ。俺に対して好意を抱いているという点以外はだが。確かに俺は海軍大将で地位も金も得ることができたが、霞やみんなの助けがあってからこそだと思う。それに、一度は死んだ身だ。ミクの力を疑うわけではないがどこかでそれが崩れてしまうのではないかという恐怖もある。そんな考えが顔に出てしまったのか、金剛が心配そうにのぞき込んできた。

 

「テートク、顔色が悪いヨ。大丈夫デスカ?」

 

「ん、ああ、大丈夫。」

 

 と言った瞬間、金剛の両手が伸びてきて、俺の顔をそのたわわな胸に抱き込んだ。ビックリしたが、金剛の体温と聞こえる心音で体に変に入っていた力が抜けていくのを感じる。金剛は俺の頭を撫でながら、

 

「テートクは、1人で溜めこむことがありマス。たまにはこうやってリラックスするのも大事ダヨ?」

 

 と言う。ああ、ダメになりそう。金剛に溺れてしまいそうになる。俺は金剛の背を軽くポンポンと叩き、

 

「大丈夫になったよ。ありがとう。」

 

 と言って、金剛の胸から顔を離す。そして、整備室の入口へと視線を向けて言う。

 

「武蔵、レ級。見ているのはわかっているから入って来なさい。」

 

 少し頬を赤く染めた武蔵となんか妙にキラキラした顔をしているレ級が入ってくる。

 

「・・・提督はいつもこういうことをして英気を養っているのか?」

 

「んなわけないだろ。たまたまだよ。」

 

「金剛ノオッパイニ顔ヲ埋メテミタイ!!提督ノ強サハオッパイニアルンダナ!!」

 

「却下だ。」

 

「私もテートク以外にはしてあげないヨ!!」

 

 金剛、その言い方だといつでもしてくれるように聞こえるからやめなさいとは言えなかった。艦内電話がかかってきたからだ。

 

「『湊だ。』」

 

『出原中佐です。閣下、横須賀鎮守府の長野司令長官が本艦を見学したいとの事ですが、閣下もお会いになりますか?』

 

「『ああ、長野さんか。うし、俺が案内するよ。今はどこにいる?』」

 

『最上甲板でメイヴを見ておられます。』

 

「『すぐに上がる。』仕事ができたから俺はいくが、金剛、武蔵とレ級を艦娘居住区画から出さないようにしといてくれ。横須賀の軍関係者が見学にくるからな。」

 

「了解デース。武蔵、レ級、行きますヨー。」

 

 金剛が2人を引き連れて出て行くのを確認すると、俺はすぐに最上甲板に上がり長野大将を探す。あ、いた。ガルーダ1に装備されているミサイルについて整備員から説明を受けているみたいだ。

 

「長野さん、お待たせしました。」

 

「おお、湊君、すまないね海戦が終わったばかりだというのに。」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。吹雪少佐も先ほどぶりだな。」

 

「はい、閣下。」

 

「そんなに固くならんでもいいぞ。身内だけの内覧会みたいなもんだから。」

 

 そう言うと、少し笑顔を見せてくれた。よしよし。

 

「長野さん、コックピットに座ってみます?」

 

「いいのかね?」

 

「大丈夫ですよ。フライトオフィサのほうには小官が座りますので。」

 

 そんなやり取りをしていると整備員がタラップを用意してくれた。長野大将は上着を脱いで、吹雪少佐に渡す。俺も上着を脱ぎ整備員に持ってもらう。長野大将がコックピットに座り、俺も後席に座る。電源は艦と繋いであるのでエンジンを始動せずに戦闘システムだけを立ち上げていく。

 

「おお、これは凄いな。人が動いているのがわかるのか。このモニターはレーダーではないのだろう?」

 

「ええ、流石に甲板上に人がいる状態でFCS関係のレーダーは立ち上げていません。そちらはフローズンアイ(凍った目)という空間受動レーダーです。大気を押しのけるモノ全てを探知します。」

 

「ステルス機もかね。」

 

「勿論です。」

 

「それは凄い。」

 

 その後も翼を広げたり、主翼を前進翼から後退翼へ可変させたり、コックピットブロックを飛行状態の位置に動かしたりとした。降りてきた長野大将は大変満足してくれたようでその後の“おおすみ”の見学時も上機嫌だった。

 

 艦を後にするときに長野大将は俺に耳打ちしてきた。

 

「今回の海戦、敵は全てレ級だったと聞いている。私の耳にも入っているのだから各鎮守府の司令長官も知っていると思ってほしい。その上でだ。これまでの活躍と今回の戦果を加味すると君には大将以上の地位になってもらわんといけなくなるかもしれん。」

 

「というと?」

 

「元帥号の復活だよ。」




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第83話 “おおすみ”艦内執務室にて

前回更新分にて誤字報告のお礼を忘れていました。今回、改めて誤字報告のお礼を申し上げます。


「元帥ねぇ・・・。」

 

 昼に長野さんから言われたことを思い出しながら端末に入力する手を止めて休憩をする。

 

「そんなもんいらねぇって言っても無視されるんだろうな。」

 

「ゲンスイッテ美味イノ?」

 

「美味くねぇし、まず食べ物じゃねぇよ。」

 

「ナァンダ。」

 

「差し出がましいようですが、私の意見を言っても?」

 

「ん、言ってみろ、02。」

 

「元帥とは元帥号のことですよね。今、日本には何人の元帥がいらっしゃるのですか?」

 

「0だな。」

 

「となると、湊閣下が初の元帥号保持者となる可能性があるわけですよね。でしたら、是非とも元帥号を受け取られるべきかと。発言力や権威が違いますので。それに、我々の身もさらに安全になりますから。」

 

「率直だな。まぁ、確かにデメリットよりもメリットのほうがデカい。」

 

 言いつつもため息をつきながら背もたれにもたれかかる。確かに02が言う通り発言力や権威は今よりも増すだろう。それも統合幕僚長を凌ぐほどに。そうなってしまってはシビリアンコントロールの概念から軍が外れてしまわないだろうか。それが心配でもある。

 

「まあ、まだ噂話の段階だ。本気にするには早いな。」

 

 そう言って、伸びをしてから端末への入力を再開する。柱島に戻るまではとりあえず考えないようにしておくか。

 

 明けて翌日、今日と明日は半舷休息としているので艦内の人員が少ない。俺は先日、金剛と共に東京を観光したので念のため待機中だ。本当は武蔵を外に連れ出したかったのだが、まだ世間に公表前ということで統幕から鎮守府及び泊地敷地内以外の外出は制限されてしまった。まあ本人があまり気にしていないからいいけどな。

 

 そんな金剛と武蔵、それにレ級は今日も俺の執務室にいる。

 

「ここよりも、居住区画のほうが色々あるだろうに。」

 

「いやいや、提督よ、私達は別に暇で此処に来た理由は元帥号についてだ。02から聞いたぞ。」

 

「あ、マジか。そういえば口止めしてなかったな。よし、今から元帥号のことについては世間に発表されるまで他の人員の前では話さないこと。」

 

 そう言うと3人と1尾?が頷く。

 

「よし。んで武蔵、元帥号について何か意見でもあるのか?」

 

「いや、昨晩、提督単独での戦果を見せてもらったのだが、化け物かと思ってな。艦隊指揮もそつなくこなしているようであるし。そのような人物が元帥号について悩んでいるだなんて可愛いじゃないか。」

 

「からかわんでくれ。俺はミクのおかげでここまでこれたんだ。」

 

「ふむ、ミクというのは妖精さんのことだな。今、机の上で首を横に振っている彼女ではないのか?」

 

「ん?おう!?なんだ、ミクいたのか。」

 

「妖精は神出鬼没なんですよー。あ、夜の営みの邪魔とかはしないので安心してくださいー。」

 

「いや、そこは相手がいないから別にいいんだが。」

 

「いるじゃないですかー。艦娘の皆さんがー。」

 

「うっ、まあ、いいじゃないか。うん。ところで何で首を横に振っていたんだ。」

 

「話しを強引に逸らしましたねー。首を振っていたのは、確かに最初の手助けは私がしましたが、その後の活躍は海斗さんご自身のお力だからですよー。私はサポートしかしていませんしねー。」

 

「そのサポートでかなり助かっているんだがね。」

 

「ありがとうございますー。それで、元帥号ですけど貰っておいてもよいかと私は思いますよー。」

 

「ふむ、ミクはそう思うのか。」

 

 そんな感じでミクと話しこんでいると武蔵が言う。

 

「なあ、提督。ミクさんと何を話しているかは知らんが、私達を置いてきぼりにしないでほしいのだがね。」

 

「む、すまん。まぁ、なんだ、ミクは元帥号について貰っておくべきだと思っているようなんだ。」

 

「それは、私達も同意見だ。」

 

「そうですネ。私も武蔵と同じですヨ。」

 

「とりあえず、この問題は上から提案があった時に考えよう。」

 

「なんだ、もう少し話し合うかと思っていたんだがな。」

 

「俺はもういっぱいいっぱいだよ。なんか他に聞きたいことあるか?」

 

「提督の初陣を聞きたいな。」

 

「私も聞きたいデース。」

 

 初陣ねぇ・・・。第1次首都圏防衛海戦のことでいいのかね?深海棲艦とやりあったのはそれが初めてだからな。

 

「あれだよな。実戦で深海棲艦との初めての戦闘ということでいいのか?」

 

「ああ。」

 

「ハイ!!」

 

 2人ともそれでいいみたいだ。レ級はソファにうつ伏せになっているから聞いているのかどうかもわからんな。

 

「第1次首都圏防衛海戦と後に呼ばれることになった防衛線が初陣だ。当時は大尉でDE-229“あぶくま”の砲雷科員として参戦した。正直震えたよ。未知の敵相手に戦闘をするのは。アメリカの第7艦隊のDDGが戦闘不能になっていくなか専守防衛を掲げる軍、当時の自衛隊はミサイルや艦砲の射程内なのに撃つことはできなかった。しかし、DE-231“おおよど”に駆逐級からの砲撃が命中してやっと攻撃を開始することができた。しかし、遅すぎた。“おおよど”は集中砲火を浴びて沈んでしまった。多数の乗員と共に。そして、俺は“あぶくま”のC.I.Cで8発の対艦ミサイルを撃ち尽くした後は、76mm砲による艦砲射撃の目標選定を行なっていた。しかし、レーダーでは深海棲艦はほとんどが同じ大きさでしか映らないからな。艦橋に上がって双眼鏡を使いながら目視で目標を探しては撃ち込んでいたよ。あの時の海戦では虎の子のDDGはほとんど被害が無く、DEやDDが沈んだ。森原中佐の弟さんが乗艦していたDD-124“みねゆき”もその時に沈んだ。戦艦級の砲撃が直撃して、艦体が真っ二つに折れて爆沈した。航空隊や空軍の援護、第7艦隊の生き残りの援護もあって何とか首都圏に敵の砲弾が落ちてくることは防げたが、多くの戦死者を出した。これが俺の初陣だ。その海戦の後に、始まりの艦娘と呼ばれる電、漣、吹雪、叢雲、大淀、明石、間宮、伊良湖が現れた。こんな感じでいいか?」

 

「うむ、充分だ。その時にはまだ先日見た甲冑は身に付けていなかったんだな?」

 

 武蔵の問いに首肯し、言う。

 

「甲冑では無くてミョルニルアーマーな。あれを身に付けるようになったのは、第2次首都防衛海戦の時に1回死んで、ミクに(よみがえ)らせてもらった時に一緒に手に入れたモノだ。」

 

「そうなのか。しかし、1回死ぬということは、私達艦娘に近いモノを感じるな。艦娘のほとんどは戦没するなりして一度は艦としての生を終えた存在なのだろう?」

 

「そういう学者先生もいるってだけだ。真相はわからんよ。」

 

「ちなみにどのように戦死したのか聞いてもいいかい?」

 

「ああ、いいぞ。今は俺の指揮下で活躍している霞を爆撃から守ろうとして、投下された爆弾に手を伸ばしたんだ。んで、指先が爆弾の信管に触れた瞬間、勿論爆発して半身を吹き飛ばされた。丁度この辺りからぐらいだな。そんで、海に沈んでいく俺をミクが(よみがえ)らせたというわけだ。」

 

 吹き飛んで千切れた部分を手で示す。

 

「その時に恐怖などは無かったのか?」

 

「恐怖・・・ねぇ。沈みかけている“あぶくま”から救命艇を指揮して脱出する時の方がよっぽど怖かったな。置いてきてしまった部下はいないかずっと考えていたよ。霞を(まも)る時には恐怖心は無かったな。ただ、熱くて痛くてどうしようもなかった。それだけだ。ああ、それだけだったよ。」

 

「そうか。ありがとう。相棒、話してくれて。」

 

「いんや、他にも聞きたいことがあったらいつでも聞いてくれていいぞ。仲間だからな。」

 

 そう言って、笑って武蔵に言うと、

 

「そ、そうだな。」

 

 と言ってそっぽを向かれてしまった。なんかやらかしたか?金剛がジト目で見てくるし、ミクは頷いているし、02はやれやれといったふうに首を振っている。思い当たる節が無いんだかなぁ。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第84話 泊地へ帰還

 横須賀で計3日半過ごし、柱島泊地へと戻ってきた。道中では深海棲艦の襲撃も無く平和なものだった。まぁ、哨戒に出たガルーダが偵察艦隊を見つけて4個艦隊ほど沈めたがな。

 

 柱島泊地の岸壁に接岸するとすぐに霞を呼んだ。定時通信で話していたから状況の把握は出来ているはずだ。

 

「きたわよ。」

 

「早くて助かるよ。」

 

「まぁ、初期艦としては当然よ。で、貴方が武蔵少佐かしら?ああ、口調はいつも通りでいいわ。」

 

「了解した。確かに私が武蔵だ。貴方が霞准将か?」

 

「そうよ。ま、公の場以外では階級抜きで呼んでくれて構わないわ。みんなそうしているし。」

 

「そうか。ならばそのようにさせてもらおう。」

 

「で、あんたが捕縛されたレ級ね。」

 

 そう言って、霞はレ級のほうへ視線を向ける。

 

「ソウダゾ。」

 

「あとであんたと同じような境遇の潜水艦ソ級に会せるからね。攻撃したらこいつがキレるわよ。」

 

 言いながら俺を指差す。俺は、曖昧な作り笑いをしながら、

 

「命まではとらんよ?」

 

 と言う。するとレ級は青白い顔を一層青くして首を縦に勢いよく振る。そこまで怖いのか、俺・・・。

 

「では、金剛さん、武蔵さんの案内をお願い。私はこのレ級と司令官と一緒にソ級のところへ行くわ。」

 

「了解デース。さ、武蔵、泊地を案内してあげるネー。」

 

「ああ、よろしく頼む。」

 

 金剛と武蔵はそのままタラップを下りていく。

 

「さて、レ級。アンタはこのポンチョを羽織りなさい。尻尾が隠れるようにね。尻尾も動くんじゃないわよ。」

 

「ウン、ワカッタ。」

 

「承知しました。」

 

「それじゃあ、司令官、行きましょ。」

 

 霞の先導のもとレ級と共に“おおすみ”を降りる。

 

「ソ級1号は医務室から移したわ。今は艦娘寮にいるの。」

 

「問題はなかったか?」

 

「特に問題はなかったわね。彼女からの敵意が無いからかしら。」

 

 そんな感じで俺が泊地を留守にしていた間の通信では話せないような事を話してくれる。通信では傍受の恐れがあるからな。俺はそれに相槌を打ちながら歩く。レ級は・・・キョロキョロしているな。まあ、気持ちはわからんでもない。

 

「オオ~!!」

 

 ガルーダがアレスティング・ワイヤーを使用した着陸装置で次々に着陸するのを見てレ級01は歓声をあげている。

 

「アレ、強イノカ?」

 

「お前たちの艦載機を蹂躙した兵装があっただろ?あれを搭載できる戦闘機だ。」

 

「ア、アレカ・・・。怖カッタゾ。」

 

「俺も味方じゃ無けりゃあ恐怖を覚えるよ。」

 

「デモ、ドコカラ撃タレタカ、ワカラナカッタナァ。」

 

「そりゃあ、24,000m上空をマッハ1.7以上で飛行している戦闘機から発射される誘導弾なんだ。そうそう発見は出来んだろう。」

 

「ハァ、凄イナァ・・・。」

 

 そんな感じで雑談をしていると、

 

「着いたわよ。」

 

 という霞の言葉で背筋がピシッとなる。ODST用戦闘服を着込んだ憲兵たちがやって来る。彼女らは俺と霞に対して敬礼をし、視線をレ級01へと移す。

 

「霞准将がおっしゃられた深海棲艦はこちらの方でしょうか?」

 

「そうよ。後は湊大将の指示に従って頂戴。」

 

「了解しました。」

 

 俺に話しが振られたのでまずはねぎらいの言葉をかける。

 

「まずは、警備ご苦労。ソ級1号のこともあり、緊張を強いているだろうが今後も頼りにしている。それで、ここにいるのが今回、降伏したレ級01だ。尻尾がついているがそちらも知能と理性がある。そちらは02と呼称している。」

 

「了解しました。ここからは小官達が引き継ぎます。レ級01、02こちらへ。」

 

 憲兵の半数がMA5Dアサルトライフルを突きつけながら、レ級を艦娘寮へと入っていく。

 

「あとは任せるわ。司令官、執務室に行きましょう。」

 

 霞に手をとられてそれに従う。

 

 執務室につき自分の椅子に座ると長ーく息を吐く。

 

「随分とお疲れのようね。」

 

 クスッと笑いながら霞がお茶を出してくれる。「ありがとう。」と礼を言いながら、霞を手招きする。

 

「どうしたの?」

 

「いや、東京に折角行って時間もあったからな。これを買ってみたんだ。気に入らなければ売ってもいいから。」

 

 そう言って、長方形の箱を渡す。

 

「開けても?」

 

「もちろん。」

 

 霞が蓋を開ける。中には駆逐艦霞の進水月である11月の誕生石、トパーズとシトリンが散りばめられた錨型のネックレスが入っている。東京に行く日が決まってから有名宝石店に頼んで作ってもらったものだ。

 

「どうだろうか?ペンダントなら作戦行動中も身に付けていられると思ってね。」

 

「嬉しいわ。ありがとう、司令官。」

 

 霞はそう言って、蓋を閉めて自分の机の上にそっと置いた。

 

「つけないのか?」

 

「ん。今はね。また、着けたら見せてあげるから。」

 

 そんなもんなんだろうか。女性にアクセサリーのプレゼントをしたことがないからわからないな。

 

「そうか。楽しみにしとくよ。話しを仕事の内容にするけど、ソ級とレ級の愛称を泊地内で明日から公募しようと思うんだがどうだろうか?」

 

「いいんじゃないかしら。確か、張り紙の原案を送ってきていたわよね。印刷をしたのだけど、どこにしまったかしら?」

 

 霞が机の中を探している間に執務室の扉がノックされ「金剛デース。」と聞こえたので入室を許可する。金剛と武蔵が入ってくる。

 

「必要な場所を武蔵に案内しました。それと、武蔵の艤装は工廠に運び込んで機関等の改装作業に入ったネー。」

 

「おう、ありがとな。金剛。」

 

「あ、あったわ!!あら、ごめんなさいね。大きな声を出して。」

 

「いや、気にするな。丁度いい、金剛、武蔵、そこに座ってくれ。霞、すまんが2人分の茶を頼む。茶菓子は俺が準備するから。」

 

 そう言って、少し私物棚をゴソゴソする。あ、あった。んー、みんな、これ好きかなぁ。地元でも苦手だと言う人が結構いたんだよなぁ。ちなみに俺は好きだ。

 

「はい、金剛さん、武蔵さん、お茶をどうぞ。」

 

 霞が2人にお茶を出したので俺も茶菓子を皿にのせて出す。

 

「“かるかん饅頭”と“かすたどん”だ。“かるかん饅頭”は知っているかもしれんが、“かすたどん”はカスタードクリームをスポンジで包んだ蒸し菓子だ。」

 

「ほう、美味そうじゃないか。それでは“かすたどん”からいただこう。」

 

 口調とは裏腹に上品に“かすたどん”を口に運ぶ武蔵。しばらく無言でいたが食べきると、俺を見て、

 

「もっとないのか!?」

 

 と催促してきた。いや、あるにはあるが・・・。霞と金剛も“かすたどん”を食べ終わり、武蔵と似た様な眼差(まなざ)しを送ってくる。

 

「わかったから。そんな目で見んでくれ。他のみんなには内緒な。」

 

 そう言うと3人そろって頷いた。素直なことで。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第85話 公表

「ソ級1号、お前は(ナギ)、レ級01、お前は烈火(レッカ)だ。レ級02、お前は冴空(サク)だ。いいな?しっかりと覚えておけよ。」

 

 執務室に呼び出した3人?とも頷く。泊地内の公募で決めた名前だ。ソ級とレ級の世間への公表日が決まったからな。急いで候補を絞って命名した。

 

 ちなみにナギとレッカの服は霞と鈴谷、金剛の助言を受け、私服を持っていない武蔵の分と一緒にネット通販で購入した。ただしレッカはサク用の穴を後ろに作らないといけなかったので、根元のサイズを計り鳳翔にその部分だけを縫い直してもらった。

 

「さて、お前たちが世間に公表されるとどうなると思う?考える時間はやったよな。まずはナギから。」

 

「ヤハリ、投降シタトシテモ、私達ハ人間トモ艦娘トモ違ウ。何カシラノ攻撃ヲ受ケルノデハ?」

 

「そうならないために幕僚監部が前に出て公表することになる。それに俺達が守ってやる。」

 

「ワカッタ。提督ヲ信ジル。」

 

「レッカはどうだ?」

 

「02・・・ジャナカッタ、“サク”ト話シヲシタ。アタイハ頭ハ良クナイカラ上手クハ言エナイケド、コノ泊地デ楽シク過ゴセテイルノハ、提督ヤ霞達ノオカゲダト思ッテル。ソレガ無クナルカモシレナイト思ウト、怖イカナ。」

 

「なぜ無くなると思った?」

 

「研究施設ニ送ラレルカモッテ“サク”が言ッタカラ・・・。」

 

 サクの方へ視線を移すとサクは咳払いをして言う。

 

「可能性があると言っただけです。提督ならば送りはしないでしょうけど。」

 

「ああ、そうだな。俺が研究者連中に渡してきたのは死体だけだ。」

 

「ナラ、アタイハ大丈夫?」

 

「心配すんな。ナギと一緒にレッカもサクも守ってやる。」

 

「アリガトー。」

 

 そう言ってニッコリと笑うレッカ、つられてナギも微笑む。だいぶ自然な笑みが出るようになってきたな。

 

「よし、それでは、解散。」

 

「「「ハイ。(失礼いたします。)」」」

 

 3人組が出て行くと執務室には俺と今日の秘書艦の満潮と秘書艦補佐の霞だけとなる。

 

「司令官はあんな大風呂敷を広げて大丈夫なのかしら?」

 

「大丈夫でしょ。姉さんは心配しすぎよ。この人は力ですべてを解決してきているから。」

 

「その通りすぎて何も言えねぇのが悔しい。」

 

 そう言うと2人に笑われる。

 

「ところで、これ、どうするのかしら?」

 

 霞は1通の使送便で送られてきた封書を取り出す。忘れていたかったんだがなぁ。

 

「霞、それは何?」

 

「ああ、姉さん見てみる?」

 

「いいのかしら。それじゃあ、見せて。・・・。はあ!?元帥号を復活させて司令官を第1号とするですって!?なによ、これは!!まるで司令官を「見世物にするみたいだろ?」っ!?」

 

「昨日の秘書艦の熊野もそんな感じで怒っていたよ。まあ、なんだ。すでにこの歳で大将だ。はっきり言って妬んでくるやつも多い。元帥号を得れば更に増えるだろうな。」

 

「司令官はそれでいいの?」

 

「熊野にも言ったが、みんなを守れるなら元帥号を貰っておくさ。旭日大綬章と元帥号持ちにそうそうちょっかいをかけてくるやつはいないだろうからな。それに、俺が元帥号を得た翌日には統合幕僚長も元帥号を得る。」

 

「政治ってやつかしら?」

 

「そうだろうな。心配してくれてありがとな。満潮。」

 

「・・・うるさいわね。」

 

 そう言って顔を真っ赤にしそっぽを向いてしまった。霞はニヤニヤしている。プレゼントしたネックレスを今も普通に付けていることでからかい返してみようかとも思ったけども、なんか違うな。うん。取り敢えず、満潮にクールダウンしてもらって仕事の続きをしましょうかね。

 

 さてさて、俺が元帥になり深海棲艦3人?組を世間に公表する日がやって来た。そのためにガルム隊によって防衛省までガルーダの護衛付きでやってきた。

 

 報道陣の見ている前で元帥号を示す、元帥徽章と元帥刀を天皇陛下の名代(みょうだい)の総理大臣閣下から授与される。旭日大綬章の横に徽章を付け、元帥刀を()き、総理大臣閣下と握手しながら報道陣のほうへと体を向ける。すぐにフラッシュがたかれ写真を撮られる。笑顔を見せずに軍人然とした表情で写るように努力する。まぁ、隣の総理大臣閣下は笑顔なんだがね。

 

 その後、俺と総理大臣閣下は一旦部屋から出て、3人組公表のための場をセッティングし終わるまで防衛大臣閣下の執務室で待機することになった。俺は話しかけるなオーラを出しながら茶をすする。最初は話しかけようとしていた総理大臣閣下も俺と目が合うと逸らして防衛大臣閣下と身内話を始めた。政治屋め。

 

 10分くらいしてから背広組の職員が準備が出来たと呼びにきた。顔が少し青いような感じがするが気にはしない。すぐに理由がわかったしな。ウチの憲兵中隊用に92式特殊強化装甲服(プロテクト・ギア)を配備したんだよな。あの押井守監督の“ケルベロス・サーガ”に出てくる首都警が使っている奴だ。そんなのがその職員の背後に赤い眼を光らせ、MG42を抱えて3人いるんだから怖いだろうさ。

 

 廊下に出た総理大臣閣下たちもビクッとなっていたしな。その職員を先頭に背後を3人の憲兵に護られながら記者会見用の部屋へと向かう。作中では視界不足と防御力を補うために3人1組でケルベロスとして運用されていたプロテクト・ギアだが、ウチのは妖精さん特製だから視界も防御力も十分だし、攻撃力もMG42だが弾丸が別物だから深海棲艦と殴り合える。ああ、動力は原作無視で筋力では無く、妖精印バッテリーとモーターでアシストしている。

 

 さて、会見場の入り口では憲兵に囲まれたナギとレッカ、サクがいる。お偉方とは顔合わせはしているから誰も驚かない。

 

「あんま緊張すんな。俺が言ったようにすれば大丈夫さ。」

 

 そう言って、3人に声をかけてお偉方に続いて室内に入る。またフラッシュの嵐だ。さっきの授与式とは違い、長机が置いてある。俺はその端に座る。まだナギ達は入ってこない。まずはお偉方による現在の深海棲艦との戦闘や深海棲艦自体について説明が行われる。報道陣の顔には一様に「またか。」と書かれている。俺もそう思っているが表情を変えないように努める。幕僚長閣下が立ち上がりマイクを手に取ると静かになる。

 

「本日は国民の皆様にご報告しなければならないことがあります。海軍は2体の新型深海棲艦を捕獲しました。生きている状態で。ですので捕虜ということになります。こちらの湊元帥が戦闘にて投降した深海棲艦を捕虜にしたのです。現在は柱島泊地にて生活しています。」

 

 捕虜という言葉が出た瞬間にまたフラッシュがたかれる。眩しいな。真護叔父さんの続きを引き継ぐ形で俺が立ち上がり、説明を始める。そして、最後に言う。

 

「では、捕虜の方々に入室してもらいましょう。」

 

 扉が開かれプロテクト・ギアを着込んだ憲兵たちと共にナギ達が入ってくる。フラッシュの眩しさに手をかざしてしている。総理大臣閣下と握手した後に席に着くとフラッシュがおさまる。

 

「それでは、質問のある方は所属と名前を名乗ってからどうぞ。」

 

 司会の制服組の佐官が質疑応答の時間が来たことを告げる。そして始まる質問の嵐。

 

「どうして投降しようと思ったのですか?」

 

「今でも人間を殺害しようと思いますか?」

 

「元帥を恨んでいませんか?」

 

「あなた方はなぜ人間を攻撃するのですか?」

 

 などなど。ナギ達が答えられないモノは俺が代わりに答える。そして、最後の質問の時間が来た。

 

「今は柱島泊地で生活されているとの事ですが、幸せですか?」

 

 その答えにナギ達は笑顔で、

 

「「ハイ!!」」

 

 と答えてくれた。これで、外の奴らも手を出しにくくなるだろうな。まあ、厄介事はこれでお終いか?




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第86話 中東へ

家内の者が急逝したため先週は更新できませんでした。申し訳ありません。また、誤字報告ありがとうございます。


 先日のナギ達の世間への公表は一部では批判的意見もあったが、概ね受け入れられたようだ。特に遺族会が表立って深海棲艦の捕虜を丁重に扱うべきだと言ってくれたのは強い後押しとなった。

 

 ネットでエゴサーチをすると、ナギの胸が大きいだのレッカの尻尾の付け根を見たいだの少し、いやかなり変態的な意見が多かったな。まあ、意思疎通が出来て敵意が無けりゃあ、普通の隣人だものな。

 

 んで、俺の元帥号に関しては、軍国主義の復活とか見当違いの事を言う識者もいたが、行政権なんて俺は持ってねぇぞ。泊地内のことは俺の一存でほぼ決められるが、法に抵触しようものなら坂本大尉が率いる憲兵中隊とオハナシすることになる。まあ、そこの誤解は俺の翌日に元帥号を得た統合幕僚長の真護叔父さんが解いてくれたけどな。

 

 他の鎮守府の司令長官を務める大将達も次回の戦功で元帥だそうだ。ああ、給料が上がったのは嬉しかったな。うん。自由にできる金が増えるのはいいことだ。それに独身だから使い放題だしな。色んな手当含めて年収で1500万は確実だな。まあ、俺の場合は前線で戦うから危険手当と戦功手当が多く着いているんだけどな。

 

 なんやかんやあって、ナギ達を含めた日常を取り戻した柱島泊地では俺の執務室で牧原大佐、佐野大佐、出原中佐がソファに腰掛けて資料を眺めている。

 

「ナンバリングをされない護衛艦隊ですか。」

 

 顔を上げ牧原大佐が言う。

 

「ええ、そうなんです。どうやら皆の活躍のおかげで通常の護衛隊・護衛艦隊・護衛隊群には組み込めないと判断したらしく、ナンバリングなしの第0護衛艦隊というのが柱島泊地に駐留する通常艦隊名となります。」

 

「あえて群ではなく艦隊としているのはあと何隻か増える予定なんでしょうか?」

 

 出原中佐が質問してくる。

 

「ええ、そうです。まだ確定ではないのですが、“はつゆき”型のDD-124“みねゆき”とDD-125“さわゆき”だそうです。」

 

「ヘリの格納庫があるとはいえ深海棲艦が現れる直前に除籍された艦ではないですか!?」

 

 佐野大佐が驚いたようで大声を出す。

 

「まあ、ウチの妖精さんはミクを中心に魔改造をしますから、それを見越してでしょうね。ま、艦隊の話しは此処までにして、もう1つの話しをしましょう。中東への“タンカー護衛任務”です。」

 

 俺がそう言うと3人は無言になる。その代わりに今日の秘書官である赤城が声を発する。

 

「この場所から申し訳ありません。私達、艦娘は深海棲艦の脅威がある限り、何処へだって行く覚悟があります。約12,000km、往復約50日。大丈夫です。」

 

「いや、赤城少佐、場所は気にしなくていい。君は秘書艦なのだから。それに我々がソファを占領しているしな。しかし、君は何処へだって行く覚悟があると言ったが、太平洋戦争では中東方面へは一航戦は進出していなかったのではないかな。ある意味で未知の領域だよ。それに森原中佐指揮下の艦娘艦隊が残るとはいえ、連れて行ける艦娘の人数にも制限がある。」

 

 出原中佐が優しく言う。

 

「そうですね。申し訳ありません。」

 

「謝る必要は無い。他に意見があるか、赤城。」

 

「いえ、ありません。」

 

 赤城は一礼して作業に戻ろうとするので、少し話題を振ってみる。

 

「俺は今回の中東への派遣。艦娘は希望者を(つの)ろうと思っています。第1特機も同様です。ガルーダは空の目なので強制ですが。」

 

「ふむ。艦娘の定員は何名を?」牧原大佐が尋ねる。

 

「2個艦隊と予備人員で16名です。」

 

「ならば、早く募集をかけるべきではありませんか?来月、三が日明けには出港する予定となっていますよ。」さらに牧原大佐が続ける。

 

「ええ、俺もそう思っていたところなんです。霞准将、例のヤツを。」

 

 赤城の隣に座っていた霞が席を立ち牧原大佐たちの前に紙を置いていく。それを見た3人は、

 

「これはこれは。なんともまぁ。」

 

「愉快ではありませんか。」

 

「ふむ、遊び心はありますな。」

 

 とそれぞれ反応してくれた。

 

「見せてくれますか、提督」と赤城。

 

「ほらよ。」と言って渡す。すると、赤城は眼をカッと見開いて、

 

「私、参加します。絶対に行きます!!」

 

 と言う。霞が配った紙には“タンカーを護衛して中東へ行こう!!深海棲艦との戦いもあるけれど、美味しい中東料理がキミを待っている!?手当も着くぞ!!”と様々な中東料理がでっかく載りタンカーが隅っこに載っている。俺と青葉で1時間くらいかけて考えた。

 

 俺は赤城の喰いつきぶりに苦笑しながら、

 

「んじゃ、赤城少佐は参加な。ああ、人数制限を越えればこちらで調整するからな。外されても文句言うなよ。」

 

「そこは仕方ありません。任務なのですから。」

 

「よろしい。」

 

 そんなこんなで話し合いを終えたら、霞と赤城は募集用紙を各所の掲示板に張りに行った。霞と赤城が戻ってきた30分後には希望者が殺到したのは言うまでもない。

 

 そんで、派遣メンバーだが、戦艦“武蔵”、“金剛”。空母“赤城”、“加賀”、“翔鶴”、“瑞鶴”。重巡“愛宕”、“摩耶”。軽巡“夕張”、“大淀”。駆逐“吹雪”、“白雪”、“曙”、“朧”、“漣”、“潮”。以上の16名となった。第1特機は2個小隊を出せるそうだ。指揮官は第1特機中隊第1小隊長の羽佐間中尉が務めることとなった。それと、忘れてはならないのが、空の守護神ガルーダ隊とミクをはじめとした妖精さん達、そして母艦となる“おおすみ”だ。

 

 この柱島泊地の陣容に、“こんごう”型DDG4隻全て、“ましゅう”型補給艦も2隻全て、“たかなみ”型がDD-110“たかなみ”、DD-111“おおなみ”、DD-112“まきなみ”の3隻。この3隻にはSH-60Kが搭載される。そして海中の護りを虎の子の“そうりゅう”型潜水艦SS-501“そうりゅう”、SS-502“うんりゅう”、SS-503“はくりゅう”が受け持つ。深海棲艦の潜水艦には現代潜水艦による攻撃のほうが効率がいいからな。

 

 ちなみに潜水艦救難艦の“ちはや”を出すか上が迷っていたので、何か潜水艦に起こっても俺とミクで助け出すと言ったら納得された。いや、だってミクができるっていうからさあ。それに、“おおすみ”の第1特機中隊の区画に新しいMS艤装が防水布を被って置いてあったんだよね。資材減ってないのにどうしたんだろうか?そういえば、最近ナギ達は哨戒任務について行っては海中に潜って何かしていたとは報告があったな。聞くべきなのか?

 

 そうして年が明けた。2015年となった。4月を過ぎれば深海棲艦との戦いは2年経過することとなる。未だに外洋における航行の自由は人類の手に戻っていない。まあ、元からそんなもんは無かったのかもな。人間の勝手な考えだけで。

 

 さてさて、護衛するタンカーを中心とした船団は伊豆半島沖で合流する予定となっている。“おおすみ”はすでに合流地点に到着し、ゆっくりと旋回運動をしている。ああ、勘違いさせるといけないけど、俺は今回は船団の司令官ではない。だから、“おおすみ”以外に要請はできても命令は出来ない。ま、考え方を変えれば“おおすみ”は俺の指揮下で独立して動けるってことだ。身軽なのはいいことだ。

 

 身軽で思い出したが、今回はタンカーだけの予定だったが自動車運搬船も追加された。ヨーロッパと中東向けの商品を中東から陸送するんだと。スエズが深海棲艦に占領されているから仕方がないな。しかし、俺達ならスエズを攻略できそうな気がしてきた。“しらね”と“くらま”、ガルム隊とプロテクト・ギア装備の憲兵中隊をよんでぶつかってみたいね。案外、ビームに耐えられる深海棲艦がいたりしてな。まあ、その場合はシャイニングフィンガーで頭を握りつぶすだけだがな。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第87話 レイテ沖海戦

  コロナワクチン3回目の副作用で40℃熱が出て、数日続いていたせいで、投稿が遅れました。

 副反応は1日で治まるとかドヤ顔で言ってた上司の顔をぶん殴りたい。


「閣下、ガルーダ3が敵艦隊群を発見しました。」

 

「はん。フィリピン沖でとはまるでレイテ沖海戦だな。すぐに船団司令の中須少将に情報を送れ。こっちにもモニターに出してくれ。」

 

 出原中佐の報告に不機嫌さを隠さずに返答し命令する。現在、“こんごう”を旗艦とする輸送船団はフィリピンの東を航行している。“おおすみ”のC.I.Cの大型モニターには船団の位置と敵艦隊群の位置が表示されている。3時間後には接敵する予定だ。陽がある時間帯だ。航空戦になるな。

 

 さて、どうすっかな。艦隊群といっても100体は超えていない。俺1人でも充分に殲滅する時間的余裕がある。まぁ、ここは武蔵に旗艦と実戦の経験を積んでもらおう。旗艦を武蔵、次席艦を愛宕に。以下、翔鶴、瑞鶴、吹雪、白雪を出撃させる。第1特機中隊第1小隊も羽佐間中尉の直率にて念のために時間差で出撃させる。ガルーダ3と4は敵艦隊群の監視と船団航路の警戒を続行させる。他の4機のメイヴは待機だ。それと、“おおすみ”を敵艦隊群との間に割り込ませる。いざという時の盾にする。対潜警戒のレベルも上げる。

 

 命令を出すとC.I.C内が慌ただしくなる。“おおすみ”は変針し増速する。モニターには船団から“おおすみ”がかなりの速さで離れて敵艦隊群に向かうのが映し出される。それらの様子を見ていると、“こんごう”から連絡が来る。

 

「『湊だ。』」

 

『元帥閣下、中須です。我々も援護します。』

 

「『いや、諸君らには眼下の敵を相手にしてもらいたい。』」

 

『・・・潜水艦の襲撃があると?』

 

「『可能性で言えばな。』」

 

『了解しました。対潜警戒を厳となします。』

 

 そこで通信を切る。中須少将の声には焦りと怒りが感じられた。まあ、船団司令官を務める人物だ、部下を何人も(うしな)っているのかもしれないな。

 

 “おおすみ”の機動が落ち着き、後部ランプが開かれる。C.I.Cのモニターには艦娘艦隊旗艦武蔵のヘッドカメラの映像が追加される。俺は武蔵に通信を繋ぐ。

 

「『武蔵、気負いすぎるな。』」

 

『ああ、もちろんだとも。』

 

「『いいな、お前の指揮には5人の命が直接に関わってくることを忘れるなよ。』」

 

『了解。艦隊、出撃する。』

 

 思いの外、緊張していないようで良かった。後部ランプから出撃した武蔵達はすぐに翔鶴と瑞鶴が艦載機を発艦させる。今回は、戦闘機に試製烈風後期型を持ってきている。制空権に関しては問題ないだろう。艦爆には彗星一二型甲、艦攻は流星改なので打撃力にも問題はない。懸念事項の損傷機や喪失機の補充は資材を目一杯積み込んだので大丈夫だろう。補給艦も2隻いるんだ。

 

 武蔵のヘッドカメラ映像に烈風が映るとモニターにも艦載機の輝点が現れ始める。すぐに火器管制システムに味方と識別させる。誤射は避けたい。上空のガルーダ3、4にも共有する。

 

『特機、第1小隊出撃します。』

 

 カタパルトでジム・スナイパーⅡが射出されていく。これでこちらの迎撃戦力を展開できた。敵艦隊群の様子をガルーダ3のカメラで見ていると、やっこさんらも航空戦力の展開を始めたようだ。ま、悪手だな。

 

「『ガルーダ3、マイクロミサイルポッドを投下。』」

 

『了解。・・・投下完了。』

 

「『よし、監視に戻れ。』」

 

 ガルーダ3のカメラ映像には4発のマイクロミサイルポッドが敵艦隊群の中央でその破壊力を解放するのを鮮明に映し出す。

 

「敵艦載機の8割を撃墜。また、空母級2、戦艦級1、巡洋艦級1の撃沈を確認。」

 

 オペレーターが告げる。

 

「ガルーダはトップエース部隊ですな。無論、特機もですが。」

 

 出原中佐が嬉しそうに言う。俺も頷いて同意する。

 

「武蔵少佐は戦功に焦らないとよいのですが。」

 

「大丈夫だろう。実戦経験の豊富な愛宕を次席艦にしたからな。」

 

「そうでした。確かに愛宕少佐ならば大丈夫でしょう。」

 

 そんな感じで味方と敵の動向をモニター上で確認しながら話しを進める。

 

「敵艦隊群の動きがおかしいですね。」

 

「ああ、こちらの進路が完全に読まれている。いるな。潜水艦が。」

 

「では、そろそろ・・・。」

 

「こちらの哨戒網に引っかかるだろう。対潜戦闘用意だ。」

 

「了解。対潜戦闘用意!!」

 

 “おおすみ”が対潜水艦戦闘用の武装をONにし始めると、“こんごう”から通信が入る。

 

『元帥閣下、敵潜を探知しました。』

 

「『数は?』」

 

『・・・100を超えている模様です。船団の進路に布陣しています。』

 

「『ほお、敵さんは水上戦のみならず水中戦もお望みか。』」

 

『意見具申します。船団は引き返して増援を待つべきです。』

 

「『船団はそう動けばいい。貴官が司令官だ。しかし、“おおすみ”は別だ。この艦は私の指揮下で活動する。よって、対水上戦及び対潜戦闘を開始する。』」

 

『正気ですか!?』

 

「『正気?戦場で正気でいられるものかね。では、私は準備があるので失礼する。』出原中佐、格納庫に下りる。橋島少尉以下特機第3小隊に緊急出撃用意を下命。大淀を旗艦に夕張、漣、曙、朧、潮の艦娘艦隊も緊急出撃。」

 

「了解。」

 

 格納庫に下りてミョルニルアーマーに近づき声をかける。

 

「おい、ミクいるんだろ?出て来いよ。」

 

「はいー。何か問題でもー?」

 

「敵の潜水艦が100体以上だそうだ。特機の防水布がかけられている装備、あれ水中型ガンダムだろ?」

 

「あらー、驚かせようと思っていたのにバレちゃいましたねー。どこでわかりましたー?」

 

「背中の突起に左腕からハープーン・ガンが見えていたからな。」

 

「なるほどー。」

 

「んで、ミョルニルアーマーにはあのバックパックは付けられんのか?」

 

「大丈夫ですよー。準備してありますー。」

 

「よし、鯨狩りの開始だな。大きさ的には海豚狩りか?」




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第88話 レイテ沖海戦・その2

 詳細な情報を手に入れる通信手段を早く確保したかったのですぐにミョルニルアーマーを着込む。ヘルメットディスプレイをすぐに“おおすみ”のC.I.Cとリンクさせる。その間にミク達妖精さんはミョルニルアーマーの背部に水中型ガンダムと同型のバックパックを装備していく。

 

 ヘルメットディスプレイ越しに橋島少尉達特機第3小隊が防水布を外された水中型ガンダム艤装を着込んでいくのを眺める。ゲームとかの設定ではアクア・ジムをチューンアップしたエース用の機体となっている。だから額にはV字アンテナがあるが、ツインアイではなく百式のようなゴーグルアイとなっている。ちなみに大淀達も同じタイミングで整備室へと入っていく。

 

 さて、俺の方はバックパックを装着し終わったようだ。ヘルメットディスプレイに「接続完了」の文字が浮かぶ。水中型ガンダムと同じ偏向ビーム・ライフルを右手に。ハープーン・ガンを左の二の腕部分に。ビーム・サーベルを1本減らしにビーム・ピックを腰に装備する。水中でビーム・サーベルだと水蒸気爆発が起こるからな。

 

 準備が出来たので最上甲板へ上がる舷側エレベーターで特機を待つ。その間にも情報がドンドン更新されていく。“こんごう”麾下の通常艦隊は対潜戦闘準備に入り、“そうりゅう”ら潜水艦3隻も攻撃のために前方へ展開を始めようとしていた。

 

 こちらでは、橋島少尉達が水中型ガンダム艤装をまとってエレベーターへやってきた。大淀たちも近接戦闘パッケージに対潜戦闘装備を満載して後部ランプへ向かう。

 

 エレベーターが上昇し始める。

 

「『出原中佐、大淀少佐達、艦娘第2艦隊は発艦させてよし。』」

 

『了解しました。カタパルトのほうは準備できています。』

 

「『了解。』『中須少将、迎え撃つんだな?』」

 

『はい、閣下。』

 

「『なら、私達、4人を誤射しないように。IFF(敵味方識別装置)に新たにこの3つを登録しておいてくれ。艦娘艦隊第2艦隊も出撃させた。』」

 

『了解しました。・・・データ受信しました。』

 

「『申し訳ないが、一番槍は我々がもらう。』」

 

『船団に被害が出なければお好きなように。』

 

「『言うようになったな。それでいい。通信終了。』さて、諸君、私は中須少将に一番槍を宣言した。覚悟はいいな。」

 

 丁度、エレベーターが最上甲板に着く。“おおすみ”艦首のカタパルトへ歩きながら橋島少尉達は「いけます。」「先の大戦と同じ装備の敵です。恐れはありません。」「こちらの潜航可能深度は500m以上です。やれます。」と頼もしいことを言ってくれる。

 

『提督、攻撃隊が敵艦隊群を発見。これより、空襲を行います。』

 

 翔鶴から通信が入る。

 

「『おう、思う存分やってくれ。』」

 

 返答しながらカタパルトに両足を固定し、射出態勢に入る。カタパルトオフィサーの合図と共に、ブースターの出力を上げ射出される。2秒ほどで300km/hまで加速する。俺に続くように橋島少尉達も射出され着水する。大淀達は既に先行している。

 

 俺達はそのまま敵潜水艦群の至近距離まで移動し、潜航する。出力にモノをいわせ一気に200mまで潜る。太陽の光が薄明りとなっている。すぐにヘルメットディスプレイが補正をかけるから暗くは感じない。しかし、ミョルニルアーマーに身を包まれているとはいえ、200mの深度に身一つというのは、何というか凄いな。海の圧を感じる。一度、死んだときとは違い恐怖感を感じているんだろうか?わからんな。

 

 水の抵抗で50ktしか出せないが十分だ。偏向ビーム・ライフルを構え直す。

 

『提督!!空襲に成功しました!!艦攻の妖精さんによると敵艦隊群は空襲を回避するためにいくつかの小集団に分かれたようです。』

 

「『なるほど。翔鶴、攻撃隊の収容をしながら少し待て。移動は許可する。ガルーダ3に確認後、武蔵に指令を出す。』『ガルーダ3、映像をこちらに回せるか?』」

 

『了解、シエラ01。映像を回します。』

 

 水中でもノイズ無しの鮮明な映像が受信できる。流石はミク謹製だ。確かに、敵水上艦隊群は黒煙を引きながら、小集団に分かれていっている。しかし、その分かれ方も艦隊を組むというよりも近くの艦と共に集団を形成していく、というようなモノだ。旗艦がいないのか?ああ、もしかすると、

 

「『ガルーダ3、敵旗艦を攻撃したか?』」

 

『マイクロミサイルポッドを投下した際に目標としたのは通信量の多い艦でしたので沈めた可能性は高いと思います。』

 

 フライトオフィサの鈴木少尉が答える。

 

「『ならば、敵水上艦隊群は烏合の衆だな。引き続き監視と情報収集を頼む。』」

 

『アイコピー』

 

「『武蔵、敵旗艦はおそらく沈んだ。今後の戦闘行動はそれを頭に入れて行うんだ。ガルーダ3と連絡を密にして船団に近い敵集団から攻撃しろ。航空攻撃は別の目標に割り振るのも一つの手だぞ。』」

 

『了解した。愛宕に相談してみよう。』

 

「『良い考えだ。』『橋島少尉、準備は?』」

 

『完了しております。』

 

「『よし、魚雷ポッドの目標選定に移るぞ。・・・これでどうだ?』」

 

『受信しました。・・・良いかと。』

 

「『では、諸君、攻撃開始だ。魚雷の着弾後の攻撃は自由。しかし、船団方向へのビーム・ライフルの射撃は禁止だ。』」

 

『『『了解。』』』

 

 敵潜水艦群の真下をとった俺達は魚雷ポッドから複数の小型魚雷を発射する。十数秒後、爆音が聞こえ、閃光が見えた。命中したようだ。そこからは、偏向ビーム・ライフルを撃ちながら深度を上げていく。すると、

 

『提督、大淀です。爆雷の投下を開始します。調定深度は90です。』

 

「『了解した。調定深度は60~80にしておくんだ。俺達の攻撃で敵潜の深度が上がった。』」

 

『了解しました。そのように。』

 

 その通信の後、すぐに海面を叩く音が聴こえる。爆雷の着水音だろう。しばらくして、そこらで爆雷が爆発し、敵潜を痛めつける。中には水圧と爆圧で押し潰されたモノもいるようだ。

 

『シエラ01、船団方向より魚雷です。』

 

「『敵と距離をとるぞ。』」

 

『了解。』

 

 “そうりゅう”ら3隻が発射した89式魚雷18本が敵潜を的確に捕らえて爆沈させていく。

 

「『いい腕だ。』」

 

『全くです。ところでシエラ01、敵さん逃走に移ります。追撃は?』

 

「『船団の護衛艦隊には元の配置に戻ってもらおう。』『中須少将、“そうりゅう”らの雷撃で敵潜は戦意を喪失したらしい。逃走を始めた。追撃戦は我々が行う。貴艦隊は船団の護衛配置に戻ってくれ。』」

 

『了解しました。ご武運を。』中須少将。

 

「『ありがとう。』『それでは、諸君、追撃だ。接近戦も許可する。』『大淀、爆雷を投下し終えたら第2艦隊の仕事は終わりだ。“おおすみ”で待機してくれ。』」

 

『了解しました。提督。』

 

『腕が鳴ります。』

 

 3体の水中型ガンダムは増速し、ビーム・ピックで敵潜を沈め始める。刺した瞬間に最大出力になるから敵の死に際が結構エグイな。俺は適度に距離をとりながら偏向ビーム・ライフルを主軸に攻める。なにしろ、さっきから武蔵からの報告が凄いんだ。まるで第1艦隊のみで敵水上艦隊群を殲滅しようとしているように思ってしまう。特機第1小隊もいるからそちらとも上手く連携してほしいんだがな。

 

 愛宕が進言しているのもよく聞こえてくる。

 

『武蔵さん!!みな、あなたのように重装甲でもないし、長大な射程と威力を誇る砲を持っていないの!!さっきから、あなただけが砲撃をして、翔鶴さんと瑞鶴ちゃんに残敵掃討をさせているじゃない。特機第1小隊とも連携を・・・!!』

 

『戦果は挙げている!!それに愛宕少佐らの砲の射程内ということは敵の射程内ということだ。この方が被害が出なくていい。』

 

『そういうことじゃ・・・。』

 

 あー、武蔵がハイになっているな。あとで、叱らんとな。金剛もこの通信は聞いているだろうから彼女にも手伝ってもらおう。ま、取り敢えずは目の前の逃走中である敵潜水艦群だ1体たりとも(のが)さない。情報は持ち帰らせん。




読んでくださりありがとうございます。

・・・Gセイバーご存知の方は読んでくださっている方々の中にいますかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第89話 叱責と反省

 深海棲艦水上艦隊群と潜水艦群を殲滅した仮称“第二次レイテ沖海戦”が終了してから2時間。出撃していた艦娘艦隊と特機を全て収容し終えた“おおすみ”は、“こんごう”指揮下の輸送船団に合流するべく前進していた。

 

 その“おおすみ”の執務室で俺は武蔵と向き合っている。

 

「なぜ、お前だけが呼び出されたのかわかっているか?」

 

「わからんな。(いくさ)には勝ったのだ。そして、私はそれを指揮していた1人だ。賛辞を受けることはあっても・・・。」

 

「あんな自分中心の指揮があるか!!」

 

 思わず大声を出してしまった。一緒に武蔵に言い聞かせてもらうために来てもらっていた金剛も驚いた顔をしている。

 

「次席艦である愛宕からの進言も無視して、自己の能力だけを頼りに戦闘していて何が指揮だ!!よく指揮官だと言えたものだな!!旧帝国海軍最強の不沈戦艦であることに(おご)ったか!?」

 

「なっ!?わ、私はただ被害を少なくしようと・・・。」

 

「ああ、被害は少なかった。被害はな。しかし、お前は・・・。いや、違うな。俺が悪い。数回とはいえ哨戒任務で実戦を随伴艦で経験した武蔵を今回の遠征艦隊に選んだのも、旗艦として任を与えたのも俺だ。大声を出してすまなかったな、武蔵。しかし、これだけは忘れないでくれ。仲間を頼ってくれ。自分1人で背負(しょ)い込むな。下がってよろしい。」

 

 そう言うと、武蔵は口を開きかけ閉じ、敬礼をして執務室を出ていく。

 

「武蔵のメンタルが心配デス。追いかけます。」

 

 金剛も退室し、俺1人となった。全体重を椅子にあずけて天を仰ぐ。まあ、正確には天井だが。武蔵が参戦した哨戒任務では彼女以外の艦娘が指揮をとっていた。それを見て、学べていたと思ったのだが。一度も旗艦を経験させなかったのが悪かったな。それに俺の戦闘映像を資料として見せたのも影響を与えたんだろう。あれはスタンドプレーが多いからな。

 

 今回の第1艦隊の被害について艦娘達は全くと言っていいほど無かった。が、しかし、翔鶴と瑞鶴の艦載機の損傷度合いが著しかった。それもそのはず、武蔵に並ぶほどの遠距離攻撃ができるのが空母艦娘の2人だけだったからだ。だから、2人にしわ寄せがいってしまった。

 

 そのせいだろう。帰還時の翔鶴と瑞鶴の疲労にまみれた顔は見ていて辛かった。どこも損傷していなかったがすぐに入渠と休養を命じた。空母艦娘は搭載している艦載機を自分の手足のように扱うため相当に脳を酷使する。であるから、通常はいくつかの飛行隊にわけてその長機を操ることで負担を減らす。

 

 しかし、今回の武蔵の戦闘指揮は複数の目標への同時攻撃であったため、全ての、70を超える艦載機を1機ずつ操らなければならない羽目になった。勿論、訓練して慣れれば疲労も減るが、まだ1年も経っていない。通常なら新兵同然の扱いをしてもおかしくない状態だった。

 

 まあ、救いは羽佐間中尉率いる特機第1小隊が長距離狙撃にて的確に援護してくれたこと。また、ガルーダ3フライトオフィサの鈴木少尉が、特機に的確に目標を割り振ったおかげで翔鶴と瑞鶴は過負荷による心神喪失状態に陥らなかったことか。

 

 任務中で無ければ酒でも呑んでそのまま意識を失うように眠りたいものだ。そんなことを考えながら執務室内に備え付けられた冷蔵庫からドクターペッパーを取り出して飲む。少しスッキリした。

 

 さて、報告書を作成しないといけないが、俺の叱責を受けた武蔵が戦闘詳報をしっかりと書き上げられるかは疑問だな。次席艦だった愛宕に頼むか?いや、悪手だな。武蔵へ精神的にダメージを与えかねん。俺は金剛の携帯端末を呼び出す。

 

『ヘイ、テートク。』

 

「『金剛、すまんが武蔵の様子はどうだ?』」

 

『んー、大丈夫デスヨー。』

 

「『そうか。・・・話せるか?』」

 

『今、代わりますネ。』

 

 そう言って、受話器からは金剛と武蔵のやり取りが聞こえる。しばらく無言で待つ。

 

『・・・武蔵だ。その・・・、確かに私は自分の能力に驕っていたのかもしれない。しかし、しかいしだ、私は仲間が傷つく姿は見たくなかった。先の大戦のように・・・!!だから、この世に人の形で生を受けた私は皆を守らなければならないと思った。』

 

「『・・・ああ、その気持ちはよくわかる。しかし、俺達は残念ながら兵士だ。そして、俺は将官で元帥。お前は佐官だ。指揮する立場の者となる。感情が作戦に影響を与えるのは人として当然であろうと思う。お前自身のその思いも間違っていない。だが、俺達は、故国は、いや、全世界は深海棲艦との戦闘状態にある。そして、我々は常に劣勢だ。我々とは人間と艦娘のことだ。俺は、一度は死んだ身だが、ミクのおかげでこうしていられる。ミク達、妖精さんへのお返しという意味を込めて、俺はこの戦争が終わるまでは死ねない。死ぬのはこの戦争が終わってからだと思っている。武蔵、お前も死に急ぐな。いいな。』」

 

 失い、復活した半身を眺めながら言う。

 

『・・・わかった。そうだな、しばらくは愛宕少佐の次席艦にしてもらえないだろうか?もう一度、指揮について実戦で学びなおしたい。』

 

「『いいだろう。皆でよく話し合うといい。まずは金剛に言ってみることだ。』」

 

『そうだな。そうしよう。・・・次は失望させんよ。』

 

「『ああ。期待しているよ。』」

 

 端末の通話終了ボタンを押して、すぐに内線をかける。相手は3コールで出た。早いな。

 

『特機第1小隊、赤間一等曹長であります。湊元帥閣下。』

 

「『帰還したばかりですまんな。羽佐間中尉はいるかね?』」

 

『少々お待ちください。』

 

 保留音が流れるなか、机上の端末で今回の特機第1小隊が挙げた戦果を確認する。凄まじいの一言だ。ロング・レンジ・ビーム・ライフルによる長距離狙撃にて仕留めている。反撃を許さず、一切の被弾無しでだ。レ級がおらずジム・スナイパーⅡ艤装を着込んでいるとはいえ、3人の人間が挙げた戦果としては上々のモノだろう。敵潜水艦群を駆逐した第3小隊は言うに及ばずだが。

 

『お待たせしました。羽佐間です。』

 

「『疲れているところにすまんな。今回の水上戦を貴官はどう思ったかを聞きたくてな。』」

 

『今回の水上戦について、ですか・・・。こんなことを言うと、通常装備の部隊員から睨まれそうですが楽でしたね。』

 

「『ほう?』」

 

『まず、敵艦載機がガルーダのマイクロミサイルポッドで8割以上が墜とされ、艦娘艦隊の艦載機によって一掃され制空権を完全に確保されていました。そして、ミサイルポッドが敵旗艦を沈めたことにより敵の指揮系統が麻痺し、統制された艦隊運動をしなくなり連携も(つたな)いモノとなりました。そして、艦娘艦隊からの砲撃と空襲ですね。あれを敵は警戒し、我々から意識を逸らす艦隊が多くいました。』

 

「『武蔵少佐の超長距離砲撃か・・・。』」

 

『ええ、命中しなくとも敵は脅威と認識したようですね。』

 

「『フムン。参考になる。ありがとう。ところで、諸君の挙げた戦果だが臨時の賞与がいいかね?それとも勲章?』」

 

『・・・小官は強欲でして、両方戴きたいのですが?』

 

「『ハハハ。だろうと思った。第3小隊の橋島少尉も同じ答えだったよ。彼らには帰還中に聞いていてね。』」

 

『おや、そうだったのですか。少尉からは何も話しは・・・。ああ、いや、ありましたな。閣下から良いお話しがあるだろうと。なるほど。このことでしたか。』

 

「『統合幕僚監部のお偉いさん方には嫌とは言わせんよ。というか、もう既に進達してある。』」

 

『よろしいので?』

 

「『俺は国民的英雄で元帥第1号だ。無碍(むげ)には出来んさ。それにこのくらいはしてもらわんと、困る。この任務のために諸君らを選抜したのだから。』」

 

『では、閣下にお任せします。』

 

「『ああ。では、ゆっくり休んでくれ。』」

 

 同じようなやり取りをガルーダ隊とも行い、臨時の賞与と勲章の進達をした。“おおすみ”の乗員達には特別賞与が事前に決まっている。そして、柱島泊地で留守を預かってくれている皆にも特別休暇を与えることを決定している。残念ながら賞与は出ないので、頑張って哨戒任務で敵を狩り、手当で補って欲しいものだ。まあ、哨戒任務をするほどの近海に深海棲艦が接近するのはあまりよろしいことではないのだけど。

 

 船団は既にフィリピン沖を抜けて、シンガポール海峡を目指している。海峡はシンガポール軍が接した沿岸砲台とミサイルの射程内になっているので俺達の出番は少ないはず。そうあってほしい。その後はマラッカ海峡を抜け、アンダマン海、インド洋、アラビア海、最終目的地のペルシャ湾を目指す。行程を考えるだけでゲンナリしそうだ。

 

 ああ、そうそう。昨夜、G-SAVIOUR(Gセイバー)を見ていたらミクが、出てくるMSについて聞いてきたので好きな機体を答えたら、笑顔で部屋を出ていったんだよな。今日は戦闘があったから気付かなかったが、新型のMS艤装を作っているんじゃないだろうな?あれの舞台U.C.223だぞ。まさかな。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第90話 ペナン沖海戦

 さて、現在、船団はマラッカ海峡を通過中だ。先の大戦ではペナン沖海戦があり、羽黒と神風が連合国の駆逐艦5隻相手に戦い、羽黒が戦没した海戦の主戦場だ。フィリピン沖であんなにも深海棲艦の襲撃を受けるとは思わなかった。焦っているのか?敵は。

 

 ま、取り敢えずは前回の教訓を踏まえて艦娘第1艦隊にはすぐに出撃できるように、艤装を付けた状態で整備室に待機してもらっている。編成は、旗艦が金剛、次席艦に夕張、随伴艦に武蔵、赤城、吹雪、白雪だ。

武蔵だがしばらくは随伴艦として旗艦のことを再度、学んでもらうことにした。驚いたことにこれは武蔵から提案してきた。よかった、転属願いとかを出されなくて。という本音を置いておき、プライドを捨てて自ら行動をすることができたのは素晴らしいと思う。

 

 現状に思考を切り替える。“おおすみ”のC.I.Cに設置されている大型モニターには船団に先行して哨戒飛行をしているガルーダ1と2の輝点が表示されている。それと、“まきなみ”搭載のSH-60Kも哨戒飛行を行なっている。ヘリは敵艦載機に接近されると墜とされる可能性が高いと中須少将に言ったのだけども、どうやら俺の意見は却下されたようだ。

 

 マラッカ海峡の出口、ペナン島沖で八島中佐がパイロットを務めるガルーダ1から警告が来る。

 

『ガルーダ1より、各艦へ敵性深海棲艦の浮上を確認。180体の水上艦だ。データを送る。』

 

 ガルーダ1のフライトオフィサ、迫中尉の声がC.I.C内に響く。すぐに大型モニターに敵性を示す赤の輝点が増えていく。

 

「出原中佐、艦娘第1艦隊を緊急出撃。特機第1小隊も緊急出撃。出撃後は“おおすみ”を船団の前へ。囮とする。『ガルーダ1、深海棲艦共が艦載機を上げたらマイクロミサイルポッドで墜とせ。』」

 

「了解。出撃を急がせろ!!」

 

『コピー。』

 

 ふむ、“そうりゅう”率いる潜水艦隊が移動の音を探知できなかったということは、待ち伏せしての無音浮上か。フィリピン沖で敗北してからすぐに配置したのか?しかし、今回は水上艦のみか。

 

 そんなことを考えていると艦内電話が鳴る。出原中佐がそれをとり、俺に向かって言う。

 

「羽佐間中尉からです。」

 

「代わろう。『俺だ。湊だ。どうした?』」

 

『今回は、水中型ガンダム艤装で海中から奇襲をしかけます。許可を願います。』

 

 第1特機中隊に所属する小隊はジム・スナイパーⅡ艤装が標準装備となっている。今回、俺が特に何もMS艤装に関して指示を出していなかったので、進言したようだ。

 

「『許可しよう。』」

 

『了解。』

 

 この選択が吉と出るか凶とでるか、わからんな。大型モニターの右上には艦娘第1艦隊の旗艦、金剛が装備するヘッドカメラの映像が映し出されている。後部ランプが開き、スロープにより着水した第1艦隊が60ノットまで増速する様子がよくわかる。“おおすみ”前方100mに到達すると赤城が戦爆連合を発艦させる。

 

 すぐに大型モニターに赤城が発艦させた戦爆連合を味方と識別するようにして、輸送船団旗艦の“こんごう”にもデータリンクする。中須少将も前に出たいだろうが、船団を(まも)ってもらわないと困る。マラッカ海峡は挟撃に抜群だからな。

 

「特機第1小隊が発艦します。」

 

 艦外カメラで3機の水中型ガンダムが艦首カタパルトで発艦していく様子を確認する。3機、全てが発艦すると大型モニターの左上に羽佐間中尉のカメラ映像が映し出される。ブースターを使用してのホバー移動により第1艦隊に追いつく。

 

『金剛少佐、我々は海中より敵を攻撃します。もし、敵潜が出現すればそちらの対処に動きます。』

 

『OKデース。ガルーダ1も上空にいますし、問題ないでしょう。中尉の判断で動いてくださいネ。』

 

『了解しました。潜航を開始します。』

 

『ゴッドスピード。』

 

 羽佐間中尉の水中型ガンダムがサムズアップして潜航する。海中の映像はそのままテレビに流しても違和感を生じないほど美しいモノだ。

 

『・・・各部、チェック。漏水無し。推進器正常。よし、いける。』

 

 MS艤装は装着員の独り言をよく拾う。今も羽佐間中尉の言葉を拾っている。

 

『こちら、ガルーダ1。敵艦隊群より艦載機の発艦を確認。マイクロミサイルポッドを投下する。』

 

 大型モニターの中央上部に映っているガルーダ1のカメラ映像には推進剤を噴かしながら落下していくマイクロミサイルポッドが4基映し出される。そして、豆粒のような敵艦載機も。ミサイルポッドの投下から数秒後、敵水上艦隊群の頭上に無数の爆炎が生み出される。そして、水上ではミサイルポッドの直撃を受けた敵艦が沈んでいく。

 

 しかし、どうやら今回は運が味方してくれなかったらしい。敵艦隊群の陣形に乱れは無い。ちと、厳しい戦闘になるかもな。

 

「『金剛少佐、湊だ。そちらでも確認できたと思うが、ガルーダ1がマイクロミサイルポッドで敵艦載機の9割を墜とした。制空権はこちらにある。だが、敵旗艦は健在のようだ。ガルーダ1が収集した情報を精査し、通信量の多い敵艦の場所をHUDに送る。』」

 

『了解デス。・・・うーん、分散していますネ。脅威になりやすい打撃艦隊を第1目標、射程の長い魚雷を持っている水雷戦隊を第2目標としますネ。空母機動艦隊は特機第1小隊に任せたいのデスガ。』

 

『こちら第1小隊、了解しました。目標のマーキングをしてHUDへ転送願います。』

 

「『よし、金剛少佐、君の言う通りに動け。』『羽佐間中尉、少し待て。ガルーダ1の映像から随時マーキングをしていく。』」

 

 C.I.Cの雰囲気が更に慌ただしさを増していく。そんな中“こんごう”の中須少将より通信が入る。

 

『我々もハープーンにて援護を行わせていただきたい。』

 

「『・・・艦娘艦隊へ誤射をしない自信はあるのかね?』」

 

『無論です。そのために訓練を重ねてきました。データリンクも正常です。』

 

「『・・・ッ!!わかった。許可しよう。敵艦隊群の旗艦と予測されている敵艦を狙って欲しい。可能かね?』」

 

『お任せ下さい。』

 

 通信が切れる。すぐに金剛へと通信を繋ぐ。

 

「『金剛少佐、護衛艦隊と潜水艦隊よりハープーンによる攻撃が行われる。着弾までは敵艦隊に接近戦を仕掛けないこと。いいな。』」

 

『了解デス。』

 

 その通信から2分もしないうちに大型モニターには輸送船団の護衛艦隊から7発のハープーン、潜水艦隊からも3発が発射されたのが表示される。10発のハープーンは特に妨害も受けることなく敵艦に命中していくのが、ガルーダ1からの映像で確認できる。

 

「やはり、戦艦級は1撃では無理か・・・。空母級、巡洋艦級は沈んでいるな。上々だ。」

 

 そんな独り言をつぶやいていると、金剛たち第1艦隊に動きがある。

 

『ヘイ、武蔵。私の41cm砲では射程外デスガ、貴女の46cm砲は射程内でしょう?砲撃を許可シマス。』

 

『了解した。標的は突出しているヤツにする。赤城のおかげで弾着観測射撃ができるからな。上手くいくさ。』

 

 金剛のヘッドカメラで武蔵が発砲するのを確認する。マイクとスピーカーが調整しているとはいえ、相も変わらずの轟音だ。さぁて、マラッカ海峡という難所で襲われた窮鼠は虎をも噛むぞ。覚悟しやがれ。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第91話 ペナン沖海戦・その2

『観測機より入電。1番主砲塔初弾挟叉。2番、3番仰角修正、発射!!』

 

 46cm砲の轟音が“おおすみ”のC.I.C内に響く。スピーカーの調整機能のおかげで耐えられるが、至近で聞いたら鼓膜がやられるな。

 

『観測機より、敵艦隊、戦艦級1に直撃弾。さらに接近しつつ砲撃を続ける!!。』

 

『ガルーダ1より、第1艦隊へ。敵2個機動艦隊が接近中。注意を。』

 

『了解。夕張を小隊長として吹雪、白雪で対処してくだサイ。撃退する必要はありません。足を(にぶ)らせるんデス。赤城はワタシ達と一緒に移動しつつ夕張小隊の航空援護を。』

 

『了解しました。吹雪ちゃん、白雪ちゃん、行くわよ!!』

 

 大型モニターの金剛が率いる第1艦隊の表示が変化する。金剛、武蔵、赤城が第1艦隊第1小隊、夕張、吹雪、白雪が第1艦隊第2小隊と表示される。金剛の指示は間違っていない。敵の機動艦隊には航空戦力はすでに無く、中心となる空母は移動高射砲台と化している。打撃力と呼べるのは護衛の巡洋艦級と駆逐級のみだ。

 

 であるからこそ、赤城の航空援護を受ける夕張達でも対処は可能だ。目的は敵艦隊の殲滅では無く、金剛と武蔵が敵打撃艦隊を殲滅するまでの時間を稼ぐことなのだから。すでに敵打撃艦隊は武蔵の46cm砲で戦艦級1、駆逐級1が爆沈し、金剛の41cm砲の射程に入り、合計17門の戦艦主砲の砲撃にさらされている。

 

 敵打撃艦隊は反撃もしているが、観測機と云う空の目は潰され、ガルーダ1がECM(電子対抗手段)をかけているのでレーダー射撃すらできず、目視での測距頼りになっている状態では、まあ、60ノットで動く金剛たちには至近弾さえ無理だろうな。

 

 夕張のヘッドカメラ映像も第1艦隊を分けた時に表示されているが、うん、まあ、何というか、時間稼ぎ程度だろうと思っていた自分をぶん殴りたい。夕張小隊はその速力を活かせる小回り性の高さで敵の懐に潜りこみ、近接戦闘パッケージのナイフで(のど)を斬り裂き、肺に穴を開け、心臓があるであろう場所に突き立て殺害していっていた。

 

 そう殺害である。敵艦は人間のように生命活動を停止させ目から光を失い、海に大量の血を流しながら、海面に倒れ伏していった。艤装?ああ、あれも牽制射や死体撃ちで活躍している。死体撃ちは海面を死体に漂われると動きを阻害されるからだがね。牽制射は文字通りで接近戦を挑んでいる間に邪魔が入らないように、主砲や高角砲は勿論のこと機銃を手当たり次第に敵のいる方向へバラ撒いている。

 

 最初に接近していた2個機動艦隊は夕張小隊に全艦沈められた。増援に元々の目標である水雷戦隊もまばらに現れたが悪手だったな。夕張小隊の3人に(もてあそ)ばれて殺されていった。

 

 まあ、特機第1小隊に比べたら可愛いモノだがね。空母機動艦隊を相手にしている彼らは水中から一切姿を現さずに、ハンドアンカーを用いて1体ずつ敵艦を海中へ引きずり込んでビーム・ピックで刺し殺している。無論、一撃で死なない敵は滅多刺しにされる。

 

 偏向ビーム・ライフルは貫通による誤射の恐れがあるので今回は使用しない方針のようだ。まあ、初手で魚雷は盛大にバラ撒いたみたいだが。

 

 随伴艦の軽巡級と駆逐級が懸命に爆雷を投下しているが、普通の潜水艦より速力もあり、より3次元的に機動のできる水中型ガンダムには意味の無いモノだった。逆に自分たちの投下した爆雷で海中が荒れて探知を困難にしていた。モニターには爆雷が生じさせた気泡だらけの海中で回避行動をとりつつも左腕を上に掲げる2機の水中型ガンダムが映っている。

 

『ハープーン・ガン、発射、今!!』

 

 羽佐間中尉の合図と共に左腕のハープーン・ガンが発射され、海面で爆雷を投下している巡洋艦級と駆逐級に突き刺さるのが送信されてくる映像でもわかる。刺さってコンマ数秒後、刺さったハープーン(銛)が体内で炸裂し、深海棲艦3体は文字通りに爆発四散した。エッグい。

 

 う~ん、俺の指揮下の部隊、殺意が高すぎるような気がしてきた。気のせいか?

 

 そして、艦娘艦隊と第1特機第1小隊の活躍をデータリンクで共有している船団護衛艦隊と潜水艦隊がそれぞれ初撃のハープーン1発のみで黙っているわけが無かった。C.I.Cにコール音が響く。輸送船団、護衛艦隊旗艦“こんごう”からのものだと大型モニターには表示されている。俺はため息をつきながら受話器をとる。

 

「『湊だ。』」

 

『閣下、中須です。船団と敵艦隊群との距離が縮まりつつあります。艦娘艦隊と特機小隊の戦果はこちらでも確認できていますが、万難を排すために我が艦隊も前線に出て戦線に加わります。潜水艦隊も同様です。』

 

「『私に貴官が率いる艦隊への指揮権が無いのに、よく言うものだ。好きにすればいい。貴官の艦隊だ。話しはそれだけかね?こちらも忙しいので切るぞ。』」

 

 受話器の向こうで何かを言っていたがすぐに受話器を置く。それと共にまた盛大にため息を吐く。

 

「出原中佐。“おおすみ”は護衛艦隊の7隻が前線に進出するのと同時に後進をかけて輸送船団の前に出る。念のために囮になるぞ。」

 

「了解しました。護衛艦隊の進路を開ける。取り舵。“こんごう”が通過後、両舷微速へ。」

 

 俺は出原中佐が艦長として的確に指示を出してくれているのを横目に見ながら、念のための準備をする。

 

「『愛宕、出撃用意だ。』」

 

『緊急出撃ですか?』

 

「『いや、護衛艦隊が前に出た。君達には輸送船団の護衛を頼みたい。』」

 

『了解しました。待機組の編成に変更は?』

 

「『無しだ。装備は継戦能力を重視してくれ。それといざという場合に盾になれるように、MS艤装のシールドをもっていけ。近接戦闘パッケージの拡張パックがシールド裏に装備できるから忘れるなよ。』」

 

『うふふ。わかっていますよ。では、提督、10分後に発艦します。』

 

「『武運を。』」

 

 次に特機第3小隊長の橋島少尉を呼び出す。

 

『緊急出撃ですか!?』

 

「『違う。護衛艦隊と潜水艦隊が前線に出た。貴官ら第3小隊には、水中型ガンダム艤装で潜水艦隊の穴を埋めて、輸送船団を海中の脅威から(まも)ってほしい。』」

 

『「は?輸送船団の直衛を務める護衛艦隊と潜水艦隊が防衛目標から離れた?言ってはなんですが、中須少将は馬鹿ですか?」』

 

「『周囲には誰もいないよな。それ、誰にも言うなよ。俺もそう思っている。』」

 

『声の聞こえる範囲には誰もいません。ああ、そうか。指揮権の問題ですね。それと閣下、地が出ていますよ。』

 

「『っと、すまんな。まあ、そういうわけで、第3小隊は出撃準備に入ってくれ。15分でいけるか?』」

 

『了解しました。15分もあれば十分です。』

 

「『それでは、貴官らに武運を。』」

 

 最後にガルーダだ。

 

『はい、青木大尉です。』

 

「『大尉、スクランブルではないが出撃を。』」

 

『はい、了解しました。スピーカーにします。小官のガルーダ5と安納(あのう)中尉のガルーダ6とでよろしいでしょうか。』

 

「『ああ、それでよろしい。作戦目標は護衛艦隊と潜水艦隊が離れた輸送船団の上空援護だ。水上は愛宕少佐が艦娘艦隊を率いる。海中は特機が出る。なのでガルーダは対空兵装のみを重視してほしい。』」

 

『了解。今、機付長達がメイヴのもとに向かったので兵装転換に10分程かかります。発艦は5分で済みます。』

 

「『グッド・ラック。』」

 

 ここまでお膳立てしてやったんだ。やられるなよ。中須。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第92話 ペナン沖海戦・その3

誤字・脱字報告ありがとうございました。


 中須少将指揮下の輸送船団の護衛艦隊と潜水艦隊が前線に急行していることを、戦闘中の金剛たちにも伝える。まあ、驚いていたな。気持ちはわかる。羽佐間中尉なんてあからさまな舌打ちをしたぞ。んで、八島中佐もため息をついていた。

 

「『まあ、そういうわけで前線で活躍中の諸君、巻き込まれないように注意してくれ。』」

 

『『『了解。』』』

 

 とても呆れた調子の返答ではあるが、一応は了解してくれた。大型モニターには微速から後進をかけ始めた“おおすみ”の横を“こんごう”以下護衛艦隊と潜水艦隊が抜けていくのが輝点で表示されている。すると、C.I.C要員の1人が慌てた様子で口を開く。

 

「データリンクにてハープーンの全弾発射を“こんごう”が指示!!潜水艦隊にもです!!」

 

「馬鹿が!!」

 

 思わずドンッと体を支えるための手すりを叩いてしまった。スパルタンとして強化された肉体の打撃に手すりは耐え切れず、凹の字状にへこんでしまった。しかし、まだ往路の途上で虎の子のハープーンを補給艦がいるとはいえ、全弾発射など馬鹿げている。俺は、上位者権限で中止命令を出そうとしたが遅かった。

 

「ハープーン発射されました。全弾の目標をマーキングします。」

 

 止められなかったか。データリンクでハープーンの目標の詳細が大型モニターに表示される。ああ、クソ。なんで全部が戦艦級なんだ。1撃で仕留めきれないのは分かっているはずだろうに。金剛たち艦娘艦隊の援護にもなりやしない。せめて目標が巡洋艦級以下であれば・・・。俺の考えていることを察したのであろう、出原中佐が進言してくる。

 

「閣下、あれでは、損害は与えることは出来ても沈めることはできません。本艦に搭載されている多目的ミサイルにて追撃を加えてはいかがでしょう?」

 

「良い案ではある。しかし、見てみろ、中佐。中須少将たちはハープーンを撃ち終わっても前進を続けている。恐らくは主砲よる攻撃を加えるつもりだろう。そこにこちらが攻撃して撃沈してみろ、戦闘詳報に無いことばかり書かれるぞ。」

 

「しかし、127mmでは、軽巡級以上は厳しいかと。」

 

「それでも、やるつもりなんだろうな。『金剛少佐、護衛艦隊が対水上砲戦を行うようだ。巻き込まれないように注意しろ。それと、手負いだろうが戦艦級は真っ先に沈めろ。』」

 

『へっ!?127mmで対水上砲戦!?り、了解デス。近接戦闘中の夕張小隊と合流して、砲戦のみで戦闘を継続シマス。目標の優先度も了解デス。』

 

「『頼んだ。』・・・中佐、被害はどれほど出ると思う?」

 

 出原中佐は腕を組み、暫し考え込み、口を開く。

 

「金剛少佐率いる艦娘艦隊が戦艦級を減らせば、小破が2、3隻程度で済むかと。ガルーダ1のECMにて敵はレーダー射撃を行えませんから、直撃弾さえもらわなければ至近弾か、接近しすぎての小口径砲や機銃による攻撃による被害となるでしょう。」

 

「だから、小破止まりと?」

 

「はい。」

 

「そうだな。そうであってほしいものだ。しかし、何か一手あれば・・・!?」

 

 そう歯噛みしていると、

 

「ありますよー。」

 

 そう言って、ミクがフヨフヨとやってきた。俺は驚いてミクのほうに目をやると、

 

「中須少将でしたっけ?彼にそんなに不快感を与えずに援護する方法が。」

 

「なんだい。それは?」

 

「格納庫の整備室へ来てくださいー。先に行って待っていますねー。」

 

 出原中佐は妖精さんが見えないが、今の会話は俺とミクが()わしたものだと瞬時に理解したようだ。

 

「ミクさんは何と?」

 

「護衛艦隊を手助けする方法があるらしい。格納庫へ来いと言われた。」

 

「わかりました。『総員に告ぐ。これより、湊元帥閣下は特殊作戦に就く。決して口外しないように。』」

 

「感謝するよ。中佐。」

 

 これで、俺は公然と見える透明人間となったわけだ。早足で格納庫のミョルニルアーマーが置いてある整備室へと向かう。中に入るとミョルニルアーマーの隣にMS艤装が置いてあり、ミクが他の妖精さんへ指示を出し、最終チェックをしていた。

 

「Jセイバー?」

 

「はいー。フライトユニットを装備したハイマニューバ・モードですよー。これはどこにもお披露目されていませんから、特機の予備人員が文句も付けにくいかとー。実際、この艤装以外にも製造中ですが、艦内では早々できるものでもないのでー。これを含めて2機が実働可能ですー。」

 

「なるほど、では、俺が使い終わった後は特機へまわすのか?」

 

「いえー。このJセイバーは海斗さん用にチューンナップをしていますので、実質、海斗さん専用機ですねー。残念ながらカラーリングは他のと一緒ですけど、ミョルニルアーマーみたいに専用色にしたらバレちゃいますからねー。」

 

「ああ、カラーリングは別にいい。どの程度、強化した?」

 

「出力、推力、共に倍ですねー。反応速度は3倍です。あ、武装は通常のビーム・ライフルとビーム・サーベル、ビーム・シールドになりますのでー。」

 

「まあ、体を慣らしながら前線に向かおう。」

 

「では、準備が出来ましたので、どうぞー。」

 

 ミクにそう言われてJセイバー艤装を着込んでいく。通常のMS艤装には無い神経接続もあるようだ。これが反応速度3倍の大元だろうな。そう思いながら頭部ユニットを被ると、ゴーグル・アイ越しの映像が映し出される。顔を上下左右に振ってみるが、特に問題なく映し出されているようだ。

 

 整備室をミク達の敬礼で見送られながら出て、エレベーターへ向かいながらC.I.Cに通信を繋ぎ、出原中佐を呼び出す。

 

「『中佐、今、MS艤装を着込んだ。新型になる。舷側エレベーターで最上甲板へ移動中だ。IFF(敵味方識別装置)を起動するので確認を。』」

 

『・・・よし、確認できました。』

 

「『常に俺に情報を流すように、通信は繋いだままで頼む。』」

 

『了解しました。』

 

 デッキクルーの誘導に従い、カタパルトへ向かう。そして、両足をカタパルトへ固定する。ジェット・ブラスト・ディフレクターが持ち上がるのを確認し、推力を最大まで上げる。間もなく、カタパルトオフィサーの合図と共に打ち出される。300km/hを超える速度から更に加速する。

 

 高度100mで800km/hを少し超えたあたりで速度が伸びなくなった。ここが限界か。HUDに映るレーダーに従い、護衛艦隊が展開している海域へと向かう。ちなみに、ガルーダ1フライトオフィサ迫中尉いわく、「全艦が回避行動をとっており、援護が入らないと逃げ切れないだろう。」とのことだ。まったく。

 

 っと、見えてきたな。お、元気にオート・メラーラの127mm速射砲が火を噴いているが、駆逐級に損害を与え、沈めることは出来ても軽巡級以上は難しいようだ。戦艦級なら特に。俺はその戦艦級にビーム・ライフルを向けて発射する。真っ直ぐに伸びたビームは空気を斬り裂き戦艦級の頭を吹き飛ばした。そのまま沈み始める。

 

 この初撃で敵艦は俺に気付いたようで対空砲火展開する。ビーム・シールドで防ぎながら重巡級、-恐らくはリ級-にシールドごと体当たりをして、吹き飛ばす。こちらに主砲を構えた軽巡へ級をビーム・ライフルで撃ち抜き沈める。すると、通信が入る。

 

『そこのMS艤装!!何者だ!?官姓名を名乗れ!!』

 

 中須少将からだった。感謝の言葉も無しかよ。救いようがないねぇ。俺は、そのまま出原中佐に対処を任せる。

 

『中須少将閣下。そちらのMS艤装は新型で特機の予備人員が運用しています。ただし、緊急出撃だったため、頭部ユニット内のマイクの調整不良により通信は受信することしかできません。そちらの状況はガルーダ1によって把握しています。彼が敵を引きつけている間に後退を。』

 

『・・・・わかった。進言を聞き入れよう。』

 

 よし、護衛艦隊を引かせるのは目的達成だな。潜水艦隊も後退するだろう。しかし、出原中佐の声には抑えきれない怒りが含まれていたな。中須少将もそれに呑まれたようだ。

 

 護衛艦隊の近くに展開した深海棲艦を片づけ、金剛たち艦娘艦隊と合流する。見慣れないMS艤装に警戒しているようだ。通信マイクを切り、外部スピーカーのみ起動した状態にして声をかける。

 

「俺だよ。金剛。」

 

「!?テートク、何でMS艤装を?」

 

「護衛艦隊の後退の手助けを俺がしたと思わせないようにさ。金剛たちもここにいるのは特機隊の予備人員だと思って行動してほしい。これは命令だ。」

 

「了解デース。んん、それじゃあ、頭も撫でてもらえないデスネー。」

 

「それは“おおすみ”に戻ってからだな。さ、残敵を掃討するぞ。武蔵も調子がよさそうで良かったよ。」

 

「うむ、金剛少佐は私の利点をよく活かして指令をしてくれるから、楽に戦闘が出来ている。」

 

「なら、よかった。夕張達は近接戦闘をしていたようだが、大丈夫か?」

 

「大丈夫ですよー。敵さん、(ふところ)に入られるとすぐに陣形を乱すんで。」

 

「そうか、そうか。」

 

 そんな呑気に話しながらも、全員が発砲をやめない。時折、砲弾やビームが命中していない敵が水上から消えるが、恐らく水中型ガンダムのアンカーで海中に引きずり込まれているんだろうな。知らない人間が見たら一種の恐怖映像だな。

 

 俺が戦闘に加わって27分後には深海棲艦は完全に掃討された。さて、護衛艦隊の被害はいかほどかねぇ。戦死者が出ていれば水葬か、どこかの港に一旦寄るか?




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第93話 葬送

 1つ、2つ、3つ・・・、“おおすみ”の最上甲板に並べられる遺体袋の数を頬杖をつきながら艦橋から数える。戦死13名、行方不明者1名。昨日、行われた第2次ペナン沖海戦の犠牲者だ。ため息しか出ないな。全員が通常艦から成る護衛艦隊の乗員だ。

 

 ちなみに行方不明とあるが、正確には死体が遺(のこ)らなかったからだ。実質、戦死だ。目撃していた乗組員によると、敵戦艦級の至近弾が着弾するほんの直前で甲板上から血煙を残して消え去ったらしい。装備していたモノも残らなかったようだ。死体の入っていない遺体袋には故人の階級章とネームのみが入っている。

 

 その遺体袋の横には護衛艦隊のSH-60Kが3機、係留状態にある。遺体は水葬せずにインドのチェンナイ国際空港にて空軍のC-130Hに引き渡すので、そこまで空路にて輸送する。そのためだ。船団の足を止めるわけにはいかないからな。特機の手によりSH-60Kへと遺体の搬入作業が開始されると、俺は頬杖をやめ、制帽を被りなおし、起立し敬礼する。艦橋要員で手が空いている者も皆が敬礼で見送る。

 

 遺体は遺品と共にC-130Hで日本へと空輸し、それぞれの故郷で葬儀を行う。空軍は完成したばかりのFFR-31“シルフィード”とFA-1“ファーン”をC-130Hの護衛につけるそうだ。

 

 ああ、チェンナイ空港まではガルーダと特機がSH-60Kを護衛するようにしている。まあ、インド近海は深海棲艦の目撃例も少ないので大丈夫だろうが、念のためにだな。

 

 ありがたいことに空軍は通信をしたらすぐに動いてくれた。今までの輸送船団の護衛艦隊は犠牲を出したことが無かったから国内でも衝撃もあったようだけどな。海上幕僚長は直々に中須少将へと通信をいれたらしい。叱責をしたわけではないようだが、海戦以降、中須少将は司令官室から出てこないとのことだ。

 

 そんなわけで階級が一番高い俺が代理で護衛艦隊と潜水艦隊の指揮をとっている。ハッキリと言って面倒だ。ああ、ヘリが発艦態勢にはいった。霧笛を鳴らすように合図を出す。船団の各艦、各船が霧笛を鳴らし、“おおすみ”上空をガルーダ隊がミッシングマンフォーメーションで通過する。それを合図に3機のSH-60Kは発艦しチェンナイ空港へと向かう。

 

 船団の速度に合わせているのですぐにヘリが見えなくなる。俺は制帽を取り、深く息を吐く。

 

「皆、即死だったのが救いかねぇ・・・。」

 

「小官は痛みに長時間さらされながら死を迎えるのは御免被りますな。」

 

「1回死んでいるが俺もだよ。死の瞬間は意識が刈り取られたほうがいい。さて、現在、“おおすみ”に収容中の者でその死をむかえそうな者はいるのかね?」

 

「いえ、永禮(ながれ)軍医長の報告によれば全員峠を越したようです。」

 

「彼らが生き残るために使用された医薬品類の残(ざん)はどうなっている?」

 

「あー、はい。当艦の往路分の3分の2を使用しました。ちなみに、食糧もだいぶ・・・。」

 

「指揮系統の一本化ができていれば“ましゅう”からの補給も即座に受けられるのにな。中央の連中は補給申請を当日中に決(けつ)をとることができんのか。戦時だぞ。今は。すぐにでも、ベッドを空けて欲しいぐらいだ。」

 

「まあ、当艦は医療設備が充実しておりますからな。仕方ないでしょう。」

 

「俺の部下のためのモノだ。乗員達から不満は?」

 

「特にありません。同じ海軍所属ですからね。」

 

「それなら、いい。」

 

 制帽を被りなおし、艦橋を出ようとすると金剛がやってきた。ちなみに、佐官用作業服を着ている。すぐに俺と出原中佐に向かって敬礼をする。俺はラフに、中佐はしっかりと答礼をする。

 

「どうした?金剛少佐。」

 

 司令官席に座り、金剛を近くに招く。

 

「ハイ。中須少将をどうされるのかと思いマシテ。」

 

「指揮系統が違うから何もできんと海戦が終わってから説明したと思うが?」

 

「覚えてイマス。しかし、失礼を承知で申し上げると中須少将には外部からの刺激が必要かと。それも強力な。」

 

「・・・俺に何をさせるつもりだ?」

 

「ミョルニルアーマーを着込んで、“こんごう”の司令官室で“お茶”をしてくると良いかと思イマス。」

 

 金剛は笑顔で俺に殴りこんでこいと言いやがった。まあ、ミョルニルアーマーの性能と俺のスパルタンとしての能力で破れない扉は現代には存在しないだろう。核シェルターの耐爆扉も壊せるんじゃないかね。試そうとは思わんが。

 

「中須少将の根性が気に入らんか?」

 

「ハイ。自ら危険な前線へと兵を死地に送り込み、しまいには部下の遺体の見送りもしないなど、艦隊司令の風上にも・・・モゴッ・・・。」

 

 金剛の口を片手で抑えながら言う。

 

「それ以上は言うな。上官の侮辱に抵触する可能性がある。愚痴はあとで執務室で聞いてやる。取り敢えずは俺が今から“こんごう”の司令官室に行くということで納得して自室で待機だ。いいな?」

 

「了解デス。」

 

 敬礼して金剛が艦橋を出る。俺は苦笑いしながら出原中佐に言う。

 

「聞こえたよな?」

 

「さあ?小官は世間話を聞いただけです。」

 

 出原中佐がとぼけてそう言うと、先程のやり取りが聞こえていたであろう艦橋要員たちも軽く頷く。

 

「そうか。では、少し離艦する。士気は出原中佐に一任する。」

 

「了解しました。」

 

 俺は自室に戻り、飲み物と茶菓子を背嚢に詰めて最下層甲板の整備室へ向かう。ミョルニルアーマーの前に立ち、ため息をついた。

 

「父親の年齢に近い人間に喝を入れにいかんとけないとはなぁ・・・。」

 

「海斗さんの一喝で済めば、それでいいんじゃないですかー?旅路は長いですからー。」

 

「おう、ミクか。そうだな。ああ、一緒に来てはくれないか?」

 

「いいですけど、何か問題でも?」

 

「壊す扉の修理をお願いしたい。」

 

「わかりましたー。」

 

 深く聞かずにミクは快諾してくれた。ミョルニルアーマーを着込み、背嚢を手に持つ。背負うとブースターが使えないからな。舷側エレベーターで最上甲板に上がる。その後は、助走をつけて、並走している“こんごう”めがけて大きくジャンプする。ブースターを数回噴かして“こんごう”の主砲正面に着艦する。

 

 艦橋要員が目を丸くしていたので敬礼すると、俺だと気づき慌てて敬礼してきた。そして、艦内の司令官室へと向かう。艦長と数名の士官が俺を止めようとやってきたが無駄だ。

 

「開けるぞ、中須少将。」

 

 そう言って、司令官室の扉をもぎ取る。あとの修復はミクに任せる。少将は、机で何かの作業をしていた。俺を一瞥するとすぐに作業に戻る。

 

「上官を無視するとはいい度胸じゃないか。」

 

 そう言って、俺は少将に近づく。彼は、遺族に向けて謝罪の手紙を書いていた。なるほど、これでこもっていたのか。しかし、一体、何枚書くつもりなんだ?机の上の端末には戦死した乗員の略歴などが表示されていた。

 

「少将、貴官は指揮を取れる状態か?」

 

「わ、私は、これを書かないといけないのです。そう、書かないと・・・。」

 

 俺の問いにそうブツブツと繰り返して言う。これはダメそうだな。

 

「医官を呼べ。診断が終わったら“おおすみ”に連絡を。俺は戻る。後は頼んだ。」

 

 艦長にそう言って、俺は“こんごう”をあとにした。

 

 結局、中須少将は強迫性障害とうつ病と診断された。2回目となる自分の指揮下での部下の死に心が耐えられなかったようだ。さて、海上幕僚長と幕僚監部に報告したらどうなるかね。まさか、俺を護衛艦隊の司令官にしねぇだろうな。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第94話 Gの系譜

全開から投稿の期間があいてしまって申し訳ありません。艦娘とのイチャイチャを書きたかったのですが、私の文章力では無理でした・・・。


「宮口准将であります。現時刻をもって中須少将より指揮権が小官に移譲されます。残りの行程をよろしくお願いいたします。」

 

 “おおすみ”の艦橋で新しい輸送船団護衛艦隊司令官の着任報告を受ける。

 

 中須少将の代役は数日で用意された。護衛のシルフィードとファーンを引き連れたE-2Cで宮口准将はやってきた。事前に送られた資料から推察するに、この男は俺が嫌いな部類だ。前部署は人事。数字で人を見るような連中だ。背広組と変わりない。

 

 それに、准将だって?上の連中は何を考えているんだ。普通なら同格の少将かそれ以上の階級だろうに。

 

 まあ、しかし、仕事だ。俺は准将の敬礼に答礼し、さっさと護衛艦隊旗艦“こんごう”へ行ってもらいたい。すでにヘリも準備している。ああ、中須少将は先程、E-2Cで憲兵と共に日本へ向かったよ。

 

「湊だ。一応、大将元帥だ。年下だが言動には気を付けてくれたまえ。新しい司令官を上官に対する侮辱で更迭したくはないからな。ああ、そういえば、中須少将の人事はどう決まったか元人事の貴官なら知ってはいないのかね?興味があるんだ。どんな馬鹿が提案したのかをな。」

 

 そう言うと、顔を真っ赤にした准将が怒りを抑えるかのような震える声で、

 

「小官にはわかりかねます。」

 

 と言いやがった。いや、今回の護衛艦隊の上級人事にお前さんが関与しているのは知っているからな。幕僚監部には人事に抜き打ち監査をするようにお願いをしたばかりだ。まあ、脅したともいうかな。

 

 まだ、怒りが収まらないのか禿げかけている頭まで真っ赤になっている。しかも、睨みつけてきている。馬鹿じゃねぇの?気付かないとでも思っているんだろうかね。まあ、おっさんに見つめられる趣味も無いのでとっとと“こんごう”に行ってもらおう。

 

「准将、ヘリの準備はできている。貴官の指揮に期待する。」

 

 そう言って、ワザと俺から敬礼する。すると、それで気持ちが収まったのかゆったりと敬礼をしてきた。ホント、こいつうぜぇ。

 

 水密扉から准将が出ていったのを確認して、自分で水密扉を閉めて深くため息をつく。「あんなんでだいじょうぶかねぇ・・・」と呟くと他の艦橋要員は苦笑いしている。ホントなら俺もそっち側の方が気が楽でいいんだけどなぁ。

 

 執務室に戻り、ゆっくりしていると扉がノックされる。入室を許可すると愛宕が入ってきた。

 

「おう、どうした?」

 

「いえ、皆で簡単なお菓子を作ったんです。提督も如何(いかが)と思いまして。」

 

「甘い物は大歓迎だ。」

 

「でしたら、艦娘区画へ行きましょう。みんなが待っていますよ。」

 

 愛宕に言われるがままに艦娘区画へと入り、食堂へ向かう。廊下にも甘い香りが漂っている。

 

「みんな、提督をお連れしたわよ。」

 

 武蔵、金剛、摩耶、夕張、大淀、曙、朧、潮、漣が配膳しているところだった。哨戒に出ている赤城たちには悪いが、まあ、なんだ美味しく戴くか。

 

「ヘイ、テートク。今回はパイを焼いてみたヨ。美味しく出来たと思うから食べて欲しいな。」

 

 愛宕に勧められた席に着くと金剛が切り分けたパイを持ってやってきた。

 

「あ~、金剛さん、抜け駆けズルいですよ~。」

 

「フフーン、早い者勝ちデスヨ、漣。」

 

 金剛にアーンしてもらい、パイを食べる。ふむ、アップルパイだな。美味い。すると、すぐに金剛に文句を言っていた漣がミルフィーユをフォークに刺して目の前に突き出してきた。

 

「ご主人様、あ~んですよ?」

 

 すぐにパクつく。うん、美味い。というかみんなが次々とアーンをしてくるので、味の感想を言うことができない。そして、口の水分を奪われる。

 

「おい、皆、少しは加減したらどうだ?」

 

 一番デカいショートケーキをさしだしてきた武蔵がみんなに注意する。その言葉にみんなの動きが止まったので、俺は、口の中に残っていたモノを飲みこんでさらに紅茶を口にする。

 

「いやあ、美味かったよ。みんな。哨戒に出ている赤城や加賀に知られたら怒られるかもな。」

 

「あら、大丈夫よ。赤城さん達もちゃんと作ってから出撃したから。」曙が言う。

 

 違う、そういう意味で言ったんじゃないんだとも言う間もなく、新しい手作りお菓子が目の前に置かれる。頑張れ、俺の胃!!ちなみに合間の飲み物は紅茶からお手製スムージー人数分に代わっていた。俺、糖尿になるんじゃね?

 

 そんな感じで文字通りのあま~い時間を過ごしていたら艦内放送で呼び出された。腹をさすりながらC.I.Cへ行くと、聞きたくない言葉が耳に入る。

 

「オマーン大使館の防衛駐在官からの連絡です。沿岸都市のスールに深海棲艦が上陸しました。オマーン政府はすでに軍を動員してスールからの非戦闘員の退避を始めています。」

 

 出原中佐の報告を聞きながら紙の海図台の上に3Dホログラムを表示させる。改造で追加された装備の1つだが慣れたら便利だよなコレ。ゲームの俯瞰図を見ている気分になる。

 

 さて、ホログラムではオマーンのスールが拡大されて表示されている。赤く発光している場所が深海棲艦が上陸した地点だ。スールの中心部から離れている海岸線沿いとはいえ住んでいる民間人もいたはずだ。彼らは無事なのだろうか?

 

「被害の状況は?」

 

「はい、今のところ民間人には被害は無いとの事です。ただ、コルベットが1隻手酷くやられたようですね。こちらにその時の戦闘経過をまとめてあります。」

 

 クリップボードを受け取り、目を通す。ふむ、海軍の哨戒艇が深海棲艦の艦隊群をレーダーで探知後、スクランブルした空軍の戦闘機が目視にて確認して陸・海・空の全軍が戦闘態勢に移行。陸軍は戦車だろうが装甲車だろうがトラックだろうが動く車輌は全て投入し、それなりの火砲を積んだ先頭車輌が殿(しんがり)(つと)め、民間人の脱出を支援。

 空軍は海軍に先んじて持てる総力を挙げて制空権の確保と深海棲艦への対艦攻撃を行った。そして、海軍は虎の子のフリゲートを全てと哨戒艇で深海棲艦の上陸を阻止するための全力攻撃を行い、物量さにより撤退。殿(しんがり)を務めたコルベットが一隻、追撃してきた水雷戦隊の砲撃を受けて艦橋を吹っ飛ばされて漂流中、と。んで、その敵水雷戦隊は航空攻撃により全艦撃沈破。

 

 しかも、航空攻撃は今も行っているようだ。まあ、F-16“ファイティング・ファルコン”にEF-2000“ユーロファイター・タイフーン”だからな。能力的には十分だろう。だが、上陸されてしまった今、航空戦力だけでは押し返せないし、陸軍戦力だけでも同じことだ。だからこそ、オマーンは周辺国への救援を要請している。俺は読み終えたクリップボードを出原中佐に返して、苦笑いしながら言う。

 

「俺達が行くしかないね。ペルシャ湾の入口だしな。中佐、オマーン海軍の司令部へ連絡はつけられるか?」

 

「可能ですが、輸送船団の護衛はどうしましょう?」

 

「艦娘を全員置いていく。」

 

「は?え、いや、まさか・・・。」

 

「俺と第1特機の2個小隊でやる。海に逃げだしたらガルーダ隊と“おおすみ”で対処してくれ。」

 

「・・・了解。全艦戦闘用意!!」

 

 出原中佐の指示の声が響く中、輸送船団護衛艦隊旗艦“こんごう”の宮口に通信を入れる。あいつなんて呼び捨てでいいだろう。送ったヘリパイから俺ならまだしも柱島泊地の皆の事を「居ても居なくても変わらない。」とかほざいていたみたいだからな。

 

 俺は専用のヘッドセットを付けて“こんごう”以下全ての船団の全てに通信内容が行き渡るように設定してから“こんごう”のC.I.Cを呼び出す。

 

「湊大将だ。司令官の宮口准将は?」

 

『艦長の佐伯であります。現在、准将閣下はお部屋でお休み中であります。』

 

「?オマーンからの通信はそちらにも届いているよな?」

 

『はい、閣下。しかし、宮口准将は船団か護衛艦隊に敵が近づくまでは起こすなと命令されまして・・・。』銀英伝のロボスかな?

 

「・・・俺の命令で叩き起こせ。引きずってでも連れて来い。いいな?佐伯大佐。」

 

『少々お時間をいただきます。』

 

「5分だ。」

 

『了解しました。』

 

 “おおすみ”のC.I.Cではあきらかに呆れたような空気が蔓延していた。それを出原中佐が、

 

「護衛艦隊がボーっとしていても我々がそれに(なら)う必要はないぞ。艦娘、第1特機、ガルーダの発艦準備を急がせるんだ。我々の働きにオマーンの命運はかかっているんだぞ。」

 

 すぐに各所で「了解」の声が返ってくる。俺の方も出撃の準備をしないといけないので、ヘッドセットを付けた状態で格納庫へと向かう。その途中で“こんごう”の佐伯大佐より通信が入る。

 

『・・・湊閣下、宮口准将をお連れしました。』

 

『全く、なんで私が。オマーンの事は周辺国へ任せればいいではないか。』おっと、宮口の愚痴が聞こえてくる。

 

「おい、准将。事務屋のお前さんにはわからんだろうが、通信用のマイクは中々に高性能でな、小言も拾ってくれる。無論、お前さんの愚痴もだ。全艦船の艦内によ~く響いたことだろうな。」

 

『ま、まってください、閣下。先程のは・・・。』

 

「時間が惜しいので言い訳は後で聞く。“おおすみ”はスールに向かい敵艦隊群と交戦する。なお、艦娘は全員が輸送船団の護衛につく。安心していい。しかし、指揮権は金剛少佐にある。その上位は私だ。宮口、お前には指揮権は無いことを理解して行動しろよ。艦娘を指揮して戦果を挙げて昇進の(かて)にしようなどと考えるなよ。」

 

 さて、釘をさすのはこのくらいにして、伝えたい一言を伝える。

 

「佐伯大佐。いざという時は貴官が指揮を取れ。元帥命令だ。船団にこれ以上死者を出すな。」

 

『!?・・・了解しました。』

 

 そこで通信を終えて整備室へ入ろうとして第1特機の整備室の中が見えた。

 

「は?」

 

 Jセイバーがあるのは理解できる。俺のモノの神経接続の無いデチューンバージョンだ。ただ、あの兜の前立てのようなブレードアンテナ、人間のようなデュアル・アイ、青と赤が目立つ胴体。

 

「G3(ジーサード)セイバーじゃねえか!?しかも2機!?」

 

 ついにミク達がやりやがった!!ガンダムタイプのMS艤装の作成及び実戦投入。2機在ると云うことは小隊長機ということだろう。そして、この装備。ふむ、陸地を占領して調子に乗っている深海棲艦どもに新しい地獄を見せてやろうじゃないか。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第95話 地獄へ、降下準備を

「それじゃあ、テートク、行ってきますネ。」

 

「おう、気をつけてな。」

 

「了解デース。」

 

 後部ランプから海面に降りたち、遠ざかっていく金剛達、艦娘艦隊を見送る。後部ランプの扉が閉まると同時に、第1特機とガルーダ隊のブリーフィングを再開する。

 

「ようはガルーダ隊は運び屋だ。俺と特機の2個小隊をミク達、妖精さんが造った降下ポッドに収容し、敵の上陸地点を囲むように投下する。降下ポッドは先程見てもらった通り、結構デカい。そのせいで、メイヴには対地・対艦用の兵装が積めん。固定機銃と対空誘導弾のみとなる。なので、一度着艦し、再度爆装し戦線に合流してほしい。」

 

「了解。」ガルーダ1、八島中佐が代表して応える。

 

「特機の2個小隊は俺と共に陸から深海棲艦共を押し返す。オマーン空軍司令部から提供された情報によると、未確認の深海棲艦がいるようだ。パイロットの視認による確認のみなのでどのような敵かわからん。G3(ジーサード)には強行戦闘モード用の装備だ。バスターキャノンとミサイルポッドは降下ポッドに収まりきらん。なので、俺のガーディアンシールドとロング・レンジ・ビーム・ライフル同様に武装用のポッドで投下される。現地ですぐに装着しろ。Jセイバーのハイマニューバ・モードのフライトユニットも同様だ。小隊長機のG3は強行戦闘モードが今回初めての実戦投入となる。気を引き締めろよ。」

 

「「「「「「了解。」」」」」」6人全員が応える。

 

「よし、では出撃用意。スールをオマーン国民のために取り戻すぞ!!」

 

 全員が起立して敬礼をする。俺も答礼をして、各自が準備に入る。

 

 整備室に入りミョルニルアーマーを身に付けていく。ヘルメットを装着し神経接続を開始する。ヘルメットディスプレイに全身の状態が表示され、シールドのエネルギーの充填完了の文字が灯る。アーマーに接続されているケーブルからの推進剤の注入も終わり、妖精さん達の手によってケーブルが外されていく。

 

「出原中佐、状況は?」

 

『本艦は金剛少佐率いる艦娘艦隊の出撃後、輸送船団と別れスールへ向けて波動防壁を展開し最大戦速にて航行中です。敵影も確認できていません。』

 

「よろしい。オマーン軍からは?」

 

『いえ、今のところ新しい情報は・・・。なに?それは本当か?無茶をやる。閣下、オマーン空軍のファイターパイロットはかなり肝が据わっていますよ。亜音速で上陸地点を通過し動画を撮影したそうです。片手での撮影なのでぶれていますが、今、補正をかけています。』

 

「そのまま、こちらにまわしてくれ。アーマーでも処理できる。そちらで処理したモノは第1特機とガルーダ隊へ。」

 

『了解です。』

 

 すぐに動画がヘルメットディスプレイに表示される。手ブレなどを補正しながら再生する。は?上陸地点に港湾施設ができつつあるだと!?どういうことだ!?さらに、短い動画を細部まで見ていくと他の深海棲艦に指示を出しているようなモノがいた。深海棲艦と云えば黒を基調とした個体が多いが、こいつは白い。肌も服も。そして黒い角が一本おでこから生えていて、両手が大きい。何かの艤装だろうか?

 

 まあ、やることは変わらんな。撃って撃って討ちまくるだけだ。整備室に置かれた武装用投下ポッドにロング・レンジ・ビーム・ライフルとガーディアンシールド、SRS99-5 対物ライフル、予備の弾倉を詰め込む。すぐにメイヴの機付員がやってきてポッドを運んでいく。第1特機のほうも大丈夫なようだ。

 

 あとは俺達が降下ポッドにおさまるだけだ。一段上の格納庫へ上がり、ガルーダ1のもとへと向かう。まったく、メイヴの威圧感といったら・・・。まさに空の女王の風格だな。

 

「八島中佐、上手く落っことしてくれよ。」

 

「対地攻撃はあまり得意ではないんですがね。精一杯やらせてもらいます。」

 

 俺は頷きポッドへと向かう。ポッド内にはMA5D アサルトライフル、M45D タクティカルショットガン、M6H ハンドガンがすでに収められている。あとは俺が入るだけだ。第1特機の面々もポッドに収まり始めている。G3セイバーもゆっくりと収まる。

 

 俺も仰向けにポッド内に収まる。機付員達の手によりポッドが閉じられる。急ごしらえのために明かりは一切ない。ミクが今度はもっと良いモノにすると云っていたな。ヘルメットディスプレイで第1特機とのリンクをオンにして、同じくポッドに収まっている他の6人と話しをする。

 

「どうだね?羽佐間中尉。」

 

『MS艤装を着込んできましたから圧迫感は感じませんね。ただ、外部が見える小窓かカメラが欲しいです。発艦後にガルーダのカメラとリンクできるとしてもあれは主に高空から地表を映すモノでしょう?しばらく、海を眺めるのも味気ないと思いますね。』

 

「まあ、帰りの推進剤を気にしなければ、いつも通りにカタパルトから出撃できるんだがな。貴官と橋島少尉のG3(ジーサード)強行戦闘モードはローラーにより地表を高速で移動し、目標を撃破するための装備だからなぁ。原作とは違いローラーにもモーターによる駆動装置を組み込んだと言ってはいたが、基本はG3(ジーサード)の強力な推進力に頼っているモノだ。全開戦闘すれば帰艦分の推進剤なんぞすぐ使い切ってしまうさ。」

 

『まあ、その代わりに全開戦闘をしても問題は無いと云うことですよね?』

 

「そうだ。ああ、今更だが、射撃の際には注意してくれ。特にエネルギー兵器は。」

 

『ああ、ビームだと貫通してスールの街を破壊してしまうかもしれませんね。』

 

「それにだ。エネルギー兵器を使用するのは我々だけしかいないからすぐに犯人が特定される。」

 

『了解です。みなもいいな?』

 

『『『『『はい、中尉。』』』』』』

 

 そんな感じで時間を潰していると作戦開始時刻になった。すでにスールからは全市民が退去した。オマーン陸軍も最低限の監視のための兵力だけを残し、機動防御のために機甲戦力は後方に待機している。海軍は動けず、空軍もガルーダ隊と入れ替わりに空域を離れる手筈だ。

 

 メイヴのエンジン、スーパーフェニックスが始動する甲高い音が聴こえる。ヘルメットディスプレイにはガルーダ1の機体下面に装備されている偵察用の高性能カメラの映像が映し出される。ゆっくりと甲板を移動し、カタパルトに固定されたようだ。スーパーフェニックスが咆哮する。と同時にリニアカタパルトが作動し40t近いメイヴを瞬時に約400km/hまで加速させる。

 

 さらにそこにスーパーフェニックスのアフターバーナーによる加速と急上昇が加わる。射出されてから数秒も経たずに音の壁を突き破った。そのさいにかかるGを思いっきり受ける。4Gからの急上昇による9G近い負荷が全身を襲うが、スパルタンとなったこの身にはまだイケると思えるほどだった。マスターチーフも大気圏に再突入してアーマーロックだけで助かっていたからな!!

 

 現在、高度20,000m。俺達入ったポッドは急降下爆撃よろしくスールに投下される。20,000mからのダイヴなんてメイヴぐらいしかできないんじゃないか?あ、あとスーパーシルフ。陸軍のナイトシーカーを装備している第1空挺団特務機動装甲大隊も除いておこう。

 

『全機、高度60,000に到達。各種装備に異常はありません。』

 

 ガルーダ1のフライトオフィサ、迫中尉が報告する。ちなみに、空軍だからフィートだ。決して60,000mではない。ヤーポン法は滅びればいい。

 

空間受動(フローズンアイ)レーダーを起動。・・・伏兵は確認できず。』

 

『では、増速する。1,450ノットだ。』

 

 さらにGがかかる。マッハ2.5を超える。深海棲艦はもう手も足も出ない高度に速度だ。呻き声が通信に混じる。第1特機の誰かだろう。MS艤装は着込む前に専用のインナーを身に付ける。それがブラックあるいはレッドアウトを防ぐために自動的に収縮するんだ。ま、それでも、体にのしかかってくるGの圧までは軽減することはできない。陸軍なのに戦闘機のパイロットよろしくGに耐え抜かなければならない。海軍の俺も似た様なモンだな。

 

『投下5分前。』迫中尉が告げる。

 

「よし、全員、MS艤装の不具合は?」特機に問う。

 

『第1小隊、異常なし。』

 

『第2小隊、異常なし。』

 

 両小隊とも異常なく。俺もヘルメットディスプレイに表示される情報でミョルニルアーマーの状態を確認する。よし、大丈夫だ。

 

『あと2分。』

 

 息を整える。

 

『1分前。』

 

 メイヴのカメラに陸地が写る。

 

『30秒。降下開始。』

 

 急降下。20,000mからのマッハ2.5でだ。猛烈なGが体にかかる。そして、

 

投下(リリース)。グッド・ラック』

 

 “カコン”という音と共にメイヴから切り離される。カメラ映像も途切れるので消す。しばらくは自由落下。エアブレーキ?んなモンはついていない。“ドンッ!!”という音、衝撃とともに接地したことがわかる。体感では地面に直立するように刺さっているようだ。すぐに、パージ用のレバーを引いて、内蔵された少量の火薬がポッドの蓋を吹き飛ばす。無人のスールの街が視界に入る。

 

「シエラ01、タッチダウン。」

 

 さて、地獄に到着だ。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第96話 白い艦隊

 投稿が遅れて申し訳ありません。仕事で上司からメンタルをやられてました。

 しかし、艦これのタグなのにむさいオッサン達が通常艦艇と戦闘機、ミョルニルアーマーにMSで活躍して、艦娘がほとんど出てこないことに頭を悩ませますねぇ。自分としてはもっと艦娘を出したいんですけど、物語の都合上こうなっちゃうんですよねぇ。

 それと、誤字報告等ありがとうございます。


『特小101(特機第1小隊小隊長)よりシエラ01。装備及び部隊の展開完了。これより状況を開始。以上。』

 

『特小201(特機第2小隊小隊長)よりシエラ01。展開完了。状況開始。』

 

「『よし、各小隊油断はするな。以上。』」

 

 ヘルメットディスプレイに表示される各小隊の頭部カメラの映像で進軍の様子が確認できる。両小隊ともG3(ジーサード)セイバーとJセイバーが300km/h以上の速度で目標地点へ向けて移動する。

 

 俺はそれに頷きながら、徒歩で市内を移動する。最も目標の近くに投下されたから徒歩でも間に合う。まあ、走ってはいるが。曲がり角ごとにクリアリングをしながら進んでいくと自分が船乗りなのを忘れそうになるな。

 

 そして、最初の接敵。白い艤装?あの“角付き”と同じだな。まぁ、深海棲艦であることは変わりない。軍艦の癖に足があるからと云って侵攻してきやがって。そう思いながらアサルトライフルを構えると、相手はビクリとして煙幕を展張しながら退()いていった。

 

 モーションセンサーのおかげで煙幕越しにも射撃はできるがやめておこう。ソ級の(ナギ)やレ級の烈火(レッカ)冴空(サク)に近いモノを感じ取った。ふむ、上陸地点に施設を造りだしているヤツの直属の部下ならば敵意と戦意は低いのか?

 

 そう思いながら歩みを進めると、今度は普通の深海棲艦の戦艦含む打撃部隊と遭遇した。敵は攻撃態勢にうつるが、その前に俺のアサルトライフルが火を噴くのが早かった。十数発の直撃弾で顔を消し飛ばされた戦艦級が崩れ落ちる。巡洋艦級と駆逐級の砲弾を全弾、ガーディアンシールドで受け止める。これ以上市街地に被害は出させん。しかし、砲弾の爆発による衝撃はで窓ガラスなどが割れてしまった。まあ、仕方ない。

 

 着弾による黒煙が晴れる前にビーム・サーベルを展開し一掃する。人型に近い巡洋艦級ならともかく駆逐級はどこが弾薬庫かわからんからな。誘爆を避けるために胴体と一緒になっている頭部を串刺しにしたほうが市街地戦では安全だ。

 

「『こちらシエラ01。2個敵艦隊と遭遇したが、1個艦隊は逃走した。各小隊はどうか?』」

 

『こちら特小101!!海岸線沿いを移動中に海上の敵艦隊と接敵。数は4!!迎撃中!!。クソッ、G3(ジーサード)はピーキー過ぎる。バスターキャノンは海が割れるぞ!!』

 

『こちら特小201。シエラ01、陸上にて1個艦隊と接敵。しかし、逃走したので捕獲のために戦闘中です。また、艤装の色が白です。』

 

「『シエラ01より、特小101。敵の艤装の色が黒ならば殲滅しろ。』『特小201は必ず捕獲しろ。5体満足で、だ。』」

 

『『了解!!』』

 

 両小隊とも接敵したか。3方向から攻めれば1部隊は敵の上陸地点、橋頭堡にたどり着けると思ったんだがな。ん?金剛から個人回線での緊急通信か。

 

「『こちらシエラ01。』」

 

『テートク、金剛デス!!索敵機が深海棲艦の艦隊群を補足。輸送船団へ向けて北上中!!すでに空母艦載機は迎撃に上がりマシタ。私と愛宕、夕張、吹雪、白雪の5名で迎撃に向かいマス。残りの赤城たち空母以外は護衛兼遊撃戦力として残しマス。』

 

「『許可する。ガルーダの援護は必要か?』」

 

『赤城たちの航空援護のみで大丈夫だと思いマス。』

 

「『無理はするなよ。あと、護衛艦隊の宮口が何かを言ってきても無視しろ。佐伯大佐が救援を求めた時が大事になっている時だ。』」

 

『了解デース。』

 

 金剛との通信を終えるとすぐに次が来る。“おおすみ”からだ。ちなみに特機の2個小隊の状況報告の通信はひっきりなしに入ってきている。

 

『こちら、おおすみ。空襲を受けていますが、敵機は全て撃墜できております。』

 

「『ガルーダはどうした?』」

 

『回避機動中により着艦許可を出せませんでした。補給は機動部隊を投下後の1回のみです。』

 

『こちらガルーダ1。現在、制空戦闘中。敵の新型機らしきモノも発見し撃墜した。おそらく陸上機だろう。映像を送る。』

 

 ガルーダ1からのガンカメラの映像がヘルメットディスプレイに表示される。白くて丸っこい奴が自由自在に飛んでおり、それをガルーダ1がガンキルしていた。

 

「変なヤツだな。空力性能無視してやがる。まあ、いい。『空は任せた。』」

 

了解(コピー)。』

 

「『“おおすみ”は敵艦隊の射程に入る前に撃破できそうか?』」

 

『少々、時間が足りないかと。本艦の速力は60ノットですから、機動戦に持ち込みます。対空パルス・レーザーでも十分に撃破可能です。』

 

「『いざという時は憲兵隊を使え。MS艤装に少々劣るぐらいで彼女達も十分に戦える装備だ。』」

 

『了解しました。』

 

 こんな感じで通信をしている間に市街地にて2個打撃艦隊を潰した。どちらも艤装は黒だった。被害を出さないために敵主砲弾をも撃ち落としていたせいでアサルトライフルの残弾が少なくなってきた。

 

 アサルトライフルをガーディアンシールドに懸架し、M45Dタクティカルショットガンをメインアームに変更する。モーションセンサーで敵の背後をとるようにしながら攻撃を仕掛けるのだが、一体倒している間に他の奴らが反応してしまう。市街地でなければロング・レンジ・ビーム・ライフルで一気に薙ぎ払うんだがなぁ。

 

 推進剤を節約するために助走をつけた跳躍をしながら市街地を動きまわる。っと、着地点に敵か。色は・・・白だな。あ、逃げた。ふむ、ここまであからさまに逃げられると罠かと思うが違うようだ。白い艤装の奴らが逃げた先に黒い通常艤装の2個艦隊が展開していた。すると、通常艤装艦隊が退避行動中の白色艤装艦隊を盾にして攻撃を仕掛けてきた。1個艦隊が白色艦隊を拘束し、その隙間からもう1個艦隊が砲撃をしてくる。

 

「ゲスが!!」

 

 すぐにメインアームを散弾のタクティカルショットガンから単発のSRS99-5対物ライフルに切り替える。

 

「頭がお留守なんだよ!!」

 

 跳躍し、敵の頭上をとる。対空砲火の中を自由落下しながら通常艤装艦隊を構成する深海棲艦のど頭を対物ライフルで撃ち抜く。人型の戦艦級や巡洋艦級は命中時に頭が膨らみ破裂し脳漿をまき散らしながら崩れ落ちる。駆逐級は風船が破裂するように中身をぶちまけながら絶命する。どれも弾薬庫と思しき箇所には当てていないので爆沈はしていない。まぁ、陸上で爆沈という表現もどうかとおもうが一応“艦”だからな。

 

 んで、肉の盾にされていた白色艦隊は一目散に煙幕を展張しながら撤退した。一切の攻撃をせずに。機銃さえ撃たなかった。ふむ。っと、金剛から通信か。

 

「『どうした?』」

 

『テートク、白い艤装を付けた水雷戦隊と接敵しましたが、煙幕を展張しながらスール方面へ向かいましタ。』

 

「『攻撃はされたか?』」

 

『ノーです。魚雷の一発も撃ちませんでしたヨ。通信傍受もしましたけど、援護を呼んだモノはありませんデシタ。私達と接敵したことしか報告してませんデシタ。あ、平文デシタヨ。今からでも追撃を・・・。』

 

「『いや、白い艤装の艦隊には手を出さないように気を付けてくれ。手を出すのは攻撃してきたときだけだ。黒い艤装の通常艦隊にはいつも通りの対処で構わんよ。』」

 

『了解デース。』

 

「『オール・ガルーダ。こちらシエラ01。』」

 

『ガルーダ1。』

 

「『白い艤装の艦隊との接敵あるいは、その艦隊への攻撃はしたか?』」

 

『していない。現在、制空戦闘中であり、対空兵装のみ。』

 

「『対空ミサイルや機銃でも対艦攻撃はできるだろう?白い艤装の艦隊には攻撃されるまで攻撃するな。あの、丸っこい陸上機にも、だ。命令する。』」

 

『コピー。』

 

 9Gを超える戦闘機動を連続して行なっているガルーダ1の声には余裕が無さそうだ。返答が単調だ。ヘルメットディスプレイに表示されるガンカメラの映像がクルクル回っている。まあ、パイロットの6割頭のせいもあるのだろうけどな。

 

 再度、タクティカルショットガンに持ち替え前進を開始する。あの交差点を曲がれば敵の上陸地点まで一直線だ。慎重に建物の壁に体を寄せ、ショットガンを一旦しまい、右手の人差し指だけを建物の陰から出して、指先のカメラで敵の待ち伏せが無いかを確認する。

いた。白い艤装の艦隊が戦艦級と重巡級を前列に配置して横陣で俺の進路を塞いでいる。ここにきて戦う気になったか?その時、特機第2小隊から通信が入る。

 

『こちら、特小201。シエラ01、応答を。』

 

「『シエラ01。』」

 

『白い艤装の艦隊の捕縛に成功しました。人型の戦艦級と巡洋艦級が話すことができます。英語ですが。』

 

「『外付けの通信機はあったか?あれば彼女らと話がしたい。』」

 

『了解。持ってきています。青目の重巡リ級が旗艦のようですので彼女に渡します。・・・これを持ってくれ。私の上官がキミらと話したいらしい。・・・通信機の出力が足りないな。シエラ01。通信を特小201が中継します。202及び203には周辺警戒を命じます。・・・すまんがもう一度話してくれ。繋がるはずだ。』

 

 少し間を置いて、

 

『アー・・・、聞コエテイルカ?』

 

「『聞こえている。貴女方には当方に対して敵意はあるか?』」

 

『ナイ。』

 

「『ならば、なぜ“スール”を上陸占領した?』」

 

『姫様ガ他ノ姫ヤ鬼二脅サレタカラ。』

 

「『その姫様の近くまで恐らく俺は来ているが、敵意を見せずに近づけば話し合えるか?』」

 

『姫様ノ周リニ他ノ連中ガイナケレバ大丈夫。』

 

「『俺の見える範囲では白い艤装の艦隊が横陣で展開している。』」

 

『黒イヤツラガイナケレバ大丈夫。アイツラハ、他ノ姫ヤ鬼ガ付ケタ監視。』

 

「『なら、大丈夫だ。黒い艤装の奴らはだいぶ()ったからな。』」

 

『ナラバ、姫様ニ会ウトイイ。』

 

「『そうさせてもらおう。通信終わり。』『特小201。彼女たちが黒い艤装の艦隊に攻撃されないように守りながら目的地の上陸地点へ来てくれ。』」

 

『了解です。』

 

 G3(ジーサード)セイバー強行戦闘モードとハイマニューバ・モードのJセイバーが護衛なんだから、大丈夫だろう。俺は武装を収め、ガーディアンシールドのみを手に持ち白い深海棲艦の艦隊群へと向けて歩き出した。さあて、吉と出るか凶と出るか。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第97話 深海のお姫様

投稿期間があいてしまって申し訳ありません。


「止マレ!!」

 

 100mほどまで近づくと白い艤装の艦隊で構成された壁から声が発せられる。俺はその声の主を探そうとして首を動かす。

 

「止マレト言ッテイル!!」

 

「自分の姿を現してから言うのが人にモノを頼む(すじ)というものだろう?」

 

 50mをきった。跳躍だけで充分に接近戦に持ち込める距離だ。

 

「ワカッタ。ココダ。私ガ此処ノ指揮官ダ。」

 

 戦艦級を押しのけて重巡級が1人前に進み出る。最近確認されたネ級の上位体か。目から金色の炎が灯っている。ま、とりあえず名乗り出たのだから俺は前進をやめる。壁まで30mチョイか。

 

「俺は、日本海軍、元帥大将並びに柱島泊地司令長官の湊という。現在、展開中の全部隊の指揮権を持っている。」

 

「承知シタ。貴官ヲ姫様ニ会ワセルタメニハ、武装ヲ預カラナケレバナラナイ。了承シテモラエルダロウカ?無論、貴官ノ実力ヲ把握シテノコトダ。貴官ガ素手デモ我々ヲ壊滅サセルコトガデキルコトハ理解シテイル。」

 

「ふむ、俺の武装は現在このガーディアンシールド、大盾だな。この中にあるものと背部と腰部に懸架しているものがある。複数名で扱って欲しい。それと、俺の移動にも伴ってもらうことが条件だ。」

 

「大丈夫ダ。オイ、武装ヲ預カルンダ。」

 

 その言葉に戦艦級が5名出てきてそれぞれに武装を預ける。「ちと重いぞ。」という言葉と共にガーディアンシールドを預けた3人は渡した瞬間に呻き声を上げていたが大丈夫かね?ま、落としたところで性能に影響はないからいいか。SSR99-5対物ライフルとM6Hハンドガン、ビーム・サーベルもそれぞれ預ける。

 

 ビーム・サーベルを渡した時にネ級上位体は首をかしげていたが、試しに俺がビーム・サーベルを起動しアスファルトの路面を斬りつけると、若干引きつつ納得したようだった。まあ、最大出力で斬りつけたから路面が煙を上げ泡立ちながら融解したからな。さもありなん。

 

「デハ着イテクルンダ。姫様ノモトヘト案内スル。」

 

 その言葉と同時に、壁が割れて入口ができる。多数の深海棲艦に見られながら歩を進める。ネ級上位体の後を着いて行く間もヘルメットディスプレイに表示される各部隊の戦闘状況を確認する。

 

 白艤装の深海棲艦部隊を捕虜とした特小201は特に接敵せずにスールの郊外へと進入。俺のIFFを頼りにこちらへと向かって来ている。

 

 しかしながら海岸線沿いを移動中の特小101は断続的に黒艤装の深海棲艦の艦隊と接敵。特小103が戦艦級の主砲の直撃を受けたがJセイバーの装甲材と装甲厚に助けられた。帰艦したら要重整備となるだろうが、フレームが歪んでいなければ装甲の換装のみですむ。

ガルーダ隊は制空戦闘を固定武装のガトリング砲のみで行っている。装弾数が数千発というモノであるからまだしばらくは大丈夫だろう。燃料も増槽を切り離していないので問題は無い。

 

 “おおすみ”はニミッツ級並みの巨艦ながら駆逐艦並みの機動力でパルス・レーザーで対空・対艦攻撃を行っている。しかしながら包囲している敵が多くこちらに辿り着くまでもう少しの時間が必要だろう。最上甲板に展開しているプロテクト・ギアを装備した憲兵隊も魔改造MG42で奮闘している。

 

 そして、金剛達だが、彼女たちの通信が一番賑やかだ。

 

『ヘーイ、武蔵!!ル級は任せマスヨー!!ワタシは巡洋艦級をやります!!』

 

『了解した。46cm砲斉射始め!!』

 

『潮!!敵潜、潜望鏡!!距離50!!いける?』

 

『大丈夫だよ、曙ちゃん!!・・・当たってぇ、えーい!!』

 

『爆雷が直撃したみたいだね。流石、潮。』

 

『ありがとう、朧ちゃん。』

 

『ハイハーイ、皆さん、おかわり来ちゃいましたよー。漣が全部貰っちゃいますよ?』

 

 こんな感じだ。ちなみに赤城たち空母組は艦載機の発着艦が完了するたびに手近な深海棲艦へとナイフとハンドガン片手に近接戦闘を仕掛けて沈めている。う~ん、鍛えた甲斐があったと喜んでいいのか、艦娘の戦い方から徐々に離れてきているような?

 

 そんなことをしながら歩くこと2,3分、(ひたい)から角が生え、両腕には大きな爪を装備し基地施設のような艤装を展開している深海棲艦、“姫様”のもとへとついた。彼女は俺をじっと見て、

 

「コンニハ。私ハ姫。名ハ無イワ。」

 

 普通に挨拶と自己紹介をしてくれた。敵意を感じられなかったので、ヘルメットを取り、敬礼をして挨拶をする。

 

「日本国海軍、柱島泊地司令長官、湊海斗大将元帥。今回、沖を航行中の船団の護衛任務についている。」

 

 言い終わり、ヘルメットを被る。

 

「さて、ここは戦場だ。というかアンタが戦場にした。占領したところを返してもらおうか。」

 

「条件ガ一ツアルワ。」

 

「何だ?」

 

「私達ノ降伏ヲ受ケ入レテ欲シイノ。ソシテ、安住ノ地ヲ。」

 

 おっと、これはまた意外な。拒否されると思ったが条件付きで承諾してくれるとは。

 

「“私達”とは白い艤装の艦隊のみという認識でよろしいか?」

 

「エエ。」

 

「わかった。すぐにここへ終結するように命令してくれ。総数の把握をしたい。」

 

「ワカッタワ。」

 

「・・・言っといてなんだが、俺の言葉を信じていいのか?」

 

「戦ッテイル貴方ノ部下ハ、私達ヲ避ケテイルワ。ソノ事実ダケデ十分ヨ。ソレニ・・・。」

 

「それに?」

 

「身内カラ戦イヲ強制サレルノニハ疲レタノ。」

 

「了解した。降伏を受け入れよう。そして、土地だが、岩礁地帯でも大丈夫か?」

 

「マァ、好キニ土地ヲイジッテモ良イノナラ。」

 

「良し、少し待ってくれ。『シエラ01よりオールガルーダ。日本との通信中継が可能な機体は?』」

 

『ガルーダ6。いけます。8万5千フィート(約2万5千~6千)まで最大推力で上昇中。』

 

 沖の方へ視線を向けると白い航跡を引きながら1機のメイヴが急上昇しているのが確認できた。

 

『ガルーダ6よりシエラ01。現在、8万5千フィート。衛星とのリンク確認。通信中継いけます。』

 

「『シエラ01より統幕、応答せよ。』」

 

 数分の沈黙の後、

 

『シエラ01、幕僚長だ。今、こっちは何時だと思っている?用件は?』

 

「『幕僚長閣下、緊急案件です。オマーンのことは?』」

 

『聞いている。先程、会議が終わって帰宅前だった。』

 

「『申し訳ありません。深海棲艦の上位種。彼女らは“姫様”と呼んでいます。その姫と接触しました。現在、オマーン周辺に展開中の白い艤装の艦隊は全てが戦闘を停止し、降伏するとの事です。』」

 

『なるほど。で、何か条件があるのだろう?』

 

「『はい、安住の地をとのことです。自分は竹島がよろしいかと。丁度、不法に占拠していた隣国人が黒い艤装の深海棲艦に排除されたばかりです。それに以前と比べ日本海側は深海棲艦の出現率が低下しています。』」

 

『深海棲艦の内輪もめか?』

 

「『似たようなモノです。』」

 

『・・・わかった。総理にお伺いをたてる。降伏は受け入れろ。政治が終わるまでは柱島で面倒をみれるか?』

 

「『ナギ達の件がありますので帰国までに周知していただければ可能かと。』」

 

『よし。他には?』

 

「『ありません。通信を終わります。』」

 

『ああ、武運を。』

 

 通信を終えた俺は姫に視線を戻す。おっぱいでけえな。

 

「姫、聞こえていたとは思うが、君たちの降伏は受け入れられた。そして、場所も今から調整する。日本への帰国までに間に合わない場合は俺の泊地で面倒をみる。これでよいか?」

姫が頷く。しかし、姫だとこれから困りそうだな。恐らくは他にも姫と呼ばれる個体がいるのだろうし。ふむ。

 

「聞きたいのだが、この深海棲艦用の港湾施設は貴女が展開したのか?」

 

「ソウヨ。」

 

「では、これから港湾棲姫とよばせてもらう。他にも姫はいるんだろう?」

 

「イルワネ。港湾棲姫・・・。イイワ。コレカラハソウ呼ンデ。」

 

「よし、話し合いはこれで終了だ。俺はこれから黒い艤装の艦隊を潰してくる。そのほうが撤収もしやすいだろう?」

 

「オ願イスルワ」

 

 よしよし、んじゃまあ、残敵掃討といきますか。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第98話 帰艦

 オマーン近海に展開していた黒い艤装の深海棲艦艦隊群を特機とガルーダ、“おおすみ”と共に殲滅し、特機とガルーダには“おおすみ改”での補給を、“おおすみ”には金剛達が戦闘している輸送船団を狙っている深海棲艦艦隊群の殲滅を命じた。まぁ、MS艤装の特機とメイヴを有しているガルーダが金剛達に合流すればあっという間に片付くだろう。

 

「ふぅ。」

 

 体を一通りほぐしてから港湾棲姫の前の地面に座る。椅子?んなもん特注じゃねえとミョルニルアーマーの重量に耐えられずにゴミになるだけだな。

 

「吸ってもいいか?」

 

「煙草カシラ?私ノ遠イ記憶ニモ吸ッテイタ人ガイタワ。気ニセズニドウゾ。」

 

「有り難い。(たかぶ)った神経を抑えるための吸入薬を兼ねているんだ。」

 

 そう言いながらヘルメットを取り、イヤホンとマイクがついたヘッドセットを付ける。これで通信は問題なく行える。それから精神安定剤入りの煙草を取り出して吸い始める。短期間で色々とありすぎた。

 

 様々な思いを含んだ紫煙が霧散していく。港湾棲姫は無言だった。もちろん、ここまで俺を連れてきた連中も。何かを感じ取ってくれたのかねぇ。有り難い配慮だ。これで、深海棲艦とはいえ人目がなかったら泣いていたかな?わからんねぇ。ただ、心の中を空っぽにするように吸っていたらすぐに1本目を吸い終わった。携帯灰皿に吸殻をしまい2本目に手を出そうか迷っていると意外な提案が港湾棲姫の口から飛び出した。

 

「紅茶ハオ好キカシラ?」

 

「嫌いではないが、あるのか?」

 

「エエ。戦利品ヨ。2人分オ願イネ。」

 

 側付きの頭の艤装が無いが、体格などから恐らく空母ヲ級だろう。彼女が一礼し場を離れる。俺は横目でそれを確認しつつ話しを続ける。

 

「ああ、なるほどねぇ。でも、これからはそれができなくなるぞ。」

 

「海ガアレバナンデモデキルワ。深海ノ資源ヲ売ッテモイイシ、漁業モイイワネ。」

 

「ああ、確かに。俺達、人間と艦娘だけでは手が足りないな。特に深海は。」

 

「深海ハ元々、私達ノ棲ミ処ヨ。任セテホシイワネ。」

 

「餅は餅屋ってわけか。」

 

「ソウイウコトヨ。」

 

「ん?何で(ことわざ)がわかるんだ。艦娘と一緒で魂が覚えているのか?」

 

「簡単ニ言ウトソウネ。デモ、私ハコノ通リ、陸上用ノ艤装ガ主武装ダカラ、ソノ、軍人ヤ船乗リダケデハ無クテ色ンナ人ノ想イガ混ザッテイルノ。ソウ感ジルコトガアルワ。」

 

「!?民間人の魂の想いか。それも悲しみや憎しみ、怒りといった。」

 

「ソウヨ。ア、飲ミ物ガ来タワ。ドウゾ召シ上ガッテ。オ茶請ケハ無イケド。」

 

「ああ、いただくよ。」

 

 俺は、港湾棲姫と紅茶を持ってきてくれたヲ級に礼を言い、カップを口に運ぶ。良い茶葉を使っているんだろうな。淹れ方も良いはずだ。香りが良い。後味もサッパリとしてエグミや苦みが残らない。

 

 改めて、紅茶の礼を言う。

 

「美味かった。ありがとう。さて、これからのことだが・・・。っと通信が入った。少し待ってくれ。」

 

 港湾棲姫は微笑みながら頷く。紅茶の味を褒めたのが良かったのか?

 

「『こちらシエラ01。』」

 

『金剛デース。出原中佐は特機、ガルーダ、ワタシ達の収容作業指揮と周辺警戒で忙しいので、ワタシが簡易報告を行イマース。輸送船団を襲うつもりだった深海棲艦艦隊群は殲滅シマシタ。大きな被害は小破が数名デス。それ以外はかすり傷程度デシタ。特機とガルーダは被弾無し。輸送船団は結局、深海棲艦の射程には入れませんでしたので、こちらも被害はありまセーン。ただ、宮口准将が誘導弾攻撃を命令したようですが、ワタシ達が接近戦を行なっていたため、“こんごう”艦長の佐伯大佐が同士討ちの可能性があるとのことで、艦長権限で却下したようデース。他の“きりしま”、“ちょうかい”、“みょうこう”、“たかなみ”、“まきなみ”、“そうりゅう”、“うんりゅう”、“はくりゅう”の全艦も艦長によって却下されてイマース。また帰艦後に報告書を提出シマース。通信終わりデース。』

 

「『よくやった。投稿した者達を連れて合流する。少々遅れる。通信終わり。』しかし、宮口には困ったものだ。働き者の無能ほど足を引っ張り、損害を出す奴はいない。」

 

 思わず、そんな言葉が口から出てしまった。俺はすぐに笑顔を作り、港湾棲姫達を見回す。

 

「諸君、おめでとう。オマーン周辺の黒い艤装の深海棲艦艦隊群は完全に殲滅された。次の戦力投入があるまでに、本隊に合流する。航行に支障のある者はいるか?」

 

「・・・、イエ、皆ハ大丈夫ナヨウネ。」

 

「それでは、さっさと出発しよう。オマーン陸軍にスールを奪取してもらわんといかんからな。」ヘルメットを装着しながら言う。

 

 俺と港湾棲姫を先頭にスールから出港する。殿(しんがり)は港湾棲姫の所まで案内してくれたネ級上位体だ。スールから距離をとってからオマーン軍の統合作戦司令部に通信を入れる。

 

「『こちら日本海軍、元帥大将の湊だ。聞こえているか?』」

 

『こちらオマーン統合作戦司令部です。感度良好。』

 

「『スールから敵性勢力の一掃を完了した。投降した者たちを連れて帰艦中。作戦は成功した。』」

 

 一瞬だけ沈黙が通信を支配した。そして、次の瞬間には歓声と歓喜の声、感謝の言葉の嵐が爆発した。

 

「『あー、喜んでもらえているのは嬉しい。感謝の言葉も受け取ろう。しかしだ、貴官らの作戦はまだ終わっていないだろう?歩兵部隊と装甲戦力をスールの市街地へ入れて内外に奪取をアピールしなければならんだろう。』」

 

『ええ、そうです。今、待機中の陸軍部隊に指令を出しました。本当にありがとうございます。あなた方は英雄です。』

 

「『そういうのはガラじゃないな。本国では私の事は鬼神と呼ばれている。まぁ、悪魔(デーモン)の上位種で要は恐ろしい神ということだな。つまりヒトでは無い。だから、私は英雄じゃないのさ。』」

 

『では、勇敢なる悪魔(デーモン)に最大限の感謝を贈らせていただきます。』

 

「『受け取ろう。今後の事は大使館と頼む。以上。通信終わり。』」

 

 これで、まぁ一仕事終わりか。もう一仕事は姫さん達をどうするかだな。

 

「港湾棲姫。貴女には“おおすみ”のなかで過ごしていただきたい。監視付きだが行動の制限はかけない。危険区域は除くが。」

 

「他ノ子ハ?」

 

「彼女たちには交代で“おおすみ”にて休んでもらう。元々が輸送艦でそれをさらに改造して巨体化したからな。それで、艦外の者には“おおすみ”を中心として輪形陣で航行してもらう。」

 

「肉ノ盾トシテ使ウツモリカシラ?」

 

「んなわけないだろう。単縦陣や複縦陣では艦列が伸びすぎる。輪形陣なら“おおすみ”搭載の兵装で(まも)りきれる。それに距離が均一だから休めはしないが艦内へ収容しやすい。艦載機の哨戒網内でもある。」

 

「アア、確カニ。ゴメンナサイネ。」

 

「勘違いしても仕方がないさ。気にしなさんな。・・・前方、高度3,000フィート(約900m)。速度1,400kmオーバー。2機。味方だ。撃つなよ。」

 

「ワカッタ。」

 

 なんと、ガルーダ1、2が出迎え兼制空権確保のために補給後すぐに発艦してくれていた。事後報告だったので、思わずため息をついてしまった。いや、誰も悪くはないんだが、八島中佐達、パイロット達には休んでほしかったというのが本音だ。空中戦、しかも格闘戦(ドッグファイト)で高G機動を連発していたからなぁ。あれ、絶対に10G越していただろうな。

 

 そんなことを考えていると黒い2つの点はすぐに大きくなり、そして戦闘機の姿がよくわかるようになる。メイヴ特有の可変前進翼と可変尾翼、そしてコックピット。パイロットの姿を捉えたと思った次の瞬間にはアフターバーナーを焚いて上昇した。空中哨戒を行うのだろう。安心度が一気に上がるな。主翼にはマイクロミサイルポッドを4基積んでいた。敵性深海棲艦艦隊が現れても一網打尽だろう。

 

 足の遅い補給兼輸送艦に合わせていたら夜中になった。輸送船団も止まらずに、いや止まることができずに前へと進んでいるから陽があるうちには“おおすみ”には合流ができなかった。

 

 合流して、投降した港湾棲姫を“おおすみ”艦内に収容することができたのは、次の日の日の出共にとなった。まぁ、これで本当に今回のオマーンでの作戦行動は終了となったわけだ。疲れた。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第99話 塩派?ソース派?

12連勤がやっと終わりました。若いときのようにはいきませんねぇ。


「『ほう、あの国は認めましたか。』」

 

『認めざるをえんだろうさ。あそこの国の海軍は第2次日本海海戦で相当な損害を出したからな。』

 

 統合幕僚長こと真護叔父さんが渋い表情で言う。俺はそんなのお構いなしに話しを進める。

 

「『仮にも同盟国である我が国と米国を出し抜いて、抜け駆けなんかをするからですよ。ご自慢のイージス艦も沈められて、しかもなぜか前線にいた強襲揚陸艦まで文字通り粉砕されましたからね。映像と写真を撮ったうちの空軍偵察部隊の実力を再確認しましたよ。』」

 

『まぁ、そういうわけであの国が面子を保つためには、竹島を深海棲艦穏健派に譲り渡し(ふところ)の深さを内外に見せつけようというわけだ。ま、竹島自体は我が国のモノというのが昨今の国際世論だから意味がないがな。』

 

「『9割9分9厘、国内にむけてのパフォーマンスでしょう。諸外国は特定国を除いて我が国の味方ですよ。それに先日のオマーン戦の勝利の事もある。沿岸国にとって我が国は希望ですよ。特に我が柱島泊地の第0護衛艦隊が充足すれば海外への救援がしやすくなります。旧型艦で構わないのでドンドン寄こしてください。』」

 

 ちょっと強調して強請(ねだ)る。

 

『確かに君の所に戦力を集中して強化していくのはよいことなのだろうが・・・。』

 

「『ま、国民感情もわかります。近くの基地に目に見えての“軍艦”の姿があれば、その大小問わずして安心できますからね。まあ、玄関の鍵のようなモノですか。』」

 

『君らしい例えだ。』

 

「『そいつはどうも。ああ、そういえばシルフィードとファーンの複座化ですが、すでにミクに設計図を引いてもらいました。データを暗号化したモノを送信しておきます。シルフィードは原作だと複座でしたから容易かと。』」

 

 通信画面を見ながら執務机の端末を操作する。

 

『助かる。空軍は失ったF-15DJとF-2Bの補充に躍起になっているからな。』

 

「『ファントム爺さんを魔改造します?』」

 

 俺、ファントム好きなんだよねぇ。なぜかはわからないけど惹かれるモノがあるんだよ。

 

『魅力的だが、フレームが持つかね?』

 

「『確か、妖精さんたちがウチの泊地の艦船や航空機を強化する際に、塗布するだけで強度が上がる塗料のようなモノをしようしていました。いけますよ。やりますか?』」

 

『悩むな。ASMは?』

 

「『主翼も強靭化されるので、積めるようになるでしょう。エンジンも恐らくはスーパーフェニックスになるでしょうからマッハ2.5~3級ですね。あとは電子装備ですけど、最低でもシルフィード以上のモノを積むことになると思います。』」

 

 あの低速域で操縦性が落ちるとウワサの尾翼部分も可変式にして、ジェットノズルも推力偏向型に変更すればあと10年以上は戦えるんじゃないか?

 

『それは・・・、凄いな。う~む、F-1を退役させるのがあと3年遅ければF-1も強化できただろうか?』

 

「『もちろん。答えがわかっているのは無意味な質問ですよ。』」

 

『そうだな。すまん。っと、そろそろそちらは昼食の時間だな。今日の話し合いはこのくらいにしておこう。』

 

「『了解。それでは。』」

 

 画面越しに真護叔父さんと敬礼を交わし通信を切る。秘書机で仕事を片づけていた曙が口を開く。

 

「隣国に喧嘩を売っているように聞こえたのだけど?」

 

「“ように”じゃなくて“売っている”のさ。どうせ盗聴されているならスパイスも必要だろう?これで戦後の敵と味方がハッキリしてくれると楽なんだがねぇ。」

 

 椅子の背もたれになんかかりながら頭の後ろで手を組みながら言う。

 

「呆れた。第0艦隊にシルフィードとファーン、ファントムⅡのこともよかったのかしら?」

 

「モチ。日本に爪を立てようとする連中にはちょっとした牽制程度にはなってくれたんじゃないかな。」

 

「ふぅん。ところで、クソ提督は上陸しないの?折角のドバイよ。護衛艦隊のあの無能も呑気に上陸したみたいだし。」

 

 曙はよっぽど宮口のことが嫌いみたいだ。まぁ、護衛艦隊のなかでもかなり嫌われているみたいだしなぁ。“おおすみ”に乗り組んでいる皆はいわずもがな。

 

「んー、下位の者が好き勝手に動きまわっているから上位の者はその地位に応じた責任を果たさないといけないのさ。」

 

「つまり、無能が艦隊司令席にいない時の緊急時には護衛艦隊を指揮する覚悟があるってことね。」

 

「そういうこと。半舷上陸でも艦は戦えるからな。それにペルシャ湾に入ったからと言っても油断はできないからなぁ。」

 

「まさか、深海棲艦がやってくるとでも思っているのかしら。」

 

 おっと、攻撃的な目つきになったねぇ。まぁ、そう思っているから接岸せずに沖に停泊してんだけどね。勿論、ドバイ政府の許可を貰って、ガルーダ隊に哨戒飛行を行わせてもいる。

 

「相手からしたら、穏健派とはいえ姫とその配下をまるまる奪われたんだ。面子が立たん。馬鹿で無能、さらに直情的な敵の指揮官ならどこかで攻撃を仕掛けてくる。」

 

「そうでなければ?」

 

「日本に帰るまで、ほぼ手出しは無いだろうな。逆に戦意を落としかねない連中が消えてせいせいしたと思っているだろうさ。そんで、俺達が対処しきれないほどの数を揃えてから作戦行動にうつるだろうな。」

 

「戦場になるとしたらどこかしら?」

 

「まず、日本近海はありえない。陸軍ではMS艤装の配備が進んでいるし、航空戦力も回復してきている。海上戦力はいわずもがな、曙たち艦娘がいる。これらの戦力を相手に戦うとしたら乾坤一擲と云った作戦になるだろうな。それに敵さんの目の上のたん瘤は俺達だ。」

 

「あたし達を誘い出そうとすると云うこと?」

 

「俺はそう考えているよ。ついでに言えばここら辺かなという目星もついている。」

 

「フーン、なら、あたし達は訓練してその時に備えるだけね。」

 

 曙が胸を張って言う。女性の胸は小さかろうが大きかろうが存在するだけで尊いのだ・・・。ま、そんな考えを表に出さずに言う。

 

「心強いな。さて、昼飯でも食いに行くか。」

 

「また、お姫様と?」

 

「本人の希望だからな。仕方ない。」

 

「・・・あの胸があるからじゃないのかしら?ク・ソ・提・督。」

 

「そんなに強調して言わんでも・・・。ああ、そうだ曙も一緒に食うか?」

 

「え、いいの?」

 

「大丈夫、大丈夫。」

 

 と言っていた十数分前の自分が憎い。ミクえもん、タイムマシンを創ってよ。え?できる?マジで?でも、やらない?タイムパラドックスで俺が消え去る可能性があるから?うん、やめよう。

 

 そんで、まあ、なんというかあまりよろしくない空気が漂っています。港湾棲姫のために用意した部屋で。出所(でどころ)は曙と港湾棲姫。

 

「だから、トンカツには塩が一番合うのよ!!」

 

「ワザワザ“トンカツソース”ト書イテアルノダカラ、コレガ一番ヨ。」

 

 トンカツには何が合うかを語り、語っているのか?まあ、自分の思いをぶつけあっている。殴り合いにさえならなければいいよ。俺?俺は山形屋の三杯酢をつけて食べている。サッパリとしていいんだ。

 

 それに親戚が送ってくれた鹿児島県産六白黒豚だからな。もともとの味が良い。勿論俺達だけじゃなく“おおすみ”に残っている乗組員は全員、昼食は黒豚トンカツだ。

 

「ところで、何でクソ提督は酢なんかを使っているのよ。」

 

「理解デキナイ。」

 

 おっ、共同戦線か?まあ、言い争いをしながら食うよりかはマシだろう。

 

「ただの酢ではないぞ。山形屋のレストランで使用されている三杯酢だ。鹿児島県人の故郷の味の1つと言っても過言ではないと思っている。そして、このトンカツには鹿児島県産の黒豚が使われている。合わないはずがない。」

 

 と暴論にも等しいことをサラッと言う。

 

「まあ、あれだ。今、目の前にあるのは好きなように食べて、今揚げてもらっている2枚目と3枚目には互いのオススメをつけて食べてみればいい。ああ、もちろん、ドバっとかけろというわけではないからな。そこは勘違いするなよ。それと、赤城たちには黙っていてくれよ。3枚食えるのは俺達だけだからな。」

 

「クソ提督がそう言うなら・・・。」

 

「ソウネ。元帥ノ言ウ通リニシテミルワ。」

 

 そうやって、落ち着いて食事を再開する。ちなみに塩派とソース派は和解できた。三杯酢は2人とも「「甘ッ!?」」と驚いて、信じられないモノを見るような目で俺を見る。そんなにか?




読んでくださりありがとうございます。

そろそろ新型MS艤装を出したいですねぇ。

あ、ちなみに私はトンカツにはそのお店に置いてある調味料を一切れずつかけていく。ですかねぇ。で、次回以降のお気に入り調味料を見つけます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第100話 電脳知性体

久しぶり(2週間ぶり)の12連勤(中)は疲れますねぇ。


 さて、ペルシャ湾に錨を下ろして1週間が過ぎた。赤道付近だからそんなに寒くはないが、もう3月に入っている。輸送船団の各船も腹の中を入れ替えて日本へと戻る準備が出来つつある。

 

 ただし、復路の護衛艦隊の司令官も宮口なんだよなぁ。なんとか別の人物を送ってもらえないか上申したが駄目だった。国内も余裕がないとのことだ。まあ、艦娘を駐留させるための泊地や基地の新設で将官が足りてないからなぁ。仕方がない。ああ、第1次首都圏防衛海戦でも将官や佐官級が結構な人数が戦死したもんなぁ。

 

 そんで、帰国の前に大使館のレセプションに参加してほしいとの打診が外務省からあった。中東諸国のお偉いさん方がミョルニルアーマーの勇姿が見たいんだと。ふざけんなよ害務省。

 

 そんなこんなで帰国の途につくことになった。陣形は往路と変わらず、“おおすみ”が遊撃戦力として行動できる配置になっている。投降した深海棲艦たちだが、港湾棲姫は専用部屋で、他の()たちは3交代で“おおすみ”艦内で休息をとり、それ以外は金剛以下艦娘たちの監視下のもとに“おおすみ”と並走してもらっている。

 

 で、俺は“おおすみ”C.I.C内で頭を抱えている。

 

「出原中佐、どう思う?」

 

「どうもこうもないでしょう。我々が先陣を務めなければ輸送船団と護衛艦隊に深刻な被害が出るかと。」

 

「はあ。『マラッカ海峡の手前、アダマン海南東にて複数の深海棲艦艦隊群の動きを確認。』か。ガルーダ隊を超長距離偵察に出したかいがあったと云うべきか・・・。」

 

「航空攻撃で仕留めますか?」

 

「現在はアラビア海中域で、ここだ。深海棲艦艦隊群が確認されたのが、ここ。往復でも8,000km。しかも、戦果確認をしてもらわんといけんからな。戦闘行動を含めると30分以上は滞空してもらわんといかん。」

 

 海図の表示されている液晶パネルに口に出した情報を表示しながら話しを進める。

 

「そして、継戦戦力として俺と特機を投下したとして、まあ、弾薬がつきても近接戦闘で粘るよ。しかし、推進剤が持たない。下手に陸地に向かえばそこが攻撃される可能性が跳ね上がる。」

 

「・・・ガルーダ隊に威力偵察を命じますか?敵の詳細がわかるかと。」

 

「う~ん、どうするか・・・。米軍の偵察衛星が使えればなぁ。」

 

「絶対に対価を求めてきますよ。」

 

「そこが問題だ。第1次首都圏防衛海戦後に第7艦隊も引き揚げようとしたぐらいだしな。」

 

「あの時は、焦りましたねぇ。」

 

「ホントに。第7艦隊司令が上申してくれたおかげで、日本の防衛力を維持できたようなもんだからな。まあ、米国防総省(ペンタゴン)からは、見返りにF-2Bのノックダウン生産を求められたからな。それとASM-2の売却だったか。」

 

「まあ、内閣はよくやってくれたと小官は思います。」

 

「そうだな。総理と内閣の各大臣はよくやってくれた。害務省と背広組が勝手に話しをすすめていたのには腹が立ったがな。」

 

 ため息交じりに言葉を吐きだすと、少し気が楽になった。付き合わされた出原中佐には申し訳ないがね。

 

「さて、愚痴はここまでにして、現実問題としてガルーダ隊による反復長距離攻撃しか方法がないだろう。投降した深海棲艦たちを危険には(さら)すことはできない。」

 

「はい。護衛艦隊に預けるのも不安があります。」

 

「せめて、艦隊司令が宮口で無ければなぁ。」

 

「同意します。」

 

「ま、やっこさんは降格と左遷が決まっているからな。それで良しとしよう。」

 

「そうなんですか?やはり原因は先日の襲撃時の対応ですか。」

 

「おう。統合幕僚長から直々におしえてもらった。ま、それはおいといて、だ。ガルーダ隊は“おおすみ”の直掩に2機は必要となる。となれば当然、残りの4機が攻撃隊となるが、直掩の2機もずっと飛び続けられるわけではない。交代が必要だ。と、なると必然的に2機は“おおすみ”で休息のために待機してもらわんといかん。」

 

「要するに数が足りないと?」

 

「そうだ。」

 

「しかし・・・。あ、そういえば参考として拝見した小説版とアニメ版の“戦闘妖精 雪風”では、雪風が単独での戦闘行動をとる描写がありましたよね。あれは、実現は不可能なのでしょうか?」

 

「確かに搭載されているコンピュータは、雪風と同等かそれ以上ではあるな。・・・、無人でやらせてみるか?」

 

「その価値はあるかと。八島中佐たち搭乗員の意見も聞いてからですが。」

 

「よし、航空艦橋に移動する。八島中佐たちにも召集を。」

 

「了解。」

 

 

 航空艦橋にはすでに八島中佐達が集まっていた。

 

「忙しいところすまんな。楽にしてくれ。」

 

 確認された深海棲艦艦隊群に対しては、とりあえず航空機による反復攻撃を行う予定であることを伝える。

 

「そこでなのだが、メイヴの無人による運用を試してみようかと思う。」

 

「ふむ、我々、搭乗員はお役御免ということですかな?閣下。」

 

 八島中佐が彼の部下では質問しにくいことを言う。部隊を率いる者の見本だな。

 

「いや、違う。貴官らの疲労軽減のために考えているところだ。例えば、上空直掩、偵察、ガルーダ隊のみによる単純な攻撃等だな。このくらいなら搭載コンピュータが学習しているだろう?」

 

「はい、閣下。仰る通りです。しかし、アレは単なる戦闘コンピュータではないように我々は考えております。報告書にも時々記載をしていたかと。」

 

「ああ、確か『知性体的な出力を行うように見受けられる。』だったか。はん。ますます、神林長平先生の“雪風”原作に近くなってきたと思っていたところだ。電脳知性体か・・・。で、実際にどうかね?」

 

「最初から完全な無人はやめるべきかと。コンピュータに任せるにしても機長席には搭乗員を必ず乗せて運用すべきです。フライトオフィサも操縦ができるので、搭乗員は12人体制で運用できます。」

 

「休息の問題は?」

 

「今でも充分ですよ。旨い飯と上質な寝床を用意してもらっているのですから。」

 

「確認されている深海棲艦艦隊群への攻撃は?」

 

「十分に可能です。」

 

 他の搭乗員たちも同意するように頷く。

 

「よし、わかった。明朝0600よりコールサイン“ガルーダ1”“ガルーダ2”による超長距離攻撃を開始する。」

 




ジャンルが艦これなのにむさいオッサンばかりで艦娘が出て無い・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第101話 電脳知性体・その2

連勤と残業させるなら空調ぐらいはつけて欲しいもんですねぇ。節約って・・・。


 “ガルーダ1”“ガルーダ2”による往復8,000kmにも及ぶ超長距離攻撃の詳細を詰め、執務室に戻ろうとして扉の前で足を止める。執務室の中に多数の気配を感じたからだ。まぁ、なんとなくだが予想はついている。ため息をついてから扉を開ける。

 

「お前たち、今は休息時間で自由行動は許可しているとはいえ、俺のいない執務室に押しかけるのは感心せんな。」

 

 武蔵を筆頭とする艦娘たちに声をかける。古株でまとめ役の金剛、赤城、加賀は大淀、吹雪、白雪と共に船団護衛中だ。本日が秘書艦の愛宕は俺の姿を認めて少しホッとした表情を見せた。俺は自席につきながら、

 

「お前ら、愛宕になんか問い詰めたりしたんじゃねえんだろうな?大淀、どうだった?」

 

 1人だけ皆と少し離れた場所にいた大淀に聞く。

 

「はい、提督。いいえ、特には。愛宕さんから提督がお帰りになるまで待っていてほしいと言われましたので、雑談をしながら過ごしていました。」

 

「その愛宕は少し困っていたようだが?」

 

「はい。愛宕さんから談話室か自室で待ってほしいとお願いされていたのですが、それを断り、現状に至っているせいかと。私も言ったのですが・・・。」

 

「ああ、そうか。愛宕と大淀には心労をかけたな。で、武蔵。金剛たち以外を引き連れてきた理由(わけ)を話してもらおうか。」

 

 椅子の背もたれに体重を預けながら武蔵の瞳をジッと見つめる。

 

「なぜ、私に聞く?」

 

「逆に聞くが、お前以外に誰がいる?摩耶は愛宕の妹だ。何か気になることがあれば1人で愛宕に聞きに来るだろうさ。大淀は先程の会話でもわかったとおり除外。翔鶴、瑞鶴は自分たちの艦載機の能力を把握している。メイヴに敵わないのは理解しているので2人も除外。夕張は戦闘では度胸はあるが、モノいじり以外では俺に何かを直訴するようなことは今まで無かった。曙、朧、漣、潮は、まぁ、無いだろう?潮が止める。」

 

「私は、相棒、お前から信頼されていないのか?」

 

 武蔵が俯き気味に言う。

 

「相棒だからだ。全員を引き連れてこられる行動力はお前と金剛ぐらいだと思っているからな。信用も信頼もしているよ。」

 

「・・・そうか。」

 

「で、理由(わけ)は?まだ、聞かせてもらっていない。予想はつくが。」

 

 武蔵は顔を上げ、

 

「ガルーダ隊だけではなく、我々も出撃させてほしい。」

 

 とハッキリと言った。まぁ、俺の返答は決まっているんだがね。

 

「駄目だ。目標までの距離が離れているし、あれが敵の本隊とは限らん。陽動の可能性がある。そうなった場合に狙われるのは輸送船団だ。先日の尖塔でもわかっているとは思うが、通常艦隊のみでは守れん。死者を減らすことしかできんよ。お前もハッキリと言ったのだから俺もハッキリと言おう。最終防衛戦力の艦娘艦隊を今回の超長距離攻撃に参加はさせない。本来の任務である輸送船団の防衛を果たせ。決して、お前たちが力不足だと思っているわけではないことは忘れないでほしい。以上だ。そして、これは、命令だ。了解したか?」

 

「私も軍人だ。了解した。」

 

 武蔵は敬礼して了承してくれた。摩耶たちも敬礼しているので俺はラフに答礼し、ソファを指差し、

 

「ま、折角来たんだ。ゆっくりしていけ。ああ、他に用事がある者は退室してもいいぞ。自由時間だからな。」

 

 笑いながら告げると、曙、朧、漣、潮の4人が退室して、武蔵、翔鶴、瑞鶴、摩耶、夕張、大淀の6人が残った。俺は愛宕に6人に茶を用意するように言って、自分は専用の冷蔵庫からドクターペッパーを取り出し、プルタブを開ける。艦娘の7人が“うへぇ”と云う表情(かお)をする。なんだよ。ドクぺ美味いだろうよ。

 

「さて、お前たちが超長距離攻撃にメイヴを使用するのは妖精さんから聞いたんだな?どこまで、聞いた。」

 

 そう言うと、武蔵では無く瑞鶴が何ともいえない表情になった。

 

「私の烈風搭乗妖精さんが教えてくれたの。メイヴ達が話したいことがあるって。」

 

「待て待て。メイヴから妖精さんに接触(コンタクト)があったということか?」

 

「そうみたいね。ミクさんからは何も聞いていないの?」

 

「聞いてねぇな。おーい、ミク。いるんだろ?出て来い。」

 

 すると、壁に掛けてあるモニターの上から目をこすりながら出てきた。

 

「なんですかー?気持ちよく寝ていたんですけどー。」

 

「いや、さっきの武蔵達との一件で起きろよ。ま、それはいい。メイヴ各機が妖精さん達と意思の疎通ができるのは本当か?」

 

「んー、そうですよー。メイヴに搭載されているコンピュータは意思疎通できますー。」

 

「それは、今まで無かったことだよな?」

 

「はいー。でも、今回の航海で様々な情報を得たことによって電脳知性体と呼べるまでの成長を遂げることができましたー。人間で云うと、高校卒業程度ですかねー。」

 

 いや、充分に育っているんじゃねぇか。

 

「ということは、俺とも意思疎通ができるのか?」

 

「勿論ですー。ただ、メイヴへの情報伝達兼給電用ケーブルが繋がれている時だけですけどねー。繋げていないときには、搭乗員席で行う必要がありますよー。」

 

「・・・メイヴ達、いや、知性を手に入れたんだったな。彼女たちは今回の作戦についてどのように考えている?」

 

「んー、戦闘機動を行う際は人間は(かせ)にしかなりませんが、搭乗員の支援無しでひとりで作戦任務を完遂させることは難しいのではとも考えていますねー。」

 

「まてまてまて。そこまでの思考ができるのか?」

 

「先程も言った通り、人間の高校生ほどの知性と理性を備えていますよー。」

 

 マジか。人型機械に能力を移植したらアンドロイドじゃないか。

 

「まさか、原作の“雪風”みたいに勝手に搭乗員を射出したりしないよな?」

 

「それはないですねー。搭乗員の方々には・・・。まぁ、特別な想いがあるようなので、(まも)ることはあるでしょうけど。」

 

「?」

 

「あ、わからないならいいですよー。」

 

 ちなみに愛宕たちはわかったのかウンウンと頷いている。ふむ、まぁいいか。八島中佐達が愛機に危険にさらされないなら問題なしだ。

 

「ねぇ、提督さん。出撃する機体には機長しか乗らないんでしょ?後席に私達が乗ったらダメかな?艤装は最低限で。そうね、脚部の推進艤装と近接戦闘パッケージぐらい。それなら、もし、脱出しても生存率が上がると思うの。」

 

「悪くない提案だ。瑞鶴。八島中佐に確認してみよう。」

 

 すぐに八島中佐の執務室に艦内電話をかける。2コールで出た。

 

「『明日の出撃準備で忙しいところに申し訳ない。頼みごとが出来たので連絡した。』」

 

『はい、閣下。どのようなことでしょうか?』

 

 とりあえず、ミクから聞いたメイヴ達が高校生程度の電脳知性体として成長していること、後席に艦娘を乗せての出撃について話しをした。

 

『瑞鶴少佐が提案された艦娘のどなたかを後席に乗せるのは可能です。飛行服と耐Gスーツの用意も可能でしょうか?』

 

「『少し待ってくれ。』ミク、明日の出撃までに艦娘2人分の飛行服と耐Gスーツの作製は可能か?」

 

「大丈夫ですよー。我々、妖精にお任せくださいー。」

 

 そう言って胸を張る。

 

「『今、ミクに確認した。明日の初回出撃分は間に合うそうだ。』」

 

『了解。では、搭乗する方が決定しましたら書面にて提出をお願いしてよろしいでしょうか?』

 

「『ああ、問題ない。ハッ!書面にて提出か。自衛隊時代を思い出すな。』」

 

『まぁ、今はだいぶ変わりましたからね。』

 

「『ああ、背広組の発言力が弱くなったからな。っと、こんなことを聞かれると軍国主義者と言われるな。それでは、書類は搭乗予定の者に持って行かせる。』」

 

『了解。』

 

「『それではな。』」

 

 受話器をおいて、発案者の瑞鶴を見ながら告げる。

 

「八島中佐から許可は出たぞ。それで、誰が乗る?挙手してくれ。」

 

 もちろん瑞鶴はすぐに手を挙げる。続くように翔鶴。そして、おずおずと夕張。この3人が手を挙げた。

 

「よし、今回は瑞鶴と夕張で決定する。翔鶴は現在、船団護衛の任に就いている赤城と加賀の代わりとして出撃してもらうから外した。異論は?無いか?よし、では解散。瑞鶴と夕張はミクに着いて行って飛行服と耐Gスーツを作れ。」

 

 愛宕以外の全員がソファから立ち上がり俺に向かって綺麗な敬礼をする。俺はラフに答礼し、皆が退室するのを見送る。

 

「さて、愛宕、すまんが瑞鶴と夕張の航空出撃用の書類作成を手伝ってもらうぞ。」

 

「ウフフ、もちろんよ~。みんなやる気満々ねぇ。」

 

 愛宕、お前も人のこと言えんぞ。顔は笑っているが、目が笑ってねぇ。




読んでくださりありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。