超次元の青い監獄 (門崎タッタ)
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第一話

 


 フットボールフロンティア地区予選決勝。

 

 俺はフィールドに呆然と立ち尽くしていた。自分の無力さを自覚した試合は今までも何回も経験したが、今回の試合はそれらの経験を全て忘れさせるほどの衝撃だった。

 

 相手は木戸川清修中。フットボールフロンティア全校大会の常連校で、そのほとんどの大会で帝国学園に敗れるも、準優勝を飾っている。決して、ビデオでの研究を怠っていたわけでは無い。

 

しかし、実際に見る()()は今まで目にしたどんな必殺技よりも美しく力強かった。

 

 味方DFを鮮やかなパス回しで躱していくのは武方三兄弟。三つ子の連携は伊達ではなく、味方はあっという間に突破される。

 

「豪炎寺っ」

 

 俺がこれからの人生で一生忘れることのできない男の名が呼ばれた。

武方三兄弟の長男が放ったパスは上空に蹴り上げられる。あの()()()がくる合図だ。

 

 足に炎を纏って、回転しながら奴は跳躍する。完璧なタイミングで渡ったボールを空中を蹴り落とす直前で奴は叫んだ。

 

「ファイア、トルネード!!」

 

 俺のチームのGKが思わず逃げ出した。炎を纏った奴の足で蹴り落とされたボールは火球へと変化して美しい放物線を描きながら、誰もいないゴールに突き刺さる。

 

 その瞬間、審判のホイッスルの音がフィールドに響く。スコアボードには6ー0というあまりにも圧倒的な差のスコアが描かれていた。そのスコアボードを見た瞬間、脳内で俺の心がポッキリと折れた音がした。

 

 豪炎寺修也、俺はこの男を一生忘れない。

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

  

 

  河川敷でほぼ惰性的に練習をこなす。一年経ってもあの日の光景が脳裏に焼き付いて離れない。

 

 監督やチームメイトは敗北した試合の後のミーティングで涙を流していたが、俺はどうにも泣く気にはなれなかった。俺は豪炎寺に負けたその日の内にサッカー部を退部した。

 

 幼い頃、プロサッカー選手に憧れていた。いつか、自分もTVに出て来るような豪快な必殺技を放ち、チームの勝利を決めるエースストライカーになると夢見ていたが、どうやら夢は夢で終わってしまいそうだ。

 

 帰り道を歩いていると、小さな公園でサッカーをしている子供達が目に入った。もしも、自分の才能に早々に見切りをつけて、サッカーを真剣にやるのではなく、遊びでやっていたら、俺はこんなに苦しむこともなかったのだろうかとふと考える。

 

「ゔあぁぁあぁあぁ!!」

 

 俺は思わずその場で叫びだした。公園にいた子供達が俺を見て蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

 そんなわけ無い。余りにもそれでは惨すぎるでは無いか。たとえ、俺に才能がなかったとしても、それでも俺は…

 

「あの試合に……勝ちたかった………」

 

 

 家に帰ると、母親が既に夕飯を作って待っていた。

 

「お帰りなさい。日本フットボールフロンティア連合って所からあんた宛に手紙が届いていたわよ。」

 

 その言葉を聞いた俺は、ひったくるように母親の手から手紙を取ると、自室に駆け込んだ。

 

「ちょっと、ご飯はどうするの〜!」

 

 母親の声は耳に届かなかった。乱雑にその封筒の封を切ると、そこには日本フットボールフロンティア連合から俺への強化指定選手の招集の連絡が書いてあった。

 

「なんで、俺が……」

 

 戸惑いの気持ちもあったが、それ以上に俺は今まで、感じたことが無いほどの胸の高鳴りを感じていた。

 

 

 

 



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第二話

 
 豪炎寺は雷門中には転校してこなかった設定です。




 

  俺は今、日本フットボールフロンティア連合と呼ばれるビルの前に立っている。正直に言って、何故俺が強化指定選手に選ばれたのはわからない。しかし、一度心が折れた身とは言えど、自分の努力を、誰かが認めてくれたと思うと嬉しかった。

 

 ビルの中に入ると、そこには俺とほぼ同学年と思われる少年達が集まっていた。見知った顔がいない俺はやる事もなくその場に佇む。その時、誰かにおもむろに肩を叩かれた。

 

「お前も強化選手に選ばれた奴か?俺は 中谷真之(なかたにまさし)。奈良第三中のエースストライカーって言えばわかるかな?」

 

「すまん、全く分からない。誰だ?お前」

 

「えぇ!知らねぇのかよ!奈良最強のあびせげりの中谷だぜ!」

 

 緑色の髪をしていて、黒い瞳の吊り目。 顔は整っているが、妙に痛々しい奴に話しかけられる。俺の中のフットボールフロンティアについての情報は豪炎寺が木戸川清修中を辞めたと知った時から止まっているし、県外の選手のことなんて調べてはいなかった。

 

「くっそー、知り合いが居ないからと言って、変なことしなきゃ良かったぜ。こ、これじゃただの痛い奴じゃねーかっ」

 

「安心しろって、お前は痛い奴じゃなくて、自意識過剰な痛い奴だから」

 

「ひどいっ!お前の名前を教えろ!このままじゃ、俺の絡み損じゃねえか!」

 

 大袈裟な仕草をしながら少々吃りながらもそう言い放つ中谷に絡みやすい奴と判断した俺はそうツッコミを入れる。

 

「俺か?俺の名前は萩原走(はぎわらかける)。これからよろしくな中谷」

 

「あぁ、こちらこそよろしくな萩原!」

 

 そんな会話を中谷と交わしていると部屋の電気が突然消灯し、部屋の前方にあるステージにスポットライトが当たる。そこには、長身痩躯のおかっぱ頭の男性が立っていた。マイクの調子を確認したのち、俺たちに語りかける。

 

「おめでとう。才能の原石共よ。お前らは俺の独断と偏見で選ばれた優秀な中学生のストライカー3()0()0()名です。そして俺は絵心 甚八(えごじんぱち)。日本をFFI優勝に導くために雇われた人間だ」

 

「FFI?ってなんだ?」

 

「お前、そんなんも知らねーのかよ!FFIはな、フットボールフロンティアの国際大会のことだよ!」

 

 俺が疑問を口にすると、中谷が驚いた顔をして小声で呟く。絵心と名乗る男は抑揚の無い声で話を続ける。

 

単刀直入(シンプル)に言おう。日本サッカーが世界一になるために必要なのはただひとつ…。革命的なストライカーの誕生です。俺はここにいる300人の中から世界一のストライカーを創る()()をする」

 

 絵心が大袈裟な仕草をしながら、ギョロギョロした目を見開きながら説明を続ける。どこか異様な雰囲気がその場に流れた。

 

「見ろ。これがこのための施設…。青い監獄(ブルーロック)。お前らは今日からここで共同生活を行い、俺が考えた特殊なトップトレーニングをこなしてもらう。家には帰れないし今までのサッカー生活とは決別してもらう。でも断言する。この青い監獄(ブルーロック)でのサバイバルに勝ち抜き299名を蹴散らして、最後に残る一人の人間は世界一のストライカーになれる。……説明は以上、よろしく」

 

 ステージ後方のモニターに施設情報などが掲載される。あまりの展開の速さに多くの人がついてこれていないのか、所々から困惑の声が聞こえてくる。中谷の方を向くと、どこか惚けた面構えをしていた。

 

 部屋の明かりが点灯される。すると、帝国学園のジャージを着た中性的な顔立ちで、やや浅黒い肌。薄水色の肩近くまで伸びた髪にオレンジ色の目、右目の眼帯が特徴的な少年が声を上げた。

 

「どういう事だ!今の説明では納得できない!俺たちにはそれぞれ大事なチームがある!フットボールフロンティアの全国大会を控えている選手もいるんだぞ!お前が言うようなワケのわからない場所に俺は参加しない!」

 

 ステージに立つ絵心に向かってそう力強く言い放った。すると、同じ帝国学園のジャージを着た茶髪のドレッドヘアーの男を始めとして、その場に抗議の声が上がる。

 

「何なんだよ、いきなりマジ意味わかんねぇ。なあ、そうだろ萩原。萩原?」

 

 中谷が俺を呼ぶ声が聞こえる。しかし、その声は俺には届かない。俺はつい先ほどステージのすぐ側に見つけた、白い髪を逆立てた男の姿を凝視していた。

 

 絵心と眼帯が激しい口論を交わすがその声も耳には入らない。

 

 

「豪炎寺…修也…」

 

 

 俺がぼそっと私怨が篭った声で凝視している男の名前を口ずさむと、その瞬間、絵心の言葉が耳に入る。

 

「世界一のエゴイストでなければ世界一のストライカーにはなれない。俺はこの国に俺はそんな人間を誕生させたい。この299名の屍の上に立つ、たった一人の英雄を」

 

 俺は一度サッカーを捨てた人間だ。豪炎寺修也(圧倒的な才能)に心を砕かれて。そんな俺が再起を願うなど自分の才能に分相応だろう。

 

 しかし、絵心は言った。世界一のエゴイストでなければ世界一のストライカーにはなれない。と。豪炎寺は俺のことなど全く覚えていないだろう。俺はそんな程度のちっぽけな脇役だ。

 

 絵心の後方にある扉が開かれる。恐らく、あの先が青い監獄へと続く扉なのだろう。

 

「もう一度言い改めよう。ピッチの上ではお前以外の人間は全て脇役だと思え。常識を捨てろ。ピッチの上ではお前が()()だ」

 

 絵心の言葉が俺の激しく胸を打つ。豪炎寺に敗北した時に忘れたはずの熱い気持ちが胸に湧き上がるのを感じた。もう一度、もしもう一度だけ俺にチャンスが与えられるのならば…。

 

「己のゴール(勝利)を何よりの喜びとし、その瞬間のためだけに生きろ。……それが()()()()()()だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 ……俺は豪炎寺修也に勝ちたい。俺は()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「待てよ!萩原!」

 

 

 中谷の静止の声も耳に入らない。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる豪炎寺を一瞥した後、俺はその場にいる人の中で真っ先にステージ後方の扉に向かって走っていった。

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

  …誰もいなくなった会場でゴゥンという扉の閉まる音が鳴り響く。

 

「…300名、全員参加っと…」

 

そう独り言ちると、自分の後方からヒールの足音が聞こえてくる。

 

「…これでもう後戻りはできない。これから私はあなたのいう通りに動きますので。…日本サッカーとあの300名の未来、よろしくお願いします絵心さん」

 

「…多分、299名の人生はグチャグチャになる…。そして一人のストライカー(エゴイスト)が誕生する。それが青い監獄(ブルーロック)だ」

 

 俺の言葉に神妙な顔つきで、話しかけてきたヒールの女はゆっくりと頷く。

 

 

 

 

 

 

「…始めようか。世界で一番、フットボールの熱い場所を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ……ある者は言った。フットボールの世界において、一流のGKやDF、MFは育てることができるがストライカーだけはその類では無い。

 

 一流のストライカーという生き物は…その時最もフットボールの熱い場所に突如として出現する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三話

 

 俺たち300名の中学生FWは寮に向かうという事以外何も伝えられず、バスに乗せられて山を越えた先に、()()はあった。

 

 その建物は真っ黒な長方形で中央部のライン上にはBLUELOCKと書かれていた。

 

 …これが青い監獄(ブルーロック)…‼︎俺が豪炎寺修也を超える場所…。

 

 バスから降りると、ケータイや財布などが全て没収されて、一人ずつにボディスーツのようなユニフォームが配布された。俺のユニフォームの腕のあたりにはチームZと書かれた文字の上に300番という謎の番号が印字されていた。

 

 ユニフォームを渡した人の案内に従い、俺はZと書かれた部屋のドアノブに手をかける。ここから始まるのだ、俺の今後のサッカー人生を大きく左右する生活が。緊張が体に走るが、意を決して部屋に入った。

 

 そこには俺を含めて12名の中学生がロッカーしか置かれていない部屋に集まっていた。

 

「お、萩原じゃねぇか!あの時はどうしたんだよ。いきなり様子がおかしくなって…体調とか大丈夫か?」 

 

「あ〜悪い、あの時は余りにも展開が早過ぎてパニクっちまった」

 

 部屋で寝転んでいた中谷が俺の姿を見て起き上がり、心配するような声をあげる。中谷には悪いことをしてしまった。素直に謝罪する。

 

 辺りを見渡すと、眼帯とともに抗議の声を上げていたドレッドヘアの目つきの悪い少年、銀色の髪で、タレ目の灰色の瞳をしている首にマフラーを巻いた優しそうな風貌の少年とピンク色の後ろ髪が外側にカールした髪型の知的な印象を受ける中性的な容姿の少年が特に目に入った。

 

 よく見ると、中谷を含めたその部屋にいる全ての人の腕に番号が印字されていた。

 

 配布されたユニフォームの袖を通す。突然、部屋にあったモニターに絵心の顔が映し出された。その場にいた全員がモニターを食い入るように見つめる。

 

「やぁやぁ、着替えは終わりましたか、才能の原石共よ…」

 

 相変わらずモニター越しでも印象的なギョロギョロとした大きい目をした彼が抑揚のない声で話を始める。

 

「今、同じ部屋にいるメンバーはルームメイトであり、高め合うライバルだ。お前らの能力はこれの独断と偏見で数値化されランキングされている。ユニフォームに示される数字がそれだ。300人中、何位かが一目でわかるようになってる」

 

 ということは俺の順位はこの300人の中でもビリということだ。妥当な順位だろう。俺が部活を辞めて惰性的に練習をこなしていた間にその何倍も過酷な練習を重ねてきた人達に勝るわけがない。

 

 今の状況で落ち込んでなどいられない。そんな逆境も乗り越える気概を見せなければ、豪炎寺修也に勝てるわけがないのだ。

 

 「そのランキングは日々変動する。そしてランキング上位5名は無条件で、数ヶ月後に行われる大会。FFIのFW登録選手とする」

 

 「ちなみに…青い監獄(ブルーロック)で破れ帰る奴はこの先一生FFIに出場する権利を失う」

 

 辺りが一気に響めきだすが、一度この監獄に入ると誓った以上もう戻ることはできない。俺にとっては本当にこれが一生で最後のチャンスなのだ。絵心が話を続ける。

 

「ここで勝ち上がるために必要なのは()()だ。今からその素質を測るために入寮テストを行う」

 

「……さぁオニごっこの時間だ」

 

 絵心がそう発言した瞬間、天井から一つのサッカーボールが降ってくる。

 

「制限時間は136秒。ボールに当たった奴が()()となり、タイムアップの瞬間に()()だった一人が退場です。あと必殺技禁止ねー」

 

 絵心の姿がモニターから消えると、画面には黒髪のいかにも平凡な顔つきの少年の姿が映る………。

 

「………って、あれ俺じゃん」

 

 そう俺が呟くと、俺の顔を見た周りの奴らが俺から一斉に距離を取り始める。

 

 ………どうやら俺の最初の試練となるオニごっこは俺がオニの状態で開始してしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四話

 

「当たれッ!」

 

「そんなノロマなシュートじゃ当たんねぇよ!」

 

 ()()()()()が開始して60秒経過したが、一向に当たる様子は無い。

 

 俺なりに移動する方向などを予測してシュートを試みたりしたが、彼らは全国の数多の選手の中から才能を認められて選ばれた精鋭達。

 

 俺の所作からシュートの方向を予測する事は容易な様でいとも簡単に躱されてしまう。

 

 当てなきゃ終わるという事実から来る焦りが俺のシュートの精度を下げていく。

 

 すると、俺の目の前で選手同士で衝突が起きる。片方は直ぐに起き上がったが、もう片方は足を捻った様で立ち上がる事ができないようだ。

 

「今だ!そいつに当てろ!萩原ぁ!」

 

 何処からか分からないが、中谷の叫ぶ声が聞こえた。足を捻った彼には申し訳ないがもう時間がない俺にとっては確かにチャンスだ。

 

「ま、待ってくれ!頼む!俺、こんな所で終わりたくねぇよ!さっきお前のシュートを馬鹿にしたの謝るからぁ!」

 

 彼の懇願するような言葉に耳を貸さずにボールを当てようとする。すると俺の脳内に疑問が湧いた。

 

「……これで、こんなんで生き残って、豪炎寺修也に勝てんのか?」

 

 絶対に勝てない。一度妥協を自分に許した人間は自分に貸すハードルが低くなっていく。この場でこいつに当てて()()した勝利を収めた所でこの先、豪炎寺に勝つ事は不可能だろう。

 

「違う…俺は人生を変えに来たんだよ…。この青い監獄(ブルーロック)に…。狙うならこの部屋で一番強い奴(帝国学園のドレッド野郎)だッ!」

 

「俺かよッ…」

 

 俺の言葉を聞いたドレッドヘアーは驚いた表情を浮かべる。直ぐに向き直った俺は先程眼帯と共に行動していた、この部屋で一番ランキングの高い帝国学園のドレッドヘアーの生徒に向かってシュートを放とうとする。

 

「いいね…。君…。君も僕と同じで、この青い監獄(ブルーロック)()()を目指しにやって来たんだね…」

 

 すると、突然マフラーをした銀髪の髪の垂れ目の少年が俺に話しかけてきた。

 

「そうだよね、このまま逃げ回っていたら()()にはなれない。狙うなら一番ランキングが高い人だよね!」

 

 そう言い放つと銀髪の少年は俺からボールを奪い去り、ドレッドヘアーに向かってドリブルを仕掛けた。そのままの勢いでボールをシュートする。

 

「危ねぇ!」

 

 流石は帝国学園のレギュラーFWというべきだろうか。ドレッドヘアーの少年は銀髪の少年が放ったシュートをギリギリで躱した。

 

 ボールが俺の元に跳ね返ってくる。時間はもう数秒しか残されていない。このボールを見逃せば、俺は生き残る事ができるだろう。

 

「ビンゴ!」

 

 ……しかし俺は迷う事なく、ドレッドヘアーに向けてシュートを打った。銀髪の少年の声が耳に聞こえる。ボールはドレッドヘアーの腹を直撃した。

 

 その瞬間、モニターには0の数字が映し出される。その後に寺門大貴(じもんだいき)という名と共にloseという文字が表示された。

 

「ッざっけんな!テメェ!!」

 

 ドレッドヘアーが俺の胸倉を掴み、拳を奮おうとする。その瞬間、モニターには絵心が映し出された。

 

 ドレッドヘアーが、俺から手を離す。それを確認した絵心は何やら語りだしたが、その内容が俺の耳に届く事は無かった。

 

「……本当に…何やってんだッ俺ぇ……」

 

 あの銀髪の少年が俺からボールを奪い取る時、俺は意地でも奪われてはならなかった。あの場面は、俺自身の力だけでドレッドヘアーにシュートを当てなければならなかったのだ。

 

 俺は銀髪の少年の掌の上で転がされていたに過ぎない。銀髪の少年が口ずさんだ()()というものに彼がなるために俺は利用されていたに過ぎないのだ。

 

「このオニごっこにおけるオニはボールを持ち続けることで()()にもなり得るが、誰かに当てることで自らが()()になる事ができる有権者だ」

 

「ストライカーとはその全責任を負い、最後の1秒まで戦う人間のことですよ」

 

「倒れた奴ではなく自分よりランキングが上の奴を倒そうとした萩原走(はぎわらかける)

 

「そこからボールを奪い一番強い寺門大貴(じもんだいき)を倒そうとした吹雪士郎(ふぶきしろう)

 

 あの銀髪の少年は吹雪士郎という名なのかとぼんやりとした頭で思う。

 

「それこそが集団の常識に左右されない己のためだけの勝利の執念であり……俺が求めるストライカーのエゴイズムだ」

 

 絵心はそう俺達のことを総評したが、俺自身は何もなし得ることは出来なかった。

 

 強い後悔と悔しさを胸に俺の始めの試練であるオニごっこは終了したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第五話

 オリジナル必殺技などは出す予定はないですが、イナイレ GOの必殺技は出るかもです。

 後、本来覚えない必殺技を既存のイナイレキャラに覚えさせる予定はあるのでご了承下さい。


 「そこから逃げたお前の負けだ、寺門大貴(じもんだいき)。直ぐに荷物をまとめて帰れ」

 

 絵心がそう言い放つと寺門は物凄い形相で俺と吹雪を睨みつける。

 

「糞がッ!」

 

 何か言いたげな様子だったが、手近にあったロッカーを蹴り飛ばした後に彼はこの部屋から去っていった。

 

「こんな理不尽な事が…この先も続くのかよ…」

 

 その様子を凝視していた中谷が誰に言い聞かせる訳でもなく呆然とした表情で独り言ちる。モニターの絵心はその言葉に反応し、ぴくりと肩を震わせた。

 

理不尽(そう)ですよ。これが勝負の世界ですから」

 

「お前らが軽々しく憧れているワールドクラスのストライカーはこんな勝負の日常を文字通り命懸けで生き抜いている」

 

「どうですか?生まれて初めて自分のサッカー人生を懸けて戦った気分は?」

 

「ビビったろ?シビれたろ?これが青い監獄(ブルーロック)の常識だ」

 

 絵心の言葉を聞いた俺は先程の()()()()()の結果を反省する反面に俺の背中にゾクゾクと勝利の余韻の様なものが走るのを感じた。

 

「痛感したろ?お前らが過ごしてきた毎日がいかにヌルく貧弱なサッカー人生だったかって!」

 

「そして震えただろ……?[やった…俺は生き残った‼︎]って」

 

「それが()()だ。よーーーーく脳に刻んどけ」

 

 ふと辺りの様子を伺うと、その場にいた殆どの選手が何らかの手応えを感じていた様だった。絵心は選手達のその様子を見て笑顔になって話を続ける。

 

「今お前らが感じている快感を味わう度にお前の中のエゴは育ち、そして 世界一のストライカーという高みへと昇っていく…」

 

「おめでとう。青い監獄(ブルーロック)入寮テスト合格だ」

 

 その言葉を聞いた部屋の一同は喜びの表情を顔に浮かべる。

 

「部屋にいるのは丁度11人…お前らはこれから生活を共にする運命共同体…」

 

「時に協力し、時に裏切り、夢を削り合うライバル…青い監獄(ブルーロック)チームZだ」

 

 プツンとモニターの電源が落ちる音が聞こえ、画面が真っ暗に染まる。その瞬間、閑静な場が部屋に出来上がった。

 

「……取り敢えず提案があるんだが、この部屋にいる全員で自己紹介をしないか?」

 

 ピンク髪の知的な少年が挙手をしながら提案する。特に否定する理由もないのでピンク髪の少年から自己紹介が始まった。

 

 自己紹介を提案したピンク髪の少年は御影専農中という所から来た下鶴 改(しもづるあらた)という名前の選手らしい。

 

 次々と自己紹介が進んでいくが中谷を始めとした殆どの選手が全国区のストライカーだった。

 

 無名なのは吹雪と俺くらいだが、吹雪のランキングはこの部屋で一番ランキングが高かった寺門が抜けた後でこの部屋で暫定一位のランキングだった。

 

 自己紹介が終えた後、解散して選手達は各々のことをし始める。しかし、俺はどうしても先程のオニごっこの結果に納得する事ができずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言いようのない不安を胸の内に抱えて俺の青い監獄(ブルーロック)一日目が終了したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 


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第六話


 アレスとオリオンのキャラは出る予定は無いですが必殺技は多分出ます。






 

 俺達が青い監獄(ブルーロック)に来て3日が経つ。「体力テスト」とだけ絵心に伝えられて毎日厳しいトレーニングを俺達は積んでいた。

 

「萩原!お前、体力無さ過ぎ!そんなんで良く()()()()()の時、調子乗れたな!」

 

 横でランニングテストを受けている()()()()()の際に捻挫した野郎が挑発してくる。

 

 体力の限界を迎えた俺はテストを終了し、そこら辺の壁に寄りかかる。捻挫野郎の言うことは最もだ。今この空間で一番ランキングが低いのは俺であり奴の挑発に対して(ろく)に言い返すことができない。

 

「あいつの言うことは気にするな。体調は大丈夫か?全力で走った後は多少歩いて呼吸を整えた方が良いぞ」

 

 話しかけられたことに気づき、ふと顔を上げると下鶴が水を俺に差し出しながら助言をくれた。

 

「ああ、サンキューな」

 

 性格が悪い奴もいれば良い奴もいる。しかし、今の俺の現状では彼等について行くのでいっぱいいっぱいだ。

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 青い監獄(ブルーロック)では分刻みに生活がプログラムされている。

 

 食事ではご飯と味噌汁の他にランキングによっておかずが変わってくる。ランキングがビリの俺はおかずがたくあんしか無い。

 

「おーい。萩原ぁ!席取れたぞ〜」

 

 俺を呼ぶ声の方向に所に向かうと既に中谷と下鶴が食堂の席に着いていた。俺は自然と気が合ったこの二人といつもつるんでいる。

 

 中谷のランキングは291位でおかずはカレー。下鶴のランキングは294位でおかずは唐揚げだ。いつもふざけている中谷だが、奈良最強の名は伊達では無く現状トップの吹雪に次いだランキングだ。

 

「んだよ。そんなに見てもやんねーぞ!」

 

 俺の視線に気づいた中谷がおかずを手で囲ってガードする。すると下鶴が唐揚げを一つ俺の皿に置いた。

 

「萩原。飯の量が足りないのなら俺のを食え。此処での練習は体力が大事だからな」

 

「マジで!?サンキュー」

 

 感謝の気持ちを伝えた後に遠慮なく下鶴から貰った唐揚げを食う。たくあんも不味くは無いが、やはり肉の魅力には勝つことは出来ない。

 

 下鶴は知的な外見の通り、かなり自分のデータに基づいたプレイをする。他にはトレーニング理論などにかなり造形が深く、練習後のフィジカルケアなどのアドバイスをくれたりする良い奴だ。

 

 食事の時間が終わって就寝時間になり、既に同じ部屋の選手全員が深い眠りに落ちている。俺は周囲の様子を確認した後に部屋を出て、室内のトレーニングフィールドに向かった。

 

 これから、此処でどんな戦いが待っているかは想像がつかない。今の俺は周囲の選手と比べて実力がかなり劣っている。このままでは豪炎寺に勝つどころか、順当に考えれば次に脱落するのは確実に俺だろう。そう考えると、悠長に睡眠を取ることは出来なかった。

 

 サッカーボールを準備してまずはシュート練習から始めようとすると、不意に声がかけられた。

 

「やぁ、萩原君。こんな遅くに自主練かい?」

 

 

 

 

 …声の方向を振り替えるとそこには俺たちの部屋の中で現状ランキングトップである吹雪士郎が笑顔を浮かべてフィールドの上に立っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




現状のランキングは290位吹雪  291位中谷  292位 捻挫野郎  294位下鶴   最後にビリの主人公って感じです。


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第七話

「いたのか…吹雪……」

 

「自主練なら僕も付き合うよ、萩原くん」

 

 吹雪の言葉は此方としてはかなりありがたい。これは部屋の連中との差を少しでも埋めるための練習だ。部屋のトップランキングの吹雪と練習する事によって学べる事もあるだろう。

 

「それじゃあ、言葉に甘えて……よろしく頼む」

 

「練習するのは1on1でいいよね」

 

 吹雪の提案を断る理由もないので肯定の意味を込めて肯く。フィールドに移動した後にお互いに準備運動をした。

 

「なぁ、吹雪。練習する前に一つ聞いていいか?」

 

「ん?なんだい?」

 

()()()()()の時にお前、俺からボール奪ったじゃん。その時に俺も完璧を目指している…だとか何とか言ってたけど……。何でそう思ったんだ?」

 

「……うーん…。もしも僕の中にもう一人の人格があって、()()()が[萩原って奴もお前と同族だ]って言ったから…って言ったら萩原君は信じる?」

 

 吹雪は茶化す様に俺に対してそう言った。確かに吹雪の言っていることは現実離れしている。しかし、どうしても吹雪がした話が俺をからかうための嘘だと思えなかった。

 

「…俺は吹雪の言っていること信じるよ」

 

「どうして?僕自身も随分と突拍子のない話だと思うけど…」

 

「…なんつーか、お前には発言が嘘じゃないって思わせる()()みたいのがあるんだよ。確かに突拍子の無い話だと思うけど…俺は信じる」

 

 俺がそう言い切ると、俺の言葉を聞いた吹雪は驚いた様に目を見開いた。しかし、その表情を浮かべたのはほんの一瞬だけで吹雪は直ぐに腹を抱えて笑い出した。

 

「おい、どうしたんだよ。いきなり笑い出して、そんな面白い事言ってないだろ」

 

「ごめん、ごめん。……ありがとう萩原君。君のその言葉を聞いただけで僕は青い監獄(ここ)に来て良かったって心から思えたよ」

 

 吹雪は屈託のない笑顔を俺に対して向けた。

 

 なんなんだよ、吹雪士郎という人間は。サッカーめっちゃ上手いけど、言ってる事は突拍子も無いし、行動がめちゃくちゃだし…。

 

 ………でも、吹雪(コイツ)は俺に勇気をくれる。

 

「どうやら、やる気満々みたいだね。有益な時間だったから名残惜しい気持ちもあるけど……そろそろ話すのは終わりにして練習しようか」

 

「ああ、そうだな」

 

 吹雪と話す事で初心を取り戻すことができた様な気がする。吹雪のような技術が直ぐに身につくわけでもない。焦らずに一歩ずつ進んで行こう。

 

「絶対、生き残ってやる…‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 …吹雪との1on1は夜が完全に明けるまで続いたが、この練習により自分の成長の兆しがあることを確かに俺は感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第八話

 

 その後、体力テストの後は吹雪と共に毎日自主練習を行った。そんな生活が3日続いた後に翌日の朝が直ぐにやって来た。

 

「おい、萩原。起きろ!」

 

 中谷の寝ている俺を起こす声が寝ぼけている頭に響く。起き上がると、俺以外の部屋の選手は全員起床して、布団を片付けていた。

 

「朝っぱらから何か発表があるんだってよ。それより腕に書いてあるランキング見てみろよ!」

 

 中谷が嬉しそうな声色で腕を突き出して俺に見せている。そこには266位と書かれたランキングが表示されていた。

 

 俺も急いで自分の腕を確認する。俺のランキングは275位に上がっていた。自分の自主練の成果が絵心に認められたのだろうか。喜びを口に出そうとすると、突然モニターに絵心の姿が映し出された。

 

「やぁやぁお疲れ、才能の原石共よ。青い監獄(ブルーロック)での暮らしは楽しんでるかい?」

 

「ざけんな!楽しめるかよ!?こんなクソみてーな環境でマジでサッカー上手くなんのかぁ!?」

 

 捻挫野郎が絵心に対して真っ先に叫んだ。部屋にいる選手も捻挫野郎に続いて続々と不満の声を上げる。

 

「環境がクソなのはお前らがサッカー下手クソだから当然だ。バーカ」

 

「あ?」

 

 煽られた捻挫野郎が絵心を鋭い目つきで睨め付ける。しかし絵心は全く気にも留めずに話を進めた。

 

「…少し青い監獄(ブルーロック)の話をしよう。この施設は5つの棟で構成されていて[B]〜[Z]の全25チームが5チームずつに分かれて、それぞれ同じ棟で生活しています」

 

「ちなみに()()()()()で各部屋1人ずつが既に脱落していて、現在青い監獄(ブルーロック)の残り人数は275人です」

 

 …成る程、つまり275位の俺は依然最下位のままだと言うことだ。そんなに都合よくは進まない。理解していたつもりだったが、こうやって実感すると精神的に辛いものがある。

 

「そしてランキング順にチームは分かれている。1〜11位が[B]。12〜22位が[C]。……ここまで言えば俺の言いたいことはわかるよな?」

 

 つまり、俺たちの居るチーム[Z]は5つの棟の中でも最低ランクの「伍」号棟で、更にその中の最底辺である265位から275位でビリの俺までのランキング者が集まるチームという事だ。

 

 ちらりと涼しい顔をしている吹雪の方を一瞥する。俺の何倍も優秀なあいつでさえ、絵心に最底辺とカテゴライズされているという事だ。

 

「ランキング上位者は上のランクの棟で良い飯と良いトレーニングを得てトップストライカーの為の最高位の生活を送っている…」

 

 絵心の後ろに有るモニターに豪勢な料理の写真と、良質なトレーニングに勤しんでいるトップランカーの奴らの姿が映像として映し出される。

 

 今の俺達の練習している環境とは天と地ほどの差があることがその映像一つで見受けられた。

 

「ここでは仕事(サッカー)が出来る奴が王様だ。良い生活がしたけりゃ勝ってのし上がれ…」

 

 モニター上の絵心の言葉が閑静な部屋に響き渡る。

 

「……それではこれより青い監獄(ブルーロック)一次選考を始めます」 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、部屋の中の空気が張り詰めていく。俺も含めた部屋の全員の闘志が満ち溢れる感触を俺は肌で感じていた。

 

「一次選考はお前らのいる[伍]号棟55名…。全5チームによる総当たりリーグ戦だ。最終戦の結果、上位2チームのみが二次選考へと勝ち上がるサバイバルマッチだ」

 

 つまり部屋の中に居る11人で一つのチームを組んで戦うという事だ。絵心の言う事を理解はできたが…。

 

「…でもこの部屋にいる人達は全員FWですよ」

 

 下鶴が俺も感じた疑問を口にする。当たり前のことだが、サッカーのポジションはFWだけでは無い。全員がFWのチームなんて常識的に考えればありえないものだ。下鶴の一言を口火に部屋の中で騒めきが生まれて、試合の時のポジションの押し付け合いが始まった。

 

「いいか、よく聞いて下さい。サッカーは元々点を取るスポーツです。本来は11人全員FWで当たり前なんです。お前らの中にバカみたいに刷り込まれているポジションや戦術なんてのはサッカーの進化の歴史で成立してきたただの役割であって、サッカーとは元来全員がストライカーであることから始まった」

 

 絵心が話し出すと、部屋の中に居る選手達は一斉に静まり返った。こいつ(絵心)が口にする言葉には何処か、鋭い威圧感のようなものを感じる。

 

「その原点からサッカーをやれ。お前らの頭で0から創り直すんだよ」

 

 …いや、違う。威圧感と形容するのは不適切だ。絵心が放つ言葉には…

 

「今までの常識なんて信じるな。捨てろ。新しい概念を脳みそにブチ込め。日本がFFIで世界を取るために必要なことは1()1()()()()()()()()()じゃない」

 

「……たった一人の英雄なんだよ」

 

 ……俺達(ストライカー)ならば誰もが魅了される魔力のような雰囲気を放っている。

 

「一人の英雄によってサッカーは際限なく無限に進化する。そいつを止めるためにDFシステムが創造され、新たな必殺技などが生み出されていくんだ」

 

 俺はなりたい。一人の英雄(豪炎寺修也)を超える存在(ストライカー)に。

 

「たった一人の輝き(プレー)がチームを!国を!世界を変えていく!それがサッカーというスポーツだ!」

 

 …俺はどんな苦しみを味わったって勝ち上がってやる…。この青い監獄(ブルーロック)で絶対に生き残って…。

 

 

「戦う準備は出来てるか?その全てが青い監獄(ブルーロック)にある‼︎‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …いつの日か豪炎寺修也(一人の英雄)に俺と言うストライカー(存在)がいる事を俺が味わった屈辱と共に奴の脳裏に深く刻み込んでやる……。

 

 俺は絵心の言葉を聞きながら、口には出さずに俺の心の奥底で強く誓ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第九話

 アレスのキャラは出さないと以前に言いましたが、一部のキャラだけ出演させることに決定しました。

 プロットがガバガバで申し訳ないです。


 その後も絵心の説明は続いた。青い監獄(ブルーロック)一次選考は同棟内5チームによる、総当たりグループマッチというものだった。

 

 勝利すると3pt。引き分けだと1pt。負けると0ptで全試合終了時の勝ち点上位2チームが勝ち残り、下位3チームは敗退。敗退したチームのメンバーは青い監獄(ブルーロック)から強制退場となる。

 

 しかし、敗れた3チームにも救済処置として全試合終了時点での敗退チーム内での得点王ただ一人が勝ち上がれるシステムらしい。

 

 つまり、この一次選考では「己のゴール」か「チームの勝利」か。そんなストライカーの宿命が試されるという訳だ。

 

 俺達の試合は2時間後に始まる。記念すべき初戦の相手はランキングが243位から253位の選手を集めたチームXだった。

 

「おい、結局ポジションはどうするんだよ?」

 

 中谷が試合前のロッカールームでチームZの全員に話しかける。議論の結果、ジャンケンでポジションを決めることに決定した。

 

 因みに厳正なジャンケンの結果、ワントップのCF(センターフォワード)の中谷を攻撃の軸とする布陣が完成した。俺と吹雪のポジションはMFで下鶴と捻挫野郎はDFだった。

 

「本当に俺がCFじゃなくていいのか?ぜってー後悔するぞ、お前ら!」

 

「文句言うなし。全員FWだと埒が明かねぇからジャンケンで決めたんだろ」

 

 捻挫野郎がぶつくさと文句を言い、中谷が冷静に切り返す。正規のGKでは無いため、必殺技を打たれたら確実に失点する。その為各々が自由に動くのではなく、フォーメーションをしっかり決めた上で相手に必殺技を打つ隙を作らせてはならないのだ。

 

 正直…こんなに早く試合をするとは夢にも思わなかった。絵心が先ほど言った「サッカーを0から創る」戦いという言葉の意図もまだ掴めてはいない。

 

 しかし、悠長に考える暇などは与えられない。ついに俺の人生を変える青い監獄(ブルーロック)での初めての試合がいよいよ始まるのだ……。

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 チーム全員で第伍号棟のセンターフィールドに移動する。辺りに相手の選手や審判の姿はまだ見当たらなかった。

 

「一次選考におけるファウルなどの判定は全てVAR(ビデオアシスタントレフェリー)によるものとする」

 

 絵心のものらしき声がスピーカーからフィールドにいる俺達に発せられる。

 

 …なるほど、数多の必殺技の中にはかなり悪質なものも存在する。そのため、ファウルかどうかの判断を人の目でするのではなく、厳正で公平な判定を下すためにVARを利用するのか。

 

「萩原君、どうやら相手チームが来たみたいだよ」

 

 共に柔軟をしている吹雪が俺たちがいる反対方向に目線を送る。そこにはチームXの選手らしき中学生達がユニフォームを着て、扉からフィールドに入ってきていた。自分の表情が緊張から強張るのを感じる。

 

「萩原君、試合を楽しもうよ。そうしないと勝てないよ、サッカーは」

 

「……ああ、そうだよな。ありがとう吹雪」

 

 吹雪が緊張している俺の様子を見計らって笑顔を浮かべて励ましの言葉を送ってくれた。ある程度緊張が解けた俺は吹雪に感謝して笑顔で返した。

 

 そうだ。どうせ俺は現状この青い監獄(ブルーロック)の最底辺プレイヤー。ビビった所でその事実が覆ることは無い。ただ、戦って登り詰めていくだけだ。

 

 お互いのチームの選手の準備運動が終了して各ポジションについた。フィールドには緊張が走るが、俺は自然とリラックスすることができていた。

 

「それでは第伍号棟第一試合、45分ハーフ!チームX vs チームZ 開戦(キックオフ)‼︎‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 ……絵心の試合開始の合図が閑静なフィールドに響く。青い監獄(ブルーロック)第一選考がついに幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 説明が長々と続いて申し訳ないです。
 



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第十話

 

 フィールド内のスピーカーから試合開始を告げるホイッスルが鳴り響く。相手チームのFWがキックオフをして、勢い良くボールを蹴り出した。

 

「たまのりピエロ!」

 

 FWの中谷がボールの奪取を試みるが、味方からボールを受けた小柄な敵選手がサッカーボールの上に乗って玉乗りの様に移動するドリブル必殺技を放って軽々と抜き去った。

 

 ドリブル必殺技を使った小柄な敵選手は直ぐにボールを味方にパスする。どうやら、敵はボールが味方にある内にドリブル必殺技を用いてできるだけこちらの選手を抜き去り、点を決める戦法のようだ。

 相手も味方も本来であれば全員FWの選手なので、ドリブル技を使えばブロック技で止められることが無いと判断したのだろう。

 

 相手選手が薄ら笑いを浮かべながら俺の方を向いて切り込んでくる。恐らく、ドリブル技を使うつもりなのだろう。ブロック技を持たない俺に止める術は無い。一体どうすれば…。

 

「……アイスグランド」

 

 思わず足を止めて戸惑っている俺の後方から同じMFのポジションである吹雪の声が聞こえて来る。

 

 その瞬間、フィギュアスケートの選手の様に空中で回転した吹雪が着地した足元から氷が生まれ、薄ら笑いを浮かべていた選手を氷漬けにした。

 

「すげぇ…」

 

 華麗なブロック技で敵選手を止めた吹雪に対して、俺の口から不意に感嘆の言葉が漏れる。本職はFWなのにも関わらず、あんなかっこいいブロック技を持っていたのか。

 

「萩原君!」

 

 ボールを止められた敵選手が警戒した様子を見せながら、吹雪に詰め寄る。一人では抜けないと判断した吹雪はボールを俺にパスしようとする。

 

「へへっ、とろいんだよ!」

 

 しかし、そのパスは味方であるはずの捻挫野郎にカットされた。

 

「は!?おい、何やってんだよ!お前のポジションはDFの筈だろうが!」

 

「…此処では一番点を取った奴が勝つんだろ?俺があっという間に全員抜き去ってゴール決めてやるからよ、お前らは指加えて黙って見てな!」

 

 パスカットした捻挫野郎に対して俺が疑問を呈すると、捻挫野郎は自己中心的な言葉を叫んで、敵陣営に切り込もうとした。しかし…

 

「あッ!てめぇ!」

 

「…わかってんじゃねーか、捻挫野郎。それなら俺も一人で戦わせてもらうからな」

 

 自陣に戻っていた中谷が捻挫野郎の足元からボールを奪い取る。それに乗じた選手達が味方や敵関係なく、試合前に決めておいたフォーメーションなど知らぬと言わんばかりにお粗末なボールの奪い合いを始めた。

 

 俺は目の前で繰り広げられるお団子サッカーを茫然と見ながら呟く。

 

「こんなの、サッカーじゃない…」

 

 散々試合前に()()を剥き出せと絵心に言われたストライカーが、点を決めた(FW)が正義という青い監獄(ブルーロック)の常識の上で戦ったら、こんなにも醜いサッカーになるのか。

 

「お前らの頭で0から創り直すんだよ」という絵心の言葉が頭をよぎる。あいつの言葉はこんなお粗末なサッカーのことを指していたのか?

 

「ちょっくら、前を失礼」

 

 俺がそんな疑問を頭の中で反芻(はんすう)させていると、集団の中からまったく同じ顔をした三人の選手がボールを持って俺の前に飛び出してきた。

 

 突然の敵選手の強襲に反応できなかった俺は三人のコンビネーションの前にあっさりと抜かれてしまう。俺はその光景に強い既視感を覚えていた。 

 

「すまん、下鶴。抜かれたぁ!」

 

「…任せろ」

 

 律儀にDFのポジションを守っていた下鶴は三人に対して、ディフェンスを試みる。しかし、三人の卓越したパス回しの前になす術もなく抜かれてしまった。

 

「兄貴ぃ!」

 

 下鶴を振り抜いてボールを持った、全く同じ顔をした三人の中の七三分けの選手が上空にボールを強く蹴り出す。

 

「バック…トルネードォ!」

 

 そのボールに合わせて、全く同じ顔をした選手の中のモヒカン頭が足に青いエネルギーを纏いながら回転して飛び上がる。そして、空中でボールが足元に来た時、回転の勢いのままボールを強く蹴り落とした。

 

 青いエネルギーを纏ったボールに向かって、味方GKは必死で手を伸ばすが無情にも敵の放った必殺技は勢い良くゴールに突き刺さる。

 

「よっしゃあ、誰も俺達のことを止められないぜ!」

 

「流石俺達って感じじゃん!」

 

「ま、僕らにかかればこんな奴らひとひねりだね」

 

 初のゴールに喜ぶ彼等を見ながら俺は過去の記憶を思い起こす。

 …やっと、思い出すことが出来た。俺の記憶が定かならば、あいつらは豪炎寺と同じチームである木戸川清修の武方三兄弟だ。

 

「おい、キーパー!俺の足を引っ張んじゃねぇ!」

 

「やった事ないんだからしょうがないだろ…」

 

「落ち着け、取り敢えずまだ一点取られただけだからポジションを維持して…」

 

 点を取られたショックからか、味方陣営では責任の擦りつけが始まっている。下鶴が懸命に宥めているが、効果は薄いだろう。

 

「チームZ。試合を再開しなさい」

 

 スピーカーから試合の開始を促す無機質な絵心の声が聞こえる。

 結局、各自のポジションを守る事でチームZの話し合いは纏まり試合が再開した。中谷と捻挫野郎を始めとした味方選手達は頭に血が上っている。今、比較的冷静なのは俺以外では吹雪と下鶴くらいだろう。

 

 一先ず、武方三兄弟にボールを渡さなければ、まだ勝機はある筈だ。中谷からボールを受けた俺は吹雪にボールをパスしようとした。

 

「あ…」

 

「学習しろよ、バァーカ!」

 

 しかし、再度DFのポジションから上がってきた捻挫野郎にボールを奪われてしまう。

 

「おい、自分のポジション守れよ!」

 

「黙ってろ、カス!…完璧に理解したぜぇ、やっぱりこの一次試験は己の得点能力だけを追求する戦いだぁ!」

 

 勢い良くドリブルをする捻挫野郎。しかし、奴の前には以前とは打って変わって陣形をしっかり保っている敵チームの姿があった。

 

「ショボいな、貰ったぜ!」

 

 敵のスライディングで体制を崩された捻挫野郎から零れたボールは適切な距離を保って守備していたもう一人の敵選手の足元に転がる。

 …どうやら、先程の失敗から学習していないのは俺もそうだが、捻挫野郎も同様だったらしい。

 

「作戦通り、武方三兄弟にボールを渡すぞ!」

 

「…ああ!」

 

 敵選手が、武方三兄弟に向かってパスを出す。見るからに敵チームは武方三兄弟を中心として纏まり始めていた。…このままの状態では明らかにヤバイ。

 

「止めろォ!糞共!」

 

 ずっこけたままの体制で捻挫野郎は俺たちに指示をする。どう守備するか考えている俺は不意に吹雪の方を一瞥すると、「アイスグランド」をどのタイミングで放つか決めあぐねている様だった。

 

「あの三兄弟をマークしてくれ!」

 

 一先ず俺は大声でその場に硬直している味方選手達に向かって指示を飛ばす。俺の指示を聞いた味方選手はハッとした表情を浮かべながらもすぐに武方三兄弟のマークについた。

 

「おいおい、いいのか?俺達三兄弟にそんな人数で群がっても?」

 

 ニヒルな笑みを浮かべたニワトリ頭をした武方三兄弟の内の一人がゴール前にいる味方にパスを出す。

 

 ダメだ…。武方三兄弟を自由にさせると突破されるが、だからといって武方三兄弟の三人に大人数でマークすると…。

 

「よっしゃ、スペースガラ空き!」

 

 …他の敵選手達が自由(フリー)になってしまう。

 武方三兄弟の内の一人からパスを受けた敵選手の一人がフリーのゴールへと駆け出していく。

 

「ローリングキック!」

 

「止めろ!ゴールキーパー!」

 

 …中谷の叫びも虚しく、ゴールには敵の放った必殺シュートが突き刺さる。その光景を見た俺はその場に崩れ落ちた。

 

 

 武方三兄弟(あいつら)のせいだ…。あいつらのプレーがバラバラだったチームXを本当のチームにしたんだ。

 先程、俺達がやっていたお団子サッカーを0()とするならば…、正に武方三兄弟の連携プレーは…。

 

 

 0()ではなく1()…。

 

 

 あいつらの強烈な1(個性)が仲間の指針となり、その1()を中心に勝つための作戦が生まれて…。真のチームが生まれるんだ。

 もしも、これが絵心の言う「0からサッカーを創る」って言葉の意味ならば…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奴らに勝つために俺はいったいどうすればいいんだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 かなり難産でした。試合描写が難しすぎる…。見辛かったら申し訳ないです。


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第十一話

 「萩原、お前MFに転向してみる気は無いか?」

 

「…何度も言いますが、俺はFW以外のポジションをやるつもりはありません」

 

 練習前に監督にいきなり呼び出されたかと思ったら、またこの話か。この無駄なやりとりをサッカー部に入って何回繰り返しただろうか。まったくもって生産性の無い会話であることを監督にはそろそろ自覚してほしい。

 

「…お前がどう感じようと俺は何度でも言うが、お前の足下の技術は本当に一流だよ。それは俺も認める。しかしな、お前はゴール前の決定力が無さすぎる。サッカーというスポーツは個人競技じゃない、チームでやるものなんだよ。…チーム全体の成長のためだと思ってここは、な?少しだけ大人な判断を下さないか?」

 

「話はこれで終わりですか。それなら俺はここで失礼します」

 

 生意気な態度を取る俺が監督に軽く頭を下げて、足早にその場を去ろうとすると、後ろから大きな溜息が聞こえてくる。

 チームの事情なんて知ったことじゃない。自分の能力的にMFの方が向いていることなど俺自身が嫌になるくらい自覚している。

 それでも、俺にとってFW以外のポジションをやる事は一切の価値が無い。全体に合わせて他のポジションをやるくらいならいっそサッカーを辞めた方が何倍もマシだ…。

 

 

 

  ◇

 

 

      

 

 

 

   

 

 

 

 

 

  ◇

 

「「「トライアングルZ!!」」」

 

 3人で組体操の決めポーズを決めた武方三兄弟が放つ強力な必殺技がゴールネットを突き破る勢いで放たれる。

 

 モニターに映されているスコアボードを見ると、そこには5ー0という俺達の敗北を知らせる数字が無情にも表示されていた。

 俺達もこんな点差になるまで勿論、ただ指を咥えて見てたわけでもない。しかし、どんなに連携を試みようとも、圧倒的な1()を持つチームXと焦って陣形が崩壊しているチームZとは地力の差が如実(にょじつ)に現れていた。

 

 点差がつけばつくほどチームXの皆は個人の得点しか考えないし、焦燥感に駆られたチームXの選手には個人技で0()から1()になれる奴は誰もいない。

 それと反比例する様に相手チームは武方三兄弟を中心にどんどん結束を固めてゆく。

 

 惰性的に只々時間だけが過ぎてゆく。この絶望的な状況からは絶対に逆転は不可能だろう。この試合は確実に俺達の負けだ…でも…。

 

「僕達のチームがあと3分で5点を取り返すのは無理だろうね」

 

 疲れ切った表情を浮かべる中谷がセンターサークルにボールを設置している姿を見ていると不意に吹雪が話しかけてきた。

 

「でも、一点なら取れるかもしれない。僕の作戦に萩原君が協力してくれれば。だけど」

 

「俺が…協力?」

 

「そう、相手も既に完勝の余韻に浸っている選手もちらほらいるし…。ノーマークの一回切りしかチャンスは無いと思うけど…、やる?」

 

「やるよ。俺にもう選択肢は無いからな」

 

 こちらの答えなど分かりきっていると言わんばかりの笑みを浮かべる吹雪の提案に俺は即座に乗る。

 

「それなら良かった。それで肝心の作戦なんだけど………」

 

 吹雪との作戦会議を終えると、ピッとスピーカーから試合再開を告げるホイッスルが鳴る。吹雪の提案した作戦は既に頭に入っていた。

 

 中谷はボールを俺と吹雪のどっちでもない味方MFに出した。俺はそのパスを物凄い勢いで追ってカットする。

 

「おい!何やってんだ萩原ぁ!」

 

 突発的に行われた俺の奇行に対して捻挫野郎の怒声が響き渡るが、その耳障りな声を無視して直ぐに意識の外に追いやりとにかく目の前のボールをゴール前に運ぶ事だけに自分の全集中を注ぐ。

 

「さっき言ったばかりだろ?俺達は誰にも止められないって。もう無駄な抵抗は辞めて諦めるんだな」

 

 武方三兄弟の3人が余裕の表情を浮かべながら俺の前に立ち塞がる。

俺はドリブルを一旦止めたのちに相手の立ち位置を確認すると、勢い良く敵の方へ切り込んでいった。

 

「疾風ダッシュ!」

 

 目の前に立ち塞がる三兄弟の間にある僅かな隙間を俺は超スピードで駆け抜ける。その勢いを保ったまま俺は敵のディフェンスラインに突っ込んでいった。

 

「だ、誰かそいつを止めろぉ!」

 

 武方三兄弟の内の誰かが発した声に反応した敵選手がかなり前進してきて俺にドリブル必殺技を撃たせない様に即座にポジショニングする。これを突破するのは至難の技だろう。さっきは敵の慢心もあって抜き去ることができたが、本来俺はこれを一人で超えられる1()では決して無い。

 

 …しかし、俺一人で1()になれなくても、俺と吹雪の二人ならば1()になれるはずだ。

 今までの俺達は確かに0()だった。しかし、それは武方三兄弟も同じ筈だ。武方三兄弟は個人技ではなく、三つ子ならではの3人での連携プレーにより元々0()だったものをを1()に変えた。それならば、俺達もその理論に準ずるだけのこと。

 今の俺は甘んじてストライカーでは無く、ドリブラーとしての役割を受け入れよう。ここで生き残るためならば俺は以前まで持っていた安っぽいプライドなんか、犬にでも食わせてやる。

 

 …ゴールを決めるフィニッシャーは俺では無く、吹雪だ。

 

「吹雪!」

 

 俺は予め作戦の位置についていた吹雪にバックパスをする。

 

「良いパスだぜ!萩原ぁ!」

 

 俺のパスを受け取った瞬間、普段の吹雪とは別人と思わせるような異質な雰囲気を見に纏う彼の周りを冷気が取り囲む。

 吹雪と容姿をはじめとした姿形は同じだが、どこかまったくの別人と感じさせられる彼が放つオーラに俺は圧倒されていた。

 

「吹き荒れろ……」

 

 彼がそう呟くと、周りにあった冷気が急速にボールに集中する。どんな原理か分からないが冷気を纏ったボールが宙に浮き上がった。

 

「エターナルブリザード!」

 

 彼はゆっくりと回転しながら空中に浮いた氷の塊と化したサッカーボールをゴールに向かってシュートした。

 

 美しい放物線を描きながら彼の必殺技はゴールに突き刺さる。その必殺技の余りの美しさに俺は見惚れてしまった。いや、俺だけでは無い。恐らく、その場にいた全員が()()()()というたったひとりで痛烈な存在感を放つ1()に対し、感嘆の意を示して息を飲んでいたと俺は確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十二話

 今回は短めで申し訳ないです。



 〜チームZ控え室にて〜

 

「チッ…雑魚共が俺の足を引っ張るせいで、初っ端から負けちまったじゃねぇか!」

 

「…雑魚はてめーだろうが捻挫野郎。お前が手足も出なかった守備を散々馬鹿にした萩原は突破できたんだからよ」

 

「喧嘩売ってんなら乗るぜ?緑隠キャがよ!」

 

 中谷と捻挫野郎の怒声が部屋中に響き渡る。初戦で完敗したのがかなり響いているのか、チームXとの試合後の控え室の空気は重苦しいものになっていた。

 俺は先程の試合で見た吹雪の「エターナルブリザード」が頭から離れず、選手同士で行われる喧騒など全く気にしてはいなかったが。

 

「いい加減にしろ!今、どういう状況に俺達が置かれているかわかっているのか?俺達は()()()()()()負けてしまったんだぞ!」

 

「は?それがなんだってんだよ!このインテリピンクが!」

 

 捻挫野郎が声を荒げる下鶴に罵声を飛ばす。普段は冷静な彼が感情的になった事に驚いた俺は意識を取り戻した。

 

「いいか?この一次選考は5チーム総当たりのリーグ戦で勝ち残れるのは上位2チームなのはわかっているよな?」

 

「…続けてくれ」

 

「仮に全チームが2勝2敗の互角だった場合の勝ち点は6()。つまり、勝ち上がるために目標とするべき勝ち点は6()を上回る7()じゃないといけないんだ」

 

 …なるほど。勝利した場合のポイントは3。負けた場合は0。引き分けの場合は1。なので、最低でも二勝と一分の勝ち点である7()が突破のボーダーラインとなるわけだ。勿論、他のチームの試合で引き分けが多ければ状況は変わるが。

 

「逆に言えばどのチームも二回負けたら絶対に勝ち点7()には届かない。二回負けた時点で敗色が濃厚になるんだよ」

 

 下鶴の言葉により、控え室の空気は最悪なものとなった。脱落を想像した俺の背筋にも冷や汗が滴るのを感じる。その部屋内にいる他の選手も青ざめた顔色をしていた。但し吹雪を除いて、だが。

 

チームZ(俺たち)は既に次負けたら終わりの所まで来てるんだ…。チームの選手内で揉めてる場合じゃない…。皆でどうやって勝つかを考えないとマジで終わるぞ!」

 

「じゃあ、何かいい案でもあんのかよ」

 

「………ある」

 

 捻挫野郎の急かすような質問に下鶴は困った表情を浮かべて深く考え込んだが、数秒も経たないうちに意を決して話し始めた。

 

「…俺は次の試合から吹雪を主軸に置いたフォーメーションで臨むべきだと思う」

 

 下鶴がそう呟いた瞬間、場の雰囲気が凍った。いつも口うるさい捻挫野郎も異論が出ないようで、悔しそうに唇を噛み締めている。恐らく全員が賛成の意を示しているのだろう。理由は明白だ。ストライカーとして試合に出たことがあるものならば、吹雪が放ったシュート技の精度の良さが嫌でも伝わる。他人に有無を言わせぬ説得力がその必殺技にはあった。

 すると、吹雪が意見を発したいようでおもむろに挙手をした。

 

「皆が賛成なら僕はそれで構わないよ。でも一つだけ提案があるんだけどいいかな?」

 

「…何でも言ってくれ」

 

 吹雪が俺の目を見つめてにこりと微笑む。その顔を見た瞬間に俺は吹雪の考えていることを完璧に理解した。

 

「僕がCFのポジションに着くとしたら、萩原君をST()のポジションについてもらいたいんだけど…いいかな?」

 

「俺は構わない」

 

 吹雪の提案に間髪入れずに答える。吹雪は俺に得点の補佐をしろと言っているようなものだ。多少思う所はあるが、セカンドトップにも十分得点の機会はある。決して、吹雪が居るからと妥協せずに自分の出せる全力で取り組もうと俺は心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ※ST:セカンドトップ

 ポジションのイメージとしてはトップ下とセンターフォワードの間。ゲームの流れを見てパスやドリブルでチャンスを作ったり、ゴール前に入って点を取ることが求められます。


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