Re:ゼロから始める転生生活 (夜はねこ)
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出会い/設定

「……花は、好きか?」

 

 美しい黒色の髪を長く伸ばした、綺麗な少女だった。

 

 梳った夜色に染まった黒の長髪。輝くような白い肌。

 しなやかな肢体に硝子細工のように綺麗な顔立ち。

 美しい金色の瞳がこちらをのぞく。

 そして煌びやかな装飾が施された制服。龍の意匠があしらわれた制服に袖を通し、腰にはレイピア風の剣を下げる姿。――その佇まいが、彼女の生業がなんなのか如実に語り尽くしていた。

 

 

 ユリウスは自分は人ではないものをみたような気がした。

 

 

 この時のことを一瞬たりとも忘れたことはない。……たとえ、彼女が自分のことを忘れてしまっても。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 街の開発が進み、現在王都では昔のように花が咲き誇る花畑のような自然はほとんど見られなくなってしまった。お爺様の時代にあった視界一面を覆い尽くす自然の花園は存在しない。

 

 そこにあるのは、自然に咲いた花ではない。少女が敷地内に自ら種を撒き育てたものだ。

 

 いつもの場所。彼女が何かを思案する時に訪れる場所だ。

しかし、どうやら今日は先客がいるようだ。

 

 

 長身の少年だ。髪の色は青みのかかった紫で、体つきは細身だが弱々しい印象はせず、しなやかと形容すべきだろう。

 彼女は人目見た瞬間、彼が誰か気づいた。『最優の騎士』 ユリウス・ユークリウス、その人だった。いや、おそらくまだ騎士にはなっていない。

 

 まだ騎士になっていなくとも、原作キャラにあってしまったという焦りにより、彼女はこう声をかけてしまった。

 

「……花は、好きか?」

 

 それは、先代の『剣聖』 テレシア・ヴァン・アストレアが、『剣鬼』 ヴィルヘルム・ヴァン・アストレアに向けて言った言葉だった。

(ああああああああっっ、何が花は好きか、だ!!!馬鹿か!!私はぁぁぁ!!!それは!テレシアの!!!)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

プロフィール

名前 レイラ・ジゼル・グラディス

性別 女性

誕生日 ?

年齢 25歳〜27歳ぐらい

身長 170cmぐらい

体重 言わん。

特技 武道

趣味  鍛錬、花の手入れ

加護 光の加護など

苦手なこと 騎士の在り方、賢人会のジジィ共の話

その他 実は剣よりも拳で戦う方が得意だということを隠している。

 

人物像

黒髪に金色の瞳を持つ精霊とのクォーターである美女。身長は高いが童顔であるため、実際は美少女として扱われがち。しかしながら童顔とかそんなレベルじゃない。

 

実はリゼロの世界に転生した転生者。

 

ファーストネームを呼ばれるのを嫌っているのは、「レイラ」が転生する前と同じ名前であり、そう呼ばれると自分が何者か見失ってしまうからである。なので、基本的に人に呼ばせる名前は「ジゼル」である。

ジゼルには「剣の誓約」という意味がある。

主人公ナツキ・スバルからの呼び名は「グラディス」。主人公という生き物が嫌いらしく、ミドルネームで呼ぶことさえ、許されなかった。スバルのことは嫌いだが、彼の気持ちや努力は否定しない。

グラディス家の一人娘で、『聖女』の称号を持つ。

※称号を『剣姫』にしようか迷ったけど、それヴァレン某じゃんと思った。剣鬼と読み方一緒だし、姫を使うとクルシュさんと一緒だし…なんか良い称号ないですかね??ちなみに彼女のお祖父さんは『聖人』。

 

近衛騎士団副団長補佐と騎士団の司令官を担っている。補佐というのは名前だけで、実際は仕事をまったくしない本来の副団長のかわりに仕事をしている。彼女こそが真の副団長といっても過言ではない。賢人会の一人。

 

人間関係

ラインハルト 

家同士が昔からつながりが深いため、ラインハルトとは旧知の仲。いわゆる、幼なじみというやつであるが、彼女の年齢、立ち位置などの理由からある日突然、彼は敬語で話すようになった。それに少し寂しさを感じている。

 

ヴィルヘルム

ラインハルトの祖父にあたり、家族関係は良くないが、彼女との仲は良好。転生する前から好きなキャラクターであり、剣鬼の名で知られる剣の達人としても妻への愛情深さも敬愛している。

彼の妻への惚気をよく楽しく聞いている。

かつて、戦いを好まない優しい性格でありながら、周囲の期待と剣聖としての宿命から剣を握っていたテレシアを、剣聖の座から引きずり下ろすことを決意。二年の修行を経てテレシアに勝利し、「お前は俺が剣振る理由になればいい」とプロポーズし、アストレア家に婿入りした話がとても好き。

ラインハルトともヴィルヘルムとも良好な関係である彼女だが、彼らの家族関係を取り持つことはしなかった。

ヴィルヘルムと彼女の祖父、『聖人』が親友同士であった。

 

ユリウス

ユリウスの初恋の人。

魔女教大罪司教『悪食』ロイ・アルファルドの『記憶と技能を奪う権能』により弟のヨシュアの記憶が奪われる。結果、「兄の攻撃手段」を熟知したロイに敗北し、ロイの『名を奪う権能』の餌食となり、スバル以外の全員から忘れられた際、彼女はそういう出来事があるという知識は持っていたが、実際彼とのつながりがあったことは忘れてしまう。何かしらつながりがあったことを感じていても「君は誰だ?」と返す結構ひどい人。

 

『聖人』

ジゼルの祖父。ヴィルヘルムの親友。故人。

特に名前は決まっていない。黒髪。テレシアとは幼なじみ。エリキサに一目惚れ。生涯愛した。体が弱く、ジゼルを産み落とし死んでしまった一人娘だったが、ジゼルを憎むことなく愛情を持って育てた。

誘精の加護と光の加護を持っている。

 

エリキサ

ジゼルの祖母。光を司る人工精霊。ただし、誰に作られたものなのかは不明。現在はジゼルと契約しているが、他人に姿を見せることはない。金色の髪に金色の瞳。名前は『黄金』という意味。

本来、精霊との間に子供が生まれることはない。宿ったとして、かなりの確率で子供は死に至る。だが奇跡的に死ぬことなく生まれた。

同じく、ジゼルを愛している。

 

ジゼルの母親

精霊との間に生まれた。死ぬことなく生まれたが、体が弱く、ジゼルを産み落とし死んでしまう。

 

ジゼルの父親

ジゼルを生んだことによって死んだことを、ジゼルのせいで死んだと解釈して家を出た。

 

用語

光の加護

『聖人』の代から持たれた加護。グラディス家の血族に引き継がれている。おそらく、エリキサの影響である。

 

 



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その男、《剣聖》につき

 私はそのとき、いわゆるジト目というものを彼に向けていた。

 

「………。」

「…あの、そのような目を向けるよりも直接仰っていただけると助かるのですが。」

 

 燃える赤髪に空色の瞳。皆がご存知、『剣聖』ラインハルト・ヴァン・アストレアである。

 

「では言わせてもらおう。お前、その話し方は何だ?」

 

「何、とは?」

 

「今日は休日だ。」

 

「はい。」

 

「楽にしろと言っている。」

 

「それはできかねます。貴女は賢人会の一人であり、騎士団の司令官であり、副団長」

「副団長補佐だ。補佐をつけろ。」

「…申し訳ございません。」

 

 これを彼の父ーーーハインケル・アストレアにでも聞かれては厄介である。地位はあくまで名目上でのものであり、仕事はすべて私に回ってくるが、それとこれとは別の話だ。

 

「で、一般の騎士である自分とは立場が違うからその話し方をする、と?」

 

「はい。」

 

「お前はなんというか、いや、お前たちはオーバーだな…。」

 

「おーばー?ですか?」

 

 意味がわからなかったらしい、それもそうだ。

 

「あぁ、すまない。限度を超えている、という意味だ。」

 

「司令はたまに妙な言い回しを致しますね?」

 

「……気にするな。まぁ、これ以上、騎士の在り方について否定すると誰かさんに怒られそうだからやめるとして……。」

 

 私と彼の視線が交差する。

 

「ラインハルト・ヴァン・アストレア!」

 

「はい」

 

「私、司令官ジゼル・グラディスが命ずる。休日ぐらいは敬語も使わず、私のことをジゼルと呼び、肩の力を抜け。」

 

「いえ、しかし…」

 

「おや、お前は命令に違反するつもりかね?」

 

 私は片目をつむって、少し茶化して話す。

 

「……貴女はずるい人だ。」

 

「?」

 

 なんだろう、よく聞こえなかった。

 

「いや…わかったよ、ジゼル。降参だ。」

 

「よろしい。」

 

 私は満足して微笑む。

 そして私達は休日というものを満喫した。

 

「ところで、ジゼルはどうして制服のままなんだい?」

 ラインハルトの問いに答えようとしたその時、

『衛兵さーーーーーーーーん!!!』

という声がが聞こえた。

 

「ラインハルト!」

「ああ。」

 

『誰かーーーー! 男の人呼んでーーーーーーーー!!!』

 

 声の聞こえた方角へ走る。路地裏だろう。先程より声が鮮明に聞こえる。

 しかし、この声、この場面、どこかで見たような……

 

ーーーーーー

 

「――そこまでだ」

 

 

 その声は唐突に、しかし明確に、路地裏のひりつくような緊迫感を切り裂いた。

 凛とした声色には欠片も躊躇もなく、一切の容赦も含まれていない。聞く者にただ圧倒的な存在感だけを叩きつけ、その意思を伝わせるソレは天性のものだ。

 

 スバルが顔を上げ、トンチンカンが振り返る――その先、ひとりの青年とひとりの少女が立っている。

 

 まず何よりも目を惹くのは、燃え上がる炎のように赤い頭髪。

 その下には真っ直ぐで、勇猛以外の譬えようがないほどに輝く青い双眸がある。異常なまでに整った顔立ちもその凛々しさを後押しし、それらを一瞥しただけで彼が一角の人物であると存在が知らしめていた。

 すらりと細い長身を、仕立てのいい黒い服に包み、その腰にシンプルな装飾――ただし、尋常でない威圧感を放つ騎士剣を下げている。

 

 その傍らには美しい黒色の髪を長く伸ばした少女がいる。スバルと同じ黒髪のはずなのに、それは輝くようである。

 しなやかな肢体に硝子細工のように綺麗な顔立ち。美しい金色の瞳がこちらをのぞく。どこかお金持ちに飼われている黒猫と表しても良いぐらいだ。

 そして煌びやかな装飾が施された制服。龍の意匠があしらわれた制服に袖を通し、腰にはレイピア風の剣を下げる姿。

 

「たとえどんな事情があろうと、それ以上、彼への狼藉は認めない。そこまでだ」

 

 言いながら、青年と少女は悠々とトンチンカンの隣を抜けて、彼らとスバルの間に割って入る。そのあまりに堂々とした行為に、スバルも男たちも声を上げられない。

 だが、トンチンカンとスバルでは沈黙を選んだ理由が違うらしい。

 スバルが黙ったのは驚きと、これまでにない展開を固唾を呑んで見守っていたというのが理由だが、その顔から血の気を失い始めるトンチンカンは違う。

 

「ま、まさか……」

 

 紫色になりつつある唇を震わせて、チンが青年を指差した。

 

「燃える赤髪に空色の瞳……それと、鞘に竜爪の刻まれた騎士剣」

 

 確認するように各所を指差し、最後に息を呑んで、

 

「ラインハルト……『剣聖』ラインハルトか!?それに…その夜色の髪に金色の瞳…『聖女』レイラ・ジゼル・グラディス!?」

 

少女はぴくりと肩を動かし、トンチンカンを睨みつけた。

「自己紹介の必要はなさそうだ。……もっとも、その二つ名は僕にはまだ重すぎる」

 

 ラインハルトと呼ばれた青年は自嘲げに呟き、しかし眼光を決してゆるめない。

 視線に射抜かれた男たちは気圧されるように後ろへ一歩。逃げるタイミングを見計らうようにそれぞれが顔を見合わせる。が、

 

「逃げるのならこの場は見逃す。そのまま通りへ向かうといい。もしも強硬手段に出るというのなら、相手になる」

 

 腰に下げた剣の柄に手を当てて、彼は後ろに立つスバルを示すように顎をしゃくり、

 

「その場合は三対三だ。これで対等だ。」

 

「じょ、冗談っ! わりに合わねーよ!」

 

 うそぶくラインハルトにトンチンカンは慌てふためき、獲物を隠す配慮すら忘れて蜘蛛の子を散らすように大通りへと逃げ去っていく。

 初回のときには残せた捨て台詞すら残せない慌てぶり。それだけで、この目の前に立つ青年の規格外さが知れるというものだ。

 

「お互い無事でよかった。ケガはないかい?」

 

 男たちが完全に消えたのを見計らって、青年が微笑を浮かべて振り返った。

 途端、路地裏を席巻していた威圧感が消失。それすらも意識的に青年がやっていたことだと体感して、スバルはもはや絶句するしかない。何より、

 

「あんだけのことしてこの爽やかさ……イケメンってレベルじゃねぇぞ」

 

 顔と声と佇まいと行動、今のところ全てが高水準でイケメン判定をクリアしている。これで性格と家柄までよかったら、裏で何か悪事を働いてないと釣り合いが取れないレベルだ。

 ともあれ、そんな嫉妬心丸出しの心境はさて置き、助けてもらった事実は事実。

 スバルはその場に膝をつき、「へへー」と平伏して、

 

「このたびは命を救っていただき、心からお礼申し上げる。このナツキ・スバル、その御心の清廉さに感服いたしますれば……」

 

「そんなに堅く考えなくても構わないよ。向こうも三対三になって、優位性を確保できなくなってのことだ。僕がひとりならこうはいかなかった」

 

「いや、あのビビりようからしたら三対一どころか十対一でも逃げてそうだったけど……なんだ、このイケメン。本気で身も心もイケメンか。俺ルートのフラグが立つわ!」

 

 わりと泣ける系シナリオなのでハンカチ必須。

 そんな戯言を口にしつつ、スバルは改めてラインハルトの姿を観察。

 見れば見るほど神に選ばれたとしか思えない造形の美男子だが、その格好を見るにどうも衛兵という感じではない。大通りで見かけた多数の一般人と、素材の良ささえ除けば大差のない様子に思えた。

 

「えーっと、ラインハルトさんと」

 

 それから隣にいる、未だ話さない美少女に目を向ける。

 

「レイラさん……でいいんスか?」

 

「呼び捨てで構わないよ、スバル」

 

「さらっと距離縮めてくるな……」

 

「私のことは気軽にグラディスで良いぞ、ナツキ・スバル」

 

「全然気軽じゃねえ!?そしてラインハルトと反対にかなり距離があるな!!」

 

「すまない、ジゼルは人見知りでね。それから名前で呼ばれるのは苦手らしいんだ。」

 

「明らかに人見知りの態度じゃねえし、ミドルネームで呼ぶことさえ許されてねぇんだけど!?」

 

「フン。」

 

「……えっと、改めてありがとう、ラインハルトとグラディス。俺の叫びを聞きつけてくれたのはお前らだけだぜ、マジ寂しい」

 

 あれだけ人の数がいて、聞こえたのが彼らだけということはないだろう。人心の寂れっぷりを嘆くスバルに、ラインハルトはかすかに目を伏せ、

 

「あまり言いたくはないけど、仕方のない面もある。多くの人にとって、連中のような輩と反目するのはリスクが大きい。その点、衛兵を呼んだ君の判断は正しかったよ」

 

「その言い方だと、ラインハルトたちって衛兵なの? そうは見えないけど」

 

「よく言われるよ。まあ、今日は非番だから制服を着ていないのも理由だろうけど」

 

 苦笑いしながら両手を広げるラインハルトに、スバルは内心で反論。

 彼らが衛兵に見えない最大の要因は、そんな泥臭い感じのイメージとかけ離れた雰囲気が為せる技だ。衛兵の制服を着ているグラディスさえ、衛兵には見えない可憐さがある。プラスアルファすることがあるとすれば、

 

「『剣聖』とか『聖女』とか呼ばれてた気がするが……」

 

「家が少しだけ特殊でね。かけられた期待の重さに潰れそうな日々だよ」

 

 肩をすくめてみせる気軽さに、どうやらユーモアも持ち合わせているらしい。

 もはや心身共にイケメンであること疑いの余地なし。存在イケメンのラインハルトに驚嘆を隠せないスバルだが、彼はそんなスバルをジッと見下ろし、

 

「珍しい髪型と服装、それに名前だと思ったけど……スバルはどこから? 王都ルグニカにはどんな理由できたんだい?」

 

「どこからかって言われると答えづらいんだよな。東の小国って設定はダメ出し食らったから……も、もっと東とかってのはどうだー」

 

 我ながら安直な答えだと自省の限りだ。が、それに対するラインハルトの反応は意外にも顕著なものだった。

 

「ルグニカより東……まさか、大瀑布の向こうって冗談かい?」

 

「大瀑布?」

 

 聞き慣れない単語に首をひねるスバル。

 瀑布、というと滝か何かだったと思うが、このあたりの地理情報にはかなり疎い。そもそも王都の広さすらまだ把握していない状況だ。スバルにとってこのルグニカという王都の活動範囲は、商い通りと路地裏と貧民街で完結している。

 自宅、自室、コンビニで完結していた元の世界と変わらないレベルだ。

 

「そう考えると異世界でも同じ場所でばっかひきこもってんのか、もはや天性のもんだぞこれは……持ってるな、俺」

 

「誤魔化してるってわけでもなさそうだけど、そこはいいか。とにかく、王都の人間じゃないのは確かみたいだけど、何か理由があってきたんだろう? 今のルグニカは平時よりややこしい状態にある。僕でよければ手伝うけど」

 

「いやいや、休日なんだろ? それ返上してまで俺の手伝いなんてすることねぇよ。さっきので十分……だけど、ついでに聞きたいことはある」

 

 ラインハルトの申し出に首を振ってから、スバルはふと思い出したように指を立てる。ラインハルトは「なんでも聞いて」と気軽に頷いた。

 

「世情には疎い方だから答えられるかはわからないけどね」

 

「んにゃ、聞きたいってのは人探しだから平気平気。ってなわけで聞きたいんだけど、このあたりで白いローブ着た銀髪の女の子って見てない?」

 

 何度かの大通りの観察の結果、偽サテラの格好はかなり目立つ類のものだ。頭髪の色はスバルの黒髪同様に見かけないし、鷹っぽい刺繍の入ったローブも同じく。思い返せば白いローブはそれなりに高価そうでもあった気がする。宝石の入った徽章を持っていたことからすれば、その素姓も自然と高い位にあるのだろうと察せるが。

 

「白いローブに、銀髪……」

 

「付け加えると超絶美少女。で、猫……は別に見せびらかしてるわけじゃないか。情報的にはそんなもんなんだけど、心当たりとかってない?」

 

 猫型の精霊を連れている、まで合致すれば偽サテラであることは疑いようもないが、通常は銀髪に埋もれているはずだからそれは高望みだ。

 美少女情報を付け加えて思ったが、超美形のラインハルトと彼女が並んだらそれはそれは絵になりそうである。勝手に考えて変な嫉妬心が芽生えたほど。

 

「……その子を見つけて、どうするんだい?」

 

「落し物、この場合は探し物か? それを届けてあげたいだけだよ」

 

 もっとも、それはまだスバルの手の中にはないし、ひょっとしたらまだなくしてすらいないのかもしれないのだが。

 スバルの答えにラインハルトはその空色の瞳を細め、しばし黙考してから、

 

「ううん、すまない。ちょっと心当たりはないな。」

「私もない。」

「もしよければ探すのを手伝うけど」

 

「そこまで面倒はかけられねぇよ。大丈夫、あとはどうとでも探すさ」

 

 手伝いを申し出るラインハルトに手を挙げ、スバルはとりあえず大通りから回ることに決める。うまくいけば三回目のように通りで見かけることもあるだろう。

 なんなら盗まれるその場で、フェルトを捕まえて徽章奪取を阻止してもいい。

 後々のことを考えると、それが手っ取り早いような気もしてきて、なおのこと急がなくてはいけないと気持ちが逸る。

 

「問題はフェルトのはしっこさをどう捕まえるかだな……こう、反復横とび的な動きで道を塞いで、ゾーンディフェンス」

 

「珍しい動きだね。どんな意味があるんだい?」

 

「相手にプレッシャーをかけつつ、ボールを奪うためのディフェンスアクションだよ。こう見えてもディフェンスには定評があるんだぜ。あと、ボール回しに何ら影響を与えない位置で参加してるように振舞う能力とかな」

 

 ドッジボールでもライン際に立ち止まり、内野だか外野だかわからないような参加の仕方をするのがスバル。ボールに当たらずに試合終了も珍しくない。

 

「ともあれ、何はなくとも商い通りだな、まずは」

 

「行くのかい?」

 

「ああ、行く。ラインハルトとグラディスには世話になった。この礼はいずれ。……衛兵の詰所とか行けば会えるのかな?」

 

「そうだね、名前を出してもらえればわかると思う。もしくは今日みたいな非番の日は、王都をうろうろしてるから」

 

「グラディスはともかく、わざわざ男を探して町をうろつき回る趣味はねぇなぁ……乙女ゲーじゃあるまいし」

 

 軽口で応じてシュタッと手を掲げると、ラインハルトは「気をつけて」と最後まで爽やかに見送りの言葉を向けてきた。一方のジゼルは初めて目があったときから、最後までなぜかこちらを睨んでいたが。

 その言葉に背中を押されるように、スバルは無傷の損害ゼロで路地裏からの脱出を果たしたのだった。

 

 ――その背中を青い双眸が、値踏みするように見ていることには気付かずに。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ジゼルは初めて彼を見た瞬間『なるほど、始まったのか。』と思った。正確に言うならば、『始まっていた』だが。

 

「ラインハルト、気になるのか?」

「少しね。ジゼルも随分と…」

「私は人見知りなものでね。」

 

 皮肉をたっぷり込めて言う。ラインハルトは困ったように笑う。

 

「行きたいなら行っていいぞ、ここで解散だ。……私は用事があるのでな。」

 

「ありがとう。そうするよ。……ところで、いや、言いたくないなら良いんだけど、用事って?」

 

「……服だ。」

 

「え?」

 

 言っていることがわからなかったらしく、彼は首をかしげる。

 

「私服を買いに行く。」

 

「ええと、それはつまり」

 

「ああ、そうだ!平たく言えば、私服がない!それを友人に言ったところ、それは女云々よりも人間として駄目だと言われた…。」

 

「知らなかった、貴女は制服しか持っていなかったのか。」

 

「フン、仕事人間だとか好き勝手に言え。…勿論、幼少の頃は私服を所持していたぞ。」

 

「ふふふ。」

 

 そして笑いを堪えきれなかったのか、ラインハルトの笑い声が聞こえてくる。

 

「…笑うな。まったく。」

 

 私は思わず拗ねたように、顔を背けてしまう。私の方が歳上のはずなのに、これでは示しがつかない。

 

「では、僕はこれで。またね、ジゼル。」

「ああ、またな、ラインハルト」

 

 お互い背を向け、歩き出す。

 ラインハルトとの休日を噛みしめながら、次には別のことを考えていた。

「(ナツキ・スバル…。とうとう出会ってしまったな、主人公。死に戻りの知識はあるが、戻ったという感覚はしなかった…。気をつけなければ…。)」



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お月さまが見てる/危うげな二人

 

 買い物も終わり、すっかり王都は夕闇になっていた。

強い風が吹き、ジゼルの黒い髪がたなびく。

 空を見上げ、月を見る。うっすらと青白く輝く満月、その美しさはどこか妖しげな魅力をはらんでいる。

 確かラインハルトもこの月を見ているのだったかと思いつつ、

「まったく、一波乱ありそうだ。」

 

 その囁きは、彼女を見下ろす月だけにしか届かなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ともあれ、けっきょく話はループしてイケメン探しに戻るわけだ。前にちょろっと話した感じだと、衛兵の詰め所だかで聞くのがいいってことだけど……」

 

 初対面のときの会話をどうにか掘り出して、スバルは手掛かりになりそうな意見を提出する。が、これはこれで言っていてあまり信憑性があるとも思えない。

 なにせ、詰め所にいるとなると、ラインハルトという人物が町のお巡りさんポジションで安定するということになるが――、

 

「あんなお巡りさんがほいほいいてたまるか。十中八九、あの野郎は非番のときに町をうろつくのが趣味なだけのちゃんとした騎士様だろうが」

 

 高そうな拵えの剣に、大仰な『剣聖』という二つ名。おまけとばかりにあの戦闘力で一般兵などと言われれば、もはや恐くて二度と王都など歩けるものではない。

 そのスバルの意見にエミリアも同感といった様子で小さく頷き、

 

「私も、ラインハルトが詰め所にいる可能性は低いと思う。でも、本人はいなくても顔つなぎが期待できる人くらいいるんじゃないかしら」

 

「だよなぁ…。あ。」

 

「どうしたの、スバル?」

 

「ああ、いや…初めて会ったときはラインハルト単独だけじゃなかったなぁ、と。」

 

「?」

 

「グラディスっていう衛兵黒髪美少女と一緒にいた!そうだ!グラディス‼︎うんうん、こんなところに手掛かりが…。」

 

「黒髪……ジゼルのこと?」

 

「エミリアたんも普通にジゼル呼びだぁ!?格差!?」

 

「ええと、ジゼルはその…人見知りなの。」

 

「いや絶対違うよね!?エミリアたん、目が超泳いでるよ!?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それはそうと、ジゼルは詰め所にはいないわ。」

 

「?」

 

「ジゼルはとても忙しいから、基本的に一つの所には止まってないかも。」

 

「忙しい…って、え、グラディスも一般兵じゃない感じ!?いや、戦ってるところを見たことがないからなんとも言えないが…確かに言われてみれば?なんかこう…仰々しいようなオーラが…」

 

「うん、ジゼルは騎士団副団長の補佐と騎士団の司令官よ。」

 

「マジか…お偉いさんじゃねえか…。ぐ…年が近そうなのに俺とは全然違うな…。これこそが格差!」

 

「?ジゼルはスバルよりも歳上のはずよ。確か、25歳は超えて…」

「はぁ!?え、嘘だろ?」

 

「本当よ。」

 

「……童顔ってレベルじゃねえぞ!?」

 



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王選の始まり/所信表明

「――皆様方、お揃いになられました。これより、賢人会の方々が入場されます」

 

 スバルとエミリアの話し合いを遮るように、王座の間の扉が開かれる。

 音に振り向くスバル。正面、大扉を開いて最初に入ってきたのは、入場前に横柄な少女と会話を交わした騎士――マーコスと呼ばれていただろうか。

 

 頑健さを感じさせる表を被り直した兜の下に隠し、堂々たる態度で歩を進める。その姿はまさにお伽噺で見る騎士そのものであり、自然と背筋を正されてしまうような威圧感をスバルすらも受けるほどだ。

 

 そうして歩く彼の背後に、数名の老齢の団体が続いている。

 全員が場と身分に則した装いに身を包んでおり、振舞いと物腰からかなり位の高い人物たちなのだろうと察せられる。どの顔にも長く重い経験が深い皺となって刻まれており、威厳ある佇まいが端々から感じられた。

 

 その団体の中でも一際目を引くのが、集団の真ん中を歩く白髪の老人であった。

 腰は曲がっていない様子だが、背丈はスバルより頭ひとつほど低い。真っ白に色の抜け落ちた白髪が長く伸ばされ、その髪と長さを競うようにヒゲもまた長く長く整えられている。身長の低さもあって危うく引きずりそうなハラハラ感があるが、そんな印象を切り捨てるかのような『刃』の切れ味を思わせる眼光の持ち主。

 

「あの方が賢人会の代表――つまり、王不在の現在のルグニカにおいて、最大の発言力を持つ人物。マイクロトフ様ってわーぁけ」

 

 思わず声を失うスバルに対し、隣に並ぶロズワールが密やかな声で注釈する。

 その内容になるほど、とスバルは納得。ただものでないのが一目でわかる人物は、やはり現実ただものではなかったらしい。

 王不在のルグニカの代表、そして賢人会という団体の名前にも聞いた覚えがある。

 

「確か王様に代わって国の運営とかしてる機関、だったっけか」

 

「名目上は補佐なんだーぁけどね。今は実際の運営も賢人会頼み……とはいえ、王家が存命のときからそのあたりはあんまり変わっちゃいないんだけどさ」

 

 呟きに対して肩をすくめるロズワールの応答。ようは国を動かす能力に欠けた先王の時代から、賢人会がほぼ運営を任されてきたという実績があるらしい。

 それが事実なのかもしれないが、それをほぼ部外者のスバルにさらっとこぼすことも、ましてや王座の間でそれをやらかすのも豪胆としかいいようがない。

 

 その後ろから少し遅れて見知った顔が通り過ぎた。漆黒の美しい髪に金色の瞳の少女。いや、確か少女という年齢ではないのだったか。『聖女』レイラ・ジゼル・グラディスである。彼女は騎士団の制服を着ていない。スバルはそれを怪訝な目で見つめる。

 

「グラディス…?」

 

「あのね、スバル。彼女は賢人会の一人でもあるの。」

 

「役職持ちすぎじゃない、グラディスさん!?社畜魂すごいな!?……つまり、今日は騎士団の一人としてじゃなくて賢人会の一人としてここにいる訳か…。」

 

 あの老人達の中に一人だけいる美女…とくだらないことを考える。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「では本来の議題――王選のことについて、候補者の皆様を交えて、賢人会の開催をここに提言いたします」

 

 威厳に満ちたマイクロトフの宣言があり、広間に緊迫感が張り詰める。

 

 ここまでも弛緩したやり取りをしていたわけではないが、国の頂点である賢人会を蔑にして話を進めていたのは事実。ここへきて、ふいにその存在感を増してみせるマイクロトフに、自然と王座の間の全員の注視が集まる。

 

 それを受け、マイクロトフは動じることなくヒゲを撫でながら、

 

「賢人会の開催の提言にあたり、まず他の同志に賛同をいただきたく」

 

 壇上に並ぶ十の席、その中央で周囲の老人たちを見渡すマイクロトフ。その彼の言葉に、これまで言葉もなく存在感がほぼ消えていた老人たちも首肯。

 

「マイクロトフ殿の提言に、同じく賢人会の権限をもって賛同します」

「同じく」

「同じく賛同しましょう」

「私も賛同する」

 

 最後に答えたのはジゼル。完全に表情が抜け落ち、その顔は無に等しい。

 老人たちの同意にマイクロトフが顎を引く。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それにしても、グラディスが賢人会の一人だったとは驚いたぜ。って、様付けしたほうが良いのか?」

 

「いや…ジゼル様がそう呼べと言ったのだからそのままでいいと思うよ、スバル。」

 

「おぉ。ん?ラインハルトは様付け?」

 

「あの日は、休日なのだから様付けも敬語もやめてくれと命令されていたからね。」

 

「ふむふむ。」

 

「それにー、ジゼル様ならスバルきゅんが様付けすると気持ち悪いぐらい言うかも。」

 

 話を戻し、揶揄うように言ったフェリスからは悪意しか感じなかった。

 

「辛辣!流石にそれは…いや、言うかも。うん、何故か俺だけ名前で呼ぶの許されてないしな…。」

 

「それは……珍しい。」

 

 今まで会話に混じらなかったユリウスでさえも、驚きを隠せなかったようだ。

 

「俺何かしたかな……。」

 

 初対面のことを振り返ってみても何も思い出せない。というか何もしていない、はずだ。最初から何故か睨まれていたし、これは彼女に直接聞くしかなさそうである。

 



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銀色の魔女の願い/決闘の顛末

 

「はじめまして、賢人会の皆々様、ご機嫌麗しゅう。この度は、大変なご迷惑をおかけいたしまして誠に申し訳なく思い候!」

 

 腰を落とし、右手を背中へ、左手を掌を上にして前へ出し、古式的な礼法に則る。日本古来に伝わる礼儀作法「お控えなすって」の異世界仕様だ。

 誰からの注意も入らないのをしばし沈黙を作って確認し、それからスバルはファーストコンタクトの成立を確信、そのまま流れるような動きで手足を動かす。

 

 足のスタンスを広げ、腰の角度を傾け、左手は傾けた腰に、右手は高く天井を指差すようにして華麗にポージング。

 そして、

 

「俺の名前はナツキ・スバル! ロズワール邸の下男にして、こちらにおわす王候補――エミリア様の一の騎士!」

 

 叫び、それから掲げていた右手を下ろして指を鳴らし、歯を光らせてウィンクを決めながら、

 

「どうぞ、お見知りおきをば、よしなに」

 

 己の立ち位置をはっきりとさせるために、場違いなスバルの参戦が始まる。

 空気は先ほどのパックの出現のときを越えて、急速に冷え込んでいくのを感じる。

 それは同時に、無表情を貫いていたジゼルが一瞬、盛大に顔をしかめた瞬間でもあったのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「報告いたします。広間での会談の終了後、騎士ユリウスが練兵場の使用を申請。受諾した現在、練兵場にて騎士ユリウスと……」

 

 ちらと、報告の最中に衛兵の視線が部屋の隅――そこに所在なさげに立つ、エミリアの方へと向けられた。

 その視線を受け、エミリアはふいに話を振られたような唐突感に目を瞬かせる。

 そんな彼女の驚きが疑問に変わり、それが明確な言葉となって意味を結ぶ前に、正しい情報が衛兵によってもたらされる。

 

「――エミリア様の従者である、ナツキ・スバル殿が木剣にて模擬戦を行っております」

 

「……へぇ」

 

 背筋を伸ばし切り、衛兵は今まさに見てきたばかりの内容をここにぶちまける。

 それを聞き、顎に手を当てて感嘆の吐息を漏らすのはアルだった。他のものも多かれ少なかれ、困惑以外の感情を瞳に、あるいは表情に浮かべている。そしてまた、ジゼルも自分の意思ではどうしようもない感情を抱いていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 ナツキ・スバルとユリウスの戦い…いや、最早戦いと呼べるものではないーーーを見たとき、私は嫌悪しか抱かなかった。地面に伏せたナツキ・スバルを見て、

 

「愚か者が。」

と呟く。

 それは誰の耳にも入ることはなかった。



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殺意の裏側

 

「誰か、またクルシュさんに会いにきてる感じですか?」

 

 問いかけは、ヴィルヘルムの傍らに停車している2台の竜車を見てのものだ。

 豪奢な飾りつけが目立つ車両を引くのは、これまた毛並み――ではなく、硬質な肌がどこか艶めいて見える気品のある黒い地竜と金の地竜であった。

 馬のように血統などがあるのか不明だが、少なくともこれまでに見てきた地竜とは一線を画する風格が備わっている。

 御者台に座る御者たちも礼服を折り目正しく着込み、こちらに目礼した以上は無駄口ひとつ叩く素振りも見せない。

 

 スバルの問いかけと視線の意味を察し、ヴィルヘルムは顎を引くと、

 

「ええ、そうです。王選の参加が表明されて以降、クルシュ様に謁見を求められる方があとを絶えません。もっとも、クルシュ様の方から招かれる方もおられますが」

 

「未来の王様かもしんない相手にゴマすっておこうって連中なわけね。まぁ、そのあたりは色々と苦労もあんだろうな」

 

 口さがなく事実を端的に表現すると、ヴィルヘルムは苦笑を浮かべる。

 

ーーーーーーーー

 

 ラッセル・フェローが去った後、門扉の向こう――玄関の扉を開けたクルシュ邸の方から、黒髪の女性が歩いてくるのが見えた。

 

「……グラディス。」

 

 レイラ・ジゼル・グラディス。ヴィルヘルムが言うところのクルシュに謁見を求めるにんげではなく、クルシュの方から招いた客なのだろう。

 ジゼルは、そんなスバルの呟きを気にもせずに、ヴィルヘルムに駆け寄った。スバルが見たこともない笑顔で、

 

「ヴィルヘルム殿。残念だが急遽予定が入ってしまった為、奥様のお話は後日お願いします。」

 

「ええ、構いません。貴女も忙しいでしょう。」

 

「ありがとうございます。ではーーー」

 

 どうやら彼女はヴィルヘルムの惚気話を聞くのが好きらしい。スバルのほうを一瞥もせずに、竜車に乗り込もうとするジゼルを見てスバルは、

 

「待ってくれ。」

 

 と声をかけた。その言葉を聞いても尚、ジゼルは振り返らない。

 

「グラディスに聞きたいことがある。」

 

「……なんだ。」

 

 振り返らない。

 

「俺はグラディスに何かしたか?」

 

 そのとき、ようやくジゼルがスバルのほうを向いた。

 

「それに答えるならば…、それは『否』であり『是』だ。」

 

「どう…いう…?」

 

 ジゼルには先程までヴィルヘルムに対して浮かべていた笑みはない。無表情で無機質。何の感情が含まれているのかさえ、わからない。

 

「まどろこしい、簡潔に聞け。お前が聞きたいのは『なぜ君は俺を嫌っているのか』だろう。」

 

「…そうだ。……グラディスも騎士だし、王都の事が原因なら…」

 

「そんなことはどうでも良い。」

 

 ジゼルは騎士の在り方についてどうでも良いと言い切った。

 

「はっきり言うが、私はお前が嫌いだ。」

 

「理由は」

 

「お前の存在が嫌いだ。お前のことが不愉快で、うっとうしくて、忌まわしくて、疎ましくて、厭わしい。」

 

「な……んッ」

 

 スバルは勿論、レムも顔を顰める。ヴィルヘルムはジゼルの普段の姿を知っているが故に、驚き目を見開いている。

 

「不愉快極まりないし、正直視界にも入れたくない。」

 

 その言葉に顔を下に背ける。スバルの思考が怒りに染まり、それと同時に、どうしようもない悲しみが込み上げる。

 全て言い切ったと、地竜に乗り込んだジゼルが窓から、

 

「ただ…お前がエミリア様を思う気持ちだけは痛いほど伝わった。一人の人をあれほど思えるのは、すごいと思う。…それは私にはできないことで、正直妬ましい。」

 

 その言葉に驚き、顔をあげる。ジゼルの視線は完全に前を向いており、スバルとは視線が合わない。

 しかし、

 

「まぁ、肝心なエミリア様や周りのやつらには伝わってなかったがな。」

 

 

 ようやく視線が交わったと思ったら、皮肉げにそう言われる。

「っ……。」

 

「出せ。」

 

そう言うと満足したのか、御者に声をかけ……レムのことを一瞥してからさっさと帰ってしまった。それをしばらく無言で見つめていたが、時間が経ってからスバルに気遣うように、

 

「……今日の訪問者も彼女で終わりでしょう。中に入るとしますが……スバル殿、なにかあるのでは?」

 

 ヴィルヘルムの問いかけに、ジゼルのことから頭を切り替えて、スバルは頭を掻いて唇を曲げる。

 あまりに物分かりがよすぎるのも、先読みされているようで面白くない。もっとも、話が通るのが早いと思えば悪いことなどなにもない。

 スバルはそう考えると、ヴィルヘルムの前で背筋を伸ばし、顔を真面目なものへと引き締め直してから、

 

「悪いけど、今日の最後の訪問者は俺だ。クルシュさんと話がしたい。議題は、俺に力を貸してくれないか的なことでな。…本当はグラディスにも頼みたかったんだが…あれじゃ無理だな。」

 

 



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同盟交渉/前哨

「――スバル殿」

 

 レムと喜びを交換するスバルに、ふいに声がかけられた。

 見れば、すぐ近くまで歩み寄ったヴィルヘルムが、真剣な眼差しでスバルを見ている。自然、背筋を正される感覚にスバルが彼を見上げると、老人は一呼吸の間を置いて、

 

「感謝を」

 

 と、短く告げて、その場に膝をついて礼の形を取った。

 その突然の振舞いに、スバルは驚きを隠せない。が、その反応をするのはスバルだけであり、他の面々はそれぞれがヴィルヘルムの行いに一定の理解を示した顔をしていた。レムですら、アナスタシアですらだ。

 

「我が主君、クルシュ様へのものと同等の感謝を。この至らぬ我が身に、仇打ちの機会を与えてくださったことを感謝いたします」

 

「えっと、その……え?」

 

「すでに賢明なスバル殿は見抜いておいででしょうが、改めて」

 

 ヴィルヘルムはスバルの戸惑いを無視し、腰から剣を鞘ごと外す。

 そして剣を床に置き、その上に手を添える最敬礼の形を取ると、

 

「以前に名乗ったトリアスは、昔の家名です。先代の剣聖、テレシア・ヴァン・アストレアを妻に娶り、剣聖の家系の末席を汚した身――それが私、ヴィルヘルム・ヴァン・アストレアです」

 

 息を継ぎ、ヴィルヘルムはその双眸に覇気に満ちた輝きを宿し、

 

「妻と友人を奪った憎き魔獣を討つ機を、この老体に与えてくださる温情に感謝を。」

 

 深く深く、沁み入るようなヴィルヘルムの言葉。

 その言葉に室内の全員が聞き入り、ただスバルの応じる答えを皆が待つ。

 

 その期待に背中押されて、スバルは小さく息を吸うと、

 

「あ、ああ。も、もちろん知ってたけど。当然、それ込みでクルシュさんが白鯨討伐に乗っかってくるって思ってたわけで――」

 

「ナツキ・スバル」

 

 微妙に噛みながらの答えにクルシュが割り込む。

 彼女はたじろぐスバルを見据えて、いまだ手を取り合った姿勢のまま小声で、

 

「嘘の風が吹いているぞ、卿から」

 

 と、初めて繕い切れなかったスバルの嘘を見抜いて、『風見の加護』の効力を証明してみせたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なぁ、そういや奥さんの敵だっていうのはわかったけど。友人って?」

 

「……スバル殿は、ジゼル様……。『聖女』のことをご存知ですか。」

 

 スバルは、思ってもみなかった名前を出されて返答に詰まった。以前のループにて散々なことを言われたのを思い出す。今の次元で言われたことではないが、嫌われているのは間違いないのだ。何の因果かアレ以来、彼女はここに現れることはなかった。

 

「ああ、知ってるよ。グラディスだろ。」

 

「はい。ジゼル様の祖父、『聖人』は私の親友とも呼べる存在でした。」

 

「だから仲が良いのか。」

 

「?」

 

「いや、えーっと、グラディスは奥さんの話とか聞くの好きそうだなって話。」

 

「ええ。妻を尊敬していると。彼女は妻と同じく、花を愛でるのが好きな女性です。」

 

「そ…れは、意外だった。」

 

「騎士団の敷地内や自分の家の敷地に自ら花を植えているそうです。」

 

ーーーーーーーーー

 

庭園に次々と関係者が集まり始める。

 

 先頭を切り、姿を見せたのは戦着に衣を変えたヴィルヘルムだ。

 軽装備の老剣士は急所のみを守る最低限の防具だけを身につけ、腰には左右に計六本の細身の剣を携えての姿。

 後ろに続くフェリスは女性用と思しき曲線型の騎士甲冑に身を包み、武装はといえば短剣が腰に備えつけてあるのみ。自身の能力を鑑みて、後方支援に徹すると割り切っているからこその姿勢といえる。

 

 遅れて入ってきたのはくすんだ金髪の持ち主、ラッセルである。徹夜明けの表情には疲労があるが、双眸だけが爛々と輝いていて意気込みの程がうかがえよう。

 すでに先んじて庭園に到着していたアナスタシアとラッセルが合流し、なにがしかの会話を始めるのを横目に、巨躯を揺らすリカードが獰猛に口を歪めて笑う。

 

 主要の人物たちが揃い始めると、続々と続くのはスバルが名前を知らない歴戦の兵たちだ。クルシュが編成した討伐隊のメンバーなのだろう。主だった面子だけがここに呼び出されたのか、その人数は十名ほどとかなり少ない。それも、

 

「なんかずいぶん、若さの足りないメンバーに見えるな」

 

 ぼそり、と思い浮かんだ感想をそのまま口にするスバル。

 目の前、討伐隊のメンバーがずらりとヴィルヘルムの後ろに列を為しているのだが、その彼らの平均年齢がだいぶ高めに思えるのだ。筆頭のヴィルヘルムをして六十を越えているのだが、付き従う騎士たちも五十代を下回ってはいまい。

 ヴィルヘルムの強さを身を持って知る身として、彼の老剣士の技量への不安はないつもりだが、他の面々まではどうなのか――。

 

「全員、白鯨に縁のある方々だそうですよ」

 

「レムか」

 

「はい。スバルくんのレムです」

 

 言いながら、ふいに湧くように隣に舞い戻ったレムにスバルは視線を向ける。

 常と同じ無表情、戦に出向くというのに変わらない格好はメイド服のままで、朝の合流時にその点を指摘してみれば、

 

「この給仕服はロズワール様の手製で、防護の加護がある戦闘用メイド服です。ですからなんの心配もありませんよ」

 

 とのことだ。余所行き用、炊事用、雑務用、遊興用に戦闘用と幅広い。なのに選択肢はメイド服一択なのだから、ロズワールの性癖はさもありなん。

 ともあれ、

 

「白鯨に縁ってことは……過去の討伐隊の関係者とか、そのへんか」

 

「一戦を退いている方が多いようですけど、ヴィルヘルム様の呼びかけに従って集まられたとか。錬度も士気も、十分以上に感じられます」

 

「復讐に燃える老兵たちってシチュエーションか……燃えるな」

 

 そう口にする反面で、過去に白鯨との因縁を持つ彼らが今回の討伐隊に加わっていることも、昨夜のフェリスが口にしたクルシュの『優しさ』なのだろうか。

 それで作戦自体の雲行きが危うくなるなら本末転倒だろうが、そのあたりの部分に関して妥協するような性格ではあるまい。ヴィルヘルムの執念もまた、足手まといを軽々しく戦場に連れ出すような生易しいものではないはずだ。

 場合によっては戦場に辿り着く前に、余計な足枷は間引くぐらいしかねない。

 

 その中でふと、黒髪が見えた。ジゼルだ。彼女もここに来てたのか、と思い目を逸らす。ヴィルヘルムから彼女の祖父のことを聞いた。彼女も白鯨との因縁がある一人なのだ。しかし、彼女の嫌いだという宣言はスバルにとってかなりダメージがあったようで彼女のことをまともにみることが出来なかった。

 



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白鯨攻略戦

 星々が夜空から見守る中ーーーー。定刻通りに携帯電話のアラームが鳴り響き、静かな風が吹く宵闇の野に白鯨が現れる報を告げた。

 およそ一分前後――その間に奴が現れる。問題はその時間と場所が、秒単位や座標単位で確定できているわけではない点にあった。

 視線をめぐらせ、神経を研ぎ澄まし、その瞬間を待ち構える。

 ーーーー最も緊張が高ぶる瞬間だ。別段、この討伐に限る話ではないのは当たり前だろう。人生何事も大きな事を成そうと始める直前と、そして終局へ届く直前を緊張無しでは語れない。

 同時にそれは心地よく感じる。気分を害する緊張では無く、自分が生きていると実感できる胸の高まりである。今はまさにその時である。

 だが、魔獣攻略開始を目の前に他の兵とは違い、精神状態が平時に近い者が二人いる。

 スバルに全てを預けているレムとーーーーそしてクルシュの少し前に立つ黒髪の女。

 

 

「何か聞こえないか」

 

 夜色の髪に金色の瞳、レイラ・ジゼル・グラディス。クルシュ自体、彼女とあまり関わったことがないので、実力の底は未だ見えないがーーーこの場の誰よりも強い。少なくともクルシュはそう見ている。かの剣鬼をすら、彼女は容易く凌駕しているだろう。

 

「なんだと?…いや、私は聞こえないが。フェリス、何か聞こえるか」

「……特に聞こえにゃいですよ?」

 

 隣に立つフェリスも耳を澄ますが、彼は知覚できなかったと言う。フェリスは耳は先祖返りによるものではあるが、それは決して飾りではない。

 が、そのフェリスを一刀両断するかのように否定する。

 

「違う」

 

 一向に現れない魔獣。一団も騒めき始めるが、その時。

 

「上かッ!」

 

 フェリスの耳も、その何かを捉える。同時にジゼルは天を仰ぐと───

 

「ーーーー」

「あれが……!」

 

 討伐隊のジゼルの声に反応して上を見る。その瞬間、誰もが息を止めた。恐れ慄くあまり呼吸を忘れるとはまさにこの事なのだろう。傑物たるクルシュ・カルステンですらそうだったのだから。

 

 ーーー白鯨が天を泳ぐ魔獣と言われていることは、決して比喩ではない。その鯨は水ではなく空を掻き、体から霧を吹き出しそれを泳ぐ。

 そしてその霧は只の霧に非ず。触れようものなら、存在ごとこの世から掻き消える。恐ろしいことに、他者の記憶にも残らない。

 故に『霧の魔獣』。この四百年で幾人も忘れ去られ、存在を呑み込まれ、消されたのだ。

 

 

「ーーーー」

 

 夜の野に響く嫌悪感に溢れた鳴き声。精神そして頭に直接影響を与えるかのようだった。

 

 そして、月明かりが雲に遮られたと思った瞬間、その雲があまりに大きな存在の下腹であることを理解し、スバルは自身の記憶の成就を見届ける。

 映し出された白鯨の射影は彼らの足を竦ませる。

 影の大きさだけで理解出来た。これが、先代・剣聖すら屠った魔獣なのだと。

 

「ーーーー」

 

 白鯨はまだこちらに気付いていないようだった。ゆっくりと天を游泳する魔獣に奇襲するなら今がベストだ。

 にも関わらず、討伐隊の誰もが足を動かしていない。それは致命的な差と言える。

 彼らが足を止めている理由が何であれ、例え命令を待っているのだとしても。白鯨に攻撃を察知されようものなら、それは確実に生死の境目となる。

 それを分かっていて尚。白鯨がこの場に現れることを事前に把握していて尚。誰も。

 動揺の気配が広がり始めるのと合わせて、手筈通りの一斉攻撃の呼び声がかかるのを全員が待った。

 が、クルシュが息を呑んだ瞬間より、ほんの半瞬ではあるがスバルたちの方が早い。

 

「――ぶちかませぇッ!!」

 

「――アルヒューマ!!」

 

 クルシュが声を発するよりも早く、スバルが叫んだ。それに合わせる様に白鯨の下腹へ飛ぶ巨大な氷の柱と遅れて射出された閃光。しかしそれは見えない速度で氷の柱を追い越した。

 

「ーーーー」

「ふん。聞くに堪えない鳴き声だ」

 

 

 スバルの叫びに呼応して、レムがすでに練り始めていたマナに詠唱による指向性を与えた。生み出される四本の長大な氷槍は大木を束ねたような凶悪さを誇り、それが風を穿つ勢いで巨体の胴体へと突き込まれる。

 氷柱の先端が固いものに押し潰される音が響き、しかし砕き切られる直前に先端が魔獣の腹にわずかに埋まり、傷口を押し広げて内部へ穿孔――血をぶちまける。

 

 一方でジゼルはこの時に合わせて事前に自分の周囲に浮遊する光の玉を作成していた。この玉を随伴させる事により、特定の光属性攻撃を無駄な詠唱なく放つ事が出来るのだ。そして魔獣の姿を確認するや否や即座に収束した光のエネルギーを矢の形に変えて撃ち出したのだ。

 

 この魔獣は四百年の中で、異物が体の中を通り抜けられる痛みを味わったことがあるだろうか。例えあったとしてもそれは少ない。魔獣は痛みからか、体を大きく畝らせる。白鯨の絶叫が平原に轟き渡り、鼓膜を痺れさせるような大気の震えを味わいながら、スバルとレムが乗る地竜が一気に駆け出していた。

 

 

 ――明言しておくのであれば、決してこれはスバルたちが早まったわけではない。

 

 あの瞬間に動けていなければ、コンマでも動きが遅れていたのであれば、この先制攻撃は白鯨に悟られてしまっていたはずだ。

 あの刹那の間こそが分水嶺。そして、そのほんのわずかな躊躇いが生死を分けるとわかっていながら、クルシュほどの傑物でも白鯨の威容の前には息を呑んだのだ。

 

 くるものと、半ば確信的に考えていたとしても、事実が起きれば人の心には波紋が生まれる。波紋はささやかでも思考に歪みを生み、歪みは停滞を、そして停滞は敗北を招き寄せる――戦端は危うく、こちら不利で始まる寸前だった。

 

 それでもなお、レムとスバルがそこに間に合ったのは一言でいえば『愛の力』である。

 魔法器の存在とその機能への信頼性――クルシュたちの判断がコンマ遅れた点には、その部分への確実とまではいえない不信感が原因であった。姿を見せない魔獣に対する焦れもあり、その判断にささやかな陰りを差し込んだのも無理はない。

 だが、レムはスバルの言葉を、白鯨がこの瞬間に現れるという発言を、一点の曇りもなく、欠片も疑っていなかった。故に彼女はスバルが提示した時間に合わせ、自らが持てる最大火力の魔法を練り、白鯨の出現を確認したと同時に発することができた。

 

 これをレムの愛と言わずして、なんと呼べるだろうか。

 

「とか分析すると超恥ずかしい――ッ!」

 

「スバルくん、もっとしっかりしがみついてください。振り落とされます!」

 

 戦端の切り方を自分なりに分析するスバルに対し、地竜の手綱を握るレムがそう叫ぶ。彼女の言葉は作戦の一部――先制攻撃炸裂後の、第二段階を示していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 クルシュが前を見れば地竜に相乗りするスバルとレムが既に駆け出している。レムの腰に抱きついているスバルがこちらを見ながらガッツポーズをしていた。

 

「ーーーーー」

 

 そして次に、矢の発射地点であるジゼルをフェリスと二人して驚きの表情で見ると、

 

「ん?…ああ、すまない。あの男に遅れを取るのは些か癪だったものでな。一発撃たせてもらったよ」

 

 彼女は腰の剣に手を這わせることもなく、薄い笑みをこちらに向けていた。

 

 先陣を切った二人とジゼルの放った一閃に討伐隊が動揺。

 

 対してクルシュはというと、笑っていた。極めて好戦的な笑みを浮かべながら。

 

「全員――あの馬鹿共に続け!!」

 

 彼らに後れを取らない為に先程の自分を振り払い、息を大きく吸って叫んだ。白鯨を狩るには先手を打つ必要がある。

 

「オオオオォォォオオオォオ!!」

 

 『霧の魔獣』を地に落としにかかるべく討伐隊の誰もが、号令に応じて攻撃を開始。大量の土埃が巻き上がり、その向こうで白鯨の絶叫が再度高らかにリーファウス街道の夜空へ木霊する。

 

 今ここに、白鯨討伐の火蓋が切られたーーーーーー。



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白鯨攻略戦2

 戦端が開かれてから今までの戦闘経過、 その圧倒的な戦果――これ以上ない完璧に近い奇襲の成功に、白鯨は反撃すらままならない。このまま、なにも手出しさせずに被害ゼロで切り抜けられるのではあるまいか。

 

「かなり効いた感じがするぜ! このままいけるんじゃねぇか!?」

 

 スバルは未だ爆炎吹き荒れる野の中で、レムと地竜に跨り、戦況を見ていた。勿論、彼にそれを見分ける力は無くーーー何となくではあるが、勝利は近いところにあるような気がしてきた。実際、ここまで白鯨を完全に押さえ込み、少なくないダメージを与えている。以前に編成された討伐隊の実力が足りなかったか、純粋にこちらの準備が万端でこのときを迎えられたからかは不明だが、早くも勝利を目前にしているような高揚感があった。

 炎の余波が届かないところまで距離を開け、土煙を上げて停止する地竜の背中でスバルが快哉に拳を握る。

 しかしそんなスバルに対して、レムは悔しそうに未だ空に浮く鯨を見ながら言った。

 

 「いいえ。――本当なら、今ので地に落としてしまいたかった」

 

 首を振るレムが悔しげに、空に浮かぶ燃えるケダモノを睨みつける。

 彼女の言葉につられて顔を上げ、スバルは訝しげに目を細めながら白鯨を観察。白い体毛に燃え移った炎で全身を炙られ、身をよじっているが鎮火の気配はない。全身の至るところに斬撃や魔鉱石による負傷が広がっており、血を滴らせる姿は目に見えて痛々しいものがあった。しかし、

 

「高度は……下がってねぇ」

 

 依然、白鯨の肉体は見上げた空の中にある。幾つもの箇所から血を流し、放たれた炎の魔術により炙られた体は見ていて痛々しいものがある。それで尚、魔獣は高度を維持しているのだ。

 ライガーの跳躍で届かない距離ではないが、それでも単身人が挑むにははるか高み。なにより、地に引き落とさなくては次の作戦に移ることができない。

 

 

 

「あんなに攻撃ぶち込んだってのにーーー」

 

「初っ端に切れる手札はぜぇんぶ切ったった。それでも落ちんゆうなら、こら向こうのタフさが一枚上手やっちゅう話やな」

 

 大ナタを肩に担ぎ、返り血に体毛を濡らすリカードが隣にくる。

 ヒゲを震わせて白鯨を見上げながら、白鯨の防御力が予想以上だったため、リカードは不満そうに鼻を鳴らす。

 

「あのカタさは相当やねんな。岩盤叩いとる感じやな。当たって見た感じ、物理的な攻撃はワイくらいの馬鹿力かヴィルヘルムはんの剣技ーーー或いは」

 

 リカードがそこで言葉を区切ると、未だ白鯨の背で奮戦するヴィルヘルム───では無く。

 ちょうど今、白鯨に光の柱を撃ち込み、爆発を引き起こした女を見た。彼女は戦場を縦横無尽に走り回り、魔獣を狙撃していた。

 

「あの姉ちゃんがどう立ち回るか、にかかっとるな」

 

 彼女は戦場において、常に最適な位置から白鯨の体を的確に射抜いている。

 

「グラディス、そんなにすげえのか?」

「高々光の魔法であの皮膚を貫くて、馬鹿げとるわ」

 

 そもそもそれは、白鯨の硬さを考えれば異常なことであり。

 

「それに、どうやったら白鯨の上に立つワイらの事が見えんねん」

 

 彼女は討伐戦が開始してから、いくつもの光を放っている。その光は時には体を貫き、時には金色の炎を上げて肌を焦がす。

 もちろんリカードやヴィルヘルムが白鯨の背中に立っている時も同様に、だ。

 その時は即座に立ち位置を変え、魔法が貫通した先に彼らが居ないような位置に調整しながら射っていた。それが異常なのだ。その空間把握能力は、目の善し悪しという次元を超えている。

 

「あれはさすがにバケモンすぎんで、流石に」

「しかも地竜とかに乗ってるわけじゃねぇしな……」

 

 加えて、彼女の移動手段は地竜やライガーでなく自らの脚だった。

 疲れを避けるためか、そもそも彼女も人の身だからなのか。地竜やライガーよりも機動力は落ちるがーーーその運動量は人外クラスだった。

 しかし広大なフィールドで、それはどれほど疲れるものなのか。そんな戦い方を続けていたら、パンクする未来はスバルでも見える。

 

「それにしてもグラディスの光が偶に爆発してるんだけど、あれって魔法なのか?」

「いえ…少なくともあれはゴーア系の魔法ではありません」

 

 先程の攻撃で燃え盛る金の炎を見た。

 レムの見解通り、彼女の扱う火炎はゴーアの延長線上には無いものだ。魔力の使い方も放出の仕方も、そして火炎の色つまり温度も何もかもが異なる。

 ーーーそれは彼女の加護と契約した精霊による魔力の暴発だ。その威力は凄まじいものだが───白鯨は未だ尚耐えきっている。

 その理由は常に鯨の背にて力闘しているヴィルヘルムや、戦場の人々をその爆発に巻き込む可能性が大きく、最大の力量を発せないためであった。故に、範囲を小さめに攻撃していたことで白鯨に致命傷には至っておらず。

 リカードは

 

「ま。姉ちゃんのことはええ!」

 

 そう言って思考を切り替えた。

 今重要なのは、彼女の魔法についての考察では無く白鯨を地に落とす戦術だ。

 

「けどな、あの姉ちゃんの一撃はどっちにしろ重要やな」

「どっちにしてもってのはどういうことだ?」

「ああ、そりゃ白鯨のタフさ考えたらわかることやな」

「さっき言ってた、物理攻撃があんまし効かないとか何とかってのと関係があるのか?」

 

 彼らの攻撃に耐え、剣が体の中まで貫いているというのに未だ地に落ちないのだから。白鯨の物理耐性は確かに埒外だろう。

 

「せやな。あの白い皮膚ごと斬ったりすんのはワイらしか無理やろうけどーーーーー」

「あ、その下の皮膚なら行けるってわけか」

 

 リカードの言葉を聞き、空を浮かぶ鯨を見ると。

 

「……確かにその通りっぽいな」

 

 彼の言う通り、白鯨の焼かれた皮膚は黒ずんでいる。

 一発目にぶち込んだレムの氷塊はあくまで物理的な攻撃の要素が強かった。魔法が関与しているのはマナからそれを生成し、発射する所まで。加えて氷は魔法で作られたものなので白鯨の皮膚では魔力を散らされ、そして氷自体は厚い皮膚に防がれる。

 一方、ジゼルが放つ金色の炎や火属性の魔法は、白鯨の肌を直接焦がす。マナを散らす白い肌を焼き飛ばし、下皮を露出させられればーーーそれが反撃の契機になりうる。

 

「リカードさんとヴィルヘルムさんじゃなくても剣が、いやそれだけじゃなく魔法も届くってことかーーー!」

「そういうこっちゃ」

「ですがそれでは、それ迄戦況は動かない。そういうことですよね」

「せやな。そんな訳やから、それまでにワイらができるだけ余力削っとかなーーー」

「ーーーー」

 

 その時、白鯨の声がこだました。それは威嚇でも威圧でもなくーーー痛みに唸る声。同時に兵員の声も、高らかに上がる。

 その声につられて見れば、

 

「おぉおお!ヴィルヘルムさん、すげぇ!!」

 

 ヴィルヘルムが白鯨の右目を抉り取っているではないか。白鯨は痛みからか巨大な体を何度も何度も畝らせていたーーーが、鬼はそれを全く意に介さず。そのまま見事に眼球を切り離し、

 

「っと、これはまずいでーーー!」

 

 鯨から取り出された黄色い球体共々、重力に従って落ちてゆくヴィルヘルム。それを白鯨の巨体が追随していた。

 このままでは、ヴィルヘルムは魔獣と激突し破壊的な衝撃を受けるか、或いはその口に収まることになってしまう。それは、何の加護も持たないヴィルヘルムにとっては十分致命傷になりうる。

 空中は足場が無く、地上よりも身動きは不自由だ。ヴィルヘルムもその例に嵌る。当然剣を構えるがそれ以外に出来ることも無く。このままでは地面に到達するより早く、白鯨と接触することとなる。

 

「助けに行ったる!」

 

 ヴィルヘルムが今いる高さは地竜では到底届かない。しかしライガーなら或いは。

 こうしている間も白鯨は自身の一部を持って行かれた怒りから、グングン速度を増してヴィルヘルムを追う。

 リカードは急いでライガーを一度唸らせ、駆け出すーーーその瞬間。

 

「ーーーー」

 

 白鯨の横腹に絶大な金色の炎が吹き荒れ、魔獣は弾かれたように上空へ逃げた。

 

「ーーーうおっ、すげぇ!」

 

 その爆炎は今までのそれより数段上の威力であり。鉄壁を誇っていた白鯨すらも思わず引いてしまうほどだった。

 その跡には皮膚すら残らず。傷から覗いていた肉が、その威力を物語っていた。その一撃は、ゴーア系最高魔法よりも凄まじい焼け跡を残した。

 

「こら、姉ちゃん頼りになる!」

 

 それを放ったのはジゼルだ。見れば、天高い所へ逃げる白鯨を真っ直ぐ見ていた。

 

「ーーーさてと。続き、やってくるわ。とりあえずヴィルヘルムさんらと連携してどうにか余力削るわ」

 

 ジゼルの強力な一撃にリカードは獣らしく獰猛に笑って見せ、今度こそライガーを白鯨の元へ向かわせた。

 現状、白鯨に物理攻撃をたたき込めるのは四人のみ。ヴィルヘルム、リカード、ジゼル。そしてここにいるレムも可能だろう。鉄球でゴリ押しすれば、表皮を削れるはずだ。

 

「…現状だと火力が集中してっから、近づいてくと逆に俺らが邪魔になるな。レム、魔法はぶち込めねぇのか?」

 

「さっきと同規模だと詠唱に時間がかかるのと……やっぱり、マナが散らされてレムの魔法ではダメージが通りません。あれ以下の威力ではそもそも火力不足ですから」

 

「くそ…レムの魔法だと相性が悪いのか」

 

 スバルが歯ぎしりをして白鯨を見るとーー

 

「お、おい。レム……見えるか?」

「はい。あれは…白鯨が……震えている?」

 

 ジゼルの攻撃を喰らった白鯨は空高くに逃げ、そのまま降りてこなかった。まさかこの猛攻撃に尻込みでもして、このまま退散でもするのだろうか。

 

 

 

 ーーーそんな考えは当然甘かった。

 

 

 

「ーーーー総員、警戒せよッッ!!」

 

 

 

 そんなことあるはずもない。

 風を浴び、急加速に振られる体を慌てて固定し、スバルは激しい揺れの上で白鯨の姿を目に焼き付ける。――その変化、その変貌、それは。

 

「――――!!」

 

 咆哮を上げ、片目を抉られた怒りに残る隻眼が真っ赤に染まる。

 血色に染まった目で眼下を睥睨し、その狂態に慌てて距離を取り始める討伐隊の方へと体を傾ける白鯨。そして、白鯨の肉体に変化が生まれる。

 

 ――最初にそれが生じた瞬間、スバルは言葉にし難い嫌悪感を堪え切れなかった。

 

 白鯨の口が開いたのだ。

 否、その言葉は正しいようで正しくない。事実を正確に告げるなら、こうだ。

 

 ――白鯨の全身から無数の口が生じ、それが一斉に歯を剥き出して開いたのだ。

 

「――――ッ!!」

「……っ。……レムにしっかりと捕まっていてください」

 

 金切り声のような咆哮が平原の大気を高く震動させ、その声の届くものの精神を直接爪で掻き毟るような不快感を与える。

 その咆哮に人間はもちろん、地竜やライガーといった動物たちまでも背筋を震わせる。本能に呼びかけるそれは足をすくませ、自然、無防備をさらす獲物へと変える。

 

 そして、

 

「――――ぁ」

 

 

 白鯨の全身の口という口から、世界を白に染め上げる『霧』が放出される。

 それは瞬く間に見渡す限りの平原に降り注ぎ、確保したはずの光を世界から奪い、真っ白に塗り潰していく。

 

 

 ――『霧』の魔獣の咆哮が上がり、討伐戦の難易度が跳ね上がる。

 

 同時に始まる、白鯨討伐第二ラウンド。ーーーーーーー難易度は飛躍的に、上がる。

 



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絶望に抗う賭け/僕の親友の話をしよう

親友と書いて「とも」と読みます。書き溜め分、アップするの忘れてました。許してください。


 大樹の下敷きになり、身動きを封じられた白鯨の苦しげな雄叫びが尾を引く。しかし、それだけの威力を身に受けて、なおも命を潰えることのない生命力。

 

 もがき、超重量から逃れようとする白鯨、その鼻先に――。

 

 

「――我が妻、テレシア・ヴァン・アストレアに捧ぐ」

 

 

 主より借り受けた宝剣をかざし、ひとりの剣鬼が舞い降りていた。

 

 この生死を賭けた激闘と、十四年にわたる執念と、四百年にも及ぶ人と白鯨の争いの歴史に、幕を下ろす――そのために。

 

 彼の隣には、黒髪の聖女が静かに佇んでいた。白鯨の終わりを見届けるために。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ――今日は僕の親友、ヴィルヘルム・トリアスという人物の話をしよう。

 

 

 ヴィルヘルムはルグニカ王国の地方貴族、トリアス家の三男として生を受けた。

 トリアス家は王国の北に位置する北国グステコ、その国境近くを領地として預かる歴史ある旧家だ。とはいえ、武門の徒としてそれなりの栄華にあったのも過去の話であり、ヴィルヘルムが生まれた頃には少しばかりの領地と領民を抱えるだけの弱小男爵領。ありていにいえば、没落貴族の一例に過ぎなかった。

 

 長兄と次兄が慎ましやかながらも領主としての器量に見合った器の持ち主であったこともあり、三男のヴィルヘルムにとってトリアス家は食うに困らぬ程度の恩恵と、自由に未来を選ぶことを許してくれる恵まれた環境だった。

 

 兄らと歳が離れていたこともあり、家を継ぐといったしがらみと無縁に育ったヴィルヘルム。また、その兄らと違って文官としての才に欠けた彼にとって、未来と呼ぶべき道を示したのは一振りの剣との出会いだ。

 

 屋敷の広間に飾られた重々しい刻印の刻まれた剣は、かつてトリアス家が王国の中で武名に連なっていたときの名残であり、今のトリアス家に形だけ取り残されていたに過ぎない、観賞用と化した宝剣のなれの果てである。

 

 手入れすらままならない宝剣を手に取り、鞘から抜き放った途端、ヴィルヘルムはその剣の魅力に翻弄された。

 気付けば抜き身の剣を勝手に持ち出し、裏山で朝から夜まで振り続けるのが日課となっていた。

 初めて剣に触れたのが八つのときであり、剣の重さと長さにも慣れ、手足が伸びて不格好さと縁遠くなった十四の頃には、ヴィルヘルムに剣で敵うものは領地のどこにも見当たらないほどだった。

 

「都に出て、王国軍の兵隊になる。騎士になる」

 

 男の子なら一度ぐらいは誰でも考えるような、そんな頭の悪い言葉を言い残して家を飛び出したのも、十四の頃だった。

 剣振りばかりに没頭し、領地の悪ガキ共とつるんで無頼を気取っていたヴィルヘルムに、長兄が「将来はなにをする」と説教を始めたのが発端だった。

 

 未来のことなど考えず、今が楽しければそれでいい。剣を振っているとき、確かに自分が強くなっていると実感できるとき、それだけがヴィルヘルムの至福だった。

 そんな未来の展望ひとつ持たない弟に対する、兄の言葉は厳しいものだった。なまじ正論ばかりをたたみかけられ、言葉に窮したヴィルヘルムから飛び出したのが前述の夢見がちな発言だ。

 あとは売り言葉に買い言葉、お定まりの「兄貴に俺の気持ちがわかるものか!」が飛び出し、実際にヴィルヘルムもいくらかの金と剣だけ持って飛び出す結果となった。

 

 予定外の出立ではあったが、ヴィルヘルムの初めての王都への上京は持ち出した金が尽きる前にどうにか果たされた。もともと、いずれは王都で剣の腕を振るうことは考えていたのだ。予定が早まり、親族の許しも得ていない予定外があっただけのこと。

 意気揚々と王都に辿り着いたヴィルヘルムは、さっそくとばかりに王城へと足を向けて、王国軍の一兵卒として歴史に残るべく門戸を叩いた。

 

 今の時代であれば、そのような成り行きで城門を通ろうとする輩は不逞のものとみなされて、当然のごとく門前払いされるのが関の山である。

 しかし当時、王国は国土の東――亜人族の連合との内戦に揺れており、志願兵はいくら募っても足りないほどに切迫していた。

 

 そこへ、多少なりとも剣を扱えるという触れ回りで若い少年が出向いたのだ。諸手を上げて歓迎され、ヴィルヘルムはさしたる障害もなく王国軍に入隊した。

 

 そうして苦労や挫折、そういったものと無縁のままに戦場に足を踏み入れることとなったヴィルヘルム。彼の剣技も現実という高い壁の前には敢え無く遮られ、それまで高くしていた鼻っ柱を思い切りにへし折られ、膝を屈することとなる苦くも忘れ難い経験――と、それが誰もが通る初陣の洗礼である。

 だが、ヴィルヘルムの剣の冴えはこの時点ですでに実戦を知らない十五の若造の域を軽々と凌駕していて、「なんだ、案外、人生ってちょろいんだな」とか思っちゃった訳だ。

 

 初めての戦場で亜人の死体を山と積み、その上に剣を突き立てた少年兵の姿に、誰もがその未来が血塗られたものになるだろうことを想起せざるをえなかった。

 

 朝から晩まで、それこそ精根尽き果てるまでヴィルヘルムは剣を振り続ける生活を続けた。それが八歳の頃から六年間、十四の歳まで。

 王都で王国軍に所属するようになってからも、許される自由な時間は剣を振ることに充て続けた。剣の冴えはすでに実戦を知る騎士の中でも有数であり、騎士としての叙勲すら受けていない田舎出身の剣士の名は、王国軍の中では期待を伴って、亜人の連合軍にとっては忌まわしきものとして知れ渡ることとなった。

 

 現実の前に折られることもなく、さりとて自身に満足することもなく、ヴィルヘルムは鬱屈とした感情をもてあましたまま、戦場にて剣を振るい続けた。

 剣で他者の肉体を切り裂き、血を浴び、命を奪った相手よりも自分の方が強者であると証明する――その瞬間にだけ、暗い喜びが芽生えるのがわかる。

 

 いつしかヴィルヘルムは笑いながら人を斬るようになり、『剣鬼』の名は畏怖と憎悪を持って戦場にて呼ばれるようになっていく。

 

 立てた武勲の数はゆうに両手の指を越えたが、ヴィルヘルムが騎士としての叙勲を受けることはなかった。他者と馴れ合うことをせず、ひたすらストイックに剣に没頭し、戦場でも味方の姿など知りもしないとばかりに暴れ回り、敵陣に飛び込んでは血の華を咲かせて舞い戻る。――そんな存在に、騎士などという華々しい称号が相応しいはずもない。とかく古い騎士道精神の生きるこの王国の中にあっては、王国に貢献こそすれヴィルヘルムの存在は異物として扱われ続けていた。勿論、この僕にも彼のことは伝わっていたよ?

 

 そして、ヴィルヘルムもそんな状況を変えようとは思っていなかった。

 騎士のように誉れ高く、他者の命や自分の魂の高潔さの競い合いを戦いに持ち込むことなどできない。戦えば人は死に、血は流れ、命はすり潰される。

 その感覚をなにより楽しめる自分に騎士は向いていないし、それを楽しめなくなるのであれば騎士になどなりたくもない。

 歪んだ戦いへの渇望が、ヴィルヘルムという青年の心を長く長く蝕んでいた。

 

 そこに綻びが生じたのは彼が十八――王国軍での軍歴も四年を数え、軍内にも『剣鬼』の名を知らぬものがいなくなった頃のことだった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 ――そう、彼はそこで運命の人に出会う!僕の兄妹同然の幼なじみーー美しい赤毛を長く伸ばした、震えるほど横顔の綺麗な少女にだ!

 

 

 戦線の拡大に伴い、前線から一度王都に戻らされ、不要だと進言するヴィルヘルムの意思を押し退け、無理やりに与えられた休暇の一日のことだ。

 

 それまで血と死の狭間を堪能していた時間から唐突に解放され、時間をもてあましたヴィルヘルムは愛剣を片手に城門を抜けた。

 家を飛び出すときに掴み、土産代りに奪ってきたトリアス家の剣もだいぶくたびれていたが、十年来の付き合いになるこの剣がもっとも手に馴染む。他の剣が使えないわけではないが、命の奪い合いの場に没頭するにはこの剣がやはり一番だった。

 

 愛剣片手にヴィルヘルムが出向いたのは、王都の端に当たる遊ばされた開発区だ。建設途中、といえば聞こえはいいが、その作業が中断してずいぶん経っていると聞いていた。少なくとも、ヴィルヘルムが王都に上京した頃にはすでに中断しており、再開の目処はいまだに立っていない。亜人族との内戦が片付くまではそのままだろう、との話だ。

 

「――――」

 

 朝方の開発区には人気がなく、あったとしてもそれは不埒な目的でこの場を溜まり場とするような輩ばかり。少しばかり気を発して脅しつけてやれば、姿を見せることもなく逃げ出していくような小者の集まりだ。

 

 無心になり、ヴィルヘルムは気を沈めると剣を抜き――一振り。

 頭の中に思い浮かぶのは、すでに幾千幾万、斬り合いを繰り広げた無尽蔵の木偶人形だ。身をかわし、刃を当て、体をさばき、首を飛ばす。

 幼い頃から繰り返し繰り返し、続けてきた実戦稽古。戦う相手の実力は歳を追うごとに強く早くなり、気付けば今の自分と斬り合うのは、澱んだ目と狂気にゆるんだ口元、見るだに正気の位置にない虚ろな剣士――毎朝、鏡で見る自分の姿に他ならなかった。

 自分との斬り合い、もはや今のヴィルヘルムの内に沈む影の中で、自分と実力の拮抗する相手はそのぐらいしか見当たらなかった。噂では王国軍の精鋭、近衛騎士ともなれば腕の立つものは多数存在するとの話だが、彼らと轡を並べて戦う機会などヴィルヘルムの戦場には存在しない。自然、相手は自分に限定される。

 

 休日が宛がわれるたび、こうして殺せない自分と殺し合うのがヴィルヘルムの日課となっていた。気付けば開発区のこの一角は『剣鬼』の縄張り、のようなレッテルを貼られており、いつの間にか近づくものすらいなくなっている。

 好都合だ、と割り切って、ヴィルヘルムは自分の闇というべき世界に没頭する。その中では現実には望むべくもない剣戟が繰り広げられており、そこでのみ、自分の生きる意味が実感できるのだから。

 

「――あら、ごめんなさい」

 

 そのヴィルヘルムだけの世界にふいに割り込んだ異分子は、それはそれはとても美しい少女の姿をしていたんだ。

 

 剣を振ろう、殺し合おう、といつものように開発区に足を踏み入れた彼は、その先客の気配に気付いて足を止めた。

 ヴィルヘルムが利用する一角は比較的足場が均されており、放置された区画の中では広さの面でも申し分のない絶好の場所だ。その異分子はあろうことか、そのヴィルヘルムの憩いの場に居座り、こちらに向かって小首を傾けていた。

 

「こんな朝早くにここにくる人がいるのね。こんなところで――」

 

「――――」

 

 少女はヴィルヘルムの方にうっすらと微笑みかけ、なにかしらの言葉を投げかけてきたが――ヴィルヘルムの返答はシンプルに、剣気を叩きつけるというものだった。

 

 素人であるならば、その剣気に中てられただけでそそくさと逃げ出す。玄人であってもヴィルヘルムの技量を察し、やはりそそくさとその場をあとにするだろう。

 だが、その少女はあろうことか、

 

「……どうかしたの? 恐い顔をして」

 

 あっけらかんと、ヴィルヘルムの剣気を受け流して、そう続けてきた。

 

 苛立ちを感じ、ヴィルヘルムは舌打ちをする。

 剣気が通じない相手――それは即ち、武とまったく無関係の輩の場合だ。少なからず暴力の気配を知るものであれば、ヴィルヘルムの剣気にそれなりの反応を見せる。だが、それと無縁のものにとっては単なる威圧に他ならない。相手によってはその威圧すら、単に目を細めただけと見る場合もあるだろう。

 この目の前の人物の場合、まさしく後者の中の後者の手合いだ。

 

「女が、こんな朝っぱらからこんなとこでなにしてやがんだよ」

 

依然、少女の視線が顔から剥がれないことに吐息を漏らし、ヴィルヘルムはそう応じる。少女はそれに対して「うーん」と小さく喉を鳴らし、

 

「そっくりそのまま、とお返ししたいところだけど、それを言うのはちょっと意地悪すぎるわよね。冗談、通じなさそうな顔してるし」

 

「このあたりは物騒な奴らが多い。女のひとり歩きは感心しねえ」

 

「あら、心配してくれてるの?」

 

「俺がその物騒な奴らの可能性もあるんだがな」

 

 少女の軽口に皮肉で応じ、ヴィルヘルムは剣の柄を鳴らして獲物の存在を主張。が、少女はヴィルヘルムのそんな挙動に目も向けず、「これ」と傍らを指差す。

 段差に腰掛けた少女が指を向けたのは、区画の段差の向こう側だ。ヴィルヘルムの位置からは覗けず、眉間に皺を寄せると手招きされた。

 

「そこまでして見たいわけじゃねえんだが……」

 

「いいからいいから。おいでおいで」

 

 子どもをあやすような言い方に口の端がひきつるのを感じながら、ヴィルヘルムは瞑目して気を落ち着かせると少女の傍へ。段差に足をかけ、その向こう側へと身を乗り出して覗き込んで見れば、

 

「――――」

 

 一面、朝焼けの日差しに照らし出される黄色い花畑が存在していた。

 

「開発が途中で止まったでしょう。誰もこないと思ったから、種をまいておいたの。その結果を見に、足を運んだわけ」

 

 言葉を失うヴィルヘルムに、少女は秘め事を告白するように声をひそめていた。

 ずいぶんと長いこと、この場所に足を運んでいたはずだったが、この花畑の存在にヴィルヘルムは気付いていなかった。ほんの少しだけ奥を覗き込み、視界を広げるだけで見ることができたこの花畑に。

 

「花は、好き?」

 

 いまだ口を開かないヴィルヘルムの横顔に、少女がそう問いかけてくる。

 その彼女の方へと顔を向け、ヴィルヘルムはささやかな微笑を作る少女の顔をジッと見つめる。それから――、

 

「いや、嫌いだな」

 

 と、口を曲げて低い声で、答えたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 ――それからというもの、少女とヴィルヘルムの遭遇はたびたび続いた。

 

 休暇を得て開発区画へ足を運ぶ朝方の時間、彼女はヴィルヘルムより早くその場所に辿り着き、ひとり静かに、風を浴びながら花畑を眺めている。

 そしてヴィルヘルムがきたのに気付くと、

 

「花、好きになった?」

 

 と、聞いてくるのだ。

 

 首を横に振り、彼女の存在など忘れたように剣を振ることに没頭する。

 汗を流し、思考の中の殺し合いに沈み、終えて顔を上げれば、いまだその場に留まる彼女の姿があり、

 

「ずいぶんと、お前は暇していやがるんだな」

 

 と、皮肉げに声をかけるのが慣例となっていった。

 

 

 ぽつぽつと、会話をする時間は少しずつ増えていったように思う。

 剣を振ったあとだけだった会話が、剣を振る前にも少し交わされるようになり、剣を振ったあとの会話も少しだけその時間を延長していった。

 次第に、その場所に足を運ぶ時間が早くなり、時には少女よりも先に均した地面の上に足を踏み、「あ、今日は早いんだ」と悔しげに少女が言うのに笑みが浮かぶぐらいの情動を得るようになっていた。

 

 ――名前の交換をしたのは、そうして出会って三カ月ほどかかったはずだ。

 

 テレシア、と名乗った少女は「今さらだね」と小さく舌を出した。名乗った彼女に名乗り返し、「今までは花女って頭で呼んでた」と返し、膨れられた。当たり前だよ、花女だなんて、うんうん。勿論、ヴィルには女性への接し方について教えを説いたよ。

 互いの名前を知るようになって、少しだけお互いの深いところに踏み込むようになったと思う。それまで、差し障りのない言葉のやり取りだったものが、その質を次第に変えていく。

 

 ある日、なぜ剣を振るのか、とテレシアに聞かれた。

 ヴィルヘルムは思い悩むこともなく、それしかないからだと答えた。

 

 相変わらず、軍に所属する限りは血生臭い日々が続いていた。

 亜人との戦争は激化の一途をたどり、魔法を掻い潜って相手の懐に潜り込み、股下から顎までを掻っ捌く作業が淡々と繰り返される。

 地を駆け、風を破り、敵陣に飛び込んで大将首を跳ね飛ばす。首を突き刺した剣を片手に自陣に戻り、畏怖と畏敬が入り混じる賞賛を受け、息を吐く。

 

 ふと、戦場の足下、血に濡れながらも風に揺れる花があることに気付いた。

 それをふっと、踏まないようにしている自分がいることにも、いつしか気付いた。

 

 

「花、好きになった?」

 

「いや、嫌いだな」

 

「どうして、剣を振るの?」

 

「俺にはこれしかないからだ」

 

 

 テレシアとのお決まりのやり取り――花のについて話すとき、ヴィルヘルムは笑みすら浮かべて応じることができた。しかし、剣について話すとき、いつしか決まり切った文句を口にすることに苦痛を覚えるようになっていた。

 

 なぜ、剣を振るうのか。

 それしかない、と思考停止してきた日々を思う。真剣に、その問いかけに対する答えを探し始めて、ヴィルヘルムは一番最初に剣を握った日まで立ち返った。

 あの頃、ヴィルヘルムの手の中で血を浴びることもなく、曇りない刀身を輝かせていた剣を見上げ、小さな掌には大きすぎる剣に光を映し、なにを思ったのか。

 

 

 ある日、答えの出ない思考の渦をさまよったまま、いつもの場所に足を運んだ。

 

 足取りは重く、向かう先に待ち受けるものと相対するのが憂鬱だった。

 こんなに頭を悩ませるのは生まれて初めてかもしれない。なにも考えずに済むからこそ、剣を振り続けてきたのではなかったか、と短絡的な答えを得かけて、

 

「――ヴィルヘルム」

 

 先にその場所にいた少女がこちらを振り返り、微笑みながら名前を呼んだ。

 

 ――突然、魂を揺さぶられた。

 

 足が止まり、込み上げてくるものが堪え切れなくなる。

 ふいの自覚がヴィルヘルムの全身に襲いかかり、その体を押し潰そうとしてきた。

 

 無心で剣を振る、ということに全てをなげうつことで、思考停止して置き去りにしてきたあらゆるものが噴き出してきた。

 理由はわからない。切っ掛けも定かではない。それはずっと、張り詰めていた堤防を切りかけていて、ふいにこの瞬間に限界を迎えたのだ。

 

 なぜ剣を振るうのか。

 なぜ、剣を振り始めたのか。

 

 剣の輝きに、その力強さに、刃として生きることの潔さに憧れた。

 それもある。それもあるけれど、始まりは違っていたはずで。

 

「兄さんたちのできないことを、俺はできなきゃいけない」

 

 剣を振るであるとか、そういった方面にはとんと疎い兄たちだったから。

 それでも、兄たちは兄たちなりに家を守ろうとしていたから、そんな兄たちの役に立ちたくて、違う方法で守るやり方を探そうとして。

 そうして、剣の輝きと力強さに魅了されたのではなかったか。

 

 

「花は、好きになった?」

 

「……嫌いじゃ、ない」

 

「どうして、剣を振るの?」

 

「俺にはこれしか……守る方法を思いつかなかったからだ」

 

 

 

 それ以降、そのお決まりのやり取りが交わされることはなくなった。

 代わりに、こちらから話題を振ることが多くなったと思う。気付けば、剣を振りにいくよりも、テレシアと話にいくことを目的としている自分がいて。

 無心で剣を振るはずだった場所は、どうにか足りない頭を回転させて、剣ではなく話題を振る場所へと変わっていっていた。

 

 戦場での『剣鬼』の振舞いが変わり始めたのも、この頃だ。

 それまでいかに早く相手の懐に飛び込み、どれだけ多くの敵の命を刈り取るか。そればかりを考えて動いていた体が、いつしかいかに味方に損害を出さずに戦えるか、という方向へとシフトしていった。

 敵も、息の根を止めることを優先するより戦闘不能を優先し、深追いより味方の援護に回ることの方が多くなる。自然、周囲の見る目が変わり始めた。

 

 声をかけられることも、こちらから声をかけることも多くなる。

 それまでまったく無縁であった騎士叙勲の話が出て、それを受けることに少しばかりの打算が考えられるようにもなった。

 それなりに名誉があった方が、下心にも箔がつくと。

 

「叙勲の話が出て、騎士になった」

 

「そう、おめでとう。一歩、夢に近づいたじゃない」

 

「夢?」

 

「守るために剣を握ったんでしょう? 騎士は、誰かを守る人のことですもの」

 

 その守りたいものの中に、その笑顔が焼き付けられた気がした。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 また時間は過ぎる。

 騎士としての立場を得て、軍内で接する人間が増えてくると、自然と情報も入り始める。亜人との内戦は深刻化する一方で、いくつもの戦線で一進一退を繰り返し続けている。ヴィルヘルムもまた、勝ち戦ばかりでなく負け戦をいくつも経験した。

 そのたび、剣の届く範囲だけでも守ろうと足掻き、届かないことに悔しい思いを噛みしめる日々が続いた。

 

 

 ――トリアス家の領地に内戦の火が燃え移ったことが耳に入ったのも、広がり始めた交友関係の一端が影響していたことは間違いない。

 

 もともとは国土の東部を起点として始まった内紛は拡大し、その広がった北方への取っ掛かりの一部が、トリアス家の領地にまでわずか届いたということだった。

 

 命令はなかった。与えられた騎士としての立場を、所属する王国軍に対する忠節を忘れていないのであれば、勝手な行動は許されなかった。

 だが、初めて剣を握ったときの思いを再び胸に抱いていたヴィルヘルムに、それらのしがらみはなんの意味も持たなかった。

 

 駆けつけた懐かしの領地は、すでに敵方の侵攻に大半を奪い尽くされたあとだった。

 五年以上も前に置き去りにした光景が、見慣れていた景色が色褪せていく現実を前に、ヴィルヘルムは剣を抜き、声を上げ、血霧の中に飛び込んでいった。

 

 敵を切り倒し、屍を踏み越えて、喉が嗄れるほどに叫び、返り血を浴びる。

 剣に生き、剣で生かし、剣にしか生きる意味を見出せない鬼の戦いがあった。

 

 多勢に無勢であった。援軍もなく、もともとの戦力も脆弱。

 そして戦友と轡を並べて戦う戦闘と違い、ヴィルヘルムは単身で引き際も与えられていない。今までいかに、自分だけの力で戦っているつもりになっていたのかを思い知らされながら、ひとつ、またひとつと手傷が増え――動けなくなる。

 

 積み上げた屍の上に自身もまた倒れ込み、それでも尽きることのない敵勢の前にその勢いは挫かれ、ヴィルヘルムは目前に死が迫るのを理解した。

 長い付き合いであった愛剣が傍らに落ち、指先の引っかかるそれを掴み上げる気力もない。瞼を閉じれば半生が思い出され、そこに剣を振り続けるばかりの己がいる。

 

 寂しく、なにもない人生だった、と結論付けそうになる一瞬の光景――その途上に次々と思い浮かぶ人々の顔。

 両親が、二人の兄が、領地で共に悪さした悪友が、王国軍で一緒に戦った同僚たちが、次々に思い出され――花を背にするテレシアが、最後に浮かんだ。彼は「死にたく、ない……」そう思った。

 

 剣に生き、剣に死ぬ道こそ本望だと思い続けてきたはずだった。

 しかし実際にそうして刃に全てを預ける生き方の果て、望んだはずの終わりを目の前にしたヴィルヘルムを襲ったのは、耐え難い寂寥感のみであった。

 

 そんな掠れた最後の言葉を、多数の仲間を切り殺された敵兵は許しはしない。

 人並み外れて大きな体躯を持つ緑の鱗をした亜人が、手にした大剣をヴィルヘルム目掛けて容赦なく振り下ろす――。

 

「――――」

 

 迸った斬撃の美しさは、目に焼き付いて永劫に忘れられまい。

 

 剣風が吹き荒び、そのたびに亜人族の手足が、首が、胴体が撫で切られる。

 どよめきが敵勢に怒涛のように広がるが、駆け抜ける刃の走りの方がそれよりはるか格段に早く、死が量産されていく。

 

 眼前で繰り広げられる、まるで悪夢のような光景。

 血飛沫が上がり、悲鳴さえ口にすることができず、亜人の命が刈られていく。鮮やかすぎる斬撃は命を奪われた当人にすら、その事実を報せることなく命の灯火を吹き消していくのだ。

 それが残酷であるのか慈悲であるのか、もはや誰にもわからない。

 わかることがあるとすれば、それはたったひとつだけ。

 

 ――あの剣の領域には生涯、永遠に届くことはないだろう。

 

 剣を振るものとしての生き方を、そう長くない人生の大半をそれこそ惜しみなく捧げて生きてきた。そんなヴィルヘルムであったればこそ、目の前で容赦なく振られる剣戟の高みがいかほどにあるのか、理解できた。

 それが非才の自身には、決して届かない領域であるという事実もまた。

 

 ヴィルヘルムの生んだそれが血霧の谷であったとすれば、目の前に広がったそれはまさしく血の海だ。積んだ屍の山の大きさも、比べるべくもない。

 トリアス領地に侵攻した亜人族が根絶やしにされるまで、その剣戟は止まらなかった。

 

 圧倒的な殺戮を見届け、遅れて到着した仲間たちに担ぎ起こされて、ヴィルヘルムは負傷を治療されながら――その姿から目が離せなかった。

 長剣を揺らし、悠然と歩き去る姿。その身に返り血の一滴も浴びていないのを見取り、戦慄がヴィルヘルムの全身を貫いた。

 あの場所には永遠に、届かないのだと。

 

 『剣聖』の名前を聞かされたのは、王都に戻ってからのことだ。

 剣鬼ヴィルヘルムの代わりに、剣聖の名前が各地に響き始めたのも同じく。

 

 『剣聖』――それは、かつて魔女を斬った伝説の存在。

 

 加護のみが今も血に残り、一族のいずれかを超越者として守り続ける。

 今代の剣聖の名はそれまで一度も表に出なかったが――それも、このときまでのこと。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 傷が癒えて、いつもの場所に足を運べたのは数日後のことだった。

 

 愛剣を握りしめて、ゆっくりと地を踏みしめながら、ヴィルヘルムはそこを目指す。

 おそらくはいるはずだ、という確信があった。そしてその確信した通り、テレシアは変わらない様子でその場所に座っていた。

 

 こちらを彼女が振り向くより早く、鞘から剣を引き抜いて飛びかかっていた。

 唐竹割りに落ちる刃が彼女の頭を二つにする直前――指先二本で、剣先が挟み止められた。驚嘆が喉を詰まらせ、口の端に笑みが上る。

 

「屈辱だ」

 

「――そう」

 

「俺を、笑っていたのか」

 

「――――」

 

「答えろよ、テレシア……いや、剣聖!!」

 

 力任せに剣を取り上げ、再び斬りかかるも、髪ひとつ乱さない動きで避けられる。足を払われ、受け身も取れずに無残に倒された。

 どうしようもない壁が、途方もない差が、二人の間には存在していた。

 

「もう、ここにはこないわ」

 

 幾度も斬りかかり、そのたびに反撃を受けて、ヴィルヘルムは打ち倒される。

 愛剣はいつの間にか彼女の手の中に奪われており、刃の腹で打たれて息が詰まり、一歩も動くことができなくなっていた。

 

 遠い。あまりにも弱い。届かない。足りない。

 

「そんな、顔をして……剣なんて、持ってるんじゃねえ」

 

「私は、剣聖だから。その理由がわからないでいたけど、わかったから」

 

「理由……」

 

「誰かを守るために剣を振る。それ、いいと思うわ」

 

 ――花を愛でるのが好きで、剣を握ることの意味を見出せないでいた彼女に、理由を与えてしまったのだ。

 

 誰よりも強くて、誰よりも剣の届く距離の大きな彼女だから、余計に。

 ならば、自分が与えてしまった罪を清算するには――、

 

「待って、いろ、テレシア……」

 

「…………」

 

「俺が、お前から剣を奪ってやる。与えられた加護も役割も、知ったことか……剣を振ることを……刃の美しさを、舐めるなよ、剣聖」

 

 遠ざかる背中に、剣に愛された剣聖に剣を語る愚かな鬼がひとり。

 それきり、二人がこの場所で会うことは二度となかった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 剣鬼の姿が王国軍から消え、代わりに剣聖が軍内に名を広めることとなる。

 

 一騎当千――その言葉を体現するかのようなテレシアの奮戦に、戦況は見る間に傾いていく。個人でありながら、その武勇はもはや個人の域になく、轟く『剣聖』の異名はかつての伝説を知る亜人たちにとっても絶望的ですらあった。

 

 内戦の終わりは、剣聖が戦場に出てから二年ほどの月日でなった。

 落とし所は互いのトップによる会談に持ち越され、少なくとも剣を持つものたちの戦いは終わりを告げた。

 戦いの終わりを祝し、王都ではささやかながらも華やかな催しが開かれた。

 

 美しく、なにより力強い剣聖への勲章の授与などがいくつも予定されたセレモニー。

 彼女の姿を一目見ようと、国中の人間が王都へ、王城へ足を運び、熱狂が戦争を終わらせた英雄であるひとりの少女を包み込む。

 

 そのとき、僕はとても驚いた。ふらりと、その熱狂を断ち切るように剣鬼が舞い降りたのだ。

 

 剣を抜いた不逞の輩を前に、衛兵たちは色めき立つ。が、それらを制して前に出たのは誰であろう、叙勲を目前に控えた剣聖であった。

 同じく剣を抜き放ち、侵入者と向かい合う少女の姿に誰もが息を呑む。

 

 その立ち姿の美しさは洗練されていて、言葉にすることすら躊躇われた。

 一方で、その少女と向かい合う人物のなんたる禍々しさか。

 

 褐色の上着を羽織り、見える限りの肌は雨水や泥が渇き切って張りついている。手にした剣も儀礼用の剣聖のものと比べれば貧相なもので、拵えこそ立派ではあるが刀身は歪み、赤茶けた錆が浮いている始末。

 

 壇上の王が剣聖に助勢しようとする騎士たちを止める。顎を引き、前に出る剣聖の剣戟が閃くのを、誰もが声を殺して見守り続けた。

 

 振り切られた刃と刃が重なり合い、甲高い音が観衆の間を突き抜ける。

 煌めきが連鎖し、風を巻き、めまぐるしい速度で二つの影が滑り始めた。

 その光景を前に、声を失っていた人々の心に去来したのは、ただただ圧倒されるばかりの膨大な感動であった。

 

 攻守がすさまじい勢いで入れ替わり、立ち位置を地に、宙に、壁に、空に置きながら二人の剣士が剣戟を重ねる。その姿に、気付けば涙を流すものすらいた。

 

 人は、ここまでの領域に至ることができるのだ。

 剣とはここまで、他者に美しいという感慨を与えることができるものなのだ。

 

 剣戟が交錯し、鍔迫り合い、切っ先が閃き、幾度も打ち合う。

 そしてついに、

 

「――――」

 

 赤茶けた刃が半ばでへし折れて、先端がくるくると宙を舞って飛んでいく。

 そして、剣聖が手にしていた儀礼用の剣が、

 

「俺の」

 

「…………」

 

「俺の、勝ちだ」

 

 飾り立てられた宝剣が音を立てて地に落ち、折れた剣の先端が剣聖の喉の寸前に迫る。

 時が止まり、誰もがそれを知る。――剣聖の、敗北を。

 

「俺より弱いお前に、剣を持つ理由はもうない」

 

「私が、剣を持たないなら……誰が」

 

「お前が剣を振る理由は俺が継ぐ。お前は、俺が剣を振る理由になればいい」

 

 上着のフードを跳ね上げる。

 赤茶けた汚れの下で、ヴィルヘルムが仏頂面でテレシアを睨んでいた。

 彼女はそんなヴィルヘルムの態度に小さく首を振り、

 

「ひどい人。人の覚悟も決意も全部、無駄にして」

 

「それも全部、俺が継ぐさ。お前は剣を握っていたことなんて忘れて呑気に……そうだな。花でも育てながら、俺の後ろで安穏と暮らしていればいい」

 

「あなたの剣に、守られながら?」

 

「そうだ」

 

「守ってくれるの?」

 

「そうだ」

 

 突きつけた剣の腹に手を当てて、テレシアが一歩前に出る。

 息遣いさえ届き合う距離に二人、顔を見合わせる。潤んだ瞳に溜まった涙が、テレシアの微笑みを伝って落ちていき、

 

「花は、好き?」

 

「嫌いじゃなくなった」

 

「どうして、剣を振るの?」

 

「お前を守るために」

 

 互いの顔が近づき、距離が縮まり、やがて消える。

 至近で触れた唇を離し、テレシアは頬を染めて、ヴィルヘルムを見上げ、

 

「私のことを、愛してる?」

 

「――わかれ」

 

 顔を背け、ぶっきらぼうに言い放つ。

 観衆の時間の静止が解けて、衛兵がこちらへ大挙して押し寄せてくる。その中にいつか肩を並べていた面々がいるのが見えて、ヴィルヘルムは肩をすくめる。

 そんな彼のすげない態度にテレシアは頬を膨らませる。あの場所で二人、花畑を前に笑い合っていた日々の一枚のように。

 

「言葉にしてほしいことだってあるのよ」

 

「あー」

 

 頭を掻き、罰の悪さに顔をしかめながら、仕方ないとヴィルヘルムはテレシアを振り返ると、その耳元に顔を寄せて、

 

「いつか、気が向いたときにな」

 

 と、恥ずかしさを言葉で誤魔化したのだった。

 

 まさにラブロマンス!僕とエリキサには遠く及ばないけど、ちなみにこの話は、僕の孫娘が大層気に入ったお話でもある。少なからず、テレシアの影響を受けているみたいだよ。

 え?これでは僕とヴィルが友人、はたまた親友になった経緯がわからない?うーむ、それはまた後日。これは僕の可憐な幼なじみと大事な親友が出会い、恋をして、それからを生きるお話。これにて閉幕!



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ヴィルヘルム・ヴァン・アストレア

 ――煌めく宝剣が岩のような外皮を易々と切り裂き、風が走り抜ける。

 

 

「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ――!!」

 

 雄叫びを上げながら駆ける老剣士のあとを追いかけるように、生じた刃の傷から噴出する血が空を朱色に染めていく。

 

 満身創痍の姿だ。

 左腕は肩から先が今にも落ちそうで、全身を濡らす血は返り血と自身の血が混ざり合ってどす黒く色を変えている。

 ほんのわずかな時間の治癒魔法の効果など、傷の止血と幾許かの体力の回復しか見込めない。依然、安静にしているべき重篤な状態であることに変わりはない。

 

 だが、今のヴィルヘルムの姿を見て、誰が彼を瀕死の老人だと笑えよう。

 双眸の輝きを見れば、駆け抜ける足取りの力強さを見れば、握る刃の剣撃の鮮やかさを見れば、響き渡る裂帛の気合いを耳にすれば、その魂の輝きを目前にすれば、誰がその老人の人生の集約を愚かであると笑えるのだ。

 

 刃が走り、絶叫を上げて、悶える白鯨の身が激痛に打ち震える。

 大樹の下敷きになって身動きの取れない魔獣の背を、駆け抜ける剣鬼の刃に躊躇いはない。頭部の先端から入る刃が背を抜け、尾に至り、地に降り立つと再び頭を目指して下腹を裂きながら舞い戻る。

 

 一振り――長く長く、深く鋭い、斬撃が一周して白鯨を両断する。

 

 跳躍し、動きの止まる白鯨の鼻先に再び剣鬼が降り立つ。

 血に濡れた刃を振り払い、剣鬼は自分をジッと見つめる白鯨の右目――片方だけ残るそちらに自身の姿を映しながら、

 

「貴様を悪と罵るつもりはない。獣に善悪を説くだけ無駄。ただただ、貴様と私の間にあるのは、強者が弱者を刈り取る絶対の死生の理のみ」

 

「――――」

 

「眠れ。――永久に」

 

 最後に小さな嘶きを残し、白鯨の瞳から光が失われる。

 自然、その巨体からふいに力が抜け、落ちる体と滴る鮮血が地響きと朱色の濁流を作り出す。

 

 足下を伝う血の感触に、誰もが言葉を発することができない。

 静寂がリーファウス街道に落ち、そして――、

 

「終わったぞ、テレシア。やっと……」

 

 動かなくなった白鯨の頭上で、ヴィルヘルムが空を仰ぐ。

 その手から宝剣を取り落とし、空いた手で顔を覆いながら、剣を失った剣鬼は震える声で、

 

「テレシア、私は……」

 

 掠れた声で、しかしそこには薄れることのない万感の愛が。

 

「俺は、お前を愛している――!!」

 

 ヴィルヘルムだけが知る、告げられなかった愛の言葉。

 最愛の人を失うその日まで、一度たりとも言葉にできなかった感情の昂ぶり。

 

 かつて彼女に問われたとき、本来ならば告げておくべきだった言葉を、ヴィルヘルムは数十年の時間を経てやっと口にする。

 

 白鯨の屍の上で、剣を取り落とした剣鬼が涙し、亡き妻への愛を叫んだ。

 

 

「――ここに、白鯨は沈んだ」

 

 ぽつりと、凛とした声音が平原の夜に静かに響く。

 その声に言葉をなくしていた男たちが顔を上げ、地竜を歩かせて前へ進み出る少女を誰もが目にした。

 

 長い緑髪はほつれ、戦いの最中に受けた傷で装飾の類は無残になり、その顔を自身の血で汚した、あまりにみすぼらしい格好の人物だ。

 しかしその少女の姿は彼らの目に、これまでのどんな瞬間より輝いて見えた。

 

 魂の輝きが人の価値を決めるのであれば、それは当然のことだ。

 

 宝剣は貸し出し、今のクルシュは帯剣していない。

 故に彼女は空の拳を天に差し向け、握り固めた拳を全員に見えるようにし、

 

「四百年の歳月を生き、世界を脅かしてきた霧の魔獣――ヴィルヘルム・ヴァン・アストレアが、討ち取ったり!!」

 

「――――おお!!」

 

「この戦い、我々の勝利だ――!!」

 

 高らかに勝利の宣告が主君から上がり、生き残った騎士たちが歓声を上げる。

 霧の晴れた平原に、再び夜の兆しが舞い戻る。月の光があまねく地上の人々を照らす、あるべき正しい夜の姿として。

 

 

 ――ここに数百年の時間をまたぎ、白鯨戦が終結した。

 



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IF
ゼロカラアヤマツイセカイセイカツ


 この世界に転生して、私は傍観者になろうと思った。何があろうと、原作とは関わらない。もし関わってしまったとしても、最小限に止めよう、と。

 だがしかしーーーー

 

「エミリア様、どこに行った…?」

 

 正確に言うならば、ラムとエミリア様だ。龍の意匠があしらわれた制服に袖を通した私は、少し目を離した隙に居なくなってしまった二人を探す。いや、ラムはまだいい。しかし、エミリア様は困る。非常に困る。かといって、彼女のことを見かけたか人に聞くのも躊躇われる。

 通りの様子を眺め、どうしようか考える。

 商業街と呼ばれる大通り、そこも他と変わらぬ人波が左右に入り乱れ、王都ルグニカの賑わいを証明する役目を負っている。

 ただ突っ立っているだけでも、十分すぎるほどに喧騒が鼓膜に飛び込む空間だ。

 しかし、その賑やかさの雰囲気が、ふいに違った形に変化する。

 

「――待って! もう! 待ちなさい!!」

 

 一際、大通りの喧騒を高く切り裂いたのは、聞き慣れた銀鈴の声音だった。

 切羽詰まった雰囲気を孕みながらも、どこか声の主の気性の穏やかさを隠し切れずにあるその声は、通りの人波をすり抜ける小柄な影に向けられている。

 

「へへっ」

 

 と、猫のような笑みをこぼし、人の隙間を縫って抜けるのは金髪の少女だ。その手には輝く何かが握られており、一仕事を終えた感がありありと窺える。

 そうして、その少女へ目掛け、通りを青白い輝き――氷槍が飛びかかっていった。

 

「――ッ!!」

 

 思わぬ攻撃に少女が驚き、跳んだり跳ねたりを駆使してその氷槍を躱す。

 その魔法攻撃は人の多い通りで放たれたものであり、突然のことに混乱が生じ、王都の人々は一斉に道を開け、関わり合いになるのは御免だと両手を上げた。

 ずいぶんと統率された動きだ。王都で騒ぎに巻き込まれるのは日常茶飯事、とまで言ってはなんだが、それに近いものがあるのかもしれない。

 

 ともあれ、道を開けた人垣を駆け抜け、姿を見せるのはお目当ての人物。

 

「――――まさか今日って…」

 

 長い銀髪に紫紺の瞳。そんな彼女の目的は、直前にすり抜けた金髪の少女――フェルトだ。フェルトに徽章を奪われ、それを取り返すために彼女は王都を奔走することになる。そしてそれは彼女にとって、避け難い不幸の運命へ続く道なのだ。そして、私にとっても。

 

「原作開始か…」

 

 黒髪に金色の瞳の『聖女』レイラ・ジゼル・グラディス。そして、もう一つ、私に足された称号は『銀髪のハーフエルフ(エミリア)の騎士』だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「──そこまでだ」

 

 

 突如として盗品蔵の屋根を貫いたのは、赤髪の青年。

 身に纏うのは鬼気、それは燃え盛る炎が降臨した様だった。

 腸狩りのククリナイフの一撃を鞘の付いた剣で防いでいた。

 

 穴の空いた屋根から、黒髪金目が遅れて降りてくる。

 

「エミリア様。」

「ジゼル⁉︎どうしてここに…」

「それはこちらの台詞ですよ、まったく。」

 

 ラインハルトの戦いを横目で見つつ、ジゼルはエミリアに駆け寄った。だがこの場の違和感に気づく。主人公 ナツキ・スバルがこの場にいないのだ。ジゼルというイレギュラーが紛れ込んでしまったからなのかと思いつつ。どうやら決着がついたようだった。

 

「相変わらず、デタラメ人間の万国ビックリショーって感じだな、ラインハルト。」

「ありがとう。久しぶりだね、ジゼル。」

「久しぶり……だが、別に褒めてないぞ。そして何故にふくれておられるのですか、エミリア様」

「それよ!ラインハルト達と同じように……昔みたいに接して欲しいの。」

「…なかなか無茶をおっしゃるようで。」

 

 ジゼルとエミリアが可愛らしい口論を見て微笑むラインハルト。そしてそんな光景に痺れを切らしたフェルトが口を開く。

「おい、姉ちゃん。これ返す」

 

 そう言ってフェルトの掌にあったのは、エミリアの徽章だった。

 

 

「……ありがとう。でも、意外……そのまま持って行っちゃうかと思った」

 

「依頼主があんなんじゃな。アタシはただの盗みはしねーし」

 

「どんな理由があっても盗みは駄目だからね?」

 

 そう言って徽章を取ろうとすると……

「え?」

「何してるんだ、ラインハルト?」

 

 ラインハルトはフェルトの手を取り、その赤い目で徽章を見つめていた。

 その男らしからぬ行動に驚きを隠せない。

 

「痛いから……はなせっ……つの」

「なんて事だ……」

 

 驚愕の表情で、まさにありえないといった具合の様子であった。

 

「お、おい! どうしちまったんだよ!」

 

 振りほどこうにも剣聖の力の方が圧倒的に強すぎて逃れられない。

 

「………君の名前は?」

「えっ……ふ、フェルト」

「家名は?」

「アタシは孤児だ。家名なんて大層なものもっちゃいねーよ」

 

 すると深く考え込んだかというと唐突に

「すまないがこれからついてきて欲しい。そして、これに拒否権は与えることが出来ない」

「はぁ!? 何言って……る…………」

 

 手刀を受けたフェルトはこくりとラインハルトの腕の中で倒れ込む。

 

「どういうこと? 一体何を……」

「すみませんが彼女の身柄は僕が預からせて貰います」

「理由って聞いても?」

「……。」

「……ラインハルト」

 

 黙ってしまったラインハルトの名をジゼルが静かに呼ぶと、彼が彼女に向き合って言う。

 

「これにも事情があるんだ。決して悪いようにはしないと約束する」

「ああ」

「正直君とは対立したくない。それはアストレア家の意思でもある。だが、これも運命なのかもしれないな」

 

 自らが抱えるフェルトを見つめながらそう言った。どうやら一身上の都合というもののようだ。

 

「わかった、行け。」

「ジゼル…ありがとう。…エミリア様、すみません。」

「ううん、大丈夫。」

「では」

 

 そう言って剣聖ラインハルトはこの場を後にした。

 

「…何があったのかしら。」

「…ラインハルトのことですから、大丈夫ですよ。」

「うん…」

 

 少し俯いたエミリアに手を差し出して、ジゼルは言った。

「帰るぞ、エミリア」

「‼︎」

 

 エミリアは驚いて顔を上げる。

「二人きりのときだけだからな。」

「うん!」

 

 エミリアは嬉しそうに笑って、話しかける。

 

「ねぇ、ほんとに二人きりのときだけ?パックは?」

「……及第点」

 

 他の人間が見たらどうでもいいような、たわいも無い話。けれど二人は楽しそうに話しながら帰路を歩く。強い風が吹き、二人の髪がたなびく。空に浮かんだ月だけが、彼女たちを見下ろしていた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 私達が拠点としている、メイザース領の屋敷。色とりどりの花が咲き乱れ、噴水が鎮座する庭を抜けて扉に手を掛ける。

 重々しく開かれた扉の先で出迎えたのは豪勢な装飾の他にも、瓜二つのメイドがいた。

 黒を基調としたエプロンドレスと、控えめな装飾が施されたホワイトプリム。

 片方は桃色の髪で左目が隠れるような形

なりをしていて、もう片方は水色で右目が隠れるような形をしていた。

 そんな双子のメイドは寸分違わぬ仕草で。

 

「「おかえりなさいませ、エミリア様」」

「うん、少し遅くなったわ」

「いや、違う。どうしてラムがここにいる。いつの間に先に帰ったんだ?」

「バジルならエミリア様を見つけられるでしょう。」

 

 他人任せだった。それから、私の名前はジゼルで、決して緑色の葉の名前じゃない。そう言うと、これよりもひどいあだ名になったので、バジルで妥協している。

 

ーーーー

 

 「……ん」

 

 

 朝の日差しが顔に掛かり、目が覚めた。身体を起こして、ひと伸び。寝覚めの悪い方ではないので、まだ眠たいという事はあまり無い。立ち上がって着替え、窓を開けると庭にエミリアがいた。

 庭に降りて、エミリアに近づくと、突然精霊石が輝き出す。次第に小さな輪郭が生み出され、耳、頭、胴、足、尻尾の順にそれは姿を現した。

 

 

「やぁ、ジゼル。おはよう」

「おはようございます、パック殿。」

 

 私は精霊の血を4分の一引き継いでいる、いうならばクオーターだ。本来、精霊との間に子供が生まれることはない。宿ったとして、かなりの確率で子供は死に至る。だが私は奇跡的に死ぬことなく生まれた。そしてどうやらこの大精霊殿、私のことを遠い親戚程度には思ってくれているらしかった。

 

「ふふ」

「?」

「いやね、起きてからリアが君の話ばかりするものだから。」

「ちょっと、パック!」

「昔みたいに話してくれたって嬉しそうに…」

「もう!」

 

 少し拗ねたように頬を膨らませるエミリアを横目に、二足歩行の猫が寄ってくる。

 

「ありがとね。」

「何がですか?」

「……ちょっと寂しいけど、君のおかげでリアが本来の性格を剥き出しにすることが多くなったから。」

「そんなことは…」

「ううん。やっぱり僕の存在はリアにとって『家族』だから。『友達』っていう、リアの横に並んで手を貸す君の存在は大きいよ。」

「…そう、なれているようにみえますか。」

「ボクが見た感じはね。」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

威厳に満ちたマイクロトフの宣言があり、広間に緊迫感が張り詰める。それは会場の雰囲気を切迫させるのに十分であった。

 この人物が賢人会、そして貴族や騎士においての存在の強さを証明することが出来た瞬間だった。

 ふいにその存在感を増してみせるマイクロトフに、自然と王座の間の全員の注視が集まる。

 九つの席がある内の中央から全員を見渡すと、それぞれに元の立ち位置から散っていた者達が戻っていった。

 四人から五人になった王候補は玉座を背にして一列に、それらを護衛する騎士は対立するように列に並ぶ。

 

「それでは早速、王候補による演説を頂きます。皆様には主張や立場がおありです。それを踏まえて王になる覚悟、その上で何をするつもりでおられるのかが主な内容となります。」

 

 まずはカルステン家当主、クルシュ・カルステン様と騎士フェリックス・アーガイル。今までの国の在り方の否定し、自らが龍となり自分たちの意思で全てを決定し、未来を変える、と。

 それから、プリシラ・バーリエル様と騎士アルデバラン。この国が今抱えていることは王が居ないことなので、自分が即位すれば解決する。今後の苦難もその時に考えれば良いという考えだ。正直ジゼルは頭が痛くなった。

 続いてアナスタシア・ホーシン様と騎士ユリウス・ユークリウス。欲深い彼女は、自分の国が欲しいらしい。強欲ーーーまさにそれに尽きる。

 そして次だ。

「エミリア様、騎士レイラ・ジゼル・グラディス。 そしてロズワール・L・メイザース卿。お願いいたしますーーーーーー」

 

「はい」

「……。」

「はーぁいはい。いんやぁ、こーぅして騎士の介添え人がいるにもかかわらず、私もいるだなんて、場違い感がすごくて困りものだーぁよね?」

 

 

 名前を呼ばれ、緊張の色が濃い表情でエミリアが返事をした。ジゼルとロズワールは、前に出る彼女の斜め後ろで控える。

 そして、あくまで軽々しい調子でロズワールが応じ、傍らのエミリアとジゼルに「ねぇ?」と振り返る。それに対して二人は一切の反応を返さない。

 ロズワールの空気の読めなさにジゼルは突然のことながら苛立っており、エミリアの強張りを思えば、普段通りのリアクションなど期待するべくもない。

 そして、ファーストネームを呼ばないで欲しいなどというジゼルの願いは言える空気ではない。しかし、そのことに関しての負の感情は即座に置き去りにされた。

 なぜなら――、

 一拍……どころか数十秒の沈黙が流れる。

 

「どうかしましたかな?」

「い、いえ……」

 

 まさか……とは思うが。消え入るような小声で。

「ど、どうしようジゼル。何を言うか忘れちゃった」

 どうしようもない阿呆だ。しかしそれも想定の内である。

 私は彼女の背中を軽く押した。

 

「君は君が今、言いたいことを言えばいい。相手に自分が伝えたいことはなんだ?自分の気持ちを吐き出せ。」

「……私の気持ち。」

 

 それは、差別のない世界を作ること。ハーフエルフであることや、生まれがその後の人生の絶対の評価とはならない場所、そんな環境を築くことが、拙いながらもエミリアの願いだ。そうした願いの先にある、エミリアの故郷の解放ーーーエリオール大森林の大地で眠り続ける、氷像と化した仲間たちを救い出すこともまた、彼女の願いである。

 

「そうだ。まずは挨拶からだな。」

 

 不安で揺らいでいた瞳が、強い意志を込めた瞳に変わる。ゆっくりと前を向き、

 

「お初にお目にかかります、賢人会の皆様。私の名前はエミリア。家名はありません。ただのエミリアとお呼びください」

 

 凛とした銀鈴のごとき声音が広間中の鼓膜を揺らし、その名を全員の胸に刻み込む。声に震えはなく、前を見る眼差しにも揺らぎがない。先ほどまでの緊張した様子はどこへ行ったものか、賢人会を目前に己の名を紡いだエミリアの姿は、これまでの候補者と比較しても劣るところがない。

 

 

「エミリア様の騎士、グラディウス家のジゼルです」

 

「騎士レイラ・ジゼル・グラディウスです、賢人会の皆様」

 

 ジゼルの名乗り上げをたしなめるように訂正するマーコスに、ジゼルの刺すような視線が刺さるが、マーコスは頑健な無表情でそれを無視。フェリスの時同様、部下の誰も特別扱いするつもりはないらしい。

 

 



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聖女は花を愛でる

Q ジゼルがアストレア家に転生したら?


  ――美しい黒髪を長く伸ばした、震えるほど横顔の綺麗な少女だった。

 

 

 スバルがクルシュ・カルステンの邸宅に入り、すでに二日が経過していた。

 

 邸宅――といってもこの場合、カルステン公爵家であるクルシュの本家という意味ではない。公爵として領地を持つ彼女の本邸は王都にはなく、スバルが厄介になっている屋敷はいわゆる王都滞在中のみ利用される別邸に当たる。

 

 王都の上層――高級住宅の並ぶ貴族街の中でも一際ランクの高い、家々というより屋敷群が立ち並ぶ一角にその屋敷は存在していた。

 

 規模はさすがに田舎の広大な土地を無闇矢鱈に開拓したロズワール邸には及ばないが、内装や装飾品は素人目から見ても同等あるいはそれ以上。

 

 王都という土地で客人を招くことも視野に入れれば、公爵家ともなるとこうした点に気を配ることも必要となってくるのだろう。

 

 単純な成金趣味でないことは、実務主義なクルシュの人となりからそう知れる。必要経費の一環――と考えるには値が張りすぎているとも思うが。

 

 その点、そうした小道具を必要としない庭園のシンプルさが屋敷の主の気質を反映しているようでどこか居心地が良く感じる。

 

 屋敷を囲む植林は庭師の手で丁寧に整えられている他、庭園には背丈の低い草原が広がるのみで無駄が一切ない。ともあれ、庭園のシンプルさはその使用用途に適した形でもあるのだろう。

 

 主な用途は今しがた、スバルもしていたような戦闘訓練を行う場としての役割。そこに目を楽しませる花園など不要とするあたり、花より鉄を好みそうなクルシュの性質を表しているようでもあった。

 

 ーーーーしかし王選の開始が宣言された日、スバルとエミリアが決別した日より三日。

 

 ナツキ・スバルが順調に、腐っているときに気づいたのは、裏庭に視界一面を覆い尽くす花園があることだった。

 

 王都では全く目にしなかった花が咲き誇る花畑。それがクルシュ・カルステンの邸宅の裏にあった。

 

 種類別に綺麗に分けられたその花畑は、自然に咲いた花ではない。敷地内に誰かが種を撒き育てたものであろう。

 

 ここで話は冒頭に戻る。

 

 梳った夜色に染まった黒の長髪。輝くような白い肌。しなやかな肢体に硝子細工のように綺麗な顔立ち。美しい青色の瞳がこちらをのぞく。彼女は、どこかお金持ちに飼われている黒猫と表しても良いぐらいだった。

 

「・・・・不審者?」

「違うッ!」

 

 綺麗な声で、とんでもないことを言う。

 

「なら、泥棒?」

「違うし、不審者となんら変わりねーよ!?」

 

「じゃあ、変態だ!」

「不名誉極まりないね!?」

 

 しかし、スバル的にいいテンポで話せたので、大満足。

 

「冗談です、ナツキさん。」

「あれ、俺のこと知ってる感じ?」

「はい。黒の短髪、平凡な顔立ち、極め付けにその目つきの悪さ!フェリスさんから聞いていた、ナツキ・スバル像にピタリと当てはまります!」

「すっげー失礼だけど、ホントのことだからなんにも言えねえ!」

 

 スバルの心ににクリティカルヒット!

 あのネコミミあとで覚えてろよ!と心で決める。

 

「私、クルシュ・カルステン様の庭師、ジゼルと申します。お気軽に・・・・『ジゼル様』と呼ぶことを許そう!」

「何キャラ!?」

「本当は嫌ですが、ナツキさんは、クルシュ様のお客様ですので特別に・・・・とくべーつに!『ジゼル』と呼んでも構いませんよ、ふふん」

 

 少女はえっへんと胸を張る。

 

「威張るとこあった!?」

 

 この少女の情緒不安定さにツッコミがだんだん追いつかなくなってきたし、疲れてきたが、こういうノリは久しぶりのことだった。

 

「ところで、ナツキさん、迷子ですか?」

「あー、いや。色々あってさ・・・・。」

 

 

 そう。色々。

 なにが悪かったのだろう、とスバルは考える時間があればそう考えてしまうのだ。

 

 嫌だ嫌だと思いながらも、思考はあの日の夕暮に辿り着き、銀色の髪の少女がこちらに背を向けて遠ざかる光景を幾度も回想させる。

 

 なにが悪かったのだろう、とスバルはそれが浮かぶたびに考える。

 

 言葉が過ぎたことはスバル自身も認めるところだ。

 

 畳みかけるような彼女の言葉に追い詰められ、それ以前に肉体が打ちのめされていた影響もあっただろう。本当に口にしたかったこととは乖離した内容が飛び出し、結果的にそれは己と彼女との間を別つ結果を生み出した。

 

 とっさに出てしまった言葉なのだから、その場限りの出任せなのだろうか。

 とっさに出てしまったからこそ、心中でいつもたゆたっていた思いなのだろうか。

 

 自分の本心があの場面でどこにあったのか、それはもうわからない。

 

 あの決別の直後に呆然自失となったスバルにとって、次に記憶が再開するのは王城の控えの間からレムに連れられて退室し、クルシュの邸宅へ向かう竜車に同乗させられていた時点まで飛ぶからだ。

 

 自失しているスバルを余所に、クルシュとフェリスがレムと対話していたのがわかった。内容は頭に入ってこなかったが、話している間もレムがこちらの手を握ってくれていたことだけが救いだった。

 

 その温もりを感じられただけで、最後の糸が切れていないことだけは実感することができたから。

 

「気づいたらここにいて・・・・。まぁ迷子といったら迷子かも、人生の。」

「気持ち悪っ。」

「ひどくね!?」

 

 

 シリアスに考えてたのに、バッサリと言い切られてちょっと涙目になる。でも確かに人生に酔った人間のポエミーな言い方だったかもしれない。

 

「・・・・このお花、私が育てたんです。」

「ん?」

「私、ここは何かを思案する時に訪れる場所としては最高の場所だと思います」

「んん?」

「お花、好きですか?あっ、やっぱりなしで、あなたとはこの話、したくないです。」

「えーと、よくわかんないけど、慰めてる?」

「えっ、自意識過剰・・・・。」

 

 なんかこう、冒頭から全て撤回したくなってきた。

 

「ナツキさん、後でここのお花でお茶を入れて差し上げます。少しはスッキリするかもしれませんよ」

「花で?」

「クルシュ様のお墨付きです。」

 

 後から考えれば、やはりこれが彼女なりの励ましなんだと思った。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 白鯨を討つ――。

 

 事前交渉が終わり、その討伐の二文字が具体性を帯びてくれば、その後の関係者の動きは素早い。

 

「こんばんは、ナツキさん」

 

 ふいに声をかけられる。見れば、すぐ近くまで歩み寄ったジゼルが、真剣な眼差しでスバルを見ている。

 

「あまり言いたくありませんが、ナツキさんにはちょっぴり感謝しています。」

 

 相変わらず、スバルを嫌っているのか、からかっているのかわからないような態度だ。いつもなら大声でリズムよく否定するのだが、ジゼルの言葉には背筋を正される感覚があった。それは先程のヴィルヘルムに似ていてーーー

 

「敬愛するおじい様に、仇打ちの機会を与えてくださったことを感謝いたします」

 

「えっと、その……え?」

 

「改めて。私、ジゼル・アストレアは先代の剣聖、テレシア・ヴァン・アストレアとヴィルヘルム・ヴァン・アストレアの孫娘にあたります。おばあ様を奪った憎き魔獣を討つ機を、おじい様に与えてくださる温情に感謝を・・・・と、まぁおじい様がすでに言ったことですが。私には戦場に立つ資格がありませんので。・・・・ナツキさん?聞いてます?」

「マジ?」

「はい?」

「本当に!?孫娘ェ!?」

「私、おばあ様似らしいですよ。」

 

ーーーーーーーー

余談

「ヴィルヘルムさん的に、奥さんと孫娘どっちが可愛いんすか?そっくりなんでしょ?」

「無論、妻です。」

「本人の前でも言っちゃうのか・・・・」

「ナツキさん、私とおばあ様では比べ物になりませんよ。」

「スバルきゅん、ヴィル爺も奥さん大好きだけど、ジゼルちゃんもおばあ様大好きだからそこらへんつついても意味にゃいよ〜」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

プロフィール

名前 ジゼル・アストレア

性別 女性

年齢  17歳

身長 165cm

体重 内緒です

趣味  花の手入れ

能力 光の加護

苦手なもの 救済

その他 実は剣の才があるが、ヴィルヘルムが望まないので剣をふるうことはない。本来の性格も封印し、祖父の望む孫娘として振る舞っている。

 

人物像

黒である髪色を除けば祖母のテレシアに酷似している。王都で『聖女』と噂の美少女。

 

実はリゼロの世界に転生した転生者。

このIFでは主人公ナツキ・スバルからも名前で呼ばれている。主人公という生き物が嫌いなのは変わらないが、ネコをかぶっているのでかなりマイルド。もはや誰だコイツレベル。

戦いを好まない優しい性格を演じているが、実際には傍観者でいたい偽善者。彼女の擬態はスバルの前以外では完璧であり、スバルと関わると少しくずれてしまうので、あまり関わらないように自粛している。

 

普段は庭師として仕事をしているが草花で薬を作ったり、お茶を作ったり、裏庭で育つ草花を売ったりもしている。花に関しての知識、商売根性は凄まじく、その点においてはアナスタシアからも好ましく思われており、もしかしたらジゼル引き抜き&ユリウスとくっつくルートが発生するかもしれない。

 

ヴィルヘルムが過去の白鯨討伐戦で妻を亡くし、息子や孫のラインハルトとの関係が破綻した際、ヴィルヘルムはジゼルだけを連れてアストレア家を出奔した。

紆余曲折あってジゼルはクルシュ家の庭師となる。

 

 

人間関係

ラインハルト 

化け物かな?

一応、兄。しかしヴィルヘルムが息子と孫のラインハルトとの折り合いが非常に悪いことから、ぶっちゃけ関わりたくない。

 

ヴィルヘルム

流石です、おじい様。略して、さすおじ。

仲は良好。転生する前から好きなキャラクターであり、妻への愛情深さも敬愛している。祖父の祖母への惚気をよく楽しく聞いている。

ジゼル自身はテレシアに似た戦いを好まない優しい性格を演じているが、ヴィルヘルムはテレシアとジゼルを重ね合わせて見ているわけではない。

面倒なので、ジゼルは家族関係を取り持つことはしない。

 

ハインケル・アストレア

赤毛に無精髭を生やしたおっさん。

父親なにそれ美味しいの?

 

ユリウス

さいゆうのきし。

ジゼルにとってユリウスは、花売りの最初のお客さん。

ユリウスにとってジゼルは、初恋の人。

同じ陣営にしたほうがいいかなと思いつつも、違う陣営のほうがロミジュリ感あって燃えるわー。という私の適当な判断。ごめん。

 

『聖人』

親友の話をしようマン

ヴィルヘルムの親友。故人。

特に名前は決まっていない。黒髪。テレシアとは幼なじみ。エリキサに一目惚れ。生涯愛した。

この世界線では、生まれた娘は体が弱く、若くして死んでしまったため娘の旦那はおろか孫も存在していない。ここで彼の家系は区切りを迎えた。

誘精の加護と光の加護を持っている。

 

 

エリキサ

わたしの契約精霊。

『聖人』の妻。光を司る人工精霊。ただし、誰に作られたものなのかは不明。金色の髪に金色の瞳。名前は『黄金』という意味。

本来、精霊との間に子供が生まれることはない。宿ったとして、かなりの確率で子供は死に至る。娘が奇跡的に死ぬことなく生まれたが、若くして死んでしまう。『聖人』と愛する娘亡き後、世界を彷徨っていたが、紆余曲折あってジゼルと契約する。しかし、他人に姿を見せることはない。

 

 

用語

光の加護

『聖人』のみが持っていた加護。おそらく、エリキサの影響であり、現在ジゼルにはこの加護がある。

 

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おまけ

サーヴァント化

本編ジゼルがアーチャー

ゼロカラアヤマツイセカイセイカツ路線のジゼルがセイバー

この話のジゼルはキャスター

 

追記

ユリウス・ユークリウスはジゼルがこの世界に存在する限り、性別・種別・立場・年齢・環境関係なく、ジゼルに必ず恋をします。

一方、ラインハルト・ヴァン・アストレアはどんな状況下でも結局、「英雄にしかなれない男」です。ヴィルヘルムとは違い、たった一人の女性を愛することはあり得ません。

つまりそういうことです。

 

…というか、ラインハルトに関してはそうじゃないと解釈違いで私が死ぬ。




A 誰だコレ?レベルの人間に育ちます。育つ環境って大事だよネ!


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